あなたに捧ぐ恋の夢 (雨期)
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プロローグ

「こんな事も出来んのか!? いつまで新入社員気分だ!!」

 

「はい、すみません」

 

「なんだその態度は! 反省しとるのか!?」

 

 ある企業の支店で一人の新人社員が課長に怒号を浴びせられていた。

 

「何か言ったらどうだ!?」

 

「…………まだ教わっていない業務でしたので」

 

「なら自分から教えを請わんか!! これだからゆとりは」

 

「まあまあ課長。今回は教育係の私に責任がありました。馬淵君、もう席に戻ってていいよ」

 

「……はい」

 

 先輩社員の助けによってなんとかその場を凌いだ新人社員、馬淵(まぶち)龍見(たつみ)は席に戻ると大きな溜め息をついた。課長の言う事が理解出来ない訳ではない。寧ろ正論だろう。だがそれは新人社員が可能な仕事ならばだ。課長が龍見に課した仕事は明らかに新人社員がこなせるものではなかった。前日に接待で上手くいかなかった課長の明らかな八つ当たりであった。

 本来誰かが止めに入ってもおかしくないのだが、今回は誰も何も言わない。言えないからだ。この支店では課長が最も役職が高い上に、課長は社長の親族であった。彼の機嫌を損ねてはどこに左遷されるか分かったものではない。この支店で龍見を守ってくれるものは教育係の先輩社員のみであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「馬淵君、今日も疲れただろう。夕食くらい奢るよ」

 

「ありがとうございます。でも、食欲ないんですよ」

 

「…………あまり無理するものでもないよ。最近の課長は明らかに君をターゲットにしている。我慢の限界に来たら辞めるのも」

 

「はは……就活200敗な自分を拾ってくれた会社ですよ。そうそう辞められません」

 

「……………………君に任せるよ。でもこれだけは言わせてくれ。独りで抱え込むのは馬鹿のやる事だよ」

 

「…………分かりました。さようなら」

 

 先輩社員に見送られながら帰路に着いた龍見だが、夜遅くに疲れた顔をして歩いている社会人はその手の輩には格好の獲物に見えたようだ。龍見の前には明らかに柄の悪い三人の若者が立ち塞がった。

 

「ようおっさん。悪いんだけど金貸してくんね?」

 

「俺らパチンコで大負けしちゃってさぁ。金いるわけ」

 

「大人しくしてくれりゃ痛くはしねぇよ」

 

「…………おっさんに見える? まだ23なんだけど」

 

「えっ、マジ? 一個上じゃん」

 

「なら後輩を助けて下さいよぉ、先輩?」

 

「ちょっとだけですからよぉ」

 

「「「ギャハハハハハハハハハハハハハハッ」」」

 

「…………はぁ」

 

 下品に笑う若者達の姿に今日一番の溜め息をつく龍見だが、顔を上げると何かを呟き始めた。

 

「んん? 天にお祈りっすかせんぱぁい」

 

「君達、手品は好きか?」

 

「は? んなもんより金出せよ」

 

「金品でもいいんだぜ?」

 

「そうか……つまりは鉱物だな。五行・金。飛礫(つぶて)」

 

「「「へっ? ぎゃあぁぁあぁぁああああっ!?」」」

 

 どこからか飛んできた無数の小石が若者達に直撃した。かなりの威力があったらしく若者達は血塗れになっていた。しかし不思議な事にぶつかったはずの小石はどこにも無く、近くには雨も降っていなかったのに水溜まりが出来ていた。

 

「記憶を消す必要は…………やっておくか。顔を覚えられても面倒だ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

 誰も居ないアパートの一室に龍見の声が響く。電気が点くと、そこには山のように積み上げられた本や古びた道具が広がっていた。そのどれもが魔術、陰陽道などといった世界中の術に関係するものであった。

 

「随分と増えたな。今度処分しねぇと…………あームカつく。これも全部糞親父のせいだ。何が先祖代々伝わる神秘だ。こんなもん、現代社会で何の役に立つ」

 

 ベッドに横たわり天井を見つめる龍見が少し空中を睨むと、そこには拳大の火の玉が現れた。

 龍見の、馬淵の一族は所謂魔法使いの一族である。古来より様々な術に精通してきており、時には国外からやってきた術者の血も混ぜ、国内外のあらゆる術を修得しようとしてきた。だがどう足掻いても一人が一生のうちに完璧に修める事の出来る術など一つ。天才と呼ばれた者でも三つ程度であった。

 しかし龍見は違った。幼稚園卒業時には四つもの術を修め、それからもスポンジが水を吸うかのように術を修めてきた。これに気を良くした龍見の父は世界中の術を修めた、まさに一族の悲願とも言える息子を作ろうとした。その結果、龍見は普通の勉学においてはワーストクラス。就職難に遭う羽目になってしまった。しかもやっと入社した会社では上司からはパワハラを受け、社会に嫌気がさすという結果になった。

 龍見が独り暮らしをするようになった今でも龍見の父は術に関係する資料などを送り続けてくる。それが先程の本や古びた道具の山である。

 

ーーピンポーン

 

「宅配でーす」

 

「こんな時間にかよ。今行きます」

 

ーーガチャ

 

「こちらになります。サインか印鑑をお願いします」

 

「はいはい」

 

「確かに。重いですからお気をつけて」

 

「あー、また糞親父か。今度は何を送ってきやがった?」

 

 大きめな段ボールに入った荷物が父からのものと分かると、玄関で段ボールは開封された。中からはかなり立派な銅鏡が出てきた。父から無駄に古い魔術道具を渡され続けた龍見はそれなりの鑑定眼があり、これが一部マニアに売れば相当な値段がするものなのは一目で分かった。

 

「また無駄遣いしやがって。これだから母さんに逃げられるんだ。しかし古いのは当然として、かなりの力だな。下手に放置すると変なものを呼ぶかもしれんし、封印しておくか」

 

 龍見がぶつぶつと呪文を唱えると銅鏡を覆うように幾何学模様の魔方陣が作られた。だがそれが銅鏡を呼び覚ます鍵になってしまった。

 

「! ヤベッ!!」

 

 銅鏡が直視できないほどに光輝き、魔方陣は砕け散った。光はどんどんと大きくなり、部屋の端まで逃げた龍見をも飲み込んだ。光が収まった部屋にはもう、龍見の姿は無かった。




とりあえず特急で書き上げた結果がこれだよ。これからどうしようかな。あっ、メインヒロインは確定しますんで。


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第一話

主人公の馬淵龍見は運動はそれなりに得意です。体育の成績が5~4くらい得意です。


 龍見が目を覚ますと、そこには雲一つない青空が広がっていた。少なくとも自分の部屋ではないのは分かった。周囲を見回すと多少岩山がある程度の荒野が広がっている。日本にこんな場所があったかと首をかしげていると、遠くから何かが砂煙を上げて走ってくるのが見えた。

 

「あれは…………馬か。日本らしくはねぇよなぁ。こっちに来るし、勘弁してくれよ」

 

「そこのあんたー! 逃げなさーい!!」

 

「逃げろって、向かってくるのはそっちだろ。ってか子供じゃないか」

 

 いくつかは分からないが、眼鏡を掛けた緑髪の少女と頭からローブを被った少女が一頭の馬に乗って走る姿は世界を巡ってもお目にかかれるものではないだろう。よくよく見るとその後ろから更に馬に乗った武装した人々のが見える。どうやら何者かに追われていたようだ。

 特に付き合う必要もないと判断した龍見はさっさとその場を去ろうとしたが、少女達の乗った馬が龍見の前で止まった。

 

「ちょっとこの阿呆! 何止まってるのよ!」

 

「あー、昔から動物に好かれる体質だったが、こんなところでデメリットになるなんて」

 

「詠(えい)ちゃん、もう来ちゃうよ」

 

「そこのお前! ボク達の邪魔をしたんだから何とかしなさい!!」

 

「んな理不尽な」

 

「やっと追い付いたぜ、董卓さんよ」

 

 追ってきた男の言葉に龍見は目を丸くした。董卓といえば三国志に出てくる有名な登場人物の名だ。そして董卓は少なくともこんな子供ではないし、ましてや少女などではない。

 

「あんた人違いしてるぜ」

 

「なんだお前は。邪魔しないでもらおうか」

 

「いや邪魔とかじゃなくて」

 

「者共やれ! 董卓は傷付けるな! 他は殺せ!!」

 

『オォォォォッ!!!』

 

「マジか。どうしてこんな事に……」

 

 完全に巻き込まれる形となってしまった龍見は頭を抱えながらも呪文を唱え始めた。この少女達がどうなろうと知った事ではないが、少なくとも自分の命は惜しい。そのついでに守ってやろうという考えらしい。あくまで自分優先なのだ。

 

「死ねぇ!」

 

「やだよ。ミラージュミスト」

 

 一人の兵士が剣を龍見の脳天目掛けて振り下ろしたが、剣は龍見の体をすり抜けた。否、すり抜けたのは龍見の姿の幻影であった。いつの間にか周囲は深い霧に包まれ、そこには何人もの龍見の幻影が闊歩していた。

 

「な、なんだこれは!?」

 

「妖術だ! あいつ妖術使いだったんだ!」

 

「西洋魔術だ。間違えるな。さあ何とかしてやったぞ少女達。さっさと逃げよう」

 

「逃がすな! 追え!!」

 

「し、しかしどこに居るか分かりません」

 

「くっ、このような誤算が起こるとは」

 

 霧の中で追手達が騒いでいるうちに、龍見は少女達を担いで馬に乗って逃げていた。

 

「どこ触ってるのよ! 離しなさい!」

 

「ミラージュミストの効果時間は短い。逃げたいならつべこべ言わずに大人しくしてろ。こっちの少女は大人しいぞ。それでどっちに行けばいい?」

 

「ぐぬぬ、真っ直ぐよ」

 

「OK。頼むぞ馬」

 

「ブルルッ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 なんとか街らしき場所に到着した龍見は少女達を下ろし、初めての乗馬で痛めた尻を魔術で治癒していた。

 

「もう…………馬には乗らねぇ」

 

「あの、ありがとうございます。貴方のお陰で助かりました」

 

「こいつが居なかったら逃げ切れてたかもしれないけどね」

 

「詠ちゃん!」

 

「ま、正論だわな。それでさっき董卓とか言われてたけど、あれ何?」

 

「董卓は私ですよ?」

 

 ローブの少女がそう言ってローブを取る。薄紫で肩まであるウェーブした髪、白い肌、大人しく上品な顔立ち。術のために様々な文献を読まされてきた龍見だが、こんな董卓の情報は一切なかった。

 

「詠ちゃんも自己紹介とお礼言おう。ね?」

 

「…………ボクは賈詡。字は文和。一応礼は言っておくよ」

 

「賈詡ぅ? お前が? ジョークも大概にしろよ」

 

「じょーく? 訳の分からない事を言わないで」

 

「訳分からないのはこっちのセリフだ」

 

「ねぇ詠ちゃん、もしかしたらこの人、天の御使い様かも」

 

「月(ゆえ)、それ本気で言ってる? 第一御使いはもう曹操のところに出現したって」

 

「御使い様は一人とは占い師さんは言わなかったよね。それにさっきの術や今の分からない言葉は天のものなんじゃないかな?」

 

「確かにそう考えると辻褄が合うけど…………」

 

 突然こそこそ話を始めた二人を龍見はのんびりと眺めていた。よく分からない単語が飛び交っているが、どうやら龍見がこの世界の住民ではないのではないかという話をしているようだ。

 

「あの、お名前を伺ってもいいですか?」

 

「馬淵龍見だ」

 

「どこからが姓で、どこからが名で、どこからが字ですか?」

「姓は馬淵で名が龍見だ。字はねぇよ」

 

「…………もし機嫌を損ねてしまったら申し訳ないんですが、真名(まな)はありますか?」

 

「何それ。あっ、もしかしてさっきから君達が呼び合ってたやつ? あれニックネームじゃねぇの?」

 

「やっぱり! 御使い様には真名は無いって本当だったんだよ詠ちゃん! 服も変だし」

 

「嘘、真名が無いなんて…………」

 

「よく分からんな。しかしスーツが変か…………」

 

 彼女達が互いに呼び合っていた詠や月という名は相当重要なものなのが二人の反応から窺える。そして龍見がとんでもないものにされそうな事も簡単に分かった。

 

「すまん、一から説明してくれ」

 

「えっ、御使い様は全てご理解しているんじゃ」

 

「ほら月、やっぱり違うんだよ」

 

「でもあの術は凄かったよね。もし手を貸してもらえたらこの先きっと楽になるよ」

 

「うーん、それは否定しないけど」

 

「なんだ、オレに協力してほしいのか。オレとしては早く元の場所に帰りたいんだが」

 

「元の場所って天の国ですか?」

 

「東京都だ。OK?」

 

「どこよそれ。っていうかおーけーって何?」

 

 董卓や賈詡という名、日本の首都を聞いた事もなく、誰でも知っているような簡単な英語すら知らない。先程の兵士達も時代錯誤な鎧や武器を使っていた。龍見の中で、あまり考えたくなかった予想が確信になろうとしていた。

 

「ただの転移じゃない。時代すらも超越したのか? これじゃ帰るのすら…………いや帰らなくても」

 

 帰ればあの課長のパワハラが待っている。いっその事この世界で暫く過ごすのもいいかもしれないと龍見は考えていた。そんな彼に董卓と名乗った少女が再び話し掛ける。

 

「馬淵さん、私達と戦って下さい」

 

「ちょっ、月!?」

 

「やっぱり協力してほしいのか。でもさっきも言ったけど説明してくれ。まずはそれからだ」

 

「分かりました」

 

 董卓の説明はこうだ。少し前、どこかである占い師が天より御使いが現れ、乱世を鎮めると預言した。その数日後に曹操の元へ天の御使いらしき男が現れ、更に龍見も現れたのだ。董卓は乱世を終わらせ、平和な世が作りたい。そのために龍見の力を借りたいというわけだ。

 

「オレが天の御使いと決まった訳じゃねぇぞ」

 

「でも私達の知らない服や言葉を知っていますし、きっと天から来たんだと思います。ね、詠ちゃん」

 

「ボクに振らないでよ。でも偶像としては役立つんじゃないかな。あの妖術だって十分使える」

 

「さっきまで否定的な態度だったのにどうした?」

 

「こうなった月は止められないの。だったら出来る限り有効活用するしかないじゃない」

 

「なるほど、苦労してるな」

 

「それで、どうでしょう?」

 

「いいぞ」

 

「随分と決めるの早いじゃない」

 

「まあな」

 

 この先情報も拠点もなく、元の場所に戻るのは難しいと判断した龍見は彼女達と行動を共にする事にしたようだ。

 

「ありがとうございます! 」

 

「よろしく頼むぞ董卓」

 

「これからはお仲間ですから月って呼んで下さい」

 

「月! 真名まで呼ばせる必要はないよ!」

 

「えっ、でも」

 

「真名はそんな重要なのか?」

 

「真名ってのは親しい相手にしか呼ばせない名よ。だからあんたが月の真名を呼ぶなんてあっちゃ駄目なのよ」

 

「私はいいよ? それに馬淵さんに真名が無いって事は、さっき教えてもらった名前が真名みたいなものだよね。だったら私達が真名を名乗らないのは不公平じゃないかな?」

 

「な、なんだか今日の月は強気ね。分かったわよ。ボクの真名は詠。あんまり気安く呼ばないでよね」

 

「あいよ。まあそんな大層なもん教えられて何もないってのもなんだし、オレも龍見って名前で呼んでくれ。どっちかってとこっちが真名に近いしな」

 

「分かりました龍見さん! じゃあまだ紹介したい仲間が居ますから来て下さい!」

 

「とと、引っ張るなよ」

 

 これから待ち受けているものがどのようになるのか。課長の相手をして父親の荷物を受け取り続けるよりは楽だろう。そう楽観視している龍見であった。




ミラージュミスト
幻覚を見せる霧を作る魔法。効果時間は約10分。範囲は半径50mほど。


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第二話

能力系バトルは苦手です。


 董卓や賈詡と名乗る少女達に連れられて、龍見は大きな城の前へと到着した。これが彼女達の物というのならば、本当に彼女達は三国志の有名人物かもしれない。

 城の門前に近付いた時、学生帽のような帽子を被ったミント色の髪の少女が駆け寄ってきた。年齢は月や詠より低そうだ。

 

「月殿! 詠殿! 捜しましたぞ!!」

 

「音々音(ねねね)ちゃん、心配かけてごめんね」

 

「月がお忍びで出掛けたいって言わなければ早く帰ってこれたんだけどね」

 

「詠ちゃん! それ秘密!」

 

「ふふ、仲がよろしいですな。それでそこの男は一体?」

 

「この人は龍見さん。天の御使い様だよ」

 

「…………はい?」

 

 少しは説明しろよ、と龍見は頭を掻いた。その隣では詠が疲れたように項垂れていた。いくら長い付き合いでも慣れないものはあるのだろう。

 

「噛み砕いた説明になるけど、こいつは馬淵龍見。ちょっと追われてたボク達を助けてくれたんだけど、どうやら違う国から来たみたいで、都合がいいから天の御使いに仕立てあげようってわけ」

 

「なるほど」

 

「そういう訳だ。色んな術も使えるから邪魔にはならねぇぜ」

 

「ならばよろしくお願い致します馬淵殿」

 

「月も龍見って呼んでいるから龍見でいいぞ。えっと」

 

「ねねは陳宮と申します。恋殿専属の軍師です」

 

「まさか、呂布か?」

 

「その通りよ。よく分かったわね」

 

「有名だからな…………」

 

 呂布。三国志に詳しくなくともその名は聞いた事があるという人は多いだろう。三国志最強の武人にして裏切りの象徴。この世界が三国志の登場人物の性別を反転させた世界というのは龍見も陳宮の名を聞いた辺りで確信したが、女性となった呂布がどのような人物か。イメージ出来ずに龍見は再び頭を掻いた。

 

「他国にも名を轟かすとは流石恋殿ですな」

 

「んで、その呂布さんと会わせてもらえるのか?」

 

「当然よ。仮にも仲間になったんだから」

 

「もし恋殿がお認めになられたら、ねねの真名を預けます」

 

「勘弁してくれよ」

 

 呂布が人を認めるとしたら一部例外を除いて武によるところが大きいはず。古今東西様々な術を修得したとはいえ、リアルチートな呂布に認められる自信が龍見にはなかった。

 

「こっちですよ」

 

「はいはい」

 

 半ば諦めているのか龍見は大人しく月に引っ張られていった。ちなみに龍見の中ではこの世界の呂布はゴリラと見間違わんばかりの巨女となっている。

 そうして連れてこられた中庭では一人の少女が犬と戯れていた。健康的な褐色の肌、二本のアホ毛が特徴的な朱色の髪、そして何よりも月、詠、陳宮とは違う大きな胸。思わず龍見も凝視してしまった。

 

「はっ! いかんいかん。ただのセクハラじゃないか」

 

「ワンッ!」

 

「あっ、セキト」

 

「んん? どうしたワンコ。うわっ!? 飛び掛かってくんな!」

 

「セキトがあっさりなつくとは、何かそういう術でも使ったのです?」

 

「生まれつき体質だ」

 

「ん、セキトおいで」

 

「ハッハッ」

 

「むぅ」

 

 犬は主人である少女に呼ばれても龍見からは離れようとしなかった。少女は実に不満げである。

 

「残念だったわね恋。この子はこいつがお気に入りみたいよ」

 

「…………待て、彼女が呂布か?」

 

「そうなのです」

 

「ほ、ほー。思ってたのと違ったな。ワンコ、ご主人さんのとこに帰りな」

 

「ワンッ」

 

「セキト、お帰り…………あなたは誰?」

 

「あ、この人は」

 

「月は下がってて。ボクが説明するから。簡単に言うけど…………」

 

 説明は先程陳宮にしたものと大差ないが、呂布は龍見が術を使えるという事に興味を示した。単純に戦う力があると理解したからかもしれない。

 

「…………弱そう」

 

「ひでぇなおい。でも確かに武術を基準に考えるあんたからすれば弱いだろうな」

 

「なら、強い?」

 

「戦う力はある。強いかはやってみなくちゃ分からん」

 

「ならやってみたらええんとちゃう?」

 

「ぬおっ!? 誰だ!?」

 

「お帰りなさい霞(しあ)さん。早かったですね」

 

「簡単な仕事やったしなぁ」

 

「あんた…………張遼か」

「おっ、天の御使い様はうちも知っとるんか」

 

「あんたどこから聞いてたのよ」

 

「最初からやで、賈詡っち」

 

 張遼といえば泣く子も黙るの語源にもなったと言われる人物であり、呂布に負けず劣らずの猛将である。そんな武将がこの世界では薄紫の髪を後ろで纏め、大きな胸をサラシで押さえた関西弁の気のいい姉ちゃんになっているのだったが龍見もいい加減慣れてきたらしく驚く事もなかった。

 

「それで呂布ちんと戦うんか?」

 

「恋はやりたい」

 

「参ったな…………互いに怪我しないように気を付けような」

 

「へぇ、やる気なのね」

 

「断ったら一部が認めてくれそうにねぇもんな」

 

「じゃあ、やる」

 

 近くに置いてあった方天戟を手に取った呂布は運動するように軽く振り回す。それだけで十分実力が伝わってくる。

 

「ただの新人リーマンで勝てる相手じゃねぇ…………この地に彷徨いし数多の魂。我が元に集い、その恨みを晴らせ」

 

「? 行くよ」

 

「…………っ、この時代だと死霊の数が半端ねぇ。呂布さん、覚悟しときな。ネクロマンシー・デスハンド」

 

「!」

 

 龍見の両脇の地面が盛り上がり、何かが這い出てきた。それは白骨化した人の手。それも片手だけで数mはある巨大なものだ。流石の呂布もこれには威圧されるかと思いきや、その口元は笑っていた。

 

「面白そう」

 

「そりゃどうも。オラァッ!」

 

 龍見の手の動きに連動するように巨大な手は動き、呂布に拳骨が降り下ろされる。それを呂布は避ける事なく真正面から受け止めた。かなりの衝撃を受けてなお、呂布に焦りの色はない。

 呂布の動きを封じたと判断した龍見は、追撃の手刀を叩き込む。しかし相手が呂布と思っていても、女性相手で怪我させないような試合を意識していたためか、龍見の攻撃は無意識のうちに緩んでいた。呂布がそれを見逃すはずもなく、拳骨は撥ね飛ばされ、手刀は簡単に止められた。

 

「いくら気を抜いたとはいえ、千人分の死霊だぞ!?」

 

「攻める」

 

「はやっ!?」

 

 呂布は龍見との間合いを一瞬にして詰めてきた。しかし龍見も何の対策をしていない訳でもない。近付いた呂布の動きが鈍くなる。龍見を中心に光る円形の何かが広がっている。

 

「あらかじめ結界を用意しておいて助かった。さあ吹っ飛びな。風遁の術!」

 

 大きく息を吸った龍見がそれを吐き出すと、まるで台風のような暴風となり呂布を吹き飛ばした。このまま続ければ攻められない呂布がいずれ負けそうだが、呂布の顔には余裕があり、逆に龍見の方が厳しそうな表情をしている。

 

「光、薄くなってる」

 

「気付くのはえぇよ。くそ、流石に千人分の死霊を使うネクロマンシーだとかなり体力を使うな」

 

「今度こそ恋の番」

 

「チィッ! ネクロマンシー解除!!」

 

 巨大な手は崩れ去り、土へと還った。龍見はネクロマンシーに回していた力を全て結界に送り込む。だがそれも呂布の前では無意味だった。結界の手前で止まった呂布は戟を大きく振り上げると地面を砕いた。その衝撃は龍見を吹き飛ばし、宙を舞わせた。集中力が途切れた事により、結界も消失した。

 

「いてっ!」

 

「恋の勝ち」

 

 地面に落ちた龍見に戟が突き付けられる。この状況を打開出来る手段を龍見は持ち合わせていない。白旗を上げるしかなかった。

 

「やっぱり勝てねぇって」

 

「楽しかった。恋の真名は恋。よろしく」

 

「おー、ようやったやん。なかなか楽しかったで。呂布ちんも認めたしうちの真名も預けるわ。うちは霞や」

 

「むむ、まさか本当に恋殿が認めなさるとは予想外です。でも約束は違えないです。これから音々音と呼んでもいいのですよ」

 

「有り難い。賈詡、あんたは認めてくれてねぇのか?」

 

「…………はっきり言って想像以上だったわ。ボクの意思で真名を預けるわ。相応の責任を持ってよね」

 

「了解。改めてよろしく頼むぜ、詠」




ネクロマンシー
死霊術。成仏していない魂を使う術だが、魂の数によって使う体力は変わる。
結界
種類によって変わるが、今回使われたものは相手の動きを拘束するもの。完全に止めるものではなく、鈍らせる程度。
風遁の術
忍術。突風を起こしたり、鎌鼬を起こしたり出来る。


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第三話

早くイチャラブ書きたい


 龍見が三国志的な世界にやってきて早一ヶ月が経とうとしていた。この間に龍見にはいくつかの仕事が課せられてきた。

 詠や音々音の手伝いとしての内政。これは課長のパワハラという苦行があったために苦になる仕事ではなかった。

 街の警備に兵の鍛練。警備といっても民の事を優先する月が治める土地だけあり、大きな犯罪は滅多に起こらないし、兵の鍛練もネクロマンシーによる死霊兵を使って龍見が何かをするという事はなかった。

 一番の仕事は恐らくこれになるだろう。術者の発掘だ。龍見ほどでなくても何かしら術を使える人材が増えるのは龍見にとっても助かる。この新しい術者だが、意外と見つかる。時代がそういうものを受け入れていた時期だからかもしれない。しかし見つかった術者の殆どが僅かに火を起こしたり、水を出したり出来る程度と大した事は出来なかった。その中で唯一優秀と呼べたのは詠であった。

 

「まさか五行を全て使えるようになるとは。オレの10分の1程度だけど凄いぞ」

 

「誉められてるようには感じないわね」

 

「いやいや、一代目なのに大したもんだって。今後鍛え続ければ月を守るのだって出来るさ」

 

「そうかな」

 

「そうだって。そろそろ警備の時間だから行ってくる。反復練習忘れんなよ」

 

 詠に自習を命じた龍見は自室でスーツに着替えて外に出た。この世界で天の御使いとして見られるためにも城の中以外ではスーツ姿で居るように言われているのだ。ちなみに先に曹操の元へやってきた御使いは白い服らしく、白の御使い。龍見は黒いスーツなので黒の御使いと呼ばれているようだ。

 

「待たせたか霞」

 

「全然。時間ぴったしや」

 

「社会人ならぴったしじゃ駄目なんだろうけどな。ま、いいか。さてどこから見て回る?」

 

「どこも変わらへんやろ。あっても食い逃げくらいやし」

 

「違いねぇ」

 

 始める前から仕事が終わったような雰囲気を出している二人の元に、一人の若い兵が駆け寄ってきた。明らかに普通の様子ではない。

 

「ほ、報告致します! 西の村が山賊によって壊滅したとの事です!」

 

「何だって!?」

 

「その情報どっから仕入れたんや?」

 

「西の村の青年が。しかし逃げる際に毒矢を受けたようでして、最後の気力を振り絞り情報を…………」

 

「死んだのか?」

 

「い、いえ。しかし医師の判断ではもう間に合わないと」

 

「霞、月達に報告頼む。オレは青年を治してくる」

 

「いけるんか?」

 

「やれるだけやってみるさ。何処に居る?」

 

「こちらです!!」

 

 兵に連れられてやってきた医院では傷だらけの青年が寝かされていた。顔色は青白く、呼吸も弱い。素人が見ても残り短い命だというのが分かるほどだ。しかし龍見は慌てない。静かに青年の胸元に手を当て、呪文を唱え始めた。

 

「浄化の光、彼の者を癒したまえ。アンチドート」

 

「おぉ…………なんと美しい光だ」

 

 龍見の手が輝き、その光は青年の体を包み込む。すると青年の顔色はみるみるうちに回復していった。

 

「これで良し。傷とかはあんま深くなさそうだし、本職にまかせっか」

 

「流石天の御使い様です」

 

「よせやい。じゃあ城に戻るか。お前さんはこいつと暫く一緒に居てやってくれ。もし何かあってもすぐにオレを呼べるようにな」

 

「承知致しました!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 龍見が城に戻るとすぐに会議が始められた。普段こういうものはサボるか寝ているかの恋も珍しく真面目に参加している。

 

「西の村の壊滅とはまた面倒な事になったわね」

 

「西の村と言えば林業が盛んなところなのです。この地域一帯がお世話になっていたはずなのです」

 

「あっちの山。恋の友達が住んでる」

 

「友達? ああ、動物か。そりゃ心配だな」

 

「山賊言うてたし、そこの山かもしれへんで」

 

「月、指示を」

 

「…………こんな事見過ごせません。恋さん、ねねちゃん、龍見さん。三人で部隊を組んで村の奪還を」

 

「あれ、うちは?」

 

「この街の戦力を空には出来ませんから、今回はお留守番をお願いします」

 

「うーん、しゃーないか」

 

「では出陣して下さい」

 

 月の指示を受けた三人は早々に西の村へと出発した。距離としては馬を全力で走らせて半日ほど。青年がやってきた時間も考えると、山賊の襲撃から約一日後に村に着く事となる。今回が初の戦場となる龍見はかなり緊張していた。緊張しすぎて馬に乗れず落ちるくらいに緊張していた。

 

「…………レビテーション。このまま引っ張っていってくれ」

 

「浮けるのですか」

 

「少しだけだし、浮く以外は何も出来んけどな」

 

「行く」

 

「頼む」

 

 まるで風船のように引っ張られていく龍見。恋が全く気にする事なく馬を走らせるので激しく揺れている。音々音はそれを見てクスクスと笑っていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 半日後、村に到着するとそこは惨状が広がっていた。むせかえるような血の臭い。逃げ遅れた村人達の死体の山。荒らされた家々。恋達はまだ慣れたものだが、このような現場は初めて見る龍見は胃の中のものを吐き出したくて仕方がなかった。

 

「ひでぇ…………ここまでやるかよ」

 

「目的は食糧でしょうか?」

 

「…………女の人、居ない」

 

「! 確かに、若い女性の死体はないな…………嫌な予感しかしねぇ」

 

「恐らくその予感は当たりなのです。山賊の根城を早く見付けなければ…………」

 

「手掛かりならある」

 

「えっ?」

 

 龍見は近くにあった男の死体に近付いていった。その死体の手には鎌が握られており、最後まで抵抗したのが窺える。

 

「あんたの抵抗。無駄にはしねぇ」

 

 鎌には山賊を切った時に付着したと思われる血が残っていた。すっかり乾いたそれを龍見は削り取り、水に溶かして紙に塗り付けた。そして呪文を唱えると、なんと紙は宙に浮き、何処かへ向かって飛び始めたのだ。

 

「帰還の術、成功。追うぞ。あの紙が向かう先が山賊のアジトだ」

 

「は、はい!」

 

 紙はどんどんと進んでいき、恋の友である動物達が住む森へと入っていった。恋は動物達が心配で何度か離れて様子を見に行こうとしていたが、その度に音々音に止められていた。

 約二時間後。辺りはすっかりと暗くなったが、山賊のアジトに到着した。龍見は死霊の兵団を召喚し、他は全員武器を構えている。

 

「見張りが居ないのです」

 

「罠があるんじゃないか?」

 

「たぶん無い。あっても恋が壊す」

 

「用心するに越した事はねぇ。行け」

 

 一体の死霊兵を龍見がアジト前まで向かわせるが、罠どころか人が出てくる気配すらない。

 

「根城を変えたのでしょうか?」

 

「それは無いな。帰還の術は持ち主の元へ必ず帰る術だ。移動したなら新しいアジトに向かう。恐らく、村を壊滅させた宴会か。拐った女でお楽しみか」

 

「どっちでもいい。罠が無いなら突撃する」

 

「恋に賛成だ! やるぞ!」

 

『オォッ!!』

 

 決して大きいとは言えない入り口に多くの部隊がなだれ込む。アジトの奥では山賊達が奪った食糧を貪り、女達を犯そうとしている最中であった。

 

「な、と、董卓軍!?」

 

「ラッキー! まだ誰も犯されてねぇな!」

 

「畜生! こんなのが来るなら大仕事したからって眠らずに、女で遊んでやれば良かった!!

 

「もう駄目だ、おしまいだぁ」

 

「馬鹿野郎! いくら相手が軍でも地の理はこっちにあるんだ!! 野郎共、返り討ちに」

 

「煩い」

 

ーーザンッ

 

 恋の戟が山賊の頭を真っ二つに切り裂いた。そして山賊達はまさかの呂布の出現と頭を失った事により混乱していた。ここからはもう一方的な虐殺である。狭いアジト内は山賊の血で真っ赤に染まる。なんとか外に逃げ出した山賊も外に待機していた部隊によって完膚なきまでに殲滅された。

 

「ウップ、吐きそ…………」

 

「し、死ねぇい!!」

 

「結界」

 

「か…………から、だ…………が…………」

 

ーーザシュッ

 

「これで、終わり」

 

「目の前で内臓飛び散らせないでくれ。ウエッ」

 

「友達」

 

「見てこい見てこい。こっちはこっちで処理しとく」

 

「ありがと」

 

 この後、助けられた女性達となんとか別方面に逃げていた村人の生き残りは洛陽にて保護を受ける事となった。恋の友も無事は確認された。




レビテーション
1mくらい浮く

帰還の術
物を持ち主の場所へ帰す術。物が持ち主にとって身近であればあるほどに効果は増す。


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第四話【R-18】

今作初の稚拙なR-18描写が入ります。後半はお気を付けて。


 その日は朝から騒がしかった。主に恋と音々音が騒がしかったのだが、とにかく騒がしいのだ。

 

「セキト、どこ?」

 

「どこですかセキト! 出てくるのです!」

 

 彼女達の言葉から察するにセキトが居なくなったようだ。城の中、街の隅々まで探しても見つからなく、早朝から探したというのに昼過ぎになってしまった。

 このまま探しても時間の無駄という音々音の意見で、一先ず昼食を取って休む事となった。

 

「セキト…………」

 

「大丈夫なのです。きっときっと見つかるのです」

 

「でも、こんなの初めて……」

 

「おっちゃん、焼き飯くれ。って恋に音々音? 暗い顔してどうした?」

 

「龍見? ……………………龍見! 手を貸して!」

 

「お、おぉ? どうしたんだよ恋。お前らしくもない」

 

「龍見は探し物をする術持ってたはず。あれを使ってほしい」

 

「もしかして帰還の術か? 使うのは良いが、まずは話を聞かせてくれるよな」

 

 たまたま昼食を取りに来た龍見だったが、普段ではまず見ない興奮した恋にかなり驚かされた。尋常ではないその様子に、龍見は昼食よりも恋達を優先する事にした。

 恋と音々音は朝からセキトが居なくなり、いくら探しても見つからなかった事を説明した。

 

「それで帰還の術で探したいと。いいぞ。ならセキトの体の一部とかはあるか? 体毛なんかが現実的だな」

 

「恋殿は沢山の動物と暮らしていますので、特定の動物の体毛だけを集めるのは難しいのです」

 

「なら物だな。セキトは常にスカーフ、首巻きあるだろ。あれの替えとかないか?」

 

「それなら」

 

「OK、ならそれでいこう。まあまずは腹ごしらえだ」

 

「恋は先に布取ってくる」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 昼食を食べ、恋が持ってきた布に龍見は帰還の術を施した。布は弱々しくだが、どこかに向かって飛び始めた。それを見た龍見の顔は険しかった。

 

「不味いかもしれん」

 

「何がなのです?」

 

「帰還の術で分かる事は二つだ。一つは物の持ち主の場所。もう一つは持ち主の健康状態だ」

 

「えっ」

 

「元気ならば持ち物も元気に飛ぶ。だが何か問題があればああやって弱々しいし、もし死んでいる場合はピクリとも動かない」

 

「龍見! 急がせて!」

 

「ああ! 全力を注ぐ!!」

 

 龍見が力を注いだ分だけ、布も素早く飛び始めた。そして布はある家屋の壁に衝突した。

 

「ここは?」

 

ーーガラガラッ

 

「恋殿! 勝手に入って…………何ですかこれは」

 

「剥製だ。しかもこの数…………」

 

「これ、何進の猫」

 

「! 本当なのです! 何進が逃げられたと言っていた飼い猫なのです!」

 

「もしかしたらここは有名人の飼い動物を剥製にして売っている店かもしれん。セキトが危ないな」

 

「っ!」

 

ーードガァッ

 

「うおっ!? だ、誰だ!? ってり、り、呂布!? それに陳宮に御使いまで!?」

 

「セキト!」

 

「クゥーン」

 

 恋が無理矢理蹴破った扉の先には明らかに私腹を肥やした男と、机の上に寝かせられた弱ったセキトの姿があった。

 

「恋殿のセキトに手を出すとは、この不届き者め! ちんきゅーきーっく!!」

 

「ぐえっ!?」

 

「お前は許さない」

 

「ひっ、お、お助け」

 

「この状況で助けを求められるてめぇの胆力がすげぇよ。一先ず恋は退け。新しい術の実験台にしてやる。惨たらしい死に方するから期待してろ」

 

「こ、この犬は返しますからお許しを!!」

 

「そういう問題じゃねぇから。ま、身から出た錆だ。受け取れ」

 

「ぐふっ!?」

 

 龍見は男を蹴飛ばすと、セキトを抱えて後ろに下がった。

 

「どうやら薬か何かで麻痺させられてるみたいだ。ヒール」

 

「ウゥ、ワゥ」

 

「あの男はどうなるのです?」

 

「体の内側から爆発して死ぬ」

 

「な、なんだって!? もうこんな事はしないから助けてくれ!!」

 

「一度発動したら解除は不可能だ。残り三秒」

 

「い、嫌だ! 死にたくない!」

 

「残り二秒」

 

「全部謝る! 金も渡す!」

 

「一秒」

 

「うわぁぁあああああああああああぁぁああぁああああああああああぁぁぁっ!!!!!!」

 

「ボンッ」

 

 カウントダウンが終わると男は泡を吹いて気絶したが、爆発する気配はない。

 

「失敗?」

 

「いいや成功だ。元々人を爆発させる術なんてない。それにこいつには余罪を全部吐き出してもらわないとな。それまで生かすさ」

 

「むぅ」

 

「恋殿は不満でしょうが、ここは抑えて下さい。これは法によって裁かれるべきなのです」

 

 こうして有名人のペットを剥製にして売り出していた男は捕まり、その半生を牢屋で過ごすはめになった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 その日の晩。龍見はゆったりと風呂に入っていた。温泉なのでかなりのんびりとしていられる。使えるのは週に二、三回だが、それでも疲れを癒すには十分だ。

 

「あ゛~~~、サイコー」

 

ーーヒタヒタ

 

「やっぱ温泉は良いね。帰ったら温泉巡りしよっと」

 

「龍見」

 

「ぬおわぁっ!? れ、恋? 今は男の時間だぞ?」

 

「知ってる。けどお礼がしたくて。セキトを助けてくれてありがとう。お礼に背中流す」

 

「あ、有り難いが、そんな事しなくても」

 

 普段もそれなりに露出の高い服を着ている恋だが、タオル一枚の姿は露出度は変わらずとも、違った艶かしさがある。

 

「やらせて」

 

「結構だ」

 

「やらせてくれないとお風呂出さない」

 

「のぼせさせる気かよ! くっ、分かったよ」

 

 龍見は温泉から上がると、木製の風呂椅子に座って恋に背中を向けた。さっさと終わらせてしまおうという考えだったが、なかなか恋が背中を洗ってくれない。

 

「どうしたんだ?」

 

「準備中…………よし」

 

ーームニュ

 

「…………」

 

 背中に柔らかいものが当たり、龍見は体が固まる。

 

「んしょ、んしょ」

 

ーームニッ、フニュフニュ、ムニィッ

 

 何が当たっているかは考えるまでもない。恋のふくよかな胸だ。一生懸命になる恋だが、どう考えてもこれはいけない。誰かに見つかれば即アウトである。

 

「れ、恋さん? こんなの、どこで?」

 

「霞が、こうすれば、よいしょ、男の人は喜ぶって」

 

(あの似非関西人めぇ! ナイス! じゃなくて何て事を!!)

 

「も、もう十分だ。終わろう」

 

「なら次は前」

 

「はっ?」

 

 想定外の恋の発言に龍見は完全に思考が停止した。そして龍見の返答を待たずして前に回った恋は、自身の胸によってタオルの上からもはっきりと分かるほどに膨張した龍見の逸物を直視した。

 

「あ、いや恋。これは…………」

 

「大丈夫。対処はどんな動物も同じ。射精すれば収まる」

 

 恋は龍見の腰のタオルを剥ぎ取ると、完全に勃起した逸物に手を添えた。普段巨大な戟を振り回しているとは思えないほどに細く、しなやかな指が龍見の逸物に絡まる。

 様々な動物で見慣れ、対処してきたのだろう。恋は非常に落ち着いた様子で逸物を扱き始めた。

 

「うっ、くっ…………!」

 

「我慢しなくていい」

 

 そう言われても龍見にも男のプライドがある。早漏と思われないように耐えている。

 恋にはそれが不思議なようで、キョトンとした顔で龍見を見上げる。その可愛らしい姿が更に龍見の腰の性欲を刺激する。

 

「ハァハァ! れ、恋。そのまま」

 

「うん」

 

ーーシュッシュッ

 

「うぁっ! すげ、一人でやるのと、全然」

 

「気持ちいい?」

 

「最……高……!」

 

「そう」

 

 感想を聞いて機嫌が良くなったのか分からないが、恋の手淫はどんどんと激しくなっていく。龍見の腰も浮いてきて、限界は近かった。

 

「も、駄目だ…………射精(で)る!!」

 

ーードピュッ ビュルルルッ ピュッピュッ ピュッ…………

 

 勢いよく放たれた精液は、恋の手だけでなく顔にまでかかった。白濁した精液が恋の褐色の肌をより際立たせ、龍見の逸物は再び硬度を取り戻そうとしたが、今回は理性をもって押さえ込んだ。

 

「ん、少し顔にかかった」

 

「す、すまん。こっちに来てから抜く機会がなくて。洗おう、なっ」

 

「うん」

 

 何事もなかったかのように恋は手や顔に付いた精液を洗い流していた。まるで自分だけ興奮していたように感じてしまった龍見は湯船に浸かり、自己嫌悪に陥りながら空を見上げた。恋の顔が僅かに紅潮している事に気付かずに…………




新しく登場した術は無し


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第五話

リアルが忙しすぎる。仕事きっついわぁ


「はぁ…………やっちまった…………」

 

「元気ないなぁ。どないしたん?」

 

「この似非関西人めぇ!!」

 

 前日の温泉での出来事を思い出しては自己嫌悪に陥るというループを朝からしていた龍見の前に、恋にとんでもない事を教えた元凶の霞がなに食わぬ顔でやってきた。

 何かを言葉にするよりも早くハイキックが飛んだが、張遼こと霞に当たるはずもない。

 

「何するん突然」

 

「恋に余計な事吹き込みやがって」

 

「あー、あれホンマにやったんか。どやった?」

 

「最高、って何言わせるんだこの馬鹿野郎!!」

 

「ええやん役得やん。それより大切な知らせやで。なんや黄巾党とかいうのの討伐隊を組むから参加せぇやて」

 

「黄巾党?」

 

 その名を聞いた途端、龍見の当たらない攻撃がピタリと止まった。

 黄巾党。黄巾の乱と呼ばれる三国志の始まりとも言える戦いを起こした農民集団。教祖張角の元に集い、反乱を起こした人々の総称だ。

 

「始まるのか」

 

「何がなん?」

 

「こっちの話だ」

 

 遂に物語として有名な三国志の時代が始まるのだ。登場人物に差異はあれど、歴史的瞬間に立ち会っているのだと思うと、龍見も感慨深かったようだ。

 

「それでうちも参加するのか?」

 

「賈詡っちが決めるって。まず間違いなく参加するやろけどな」

 

「それは何故?」

 

「ここで不参加やったら、後で目の敵にされるかもしれんからやね」

 

「そうだな」

 

 しかしこの黄巾の乱が終われば結局目の敵にされるのだ。ただしそれは龍見の知る一般的な三国志の話で、董卓が悪行をしたために目の敵にされたのだ。この世界の董卓、月が何か悪行をするとは考えられない。黄巾の乱の後に月が狙われる事は領地争いや天下争いを除いてないだろう。

 

「黄巾党の討伐にはもう一人の天の御使いは来るんだろうか」

 

「どうなんやろ。あっちはあんたと違って弱いって聞くし、来ないんとちゃう」

 

「折角だから会いたかったのになぁ…………」

 

 同じように違う場所からやってきた人間に会えると思っていた龍見はかなり落ち込んだ。苦労を分かち合うことは出来ないらしい。

 

「いや、まだ来ないと決まったわけでもないしな。期待しておこう」

 

「前向きやね」

 

「まあな。って霞。てめぇに仕置きしなきゃなぁ」

 

「あ、忘れとらんかった。ほなまた」

 

「待てこの似非関西人めぇ!!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 龍見と霞の鬼ごっこは会議が始まるという兵士からの報告で中断された。黄巾党討伐についての方針が決まったとの事だ。

 

「あんた達、さっきから何してたのよ」

 

「この馬鹿女がとんでもない事しやがってな。仕置きしようとしてたんだ」

 

「仕置きという名の破廉恥な事されそうに」

 

ーーガツンッ

 

「あいたっ!?」

 

「黙れよ霞」

 

「はいはい、仲良しで結構。早く座って頂戴」

 

「「了解」」

 

 全員が集まったのを確認すると月が口を開いた。

 

「ええと、今回の黄巾党討伐ですが…………龍見さんに参加してもらいます」

 

「上の命令に逆らう理由はないが、質問がある。参加するのはオレだけか?」

 

「違うわ。入ってきて」

 

「漸くか。待ちくたびれたぞ」

 

 会議室へずかずか入ってきたのは短い銀髪が眩しい女性だ。恋や霞には劣るが、なかなかの実力者なのは龍見でも理解出来た。

 

「誰なん?」

 

「彼女は華雄よ。うちに仕官してきたのを雇ったの」

 

「華雄、ねぇ…………よろしく。天の御使いにされている馬淵龍見だ。この場じゃあんたより先輩だ。ある程度の指示には従ってもらう」

 

「まあいいだろう。だがお前が私より下と判断した時にはその限りではないぞ」

 

「はいはい」

 

 華雄の言葉を軽く受け流し、龍見はこの後の戦いに向けて頭を切り替える。黄巾党には大して強力な将は居ないし、兵も大抵が農民だ。だがその数には注意が必要と言える。

 そして黄巾党を束ねる張角は強力な妖術の使い手と記されている。龍見は現代日本では自分に勝る術者は居ないという自信はあるが、この時代では分からない。

 とはいえこれらは全て登場人物が男ばかりな三国志の知識である。この世界でその知識がどれだけ通用するかが一番の悩みどころかもしれない。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 数日後、龍見と華雄は黄巾党討伐隊に加わった。かなりの実力を持つ武人が何人も居るが、例外なく女性だ。

 

「なんかさっきからこっち見られてないか?」

 

「貴様が天の御遣いだからだろう」

 

「それもそうか」

 

「貴方が黒の御遣い?」

 

「ん? 誰だあんたは」

 

 これまで見ているだけだった人々の中から一人の少女が話しかけてきた。漫画でしか見たことのない金髪縦ロールに思わず目がいってしまった龍見だが、少女は思わぬところを指摘してきた。

 

「そう警戒しなくてもいいじゃない」

 

「警戒…………? あっ、すまん」

 

 龍見は無意識のうちに護身用の短刀に手が行っていたことを謝罪した。少女はそれが意外だったのかクスリと笑った。

 

「ふふ、一刀に比べて戦士としての素質はかなりあるようね。貴方、名前は?」

 

「馬淵龍見だ。カズトってのは白の御遣いか? ならあんたは曹操軍の人間か」

 

「その通りよ。そちらにだけ自己紹介させるのも不公平ね。私は曹孟徳」

 

「! まさか本人とは。そっちの御遣いはこっちに居るのか?」

 

「居るわよ。会いたいかしら?」

 

「是非」

 

「おい馬淵。敵についていくのか?」

 

「華雄、敵なんて言うんじゃねぇ。今は同盟関係だ。割り切れ」

 

 不満そうな華雄を抑え、曹操に着いていく龍見。同郷かもしれない人間に会える楽しみが龍見の気持ちを昂らせていた。

 曹操軍の陣営に着いた時、パッと目についたのが、この世界では見ない光沢のある白い服を着た青年の姿だった。

 

「一刀、貴方に客人よ」

 

「俺に?」

 

「どうも白の御遣い君。まさか聖フランチェスカの学生とは思わなかったよ」

 

「えっ、貴方が黒の御遣い…………!?」




中途半端ですが、これ以上期間を空けるのも申し訳ないのでここまでです。


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第六話

リアルが忙しいのです


「えっ、貴方が黒の御遣い…………!?」

 

 青年は龍見の姿を見て非常に驚いた顔をしていた。少なくとも龍見は青年が最近共学になったという超有名元女子高、聖フランチェスカ学園の生徒であるという以外は分からないが、青年は龍見を知っているようだ。

 

「えと、馬淵龍見さんですよね」

 

「あら貴方と一刀は知り合いだったのかしら?」

 

「いいや、全く。会った事ないよな? あ、もしかして佑の知り合いか?」

 

「はい。北郷一刀っていいます。及川とはよく馬鹿やってます」

 

 龍見が聖フランチェスカ学園の制服を知っていたのには訳がある。親戚である及川佑がそこに通っているからだ。青年が龍見を知っていたのも親戚の及川から聞いたというのならば不思議でもない。

 

「しかしなんだな。親戚の知り合いと敵対関係になるとは。今は味方だけど」

 

「俺だって驚きましたよ。妖術使いの黒の御遣いが及川の親戚なんて。じゃあ及川も妖術を?」

 

「チャッカマンくらいの火と扇風機くらいの風なら出せるぞ」

 

「うーん、微妙」

 

「おい! いつまで談笑しているつもりだ!」

 

「おっと、すまないな華雄。曹操さんも」

 

「そうね。天から来た者同士の会話だからもっと面白いものが聞けると思ったけど、拍子抜けだったわ」

 

 言葉ではこう言っているが、曹操の眼にはまだ龍見への興味の光があった。龍見もそれに気が付いているようで、苦笑いしながら口を開いた。

 

「それは悪かった。お詫びになるかは分からないが、オレの術を少し見せるよ」

 

「なっ!? 敵に手の内を見せるのか!?」

 

「どうせ黄巾党討伐で見せる事になる。それに華雄も気になるだろ?

 

「むぅっ」

 

「それじゃあ何を見せてくれるのかしら?」

 

「見せるというよりは…………」

 

ーー聞いてもらおうかーー

 

「「「!!?」」」

 

 一刀、曹操、華雄の三人の頭の中に龍見の声が響いた。

 

ーーこれはテレパス。自分の思念を相手に伝える術だ。とはいえ範囲はそんな広くないし、送れる相手も多くて五人だ。しかも一方通行ーー

 

「範囲にはよるけど、かなり便利じゃない。これを披露して良かったのかしら?」

 

ーーこのくらいならな。これを知って何か対策が建てられるならオレはあんたを尊敬するねーー

 

「これくらいにしておこうか」

 

「術といっても戦に使うものばかりではないという事ね」

 

「そういう事。さてオレ達は退散させてもらう。あそこにいる女性二人の視線がさっきから痛いんでな」

 

「春蘭に桂花(けいふぁ)ったら…………」

 

 呆れている曹操に別れを告げ、龍見は華雄を連れてそそくさと帰っていた。そして自陣についてから龍見は華雄に先程の術について更なる説明を始めた。

 

「さっき曹操には教えなかった事を教える。今回の戦いでもテレパスは多用するだろうしな」

 

「なんだ?」

 

「まずは正確な距離だ。この術はオレが知っている人間に対してなら約四千里まで届く」

 

「…………は?」

 

「中華全土から見ればそんな広くないだろ?」

 

 一里は五百メートル。なので二千キロメートルはテレパスが届く計算となる。日本の中心にいれば、日本全土に届くのだ。

 

「それとテレパスは言葉だけじゃなく、見たもの、感じたものも送れる。最前線の状況を直接軍師に見せる事も可能だ」

 

「なんだそれは。反則ではないか」

 

「そうかもな。んじゃそろそろ軍議が始まる時間だし行こうぜ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 軍議には一部を除いて、今回の作戦に参加しているトップ全員が集まっていた。当然のように全員女性だ。しかも美人しかいない。

 

「目の保養に最高だ…………」

 

「貴様は何を言っているのだ」

 

「気にするな」

 

「全員揃ったようだね。私が今回この戦線を任されている孫堅だ。しっかりついてきな」

 

 孫堅といえば呉のトップとして有名な将だ。この世界では桃色の長髪に露出の高い服となかなかに派手な姿をしているのだが、龍見は冷や汗をかくほどにある一点に釘付けになった。

 

「…………一体……何カップあるんだ…………!?」

 

 これまで見た事のないような豊満な胸を見た龍見の耳には、軍議の内容が全く入ってこなかった。おっぱい星人である彼にはそれだけの衝撃だったのだ。

 

「馬淵、馬淵! 何を呆けている!」

 

「! すまない華雄。極楽浄土に旅立つところだった」

 

「訳のわからん奴だな」

 

 華雄に呼び掛けられ、なんとか我に返った龍見であったものの、やはり目が行ってしまう。更に龍見は気が付いた。孫堅の側近も実に豊満な胸をしている。

 

「江東…………恐ろしい…………」

 

 ちなみに軍議では龍見と華雄は最前線に立たされる事が決まった。これで終わりと全員が席から立とうとした時、孫堅が口を開いた。

 

「あー、忘れるところだった。みんなに見てもらいたいものがある」

 

 そして孫堅が机にばらまいたのは、木や鉄で出来た数字の掛かれた札だった。よくよく見ると会員番号と書かれている。

 

「あの、これは何ですか?」

 

「それが分かんないからここで出すんだよ。これは以前捕まえた黄巾党が持っていたものだ。あいつらこれを奪ったら『三姉妹の歌を聴けない』とか『折角会員になったのに』とか訳のわからない事を言っててね」

 

「まさかアイドルの会員証?」

 

「ん? そこの白の御遣いは何か知っているのかい?」

 

「えっと、なんて言えばいいのかな」

 

「オレが説明するよ一刀君。オレ達の世界、ここじゃ天と呼ばれている場所ではアイドルという偶像崇拝があるんだ。歌や踊りが上手い男女がそれを披露し、民衆を魅了する。ある種の娯楽だな。大抵は誰でも見れるんだが、会員というものになれば様々な特典を得られる」

 

「面白い風習が天にはあるようだな。それで特典というのは?」

 

「握手出来たり、紙に名前を書いてもらうサインというのが貰えたり、あとは…………優先的に歌が聴けるのもそうだな」

 

「そんなもののために会員とやらになるの?」

 

「確かに曹操の言うようにオレ達からすればそんなもの、だ。だがアイドルを愛している者からすればそれは喉から手が出るくらいに欲しいみたいだ。もしかしたら黄巾党の長は噂のような妖術ではなく、歌や踊りで人々の心を掌握しているのかもな。オレが予想できるのはこの程度だ」

 

「十分だ。感謝するぞ」

 

 それらも行き過ぎれば十分に術として成り立つが、と龍見は付け加えた。龍見自身も歌や踊りを使う術は心得ている。

 しかし先程までが妖術使いと戦うと思い込んでの軍議だったため、この後すぐに新たに作戦を建てる羽目になってしまった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「かーっ、終わったぁ」

 

「貴様は孫家の胸を見ていただけだったがな」

 

「流石に今回は聞いてたって」

 

「失礼、馬淵龍見殿。我が主が貴方と話がしたいとの事で、少しお時間頂けないだろうか」

 

 軍議が終わってテントから出てきた龍見と華雄に美しい黒髪の女性が話し掛けてきた。彼女も只者ではないのは一目瞭然だった。

 

「あんたは?」

 

「私は関羽。劉備様に遣える将だ」

 

「! あんたがあの…………いいぞ。劉備と話させてもらおう」

 

「またか。お前も敵と話すのが好きだな」

 

「情報共有さ」

 

「案内頼めるかな?」

 

「分かりました」

 

 当たり前のように別陣営に着いていく龍見に華雄はもう何も言わなかった。関羽が案内した陣営に到着すると、大将である劉備自ら迎えがあった。

 

「初めまして馬淵さん。今回はありがとうございます」

 

 非常に大人しそうで、雰囲気から平和主義というのが伝わってくる。この乱世には似合わない人格の持ち主だ。

 

「別に気にすんなよ。そんで劉備は何の用があってオレを呼んだんだ?」

 

「天の御遣い様である馬淵さんがどういう方か直接会って話してみたかったんです」

 

「そうか。まあオレも色んな人と話せるのは大歓迎だ。可愛い女性と話して嫌な男なんて居ないからな」

 

「そんな、可愛いだなんて」

 

「はは、十分に魅力的だ。さて何を話そうか」

 

「天の御遣い様は乱世を鎮めるためにこの地に降り立つ、そう予言があったのですが、馬淵さんはこの乱世をどうしたいと考えていますか?」

 

「安易だが、オレを拾ってくれた董卓、月の望む平和な世にしたいな。それがオレなりの恩返しだし」

 

 そんな龍見の言葉を聞いた劉備の顔が明るくなる。おそらく彼女の理想通りの返答だったのだろう。

 

「なら私達と協力して」

 

「それはオレ達が決める事じゃない。あんたも上に立つ者なら分かるだろ」

 

「それでも伝えておいて」

 

「悪いな。あんたが人が良いのは分かるが、信用したわけじゃない。だからそういう事は正式に頼むぜ」

 

 少なからず拒否する反応ではなかった事に劉備はホッとする。対して龍見はもし同盟を組んだ際の事を考えていた。同盟を組めば天下統一も楽になる。だが統一後、王が二人居る状況を民や兵が認めるだろうか。もしそこから内部分裂を起こし、国が二分してしまえば、同盟を組まずに一国が天下統一する時よりもより多くの被害が出るのではないか。これは月が望む事ではない。自分の仮定とはいえ、そうなってしまう可能性もあるかもしれないのならば、同盟を組まずにいた方がいいと龍見は結論付けた。あくまで決めるのは月と詠だが。

 

「まあ今回は協力関係だ。よろしく頼むぜ」

 

「はい!」




テレパス
大半は作中で語られた通りのものだが、本来は呪いとして開発された呪術。四六時中恨み辛みを送り続け、相手を呪い殺す術


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第七話

更新遅い上にあんまり長く書けないのです。


「どんだけ運がねぇんだよ!!」

 

 龍見達はまずは偵察がてら最前線に向かったのだが、黄巾党の本隊に見つかり戦闘となった。華雄が武器を振るって雑兵を払い除け、龍見は術を使って華雄の死角から迫る兵を吹き飛ばす。

 

「雑魚のくせに数ばかり多いな!」

 

「数の暴力は怖いからな。油断するなよ華雄!」

 

 兵達も頑張ってはいたものの、偵察だったために如何せん数が少ない。このまま続けるとじり貧になる。テレパスで曹操に増援を頼もうかと考えたものの、この距離までテレパスが伝わるのを教えてしまうのはマズイ。

 

「華雄! 少しでいいから時間を稼いでくれ!」

 

「少しとは謙虚な事だ。何をするのか知らんが、その間に全て片付けても文句は受け付けんぞ!!」

 

 心強い華雄の言葉に、龍見は口角を吊り上げながら呪文を唱え始めた。すると龍見の目の前の土が小さく盛り上がり、そこから土で出来た小鳥が生まれた。

 

「メッセージは至急応援求む、だ。行ってこい土像(ゴーレム)。ついでに土像(ゴーレム)で兵も作るか」

 

 土塊の小鳥にメッセージを託すと、更に土塊の人形が生み出していく。ネクロマンシーでも似たような事は可能だが、こちらはネクロマンシーとは違い、一度作れば魔力を消費せず、プログラム通りに動くというメリットがある。だがネクロマンシーに比べてかなり脆いのはデメリットだろう。しかし烏合の衆である黄巾党にはこれで十分であった。

 

「な、なんだこの人形は!!?」

 

「うちの御遣い様の術だ!!」

 

「どうだすげぇだろ!!」

 

「そこ! 口より手を動かせ!! ウィンドカッター!!」

 

「オラ達より口を動かしてるのは馬淵殿でねぇっすか」

 

「術者が口を動かさずにどうする!! フレイムタワー!!」

 

 無数の土像(ゴーレム)に黄巾党は動揺し、対して龍見達の部隊には余裕が生まれた。数では今だ劣っているが、心の余裕は戦いの余裕を生む。暫くは耐えられるはずだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 一方龍見の飛ばした土像(ゴーレム)は一番近くに陣取っていた劉備軍の元へ飛来した。

 

「おお、変わった鳥が居るのだ」

 

「あれは鳥さん何でしょうか」

 

 土像(ゴーレム)を見つけたのは二人の少女。張飛と諸葛亮であった。人を認知した土像(ゴーレム)はその役目を果たすために嘴を開いた。

 

「至急応援求む、至急応援求む」

 

「!?!? はわわっ!!?」

 

「わ、わっ!? ど、どうすればいいのだ朱里!!」

 

「き、きっと妖だと思うんですけど、この言葉の意味は?」

 

「どうだっていいのだ! 妖なら倒せばいいのだ!!」

 

 突然小鳥が成人男性の声で話せばこういう反応になって当然だ。明らかに龍見の配慮が足りていなかった。

 張飛の蛇矛によって土像(ゴーレム)が叩き潰されそうになった時、近くを通りがかった関羽が二人に声をかけた。

 

「どうした二人共。騒がしいぞ」

 

「愛紗!! 妖が出たのだ!!」

 

「なんだと?」

 

「至急応援求む」

 

「この声は馬淵殿か! 鈴々、これは黒の御遣いの馬淵殿の術に違いない。姉者を呼べ!」

 

「は、はい!」

 

 関羽に言われて諸葛亮が劉備を呼びに走った。そしてやってきた劉備の対応も早かった。即座に龍見からの救援要請と判断すると必要最低限を残し全てを応援に出した。当然自身も…………

 

「姉者は残っていて下さい!」

 

「あう、愛紗ちゃん酷い…………」

 

 関羽と張飛が応援に駆け付け、その目で見たものは局地的天変地異とでも言うべき光景であった。地は裂け、雷雨は鳴り、炎が噴き出す。

 

「これが馬淵殿の力か…………!」

 

「すごいのだ!!」

 

「ハァハァ……! 来て、くれたか! もう体力が……持たん…………」

 

「遅くなってすまない。鈴々! 蹴散らすぞ!!

