(世界政府にとって)迷惑系動画配信者 (伊勢うこ)
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聖地で奴隷解放したったwww

(ワンピースの二次小説は)初投稿です。

 最近増えているのでこのビッグウェーブに乗るしかないと思いました。例によってにわか勢なのでそこはご容赦ください。


 

 暗闇の中、大きなスクリーンに映し出されたのは一人のあどけない少女の顔。

 

 

「ハローハロー全世界! どうも、動画配信系海賊のウサギで〜っす」

 

 

 海のならず者を名乗る白髪赤眼、頭頂部の大きな兎耳が特徴的な彼女は、朗らかな笑顔のまま映像を見ているであろう人々に挨拶をする。

 

 

「今回はですね、視聴者の皆さまからいただいたリクエストにお応えする形の企画動画となっております!」

 

「いろんな方からメッセージをいただいていましてね、えーっと『天竜人をぶっ飛ばして欲しい』『天竜人に攫われた家族を解放して下さい』『天上金パクってみて』、などなどですね〜」

 

「バチくそ嫌われてますね天さんwww さすがというか、うん、しょうがないよね、って感じかな」

 

 

 どこからか取り出した犯罪を促す手紙を数枚手に、彼女はケタケタと笑う。

 

 

「まぁそんな感じでですね、今回行う企画はズバリこちら!」

 

「ジャン! 『マリージョアに入って奴隷解放してみた!』です! イエ〜イ!」 (テロップと効果音)

 

 

 明らかに「やってみた」では済まされない行為の予告を、少女は嬉々とした様子で告げた。

 もしこの動画の撮影を生で見ている者がいたら、その多くは顔を青くさせていただろう。何せ絶対に犯してはならないタブーをこれから破ろうというのだから。

 

 

「もうそのまんまですね。マリージョアにお邪魔して〜天さんたちのお気にの奴隷guysを解放していこうかな〜って」

 

「天さんシリーズの、もうこれで何回目だっけな、前回やった『天さんのふりしてインペルダウン行ってみた』もそこそこ評判よかったんでね、続きましたね」

 

「アマス口調もおもろかったけど、次はだえ〜口調やってみたいっすね」

 

「またすぐバレるかもですww ウサギスキー聖www 流石に捻らなさすぎましたね、咄嗟に名乗ったんでね」

 

 

 己の過去の犯罪履歴の一部を盛大に暴露した少女は──

 

 

「それは置いといて! さっそくマリージョアにレッツゴー!!」

 

 

 ──笑顔で次の犯罪に乗り出した。罪の自覚があるのか無いのかは、誰にも分からぬまま。

 

 

 

(場面転換中 ウサギを模したチャンネルマークが映される)

 

 

「はい、というわけで! 今ですね、マリージョアにある奴隷用の独房みたいなとこに来てまーす」

 

 

 所打って変わり、少女は薄暗い地下にいた。

 聖地への侵入という犯行がまだ露見しては困るのか、誰にも見つからないように小さな声で語りかける。

 

 

「監視員みたいなカッコをしてるのはですね、やっぱり怪しまれないようにするためですね、ハイ」

 

「ちなみにこの衣装は現地の方から貸していただきました。今は疲れているのか足元でぐっすりとお休み中です。お疲れ様で〜すww」

 

 

 格好を変えた彼女の足元に映る成人男性の顔は俯いていて分からないが、下着のまま気絶して床に転がっている。

 誰が彼をこんな目に遭わせたかは明白だった。

 

 

「そしてですね、今回はなななんと! 現地の方が助っ人として撮影を手伝ってくれることになったんですよ〜ありがたいっすね〜」

 

「さっそく紹介しましょう! この方で〜す」

 

 

 彼女が指す方向に立っていたのは、大柄な男。

 拷問でも受けたのか。全身に無数の傷跡があり、その赤い皮膚からはより赤い液体が流れている。

 付けられていた首の錠、手錠、足枷は外れ、数カ所ほど少女の手による応急処置なのか、包帯が巻かれている。

 

 

「赤いお肌が特徴的な筋肉モリモリマッチョマン! 『タイ』さんで〜す」

 

「あ、ご本人の要望で顔と声にモザイクかけてマース。個人情報、大事ですからね。その辺はしっかりしていきますよ。リテラシーって奴です」

 

「じゃあタイさん、よろしくお願いしますね〜」

 

『……………………あぁ』

 

「無愛想wwさっきもうちょっと喋ってくれたじゃないすか〜www」 (塩対応ww、の文字)

 

 

 顔と声をモザイクに覆われたタイと呼ばれたその男は、陽気な少女とは裏腹に牢を脱出出来たことと、それを手助けした相手に未だ動揺を隠せない様子。

 

 

『牢から出してくれたことには、礼を言う。だが人間と馴れ合う気にはまだなれない。悪いが…………』

 

「あ、そういうのいいんでww 鍵あったんで他の人出すの手伝ってもらっていースカ?」(コキッ)

 

『あ、あぁ…………ところで、頭についているウサギの耳? のようなものはなんなんだ。ミンク族、ではないんだろう?』

 

「そうとも言えるし、そうでないとも言えますね。その説明をする前に今の動画配信界隈の状況を理解する必要が…………」

 

『いや、結構だ。遠慮しておく』

 

 

 草wwwwwと少女は笑った。

 

 

 

 

 再度場面が移り変わる。

 牢を出てから幾許か時間が過ぎたのか、彼らはこの世界の頂点に君臨する殿上人が住まう地に足を運んでいた。

 無論、ただ足を運ぶに留まるはずもない。

 

 

「ハイ、こちらウサギで〜す。今ですね、奴隷の皆さんを解放し終わってなんか高い塔からお届けしていまーす」

 

 

 少女はやはり、呑気に動画の撮影に勤しんでいる。

 

 

「ヤバイっすね、見てくださいこれ。マリージョアのあっちもこっちもキャンプファイヤー状態です」

 

 

 ごうごうと燃え盛るマリージョアと、解放されそこから必死の様子で逃げ出す奴隷たちを映す。

 一体何人いるのか数えられないほど多くの奴隷が、種族を問わずその突然降って湧いた千載一遇の好機を無駄にせぬために懸命に足を動かしている。

 衛兵たちも必死に彼らを逃さぬようにしているものの、数の暴力の前には無力であった。

 

 そんな彼らの様子は、彼女にとって最高の素材だ。

 

 

「めっちゃ奴隷の皆さんが逃げまくってますね〜人がゴミのようだ! ってやつです」

 

 

 眼下の惨状が見えているのかいないのか。奴隷たちの大脱走という一大事件を前に余裕の表情の少女の耳に、遠くで炎が爆ぜる音が届いても「あ、なんかまた爆発しましたね」と軽いリアクション。

 

 

「タイさんは〜…………あ、いましたいました! 兵隊さん相手に無双状態ですww」

 

 

 協力者となった元奴隷の魚人の元気な姿をズームで映す。他の奴隷たちを逃すべく暴れ回る彼は、駐屯兵や駐留していた海兵をその太い腕で次々と薙ぎ払っている。

 

 

「あ〜また人が吹っ飛んで『おい貴様!』…………んお?」

 

 

 戦闘の実況を始めた彼女に、誰かが声をかけた

 振り返ると、頭から大きな金魚鉢のようなものを被り、全体的に白い装いの男性が一人。

 紛れもなくこの世の絶対的な権力者、世界貴族「天竜人」の一人であった。

 

 

『何をこんなところでボサっとしている! さっさとあの魚類を捕らえに行かんかえ!!』

 

 

 彼は聖地の緊急事態を前にしても動こうともしない彼女に腹を立てている様子。

 尊大な様子の命令とも言える口調に彼女は────

 

 

「どうして行かなきゃいけないんですか?」(早口)

 

『は? ど、どうしてって…………』

 

 

 ────反論を始めた。

 

 

「なんか根拠とかあるんすか? 無いんだったらそれ、あなたの感想ですよね?」

 

『ぶ、無礼な! 貴様ら下々民はわちきらのために…………』

 

「えと、なんだろう、用ないんだったら静かにしてもらっていいですか? 撮影してるんで」

 

『さ、撮影? 貴様何を言って…………! ま、まさか…………!?』

 

 

 男性のこれまでの人生において、反論されたことはほとんど無かった。自分は高貴な存在で、口答えなど許されない。

 にも関わらず、目の前の少女はあろうことか堂々と反論してくる。あまつさえ平伏すらしない。彼にとって理解不能な、完全な未知との遭遇。

 本来ならありえない光景、ありえない状況、あり得ない存在を前にたじろぐ男性だったが、少女が放った言葉から彼女の正体を察した。

 

 だが。

 

 

「えいっ⭐︎」 『ぐえぇっ!?』   バタリ

 

 

 その正体を口にする前に失神させられた。拳で。

 

 

「…………ヨシ!」(安全確認)

 

 

 少女は堂々と天をも恐れぬ大犯罪を犯し、満足げにその一部始終を映像に残した。

 

 

 

「あ、いたいた。タイさーん大丈夫っすか〜?」

 

『っ! あんたか、驚かせないでくれ。奴隷たちはどうなった?』

 

「もう皆大体逃げたと思いますよー」

 

 

 一通り塔の上からの画を撮り終えたウサギはそこから降り、タイさん(仮称)と合流した。

 二人の周辺は既に炎に包まれ始め、もうもうと煙が立ちこめている。奴隷たちはそのほとんどが聖地を後にしたようだった。

 

 

『そうか…………こっちも大丈夫だ。あんたも今のうちに逃げた方がいい。折を見て俺もここを出る。海軍の実力者が来る前に──』

 

「あ、ちょっとこっち寄ってもらっていい?」

 

『…………? 何を』

 

 

 刹那。

 

 

 背後を光る何かが通り抜け、轟音と共に遠くの建物が破壊された。

 

 

『なんっ…………!!?』

 

「あー来ちゃったかー。やっぱもうちょい巻いた方がよかったかなー」

 

 

 爆破された建築物とは反対の方角から、何者かが歩いて来た。煙に紛れ、シルエットしか見て取れない。

 長身痩躯の人物の指が瞬くと、そこから少女に向けて光線が発射されるも容易に躱される。

 またしても後方で爆発音。

 

 

「久しぶりーボルサリーノ君。元気ですかー!? (挨拶)」

 

『お陰さんでねぇ〜。悪いがいい加減大人しく取っ捕まって貰うよぉ〜』

 

 

 現れた間伸びした口調の男の名は、ボルサリーノ。

 ピカピカの実を口にした光人間。現役の海軍本部中将であり、後の大将「黄猿」である。

 

 しかし間違いなく実力者の一人である彼を前にしても、少女はカケラも慌てた様子はなかった。

 

 

「無理でしょww ねぇ大将は、大将。出てもらったら動画の再生回数稼げるんだけど。来てないの〜?」

 

『あいにく全員忙しくてねぇ〜。なんせ誰かさんのお陰で一刻も早く来いって言われたもんで、わっしに出番が回ってきたってわけぇ〜』

 

「あっ、ふーん。そっかぁ…………」

 

『露骨に興味なさそうにしないでもらいたいねぇ〜』

 

「や、だいじょぶだよ。君ピカピカするから映えるし、問題ナイナイ」

 

『勝手に撮るの、やめて貰えますぅ〜?』

 

「だいじょぶだいじょぶ、(全身に)モザイク処理するから」

 

『そういうことを言っとるんじゃないんだがねぇ〜。というか、もう名前出したでしょ〜?』

 

「じゃあモザイク音(ピー)もつけとくね」

 

『人の名前を禁止用語みたいに扱うとか、まったく勘弁して欲しいねぇ〜…………』

 

 

 コントのような会話を始めた二人の横で、タイは覚えのある海兵の名前を耳にして歯噛みした。自分では目の前の海兵には敵わないと判断した故に。

 

 

『ボルサリーノ。こんなところで噂の海軍本部中将の登場か、厄介だな…………!』

 

「あ、タイさん忘れてたww ごめんww てか、知ってるんだ?」

 

『ここに連れてこられる前からな。まぁ、まさか自分がそんな奴と戦うことになるとは思わなかったが』

 

『悪いけど、そっちの魚人にも一緒に来てもらうよ〜』 

 

『ボルサリーノ中将!』

 

 

 戦闘を開始しようとするボルサリーノの後方から、武装した海兵たちが続々と現れる。

 犯罪者を逃さぬよう半円形の陣を敷き銃器を構え、その銃口を二人に向けた。

 

 

『くそっ! 援軍か…………!』

 

「タイさん、もう2歩下がってくれる?」

 

『は? 何を…………』

 

 

 数の優位を失い、追い詰められたと思うタイとは逆に、ウサギは落ち着いていた。

 

 

『君らは下がんなよぉ〜。あれは君らじゃあ…………』

 

『投降せよ、海賊ウサギ!! 貴様もこれまで…………ッ!?』

 

 

 何かが、戦場を走った。

 抗い難い悪寒が、正義の徒を無慈悲に襲う。

 犯罪者を捕らえる目的でこの場に来た彼らは自分達の上官の忠告虚しく、その上官一名を残したまま呆気なく気を失い倒れ込んだ。

 

 

「はい、お掃除かんりょー。ロボットよりはやい掃除、はっきりわかんだね。私じゃなきゃ見逃しちゃうYO!」

 

