異邦の男とクソ親父 (舞波@現在進行形ゴールデン)
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異邦の男、遠い宇宙(ソラ)にて

思いついたアイデアをぐだぐだ書いてみました。
何でも許せる人だけどうぞ。


 

 

 

「また親子喧嘩か?デリング」

 

「…ああ」

 

 

そう話を振った男は茶髪の天然パーマで、話を振られた男は壮年の威厳ある容姿だ。実際、壮年の男は傍目には分からない程僅かではあるが疲れた顔をしていた。尚、これが普段の顔との差が分かるのは天然パーマの男だけである。

 

 

2人の男が話す場所は総裁室。来客用の1人用ソファーに対面する形で座って語らう2人の他には誰もいない。

その理由は壮年の男がこの部屋の主であり巨大企業複合体「ベネリットグループ」総裁兼監査組織カテドラル統括代表、デリング・レンブランであるからだ。

本来ならばSPに常に護衛される立場なのだが、デリング本人が『この場では必要ない』と言い切ってしまった為に、今SP達は部屋の外でさながら門番のように構えている。

無論、内外共に『敵』が多い以上、警備上の問題があるとそれなりの人間の反対があったのだが、独裁者であるデリングがそれを跳ね除けるのは当然の事だった。

 

 

「そう疲れた顔をするなら一度時間を作って本音をぶつけあえと何度も言ってるんだがな」

 

「使える時間は無い。それにお前程目が良い人間は他にいない以上誰も気づかん」

 

「まあ彼女も呼んで来るかといえば怪しいところではあるが…そういう意味では独裁者として振る舞い続けるのも大変だな。俺には出来る気がしない」

 

「…だろうな。想像もつかん。お前がそう振る舞えるような人間なら今こうして語る事など有り得ん」

 

「それはそうだな…全く上手く『独裁者』を利用する。もう少し娘の為に使ってやれよ」

 

 

そこまで言って男はチラリと時計を見る。時計はこの毒にも薬にもならない雑談をするこの時間が終わる事を告げていた。

 

 

「そろそろ時間だな。俺も開発中のMSとMAを放っておく訳にもいかない」

 

「ああ…良い報告を待つとしよう」

 

「俺も彼女との事について良い話を聞ければ良いがな」

 

 

互いに薄らと笑みを浮かべ、男は席を立った。無言のまま部屋を出るのを見てデリングもまた執務机に戻る。無機質な機械音と共に開いたドアを通って総裁室を出た。

男はSP達が自分を見る目に疑惑の色がある事を認識しつつも、何でもないように振る舞いその場から去った。

 

 

「入れ」

 

 

デリングの一言でSP達は警護をする上での定位置へと戻る。これがここ最近のデリングの日常である。…本人は知る由もないが、男との語らいの時間を時々作ってから纏う雰囲気が少し変わった、というのはグループ内の人間の間で専らの噂だ。

 

 

 

 

 

去った男は様々な種類のMSが並ぶドックに向かっていた。中に入れば今も数多くの技術者達が忙しく動き回っている。一先ず戻ってきた事を伝える為に近くの作業員に声をかけた。

 

 

「おつかれ。現状での進み具合はどうかな?」

 

「あっ、おつかれさまです!現状は進歩良好です!」

 

「それは良い。僕もすぐに作業に戻る」

 

 

そう言って男は建造中のツインアイに2本のアンテナが特徴的な機体に眼を向けた。その隣には建機を思わせるガッシリとした重機のような機体もある。

 

 

「いよいよ、ですね…!」

 

「ああ。GUNDフォーマットがかつて掲げた人の身体の拡張としての機能…それを成す純然たる作業機械として作られたMAの完成は、進化をしていく中でMSのそれとは違う答えになる。…これが兵器の道へと進まない事を願うよ」

 

「きっと進みませんよ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アムロさん!」




続くかは未定。もし次絡むならお嬢様かな?


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アムロとお嬢様

前話をお読みいただきありがとうございます。



無事書けましたので続きをどうぞ。


 

 

「…なによ」

 

「いや?相変わらず立派な温室だと思っただけさ」

 

 

棘を感じさせる態度の少女はミオリネ・レンブラン。ここは彼女の為の温室であり、そこにやって来たアムロに対してジットリとした目を向けた。

 

 

「また来たわけ?ホント、何度も何度もよくやるわねあんた」

 

「生憎気難しい友人を持ってしまったからな」

 

「…そ。だったら早く帰ってくれる?クソ親父には変わりないって言っといて」

 

「様子を見に来たと言えばそうだが…デリングから君が来年からアスティカシアに入学すると聞いた」

 

あからさまに不機嫌そうな顔をしながらミオリネは答える。

 

「ああアレ?あんの過干渉クソ親父、自分が理事してる学園に入れた挙句決闘制度導入して1番強いやつを私の婚約者にするっていきなり言い出して………アンタなら知ってるか」

 

「ああ。君の結婚相手をどうするつもりなのか決めてるのか、と聞いたらそう答えられた。…まさか決闘制度を導入して決めるとは想像もつかなかったが」

 

「その口ぶりだと婚約者を決められるのは当たり前みたいに聞こえるけど?」

 

「人は生まれで何もかもが決まる事など無いが、生まれを変える事は出来ないからな。まして君は御令嬢だ」

 

「嫌になるわ…好きでこんな立場に生まれたワケじゃないってのに」

 

「それについては仕方ないと割り切る他ないな。それなりの『責任』がある立場に生まれた以上は」

 

「そんなもの無いわよ」

 

「君がこの温室で野菜を育てているのも、君が育ってこうして生きているのも。形は歪でもデリングの庇護下にあったからだ。立場のある親の元で育った以上、少なからず成さなければならない事はある」

 

「はっ!そういうやつを見た事でもあるのかしら?」

 

 

この言葉にアムロは少し目を瞑った。脳裏に浮かぶのは自分の生まれ故に他人から人生を狂わされ、1人の少女の影を追い続け、自分と戦う為だけに世直しの看板を掲げて戦争を起こし、最後は道連れ同然だった赤い男を…

 

 

「ああ、そうだ。知っている。君には奴のようにはなってほしくないし…そうだな、君に言葉をかける時は少なからず奴の事を意識していたかもしれない」

 

「…初めて見たわ、アンタのそんな顔。お人好しのアンタにそんな顔させるなんて相当面倒くさいやつだったのね」

 

「ナイーブと言ってやってくれ」

 

 

とことん不思議な男だ、ミオリネは思う。この男がこのベネリットグループに来たのは約一年程前の話だ。宇宙地球問わず大々的に報道された謎のオーロラ現象、その中心に突如として現れた謎のMSとそのパイロット。無論、すぐさま捕まったが、どういう訳かドミニコス隊との実戦形式での模擬戦を行う事になり、そこで『圧倒的な勝利』をした事で父が無理矢理作った『秘匿試作MS開発研究員兼テストパイロット』のポストに就き今に至る。

 

それからは父に言われたのか時々自分の元にやって来ては他愛も無い話をして、愚痴を吐いて…と、実際のところ結構甘えてしまっている自覚もある。もしも兄がいたらこんな感じなのだろうか、と最初こそ思ったのだが…少し考えてみれば、アムロのような大人が自分の周りにいないと気づいた。

 

アムロには周りの大人達の硬すぎる雰囲気や隠しているつもりだろうドロドロと汚れたそれを感じないのである。自分に負けず劣らず特殊な立ち位置にいるくせに、アムロは『普通』の人間だった。

 

 

「ま、そんな奴はどうでもいいけど。どうせ入学した所で浮くだけよ。…ろくに友達なんて作れる筈ないし…」

 

「そうかな?例え同じ趣味趣向を持たなくても、立場が違っても友人になる事は出来るさ」

 

「それに友好関係なんて縛ってくるでしょ」

 

「その事については『私にバレないようにやれ』だそうだ。意訳するなら余計な事にならなければ好きにしろ、かな」

 

「…………」

 

 

アムロが来てから父は変わった。今までどんな罵倒をぶつけた所で立板に水だったのに憎まれ口の一つでもぶつければ何というか…微妙な顔をするようになった。正直それを初めて見た時は目を疑ったものだが、それをきっかけに徐々に親子関係が変わりつつある。

 

 

「…それこそ立場が許さないっての」

 

「まあ、そこは俺もフォローはするさ。それに恐らくだが、決闘で君を勝ち取った人物には道化を演じさせるつもりだろう。デリングなら後で幾らでも引っ繰り返せる」

 

「…安心…していいのかしら、それ」

 

「…良いんじゃないか?」

 

「簡単に想像できる辺りやっぱりあいつダブスタクソ親父よ…っていうか」

 

「なんだ?」

 

「今さらっとフォローするって言ったけど、どういう意味よ」

 

「…そういえば言ってなかったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君の在学中は俺もアスティカシアに教官として赴任する事になった。向こうでもよろしく頼むよ」

 

 

やっぱり過干渉クソ親父だ、あのバカ親父!

 




本編のストックが5話しかないからまだ1話まで辿り着きません。というかガンダムの小説なのにMS戦がまだ無いとか…


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呪いを塗り潰す

説明回のような過去回のような何かです。解釈違いがあったらごめんなさい。


事の発端は突如として発生したオーロラ現象だった。しかも発生したのは地球ではなく宇宙空間であり、今では根も葉もない考察という名の議論が巻き起こっている。

そして調査隊が発見したのが謎のMSだった。MS絡みの事であった為に機体はベネリットグループが引き取る事になったのだが、従来のMSと比べても頭一つ大きいその機体はベネリットグループ企業の製品と比べても類似した点が無い。4本のブレードアンテナにシンプルなその形状は何処か神々しさを感じさせるものであった。

だが更なる事態が起こる。コックピットから現れた男は外傷も無く生存していて、尋問官に意味不明な話をするのだ。

 

「…やはり、地球連邦軍は存在しないのか…」

 

「お前は先程から何を言っている?」

 

「…信じられないだろうが、俺はこの世界の出身ではない」

 

「それを信じられるとでも?」

 

「俺の戸籍も所属も存在しない筈だ」

 

「何?おい、お前名前は?」

 

「アムロ・レイ。地球連邦宇宙軍独立機動艦隊『ロンド・ベル』のMS部隊長で、階級は大尉だ」

 

「…わかった」

 

 

尋問官は内線をかけ一連の流れを伝えた後、アムロの事について裏付けをするよう命じた。

 

 

「軍人だったのか」

 

「ああ。敵との最終決戦が終わったと思ったらこれだ」

 

「俄には信じられん。まるでアニメーションの展開だ」

 

「自分でもそう思うよ」

 

 

約5分後。内線からの連絡が入る。

 

 

「…お前が言った通り、戸籍も所属も見つからなかったそうだ」

 

「やはりか」

 

「…どうしたものか」

 

「…困らせてしまっているな。すまない」

 

「謝る事ではない。私もこの手の仕事をして長い、お前が悪意を持って芝居を打っている訳でも、ましてや狂っている訳でもないのは分かる」

 

 

再び内線が鳴り、尋問官はその連絡の内容に驚愕する。

 

 

「なに…!そうか、すぐに連れて向かう」

 

「どうしたんだ?」

 

「総裁…このベネリットグループ総裁のデリング・レンブラン様がお呼びだ、一緒に来てもらおう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「入れ」

 

「件のMSパイロット、連行致しました」

 

 

アムロが連れて行かれた広い部屋には厳格な雰囲気を纏う男が一人。この男がデリング・レンブラン…総裁なのだろうと察した。

 

 

「ボディチェックは済ませているな?」

 

「はっ!武器等の危険物を所持していないのは確認済みです」

 

「…よし。ならばその男を置いて退室しろ。護衛もいらん」

 

「はっ…?御言葉ですが流石に捕虜と2人きりにするのは」

 

「私の命令が聞けないのか?」

 

「…失礼致しました」

 

 

尋問官の男は足早に退出した。残るのはアムロとデリングだけ。

 

 

「座れ」

 

 

妙に綺麗な来客用のソファーに移動してアムロに座るよう促す。アムロとしてはここで断る選択肢は無いので対面する形で大人しくソファーに腰掛けた。

 

 

「…さて、貴様の話は聞いた。別の世界の出身だそうだな?」

 

「信じられないだろうが、此方としてはそう言う他ないな」

 

「無論、信じられる筈は無い。だが貴様の語った中で唯一信用できるのは貴様がMSパイロットだという事だ」

 

「…まあνガンダムがある以上は、な」

 

「…何?」

 

 

微妙な変化ではあるがデリングの表情が固くなるのが分かった。

 

「何か?」

 

「ガンダムだと?」

 

「ああ。あの機体はνガンダムだ。…もしかしてこの世界にもガンダムがあるのか?」

 

「存在する。だが私が根絶した」

 

「根絶とは穏やかではないな。たかがMSだろう?」

 

「いや、あれは呪いだ」

 

「呪い?」

 

「乗った者の命を吸い尽くして殺し続ける機械など呪いだ。人が人を殺す事があれど、殺した上で使用者すら殺す機械に何の価値がある?何の意味がある?人を燃料にして動く機械が戦うのが戦争だとでもいうのか」

 

「…成程…、そうだな、そんな物はあってはならないな…」

 

「…まさか」

 

「似た様な物なら向こうにもあった。…俺のνガンダムにもそれが発展したものが搭載されている」

 

「同じ過ちをしたのか」

 

「搭載されているそれはサイコフレームというのだが、アレ自体はさほど危険な物ではないし素材としても非常に優秀なものだ。それにニュータイプが乗らなければ…」

 

「ニュータイプ?新しい形…それが貴様だとでも?」

 

「…一応はそう呼ばれた事があるというだけさ。ニュータイプのみが使える兵器もあるがな。別にそれ自体は大して問題じゃない。…ただその強み故に人を無理矢理ニュータイプとして運用しようとした非道な実験があった。過ちと言うならそれだろう」

 

「…此方のガンダムはGUNDフォーマットを搭載したMSの総称だ」

 

「GUNDフォーマット?」

 

「鉱物であるパーメットを媒介とした身体拡張技術GUND…それをMSに流用した技術だ。簡単に言えばより複雑かつ緻密な制御が可能になった義肢の様な物だと思え」

 

「流用…とはまさか、MSを直接接続して操作する技術という事か?」

 

「そうだ」

 

「危険過ぎる。ニュータイプが乗る機体でも直接身体に接続などしなかった。それにそのGUNDは元は義肢の為の技術なのだろう?MSの操縦とはスケールが違い過ぎる」

 

「その通り。結果、接続によって身体に流入するパーメットとデータストームによって廃人になる者が相次いだ。故に私はガンダムを否定し消し去った」

 

「……………」

 

「…長々と話してきたが本題だ。あのMSに使われている技術は此方のそれとは似て非なるものだ。貴様が生きていく上で衣食住は必要だろう?それを此方で提供する対価としてあのMSの技術と貴様のパイロットとしての力を寄越せ」

 

「…構わない。このまま宇宙に放り出されると思っていた身としては有り難い話だ」

 

 

少しだけ目を伏せデリングは質問する。

 

 

「軍人として貴様はMSはどうあるべきだと考えている?」

 

「兵器であるならそれ以外になってはならないと考えている。ましてや象徴になんてなるもんじゃない。ただその代わりに、MSの汎用性を戦争以外の場所に流用出来ないかとも考えた事がある。MSなら出来た作業にMSを使わないならば、代わりの答えがいる」

 

「フン…ならば決まりだ

 

 

 

 

 

 

 

貴様のガンダムをもってGUND-ARMを塗り潰す。精々励め」

 

「やるからにはベストを尽くそう」

 

 

こうして、独裁者と流星の契約は始まったのだ。




次回は…開発された物について、ですかね。


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塗り潰す為のGUNDAM

第6話の衝撃展開てんこ盛り具合を見て、やっぱりクソ親父サイドで始めて正解だったな、と思ったり。




ベネリット社、開発ドック。アムロとνガンダムによってもたらされた技術によって開発されていた機体は試作号機のテストも完了し、現在はその量産モデルが開発進行中だ。

また、同時進行で工業機械としてMAが開発されている。此方も現在量産に向けた改良が続いている。

 

 

「お疲れ様ですな。アムロさん」

 

「お疲れハヤト。MAの方ももう少しだな」

 

 

アムロとやり取りする中年の男の名はハヤト・イチジョウ。この開発ドックを仕切るドック長である。

 

 

「あ、聞きましたよ。アスティカシアに赴任するんだそうで?」

 

「一応教官としてだが本職には劣るし、実際はミオリネのお目付け役だな。まあストレス解消に付き合ってやれ、という言外のお達しだが」

 

「持っていく機体の件は聞きましたかい?」

 

「特別にチューンしたデミトレーナーか、Gの試作量産型じゃないのか?」

 

「いやそれが『ゼロワン』にしろとデリング総裁から直々に命令が来まして」

 

「『ゼロワン』をか⁉︎あれはとてもじゃないが教導に使える機体じゃないぞ」

 

「勿論承知の上でしょうな。それに必要になるかも、というなら尚の事で…」

 

「…ミオリネの身柄を強硬策で奪いに来る輩か。恨みか、金か。何方にせよ針の筵は避けられないか…」

 

 

言うまでもないが独裁者であるデリングの周りに彼を恨み妬む者は非常に多い。ミオリネに護衛が付くのも当然の事であるのだが、学校とは小社会かつ閉鎖空間である。まして将来家を継ぐか関連企業で働く生徒達が殆どである以上、未来社会の尺図でもある。

 

 

「MSすら駆り出す輩がいないとも限りませんからな。ならばアムロさんの要求水準を満たした『ゼロワン』を、という事でしょう」

 

「そういう事が起こるかもしれないと考えた事はあったからな…命令である以上従う他はないし、喜ぶべきことかもな」

 

「それまでに量産モデルの方もカタをつけたい所ですな」

 