 

「了解なのだ! みんな、突撃!!」

 

『オォォオオオオオオオッ!!!!』

 

「ぞ、増援だと!?」

 

「おお、押し負ける!!?」

 

 そこからは戦闘ではなく蹂躙であった。龍見達との戦いで疲弊しきっていた黄巾党は関羽達の前になすすべなく倒れていく。龍見含め殆どの兵は関羽達の後ろに回って、なるべく休むように弓などで援護をしたが、華雄だけは元気に最前線で敵を蹴散らしていた。

 

「全員集まれ。ヒーリングするぞ」

 

「あの気持ちいいのっすか」

 

「助かりますね」

 

 怪我をしたり、疲弊した兵は龍見の術によって回復し、再び前線に復帰する。それに対して黄巾党はどんどんと戦死者と逃亡者を増やすのみだ。

 

「これで終わりなのだー!!」

 

ーードガァアアッ

 

 張飛の蛇矛が大地を砕く。それが残っていた黄巾党の気持ちを完全に折った。

 

「ひえぇぇ!! こんなの勝てるわきゃねぇ!!」

 

「に、逃げろー!!」

 

「はっ、雑魚共が」

 

「華雄、お疲れさん。関羽と張飛も応援感謝する」

 

「この程度ならばいくらでも力になろう」

 

「そりゃ心強い。ん?」

 

 少し遠い岩陰に小柄な人影が見えた。先程までの黄巾党のように成人男性とは違い、明らかに女性か子供のそれだ。

 

「…………動くな」

 

 とても静かだが、何故か響くような声で龍見が呟いた。全員がそれを聞いてきょとんとしたが、龍見はある事に気が付いて猛ダッシュした。岩陰に居たのは一人の空色の髪の少女。彼女の動きは完全に止まっていた。その呼吸すらも。

 

「カ…………ア…………」

 

「息をしろ!」

 

「! ハァハァッ! な、何が起こったの!?」

 

「すまんな、お嬢ちゃん。こんな場所に居たから怪しくて術にかけちまった」

 

「あ、あんた…………何者!?」

 

「馬淵龍見。黒の御使いと言えば分かるか? そういう君こそ何者だ? 名前は? 住んでる場所は? 護衛を付けて家まで送り届けよう」

 

「えっ、そ、そこまでしてもらわなくても」

 

「いやいや、術にかけちまった詫びだよ。せめて名前くらいは教えてくれないか?」

 

 龍見の問い掛けに少女はばつの悪そうな表情をし、何かを言おうとするが口をモゴモゴとさせるばかりで何も言わない。龍見は笑顔で再び問い掛けた。否、術を掛けた。

 

「名前は?」

 

「張宝…………!!?」

 

 慌てて少女は口を押さえたがもう遅い。そう、彼女こそが今回の黄巾の乱の首謀者の一人なのだ。

 

「やはりな」

 

「ど、どうするつもり」

 

「そう怯えるな。命まで取りゃしねぇ」

 

「おい馬淵! 一人で何を、むっ、そこの娘は誰だ?」

 

「迷子だよ。うちの陣営で少しの間保護する。異論はないな?」

 

「戦いに支障が出ないのであれば問題ない」

 

「そういうわけだ。大人しく着いてくるんだぞ」

 

「…………どうなっちゃうの…………」




龍見が使った一部の術の説明

土像(ゴーレム)
文字通り土で作られた人形を生み出す術。多様性があり、非常に使いやすい。

言霊
最後に張宝に対して使った術。言葉に術を乗せて飛ばし、生物をコントロールする。単純な命令しかできず、術を掛ける相手が強い精神をしていると失敗する。


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第八話【R-18】

多少の胸糞描写があるかもしれません。


 戦いを終え本陣に戻った龍見達は、今回の成果について孫堅に報告した。龍見は自身が捕らえた張宝の事は言わなかったが。

 

「よく生きて帰ってきたね。張角達についての情報がないのは残念だけど、戦力を削っただけ良しとするかね」

 

「まあこちらにも被害がなかった訳じゃない。後で物資を譲ってくれ」

 

「その程度ならお安いご用だよ。劉備軍もそれで構わないかい?」

 

「はい、ありがとうございます。馬淵さん、私が直接応援に行けずに申し訳ありません

 

「軍の大将が部下の危機でもないのに動くもんじゃないさ。というか実力的に劉備が来てもなぁ」

 

「あぅ」

 

 この場には関羽も居たが、龍見は遠慮なく劉備にそんな事を言った。関羽としては別に龍見が劉備を貶しているとは感じなかったし、何より正論のため何も言わなかった。

 

「しかし疲れた。今日は一日寝よう」

 

「貧弱だな。その程度では生き残れんぞ」

 

「俺が疲れたのは精神面の話だ。術は相手や戦況に合わせて変化させる必要がある。しかもさっきまでヒーリングを続けていたから休んでねぇんだ」

 

「分からんな」

 

「肉体労働と頭脳労働の違いとでも思ってりゃいい。ファァ…………」

 

 大きく欠伸をした龍見はゆっくりと自陣へと向かい始めた。華雄もそれに着いていくように出ていき、それを合図とするように一同解散をした。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 あくまで保護という形で捕らえられた張宝は用意された一室で、寝台に寝転がりながらこれからを考えていた。

 

「逃げ出そうにも監視は厳しいし、姉さん達の助けを待とうにもそもそも捕まってる事が伝わらなきゃ助けもないだろうしなぁ。もう、頭を使うのは人和の仕事なのに…………妖術を使う、としてもあの天の御使いは私とは比べ物にならない妖術使いだから駄目かしら」

 

「随分無意味な思考を張り巡らしてやがるな」

 

「! 御使い! 乙女の部屋に入るのに何も無し!?」

 

「捕虜が騒ぐな。さて、張角達の居場所を大人しく吐け。そうすればてめぇの今後について考えてやらんでもないぞ」

 

「お断りよ」

 

 張宝は強い意思を持って龍見の要求を振り払った。ここで断ればどうなるかは分からない。それでも姉妹は売れないのだ。龍見はわざとらしく大きな溜め息をつくと、何か呪文を唱え始めた。その口元は小さく笑っていた。

 

「召喚」

 

「ひっ!? な、何よそれ」

 

「触手だ。てめぇに俺の手で触るのは穢らわしくて仕方ねぇからこいつで代用するんだよ」

 

「ど、どうするつもりよ!」

 

「使えねぇなら殺す。だがただ殺すだけじゃつまんねぇから犯す。良かったな女で。死ぬ前に快楽を味わえるぞ」

 

「いやぁっ!! 誰か!!」

 

「叫んでも無駄だ。ここいら一帯の兵は全て出払わさせた」

 

 地面から生える触手が張宝の手足に絡まり、張宝は張り付けにされるかのように大の字にさせられた。更に他の触手が蛸の吸盤のように服に張り付くと、一気に服を引き裂いた。

 

「やあぁぁぁああああああああああっっ!!!?!?」

 

「貧相な体だな。こんなものに興奮する奴の気がしれん。それとさっきから騒がしい」

 

「ムグッ!?」

 

 龍見が腕を動かすと、それに連動するように触手が動き、張宝の口へと突っ込まれた。先が男性器のような形をしているそれを突っ込まれた彼女の不快感はどれほどのものか。そんなものは知らんと言わんばかりに複数の触手を操る龍見は張宝の肉体を犯していく。

 ある触手は控えめな胸に張り付き乳首を吸い上げる。ある触手は全身をくまなく愛撫する。ぬるぬるとした触手に無理矢理与えられる快楽から逃げようとする張宝だが、手足に絡まり付いた触手はびくともしない。

 

「ほら、ぶちまけろ」

 

ーービューッビュルルッビュッビュッ ビチャチャッ

 

「! んんーっ!? ふうぅんんんっ!!? ゲホゲホッ!!」

 

「触手の精を全身に浴びて、更には飲み込んだ気分はどうだ?」

 

「ハァハァ、サイテーよ!!」

 

「期待通りの解答すぎてつまらないな。ああ、言い忘れていた。その触手の精には即効性の媚薬効果があってな。そうら、膣が疼くだろう」

 

「そんな事、ない!」

 

 強がってはいるが、張宝の膣からは既に大量の愛液が生成され、下着から滴り落ちていた。それを察知したかのように大量の触手が張宝の股間へと集まった。

 

「この触手の特徴をもう一つ教えてやる。こいつらは異常なまでの繁殖力を持っていてな。例え排卵期ではない生物すらも強制排卵させて孕ませてしまうのさ。まあ

安心しろ。触手の子をお前が産む事はない。その前に死ぬからな」

 

 触手が下着を剥ぎ取り、張宝は全裸になった。触手は徐々に張宝の股間に近付き、我先に挿入せんと言わんばかりに蠢いている。

 

「た、助け…………」

 

「無駄だ。助けなんて来ない」

 

「誰でもいいから助けてよーーーーー!!!!」

 

「ああ、助ける。だから泣くな」

 

 地面から巨大な手の骨格が出現すると触手を纏めて引きちぎり、そのまま握り拳で龍見を殴り抜いた。咄嗟に防壁を張った龍見には傷一つ付いていないが、その顔は驚愕の色に染まっていた。

 そして部屋に入ってきたのは…………既に部屋に居る龍見であった。つまりはこの場に二人の龍見が存在しているのだ。

 

「オレの姿を真似るとはな。しかも下らんものだが術も一流。誰だてめぇは」

 

「その前にこっちの質問に答えろ。この部屋は空間をずらしてあったはず。どうやって侵入した」

 

「解呪するっていうごく普通の正攻法だ。かなり時間はかかったがな。それでこっちの質問は」

 

「……………………くくっ、まさかこれほどとは想定外ですね」

 

「あんた……太平要術をくれた…………」

 

 先に部屋に居た龍見の姿が歪んでいき、眼鏡を掛けた優男へと姿を変えた。いや元に戻ったというべきだろう。張宝は

 

「初めましてイレギュラー。私は于吉(うきつ)」

 

「于吉だと。道士が何故こんな事をする。いやそれ以前にイレギュラーだと? てめぇはこの時代の存在じゃねぇな」

 

「さてどうでしょう」

 

「答える気がないなら。ここで消え去れ! 地獄の冷気、我が声に応えよ! 摩訶鉢特摩(まかはどま)!!」

 

「遅い」

 

ーーバキッ

 

「っあぁ!?」

 

 術を発動しようとした龍見に何者かが蹴りを叩き込んだ。咄嗟の事に対応しきれなかった龍見の腕はポッキリと折れていた。

 

「ああ左慈、貴方が出るまでもなかったのに」

 

「いつまでもちんたらと遊んでいるからだ」

 

 左慈と呼ばれた鈍い金髪の青年。龍見の記憶が正しければ彼も道士だ。二対一。腕が折れ、張宝を守らなくてはいけない。この状況を打破する方法は龍見は一つしか持ち合わせていない。しかもそれも成功したとしてもリスクが大きなものだ。だが手段を選んでいられる状況ではなかった。

 

「第一あの女を犯す必要性がどこにあった。太平要術を与えても使えないのならばさっさと殺せば良かっただろう。馬淵龍見を殺すための餌にするとしても」

 

「左慈に使う触手の使い心地を試したくてつい」

 

「…………二度と近寄るな」

 

 幸いにも道士の二人は言い争いをしている。龍見はその間に少しずつ呪文を唱えていった。それに早々に気が付いたのは于吉だった。

 

「おやおや、何かするおつもりですか? 健気ですね」

 

「厄介な事をされると面倒だ。それにこいつは元々殺す予定だったしな。次はその首をへし折ってやる」

 

「……………………」

 

「死ぬが」

 

ーーパシッ

 

「…………お前から死にたいか、張宝」

 

「五月蝿いわよ、ばーか」

 

 龍見へと近付いていった左慈の動きを止めたのは張宝が投げた湯飲みだった。簡単に受け止められてしまったが、気を逸らすには十分すぎた。そして呪文を唱え終わるまでも。

 

「冥府の扉を開帳し、今こそ現世に姿を現せ不死の王。神降(かみおろし)」

 

 その瞬間はとても静かなものだった。何の前触れもなく龍見の眼前に出現した黒い靄。それを見た于吉と左慈は一気に距離を離した。

 

「神を喚んだだと!? 聞いてた以上に規格外だぞ!!」

 

「不味いですよ左慈」

 

「言われずとも分かっている!!」

 

『我を喚ぶは何人ぞ?』

 

「久し……ぶり、ハデス……の、おやっ…………さん。あいつらを、やってくれ」

 

『龍見であったか。我を喚ぶのは命を無駄にする行為。止めるよう忠告したはずであったが、よもや外史、その上この状況では致し方あるまい』

 

「于吉! 逃げるぞ!! 分が悪すぎる!!」

 

「言われずとも!!」

 

『如何様にする?』

 

「逃がして、いいさ。これで…………もう、近寄る気は失せるだろう…………」

 

『では我は帰還しよう。これ以上現世に留まれば龍見のみならず周囲に死を振り撒きそうなのでな』

 

 黒い靄、ハデスが消え去ると同時に龍見は大量の血を吐いた。黄巾党との戦いの後で体力、精神力ともに削れている状態での神降。ハデスを還したのも単にこれ以上保つ体力がなかったためだ。

 

「ゴフッ、ゲホッ…………簡易詠唱で、おやっさんを喚ぶのは……キツいな」

 

「ね、ねぇ、あんた大丈夫なの?」

 

「問題ねぇ。しかしすまんな……あんな不審者の侵入を許す、なんて……カハッ」

 

「もう喋らなくていいから!」

 

「そうも、いかん。じょ……うかの光、彼の、者を癒した…………まえ。アンチ…………ドート」

 

 優しい光が張宝を包み込んだ。張宝の肉体を蝕んでいた媚薬による疼きがそれにより消失する。

 

「あんた…………」

 

「はは、せい、こう」

 

「何か騒がしか…………どういう状況だ、これは

 

「よ、華雄…………この子に、服を…………俺は、寝る」

 

「貴様も腕を怪我しているではないか! すぐに軍医を呼ぶから待っていろ!」

 

「そりゃ、たすか……………………」

 

「え、ちょっと、起きなさいよ!」

 

「気を失っただけだ。お前はさっさと何かを羽織れ」

 

 張宝は一先ず替えの服を着て、華雄は軍医を呼ぶと同時に月達へと今回の事件の報告を行った。龍見の負傷の報告を受けた月は即座に恋を送り、龍見には後方支援に徹するように命じるのであった。




龍見の必殺奥義炸裂! という事で神降の説明をします。

神降
降霊術の一種。喚べる神は龍見が契約した神に限り、その数は五神。本来大掛かりな準備をして一日掛けて神を喚ばなくてはいけないが、例外的にハデスとある一神のみ呪文を省略する簡易詠唱で喚ぶ事が可能。しかしハデスは今回のように簡易詠唱で喚んだ場合、魂の一部のみしか喚べない。それでもこの世界では敵無し。

強キャラの予定がチートキャラに。まあ詠唱する必要があるからタイマンで使えるもんではないんですけど。


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第九話

ぎりぎり10月に滑り込み投稿


 謎の侵入者との戦いから二日後に龍見は目を覚ました。寝台の横にはうつらうつらとした張宝が椅子に座っていた。

 

「………………………………ああ、思い出した」

 

「! あ、あんたもう大丈夫なの!?」

 

「ん~、寝起きだから、まだ何とも」

 

 二日も寝ていた事もあり、すぐには体を動かせそうにもなかったが、腕以外は健康に支障はなさそうだ。ただ頭はまだ回っていないようでボケ~っとしていた。そんな龍見の部屋に来訪者があった。

 

「龍見、元気?」

 

「ワフッ!」

 

「おぉ、恋にセキト。どうしてここに?」

 

「応援。体拭く?」

 

「ん~~~、頼む」

 

 何でもないように着ているものを脱いでいく龍見。張宝は突然の事に固まり、恋は体を拭くための布を絞っている。だが少しすると龍見の頭が回り始めたのか、自分のやっている事に気が付いた。

 

「うぉわぁっ!? なんで脱いでんだオレ!?」

 

「それはこっちが言いたいわよ!」

 

「? 体拭かないの?」

 

「いや拭くには拭くが、自分でやるから」

 

「前にも背中を洗ったから恋は気にしない」

 

「………なら私がやるわよ! こいつが寝てる間は私の仕事だったんだから! それにね、こいつが起きたらまず言ってやらなきゃいけない事があるのよ!」

 

「………………恋。悪いけど二人にしてくれ」

 

「ん………」

 

 何かあるのを理解した恋は深く踏み込む事なく大人しく部屋を出た。

 

「一応防音の結界も張っておくか。それで?」

 

「あ、その………助けてくれて、ありがと」

 

「どういたしまして」

 

「それでね、一つ約束してくれるなら、あんたに姉さん達の隠れ家を教えてもいいよ」

 

 これに龍見は目を見開いて驚いた。まさか張宝からそんな情報を提供してくれるとは思っていなかったからだ。

 

「その約束ってのは? これを聞かない限りはオレも答える事ができねぇ」

 

「姉さんと人和を傷付けないで。捕虜にするならあんたの所の捕虜にして。私達だって元々こんな大事を起こすつもりなんてなかったの」

 

 元々張宝達はしがない旅芸人だった。好きなように歌を歌い、裕福とはいかずとも生活に困らない程度には人気もあった。

 だがある日、于吉から渡された太平要術の書によってその生活は一変する。魅了の術に惑わされた人々が彼女らのファンとなり、それに気を良くした彼女らはついこんな事を口走ってしまった。『天下取るわよ』と。

 

「歌で全国制覇するつもりだったのに、まさかみんなが勘違いして反乱起こすなんて………」

 

「過熱したファン、愛好家ほど厄介な奴らは居ない。お前の姉妹は止めなかったのか?」

 

「姉さんはちょっと乗り気だもの」

 

「そりゃ厄介だな」

 

 あの怪しさ満載の于吉が渡した太平要術だ。もしかすればそうするように何か人を惑わす仕掛けがしてあったのかもしれない。

 

「それでこの約束を守ってくれる?」

 

「正直難しい。その約束を守るには連合軍全てに張角達を捕まえてこっちに引き渡すように仕向けなきゃならん。オレにそんな力はない」

 

「あんたの術でも無理?」

 

「無理だ。数、時間共に多すぎる」

 

 時間を掛ければ数はなんとかなるかもしれない。しかし長時間の暗示を掛け続けるのは今の龍見には不可能だ。何より強力な武将達はまともに暗示に掛かるような弱い精神をしていないだろう。

 

「………………………………参ったな。策がない」

 

「そんな!」

 

「気持ちは分かるが………賭けになるがこれしかないか」

 

「何かあるの?」

 

「お前の力も必要だからな。しっかり演技しろよ」

 

「分かったわ。どうすればいいの?」

 

「まずはな………………」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「張角達の隠れ家が分かったってのは本当かい?」

 

「その通りだ孫堅。彼女が証言してくれたぜ」

 

「ふむ。ならば張角達の姿も知っているんだね?」

 

「はい。ただあいつらは太平要術を使って姿を偽っているので、普段の姿を見ても分からないかも」

 

「偶像として祭り上げられているのもその力のせいとオレは考えてるんだ。余程強力な力でもない限りオレが解呪してやるよ」

 

 龍見の立てた作戦は非常に単純。張宝しか張角と張梁の姿を知らないのだから、偽者を用意して張角と張梁を取っ捕まえるというものだ。

 

「張角達を捕まえるのはオレがやる。少しでも守りを手薄にするためにみんなにはなるべく暴れてもらいてぇ」

 

「ああいいよ。準備が整い次第作戦を始める。それまで休みな」

 

「感謝するぜ」

 

 龍見と張宝が出ていってから、孫堅は最も信頼する側近である黄蓋に一言訊ねた。

 

「あれの言葉を信用出来る?」

 

「いいや、出来んな。何か企んでおるようだが………真実と嘘が混ざっておるから目的が分かりにくい」

 

「同感だね。でも少なからず悪意はなかった。泳がせておいてもいいんじゃないかと思うんだよ」

 

「そうじゃな」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 数日後、作戦は決行された。張宝の言った通りの場所に隠れ家はあり、黄巾党も油断しているのか実にのんびりとしていた。ライブがなければ彼らもただの農民という事だ。

 

「恋は先頭で暴れまくってくれ。華雄は火矢を使って兵糧庫を攻めてくれ。とにかく目を引くようにな」

 

「ん」

 

「貴様はどうするのだ」

 

「土像(ゴーレム)は用意するが、裏から張角達を取っ捕まえる。すまんが先に行くぞ。操水の術」

 

「消えた!? いや、気配はあるな」

 

「ああ、ちゃんと居るぞ。理屈は分からんだろうから省くが」

 

 水を自在に操る操水の術により、光の屈折を変化させ、姿を見えないようにしているのだ。姿も気配も消すならば幻術などで意識から龍見の存在を除外すればいいが、ごちゃごちゃした戦場ならばこちらの方が効率がいい。

 

「あの子は?」

 

「あいつは帰らせたよ」

 

「………嘘」

 

「嘘じゃねぇさ。またこっちに来るかも知れねぇけどな。そんじゃ」

 

 張宝は姉妹の所に行ったのだから帰ったというのもあながち間違いではない。先に行かせて説得が出来ればそれが一番と考えた龍見が送ったのだ。

 姿を隠した龍見は術を維持しながら隠れ家へと近付いていく。敵襲に気が付きにわかに慌ただしくなる黄巾党達を無視して、事前に張宝に渡しておいた目印を術でサーチしながら進む。

 

「ああもう始まっちゃった! このままだとどうなるか分かんないよ!」

 

「でもその人だってちぃちゃんを騙しているかも」

 

「………………まだ説得中か」

 

 姿は消しているものの、物陰から張宝達の様子を確認する。張宝が説得出来れば良かったのだが、もう彼女が戻ってからかなり時間が経っている。これ以上待つ事は出来なかった。

 

「地和! まだ終わってないのか!」

 

「あ、龍見。龍見からも」

 

「貴方、何故ちぃ姉さんの真名を?」

 

「真名を呼べる理由は一つだけだろう。張角、張梁、お前達を保護しに来た。これは地和の頼みだ」

 

「それはちぃちゃんから聞いたけど、どうしてそんな事するの?」

 

「詳しく話している時間はないんだが、捕虜として捕らえた彼女を危険な目に合わせた償いだ」

 

「ちぃちゃん何かあったの!?」

 

「あったけど龍見に助けてもらったの。こいつは乱暴だし、あんまり気が利かないけどいい奴だから、姉さんも人和も着いてきて」

 

「………一つ、質問させて下さい」

 

「なんだ張梁。簡潔に頼む」

 

「貴方は、黒の御使いは高度な術を操る妖術使いと聞きました。貴方が術でちぃ姉さんを操っていないという根拠を教えて下さい」

 

「ねぇよんなもん」

 

 龍見は戸惑う事なく即答した。どんな答えが来ても反論するつもりであった張梁も、これには目を丸くして何も言葉が出なかった。

 

「強いて言うならてめぇらの姉妹を信じろ。オレは普段の地和は知らん。だがてめぇらは知っている。その普段の地和と照らし合わせておかしな所はないか? これがオレの答えだ」

 

「………………そうだよね。お姉ちゃんなんだから妹を信じないとね」

 

「ちぃ姉さん、疑ったりしてごめんなさい。ちぃ姉さんを信じてこの人に保護されるわ」

 

「二人共………ありがと」

 

「結論が出たなら結構。さっさと」

 

「あ、待って!」

 

「なんだ。さっきから何度も時間はないって」

 

「最後に、私達のために戦ってくれているみんなに歌を届けさせて」

 

「おいおい、敵の士気を上げるような事をしろってか? それにさっきから言っているが時間の問題もあってな」

 

「私からもお願いよ龍見」

 

「お願いします、御使いさん」

 

「いや気持ちは分からんでも」

 

 せめて最後に歌をという願いを、何とかして龍見は抑えようとしていたその時、轟音と共に部屋の壁が吹き飛んだ。まるで空爆でも受けたようなそれをしたのは兵器などではない。

 

「龍見、それが親玉?」

 

「早かったな恋。心臓に悪いからもっと穏やかな登場をしてくれ」

 

「あんまり期待しないで。それで?」

 

「こいつらか………………ただの歌手だよ。黄巾党の親玉なんて見てねぇな。保護したお礼に一曲歌ってくれるみたいだが、恋も聴いていくか?」

 

「今はいい。近くの敵を倒してくる。危ないから誰も近寄らないと思う」

 

「ほう、倒すにはどれくらい掛かりそうだ?」

 

「数が多い。たぶん、歌一曲分くらい」

 

「そうかい………………甘いな」

 

「龍見ほどじゃない」

 

 出ていった恋を見送った龍見は姉妹に改めて声を掛けた。

 

「外に出て歌う事は許されねぇ。ここで歌え」

 

「でもそれじゃあ歌がみんなに届かないよ」

 

「安心しな。オレの術でてめぇらの歌、想い、全部届けてやらぁ!! 我が音は世界に響く! 感情音楽っ!!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 龍見が説得している間に戦況は圧倒的に黄巾党が不利になっていた。いくら数が集まろうとも所詮は農民の集まり。各地の武将には武力で劣り、軍師には知力で劣る。結果は火を見るより明らかだった。

 

「ああ、ここで死ぬんだな」

 

「諦めるな!! あの方達が逃げるまで時間を稼ぐ、ぎゃっ!?」

 

 武将達によって仲間は蹴散らされ、兵糧庫に火が付けられたせいで後戻りも出来ない。彼らの精神は限界に近付いていた。そんな時だった。彼らの耳に心地よい、彼らが最も愛する少女達の声が届いたのは。

 

「これは………幻聴か?」

 

「走馬灯代わりだとしたら、これほど上等なものもないな」

 

『みんな大好きーー!』

 

 それはライブでいつもしていた合いの手の前振り。

 

「「「「「「てんほーちゃーーーーん!!!」」」」」」

 

 ほぼ無意識に黄巾党の全員が叫んだ。先程まで叫ぶ気力もなかったというのにだ。

 

『みんなの妹』

 

「「「「「「ちーほーちゃーーーーん!!!」」」」」」

 

『とっても可愛い』

 

「「「「「「れんほーちゃーーーん!!!」」」」」」

 

「何をしているんだこいつら!?」

 

 奇行にしか見えない黄巾党の叫びに、討伐隊はかなり動揺した。窮地に立たされ頭がおかしくなってしまったのかと思ってしまうほどの光景だったからだ。

 続けて黄巾党の耳には歌が届いた。何故かそれはいつものライブ以上に心に響いた。そこで彼らは確信した。今彼女達は逃げなくてはいけない状態にありながら、自分達のために歌っているのだと。そして決意した。この命、最後の一滴まで燃やし尽くそうと。

 

 しかしどう足掻いたところで決まった結末を覆す事は出来なかった。だが最後の輝きは討伐隊の胸に深く刻まれる事となった。




感情音楽
歌や楽器による演奏を遠くまで飛ばす術。そこに籠められた想いや感情も事細かに伝える事が可能。


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第十話

ついに十話ですね。長かった。またえっちぃの書かないとなぁ。


 黄巾の乱が終わって数日が過ぎた。終わってすぐの頃に張角達を紹介した時にはかなり大事となってしまった。敵大将を何の報告もなく連れてきたのだから当然と言える。下手すれば黄巾党に加担したと思われても仕方がないからだ。

 最初は詠や霞が受け入れを反対していたが、龍見の説得と張角達の反省した態度、そして最終的には月の一声で使用人という立場で受け入れられる事となった。使用人といっても比較的自由な立場であり、よく龍見の部屋に集まっては歌の練習なんかをしていたりする。

 

「また追い出されてしまった」

 

 基本的に歌の練習が行われる時には龍見は部屋から追い出されている。哀れな部屋の主である。

 

「あっ、龍見さん! 腕はもう大丈夫ですか?」

 

「心配してくれてありがとよ。余程の無理をしねぇ限りは大丈夫だ。それより月は何をしているんだ?」

 

「これから街に出掛けようと思いまして。詠ちゃんに言うと止められそうですし、こっそりと抜け出すところですよ」

 

「はは、なかなかやんちゃしてるな。まあ心配する詠の気持ちも分かるし、オレが着いていってやる」

 

「それじゃあ荷物持ちでもお願いしましょうか」

 

「いいリハビリだ。やってやる」

 

「りはびり?」

 

「んー、何て言うかな。腕をいつも通りに動かすための準備運動みたいなもんだ。さあこんなところで話してると詠に捕まっちまう。早く行こうぜ」

 

 こっそりと隠れるように二人は街へと繰り出した。あまり目立たないようにするためか、月は頭からローブを被っている。それが逆に目立っているのには気付いていないらしい。

 

「何をする?」

 

「新しい服が欲しいのでお買い物がしたいです」

 

「お安いご用さ」

 

 この街の警備も担当している龍見が知らない店はほぼない。大通りから裏道まで、目的地の最短ルートも頭の中に入っている。ただ今回は月も一緒なため、なるべく安全で人通りも多いルートを選択した。

 

「あっ! 董卓様!」

 

「董卓様! うちに寄ってかないか?」

 

「董卓様! いい野菜が揃ってるよ! 今晩使っておくれ!」

 

「あわわ、何で皆さん分かるんですか!?」

 

「いいじゃねぇか。民に愛される王はそれだけで優秀だとオレは思うぜ」

 

 月の稚拙な変装では人々の目を誤魔化す事が出来ずに、黒山の人だかりが出来てしまった。しかしそこには好意しかなく、月も無下には出来ないようだ。

 

「はいはい、これから買い物だから退いてくれ」

 

「なんだよー、馬淵様が董卓様と逢瀬したいだけだろー」

 

「お、お、逢瀬ぇ!?」

 

「この悪ガキめ! 人聞きの悪い事を言うんじゃねぇ!!」

 

「わー! 馬淵様が怒ったー!」

 

「こら逃げんな! くそっ、逃げ足だけははえぇんだからよ。親はどんな教育してんだか」

 

「逢瀬………………逢瀬かぁ」

 

「月、行こうぜ………………月?」

 

「へっ………………? あっ、はい。行きましょう!」

 

 月が真っ赤な顔になっているのを龍見は見逃さなかったが、敢えて何も言わなかった。単純に逢瀬への憧れが出てしまったのだろう。決して熱があるわけでも、龍見との逢瀬に興奮しているわけでもない。女性の反応には敏感にならなくてはならないという龍見の母の数少ない教えあったからこそ見抜けた事であった。

 

「ほれ、この店だぞ。気に入ってもらえると嬉しいが」

 

「おっきいお店ですね。わぁ、装飾品もある」

 

「この辺りじゃ一番の店だ。その分ちょいと値が張るけどな。邪魔するぜ」

 

「これはこれは馬淵様。おお、そちらに居られるは董卓様。この度は如何なさいました?」

 

「ただの買い物だ。服を見繕ってくれ」

 

「へい。董卓様はどのような服がお好みで?」

 

「えっと………」

 

 月が店主と共に品定めをしている間に、龍見は店内を一人で見て回った。改めて見るとやはり高価だ。この時代の庶民が年に数回買えるかどうかといった値段のものばかりだ。

 

「おっ、これは」

 

 ぶらぶらしていた龍見が目を付けたのは、店長が趣味で店に飾り付けている骨董品の数々だ。その殆どが模造品だが、中には本物もある。更に一つだけ、術的な力を持ったものがあった。

 

「ヴィジャボードの類いか。この時代にはあるはずないんだが、武将が女体化している世界だし時代錯誤なもんがあっても不思議じゃないな。おーい店長! これちょっと触らせてくれ!」

 

「へい! 壊さないで下さいよ!」

 

「大丈夫だっての」

 

 ヴィジャボードはいくつかの単語と文字の書かれた板と軽い木片やコインのようなものを使い、低俗な霊を降霊させ、質問に答えさせる呪術的な遊戯の一つだ。これを原型にしたものが日本のこっくりさんとも言われている。

 だが龍見の場合、降霊させるものは低俗な霊などではない。

 

「さて………………ハデスのおやっさん、聞こえていたら返事をくれ」

 

 木片が『はい』という文字へ移動する。どうやら無事に成功したようだ。

 

「以前外史とか言っていたけど、外史ってのはあの並行世界とかの世界か?」

 

 木片は『はい』から動かない。

 

「ならオレは帰れるのか?」

 

 今度はゆっくりと動き出し、『ふ』『め』『い』という文字に移動した。

 

「なら帰り方も分からないよな。いや、死を司るおやっさんに訊いたオレが馬鹿だったよ」

 

 同意するかのように『はい』に移動する。この答えに龍見はあまり悲観しなかった。元の暮らしより自分らしく生きられるこっちの世界が悪くないと思い始めていたのだ。

 

「そうだ。オレを襲ったあいつらは誰だ?」

 

 木片は『か』『ん』『り』『し』『や』という文字へ移動した。どうやらあの道士達は世界を管理する役割を担っているらしい。

 

「何をしているんですか?」

 

「ん、占い、かな。月と店長も何か占ってみるか?」

 

「へい。でしたら今後の店の行く末でも」

 

「どうなるかな。今占ってくれているのが経営に詳しいわけでもないし、本当に参考程度にしてくれよ。んじゃ、この店の行く末を頼む」

 

 あっちへフラフラ、こっちへフラフラ、迷いに迷った末に木片が示した答えは『な』『み』だった。

 

「………並ですかい。下手に山あり谷ありよりかはいいですけど」

 

「まあ仕方ない。月はどうする?」

 

「じゃあ、この乱世は私達が生きているうちに終わりますか? 無事になんて事は言いません。でもみんなが笑って過ごせるような争いのない時代はやってきますか?」

 

「月らしいな。どれ、訊いてみよう」

 

 木片は迷う事なく『はい』の上に乗った。しかしすぐに『いいえ』へと移動した。

 

「これはどういう事でしょう?」

 

「乱世は終わる。それでも争いのない時代なんてありゃしないって事だ。どんな時代でも小さないさかいは存在する。人の世ってのはそういうもんだ」

 

「そう、なんですね」

 

「月も分かっていたんじゃないか? しかしなんだ。オレ達の手の届く範囲は争いをなくせるんじゃないか?」

 

「はい!」

 

「さて、これはとりあえず置いておいて、服はどうした?」

 

「あ、これだけ買います」

 

ーードサッ

 

 笑顔で見せつけられた大量の服に龍見は思わず固まってしまう。

 

「これ、だけ………?」

 

「ちょっと控えめにしておきました」

 

「店長、女ってのはこえぇなぁ」

 

「へい、同感です。ちぃと安くしておきますぜ」

 

「ああ、すまん。詠にはバレねぇようにしねぇと」

 

 しかしそのような大量な服が全くバレずに済む訳もなく、二人は後日詠のきつい説教を受ける羽目になるのであった。




外史設定って便利ですよね。


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第十一話【R-18】

最後の方にあっさりとしたR-18描写があります


ーーチュンチュン

 

「ん………朝か。まだ眠い………」

 

 普段朝の早い詠だが、昨晩は龍見と共に術の鍛練に励んでいたため、寝るのがかなり遅くなってしまった。そのために起きるのも遅かったのだ(詠感覚)

 

「むぅ………………」

 

「………………えっ?」

 

 何故か横から聞こえる聞きなれた男の声。長い間油を差さずに錆び付いてしまったロボットの首のようにギギギギッと首を動かした詠はしっかりと確認してしまった。はだけた服装で眠る龍見の姿、そして姿見に写る服装の乱れた自分の姿を。

 

「い、いやあぁぁあぁあああああっ!!?」

 

ーードオォォォォンッ

 

 詠の叫びと炸裂する高位の火術の爆音が、鶏の鳴き声よりも早く洛陽に響き渡った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「えー、それでは今朝の事件について会議を始めるかんな。ねねは書記も頼むな」

 

「任されたのです」

 

「ほな被告人の刑罰は………」

 

「待てぃ! オレは無実だ!」

 

「恋もそう思う。前、手でした時に恋は襲われなかった」

 

『えっ』

 

「れーんっ! その手助けはいらなかったー! みんなドン引きじゃねぇか! ってか霞、てめぇのせいだろ。てめぇが引くな」

 

「ちんきゅーきーっく!!」

 

「ゲボラッ!?」

 

「よくも恋殿を………この、ド畜生がぁっ!!」

 

「うぶおぁっ!!?」

 

 音々音の飛び蹴りで椅子から蹴落とされた龍見は追撃の腹への連続蹴りを喰らっていた。その様子は某吸血鬼の配下に蹴られる犬の如し。

 

「あんたどーいう事よー!! 答えなさーい!!」

 

「ちちちちち地和ぉ、揺するなぁ………」

 

 今度は地和に首元を掴まれて前後に揺すられる。とても女性の筋力とは思えない。

 

「あんた不能なの!? 私が男なら恋に迫られたら即座に襲うわよ! はっ、まさか、幼女趣味!?」

 

「これは極刑やねぇ」

 

 完全に犯人へと仕立てあげられてしまった龍見は、この現状を何とかせんとばかりに大声をあげた。

 

「先に寝たのはオレだ! 被害に遭うとしたらオレの方だ!」

 

「それは言い訳としては苦しすぎるで」

 

「いや、あながち嘘ではないかもしれん」

 

「華雄?」

 

「今回の事件の物的証拠を探すために詠の部屋を調べたらとんでもないものが見つかってな」

 

「ちょっ、何を勝手に」

 

「これを見ろ!」

 

『こ、これは!!?』

 

 華雄が顔を赤くしながら机に放り出したのは春画、所謂エロ本であった。しかも逆レイプ物である。

 

「キャアァアァァァッ!! 何でそれを!!?」

 

「………………これは擁護出来んわ、賈詡っち」

 

「ま、待ちなさい! 確かにそれはボクのだよ! でもボクが襲うとしたら月だけだから!!」

 

『うわぁ』

 

「あああああっ! 墓穴掘った!!」

 

 最早ここは収集のつかないカオス空間になっていた。進行役の霞はみんなを煽り、月は詠の告白にあらゆる機能を停止させ、恋とシた事実に変わりない龍見はちんきゅーキックを連打され、秘密を暴露された詠は部屋の隅で体育座りをしながらのの字を書いている。

 そんな中、これまで沈黙を保っていた張角三姉妹の末っ子、人和が手をあげて発言した。

 

「ここで争っていても仕方がないわ。実際に詠さんの部屋に行ってみましょう」

 

「これ以上ボクの部屋を荒らさないでぇ」

 

「このまま同姓趣味の強姦変態にされてもいいならどうぞ。でも事件はここで起こっているわけではないのよ。現場で起こっているの」

 

「うう、分かったわよ」

 

 みんなが出ていった部屋には人影が一つ。

 

「お姉ちゃん、忘れられてる?」

 

 忘れていません。作者は天和も好きです。ただ台詞がないだけです。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「部屋はどれだけ調べたのかしら華雄さん」

 

「隅々までだ。故に現場は朝のままではないな」

 

「ありがとう。じゃあ龍見さんと詠さん、昨晩眠るまでに何があったか教えて」

 

「おう」

 

 まずは龍見の証言だ。龍見は詠に頼まれて彼女に術の指導をしていた。しかし睡魔に襲われた龍見は仮眠を取るつもりで椅子に座って眠ってしまった。

 

「次は私ね」

 

 詠の証言も龍見が眠るところまでは変わりなかった。龍見が眠った後は意識が持つギリギリまで術の鍛練をし、その後倒れるように寝具で眠ってしまった。

 

「ん? 龍見は椅子に座っていたのにどうして詠に添い寝していたのよ。やっぱり幼女趣味」

 

「天丼はあかんよ地和。でもこれは怪しいなぁ」

 

「詠が龍見を連れ込んだ?」

 

「あのね恋。ボクは女で軍師よ。こいつを引っ張れるだけの力はないの」

 

「逆ならあるだろうがな」

 

「物的証拠も状況証拠もない。そうなると可能性の高いオレが有罪になるのも仕方ないか」

 

 この状況では何を言っても詠が有利と判断したのだろう。龍見はもう自分の無罪の主張をやめてしまった。女性ばかりの中では仕方ないとも言えるが。

 んなは場面で何かを思い付いたらしく、天和が声をあげた。

 

「龍見さんの術で犯人は分からないの? 過去を見たりしたらすぐに分かりそうだけど」

 

「流石に無茶よ姉さん」

 

「あっ、その手があったか」

 

「出来るの!?」

 

「正確には過去じゃないがな。少し準備する」

 

 急いで部屋を出た龍見が数分もせずに持ってきたのは、人の頭ほどの大きさがある水晶玉だ。

 

「部屋の中心くらいに机を置いてくれないか?」

 

「ん、これでいい?」

 

「ああ。よいしょ」

 

「これで過去が見れるんですか?」

 

「いいや、過去は見れない。見るのは物の記憶だ」

 

「?」

 

「分かんないよな。簡単に説明しようか。物にも何かを記憶する能力はある。使い慣れたものが手に馴染むのや、住み慣れた家で安心するのは人を記憶している物が人に対応しているからとも言われる。それと怖い話なんかでよくある動く人形は記憶から人格形成した結果、意思を持ってしまった人形なんだよ」

 

『へー』

 

「話はここまで。早速昨晩の記憶をこの部屋に思い出してもらおう」

 

 水晶玉に向かって手をかざした龍見が呪文を唱える。すると水晶玉がぼんやりと光出し、部屋がまるで夜のようになる。部屋の中では椅子に座っている龍見と、寝具に潜り込んでいる詠の姿があった。

 

「成功だ。ってみんな黙ってどうした」

 

「えっ、だって眠ってますよ」

 

「あのなぁ、これは部屋の記憶なの。お前らが何をしたって変わらねぇよ。それにほれ、そもそも触れない」

 

 龍見が記憶の自分に触ろうとしてもすり抜けてしまう。これでみんな安心したのか好き勝手に話始めた。

 

「龍見殿も証言通りの椅子で寝ていますな」

 

「いつ動くんやろなぁ」

 

「詠、寝相悪い」

 

「人の寝相なんてどうだっていいじゃない!」

 

「詠ちゃんの寝相が悪いのは昔からですよ。一緒にお昼寝してるとよく蹴っ飛ばされたなぁ」

 

「ゆ、月~」

 

「オレも詠もよく寝ているな。進展があるまで時間を進めるぞ」

 

 再び龍見が呪文を唱えるとビデオの早送りのように時間が進んでいく。その途中で部屋の扉が突然開けられた。

 

「むっ!? 何者だ!」

 

「落ち着け華雄。これも記憶だ。しかし誰が」

 

『ぅぃ~。あかーん、呑みすぎたわぁ』

 

「うち!? あっ!!」

 

「霞さん、何故この部屋に?」

 

「あ、ははは、見ての通り呑みすぎやわ」

 

『はよ寝よ………』

 

 ふらついている霞が部屋の中を歩き回り、龍見の座っている椅子の足に引っ掛かった。しかし酔っていても武人。霞が倒れるような事はなかったのだが………………

 

ーーガッ

 

『うごっ!?』

 

『んん、なんで龍見がうちの部屋の床で寝とるんや………』

 

「ねぇ、あれって気絶してない?」

 

「椅子から落ちたときに頭を打っていたな。こんな事があったとは。そういえば朝っぱらに詠の術を受けて忘れていたが、なんか頭痛かったな」

 

『んんん~………………あー、分かった。ここは龍見の部屋やったんや』

 

「ボクの部屋なんだけど」

 

『床で寝るなんて、龍見も相当呑んだんやなぁ。ちゃんと布団で寝なかん、よっ!』

 

「人を放り投げるとは。しかもあの中には詠殿が居るのですよ」

 

「よくボクに当たらなかったね」

 

『お休みぃ』

 

 好き勝手やるだけやった霞はふらつきながら部屋を出ていった。寝具には寝相で服が乱れた詠と、気絶させられ投げられてボロボロにされた龍見が残った。

 

「………………終わろうか」

 

「霞さん、暫く禁酒です」

 

「ひどっ!?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 無事に無実が証明された龍見はあんな事があっても仕事はしっかりと済ませ、部屋に帰ってきた。あとは寝るだけ、というところで来訪者がやってきた。

 

「龍見、居る?」

 

「恋? ああ、居るが」

 

「入る」

 

 龍見の了解を得る事もなく、恋は部屋へと入ってきた。

 

「何かあったのか?」

 

ーーギュッ

 

「………………どうしたんだ?」(えぇぇええええええええぇぇぇええええっ!!!?)

 

「少し、こうしたくなった」

 

 また事件でもあったのかと心配する龍見に対して、恋は唐突に抱き付いた。想定外過ぎる出来事に逆に冷静に質問する龍見だが、その心中はとんでもなくテンパっていた。

 

「龍見が詠と寝てるって聞いて、なんだかここが苦しくなった。どうして?」

 

ーームニュ

 

「おい、こんな事するもんじゃない」(胸柔けぇえええええっ!!)

 

「興奮しない?」

 

「興奮します」

 

「良かった」

 

 恋のような大きな胸を触って興奮しないほど龍見は悟りを開いていない。龍見の素直な感想を聞いた恋の笑顔はとても愛らしいものであった。

 

「恋、ここが苦しくなったんだよな」

 

「うん」

 

 もしかしたらそれは恋かもしれないと龍見は言おうとしたが、それは自分で気付き、知るものだろうとあえて口を閉じた。

 

「龍見も分からないの?」

 

「まあ、な」

 

「そう………ねぇ、お願いがある」

 

「言ってみてくれ」

 

「今日一緒に寝て」

 

「ああ、いいぞ」

 

 恋のこの手の発言は純粋にそうしたいからだと龍見は知っている。もし以前のように霞からの入れ知恵があったのならば話は別だが、それはそれでいいと考えていた。そんな事だから部屋の外の気配には気付かなかったのだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 恋が龍見の部屋に入っていくのを一人の少女が見ていた。今日は龍見が疲れただろうと様子を見に来た月だ。恋もきっと自分と同じ事をするのだろうと月は部屋を覗いた。

 

「えっ、えぇっ!?」

 

 そんな月が見たのは龍見に抱き付き、胸を触らせている恋の姿だ。しかも次に聞こえてきた言葉に月は耳を疑った。

 

「今日一緒に寝て」

 

「ああ、いいぞ」

 

「………………あ」

 

 一緒に寝る。それを男女の営みと判断した月は逃げ出すようにその場を立ち去り、自室に戻った。

 

「二人が、そんな関係だったなんて。即答だった………………どんな事をするんだろ」

 

 この時代で考えれば美男の龍見と、大人びた容姿で豊満な肉体を持つ美女の恋は月にはお似合いのカップルに見えてしまった。そんな二人がどんな夜の営みをするのかイメージをした月の手は自然に陰部へ伸びていた。

 

ーークチュ

 

「んっ!」

 

 抱き合って一緒に寝る二人。互いに陰部を触り、口付けをする。

 

「ハァ、あっん………あぁっ」

 

ーークチュ

 

 龍見の手が恋の胸へと伸びていき、おもいっきり揉みしだく。そんなイメージをして月は自身の胸も弄る。控えめな胸を揉み、硬くなった乳首をキュッと摘まむ。

 

「ふぁっ! あぅ」

 

 更に月のイメージは続く。存分に弄り回し、濡れた陰部に龍見が自身の逸物を捩じ込んでいく。そのイメージに合わせるように月は陰部に指を捩じ込んだ。

 

ーーつぷっ クチュクチュッ

 

「ああっ!! あ、あっ、ん………いい、いっ、くぅ!!」

 

 龍見は何度も何度も力強く腰を打ち付ける。逸物が子宮に響く度に恋は艶やかな喘ぎ声を上げる。限界が近いのか腰の動きがどんどん激しくなり、子宮に捩じ込まんとばかりに逸物は叩き付けられ、精を吐き出した。という妄想に合わせて月も絶頂した。

 

「はぁはぁ………………うぅ、私の馬鹿」

 

 人の艶姿を妄想し、それで自慰をしていた自分に自己嫌悪した月は、後処理をしてからは布団を頭から被って眠りについた。




まだもう少し拠点でのネタを続けようと思います


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第十二話【R-18】

性夜だからね。急展開だね。
急いで書き上げたんでなんかあったら言ってください。


 恋が目を覚ますと隣にいた龍見の姿はなく、代わりに室内にいい香りが広がっていた。

 

「起きたか?」

 

「うん」

 

「ならちょうど良かった。今お茶を淹れたんだ。一杯どうだ?」

 

「飲む」

 

 龍見が淹れたのはそこら辺で売っている市販のものだが、寝起きにはお茶の熱さと渋みがよく効いた。そんな助けもあってか、恋はある事を思い出した。

 

「あ、行かなきゃ」

 

「なんか用事があったか? いいさ、お茶を飲んだら行ってきな」

 

「うん」

 

 火傷しないようにしながらも少し急いでお茶を飲む恋の姿は、どこか小動物的でとても愛らしくもあった。

 

「御馳走様。行ってきます」

 

「行ってらっしゃい」

 

 龍見に見送られた恋が向かったのは音々音の部屋だ。

 

「ねね」

 

「恋殿、どうなさいました?」

 

「龍見と一緒に寝た」

 

「! して、その結果は?」

 

「よく眠れた」

 

ーーズコーッ

 

 実は今回の事は音々音の入れ知恵だったのだ。どうなるかは分からないが大切な主人の初恋を応援しようという想いから出た結果だったのだが、どうにも恋は音々音の言うところの『寝る』の意味を知らなかったようだ。

 

「むむむ」

 

 ここでストレートに表現してもよいものか音々音は悩んだ。大切な主人にこれを言って嫌われないかというのが頭をよぎる。しかし自身の感情も理解していない恋と奥手の龍見をくっ付けるために勇気を振り絞る。

 

「良いですか恋殿。ねねの言う寝るとは子作りの事なのです。そして恋殿の胸を締め付けていたのは恋心です」

 

「恋心?」

 

「はい。龍見殿は何も?」

 

「うん」

 

「そうですか。龍見殿は鈍感ですな」

 

 本当は鈍感などではなく、龍見の優しさというのは音々音も容易に想像できた。恋が自身の感情に気付いていない事を理解した上で手を出さないというのが龍見だ。

 

ーークゥ

 

「お腹減った」

 

「では朝食にしましょう。折角の休みですし、ねねとっておきのお店に行きましょう」

 

「いいよ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 音々音のとっておきの店。だがそこには龍見と張三姉妹が居た。

 

「何故、ここに?」

 

「数え役満☆姉妹の次回公演の打ち合わせだ。色々と世話してるからな。お前らは朝飯か? 一緒に食おうぜ」

 

「なら龍見、隣いい?」

 

「ああ」

 

「恋さん! これ美味しいですよ!」

 

「ねねもこっちに座りなさいよ」

 

「ゆっくりしていって下さい」

 

「では失礼するのです」

 

 龍見達が居るのは想定外だったが、龍見達は打ち合わせに集中し始めた。これはチャンスとばかりに音々音は恋に近付いて囁いた。

 

「手を握るのです。それで距離が縮まると聞いた事があります」

 

「ん」

 

ーーギュッ

 

「いえ………ねねではなく龍見殿の」

 

「そっか」

 

ーーギュッ

 

「おっ、どうした?」

 

「こうしたら良いみたい」

 

「?」

 

 突然こんな事を言われては龍見も頭にハテナを浮かべるしかない。しかし美人にこんな事をされて嫌がる男が居る訳もなく、上機嫌のまま打ち合わせを続ける。

 

「とりあえずこんなもんか。次の公演まで調整しておけよ」

 

「「「はい」」」

 

「あ、ねね、少し話があるんだがいいか? 二人で話したいから恋は外で待っていてくれ」

 

「はぁ」

 

「分かった。待ってる」

 

 三姉妹と恋が店を出てから龍見は音々音に向き合って話を始めた。

 

「昨日といい今回といい、お前の入れ知恵か?」

 

「っ!」

 

「別に怒っちゃいねぇよ。むしろ嬉しかったしな。でもいいのか? お前にとって恋は大切な人だろ。そんな人をオレに任せるような真似をして」

 

「恋殿の初恋を応援しないわけにはいきません。それにそういう気遣いが出来る龍見殿だから安心できるのですよ」

 

「ったく、いつも恋中心だな。たまには自分中心の生活をしろよ」

 

 ワシャワシャと頭を撫でられた音々音はその手を軽く払う。

 

「恋殿中心の生活が音々音にとっては自分中心の生活なのです。でも心配してくれるのは嬉しいです。父上が居ればこんな感じでしょうか」

 

「ねね………………せめて兄で頼む。まだ23なんだ」

 

「あっ………………ごめんなさい」

 

 なんだか微妙な空気になった二人は待たせている恋を迎えにいった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 その晩、龍見は部屋で人を待っていた。昨晩や朝の事を考えるとまた彼女がやってくると信じているからだ。

 

「龍見、入る」

 

「おう、やっぱり来たな」

 

「? 気配がした?」

 

「いや、オレそこまで敏感じゃねぇよ。ただ何をしに来たかは大方予想が出来る」

 

「当ててみる?」

 

「性行為」

 

「正解」

 

ーーチュッ

 

 抱き付く勢いで恋は龍見に口付けをした。龍見もそれを受け入れ、抱き締めた。

 

「せっかちだな。でも本当にいいのか? このままだと後戻りは出来なく「いいの。恋が望んだ事だから」………………参ったな。ただオレはいつか消えるかもしれない。それを」

 

「しつこい」

 

 床に押し倒され、馬乗りされた龍見はただただ恋を見つめた。

 

「恋は龍見がいい。大人しく子作りする」

 

「いやおい! もちっと雰囲気とかあるだろ!」

 

 そう言って恋は服を脱ぎ始めた。思っていたより早く事が進んでいく事に龍見は慌てたが、その褐色の肌と豊かな胸からは目が離せない。股間の逸物もすぐに勃起して、恋の股をつついた。

 

「おっきくなってる」

 

「ここまでしたのは恋だからな。覚悟しろよ」

 

「うん」

 

 龍見は逸物を恋の股に擦り付けながら胸を揉みしだく。少し上体を起こすと乳首にむしゃぶりついた。徐々に勃起していく乳首を舌で弄り回し、歯で刺激していく。

 

「そんなにしても、んっ、母乳は、出ない 」

 

「チュゥ、んんっ、なら出るようにしてやろうか?」

 

 乳首を弄り続けながら、器用に片手で逸物をズボンから取り出す。恋の陰部は逸物を擦り付けられた事ですっかり濡れていた。龍見は陰部に中指を挿入する。

 

ーークチュクチュ ピュッ

 

「ぁっ!?」

 

「軽く潮が噴いたぞ。どれだけ期待してたんだ? 指を入れただけでこれじゃ、本番はどうなるんだか」

 

「むっ」

 

「おっと」

 

 軽くイカされたのが悔しかったのか、恋は胸にむしゃぶりついている龍見を離すと、龍見の顔面に座った。そして倒れるように逸物の目の前に顔を移動させ、逸物を舐め始めた。

 

「はむっ、チュル、ペチャッ、チュウチュウ」

 

「うぐぉっ!? な、何を」

 

「ペロペロ、ここも良いって聞いた」

 

「た、玉攻めだと!?」

 

 鈴口やカリを舐めながら玉も揉む恋のテクニックはとても素人のものではなかった。

 龍見も反撃しようと陰部を舐めようとはするものの、恋から与えられる快楽に耐えるのが精一杯で反撃のしようがない。

 

「ぐっ、もう限界だ」

 

「待って」

 

「はぅっ!?」

 

 射精しそうになった龍見の逸物の根元を恋は指でしっかりと絞め、射精しようにも出来ない状態へとした。絞め付けられる多少のキツさがこれまた快感となる。

 

「出すのはこっち。じゃないと子作りにならない」

 

「えっ、本当に子供を作るのか?」

 

「さっき龍見も母乳が出るようにするって言ってた」

 

「あれはその場の勢いというか」

 

「ならこれも勢い」

 

ーーズチュッ ブチッ

 

「いつっ」

 

「うぉぉ………………出る!!」

 

ーービュルルルッ ビュッビュッ

 

 騎上位の体勢で一気に陰部へと逸物を捩じ込んだ恋は処女膜が破れる痛みに体が強張る。対して龍見は先程まで我慢していた射精感に加え、一気に与えられた膣からの快感で一切の抵抗もなく射精をさせられた。

 

「痛い………………でも、暖かい」

 

「恋………ごめん」

 

「えっ? ひゃっ!?」

 

ーーパンッパンッ

 

「んあぁっ!?」

 

 龍見は射精の余韻に浸る事もなく、すぐに体位を入れ換え、恋を四つん這いにさせて何度も激しく腰を打ち付け始めた。処女膜を失ったばかりでまだ痛みの残る恋にはキツイ仕打ちだが、痛みには強い恋はすぐに痛みよりも快楽が勝り始めた。

 

「あっあっ、いい! もっと、もっと!」

 

「いくらでも、くれてやる!!」

 

「おく、いい! あっ、とぶ、ふわぁあっ!」

 

「イけ! 何度も、何度だってイかせてやる!」

 

「あ、あ、あぁあぁあああああっ!!!」

 

 子宮口やGスポットを攻められ続けた恋は慣れない快感にすぐに絶頂してしまう。しかしそれで龍見の攻めが終わる事はない。

 

「オレが、イくまで、付き合ってくれよ!」

 

「ひあっ! きもち、い………ああっ! また、とんじゃう!! ああぁんっ!!」

 

「好きなだけイけよ!」

 

「ら、らめ! しぬ、きもち、よすぎて、ひんじゃう!! ひぃぃぃ!!」

 

 絶頂してすぐの敏感な膣内を掻き回され、恋は何度も絶頂を繰り返す。龍見が絶頂するまで続く快楽も終わりが近付いていた。

 

「出るぞ! 一番奥に種付けするからな!!」

 

「やっ、い、ましたら………あ、あ」

 

「イくならイくってしっかり叫べよ。出る!!」

 

ーービュウッ ビュルルルッ ビュッ ビュルビュル

 

「いくうぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」

 

ーープシャアァァァッ

 

「あ、ぅ………おしっ、こ、とまら、ない」

 

「あー、オレもまだ射精とまんねぇ。なあ恋、今晩はずっと繋がってていいか?」

 

「恋も、そうしたい」

 

「ありがとよ」

 

 優しく口付けをすると、龍見は逸物を恋の膣内に入れたまま寝具へ移動し、そのまま朝まで恋を愛し続けた。




龍見は精子に強化の術を使った! 妊娠確率が上昇した!(嘘)


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第十三話

四ヶ月ぶりですか。覚えている方はおられるでしょうか。言い訳は後書きでしますので、一先ずは申し訳ありませんでした。


 それはいつもと変わらない定例会議での事であった。大きな事件もなく、龍見が盗人を捕まえたというような話で盛り上がっていた時に息を切らした兵士が飛び込んできた。

 

「も、申し上げます!!」

 

「今は会議中よ。分かっているでしょう」

 

「もう殆ど終わってたからいいじゃない詠ちゃん。どうしたんですか?」

 

「た、た、他国が連合軍を組み、洛陽へ攻め込むと!!」

 

「な、なんやて!?」

 

「チッ」

 

 いつかは来るだろうと思っていた事が想像以上に早くやってきて龍見は思わず舌打ちをした。ただ龍見の知る歴史では董卓が悪政を続けた上での自業自得であったが、月はそんな事はしていない。

 

「何故そんな事が起ころうとしているんです?」

 

「なんでも道士が」

 

「道士だぁ!?」

 

「ひっ、す、すみません!」

 

「………俺が悪かった。続けてくれ」

 

「は、はい。道士が袁紹軍に『董卓はやがて世界に災厄をもたらす。今こそ悪の芽を絶つべき』などという助言をしたと」

 

「ねぇ、龍見、道士って………………あの二人?」

 

「分からんが、大方あの二人だろう。面倒な事しやがって。狙うなら俺だけにしろってんだ。地和、思い出す必要はないぞ」

 

「もう大丈夫」

 

「肩震わせて何が大丈夫だ」

 

 以前襲われた事がトラウマになっているのか地和の体は震えていた。そんな地和を優しく抱き寄せて龍見は頭を撫でた。そんな様子を見た恋は頬を膨らませていた。

 

「道士の言葉となると面倒ね。しかも一部はこれに便乗して洛陽を取りに来るでしょうし」

 

「失礼します!」

 

「なんだ! 今は忙しいんだ!」

 

「それが隊長、街中に変質者が現れまして、我々では対処出来ないほどの力を持っているのです! 応援を!」

 

「んなもん自分達で何とかしろ!」

 

「あんたが行って早く済ませてきなさいよ」

 

「なっ!? 将来とんでもない危機が迫ってるのに何を悠長な!」

 

「目の前の危機をどうにか出来ずに将来を守れるのかしら? それにあんたの兵が対処出来ないほどの相手よ。さっさとやる!」

 

「ぐぬぬ」

 

「龍見さん、頑張って下さい」

 

「月までかよぉ。わーたよ、やってくるよ」

 

 不満を漏らしまくっているが、龍見としてもこの件はかなり気になるものだった。龍見直属の部下は全員術が使える。詠には劣るほどのものだが、武術と組み合わせたそれは董卓軍随一の強さを誇り、それにより街の平和は保たれていると言っても過言ではない。それが変質者ごときに遅れを取るなどあるはずがないのだ。

 

「あれです!」

 

「あれか」

 

 部下に連れられて街を駆け抜けていくと、大きな人混みと宙を舞う兵達の姿があった。人を宙に舞わせるほどの力では確かに龍見の部下でも分が悪そうだ。しかし大人数でかかればどうにでもなりそうだと考えながら龍見は人混みを抜けた。

 

「く、来るな化け物!!」

 

「あんらぁ、ひどいわねぇ。そんな事言う子にはお仕置きよぉん」

 

「うわあぁぁああっ!!?」

 

「………………酷いな」

 

 龍見が酷いと言ったのは兵が飛ばされる惨状ではなく、兵を飛ばしている変質者に対してだ。

 筋骨隆々とした肉体を持ち、スキンヘッドのようにツルツルの頭。これだけなら世紀末からやってきた荒くれもので済まされただろうが、言葉遣いはどう聞いても女、否オカマのそれ。ツルツルの頭の左右からは小さな三つ編みのおさげ。極めつけはピンクのビキニ。

 

「これは酷いな」

 

 思わず二回言ってしまうほどに酷かったようだ。そんな声が聞こえてきたのか変質者は龍見の方を向いた。

 

「そこにいるのは天の御使いさんじゃないかしらぁ。貴方を探していたのよ」

 

「俺は探してない帰れ消えろ目が腐る」

 

「うふふ~、そう言わないの」

 

「近寄るんじゃねぇ!!」

 

 龍見は近寄ってくる変質者を思わず結界で縛り付けた。詠唱もない粗末なものだが、ただの人間を縛り付けるには鎖よりも頼りになるものだ。

 

「ぶるあぁぁぁぁあああああっっっ!!!」

 

 それを変質者は咆哮のみで掻き消した。あまりの事に周りに居た兵や野次馬が後退りする中、龍見は彼ら以上に困惑していた。

 

(なんだこいつは!? 今のは力任せなもんじゃない。的確に術を解除しやがった。見た目だけじゃない。中身も普通じゃない!)

