み〜あろっく (幽霊部In)
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The new 『Mia』 is Coming Soon

アニメ見ててよぉ我慢出来ずに漫画買っちまってよ、アホみたいに頭真っ白にして楽しんでたら四巻読み終わっちまってよ、原作だけじゃ足りなくて二次創作見に来てよ。
そんでよぉ……俺はよぉ!音楽あるあるを交えながらのきらら特有のガールズラブをよぉ……ッ!見てえのに、何で……っ!全然無えんだ……ッッッ!

 以上前書きでした。誰か書いてください何でもしません。



 

 

「み、水……」

 

「あっはい!」

 

「そ、それと酔い止め……あとしじみのお味噌汁……おかゆも食べたい、介抱場所は天日干ししたばっかのふかふかのベッドで……ウェッ」

 

 

 ……わあ。

 

 運動不足解消……は建前で、ただなんとなくで公園に来たら、酔っ払いさんがジャージ着た多分高校生の子に集ってるなかなかに面白い光景が広がってた。

 

 こんなこと中々ない、と思うんだけど、最近はずっと家に引きこもってばっかりだったし、わたしが知らないだけで最近の世の中はこんな風におもしろおかしく出来てるのかもしれない。

 

 そう考えると、もしかしたら前より生きやすい世の中になったって気楽に考えられるかもしれない、いやいや。これが当たり前の光景になったら、それこそ終わりが始まるかも。

 

 うーんでも、深夜の渋谷はいっつもこんな感じだったし、わたしもたまに“アレ”になっていないとも言えないし。

 

 

 ____あ、目が合った。

 

 目があっちゃったら、声をかけない訳にもいかないかなあ。

 

「……助けいる?」

 

「ふぇ、お、お、おねがいします」

 

 前髪で隠れててもわかるぐらいすごい嬉しそうな目でわたしを見つめる、かわいいなこの子。

 

 ジャージの女の子と一緒にコンビニに行くことになった、人生何があるかわからないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「助かった〜〜ー!名前なんてゆーの?」

 

「後藤ひとりです……」

 

 ジャージの子はひとりちゃんって言うらしい、やばい人を助けちゃったなって顔をしながらわたしにもちらちらって目線がくるけれど、その様子が面白いから黙ってよう。

 

「ねえーねえー、あなたはなんて言うのー?」

 

「わたし?んー……みあって呼んで」

 

「あはー!かわいい名前だねっ!」

 

 って言いながら大木に話しかけている、だいぶこの人やばいなあ。

 

 それにしても成り行きで酔っ払いさん、ジャージ娘ちゃんと知り合いになってしまった、偶に外に出ると楽しい事が起きるものなんだね。今日外出ようって思った数時間前のわたし、ナイスだ。

 

「アッその、わ、わたしはこれで……」

 

「あー!ギターだ!弾くの?」

 

 ああ、逃げられなかったね、残念。

 

 でもわたしも少し気になるかな、ギタリストなのかな?でもみたことのない顔だから、まだまだ始めたて?

 

 

「ヒェ、あっいや買ったはいいんですけど一日で挫折して今から質屋さんに行くところだったんですもっと相応しい人にこのギターを使ってもらって大空に羽ばたいて私も羽ばたけ的なそんな感じで私は全然弾けませんすいません!何円で売れるかな!今日は焼肉________」

 

「待って」

 

 早口で捲し立てながら公園から離れようとするひとりちゃんの腕を、酔っ払いさんが掴んだ。

 

「一日で諦めるなんて勿体無いよ、もう少し続けてみなよ」

 

 ……そういうところはまともなんだ。

 

 全く持ってその通りで、一日で辞めるなんて勿体無い。楽器ならなおさらそうだ。

 

 わたしも何か言った方が良さそうかな、こういう時なんて言うべきだろ。うーん……?

 

 

「あっいや今の話全部嘘です……」

 

 わあ。

 

 すっごいすらすら嘘つくなあこの子。

 

 

 

 

 

 

 酔いどれベーシストのベースを回収する為に場所を移動して。

 

「そういえば、ひとりちゃんはここで何してたの?」

 

 酔っ払いさんがまだまだ未成年の子に「ひとりちゃんも大人になったら絶対お酒にハマるって!」なんていう最低な会話の流れを変えようと、ふと気になった事を聞いてみた。

 

「アッ……私は」

 

 聞いてみると、ノルマのチケット五枚をどうやって捌くか悩んでるって言う話だった。

 

 チケット五枚ぐらいなら、って簡単に思っちゃダメだ。最初の頃はこの五枚でも、絶対に来てくれるって思える人を探すのは難しいから。

 

 それにひとりちゃんみたいな子なら尚更だよね、人見知りだと思うから。

 

「よし!命の恩人の為に私がひと肌脱いであげよう!」

 

「ヘッ……は、ひゃ……?!」

 

 多分ひとりちゃんが今考えてるようなことではないと思うんだよなあ。

 

「私と君で今からここで路上ライブするんだよ」

 

「!?」

 

 うんうん、やっぱりそういう話だよね、って。すっごい驚いてる顔してるなあひとりちゃん。

 

 路上ライブは初めてなのかな?なら、いい機会かもね。あの酔っ払いさんが居酒屋に置いてきてさっき持ってきたベースを見るに、弾ける人だし。

 

「でも機材足りないよ?」

 

「はれゃ、たしかに。メンバーに持ってきて貰うかー」

 

 酔いどれベーシスト特有の行動力、あらら。

 

 そんな残念そうな目で見ないでよひとりちゃん。

 

 不安そうにぐるぐるな目がわたしを見つめるけれど、そんなに見つめられてもなあ。

 

 ……しょうがないな。

 

 特別なんだからね、ひとりちゃん。

 

「わたしも弾けばちょっとは緊張も解けられる?」

 

「はりゃ、みあちゃんも弾けるのー?先に言ってよー!」

 

「弾く予定無かったから……んー、ひとりちゃん、ギターとベース。どっちが良い?」

 

「えっあっえ……ぎ、ギター?」

 

「おっけー、じゃあ取ってくるね」

 

 そう言って少し早歩きで家に向かう、15分もあれば戻ってこれるだろうし、酔っ払いさんが機材を持ってくるのもそれぐらいの時間はかかるだろうし。

 

 もう人と弾くことはないと思ってたんだけどな、何だか今なら、それも嫌じゃないや。

 

 ロックだからかな。こういうイベントには昔っから、今になっても弱いみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「金沢八景のみなさーん!今からライブやりまーす、良かったら見てってくださーい!」

 

 ぼっちです、はじめまして。どうしてこんなことに?

 

 路上ライブなんてしたことないし流されるままこうなっちゃったけど、うう……!

 

 

「不安?ひとりちゃん」

 

「あっいえ」

 

「音、わたしに合わせる必要はないからね」

 

「はっ、はい……」

 

 ギターのチューニングを終えたのか、私の前髪に隠れた目を見つめるように覗いてくるみあさん、さっき知り合った大人の人、コンビニに着いて来てくれてお金を払ってくれたすごく優しい人。

 

 ちょっとだけリョウさんみたいな雰囲気な人、でもリョウさんより全然まともかもしれない。

 

 まさか、みあさんも弾けるなんて思わなかったな……それにギタリストだったなんて。

 

 本人はこうやって(・・・・・)弾くのは久しぶりって言ってたけど、絶対わたしなんかより上手な人だよ、私邪魔にならないかな、いや絶対邪魔になるよね。うう、弾かない方がいいよ、うん、その方が良いって。

 

「そんなに怖いなら目瞑って弾くとかー?なーんて」

 

 お姉さんが私の様子を見兼ねてそんな事を言ってくれた……!そっか、それならいけるかも……いつも手元の見えない空間でずっと弾いてたし、うん!大丈夫……!

 

「でも、一応言っておくけど。今目の前にいる人は君の闘う相手じゃないからね____敵を見誤るなよ?」

 

「……?」

 

 敵……?

 

 えっ、何、どういう意味?そんな疑問を置き去りに、ライブの準備が整った。

 

「ひとりちゃん」

 

 

 小声で、みあさんが囁いて来た、ちょっとびっくりする。

 

 

「楽しもう」

 

 

 ________たのしむ。

 

 楽しむ……うまく出来るかわからない、けど。

 

 

「ほら、弾くよ」

 

「ハッ……はい……!」

 

 弦を鳴らす________即興で始まる音楽。

 

 始まって直ぐに気付いた、この人____即興なのに音に全く迷いがない、凄く自信に満ちた演奏、私の演奏を確実に支えてくれてるんだ。

 

 みあさんも同じように____迷いもないし自信に満ち溢れている、即興なのに私のギターの音色に別の音色を使いながら、私のギターの邪魔はしない。わたしに合わせながら別の音色で演奏に彩りを増やし続けてるんだ。

 

 音だけでわかる、楽しんでるって。

 

 それに比べて、私は____っお客さんに笑われてないかな、顔上げるのも怖い……。

 

「がんばれー……!」

 

 ________閉じていた目をゆっくり開ける。

 

 あ。

 

 そうか。

 

 初めから敵なんていない。

 

 開けた片目に、みあさんが映り込んだ。

 

 私を見つめながら楽しそうに弾いてくれている。

 

 ふっ____て、聞こえる音がまた増えた、みあさんの音が増えた。

 

 どこまでついて来れる?って試すみたいに、ギターの音色をわたしにぶつけてきてくれている……!

 

 みあさんに応えたい、私も_____!

 

 

 

 

 

 

「みあちゃんお疲れ!ひとりちゃーん、良かったよ!」

 

 

 弾き終えて、軽く一息。

 

 酔っ払いさんが出来る人なのはわかっていた、だけどひとりちゃんが途中から一気に演奏の安定感が増した。

 

 本当はこんな風に弾くんだ、って思ってわたしはリズムギター寄りの音色から変えてひとりちゃんの演奏をもっと引き出そうとわたしの音色をぶつけた。

 

 ツインリードを即興でやるのは本当に久しぶりだったけれど、上手く行けたみたい。

 

「あの、チケット買っても良いですか?」

 

「二枚ください!」

 

「えっ、あっハイッ!」

 

 浴衣の二人組がひとりちゃんに話しかけた、良かったねひとりちゃん。

 

 何だか懐かしいような、そんな気分だ。昔わたしも、似たような事があったかもしれない。

 

 青春だなあ……。

 

「ねぇねえ、みあちゃん」

 

 ちょいちょい、と肩をつつかれて振り向く。お酒を飲みながら小声でわたしに話しかける酔っ払いさん。

 

 ……口が酒臭いって言った方がいいかなあ。

 

「みあちゃんって……前に」

 

 すっ、て人差し指をお酒臭い口に当てて物理的に口を閉ざす。

 

「気付いちゃった?内緒だよ、新宿拠点のベーシストさん」

 

「私の事覚えてたの(・・・・・)?」

 

「即興して思い出したかな」

 

 にへへーって嬉しそうな酔っ払いさん。ひとりちゃんもだけれど、酔っ払いさんが即興しようって言ったから、久しぶりに人とギターを弾けたな。

 

 やっぱり、人とする演奏が一番だ。

 

 

 

 

 

 

 

 警察官の人に怒られちゃったからそこで終えて、解散する流れになった。

 

「最後の一枚、私が買うよ」

 

「えっ」

 

「それでノルマ達成でしょ?」

 

 そんなやりとりが目の前で行われているのを見ていると、ふとひとりちゃんからの視線を受けた。

 

「当日券で行くよ」

 

「み、みあさんまで。い、良いんですか……!?」

 

「もちろん、格好いい所見せて、ひとりちゃん」

 

「は、はい……!」

 

 客としてライブハウスに行く予定が出来る、なんて。

 

 何だか変な感じ、最近はもうずっとそういう場所に行くことも無かったから、今から楽しみになってきちゃうな。

 

「また一緒にライブしようねー、ばいばいひとりちゃ〜ん、みあちゃーん!」

 

 そう言って手を振りながら駅の人混みにまぎれていく酔っ払いさん、それに対してのひとりちゃんのお辞儀が、人見知りらしいなって思ったり。

 

 わたしもそろそろ帰ろう____って、ひとりちゃんに声を掛けようとしたら、人混みに紛れたはずの人が戻って来た。

 

「チケット買ったらお金なくなっちゃった〜電車賃貸してぇ〜……!」

 

「この人まじか……って待って待ってひとりちゃん、いいよ。わたしが出すから貸さなくて良いよ」

 

「「み、みあさん(ちゃん)……!」」

 

「ライブの時に返してよ?」

 

「勿論!ごめんねぇ〜〜〜ありがとう〜!」

 

 そう言って泣きながら飲んで帰っていく新宿拠点のベーシストさん。

 

 全く、やっぱりこれだから酔っ払いはだめなんだ。わたしもお酒を飲むときは気をつけないとなあ。

 

「ひとりちゃん、連絡先交換しようよ」

 

「えっあっ、はい」

 

「ありがとう、何かあったら連絡して良いよ。それじゃあ帰るね」

 

「あっ、お、お気を付けて……」

 

「良いリードギターだった。また会おうねひとりちゃん」

 

 

 今日はたのしかったな。それに充実して、新しい出会いもあって。

 

 ギターを背負って家に帰る、なんて。

 

 何年振りだろう。

 

 嬉しいよ、ありがとね……ひとりちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 何時から人と演奏しなくなったんだろう。

 

 なんて、分かりきった答え。それは単純な答え。

 

 端的に言えば一緒に弾ける人が居なくなっただけ、だけどもわたしはその人達とやる音楽が、一緒に作る雰囲気が好きで、同じ目標に進んでいく事が好きで続けて行きたくて。

 

 でも現実はそんな上手くいかなくて。

 

 それから暫く、代わる代わる他の人とも弾いて、でも合わなくて。そうする内に人とやるのが面倒くさくなってきちゃって。

 

 音楽は一人でもできるから、ソロ活動に落ち着いた。

 

 パソコンさえあればあとは周辺機材を揃えるだけだったし、ソフトを拾ったりして、機材を繋げてリズムを整えたりして。わたしがやりたかった、やりたい事を音楽に詰め込む。

 

 歌詞を入れる時もあれば入れない時もあった、わたしが歌うのは違うなってなったら人工ボーカルを使って表現した、段々と、わたしが出来る事が無限大だって気づけば、わたしの世界は音楽で広がって、音楽に閉ざされている事に気付いた。

 

 手探りっていうほどじゃないけれど、始めた頃はたしかにそれで空いた心を埋めることが出来た、だけどそれは一時的な承認欲求に過ぎなかった。

 

 いつに間にかやりたかった事が思い出せなくなって、でもわたしが出来る音楽は自己完結出来た、出来てしまった。

 

 そうして活動していく内に、ネットに流した曲の一つがバズって人気になった、それから収入も安定していって、わたしの個人としての活動はどんどん広がって。

 

 でも、増える数字以上の感動が、わたしの心には残らなかった。

 

 一人で作る音楽も好きだった。

 

 だけど、本当は、ライブハウスで。わたしと志を同じにしてたバンドメンバーと一緒に、あのステージに立つ音楽が。

 

 そんな音楽がしたかった。

 

 

 ボーカルギターから始まったわたしの世界、その始まった世界は、ソロ活動を初めていく内にベースも出来るようになってドラムも叩けるようになって、シンセサイザーも弄れるようになって。

 

 電子音楽を扱うようになったらそれに付随する様にDJも出来るようになった、和楽器の造詣も深めていく内にわたしが出来ることは殆ど無くなって、わたしの代わりはわたし自身で完結できるようになって。

 

 ふと、今わたしは何の為に音楽をしているんだろうって思っちゃったら。

 

 ________あぁこれ、もう出来ない。

 

 

 って、そう思った。

 

 

 それがついさっきまでの『Mia』

 

 それがついさっきまでの「わたし」

 

 ふと何気ない気持ちで外に出た時に、彼女と出会う前の、自分。

 

 正直言うと、まだ音楽活動ができるって言えるような状態じゃない、今のわたしにはミュージシャンとして必要不可欠の「熱意」が何一つこぼれ落ちている。

 

 そんな状態で音楽と関わりたくない、だけど。

 

 音楽からは離れられないみたいだから、一言だけ。

 

 

「お久しぶりです、生きてます……っと」

 

 

 そんな呟きと同時に、SNSの呟きを完了する。

 

 半年以上更新を閉ざしていたSNS、呟いた事にどんな反応が来るか、なんて考えると少し怖いけれど。

 

 とりあえず今は、これがわたしなりの精一杯。

 

 パソコンから視線を切って、部屋に置かれたエレクトリックギターを眺める。

 

 今日使ったギター、ソロ活動をする前から使ってるギター。

 

 ただ何となく手に取る。

 

 軽いチューニングから音の調整、弦の張りの確認、違和感が無いか耳で聞いて。

 

 頭に思いついたメロディーを弾き始めた。

 

 




需要があったら続きが早く出るし需要無くても多分数話ぐらいは執筆するから頼むから。
リョウさんの古着巡りに連れて行かれるぼっちちゃんとか、成人した瞬間に廣井名人に居酒屋五軒ぐらい梯子した後に家にお持ち帰りされてドナドナ起きたぼっちちゃんとか、ふとヨヨコちゃんの何気ない一言に傷付き過ぎるぼっちちゃんとか。

そういうの誰か頼むよ!!!お願いします。


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バンドで一番大事なのは何?

今更になりますが、ガッツリではないけど普通にアニメの先の内容に触れていくんでそういうの無理って人は今すぐに原作を買ってアニメの続きを読もうね〜〜〜!(なお品薄、電子書籍で買おう!)
前書き終わり!



 

 電車のアナウンスが目的地に着いたことを告げて、携帯を弄るのを止める。

 

 電車に乗ったの久しぶり、長い間乗ってないと少しだけ人目を気にしたり、空いてる席に座るのもなんだか、って思って寄りかかれるところに寄っかかったりしてた。

 

 ちょっと疲れちゃったし座ればよかったなあ、ってちょっと後悔している。

 

 今日はひとりちゃんのバンド、結束バンドのライブ日だ。

 

 関東には台風は来ないって天気予報だったけれど、当たっちゃったな。天気が悪いのは幸先が悪いけれど、台風なんて目でもないぐらいにがんばれって気持ちだ。

 

 気持ちだけじゃだめだね、せっかく連絡先も交換したから、一言ぐらい元気付ける言葉を送った方がいいかも。

 

 うーんでも、余計にひとりちゃんのプレッシャーになっちゃうかもな……なんて、悩んでたら背後から声をかけられた。

 

「あ!みあちゃ〜〜〜ん、一緒にいこぉ〜!」

 

 うわ。

 

 下北沢駅に降りたら早速酔っ払いさんに絡まれてしまった、降りる時間間違えたかな。

 

 でもまあ、そんなに嫌じゃないからいっか、お酒くさいのも許そう。

 

「酔っ払いさん、ベースと傘どこやったの?」

 

「あれぇ?あはは、入れてー」

 

「いいよ」

 

 仕方ないから同じ傘に入れてあげるとがっつり肩組まれた、濡れてるし……ていうかベースは?前みたいに居酒屋に置き忘れちゃったのかな、刹那に生きてるなあ。

 

 ベーシストはバランサーか頭のネジ飛ばした変人*1かのどっちかだから、バンドマンとしては正しいかもしれないけど。

 

 大人としては全然だめだめだけど。

 

「場所案内してよ、ここ(下北沢)久しぶりなんだ」

 

「いいよぉ〜〜あ、みあちゃんもお酒飲む?」

 

「後でね」

 

「にぇへへ〜!」

 

「そういえば名前なんて言うの?」

 

「あれぇ〜言ってなかったっけ、誰よりもベースを愛する天才ベーシストの廣井で〜す!ベースは昨日飲み屋に忘れました〜」

 

 なるほどこれが矛盾の作り方。

 

 まあ確かに、即興の他バンドの曲であれだけ出来るなら天才的だけど。自分で言う?いやバンドマンとしては正しいけど。

 

 ベーシストみんなこんな感じだし、わたしもそんな時期あったし偶に抜けきれてないかもだけど。

 

「鬼ころ五本分以上のライブ楽しみだねえ〜」

 

「……そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

「ぼっちちゃん来たよぉお〜〜〜〜〜!」

 

「あっお姉さん……」

 

「わたしもいるよ」

 

「みあさん……!」

 

 廣井ちゃんに案内されるがままライブハウスに辿りついた。

 

 ここ知ってるな、何をきっかけに来たかは直ぐには思い出せないけれど、来たことあると思う。

 

 それにしてもやっぱりそんなに人はいないね、オープンして1組目なのを加味してももう少し居ても良いけれど、台風だし仕方ないか。

 

 人気アーティストでも悪天候で箱を埋められない事がほとんどで、大抵の場合中止する。

 

 でもライブハウスを埋めるだけが全てじゃない、今ここに来ているお客さんを楽しめられることが出来るかどうか。

 

 その点少し心配だな、ひとりちゃんはまだしも……ひとりちゃんの近くにいる子たちはバンドメンバーかな、あの子たちの緊張の仕方は……良くない。

 

 悪い緊張の仕方と良い緊張の仕方の違いは、何かのきっかけで演奏のパフォーマンスが著しく下がる事だ。

 

「ね〜ね〜今日のライブの打ち上げするよね、居酒屋もう決めた?良いところ知ってますよぉ〜ねーねー、ねー」

 

「お前しばらく会わない内にめんどくさい奴になったな……」

 

 廣井ちゃんは飲み会覚えたての大学生みたいだよね。なおさらめんどくさい。

 

「飲み会覚えたての大学生に通ずるうざさがありますね」

 

 あ、同じ感想の人いる。ここのライブハウスのPAさんかな。廣井さんに話しかけられてる人がここのライブハウスの店長さんかな。

 

 ……ん、あれ?

 

「あの」

 

「おわっ」

 

「あ、ごめん……何処かで会いました?」

 

「えぇ〜〜なになにみあちゃんナンパ?ナンパなのぉ?ねええねえー」

 

「い、いや。無いと思うけど……こいつ(酒クズ)の知り合い?」

 

「ああ、うーん。えーと……路上で弾き合った程度の仲……?」

 

 知り合いと呼ぶには知らな過ぎるし、わたしがまだソロアーティストになる前にベースの使い方と存在感の出し方に覚えがあったから、何回か対バン*2した気がするけど、さっきまで名前も知らなかったし。

 

 でも何だか見覚えあるなこの店長さん、昔どこかで見たことあるんだよな、なんでだろ。前に活動していたバンドマンの人だったかも、そう考えるといたかもしれない、それぐらいしかわかんないな。

 

「そーだ、乾杯しよーよ〜!さっき言ってたじゃ〜ん!」

 

「言ったっけ……」

 

 まあ良いか、客として来てライブハウスでお酒飲むの久しぶりだな。此処で飲むお酒高いけど会場の熱に充てられていっぱい飲んじゃうんだよね、不思議な場所。

 

 ライブ前に千鳥足になるぐらいに飲んでる廣井ちゃんほどじゃないけど、ライブ前の居酒屋も楽しかったりするんだよな……打ち上げのお酒が一番美味しいけれど。

 

 あ、なんかひとりちゃんがおもしろい事してる、段ボール被ってる?写真撮りたいなあれ。

 

 路上ライブの時に掴んだファンの人と話してるのかな、もしかして始めてのファンなのかも。嬉しいよね、わかる。

 

「そろそろ始まりそうだね」

 

「だねえ_____懐かしいなぁ、あの感じ」

 

「わたしの時はもう少し人居たかな、廣井ちゃんは?」

 

「二人しかいなくて〜、パフォーマンスが怖かったからか逃げ出されちゃったんだよねぇ〜〜!」

 

 凄いな、そんなパフォーマンス観てみたかったかも、どんな事したんだろう?廣井ちゃんのこの感じを見るに口に含めた酒吹きかけたりしたのかな。

 

 サークル*3作って乱入でもした?なんちゃって、初ライブでそれが出来たら伝説になっても可笑しくないね。

 

 デスコアバンドとか戦争みたいなもの*4だし……いや初ライブでそれはどうなんだ?そう考えると思ったよりやべー人だな廣井ちゃん。

 

 さ、そろそろ始まるってそんな時、ふとわたしの耳に届いた言葉。

 

「一組目の結束バンドって知ってる?」

 

「知らない興味なーい」

 

「聞くのだるいね」

 

 そんな言葉が届いた、まあ隣の酔っ払いさんは聞こえてないみたいだけれど。人も少ないから、ステージの方に今の言葉届いちゃったかもな。

 

 ひとりちゃん含めた他の子たちに影響しないと良いけれど_____

 

「初めまして!結束バンドです今日はお足元の悪い中お越し頂きありがとうございます〜!」

 

「あはは喜多ちゃんロックバンドなのに礼儀正しすぎ〜!」

 

 うわあ台本丸出しすぎるMCだ……いやまあ、MC長過ぎていつまでも曲が始まらないアレ*5と比べたら、いやそれと比べる時点で結構酷いんだけれど。

 

 場数踏まないと上手くならないものだから仕方ないか、問題はそれよりこの後だ。

 

「あっうっ、じゃあ早速一曲目行きま〜す」

 

 始まる。

 

 ひとりちゃんの実力はこの前で大体わかった、人とやるのに慣れてないのは察していたから、何となく前回の様な弾き方をしないんだろうなって思ってた。

 

 それこそ廣井ちゃんみたいにその場で合わせられるぐらい土台が強くて我の高いベーシストじゃないと。

 

 ただそれを踏まえた上でも……さっきの言葉を引きずっちゃっているなってわかる。

 

 

 ひとりちゃん、気づいてるよね。

 

 君のバンドメンバーは、こんなもんじゃないでしょ?じゃあどうすれば良いかわかる筈。

 

 ひとりちゃんが一瞬だけ、顔を上げた。観客全体を見るように、前髪に隠れたその目が強い眼差しで見ていた。

 

「_________ッ!」

 

 演奏の安定感が上がる、あの時みたいに。その音色を中心に纏まっていく、ひとりちゃん演奏で、興味なんてないって言った観客も巻き込んでこの空間を結束バンドだけのモノにしていくように。

 

 それでいい、言葉なんかいらない。

 

 バンドマンなら、リードギターなら演奏で魅せればいい、才能と努力は継続した分だけしっかり付いてくるから。

 

 うん_________いい表情、ひとりちゃん。

 

 

 

 

 

 

 正直、バンドとしての完成度で言うと。

 

 ボーカルギターの子は荒削り過ぎる、多分まだ半年かそれぐらいしかギターに触れてないんだろうね。リズムギターだからって奏でる音が少ないならギターを持っていても意味なんてない、それならボーカルだけで良い。

 

 ドラマーのあの子も安定感が足りない、オリジナリティが少ないのは置いておくとしても曲の進行を一からずっと続けてリード出来ないと話にならない。

 

 ベーシストのあの子はあの中でもまだ出来る方だけど繋ぎ合わせた技術に任せ過ぎている、周りの音を聞いて合わせないとDI*6で調整したって音が被ればベースの音はかき消えるから、もっと聴かないとダメ。

 