「MAは量産モデルも含めて完成したから、暫くはそちらに注力する事になるだろう」

 

 

MA(モビルアーマー)。既存のMC(モビルクラフト)とは異なり、兵器然とした頑強性、精密な動作、そして対磁場コーティングを施された宇宙作業用工業重機である。

これは先んじてベネリット社から発売された人型重機MW(モビルワーカー)から得られたデータを元に製造された為、より宇宙での活動に寄せて作られているが、実はこのMAは『二回り程大きくし、アームとキャノンを作業用アタッチメントに変更したボール』という形であったりする。異なる世界で回り回って作業用ポッドに戻ったのである。

 

 

「ガンダリウムの本格的な精製が始まった以上、よりMAとMWの重要性は高まっていく事でしょう」

 

「ここからだな。…ところで、開発側的には『ゼロワン』を持っていって構わないのか?」

 

「最終調整も背中のアレも調整完璧ですんで。デモンストレーションの準備は万全ですよ。早くデータが欲しいくらいです」

 

「…本当、良くやってくれたと思うよ」

 

「まあ仕事は増えましたがね。ドミニコス隊の連中の注文が増えること増えること」

 

 

超人的なパイロットであるアムロとの模擬戦は彼等にとって金にも勝る経験を与えてくれるものであった。実際に隊全体の練度は著しい向上を見せている。

 

 

「世話をかけるな」

 

「頼られてナンボのメカニックですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ…」

 

 

場所は変わって総裁室。アムロを捩じ込む為の書類の確認をデリング自ら行っていたのだが、そこで気になる点を見つけたのだ。

 

 

「…あまり良い環境ではないな」

 

 

そう評されたのはアスティカシア学園の地球寮だ。

アムロ本人から地球出身である事を聞いていたデリングはまだアスティカシアにスペーシアンの教員しかいなかった事を思い出し、余計なトラブルが発生しないように地球寮に教員部屋を作ってそこをアムロの自室にしようと考えていたのだが、あまりにもアーシアンの設備に金が使われていない事に顔を顰めた。

 

そもそもデリング本人はスペーシアンであるが意外な事に差別意識は無い。徹底した実力主義であるが故に出身など飾りでしかない、と考えているからだ。

 

だが地球の企業は総じて金が無い。そこにアムロを置くのは些か気が引ける。それにミオリネを何処の寮に入れるかと考えた時に、御三家とはある種別枠である地球寮に入れるのも選択の一つだと認識していた。

 

取り敢えず今回も強権を使って地球寮を整備するよう命じる事に決めて、執務机の上にある籠に積まれたトマトを手に取った。赤く熟れたそれをこの部屋に置いた人物など1人しかいないだろう。

 

 

「…人の強さに地球も宇宙もない。ならば例の量産機を回して地球を活発化させるのも手か……地球を目指すのならば、励めよミオリネ」

 

 

小さく呟いてトマトに齧り付く。これは不器用かつ似た者親子の物言わぬやり取りであった。そして机の上に置かれた一枚の書類。

そこには持ち込む予定のアムロ用MSについて書かれていた。

その名は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンダム試作1号機、略称GP01(ガンダムプロトゼロワン)fb(フルバーニアン)

この世界の始まりのGUNDAMの名だった。

 

 




お気に入り登録100人突破ありがとうございます。

もしよろしければ感想・評価もお待ちしています。


ハヤトさんの名前の元ネタがわかる人いますかね?


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研鑽を止めぬ大人達は

お気に入り登録200人突破、有難うございます。昨日は泊まり勤で暇がありませんでした。ごめんなさい。


アスティカシア高等専門学校。パイロット科、経営戦略科、メカニック科からなるベネリットグループ直営の学園であり、グループ会社の推薦を受けた子供達が通う。

現在アムロは改築された地球寮に荷物を置いた後、MSドックへと足を運んでいた。

 

 

「失礼する」

 

「貴方がアムロさんですね?」

 

「ああ、俺がアムロ・レイだ。君は?」

 

「私はアルト・ライトです!まさかこの学園でトップエースのアムロさんの機体に携われるとは…!よろしくお願いします!」

 

「ああ、よろしく」

 

 

明るい女性であるアルトの他にもおよそ10名程のメカニック達がいるが、彼等彼女らは働きと実力の双方をデリングに認められた叩き上げだ。その上でアーシアン差別も無い者達である。

 

 

「ついでに聞いておきたいんだが、この学校の雰囲気はどんな感じなんだ?」

 

「端的に言っちゃえば強者主義って感じですかね?勉強よりもマウント取るのが第一、自分達が上だー!みたいな」

 

「随分言うな」

 

「私は普通の専門学校出身ですから。何ですかねー、色々気にしなきゃいけない事が一般人よりも多いのは分かるんですけど、それが学業より先に来ちゃダメでしょ、って思います」

 

「世間話も良いが、その辺にしておけよ」

 

「おやっさん!」

 

 

会話に入ってきたのはダンディな顔の壮年の男で、作業用のツナギであるのにも関わらず様になっている。

 

 

「これからお世話になります、アムロ・レイです」

 

「おう。俺はイスルギ・アスレプス、この特殊ドック及びMSの整備を取り仕切っている。…にしても、よくもまああんな化け物作ったもんだ」

 

「ベネリットのみんなが良くやってくれたからな」

 

 

3人が見上げるのはアムロと共にアスティカシアにやって来たGP01だ。機体の構成上、わざわざ作られた新しいハンガーに置かれている。

 

 

「ベネリット社製品はおろか御三家のエース機体の追随すら許さない完成度にスペック。あのお堅い総裁が決めたと聞いた時にゃ耳を疑ったもんだ」

 

「現時点で頭一つじゃきかない程にずば抜けた最強のMSなんてロマンですもんね。こういう事する人じゃないっていうか」

 

「それだけデリングも本気なのさ。『ガンダム』の名詞を塗り潰す為だ、従来のMSのレベルを置き去りにしなきゃ始まらない。ああ、言い忘れていたがここでは時期が来るまで『ゼフィランサス』で頼む」

 

「『清き愛』ねぇ…誰の誰に向けたモノなんだろうな」

 

「難儀な父親の娘への愛かもな」

 

「だったら素敵ですね」

 

 

完成した試作1号機はシンプルな機体だ。装備はアムロの要望でライフル、サーベル2本、バルカン2門、バズーカにシールドだ。更にνガンダムを参考に作られたサイコフレームの試作品をコックピット周りに配置し、装甲はガンダリウムΔとなっている。尚、

 

「もっと速度が欲しいな…」

 

というアムロの呟きによって顔面蒼白となったメカニック達により背部バックパックには大型バーニア2つにプロペラントタンクが接続されており、速度に至っては最早殺人的な速度を誇る。

 

 

「確認も済んだ事だし、そろそろ失礼するかな」

 

「おう。また暇な時にでも来い」

 

 

2人に見送られながら向かうのはミオリネの部屋になった理事長室だ。

アムロとしては年頃の少女の荷解きを手伝うのはどうかと思ったのだが、ミオリネ自身があまり片付けが出来るタイプの人間ではないのもあって予め本人から手伝うように頼まれている。ちなみにどれくらい片付けが苦手かというと…三日前、対面した2人のやり取りがこれだ。

 

 

「寮には入らないわ。あんたの使ってない部屋使わせてもらうから」

 

「…理事長室か」

 

「何か文句ある?」

 

「飾りの部屋であったのは事実だ、文句は無い。好きに使え。だが…」

 

「…何よ」

 

「部屋の片付けは常日頃からしろ」

 

「………」

 

「返事は」

 

「わかったわよ!」

 

 

その時の赤面したミオリネの顔といい、今思い出しても微笑ましいやり取りだ。ちなみにデリングは元軍人なのもあって身の回りは整頓されていたりする。

 

それはさておき、翌日には他の教員との顔合わせがある。ミオリネの荷解きを手伝った後は契約上の義務であるデリングへの定時報告を行った上で早く休む事にすると決めた。

するとアムロの端末にメールが入る。その件名は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『地球寮ジェガン配備について』




次回は地球寮のアレコレかな?


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未来たる子供達へ

お気に入り登録300人突破ありがとうございます。


アムロがアスティカシアに来てから数日後。既に教員達との顔合わせも滞りなく済み、住んでいる地球寮の面々ともそれなりに打ち解けている。尚、初対面の時の地球寮寮長のマルタンからの第一声は

 

「うちの寮に住んでくれてありがとうございます!」

 

だったが。実際、ボロが目立っていた地球寮にアムロが住むからと公私混同甚だしい理由でデリングが押し進めた改築によって部屋数も増え、ハンガー増設、既存設備は新しいものにリフォームと地球寮寮生にとっても至れり尽くせりといった所だ。今日は新入生が入寮する日であり、顔合わせの日だ。

 

 

「マルタン、今日来る新入生は確か3名だったな?僕は席を外しておいた方が良いかい?」

 

「あー、じゃあ少し時間を空けてこっちの自己紹介が終わるまで待っててもらって良いですか?」

 

「構わないよ」

 

 

生徒達の初対面の時に教員の自分がいては微妙な空気になるだろうと思い、席を外す事にした。行き先は自室、本日の定時報告を行う為だ。

 

 

 

 

 

『学園はどうだ』

 

「深い差別の根を感じたな。まさか地球出身だと言っただけであそこまで空気が変わるとは流石に思わなかった」

 

『宇宙と地球の格差は事実であるが、それは個々人の能力に大きな影響を与えるモノではない。大多数のスペーシアンはその錯覚で偉ぶっているだけだ』

 

「…浅ましいな。宇宙に浮かんでいるだけで、地球を嗤えるものか。ジェガンの件、まさか」

 

『そうだ。最近の業績を悪化させ赤字を出しているのはどれも宇宙側の企業でな、危機感を与える為…言ってしまえばテコ入れだ』

 

「ジェガンのデータを地球側に与えて競走を促進させる、か」

 

 

ベネリットグループ内で最近赤字をたれ流している企業は大概が宇宙側だ。微量ながらも黒字を伸ばす地球企業と赤字を出す宇宙企業、どちらが評価されるかは言うまでもない。

 

 

『パイロット科の生徒がいない以上戦闘のデータは取れんだろうが、アレの出来ならば操作系さえ分かっていれば誰にでも操縦できる。何ならパイロット科が入るまでお前が動かしても良い』

 

「…あれはチタン製合金な上に宇宙産のパーメットを使用していないから、ある意味地球向きの機体だ。まさかそこまで読んでか?」

 

『当然だ。ジェガンの部品、或いはジェガンそのものを作るも良し、それを元に地球産のMSを作るも良し。何れにせよ最新鋭の機体であるジェガンを利用して結果を出せるならば、MS1機など私としては安い投資だ』

 

「生徒達に経験を積ませると同時にそこから地球側へデータを流し、更に競争の加速と危機感を煽る、か。流石だな、デリング」

 

『フン…で、だ。決闘委員会についての話だ』

 

「やはり決闘制度を使ってあれを奪おうとしてくる者はいる…という話か?」

 

『話が早い。決闘の賭け対象にMSも入っているが、今の地球寮生徒ではジェガンを守りきれん。よって、お前が赴任する3年間に限り地球寮にパイロット科の者が来るまでお前が代理として決闘を受けろ』

 

「勿論命令、だろう?あの子らにとっても貴重な経験になる。負けはしないさ」

 

『お前がいて負ける事など結果の捻じ曲げ以外に有り得ん』

 

「はは、ご期待に応えるとしよう」

 

 

ゴロゴロと転がる音が近づき、止まったと思えば高い声の機械音声が聞こえる。

 

 

『アムロ、ヨンデル、ヨンデル』

 

「…そろそろ時間か。生徒達にジェガンの件はいつ話す?」

 

『1週間以内だ。その間ならお前に任せる』

 

「分かった」

 

 

通信機器の電源が落ちるのを確認しドアを開ける。足元にゴロゴロ転がってきたのはアムロのハロだ。あまりにも流暢に話すハロに最初見た時はこの世界に来て1番のショックを受けたものだが。

ちなみにこのハロは故障して廃棄予定だったのをハヤトが持ってきて暇潰しにどうだと渡されたものだ。アレコレカスタムされており、馴染みあるカタコト音声になっているのもその一つで、アムロの数少ない私物の一つである。

 

 

「ハロから見て新入生のみんなはどうだ?」

 

『イイヤツ!イイヤツ!』

 

「そうか。…彼らにとって良い学園生活にする為に、俺も気張らなければな」

 

 

当面のアムロの業務はミオリネのお目付役とゼフィランサスのデータ取り、教官の3つだ。尚、アムロの技量故に実践訓練での教導が主になる。…が、1年生を相手にするには技量があり過ぎるので2年生を担当する事になるのだが。




次回はみんな大好きグエルくんの視点かな?

この小説、ガンド否定派のクソ親父サイドなので基本エアリアル等の本編の考察に行かないんですよね。もしよろしければ感想と一緒に一言二言でもついでに聞かせてくれると嬉しいです。


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アスティカシアに立つ

おかしいな…前回300人突破したばっかな筈なのに…お気に入り登録500人突破ありがとうございます。水魔女やべぇ…


謎の男、アムロ・レイを探れ。これが新学期に入って父から受けた命令だった。ジェターク社の御曹司でありパイロット科2年のグエル・ジェタークはその内容に内心困惑した。今年から入る新任の教師に一体何があるというのか…ほんの一瞬硬直した後了解した旨を伝えた後で開示されている情報を弟のラウダと確認していたのだが…。

 

 

「所属がベネリット社?アーシアンで地球寮住まい…何だこの経歴」

 

「経歴が完全に伏せられているなんてそう簡単に出来る事じゃない。恐らくデリング総裁の強権によるものだと思われるけど…」

 

「クッソ、解らねえ。この男1人に何故こんな真似をしたんだ?怪しんでくれって言ってるようなもんだぞ」

 

「…一応パイロット科の教官だから関わる機会はある筈。2年生を担当するかは不明だけど、最低限の接点はある」

 

「…場合によっては決闘を申し込むか?」

 

「兄さん、それは…!」

 

 

決闘制度。ここ数年の間で採用された制度であり、成立さえしてしまえば勝利の事実のみをもって如何なる要求をも飲ませる事ができる。ここに教師・生徒の境は無く、勝つ事が出来るならば打ってつけの制度であった。勝てるなら(・・・・・)であるが。

 

 

「事を急いでは仕損じるよ兄さん。まだ様子見をしても良い筈だ」

 

「…そうだな。デリング総裁お抱えのパイロットが楽な相手とは思えん」

 

 

この日は一先ず様子見をした上で、寮の生徒にも何かアムロ・レイの情報が入ったら伝えるように話を広めたのだが…。

 

 

 

 

 

「今年から3年間、このパイロット科で教官として務める事になった。アムロ・レイだ。よろしく」

 

 

まさか自分達の担当になるとは想像していなかった。新任の教師である以上、1年を担当するものだと考え、寮の1年に探るよう伝えたのだが…。更に想定外な事に、この授業は新任教師への質問時間となった。

 

 

(意味が分からねえ…隠してた意味って本当に何だよ)

 

 

疑問符が脳を埋め尽くすが、その一方で生徒からの質問を返すアムロの声を聞き流す事はなかった。

 

 

「どこ出身なんですかー?」

「地球生まれ地球育ちさ。燻っていた所をデリング総裁に拾われてな」

「アーシアンでもアスティカシアの教師になれるんですねー」

「前職は何をしていたんですか?」

「軍人だよ。最も、特殊な立場だったが」

「どんな機体に乗ってるんですか?」

「教師の立場ながらワンオフに乗せてもらっている。どんな機体かは…決闘でも挑まれない限り明かせないな」

「じゃあ先生ってーーーーどれくらい強いんですか?」

 

 

少しだけ周囲の空気が変わった。正直な話パイロット科生徒としてのグエルが1番気になっていた点である。時に武力行使すら厭わない独裁者であるデリングがここまでするパイロット。実力が無ければあり得ない境遇なのだ。

 

 

「…そうだな…ドミニコス隊全員と戦って勝てるぐらい、かな?」

「全員に勝てるんならすごくない?」

「タイマン最強?」

「実力あるんだねぇ」

 

「いや、ドミニコス隊全員対俺で模擬戦して勝った、という意味だが」

 

『ーーーーー!』

 

 

ドミニコス隊。監査組織カテドラルお抱えの部隊であり屈指の精鋭が揃う、最強部隊の呼び声が高いエリート集団であり…グエルの目標である。その全員が一斉に襲ってくる戦場で勝つ。

ありえない。この空間の生徒達の思考は同じだった。

だがグエルには分かった。この男が嘘をつく時の眼をしていない事を。

なら…

 

 

「先生」

 

「君は…現ホルダーのグエル・ジェタークだったな?」

 

「はい。先生、質問を一つ、して良いでしょうか?」

 

「余程の事が聞きたいようだが…答えられる事なら」

 

「オレと決闘して下さい」

 

 

驚愕の視線がグエルに突き刺さる。ラウダは正気か、と目で訴えかけている。だが試したくなったのだ、目の前の男を。真実であるなら自分自身の腕を。ずっとずっと幼く無邪気だった頃に見つけた、未知を楽しんでいた自分を思い出すように。

 

 

「受ける分には構わないが…君にも俺にも賭ける物が無い」

 

「勝ったら先生にはまだ開示されていない秘密を話してもらう。オレが負けたら…何でも要求すれば良い」

 

「なら…決まった。君は優秀なパイロットなんだろう、御曹司でもある以上いずれ如何なる形であれ人の上に立つ筈だ。だから君はアーシアンに対して差別をしないでくれ」

 

「…そんなので良いんですか」

 

「教師としてそんなつまらないモノに囚われて欲しくないという切なる願いさ」

 

「…分かりました。その条件で…」

 

 

こうして新年度最初の決闘は成立した。この話は瞬く間に学園に広がり、新任教師と現ホルダーの決闘という事も相まって最早当然と言わんばかりに授業は流れ、誰もが決闘の始まりを今か今かと待っていた。

 

 

『兄さん、相手のきっと新型だ。くれぐれも…』

 

「分かってる。勝つ。勝ってみせるさ」

 

 

グエルは既に自分専用のディランザで待機していたが、肝心のアムロがまだ来ない。逃げたとは思えない為にそれだけの『何か』がある機体なのかと思考を巡らせていると通信が入る。

 

 

『すまない。少々時間が掛かってしまった』

 

 

そう話すアムロが乗るMSに誰もが言葉を失った。

2本のブレードアンテナにツインアイ。トリコロールカラーに彩られ羽のようなブースターが2つ。目立つ白に傷は無く、『汚れる事は無い』と言わんばかり。

神話の英雄達は皆、こうして視線を釘付けにしたのだろうかとすら考えた。

グエルが正気に戻ったのは決闘立会人のシャディクの通信が入った時だ。

 

 

『この決闘、シャディク・ゼネリが立ち合わせてもらう。勝敗は…今更言うまでもないが、ブレードアンテナの破壊だ。それでは双方、口上を』

 

『「勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず。操縦者の技のみで決まらず。ただ、結果のみが真実」』

 

決心解放(フィックス・リリース)

 

「行くぞ‼︎」

 

 

 

 

グエルは、GUNDAMの始まりの当事者となる。




次回はようやっと決闘開始です。



本編で無双するグエル君超見たい。


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流星の空

短い戦闘描写が入ります〜


(当たらない…!)

