リアル系ロボットゲームで世界観が違うやつ (紅乃 晴@小説アカ)
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プロローグ
CASE01.ボルトボックス


 

 

 

 

俺が前世で生きていた頃、とあるロボットアクションオンラインゲームが旋風を巻き起こしていた。

 

VLTBOX〝ボルトボックス〟。

 

そのゲームはリアル系ロボットのオンラインゲームであり、100対100で行われる戦略と戦術を駆使したオンライン専用の対人戦モードと、プレイヤー同士で協力可能でありながら濃密な物語を攻略することができるストーリーモードの二面性をハイクオリティで備えていた。

 

対人戦は言わずもがな。敵味方の陣営に分かれ、役割を分担し敵勢力に勝利すると言ったありふれたゲーム要素だが、演じられる役割がとにかく幅広い。

戦闘には参加しないものの、自軍に所属する索敵・工作兵のプレイヤーから送られる情報をもとに敵陣営の動きを予測して戦略を展開する「ブレイン」。

本営から送られた情報をもとに、戦闘機兵として前線で敵プレイヤーと戦う「ソルジャー」。

本営に送る情報の収集や敵の足止め、兵站の破壊などを専門に行う「エンジニア」。

前線で戦う戦闘機兵を援護する後方支援を目的とした「ロングアーチ」。

それに加え、数多くの戦場や、それぞれの装備によって刻一刻と変わる戦術展開、特定エリアに出現する巨大兵器などなど……100対100という対人マルチプレイを存分に楽しめる要素が盛り込まれており、発売からしばらく経っても新たな戦略が確立されるほど、その対人戦システムのクオリティは他のゲームと一線を画す内容だった。

 

しかし、俺がのめり込んだのはそのストーリーだった。

 

対人プレイを主体としたマルチプレイではシナリオなどの要素は排除されているが、協力プレイを追求したゲームのストーリーは濃厚なものだった。

 

西暦2350年。

 

人類が発明したワームホール発生装置、通称「ハイパーゲート」から逆に侵入してきた敵勢力「V.L.T(ボルト)」と人類が互いの存続を賭けて戦う。それが大まかなストーリーだ。

 

最初はボルトが操る超技術の兵器に歯が立たず劣勢に立たされた人類であったが、奇跡的に撃墜したボルトの兵器から得たオーバーテクノロジーを使って機動兵器「ハウンドアーマー(HA)」を開発。

 

パイロットは同じくオーバーテクノロジーから生成された〝ナノマシン〟を体内に注入し、ハウンドアーマーを駆ってボルトとの戦いを繰り広げてゆくのだ。

 

そんなロボット戦記というジャンルに属した上で、最も特筆したいポイントがストーリーの多様性である。

 

ボルトボックスのストーリーはヒロインや戦友の生死によって分岐が生じ、様々なシチュエーションで、恋愛イベントや、戦友が裏切ったり、敵対派閥と共闘したり、恋人と死別したりするルートが用意されている。

 

その様々な分岐の中で、ルートに隠された数多くのハウンドアーマーを入手したり、武装やオプションパーツを解禁することができるため、プレイヤーはストーリーモードを何周も攻略することが要求されるのだ。

 

そして、ストーリーモードは周回をするごとに難易度が上がってゆく。同時にプレイヤーが難易度設定を変えることができる仕様にもなっていた。

 

難易度はイージー、ノーマル、ハード、ハーデスト、インフィニティと設定されており、初見プレイヤーはイージー、ノーマル、ハードと制限されている。

 

例えば一周目をハードモードでクリアした場合、二周目からはハーデストが解放される。(もちろん二周目も変わらずにハードモードでプレイは可能でありゲームが苦手なプレイヤーでも楽しめる仕様となっている)

二周目をハーデストでクリアすると、次に解放されるのがインフィニティである。インフィニティモードは作中最高難易度であり、「クリアさせる気あるか?」と思えるほどの難易度となっているため、インフィニティをクリアできずに他の難易度で全ルートを攻略するプレイヤーがほとんどだ。

 

インフィニティモードでクリアした場合、その次の周回の難易度はハーデストに格下げされる。しかし侮るなかれ。それはハーデストという皮を被った鬼畜難易度の始まりなのである。

 

インフィニティモードをクリアした次の周回では敵の体力が15パーセント増しとなっており、敵CPUの動きも一周目のハーデストよりも割り増しになっているのだ。しかし、インフィニティモードをクリアしたプレイヤーは手にした強化武装とプレイスキルを以てして、ハーデスト(難易度プラスα)を難なくクリアすることができる。

 

そして壁を乗り越えたプレイヤーたちを待つのは一周目よりも難易度が上がったインフィニティモードである。

 

こうして、ハーデスト→インフィニティをサイクルすることで難易度が無限に上がり続けることになり、そして順応してゆくプレイヤーもどんどんスキルを磨いてゆくのだ。

 

ボルトボックスユーザーの全体から言えば、インフィニティモードを周回するプレイヤーの割合は一桁であるが、その驚異のプレイスキルと変態さから一部界隈からは「ドMの証明」、「天パ並みのキリングマシーン」、「人間をやめた者たち」という色々な畏怖を込められて「インフィニティランカー」と呼ばれているのだ。

 

さて、その難易度選択もボルトボックスでは独自の裏打ちがある。

 

ストーリーの序盤で主人公に注入するナノマシン量によって、難易度が分岐するのだ。難易度が上がるごとに注入量が減少。最高難易度のインフィニティでは「ナノマシン不適合者」という烙印を押された上で人手不足のためにハウンドアーマーに乗せられることになる。

 

難易度の変化は敵の動きや耐久度の変更もあるが、実は操作性にも影響がでる。インフィニティモード(ナノマシンが投与されていない状態)では操作感がガラッと変わり、自動ロックオン機能や弾道アシスト、ブーストサポートなどの機能がほとんど使えないという一種の縛りプレイ状態となる。その上で敵キャラの堅さと動き、強さも最強難易度となるのだ。

 

しかもナノマシンがなければハウンドアーマーの動力源である「ガルダリア・エンジン」の出力も安定しない素敵仕様。ガルダリア・エンジンが安定しないためエネルギー系の遠距離武器がチャージされない不具合が起きたり、機体のブーストゲージが一気に減少し強制失速状態になることもしばしば。

 

つまり、インフィニティランカーとはドMの証明に他ならない。

 

攻略のために協力プレイで徒党を組んでも全員がナノマシンの恩恵がないために機体不具合で敵に蜂の巣にされたりと酷い目にあう。なので、ボルトボックスでの共闘サーバーはギリギリナノマシンの恩恵を受けられるハーデストの難易度での募集が基本なのだ。

 

だが、インフィニティでしか見れないエンディングや、入手できないアーマーや武装がある。

 

そこにまだ見ぬルートや武器があるというなら挑まない訳には行かぬ。どっぷりゲームにハマった変態()は果敢にインフィニティに挑み、ランカーとして駆け抜けてゆくのだ。

 

そんなストーリーモードで、あるアップデートが行われた。所謂、新規シナリオの追加である。

 

内容は最終ボスの特A型ボルトを撃破した後の話であり、地球の南極に位置するボルトの最終防衛基地への突入と、最深部にある敵の施設を破壊するミッションだ。

 

内容としては大したことがないのだが、難易度が半端じゃない。ハーデストモードで詰むプレイヤーが大半であり、ハーデストをクリアできても次に待つインフィニティモードが鬼畜仕様すぎたのだ。

 

まず、敵の防衛施設がヤバい。

 

ミッション開始の段階でハウンドアーマーを呑み込むほどの電磁レール砲がバカスカ飛んでくるのだ。もちろん食らえばHPが即吹き飛んでゲームオーバー。ただ、これはまだ優しい方。弾頭が巨大で目立つため躱すことはできる。問題は後ろに控える迫撃砲と、高射砲と、ボルトの技術で鬼の追尾性を有する地対空ミサイル、ガトリング砲台である。

 

上空から侵入しようとすれば高射砲の餌食に。外から様子を窺おうとすれば迫撃砲が火柱を立てまくり。近づけば鬼追尾のミサイルの雨。フレアをふんだんに使い近づけば4門十字状に纏められたガトリング砲と対面することになる。

 

中でもガトリング砲がダントツでヤバい。4門ぶんの大口径砲弾が凄まじい速さで連射されて飛来するのだ。プレイヤー画面から見ても4本の白い紐状の何かが飛来してくるのがわかるほど。

 

ただ回避はできる。そう、一つ程度なら。

 

その武装が敵施設をぐるりと囲む防壁の至る所に設置されているのだ。ハードモードで数えただけでもその数500以上。ハーデスト、インフィニティではさらに増えるという鬼の所業である。

 

その結果、変態()と名高いインフィニティランカーたちが挑むが、配信されてから半年が経過してもインフィニティモードでのクリア報告は流れなかった。誰もが絶望視する中、攻略不可能と言われる敵勢力「ボルト」の最終拠点攻略作戦のミッションに、一人のプレイヤーが挑戦した。

 

それが俺だ。

 

過去に知り合いのインフィニティランカーたちも徒党を組んで挑みもしたが、ミッション開始から1分も経たずに拠点防衛兵器に蜂の巣にされた。そこであえて単騎で挑戦する方針にしたのだ。

 

ハリネズミのような防衛設備に加え、インフィニティモード特有のナノマシンの恩恵カット。弾道予測表示のようなアシストは甘えである。

 

何度も何度も何度も何度も。

 

気が遠くなるようなゲームオーバーを繰り返しながら、俺はついに最短の突破ルートを発見したのだ。

 

円状の防衛要塞の1箇所のみ、わずかに手薄なエリアが存在する。ミサイルと迫撃砲とガトリング砲は飛んでくるが手薄なのである(感覚麻痺)。その一点に突入するしか活路はない。

 

俺が手を加えまくったハウンドアーマーの装備は背部に拡散榴弾砲とショットキャノン、搭載数上限まで強化したフレアとジャミングが搭載されていて、左手には大型のシールドが備わっている。この武装すべてが要塞突破時に溶けてなくなる。

 

突破後の装備は腰部に懸架したカベットライフル(ショートバレル仕様)と、近接戦闘用の近距離戦エネルギー突撃刃(MMX)のみである。もし最深部でやべぇ敵がいた場合は初期装備そのままな武装で戦いを挑まなきゃならない。うーん、普通に死ねるな!

 

だが、インフィニティランカーは伊達じゃない。

 

その日の俺はノリに乗っていた。迫撃砲やガトリング、ミサイルもよく見えていたし、レール砲も躱した上に拡散榴弾砲とショットキャノンでハリネズミの敵防衛施設に穴をぶち開けたのだ。ガトリングで多少装甲が削られるが、フレアをありったけ撒き散らしながら俺はぶち開けた穴へ突入し……ついに敵の防衛設備を突破することができた。

 

 

「やった……ついに突破できたぁ……ぁああぁーー……ッ!」

 

 

感じたことのない達成感と鳥肌。まだ誰も突破したことないインフィニティモードの要塞の内側に、俺はいる。一番乗りしたのは俺だったのだ。込み上げる高揚感と喜び。声を上げたくなる衝動を噛み殺す。

 

まだだ。

 

俺はコントローラーを握りしめ、敵拠点の最深部へと向かう。

 

インフィニティの難易度では、どの攻略サイトにもまだ載っていない敵の拠点の内側と最深部。何人たりとも寄せ付けない苛烈な防衛設備とは打って変わって静寂に包まれた敵の拠点。俺は中央に位置する大型通路に入り、下へ下へと降りていった。降りる道中も目立った防衛兵装はなく、自機の駆動音が施設内に反響するほど、施設は静寂に包まれていた。

 

しばらく螺旋状の下降ルートを進んでゆくと、ついに最深部にたどり着いた。

 

そこにあったものは巨大な動力炉だ。巨大なフラスコのような物の中では青白い稲妻が轟く。その動力炉から得られたエネルギーに代わって、ボルトはワームホール発生装置「ハイパーゲート」へと強制的に割り込み、地球へと自分達の兵力を呼び寄せてくるのだ。

 

これを壊せば、未だに散発的に現れるボルトを根絶することができる。フラスコのような見るからに貧弱で全てが弱点とも言える動力炉。破壊すればボルトはハイパーゲートを使うことができなくなり、人類は救われる。

 

その先にこそ真のエンディングが待ち受けているに違いない。

 

 

《やはり、お前がきたか》

 

 

だが、その破壊を防ぐべく立ち塞がる影があった。起動音と共にゆっくりと動き出したそれは、これまで戦ってきたボルトの機体のどれにも該当しない外見をしていた。サイズ感的には特A型のボルト兵器と変わらないのだが、パーツ密度が段違いだった。まるでいくつかのパーツが〝合体〟しているかのような歪さを有するそれは、緑光のカメラアイを光らせる。

 

 

「おいおい、まさか……カイ……なのか?」

 

 

俺はその機体から発せられた声色に覚えがあった。ボーイッシュな口ぶりでありながら、少女な一面も見せる……主人公の幼馴染。

 

彼女はシナリオ上で主人公たちと袂を分かち、ボルト側に行った。そして主人公の手によって倒される運命を宿命づけられていた。ルートによっては彼女を味方のまま……というか、恋仲になって戦後に結婚し子供を授かることもできるのだが……ダウンロード仕様である今シナリオでは、メインルートのまま彼女がボルトに寝返った設定なのだろう。

 

彼女こそ、ボルト勢力の最強パイロットであり、メインルートのラスボス枠なのだ。

 

 

《……決着をつけよう。お前とはこうなる運命だったのだから》

 

 

ちなみに、分岐ルートによっては仲間のままでいさせることもできると言ったが、インフィニティモードでは強制的に敵側に行ってしまう。しかも主人公の恋人や恩師である隊長、司令官まで手にかけて。しかし、インフィニティモードで彼女はすでに主人公に引導を渡されているはず。なぜ今になって出てきたのか……しかも機体は彼女の専用機ではないものになってるし。

 

ただ、もうそんな疑問に意味はない。相手がボルトの機体に乗って立ち塞がっているのだ。ここで交渉や説得なんて選択肢はない。

 

互いに武器を構え、展開が最高潮になる中。

 

有名なゲーム作曲家が手がけたBGM「決戦」のイントロが流れ始めた。

 

 

《これで全てがわかる……!勝負だ、ダン・ムラクモォオ!!》

 

 

ガルダリア・エンジンを最高出力にしながら、敵はプレイヤーネームを叫びながら襲いかかってくる。

 

対してこちらはナノマシンの補助がない。敵機体のメイン武装を一発でも受ければシールドごと機体のHPが半分以上消し飛ぶことになる。なので無駄な動きすら死に直結するのだ。

 

ここで死ねば再び防衛拠点の突破からスタートなので、なんとしてもここでクリアを勝ち取りたい。

 

飛び回る敵機体から放たれるゲーム内最強の収束エネルギー砲を躱しながら、こちらはライフルとMMXを用いて小ダメージでも確実に刻んでゆく。

 

一発当たれば死ぬオワタ式の戦いがはじまって、一時間になろうとしたとき。

 

敵機体がついに崩れ落ちた。小ダメージとはいえ刻みつけられた箇所から黒煙を上げていた機体は最後に交差した瞬間に叩き込んだMMXによって炎を噴き出してエンジン部が爆発した。

 

轟音と鼓膜を突き刺すような金属音を響かせながら地面に落ちた敵を見下ろして、俺は大きく息を吐き出した。やっと終わった……というのが率直な感想である。戦闘中は針の穴を通すような集中力を維持して僅かな隙間に攻撃を放ち続けたのだ。頭がふやけるような感覚と、とにかく甘いものが食べたいという糖分を求める衝動が思考を揺さぶってくる。けど、ゲームは続いていた。敵を撃破したことによって特殊演出のムービーが流れる。

 

 

《見事だった。さすがは……私の相棒だった者だ……勝てるビジョンが浮かばなかったのも無理はない……》

 

 

こちらも集中力を限界まで使い倒していたので、声を出すのも億劫であった。火花が散るような音の中で通信を繋げてきた幼馴染だった存在をじっと見据えた。

 

 

《最後に……ひとつ……お前に頼みたい……》

 

 

途切れ途切れになる音声の中で、その相手は言葉を発した。

 

 

《私の代わりに……お前が救え》

 

 

これまでの難易度では聞いたことないセリフがムービーから流れてきた瞬間、見つめていた画面が突如として光を発した。

 

思わず目を覆い隠して顔を背ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして俺は、今までインフィニティランカーをしていたロボットアクションゲーム「ボルトボックス」の世界に転生していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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CASE02.転生ストーリーは突然に

 

 

 

西暦2350年。

 

その時の人類は歴史上類をみないほどに繁栄を極めていた。

 

人類が衛星軌道上に作り上げた「ハイパーリンク」と呼ばれる衛星軌道上エレベーターによって資源不足や食糧問題が減少。

 

エレベーターに備わる気象制御システムの加護のもと干魃や水害も減少し、長年人々を苦しめていた戦争や差別という負の側面は身を潜めるようになりつつあった。

 

地球という宇宙船を操縦できるようになった人類が次に目を向けたのは遥かなる宇宙だ。

 

「ハイパーリンク」こと軌道エレベーターは、いわゆる前哨基地。真の目的は「ハイパーゲート」と呼ばれるワームホール発生装置の開発だった。

 

静止衛星上でのハイパーリンクが安定稼働をして30年後。

 

ついに人類は地球と月の中間点に、遥かな宇宙へと足を踏み込むことが可能となる長距離移動装置、「ハイパーゲート」を完成させた。

 

その記念すべき初起動の日。

 

栄光を極めていた人類の歴史は大きく変貌した。

 

突如として暴走したハイパーゲートから現れた謎の勢力。複数の機械兵器が地球軌道に向かい、混乱する地球勢力に攻撃を開始したのだ。

 

ハイパーゲートを制御するテンタクルブリッジが破壊され、地球から差別という負を無くしたハイパーリンクも瞬く間のうちに崩壊。

 

地球への降下を開始した謎の勢力……後に【V.L.T(ボルト)】と呼称される敵は電撃的にユーラシア大陸への侵攻を開始した。

 

ボルトの兵器は前線での消耗を前提とした中型ドローンであるC型、長距離支援を目的としたB型、拠点制圧を目的としたA型、そして絶対的な力を有する特A型に分類され、凄まじい侵攻速度でユーラシアの覇権国家であった中国とロシアを瞬く間のうちに壊滅させた。

 

中東でも戦闘がいくつか発生はしたが、その殆どが戦いと呼べるものではなく、ボルトによる一方的な虐殺であった。

 

ユーラシアのほぼ大半を手中に収めたボルトはそのままヨーロッパ方面へと侵攻。

 

脅威を覚えた諸国で結成された軍事組織【地球軍】が防衛線を展開したが、ボルトに備わるエネルギー収束砲を防ぐ手立てがないことと、現行兵装では全く歯が立たないことにより大敗。

 

徐々に欧州も侵略され、島国であるイギリスを除く諸国の全てが焦土と化した。

 

しかし、ここで転機が訪れる。

 

人類側に新たな兵器が投入されたのだ。

 

〝奇跡的に撃破に成功した〟というボルトの残骸から得られたオーバーテクノロジー。それを用いて太平洋に存在する南アタリア島で開発された人型汎用兵器だ。

 

後に「ハウンドアーマー」と呼ばれる機体群を投入したことにより、戦況はわずかに好転した。

 

【ノルマンディー反攻作戦】。

 

約100機のプロト・ハウンドアーマー、HA-000〝トリプルゼロ〟が投入された作戦では、従来の武装では歯が立たない相手でも「近接戦闘による物理ダメージを与えれば対処可能である」ことを英雄が命と引き換えに証明した。

 

その後、ボルトの機体との格闘戦を想定した近距離戦エネルギー突撃刃(MMX)が開発されると同時に、第一世代型ハウンドアーマー、HA-08F〝リゴッティ〟がロールアウト。

 

続く第二世代、その後期型になると、複雑化していたコクピットモジュールの一新に加え、操縦レスポンス向上と機体制御の補助を目的としたナノマシンがパイロットに投与されるようになった。これにより、一気に機体性能が引き上げられることになる。

 

その後も機体革新が進められたが、機体自体の防御性能と生存性は向上しなかった。しかし、高い攻撃力と機動性を発揮するハウンドアーマーは多くの戦場に投入され、戦果は飛躍的に上昇。

 

それでも、人類は徐々に追い詰められていた。

 

戦線はヨーロッパを超え北大西洋、そして北米へと至る。地球軍の司令部は北米大陸を本拠地とし徹底した反攻を継続。

 

戦争は泥沼化し、北緯48度、西経40度を境界線に人類とボルトの戦いは膠着することになる。

 

そして、西暦2355年。

 

ついにボルトは地球軍完全壊滅のために、北米大陸各地に特A型を短距離テレポートさせ、電撃的な奇襲作戦を決行するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

これが、ボルトボックスのストーリーモードにおけるプロローグである。

 

主人公たちは訓練生としてパプアニューギニア、ビスマルク海に面する「ニューブリテン基地」に配属され、過酷な訓練を乗り越えた後、第三世代ハウンドアーマーを駆って戦うことになるのだ。

 

そして、俺は今……ニューブリテン島から遠く離れた基地、ハワイ諸島に位置するカイルア・コナ海上基地にいた。

 

 

「パイロット共!さっさと準備をしろ!」

 

 

そして今からプロトタイプ・ハウンドアーマーであるHA-000こと「トリプルゼロ」に搭乗する流れになっていた。

 

why?なぜこんなことになっている?

 

自室のパソコンでボルトボックスをプレイし、モニターから発せられた眩い光に目が眩んだと思ったら、気がついたらこの基地の医療室だった。

 

ゲームでも何度かお世話になった医療室だったので見覚えがあるが、身に覚えのない状況に一人困惑してると、軍曹らしい軍人に「目が覚めたらさっさと着替えてこい」と更衣室に放り込まれ、パイロットスーツこと「バイタルスーツ」に強制的に着替えさせられて、そして格納庫である現地に至る。

 

いやなんで!?なに?何が起こってるの!?ここは……おそらくというか、確実にカイルア・コナ基地で、目の前に5機ほど陳座するのは間違いなくトリプルゼロなんだけど!!

 

状況が理解できない。何もかもの展開が早すぎて脳がついて行ってなかった。

 

搭乗!そう軍曹が叫ぶと並んだ5人のパイロットがバイタルスーツのヘルメットを被ってワイヤーウィンチに捕まった。そして何故か俺も体が勝手に動く。

 

いや、意思はあるけれど何十、何百と繰り返した自然な動作というか、軍曹の言葉で自然に体が反応してしまってる……という感覚であった。

 

体は覚えているのに脳がそれを拒絶してるというこの……。そのままワイヤーウィンチで引き上げられ、横筒状のコクピットに乗り込む。

 

モノコック構造のコクピットはトリプルゼロの特徴のひとつだ。ハウンドアーマーのプロトタイプであるトリプルゼロは、南アタリア基地で製作された機体を元に、アメリカ企業とヨーロッパ企業が協力して完成させた機体だ。

 

プロトタイプと謳いながらも、本機は第一世代に該当する機体であり、本当のプロトタイプは南アタリア基地で開発されたものだ。まぁあれは要素開発機であり戦闘には一切対応することができないわけで、それを元に開発されたトリプルゼロは武装可能な兵器となっている。

 

装備は50mmの試作ライフルとシールド、分子振動ブレードで、ずんぐりむっくりなボディと、トサカのような頭部。そこには六つのカメラセンサーが取り付けられているという独特なシルエットをしている。

 

機体性能としては短時間なら背部スラスターによるホバー移動も可能となっており、直立二足歩行型にしては軽やかな動きが可能だ。

 

だが……それは人類基準の兵器でいえばの話。

 

ボルトの有する兵器を相手にするならC型、B型までならある程度戦えるが、A型になるとかなり……というか、無理ゲーである。

 

なぜ、俺がそんなことを知っているかというと、この機体に乗ってゲームをプレイしたことがあるからだ。

 

トリプルゼロことプロトタイプ・ハウンドアーマーが登場するシナリオがボルトボックスの追加要素に存在する。

 

シナリオ名はボルトボックス・デスロード。

 

ネットでは「怒りのデスロード」とか、「インフィニティランカー御用達」とか、「愛すべきブリキ野郎」とか散々な言われ方をしているが、そのシナリオはプロローグで少し説明されていた【ノルマンディー反抗作戦】を描いたシナリオである。

 

そして、そのシナリオの主人公は、従来の武装では歯が立たないボルトの兵器でも「近接戦闘による物理ダメージを与えれば対処可能である」ことを命と引き換えに証明した……その英雄本人なのだ。

 

名前は明言されず、シナリオ中も名前を呼ばれなかった名無しであるが、彼が証明したことは後の世のハウンドアーマーに多大な影響を及ぼすことになる。

 

そして、カイルア・コア基地で5機のトリプルゼロが並ぶというシーンは、機体操作のチュートリアル……つまり、シナリオの序盤も序盤というシーンなのだ!!

 

おいおいおい、死んだわ俺。ふざける余裕があるくらいには冷静になれてきたわけだが、これは所謂……転生というもの、あるいは異世界へ迷い込んだというものなのだろうか?だとしたら神よ。貴方は私に死ねというのか。

 

このデスロードというシナリオは追加コンテンツなわけだが、難易度設定がハード、ハーデスト、インフィニティしかない玄人向けの追加シナリオなのである。トリプルゼロが導入された時代にナノマシンなんてものは存在しないので、操作感はインフィニティモードのそれであり、しかも機体は今まで操作していた第三世代のものから一気に後退した代物で。

 

つまり、すごく、もっさりしてるのだ。例えていうなら最新ゲーム機からレトロゲームに切り替わったみたいな感覚に近い。

 

操作法はインフィニティモードと大差はないが、機体反応速度が致命的に悪いのだ。そんな機体で初戦はC型と戦わされる。第三世代機では苦も無い相手だったが、トリプルゼロでは話が違う。蜘蛛型のC型と遭遇しようものなら引き撃ち(とにかく逃げて逃げて撃つ戦術)しか使えないほどなのだ。

 

もし、この世界が俺の予想通りボルトボックスの世界であり、このシナリオかデスロードだった場合、生き残れるイメージが全く湧かないんですよ。

 

てゆーか、デスロードは最終的に主人公もお亡くなりになるからな!?つまり神は俺に死ねと言ってる。じょ、冗談じゃないぞ。こんな理不尽なことがあってたまるか!俺は逃げるぞ!

 

と思いながらもコクピットに閉じ込められていたら何もできないので、俺はまんまデスロード編のチュートリアルをこなすことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

俺にとってのボルトボックスは箱推しなのだ。もちろん、好きなヒロインキャラはいるが、全体的にキャラクターの造形が深いため、結果的に俺はボルトボックスというコンテンツ全てを推せるという形に落ち着いた。

 

さて、今回のシナリオでも一押しのキャラを紹介するぜ!!

 

 

「ムラクモ少尉、さすがでしたね。貴方ほどトリプルゼロを動かせるパイロットはいませんでしたよ」

 

 

デスロードシナリオで屈指の相棒ポジションを獲得したアーノルド・ゼノン少尉でーす!愛称はアルだが、主人公は名無しで反応も悪い(ゲームシステム上無口になるのは仕方がなかった)ので、彼の名前を呼ぶことはなかった。

 

そんな彼はとにかく主人公を持ち上げ、褒めまくるキャラである。

 

今日のトリプルゼロのテスト運転でも彼は僚機として操縦方法の再確認(操作方法解説)をしてくれて、右へ左へステップ、屈む、スラスターベーンを展開するという一挙一動をするだけで、「こんなに早く動かす人なんて今までいなかった」とか、「君にはトリプルゼロを操るセンスがある」とか、「やはりパイロットとして一流だ」とか、とにかく褒めまくってくれる。

 

そして、アーノルド氏はトリプルゼロを用いた反抗作戦が始まってからは主人公の僚機として行動を共にしてくれるのだ。どんな窮地でも、どんな劣勢でも、彼は共に戦ってくれる。

 

しかし、最終局面でアーノルドは戦死するのだ。主人公をB型から庇い、コクピットを収束砲で貫かれる最期を迎える。彼の遺体は跡形もなく消え去り、その突然の死にプレイヤーは衝撃と戸惑い、そして最後の瞬間まで主人公を支え続けた相棒が消えたことで深い悲しみを味わうことになった。

 

彼の死……いや、デスロード編にはシナリオの分岐は存在せず、彼は必ず死ぬ運命にあり、そして主人公もA型との戦いで果てることを運命づけられているのだ。

 

救いたくても、助けたくても、逃げろとも言えず、彼が死ぬのを黙って見ていることしかできなかった。シナリオをプレイをした俺は、ふと……こう思った。

 

アーノルドが生きていれば、きっと主人公の未来も変わったのだろう、と。

 

 

 

 



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CASE03.変態の本懐は舐められたら殺す

 

 

 

デスロード編をプレイした時、みんなは思ったに違いない。宣伝でも「未だ体験したことない未知の領域」と謳ってたくせに大したことないな、と。

 

実際、インフィニティランカーたちからすれば、挙動が〝やや〟もっさりした程度の体感しかなく、重量系チューンドをしたハウンドアーマーをこよなく愛した大艦巨砲主義者たちにとったらいつもの機体挙動と変わらねーじゃんくらいの認識だったのだろう。

 

そして優しい優しい機体チュートリアルの意味で作られたミッション1を難なくクリアした俺たちは、何も警戒せずにミッション2に挑んだ。それが運営の罠とも知らずに。

 

そこからは単純である。阿鼻叫喚の地獄絵図だ。そして、宣伝で謳われたことに嘘はないと、俺たちはヒシヒシと痛感させられることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

「諸君!トリプルゼロの初陣である」

 

 

待って。

 

 

《ムラクモ少尉。君ならきっと大丈夫》

 

 

待って、待って。

 

 

「ではこれより、敵性地域への降下準備に入る!」

 

 

待てって言ってんだろ!?

 

ミッション1と全く同じ機体チュートリアルを終え、そのまま降りることもなくハウンドアーマー五機を楽々運べる汎用輸送機「テールフライヤー」に文字通り〝積載〟された俺は、今まさにハワイ諸島から北米大陸へと向かっている最中である。というか、すでにボルトが支配する地域の真上なのだ。

 

機体を降りたタイミングで、センセェトイレェ!って言って上手いこと逃げれねぇかなとか思ってたけど、まさか降りることすら許されないとは予想しておらんかったわ。

 

ちなみに、これはミッション2の冒頭シーンまんまである。それつまり地獄の入り口と同等ということでもある。

 

デスロード編はミッション2から地獄が始まる。とりあえず動かせるし何とかなるか、と思ったら大間違い。もっさりした挙動もさることながら、問題はスラスター上限が限りなく少ない点にある。ホバー移動できるよ!ただし100mくらいな!そこから?お前には立派な足があるだろうが。そう宣った開発者を大真面目にぶん殴りたくなる。

 

C型はたしかに耐久性も少なく攻撃力も低いが、奴らの強みは数と速度にある。いや、速度についても第三世代機ならスラスターで振り切れる程度……そう、第三世代でもスラスターを使わなければ振り切れないのだ。

 

なら、プロトタイプであるトリプルゼロは?歩きなんて絶望的に遅いぞ。そして頼りのスラスターは100mしか持たない。チャージには5秒程を要するため、その間にC型に囲まれたら文字通り嬲り殺されるのだ。

 

その結果、ミッション2から降下→囲まれる→死というスーパー初見殺しが待っているのだ。降下した瞬間、プレイヤーは皆宇宙を背負った猫のような表情になったとネットではトレンドに上がるほど。

 

ただ、クリアできないわけじゃない。降下と共に横へと移動しつつ、ライフルで堅実にC型を撃破してゆけばリズムが作れるので、そこからはスラスター管理と歩行andステップで何とか間合いを確保する戦法が可能なのだ……まぁ、それを発見するまでに多くのプレイヤーが地獄を見たわけだが。

 

そして、今まさにミッション2が始まろうとしている。逃げようにもテールフライヤーの格納デッキに機体が固定されているので逃げれません!動ける時はすでに敵の頭上です!

 

……神様ァッ!!

 

逃れられない死が目前に迫る中、俺の精神はやばいところまで来ていたのかもしれない。だが、余裕一つない俺に、隣り合うトリプルゼロのパイロットたちが声をかけてきた。

 

 

「よぉ!いよいよ実戦だな!」

 

「俺たちもようやく力を発揮できるってわけだ」

 

「ボルトの連中に一泡吹かせてやろうぜ!」

 

 

そう言葉をかけてくる同じ戦場に向かう者たち。ふと脳裏を掠める、〝存在しないはずの記憶〟。

 

この5機のトリプルゼロに選ばれたパイロットたち……彼らはエースパイロットと呼ばれる人員ではない。適正としては中の下。

 

扱いで言えば……捨て石に近い。

 

トリプルゼロが試作機と言っても、すでにノルマンディー反抗作戦に向けて百近い機体数のロールアウトが間近に迫っている。

 

本機の目的は戦場での実動テストとそれに伴う情報収集。具体的に言えば……どの程度で敵に撃破されるか、が試されているのだ。

 

これはデスロード編の序盤で企業間の会議で語られた事実であり、主人公とアーノルド少尉はこの捨て石のような実動テストでC型のボルトを撃破し、生き残ったパイロットなのだ。

 

他の3人は……降下してまもなく死亡することになる。

 

彼らはファミリーネームもないモブキャラだった。だが、台詞だけで垣間見れば……彼らは信じていたのだ。

 

自分達が選ばれた優秀なパイロットであるということを。

 

それに驕らず、傲慢にならず。

 

ただひたむきに新しく与えられた機体を乗りこなそうと努力をしている……どこにでもいる一般兵だ。

 

そんな彼らの最期は悲惨そのものだった。

 

蜘蛛型のC型になぶられ、痛めつけられ、コクピットを剥がされた上にズタズタに引き裂かれる。無線機越しに彼らの悲鳴と助けを呼ぶ声が響いたのをよく覚えている。その鬼気迫る声は、とてもじゃないが聞いていられるものじゃなかった。その音声がトラウマになってプレイを諦めた者も少なからずいるほどだ。

 

ミッション終了後に回収された遺体は……もう誰なのか、性別すらも判断できないほど酷い状態になっていた。

 

気のいい連中だった。

 

こうやって降下直前だというのに気を張らないように声を掛け合っている。

 

たしかに俺の記憶にはない。存在しない記憶だ。しかし、体は覚えている。魂が覚えている。コントローラーを握り、悲鳴を上げ、助けを乞う彼らに何もできず、ただ生き残るために機体を操ることしか出来なかったことも。

 

それは画面の向こう側で起こっていたことだ。だが、今は違う。

 

彼らは紛れもなく仲間であり、共に訓練を乗り越えた戦友だ。

 

俺の記憶になくても、体と魂は覚えている。だから、そんな彼らを見殺しにすることは……俺にはできなかった。

 

あえていう。

 

俺はボルトボックスの箱推しであると。

 

 

「降下!!!!」

 

 

デッキ下部が開き、軍曹の声と共に五機のトリプルゼロのロックが外され、ワイヤーウィンチで下へと降り始める。眼下にはこの地を侵略するボルトのC型がこちらに気づいている様子が見えた。

 

もう、逃げられない。

 

一人一人のパイロットの命が紙屑のように散ってゆくこの世界だ。

 

 

ならば……俺くらいは抗ってやろうじゃないか。ここまでくればもう関係ない。操作感は覚えているままだ。機体は画面の向こう側にいた時と同じように言うことを聞いてくれる。

 

ならば、あとはやるべきことをやるだけだ。

 

 

 

こんな過酷な世界に転生させたクソ神様よ。

 

変態と呼ばれた、インフィニティランカーの力を舐めるなよ……っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼と出会ったことが、私の運命を大きく変えました。トリプルゼロのテストパイロットに選ばれた彼は、初陣で既に他パイロットからかけ離れた技術を有していました。

 

第二世代が主体となった今になって言えることですが、あの機体はまさにブリキ。鈍重な動きしかできず、スラスターなんて100mも持たない性能だったんです。

 

しかし、その機体で彼はC型ボルトを圧倒した。これは誇張でも嘘でもないです。彼は紛れもなく敵を圧倒し、私たち四機を守りながら敵を倒し切ったのです。

 

あの時、彼がいなければ私を含め全員が戦死していたでしょう。ノルマンディー反抗作戦で英雄と呼ばれることもありませんでしたし、きっとこうやって生きていることもできていないはずです。

 

……当時の機体性能で、あれだけの動きができたのは彼一人だけだ。彼がいなければ、きっと世界はもっと酷いことになっていたに違いありません。

 

ノルマンディー反抗作戦後、私や仲間たちは機体を降りました。後悔はありません。我々は今主流のナノマシンに適合できなかったのですから。今の世代に乗るパイロットたちが主役なんですよ。

 

けれど、彼はまだ戦い続けている。

 

我々も彼こそが自分達のような役職に就けばと思うのですが……彼は頑固者ですから。そこが魅力でもありますけどね。

 

……ここだけの話、上層部は彼を危険視しています。ナノマシン適合がないパイロットが何故、あれほどの戦果を出すことができるのか、と。

 

我々も動いてはいて、罪を被せて軍法会議に出頭させる前にどうにか手を打つことが出来ました。もちろん、現場の部隊長たちからは反対されましたが……不名誉な理由で銃殺刑にさせるわけにはいきませんからね。

 

左遷先は南アタリア島。彼にとっては良い休暇になるでしょう。

 

……上層部のナノマシン推奨、そして近年頻発する出現方法が不明なボルトの襲撃。

 

何かが動き出そうとしています。だから、そうなった時に彼は必要になる。その時がくれば、再び彼はハウンドアーマーを駆って戦場に戻ってくる。

 

ダン・ムラクモ中尉。彼こそが……最強のランカーなのですから

 

 

 

・地球軍機密資料

アーノルド・ゼノン少佐による音声報告書より引用。

 

 

 

 