 ひとりちゃんもそう、先行しがちだし目立ちたい欲が出過ぎて必要以上にソロプレイ以外がおざなり過ぎる、スリーピース*7ならそれでも良いかもしれないけれど、ボーカルの入ったバンドにそれは通用しない。

 

 

 なんて評論は、後付けでしかない。

 

 はじめっから完璧に出来るバンドなんていない、どれだけ上手くてもミスはするし、もたつく時はもたつく。

 

 ここの奏法は別の弾き方の方が適してるなんてよくある事だし、その日のその日で課題のない日なんてない。

 

 ひとりちゃんのギターをきっかけに彼女たちが纏まって、最後の一曲はライブハウスに来てくれたお客さんを楽しませる事ができた。

 

 わたしが思うバンドに一番必要な事は、熱意だ。

 

 ひとりちゃんのバンドに対する熱意が場を一新させた。

 

 この成功体験が全てだよ。

 

 

「いいものみれた……」

 

 なんて、しみじみ呟いちゃうのは自分が歳を取った証拠なのか、ちょっとだけ今のあの子達が羨ましいと思ってるからか。

 

 もう多分あの頃のように、なんて出来ないだろうし。

 

 ミュージシャンとして曲作りも出来ていない今の自分にはなおさら、眩しいものがある。

 

 でも来て良かった。毎回は流石に難しいかもしれないけれど、これからもひとりちゃんの応援は続けよう。

 

 すっかりわたしも、あの子のファンになっちゃった。

 

 

「見終わったし帰るよ、またね廣井ちゃん」

 

「あ、待って待ってみあちゃん!せっかくだし打ち上げいこ〜〜よぉ〜〜!」

 

「二人で?それはちょっとめんどくさいかも……」

 

「めんどくさいって言わないでよ〜〜違うよぉー、先輩と結束バンドのみんなとだよ〜」

 

「えぇ……?そういうの良くないと思うんだけど、わたしも廣井ちゃんも客として来てるだけでは?」

 

「細かいことを言うのはやめよう!」

 

 って言ってわたしの腕を引っ張る廣井ちゃん、わたしはされるがままにした、やぶさかではないし。

 

 にしても強引な人だなあ廣井ちゃんは、嫌いじゃないけどね、色んな世界を見に行かせてくれるから。

 

「迷惑そうにしてたら帰るからね」

 

「いや迷惑なんて思わないし寧ろ居てくれ……こいつの面倒を見たくない」

 

 わたしの呟きが聞こえていた店長さんにそんな風に言われてしまった、まあうん。確かにそれは同意するかも。

 

 わたしはこういう人慣れてるしわたし自身もたまにああなってる自覚あるから良いけど……うわあでも、そう考えるとなおさら行きたくなくなって来たなあ。

 

「お、奢りだから来てくれ」

 

「必死過ぎる……行くから、奢らなくていいよ」

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ気楽に楽しく活動しなよ、漠然と成功することばっか考えてると辛くなるよ」

 

「そうそう、夢をかなえてプロセスを楽しんでいくのが大事だからな」

 

「ですよね〜〜〜、みあちゃんもそう思うでしょ〜?」

 

「……ん?まあ、うん」

 

 酔いどれベーシスト廣井ちゃんの世話役(正直めちゃくちゃめんどくさい)としてこの打ち上げに参加させてもらった。

 

 結束バンドの子たちは揃いも揃って面白い子だし、店長さんは案外優しい人だから、打ち解けるのもそう難しくはなさそうだ、とはいってもわたしは廣井ちゃんみたいに表舞台に立ってるバンドマンでもないから、ちょっと場違いに感じちゃうな。

 

 外を出る予定も殆ど無いから、貯金は溜まる一方だし定期的なサブスクの収入とか含めれば、多分このまま老後まで安泰出来るんだろうなあって、うつらうつら考えてたら。

 

 ふと、廣井ちゃんからそんな話をふられた。

 

「確かに、楽しまないと何も生まれないからそれはそうだね、夢に向かって進むのがミュージシャンだよ、いつまでって言われてもいつまでも夢を見続けて進める人は成功するよ、ちゃんとね」

 

「いいこというじゃ〜ん!もっと飲め飲め〜〜先輩の奢りだよ〜〜ゴクゴクッズビビ!」

 

「もう一回言うけどお前は自腹だよ」

 

「ていうかどうして先輩は_____」

 

 なんて言ってるけれど、この言葉を言えるほどの人かって言われると、難しいけれど。

 

 気楽に楽しく活動出来て、夢を叶えていくプロセスが大事だ。それすら出来なくなったら本当に、音楽が出来なくなる。

 

 わたしみたいにね……なんちゃって。

 

 こんな楽しい雰囲気を壊すような発言はしないよ。

 

 あれ、そういえば店長さんの妹って判明したドラムの子とひとりちゃんが居ないな、外に出て何か話してたりするのかな?似たようなシチュエーション、わたしにもあったしなあ。

 

 青春だなあ、あの頃話した事、今でも思い出せるよ、思い出したくないことの方が多いけれど、大事な思い出だから。

 

 廣井ちゃんが店長さんにダル絡みしているのを見つめながら、ふと視線の感じた方に顔を向ける。

 

 結束バンドのベース担当の子だ、山田リョウちゃんって紹介してもらった。なんだろう?じーっと見つめられてる、そんなに見つめられても、困っちゃうな。

 

「どーしたの?」

 

「聞いた事ある声だなって。好きなアーティストの声に、あの……もしかして_____」

 

「わたしの声が?嬉しいな、人違いだと思うけどありがとう」

 

「人違い……」

 

 少し、遮るようにして山田ちゃんが言い切る前に声を上げた。

 

 まあ、それは居るか。私が歌ってる声を知ってる人、この子耳良さそうだから、話し声だけでちょっとピンってきちゃったのかな。

 

 お酒入れたせいで意識して抑えてる声の出し方が無意識に出ちゃってたかも。

 

 ちょっと罪悪感、本当は人違いじゃないと思う。

 

 本当に人違いだったら、笑い話だね。

 

「みあさん。私のベース、どうでしたか」

 

「わたしに聞くより廣井ちゃんに聞いた方が……あー、うーん」

 

 ちらって見るの方を見るけれどあれはだめだめになってしまった、鬼ころモンスターだ、泣きながら今日の結束バンドの感想を話しながら昔話し始めた。

 

 酔っ払いが昔話を始めるともうダメなんだ、ちょっとどころじゃ無い呂律の回り方が始まったら終わりの合図なんだ。*8

 

 店長さんが助けを欲しそうにわたしを見ている、ごめんね店長さん、がんばれ……なんて、薄情にもなれないし……仕方ないから介抱手伝うか……。

 

 

「ベーシストでもああはなっちゃダメだよ」

 

「はい」

 

 

 素直に頷いてくれた、よろしい。

 

 

*1
6弦ベース普段使うような人

*2
同じライブハウスでの共演のこと

*3
円状に広がること

*4
流血はポピュラー、ファン同士の仲は良い

*5
とあるさだなんとかさんは一時間もMCした

*6
ダイレクトボックス、ライブする時特にベースはこれが無いと話にならない

*7
ボーカル入れてないバンド

*8
ノンフィクションです、気を付けよう!





脚注使ってみたけどいるかなこれ、邪魔になってたらすいません。

ところで。友達も出来て恋人も作って全てを手に入れた陽キャ中学二年生ふたりちゃんが「ギター教えて〜」って成人ギタリストひとりちゃんに言ってきて、超絶複雑そうな顔をしながらも姉としてギターを教えるって感じから始まるそこそこのドロドロ話を誰かが形にしてくれませんか?家族を人質に取られているんです!!!


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JKに奢る寿司で愉悦に浸る回

サブタイこれで良いのか……?にしても7話のひとりちゃんやべー奴すぎたな……(今更)(前書き終わり)




 

 作曲をする時にまず初めに何から手を付けるか。

 

 あくまでも一般例ではあるけれど。楽器でコードを鳴らしながらその伴奏の上でメロディを考えて、コードを二つ目のものに変えてメロディをさらに伸ばす、それが出来たらコードを三つ目以降のものにさらに変えていってその後への展開……。

 

 そうやって繋げた音が曲として出来ていく。

 

 必ずしもそうでは無いけれど、メロディ、ハーモニー、リズムが均等な三角形に収まっていればいる程曲の完成度は高い。

 

 メロディラインが良くないと目立つ事は難しいし和音が広がってないと音の種類が少な過ぎる、だからってリズムが取れてないと他がどれだけ良くてもガチャついた音に変わる。

 

 どれだけ尖っていてもこの基本が出来ていないと話にならない、寧ろ尖っているのは、その基本が出来てそこに楽しみを入れているからだ。

 

 ひたすらの重低音だったり、不協和音を取り入れたり、バズ音を敢えて活かしてみたり、そうした工夫は結局基本の完成度ありきのものだ。

 

 わたしから言わせてみれば、売れ線の曲を嫌って売れ線の良さも何も取り入れられない作曲家は三流だ。

 

 音楽は人が演奏する数だけその音がある、同じFコードでも楽器が違えば響く音は違う、同じ楽器でも弦の厚みや高さで歪みは変わる、弾き一つで全く別の音だって作れる。

 

 時折、そんな当たり前のことを忘れることがある。

 

 そういう時わたしは一回何も考えずに、全ての音を調和するエレクトリック・ベースを弾く。

 

 ベースから奏でる重低音から作るベースラインが、わたしの心を広く落ち着かせてくれるから。

 

 

「______________……今の所、良いな」

 

 一度ベースを弾く手を止めて、ヘッドホンをかけてさっき弾いた音をパソコンで音を確認する。

 

 かけたヘッドホンを半分ずらして、今度はスピーカーから流れるベース音に注目する、ヘッドホン越しから聞こえる音とスピーカーから流れる音は必ずしも同じじゃないから、この確認は必要だ。

 

「やっぱり良い」

 

 うん……。

 

 久しぶりに、納得いくベースラインを弾けた。

 

 作曲をする時にまず初めに何から手を付けるか。

 

 わたしの場合は、今こうやって気に入った音があった時、そこから始める。

 

 良いギターソロが出来そうならギターから始めるし、ドラムを打ってリズムが良かったらそれから始める。

 

 歌詞を最初に思いついたらアカペラで歌ってみてから考えるし、DAWでリズムトラックして音を重ねる事から始める時もあるし、ジャンルを選ぶ為にシンセサイザーから入ることもある。

 

 今回はたまたま手に取ったベースから、楽しめなくなってからめっきり無くなった懐かしい感覚がした。

 

 ミュージシャンとしての感覚。

 

 ここから生み出した音が主軸になって曲として作り上げていく、この感覚。

 

 

「嬉しいな……」

 

 

 楽しまないと新しい着想は得られない。

 

 わたしは、今自覚が出来るぐらいに、ベースを弾いている瞬間確かに音楽を楽しむことができたんだ。

 

 その事が嬉しいよ。

 

 

 

 

 

 

 基本的に、わたしは外に出る必要のない生活をしている。

 

 今の時代ネットショッピングで大抵のモノは買えるし、昔なら兎も角今となっては外の出る理由もないから、ずっと家にいる事が殆ど。

 

 とは言っても、だからって週に1、2回ぐらいは外に出る理由を適当に作って外に出ないと体力が落ちる一方だ。気も滅入るしね。

 

 ちょうどコンビニ限定のスイーツがある情報をキャッチしたわたしはコンビニに向かうことにしたのだが。

 

「ひとりちゃん?奇遇だね」

 

「ピ!……あ、みあさん……」

 

 

 向かいからずぅ〜〜〜んって感じの空気を纏わせたひとりちゃんが歩いているのを見かけた。

 

 時刻は夜、下北沢のライブハウスSTARRY(スターリー)で働いているのは知っているから、バイト終わりかライブ終わりなのかな。

 

 気まずそうにしているけれど、せっかくばったり会ったし……。

 

「ねえ、ちょっとお話しない?」

 

「えっあっ、はい」

 

「ありがと、とりあえずコンビニ行こっか」

 

 ひとりちゃんを連れてコンビニに向かうことにした、それにしてもひとりちゃん、冷静に考えればなんでここから下北沢までバイトしに行っているんだろう。

 

 高校生だよね、地元の高校に向かわないで都内の方の高校に通っているのかな。

 

 なんで?わたし気になります。

 

 でも聴いて良いのか?わざわざ都内の方の学校に通う理由があるってことだもんね、触れない方が良さそうだ。すごい気になるけど、機会があったらひとりちゃんのバンドメンバーの子に聞いてみるか……。

 

「夏休み、のシーズンだよね。ひとりちゃんは何処かに行ったりした?」

 

「あっ、いえその……どこにも……家でギター弾いてます……」

 

「ふぅーん、バンドメンバーとかと何処か行ったりしないの?」

 

「アッイエソノまっまだ1ヶ月もあるので焦る必要もナイカトオモッテルンデスケドソノ……」

 

 そういうつもりはなかったんだけどどんどん声が震えて体が溶けてきちゃった、わあ。

 

 自分で誘う勇気はないけれどそれそれとして予定は開けているんだろうなあ、そんな感じする。

 

 結束バンドの雰囲気的に、バンドメンバー同士で遊ばないようなストイック過ぎるロックバンドでもなさそうだし。

 

 いや中にはそういうバンドもいるんだけどね、大体解散しては加入を繰り返すんだけどさ、インディーズバンドには結構良くあることだし有名なレーベルと契約した所でも方向性の違い(よくあるやつ)で解散したりするけど。

 

 それが原因で音楽シーンから離れる人だっているから、腕は確かなだけに悲しかったりするんだよね。

 

「そういえば、ひとりちゃんはギターを弾く時の癖が良いね」

 

「えっ」

 

 語っていくうちに自己嫌悪に走り始めたのかだんだん遠くに行きそうになっていくひとりちゃんをみて、ふと前に思った事を言ってみる。

 

 弾ける奏法が増えたりするとその人の癖が確立されてくる。ひとりちゃんが好きなんだろうなって弾き方だと、例を挙げるなら速弾き。

 

 速弾きを上手く弾こうとすればする程そういう風に腕の振りと手首の捻り方が変化する。

 

 ただ、癖にも悪い癖と良い癖があって、ひとりちゃんの場合はどちらかといえば良い癖があるギターの弾き方だなって思う弾き方だ。

 

 悪い例として、ある程度上達するとアップピッキング*1が上手くいかなくなる例がある。

 

 手首を支点としたピッキングが癖になってる人にありがちな症状で、これ自体は肘の返しの反動を使った弾き方にするとか、単純に指の筋力を鍛えるとかで修正できる。

 

 ただそれらを意識しないまま、治さなくても弾けはする、だからそのままにしている人もいる、ただそうすれば当然上達に翳りが起きる。

 

 癖っていうのは習慣で、それまでの弾いてきた方法や練習の仕方を一から直さないと、根本的には解決しづらい。

 

 その点、ひとりちゃんの良くする所々のギタービブラート*2とかは、聴いていて心地良い。

 

「基礎練は上手な方?」

 

「えっあっ、そ、そうなんですかね……へへ、えへへ……ふひ……」

 

 露骨に喜び始めた。

 

「でも人と合わせるの下手だよねぇ」

 

「アッすいません調子乗りましたわたしはツチノコです消えます埋まります」

 

 あはっ、なんだこれ。かわいい生き物だなあ、たのし。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、あの、すいません、私の分まで……」

 

「別に良いよ、わたしがひとりちゃんに奢りたかっただけだし」

 

 

 ひとりちゃんにもコンビニ限定のスイーツと、ジュースを奢ってコンビニから出た。

 

 廣井ちゃんみたいな酔っ払いに奢るのはともかく、ひとりちゃんみたいな未来あるギタリストになら幾らでも投資しても良い、流石に限度は踏まえないとだけどね。

 

 ……そういえばこの前の飲み代返してもらってないな。だからってそれ目的に新宿まで行くのもなあ。

 

「ひとりちゃんはどうしてバンドを始めたの?」

 

「あっそれは、公園にいる時に、虹夏ちゃんに誘われて、それで……」

 

「ロマンチックだね、今時珍しくて新鮮」

 

「そ、そうなんですかね……」

 

「そうだよ、だから結束バンドのまま続けて行って欲しいな」

 

「は、はい……!」

 

 

 ひとりちゃんにしては力強い返事で、自然と口角が上がった。

 

 普通のバンドがメンバーの補充をする時はSNSとかが基本だ、後は人づてで聞いて引き抜いたり誘ったりする事が殆ど。

 

 ひとりちゃんみたいな出会い方は、少ないと思う。だからこそ簡単に音楽性の違いとかで終わって欲しくないと思うのかな、初めてのバンドのまま突き進んで欲しい。

 

 それでもし、ひとりちゃんが悩んだら力になりたいな。

 

 わたしがしなくても、結束バンドの子たちがしてくれると思うけれどね、少し話しただけでも性格が良いのはわかったし。

 

 

「あっ……この先曲がります」

 

「んー、じゃあここでお別れだね」

 

 何だか話し足りないな、って思っちゃうのは、普段人と会話する必要がないことによる寂しさからか、それともわたしがひとりちゃんっていう一人の人間を、好ましいと思ってるから?

 

 多分どっちもだろうけれど、だからって夜に未成年を連れて何処か行くのは色々アウトだし。

 

 でもそうだなあ……。

 

「ひとりちゃん、明日は暇かな」

 

「あっはい……えっ、え?

 

「良かった、それじゃ明日」

 

 約束を取り付けてひとりちゃんと別れる。少し強引かもしれないけれど、人見知りにはこれぐらいの距離感が良いってわたしは知っているんだ。

 

 ひとりちゃんほどではないけれど、学生の頃はわたしも人見知り寄りの性格だったからね。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 

 ひとりちゃんとは連絡先を交換しているから、お昼前に駅前で集合する事に決めた。

 

 人と出掛けるような服装はと言えば、まあ恥ずかしくない程度にはあるから問題無いし、別に遠出するわけでもないからそこそこのお洒落ぐらいにしてる。

 

 ひとりちゃんがそういうの気にする子だとは思わないから、それは良いんだけれど。

 

「ひとりちゃん今日もジャージなんだねえ」

 

「あっすいません……」

 

「良いよ、ひとりちゃんらしい。似合ってる似合ってる」

 

 ちゃんと言われた通りギター持って来てくれたみたいだ、それなら私服も着てほしかったなあ、前髪に隠れてるけれど顔立ち良いし、姿勢が悪過ぎるから目立たないけどスタイルも悪くない筈だし。

 

 私服のひとりちゃんを見てみたいっていうのはあるけれど、多分すごいストレス溜まるんだろうなあ……って思うぐらいに人見知りだしなあ。

 

 自分に対する評価がヘンテコなんだよなぁ、いや結構そういう人いるよ、バンドマンって変だし、うん。

 

 さて、駅前に集合したは良いけれど時刻はお昼前、今日ひとりちゃんに何をするか言っていないけれど、それより先に。

 

「ご飯は食べた?」

 

「あっいえ、まだです……あっ、た、食べて来た方がよかったですか……」

 

「ん、そんな事ない。オススメのお寿司屋知ってるんだ、行こう」

 

「えっあっ、お金無いですすいませんごめんなさい」

 

「……ん?いや、学生にお金出させないよ、気にしないでいいからね」

 

「ウッえっ、えっえっ」

 

 

 お昼からお寿司は初めてかな、すごいあたふたしてる、かわいい。

 

 

「な、なんでですか?」

 

「んー?」

 

「そこまでしてもらう、ような事なんて」

 

「ううん、それは違う、そこまでしてもらうことをひとりちゃんはしてくれた、ほら。行くよ」

 

「わっ」

 

 ひとりちゃんの手を取ってお店に向かう、あの日、偶然だけれど出会ってわたしは久しぶりに人と演奏出来た。

 

 それが全て。久しぶりにたのしかったんだ、ひとりちゃんだけじゃなくて廣井ちゃんにもそれは当てはまる。まあ絶対に直接言わないけれどね、ちょっとどころじゃ無いぐらいに酒癖が悪すぎるよあのベーシスト。

 

 

 それに一度やりたかったんだ、歳下のしかも高校生にお寿司奢るの。なんだかいけないことしてるみたいでたのしくなる、あは。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、本当にいいんですか……?」

 

「大丈夫だよ、それともひとりちゃんは、わたしが廣井ちゃんみたいな人に見える?」

 

「いっいえ」

 

 オススメのお寿司屋の個室に来た、わたしのこと大将は覚えてくれてたみたいで、久しぶりに来たのに喜んでくれたのが少し嬉しい。

 

 

「好きなの食べてね」

 

「はっはい……!」

 

 良かった、遠慮はしているけれど喜んでくれてるみたい、人とこうしてご飯に出かけたのはわたしも久しぶりだけど、ひとりちゃんはどうかな。

 

 流石に一度も他人と行ったことがない、なんてことはないと思うけれど。

 

 ……そんなことないよね?いくらなんでも、うーん。どうなんだ。聞くのは流石にひとりちゃんに失礼だしなあ。

 

「お、美味しいでふ」

 

「でしょ、良かった。おススメはね____」

 

 

 わたしに妹はいないけれど、もし妹がいたらこういう風に甘やかすのだろうか。多分甘やかすんだろうなあ、昔は歳下の子って好きじゃなかったけれど、今では真逆だ。

 

 というより、なんだろう。ある程度ファン層が確立した平均年齢の低いバンドマンって色々擦れてて*3嫌なんだよね、都内は特にそう。だから都内から離れてこっちに住み始めたんだけれど。

 

 ひとりちゃん含めた結束バンドの子達は、まだそういうのに染まってないから見ていて嫌な気持ちはしないし、今後次第だけれど、そういう雰囲気に負けてほしくないな。

 

 

「今日は、何時まで付き合ってくれるかな」

 

「えっ、えっと。夜まで大丈夫です……けど……?」

 

「よし____じゃあ食べたらわたしのお家に行こっか」

 

「あっはい……?エ……?ん……!?」

 

 

 ひとりちゃんなら見られてもいいし、見られたからってわたしが『Mia』である事に気付ける訳じゃないだろうし。

 

 気付かれたらその時はその時だね、あんまり知られたくない事だけれど、わたしはそれ以上に、ひとりちゃんをもっと成長させたいんだ。

 

 _______ん、まぐろ美味しい、これもう一貫頼も。

 

*1
1弦側からピックを振り上げて弦を弾くこと

*2
チョーキングを繰り返して音にゆらぎを作ること

*3
音楽以外に手を付け始めたあいつら





嬉しいねえ赤バー、でも感想も欲しいなあ(乞食)

ところで。ひとりちゃんって仲良くなったら凄い依存するだろうけれど陰キャの成分強すぎてヤンデレにならないだろうから、めちゃくちゃ仲良くなった後に急に冷めた態度とったらめちゃくちゃかわいそうかわいいと思うだよね、どう?


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Q.可愛い子を家に招き入れてやること

なんか……止まらなかったわ……(勢いってスゲー!)




 

 わたしが思うに。

 

 バンドとして必要なリズム感や合わせのタイミングは人と合わせて弾く以上の練習法は無い。

 

 中にはソロを極め過ぎた結果、人と合わせるという行為そのものを否定するような個人対個人のバッチバチのバンドもあるのだけれど、それは努力以上に才能によるものの方が多い。

 

 技術に対して技術が上手く調和しているからまとまって見えるだけで、本質は逆も逆だ。アレが出来るのは中々居ないし、ボーカル、ギタリスト、ドラムにベースと四人全てが集まらなくても個人でも音楽で食えるってぐらいの実力者に限る話だ。*1

 

 ひとりちゃんにそれはまだまだ難しいだろうし、そもそもそれは結束バンドでやりたい音楽じゃないよね。

 

 だったら最初の話に戻って人と合わせて弾くことになる、これに勝る事は、やっぱり無いと思う。

 

「だからわたしとセッションしよう」

 

「ヒェ」

 

 お寿司さんを後にしてわたしの家に移動中に一通りその話をしたら、ひとりちゃんが固まってしまった。そんなに?