 

 

決闘開始と共に勢い良く突っ込んだグエルだったが、ライフルから発射されるビームを掠らせる事すら出来ずに翻弄されていた。

無論、グエルも無意味に突っ込んだ訳ではない。

ブレードアンテナを破壊する事が勝利条件の決闘に於いて、射撃装備でそれを狙うのは難しい。動く相手の頭部に直撃させなければならないが、そうやって勝った事はホルダーであるグエルですらほんの数回だ。

となれば決定打を与えやすい近接戦が自然と多くなる。が…

 

 

(迂闊に近づいて良い相手じゃねえ…それにあのブースター、仕掛けて来たら一瞬で勝負が決まる…!)

 

『機体の特徴を見て戦術を考察。隙を晒さないよう動きつつ戦術を練る、か。一対一の戦場ですべき事は良く出来ているようだ』

 

 

アムロから現時点での自分の動きを評価する声が入るが正直な話、どれだけの余裕があるのかと戦慄する。

ディランザの射撃装備は胸部バルカンとライフルの2種類。無論濃密な弾幕を張ることは出来ないのだが…当のアムロは最小限の動きでそれを避けており、じっくりとこちらを観察していた。

そしてそれを実行出来るゼフィランサスという機体の異常なまでの過敏性…あのスラスターは伊達ではない。

 

『さて、そろそろいいかな。デリングからは派手にやれと言われている、少々大人気無いが…勝たせてもらう』

 

「‼︎」

 

 

急速に後方に旋回するアムロを視界の中心に捉えながらもその速度に驚愕する。爆発的な加速性能はペイル社のMSすら軽々と上回っているように見えた。

 

 

(ふざけてやがる…どんな性能してんだ⁉︎)

 

『行くぞ!』

 

 

盾すら構えず突撃してくる相手にひたすらライフルを撃ちまくるがそのままの速度で避けられる。欠片も減速せずに突っ込んでくる相手に近接戦用のビームパルチザンは相性が悪いと判断し、すぐさまアムロに向かって投げつけるが、これも当然のように躱される。

急いでビームトーチを引き抜いた時には既にサーベルを振るアムロが眼前に迫っていた。

 

 

『そこぉ!』

 

「うっ⁉︎」

 

 

防御動作を行う前にグラリと揺れた視界に何が起こったのかと思案した瞬間アラートが鳴り響く。既に視界にその姿は無く、何処にいるのかと探す間も無く強い衝撃が襲う。ようやく確認したその内容は…肘から先の腕、足の付け根から先の喪失であった。先程の衝撃は文字通り手も足も切り飛ばされ胴体のみが地に落ちたが故のものだったのだ。

 

 

(これが…最強…のMSパイロット…)

 

 

そして視界が消え、作動したサブカメラが映し出したのは撥ねられ、宙に浮く頭部を撃ち抜かんとライフルを掲げる白いMSの姿だった。

爆発する頭部と共に決闘の結果が映し出されるが、グエルはあるものに思いを馳せていた。

 

 

「あの映像で…1人で戦ってたのは、本当に先生なんだな…」

 

 

グエルが入学する少し前に見つけたある動画があった。一機のMSが瞬く間に襲い掛かる敵機の群れを無力化する…最初に見た時は合成で作られた何者かのフェイク映像なのではと疑い、それでも忘れる事が出来なかったのだ。その後いくら探してもそれは見つからず…夢でも見ていたのかと思っていたのだが…。

 

 

「…なんて偶然…、いや運命だ…」

 

 

言葉が零れる中、アムロから通信が入る。

 

 

『手荒くやった身で言うのもなんだが、無事かグエル』

 

「ええ、大丈夫です…」

 

 

なんとかそう返しながらコクピットを開く。視界に映る白いMSに汚れはない。散った羽根飾りに一刀で切り伏せられたディランザの四肢。その中心に立つその姿を見た時、これこそが真に目指すべきものだと感じ何処か眩しさを覚えながら、グエルはポツリと呟いた。

 

 

「…これから2年間、よろしくお願いします。アムロ先生」

 

 

その眼には、未来を担う心の光があった。




お気に入り登録600人突破ありがとうございます。まだ本編まで遠い…


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ホルダーという道化

お気に入り登録700人突破、総合日間63位ありがとうございます。
今回は前話の続きからです。


決闘が終わり放課後、グエルはアムロに呼ばれ地球寮に向かっていた。ホルダーについての話、らしい。

そもそもホルダーは学園最強にしてミオリネの婚約者の立場であるのだが、今回グエルが戦ったのは教師のアムロだ。

一応、決闘そのものは成立しているし、正式な場で負けた以上はホルダーがアムロに移るものと考えている。

 

 

「ここか…」

 

 

到着した地球寮はデリング総裁のテコ入れによって綺麗にリフォームされ、大きさこそ他寮に劣るものの設備自体は最新式のものへと改装されている。それに対してつまらない文句を言うジェターク寮生もいたが…。

 

 

「すまない、誰かいるか?アムロ先生に呼び出されて来たグエル・ジェタークだ」

 

「あ、どうも地球寮長のマルタン・アップモントです。アムロ先生からあなたが来るのは聞いてるので案内しますよ」

 

「頼む」

 

 

案内されながら歩く地球寮は他寮に比べて豪華という訳ではないが、落ち着いた雰囲気の過ごしやすそうな空間だった。…グエルは上流階級の人間であるが、豪華や贅沢とは無縁な空間はジェターク寮には無いもので、少しだけ羨ましく思った。

 

 

「…結構な大改装だったんだな」

 

「はい。アムロ先生が地球出身だから地球寮に入るってなったらしくて。でも以前の地球寮には個人用の部屋なんて無かったので」

 

「如何に業績を伸ばしていてもここまで金が回らないか…」

 

「…地球企業の業績も把握してるんですか?」

 

「どちらかと言えばこの手の話は弟の領分だがオレもジェターク家の御曹司なんだ、表面上の数字ぐらいは把握してる。それに数が多いとは言え最近赤字を垂れ流してるのは宇宙側だ、地球は総裁からしっかり評価されてるって事だろ。…意外だったか?」

 

「べ、別にそう言うわけでは…」

 

「気にするな。それに決闘の上で『アーシアンを差別しない』のが先生の提示した条件だ、そういう事にしておけば良い」

 

「…じゃあ、そういう事にしておきます。ここですよ」

 

 

話しながら歩いている内に着いたらしいアムロの部屋は生徒達の部屋からは少し離れた位置にあった。

 

 

「では、僕はこれで」

 

「ああ。案内ありがとよ」

 

 

マルタンが去った後、4回ドアをノックする。

 

 

「アムロ先生、いらっしゃいますか。グエル・ジェタークです!」

 

「入ってくれ。わざわざ呼んですまない」

 

 

グエルにとっては、ここからが本題だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アムロは地球寮の寮監であるが故に、自室の一部が応接室を兼ねている。2人はそこで対面する形で座っていた。

 

 

「早速だが本題だ。ホルダーの座は誰のものか、という話だが」

 

「…その言い方だとアムロ先生に移動する訳じゃなさそうですね」

 

「そうだ。今まで明言されていなかったが、ホルダーの対象となるのは生徒のみとなっている。要は生徒最強の称号だな」

 

「ならホルダーはオレのままって事ですか…」

 

 

生徒最強の称号。エリートが集まるアスティカシアに於いてそれは充分誇れるものであるが、グエルは釈然としない様子だった。

 

 

「言いたい事があるなら幾らでも聞こう。俺は君の教師なんだからな」

 

「…なら、言わせてもらいます。アムロ先生に手も足も出ずに負け、そのアムロ先生を含めない中での最強。そんなものに、何の価値があるんですか」

 

「…成程。君は僕が思っていたよりも更に高潔なんだな」

 

「茶化さないでください」

 

「茶化してなんてない。負けたのにも関わらず守られる今の地位に、情けなくて仕方ないんだろう?」

 

「!」

 

「分かるさ。昔の僕にも『勝ちたい』と思った人がいた。そのままでなんていられなかった。越えたかった」

 

「…はい。オレは…アムロ先生に勝ちたい!」

 

「そこでもう一つ話がある。ホルダーの実態と、そのメリットについてだ」

 

 

場の空気が変わったのを感じたグエルは姿勢を正した。真っ直ぐだなと思いつつ真の本題を始める。

 

 

「表向きホルダーはミオリネと婚約の権利を持つ者、とされているが…実際に求められているのはピエロとしての役回りだ」

 

「ピエロ、ですか?」

 

「ああ。もし仮にホルダーになった人間の何かがふさわしくないとデリングが判断したら、後でホルダーそのものを抹消する事もある」

 

「つまり、ホルダーになっても婚約者になれるかは分からない、って事ですか」

 

「そうだ。だが君は卒業するまでホルダーであり続ける可能性が高い上に、家柄も良く人格に大きな問題も無い。だから君には真実を話す事にした」

 

 

ミオリネの婚約者は現状、未定となっている。ホルダーすらもその対象とされていない。精々、デリングが候補の一人として一考するぐらいだ。

 

 

「そしてメリットについてだ。これは君自身にとっての、だが」

 

「オレ自身の…」

 

「先の話をした事もそうだが、もし君がこのままホルダーであるならデリングにひっくり返されない可能性は高い。ならいっその事君にホルダーであり続けてほしいんだ」

 

「それは分かります。もしこの話を父さんや他の大人にしたら大騒ぎになるし、強引な方法でミオリネに迫る輩が出てくるかもしれない…結局、オレのメリットって何なんでしょうか…?」

 

「俺が君に特別授業という名の訓練を行う。君は目標であるドミニコス隊に近づくし、ホルダーが不落であるならミオリネにそういった面で危険が及ぶ心配も無い。それに教師が授業を行う事に文句を言う輩はいないだろう?」

 

「そうですね…その話、受けます。先生程の実力者直々に訓練してもらえるなら文句はありません」

 

 

 

 

「決まりだな。訓練は時間が空いている時ならいつでも来て構わない。とっておきを用意しておこう」

 

「はい!改めて、よろしくお願いします!」

 

 

 

 

こうして、アムロはこの学園で『教え子』を得た。




明言されない限りは、基本妄想成分9割でこれからもお送り致します。


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ジェガン、来る

お気に入り登録800人突破、日間34位ありがとうございます。


入学した自分の後に新しくやって来たそれはとても立派で大きく強そうでーーーーと思考の海に落ちようとするニカ・ナナウラに背後から声が掛かる。

 

 

「大丈夫か?ニカ」

 

「はっ⁉︎すみませんアムロ先生、つい見惚れちゃって…」

 

「ジェガンがいい機体なのはそうだが、流石にここで惚けるのは危ないからやめた方が良いぞ」

 

「はい、気をつけます!」

 

 

2人がいるのは地球寮の増設されたMSドック。本日付でジェガンが納入されたのである。

事前にアムロからベネリット社の新型を地球寮で運用し、そのデータを推薦元に送って良いと言われていたが、実物を見るまでは誰もが信じられない様子だった。

が、いざ納入されたそれはピカピカの新品で新型。メカニック科の面々は興奮を抑えられない様子だ。

 

 

「このジェガンがこれからどう進化していくのか、どう派生していくのか。それも地球寮のみんな次第だからな」

 

「はい!それにしても渡されてるデータを見ただけでも既存のMSとは全然違いますね…」

 

「月と水星で採掘されるパーメットを使用せず、装甲には地球で生成可能なチタンを用いたチタン製合金を採用している。コンセプトは『次世代量産型』で尚且つ地球・宇宙問わず作る事が出来るという点が重要だ」

 

「見れば見るほど地球向けっていうか…昔にもパーメットを用いないMSはありましたけど、完成度が段違いですよ」

 

 

アド・ステラのMSも最初からパーメットを利用していた訳ではなく、最初期のMSは操作はもっと複雑だった。が、制御が容易な元素であるパーメットの発見によりかなりの量の工程を省いて制御出来るようになった為に、MSは広く普及した。

 

 

「当然だ。従来の操作性と変わらず、且つパーメットを必要としないシステム。ここら辺は元から思案されていたもので、限られた資源である筈のパーメットが無くなった後の為にと作られていたが、今回ジェガンを作るにあたり金と人員を惜しみなく注ぎ込んだ結果さ」

 

「採掘資源ですもんね、パーメット。言われてみれば無くなった後の事なんて考えてなかったなぁ」

 

「だが今こうして考えた事でそれにも備えられるようになる。この積み重ねが大事だ」

 

「そうですね」

 

 

そう語るアムロはパイロットスーツに身を包んでおり、この後ジェガンの性能テストが待っている。

 

 

「アムロ先生もやっぱりこの機体に乗るの、ちょっと楽しみだったりするんですか?」

 

「…そうだな。僕も機械弄りが好きな子供だったし、ゼフィランサスやジェガンの設計にも幾らか関わらせてもらっている。少なからず心が躍るさ」

 

「私も凄く楽しみです!この子はどこまで動けるんだろうって」

 

「…先生、ニカ。準備終わったから来て」

 

「すまない、ティル。すっかり話し込んでしまった」

 

「みんな気にしてない。…それに話、結構聞こえてたけど」

 

「あはは…、声大きすぎだね、私」

 

「…色々聞けて、寧ろ楽しみになった。早く行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アムロ・レイ。ジェガン、出るぞ!」

 

 

借りられた演習場でジェガンが動き出す。まず試運転として演習場をぐるりと飛んで一周する。

演習場の中にいるのは地球寮の面々だが、遠目からこの光景を眺めている者は多い。地球寮が演習場を借りる事自体滅多に無い上に、その機体は見た事も無い新型。しかも乗るのは寮監のアムロときた。

 

 

「思ったよりギャラリーが多いな。まあ良い、ニカ。最初は何から始める?」

 

『では、加速と急停止を繰り返しながら10周程お願いします』

 

「分かった」

 

 

急加速と急停止、更に旋回と…様々な動きを混ぜて動きを試しているうちに10周は終了する。

 

 

『続いてダミーターゲットを投影します。全装備を使用し破壊してください』

 

「よし…腕の見せ所かな」

 

 

左手にサーベルを抜刀し、より加速する。投影されたターゲットは50。最初のテストには少々数が多い気がしないでもないが、生徒達の為と思えば文句はない。

 

 

「数が並んだところで…!」

 

 

ジェガンの装備はビームサーベル、ビームライフル、バルカンにグレネードの4つだ。手始めに加速をそのままにバルカンを発射。破壊判定は8つ。

 

 

「切り込むか…!そこ!」

 

 

ここでビームサーベルを発振。射撃と交えつつまばらに散るそれを斬り伏せる。出た判定は12。

 

 

「固まっているな…ならば!」

 

 

残る30のターゲットは密集して配置されており、いささか極端な配置に見えたが、こうしたMSのテストの経験が無い寮生達ならこういう事もあるだろうと思い。徐にビームサーベルを密集の中心に投げた。

 

 

『え、アムロ先生⁉︎』

 

「大丈夫さ。ビーム・コンフューズ!」 

 

 

回転するように投げたサーベルに向かって放たれたビームは拡散してターゲットを破壊し尽くす。回転が終わる前に投影された撃墜判定の表示を突っ切り、サーベルを回収し、着地する。ここまでアムロはスラスターをふかしっぱなしだった。

 

 

「さて、まだテストしたい項目はあるかな?」

 

『…はっ!今日はもう充分なデータが取れました、戻ってもらって大丈夫です!』

 

「そうか。では戻ろう」

 

 

…この時ニカはジェガンの動きをじっくりと見てしまい返事が少し遅れたのだが、彼女を責める事は出来ない。地球寮の面々は勿論、ギャラリー達も同じだったからだ。尚、その中にはアムロの『教え子』もいた事は言うまでもない。







決闘、寮長、学業。
色々忙しい中でようやく取れた時間で先生からの特別授業がようやく始まる!肝心の内容は…⁉︎
次回、「グエルの奮闘」
初見殺し多過ぎませんか、先生⁉︎




ごめんなさい一回やってみたかったんです。


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グエルの奮闘

日間12位、お気に入り登録1000人突破ありがとうございます。

(白い)悪魔のブートキャンプ、始まり始まり。


学園内のとある一室。元は空室だったそこに仰々しい機械が複数並んでいる。アムロはその部屋にグエルを呼んでいた。

 