 



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勇者覚醒
CASE04.優秀な兵士の左遷は登竜門


 

 

 

 

南アタリア基地。

 

北緯21.5度、東経136度に位置するその小さな国は、日本列島から南下し、沖縄と小笠原諸島の中間点に位置している。

 

その小さな島こそが、滅亡寸前であった人類が立ち上がり、侵略者ボルトに対抗するきっかけとなるキーポイントであった。

 

ヨーロッパを手中に収めていたボルトを押し返したきっかけとなったノルマンディー反抗作戦。導入された100機のハウンドアーマーは70%を損耗という痛手を負いながらもボルトを追い詰め、【ミラクル・イーグルス】と後に称えられた5名で構成されたイーグルス小隊がボルトのA型を撃破し、敵の指揮系統が崩壊したことで人類側の勝利となり幕を下ろした。

 

欧州の一部を奪還し、人類はたしかに勢いづいた。だが、ボルトも黙ってはいない。敵はハウンドアーマーの脅威を察知するや、すぐさま新たな機体を投入、拠点制圧を主としたA型より更に強化された最強の機体、特A型が出現する。

 

人類はそれに備え、プロトタイプ・ハウンドアーマーである第一世代から、第二世代へと移行。幾つかの試作機を経て完成した傑作機、HX-16A レイジングブルを前線に投入する。

 

レイジングブルの最大の特徴は、パイロット自身にナノマシンを注入することだ。それによりコントロール性が格段に向上し、コクピットに備わる不要なデバイスを排除した簡略式が搭載できるようになり、機体のウェイトを削減することにも成功した。

 

さらに、機体背部にハードポイントを備えており、各兵器の専用機と化す原因だった固定装備を排除してコネクタ接続式に変更することで機体の汎用性を高めた。

 

機体各所にも撃破したA型からもたらされた人工筋肉の技術が流用され、粘りのある機動力を実現している。

 

大量生産された第二世代ハウンドアーマーの実戦配備により戦況は変化した。特A型は数が少なく、人類は守備が手薄なボルトの拠点を的確に攻めてゆき敵の動きを鈍化させたのだ。

 

だが、特A型の脅威レベルは下がっていない。

 

実際に遭遇した小隊は敵を認識したと通信を飛ばした5秒後に全滅したのだ。

 

それが今のボルトと地球軍のパワーバランスだ。

 

全体的な火力は地球軍の方が向上はしているが、特A型の前には全くの無力。奴らの放つエネルギー収束砲はこちらの物理シールドを難なく貫通するし、装甲板なんて全く意味がない。

 

こちらの物理学を超越した攻撃なのだ。認知できるように収束砲と名はついているが、理論は全く未知のもの。

 

厚さ30mを誇る核シェルターを難なく貫いた上にその背後にある山も貫通する破格の威力だ。そんな代物に単騎のハウンドアーマーがどうこうするなど……不可能だったのだ。

 

あの瞬間が来るまでは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

南アタリア基地。

そこは地球軍反抗の旗印となった基地と父から聞かされていたが……よく言ったものだと思えた。

 

レイラ・ストーム少尉は、この基地に配属されて半年。

 

それくらい経てば最初はやることがないとイライラしていた心も、諦めの境地を見出し始めてしまう。内心で飽き飽きしながらも、終りの見えない基地倉庫の整理、そこに格納された兵装の品番確認を毎日毎日粛々と進めている。

 

この南アタリア基地は名ばかりの基地だ。

 

最前線はここから東へ15000キロ以上離れた場所で、つまりこの基地は前線の遥か後方。しかも基地としての戦略価値が一切存在しないのだ。

 

ナノマシンの適性検査に落ちたレイラは、自身の家名が地球軍の中で知られた名家であったことにより、戦いとは程遠いこの南アタリア基地に配属になった。

 

そのことを彼女は納得できずにいた。

 

ただ、納得できないことと軍属であるということは直結できない。若輩だったレイラは現実を叩き込まれた。

 

前線への志願書はことごとく無視されていて、一昔前の第一世代、第二世代の前期型ではナノマシン無しで搭乗するのが当たり前だったハウンドアーマーの搭乗資格すらも、いつの間にか失効されてしまったのだ。

 

レイラ自身、シミュレータでしかハウンドアーマーを操作したことがなく、結果も誉められたものではなかったが……それでも彼女はハウンドアーマーを乗りこなして戦うことを夢見ていた。

 

だが、彼女に突きつけられた現実は非情だった。ナノマシン適性が不合格だったというだけで、その日のうちにパイロット養成コースから外されてしまった。時にはナノマシンに適合し、前線に駆り出されているパイロットを疎ましくさえ思った。

 

たしかにナノマシンによるハウンドアーマーとの接続は画期的で、複雑化していた操縦方法を一新した。

 

AIとナノマシンによる高速サーキットで通信が可能になったことで、体内から発せられる電気パルスを読み取り、ハウンドアーマーは脅威的なレスポンスを獲得した。

 

今の操縦カリキュラムはすべてナノマシンに適合していることが前提となっているし、コクピットモジュールもオートマチック機能をオミットした仕様に順次更新が進んでいる。

 

訓練生であったレイラは、ナノマシン不適合という一枚の診断結果で憧れたパイロットという夢を絶たれてしまったのだ。

 

退役軍人で強いコネクションを持つ父の伝で配属となったこの基地でやっている仕事は、やってもやらなくてもどちらでも構わない倉庫の整理と在庫品の確認。

 

過去、アタリア基地ではオーバーテクノロジーである「ボルト」の兵器調査や、研究が盛んに行われていたこともあった。その結果、倉庫の中は地球側の部品や、ボルトから回収された訳の分からない部品で溢れかえっていて、整理しても整理しても終わらないカオスな倉庫となっていた。

 

 

「ストーム少尉〜。あんまり気を張りすぎると疲れるばっかりだよ〜」

 

 

この基地の司令官は見るからにやる気も覇気もない大佐だ。父の話では元第7艦隊の護衛艦長をしていて、軍人としてはとても優秀だったと聞いていたのだが、今の姿を見る限り、その面影は全く感じられない。

 

普段からサボっていて、朝から司令室に来ても適当に茶を入れて島外から定期便で届けられる雑誌をのんびりと読み漁っている有様だ。

 

基地のスタッフも似たようなもので、朝から夕方までの定時間内を思い思いの仕事で〝暇を潰し〟。

 

仕事が終われば島の南東にある小さな宿場町で酒を飲むという堕落した生活をしている。

 

そんな環境の中、レイラはギリギリを保っていた。

 

いつしか自分も……女の立場で少将の地位に君臨する姉のような、気高い兵士になるという思いを胸に、日々の鬱屈した変わりのない仕事を淡々と進めていた。

 

ふと、レイラは今朝届いた本部からの通達書類に目を向けた。

 

 

「司令官。そういえば今日からですね。例のパイロットは」

 

「あぁ〜そうなるかなぁ。まぁ、ここは前線の遥か後ろだ。最前線で戦っていたパイロットが何をしでかして、こんな僻地に飛ばされてきたんだか……別に大人しくしててくれたら何でもないんだけどねえ」

 

 

そう言って事もなげに雑誌のページをめくる司令官に、レイラはため息をつきながら席を立つ。

 

新しく配属されるパイロット。彼には興味があった。

 

この左遷先である南アタリア基地にやってくるパイロットは、噂ではナノマシン投与を拒否し、第二世代のハウンドアーマーに乗り、前線で戦果を上げ続けた猛者だという。

 

眉唾物だと思いながらも、真実は自分で確かめないと気が済まない質であるレイラは基地唯一の短い滑走路が見える場所にやってきた。

 

それと同時に、一機のオンボロ輸送機が着陸しガタガタと年代もののジェットエンジンを揺らしながらタキシングしているのが見えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

どうもこんにちは。

 

地獄のデスロード編を初期メンバー5人全員生存で突破した上に、損耗率99%だったノルマンディー反抗作戦を死に物狂いで何とか生き延びた変態インフィニティランカーです。

 

まずは反抗作戦後、ヨーロッパ前線を軸にして、朝起きて周囲哨戒に出てボルトと戦って、朝飯食って哨戒に出てボルトと戦って、昼飯食って敵陣地の奪還というクソ任務をこなして、夜飯食って夜間偵察をしてボルトと戦って、シャワー浴びて報告書書いて寝るという生活を月月火水木金金と続けていたら、前線から遥か後方へと送られた件について。

 

なんでや、ナノマシン入れるの怖い……じゃなくて、ナノマシン使ってアシスト受けるのは甘えだって言って単騎でC型のボルトの編隊を撃墜したり、ナノマシン使ってるパイロットたちの退避の殿したり、B型とタイマンはってぶち倒したり、A型が制圧した地球軍基地を解放したり、戦果は上げてたやないか……。

 

左遷の話を持ってきたアル(アーノルド・ゼスト少佐。少佐って言うと死ぬほど嫌がるのでアルと呼んでる)にそのことを言うと、「コイツなに言ってんだ」みたいな顔して、「君は何を言ってるんだ」って言われた。顔に出した上に声にも出したぞコイツ。

 

アルから聞いた話によると、軍部はナノマシンによる操縦性向上にかこつけてハウンドアーマーの搭乗制限を下げ、新規パイロットを育成したり、徴用したりして戦力強化をしたかったようだが……ナノマシン無しで撃破もされず、敵のC型や高火力のB型どころか、ついには拠点制圧をしているA型すらも単騎で沈めるパイロットがいる事実なんて……厄介者でしかなかったようで。

 

ナノマシンの恩恵は本当なのか?という新人パイロットたちの動揺も顕著になってきたという副産物もあった為か……前線司令部からは俺を危険視する意見が出ていたらしい。

 

そしてとどめになったのが俺が小隊の撤退護衛をしていた時に、特A型と遭遇した事だった。司令部からの命令で小隊規模で特A型との交戦は禁止されていたため、俺は損耗した小隊を撤退させつつ敵を引きつける殿をしたのだ。

 

もちろん無傷では済まず、武装を片腕ごと吹き飛ばされた上にメインセンサーもぶち壊されて、時間稼ぎも終わった後で這うように逃げ帰ったわけだが、俺を排除する口実を待っていた司令部は特A型から敵前逃亡したとして俺を軍事裁判にかけるつもりだったらしい。そして刑は銃殺刑確定。それを裁判といわねぇんだよなぁ!?

 

それを察知したアルたち(デスロード編の最初の仲間たち)が、ノルマンディー反攻作戦の功績と特権やらを駆使して無理やり意見を通して、俺を左遷させることで司令部を納得させたのだとか。

 

さすがボルトボックスの軍部。やることなすことが腐ってやがるし、俺を思っての仲間の行動も当事者の意見を完全に置き去りにしてやがるぜ。

 

当然この左遷命令の直後、前線の部隊長各位から反対する書面が送られているが、アルたち曰く各部隊長を説得して回ってなんとか落ち着かせたのだとか。そりゃあ、銃殺刑か、田舎へ左遷かと言われたら頷くしかないわな!ははは!困ったわい。

 

さて、ガタガタとすっごい揺れる機体に押し込められて十五時間ほどしてようやく到着した南アタリア基地なのだが……アルたちは狙ってここを左遷地としたのだろうか。そうと言うなら地獄の片道切符だし、神のお導きというなら、そのドヤ顔にMMXをぶち込んでやりたい気分だ。

 

この基地はメインストーリーに登場する基地である……ただし、補給物資を確保するための廃基地なのだ。

 

ボルトボックスの本編では、南アタリア基地をはじめ、後方の物資調達や兵站を担保していた基地が軒並み壊滅。地球軍が物資不足と兵糧責めに喘いでいるという時間軸からスタートする。

 

つまり、本編以前に南アタリア島基地はすでに破壊されているのだ。

 

その後、ボルトから逃げる形で撤退した主人公たちはこの基地にたどり着き、奇跡的に破壊から逃れた基地倉庫から物資を調達することに成功。

 

加えて、この基地が過去にボルトの研究所であった事もあって、新規武器作成や改造、機体の整備や改修もできる安地ポイントとなるのだ。

 

まぁ辿り着いた段階で生存者はゼロで基地も機能不全になるほど破壊し尽くされているんだけどな!!そんな基地に左遷とはまことに遺憾である。

 

 

「長旅、ご苦労様でした。自分はレイラ・ストーム少尉であります!」

 

 

オンボロ輸送機のタラップをショルダーバックひとつかけて降りていたら、奥に見える建物から一人の女性士官が飛び出してきて、俺に敬礼を打ってそう言ってきた。

 

 

「ご苦労様です。本日付けでアタリア基地所属となったダン・ムラクモ中尉です」

 

 

ちなみに漢字にすると叢雲 弾である。万年中尉で本当に申し訳ない。上層部が頑なに昇進させてくれんのだ……なんでや、アルたちなんて少佐になってるのに。こちとらミラクル・イーグルスの小隊長やぞ。

 

ちなみに、ダン・ムラクモという名はボルトボックスで名無しの主人公につけていた名前であり我ながら愛着があった。

 

戸籍の問題とかも転生した初期には心配したのだが、俺は正真正銘のダン・ムラクモであり、出生年月日や、出生届けもバッチリ確認できた存在である。ただし転生前のダンの記憶は一向に呼び起こせないです。肉体で記憶したことやデジャヴは感じるのに……こわやこわや。

 

 

「では、基地内を案内いたします。ムラクモ中尉」

 

 

ストーム少尉に連れられるまま、基地内に入ってまずは司令官に着任の挨拶に行ったのだが……彼は少し古いゴシップ雑誌とくわえタバコをしたまま「はい、よろしくぅ」と気の抜けた返事だけを返してくれた。

 

まじで素敵な左遷先ですねぇ!アルからは少し休暇を楽しめって言われたけど、これ楽しむことできるんかな。

 

丁寧に敬礼を打ってくれたのはストーム少尉のみで、他の基地クルーやオペレーターたちもやる気が微塵も存在していなかった。

 

外伝とメインストーリーの間であるこの時間軸だが……いくらなんでもだらけすぎる。

 

まぁ、所属メンバーが「ヒャッハー!」な奴らになってないだけマシか……前線は兵士の命がクズゴミのように消えてゆく。俺が所属していた隊や、共闘した部隊はマシだったが……他はひどい有様だった。C型に襲われた奴らなんて目も当てられない。惨憺たる死に様を見せつけられ、なんとか生き残っても精神に深い傷を負うなんて日常茶飯事。そんな高ストレス環境で刹那的な戦いをしていたら、ヒャッハーなクソ集団になるのも分からなくは……ないか。現に民間人にしていた略奪行為が明るみになってアルたちの指示で軍事裁判沙汰になってたし。

 

特に1番酷いのが特A型と遭遇したときだ。収束砲なんていうインチキ兵器のおかげで遺品も何も跡形も残らずに消されるのだ。

 

そこに倫理もへったくれもありはしない。

 

理不尽な奪われ方をする命を前に、俺は必死に戦ってきたが……くそ。今どうこう言っても仕方がない。銃殺刑を回避してくれたアルたちに感謝の念を送りながら、俺は基地を案内してくれるレイラの後に続く。

 

さて、到着したのが始業時間を少し遅れた事もあって、ちょうど昼休憩という時間になっていた。

 

そして食堂に案内されるが並べられていたのは味が異なるエネルギーバーとスープであった。

 

食事にも品性がないやんけ!どないなってるんだ、この基地は!ブチギレながらササミ味と、チョコレート味と、フルーツミックス味のエネルギーバーを食べると真正面に座るレイラが言いづらそうな顔で口を開いた。

 

 

「ここは訳ありの者が送られてくる後方の……あってもなくても大差はないような基地ですから……」

 

 

そう言ってスープに口をつけるレイラ。いや、たしかにこの基地はボルトにとっても地球側にとっても戦略的な価値は低いだろうが……あってもなくても大差がないというわけではない。

 

現に、メインの物語中盤でこの基地にたどり着けなかったら、疲弊した主人公たちはボルトの追撃部隊に追いつかれて死ぬより酷い目に遭わされていたこと間違い無いのだ。

 

つまり、この基地があるからこそ、人類は反撃の旗を掲げることができる。

 

そんな話を嘘と方便でマイルドにして伝えると彼女は少し鼻を赤くして涙を堪えながらも「ハイ」と返事をしてくれた。

 

このレイラ・ストーム少尉は作中では外伝でもメインでも出てこないところを見るとモブキャラ。

 

おそらくボルトによる後方基地攻略時にこの島の基地ごと吹き飛んだのだろう。まぁそうなった場合、俺とまとめて吹っ飛ぶんだけどな!!ガハハハ!!

 

少し湿っぽい空気から逃げるように「お昼からどうするか」と聞くと、どうやら昼からは基地最大の難点であり、最大拠点である基地倉庫を案内してくれるということに。

 

やったぜぇ。メインでもアタリア基地の倉庫はとてつもなく広く、ハウンドアーマーの改修スペースはもちろん、戦利品の保管や新規武器の開発ラボまであるのだ。

 

原作プレイ勢である俺がその見学を避けるとは愚の骨頂。俺は食器を片付け、ウキウキしながら基地倉庫へと足を向けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【やっと、この時が来た。】

 

 

 



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CASE05.倉庫には班長がいるのが常識

 

 

 

結局のところボルトと呼ばれる敵勢力の正体は、ボルトボックス内でも言及されていない謎の一つだった。

 

西暦2350年に開発されたワームホール発生装置「ハイパーゲート」は、地球を含む太陽系を遥かに離れた新たなる宇宙〝フロンティア〟を開拓するという願いを込めて全人類が共同出資で開発された長距離移動用転送ゲートだ。

 

人類の記念すべき日になるはずだったハイパーゲートの起動初日に異常な次元屈折でゲートは制御不能に陥り、そこから多数の巨大な兵器が出現。

 

まず襲われたのは衛星軌道にあったゲートや軌道エレベーターを制御するテンタクルブリッジ。

 

人類が協力して作り上げた遺産は、ボルトから放たれたエネルギー収束砲によってあっけなく崩壊し、そこから果てのない戦いが始まった。

 

現状で判明している設定は

 

①ボルトの敵兵器は自律AIで制御されていること。

 

②その機体にはC型、B型、A型、特A型と分類されている。

 

これくらいしか判明していない。

 

C型はいわゆる一般的な兵器。有名なシルエットが蜘蛛型であるが、ボルトの陣地構築のために作業ポットのような丸いシルエットをしたものなど様々なモデルが存在している。戦闘力は高くなく、50mmライフル程度でも撃破可能な耐久力なのだが、その欠点を数の暴力で補ってくる厄介さがある。

 

B型は後方支援を目的にした高火力タイプの兵器であり、テンタクルブリッジを崩壊させたのもB型の有するエネルギー収束砲である。先も言ったように収束砲は人類から見てオーバーテクノロジーであり、従来のビーム兵器とは全く異なる概念のエネルギー砲なのだ。物理的な防御は意味をなさず、防ぐにはボルトのオーバーテクノロジーで開発された動力「ガルダリア・エンジン」から放出されるエネルギー力場を用いるほか無い。それが実装されるのは特A型の技術が使用された第三世代の機体からだけど。

 

A型は拠点制圧を目的とした兵器であり、人型が多く存在する。武装はエネルギー収束砲に加えて、エネルギー刃や鬼追尾のミサイルなどを備える強力な機体となる。基本的にミッションでは中ボス的な役目を果たすのだが……奴らの持つエネルギー刃が凶悪すぎる。エネルギー収束砲と同じ理論で構成された刃は物理現象を無視して相手を分子レベルで切り裂いてくるのだ。これもガルダリア・エンジンのエネルギー力場で軽減することは可能だが……第三世代のハウンドアーマーでも出力が足りず、結局は防御ごと切り裂かれてしまう。しかし、A型はメイン装備が収束砲とエネルギー刃、ミサイル攻撃程度なので戦略を立てれば単騎でも撃破はできる。

 

問題は特A型。A型とは言うものの、その武装や性能は別次元。まさにボス級の敵機体だ。

 

装備は一門でも厄介なエネルギー収束砲を三門も搭載していて、ミサイルも標準装備。個体差はあるがエネルギー刃を飛ばしてくる個体が多く、近づけば隠し腕など人間工学からかけ離れた特殊な構造から放たれる不意打ちに晒され、そして離れたら三門のエネルギー収束砲と、鬼追尾のミサイル、そして飛ぶ斬撃に晒されるのだ。

 

しかも特A型は、機体表面に流体エネルギー膜と呼ばれるシールドを展開している。このシールドがとにかく厄介であり、遠距離からの物理攻撃、ビーム攻撃をほとんど無効化するのだ。ゲーム内で判明した性能は、流体エネルギー膜がワームホール理論によって確立されていて、受けたダメージを別次元に放出するというトンデモ技術であること。つまり、いくら流体エネルギー膜にダメージを与えても、その物理エネルギーは別次元に放出されてしまうのだ。

 

だが、打つ手無しというわけじゃあない。

 

流体エネルギー膜を展開する特A型を仕留める方法は一つ。至近距離まで近づき、ガルダリア・エンジンを全開にして近距離戦エネルギー突撃刃(MMX) を叩き込めば流体エネルギー膜を無視して直撃ダメージを与えることができる。

 

もちろん、3門の収束砲を全て躱し、特殊武装も躱し、エネルギー刃も避けてゼロ距離まで近づくことが必須条件という超絶鬼畜仕様であるが。

 

そんな敵相手に言うことを聞かないわ、アシストはないわでオワタ式ナノマシン抜きハウンドアーマーで対峙するインフィニティランカーたち……やはりドMなのではないだろうか?変態の名は伊達じゃないぜ。

 

さて、ハウンドアーマーの動力源であるガルダリア・エンジンについても軽く説明をしよう。

 

ガルダリア・エンジンが搭載されたのはトリプルゼロの後継機のハウンドアーマー、HA-08Fリゴッティからである。

 

と言っても、まだ試作エンジンであったため出力は安定しなかったが、その革新的なエンジンから得られたノウハウによってハウンドアーマーは第二世代へとシフトアップした。

 

現在、前線で活躍している機体は第二世代の後期型、HX-16A レイジングブルだ。

 

この機体はマニュアル操縦がオミットされた機体であった為、ナノマシンを投与していないパイロットは搭乗できず、訓練生はパイロット養成コースから外され、現場で戦ってきたパイロットたちは、レイジングブルの先代であるHX-10 レイブンアームズか、HX-12 アーマライトを使用している。

 

ガルダリア・エンジンは、ノルマンディー反攻作戦で撃破したA型ボルトの機体を解析した結果もたらされたオーバーテクノロジーの産物であり、エンジン内部に強力な力場を形成し、それを防御フィールドで内包することで力技で安定させると言う仕組みになっている。

 

エンジンの内部エネルギーを保護するための防御フィールドがかなり強力であり、地球上の物理的な衝撃やダメージを一定量無力化し、なによりボルトの持つエネルギー収束砲に対して高い防御性を誇っているのだ。

 

ガルダリア・エンジンは内部で収束砲と同じエネルギー因子が活性化し続けることで出力を向上させることが、リゴッティの運用データから判明した。

 

そして因子との同調率が高ければ高いほどエンジンの性能が向上する特性も発見され、第二世代の後期では生体デバイスへのアプローチが始まり、エネルギー同調率向上と、操縦レスポンスの向上を目的としたナノマシンが開発されたのだ。

 

つまり、第二世代後期型からはナノマシンがなければガルダリア・エンジンが発するエネルギー因子と同調できないため出力が安定しなくなるのだ。

 

しかし……ガルダリア・エンジンの開発もまた、ボルトの正体と同じく謎に包まれている。

 

エンジン開発にはハイパーゲートなどにも多大な出資をしていた貴族、ガルダリア家がこれまた膨大な資金援助をしていた。

 

その自己犠牲と奉仕を讃え、エンジンの名にガルダリアの名が冠されているのだが……その貴族は作中一切登場しない。彼らが作品世界で生きているかも不明なのだ。

 

まぁ、主人公たちが活躍する頃になると特A型の同時多発奇襲が行われ、地球軍は壊滅的な打撃を受けているわけだけど……。

 

ネットでも、ボルトの正体やガルダリア・エンジンの考察が繰り広げられているが、その真意は未だに開発サイドしか知らずにいたのだった。

 

 

 

 

 

 

「イソダ班長、お疲れ様です」

 

 

レイラに案内された俺はアタリア基地の兵器倉庫に足を踏み入れていた。

 

倉庫内は忙しく自動搬送ロボットが動き回っていて、見上げるほど高い収納用コンテナには多種多様な地球製とボルト製の技術品が埋葬されているのだ。

 

 

「なんだい、嬢ちゃんじゃないか。……って、隣にいるのは今日から配属になった噂のパイロットかい?」

 

 

嬢ちゃんはやめてくださいと抗議するレイラをあしらった初老の男性。紹介しますと気を取り直した彼女が言うと、イソダと呼ばれた班長は作業帽を脱いで軽い敬礼をした。

 

 

「南アタリア基地、整備班長のゲンジ・イソダだ」

 

「本日付けで配属となったダン・ムラクモ中尉です。よろしくお願いします」

 

 

そう答えると、イソダ班長は少し驚いた顔で俺を見てきた。え、なんですか?怖い……。

 

 

「アンタ……前線で鬼のように強いって噂で聞いていたが……それで中尉なのかい」

 

 

ですよね!!思わず表情に出してしまうと、イソダ班長は何かを察したのか、まぁいいわなと話を切り上げてくれた。歳食ってるからか、察しが良くて助かるねぇ!俺の精神にダメージは入ったけど!

 

隣にいるレイラが不思議そうな顔をしているけど知らない方がいいこともあるんですよ。特に上層部から厄介者扱いされて階級も上げられずに馬車馬のように働かされるパイロットになんかなっちゃダメです。インフィニティランカーじゃなかったら死んでるからね、まじで。

 

班長は物資運搬用ロボットのメンテナンスがあると言って工具箱を担いでさっさと倉庫の奥へと消えてゆく。そのままレイラと共に工場内を進んだのだが……ここはかなり広い。整然と並んだ棚がどこまでも続いている。

 

 

「整理を本格化して多少は見えやすくはなったのですが……それでも片付いたのは半分くらいなんです」

 

 

そう言う彼女が向けた目線の先。そこには山のように積まれた廃材や部品があった。あそこはまだ片付いていないエリアでロボットでも侵入ができないため、人海戦術で整理を進めているのだとか。

 

あれでも片付いたと言うほどなのだから、当初は足の踏み場もない混沌とした倉庫だったのだろう。

 

 

「以前、アタリア基地ではボルトの技術に対して研究や実験が盛んに行われていたようです」

 

 

回るだけで2日はかかりそうな倉庫の概要を説明してくれるレイラに相槌を打ちながら、俺は倉庫内を見渡す。

 

彼女のいうことは真実であり、過去にここではボルトのオーバーテクノロジーに対する研究が行われていた。

 

故に倉庫内には未知のテクノロジーで作られた武装も多く転がっていて、メインストーリーでは技術屋たちが放置されたボルトの武装を魔改造して主人公のハウンドアーマーに装着すると言うマッドな展開もあったりする。

 

第二世代ハウンドアーマーはA型のボルトの機体を参考に開発されている機体で、初期型と言われるHA-11のロールアウト当時は操縦が複雑すぎて戦場に出ても「歩く的でしかない」と不評を買うほどであった。

 

今は後期型に移行しており、ナノマシンの効果があるので新米でもセンスがあればイイ動きをしたりするくらいだ。ただ、搭乗するためにナノマシン必須というのが何か引っかかる気がするが……。

 

しかし、なんというべきか。アタリア基地の倉庫が、あまりにも広い上に……。

 

 

「何かありましたか?」

 

「なぜこんなにボルトのオーバーテクノロジーを使った武器が、この倉庫にはあるのかなと思ってな」

 

 

質問をしてきたレイラにそう返すと、彼女は何も言えない表情のまま会話を切り上げた。それは彼女でも答えられないこの基地の〝本質〟なのだろう。

 

メインストーリーで主人公たちの強化に活躍するこの基地もまた、ボルトボックスの謎の一つである。

 

その充実した設備は……まるで主人公たちがボルトに反撃するために、あらかじめ用意されていたと言われても疑わないほど、場が整っていたのだ。

 

この基地にいるレイラも何かを知っているのか……あるいは兵士としての勘からか、踏み込んではいけない何かが倉庫にはあるのだという確信めいたものを感じているのだろうか。

 

だとしたら俄然調べたくなるのが変態であり、インフィニティランカーなのである。

 

俺はしばらく一人で見て回りたいとレイラに告げて、彼女の気配がなくなるところまで歩いてから兵器が保管されているエリアへと体を滑り込ませた。

 

正直に言えば15時間もオンボロ飛行機に体を揺さぶられていたのですぐにでも寝たいのだが……ボルトボックスの謎であるアタリア基地の完全なる姿が目の前にあるのだ。

 

今はその好奇心がその全てを凌駕している。

 

しばらく倉庫内を歩くと、メインストーリーでもよくお世話になったハウンドアーマー専用のハンガーがあった。

 

しかし、ストーリー時に発見した時よりもとっ散らかっていて、使うには積み上げられている廃材や部品を撤去するしかない。

 

まぁ、果たして自分が生きている間にここを使う主人公たちを観れるかどうかも定かではないのだが……。

 

 

【ようやく出会えた】

 

 

そんなことを考えると、ふと声が聞こえた。レイラに見つかったかと思い振り返るが、自分が通ってきた通路には誰もいない。

 

それに声が聞こえた方向も全く違う。

 

 

【貴方がここにきてくれるのをずっと待っていた】

 

 

恐る恐る声がする方へと目を向ける。

 

声が聞こえるのはハウンドアーマーが整備を受ける専用ハンガーの裏手からだ。散らばる部品や武器や残骸を乗り越えて進む。

 

そして俺は、声がはっきりと聞こえた場所を見上げた。

 

そこには壁に背を預けるように腰を下ろし、放置された古い機体があった。

 

現在や、過去のハウンドアーマーとは全く異なる形の姿をしていて、オレンジ色のカメラアイが備わる頭部をまるで糸の切れた人形のようにだらりと首を垂れさせている。

 

いや、待って。こんなハウンドアーマー……見たことないぞ。形としては……キービジュアルブックに載っていた要素開発で製造されたプロト・ハウンドアーマー(トリプルゼロのベースとなった本当のプロトタイプ)の姿にどこか似ているが……。

 

少なくとも、俺はインフィニティモードを除いて全ての難易度で入手可能なハウンドアーマーを全部手にしていた。だが、目の前にある機体は全く見たことない体系の機体だった。

 

さっき響いた声はもう何も語らない。

 

俺は何か確信めいたものを感じながらも震える手で鎮座するハウンドアーマーに触れる。

 

その時だった。

 

 

「中尉!大変です!A型が南の沖合に出現しました!!」

 

 

俺を探してこの場に駆け込んできたレイラが飛び込んできたと同時、オレンジのカメラアイに光を満ちさせたハウンドアーマーがひとりでに動き始め、アーマーに触れていた俺は突如として伸びてきた腕に捕まり……

 

 

そしてそのまま、コクピットへと押し込められたのだった。

 

 

 

 



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CASE06.パイロットを拉致る兵器は兵器じゃない

 

 

ハウンドアーマー。

 

それはハイパーゲートから突如として現れた敵、ボルトからもたらされたオーバーテクノロジーで作られた人型の戦闘兵器である。

 

第一世代機となるHA-000 トリプルゼロから始まり、同じくボルトの技術を用いて開発された新型動力源「ガルダリア・エンジン」を初めて搭載したHA-08F リゴッティ、HA-09 リゴッティⅡを経て、ハウンドアーマーは第二世代機にシフトアップ。

 

HA-10 レイブンアームズ。

 

HA-11 エンフィールド。

 

HA-12 アーマライト。

 

マイナーチェンジをいくつか重ね、試作機での実機テストの結果……ついに第二世代後期型、HA-16A レイジングブルがロールアウトした。

 

初期型から一貫して全長は15メートル級が主流であるが、第二世代後期からはその汎用性の高さを活かした特殊兵装や専用機なども製造され、中には20メートル級のハウンドアーマーも存在している。

 

現行機は、腰部に備わるガルダリア・エンジンを主動力とし、関節には摩耗を防ぐために磁力コーティングされた部品を採用。

 

装甲材質は軽くて頑丈なソリッドカーボン材が使用されているため、機体重量は15t程度に収まっている。

 

コクピットは機体の胴体部に備わっていて、初期型の筒状から卵型に仕様を変更し、防御率向上のためモニターは専用ヘルメットに備わるVRモニターに集約されている。

 

コクピット内部は無骨な金属の箱のような印象が強く、そのせいで一時期は鉄の棺桶と揶揄されていたこともあった。

 

俺が最前線で乗っていた機体はHA-10 レイブンアームズであり、機体各所にチューニングが施されたカスタム機だ。背部のハードポイントに装備されるのは5連装榴弾ランチャー、お馴染みのショットランチャー。右腕部には装甲内に無理やり押し込んだ牽制用バルカン砲、左腕には損傷した僚機を牽引するためのワイヤーウィンチが仕込んである。

 

かなり愛着のあった機体だったが、前線から左遷されることが確定されていたので、懇意にしていた部下の副隊長に渡してきた。本人はナノマシン適合があったのでレイジングブルに乗り換えろと打診があったようだが、頑なに第二世代前期型に拘っているのか、俺の機体を渡したら飛ぶように喜んでいた。

 

「落ち着いたら迎えに行きます、ですからお元気で」とささやかな送別会で涙ぐみながら言ってくれた副隊長をはじめ、別れを惜しむ小隊の仲間たちの顔が脳裏をよぎる……。

 

さて、現実逃避はここまでにしよう。

 

今まさに俺が拉致られて乗せられたこの機体。記憶の中にある〝どのハウンドアーマーにも当てはまらない〟、という異質なものだった。

 

全高は目測で20メートル級。

 

カメラアイはオレンジ色であり、ハウンドアーマーなら統一装備である腰部のガルダリア・エンジンとフレキシブルウイングも存在しない。人型ではあるが、動力源は背部に集約されているイメージだ。

 

なにより従来の機体と異なるのがコクピット。

 

モニターは半天周囲型で備わっているし、操縦系統もコンソールデザインが、かなり異なっている。

 

……なんだ、この機体は。専用(ワンオフ)機だとしても従来機とかけ離れすぎている。

 

 

『ムラクモ中尉!?』

 

 

レイラの声がコクピット内のスピーカーから響く。

 

慌ててハウンドアーマーの起動プロセスを実行しようとコクピットモジュールに手を伸ばしたが……セッティングが全く異なっていた。

 

なにせ、メインエンジン点火のスイッチや、火器管制(ファイアコントロールシステム(FCS))への接続モニターなど、ハウンドアーマーを操作する上で必要不可欠な操作機器の一切が存在しない。

 

あるのはスロットルとフットペダル、そして周囲をモニターするレーダー程度だ。

 

そしてなにより、この機体はひとりでに動き始めていた。俺をコクピットに取り込むと壁に背を預けるように座っていた機体は体を起こし、立ち上がる。

 

くそ……全く操縦が効かない。完全自律制御モードか?スロットルを手に取って引いてみるが機体は何の反応も示さない。

 

 

「一体何だ、この機体……ハァッ!?」

 

 

そう思った瞬間、俺の体は凄まじい負荷に襲われた。機体が一気に加速したと思ったら倉庫の壁をぶち破って外へと飛び出したのだ。

 

 

『ムラクモ中尉!!』

 

「おいおいおい!待て待て!?」

 

 

悲鳴のような声を上げるレイラを置き去りにして、そのハウンドアーマーで〝あろう〟機体から発せられる爆発的な加速力は既存のハウンドアーマーを凌駕していた。シートに体がめり込むのがはっきりとわかる。俺の操縦を受け付けないまま機体は海上へと飛び立ち、そのまま沖合へと飛翔してゆく。

 

ん?なにか海上に飛んでいるのが見える……コクピットに呑み込まれる前にレイラが「A型がどうのこうの」と、何かを叫んでいたような気がするけど……ってゲェエーー!?

 

 

「ボルトのA型じゃねぇか!!」

 

 

A型ボルト。拠点制圧を目的としたエネルギー収束砲と、エネルギー刃と、ミサイルを積んだ中ボスクラスの敵。それに対する戦術は、威力が高く射角範囲が広いショットランチャーなどで引打ちしながら体力を削って、最後には接近してMMXをぶち込んで倒すのがセオリー。

 

はい。つまり何が言いたいかというと初見のハウンドアーマーで挑んでいい相手ではないと言うことです!!

 

このまま真っ直ぐ飛べば確実に会敵。しかも敵の真正面なのでA型のメイン武装である収束砲の射線に入っているのだ。

 

なんて呑気なこと考えている場合じゃねぇ!!う、動け!動けヨォ!?回避しないと死ぬぅ!?

 

 

【……ここから本当の物語が始まる】

 

 

一人でテンパってレバガチャをしてたら急にコクピット内に声が響き渡った。

 

AIにしては滑らかすぎる口調。たしかにオンラインの方では好きなキャラクターをオペレーターにする機能があったが、ストーリーでは一貫してAIが補助してくれている。

 

まぁ変態ことインフィニティランカーたちを補助するAIなんて存在しませんが(ナノマシンがないから)。

 

つまり、この声はAIではない。

 

俺はナノマシンを投与していないのだから。

 

なら誰やねんッッっ!!!!!!

 

心のツッコミを入れながらダメ押しでフットペダルを踏み込むとさっきまで操縦不可だったこの機体の自由が効くようになった。

 

というか前前前っ!!A型が収束砲放つ予備動作に入ってるっ!!