 

 まあ、本音の六割はわたしがひとりちゃんのギターを聴きたいだけだ。聴き心地がいいからね、それと少し人とギタリストと合わせて弾きたい。

 

 わたしの友人って言えるバンドマンは、一応酔いどれベーシスト廣井ちゃんぐらいで、他は殆ど縁を絶っている。

 

 ……縁を絶つ、っていうのとは少し違うか、もうだいぶ昔から関わらなくなっただけで、多分連絡はつく、たまに見るSNSで活躍しているのも知っている。

 

 結局、怖いんだろうな、だから逃げている。でもだからって今のわたしを、あの時のわたしを知っている人にあまり知られたく無い。

 

「わたしと弾くのは嫌?」

 

「そっそんな事は」

 

「ひとりちゃんと演奏したいんだ、ダメかな」

 

「いっいっいえ、うれしいです……!」

 

 こういう風に聞くのは少しずるいかな、ごめんねずるい大人で。

 

「着いたよ」

 

「ウオァ……た、タワーマンション……‼︎⁈」

 

「そっちじゃないよ、こっち」

 

「えっ、あっごめんなさいごめんなさい……!」

 

 ひとりちゃんにはわたしがタワーマンションに住むような女だって見えてるのか、それは……喜ぶべきなのか?どっちなんだ、お金持ってるって思われるのは、まあ嫌じゃ無いんだけど。

 

 ごめんねタワーマンションじゃなくて、防音性を取るとどうしても音楽制作目的の賃貸で一番適しているにはやっぱり一戸建てになる。

 

 鉄筋コンクリートで造られていても同じ住宅にいる以上響く音は出る、それによるトラブルは最初から起こすだけ無駄だし、気にしたく無いから念入りに探して貸してもらっているのだ。

 

 まあ、流石に金管楽器と電子ドラムじゃないフルセットのドラムは置けなかった*2けど、それはまあ……仕方ないよね。

 

「どうぞ」

 

「あっ、お、おじゃまします……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしの家は、楽器を弾かない人にはさぞ退屈だろうなって家だと思う。

 

 普通の平屋の2LDKで間取りも普通、寝室はそのままで1番広いLDKの所に楽器を配置してパソコンを置たりしてぶちライブハウスみたいにして、後から出来る限り防音性を高める為に、壁とかカーテンとか工夫している。

 

 全体的に暗い雰囲気になっているのはそれのせいだけれど、わたしはそれがちょうど良い。

 

「す、すごいお家ですね……」

 

「嬉しいこと言ってくれるね、ひとりちゃん」

 

「あぅあぅ……ゥ!」

 

 よしよしとちょうど撫でやすい位置にいたひとりちゃんの頭を撫でてみると、数秒も照れの後にふにゃふにゃになって液状化してしまった。

 

 なんてことだ、ひとりちゃんは猫だったのか?*3

 

 スライムになってしまったひとりちゃんはとりあえず置いておいて、わたしは冷蔵庫に入れてある飲み物を取り出して、コップに入れる。

 

 普通のぶどうジュースだ、こんなの買ってたっけ……まあいっか。賞味期限切れって訳じゃ無いし。

 

「どうぞ」

 

「あっ、ありがとうございます」

 

 ひとりちゃんをソファーに案内して、わたしはパソコンの置いてあるゲーミングチェアの方に座る、ひとりちゃんは隣同士で座ると余計緊張するのは、さっきのお寿司屋さんで理解した。

 

 時刻はお昼過ぎ、まだまだ夕方には早い時間。社会人の人は頑張って働いてる時間で、学生は夏休みシーズン、バンドマンも大体はバイトとかの時間。

 

 そんな中、ここでやる事は何か。

 

 

「ひとりちゃん、何と合わせて弾きたい?」

 

「えっ」

 

「わたしはここに置いてある楽器なら一通りは出来るよ、ひとりちゃんが決めて良い、ドラムでもベースでも、ギターでも、他の楽器でも良いよ。どうする?」

 

「えっ、えっと……」

 

 

 ……って、急に言われても困るか。

 

 わたしはとりあえず、わたしが座っている位置から一番近い所に置いてあるギターを取って軽く音を鳴らす、その様子をひとりちゃんは暫くぼーっとみてたけど、直ぐに自分のギターを取り出した。

 

「流行りの曲は大抵弾けるんだっけ」

 

「あっはい、一応……」

 

「じゃあそうだね____うん、この5曲のセトリで行こう、ひとりちゃんはリードギターで固定。わたしは一曲ずつ別の楽器でやるね」

 

「えっ、あっはい」

 

「じゃあ弾くよ、好きに弾いてみて________」

 

 

 

 音を奏で始める。

 

 さて_______わたしとの演奏で、ひとりちゃんは何か掴んでくれると良いけれど、どうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「________っ、ふう。おつかれひとりちゃん」

 

「はっ……はい、あ、ありがとうございます……」

 

「何か分かった?」

 

「えっ、えっと……な、なんと、なく、は……ハイ」

 

 わたしと演奏することでひとりちゃんが上達するかと言われれば、一概にもそうと言えない。

 

 何故なら結局はひとりちゃんが弾いて魅せる場所は結束バンドの中で、結束バンドのギタリストとして上達するのなら、そのバンドのメンバーで練習する他無いからだ。

 

 ただ、人と合わせる事自体に少しでも慣れれば他人に合わせるやり方を少しは学べるはずだ。

 

 例えばひとりちゃんの出だしから完全に集中するまで弾く音が必要以上に大きい、リードギターとはいえ音が大き過ぎると他の楽器隊は自分の音に集中出来ないし観客もギター以外の音が聞こえなくてノリ辛い。

 

 それに自分の都合でテンポを変える癖もある、これは失敗を恐れて弾いている証拠だね、失敗なんて当然だっていう気持ちで弾くぐらいが丁度良いから、そうなるように頑張ってほしい。

 

 他人の演奏を聴けてはいるからそこは美点、周りを窺う事に長けている証拠。

 

 

 でも一番はやっぱり事前準備の足りなさ、これに尽きる、そしてそれは単純に人と合わせる事による引き出しの無さが原因だ。

 

 ソロで弾く楽器隊によくある事で、実際は引き出しはあっても咄嗟に出る判断が出来ないって言った方が正しい、だからワンテンポ遅れる時がある。

 

 

 それらを上手くカバーして弾ける人は限られる、天才ベーシストを自称する廣井ちゃんとかじゃ無いと難しいだろうし、わたしの知るかなり出来るドラマーさんだと、逆にリードされてしまう事になりそう。

 

 この課題の大抵は、セッションに慣れれば自ずと改善する内容だ、だからひとりちゃんが今一番必要なのは、どの曲でもある程度合わせられるようになる即興性だとわたしは考える。

 

 即興に一番必要なのは事前準備と心構えだとわたしは考える、ひとりちゃんの場合、基礎練はしっかり出来ているし技術もちゃんと付いているから、そこさえ直れば________面白い事になるんじゃないかな。

 

 

「そ、そのっ……み、みあさん、は……」

 

 

 と、取り敢えずわたしがぱって思ったひとりちゃんの改善点をパソコンで書いている最中に、静かで、震えていて、それでいて確かに何かを伝えようとするひとりちゃんの声が聞こえた。

 

 わたしがひとりちゃんの方に振り向いてみると、すごく言いづらそうにして、口を開けたり閉ざしたりしてる。

 

 ________ああ。

 

 まぁ、そっか。

 

 流石に5曲もセッションすれば、分かっちゃうか。

 

 

「良いよ、言って?」

 

 

「……Mia、なんですか……?」

 

 

 ひとりちゃんが今感じている感情はわたしにはわからない、『Mia』に対してひとりちゃんがどう思っていたのか、その正体が今のわたしである事に、どう思っているのか。

 

「________う、嬉しいです……!」

 

 だから、続けて言われた言葉にわたしは心底驚いた。

 

 

「わ、わたしなんかがこうやって一緒に弾けて、生の『Mia』さんの音色に触れて、えっと……っ、うう、あの……っ!」

 

 『Mia』が今、半ば活動休止で何もしていないってことは知っている筈で、わたしはてっきりそれについて聞かれるのかと思ってた。

 

 でもそっか、ひとりちゃんはそれより、そんな事より、今いるわたしをちゃんと見てくれているんだね。

 

 多分、こういう所だ、こういうところが似ているんだ(・・・・・・)。性格も違うし年齢も違う、目指している夢も違うのに、わたしが惹かれたところは懐かしさを感じるぐらいに似ている。

 

 そっか____そ、っか。

 

 

「ひとりちゃん、じゃあ次はわたし(Mia)の曲、弾いてみる?」

 

「エッイエホンニンノマエデソンナむむむむりです」

 

「大丈夫出来る出来る、せっかくだしボーカルもやってみようよ」

 

「むむむ、む!むむりです、むむむむむ!むりですむりですぅ……!」

 

「あははっ……!ごめんごめん、わたしが歌うよ、それならどう?」

 

「ウェッえっえぁ……はっはい……」

 

 

 欠けた彩が蘇っていくのを感じる。

 

 まるでヒーローだ。

 

 もっと遊ぼう(奏でよう)よ、ひとりちゃん、時間が許すまでさ。

 

 

 

 

 

 

「き、今日はありがとうございました……!」

 

「こっちこそありがとう、途中まで送った方が良いかな」

 

「いっいえだだっ、大丈夫です」

 

 

 楽しい時間はあっという間で、直ぐに夜も更けてきた。夜ご飯は家族で食べるのは聞いていたから、もうお別れの時間だ。

 

 こんなにもたのしい演奏はそれこそこの前の即興路上ライブ振りだった、心が満たされているのを感じる。

 

 それに、ひとりちゃんとのセッションの中で凄くいいフレーズが浮かんだから、後で忘れないうちにメモらないとね。

 

「あっ、ひとりちゃん」

 

「はっはいっ」

 

「……また遊ぼうね」

 

「はっはい……!」

 

 お昼を外で外食して楽器演奏しただけの事を遊び、とは言えないかもだけれど、わたしとひとりちゃんにとっては、十分楽しめたと思うんだ。

 

 ひとりちゃんだけじゃない、多分今まで、わたしが知らない内に、見ないようにしていた世界に、ひとりちゃんみたいな子は居たかもしれない。

 

 でも、わたしを変えてくれるのは君だった、歳下とか関係ない、わたしはひとりちゃんのことがすっかり好きになっちゃったみたいだ。

 

「困った事があれば、言ってね」

 

「はい」

 

「それと……これ」

 

「はい……?」

 

 そんなわたしの好きなひとりちゃんに、わたしが物足りないと思った所と、こういう技術はつけたほうが良いって思った技術と、流石にこれは直したほうが良いっていう所とかのetcが書かれた改善案の紙をひとりちゃんに渡した。

 

 それを見たひとりちゃんがわたしと紙を交互に繰り返し見ながら何だか泣きそうな顔になってるのをみて、ちょっとうずうずしちゃう気持ちを抑える。

 

 何だろうなあ、かわいいんだよなあ……こういう所本当に……。

 

「がんばれひとりちゃん」

 

「ひゃ、ひゃい……」

 

 

 応援してるよ、本当に。また近い内にライブも見に行くね。

 

 だからさ、特等席じゃなくても良いから、ひとりちゃんが成長していく道を、旅をわたしにも見せてね。

 

 

 わたしも、自分の道を歩くこと……頑張って逃げないようにするから。

 

 

 

*1
リアルにいる、ゲ◯極とかその部類

*2
思ってる三倍ぐらい煩いですよ

*3
猫は液体





感想来た瞬間にコレなのでやはり感想は神、ありがとう〜ʕ•̫͡•

ところで。北に行くよこと喜多ちゃんがぼっちちゃんによかれと思って、一緒に遊ぶ約束をして偶然を装って学校内の友達も呼んで遊ぼうとするんだけど気付いたらぼっちちゃんが帰って上手くいかなくて曇る喜多ちゃんのイラストが頭に浮かんだんだけど、どこや?


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G#dim(E/G#)→Amぐらいの距離

書きあがったら投稿するスタイルなので投稿しますゥゥゥ……




 

 わたしは自分が作る曲以外を投稿することはあんまりない。

 

 これは自分が作詞作曲する以外の曲で動画を投稿するのが嫌いとかそういうのじゃなくて、自分がカバーして歌ったり弾いたりする事にそれ程の魅力を感じないから。

 

 世の中にあるカバー曲を否定する訳じゃない、中にはその曲をこの人がカバーするから生まれるオリジナリティが生まれる事だってある。

 

 ただ、わたしが弾いたり歌う事によってオリジナリティが生まれるような他アーティストの曲が、わたしの中では無かっただけだった。

 

 弾けはする、歌うこともできるしそれ以上のアドリブもする、でもただそれだけ。

 

 技術的な問題じゃない、それこそ「熱意」って言うべきものが、わたしが他の曲をカバーするときに足りてないんだと思う。

 

 ……まあそもそも、それはそうなんだよ。

 

 このバンドだからこの演奏が出来て、この歌詞が響いて、このボーカルに適している。

 

 そうやって纏まっているものを、変に歌おうとしても、模擬する様に弾いても、余計なことをしてしまったとしか思えないんだ。

 

 その場で満足するようなカラオケとは違う、世に出すなら誰かに見てもらって何かを感じてもらうために曲を出すべきだ。それを考えればなおさら、わたしが歌って世に出そうって思える曲は無くて、演奏の面でも同じような現象が起きた。

 

 だからわたしは逆に、カバーする事で他人に何かしらの感情を強く引き出せる人を尊敬している、わたしには中々出来ない事だから。

 

 

 ……なんて、そんな偉そうに言ってるけれど、今となっては動画投稿すら何年も上げてない、自称アーティスト気取りの半引きこもりだけどね。

 

 思わず自笑してしまうぐらいには、情けないけれど。

 

 でも、そんなわたしでも数回だけカバー曲を出した事がある。

 

 ただ純粋に、その曲が好きで、他でもないわたしが響いて、わたしが歌って弾いてみたらどうなるんだろうって感情で上げた曲。

 

 その時を思い返すと、根底にあったのは楽しさだ。

 

 そう、楽しかったんだ。

 

 それは、この前のひとりちゃんとの演奏やゲリラ路上ライブに当てはまる。

 

 音楽をする上で何が必要なのか、人それぞれではあるけれど。

 

 わたしが一番必要なものは多分、楽しさだ。

 

 この感情からくる音の螺旋が、彩って仕方がない世界に連れて行ってくれる。

 

 

「……基準線(ベースライン)が、出来た」

 

 

 2分42秒の音色が形になった、まだまだ形になった程度で、ベースラインだけの曲としては未完成も未完成。

 

 完全に納得もしていないし、メロディラインも無い。DAW*1を使っての調整は必要だし、ノイズ調整もする必要があるし……やらないといけない事はキリがない。

 

 でも、出来た。

 

 たった今わたしの作る音で新しく、まだ名前もついていないモノが完成した。

 

 息を吐いて、作業の手を止める。

 

 いま、たった一つだけ確かなことは、わたしの根底にあるたのしさが確かに、満たされた。そんな気がする。

 

 

 気がする……だけじゃないって、思いたい。

 

 

 

 

 

 

 

『みあちゃ〜〜〜ん飲み行こ〜〜〜!』

 

 

 という連絡が来た。

 

 この文言でわかるだろうけれど、廣井ちゃんだ。

 

 連絡先を交換した覚えはないんだけど、もしかして知らない内に前の初結束バンドのライブ日に交換してたのか、わたし。

 

 嘘でしょ……あの日そんなに酔っ払ってる記憶ないんだけどなあ、特に粗相もしなかった筈だし。

 

 こわくなってきた、どうしよう。

 

 てか絶対あの日の立て替えたお金のこと忘れてるよねこの人。

 

 いや、まあ……STARRYの店長さんがストッパーになってくれていたし、それほど飲んでなかった(当社比)みたいだったから、わたしの分と合わせても諭吉さん一枚ぐらいだけど。

 

 でもまあ、誘ってくれるのは普通に嬉しいな、外に出たくないってわけじゃなくて、外に出る理由が少ないだけだから。

 

 ……それに既読も付けちゃったしなあ。

 

『良いよ、何処?』

 

 と連絡して外出する準備をし始める、持って行くようなものも必需品以外無いからそれは直ぐに済んで。

 

 待ち合わせ場所のリンクを見て、これぐらいの時間かかるけど良いのって連絡した後に良いよーって来たから、今度こそ家から出た。

 

 わたしの家から都内に向かうまで大体一時間30分ぐらいかかる、着く頃には夜の七時を過ぎちゃうけれど、この時間から金沢八景から都内に行く電車は、そこまで混んで無いからちょっと嬉しい。

 

 Bluetoothのイヤホンを付けながら、昔から気に入っているバンドの曲を聴いたり、ちょっと仮眠をとったりしていたら、あっという間に駅に着いた。

 

「何処にいるんだ……?」

 

 と、多分一眼見たら分かるだろう酔いどれ廣井ちゃんを探そうと周囲を見渡すと、背後から聞き馴染みのある声と、気配を感じた。

 

「みあちゃ〜〜ん!待ってたよお〜〜〜、お?、おぉ〜!おぁ〜!?」

 

 抱き付かれそうだなあ嫌だなあと思って身を翻したら、廣井ちゃんの体制が崩れて地面と同化してしまった。

 

 ……ちょっとおもしろいじゃなくて、かわいそうだな、受け止めてあげた方がよかったかもしれない。

 

「ひどいよぉー」

 

「ごめんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて誘われるまま付いてきたわたしだけれど、どうやら廣井ちゃんとのさし飲みって言うわけでもなく、廣井ちゃんに案内されるまま居酒屋に向かう事になった。

 

 ……ちょっと安心、廣井ちゃんの事だから路上飲みも視野に入ってた、だってそういうの人呼んでも普通にやりそうだし……。

 

 集合場所が下北沢駅の時点で、何となくは察していたんだけれど。

 

「そういえば、何でわたしの連絡先知ってるの?」

 

「ぼっちちゃんに聞いた〜」

 

「ああ……」

 

 まぁひとりちゃんなら仕方ないか……お願いされると断れない子だし、誰かに教えないでねって言ってるわけでもないし。

 

 むしろ、今度会った時そのことを言ってみようかな、全然怒ってないけど、何で教えたの?って、すごい慌てるひとりちゃんが見れそう、いじわるかな?いじわるだね、ひとりちゃんがわるいよ。

 

「連れてきたよぉ〜!」

 

「お……誰を呼ぶんだと思ったら、みあさんか」

 

「さん……?呼び捨てで良いよ、STARRYの店長さん」

 

 やっぱりと言うべきか、あの時の金髪の美人さんだった。隣で手を振って歓迎してくれる人は見たことがある、STARRYのPAさんだね。ばちばちのピアスしてるから覚えやすかった。

 

「いやそんな……あー、ならみあも、名前で言ってくれよ」

 

「良いの?じゃあ改めてよろしくね、星歌ちゃん」

 

「ブハ!せ、せ、先輩が、ちゃん!あはっ!」

 

「よしこいつ殺す」

 

 

 酔っ払い〆そうキャンペーンが開催した、星歌ちゃんの渾身の右ストレートで酔っ払いは成敗されたみたいだ。

 

 屍は放っておいてPAさんの隣に座った、ばちばちのピアスとは違って人当たりの良さそうなにこーって表情だ。

 

「よろしくね、PAさん」

 

「はい〜〜…… 名前言いそびれました……

 

「珍しいね、ライブハウスは休日?」

 

「ん、ああ。そうだよ、偶には休まないとな」

 

「それでこの子(床のシミ)に誘われたんだ」

 

「……いや」

 

 あれ、違うのか。えっ……っと、じゃあなんで?

 

 そんなわたしの疑問に答えるように、すごい形状し難い顔で、星歌ちゃんは指を差しながら言葉を続けた。

 

「こいつ放って置くと箱の近くで飲むんだよ」

 

「……さすがベーシストだなあ」*2

 

 

 

 

 

 

 

 

 床のシミちゃんが廣井ちゃんとして復活するのに時間は掛からなかった。

 

 乾杯してお互いのことについて話し始める、といってもわたしはただのひとりちゃんのファンの一人だし、それ以上でも以下でもないけれど。

 

 だから主に星歌ちゃんのライブハウスについてのお話とか、廣井ちゃんの活動の話とかが主に語られる。

 

 といっても固い話をしに来たわけじゃないから、軽いお話程度だけれど。

 

「____でねぇ〜、結成してまだ一年経ってないけど、人気になってきたんだよぉ〜〜〜」

 

「ふ〜ん、結構すごいじゃん、ジャンルは?」

 

「メタル!」

 

 

 メタルバンドか、メタルバンドで人気になれるなら相応の技術はあるんだろうね。

 

 どういう会場の雰囲気をつくるんだろう、パワーバラード*3を主に歌う方向じゃない限りは、まあわたしが思うイメージ通りなのかな。

 

 デスコアとは違ってライト寄りの方ならそこまで激しくはないだろうけれど。いやわたしは好きだよ?上から見てる分にはね。あれを見ながら飲むライブハウスでのお酒は値段以上のスパイスだ。

 

「みあちゃんは好きな音楽のジャンルってなぁ〜に?」

 

「んー……ジャンルにこだわった事はあんまりないなぁ」

 

「へぇ〜!素敵じゃーん!じゃあ好きなバンドの曲とかは〜?」

 

「好きなバンド、ね……聞いてみる?」

 

 

 わたしも酔ってきてるみたいだ、あんまりこういうこと、ひけらかすことしないから。

 

 わたしが好きなバンドの曲(・・・・・・・・)なんて、昔から変わらないよ、ずっと、いつまでも好きなまんまだ。

 

 この時計は止まったままでいい、ってわたしは考えている。だってそうでしょ、忘れることなんて出来ないんだから、覚え続けているんだ。

 

 スマホの設定をイヤホンからスピーカーに変えて、お店に迷惑がかからないぐらいの音量にして、曲を流す。

 

 サブスクリプションに乗っていないこの曲は、でもわたしは覚えている、知っている。聞いている。

 

 出だしはピアノの旋律、ローテンポからスクラッチ*4、すかさず一気にリズム隊が入る、テンポを速く上げたリズムから、次は転調*5。ベースソロからのボーカルの投入。

 

 ヘッドボイス*6からの電子音、裏拍*7に合わせて続くリズムに乗った歌い方。

 

 

「わあ……これは、いい曲ですね……?どうしました、店長?」

 

 PAさんは知らなかったみたい、というより知らない人の方が多いと思う。別にそれに何か思う事はない、だってこの曲はもう、解散したロックバンドの一曲だから。

 

「_________はは、久しぶりに聴いた。音源残ってたのか……この曲」

 

「懐かしいですね先輩、私この曲カバーしたことありますよ、知ってました?」

 

「覚えてるよ、おまえがカバーしてライブしてんの、私も居たし」

 

 廣井ちゃんはともかく、星歌ちゃんも知ってたんだ。

 

 じゃああの時代(とき)の音楽シーンにいた人だね、既視感の正体はそれか。だったら……納得、それと同時に嬉しい、まだこの曲を聴いて何かを思ってくれている人が、いたんだ。

 

「いい曲でしょ?」

 

「みあ、この音源……あ、いや。それは不味いか」

 

「にへへ、実は私音源持ってるんですよ先輩、欲しい?欲しい?」

 

「うぜえ……」

 

「珍しいな、ああでもカバーするなら、持ってるよね」

 

「あははー、いまちょっとぼっちちゃんの気持ちわかってきました〜」

 

 PAさんがいじけちゃった、腕に寄り掛かられたけどその様子がおもしろかったからそのまんまにしてみる。

 

 にしても……ふふ、嬉しいな。わたしが好きなバンドの曲を知ってくれていることが嬉しい、覚えていてくれているのが嬉しい、カバーしてくれてたなんて知らなかった。

 

 聞かせてあげたいな、って思った。絶対に喜ぶから、でもだけど……会えるわけじゃ、ないからね。

 

 少しセンチメンタルな気持ちは、おいしいお酒で無くそう。

 

 ついさっき頼んだレモン酎ハイを半分ぐらい一気に飲んで、全身からアルコールが行き届くのを感じる。

 

「廣井ちゃん、次何頼む……?」

 

「緑ハイのめちゃくちゃ濃いやつ!」

 

 終電には気をつけないとなあ……。

 

 

 

 

 

 

 わたしの終電が近付いてることに他でもない廣井ちゃんが気付いてくれて、解散の流れになる。

 

 まさか廣井ちゃんに指摘されると思わなかった、自分以外のことになると、妙に気配り出来るよね、偶にだけど。

 

 

「たのしかった、また飲もうよ星歌ちゃん、PAさん」

 

「是非〜!ねえ、店長?」

 

「ああ、今度はソレ無しで飲もう」

 

 そうして指を指される地面に転がるつちのこベーシスト廣井ちゃん。言葉になってない口から出る音が終わりを物語っている、絶対焼酎と日本酒飲んだのが原因だよ、本当に大学生みたいな飲み方してるよ。

 

「ぶぇ〜〜歩けね〜!がはは〜〜みあちゃんおぶってぇ〜」

 

「うわぁ、引くなあ」

 

「みあ、ここに捨ててもいいんだぞ。寧ろそうした方が身の為だ」

 

「地球に悪いから拾ってくね」

 

 酒くさい廣井ちゃんをおぶってあげて、星歌ちゃんとPAさんと別れる。姿が見えなくなってすぐに、居酒屋で交換した連絡先のチャットに『最悪廣井のせいで帰れなくなったら直ぐに言ってくれ』と連絡が来た。

 

 優しい人だなあ、それと本当に信用ないなぁ廣井ちゃん。まあこんなになってるんだから、それはそうか。

 

 

「うぅ……ウェ……!」

 

「吐いたら捨てるからね」

 

「う、うぇ〜……さ、流石にしない……」

 

 毎日は面倒くさいから嫌だけれど。

 

 こうして人を介抱するの、嫌いじゃないよ。今わたしがこの人から離れたら絶対この人困るんだろうなあっていう、そんな気持ちがうずうずするから。

 

 それに、やっぱり人に頼られるのは嫌いじゃない、廣井ちゃんみたいに関わっていて気持ちがいいって思える人なら、特にね。

 

 

「みあちゃん……」

 

「なーに?」

 

「音楽しよーよ……みあちゃんの歌声、また聞きたいな……」

 

「ん……いつかね」

 

 今にも眠りそうな声のその言葉になんて返せばいいんだろう、なんて思うより、先にそんな。曖昧な返答で返してしまった。

 

 いつか、なんて。一番失礼だ、歌わないなら歌わない、歌うなら歌うってはっきり、できないから、こんな風に生きているのかな。

 

 ……ああでも、どうしてだろう。

 

 前よりも嫌な気分じゃない、だからかな、少しは前を向いて歩けてるって思いたいな。

 

「わたしの背中で寝ないでよ?」

 

「寝ないよぉ〜今日は一人で帰れるよぉ〜〜!」

 

「なら良かった、警察に届けなくていいね」

 

「って、お〜〜〜〜い!」

 

 

*1
簡単に言うと音楽を制作することの出来るソフトウェアのこと

*2
特殊なケースです

*3
メタルバンドのバラード曲のこと

*4
レコードを前後に擦ると鳴る音

*5
曲の途中でキーが変わること

*6
裏声のこと

*7
1と2と3と4と……って数えた時の“と”の部分の音




5巻楽しみだねええ……。

ところで。ある日突然リョウさんが「旅に……出るから……」って言って旅に出るんだけどどうせいつものでしょって茶化してたら、突然ニュースでYouは何しにアメリカへ?みたいな番組にリョウさんが取り上げられてるのを見た虹夏ちゃんの気持ちを125文字以上で答えようとおm(


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U2みたいに独創的に

あれぇ?!あ、あ、朝から投稿するよぉ〜〜〜!?