 

「では、本日から特別授業を始める。…本当はもっと早く始めたかったんだがな。すまない」

 

「いえ、オレも寮長ですし決闘もあったりするので気にしないでください」

 

「そう言ってくれるとありがたい。早速だが、訓練の内容はこいつの課題をこなす事だ」

 

「この機械を、ですか?」

 

「これは少々大きいがシミュレーターだ。やった事自体はあるだろう?」

 

 

このアド・ステラにもMS用のシミュレーターは存在するが、それを利用するのはまだMSに乗った事の無い初心者ばかりで、多くの者はある程度の実力になると模擬戦を行って腕を磨く。

 

 

「こいつは特注品でな。このシミュレーターは『積みたくても積めない経験をする』為のものだ。単なる模擬戦や決闘ではあり得ないシチュエーションを体感できる」

 

「成程。言われてみればシミュレーターに高難易度の課題なんてありませんでしたし、決闘でありうる状況にも限りがありますね」

 

「早速レベル1から始めてもらう。どんな内容かは先に説明するからどういう相手か、どういう動きをするか。何をさせてはいけないかを考えてながらやってみてくれ」

 

「分かりました。…うお、知ってるシミュレーターとは訳が違う…!」

 

「この見た目は伊達じゃない。入る時数段の段差があっただろう?機械が出来る範囲ではあるが、揺れも再現している。さあ、来るぞ」

 

「よし…!」

 

 

シミュレーターの形状はコクピットそのものである為、アムロはそれを外部のモニターから見る形になる。

出現したのはハインドリー二機、片方は近くで、もう片方は少し遠い位置に現れた。

 

 

「フィールドは一般的なコロニーで目標は敵機の迅速な無力化だ。気を抜くなよ」

 

「了解です!」

 

 

グエルが乗っているのは専用のディランザで、その手にパルチザンは無い。ハインドリーは射撃をしながらこちらに向かってくるが、グエルはホバーで旋回し射撃を回避した後、急加速を行いスパイクを使ったタックルを叩き込む。

 

 

「まずは一機、次は…!」

 

 

ビームトーチで頭部と両腕を切り落としもう動かないのを横目で確認しながら次の対処を考える。

近づいてきたもう一機の方はスピアを構えて突撃してくる。動きは単調だ。

冷静にライフルを構えて連射するうちに体勢が崩れ、隙が出来たと判断すると同時に切り込み、武器、盾、腕、と斬り刻み、壁際にまで追い詰めコクピットを串刺しにし、目標の達成を確信する、が。

 

 

「な…⁉︎」

 

「…引っ掛かったか」

 

動力に当たったのか力を失ったハインドリーは大爆発を起こす。咄嗟に離れた為自身の機体は無傷だが、モニターにはmission failedの文字が浮かんでいる。

 

 

「一体何が…」

 

「その状態でも操作は出来るから周囲を見渡してみろ、グエル。君なら気づく筈だ」

 

「…穴が」

 

 

爆発したハインドリーの後ろには再現された宇宙が見え、コロニー内から空気が漏れ出していた。

 

 

「そうだ。アスティカシアにいると忘れがちだがコロニーは戦う為の場所ではないからMSが大爆発すれば損壊の危険がある。更に言うなら壁際に押し込んでいたから直にその被害を受ける形になってしまったな」

 

「つまり、最初の倒し方で良かったって事か…」

 

「そうだ。このシミュレーターは実戦のそれに近づけてあるから撃墜する事を考えがちだが、あくまで目標は『無力化』だ」

 

「成程…まんまと引っ掛かったって訳ですか」

 

「周囲の被害を考えながら戦わなきゃいけないのがパイロットの辛いところだな。…それに、うちの学園は妙にそこら辺の危機管理が甘いしな」

 

「ああ…言われてみれば決闘の場所が実習で使われてたりする時がそこそこありますね」

 

「裏の事情を感じざるを得ないが…君は決闘の回数も他生徒に比べて多いから、最初に意識してほしくてこれをレベル1として課させてもらった」

 

「分かりました、もう一度お願いします!」

 

「対処は一機目で出来ていたから、あとはどれだけ周囲の被害を減らし、早く片付けられるかだ。始めるぞ」

 

 

変わらない位置に出てきた一機目はライフルを頭部に叩き込み、動きが鈍った隙に手足を切り落とした。続いて二機目は急加速を駆使してタックルを叩き込み頭部を串刺しにし、無力化したのを確認。周囲への被害は無く、完璧に近い結果だった。

 

 

「よし…!」

 

「上出来だ。このまま様々な戦場を体感してもらう。…用意は良いか?」

 

「はい!」

 

 

3倍の速度で動くハインドリーを倒しつつ大気圏突入を行うレベル2。

砂漠の中で複数の僚機を連れたシンプルに強いエース機を撃墜するレベル3。

巧妙な連携を行う三機のディランザを崩して文字通り踏み台にするレベル4。

12機のディランザを3分の間に全撃墜して母艦も落とすレベル4。

これらが終わった頃にはグエルは全身汗ぐっしょりで、コックピットから出た瞬間倒れた。

 

 

「大丈夫か、グエル?」

 

「……は…、い…………」

 

「動けないなら無理に動かなくて良い。これらは前段階だが、想定していたよりも早く進んでいる。落ち着いてからで…」

 

「大、丈夫です…」

 

 

グエルは何とか体を起こし、アムロが予め用意していたスポーツドリンクを手渡され、それをゆっくりと飲んで呼吸を落ち着ける。

 

 

「はぁ…まだまだ序の口…前段階なんですよね?」

 

「ああ。ここから先は敵味方入り乱れる戦場での戦いになる。どこまで戦場に影響を与えられるかの勝負だな」

 

「まだまだ先は長いな…そういえば先生、この前の新型のテストでやってたあの技ってなんて言うんです?」

 

「ビーム・コンフューズの事か?君なら練習次第で出来るようになるだろうが…あれをビームトーチでやるのは難しいな」

 

「どうしてです?」

 

「あれはサーベルの発振部にビームを当てて回転させつつ拡散させる技なんだが、ビームトーチはサーベルの柄に比べて重いからあまり上手くいかないんだ」

 

「…サーベル、メカニック科のやつらに頼んでみるか…ここで練習できますか?」

 

「練習は出来るが…君には覚えてほしい技術があってな。簡単に言えばビームを切り飛ばすんだが」

 

「ビームを切り飛ばす、ですか?それって要は弾丸を斬れって事では…というか出来るんですか」

 

 

放たれたビームを斬る。それがどれだけの反応速度と判断力が有れば実行出来るのかグエルには分からなかった。…当然の事ではあるが。

 

 

「要は自分が放ったビームを意図的に斬って拡散させて攻撃するのがビーム・コンフューズで、相手から撃たれたビームを斬って拡散させて無力化するのがこれだ。片方が出来るようになる頃にはどちらも出来るようになる。後はそうだな…

 

後ろにも目を付ける意識で動いてみるんだ」

 

「後ろに目…」

 

「見えないものを無理して見るのではなく、想定しながら動く頭の片隅で視界の外から何が来たら危険か、それをどう対応すべきかを意識するんだ。それを身体に染み付かせればより洗練された動きが出来る」

 

「…やってみます。続き、お願いします!」

 

「その意気だ。出来るようになるまで付き合うさ」

 

 

この日の訓練はジェターク寮の門限ギリギリになるまで続き、グエルはアムロの肩を借りつつ何とか帰りシャワーを浴びて自室のベッドでぶっ倒れる事になった。翌日、起きて早々チーフメカニックのカミル・ケーシンクに何とかビームサーベルを一本付けられないかと相談しに行ったのはここだけの話である。






一応私のお目付役として来た訳だけど、最近のアムロは結構楽しそうね。
まあグエルが強くなる分には私に不利益は無いし別に良いけど。
…もうちょっと顔を出しても良いんじゃないかしら?
…ちょっと、ニカ何その顔。
次回。「ミオリネと地球寮」
やっぱ行こうかな…楽しそうだし。




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ミオリネと地球寮

いよいよ本編と噛み合わなくなってまいりました。
でもまだ本編前。それではどうぞ。





株式会社GUNDAM(ボソッ)


いつもの地球寮にて。

少女2人が他愛もない世間話をしていた。

 

 

「で、最近の地球企業は調子が上がってる訳か。良かったじゃない、あのクソ親父も偶には人の為になる事をするものね」

 

「あはは…本当、今の地球寮はデリング総裁とアムロ先生に頭上がらないからなぁ」

 

「クソ親父を相手にする時に遠慮なんて要らないわよ」

 

 

ミオリネとニカ。

2人が出会い話すようになったのもアムロが原因で、単純に甘える為に(本人は認めないが)アムロに会いに来るミオリネに、アムロの事を少しでも知りたかったニカが質問したのが始まりだ。

それ以降2人は日頃からごく普通の友人としての付き合いをしている。これがミオリネからすると新鮮に感じる事も多く、結果それなりに地球寮の面々とも親しくなっている。

ちなみに2人がこの会話をしているのもニカの自室である。

 

 

「そういえばさ、そろそろこっちに来ないの?前にそれっぽい事言ってたじゃない」

 

「言ったけど…良いの?アムロはもうそういう次元にいないけどアーシアンだし、私スペーシアンだし。来年にも新入生が入って来るんでしょ?」

 

「そんなの気にしないの。それにベネリット社から寮にお金出してもらってるんだし、誰も文句言わないよ」

 

「…一応、聞いとくんだけどさ」

 

「何?」

 

「マルタンに許可取った?」

 

「…………取ったよ!」

 

「秒で分かる嘘つかない」

 

「えー、でもどうせ学校生活送るなら先生の近くにいたいんでしょ?」

 

「当然で…しょ…」

 

 

ミオリネはゼフィランサスに負けず劣らずのスピードで飛び出した本音に顔を赤くして全力で顔を逸らすが、それを見るニカはいたずらが成功した子供のような顔だ。

 

 

「ほんと先生の事大好きだよね」

 

「そ、そんなんじゃないわよ!…ただ、私の周りの大人にああいうのがいなかったから…」

 

「その先生も結構変わってると思うんだけどなあ…デタラメなくらい勘が良いし、何も言わなくても自分の考えを読まれる事あるし」

 

「アムロがやるならそれくらい普通の範囲内よ。っていうかそう言うニカはどうなのよ」

 

「私?そうだなぁ…小さい頃にイメージしてた大人の男性そのままって感じかな?」

 

「ああ…何となく分かるかも」

 

「でしょ?あれだけ強くて気配り上手なのに普通に隙も多くて…あとしっかりしてる」

 

「何が?」

 

「ほら先生ってよく掴み合いの大喧嘩に出くわしたりすると止めるじゃない。アスティカシアってご令嬢・ご令息ばっかりであんまり教師がとやかく言ったりしないから」

 

「ヘタレが多いからね…そりゃそのまま成長して将来バチバチにやり合うギスギス競争社会が出来上がる訳だわ」

 

「その時言ってた『そうやって暴力で上回っただけで相手より上だと思う性根は教師としてではなく大人として正してやる』って言葉が忘れられなくて」

 

「…あんまアムロらしくないわね、そのセリフ」

 

「受け売りなんだって」

 

「…納得」

 

 

そうやって誰かに叱られた経験がアムロにもあるのだろうか、と思考をしつつまだ何ともない話は続く。

 

 

「あんまり聞いてなかったけどデリング総裁ってどんな人なの?間接的にだけどお世話になってる人だし気になって」

 

「あいつ?口下手独裁者。以上よ」

 

「ええ…それだけ?」

 

「そうよ。なんか最近性格が輪をかけてめんどくさくなってきてるし、大した事でもないのに通信入れてきたりするし」

 

「それって単に会話の口実がほしいだけじゃ…」

 

「それなのよ。今まで何の考えも悟らせないような顔してたくせに最近それが分かるようになってきて」

 

「…取り敢えずそれなりに仲良いのは分かったよ」

 

「違うから!」

 

 

まだ日は高く、2人の世間話はまだまだ終わりそうにない。尚、先程少女2人の会話で上がった張本人であるアムロはというと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご足労いただきありがとうございます、アムロ先生」

 

「君に呼ばれるとは思わなかったな、シャディク」

 

 

決闘委員会の使用している巨大なモニターがある部屋に、アムロは呼び出されていた。本来、一生徒が教師を呼び出す事はそうそう無いが、決闘委員会相手だと少々事情が異なるのだ。

尚、今この部屋にはアムロとシャディクしかいない。

 

 

「それじゃあ早速本題なんですが…アムロ先生はあのオーロラのMSのパイロット。そうですよね?」

 

「何故そう思ったんだ?」

 

「…否定しないんですね。ここまで過去の経歴が無く、かつ記録に残りやすいMSのパイロット。突然ポッと湧いたあの機体に乗っていたなら辻褄が合う」

 

「そうだな。俺がそのパイロットだったならな」

 

「白を切るならそれでも構いません。僕が知りたいのはそのMSは今どうなったのか、あの新型機は何なのか。その2つです。デリング総裁と親しいらしい貴方なら何か知っているんじゃないですか?」

 

「どちらも知っていたとしても教える訳にはいかないだろう。それこそ俺から情報を抜きたいなら決闘があるだろう?」

 

「まさか。貴方には敵いませんよ。…でもそうですね、貴方の口から聞けないならーーーーーー」

 

「俺の生徒に手を出そうというなら、こちらも容赦はしないぞ」

 

「ーーー!」

 

 

何を問われても平然としていたアムロから強烈なプレッシャーが放たれ、銃口を向けられたような寒気がシャディクに走る。

 

 

「…へえ、そこまであの地球寮の奴らが大事でーー」

 

 

シャディクは幻視する。アムロの背後に立つ白いMSが向ける銃口から光が収束するのを。アムロの目は戦闘をしている時のそれで、濃密な死の感触と共に持って行かれる、と思ったその時には視界は元に戻っていた。

 

 

「…こちらも言いたい事があったからここに来た。

あの子らの後ろ盾は弱い。

地球と宇宙ではまだ隔たりが大きすぎる。

故に、色々と裏で考えているだろう君への警告だ。

 

彼等彼女らを利用してみろ、その先に『未来は無い』ぞ」

 

 

言いたい事は言ったと言わんばかりにアムロは背を向け退室した。

残されたシャディクは幻視こそしていないもののまだ重圧が体から抜けきっておらず、動けないでいた。

 

 

「…規格外過ぎるだろ」

 

 

この呟きは、彼以外の誰にも聞こえなかった。




グエルの成長は凄まじい。
何があったら、あそこまでの熱意を持てるんだろう。
アムロ・レイ。彼もまた分からない。
次回、「偽物と本物」
もう、忘れてしまった。


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偽物と本物

昨日は更新できなくて申し訳ございませんでした。
更新無いのにお気に入り登録やコメントしに評価までしてくれる人がいてすごく嬉しい…。





エラン・ケレスはここ最近、焦燥感に駆られていた。

彼は本当は『エラン・ケレス』ではなく『強化人士4号』と呼ばれるGUND-ARMを扱う為の改造を施された存在である。

禁じられた兵器であるGUND-ARMを扱う為に何もかもを忘れ、捨て去ったのだが…。

 

 

(あの『ゼフィランサス』にGUND-ARMは追いつけない)

 

 

既に自分以外の3人を壊した『呪い』は、それを越えて走る流星によってその優位性…強さを粉々に打ち砕かれてしまった。

CEOの4人がどう考えているのかは実験動物兼影武者でしかない『エラン』には分からないが、少なくとも自分を調整しているベルメリアの見立てではあの機体にGUNDフォーマットは積んでいないらしいが…。

 

 

(空気が重い…)

 

 

更に変わった事といえば決闘委員会の空気感だ。元々決闘委員会の人員は各寮から代表的な者が選ばれる為に、何処か余裕を感じさせる空気があった。が、ここ最近はそれが無い。

エランも自身が焦りを感じている自覚はある。が、一週間程前からシャディクは思い詰めた表情をしている事が増えた。ほんの薄らだが隈があるように見える。

セセリアはずっとつまらなそうな顔をしている。グエルが弄りに一切反応を返さなくなった為だ。

 

1番変わったのは言うまでも無くグエルで、荒い部分が鳴りを潜めてより実力には磨きがかかっている。驕りの無い余裕の空気を纏い、性格も少し変わったような気もする。

なにより決闘委員会のメンバーはグエルがセセリアに言った

 

「そんなつまらない事をオレに言って、一瞬の愉しみの為に時間を浪費して。それで満足か?その間にオレは更に先に行くぞ」

 

という言葉と、その時の眼差しが頭から離れない。

もうグエルは自分達とは違う世界の人間になってしまったと、全員が意識させられた。…その違う世界が自分達より『先の世界』である事に、気付かないふりをして。

 

別にグエルが自分達を邪険に扱う様になった訳ではない。何なら対応そのものは以前より丁寧な程で、些細な疑問や相談を真摯に向き合ってくれる。他愛のない会話にも乗ってくれる。だが目が大人のそれになっていたというだけで、精神性で上回られているのは実感出来てしまっている。

 

 

『流石に早すぎだな。まだ挑戦のステージにすら立ててねえよ』

 

『何で、何で当たらない⁉︎』

 

 

目の前のモニターに映される決闘は一方的な展開だった。グエルの相手は同じパイロット科の2年生だが、その射撃はディランザに傷一つ与えられていない。全て斬り払われている(・・・・・・・・)為だ。

 

 

『狙いが単調で動きも鈍い。一か八かで突っ込んでくる一年の方がまだマシだな、思い切りが悪い』

 

『クソっ、ふざけーーー』

 

 

そこで決闘は決着となった。今まで斬り払いに徹し受けに回っていたグエルがほぼ0からの急加速を行い、ブレードアンテナを切り落としたからだ。

 

 