 

「名前はなんだ!?」

 

「うふふ、あたしに興味津々かしら?」

 

「ああ、興味ならあるさ。俺の術をあっさり解除しやがる奴なんてそうはいない」

 

「漢女道亜細亜方面継承者なのよぉん。これくらい簡単だわ」

 

「てめぇ、マジで何者だ。この時代に亜細亜なんて言葉はなかったはずだ。まさか、あの道士達の味方か?」

 

「惜しいわねぇ。確かにあたしと左慈ちゃん達は知り合いで目的は同じだけど手段が違うわ。だから敵よ。そしてあたしは貴方に協力するために来たの」

 

 怪しすぎる協力依頼だ。こんなものに応えるのは誰もいないと話を聞いていた者は全員思った。

 

「いいぜ」

 

 だが龍見のみあっさりと受け入れた。そんな信じられない言葉に全員が固まった。

 

「た、隊長。本気ですか?」

 

「本気だ。詠達には怒られるかもしれねぇけど、こいつはオレの術を破るほどの力量を持っている。下手に暴れられるよりはここでこいつの願い通りに進めた方がいい」

 

「嬉しいわぁん」

 

「仮とはいえ協力してくれるんだろ。名前くらい教えろよ」

 

「貂蝉よ」

 

「…………嘘だろおい…………」

 

 変質者の名前を聞いた龍見は思わず崩れ落ちた。貂蝉と言えば絶世の美女として有名な登場人物だ。この世界の性別は完全に反転しているのかと事前に調査した龍見は大橋小橋の姉妹が女性と知っていたため、貂蝉もてっきり女性とばかり思い込んでいたのでそのショックは相当なものであった。

 そして貂蝉を連れて戻ると案の定全員からお叱りを受け、ひとりひとりへの謝罪や説明等々で合計五時間以上動き回る羽目になる龍見であった。




さてこれだけ遅くなった言い訳ですが、ぶっちゃけ貂蝉を書こうとしたら筆が止まりました。この先の展開にこいつがいると楽なのは脳内で決まっていたのですが、どうにも手が動かず、こんなにも長くなってしまいました。
本来なら今回の話も一月の間には投稿し、文章も倍くらいになるはずでしたが、貂蝉によって完全ストップしました。
しかしそれもなんとかなり、貂蝉がいてもなんとか筆が進むようになったので、遅くとも月一ペースで投稿できそうです。改めて遅くなってしまい申し訳ありませんでした。


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第十四話

天からお告げとして『あくしろよ』と言われたのです。


 ここ数日、龍見は土像(ゴーレム)を使っての情報収集に励んでいた。数ヵ月前に協力関係になった貂蝉によるとそろそろ反董卓連合が動き出す頃合いらしい。

 ちなみに貂蝉だが、最初は警戒されまくっていたものの、化粧や料理の技術をみんなに教えているうちに真名を許されるほどに馴染んでしまっていた。

「龍見、お茶」

 

「ああ、助かるよ恋……………………ぷはぁっ、この一杯が堪らねぇ」

 

「どう?」

 

「貂蝉の言う通りだ。いや一部は既に動いている。こっちも準備しねぇと。おっとと」

 

 長距離での複数の土像(ゴーレム)の操作はかなりの疲労となるらしく、立ち上がった龍見はふらふらとした足取りで外へ向かおうとした。

 そんな龍見の体が急に後ろに引っ張られ、倒れるように寝かされた。それをやったのは当然恋で、龍見は恋に膝枕をされる状態となった。

 

「少し、休んだ方がいい」

 

「んー、そうだなぁ。恋がここまでしてくれるならそうするか……………………」

 

 そのまま目を瞑り、眠りに入った龍見を恋は優しく撫でる。一枚の絵にもなりそうな情景だが、乱入者によって十数分で終わりを告げる。

 

「龍見ちゅわぁん♪ 報告よぉ」

 

「しーっ。寝てる」

 

「いや、大丈夫だ恋。今起きた。あんがと。くぅー! よく寝た」

 

「恋ちゃんの膝枕なんて羨ましいわねぇん。それで報告なんだけど、左慈ちゃん達の動きは完全に掴んだわ。龍見ちゃんの使い魔が囮になってくれたおかげよ」

 

「ナイス。それで?」

 

「反董卓連合が攻め入っている間に転移か何かで龍見ちゃんに奇襲を仕掛けるみたい。術や道具も使えるだけ使うようよ。このままだとどうやっても龍見ちゃんに勝ち目はないけど、あっちはわたしに気付いてないみたい」

 

「最高の情報だが、逆にこっちの情報が漏れてるって事はないか?」

 

「ないとは言い切れないわねぇ。于吉ちゃんはそういうところがやらしいし」

 

「ならオレが言い切ってやる。てめぇが偽者だからこっちの情報が筒抜けだよ!!」

 

 龍見は短刀を貂蝉の頭に投げ付けた。それが刺さると貂蝉は最初からそこに居なかったかのように消え去り、一枚の人形の紙のみが短刀に突き刺さっていた。

 

「せめて一人称くらいちゃんと真似しとくんだな」

 

「龍見ちゃん!! 于吉ちゃんの使い魔の気配がしたけど」

 

「おせぇよ筋肉達磨!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 龍見に使い魔を壊された左慈は壁を殴り付けて于吉に怒鳴り付けた。

 

「チィッ! 于吉! バレてるじゃないか!!」

 

「申し訳ありません左慈。やはりあの男は危険ですね」

 

「そんな事は分かっている! 次の策はあるのか!?」

 

「ええ。ご安心を。左慈に嫌われたくはないのでね」

 

「なら早くしろ」

 

「分かりました」

 

ーーゴッ

 

「ガッ…………!? うき、つ…………何を…………!?」

 

「あらぁん、本当に于吉ちゃんだと思ったの?」

 

 于吉の痩せ型の体が筋骨隆々とした肉体へと変化していく。言うまでもない。貂蝉だ。

 

「き、さま……!!」

 

「流石の左慈ちゃんも背後からの一撃には耐えられないみたいねぇ。それで何か聞きたいかしら? 閉じ込める前に答えてア・ゲ・ル♪」

 

「いつ、から…………于吉に」

 

「一週間くらい前よ。ちなみに今の変身も、さっきまで観てた龍見ちゃんへの使い魔も、それと龍見ちゃんの部屋に入ってきたあたしも全部龍見ちゃんの自作よ。本当に天才的で惚れちゃいそうだわぁん♪」

 

「く、そ…………」

 

 左慈が意識を失うと、貂蝉は魔法陣を描いて左慈をその中に引き込んだ。そして魔法陣に魔力を込めると左慈は魔法陣へと沈んでいき、その姿を消した。

 

「龍見ちゃん、聞こえるかしら? 終わったわよぅ」

 

『成功したのか。ふぅ、これで暫くは安泰だな』

 

「生かしたまま封じ込める形で良かったのかしら?」

 

『ああ、いいんだよ。下手に殺すとお前らの上司がまた別のを送り込んでくるかもしれないだろ』

 

「それもそうねぇ」

 

『一応もう一度安全を確認してから帰ってきてくれ』

 

「分かったわぁ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「邪魔もなくなったし、安心して反董卓連合と戦えるな」

 

「お疲れ様」

 

「一週間もあいつに変化をかけ続けるのは精神力使ったぜ。恋、また膝枕してくれ~」

 

「うん…………」

 

 恋の膝に遠慮なく頭を乗せた龍見は恋の顔色が少し青いのに気が付いた。

 

「気分が悪いのか?」

 

「少し」

 

「医者に診てもらおうか」

 

「…………一緒に来てくれるなら」

 

「甘えん坊だな。いくらでも付き合ってやるよ」

 

「抱っこ」

 

「はいよ」

 

 恋を抱えながらだと流石に目立つものの、龍見も恋も一切気にしていない。街中ですら何でもないかのように歩いていき、診療所へと着いた。

 

「呂布様に馬淵様、この度は如何なさいました?」

 

「恋の調子が悪いみたいだし、少し診てやってくれ」

 

「畏まりました」

 

 恋を医者に任せて座っていた龍見の元にすぐに医者はやってきた。

 

「馬淵様、董卓様方をお連れしてきて頂けませんか?」

 

「ん? ああ、分かった」

 

 医者がこんな事を言うのだから、何か余程の事が起こったかもしれないと龍見は急いで月達へと連絡に走った。一番の武将に何かあってはいけないと全員がすぐに集合した。

 

「恋に何があったの?」

 

「そう身構えないで下さい。まずは馬淵様」

 

「オレか?」

 

「はい。単刀直入に申しますと、おめでたです」

 

「…………詠、オレを殴ってくれ」

 

「そうね。こんな大事な時期に何してくれてんのよこの馬鹿ぁ!!!」

 

「いてぇっ!!!? マジか、夢じゃないのか!!」

 

「夢だと思うなら私も殴ってやるわよ!! 恋が好きなのは知ってたけど、私にも手を出しなさいよ!!」

 

「ぐへっ!? ち、地和何をするんだ!? って今のってまさかこくは」

 

「お祝いや! うちの一撃も食らっとき!!」

 

「ぐほっ!!? し、霞、お前のは洒落にならん…………」

 

 その後も何かと理由を付けられ、月以外の全員のパンチを顔面に浴びた龍見の顔は、それはそれは見ていられないほど悲惨だった。

 

「あんらぁ、こんなところに居たのねぇ。城に誰も居ないからどうしたのかと…………龍見ちゃん、本当にどうしたの?」

 

「ひほひほとあっは」(色々とあった)

 

「お帰りなさい貂蝉さん。実は恋さんが身籠ったみたいなんです」

 

「あらそれはめでたいわねん…………龍見ちゃん、ちょっといいかしら?」

 

「はは」(ああ)

 

 貂蝉は龍見を連れて診療所の裏に回った。ご丁寧に結界まで張ってある。

 

「いちち、なんとか普通に喋れそうだ。んで何用だ?」

 

「恋ちゃんの妊娠は世界の修正力の影響かもしれないわ」

 

「なんだそれ」

 

「外史といえど極力正史と同じように動こうとするのよ」

 

「ふむふむ」

 

「次の戦いで董卓軍が負けるのは知っていると思うけれど、今の董卓軍にはあたしと龍見ちゃんという強力なイレギュラーが居るわ。その状態で董卓軍が負けるようにするにはどうすればいい?」

 

「最大戦力である呂布、恋を何とかすべきだな。だから妊娠か。世界もセコいな」

 

「でも龍見ちゃんが手を出していなければもっと大きな怪我や病気が恋ちゃんを襲っていたかもしれないわ。そこはファインプレーね」

 

「ヤって褒められるとは思わなかった。しかし世界も甘い。恋が妊娠程度でどうにかなるわけないし、何よりオレに火を付けちまった。恋と子供を守るために全力でやらせてもらう」

 

「具体的には?」

 

「神降だ。ハデスのおやっさんは人の争いが嫌いだから喚べないが、もっとエグいのを喚んでやる。あのお方をな」

 

 ククク、と嫌な笑みを浮かべる龍見には流石の貂蝉もゾッとした。世界の修正力は本当にとんでもない事をしてしまったのかもしれない。




左慈、于吉、一時的に退場!
そして恋のにんっしんっ!!

次回は父親となった龍見がとんでもねぇ神様と一緒に全力で反董卓連合と戦います。


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第十五話【R-18】

昨日寝ていたら『(これまで投稿遅延した事を)悔い改めて』という言葉を聞いたので、多少短いですがキリの良いところで投稿します。微エロありです。


「はぁ…………やらなきゃいけないのか」

 

 反董卓連合として集合した土地で北郷一刀は大きな溜め息を付いていた。親友の親戚と命のやりとりをやらなくてはならないのだ。この時代ではたまにある事かもしれないが、一刀にとっては絶対にあり得ない事なのだ。

 

「北郷、なんだか辛そうだな」

 

「秋蘭…………うん、ちょっとね。少なくとも俺の周りで命を懸けた戦いなんてなかったし、龍見さんとやるのは気が引けて」

 

「気持ちは分かるが、今は敵だ。切り替えておけ」

 

「そうだね」

 

「北郷様、夏候淵様、会議の時間です。既に曹操様と夏候惇様は集まっておられます」

 

「やべ、どやされる前に行かないと。ん?」

 

 兵に呼ばれて会議に向かおうとした一刀の視界の端に白い何かが映った。無意識にその方向を見た一刀が見たものは真っ白な蛇の姿だった。

 

「アルビノ、だっけ? 珍しいな」

 

「ほう、真っ白だと綺麗だな」

 

「うん。じゃ行こうか」

 

「ああ」

 

 歩いていく二人の姿をその真っ白な蛇はずっと見つめていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 反董卓連合が集まる数日前に龍見はある神様を喚び出すための準備をしていた。

 

「龍見殿! 持ってきましたぞ!」

 

「ありがとよねね。それだけデカけりゃ捗るぜ」

 

 音々音が兵達の力を借りて持ってきたのはとても立派な巨大丸太だ。大きな家の大黒柱として使えば見映えが良さそうだ。だが勿論そんな事に使うために用意した訳じゃない。

 

「よし、始めるか」

 

 龍見の手にはトンカチとノミが握られ、他にも大工が使うような道具が散乱している。

 

「龍見さん、何を作るんですか?」

 

「月に言うにはちょっと、なんつーか、まあ隠してもしょうがねぇけど…………ぶっちゃけ男根」

 

「えっ…………///」

 

「月に何言ってのんよ!!」

 

「け、蹴るなよ詠。別に珍しい事じゃねぇんだから!」

 

「五月蝿い変態!! 確かあんた、この他にも必要なものがあるとか言ってたわね。まさか、女性の…………」

 

「いや、俺の精子」

 

「それはそれで気持ち悪い!!」

 

「ブフッ!!?」

 

 詠の膝が見事に龍見の顔面に直撃する。まあ女性の前でそんな事を言えばこうなるのも仕方あるまい。ちなみに龍見がこれまで今回の神様を喚ぶ時にはディルドーとエロ本とオナホを使って一人でやっていた。これはキモい。

 

「もうこれからはあんた一人でやってなさいよ! 行こ、月」

 

「えと、頑張って下さい」

 

「うん、頑張る」

 

 鼻血を垂らしながらも手際よく丸太の先端を亀頭の形に仕上げていく龍見。数時間で歪だが、一応形にはなった。

 

「まあこんなもんか。しかしエロ本もオナホもなく精子を絞り出さなきゃならんのか…………どっかにエロ本売ってねぇかな。もしくは恋の体を思い出して抜くしか」

 

「なぁに悩んでんの」

 

「! なんだ地和か。脅かすなよ」

 

「変に集中してるあんたが悪いのよ。それにしても、変態的なものを作ったわね」

 

「これで喚ぶ神様なんだ。あとは契約者の精子、つまりはオレの精子だけだから出てけよ」

 

「ふーん…………手伝ってあげようか?」

 

 そう言いながらも地和の手は既に龍見の股間へと伸びていた。

 

「やらなくていいよ。浮気になるし」

 

「天じゃどうか知らないけど、この程度浮気にもならないわ。それに一人で妄想しながらやるの?」

 

「そうする」

 

「…………私があんたを好きなのは知ってるでしょ。今回だけ。お願い」

 

「いやでも」

 

「ていっ!」

 

「うおっ!? 脱がすな! まだ答えは出してねぇ!!」

 

「知ったことですか!」

 

 無理矢理ズボンを脱がされ、逸物を掴まれた龍見の動きが止まった。地和の経験がどれ程のものかは知らないが、この状況で下手に動けば潰される。そう思ったのだ。

 

「やっと大人しくなった」

 

 動かなくなった龍見に満足し、地和は遠慮なく龍見の逸物をしごき始めた。とても拙く、あまり弱点を攻めてこないが、細く滑らかな女性の指で逸物を弄られるというのはそれだけで龍見に興奮を与える。

 

「硬くなってきた。気持ちいい?」

 

「まあ、そりゃな」

 

「む、何よその返事。なら舐めてあげましょうか?」

 

「いやそれは止めておこう。やってほしくないとかいうわけじゃなく、他人の体液が混ざると失敗するかもしれない」

 

「…………あくまでそっち優先なんだ」

 

「…………すまん」

 

「いいのよ。元々そのためにやってるんだから。でも今だけは、いっぱい気持ちよくなって」

 

 地和の囁きに龍見の逸物も硬度を増す。先程まで大胆にズボンを脱がしてきた相手とは思えないほどに優しく逸物を擦られ、龍見の呼吸も荒くなっていく。

 

「クチュクチュって鳴ってきたわね。これが先走りってやつ?」

 

「ああ……」

 

「へー…………しょっぱ」

 

「おいおい、こんなもん舐めるもんじゃないぞ」

 

「折角だからどんな味か知っておきたかったの」

 

「好奇心もほどほどにな」

 

 話しながらのため龍見に与えられる快楽は少ないものの、長時間与えられ続ける快感はしっかりと溜まっていった。地和も手慣れてきたらしく、逸物を弄る動きも少しずつ早くなっていく。

 

「っ…………そろそろ出そうだ」

 

「こ、このまま続ける?」

 

「ああ、でも前にお前がいると丸太に掛からないから、背後に回ってくれ」

 

「分かったわ」

 

 龍見の後ろから手を回して逸物を弄る地和だが、さっきとは違う光景がまるで自分に生えた逸物を弄っているような錯覚に陥らせ、片手で龍見の逸物を、もう片手で控え目な自分の胸を弄り始めた。

 

「んっ、ふぅ」

 

「なんだ、自慰してんのか? やらしいな」

 

「うる、さい…………さっさと出しちゃいなさい」

 

「言われなくとも、もう出る!」

 

ーービュルッ ビュービューッ

 

「うわ、すご…………精液ってこんなに出るんだ…………」

 

「それはたっちゃんだからかなぁ」

 

「えっ!? だ、誰!?」

 

「あ、お早かったですね、ミシャグジ様」

 

 精液の掛かった丸太の上にこれまで居なかったはずの人影があった。小学校低学年程度の見た目をした、髪も肌も果ては瞳すらも白い、そんな全身真っ白な少年。一見すると普通だが、じっくり観察すると手足が異様に長い。

 

「ミシャグジ様、わざわざお越し頂きありがとうございます」

 

「かたーい! そんなんじゃ帰っちゃうぞ」

 

「うっ、分かったよミーちゃん」

 

 地和にとってはかなり異常な光景だった。神といえば人とは違う、人よりもよっぽど高位な存在。そんな神が人とあだ名で呼び合っているのだ。

 

「そっちの子はたっちゃんの彼女?」

 

「あ、愛人です」

 

「こら地和。勝手に何言ってんだ」

 

「おー、やるじゃんたっちゃん。彼女を自慢したくて喚んだの?」

 

「違うわい。全員の前で作戦会議をしたいし、参加してもらっていいかな?」

 

「いいよー。あとで遊んでね」

 

「OK。みんなで鬼ごっこしような」

 

「やったー!!!」

 

 地和には無邪気に笑うミシャグジ様の姿が本当にただの子供のようにしか見えなかった。だがすぐに思い知る事になる。彼が日本でも最高峰に位置する祟り神だという事を。




ミシャグジ様について
たぶん知らない人はいないくらいの祟り神。でも日本の神様は基本的に蔑ろにしない限りはちゃんと神様やるからしっかりと敬おう。
男根とか白い蛇がモチーフなのはメガ○ンの影響が大きいぞ。男根っぽいものに龍見の精液をぶっかけると現れるぞ。他の神に比べたら楽だけど、龍見の精神的な部分を削っての召喚になるから龍見はあんまりしたくなかったりするぞ。
龍見をたっちゃんと呼ぶくらいに好きだけど、敬語を使う龍見は嫌い。龍見としてはミシャグジ様を蔑ろにしたくないため敬語を使いたい。龍見が中学生の頃からの付き合い。見た目がショタなのは恋姫キャラも臆せず接する事が可能なため。決して作者がショタコンなのとは関係ない。

さて次回は本当に反董卓連合との戦い、の予定でしたが!!
作者の脳内のムッツリスケベ月ちゃんが今回のR-18とも言えない手コキによって何故か活性化したので、次回はスケベな月ちゃん+一応作戦会議となります。
この投稿ペースはいつまで続くのやら


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第十六話【R-18】

今日くらいサボってもいいかな、って思ったら通りすがりの騎士に『おまえそれでいいのか?』と言われてしまったので投稿します。


 龍見が神降の準備をする時に詠に連れられて出ていった月だったが、政務を済ませるとそそくさと戻ってきた。どんなものが完成しているのか気になってしまったのだ。そのタイミングは微妙に悪かった。

 

「えっ、ええっ!? な、なんで地和さんが龍見さんのものを…………わわ、おっきい…………恋さんはあれを中に…………」

 

 実物を見る事など幼い頃に父親のものを見て以来な上、勃起したものなど当然初めて見るので目を離せなかった。

 

「…………あ」

 

 これまで妄想で補っていたものの実物がある。その事実が月を動かした。いつ誰が来るかも分からない部屋の前で扉の隙間から見える光景をおかずに自慰を始めた。

 

「ん……ふぁ…………すごい…………はぁぁ」

 

 いつかは見たかったものが目の前にある。それによってどんどん行為も熱を帯びていくが、それも一瞬にして冷める出来事が起こる。

 

「!」

 

 月は自慰を止めてすぐに走り出した。地和が体勢を変えた時に目が合ってしまったように思えたのだ。実際地和は龍見の逸物に夢中で気が付いていなかったのだが、完全に見られたと感じた月は自室に戻って鍵を掛けた。

 

「見られちゃった。あんな、いやらしい事をしているのを……………………でも…………」

 

 月の股は先程まで自慰をしていた時以上に濡れていた。月自身も異常だと感じたが、受け入れざるを得ない。自分は人に見られて興奮しているのだ、と。

 

「わた、し……あぁん、へんたい、みたい…………」

 

 指が止まらない。もっともっと快楽に溺れたい。そんないやらしい姿を誰かに見てもらいたい。そんな欲望が内から溢れ出す。

 

「あれ、鍵が掛かってる。月ー、いるのー?」

 

「詠、ちゃん…………今開けるね」

 

 なんとタイミングの良い事だろう。大切な親友が来てくれた。きっと自分の欲望を満たしてくれるために違いない。月の思考はどんどんと暴走していく。そして月は乱れた服装のまま鍵を開け、扉を開いた。

 

「月、今回のさく、せん…………えっ、ど、どうしたの!?」

 

「詠ちゃん、お股のむずむずが無くならないの…………手伝って」

 

 月が詠の手を掴み、ゆっくりと自分の股へと触れさせた。その瞬間、詠の理性が砕け散った!!

 

「月!!」

 

「きゃっ!?」

 

 その小さな体からは到底出てくるはずのない力で月を抱き上げると、詠はそのまま寝具へ直行し、月を押し倒す形で倒れ込んだ。

 

「はぁはぁ、月ったらボクをこんな風に誘惑するなんて。もうこんなにびちょびちょじゃない。一人でやってたの?」

 

「やっ、んん……うん、一人で」

 

「一人でなんて勿体ない! ボクがやってあげるからね!!」

 

 強めに月の陰部を弄っていたかと思うと、詠は顔を月の股へと埋めた。

 

「ひはわへ~♪」

 

「え、詠ちゃん! そ、そんな、ところで喋っ、ひゃん!?」

 

「ちゅぷ、んんん、ぴちゃ……はぁぁ、おいひー。蜜が溢れてくる~」

 

 詠は止まらない。否止められない。月も流石に押し返そうとするが、詠から与えられる快感によってまともに力が入らない。

 

「可愛いお豆がぷっくりしてる♪ いただきまーす」

 

「あ、そこは、ひゃあぁぁあぁぁああん!!!」

 

 クリトリスを軽く噛まれた月は一気に絶頂へと駆け上がる。陰部からは愛液が吹き出し、詠の顔を濡らす。詠にとってはそれが快感らしく、実に幸せそうな表情を浮かべている。

 

「ね、ねぇ。ボクのも舐めて」

 

「はぁ、はぁ……詠ちゃん、の? うん……ぺろっ」

 

「あ、ああ……いい、いいよ月…………! ボクも、あっ、まだ舐めて、あげるわね」

 

 お互いの陰部を舐め合い、快楽を高めていく。そんな中、詠はキュッと締まっている月のアナルが気になった。そしてなんの遠慮もなく、そこへ指を突っ込んだ。

 

「! あぁぁあぁ!! そ、そこ、らめぇぇええぇぇぇぇっ!!!」

 

「えっ…………へぇ、そういう事」

 

 指はすんなりとアナルに入り、月はこれまでないほどの艷声を上げた。明らかに初めての反応ではない。

 

「月ったら一人でこんなところも弄ってたんだ。そうよね。処女は大事だもんね」

 

「いや…………ひぐっ!?」

 

「嫌じゃないでしょ? ほら、指が二本目もすんなり入っちゃった。普段どれだけ弄ってたの? 言ってみて」

 

「そ、そんな。言えないよぉ」

 

「そっかー。じゃあお仕置きとして三本目も入れちゃおうか」

 

「あう……二日に、一回」

 

「そんなにやってたんだ。でもよくちゃんと言えたわね。ご褒美あげないと!」

 

ーーズブズブッ

 

「ひぃぃん!?」

 

ーープシャアァァァァァッ…………

 

 不意打ちぎみに指を三本入れられた月はまるで噴水のように潮を噴いた。

 

「い、いりぇないっひぇ、いっひゃのにぃ…………」

 

「お仕置きとして三本目を入れるとは言ったけど、ご褒美に入れないなんて言ってないわ。今の月、最高に可愛かったわよ。チュッ」

 

「詠ひゃんの、いじわりゅぅ…………」

 

ーーコンコン

 

「! だ、誰!?」

 

「この城で扉を叩くのはオレくらいだろ。しかし詠も居たのか。探す手間が省けた。月と一緒に来てくれ。作戦会議だ」

 

「…………ねぇ、いつからそこに居た?」

 

「たった今だが、何か聞かれたら不都合な事でもやっていたのか? なら今度防音の術でも教えようか?」

 

「お願い、するわ。月、着替えて早く行きましょ」

 

「もう、いっぱい、イッひゃよぉ…………」

 

「そういう意味じゃないから!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「たっちゃん助けて! 邪神がいるよ!!」

 

「落ち着けミーちゃん! 顔に引っ付くな! 貂蝉は邪神じゃない。まあ人とも言いがたいが」

 

「人じゃない!? やっぱり邪神じゃないか!! あんな邪神初めて見たよぉ。ニャルちゃんやアンラちゃんより凶悪に違いないよぉ」

 

「あたし、ニャルラトホテップやアンラマンユと比べられるとは思わなかったわぁん…………」

 

 会議室では貂蝉相手に日本トップクラスの祟り神がビビるという奇妙な光景が繰り広げられていた。そこへ着替えを終えた月と詠がやってくる。

 

「お、遅れてすみません」

 

「あんたら、何してんのよ?」

 

「いやミーちゃんが貂蝉を怖がってな。ミーちゃん、そろそろみんなに挨拶してくれ」

 

「うぅ、ミシャグジです。祟り神やってます」

 

「なんや不安やなぁ。そんな神様で大丈夫なんか?」

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

「ねねとしては神様の力を使った作戦を早く知りたいのですが」

 

「うむ、では発表しよう。今回の作戦はこれだ」

 

 どこから出したのか大きな紙には疫病大作戦と書いてある。

 

「疫病とは。祟り神ならではというところか」

 

「意外と華雄は理解が早いな。とりあえずめっちゃ苦しいけど死なない程度の疫病をミーちゃんに流行らせてもらう。こっちに近寄れば近寄るほど効果が上昇するとんでも疫病だ」

 

「私達は、大丈夫?」

 

「安心しろ。オレらは勿論、一般市民には影響しない。神様だからこそやれる事だ」

 

「そこの邪神でもやれそう」

 

「だからあたしは邪神じゃないわよぉ。食べちゃうわよ?」

 

「ひぃっ!?」

 

「これなら誰も血を流さずに済みそうですね」

 

「だが死なない程度だから、無理をしたら突破可能だ。まあ相手もそこまで馬鹿では」

 

「甘いわ。あっちの大将は袁紹よ」

 

 詠のその言葉に全員が袁紹を思い浮かべる。金髪縦ロールが病気の軍を高笑いしながら行軍している姿が容易に浮かんできた。しかも袁紹は病気のびの字も感じさせないほど元気だ。そんなイメージである。

 

「ミーちゃん、一人だけ特別な呪いと幻覚を頼む。それと北郷一刀には手を出さないでくれ。オレの親戚の親友なんだ」

 

「いいよ。でもちょっと条件があるなぁ」

 

「はいはい。貂蝉、ミーちゃんと同じ部屋に入るな」

 

「さっすがたっちゃん! 分かってるぅ!」

 

「ひどいわぁん!!」

 

「じゃあちょっと使いの白蛇で捜査してくるね」

 

「袁紹は金髪縦ロールが特徴だが、そうじゃなくてもあの態度を見ればオレがあんな事を言った理由が分かりそうだな」

 

『うんうん』

 

「全員に同意されるなんて…………僕、どんな人か気になってきたよ。あ、終わったらみんなで鬼ごっこだよ! 約束だよ!」

 

「ああ、約束だ」

 

「よーし、張り切っちゃうぞ!!」




おめでとう ムッツリスケベ月ちゃんは スケベ月ちゃんに 進化した

スケベ月ちゃんは アナル受けを 覚えた

スケベ月ちゃんは 野外プレイを 知りたがっている

スケベ月ちゃんに 野外プレイを 覚えさせますか?

→はい
 いいえ


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第十七話

折角なんでここで宣伝
GWに暇をもて余している作者が番外編を書きまくります。内容は読者の皆さんに決めてもらいます。お願いされたものは何でも書きます。まだ未登場のキャラとのカップリングや、明らかに時系列無視したお話、本来は会わないようなキャラのカップリング等々。当然R-18でもOK。どしどし応募ください。

では本編どうぞ。


「反董卓連合に集まってくれた事を感謝しますわ」

 

 とても感謝しているとは思えないような台詞に聞こえるが誰も意に介していない。袁紹がそういう人物だというのは先の黄巾の乱で全員が知っている。

 

「道士の言葉通りならば今董卓は酒池肉林の限りを尽くし、民を苦しめているのです! このような行いは許せませんわ!」

 

「そんな心にもない事を言わなくてもいいわ。どうせ董卓の領地が欲しいだけでしょう」

 

「ななっ! か、華琳さん! 失礼な事を仰らないでもらえます?」

 

「違ったかしら? 麗羽にそんな心があるとは思わなかったわ」

 

「うぎぎ…………」

 

「袁紹さんがどう思っているかは分かりませんけど、道士の人が言っていた事が事実なら早く民の皆さんを助けるべきだと思います」

 

 劉備の考えも最もだが、この場にその考えで集まっている者はほぼ居ない。大抵が現在軍力トップの袁紹に逆らわないためか、何かしらの利益を求めての事だ。とはいえ民を蔑ろにしたいわけでもないので、劉備の意見に逆らうものは居なかった。

 

「とはいえ厄介極まりない相手よ。地形はあっちが圧倒的に有利。華雄、張遼、そして呂布という三人の武将に加え、馬淵龍見という強力な妖術使い。軍師も優秀よ。袁紹さんの意見を聞こうかしら?」

 

「そんな事も分かりませんの孫策さん。答えは簡単。貴女方が考えればいいだけの話ですわ! おーほっほっほ!」

 

「ご、ごめんなさい、うちの姫が」

 

「あー、いいわよ顔良。聞く相手を間違えたこっちが馬鹿だったわ。曹操、貴女の意見を聞かせて」

 

「難しいわね。武将や軍師が何をするかは大方分かるけど、馬淵龍見という男の行動が読めないわ。妖術による罠を貼られては警戒も無意味でしょう。補給経路を絶って持久戦に持ち込むのもいいかもしれないわ」

 

「駄目です! そんな事をしたら民の皆さんが飢えてしまいます!」

 

「そうね。こちらは名目上とはいえ民の救出が目的。民に危害を加えるような行為は控えるべきね」

 

「何を悩んでいるのです。兵力はこちらが圧倒的に上。ならば突貫すればいいじゃないですの」

 

「嫌よ。うちの貴重な兵を傷付けるつもりはないわ…………そうね、一刀。貴方はどう思う?」

 

「俺? 俺の意見なんて参考になるのか?」

 

「思わぬところから答えは見つかるものよ」

 

 突然話を振られた一刀は皆の満足するような答えを模索したが、どうにも浮かんでこない。歴史通りに進むならば反董卓連合が勝つが、今は自分と龍見というイレギュラーが居る。

 

「妖術が怖いなら、こっちも妖術使いを雇うとか。龍見さんの術には敵わないけど、察知くらい出来る人は居ると思う」

 

「成る程ね。妖術には妖術。利に叶っているわ。でもその妖術使いを今から見つけるとなると厳しいわ」

 

「せめてあの于吉とかいう道士が居てくれれば良かったんだけどね。あいつ、全員に今回の事を知らせてから影も形も無くなったし」

 

「案外と馬淵龍見にやられたのかもしれないわね」

 

 なかなかに纏まらない意見に袁紹はだんだんと苛立ちを感じてきた。

 

「作戦が決まらないなら総力戦ですわ! これは総大将である私の決定です!」

 

「待ちなさい。それはさっき反対されたじゃない」

 

「貴女方が作戦を決めないからですわ!」

 

「袁紹さん! それは横暴、じゃ…………」

 

ーードサッ

 

「! 桃香様!!?」

 

「あ、れ? 風邪かな? 体が、怠くて」

 

「何、この感覚? 寒気? 他は大丈夫!?」

 

「悪い雪蓮、私は駄目だ。動けそうに、ない」

 

「冥琳!? しっかりなさい!」

 

 劉備を筆頭に突如として体調不良を訴えるものが現れ出す。比較的体力のあるものはまだ動けそうだが、そうでないものは体を動かす事すら辛そうだ。例外として袁紹と一刀のみは何の影響も受けていなかった。

 

「俺、外行ってくる! 袁紹さんはみんなを見ておいて!」

 

「あっ! 待ちなさい! 勝手な行動は」

 

 袁紹が止める隙もなく一刀は外へと走り出ていってしまった。今この場には袁紹の部下も居る。流石にその部下達を残して出ていってしまうのは袁紹も気が引けた。仕方なく彼女は自分の知識の限りでの応急手当を行おうとした。自身の後ろに白蛇が迫っているのにも気付かずに。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「驚いたね。本当に無事とは。馬鹿は風邪を引かないっていうけど、呪いにも効果があるんだね。勉強になったよ」

 

「えっ、マジで袁紹無事だったの?」

 

 反董卓連合の拠点から少し離れた関所に董卓軍の兵の大半が集まっていた。いくらミシャグジ様の呪いを掛けたとはいえ、今回の呪いは本当に軽いものだ。もしかしたらこちらに進軍してくるものが居るかもしれない。そうなった場合に対処出来るように集まったのだ。

 

「それでミシャグジ様、袁紹はどうしたのかしら?」

 

「ミーちゃんでいいよ、かくっちゃん。折角だから使いの白蛇を直接ぶつけてみたよ。暫くは昏睡しながら白蛇に犯され続ける幻覚にうなされ続けるはずだよ」

 

「白蛇による触手プレイとかミーちゃんマニアックだな」

 

「おっぱい星人のたっちゃんに言われたくないなぁ。感覚共有で視れるけど、視たい?」

 

「いんや。もう草むらでエロ本拾って興奮してたガキの頃とは違うからやめとくよ。何より恋がそこに居るしな」

 

「あのたっちゃんに奥さんなんて…………うぅ、なんだか涙が出てきたよ」

 

「泣かないでくれよ」

 

「そこ! 二人の世界に入るんはええけど、やる事やってからやで」

 

「「はーい」」

 

 普段の龍見とは違う雰囲気に、全員がこれが素なのかと思った。ただこれが龍見の素なのかと言えばそうではなく、ただ子供らしいミシャグジ様に合わせた結果である。

 

「それにしても流石に歴戦の将はしぶといね」

 

「障害とかが残らない程度に疫病の段階を上げられるか?」

 

「たっちゃんの注文は面倒だなぁ。ま、僕の親友ならそれくらい我が儘なのがちょうどいいけどね。はい、やったよ。全員下半身不随だ」

 

「ほ、本当にそれで大丈夫なんですか?」

 

「安心しなよちゅーちゃん。僕は祟り神だよ。こういうのは慣れっこさ。心配なら現状確認する?」

 

「えっ! 出来るんですか?」

 

「うん。ちょっと刺激が強いかもしれないけど我慢してね」

 

ーーパチンッ

 

 ミシャグジ様が指を鳴らすとその場に居た龍見以外の全員が崩れ落ちた。呼吸は穏やかだがちゃんとしている。ただ意識はない。ミシャグジ様がやったのは幽体離脱。つまりは魂を抜き取ったのだ。

 

「いってらっしゃーい」

 

 何もないところに手を降るミシャグジ様。彼には魂がどうなっているかが視えているのだ。

 

「んじゃオレも行ってくる」

 

「交渉だっけ?」

 

「この状況じゃ脅迫だけどな」

 

 龍見の目的は反董卓連合を引き上げさせる事。勿論道士の計画や今の洛陽の状態を説明して納得してもらって帰らせるつもりだが、高熱加え下半身不随の相手には確かに交渉というより脅迫となるだろう。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 魂となり飛ばされた月達は反董卓連合の拠点上空まで来ていた。

 

『妙な感覚ね。死ぬっていうのはこういう事なのかしら』

 

『服とかも着た状態なんか。うちらなんか武器もあるしな』

 

『ねねのお気に入りの兵法書もあるのです』

 

『思い入れの深いものは死んでも傍にあるのかもしれませんね』

 

「意外とみんな冷静だね」

 

『ミーちゃん……来たの?』

 

「うん。迷子になられたら困るからね。ほら眼下を見てごらん。これが僕のやった事だよ」

 

 そこに広がっていたのはまるで屍の山だった。いや生きているので屍とは言えないかもしれないが、誰しもがまともに動けず、なんとか呼吸をしているといった様子だ。

 

「これでも僕にとっては凄く軽くやったんだよ。殺さないように調整するのって難しいんだ」

 

『…………一つ訊きたい』

 

「何、かゆーちゃん?」

 

『もし全ての人間を殺し尽くそうとしたらどれほど掛かる?』

 

「この世界の人間となるとこれくらい?」

 

 ミシャグジ様は手をパーにしてみせた。五という数は分かったが、単位は何かと華雄が訊こうとした。だがその前にミシャグジ様の指が一本、また一本と折られていく。そしてグーになった時、ミシャグジ様は答えた。

 

「今指を折ったくらいの時間かな。あ、袁紹って人みたいな例外は除くよ」

 

『嘘、だろう…………?』

 

「そうだね。言葉だけだと信じられないよね。でも実践するわけにはいかないから言葉で信じてもらうしかないんだ」

 

 全員が祟り神というものをみくびっていた。龍見と親しげだからというのもあるが、実感がないのが一番だろう。だが実感すれば世界が滅ぶ可能性もある。そんな事は出来ない。

 

「あ、たっちゃんだ。随分と早いなぁ。走ってきたのかな」

 

『この状況なら交渉失敗はないでしょう』

 

『龍見さん、頑張って下さい』

 

 反董卓連合の拠点にやってきた龍見はみんなへと軽く手を振った。ミシャグジ様がそこに居るからか、もしくは月の応援が聞こえたからかは分からないが、彼なりに頑張るつもりなのだろう。

 そんな龍見は倒れている兵達を無視して一直線に会議が行われていた場所に向かった。

 

「邪魔するぜ」

 

「馬淵、龍見!」

 

「全員意識あり。うん、交渉には問題ないな」

 

「ふふ…………交、渉? 随分、立場が、違うけど」

 

「孫策さんだっけか。そう言ってくれるな。こっちも守りたいものがあって必死なんだ。よっと」

 

 龍見はポケットから大きめの袋を取り出して机の上に置いた。

 

「それ、は?」

 

「今あんたらが掛かっている病気を治す薬だ」

 

「病気…………!? 呪いでは、なかったのか!?」

 

「勘違いする気持ちは分かる。でもこれは病気なんだ。ある神様によるな」

 

「貴方、神すら……操るというの?」

 

「操れるわけねぇだろ。お願いしたんだ。失礼な事言うんじゃねぇぞ曹操さん」

 

 彼女らからすれば大した違いでもないのだが、龍見にとってはとんでもない違いなので内心かなり怒っていた。

 

「あの……交渉、するなら…………せめて、動ける、ように…………」

 

「んー、まあ劉備さんの主張も分からんでもないが、駄目だ。こっちも同伴者ありならいいけど」

 

 この言葉に全員がアイコンタクトをして考えた。同伴者とは何者か。可能性として考えられるのは軍師か、あるいは自分達相手ならば呂布かもしれない。だが…………

 

「わかり、ました」

 

「いいだろう。ちょっと待ってくれ」

 

 ここは同意せざるを得ない。体もまともに動かせず、高熱により思考能力も低下している。その状態で交渉などしたらどうなるか分かったものではない。

 

「おう、来てくださるってよ」

 

 そう言った龍見の足元に何かが集まってくる。真っ白な蛇の群れだ。それが一つの塊となり、巨大な蛇へと変貌する。

 

「こちらがオレの呼び掛けに応えて下さった神。ミシャグジ様だ」

 

「か、み……!?」

 

 あまりに想定外過ぎた同伴者に動揺が広がる。そしてもう一つ想定外の事が起こった。

 

「み、ミシャグジ様だって!?」

 

「くっ、ばか、一刀…………」

 

「おお、一刀君はそこに居たのか。入ってこいよ」

 

 龍見がやって来てからすぐに戻ってきた一刀の存在がバレてしまったのだ。折角身を隠していたのだが、日本の祟り神の名前に動揺しすぎてしまったらしい。ただ龍見は気にしていない。むしろちょうど良かったとばかりに迎え入れた。

 

「この薬をみんなに飲ませてやってくれ。オレじゃ警戒されるだろ」

 

「あ、はい……これ本当に薬ですか?」

 

「毒は盛らねぇよ。あくまで交渉に来たんだからな」

 

 多少の不安を感じながらも一刀は全員に薬を飲ませていく。すると飲んだ者からたちまち体調が回復していった。しかし袁紹は変わらず昏睡したままである。

 

「袁紹さんはミシャグジ様の直々の呪いだ。まあ明日まではこのままだよ」

 

「なんで姫だけ?」

 

「病気が何故か効かなかったからだ。さあ話し合おうじゃないか。総大将の袁紹さんがあれだし、誰が取り仕切ってくれるかな?」

 

「私がやろう」

 

「じゃ周瑜さんよろしく。早速だがこっちの要求はあんたらの撤退と解散。そして丸一年の同盟だ」

 

「撤退と解散は分かるけど、同盟は何故ですか?」

 

「諸事情があってな」

 

 まさか恋が妊娠しているから出産まで待ってほしいなどと言えるはずもない。

 

「馬淵龍見。お前は交渉と言ったな。ならば我らに何か利益はあるのだろうな?」

 

「当然だろ周瑜さん。まあ気に入らないなら気に入らないって言ってもらえればいいけど、全軍にオレの術を指南に行こう」

 

 その言葉にざわめきが起こるが、曹操が一言苦言を呈した。

 

「それって私達の内部を知るための行為にならない? いくら便利な妖術が使えてもお断りね」

 

「そう取られちゃったか。そんなつもりはねぇんだけど」

 

「ならば我が契約を絶対のものにしてやろうぞ」

 

「はっ? ちょっ!? ミシャグジ様これって契約紋!!?」

 

 これまで黙っていたミシャグジ様が喋ったかと思うと、龍見の手の甲に蛇が絡まりあったような紋章が浮かび上がる。それを見た龍見は冷や汗をだらだら流し、全身を震わせている。

 

「あの、それは?」

 

「契約紋。本来はミシャグジ様、いや神様全般と契約したりしたら現れるもんで、これがある限り契約は破れない。もし破ったりしたら」

 

「したら?」

 

「死ぬ。肉体も魂も蒸発して死ぬ。輪廻転生すら許されない。ミシャグジ様! 今回はミシャグジ様との契約ではありません! 人間同士の契約です!」

 

「信用が欲しいのだろう? 汝は我が友。契約を破るはずもない。気にする必要はなかろうて」

 

「ちなみに契約内容は?」

 

「術の指南の際手に入った内部情報は公表しないというものだ。期間は同盟とやらが終わるまでの一年間。簡単であろう?」

 

「くっ、分かりました。曹操さん、これがオレの誠意だ。認めてくれ」

 

「華琳様! このような男の言葉を信用する必要はありません!」

 

「桂花、少し言葉が過ぎるわ。それに見てみなさい。馬淵龍見の今にも泣きそうな顔。あれが演技だとしたら私達の完敗よ。いいわ、その条件を我が軍は呑みましょう」

 

「うう、有り難い。いやマジでこの紋章は嫌なんだよ」

 

 最早泣きそうではなく完全に泣いてしまっている龍見。一体どれだけ嫌な事なのか。

 

「同盟自体は賛成ですけど、質問があります」

 

「どうぞ、劉備さん」

 

「私達は董卓さんが悪政を敷いていると聞いてやって来ました。それは事実かどうか」

 

「事実無根の大嘘だよ。全部道士の二人がオレを殺すために仕組んだ計画だ。だから、あんまりうちの大将を貶めるような事は言わないでくれ。キレそうだ」

 

「ご、ごめんなさい…………」

 

「あの道士、そんな事考えていたの。あ、うちも同盟賛成よ。ねぇ冥琳」

 

「雪蓮が言うのなら。それにあいつの術を知れるのは確かに魅力的だ」

 

「あの、私達の軍も賛成です。道士の方々の言葉が嘘だったのなら全面的にこちらが悪いですし」

 

「全員賛成してくれて助かる。うちの大将も喜んでるよ。あいつ争いが苦手だからな。ああ、袁紹さんのところは?」

 

「賛成、しないと思います。でもここは退かせてもらいますね」

 

「顔良さんだったよな。大変だな」

 

「はい…………」

 

 一部は無理だったもののなんとか連合軍の解散に持ち込めた龍見だったが、下手くそな交渉をしっかりと見られていたので詠にこってりと絞られる事になった。

 そしてその晩、ミシャグジ様に『みんなで鬼ごっこやらなきゃ帰らない』と言われて行った鬼ごっこが翌晩まで続く事となり、今度は全員に絞られるのであった。




次回からは術の指南という名の現地妻作りの回が始まっていくゾ。
でもどの国から攻めるか決めていないので、参考程度に皆さんの意見を聞かせて下さい。オナシャス


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第十八話

現地妻作り編。まずは蜀からです。
蜀はバランスいいですよね。蜀のキャラが好きって人も多いと思いますので頑張ります。ちなみに自分は翠押しです。


「じゃあ劉備さんのところに行ってくる」

 

「早めに帰ってきてね」

 

「ああ。長い間恋に会えないのは嫌だからな」

 

「はいはい、のろける暇があるならさっさと行く」

 

「詠はけっちぃなぁ。貂蝉、オレが居ない間の術の指導は頼んだぜ」

 

「うふん、任せなさい♪」

 

 色々とあったが、先日他国への術の指南をする事を条件に一時的に和平を結んだ龍見は早速劉備軍へと出向く事になった。

 移動での馬の乗り方も慣れたもの。それなりに時間の掛かる旅であるが、馬にヒーリングをしつつの移動でかなり時間を短縮する事が出来た。

 

「ほほー、この街か」

 

 何気に龍見が他国へとやってくるのは初めてだ。領主である劉備の気質を現すように穏やかな街で、活気にも溢れている。穏やか故に行商人も立ち寄りやすいのだろう。

 

「一先ず飯だな」

 

 ここに来るまでに保存食ぐらいしか食べていない龍見は温かいご飯を求めて近くの店へ入った。

 

「らっしゃい! 注文は?」

 

「担々麺で」

 

「あいよ!」

 

 この時代に担々麺があったかなど気にしてはいけない。外史には何故か正史にはないものが普通にあったりするのだ。

 

「おかあさん! ここにする!」

 

「はいはい。そんなに急がなくても大丈夫よ」

 

「…………デカイ」

 

 店に一組の母娘がやってきた。その母親を見た龍見がポツリと呟く。龍見が女性を見てそう言う時は大抵胸だ。何よりも胸の確認が最優先なのだ。

 そんな龍見の視線に気が付いたのか、それとも単にスーツの龍見が珍しかったのか、女性は龍見の方へ会釈をした。

 

「こんにちは。黒の御使いさんですか?」

 

「あー、そうも呼ばれていますね」

 

「こんなところで会えるとは思いませんでしたわ。ご相席しても?」

 

「どうぞどうぞ。こんな美人さんと一緒に食事をとれるなんて今日は運がいい」

 

「あらお上手」

 

 龍見は子持ちとはいえ美人が相席という事でかなり浮わついていた。それこそ女性が自分を観察しているのにも気付かずに。

 そんな中、女性の子供が龍見に問い掛けた。

 

「おにいちゃんって、よーじゅつつかいの人?」

 

「妖術使い、ってのは適切じゃないんだが、まあそんなところだよ」

 

「じゃあじゃあ何か見せて!」

 

「これ璃々! すみません」

 

「いいですよ気にしなくて。よし、少し面白いものを見せてあげよう。分解、再合成、凝縮っと」

 

 龍見が空中で手を振ると白い靄が手の周りに現れ、それが集まり、コップ一杯ほどの水となった。

 

「わぁー!! すごーい!!」

 

「何もないところから水を?」

 

「何もないというのは違いますね。オレ達の周りには空気がある。空気の中には見えない水分が含まれています。雨の後に空気が湿っているのは空気の中の水分が多くなっているからですよ」

 

「もっといろいろ見たい!」

 

「んじゃこの水をちょいっとな」

 

「鳥さんだ!」

 

 浮かぶ水の形を自在に操り少女を楽しませる龍見。女性もそんな様子を微笑ましく見つめている。

 

「楽しんでいるところすいやせん。料理をお持ちしやした」

 

「っと、今回はこのくらいな」

 

「えー! もっとぉ!」

 

「璃々、無理を言うものじゃありません。それにこれから暫くは同じ場所で過ごすのだから今しか見れないわけじゃありませんよ

 

「…………はい? ちょっと何を言っているのかよく分からないんですが」

 

「申し遅れました。私、劉備軍に所属している黄忠と申します」

 

「……………………はは、これはこれは。こちらも改めて自己紹介をしないといけませんね。董卓軍の馬淵龍見です。暫くはお世話になります」

 

 龍見はとてつもなく動揺していた。黄忠といえば老兵ながら関羽とまともに渡り合う弓の名手。それがこんな麗しい爆乳の女性となっているとは思ってもみなかったのだ。

 

「こちらこそ。それにしても連合軍を疫病に追いやった極悪非道の呪術師とは伺っておりましたが、噂と実物は違いますね」

 

「いやいや、疫病にしたのは事実ですよ」

 

「ですけれど皆さんお元気ですわ。何故そのような事をしたのか伺っても?」

 

「黄忠さんは璃々ちゃんが誰かに襲われそうになったらどうします?」

 

「守ります。母として当然の事ですので」

 

「オレも同じって事です。ある人がオレの子を身籠ってましてね。その人を危険に晒すわけにいかない。それとうちの大将は優しくてですね。人が傷付くところはあまり見たくないと言うもので」

 

「成る程、それが理由ですか。フフ、天の御使いも私達と同じ人なのですね」

 

「はは、そりゃそうですよ」

 

 黄忠も龍見に対する警戒を解いたのか、食事をしながら談笑を始めた。娘の璃々は早くもなついたのか龍見の膝に乗っかったりしてきた。

 

「そろそろ行きますか」

 

「なら案内しますよ」

 

「ありがとうございます。甘えさせてもらうとします」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 黄忠の案内で劉備軍へとやってきた龍見だったが、周りに目は非常に冷たい。一部は殺意にも似た敵意を向けてきていた。まともに歓迎してきたのは領主の劉備くらいなものである。

 

「劉備さん、人が良すぎだろ」

 

 用意された部屋で寝具に倒れ込む形で龍見は呟いた。本来なら今日から指南をする予定だったが、それをする雰囲気でもなく、劉備に何度も謝罪されながら部屋に通されたのだ。

 

「まあのんびりしていてもしょうがねぇ。明日はちゃんとやらねぇと。何か準備しておいた方がいいかな」

 

「…………ませーん……」

 

「全く、プリンターなんかがあれば楽なんだが、紙すら貴重品だからな。術具でも作るか」

 

「……すみませーん」

 

「? 誰ですか?」

 

「はわ、諸葛亮と鳳統です」

 

「どうぞ」

 

 入ってきた二人の少女。一人は知っている顔だが、もう一人は初めて見る。帽子を深く被っていて顔もよく見えない。

 

「久しぶりだね諸葛亮ちゃん。こないだは悪い事をしちゃったな」

 

「いえ……戦でしたので」

 

「そうして割りきってもらえると助かるよ。それでどうしたんだい?」

 

「馬淵さんの術について教えてもらいたくて。それに雛里ちゃんも馬淵さんとお話ししてみたいって」

 

「し、朱里ちゃん!」

 

「そう思ってもらえて嬉しいよ。嫌われているだけだと思ったからね」

 

 沈んだ気分を盛り上げてくれた彼女らに感謝し、龍見は簡単な講義を行った。時折術を交えながらの講義に彼女らはよく質問し、龍見もそれに応じているうちに時間を忘れていった。

 まだ夕方であったというに気が付くと外は真っ暗になっており、それに気が付いた龍見は流石にやり過ぎたと講義を締める事として。

 

「こんな話を長い時間聞いてくれてありがとな。もういい時間だ。二人ともゆっくり休んでくれ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「また明日もお願いします、先生…………あわっ!? す、すみません」

 

「先生…………それが呼びやすいならそれでいいさ。明日はみんなの前で二人には術の実践をしてもらおうかな」

 

「はわっ!?」

 

「あわわ、無理ですよぉ」

 

「冗談だよ。ただ二人には十分な才能がある。数日も勉強すれば簡単な術ならすぐに使えるさ。んじゃお休み」

 

「「お休みなさい」」

 

 二人が出ていった後、龍見は机に向かって術具の製作に取り掛かった。他国にも自分の術を進んで学んでくれるほど興味を持ってくれる人がいる。その事実が龍見にとって堪らなく嬉しかったのだ。教師とはこういった気持ちなのかもしれないと考えながら、龍見は複数の術具を徹夜で作るのだった。




黄忠の好感度が上がった
璃々の好感度がグーンと上がった
諸葛亮の好感度が上がった
鳳統の好感度が上がった

パワプロをやっているとこういうのを思い浮かべてしまう。別に好感度制とかは考えていない。


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第十九話

あることをここで軽く説明しておきます。
現在設定として魏、呉、蜀の全てが全武将が揃っている状態です。時系列とか関係ないです。理由は作者が楽をしたいから。龍見の現地妻候補を増やしたいからです。外史という事で許して下さい(土下座)


 徹夜をした龍見だが、元気に講義の準備をしていた。徹夜明けのテンションに加え、昨日諸葛亮と鳳統が教えを求めてきた事が余程嬉しかったらしい。

 

「こんなもんかな。劉備さんに頼んでみんなを集めてもらわねぇと」

 

「ふわぁ~、おはようございますぅ」

 

「お、劉備さんちょうどいい。いつでも術の指南が出来るぜ」

 

「まずは朝御飯にしましょうよ…………」

 

「ん? それもそうか。飯なんてすっかり忘れてた」

 

 よくよく考えれば昨晩も何も食べていない。それを思い出した龍見の腹は急に鳴り始めた。

 

「御飯はこっちで食べるんですよ」

 

 劉備に案内された食堂で龍見は昨日から食べていない分も食べるように丼山盛りの御飯と大量の惣菜を貪った。

 

「朝から食欲旺盛ですね」

 

「関羽さんおはようございます。お恥ずかしながら昨晩から何も食べていなかったもので。あ、今日は術の指南をしますので参加して下さいね」

 

「ええ、いいですよ。それと昨日はうちのものがすみませんでした」

 

「? ああ、敵意を向けられた事ですか。実際敵ですから気にしないで下さい。あんな事もしましたし、謝罪すべきはこっちですよ」

 

「今日は参加するよう促しておきます」

 

「それは嬉しいですね。ありがとうございます」

 

 あくまで龍見は術の指南のためにやってきたのだ。参加してもらわなくては役目を果たしたとは言えない。勿論無理矢理教えるつもりはないが。

 

「御馳走様。じゃあ先に行って待っています」

 

「分かりました」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 講義の時間となったが、一部が集まっていない。明らかに敵意を向けていた魏延や、勉強が嫌いそうな子供組の張飛や馬岱だ。他にも参加はしているが眠そうな者も居る。

 

「では始めます。改めて自己紹介をしますが、馬淵龍見です。今日は最初ですので軽く」

 

「待ってほしい。質問があるのだが」

 

「趙雲さん、どうしましたか?」

 

「この指南が我々に必要な理由を知りたい」

 

「それですが、まずは術がどんなものか知ってもらってから必要かどうかは自己判断にお任せしたい。オレも無理に教えたくはないですからね」

 

「ほう。ならば途中で抜けるのも自由と?」

 

「そういう事です。でも最低限必要か不要かの知識くらいは付けていってもらいたいですね。何も知らないものの必要性は誰も判断できないでしょう?」

 

「いいでしょう。最低限今日くらいは話を聞くとしよう」

 

「感謝します。では早速ですが、関羽さんに協力を願いたい」

 

「私、ですか?」

 

 龍見は関羽を前まで呼ぶと、夜なべして作った術具の一つ、木の杖を手渡した。30cmほどの片手で持てるものだ。

 

「これに気を流してもらえますか?」

 

「? 分かりました」

 

 関羽が杖に軽く気を流すと、杖の先にライターほどの火が灯った。それに驚いた関羽が気を流すのを止めてしまうと火も消えてしまった。

 

「はい、ありがとうございます。将の皆さんなら無意識でも使える気ですが、これはオレが術を使用する時に必要とする魔力と大元は同じものです。ただ完成形が違うだけですね。鉄から剣を作るか、斧を作るかのような違いと思って下さい。この杖は気を一度元に戻して、魔力に変換するものです」

 

「凄いですね。それがあったら私達も術が使えるんですか?」

 

「残念ですがこれは火を灯すだけです。劉備さんが想像したような事は出来ないと思いますよ。さて気と魔力の大元が同じという事は、術による罠を探り当てるのに気を使う事が可能となります。これは少し慣れが必要ですが…………」

 

 慣れない講義だが、昼前まで龍見はそれを続けた。途中抜ける者、聞いているのかどうか分からない者も居たが、最低限自分の役割を果たすためにやり続けた。

 

「はい、長々とありがとうございます。もし質問などがありましたらいつでも受け付けますので、遠慮なくどうぞ」

 

 大半は使われる事のなかった術具を持って出ていった龍見は一人で落ち込んでいた。変に張り切って、結果これといった成果も出せずに終わってしまった。まだ何日もあるのでこんなところで落ち込んではいられないのだが、どうにも気持ちを盛り上げる事が出来ないらしい。

 

「どーしたもんか…………上手く興味を持ってもらえるようにしないと…………」

 

「何をお悩みかな?」

 

「ん? 趙雲さん。いや、何でもないですよ」

 

「何もないのだったら結構。ではこちらの頼みを訊いて頂けるかな?」

 

「オレにやれる事なら」

 

「それは良かった。ならば馬淵殿の術を体験させてほしい。正直話を聞くだけではつまらなかったので」

 

「つまらなかった…………」

 

 事実だとしてもこうもきっぱりと言われてしまうと龍見もかなりへこんでしまう。だが術に興味を持ってもらえた事を良しとして、趙雲に見せる術の候補を考えた。

 別に手の内を見せたくないという事はない。神降でどのような神を喚ぶか教えなければどんなものでも教えて構わないと考えている。

 

「なら術の探知をしてみますか」

 

「どのようにするのかな?」

 

「気配を探る感覚でやって下さい。気配を探るという事はその生物から出ている気を探知しているという事です。生物から出ている気が術から出ている魔力に変わるだけですよ。百聞は一見に如かず。やってみましょう」

 

 そう簡単に言った龍見は手を振った。何をしたのか分からずに首をかしげた趙雲を見て龍見はクスリと笑った。

 

「気配を探って下さい」

 

「ああ、そうでしたな……………………おや?」

 

 趙雲は何かを見つけたようにそっと龍見の方へと手を伸ばした。その手は龍見に触れる前に何かによって阻まれた。それはまさしく見えない壁だった。

 

「結界の一種ですよ。どうです? ある程度の心得がある人が集中すれば、見えなくてもこのくらいの術が存在しているのは察知できるんですよ」

 