 

 バンドサウンドの根幹であるリズム体の要。それがドラム。

 

 ロックバンドにドラムはマストって言っていいぐらいに、ドラムは必要不可欠の楽器だとわたしは考える。

 

 ドラムの代わりを出来る楽器は無いとは言わないけれど、ドラムの刻むリズムに勝るものはない、だからドラマーに最も求められるのは、リズムキープ能力ただ一つ。

 

 言っちゃえば派手なリフもスティック回しも必要ない……っていうのはいいすぎだけれど。

 

 速いBPM*1から繰り出す高速テクニックを覚えるよりもまず先に、リズム感を完璧に近付ける事から始めた方がいい。

 

 リズム隊が安定するとバンドのレベルは跳ね上がる。どんなジャンルでもどんなテーマで奏でる曲でもそれは共通する。

 

 ベースもそうだけれどドラムはそれ以上に、バンド全体の音をより良く届ける楽器だ、ドラムの上手いバンドは聞いていて違和感や不快感が全くない。

 

 正直いえば、ここ近年の音楽シーンを考えると打ち込み音源*2で済むよ、使う音源にも寄るけれど、高くて安定したクオリティの音源もある。

 

 打ち込みで作っちゃえばリズムが狂うこともない。ただライブハウスで奏でる音は打ち込みで作る音じゃない、人が生きて叩くその人のリズムは、その場で熱狂する空間に強く響く。

 

 ギターやベースとは違って練習する場所を取るのも難しいし、バンドの花形では決してないから人口も少ないけれど、でもね。そのバンドの結束を強く持つのはドラマーなんだ。

 

 

 でもじゃあ何を一番意識すれば上達に繋がるの、って思った時がわたしにもある、最初にドラムを叩き始めた時とかは酷かったのを覚えてる。

 

 バスドラム*3とか、スネア*4とかも大事だけれど、音の刻みが一番反映されるのはハイハット*5を叩く間隔。これを最初から最後まで一定に叩けるようにならないと、やっぱりガチャつく音になっちゃう。

 

「…… うん、ドラム譜はできた。これでいい」

 

 

 出来たドラム譜をパソコンで書き写して印刷する。これをこのまま打ち込みしちゃっても良いんだけれど、それは今のわたしがやりたいことじゃない。

 

 だってそれはたのしくない。

 

 だからもう少し一歩、前に歩く必要がある。

 

「行かないとな……レコーディングスタジオ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 都内に着いた。ここから歩いて数分程度の場所に、数日前から予約したレコーディングスタジオがある。

 

 何度も行ったことがある場所だけど、こうして利用するのは懐かしい。

 

 ちょっとした機材を持ち込んで電車に乗ったのは、久しぶりになる。

 

 それこそ、本当に数年ぶりで何だか新鮮な気持ちだ、少しだけ人目が気になったけれど、わたしを気にするような目はない。

 

 外で作業する時に使うノートパソコンはバッグに入れていて。

 

 ドラム録音用のオーディオインターフェイスに、ドラム用のマイクの入ったケース。後はマイクプリアンプ*6だったり使い慣れているドラムスティックとかの諸々をキャリーケースに詰めて持ち歩いている。

 

 どれもこれも最近は使っていなかったやつだ、ノートPCは時折、持ち歩くこともあったけれども、それも半年以上前の話になる。

 

 ちょっと重い、でもこの重さが心地良い。

 

 打ち込み音源を利用するとこの重さと離れる時期が多くなる。どうしても準備と用意に時間がかかるから、それ相応の労力がするんだよね。

 

 わたし自身の事例ではないけれど。気分や調子で大きくその日のコンディションが変わる人なんかは特に、本番とバンド練以外は打ち込みで。って人もいたりしたり。

 

 

「______あ!」

 

「ん?」

 

 聞いたことがある声がわたしの前から聞こえた。考え事をしていた思考を一回やめて、現実に戻る。

 

 金髪の元気そうな女の子だ、ん?というか見知った顔だ、彼女は結束バンドのドラム担当の子では?伊地知虹夏ちゃんだったよね。

 

「みあさんですよねっ、どうして下北沢に?」

 

「覚えてたんだ、ちょっとびっくり、STARRY(スターリー)はどうしたの?」

 

「覚えてますよ〜〜!今日は夕方からです!それで今はお買い物に行こうかなーって思って。みあさんは、なんだか旅にでも行くみたいな格好ですけど〜……」

 

「旅?あは、良いねその表現」

 

「わぁ何だかリョウ味のある回答された……?!」

 

 確かに旅って言われると、間違ってるよって一概にはいえないね、音に鳴るところはいつだって旅の始まり……なんちゃって。

 

 ひとりちゃんに「この日ってライブやる?」って前以って聞いていた。

 

 だから都内に行ってレコーディングして、一通り録り終わったら帰る前に結束バンドのライブも見ていこうって思うのは、ひとりちゃんのファンだからかな。下北沢に拘る理由の大半はそれ。

 

 後はまあ、値段と信頼……?比較的良いレンタル料で、使ったことのあるスタジオが、たまたま下北沢にもあったって感じかな。

 

「ドラム叩きにいくんだ」

 

「えっ!」

 

「意外だった?」

 

「ど、ドラマーだとは思わなかったです」

 

 ドラマーって言われるような人ではないけれどね、ドラムも叩くってだけだから、でもこれは言わなくて良いことだから、曖昧に笑っておいた。

 

 それにしてもなんだろうな、なんていえば良いんだ。こう、きらきらした目を向けられると、変な感じ。

 

 ドラム叩いてる人をライブハウス以外の場所で初めて見つけた!って感じの目だけれど、ああうんまあ……人口少ない楽器だから気持ちはわかるけど。

 

「それじゃあそろそろ行くね、今日のライブ楽しみに_____「あのっ!」」

 

「良ければで良いんですけど……付いて行っても良いですか?」

 

「それはどうして?」

 

「聞かせて欲しいんです、私も……ドラム上手くなりたいから」

 

「良い理由だね、良いよ。一応星歌ちゃんには一言伝えておいてね」

 

「あ、ありがとうございます!……えっお姉ちゃんのことちゃん呼び……!?」

 

 スタジオにもよるけれど、私がこれから行くところは一部屋分の料金で取っているから、人数が増えること自体は別に良い。

 

 だから虹夏ちゃんが着いてくるのは別にかまわない。虹夏ちゃんの様子からわたし(Mia)だって事は知らないように見えるけれど、知っていても知らなくても、人に聴かせる事自体に思う事は、そんなにない。

 

 その理由がドラムを上手くなりたいっていう理由なら、なおさらわたしが拒む理由はない。

 

 だってわたしは、未来ある若者の音楽に対する情熱を不意にするほど、まだ音楽を辞めてないって……。

 

 

 自分ではそう思いたいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 みあさんにここに座ってて良いよって言われた席に座って、観察する。

 

 たぶん、一週間ぐらい前のことかな、お姉ちゃんから今日は外食しに行くって連絡が来た次の日、いつもより機嫌の良さそうな表情が気になって、その理由を聞いてみた。

 

 素直に言ってくれなかったけど、要約すると、すごい久しぶりに、好きなバンドの曲を聞くことが出来たって嬉しそうに言っていた。

 

 そんな様子が新鮮だったから、つい私も知っているバンドの曲?って聞いてみた、すると、昔を思い出すようにちょっと複雑そうな顔をして、私の知らないバンドだって言ってた。

 

 ただ、わたしが少し離れて、お姉ちゃんとPAさんがお話ししている内容がたまたま耳に入って、みあさんの話題が断片的にだけど聞こえた。

 

 いつも酔っ払ってるあの人の様子を見れば、何かしらの楽器経験者なんだろうなぁ〜〜っていうのは、なんとなく察する事が出来た。

 

 声も綺麗だし、もしかしたらボーカルなのかな?なんて思ってもいた。

 

 だけど今日偶然出会って、下北沢にいる理由を聞いてみると、まさかドラムを叩く人とは思っていなかったから、びっくり。

 

 びっくりだけど、それ以上にワクワクした。お姉ちゃんとそんなに年の差も無さそうで、ドラマーなんて多分いや絶対、私よりも上手い人だ!って思ったから。

 

 公園にいたぼっちちゃんを誘って、喜多ちゃんも加入して、バンドとして活動し始めて、わたしの夢に向かって一歩進めて。

 

 だからわたしも頑張ろう!って気持ちで、今まで以上にドラム上手くなりたいから。

 

 つい……引き留めて「付いて行っても良いですか」って思い切って言ってみた。

 

 断られちゃうかな、って思ったけれどみあさんは優しくて、一緒に来てくれる事を許可してくれた。

 

 

「___________マイキングおっけ」

 

 

 マイクの取り付けが終わったのかな、みあさんが呟いた。ドラムを叩きにいくって聞いた時は思わなかったけれど、まさかレコーディングだったなんて。

 

 レコーディングって事は、曲を作る人なんだよね、音楽で生計出来ている人なんだ。そう考えればなんだか、凄いなって気持ちが強くなる。

 

 それ以上に、緊張する。

 

 だって今、私の目の前にいるこの人は、私の遥か先の音楽人だ、そんなすごい人のレコーディング現場にいるんだって意識が、ここに私が居るのが何だか場違いなんじゃないかって。

 

 ちょっと弱気になる、ぼっちちゃんの影響かな?らしくないよ、しっかりしろ虹夏っ!

 

「虹夏ちゃん」

 

「ひゃい!」

 

「え……ごめん。びっくりさせた?」

 

「あっだっだっ大丈夫です!」

 

 うう……みあさんから、どうしてぼっちちゃんみたいな反応になってるの?って目線を感じるぅ……。

 

 うそ、まさか、ぼっちちゃんの家に行った時の瘴気が、まだ私の体に______っ?!

 

 

「気楽にしてて良いからね」

 

 

 そう言ってみあさんはドラムカウントの後に、音を奏で始めた。

 

 聴いたことのない出だしの入り方、私の知ってる曲じゃない。レコーディングで来てるって言ってたし、それならこれは、まだ世に出てない曲?

 

 それより、なにより。

 

 

「___________すごい」

 

 

 少しドラムを叩いたことのある人ならみんな、多分共感してくれる。流線型に振るわれる腕から落とす一定の速度、スネアやシンバルを叩く規則性、バスドラムを踏むタイミング。

 

 タム*7の使い分けに、それから______それから……!

 

 この人のドラムの音……すごい綺麗、真似したくても真似できないんじゃないかって思うぐらいに_____綺麗。

 

 多分、リズムキープだ、リズム感が纏っていてブレない、ブレないから綺麗に音が出てる、ブレないから合間合間のテクニックがはっきりわかる。

 

 みあさんは今、他の楽器と合わせる事を前提にして叩いているんだ、それは当たり前のことだって言われればそうかもしれないけれど、だからって一人で叩いていて、こんなにも間隔がブレない、凄い……!

 

 わたしじゃ真似できない、違う。諦めとかじゃない、ただ、ドラムと付き合っている年月が違う、経験が物語っている。

 

 ドラムを聞いていて、激しいって思う事はある。

 

 上手いなって思う事もいっぱいあるけど、でも綺麗って思ったのは、もしかしたら、今が始めてかもしれない。

 

 

 何時からかわからないけれど、みあさんが笑いながら歌うようにドラムの音を奏でていることに気づいた。

 

 それからすぐに、無意識にわたしの口角が上がっているのに気づいた。

 

 良く知る感情、私がいっぱい感じている感情……!

 

 

 たのしい……!聴いてるだけで、こんなにもたのしい!

 

 

 引き出しが多くなってきた、私の知らない複雑なノリのリズムキープ……!

 

 もっと聴きたい(知りたい)聴いて(感じて)いたい。

 

 

 それと同じぐらい私も、いつかこんな風に______

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

 少し、肩の力を抜く。

 

 ドラムのレコーディングは出来る限り一発録りで終わらせることがベスト。

 

 仕方なくパンチイン*8する事もあるけれど、マイク数が多くなるドラムだとそれで全てカバー出来る訳じゃないし、やり過ぎると不自然な音や違和感が起きる。

 

 だからわたしの場合、一回最初から最後までやって、パソコンから聞こえる音に合わせて気に入らないところがわたしの基準より多かったらまた初めから。

 

 それで修正しつつ納得できたのを今度はミックスして手を加えて、よりわたしが求めているものに近付ける、この作業は家でも出来るけど出来る限り直ぐにわたしは完成に近づけるようにしている。

 

 その時のわたしの熱が、心のたのしさが冷めないうちに作らないと良いものは出来ない、完成しないって思ってるから。

 

 でも結局、わたしが完成したって思うより先に、時間切れになっちゃって、持ち帰り作業になっちゃう事が多々あるけどね。

 

「______す、すごかったです!」

 

 と、虹夏ちゃんが声をかけてきた。

 

 忘れていた訳じゃないけど、集中し過ぎてたからかな、それとも。他の人に見られながらレコーディングは……久しぶりだからかな。

 

 こうして声をかけられるまで忘れてた。

 

 あ、いやっ忘れてないよ、うん。言葉のあや。

 

「ありがとう、何か勉強になったかな」

 

「すっごく!あっあの……!」

 

「ところで虹夏ちゃん、時間大丈夫?」

 

「えっ……あ“!」

 

 

 私も今気づいたけど、すっかり夕方の時間になっていた。そんな時間になるまで虹夏ちゃんがわたしの音に夢中になってくれた、のかな。そうなら嬉しいけれど、聞いてくれて嬉しい。

 

 慌てる虹夏ちゃんをみて罪悪感、ちょっとなんだかいじわるな気持ちも湧いてきたけどいやそんなことはない。

 

 昔の悪い癖が最近再熱してきてる、どうしてってひとりちゃんのせいだよ、まったくもう。

 

 

「気付かなくてごめんね」

 

「いえっ私が悪いです!やばいどうしよ……怒られる〜〜……!すっすいません!行かないと!」

 

 慌てながらもしっかりお辞儀をしてくれて、スタジオ部屋の扉を開けてやや走り気味にSTARRYに戻る虹夏ちゃん。

 

 付いて来ていいよって言ったのは私だし、フォローしとかないとな。携帯を取り出して星歌ちゃんに送るチャットを考えていると、忘れ物かな?虹夏ちゃんが戻って来た。

 

 うん?でも見える限り忘れ物らしいのは無いけれど、どうしたんだろう。

 

「あっ、ありがとうございました!また、また聴かせてくださいっ!」

 

「……うん、今日のライブ頑張ってね」

 

「はいっ!」

 

 

 今度こそ虹夏ちゃんはSTARRYに戻って行った、廣井ちゃんが見習うべき礼儀正しい子だ。

 

 何か技術を教えた訳でもない、これはこうやってやると良いよってアドバイスする事もしなかったけれど、虹夏ちゃんはわたしのドラムを見て、何か感じてくれたかな。

 

 少しでも自分の実力に繋がるような事を感じ取れたら嬉しい。

 

 心に暖かいものが感じ取れる、虹夏ちゃんの、たのしそうな目がそうさせたのかな。

 

 

 今日は虹夏ちゃんを中心に聴こう、多分きっと。良い音を聴かせてくれるから。

 

 

*1
楽曲のテンポのこと

*2
PCを使って作る音作りのこと

*3
踏んで鳴らすデカくて低い音でる太鼓、別名キック

*4
手前にある小太鼓のこと

*5
水平についている2枚のシンバル

*6
音量音質とかの調整が出来るやつ

*7
中音域の出る太鼓のこと

*8
ミスした部分だけ演奏して部分的に差し替える録音方法




感想くれるしお気に入りはいっぱい増えるし嬉しいっすね……だからよ、ぼっちちゃん、止まるんじゃねえぞ……。

ところで。スタジオ練は金掛かるけど楽しいよね、宅レコの時代だけどやっぱ合わせて弾くに勝るものはないよね。でも俺が言いたいのはそうじゃなくって酒クズこと廣井さんのあまりにも無防備な脇についてなんd(文字数


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高校中退はロック的には普通だよね

普通かもしれないしなんなら中卒ぐらいインパクト強い方がロックだけれどだめな大人の例なので、高校ぐらいは卒業しようね!




 

 

 低く見られたり、誤解されがちだけど。

 

 

 楽曲のリズムに沿う形で演奏するギタリスト、つまりはよくリズムギター或いはサイドギターとも言われる人は曲の完成度を問われる時に、とても重要なポジションだ。

 

 一般的にリードギターが注目を浴びるけれど、リズムギターの役割である伴奏は、音楽を成立させるための重要な土台部分。

 

 ここがしっかりリズムを取って演奏の土台を成立させないと良い音は奏でられない、その点で言えばファンク*1界隈にはリズムギターの名手が沢山いたりする。

 

 彼ら彼女らのリズムの取り方を良く聴いてみると、それによって活性化する音があったり、相乗効果があることがはっきりと分かり易い。

 

 伴奏を弾くのは簡単に見えるかもしれないけれど、曲の中で、テンポを見失わず、的確に弾くのは思うよりは簡単じゃない。

 

 例えばギターが二人いるバンドで、リードギターを担当してる人の方が上手いギタリストかと言われたら、必ずしもそういう訳ではなかったりする。

 

 メロディーを弾くのは得意だけれど、それに意識し過ぎてリズムはあんまり得意じゃないって人も居たりする、逆にリズムを取るのは得意って人もいる。

 

 適当にやって良い訳じゃない。良くボーカルを担当するついでにリズムギターを任せられる人が居るけれど、歌唱に力入れ過ぎてギターの力が低かったりするのを見てとれる。

 

 厳しいかもしれないけれど、それならリズムギターを担当する必要はない。

 

 リードギターをする人がメロディーも弾いて伴奏も弾けば良いだけだ、もちろんその人の重要性と担当する事は多くなるけれど、それならそれで個人技を減らして周りに合わせる事を意識すれば良い。

 

 命名上分かり易いからリード、リズムって分けてるだけで、本来分ける必要も無いし、リードギターの人が伴奏は弾いちゃダメなんて事は全くない。

 

 歌唱力が確かなら、それだけでカリスマ性はついてくる。

 

 少ない例だけれど。楽器が上手く弾けないから声一つを磨き上げて尖らせたってボーカリストはいる。彼らは強いライブパフォーマンスや、ブレない音程や広い音域を強みにしている。

 

 ミックスボイス*2もスクリーム*3も出来ます。芯のある太いチェストボイス*4だけど楽器は弾きません、なんて言われたとして。

 

 それぐらい出来るならってボーカルに集中して欲しい。って理由であえて楽器を持たせないスタイルを使うバンドもあったりする。

 

 だけれどしっかりとしたリズムキープが出来て、ボーカルとしての役割もしっかりと熟す人たちも、負けず劣らずにかっこいい人たちなんだ。

 

 慣れないうちは歌いながら、ついつい手元を確認したり、周りと合わせられているか不安になったりするかもしれないけれど。

 

 それらを克服するようになって、自分の奏でる声に自信を持つようになれば、悪くないミュージシャンの仲間入りだ。

 

 ……これはちょっとした小話で、例外だけれど。

 

 ボーカルの担当が被るバンドもいたりする、普段はシンセサイザーを弾いているけど歌いたいから歌うって人もいたりする。*5

 

 そういう異色なバンドマンは、そういう目立つ所に焦点が行きがちだけれど、ちゃんとした演奏能力を持っているのも確か。

 

 

「うーん……」

 

 

 一通り最初から最後まで聞いてみて、わたしは未だに答えを決めかねている。

 

 この曲に、わたしの声は必要なのか?

 

 歌詞は、まぁ思い付く。曲に合うように作れる歌詞は、でもわたしが歌うべきなのか、それともボカロとかの音声合成を使うべきなのか。

 

 そもそも、この曲に声はいるのか?

 

 

「困ったな」

 

 

 今のわたしに解決出来る問題じゃないや。

 

 ここまで完成して、わたしは久しぶりに難関な直面に遭遇した。

 

 この問題を解決出来ない限り、わたしは前に進めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世間では新学期のシーズンだ。

 

 この時期の高校生の頃わたしは何かしてたかな?いや、何かしてたけど、別に何か特別なこともなかったし、思い出すようなこともないか。

 

 さて今日は何やら星歌ちゃんから連絡が来て、一言で言うならお昼から空いてる?との事なので、下北沢に降りてSTARRYに向かう事にした。

 

 こういってしまうとちょっとどうかと思うけれど、年中空いていると言われればまあ、空いてはいるので、お誘いが来たら基本行くつもりだ。

 

 だけどなんだろう?飲みの誘いでもなく、ご飯の誘いでもない、ただとりあえず暇だったら手伝って欲しいとの事だけれど。

 

 ひとりちゃんが遂に人見知り拗らせ過ぎてバイト辞めたとか?なんて、それは流石にないか。

 

 

「お待たせ」

 

 

 STARRYに来てみると、何やら結束バンドの子たちもいた、いやベースの子だけ居ないな。

 

「おお、悪いな突然呼んで」

 

「別にいーよ、何すれば良いの?」

 

「あいつらの手伝えるか……?」

 

 そう指差して結束バンドの子たちの方に指を向けた。

 

 わたしが来たことには気付いてないみたいだ、何に集中しているのかな。

 

 そーっとひとりちゃんの隣まで近寄って覗いてみる……あ〜〜〜、なるほど。

 

「中間テストか」

 

「ヒョワア!アッアッ、みみみみみ!」

 

「みあさん?あっ、もしかしてお姉ちゃんが言ってた助っ人って……」

 

 何やら納得したように虹夏ちゃんが頷いてる、星歌ちゃんもうんうん頷いてる。あはは、シンクロしてるー。

 

「喜多ちゃんだったよね、久しぶり」

 

「お久しぶりです!っもしかして、家庭教師的なことしてくれるんですか!?」

 

「そうn「やったぁあ!私、このままじゃ自分の成績も下がるって薄々思ってて!後藤さん全然出来ないから!あっいえ頑張ってるんですけど、ですけど私も人に教えられる程勉強得意じゃないのでそれで____!」」

 

 と、私が何か言うより先に喜多ちゃんが畳み掛けるように言葉を続けた。どうどう、流れ弾に当たったひとりちゃんがどんどん萎れてってるよ。

 

「でも中間テストなんて、カンニングでもすれば良いと思うけど、解答パクったり」

 

「みあさんまであの人(酒カス)と同じこと言うんだ……」

 

「大丈夫大丈夫、バレても停学ぐらいで済むよ」

 

「そういう問題ではないのでは?!」

 

「ほら、ロックらしく行こうよ」

 

「そんなロックいやだーっ!」

 

 前に気づいたんだけど虹夏ちゃんは答えたことにちゃんと反応してくれるから、ひとりちゃんとは別の理由でいじっていて楽しいよね。

 

 というか廣井ちゃんと同じ扱いされた?え、やだな、わたしあんなにお酒飲まないよ、飲んでもちゃんと終電で帰れるし。

 

「も、もしかしてみあもこっち(バカ)側だったのか……?」

 

「高校は中退したよ」

 

「私もですー、仲間ですねー」

 

「ああ!ダメな大人だった……!」

 

「えっ、じゃあ私これからも後藤さんに教え続けないといけないんですか?!」

 

「ウッ……イキテテゴメンナサイ……」

 

 喜多ちゃんの悪意のない言葉がひとりちゃんを再起不能にしてしまった、これが下北沢のツチノコかぁ、飼いたくなるかわいさだ。

 

 なんで中退したかというと、ずっと音楽してたし、色々手付け始めたら時間足りなくなってって感じ。

 

 そんな理由で高校辞めたわたしが力になれる問題なのかな?星歌ちゃんはわたしが賢い風に見えたのかな、それは嬉しいけれど、大学生してた訳でもないし。

 

 まぁ一応見てみるか、頭の良い高校じゃないなら多分教えられるでしょ。

 

 ちょっと席を借りて、ひとりちゃんの前に置かれてある用紙を見る。

 

 高校一年生レベルの数学問題だ、なんだか懐かしいね、ていうかひとりちゃんバカだなぁ〜〜……いや、というか全部答えてるのに全然合ってないの、努力はしてるのわかっちゃうから尚更ひどいような。

 

 これ多分教えるの大変なんだよなあ……まあいいや。

 

「ひとりちゃんひとりちゃん、人間に戻ろう」

 

「ハッ……はい」

 

「式を覚える所から始めよっか、ペン取って?分からなかったら都度聞いてね」

 

「……あっは、はい……!」

 

 さて人に音楽以外で何かを教えた事は無いけれど、ちょっとたのしい気持ちになって来た、偶にはこういう事するのも良いかもしれない。

 

 さてやるかー、と思ったのと同じぐらいに、固まっていた虹夏ちゃんが驚いた顔でわたしの方に振り向いた。

 

「って、アレ?!今の流れは出来ない流れだったような?」

 

「中退したけど高卒認定は取ってるよ、無いと困って有ると便利だったからね、色々」

 

「ダメじゃない大人だった……!」

 

「おい、なんで私の方を見るんだ」

 

「私……解放されたんですか!?」

 

 

 という訳で数日間、ひとりちゃんに付きっきりで勉強を教えることになった。

 

 結果から言うと、初めて30点代を取れたみたいだけれど、良い感じに教えて30点かあ〜〜〜って天を嘆きたくなった。

 

 余談だけれど。

 

 この数日間わたしは久しぶりに「人にモノを教えるのってこんなに難しいんだ」って気持ちになった。

 

 何故ならひとりちゃんは、なんというか、凄い物覚えが悪い訳ではなかったし、だけど考え過ぎるからか解答も遅くて、そしてそれに焦るせいで解答率も低くて。

 

 喜多ちゃんの気分がよく分かった、なるほどこれは確かに一言言いたくなるなあと思ってしまった。

 

 次は頼られたら断ろう……うん。

 

 わたしにも難しいことがあるんだ、良い経験になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「みあちゃ〜〜〜ん!」

 

 

 わたしが逃げるより先に抱きつかれてしまった、お酒くさい。

 

 ひとりちゃん達の中間テストが終わって数日後、星歌ちゃんから家庭教師代としてお昼を奢ってくれるっていうので、奢ってもらってその流れでついでにSTARRYに来てみたら、何故か廣井ちゃんに抱きつかれているわたしがいます。

 

「ニートは平日からダラダラ酒飲めて良いよな、消えねぇかな、ていうかみあに抱きつくな」

 

「ニートじゃないんですけど!お姉ちゃん厳しすぎない?君からも何か言ってやってよ、妹ちゃんは私がここに来ると楽しいよねぇ〜?」

 

「皆働いてるのにうんざりです、帰ってください」

 

「うわぁぁぁんみあちゃ〜〜ん!」

 

「おーよしよし」

 

 

 虹夏ちゃんの冷め切った瞳にやられた廣井ちゃんがわたしに泣きついてきたので、仕方なく甘やかしてあげた。なんて情けないんだ……ウケる。

 

「みあもそいつ甘やかさなくていいぞ」

 

「うーん、でも情けなくてJKにお金を平気で借りるようなダメダメな廣井ちゃん、かわいいし」

 

「えへへ〜〜〜……えっ?うん……?喜んで良いのかなこれ」

 

 それにしても廣井ちゃんはともかく、ゴミ箱に入ってやどかりぼっちになってしまったひとりちゃんは一体どうしたのかな。

 

 ニャンニャンしだした廣井ちゃんを放って置いて、ひとりちゃんの隣に座って顔色を伺ってみる。

 

「悩みごと?」

 

「えっ……あ、文化祭ライブがあって……そっそれで、あの、いつもの箱のライブより多い人前でライブするの怖くて……そっ想像も出来ないし……」

 

 

 それで悩んでたのか。

 

 ひとりちゃんらしい悩みで、わたしには無かった悩みだ。

 

 バンドをしている時は人前に立つことよりも、自分が出来る演奏の方に焦点があっていて、それ以上に同じバンドメンバーの事を考えていた時の方が多かった。

 

 少し、なんて言うべきか悩む。悩んでる間に、廣井ちゃんが一枚のチケットを取り出して、ひとりちゃんに差し出した。

 

「ぼっちちゃんこれあげる」

 

「えっこれ……」

 

「私の今日のライブチケット、よかったら見に来なよ」

 

 そう言って廣井ちゃんは結束バンドの子たちにもチケットを渡し始めた、ああ見えてもちゃんとしたインディーズバンドだものね。

 

 まあ、チケット渡された喜多ちゃんの目が学生から金を巻き上げる貧乏バンドマンじゃなかったの?みたいな目で廣井ちゃん見てるけど。

 

 ……でもそっか、それはそうだ。

 

 わたしがひとりちゃんにしてあげれる事は、やっぱり少ないな。喜ぶべきなんだろうね、だってその方がきっと良い。

 

 自分の問題も片付けられてないわたしに出来る事は、少ない方が良いよ。

 

「みあちゃんも、見に来てよ」

 

「わたしも?」

 

「うん!……だめかな」

 

 今日はもうこの後何かする予定もないし、家に帰ろうかなって思ったんだけれど。

 

「だめじゃないよ、行く」

 

 差し出されたチケットを手に取ってそう言うと、嬉しそうにしてくれる廣井ちゃん。

 

 なんだろう、そんなに喜んで貰えるとは思ってなかった、横目で見ていた星歌ちゃんも何か気づいたみたいに、一瞬ニヤってしてたし。

 

 アレ、もしかして星歌ちゃんが今日奢ったのって、これが理由?なんて、流石にそれはないか、出来過ぎだよね。

 

「すっごいライブ見せてあげるぞ〜〜〜!」

 

 

 すっごいライブか……いいね、うん。

 

 かっこいい廣井ちゃん、見せてみてよ。

 

 