『出直してきな。その腕じゃあホルダーは愚か、アスティカシアのパイロット科卒業なんて名乗れないぜ』

 

 

 

 

 

 

 

「戻ったぞ」

 

「お疲れ様。どうだった、今日の相手は?」

 

 

グエルが戻ってきて声を掛けるのはシャディクだけだ。セセリアは先の通り、エランは声を掛ける事自体が少ない。

 

 

「ビームの試し斬りには丁度良かったが、踏み込みが浅い。教科書通りで工夫も無いし、ありゃ3年になってもどうだか」

 

「辛辣だねぇ」

 

「事実しか言ってねぇ。『使われる側』の人間だ、あれは」

 

「…そこまで言っちゃうか。ホルダー様は違うね」

 

「当然だ。あの人以外に負ける訳にはいかないからな。もう今日は決闘委員会の業務は無いな?」

 

「うん、無いよ。自由解散」

 

「ならもう行く。じゃあな」

 

 

その背を見た瞬間、エランは無意識に口が動かし、言葉を発していた。

 

 

「待って」

 

「何だ?」

 

「…今から行く所、ついていっても良い?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意外だな。君はあまりこういう事に興味が無いと思っていたのだが」

 

 

シミュレータが置かれている特別訓練室(仮)にて。グエル以外の人物がやって来て、更にそれがエラン・ケレスである事にアムロは少し驚いていた。

 

 

「急に連れてきてすみません」

 

「いや、構わないさ。それで、君は何故ここに?」

 

「…何をしているか、気になったからです」

 

 

知りたくなった。それはエランにとって事実ではあるが、それだけでは無い事に、まだ本人も気付けていない。

 

 

「そうか。ならいつもの準備運動から見てもらうとするか。グエル、用意は?」

 

「いつでも行けます!」

 

 

いつの間にかグエルは仰々しい機械の中に入っていた。目を離したのはほんの一瞬の筈だったが…。

 

 

「よし、始めるぞ!」

 

「ッ!」

 

 

モニターに投影されたのは射出されたグエルのディランザで、その先には総数にして50のMSが待ち構えていた。ディランザはスラスターをふかし、変則的な軌道でその中心へと突っ込んでいく。

 

 

「そこだぁッ!」

 

 

振り回させるパルチザンによって敵機は次々と火球になっていくが、当然離れた位置から射撃を行う機体もいる。が、そのビームすらも斬り飛ばして、次々と敵を屠り続ける。

 

 

(狂ってる)

 

 

GUND-ARMですらこれだけの数を相手にするのは難しいというのに、グエルはカスタマイズされているとはいえ量産機のディランザでここまでの戦いをしている。向けられている射撃も的確にグエルを狙っている筈なのに。

 

 

「終わりだっ!」

 

「よし、記録更新だ。機体の損傷も少ない上に処理速度の向上が著しいな」

 

「ありがとうございます!」

 

「このままある特殊な機体と戦ってもらう。機体の状態をリセットする」

 

 

画面のディランザから傷が消え、最初の状態に戻る。

そして出現したのは青緑色のアンテナの無い2機のMSだった。

 

 

「機体名はガンダム・ルブリス試作型。禁じられたGUND-ARMそのものだ。またそれを持ち出す輩がいないとも限らない、この手の相手は対処法を覚えるなら実践が1番だ」

 

「了解です!」

 

 

動き出すルブリスだが、初手からビットを展開し、かつ一般機の比にならない速度で飛び回る。今のルブリスがどういう状態なのか、エランには分かる。

 

 

(最初からパーメットスコア4…!データだから負荷は関係なしか…!)

 

「速い…だがな!」

 

 

射出されたビットは2機合わせて20。人魂の様なそれはディランザを屠るべく追いかけてくるが、届かない。

ビットが吸着し爆発する為には0距離まで接近しなければならない。だがパルチザンは近接武器であるが長く、致命的な距離に入られる前に処理が間に合っているのだ。ライフルでは正確な射撃で1発でビットを破壊しており、近づききる前に落とされるかそもそも近づけないかのどちらかだ。

 

そのままグエルは武器の優位性をフルに活かしながらビットを斬り落としていく。

 

 

(でもあれは360°をカバーできる兵器だ、背後から…)

 

「甘い!」

 

 

背後から迫るビットが吸着する前にビットの側面に向かって蹴りを叩き込むディランザ。音も無く近寄るそれに何故対応出来たのか…エランには理解できなかった。

 

 

「幾ら速かろうが、赤10に比べりゃ遅すぎんだよ!」

 

 

よく分からない事を言いながらも放たれるビームは高速移動するルブリスに吸い込まれる様に直撃し、2機揃ってパルチザンで胴体から真っ二つにされ爆散した。mission completeの表記が出て、グエルが機械から出てくる。

 

 

「ふう…終わりましたよ」

 

「流石だな、グエル。背後からの殺気も感じられるようになってきたな」

 

「はい、段々分かるようになってきました。甘い狙いだったのもありますが」

 

「いや、充分さ。まだまだ磨く時間はある。…申し訳ないが今日はこれまでだな」

 

「何かあったんですか?」

 

「ミオリネが正式に地球寮に入る事になったから手伝ってくれとせがまれててな」

 

「分かりました。今日も有難うございました」

 

 

そのままグエルは帰って行くが、エランはそこに立ち尽くしたままだった。

負荷を考慮せず戦う完全なGUND-ARMの敗北。データとはいえそれはまるでその為の犠牲である自分が無意味だと示されたようで、どうすればいいのか分からなくなってしまったのだ。そして自覚した。グエルがガンダムに乗った自分より強い訳はない、と確認したくてここに来たのだと。

 

 

「君は戻らないのか?」

 

「……ッ!僕も戻ります。急に来たのに有難うございました」

 

「…その身体」

 

「ーーーー⁉︎」

 

「いや、何でもない。ただ困った事があれば相談にのるが」

 

「…大丈夫です。それでは」

 

 

足早に去るエランの背を見るアムロがどのような顔でどのような眼をしているのか。エランには分からなかった。




…いよいよ地球でもMS製造計画が動き出した。
1年前に比べてこの寮も明るくなったな…
先生の影響は凄まじい。
ふとした時にMSの改良案とか、考える余裕ができた気がする。
次回、「メカニック、模索する」
…ニカとミオリネの先生への懐きっぷりは見ていて少し面白い。
あと最近よく喋るって言われた。そうでもないと思うけど。


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メカニック、模索する

お気に入り登録1400人突破ありがとうございます。



「今日も進歩は上々だな。地球側からの反応はどうだい?」

 

「…みんな良い返事を貰えてる。現状開発中の機体は取り敢えず各企業で各パーツを製作して最後に集めて組み上げる形になる」

 

「基礎は既存の物とそこまで変わらないからな。その試作型が上手くいくかどうかでこれからの地球企業の評価は決まる」

 

「…本当ありがとうございます」

 

「気にしないでくれ、ティル。好きでやっている事だ」

 

 

地球寮、ジェガンのドック前にて。

いつものようにジェガンのテストをしている地球寮の面々である。

アムロとティルが話しているのは開発中の地球産MSについてだ。

 

 

「今の進行具合だとどれくらいで出来上がりそうなんだ?」

 

「新学期には間に合うそうで…しかもSPを用意する予定です」

 

「確か精密狙撃と高性能型のミックス機だったか。ずいぶん速いな」

 

「あとは組み上げてテストするだけなので」

 

 

地球産のMSは基礎そのものは既存のそれを流用している為、ソフトそのものは大部分が完成…というか移植される形になっており、細かな調整はハード側…MS本体の完成を待つ必要がある。

 

 

「いよいよか…楽しみだな」

 

「元々この計画自体は前からあったんですが、コンセプトとそのモデルが明確になっていなかったので放置されてました。ジェガンのデータにより一気に進んだ形になりますね」

 

「結局、何であれ思い切りって大事だとよく思うよ」

 

「そうですね」

 

「先生ー!」

 

「ニカ。どうかしたかい?」

 

「あのですね、ジェガンのプランについての話なんですけど」

 

「…じゃ、僕はこれで」

 

 

ニカが近づいて来たのを見てティルはすぐに場を離れた。ティルは空気も読めるし気を使える男である。

 

 

「もう考えついたのかい?」

 

「はい!…まあ、みんなにも意見貰ったし、色々流用してるんですけど」

 

「見せてくれ」

 

 

タブレットに表示されているのは『ジェガン強襲型』のプランだった。

画像のデータでは前面に装甲を増加し実弾兵器としてバズーカとミサイルを増設する、とされている。

 

 

「それなりに良い出来だと思うが…流用したというのは?」

 

「これ、元々前の三年生…去年在学していたパイロット科の生徒がデミトレーナーに『こんなのが欲しい』って挙げた要望だったんです」

 

「パイロットからのか。確かにそれなら参考にするのも頷ける」

 

「ただ旧式のデミトレーナーだと出力やソフトの面で用意した所で扱えない物だって事でそこで終わっちゃったらしくて。ジェガンならどうかなーと思ってそれっぽく形にしてみたんです」

 

「なら何故このような構成になったかは説明できるな?」

 

「はい。まず突撃する機体なので被弾前提で前面のみ装甲を追加しています。これは耐ビームコーティングを施したいですね。実弾装備のバズーカとミサイルはこちらも使い捨て前提として用意しています」

 

「と、なると最後は元の装備であるビーム兵器で戦う事になるな」

 

「コンセプトとしては近接戦をする上で多少の被弾を気にせず戦う、又は装甲が傷付いてもビーム兵器を用いた最後の詰めを万全な状態で行わせる為になるべく場を荒らす、といった感じです」

 

「うん、及第点だ。これならそこまでコストも掛からないし、特別な仕様の火器を新造する必要も無い。

基本を抑えた良案だ。このデータは上への報告に上げても良いかな?」

 

「はい!」

 

 

後はデリングに報告する際に自分が一押し二押しすれば候補案に上がるくらいはするだろう、と考えながらデータを受け取る。

現状のベネリット社では各機能を向上させたエース仕様も作られているが、通常のジェガンと使い分けが効くならこちらの方が汎用性は上だ。どう転がるかは向こう次第なのでそれもまたお楽しみといった所だろう。

 

 

「ニカの懐きっぷりはすごいね」

「この学園でほぼいない尊敬できる先生だしなぁ」

「…尻尾、見えるよね」

「俺と先生で何が違うってんだ…!こないだのも全部外れるし…!」

「答え出てんだろ。まずギャンブル(それ)やめろよ」

 

 

それを見守る地球寮の面々の視線は生暖かいものであったが。

ちなみにこの場にいないミオリネは言い合いじみた親子のコミュニケーションをとる為に通信している。

どんな内容かをミオリネの愚痴で大体知ってしまうのは地球寮のお約束である。




年一のインキュベーションの招待状が届いた。
社交場は正直好きじゃないけど…
これも令嬢としての務めかしら。
次回。「新たな扉」
やってみようとすれば、案外道は開けるものよ。


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新たな扉

みんな量産機が好きで嬉しい、どうも作者です。
タイトルの元ネタも量産機絡みで、パーティの準備のお話。それではどうぞ。




神姫完全復活カァ…


「パーティか…」

 

「どうした?ミオリネ」

 

「あ、アムロ」

 

 

ミオリネもすっかり馴染んだ地球寮。

それぞれに個室が与えられても地球寮の面々は広間で過ごす事が多く、ミオリネもなんとなくその空気に合わせて広間にいる事が多かった。…自室にいると割とだらけるから、というのもあるが。

 

 

「パーティの招待状が届いたの。まあ毎年届いてたけど」

 

 

ミオリネの端末に表記されているのはインキュベーション、資金集めパーティの招待状だ。ベネリットグループ内でも小規模の企業が多額の融資を受けるチャンスでもある。

 

 

「社交場か。毎年やるとはまた…去年まではどうしてたんだ?」

 

「任意だから欠席してたわ。…今年はどうしようかなって」

 

「その様子だと、あまり良い感情を抱いてはなさそうだな」

 

「そりゃね。視線やら下心を隠そうともせず近付いてくる輩とか、幾らでもいたし」

 

「…ああ、俺の所にも来ていたよ」

 

「大方クソ親父絡みね、多分懐刀としてアムロを周知させたいのよ。急に現れた凄腕のパイロットなんて、子供から報告された親連中は混乱しっぱなしだったんじゃない?」

 

 

現状、教師としてアスティカシアに勤めているアムロが知られているのは元の所属がベネリット社である事、地球出身である事。元軍属で凄腕のパイロットである事の三つだけだ。

ミオリネやゼフィランサスのメカニック達以外はアムロの正体を知らない。勿論、これは生徒の中でも関わりの深いグエルも同様だ。

 

 

「確かに必要な事だろうし、俺は出る事にするが…ミオリネは?」

 

「…今年は出ようと思うわ。前にアムロが言ってたでしょ、生まれながらの義務は誰にだって少なからずあるって」

 

「ああ、言った」

 

「なら、こういう社交場に出るのもベネリット社の令嬢としての義務なのかなって思って。それにアムロがいるなら心強いし…」

 

「そうだな。出来ることから始めてみるのは良いことだし、パーティ中もエスコートは出来ないが護衛として動く事は出来るだろう」

 

「じゃ、決まり。ちゃんと守ってよ」

 

「勿論だ。…ん?」

 

「どうしたの?」

 

「招待状一つにつき一人まで連れてきていいと書いてあるが…」

 

「そうね。一応、ベネリットグループの関係者か、この学園の生徒に限定されるけど」

 

 

基本、生徒に送られた場合大体が同じ生徒を想定されている為、制限はあって無いようなものではあるが。

 

 

「それなら地球寮から誰か連れてく?」

 

「…どうしたものか。まだ子供相手に対して、アーシアンだスペーシアンだと差別をする輩は流石にいないと思いたいが…」

 

「…じゃあやめとこうかしら」

 

「2人ともさっきから何の話してるの?パーティとか聞こえたけど」

 

「ああ、ニカか。資金集めパーティに地球寮から2人連れて行けるがどうするべきか考えていてな」

 

「あ、それ知ってます」

 

「「え」」

 

 

ニカの言葉にアムロとミオリネの声が驚きで重なるが、それも当然で一般の生徒ではほぼ知り得ない情報だ。せいぜい時期が分かるくらいである。

 

 

「地球の企業の方で作られてる新型のお披露目をするんですって」

 

「成程、あれは確か地球企業の方で各パーツを生産しているものな。それならみんなも知ってる訳か」

 

「はい。だから地球寮から何人かどうかって招待状が届いたんですけど」

 

「あれ、その言い方だと行かないの?」

 

「やっぱり私達アーシアンだし、社交場の人達から見たら子供だし、ね?行っても針の筵かなって」

 

「他のみんなも同じか…浅ましい考えだが…、こればかりはどうもな」

 

 

子供云々は兎も角として差別の根はいつの時代も根深いもので、これからの地球が再び力を付けても今の地球は弱いままだ。嫌な話ではあるが、そういう目で見られる事は避けられないだろう。

 

 

「…なら目に物見せてやろうじゃないの」

 

「ミオリネ?」

 

「ニカ、あんた後で私の部屋来なさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後。

何とか少し散らかってる程度で収まっているミオリネの部屋にて。

 

 

「えーと…あ、あったあった」

 

「ミオリネ?何を…」

 

「ドレス探してたの。つい最近クソ親父から贈られたのが2着あって、今後の成長分込みで作ってあるの。私とニカじゃあんまりサイズ変わらないしこれ着て出なさい」

 

「え、でも私…」

 

「言うこと聞く!私の親友がそんなちゃっちい事で悩まないの」

 

「親友?」

 

 

あーでもないこーでもないと服飾品をゴソゴソしていたミオリネの手が止まる。その目はどこか拗ねているように見える。

 

 

「…何よ、そう思ってたの私だけ…?」

 

「そんな事ない!うん、私達親友だよ」

 

「なら腹括って出てね。いつか大成したらこういう事もあるんだから」

 

「えっ」

 

 

ここまでミオリネの手中である。

もしこのやり取りをアムロが見たらやはり親子だけあって似ているな…と思われた事だろう。

一方その頃アムロはというと…。

 

 

「ーーーーーという訳だ。最近は特に年相応の顔を見せるようになったな」

 

『そうか』

 

 

ミオリネについての話が半分を占めるデリングへの定時連絡中である。

 

 

「あと近日中にあるインキュベーションには俺とミオリネ、それから地球寮から1人出席する」

 

『1人だけか』

 

「まあ無理強いをするつもりはないし、構わないがな」

 

『…その1人の名前は?』

 

「…ニカ・ナナウラだ」

 

『…そうか』

 

 

デリングは面白い事になったものだ、とでも言いたげな顔だ。その表情の変化が分かるアムロは何かあったかと思考を巡らせ、一つの結論に辿り着く。

 

 

「…まさか⁉︎」

 

 

 

『そのまさかだ。彼女が提案したジェガン強襲型…いや、スタークジェガンを制式採用する事が決定した』




結局ミオリネに押し切られて出席する事になったインキュベーションパーティ。
社交場に出てみるのも勉強…なのかな?
先生もいるし大丈夫だよね…
…というかデリング総裁とご対面する事になるんじゃ…
と、とにかく次回!「地球のMS(ガイア・ギア)
地球企業の機体がどうなってるのかを見れるのは素直に楽しみかな?