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!あっぶねぇええ!!」

 

 

放たれた収束砲をギリギリのところで躱す。

 

前に言った通り、あの収束砲はビームとか荷電粒子砲とか生易しいものじゃない。

 

当たればどんな物理防護でも貫通する死のビームなのだ。前面にガルダリア・エンジンの出力に物を言わせてシールドを展開できるならまだしも、初見機体で真っ向から受けるのは自殺行為に等しい。

 

 

【まずは〝彼〟を倒しましょう】

 

 

彼?まるで知っている誰かを言うようなコクピットの声。

 

「誰だ!?」って言いたくはなるがA型を前にしてそんな余裕は一切ない。

 

気を抜けばスパスパ装甲を分子レベルで切断する刃を出してくるのだ。

 

とにかく武装も何も把握できて……というか、武装ついてんのか、この機体。丸腰とかオワタ式が無理ゲーになるんですが。

 

とりあえず今はインフィニティランカー必須科目の全力回避でA型との間合いを保ちながら対策を立てていくしかねぇ!

 

頼むから武装とかあってくれ!お願いします!!

 

 

 

 

 

 

普段は鳴ることない空襲警報が鳴り響いてから、雑誌を読んでいた司令官が管制室に到着するまで2分も掛からなかった。

 

年甲斐もなく走ってきた司令官は運動不足からか肩で息をしている様子だった。

 

 

「状況は!?」

 

「え、ええっと……Aです!A型がこのアタリア基地に!!」

 

「な、なんだってぇ!?」

 

 

A型という言葉を聞いてその場にいる誰もが顔を青ざめさせた。C型が地方基地で対処可能な敵の限界値であり、B型以降と遭遇した基地は地図から消えているのがこの世界の常識だった。

 

C型は何度か迎撃砲で追い払いはしたことがあるが、B型以降との戦闘経験は皆無である。

 

さて、この基地についてだがメインストーリーが始まる時間軸ではすでにボルトの襲撃を受けて司令部や基地の主要部分は全て破壊尽くされていた。

 

その首謀者は今回と同じくA型のボルト。今騒いでいる基地司令や管制官たちは抵抗することもできずに収束砲によってこの世から消滅させられる運命を辿っていた。

 

だが、〝基地の倉庫は奇跡的に破壊を免れていた〟というのがストーリーの肝になる。

 

A型の収束砲は文字通り防ぐ手立てがない。司令部も管制室も空間ごと切り取られたような破壊のされ方をしていたと言うのに、メインストーリーでは基地倉庫が綺麗に、原型をとどめて残っていたのだ。

 

では、何故。

 

ボルトの収束砲から基地の倉庫は破壊を免れることができたのか?

 

それは本来なら訪れることない転機によって証明されることになる。

 

 

「あっ!パイロットが迎撃に出ました!?」

 

「馬鹿なことを言うな!この基地にまともに戦える機体など……」

 

 

この基地にあるのはボルトの研究開発に使用された地球側の戦闘機や戦車などの機体の残骸や、ガラクタばかりだ。

 

そんな基地の中に動ける機体……ましてや前線で配備されるようなハウンドアーマーなど存在しない。迎撃に出るような戦闘兵器を使用すること自体、この基地は想定していないのだ。

 

 

「そ、それが……」

 

 

管制官の一人である中年の男性はレーダーから発せられる存在を見て言葉を詰まらせていた。司令官は半信半疑でそのモニターを覗き込むとやる気のなかった表情を一変させた。

 

この基地で〝それ〟を知るのは古株の司令官と、この基地のスタッフのみ。

 

かつて、この南アタリア基地は〝ボルトの機体を解析し、ハウンドアーマーの原型を作った研究所〟があったのだ。

 

だが、その記録には少し間違いがある。

 

解析に使われたのは奇跡的に鹵獲されたボルトの機体ではない。

 

それは、ボルトがハイパーゲートから現れた時に、共に落ちてきた存在だったのだ。

 

 

「……ボルガーです」

 

 

信じられないと言った様子ではあるが、管制官は静かにそう呟いた。〝あの倉庫に眠っていた存在〟が動き始めた。これまで誰もが起動もできなかった機体。

 

 

「あれを動かしたと言うこと……そうか……彼こそが……」

 

 

南アタリア基地がA型によって破壊されていたというストーリーの裏には、「ボルトが基地内にある存在を消すため」という目的があった。

 

それはボルトボックスの設定資料の隅に小さく書かれた一文であったが、たしかにその事実はあった。

 

 

「そうか、ついに動き始めたか」

 

 

そして、消される存在だった基地は、その宿命を新たに背負い……歴史を変えてはじめてゆく。

 

 

 



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CASE07.雷王招来

 

 

 

 

教えて〜!ボルトボックス〜!

 

みんなにA型の脅威というのを簡単に教えちゃうね!A型は文字通り、二番目にやばいやつ!基本的に形は人型であるけど、それぞれには個性的なデザインが施されている。胴体胸部には何かを意味する独特なエングレーブが施されていて、腹部にはエネルギー収束砲が備わっている。

 

人の腕を模した腕部にはエネルギー刃が展開する発動機が装備されていて、その装備の仕方も前腕部からリストブレードのように展開する機体から、4本の指の爪先から展開する機体まで存在する。

 

今回の敵は手首から先端にかけて丸ごとエネルギー刃になるような構造をしていて、腕を突き出すだけで万物全てを貫く槍のような武器にも転用することができ………

 

 

「あっぶねえええええっっ!!!!!」

 

 

エネルギー収束砲が怖いから懐に飛び込もうとしたところ、手首から発動したエネルギー刃に危うく串刺しにされかけた。機体をバレルロールさせる要領で刃を紙一重で躱し、なんとか距離を保とうとするが……相手が厄介すぎる。

 

もう機体のアラームが鳴りっぱなしだ。何のアラームかもわからない……しかし機体は制御できている。それだけが救いだった。

 

距離を置くと、今度は雨のようにエネルギー収束砲が降り注ぐ。それを躱し続けている状況です。

 

下手に止まれば収束砲と飛んでくる斬撃に削り取られてアウトだ。A型との戦いの肝はどれだけ間合いを確保して戦うかにあるのだが……下手に突っ込めばさっきみたいに待ち構えたエネルギー刃に貫かれかねない……。

 

今は間合いを保ちつつ、なんとか現状を維持しているけど、俺の集中力が切れるか、心が折れたら終わりです。

 

あぁ助けてアル。お前らが休暇先に選んだ基地、なかなかに地獄なんですけどぉ!?

 

……え?武装?なかったですが何か?

 

いや、一応あったよ!?あったけど!!それが完全に近距離戦用の武装なんだよなぁ!これが!!だからさっき、間合いに飛び込んだのもあるわけで……。

 

まだまだ元気いっぱいなA型に、効果もわからない近距離用武装を信じて凸して殴るとか……自殺行為でしかないんですけど?

 

ちなみにA型の狩り方は、遠距離または中距離の武装がある場合は距離をとって豆ダメでも射撃して、収束砲が大人しくなったあたりで飛ぶ斬撃を掻い潜って突っ込んで殴ると言う戦術が安定している。

 

インフィニティランカー(変態)たちの中には「収束砲掻い潜ればショートカットできるやろ」って言って某ニュータイプキリングマシーンみたいな動きでA型を狩る猛者もいる。

 

もちろん、収束砲に当たったら乙るので現状はそんな真似できません。

 

あとは、MMX裸一貫装備とかいう変態御用達みたいなアセンブリもあって、距離詰めまくってMMXで殴りまくってA型の装甲をゴリゴリ溶かすという頭がイカれた戦術もあるが……そこまでの火力を出せるかも疑問だ。

 

というかこの機体、性能も何もわかってないからな!!

 

しかもこの機体に備わってる武装……というか、物理攻撃技?みたいなものだけど見たこともないやつだった。文字通り近づいて殴るだけの武装もへったくれもない物理攻撃で、見つけた時は変な笑い声が出たわ。

 

せめてパイルバンカーとか、近距離戦エネルギー突撃刃(MMX)とか装備してもらえませんですかね!?

 

けれど、敵と競り合っててわかったことが一つある。

 

相手のA型、この機体を見て動揺しているような気がするんだけど……ってぇえ!!

 

 

「ぐあぁああ!?」

 

 

一瞬の油断の中で飛んできた斬撃をもろに受けてしまった。咄嗟に片手のガード姿勢になってしまったが、めちゃくちゃ吹っ飛ばされた。機体が縦回転になり海面に叩きつけられ、コクピットシートに叩きつけられたが……よかった、まだ生きているよ、俺の体。

 

というか、片腕がやられたか!?と思ってモニターを確認したが……意外。なんと無傷である。

 

アレー?相手の刃は収束砲と同じ理論だからシールドも無しに受ければ分子レベルでぶった斬られて真っ二つのはずなんだけど…。

 

モニターには海面付近にいるこちらを見下ろすA型が写っていて、相手も驚いてる様子なのか苛烈だった攻撃に……僅かな隙が生まれた。

 

隙を見せたな!!突撃ぃいいい!!叫ぶまま俺はフルスロットルでA型との距離を一気に詰める。なんでもいいがダメージが欲しい!頼むぞ、拉致機体!俺を誘拐したんだ根性を見せろ!!

 

喰らえ、サンダーボルトナックル(仮名)!!

 

凄まじい衝撃音と共に吹き飛ぶA型。

 

機体腹部に叩き込んだ一撃によって、装甲には亀裂が入り、内部部品の破損が見受けられた。って、いや、マジか。MMXでも二、三発撃ち込まないと装甲剥がれないのに……この機体の一撃、どれだけダメージあるんだ!?

 

そこで、すぐに収束砲を撃ち返してきたのは流石A型と言える。距離をとってお互いに仕切り直しだ……と、言いたいところだが、これを続けられる集中力と根気がどれだけ持つか。

 

状況を整理するとこちらがかなり不利だ。相手はまだまだ元気な上に、鬼追尾のミサイルと収束砲の包囲網を敷かれたらジリ貧になってすり潰されるのはこちらだ。

 

そうなる前に、さっきのサンダーボルトナックル(仮名)を何発がぶち込んで大人しくさせたいが……上手くことが運ぶかどうか。

 

まぁ、俺に折れない心があればイケるな!!たぶん!!

 

弱音を吐いても誰も助けてくれないのがこの世の常である。息を大きく吐いてA型と距離を取ると、コクピットモジュールにあるシグナルが点灯していることに気づいた。

 

え、なにこれ。ユナイトシグナル……?

 

 

《聞こえるか、ムラクモ中尉!》

 

 

突如としてコクピットに響く声と同時に、正面モニターの右上に映像通信が表示された。モニター越しに見えたのは、先程倉庫であったイソダ班長である。隣には心配そうな顔でカメラを覗くレイラの姿もあった。

 

 

「イソダ班長!すいません!倉庫内の機体を……」

 

《んなこたぁ、どうだっていい!!お前さん、どうやってそれを動かした!?》

 

 

動かしたって言うか、勝手に動き出して拉致られたんですけど……って危ねぇ!?A型が放ったエネルギー収束砲をギリギリで躱し、海面ギリギリへと高度を落とす。操縦してわかったことだが……この機体の出力は現存機のそれを遥かに上回る性能を持っている。

 

ハウンドアーマーの第二世代からは、機体重量の軽量化やガルダリア・エンジンの出力向上により空中戦も行えるようになってはいるが、あくまで短時間の戦闘しか対応できず、主戦場は地上だ。

 

しかし、この機体は海上を浮遊するA型を相手に長時間の空中戦闘を継続している。収束砲を躱し、飛来するエネルギー刃も避ける機動性を発揮しながら、スラスターベーンがオーバーヒートしない。

 

 

「なんて性能の機体だ……こいつは」

 

《ムラクモ中尉。その機体は今まで一度も動かなかった。……あのゲートから落ちてきた時からな》

 

 

ゲートから落ちてきた?そう聞き返すと、班長は作業帽を深く被り鋭い眼光をしたままこう言った。

 

 

《その機体……ボルガーは、ボルトがハイパーゲートから現れたと同じ時間に、南アタリア島に墜落した……正体不明の技術で作られた存在だ》

 

 

 

 

 

 

 

ゲンジ・イソダ。

 

彼は墜落した機体の解析を行い、要素開発を主としたプロトゼロの開発にも関わった技術者だった。南アタリア基地が設営された大きな理由は、ボルト進行のタイミングと同じくして墜落した機体……Unknown01の存在があったからだ。

 

機体解析を進める中で、「BOLGER」という機体コードらしき文字列は確認できたが……それ以上のことは判明しなかった。

 

機体装甲に使われている材質、関節構造、機体フレーム……何もかもが人類が持つ技術とは異なり、そのはるか先を行く水準で鍛造された代物だった。それを見て、彼は震えた。この機体を解析すれば……ほんの少しでも理解できれば……人類は新たなるステージへと進むことができると。

 

それからイソダは取り憑かれたように、要素開発を主としたテストベット機の技術開発チームの中で新たな技術開発にのめり込んでいった。

 

まさにイソダにとって灼熱の時代だった。

 

寝る間も惜しみ、食事を摂るのも忘れ、一心不乱に仲間達と共に作り上げたソレは、さらに洗練され……HA-000 トリプルゼロと呼ばれる機体へと昇華された。

 

そして、ようやく振り返る余裕ができたイソダが見た光景は……

 

 

地獄だった。

 

 

技術革新に囚われ、盲目的に新しい何かを作ろうと燃えていた自分が見落としていたものは、滅びかけた人類と侵略された世界で、逃げる者も、立ち向かう者も、関係ないと無関心だった者たちも、すべて関係なく、ボルトの力によって全てを奪われ、消し去られた荒廃しきった世界。

 

自分たちが情熱を注ぎ込んだ結果、生まれたトリプルゼロも優秀で若いパイロットと共に戦場に散った。

 

結果的にイソダたちがやってきたことに間違いはなかったのかもしれないが……立ち止まって、振り返った先にあった地獄を目にして、イソダの中にあった技術者としての信念は暗闇に閉ざされてしまった。

 

それからというもの、南アタリア基地で活発に行われていた機体開発は急速に萎えていき、トリプルゼロの生産ラインを立ち上げた企業らがイソダたちに変わって新型機の開発を進めていった。

 

そして第二世代がロールアウトされた頃には、南アタリア基地はすっかり廃れてしまっていた。

 

 

《ムラクモ中尉。それを動かしてどうなるか、誰にもわからない……俺は……その機体で取り返しのつかないことをしてしまった》

 

 

イソダの顔色は悪い。それはそうだ。命令も何も出てないのに勝手に動きだしたそれは、彼が忘れようとしていた〝地獄〟を呼び覚ますには十分すぎたのだから。

 

襲ってきたA型と戦うボルガーを目にし、過去の過ちが脳裏に蘇る。

 

ボルガーの力に魅了されなければ……自分があんな地獄を作る手助けをすることなんて……。

 

 

「イソダ班長。それでも俺は……ハウンドアーマーのパイロットだ」

 

 

轟音が響く。放たれたミサイルを海面に叩きつけるよう誘い躱すボルガーのコクピットの中で、ダンは顔を顰めるイソダに断言した。

 

トリプルゼロを駆り、地獄と言うのも生温いノルマンディー反抗作戦で〝奇跡〟を起こしたパイロット。

 

多くの戦友を失ってきただろう。多くのモノを守れなかっただろう。どれだけのものを目の前で失ってきたのだろう。自分が始めたモノを使って戦い続けてきたダンを目の前にして、イソダの中に渦巻く〝予想〟。そこから発せられるであろうと予想した全てを、ダンは裏切った、

 

ダンは、恨み言も何も言わず、自分がパイロットであると言い切ったのだ。

 

 

「俺は守るために戦ってきた。それは今も……これからも変わらない。だから、コイツで戦えるなら俺は……戦う。それだけだ!!」

 

 

そう声を荒げ、ダンが操るボルガーは凄まじい速さで敵の懐に飛び込み、稲妻を纏わせた拳でA型の頭部を殴りつける。鈍い鉄が変形する音がスピーカー越しにまで聞こえる。

 

思わず息を呑んだ。

 

そして思い知らされる。自分が地獄だと思った場所で……彼は戦い続けてきて、そして生き延びてきたのだと。

 

なら、そんな彼に答えずに……何が技術者だ。

 

 

《ムラクモ中尉。その機体は特別だ。地球のハウンドアーマーとは違う〝何か〟を持っている。そして、誰がやっても動かなかったそれに……お前さんは選ばれたんだ》

 

 

思考は回る。この機体は誰もが知らない〝何か〟を有している。それは一体何か。ユナイトシグナルとは何か?聞いたことも見たこともないものが目の前にある。

 

だからこそ、今度は向き合う。

一人の技術者として。もう今さら地獄だと言って逃避はしない。

 

 

 

 

 

《ムラクモ中尉!壊れたら俺が直してやる!だから思う存分にやれ!!》

 

 

ユナイト・シグナル。そんなシステム……機能があると言うことも知らないし、第一どうやって起動するのかもわからない。え、音声認識?そんな機能がハウンドアーマーにあるんですか。

 

だが……今の装備や性能のままではA型に勝てるイメージはできない。A型を撃破できなければ……南アタリア基地は確実に破壊される。

 

そうなれば、モニター越しに見えるイソダ班長や、レイラも、挨拶を交わした基地の人も……そして俺も死ぬ。

 

 

「アルたちにまだ文句の一つも言えてないからな……死ぬわけにはいかないさ」

 

 

それに言っただろう。俺は……ボルトボックスの箱推しだと。たとえそれがモブキャラであろうと、この世界で生きようとしている人を、俺は簡単に見捨てない。

 

見捨てずに足掻いたから、今こうやって……ここにいる。だから、最後まで足掻き続けるままよ!

 

 

「よし、やってやる!!」

 

 

そのままコンソールに光りが灯る先を見据え、俺は勢いのままそう叫んでスロットルレバーを後ろへ一気に下げた。その瞬間、コンソールで輝いていた光が一閃となり、俺の額を突く。

 

 

「ユナイト・コネクトォオオ!!」

 

 

あれ、どうして俺は……こんな言葉を知ってるんだ?それにやり方も。

 

そんな疑問が脳内に過るが、それら疑問や懸念を一気に吹き飛ばす事象が起ころうとしていた。

 

まず変化があったのはハイパーゲート。

 

地球と月の中間点にあるゲートは、今は人類の手から離れて自律制御状態で宇宙を漂っている。

 

人類にできることはゲートのデータを確認し、監視し続けることだけだったのだが、静寂であったハイパーゲートから突如とした高エネルギー反応が検出されたのだ。

 

 

《!?ハイパーゲートからエネルギー反応!……早い!?すぐに出ます!!》

 

 

緑光を煌めかせ起動すると、すぐさま稲妻が迸るワームホールと化したハイパーゲートから三つの影が飛び出してきた。凄まじい速さでゲートを抜けた三機は、そのまま大気圏を貫き、真っ直ぐに南アタリア基地へと飛来する。

 

三角のような編隊を組んで飛んできた機体はその姿を鮮明に表した。

 

ファイター型、ドリル型、そしてタンク型の三つのボルトモジュール。

 

A型の気が逸れている内に、ボルガーが空へと飛翔した。

 

ハイパーゲートからボルトの勢力が現れた日。

 

南アタリア基地に墜落した謎の機体であり、ボルガーを人類が解析することによってオーバーテクノロジーを手にし、そしてボルトに対抗しうる機体、ハウンドアーマーを作り上げた。

 

だが、ボルガーは起動はしなかった。

 

技術のみを地球側へと与え、機体は深く眠りについていたのだ。本来ならばA型が南アタリア基地を壊滅させた際、ボルガーはボルト側に奪取され、地球側へは二度と戻れない結末を辿っていたが………〝今回は間に合った〟。

 

 

【ボルガー・ユナイト!!セット、オン!!】

 

 

ボルトモジュールの中央に飛んだボルガーがそう命令を下すと、三機のボルトモジュールに積まれた〝ガルダリア・ブースター〟が強力な力場を周囲に展開する。それはボルトのA型すらも怯ませるフィールドであり、その内部では収束砲ですら無効化されるのだ。

 

 

【はぁあああ!!】

 

 

気合い一閃と共にボルガーを中核に三機のボルトモジュールが同調する。まずはファイター型のモジュール、「ファイアーボルト」が変形し、ボルガーの上半身へと接続。

 

 

【ファイアーボルト、セット】

 

 

ボルガーの両肩が開き、コネクタユニットと接合されることで次の合体へと移行する。タンク型のモジュール、「グランドボルト」が折り畳まれたボルガーの脚部へとドッキング。タンクは二分割するように変形し、その姿は巨大な脚と化した。

 

 

【グランドボルト、セット】

 

 

最後に腕部にドッキングしたのがドリル型のモジュール「サンダーボルト」。ドリルが折り畳まれて変形すると、その姿は腕となった。肘部から突き出したドリルはパーツを展開することによりトンファーのような武装へと変形することも可能だ。

 

 

【サンダーボルト、セット。ボルトモジュール、オールクリア。ボルテリガー、起動します】

 

 

ボルガー。

 

ファイアーボルト。

 

グランドボルト。

 

サンダーボルト。

 

全てのドッキングが完結し、ボルガーのガルダリア・エンジンと、三基のガルダリア・ブースターの波長が同期することで、完全なる〝ボルトロイド〟が完成したのだ。

 

 

 

【雷王招来!!ボルテリガァアアアアーーー!!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここに、一人の勇者が誕生した。

 

永劫に続く二つの世界の悲しみと痛みを断ち切る勇者。

 

その名は、ボルテリガー!!

 

 

 





イソダ班長「それは予想してなかった」


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CASE08.勇者ロボの操縦は心で扱うモノだ

 

 

 

リアル系ロボットの世界に転生したと思ってたら勇者ロボのパイロットになってました。状況説明終わり。

 

じゃねぇええええ!!

 

なんだよ、ボルテリガーって!!!!

 

俺は確かハウンドアーマーに乗ってたんだよな!?ボルトボックスってリアルロボット路線のアクションゲームだったよな!

 

なんで勇者ロボに鞍替えしてるの?え?ハウンドアーマーってもしかして勇者シリーズだった?

 

機体が紙装甲すぎてパイロットが捻り潰されてモニターが鮮血に染まったりとか、腹部を貫かれて半身不随になった挙句、女性としての尊厳も奪われる女性パイロットの話とか、母親を呼びながら炎に焼かれて死んでゆくとか、志半ばで倒れてゲリラにズタボロにされるシーンとかあるんですけど……。

 

ボルトボックスというゲームはシリアス路線のリアルロボットのはずなのに……なぜ俺は勇者シリーズのナンバリングを飾れそうな機体に乗っているんだ!?

 

 

【それは貴方が選ばれしもの……だからですよ】

 

 

声がコクピットの中に……あれ?と言うかコクピットも変わってる……スロットルやフットペダルが無くなっていて、両手には手首まで覆うような機材が繋がっている。え、俺の体どうなってるの?半人半機械になってたりするわけ?

 

 

【安心してください。貴方は人間ですよ】

 

 

そう答えるコクピットの声……女性のような柔らかな印象があるその声は、俺がまだ人間であると言うことを強く肯定してくれた。

 

よかった、まだ「ナニカサレタ」ということではない。

 

それに、この感覚というか……脳内に直接イメージを叩き込まれるような感覚を、俺は知っているぞ……。この世界に来てからは体験してないが、モニターの前でこのゲームをプレイしていた時に……。

 

ゲーム難易度をノーマルにして、初めてプレイした時。

 

俺の操作する主人公はナノマシンを投与されていた。それによって付与される機体アシストの機能に、今自分が置かれている状況が酷似していたのだ。

 

ボルトボックスにおけるナノマシンは、生体デバイスの役目も果たしている。それは操縦系のダイレクトコントロールシステム(DCS)の効果も勿論あるが、機体制御におけるアシストや、弾道予測、危険察知能力の底上げにも貢献している。

 

ナノマシンは単に人体に投与されているわけじゃなく、制御チップも首に打ち込む仕組みになっていて、そのチップ内に戦闘で得られたデータをロギング、高度なデータベースにすることでパイロットスキルを平均化するという試みもされているわけだ。

 

つまり、パイロットが求めるモノや、作戦時に必要となる情報、武装知識、戦闘教練などもデータベースから最適なものを選び、チップからナノマシンを経由して知識として脳にダウンロードすることができるのだ。

 

例えて言うなら、ゲームのチュートリアルなどでよく表示される機体操作法の解説バー……というのがゼロタイムで表示され、理解させられると言った感覚に近い。

 

 

【私の名は〝セレーナ〟。貴方が乗るボルテリガーと共にあるゼブロイドです】

 

 

俺はナノマシンもチップも投与していないのに……なぜ、そう心の中で問い直したと同時、避けてという警告がゾワリと背筋を撫でた。

 

その直感にも似た感覚に従い操作レバーを引くと、俺が乗る勇者ロボ……ボルテリガーはひらりと機体を翻した。

 

脇を掠めたのはA型の収束砲。普通のハウンドアーマーだった場合、収束砲の餌食になっている。視界に映るA型は更に収束砲を放ってくるが、そのことごとくをボルテリガーは躱してゆく。

 

この機体……見た目は大きいが、加速性能、旋回性、そして操作性が異常だ。それでいてコクピットにいる俺に負荷が一切ない。

 

背中に備わるファイアボルトのスラスターが閃光を放ち、一気に機体を空へと押し上げてくれる。

 

それだけでも、この機体のポテンシャルが既存のハウンドアーマーを遥かに凌駕していると言うことがわかった。

 

 

【今は目の前の〝彼〟に集中を。このボルテリガーと貴方がいれば、負けることはありません】

 

 

その彼って言う言い方は一体……。そう思った俺の疑問はすぐに理解させられることになった。

 

 

【セレーナ……やはり貴様は人類を守ろうというのか……!!】

 

 

明らかに男の声が耳に響く。

 

そしてその声の発信源は、目の前にいるA型のボルトだった。通信回線も接触回線もない……というか、ボルトは自律AIで動く機械で……そこには人格やパイロットも存在しないはずだ。なのに、なぜこうやって声が聞こえる?

 

疑問は溢れてくるばかりだ。この機体はなんだ?俺に語りかけてくる女性の声はなんだ?なぜ、ボルトが話をできる。こいつらは……意思疎通が出来なかったが為に、人類と戦争状態になったんじゃないか?

 

 

【……ダヌレス。もはや、貴方達に何を言っても無駄なようですね。貴方が私を強制連行しようとしているのも……計画の邪魔になるから。ですが、私は貴方に捕らえられるわけにはいかない】

 

【反乱分子の分際で……貴様が人類に手を貸したせいで計画は大幅に遅れているのだ!】

 

【その計画に手を出さざるを得なくしたのは……他ならぬ私たち自身です。自らの業を平和に暮らす人々に押し付けるのは……それは……それはいけないことなのです!!】

 

【ほざけ!!】

 

 

いや、ぜんぜん話についていけないし、戦ってるの俺なんですけどぉおお!?

 

放たれた収束砲を躱すが執拗に追ってくるA型のボルト……ボルテリガー側にいる女性は、A型のことを「ダヌレス」と呼んでいたわけだが……A型には誰かが乗っていて、この機体にも俺以外の……セレーナという女性が乗っているのか?

 

 

【ダン・ムラクモ様。申し訳ございません。貴方をこうやって戦いの場に巻き込むことになってしまいました。……説明は後で行います。まずは彼を倒すことを先決してください!ここで貴方が負ければ……結局は何からも〝逃れること〟はできません!】

 

 

女性の声が響く。

 

逃れることができない……それはA型に負ける、すなわち「死」と言うことだけだ。死ねば、何もかも終わる。これまでがむしゃらに戦ってきたことも、俺が守れた命も、守れなかった命を忘れないことも……。

 

あぁ、たしかに混乱も戸惑いも困惑もある。この機体のことも何も知らない。ナノマシンを投与していないのに何故、ナノマシン補助を受けたようなパフォーマンスができるのかと言うことも。目の前のボルトと声の主がどう言った関係なのかも。わからないことだらけだ。

 

……だが、ボルトボックスでの敗北は死だ。

 

ならば、俺が取るべき行動に迷いはない。俺の目的は、常に一貫している。俺のできる中で、この世界の人を守る。生き延びさせていくことだけだ。

 

 

「今は何も聞かないでやる……。とにかく今は、俺に力を貸せ!!ボルテリガァー!!」

 

【来ます!その手に勝利を!!】

 

 

武装は何がある!そう考えた瞬間、この機体に備わる武装の全てが把握できた。凄まじいデータ速度だ……俺の脳、焼ききれなきゃないいんだけど……ええい、迷ってる暇はない!!

 

 

「行くぞ!!ガルダリア・フレアァア!!」

 

 

右腕の操縦桿を前へと突き出すと、それに連動してボルテリガーの右腕に備わる発射口からオレンジの極光が放たれる。

 

合体したボルトモジュールに内蔵された〝ガルダリア・ブースター〟で増強されたエネルギーが敵と同じ収束砲となったのだ。

 

ガルダリア・フレアはA型から放たれた収束砲と激突し、本来ならば相殺すらできないはずのボルトの収束砲を打ち破った。

 

 

【ボルテリガー……!我々と同じ技術を使う忌々しい機体め!セレーナ共々……ここで葬ってくれる!!】

 

 

収束砲では決着がつかないと判断したA型は両手にエネルギー刃を展開して一気に距離を詰めてくる。格闘戦か……!俺はすぐに対抗策を展開した。

 

 

「トンファァアアーードリルッ!!」

 

 

肘部のドリルがスライドし、下部のパーツごと両腕に備わる。メカニカルな音と共に突き出した取手を握り締めれば、見た目は完全にトンファーで、先端には肘部にあったドリルが装備されている近接戦闘用武器だ。

 

しかも先端部のドリルにはガルダリア・エンジンから供給される力場が発生している。故に……。

 

 

【馬鹿な……我がソクテムスの刃がそのようなこけ脅し如きに……!?】

 

 

防御不可能とまで言われたボルトのエネルギー刃を真正面から受けて鍔迫り合うことが可能になるのだ。

 

 

「うおおおりゃああああーーっ!!!」

 

 

驚愕するA型のエネルギー刃を、更に空いた片腕で殴りつける。するとドリルがまとった力場が作用したのか、敵のエネルギー刃発生部が粉々に砕け散った。

 

 

【ぬおおおお!?】

 

「食らえ!!ドリルゥゥ……スマッシャァアアーッ!!」

 

 

そして最初に受けたトンファードリルで、A型の頭部を殴り抜け、凄まじい衝撃音とドリルが敵の装甲を抉る音が周囲に響き渡る。力場とドリルの回転エネルギーによって粉々に頭部の左半分を破壊されたA型が大きくのけぞった。追撃をするべく、もう片方のトンファードリルを大きく振りかぶった瞬間。

 

 

【この……人間風情がぁあああ!!】

 

 

敵のエネルギー収束砲がコクピットの視界を覆い尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ほぼゼロ距離で放たれたエネルギー収束砲に晒されたボルテリガー。

 

その一部始終を見ていた管制室にいた誰もが驚愕で声を上げることすらできなかった。

 

収束砲は絶対的な力だ。ボルトの科学力は人類をはるかに上回っていて、ガルダリア・エンジンがあるとはいえ、あの収束砲を完全に防ぐ手段は存在しない。

 

そんな収束砲を真正面、しかもゼロ距離から受ければどうなるか想像するまでもない。機体は分子レベルで分解され、跡形もなく消滅する。

 

そうなることが、この世界の常識だった。

 

誰もが静まり返る中、管制室のドアが勢いよく開け放たれる。いきなりの音に驚いたように司令官を除く全員が振り返ると、そこには肩で息をするレイラ・ストーム少尉と、ゲンジ・イソダ班長が立っていた。

 

 

「し、司令官!!ムラクモ中尉が」

 

「あの機体はどうなった!?」

 

 

彼らが繋いでいた映像通信は、ボルテリガーに合体した時から音信不通であり、管制室からならモニタリングができると、イソダに連れられてレイラも大急ぎでやってきたのだ。班長の言葉は事実であり、基地周辺を定期監視する高高度ドローンから送られてくる映像が管制室のメインモニターに映し出されていた。

 

 

「……グランドブレストッ!!」

 

 

そう声が響いた瞬間、眩い光が薄れてゆき……ボルテリガーの前面に強固なシールドが展開される姿が映し出される。

 

グランドブレスト。ガルダリア・ブースターから得られる高密度のエネルギーを集約し、更に前腕部の増幅機から一気に放出させることで、一時的なシールドを生じさせる防御装備。その防御性は、これまでいかなる手段でも阻止は不可能と言われた収束砲を完全に無効化するほどだった。

 

結果、ボルテリガーはA型から放たれた収束砲を無傷で耐えきった。その光景に誰もが声を発することができなかった。

 

ゼロ距離から放ったA型も全くの無傷のボルテリガーに困惑している。そして、いささかも動じることなく向き合うボルテリガー、それに恐れや戸惑いを浮かべるA型。その対比を見るだけで勝負の結末は明らかだった。

 

 

「あれが……ボルテリガーか……」

 

「司令官。あれが……基地のみんなが……隠していたものですか……」

 

 

レイラには薄々勘づいていることがあった。基地の全員が仕事に不真面目なフリをしながら何かを隠しているということを。

 

司令官は「まぁ、知るべきことでもなかったからね」とレイラに目線を向けずにそう言った。

 

 

「俺たちもあの機体が動くなんて思ってなかったんだ。あんな姿になることも……。だけど……動き出した。もう誰にも止められない」

 

 

ただの研究用だった残骸が息を吹き返してしまった。

 

それも圧倒的な力を携えて。

 

怯えるA型に拳を構えるボルテリガー。

 

その機体も、そしてそれを操る資格を持つものも、これからきっと苦難の道を歩むことになるのだろう。

 

そしてそれは……おそらく自分達も。

 

言いようのない確信めいた何かを感じながら、その場にいる全員は終局を迎えようとしている戦いに目を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

グランドモジュールに備わるガルダリア・ブースター。最大限利用して生じさせるグランドブレスト。

 

反重力フィールドを防衛に展開した技であり、相手にぶつけることで攻撃技にも転用できるそれは、文字通りゼロ距離にきたA型を押し返した。

 

 

【な、何故だ!?その機体のどこに、それほどのパワーが!?】

 

 

困惑の声を放つA型。グランドブレストの影響で収束砲も破壊された。あとは近づいて近接攻撃を打ち込み、沈めるだけだ。

 

 

【今です、ダン・ムラクモ様!トドメを!!】

 

「はぁあああーーっ!!」

 

 

セレーナの後押しのような声と共に、ボルテリガーは背部のスラスターを全開にし、構えた拳のまま、一気に懐へと飛び込む。だが、相手もまだ諦めてはいなかった。

 

 

【馬鹿め、まだソクテムスの刃はあるぞ!!】

 

 

片腕に残っていたもうひとつのエネルギー刃発生装置。

 

ボルテリガーが超接近戦を挑んできた瞬間、作動させた刃を振り翳してA型の声の主は雄叫びを上げる。振り下ろされたエネルギー刃は……ボルテリガーに届くことはなかった。

 

 

「そうくると思っていたぞ!!」

 

 

最後の抵抗をしてくることくらい読めていた。左腕で振り下ろそうとするA型へ、更に被せて拳を放つ。その一撃は敵の最後の一撃であったエネルギー刃を砕き、発生装置を粉砕し、そして腕を貫いたまま胴体へと致命の一撃となって達した。

 

 

「サンダーボルトォオ……バンカァアーー!!」

 

 

ガルダリア・ブースターから放出された力場が稲妻となる。更に回転も加わった一撃はA型の胴体を軽々と食い破った。腕ごと胴を拳で貫かれたA型は耐えきれずに火花を散らし、やがて発生した火は大きく広がっていく。

 

 

【セレーナ……!私は……お前を……!ぐあああああっ!!】

 

 

そしてボルテリガーのコクピットと、そこにいるはずのセレーナという女性にしか聞こえない断末魔が響き渡った。

 

A型は青空の下で爆発し、姿を消したのだった。消え去ったA型。爆炎を切り裂き、空に舞ったボルテリガー。

 

 

 

 

 

 

その日、本来なら動くはずのなかった歯車が噛み合わさり……動き出した。

 

 

 



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CASE09.未知の兵器起動から拘束まで約束

 

 

ボルトボックスのストーリーシナリオにおいて、2355年は地球とボルトが全面戦争へと突入して五年。各地で奮戦する地球軍だが、その戦果は日に日に悪い方向へと流れつつあった。

 

人類が窮地に立たされるきっかけは、最大の基地であった北米に位置するサスカチュワン宇宙基地がボルトの特A型に奇襲されたことにある。

 

この宇宙基地は第二世代型のハウンドアーマーの開発、生産を担う生産工場という側面もあり、ボルトは的確に元を叩きにきたのだ。

 

第二世代型ハウンドアーマーが合計106機、防衛施設、三師団の艦隊、艦上戦闘機が迎撃に出たが……たった一機の特A型の前に迎撃に出た戦力は殲滅され、基地もその機能を根こそぎ奪われる結果となる。

 

その基地襲撃を皮切りに各地に点在する地球軍拠点に特A型が襲来。

 

その電撃的な奇襲と、特A型による強大な戦力は瞬く間のうちに地球軍拠点を攻略。その大部分が破壊し尽くされ、地球軍……ひいては人類全体が崖っぷちに追い詰められることになった。

 

その絶望的な状況の中。

 

南アタリア基地まで後退した主人公、ジェイス・ディバイスを筆頭に訓練生上がりのパイロットたちが頭角を表し始める。

 

「リトルウイング隊」と呼ばれる彼らは、手始めにニューブリテン島基地を制圧していた特A型を撃破。残存兵力を再集結し、ハワイ諸島に位置するカイルア・コナ海上基地へ夜間奇襲を仕掛け同基地を監視していた特A型をも撃破し、基地を奪還。

 

そのまま状況が好転し始め、北米大陸へと上陸した主人公は多大な犠牲を払いながらも点在する拠点を制圧する特A型を撃破してゆき……最終的にボルトの最終兵器との戦いに挑む。

 

というのが大まかなストーリーの全容である。ここで一つ重要なことは、ジェイス(デフォルトネーム)率いる主人公たちが反撃の狼煙を上げたのが、南アタリア基地からということ。そして、その基地はジェイスたちが逃げ込んだ時点で破壊され、無人となっていた後方支援基地の一つであるということだ。

 

南アタリア基地の機能が回復し始めるのは、ニューブリテン島基地を奪還してから。基地間の物資輸送ルートが確立し、技術者も集まったことからアタリア基地のウェポンベイや、機体修繕工廠が復旧し始めてゆく。

 

それまでは物資が残る基地倉庫だけがあったというくらい、破壊され尽くした基地だった。

 

そこでプレイヤーのネットワークでひとつの疑問が浮かんだ。

 

なぜ、ボルトは北米大陸やハワイ諸島、ニューブリテン島の奇襲作戦を展開する前に、アタリア基地を破壊したのか?