*1
R&Bとジャズを融合して新たなダンススタイルにした音楽のこと

*2
地声と裏声の中間ぐらいの歌声

*3
デスボイスの総称で良く言う

*4
地声のこと

*5
ラス◯のスクリームが凄いあの人とか




本日11/26日、書籍5巻発売日ですけれども、電子書籍などで買いましたか?僕はまだですすいませんツチノコです……。

それから。本日土曜日24時から8話です、原作12話の話で絶対に力入ってる回なので、是非ともリアルタイムで観ましょうね。これを機に楽器弾き始めたり歌ったりしてロックバンドの沼に嵌れ……ッ!
王道のおすすめはDI◯ EN G◯EYです(王道とは#)


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HERO ON STAGE『K』

8話を見終えたのですかさず投稿していくぜ……




 

 

 私が初ライブをして数ヶ月経ったぐらいの時だったかな。

 

 そのバンドの噂は聞こえていた、初ライブでその場に居た観客の大半を魅了したってバンドマンの間で噂になってた。

 

 私の時は正直に言っちゃうと散々だったから、凄いなって純粋に思った。だけども初ライブで凄いクオリティのパフォーマンスを発揮出来るバンドは、数えようとすれば意外といるもので。

 

 そういうのは大抵、有名になってる。だからそのバンドも、有名になるような実力を既に持っているんだろうなって思ってた。

 

 そんな時に、偶然そのバンドと同じ日に同じ箱で演奏することになった、後ろ暗い気持ちは全くなかった……と、思う。

 

 どうだろう、少し怖いかもって思ってたかも知れない。正直あの頃はまだまだ自分に酔えなかった時もあったから、自分が最強だっていう気持ちがまだまだ足りてなかったと思う。

 

 そのバンドは二組目で、私のバンドは四組目だった。お客さん奪われちゃうかも〜なんて思いながら、逆に取ってやる!なんて思ってたりもしたっけ。

 

 だけどいざその日になって、初めてそのバンドの曲を聞いた時。

 

 私は多分魅了されたんだと思う。

 

 これがただの凄いバンドだったら、普通の感動程度で終わってたのかもしれない。でもそのバンドの中心に居るって子のカリスマ性は、当時の私には光のように眩しいようで、闇のように誘うようで。

 

 今でもなんて言えばいいかわかんない、ただその場を、その色で染める“何か”があった。そしてその子について行く周りのメンバーも感化されるみたいに存在感があって。

 

 これが、一人のミュージシャンを心から好きになるって気持ちなんだって思った。

 

 だからその日はいつも以上に暴れるようにライブをしたのを覚えてる、その結果は……まあ。自分でも引いちゃうぐらいにウケなかったんだけど、でもたのしかった、たのしんで弾けて、たのしんで歌えた。

 

 自惚れじゃなかったらあの子もそんな私を見てくれてた。笑ってくれてたと思いたい、たのしそうに聞いてくれたって思いたい。

 

 その日を含めても片手で数えるぐらいしか対バンしなかったけれど、行ける時は欠かさず、そのバンドに通ってた。

 

 今では信じられないかもしれないけど、その時の私は憧れの人に会えたみたいな感情で、何だか恥ずかしくて。

 

 お酒を飲んでもそれは治らなくて、話しかけるタイミングはいくらでもあったのにできなかったのを覚えてる。

 

 でも、私とあの子の距離は、それが良いのかもしれないって思って。

 

 だから、その子のバンドが音沙汰もなく、泡みたいに、白いキャンバスみたいに解散した時。

 

 悲しい。なんて一言じゃ言い表せない、空虚な気持ちになったのを必死で忘れようとして。ふと一人になった時に、また思い出して。

 

 

 そんな時、あの子の曲に触れた。

 

 その子は正体を隠してたし、投稿サイトと一つのSNSしか使ってなかったけれど、何度聞いても同一人物で。

 

 あの子が弾いて、あの子が歌って歌わない時もあって、なんて。

 

 バンドから離れても、こうして同じ音楽で関われているなら……って思った気持ちよりやっぱり、寂しいって気持ちの方が大きかった。

 

 でもやっぱり嬉しいし、あの子の勢いはどんどん進んで深まるばかりで、それと比例するような確かな技術は他のアーティストの曲と聴き比べても一味違くて。

 

 何より、曲数は少ないけれどあの子が歌う声は、何度聞いてもわたしを魅了して。

 

 だから私も絶対に負けないぞって気持ちが強くなって、それで。

 

 

 また、あの子は居なくなった。

 

 

 今度こそ本当に、お酒だけじゃどうにもならない埋まらない心の穴がある事を知った。

 

 もしあの時声をかけて、何か話して仲良くなっていれば、なんて何度考えたんだろう。

 

 この気持ちを抱えたまま私は生きていくのかな?何れ折り合いがついて、ああ、そういえばあの子の曲好きだったなあって漠然とした思い出になっちゃうのか。

 

 そんな風になりたくない。でも、こんな気持ちも抱え続けたくない。

 

 だからまたいつものように(逃げるように)お酒を飲んだ、お酒は美味しいし、辛い事を忘れてくれる。

 

 今日もいつもみたいに酔っ払って、また何処かに流れ着いて。

 

 

 それで________水色みたいな目がわたしを見ていた。

 

 あの時と同じ目で、ちょっとだけ身長が伸びていて、肩ぐらいの長さのふわふわしてる綺麗な銀色の髪で、髪先が少し薄い赤色。

 

 他人の空似かと思ってもどうしてもそうとは思えなくて、面白い女の子にひと肌脱いでやろうって路上ライブをしようってなって。

 

 いつの間にかその子がギターを持って前に立った時。

 

 私はやっぱりその子だって確信した。雰囲気が違っても、あの頃より大人びていても、あの頃より輝いた目をしてなくても。

 

 久しぶりに人と演奏したんだろうな、ってわかっちゃうぐらいにたのしそうにぼっちちゃんと弾くあの子を見て。

 

 私は嬉しくなった、音楽が好きなんだって、嫌いになんてなってなかったって、安心した。

 

 

 

「あ〜〜!そういえばぼっちちゃん、みあちゃんの連絡先って知ってる〜?」

 

「あっはい、知ってます、けど……」

 

「ねぇね〜教えて〜」

 

「えっエッでもその」

 

「教えてよぉ〜〜教えて教えて〜〜」

 

「フェッ、はっはい……」

 

 

 また、直接聞き出せなかったけれど。

 

 今度はもう後悔したく無いから、だから。

 

 またあの時、あの頃みたいなライブを……音楽を、して欲しいんだ。

 

 

 その為に私ができることはやるつもりだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 新宿のライブハウスに来るのも久しぶりだね。

 

 個人的な感想になるけれど、新宿のライブハウスは渋谷ほどじゃないにしてもまぁまぁあるけれど、その中で有名な場所と言ったら二つぐらいに限られるのかな。

 

 その中でも廣井ちゃんが活動している新宿FOLTは、その有名な場所の一つに当てはまる場所だとわたしは思う。

 

 初めてのライブハウスがここ、っていう人も中には居たりするんじゃないかな、それぐらい行きやすくてキャパも広くて、音質も悪くない丁度良い箱だと思ってる。

 

 演者として来たこともある、懐かしいよりも新鮮な気持ちの方が大きいかも、観客としてここに来たのは、わたしが記憶している限りだと多分、ないんじゃないかな。

 

「何かスターリーとは随分雰囲気違いますね……」

 

「だいじょーぶ、うちと変わらないよ!」

 

 いやそうでも無いと思うけどなあ、スターリーは煙草吸う人居ないし……というかそっちの方が珍しかったりするんだけれどね。未成年がいるから、星歌ちゃんが配慮しているかな?

 

 あ、この雰囲気に当てられてひとりちゃんが幽体離脱し始めちゃった。スターリーでライブハウス耐性ついたと思ったけれどだめだったか。

 

「銀ちゃんおはよ〜」

 

「あぁ?」

 

 ビシッみたいな効果音と一緒に今度は虹夏ちゃんが石になってしまった、あははーウケるってちがうちがう、思ってないよ。というより懐かしい気持ち。

 

 心配する必要は無い、この人見た目は怖いけど良い人なの、知ってるし。

 

「あら〜ゲストの子達なのね、ごめんね〜!吉田銀次郎37歳で〜す!好きなジャンルはパンクロック*1よ!」

 

 

 ほらね、心が乙女な人なんだよこの人、その見た目とのギャップに困惑してる結束バンドの子たちでした。

 

 そんなこんなしていると、廣井ちゃんのバンドメンバーがやってきた、結束バンドの子たちと話しているのを確認して、挨拶するならこのタイミングがいいかと判断して、少し離れて一人になった銀ちゃんの方に向かう。

 

「こんにちは、銀ちゃん」

 

「あら_____珍しい事もあるのねぇ……」

 

「そんなに珍しい?」

 

「珍しいでしょー!もう来ないかと思ってたもの、しかもあいつのゲストで来るなんてね」

 

 

 もう来ないと思ってた、か。

 

 まあ……そうか。少なくとも前までは多分もう来ないんだろうなって思ってた。ここに来る理由も無いし、尚更。

 

 でもどうしてだろう?不思議だね、わたしは今ここに居る。来ないと思っていた場所にまた来てる。

 

「いつでも歓迎するわよ、他でも無いみあ(・・)ちゃんならね♡」

 

「ありがと、その気が起きたらね」

 

 さて、銀ちゃんと話すのはたのしいけれどいつの間にか廣井ちゃんはライブの準備に向かったし、結束バンドの子たちも移動したみたいだから私も合流しに行こうかな。

 

 どこに行ったんだろう?結構中の方まで行っちゃったかな、まさか最前の方には行ってないだろうけれど、そうなると合流出来ないな。

 

 と、探しているとある意味目立っているのが一人いた。

 

 リョウちゃんがライブハウスによく居る「手前で盛り上がっているお前らとは違うんだぜ」感を出す通ぶりたいファンの子してる。

 

 わたしもやるか。

 

「ああ〜〜っ!みあさんも通ぶり始めた!」

 

 なんて虹夏ちゃんの声が聞こえた、多分気のせいじゃ無い、だって目線合ったし。

 

「みあさん、何処に行ってたの?」

 

「秘密、リョウちゃんはここで聞いていて良いの?」

 

「音を聴きたいので……」

 

 あ、まだそれやるんだ?

 

 さてそろそろ始まるな……ってタイミングで、リョウちゃんは結束バンドの子たちと合流しに行った、わたしはここで良い。

 

 リョウちゃんの台詞を借りるなら、音を聴きたいから。

 

 SICK HACK、スリーピースで構成されている____廣井ちゃんのバンド。

 

 一曲目が始まる。

 

 音を聞いて直ぐに解った、サイケデリック*2だ、サイケロックって言った方がいいか。

 

 廣井ちゃんらしいジャンル。流石にこの手のジャンルで500人以上固定客が付いてるだけある、上手い。

 

 ドラムスの彼女、変拍子の合わせ的確だ、場数を踏んできたんだなって分かる正確さ。

 

 あれだけロジカルに弾けるギタリストも中々居ないんじゃないかな。

 

 廣井ちゃんのベースもさる事ながら、それ以上にあの場所で強い存在感を放ってるのは、廣井ちゃんのカリスマ性だ。

 

 ギターと違って和音とリズム両方出る訳じゃ無いのに、ベース弾きながら歌うの良くやれるね。これ気付いてる人何人居るんだろう、慣れって言われれば慣れだけれどさ。

 

 あの時以上に磨き上がってる、それでいてやっぱり聞いていてたのしい、ライブパフォーマンスもそうだけれど、廣井ちゃんは全力で音楽を楽しんでいるのが伝わる。

 

 それに……あのベースのコード、上手く取り入れたなあ。

 

 弾いていたわたしには分かるよ、あのコード進行の繋げ方はわたしがバンド活動をしていた時に使ったことのある技術だ。

 

 偶然とは思わないよ。だってそこの部分だけ、音の出し方が似過ぎてる。

 

 凄いよ。ねえもしかして、廣井ちゃんはずっと聞いていてくれたのかな、だとしたらもっと早くお話ししたかった。

 

 どうして話してくれなかったの、なんて、今更な事は言わない。でも思うぐらいは良いかな、どうだろう。

 

 ……ああ。

 

 あなたの音が、わたしの心をこんなにもたのしくさせてくれる。

 

 ステージにいる間は演者はヒーローになれる、わたしだってヒーローになっていたのかな、でも今日のヒーローには負けちゃうかも。

 

 ……ああ、思い出した。

 

 最初に聞いた時も似たような事、思ってた。

 

 

 かっこいいよ廣井ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライブが終わって。廣井ちゃんがひとりちゃんに話しかけに向かってるのを横目で見ながら様子を覗いてると、背後から肩を叩かれた。

 

 振り向いてみると、なんだか良い顔つきをしている銀ちゃんが居た。

 

「話しかけに行かないの〜?」

 

「今は……うーん、順番待ち?」

 

「何それ〜〜〜!」

 

「銀ちゃんは変わんないね、いや前よりメイク上手くなった?」

 

「嬉しい事言ってくれるじゃな〜い!」

 

 

 お世辞じゃなくて本当に言ったんだけれど、お世辞に捉えられちゃったかも。

 

「……久々にね、あっち(ステージ)側に立ちたくなったよ、あの場所が気持ち良くてたのしいの、知ってるから」

 

 

 そう言って曖昧に笑ってみると、銀ちゃんは何か言おうとして、同じように笑ってくれた。

 

 多分色々言いたいこと、あると思うんだけど、でも隠してくれるその優しさが嬉しい、ごめんね銀ちゃん。

 

 もう一度あの場所に立つのはやっぱり難しいと思うけれど、でも今日来たことは、感じたことは無駄になんてならない、させない。

 

 

 そんな風に思いながら、廣井ちゃんの方を見てみると、壁ぶっ壊してた。

 

 えぇ……?隣にいた銀ちゃんが如何にも怒ってますって感じで廣井ちゃんの方に向かった、いやまあそれは怒るよね。

 

 全くもう、かっこよかったのは最初だけ?

 

 

「壁の修理費+10万加算しといたからね〜?」

 

「ぼっぼっちちゃんとの連帯責任って事で……」

 

「!?」

 

 ぼっちちゃんの顔のパーツが散らばってしまった、新宿のカオナシ人見知・リーになっちゃった。

 

 さて、廣井ちゃんに一言言おうと思ったけれど、やっぱり良いかな、そろそろ帰ろうか。

 

 そう思って帰路につこうとライブハウスから出ようとして、呼び止める声に振り返る。

 

 

「みあちゃん、すっごいライブ見せれたかなっ!」

 

「もちろん、わたしも歌いたくなった(・・・・・・・)

 

「〜〜〜っ!じゃあじゃあ!今度カラオケ一緒に行こ〜よぉぉ〜〜!お酒も飲めるし〜〜!」

 

「カラオケ?いいね、ところで」

 

「なになにぃぃ〜〜〜〜?!」

 

「未成年に修理費払わせるの普通にやばいよ廣井ちゃん」

 

「オアッ……!」

 

 

 ばたり。

 

 わたしの言葉が矢印になって廣井ちゃんの心臓を貫いてしまった。

 

 なるほどこれが、人を〆す感覚か……クセになるかもしれない。

 

 

「あ、みあさん……みあさんも良かったら文化さ……い?えっ、あっ、さっ殺人現場!?ウッ……!」

 

 

 ぱたり。

 

 第一目撃者のひとりちゃんは凄惨な現場に耐え兼ねて気絶した。

 

 ひとりちゃんまでやってしまった、ついやっちゃった。わたしはもうだめだ。ここには居られない。

 

 自首はしたく無いから雲隠れしないと、証拠隠滅は銀ちゃんに任せよう。

 

 

 ごめんね銀ちゃん、壁の修理費10万円は廣井ちゃんの手のひらに握らせたからそれで許してね。

 

 

*1
反抗心を原動力として生まれたロックの一種

*2
ドラッグによる幻覚をロックとして再現した音楽





新曲「あのバンド」早速サブスク追加されてるのでfullを聞こう!僕のおすすめはベースです、正直刺さり過ぎてベース進行だけで飛びかけた。

ところで。アニメの進み具合次第だけど廣井名人のバカかっこいい演奏シーンが来るかもしれないってマジ?期待して良いのか……?


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テレキャスとストラト、どっちがタイプ?

5巻良かったね……(ねっとりボイス)




 

 ロックバンドに限らないけれど。

 

 リードギターの次か、同じぐらいにバンドの花形はボーカル担当って言われている。

 

 まあ実際中心に立つボーカルが一番目立ち易いし分かり易い。

 

 この分かりやすいっていうのは観客目線で、音楽をしていない人でも、絶対にどこかで歌を歌った事はあると思うんだ。だから尚更ボーカルは見られやすい。

 

 楽器は知らないけれど、歌なら少しは知ってるよって人は沢山いる、まあ実際の所はどうなの?っていうと、知ったかぶりの人が多かったりするけれど、それはそれとして。

 

 中心になっているのが実際は別の楽器の人でも、ボーカルで覚えられているバンドは多い、この人の歌ってるバンドって覚え方をしているバンドは結構いるんじゃ無いかな。

 

 それ自体は、まあ良いんだけれど。ボーカル完成度つまりは、歌声の上手さ下手さを観客がどれぐらい知っているか。

 

 大体は知らない、というより基本的に、綺麗な歌声で裏声が出ていればもう上手い部類になっていると思う。

 

 そう評価するのは良いよ、音楽的なことを知らないといけないのは演者側の問題で、観客はそうじゃ無いから。

 

 ただ、その評価を受けて、そこで成長を止めているボーカリストが結構いる。

 

 クリーンな声を出せるからって歌の技術が高いかって言われたらそうでもなかったりする人がいる。ボイストレーニングに行ったり、歌い方の技術を取り入れようとしてステップアップするなら良いけれど。それをしない人も中にはいる。

 

 まあ……バンド活動を拠点していないなら、合成音声に任せたりMIXで調整したりすれば良いと思うけれど。

 

 ステージ場でのボーカルは一番シビアで、頑張らないといけないとわたしは思っている。歌詞のある曲な以上、そのバンドの想いを届けないとダメなんだ。

 

 その想いの届け方はそれぞれのライブパフォーマンスによるけれどね。

 

 共通して言える事は、最後まで突き抜けることが出来る感情の昂りと、それについていく為の体力作りは欠かせない。

 

 動き回るなら動いても声が上擦らないようにする為の体力は必要だし、歌の技術を豊富に使うにも体力はいるし、というより普通に歌っていても体力はいる。とにかくいる。

 

 腹式呼吸だけじゃ息は続かなかったりするから、尚更。

 

 それとやっぱり自信だね。

 

 自分に対して酔っていればいる程、ライブ上でのボーカルは輝ける、もちろん実力に見合っていない酔い方はダメだけどね。

 

 

「ふふ……」

 

 

 今回の調整は最低限でいい、ノイズ調整ぐらいに抑えて、軽いMIXを入れたりとか、そんなのはいらない。

 

 出来る限りの生演奏に近づけた、わたしが今できることを、この一つの曲にのせた。

 

 ただ、世の中にあげるのはもう少しだけ待って欲しい。

 

 

 この最後の勇気を出すにはもう少しだけ、前に進まないといけないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギターの練習に付き合って欲しい?」

 

「はいっ!」

 

 きたーーーん!

 

 土曜日、邂逅一番に喜多ちゃんの輝かしいばかりのきたーん!な瞳で「ギターの練習見てもらっていいですか!」と聞かれた。

 

 さて、わたしは少し困惑している。

 

 特定のレコーディングか、結束バンドのライブぐらいしか下北沢駅には降りないわたしなのだが、わたしも人並みには外食をしたいなって思う時があったり。

 

 下北沢はとても美味しいカレー屋さんがあるのは結構有名だと思うんだけれど、今日のお昼こそは行こうと思って食べに来たのである。

 

 すると。何やら見知った子がスマホで自撮りをしていたので、思わず声を掛けると、わたしを見るや否や、ギターの練習を見てくださいと言われたのがここまでのあらすじだ。

 

 ついこの前の中間テストの時にこの子けっこう突っ走るタイプなのかな?って思ったけれど、わたしが思っていた以上に突っ走るタイプみたいだ。

 

「私もっとギター頑張りたくて……!」

 

「ひとりちゃんから教えてもらっているんじゃないのかな、喧嘩した?」

 

「けっ喧嘩?!そんな殺伐としたバンドだと思ってたんですか……!?」

 

「あは。冗談だよ、自分も頑張りたいって事だよね」

 

「……!そ、そうです」

 

 良く分かりましたねって顔をしているけれど、これは経験上というか、見てきたというか。

 

 同じ楽器を担当している人が身近にいたり、同じバンドメンバーだった時、明らかに技術に差があると大きく分けて三つぐらいパターンが分かれる。

 

 その中で喜多ちゃんみたいな子はポジティブに向かう気持ちになる場合が多く、あの人も頑張ってるし自分も頑張ろう!って思う気持ちは、全部が全部じゃないけれど、察せることの方が多い。

 

「でもどうしてわたしに?」

 

「えっと……後藤さんと仲が良いから、ギター上手な人なんだろうなって思ってですっ」

 

 リョウちゃんかひとりちゃんにわたしのことを聞いたとか、そういう事ではないんだね。そっか、わたし(Mia)だからって理由じゃないんだ、それは好印象。

 

 こういう事で困ってて、知っていますか?って具体的に問いかけるならまだしも、特定の人だからって理由で教えて貰おうとするのはわたしはあんまり好きじゃない。

 

 わたしは殆どひとりでやって、見て、聴いて……そうやって習得してきた。それを強要するわけじゃ無いけれど、音楽の根底は人に教えて貰ってやることじゃないと思ってる。

 

 もちろん分からない事は聞いた方が良いけどね、そこに熱意があるなら、わたしだって応えて上げたいって思う。

 

 その点、喜多ちゃんはいい熱意をしてる。

 

 ひとりちゃんを除いて結束バンドの中で一番教え甲斐がありそうで、どうしても厳しめに見てしまうのは喜多ちゃんだ。

 

 それは喜多ちゃんが一番楽器歴が短いからとかそういう理由じゃない、喜多ちゃんがボーカルギターだからだ。

 

 それ(・・)わたし(Mia)の始まりだから、どうしてもね。

 

 

「喜多ちゃんは今、ひとりちゃん以外にもギターの練習を見て貰ってる?」

 

「はいっ、リョウ先輩に見てもらってます!」

 

「ならわたしが教えることは、今は少ないから力になれないね」

 

「えっ……そ、そうです、か」

 

「喜多ちゃんにいじわるしてる訳じゃないよ、ギターの技術的な事なら教えられるし、喜多ちゃんのやる気が十分ならついて来れると思ってるよ」

 

「それならっ」

 

「ダメ、リズム感が纏まってない内に技術を覚えるのは危険だ。クリック無しで正確なリズムをライブ中に、最後まで完璧に弾き続ける事を喜多ちゃんは出来るって自信を持って言える?」

 

「完璧……は、断言出来ないかもです」

 

 ごめんね、お昼にこんなこと言われたくないよね。

 

 少し厳しいかもしれないけれど、兎にも角にも先ずは此処からなんだ。

 

 学生なのも相まって最近のライブ演奏を聴いていても、喜多ちゃんのギターの腕前の成長の速度は速い方だと思ってる。

 

 ただまだ初心者を卒業したてぐらいの内に生半可な技術を覚えたとして、それを披露出来る取り出しのタイミングを掴めるかといったら先ず難しい。

 

 上手くなろうとしてついついリズムをおざなりにして、スラップ奏法*1とかオクターブ奏法*2とかの技術を取り入れようと思うかも知れない。

 

 経験の浅い内にそれをするのははっきり言えば非効率でしか無い。出来たら良い技術と、出来なきゃいけない技術とでは雲泥の差がある。

 

 喜多ちゃん自身は無自覚だと思うけれど、文化祭ライブに向けて少し焦っているんだろうね。

 

「焦る必要なんてないからね、喜多ちゃんは頑張ってるよ」

 

「は、はいっ……!」

 

「でもそうだなあ、文化祭ライブまで治さないとねって思うことの一つだけど、喜多ちゃんはまだ歌う時手元を見る癖があるよね、表情にも出てるからボーカルギターとしては及第点も付けられないよ。普通にだめだめだよ、ツチノコひとりちゃんと並ぶぐらいやばいよ」

 

「えぅぅ……そんなズバって言うんですね……でもなんだかお世辞じゃないことが分かって少し嬉しいかもしれないわ……?」

 

「だから練習の時目隠しして弾くと良いよ、手元を見ようと思っても見れなくなるからおすすめ。その様子をリョウちゃんや虹夏ちゃん、ひとりちゃんに見て聴いて貰おっか」

 

「ひょえ〜〜〜め、目隠しですか?で、でもそれは私には厳しめなのでは?」

 

「難しいって思ってる?それは少し勘違いだよ。やってみてね、約束してくれたらここのお代奢ってあげる」

 

「えっい、良いんですか……?!や、やります!頑張りますっ!」

 

 

 初ライブの時に見た喜多ちゃんと違って、今の喜多ちゃんなら絶対できるようになるよ。

 

 気付いてるか分からないから、今こうやってわたしと話している喜多ちゃんが、わたしの目からどう思ってるかは、内緒だけどね……ふふっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し前。

 

 わたしがSNSに一言だけツイートしたことで、幾つかの企業からのDMが何件か来ていたのは、少し前から確認していた。

 

 ただわたしと関わりのあった企業からは一通も来ていない。

 

 普通ならこれは、ネガティブに捉えるような事なんだろうけど実態は違う。

 

 わたしがSNS上でのそういったやり取りや、行為をわたしがやりたいと思わない限り絶対にやらないって分かっているからこその距離感をあの人達は覚えていてくれたんだ。

 

 わたしが出来る事は音楽だけだ……ごめん、少し言い方が違うね、わたしがやりたい事は音楽なんだ、そのやりたい音楽は、誰かに強制されるようなことじゃない、わたしがたのしいって思えることじゃないと、わたし(Mia)じゃない。

 

 それを了承してくれる上で、何かしらの形で関わらせて頂くことは、今までもこれからもずっと、感謝してる。

 

 世間の目線や、ネット上でのわたしについての話題については、わたしは意図的にシャットアウトしている。

 

 興味がない、とまでは言わないけれど、人の意見や言葉でわたしを曲げたくないんだ。頑固って言われればそうだし、そんなことを言っていても影響しないの?って言われたら、する時はあるけれどね。

 

 それに一から百まで全て遮断、とは言えない。ちょっと気になる時だってある、最初の頃は変に斜に構えたりしてたけれどね。

 

「さ……Mia(わたし)、始めるよ」

 

 

 自室、ギターの調整を整えて、パソコンの設定を確認して。

 

 わたしが唯一使っている動画投稿サイト、そのサイトの機能の一つでもあるLive機能。ようはリアルタイム配信を可能にさせる生放送機能。

 

 緊張する。

 

 いつもそう、今日も、いつだって毎回。この瞬間が一番、緊張する(たのしくなる)

 

 配信をするのは初めてじゃない。だけれどこれをするときはいつだって。

 

 

 わたしが前に進む時だ。

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ」

 

 

 夜、ご飯を食べ終えて、文化祭でやるセトリを確認したり、一日目に決まってしまったクラスの出し物で鬱になったり、やっぱり高校辞めたいなあって、じゃあやっぱプロになるかニートイャァァァァァ……なんて、考えていたら。

 

 パソコンから、一通の通知が来た。

 

 長年見ていなかった通知、だけどいつか来るって信じてた通知。

 

 そして多分、初めてリアルタイムで観る通知。

 

「Miaの……生配信だ」

 

 直ぐにクリックしてヘッドホンを付ける、ちょっとだけサイトが重い、良かった、まだ待機中。

 

 あれっ、でも音聞こえる、チューニングの音、ギターだ、ギターの音だ。

 

 ふと、この配信が何人見ているんだろうって気になって、その数字を目撃する、この配信が突然始まってまだ数分しか経ってないのに10万人を簡単に超えていた、もう直ぐ20万人……行った、止まることを知らない。

 

 改めて鳥肌が立つような気持ちになる。

 

 こんな、凄い人を集める人が、あんなに身近にいる事実が。

 

 

『____________弾きます』

 

 ギターと手元だけを映したライブカメラ、なのにその声は凄く良く通っていて。

 

 あの人(みあさん)の声が、静かに聞こえた瞬間、最大同接人数が30万人を超えた。

 

 

 音が彩り始める、ギターの音が支配するように広がる、最初からライトハンド奏法*3を使ったテクニカルなメロディーを奏でる。なんて難しいメロディー、それでいて完成されているメロディーなんだろう。

 

 既存の奏法を複合したMia特有のスラップ、一番目立っている所はそこだけれど、もっとすごいのは寸分の狂いのないってぐらいに、完璧なリズム感。

 

 どれだけ音楽に打ち込めば、ううん。そんなことを思うことすら野暮に感じるぐらい。

 

 伴奏と主旋律が入り乱れる、こんなにも調和をとって、和音を奏でて、ギターひとつだけで。

 

 やっぱり凄い________っ!