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地球のMS(ガイア・ギア)

だいぶ間が空いてしまい申し訳ございません。
最長文字数(当社比)です、お楽しみいただければ幸いです。


「うわー…すごいね」

 

「物珍しいのは分かるけどあんまりキョロキョロしてると悪目立ちするわよ」

 

 

インキュベーション当日。ミオリネが滅多に出さない全力により着飾ったニカは側から見れば完全にご令嬢だ。…最も、社交場に慣れた人間からすればその振る舞いで看破出来るだろうが。

 

 

「この手の社交場で大事なのは何より落ち着いて行動すること。緊張しちゃうのは仕方ないけど焦って動くよりよっぽど良いわ。それにマナーの方はほぼ教えられてないけど、ちゃんと丁寧な態度をとってれば問題になんてならないんだから」

 

「う、うん!」

 

「まあ今日は私と一緒に動いてれば問題無いでしょ。それよりアムロ遅いわね…」

 

「待たせてすまない。正装をするのも久しぶりで少々手間取ってしまった」

 

「先生!」

 

「遅いわよ」

 

 

勿論この場ではアムロもスーツだ。

 

 

「アムロも来たことだし、そろそろ行くわよ」

 

「ああ。…ニカ、早速だが驚くぞ」

 

「え?」

 

 

パーティ会場に入場する3人。やはり総裁の娘というだけでミオリネは視線を集めるが、慣れているので本人は気にも留めていない。

多くの謎を持つ凄腕パイロットであるアムロもまた視線を集めるが、戦場のプレッシャーを知るアムロからすれば無いのと変わらない。

ニカは2人の背に隠される形となっており、向けられる視線は少ない。が、当のニカ本人は目の前に立つそれに気を取られそれどころでは無かった。

 

 

「先生、これって…!」

 

「ああ、カテドラルで制式採用が決定したジェガン強襲型…もといスタークジェガンだ」

 

 

パーティ会場に入って来た者を出迎えるような形で立っているのは制式採用されたスタークジェガンだった。そもそも一般にはまだ発表されていないジェガンな上に、そのバリュエーション機という事もあり、周囲には人だかりが出来ている。

 

 

「コレってベネリット社(ウチ)の新型よね?もう改修プランが出てたんだ」

 

「ああ。これはニカが上げた案が元になったものでーーー」

 

「極めて早期に挙げられた容易な改修案。まだ他の案が思案されている段階であるにも関わらず図面の上では完成されているそれを投げられ拾わぬ者などいない」

 

「デリング」

 

 

アムロの説明に続ける形で話に入ってきたのはスタークジェガンを採用したデリング本人だった。それと同時にこの場で総裁であるデリングを気安そうに呼び捨てにするアムロに対しての恐れの目が向けられる。

 

 

「直接顔を合わせるのは久しぶりだな、アムロ、ミオリネ」

 

「そうだな。少し血色が良くなったんじゃないか?」

 

「まあそこまで久しぶりな感じしないけどね、ク…お父さん」

 

「ッ……………」

 

「ちょっと何よ、私なんか変な事言ったかしら?」

 

 

突然片手で顔を隠して天を向くデリングだが…この厄介な親子をよく知るアムロにはこれがどういう感情で行なっている行為なのか分かる。

 

 

「普段は憎まれ口ばかりでクソ親父としか呼ばない娘が不意打ち的に『お父さん』と呼んできたものだから感極まってるんだ…暫くそっとしておいてやってくれ」

 

「やっぱり愛されてるね、ミオリネ」

 

「なんかそれだと私普段凄い親不孝娘みたいじゃないのよ⁉︎」

 

(デリングはミオリネが自分と似たもの同士なのを分かってるからこそ心配しているからな…なんなら性格はミオリネの方がトゲがあるし)

 

 

おおよそ2分程で復帰したデリングの咳払いで話が戻る。

 

 

「正直来るとは思わなかったが…何かあったか」

 

「別に…ただ、これもベネリット社の令嬢としての義務だと思っただけよ」

 

「…『何か』は、あったようだな。さて、隣の君は…」

 

「は、はい!メカニック科1年地球寮所属のニカ・ナナウラです、本日はご招待いただき有難うございますっ!」

 

 

ここまでニカは一息で言い切った。流石にグループ総裁相手に緊張しない方がおかしいので仕方がないとも言える。

 

 

「そこまで緊張せずとも取って食いはせん。…威圧感を与える容姿なのは自覚しているからな」

 

 

地球寮、とニカの口から出た瞬間見下すような安っぽい差別の視線がニカに向けられるが、デリングはそれらを一睨して散らし、極力柔らかい口調で話す。

 

 

「それに君の案で作られたスタークジェガンはいい物だ。私としてはジェガン1機でこの結果なら安い投資だったと言える。今後も期待している」

 

「有難うございます!」

 

「さて、私はそろそろ行く。緊張するなと言っても無理があるだろうが、楽しめるだけ楽しんでいくと良い」

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、やっぱりあいつも人の上に立つ人間なんだなって思っちゃった」

 

「デリングの事か?」

 

「うん」

 

 

デリングと別れてから暫くして。展示されているMSを見たいというニカの要望に応えて3人で時に食事に舌鼓を打ちながら色々と見て回っていた。

 

 

「少なくともデリングの周りの人間が立場にだけ惹かれる人間ばかりならあの立場にはいないさ」

 

「うん…そうね。…まだお母さんが生きてた頃、あいつに褒められて嬉しかった事思い出しちゃって」

 

「…忘れてた…忘れていたかったのか?」

 

「きっとそう。嫌な事から目を背けたくて大切なものにも封をしちゃってたんだ、私」

 

「私じゃ分からない事も沢山あるよね…でも抱え込んで大事な事忘れるくらいなら先に私に言ってよ?親友なんだから」

 

「ありがとう、ニカ」

 

 

歩いているうちに展示されているディランザに近づいていると、少し遠くから声が聞こえる。声の主は段々近づいているようだ。

 

 

「アムロ先生!」

 

「グエル…ジェタークの御曹司である君が来ていない筈もないか」

 

「はい!先生もいると思いましたよ」

 

 

グエルの後ろから遅れて歩いてくるのは異母弟のラウダとその父にしてジェターク社のCEO、ヴィム・ジェタークだ。

 

 

「まったく…幾ら先生がいたからって僕と父さんを置いていくのはどうかと思うけど、兄さん?」

 

「すまない…やっと見つけたと思ったら、つい」

 

「流石にそれはやめた方がいいな、グエル。…初めまして、貴方がジェタークCEOですね」

 

「如何にも…ヴィム・ジェタークです。愚息が世話になっております」

 

「アスティカシアで教師を勤めさせていただいています、アムロ・レイです。…少なくとも愚かではありませんよ、彼は。学園で1番優秀です」

 

「先生を除いて、ですけどね」

 

 

そう補足をするグエルだが、それを見るラウダとヴィムは複雑気だ。

 

 

「ミオリネ、なんか2人の目が…」

 

「…ああ、父の方は取り繕ってるけどアムロが噂通り本当にあいつと親しい上にグエルがあれだけ懐いてるから困ってるだけ。弟の方は単に兄をアムロに取られて不機嫌なのよ、側から見てても仲良いからあの2人」

 

「そんなバッサリ…あっ」

 

 

周囲の明かりが徐々に消え、巨大なモニターが投影される。

いよいよインキュベーションの本題とも言えるプレゼンが始まる。

3人はジェターク一家と離れて人のいないテーブルに陣取った。

肝心のプレゼンだが…。

 

 

「…私正直言ってMSについてはほぼ素人だけど、何というか」

 

「…あんまり」

 

「新鮮味が無いな。昔にやったような事も多いし、小さいチャンスと言える程のロマンも無い。というかあれくらい別に多少腕が立つパイロットなら無用だ」

 

「「それはアンタ(先生)だけ(です)!」」

 

 

そうこうしている内に複数のプレゼンが終わるが…その殆どは目標金額に届かずにお流れになる。

 

 

「何れもパイロットを楽にさせる方向のものばかりだな」

 

「なんかびっくりするぐらい性能を上げるとか新しい物を作る、みたいなものが有りませんでしたね」

 

「MS市場は伸びが悪くなってるのは知ってたけど…やっぱり挑戦する度胸は無いのね。まあわからなくはないけど」

 

「その新しい挑戦、そろそろだな」

 

 

モニターに映し出されたのはデリングで、パーティが開始してからようやくジェガンの発表だ。

ジェガンそのものは既にベネリット社単体で開発・量産が可能な為融資を募る必要は無いのだが、この後の地球産MSの注目度を上げる為にこの場での発表に決定した。

肝心の内容はといえば…

 

 

『会場の入口に立つMSが気になっている者は多いだろう』

 

『あのMSこそが我がベネリット社の新製品、ジェガンである』

 

『厳密には、展示されているのはその改修機スタークジェガンだが』

 

『ジェガンは高い汎用性と拡張性を持つMSであり、更にパーメットを使用していないにも関わらず変わらぬ操作性を維持している』

 

『尚スタークジェガンの改修案はアスティカシア所属の学生から挙げられたモノを原案としている』

 

『この点から見てもジェガンの拡張性がどれ程のものか、伝わるだろう』

 

『このジェガンが停滞しつつあるMS市場の活性化に繋がる事を願う。以上だ』

 

 

語られた内容を意訳するならば

『この機体を上回る何かが無ければシェアは全部ジェガンが食うぞ』

だろうか?

ここに来ての競争を煽る発言はそれだけジェガンの出来の良さに自信があるとも取れる。これがどういう結果に転がるか、結果が分かるのはまだまだ先の話であるが。

 

 

「…バッチバチにやりあわせる気ね」

 

「この後の地球企業の機体のハードルがかなり上がったと思うが」

 

「大丈夫かな…」

 

 

時間的にも次のプレゼンが最後になる。ジェガンの後のトリは地球企業…彼等のMSだ。

壇上に上がったのはまだ若い男で、この手のプレゼンの腕を買われたのだろうと察する事が出来る。

 

 

『我々地球企業がMS、ガイア・ギア!これは御社らの機体を…ジェガンを上回る能力があると、自信を持って言わせていただきます!』

 

 

ガイア・ギアなる機体の画像がモニターに投影される。映し出されたその姿は大きな2枚の翼を持つ鋭角な印象を与えるもので、頭部はといえばツインアイ…ゼフィランサスのそれをシャープにしたような形状をしていた。

 

 

『このガイア・ギアは端的に言ってしまうならば比肩無き高性能機です。重武装の本体に加えサーベルに転用可能なメガ・ランチャーを備え、技術的な目玉としてビームシールドと大気圏突入・離脱可能な簡易変形機構を有しています!』

 

 

周囲からのざわめきが止まらない。ジェガンが霞む様な高性能を誇るMSを、普段自分達が見下し、差別している地球が出してきたのだ。

 

 

『勿論、単純な汎用性ではジェガンに劣るでしょう。ですがこのガイア・ギアはエース向けの超高性能機、量産仕様もございます』

 

『それがこのガイアス。本体の重武装を外し基本装備をバルカン・サーベル・ライフルの三種に絞り、可変機構と大気圏突破機能を外した代わりに可動と機動そのものはガイア・ギアに劣りません。また、装備そのものは共有して使用する事が可能です』

 

 

量産機とされているガイアスはガイア・ギアに比べるとかなりシンプルな姿をしているが、基本性能が据え置きというのは驚きでしかなく、ざわめきは更に大きく広がっていく。

 

 

『最後にこの2機体はパーメットを使用しておらず、地球上のみで生産可能となっております。皆様、是非ご融資を!』

 

 

最後の言葉と共に融資状況のパーセンテージを示したメーターが表示されるが、達成金額は他のものより3倍高く設定されている。その金額故か、0%のまま数値は動かない。が、

いきなり10%の融資が入る。入れたのは…ベネリット社、デリングだ。

 

 

「ベネリット社はガイア・ギアの生産・販売を支持・支援する」

 

 

デリングの鶴の一声で数値はどんどん加速していき、あっという間に目標金額の100%達成した。

 

 

『皆様の融資、大変感謝致します!地球のMS、ガイア・ギアをご期待してお待ち下さい!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったな」

 

「目標達成して良かったー…」

 

「あれだけの金額を目標にしてあるとは思わなかったわ」

 

「あのMSは良い物だろうが、流石にヒヤリとしたな」

 

 

無事終わったインキュベーションの会場を後にした3人は普段着に着替えたのち帰路に着いていた。

 

 

「ふあぁ…」

 

「お疲れね。変なところも無かったし、着くまで寝ちゃえば?起こしてあげるから」

 

「うん…あ、そういえば」

 

「何か忘れ物か?」

 

「いえ…あの人…シャディクさんに会わなかったなって」

 

 

この言葉でアムロの目の色が変わるが、ミオリネは気にせず続きを促す。

 

 

「あいつとなんかあったの?」

 

「…うん。なにかはわからないんだけど、協力してくれないかって言われて。その後青い顔であの時のやり取りは無かった事にって」

 

「…大体分かったわ。もう寝ちゃいなさい」

 

 

ニカから寝息が聞こえるのを確認したと同時にアムロとミオリネは顔を見合わせる。

 

 

「私の親友に何させるつもりだったのかしら、あの男は」

 

「もう釘は刺してあるが…もう少し警戒すべきか」

 

「…次会ったら蹴りの1発でも入れてやる、絶対」

 

 

2人の会話の裏で、背筋が凍る様な感覚を覚えたグラスレーの御曹司がいたそうだが、2人は知る由もない。




…なんか悪寒がするんだが…
…気を取り直して
インキュベーションは結局ベネリット社と地球企業の独壇場で終わった。
このままだとグラスレー社はシェアを根こそぎ奪われるかもな…
ミオリネはすっかり変わってしまって、
本当に俺だけ置いてかれてる気分だ。
さて次回。『シャディク、思案する』
真っ向勝負で敵わない相手にどう立ち回れってんですかね?


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シャディク、思案する

仕事やらなんやらでここ最近の更新が遅れてしまって本当に申し訳ない。いつも見ていただきありがとうございます。



「ハァ…」

 

 

思わず溜め息が溢れる。

溜め息をした本人であるシャディクがいるのはグラスレー寮の一室。取り巻きの少女5人は心配の色を浮かべた顔で見てくるが、行き先の無い感情はどうにもならない。

 

最近のシャディクは極力隠してこそいるものの常に憂鬱げだ。

先日のインキュベーションなんてミオリネに声を掛ける一番自然な機会であった筈なのに、アムロと自分が手駒にする筈だった地球寮の生徒といるのを見て話し掛けるのを止めてしまった程である。

 

 

「シャディク、体調が優れないのか?ここ最近ずっと思い詰めた顔をしている様に見えるが」

 

「いや、大丈夫だサビーナ。単に最近忙しいだけさ」

 

「本当にー?あのMSの事考えてるんじゃないの?」

 

「…まあ、分かるよな、そりゃ」

 

 

ストレートな疑問をぶつけるレネに対してシャディクは弱々しく返す他無い。そのMSが一番な問題なのだ。

 

 

「この先グラスレーが根っこからへし折れるか否かの瀬戸際に立たされたようなもんだからな…市場の活性化を目指すと総裁は語っていたが、ありゃ一歩間違えればゴールにもなってしまう」

 

「あれ?でも確かグラスレーでも新型の開発してたよね?あれがあればなんとかなるんじゃないの?」

 

「アレは対GUNDを捨てられてないからな…単純なスペックで上回られたら太刀打ちすら怪しい」

 

「それじゃあもう私達に勝ち目無いんじゃ…」

 

「同感…どっちもコンセプトがグラスレーと被ってる」

 

 

グラスレーのお得意様といえばカテドラルなのだが…自社で製造しているジェガン、性能を示したガイア・ギア。この二つにカテドラルのシェアは全て持っていかれるとシャディクは考えている。

 

 

「…そもそもそれを考えた所でじゃあどうするんだって話になるんだが…学生の意見を聞くような余裕はグラスレーには無いしな」

 

 

最終的にはこれだ。有用さを示せば立場を問わず意見を受け入れるベネリットとの地力の差がこのような面でも見える。

少なくとも自分の目では普段の振る舞いこそ変わらない様に見えるが、総裁が『独裁』の使い方をより柔軟にしているのは分かる。

その結果がスタークジェガンなのだろう。

 

 

「早いうちに地球寮から例のMSを奪うべきなのではないか?」

 

「もう無駄さ…ジェガンは一般販売を前提にしている量産機だ、それに先生の機体も見た目こそ違うがそれの特別仕様機って所だろう。あと地球寮に決闘を仕掛けるのは絶対にやめろ」

 

「え?でも今地球寮にパイロット科いないじゃん」

 

「総裁の特権で地球寮のパイロット科がいない場合、或いはまだ決闘を戦うに満たない程度の腕しか持たない場合代理が立てられるようになってる。そうなれば先生が出てくる」

 

「…もうそれ、詰みなのでは?」

 

「それにこっちが仕掛けたら向こうの要求がどれ程のものになるか分からない。仕掛けて負けて素寒貧になりかねない」

 

「うわっ、うちらのメンツボロッボロじゃん…じゃあホルダー負かしてミオリネをさっさと奪うのは?」

 

「今のグエルに6対1でも勝てる気がしない」

 

 

重たい空気が場を支配する。先の通りグラスレーのアレコレを考えた所でほぼ意味は無いし、それはグラスレー社の大人の仕事だ。

ただシャディクが求めているミオリネは完全にグエルという強すぎるホルダーに守られてしまっている。

 

 

「奴が恐ろしく腕を上げたとは思っていたが…」

 

「少し前には何で決闘しないんだって詰め寄られた事もあったがな…もうあいつの眼中に無いんだよ、俺の事。…悪い、少し散歩してくる」

 

 

シャディクは散歩と言いつつも、自分が原因であってもその場の空気に耐えられなくなって、そして無性にミオリネの声が聴きたくなって彼女の温室に向かった、が。

 

 

「ようトロフィー。あいも変わらず土いじりか?」

 

「あらホルダー。こんなとこに顔を出して暇なのかしら?」

 

 

温室にミオリネはいたが、それと同時に先客(グエル)もいた。シャディクは咄嗟に身を隠す。

 

 

「まあ暇っちゃ暇だな。今日は訓練休みで休養日に設定してるし、寮長の仕事も残ってない」

 