「ふむ、しかし今のは分かりやすくやったのでしょう?」

 

「まあそうですね。なら次はもっと難しくしていきますか。ただやるだけでもなんですし、隠れたオレを見つけたら食事でも奢りますよ」

 

「ほほう、言いましたな。少し時間をもらいますよ」

 

 そう言ってどこかに向かっていった趙雲。暫くすると将全員を集めて戻ってきた。

 

「…………おいこら趙雲、てめぇどういうこった」

 

「ははは、口調が素に戻ってますぞ。ただ私だけが食事を奢られる権利を貰っては不公平だと思ってな。焔耶には断られたが…………」

 

「いいぜ。もし誰か一人でもオレを見つけられたら全員に奢ってやる。制限時間は夕飯まで。全力で隠れさせてもらうぞ」

 

 結論を言えば龍見の勝利となった。ありとあらゆる術を行使し、なんとか逃げ切ったのだ。流石にこの人数分奢るのは嫌だったようだ。

 そんな龍見は徹夜の疲れとかくれんぼの疲れが同時に襲ってきたらしく、早々に床に就いた。

 

ーーカチャ…………

 

 熟睡する龍見の部屋に誰かが静かにやってきた。そして龍見の横に立つと、手に持った何かを振りかぶり、そのまま振り下ろした。




寝込みを(暴力的な意味で)襲われる龍見!
一体彼はどうなってしまうのか!?
ブジダトイイナー


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第二十話

そういえば翠推しと言った時に雛里推しの人も多かったなぁ…………ヤれって意味かな。


 熟睡する龍見の頭へと振り下ろされる凶器。それは一切の迷いなく龍見の頭を

 

ーーグシャッ

 

 粉砕した。気持ちの悪い音と共に血肉が飛び散り、龍見の体は僅かに痙攣をしてから動かなくなった。

 

「ふんっ、当然の報いだ」

 

 それを引き起こした犯人は魏延だ。彼女はそう言いながら龍見の頭を潰した金棒を持ち上げる。するとどうした事か。彼女は、龍見の部屋の前に立っていた。

 

「!?」

 

 何が起こったのか分からなかった彼女の視界の端に自身の武器である金棒が映る。その金棒は毎日手入れしているようにピカピカで、先程殺したはずの龍見の体液一つ付いていなかった。

 

「…………」

 

 明らかな異常。それの原因は間違いなくこの部屋の中にある。そう感じた彼女はゆっくりと部屋の扉を開けた。

 

「よう、夜遅くにごくろうさん…………」

 

 部屋の中では寝具の上に座る龍見が居た。非常に気分の落ち込んだような彼に魏延は問い掛けた。

 

「何故生きている?」

 

「うん? うん、それは、何て言うか…………神様の力、かな…………」

 

「神?」

 

「そう…………この現象のあとはさ、なんか、気分が良くないんだ…………まあ、座ってくれ」

 

 座るよう促されたものの、魏延は何か罠があるのではないかと警戒して座らなかった。死人が生きているという有り得ない事実を目撃したのだ。あらゆるものを信用できなくても仕方がない。龍見としてはどうでもいいのか話を続けた。

 

「それより、何でオレ殺したの? 敵だから?」

 

「そうだ。桃香様を傷付けたくせにへらへらと…………皆も安易に貴様を受け入れているのが信じられない」

 

「うん、普通に考えれば、そうだな。余所者だもんな…………」

 

「…………ワタシは貴様を殺したのだぞ。随分と悠長だな」

 

「今日はもう殺さないだろ。先に言っておくけど、罠を張ってるから…………流石にすぐ殺されたら、死ぬと思うし…………休まない? お互いに」

 

 とても殺した相手と接する態度ではないのだが、龍見はそんな事はどうでもいいほどにテンションが低い。魏延はこれ以上話しても無駄と思ったのか無言で出ていった。その後龍見は朝になるまでボーッと外を眺め続けていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 翌日、結局また徹夜となり、更に気分も優れない龍見は適当に外をふらついていた。そんなところで偶然辿り着いたのは馬小屋だった。動物と戯れるのもいいかと馬小屋に入った龍見は適当に馬と触れ合っていった。

 

「おーよしよし、元気だなぁ」

 

「ブルルッ」

 

「はいはい、次はそっちな。っとと、順番があるんだからそうひっつくな」

 

「へぇ、そいつらがそんなになつくなんて珍しいな。結構警戒心強いんだけど」

 

「んお? 馬超さんか。おはようございます」

 

「呼び捨てでいいよ。どうだったお前ら。この人は優しかったか?」

 

 手慣れた様子で馬の世話をする馬超と流れでそれを手伝う龍見。その途中で龍見が話を切り出した。

 

「なんか魏延さんにめっちゃくちゃ嫌われてるんだけど、仲良くなる方法ねぇかな?」

 

「ん~、馬淵って桃香様達を病気にしただろ。あいつ桃香様大好きだからさ。それがとにかく気に入らないんだと思う。こういった事は桔梗に相談するといいと思うぞ。焔耶の事を一番分かってるのは桔梗だろうしさ」

 

「厳顔さんか。いいかもしんねぇな。助かったぜ馬超。講義中の居眠りは不問にしてやる」

 

「んなっ!? あれ聞くの自由だって言ってたろ!?」

 

「自由だが、興味がないのは出ていっていいとも言ったはずだ。居眠りしていいとは言った覚えがないな」

 

「うぐ…………」

 

「まあ冗談だよ。別に怒っちゃいねぇさ。あ、またこいつらの世話手伝わせてくれよ。動物と触れ合うのは気分がいい」

 

「分かったよ。でも居眠りくらい許せよ。お前の話はつまんないんだから」

 

「…………やっぱつまんねぇのかぁ」

 

 二度目のつまらない発言に落ち込みながらトボトボと厳顔を探す龍見。途中通りすがりの兵にも訊きながら探すと、黄忠と一緒に居る厳顔を見つけた。璃々も一緒だ。

「どうも黄忠さん、厳顔さん」

 

「おはようございます、馬淵さん」

 

「おはようおにいちゃん!」

 

「おう、朝早くからどうした若いの」

 

「厳顔さんに相談がありまして、お時間よろしいですか?」

 

「儂に? ふむ、焔耶の事じゃな」

 

「うえっ、分かりますか?」

 

「まださして交流のないお主が儂に相談しそうな事など限られるわい」

 

「参ったな」

 

 頭をかきながら近くに座る龍見。璃々はそんな龍見の膝の上にちょこんと座る。

 

「早速なんですけど、魏延さんと仲良くなるにはどうしたらいいですかね?」

 

「そんな事知らぬ」

 

「さいですか…………」

 

「おにいちゃん、焔耶おねえちゃんとけんかしたの?」

 

「うん、ちょっとね」

 

「喧嘩ならばとことんやれば良かろう」

 

「ただの喧嘩ならいいんですけどね」

 

 流石に一度殺されたなど言えるわけもなく、黙りこくってしまった。そんな龍見の姿に何かを察したのか、厳顔は少し考えてから突然『焔耶を連れてくる』と言って歩いていってしまった。止める間もなく行ってしまったため呆然と待つしかなかった龍見の元に魏延の耳を引っ張りながら厳顔が歩いてきた。

 

「桔梗様! 痛いですって!!」

 

「このたわけ者! しっかりと謝罪せんか!!」

 

「あー…………昨晩の事は気にしてないからいいですよ」

 

 魏延が口を滑らせて自分を殺した事を話したんだと察した龍見はそんな事を言ったが、厳顔はそれで許しはしない。

 

「人の、それも同盟国の人間の命を奪っておいてのうのうと生きるような人間に育てた覚えはないぞ!」

 

「でもこいつは敵で」

 

「言い訳をするな!!」

 

「うぅっ」

 

「厳顔さん、そのくらいにして。璃々ちゃんも居ることですし」

 

「むむ、馬淵よ、お主少々甘いのではないか?」

 

「同盟国ですからね。今くらいは甘くないと。それでも気に入らないのでしたら…………魏延さん、勝負しねぇか?」

 

「勝負? 何のだ」

 

「模擬戦だ。勝ったら負けた方に命令するって形で。それなら合法的に魏延さんはオレを劉備さんから離す事が出来る。厳顔さんも勝負に勝った結果でしたら文句はないでしょう?」

 

「うむ、それならばな。だがお主の命を奪った事は別! さっさと謝罪せい!!」

 

「ひぃっ! わ、悪かった」

 

「いいぜ。気にしてねぇから。さて準備してこいよ。こんな機会滅多にないぜ」

 

「…………負けても恨むなよ。それともし事故で死んでもしないからな」

 

「ああ、事故じゃしょうがねぇ」

 

 明らかに事故という事にはならないだろうが、そんな会話をしてから魏延は武器を取りに戻った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 模擬戦は厳顔の監視の元で行われる事となった。誰が呼んだのか観客も多い。あわよくば命を奪うつもりだった魏延もこれでは作戦を実行出来ない。

 

「相手が参ったと言うか、気絶をすれば勝ち。いいな?」

 

「それでいい」

 

 だがただの模擬戦でも魏延は負ける気はこれっぽっちもしなかった。相手は妖術使い。この距離なら一気に間合いを詰めて倒せる。そう、慢心していた。

 

「始め!!」

 

「!?」

 

 厳顔の合図で動いたのは両方とも。それもどちらも相手に向かって走ったのだ。龍見が逃げて距離を離すと考えていた魏延にとってはあまりに予想外の出来事で頭の中が真っ白になる。

 

「ハァッ!!」

 

「っ! 効くか!!」

 

 隠し持った短刀での攻撃になんとか対応した魏延。更なる追撃が飛んでくるものの、すぐに落ち着きを取り戻した魏延は反撃に移った。

 

「うおっ!? かすった!?」

 

「ちょこまかと!!」

 

「慣れてきた、っとぉ!?」

 

 攻撃を避け続ける龍見に苛立ちを募らせる魏延。金棒という武器でありながら素早い攻撃を続ける魏延だが、苛立ちがその動きを僅かに雑にする。

 

「風よ、吹き荒れろ!!」

 

「くっ!?」

 

 隙を突いて突風を巻き起こした龍見が魏延との距離を離す。二人の距離はおよそ10m。今度は魏延も慎重だ。

 

「どうした? 妖術使いに近付くのが怖いか?」

 

「それで挑発のつもりか? だとしたら随分と下手くそだな」

 

「そうか。まあどちらにせよお前は近寄らないと勝てねぇけどな」

 

 龍見の言う通り魏延にこの距離から攻撃をする手段はない。ならば全力で詰め寄り攻め落とす他ない。魏延は脚に力を込めると一気に走り出した。その先にある罠に気付かずに。

 

「きゃんっ!?」

 

 魏延が突然転んだのだ。その足下には魔法陣が描かれていた。龍見はそんな魏延に走って近づき、首に短刀を添えた。

 

「?」

 

 しかし魏延はピクリとも動かない。今回龍見が設置したのは捕縛などではなく強化の魔法陣。触れたものを強化するものだ。全速力でこの上を通れば一気に上がった身体能力についていけず転ぶという作戦なのだが、動けなくなるのはおかしい。もしかしたら転んだ時に変なところを打ったのかもしれない。

 

「だ、大丈夫か?」

 

「ひぅん!? しゃ、しゃわるな…………」

 

「はっ?」

 

「焔耶、それ以上動かぬなら敗北とみなすが」

 

「ま、まだうごけ、りゅぅ…………」

 

「動けぬではないか。馬淵、何をしたのだ?」

 

 龍見が魔法陣の効力を説明すると厳顔は納得したような顔をして説明を始めた。

 

「焔耶は肌が異常に敏感でのぉ。肌が性感帯と言っても過言ではないほどじゃ。それが強化されればどうなるか分かるな?」

 

「な、成る程。すぐに解くからな」

 

 龍見が魔法陣を解くと息を荒くしながら魏延は立ち上がった。顔は赤く、まるで行為の最中だったようだ。

 

「さて馬淵、勝者の権利じゃ。何を命令する?」

 

「あー、そういうのありましたね」

 

「自分で提示したものじゃろう」

 

「なら今晩食事を奢ってくれ」

 

「謙虚じゃな。良いな、焔耶」

 

「分かっ、た…………」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「うめぇうめぇ」

 

「少しは遠慮しろ」

 

「人の金で食う飯は旨いんだよ」

 

 そう言いつつも多少は控えめに食べているようで、お代わりも安いもの中心だ。

 

「なあ魏延。オレの何がそんなに気に入らないんだ?」

 

「何を突然」

 

「答えてくれ」

 

 突然真面目になった龍見に少し驚いたが、魏延は淡々と語り始めた。

 

「桃香様を傷付けた。そしてここに来てからどうにも馴れ馴れしい貴様が嫌だった。貴様が悪い人間ではないのは分かる。しかし…………」

 

「生理的に無理だったわけだ。まあそういうのもいるさ」

 

「そういうでは…………どういう気持ちか、ワタシ自身が分かっていないんだ」

 

「ふーむ、そうか。でもそれで殺される方としてはたまらねぇな」

 

「それは…………すまん」

 

「すまんで済めば楽だろうけど、オレ実は怒ってるから。厳顔さんの前じゃあんな事言ったけど、すっげぇ怒ってる」

 

 それが真実か確かめる手段はないが、確かに人を殺しておいて謝罪では済まないだろう。

 

「何をしたい? ワタシの純潔でも散らす気か?」

 

「そんなつもりはねぇよ。ただ、そっちが詫びるつもりがあるなら命に等しいものを貰おうか」

 

「命に等しいもの?」

 

「真名だよ。命を奪ったんだ。そっちも大切なもんくれねぇとな」

 

「…………ふっ、そうだな。我が真名は焔耶。貴様に預けるぞ」

 

「確かに。よろしくな焔耶」

 

 差し出される手。握手なのは分かったが、自身の体質を考えるとなかなか応じる気にはなれなかった。しかし真名を預けた相手にそれは流石に失礼だと勇気を持って握手に応じた。

 

「…………? あれ、普通に」

 

「ちょっとした贈り物だ。術で焔耶の肌にコーティング、まあ触られても大丈夫なようにしておいた」

 

「思っていた以上に、便利なのだな」

 

「見直したか? んじゃ飯の続きだ。お代わり持ってきてくれー!」




自分を殺した相手を攻略しようとする主人公がいるらしい。

どうやって龍見が生きていたのか、どんな神様が関わったのかはまだ秘密です。ヒントとしては、神様ではないけど神の名を持っているかな。

次は雛里か翠か…………星もありか。


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第二十一話

巨乳、貧乳、未亡人、ロリ、ほんま蜀は性の宝庫やで


 蜀にやって来てから約一週間。龍見の行動にも規則性が出てきた。まずは早朝、顔を洗った龍見が真っ先に向かうのは馬小屋だ。ここで馬超と馬の世話をするのが日課になっている。

 

「おーっす、おりょ、今日は馬岱も手伝いか?」

 

「お姉さまがやれって五月蝿いんだもん。まぶっちーからも何か言ってよ」

 

「人の家の教育に口出しするつもりはねぇよ」

 

 不満たらたらの馬岱は無視して馬の様子を一頭一頭確認する龍見。董卓軍に居た頃もたまにやっていたのだが、ここに来てからかなり手慣れてきた。

 

「どうどう、今日は一段と元気だな」

 

「馬淵がやってきてからだよ。そいつ馬淵が居ないともっと大人しいんだから」

 

「好かれてんなぁ、オレ」

 

「お前が出ていったらその後が大変だよ。結構なやつらがお前が来るの楽しみにしているからさ」

 

「はは、嬉しいねぇ」

 

「お姉さまとまぶっちーって、なんだか夫婦みたいだよね」

 

「な、なななな!!? ばば、馬鹿な事を言うんじゃない!!!」

 

 馬岱の言葉に顔を真っ赤にして怒る馬超。龍見は気にしていないように見えて、もしかしたらそういう可能性もあったかもなぁ、などと考えていた。

 

「お姉さまはこういう話に弱いんだから。そんなんじゃ貰ってくれる人が見つかんないよ」

 

「そうか? 馬超なら貰い手くらい山ほど見つかると思うが」

 

「ま、馬淵!?」

 

「へぇー、まぶっちーはどうしてそう思うの?」

 

「だって馬の世話をしている姿から見ても優しいのは分かるし、よく鍛練していて努力家だし、美人だし、可愛いところもあるし」

 

「~~~~ッ」(プシューッ)

 

「ああ! お姉さまの頭から煙が!!」

 

「初心だなぁ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 馬の世話をしてからはやる事は決まっていない。あの講義はつまらないと大不評だったのでやめてしまった。ただ一部は自主的に龍見の元へ勉強にやってくる。

 

「あっ、先生! 今日もお願いします」

 

「ああ、分かったよ諸葛亮ちゃん。今日は鳳統ちゃんは一緒じゃないんだな」

 

「はい、雛里ちゃんはお仕事がありまして」

 

「龍見、術について…………朱里も居たか。一緒にいいか?」

 

「はい! 焔耶さんも熱心ですね」

 

「こいつに勝つためだ。負けっぱなしではいられない」

 

 いつも勉強にやってくるのは諸葛亮と鳳統だが、意外にも焔耶もやってくるようになった。本人曰く龍見の研究らしいが、周りから見れば嫌々というよりは楽しそうに通っているらしい。

 他にも時間が許す時には劉備と関羽もやってきては勉強している。

 

「今日は諸葛亮ちゃんは得意な風の系統についてやっていくか。焔耶は肌の保護を自分でやれるようにしないとな。っと、始める前にこれを諸葛亮ちゃんにあげよう」

 

「わぁ! ありがとうございます!」

 

 龍見が渡したものはお手製の羽団扇だ。天狗も使うとされるそれは風を得意とする諸葛亮にはうってつけのものだった。

 

「なぁ、その、ワタシには何かないのか」

 

「あるけど、まだ製作途中だ。なにぶん手間のかかるのでな」

 

「そ、そうか。あまり無理はするなよ」

 

「ありがとさん。あ、そうそう、今晩辺りに鳳統ちゃんへの贈り物も完成する予定だから、諸葛亮ちゃん伝えといてくんないか?」

 

「いいですよ…………あの、先生」

 

「ん?」

 

「私の事は真名で呼んでくれませんか?」

 

「いいのか?」

 

「はい!」

 

「ならこれからは朱里ちゃんと。うん、いい名前だな」

 

「はわ…………」

 

 ただ名前を褒めただけのつもりだった龍見だが、何かやっちまった感を感じていた。この男、好意に鈍感というわけではないが、過程には鈍感である。

 

「早く始めろ!」

 

「お、おう、すまんな焔耶」

 

 なので焔耶が自分をそれなりに好いているのは分かっているのだが、何故そうなったのかよく理解していない。ある意味非常にタチが悪い。

 術の実践は才能がなければ難しいものだ。朱里はまだしも、焔耶はミスが目立つ。

 

「ひぅっ…………」

 

「またか。お前はまだ慣れていないんだからもっとゆっくり丁寧にやらないと。ほら、手を出せ」

 

「しゅまにゃい…………」

 

 肌のコーティングは一つ間違えると逆に肌を過敏にしてしまう。焔耶レベルだと風一つで感じてしまうほどだ。龍見は焔耶の手を取り、術を解除してやる。術の解除も自分でやれるようにならないとなどと考えていたら、突風が巻き起こった。

 

「は、はわわわわ!!?」

 

「あっちゃー、まだ羽団扇には慣れてねぇからな。朱里ちゃん、落ち着いて魔力を抑えていけ」

 

「そ、そう言われましても!」

 

「朱里ちゃんは慌てない事が課題だな」

 

 結局龍見が全て抑えたのだが、彼にとっては手間のかかる子供のような感じなのかもしれない。ちなみに一番弟子ともいえる詠は既に他人に指南出来るレベルである。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん! 勝負なのだ!」

 

「今日は張飛か。いいぜ、やろうか」

 

 焔耶との模擬戦後、他の将にも模擬戦を挑まれるようになった。大抵は賭け勝負で、負けると食事を奢らされるという事が定番になっている。張飛や馬岱のような子供だと菓子になる。

 

「やぁっ! そこなのだ!」

 

「残念、幻術だ」

 

ーーズビシッ

 

 術を使う龍見の戦いに慣れずに負ける者も多い。張飛も偽者の龍見を見破れずに背後からチョップを喰らっていた。

 

「はい、オレの勝ち」

 

「ずるいのだ! もう一回!」

 

「一日一回って決まってるだろ。関羽さん呼ぶぞ」

 

「うっ…………それは嫌なのだ…………」

 

「そう落ち込むな。次に勝ったらお菓子は倍にしてやる」

 

「本当に?」

 

「本当だ」

 

「やったー!!」

 

「いや、勝ったらだからな」

 

「では私のメンマも倍に」

 

「儂の酒も倍に」

 

「おうそこな大人。便乗しても増えねぇぞ」

 

 龍見の体力も考え、模擬戦の回数は限られているし、術の指南で忙しい時には模擬戦はやらない事となっている。なので今日はこれで終わりなのだが、趙雲と厳顔はやる気満々だ。

 

「良いではないか。体力を付ける意味も込めてやるというのも」

 

「安心せい。年寄りの遊びに付き合ってもらうだけじゃ」

 

「やめてよして近寄らないでガチで死ぬから」

 

「二対一というのも戦場ならば有りうるぞ」

 

「儂らとて鬼ではない。怪我はさせんようにするさ。酒が欲しいからの」

 

「いやマジで無理だから。誰か助けてくれ!」

 

「ここにいるぞ!!」

 

「おおっ!」

 

 待ってましたと言わんばかりに飛び出してきた馬岱。そんな彼女が見たのはいい笑顔の趙雲と厳顔だった。

 

「…………やっぱりいないぞー」

 

「屈するなー!!!」

 

 最終的に普通に奢らされる事になった龍見の財布には冬がやってきたそうな。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 夜は大抵誰も入れずに部屋で研究しているのだが、今日は来客を招き入れていた。昼間に贈り物もすると言っていた鳳統だ。

 

「先生、遅くにすみません」

 

「気にしなくていいさ。それよりその杖はどうかな?」

 

「とてもいいです」

 

 龍見は薬品を混ぜながらのため鳳統の顔を見ていないが、声のトーンからして喜んでいるのは察する事が出来た。

 

「そういえば先生は朱里ちゃんを真名で呼んでいるんですよね」

 

「ああ、呼んでもいいって言われたんでな」

 

「あの、私も、真名で呼んでもらっても…………」

 

「別に朱里ちゃんがそうしているからって無理しなくても」

 

「無理じゃありません!」

 

「んおっ!?」

 

ーーボンッ

 

 普段は大人しい鳳統が突然大声を出した事に驚いた龍見は薬品をこぼしてしまい、それが不可思議な色の煙を出して爆発した。

 

「ゲホゲホッ! 鳳統ちゃん、大丈夫か?」

 

「……………………」

 

「? 鳳統ちゃん、どうした?」

 

 フラフラと立ち上がる鳳統を心配そうに眺める龍見。見た目には問題なさそうだ。

 

「雛里、です」

 

「? あ、ああ。そうだったな。ならこれから雛里ちゃんって呼ばせてもら、うんんっ!!?」

 

「んちゅ、ちゅぅ、しぇんしぇ…………しゅき…………ちゅ♪」

 

 完全に油断していたところにディープキスを喰らわせられる龍見。混乱していて突き放すという発想も出てこない。

 

「せんせのおくち、おいし♪」

 

「まてまてまて!! 落ち着け!!」

 

「やぁ、もっとぉ」

 

 なんとか正気に戻った龍見は雛里を突き放す。だが雛里は正気に戻る気配はない。

 

「許せよ」

 

ーーパチッ

 

「ふぇ…………」

 

 龍見の手から弱い電撃が飛び、雛里の意識を奪う。これ以上続けていたら龍見の理性が危なかっただろう。

 

「…………この薬か」

 

 雛里を寝かせてから龍見は床に飛び散っている薬品を少し舐めた。すると体の内側から熱くなるような感覚があり、倒れている雛里がとても性的で魅力的に見えた。どうやら媚薬と惚れ薬を混ぜたような効果があるらしい。舐めなければ効果がないようなので飛び散った薬品が雛里の口に入ったのだろう。龍見はこういった薬品に耐性があるので暫く放置すれば落ち着く。

 

「どうして焔耶のための塗り薬がこうなるかな。また一からやり直しだ…………全体的に柔らかかったな、雛里ちゃん。って何考えてんだ。浮気撲滅。煩悩退散」

 

 この時龍見は知らなかったが、雛里は目を覚ましており、正気に戻っていた。更にいうと先程までの記憶も残っている。

 

(あわ、あわわわわ、先生と口付けしちゃったよぉ…………それに突き放された時に胸も…………あわー!!)

 

 龍見は今日の事を忘れようと徹夜で研究に没頭し、雛里は忘れまいと徹夜で脳に口付けの感覚を刻み込んでいた。




研究中の定番。薬品でトラブルの実績を解除しました。
とりあえず雛里の第一段階攻略っと。
夜勤中はやっぱ捗りますわぁ。休憩時間だけでこんだけ書けるんだもの。


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番外之一

今回は龍見の子が生まれていたらという未来のお話。実際こうなるかは不明です。番外編だからね。


 城の中を五歳ほどの少女が駆け回る。とてとてと走る少女に兵や侍女が挨拶する。

 

「おはようございます」

 

「おはよー!」

 

「今日は私塾はお休みですか?」

 

「うん! ととさまとあそぶんだ!」

 

 元気な少女の姿に城内にも笑顔が溢れる。いつの時代であっても子供は宝なのだろう。少女はある部屋の前に立つと勢い良く扉を開けた。

 

「ととさまー!」

 

「おお、恋歌(れんか)。そうか、今日は遊ぶ日だったな」

 

「うん!」

 

 父、龍見に抱き付く娘の呂玲綺。真名は恋歌だ。恋をそのまま小さくしたような見た目をしており、とても好奇心旺盛で、龍見のように術の才能と恋のように武術の才能に溢れる彼女だが、龍見にとってはそんな事は関係なく、目に入れても痛くないほど可愛く大切な子だ。

 

「一先ずかかさまに行ってきますを言おうな」

 

「うん!」

 

「よしよし、ほれ! 肩車だ!」

 

「キャー! たかーい!」

 

 恋歌を肩車して歩く龍見は非常に目立つが、それが日常にもなっている。むしろ龍見以外も恋歌の相手をする 時は親のようになっており、董卓軍全体の娘とも言える。

 龍見と恋歌は恋の居る部屋へとやってきた。恋は普段は龍見と同じ部屋で過ごしているのだが、今は特別だ。

 

「恋、入るぞ」

 

「うん」

 

「かかさま、しつれーしまーす」

 

 元気一杯な恋歌も少しボリューム抑え目に部屋に入る。室内にはベッドに腰掛ける恋と医師の華佗が居た。恋は病気というわけではない。彼女のお腹は誰が見ても妊娠していると分かるほどに大きくなっていた。

 

「調子はどうだ?」

 

「いい感じ」

 

「そうかそうか。華佗、専門分野じゃないのに頼んで悪いな」

 

「気にするな。俺も龍見には恩がある。それに医師ならば病魔のみを相手にするのではなく、命の誕生も手伝って然るものだ」

 

「おいしゃさんってすごいね!」

 

「ああ。恋歌も生まれた時には華佗に世話になったんだぞ」

 

 華佗は普段世界を回って病人を治しているのだが、恋の容態を診るために時折来てもらっているし、出産の担当医でもある。

 

「しかしあとニ、三ヶ月で恋歌もお姉さんか。出産に携わっただけだというのに感慨深いな」

 

「ここまで世話になったら他人じゃねぇよ。恋、これから恋歌と出掛けるから何かあったら貂蝉に伝えてくれ」

 

「分かってる」

 

「そりゃ失敬。んじゃ、行ってくる」

 

「いってきまーす!」

 

 改めて恋歌を肩車して龍見は街へ出る。乱世は一時的かもしれないが収まった。昔に比べて安全性も高まり、商人も様々な国を回るので、多くの国が豊かになっていった。

 

「ととさま! あれなぁに?」

 

「仮面…………だな。あれは無視しよう」

 

「えー。じゃああれは?」

 

「あれは…………太平要術の書、ってなんでんなもん売ってんだ!」

 

「写本っすよ旦那」

 

「写本だろうと没収に決まってんだろ! どっからこんなもん見つけんだよ」

 

 娘と遊びに来たというのについつい仕事もやってしまう龍見だが、恋歌は全く気にしていない。むしろニコニコしながら引っ付いている。

 

「ったく、すまんな恋歌。次はどこ行く?」

 

「えっとえっと」

 

「おっ、父娘で仲良くお出掛けとは羨ましいわぁ。うちは仕事で忙しいっちゅうに」

 

「しあちゃんだ! おしごと?」

 

「せやで。恋歌ちゃんのととさまがおやすみやから、代わりにうちがやっとるんや」

 

「おい、恩着せがましいぞ」

 

「そのつもりやもん」

 

「ととさまのかわりにがんばってー!」

 

「あー、恋歌ちゃんに応援されるだけで癒されるわぁ」

 

「はいはい、頑張れよ」

 

「龍見は冷たいわぁ」

 

 別に霞の言うように龍見が休みを取ったから霞が働いているわけではなく、単純に龍見が休みなだけだ。恋歌に変な事を教えられると困るので龍見は霞をなるべく近付けたくはないようだが、恋歌が霞の事が好きなのでよく一緒にいる。

 

「しあちゃん、またあそんでね」

 

「ほなまたなぁ。龍見は酒に付き合ってな」

 

「あいよ。暇ならな」

 

 霞と別れてから、また恋歌は好奇心旺盛に色々なものを見て回る。少し離れて見守っている龍見はある事に気が付いた。

 

「失敗した。陽射しが強いな。恋歌、帽子買おうか」

 

「おぼうし? ほしい!」

 

「よしよし、んじゃいこな」

 

 熱中症にならないようにと龍見は恋歌に帽子を買う事にした。しかしあまり恋歌が気に入るような帽子がないようだ。

 

「これはどうだ?」

 

「んー、やっ」

 

「どうしたもんかな」

 

「お困りですか?」

 

「はは、この子の帽子を…………何してんだ月」

 

「えへへ、少しからかってみました」

 

「ゆえちゃんだ! ぎゅっ!」

 

「はーい、ぎゅっ」

 

 最近では月も一人で自由に出回る事も多くなった。大抵はこうやって服屋に入り浸っている。

 

「龍見さんは柄物なんかを選びすぎです。恋歌ちゃんにはこういうつばの大きな真っ白な無地が似合ったりしますよ」

 

「わぁ、ととさま! これ! これにする!」

 

「成る程なぁ。難しいもんだ。ならこれ買うか」

 

「うん!」

 

「ありがとよ月」

 

「どういたしまして」

 

 お気に入りの帽子も見つかりはしゃぐ恋歌。余程気に入ったのか昼食中でも取ろうとしない。龍見はそんな恋歌の姿を嬉しそうに眺めていた。そんな元気な恋歌だが、歳はまだ五歳。体力もそこまで多くはない。

 

「んみゅ…………」

 

「ん、眠いのか? ととさまの背中でねんねしようか」

 

「ふぁ~…………うん」

 

 龍見におんぶされると揺れが心地好かったのか、恋歌はすぐに眠りについてしまった。今日はこんなところにして昼寝させようと城にある自室に戻ると、診察が終わった恋の姿があった。

 

「よ、どうだった?」

 

「順調って言われた」

 

「そりゃ良かった。よっと」

 

「寝てる?」

 

「ぐっすりとな」

 

 恋歌を自分の布団に寝かせると、龍見は恋の隣に座った。

 

「恋、オレ幸せだ」

 

「恋も」

 

 龍見は眠っている恋歌の姿を見てそう呟いた。恋は自分の大きくなったお腹と恋歌を交互に見て頷く。龍見は恋のお腹を撫でて、そのまま手を別の場所にずらそうとした時、その手を恋に叩かれた。

 

「それ以上はメッ」

 

「いや、たまにはいいじゃん」

 

「生まれるまで我慢。それに恋歌も目の前にいる」

 

「うう、恋は厳しいなぁ」

 

「また手か口でやってあげる。それ以上はこの子が生まれてから」

 

「分かったよ。恋に負担かけたくないからな」

 

 恋のため性行を我慢する龍見。そんな龍見の頭を恋は子供を慰めるように撫でるのだった。




さてさて、どうだったでしょうか恋歌ちゃん。この子も将来的に出せるといいな。


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番外之ニ【R-18】

紫苑と術で大きくした璃々とヤります。普段と違う感じで書いて、龍見もなんだかSです。


 ある夏の日、川原で龍見は紫苑と彼女の娘の璃々と一緒に遊んでいた。

 

「おにいちゃん! いくよー!」

 

ーーバシャッ

 

「おっとと、やったな璃々ちゃん。くらえ!」

 

「キャー♪」

 

「二人共楽しそうね」

 

「おかあさんもやろうよ!」

 

「じゃあ少しやろうかしら」

 

 紫苑も参加してする水遊びに、璃々は楽しそうだった。しかし彼女の目はいつしか一点を見つめるようになる。水着を着ている紫苑の胸だ。

 

「おかあさん、おっぱいおっきいなぁ」

 

「あらあら、いつも見てるじゃない。突然どうしたの?」

 

「だってぇ…………」

 

 璃々は自分の胸と紫苑の胸を見比べ、そして龍見の姿をチラチラと見た。その行動に紫苑はフフフと笑って龍見にこっそりと耳打ちをした。

 

「龍見さん、少し相談をしてもよろしいですか?」

 

「どうぞ。オレに出来る事なら」

 

「璃々の姿を大人のような姿に変える事は出来ませんか?」

 

「それくらいでしたら簡単ですよ。懐かしいな、ガキの頃は大人のフリしたりしましたよ。璃々ちゃん、こっちおいで」

 

「なぁに?」

 

「面白い術を見せてあげよう」

 

「ほんと! やってやって!」

 

「いくぞ。変化の術」

 

 ドロン、と煙が璃々を包む。煙が晴れたそこには大きくなった璃々がいた。どこかしら紫苑のような面影があり、その胸は紫苑に負けず劣らず大きかった。

 

「これは、想定外だ…………」

 

「お、お兄ちゃん、これって…………?」

 

「少し璃々ちゃんを大人にしたのさ。どうかな?」

 

「ふぁ…………すごいよ…………」

 

 璃々は自分の体をペタペタと触り、とても嬉しそうにしていた。その嬉しそうな顔は段々と赤らめたものになっていく。そして璃々は龍見に抱き付いた。

 

「り、璃々ちゃん?」

 

「お兄ちゃん、なんだかおっぱいの奥がドキドキするの。お股もムズムズするし、どうしてかな?」

 

「あらあら、璃々ったら。そこまで龍見さんの事が好きなのね。龍見さん、責任を持って璃々の相手をして下さいね」

 

「何の責任ですか!?」

 

 何故か発情状態にある璃々は龍見の体を撫で回し、自身の体を押し付ける。股を太股に押し付けて、自慰に浸っている。

 

「お兄ちゃん、気持ちいいよ…………」

 

「あーーー、もう! 我慢出来ませんよ! いいんですね紫苑さん!」

 

「どうぞどうぞ」

 

「璃々ちゃん!」

 

「お兄ちゃん? んっ!?」

 

 龍見は璃々の唇を自らの唇で塞いだ。まずは軽く重ねるだけだったが、徐々に舌を入れていき、璃々の舌に絡めていく。璃々も慣れない口付けに戸惑いながらも少しずつ龍見に合わせていく。

 

「全く、お母さんに似てこんな巨乳になって」

 

「あっ、おっぱい揉んだら」

 

「揉んじゃ駄目なら舐めてあげるよ」

 

 スク水のような水着の上から胸を揉んでいた龍見は、水着をずらして乳首を舐めた。これまで感じた事のない感覚に璃々はビクビクと体を震わせる。

 

「やっ、あ、あぁっ!!」

 

「大きいのに感度は良好だな」

 

「も、もっとぉ」

 

「はぁ、想像以上の淫乱だな。こっちももうビチャビチャじゃないか」

 

「あ、み、見ないで! おしっこ出ちゃってるの!」

 

「これはね、おしっこじゃないよ。気持ち良くなると出るものなんだ。これだけ濡れてるならいけるな」

 

「いけ、る?」

 

「もっと気持ちのいい事だよ。やりたいかい?」

 

「や、る。気持ち良くなりたいのぉ!」

 

「分かったよ」

 

 龍見は璃々の水着をずらし陰部を露出させ、片足を持ち上げて陰部に逸物を突っ込んだ。初めてだろう少女に遠慮もなく、最奥まで挿入したが、璃々は苦しむどころか潮を吹いて快楽に溺れている。

 

「んひぃ!! しゅごぃ!! ちんちん、ちんちんいいよぉ!!!」

 

「どんどんいくからね」

 

 対面立位で遠慮なく突きまくる龍見。璃々は涙や涎でグチャグチャな顔をしている。だがそれは決して苦しみではなく快楽から来るものだ。しかし璃々は処女。いくら術で成長していてもその事実は変わらない。今も股からは赤い血が流れている。この状態でここまで乱れるのは些かおかしい。

 

「あっあっああぁぁぁぁあぁああぁっ……………………!!!」

 

「璃々ちゃん? 気を失ったか」

 

 龍見は逸物を抜き取ると璃々の陰部を優しく拭いた。その背後から紫苑がやってくる。

 

「璃々の相手をしてくださってありがとうございます」

 

「いいえ、お気になさらず。それより」

 

「キャッ!?」

 

 紫苑を押し倒すようにして龍見は彼女の身動きを封じた。

 

「璃々ちゃんに媚薬とはどういう考えです?」

 

「流石に気付いていましたか。璃々は兄としてでなく一人の男性として龍見さんを愛していましたから、親としてささやかな手助けですよ」

 

「ほほう、そうですか。では娘の情事を見て股を濡らすのは親としてどうなんですかね?」

 

「あんっ♪ いけませんわ。貴方は璃々の」

 

「よく言いますよ。これが欲しいのでしょう?」

 

 龍見は紫苑の顔に自分の逸物を当てる。自分の娘の愛液と未だ射精されていないむせ返るような男の臭い。久しく感じていなかったそれに逆らう術など紫苑は持ち合わせていなかった。

 

「おっと、あげません」

 

「そんな! 酷いわ! お願い、それをください!」

 

 紫苑が逸物を食わえようとした時に、龍見は紫苑の顔からそれを離した。まるで好物を取られた犬のような顔をして紫苑は逸物をねだる。

 

「いいですよ。ただし口ではありません。紫苑さん、お尻をこっちに向けてください」

 

 それがどういう意味か察した紫苑は嬉々として下着を脱ぎ、尻を龍見に向けた。欲情的に尻を振る姿を龍見はどう捉えたのか分からないが、陰部へと逸物を添える。

 

「早く! それを中に!」

 

「欲しいですか? なら璃々ちゃんに謝りましょう。自分のやった事を」

 

「璃々、に…………ごめんなさい、璃々。貴女の初恋を薬なんかで邪魔してしまって」

 

「それだけですか?」

 

「~~~~っ…………お母さんは貴女の愛する人におちんぽ入れてもらうの! おちんぽが欲しくて堪らない淫乱なお母さんを許して!!」

 

「よく出来ました」

 

「アァァンッ!!!」

 

 紫苑の膣内は璃々のように締め付けてくるわけではなく、柔らかく龍見の逸物を包み込んだ。しかしそれだけでなく適度な締め付けもあり、子宮口に至っては母乳を欲しがる赤子のように亀頭に吸い付いてくる。

 

「いいわ! 久しぶりのおちんぽ! こんな奥まで!!」

 

「前の旦那さんと比べてどっちがいいですか?」

 

「このおちんぽ! おっきい、だけじゃなくて、私の中にピッタリ収まるの!!」

 

「そうですか。オレも気持ちいいですよ。さっき璃々ちゃんので我慢していたんで、すぐにでも出そうです」

 

「出して出して出してぇっ! 娘の目の前で孕ませてぇー!!」

 

「媚薬も使ってないのに淫乱なお母さんだ。少し、お仕置きが、必要ですね!」

 

 龍見は後背位で子宮口を開かんとばかりに強引に腰を打ち付け続ける。それだけでなく乳首、クリトリス、アナルと紫苑が快楽を感じそうな部分は全て攻めた。

 

「あひぃっ! そこっ、あぁっ!! ンアァァアアアァァァッ!!!?」

 

 紫苑が絶頂する。乳首を強めにつねられながら子宮口を突かれるのが苦手らしい。そうと分かれば龍見はそこを重点的に攻め続けた。

 

「アァァアァァアアアッ!!! ら、らめぇっ!!? イッでるのぉ!!!!」

 

 潮とも尿とも判断のつかない液体をビチャビチャと撒き散らしながら絶頂を続ける紫苑。龍見が支えていなければ今にも崩れ落ちてしまうだろう。絶頂する度にうねり、形を変えて精子を搾り取ろうとする膣内に龍見ももう限界だった。

 

「射精しますよ! 全部、飲み干してください!!」

 

「ーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!?!?!」

 

 まるで人の量とは思えないほどの精子が紫苑の子宮へと流れ込み、紫苑は絶頂のあまり声にもならない歓喜の悲鳴を上げ意識を失った。璃々とやってから我慢を続けていた龍見の射精は約五分も続き、意識がなくとも紫苑の体は子宮に精子がぶつかる度に絶頂し、痙攣していた。

 龍見は意識のない二人の体を川で綺麗にし、服を着せて、璃々の術を解いてから激しい自己嫌悪に襲われるのであった。




ふう、やっぱり璃々ちゃんを対象にするのはなかなか難しいものがありますね。


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第二十二話

番外之ニについて皆さんに言いたい。
龍見はロリコンではねぇから!! あれ紫苑の策だから!!
ロリコンは作者だから!!


 龍見も蜀にかなり馴染んできた。蜀の全員にも真名を任せられるほどに信頼もされてきた。正直将来確実に敵になる相手なのにここまで深く付き合ってもいいのかと龍見は考えていた。戦う時などやりにくくて仕方がないはずだ。

 

「先生、考え事ですか?」

 

「…………雛里ちゃん。いつの間に膝の上に?」

 

「えへへ」

 

「いやえへへじゃなくてだね」

 

 薬品事件以降、雛里の様子がかなり変わった。引っ込み思案だったのが、隙あらば引っ付いてくるようになったのだ。龍見が無理に引き離さないというのもあり、遠慮なく引っ付いている。

 

「先生、桃香様が呼んでいましたよ」

 

「そうか。なら離れてくれ」

 

「はい」

 

 このようにちゃんと言えば離れてくれるので大丈夫と放置している龍見にも問題があるのかもしれない。これからも雛里の行動改善は難しそうだ。

 龍見は雛里に言われた通り桃香のところへと向かった。そこには既に何人か将が集まっている。

 

「突然呼んですみません」

 

「いや気にしないでくれ。同盟なんだから。で、何か事件か?」

 

「事件と言えば事件なんですけど…………不審者が出没するようになったんです」

 

「不審者? そりゃまた何とも…………とりあえずどんな不審者か教えてもらえるかな?」

 

「はい。なんでも正義の味方を名乗って、悪党さんを勝手に捕まえているんです。私達という存在が居る以上、あんまりそういう事はしてもらいたくなくて。民の皆さんからも怪しいって相談がありますし。確か名前は…………何だっけ、愛紗ちゃん」

 

「華蝶仮面です。蝶の面を付け、槍で戦う女性という情報しかありません」

 

「そりゃまた奇っ怪な」

 

 ちゃんとした機関がある中でそういった事をされては、街の管理をしっかりとしているものとしてはたまったものではない。いくら善意でもやっていい事の範囲がある。

 

「これまでの功績を考えると捕まえるのは忍びないし、せめて止めてもらえるようにお願いしたいんです」

 

「そのためにまずはそいつを見つけ出さないとな。どこによく出るとかは?」

 

「それが神出鬼没で、法則性がないんです。ただ犯罪が起こると時折現れるという感じでして」

 

「時折? いつもじゃないんだな」

 

「はい。地図に出没した場所を描いたのがこれですけど…………」

 

 華蝶仮面が出没した日付と印が描かれた地図には確かに法則性らしいものは一切ない。だが火のないところに煙は立たない。全く何もない場所から人は湧いて出ない。

 

「…………これ」

 

「朱里ちゃん、どうしたの?」

 

「警羅の巡回路に近い場所に出没していませんか?」

 

 全員が確認したところ確かにその通りだった。ここから導き出される答えは一つ…………という事でもないが、高確率で身内の犯行だろうという結論に至った。

 

「となるとこの日付に警羅に出ていた誰かの犯行という事かな?」

 

「いや、逆に休暇の奴の犯行かもしれん…………槍で戦う女性か……………………女性しか手掛かりは無しか」

 

「どうしてですか? 槍も十分手掛かりでは?」

 

「桃香さん、それなりの武芸者なら得意とする武器以外も無難に使えるもんですよ。ねぇ愛紗さん」

 

「確かに龍見殿の言う通りではあります。ただの盗人や暴漢程度なら普段使う武器以外でも、それこそ箒などでも勝てるでしょう」

 

「困りましたね。ならこれからは華蝶仮面が現れた付近を重点的に警羅しましょう」

 

「それが無難でしょう。そうそう、愛紗さんにちょっとお願いがありますので、後で少し時間をもらえますか?」

 

「今では駄目なので?」

 

「ちょっと準備が必要ですから」

 

 龍見が何を頼んでくるかは誰もが分からなかったが、意味のない事ではないだろうと判断した愛紗は了承し、この場は解散となった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「華蝶仮面に捕らえられた者と話をしたい?」

 

「はい。その時実験もしたいんですよ」

 

「ならば何故あの場で話さなかったのですか?」

 

「あそこに華蝶仮面の容疑者が居たので」

 

「! 誰ですかそれは!」

 

 話に食い付く愛紗をたしなめる龍見。まずは実験をしてからでないと結論としては出せないらしい。

 

「どのような実験をするのかだけ教えて下さい」

 

「ちょっとお面をして捕まった奴と会うんですよ。オレの作ったお面をしてね」

 

 かなり勿体ぶって話すので結論を聞きたい愛紗としてはモヤモヤしたが、やはり実験で確かめない限り龍見は結論を言うつもりはないらしい。仕方がないので愛紗は華蝶仮面に捕まった数人を龍見の部屋へと連れてきた。

 

「何するんすか。これで刑が少し軽くなるって聞いたんすけど」

 

「そうだ。まずは質問に答えてくれ。華蝶仮面の姿をはっきりと見たものは手を上げてくれ」

 

 当然と言わんばかりに全員が手を上げた。次は武器を見たもの、次は性別を判断したもの、という具合に質問していき、全員手を上げ続けるが、ある質問でピタリと手は上がらなくなった。

 

「華蝶仮面の服装を覚えているものは手を上げてくれ…………いないのか? じゃあ髪色は? 肌の色は? 見たんだろ?」

 

「いや、確かに見たけど、仮面しか思い出せねぇ」

 

「ならどうやって性別を判断したんだ?」

 

「声、かな」

 

 どうやら他の者も全員同じなようだ。龍見はそれに頷くと、質問をやめて決めていた実験を始めた。

 

「これからある人物にお面をして入ってきてもらう。そいつの容姿を覚えるんだ。愛紗さんも参加してくれ。時間だ、頼むぞ」

 

 入ってきたのは目の部分に穴が開いただけの真っ白な無地のお面をした人物だった。それを見た全員が言われた通りに容姿を覚えようとしたが、どうしてもお面に目が行ってしまう。それならば最低限髪だけでもと思ったが、それすらも無意味だ。まるで人形にお面が張り付いているように見えた。

 

「はいそこまで。お前は暫く部屋の外で待っててくれ。さあ訊こうか。どこでもいい。お面以外を覚えているものは手を上げてくれ」

 

 静まり返る室内。誰一人として覚えていないというのが分かる。その結果に龍見は非常に満足げだった。

 

「これにて実験は終わりだ。愛紗さん、そいつらを牢に戻してきて下さい」

 

「分かりましたが、先程のは誰なのです?」

 

「部屋の外で待っているはずですよ」

 

 確かに先程龍見はそう言った。一体誰だったのか気になるという事もあり、愛紗は足早に部屋を出た。

 

「終わったか」

 

「焔耶……だったのか?」

 

「本当に効果があるようだな、これは」

 

 部屋の外に居た焔耶の手には確かに先程のお面がある。しかしあのお面を付けた誰かが知り合いだったなどとは愛紗は信じられなかった。そしてそれを短時間で用意した龍見に戦慄した。あの男がその気になれば何でもやれるのかもしれないと錯覚に陥るほどに。

 

「言い忘れていました。愛紗さん、そいつら牢に戻したらまた部屋に来て下さい。それと紫苑さんも呼んでおいてもらえますか? 事情は説明しておいてもらえると助かります」

 

「分かり、ました」

 

 牢へ罪人達を連れていった愛紗は今度は紫苑を連れて戻ってきた。言われた通りに犯人が分かったとも伝えてある。

 

「失礼します。紫苑も連れてきました」

 

「入って下さい。すみません、お手を煩わせてしまって」

 

「いえ。それよりも犯人というのは?」

 

「勿体ぶっても仕方がないですし言いますよ。今回の犯人は星です」

 

「それは何故か聞いてもよろしいですか、龍見さん。私、まだ把握しきれていないので」

 

「そうでしたね紫苑さん。では少し時間を貰いますけど」

 

 龍見は先程までの実験結果を話した。その上で星が犯人である理由を話し始めた。

 

「星の顔にある魔力の痕跡が残っていたんですよ。それが何かはまだ分からなかったんですね。とはいえいくつかに絞れはしたんですけど」

 

「それで先程の実験ですか。候補があったわりにはあっさりと一回で分かったようですけど」

 

「試作をいくつか作ってる間に分かっちゃいましてね。まあ確認の意味を込めての実験でしたよ」

 

 龍見に言わせると魔力の痕跡を調べるのは刀傷の種類を調べるようなものらしい。比べて何が合うのか合わせるのだとか。

 

「では先程の仮面のようなものを星も被っていると」

 

「そうなります。ですから星が犯人と判断しました。そこでですね、星を現行犯で捕まえたいと思います」

 

「あら、それはどうやって?」

 

「囮作戦です。オレの行き付けの店に頼み込んで、星が近くにいる時を見計らってオレが食い逃げをします」

 

「すると華蝶仮面が現れると。そんなに上手くいくか?」

 

「安心しな焔耶。仮面の力を過信しているだろう星なら確実に出てきてくれる。作戦実行は明日。三人には安全に捕獲するために手伝ってもらいたい」

 

「勿論です。味方の間違いを正すのも仕事ですから」

 

「ええ、私で良ければ」

 

「多人数でやるのは好かないが、味方を傷つけるわけにもいかんしな」

 

「ありがとうございます。では明日までゆっくり休んで下さい」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 作戦決行の朝に龍見は土像(ゴーレム)の鳥を星の監視に付けた。今日は星は休暇だが、愛紗の部下が星を昼食に誘っている。その店は当然龍見行き付けの店だ。

 

「ほほう、なかなか美味ではないか」

 

「そうでしょう。最近見つけた穴場なんですよ。治安が少し悪いそうですけど」

 

「それならば安心しろ。私がいれば万事解決だ」

 

「よっ! 流石は趙雲様!」

 

 愛紗の部下と星が昼食を取っている間に愛紗達は戦闘準備を整えていた。龍見も幻術を使っているのでバレていない。作戦をやろうと思えばいつでもやれる。その時は刻一刻と迫っていた。

 愛紗の部下と星が店を出て、二人が別れて少しすると店の方から叫び声が聞こえてきた。

 

「キャー! 食い逃げよー!!」

 

「何?」

 

 どうやら無事に聞こえたようだ。星はすぐに向かおうとしたが、少し止まると物陰に隠れて仮面を付けた。これにて星は華蝶仮面となった。華蝶仮面は屋根に飛び上がり、食い逃げ犯となった龍見を追いかける。その姿はすぐに見つかった。

 

「フハハハハ! 見つけたぞ食い逃げ犯!」

 

「何者だ!?」

 

「貴様のような悪人に名乗る名はない!! というところだが特別に教えてやろう。私は華蝶仮面! 悪を挫く正義の味方だ!!」

 

「…………いやほんとに楽しそうだな、星」

 

「なっ!? せ、星とは誰かな? そのような美しい女性は知らないな」

 

「自分で言ってて恥ずかしくならないか?」

 

「五月蝿い! 貴様は何者だ!!」

 

「龍見だよ」

 

 龍見が幻術を解いて姿を現すと、華蝶仮面はしまったという顔をする。仮面の力は確かでも相手が悪い。

 

「ふふ、ふふふ、龍見殿」

 

「何だ?」

 

「口封じをさせてもらおう!」

 

「そのような事はさせん」

 

「!?」

 

 正体がバレるという想定外の事態に動揺していため、普段ならば気付くような背後からの不意打ちに反応が遅れてしまい、焔耶の一撃を不安定な防御で受けてしまう。そのため屋根から地上へ落とされた。

 

「さあ星、ここいらが年貢の納め時だ」

 

「そうはいかぬ。逃げる程度」

 

「どこへ逃げるつもりだ?」

 

「! 愛紗…………」

 

「私も居ますよ」

 

「くっ、紫苑まで。徹底的に対策をしてきたか」

 

「ああ。仲間を傷付けるつもりはないんでな。影縫い!」

 

「ぬっ!? う、動けない!?」

 

「呆気ない終わりになったな。ったく、やるなら無断じゃなくて許可を取ってやれよ」

 

「そ、そう言われても、こんな事、反対されるだろうし…………」

 

 自分のやっていた事が恥ずかしいという自覚があったのか、モジモジしながら答える星は仮面を付けていても実に可愛らしく、龍見の心にもグッと来た。

 

「そんな事言ってみないと分からないだろ。オレが一緒に桃香さんに掛け合ってやるから」

 

「ほ、本当か?」

 

「その程度な。でもその前に」

 

 龍見は星の仮面を取ると解呪をした。これでもう仮面を付けても正体がバレないという事もなくなるはずだ。

 

「はぁ、皆さんお疲れ様でした。オレだけだったらこうはいきませんでした」

 

「礼なら今度別の形で貰おうか」

 

「払える範囲で頼むぜ」

 

 これで華蝶仮面騒動は無事に閉幕、しなかった。桃香に掛け合ったところ何故か桃香も華蝶仮面をやりたがり、華蝶仮面二号が誕生し、その後も次々と華蝶仮面候補は増えていった。これを見た龍見は『そう遠くない未来、華蝶戦隊が誕生するだろう』と語った。




大切な部分には力を入れず、どうでもいいところに力を入れる。それが作者です。あ、次回と次々回はR-18予定です。


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第二十三話【R-18】

前回龍見はロリコンではないと言ったな。あれは嘘、かもしれない。


 事の発端は本当に些細な事であった。

 

「おとうさ、あっ、おにいちゃん!」

 

「ははは、璃々ちゃん、お父さんでもいいんだぞ」

 

 殆どの人が一度は経験した事があるだろう、身近な大人を父や母と呼んでしまう事。その時も偶然璃々が龍見をお父さん呼ばわりしてしまい、龍見はそれに悪乗りしたのだ。

 

「ほんと? おとうさんってよんでもいいの?」

 

「へっ?」

 

 悪乗り故にこの反応には驚いた。とはいえ一度は言った事。大人として嘘をつくのは頂けない。

 

「あ、ああ勿論だよ璃々ちゃん。いや、璃々」

 

 そう龍見が言うと、璃々の顔がパァッと明るくなり、璃々は龍見に抱き付いた。

 

「璃々にもおとうさんができた! えへへ、おとーさん」

 

「ん、璃々は甘えん坊さんだな」

 

 それ以来璃々は龍見に付いて歩くようになった。これまでは母である紫苑と一緒に過ごす事が多くなったが、これまでの時間の半分を龍見と過ごすようになっていた。

 そんな日々が続くと当然妙な噂も立つものだ。

 

「龍見!!」

 

「うおっ!? どうしたんだ焔耶。今は璃々が寝ているから静かにしてくれ」

 

「お前は自分に立っている噂を知っているのか?」

 

「? 噂って何だ?」

 

「お前と紫苑が婚約しているというものだ!」

 

「いやいや、オレはもう大切な人がいるから」

 

「そんな事は知っている。だが今の自分の様子を考えてみろ!」

 

 そう言われてたつみは、色々と思い返してみた。璃々に父と呼ばれてから璃々の世話をし、その関係で紫苑とはよく話すようになり、たまに璃々を甘やかしすぎて紫苑に怒られる事もある。三人で出掛ける事も増え、璃々の将来についても紫苑に相談されたりする。

 

「家族だこれ」

 

「はぁ、気付いていなかったのか」

 

「こりゃ確かに勘違いされても仕方ねぇや。でも璃々にやめてくれって頼むのも無理だぞ。このくらいの歳の子が父親を恋しがるのは当然だ。こっちとしても許可しちまったからには蜀にいる限り父親代わりをやるつもりだ」

 

「とことんお人好しだな」

 

 やめるつもりのない龍見と呆れる焔耶。そんなところへ紫苑がやってきた。

 

「龍見さん、璃々はこちらですか?」

 

「ええ。ここで寝ていますよ」

 

「やっぱり。さっき少し叱った時に、璃々ったら拗ねて逃げてしまったのですよ」

 

「道理ですぐにふて寝したわけだ。紫苑さん、ほどほどにしてあげて下さいね」

 

「もう、龍見さんも少し甘いですよ。このくらいの歳からしっかりしつけないと」

 

「完全に夫婦ではないか!!」

 

 紫苑がやってきてからすっかり蚊帳の外になっていた焔耶がとうとう突っ込む。

 

「そんな、夫婦だなんて。焔耶ちゃんったら」

 

「龍見にも伝えたが、少しは自分の様子を考えてくれ」

 

「?」

 

「いや、分かっていないならもういい…………」

 

 呆れを通り越して諦めに入ってしまった焔耶はとぼとぼと部屋を出ていった。紫苑は本当に分かっていないのかキョトンとしている。そんな紫苑に龍見がさっきまでの話を軽くすると、紫苑も顔を赤らめた。

 

「まさかそんな噂が立っていたなんて知らなかったわ」

 

「こっちもですよ。婚約だなんて、誰が言い出したのやら」

 

「でも、龍見さんと一緒だと亡くなったあの人と一緒にいる気分に浸れるんですよ」

 

「旦那さんですか?」

 

「ええ。見た目も年齢も違うのに、なんだか雰囲気が似ているんです…………龍見さんとあの人が重なって見えて」

 

「紫苑さん、泣かないで下さい」

 

「えっ?」

 

 紫苑が自身の頬を触ると、確かに涙が流れていた。彼女自身すら忘れていた事だが、亡くなった夫を思い出すと勝手に涙が溢れるのだ。最近は忙しさもあり、無意識のうちに思い出さないようにしていただけだった。

 

「オレの知り合いの話なんですがね、死者のために泣くのはいけないんだそうです。何でもその人を縛り付けてしまうんだとか。それと同時に忘れてもいけない。その人の魂が消えてしまうから。一番いいのは時々でいいので、その人との思い出を笑って話す事だそうです。そうした方が」

 

ーー僕も嬉しいから

 

 聞こえるはずのない声に紫苑は思わず目を見開く。龍見は何かあったのかと訊ねるが紫苑は聞かずに周りを見渡していた。

 

「紫苑さん?」

 

「…………ふふ、うふふふ。あの人ったら意地悪なんだから」

 

「もしかして、旦那さんが見えましたか?」

 

「いいえ、声だけ。龍見さん、今晩少し昔話に付き合ってもらってもいいですか?」

 

「オレでいいなら」

 

「ありがとうございます。それでは部屋で待っていますわ。璃々は起きるまでお願いします」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 約束通り龍見が紫苑の部屋を訪れると、紫苑は大量の酒を用意して待っていた。明日は二人共非番なので問題ないが、龍見から見ればとても二人で飲める量ではなかった。更に部屋には璃々の姿がない。龍見が訊くと、桔梗に預けたと紫苑は答えた。

 

「それではお話ししましょうか」

 

 紫苑が話し始めたのは自身と夫の話。今朝の彼女なら話さないような事も次々と口から出てくる。中には辛い話もあったが、酒の力を借りたのか、彼女は笑顔で話していた。

 

「あの人ったらそんなに強くもないのに、自分が私を守るって豪語したんですよ。なのに先に逝っちゃいまして」

 

「ええ」

 

「そうそう。戦いはそんなに強くなかったですけど、伽の時は凄かったんですよ」

 

「えっ?」

 

「私の方が歳上なのに組伏せられちゃって…………」

 

「ええー…………」

 

 酒が回り始めたのか紫苑の話がどんどんと妙な方向へと移っていく。流石にこれ以上は止めなければと感じた龍見だが、紫苑の暴走は止まらない。

 

「まだ言葉も話せないくらいに小さい璃々が隣で寝ているのにあの人は大胆に私を犯してきて、それについ興奮しちゃったんですよ。そしたら意地悪に焦らしてきて」

 

「飲みすぎですよ。少し休みましょう? ね?」

 

「なら龍見さん、一緒に寝てください」

 

「えっ、いやそれは、うわぁっ!?」

 

「はぁ、龍見さん暖かい」

 

 寝床に引きずり込まれた龍見はそのまま紫苑に抱き締められる。武将である紫苑はその細腕に見合わない力を持っており、なかなか抜け出せない。何より顔を胸に押し付けられているのが男の本能を刺激し、力を出せなかった。

 

「そんなにもぞもぞしてどうしました? あっ、もしかして…………はい、お乳ですよ」

 

「!?」

 

 紫苑はその豊満な胸をさらけ出して、一児の母とは思えないような張りのあるピンクの乳首を龍見の口へ押し付けた。

 

「うふふ、あの人も私の胸が大好きでよく吸っていたんですよ」

 

 昔話はいいから離してくれと言いたいものの、胸を押し付けられているので言えない龍見はただもがいていた。

 

「こら、お母さんのおっぱい吸わないとおっきくなれませんよ。はい、チュッチュッしましょうね」

 

「むぐーっ!」

 

 行為を拒絶する龍見と完全に危ないプレイに入った紫苑。実に妙な状況である。そんな中で最初に折れたのは、欲望に忠実な龍見の性欲だった。

 

「あらあら、おちんちんが先におっきくなっちゃっいましたね。お母さんのおててで気持ちよくさせてあげますね」

 

「ちょまっ、んんっ!!?」

 

 紫苑を静止しようと口を開いた瞬間に乳を吸わされる龍見。紫苑はマイペースに龍見の態勢を整え、膝枕をしながら乳を吸わせつつ、右手で龍見の逸物を掴んだ。

 

「あの人より大きい…………じゃあシコシコしますね。気持ちいいですか?」

 

「ん! んんぅー!!」

 

「おっぱい出なくてごめんなさいね。でもお母さん、頑張っておちんちん気持ちよくしてあげますからね」

 

 艶かしく動く紫苑の手はこれまでに龍見が経験したものとは段違いの快感を与えてきた。急所を的確に狙い、緩急をつけながらすぐに絶頂しないような調整をしてくる。

 勝手に腰が浮くほど龍見も感じており、乳を吸う吸わないなどと言っていられる状態ではない。むしろ一時的にでも快楽から逃れるために必死になって乳を吸った。

 

「チュゥ、チュパッ」

 

「あんっ、もう、そんなに吸って。こっちもビクビクして、出してもいいんですよ」

 

 紫苑の攻めがより苛烈になり、既に限界ギリギリだった龍見を一瞬にして絶頂に導いた。噴き出した精液が手に掛かるが、紫苑は笑顔を崩す事はない。

 

「一杯出ましたね、えらいえらい」

 

 紫苑は子供をあやすかのように龍見の頭を撫でて、手に掛かった精液を舐めていた。

 

「し、紫苑さん、もうやめに」

 

「お母さん」

 

「えっ、あのしお」

 

「お母さん」

 

「…………お母さん、やめにしましょう」

 

 龍見にお母さんと言わせて満足げな紫苑だが、当然やめるなどという考えはない。再び龍見の逸物を撫でると、そっと囁きかけた。

 

「お母さんにこのおっきなおちんちん、入れたくないですか?」

 

「!? 入れません!」

 

「でもおちんちんはお母さんの中に入りたいよー、ってビクビクしていますよ」

 

「そ、それは紫苑さんが触って」

 

「お母さん、でしょう」

 

 お母さんと呼ばれなかった事にムスッとした紫苑は龍見の逸物を強めに握り締める。しかしそれは苦痛と快感の間という絶妙な強さだ。

 

「うぅ…………す、すみません、お母さん」

 

「許しません。お母さんの言う事を聞けない悪い子は…………」

 

 紫苑は器用に体勢を変え、馬乗りになるように龍見の上に座った。そして下着を脱ぎ捨て、握り締めた逸物を自身の陰部に押し当てた。

 

「お母さんが食べちゃいます。んあっ、あぁ……ふぅ」

 

「ッッ! すげ、くっ…………!」

 

 ゆっくりと呑み込まれていく龍見の逸物は、柔らかく暖かい紫苑の膣内にこれでもかと攻め立てられる。まるで膣内だけ別の生き物のように形を変え、包み、締め付ける。とても子供を生んだとは思えないほどだ。

 紫苑自身は動いてもいないのに膣の動きだけで絶頂してしまいそうになるのを我慢する龍見の頬を、紫苑はいとおしげに撫でた。

 

「我慢の必要はないですよ。お母さんの中に沢山出して下さいね……んっ」

 

「そうは、いきません」

 

 ここまでやっておいて今更浮気を気にするのもおかしな話だが、それでも中出しという一線は越えてはいけないと踏みとどまった。

 

「強情な子なんですから。えいっ」

 

「んぉっ!?」

 

ーードクッ

 

「あんっ♪ ちょっとだけ出ましたね」

 

 不意打ちの上下運動に耐えられなかった龍見は少しだけ射精してしまう。

 

「次はもっと、出しましょうね」

 

「ほんと、やめましょう。今なら間に合いますから」

 

「だ・め♪」

 

 何度も子宮口へと押し付けるように腰を動かす紫苑。その子宮口もまるでフェラでもしているかのように亀頭に刺激を与え続ける。そんな攻めを耐えられるほど龍見も強くはなかった。

 

「くぁっ! も、無理…………」

 

「あぁ、あ、あっあっ、私も、イッちゃうぅ!!