 

 突然起きた一連の現象に、魚人の男は理解が追いつかないようだ。

 窮地に立たされたはずが、一瞬でそれが覆ったことに驚きを隠せない。

 

 

『これは…………』

 

『って遅かったかぁ〜。しかし相変わらず馬鹿げてるねぇ〜その覇気』

 

「私、何かやっちゃいました? 私の覇気が馬鹿げてるって、弱すぎるってこと?」

 

『分かり切っていることを態とらしく聞きなさんなよぉ〜。腹が立つねぇ〜』

 

「まぁ、戦闘パートもいいけどそろそろでんでん虫君がスリープしそうなので帰りますね。そういう訳だから、最後に盛大にフラッシュしてもらえる?」

 

 

 その一言を受け、その場に唯一残った海兵はニッコリと笑った。

 

 

『お断りだよぉ〜…………!!』

 

 

 ボルサリーノの両の手に、光が集う。

 

 事件の映像はここで途切れ、スクリーンには「ウサギちゃんねるをよろしく!」の文字が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 偉大なる航路、某海域

 

 マリージョア襲撃事件から一夜明け。

 大勢の奴隷を解放した彼らは現在、朝焼けの海に浮かぶ一隻の船の中にいた。

 にんじんを咥えた兎を模したファンシーなデザインのその船の一室。「せんちょーしつ」と丸い文体で書かれた扉の内側で船の主人は画面を見ながら忙しなく手を動かし、赤い魚人はそれをどこか落ち着かない様子で見ていた。彼が落ち着かないのは、薄暗い部屋の中がやけに多いコードや、菓子、ぬいぐるみで散らかり足の踏み場もないこともあるが。

 

 

「アンタには助けられた、礼を言う。アンタの助力がなけりゃ今頃みんな…………」

 

「あーいいのいいの気にしないで。それよかそっちのデコデコ電伝虫とって?」

 

「あ、あぁ。このやけに派手なやつか?」

 

 

 感謝の言葉を軽く流された赤い魚人、タイガーは床に転がっていたやたら飾り付けられた電伝虫を拾い、恩人である彼女の手元に置いた。

 

 

「サンキュー。ところでタイさん、これからどうすんの?」

 

「俺はひとまず、一度故郷に帰ろうと思っている。みんなに顔を見せに行きたい」

 

「ふーん、そっかぁ。がんばえー」

 

 

 彼女は画面から顔を動かすことなく礼を告げ、タイガーがこれからとる行動にも然程興味を示さずにカタカタと忙しなく作業を継続している。

 

 

「アンタは? それに、この船に乗せた奴隷たちをどうする」

 

「んー、とりあえず返せそうな人たちは返しに回るかなー。あとはシャボンディにいる知り合いと相談って感じ?」

 

「そうか。なにかあれば言ってくれ。この恩は必ず返す」

 

 

 その言葉を待っていましたとばかりに、座っていた椅子ごとぐるりと勢いよく体を回転させてタイガーの方へと向けた。

 

 

「ありがとナス! じゃあ早速動画の編集を…………」

 

「他の連中の様子を見てくる」

 

「あぁ〜嘘つきぃ〜何でもするって言ったのにぃ〜」

 

 

 ブーブーと文句を言う少女の姿は、自分達を地獄から解き放った大恩人とは信じがたくなるほど無邪気なもの。

 だが聖地にこっそりと侵入したり、鍵がなければ外せないはずの首の錠を素手で外したり、大勢の海兵を一瞬で戦闘不能にしたり、中将を相手に余裕綽々に逃げ切ったりと、色々と得体が知れないのも確かだ。

 

 彼女が自分の目の前に現れた時を思い出す。

 まだあれから一日と経っていないが、出会ってからの時間が濃すぎた。

 

 薄汚れた牢の中。

 人間に囚われ理不尽な目に遭い、深い絶望の中にいた自分。人間に失望し憎しみすら抱き始めていたが、そんなこと知ったこっちゃねぇとばかりに彼女はタイガーを解放した。

 不信感から何が目的かを問えば、「動画の撮影」とよく分からないことを喋り出し、助け出した対価にその撮影に協力しろという。タイガーは他の奴隷たちも逃すことを条件に、彼女の言葉を呑んだ。モザイクは念のためかけてもらった。

 

 

「言っていないが…………なぁ、アンタもしかして」

 

 

 奴隷として捕まる前。冒険家として世界を回っていたタイガーには、少女の正体に一つだけ覚えがあった。旅の途中で時折耳にした、大海賊時代より前から活動する海賊の一人。

 

 

「あえ、言ってなかったっけ? 私はね──」

 

 

 

 

 

 映像投影用の電伝虫の瞳が閉じる。

 

 映像が終了したとあっても、視聴していた者たちの表情は晴れるどころか一層厳しいものになっていた。

 

 

「以上が、今からおよそ16年前に起きた聖地襲撃事件の様子です」

 

 

 偉大なる航路前半の島、マリンフォード。

 そこに聳え立つ正義の要塞・海軍本部の一室では、現在ある海賊の脅威の対策と再認識を目的とした試聴会が行われていた。

 本部所属の将校の多くが集められ、改めてその海賊の異常性を危険視する。遭遇した経験を持つ者の中には、苦虫を噛み潰したような表情になる者までいた。

 

 

「この他にも奴が世に放った映像はいくつも存在し、デビュー作と言われているエッドウォー海戦を記録した『ウチの船長と金獅子の大喧嘩撮ってみた』や、『クラーケン見つけたったww』、『アラバスタの砂漠でオアシス掘ってみた』など他多数。また、天竜人に対しても幾度となく問題行動を起こしていますが、政府が特に危険視している理由としましては、かつてオハラで行われたバスターコールの────」

 

「あぁ、よく分かった。それ以上は言わなくて結構だ」

 

「はっ」

 

 

 司会のブランニューの進行を途中で止めたのは、彼の上官だった。

 がっちりとした体躯にアフロヘアー、編んだ顎髭、丸眼鏡が特徴的な男。

 彼こそがこの海の安寧と秩序、平和と正義を背負う全海兵の頂点に立つ男。

 

 海軍元帥・「仏」のセンゴクだった。

 

 

「つくづくイカれた女だ、今思い返しても頭が痛くなる。いや、胃の方が…………」

 

「情けないこと言うんじゃないよ。しっかりおし」

 

「しかしおつるさん……」

 

「そうじゃぞ、センゴク。おつるちゃんの言う通りじゃ。…………ところでこれ新しいやつは見れんのか?」

 

「勝手に触るな見ようともするな聞いているのかガープぅ!!」

 

 同期である海軍中将「大参謀」おつるに叱咤された彼の胃の荒れようを加速させたのは、同じく同期であり中将である海軍の「英雄」、生きる伝説とも言われるモンキー・D・ガープだった。

 

 

「ガープ貴様、他人事だと思って…………! 私がどれだけ上から文句を言われているか知っているのか?」

 

 

 痛む胃の辺りを撫でながら、相変わらず破天荒で勝手極まる戦友へ恨みがましげに愚痴を吐く。

 センゴクの問いに対して、席に戻ったガープは手元の茶を啜ったあと、こう言い放った。

 

 

「知らん!」

 

「あぁそうだろうな!! 貴様に聞いた私がバカだった!」

 

「センゴク元帥、そのあたりで」

 

 

 部下に諌められ、大きく息を吐いて切り替える。ガープは煎餅を齧り出したが無視した。

 

 

「まぁいい。それで、今奴はどこに?」

 

「現在は新世界から偉大なる航路前半の海に移ったとの情報が入っています。目的は不明ですが、恐らくまた新たな動画を撮る為かと」

 

「また随分と動いたな…………! 待て、サカズキ! 何処に行く?」

 

 

 会議室から退出しようと席を立ったのは、海軍最大戦力である「三大将」の一人。

 悪党への燃え沸る敵意を抱き、徹底的に叩き潰すことを正義に掲げる海兵。

 赤犬ことサカズキだった。

 

 

「決まっちょろうが。奴の居る場所が割れたのなら、ワシが出る」

 

「おいおい、そいつはちょっと急ぎすぎじゃねーの? 場所だってまだかなりアバウトだろ」

 

「君一人で大丈夫か〜い?」

 

 

 逸る赤犬を留めたのは、残る二人の大将。

 青雉・クザンと黄猿・ボルサリーノだった。

 

 しかし二人の態度が気に障ったのか、赤犬は鋭い視線を彼らに向けてギロリと睨みつける。

 

 

「貴様らがいつまでもトロトロとしちょるから、奴に好き勝手されるんじゃ…………! 大体ボルサリーノ、貴様があの場で奴を仕留めておけば…………」

 

「そこまでだ! …………本気で奴を捕らえるなら、こちらも相応の戦力を動かす必要がある。最低でもお前達のうち二人には出てもらうつもりだ。命令が下るまでは、勝手な真似はするな!」

 

 

 仲違いを起こされても困る元帥は、口論になるより前に口を挟んだ。

 

 

「ぬぅ…………!!」

 

「そりゃぁ、大捕物になりそうだ。気が重くなる」

 

「おぉ〜責任重大だねぇ〜」

 

 

 納得はいかないが一定の理解はしたのか、サカズキは席に戻り、他の大将二名はいずれ下される命令にそれぞれの反応を示した。

 サカズキを諌めたセンゴクは、話の続きを部下に促す。

 

 

「それではここで改めて、分かっているだけではありますが奴の経歴と現在の懸賞金を説明したいと思います」

 

 

 ブランニューの進行に合わせて、映像でんでん虫がスクリーンに映す対象を動画から手配書に載る海賊の顔へと切り替える。

 大勢の視線の先に映るのは、海賊とは思えないほど幼い少女の純粋な笑顔。一見すると彼ら海兵が守るべきか弱い市民の一人にしか見えないが、この場において素直にそう捉える者は誰一人としていない。見た目には騙されない。彼等はそれが悪魔の微笑みだと知っているから。

 

 

「出身地、正確な年齢は不明。ですが幼い頃より海賊王の船に乗っていたことが確認されています。容姿に関しましては今の姿から数十年変化が見られておりません。ロジャー海賊団乗船員時代から動画撮影を始め、それを世界に拡散。解散後は単身で世界各地に出没、問題あるものを含め数多の動画を無差別的に世界中にばら撒き始めました」

 

「過去には複数名の本部中将が率いる部隊から逃げおおせており、当時の大将による作戦も同様に失敗に終わりました。また、CPからも刺客を放たれるも逆に彼らを捕え、動画編集作業をさせる様子を配信しましたが、こちらは現在おおよそのデータが削除されております」

 

「さらに革命軍とも繋がりがある可能性が示唆されており、政府関係者からも奴を危険視する声は年々増加しています。そのため世界政府にとって最も厄介な犯罪者の一人と言えるでしょう」

 

「一般市民に危害を加えるでもなく、海軍や政府に積極的に攻撃を加えるでもなく、ナワバリにも興味を示さず。海賊らしい行為には殆ど手をつけないにもかかわらず、ただ無邪気に動画を世界に流し続けるヤツの首に政府が懸けた金額は────」

 

 

 

“配震“ ウサギ

懸賞金 33億8千2百10万ベリー

 

 

 

 

 

「────かわいいかわいいウサギさんだぜぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 以下設定など

 

 

 character

 

 name:ウサギ

 

 

 殆ど海賊らしいことはしない、自称海賊。ただし海賊相手の略奪はよくやる常習犯。

 

 二つ名は、時に世界を震撼させるような動画を撒き散らすことから“配震“。また世界を股にかけるフットワークの軽さと逃走能力から“高跳び“とも。船の名前はラビット・ファイア号。

 

 普通のおもしろ動画から世界政府にとって不都合なものまで世界にお届けする、謎多き困った旅する兎娘。ミンクではなく、種族は普通の人間。兎耳はキャラ付けのためにつけてる。一部からカリスマ的な人気を博す。

 

 懸賞金の額の33億は(兎の)耳から、それより下の数字はバニー(821)の語呂合わせ(バニーガールの格好はしていない)。こんなに高くなったのは誰に追われても捕まることがないことと、長年の積もり積もった彼女に対する世界政府の怒りと危険視の証。過去には色々と表には出せないようなものまで流出し、そのため政府役人が火消しに奔走することになるケースも。ただ裏ではその動画データが高値で取引されているとも噂される。

 また、彼女の対策に頭を抱えた政府はかつて七武海への勧誘を行ったことがあるが、動画のネタにされただけだった。

 

 彼女の登場まで動画配信・投稿は文化として無名だったが、以後は彼女とその動画の知名度が上がるにつれて広がりを見せる。動画を配信する者も次第に増えていったが犯罪行為に手を染めるケースも発生、海軍や政府が対応にあたることが増えた。そのため規制がかかるようになり、元凶として彼女を危険視する要素の一つに。

 

 実力に関しては元ロジャー海賊団のクルー故か高く、特に覇気の扱いに優れる。ただ戦闘自体に大した興味はなく、毎回テキトーにやって逃げるため底が知れない。四皇相手にも逃げ切る程。戦って勝てはしないが。推定、非能力者。

 動画配信に関してはロジャー達はいくつかの決まりごとを守らせた上で彼女の好きにさせていた。その上で彼らも面白がっていた様子。

 