 

 知っていた。だってMiaは、わたしが初めてギターを弾いた時に、一番最初にこの曲をカバーしたいって思った曲を作る、すごい人だったから。

 

 あの人(みあさん)のヘッドホン越しでも、画面越しでも楽しむような弾き方と、その弾き方から発する綺麗な音が、大勢の人を魅了させて、わたしもそれになりたくて(・・・・・)……!

 

 

 これが、みあさん(・・・・)のギタリストとしての演奏……!

 

 ただひたすらに圧倒するだけじゃない、特別明るい音を出している訳でもない、寧ろ少しほの暗いようなのに、聴いているだけで体がリズムをとって、音楽を楽しませてくれる。

 

 いつまでも聴いていたい、そんなふうに思う、これが多分みあさんの特出したカリスマ性……!

 

 

「あ……」

 

 

 終わる。そんなふうに思った時、思わず声が出た。

 

 

『……おしまい』

 

 

 そう静かに、約3分程度の短くて、永遠みたいな音色の終幕を告げられた。

 

 すごかった、でもそれ以上に……嬉しい。Miaが新しい、まだ世の中に出てない曲を弾くなんて何年ぶりなんだろう、私よりも前に知っている人は、今私よりも心が揺れているのかな。

 

 私も……頑張らないと……!

 

『そうだな……えっとね……なんて言おう』

 

 まだ、もう少しだけ配信を続けてくれるみたい、何か言いたいことあるのかな、なんだろう、すっごい気になる。もしかして、この後……今の曲の、完成した新曲を流してくれるのかな……!

 

 

『見たいバンドのライブが終わったら、新曲出すね。だからもう少し待って下さい』

 

 ええっ……そ、そんな。マイペースだなぁみあさん……見たいバンドってなんだろう、廣井さんが活動しているSICK HACK(シクハック)かな?

 

 

 

『じゃ……がんばってね、下北沢のツチノコちゃん(・・・・・・・・・・・)

 

 

 と、意味深な一言を呟いて、突然始まった約7分ぐらいの配信が突然終わった。

 

 ________ん?

 

 あれっ。

 

「えっ」

 

 もしかしなくても私のことですか?

 

 

「……アゥ」

 

 

 ぱたり。

 

 後藤ひとり(下北沢のツチノコ)、私信されたことによる喜びと期待による重圧と凄いギターを聴いた事による高揚感などetc...の感情を一心に受けその日、走馬灯を見ることになったのである。

 

 

 あ、まだこの前貸したお金リョウさんに返してもらってないな……ガクッ

 

*1
親指と人差し指或いは中指で弦を引っ張って指板に打ちつける動作

*2
原音とと1オクターブ上の音を同時に弾く動作

*3
右手の指で弦を叩いて音を出すこと、タッピングとも言う




使うエレキギターの種類の良し悪しは最終的に弾き手に寄るけれど、レスポール特有の音も良いよね……値段高ぇ〜けど。

ところで。
ぽいずん♡やみ17才(自称)ちゃんさん、かわいいよね、わからせたい。巻を増す毎にこいつ以外といい奴?ってなって今ではこいついい奴!ってなってる。そのうち掘り下げしてくれるのを待ってます……。
ついでに感想くれると筆の進みが早くなります(これはマジ)(やっぱこれだね)


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必殺!文化祭ライブロックダイブ

うぇぇぇぃ前書きに書くことなくなってきたぞ〜〜〜!




 

 

 昔から人並み以上は何か出来たと思う。

 

 不得意なことより得意なことの方が多かった。

 

 上を見たらキリはないけれど、目指そうと思う程そのことに情熱的にはなれないし。

 

 気付けば、なんでも出来てなんでも出来ないような、そんな。

 

 少しの不自由と、多くの自由に囲まれた世界に生きる人間。

 

 普遍的で、きっとこのまま何かが大きく変わるような事もないまま、卒業して就職して。

 

 ちょっとした達成感とあの時こうすれば良かったななんていう後悔に囲まれた、ただ毎日を惰性に生きるような、そんな退屈な。

 

 別に、それでもいい。

 

 でも、それじゃいやだ。

 

 そんな時に、わたしは音楽を知った。

 

 ……少し、違うね。

 

 

「ねぇ、バンド組もうよ、キミと私で!」

 

 

 同じ高校に在籍しているってだけの、ただそれだけでそれ以上も以下もない、そんな間柄。

 

 下校時間の、誰もいなくなった放課後に誘われたんだ、それが音楽との出会いで。

 

 わたし(Mia)の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然だがわたしは結構ゲームをするタイプだ。

 

 と言ってもひとりちゃんと出会ってからは音楽に対するモチベーション(たのしさ)が回復してきたので、していた方と言う方が正しいかな。

 

 ゲーム音楽は良い、大きく分けてゲーム音楽の大半は電子音楽を使った表現法だけれど、それがロックバンドに相容れないようで、そんな事はない。

 

 特徴的な電子音のフレーズはベースラインを考える時に参考になったりするし、ギターソロを多用するゲーム音楽も少なくないぐらいに存在していて、それも参考になる。

 

 総じてそれらはエレクトロポップって名付けられる事が多いけれど、ソレはわたしの中で音楽に対する“世界”を広くさせた。

 

 そんな感じで音作りの一環としてゲーム音楽に触れていく内に、気付けばゲーム自体もやることになったんだ。

 

 物語性のあるゲームに触れる時や、登場人物の何かしらの台詞の言い回しだったりは歌詞作りにも使える事に気付いてから、それらを考えながらゲームをたのしむことは、思った以上におもしろかったりする。

 

 自分の持っているメッセージ性と、ゲームの雰囲気がハマったりすると、一曲作ってみようかな?って考えた時もあるし、実際にやってみたこともある。

 

 営利目的でやるわけでもないから、何かに追われて作るモノよりたのしめる。それがきっかけにわたしがたのしめるような案件が降ってきたら、もっと良い。

 

 ちょっと打算も入っちゃうのが、大人になっちゃったなって思う時もあるけれど、それはさておき。

 

 

「PAさんってゲーム実況者だったりする?」

 

「え“っ”?!」

 

 時刻は夜。

 

 STARRY(スターリー)で仕事終わりのPAさんと飲むことになり居酒屋に来て、今に至る。

 

 ゲーム自体をする機会は減ったけれど、だからってプレイ動画とか実況を見ないわけでもない、息抜きの方法の一つではある。

 

 そんな最中に開いた生放送で喋っていた人の声にPAさんの声が似ていたので、なんか聞いたことある声してるんだよな……って思ったので、ぶっちゃけて聞いてみた。

 

「ひ、人違いでは〜?」

 

「あれ。違ったかな」

 

 それにしては声が似ているんだけれど、まあ否定しているなら人違いなんだろう、確かに少しPAさんのイメージとは違うような、似ているような……?

 

 ちなみに何でPAさんと飲む事になったといえば、わたしがスターリーに遊びに来て、見るものも見たし帰ろうって思ったら、PAさんに声をかけられたって流れ。

 

 偶にくる一人暮らし特有の寂しさが急に来たみたいだ、わたしは音楽さえ出来ていれば後は何もいらない……ってまでは言わないけれど、家の中は一人が良いってタイプだから、PAさんの気持ちはわかるようなわからないような。

 

「でもPAさんって普段何してるか知らないな、教えてよ」

 

「あっいやまぁ……普段はグローバルな友人達と新時代コンテンツについてのオンラインサロンなどを開いてます」

 

「ふーん、ところで初見なのに病み村*1クリアするの凄いね、わたしには出来ないなあ」

 

「そんなことないですよ〜〜偶々上手くいっただけで……あっ」

 

「やっぱり音戯アルトでは?」

 

 

 PAさんがひとりちゃんが壊れた時の顔みたいになって一気飲みしだしてしまった、おもしろ(ごめんね)

 

 そう思ってみると、ああ確かにPAさんだ……って思ってきた、ちょっと画面上ではかわいめの声を使ってるのを指摘するのは、さすがに死体蹴りになっちゃうか。

 

 

「誰にも言わないでくださいね……」

 

「隠す趣味でも無いと思うけれどなあ」

 

「店長には兎も角、結束バンドの子達に知られたくはないですよ〜……」

 

「あは、どうしよう」

 

「みあさん〜!」

 

 弱ってるPAさん……新鮮でかわいいな。まあ揶揄うのはこれぐらいにしよっか、長くやってもつまんないし。

 

 

「すいません、ハイボールお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばPAさんって、ピアスいつから付けてるの?」

 

「いつからだと思います〜?」

 

「えっ、うーん。高校中退した次の日とか?」

 

「みあさんの中で私はどんな人になってるんですか?」

 

 

 どんな人って言われても、そのまんまとしか……。

 

 わたしもPAさんほどじゃないけれど付けていた時はあった、一人で音楽をするようになってから、人前に出る事は少なくなったから、自然と辞めたけれど。

 

 

「でも、みあさんもゲームするんですねえ……」

 

「するよ、逆に普段どんな事している人だと思ってたの?」

 

「うーん、投資……?」

 

「えっ、えー……したこともないや」

 

「みあさんも私と同じだった(高校中退したの)の忘れてました〜」

 

 

 おや、さっきのお返しかな?でもPAさんより一年は長く居たんだよ、いやまあ、結局辞めたけどね。

 

 でもそう考えると、PAさんって結構すごいことしてるよね。PAエンジニアって音響周りの専門的な知識が必要だから、結構ちゃんと学ばないとなれない業種だと思うんだけれど。

 

 PAさんが「PAさん」になる過去が少しだけ気になったけれど、聞いていいのか迷うな、いつか聞けるぐらい仲良くなれるかな。

 

「どうしました〜?」

 

「なんでもないよ、終電逃したらPAさんのお家泊まろうかなって思ってただけ」

 

「えっいやまあ私は良いですけどね?」

 

「良いんだ……」

 

 

 ここまでくると人恋しいってレベルじゃないような気がしてきた、星歌ちゃんが心配する気持ちも少しわかってきたぞ。まあわたしの時間(終電)が許す限りPAさんとお話ししよう。

 

 泊まるのはちょっと、うん。替えの服も無いしね。

 

 

 

 

 

 

 

 ひとりちゃんと喜多ちゃんが在籍している秀華高校の文化祭二日目に来た。

 

 高校の文化祭に来たのは、多分初めてだ。高校時代に文化祭は参加しなかったし、文化祭で何かすることも無かった。

 

 多分、やろうと思えば出来たんだろうけれど、わたしはやる気じゃなかったし、あの頃はもうわたしの居場所はロックバンドの、ライブハウスが殆どだったとも言えるし。

 

 それはともかくとして、せっかく文化祭に来たんだし、結束バンドのライブが始まるまでの暇つぶしでもしよう。

 

 わたしは文化祭のしおりを一緒に来ている星歌ちゃんと、PAさん。それから既に何本以上も飲みながらふらふらしている廣井ちゃん達に、きたーん!って目で訴えながら、しおりを見せつける。

 

「お化け屋敷に行こう」

 

「いやライブ見に来たんだろ、体育館行こうぜ」

 

「お酒飲める場所どこぉ〜〜〜?」

 

「ここ高校ですよ廣井さん」

 

 

 あんまり乗り気じゃないらしい、じゃあわたし一人でも行こうかな……いやいや、流石に現役高校生に混じってわたし一人でお化け屋敷をたのしめるほど、メンタルが強いわけじゃないし。

 

 じゃあそうだ。

 

「メイド喫茶に行こう」

 

「みあお前、なんか、今日どうした……?」

 

「もう四本ぐらいしかないや〜、もっと買っとけば良かったかなぁ?」

 

「ふわぁ……眠くなってきました……私夜型なので……」

 

 

 これも乗り気じゃないらしい、じゃあやっぱり一人で行くしかないのか。お化け屋敷よりはハードル低いし行けないこともない、うん。

 

 でもやっぱり現役高校生に見守られながらオムライスを頼んだ後に「もえもえ☆きゅん♡」をしてもらうのは、なんというか……わたしが失ってはいけないものまで失なってしまいそうだ。

 

 せめて誰かついてきて貰わないといけない、やっぱり却下。

 

「じゃあ、この承認欲求ぬいぐるみを貰いにクイズ挑戦しに行こう」

 

「本当にどうした!?」

 

「そういえばベースどこ行ったっけ!あっはは〜〜〜!」

 

「現役の高校生を見ていると、やっぱり肌の艶が……」

 

「嘘だろ、今まともなの私だけなのか?!」

 

 

 全問正解で等身大承認欲求ぬいぐるみを着れるらしい、わたしに似合うか似合わないかは別として、ひとりちゃんに着せてみたいな、多分いや絶対しっくりするよね。

 

 よし、行こう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんてことは無く、結束バンドが始まる前に文化祭のライブステージに居座ることになった。

 

 バンド曲でペンライトを振り回してるの見るのは少し新鮮だな、アイドル路線のバンド現場でもそこまでしてるの見たことないかも、地下アイドルの現場なら全然あるけれどね。

 

「廣井ちゃんは、したことある?文化祭ライブ」

 

「な〜〜い!ゴクッグビビビ」

 

「お前その辺で飲むの辞めとけよ」

 

「えぇ〜〜〜先輩はわたしに死ねって言ってるのぉ〜〜?」

 

「そうだよ」

 

「ひどっ酷いひどくない酷いよね酷いよぉ〜〜?」

 

「あ、そろそろ始まるみたいですよ〜?」

 

 

 PAさんがそう言ったのと同時に、司会の子が「次は結束バンドさんです」と告げた。

 

 ステージの上に結束バンドのみんながやってくる、歓声にひとりちゃんの名前が上がらないのは、想像してたけどおもしろいかなしいね。

 

 わたし一人でも歓声してあげようかって思ったのと、隣からお酒臭い大声が発したのはほぼ同時だった。

 

「ぼっちちゃんがんばれぇ〜〜〜〜!かっけぇ演奏たのむよぉぉ〜うえぇっぇぇぃ!」

 

「うわっうるさ」

 

「ってあれぼっちちゃんなんで無視すんの〜!おいこら〜〜〜!」

 

 うわっ、カップ酒ステージに投げ出したぞ廣井ちゃん、ロックだなあ。ひとりちゃんが全力で目を逸らしてるのも面白いけれど、キレた星歌ちゃんが廣井ちゃんにコブラツイスト*2し始めたのも見逃せないぞ。

 

 あれ、しれっとPAさんが少し離れた位置にいる。わたしもそうすれば良かったかも?まあいいや、近くで見たいし。

 

「今日は私達にも皆にとってもいい思い出を作れるようなライブにします」

 

「それでもし興味でたらライブハウスに観にきてください〜!」

 

 

「それじゃ一曲目行きます〜!」

 

 

 ドラムカウントから音が彩り始めた。

 

 出だしは順調だね、比較するわけじゃないけれど、この高校の軽音楽部の人たちよりは出来るって、わたし以外のここにいる観客は、思ってくれるんじゃないかな?

 

 ほらあの、世紀末風の二人組もノってるし……いやいや、うん?何で世紀末風の二人組が?ま、まぁいいや。

 

 盛り上がりは悪くないよ、ここに敵はいない。

 

 上手く出来てる、このままの調子で2曲目もいける。

 

 ただ、だからこそ、不可解な違和感。

 

 ちらっと廣井ちゃん(とコブラツイストをかけている星歌ちゃん)の方に目線を送ってみると、どうやら二人ともこの違和感を感じてるみたいだ。

 

 違和感を出している本人、ひとりちゃんも気付き始めた。

 

「え〜ラストの曲の前にMCなんですけど、結束バンドはMCがつまらないそうで〜______」

 

 

 この文化祭の観客に観られながらの演奏にしてはひとりちゃんは頑張っているけれど、ずっとチューニングが安定していない。

 

 ラストの曲の演奏が始まってもそれは直ってない、演奏技術的な問題じゃない。

 

 1弦のチューニングが明らかに合っていない。まずいね。

 

「______ッ!」

 

 パツン!っと微かだけれど音がした、ひとりちゃんのギターの1弦が切れた。

 

 1弦や2弦は細い弦だ、滅多にないけれど演奏中に弦が切れる事は無い事はない、弦が切れる原因は幾つかあるけれど、今はその原因を解明するよりも先に、起きたことをどうするかだ。

 

 ただあれは、ベグも故障しているのか?だとしたら2弦のチューニングも直せないよ。

 

 わたしなら別のギターに替えるけれど、ひとりちゃんには替えのギターがない。あれじゃギターソロは無理だ。

 

 でもひとりちゃん、そんな顔をしなくて良いんだよ。

 

 初ライブの時、ひとりちゃんが結束バンドのみんなを持ち直したように。

 

 結束バンドのみんなもひとりちゃんを持ち直す時間を作ることが出来る、それがひとりちゃんが背中を預けているバンドメンバー、仲間だ。

 

 

 喜多ちゃんは目に見えて、って言えるほどじゃないけれど、しっかり演奏のブレが少なくなってる、演奏に費やした時間がしっかり技術についてきている。

 

 ひとりちゃんの足元に何かが転がって、ひとりちゃんはそれを拾った。

 

「あのギター何やってんだ⁉︎」

 

「よく分かんないけどすげ〜〜!」

 

 音が蘇る、ひとりちゃんのギターソロ。

 

 足元に転がったカップ酒を使っての奏法、瓶であのタイプのカップ酒ならスライドバーの代わりが出来る。チューニングがズレていても問題ない。

 

 

「よくできました。花丸だねひとりちゃん」

 

「この土壇場でボトルネック奏法*3とか普通やるかぁ?すげーな」

 

「あれならチューニングずれてても関係ないもんね。私がお酒飲んでたらたまにはいい事もあるしょ」

 

 

 本当に土壇場でよく出来たよ、起きるアクシデントの中でも立て直しの難しい直面で、結束バンドのリードギターとしての役割を技術で乗り越えた。

 

 ひとりちゃんだけじゃない、喜多ちゃんも。リョウちゃんも虹夏ちゃんも上達していってる、バンドとしての成長が、形が出来上がろうとしている。

 

 

 ここにいる何人かは確実に、いい思い出になった、そんな風に思えるライブだったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜今日は本当にありがと〜!この日のライブを将来皆が自慢できるくらいのバンドになりま〜すっ」

 

 虹夏ちゃんの締めで結束バンドの出番が終わる。

 

 観客の野次もいい感じだ、ひとりちゃんの頑張りも見られていたし、讃えてくれているよ。

 

「ほら後藤さんっ、一言ぐらい何か言わなきゃ!」

 

「えっ、うっ……!」

 

 

 ん?

 

 おっ_____

 

 興奮冷めやらない会場に、瞬間。

 

 ひとりちゃんが何を思ったのか、ふらっ……といや、ばっ!みたいな、勢いがあるのかないのかのステージ場から跳んだ。

 

 ダイブだ、そうそれこそ廣井ちゃんのステージパフォーマンスを真似たみたいなダイブだ。

 

 ただ悲しいかな、それを受け止める観客はここにはいなかったみたい。ひとりちゃんは至極当然のように床にぶつかった。

 

「誰か先生呼んできて!」

 

「ひとりちゃん大丈夫!?」

 

 おぉ〜〜〜、すげー。

 

「うひゃひゃぼっちちゃんサイコー〜〜!」

 

「お前は伝説のロックスターだ!」

 

「いえーい記念写真しよー」

 

 ぱしゃ。

 

 インカメにしてピースするわたしとリョウちゃんのキメ顔と廣井ちゃんのゲラゲラ笑いに、床になったひとりちゃんをパシャった。

 

 

「おまえら少しは心配しろ!」

 

 

 えへっ。星歌ちゃんに怒られちゃった。

 

*1
死にゲーといえばアレ

*2
皆ご存じプロレス技の一種、アバラ折りともいう

*3
弦がフレットや指板から浮いた状態のままバーを任意の位置で弦に接触させ、ピッキングして発音する奏法




ちょっと投稿遅れた理由は書き直してたからです……。それと12月になったので投稿遅くなるぞい、仕方ないね。年末はくそ。

ところで。
とても感想が来て凄い嬉しいっていうのと、PAさんって絶対Sだよな、でもMそうでもあるよな。どっちなんだ?でも多分土下座して頼めば大抵の事許してくれそうで捗るな?って事なんですけど、キミは?()


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Q.駅から降りて明大通りに徒歩一分。

9話見てて、そういや下北から一本で片瀬江ノ島まで行けるわ、流石小田急だぜ!新宿も一本で行けるしな!




 

 作詞を難しいものに捉えているかも知れないけれど。

 

 実はそんなことはない、例えば今、目の前にリンゴがあるとして、それが青森県のリンゴだとして。

 

 そのリンゴは瑞々しくて美味しいし、切り方次第で工夫もできる。そんなのは皆が知ってる事。

 

 兎のリンゴさん、とってもキュートで可愛らしい。そんな一言でもそれを音楽として置き換えるなら、歌詞のワンフレーズにもできる。

 

 そんなありきたりな所から作詞っていうのは着想が得られる、つまりは日常の中で自分が感じた事、思う事。その言葉の羅列の中から、繋げて切り取って貼り付けて。

 

 そうやって出来て行く、少しわかり辛いかな。作曲と同じだよ。

 

 まず最初にメロディーを完成させて、コード進行を考えて、リズム隊を乗っけて、順番は違ったりそれに付け加えたりすることはあるけれど、大まかな流れはこうなる。

 

 これを作詞に置き換えると、テーマを決めて、それを深く考えて、視点を変えたり決めたりして歌詞の設定を決める。それに関連するワードを思い浮かべて、そして組み合わせる。

 

 例えばテーマは情熱だったり友情だったりするとして、そのテーマにどんな友情だったり、情熱だったりを考えて。

 

 俯瞰的な視点でみるか、一人称視点としてみるか。それらを踏まえて、統合してその設定を作る。

 

 テーマは友情、すれ違い。視点は私、時間は夜。場所は都内、そこで出会う君久しぶりの再会。はっとする間に居なくなった。気づいた時にはもう遅くて。でもそれでも過去の情熱だけは忘れられない。

 

 そんな設定を作ってみる、物語を作るように段々とワードが出てくる、フレーズが浮かんでくる。それをただひたすらに思い付く限り並べてみる。

 

 それらをパズルゲームみたいに繋げていって、そうして出来あがった集合体が、歌詞と言われるものになる。

 

 ……これに、Aメロの書き方とかBメロとか、そういうの音の親和性を考えたりとか色々あるんだけれど。

 

 

 一度その中の「世界」を創れば、後はそれの延長線上だ。

 

 

 暗い午後、わたしと君が始めた音はまだ終わらなかった、だから終わらせない。わたしはまだここにいる、わたしはまだ音楽ができる、やりたいってそう思える。

 

 誰かに聞かれて、何かを伝える。そんな風な言葉はいらない、そうじゃない、わたしはいつだって最終的には独りよがりだ。わたし一人の世界で始まって終わる。でもこの独りよがり(音の鳴る世界)を始めたのは、その世界に誘ったのは忘れない。

 

 背後を見ればあの頃のような情景と、あの頃に負けないぐらいに情熱的な子たちがいるのがわかった。隣を見れば、一足先で待ってるって言うかのように楽しそうにしている人だっている。

 

 前は切り開く、わたしを蝕むもの全てを、わたしだけじゃない皆で切り開いた。

 

 もう二度と同じことは出来ないかもしれないけれど、わたしはそれでも奏でる。音を作るそのたのしさだけは変えられない、変わらない。

 

 わたしの世界はまだ続く、それを今から教えてあげる。

 

 

 ________それが、新曲の歌詞の設定。

 

 

 ……なんて曲名にしようかな、って思ってたけれど。

 

 多分、うん。これがしっくりくる。

 

 

「NeuStarten」

 

 

 ちょっとださい、でもそれぐらいで良い。

 

 そんな青臭さ(ロック)で私は再始動したい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこで楽器を買っても同じって思ってるならそれは少し間違ってる。

 

 というのも、楽器屋さんによってはどれぐらい楽器に対しての知識を持っているかとか、お試しで弾ける場所かとか、そういう所もそうだけれど。

 

 普段使わないけれど使う人は使う小物だったりは、やっぱりちゃんとした所に行かないとなかったりするし。

 

 わたしはそこまで興味がある方ではないんだけれど、ココにしかない!っていう希少な楽器を展示している場所もあったりする。

 

 わたし的には、実際に音楽に携わっている人が店員の楽器屋さんをおすすめするかな。

 

 その人がどんなジャンルのバンドマンなのかはさておき、基本的な所は何処も似るから、現場に携わっている人に聞いてセッティングしてもらった方が楽だったりする。

 

 そのお店に普段行くようになって顔見知り以上になれば、その人のライブにお邪魔したり逆にさせたりして、界隈を広げて行く事も出来るし。最初の頃は、そんなこともしていたっけ。

 

 最近はネットショッピングが普及し始めて、大抵のモノは買えるようになったかもしれないけれど。やっぱり楽器店さんで楽器を視察しながらのお買い物は楽しいよ。

 

 普段見ないコアなエフェクターとか、手の出し難いハイエンドな楽器だったり、探してた珍しいピックとかが見つかるたのしみがそこにある。

 

 ならどこに行けばいいの?って言われたら、やっぱり定番の御茶ノ水に行こうってなる。

 

 アクセスと店舗の多い渋谷とか、意外と穴場だったりする秋葉原とかも捨て難いけれど、それでも御茶ノ水を選ぶかな。

 

 昔から楽器ならここって言われるだけあって老舗の店舗さんが多くて、だからって新店が少ないかって言われるとそういう訳じゃない。

 

 何より品質や品揃えのアベレージは他の所と比べると、やっぱり一段上だなって感じる。

 

 初めては御茶ノ水で買ったって人、多いんじゃないかな。わたしもそうだよ、何を買えばいいんだろう?って気持ちで行って、ひと目見てこれが良いって思えるようなギターがそこにあったんだ。

 

 

「いらっしゃいませ〜!」

 

 

 さて、そんな訳で御茶ノ水の楽器屋さんに来ている。

 

 ひとりちゃんが文化祭で弦が切れたアクシデントが起きて、我が身を正すって訳じゃないけれど、替えの弦だったりドラムスティックだったり、この際新しいのにしようと思ったのが発端。

 

 楽器通販サイトでも良いけれど、今の気分は楽器屋さん巡りだったから、自分の心に従った。

 

 

「フェイザーエフェクター*1置いてる?」

 

「置いてますよ〜!宜しければ案内しましょうか?」

 

「お願い、ハイエンドでも良いよ」

 

「わあっ太っ腹ですね!もしかして有名なアーティストさんだったり?」

 

「どうかな……ん。ごめん待って、先にパワーサプライ*2見たいな。新しいの欲しいんだ」

 

「分かりました〜〜〜!あっ、いらっしゃ……うわぁ!あの子すごいヘドバンしてる……!?