「そ。暇があるのは良い事よ。ついでにそこの肥料こっちに持ってきてちょうだい」

 

「おう」

 

 

2人の間に流れている気安い空気が、自分にとっては息苦しい。何故コソコソ隠れてこんな会話を聞いているのだろうと、シャディクは眩暈がするような感覚を覚えた。

 

 

「…そろそろ帰るかな。もう少しでピアノが来るし」

 

「ならオレも帰るか」

 

「ん。戸締りするから先に出て」

 

 

その声を聞いて急いでシャディクは温室から出てきた2人にとって死角になるだろう場所へと身を隠す。

 

 

「んじゃ、お疲れさん。なんか手が必要だったら呼べよ。お前に限って遠慮なんてしないだろうがよ」

 

「ええ、そうさせてもらうわ。あとこれ持ってきなさい」

 

「有り難くいただくぜ」

 

 

ミオリネがグエルに手渡したのは籠に入れられたトマトだ。ここまで気を許しているのかと血が昇るのか血が引くのか分からない感覚がシャディクを襲う。

 

温室に鍵をかけて去っていくミオリネの後ろ姿を見て早くグエルも早く何処かへ行ってくれと思っていると急にグエルの纏う雰囲気が変わる。

 

 

「おい」

 

「⁉︎」

 

 

バレているのか。グエル本人は自分のいる方へ顔を向けずに言う。

 

 

「出て来なくていいし声も出すな。それくらいの情けはくれてやる」

 

「ご執心のミオリネが自分以外の男と気安く話してて不愉快って所か。そこまで執着するならオレを負かしてとっとと自分のものにしてしまえば良かったのによ」

 

「…いや無理か。お前はあいつを『モノ』扱いする度胸なんざ無い」

 

「挑戦ならいつでも受けてやる。オレはホルダーだからな。だが…」

 

 

 

「オレの所の寮生に要らない事をしたらその時には…」

 

 

 

ゾッとする空気が周囲を支配する。これはかつてアムロに浴びせられたプレッシャーと同じものだった。

 

 

「じゃあな。6対1でも相手してやるよ」

 

 

グエルが去り、埒外の強者の圧から解放されると同時にシャディクは力無くしゃがみ込んだ。




先生から誕生日を教えてもらって何度か占ってるけど…
毎回極端な結果しか出ないんだよなぁ。
この前興味本位で撃墜スコアを占ったらえらい事になった…。
触れちゃいけないヤバいモノってこういうのを指すんだろうな。
次回、「綴られぬ1ページ」
MSに乗らなきゃ普通に優しくて頼りになる先生なんだけど、ね。


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綴られぬ1ページ

この小説を読んでて一番の楽しみは、リアルタイムで水星の魔女についての意見とかを感想ついでにいただける事。このライブ感が堪らない…!

日常回です。どうぞ。


「釈然としねぇ…」

 

「まーたギャンブルか?そろそろ辞めとけよお前」

 

「違えよ」

 

 

変わらぬいつもの地球寮。

増設されたMSドックの前は改築前と変わらずメカニック達の作業場である。単にアレコレ移動させるのが面倒だったというのもあるが。

 

 

「なんかこう…真面目に働いて給料貰って…ってのを平和にやってるのが上手く言語化できねえけど変な感じっつーか…あとここ最近はもう諦めてグエル先輩に賭けてウハウハだ」

 

「まあいいんじゃね?お前MSよりクラフトとかそっち側の工業機械の方志望だろ?経験積めるし金入るしで」

 

「2人とも、手が止まってるよ?」

 

「「悪い」」

 

 

地球寮・メカニック科の面々が行っているのはフロントから修理依頼を受けた機械群だ。種類は様々で、修理を待つそれらは無造作に床に置かれている。

 

 

「…思う所があるのはちょっと分かる」

 

「でも割と金払いが良いんだよな。先生は地球寮をどうしたいんだか…」

 

「それこそ占ったら良いんじゃないの?」

 

「何度やってもさっぱり分からない」

 

「…まあ、先生だし」

 

 

結局それで納得するしかないのだが、何故彼ら彼女らがフロントの機械を修理しているのかといえば、地球寮こそ綺麗になったものの生徒個人個人の懐は子供である事を差し引いても寂しく、各々が余裕を持って嗜好品を買えるぐらいは生活水準を上げられないかと考えたアムロがポロッとデリングに愚痴ったのが原因だ。

 

珍しいアムロの愚痴に加え、学生の身分であるが故にジェガンの改修案の報酬を与えられなかったニカの件もあって即座に動いたデリングがそのすぐ翌日にフロントの機械修理を地球寮に委託したのである。

 

ちなみに既に何度か報酬は支払われており、初めてその金額を見た時には地球寮が(物理的に)揺れた。

 

 

「ほらあとちょっと頑張って。これが終わったらあの子の整備があるんだから」

 

 

ニカの言う『あの子』とは、元々地球寮に一機だけあった旧式のデミトレーナーの事だ。

 

 

「…そこまでやる事無いけど」

 

「それは言わないお約束だよ」

 

 

現在ドックに置かれているデミトレーナーは青・白・緑の3色で塗り分けられており、少し余裕が出来つつある地球寮の面々によって少しずつ改修されているのである。…最も、作業用機械として、だが。

 

 

「ソフトの方弄るのはあんまりやれないし、じっくり時間かけて進めたいんだよね」

 

「言わんとする事は分かる。気長にやれば良いと思う」

 

「これもそのうち何かに活きるのかね…」

 

「…先生ならそう言うよ」

 

 

改修といっても主にソフトの方で、パイロット科が1人もいない現在の地球寮の面々でも十分に動かす事が出来るようにするのが目的だ。

 

ちなみにここにいないアムロ・ミオリネ・マルタンの三名だが…。

 

ミオリネは理事長室から移動したトマトの栽培。

アムロはグエルの頼みでジェターク寮の生徒相手にマイルドにしたシミュレーター訓練を。

マルタンは1人委託された業務の数字等のアレコレの確認をしている。

 

何事も無い日の地球寮の1日は、こうして過ぎていく。




月日は流れて新学期。
あっという間に2年になるなぁ…
パイロット科の子も入るみたいだし、
例の新型もやって来る。
でも大丈夫かな…アムロ先生からの訓練、受ける事になるよね?
次回、「教え子2号、弟子1号」
今年もまた沢山のことが変わっていくんだろうな。


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教え子2号、弟子1号

かなり間が空いてしまい本当に申し訳ございません。
お気に入り登録二千人突破ありがとうございます。


「えーと、先生こいつは」

 

「地球寮の新入生でパイロット科のチュアチュリーだ。地球寮としては待望のパイロット科生徒だし、折角なら鍛えようかと思ってな」

 

「…それ本当に大丈夫ですか?アレをやらせるんでしょう?」

 

 

グエルの目線の先にあるのはいつもグエルが使用しているシミュレーターだ。グエルがこう言うのも当然で、前に一度ジェターク寮のパイロット科の少女がグエルの訓練を体感したのだが…

 

 

『ちょ、はや、早いっす!ちょこまギャー‼︎』

『当たんないっす、目が回ってきたっす…あっ』

『た、大破したけどなんとかぶっ壊してやったっす…えっ…落ちるー!』

『げ、限界…、うぷっ…』

 

 

…それはもう酷い有様だったのだ。

グエルの頼みで不定期にジェターク寮生に訓練を行っているアムロだが、内容がマイルド版になったのはこの為である。

 

 

「…さっきからあーし抜きで話進めてるけどさ。スペーシアンがやるようなシミュレーターに意味なんかあんのか?」

 

「お前な…よりにもよって最初に言うことがそれかよ」

 

「別におかしな事は言ってないっつーの。『パイロットとして腕を伸ばしたいなら来い』って言われたから来たけどさ、やるのはシミュレーターって初歩の初歩じゃねーか」

 

 

そう悪態をつく大きなシニヨンの少女、チュアチュリー・パンランチからすれば、入寮した時から困惑しっぱなしだった。

 

地球出身の者しかいない筈の地球寮に何故か彼女が嫌うスペーシアンの大将とも言うべきベネリットグループ総裁の娘がいたり、噂になっている総裁の懐刀の凄腕パイロットが寮監になっている等、地球寮とは…状態である。

待望のパイロット科だからと連れて来られたらMSに乗った事も無いような者がするシミュレーターだ。正直期待外れだった。

 

 

「このシミュレーターは見た目通りの特注品でな。普通のシミュレーターとは一味も二味も違う」

 

「でもシミュレーターだろ」

 

「…先生、もう実際にやらせて実感させた方が早いんじゃないですか?」

 

「しかし…さっきグエルが言っていたようにまだ身体がコレを使える程では」

 

「舐めてんのか。こちとらパイロットだ、シミュレーター如きにへばるような鍛え方してないんだよ」

 

「そういう訳じゃない。ただコレは実戦さながらの体験が出来る装置だから…」

 

 

そこまで言ってアムロは溜め息のような深呼吸のような息を吐く。実際、グエルの言うとおり、口で説明するよりやらせた方が早いと思っているからだ。

 

 

「なら早速やってもらう。ただしつこいようだがコレを普通のそれとは思わない事だ」

 

「はいはい、ご忠告感謝しますよっと」

 

 

パイロットスーツとヘルメット持参で連れてこられたチュアチュリーはとっくに着替えており、その大きなシニヨンをヘルメットに押し込んでシミュレーターに乗り込んだ。

 

 

「…あの髪、ああやって入れるのかよ…」

 

 

グエルの呟きは、何処かへ消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだコレ…」

 

 

シミュレーターを起動したチュアチュリーは投影された光景に早くも従来のそれとの違いを感じていた。

 

 

「では始めるぞ。最初は感覚を覚えてもらう為にスタンダードのレベル1からだ」

 

「はぁ?基本的な操作は変わんないんだろ、必要無いし」

 

「…後悔しないなら良いが?」

 

「…はいはいやりますよ」

 

 

訓練を始める前に投影された自身の機体のデータが表示される。

 

 

「今回使用する機体はジェガンだ。まだ君の機体は納入されてないからデータが無い。比較的近いこの機体を使用してもらう」

 

「了解、早く始めろ」

 

「よし…開始」

 

 

投影された敵機、ハインドリーが突撃してくるがチュアチュリーは容赦無くビームを叩き込む。結果、呆気なく爆散したハインドリーの後、同じ機体が先と比べて近い距離に現れるが、これもサーベルで切り飛ばして終わった。

 

 

「なんだよ、楽勝じゃん」

 

「では次だ、スタンダードのレベル2、開始」

 

 

出現した数は3機、先程と異なり連携を行いつつ1機が突撃、残り2機が援護射撃をする形になって攻めて来る。

 

 

「いきなり数が…!」

 

「難しいと感じるなら減らしても構わないが」

 

「いや、やってやる!」

 

 

突撃をする機体には先程と同様にビームを浴びせ爆散させるが、向けられる射撃はそれを意にも介さず正確なままジェガンを狙う。

 

 

「……ッ!」

 

 

ギリギリの回避で片方の射撃は回避するものの、もう片方は避けきる事が出来ずに盾に被弾する。

 

 

「気を抜くな、第二波が来るぞ!」

 

「んなっ⁉︎」

 

 

増援として現れたのは先程と同様に3機だが、まだ先の2機は残っており更に増援は3機とも射撃を行う為に距離を取りつつバラけている。

 

 

「クソッ、間に合わない!」

 

 

そうこうしている間にライフルが破壊され、取れる手段も接近戦のみとなってしまう。このまま撃たれ続ければジリ貧だ。

 

 

(このままじゃやられる…!)

 

「……ったく、大口叩いてこれか。無理なら無理って言えよ、別に恥でもなんでもないってのによ」

 

 

そう言いながら2機のハインドリーのコクピットを正確に撃ち抜き乱入したのはマゼンタのディランザ…グエルだ。

 

 

「な…、お前、邪魔すんな」

 

「文句は後だ。残りの3機はお前が倒せ。ライフル失くしたくらいでビビってんじゃねえ」

 

「あーしがビビるか!」

 

「ならさっさと突っ込め」

 

「それじゃあ撃たれてやられちまうだろ⁉︎」

 

「逆だ。ゼロレンジで相手はライフルを撃てない。あとバルカンもグレネードもあるだろ、牽制くらいにはなる」

 

 

詰まるところ、コレは引っ掛けである。距離に余裕があるうちに射撃で落とすと数の不利そのままで残りの二機と戦う事になるが、近接して一機落とせば残りの二機までの距離も先と比べてそう遠くない。向こう側からの射撃は盾で受けて迅速に倒す事が最も簡単な攻略法である。

…勿論モタモタしてるともう一機に撃たれて終わりだが。

 

 

「違ったら承知しねーかんな…!」

 

 

指示通り突っ込んで一機目のコクピットを突き刺すと実際に射撃が止んだ。この隙にチュアチュリーは倒した機体を盾に突っ込む。

 

 

「死ねオラぁ!」

 

 

そのまま蹴りを叩き込み、真っ二つに切り捨てる。そうなれば一対一、この状況で機能で上回るジェガンが下手をした所で負ける状況ではない。

 

 

「あんま性に合わないけどなぁ…!」

 

 

最後はバルカンとグレネードで蜂の巣にして、何とか訓練は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生意気な口利いてすみませんでした」

 

「気にしてないさ。このシミュレーターの凄さが分かってもらえれば今日は取り敢えずそれでいい。明日からより基礎の習熟と体力作りだ、今日はここまでにしてよく休んでくれ」

 

 

鍵を掛けるからと先に帰るよう促され部屋を出るチュアチュリーとグエル。出て息を吐いた瞬間崩れ落ちかけるチュアチュリーをグエルが支えた。

 

 

「おいおい、大丈夫かよ」

 

「…悪い」

 

「気にすんな、オレも最初にやった時はお前より酷い状態だったからな…ま、兎に角送ってやるよ、今日はスクーターで来てるからな」

 

「…それは」

 

「先輩の厚意には甘えるもんだぞ、後輩。まあお前は先生の教え子名乗るにゃまだまだ弱えが…一先ず生徒最強のオレが扱いてやる。先生と話してそう決まった、まずはオレの弟子って所か」

 

 

そう話しながらスクーターを走らせるグエルとそれに寄りかかる形になるチュアチュリー。まだ春の気候故か少しだけ冷たい空気が顔を撫でる。

 

 

「なあ、あの時の射撃、どうやったんだ?」

 

「ただ撃っただけ、としか言えないな。あの訓練をこなしていけばその内自然と出来るようになる。地道に頑張る事だな、チュアチュリー」

 

「…チュチュでいい」

 

「あ?」

 

「チュアチュリーだと長いだろ、チュチュでいい」

 

「そうか。改めてこれから宜しく頼むな、チュチュ」

 

「…宜しく、先輩」

 

 

 

アスティカシアに新しく吹いた風は、青かった。




最近の兄さんが放つ圧が凄く重い。
インキュベーションの時も発表された機体を食い入るように見ていたし、変わったな…
勿論余裕たっぷりでどっしり構えてる兄さんはとても良いけど。流石兄さん。
次回、「CEO、気圧される」
…何であそこまで案という名の文句出されて直さなかったんだ?


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CEO、気圧される

本日は供給がないと思ってたらメカぐるみが来てびっくりした。
どうも神姫脳です。


「で?なんであんな半端な仕様になったのかご説明していただけるんですよね、父さん」

 

『だからダリルバルデは試作機だから一先ずアレで良いと私が判断したと』

 

「何処の世界にまともな射撃兵装も無しに試作機ですって言う馬鹿がいるんですか⁉︎」

 

 

グエルとヴィムが話しているのはジェターク社の新型試作機、ダリルバルデについてだ。

ジェガンとガイア・ギアという劇物によって急いで新型を作らねばならない空気ができ、各企業が急ピッチで新型を作っている中で遂に出来上がったジェターク社渾身の機体である、が…。

 

 

『馬鹿とは何だ⁉︎所詮試作機、後から幾らでも変更できる物に一々文句を言うな‼︎』

 

「試作機だからしっかり完成させなきゃいけないんでしょうが!それに何度かそっち(本社)で試運転した時も『基本的な射撃装備が欲しい』って何度も言ったじゃないですか!」

 

『射撃装備ならバルカンと機雷があるだろう、充分ではないか!』

 

「心許ない弾数の機雷と近〜中距離が限界のバルカンでどうしろってんですか⁉︎下手打てばザウォートに引き撃ちされるだけで手も足も出ません!」

 

『乗るパイロットの問題だろう、それは⁉︎』

 

「なら父さん、一度死の恐怖を味わってみますか?ディランザでもダリルバルデを叩きのめすくらい出来るんですよ?」

 

『ヒィッ』

 

 

一転して落ち着いた声と真顔になったグエルの変わり身とその内容に思わず悲鳴を上げるヴィム。

かつてはあり得なかった親子の力関係だが、殻を破った(破り過ぎたとも言う)グエルは真っ向からぶつかってくる上に納得出来なければ全く引かないのでここ最近のヴィムは言い負かされる事が日常茶飯事となりつつある。

 

 

「兄さん、もういい時間だからその辺で…」

 

「ああ、悪いなラウダ。…今日はこの辺で勘弁しておきます、父さん。でももし送られてくるダリルバルデにライフルが付いてなかったら今後ディランザにも乗らないでデミトレーナーで決闘しますので。では」

 

『ちょ、待てグエーーー!』

 

 

ブツン。

無慈悲にも通信は切られ、散々脅迫をしていた側のグエルは溜め息を吐いた。

 

 

「…これだけ言えば流石に付けてくれるよな?」

 

「だと思うけど…父さん、MS開発についてはちょっとズレてるから」

 

「最初に乗った時はまあ酷かったな…勝手にMSを操作するAIって補助の領域を越えていたし」

 

「兄さんは完全手動操作で動かせるからね。僕らとしてはシールドの自動制御については賛成だけど」

 

「それでも塩梅を気を付けなきゃ自分がシールドと激突する事になる。並のパイロットを押し上げる程度のスペックはあるが、決定的な差にはならない」

 

「というか…元のAIを採用するって父さんが言った時全力で止めてたけど理由はそれ?」

 

「いや…あのAIがカテドラルに引っかかるだろって思ってな」

 

「カテドラルに?」

 

「総裁は『戦争は人と人が殺しあうのが最低限の作法』って考え方だが…人が乗ってなくても動くMSは当然だが最悪無人でも動く。ウチ以外にそこまでのAIを作れる企業は限られているが、悪用でもされてみろ…」

 

「…止めて正解だったね。虎の子のダリルバルデがそれでお蔵入りになったら目も当てられない」

 

「良いMSなのはそうなんだがな。アレ作ってる時誰も気付かなかったのかとは思ったが」

 

 

ダリルバルデは革新的な技術というより既存の技術を全て高水準で備えた結晶とも言うべきMSだ。それ故に特殊な兵装こそ多いものの一つ一つを切り出せば覚えのある感覚のする…そんな機体である。

 

 

(まあ兄さんの言う事だし、流石の父さんも無視は出来ないからな…下手な事をしたら周りからの不満が湧く)

 

 

現状、MSパイロットとして大幅な成長をしているグエルが乗るディランザは決闘での圧倒的な大立ち回りもあって非常に良く売れている。

基本オプション付きでは割高になるにも関わらず、グエル機のセッティングで注文される事も多い。

 

その甲斐あって御三家でもジェターク社は抜きん出た業績を出せているし、何よりグエルはジェターク社最強のパイロットでもあるので下手な事は出来ないのである。

実際、もし勘当したら本人の希望(ドミニコス隊)もあってベネリット社に取り込まれる事になるのは間違いない。

 

 

「…一応会社の開発主任にも掛け合ってみるか?」

 

「それは僕がやっておくよ、そろそろ訓練の時間だろう?」

 

「良いのか?なら頼む」

 

 

そう言いながら訓練用の手荷物を片手にいつもの部屋に向かうグエルの背を見送りながら、小さく呟いた。

 

 

「僕は何があっても兄さんの味方だから…」




ほぼ毎日訓練すんのはしんどいな…
慣れてはきたけど。
レベル2楽にクリア出来るようになったけども。
まぁ〜そろそろジェガンも飽きたな、
そんじゃ次回。「ガイアス、来る」
コイツでアホはスペーシアン共はボッコボコにしてやるんだ!