 動画配信に関しては映像配信電伝虫を利用。

 映像配信電伝虫の登場以前は映像電伝虫を使って撮影、編集したそれを各地の電伝虫を(勝手に)利用して放送したり、生配信したり、映像を記憶させた個体をばら撒いたりしていた。映像配信電伝虫は原作新世界編開始の3年前からその存在が確認されていると見られるので、そのあたりからウサギも利用し始める。

 

 ちなみに一番有名になったのは「空島行ってみた」という動画。これ自体は特に政府に問題視されていないが、海賊たちや一般市民の間で話題を呼んだ。実際に自分も空島に行くという者が増えたが、それにより道中で壊れた船と死者も増えることとなる。

 

 革命軍との関係は政府も把握し切れていない。実際はドラゴンや一部幹部と面識がある程度。協力関係にあるとは言い難いが、敵対しているわけでもなくお互いに不干渉に近い。

 

 

 聖地マリージョア侵入・襲撃並びに奴隷解放によりフィッシャー・タイガーは公には主犯として懸賞金がかかり、公式では犯人扱いされていないウサギの懸賞金額も密かに上がった。

 事件自体が本来より早く引き起こされたことで、タイガー他、捕まっていた奴隷(ハンコックたち三姉妹など)達は原作より少し早く解放されることに。解放された後、彼らの多くはウサギに送り届けられた者、シャボンディについてから別れた者、シャボンディ諸島に住む彼女の知り合いの手で故郷に送り届けられた者に分けられる。

 

 タイガーは一度魚人島に戻り、タイヨウの海賊団を結成。以降、彼とウサギとの接触は少なくなる。

 

 

 

 終わり。




最後まで読んでいただきありがとうございました。
続きは完全未定ですが感想、高評価等いただけると嬉しいです。それでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


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【私が】インペルダウン侵入&脱出RTAやってみた【世界最速】

 こんな設定ガバガバ、ONE PIECEの二次小説の風上にも置けぬ作品を読んでいただきありがとうございます。
 予想外の好評につき続きを投下します。今後は不明ですが。
 感想、高評価をくださった皆様、ありがとうございます。

 当作品内における配信方法については未だ設定としてあやふやな感じですが、それでもよければお楽しみください。


 

「ハローハロー全世界! どうも、動画配信者系海賊のウサギでぇ〜っす!」

 

 

 海賊を名乗る少女は、今日も世界に向けた動画を撮影するべく愛用の映像電伝虫を回していた。

 

 

「今回の企画を発表する前にですね、いま私がどこにいるか分かりますか〜?」

 

 

 画面に映る彼女は、薄暗いどこかに声量を抑えて潜んでいた。

 閉鎖的な印象を受けるそこは、どうやら人一人がやっと入れそうな箱の中のようだ。海上にでもいるのか、少し画面が揺れているのが分かる。

 

 

「正解は船の中! なんと海軍の軍艦に潜伏中なんですよね〜」

 

 

 彼女は今日も、世界の法に触れている。

 世界の海の平穏を守る組織である海軍の有する軍艦へ侵入。つまり密航。捕縛対象である海賊であるにも関わらず。

 

 では密航者である彼女は、何処へ向かうのか? 

 

 

「海軍の船に乗ってどこに行くかというと────」

 

「────世界一の大監獄! インペルダウン! イェーイ!」(テロップと効果音)

 

 

 海底大監獄・インペルダウン。

 

 未だかつて一人の侵入者や脱獄者を出していない、不敗神話を誇る文字通り世界一の監獄。

 世界各地から捕まった凶悪犯が投獄され、日々地獄のような責め苦を味わっているとされる、まさにこの世の地獄。一度檻へと入れられれば、二度と日の目を見ることは無いという。

 ならず者たちにとっては絶対に避けたいはずの終着点そのものと言える場所に、彼女は自分から足を踏み入れようとしていた。

 

 

「視聴者さんの中には名前は知ってるけど中に入ったことがないですとか、中が気になるといった人、多いと思います。なので、中の様子をこの電伝虫で撮りながら行きたいと思いまーす」

 

 

 そして、微塵もそんなところへ赴く様子を見せぬまま。

 

 

「ただ今回。単純に行くだけじゃつまらないのでですね、今回はどれだけ早く入って出てこれるかを検証したいと思います」

 

「題して! 『インペルダウン侵入&脱出RTAやってみた』! イェーイ!」(テロップと効果音)

 

「まぁちょっと知り合いに会ってくるつもりなので、厳密にタイムにこだわるRTAとはちょっと違うんですが。まぁ多分私が世界初だと思うので、私の記録が世界最速になるんじゃないかな。よってRTA!」

 

「ちなみにタイムの計測は正面入り口から忍び込んで出てくるまでを想定してまーす」

 

「あ、船が停まりましたね。じゃ、早速行ってきたいと思います!」

 

「レッツゴー! インペルダウン!」

 

 

 少女は地獄へと踏み込んだ。

 

 

 

 

 その日、インペルダウンは騒然としていた。

 

 

「何事だ!?」

 

「し、侵入者です! 何者かがこのインペルダウンに侵入した模様!」

 

「莫迦な!? ありえん!! ここは世界一の────」

 

 

 獄内を、警報の音と光が満たす。

 この監獄が誕生してから一度もなかった緊急事態。刑務官たちの誰もが度肝を抜かれ狼狽する中、副署長を務める男は努めて状況の把握を急いだ。

 有り得べからざるこの異常事態に陥った時点で、既に後手に回っていると知ってなお。

 

 

「っ! モニターに侵入者の姿を捉えました! こ、こいつは…………!?」

 

 

 モニターに映し出されたのは、年端もいかぬ少女。

 映像電伝虫で監獄内を撮影するその姿はこの大監獄とはおおよそかけ離れているように見えるが、彼らはその少女が怪物であると知っている。

 

 

「“配震“…………!! あのイカれた兎女かっ…………!」

 

「マ、マゼラン副署長…………」

 

「すぐに部隊を動かせ! なんとしても、このインペルダウンから…………」

 

 

 生かして出すな、と指示を飛ばそうとした時だった。

 

 

『モニター室! こちらLEVEL3! 応答を!!」

 

 

 大監獄地下第三回層、LEVEL3:飢餓地獄から緊急入電。看守の男は慌てている様子だった。

 

 

「何があった!?」

 

『あぁ、マゼラン副署長! 大変です! 侵入者に獄卒獣たちが軒並み倒され、レ、LEVEL4へと…………」

 

「なんだと…………!?」

 

 

 早すぎる。

 侵入から僅かな時間で──そもそもいつ忍び込まれたかすら不明だが──もうLEVEL4まで辿り着かれた。

 LEVEL3は囚人たちも恐れる獄卒獣が徘徊する危険度の高いエリア。そこをこうも短時間で踏破されるとは、どういうことか。

 ジリジリと高まる焦燥感から流れた落ちた汗が、床を僅かに溶かす。

 

 

『さらに階層をまたぐ通路を岩と倒された獄卒獣たちで塞がれ、こちらからでは追うことも叶わず…………』

 

「おのれ…………!!」

 

 侵入者の目的すら不明のまま、事態は悪化していく。

 万が一脱出などされては事だ。こうなっては、やはり自分が出るしかない。

 

 凶報は続く。

 

 

『マ、マゼラン副署長〜〜〜〜!!』

 

「っ!? ハンニャバルか!? どうした、何があった!?」

 

『こ、こちらLEVEL4! 侵入者いました助けて〜〜〜〜!!』

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

 

 

 インペルダウン始まって以来の大失態。

 大監獄の長い1日は、まだ終わりそうにない。

 

 

 

 

 インペルダウン最深部、LEVEL6:無限地獄

 

 一般にはLEVEL5までしか存在しないと言われるが、少女はその更に下の階層にいた。

 世間からその存在を抹消するべきだとされた凶悪犯たちが繋がれた、地獄の奥底。

 囚人たちに与えられるのは、死にたくなる程の無限の退屈のみ。一切の刺激はない。

 

 筈だった。昨日までは。

 

 

「はい、着きました! ここがインペルダウンの最下層みたいですね〜。なんか牢屋いっぱいありますねぇ〜、あ、個室みたいのもあるんだ〜」

 

 

 まるで初めて訪れたホテルの部屋を眺めるかのようなテンションで、少女はフロアを観察しながら歩き始める。そこにあるのは牢獄のみだが。

 

 

「じゃあまず知り合いの部屋を探して…………」

 

「相変わらずその玩具で遊んでんのか、ウサギ」

 

「!」

 

 

 一つの牢の中。鎖に繋がれた何者かが、少女に声をかけた。

 

 

「知り合いはっけーん! どうどう? 元気にしてた〜?」

 

「ジハハ、見ての通りだ。退屈でしょうがねぇ」

 

 

 その男を一言で表すならば、獅子。

 鬣のような金髪に、力のある眼。何故か頭部にめり込んだ舵輪が特徴的な男は、牢獄の壁に背を預けながらまさかの珍客に笑みを浮かべていた。

 

 

「というわけで、今回のゲストは元大海賊、『金獅子』のシキさんでーっす! イェーイぱちぱちぱち〜」

 

「誰が『元』だ! 俺は今でも海賊…………」

 

「あ、電伝虫回してるけどいいよね? あと要らないと思うけど、モザイクいる?」

 

「せめて最後まで言わせろ! あと聞くのが遅ぇ!?」

 

 

 傍若無人な少女に鋭いツッコミを入れ、海賊『金獅子』のシキはため息をついた。

 

 

「相変わらず生意気で勝手なヤツだ。人の話なんざてんで聞きゃしねぇ。誰の影響なんだか」

 

「そんな褒めなくても…………」

 

「褒めてねぇよ! その耳は飾りか!?」

 

「あ、このおっきいのはそうだよ」

 

「そっちじゃねえよ!?」

 

 

 久々に大きな声を出したのか咽せたシキの様子(リアクション)を映像電伝虫に収めご満悦な少女は、どこからか唐草模様の袋を取り出した。

 

 

「まぁまぁそう言わずに協力してよ。お土産持ってきたからさ」

 

「おっ、なんだ気が利くじゃねぇか。酒の一つでも…………」

 

「はい、交換用の舵輪」

 

「そうそうこれだよこれ。最近ちょっとサイズが合わなくてよ、そろそろ交換…………したことねぇよ!? 抜けねぇって知ってんだろテメェ!?」

 

「そりゃあ現場にいたしね」

 

「ぶっ殺す!!」

 

 

 ガシャガシャと自分を縛る鎖を鳴らしながら暴れる金獅子を、兎娘は「草生えるwwww」と流した。

 

 

「ウソウソ、はいお酒と葉巻」

 

「最初からそっちを出せってんだ、全く…………」

 

 

 火をつけた葉巻と栓を抜いた酒瓶を檻越しに受け取り、一服。

 ようやく落ち着いたシキだったが、それも長くは保たなかった。

 

 

「それで、こんなとこまで態々何しに来やがった? 昔話でもしにきたかよ?」

 

「動画撮影に決まってんじゃん。だからなんか面白い話して」

 

「無茶振り!? そういうのって事前に考えてくるもんだろ!?」

 

「ほらほら早く〜。シキの親分は面白い話の一つも出来ないって、部下のみんなに知られちゃうよー?」

 

「タチ悪いなテメェ!? ちょっ、ちょっと待て、いま…………」

 

「ところで何で海軍本部に一人で突っ込んだの?」

 

「興味ねぇなら最初から聞くんじゃねぇ!」

 

 

 立て続けにつっこんで疲れたのか。はぁ、と再びため息をついてから酒を呷り、息を吐く。

 シキは先程とは少し違う様子で口を開いた。

 

 

「…………何で一人で突っ走ったかって? そりゃ、気に入らなかったってだけだ。勝手に捕まったロジャーの馬鹿も、それを声高に言い触らす海軍の連中も」

 

「負けるって考えなかったの?」

 

「ジハハハハ!! そりゃあ、普段の俺ならあんな真似しねぇさ。俺はどっかの馬鹿とは違って、事前に戦力分析ってやつをちゃんとするんでな」

 

「じゃあなんで一人で行ったの?」

 

「さぁな。だが、勝つか負けるかなんざ気にしちゃいなかった。そんでセンゴクとガープと戦りあって、結果この様だ」

 

「後悔してる?」

 

「いや。まぁ、我ながららしくねぇ真似をしたとは思ってるぜ。一人で勝算も立てねぇまま喧嘩売ったのもそうだが、何よりあのクソッタレが捕まったと聞いただけでトサカに来たことが」

 

「あぁ、鶏だから?」

 

「そうそう、俺様こそが大海賊「鶏」の…………いや誰!? 「金獅子」だ金獅子! 『金獅子』のシキだ俺ァ!」

 

「じゃあ私そろそろ帰るね。帰り道の分の電伝虫の元気温存しなきゃだから」

 

「ホントに何しにきたテメェ!?」

 

「以上、金獅子のシキさんでしたー!」

 

 

 映像が途切れ、画面には「ウサギちゃんねるをよろしく!」の文字が映される。

 

 

 

 

 電伝虫が一旦の休息を取るべく瞼を閉じた。

 記録に残らない彼らの会話が始まる。

 