 

それもまた、ボルトボックスの中にある謎の一つであった。

 

軍事面での考察では、反撃を許さないために地球軍の兵站を担う後方基地を破壊してから奇襲に移ったという意見も散見されたが、南アタリア基地がいつ、どのタイミングで破壊されたかは明言はされていないし、もっと言えば日本に位置する在籍軍基地は全く被害を受けていないという事実もある。

 

そのため、多くのプレイヤーの認識はこうだ。

 

【ボルトは何らかの理由で南アタリア基地を破壊しなければならなかったのではないか……?】

 

結局のところ、真相はボルトの正体と同じく運営のみが知る闇の中だ。

 

その後、追加コンテンツの発表や、100対100の追加要素などが次々と発表されてたことで、攻略、解説サイトなどがそれらの情報で埋め尽くされたことにより、南アタリア基地がなぜ破壊されたかということに言及するプレイヤーはほぼ居なくなり……その疑問は忘れ去られてゆくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

「ダン隊長……せっかく休暇と思って色々手回ししたのに……なにやってるんですか」

 

 

リアル系パイロットだったはずの俺、勇者ロボのパイロットに選ばれた上に……敵勢力の人間かと疑われ執行部に尋問されているという件について何か質問ある?

 

そうふざけてみたが、執行部の一員としてやってきたフレデリック・スミス少佐(愛称はフレッド)はジト目で俺を睨みつけてくる。

 

 

「いやぁ、まさか俺もこうなるとは思ってなかったんだけどねぇ、ハッハッハッ」

 

「笑い事じゃないんですよ……!!」

 

 

地の底にでも届きそうな深いため息をついてフレッドは頭を抱えていた。フレデリック・スミスは、かつてノルマンディー反抗作戦において、【ミラクル・イーグルス】と呼ばれた5人のハウンドアーマー小隊、「イーグルス隊」のメンバーの一人……つまり、元俺の部隊仲間である。

 

イーグルス隊は、小隊長はダン・ムラクモ。副隊長にアーノルド・ゼノン、そのほか遊撃手や支援機、狙撃手と、計5名で構成された小隊であり、ノルマンディー反抗作戦におけるA型撃破は、この5名のチームワークによって成されたと言われている。全滅必至の作戦、ゲームでは損耗率99%だった戦場から3割を生きて還す活躍を見せた……と、後世に語り継がれているらしい。

 

小隊長以外のメンバーは「自分は何もやってない、あのアホな隊長が全部自分でやった」という認識なのだが……当人が役職や出世に興味を示さず、英雄と言われながら誰もが嫌がるような任務に赴いては敵を倒して帰ってくるというバーバリアンみたいな生き方をしているため、それぞれが機を見てパイロットを引退。好き勝手暴れる隊長の尻拭いをする為に役職についたというのが実情であった。

 

フレデリック・スミス少佐も元遊撃パイロットだったが、アーノルドたちと同じく、今目の前で笑っている隊長の後ろ盾になるべく、調査部の室長というポジションに身を置いた一人であった。

 

 

「隊長。加減という言葉を覚えてください。方々に頭を下げて鎮火するのも限度があります」

 

 

万年中尉である俺にそういうフレッド。

 

側から見れば「逆なんじゃね?」と思われかねない光景だが、フレッドの鬼気迫る表情で「尋問をする」という宣言の元、監視カメラと録音を中断させているから何ら問題はない。

 

……あと、アルやフレッド、他のメンバーもそうだけど俺が役職や階級に応じた話し方をするとスゲェ嫌そうな顔をするんだよな……。俺とは違って出世したんだから、立場もあるだろ?って言ったら「これだから隊長は……」って呆れられるし。

 

俺が乗り込んだ「ボルテリガー」というのは、軍の禁則事項の一つらしく……そう、禁則事項というのがポイントだ。

 

軍の上層部は南アタリア島に墜落した「ボルガー」については一切の情報処理をしていなかった。いや、最初の頃はしていたらしいが……

 

①ボルガーが起動しなかったこと。

②計画よりも早くトリプルゼロが完成したこと。

③ボルトの侵攻が激しくなりふり構っていられなかったこと。

 

それら要素がうまく重なり合ったことと、トリプルゼロ開発後に南アタリア基地のエンジニアたちが新型機の開発に着手せず全てを企業に譲渡したことから、ボルガーが保存されている南アタリア基地が上層部の意識から抜け落ち、特別機密事項にする必要性が認識されなかったようだ。

 

本来なら、研究機関に運び込まれて更なる解析とかされそうなものだが、ノルマンディー反抗作戦で撃破したA型の残骸調査が優先されたということもあり、そんな隙間がなかったという時勢的な問題も重なり合ったらしい。

 

で、上層部がコロリと忘れていたボルガー。それが今になって動き始めたのだ。しかもパイロットは最近厄介払いしたはずの俺。

 

ボルテリガーがユナイト・アウト(分離)し、三機のボルトモジュールはハイパーゲートに入って消息を絶ち、俺はボルガーとなった機体をなんとか操作して南アタリア基地へと帰還した。

 

最初はイソダ班長や、レイラ少尉が出迎えてくれたが、それからすぐに地球軍本部から執行部が文字通り飛んできて、俺は拘束されたのだった。その担当官の殺気がやばいのなんの。執行部に割り込んでやってきたフレッドがいなければどうなっていたことやら……。

 

 

『隊長!一昨日ぶりです!』

 

『副隊長!?なんでここに!?』

 

『スミス少佐の護衛でついて参りました!』

 

 

正確には無理くりひっついてきたんだがな、とゲンナリした様子で言うフレッド。副隊長は、文字通り俺が前線で戦っていた時に所属していた副官である。

 

ボルトのC型に襲われてあわやコクピットに牙が貫通する……という直前で救い出して以降、めちゃくちゃ俺に懐いてくれたパイロットで、気が付いたら副官になってた。……だってしょうがないじゃん。放っておいたら下腹部に牙が突き刺さったことが原因で彼女は半身不随になった上に……女性としての尊厳も奪われ、重篤なPTSDになってしまうモブのパイロットだったんだから。

 

あれ割と救えなかったプレイヤーの心を抉る場面なのよ。

 

絶叫が無線で聞こえるし、PTSDになった描写もボルトとの戦いが如何に残酷で過酷であるかというのを解らされてしまう鬱展開だったし。救えるなら救うしかないやん……。

 

んで、俺の専用機も託した副隊長に、笑顔で手錠をかけられたのが今日のハイライト。

 

え、なんで拘束?と戸惑っていたら席を外せと執行部の担当官たちに命令したフレッドが丁寧に教えてくれた。

 

ボルガーはどのような手段でも起動しなかったボルトの兵器。そこから得られたオーバーテクノロジーで作られた存在が「ハウンドアーマー」であるのだが……なぜ俺があの機体を起動できたのか。その点で上層部は俺がボルトの生体兵器なのでは……?という疑いをかけているとのこと。

 

はぇー、とんでもなくぶっ飛んだ推理ですねぇ!!!

 

というか、ボルトの生体兵器って色々飛躍しすぎだろうが!!俺はこうなる前からハウンドアーマーに乗って最前線で戦い続けてきた経歴があるんですけど!?

 

そう反論すると、フレッドが死んだ目で「ナノマシンを投与してない生身の戦績故に怪しがってるんです」と、火に油を注ぐ結果にしかなりませんでしたわ。

 

今回の上層部のやり方はかなりアレらしい。奴らのやり口をフレッドから聞いたけど完全にゲシュタポや秘密警察のソレなのよね。

 

イソダ班長もレイラも、執行部からの圧力で面会することも出来なくなってしまってるし、取り調べのやり方も脅迫めいたことが多いので本当に参る。知らぬ存ぜぬで通し切ったけどさ!

 

不幸中の幸いなのは、俺には家族も(転生設定のため死別している)いないので人質にされて脅されることもないという点くらいか。

 

 

「隊長、今回は我々でも擁護が難しいかもです。まさか、ボルトの技術で作られた機体に乗って、しかも……」

 

 

そう言ってフレッドが言葉を探し始めた。まぁ、うん。そうだね。あんな勇者ロボに乗るとは俺も予想してなかったわ。それに関しては、本当に俺にもよくわからん。

 

たしかにボルガーに乗る(拉致された)ことはできた。

 

あのコクピットの中で聞こえてきた声の主の正体も、相手だったA型の声の意味もわからないし、ハイパーゲートから出てきた三機のボルトモジュールとの合体だって体が勝手に動いたわけで……。

 

あれは確実にナノマシンの作用だったが、俺はナノマシンなんて投与されていない。あれ?これって俺が自分を単なるパイロットと思い込んでるだけで実は肉体は人知を超えた何か……っていう展開なの?

 

 

「隊長ならあり得そうなんでやめてもらえませんか?」

 

 

冗談でも洒落になってないですというフレッド。おいおい、俺はあくまで人間ですよ。あと副隊長。深く頷いてフレッドに同意するのはどう言う意味なんですか。

 

そんなやりとりをして、とにかく執行部が俺を処刑場に強制送致しないよう手を回しますと言い残し、フレッドは副隊長を連れて部屋を後にした。

 

ポツンと聴取室に残された俺。手錠をはめられた手を見つめる。……俺は、前世……この世界をゲームと知った上で紛れ込んだイレギュラーだ。やはり、この肉体は人間とはかけ離れた〝何か〟なのだろうか。

 

 

【いいえ、貴方は正真正銘の地球人です】

 

 

うわぁ!?びっくりしたぁ!?一人そんな思考に耽っていたら脳内にいきなり声が響いた。その声はボルテリガーの中で聞いたセレーナの声である。

 

 

【申し訳ありません。貴方が一人になるタイミングを見計らっていたのです】

 

えぇ、どういうことなの……、声を出すと録音されるので聞こえたようにイメージを脳内思考で返す。

 

 

【私はゼブロイド。地球程度の技術力ならこの基地内の監視カメラなどに入り込むことは容易なのです】

 

 

なにそれつおい……ということはこの部屋の鍵を開錠することも可能だったりするのか?と聞いてみたが、普通の鍵穴と普通の鍵(物理的な鍵)なので開錠はできないとのこと。

 

ったくこれだから中途半端に自動化してる奴はよぉ!光学モニターとかあるなら鍵も電磁キーにしろってんだ。

 

 

【それに貴方がここを脱走せずとも……近く、貴方はここを出ることになる】

 

 

え、どういうこと?釈放?それとも死の12階段でも登らされるの?

 

そんな疑問をセレーナにぶつけると、彼女はとんでもないことをぶち込んできた。

 

 

【私の元に通告がありました。近くノクロス……貴方たちが特A型と呼称する存在がこの基地にやってきます】

 

 

え゛………それってここにいる全員への死刑宣告じゃねぇか!!!!?

 

 

 

 

 



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機体解説とか

 

●第一世代型ハウンドアーマー群

 

 

・HA-000 トリプルゼロ

搭乗者

ダン・ムラクモ

アーノルド・ゼノン

フレデリック・スミス

以下、2名

 

南アタリア島に墜落した「Unknown01」から得られたデータを元に要素開発されたテスト機をベースに、アメリカのスプリングフィールド・アーモリー社と、ヨーロッパ圏のベレッタ社が共同開発した第一世代型ハウンドアーマー。

 

円筒状のコクピットや、モノコックフレーム構造で構成されており、トサカのような頭部には六つのカメラセンサーが搭載されている。

 

動きは鈍重で、内部エンジンが水素電池によるモーターと、ガスタービンのハイブリッド。スラスターもガス燃料であるが、燃焼構造とエネルギー効率の問題からホバー移動に制限された上に機動距離は100mにも満たなかった。

 

初期生産5機から得られたデータを元にノルマンディー反抗作戦前にアップグレードを施されたが、燃焼構造などの問題点は改善されなかった。代替案として背部にロケットエンジンを積むことで機動力の底上げを図ったが、ボルトとの戦闘における機動性の不利は解消されなかった。

 

・武装

50mm試作ライフル(50mm突撃ライフル)

6銃身75mmガトリング砲

分子振動ブレード

大型シールド→のちに廃止

 

 

 

 

・HA-08F リゴッティ

・HA-09 リゴッティⅡ

 

イタリアのアメリゴ・チェイ社と、地球軍が共同で開発した第一世代型後期のハウンドアーマー。ガルダリア家の出資による研究で発明された新基軸のエンジン、「ガルダリア・エンジン」を初めて搭載した機体であり、後の第二世代型に続く大きな足がかりとなった機体でもある。

 

リゴッティではガルダリア・エンジンの出力が安定せず数十機程度しかロールアウトされていない。その不具合点を改修したリゴッティⅡは五十機相当がロールアウトすることになったが、ガルダリア・エンジンの密封性が確立されておらず、パイロットが「廃人化」する現象が生じ、その後生産されることはなかった機体でもある。

 

 

 

●第二世代型ハウンドアーマー群

 

 

・HA-10 レイブンアームズ

搭乗者

ダン・ムラクモ

リン・ターレン

以下、所属部隊メンバー等

 

レイブンアームズ社が開発した、第二世代型中期のハウンドアーマー。

機体コンセプトは「頑丈かつ機動性が高い機体」であり、そのコンセプト通りに剛性が強く、機体強度も第二世代の中ではトップクラスを誇る。ボディフレームの重量から、装甲材の軽量化を目指し、軽くて頑丈なソリッドカーボン材を採用した最初の機体でもある。

コクピットは機体の胴体部に備わっており、初期型の筒状から卵型に仕様を変更。防御率向上のためモニターは専用ヘルメットに備わるVRモニターに集約されている。

 

特に、背部に備わるハードポイントには様々な武装が搭載可能であり、その高い汎用性から様々な戦術機としての運用が可能となっている。

 

その分、機体重量があるため空戦能力は乏しいが、地上移動はホバーやスラスターによる加速に加え、機体強度に物を言わせてビルを足場に飛び回るといった荒っぽい操縦にも対応できる。

 

 

 

・HA-11 エンフィールド

搭乗者

デルベルト・ロッジ

 

イギリス、エンフィールド造兵廠で製造されたハウンドアーマー。

レイブンアームズとは違い、機体フレームを細分化、副材にソリッドカーボン材を使用することによって大幅な軽量化を達成した遊撃機体。

その軽量な機体から生じる身軽さと、空戦能力を獲得している。しかし、可搬重量に大きな制限があり、武装は専用のアサルトライフルと脚部ミサイルポッドのみと、火力面でレイブンアームズに劣る面がある。

そのため、前衛にレイブンアームズ、撹乱と遊撃手としてエンフィールドを配置し運用する傾向が強い。

 

 

 

・HA-12 アーマライト

搭乗者

フレデリック・スミス

 

エンフィールド造兵廠を買収したフェアチャイルド社がHA-11 エンフィールドのデータを元に開発した発展機。機体フレームの強度を強化したことにより、エンフィールドのような高機動性は損なわれているものの、武装の汎用性と機体強度の向上が行われた。

背部にはエンフィールドにはなかったハードポイントが追加されており、レイブンアームズと同規格の武装が装備可能となっている。しかし、荷重制限があるためショットランチャーなどの高火力で鈍重な装備は装着できない。

 

 

・HA-16A レイジングブル

搭乗者

ジェイス・ディバイス

カイ・ローベルト

カレン・シュバイド

 

研究機関トーラスが開発した第二世代後期型ハウンドアーマーであり、ナノマシン投与による機体制御の簡略化と、大胆なシステム変更を行った次世代機。

本機体はオートマチック機能がオミットされており、ナノマシンを投与していないパイロットは搭乗できない。

ガルダリア・エンジンは内部で収束砲と同じエネルギー因子が活性化し続けることで出力を向上させることが、リゴッティの運用データから判明した。それに加え、因子との同調率が高ければ高いほどエンジンの性能が向上する特性も発見された。そこから生体デバイスへのアプローチが始まり、エネルギー同調率向上と、操縦レスポンスの向上を目的としたナノマシンが開発された。

 

ナノマシンによるハウンドアーマーとの接続は画期的であり、複雑化していた操縦方法を一新。AIとナノマシンによる高速サーキットで通信が可能になったことで、体内から発せられる電気パルスを読み取るD.C.S(ダイレクト・コントロール・システム)によって、ハウンドアーマーは驚異的なレスポンスを獲得することになる。

 

ナノマシンによる制御統一技術は、S.W.E.S(ソリッド・ウェーブ・エミュレータ・システム)と呼ばれる。

 

この機能は適合性に比例するナノマシン投与量によって左右される機能ではあるものの、基準内なら基本的な機能は満たせるためハウンドアーマー操縦の簡略化の大部分を担っている。

 

S.W.E.Sは個人差はあるものの、長時間ハウンドアーマーを操縦していると過負荷による症状が発生する。症例としては頭痛やめまい、吐き気、三半規管の乱れや、自律神経の乱れなどである。数時間療養すれば回復するが、初期の頃は廃人が爆誕した例も存在する。

 

 

 

 



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襲来
CASE10.技術者として


 

 

ボルテリガーがA型を撃破してから翌日。

 

レイラ・ストーム少尉の退屈で飽き飽きしていた内勤生活は何もかもが一変していた。ボルガー……と呼ぶべきだろうか。ボルトの技術で作られた機体に乗ったダン・ムラクモ中尉が基地に帰還してから、わずか数時間後に高速機で北米大陸からやってきた執行部と、それに同行する少佐。

 

フレデリック・スミスの名はレイラがハウンドアーマーの訓練を受けていた時から知っている名前であり、かの有名なノルマンディー反抗作戦において、ボルトに多大な損害を与えた【ミラクルイーグルス】のメンバーの一人だ。

 

その奇跡とも言える功績はレイラが何度も読んだ兵科教本にも記載されているほどだが、昨日遠目で見た限りでは教本に載っている写真よりも、なんだか少しやつれたような印象だった。

 

彼らが基地に到着してからというもの、ムラクモ中尉との面会の一切が禁じられ、ボルガーが……合体と呼ぶべきだろうか……変形というか、ドッキングを果たし、ボルテリガーになった様子の一部始終を目撃した私や、イソダ班長は執行部からの事情聴取を受けた。

 

とはいえ、レイラたちも何が起こったのか把握している訳でもなく、ありのまま起こったことを伝えたのち、基地からの外出禁止を言い渡されて現在に至っていた。

 

レイラやイソダ班長、基地司令やスタッフも含め、全員が基地から自宅や社宅へ帰ることが禁じられているが……基地内には入浴施設も揃っているし、仮眠室も充分に備わっているので特に不満が出ることはなかった。

 

ただ、朝昼晩と基地のエネルギーバー生活だけは勘弁してほしい。味は悪くはないが、口の中がパサつくのと、あまり食べた気にならないのに腹持ちがいいという気持ち悪さがレイラは苦手だった。

 

それでも不思議と腹が減る。時間は既に昼を過ぎていて、レイラはまだ昼食をとっていないだろう相手に、食堂から持ってきたエネルギーバーを届けにきた。

 

 

「イソダ班長。昼食持ってきましたよ」

 

 

基地内にある倉庫。基地スタッフも外出禁止と言われているが、そのほかにやることもないので通常運転をしている。相変わらず搬送用のロボットが動き回って倉庫内にある物資の整理を続けている中、イソダ班長は工具を手に、再び鎮座した〝あの機体〟のメンテナンスを続けていた。

 

 

「すまねぇな、嬢ちゃん」

 

 

安全ゴーグルとヘルメットを外していつもの作業帽を被ったイソダ班長は、レイラから渡されたエネルギーバーの包装紙を剥いて大口の一口を頬張る。

 

 

「だから嬢ちゃんっていうのやめてくださいってば……どうですか?その機体」

 

「ムラクモ中尉が降りてからは、またダンマリになっちまったな。ただ……あれだけの戦闘をしたと言うのに、機体損傷は全くない。装甲にも傷はついていないし、関節部分もガタひとつねぇ。まったく、ボルトの技術ってのはとんでもねぇもんだな」

 

 

おかげでメンテナンスも楽にはなったがな、とパサついた口をお茶で潤すイソダ班長。メンテナンスが楽とは言いつつも、彼はずっと機体の細かな点を確認していた。

 

執行部の担当官も機体を動かそうとしたらしいが、ムラクモ中尉が降りてからというもの、機体は何の反応も示さなくなってしまっていた。

 

 

「外には執行部の担当官と護衛のパイロットたち……なんだか物々しくて落ち着かないです」

 

「まぁ、俺たちは動かないと言われてきたものを動かした現場を目撃したわけだからな……あっちもコイツが訳わからなさすぎて対応に困ってるっていう事もあるんだろう」

 

 

訳がわからないから南アタリア基地に放置して全員で忘れたふりをしていたくせに、都合のいい連中だとイソダ班長は外で警備をしている執行部の人間たちを一瞥して、フンと鼻を鳴らした。

 

昼食を終え、一息ついたところ。レイラは気になっていたことをイソダ班長に尋ねることにした。

 

 

「……班長たちは、どうしてこの機体のことを黙っていたんですか?」

 

 

ボトルからカップへお茶を注ぐイソダの手が止まる。彼はしばらく沈黙してからボトルを置き、カップに視線を落としたまま話を始めた。

 

 

「嬢ちゃんが知る必要はねぇって思ってたからだ。……まぁ年寄りの勝手な配慮ってやつだわな。すまねぇな」

 

 

あの機体は、なにぶん特別だ。ボルトの出現と同じタイミングで地球に〝落ちてきた〟機体なのだから。それから、多くのことがあった。ユーラシア大陸が制圧され、ヨーロッパが制圧され、多くの人が死んでいった。

 

その地球の裏側にいたイソダたちは、落ちてきた〝ボルガー〟の解析に夢中で、熱中して、当時苦しんでいた人々の声など、全く聴こえていなかった。

 

 

「……ハウンドアーマーが実戦投入されたあの日。俺たちは浮かれていた。ボルガーから得られた技術を使い……惚れ惚れするような美しい機体を作れたってな」

 

 

イソダ班長が技術者としてやってきた時代は、人類が繁栄を極めた時代でもあった。テンタクルブリッジや、軌道エレベーター。そして全人類の希望となるはずのハイパーゲート。そのどれもが〝人の生活を豊かにするため〟の発明だった。

 

心のどこかで、その思いがあったのだとイソダは言う。自分達が作るものが、いつかは人々の生活を豊かにする何かになると。

 

だが、現実は違った。

 

 

「俺たちの作ったのは兵器だ。殺し、殺されもする戦場で戦う兵器で……それに乗るパイロットの命なんて保証できない」

 

 

イソダらがその現実を目の当たりにしたのは、ノルマンディー反抗作戦だ。彼らはトリプルゼロのエンジニア・オフィサーとして戦線へと赴いていた。最前線で戦うパイロットたちを、安全な場所から眺めていた彼らは思い知らされた。

 

〝自分達が何を作り出したか〟という現実を。

 

 

「それを目の当たりにして……ボルトによって荒廃した世界の恐ろしさに、俺たちはようやく気づいた。そして怖くなったのさ。俺たちが作ったものが、この世界を更なる地獄に陥れてしまうんじゃないかってな」

 

「班長……」

 

 

レイラはイソダ班長が握るカップが震えていることに気づいた。ハウンドアーマーという〝兵器〟を作り出した結果……たしかに人類に追い風が吹いた。その風には血と硝煙の匂いが混ざっていて、一度巻き込まれれば抗えない戦いの連鎖へと引きずり込まれる……そう言った追い風。

 

それができたのは必然だったのだろう。イソダ班長らが作らなくても、いつかは誰かが作っていたに違いない。それでも……その地獄を見た彼らの受けたショックは、計り知れないものだった。

 

 

「わかってるさ、この世が既に地獄だって事くらい……。俺は、技術者だ。人のためになるものを作るために技術を身につけてきた。人を死なせる兵器を作って……俺は腐ってただけだ」

 

 

ノルマンディー反抗作戦を機に、イソダ班長やトリプルゼロに熱意を持って開発に挑んでいた者たちは、全員それから手を引いた。もう2度と、あの地獄はごめんだと……心のどこかで無関係だと自己弁護をして、この基地の倉庫の中で延々と腐っていた。

 

 

「だから、俺ぁもう腐らねぇ」

 

 

〝イソダ班長。それでも俺は……ハウンドアーマーのパイロットだ〟

 

 

一人のパイロットとして、ダン・ムラクモ中尉が必死に抗う姿を目にして、イソダ班長は自分を恥じた。腐っている場合かと、地獄を見たからと後悔をしている場合かと。

 

何より、空から降りてきた……自分達が灼熱の技術を得たきっかけとなる機体が空へと羽ばたき、ボルトと戦おうとしているのだ。

 

なら、自分には〝始めちまった責任〟ってやつを背負う義務がある。

 

 

「正しいことに力を使える。それを使うに値する技術を有するアイツが〝戦う〟と言うなら……それに答えなきゃ俺は技術者としてもう生きていけねぇ」

 

 

そう言って立ち上がるイソダ班長の目には、これまでレイラが見てきたようなやる気のなさや、弱々しさなど一切ない。彼はその目に取り戻していた。あの日、地獄を見てから失っていた「情熱」と「信念」と呼べる意志を。

 

 

「コイツの技術的な側面を知るのは俺だけだ。なら、俺がやらなきゃならねぇ。……今度はもう、どこにも逃げやしない」

 

 

再び工具を担いで、鎮座するボルガーへと向かうイソダ班長。

 

そんな彼の背を見て、レイラは……何もできていない自分に情けなさを覚えてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、同日の夕方。

 

破滅は虚空から、姿を現したのだった。

 

 

 

 

 

 



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CASE11.奇跡の大馬鹿者たち(1)

 

 

 

 

ゲームのストーリー上、特A型はチャプターのボスと言える存在だ。

 

各章のラストを飾るに相応しいスキルを持った特A型は、挑んでくる主人公達の前に様々な戦略で立ち塞がった。近づけば逃げて遠距離から狙撃をしてくるタイプ、逆に近づいてきてこちらのシールドを破壊せんとぶん殴ってくるタイプ、中近距離を自在に行き来し気がつけば縦横にスライスしてくるタイプと……バリエーションは豊富で、攻略が進むたびにインフィニティランカーたちは地獄を叩きつけられて発狂していた。

 

特A型が機体ごとの特殊性能を持っているだけならまだ良かったのだが、奴らの有する「流体エネルギー膜」というシールドの性能が尋常じゃなかった。

 

流体エネルギー膜は、ワームホール技術を応用して作られたシールド機構であり、その特徴は受けた物理的なエネルギーを別次元へと受け流すことで自機へのダメージを無効化するというとんでも性能である。

 

弱点は距離を詰めてエネルギー膜を貫く出力でゼロ距離格闘を叩き込むと言う点にあるのだが、これにも罠があった。

 

流体エネルギー膜は文字通り、特A型の機体表面を覆う流体式の膜だ。常にシールドとして機能するそれを、「裏返す」と一体どうなるか。

 

インターネットで敵の断片情報を見たひとりのプレイヤーがそう言って、他のプレイヤーが「考えすぎ」「妄想乙」と笑いものにしていた訳だが……その予感は見事に的中する。

 

敵の攻撃を思い通りに避けられるようになって調子に乗りはじめたころ。ゼロ距離まで近づき格闘を叩き込もうとした最高の瞬間に、その洗礼を受けることになる。

 

流体エネルギー膜を反転させることで機体周囲にいる敵を排除する「ブロークンインパクト(B.I)」は、ゼロ距離に近づいたプレイヤーのハウンドアーマーを見事に呑み込み、無慈悲かつ暴力的に貪り、破壊し尽くした。

 

「B.Iで直葬」というパワーワードがトレンドに入るほど、その裏返ったエネルギーによる攻撃は半端じゃない。ガチタンと呼ばれる速度と旋回性を捨て、防御力と一撃必殺に存在意義をみつけたインフィニティランカーが「さすがガチタン!なんともないぜ!」と言いたいがために突撃し、直葬されるという珍事を目の当たりにして、ランカー達が集う掲示板が阿鼻叫喚の地獄絵図となったのは言うまでもあるまい。

 

離れれば攻撃が通らず、収束砲とご当地特性によって蹂躙。

 

近づけば勝機があるものの、ノーモーションでぶっ放されるB.Iを受ければガチタンでも直葬される理不尽っぷり。

 

それに心を折られたプレイヤーは少なくなく……インフィニティランカーを引退し、難易度を下げた者もいたほどだ。

 

だが、その程度で真なる変態は「引かぬ、媚びぬ、顧みぬ」。

 

膨大なプレイ時間による攻略方法の探索により、変態達は次のステージへと登る。1フレーム単位で生じるB.I発動のモーション。それを刷り込んだ勘と直感で躱すという猛者が現れはじめ、インフィニティランカーたちは続々と特A型を撃破し始めたのだ。

 

攻略が進み始め、再び活気が蘇り始めた掲示板。だが、ある一文で生気を取り戻したランカー達の目が……一気に死んだ。

 

その一文は、こう記されていた。

 

 

〝奴ら、短距離テレポートしやがる〟

 

 

 

 

 

 

「特A型が現れただと!?一体どういうことだ!!」

 

 

訓練の一環として行われた執行部の護衛任務は最悪の形で激変を迎えようとしていた。

 

訓練生たちの教官であるデルベルト・ロッジが通信士へ怒鳴り声を上げる中、教官の言った「特A型」という言葉に、さきほどまで「いつになれば帰れるか」と談笑をしていた訓練生たちは言葉と共に顔の色を無くしてしまっていた。

 

特A型。

 

その話は訓練生になるときに初めて教わる教本で、「ボルト」の最強最悪の機体として教わる名前だ。

 

正確な情報は存在せず、ただ判明しているのはエネルギー収束砲が三門備わっているということくらいである。

 

なぜそれしか判明していないのか?

 

そのデータは、特A型といち早く会敵した米国の最強艦隊……第7艦隊の記録で得られたものだからだ。そして……そのデータを本国に送信した直後、艦隊からの通信は途絶し……艦の残骸すら回収できなかった。

 

そんな不確定で不明瞭なことしか分からないボルト側の最強たる機体が、自分たちが待機している基地に向かっている。

 

それを聞いて動揺するなという方が無理があった。

 

現に訓練生の一人がパニックを起こして他のメンバーに取り押さえられているくらい、迫り来る恐怖は計り知れないもので、通信を受けた教官も、圧倒的な死の予感を前に訓練生の前で平静を装おうと必死だった。

 

 

「ヒヨッコども、聞いての通りだ。ここに……ボルトの最強級である特A型がくる」

 

 

この場にいる訓練生は先月までシュミレーターで訓練をしており、実機での教習を受けたのは今月に入ってわずか数回程度。

 

今回の護衛任務も二人一組で配備されたばかりの第二世代後期ハウンドアーマー、レイジングブルに交代で乗ってきている。

 

教官も訓練生たちも、後方の基地までの護衛任務としか知らされていかなった。

 

念のため万が一を想定しながらも……特A型と戦う覚悟など……想定外もいいところだった。

 

 

「……我々の任務は執行部のメンバーの護衛だ。この基地の防衛ではない。護衛対象が基地から離れれば、我々も基地から離脱することになる」

 

 

教官の声はやけに落ち着いていて、耳にストンと入ってきた。この訓練任務はあくまで主要人物の護衛。教官が言う通り執行部のメンバーが離脱するなら自分達も逃げることができる。

 

しかし……、と教官は声を曇らせる。

 

 

「執行部の主要人物を確実に離脱させる為、誰かが殿をしなければならない。それは俺が指揮を取ることになるが……五機の内、三機が残る」

 

 

教官が告げたのは紛れもなく死刑宣告だった。

 

彼と共に歩む死刑台にはあと三人が必要になる。そう言った彼は何かを押しとどめるような表情をしていた。

 

無理だと、その場にいる訓練生の大半がそう思った。

 

訓練生がC型でもなく、特A型と戦うなど……戦闘にもならないことくらい誰にでもわかってしまう。

 

それでも、主要人物を守るためにあと三人の生贄は必要になってくる。問題は訓練生の誰が、その死刑台に上がるかだが……。

 

 

「教官、俺がやります」

 

 

動揺する訓練生の中で一人、手を上げて志願した生徒がいた。

 

ジェイス・ディバイス訓練生。

 

彼は訓練生の中でも一際目立つ優秀な成績を残していて、期待のルーキーとして注目されていた。だが、あまりにも分の悪い戦いだ。その立候補に他の訓練生たちが「自殺行為だ」とどよめく。すると、手を上げた訓練生の隣にいた優顔の女性訓練生もやれやれと言ったふうに手を上げる。

 

 

「お前が残るなら、私も残らないとな」

 

 

そう軽い口調で言うのはカイ・ローベルト訓練生であり、ジェイスとは幼馴染。女性でありながら男勝りな性格で、成績もジェイスと並ぶほどのトップランカーだ。

 

〝相棒〟の志願に、驚いた顔から悲しげに表情をゆがめてジェイスは「すまない」と言葉を返す。すると、少し離れたところにいた女性の訓練生も髪を手で払ってから手を上げた。

 

 

「貴方たちが残るなら当然、アタシも残るわ」

 

 

そう言い放ったのはカレン・シュバイド。

 

彼女とジェイスたちは訓練学校に入ってからの付き合いである。

 

シュバイド家は軍属の家系であり、カレンの父も北米の基地司令官として活躍するエリートだ。自身もそうあれと教えられ続けた彼女は、訓練学校で好成績を修めるジェイスやカイに対してなにかと点数や成績で競い合い、いつしか訓練学校では因縁のライバルとして扱われるようになっていった。

 

自ら手を上げたその三人のほかに志願して残ろうと言う訓練生はいない。あたりを見渡してからデルベルドが深く息をついて、三人以外は要人と共に退避するよう指示を送った。

 

 

「すまない。恨むなら……貴様たちを死地にしか送れない……俺の力不足を恨んでくれ」

 

 

そう残った三人に告げて自身のハウンドアーマーである、HA-11 エンフィールドに向かってゆく教官。

 

彼は本来、ここで死ぬ運命ではない。

 

そもそも、このタイミングでこの物語の〝主人公〟たちが、特A型と遭遇するなどあり得なかった。

 

ジェイス・ディバイス。

 

それはボルトボックスのストーリーモードにおける、主人公のデフォルトネームだった。

 

カイ・ローベルト、カレン・シュバイド。そして、彼らの教官であるデルベルト・ロッジ。彼らこそが窮地に立たされた地球軍を勝利に導く使命を帯びたパイロットたちである。

 

ストーリーモードが始まるのは今から半年後の時間軸だ。

 

ジェイス(主人公)、カイ、カレンらが過酷な訓練カリキュラムに合格し、デルベルトが隊長を務める部隊「リトルウイング隊」へ配属されるところから物語の幕は上がる。

 

リトルウイング隊の初任務はC型の撃破であり、そのミッションを三つほど進めると北米大陸に特A型が出現。地球軍最大の拠点であったサスカチュワン宇宙基地が壊滅する事件が起こる。

 

そこからボルトの攻勢が一気に強まり、ボルトの自律兵器と共に現れた特A型との戦闘で基地が壊滅。

 

そのまま南アタリア基地へリトルウイング隊は撤退し、破壊された南アタリア基地から徐々に勝利を積み重ねていくのがメインストーリーの道筋である。

 

……だが、状況は変わった。

 

南アタリア基地で確認された〝ボルテリガー〟の存在と、その調査に向かった執行部の護衛として彼らはこの基地にやってきてしまったのだ。

 

そして、もうすぐ特A型がやってくる。

 

C型との戦闘も満足に行っていない彼らが挑むのはこの世界におけるボス格だ。まともにやりあえば勝ち目など存在しない。

 

絶望的な状況の中で時間だけが過ぎて行く。他の訓練生たちが、執行部の担当官たちと共に輸送機に乗り込む光景を眺めていると、空が突如として光った。

 

それは太陽の光や星の光ではない。

 

人工的な光が横に伸びて輝いていた。そして眩い光が消えた場所にあったのは、青白い稲妻を大気に滞留させ……無機質な金属で形成されたボルトの最強機。

 

それこそが、特A型だった。

 

 

「特A型!?馬鹿な!いきなり現れたぞ!?」

 

 

銀色の体に走る赤いライン。胸部と両肩に備わる三門の収束砲。そして圧倒的な威圧感を前に、ある者は悲鳴をあげ、ある者は我先にと輸送機に駆け込み、ある者は平静を保とうと怒声を上げていた。

 

 

「特A型だ!ハウンドアーマー隊は迎撃!!」

 

 

教官の声で三人は我にかえり、すぐに自分のレイジングブルに乗り込む。

 

ファイアコントロールシステムをオンラインにし、ガルダリア・エンジンの起動、武装の確認、安全装置の解除。その何もかもが遅すぎる。起動プロセスを行っている間に、南アタリア基地を見下ろしていた特A型は、収束砲にエネルギーの充填を始め……一閃が穿たれた。

 

直撃を受けたのは要人や退避しようとしていた訓練生たちが乗っていた輸送機だった。

 

 

「えっ……」

 

 

オープンで開いていた通信回線から誰かの声が溢れる。

 

エネルギー収束砲に穿たれた輸送機は、まるで当たった箇所の空間がゴッソリと削り取られたように無惨な姿へと変貌していた。

 

直撃したのはキャビンから客室の箇所であり……搭乗者は全員死亡していた。

 

 

「そんな……アンジー!フランシー!!」

 

「やめろ、カイ!もう無理だ……彼らは……死んだ……!」

 

「でも……そんなのって……そんなのって、ないよ!」

 

 

あまりにも呆気なく、あまりにも理不尽な命の奪われ方だった。

 

ボルトの収束砲はビームではなく物理現象にも当てはまらない。直撃すれば分子レベルで分解され……跡形もなく消え去る。

 

そんな死に方……人間の死に方ではない。

 

目の前の理不尽に、自分達ならもしかして……という淡い希望は打ち砕かれた。無理だ。その場にいる誰もが、絶対的な強者である特A型に勝てるビジョンが見えなくなった。自分達も輸送機と同じように、無残な末路を辿るのだと……。

 

 

《諦めるな!!》

 

 

絶望的な空気が重くのしかかる中で響き渡る声。

 

同時に背後からスラスターの燐光を迸らせる〝漆黒〟のハウンドアーマーが、ジェイスたちの頭上を飛び越えて飛翔し、真っ直ぐに特A型に向かっていった。

 

 

《隊長!!タイミングは合わせます!!》

 

 

ジェイス達四人が呆気に取られる中、左のビルの壁面を蹴って現れたのは、スカイブルーに塗装されたハウンドアーマー、HA-10 レイブンアームズ。頭上を飛び越えた機体も同じくレイブンアームズであるが、その機体の細かな箇所には修正点や、カスタムが施されていた。

 

レイブンアームズは、第二世代型の中期にあたる機体だ。

 

デルベルトが乗る軽量、空戦能力を向上させたHA-11 エンフィールドの前型機体であるものの、脚部の堅牢さと機体剛性の高さが売りで、背部に備わるハードポイントは第二世代型の中で最も積載耐荷重が強く、大型ロケットランチャーや、ショットランチャー、高高度爆撃用ミサイルなど幅広い武装を搭載することが可能となっている。

 

そのため、前線での使い勝手が非常に良く、遊撃機として運用されるエンフィールドと、対地、対空、対装甲騎兵と幅広く対応するレイブンアームズの相性は最高の組み合わせであった。

 

そして、レイブンアームズで特筆するべき箇所は、近接戦闘能力の高さにあった。

 

三門の収束砲の射線が、先陣を切って突撃する漆黒のレイブンアームズを捉える。まずい、とレイジングブルのコクピットにいるジェイスは直感した。三門の収束砲の斉射を喰らえば、真正面から懐に入ろうとする漆黒の機体はひとたまりもない。しかし、ジェイスが声を上げる間も無く、特A型の砲口にエネルギーが集約されていき……突然、特A型の頭部に当たる箇所が爆ぜた。

 

 

《チッ、やはり硬いな。徹甲弾程度ではびくともしない》

 

《フレッド、腕は落ちてないようだな!》

 

《ミラクルイーグルスの面目躍如……と、言ったところですかね、隊長》

 

 

通信が繋がる。デルベルトが視線を向けると、管制塔がある南アタリア基地の1番大きな建物の上に陣取る、一機のハウンドアーマーの姿があった。嘘だろ、とデルベルトはつぶやく。

 

機体名、HA-12 アーマライト。

 

視認性を下げるため灰色に塗装されたその機体は……ミラクルイーグルスの一人、伝説の遊撃手と呼ばれたフレデリック・スミス少佐が乗るハウンドアーマーであった。彼は着飾った少佐制服の上着を脱ぎ、ネクタイを緩める。

 

フレデリック自身、すでにパイロットを引退した身であるが、それは組織上の話だ。

 

オートマチックによる操縦訓練は毎日欠かさず行ってきたし、その腕は一切衰えていない。

 

デルベルトが驚愕したのは管制塔から特A型まで5キロは離れているというのに、重迫撃砲……しかも徹甲弾を、空中に突如として現れた浮遊する特A型の頭部に寸分の狂いもなく直撃させたことだ。

 

重迫撃砲は曲射弾道兵器であるため、狙撃には向かない。よくて群れで襲ってくるC型を一掃する際に用いられる範囲武器というイメージが強いのだが……。

 

 

(あの距離で……しかも曲射弾道で直撃させるのか!?)