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ガイアス、来る

ほぼ1ヶ月近く間が空いてしまい本当に申し訳ございませんでした。
仕事や他の趣味等に時間を取られてモチベーションが下がっておりましたが、今後もぼちぼち更新していくつもりなので今後とも宜しくお願いします。


アスティカシア学園、戦術試験区域。

普段のドックから場を移し、地球寮の面々は新入生であるチュチュとリリッケの入寮から少し遅れて納入されたガイアスの動作確認を行なっていた。

 

 

『イヤァーーーーッホウ‼︎』

 

「…チュチュー、射撃してー?」

 

『ヒャッホウ!ハハハハハ!』

 

チュチュ?

 

『ごめんなさいニカ姐』

 

 

投影されたターゲットを切り刻みまくっていたチュチュ…ガイアスは空中でピタリと動きを止めた。従来のMSならそのままでは落下していくのみだが…ガイアスは異なる。新型のフライトユニットは大気圏・重力下でも自由な飛行を行えるのだ。

 

 

「もう…じゃあちゃんと撃ってね、射撃のデータ取るから」

 

『りょーかい、っと!』

 

 

完全に静止していた状態からの急加速も従来のそれに比べて少ない負担で行えるのもガイアスの利点だ。

先程は斬撃に使用していた長物…メガ・ランチャーを用いての射撃はどれも吸い込まれるようにターゲットに命中していく。

 

 

「…見た事ないテンションですね」

 

「チュチュは性格的にも適性的にも近距離戦の方が向いているから、アレだけ自由に動く機体は乗っていて楽しいだろうな」

 

「一応狙撃仕様なんですけどね」

 

「もはやその為の装備すら近接戦に転用している程だ」

 

 

メガ・ランチャーはガイアスにとってはオプション装備である。何故近接戦が得意なチュアチュリーに狙撃仕様が送られたのかは正直誰も分かっていないのだが、目玉の装備であるメガ・ランチャーを持たせる為だとメカニック科とアムロには認識されている。

 

 

「それにしても動き方が全然違いますね」

 

「ここまで自由に動けるものとは俺も思っていなかったが…想像以上だ」

 

「…僕の推薦元も気合入れて作ったって言ってましたよ」

 

「うわっ、ティルいたの?」

 

「…いたよ」

 

「テスト開始からずっといたぞ」

 

 

空気に溶け込んで黙々と作業していたティルにニカが驚くが、その時地球寮生とアムロしかいない筈の訓練場にハインドリーが現れる。

 

 

『なんだアイツ?ニカ姐なんか知ってる?』

 

「知らない…!この時間は地球寮が貸切で使う許可は取ってるのに…!」

 

「…先生」

 

「シャディクの差し金…いや嫌がらせか」

 

「……………」

 

 

機体がハインドリーの時点でほぼ間違いないだろうとアムロは判断する。そして十中八九使い捨ての駒なのだろうとも。

 

 

「「「「先生!」」」」

 

「戻って来たか、皆」

 

「それはともかくこれ見てくれ。嵌められたみたいだぞ」

 

 

そう言いながらアリヤが見せたのは対峙するガイアスとハインドリーの映像…つまり今この状況の中継だった。配信しているのは言わずもがな決闘委員会だ。

 

 

『なんなんだよお前?いきなり決闘とか頭沸いてんのな』

 

『五月蝿い、もう決闘は始まってるんだ!その機体を奪って俺をコケにしたあのホルダーを引きずり下ろしてやるんだ!』

 

『…目当てはコイツか』

 

『その機体はアーシアン如きには勿体無いんだよ!』

 

『作ったのはアーシアンだろ、アホかお前』

 

『黙れ、金を出したのはスペーシアンだ!』

 

 

この一連のやり取りをしている間にもハインドリーは乱射しており、ガイアスはそれを全て避けている。滞空するガイアスをまともに狙えていないようだ。

 

 

『あっそ。つーかノーコンかよ…先生!』

 

「頭部のみを破壊してくれ、チュチュ。俺に考えがある。…身の程を教えてやるといい」

 

『りょー…かい…!』

 

『ぐえっ⁉︎』

 

 

その返事と同時に急加速をしながら蹴りを叩き込む。当たりもしないのに出鱈目に撃っていたハインドリーは防御する事も出来ず直撃を喰らい吹き飛ばされる。

 

 

『この、やろ…!』

 

『一生そうやって恨み言吐いて這いつくばってろ、バーカ』

 

 

バシュュュュン‼︎

 

 

倒れたハインドリーにビーム・ランチャーが直撃し頭部のみを吹き飛ばすと同時に、決闘終了が表示された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まあ、こんなものか。簡単に動かせる程度の奴にアレを奪えるとは思わなかったが…想定以上の機体らしい」

 

 

自分以外誰もいない決闘委員会のラウンジでそう呟くのは今回の決闘を仕組んだシャディクだ。既にアムロから釘を刺されている上に一度ミオリネから飛び蹴りも喰らったが。

今回の急な決闘は情報収集をするのが半分、あわよくばガイアスを奪い取るのが目的だった。

が、簡単に餌を下げて釣られる上に簡単に尻尾切りできる程度の『使われる人間』では役者不足だったようだが、今回に限ればそこまで気にすることもないだろうと思ったところで、自分しかいない筈にもかかわらず、背後から声が掛かる。

 

 

「それだけならあれ程強くはない。アイツの努力の賜物だ」

 

「⁉︎」

 

 

驚きを隠せないまま後ろを向けばそこに立っているのはグエルだった。

 

 

「なんでいるんだ、とでも言いたげだな」

 

「…そんなことはないさ」

 

「分かる嘘ほど滑稽なものは無いぞ?態々この部屋のパスコードまで変えておいてそれは無理がある」

 

「なら何故入れた?」

 

『甘スギルゼ!甘スギルゼ!』

 

 

そう騒ぎながらゴロゴロ転がってきたのは赤いハロ…グエルのハロだった。まさかこのハロで破ったとでも言うのか。

 

 

「セキュリティを無理矢理破ったのか?褒められた行為じゃないな」

 

「馬鹿言え、決闘委員会の人間しか知らないパスコードが書き換えられていたならどんな不届者がいるかわかったもんじゃない、警備を呼ばなかっただけマシと思え」

 

「……………」

 

「さて…委員会の仕事するか」

 

 

そう言いながらソファに座るとタブレットを弄りだすグエル。今日は各演習場のメンテナンスも他の決闘も無い。一体何をしているのか、シャディクには見当も付かない。

 

 

「おいシャディク、なんでチュチュがああやってケリつけたか分かるか?」

 

「…さあ」

 

「正解はあのハインドリーが地球寮の賞品だから、だ」

 

「なんだと⁉︎」

 

 

そもそも何故実力の伴わない男子生徒が何故ハインドリーに乗っていたかと言えば、元々自分の乗機を持っていなかったのと餌としてだ。

万が一勝ったらガイアスを押収し、負けたら『先の戦いは決闘ではなく私闘である』として処理するのがシャディクの筋書きだった。

 

 

「『決闘者、チュアチュリー・パンランチに代わりこの決闘で求める物を遅ればせながら提示する。勝利した暁には敵機、ハインドリーを求む』だとよ」

 

「そんなものは聞いていない」

 

「この決闘の立会人はこのグエル・ジェタークだ、オレが認めた以上お前が文句を言おうが無駄だ。それにもう終わった」

 

 

立ち上がったグエルがスクリーンに投影したのは既に処理の終わった電子書類で、もうこの決闘に関わる全てがシャディクの手から離れたのを示していた。

 

 

「何を言えばお前を焚き付けられるんだろうな、シャディク」

 

 

一つため息を吐いて吐き出した言葉の返答を待たずにラウンジを去るグエルにゴロゴロ付いていくハロ。心中ではもう冷め切ってしまった感情に思わず苦笑いしてしまう。

 

 

「…どう思う?」

 

『ヘタレ!』

 

「お前相手じゃアイツもバッサリだな。…先生のとこ、行くか」

 

『ジゴクガオマチダ』

 

 

気持ちを切り替えて、今日もまた訓練へと向かうグエルの背は誰よりも大きかった。




あー、痛…
最後派手に加速すんの止めときゃ良かったかな…
個人的には大満足だけど。
あとニカ姐浮かない顔してたけどなんかあったのか?
つーことで次回。「新しい朝を待つなら」
…取り敢えず筋トレもうちょい増やそ。


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新しい朝を待つなら

皆さんお久しぶりです。
最近創作意欲が戻りつつあるので帰って来ました。
マイペースに続けていくのでよろしくお願いします。


「…………」

 

「…………」

 

 

いつもの地球寮。寮監室もといアムロの自室には何とも言い難い重い空気が漂っていた。

事の発端は先日のガイアスを巡る急な決闘の後からニカが沈痛な面持ちをしているのを凡そ1週間ほど見ていたミオリネが

「何があるのか知らないけど言わなきゃ分かんないでしょ、私達がダメならアムロに言いなさい!」

と半ば強引にこの場を設けた為だ。

 

 

「…まあ、諜報部から情報を貰っている以上ある程度話の内容は察せるが」

 

「…やっぱり、知ってたんですね」

 

「あくまでもこれは僕自身が調べた情報ではないから事細かに理解している訳ではない事は承知してくれ。この場で話したい事は三つだ。

君がシャディク・ゼネリと繋がっている事。

君を推薦した企業が零細どころかペーパーカンパニーであった事。

君がここに来るまで何処にいたのか、だ」

 

「…全部、話します。もう取り繕うのも限界です」

 

「それは地球寮の皆に対して、か?」

 

「皆にも、私が元いた場所にも」

 

 

恐らく先の情報はその殆どが正しいのだろうと判断して、アムロは椅子に座り直した。既にニカの顔は罪悪感で塗り潰されている。

 

 

「では、やはりシャディクと君は繋がっているんだな?」

 

「…はい。『彼』との連絡役以外にも、ジェガンのデータ提出を求められました。他にもミオリネさんを地球寮に入る様に薦めたのも、近況を報告する様求められた為です。勿論私に拒否権は有りません」

 

「…そうか。次に君の推薦先だが…登録されている住所には廃ビルが一つあるだけで何も無かったらしい。更に言えば名目上はグラスレー社の下請けの下請けになっていた。これは先の繋がりと関係のある話か?」

 

「はい…彼は元々孤児で地球の出身です。そこから『組織』と繋がりを持ったんだと思います。そのペーパーカンパニーも私を学園に入れる為の装置でしかない筈です。それに…」

 

「それに?」

 

「もし彼が『組織』との繋がりを疑われても、私とその会社を切れば良いから」

 

 

アムロは久方ぶりに感じる不快感を頭の片隅に押し込みつつ話の続きを促した。

 

 

「…最後に…君が元いた『組織』とは?」

 

「…反スペーシアン組織『フォルドの夜明け』です。『彼』…代表であるナジ・ゲオル・ヒジャは私の義父です」

 

「…………それなりに『裏』では名の知れた存在だが、思っていたより迂闊らしい」

 

「……えっ?」

 

「本当にベネリット社の諜報部門は軍のそれに劣らぬ程優秀でな。それを使い熟すデリングも大概とんでもないが」

 

「あの…」

 

「先に言っただろう?これはあくまで『確認』に過ぎない」

 

「じゃあもしかして…」

 

「情報としては知っていたし、それにミオリネに促されずとも近日中にこのような場を設けるよう言われていた」

 

「…そうですか…じゃあ、私退学ですよね?私の言った事がどれくらい信用されるかは分からないけれど、裏は取れたんですし…」

 

 

そう言ってまた俯くニカの頭を軽く撫でながら語る。

 

 

「拒否権は無い、というのは真実だろう?世の中には、自分のした凶行を集団に正当なモノだと信じさせる者もいる。目的の為だ、と言いながらな。

その顔を見れば分かるさ。それに君は自分を過小評価している」

 

「過小評価…ですか?」

 

「既に君にはジェガンのデータ収集やスタークジェガンの改修案という実績がある。それに考えてもみろ、一生徒がデリングに名前を覚えられるなんて本来あり得ない事だぞ」

 

 

地球寮の面々からすればすっかり『仕事に厳しいが柔軟な思考を持つ子煩悩で似た者親子な父親』、という認識になってしまっているが、世間一般から見たデリングは『元軍人の独裁者』である。

 

 

「君はあいつに期待されているんだ。間違いなくな。俺から見ても君は腕のいいメカニックだし、このままこの学園で研鑽を積んでほしい」

 

「でも、私…」

 

「この学園から去りたいか?それとも残りたいか?どちらでも良い。どちらの道も取れるようにする」

 

「なんで…、」

 

「ん?」

 

「なんで、そうまでして助けてくれるんですか…」

 

「『僕』を助けてくれる『誰か』はいなかったからな」

 

 

脳裏に浮かぶのは沢山の大切なものと出会い、別れ、失った、たった3ヶ月の事。アムロはかつて、戦うしか無かったのだ。

死にたくなくて、死なせたくなくて必死だった。

 

 

「君は『そこ』から逃げて良いんだ。誰も咎めはしない」

 

「私…」

 

「あー、もう‼︎」

 

「「⁉︎」」

 

 

場の空気を引き裂くけたたましい音をドアから出しながらずかずか部屋に入って来たミオリネは酷くご立腹の様だった。

 

 

「鍵を掛けていた筈なんだが」

 

「ハロを脅して開けさせた!そんな事より、ニカ!」

 

「は、はい⁉︎」

 

「あのヘタレ馬鹿とクソな義父に嫌な事させられてたとか盗み聞きさせて貰ったけど」

 

(殆ど全部じゃないか?)

 

「あんたはどうしたいの⁉︎ハッキリ言いなさい!」

 

「み、みんなといたいです!」

 

「ならこのまま居なさい、学費は全部クソ親父が出すわ!」

 

「ちょっと待て、どうしてそうなった?」

 

「スタークジェガンの報酬は学費無料にしろって言ったら二つ返事だったわ」

 

 

要は、ミオリネは最初からニカを逃すつもりは無かったのである。

父譲りの『言われる前にやる』行動力は伊達ではない。ついでに言えばこの件に関してはデリングも関係者なのでよりスピーディーに進んでしまった様だ。

 

 

「…ま、色々思う所は有るだろうけどさ。テロリスト絡みのゴタゴタなんてうちの父やアムロ含めた大人に投げれば良いのよ。そうでしょ、アムロ?」

 

「そうだ。確かに俺個人では大した事は出来ないが、頼れる人達はいる。まして子供が背負うには重いそれを取っ払ってやる為に手を差し出すのを厭う奴は大人じゃない。後は君が今を塗り替える勇気を持つだけだ」

 

「……ありがとう、ございます…」

 

「じゃあもうこれで一件落着。辛い事があったならさっさと私に吐けば良かったのに、本当バカね…」

 

「ばかじゃないもん…」

 

 

赤子をあやす様にニカを抱きしめるミオリネに目配せを行って、アムロは静かに部屋を後にした。その後は広間で2人が戻ってくるのをのんびり待っていたのだが、結局3時間の間、2人は出て来なかった。

 

 




一先ず目下の憂いは片付けられたか?
ニカの件は根の深い問題だが、俺自身は彼等に何をしてやれるだろうか。
…この時期に水星からの編入生?
妙な胸騒ぎがするな。
次回、「呪いの光、灰の星より」
まさかあのMSは…!


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