 

「おい、ウサギ」

 

「なに〜? 寂しがられても私ホントに帰るよ?」

 

 

 撮りたいものは撮り終え地獄の底から去ろうとするウサギの背に、シキは声をかけた。

 

 

「そうじゃねぇ。オマエ、今の海をどう思ってる?」

 

「どうって言われても、海賊増えたねーくらいにしか」

 

「そう、増えちまった。宝狙いのミーハーどもばっかがな。そんな奴らが堂々と海賊名乗って何になる? 大海賊時代? 何が新時代だ、笑わせるぜ」

 

 

 海賊こそが海の支配者であると豪語する彼は、心底胸糞悪いとばかりに吐き捨てた。

 先程までの陽気さは消え、そこにいたのは紛れもなくかつて海で覇を競い続けた一匹の獅子。

 

 彼は激動の時代を生き抜いた海賊としての矜持から、今の海と、そこに現れた海賊たちを否定する。

 

 

「海賊は増えたんじゃねぇ。減ったのさ。本物の海賊はな」

 

「それ、私に言う事?」

 

「そうだな。動画配信だかなんだかやってる、海賊かどうかも怪しいやつにする話じゃあねぇかもな」

 

 

 だが、と男は口を開き続ける。

 

 

「オマエは本物ってヤツを知っている。あいつの船に居た、オマエは」

 

「何が言いたいわけ?」

 

 

 男の回りくどい言い方から自分に何か話があると察した少女に見える女は、単刀直入に尋ねた。

 

 

「俺がここから出たら、ウサギ。俺と来い」

 

「やだ」

 

「今度こそ全世界を支配して、海賊が海の支配者だと解らせてやるのさ。俺の力と計画に、今のお前の影響力があれば出来ない話じゃねぇ。どうだ、興味あるか?」

 

「生憎だけど私忙しいんだよね。それに────」

 

 

 ニヤリと笑う。

 彼が知る当時のままの、生意気な笑み。

 

 

「────私どっちかっていうと、支配とかぶっ壊す側だからさ!」

 

 

 ────おれは“支配“に興味がねェんだよ、シキ!!! 

 

 

 その姿は、結局互いに適合することはなかった彼のかつての好敵手を想起させた。

 この少女もまた、あの海賊王のクルーだったなと思い出す。

 

 

「…………そうか。ジハハハハ、こんな小娘にこんな話持ちかけるなんざ、俺もヤキが回ったな」

 

「失礼なヤツだなー。てか、ホント好きだよねそういうの」

 

「まぁな。性分ってやつだ、今更変わりゃしねぇよ」

 

 

 ジハハ、と特徴的な笑い声で愉快気に彼は笑う。

 

 

「じゃあもう私行くね。バイバイ、シキ。またね〜」

 

「あぁ、またな…………」

 

 

 こうして、かつての時代を知る二人の海賊の奇妙な再会は幕を閉じた。

 

 金獅子のシキが己の両足を断ち、インペルダウン史上初の脱獄者となる、およそ一年前の出来事である。

 

 

 

「あとオマエそろそろいい歳だろ。そのガキみてぇな真似やめた方が…………」

 

「ウサギさんは永遠の17歳ですぅ!!」

 

 

 

 

 

 聖地マリージョア 同 パンゲア城 権力の間

 

 そこには5人の男たちが集まっていた。

 世界政府の最高権力者である彼らは一本の動画を見終え、一様に眉を寄せていた。その原因は、これまで幾度となく厄介な問題を起こしてきた、ある一人の女海賊。

 動画には、大監獄内の様子(収監された罪人へのインタビュー、拷問の様子。獄内のフロア、薙ぎ倒される獄卒獣や彼女を追う看守たち)が映っていた。

 

 

「またあの小娘か…………」

 

「まさかインペルダウンに侵入するとは…………」

 

「幸い脱獄者は出なかったそうだが、これでまた政府の面子が…………」

 

「幸いなものか。またしても仕掛けられて取り逃がした。これで一体何度目だ?」

 

「数えたくもないのは確かだ」

 

 

 もう何度目か分からないほどの事態だが、彼らは一向に慣れる気配がなかった。

 世界各地に現れては何かしらのことをしでかし、追えど追えども決して捕まらない厄介者。それが件の海賊であり、彼らにとって彼女は疫病神に他ならない。

 

 

「ともかく、インペルダウンの警備をより強化する必要がある」

 

「左様。これ以上侵入や脱獄に成功する輩が現れれば、大監獄だけでなく政府の沽券に関わる」

 

「マスコミにも規制させなくてはな」

 

「奴が相手では情報封鎖にも限界があろう。懸賞金の額はどうする?」

 

「こちらがすぐに反応しては奴の犯行を認めたことになる。時期をずらして…………」

 

「し、失礼致します!! 大変です五老星!」

 

 

 大監獄に侵入した者についての議論を重ねる彼らの前に、慌てた様子の海兵が飛び込んできた。

 小脇に映像電伝虫を抱えて。

 

 

「今度はなんだ!?」

 

「またあの小娘か…………!?」

 

「まさか、昨日の今日だぞ!?」

 

「落ち着け。話を聞かねば何も分かるまい」

 

「左様。それで、何事だ?」

 

「は、はっ! とにかくこちらを見ていただければ…………!」

 

 

 部屋に備え付けられた小型スクリーンに、映像が投影される。

 そこに映っていたのは────

 

 

『イェーイ! みんな見てる〜!? 動画配信系海賊、ウサギでぇ〜っす! 今回の企画はズバリ「海軍の軍艦でタライ海流周回してみた」! てな訳で早速いってきまーす!」

 

 

 ────海軍の軍艦を占拠した海賊少女だった。

 

 世界三大機関を結ぶ海流を軍艦で回り続け、その様子が映し出されている。

 

 何故? 

 何故彼女がこんなことをしているのか、彼らには理解が及ばなかった。

 タライ海流は「正義の門」で固く閉ざされた世界政府の重要機関を結ぶ世界政府専用の航路である。当然政府の関係者しか出入り出来ず、如何に海軍の軍艦に乗っていようと、海賊ではただ渦を彷徨い続けその内海軍に捕まるか死ぬだけ。

 彼女のことだから何かしら脱出手段があるのだろうと考えられるが、それにしたって何故こんなことをするのか。どんな目的があるのか。彼らには一向に解らない。

 

 何か恐るべき狙いがあるのではないか。はたまたこの謎の行動自体がなんらかのメッセージなのか。彼らは思考を巡らせる。これ以上の被害を避けるために。

 そこに大した意味や理由などなく、「ただ撮りたくなっただけ」であるとは知る由もないが。

 

 そうして考えに考えた結果────

 

 

「「「「「??????????」」」」」

 

 

 ────五老星は、考えるのをやめた。




 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 今回の時系列としてはバレットが捕まる少し前あたりを想定してます。インペルダウンの構造(管制室どこにあるのか)についてなどは調べても分からなかったので比較的地上に近い所にあると勝手に判断致しました。

 ウサギの配信方法について
 設定の段階では非能力者でしたが、ONE PIECEといえば悪魔の実。能力者にすればキャラとしていい感じに弱点もできて配信についても問題解決と思いましたが、能力による全世界配信にすると政府が揉み消しきれるのか、とも思いました。前話で挙げた配信方法でも時間をかければ影響力という点では説明がつきますが、再生回数やコメントなどの配信要素を混ぜるとなるとなんらかの能力の方が都合がいいように感じています。あの世界配信サイトとか流石に無いと思うので。
 つまり大事な設定は書く前にちゃんと決めときましょうということですね。配信方法については決まり次第改めてお知らせしますので、それまでは申し訳ありませんが、そのあたりについて目を逸らしてご覧頂ければと思います。
 今後も何卒よろしくお願いします。それでは。


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ミッドロール・ストーリー① シャボンディ諸島

 まだ肝心な部分の設定が固まってない「何やってんだお前ェ!!」(ドン!!)な二次小説へようこそ。

 すまない・・・・・・まだなんとなくしか決まってないんだ・・・・・・空前絶後の設定ガバガバ作品ですまない。
 そんな作品にも関わらず応援していただいております。本当にありがとうございます。がんばるます。


 

 偉大なる航路前半の島 シャボンディ諸島

 

 幾つもの巨大なマングローブが集まって形成されているその特殊な島では、日頃から騒ぎが絶えない。海軍本部や聖地マリージョアが近くにあっても、あるいは近いからこそ。

 偉大なる航路後半の海“新世界“へ乗り込もうとする無法者たちの衝突、彼らを捕らえんとする海軍との争い、人攫いに奴隷売買、世界貴族「天竜人」の起こす合法の諸問題。

 

 島の根から次々に浮かんでくるシャボン玉のように、この諸島で起こる問題は尽きることがない。

 そして今日もまた、人々を騒がせる問題が起きていた。

 

 

『ハローハロー全世界! どうも、動画配信系海賊のウサギでぇ〜っす! 今回はですね、このたくさんゲットした天さんたちがいつも被ってる透明ヘルメットの耐久実験を────」

 

「撮れ! 撮りまくれ!! ウサギがまたやったぞ!」

 

「本社! こちらシャボンディ諸島取材班! スクープ、スクープです! すぐに号外を────」

 

「放送を止めろ!! 電伝虫の電源を切れ!」

 

「ダメです大佐! 外部から遠隔で操っているようです!」

 

「CPは!? 政府の役人どもはどうした!?」

 

「も、もう間も無くかと!!」

 

 

 シャボンディ諸島の中央エリアでは、設置されたスクリーンにある海賊による映像が映し出されていた。

 どんな非道を行おうと許され、絶対的な権力を持ち、あらゆる存在を跪かせてきた世界貴族相手に盗みを働き、さらには彼らの持ち物をおもちゃにするという、およそ正気の沙汰とは呼べない行動。

 それが白昼堂々映し出され、人々は身分も種族も問わず足を止めその映像を見ていた。ただしその表情は、大きく分けて喜悦と焦燥の二つに分かれていたが。

 

 

「下がって! 下がってくださーい!!」

 

「撮影は許可されていません! お引き取りを!!」

 

「そんなわけにいくか! 撮らせてくれ!」

 

「またあのイカれ海賊がやりやがった!! 天竜人に!!」

 

「引っ込め海軍──!!」

 

 

 とても世間に流せないような代物を巡って、現場は騒然としていた。

 映像を一刻も早く消し、騒ぎの収拾をつけようとする政府側の海軍。彼らの圧力にも負けず意地でも映像を撮ろうとするジャーナリストたち。それを外から見る民衆と、遠巻きに騒ぎ立てる海賊まで。

 海兵たちの規制に負けじと押し寄せるマスメディアと一般市民の波は、暴動のそれにも似ていた。

 まさに混沌とした状況だが、海兵たちは意地でなんとか抑え込んでいる。

 

 

「まだ掛かるのか!? 早くしなければ、マスコミ共がこのことを…………」

 

「大佐殿!」

 

「今度はなんだ!?」

 

「報告! 現在このシャボンディ諸島全域で問題映像が流されている模様! ここだけではありません!!」

 

「なんだと…………!?」

 

 

 彼らの思惑を嘲笑うように、事態は悪化していく。

 

 これがただの海賊による暴動ならばまだマシだっただろう。その海賊を取り押さえれば収まるのだから。

 しかし元凶はこの場にいない。よって捕まえることは出来ず、彼らには映像を止めるしか手段がない。尤も犯人がこの場にいたところで拿捕可能かは別の話だが。

 

 

「本部に援軍の要請を出せ! 大至急だ!!」

 

「りょ、了解!!」

 

 

 相手は世界でも屈指の厄介者。暴力ではなく、映像で政府に被害を与える異端の海賊。

 一度でも捕まえることが出来た者は一人として居らず、今現在ものうのうと野放しにされている無法者。それもタチの悪いことに、一部の市民から支持を得ているような。

 電伝虫一匹で世界を震撼させてきたヤツの名は────

 

 

「貴様の好きにはさせんぞ、“配震“ウサギ…………!!」

 

 

 海軍本部大佐が空を睨みながら吐き捨てた言葉は、誰に聞かれるでもなくシャボン玉と共に宙へと消えた。

 

 

 

 一方。

 諸島全域で映像テロともいうべき騒動が起こる中。

 “13“と記された巨大マングローブの上にひっそりと建つその酒場は、表の騒ぎなどあずかり知らぬとばかりにいつも通りの空気を保っていた。

 

 一人の客を招いて。

 

 

「ゔぁ〜さひぃ〜すぅぱぁ〜〜どぅらぁ〜い」

 

「ふふ、仕事の後の一杯は美味いかね?」

 

「そりゃあもう! あ、シャッキー次こそビールちょうだい」

 

「あらダメよ、ウサちゃん。17歳なんでしょ?」

 

「ちぇー」

 

 

 店主から酒の代わりに出されたジュースを受け取り、ぐびぐびと飲み込んでいく兎耳が特徴的な少女。

 カウンター席に陣取る彼女は、いい仕事をしたとばかりに晴れやかな表情。実際にやったのは仕事ではなく、ただの違法行為だが。

 

 

「最近調子はどうだ?」

 

「っぷは! いや〜絶好調だよ。今日のやつもいっぱい見てもらえるんじゃないかな」

 