 

 

同じ遊撃手であるデルベルトの驚愕をよそに、特A型の収束砲が逸れる。その一閃は漆黒の機体の脇を掠めるが、衝撃に一切動じることなく、その機体は特A型へ肉薄する。

 

近づいてくる敵に特A型もすぐさま収束砲を放つが……漆黒の機体の動きは、冷静そのものだった。

 

素早く横へスライドして収束砲を回避、次いで急上昇、横へとロールするという不規則な動きで残り2本の収束砲も躱す。

 

 

《さすが》

 

《相変わらず無茶苦茶な人だな、隊長は》

 

 

ビルを蹴って加速したスカイブルーのレイブンアームズも、肉薄する漆黒の機体の動きに合わせて援護射撃を行い、フレデリックが駆るアーマライトも前線に出てライフルで、漆黒の機体が翻弄する動きをアシストする。

 

その動き、その連携を見ただけで、彼らの操縦スキルはデルベルトやジェイス達のはるか先を行くものだと理解させられた。

 

 

《うぉおりやぁあああああ!!》

 

 

収束砲を掻い潜り、2機の援護を受ける漆黒の機体、レイブンアームズ・カスタムに乗るパイロット、ダン・ムラクモ。

 

彼はそのまま特A型の懐に潜り込み、右手に装備された近距離戦エネルギー突撃刃(MMX)をボディに叩きつけ、トリガーを引いた。

 

ゼロ距離で仕掛ければ特A型に展開されている流体エネルギー膜も意味を成さない。シールドを裏返すブロウクン・インパクトを許す間も与えず、衝撃音と共に装甲に損傷を受ける特A型。

 

そしてMMXを放った反動で距離をとったダンの駆るレイブンアームズ・カスタムは、ブーストを吹かしながらジェイスたちの前へと降り立った。

 

 

《こちら南アタリア基地所属。ダン・ムラクモ中尉だ。たった四機で特A型に挑もうとした馬鹿ども。俺たちに力を貸せ!!》

 

 

その日、ジェイスたちは未曾有の死闘が展開される戦場に身を投じることになるのだった。

 

 

 



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CASE12.奇跡の大馬鹿者たち(2)

 

 

スカイブルーに塗装されたレイブンアームズに乗るパイロット。

 

彼女の名は、藺 泰伦(リン・ターレン)

 

元はユーラシア連合軍所属のパイロットであり、ボルトがユーラシア大陸を侵略した際は北米大陸で行われたハイパーゲートの記念式典に護衛として参加していたため、ボルトの破壊行為から逃れた人物でもある。

 

市街地で暮らしていた親族はボルト侵攻の際に亡くなっており、所属基地も連合軍ごと瓦解したため、彼女は発足されたばかりの地球軍にパイロットとして志願することになる。

 

ゲームのシナリオ上、彼女は名前も持たないキャラクターであり、その最期は凄惨なものであった。ハウンドアーマー小隊に所属していた彼女は哨戒中に蜘蛛型のC型の大群に襲われてしまう。小隊の大多数が犠牲となり、彼女の搭乗していた機体も大きな損傷を受け、コクピットをぐしゃぐしゃにされた。

 

奇跡的に生還はしたものの、C型により刻み付けられたダメージは深刻で、下腹部に負った傷の影響から半身不随になった上に、臓器を損傷した為……彼女は永遠に子供を成せない肉体になってしまった。

 

その事と、C型に襲われる仲間の絶叫によって重度のPTSDを患い、発狂するという結末を迎えた。

 

そのシナリオは、本当に僅かにしか触れられないが、低難易度でC型との戦いで爽快に無双するボルトボックスのプレイヤーに、戦場の怖さとボルトの脅威を体感させ、さらにトラウマを植え付けることに一役買う場面でもあった。

 

だが、この世界においてリン・ターレンは、そんな悲惨な末路を辿ることは無くなっていた。

 

 

《救援に来たダン・ムラクモ中尉だ。……よく堪えた。あとは任せろ》

 

 

C型の大群に囲まれ、弾薬も底を尽きようとしていたタイミングで、漆黒に塗装された彼のハウンドアーマーが現れた。

 

それが、モブとして悲惨な死を迎える彼女の運命を大きく変える。

 

バイタルスーツのヘルメットの中で無様に泣き顔を晒していたリンは、次に起こった出来事を理解するのにしばらく時間を要した。

 

ダンの駆る漆黒のレイブンアームズ。

 

その機体は堅牢で機体剛性が高い分、地を這う機体とも言われており、当時のリンが乗っていた機動性と空戦能力重視のエンフィールドとの機動力の差は歴然だった。

 

エンフィールドの機動性を以てしてもC型の大群を躱すことは叶わないのに……それよりもはるかに鈍重なレイブンアームズで、あの数のC型を相手取るのは無謀すぎる、と冷静になれば考えられることだ。

 

だが、ダンの動きはリンや、それを目撃したパイロットたちの常識を打ち砕く。

 

彼はホバー機動でC型の左側に回り込むとそのまま真上に飛翔。慣性に従うまま左へ流れ、その先にあったビルの残骸の壁面を〝蹴った〟のだ。

 

ハウンドアーマーの操縦課程で、戦闘機動や、障害物を避けるなどの基本操縦は履修するが……障害物を文字通り〝蹴って〟移動するなど……考えたこともなかった。

 

ビルを蹴り、物理的な加速を得たダンの機体はエンフィールドの空戦力に匹敵する動きを発揮しているように見えた。

 

蹴った反動で機体を天地逆転。そのままC型の頭上を押さえたダンは、ロックした高高度ミサイルを地面めがけて射出したのだ。通常なら真上に向かって放たれるミサイルは、そのまま真下に向かい、タイムラグなく……ひしめいていたC型の大群へと襲いかかった。

 

十五発に及ぶミサイルの斉射。そのまま空中で姿勢を整えたダンは、手頃なビルの屋上に着地すると、背部に備わるショットランチャーを展開し、爆撃を受けたC型の群れに容赦なく撃ち込んでゆく。

 

それでかなりの数が撃破されたが……生き残ったC型がビルをよじ登り、ダンの機体へ近接戦を挑む。だが、それは奴らにとって悪夢だった。

 

レイブンアームズの左腕に備わるMMX……別名、近距離戦エネルギー突撃刃は射程が極短距離であるというデメリットを除けば、人類が開発した近接武器で最強の座に着いている。やりようによっては特A型の装甲をも貫く威力を発揮する武装に、C型程度が耐えられるわけがなかった。

 

真正面から飛びかかった一体目が縦に引き裂かれると、出力を最大距離設定に絞り、ダンは横凪の一閃を放つ。ガルダリア・エンジンから生成され、細く、薄く伸ばされたエネルギー刃は、数の暴力で反撃しようとしたC型を数体まとめて粉々に吹き飛ばした。

 

ビルの屋上という限られたスペースから出ることなく。驚異的な重心の運び。旋回。ホバーによる戦闘機動を組み合わせた動きで、ダンは押し入るC型を次々とスクラップへ変えていった。

 

敗北を悟ったのか、知恵が回るのか。地上でリンたちの近くにいたC型が動けないハウンドアーマーを人質にしようと動き始めた瞬間、凄まじい轟音と共に残骸が投擲され、8本の機械の足を広げて飛びかかろうとしていたC型に直撃した。

 

同胞の足に穿たれたソレは、しばらく足を痙攣させたのち、糸が切れたように沈黙する。

 

 

《生存者。怪我人はいるか?すぐに救援隊がくる。急いで撤退するぞ》

 

 

振り回したであろうC型の足を放り捨て、ビルの壁面に手を添え、外壁をバラバラと崩しながら降りてきた漆黒のレイブンアームズ。

 

その圧倒的な力と対面したリンは……心を奪われたのだった。

 

 

 

 

 

 

「隊長。やはり私の勘は当たっていたようですね」

 

 

無線機越しに、胸を張って得意げに言うのは、先日まで俺が率いていた小隊の副隊長を務めていたリンだ。

 

ゲームシナリオ上、彼女は名もなきモブパイロットで登場し、プレイヤーたちにトラウマを植え付けて退場するキャラだったのだが、俺が助けてしまってから運命が変わったというべきか……何かにつけて俺に師になってほしいとか、部下にしてくださいとついて回ってくることに。

 

もともと、ノルマンディー反抗作戦後にイーグルス隊で幾つかミッションをこなし、メンバーがパイロットを引退してから一匹狼で前線でドンパチやってきたのだが、現場の指揮官たちに「いい加減部下を持ってください」と嘆願されたこともあって、リンが俺の部下として配属される運びとなった。

 

そこから、俺が助けたパイロットたちが志願する形で俺とリンのパーティに加わり始め、気がついたらそれなりの規模の小隊になっていたのだ。

 

 

「しかし、よく俺の機体を持ってくる許可が降りたもんだ」

 

「ターレン大尉からの具申で輸送機に積み込むことになったんですよ。隊長の部隊であの機体を乗りこなせるパイロットはいませんし」

 

 

そんなぼやきに答えたのはリンではなく、制服の上着を脱いで同じく輸送機で持ってきていた自機の発進準備を進めるフレッドである。いや、だから乗りこなせそうなリンに俺の機体使ってねって渡したわけなんだが……。

 

 

「漆黒のレイブンアームズは隊長の専用機ですから」

 

 

私はスカイブルーでいいので、と笑顔で言うリンはさっさとバイタルスーツのヘルメットを被ってしまった。

 

全く、困った副隊長だ。というか、俺より階級上なんだから何故部下につくのか……フレッドやアルたちもそうだけど、どいつもこいつも俺より階級上なんだぞ。うだつの上がらない万年中尉の俺にどうしろってんだ。

 

さて……特A型に意識を戻そう。

 

ボルテリガーに宿る妖精(?)であるセレーナの話では、特A型がこの基地に現れるとのことだ。

 

特A型は、基地ごとにご当地武装を持つボルト最強の機体だが……その真髄は近接戦闘がやたらめったら強いという点にある。

 

流体エネルギー膜を貫くために肉薄しなければならないが、ブロウクン・インパクトを受ければ一撃であの世にいくことができるし、中距離じゃエネルギー斬撃飛ばすわ、距離を置けば収束砲飛んでくるわ……近づいても遠くにいてもヤバい相手なのだ。

 

攻略法は単純。

 

エネルギー刃をとにかく躱して距離を保ち、収束砲の予備動作に入った瞬間に接近。3本の収束砲は直射なのでパターンを覚えて、とにかく避けて懐に入り込んでダメージを重ねる戦法。ブロウクン・インパクトのタイミングは懐に入るギリギリまで見極める必要があるので、ダメージを叩き込む役割は俺になる。

 

よって、援護及び撹乱はリンとフレッドの役目。死なないように距離を保ちながらやるしかない。リンは一度、特A型との大立ち回りに巻き込んでしまったことがあって実戦経験があるが、フレッドは特A型は初めてだ。その割には緊張全然してないんですけど……それが少佐の貫禄というやつなのだろうか。

 

ゲームでは、難易度ハーデスト相当ならナノマシン補助によって収束砲を避けるのが楽になるので、攻撃力が飛び抜けている近距離戦エネルギー突撃刃(MMX)やパイルバンカーがあれば何とか倒せる良心設計。

 

しかし、インフィニティモードでは笑えるくらいガラリと話が変わる。まず、攻撃が通らない。ガルダリア・エンジンが安定しないのでMMXが流体エネルギー膜を貫通する割合が運ゲーと化す。

 

ここでは、なぜかオートマチックの技術も高くなっている(ダンやイーグルス隊の活躍でオートマチック技術がゲームシナリオよりも発展した)のでガルダリア・エンジンは比較的安定はしているものの、威力にはまだまだ不安がある。

 

じゃあどうするか?ゲーム上、変態たちは死んで覚えるで解決する。

 

三つの収束砲の射角を覚えた上で、最低限の動作で掻い潜り懐に飛び込むのだ。

 

つまりエネルギー砲の隙間を潜るということになる。

 

無茶苦茶な戦法な上にワンミスで収束砲に溶かされるので慣れないうちは死にまくるが「理論上可能」であれば可能にしてしまうのがインフィニティランカーなのである。

 

まず、特A型の反応が海上沖で確認された段階で、南アタリア基地の司令官が執行部に俺をボルガーに乗せて出せと怒鳴りつけた訳だが、執行部はこれを拒否。

 

ボルトの技術であるボルガーに再び乗せれば叛逆される危険があるとの一点張りであった。

 

だが、相手は特A型。

 

何もしなければ死ぬ未来しか待っていない。そこでフレッドが「ボルガーがダメなら普通のハウンドアーマーに乗せれば問題ないだろう」と提案すると、執行部は渋々といった様子でOKと答えた。これはフレッドの権力様々と言えよう。

 

まぁ、ボソッと「特A型と戦うなんて自殺行為」とか、「我々は逃げて、奴がここで死んでくれた方が手間が省ける」とか聞こえたが……こちらは黙って死ぬつもりはないので聞こえないフリをした。……ってどうしたの、リン。マリリン・マンソンみたいな怖い顔して。

 

まぁ、現在進行形で脳内でボルガーの住人であるセレーネから、考え直せとか、早くボルガーに乗れとか言ってきてるけど。

 

俺は軍属であり、ボルガー搭乗が認められないというなら仕方がないのだ。

 

無理を通してボルガーに向かう最中に背中から撃たれるなんてごめん被る。それに俺は……正直に言えばボルガーより、普段から乗っているレイブンアームズの方が安心感も段違いなのですよ。

 

そんなわけで、フレッドたちが乗ってきた輸送機からハウンドアーマーを下ろし、俺たちは特A型に戦いを挑むことになった。

 

じゃあ我々は退避するので、と輸送機に向かった執行部の方々は……残念ながら訓練生たちと共に輸送機ごと収束砲に削られてしまったわけだ。

 

とにもかくにも生き残るには目の前の特A型をなんとかするしかあるまい。

 

名も知らぬ訓練生たちよ!

 

とりあえず邪魔にならないように援護をよろしく頼む!

 

特A型の相手は……俺たちがするっ!!

 

 

 



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CASE13.奇跡の大馬鹿者たち(3)

 

 

デルベルト・ロッジ。

 

ゲーム開始時点の彼は、前線から後方送りにされたパイロットだった。

 

デルベルト・ロッジはナノマシン適正はないが、ノルマンディー反抗作戦後に志願したパイロットで、その空間認識能力と適切な判断能力から、「アインラッド隊」と呼ばれるハウンドアーマー小隊を任されていた。

 

彼はボルトのC型、B型を小隊メンバーとの見事なコンビネーション、的確な指揮で堅実に撃破していき、膠着状態であった南戦線を押し上げ、総司令部からも勲章を授与されるほどの活躍をしていた。

 

そんな彼の人生が暗転したのは、アインラッド隊が北部への敵戦力偵察に出た任務であった。

 

任務内容は文字通り、北部に集結しつつあるボルトのC型とB型の戦力調査。機体は機動性に優れたHA-11 エンフィールドに視認性を下げるべく迷彩処理が施されたものだった。

 

普段、アインラッド隊は前衛のレイブンアームズと、後衛のエンフィールドで運用していたのだが、今回は偵察任務。もし発見された場合でも素早く離脱できることから、エンフィールドが適用されることになった。

 

小隊のメンバーも普段からレイブンアームズとエンフィールドを操縦できるよう慣熟訓練を実施していたため、機体変更でもさしたる問題は発生しなかった。

 

そしてデルベルトも含め、小隊の全員がこう思っていた。いつもと変わらない手慣れた偵察任務だと。

 

その慣れに感覚が曇らされたことで、彼の目の前で悪夢が起こった。

 

作戦は順調に進み、北部に集結するボルトの戦力を確認したアインラッド隊は直ちに司令部へ、敵の情報を伝えたが……敵はアインラッド隊が使用した長距離レーザー通信機からの周波数を逆探知し、同隊に奇襲を仕掛けてきたのだ。

 

敵の集結地点から100キロも離れていること、そしてエンフィールドに迷彩が施されていたこと、何より慣れ親しんだ任務だと油断していた彼らにとって、その奇襲は致命的だった。

 

襲撃してきたのは蜘蛛型のC型が50体と、B型が1体。

 

偵察という任務に専念するため、軽武装のエンフィールドを採用したことが祟った。

 

すぐに離脱を試みたが、退路を遮断する布陣で奇襲を受けており、隊の人間は次々とコクピットを食い破られ、C型の蜘蛛の脚のようなアームに弄ばれ……死んでいった。デルベルトの眼前で体を引きちぎられた戦友もいた。

 

その瞬間、彼の中に確固たるものとしてあった自信や尊厳……その全てが崩壊したのだ。

 

メインストーリーでは、一人生き延びたデルベルトは失意の中後方へと送られ、ジェイスたち訓練生の教官として任務に就く事になるが……この世界においては、ほんの少しだけ変化点があった。

 

メンバーは史実通り全滅させられ、最後の一人となったデルベルトの前に、B型のボルトが立ち塞がる。

 

B型の胸部に備わる収束砲にエネルギーが充填されていく様を、ただ見ていることしかできなかった。あぁ、自分も仲間達と同じようにここで死ぬのだと覚悟した時。

 

 

《おおぉおおりゃあああぁぁあーー!!》

 

 

漆黒のハウンドアーマーが、今まさに収束砲を放とうとしていたB型の発射口目掛けて左腕を突き出し、そのままMMXで貫いたのだ。左腕を発射口から引き抜くと火を噴いて倒れるB型。

 

その炎が真っ暗だった森林地帯を照らす。轟々と燃え盛る残骸を背に、振り返る漆黒の影。それがレイブンアームズであると認識するまでデルベルトは呆気に取られてしまっていた。

 

群がるC型のボルトを卓越した操縦技術で躱し、右腕に装備した大口径のガトリング砲で薙ぎ払ってゆく。

 

近づけばMMXで貫き、離れれば75mmの6連ガトリング砲が飛んでくる。その圧倒的な力で漆黒のレイブンアームズは敵を蹂躙していった。

 

 

《……負傷した味方機を確認した。支援機は彼の保護を》

 

 

あらかた片付け終えた援軍機は、仲間の無残な残骸を目にする。しばらく沈黙してから無骨な機械音を響かせると、何もできずにいたデルベルトの前に膝を下ろし、その機体の肩に手を置いた。

 

 

《よく頑張った。……仲間の仇は、俺に任せろ》

 

 

それだけ簡潔に言い、膝をついていたレイブンアームズは立ち上がった。

 

 

《こちらはこれより残存兵力を掃討する。リン、ついて来い》

 

《了解です、隊長》

 

 

機体を翻し、スラスターを迸らせて進んでゆく機体。そのすぐあとにスカイブルーの同型機がデルベルトの頭上を飛び越え、漆黒の機体の後へと続いた。2機が向かうその先は……自分達が偵察したボルトの集結地点であった。

 

無謀だ。無茶だ。死にに行くようなものだ。

 

しかし……その声が出ない。

 

デルベルトの喉は仲間達の無残な死に様にすっかり潰れてしまっていた。

 

それでも、二機であの戦力を有する場所に向かった援軍機を……自分の窮地を救ってくれた相手を……デルベルトは見殺しにすることなどできなかった。

 

震える手で操縦桿を握り、ガタガタと音を鳴らす恐怖を噛み殺しながら、無理やり機体を起き上がらせて、先に向かった恩人の痕跡を辿った。

 

そして、森林地帯を抜けた先にある開けた場所にたどり着いたデルベルドは、信じられない光景を見た。

 

そこには集結していたはずのボルトの軍勢の残骸が横たわっていたのだ。

 

C型もB型も全てが的確に破壊され尽くしている。

 

目を凝らせば鬱蒼とした森林の奥でスカイブルーの機体が動き回っているのが見えた。その動きも自分のそれとはかけ離れた速さを有していて、装備するアサルトショットガンで追いつけないC型を尽く粉砕していく。

 

自分が辿ってきた道に動ける敵は存在せず、そこには静寂と、目に見えるような死が充満していた。

 

ふと、VRモニターの先で何かが貫かれるような音が響く。

 

暗視モードに切り替わった光景を前に、デルベルドはこれまで見てきた全ての〝強者〟という概念が、根こそぎ変えられてしまった。

 

モニターに映ったものは、MMXを使い〝A型〟の胴体を貫く……ガトリング砲を備えていたはずの片腕を失った漆黒のレイブンアームズ。

 

それは自分を救った機体だった。

 

拠点制圧を目的としたA型はB型とは比べ物にならない強さを有する敵だ。それを、自分が到着するまでの間に殺しきった。貫いた場所から溢れるA型のオイルが、まるで返り血のように刃を突き立てる相手を濡らしてゆく。

 

音を立てて崩れ落ちる残骸を見下ろし、相手が完全に途絶えたのを確認した漆黒のレイブンアームズはMMXの先端から生成されるエネルギー刃を消失させた。

 

それからすぐに救援部隊が到着した。

 

集結していたボルトの勢力を制圧したおかげで、バラバラと音を立てて輸送ヘリが何機もこの場に飛んでくる。

 

そのうちの一機が、サーチライトで敵の残骸の中にたたずむ漆黒を照らした。デルベルトの目に、眩いライトの中で返り血を浴びたソレが映る。

 

そしてそれが、彼が抱いた情景となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、回収されたデルベルトは仲間の遺体と共に所属する基地へと帰還。心身の負担を考慮した上官の判断で、訓練施設の教官職への異動を命じられる。治療を受けるヘリの中で、自分を救ったあの漆黒のレイブンアームズに乗っていたパイロットの噂を聞いた。

 

ダン・ムラクモ。

 

彼こそ、ミラクルイーグルスを率いてノルマンディー反抗作戦を駆け抜け、東部戦線では無類の強さを誇る歴戦の強者として君臨する……地球軍で唯一、単騎でA型ボルトを殺し切る……凄腕のパイロットだったのだ。

 

 

 

 

 

 

「ダン……ムラクモ……中尉?」

 

 

特A型に一撃を叩き込み、そして目の前に降り立った漆黒のレイブンアームズ。その手にはアサルトマシンガンとMMXを装備していたが……見間違えることのない、あの日見た機体そのものだった。

 

そもそも収束砲を掻い潜るという事をしている時点で頭のネジが吹き飛んでいる所業としか思えない。

 

収束砲はビームなどの物理現象ではない。高次元のエネルギー砲だ。かすめれば分子レベルで分解され、装甲や防御材も為す術もなく消し炭にされる。

 

そんなエネルギー砲を紙一重で躱した上に……特A型に一撃を加えることが出来るパイロットなど、デルベルトには一人しか心当たりがない。

 

ダン・ムラクモ中尉。

 

最前線では生きる伝説とも言われた地球軍最高最強なパイロット。つい最近、司令部の意向で後方支援基地に左遷されたと聞いたが……まさか、この基地にいるとは考えてもなかった。

 

彼との直接的な面識は無い。

 

だが、こちらは一度命を救われている身だ。言いたいことも感謝したいことも山のようにある。

 

デルベルトが声を発しようとした瞬間。

 

 

《ぼさっとするな!特A型は手強い!とにかく動き回ってその手に持った銃を打ちまくれ!!》

 

 

ダンの真横に着地する灰色の機体。HA-12 アーマライトに乗るフレデリック・スミスの怒号のような指示によって、デルベルトは一気に現実に引き戻される。

 

そうだ、今は目の前に特A型がいる。自分が遭遇したことのない……とんでもなく危険で、想像を絶する敵。

 

恩人がいると言っても、油断をしていい相手でも、ましてや自分を見失ってもいい相手じゃない。

 

そうすれば、また繰り返すことになる。仲間を全員失ったあの日の夜と同じことを……!!

 

 

「各機!南アタリア基地のハウンドアーマーの言葉は聞いたな!とにかく動き回って特A型を牽制する!射撃開始!」

 

 

突然現れたダンの機体に、自分が面倒を見ている訓練生たちも困惑している様子だったが、その迷いを吹き飛ばすようにデルベルトはマシンガンを撃ち放つ。

 

呼応するようにジェイスたちも、ナノマシンでより早く動けるようになったレイジングブルを駆り、高速で地面を滑るように動き回って特A型に弾丸を打ち込んで行く。

 

その全てが敵の流体エネルギー膜に阻まれるが、そんなことはどうでもいい。自分達の役目は相手の注意を散漫にすること。

 

そして、アレを倒すのは自分達ではないのだ。

 

 

《チェェストォオオオーっ!!》

 

 

収束砲を掻い潜り再び、もう一撃のMMXを叩き込む。エネルギー膜を突破し、装甲までたどり着いた一撃は特A型をのけぞらせる。距離をとり、破壊された建物の壁を蹴って軌道を変える漆黒のレイブンアームズが炎の中に着地する。

 

その姿こそ、デルベルドが畏怖し、憧れ、情景となったそのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!

 

特A型の装甲が硬すぎてキレ散らかしそう。

 

近距離戦エネルギー突撃刃(MMX)はガルダリア・エンジンを瞬間的に高出力にしてエネルギー刃を形成し、それで殴りつけるという浪漫武器であるのだが与えられるダメージは折り紙付き。

 

しかしナノマシンがナイナイ人間ですので、ガルダリア・エンジンの出力が足りていません。

 

つまるところ、絶大な威力を誇るMMXが出力不足のためカスダメしか出ないということである。あぁああ!!辛すぎて死んでしまいます。

 

特A型は派手にのけぞったけど……ダメージ通った手応えが全くないんだよなぁ!!

 

しかも、特A型の装甲は他の敵よりも強力でA型と比較すれば、その装甲値はなんと2倍。装甲値2倍ですよ!?正気か!?

 

MMXのダメージは確実にあるはずだが……ゲームでも単純に装甲は貫くために2回、同じ場所にぶち込まなきゃならない。しかも鬼のように迫るエネルギー砲を避けながら。

 

はぁああ、まぁじインフィニティだわあ。やってられるかい、こんなもん。

 

リンとフレッドの援護に加え、偶然巻き込まれた三機の訓練用レイジングブルと、あーー……あれはエンフィールドかな?うん。そんな愉快な仲間たちの援護を受けてこの体たらくである。はーまじ自分つっかえ。

 

特A型とは一度タイマン張ったことあるけど、あの時は右腕と脚部、背面武装と引き換えに撤退させたくらいだったからなぁ。こりゃ勝てるかわからんぞ。

 

しかも仲間は訓練機。制式採用のレイジングブルなら、生存の希望が0.1%くらい上がるけど、訓練機が仲間は絶望しかない。

 

てゆーか、誰だよ、執行部の護衛に訓練機を付けたアホは。あ、執行部の人たちか。俺を銃殺刑にしようとしたし、その報いはあの世で受けてもらって下さい。

 

第一こんな時期に訓練機……。

 

あれ?待てよ?

 

この時期って……メインストーリーが展開される前で……主人公たちはまだ「リトルウイング隊」に入っていない時間軸で……。

 

 

《すまない!君たちはどこの所属の訓練機だ!?》

 

 

おっと、俺が特A型の注意を逸らしているうちにフレッドが聞いてくれたぞ!ありがたいけど、こっちの!援護も!よろしく!頼むよ!!リンも加勢してくれてるけど、二機のレイブンアームズでどうにかなる相手じゃねえんだわ!!

 

 

「はい!56訓練師団のジェイス・ディバイス訓練生であります」

 

 

ほほう、なるほど、ジェイス・ディバイスで……あっ、教官機に乗るのはデルベルト・ロッジ教官と。ふむふむそうかそうか。

 

って、ほげぇえええーー!?

 

それって、ボルトボックスのデフォルトネーム……つまり、ゲーム主人公やないかいっ!!!?

 

 

 

 

 



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CASE14.奇跡の大馬鹿者たち(4)

 

 

南アタリア基地は現在、特A型から襲撃を受けている。

 

その現実は、今まで基地内で惰性的に「倉庫整理」をしながら、いつしか自分もパイロットとして戦うことを夢見ていたレイラ・ストーム少尉にとっては強烈であり、鮮明であり、致命的だった。

 

執行部の担当官たちが退避するために準備していた輸送機は、突如として現れた特A型からの攻撃によって破壊された。その後すぐに、ハウンドアーマーとの戦闘に発展。

 

揺れる基地内部と、破壊されてゆく設備。

 

レイラが物資を運んでいた輸送機がキャビン部から削り取られるように吹き飛ばされている光景。

 

真っ白に伸びる収束砲は圧倒的すぎて、理不尽に人の命を奪ってゆく。

 

ハウンドアーマーが特A型を引き付けてくれたおかげで、レイラを含む被害を免れた基地スタッフは倉庫へと避難することができた。止まらない体の震えを抑えるように自身を抱き締めていた。

 

 

「嬢ちゃん!」

 

 

倉庫で身を抱いていると、奥からドタドタとイソダ班長が走ってくるのが見えた。とにかく入口は危険だ。そういって放心するスタッフらを先導するイソダ班長。彼に続いて倉庫の奥へと歩いていくと、そこには昼間と変わらずに鎮座するボルガーの姿があった。

 

 

「班長……私……」

 

「喋らんでいい。嬢ちゃんたちにはキツい光景だったのは言わんでもわかる。とにかく今は冷静になる、それだけを考えていればいい」

 

 

震えている肩を優しく叩いてくれるイソダに、レイラは弱々しい声で返事をすることしかできなかった。

 

特A型を目にして感じたのは、絶対に勝てないという圧力と恐怖心。あんな存在と前線の人間は戦っているのか?

 

逃げる最中に見た……特A型と交戦するハウンドアーマー。特に漆黒の機体が繰り出す動きは、レイラがシミュレーターで動かしていたものとは全くの別物だった。

 

当たれば文字通り消滅させられる収束砲を紙一重で躱しながら近づいて、近距離用のMMXを叩き込む……それは狂気的であり、目を釘付けにする美しい戦い。その挙動すべてが芸術的であり、刹那的な戦場を舞う姿は……彼女が夢に見ていたパイロットの姿をガラリと変えてしまったのだ。

 

無理だ。

 

私には……あんな操縦はできない。

 

無様に倉庫の隅で、外から聞こえてくる轟音と激戦で震える建物に、震える体を抱くことしかできない。

 

そんな体たらくでよく前線に出せと言えたものだとレイラは自嘲する。……アレくらいの操縦スキルがなければ最前線では生き残れない。

 

自分程度のパイロットが踏み込めば、1日と持たずに戦死者リストに名を刻まれることになるだろう。

 

そんなことになってしまうと、自分の面倒を見てくれていた教官や、親や、北米で少将の地位に立つ姉も〝確信〟したからこそ……安全な南アタリア基地に自分を送り込んだのだろう。

 

戦える者たちから見て自分はお荷物で、戦えないパイロット……こうやって遥か後方の基地で倉庫整理をしておけばいいんだと……そう、言われているような気がした。

 

 

 

………ふざけるな。

 

ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな!

 

 

 

私の覚悟はそれほど甘くはない!!

 

安全な家も、友人も、引き止めてくれる人たちも振り切って!!

 

私は姉のような立派な軍人に……戦える人間になりたいと誓って、軍に入隊したんだ!!

 

後方だから安心して置いておけるだって?

 

私はお荷物なんかじゃない!ただ倉庫整理だけを淡々とこなすような仕事をするために、私は軍人になったわけじゃない!!

 

ただ特A型との戦いに怯えて、震える体を抱きしめている少女なんかじゃない!!

 

私はパイロットになるため!!

 

姉のような軍人になるため!!

 

最前線で人々を率いて戦えるようになるために、ここにいるんだ!!

 

 

【……でしたら、私が貴女の力になりましょう】

 

 

悔し涙を浮かべながらうずくまっていたレイラに声が届いたのはその時だった。

 

顔を上げて、震えがおさまらない体をなんとか立たせて辺りを見渡す。

 

 

「だ、誰?誰が私に……」

 

【時間がありません、レイラ・ストーム。貴女の力が必要なのです】

 

 

大きな爆発が施設を揺らした。基地スタッフたちの悲鳴と共に資材が倒れて、備品があたりに散らばる音が聞こえる。

 

レイラもバランスを崩して地面に倒れた。

 

ふと、自分の目の前を転がってゆく部品が見える。その転がって行く先を見つめると、そこには「レイラを呼んだ正体」が、オレンジ色や眼光を煌めかせてこちらを見下ろしていた。

 

 

【私の名はセレーナ。貴女なら……少しの間なら操れます。このボルガーを】

 

 

ボルガー。

 

Unknown01とも呼ばれるその機体は、先のA型との戦いの後、イソダ班長が手を加えてみたが全く反応を見せなかった。

 

しかし今、特A型の襲撃と選ばれし存在である「ダン・ムラクモ」の危機に呼応し、レイラの前へと現れたのだ。

 

レイラの脳裏に過去がよぎる。

 

自分はナノマシンに適合できなかった。

 

そのため、ハウンドアーマーを動かすのにも苦労していた。

 

歩かせるのもやっとな自分に……戦闘なんてできなかった。

 

教官には叱咤され、同期たちからの同情的な視線に晒された。

 

 

(……だから、どうした)

 

 

その結果を聞いた父は「やはりレイラには軍人は向いていない。いい人がいるから縁談を結んで家に尽くせ」と言い、母は野蛮な真似はしないでいいのよと慰めるような声でそう言ってきて。

 

少将の姉は何も言わず、ただ無関心な眼差しを私に向けて……最前線へと戻っていった。

 

 

(……だから、どうした)

 

 

同期メンバーの全員がナノマシンの適合試験を合格した。

 

私だけが適合出来ずに落第させられた。

 

ハウンドアーマーの搭乗資格も剥奪された。

 

意固地になって軍に残っていたら……いきなり南アタリア基地の倉庫管理官として、遥か後方へと送られることになった。

 

 

 

(……だからっ!それがっ!どうした!!)