 

 溜まりに溜まった精液が紫苑の子宮へとぶちまけられる。これまで体験した事のない大量の射精を受けた紫苑は体をガクガクと震わせ、龍見は諦めの表情をしていた。

 

「終わった…………やっちまった」

 

「あぅん、凄いわ。ひっ、まだ、出てる。しかも……まだまだ硬いわぁ♪」

 

「え"っ、まさか、まだ続けるつもりですか!? 打ち止めですって!!」

 

 これは大嘘だ。ミャシャグジ様と契約している龍見の逸物は一晩二晩ヤり続けたところでびくともしない。ただ龍見の精神が持たないだけである。

 

「でも、お母さん満足してませんよ。久しぶりだからもっと楽しみたいんです」

 

「いやいや、だからって自分じゃなくても。そうだ、今日はやめてまた今度にしましょう。ね、紫苑さん…………あっ」

 

「お母さんって呼びませんでしたね。お仕置きです♪」

 

「ちょ、いや、らめぇぇええぇぇぇえええっっっ!!!!!」

 

 そのまま時間は過ぎ去り、空は白み、紫苑は精液で白くなり、龍見は真っ白に燃え尽きていた。途中からやけになった龍見は自分から攻めたりしていたので当然と言える。ちなみにこの間、一度も膣から逸物が抜かれる事はなかった。

 

「はぁ、はぁ…………もう朝ね」

 

「もう動けない…………お母さん、頑張りすぎ」

 

「龍見ちゃんのが凄すぎるんだもの。あっ、また出たわね」

 

「仕方ねぇじゃん。お母さんの中、気持ちいいし。神様のせいで無駄に精力あるし」

 

 行為の間にどれだけ打ち解けたのだろう。会話の内容と今の状況を除けば、普通の恋人と変わらない親しさだ。

 

「嬉しいわ。龍見ちゃんの奥さんとどっちが良かった?」

 

「それは比べるものじゃねぇって。もう抜くよ」

 

「そうね。早く体を洗わないと…………あ、あら?」

 

「ん? もしかして腰が抜けて動けない? 仕方ねぇなぁ…………待って、抜けないんだけど…………膣痙攣!?」

 

「ひ、久しぶりに抱き合ったんですもの! しかもこんなに一杯出されたのなんて初めてだし、お腹だってびっくりしちゃうわ!」

 

「あーうんそうだよな! 分かったから早く抜こう!」

 

「で、でもこんな事初めてで」

 

「確かお尻の穴をほぐすといいとか聞いた事あるからやってみるぞ」

 

「そ、そんなところ触るなんて…………気持ちいいのかしら」

 

「治療だからね!」

 

「そうだったわ……くふっ、く、くすぐったいわ」

 

「笑っちゃ駄目だって。膣内を柔らかくしたいのにお腹に力が入ったら」

 

「そ、そう言われたって…………ふふっ」

 

「おかーさーん! おとーさーん! おはよー!!」

 

 その瞬間、時が止まった。何の前触れもなくやってきた璃々はしっかりとその目で二人の行為を目撃した。何をしているかなど分からないだろう。しかし問題は見られてしまった事である。龍見と紫苑の脳内に数々の言い訳が浮かんでは消えていく。

 

「なにしてるの?」

 

 そんな純粋な疑問。パニック状態に陥った二人が導き出した答えは奇しくも同じで、それも最悪なものだった。

 

「「き、気持ちいい事だ (よ)」」

 

「子供に何を言っとるかお主らはぁ!!!」

 

「き、きき、桔梗!? な、なんでいるの?」

 

「璃々を連れてきたからに決まっておるじゃろうが!! そこになおれ!! 言いたい事が山程できたわ!!!」

 

「い、いやこの状態だから直れねぇんだけど」

 

「言い訳するなぁっ!!!」

 

「「はいぃぃぃっ!!」」

 

「璃々、少しだけ他の誰かと遊んでおってくれい。儂は璃々のお母さんとお父さんに話をせねばならん」

 

「うん、わかった! おかあさん、おとうさん、いっしょにあさごはん食べようね」

 

 まさかの性交状態での説教というとんでも状況に、龍見の逸物は縮み上がり、紫苑の膣は痙攣も忘れ、あっさりと抜けた。そして説教は昼過ぎまで続くのであった。




ロリコンなだけでなくマザコンの可能性すら浮上。
これはやべぇ。みんな! パワーを憲兵に!!

この話を書いている間に何度も『俺何やってんだろ。デッキ調整しなきゃ』と思った俺は立派な決闘者脳?


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第二十四話【R-18】

ロリコン(確信)


「焔耶さん、お話があります」

 

「ああ、すぐにでも」

 

 最近、雛里と焔耶が一緒に過ごす時間が増えた。だがその間柄は仲良しというよりも、協力関係といった様子だ。

 雛里は焔耶と自室へと入り、鍵を閉める。周りに誰かがいないかは焔耶が確認済みだ。

 

「先生と紫苑さんの関係について調べ終わりました。予想通りといいますか、やはり既にそういった関係になっていたようです」

 

「っ、そうか」

 

「でもこれで先生の弱点が分かりました」

 

「! それはなんだ?」

 

「先生は強引な攻めに弱いです」

 

「つまり、ワタシ達から襲えと? そ、そのような…………」

 

「今更恥ずかしがっている時間はありません! 先生がここに居られるのも残り三日ですよ!」

 

 雛里の言うように龍見の滞在期間はもうすぐ終わる。それまでに想いを伝える事が出来なければ、紫苑の一人勝ちだ。

 

「私は、今晩先生の部屋にお邪魔します。そこで告白するつもりです」

 

「…………何故それをワタシに?」

 

「抜け駆けはしたくなかったので。どうするかは焔耶さんにお任せします」

 

 そんな言葉をどう取ったかは分からないが、焔耶は無言で部屋を出た。そこへ偶然にも龍見が通りがかってしまう。

 

「おっ、焔耶じゃねぇか。雛里ちゃんの部屋で何やってたんだ?」

 

「少し話をしていただけだ」

 

「そっかそっか。しかしちょうど良かった。今晩空いてるか?」

 

「えっ、あ、ああ。問題ない」

 

「なら渡すもんが完成したから来てくれよ」

 

「あっ…………あれか…………」

 

 以前龍見が朱里、雛里、焔耶のためにプレゼントを作成していたのだが、焔耶のみが完成していなかった。特別な誘いだと思った焔耶は少し落胆した。

 

「んじゃこれから朱里ちゃんに術の指南しなきゃなんねぇから。どうせならお前も参加するか?

 

「今回は、遠慮しておく」

 

「分かった。じゃあ今晩来てくれよな」

 

 過程はどうあれ今晩龍見の部屋を訪ねる事になってしまった。この機会をどうするか考えながら焔耶は歩いていった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 夜の龍見の部屋の前で焔耶と雛里は立っていた。

 

「やっぱり焔耶さんも来たんですね」

 

「お前とは目的が違う」

 

「でも先生に用があるには違いないんでしょう? 入りましょう。先生、失礼します」

 

「おう。って雛里ちゃん? 焔耶はオレが頼んだからともかく、なんで君が?」

 

「先生にお話がありまして」

 

「そうなのか。まあ焔耶が先かな。雛里ちゃんは適当なところに座ってくれ」

 

「はい」

 

 最早当然のように龍見の膝の上に座る雛里と、全く気にしていない龍見。それを見ても焔耶は何も言わない。ただし気にしていないわけではない。

 

「焔耶、これがお前に渡すもんだ」

 

「この瓶に入っている白い液体はなんだ?」

 

「塗り薬だよ。これならお前の敏感な肌もある程度人並みになるはずだ」

 

「それは助かるな」

 

「まあ早いうちに術を覚えて、薬が無くなっても何とか出来るようにしろよ」

 

「ああ」

 

「それで雛里ちゃんはどんな用だ?」

 

「…………あの…………えっと」

 

 言う事は決まっていた。しかしそれが口から出てこない。龍見が押しに弱いのは事前の調査で分かっているし、断られても何とかする手札は用意してある。しかし雛里はここにきて怖くなった。自分のやろうとしている事を言って、もし龍見に嫌われたらどうしようかと。

 

「雛里ちゃん?」

 

 龍見がその程度で人を嫌うような性格ではないのは知っている。知っていても体が震えてきてしまう。

 

「…………龍見」

 

「ん? なんだ焔耶」

 

「ワタシ達を抱いてくれ」

 

「ブフッ!? んな、何を突然!!」

 

「焔耶さん!?」

 

「ワタシも雛里もお前が好きだ。それで理由は十分だろ」

 

「…………先生! お願いします!」

 

「出来ねぇな。これ以上あいつを裏切る真似は出来ねぇんだ…………」

 

「紫苑さんと性交して私達とは出来ないんですか? そんなに魅力がありませんか?」

 

「あ、知ってるのか。でも魅力は理由じゃねぇ。魅力ならみんなある。余程特殊な男でもない限り喜んでお前らを抱くだろうさ」

 

「ならお前はそんな特殊な男なのか?」

 

 龍見は静かに首を横に振った。焔耶や雛里だって龍見がそんな男ではない事は知っている。ただ少し一途なだけなのだ。その割りには靡きやすいのだが。

 

「お前らの告白は嬉しいよ。でも応えるのは無理だ」

 

「それは分かります。先生が奥さんを大事にしているのも知っています。ですから愛してくれなくてもいいです。初めてを、貰ってください」

 

「そんな事を軽々しく言うな!」

 

「ヒッ!?」

 

「…………すまん。でも雛里ちゃんも焔耶も可愛いんだ。こんな一時的な感情に身を任せて既婚者に抱かれるより、本当に愛せる人を」

 

「その先は言うな」

 

 口止めをするかのように焔耶は龍見を威圧した。龍見もばつが悪そうにして顔を伏せた。

 

「お前が何だろうと関係ない。ワタシはただ馬淵龍見という男に惚れたのだ。今だから分かる。ワタシは初めてお前を見て、一目惚れしていた」

 

「一目惚れして殺されたのか。堪ったもんじゃねぇな」

 

「い、言うな!」

 

「先生、私も優しい先生が好きです。先生のお話は凄く楽しくて、自分が男の人が苦手なのを忘れるくらいに夢中になれて。前は事故で口付けしちゃいましたけど、あれのお陰で自分にも素直になれました。だから言います。先生、抱いて下さい」

 

「雛里ちゃん…………あの時の記憶あったのか」

 

「えっ、言ってませんでした? それと吹っ切れたので脅しますね」

 

「脅す!?」

 

「はい」

 

 あまりに堂々とした脅す発言にビビる龍見と非常に良い笑顔の雛里。焔耶は何が起こるか分からずに少々不安げだ。

 

「先生」

 

「な、なんだ?」

 

「もし私達を抱くのを断られましたら…………先生に襲われたって桃香様に伝えます」

 

「ちょっ!? んな事したら」

 

「そうですね、同盟関係はどうなっちゃうでしょうね。もしかしたらまた連合軍が組まれるかもしれませんね」

 

 同盟関係が崩れる事は龍見が最も危惧する事だ。まだ恋は出産を終えていない。今回の同盟関係は恋の出産を待つためのものと言っても過言ではないのだ。

 

「くっ、よくもまあそんな発想を…………」

 

「軍師ですから。先生、どうします?」

 

「…………抱かせていただきます」

 

「やりましたね焔耶さん!」

 

「……これで良かったのか?」

 

「ただし! 一人一回だ!」

 

「はい!」

 

「先程まであんな要求しておいてなんだが、あまり無理するなよ?」

 

「嫌じゃねぇから無理はしてねぇよ。さて」

 

 早く終わらせたいからか龍見は服を脱いでいく。まさかいきなり脱がれると思っていなかった雛里はあわわと言いながらも龍見の体をガン見する。対して焔耶は思っていたよりも引き締まっていた龍見の肉体に感心していた。

 

「手合わせした時にも思ったが、流石に鍛えているな」

 

「術師の弱点は接近戦だからな。最近は脚を重点的に鍛えているんだけどよ、どうかな?」

 

「いいのではないか。近付かれては駄目なら機動力を上げる他ない」

 

「あのー、先生の肉体談義のための時間ではないんですけど」

 

「「あっ、ごめん」」

 

「こほん。では先生、その、し、下着を」

 

「脱げばいいんだな。はいはい」

 

 雛里の要求もあっさりと呑み、さっさとパンツを脱いでしまう龍見。彼もどこか吹っ切れてしまっているのだろう。

 

「あわわ、これが男の人の…………」

 

「た、大した事ないではないか」

 

「声震えてんぞ。まだ勃起してないってのに、初だなぁ」

 

「ま、まだ大きくなるんですか!?」

 

「当然だろ。こんなフニャチンでどうやって性交するってんだ」

 

「ど、どうすればいいんです?」

 

「触ったり、舐めたりとかが一般的かな」

 

「これを舐めるのか!?」

 

「いや無理強いはしねぇから。触るだけで十分だよ」

 

「わぁ、太い」

 

「雛里ちゃんはいつも早いなおい!」

 

 いつの間にか雛里は龍見の逸物を掴んでいた。雛里にとって初めて見た逸物はそれだけ彼女を興奮させたのだ。

 

「ワタシも、いいか?」

 

「ああ、いてっ! 雛里ちゃん、敏感なところなんだからもうちっと優しくな」

 

「は、はい」

 

「少しずつ硬くなっているな。不思議だ」

 

「そうか? 乳首とかだって勃起するじゃん。おっ、そこキく」

 

 雛里と焔耶は物珍しさもあり、逸物を色々と弄る。上下にしごいたり、玉を触っているうちに逸物の硬度も高まっていく。

 

「ん? 汁が出てきたが、これが精液か?」

 

「違いますよ焔耶さん。先走り汁ですよ」

 

「雛里ちゃん、確かにそうだけどそんな嬉々して言う事じゃねぇよ」

 

「な、舐めてみていいですか? レロッ、ンチュッ」

 

「もう舐めているではないか!」

 

「ふぁ、しょっぱい…………もうちょっと、チュゥ」

 

「うっ、そんな吸うなよ」

 

 先走りを舐めた雛里はもっとそれを求めるかのように亀頭を吸う。更に刺激を与えるように逸物を弄りながらなので龍見の腰も浮く。

 

「初めて、なのか?」

 

「えと、野菜で練習しました」

 

「ああ、雛里ちゃんは勉強熱心、おふっ」

 

「た、龍見、ワタシも舐めた方が」

 

「抵抗があるなら、んっ、やらなくてもいいぞ……そうだな、こっち来てくれ」

 

「? ンンッ!?」

 

「チュッ、んんー、ぷはっ、口付けは初めてだったか?」

 

「わ、悪いか」

 

「悪くねぇよ。むしろ嬉しいな」

 

「っ! ば、馬鹿…………チュッ」

 

 焔耶は唇を突然奪われたものの、喜んで自分からも口付けをした。龍見もそれに応えて何度も口付けをし、時には舌を絡めあったりした。それを見ていた雛里の頬がだんだんと膨れていく。

 

「ジュプッ! ジュポジュポッ、ヂュウゥゥゥッ!」

 

「んおぉっ!? ひ、雛里ちゃん!?ちょ、くぅっ!? 強すぎ!」

 

「チュゥ、ん"っ!? ケホッケホッ!!」

 

 唐突なバキュームフェラは龍見にもかなり効いたが、無理をした雛里もむせ返ってしまう。それでも彼女は行動を続ける。龍見によじ登り、自身の陰部を逸物にあてがうと、そのまま腰を落とした。ブチブチという音と処女膜を突き破った感覚を逸物から感じた龍見は何よりもまず雛里を抱き締めた。

 

「何やってんだ! こんな無茶して!」

 

「ひぐっ、ひっひっ、うあぁぁぁん…………」

 

「痛みと興奮で混乱しているか。焔耶、そこの棚に入ってる水を頼む」

 

「わ、分かった」

 

「雛里ちゃん、大丈夫だから。深呼吸して」

 

「うえぇぇぇ、あぁぁぁぁぁ!」

 

「龍見! 水だ!」

 

「助かる。ングッ」

 

「お前が飲むのか!?」

 

「ンッ!!」

 

 水を口に含んだ龍見はそのまま雛里に口付けをし、少しずつ水を雛里へと流していった。そうすると先程まで感情が爆発していた雛里も徐々に落ち着きを取り戻し、口移しされる水を飲み始めた。

 

「ふぅ、落ち着いたか?」

 

「…………せ、先生、ご、ごめんなさい」

 

「焔耶に嫉妬したか?」

 

「…………はい」

 

「構わなかったオレも悪いけど、今は相手しないといけないのは雛里ちゃんだけじゃないんだ。それと自分の体はもっと大切にしないと駄目だぞ。まだ股は痛むだろ」

 

「…………はい」

 

「落ち着くまでは抱き締めておいてやるから。悪い焔耶、少し待っててくれ」

 

「気にするな。今は雛里を相手してやれ」

 

「ああ」

 

 下手に引き抜いては痛みが強まると判断した龍見は逸物を挿入したまま、雛里の頭を撫でたり、背中を軽く叩いてやったりしていた。そのうち雛里もすっかり安心して余裕が生まれたのか、ほんの少しずつ腰を動かし始めた。

 

「おいおい、勝手に動いていいって誰が言った?」

 

「あわっ! ご、ごめんなさい!」

 

「くくっ、怒ってねぇよ。もう痛みはないか?」

 

「ほんのちょっとありますけど…………動くと気持ち良くって」

 

「雛里は淫乱だなぁ」

 

「い、淫乱なんかじゃ」

 

「いいや淫乱だね。あんなにちんこにしゃぶりついて、処女なのに自分からちんこ突っ込んで。これが淫乱じゃないとでも?」

 

「あ、あわわわわ…………」

 

「淫乱な子にはお仕置きしないとな?」

 

 そう言って龍見は逸物を雛里の最奥へとぐりぐり押し付ける。突然の事に雛里は龍見に抱き付いて耐えしのぐ。

 

「我慢しなくていいぞ。淫乱は淫乱なりにイキ狂えばいいんだ」

 

「ひっ、あぅ、あっ……んん、そ、そんな、い、いんりゃんじゃ、ひゃあぁっ!?」

 

「おっと、乳首は苦手だったか? 摘まむだけで汁が噴き出したぞ」

 

「み、みにゃいで…………」

 

「こんな目の前で見るなってのが無理な話だ。さて、さっき存分に口でされたからもうこっちが我慢の限界だ。激しくするけど、痛みの方は大丈夫か?」

 

「は、はい♪」

 

「なら良かった」

 

「ンヒイィィィィィィッ!!!? は、はげ、アアァァァァンッ!!!」

 

 まるでオナホでも扱うかのように龍見は雛里の体を持ち上げては腰に打ち付ける行為を繰り返す。雛里は声を上げながら絶頂し、潮を噴き出す。しかし龍見は自分が満足するまで動きを止めない。

 

「いいぞ雛里ちゃん! ただでさえキツいのに、イく度に絞まって…………もう、出るぞ!!」

 

「あひっ!? あっあっ、ひぅ! まひゃ、イッ……ひゃ、あぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!」

 

 龍見の最後の一突きで雛里は今日一番の絶頂に到り、そのまま気を失う。対して龍見は何とか理性を保ちきり、逸物を外へと出してから雛里の体へ射精した。

 

「っ、あぶね。中に出すとこだった」

 

「…………す、凄まじいな」

 

「焔耶、次はお前なんだぞ?」

 

「わ、分かっている。しかし、中には出さないのか?」

 

「一回だけ抱くとは言ったが、射精する場所までは決めてねぇからな」

 

「そう、か」

 

「ほら焔耶、服脱いで仰向けになってくれ。オレらの行為見ながら自慰してたから濡らす必要もないだろ」

 

「気付いていたのか!?」

 

「雛里ちゃんはともかく、オレはそれくらいの余裕はある。脱いでみろよ」

 

 龍見に促されて服を脱ぐ焔耶。少々戸惑いながらも思いきって下着を脱ぐと、確かに陰部は愛液で濡れていた。

 

「一度はイッたな?」

 

「…………ああ」

 

「素直でよろしい」

 

「あ、頭を撫でるな!」

 

「ははは、少しは楽にしろ。確かに初めては緊張するが、誰だって体験する事だ」

 

「そうは言っても、な」

 

「さっき雛里ちゃんにやってたような激しいのは苦手か? 安心しろ。相手に合わせるのは得意だ」

 

 龍見はゆっくりと焔耶の体を撫でる。肌が敏感な焔耶に不必要な刺激はいらない。これだけでも十分だ。

 

「ん、ふぅ……」

 

「焔耶は綺麗な肌してるよな。胸もそれなりにあるし」

 

「それなりとは、なんだ。紫苑と比べてるんじゃ、あぁんっ!」

 

「流石に人類最大級と比べないから。よしよし、もう十分すぎるくらいに濡れたな。入れるか?」

 

「と、当然だ」

 

「はいよ」

 

 恐怖感があるのは返答で分かる。だから龍見はゆっくりと、肌も刺激しないように挿入していく。そこで龍見も焔耶もある事に気が付いた。

 

「? は、初めては痛いものではないのか? 雛里も血が出ていたし」

 

「膜がない? あー、そういえば聞いた事があるけど、激しい運動をする人はたまに処女膜が破れるらしいぞ。それでも初めてだからな。あまりは無茶はしない方がいいな」

 

「雛里を乱暴に扱っていた男の発言とは思えんな」

 

「お前の場合肌も弱いだろうが。お望みなら激しくするぞ」

 

「や、やめてくれ」

 

 それでいい、と言って龍見はゆっくりと膣内を味わうように逸物を動かす。ただ膣内を刺激されるだけでも声が出ないほどの快感を感じている焔耶だが、龍見は更に胸や尻も撫でる。

 

「~~~~~~っっ♪ む、胸は、やめろ」

 

「触り心地いいんだよ。もうちょっとだけ」

 

「んくぅ…………ちょっと、だぞ。あぁ……」

 

 ちょっと言ったわりには龍見は撫でるのをやめない。そして腰の動きもだんだんと早くなっていく。

 

「ひんっ! は、や…………いひぃっ!?」

 

「わりぃ、気持ち良くて…………出そう」

 

 先程射精をしてあまり時間が経っていない事で逸物も敏感になっていたのだろう。我慢できなくなってきた龍見は雛里の時と同じように外で射精しようとしたが、気が付くと焔耶が脚で龍見の体を挟んで離そうとしない。

 

「え、焔耶! 離さないとマズイって!」

 

「あ、あし、うごかにゃい…………」

 

「動かない、って、も、……きつ…………」

 

「た、つみ、出して……くれ……」

 

「くっそ……何かあったら、責任は取る。すまん」

 

「! んあぁぁぁぁっ! 熱いの、いっぱい流れてくるぅぅぅっっっ!!!」

 

 龍見は一言謝罪をしてから焔耶の膣内へと精液をぶちまけた。焔耶は艷声を上げながら絶頂した。それでも焔耶の脚は離れない。むしろより一層龍見を強く抱き締めていた。

 

「ハァハァ…………たつみ……チュッ」

 

「ん…………満足か?」

 

「もう、少し、このまま」

 

「分かったよ」

 

 焔耶の要望通り暫くそのままの体勢を維持する龍見。そして疲れた焔耶がうとうとしだすと、龍見はゆっくり挿入していた逸物を抜き、焔耶と雛里の体を術で綺麗にする。

 

「今日はこの部屋で寝ておけ」

 

「んむ…………わかっ、た」

 

「おやすみ、焔耶」

 

 龍見は焔耶が寝たのを確認してから部屋を出た。一人で夜の城の中を歩き回り、人気のない場所で術を使った。

 

「あー、貂蝉、聞こえるか?

 

『あらぁ、こんな時間にテレパスなんて…………龍見ちゃん、泣いてるのかしら?』

 

「泣いてる?」

 

 ふと龍見が自分の頬に手をやると、涙が流れているのに気が付いた。

 

「全く気付かなかった。よくもまあテレパス越しで分かったな」

 

『声が弱々しいのよぉん。何があったのかしら?』

 

「恋に謝らなくちゃいけない事があってな 。オレは本当に、最低だよ。恋がいながら、他の女を抱いて……しかも今日だけじゃなくて別の日も……三人も抱いてさ…………会わす顔がねぇ…………うっ」

 

『そう……偶然近くに恋ちゃんがいるのよ。伝えてあげましょうか』

 

「! ああ、頼む。直接謝りたいが、無理だし、な」

 

 きっと怒るだろう。嫌われるだろう。それでも謝らないと気が済まなかった。それが身勝手なもので、自分で自分を許そうとする行為であったとしても。

 

『龍見ちゃん、恋ちゃんからは一つ質問があるだけだそうよ』

 

「しつ、もん?」

 

『恋ちゃんは龍見ちゃんが一番好き。龍見ちゃんはどうなのか、ですって』

 

「…………く、うぁ、ひっぐ、オレも、恋が……一番好きだ。都合が、いい事言うけど、うっ、どんなに女を抱いても、恋が、一番好きだ」

 

『んもぅ、そんなに泣かないの。恋ちゃんは龍見ちゃんが自分が一番好きならそれでいいんですって。というか龍見ちゃんは性欲強いからちゃんと報告してくれるなら他にも女の子抱いてもいいんですって』

 

「いいのかよ!?」

 

『魅力的な雄が雌を抱くのは仕方がないそうよ。野性的ねぇ。あ、詠ちゃんから伝言だけど、まだ帰ってこずにそのまま魏に向かうようにですって』

 

「うえっ、恋に会いたいのに」

 

『それと月ちゃんと霞ちゃんはお土産、ねねちゃんは本、地和ちゃんは恋ちゃんに許可貰ったから帰ってきたら抱いてって。天和ちゃんと人和ちゃんは新しい歌の会場を探して』

 

「待て待て! 一部変な要望があるのは無視して、何で全員いるんだ!?」

 

『肝試ししていたのよぉ。あ、今までの話はみんなに聞こえるようにしておいたわ』

 

「……………………うわぁぁぁぁっ!!! はっずぅ!!! もう寝るぅっ!!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 三日後、龍見は蜀のみんなから見送りを受けついた。

 

「お世話になりました。魏までの護衛までつけてもらうなんて」

 

「いいんですよ。私達も色々とお世話になりました。ありがとうございます。次に会う時も平和な間柄だといいですね」

 

「そうですね」

 

「先生!」

 

「おとうさん!」

 

「っと、雛里、璃々、そう引っ付くなよ。また会おうな」

 

「ワタシはどうせなら戦場で見えたいものだ」

 

「そん時は負けねぇからな。ってか焔耶、お前はまず肌を何とかしろ」

 

「龍見さん」

 

「なんです紫苑さん」

 

「責任は取らなくてもいいですけど、認知はしてくださいね」

 

「あ、ははは…………何かあったら責任は取りますよ。男ですから」

 

 各々との別れをする龍見。しかしいつまでもここに留まっているわけにはいかない。

 

「それではもう行きます。いつかまた」

 

 龍見はつけてもらった護衛を従えて馬を走らせる。次に向かうは魏。龍見はまたしても誰かに手を出すのだろうか。出すんだろうなぁ。




まさかの嫁からの浮気許可宣言。でもこれからも断っていくスタイル(ヤらないとは言っていない)。
次は魏ですね。どうせなんで宣言しておきます。ある子をめちゃ贔屓します!!
あ、この後はオマケを少し書きました。





ーーーーーーーーー





龍見のテレパス終了後の董卓軍

霞「~~~~っ!!」(無言の床バン)

華雄「ね、寝るぅ…………ブハッ! ふ、腹筋が、し、し、死ぬ」

月「浮気の大胆告白なんて…………何か心の底から湧き上がってくるものが…………」

詠「やったわねぇ、あいつ。恋はあれで良かったの?」

恋「大丈夫。龍見は恋が一番好きって言ったから。それに恋は誰にも負けない。武でも、龍見の事でも」

天和「キャー! かっこいー!」

音々音「流石は恋殿! 龍見殿も一途な恋殿を見習ってもらいたいものです」

地和「まあ軟派でもいいじゃない。お陰で私も堂々と手を出せるし」

人和「もう隠す気が欠片もないわね、ちぃ姉さん」

貂蝉「ふふふ、龍見ちゃんもいいネタくれたわね。じゃあ次の怖い話はその龍見ちゃんが小さい頃に体験したっていう話よぉ。何でも無理矢理服を脱がされてお尻を男の人に…………」

月「!」(ガタッ)

詠「座って」

貂蝉(ただの病院で検査を受けた話なのよねぇ)


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第二十五話

今回から魏編だよ!
そろそろハデス、ミシャグジ様、龍見を生き返らせた謎の神以外の神様も出していこうかな。


「ここが魏か。護衛ありがとよ。これお礼」

 

「そんな、受け取れません」

 

「いいから取っといてくれよ。オレの顔を立てると思って」

 

「わ、分かりました。それでは馬淵様、お気を付けて」

 

 護衛に礼としてお金を渡した龍見は街へと脚を踏み入れる。蜀と比べると広いというのが第一印象であった。街の規模が全てではないが、やはり広いとそれだけ発展しているような印象を受けがちになる。

 

「さて、まずは…………腹減ったな。蜀の時もそうだったけど、やっぱ長距離移動は腹減るわ。なんかいい店は…………君、服を触るのやめてくれ」

 

「ええやん減るもんやないし」

 

 いつの間にかいた女性が龍見の服を弄っていた。紫のツインテ、虎柄の水着のような上着が大きな胸を強調している。だが龍見の目についたのはドリルのような槍、否、それは完全にドリルだ。

 

「ハァハァ、真桜! やっと見つけた!」

 

「おっ、隊長。何しとるん?」

 

「お前が勝手にいなくなったんだろ!」

 

「まあまあ、ちょっとくらいええやん。なぁお兄さん?」

 

「オレに訊かれてもな。とりあえず久しぶり、一刀君」

 

「えっ、龍見さん!? 予定より早くないですか?」

 

「予定とか知らないなぁ。連絡は詠とかの仕事だからな」

 

 特に今回など龍見の意思は関係なく、半ば強制だったのでどんな連絡が行っているかは龍見は知りもしない。そんなところに更に二人の女性がやってきた。

 

「隊長、真桜は見つかりましたか?」

 

「ああ、そこに」

 

「もう真桜ちゃん! 一言言ってからいなくなってほしいの!」

 

「いや沙和、そもそもいなくなるのが問題だからな」

 

 サイドポニーに眼鏡の女性のどこかずれた発言に、銀髪で全身傷だらけの女性は呆れていた。

 

「一刀君、この子達は?」

 

「えっと俺の部下? でして。そこのドリルを持っているのが李典です」

 

「よろしゅう」

 

「こっちが于禁と楽進です」

 

「隊長、この人誰なの?」

 

「馬淵龍見さんだよ。俗に言う黒の御遣い」

 

「貴方が……楽進です。よろしくお願いいたします」

 

「ふーん、一刀君はいい部下持ってるじゃないか」

 

 三人とも三国志では有名な将だ。どのような経緯かは不明だが、そんな三人を従えるとなると、一刀も魏ではそれなりの立場と考えてもいいだろう。

 

「このまま華琳のところに向かいますか?」

 

「いや飯が食いたい」

 

「それならいいお店を最近見つけました。近いですから案内しますよ」

 

「それは助かる。頼むよ楽進さん」

 

「えっ、あ、凪……そこは、大丈夫?」

 

「? いつも大丈夫ですよ」

 

「不安なの」

 

「これはあかんかもしれんなぁ」

 

 何故そんな発言が出るのか龍見は気になったものの、楽進の親切を無下にも出来ない。正直マズイのを覚悟しながら楽進の案内した店へと向かう。

 その店は外観は普通、内観も普通、メニューも普通だった。ただ空気を除けば。

 

「辛っ!? 空気辛っ!!」

 

「目が痛いのぉ!!」

 

「やっぱりあかんかったか」

 

「? 馬淵殿、何かおかしいでしょうか?」

 

「いんや、普通だが」

 

「「「!!?」」」

 

 空気から既に辛い店。辛党の楽進以外は悶絶すると思われたそこで龍見は平然としていた。ちなみに李典はゴーグルをしているので何とか耐えている。一刀と于禁はギブアップして既に外だ。

 

「ここは拉麺がおすすめですよ」

 

「それならそうしよう。李典さんは」

 

「うちもう駄目。外行くわ」

 

「仕方ねぇなぁ。飯食ったら合流って一刀君に伝えておいてくれ」

 

「りょーかい…………うっ、喉が」

 

「すみません、拉麺二つ」

 

 ゴーグルで目を守ってもそれ以外が守りきれなかった李典は店の外へ出ていった。その間に楽進は拉麺を頼んでいた。ちなみに出てきた拉麺は汁が唐辛子の赤が極限を越えて黒に。麺も汁を吸って真っ黒だったそうな。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「いい味だったな。少し辛味が強すぎるが」

 

「それがいいのですよ。隊長達は全く食べてくれないので、一緒に食べてくれる方がいると嬉しいです」

 

「まあ、好みが別れるから仕方ねぇよ」

 

 平然と店を出る二人。悪魔のごとき拉麺もこの二人には通用しなかったようだ。

 

「あ、あの! 黒の御遣い様ですか?」

 

「? そうだが」

 

 二人のところへ一人の女性が走ってくる。真っ白なローブを頭から被っているので表情は窺い知れない。多少怪しさを感じながらも敵意や殺意は感じなかったので、龍見は普通に対応する。

 

「わたし、御遣い様の事が好きなんです! あ、握手して下さい!」

 

「それくらい構わねぇさ。しかしこういうのは照れ臭いな」

 

「きゃっ、ありがとうございます! あと、もう一つだけお願いがあるんですけど」

 

「言ってみ。出来る事なら」

 

「シンデクダサイ」

 

ーードスッ

 

「馬淵殿!? 貴様!!」

 

 ローブの下に隠し持っていたと思われる短剣が龍見の腹を貫いた。楽進は犯人を取り押さえるが、犯人は尋常ではない力で楽進を引き剥がそうとする。

 対して龍見は落ち着いていた。こうも見事に刺されたのは初めてだったため、まるで夢でも見ているかのような、他人に起こった出来事のように感じていた。故に犯人の凶行の原因も即座に理解出来た。

 

「ぐっ! なんという力だ!」

 

 取り押さえている時に楽進はローブの下の女性の顔を見てしまった。その目は虚ろでどこを見ているかも分からず、口からはただただ意味のない声、声にも感じない音を垂れ流し続けていた。

 

「スキデスシンデクダサイ、アイタカッタデスシンデクダサイ、シンデクダサイシンデクダサイシンデクダサイシンデク」

 

「少し落ち着け。解呪(ディスペル)」

 

 犯人へ龍見が手をかざすと、気絶したかのようにガクンと崩れ落ちた。

 

「な、何をしたのですか?」

 

「どうにも暗示、いやこりゃ催眠だな。とにかく操られていたみたいだ。しかも肉体の限界とか無視してやがる。ほれ、限界以上の動きをしようとするから皮膚やら筋肉やらが裂けて血塗れだ」

 

「馬淵殿はその傷は平気なのですか?」

 

「…………お、思い出したらめっちゃいてぇ…………」

 

「傷口を見せて下さい」

 

 楽進が傷口に手を当てると、暖かい何かが龍見の中へと流れ込んでくる。

 

「気功、か。いい特技持ってんな…………」

 

「痛みを和らげるだけです。すぐに処置しないと。城に急ぎましょう。隊長達を待っている時間がありません」

 

「この女も、連れてかねぇと」

 

「おーい! 二人ともお昼は済ませ…………」

 

「隊長、どうして固まってるの? ってどうしたのこの状況!?」

 

「いいところに来てくれた! 馬淵殿が襲われた! すぐにでも城に戻るから手伝ってくれ!」

 

「一刀君、肩貸して……大丈夫とは思うが、三人は念のため、あの女を、いつつ」

 

「む、無理しないで下さいよ龍見さん!」

 

 傷を刺激しないようにゆっくりと城へ向かう。龍見は自分でヒーリングを施しているのでまだまだ余裕はある。

 城に到着すると一刀が門番へ事情を話し、すぐに龍見は治療を受けた。麻酔がないので仕方がないのだが、短剣を抜かれる時が一番痛かったらしい。傷口に包帯を巻かれ、龍見は寝具に横になった。

 

「はぁ…………まだじんじんする」

 

ーーコンコンッ

 

「? 一刀君か? 入っていいぞ」

 

「お邪魔するわ」

 

「おっと曹操さんでしたか。この世界に扉を叩く習慣はなかったと思いますが、一刀君の影響ですか?」

 

「ええ。口調くらいもっと楽にしていいわよ」

 

「んじゃそうする。オレに何か用、ってか用がないと来ないか。どんな用だ?」

 

「謝罪しに来たのよ。誰の仕業か知らないけれど、私の国で客人に怪我をさせた。あってはならない事だわ。ごめんなさい」

 

「気にしちゃいない。オレが悪いからな」

 

「そう。でもこちらとしては同じ事を繰り返してはならないわ。この国にいる間は護衛を付けさせてもらうわよ」

 

「あいよ。それがあんたなりの謝罪なら受け取ろう」

 

 ここで断るのは相手の顔に泥を塗るだけと考え、遠慮せずに提案を受け入れる。

 

「理解が早くて助かるわ。貴方の護衛をするのは凪よ。凪、入ってきなさい」

 

「失礼いたします」

 

「今回の問題は凪が近くにいながら起こった事という事で、責任を取らせて凪に護衛をさせるわ」

 

「とか言いながら、楽進さん本人の要望じゃないですか? 守れなかったのは自分の責任です。だからこそ自分に護衛をやらせて下さいとか」

 

「な、何故分かったのです!?」

 

「生真面目だから分かりやすいんだよ」

 

 とはいえ当たりとは龍見も思ってはいなかった。想像以上に楽進は単純らしい。

 

「では凪。今から馬淵龍見の世話をしなさい」

 

「はっ! 馬淵殿、暫くお世話させて頂きます」

 

「よろしく。あ、龍見って呼んでくれ。暫く一緒なのにずっと馬淵殿じゃ堅苦しくて仕方ねぇ」

 

「では龍見殿と」

 

「殿はいらねぇんだけど、まあそのくらいはいいか。そうだ曹操さん、術の指南は聞きたい人だけ自由にオレのところに聞きに来るよう伝えておいてくれ」

 

「何故全員ではないのかしら?」

 

「オレの話はつまらんらしい」

 

「ふふ、分かったわ」

 

 笑い話じゃないんだけどなぁ、と凹む龍見。曹操は楽進にしっかりやるよう伝えて部屋を出ていき、部屋には龍見と楽進の二人だけになった。

 

「とりあえず大人しく寝るかね」

 

「あっ、龍見殿、その、お願いがあります」

 

「ん、言ってみ」

 

「これから私の事は真名で呼んで下さい」

 

「唐突だな。君に認められるような事をした記憶はないが」

 

「私なりの謝罪の形の一つです。それに自身が怪我をしたというのにあの落ち着いた対応。これだけで真名を預けるには十分だと判断しました」

 

 あれは混乱しすぎたがために逆に冷静になっていただけだが、訂正しても彼女は考えを曲げないだろう。

 

「ふーむ、まあ本人が許可しているのを断るのもおかしな話だしな。分かったよ。これから暫くよろしく、凪」

 

「はい!」

 

「早速で悪いけど、ちょっと飲み物取ってきてくれないか? 喉が渇いちまった」

 

「すぐにお持ちします」

 

「ゆっくりでいいよ」

 

 飲み物を取りに凪が部屋を出てすぐ、龍見は貂蝉へとテレパスを送った。

 

『数日ぶりねぇ。もしかしてもう浮気しちゃった?』

 

「簡潔に用件を伝える。馬鹿道士二人が逃げ出した可能性がある」

 

『根拠は?』

 

「催眠に掛かった市民に襲われた。残留魔力は于吉のそれだ」

 

『分かったわぁん。すぐに調べてあげる』

 

「ああ」




贔屓ッッ!! 圧倒的凪贔屓ッッッ!!!!
龍見君刺されましたね。ロリコンに制裁を…………えっ? 俺も?

この小説は作者の欲望と妄想と我が儘で成り立っております。


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第二十六話

一部の方々へお願い
暫くの間、感想での憲兵ネタを禁止します。作者もああいうネタは大好きなので悪乗りしまくっていました。申し訳ありません。でもそろそろ止めておかないと感想でない感想も増えそうですし、新規の皆さんも感想を書きにくい空間になってしまいますので(経験談)
守れない人はいないと思いますが、もし守られなかった場合は相応の対処をしていきます。でもネタ感想を禁止するわけではないですよ。目立ちすぎた憲兵ネタのみを規制するだけです。

あ、そうだ。今回は中身のない話です。


 魏には術の才能溢れる人材が多い。蜀よりも分母が大きいのだから必然的にそうなるのだが、だとしてもやはり多いのだ。

 

「荀彧さんは飲み込みが早いな。教える側としても楽しいよ」

 

「あんたに褒められたって嬉しくもなんともないわよ。こんなの華琳様の命令じゃなければ参加しないんだから」

 

「自由参加だから無理しなくてもいいんだぞ。あ、その術式は違うぞ」

 

「えっ、どこ?」

 

「こことここ。順序が逆だ」

 

「黒のおにーさーん、教えてほしいのですよ」

 

「はいはい…………程昱、これはお前にはまだ早いって」

 

「やりたいですけどまだやりませんよ。でも知識を付けるだけなら問題ないはずですよ」

 

「早い…………ヤりたい…………ブフーッ!!!」

 

「のわっ!? 郭嘉てめぇまたくだらない妄想しやがったな!! まずてめぇはヒーリング覚えろ!」

 

 荀彧は男性嫌いであるために不平不満は多いが、やるとなると龍見の言う事をよく聞く。あくまで教師と割り切っているのだろう。

 程昱はとても自由奔放だ。言いつけは守るが、とにかく色んなものに手を出そうとする。

 そして龍見が一番の問題と思っているのが郭嘉だ。性格は常識があるし、教えた事はしっかりと覚える。だが何故かよく妄想しては鼻血を噴き出すのだ。彼女の鼻血を治すために龍見のヒーリングの腕は日に日に上達している。

 

「相変わらず大変そうね」

 

「でも楽しいぜ。特に曹操さん、あんたみたいな生徒はな。あんたの成長は早すぎだぜ」

 

「それは凪にも言える事でしょう」

 

 軍師三人の成長は早い。だが曹操の成長はそれを遥かに上回る。そしてそれに等しい速度で成長しているのが凪だ。

 

「凪はオレに付きっきりだからな。いつでも教えてやれる。だがあんたは政に部下の管理、その他もろもろをやりながら凪と同じ成長速度だ。天才ってどこにもいるもんだな」

 

「肉体の成長は他人より劣っているもの。多少は他の才能で補わないと釣り合わないわ」

 

 本人はこう言っているものの、比べる相手が夏候惇といった恵まれた体を持つ一流の武将だ。比べる対象が悪い。

 

「龍見殿、日課の修練は終わりました」

 

「おう、ご苦労さん。なら警羅すっぞ」

 

「その前に薬を塗って下さい」

 

「っと、そうだった」

 

「あの子達は放置していいのかしら?」

 

「いいよ。オレがいなくたってあいつらなら大丈夫だ。それに曹操さんが来てくれたから無茶はしねぇだろ」

 

 立ち去ろうとした龍見は少し考え込むように立ち止まり、曹操の方へと振り返った。

 

「独自に考えた術をオレに試すのは自由だけど、変なもんはやめてくれ。触手を纏わせる幻術ってなんだよ。少なくとも男にやるもんじゃねぇ」

 

「流石に無効にしたのね。ちょっと自信があったのだけれど」

 

「どんな自信だよ」

 

「華琳様にそんな事をされるなんて、うらやま、妬ましい!」

 

「どっちにしろ嫉妬かよ」

 

「ブッハーッ!!」

 

「また鼻血か。もういい。凪、行こうか」

 

「は、はい。分かりました」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 警羅といっても龍見がやる事は何もない。客人なので働かなくてもいいと凪に言われているので働かせてもらえない。なのでやる事は必然的に暇潰しとなる。

 

「ふーむ、どうすっかな…………」

 

「紙を見て何を悩んでいるのですか?

 

「凪がどうやったらオレを殿付けしないで呼んでくれるか」

 

「えっと、それは、慣れが必要かと」

 

「本当は真桜に頼まれた『馬淵流術式付真桜式食品冷却保存装置・冷蔵候』の設計図を描いてるだけだよ。ぶっちゃけオレらの国の冷蔵庫って保存庫を思い出して描いてるだけなんだけどさ」

 

 さりげなく李典の真名を口にした龍見だが、凪の真名を預かった後、李典と于禁にも真名を預けられたのだ。凪が認めたなら別に良いとの事らしい。

 

「な、長い名前ですね」

 

「それはオレも文句言ったんだが、改善するつもりはないらしい」

 

「あっ! 黒の兄ちゃんだ! おーい!」

 

「許緒じゃねぇか。また飯でも食ってんのか?」

 

「違うよぉ。流琉と料理の食材を買いに来たの」

 

「んで典韋は店の中で食材探し。お前は暇になったから外で団子でも探してたってとこだろ」

 

「うっ、大当たり」

 

「分かりやすいんだよ」

 

 このピンクの髪色をした小柄な少女は許緒。見た目に合わず凄まじい力を持ち、大食いな子だ。

 

「季衣、お待たせ。あれ、馬淵さんこんにちは。どうしたんですか?」

 

「この食いしん坊が買い食いしようとしていたのを止めただけさ」

 

「ちょっと黒の兄ちゃん! まだやってないから!」

 

「まだって事はやろうとしてたのよね」

 

「げっ、しまった」

 

「今日は好きなもの作ってあげるから我慢してって言ったでしょ!」

 

 許緒に小言を言っている少女は典韋。許緒の幼馴染みで、同じく怪力の持ち主だ。料理の腕は一級品で、才能の塊である曹操も彼女に料理の批評を頼むほどだ。

 

「そろそろ警羅に戻るか。凪、寄り道して悪かったな」

 

「いえ。真桜や沙和よりは短いですのでいいですよ」

 

「…………あの二人なら不思議でもないか」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ーーザパァッ

 

「ふぃー、やっぱ風呂はいいねぇ」

 

 一日何もなく、ただただ警羅をしていただけの日。それでも風呂は気持ちいいものだ。特にこの世界ではお湯を大量に沸かしたり、温泉にしても掃除が大変なので風呂は数日に一回の場合が多い。

 

「龍見さん、もう入っても大丈夫なんですか?」

 

「何言ってんだ一刀君。駄目に決まってるだろ」

 

「なら入らないで下さいよ!!!」

 

「冗談冗談。実際はもうほぼ完治してるさ。明日は慣らしで夏候惇と夏候淵に手合わせを頼むつもりだ」

 

「あの二人にですか?」

 

「軽くな。同時にやるわけでもねぇし、大丈夫だろ」

 

「龍見さんって強いですよね。体もかなり鍛えてますし」

 

 一刀も鍛えていないわけではない。だが龍見と比べるとまだまだ劣る。一対一で戦えば術がなくとも一刀は負けるだろう。

 

「まあな。ある神様が鍛えろって五月蝿かったんだ。でもお陰で今は仲間と戦えてる」

 

「龍見さんはどれくらいの神様と知り合いなんです?」

 

「ふむ、知り合いとなるとそれなりにいるが、契約してるのは四柱と一つだな」

 

「? 一つ、ですか」

 

「この神様はまだ神というより現象に近いからな。んで、詳しく聞きたい?」

 

「はい」

 

「オレが契約してるのは祟り神、冥府の神、戦の神、自殺の神、そんでさっき言った現象に近い神だ」

 

 祟り神は連合軍を一瞬にして無力にしたミシャグジ様というのは一刀にも分かった。冥府の神も戦の神も有名どころはなんとなく思い浮かぶ。しかし自殺の神だけは意味すら分からなかった。

 

「長風呂するのも体に悪いし、今言った中の誰かについて話してやろう」

 

「じゃあ、気になるんで自殺の神様について」

 

「この方は日本じゃマイナーだよな。名前はイシュタム。女性の神様、つまり女神だ。主に首吊り自殺した人や戦死者を極楽浄土へ連れていってくれる方だ。初めて会った時は驚いたな」

 

「どういう出会いだったんですか?」

 

「あれは中三の時、近所で事件があったらしく警察が集まっていたんだ」

 

 その時龍見は学校も終わり、やる事もないので家でゲームでもやろうとさっさと帰宅している最中だった。そんなところで警察が集まっているのを見つけたものだから暇人の野次馬根性が疼くというもの。

 先に集まっていた野次馬に話を聞くと、どうやら家の主が首を吊って自殺していたらしい。その程度かと興味を失った龍見だったが、とある異様な気配を感じ取って肩を震わせながらその場にしゃがみこんだ。

 

「この気配は過去にも何度か感じたんだが、いや慣れないのなんの」

 

「もしかして、それが神様の?」

 

「そう。気配がする空を見ると、一本の紐がスーッて降りてくるんだ。ちょうど国語でやってた蜘蛛の糸って話を思い出したが、それは違った」

 

 降りてきた紐の先には何かが付いていた。遠目ではよく分からず視力を強化した龍見は思わず二度見した。そこには長いボサボサな黒髪をし、褐色な肌の至るところに刺青をした首を吊った女性が付いていたからだ。

 

「ちなみに二度見をしてからガン見した。何でだと思う?」

 

「目を離せなかったからとか」

 

「裸だったから」

 

「えっ?」

 

「全裸だったんだよその女性が。健全な思春期の男児がそれをガン見しない理由がない! 二十歳過ぎの若い肌。無駄な贅肉はないのに胸はFカップくらいあって、大人の雰囲気ムンムン。なのにアソコには毛の」

 

ーーシュルルッ

 

「グギュッ!!?」

 

 突如として現れた紐が龍見の首に絡まり、そして宙へと持ち上げた。

 

「人の、んにゃ神をオカズにするような話をするのはどーかと思うなー」

 

「うおっ!? だ、誰だ!?」

 

「アタシイシュタムでーす」

 

 いつの間に風呂に入っていたのか一刀の隣には先程の龍見の証言通りの女性がいた。首にはしっかりと紐が絡まっており、風呂に入りながらも首吊り状態だ。

 

「はっ! それより龍見さんは」

 

「……………………」

 

「死んでるわー」

 

「えぇぇっ!!?」

 

「だいじょーぶ。そろそろあれが起動するしねー」

 

 何が大丈夫なのかと訊こうとした一刀だが、少し目が眩んでしまった。逆上せてしまったのかと思った一刀が見たものは、何事もなく湯に浸かる龍見の姿だった。

 

「また死んだじゃないですか…………今回はオレが悪いですけど」

 

「反省してるならいーよ」

 

「えっ、あの、なんで」

 

「現象に近い神様の力…………怠い…………もう寝る。一刀君も、浸かりすぎには注意しな…………」

 

「は、はい」

 

「アタシも仕事しようかねー。つらいわー。戦死者多くてつらいわー」

 

 ふらふらとしながらもさっさと風呂から出ていく龍見と、首に絡まった紐に吊り上げられるように天に昇っていくイシュタム。それを見ながらも一刀は本当に胸でけぇと心の中でひっそりと思うのであった。




唐突に出てきたイシュタムさん。彼女は別に強いわけでもなければ、契約によって龍見に何か恩恵があるわけでもないです。強いて言えば死に対する認識が希薄になり、自分が死のうが他人が死のうがそんなに感情が動かないくらいです。
じゃあなんで契約してるのかというと思春期真っ只中な龍見が

全裸のナイスバディーな神様がいる→契約する→いつでも全裸を拝める→ktkr

という短絡的で最低な変態的思考をしたせいです。

ってかこの主人公よく死ぬな。最終回までに何度死ぬんだこいつ。


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第二十七話

ロリは好き。巨乳も好き。でもロリ巨乳は邪道。


「完治していますね。もう自由にしていいですよ」

 

「ありがとさん」

 

 やっと医師から完治の報告を受けた龍見は意気揚々と歩いていた。完治前に夏候惇に手合わせを頼んだ時には曹操によって強制終了させられたが、今回はそうはならない。

 

ーーコンコン

 

「夏候惇! 手合わせしようぜ!」

 

「ま、馬淵!? 今はまだ待て!」

 

「往生際が悪いわよ春蘭…………これで上がりね」

 

「あぁぁ…………華琳様強すぎます…………」

 

「何やっとんだ」

 

「構わないわ馬淵、入ってきなさい」

 

「あいよ」

 

 部屋では曹操、夏候惇、夏候淵の三人がカードを囲んで鎮座していた。そのカードの絵柄には龍見も見覚えがあった。

 

「トランプ? 一刀君が作ったのか?」

 

「ええ。ちょっとした決め事には便利よ」

 

「馬淵ぃ! いつの間に華琳様と秋蘭に読心術を教えたのだ!」

 

「はぁ? んなもん教えてねぇよ。術による読心は難易度が高いんだ。曹操さんなら教えればやれるかも分からんが、夏候淵は絶対に無理だ。お前だって夏候淵が術はかじる程度しかやってないのは知っているだろ」

 

「だったら何故わたしがばば抜きで負けるのだ! 二人共手札が見えているかのようにばばだけを回避したぞ!」

 

「そりゃお前…………顔に書いてあるし」

 

「? 何かを書かれた覚えはないぞ」

 

「表情に出やすいって意味だよ。どうせ曹操さんも夏候淵さんもそれで判断したんだろうさ」

 

 感情が表に出やすい夏候惇は何かとあればそれが表情になる。更に好き嫌いもはっきりしているのでそれも関わっているのだろう。指摘され悔しそうな顔をしている夏候惇を見て、曹操も夏候淵も愛玩動物を見るような様子で笑っている。

 

「ぐぬぬ…………」

 

「あ、曹操さん、こいつと手合わせするんで借りるよ」

 

「その相手なら私がするわ」

 

「…………その権利を賭けたトランプだったか。目的は分からんが、オレでいいなら相手になろう」

 

「では早速やりましょう。貴方も準備は済んでいるんでしょう」

 

「おう」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 曹操は訓練場の一部を龍見との手合わせのために空けておいた。そこには誰が呼んだのか観客も集まっている。

 

「片方が敗北を認めるか、秋蘭が止めに入った時点で終わり。それでいいかしら?」

 

「手合わせだしな。そんなもんだろ。かるーく頼むぜ」

 

「ふふふ。秋蘭、合図をなさい」

 

「はっ! では、始め!!」

 

 先に動いたのは曹操。距離が離れているというのに大鎌を振りかぶり、空を切り裂いた。それによって鎌鼬が発生し、龍見へと襲い掛かる。

 その攻撃を龍見は片手を突き出しただけで反射させた。返ってきた鎌鼬を曹操は軽く掻き消す。

 

「反射するなんてね。少し驚いたわ」

 

「生徒の術に負けるわけにはいかねぇよな。それに鎌鼬ってのは、こうするもんだ!!」

 

 龍見が両手を振り上げ、まるで剣を降り下ろすかのようにすると凄まじい突風が巻き起こる。それは地面を抉りながら曹操へと突き進んでいく。範囲は広く避けるのは困難と判断した曹操は鎌鼬に大鎌をぶつけた。元は空気であるものとの衝突だというのに火花が散る。

 その間に龍見は曹操に向かって走った。元々は龍見のリハビリがてらの手合わせ。自身が動かなくては意味がない。曹操が鎌鼬を防ぎきった瞬間を狙って、龍見は短刀を突き出す。大鎌と短刀。懐に入ってしまえば圧倒的に自分が有利と龍見は考えていた。だがそれは甘い考えだった。

 

「無駄ね」

 

「んなにぃ!?」

 

「この距離なら術師でも勝てると思ったかしら?」

 

 短刀による攻撃はあっさりと受け流され、 大鎌が龍見を引き裂こうと振るわれる。何とか回避しているものの、所々に切り傷を作られる。耐えきれなくなった龍見は後ろに跳んで下がるが、それはただの隙でしかなかった。

 

「そこよ!」

 

「結界起動!」

 

 決定的な隙を逃す曹操ではない。しかし龍見の行動が一歩早かった。恋との手合わせでも使った結界によって一時的に曹操の動きを封じる。

 

「! 解呪!」

 

「おいおい、簡易なものとはいえオレの結界を解くのかよ」

 

「教えたのは貴方よ。この距離は私の間合いだけど、続ける?」

 

「ああ。久しぶりにやりたい事もあってな」

 

「そう。なら死なない程度に痛め付けてあげるわ!」

 

「久々に起きろ、死霊達よ! ネクロマンシー・デスハンド!!」

 

 地面から這い出てくる骸骨の手。それを見ても曹操は怯む事なく前へ出た。龍見にとって予想外の行動だ。様子見で僅かにでも下がるだろうと思い込んでいた。その思い込みが致命的だった。

 

「喰らいなさい!」

 

「ちぃっ!」

 

 大鎌が首へと吸い込まれる。防御は間に合わない。ならばデスハンドで曹操を捕まえるしかない。最大の魔力を込めてデスハンドを最速で動かす。

 

「そこまで!!!」

 

 その一言で曹操も龍見も動きを止めた。大鎌は僅かに龍見の首に食い込み、デスハンドは曹操に触れていた。夏候淵が止めに入らなければ龍見の首は飛んで、曹操はデスハンドに握り潰されていただろう。

 

「痛み分けといったところね」

 

「オレの負けだろ。最終的にはどっちも死んでたかもしれねぇけど、先に死んだのはオレだ」

 

「私は過程より結果が大切だと思うけどね。なんであれこれで決まったわ」

 

「何が?」

 

「馬淵龍見。貴方は私の真名を預けるに価する存在よ。貴方は私の真名を受け取るだけの自信はある?」

 

「…………いやはや、そんな事を言われたのは初めてだ。受け取らせてもらおう。華琳、よろしく頼む」

 

「なら私も龍見と呼ばせてもらうわ」

 

 一部、というか荀彧のみがそれを恨めしそうに見ていたが、あまり関わってはいけないと龍見は極力気にしない事にした。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 ある山奥に逃げ出した左慈と于吉は潜んでいた。

 

「于吉! 何故馬淵龍見を殺さない!!」

 

「あの奇襲が失敗して以降は警戒を強めています。下手に手出しは出来ません」

 