 

 少女と一つ分席を隔てて座る老人は、グラスを傾けながらご機嫌な少女に近況を尋ねた。

 歳相応の白髪に白い顎髭を蓄え、眼鏡をかける彼は少女と数十年来の付き合いであり、かつて同じ船に乗っていた仲間。外見だけ見れば祖父と孫娘の会話にでも見えるだろう。

 

 老翁はおよそ半年ぶりに店を訪れた相変わらずの彼女の姿に笑みを浮かべている。

 

 

「まさか今この島を大騒ぎにしている張本人が同じ島の中にいるなんて、誰も思わないでしょうね」

 

「あれだよあれ、放火魔は現場に現れる的な? ん、あってるっけこれ?」

 

 

 酒場の店主であるシャッキーことシャクヤクもまた少女の古い知り合いであった。かつては海賊だったが、足を洗い現在はこの「シャッキー‘sぼったくりBAR」という名の通り法外な料金を(知り合いや気に入った相手以外から)請求する酒場を営んでいる。

 

 

「ところで表が随分賑やかだったが、今回はどんなものを撮ったのかね?」

 

「んとねー、天さんたちのヘルメット使った実験。引っ張ったりー、ぴこぴこハンマーで叩いたりー、深海に持っていったりー、火山の噴火口に放り込んだりー、あと巨人にぶっ叩いてもらったりしたよ」

 

「ハハハ、昔と変わらず自由だな君は!」

 

「あら、面白そうね。私も後で視ようかしら、ウフフ」

 

「お〜じゃんじゃん視ちゃって視ちゃって。ウサギちゃんねるをよろしく〜」

 

 

 半年ぶりに顔を合わせた知己にも宣伝を怠らない。それが自称動画配信系海賊である彼女のスタンスである。

 

 

「そっちはどうなの? 儲かってる?」

 

「この店はそこそこね。まぁ、この人の方は…………」

 

「個人のコーティング屋など、そう儲かりはせんよ。私のは実益を兼ねた趣味みたいなものだしな」

 

 

 金は無くなれば身売りでもして盗んでくるさ、と普通なら思いついてもできないような方法で実際に何度か成功しているあたり、彼もマトモな人間とは言い難かった。

 

 

「じゃあ私のチャンネル出る? 知名度上がれば依頼増えるかも!」

 

「勘弁してくれ。私のような老いぼれが出しゃばったところで誰も喜ばんだろう。そういうのはもっと若い子に頼むといい」

 

「海賊王の右腕ならみんな視ると思うけど?」

 

「それで注目されても困る。もう隠居した身だ、今更海軍にしつこく追われてもな。それに、私は静かな老後を過ごしたいのでね」

 

「現役の時は騒がしかったからね!」

 

「全くその通りだ、ハハハハハ!!」

 

 

 海賊としての在りし日々。

 何かあれば宴を開き大騒ぎしていた頃を思い出してか、老翁と少女は愉快そうに笑う。

 

 そうして昔話に花を咲かせていると、おぉ、と老人は何かを思い出した様子。

 

 

「そうだ忘れていた。この間シャンクスに会ってな、君に会ったらよろしく言っておいてくれと頼まれたよ」

 

「お、懐かしい名前。じゃああの子遂に自分で新世界に行ったわけだ。うんうん、立派になったようでお姉さんは嬉しいよ…………。ん、バギーは?」

 

 

 海賊王の船員時代、彼女にとって弟分だった二人の存在。赤い髪が特徴的なシャンクスと、対照的に青い髪に赤い鼻が特徴のバギー。少女が彼らに最後に会ったのは、海賊団が解散した頃だった。

 

 

「なんでも、東の海で今も海賊をやっているそうだ。一緒にはいなかったよ」

 

「へぇー意外。てっきりカメラマンか旅の芸人でもやってるかと思ってた」

 

「君が散々連れ回しては、撮影に付き合わせていたからな」

 

「そう! 私が撮影技術を叩き込んで育てました!」

 

 

 

「ぶぇっくしょい!!」

 

「どうしました船長? 風邪ですか?」

 

「いや、今なんか悪寒がな・・・・・・知ってる誰かが俺様のことを噂したような…………」

 

「大丈夫ですかキャプテン? 鼻赤いですよ?」

 

「だぁーれがとっても立派な赤っ鼻だコラァ!!」

 

「ぎゃああああああ!?」

 

 

 

 ひとしきり笑った後、老翁はグラスの中の氷を酒の中に泳がせながら話を続けた。

 

 

「シャンクスからもう一つ面白い話を聞いてな」

 

「面白い話?」

 

「東の海に、ロジャーと同じことを言った子供がいたそうだ」

 

「!」

 

 

 彼らの乗った船の長、今や伝説となった“海賊王“ゴールド・ロジャー。今も船員たちの心に刻まれる彼の生涯の中でも、一際記憶に残るあの言葉を口にした子供がいることに少女は驚き目を見開いた。

 

 

「ほぇー、変な子」

 

「あぁ、私も驚いたよ」

 

「嬉しそうだね」

 

「ふふ、そうかね?」

 

「そうそう。あとなんていうか、懐かしそう?」

 

 

 煙草をふかす店主に見守られながら、昔話は続く。

 グラスに酒を継ぎ足し、老人はその水面に視線を落とす。

 

 

「かもしれんな。気付けばあれからもう10年以上経つのか。懐かしく感じるはずだ」

 

「はやいねー。あっという間だったよ」

 

「君はあの時、あの場にいなかったんだったか。私が言えた義理ではないが、何故?」

 

「んー、色々あるかなー。処刑前に一回会ったし、人が死ぬところを撮るのって基本的に私の主義に反するし、それに────」

 

 

 からん、と乾いた音。

 

 

「────あの人の死に様は、私が撮らなくても残るものだと思ったから」

 

 

『おれは死なねェぜ…………? 相棒…………』

 

 

「…………そうか。そうだな、そういう男だった」

 

 

 己の船長が最後に己にかけた言葉が脳裏に過ぎった。

 酒をあおった老人の目元は、うっすらと赤らんでいるように見える。

 

 

「最後まで派手だったね」

 

「あぁ。死に際に時代を変えるなど、誰も想像していなかっただろうな」

 

 

 海賊王の最期。彼の処刑が一つの時代の終わりを告げることを予想した者はいただろうが、それまで以上の怒涛の時代の到来を予期した者はいなかっただろう。

 海賊は減るどころか、大秘宝を求める荒くれどもが海に出たことでさらに増加した。男の死に際の一言が、世界を変えたのだ。

 

 これが、今に続く大海賊時代の始まり。

 旧い時代の終わり。

 伝説は終わり、また新たな伝説が始まったのであった。

 

 

 

 すっかり辺りの陽が落ち、黄昏が顔を出す。

 

 諸島中を騒がせていた映像は既に消え、島には静けさが訪れていた。夕日とそれに照らされたシャボン玉が織りなす幻想的な風景は、昼間の喧騒を忘れさせるほど美しい。

 グラスの中の氷の塊は、すっかり溶けていた。

 温くなった果実水を飲み干し、少女は知り合いからは金を取らない店主へ紙幣の代わりに彼女の撮った動画が保存された映像電伝虫をカウンターテーブルに置いて立ち上がる。

 

 

「なーんかしんみりしてきたし、私そろそろ行くね」

 

「あら、ウサちゃんもう行くの? 忙しいのね」

 

「次の動画を撮らないとだからね。こう見えて多忙なのです」

 

「そう。またいつでも来なさいな」

 

「うん! ジュースありがとね、シャッキー!」

 

「いいのよ。撮影、応援してるわ」

 

「ありがとー! また来るから!」

 

 

 店主に別れを告げ、兎耳の少女は出口の扉に手をかける。

 

 

「そういえば、九蛇の娘たちが君に会いたがっているそうだ。顔を出してやるといい」

 

「オッケー! じゃあ近いうちに行くってBBAに伝えといて!」

 

「あぁ、伝えておこう」

 

 

 去りゆく彼女の背に、老翁は顔を向けずに伝言を告げた。

 かつて共に死線を乗り越えた同胞との一時の別れに、そう多くの言葉はいらない。

 

 

「じゃあね、レイリー! またね!」

 

「あぁ。達者でな、ウサギ」

 

 

 冥王は、少女の背を見ずに彼女を見送った。

 この島に浮かぶ泡沫のように、どこまでも高く飛んでいく姿を瞼の内に浮かべて。

 




 最後まで読んでいただきありがとうございます!

 ワンピースの世界では何歳から飲酒出来るのか分かりませんが、この作品では18からということで。まぁ無法者ばっかなんですけど、ヨホホ。
 2話続いて伝説のジジイがメインに登場したので次回はもうちょっと、あるいはもっと若い世代を登場させたいと思っています。

 皆さんの感想、高評価が励みになっております。引き続き応援のほどよろしくお願い致しします。それでは。


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その謎を解明すべく、我々はアマゾンの奥地へと向かってみた・・・ 前編

 投稿が遅れてすみませんでした・・・・・・。
 最近一次創作頑張ろうかなって思ってあーだこーだやってたらあっという間に約二週間経過。新手のスタンド攻撃かと思ったってばよ。

 感想、高評価が励みになっております。ありがとうございます。
 それではどうぞ。


 

「ハローハロー全世界! どうも、動画配信系海賊のウサギでぇ〜っす!」

 

 

 偉大なる航路、凪の海から程近く。

 兎耳の海賊少女は現在とある島に到着し、電伝虫を片手に早速動画の撮影を行なっていた。

 

 

「皆さ〜ん、このジャングルがどこの島にあるか分かりますでしょうか〜?」

 

 

 電伝虫に映されるのは、鬱蒼とした大自然の森林。青々とした葉をつけた植物が所狭しと生え、詳しい者が見れば南の海に近い所だと判別出来るだろう。

 

 

「今回は『気になるあの島行ってみた!』シリーズの企画ということでやって来ました! 前回のカマバッカ王国は何故かあんまり人気なかったんですよね〜」

 

 

 画面の隅に映された「オカマの国行ってみた!」というタイトルが記された動画のサムネイル。撮った本人は気に入っていたが、予想よりも再生されていないよう。

 

 

「それでは気になるこの島の名前の答え合わせ! 正解は────」

 

 

 

 

 

 数週間前。

 偉大なる航路 とある海域。

 

 そこでは二つの海賊団の武力衝突が発生したものの、僅か十数分の間に決着が着いた。戦いというよりも、蹂躙と言っても過言ではない出来事だったが。

 

 

「せ、船長…………」

 

「くそったれ、あのアマども…………!!」

 

 

 蹂躙劇の被害者である男たちは、縄で縛られ身動きが取れない状態のまま、勝者である彼女たちの略奪を黙って見ているしかなかった。

 

 そう、『彼女たち』である。

 

 男たちの船に襲いかかり、戦いの敗者である彼らの船から物資を次々に運び出す全員が女性。一部男顔負けな体格を誇る者がいるが、正真正銘の男性は一人として居ない。

 

 纏う衣服から覗く肌色の面積がやや多いものの、どこか気品すら感じさせる彼女たちを見て男たちも最初のうちは興奮していたが、いざ戦闘になり一方的な展開となったころには、すっかり青褪めていた。

 

 

「船長、コイツらって…………」

 

「あぁ、間違いねぇ。コイツら九蛇の…………」

 

 

 こんな言い伝えがある。

 その島では不思議と女しか生まれず、従って住人は皆が女性の国があるという。その国では強いものこそ美しく、その強い女性たちの中でも選りすぐりの強者で構成された海賊団が存在する。

 

 島の名は女ヶ島アマゾン・リリー。その女人の国唯一の海賊団の名は、「九蛇海賊団」。

 

 

「っ! 見ろ! 誰か出てくるぞ!!」

 

「あれって、まさか…………!?」

 

 

 海を這うように進む二匹の大蛇に引かれた女性だらけの海賊船の中から、一人の女性が姿を現す。

 

 艶やかな黒髪、端正などという陳腐な言葉では言い表せない程の容貌。

 全身が黄金比で成された、まさに国すら傾かせるであろう美の権化。

 

 女ヶ島では強い者に権力が与えられる。畢竟、国を統べる皇帝は代々国で最も強い者が選ばれる。そして現在のかの国の長は初頭で8000万ベリーという高額の懸賞金をかけられ、政府公認の海賊【王下七武海】の一角を担い、恐れられている。

 

 その人物こそが彼女。

 アマゾン・リリー現皇帝にして九蛇海賊団船長。

 王下七武海の紅一点。

 

 "海賊女帝"ボア・ハンコック。

 

 

「「「キャー! 蛇姫さま──!!」」」

 

「「「う、うつくしぃ──!!」」」

 

 

 そのあまりに美し過ぎる女傑に、敵味方問わず黄色い声援があがる。

 

 

「誰じゃ、妾の通り道に…………」

 

 

 大蛇を連れて悠然と歩く女帝の通り道には、一つのぬいぐるみが転がっていた。

 自分の行手を妨げたそれを蹴り飛ばそうと、脚を振りかぶろうとした女帝であったが──

 

 

「……!」

 

 

 直前で何かに気づき、その脚の動きを止めた。

 

 

「も、申し訳ありません、蛇姫様! この子の遊び道具が……」

 