 

 

 

レイラは差し伸べられたボルガーの手に乗り、そのまま導かれるようにコクピットへと滑り込む。

 

 

「お、お嬢ちゃん!?って、ボルガーも……なんで今動いている!?」

 

 

イソダ班長の驚くような声が聞こえる。レイラは乗り込んだボルガーのコクピットを見渡した。コンソールも仕組みも、モニターの仕様すら何もかも既存のものとは違うが……レイラは躊躇わなかった。

 

 

「私が必要なら……やってやる……やってみせる!」

 

【サポートは私がします。レイラ・ストーム。……このままでは彼が危ないのです】

 

 

だから、私と共に救いましょう。

 

その言葉と共に、レイラはスロットルを握りしめてフットペダルを強く踏み込む。

 

轟音と共に、ボルガーのオレンジ色のカメラアイが強い光を発して、倉庫の屋根を突き破って飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

あえてもう一度言おう。

俺はボルトボックスの箱推しである。

 

特に、メインストーリーに欠かせない主人公たち……リトルウイング隊はめちゃくちゃ推せる。

 

デルベルトは訓練生のジェイスたちの教育を担当しており、さらに正式配属となってから所属する【リトルウイング隊】の隊長として活躍することになる。

 

ストーリー序盤は、デルベルドが以前に指揮を執っていた「アインラッド隊」が全滅した時のトラウマに苦しめられながらも、ジェイスたちの奮闘、そして自身の手で危機に陥った隊のメンバーを救ったことによりトラウマを克服する。

 

その後、エースパイロットの頭角を表し出したジェイスやカイ、カレンを、ナノマシン非適合という凡人でありながらも……最善の教導を行い、北米大陸上陸時にはA型三体を見事な連係で撃破するという演出が、とても胸を躍らせ、熱くさせた。

 

だが残念ながらデルベルトは、どのルートでも結末が決まっていた。彼は……特A型との戦いで戦死するのだ。

 

ある時はジェイスの身を庇いエネルギー刃で体を貫かれて。ある時は裏切ったカイの策略によって背後から刺されて。ある時は特A型との戦いで時間を稼ぐために自爆特攻をして。

 

あらゆるルートで、彼は死ぬ運命にある。その度にデルベルドは、最後の瞬間までジェイスやカイ、カレンたちを案じ、導き続けた。

 

彼が愛用したエンフィールドが墓標のように佇む中、ジェイスたちが敬礼をして彼の死を悼むシーンは、ファンの中でも涙腺崩壊シーンとして有名だったりする。

 

俺自身、ボルトボックスを初プレイしたときにはデルベルドの死に涙し、彼が生き残っていたら……という二次創作ものを読み漁って心の傷を癒したものだ。

 

主人公であるジェイスや、幼馴染であるカイ、ツンデレなヒロインであるカレンも魅力的なキャラクターで。兵士として、歳上として、隊長としての信念を貫き、死に向かい合ったデルベルトというキャラクターも、ボルトボックスのストーリーを際立たせている。

 

 

 

そして、そんな彼らが、俺の目の前にいる。

 

 

 

というか、この特A型というボス級の敵に立ち向かう戦場に巻き込まれた訓練機が、主人公一行だったのだ。

 

 

「オラァああ!!特A型!!こっち向けやァアアーー!!」

 

 

思わず変な声をあげた。

 

ボルトボックスのファンだからこそ、メインストーリーの主要キャラが目の前にいることでテンションが上がっているのも確かではあるが……それ以上に今の状況がヤバすぎる。

 

彼らはまだ訓練生。

 

メインストーリーのチュートリアルであるC型襲撃ミッションすらクリアしていない存在なのだ。

 

さて、そんな育成以前の状態である彼らが北米大陸から戦う予定の特A型と遭遇したらどうなるか?無論、死にます。

 

例えるならキャラクリしてる間に魔王が殴り込んでくるレベル。あるいは、まだまだ未成長な状態で最終決戦に挑まされるくらいのレベルだ。

 

せめて主人公の性格が攻撃型か、防衛型か、支援型かという、初期タイプの設定くらいまで待ってもらえませんかね!?それでも結果は変わらないけどさっ!!

 

やばいやばいやばいやばい。

 

ヤバヤバのヤバで変な汗がドバドバ出てる。

 

特A型はマジでやばい。収束砲三門が別々の向きに閃光を放っていて、フレッドやリンは上手く躱しているが、デルベルトやジェイスたちの不慣れ感が半端じゃない。

 

まぁ、フレッドとリンが特A型に難なく対応できてるのも頭おかしいけど……!!

 

とりあえず特A型が周囲に気を散らしてる隙に、収束砲をすり抜けてMMXを叩き込んで大きく仰け反らせる。よし!これでちょっとは時間稼ぎになったな!

 

息を整えて状況を整理しよう。

 

最初は「あらら、見ず知らずの訓練機が巻き込まれてらー。とりあえず前に出たら死ぬから後ろで援護してもろて」って思ってたけど、その訓練機が落ちたらメインストーリーの主要人物が全滅するからな!下手打てば勇者系ゲームで勇者不在で魔王倒すみたいな話になるぞこれは。

 

とにもかくにも……俺の優先順位は主人公一行を死なせないよう立ち回らせつつ、特A型のタゲを取りながら、収束砲とエネルギー刃を躱して、懐に潜り込んでMMXを叩き込んで殺し切るということになる。

 

うーんこの。鬼畜すぎて笑えてくる。

 

復活した特A型は更なる猛攻でチョロチョロと接近した間合いをうろつく俺を撃破しようとしている。

 

ちなみに特A型も俺の近接攻撃のパターンに勘づき始めたのか……行動パターンを細かに変化させている。間合いに飛び込もうとしたらエネルギー刃を下から上に振り上げてくるし、ゼロ距離でもお構いなしに収束砲撃ってくるし……なんやお前、ゲームではそんなモーションなかっただろうが!?しかも、収束砲の発射サイクルも上がってるし、ブロウクン・インパクトのタイミングも見え隠れしてるし。

 

あーくそ、追尾ミサイルクソうざ……がぁっ!!振り切るこっちの身にもなれ!!ビル蹴って加速して距離空いたからライフルで撃ち落としたけど、状況は全然改善されてない!クソですわ!!

 

こりゃあ誰かを守りながらとか……全くもって余裕がない!!

 

タゲは上手く取ってるけど、収束砲の流れ弾が当たるか、ブロウクン・インパクト直撃喰らえば即ゲームオーバーなのである。

 

というわけで、今俺は特A型の近距離に陣取って収束砲とエネルギー刃の乱舞を捌きつつ、MMXを叩き込むタイミングを窺っているのだ。

 

 

「全機!ムラクモ中尉のレイブンアームズを援護!隙を作りさえできれば、中尉がやってくれる!!」

 

 

フレッドのやつ、少佐権限で指示出してるなぁ?いいぞぉ、もっとやって。あとリンも上手く立ち回っている。移動時に、俺を真似てビルの外壁踏んづけてるので、ボロボロだったビルが瓦礫か残骸になりつつあるけど……まぁいいか。

 

デルベルドの方も、主人公たちも動き回りながら援護をしているわけだが……流体エネルギー膜が機体表面を覆っているため遠距離系の攻撃が全て無力化される仕様になっております。

 

MMXのダメが通るのは流体エネルギー膜を貫いて叩きつけてるからです。

 

しかし、彼らの攻撃は無意味ではない。つまり……。

 

 

「ほぉら!もう一発受け取っとけぇえ!!」

 

 

 

ほんの少しでもタゲが逸れてくれたら凸できる。横合いから殴りつけるように打ち込んだMMXで特A型はダメージ……を、受けてねぇ!!

 

なんやこいつ、めちゃくちゃ硬いぞ……!!同じ箇所に二発目叩き込んでるのに装甲に傷ひとつ入ってない。仰反るーとかのダメージモーションしてるくせに。ええい、こいつの装甲値どうなってるんだ。

 

とりあえず、周りのみんなも動き回りながら射撃してくれてるので、一人で立ち向かうよりは隙が生まれて戦いやすいような気が……って。あっ!おま……やめろや!!タゲを完全に移行するのはアカン!!

 

まっ、待って!!止まれ!おまえ!!

 

デルベルトの機体にロックをするな!!!!

 

ライフルを撃ち続けているデルベルト機を見下ろす特A型。タゲをこちらに向けさせるために、再度MMXを打ち込もうと距離を詰めるが……隠し腕に備わるエネルギー刃の斬撃に距離を取らざるを得ない。

 

この野郎……俺の攻撃パターンを学習してやがる!?

 

 

「デルベルト教官!逃げてください!」

 

「逃げる……?俺は一度、あの場所から逃げた」

 

 

ジェイスたちの声に、意味深な声でそう返すデルベルト。

 

彼が言った逃げたというのは……「アインラッド隊全滅」の出来事なのだろう。仲間を救うこともできず、目の前で殺されたこと、そして自分だけが生き残ったことが彼の心に深い傷を与えている。

 

だから彼は、どんな状況でも。

 

リトルウイング隊のメンバーを見捨てずに戦い続けたのだ。

 

 

「俺はもう、逃げない!俺を救ってくれた……恩人に報いるためにも!俺は……逃げるわけにはいかないんだぁああぁあぁあ!!」

 

 

マシンガンを捨て、MMXを装備したデルベルトのエンフィールドが、特A型めがけて果敢に突撃してゆく。

 

そして迎え討とうとする特A型……いや、逆に誘い込んで……ダメだっ!!

 

MMXを構えて肉薄しようとしたデルベルトのエンフィールドの目の前に、漆黒のレイブンアームズが横から割り込んだ。

 

 

「ムラクモ中尉!?」

 

「離れろ!デルベルト!こいつ、わざと誘い込んでブロウクン……」

 

 

その瞬間。

 

眼前にいる特A型が纏っていた流体エネルギー膜が裏返り……俺の意識は暗転した。

 

 

 

 



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CASE15.絶対強者

 

 

 

状況は最悪だ。

 

フレデリック・スミスは、愛機であるHA-12 アーマライトの中で、目の前で起こった出来事に歯を食いしばる。

 

無線で繋がっていたリンが悲鳴を上げたと同時、特A型の〝何らか〟の攻撃を受けて、肉薄していたデルベルト機と、そこに割り込む形で飛び込んだダンのレイブンアームズが吹き飛ばされたのだ。

 

すぐさまリンがダンの方へと飛んでいった為、囮役がフレデリック一人になってしまった。そのことに関して文句はない。吹き飛ばされた一瞬しか判別できなかったが……ダンのレイブンアームズの受けたダメージは深刻だった。

 

衝撃波か?……あるいは、不可視の物理攻撃か。

 

ボルトの特A型ともなれば、何をしてきても不思議じゃない。それこそ、物理現象を捻じ曲げるような攻撃をしてきてもおかしく無いのだ。

 

見た限りでは、左腕と左脚部。背部に接続された武装も機体もろとも吹き飛ばされ、左腕に至ってはフレデリックのいる滑走路にまで吹っ飛んできて、硬いアスファルトに突き刺さるほどだ。

 

一見すれば、あの衝撃波をダンは知っていたのかもしれない。デルベルト機を庇ったようにも思える行動も辻褄が合う。彼が前線にいた頃、特A型と交戦した時に知ったのか定かではないが……。

 

(改めて化け物だな、ボルトの機体ってやつは)

 

そんなもの、ノルマンディー反抗作戦で思い知っていた……いや、ダンや、アーノルド達と共にトリプルゼロで初めて戦場に出た時から分かっていたことだ。

 

コイツらは掛け値無しの化け物。

 

正直に言ってしまえば、そんな奴らと戦う奴なんて気が触れてるんじゃないかと思えるくらいに。

 

何度も逃げようと思った。何度もダメだと思った。何度も死んだと思った。何度も、何度も、何度も。

 

その度に、あのアホな隊長は自分に言うのだ。

 

 

〝いいアシストだった。次も頼むぞ〟

 

 

フレデリックはニヤリと笑みを浮かべる。そう言われて応えないやつは……遊撃手じゃない。

 

あの地獄の日々も今となっては懐かしい。なんだかんだとは言え……死ぬ死ぬと騒いでいた自分や、ほかのメンバーたちも生き残ることができた。それが自分達の力だけじゃ達成できなかったことくらい知っている。

 

だからこそ、フレデリックはダンを尊敬して、隊長と敬うのだ。

 

 

「さて、現実逃避をしてる暇は無いぞ、フレッド。……ここが正念場だ」

 

 

肉薄し、近接からのMMXを叩き込む役をしていたダン。訓練機を率いて撹乱を担当していたデルベルト。さらに単独で援護を行なっていたリン。その三人が一時的に抜けている。大きな痛手だが……仕方ない。

 

 

「訓練機、各機に通達。仲間の危機だ……敵をこちらに釘付けにする!全機、射撃はじめ!」

 

 

味方機がやられたことに動揺していた訓練機のパイロットたちを、フレデリックは一喝する。それだけで幾分か、空気感はマシになった。あとは自分がどれほど……特A型に迫れるか。

 

 

「おい化け物。ミラクルイーグルスの遊撃手を……舐めんじゃねぇぞ」

 

 

フレデリックが吐いた言葉と共に、彼の操るアーマライトは、装甲の隙間に備わるサブスラスターとメインスラスターを閃かせ、特A型へと向かってゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

「……クモ…尉……ムラクモ中尉!!」

 

 

ヘルメットに内蔵された通信機から聞こえる声で、俺は目を覚ました。

 

あーくそ。頭いてぇ。全身いてぇ。どれくらい眠っていたんだ?

 

目の前に映し出されているVRモニターはノイズだらけでまともに機能していない。体はコクピットシートと繋がるセーフティベルトによって宙ぶらりんになっているのがわかった。

 

 

「ムラクモ中尉!聞こえていたら返事をしてください!」

 

「あ、あぁ……ううん……聞こえてるぞ……」

 

 

聞こえていた声の主がようやく認識できた。デルベルトが接触回線で話しかけてきているが、機体コンソールは酷い有様だった。操縦レバーも、フットペダルも、何も反応しない。

 

たしか、特A型の流体エネルギー膜を反転させたブロウクン・インパクトを食らって……よく生きていたな、俺。

 

あの一撃はマジで洒落になっていない。高耐久の機体でも裏返った一撃を喰らえば墓場に直葬される。ほんとに運がよかった……けど、その運も使い切ってしまったらしい。

 

機体データを見れば、左手、左足、背部武装が破壊されている。これじゃあ動くどころか、武器を構えることも出来やしない。

 

 

「あぁっ!よかった!無事ですか!?早くその機体から脱出を……!?チィッ!!」

 

 

すぐに爆発音とノイズ、銃弾が掠めるような金属音が響き渡った。凄まじい破壊音と共にデルベルトの機体が戦闘機動をし始めてる音が聞こえてくる。

 

体に痛みはあるが骨折や欠損は感じられないのが不幸中の幸いだ。しかし、とにかくこの機体はダメだ。もう〝死んでいる〟。

 

動力回路も機体に受けたダメージの影響か、全部ダメになってしまっていた。わずかに機能を保持したサブモニターでは、武装したエンフィールドに乗るデルベルトが、徐々に近づいてくる特A型と戦っている様子を映し出していた。

 

 

「くそっ!コイツ!俺のことを無視してムラクモ中尉を……!?」

 

 

デルベルトの操るエンフィールドは俺が庇ったおかげか最小限のダメージで済んでいる様子で、まだ生きている武装を駆使して特A型に挑んでいるが……流体エネルギー膜に阻まれてダメージが通らな「わたしの隊長に近寄るんじゃねえええ!!!!」と、思っていた時期が私にもありました(白目)

 

うおおおい!リン!リンさん!MMXを叩き込むってのは教えたけど横合いから顔面に二連発ってお前やっぱり最高かよ!!

 

普段敬語な口調からは想像できないきったねぇ言葉と共に特A型をぶん殴ったリンは、そのまま空中で姿勢を整えて俺の近くに着地する。

 

 

「隊長!生きてますか!?手足はありますか!?怪我はないですか!?返事してください!!沈黙だったらコクピットを引き摺り出して……」

 

「いやいやいや!無事!無事だから!!落ち着け!!」

 

「私は冷静そのもの……ええい、てめ……邪魔するなら殺す!!」

 

 

全然冷静じゃねーじゃん!!鬼追尾ミサイルを睨みつけて右手のライフルで華麗に撃ち落とすリン。あかん、完全にキレてる。これ、アインラッド隊を救助した時に、襲われてる記憶がフラッシュバックしてC型を一人で蹂躙した時のバーサーカーリンちゃんモードじゃないですか、やだぁ怖い。近寄らんとこ。

 

 

「デルベルト中尉!援護は任せます!隊長に特A型を近づけるわけには行きません!!」

 

「アッハイ!!」

 

 

ほらぁ!デルベルトにめちゃくちゃ気を使わせてるじゃんか!とにかく落ち着……あーあー行っちゃったよリンちゃん。ああなったら言うこと聞かねーからなぁ。

 

 

「隊長。ご無事で何より。しかし相変わらず凄いですね、彼女」

 

 

そう言って到着するフレッドとレイジングブル訓練機三機。援護するデルベルトと鬼の近接戦を仕掛けるリンの様子に、フレッドは慣れた様子で、他3人は無言だった。コクピットの中で驚いてんのかな。

 

 

「きょ、教官!援護します!カイ!カレン!フォローを頼む!」

 

「りょ、了解!」

 

「アタシに指図しないでよね!」

 

 

オープンチャンネルで聞こえる主人公のジェイスやカイ、カレンの応答する声。アサルトマシンガンの銃声や、収束砲の独特な発射音があたりに響き渡る。

 

リンの猛攻や、フレッドの正確な砲撃も当たっているが……やはり、あの特A型。インチキレベルで強すぎる。頭部に二発、MMXを叩き込まれてるのに全く怯む様子がない。

 

 

「この……いい加減に……!?」

 

 

MMXを多用しすぎてエネルギーが不足したリンが一度離れようとした瞬間、彼女の左腕が収束砲に呑み込まれた。

 

 

「リン!!!!」

 

 

俺の声に反応したのか、リンはすぐさま左腕をパージして収束砲から逃れる。なんとか離脱はできたが……近接武装が左腕ごと消失してしまった。

 

 

 

「訓練機!デルベルトは援護を!俺が仕掛ける!!」

 

 

離脱したリンに変わり、今度は背部に懸架した大型の分子振動ブレードを取り出したフレッドが、跳躍して特A型に仕掛ける。

 

デルベルトからの援護や、動き回る訓練機の撹乱も効いていて、フレッドはブレードの切っ先を構え、アーマライトの出力にものを言わせた突きを放った。その一撃はたしかに流体エネルギー膜を貫くが……MMXほどの貫通性は分子振動ブレードにはない。

 

 

「クソ!やはり足止めにもならんか!」

 

 

貫けなかった反動を利用し、突っ込んだ機体の姿勢を空中で翻すフレッドだが、それを見逃してくれるような相手ではなかった。片手に備わるエネルギー刃を振り上げ、距離を取ろうとするフレッド機を追撃する特A型。

 

その一閃は構えていた大型ブレードを引き裂く。

 

 

「チィ!少しでもリスクのあるものは潰しに来たか……!!」

 

 

しかし、一撃は凌いだ。そう思ってしまった。フレッドが次に見た光景は……振り上げて、そのまま振り下ろしたエネルギー刃から生成された〝飛ぶ斬撃〟。

 

 

「うおおおおおっ!?」

 

 

あわや縦に両断される直前。長年の勘で鍛えた操縦はフレッドを裏切らなかった。素早く機体を横へとスライドさせた結果、アーマライトの両足が消し飛ばされるという最小限の被害で収める。

 

だが……これは……やばい。

 

両足に纏められたスラスター推力を失ったフレッド機は、カイとカレンが操るレイジングブルに受け止められていたが……リンとフレッド、二人の戦力が文字通り削り取られた。

 

鬱陶しいハエを撃ち落としたと言わんばかりに、特A型は足を止めることなくこちらに近づいてくる。

 

 

「……くそっ、とにかく脱出しないと……」

 

 

ひとまずセーフティベルトを解除してコクピットハッチを押し上げる。左半身と背面が破壊された状況な上に、地面を数度転がった痕跡もあった。その時にコクピットハッチが歪んでしまったのだろう。

 

俺はハッチの横にある緊急脱出用のレバーを引く。

 

ハッチが歪んだ時に応じて、炸裂ボルトで装甲ごと分離すると、転がるように外へと飛び出した。ノイズが余計にひどくなったヘルメットを脱ぎ捨てた瞬間。

 

眼前にいたのは俺を見下ろす形で佇む特A型だった。

 

横合いから両足を失ったフレッドの機体や、デルベルト、ジェイスたちも攻撃をしている。だが……その全てが流体エネルギー膜で無効化されている。

 

圧倒的な力の差がそこにはあった。

 

銀色の装甲に赤いラインを迸らせる特A型は、収束砲の発射口を俺に向けて緩やかにエネルギーを充填してゆく。

 

 

「隊長!逃げて!!!!」

 

 

あぁ、これは避けられないやつだ。リンの悲鳴のような声が響き渡る。

 

頼みの綱の愛機は物言わぬ瓦礫と化している。……これほど酷くやられたと言うのによく生き延びたものだ。

 

死ぬ間際だというのに呑気なことを考えていると、充填を終えたエネルギー収束砲が俺に向かって放たれる。

 

その閃光が全ての物体を分子レベルに分解しようとした……その瞬間、俺の前に何かが割り込んだ。

 

 

《グランドシールド!!》

 

 

一つの影が、本来防ぐことが不可能だと言われていたボルトのエネルギー収束砲を……両手から展開したシールドで完全に防ぎ切っていたのだ。

 

 

「なんだ!?」

 

「あ、あの機体は……一体!?」

 

 

ぶら下げた無線機から驚く声が聞こえる。

 

俺はまるで傘に阻まれるような形で辺りに分散する収束砲を呆然と見ていた。それを一身に受ける機体は、俺にオレンジ色のカメラアイを向けた。

 

 

【助けに来ましたよ、ダン・ムラクモ】

 

 

ボルトによって作られた機体……。執行部によって監視下に置かれていたはずのボルガー。

 

なぜこの機体がここにあるかというと。

 

 

《あああああ!無理ィイ!?》

 

「え、まって、その機体に乗ってるの誰だ!?」

 

【レイラ・ストームです】

 

「はぁあ!?」

 

《収束砲を受けるなんて自殺行為聞いてないァアーい!!》

 

 

絶叫を上げる声っていうか、なんでレイラがその機体に!?動かせるの何で!?

 

 

【彼女ならば、私の補助で短時間の操縦は可能です。あくまでボルガーのみではありますが】

 

 

そう言ってる間にも、ボルガーは収束砲を受けている影響で出力がどんどん落ちていく。このままじゃシールドが剥がされて、俺ごとボルガーが収束砲によって消し飛ばされてしまうぞ!?

 

 

「はぁあああっ!!」

 

 

そう思った矢先、収束砲を放っていた特A型から火が上がった。

 

目を向けると、MMXを装備した右手を突き出し特A型に取り付いている一機のハウンドアーマーが見える。

 

それはジェイスの駆るレイジングブルだった。

 

 

「ムラクモ中尉!今のうちに退避を!!」

 

 

すかさず機体を翻して二発目のMMXをぶち込むジェイス。……その動きはボルトボックスの主人公にふさわしい身のこなしだった。

 

収束砲を受けるという自殺行為から解放されたレイラがボルガーを膝立ちにしてコクピットハッチを開く。差し出された手の上に乗ってコクピットを見ると、シングルシートだったはずのコクピットが何故かタンデムシートに変貌していた。

 

後部座席に乗る軍制服姿のレイラ。俺は躊躇わずにメインコクピットシートに滑り込む。

 

 

【貴方が実力者であることは疑う余地はございません。ですが……ノクロス……いえ、あの特A型を倒すためには……この機体の力が必要なのです】

 

 

この機体は謎が多すぎる。ゼブロイドと自称するセレーナや、ボルトの技術で合体するシステム。聞きたいことも、知りたいことも、山のようにある。だが、今はそんなもの、どうだっていい。

 

 

「セレーナ」

 

【はい】

 

「たしかに、お前の言う通り……俺たちの力じゃ何もできなかった。ここで特A型を好きにさせれば、そのまま全員死ぬことになる。それだけは……許しちゃならないんだ」

 

 

たとえ、この力が何かの思惑の上にある歪みであったとしても。ここにいる全員が救えるというなら。

 

 

「だから、もう一度俺に……力を貸せ!ボルテリガァアーっ!!」

 

 

その声に呼応するように。

 

コクピットの中央コンソールには、ボルガーによる「ユナイト・シグナル」を示す光が灯されていた。

 

 

 

 

 



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CASE16.雷王、再び大地に立つ

 

 

 

 

「全く、厄介事ばかり起こるよなぁ……昨日といい、今日といい」

 

 

倉庫から血相を変えてやってきたイソダの口から司令部に届いた「ボルガーの出撃」の連絡。

 

南アタリア基地の司令官として在籍する、見るからにやる気のない男……ロイ・アレクサンダーは、心底めんどくさそうに司令部のモニターに映っている特A型、それに相対する機体……ボルガーを眺めていた。

 

またの名をUnknown01。南アタリア基地で隠されることもなく、動かないから放置されていたはずの……地球外技術で作られた人型ロボット。

 

動くことがないから放置していたくせに、つい先日動いたからと言って地球軍本部は豪勢な音速輸送機で執行部の担当官を派遣してきた。ボルガーに乗っていたダン・ムラクモ中尉はもちろん、基地司令であるロイもある程度の尋問は受けた。

 

全く、いい迷惑だ。

 

ロイ自身この基地に配属されたのはボルガーの解析が始まり、要素開発機からトリプルゼロの開発に移行したあたりだった。その時は一介の文官でしかなかったはずなのに、気がつけば基地の面倒ごとを押し付けられ、司令官なんていう肩書きも与えられてしまった。

 

彼自身、さほど階級や出世には興味がないものの……目の前で起こっていることには対処はしなければならない。

 

 

「あーあー、これだから嫌なんだよねぇ。未知の技術ってやつは。乗っているのは誰なのさ」

 

「この識別番号は……レイラです!レイラ・ストーム少尉が乗っています!」

 

 

その名を聞いたイソダ班長が苦虫を噛み潰した表情になる。彼自身、レイラとの交友があったから、彼女の身を案じているのだろうが……ロイからすれば別の意味もあった。

 

レイラ・ストーム中尉。

 

彼女は名家であるストーム家のご令嬢であり、今北米大陸で指揮をとる女傑、ソフィア・ストーム中将の妹君だ。

 

ナノマシン試験に落ちたにも関わらず、頑なに軍属にこだわるレイラに、彼女の父が安全なこの基地へと配属するように軍部に打診し、それがきっかけでレイラが南アタリア基地に配属されたのだが……。

 

 

「まったく……よりにもよって……」

 

 

レイラがハウンドアーマーのパイロット志望であったこと。そして前線への復帰に関しての嘆願書も書いていたことも知っているので……あれに乗り込んだ理由と気持ちは何となくは察せられる。

 

しかし、彼女がどういう経緯でボルガーに乗ったのか?そもそもなぜ、今まで誰も動かせなかったはずの機体が活発に動き始めているのか。その場にいる管制官や、監視員、通信士官……誰もが疑問を抱いている中。

 

 

「し、司令官!」

 

「今度は何?」

 

「ボルガーにダン・ムラクモ中尉が更に搭乗し……ユナイト・シグナルが来ています!」

 

 

そうか。

 

困惑気味に報告してきた通信士官にロイは事もなくそう返した。

 

問題の渦中にあるレイラもそうだが……やはり、ダン・ムラクモ。彼が現れたということには大きな意味があったのだろう。

 

彼がこの基地に到着してから、全てが凄まじい速さで状況が動き始めている。

 

ボルガーの目覚め。

 

A型の襲撃。

 

そして特A型。

 

この基地は〝すでに目的を達した〟基地だった。残すことはハウンドアーマーを作った原因たるUnknown01こと、ボルガーをどうにかすることであったが……なかなかどうして、〝今回〟は話の展開が変わっているではないか。

 

 

「司令官。ボルテリガーの件は……上層部からも安易に動かすなという通達があります」

 

「……わかってるけどさー。このままじゃあここにいる全員が死ぬわけだよね」

 

 

静かに言うロイの言葉に、その場に居る誰もが反論できなかった。

 

相手は特A型だ。最前線にある最新鋭機でも撃破は困難と言われている上に……そのエースパイロットが乗るハウンドアーマーも、すでに撃墜されている状況だ。

 

残された戦力で特A型を撃破する事は叶わないだろう。つまり、最高戦力である機体を出さずに傍観するということは、この場にいる誰もが生を諦めると言うことにほかならない。

 

乗りかかった船だ。〝変える〟というなら別に構いはしない。ロイは全員を見渡しながら「いつもの」やる気のない口調で言葉を連ねる。

 

 

「僕は軍属だけど、命をかけるほど軍人に命かけてないからさ」

 

「司令官……」

 

「それで構いませんね?スミス少佐」

 

 

設置されたスピーカーに接続されたマイクを手に取ってそう言うと、少しのノイズが掛かり、語りかけた先から返事が届いた。

 

 

【あぁ、状況が状況だ。執行部の命令なら私がなんとかしよう。今は……生き残ることを最優先とする】

 

 

両脚部を切断され、ライフルや迫撃砲を撃つトーチカ程度の能力しか残っていないフレデリック・スミスのアーマライト。

 

自分よりも立場が上な彼からの答えにロイは「承知しました」と答えた。何事も自身より階級が上な者に指示を仰ぎ、許可をもらう。人間の組織という枠組みの中では必要なプロセスではある。

 

まぁ、くだらないことに変わりはないが。

 

 

「スミス少佐が仰られていたように、これは命令ではない……生きるための戦いだ。……ユナイト・コネクト、承認する」

 

 

さて。……お膳立てはしたぞ。

 

セレーネ……いや、ボルテリガー。

 

君が動くというなら、変えてみせるがいい。延々と続く幾つもの可能性がたどった未来を。

 

 

 

 

 

 

「え、えぇえ!?ボルテリガーって……ムラクモ中尉!?私乗ってるんですけど!?」

 

 

司令部からの承認も受けたので行動を開始しようとした時、後部座席に座るレイラが驚いた様子でそんなことを言い始めた。

 

まぁ確かに、ボルガーは最初は一人乗りだったはず。

 

そこがタンデムシートになったのだから、彼女を安全な場所に移動させてから動くのが最適だと思ったのだが……。

 

 

【この戦いには貴女が必要なのです】

 

「え……えぇええ!?」

 

 

どうやらセレーナこと、このボルテリガーにレイラも選ばれたらしい。

 

しかしメインで戦うのは俺であるとセレーナは言う。レイラの役目はボルテリガーに備わる〝機能〟の管理や補助のようだ。

 

 

【貴女の力が必要なのです。レイラ・ストーム。私とダン・ムラクモと共に……戦ってください】

 

「わ、私が必要……へへっ……よ、よっしゃあぁ!やってやろうじゃない!」

 

 

やだこの子、割と単純……?だらしのない顔をするレイラを若干引いた顔で見てしまうが、すぐに意識を別の方へと向ける。操縦桿を引けばボルガーは思った通りに挙動をしてくれた。

 

よし、前回の拉致された時と違っていうことを聞くな!!

 

 

【その節は大変申し訳なく……】

 

「ひょあああぁぁあーー!!」

 

 

ええい、サラウンドで話しかけてくるんじゃねぇ!!脳内にセレーネ。背後からタンデムシートに乗るレイラの悲鳴。聞こえんって。ボルガーが高速で挙動を開始し、収束砲を放ってくる特A型と一気に距離を取る。

 

って、次に飛んできたのはエネルギー刃。逃す気はないってことか……!!

 

 

「とにかく距離を取らないと何もできない!レイラ!少し揺れるが舌を噛むなよ!」

 

「ここここれ!少しじゃなイヤアーッあああぁぁあーー!?」

 

 

レイラの言葉にもなってない抗議は無視して、右へ左へ戦闘機動をして飛来するエネルギー刃を避ける。壁面を蹴って距離を稼ごうとするが……コイツ、さっきより増してしつこい!!こうも追われたら合体どころか反撃も……。

 

 

「よそ見してるんじゃねぇえええ!!」

 

 

そんな絶叫に似た怒声と共に、片腕を失ったスカイブルーのレイヴンアームズが横合いからぶん殴って……て、えぇええ!!リンさん!!左手のMMX無くなってるのにどうした!?

 

 

「瓦礫の鉄骨でぶん殴りました!!効いてるかはわからないですけど注意を逸らす程度には……!!」

 

 

そんなバイオレンス振りっきった発言したリンのレイヴンアームズだが、言葉を終える前に特A型が振るった腕に激突。そのまま残骸の中へと叩きつけられたのが見えた。

 

 

「リン!?」

 

「ゲッホ……コイツ……化け物すぎ……」

 

 

地面に叩きつけられた衝撃からか、通信はノイズまみれで、コクピットにいるリンも声が掠れているように聞こえた。火花を散らして満身創痍のレイヴンアームズに、特A型がトドメと言わんばかりに収束砲を向ける。

 

 

「全機、撃て!!」

 

 

その一喝と共に、特A型の背後が爆ぜた。それも一度じゃなく何度も。煩わしそうに振り返った先には、ライフルを構えるデルベルトのエンフィールドと、同じくショットランチャーを構えたジェイスのレイジングブル。

 

そして、カイ、カレンの乗るレイジングブルに担がれた……フレッドのアーマライトが背中に背負った迫撃砲からも煙が上がっていた。

 

 

「隊長!今です!」

 

 

フレッドの声が響く。目の前にいる特A型はしまったと言わんばかりに顔を向けてくるが……少しでも注意を逸らそうと奮戦するデルロイドやジェイス、フレッドが攻撃を重ね続ける。

 

響き渡る爆発の音。

 

それが全て遠くなる。

 

 

【意識を集中して】

 

 

意識を委ねろ。体を委ねろ。……この機体の全てに。

 

 

「……ユナイト・コネクトォオオ!!」

 

 

俺の発した声に呼応するようにハイパーゲートから3機のボルトモジュールが飛び出す。

 

三つの光は音速を超え、一筋の光となって宇宙から地球へ……ボルガーの元へと集った。

 

 

【ボルガー・ユナイト!!セット、オン!!】

 

 

気合い一閃。

 

ボルガーを中核に三機のボルトモジュールが同調する。ファイター型のモジュール、「ファイアーボルト」が変形しボルガーの上半身へと接続。

 

【ファイアーボルト、セット】

 

ボルガーの両肩が開き、コネクタユニットと接合されることで次の合体へと移行する。

 

タンク型のモジュール、「グランドボルト」が折り畳まれたボルガーの脚部へとドッキング。タンクは二分割するように変形し、その姿は巨大な脚と化す。

 

【グランドボルト、セット】

 

最後に腕部にドッキングしたのがドリル型のモジュール「サンダーボルト」。

 

ドリルが折り畳まれて変形するとその姿は腕となり、開いたボルガーの肩部へとドッキングを果たした。

 

最後にファイアーボルトに内蔵された頭部パーツが装着され、オレンジ色のカメラアイを煌めかせ、拳を突き合わせるソレは……稲妻を轟かせながら大地に降り立った。

 

【サンダーボルト、セット。ボルトモジュール、オールクリア。ボルテリガー、起動します】

 

ボルガー。

ファイアーボルト。

グランドボルト。

サンダーボルト。

 

全てのドッキングが完結し、コアのガルダリア・エンジンと三基のガルダリア・ブースターの波長が同期することで、完全なる〝ボルトロイド〟が完成するのだ。

 

 

 

【雷王招来……ボルッテリッガァアアアアーーー!!!】

 

 

 

変形の際にガルダリア・ブースターを通して生じた力場が解除される。

 

地に降り立ったボルテリガーを前に、特A型は銀の装甲に赤いラインを迸らせ、まるで睨みつけるように……大地に立った勇者と相対する。

 

特A型。

 

そしてボルテリガー。

 

南アタリア基地という運命の地で、宿命を背負う二体は邂逅を果たしたのだった。

 

 

 

 

 



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CASE17.新たな力、アルファアーマー!