 

 

 何そのひとりちゃんみたいな子、店員さんの目線の方に私も目線を合わせてみると、何処かで見た格好のよく知る女の子がヘドバンしながら入店してきた、本当にひとりちゃんだった。

 

 ひとりちゃんだけじゃなくて、結束バンドの皆もいる。一人でお店に入れるぐらい成長したと一瞬だけ思ったわたしが間違っていた。でも良いね、とてもロック。というかメタル。

 

 じと〜〜〜っと見つめてると、結束バンドの子の一人と目があった。リョウちゃんだ、うん?近づいてきた、なんだろう。

 

「どうもみあさん」

 

「こんにちは、どうしたの?」

 

「ハブられました……楽器見てるの私だけ……」

 

「わあ」

 

 

 

 

 

 

 

 せっかくだからリョウちゃんとお店の中を見ることになった、といっても、わたしが見たい所にリョウちゃんが付いてくる形になっているけれど。

 

 店員さんに案内されたエフェクターコーナーを見ていると、隣でじっと見ているリョウちゃんが目についた。

 

「リョウちゃんは何か欲しいモノ、ある?」

 

「ここに在るもの全て……?」

 

「楽器屋さんでも開くのかな?」

 

「将来は自分のお店を立ち上げたいです」

 

「良いね、手始めにハイエンドエフェクター片っ端から買っちゃおう」

 

「……すいません冗談です」

 

 目を逸らしたリョウちゃん、ふふ。でもお店か、楽器店を自分で開くって言うのも数十年後になったら、やってみたいって思ったりするのかな?

 

 そういうマネジメントも悪くないかも、まあ本格的に考えるまではいかないけれど、わたしの気に入ったものが他の人の手に渡って、使ってくれるっていうのは、どんな気持ちなんだろうか。

 

 そんな風に思ったりして物色していると、持っていなくて気になっているフェイザーエフェクターがあった。

 

 買っちゃおうかな……これとさっきおすすめしてくれたパワーサプライと、ベース用に使うエフェクターも欲しいんだよな。

 

「みあさん、こっち……」

 

 うーんそれにアンプも欲しいな。今は使う予定もないけれどオカリナとか買っちゃう……?

 

「……みあさ」

 

 わっ、カホン*3ってこんな色あるんだ、装飾品みたい、綺麗だな〜買っちゃう?一個あると何か使えるかもしれないし。

 

 いやでも持って帰るの難しいなあ……どうしよう、トラック使ってくれるかな?それならドラムも……ああいやドラムはだめだ、苦情来ちゃうし、せめてスティックは新しいの買おう、うん。

 

「聞いてくれない……」

 

 

 久しぶりの楽器巡り楽しいな……!ハイエンドギターとかベースも見ていこう、一つぐらいなら買えるし、部屋に置ける場所あるかは後で考えよう、よし。

 

「って、あれ」

 

 リョウちゃん消えちゃった……あっ、いた。

 

 ギターの試奏……試奏?にしては結構本気で引いてたけど、なるほどね。

 

 一言言ってくれれば一緒に見たのに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ、気に入ったの?」

 

「ウヒャヒィ!ぴぇ、あっ。み、みあさん……」

 

 ひとりちゃんがじーっとギターを見つめてるのを目撃して、後ろからそーっと呟く様に囁いてみた。

 

 こうするとひとりちゃんの驚いたおもしろかわいらしい顔が見れるので、最近のわたしの中の流行り。

 

 YAMAHAのエレキギター、特注仕様かな。作りが良いギターだ、手頃な値段の中ではお目が高いって言えるかも。

 

 すると、店員さんがこっちに来て、ひとりちゃんに試奏してみるか聞いてみた。断れなさそうにぶるぶる震えながらギターを弾き始めるけどうーん、なんてことだ。なんというか。

 

「産まれたての子鹿がギターを弾いている……」

 

「あっうっそうです私は御茶ノ水の子鹿……

 

「だ、大丈夫です!練習していけば必ず弾けるようになりますよ!」

 

「……」

 

 

 ひとりちゃんのライフがゼロになってしまった。とどめを刺したのは店員さんだからわたしは少ししか悪くない。えへ。

 

 他の人が弾いてるのを見ると、わたしも試奏してみたくなってきたな。

 

 エフェクターを買いに来たから、楽器本体を買いに来たわけではないけれどそれはそれとして、弾いてみたいなって思うギターが見つかったりする。

 

 ほら、例えば目の前に置いてあるこのSGタイプのエレキギター*4

 

 ギターボーカルには向かないけれど、リードギターにはうってつけ。何故ってこのギターは重量バランスが酷いからヘッド落ち*5するんだよね、ハイポジション*6が弾きやすいのを踏まえると、トータル+?

 

 でも、ステージ上のパフォーマンスを考えた時、一番ロックに抜群だって言えるのはこのタイプのギターかもね。ロックを象徴するエレキギターって謳い文句は、嘘じゃない。

 

「少し弾いて良い?」

 

「えっあ、どうぞ!」

 

 座らないで立って弾くのは今もする、ひとりちゃんに廣井ちゃんと一緒にやった路上ライブでもした。

 

 でもこのギターのタイプでするのは、久しぶり?ステージの上で弾いていた時、わたしはリードギターも兼用するボーカルギターでもあるけれど、マイクの仕様上とかでヘッド落ちが多発するギターは最初の方しか使わなかったっけ。

 

 

 此処には観客もいないけれど。

 

 楽器を弾く以上、そこはどこだってステージだ。

 

 店員さん達に結束バンドの皆。それから通り掛かる楽器店のお客さん。ここに居るみんな。

 

 一分。

 

 わたしの世界を覗いてくれる______?

 

 

 

 

 

 

 

 

「お会計こちらになります〜〜」

 

「うん、カードで買える?」

 

「はい!」

 

 楽器店さんは良い、色々な出会いがある。今日だって気に入ったエフェクターもそうだけれど、結束バンドの皆と出会ったり、久しぶりに弾くタイプのギターを弾けたり。

 

 何より、わたしが弾いている時に喜んでくれる顔を見れたのは、やっぱり嬉しい。最前も最前でキラキラした目で見つめてきたリョウちゃんは少しだけ怖かったけれど。

 

「あっ……それと」

 

「うん?」

 

 店員さんが耳元に口を寄せようとしてきたので、大人しく耳を貸してみる、すると声を小さくして、呟くように言葉を出した。

 

「ソロギター……最高でした……っ!」

 

「もしかして、バレちゃった?」

 

「あははっ、だって配信、見てましたからっ」

 

「ありがとう。また来るね」

 

 

 うん______やっぱり楽器店さんは良い、誰か見てくれているのはわかってる、でもそれでも直接こうやって伝えてくれる人がいると、どうしても嬉しくなっちゃうのが人なのかな。

 

 またお越しくださいっていう声が後ろから聞こえる、そんな声につい、ふって口元が緩くなった。

 

 うん、また来よう。次は何を買おう?ベースのエフェクターとか、今回見て買おうかなって気に入った楽器とか。

 

 楽しみだね。

 

 

 

 

 

 ちなみに余談だけど。

 

 わたしのお会計23万8000円を背後で見ていたひとりちゃんのわたしを見る目が変な目になっていた。虹夏ちゃんもちょっと引いてたし喜多ちゃんもきたーん……って目してた。

 

 違うんだよほら……その。色々さ、買いたくなるんだ。

 

 

 かなしいかな、わたしの味方はリョウちゃんだけでした。

 

*1
音にうねりを加える音を出せる様にする、主にエレキギターに使われるエフェクターの一種

*2
複数のエフェクターに電源を供給する装置のこと

*3
叩くと音の鳴る箱、大体重い

*4
中音域の太いトーンと軽量化されたボディーが特徴的なギター

*5
ボディが軽かったすると起きる現象

*6
指板上の高い(下の方のネック)ポジションのこと




めっちゃ嬉しい感想が来ると「へっふへひひひ……」ってなる(不審者)(可愛く無いぼっち)(限界)(コーナーで差をつけろ)
あとここすき機能良いよね、おっふ〜んここすきなんだ.....ニャってなる

ところで。
楽器屋云々の話書いてたら行きたくなってきた、池袋が最近ホットらしいけれど、ラーメン美味くてゲーセン寄れてPCの周辺機器も覗ける秋葉原が色々楽しめておススメです、もちろん御茶ノ水も最&高です。


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キミイロアワセ

ぼっち・ざ・とーく!-LIVE-は観ましたか?観てない人は現在進行形でアーカイブ観ているわしと一緒に観よう!(生配信で見たかった....)




 

 夕焼け。

 

 夕暮れの西方の空が赤系統の色で染まる現象。 日没のすこし前に始まり、日没後まもなく終わる。

 

 そんな刹那的な短い間の空間が、わたしは好き。

 

 特別になったわけでもないのに、何故だかほんの少しの高揚感が芽生える、この瞬間が好き。

 

 理由は多分、この夕焼けの現象が一時の昂りを感じさせてくれる音楽と、似ているように思えるからだ。

 

 光と闇が入り乱れて一つの音が出来上がる、そんな風にわたしは捉える。良いことも悪いことも全てを包むようなこの夕暮れ空が、今いるわたしの空間を照らす様に輝く。

 

 ……なんて。そんな風に黄昏れていると、決まって隣を歩くその子はゆるりと表情をいたずらっ子みたいに崩して、わたしの一歩前に出て、目を合わせる。

 

 

「______作詞、やってみる?」

 

 

 わたしが?そう問いかけると、その子はうんうんと食い気味で頷いた。

 

「キミが書いた詞をキミが歌うのっ」

 

 嬉しそうな顔でその子はそう言った、その時のわたしは、何でわたしじゃなくて、貴女が喜ぶんだろう?って疑問になった。

 

 わたしは彼女が目立ちたがり屋なのを知っている、別にそれが良いとか悪いとかじゃなくて。

 

 彼女のそういう所は物事を上手く運ぶ力を持っているし、自信過剰なぐらいに自分を信じていて、でもちょっとした事で落ち込んじゃうような、そんな彼女を気に入ってるし。

 

 彼女と出会って三ヶ月ぐらいの間柄だけれど、その短い期間で彼女のことを少しは分かっているつもりだから。

 

 だからてっきり、貴女が歌うんじゃないかって、わたしは思ったんだ。

 

 

「最初はそう思ってたんだ。でも、私はキミに歌って欲しいの」

 

 それはどうして?

 

「ん〜〜〜〜〜……っ内緒!」

 

 にへへ、って笑いながらその子はわたしの前を歩き始めた、少しムキになって、わたしも早歩きしてついていく。

 

 納得できないよ、って言ってもその子は笑って誤魔化してくる。別に歌いたくないわけじゃない、歌うことは好きだし作詞だってきっとたのしい、たのしい事なら幾らでもやれる、やりたい。

 

 でも彼女が歌うのを聴いてるのもたのしい、それを一番近くで、その歌声を支えるのもわたしは好きだ。

 

 彼女が自信満々で書いた、ちょっと明る過ぎるんじゃないか、というかその擬音はなに?この歌詞ってどういう意味?なんて、そんな作詞をわたしはたのしいって思ってる。

 

 だからかな、その時はいつも以上に心がもやもやした、わたしのやりたい事、たのしいこと。それは間違いない。

 

 けど、貴方はそれで良いの?わたしは貴方と一緒にたのしいことをしたいんだ。

 

 

「たのしいよ」

 

 それはどうして?

 

「内緒だって〜」

 

 誤魔化さないで聞かせてよ。

 

「え〜〜〜うーん……キミが、好きだから?」

 

 

 えっ。

 

 そ、そっか。

 

「そうだよ……」

 

 いやあの……そういうのはちょっと困ります、さよなら。

 

 

「ちっちがう!変な意味じゃなくてっ!あ、まって!お、おいてかないで〜〜〜!」

 

 

 懐かしい記憶。

 

 あれから似たような話をした事はあっても、多分あの頃の彼女は、本当の言葉で話していたのかな。

 

 結局、何で彼女がわたしに歌って欲しかったのか、それをちゃんとした言葉で言ってくれたことはなかったけれど。

 

 今になって思えばちょっとだけ、自信はないけれどなんとなく、こう言いたかったのかなって、わたしなりの答えはある。

 

 本当のことは彼女の中でしかわからないけれど、わたしは今でも彼女は親友だって思いたいから。

 

 

 だからさ、ねえ。

 

 聴こえているかな(何処かで見てる?)_______わたしの()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれぇぇぇ〜〜〜みあちゃん〜〜??何でここにいるのぉ、あれぇ〜?幻覚かなぁ〜〜〜あはは!うぇっ!げふぃ、ふぅ……オェ……!」

 

「酔いすぎでは?」

 

 

 地面と一体化してると言っても過言ではない廣井ちゃんが目の前にいます。

 

 でも何故かな、新宿歌舞伎町が作ってしまったこのライブハウスとコンビニに、近くのビジネスホテル、そしてこの広い空間で起きる路上飲みは、少し目を別に向けても、廣井ちゃん程でないにしても同じような光景が広がってる。

 

 流石路上飲みの聖地、久しぶりだけど相変わらずだ。*1

 

 しかし廣井ちゃんはいつも通り酔っ払ってるだめだめでかわいい大人とはいえ、いざこうして観察すると、よく生きていけてるなあって思う。

 

 いや本当に、お医者さんに診てもらったらどんなこと言われるんだろう、付き添ってあげようかな、気になるし。まあ絶対行かないー!って言うだろうけど。

 

「まぁいっかぁ!みあちゃんも飲もう!」

 

「はいはい、家に帰ろうね」

 

「や〜〜だ〜〜〜!」

 

 

 さて何故わたしが新宿に居るかと言われると、電話が来たからだ。もちろん廣井ちゃんから電話が来たわけじゃない、だってこの酔いどれベーシスト、携帯止まってるらしいし。

 

 じゃあ誰から?新宿FOLTの店長の銀ちゃんから「ごめんね〜〜急に、今外出中かしら?」って聞かれて、六本木の行列の出来る美味しいラーメン屋さんで夜ご飯食べ終えた所って言うと「新宿に来れたりするかしら?」って言われ。

 

 どうしたの?って聞いてみると「あのバカが飲み代払わずどっか行きやがったから探すの手伝って欲しいの〜〜☆」とめちゃくちゃにキレてるなあって声で言われたのが発端だ。

 

 銀ちゃんはわたしがこういうの(たのしそうなの)に参加したがる人だって知ってるから、電話掛けてきたのかな。

 

 当たり、それに廣井ちゃんを観察するの、ツチノコひとりちゃんを観察するのと同じぐらいにはおもしろいし、たのしい。

 

 

「飲みたりない飲みたい飲むぅ〜〜!」

 

「わあ、成人女性の地団駄」

 

「ほらほら〜みあちゃんも飲もうよぉ〜奢るからさ〜!」

 

「わたしに奢るより銀ちゃんに飲み代払いなよ」

 

「あぇぇ……?ん〜〜〜〜〜……???______あっ」

 

 わあ、ほんの少しだけ廣井ちゃんの酔いが覚めた、忘れてたんだね。ついでにって言って良いのか言葉に困るけどまたベースも何処かに忘れてるし。

 

「ほら、わたしも付いてくから」

 

「み、みあちゃん……っ!」

 

 

 廣井ちゃんが銀ちゃんにこれでもかってぐらい(自業自得)に怒られて、今にも泣き出してしまいそうなぐらい弱まってるのを至近距離で観察したいからね。

 

「なんか酷いこと考えてないみあちゃん?」

 

「ん?そんなわけないよ」

 

 

 

 

 

 

 新宿の夜はキラキラしていて、眠らない街って言われるのも納得なぐらい煌びやかだ。

 

 それが良いようにも悪いようにも、新宿って言う街を作っている。光が強いほど闇も強くなるけれど、ここに生きる人たちはそんな闇も飼い慣らせちゃうような人なのかな。

 

「ねえねえ、みあちゃん」

 

「なに?」

 

 

 一人で歩けない廣井ちゃんの肩を担ぎながら歩いていると、急に廣井ちゃんが、なんだかいつもとは違うような声色でわたしに話しかけてきた。

 

 

「みあちゃんが良ければさ______」

 

 

 そう言って、続いた言葉を聞いて。

 

 わたしは思わず、足を止めて廣井ちゃんの顔を見た。分かりやすく驚いた顔を見せたのは多分初めてだからか、それとも別の理由か、顔を合わせた時の廣井ちゃんの表情はいたずらっ子みたいに笑ってた。

 

 その笑い方が、最近の夢の記憶にある彼女の表情と重なる。

 

 あぁこれは、これはだめだよ。

 

 

「どう?」

 

「いいよ」

 

 断れないよ、だって廣井ちゃんはあの子じゃないけれど、でもわたしはあの子のあの時のような表情をされちゃったら、もうわたしの心は止められない。

 

 あの表情を浮かべた後の先の光景をわたしは知っている、そしてそれはいつだって、どんな時だってどんな結果になってもたのしいことなのを知っている。

 

 だから廣井ちゃんのその誘いにわたしは手を取った。

 

「ならさ、ならさ!」

 

「その話の前に銀ちゃんにお金返しにいこーね」

 

「あっ、はい……」

 

 

 先ほどの勢いはどこへやら、廣井ちゃんはしょぼくれて手に持っている鬼ころをストローでちゅうちゅうし始めた。

 

 さっき全部飲んでた筈では?まだポケットに入っていたのか、なんてやつだ。

 

 なるほど……これが酔いどれベーシスト、対酔っ払い耐性の高いわたしも少しムカッてしてきたぞ。

 

「まだある?鬼ころ」

 

「もうな〜〜〜い!」

 

「じゃあ廣井ちゃんの飲んでるやつでいいや」

 

「えっちょ、奪われる?!」

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ星歌ちゃん、なんか変な人きたよ?」

 

「あん?また酒カスでも……じゃあなさそうだな」

 

 

 今のところ多分、結束バンドのライブは欠かさず見ている……いやごめん、何回かは予定は合ってないかも。

 

 でも「ひとり顔あげて♡」のうちわをひとりちゃんのファンの子と作ろうって話をするぐらいには、まあ来ている。

 

 ライブ中は比較的後ろの方でわたしは見ているけれど、ライブ終わりにひとりちゃんのファン一号ちゃんと二号ちゃん(そう呼んでくださいって言われた)とは、普通に話す。

 

 最初の頃はひとりちゃんの画角がズレたり時折スライムみたいになったりするのに驚いていたけど最近は、そういう所も推せるようになってきたらしい。

 

 わたしの最近のお気に入りのひとりちゃんは、今日初披露の「パカつむり」だ。喜多ちゃん曰く「塩をかけたら死ぬ」らしい、なるほどね。

 

 ギャップ萌えって言ってたけど、なんかちょっと違う気がする。いや正しいのかな、うーん?

 

 そんでもって今日もスターリーに来た、ちょっとした用事もあったけれど、それはもう済んだし。

 

 

「すいませんうちでの迷惑行為はやめてもらえま_____」

 

「ふぇ……ごめんなさい……うゅ」

 

 

 星歌ちゃんがぞぞぉ〜!って効果音が背後から流れ始めるぐらいにドン引きして撃沈してしまった。

 

 ふぇ〜〜〜うゅ!なんて久しぶりに聞いたな、KAWAII系の身長と顔をしたそこそこ有名になった地雷系シャウトボイス使う先輩女の子☆アーティストみたいだ。

 

 地雷系ファッションしてるし身長も低身長だけれどあの子成人済みなんだろうなあ……。

 

 その人が結束バンドの子たちに話しかけているの、少しは耳に入ってた。バンド批判サイトの音楽ライターみたいだ。

 

 話題性目的だろうな、ライターが求めているのは大抵それだ。というかそういうの以外、はっきり名の売れている有名どころのライターを除いて、稼げないって話を聞いたことがある。

 

 例えばこの前の文化祭の時のひとりちゃんのダイブとかが、ネットで少し広まったのか。

 

「……皆そろそろ、ライブの準備しなきゃ!」

 

「あっそうですね」

 

「ぼっちちゃんも行こう!すいません後はライブ後で良いですか?」

 

 

 虹夏ちゃんがライターの子を警戒するようにひとりちゃんを連れて行った、うんうん。それで良い、この手のお話は何事も警戒していこうね。

 

 パッと見た感じそこまで悪質そうでは無いと思うけれど、でも人は見た目じゃ判断出来ないし、そういった悪意はやっぱり現実問題、付いてくる。

 

 でもそれは今結束バンドの皆が体験するようなことじゃ無いのは確かだ、何か起きる前にあのライターの子に話かけてみるかとも思ったけれど、一先ずは今じゃない。

 

 

 今は結束バンドの音が聴きたい、ここに来ているわたしは、誰が何と言おうと彼女達のファンだからね。

 

 

 

 

 

 

 

「あなたギターヒーローさんですよねッ!」

 

 

 そんな声が少し離れていたわたしにも届いた。

 

 興奮しながらライターの子はひとりちゃんのことを指差しながら、ひとりちゃんは超凄腕高校生ギタリストで、それでいて男女関わらず学校中の人気者で、ロインの友達数は1000人越えで、バスケ部のエースの彼氏がいる超リア充女子だって語る。

 

 

 人違いじゃないかな?

 

「人違いじゃないですか?」

 

「即答!?」

 

 

 何言ってるんだろうこの人って顔で喜多ちゃんがわたしが思ったことをそのまんまライターの子に言った。

 

「そっそうですよ!その人とこのド陰キャ少女が同一人物に見えますか!?」

 

 虹夏ちゃんが珍しくひとりちゃんを言葉の刃で傷つけている、そりゃそうだけれど、直接言っちゃだめだよ、あっほらひとりちゃんにド陰キャボルクが突き刺さっちゃった。

 

 あれ中々抜き難いらしいけれど大丈夫かな。

 

「星歌ちゃん、ギターヒーローって?」

 

「ん、ああ多分……これかな」

 

 わたしはギターヒーローなるものを知らないから、遠目から厳しい目でその様子を観察している星歌ちゃんに聞いてみると、パソコンで動画を見せてくれた。

 

 殺風景な背景を背にしてギターの弾いてみた動画を出している動画投稿者、ギターヒーロー。

 

 なるほど、たしかにこれはひとりちゃんだな。使ってるギター文化祭以前に使っているものだし。

 

 ……なるほど、ライターの子はネット上のひとりちゃんのファンなんだね。

 

「にしても虚言がひどいね」

 

「見る所そこかー?いやまあ、ひどいけど」

 

「概要欄の文よく思いつくなあ、ほら見てよ」

 

「うわっ、うわ。うわー……」

 

「承認欲求モンスター極まってるね」

 

「あっうっえっえ……きっきこえてますみあさん……あの、あの、あの……

 

 

 んーーー?なんだろうなーんにも聞こえないや、えへ。

 

 でもこの辺にしておこう、あんまりいじり過ぎると紙やすりじゃあ修正出来なくなっちゃうし、ひとりちゃんは条件が整ったら幽体離脱が出来るとんでもない能力者だしね。

 

 ひとりちゃんいじりタイムも終わったし、あのライターの子の目線が、一人にしか目が入ってないのも少し離れた場所で見ていてもわかるし。

 

 この後どうなるかも大体予想できる。

 

 

「星歌ちゃん、気づいてる?あの手の話の流れ、わたしは散々見てきたよ」

 

「ああ、ちょっと行ってくる」

 

「かっこいーねお姉ちゃん」

 

「何言ってんだ、ああいうのがライブハウスにいると敷居が下がるってだけだ」

 

 

 少し昔の事を思い出した。

 

 わたしのバンドの話じゃない、けれどわたしと同期だったバンドの話。

 

 そのバンドのドラムスはどんなテンポにも対応できて、ライブパフォーマンスもプロ顔負けって言えるぐらいにすごい子だった、だからか少し知名度が上がってきた頃。

 

 まだまだこれからだって時にその子はそのバンドから姿を消した。

 

 その時のわたしは、そのバンドとあんまり関わりは無かったけれど、同じバンドメンバーの一人が、少しだけ不満そうな顔で愚痴を溢していたのを覚えてる。

 

 バンドメンバーの入れ替えはそう珍しい話じゃない、引き抜かれたりするのだって地下ライブを活動拠点にしている世の中的には無名のバンドには、結構よくある話だ。

 

 ただ、程なくしてそれをきっかけにそのバンドはステージ上から姿を消した。

 

 その事だけがきっかけじゃないとは思う、でもその一つの亀裂がバンドの生命を絶つことは、思うより簡単に起こってしまう。

 

 

「……どう乗り越える?」

 

 

 星歌ちゃんがライターの子を対応しに行ったのを見届けながら、ふと口から溢れたその言葉。

 

 最終的にわたしのバンドは解散した、思い出の中に消えていって、きっと戻ることはない、人は過去を想うことは出来ても変えることは出来ないから。

 

 それは事実……だけどね、簡単に解散する程ヤワなバンドなんかじゃないのも確かだったんだよ。

 

 だからわたしは、結束バンドの子達も乗り越えられるって思っている。

 

 乗り越えて糧にする力を持っているとわたしは信じてる。

 

 

 それにしても。

 

 

 星歌ちゃんツンデレすぎウケる。

 

*1
界隈では有名なBLA◯E前酒場です





注釈の霊圧が消えた……?!
注釈ねーからここ意味わかんねーって思ったら言ってくださいね、やるのでʕ⁎̯͡

ところで。
ある日のハロウィンイベントに、その日のライブは仮装しよう!と虹夏ちゃんの提案によって、-名手-山田リョウによる匠の技で生まれ変わったぼっちちゃん吸血鬼衣装(ゴスロリ系)を見た喜多ちゃんが胸の高鳴りを自覚する夢を見たんだけど続きは???