「ならば数で攻めろ!」

 

「傀儡はそう簡単に増やせませんよ。何より今は馬淵龍見は各国と同盟を結んでいます。あれらの軍相手には分が悪すぎます」

 

「チッ! この役立たずが!!」

 

ーードガッ

 

「ぐっ…………」

 

 怒りに身を任せて左慈が于吉を蹴り飛ばした。壁まで飛ばされた于吉は何か言うわけでもなく、ただただ耐えていた。

 

「必ず馬淵龍見を殺すんだ! それが俺達の使命に繋がる!」

 

「ええ、分かっています…………そろそろ拠点を変えましょう。貂蝉が嗅ぎ付ける頃でしょう」

 

「ふん」

 

 左慈が出ていってから于吉は大きく息を吐いた。

 

「左慈、私達の使命は違うでしょう。ただ、正史に影響を与える外史を無くす事。そこにあの男の殺害は必要ないはずですよ。それにもう、この外史は…………」

 

 于吉は立ち上がり、変わってしまった相棒を追い掛けて歩いていった。もう彼を止めるのは不可能。ならば地獄の底まで付き合おう。それが自分の役目だと信じて。




最後のホモはいらない? 字数稼ぎだ気にするな。


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第二十八話

肝心なシーンが短い上にヤる事やらない作者の屑


「馬淵と凪は付き合っているのか?」

 

「はっ? 秋蘭、突然変な事言うんじゃねぇよ。オレには奥さんがいるって言わなかったか?」

 

 唐突に、しかもそういう話には興味のなさそうな秋蘭からそんな事を言われた龍見は目を丸くした。ちなみに華琳の真名を預かってからは全員に真名を預けられている。

 

「それは知っている。だが噂というには証拠が多すぎてな」

 

「詳しく聞こうか」

 

「まずはお前の怪我が治ってからも凪と一緒な事が多いだろう」

 

「まあな。よく術についても聞かれるし、やる事がないから警羅にも付き合っている」

 

「夜な夜な会っているという話もある」

 

「会ってるぞ。主に術の指南だな。覚えがいいからつい熱が入っちまうんだ…………確かに端から見れば付き合っているわこれ」

 

「今気が付いたのか…………北郷も大概鈍感だが、お前も相当だな」

 

「…………実は気付いてたけど、止めてくれなんて言えねぇじゃん」

 

「ならば凪が最近思っている事も分かっているのではないか?」

 

 龍見の口がピタリと止まる。漏れるのはあー、だったり、うー、だったりと言葉にならないものばかり。

 

「成る程、本当に気が付いているようだな」

 

「一応、な。たぶん華琳さんと手合わせした頃だろうな。凪のオレを見る目が変わっていったのは気付いてた」

 

 気付いていながらも気付かないようにしていた。付き合っているという話が出た瞬間も内心ビクビクしていた。

 

「馬淵、決めるのは今だぞ。早めにしなければ無駄に期待を膨らませるだけだ」

 

「分かっちゃいるけど、悲しませたくないって言うか…………」

 

「その優しさは大切だが、時として仇となるんだ」

 

「秋蘭は厳しいな」

 

「凪のためだ」

 

「そうだよな。ただどうするかはオレが決めさせてもらう」

 

 答えなど決まっている。恋の事を思うならば断るのが当然だ。しかし龍見はそれが言い出せず、その場から逃げる事しか出来なかった。

 龍見が立ち去った後、秋蘭は華琳の部屋へと向かった。

 

「華琳様、私です」

 

「入りなさい」

 

 華琳の部屋には華琳は当然ながら、おどおどしている凪もいた。

 

「あの、華琳様。何故私は呼ばれたのでしょう?」

 

「そうね、もう教えてもいいかしら。凪、貴女は龍見が異性として好きなのでしょう」

 

「あ……えっ…………それは」

 

「そんな顔をしなくてもいいわ。別に怒りたくて呼んだ訳じゃないのよ。それでどうなの?」

 

「その、通りです。でも将来敵になる方を好きになるのは…………」

 

「いいじゃない。恋をするのは素敵な事よ。秋蘭、龍見は凪について何か言っていたかしら?」

 

「少なからず凪が好いているのには気が付いていたようです」

 

「ぇっ!?」

 

 凪としては秘めていた想いが気付かれていたのだから動揺する。華琳はそれを聞いて頷いていたので、龍見が気が付いていたのを察していたのかもしれない。

 

「それなら話は早いわね。凪、龍見と逢い引きしなさい」

 

「そ、それは……龍見殿は奥さんもいますし」

 

「そんな事は問題ではないわ。というかあの男、蜀でも何人かに手を出したという話よ。妻の存在は気にしなくてもいいはずよ」

 

「ですが、龍見殿にもそれなりの理由があっての事でしょうし、何より突然逢い引きというのは…………そ、それに傷だらけの自分など見向きも」

 

「沙和! この子に化粧して龍見の前に放り出しなさい!」

 

「はーい! なの」

 

「さ、沙和!? お前どこに隠れて」

 

「はいはーい、さっさとお化粧するの」

 

「ま、待て! 私がそのような」

 

 沙和に連れていかれた凪を見て、華琳は少し不安げだった。華琳の凪の恋を応援したいという気持ちに偽りはない。だが他の思惑もあった。

 

「凪が上手く龍見を落としてくれればいいのだけれど」

 

「そうですね。戦場で確実に馬淵を封じるには、馬淵が思い入れのある相手をぶつけるのが一番でしょう」

 

「神なんてものを呼ぶ男ですものね。もし凪と肉体関係を持ってくれれば御の字ね。あの男が情に流されやすいのは一刀を病気にしなかったので分かっているし。問題は凪がそこまで辿り着けるかよねぇ…………遠見の術で観察しましょう」

 

「術を使いこなしていますね。流石です」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 龍見はどうやって断るかを一人でボーッと考えていた。傷付けたくないというのがエゴなのは分かっている。だが出来るならば凪には悲しんでほしくない。

 

「嫌われていくか…………んん? テレパス?」

 

『聞こえる? 僕だけど』

 

「詠? もうこの距離のテレパスが可能になったのか。すげぇな」

 

『感心するのはいいけど、そっちはどう? もう浮気した?』

 

「しねぇよ!!」

 

『ヤればいいじゃない。期待しているのよ』

 

「なんでだよ?」

 

『ヤるだけヤってもらって相手が孕めば戦力減るじゃない』

 

「最低だなおい!!」

 

『恋から許可は取ってるわ』

 

「…………そういえば恋の本心はどうなんだ?」

 

 恋は確かに龍見の浮気について了承している。だがそれが本心かは分からない。もしかしたら無理をして言っているだけで、内心嫌がっているかもしれない。

 

『ちょっと待ちなさい…………ああ、そうなの』

 

「また傍にいるのか」

 

『むしろまだヤっていないのに驚いているわよ』

 

「おいぃぃぃぃぃぃっ!!?!?」

 

『五月蝿いわよ。とにかくヤれる機会があればヤりなさいよ。命令だからね』

 

「待て! そんなめいれ…………繋がらねぇ」

 

 きっちりと接続と切断を使い分けている詠の成長を嬉しく感じる反面、とんでも命令に頭を抱える龍見に誰かが声をかけてきた。

 

「龍見さん! やっと見つけたの」

 

「沙和、と凪か。どうした? 特に凪」

 

「いえ、あの…………沙和、やはりこの格好は」

 

「今更何言ってるの! 隠れてないで腹をくくるの!!」

 

「やーめーろー!」

 

 廊下の角から顔しか出していない凪を沙和は引っ張る。普段ならば確実に凪が勝つのだが、今回に限り沙和が勝った。

 引っ張り出された凪の格好はまるで女子高生の制服のようで、恥じらってもじもじとしている姿が非常に愛らしかった。

 

「お、おぉ、その格好は?」

 

「こ、これは沙和に無理矢理」

 

「二人とも顔が真っ赤かなの。それじゃあ沙和はこの辺りで、お二人さんは楽しんでくるといいの」

 

「いや沙和、説明しろよ」

 

「凪ちゃんから聞いてー」

 

 とっとと退散する沙和。追いかける間もなくいなくなってしまったので仕方がなく凪に説明を求めるしかなかった。

 

「…………凪、悪いが説明頼む」

 

「あの、その、私と龍見殿で、あ、あ…………逢い引き、してこいと」

 

「…………行くか」

 

「へっ?」

 

「どうせ拒否権はねぇんだろ。華琳さんも遠見の術で覗き見してやがる」

 

「え、あ……!」

 

「ほうほう、気付いたか。偉いぞ」

 

「頭を撫でないで下さい…………」

 

 言葉では拒否するものの行動には出さない。むしろ気持ち良さそうでもある。龍見はその間に華琳の遠見の術を無力化していた。何をするにせよ見られ続けているのは良い気分ではない。

 

「どこか行きたいところはあるか?」

 

「そういった事は決めていませんね」

 

「なら適当にぶらつくか。なんか普段の警羅と変わらねぇな」

 

 苦笑いしつつ歩き出す龍見は然り気無く凪と手を繋いだ。それも指を絡めた俗に言う恋人繋ぎというものだ。

 

「あっ…………」

 

「こういうのは嫌だったか?」

 

「そ、そんな事はありません…………」

 

「ならいいじゃねぇか。逢い引きするんならこんくらいやらねぇとな」

 

 やるならとことんやると決めている龍見は吹っ切れて

いるので問題ないのだろうが、そうではない凪の顔は先程よりも赤くなっていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 街へ繰り出した二人だが、その姿はかなり周りの注目を集めていた。普段から警羅で見る組み合わせだというのにその格好は恋人のそれなのだ。

 

「おいおい、そんなに顔を伏せてたらぶつかるぞ」

 

「しかし、恥ずかしいです…………」

 

「何も恥ずかしがる必要ねぇよ。警羅している時だってイチャイチャしている奴らを見た事あるだろ」

 

「見るのとやるのは違いますよぉ」

 

 恥ずかしがる凪の姿がとにかく可愛く感じる龍見だが、あくまでこれは仕込まれた逢い引き。ここで凪に手を出したら間違いなく仕込んだ者の思惑通りだ。龍見は逢い引きはするが、凪の練習という形と割り切っているつもりであった。

 

「甘いもの食いたくないか? この辺りに流琉ちゃんのオススメの店があるんだ」

 

「は、はい。お付き合いします」

 

「固いなぁ。凪らしいんだけどな。こっちだこっち」

 

 それからは何をするわけでもなく、普通のデートを心掛けて色々な場所を回った。一緒に甘いものを食べた。一緒に買い物をした。一緒に旅芸人の音楽を聴いた。ただ何をしても凪の緊張は取れなかった。

 

「凪、これ食ってみ。はいあーん」

 

「わざわざ街中でそのような事はしなくても」

 

「そうか」

 

 自分がぽりぽり食べていたあられを凪にあげようとした龍見だが、あーんは拒否されてしまう。なるべく距離を近付けようとしているつもりだが、それも上手くいく気配はない。

 

「…………凪、楽しくないか?」

 

「そ、そんな事は」

 

「でも無理はしてるんじゃないか? いやオレが無理させ過ぎた。ごめんな。今日のところは終わりにしよう。元々互いにやりたくてやってるわけじゃないんだしさ」

 

「あっ……………………龍見殿。でしたら最後に我が儘を聞いてもらえますか?」

 

「何だ?」

 

「いつものように、辛いものが食べたいです」

 

「そんな事か。そうだな、無理してこんな逢い引きするよりそっちの方が楽しいもんな。よっしゃ! 今日は奢ってやる! どこにする?」

 

「ありがとうございます! あまり辛いと服に臭いがついて沙和に怒られますし…………そうだ! あのお店にしましょう!」

 

 自然体のままに食事を楽しむ二人。今日大分無理をした反動か、二人とも心行くまで辛い料理を堪能した。結局服に臭いは付くわ、汁は飛んだわで沙和には怒られ、華琳からは遠見の妨害についてねちねち言われてしまったものの、二人にとってその日一番楽しめた時となった。




本来ならね、エロに移行する予定だったんですよ。でもなんだか手を出せなかった。ガイアがまだ手を出すべきではないって言うんですよ。むしゃくしゃしたので次回はエロ書きます。凪じゃないけど。

オマケ!!!

逢い引き後の夜 凪編

凪「それでな、龍見殿がな、私のためにもう色々としてくれてな」

真桜(zzz)

沙和(真桜ちゃん! 起きるの!)

真桜(ハッ! また寝とった…………)

凪「む、聞いているのか? 全くお前らは。いいか、龍見殿は本当に私を思って」

真桜(これ何度目や?)

沙和(十から先は数えてないの)

真桜(頼むから寝かせてくれんかなぁ…………)

凪「ふふふ、また龍見殿と出掛けたいな」

逢い引き後の夜 龍見編

龍見「ああ、そうだ。逢い引きした。相手の練習みたいなもんだ」

詠『つまらないわ。報告するならもっと派手なのにしなさいよ。一応恋には伝えるけど、特に反応ないと思うわよ』

龍見「それならそれでいい。しかし凪、楽進は良い子だよ。これまでだったら逢い引き後に襲われてた」

詠『あんた、それは普通じゃないから』

龍見「分かってるよ。ただ楽進もオレを好いてるようだから、絶対にないとは思うがもしかしたらがあるかもしれねぇぞ」

詠『もしかしたらとかはいいからヤりなさいよ。恋や月も楽しみにしているから』

龍見「…………恋はオレの浮気を期待しているのか?」

詠『魅力的な自分の旦那が襲われないのはおかしいって今日言っていたけど』

龍見「一度恋には教育してやってくれ」

詠『時間があればね。じゃ』

龍見「あっ、待て。月もって…………切られた。月が何故浮気を期待するんだ?」


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第二十九話【R-18】

? あれ、書きたかったんと違う…………


「幻術を覚えたい?」

 

「はい、お願いします」

 

 朝にランニングをしている龍見を捕まえた稟は幻術を習得したいと頼み込んだ。意図は分からないが、自分を頼ってくれる彼女の願いを龍見は喜んで受け入れた。

 

「オレが教えられる範囲ならいくらでも教えてやるよ。今からでも良いか?」

 

「ありがとうございます。私の部屋でも良いでしょうか?」

 

「ああ、それがいいならそうしよう」

 

 稟は早速自室に龍見を招き入れた。整理が行き届き、余分なものも殆どない部屋だ。稟がお茶を淹れてくると龍見は早々に幻術について指南を始めた。

 

「まずは基本の復習だ。幻術とは脳の支配。思い込みの延長線上ってのは教えたな?」

 

「はい。思い込みを術によって操作するのが暗示や催眠。その上位が幻術でしたね」

 

「そう。つまりは暗示や催眠を覚えないと幻術を使うなんてのは夢のまた夢だ。とはいえ稟は心配なさそうだがな」

 

「? 何故でしょう」

 

「鼻血噴き出すくらいの妄想が出来るからだ。想像力は幻術において必須になる。それが十二分に補えている稟なら幻術なんてすぐだ」

 

「なんだか褒められている気になりません」

 

 ムスッとする稟の不満を龍見は笑って流す。普段鼻血を治療する龍見のちょっとした皮肉だ。

 

「論より証拠って言うし、やってみな」

 

「いきなりですか」

 

「基本は普段の指南で終わっている。華琳さんのせいで劣りがちに見えるが、お前らも才能は十分だ」

 

「分かりました」

 

「っと、注意があった。幻術は有り得るものを基本的に見せるんだ。自分でも想像出来ないもの、常識的に有り得ないもの、相手が信じられないものは今のお前じゃ幻術には出来ん」

 

「では龍見殿なら可能なのですか?」

 

「自分が想像出来ないもの以外はな」

 

「成る程。ではやってみます」

 

 稟は龍見に幻術を掛けようと集中する。龍見の言ったように基本は勉強済みだ。それに今は龍見は稟の現状を見ようとしているだけ。緊張する必要はない。

 龍見に言われたような条件を稟は想像する。自分が想像しやすく、現実的なもの。稟にとってそれは華琳だった。華琳と龍見。それが稟の想像内で合わさると…………

 

 

 

 

 

ーーーー

ーーー

ーー

 

 

 

 

 

 華琳の部屋で龍見は華琳に押し倒されていた。龍見の上半身は既に裸であり、華琳はそんな龍見の上で下着を脱ぎ捨てる。そして自身の陰部を龍見の顔に近付けて言った。

 

「舐めなさい」

 

「お断りだ」

 

 命令に対して即答で断る龍見に華琳は加虐心を擽られたのか実に嬉しそうな顔をした。彼女の周りには基本的に彼女に従う者ばかり。こうやって反抗するものはそうはいない。ましてやこの状況。殆どの男なら少しでも興奮するような状況下でも龍見の心はピクリとも動かない。

 

「離れろよ。オレにこんな事をさせて楽しいか?」

 

「愉しいわ。貴方のような男を屈服させるのを考えるとぞくぞくする」

 

「…………馬鹿だなぁお前は」

 

「? 何を、きゃっ!?」

 

 押し倒されていたはずの龍見がいつの間にか華琳を押し倒していた。龍見は優しげに華琳の頬を撫でるとそっと呟いた。

 

「オレはもうお前に屈服してるよ。チュッ」

 

「んっ…………ふぅ。ふふふ、本当ね。馬鹿は私だったみたい。でも主導権は、アンッ!」

 

「こんなに敏感で何が主導権だ? 少し触っただけでもう濡れたぞ」

 

「わざわざ見せるなんてイヤらしいのね」

 

「お誉めに預かり光栄です」

 

 手に付いた愛液を見せびらかし、最後は舐めとる龍見。なんだかんだ言いながらも嬉しそうな華琳。そんな二人の行為もすぐに佳境に入る。龍見は逸物を取り出し、華琳の陰部へと……………………

 

 

 

 

 

ーーーー

ーーー

ーー

 

 

 

 

 

「ブハーーーーーーーッ!!!」

 

「何故鼻血を噴いたーー!? てめぇまた妄想しやがったな!! その想像力は大切だが幻術と妄想はちげぇから!! ほれヒーリング!!」

 

「ず、ずびばぜん」

 

「これならお題とかを出した方がいいか…………犬を幻術で出してみろ」

 

「びぬ、でずが」

 

 犬、確かに犬は身近な動物だ。飼っている人もいれば野良犬もよく見る。魏に来るまでは旅をしていた稟は野生の犬も見た。

 稟は想像した。龍見の隣に犬がいる様子を。そういえば最近龍見に付いて回る凪の姿はどことなく飼い主になつく犬のようだ……………………

 

 

 

 

 

ーーーー

ーーー

ーー

 

 

 

 

 

 龍見は人通りの殆どない路地裏で凪に首輪を付けていた。

 

「よく似合っているぞ」

 

「龍見殿、これは…………?」

 

「もしオレの犬になるなら何だってしてやる。どうだ?」

 

「えっ、あ…………はい♪」

 

 一瞬戸惑いながらも、顔を赤らめた凪は龍見の提案を受け入れた。それを聞いて龍見は凪を抱き締めた。

 

「あっ、龍見殿、ちょっと苦し」

 

「犬が人の言葉を喋ったら駄目だろ? さあ、ワンって言ってみな」

 

「わ、ワンッ」

 

「よしよし、良く出来ました。さて何がしたい」

 

「…………」

 

 言葉で伝えようと思ったが、今は言葉を話す事を許されていない。故に態度で示すしかなかった。

 

「チュッ、ペロッ」

 

「んー、口付けしたいのか? そのくらいいくらでもしてやるぞ。あ、そうだ。犬が服を着ているとおかしいよな」

 

「ワン?」

 

「ここで脱ごうか」

 

「!? それは」

 

「言葉」

 

「んっ! ワゥ…………」

 

「凪は物覚えの悪い子じゃないだろ。脱ごうか?」

 

 龍見は丁寧に少しずつ凪の服を脱がしていく。抵抗する事もなく凪は首輪を付けたまま全裸にさせられた。更に龍見は四つん這いになるように命じ、凪もそれに従った。

 

「じゃあさっき言葉を喋った罰だ。お散歩だぞ」

 

「っ! クゥン」

 

「嫌がっても駄目」

 

 首輪に付いた紐を無理矢理引っ張り、龍見は全裸の凪を連れて人通りの多い通りへ……………………

 

 

 

 

 

ーーーー

ーーー

ーー

 

 

 

 

 

「ブッパーーーーーーッ!!!」

 

「何故また噴いたし!!? 犬でどうやったら噴けるんだ!? 獣姦か!? オレでやろうとしたのか!? ヒーリングヒーリング!!」

 

「うぁ、ずびばぜん」

 

「ただオレに犬の幻術を見せるだけでどうしてそうなんだよ。そうだ、一刀君なら」

 

「ブフーーーーーーッ!!!!」

 

「はえぇよっ!!? もしかして普段からそういう妄想してんのか!? やめろよマジで!! はいヒーリングヒーリングゥッ!!」

 

 結局妄想による鼻血が止まらないため、稟は一日ヒーリングの指南を受ける事となった。

 その晩、落ち込む稟の部屋に風が訪ねてきた。

 

「稟ちゃーん、どうでしたか? って聞くまでもなさそうですね」

 

「風ぅ…………」

 

「折角黒のお兄さんを誘えたのにそれじゃあ駄目ですよ」

 

「でもあの人の前だと緊張して」

 

「好きな人の前ですからねぇ。それでも稟ちゃんはちゃんと誘えたじゃないですか。あと一歩ですよ」

 

 いつからだったか、稟は龍見に惚れてしまっていた。男ならば一刀もいた。だが龍見には稟の興味を引くだけの豊富な知識があり、何だかんだ言いながらも鼻血を出した時には治療を欠かさずしてくれた。

 

「誰かを好きになったならちゃんと想いを伝えないと、華琳様みたいに察してくれるとは限りませんよ」

 

「それは分かっているわ」

 

「そんなんじゃ凪ちゃんに取られちゃいますよ。ただでさえ黒のお兄さんは奥さんがいるからって他の人に手を出さないのに」

 

 稟を風が応援しているその時、その会話を偶然聞いてしまった者が部屋の外にいた。

 

「稟殿が、龍見殿を…………?」

 

 たまたま通りがかった凪だ。まさか龍見を好きな人が他にもいるだなんて考えていなかった彼女にとっては衝撃的な事実だった。それが彼女を思いきった行動に走らせる。

 急いでその場を離れた凪は龍見の部屋へと向かった。そしてノックする事もなく部屋へと入り込んだ。中では龍見が窓から外を眺めていたようだが、凪の来訪に驚いている。

 

「突然入ってきてどうした? 何かあったのか?」

 

「龍見殿、無理を承知でお願いします。私を抱いて下さい」

 

「! 凪…………」

 

「龍見殿には奥様がいますし、龍見殿が奥様以外の女性を抱きたくないのは知っています。ですが、今晩だけでも、一回だけでも…………好きになった人に抱いてもらいたいんです」

 

「例えお前がいくらオレを好きになってもオレの一番は変わらないぞ」

 

「私にとっての一番も変わりません」

 

「本気なんだな?」

 

「本気でなければこんな事は言いません」

 

「そうか…………」

 

 ここまできて凪は後悔を感じ始めた。龍見はきっと受け入れてはくれるだろうが行為は断る。もしかしたらこれが原因でこれまでの関係が維持できなくなるかもしれない。そう思うと恐怖で体が震える。

 

「じゃあやろうか」

 

 だが龍見はあっさりとそう言った。




おかしいな。本来稟ポジションは桂花で、華琳が乱入して命令された龍見が幻術で桂花を触手攻めする予定だったのに、なんで稟がヒロインポジションを狙ってるんだ?
おかしいな。凪とのイチャイチャチュッチュッはもうちょっと先の予定だったのになんで次回なんだ?
おかしいな。龍見がどうしてこうもあっさりOKしてんだ? 病気か? 風邪でもひいたのかこいつ?

プロットや下書きをしないとこうなるという例。でも面倒なんでこれからもやるつもりはないです。

待て次回


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第三十話【R-18】

ヤるぞ!! そして何気に衝撃の事実が発覚?


 凪の告白から時間は遡り、稟の指南を終えた龍見が自室に戻った頃の事だ。一通の手紙を兵から手渡された。どうやら蜀かららしく、その丁寧な文字で雛里からだと龍見は一目で判断した。

 

『こんにちは先生。雛里です。お元気でしょうか? こちらは先生がいなくなってからは少し寂しく感じます。

この度お手紙をお送りしたのはただ文通をしたかったわけではなく、お伝えしたかった事が起こったからです。単刀直入に申し上げますと、紫苑さんに妊娠の兆候がありました。』

 

 一瞬だが流し読みをしていた龍見の目が止まる。しかし心を落ち着かせ、続きを読み始めた。

 

『色々と私的に言いたい事はあります。焔耶さんも不満はあるようです。紫苑さんが幸せそうにしているのが羨ましいです。今度こちらに寄った時にはまた私達の相手をして下さいね。約束ですよ。

雛里より』

 

 雛里の手紙はそこで終わっていたのだが、手紙自体はまだ他にもあった。どうやら紫苑かららしい。

 

『龍見さん、紫苑です。雛里ちゃんの手紙にも書いてあるとは思いますが、私は貴方の子を身籠りました。貴方がこの事をどう感じているかは分かりません。でも私と璃々はとても幸せです。』

 

 再び龍見の目が止まる。先程は動揺したためだが、今度は何かが違った。

 

『新しい生命を宿したから幸せなのではありません。貴方の子を身籠ったから幸せなのです。貴方は雛里ちゃん達に自分以外に愛せる人を探すといいと言ったそうですね。そんな事は言わないで下さい。私達が愛したのは貴方なのです。貴方しか私達にこういった幸せを与えられないのです。龍見さん、愛しています。

紫苑より』

 

 全て読み終わった龍見は静かに手紙を閉じ、棚の中へとしまった。そしていつもの連絡をするように詠にテレパスを送る。

 

「よう、聞こえるか?」

 

『今度は何? 誰かに手を出した?』

 

「あながち間違ってねぇかな。蜀の黄忠さんが妊娠したらしい」

 

『そう…………あんた変わったわね』

 

「何がだ?」

 

『こういう報告の時には悲観したような声じゃない。でも今はそういう雰囲気はないわ』

 

「なんつうか、覚悟が決まった。これまでオレは逃げてたんだよ。もし恋以外を好きになったらどうしよう。もし誰かを妊娠させて愛せなかったらどうしよう。とにかく色々と考えると怖かったんだ。でも紫苑さんが愛していると言ってくれた。それだけでなんか救われたような気がしてな」

 

『恋はどうするつもり?』

 

「変わらねぇよ。恋は一番だ。その上で他の女性を愛していこうと覚悟した……………………やっぱ我が儘だよな」

 

『間違いなく我が儘ね。でもいいんじゃないの? 貂蝉が言っていたけど、天には郷に入っては郷に従えって言葉があるそうじゃない。その土地の風習に合わせるって意味なんでしょ。あんたがいつか天に帰るならいいけど、恋を残していくつもりはないんでしょ。こっちの風習に合わせなさいな』

 

「あいつも余計なお世話を焼いてくれる。だけどありがとよ。こっちじゃ複数の相手と関係を持つくらいよくある事だもんな。こっちのやり方に従おう」

 

 すっきりしたような気持ちで言い切った龍見。詠にもその想いは伝わったのかこれ以上何も言う事なく、テレパスを切った。そんな時に凪はやって来たのだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「…………貴様何者だ!! 龍見殿をどこへやった!!」

 

「おいぃっ!! オレは龍見だぞ!!」

 

「龍見殿はあんな事言わない!!」

 

「いや言わねぇけど!! お前が告白を頑張ったみたいにオレだってそういう事をする覚悟を決めたんだよ!!」

 

「えっ、じゃあ、本当に…………と、と、伽を」

 

「本当だよ」

 

 慌てる凪を龍見は優しく抱き締めつつ頭を撫でた。とりあえず子供をあやすようなつもりでやっているのだろう。凪は自分が子供扱いされているようで少し恥ずかしくなった。

 

「さて凪、やるつもりなら体とかはちゃんと洗ってきたか? オレはまだだからこれから洗ってくるけど」

 

「あっ…………私も、まだです」

 

「んなこったろうと思ったよ。なら一緒に風呂入るか?」

 

「い、いえ! 一人で行きます!」

 

 走って出ていく凪を呆れたように眺める龍見。これからどうせ互いの裸を見るんだから恥ずかしがる必要もないのにと思いながら龍見も自分の体を洗いにいった。

 数十分後、体を洗った二人は改めて龍見の部屋に集まった。

 

「改めて聞くけど、覚悟は出来ているな? ぶっちゃけ初めては痛いぞ」

 

「だ、大丈夫です。よろしくお願いいたします」

 

「固いなぁ。まあそれが凪だしな。よし、脱がすぞ」

 

「は、はい」

 

 手慣れた龍見の手によって凪はあっさりと下着姿にされる。凪は手で自身を隠そうとするが、龍見によって止められる。

 

「龍見殿、は、恥ずかしいです」

 

「そう恥ずかしがってたらこの先の行為が出来ないぞ?」

 

「しかし、私は真桜のように胸も大きくなければ、沙和のような綺麗な肌も持っていませんし…………」

 

「確かにそうだな。胸は普通だし、肌も傷だらけだ」

 

「っ…………」

 

 はっきりと言う龍見に対し、凪は押し黙ってしまう。それでも龍見は言葉を紡ぐ。

 

「だからなんだ。それが凪だろ。他人との違いを恥じる必要があるならオレなんて恥だらけだ」

 

「龍見、殿。ありがとう、ございます」

 

「んな泣きそうな顔すんなって。それともうこういう関係なんだ。殿は止めようぜ」

 

「あ、その、でしたらどのように呼べば」

 

「そこは凪の好きなようにしていいぜ」

 

「で、では、旦那様」

 

「…………いきなり飛んだな」

 

「やっぱり駄目でしたか?」

 

「いいよ。ただ人前ではやめてくれよ?」

 

「ありがとうございます! 旦那様!」

 

 この時龍見には喜ぶ凪に犬耳と尻尾が付いているのが見えたらしい。実際術で付けてやろうか相当悩んだようだ。

 

「じゃあ下着も脱がすぞ」

 

「お願いいたします」

 

 下着を脱がすと小振りだが張りのある胸と、毛も生えていない未使用の陰部が晒された。まずは胸に龍見の手が伸びる。ちょうど手に収まる程度の大きさの胸は張りと弾力があり、それでいて非常に柔らかい。

 

「旦那様は胸が好きなのですか?」

 

「大好き。大きいのもいいけど、凪くらいのも揉みやすくて好きだ」

 

「そうなのですか。んん、ちょっと揉み方がイヤらしいのでは」

 

「感じてもらうために揉んでるからな。失礼するぞ 」

 

「何を、ひゃあっ!?」

 

「レロッ、チュパッ」

 

 龍見は躊躇する事なく凪の胸にしゃぶりついた。ピンク色の小さな乳首は龍見の舌に刺激されて勃起していく。凪は初めての感覚に戸惑い、思わず龍見を押し退けようとしたが、龍見は胸に吸い付いて離れない。

 

「あっ、んぁっ! だ、だめ、です…………乳首、取れちゃ、ひぅ!!」

 

「チュウチュウ、凪のおっぱい、おいしいな」

 

「くぅ…………あひゃあっ!? ど、どこ触っているんです、あぁっん!」

 

 何の前触れもなく龍見の手が凪の尻を撫で、流れるように身体中を愛撫する。次々と押し寄せる快楽に凪は身をよじらせているが、龍見の魔の手は一向に止まる気配を見せない。

 

「あっ、い、イク、も…………だめ! あ、ひあぁぁぁあぁぁあああっ!!!」

 

 遂に絶頂した凪は全身の力が抜け、その場に座り込む。しかし目だけは龍見を恨めしそうに見つめていた。

 

「ごめんごめん、やりすぎた」

 

「ハァハァ…………ふんっ! 旦那様がこんな人とは思いませんでした」

 

「そう怒らないでくれよ。初めての凪には気持ち良くなってもらいたかったんだ」

 

「それは分かりますけど、やっぱり一方的なのは狡いです」

 

「なら今度は凪が気持ち良くしてくれるか?」

 

 そう言いつつ龍見はすっかり勃起した逸物を凪の前に晒した。思わず凪は息を飲む。そして恐る恐るだがそれに手を伸ばし、掴んだ。

 

「大きい…………熱くて、硬い…………」

 

「これがこの後にお前の中に入るんだぞ」

 

「本当に入るんでしょうか?」

 

「しっかりと準備すればな。さあ自由にしてみな。どうするかは凪に任せるよ」

 

「は、はい」

 

 凪も性知識が全くないわけではない。龍見の逸物を様子見するようにしごき始める。その間龍見はお返しをするように頭を撫で続けていた。

 徐々に感覚を掴み始めたのか凪の手の動きが早くなってきた。かなり飲み込みが早いらしい。

 

「どうでしょうか?」

 

「ああ、気持ちいいよ。もうすぐ出そうだ…………」

 

「このまま出してもいいですよ」

 

「いや、出すなら凪の中がいいな」

 

「ゴクリッ…………分かりました。私も準備は出来ています」

 

 逸物から手を離した凪は自らの陰部を広げる。濡れてはいるが、初めて性行為に及ぶならばまだ足りないと龍見は感じた。

 

「少し濡らそうか」

 

「えっ、もう十分では?」

 

「痛いぞ」

 

「うっ…………お願いします」

 

「あいよ」

 

 何か術を使うと龍見の手が濡れる。ただの水ではなくとろみのあるものだ。俗に言うローションをわざわざ術で作ったのだ。

 

「簡単にやれるもんだな。塗るぞ」

 

「冷たっ!」

 

「我慢するの。痛いのは嫌だろ。よし、こんなもんかな」

 

「遂に入るんですね」

 

「緊張してるだろうけど、力抜けよ」

 

 龍見は凪に覆い被されるようにし、逸物をゆっくりと凪へと挿入した。

 

ーーズプッ

 

「んっ、ふっ…………いつ…………」

 

「まだ先っぽだぞ。おっ、膜に当たった。ここからまた痛いぞ」

 

「が、我慢します」

 

「よしよし…………いくぞ」

 

 ブチッという音と共に凪の処女膜が破られ血が流れ出る。凪はその痛みに耐えるように龍見に抱き付いた。かなりの力で抱き付いているからか爪が龍見の背中に食い込む。龍見はそれに対し何も言わず凪を撫で続けていた。

 

「ふぅ、ふぅ、ふぅ…………」

 

「初めてなんてこんなもんだ。最初から気持ちいいのなんてお話の中だけだよ」

 

「そ、そうですね」

 

「…………動いていいか? 我慢の限界だ」

 

「ど、どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 なるべく凪に痛みを感じさせないよう意識しながら龍見は腰を叩きつける。先程の手淫で射精感が高まっていた龍見にとって処女の締め付けは入れているだけでも十分な刺激だった。

 

「すまん、早いけど、出すぞ!」

 

「ひあっ! 熱っ!!」

 

 早漏と言われてもおかしくないような早さで、龍見は凪の膣内へと射精してしまった。

 

「あー、すまん。中に出しちまった」

 

「い、いえ。それは嬉しいので」

 

「まだやるか?」

 

「あの、それが、やっぱり痛くて」

 

「そっか。初めてだもんな。なら今日はこんなもんにしよう。もしヤりたくなったらいつでも相手になるから」

 

「いつでもですか?」

 

「二言はねぇよ」

 

「分かりました!」

 

 凪はとても嬉しそうに返事をした。本当に自分が恋人のようになったのが嬉しくてたまらないのだ。

 

「そうそう、どうせだから今日はオレの部屋で寝ていくか?」

 

「是非!」

 

「了解。ならまた体を洗ってくるか。今度は一緒に行くか?」

 

「お願いいたします」

 

「積極的になったなぁ。でもこういう凪もいいな」

 

 お互いに先程の行為で満足したのか、一緒に体を洗っても一緒に眠っても欲情する事はなかった。

 龍見がこの日の報告を詠にすると、何故そこで更に手を出さないのかと説教を受けてしまうのだった。




これから凪とは何度もヤる予定なので、まずは軽くね?
次回はこの頃暑くなってきたし、ホラーっぽいのを書きたいな。あ、どうでもいいですけど自分、先日誕生日でした


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第三十一話

また一ヶ月くらい空けてしまってごめんなさい。
彼女はいないけどリア充が楽しかったんです。


 暗い夜道を流琉は一人で歩いていた。ついつい買い物に夢中になってしまい、時間を忘れていたのだ。夜道に少女が一人となれば暴漢などが定番だが、生憎と流琉は牛すらも投げ飛ばせる豪腕の持ち主。並の暴漢など相手にもならない。暴漢ならば…………

 

「明日の朝食は何を作ろうかな。兄様と龍見さんに洋食というのを教えてもらってもいいかも」

 

 余程良い食材を買ったのかウキウキ気分で歩く流琉だったが、背後に感じた事もない悪寒を感じた。足音も気配もない。しかし確実に何かが存在するという悪寒。早歩きをしてもゆっくり歩いても一定の感覚を保って着いてくる悪寒に対し、流琉は意を決して振り返った。

 

「!!? キャアァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!?!?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 朝から金属のぶつかる音が響く。龍見と一刀が軽く手合わせをしているのだ。どちらの武器も刃引きしてあるとはいえ、使用しているのは真剣だ。

 

「有段者の実力はその程度か?」

 

「ちょっ、速っ!?」

 

「伊達に呂布や張遼に鍛えられてねぇよ!」

 

 一刀もたまに春蘭達と手合わせするものの、手加減をされている状態だ。対する龍見は術を多用する手合わせながら、かなり実戦に近い戦いをしている。

 完全に押されていた一刀は勝負に出るため大振りの攻撃をしようとしたが、その隙が見逃されるはずもなく、頭にハイキックが直撃する羽目になった。

 

「おおっと、ごめんごめん。大丈夫か?」

 

「いって~…………龍見さん、強すぎません? 術で強化とかしてるでしょう」

 

「一刀君にそこまでしねぇよ」

 

「俺の評価しょぼ……………………」

 

「落ち込むなって。はい、水」

 

「すみません。そういえば最近幽霊が出るって話があるじゃないですか」

 

「おお、よく聞くな」

 

 ここ数日、謎の幽霊の噂が広まっていた。流行りの怪談程度と考えられていたが、どうにも実害まで出ているらしい。

 

「昨日流琉が幽霊を見たって俺の部屋に駆け込んで来まして、その時は宥めたんですけど、まだ落ち着かないようなんです。だから流琉のために幽霊退治をしてくれませんか?」

 

「うーん、そっちは専門外なんだけどな。それに実害が出てるとか言われてるけど、どんな被害か分かってねぇんだろ。そっちも噂じゃねぇの?」

 

「残念ながら事実よ」

 

「よう桂花さん。わざわざオレ達に話し掛けるなんて珍しいな」

 

「華琳様があんたを探しているのよ。幽霊と流琉の事だから北郷も一応来なさい」

 

「分かったよ」

 

 どうせ幽霊なんてたかが知れていると考えながら華琳のところへやってきた龍見一行だが、部屋の前で龍見がピタリと動きを止めて大きな溜め息をついた。

 

「何よ突然。華琳様の部屋に入るのがそんなに嫌? なら入らなくていいわよ」

 

「んなわけないだろ。ただ幽霊の正体が分かっちまっただけ。なんでこの世界に迷い混んだんだよチキショー」

 

「それってつまり、本来はこの世界にいるはずのない幽霊なんですか?」

 

「そもそも幽霊じゃねぇ。華琳さん、お待たせした」

 

「入りなさい」

 

 入室を許可されてから龍見はすぐに部屋に入らず、軽く壁を撫でてから入った。中では華琳と何かに怯える流琉、そんな流琉に付き添う季衣がいた。龍見が入ると流琉は不思議そうに部屋をキョロキョロと見回していた。

 

「大丈夫か流琉ちゃん。たぶんもう聞こえないとは思うが」

 

「龍見さんがやってくれたんですか?」

 

「流琉、もしかしてさっきまで言っていた声が聞こえなくなったの?」

 

「はい、そうです」

 

「黒の兄ちゃん何したの?」

 

「軽く結界を張った」

 

「結界なら華琳様が張っていたはずよ」

 

「あれじゃ足りん」

 

 一刀だけ何の事かちんぷんかんぷんだが、今だけでも流琉は大丈夫なのだろうと察する事はできた。そんな一刀を放置して話はどんどんと進んでいく。

 

「流琉ちゃんも厄介なものに狙われたな。華琳さん、今回出ている幽霊の被害は神隠しで間違いないか?」

 

「そうよ。幽霊を見た者が次々と消えていっているの。正体を知っているなら教えてくれないかしら」

 

「分かっている。まずそいつは幽霊じゃない。妖怪の類いだ。その巨体からこっちじゃ八尺様って呼ばれている」

 

「八尺様!? あの都市伝説の!?」

 

 それなりに有名な都市伝説の名に思わず反応してしまう一刀。ただの怖い話程度にしか思っていなかった彼には衝撃的だったかもしれない。

 八尺様。八尺はありそうな身長からその名が付いたと言われる都市伝説。一般的には大きな帽子に黒い長髪、白いワンピースを着た女性の姿をしているとされ、ポポポという特徴的な声を出す。

 

「流琉ちゃんが聞いたのはポポポって声だろ? いつから聞こえているんだ?」

 

「昨晩、その幽霊を見てからです」

 

「完全に見入られているな。こりゃ困った」

 

「私、どうなっちゃうんですか?」

 

「今のままだと」

 

ーードガァンッ

 

 まるで爆発でも起こったかのような音を立てて扉が破られた。全員が身構える中、飛び込んできたのは酷く動揺した春蘭だった。

 

「か、か、華琳しゃま!!」

 

「はぁ、どうしたの春蘭。そんなに慌ててはみっともないわよ」

 

「そ、外に件の幽霊が!!」

 

「その幽霊ってのはお前の後ろに立っている奴か?」

 

「はっ? うわあぁぁぁぁっ!!?」

 

 振り返った春蘭の後ろには大きな帽子を被り、白いワンピースを着た巨大な女性の姿があった。背丈はその名が示すように八尺ほど。そしてポポポと呟いていた。

 後ずさる春蘭を追い掛けるように部屋に入ろうとした八尺様だが、部屋の前で立ち止まって動こうとしない。

 

「ど、どうしたというのだ?」

 

「結界が張ってあるから入るに入れないんだ。今はお帰り願おうか。流琉ちゃんも怯えちまってるからな」

 

 龍見は目の前で両手を合わせると、合掌と言って軽く手を叩いた。それだけの行為だったのだが、八尺様はまるで最初から居なかったかのように消え去ってしまった。

 

「これで良し。結界を突破しようとしてやがったな。早すぎるが今晩辺りが山か」

 

「た、龍見さん…………」

 

「心配か? 大丈夫、オレは人間の相手をするより怪物の相手をするのが得意なんだ。それに八尺とは五戦して五勝だしな」

 

「八尺様って、そんなに数いるもんなんですか?」

 

「いるいる。片田舎に行ったらわんさかいるぞ。さあ準備するか」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 夜になり辺りが静まり返った頃、流琉は一人で部屋にいた。

 たった一人で朝まで待て。それまで外に出てはいけないし、何が聞こえても扉を開けるのは許されない。開けるのは外から誰かが開ける。こう龍見に命じられてしまったのだ。

 暗い室内で蝋燭の灯りだけが揺れている。一晩何があってもいいように日用品の準備されている。水を一口飲んで心を落ち着かせた流琉が横目で見たのは部屋の四隅に盛られた塩。龍見曰く、何かあればこれに変化が起こるらしいが、今のところは何ともない。

 龍見達が外で自分を守るために何かしているという事以外は何をしているのかは分からない。待っている事しか出来ない流琉はもしものために武器の手入れを始めた。まだ塩に変化はない。

 

ーーカタッ

 

 風でも起こったのか窓が少し揺れた。寒気を感じるものの、自分に大丈夫だと言い聞かせる流琉。だがそれで安心しようとしたのも束の間、凄まじい勢いで扉が叩かれた。

 今にも誰かが壊さんとばかりにドンドンドンと叩かれる扉。思わず後退りする流琉の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「流琉! 開けて! 早くここから逃げて!!」

 

「季衣? どうしたの季衣!?」

 

「黒の兄ちゃんが八尺様ってのに負けて、みんなもう………あっ、こ、こっち来るなぁ!!」

 

「季衣っ!!」

 

 外に飛び出そうとした流琉の視界の端に山盛りの塩が映る。先程まで真っ白だったそれは真逆の黒へと染まっていた。それを見て思い出す。何が聞こえても扉を開けるのは許されない。開けるのは誰かが外から開ける。

 これは流琉のみに言われた事ではなく、みんながいる前で伝えられた事だ。もし季衣がそれを忘れていたとしても、彼女ならば緊急時に自らが扉を破ってでも流琉を連れ出すはず。この扉程度なら季衣の力で簡単に破れてしまうのだ。

 

「ほ、本当に季衣? ならそっちから開けて!! 一緒にここに隠れて!!」

 

「ま、間に合わないよ!」

 

「早く!」

 

 何度入ってくるよう促しても季衣と思わしき声は流琉に外に出るよう言うばかり。そのうちその声も聞こえなくなってしまった。もし本物の季衣だったとしたら、そんな考えが流琉の頭をよぎる。

 

「よく我慢した」

 

 そんな流琉の不安はこの一言で吹き飛ばされた。

 

「龍見さん! 無事なんですね!」

 

「当然。流琉もよく八尺の誘惑に耐えたな。偉いぞ」

 

「じゃあやっぱりさっきのは」

 

「何が聞こえていたのかは知らないが、八尺の仕業だ。今扉を開けるからな」

 

 ゆっくりと開かれる扉。眩しい光が流琉の目に差し込む。気付かないうちに夜が明けてしまっていたらしい。扉の先には小瓶を持った龍見が立っており、流琉の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

 

「怖かったろ。でももう安心だ」

 

「はい! あの、その瓶は?」

 

「ん? これか。よく見てみ」

 

 少し震えている半透明な瓶をよく見ると、非常に小さくなった八尺様が暴れていた。流琉はヒエッと悲鳴をあげて飛び退く。

 

「ははは、安心していいぞ。封印したから害はない」

 

「ど、どうするんですかそれ」

 

「この後供養だな。悪鬼羅刹の類だからしっかりと処理はしねぇとな」

 

「そうして下さい。ふぁ~………」

 

 夜が明けるまで寝ずに耐えていたのだ。一気に眠気が襲ってきた流琉は大きな欠伸をした。

 

「朝までご苦労様。華琳さんには言っておくからゆっくり寝とけ」

 

「ふぁい………」

 

 フラフラとしながら布団に倒れこんだ流琉はすぐに深い眠りに入っていった。ほぼ二日ろくに眠れていなかった流琉が目を覚ますと翌朝になっていた。それもあってか八尺様に狙われた事を夢のように感じていた流琉であったが………………

 

「いやあぁぁぁぁぁぁっ!!!? 何で私の部屋にあの瓶があるんですかぁっ!!?」

 

「記念にいるかなって」

 

「いりませんよ龍見さんの馬鹿ぁっ!!」




ホラーしてないホラー。
龍見は対人戦よりも対怪物の方が得意です。もし戦闘描写を入れてもただの虐めになるくらいに得意です。
次はR-18かなぁ。


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番外之三

更新停滞している。このままではまた数ヵ月空いてしまうかもしれない。そんな危機感を抱いたのでこっそり書いていた小ネタを投稿します。
なお時系列や出来事は本編に関係ありません。


【ガタッ】

 

 詠は突然意味もなく思った。月のガタッはどんな時に起こるのだろうと。龍見からのテレパスでいくらかネタはある。詠は月の前でそのネタについて呟いてみる事にした。

 

「そういえば龍見の奴、よく曹操に幻術を掛けられるらしいわよ」

 

「先生をやってるのに教え子にそんな事されるなんて、龍見さんも大変だね」

 

 幻術程度では当然反応無し。では内容を伝えたらどうなるだろうか。

 

「なんでも触手攻めを食らうとか」

 

ーーガタッ

 

「ちょっと詳しく」

 

 触手はガタッの守備範囲内らしい。目が怖い。

 また別の日に別の話でガタッの検証を詠はする事にした。今回は龍見と一刀の話である。

 

「やっぱり龍見と白の御使いは仲が良いみたいよ」

 

「同じところ出身だもんね。しかも龍見さんの親戚とお友達なんだよね」

 

「そうそう。それでよく一緒に風呂に入ったりするらしいわよ」

 

ーーガタッ

 

「どうしてそれを早く教えてくれないの?」

 

 静かな声で怒られてしまった。やっぱり目が怖い。なので次を最後とする事にした。

 

「あ、龍見の奴、また女の人に手を出したそうよ」

 

「恋さんも許しているし、いいんじゃないかな?」

 

「黄忠の娘の璃々だって」

 

「? 娘さんってどれくらいの子なのかな。私達くらい?」

 

「【ピー】歳みたいね」

 

「えっ…………」(ドン引き)

 

 流石に自分より小さな子に手を出したのはドン引きだったらしい。

 結論。人外、同性くらいならば月はガタッする。

 

 

 

 

【裁縫】

 

 恋は最近暇である。お腹に子供がいては鍛練は無理だし、何かするにしても誰かと話す程度しかない。なので建設的な事をするために裁縫を始めた。

 

「…………いたっ」

 

 だがこれが上手くいかない。初めて作った巾着はただの布の塊でしかなかった。少し針を動かせばすぐに指に刺さる。誰かに教えてもらおうにも董卓軍で裁縫がやれそうな人など思い浮かばない。

 

「恋殿~、新しい布ですぞ」

 

「んっ、ありがと。それでなんで華雄がいるの?」

 

「お前が裁縫をやっていると聞いてな。少し見てやろうと思ったのだ」

 

「…………出来るの?」

 

「ここに来るまでは一人暮らしだったからな。大抵の事は出来る」

 

「じゃあお願い」

 

「うむ。まずはここをキュッとしてグイッとやれ。そしてクルクルとやってからスッと抜くんだ」

 

「…………は?」

 

 あまりにも大雑把で擬音しかない華雄の説明に音々音は固まった。そんな音々音は放置して華雄の適当な説明は進んでいき、最終的に完成したのは実に綺麗な巾着袋だった。

 

「こうするのだ。恋、分かったか?」

 

「分かった」

 

「分かったのですか!?」

 

 華雄の謎説明を受けた恋が再び裁縫をすると、何故だか見事な巾着袋を作ってみせた。自分がこれまで手伝っていたのは何だったのかと頭を抱える音々音であった。

 

 

 

 

 

 

【虚密区魔阿決闘】

 

 これは三国統一後のお話。

 深夜、城を抜け出した月はある場所へ向かっていた。何処とも知れない屋敷の裏口。そこに立っている警備兵に手形のようなものを見せて屋敷へと入っていく。屋敷の中には既に複数人が鎮座している。その全員が何かしら仮装をしていて顔は見えない。月もお面を着けている。

 

「お待ちしておりました」

 

「遅れて申し訳ありません。では始めましょう、第六回」

 

「何してんだてめぇら」

 

『!!?』

 

 何かを開始しようとしたところで想定外の乱入者が現れた。月が抜け出したのを怪しく思って付いてきた龍見だ。

 

「えー、月と人和、華琳さんと桂花に稟、穏に冥琳さんと亞莎、朱里と雛里と桃香さん、んで七乃と斗詩か。国でも興すのか?」

 

「いや発端はアタシなんだけどねー」

 

「ぬおっ!? イシュタム様いらしたんですか!? てか発端って」

 

「未来の文化知りたいって喚ばれちゃってさー」

 

「何を神様と世間話感覚で話してんだてめぇらは。てかイシュタム様も契約していない相手にほいほい喚ばれないで下さいよ。わざわざ契約したオレの存在意義がないじゃないですか」

 

 軽く頭を痛くしながら龍見は溜め息を吐いた。そんなものは知らないとばかりにイシュタムは話を続ける。

 

「そんで色々と教えたんだけどー、コミケに興味持っちゃってねー」

 

「…………ではこれはコミケの集まりと?」

 

「そゆことー。まあ龍見なんてほっといて開催宣言しちゃってー」

 

「あ、はい。第六回『虚密区(コミック)魔阿決闘(マーケット)』を開催します!」

 

「六回もやってんのかよ。主催者ならどんな事やるか教えてくれよ、月」

 

「皆さんが作った本や人形を持ちあって交換したりするんです」

 

「思ったより普通だな。まあ見学させてもらうぞ」

 

 龍見は部屋の隅に座り込んで様子を眺める事とした。神まで巻き込んでワイワイ騒いでいる。異様にマニアックな本を見せあったり、人形の受け渡しをしている。ここまでならば少し変わった女子会といった感じだ。ちなみに稟と亞莎の全国の眼鏡は龍見も熟読する完成度だった。

 

「そういえば華琳さんと冥琳さんの用意したものはなんですか?」

 

「気になるかしら桃香。確かにそろそろ見せてもいいかもしれないわね。冥琳、着色は済んでいるわよね」

 

「勿論。完璧だとも。おい、誰かあれを持ってきてくれ」

 

 冥琳が部屋の外に声を掛けると何かを引きずるような音が聞こえてきた。しかもかなり大きなもののようだ。

 

「さあご覧あれ! これが私と冥琳の合作!」

 

「題名は『咲き誇る薔薇』だ!」

 

『キターーーーーーーーーーーー!!!

 

 開かれた扉の先には等身大の龍見と一刀の人形が全裸で

 

「アウトォォオオオオッ!!!! 終焉をもたらせ大いなる焔!!! レーヴァテイン!!!!」

 

 超高速超短縮詠唱によって自身が放てる極大火炎術によって人形を灰に変えようとした龍見だったが、その術は一瞬にして掻き消された。この場でそんな事が出来るのは一人しかいない。否、一柱だ。

 

「ノンノン。ここは火気厳禁よー」

 

「イシュタムコノヤロー!!!」

 

「ハハハ、これを見た時の反応が見たかったんだよねー」

 

「残念だったわね龍見。でも貴方と一刀を絡ませたのはこれだけじゃなわよ。月と人和はいつものあれを用意してるんでしょう?」

 

「勿論ですよ。今回は定番の龍×一から外れて、ミジャ×龍で」

 

「やめろー!!! この際オレは許すけど神様まで掛け算するのはやめろー!!!」

 

「落ち着いて下さい先生。大丈夫ですよ。完成度はとても高いので」

 

「何に安心すればいいんだよ!?」

 

「ほうら斗詩さんの描いた一枚絵ですよ~。定番の龍×一」

 

「なんで七乃はそんなに嬉しそうに見せ付けてくるんだ!! 斗詩も何描いてんだ!?」

 

「はぁ~、もう堪りません」

 

「穏脱ぐんじゃねぇえぇぇえええええっ!!!?」

 

ーーガバッ

 

「えぇぇっ…………夢? どんな夢を見たんだオレ…………叫ぶような夢って……うっ、思い出せない。頭痛がする、吐き気もだ…………少し夜風に当たろう」

 

 ゆっくりと起き上がった龍見は頭を冷やすように窓から顔を出した。意味もなくボーッと外を眺めていると何かが動くのが見えてしまった。

 

「? あれは、月か? なんであんな格好で外に? 気になるな。追いかけてみるか」

 

 無限ループって怖くね?