 

 

 

「ねぇ、ジェイス。あれ見えてる?よね?」

 

「あぁ、見えてる」

 

 

向き合うボルテリガーと特A型。身長がおおよそ50m級の特A型と、対面で向き合えるサイズのボルテリガー。

 

両者の並びを遠目から見ているハウンドアーマー隊……ビルの屋上に退避したジェイスは、幼馴染のカイからの通信に静かに答えた。

 

 

「あんなハウンドアーマー……訓練学校でも習わなかったよね」

 

「あぁ、習わなかったな」

 

「じゃあ……この基地の最新鋭機って事か」

 

「あぁ、最新鋭機だろうな」

 

「いや、そんなわけないでしょ!?」

 

 

元から天然よりなジェイスとカイの会話に、思わず後ろにいたカレンがツッコミを入れた。大体、あのボルテリガーと叫んだ機体。何もかもがおかしいのだ。嵐のように現れては、急に合体して……今まさに、現在進行形で、自分達の前でハリケーンを起こしている存在なのだ。

 

あとハウンドアーマーにパイロットが叫んで起動するシステムはない。ないったら無いのだ。

 

 

「何もかもおかしいでしょ!?収束砲をバリアで受け止めるわ、どこから飛んできたかも分かんない奴と合体するわ……そもそも合体とかの技術ってどうなってるわけ!?ナノマシン制御でもあんなことできるわけないじゃない!?」

 

 

カレンは軍人家系の生まれで、父も北米大陸に所属する軍上層部の人間だ。

 

ハウンドアーマーについても父は第一線を張っている……というより、ヨーロッパで展開されたノルマンディー反抗作戦に参加していて、ミラクルイーグルスの一員でもある。

 

そもそもの話。

 

カレン・シュバイドというキャラクターは、第一世代ハウンドアーマー「トリプルゼロ」に乗って戦死したパイロットの娘として……外伝「デスロード編」をプレイすることでミッシングリンクを埋める重要なメインキャラクターなのだが。

 

この世界では「トリプルゼロで二段ブーストを使ったバカ」とか「鈍重なら捕まる前に肉薄して削りきれば倒せる」とか「メインカメラがやられただけと言って視界なしでB型を沈めた」とか、トンデモ機動で地獄を切り開いた変態がいるため、本来なら戦死しているはずの父が存命だったりする。

 

そんな父はミラクルイーグルスの一員で伝説の狙撃手でもあるのだが……それを話すと娘のカレンがより一層軍に入ると言って聞かなくなると思い、その話は黙っている経緯もある。

 

結果的にはカレンは軍に入隊したので、必死に隠していたのも骨折り損ではあったが……。

 

 

「落ち着いて、カレン。ひっひっふーだよ」

 

「私は!!至って!!冷静よ!!」

 

「とりあえず落ち着けな、お前ら」

 

 

的外れな呼吸法を教える天然のカイにヒステリー全開なカレン。常識はずれなボルテリガーの出現で荒れる訓練生たちを見て、逆に冷静になったデルベルトの注意を受けているジェイスたち。

 

そんな騒がしい彼らの横に鎮座するのは、両脚部が吹き飛ばされ弾薬も底を突いたフレデリックのアーマライトと、特A型の近接攻撃をモロに受けて大破寄りの中破になったリンのレイヴンアームズである。

 

煤汚れたシャツのボタンを上二つ外し、デルベルトらから貰ったミネラルウォーターを煽るフレッド。その視線の先には轟々と燃える基地の中に佇むボルテリガーの姿があった。

 

 

「改めて見ると……ホントとんでもない機体に乗ってるんだなぁ、隊長。……あっ、ターレン大尉。目が覚めたか?どこか痛むか?」

 

 

フレッドの横には、サバイバルキットに入っている寝袋の上に寝かせられたリンがいた。

 

最低限の治療を施し、簡易CTで健診した結果、地面に叩きつけられた衝撃で片腕が折れているのと、肋骨にもヒビが入っているのがわかったので無理に動くこともできない彼女は、小さな声でボソボソとこう言った。

 

 

「……あの……デカブツ……次は……コロス……」

 

「うん、いつも通りで元気いっぱいだな」

 

 

隊長が絡むとこの子言うこと聞かないからな、というのはミラクルイーグルス全員の認識である。現に、今回の同行も頷くまでテコでも動きませんと脅迫じみた具申を受けて、フレッドとアルが早々に「隊長に任せよう」と匙を投げた……というのが本音であった。

 

それを機体の集音マイクで聞いていたカイが思わずこう思った。

 

 

(なんかバーバリアンみたいなこと言ってる……)

 

(バーバリアン副隊長……)

 

(ナノマシンでシナプス回線使えるからって私も巻き込んで変な会話しないでくれない?)

 

 

ナノマシン投与を受けたパイロットは、機体を中継させて脳波でコミュニケーションを取ることも可能にするシステム、【シナプス回線】という独自の通信回線を有している。これにより、脳内でのイメージのみで作戦内容を伝達したりと、通信モジュールの高速化が図られたが……今回は無駄遣いも良いところであった。

 

 

「少佐。これって……俺たちが見てよかったものですか?」

 

 

ふと、デルベルトが外にいるフレッドにそう問いかける。彼らはあくまで訓練の一環で執行部の護衛にきた……いわば部外者だ。そんな彼らが特A型と戦った上に……ボルテリガーまで見てしまったわけで。

 

 

「さぁねぇ。執行部も吹き飛んだから……下手すれば銃殺刑だけど、何とかなるだろう」

 

「何とかなるんですかソレ……!?」

 

 

現に特A型が現れなかったら執行部は何としてでもボルガーおよびボルテリガーの存在を隠蔽しただろう。フレッドが同行したのは、銃殺刑に処される予定のダンの救出または延命措置で、本国の仲間が手を打つまで時間を稼ぐ計画という理由であった。

 

だが、そんなもの……もはや意味をなさない。特A型が南アタリア基地に現れた段階で、地球軍本部からすれば想定外もいいところ。加えて執行部の担当官も全員戦死している。

 

これからどうなるかなんてわかったものじゃない。……それにだ。

 

 

「とにもかくにも、今はあの特A型をどうにかするしかないだろう。アレを倒しきれなかったら、俺たちの終わりに変わりはないのだからな」

 

 

そう言ってミネラルウォーターに口をつけるフレッド。彼の視線を追うと、その先には特A型と向き合うボルテリガーという光景が広がっているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

あんまりな展開に置いてけぼりを喰らうジェイスやフレッドたちを他所に、特A型と睨み合うボルテリガーの間では、僅かにだが〝異文化〟の交流が行われていた。

 

 

【セレーナ、ようやく現れたな。そしてS型……いや、ボルテリガーよ】

 

【ノクロス……いえ、特A型。貴方は私の敵です……!!】

 

 

ボルテリガーにユニオン・コネクトすると何故か聞こえる特A型側の声。やはりこれは……ナノマシンの影響下と同じ作用が働いているのだろう。

 

S.W.E.S……ソリッド・ウェーブ・エミュレータ・システム。

 

それは、ナノマシンを用いたハウンドアーマーの制御装置であり、簡単に言えば思考や脳波をダイレクトに制御へと直結し、システムそのものの操作感を向上させるものだ。

 

その性能はナノマシン投与量によって上下するものの、基本的な機能は共通で使えるためハウンドアーマーの操縦を簡略化する大きな一助となっている。

 

先程、ジェイスたちが脳波でコミュニケーションをとっていたシナプス回線の機能も、S.W.E.Sの恩恵の一つと言える。

 

つまり、今特A型……ノクロスと言った存在と、ボルテリガーのセレーナが会話しているのは脳波……またはボルトが有するコミュニケーションの一種なのだろう。

 

セレーナ自身も、前に自らを〝ゼブロイド〟と名乗っている存在だ。

 

もしかすると……敵は単なる機械ではないのか?

 

 

【そこまで原生人類を守りたいか……肉体を持ちながらも未だに競争という輪廻から出られぬ愚か者たちを!!】

 

「なに?声が……特A型から声が聞こえる……?」

 

 

俺は前と同じく両腕に機械が備わる独特なコクピットにいるが、後部座席にいたレイラは……なぜか半ドーム状のモニターを頭から被るような姿勢で座っていた。

 

彼女がどうなってるのかも疑問だが……特A型側から聞こえる声に、レイラも困惑している。

 

 

「特A型……いや、ノクロス!お前たちの目的は一体なんだ!?」

 

【貴様たちに答える必要は……ないっ!!】

 

 

そう端を発する特A型は3本の収束砲全てを使い、射撃体制をとった。

 

不味いとデルベルトたちも後方から攻撃を再開するものの……その程度で止まる相手ではない。

 

 

「ムラクモ中尉!収束砲が来ます!」

 

 

見ればわかる!レイラからの声と同時、脳内に流れ込んでくる情報。俺はボルテリガーの左に備わる操縦桿を大きく押し込み、そして〝叫んだ〟。

 

 

「グランドブレストォーッ!」

 

 

グランドブレスト。

 

ガルダリア・ブースターで底上げされたエネルギーが機体全体を通して前面へと展開される。一種の防御フィールドと化したそれは、極光を伴って発射された特A型の収束砲の全てを受け止めてみせた。

 

 

「お返しだ……!リフレクトォォスマッシャァアーッ!」

 

 

受け止めた収束砲のエネルギーをさらに圧縮して打ち返すカウンター技、リフレクトスマッシャー。

拳を突き出すように放つその一撃は真っ直ぐに特A型に向かってゆく。だが、その光は銀色の装甲に食らいつく前に跡形もなく消え去った。

 

 

【無駄だ】

 

 

特A型は物理的な射撃攻撃を含め、自機から発せられるエネルギー収束砲も無効化する流体エネルギー膜を積んでいる。

……人類側がボルトの収束砲を技術転用して作り出した武装もあったが、そのことごとくが特A型には通用しなかった。

 

 

「チィ!やはり遠距離武器は無効化される……。だから、近づいて叩く!!」

 

 

そう言って、ボルテリガーのブースターが光を放った。

 

地を滑るように一気に加速し、ガルダリア・ブースターから放出された力場が稲妻となった拳を構える。

 

さらに腕部に備わるドリルの回転も加わり、近距離戦で絶大な威力を誇る爆発力がその拳に宿った。

 

 

「ガルダリア・ブースター、出力最大!サンダーボルトォ……バンカァアアーーッ!!」

 

 

距離を詰めた勢いのまま、握りしめた拳を特A型の脇腹へと叩きつけた。凄まじい衝撃波と鈍い音が辺りに響き渡るが……驚くほどに手応えが感じられなかった。

 

 

「効いて……いないのか!?」

 

 

サンダーボルトバンカーを受けて飛び上がった特A型は何事も無かったかのように地上に降り立って、こちらを見据えている。

 

 

【ノクロスへのダメージ確認できず。どうやら流体エネルギー膜を操り別次元にダメージを放出したようです】

 

「流体エネルギー膜ってもはや何でもありじゃない!?」

 

 

レイラ。君、流体エネルギー膜のこと何で知って……ハッとするレイラの表情から察するに、彼女も俺と同じようにS.W.E.Sの影響を受けているのだろう。不思議そうに顔を顰めるレイラだが、考えている暇は無さそうだ。

 

ボルトの機体はデタラメなものが多い。

 

次元の向こう側にダメージを逃すなんてぶっ飛んだ性能を有している機体もあれば、ブラックホールを作り出してそれを纏った爪で引き裂いてきて重力波を生み出したりと……無茶苦茶なシステムのとんでも技術を使う。

 

それこそが特A型なのだ。

 

 

【その機体では……このノクロスには勝てないぞ、セレーナと選ばれし者よ!】

 

 

そう声を上げながら隠し腕でエネルギー刃や、収束砲を撃ち込んでくる特A型。

 

グランドブレストを使いなんとか凌ぐが……このままじゃ手の打ちようがない。

 

ひたすら張り付いてサンダーボルトバンカーをぶち込む戦法もできるが、そうなるとボルテリガーのエネルギー面に不安が残る。

 

あと何発、あの技を使えるかすらも未知数なのだ。

 

 

「くそっ!何かやつに対抗できる策は……!」

 

 

機体を横へスライドさせながら収束砲を躱す。急加速に耐えるレイラが唸り声のような声を上げるが、俺にもそこまで気を回す余裕がない。

 

そんな中、セレーナが声を上げた。

 

 

【あります。彼女が乗った時から切り札は既にボルテリガーに委ねられています】

 

「んぎぃいい……え、わ、私!?」

 

【はい、レイラ・ストーム、そしてダン・ムラクモ。お二人が揃ったことで……ようやく、欠けていたピースが揃いました】

 

 

今なら〝あの力〟を使うことができる。そう断言するセレーナ。何もかもが全くわからない。だが、このままいてもジリ貧でいつかあの無尽蔵に撃ち込まれる収束砲に捕まってしまう。迷っている暇はない。

 

 

「レイラ!いけるか!?」

 

「あぁもう!私なら出来る私なら出来る私なら出来る……やってみせたらぁっ!!」

 

 

悲鳴のような、気合いのような、そんな声を轟かせながらレイラはセレーナの補助を受けつつボルテリガーの〝フォーメーションコンソール〟を操作し始めた。

 

そして、その効果はすぐに現れる。

 

 

「これは……新たなユナイト・シグナル……!!」

 

 

コクピットのメインコンソールに二回目のユナイト・シグナルが表示させられたのだ。

 

 

【ダン・ムラクモ!頼みます!】

 

「よし、ユナイト・コネクトぉお!!」

 

 

その瞬間、再び宇宙にあるハイパーゲートから高エネルギー反応が発せられた。同時、ハイパーゲートから〝新たなる影〟が飛び出す。

 

 

【ボルトアーマー【アルファ】!】

 

 

それはロケットを模した大型の「ボルトアーマー」。

 

ハイパーゲートを突破したそれは、同じく一条の光と化し、ボルテリガーの元へと飛翔する。

 

同じようにブーストを轟かせて空に上がったボルテリガーは、雲を裂いて現れるロケット型のボルトアーマーと並ぶように飛び、その手をかざした。

 

 

「いけます!同調率100%!!」

 

【はぁああっ!ユナイト・アァーマァアーーッ!!】

 

 

気合いの声に応じるように、ボルトアーマーがボルテリガーにドッキングを果たす。

 

ロケット型のアーマーは各部を展開。まるでボルテリガーの〝右半身を覆う〟巨大な外套のようなアーマーと化したのだ。

 

一つのガルダリア・エンジン。

 

三つのガルダリア・ブースター。そしてアーマーに備わるガルダリア・バイアスによってボルテリガーの攻撃力は飛躍的に上昇した。

 

 

「ボルテリガー・アルファアァーマァーッ!!」

 

 

 

それは信念を貫く力。

 

それは宿命を示す力。

 

迷いを捨て、勇気を示せ!

 

真なる力、その名は。

 

ボルテリガー・アルファアーマー!!

 

 

 

 

 





カイ「あれも新装備かな」

ジェイス「あぁ、新装備だろうな」

カレン「もうどーにでもなーれ」


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CASE18.炸裂ッ!鉄杭拳ッ!!

 

 

勇気とは自分の力を疑わず

信じ抜くことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

α(アルファ)アーマー。

 

それはボルトの技術で作られた三つのユナイト・アーマーの内の一つだ。

 

ドッキング前は大型ロケットの形状であり、合体するとボルテリガーの右半身を覆う外套のようになる。そして、主動力のガルダリア・エンジンを各ボルトモジュールに備わる三つのガリダリア・ブースターによって底上げすることにより、ボルテリガーは特A型に迫るエネルギーを有する機体となる。

 

そして三つのユナイト・アーマーに備わるガルダリア・バイアス。

 

注ぎ込まれたボルテリガーのエネルギーを適切に再構築して増大させ、特A型すら上回る絶大なエネルギーに変える。それを纏う一撃は……文字通り、全てを貫く鋼鉄の杭となるのだ。

 

 

「これが……ボルテリガーの更なる力……」

 

 

右半身に備わるαアーマーを見る。

 

なるほど、コイツは俺一人で制御するのは無理だ。

 

そう〝理解させられる〟。

 

これもまたS.W.E.Sの影響なのだろうか。後ろにいるレイラも一切疑問を持たずにドッキングシークエンスを完了させていた。説明を受ける→理解する→実行するという工程を、理解と実行が同時並行で行われるような感覚だ。

 

αアーマーと合体を果たしたボルテリガーが地上に降り立つ。

 

右半身のソレを見た特A型【ノクロス】は……相対するボルテリガーに乗るパイロットの実力に驚愕していた。

 

ボルテリガー……ボルト勢力から見れば、「S型」と呼ばれた機体は、特別な存在だ。

 

C型から特A型に分類されるボルトの機体は、全て「パイロットを必要としない」が故に、人種が乗り込むコクピットという概念自体が存在していない。

 

ボルトと呼ばれる機体は……機体構造物そのものが巨大な生体回路となっている。

 

つまりそれは、機体全て、装甲も、骨格も、張り巡らされた回路も、その全てが思考性ユニットとして確立されている。たとえ部分的な欠損をしたとしても装甲材質が残っているなら機体の制御が可能となっているのだ。

 

それはS型も同じ。同じく全ての機体構造が生体回路となっている。……にも関わらず人種が搭乗するためのコクピットを有していたのがS型なのだ。

 

……一体誰が、何のために作り出したのか。全てが謎に包まれているS型だが、他の機体とは違い、生体CPUたるパイロットがいなければ稼働できないという欠点もあった。

 

ボルト勢力には〝生体CPU〟が存在しない。故に、誰もが知らなかったのだ。

 

……S型の真なる実力を。

 

 

 

【αアーマー……ユナイト・アーマーが発動したのか……!?バカな……パイロットは、それを呼び出せるほどの逸材だとでも言うのか!!】

 

 

ノクロスは四肢を振り翳して、巨大なエネルギー刃を構える。

 

ボルガーから、ボルテリガーとなったS型。

 

それに乗るパイロットは、完全に機体を構成する思考性ユニットと同化しているのだ。ありえない。人の体を保ちながら……そんな真似をして無事で済むはずがないのに。なぜ、ボルテリガーは自分の前に立ち塞がるのか。

 

自分達と「同じよう」に……〝ナノマシン〟を投与しなければ機体制御の簡略化すらも出来なかった原生人類のはずなのに。

 

ノクロスが感じるのは、明らかに違う異質な存在。それが、あのボルテリガーを操っている。その異物感がノクロスの思考回路にストレスという名の負荷と、プレッシャーを与えていた。

 

 

【だが、我はその程度では沈まん!!】

 

 

ノクロスとて、特A型と呼ばれる存在。

 

機体才能は他の特A型とは別格であり、防御を司る流体エネルギー膜は特A型の中でも最高水準を発揮している。

 

故に、彼は強者。

 

巨大なエネルギー刃を翻し、距離がひらけば収束砲を以て牽制。腰部には隠し腕も備わっているので不意打ちや奇襲というトリッキーな戦術もからめたオールラウンダーな戦い方ができる。

 

だが、彼は甘く見ていた。人類の〝チームワーク〟という闘い方を。

 

ボルテリガーに向かおうとした瞬間、真横から凄まじい衝撃音と共に殴り抜かれる。

 

 

【なにぃ……!!】

 

 

赤いラインが光り、その先にはMMXを構え、近接戦に切り替えたジェイスやカイ、カレンの駆るハウンドアーマー、レイジングブルが迫ってきたのだ。

 

 

「間違いない!敵は消耗している!さっき撃ち込んだ時より動きが鈍い!ここで仕留める!!カイ!カレン!連携して奴の注意を引くぞ!」

 

「先輩たちが動けないなら、私たちも頑張らないとな!!」

 

「まさかトンチキ兵器の援護をするなんてね!!」

 

 

収束砲で応戦しようとするが、レイジングブルの方が速い。それに加え、ノクロスは敵に自分の攻撃手段を見せすぎていた。

 

たしかに収束砲は物理現象を無視した強大な威力を誇るエネルギー砲だ。

 

しかし、ノクロスの機体は〝直線方向〟に撃ち出すことしかできない。頭上に撃ち、収束砲同士をぶつけ拡散させることで範囲攻撃をすることもできるが……そんな隙を見せれば三方向から一斉にMMXを身体中に叩き込まれることになる。

 

流体エネルギー膜はあらゆる攻撃を無効化する無類の強さを誇るが……その攻撃が多方向から同時に叩き込まれること、そしてエネルギー膜を中和して装甲自体にダメージを叩き込まれることを苦手としている。

 

ダメージ回避をするために一点集中で高密度のエネルギー膜を展開することも可能ではあるが、動き回る三機相手にそれを行うのは効率が悪すぎる。

 

 

「うお゛ぉおおおーっ!!」

 

 

装甲材質を通して思考する中でも、ジェイスが雄叫びを上げてMMXを撃ち込んでくる。ええい、いい加減に鬱陶しい。

 

 

【小賢しい原生人類め!ここで無に返してやろうか!!】

 

 

顔付近を飛ぶハエを振り払うようにエネルギー刃を纏った隠し腕が、距離を取ろうとするジェイス機の片足を斬り飛ばした。

 

アラーム音が響き渡る中で、なんとか片足のパージを行い誘爆を回避するジェイスは、苦悶の表情を浮かべたまま追撃をしようとする特A型からさらに離れる。

 

逃すか、とノクロスも動こうとした瞬間。その動きそのものが、ノクロスの決定的な隙であり……ボルテリガーにとって大きな活路となった。

 

 

【ダン・ムラクモ!今です!】

 

「ならばぁあ!!これならどうだぁあぁ!!」

 

 

αアーマーを纏ったボルテリガーが、一気にノクロスとの距離を詰める。

 

アーマーにはガルダリア・エンジンと、機体各所のガルダリア・ブースターから得られたエネルギーが注ぎ込まれ、バイアスによって調整された膨大な稲妻がボルテリガーの右拳に集約されていく。

 

そのエネルギーは大地を揺らし、まさに大気をも震わせるほどであった。

 

 

「ガルダリア・ブースター、出力100%!全エネルギーをαアーマーへ集約!!」

 

 

そのエネルギーを纏う拳はついに臨界点を迎え、青白い光を放ち始める。

 

αアーマーの最強最大の技であり、どんな装甲でも打ち砕き、貫き、粉砕する拳。制御を間違えれば溜め込んだエネルギーそのものに機体が吹き飛びそうなほど……その膨大なエネルギーを集約した拳を高々と掲げ、ボルテリガーはブースターを噴き出した。

 

 

鉄杭拳(てっくいけぇええん)!!!!」

 

 

驚異的な加速を伴って駆けるボルテリガーは、特A型の懐に飛び込み青白く煌めく〝鉄杭拳〟を腰だめに構え、そのまま無防備なノクロスのボディへと拳を叩き込んだ。

 

 

【……っ!!】

 

「受けてみろ!!バンカァアークラァアアアッシュッ!!」

 

 

ボルテリガーの有するエンジン、ブースターと、それらを増幅させるバイアスによって得られたエネルギー。

 

その全てを乗せた拳は、これまで傷つけることすら許さなかった特A型の装甲部に食らいつき、ついには内部フレームに到達した。

 

暴力的で絶対なエネルギー。それが圧縮された状態で貫いた装甲の内側から解放されるのだ。相手の機体は内部から機体を崩壊させて砕け散る……はずだった。

 

 

【さすがはS型……いや、ボルテリガーというべきか。まさかここまでの姿を晒すことになるとは】

 

「嘘……あれだけの威力で……エネルギーを内部に解放しても無事だなんて」

 

 

だが、ノクロスは健在だった。

 

αアーマー最強の技であるバンカークラッシュを受け、ボディに大きなダメージを負いながらも……砕け散ることなくボルテリガーの前に立っていたのだ。

 

驚愕するダンとレイラ。

 

そんな中でモニターを見つめていたレイラがあるものを発見した。ボロボロと崩れてゆくノクロスのボディ……その内側に何かがいる。

 

 

「機体の中に別の何かが……?」

 

 

緑色のカメラアイがゆらゆらと揺れている。それが何かはわからない。

 

ノクロスは〝悟られないよう〟悠然と応答していた。驚愕すべきはαアーマーの威力。ここまで〝剥がされる〟のは想定外であったが……何とか耐えることはできた。それに次の対策にも活かせる。

 

余剰エネルギーを放出するためにαアーマーの排気口から煙を吹くボルテリガーを、ノクロスは睨みつける。

 

 

【ノクロス!……本当にこれが、貴方の望む世界に繋がるのですか!?】

 

【その通りだ。我々の悲願はついに達成される。そのためにこの様となったのだ。今更……止めてなるものか】

 

 

まるで血を吐くような声にセレーナ。

 

かつて……心を通わせあった筈の相手に苦悶の声を上げる。

 

ボルトは……彼らはもはや止められないところまで来てしまっている。

 

この戦いの中、どちらかが絶滅するまで……その終わりを迎えるまで、止まることのできない。その運命をすでに選んでしまっていた。

 

 

【ボルテリガーに選ばれし者よ】

 

 

ひび割れた銀装甲に赤いラインが迸る。

 

ノクロスは、ボルテリガーを真正面に見据え、衰えることないプレッシャーを放ちながら言葉を紡いだ。その姿は……まるで死をも恐れぬ、畏怖と暴力の根源たる存在そのもの。それを目の当たりにしたレイラの背には嫌な汗が伝い、息を呑ませるほどだった。

 

 

【貴様らが立ちあがろうと、我々は貴様を倒し、破壊し尽くす。すでにもう始まった。貴様らの足掻き、どこまで通ずるか……試してみるがいい】

 

 

言葉を最後にノクロスの機体は眩い光に包まれ、長く空に伸びる閃光と化した。

 

そして、そのままその場から消え去ってしまった。

 

後に残ったのはボルテリガーと、戦いで消耗したハウンドアーマーたち、そして破壊された基地の残骸だけ。

 

 

「特A型の反応消失!?」

 

「短距離テレポートか……」

 

 

特A型の能力にある短距離テレポート。

 

予備動作や起動には多少の時間が掛かることから戦闘向けではないが……その驚異的な科学力は人類のそれを遥かに上回っているということを証明するには充分すぎるものであった。

 

 

「とりあえず難は逃れた……というべきか」

 

 

消え失せた特A型と、残されたボルテリガー、そしてデルベルト率いる訓練小隊。

 

こちらの基地の損害は大きく、滑走路や一般機材用格納庫、そして執行部と彼らを護衛する訓練生たちが乗った輸送機が全損させられている。

 

戦力は何とかなってはいるが……基地の再建には時間がかかり過ぎる。

 

どうやって司令部から復興費を出させようかとロイが考えていると、一人の通信士官が顔を青ざめさせて声を発した。

 

 

「な……ニューブリテン基地からの信号途絶!?」

 

「なんだと!?」

 

 

今さっきです、と渡されたデータ。

 

そこにはビスマルク諸島に位置するアジア基地、ニューブリテン基地からの通信が突如として遮断されとの報告があった。

 

アクティブだった通信設備が軒並み機能不全に陥っており、どの通信チャンネルに問い合わせても返答はない。

 

 

「司令……これは……ニューブリテン基地だけではありません。サスカチュワン宇宙基地、サンディエゴ基地、ケベック宇宙港、ヒューストン前衛基地、カイルア・コナ海上基地……シアトルの総司令部含め……通信が途絶しています」

 

 

地球軍の通信網はいくつもの地下、海底通信ケーブルを用いて構築された強大なネットワークによって支えられている。

 

これはボルト襲来時に衛星設備を破壊され通信ができなくなった教訓から宇宙ではなく地上でのネットワーク構築に尽力した結果だ。

 

そのため、通信が途絶するということ自体が異常なのである。

 

 

「高高度監視ドローンからの映像来ます!」

 

 

通信士官の声と共に司令部のモニターへ、高高度を自動操縦で飛ぶ監視ドローンからの映像が映し出された。映し出されたのは北米大陸に位置するサンディエゴ基地。

 

ここは「マッドドック隊」と呼ばれる凄腕のハウンドアーマー乗りが所属している北米屈指の攻撃基地であったはずだった。

 

 

「なんだ……これは……」

 

 

そこには攻めにくく、守りが硬いと評価されていた基地の面影などなく、辺り一面が炎と瓦礫に包まれた基地の残骸が映し出されていた。

 

その炎の中を闊歩する巨人の影。

 

それは、アタリア基地を襲撃した個体とは異なる……ボルトの特A型。

 

 

「同時多発の特A型による奇襲……」

 

 

その日、主要基地のほぼ全てに降り立ったボルトの特A型によって……人類は未曾有の窮地に立たされることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

BOLT BOX

カテゴリー〝♾〟

 

 Thunder King.

【BOLTERIGGER】

 

 

 

 

 

 



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新たなる戦い
CASE19.新たなる局面へ


 

 

 

 

【ついに彼女が動き出しました】

 

 

荒廃した大陸の中、待ちに待った通信が届いた。ハイパーゲートから現れたボルトが真っ先に攻めた「ユーラシア大陸」。

 

連邦政府の設立と、テンタクルブリッジ、軌道エレベーターによって差別や弾圧が無くなったとはいえ、万を超える他民族の血を引く者たちがひしめき、様々な思惑が交錯していた地が、巨大なユーラシア大陸の実情だった。

 

その地を、ボルトは焼け野原にした。

 

世界の覇権を握る資質を持った国も、長年地を治めてきた戦士の国も、抵抗という戦いをすることもなくボルトによって消滅させられた。

 

荒野と化した広大な土地。そこにはボルトの前哨基地……いや、もはやそこはボルトの生産拠点であった。

 

膨大な数のC型やB型を建造する施設が設けられ、そこで生み出されたモノたちは欧州や北米大陸へと向かう戦力として前線に供給され続ける。資源も土地も有するユーラシア大陸は、ボルトにとって第一優先にするには充分な理由を有していたのだ。

 

その拠点に届いた報告に、応じたモノは「嬉々とした感情」を示すデータを示す。

 

 

【では……計画も最終段階に入ったという訳だな】

 

 

ユーラシア大陸の占拠。欧州の占拠。そして大西洋を渡った先にある北米大陸への進撃。すでに地球の70%を手中に収めつつあるボルトは、今回の同時多発の奇襲作戦で、敵の司令部をほぼ壊滅させたに近い。

 

それでようやく、計画は大詰めを迎えたということだ。

 

 

【しかし……あの者はどうするつもりです?】

 

 

そう問いかける側に嘲笑する。これまで惨憺たる結果しか残せてこなかったわけだが、今日この日をもって……いや、彼女がそれを察して動きを見せた段階で、彼の失敗、経験、得たものに失ったもの。その全てに意味を持たせることができたと言えるだろう。

 

 

【あぁ……喜ばしいことではないか。計画における〝アバター〟。奴はその成功例としての意味も勝ち得た。ふむ、非常に興味深い。……今もなお、自らの存在を疑わずにいるのが尚のことな】

 

 

場面は暗転する。そこに映し出されていたのは北米大陸の各地に点在した地球軍の成れの果てだった。特A型の面目躍如……とでも言うべきか。単体であまりある力を前にすれば、これまで抵抗をしてきた者たちの行動も意味をなさない。有象無象との戦いは、これでようやく終わりを迎えられそうだ。

 

 

【それに、このままいけば……結局は我々も同じく……待つのは緩やかなる滅び。何もしないよりは幾分かマシであろう?荒療治というのも時には必要なことだ】

 

 

そう、まるで演目を鑑賞する〝観客〟のような他人事。そう言った先にいる通信相手……ノクロスは同意するように応える。

 

 

【彼らには頑張ってもらわないといけませんね】

 

【あぁ、どうせ滅ぶために懸命に命を輝かせる者たちだ。少しはそれを上向きにしても問題は無いだろう】

 

 

映し出される北米大陸を占拠した特A型の姿を見つめ、〝観客〟はそう言った。

 

……ニューブリテン島基地、カイルナ・コア基地。北米大陸ではサスカチュワン宇宙基地、サンディエゴ基地、ケベック宇宙港、ヒューストン前衛基地。

 

そしてシアトルの総司令部。

 

地球軍の「7つ拠点」を特A型で奇襲、占拠させた段階で、何百、何千、何万、何億と繰り返してきた「最終段階」の場が整った。

 

ようやくだ。

 

肝心の場にいなかった……相手のキングがようやく現れた。

 

 

【なぁに。私は仕事熱心なタチでね……君たちの選ぶ選択を楽しみにさせてもらうよ】

 

 

だから、うまく道を選びたまえよ。

 

この物語の主演たち。

 

 

 

 

 

 

 

 

「紳士淑女諸君。集まってくれてるな?フレデリック・スミスだ。残存する士官の中にいる階級の関係上、私が説明をすることになった。さて、知っての通り……地球軍は今や壊滅的な打撃を受けた」

 

 

ブリーフィングルームに入ってきたフレデリック・スミス少佐。

 

その後に続く南アタリア基地の司令官、ロイ・アレクサンダー。

 

この基地の司令官はロイであるが、彼は万年だらしないを体現したような人物。それに比べて少佐としての階級を持ち、最近まで前線にいたという関係上、フレデリックが表立って話し始めた。

 

デルベルト・ロッジ。

ジェイス・ディバイス。

カイ・ローベルト。

カレン・シュバイド。

 

以下、基地スタッフの面々たち。

 

待機を命じられていた彼らも私語をやめ、ブリーフィングルームに備わるメインモニターの前に立ったフレデリックの言葉に耳を傾けた。

 

 

「南アタリア基地から最も近いニューブリテン基地、ハワイ諸島のカイルア・コナ海上基地……北米大陸はもっと酷い」

 

 

モニターに表示されるのは太平洋を超えた先にある北米大陸。

 

その地図に表示された地球軍の軍事拠点の大半が赤い丸で塗りつぶされている。

 

 

「それぞれが地球軍の一大拠点であったが、その全てとの通信が途絶している。これが何を意味するかというと……状況は最悪ってことだな」

 

 

地球軍の総本山であるはずのシアトルを含め、北米大陸のほぼ全域がボルトの手中に落ちたことになる。それも、たった一夜にして……。デルベルトは顎先を人差し指と中指でさする。彼自身、過去に隊を全滅させられた経験を持っている。

 

ボルトの脅威は誰よりも目の当たりにしてきたし、特A型なんて昨日戦った相手を見れば……並のパイロットでは手も足も出る前にやられて終わる。

 

そんな戦力を有するボルトが北米を落としたと言われれば、どこか「その時がきたか」という感覚もあった。

 

 

「高高度監視ドローンでの映像も五時間前に途絶えた。よって今の我々に他基地がどうなっているかを知る術もない」

 

 

映し出されたのは、ニューブリテン島基地の五時間前の映像。

 

炎の海と化した基地の中に佇むボルト特有の機体シルエットが映っていた。この映像を見るだけでも、特A型による同時拠点襲撃は見事に成功したのだろう。

 

ふと、横に視線を向ける。

 

訓練生の中でずば抜けて優秀であるジェイス、彼の幼馴染であるカイは表情をあまり変えなかったが……彼らと競うように絡んでいるカレンは明らかに動揺していた。

 

彼女の家は軍人の名家。

 

父親は北米基地……サンディエゴ基地にいると聞いている。そこが特A型に奇襲を受けた。昨夜、その脅威と戦った経験から彼女が動揺するのも無理はなかった。

 

彼女の父、シアトルの司令部……その全ての状況を知る手立てすら、今の我々は持ち合わせていない。

 

つまり、命令を発する場所も、帰還する場所も無くなったのだ。

 

この南アタリア基地を除いて。

 

 

「さて、我々の今後の方針を説明するとしよう」

 

 

そう切り替えるようにフレデリックが言うと、火の海の画像を映し出していたメインモニターが暗転し、南アタリア基地を中心とした3次元化の広域マップを表示し始めた。

 

 

「まず我々が抱える大きな問題は物資不足だ。ニューブリテン基地から送られる定期便が不通になったわけだからな」

 

 

輸送船ルートに×印が表示される。

 

ニューブリテン基地は壊滅状態だ。そこから定期船で物資の補給を受けてきた南アタリア基地にとって、この現状は致命的とも言える。

 

フレデリックは、まず偵察ドローンを使ってニューブリテン基地の情報収集を実施。それと並行して、ロイ司令官経由で日本側の補給基地にも応援要請を出している。

 

 

「これに関しては……地下の通信網が無力化されなかったことだけが唯一の救いだな」

 

 

幸い、日本に在地する地球軍支部が通信に応じてくれた。

 

南アタリア基地から日本の沖縄に配置された支部までは、輸送機で二時間程度。日本自治区からの支援も受けられれば当面の兵站には不安がなくなるはずだ。

 

だが、ここで立て籠ったところで訪れるのは他拠点がされたような奇襲だろう。ハワイ諸島のカイルナ・コナ基地までだったら、まだ希望はあったかもしれないが、敵はニューブリテン島基地……ここから目と鼻の先まで迫っているのだ。

 

昨夜現れたノクロスと語る特A型が、この基地を占拠しにきた特A型の可能性もあるが……籠城したところで、昨夜のように奇襲を受ければあっという間に壊滅することになる。

 

となれば、やるべきことは一つ。

 

奇襲される前、まだ占拠して間も無く体制が整っていないであろうニューブリテン島基地の奪還だ……と言いたいところだが。

 

 

「昨夜の戦闘での状況確認だが……まず、護衛任務として執行部に同行したデルベルト・ロッジ率いる訓練隊のハウンド・アーマー、レイジングブル。現存機2機。脚部を切断された機体が1機。これは部品取り用に使用されることになる」

 

 

ニューブリテン基地からの返答がないことから、デルベルト率いる訓練部隊は引き続き南アタリア基地での護衛任務を継続する……という建前だ。

 

実際には護衛する対象が収束砲で吹き飛んでしまっているので、任務もへったくれもない。

 

フレデリックいわく、戦時特例というやつらしい。

 

デルベルト自身、敵戦力も状況も不明なニューブリテン基地に帰還するリスクを考えればこの基地に留まるほうがいいと考えているし、ジェイスやカイ、カレンも必然的にデルベルトの方針に従う形になった。

 

しかし、ジェイスが乗っていた機体は脚部を切断されて使用が困難となっている。南アタリア基地の整備士がイソダ班長の指揮のもと、機体の修復作業を行っているが……第二世代後期であり、ナノマシン投与パイロットが使用することを前提にした機体を、こんな僻地で修理するなんて不可能に等しかった。

 

 

「そしてレイジングブルを除き、デルベルトのエンフィールドが中破。リン・ターレンとダン・ムラクモのレイヴンアームズ、そして俺のアーマライトも大破していて使い物にならない。特にダン機とリン機が全損となっている」

 

 

つまり、今万全の状態で動かせる希望がある機体はレイジングブル2機と、デルベルトのエンフィールド程度なのだ。

 

たった三機のハウンドアーマーで敵が占拠したニューブリテン島基地を奪還するなど……荒唐無稽もいいところだ。

 

それに、南アタリア基地には〝他の問題もある〟。

 

 

「……ダン・ムラクモ中尉とレイラ・ストーム少尉が搭乗した機体についてだ」

 

 

この基地が抱える唯一の人型機かつ……地球軍の執行部が来るほどの爆弾。

 

ブリーフィングルームの端にいるダンは、なんとも言えない表情のままで……成り行きで乗り込んだレイラ・ストーム少尉は居心地が悪そうに、あたりに目を向けていた。

 

 

「機体名はボルガー。合体後の名称は……ボルテリガーとなるわけだが……」

 

 

なにせ情報がやばすぎる。

 

執行部に情報を出せと言われても「長年動いていなかった機体が突如として動きだし、その日に到着したムラクモ中尉を乗せて、ハイパーゲートから現れた三機のモジュールと合体してボルテリガーになりました」、と正直に並べた経緯が書かれた報告書にまとめて送ればいいのか頭を抱えるほど。

 

 

「ロイ司令官はボルガーについて何か知っていたのか?」

 

「ハッ……あの機体は5年前、ボルトがハイパーゲートを通って現れた時。この南アタリア基地に落ちてきた機体だったねぇ……」

 

 

急に話を振られて肩を揺らすロイを見てため息を吐いたフレデリックは、基地スタッフから渡されたデータを見つめる。

 

Unknown01。

 

当時のコードネームでそう呼ばれた機体は、その全てがボルト製の機体。

 

同時に地球軍が保有するハウンドアーマーの始祖となった機体でもあると語る。

 

すると、広域マップを映していたメインモニターが突如して明滅を始め、画面が真っ白になった。そして……。

 

 

【そこから先については、私から説明をさせていただきます】

 

 

 

滑らかな口調と女性らしい声がブリーフィングルームに響き渡った。

 

 

 

 



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CASE20.箱庭計画

 

 

勇者ロボ、雷王ボルテリガーあらわる!!