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わたしに無くてキミたちにあるソレが

お待たせしてたか?!ほな続きです。




 

 帰り道、電車の中で思い出すのはあの言葉。

 

 

『ていうかガチじゃないですよね』

 

 

 って言葉が、心に引っかかって、取れない。

 

 確かに、私達はお客さんも常連の人がほとんどだし、宣伝っていう宣伝もしていない、よく居る下北のバンドって言われても、否定できない。

 

 ギターヒーロー(ネット上の私)はプロとして通用するって言われたのに、言ってくれたのに、なんでかな。喜べない。

 

 だって人前で弾いても、上手く出来ないのは変わってないし、ちょっとずつは改善していると自分では思っているけど、今だってわたしが足を引っ張っちゃったって場面はいっぱいだし。

 

 それに、だって。それで。って、いっぱい思うことがいっぱいあって弾けそうになる。

 

 

「あっあの、みあさん」

 

「ん?」

 

 

 頭がぐちゃぐちゃってなってきて、つい私は頼るように、隣で目を閉じながら座っているみあさんに声をかけた、かけてしまった。

 

 さっきまでのやりとりは聞いていたと思う、結構響いてたし、だからかは定かじゃないけれど、今日は最寄り駅まで一緒に帰ってる。

 

 多分、気を遣ってくれたんだと思う、結束バンド(私達の事)を見に来た後のみあさんは、わたしが帰るより少し早く、先に帰ってる事が多いから。

 

「……えっ、と。そのっ。みあさん……も、ガチじゃないって、思いますか……?」

 

 ちがう、言いたいのはこんなことじゃない。だけれど私の口から出た言葉は、そんな言葉で。

 

 ほんとうは別のことを聞きたくて、言いたかったのに。なんで。

 

 いつもより視線が下がっていくのを感じる、なんて言われるんだろう、怖い。みあさんにも、そう言われたらどうしよう。気を遣われて、心にも思ってないようなこと、言われたら。

 

 どうしよう_____って、頭で考えていると、ぽんって、頭を撫でられた。

 

 驚いてみあさんの表情を見る、そこにはいつもと変わらない顔で、わたしの目を覗くように見ているみあさんがいた。

 

 綺麗な大人の顔なのに身長は私とあんまり変わらない、そんなみあさんが目の前にいる。

 

 文字通りすごく近くで。

 

「わひゃぁ!」

 

「あは。驚きすぎ」

 

「うぅ……」

 

 最近、何かとこういうこと多いんだよなみあさん……最近でもないけど、でもここ最近は私以外の人にも驚かせることしてるし、みあさんの中で流行ってるのかな。

 

 やっと慣れてきたと思ったけれど油断するとぼわーーーって顔のパーツが……!

 

「わたしがキミたちを観ている視点は演奏の良し悪しじゃない」

 

「えっと……なら、どんな視点なんですか?」

 

「それは内緒。それで、ガチかガチじゃないかだっけ」

 

「は、はい」

 

 みあさんが少しだけにやけた、みあさんの事は、Miaってこと(とっても凄い人)以上のことは、あんまりよく知らなくて。

 

 だけどこのにやけるときの、少し遠くを見つめるような目は、みあさんが昔の事を思い出しているんだろうなって最近わかってきて。

 

 今のやりとりに、どこに昔の事を思い出すような会話があったんだろう?ってふと思うよりも先に、みあさんはさも当然のように、言葉を切り出した。

 

 

「そんなの自分の心に聞けばわかる事でしょ?」

 

「……!」

 

「ロックバンドらしくいってみな」

 

「はいっ……!」

 

 

 そうだ。

 

 色々、思うことはあるけれど、一番は、わたしのやりたいこと、やりたい音楽は。

 

 虹夏ちゃんと、リョウさんに喜多さんと、結束バンドの皆とやりたい音楽だ。

 

 私の夢はギタリストとして皆の大切な結束バンドを、最高のバンドにすることだ。

 

 だったら、今日言われたことに対して、わたしが次に向かってやることは決まってる……!

 

「そろそろ着くね」

 

「……はい、その。ありがとうございますっ」

 

「全然?あ、それとさひとりちゃん」

 

「あっはい……?」

 

「マイニューギア*1し過ぎないようにね」

 

 えっ。

 

 あれっ私みあさんにそのこと言ったっけ、ううん言ってない、みあさんに失望されたくないしそんなこと言えるはずがない。

 

 なのになんで知ってるの?

 

 あれっ……?

 

 

「ギターヒーローで検索したら出たよ、さっき」

 

「あっうっ」

 

「エフェクターぐらいなら買ってあげるのに」

 

「えっいやそれは」

 

「でもそうなると行き着く先は廣井ちゃんかな」

 

「あっそれは、あの……いっ嫌です……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは音楽に限った話でもないけれど。

 

 明確な未来性、つまりは目標やそれに向けた現実的な視点と、理想像を描けているとして。

 

 なら、先ずはこれで、次はここ、その次に進めることができれば理想の一歩に近づける。

 

 その一歩一歩を建設的に取り組むことが出来れば迷うこともない、迷うことがないから取り組む事に対しての不安も少ない、結果的に成功する確率が高くなり、モチベーションの維持も頻繁に低迷することもない。

 

 それが出来る人と出来ない人の違いは他人から一目見てわかる、もっと簡単に言えば、聞いた事をその場でメモをする人と、しない人どっちがやる気がある?っていう話。

 

 誰がどう見ても前者なのは、誰が見てもわかる。

 

 じゃあ少しだけ見方を変えて、聞いた事をその場でメモする人が二人いるとして、片方はメモを取って終わる人。もう片方はメモを取って更にそのメモに対してのQ &Aを出来る人。

 

 今回は後者がやる気がある人だろうなって見える。

 

 なら、その後者の人が二人いるとして、どっちがやる気がある人?

 

 どちらもやる気がある人、それはそうだよね。なら条件を一つ追加する。

 

 片方は、やる気に+して明確な将来設計を考えている人とする。

 

 やる気があるのは同じ、だけれどその後の行動に対しての結果は目に見えて違うように映る。

 

 

 今の話を結束バンドに置き換えると、彼女達はメモを取ってQ &Aが出来る人になる。

 

 つまりは+αによる彼女達の音楽に必要な独創性及び創造性が、メモ以上のことが出来る人たちには至っていないことになる。

 

 その点で言えば彼女達はライターの子が「その辺にいるバンド」と評価した事は、間違いとも言い切れない。

 

 わたしはそれをはっきり肯定する事はしなくても、だからって明確に否定はしない。

 

 バンドとして足りないモノはそのバンドによって様々だが、共通するものは何個かある。

 

 まず技術、ただこれは時間とやる気で解決する。

 

 次に活動意欲、これも問題ない。

 

 三つ目に、バンドとしての独創性、ここで必ず大多数のバンドは躓く。

 

 

 バンドの方向性?目的や目標?将来的な夢?どれも違ってどれも全て。

 

 それに+して、ならどういう方向性にするのか、その方向性はどんなものでどういった理由なのか。

 

 目的はどうするか、その目的を達成するにはどんな事をしないといけない?その目的が達成した後の目標はどんなもの?その目標は現実的に出来る事?

 

 将来的な夢を具体的に話せる?その夢に向かって進むとして、叶えた後の未来は見れる?夢が終わればそれで良いの?次の夢はどれ?

 

 

 明確な未来性がはっきりしているバンドはこの全てに解答出来る。はっきりしていなかったら全てに解答は出来ない。

 

 結束バンドはその明確な未来性を築けているかと言われれば、まだまだ全然足りてないよって言うしかない。

 

 バンドマンは夢を追い掛ける人であって、夢に追われるような人じゃ、バンドマンとは言えないんだ。

 

 もちろん、これはアーティストでもミュージシャンにも当てはまる。

 

 

 ただバンドは1人でやるものじゃない、数人でやる音楽だ。

 

 だからそれぞれの意見や目的、目標や夢がある。

 

 

 

 わたしは最終的に一人になったから、自分の世界(音楽)を創った。

 

 

 だから最終的にわたしが語れることはわたし一人の話になる。

 

 でもこの話は、もうぜんぶ蛇足……ひとりちゃんにはしない。

 

 

「ひとりちゃん」

 

「あっ、はい」

 

 

 最寄駅に着いて、分かれ道。

 

 前髪の隠れたひとりちゃんは、でもさっきよりも良い目をしていた。初ライブの時に魅せたヒーローの目だ。

 

 うん。良い目……好きな目だ。キミの色はすごく透き通っていて、そんなつもりもないのに、わたしも感化されちゃうな。

 

 

「ふふ、やっぱいいや」

 

「えっ、えっ?」

 

「またね」

 

 

 わたしは。

 

 あの時の続きを望めないって思ってる。

 

 でも彼女達は違う……だからかな。見たいんだ、あの時の続き。

 

 こういうのはあんまり良くない、自分でもわかってるよ。だから苦しいんだ、でもそれ以上にたのしみなんだ、彼女たちが。

 

 

 ひとりちゃんのギターに対する情熱は、学生っていう何にでも出来る時間をひたすらに音楽に使っている。ロックに対する熱意はその演奏力と集中した時に発揮出来るパフォーマンスに如実に現れている。

 

 虹夏ちゃんの叶えたい夢をわたしは詳しく聞いていないけれど、その夢に向かって突き進む行動力、方向性を一つに統一させるようにメンバーを纏める力は、縁の下の力持ちのようなもの。

 

 リョウちゃんのマイペースな思考は彩りを広げる、独特の価値観を持つソレは視野を広くしないと出来ない。広い視野から観る世界は得られるモノが多い。

 

 喜多ちゃんの突っ走り方は物事を良い方向に向けられる陽気さがある。楽器を練習しながら歌い方を研究しながら、音楽以外の事も取り組む器用さだってそう簡単に出来るものじゃない。

 

 彼女達は一人一人のキャラクター性が成り立っていて、見ている方向も向かう目標も、夢も違うかもしれない。

 

 けれど、それに向かっていく時、彼女達四人がカチッと歯車が噛み合う時。

 

 その方向を一つに纏めて、見えている方向に突っ走って、目標に向けて実直に練習して、夢を背負う様に集中する。

 

 

 その時の爆発性は、誰にだって測れることはできない。

 

 

 あの気持ち良さは「成ったこと」のある人にしか分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 自宅、眠れない深夜にわたしがやることは、やっぱり音楽しかない。

 

 

 睡眠は多く取れば取るほど健康的にもコンディション的にも良いけれど、眠れない夜から創造出来るフレーズだったりメロディだったりももちろんある。

 

 わたしの体感的な話になるけれど、その日の集中や、深夜テンションってやつが上手く作用した時の瞬発力は時に想像も付かない程のひらめきを与えてくれる。

 

 アルコールもそう、手に負えないぐらいに飲み過ぎたらわたしも廣井ちゃんだけれど、ほどほどにたのしむぐらいなら活性剤にもなれる。

 

 だからわたしは、そういえば飲んでなかったスパークリングワイン*2一本開けた。

 

 750mlぐらいじゃ、酔わないけどね。

 

「……よ〜〜〜し」

 

 あは、たーのしくなってきた!

 

 Miniキーボードに触れる、今の気分は電子音楽。エレクトリカルミュージック*3?ヒップホップ系*4?どっちも良いものだ、それに+してハードコア*5要素も付け足しちゃう?

 

 ……お酒飲んだ後にハイスクリーム*6出ないや、それにどうしたって喉に負担は掛かっちゃうし。

 

 ほんの少しテンションが下がったので冷蔵庫に閉まってからまだ飲んでなかった梅酒の小瓶と炭酸水を取り出すことにしよう。

 

 

 気を取り直してパソコンを操作してDAWソフトを開く、今回は直取りした楽器の音を調整したりする訳じゃないから、そのジャンルをたのしむ時専用のDAWソフトを開いている。

 

 音楽制作ソフトにも種類がある、音楽の種類ジャンルによってそれに適しているソフトは一つのソフトに統一している訳じゃない。

 

 ……少し語弊があるね、別に出来ない訳じゃないよ?

 

 ベースやギター、ドラムやオーケストラに使うバイオリンとかホルンとか、シンセサイザーだったりの全て纏め最初から用意してくれているDAWソフトはある。

 

 でも触って行くうちに、ベースやギターのエフェクターがもっと欲しくなったり、和楽器も入れたいなってなったり、そもそも音の質感がなんかちょっと違うなって思ったりしてくる。

 

 そうすると、それ専用で売っているDAWソフトに手をつけたりする。

 

 もっと言えば、弾ける楽器は自分でやる方が作業効率的にも音質的にも良くなったりする。

 

 わたしの場合、弾く方が音が出るベースやギターは生音、宅録する場合電子ドラムよりはDAWソフトを使う。

 

 ボーカルをわたしが歌うか歌わないかはさておき、一度仮歌をつくる為にボーカロイド*7だったりは使う時はある、いざ歌う時、予め決めている音程を正しく刻む為とか色々理由はあるけれど。

 

 

 問題という問題といえば、音質の向上ややる事を増やすためには兎に角お金が掛かるっていう一点だね。いやあ本当に、まじで。*8

 

 仕方ない問題ではあるけれど、これから音楽を始めるって人やかお金のない学生や売れるまで行ってない音楽関係を生業にしている人にはとても辛い話だ。

 

 始めた頃のわたしは色々揃える為にコツコツ貯金に入れていたお金の八割が消えたし、それでも細かい所まで拘るまで至らなかったし。

 

 外出を控えるというか行けなくなって節約自炊生活を始めるきっかけになったのは、良いことではあったけれどね。

 

 最近は自分で作ってないけれど料理はたのしい、音楽がこの世界に溢れていなかったらきっとわたしは料理人になっていた。

 

 

「さて」

 

 

 わたしの時間だ________音楽を始めよう。

 

*1
新しい楽器や機材を購入したことを報告する際に使われる文言

*2
しゅわしゅわする奴

*3
略してEDM、電子楽器を用いた音楽全般のこと

*4
ラップ含めリズム、セリフを同じ調子でリズミカルに繰り返す音楽のこと

*5
ロックを更に過激で荒々しい表現法にした音楽

*6
高い音域のデスボイスのこと

*7
みっくみくにしてやんよ

*8
※マジです




廣井ちゃんの曲フルで聴きてぇ〜〜〜〜><
文化祭が楽しみですね....(特にメイド服着たぼっちちゃん)(執事服着た山田も良い)というか喜多ちゃんも良い)(メイド服虹夏ちゃんもやばい)

ところで。
と何か語りたいところですが特に思い浮かびませんね、そういう日もある。
ただ最近見た中では成人済みヤニカスぼっちちゃん概念は個人的にはアリでした、顔の良さも相まって無自覚で女の子落としてファン2号みたいな子を量産して欲しい


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歌が上手い人と声が綺麗な人の違いは?

忘れられてるかもしれませんがお久しぶりです。
ワタシダケユウレイ記念って事でね(遅い)



 

 いつかに話したかもだけれど。

 

 みんな(お客さん)が思うよりインディーズバンドってものは簡単に解散する。

 

 昔聴いたバンドの曲を久しぶりに聞いて、調べてみたら解散してたなんて経験はわたし以外にもあると思う。

 

 あれは辛いよね、でもまあ……仕方ないのだ、色々あるから。

 

 本当に色々あるのだ。とても世間には言えない様な事から、よくある方向性の違いや家庭環境、次々と重なる年齢から一歩先の現実(社会)に旅立つ事もしばしば。

 

 一握りの運と実力、その上澄みの上にメジャーデビューするバンドっていうのがある……とも言い切れないのが音楽業界だったりするけれど、あんまり暗い話をしてもね。

 

 メジャーバンドはメジャーバンドで色々ある、この話まですると長くなるので割愛しよう。

 

 それにきくりちゃん(SICKHACK)のようにインディーズに拘るバンドなんかは別。

 

 インディーズと言ってもあのバンドはその中でもトップに位置するバンドだ。世間から見ればライブの来場者数の平均が500人前後っていうのは、あんまり想像しづらいし一見そうでもない様に見えるかもだけれど、とんでもない。

 

 そもそも新宿のライブハウスでレギュラーレベルの活動をしているのがとんでもない、大抵のインディーズバンドの活動拠点は高田馬場か下北沢か池袋辺りだ。

 

 偏見?いやいや、そうでもないよ。

 

 

 50〜100人ぐらい集められると仮定して、公演させて頂けるライブハウスを探すってなると、その三つの場所がやり易かったりするんだ、渋谷も良いけれど、あそこは少し値が張るからね。

 

 

 それを踏まえて、平日祝日問わずそのバンドを目当てに来る観客の固定数が500人前後確約されているのは、界隈にとってすごい事だ。

 

 あんまりする様な話でもないけれど、金銭的な話をするともっと分かりやすい。

 

 一回3000円のライブに500人前後が来ると考えるとそれだけでそのライブの売り上げは150万円を超える事になる。

 

 一回のライブで150万も入ればそれだけで黒字になる、そこからライブハウスに払うレンタル料やら機材費やら打ち上げやら人件費やら含めた後にメンバーの数で割ってもまぁ手元に入るお金は中々なもの。

 

 その箱の人数に合わせたチケットノルマが安定して売れている事はつまり、バンドマンとして成功していると言っても過言じゃない。

 

 確実な黒字が期待できるのはライブハウス側としても信頼出来る。

 

 1発成功して以降廃れていくようなメジャーバンドより評価出来るし、総収入も高い。SICKHACK(きくりちゃん)のような正しい意味で熱狂的なファン層を獲得させる様な音楽性を叩きつけるバンドは尚更。

 

 ……収益の大半はお酒とそれによる被害額で消えているんだろうけれど、それさえなければもう少しいいところに住めると思うんだけどなあ。

 

 

 話がそれちゃった。

 

 

 ええっと……そうそう。兎にも角にも、なにかとバンドは解散しやすい。

 

 わたしの経験則と見てきた世界での最初の頃(・・・・)の平均寿命は半年〜一年。

 

 この期間が特にウィークポイントになりやすい傾向がある、解散にはならなくても一人、二人と辞める人なんかはザラにいたりする。

 

 

 その半年から一年の期間を超えた後も何かと問題は付きもの、わたしを含めた音楽人は音楽をすることが一番の楽しみでやり甲斐なのに、それ以外のしがらみが出来ると途端に今までしていた音楽が分からなくなってしまう。

 

 ままならない、でもどうしようもない。

 

 たのしいを続けるには、たのしい以外の事もやらないといけない。

 

 きっとそれは音楽だけじゃないんだろうな……人生って、難しい。

 

 自分で言うことではないけれど程度成功しているわたしでも、もう少し簡単になってくれても良いのにって思うから、結束バンドのみんなはもっと色々悩んでたりするんだろうか?

 

 

 干渉し過ぎないぐらいには、わたしが出来る事はしてあげないとね。

 

 

 

 

 

 

「……そういえば、結束バンドはボーカルエフェクターを使わないね」

 

「ボーカルエフェクター?って、なんですか?」

 

 ふとしたわたしの疑問にいち早く反応したのは喜多ちゃんだった。

 

 

 なんですかと聞かれると、一言で言うと名前の通り歌っている時の声を加工する機械。って説明するのが丸いのかな。

 

 一言でそう片付けるのは簡単だけどボーカルエフェクターにも色々ある、そりゃあもうギターのピックの数ほど……は少し盛り過ぎかもだけど、色々ある。

 

 バンド活動していた頃のわたしは使わなかったけれど、一人で活動する様になってからは……?

 

 凄く気に入ったもの以外はそんなに使ってないや、一度買って数回使って以降使ってないなんてザラだ。

 

 それについて思う事は一旦置いておくとして……。

 

 

「あると便利だよ、単純に音の質を上げるのにも使えるし。わたしのオススメはTC*1のエフェクターだね。ローランド*2も捨て難いけれどここは好みかな、あ。フットスイッチ*3の有無は確認しようね、ライブで使う奴は無いと不便に感じるよ。どれがどんな環境に向いてるかとかもあるから選ぶ時は一度使わせてもらうのがわかりやすいけれどそれは難しいから___________」

 

「あ、あはは〜〜〜……みあさんが珍しく饒舌だわ……ですって、ひとりちゃん!」

 

「うえっ!、いえ、その。えっと……喜多ちゃんの声には、必要ないと思います……綺麗な声、なので……お金の余裕もないので……

 

「ひゃわ……ひ、ひとりちゃん……!」

 

「手元の事で精一杯の喜多ちゃんにはまだ早いのは確かだね」

 

「うぇっ……!み、みあさんひどいですよぉ〜〜」

 

 

 事実だからね。

 

 まあそれでも日々一歩一歩前進している、喜多ちゃんはそれほど上達が早いタイプではないけれど一度覚えた事のミスは少ない。

 

 ボーカル兼リズムギターとして考えると、「向いている」方。難しい技術より合わせる技術の方がリズムギターには求められる。

 

 聞いていて一番目立つ音のズレはドラムの次にボーカル、それと同じぐらいにギターだからね。

 

 

 さて今わたしは何をしているかと言うと、ひとりちゃんが喜多ちゃんにギターを教えながら弾いているのを目で見て聴いている。

 

 と言ってしまえばそれだけ、けれどそれだけではない。ひとりちゃんはギターの事は教えられるけれど、“ボーカルギター”としては教えられない。

 

 少しでも良いから何か気になった事があれば、という事でひとりちゃんが都合良く暇だったわたしを呼んだのである。

 

 ボーカルエフェクターはその気になった何かのうちの一つなのでした。今の(・・)結束バンドに必要かはさておき、そういう手段がある事は今教えても後で教えても変わらないからね。

 

 それに喜多ちゃんはそういう小手先の所よりももっと他に着目していかないとならない課題がある、まずはそこから。

 

 でもそのまま教えても上達には繋がらない、歌声は他の楽器と比べて人体で奏でるモノ。

 

 一番簡単で一番難しい、ボーカルに不正解はあっても正解はない。わたしの持っている技術を教えてもそれは「わたし(Mia)の声」の物真似にしかならない。

 

 

「喜多ちゃんの課題は“ここ”だな……」

 

 

 二人の演奏の音、その音に追加される声の音色を聞きながらわたしは小さくそう呟いた。

 

 

 それはそれとして二人はいつから名前呼びに?

 

 少し気になる、仲が良いのは良い事だけどね。

 

 

 

 

 

 

 吐いた息が白い。夜も深まれば随分冷え込んできた今日のこの頃。

 

 ひとり寂しく、と言うわけでも無いけれど、何となく夜の冬風を浴びたいと思う時もある。

 

 冷えた空気は良い、用事以外では常に自宅で音楽と向き合っているといえば聞こえがいいが、まあそれは世間一般的には引きこもりな訳で。

 

 コンビニついでにちょっとした夜のお散歩は、つい密室特有の凝り固まりがちになる思考を切り替えるのに適している。

 

 何より治安が良いからね、良くないとこんな事しないけれど。

 

 

「……うん、これはあれだね。行き詰まりって奴だ」

 

 

 公園のブランコでぶらぶらしながら何気なしに頭で思ったことを言葉にした。

 

 新曲が出来てその出来た新曲を満足した形で世の中に上げたら、当然次にやることと言えば、また新しい世界(新曲)を創る事を考えるのがわたし……というか、音楽人だ。

 

 過去の自分の曲をリメイクやリミックスだったりをするのも、まあ嫌いじゃないしそういうたのしみ方だってあるけれど、わたしの本分はそこじゃない。

 

 新曲を上げ続ければ良いってモノじゃないけれどせっかく“再起動”って謳っているんだ、再起動した次の曲は、全く新しいモノにしたい。

 

 そう、この全く新しいモノっていうものを、さてさてどうやって生み出していくかな?ってたのしみながら考えて、コンビニのホットコーヒーを飲みながらブランコでぶらぶらしているのだ。

 

 

「どーしよっかなあー」

 

 

 気の抜けた言葉がわたしの口から飛び出した。

 

 実際、どうしたものかな。

 

 

 大前提、ネットが普及し機械が発展しそれに伴って音楽も発展した現代で、「全く新しいモノ」なんてものは存在しない。

 

 作曲する際に扱うコード進行など良い例だね。使うコード進行はその曲その曲で違うけれど、一からコード進行を創る事はしない。

 

 理由は単純でしても意味がないからだ。思いついた進行は大抵他のコード進行と似たより寄ったりになる。

 

 それだけコード進行のパターンは多いし、何よりこのパターンから逸脱すればする程、違和感を感じる曲になる。

 

 ならコード進行以外の所を変えてみよう、と考えてみても「全く新しいモノ」っていうのは出来ない。

 

 電子の音を取り入れれば電子音楽、民謡らしさを取り入れれば民謡音楽、西洋っぽさを演出してみようとすればクラシック音楽、独特な音を奏でてみようとすれば民族音楽。

 

 BPM(テンポ)を上げればハードコアなどなど、この世に存在する音楽の種類は無限大だ。

 

 それでも時折生まれる曲の中に「未知」が広がる時がある。既知と既知が絡み合った結果から生まれる「全く新しいモノ」が。

 

 ファンクミュージック*4なんかは分かり易い、あのジャンルが出来た当初は「全く新しいモノ」の代表例だったんだろう事が伺える。

 

 メタルコアと電子音楽が融合して出来たエレクトロニコアも良い例、選り好みはするけれど最近はそのジャンルで攻める人達も多くなってきた。

 

 そんな感じで作曲で悩み、作詞も良いフレーズが思い付かず。

 

 完全に行き詰まっていると自覚して、思わずにやける。

 

 

 だからこそ、溢れた音から他でもない“わたし(Mia)”がその未知を生み出した時のあの瞬間(解放感)は何物にも変え難い達成感になる。

 

 

 行き詰まっているとは言ったが、それを苦としては捉えてない、何故ならわたしが生きている限り時間はあるし、その時間を過ごすことを「たのしい」と思う自分がいるから。

 

 

「さ、そろそろ帰ろ」

 

 

 いい気分転換になった。

 

 救いようがないが、わたしはまだまだ音楽に生きる人間みたいだ。

 

*1
VoiceLive 3 Extremeは良いぞ

*2
まずはVT-4を買ってみよう!たのしいぞ

*3
足で踏むだけで簡単にオン・オフを切り替えをしてくれる便利な機能の事

*4
16ビートのリズムを主体とした音楽




廣井ちゃんの曲フルで聴きてぇ〜〜〜〜><とか言ってたのが12月らしいんですがマジ?なんか気付いたらフルで聴けるようになってたし昼は暑くなってきたしGWもう終わるし。え、もうすぐ夏?(バグ)

それはさておきワタシダケユウレイは勿論皆さん聴いてると思うのですが色々パロってる進行多くてすち、ていうかどこをどう聞いても元ネタのバンドの曲色でニチャれる。特にギターが遜色ないレベルでやってる(やってる)

八八さんもう少し都内でやって……やって……(代々地方でクソ遠い)

週一更新出来たら褒めてください。


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