 

 ぬいぐるみは女帝に謝罪する女戦士が抱える猫の物であるらしい。猫は自分の玩具に夢中なのか、女性の腕の中でもがきながらその玩具に手を伸ばしている。

 

 その、白い毛に赤い瞳の兎を模したぬいぐるみに。

 

 

「…………お気をつけなさい」

 

「は、はい!」

 

 

 皇帝の赦しを得た女性は、直ぐにぬいぐるみを回収すると猫と共に下がった。

 

 

「積荷はもう運び終わりそうよ、姉様」

 

「男たちはどうするの、姉様?」

 

 

 女帝に声をかけたのは2人の女戦士。

 両名ともハンコックの妹である。グリーンの長髪が特徴のサンダーソニア、橙色の髪のマリーゴールド。

 姉より身長の高い妹たちは、姉に次の指示を仰いだ。

 

 

「そうじゃな…………」

 

 

 女帝はその視線を敵の船、そこにいる海賊たちに向ける。何を勘違いしたのか、盛り上がる男たちにおめでたい奴等だと心底呆れる。これから自分たちがどうなるかも知らずに、呑気なことだと。

 

 合図を出し、船を引く2匹の大海蛇の片割れが主人の命令に従い首を船頭から船の側面に移す。大蛇の頭に乗り、三姉妹は捕らえた敵船に足を踏み入れる。

 船員の多くが女帝の美しさに見惚れる中、船長と思わしき男は女帝をかろうじて睨みつけ、なけなしの反抗心を見せる。

 

 

「お、俺たちにこんなことして、た、タダで済むと思うなよっ!?」

 

「残念だけど、許されるのよ」

 

「えぇ、許されるのよ。でもそれは貴方たちが海賊であるからとか、姉様が七武海であるからでもない。何故なら────」

 

 

 そう、彼女が何をしようと許される。

 何故なら。

 

 

「妾が、美しいからじゃ」

 

「……!?」

 

 

 一切の疑いもなく、彼女は言い放った。

 男は戦慄する。普通に考えればそんな馬鹿なと一笑する筈が、何故か納得しそうになっている自分自身と、それを成す女帝の極まった美貌に。

 

 黙った男を前に、彼と彼の部下たちの処遇を考えているほんの僅かな間に。

 アマゾン・リリーからの連絡用の電伝虫がその独特の鳴き声をあげる。女帝は妹が持つ電伝虫の受話器を耳に近づけた。

 

 

「誰じゃ、妾はいま……」

 

『蛇姫よ、ワシじゃ。実は……』

 

 

 がちゃっ☆(電伝虫に受話器を戻す音)

 

 

「姉様……?」

 

「今のって、ニョン婆からじゃ……」

 

「気のせいじゃ」

 

「「そ、そう…………」」

 

 

 食い気味に答えた姉に、二人の妹は何も返せなかった。

 少し気まずい空気が流れた後、再びぷるぷるぷると、着信を告げる音が聞こえてくる。

 蛇姫は再び受話器を耳に近づけた。

 

 

「誰じゃ」

 

『蛇姫よ! おニュし人の話も聞かぬうちに切るとはニャにごと……』

 

「用が無ければ切るぞ」

 

『ま、まちニャされ! 先程あの兎娘が来ると連絡が……』

 

「何故それをもっと早う言わぬのじゃ!?」

 

『おニュしが話も聞かぬうちに通話を切ったからじゃろう!?』

 

 

 通信越しに暫くギャーギャーと口論した後、女帝は受話器を電伝虫に叩きつけるようにして会話を強引に切り上げた。

 

 

「そういうことじゃ、ソニア、マリー。急ぎ女ヶ島に帰還する」

 

「はい、姉様」

 

「この男たちはどうするの、姉様?」

 

 

 未だ美しすぎる女帝に熱視線を送る男たちに対して路傍の石に向けるような視線を返し、女帝は一歩前に出る。

 

 

「決まっておろう。此奴らは敗者、ならば末路は────」

 

 

 両手を突き出し、ハートの形にする。

 彼女が口にした、恐るべき悪魔の実の能力を発揮する為に。

 

 

「────それ相応のものじゃ」

 

 

 数ヶ月後。

 偉大なる航路のとある海域で、一隻の海賊船が発見される。

 乗組員と思われる者の全員が、石像となった幽霊船が。

 

 

 

 

 

 

「着いたど〜〜〜〜!!」

 

 

 女ヶ島にある男子禁制国家アマゾン・リリーを囲むように高くそり立つ壁の上に、少女は足をつけていた。

 

 

「ただいま私、アマゾン・リリーを一望出来る壁の上にいま〜す! 世界中の男子が夢見た島! 見てるか〜男子〜?」

 

 

 眼下に広がる景色を、少女は電伝虫をぐるりと回して撮影する。

 そこは正しく女の島。家事から力仕事まで、全てにおいて女性の手で回る。建物は赤い瓦屋根のものが多く見られる。

 

 

「いざ早速中へお邪魔してみたいと思います! それでは……」

 

「ウサギ〜〜〜〜〜〜!!」

 

 

 少女の声を遮って、別の大きな声が響いた。

 声の発生源は少女の背後、国とジャングルの境である壁を勢いよく飛び越えて来た。

 

 

「見てくれ! こんな変な形のキノコ、ワノ国じゃ見たこと無かったよ! おでんの日誌にも載ってなかった!!」

 

「そりゃあおでんはこの島来たこと無かっただろうしね〜。じゃなくて」

 

 

「ヤマトくんさぁ、今撮影中なんですけど? ですけど?」

 

「あぁ、ゴメン。でも見てくれよこの……僕はおでんだ!」

 

「はいはいおでんロール乙〜。てな訳で撮影を遮ったバツとしておでんなヤマト君には電伝虫係をお任せしちゃいま〜す」

 

「えぇ、僕コレ苦手なんだよなぁ……ずっと持ってなくちゃいけないし」

 

「バツなんだから文句言わないの。ハンズフリーになったところで、改めていざアマゾン・リリーにレッツゴー!」

 

「あ、ちょっと、待ってくれウサギ〜〜!」

 

 

 

 

 

 

「おっすBBA! また縮んだ?」

 

「縮んでニャどおらニュわ! 相も変わらず失礼な娘じゃな!」

 

 

 ウサギとヤマトがアマゾン・リリーに入って早数時間。国を統べる皇帝に会う為に宮殿へと向かった二人を、老婆が一人待っていた。

 少女の姿のウサギよりもなお一回り小柄な老婆は、どうやら彼女の知人であるらしい。

 

 

「ウサギ、この人は……?」

 

「ニョン婆。女ヶ島一小さいBBAだゾ」

 

「誰が小さいBBAじゃ! わしはこのアマゾン・リリーの……」

 

「あ、あとついでに先々々代くらいのここの皇帝だったよ」

 

「わしの一番大事ニャ経歴ついで扱い!?」

 

「成程。初めましてニョン婆! 僕はヤマ……光月おでん! いつか糞親父をぶっ飛ばしてワノ国を開国する為に、ウサギに着いて鍛えながら世界を回ってる男だ!!」

 

「おとこ……?」

 

「という訳でこちら、おでんになりたがっている鬼娘ヤマト君ちゃんで〜っす。ぱちぱちぱち〜」

 

「今娘と……?」

 

「言ったね」

 

「…………???」

 

 

 どう見ても女性の自称男の鬼娘。極めて意味不明な存在を前にして、ニョン婆は考えるのをやめた。これ以上考えても不毛な気がしてならなかったから。

 

 

「ま、まぁよいか。先々々代皇帝のグロリオーサじゃ。今は島の隅で暮らしておる。それより少し遅かったが、道中ニャにかあったのか?」

 

「そんな大したことはなかったよー。子ども達にお菓子あげたり遊んだりー、店回ったりー、物販したりー、あとヤマトがいつの間にか食ってた毒キノコの解毒に行ったりしてただけー」

 

「明らかに最後のやつが原因ではニャいか!?」

 

 

 島に入って早々にジャングルを探検し始めたヤマト。採取した見たことのないキノコのうち幾つかは毒キノコだったらしく、ウサギも知らない間に口にしたそれらの毒が遅れて効果を発揮。急に倒れたヤマトは即刻医者の下に運ばれた。血筋による頑丈さか、治療の後はけろっとしていたが。

 

 

「それは置いといて、ハンコックたちいる?」

 

「うむ、もう準備も出来ていよう。付いてきニャされ」

 

「じゃあ遂に海賊女帝に会えるのか! 僕ワクワクしてきたよ! ウサギは会ったことあるの?」

 

「あるよ〜。昔いろいろ教えたりもしたし」

 

 

 なお普通に会いに行っても良くて追い返されるか、男子は殺されるので真似しちゃダメだぞ〜、と電伝虫の向こうで映像を見ているであろう者宛に忠告を促し、皇帝の居城に進んでいく。尤も、電伝虫は現在スリープモードだが。

 

 

「わしは撮らんでよいのか?」

 

「えぇーBBA映してもなー」

 

「こ、この小娘……!?」

 

 

 

 

 

 

「さぁさぁ皆さんお待ちかね! いよいよ海賊女帝の登場ですよ〜!」

 

 

 アマゾン・リリー皇帝の居城内、その客間の前で映像は再開される。

 ここで画面に注意書きが映された。

 

『あてんしょん! これから映す人物は美しすぎて石になる恐れがあるのでごちゅーいください』

 

 

「さぁさぁ準備はいいかなー!? それではいってみよー! さーん、にー、いーち……」

 

 

 ノックを3回。部屋の中から、「入るがよい」と返事が。入室の許可を得て扉の先へと踏み入れると────

 

 

「久しぶりじゃな、ウサギ」

 

 

 そこにいたのは美の化身とも言えるような女。皇帝の玉座に足を組んで座るその姿を絵にすればそれだけで何百、何千万ベリーの値がつくだろう。

 覇王としての佇まいを崩さぬまま、女帝は二人の客を迎え入れた。

 

 

「おひさ〜元気してた〜?」

 

「うむ、妾は変わりない。ソニアとマリーもな」

 

 

 再会の挨拶を交わす海賊少女と海賊女帝。姉の側に控える彼女の妹たちも姉と同様に笑みをみせた。

 

 

「さて、今日は連れがおるようじゃな。何者じゃ?」

 

 

 女帝の視線が兎娘から、電伝虫を構える少女に移る。ぼうっとしていた彼女ははっと気がつくと声をあげた。

 

 

「僕は光月おでんことヤマト! 今はウサギと一緒に世界を回っている男だ! よろしく!」

 

「何を言っておるのじゃこやつ???」

 

「面白い子でしょ〜?」

 

 

 ハンコックのヤマトを見る目が完全にヤバいやつを見るそれになっている。若干慄きながら「狂人……?」と呟いているが、幸い本人には届いていなかった。

 

 

「珍しく連れがいるとは聞いていたけど……」

 

「案の定、普通の子じゃなかったわね……」

 

 

 妹2人も「あぁ、やっぱり……」と言いたげな表情をしている。失礼かもしれないが、姉よりはまだマシな対応だった。

 

 

「すごいよウサギ! 僕こんな綺麗な人初めて見た!」

 

「よかったね〜」

 

 

 姉妹の動揺を知らぬまま目を輝かせながらはしゃぐヤマトに、ウサギは雑に同意した。

 

 

「僕君と海に出てよかったよ! どんどん知らないものに出会えるし、覇気だって前より上手く扱えるようになった!」

 

「いや〜それほどでもある〜」

 

「……なんじゃと?」

 

「あ、姉様……?」

 

「一体何を……?」

 

 

 何かが女帝の癇に障ったのか。突如腰をかけていた玉座から立ち上がり、アマゾン・リリーの者たちから『見下ろしすぎて逆に見上げている』と言われる体勢をとる。

 

 

「ヤマトと言ったか。口には気をつけることじゃ。このアマゾン・リリーは男子禁制の地。女の体でも、男を自称するならば妾は皇帝としてそなたへの対応を考えねばならぬ」

 

「僕は男だ! おでんが男だから僕も男になったんだ!!」

 

「姉様! ウサギの仲間なのよ!?」

 

「あとおでんって誰!?」

 

 

 何故か突如始まる対立。剣呑な雰囲気を出し始める姉を止めるべく妹たちは動き出す。あと、おでんについて彼女たちが知るのはもう少し先になる。

 

 

「まだ言うか。ならば最早決闘しかあるまい」

 

「望むところだ!」

 

「ちょっと姉様!?」

 

「本気なの、姉様!?」

 

 

 制止の甲斐虚しく、二人はますますヒートアップする。そこで声をあげたのは、この国のご意見番である彼女。

 

 

「好きにさせてやりニャされ」

 

「ニョン婆!」

 

「いたなら止めてよニョン婆!」

 

 

 常ならば諍いを止める立場にいる彼女だが、今回に限ってはむしろ放置しろという。

 

 

「お互い譲れぬものがあるのじゃ。ならば矛を交える他あるまい」

 

「それはそうかも知れないけど……」

 

「ウサギは!? このままだとあのヤマトって子、姉様にボコボコにされるわよ!?」

 

「んー、当初の予定とは違うけどー、これはこれで面白そうだからアリ!」

 

(忘れてた……)

 

(この人基本こういう人だった……)

 

 

 自分たちの姉妹の恩人であり、一時期師事させてもらったこの世界的愉快犯である少女の為人を思い出し、ストッパーには絶望的に向いていないと気づいた。

 

 

「男をこの国には置いておけぬ。そしてなにより……」

 

 

 指差す右手とは反対の左手を、強く握る。

 

 

「────ウサギの弟子ポジションは妾たちだけのものじゃ!!」

 

((絶対そっちが本音だ────!!))