Fate/GO楽しい。ただしストーリーのみ。
荊軻さんと呂布の中華コンビで頑張っています。この荊軻さん可愛いよ。


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第三十二話

小説が書けなくなって半年近く放置して、昨日退会しようと思いマイページ開きました。そしたら感想が一件。生存報告を待つものでした。こんなものでも待っている人がいる。なら書かなくてはいけない。そう思い恥ずかしながら失踪から帰還しました。
久しぶりに書いたものですので拙い仕上がりになっていると思います。しばらくはリハビリになると思います。それでもよろしければ御覧下さい。失踪していて申し訳ありませんでした。


 人というのは自身にとってメリットのない嘘をつく数少ない生き物だ。虚栄心やその場逃れによってつかれる嘘はバレれば即座に自身へと返ってくる。そしてそれから逃れるためにまた嘘をつく。嘘に嘘を塗り固めてしてしまった結果、とんでもない事になってしまった人物がこの魏に一人いた。

 

「ど、どうしよー、季衣助けて」

 

「ボクしーらない。素直におばさんに謝ればいいのに」

 

「無理無理! 嘘だってバレたら殺されちゃうよ!」

 

「じゃあ兄ちゃんに助けてもらったらいいじゃん」

 

「兄様は、ちょっと条件に合わなくて」

 

「条件なんてものまで付けたの?」

 

 季衣も親友の言動とはいえ流石に呆れて溜め息をついてしまう。普段ならば逆なのだが、この場においては季衣が説教する側らしい。

 

「明日帰省するのに、約束守らなかったらおばさん怒るよ」

 

「だからどうしようか困ってるの…………なんで婚約者がいるなんて言っちゃったんだろ」

 

「ちなみに条件って?」

 

「えっと、優しくて気立てが良くて強くて賢くて器用で、なおかつ年上の人。あ、それに明日一緒に着いてきてくれるような多少の無理なお願いを聞いてくれる人じゃないと」

 

「それって、黒の兄ちゃんじゃ駄目なの?」

 

「あっ…………」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「オレに流琉の婚約者代わりになれと? そんな嘘すぐにバレるぜ。お袋さんには素直に謝りな」

 

「そこを何とか!!」

 

 龍見に頼み込みにきたもののあっさりと断られた流琉だが、ここで引くつもりはないらしい。ただの嘘のはずなのに鬼気迫る雰囲気に龍見も疑問を持ったようだ。

 

「とりあえず経緯だけでも聞こうか」

 

「はい。あれは前回の帰省の時なんですが……」

 

 毎月村へと帰省している流琉だが、先月母親から彼氏なり婚約者なりが見たいと言われたらしい。それだけならば流琉もまだいないと言っただろうが、旧友は既に何人も彼氏がいるなどと言われてしまいムキになって婚約者がいるなどと嘘をついてしまったのだ。しかもそれがどんどんと膨らんでいき、最終的にはあの無茶な条件の婚約者を明日の帰省で連れていくという事になったらしい。

 完全に自業自得である。しかしながら嘘をついてしまう事は誰にでもある。怒られるかもしれないが、しっかりと謝れば子供の嘘だと許してもらえそうなものだが。

 

「母様、私が婚約者を連れてくるって村中に言いふらして。本当に嬉しそうで…………」

 

「そんないいお母さんを騙し続けるなんてやっぱ良くねぇよ」

 

「そうなんですけど…………母様、母様は……私より力持ちなんです!!」

 

「はっ?」

 

「あんな力で叩かれたら死んじゃうんです!! 助けて下さい!!」

 

「お、おう」

 

 これが一番の理由かと納得した龍見は勢いに押されて頷いてしまった。ただこれで嘘に荷担してしまった事になる。下手をすれば流琉も恐れる豪腕が自分に振るわれる可能性もある。適当なところで本当の事を言って何とか逃れようと誓う龍見であった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 翌日、龍見と流琉と季衣の三人は村へとやって来た。なお龍見はこの村へ来る条件として、華琳に事細かな報告書を提出するように言われている。学生時代以来のレポートというところだ。

 

「じゃあボクは家に帰ってるね。流琉と黒の兄ちゃんは頑張ってね」

 

「ふぅ…………行きましょう龍見さん」

 

「まるで死地に向かうみたいだな」

 

「あながち間違ってないです」

 

 流琉は龍見を連れて実家に戻ったが、どうやら誰も居ないらしい。自分が帰ってくる時には確実にいるはずの母親が見当たらない事を不思議に思った流琉は龍見を玄関に残して家の裏へと回っていった。

 そんな流琉と入れ替わる形で家の中から誰かがやってきた。流琉と似た、しかしながら流琉よりも小柄な少女だ。おそらく妹だろうと龍見は思った。

 

「ごめんね。色々と準備してたら、ってあら? 流琉は?」

 

「今お母さんを探して裏に回っていますよ」

 

「もー、お客様を放置してー。ほらお客様、上がっていって下さい」

 

「おとと、じゃあお邪魔します」

 

 少女は龍見を家に上げ、居間に座らせると流琉を探しに外へと出ていった。どうせだからとのんびりとしていた龍見の元にドタドタと流琉達がやってきた。

 

「ごめんなさい! 母様がまさか家の中にいるなんて」

 

「ん、結局家の中にいたのか。まあ妹さんに上げてもらってたから気にしないでくれ」

 

「妹? 私に妹なんていませんよ」

 

「は? じゃあその子は?」

 

「嫌ですわお客様。わたしは流琉の母ですよー」

 

「…………は?」

 

 非常識な術に精通し、この時代にやってきて様々なものを見てきた龍見とはいえ流石に今の発言には驚いた。小柄な流琉よりも小さいのだ。

 

「不老長寿の秘薬でも飲みました?」

 

「あったら飲んでみたいですね」

 

「それより母様、こちらが婚約者の馬淵龍見。黒の御使い様って言えば」

 

「流琉、嘘は人様まで巻き込んでするものじゃないわよ」

 

「……………………ウソジャナイヨー」

 

「一人娘の嘘くらい簡単に分かるわ。どうしてくるか気になったけど、まさか嘘の婚約者を連れてくるなんてね」

 

「た、龍見さんはほんもにょの婚約者で」

 

 動揺して汗を流し、言葉も上手く出てきていない。これでは誰が見ても嘘と丸分かりである。

 

「馬淵龍見さん、うちの娘がご迷惑をお掛けしました」

 

「いえお気になさらず。流琉、大人しくお仕置きを受けるんだな」

 

「た、龍見さん助け」

 

「さてと、華琳さんへの報告書はどう愉快に脚色したものか」

 

「無視しないでー!!!」

 

「ほぉら、お尻こっちに向けなさい」

 

ーースパァンッ

 

「ひぎぃぃぃぃぃっ!!?!?!」

 

 鳴り響くスパンキングの音を背に、龍見は適当に脚色した報告書を書き上げるのであった。あまりに脚色すぎたためにお叱りを受けるのはまた別のお話。



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第三十三話【R-18】

今回はR-18のリハビリとなります。うん、まあ、見て下さい。


 両腕に謎の重さを感じた龍見は目を覚ました。様々な術に精通しているためか金縛りの類いも寝ながらでも解除できるほど慣れているはずなのに、今日の重さは全く取れる気配を見せない。となるとこの重さは物理的なものだろうと判断した龍見はゆっくりと右を向いた。

 

「ん……むにゃ……だんな、さま……」

 

「なんだ凪か」

 

 大方夜這いに来てそのまま寝てしまったのだろう。では左腕の重さはなんだろうか。

 

「すぅ……すぅ……たつみ、どの……」

 

「なんだ稟か…………稟?」

 

 何故稟がいるのか。稟が自分のところに来る理由など術の指南しか思い浮かばないが、真夜中に来るほど稟は非常識ではない。ならば可能性として挙げられるのが、凪と同じく夜這いに来たというものだ。暗殺という線もあるが、武装をしていないため外してもいいだろう。

 

「おーい、二人とも起きろー」

 

 このまま放置しても朝まで固定されるだけなので無視してもいいと龍見は考えたものの、女性二人の柔らかな肉体に挟まれ続けるのは精神衛生上よろしくないと判断したらしく二人を起こし始めた。

 

「ふぁぁ…………旦那様? おはようございます…………」

 

「んん、たつ、みどの……まだ眠いです」

 

「おはようさん。まあまだ外は暗いけどな。それで二人は何でオレと寝てるんだ?」

 

「「…………」」

 

 二人ともポカーンとした表情でお互いの顔を見合っていた。暫くすると二人が同時に口を開いた。

 

「「夜這い?」」

 

「どうして疑問系なんだ。それにしても、稟が夜這いか」

 

「い、いけませんか? 今だからはっきりと伝えますが、私も龍見殿をお慕いしています」

 

 こんな状況での唐突な告白ではあったものの、龍見はそれを素直に受け入れた。右腕が軋むのは気にしてはいけない。

 

「そうか、それは素直に嬉しいよ。ありがとう。それと気付けなくてごめんな。ただオレが驚いたのは稟にそれだけ行動力があった事と…………」

 

「と?」

 

「よく鼻血を噴かなかったなぁって」

 

「フンッ!」

 

ーーゴッ

 

「ふぐぉっ!?」

 

 こんな時に言うような事ではなかったのは龍見も分かっていたが、まさか鳩尾にエルボーを叩き込まれるとは思わなかったようで無言で悶絶していた。

 

「フーッ……フーッ……よ、よし、問題ない。それで、夜這いに来たなら、なんで寝てるんだ?」

 

「えっと、稟殿が先におりまして後から私が来たのですが、互いに睨み合う形になったのです」

 

「オレを挟んで何やってんだ。動物じゃあるまいし。んで、睨み合っていたらほぼ同時に寝てしまっていたと」

 

「おそらく…………」

 

 どうしたものかと龍見は考える。このまま帰せば根が真面目な二人は大人しく帰るはずだ。しかしそれでいいのか。特に稟はかなりの勇気を振り絞ってやってきたというのにその想いに答えなくてもいいのだろうか。ここまでした稟の想いは本物だ。それは簡単に追い払っていいものではない。

 凪も遊びでやってきたわけではない。彼女の想いが本物なのは以前交わった時に分かっている。今回も本気のはずだ。

 

「稟、自分がやろうとしていた事がどういう事か分かっているのか? ちゃんと覚悟があってやってきたのか?」

 

「覚悟がなくてはそもそも夜這いなどしません。馬鹿ですか?」

 

「そうだな、馬鹿な事訊いた。んじゃ初めてが三人になるのはどうだ?」

 

「へっ? もしかして、このまま…………」

 

「まあ凪が許してくれたらな」

 

「…………旦那様が許されるのでしたら」

 

 口ではそう言っても頬を膨らませていていかにも自分は不満ですという態度を表していた。そんな凪の頭を龍見は撫でて機嫌を取っていた。

 

「そう膨れっ面になるなよ。可愛い顔が台無しだぞ」

 

「むぅ……しかし」

 

「悪いけどオレは稟の気持ちを無下には出来ない。かといってお前を無視するのも無理だ。我が儘でごめんな。おっと、そういえば本人からの返事がまだだったな。稟は三人で」

 

「やります!!」

 

「げ、元気だな」

 

 稟としても全く抵抗がないわけではないが、この機会を逃す方がよっぽど愚策だと判断したようだ。

 

「ま、まずはどのようにすれば良いでしょう? 脱ぎますか?」

 

「何を言っているのですか。ここは私からです」

 

「は? 凪、貴女以前もやっているんでしょ。ならここは私に譲りなさい」

 

「稟殿こそ。初めてなら私と旦那様の営みを見てからにした方がいいですよ」

 

「わざわざ見せつけるなんて大層な趣味ね。それに何よ旦那様って。奥さんにでもなったつもり?」

 

「二人とも、喧嘩はやめろ。オレはどっちかを贔屓するつもりなんてねぇよ」

 

 そうは言えどもどちらから抱くか決めなくては二人は納得しないだろう。凪か、稟か。どちらが良くてどちらが悪いという事は決してない。自身を愛してくれるのならば彼女らは平等に愛すべき対象だ。だが体は一つ。同時に抱くのは無理だ。しかし片方を放置してはいけないのは雛里の時に学んだ。

 では同時に相手をできるかと言えばそんなに器用ではない。二人の人間をほぼ同じ要領で抱くなんて事は不可能だ。

 

「いや待て。完全に無理って事もないか。なぁ凪。最初は初めての稟からにさせてもらいたいが、いいか?」

 

「むっ、分かりました」

 

「流石に放置はオレもしたくないからこれで許してくれ。分身の術」

 

ーードロンッ

 

 龍見が煙に包まれる。するとそこには二人に増えた龍見がいた。幻覚や幻術とは違うのは龍見から術を習っている二人にはすぐ分かった。

 

「旦那様、それはどのような術ですか?」

 

「名前の通り分身する術だよ。実体はあるにはあるんだが、実用性が皆無でな」

 

「触って話せる人形って感じだ。運動能力なんて風にも劣るぜ。でもこれで凪を放置せずに済むだろ。抱いてやるのは無理だけどな」

 

 確かにパッと見ではどちらが本物か分からないが、よくよく見ると分身はぎこちない動きをしている。本物は寝具に座り、分身は椅子に移動して座った。

 

「凪、こっちおいで」

 

「は、はい」

 

「稟はこっちな」

 

「なんだか奇妙な感じですね」

 

 双子などとは違い同一人物が複数存在しているという状況に少々困惑しつつも、二人は龍見の指示に従った。

 凪は座っている分身に抱き寄せられて、稟は本物の隣に座らされた。

 

「よーしよしよし、凪は良い子だなぁ」

 

「ん、旦那様、そんなに頭を撫でないで下さい…………」

 

「でも好きなんだろ。よしよし」

 

「ふにゅ…………

 

「稟、もうちょっと近付いてくれ」

 

「分かりました」

 

「口付けするぞ」

 

「えっ、んんっ!?」

 

 凪は犬のように撫で回されて完全に陥落した。その間に本物は稟と近付き、軽く顔を撫でてから口付けをしていた。稟にとってのファーストキス。龍見はそれを大事にするようにじっくりと優しく口付けをした。

 

「舌、入れるぞ」

 

 稟は特に何も言わなかったものの、静かに頷いた。龍見の舌が稟の口内を犯していく。全体を舐め回し、無理矢理稟の舌へと絡み付いていく。稟もそれを受け入れようとするが、技術の差が大きすぎる。一分近く続いた水音が終わりを告げた時、稟の顔は紅潮し、緩んだ顔は元に戻らなくなっていた。

 

「ちゅぷ…………くくっ、ただの口付けがそんなに良かったか?」

 

「ハァハァ、ど、どこがただの口付けですか! 口付けがこんなにも淫猥なものだなんて聞いていません!」

 

「何言ってんだよ。これからもっと凄い事するんだぞ」

 

「ひぁっ!?」

 

 慣れた手つきで龍見は稟の陰部を撫でた。まだ完全に濡れてはいないが、湿ってきてはいる。

 

「んー、まだこれじゃ無理だな」

 

「そ、そこを触りながら、ひっ、れ、れ、冷静に言わないで下さい!!」

 

「でもしっかり濡らさないと痛いぞ」

 

「ん、ふ、で、でも……はず、かし」

 

「さっき脱ぐとか言っていた奴の発言とは思えんな」

 

「そ、それ、は……勢い、で…………あんっ!」

 

「ならオレも勢いに任せてやろうかね」

 

 龍見の手が胸にも伸びる。服を着ていると小ぶりに見えたそれだが、触ると意外と大きく、とても柔らかなものであった。期待以上の胸に興奮した龍見は手を素早く服の下に潜り込ませ、直接揉みしだいた。

 

「あぁっ!? くっ、そんな、胸を…………やっ! だ、め…………あそこ、まで」

 

 胸と陰部を同時に愛撫され続ける稟。自慰とは違う他人の手によるその行為は稟を容易く絶頂直前まで導いた。だが絶頂させないとばかりに龍見は手を離してしまう。

 

「あっはっ、い、イ……く……」

 

「おっと」

 

「な、どうし、て…………」

 

「いつも稟の妄想の餌食になってるからな。少し仕返ししてやろうと思って。さあ稟、手を壁について尻を出せ」

 

「えっ、えぇっ!?」

 

 自分の意思とは関係なく体が勝手に龍見の言った通りの体勢になってしまう。

 

「こ、言霊!?」

 

「理解が早いな。稟は本当に優秀な生徒だ。そんな稟なら今お前の股間に触れているものがわかるだろ?」

 

「まさか、た、龍見殿、の…………肉棒……」

 

「正解。正解者にはご褒美だ。もっと喜べ。これが欲しかったんだろ」

 

 龍見の逸物がゆっくりゆっくりと稟の膣内へと侵入していく。まだ指くらいしか入れた事のないそこを掻き分けてくる異物感に稟の体は震えた。

 

「おっ、膜まで届いたぞ。ここから少し力を込めればお前はもう非処女ってわけだ」

 

「あ、あ…………」

 

「怖いか? こんな無理矢理犯されるような体勢で処女を失うのが震えるほど怖いか? だけどこんな経験一生に一度あるかないかだぜ。あっ、処女喪失はどうあっても一生に一度しかないか…………んじゃ」

 

「うっ、ん…………」

 

「やーめた」

 

「…………はぇ?」

 

「何て言うかこれ以上はオレが無理。大切な稟の体を無駄に傷つけるような事はできねぇや。さあ、また布団に戻ろう」

 

 そんな龍見の呼び掛けにも稟はピクリとも動かない。言霊は既に解いている。自由に動けるはずなのだ。

 

「い…………や…………」

 

「稟?」

 

「ここまでされて、おあずけなんて、嫌です…………龍見殿、いえ、ご主人様…………稟の、愛液を垂れ流す卑しいおまんこに、ご主人様の逞しい肉棒を、お恵み下さい」

 

 稟は壁に手を付いたまま、片手で陰部を広げる。その濡れ方は尋常ではない。まるでローションを流し込んだかのようにポタポタと愛液が流れ落ちていた。

 

「…………そうか、稟はそういう趣味か。ならもっとオレを興奮させてみろ」

 

ーーパシンッ

 

「あはぁっ!!」

 

「ケツ叩いたらまた愛液が噴き出したぞ。この変態め! そんなにこれが欲しいのか!」

 

 龍見が逸物を稟の体にペチペチと当てると、それに呼応するように稟は尻を振った。

 

「はい! はい! ご主人様の肉棒の形を私の中に覚えさせて下さい!」

 

「なら、望み通りにしてやるよ!!」

 

ーーズンッ ブチブチッ

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!」

 

 全くの躊躇なく龍見の逸物は稟の陰部を貫き、子宮口まで届いた。本来激痛である処女喪失も今の稟にとっては快楽の一部でしかないらしく、涙、涎、愛液、尿といったあらゆる体液を撒き散らしながら稟は歓喜した。こんなにも激しい処女喪失。自分の妄想(ユメ)にまで見た光景。それが今自分の体に起こっているのだと。

 

「うぐぉっ!? めっちゃ痙攣してる!! だ、大丈夫か稟!?」

 

「い、いっへりゃ…………いきゅの、とまりゃない…………んんっ!」

 

「おいおい、こんなのが良いのかよ。どうしようもねぇ変態だな!」

 

ーーパァンッ

 

「あぁんっ! ごひゅりん、しゃまぁ! も、っろ、はげしくしてぇ!!」

 

「ケツ、叩きながら突かれて……それが気持ちいいのか!? なら、もっとやってやらぁ!!」

 

 獣のように龍見は陰部へ逸物を叩きつけた。稟がどれだけ絶頂しようとも関係ない。稟を自身の雌にする。それだけの理由で性行為を続けた。

 稟も手足が震えてろくに立てない状態でありながらも、龍見に支えられながら龍見の暴力的な性行為を受け続けていた。

 最早互いに想いは一つ。快楽を貪る。それだけだ。

 

「出すぞ! どこに欲しい! てめぇの我が儘聞いてやる!!」

 

「にゃかぁ!! おきゅにくだしゃい!!!」

 

「おら! くれてやる!!」

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっっ!!!!! あ、あ、あちゅ、い…………いっぱ、い…………ひあわしぇ…………」

 

 崩れ落ちた稟の体を龍見は優しく抱き締めた。

 

「お疲れ。次はもうちょっと普通にやろうな」

 

 稟から返事はない。失神しているのだから当然だ。しかしながらその顔はとても幸せそうであった。稟の体を拭いてやっている途中、横から声が聞こえてきた。

 

「おーおー、見たか凪。今日は鬼畜だぜオレ」

 

「旦那様にあんな一面があったとは…………いえ、それも受けれます」

 

「嬉しい事言ってくれるな。それで凪、やる?」

 

「やります。けれど旦那様は稟殿と一緒に寝ていて大丈夫です。奉仕させて頂きます」

 

「良かったな本物。じゃあ偽者は消えましょうかね。ドロンッと」

 

 分身の膝に座っていた凪が降りると分身はたちどころに消え去ってしまった。それを気にする事なく凪は寝転がった龍見へと近付き、今だ露出されている逸物へと顔を近付けた。

 

「失礼します。れろっ、ちゅっ」

 

「稟の愛液や血も付いてるし、あんまり無理しなくてもいいぞ」

 

「ぢゅぷぢゅぷ、ぢゅるるる、ちゅぽっ、旦那様の精液が付いているので気になりませんよ」

 

「どういう理屈だよ。あー、そこ、いい…………」

 

 凪の口淫によって様々な体液で汚れていた逸物は何も付いていない状態へと戻っていった。ついでに硬度も元通りだ。

 

「あの、旦那様…………旦那様に一つ試したい事があるのですが」

 

「? 何だ? オレでいいなら相手になるが」

 

「では失礼します。んっ……」

 

 凪は逸物の上に座るようにし、徐々に腰を落としていった。龍見はそんな凪から与えられる感覚に違和感を感じていた。入れた感覚も中の感覚も普段とは違う。

 

「はぁー、ふぅー…………やはり、肛門では、少し苦しいですね」

 

「おーい、こんなのどこで覚えた。ってかよく入ったな」

 

「真桜から、隊長と肛門を使った性行為をしたと聞かされまして。先程待っている間にほぐして、術で濡らしておきました」

 

「一刀君、そんなマニアックな事を…………凪、感想聞いても?」

 

「準備をしていただけあって、痛みなどはないですが、はぁ、息苦しくはありますね。慣れれば気持ちよくなれそうです。旦那様は如何でしょう? 」

 

「普段と違う刺激で、結構好きかもな」

 

「では、このまま、んっ! ふっ!」

 

 慣れない状態ながら凪は一生懸命腰を振った。指以上の大きさのものを入れるのは初めてだというのに、龍見のためだと思えば多少の苦しさも苦にはならなかった。

 

「はっはっはっ! だ、段々良くなってきました」

 

「オレも、そろそろ」

 

「遠慮せず、どうぞ。だんな、さま……いっぱい、射精して!」

 

 より一層肛門の締め付けが強くなる。本来性行為に使われるわけではないその器官に射精する。その背徳感が龍見の気持ちと快楽を高めていく。

 

「イくぞ!!」

 

「! んん、ふ、ぅ…………あ、出て、る。あたた、かい…………」

 

 精液を感じた凪はそのまま龍見の胸に倒れ込んだ。

 

「はぁ~、たまにはこういうのもいいですね」

 

「ああ、オレもそう思う。ふあぁ、ねむ……」

 

「私も、眠いです…………」

 

「寝るか…………体ちゃんと拭いてからな」

 

「ふぁい…………」




ちょいとオマケ的なものを思い付いたので

【ご主人様】

華琳「おはよう。って稟、なんだか動きがおかしいわよ」

稟「おはようございます華琳様。仕事に支障はありませんのでお気になさらず」

華琳「そう…………龍見と何かあったのかしら?」

稟「な、何故そこでご主人様が…………あっ」

華琳「へぇ~、ご主人様。私を差し置いて龍見がご主人様なの」

稟「ここここ、これは、そ、そう! 言わされているだけでして! 術で! 強制的に! 無理矢理!!」

龍見「おっ、こんなとこにいた。稟、無理しないか?」

稟「はい♪」

華琳「こんなに楽しそうな無理矢理があるのねぇ。まあ稟が幸せそうで何よりだわ」

【NG】

稟「はい! はい! ご主人様の肉棒の形を私の中に覚えさせて下さい!」

龍見「なら、望み通りにしてやるよ!!」

ーーズンッ ブチブチッ

稟「い゛だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい゛っっっっっ!!?!!!!?!!」

龍見「り、稟っ!!?」

ーービクンビクンッ

分身「そらそうよ」

凪「当たり前ですよねぇ」


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第三十四話

話がおかしな方向へと向かっていく…………


「五斗米道オォォォォォッッ!!! げ・ん・き・に・なれえぇぇぇぇぇッッ!!!!!!」

 

 名も無き小さな村に響き渡る轟音。否、声。とても信じられた事ではないが、そこでは医療行為が行われていた。

 

「治療完了だ」

 

「おお、足が動く。これで仕事にも戻れるぞ! ありがとうございます! 華佗様!」

 

「いや、医師として当然の事をしたまでさ」

 

「華佗様、宜しければこの村に滞在して下さらぬか? 見ての通り老人の多い村。今回のように若者が病気なればとてもとても生きてはいけませぬ」

 

「申し訳ない村長。世界のどこかにはまだ俺の五斗米道を必要としている人がいる。それに会わなくてはいけない人がいるんだ」

 

 華佗と呼ばれた橙色の髪をした青年は治療した男性にしばらくは激しい動きはしないように忠告してから村を出た。少ない手荷物を持った彼は馬を走らせる。目的地は魏。そこに彼が求める人がいる。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 龍見が魏で過ごす日数も残り一週間を切った。それに伴い自然と近づくのが恋の出産予定日だ。

 

「貂蝉、恋の様子は?」

 

『龍見ちゃん…………昨日も聞いたばかりじゃない。変わらず元気よ』

 

「ならいいんだ。聞かないと心配でな。早く恋と直接話したいもんだがなぁ」

 

『今は同盟優先よ』

 

「ああ、分かっている」

 

 テレパスを切った龍見は色々と考え込む。もしも以前蜀から魏へ直接向かうよう言われたように、今度は呉へ直接向かうようになってしまったらどうなってしまうのか。間違いなく同盟優先で呉へ向かわざるおえない。そうなると恋の出産に立ち会えない可能性が高い。

 自分にとっても恋にとっても初めての子。しかも現在の董卓軍には出産経験者がいない。恋の不安を取り除くのも夫としての役割なのにそれが出来ないかもしれない。

 

「華琳に頼み込んで……いやそれこそ同盟を優先するという指示から外れるな」

 

ーーワーワー!ツカマエロー!

 

「ここは一刀君に頼んで華琳を説得してもらうか。他人を介せばなんとか…………」

 

ーーマテーシンニュウシャー!

 

「でも下手したらヤバイしなぁ。ぶっちゃけオレが恋に会いたいだけだし…………」

 

ーーレンコウシロー!

 

「うるせぇな!!」

 

 外から聞こえてきた騒ぎ声。誰かが城へと侵入したのに間違いはないだろう。こんな所に勝手に入ればどうなるかは分かっているはず。軽いお仕置きではすまされない。まあ龍見にとってはどうでもいい事なのだが、数刻後龍見は呼び出しを食らう事となる。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「秋蘭、何でオレ呼び出されたんだ?」

 

「侵入者がお前に会わせろと五月蝿いからだ。何故お前を指名したのかまでは知らん」

 

 わざわざ自分に会うために侵入してきたのかと呆れる龍見。別に龍見に出会うのは難しい事ではない。毎朝街をランニングしているのだ。それに話し掛けられればちゃんと応える。侵入者がそれを知らないという事は余程急いでいたか、普段魏で生活していないという事になる。

 

「華琳様、龍見を連れてきました」

 

「お疲れ様。龍見、早くこの男の最後の言葉を聞いてやりなさい」

 

「随分苛立ってるな。何かあったか?」

 

 普段は気持ちを態度に出す事の少ない華琳が珍しく苛立ちを表に出している。対して牢の中の男は龍見が来た事にとても満足げであった。

 

「ようやく会えたな! 貴方が馬淵龍見か! 牢屋にぶちこまれた時はどうしようかと」

 

「ここは結構な悪人が入れられる場所だぞ。何したんだあんた」

「曹操の体内に病魔があると伝えたら何故かここにな」

 

「侵入した上に人を病気扱いかよ。情状酌量の余地ねぇな」

 

「扱いではない! 事実だ!」

 

 妄言と断言するには男の目はあまりに真剣だった。だが見た目に変化が現れる病気でもない限り、見ただけで人を病気と判断するのは不可能。しかもこの男は体内と言った。

 

「ん? 体内なんだよな。お前、透視か何かでも使えるのか?」

 

「そのような呪術は使えないが、病魔を視るくらいはできる」

 

「…………ちょっとこっちに顔近付けろ」

 

 男は言われた通りに格子に顔を近付ける。龍見はその男の顔の前に手をかざした。約一分後、龍見は納得したように手を離す。

 

「華琳、こいつの言ってる事はたぶん本当だ」

 

「はぁ? まさかこの妄言を信じるというの?」

 

「信じるさ。こいつ魔眼持ちだ」

 

「「「魔眼?」」」

 

 何故か持ち主であるはずの男ですら首をかしげる。

 

「なんであんたも不思議そうなのよ」

 

「まあまあ、魔眼の持ち主は自覚症状のない事が多いからな。華琳だってもし生まれてからずっと空が赤く見えていたら指摘されるまで疑問にだって感じないだろ。魔眼持ちは生まれてからずっとその光景が当たり前なんだ。こいつにとっては人の病気が見える光景がな」

 

 魔眼持ちは常に眼から微弱な魔力を発している。大気中の魔力よりも薄いものだが、指向性があるために分かる人間が調べればすぐに分かるものだ。ただ龍見のように魔眼か調べただけで効果まで把握する人間は少ない。

 

「ではここから出られるのか」

 

「馬鹿を言うなよ。貴様はここに無断で侵入したのだ。それに華琳様の病気が事実として、貴様に何が出来る」

 

「俺は医者だ! 彼女の病魔程度一瞬で退散させてやろう!」

 

「確かにその魔眼なら医者としてやっていくのは難しくねぇかもしれねぇけど」

 

「いいわよ。やってみなさい」

 

「華琳様!?」

 

「秋蘭、私の決定よ。それと貴方、龍見に用があるのよね」

 

「その通りだ」

 

「もし失敗したら即座にこの国を出ていってもらうわ。そして龍見に会う事は許さない。いいわね」

 

 男は余程の自信があるのか不敵な笑みを浮かべた。華琳の指示で魏の将の全員が集められた。出ていってもらうなどと言っておきながら、生かして帰すつもりがないのが見てとれる。

 

「ではそこにうつ伏せになってくれ」

 

 男は懐から小さな針を取り出す。針治療だろうというのは分かったが、小さくても武器になるもの。何があってもいいように各々武器に手をかける。

 

「全力全快ッッ!!! 五斗米」

 

「五月蝿いわね!!」

 

ーーゲシッ

 

「あいたっ!? 何をする!!」

 

「それはこっちの言葉よ!! どうして治療で叫ぶのよ!!」

 

「? 気合いを入れなければ病魔退散など不可能だろ」

 

「…………真桜、何か耳塞ぐものを」

 

「はいはーい」

 

 この男に叫ぶなと命ずるのは不可能だと判断した華琳は真桜から受け取った耳栓を付けてうつ伏せになる。

 

「では改めて…………五斗米道ォォォォォォォッッッッ!!!! げ・ん・き・に・なあぁれえぇぇぇぇぇッッッ!!!!」

 

 声のわりに丁寧に針さ刺される。先が少し刺さっている程度だ。しかし華琳は自身の変化にすぐに気が付いた。

 

「軽い? 気と魔力の流れが良くなった?」

 

「うむ、治療完了だ」

 

 起き上がった華琳は調子を確認するように腕を回したり、軽い術を試していた。明らかに調子がいい。自身でも気が付かなかった病気が自身の動きを阻害していたらしい。

 

「これで馬淵龍見の弟子になれるのだな」

 

「…………いやおい。そんな話聞いてねぇぞ」

 

「まだ言っていなかったか? 俺は元々弟子になるために来たのだ。そういえば名も名乗っていなかったか。俺は華佗。師匠! これからよろしくお願いする!」



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番外之四【R-18】

エイプリルフールだ、何か投稿しなくちゃ

そんな使命感にかられて数時間で書きました。なお一部台本形式だったり、キャラがおかしかったり、メタ発言を多発するのでそういったものが苦手な方はご注意を。


龍見「エイプリルフールだオラァッ!!!」

 

一刀「て、テンション高いですね龍見さん」

 

龍見「おう一刀君。なんか嘘言ってくれ」

 

一刀「嘘? えっと…………実は女です、とか」

 

龍見「変化の術だオラァッ!!!!」

 

ーーボフンッ

 

一刀(女)「ぎゃー!!!?!? ほんとに女にされたー!!?」

 

月「龍見×女一刀…………これは比較的浅いところでホモだと思うんだけど、詠ちゃんはどう思う?」

 

詠「月の言っている意味が理解できないから何とも思わないわ。龍見、今回は何するつもり?」

 

一刀(女)「俺を女にするだけじゃないですよね」

 

龍見「作者の考えている呉編の妄想を少し垂れ流すぞ。でもおそらくたぶんきっと違う形になって結局嘘になると思う。だから今やるしかないんだ!! 生存報告兼ねてるしな!! ではどうぞ!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 港に腰を下ろして海を眺める。海はいい。穏やかな波音は心を癒してくれる。ただ生憎と今は波音を楽しめない状況にあるのだが。

 

ーーニャーニャーニャーニャー

 

「はわあぁぁぁ、お猫様がこんなにもいっぱい~。幸せ~」

 

「うっせぇぞ猫とおまけ。あっちでやってろ」

 

 体質のせいで猫が異常なまでに付いて回り、その猫に誘われるように明命まで出てくる始末だ。こいつ隠れながらオレを監視するのが仕事のはずなんだよな。

 

「そ、そうはいきません。わたしは龍見様の監視と護衛を」

 

「猫共、回れ右して全力疾走だ。言う事聞いたら好きなだけ撫でてやる」

 

ーーニャー!!

 

「お、お猫様!? お待ちをーーーーー!!!」

 

 あっさりと龍見の言う事を聞いて走り出す猫軍団。そして自分の仕事よりも猫を優先した明命。呆れてしまうような行動だが、完全に仕事を投げ捨てたわけではなく、正確には交代に入ったのだ。

 

「相変わらずだな、明命は」

 

「やっぱ来たか。思春も大変だな」

 

「そう思うなら猫が近寄らないよう配慮してくれ」

 

「そりゃ無理だ。この体質をどうにかする術はないからな。呉に猫が多いのが悪い」

 

 物陰から出てきた思春が龍見の隣に座り込む。元々は明命だけの監視だったのだが、あまりに龍見の後ろに猫が追従し、このままでは明命の理性が持たないと判断した蓮華が思春にも監視を頼み込んだのだ。

 

「馬淵、質問がある」

 

「ん、答えよう」

 

「お前は何を目指す?」

 

「いきなり難しい質問だな。目指すもの、か。この世界に来てから目的なんていつも変わってるが……………………そう、手の届く範囲の人々が穏やかに過ごせる世の中かな。争いを全部無くすとか大層な事は言えねぇけど、守れる限りは守りたい」

 

 始めは巻き込まれただけ。生きる事が精一杯だった。いつか必ず帰ってやろうと画策していた。だが仲間ができ、妻ができ、子供ができ、龍見を取り巻く環境が変わり、龍見の心境も共に変わっていった。今では元の世界に帰るつもりなど毛頭ない。

 

「その手の届く範囲にこの呉は入っているのか?」

 

「うん? まあ、そうだな。オレの力なんてなくても何とでもなりそうな気がするが、力が必要になったら協力しよう。勿論、敵としてじゃない時限定だけどな」

 

「そうか。では最後だ……………………今晩、空いているか?」

 

「……………………へっ?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

詠「あんたあの堅物っぽい甘寧落とすの?」

 

龍見「これは作者の脳内妄想であって事実とは異なるとだけ言っておこう」

 

一刀(女)「でも今俺達が話しているのも脳内妄想ですよね。それと俺はいつ戻れるんですか?」

 

龍見「今日はずっと戻さねぇからな」

 

月(ガタッ)

 

詠「座って」

 

恋「龍見、ちょっと」

 

龍見「恋? どうした?」

 

恋「作者が今からR-18書くって」

 

龍見「聞いてないんだが」

 

恋「今思い付いたみたい。タイトルは『ロリコン龍見』」

 

龍見「悪意しか感じない」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「おとうさん!! 今日はずっといっしょだね!!」

 

「これ璃々、飛び付いたら危ないでしょう」

 

 椅子に座っていた龍見に抱き付いた璃々を紫苑がたしなめる。その腕には小さな赤子が抱きかかえられていた。

 

「大丈夫だよ紫苑。それより遠征気を付けてな」

 

「はい、ありがとうございます貴方。仕事の邪魔でしたら璃々と黒耀(こくよう)の世話は誰かに」

 

「いいんだよ。どうせ雑務だけだ。なるべく子供とは触れ合っていたい」

 

 二人の子、黒耀を籠の中で寝かし付けながら、邪魔にならないか心配する紫苑だが、龍見は特に気にする事もなく笑っていた。

 

「ふふ、そうですか。璃々、しっかりやるのよ」

 

「うん!」

 

「璃々はお姉ちゃんだから大丈夫だもんな。紫苑、そっちも無理しないでくれよ」

 

「大丈夫です。戦いがあるわけではないので。では、失礼します」

 

 紫苑が出ていき、龍見は璃々を膝に乗せたまま机に向かって雑務をこなしていく。この手の仕事はもう慣れっこだ。ただ先程から膝の上でモゾモゾとしている璃々が少しだけ気になっていた。冬だから寒いのかもしれない、などと考えていたが何か違う。

 

「璃々、どうした?」

 

「んー、なんでもないよ。おとうさん、おふとんかぶっていーい?」

 

「ああ、いいぞ」

 

 璃々は自分用の小さい布団を持ってくると再び龍見の膝の上に座り込んだ。その瞬間、龍見に違和感が走った。明らかに璃々の動きがおかしい。布団に隠れているが龍見の股間を撫でているのだ。

 

「こ、こら! 何をして」

 

ーーコンコンコンッ

 

「龍見、ワタシだ。いるか?」

 

「おとうさんならいるよー」

 

「ん? そういえば今日は璃々達を預かっているのだったな。いるのならば入るぞ」

 

「い、いや焔耶、少し」

 

 璃々は外の焔耶と話している間にもずっと股間を触り続けていた。それを止めてから焔耶を部屋へと入れるつもりだった龍見だが、焔耶は制止を聞く前に部屋へ入ってきてしまった。そして璃々は焔耶を確認するとするりと布団の下へと潜り込んだ。

 

「? 璃々は?」

 

「い、今は布団の下に。それよりどうしたんだ?」

 

「ああ、明日なのだが空いているなら灯(あかり)を連れて散歩にでも行かないか? ちょうど時間が取れたのだから有効活用したくてな」

 

「明日か。大丈夫だ。一日空いて、るっ!?」

 

「どうかしたのか?」

 

「い、いや何でも…………ッ、ははっ…………」

 

「それならばいいが、あまり無理をしないでくれよ、だ、旦那様…………」

 

 普段言わないような台詞を口にして焔耶は部屋を出ていった。これがいつもの龍見ならばその言葉を聞いてニヤニヤとしていたのだろうが、今はそうもいかない。

 

「璃々!! いい加減にしないか!!」

 

 布団を剥ぎ取ると、そこでは璃々が龍見の逸物へとしゃぶりついていた。龍見は璃々の頭を掴んで無理矢理引き剥がす。

 

「んん、ちゅぽっ…………もー、何するのおとうさん」

 

「璃々、何でこんな事をしているんだ! 事と次第によっては」

 

「好きだからだよ。おとうさんを愛してるの。初めてあったときから、ずっと、ずっと、ずーーっと、おとうさんのおよめさんになりたかったの」

 

「ッ、だからってこんな事しちゃ駄目だろ! 璃々はまだ子供なんだぞ!」

 

「そうだよ。そんな子どもとこんなことしてたら、おとうさんどう思われるかなぁ? 今璃々がさけんだらきっとだれか来るよね。焔耶お姉ちゃんなんてまだ近くにいるんじゃないかな」

 

 逆らったらヤバイ。龍見の本能がそう告げていた。今の璃々は初めて交わった時の紫苑に通ずるものがある。

 

「おとうさんってかわいい♪ ね、おててどけて。もっとおちんちんなめたいな」

 

「り、璃々、やっぱりこういうのはもっと大人に」

 

「すぅっ…………」

 

「やめてくれ! わかった! 璃々の言う事聞く!」

 

「えへへ、おとうさんやさしいね♪」

 

「璃々は紫苑によく似たね…………」

 

「じゃあなめるね」

 

 そう言いながらも何故か璃々は龍見の膝に再び乗った。もう龍見には嫌な予感しかしていない。

 

「ほらみてみて! 璃々の下のお口、おとうさんのおちんちんしゃぶりたくてこんなによだれたれてるよ!」

 

「璃々! はしたないから止めなさい! どうしたんだよ急に!! 今日の璃々はおかしいぞ!!」

 

「そんなことないよ。璃々はずっと同じ。おとうさんが知らなかっただけだよ。おとうさん、ううん、だんなさま、璃々と…………ひとつになろ」

 

 小さすぎる陰部がゆっくりと逸物を呑み込もうと広がっていく。僅かな震えは恐怖か、それとも歓喜か。それは龍見には分からない。ただ逃げられない。それだけは事実だ。

 

ーーズッ ブチブチッ

 

「いた、いたい、よ……だんな、さま。こんな、いたいのに…………しあわ、せ♪」

 

「くっ、おっ…………り、り……璃々!」

 

「ギュッて、だい、て…………ちゅー、して」

 

 これまで感じた事ない狭さの膣は痛いくらいに龍見の逸物を締め上げていた。逸物が半分も入らないくらいに短いながらも与えてくる快楽は一級品。こんなところも親譲りなんだと思いながら龍見は璃々の指示通り、抱き締めて口づけをした。

 

「ちゅ、ちゅ、だん、な、さまぁ…………れろっ、んん」

 

「ぷちゅ、ん……り、り…………抜く、ぞ」

 

「やらぁ…………このま、ま…………璃々、まだ、あかちゃ……ん、できな、い、からぁ」

 

「く、だめ、だ!!」

 

 最後の意地だったのか龍見は逸物を引き抜いてから射精をした。常人では有り得ないほどの精が璃々へと降り注ぐ。それを浴びた璃々は嫌な表情一つ浮かべる事もなく、口元の精液を舐めとると妖艶な笑みを浮かべて龍見の耳元で囁いた。

 

「つぎは、中に出してね、だんなさま」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

月・詠・一刀(女)「「「うわぁ…………」」」

 

龍見「ドン引きするな! あくまで作者の脳内妄想だからな! そう! エイプリルフールの嘘なんだ!!」

 

恋「自首、する?」

 

龍見「恋まで!?」

 

詠「まあ龍見がロリコンなのは周知の事実だったからこうなるのは当然よね」

 

龍見「ちげぇっての!!」

 

一刀(女)「あ、そういえば本編は次いつ更新なんですか?」

 

恋「確か、未定」

 

月「作者は龍見さん以外の男キャラが出ると一気に速度が落ちますからね。男×男を読めるのは何年後になるんでしょう」

 

龍見「一生ないから」

 

詠「そういえば龍見。エイプリルフールの嘘は午前中限定みたいよ」

 

龍見「? それが?」

 

詠「これが投稿されるのは午後。つまりエイプリルフールの嘘の時間は終わっているのに嘘をつくのは駄目よね。つまりここに書かれているのは真実。あんたはロリコン。しかも璃々ちゃんに襲われて抵抗もできない最低のロリコン決定!!」

 

龍見「う、嘘だぁ!!?!?」

 




番外にて二回も璃々ちゃんの処女を奪う最低のロリコン龍見の誕生。


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第三十五話【R-18】

次の更新は未定と言ったな。あれは嘘だ(エイプリルフール的な意味で)


「嫌だよ師匠なんて。めんどくさい」

 

 突然師匠扱いされた龍見は一切の間を置くことなく拒絶した。あまりに早いそれには華佗も固まるしかなかった。

 

「全く無関係なお前を弟子にする必要なんてねぇし。押し掛けてきて突然師匠はねぇだろ」

 

「ぐぬ…………だが俺は諦めるつもりはないぞ! 師匠が俺が目指すべき存在なのだ!」

 

「師匠はやめろ。龍見でいい。んで、目指すべき存在ってのはなんだ? お前医者だろ。それも腕は相当な。オレが教えられるもんなんて術しかないぞ」

 

「その術を知りたいのだ。俺は医者だが呪術も使える。時には医療に使う事もある。噂ではししょ、龍見は数万もの人々が疫病に掛かった時にその全員を治したそうではないか! それこそ医療の目指す到達点!!」

 

「…………おい貴様、それは違うぞ。確かに治しはしたが、疫病にしたのも馬淵の仕業だ」

 

「更に言えばオレの力じゃなくて、オレが喚んだ神様の力だからな。残念だがお前の理想はここには居ないって事だ」

 

 春蘭と龍見の言葉に華佗は固まり、肩を震わせていた。求めていたものが完全に否定されたのだ。何も言えなくなっても仕方ない。流石に気の毒に感じた龍見が何かしら声をかけようとすると、華佗はがっしりと龍見の肩を掴んだ。

 

「素晴らしいではないか!!」

 

「えっ? はっ?」

 

「呪術師は数いれど神を喚べる者など聞いたこともない! ますます弟子入りしたくなった!」

 

「な、なんちゅう前向きな奴だ…………もしオレがお前を弟子にするとして、お前はどこで暮らすつもりだ?」

 

「適当に宿でも取るとも。教えを乞う以上迷惑はかけられない」

 

 もう華佗は何を言われたとしても諦める事はないだろう。龍見もここまでの熱意を見せられて何もしないというわけにはいかなくなった。

 

「分かった。条件付きで教えてやる」

 

「おおっ! 本当か! して条件とは?」

 

「まずはお前もオレに医術を教える事。そしてオレの妻を診察する事」

 

「むっ! 龍見の妻は病人なのか!? それはいけない! 早く診察に」

 

「落ち着け。病人じゃなくて妊婦だ。あー、そういえば華琳、勝手に決めちまったけど良かったか?」

 

「貴方が誰を弟子にしようともそれは貴方の自由ですもの。その男が妙な事をしないように手綱を握ってくれていれば文句はないわ」

 

「理解があって助かる」

 

 こうして華佗を弟子にしてしまった龍見の多忙な一週間が始まる。

 魏にいれる時間が少ないという事もあり、華琳、桂花、風からは術の指南を求められ、春蘭や秋蘭、季衣達からは手合わせを依頼され、時には真桜の道具作りを手伝ったり、沙和の服選びに付き合わされたりもしていた。余裕がある時には華佗に術を教え、逆に医術を学んでいた。

 だがそんな多忙な日々を送っていた龍見が最も苦労したのが夜だ。毎晩のように凪と稟から求められ、その度に要望に応えていた。

 

「ごひゅじんしゃまぁ…………はしたにゃい稟に、お慈悲をくりゃしゃい♪」

 

 もう一刻以上陰部を弄っている稟を放置する龍見。正直手を出したくて堪らないのだが、ここで手を出しては稟が満足できないのだ。

 

「どうしてほしいんだ? はっきり言ってみろ」

 

「ここに「そうかここを苛めてほしいのか」えっ?」

 

ーーグチュッ グリグリッ

 

「んひぃぃぃぃぃっっっ!!?!?」

 

 稟がびしょ濡れになっている陰部を広げた瞬間、龍見はそこを踏みつけた。当然加減はしているもののある程度は力を込めないと稟が悦ばないので痛みを与えつつ、怪我をさせないように細心の注意を払いながら踏みつける。時折陰核を指で挟んでひっぱったり、親指を肛門に押し込む。その度に稟は獣のような歓喜の悲鳴を上げていた。

 

「イ゛グッイ゛グゥッ!!! ひぎぃぃぃぃぃぃぃっ♪」

 

「大切な部分をこんなに痛め付けられてよくもまあ絶頂できるもんだな! 恥ずかしくないのか?」

 

「も、もうしわけ、ありま…………しぇ」

 

「聞こえねぇ、なっ!!!」

 

 イキ狂い、息も絶え絶えな稟に止めを刺すかのように、龍見の逸物が稟の陰部を貫いた。あまりの衝撃と快楽に声にもならない叫びを上げつつ、稟は意識を手放した…………が、これで終わりではない。

 

ーーパンッパンッパンッパンッパンッ

 

「寝てる! 暇が! あるなら! ちったぁ膣を絞めろ!!!」

 

「いっ……がっ!! あ、ぁぁ…………」

 

 気を失った稟の陰部を乱暴に突きながら、気付けをするように何度も臀部へとビンタを繰り返す龍見。その痛みに稟の意識も浮上する。

 

「やっと起きたか。ご主人様を手間取らせやがってよ」

 

「ご、めん、な……さい」

 

「……………………なぁ稟。やっぱりこういうのはやめにして普通に」

 

「だ……め♪」

 

「だよなぁ…………出すぞ。しっかり受け取れ」

 

ーードクッ ドクンドクン ビュルルッ

 

「んんっ、ふぅ…………うふふ…………」

 

 膣内と顔を精液をぶちまけられた稟の表情は至極満足げであった。外は日が登り始めている。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「凪、見回りの最中だぞ」

 

「申し訳ありません旦那様。ただ、もう我慢が」

 

 夜中の見回りの最中、凪は龍見を人気のない路地裏へと連れ込んだ。人気のないと言っても大通りからすぐで、月明かり程度の輝きでも覗き込めば様子が簡単に見えてしまうような場所だ。そんな場所で凪は下着を脱ぎとると陰部から大きめの張り子を引き抜いた。

 

「う、んっ…………ふぅ…………」

 

「こんな大きいのを入れていたのか。凪はやらしい子だな」

 

「旦那様がいつ求められてもいいようにしていたのです。真桜に頼むのは恥ずかしかったのですよ」

 

「でも先に凪が欲しくなったら本末転倒だな」

 

「それは…………」

 

 顔を赤らめる凪の頭を龍見が優しく撫でる。大胆なわりにすぐに恥ずかしがるのも凪の可愛らしいところだ。

 龍見は凪を撫でつつ、空いている手を陰部へと伸ばした。先程まで張り子が入っていたので濡れているのは当然だが、成人男性の平均よりも大きめな張り子を入れていたというのに膣は全く緩んでいない。

 

「流石は凪。体はよく鍛えているな」

 

「ん、ありがとうございます。では旦那様」

 

「ああ。入れるから尻をこっちに向けな」

 

 狭い路地裏の壁に手を付きながら臀部を突き出す凪。龍見は愛液の滴る陰部へとゆっくり逸物を挿入していく。柔らかでありながらしっかりと締め付けてくる膣内を掻き分け進む逸物。最奥の子宮口に亀頭がぶつかると、凪は軽く息を漏らした。

 

「ぁ、ふ…………やっぱり、旦那様のものはいいです。暖かくて、力強くて、お腹が幸せです」

 

「なんだ? オレよりムスコの方がいいってか?」

 

「ふふ、本当にそう思いますか?」

 

「まさか。凪に限ってそれはねぇな。さて、夜とはいえ誰も近寄らないとは限らん。動くぞ」

 

「はい……お願いします…………」

 

 静かな夜に肉のぶつかり合う乾いた音、粘着質な水音が鳴り渡る。いつ、誰が来るとも分からない。そんな状況を警戒しながらも楽しみつつ二人の行為は続く。

 

「ハッハッ、あひっ!? だ、だん、な、様! ち、ちく、び……こねな、あんっ!!」

 

「凪、顔こっちに、向けろ…………チュッ」

 

「んん~…………んふっ」

 

 腰を振りながら胸を弄り、口づけをして凪の体を貪っていく。鍛えているのに女性らしい柔らかさのある体は徐々に激しくなりつつある龍見の動きも受け入れていた。

 

「もう、出るぞ!」

 

「はひっ! な、なかに、出してください!! あ、あぁーーーーっ!!! イクーーーーッ!!!」

 

ーードクドクッ ドクン ドクン

 

 子宮を抉じ開けんとばかりに押し付けられた逸物から流し込まれる精液が凪の子宮を満たしていく。最後の一滴まで出し終わった龍見は逸物を引き抜こうとしたものの、凪がそれを止める。

 

「旦那、様……もう少し、このまま」

 

「……ああ。分かった」

 

 こうして龍見が魏で過ごす最後の夜は更けていった。




大分駆け足になりましたが、次回で魏編は終わり。やったね龍見、恋に会えるよ。


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第三十六話

ぎりぎり4月に間に合った。
追記:間に合ってなかった


 長かった魏での生活も終わり、感慨に更けながら部屋の掃除をする龍見。纏めた荷物はリュックサック一つ分にも満たない。

 

「さて、行くか」

 

 やり残しは最後の挨拶回りのみ。まず誰のところに行こうかと考えながら扉に手を伸ばした瞬間、勝手に扉が開き龍見の顔面に直撃した。

 

「オゴォッ!?」

 

「むっ、何をしているのだ龍見」

 

「く、そ、てめぇこそ何すんだ春蘭!! ノックくらい一刀君に教わってるだろ!!」

 

「そのような面倒な事は忘れた。それよりも華琳様がお待ちだ。早く来い!」

 

「うおぁっ!? 引っ張るな!! く、首、しま、る!!」

 

 首根っこを掴まれながら引きずられていった龍見。着いたのは謁見の間。当然華琳や他の魏の将達もいる。

 

「春蘭、もう少し丁寧に連れてきなさい」

 

「てて、華琳、どうしたんだ?」

 

「最後に聞いておきたい事があったのよ。龍見、私のものになるつもりはない?」

 

「ない」

 

 華琳の質問に対して龍見は一瞬の間もなく拒絶した。そこには一切の迷いもない。それに対して華琳は怒るでもなく、むしろ喜んでいた。

 

「それでこそ屈服させがいがあるというものよ。いつか貴方もこの世の全ても私のものにするわ」

 

「そいつは無理な話だ。この世を統一するのは月になる予定なんでな。お前はそこで平穏無事に生きるのを楽しみにしておけばいいさ」

 

「うふふふふ」

 

「はははなは」

 

 どちらも笑っているはずなのにその空気はとても澱んでいる。とてもではないが誰かが割っては入れるような状況ではない。

 

「それはそうと…………凪と稟に手を出しておいて何もしないで帰るなんて言わないでしょうね」

 

「うっ、そ、それはそうなんだが……ちゃんと責任は取るから」

 

「責任? 具体的には?」

 

「えぇ、その…………」

 

 先程とは真逆で緩んだ空気の中、華琳が龍見を攻め続ける。龍見が助けてくれと言わんばかりに周りへ目配せするが、視線を切られたり苦笑いで流されたりしていた。

 

「あー! そうだそうだ! お礼ってわけじゃないけど面白いもの用意したぞ!!」

 

「逃げるにしては苦しい言い訳ね」

 

「勘弁してくれよ……でも実際に面白いものだからよ」

 

「ふーん…………じゃあ見せてもらおうかしら」

 

「これだよ」

 

 龍見が鞄から取り出したのは龍見をそのまま縮小したかのような人形だった。

 

「自動(オート)人形(マタ)だ。大きさと丈夫さと魔力以外はオレとほぼ同じだから、術の指南をこれからも継続してできるぞ」

 

「…………!」

 

「……何か言ったわね」

 

「大きさが大きさだからな。声も小さいんだよ。テレパスによる会話が主になりそうだ」

 

「馬淵、それを使って我々の偵察が出来るのではないか?」

 

「それは安心してくれ秋蘭。そんな機能付けたら契約紋で死にかねん」

 

「ああ、そういえばそういうものもあったな」

 

 忘れられがちだが、今龍見は神様との契約によって他国の情報を仲間に伝えられなくなっている。もし偵察の機能を付ければ契約違反と見なされる可能性もある。そうすれば龍見に待つのは死だ。ちなみに誰と性交渉したかという情報はプライベートな事なのでセーフらしい。

 

「さて華陀の奴を外で待たせてるし、そろそろ出発するよ」

 

「ええ。次に会った時にはどういう形であれ歓迎するわ」

 

「そりゃ楽しみだ。春蘭、あんまり暴れて周りに迷惑掛けるなよ。秋蘭はちゃんと姉の手綱を握ってやってくれ」

 

「私がいつ暴れたというのだ。全く、戦場で会った時には覚えておけ」

 

「なんだかんだ言っても私は姉者に甘いからな。約束しかねるぞ」

 

「季衣は食べ過ぎに注意、しても無駄か。まあほどほどにな。流琉は霊的なもんに好かれやすいから気を付けてな」

 

「うん、ほどほどね。理解はしたよ」

 

「なんで最後までそんな重要な事教えてくれないんですか!!?」

 

「はは、これからは華琳が何とかしてくれるさ。風は空気読んだ上で空気を壊すのはやめるようにな。どうせ聞く耳ねぇだろうけど一応言っとくわ。桂花、お前は男嫌いとかは置いといて優秀な生徒だったよ」

 

「いやぁ、褒められると照れますね」

 

「褒められてないわよ。こっちも教師としてのあんたは中々に優秀だったと思うわ。礼は言っておいてあげる。ありがとう」

 

「真桜は発明に没頭しすぎて徹夜しすぎないように。沙和は最新の服ばっかり見て警備を怠らないように。一刀君はこいつらの上司で大変だろうが、こんな美少女達の上司になんてそうそうなれるもんじゃないぞ。今のうちに堪能しておけ。色々とな」

 

「ちゃんと寝とるから平気やって」

 

「沙和も警備はしてるの」

 

「失神するのは寝てるとは言わないし、好きな服を誰かに取られないようにするのは警備じゃない。はぁ、やっぱり龍見さん残ってくれません?」

 

「悪いな。無理な相談だ。さて稟、鼻血が噴き出さないようになって良かったな。色々と言いたい事はあるけど、当初の目的が達成できて何よりだ」

 

「あー、その、どうやら龍見殿が傍にいる時のみのようで、華琳様の前では…………」

 

「華琳さーん、こいつ伽の時にオレにとんでもない要求ばっかしてきたんで是非とも追求してやってくださーい」

 

「あら客人にそんな事していたのー。後で私の部屋に来なさいよー」

 

「ひっ…………」

 

「んじゃ最後に、凪」

 

「はい」

 

「ありがとう。またな」

 

「はい、お世話になりました」

 

「およよ、まるで夫婦か何かですね」

 

 全員との挨拶も終え、最後の風の煽りも軽く無視した龍見は深々と礼をして謁見の間を出ようとしたが、ふと何かを思い出したかのように振り返って言葉を紡いだ。

 

「オレの部屋にお礼の品を用意しておいたよ。じゃあな」

 

 少し照れくさそうにそそくさと立ち去る龍見。城の外で待っていた華陀と合流すると馬を連れて街の外へ向かった。途中出会った人々からは別れを惜しむ声もあった。それだけ龍見はこの魏でも受け入れられていたようだ。

 

「華陀、なんか忘れ物とかはないか?」

 

「それならば龍見の方が思い残しがありそうだな」

 

「うっせ。行くぞ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 馬を走らせること数日。ようやく洛陽へと辿り着いた。たった数ヵ月だから街の様子が変わるわけでもないし、何度も報告を受けていたので知っていたのだが、いつも通りの洛陽の様子に龍見はホッと胸を撫で下ろした。

 

「おぉっ! 馬淵様!! 帰ってこられていたのですか!!」

 

 民が一人気が付くと連鎖的にみんなが気が付いていき、龍見の周りには人だかりができていた。

 

「おいおい、あるのは土産話ぐらいなもんだから道を開けてくれ」

 

「たーつーみー!!!」

 

「この声、霞か。おーい!!」

 

「帰ってくなら帰ってくるって伝えぇや! 恋が待っとるから早よ行きぃ!」

 

「ああ。ありがとよ」

 

「礼なんていらんから急ぐ!」

 

「あいよ」

 

 霞に急かされて恋の待つ城へと走り出す。門番や侍女への挨拶もそこそこに恋の部屋の前へとやってきた。本来は月への挨拶をするべきだろうが、そこは詠へのテレパスを通して許しを貰っていた。

 

「恋、オレだ。今帰ったよ」

 

「お帰り、龍見。入ってきて」

 

「ああ」

 

 静かに扉を開けて入る龍見。その先には普段は着ていないゆったりとしたワンピースのような服を着た恋が座っていた。恋はゆっくり立ち上がり龍見に近付くとそのまま龍見に抱き付いた。龍見もそれを受け止め、しっかりと抱き締めた。

 

「随分と待たせちゃってごめん」

 

「平気。龍見はちゃんと帰ってきてくれたから」

 

「お腹、大きくなったな。ここにオレらの子がいるんだな」

 

「うん。最近ね、よく動くの」

 

「そうかそうか! 元気に育っているんだな!」

 

「あの~、お二人とも。ねねを忘れないでもらえないでしょうか?」

 

「…………すまん。気付かなかった」

 

「蹴りますよ。もう、お邪魔虫は退散しますよ」

 

 ぶつぶつと文句を言っていたものの、本心では恋と龍見を二人きりにしたかったのだろう。音々音の足取りはどこか軽かった。

 

「気、使わせちまったかな。でもま、ありがたく受け取るとしよう。恋、何かしてほしい事はあるか?」

 

「今日はずっと一緒がいい」

 

「分かったよ。オレもそうしたかったんだ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ふぅ、今日一日は誰も近寄らないように詠殿にお願いする必要がありますね」

 

「あの二人の邪魔は出来ないな」

 

「ええ、全く…………誰なのです!?」

 

 独り言への返答。それも知らない男の声に音々音は思わず飛び退いた。

 

「軍師と聞いていたがよく動く。俺は華陀。龍見の弟子をさせてもらっている」

 

「あー、そういえばそんな話もありましたね」

 

「悪いが董卓に会わせてもらえないか? 龍見に着いてきたから挨拶が出来ていないのだ。それと日が空いてからで構わないが、呂布の診察がしたい。龍見との約束でな」

 

「診察については恋殿に直接聞いてもらいたいのです。では月殿の元へお連れしますよ」

 

「感謝する」




現在活動報告にてアンケート実施中。簡単な質問ですのでよろしければ答えてもらえると嬉しいです。


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第三十七話【R-18】

ボテ腹ックスってどうやって書くのがいいのか分からない。


 帰ってきてから恋といちゃついていた龍見だが、翌朝一番には月と詠への挨拶へ向かった。流石にずっと恋と一緒にはいられない。

 

「ただいま。昨日は恋を優先してすまなかった」

 

「夫婦なんですから気にしないで下さい。恋さんも龍見さんがいない間は寂しそうでしたよ」

 

「恋は信頼しているんだからちゃんと応えなさいよ。それで質問なんだけど、あっちの内情を聞くと問題らしいけど王の、劉備と曹操と会った感想なんてのは聞けるかしら?」

 

「それなら問題ない。劉備は人を惹き付ける魅力がある。調和そのものと言っても過言じゃない。王としての資質は高くなさそうだが、周りが優秀だから支えられながら成長していくだろうさ。

曹操は全てにおいて圧倒的だ。天才って言葉はあいつのためにあるな。その上努力も怠らないから厄介極まりない。もし敵になるなら真っ先に対処したいくらいだ」

 

「伸び代は劉備、完成度は曹操ね。それじゃあ次に行ってもらう呉だけど」

 

「龍見!!!!」

 

「ぐおっ!? 地和!? 突然背後から抱き付くな!!」

 

 背後から飛び掛かってきた地和に押されて倒れ込みそうになったが、何とか踏み止まって地和まで倒れないようにした。仮にも数え役満☆姉妹のプロデューサー。アイドルに怪我はさせない。

 飛び掛かった地和は龍見の説教などどこ吹く風と言わんばかりに龍見の背中に顔を埋めて匂いを堪能している。

 

「ちぃちゃん、龍見さんは今お仕事中なんだから離れなきゃ駄目だよ」

 

「そうよちぃ姉さん。姉さんだって龍見さんに迷惑は掛けたくないでしょう」

 

「いーやー」

 

「あーもうこのままでいいよ。んで呉が何だって?」

 

「龍見が帰ってくる前に要望があったのだけれど、少し早めに来るか、もしくは長めに滞在出来ないかって言われたわ」

 

「ふーむ、了解した。長めの滞在をさせてもらおう」

 

「えー、龍見また居なくなるの?」

 

「ずっとじゃないんだから我慢しろ。暫く会わないうちに随分と甘えん坊になったもんだな」

 

「会える時に甘えた方が良いって言われたの」

 

「そんな事言う奴が居たのか」

 

「うん、恋に言われたわ」

 

 龍見は思わずずっこけそうになるが、地和を背負っているのを思い出して何とか踏み止まる。正妻の余裕とも取れる恋の発言は間違いなく龍見への信頼と本人の天然からくるものだ。

 

「あ、相変わらずだな」

 

「あの子が変わった様子を見せたらすぐにあんたに報告するから安心なさい」

 

「龍見ちゃーん、お帰りなさぁい」

 

「お、貂蝉。于吉や左慈は?」

 

 貂蝉な何か言うわけでもなく首を横に振った。全く成果はなかったようだ。龍見もそれは想定内だったようで落胆する事はない。

 

「でもアタシの師匠も協力してくれるみたいなのよぉん」

 

「師匠? 漢女道とやらのか。信頼は、って聞くのは野暮か。今度余裕があったら挨拶でもさせてもらうぜ」

 

「ウフフ、きっと師匠も喜ぶわよぉ」

 

「変な興味は持たないでくれよ。そろそろ恋の診察の予定だから行ってもいいか?」

 

「はい。なるべく恋さんと一緒にいてあげて下さい」

 

「気遣い感謝するよ。地和はこのままがいいか?」

 

「うん」

 

 龍見が地和をおんぶしながら廊下へ出た瞬間、脳天めがけて斧が降り下ろされた。

 

ーーガキィンッ

 

「ひゃあっ!?」

 

 龍見は斧を短刀で受け止めるが、地和は驚いて滑り落ちた。とはいっても龍見も長く持ちはしない。短刀の上を滑らすようにして斧を下ろした。

 

「腕を上げたな、馬淵」

 

「遊びに行っていたわけじゃねぇよ。華雄こそ一撃が重さは変わらねぇのに速くなったじゃねぇか」

 

「恋が動けん以上、我々が何とかするしかないだろう。さて邪魔したな。恋のところへ行くのだろう」

 

「ああ。またやろうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「では背中を見せてもらうぞ」

 

「ん」

 

 華陀は龍見が来るよりも先に診察を始めていた。病気を視る事は可能でも普通の健康診断はそうはいかない。時間もかかるので簡単なものは済ませてしまおうと考えたのだ。

 

「恋殿の容態は如何です?」

 

「そう心配するな陳宮。母子ともに問題はない。ただ気になる点がないという訳ではない。呂布自身も気が付いているかもしれんが、胸の張りがあるのではないか?」

 

「うん、ある」

 

「おそらくは乳が溜まっているのだろう。今のうちに少し出すようにした方が授乳時の手間も減るだろう。初産なら尚更だ。だが一人で出すのは難しいだろう。ここは」

 

ーーコンコンコンッ

 

「わりぃ、ちょっと遅れた」

 

「今来た旦那に頼むのがいい」

 

「? 何の話だ?」

 

「恋の母乳を搾って」

 

「……………………華陀、説明を」

 

「ああ」

 

 ストレートにもほどがる恋の言葉が理解しきれなかった龍見は華陀へと助けを求めた。華陀が簡単に医療行為の一環だと説明すると、頭を抱えながらも龍見は納得した。

 

「別にオレでなくともいいだろうに。あ、断っておくが嫌ってわけじゃないぞ。むしろ嬉しい」

 

「ならば良かろう。ただ搾るよりも性的興奮がある方が乳の出もいい」

 

「そういうもんかね…………あいた!? どうしたんだよ地和、いたたっ! 無言で髪引っ張るな!」

 

「地和、明日なら龍見としてもいいよ」

 

 嫉妬からか無言で龍見の髪を引っ張っていた地和も恋の一声で満足したように動きを止めた。ああ、今晩は恋、明日は地和かとぼんやりと考える龍見であった。

 

「龍見殿、恋殿が一番であるのをお忘れなく」

 

「そりゃ忘れようがねぇよ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 日が沈み、体を洗った龍見と恋は龍見の部屋にいた。暫く放置されていた部屋だが、恋がたまに掃除をしていたらしく汚れている所はない。むしろ綺麗になっているほどだ。

 

「じゃあ、やろうか」

 

「うん。龍見、お願いがある」

 

「なんだ?」

 

「優しく、して」

 

 上目遣いで頬を染めながら恋は呟いた。激しくしない、膣内に射精しない、この二つを守れば性行為は問題ないと華陀からは伝えられている。お腹の子の事を考えて自慰も控えていた恋にはありがたい許可だ。

 そんな恋の行為に龍見の逸物は既に最大まで勃起していた。今すぐにでも飛び掛かりたい本能を抑え込みつつ、優しく恋の頭を撫でた。

 