 

……の影響からか、原作の「ボルトボックス」よりだいぶ早くに特A型による同時多発奇襲作戦が決行されてしまったわけだが……。

 

本編のシナリオとしても、北米大陸はボルトの手に落ちているという展開から本編が始まるので、大筋には沿っているというこの皮肉である。

 

さて、プロローグの次はいよいよ本編。

 

ボルトボックスのストーリーモードは、多くの分岐ルートとエンディングが用意されている。

 

分岐要素は大きく分けると二つ。

 

それは主人公たちが南アタリア基地から、どのようにボルトを攻略するかのルートによって変容する。

 

一つ目はユーラシア大陸を横断してボルトの本拠地を潰すルート。

 

このルートは特A型に占拠されたユーラシア大陸が北米大陸への奇襲により防御力などの影響力が弱まっていると予測した主人公たちが、中国やロシア、中東を通り、仲間と物資、兵器を集めながらヨーロッパに根城を置くボルトの最大基地を叩くというものである。

 

二つ目は太平洋を渡って北米大陸の各拠点を奪還するルート。

 

ニューブリテン基地からハワイのカイルナ・コナ基地を奪還し、さらに北米大陸のサンディエゴ基地に上陸と……7つの拠点に座する特A型を順に倒し、地球軍の基地を解放、体制を整えてヨーロッパ方面に向かい最終決戦を迎えるというルートとなる。

 

前者はプレイヤーから「表ルート」と呼ばれ、宣伝トレーラーなどのプレイ動画は基本的にユーラシア横断ルートとなっている。

 

このルートはとにかくシナリオのボリュームも多く、中国やロシア系のヒロインや戦友たち、元覇権国家だった重鎮たちの策謀や裏切りなどが重なり合うという……複雑な人間模様を楽しみつつも、ボルトによって占領された中東基地やゲリラ、レジスタンスも巻き込んで挑む総力戦となっている。

 

表ルートではユーラシアで大暴れする主人公たちを迎え撃つために特A型もいくつか派遣され、その隙をついて地球軍も反撃を開始し、ユーラシア側と北米側からジワジワとボルトを追い詰めていくという展開となる。

 

もちろん、ヒロインや戦友の死という展開や、逆にヒロインたちを生き残らせる展開など、様々な分岐が用意されているため表ルートだけでも楽しめる要素は満載である。

 

そして後者である「裏ルート」。

 

通称RTA御用達ルートとも呼ばれていて、多分岐による表ルートのエンディングとは異なり、特A型との死闘、死闘、死闘が続くハイテンションバトルシナリオとなっている。

 

序盤からニューブリテン基地に鎮座する特A型との戦いからスタートとなるので、まずは表ルートをクリアして武装や機体を集めてからでないと挑んでもニューブリテン基地のボスで詰むことになる。

 

中には初期機体で踏破した猛者や防御を捨て火力で勝負という最強の紙飛行機戦術を展開して敵を倒す変態もいる。

 

基本的には表ルートをプレイ後に裏ルートを楽しむというのがボルトボックスであるのだが……。

 

 

「くっそ頭がいてぇ」

 

 

知らない天井だというありきたりな台詞を言う前に襲ってきた頭痛で思わず顔を顰めた。白いシーツから体を起こしてみるが、痛みは全く治らない。

 

酒は飲まないタチなのだが……二日酔いというのはこう言うことを言うのだろうか。とにかく何か名前をつけないとやってられないくらいに頭が痛い。おまけに気分も最悪!吐き気もだ!

 

昨日は南アタリア基地へ特A型襲来!そして始まる地球軍拠点への特A型による電撃奇襲作戦!

 

……というところまでは、意識がはっきりとしていたのだが、ボルテリガーがユニオン・アウトしてから気を失って倒れ込んできたレイラの頭突きをモロに喰らったことと、ハウンドアーマー搭乗時に墜落したダメージも相まって俺もボルガーのコクピットの中で意識を手放したのだった。

 

そして目が覚めると南アタリア基地の医務室ベッドの上である。

 

 

「隊長!目を覚ましましたか!?」

 

 

と、いきなり間仕切り用のカーテンが勢いよく開く。そこから体ごと入ってきたのは頭に包帯を巻いているリンだった。

 

 

「リン……あぁ、クソ。酷い頭痛だ」

 

「軍医が言うには一時的なものらしいです。お水飲まれますか?」

 

 

そう言って甲斐甲斐しく俺へ渡すコップへ水を注ぐリン……って、その水差しに視線を向けるとリンの左腕が硬いギブスに覆われてるのが見えた。いやいや、待って。明らかにリンの方が重傷じゃない?何平然と俺の看護しようとしてるの。

 

そういうとリンはコップを手渡してきながら、にこやかなにこう答えた。

 

 

「嫌だなぁ、隊長。大したことありませんよ」

 

 

と、そう言ったリンの頭をパンとファイルが叩く。彼女の後ろにいたのは南アタリア基地に所属する軍医だ。

 

 

「何が大したことないか。左腕骨折、肋骨2本骨折と1本ヒビ。脳震盪に各所に打撲……なぜそんなにピンピンしている」

 

「副隊長なので!」

 

「お願いだから安静にして」

 

 

そうお願いするとリンは渋々と言った様子で隣のベッドに腰を下ろした。この子ほんとに突拍子もないことをするからなぁ。

 

リンを副隊長にしてからも任務に連れ出していたが……いつからこんな猪突猛進娘になったのやら。

 

ちなみに、ダンの部下であり現在は少佐の地位にいるアーノルド・ゼストいわく。「隊長の近くにいるとネジを外さないとついて行けないので」と、「あの人は他人の頭のネジを無意識に外すのが上手いんですよ」と笑顔でインタビューに応じている。

 

リンがネジを外されたのは、彼の副隊長となって二回ほど任務に同行してから「あ、この人について行こうと思ったら振り切らなきゃ無理だ」と自覚してからだったりする。

 

 

「うう、うるさ……変な頭痛が……」

 

 

少し遅れて意識を取り戻したレイラも同じように頭痛に悩まされている様子であった。

 

軍医は採取した血液データや脳波カルテを見てから、心配するなと言葉をかけてくる。

 

 

「S.W.E.Sの影響だ。まぁ、ハウンドアーマーに長時間乗ってたり、新兵にはありがちな症状だな」

 

 

なんてことないと言う軍医。だが、疑問が湧いて出た。それはレイラも同じようで、戸惑ったような顔で尋ね直した。

 

 

「あのぉ……S.W.E.Sってナノマシンの影響で起こるものですよね?私、ナノマシン投与してないんですが……」

 

 

S.W.E.S……ソリッド・ウェーブ・エミュレータ・システム。

 

個人差はあるものの長時間ハウンドアーマーを操縦していると脳に過負荷が生じて症状が発生したりする。

 

症例としては頭痛やめまい、吐き気、三半規管の乱れや、自律神経の乱れなど。数時間療養すれば回復するが、初期の頃は廃人が爆誕すると言う例もあった。

 

もちろん、「ナノマシン投与」という前提条件で使用するシステムのため、ナノマシンを投与していない俺や、不適合であったレイラには無関係の話であり、頭痛やめまいもそれとは関係のないはずだが……。

 

 

「君たちの脳波を確認したところ、S.W.E.Sを使用したパイロット同じ結果が出てるんだ。間違いはないよ」

 

 

そんな馬鹿なと信じていなかった俺たちだが、軍医から見せられた脳波は確かに言う通りで、発症時のパイロット(ナノマシン投与済み)と同じ波形を示していた。

 

と言うことは……。

 

 

「ボルテリガーは……S.W.E.Sと同じシステムで運用されている?」

 

【概ね、それが正しい見解です】

 

 

うわぁっと声を上げたのはレイラだった。隣にいるリンがビクリと肩を上げるが……それもそうだろう。

 

いきなり自分とは異なる声質の誰かが、脳内から直接語りかけてきたらひっくり返りたくもなる。そしてなぜか俺にも聞こえるセレーナの声。

 

なぜ脳内の声がレイラとリンクしているのか……。

 

 

【貴方たちはボルテリガーに認められた数少ないパイロットだからです】

 

 

さらっと思考を読むセレーナさんに俺は思わず顔を顰める。

 

蘇ってくるボルテリガーでの戦闘シーン。

 

明らかに俺やレイラは「存在しない記憶」をもとにボルテリガーを操っていた感覚がある。

 

俺自身も、鉄杭拳など……技名を叫びながら攻撃をしていたことを思い出すと死にたくなるが、どうやらそれらも……今の体調不良と深い関係があるようだ。

 

 

【詳しい説明は致します。しかし……それよりも事態は深刻です】

 

 

そう重苦しい声色で言うセレーナ。すると医務室の扉が勢いよく開いた。

 

 

「目が覚めたか、二人とも」

 

 

そこに居たのは南アタリア基地の司令官を連れたフレッドだ。彼も戦闘で負傷したのか、腕に包帯を巻いているがリンよりは軽症そうであり、目を覚ました俺とリンを見て、ホッと一安心をした様子だった。

 

 

「起きて早々に悪いが事態は急を要するんでね。ブリーフィングルームに集まってほしい」

 

 

 

レイラは状況が飲み込めないままと言った様子。

 

俺はこれからどうなるのか……ボルテリガーとは何かという疑問を抱きながらも運ばれてきた軍服に着替えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ボルトボックス・プログラム。

通称、箱庭計画。

 

セレーナが語り出したのはそこからだった。

 

そもそもボルトと呼ばれる勢力は何を目的にハイパーゲートから現れて地球を侵攻し始めたのか?

 

それは、ボルトの出自に大きく関わっている。

 

前線維持のための機械兵であるC型や、後方援護を目的としたB型と違い、A型と特A型には機械生命体としての人格プログラムが備わっている。

 

ボルトという存在は、遠い世界で有機生命体が無機生命体となるべく生まれた存在であり、有機生命体の肉体を捨て、データとして人格が書き込まれた機械生命体が原点であった。

 

セレーナや、ノクロスも元は人格データが格納されたシー・スペースと呼ばれるデータバンクに存在した一つのデータだった。しかし、無機生命体になってから誰もが望んだものは有機生命体の肉体であった。

 

データとして保管されると言う〝死〟を超越した彼らは様々な時を経て旅を続け……あらゆる文明との邂逅を果たしてきた。

 

その結果、肉体を持つ意義と優位性を見出したボルトは〝死〟を超越した概念のまま、有機生命体の肉体を求めるようになった。

 

彼らはハイパーゲートによるワームホール技術を開発した人類に目をつけた。彼らの未発達な文明と、有機生命体として突出して優秀な現生人類の肉体を〝アバター〟として入手するために、ボルトは侵攻を開始したのだ。

 

箱庭計画は、ボルトが掲げる理想の最終段階に至る計画だ。

 

まず、現生人類の住む「地球」の制圧。

 

その次に現生人類の肉体を手に入れるための措置……ナノマシンを体内に注入する。

 

そして最後に、ビッグサーバーと、特A型による各地のネットワーク構築により……地球という星はボルトが有機生命体の肉体を得るための〝箱庭〟となる。

 

 

 

 

 

 

 

【彼らが貴方たちの重要拠点に同時多発的に侵攻を開始したということは……ボルト側の計画が早まったということになります】

 

 

基地の音声プログラムを介し、計画の概要を語り終えたセレーナの言葉に、その場に集まった全員が言葉を無くしていた。

 

ボルトの目的は、地球人類を滅ぼすということか?いいや、その逆。ボルトの特A型は、星を侵略、殲滅をすることを目的に開発されたものではない。

 

自律防衛型のネットワークの構築……それが特A型の本来の目的だった。

 

 

「ネットワークの構築?ボルトがやろうとしているのは世界中に通信回線を張り巡らせることなの?」

 

 

純粋なレイラからの疑問。わざわざ新たに敷設しなくとも地球にはいくつものネットワークが元から存在している。それを使えばいいのに、なぜわざわざ地球を制圧する必要があるのか。

 

 

【それだけなら現生人類のネットワークを奪取すれば問題ありません。しかし、ボルトが目的とするものには、現在この世界に確立された回線では〝不足〟しているんです】

 

「ボルトが、この世界でネットワークを構築しようとしている理由。現生人類の世界そのものを【箱庭】にするため」

 

 

ボルトの真の目的。

 

それは現生人類が住むこの地球そのものを作り替え、〝仮想現実〟を〝本物〟にすること。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。そんな荒唐無稽な話……」

 

【貴方達が第三世代と呼ぶハウンドアーマー。それを開発したトーラス研究所の所員……あるいは上層部の人間は、すでにボルト側にいます】

 

 

デルベルトの言葉に連ねるようにセレーナはそう答える。その言葉に顔色を青くしたのはジェイスやカイ、カレンであった。彼らや北米大陸で機体更新をした多くのパイロットには既にナノマシンが供給されている。

 

そして、ナノマシンによる機体運用の効率化を目指した地球軍の上層部にも少なからず……ボルトの手に落ちた裏切り者が存在しているのだ。

 

 

【特A型そのものがアクセスキー。そしてそのパイロットに必須とされるナノマシンも……】

 

「人類という肉体を「アバター」として運用するために開発されたもの……と言うことか」

 

 

フレデリックの言葉にその場がシンと、さらに静まり返った。どういう形でボルトが地球軍の上層部を掌握したか……いや、方法はいくらでもあろう。北米大陸の情勢は想像以上に劣勢だ。負け戦にボルトからの〝生命の保証〟でも提示されれば靡く者たちも少なからずいるのだろう。

 

そして何よりも……最大の被害者はナノマシンを体内に投与されたパイロットたちだ。カレンが震える声でセレーナに問う。

 

 

「つ、つまり……私たちはナノマシンがある限り……何なのかもわからないボルトに体を奪われる可能性があるということなの?」

 

【正確には元の人格は、経験というスキルを残して……完全に消滅します】

 

 

あくまで、ネットワークが完全に構築されればの話ですがとセレーナは付け加えるが、そんなもの慰めにもならなかった。

 

すでに特A型が地球軍の各拠点を抑えているのだ。このまま指を咥えて現状を見ている間に、ネットワークの構築が完了されて仕舞えば……地球は文字通り〝ボルトボックス〟にされてしまうということだ。

 

 

「それが、ボルトの目的なのか……クソが。この星はゲームの世界じゃないんだぞ……!!」

 

 

そう吐き捨てるフレデリックの言葉に、隣にいたダンはぐるぐると思考を回していた。

 

ボルトボックスというゲーム。

 

その世界におけるエンディングは特A型を全て破壊した上で、ユーラシア大陸に位置する敵の最終拠点、その奥にいる謎の敵を撃破した先に真のエンディングが用意されている。

 

まだモニターの向こう側にいたときのダンは、その真のエンディングを目にしていない。謎の敵を討ち、そのまま自分はこの「ボルトボックス」の世界へと迷い込んだのだ。

 

それに、セレーナが言った箱庭にダンは思い当たるものがあった。100対100のオンライン対戦ゲーム。なるほど、あれもまた〝アバター〟を使ってプレイヤーが遊ぶ要素だ。

 

それをそのまま当てはめればいい。アバターが〝ナノマシンを投与したキャラクター〟で、プレイヤーが〝ボルト〟であるということを。

 

だが、最大の疑問は残ったままだ。

 

 

「セレーナ、なぜ俺を……俺とレイラを、ボルガーに選ばれた者だと断言したんだ」

 

 

今まで黙って聞いていたダンは、その最大の疑問をセレーナにぶつける。

 

なぜ、「選ばれた存在」としてボルガーに招き入れたのか。どうやって俺を選んだのか。どうやってレイラを選んだのか。

 

特A型……ノクロスが言った。

 

 

【貴様らが立ちあがろうと、我々は貴様を倒し、破壊し尽くす。すでにもう始まった。貴様らの足掻き、どこまで通ずるか……試してみるがいい】

 

 

この言葉の意味はなんなのか。特A型がネットワークを構築する要だというなら、何も言わずにさっさとすればいい。

 

なぜ、今になって、ボルテリガーが現れたのか?

 

その疑問に、セレーナが言葉を溢したと同時。

 

南アタリア基地は凄まじい衝撃と揺れに見舞われた。

 

 

 

 

 



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CASE21.ボルガー、ごねる

 

 

 

「何事だ!?」

 

 

六階に位置するブリーフィングルームの揺れは凄まじかった。机は横に揺れ、座っている物でも椅子から転げ落ちてしまうほどだ。

 

体制を崩しながらもフレデリック少佐が大声で叫ぶ。

 

 

「奇襲です!!レーダー施設が稼働していません!!」

 

「なんだと!?」

 

「外部カメラを目視で確認!C型がいます!!」

 

 

ノイズが走るモニターを見る管制官がそう答える。締め切られた部屋のカーテンを開けると、南アタリア基地の沿岸部で火が上がっているのが見えた。

 

そして海岸線には無数の飛行物体が漂っている。

 

それらは円盤型のC型で、海からはゾロゾロと蜘蛛のような体躯を持つC型も上がってきつつあった。

 

敵が現れた方角はニューブリテン基地の方向。

 

おそらく特A型を撃退した情報から質ではなく量での殲滅を目論んだのだろう。

 

続々と基地へと向かってくるC型はハウンドアーマーや対防御施設でも充分に対処可能であるが、それは個体での話。

 

C型の脅威は群れで襲ってくることだ。

 

相手がまとまって行動を始めてしまえばその脅威度は一気に跳ね上がることになる。

 

 

「くそ、こんな時に……!」

 

「頼めるか、デルベルト」

 

 

そう毒づくデルベルトに、フレデリックが冷静な声でそう言った。

 

今現在、最も多くのハウンドアーマーを所持しているのはデルベルトが指揮を取るニューブリテン島の訓練小隊。

 

デルベルトはすぐさま応じ、揺れから立ち直った訓練小隊のメンバーを見渡した。

 

 

「訓練小隊はこれより南アタリア基地の護衛任務に着く。各員、搭乗機へ。ファイアリンクの起動をしろ!」

 

 

すぐに慌ただしく準備が始まった。

 

指示が出るや、デルベルトとジェイス、カイ、カレンは更衣室へと駆け込みパイロット用の外装スーツ「バイタルウェア」へと着替えてゆく。

 

第二世代後期以降のバイタルウェアは、ナノマシンを投与した肉体とハウンドアーマーの通信性を高めるスーツであり、背中には体内に注入されたナノマシンと同じものが内包されたチューブが走っている。

 

脳髄から背中にかけ、シートに備わる受容器とリンクすることにより、パイロットの脳はイメージをダイレクトにハウンドアーマーへと送り込むことが可能になるのだ。

 

 

「こんな形で実戦になるなんてな」

 

「……やるしかないわよ。こうなっちゃった以上は」

 

 

ロッカーを男女に分かれて挟む四人は通信を阻害する余計な衣服を全て脱ぎ去ってバイタルウェアに袖を通してゆく。

 

その間にも南アタリア基地は押し寄せるC型の迎撃に向けて作業が急ピッチで進められていた。

 

 

「対空砲を引っ張り出せ!敵を迎撃せよ!ボルガーのパイロット!!貴様たちにも働いてもらう。ついてきなさい」

 

 

そう指示を出してからフレデリックはダンとレイラを連れてブリーフィングルームを後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ我慢してよ〜お願いだからさ〜」

 

【断固拒否します】

 

 

南アタリア基地の倉庫に鎮座する機体、セレーナが宿るボルガーに交渉中の俺。

 

敵襲撃の報告を受けて、肉眼でボルトのC型編隊を確認。すぐさま動けるデルベルト、ジェイス、カイ、カレンのハウンドアーマーが出撃した訳だが……ボルガーの出撃が難航している。

 

理由は単純で……。

 

 

「中尉。あー……ボルガー嬢はなんて言ってるんだ?」

 

「ボルテリガーになれば不要の長物になるのでファイアリンクシステム諸々は必要ないの一点張りで……」

 

 

昨夜からイソダ班長が夜なべして拵えた外付け「ファイアリンクシステム」の搭載をセレーナが断固拒否の姿勢を示しているのだ。

 

ファイアリンクシステムは、文字通りハウンドアーマーの火器管制システムを示していて、基本武装が近接戦闘の「サンダーボルトナックル」と、防御技「グランドシールド」程度しかないボルガーの火力増強のために、南アタリア基地の倉庫に余っている試作武器などを載せれるよう取り付けたわけだが……。

 

ボルテリガーになれば破棄しなきゃいけない武器をなぜわざわざ装備する必要があるのですか?というセレーナ強気の抗議で搭載が難航している。

 

もう外ではジェイスたちがC型と戦ってるんですが何我儘言ってるんですかね!?まぁ主人公たる彼らがC型程度に沈むとは考えにくいけど、戦力は多いに越したことないんだからさ!!

 

説得を試みてる俺の後ろでは隈を作ったイソダ班長か死んだ目で帽子のツバに指をかけてわずかに上げ下げしている。

 

 

「たしかにあの合体をすりゃあ何とでもなるだろうがよ?もし、肝心な時にエネルギー切れとか起こしたら元も子もないだろうが……」

 

【その前に殲滅すれば問題ありません】

 

「脳筋すぎだろ」

 

 

ええい。思わず呟いてしまった一言に隣にいたイソダ班長が頭を抱えてしまったじゃないか。たしかにボルテリガーになればC型なんて吹けば消える程度の戦力かもしれないけど……戦場ってのは想定外が付き物。

 

高火力を有するボルテリガーの武装の裏側は、ガルダリア・エンジンのエネルギーが不足すれば使い物にならないと言う点だ。実戦経験は二回。しかもA型と特A型の戦いも短期決戦だ。C型やB型との長期戦になれば何も保証ができない以上、手札を増やして備える準備は必要不可欠だ。

 

そう説得するが、一向に搭載拒否をするボルガー。まったく、この聞かん坊め。問題は君だけじゃないんだから早く言うことを聞いてくれないか。

 

 

「良いから私に譲ってください」

 

「無茶言わないでください…!」

 

 

俺とイソダ班長の背後……というか、ついてきたフレッドたちの前で取っ組み合いをしてるリンとレイラの方がヤバさでいうと上回っている。同行してきたロイ司令官は「何やってんのアンタら」と呆れた目を向けていたが、それを言いたいのはこちらも同じです。

 

 

「リン、こらこらリン!何やってんの!お座り!!」

 

「隊長!!なんで私じゃダメなんですか!!私だってナノマシン無いですし、訓練機にすら乗れない彼女よりは実戦経験もあります!!」

 

 

それは君、ボルガーというかセレーナに拒否されたからね!俺とレイラがボルガーの元に来た段階で、「待ってましたよ、隊長!」とボルガーのコクピット前で待っていた時は目ん玉飛び出るかと思ったわ。取り付く島もなく【無理です】とセレーナに搭乗拒否をされて、医療室に帰るかと思ったらレイラに「お前!そこを変われ!」って挑んでくし。

 

あと君、自覚ないだろうけど重傷患者だからな?医務室の軍医がすごい顔して見てるからね?

 

 

「だいたい、訓練機すら満足に動かせない彼女が隊長と相乗りするなんて認められません!訓練機すら満足に動かせないのに!!」

 

「あー!二回言った!!人が気にしてることを!!気にしてることを!!」

 

「とりあえず落ち着け、馬鹿ども!外じゃもうデルベルトやジェイスが交戦開始してんだぞ!?」

 

 

収拾が無くなりつつある倉庫で、痺れを切らしたフレッドが怒声を上げるとようやくリンが不満たっぷりそうにレイラから離れる。……だいたい左腕骨折してるんだから無茶苦茶言うんじゃないっての。

 

 

「セレーナ。頼む。ファイアリンクはハウンドアーマーの連携上、欠かせないシステムだ。武装も信頼できるモノで出撃したい」

 

 

ボルテリガーの武装はどれもこれも殺意が高い武装ばかりだが……こちらとしては未体験のものばかりだ。

 

C型やB型程度に合体シークエンスをしていたらキリもないし……現行武装でどうにかできる範囲なら、信頼性のある武装でどうにかしたいんだよ。頼むよ、セレーナ。

 

そう頼み込むと、ボルガーのオレンジ色のカメラアイが点滅して応じてくれた。

 

 

【……承知しました。ですが、一つだけ条件があります】

 

「条件?」

 

 

外付けファイアリンクシステムの改善案だろうか?まぁ、ボルガー、ボルテリガー含め、武装選択が音声認識だったからな。手動操作での武器仕様には相応の変更点が求められるのも無理はな……。

 

 

【音声認識システムは譲りません】

 

 

てっめ、セレーナこの……!音声認識システムってことはアレか!?ボルテリガーみたいに武装使用時は叫べってことか!?ええ!?ふっざけんじゃねぇぞ!あれはボルテリガーの仕様を脳内に垂れ流しにされると同時に武装仕様だったから納得してはいたが……使用する俺からすればクソ恥ずかしいんだぞ!?

 

イソダ班長も!そんな音声認識なんて急に言われても対応なんて「よぉし、わかった!起動コードは〝ボルテリックシューター〟とかでいいな!?」【ボルティックシューターでお願いします】

 

 

班長ぉおおおおおおおお!!!!!

 

 

「言い合いしてる場合ですか!隊長もさっさと出撃してください!」

 

 

フレッド!お前!マジで帰ってからお前のアーマライトの武装も音声認識型に変えてやるからな!!!!!

 

 

 

 

 



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CASE22.Coast battlefield(1)

 

 

ハウンドアーマー。

 

人類が開発した対ボルトに使用される人型機動兵器であるソレの運用は、基本的に小隊での運用が前提とされている。

 

既存兵器から見たハウンドアーマー兵器群は、その機動力と携行火力からして最高位に位置する性能を有しているが、ボルトが相手となると話は違う。

 

地球軍が有する既存兵器のことごとくを退けたボルトの圧倒的な科学力を前にして、ハウンドアーマー単騎での戦闘力には限界があるのだ。よって、本機は四機またはそれ以上での運用を主として、数による連携と戦略でボルトとの戦闘バランスを確立させていたのだ。

 

 

「リーダーより各機、これより湾岸部へ侵入したC型を撃破する!」

 

「01、ファイアリンク同期。いつでもいけます」

 

「02、準備よし」

 

「03、こちらもいつでもいけるわ」

 

 

それは、デルベルト・ロッジが率いる訓練小隊でも変わりはしない。リーダー機であるデルベルトのHA-11 エンフィールドを司令塔とし、第二世代後期型であるHA-16A レイジングブル三機が続く。

 

レイジングブルは、近年トーラス研究所が開発した完全ナノマシン制御を搭載した機体であり、これまでのハウンドアーマー兵器群の集大成とも言える。

 

駆動部にはトーラス研究所が開発した電磁フィールドモーターが採用されており、モーターとマグネット減速機で駆動する従来機より遥かに素早いレスポンスを発揮できる。

 

加えて、機体フレームも既存の合金からソリッドカーボン材と組み合わせ複合材質としたデュアルカーボン合金が使用されているため、機体荷重も大幅に軽減しつつも、粘りのある材質と高剛性、対荷重性にも優れている。レイヴンアームズなどの武装とも互換性を持てる汎用性も手にしたことで、従来機で堅牢性が売りだったレイヴンアームズや、身軽さを追求し遊撃手としても優秀だったエンフィールドなどの機体特性を単独で確立している。これにより、一機で前衛、後衛、遊撃と様々な局面で対応可能なマルチロール機として広く普及されることになったのだ。

 

訓練小隊の駆るレイジングブルにも、三機とも違った特性を有している。

 

中近距離を得意とするジェイス・ディバイスは近接戦闘用のMMXを装備、アサルトマシンガンと背面にはショットランチャー、短距離ミサイルポッドを装備している。

 

後衛、支援を得意とするカイ・ローベルトの機体は狙撃用ライフル、腕部グレネードランチャー、スモークディスチャージャー、キャノンショット砲が備わっている。

 

遊撃手として動き回ることを得意とするカレン・シュバイドは、両手にアサルトマシンガン、背部にミサイルポッドと敵の捕捉から逃れるためのフレアが装備されている。

 

このように、レイジングブルは装備と機体出力の調整で様々な運用が可能となっているのだ。

 

 

「よし、全員訓練通りにするんだぞ。特に03。お前は無茶をするなよ」

 

「わかってます……よっと!」

 

 

遊撃手として前に立つデルベルトのエンフィールドに続く形で、カレンも湾岸部から南アタリア基地へと侵攻してくるC型の迎撃に入った。カイは手はず通りに高台に陣取って後衛に。

 

デルベルトとカレンが引っ掻き回し、隊列が乱れたところにジェイス機が突っ込み接近戦で敵を確実に仕留めてゆく。

 

 

「ハウンドアーマー隊、交戦開始!」

 

「数だけ揃えても、このレイジングブルなら!」

 

 

デルベルト機よりも遥かにいい動きをするカレンのレイジングブル。左右へ機体をスライドさせながら、C型から放たれるミサイルやキャノン砲を躱し、逆に両手のアサルトマシンガンを叩き込んでいった。

 

動きを良くしているのは、カレンの体内に投与されたナノマシンによる影響。レイジングブルもナノマシンによる機体制御の簡易化によって複雑な操縦過程を無視してダイレクトな操作感を手にした機体だ。

 

画期的だと、誰もが言った。

 

感覚的に操作できるレイジングブルは傑作機だと。

 

それが若い兵の間に広く普及した。

 

ナノマシン適性があったパイロットは次々と機体を乗り換えていった。

 

そして、誰もが……上層部の推進するがままに、ナノマシンの投与を受け入れていった。

 

 

…………。

 

 

 

〝特A型そのものがアクセスキー。そしてそのパイロットに必須とされるナノマシンも……〟

 

〝人類という肉体を「アバター」として運用するために開発されたもの……と言うことか〟

 

〝つ、つまり……私たちはナノマシンがある限り……何なのかもわからないボルトに体を奪われる可能性があるということなの?〟

 

〝正確には元の人格は、経験というスキルを残して……完全に消滅します〟

 

 

先程、ブリーフィングルームで聞いたことがカレンの脳内でフラッシュバックする。もし、あの声の主の言ったことが事実なら……ボルトに乗っ取られた上層部の思惑にまんまと引っかかり、ナノマシンを投与した自分達は……いつかは……消えて、なくなってしまうのか。

 

 

「今は余計なことは考えない……!」

 

 

そんなことを考える余裕がどこにある。カレンはそう自分を叱咤した。目の前にいるC型の数は一向に減らない。たしかに撃破しているが……敵の数が圧倒的すぎる。

 

 

「囲まれるな!奴らは数で押してくる!二人1組で対処しろ!」

 

 

デルベルトの声がバイタルスーツのヘルメットに響く。わかっている。わかっている!最初はなんともなかったのに、どんどん心が苦しくなってくる。軽快な動きをしていて、C型はついてこれていないのに……嫌な予感がどんどん増している。背中に張り付く冷たい何かがどんどん這い上がってくる。

 

訓練所の座学で見たハウンドアーマーの残骸の資料。四肢をもがれ、頭部を潰され、コクピットを潰され……パイロットが人じゃない何かになっていた写真。

 

C型に襲われた者の末路は悲惨だ。そんな話をずっと聞いてきた。そうならないように訓練はしてきた。いざというときでも戦えるように。あんな……あんな……人として終わることすらできない死を迎えないために。

 

 

「03!背後にいるぞ!」

 

 

ジェイスの声にハッとする。カレンの視線がナノマシンを介して、レイジングブルに伝わる。そこには味方の残骸を踏みつけて高度を取った蜘蛛型のC型が、足を広げてカレンに飛びかかろうとしていた。

 

まずい……!咄嗟にフットペダルを踏み込み高度を取ろうとするが、飛びかかってきたC型の一撃が不運にも脚部に命中する。一瞬、僅かに姿勢を崩されたカレン機に、次なるC型がトドメと飛びかかる。

 

ジェイスの声が聞こえる。カイや、デルベルトの声も。しかし、それよりも今のカレンの心には、たしかな恐怖が渦巻いていた。

 

 

「こんな奴らなんてぇええ!!」

 

 

カレンは悲鳴に似た絶叫とアサルトマシンガンの銃口を構え……。

 

 

 

【はぁあああ!ボルティックゥシュゥータァアアーーー!!】

 

 

引き金を引く前に、飛びかかろうとしていたC型の胴体が穿たれ、空中でバラバラになった。途端、カレンの周りにいたC型や、デルベルトが相手にしていたC型にも同じく弾頭が突き刺さり、爆発する以前に体がバラバラになって吹き飛んでゆく。

 

激しく息を乱すカレンが見上げた先。

 

そこには、純白の機体が空を舞っていた。

 

 

 

 

 

 

「ハウンドアーマー隊!こちらボルガー!これよりボルト迎撃に参加する!」

 

 

なんとか倉庫から出撃した俺は、湾岸部で交戦しているデルベルト率いる訓練隊に合流できた。C型が何機もいて、その数機が動きが鈍くなりつつあったカレン機に襲い掛かろうとしていたが……ギリギリで差し込むことができたようだ。

 

ふと、モニターの端。海で何かが光る様子が見えた。

 

 

「ムラクモ中尉!」

 

【させるか!グランドシールド!】

 

 

タンデムシートで周囲の索敵、ファイアリンクの制御を担うレイラの声と同時。俺は〝音声認識〟で起動するボルガーの防御壁を展開。一瞬の間があって飛来したのは、海……おそらく沖合あたりにいる後方支援機、B型から発射された収束砲だった。

 

普通なら防ぐことのできない収束砲だが、ボルガーのグランドシールドを使えば対応できることは、レイラが一人で乗っていた時に立証済みである。

 

しかし、完全な防御力は未知数のため使用頻度は控えねばなるまい。飛来した収束砲は斜めに構えたシールドの上を滑るように逸れて、拡散して上空へと打ち上がり消えてゆく。

 

ここで俺の素直な感想を言わせてほしい。

 

 

「なぁ、武装使う時だけ広域通信にする必要あるのか!?クッソ恥ずかしいんだけど!?」

 

「セレーナさんの機体設定ですからね!」

 

「だったらレイラが代わりにやってくれ!」

 

「……私はファイアリンクの補助という大事な仕事がありますから」

 

「おうそうか。なら戦闘機動しても文句言うなよ!!」

 

「ボルテリガーに乗った私なら大丈……じゃないァアーい!!」

 

 

ア゛ーーって機体に掛かる横Gに奇声をあげるレイラだが知ったことではない。是非とも耐えてくれたまえ。ボルガーの機動性は以前も経験したが、並のハウンドアーマーなんか比べ物にならないくらいレスポンスがいい。

 

これはゲームで出てきた第三世代型ハウンドアーマーといい勝負できるぞ。襲いかかってくるC型をボルティックシューター……もとい、試作ロックライフルで撃ち抜き、その残骸を足場にして機体をぐるりと反転させる。ウッとレイラのうめき声が聞こえた。

 

 

【数だけ揃えたところで!ボルガーミサイル!!】

 

 

逆さまになった状態でロックオンしたターゲットへ背面に備わるミサイルポッドを放つ。雨のように降り注ぐ15発のミサイル斉射は地面に群がっていたC型に次々と突き刺さっていった。

 

そして爆風と破砕力で空き地に立った場所に横回転しながら着地し、反動で次の戦闘機動へと移行する。この時、常に左右にGが掛かっているのでかなりキツい。

 

レイラは高速回転するコーヒーカップに乗ってるやつの様に左右に振られてながらもしっかりと自分の仕事をこなしていた。うん、リンに啖呵きったんだからそれくらいしてもらわないと困るな!Gによる視界不良に慣れることがインフィニティランカーの入り口の一つだぞ!

 

 

【こうやって戦うのもいいですね、ダン・ムラクモ】

 

「お前味しめたわけじゃねぇよな!?」

 

 

セレーナさん!恍惚としたような声で言うんじゃありませんよ!そう答えながらも俺はC型を足場にして再び空戦へと移行してゆく。もちろん、沖合から打ってくるB型の対処も忘れない。

 

その戦闘風景を見せつけられたカレンは、ボソリと一言呟いた。

 

 

「ねぇ、アイツだけ世界観違うくない?」

 

「シッ!それは言っちゃいけない!それにしても音声認識か……ジェイスはどう?」

 

「……みゅんみゅん銃」

 

「おい、なんか言ってるわよ」

 

「お前ら頼むから緊張感持って戦ってくれない!?」

 

 

もうあいつ一人でいいんじゃないかな、的な空気感もある中、C型を撃破するデルベルトの悲痛な声が響いた時だった。

 

 

【……!?全機!緊急回避!!】

 

 

背筋にゾワリと何かが走った。俺の声にすぐ全員が反応すると、いくつもの光の帯がジェイスやカレンたちがいたところを通過してゆく。

 

その光はショートスパンで放たれた収束砲そのものだった。すぐさま光が放たれた先に視線を向ける。そこにはこの状況で最もいてほしくない存在がいた。

 

 

「ゲェー!?亜種B型!!!」

 

 

亜種B型。またはゲテモノB。

 

収束砲を連射してくるそれは、初見殺し、空戦指導先生、私は許そうだが収束砲が許すかな?と、モニター前でゲームをしていた時にプレイヤーから散々な呼び方をされていた……B型のハイエンドモデルであった。

 

 

 

 

 



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