 

 

 

 よく分からないまま、よく分からない決闘が始まる────!! 

 

(後編につづく)




 読んでいただきありがとうございます!
 長くなりそうだったので分けました。次回、ハンコックVSヤマ・・・光月おでん!(洗脳済) 絶対見てくれよな!

 感想、高評価などいただけると嬉しいです。それでは。


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その謎を解明すべく、我々はアマゾンの奥地へと向かってみた・・・ 後編

 待たせたな!(忘れられた頃に投稿)
 遅れてすみませんでした・・・。


 

 女帝と来客との決闘が(何故か)決まったその日の内に、知らせは島中に届いた。

 

 アマゾン・リリー皇帝直々の試合など、滅多なことでは見られるものではない。

 観客席を巡って諍いが起こるほどに、女ヶ島中の注目の的になっていた。

 だが、この決闘がこれほどまでに注目された理由はそれだけではない。

 

 

 一方の対戦相手については、様々な噂が一人歩きしていた。

 曰く、その者は男を自称しており。

 曰く、命知らずにも自分から女帝に勝負を挑み。

 曰く、その背丈は山のように大きく、四肢は丸太のように太く、ツノが生え鬼の形相をしており、棍棒を振り回す。

 曰く、名前は「おでん」であるという。

 

 古くからのしきたりにより島の中に男が一人もいないアマゾン・リリー。

 海に出たことがない者たちはその多くが男を見たことがないため、一目見ようとこぞって観覧席の権利を奪い合った。

 

 

 そしてその翌日。

 アマゾン・リリー内にある最も大きな闘技場、通称「武ヶの間」にて、遂にその対決が始まろうとしていた────! 

 

 

 

「まずは、逃げずに妾の前に立ったことを褒めておこう」

「逃げるもんか。挑まれたからには、正々堂々受けて立つとも!」

 

 

 満員の観衆が見守る中で、二人の女傑は対峙する。

 片や、アマゾン・リリー皇帝にして七武海。“海賊女帝“ボア・ハンコック。

 片や、光月おでんを自称する謎の挑戦者・ヤマト。

 

 

「蛇姫さま────!!」

「今日もお変わりなく美しすぎる…………!」

「見て! 私の方をご覧になったわ!」

「何言ってるのよ! 私を見て下さったのよ!!」

 

 

 黄色い歓声が飛び交い、女帝の一挙手一投足に賛辞が集まる。

 一方で挑戦者には。

 

 

「なんだか可哀想ね、あの挑戦者の子…………」

「仕方ないわよ。蛇姫様が相手じゃあ、誰が挑んでも一緒だわ」

 

 

 哀れみと同情、あるいは無謀な試みへの呆れ。

 おおよそ悲観的な視線と声が向けられていた。

 と、同時に。

 

 

「それにしても…………」

「えぇ。男ってあまり私たちと変わらないのね。頭からツノは生えてるけど……」

「それに聞いてたよりずっと小さいし、大丈夫かしら?」

「ねぇ、やっぱり男ってのは嘘で、本当はおんn」

 

 

「僕は男だ!!」

 

 

「地獄耳!?」

「男って耳が良いのね!」

 

 

 すぐにメモされる。

 生まれてこのかた男という生き物を目の当たりにしたことのない彼女たちは、自称とはいえ男であるヤマトの挙動に敏感に反応していた。

 明日の島内の朝刊で誤報が出回ることが決定した瞬間である。

 

 

「本当に男を見たことない人が多いんだね」

「当然じゃ。ここは女ヶ島、男子禁制と忘れたか? 貴様がこれから戦う理由であろうに」

「分かってるさ。僕が勝ったら男だと認めた上でこの島にいることを認めてもらう」

「妾が勝てば貴様は即刻追放。二度とこの島に足を踏み入れることは叶わぬ」

 

 

 弓形に背を曲げ、見下ろすどころか見上げる姿勢。

 王としての余裕を示し、女帝は挑戦者に傲慢に言い放つ。

 

 

「精々足掻くが良い。どこまで保つか、妾直々に測ってくれようぞ」

「それはありがたいね。なら、遠慮なくいかせてもらうよ」

 

 

 

 

 

「本当に良かったの、ウサギ? あのヤマトって子、追放されるわよ?」

「ソニア姉様の言う通りよ。今ならまだ……」

「だいじょぶだいじょぶ。何とかなるって」

「そうは言っても……」

「姉様が相手じゃ……」

 

 

 舞台をぐるりと囲む観客席の一角に、周囲の注目を集める三人の姿があった。

 サンダーソニアとマリーゴールド、そして来客として招かれたウサギ。

 姉妹二人は今からでもヤマトを引き止めるよう説得するが、配信兎はどこ吹く風。

 道中で購入した饅頭を口に入れてあっけらかんと笑っている。

 

 だが、二人の姉妹は知っている。

 自分たちの姉は、やると言ったらやる人だと。

 たとえ相手が恩人の弟子であろうと、彼女は容赦なく敗者をこの島から叩き出すだろう。

 

 

「そう心配しなさんなって。それに──」

 

 

 最後の一個を平らげて、指に付いた欠片を舐め取って姉妹の方を見る。

 

 

「ワンチャン負けるのは、ハンコックの方だよ?」

『!?』

 

 

 

 

「では両者、準備はよいにゃ?」

「無論じゃ、いつでも構わん」

「こっちも大丈夫」

 

 

 女帝と挑戦者が、闘技場の中央で対峙する。

 審判を務めるにょん婆ことグロリオーサは、試合を行う両者を見つめた。

 双方共に優れた覇気の使い手。

 激闘は避けられないだろう。

 

 彼女の元アマゾン・リリー皇帝としての勘が告げている。

 この決闘は、女ヶ島の歴史に残るものになるやもしれないと。

 

 

「────始めっ!!」

 

 

 遂に火蓋が切られた。

 待望の試合の始まりに、爆発する歓声。噴き出す熱気。

 しかし盛り上がる会場とは裏腹に、二人の当事者は静かだった。

 

 女帝は構える素振りすらない。

 だが一方でヤマトの心には、一分の油断もなかった。

 なにせ相手は全世界に名を轟かせる七武海の紅一点。

 格上の戦士を相手にする以上、最初から己の出せる全力をぶつけるのみ。

 

 腰を落とし、上体を捻る構え。

 ヤマトが握る棍棒に、紫電が奔る。

 今の彼女が撃てる、最大火力の一撃。

 

 

「雷・鳴……」

 

「っ!? 芳香(パフューム)……」

 

 

 その一撃を察したハンコックは、即座に戦闘体制に移行。

 目の前の挑戦者を、敵として認識した。

 あの構えから繰り出されるモノを喰らってはいけない、と。

 

 

「──八卦!!」

 

「──(フェムル)!!」

 

 

 二人の覇気使いによる衝突。

 轟と音を発し、大気が唸りをあげる。

 棍棒と脚の衝突面から咲いた赤黒い稲妻が闘技場に迸り────

 

 

 ────空が割れた。

 

 

「そんな、まさか……!?」

「覇王色の……!?」

 

 

 数百万人に一人の割合でしか発現しないとされる、特殊な覇気。

 

 人の上に立つ、覇王の素質を持つ両者。

 片や王下七武海に名を連ね、女帝と畏怖される女傑。

 片や大海賊を父にもち、誇り高く散った侍に憧れる未だ無名の女戦士。

 

 生まれも境遇もまるで違う両者だが、奇しくもその才覚はここに重なった。

 

 

 二人の覇王色の激突により生じた余波で、会場にいた観客の実に半数が覇気に当てられて失神。

 やがて振るった得物での決着の付かぬ競り合いをやめ、互いに距離をとった。

 

 

(能力を使わなかったとはいえ、雷鳴八卦が止められた。この人……)

 

(石にしてしまわぬ程度に加減したとはいえ、妾の芳香脚を……! こやつ……)

 

 

 ────デキる! 

 

 

 女帝から慢心が消え、挑戦者は呼吸を整える。

 

 

(ピストル)キス!」

 

鳴鏑(なりかぶら)!」

 

 

 女帝の能力で形成されたハート型の弾丸の雨を、鬼姫は金棒を振り回すことで衝撃波を生み出して迎撃。

 戦いは、まだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

「どういうことウサギ!?」

「あの子何者なの!? 覇王色を使えるなんて……」

 

 

 サンダーソニアとマリーゴールドは自分たち姉妹の師である少女に問いを迫っていた。

 内容は勿論、彼女が連れてきたヤマトについて。

 姉妹同様、ウサギに手解きを受けていることから覇気使いであるとは予想していたが、まさか覇王色とは聞いていなかったのだ。

 

 

「あえ、言ってなかったっけ?」

「聞いてないわよ!?」

「どこで拾ってきたのよ、あんな子!?」

 

 

 ウサギはまいっかー、と適当な返事をして、ついでとばかりにヤマトの素性を明かすことにした。

 もちろん本人の承諾は取っていない。

 

 

「ワノ国。あ、あとあの子カイドウの息子だから」

「…………!!??」

 

 

 伝えられた内容が衝撃的過ぎて、二人は理解するのにたっぷり5秒は費やした。

 間違いでなければカイドウ、とはやはりあのカイドウのことだろう。

 

 四皇の一人、百獣のカイドウ。

 陸、海、空、この世の全ての生物の中で最強と言われており、誰が相手でも『サシでやるならカイドウだろう』と言われる程。

 七武海である姉を上回る文字通りの怪物。

 その息子……? 

 

 

「面白い顔ー! 動画で使っていい?」

『良いわけあるかァ!!』

 

 

 

 

 

 金棒の一撃がリングに穴を開け、槍の如き脚撃が空を裂く。

 闘技場に立つ二人の戦いは、互いに決め手が決まらぬまま膠着状態にあった。

 

 

「思ったよりはやるようじゃな。素直に褒めてやろうぞ」

「当然さ。僕は光月おでんだからね」

「じゃから何者なのじゃそのおでん何某は……」

 

 

 どうにも自分のペースを崩されると、ハンコックは苦い顔をした。

 相性が悪いのだろう。

 なんかこう、根本的な部分で。

 

 

「正直ここまでやるとは予想外じゃ。おぬしに勝てるのは九蛇の戦士でも一握りじゃろう」

「……」

「じゃが」

 

 

 空気が変わる。

 

 

「────妾には勝てぬ」

「くっ!?」

 

 

 幾度目かになる女帝の蹴撃を、挑戦者は金棒で受け止めた。

 ビリビリと響く衝撃に耐え、受け切ることに成功する。

 だが、しかし。

 

 

「なっ……!?」

 

 

 受け止めた部分が、石となりボロボロと砕け落ちた。

 

 

「これは……!」

「そう、これが妾のメロメロの実の能力じゃ」

 

 

 メロメロの実の石化能力。

 人体をはじめとした生物のみならず、無機物にまで作用するその凶悪なまでの力。

 能力者本人の魅力に能力の強度が左右されるという使用者を選ぶ力だが、こと世界一の美女としても名を轟かせる女帝との相性はおそらく過去現在未来において最も良いだろう。

 

 

「大人しく敗北を受け入れ、首を垂れよ。さすれば、石にならずに済むぞ?」

 

 

 本日二度目の他人を見下ろしすぎて逆に見上げるポーズをとり、降伏勧告。

 武器を損壊し、俯くヤマト。

 同じ師の教えを受けても男を名乗るうつけなど所詮はこの程度かと、嘲りに似た微笑を浮かべる。

 

 

「蛇姫さま────!!」

「やっぱり蛇姫様の勝ちねぇ」

「仕方ないわ、相手が誰であっても結果は同じよ」

 

 

 試合を見ていた観客も、決闘の終わりを予期した。

 彼女たちにとって最強の存在である女帝の勝ちを確信している。

 だが────

 

 

 

「……おでんは」

「?」

 

 

 挑戦者は、ヤマトは折れなかった。

 

 

「おでんは、アイツに一対一で挑んだ。だったらおでんである僕が、ここで君から逃げることは出来ないっ……!」

「またよく分からぬ世迷言を……」

 

 

 二人にしか聞こえない小声で信条を吐く。

 ヤマトは欠けた金棒を両手で持つやいなや、

 

 

ふんっっ!!

!?

 

 

 金棒を思い切り額にぶつけた。

 ゴォォ……ォン!! と鐘が鳴るような音が会場中に響く。

 

 

「何やってるのあの子!?」

「自分で自分を……!?」

「おかしくなっちゃったのよ、きっと……」

 

 

 ヤマトの額から血が滴り落ちる。

 一部が欠け、血がついた金棒を床に放り投げた。

 二、三歩ほどぐらつき、大きく深呼吸。

 

 

「……気でも触れたか」

 

 

 眼前の挑戦者の奇行を目の当たりにした女帝の目には、呆れとも落胆とも取れる色が映る。

 ここで自傷に走る意味が分からない。

 両者の差は、気合いや心構えといった精神的な要因で埋まるような溝ではないのだ。

 実力ある戦士であるが故に、残念でならない。

 

 

「そうまでして石になりたくば、望み通りにしてやろう」

 

 

 忠告はした。

 それでもまだ戦う意志を示したなら、こちらは続行するのみ。

 それが強者を尊ぶ、この島の掟であり礼儀であり賛辞なのだから。

 

 死神の鎌のように、空気を裂きしなる右脚。

 女帝の石化の一撃を喰らった挑戦者の腕が、無惨にも砕け────

 

 

「……っ!?」

 

 

 ────てなどいなかった。

 

 繰り出した決着を告げる筈だった一撃は、相手の左腕で受け止められている。

 

 

「がぁッ!!」

「なに、くっ────!?」

 

 

 蹴りを防いだ姿勢のまま腕を組み替え、女帝の足首を捕まえる。

 そのまま力任せに投げつけ、女帝は闘技場の縁に叩きつけられる。

 

 

「蛇姫さま!?」

「ウソ!? 蛇姫様のアレを受けて、どうして無事なのよ!?」

 

 

 一部の例外を除き、観客は困惑していた。

 防御不能の攻撃を防いだどころか反撃するとは、どういうことなのか。

 

 

「……そういうことか」

 

 

 思わぬ反撃を貰った本人は、何が起きたかを正確に把握していた。

 

 攻撃をしたあの一瞬。

 ヤマトは防御した腕に本来なら過剰となる程の覇気を収束していたのだ。

 悪魔の実の能力は、過剰な覇気で防ぐことが出来る。 

 それがどの程度可能かは互いの力量にもよるが、見た限りではどうやら石化は完全に防がれたらしい。

 

 

「本当は、あんまり使わないようにってウサギに言われてるんだ。能力に頼りすぎないように、まず自分自身を鍛えろって」

 

 

 上体をだらりと落としたヤマトの体に変化が起きる。

 瞳孔が縦に割れる。

 ザワザワと、逆立つ白い毛並み。

 喉を鳴らし、歯は鋭利な牙へと変わる。

 

 

「でも、君を相手に手は抜けない。だから────」

 

 

 より野生的な姿に変貌した挑戦者の口から、白い呼気が漏れる。

 周囲の気温が急激に低下し、霜が降りる。

 

 

全力で行くよ

 

 

 動物系幻獣種、モデル:大口真神。

 ワノ国においては守り神とされる幻の獣の力が、蛇の女帝に牙をむく。

 

 

「……能力者じゃったか、面白い。じゃが、勘違いするでないぞ」

 

 

 立ち上がり、服に付いた埃を落とす。

 女帝はその余裕を崩さない。

 

 

「そなたがどんな能力を持とうが、妾には勝てぬ。その珍妙な獣の姿で、思うままに足掻くがいい」

 

 

 脚に込めた武装色の覇気。

 相手が動物系の能力者であることは疑いようがない。

 動物系はそのパワーとタフネスが厄介だが、それは単純に外から攻撃した場合の話。

 

 ならば内側から直接ダメージを与えてやればいいだけのこと。

 これを出すつもりは無かったが、ここまできて手を抜くのは侮辱だろう。

 そしてこれを出した以上、今度こそケリが付く。

 

 やはりどうあれ最後は自分の勝ちだと、女帝は己の勝利を確信した。

 

 

 人獣型に変身したヤマトは、対戦相手に勝つ為の方法を模索していた。

 能力で変身した今でこそ身体能力は自分が優勢だろう。

 だが能力の練度は確実に相手が上手。覇気についても同様と考えた方がいい。

 

 ならどうするか。

 遠距離でやり合っては埒が明かないばかりか、こちらの手の内を晒すだけに終わるだろう。

 となれば必然、近距離戦。それも短期決戦。

 動物系はタフネスとスタミナにも優れるが、あの石化能力を前にしては長期戦はむしろ致命的。

 よってあの石化能力に警戒しつつ、動物系の力と速度で押し通す。

 

 時間は与えない。

 相手がこちらの能力について考察している隙に仕掛けるのが最善。

 

 

「勝負──!!」

 

 

 床を砕き、弾丸のように向かってくるヤマトを女帝が迎え撃つ。

 

 速い。

 だが決して反応不可の速度ではない。

 十分カウンターを狙えると判断し、その一瞬を見計らう。

 

 両者の間の距離が縮められる。

 互いの渾身の一撃が相手を捉え、凄まじい衝撃が広がる────

 

 

 ────ようなことはなく挑戦者が女帝の横を通り過ぎた。

 

 そして速度を落とさぬまま、女帝の後方にある闘技場の縁に激突。

 うつ伏せになって倒れ、そのまま動かなくなった。

 

 しん……と数秒の静寂が訪れる。

 

 

「「「「「……は?」」」」」

 

 

 会場にいた誰もが、唖然とした。

 

 何が起きたのか、誰も彼も把握していない。

 試合が最高の盛り上がりを見せたところで起きた、まさかの事態に、誰もが凍ったように固まって動かなくなる。

 

 審判のグロリオーサは一足早く気を取り戻すと、慌てて試合を一時中断してヤマトのもとに駆け寄る。

 いくら揺すっても起きない。

 うつ伏せから仰向けに姿勢を変えさせると、グロリオーサは目を剥いて驚いた。

 

 

「こ、これは……!?」

 

 

 それは、キノコだった。

 いくつものキノコが、ヤマトの身体中から生えている。

 口からキノコが飛び出て、白目をむいて完全に失神していた。

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

 

 なんとも言えない空気が会場を包み込む。

 そのあんまりな結末に、誰もが言葉を失くしていた。

 

 

 こうして。

 女ヶ島の歴史上最も締まらぬ決闘は幕を閉じたのだった。

 

 

「何なのじゃ、こやつは……。この妾に、こんな無様な試合を……はぁ……」

 

「あぁ、蛇姫さま!?」

「お気を確かに!」

「誰か! 蛇姫様がお倒れに──」

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 …………。

 

 

だから、僕は光月おでんだ!! ……って、あれ?」

 

 

 ヤマトが目を覚ますと、そこは見覚えのない部屋だった。

 その部屋に備え付けられているベッドの上にいる。

 全く心当たりがなく、ここは何処かと困惑したが、答えはすぐに分かった。

 

 

「起きたか。男を名乗る不届者」

「!」

 

 

 部屋にいたのは、先ほどまでの試合の相手だったハンコックであった。

 トグロを巻いた大蛇に腰掛けたまま、ヤマトにもそのままでいいと告げ、女帝は話を続ける。

 

 

「決闘は妾の勝ちじゃ。当然の結果……と言いたいところじゃが、あんな結果ではな……」

「あんな結果?」

「覚えておらぬのか……」

 

 

 はぁ、と大きく溜息を吐く女帝。

 

 

「貴様は口からキノコを吐いて無様に倒れたのじゃ。この妾との決闘の最中にもかかわらず!」

「キノコ?」

 

 

 あぁ、とヤマトはそこで今朝のことを思い出した。

 

 決闘当日の朝。

 格上の相手との対決に自分の中のおでん魂が奮い立つのを感じたヤマトは、居ても立ってもいられずジャングルに走った。

 ある程度体を動かし気持ちを落ち着かせたが、動いたことで空腹を感じた。

 そして丁度良いところにキノコが生えていたので口に入れた────

 

 

「────ということさ!」

「色々と言いたいことはあるが、貴様さては最上のアホじゃな?」

 

 

 こんな奴と態々決闘までしたのかと、今更ながらハンコックは恥ずかしくなった。

 確かに強いのは間違いないが、それ以外が残念極まる。

 

 

「おかしいな、ワノ国にいた時食べたやつに似てたから大丈夫だと思ったのに……」

「危機感の無い奴じゃな……あぁ、ワノ国といえば」

 

 

 何かを思い出したような女帝。

 

 

「ウサギから聞いたぞ。よもやあのカイドウの実子とはな」

「……うん。僕はあのクソ親父の息子だ」

 

 

 かけられたシーツをぎゅっと握る。

 ヤマトにとって父とは敵とは言わずとも、必ず乗り越えなければならない壁そのもの。

 自分が自分らしくあるために、憧れた彼の侍を超えるために。

 

 

「あやつも無茶をする。四皇の娘を攫うなどと、よくもまぁやるものじゃ」

「うん、あの時は驚いた! あのクソ親父から逃げられるような人がいるなんて僕も思ってなかったから」

 

 

 実の父に爆発する枷でワノ国に縛られていたヤマトを、外の世界へと連れ出したあの自称海賊。

 唐突にヤマトの前に現れた彼女は、あっさりとヤマトの枷を解くと海へと連れ出した。

 国を出るにあたりなんやかんやとあった上に連れ出されてからは撮影スタッフとして使われているが、ヤマトとしては外界を見て回れるだけでも十分、その上修行もつけてくれるので感謝している。

 

 

「いつかはワノ国に戻るつもりなんだ。そしてアイツを倒す。海に出たのはそれが理由の一つ」

「ほう、他にも何かあると?」

 

 

 四皇の打倒という到底困難な目標の他に、それと並ぶだけの目的があるのか。

 うんと答えたヤマトは、懐から一冊の冊子を取り出した。

 

 

「これを書く為さ!」

「……航海日誌?」

 

 

 ワノ国独特の文体で達筆に「やまと日誌」と書かれたそれは、持ち主にとって重要なものであるという。

 

 

「おでんも日誌を書いていたんだ。だから僕も書くことにした。あ、おでんの日誌はウサギが預かってるから見せられないんだけど……」

「それは別によいわ」

「まぁ、つまり僕はウサギのお陰でこうして外海に出られたってことさ」

「あやつに助けられた、か」

 

 

 どこか懐かしむような口調で女帝は呟く。

 あの少女の容貌の女海賊に恩があるという一点においてのみ、ヤマトの境遇は彼女にとって他人事には感じなかった。

 

 

「君もウサギに助けられたの?」

「……助けられたのではない。救われたのじゃ、妾たち三姉妹はな」

 

 

 窓の外、夜空に浮かぶ月を見つめる。

 あの日もちょうどこんな丸い月だったと、ハンコックは思い出す。

 

 あの日。

 絶望の底にいた自分たちが救われた運命の日。

 聖地マリージョア襲撃という前代未聞の大事件が起き、それにより世界貴族の奴隷だった多くの者が解放された。

 性別も歳も種族も問わず、実に多くの者が脱出に成功した。

 

 二人の妹を連れて必死に炎に包まれる聖地から逃げ出し、見上げた月にその姿を見た。

 満月を背に、舞うように、或いは踊るように跳ね回る少女。

 夜の天蓋の下にあっても、白い髪に赤い瞳はよく映えた。

 

 強い者こそ美しい。

 故国の基本原則である言葉が、この時ようやく本当の意味で理解できた。

 

 

 教えを請うたのは、事件から少し経ってからだった。

 

 

「妾のことはよい。それより貴様の処遇じゃが」

「うっ……」

 

 

 そうだったと、ヤマトは決闘前にかわした条件を思い出した。

 自分が勝てば男として島での滞在を許可され、女帝が勝てば自分は追放。

 そして負けた以上、どうなるかは明白。

 だったが──

 

 

「あれでは決められぬ。よって妾が沙汰を下すまでの間に限り、滞在を許可する」

「……え?」

 

 

 追放、と告げられることはなかった。

 代わりに告げられたのは処分の延期。

 

 

「でも僕は……!」

「妾が勝った場合と、貴様が万が一勝った場合の処遇は決めていた。が、貴様が勝手に負けた場合のことは決めておらんかった」

 

 

 ルールの穴を突く、というより屁理屈に近い。

 しかしハンコックからすればあんな酷い自滅をされて勝ったところでそれを誇ることは出来ないので、仕方なくの措置といった様子だが。

 

 

「そういうわけじゃ。男を名乗る大馬鹿者は、それまで大人しくしておくが……」

「……ぁ」

「?」

 

 

 部屋を去ろうとした女帝の耳に、蚊の鳴くような声が届く。

 その出所はヤマトなのだが、それにしてはやけに声が小さい。

 何か言いたいことでもあるのかと、本人に直接聞こうとして、

 

 

ありがとう〜〜〜!! 君、良いヤツなんだな〜〜〜!!

「なぁっ!?」

 

 

 思い切り笑顔で抱きつかれた。

 

 

「恩に着るよハンコック! 僕もっとこの島探検したいと思ってたんだ!」

「えぇい離れぬか!? この、くっつくなと……!」

 

 

 笑いながらへばりつくヤマトを剥がそうとするハンコック。

 二人でジタバタと揉み合うところを、彼女が見逃す筈が無かった。

 

 

 パシャ。

 

 

サムネゲーット!」

「?」

やめぬか!?

 

 

 この後めちゃくちゃ動画編集した。

 




 読んでいただきありがとうございます!

 戦わせてみたはいいがオチを全く考えてなかったので気づけば早一月以上。
 もっと考えてから書けばよかったと反省。もうバトルなんて懲り懲りだぜぇ!

 感想、高評価など頂けましたら嬉しいです。
 今後もよろしくお願いします。それでは。


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