「当たり前だろ。恋もお腹の子も大切だもんな」

 

「ありがと……んぁ…………」

 

「しかし本当に胸も大きくなったな。妊娠したら乳首が黒くなると思ったけど、そうでもないんだな」

 

 我慢しきれなかったのか、龍見はまだ椅子に座っている恋の服を脱がし、そのまま恋の胸を揉みしだく。一回りも二回りも大きくなった胸は確かに少し張っている。

 

「あっ、はっ、たつ、み…………上手」

 

「喜んでもらえて何よりだ。しかしちょっと触っただけなのに乳首も勃起して、少し母乳も滲んできたか? チュー」

 

「んんっ…………気持ちいい。もっと、吸って」

 

 要望に応えるように龍見は恋の乳首を吸い上げる。下で乳首を転がし、歯で軽く刺激する。何度も揉んで母乳の出を良くしようともするが、どうにも上手く出ない。

 

「チュパッチュパッ、これじゃ駄目かな? 少しやり方を変えるか」

 

 そう言って逸物を取り出した龍見は、亀頭で恋の乳首を押し始めた。

 

「あ……龍見の、熱い」

 

「漫画とかじゃ、よく見たけど、結構いいなこれ」

 

「ねぇ龍見。もっとこっち来て」

 

「? 分かっ、ふぉぁっ!?」

 

「ふふ、捕まえた」

 

 恋はその豊満な胸で龍見の逸物を挟み込んだ。涎を垂らし、滑りを良くすると胸全体で逸物を刺激する。更には鈴口も舌でチロチロと舐め、射精を促した。

 膣とは違う柔らかさとキツさ、そして恋の舌使いに龍見は早々に果てた。

 

ーードクッ ビュルッビュルルルッ

 

「いっぱい出たね」

 

 精液が掛かった顔でにっこりと笑う恋。妖艶でありながら可憐な姿に再び逸物も起き上がる。胸の中で逸物が勃起していくのを感じた恋は龍見を少し離すと椅子に座ったまま股を広げ、陰部を開いた。

 

「来て」

 

「…………ブフォッ!!!」

 

 次の瞬間龍見は鼻血を噴き出した。これまでの恋では絶対にやらなかった行為。愛液が溢れ、奥まで見えそうな陰部。妊娠して膨らんだお腹が引き出す背徳感。それらが合わさり龍見の興奮は一瞬で限界を突破した。

 

「だ、大丈夫?」

 

「大丈夫だ。鼻血専用ヒーリングもある。ああ、これがあいつの気持ちなんだな」

 

 幸か不幸か、鼻血によって逆に冷静さになった龍見は心配そうに近寄ってきた恋をお姫様抱っこして、優しく布団へ横たえた。

 

「抱くぞ」

 

「うん」

 

 龍見はそっと逸物を挿入する。妊娠していようと締まりは変わらない。むしろ強くなっている気さえした。それでありながら徐々に龍見のものを受け入れていく。

 奥まで入ると、龍見は腰を動かし始める。恋に負担が掛からないようにゆっくりと抜き差しを繰り返す。

 

「あっ、はぁ……ん、もう少し、早くてもいい」

 

「ならそうしようか。でもその前に、こっちも刺激してやらないとな」

 

「ひっ、あぁっ!!」

 

 挿入した時から少しずつ母乳が溢れてきた胸を乱暴に揉みしだく。すると噴水のように溜まっていた母乳が噴き出してきた。龍見は恋の両胸を寄せると、大きく口を開けて二つの乳首へとむしゃぶりついた。

 

「た、たつみ、つよ……んふっ!? ひっ、だ、めっ!! あぁっ!!? こ、しまで……はげし、い…………あ、あ、イッ、ちゃ…………う!」

 

 溢れ出す母乳。いとおしい艷声。恋の全てが龍見を興奮させる。駄目なのは分かっていても腰が止まる事はない。そうしているうちにやがてやってくる射精感。流石に膣内射精はできないと、最後の理性を振り絞り逸物を抜こうとした。だがそれが出来なかった。いつの間にか恋の手が、脚が、龍見を抱き締め固定するようになっていた。

 

「ぷはっ!! れ、恋! もう、出るから離して」

 

「やっ! この、まま!! 中に出して!!」

 

「いやそれだと子供に」

 

「大丈夫……ハァハァ、この子も、お父さんを欲しがってる。だから…………いっぱい、出して」

 

「こ、の……そういうところも大好きだ!!!」

 

ーービュルルルッビュルルビュッビュッ ドクンドクンッ

 

「ふあぁぁぁぁぁっっ!!! あぁ…………熱いの、お腹にいっぱい………………赤ちゃんにも、かかっちゃった…………」

 

「だ、大丈夫か?」

 

「う、ん。大丈夫…………だから、もっと」

 

「いやいやいや! これ以上は流石に子供にわる、って脚外して!! 膣内動かさないで!!」

 

「ふふふ、おっきくなった」

 

「そりゃこんな気持ち良ければ出なくなったとしても大きくなるって」

 

「嬉しい…………あ、龍見」

 

「な、なんだ?」

 

「恋も、龍見大好き」

 

「……………………先に我が儘言ったのは恋だからな。嫌だって言うまで止まらないぞ」

 

「うん、来て」

 

 そのまま互いに気を失いかけるまで愛し合った。そして冷静になると二人とも自己嫌悪に陥り、妊娠中は欲求不満でも口までと固く誓い合うのだった。




次は一週間以内に更新します。


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第三十八話

なんとか一週間以内投稿成功。
今回は中身のないバトル回。


 空はこんなに青いのに、オレは何をしているのだろう。仰向けになった龍見はそう思った。そんな適当な事を考えなければやっていられなかった。少し顔の向きを変えてみれば見慣れた自分の下半身。龍見の上半身と下半身は綺麗に泣き別れしていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「手合わせ? いいぞ。いつやる?」

 

「飯食ってからにしよか。龍見がどんだけ強うなっとるか楽しみやわ」

 

 朝に顔を合わせた霞からの申し出を龍見は快く受け入れた。勝てる相手ではないが、いい訓練になるという考えはあったのだ。

 霞は単純に成長したであろう龍見の強さが気になって仕方なかった。龍見の成長速度はとてつもなく早い。初めて会った時にはただの術師でしかなったのに、すぐに武術だけでも戦場に立てるほどになった。そんな龍見に数ヵ月も猶予があったのだ。成長していないはずがない。

 朝食も済ませて訓練場に龍見が向かうと、霞は当然居たが、何故か華雄も一緒だった。

 

「どうした華雄。見学か?」

 

「まさか。私も参加するだけだ」

 

「? 三人で交代しながら手合わせするのか?」

 

「ちゃうちゃう。二対一や」

 

「…………誰が一人?」

 

 龍見が尋ねると当然のように二人から指を指された。ガックリと項垂れ、溜め息をつきながらも短刀を抜く。

 全身に魔力を張り巡らせ肉体を強化し、短刀にも術を掛けて強度を上げる。

 

「なんや駄々こねる思ったんにヤル気満々やん」

 

「逃げてもしょうがねぇしな。それに一回全力でお前らとやりたかった」

 

「その心意気、空回りしないようにするのだな!!」

 

 開始の合図もなく飛び込んできた華雄は斧を降りかぶり、龍見へと叩き付けた。それを難なくかわした龍見は斧を足場にし、華雄を飛び越えて霞の真上まで跳躍した。

 

「うおらあぁぁっ!!」

 

 短刀を両手で握り締め、落下の勢いそのままに霞へと襲いかかる。だが龍見がいるのは自由の効かない空中。達人である霞には絶好の的である。霞は偃月刀による素早い突きで龍見の心臓を抉り抜こうとした。

 しかしながらそれは回避された。術によって自身へかかる重力を強化し、落下速度を速めた龍見は一気に着地する。当然強化された重力は着地と同時に解除したが、脚への負担は相当なものだ。それを無視して霞へ短刀を突き刺そうと動くが、龍見の動きよりも早く霞の脚が龍見の顔面を蹴り上げた。

 

「今のは驚かされたけど、動き出しが遅いわ」

 

「くっそ!!」

 

 噴き出す鼻血を手で拭い、体勢を立て直した龍見の背後から殺気が飛ばされる。咄嗟に背後へと短刀を投げ付けるが、そこには誰もいない。ふと空が暗くなる。

 

「死ねぇい!!」

 

 上空から降り下ろされる斧。短刀を投げ付けた隙があまりにも大きく、回避するのは不可能。

 

「五行・火。爆破!!」

 

 そこで龍見は自身と華雄の間の空間を爆破し、その爆風で華雄を吹き飛ばし、自身は強引に逃げ出した。投げてしまった短刀からは遠い場所に飛ばされたが、アポーツによって即座に回収する。

 

「味な真似をしてくれる」

 

「華雄、顔煤だらけやで」

 

「…………ふぅ」

 

 軽く会話を交わしている二人とは対照的に龍見は重苦しく息を吐いた。この二人を前にして長い呪文は唱えられない。ならば簡易な術と肉体のみで戦わなくてはならない。その厳しさから思わず溜め息が漏れた。

 

「少し早いけど、終わりにしよか?」

 

「こっちは今気持ちを切り替えたってのにもう終わりかよ」

 

「龍見がこれだけやれるのが分かれば十分や。な、華雄」

 

「ああ。高名な将にも勝るとも劣らぬ力だ。誇るといい」

 

「そらどうも」

 

「ほな、いくで!! そりゃあっ!!!」

 

「!!?」

 

 霞が力を込めて叫んだかと思うと、偃月刀を投げ付けてきた。とても数十キロはある武器を投げたとは思えないほど凄まじい速度で飛ぶそれを驚きながらも辛うじて回避する龍見。回避した先では華雄が斧を構えていたが、短刀の上を滑らせるようにして斧を受け流す。何度もくる強力な一撃をかわしながら龍見はある事に気が付いた。霞の姿がないのだ。

 

「ほいっ」

 

「んなっ!?」

 

 気が付くと同時に背後から聞こえた声。そして払われる脚。そこで龍見は霞が偃月刀を投げた意味を理解する。それは奇襲でも遠距離攻撃でもない。軽量化だ。数十キロのものを持っている状態とそうでない状態。どちらが速いかなど考えるまでもない。普段でも武器を持ちながら素早く動く霞が武器を捨てた状態なら龍見の背後を取るのも容易かった。

 

「結界発動!!」

 

 このまま倒れれば斧の餌食となる。予め準備していた簡易な結界で一時的に霞と華雄を拘束し、強力な術で仕留めようとした。そう、余力を残しながら結界を張ってしまったのだ。

 

「「解呪!!!」」

 

「えっ?」

 

 砕け散る結界。呆ける龍見。迫りくる斧。龍見の体は見事に泣き別れる事となった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「詠の仕業、か?」

 

 蘇生が終わった龍見は怠そうに質問した。

 

「おぉ、ほんまに生き返るんや」

 

「確かに詠から教わった。解呪は覚えておくべきと言われてな」

 

「うん、まあ、その通り。良いことだ…………」

 

「でもま、龍見ほどの術やと複数で対抗せなあかんけどな」

 

「はぁ…………失敗した」

 

 最後の結界で全力を出しておけば解呪される事などなく、逆転の可能性もあった。今後逃げに出し惜しみは止めようと龍見は深く誓った。

 

「だる…………部屋で寝る」

 

「はいはーい。明日飯奢ったるから元気だしや」

 

「ん…………」

 

 軽く手を降って返事をする龍見の動きは数日徹夜をした人のようにフラフラとしていた。

 

「霞よ」

 

「なんや華雄」

 

「確か今晩、地和が馬淵に抱いてもらうと息巻いていなかったか?」

 

「んー…………どうにかなるやろ。龍見やし」




次回! 地っぱいを弄る!!


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第三十九話【R-18】

会社で色々とあって最近は気分が沈んでいますが私はたぶん元気です。


ーーコンコンコン

 

 地和は大きく鼓動する心臓を落ち着かせながらノックをする。龍見が部屋にいるのは霞から報告を受けていた。しかしながら返事がない。首を傾げながらも更にノックをする。まだ返事はない。そっと扉に手を伸ばすと鍵は掛かっていないようだった。

 ゆっくりを扉を開けて室内を覗いてみる地和。部屋中を見回すと布団の中に龍見の姿があるのが見えた。

 

「なんだ、寝てたのね」

 

 地和が近付いていってもピクリとも動かない。僅かな寝息が聞こえなければ死んでいるかと見間違うほど深く眠っている。頬をつついてみても少し顔を動かす程度の反応しか示さない。嫌がらせをするように腹の上に座ってみるものの、硬い座り心地を味わうだけだった。

 

「まあちぃは軽いもの。仕方ないわよね。当たり前だけどよく鍛えているわね。お腹ってこんなに硬くなるんだ」

 

 ぺちぺちと龍見の腹筋を叩いていた地和は少し考え込むと、龍見の服を一気に捲った。

 

「おおー、割れてる」

 

 見事に六つに割れている腹筋に手を沿わせる。何度も触っているうちに地和の顔はどんどんと龍見の体に近付いていき、そのまま添い寝するように密着した。

 

「すーはー、すー…………はぁぁ…………♪」

 

 顔を密着させた地和は大きく深呼吸をして至福の表情を浮かべた。龍見の身体中の匂いを嗅ぎながら、その手は股間へと伸び自慰を始めた。

 

「ん、うふふ……すーはーすーはー、あははっ、龍見の匂い好きぃ…………♪」

 

 陰部がぐちょぐちょになって軽い絶頂を繰り返しても匂いを嗅ぐのも自慰も止まらない。

 

「あ、味も…………ちょっとだけ…………」

 

 ここまでやってまだ緊張しているのか、震えながら龍見の腹筋へと舌を伸ばす。その舌先が触れた瞬間に地和はビクリと大きく痙攣した。

 

「お、おいひぃよぉ♪ れろれろ、んっ、ちゅっぱっ」

 

 ほんの一舐めが地和の何かを覚醒させたらしく、夢中になって龍見の腹筋を舐め回す。そんな地和がいつまでも腹筋だけで満足するわけもなく、その目は龍見の下半身へと向いていた。

 

「ね、寝てる龍見が悪いんだからね。襲われたって、文句言えないわよ…………」

 

 自分に言い聞かせるようにとんでも理論を展開しながら龍見のズボンに手を伸ばす。龍見が起きないのは先程までの行為で分かっていても、どうしても慎重になってしまう。

 無事脱がし終わると姿を見せる逸物。以前見て触った時には感じなかった興奮。地和は逸物に近付くと思いっきり鼻で息を吸った。

 

「ふあぁぁぁぁぁんっ♪」

 

 本来なら臭いと感じるような臭いのはずなのに、今の地和にとっては凄まじい依存性を感じる魅惑の香り。思わず腰が砕け、倒れ込む地和。目の前には龍見の逸物。常に鼻に臭いが届き、それだけで達してしまいそうになっていた。

 

「なぁにしてんだ?」

 

「…………ふぇ? たちゅみ、おはよ」

 

「ああ、おはよう。さあ離れなさい」

 

「やーだー!!」

 

 目を覚ました龍見は乗っている地和を一先ず退かそうとするものの、地和はしっかりと掴まって離れそうにない。

 

「分かった。離れたくないならこのままでいい。一応今晩はそういう約束があるわけだしな。ただ何故オレの腹が涎まみれなのか説明を求む」

 

「美味しそうだったから」

 

「食人鬼かよ。お前にそんな趣味があるとは思わなかったわ」

 

「…………龍見は、私の事、好き?」

 

「……不安か?」

 

「うん…………だって龍見、帰ってきてから恋の事ばっかり…………私なんて、どうでも、ひっく…………」

 

「ごめんな。そんな風に思わせちゃったか」

 

 泣き出す地和の頭を撫でて宥める。これまで軽い感じで接してきた地和に対し、龍見も同じようにしてきた。それが地和の不安をいたずらに煽ってしまった。

 

「うぇぇーん!」

 

「あー、ごめんよ。オレに出来る事なら何だってするから泣き止んでくれ」

 

「うぐ、えぐっ…………ほんと? ほんとに何でもしてくれる?」

 

「ああ、何だってしてやるぞ」

 

 この時の龍見は寝起きに加え、復活の代償によって頭が回っていなかった。それ故に気付かない。自分が致命的な一言を言ってしまったという事実に。

 

「じゃあまず結婚ね」

 

「ん?」

 

「新居も欲しいわよね。あ、それよりも先に子供が三人は欲しいかな」

 

「んん?」

 

「あとあと」

 

「い、いや確かにオレに出来る事ではあるが、なるべく今すぐにやれる事の方がいいかなぁ」

 

「ならまずは龍見の、その、おちんちん、舐めたいな。あの時はできなかったし」

 

「分かった。好きにしろ。あ、噛むのは無しな」

 

「流石にそんな事はしないもん。れろっ…………」

 

 まだ勃起に至っていない龍見の逸物を舐める地和。初めてなはずだが、的確に男の感じる部分を攻めていく。たっぷりと時間をかけて逸物を舐めていった地和は一気に喉まで呑み込んだ。

 

「じゅぷっ、ぢゅるる……じゅぞぞぞ!」

 

 激しいイラマチオだが地和は全く苦しさを感じさせない。想像以上の奉仕に龍見は我慢しきれずに地和の喉奥へと射精した。生臭さと苦味が口一杯に広がっているというのに地和は逸物から離れる気配を見せない。むしろ舌で亀頭を舐め回し、尿道に残った精を啜って更なる射精を促すほどだった。

 

「ち、地和、少し離れてくれ…………このままだと」

 

「…………じゅる、ちゅぅぅぅぅっ!!」

 

「う、ぐ…………で、る!!」

 

ーービュルルルルッ ドクッドクン

 

 容赦ない追撃によって二度目の射精をさせられる。吐き出された精を全て飲み干した地和はやっと満足したのか逸物から口を離す。

 

「ごちそうさま♪」

 

「お、お前、こんな技術どこで覚えてきたんだ」

 

「乙女の秘密よ。それより、こんなに濃いの飲まされたらもう我慢できないわ。ねぇ、こっちにも食べさせて」

 

 地和は自ら股を開き、愛液が滴る陰部を広げる。

 

「初めてだよな? そのわりには随分と濡れてるじゃないか。オレのを舐めただけでイったのか?」

 

「……うん」

 

「触らないでイくとは淫乱だな。これ入れたらどうなるんだろうな。ん?」

 

 逸物を陰部にあてがいながらゆっくりと擦っていく。静かな室内に水音が響く。

 

「龍見……意地悪しないで、入れてよ」

 

「ああ、悪かった。いくぞ」

 

「んん、ふぅ…………」

 

 龍見が想定していたよりもすんなりと挿入されていく逸物。僅かに流れ出る血が地和が処女であったのを証明しているが、地和はあまり痛みを感じている様子はない。それを確認した龍見は躊躇なく腰を打ち付け始めた。

 

「あっ! あっ! ら、らめ、はげしっ!?!」

 

「初めてなのに、気持ちいいんだろ? 遠慮せず、イっていいぞ!!」

 

「あひっ!? そ、そこ、いい! 気持ちいいよぉっ!!」

 

「ここがいいのか?」

 

「いい! いいの!! い、あ、イ、っくぅ!!」

 

 膣に入ってすぐの上部。俗に言うGスポットで地和は強く反応を示した。調子に乗った龍見が何度も擦りあげてやると、地和はすぐに潮を吹くほどの絶頂に到った。

 

「も、げんか、い…………」

 

「そうか。なら少し休憩しようか」

 

 いくら反応がよくても初めての性行為であまり無理はさせてやれないと、龍見は逸物を抜こうとした。しかしながらそれを妨害するように地和の脚が龍見の脚に絡み付く。

 

「ま、だ……龍見、イってないでしょ…………イこ?」

 

 息も絶え絶えで明らかに無理をしているのが分かるほど消耗している地和。それでも龍見へ微笑みかけるその笑顔は魅力的で、龍見を誘惑するには十分すぎた。

 再び腰を振り始める龍見。地和の疲労も考慮してか先程よりも遅くはあるが、今度は地和を気持ちよくするよりも自分を優先した動きだ。

 

「た、つみ、チュッ、て、して!」

 

 地和からの要求に応え口付けをする。互いの舌を絡め合い、口内を舐め回す。射精感が高まった龍見は腰を振るのを止めると子宮口へ逸物を押し当てた。

 

ーードクッドクッ ドクンッ

 

「んん~~~~~~っっ!!!?!」

 

 大量の精液が子宮内に流れ込む。一滴も溢さないと言わんばかりにグリグリと押し付けられる逸物の感覚と熱い精液に地和は再び絶頂した。

 

「はぁはぁっ…………地和、大丈夫か?」

 

「きゅぅぅ…………もう、だめぇ…………」

 

 まだまだ余裕のある龍見に対して地和は完全に倒れた。意識はあれど体は動かない。

 

「あ……たつみ…………こんばんは、このまま…………すぅ…………」

 

「このままって入れたまま…………寝てやがる…………」

 

 仮にも何でもすると言ってしまった手前このままの状態で一晩過ごす事を余儀なくされてしまったのだった。

 翌朝、また全身が舐められていたので、流石に地和を叱った。



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第四十話

難産だけど安産だった。


「みんなー!! 今日はありがとー!!」

 

『ありがとー!!!』

 

「愛してるわよー!!」

 

『愛してるー!!!』

 

「また来てねー!!」

 

『来るー!!!』

 

 数え役満☆姉妹の公演が無事に終わり、彼女らの世話をしている龍見は舞台裏で一息ついていた。この後には片付けや反省会があるものの、メインイベントが終わったのだ。安心もする。

 

「まだ昼だし、適当な店を貸しきって反省会でもするか………」

 

「龍見ーー!!」

 

「お疲れ様、三人とも。ちぃは少し落ち着こうな」

 

 三人に労いの言葉を掛けつつ、飛び掛かってきた地和は軽く受け止める。

 

「それにしても龍見さんは恋さんの近くにいなくて平気ですか?」

 

「まだ出産予定日まで半月はある。華陀も一緒だ。何あったら連絡が来るさ」

 

「いえ、龍見さんが恋さん欠乏症で倒れないかと」

 

「おいこら人和。変な病気作るんじゃねぇ。ん? 華陀か? どうした?」

 

『急用だ。時間はあるか?』

 

 和気藹々と雑談をしているなか、突如として華陀からの念話が入る。急用と言う割には落ち着いているようだ。

 

「今公演が終わったところだ。話してくれて構わないぞ」

 

『助かる。恋の事なんだが、出産予定日が早まった』

 

「ほー、いつよ」

 

『明日だ』

 

「急だな!? 今すぐ戻る!!」

 

『ああ、戻るなら天和も一緒だとこちらとしても助かるが、大丈夫そうか?』

 

「天和! 一緒に帰るぞ!」

 

「? いいよー」

 

 華陀には華陀の考えがあるのだろうと特に詮索する事なく龍見は言うことに従った。幸い公演が終わったので天和達がやる事は少ない。ここで連れて戻っても関係者から不満が出る事はないだろう。

 

「龍見、どうしたの?」

 

「恋の出産予定日が明日になった! ちぃ、人和! 関係者への指示は任せる! 行くぞ天和!!」

 

「きゃー! さーらーわーれーるー!!」

 

 天和を担ぎ上げた龍見は猛ダッシュして姿を消した。

 

「出産かぁ。羨ましいなぁ」

 

「だから姉さんが駆り出されたのね。時期が早いのは心配だけど、華陀さんと姉さん、それに義兄さんもいるし大丈夫かしらね。私達は私達の仕事をするとしましょう」

 

「………………人和、義兄さんって?」

 

「龍見さんよ。まだ正式に決まったわけじゃないけど、もうほぼ確定でしょ?」

 

「なんか照れちゃうわ」

 

「ちぃ姉さんが照れる必要はないと思うのだけれど………」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 馬を全速力で走らせてきた龍見と天和は夕方には城に戻ってきた。

 

「龍見さん。帰ってくる途中でも話したけど、父親になるんだからドーンと構えないと駄目だよ。恋さんもお腹の赤ちゃんも心配しちゃうんだから」

 

「ああ、大丈夫。大丈夫だ………………華陀、戻ったぞ。入ってもいいか?」

 

「問題ない」

 

 華陀の返事を待ってから静かに部屋に入る。恋は眠っているらしく、華陀はその隣で出産に向けての準備を行っていた。

 

「急に呼び出す形になってすまない」

 

「それはいいんだ。それより恋の容体は?」

 

「着々と出産に向かっている

 

「半月も時期がずれて大丈夫なのか? それに患者の診察を失敗するなんてお前らしくもない」

 

「時期ならば問題はない。早い出産も遅い出産も経験はある。失敗については、申し訳ない。魔眼が妊娠には役立たずな以上、医師としてしっかり診察しなくてはならないのだが、如何せん恋が患者としては特殊でな」

 

 華陀が患者にも問題があるように言うのは非常に稀だ。特に恋のように医者の言うことをキチンと聞く患者に対してこのような事はまず言わない。

 

「何が特殊なんだ?」

 

「陣痛をほぼ感じなかったらしい。今朝も少し腹が痛む程度だと思って相談してきたのだ」

 

「てことは、予兆自体は結構前からあったけど、恋が言わないから気付けなかったと」

 

「すまん」

 

「いや、いいんだ。恋は武将だからな。痛みに強くて当たり前だ 。戦いの痛みと陣痛は相当違うだろうけど、恋からすりゃ我慢が簡単なもんなんだろう」

 

「二人とも。話すのはいいけど、準備もね。恋さんが痛むくらいの陣痛って事はすぐにでも破水が始まってもおかしくないよ」

 

「ああ、そうだ………な………………なんだその格好」

 

 いつの間にか着替えていた天和の服装は何故かこの時代にあるナース服だった。それもコスプレというよりも本職が着ているようなしっかりとしたものだ。

 

「助産するんだから格好もきっちりしないとね」

 

「………………助産出来るのか?」

 

「あー! なんか馬鹿にしてるでしょー! これでも村一番の助産師って呼ばれてたんだから!!」

 

「彼女の腕は俺が保証しよう。これまで出会ってきた助産師の中でも五本の指に入るほどだ」

 

「意外な才能があるもんだ」

 

「ん、ふぁ~~」

 

「恋? 起きたのか? 調子はどうだ?」

 

「?? 龍見?」

 

 目覚めた恋はまだ帰ってくるはずのない龍見を見て首をかしげる。直後、何かに気が付いたように自身の股間付近に手を伸ばす恋。

 

「お………………」

 

「お?」

 

「おもらし………………してる………………」

 

「龍見さんと華陀さんはあっち向いててね。恋さん、確認するからそのままね」

 

 天和に言われてハッとした二人は即座に後ろを向く。その間に天和は恋の様子を見るため布団を剥ぎ取る。

 

「………………華陀さん! 出産準備!! 龍見さんは産湯の用意!! 破水してる!!」

 

「「なにぃ!?」」

 

 天和の言葉に驚く二人だが、体はすぐに行動へと移っていた。何より龍見は素早い。たらいの錬金から産湯の生成まで、僅か十数秒で済ませる。華陀も予め用意してあった道具を取り出し、恋へと駆け寄る。

 

「温度は問題ないか?」

 

「適温だ。このまま維持は可能だな?」

 

「当然」

 

「恋さん、ここから更に痛くなると思いますけど、赤ちゃんが頑張っている証拠ですよ。お母さんも頑張りましょうね」

 

「うん、わかった」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 破水が始まってからどれほど経ったか。ただ待つ事しか出来ない龍見には何十時間も待たされているような感覚しかなかった。

 

「まだなのか?」

 

「もう何度も同じ質問をしているぞ。安心しろ。今頭が見えている。もう少しだ」

 

「恋さんの調子もいいですよ。これほどの安産はなかなかないくらいです。お父さんになるんですからどーんと構えていて下さい」

 

「むぅ………」

 

 確かに龍見がいくら騒ごうと出産の結果を変えられるわけではない。落ち着くため座って深呼吸をする。華陀の実力は信用しているし、天和もこれまでも動きを見れば十分な腕を持っているのは理解できる。ならば二人に全てを委ねよう。そう龍見が自分に言い聞かせ終わった時………………

 

「オギャアッオギャアッ」

 

 その声は響き渡った。決して大きいわけではない。だがそれでも命の誕生を伝えるには十分すぎるほどの泣き声。

 

「やりましたね恋さん! 女の子ですよ!」

 

「よく頑張ったな!! 龍見! 何を呆けているんだ! こっちに来い!」

 

「あ、ああ」

 

 先程まで慌てていたのが嘘かのように呆然としている龍見は、華陀に呼ばれて意識を取り戻したかのうに恋へと駆け寄る。

 産湯に入れられた小さな命。直前まで恋の中にいたとは思えないほど元気に泣いている。そっと龍見が手を伸ばすと、その小さな手で龍見の指をしっかりと握り返してきた。

 

「ああ………ありがとう………………生まれてきてくれて、ありがとう………………恋も、本当によくやってくれたな………………」

 

「少しだけ、疲れた………………」

 

「ふふ、お前らしいな………………今はゆっくり休んで」

 

ーーパリィンッ

 

 龍見が言葉を紡ぎきる前に窓が砕け散る音がした。そして何か強い衝撃を胸に受けた龍見はそのまま命を落とした。だが龍見も周囲を元に戻しながら復活する。普段は復活直後は気だるそうにする龍見が今は怒りによってそれを掻き消していた。

 

「くそが!!! オレの娘と妻に怪我させるつもりか!!!」

 

 一気に窓まで近寄ると、窓へ最大限の強化を叩き込む。そこへ何かが高速で飛んでくるが、一つたりとも窓を突破する事は出来ていない。やがて何かの飛来は止み、それとほぼ同時に城の者達が駆け込んできた。どうやら先程龍見が殺された時の窓が割れた音がかなりの範囲に響いたらしい。

 

「何よさっきの音!? 恋と赤ちゃんは大丈夫なの!?」

 

「落ち着け詠。無事だよ………………貂蝉、話がある」

 

「言わなくても分かるわぁん。左慈ちゃん達、やってはいけない事にまで手を出したわね」

 

「ああ………………ライフルとは、流石に想定外だ………………」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「また失敗か? 于吉、どういうつもりだ?」

 

「申し訳ありません左慈。しかしながら今回の作戦はもう止めましょう。この時代にない兵器を持ち込んでこれ以上何かしようものなら上が黙っては」

 

「黙れ!!!!」

 

 左慈の一発の蹴りで于吉は地を転がり、そのまま壁に衝突して止まった。内臓でもやられたのかかなりの量の血液を吐いている。

 

「上に目を付けられる? 喜ばしいじゃないか。この異常な外史を消し去れる!! それが俺らの望みだろう!!」

 

「だ、駄目………です。この、外史は既に独自の、ゴホッ………………歩んで………………仮に消さ、れる………………し………た、ち………………」

 

 体が持たなかったのか。言葉絶え絶えに何かを左慈に言おうとした于吉は気を失った。そんな于吉を横目に左慈は次の作戦を練るためにその場を去った。確実に龍見を消し去る。今の彼はそれでのみ動いていた。




ノリで現代兵器まで持ち出しちゃったんだぜ。
次は生まれたばかりの娘ちゃんのお話になるはず。


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第四十一話

私、社畜、辛い


 龍見と恋の娘の誕生から二週間。最初の左慈の襲撃以外に目立った問題はなく、穏やかな日々が続いた。もし何か問題が発生したとしても恋と娘は確実に無事だったろう。何故なら………………

 

「ほ~ら~、首吊りブランコ~」

 

「イシュタムは教育に悪いなぁ。あんなの見ちゃダメだよ。ほらこっち見て。いないいない………ばぁっ!」

 

「ミシャグジ古すぎ~。時代は刺激だよ~」

 

 ミシャグジ様とイシュタムが頼んでもいない子守りをしているからである。二柱の神が傍にいる状況では同格の神でもない限り手は出せない。

 

「あのー、お二人とも。流石にもうそろそろお帰りになった方がよろしいのでは? 少なくとも三日は現界していますよ」

 

「「へーきへーき」」

 

「………………帰れバ神!!!!」

 

 あまりに娘に馴れ合いすぎている神々を蹴飛ばす龍見。生まれて数日の娘には何が起こっているのかも分かっていないだろうが、のちのちの悪影響を考えると放ってはおけない。何より神が人に近すぎるというのはそれだけで良い事とは言えない。龍見が待った三日も悪影響が出ない期限。二柱もそれは理解していたのか大人しく帰っていった。

 

「ったく、こっちから喚ぼうとしたら相応の手間を要求するのに、あっちから来る時はノーコストでやってくるもんな」

 

 そもたった一人の人間が魔力と手間のみをコストに神々を召喚すると言う事自体が異常なのだが、龍見からすればそれでも不満らしい。

 

「あーうー」

 

「おうおう、ごめんな恋歌(れんか)。ほらたかいたかーい」

 

「キャッキャッ」

 

 娘の真名を呼び、抱え上げる龍見。娘の名は玲綺(れいき)。こちらは恋が名付け。真名の恋歌は龍見が名付けた。

 

「よしよし。そろそろお姉ちゃん達のところに行こうな」

 

 恋歌を抱き抱えて歩き出す。今日は恋歌の字をみんなで決めようという話になっていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「遅い。どれだけ待たせるつもり?」

 

「神様を追い返すのって面倒だから許してください詠さん」

 

「あい」

 

 龍見が頭を下げると真似をして恋歌も頭を下げる。そんな姿を見せられると詠も何も言えなくなってしまう。

 

「仕方ないわね。無駄に説教しても時間使うだけだし、恋歌ちゃんの字決めを始めるわよ」

 

ーーパチパチパチ

 

 全員暇ではないだろうにしっかりと集まっている。一部は自分が考えた字を纏めてきていたりもする。

 

「じゃあ字を考えている人から意見を聞こうか」

 

「はい!!」

 

「元気がいいな。月、どんな字を?」

 

「龍先(りゅうせん)はどうでしょうか。龍見さんの名前と恋さんと字を合わせてみました」

 

「ほほう。なかなかいいんじゃないか。とはいえ他にも意見はあるからそっちも聞こうか」

 

 次に龍見が指名したのは音々音だった。待ってましたといわんばかりに音々音は用意していた大量の紙を取り出した。それを確認した龍見は軽く指を鳴らした。すると室内なのに突風が巻き起こり、紙を吹き飛ばした。

 

「ああ!! ねねの案が!!?」

 

「一つに絞ってこいって伝えたろうが。それと紙の無駄使いするな」

 

「ならば次は私だな」

 

「華雄も考えてくれたのか」

 

「ふふ、私が字を持たないからな。こう他人の字を考えるのが楽しくて仕方がない。まあ私の事は置いておくとして、恋歌の字は伯龍(はくりゅう)というのでどうだ?」

 

「なんか格好いいな」

 

「長女なのだから伯は欲しいと思ってな」

 

 字で長男に伯、次男に仲と付けるのは比較的メジャーだ。孫策と孫権の字などその典型と言える。

 

「ほな次はウチな。最高の字を考えてきたで。その名も! 具礼都(ぐれいと)魔じ、ぐほぅっ!!?」

 

「一辺死んでこい」

 

 容赦のない魔弾が霞を撃ち抜く!! 肉体よりも精神へ攻撃をするものであったため無傷だが、気絶はしている。

 

「えー、馬鹿な発言には容赦なく攻撃をするので気を付けるように」

 

 その後は龍見の目が光る中、平穏に字決めは進んでいった。全員が案を出し終わったと思ったところで恋が手を挙げた。

 

「どうした恋?」

 

「地和の案は?」

 

「そういえば聞いてなかったな。地和、お前もこの日を楽しみにしていたろ。何かないか?」

 

「ふふふ、恋歌ちゃんの字を考えるよりも自分の子供の名前を考えるのを優先させてもらったわ」

 

「気が早いな。まだ妊娠したと決まったわけじゃないだろ」

 

「いや決まっている。どうにも俺の魔眼の性能が上がったようでな。病魔だけでなく肉体が通常時と違う状態ならばすぐに判別可能になった」

 

 完全に固まる場の空気。姉妹すら聞かされていなかった想定外の報告の中、龍見はゆっくりと口を開いた。

 

「ちぃ………………ありがとう」

 

「うん。龍見も、ありがと。でも今は恋歌ちゃん優先だから、あたしのお祝いはまた後でね」

 

「オレとしてはすぐにでも祝いたいが、ちぃがそう言うならそうしよう」

 

「そうそう! それにお祝いするなら準備が必要でしょ! しっかりと準備してね、たっちゃん!」

 

「たっちゃんて、ミシャグジ様じゃあるまいしやめてくれよ天和」

 

「お姉ちゃん」

 

「は?」

 

「お・ね・え・ちゃ・ん」

 

 じりじりと近寄ってくる天和の意図は理解したが、いい歳して義姉をお姉ちゃん呼びするのは相当恥ずかしいらしく声を出せない龍見。

 

「どうしたのかなぁ? さあ早く早く早く早く!!」

 

「ね、義姉(ねえ)さん………で、許してくれ」

 

「………………たっちゃんは照れ屋さんなんだからぁ!!」

 

 そうは言いつつも天和は非常に満足げだ。オレの方が歳上のはずなのにとぼやきながらも、さっさと案を纏めていく。

 いくつか案は上がっていたものの、最終的には月と華雄の案の二択となった。

 

「最後だ。恋、お前が決めてくれ」

 

「ん、こっち」

 

「はえぇな!!」

 

 恋が迷わず選んだのは月の案、龍先という字だった。

 

「恋と龍見の名前が入ってるのがいい。華雄のは長男が生まれたら使う」

 

「確かにそっちの方がいいかもな。長男かぁ。今からしっかりと考えておかないとな」

 

「失礼します!!!」

 

「てめっ………何があった?」

 

 恋歌の字が決まり、将来の家族計画を思い描いていたところに飛び込んできたのは門番の兵士。文句が思わず飛び出そうになるものの、龍見は落ち着いて何があったか聞き返す。

 

「呉より使者の方が参られました! すぐにでも馬淵様とお会いしたいとの事です!!」

 

「すぐに通して下さい。龍見さん、いいですね?」

 

「いいぜ月。はぁ、呉に直行だろうな。ごめんな恋歌。お父さんお仕事だよ」

 

「う~?」

 

「おお、そうだそうだ。こいつをここに置いておくからこれをオレの代わりにしてくれ」

 

 龍見が懐から取り出したのは魏でも置いてきた自身の自動(オート)人形(マタ)だ。ただしこちらは魏のものと違い、龍見との情報共有が可能だ。恋歌は人形を不思議そうに眺めていたが、少しすると嬉しそうにそれを抱え上げていた。

 

「キャッキャッ!」

 

「詠、これはオレと繋がってるし、オレと同じ思考もある。何かあったらこいつに言ってくれ」

 

「分かったわ。あんたも恋歌ちゃんの事は私達に任せて安心して呉へ向かいなさい」

 

「あいよ」

 

「失礼します! 使者の方をお連れしました!!」

 

「失礼する。久しぶりだな、馬淵龍見」

 

「周瑜さん!? 貴方が来るなんて何があったんです?」

 

「ここで詳しく話すつもりはない。すぐにでも来てもらいたい」

 

 呉の軍師の中でも最上位に位置する周瑜がわざわざ足を運んだのだ。確実に龍見を連れ出さなくてはならない理由があるのだろう。その場にいる全員がそれを理解した。

 

「分かりました。行きましょう」

 

「準備はいいのか?」

 

「必要なものは呉で用意します。みんな、また暫く空ける。大丈夫だとは思うが、みんなじゃどうしようもない事態の時には貂蝉の指示に従ってくれ。頼むぞ、貂蝉」

 

「ええ、いざという時には任せてちょうだぁい」

 

「あれに任せるのか?」

 

「あれじゃないと無理だ」

 

 周瑜が気になるのも最もだ。普通は貂蝉のような色物に任せるなどできはしない。だが左慈絡みの問題については貂蝉以外に任せることは出来ないのだ。

 龍見は軽く別れの挨拶をし、周瑜に続く形で馬を走らせた。行く前から起こっている問題に溜め息をつきながら、最悪の事態が発生してもいいよう心構えだけはしっかりとしておくのだった。




次回からは呉になります。真にはいなかった大喬小喬も出るよ。


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第四十二話

え!!社畜しながら更新頻度の向上を!?
出来らぁっ!!


 ろくに休憩も取らずに馬を走らせ続け、呉へ到着した龍見は城へと連れ込まれた。どれほどの問題が発生しているのか伝えられてはいないが、周瑜の焦り方を見る限りは呉にとってかなりの問題のはずだと龍見は想定した。そして自分がわざわざ呼ばれるとなると、何かしら術関係の問題であろう事も容易に考えられた。

 周瑜が向かったのは城の中でも奥にある一室。数人の警備兵がいたが、周瑜を見るとすぐに扉の前から引いた。

 

「雪蓮! 馬淵龍見を連れて………」

 

「あっ、冥琳おかえりー。そんなに慌ててどうしたの?」

 

「………………体調は?」

 

「万全」

 

「何故倒れた?」

 

「寝不足」

 

 元気そうな孫策の姿に拳を震わせる周瑜。心配していた人がその気も知らずにほのぼのしているのだ。怒っても仕方がないだろう。

 

「まあまあ、落ち着いて下さい周瑜さん。オレは気にしていませんから。むしろ何もなくて安心しました」

 

「それより冥琳。貴方の早とちりで馬淵を連れてきたんだから、歓迎会の準備は貴方がやりなさいよ」

 

「くっ、終わったら説教だからな」

 

 周瑜が退室して暫く、孫策は倒れこむように椅子にもたれ掛かった。

 

「はぁーーー、なんとか騙せたわ」

 

「何があったか聞かせてもらえますか?」

 

「寝不足で倒れたのは事実なんだけど、寝不足になる理由がないのよ。今も貴方達が来る少し前まで寝ていたのに………ふぁぁ………眠い」

 

「成る程。それで原因不明だからオレを呼んだという事ですか」

 

「冥琳が勝手にだけどね。でも正解だったかも。医者も呪術師もみんな分からないっていうんだから………ふぁぁ………」

 

「失礼します」

 

 龍見は眠そうな孫策の顔の前にそっと手をかざす。数分間何か呪文を唱えるわけでもなくそのままでいたが、その手を引き離すと同時に孫策の体から半透明の靄のようなものが抜け出したのだ。

 

「な、なにこれ!?」

 

「眠気の正体ですね」

 

「あらあら、まさか私を見つける子がいるなんてね」

 

 靄から自身と同じ声が聞こえてきた事に孫策は目を丸くする。靄は徐々に形を変えていき、孫策と同じ姿へと変貌した。違いがあるとすれば背中にある悪魔のような翼だけだ。

 

「夢魔………それもサキュバスか。サキュバスならサキュバスらしく男に憑いてろ」

 

「人がご飯を選ぶように、夢魔にもご飯を選ぶ権利くらいあるでしょう」

 

「………………あんた、私をご飯だって?」

 

「そう言ったつもりだったけど」

 

 夢魔の発言が気に触ったのか、孫策は剣で夢魔の首を切り払う。しかしながら手応えは一切なく、夢魔の首も何事もないかのように繋がっていた。

 

「あはははっ! そんなもの効くわけないじゃない! 私が生きる世界は貴方とは次元が違うのよ!!」

 

「あっそ」

 

ーードシュッ

 

「えっ………………? なんで、こんなのが刺さって………………? い、痛い、血が、こんなに………………」

 

 夢魔の胸から突き出した切っ先。先程孫策の剣がすり抜けたはずの夢魔の肉体を容易に貫いたそれは龍見が背後から突き刺したものだ。

 

「痛いか? 苦しいか? すぐ楽にしてやる。

塵は塵に。灰は灰に。生まれし生には祝福を。汚れし魔には粛清を。セイント・フレア」

 

「いやあぁぁぁぁぁッッ!!?!? 熱い熱い熱い熱いっ!! 体が、溶けちゃうぅっ!?!! や、だ………死ん、あああああぁぁあぁぁあぁぁぁっっ………………」

 

 突き刺された短刀から純白の火の手が上がり、一瞬にして夢魔を包み込む。不可思議な白い火は夢魔の肉体を外から燃やし、内から溶かしながらその火力を上げていく。暴れまわる夢魔が物にぶつかっても火は消えることも燃え移ることもなく、最後には灰の一片すら残さずに夢魔を燃やしきった。

 

「アーメン、なんてな」

 

「やるじゃないの」

 

「怪物退治は得意分野でしてね。特に今回のは楽でしたよ。自信過剰な上に若くて経験も浅い。殺して下さいと言っているようなものです」

 

「確かにああいうのは得てして早死にするわよね。それより一言いい?」

 

「何でしょう? やっぱり孫策さんの手で止めを刺したかったですか?」

 

「それはいいのだけれど、自分の姿が焼け死ぬのを見せるのはやめてもらえる?」

 

「あー、すみません。配慮が足りませんでした」

 

 龍見は申し訳なさそうに頭を掻きながら短刀を拾う。短刀は赤熱もしておらず、とても火の発生源とは思えなかった。

 

「しっかし、魏の八尺様といい夢魔といいどっから紛れ込んだ?」

 

 一番思い当たるとは左慈と于吉の策略だが、それにしては弱すぎる。あの二人なら龍見を確実に殺そうとするはずだ。次の可能性としては自然発生。だがこの可能性も低い。悪魔や妖魔の自然発生には人々のイメージが必要だ。龍見と一刀ぐらいしか知っている人間がいない八尺様や夢魔が勝手に湧いて出るとは考えづらい。

 

「なんか騒がしかったけど、どうかしたかい?」

 

「あ、母様」

 

「ご無沙汰しております。孫堅さん」

 

「馬淵龍見? もう来ていたのかい。ま、何事も早いに越したことはないか。雪蓮、もうすぐ飯だよ」

 

「うん、分かったわ。馬淵、色々と助かったわ。ありがとう」

 

「どう致しまして」

 

 初日から軽いトラブルはあったものの、胸一杯の呉での生活が幕を開ける。




歓迎会にて

孫堅「さっき雪蓮の部屋を通りがかった時に『こんなのが刺さって』とか『熱い』とか『溶けちゃう』って言ってる雪蓮の声が聞こえてきたんだよ」

孫権「馬淵、話があるわ。こっちに来なさい

周瑜「拒否権はない。分かるな?」

龍見「えっ、いや待って下さい。オレは何もやってないんですがねぇ!!! てか二人とも力強すぎ!? く、首締まってる!! ヤメロー! シニタクナーイ!!」

ーーズルズル

孫堅「いやまさか雪蓮の格好した化け物を退治していたなんてね。娘が世話になってあんたにゃほんとに感謝、ってあれ? 馬淵は?」

孫策「口は災いの元よ、母様。今回災いを受けたのは馬淵みたいだけどね」



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第四十三話

実は呉の攻略対象があんまり決まっていなかったり


「完成!」

 

 術の指南書作りも慣れたもの。呉にやってきた晩には完成させてしまっていた。途中錬金術を用いた製紙と印刷を開発し、機械のごときスピードで作業を終わらせた。

 

「やっぱ印刷技術って偉大だわ。うん、楽だ」

 

「ごめんくださーい」

 

「はいはい、どうぞ」

 

「失礼しますね」

 

 やってきたのは一部でたわわ軍師と呼ばれている陸遜だ。三国でも最上位に位置するその爆乳に目移りしながらも平然とした振りをする龍見。露骨に分かりやすい態度なのだが、陸遜は気付いた様子もない。

 

「明日の事で報告が、この本は何ですか?」

 

「今さっきオレが作った術の指南書ですよ。読みます?」

 

「是非!!」

 

 何かを伝えに来たはずの陸遜はそれすらも忘れて本に没頭する。自分の創作物を一生懸命読んでもらって悪い気がするはずもなく、龍見は鼻歌を歌いながら蜀へ送る自動(オート)人形(マタ)作りへと入った。

 この時龍見はまだ知らなかった。陸遜が本を読むという事が何を意味するかを………………

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 陸遜が龍見の所を訪れる少し前、周瑜は二人の少女を呼び出していた。

 

「「失礼します」」

 

「待っていたわ。大喬、小喬」

 

 江東の二喬とも呼ばれる絶世の美少女姉妹。それが大喬小喬だ。桃色の髪に似たような服装な二人だが、馴れた人ならば穏和な顔立ちの大喬と少々鋭い目付きの小喬で見分けがつくらしい。

 

「あの、冥琳様。ご用とは何ですか?」

 

「そう怯えなくてもいいわよ大喬。二人なら簡単な仕事よ。馬淵龍見を骨抜きにしてきなさい」

 

「ええ! 冥琳様や雪蓮様以外と、いいえそれ以前に男の相手をしないといけないんですか!」

 

「何も肌を重ねろというわけではないわよ小喬。二人の魅力なら傍にいるだけで簡単に落とせるわ」

 

 周瑜の言葉は慢心しているようにも聞こえるが、事実二喬の魅力というのはそれほどまでにある。それに龍見が他国でも数人の女性に手を出しているという情報も得ていた。複数の女性に手を出す男に二喬を差し出すのは一抹の不安があるものの、万が一があれば同盟の問題にすればいい。そして龍見を処罰する。二喬は孫策と周瑜の恋人でもあるのだ。

 

「何かあったら私が雪蓮に言うのよ。あの首を切り落とすから」

 

「「は、はい」」

 

 笑顔で物騒な発言をする冥琳にビビったのか、二人はすぐに部屋を出て龍見の部屋へと向かった。

 

「ねぇ小喬ちゃん、わたしたちで本当にできるのかな?」

 

「冥琳様が大丈夫って言ったのよ。襲われない事だけを考えておけばいいのよ。ええと、この客間だったわよね?」

 

「も……がま……………ない…………」

 

「まっ………………や………………だ………!」

 

「? 中から声が聞こえるね。馬淵さん以外に誰かいるのかな?」

 

 中から騒ぎ声が聞こえてきていた。様子を窺うために二人はそっと耳を扉へと押し当てた。

 

「こんなもの見せられたらもう我慢なんて出来ないんですぅ! ああ、身体中が火照って熱いのぉ!」

 

「だからオレには妻と娘がいるんですって! てか軍師なのに力つえぇ! あっ! こら! 服脱ごうとするな!! どうして本読んだだけでこうなるんだ!!?」

 

「「あっ………………」」

 

 少しの言い争いで全てを察した二人はそそくさとその場を立ち去った。今の状態で龍見の誘惑など不可能だし、ましてや暴走している陸遜に巻き込まれる可能性すらある。自分達には何も出来ないと言い聞かせながら逃げていく二人の耳には僅かながらに助けを求める声が聞こえたとか聞こえなかったとか。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 翌朝、二喬が呼んだ周瑜によって救出された龍見はげっそりとした表情で窓の外を眺めていた。その横には鳥型の土像(ゴーレム)に乗った自動(オート)人形(マタ)がいた。

 

「ま、元気出せよオレ。犯されなかっただけましだろ」

 

「うっせ。さっさと蜀に行け」

 

「はいはい」

 

 龍見に急かされて飛んでいく自動(オート)人形(マタ)。それを見送った龍見は意味もなく空を見上げていた。

 

「本読んだら発情って………………術の指南をどうやっていけばいいんだ」

 

「あれはどうしようもないわ。私達も困っているもの」

 

「………孫権さん。気配なく入ってくるのはやめて下さい」

 

「ごめんなさい。穏の事について謝りたかったのよ」

 

「いいんですよ。体質みたいなものでしょう。気にしていません」

 

「そう、ありがとう。それにしてももうすぐ時間のはずだけれど、準備はしなくてもいいの?」

 

「? 何の話ですか?」

 

 何かあっただろうかと頭を回転させてみるものの、龍見の記憶に特別な予定はない。それを聞いた孫権は額に手を当てながら溜め息をついた。

 

「穏ったら伝えていなかったのね。今日シャオが貴方に街案内をするって言っていたのよ。きっと門前で待っているわ」

 

「えっ、そうなんですか。こりゃいかん。すみませんが失礼します」

 

「いいのよ。早く行ってきてあげて」

 

 孫尚香の待つ門前へと急ぐ龍見。孫権の言った通り、門前では孫尚香が待っていたものの、その雰囲気は明らかに不機嫌そうなものであった。

 

「あー、孫尚香ちゃん。待たせてごめんね」

 

「遅い!! どれだけ待ったと思ってるの!?」

 

「ごめん。さっき孫権さんに聞いたばっかりでさ。陸遜さんはほら、昨日の、な」

 

「………穏にはお仕置きね」

 

「ほ、ほどほどにな。それより今日はどうして案内をしてくれようなんて思ったんだい?」

 

「深い意味はないかな。馬淵と話してみたかっただけだし、そのついで」

 

「成る程。ならお願い致します、お姫様」

 

「うむ、苦しゅうない」

 

 龍見を連れて出発する孫尚香。どんどん進んでいくので目的があるかと思えば気紛れに店を覗いたりしている。時折買い物をしては龍見が荷物持ちとなり、いつしか両手一杯の荷物を抱えることとなっていた。

 

「そろそろ休憩してお昼ごはんにしよう!」

 

「そうしてもらえるとオレの両手も非常に喜ぶ」

 

「こっちにいいお店があるよ。近道して行こ」

 

 そう言って孫尚香は人気のない裏路地を突き進む。狭いので荷物をぶつけないように注意しながら進む龍見を気にして振り向いた孫尚香は曲がり角で人とぶつかってしまった。

 

「あいたっ!?」

 

「いってぇぇえええっっ!! 骨が折れたー!!」

 

「おい餓鬼!! 兄貴に何しやがる!!」

 

「えっ? えっ? ちょっとぶつかっただけじゃん!! 折れるわけないでしょ!!」

 

「うるせぇ!! 折れたんだよ!!」

 

「! 兄貴、こいつ孫家の末女ですぜ。こりゃたんまりと金を取れますよ」

 

「何? ぐへへ、おい餓鬼。金さえ出せば見逃してやってもいいぜ。出さなきゃお前が痛い目みて人質になるだけだけどな」

 

 私達チンピラですと言わんばかりのチンピラに絡まれた孫尚香だが、一切引くことなくチンピラを睨み付けている。

 

「はぁ? ふざけないで。馬淵、やっちゃって!」

 

「はいはい、悪いがあんたら『動くな』」

 

「か、体が………!?」

 

「うご、かねぇ………………」

 

 チンピラに言霊を飛ばして動きを封じる。軽いものなのですぐに動けるようになるが、時間稼ぎにはちょうどいい。

 

「やっつけないの?」

 

「孫尚香ちゃんがしっかりと確認しなかったのも問題だろ。これからは気を付けるんだぞ、互いにな」

 

 注意を受けたのが少し不満だったのか、頬を膨らませる孫尚香。その頭を撫でてやる龍見。端から見れば兄妹のような二人が着いたのはいかにも高価そうな店だった。立派な店構えに戸惑った龍見と違い、孫尚香は何でもないとばかりに店内に入っていく。

 

「こんにちはー。いつもの用意しておいてね」

 

「いつもので通じるのか。凄いな」

 

「よく来るんだもん。それより、ご飯が来るまでお話ししよ。天のこと教えてよ」

 

「あっちの事か………………懐かしいな。とにかく便利なところだったよ」

 

「便利?」

 

「ああ。何でもあったし、何でも出来るような気すらするところだった」

 

 自分の過ごしていた街並みを思い出す。そして思い返したくもない上司の顔を思いだし、苦い顔をしてしまう。

 

「やっぱオレは表の世界には合わねぇのかな」

 

「どういう意味なの?」

 

「あっちでは、何て言うか、一般的な仕事をしていたんだ。オレの術目当てな組織から誘いは一杯あったんだけど、それが嫌で普通の仕事をやったのが失敗だった。オレみたいな力を持っているのは然るべき事をやるべきなんだよ。今みたいな、な」

 

「ふーん。難しいんだね」

 

「オレが馬鹿だっただけだよ。お、料理来たぞ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「はぁー、美味かった」

 

 店構え通りというべきか、高級で美味な料理ばかりだった。孫尚香は当然のようにツケにしていたのが恐ろしい。

 

「ねぇねぇ! さっきのお話の続きしてよ!」

 

 食事の最中も現代日本の話をしていたのだが、相当気に入ったらしい。飛行機や自動車、新幹線などこの時代の人々からすれば神話もいいところだ。

 

「次は水族館なんてどうだ?」

 

「どんなのなの?」

 

「海を閉じ込めた巨大な屋敷ってところか」

 

「何それ!!」

 

 元々街案内をするはずだった孫尚香だが、いつの間にか龍見の話に夢中になり街案内など完璧に忘れていた。龍見も夢中になって聞いてくれる彼女に気を良くして覚えている限りの話をする。そんな事をしているうちに気が付けば夕方になってしまっていた。

 

「あっ、そろそろ帰らないと」

 

「そうだな。話は楽しかったか?」

 

「うん! またしてね!」

 

「仰せのままに」

 

「見つけたぞ!!」

 

 突然背後から大声がした。振り返るとそこにいたのは昼間のチンピラ。しかし今度は数が多い。この場にいるだけでも十数人はいた。

 

「お、昼間の雑魚じゃん」

 

「仲間を呼んで復讐ってやつ?」

 

「てめぇら昼間はよくもやってくれたな! ぶっ殺してやる!!」

 

「あの程度で殺されるのは勘弁願いたいんだが」

 

「少し人数集めた程度で勝てると思うなんてお子ちゃま以下の考えね。馬鹿みたい」

 

「覚悟しろよ。昼間みてぇに優しくしてやらねぇからな」

 

「いや本当に馬鹿だな。あれを優しいと言うか。しかも耳に詰め物したくらいでオレの術を何とか出来ると思うとは。呆れてものも言えない」

 

「えっ、つまりあいつら何も聞こえてないの?」

 

「そういう事」

 

 じりじりと距離を詰めてくるチンピラ達。各々所持した武器をいつでも使えるように構えているが、戦い慣れしていない孫尚香でも分かるくらいに隙だらけだ。

 

「お姫様、不届きものを倒してもいいかな?」

 

「やってやって!」

 

「くたばれゴルァッ!!」

 

「街中だから派手な事はやれないが、吹き飛べ、風遁の術」

 

 巻き起こった突風がチンピラ達のみを一ヶ所に纏めあげていく。大の大人数人が転がされる突風に対抗する手段があるはずもなく、纏められたチンピラ達は道を転がされ続ける。

 

「「「「ギャアアアアアアアッッ!!!?!?」」」」」

 

「そうら転がれ転がれ」

 

「た、助けて下さい!! もうしませんからぁ!!!」

 

「助けてもいいけどよ。ちゃんとやらないって約束できるのかよ」

 

「やめてくれー!! 目が、まわ………吐きそ………」

 

「約束しますって言うまで転がすぞ」

 

「ねぇ馬淵。あいつらって耳に詰め物してるんじゃないの?」

 

「おっと、忘れてた」

 

 チンピラ達を転がすのを一旦止めて、耳栓を取るようにジェスチャーで伝えた。大分転がされたため吐きそうになりながらもチンピラ達は耳栓を取り外し龍見の言葉を聞いた。

 

「もう今後小さな事でいちゃもん付けたりしないって約束するか?」

 

「し、します………ウプッ………………」

 

「なら孫尚香ちゃんに謝れ」

 

『ごめん、なさい』

 

「ちゃんと約束できるならシャオは許すよ」

 

「だそうだ。ほら散った散った。オレらは帰るんだ」

 

 孫尚香の許しを得たチンピラ達はふらつきながら逃げるように去っていった。

 

「さっきの凄かったね。風がビューって吹いてゴロゴローって人が転がるなんて初めて見た!」

 

「練習すれば孫尚香ちゃんだって出来るようになるよ」

 

「えー、私は出来なくてもいいかなぁ。それよりもまだ天の話をしてよ」

 

「まだ聞きたいのか。何か面白いのあったかな………………」




龍見はシャオになつかれたようです。

次は少し呉から離れて各地にいる龍見の自動(オート)人形(マタ)の話とさせてもらいます。


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第四十四話

間に合ったーーーーーー!!!!


 蜀へ飛んだ龍見の自動(オート)人形(マタ)は数日かけて蜀まで辿り着いた。城の敷地内に降り立つと一先ず座り込んでテレパスを送り始めた。

 

『あー、雛里? 龍見の人形だけど、今空いてる?』

 

『先生の、人形? はい、空いてはいますけど………人形ですか?』

 

『分かりやすく言うと人形。分身でもいいよ。本物とは体格とかぐらいしか違いないし。まあその体格差のお陰でそっちまで行くのに時間がかかりそうでね。土像(ゴーレム)使おうにもほぼ魔力切れで、迎えに来てもらえないかな?』

 

『分かりました………………庭園ですね。今向かいます』

 

 テレパスの逆探知でもしたのか、一瞬にして龍見人形の場所を把握した雛里はすぐに向かった。少しして龍見人形のいる場所に着くと、龍見人形もジャンプしてアピールする。

 

「こっちこっちー」

 

「先生! 本当に小さいんですね」

 

「まあな。声量を調整して大きくしているけど、五月蝿すぎたりしない?」

 

「ちょうどいいですよ。失礼しますね」

 

 雛里は龍見人形を持ち上げて、胸元辺りでしっかりと抱えて歩き始めた。小さくともしっかりと柔らかな胸の感触を全身で堪能している龍見人形。ドスケベである。

 

「なぁ雛里。紫苑さんの様子はどうだ?」

 

「経産婦なだけあって落ち着いていますよ。むしろこっちが教わる事ばかりです」

 

「はは、流石だな。そういえば聞いていなかったが、どこに向かっているんだ?」

 

「桃香様のお部屋ですよ。挨拶しませんと」

 

「雛里、何を抱えているんだ?」

 

「あ、焔耶さん。ほら、先生ですよ」

 

「ほう、よく出来ているじゃないか」

 

 たまたま廊下を通りがかった焔耶に龍見人形を見せ付ける雛里。何も知らない者からすれば龍見人形は精密な人形にしか見えない。

 

「よう焔耶。調子はどうだ? ちゃんと肌を守れているか?」

 

「? 龍見? テレパスか?」

 

「いや目の前にいるだろ」

 

 目の前の人形が喋っているという事実に気が付いた焔耶は数秒間完全に停止し、動き始めるとすぐに雛里から龍見人形を奪い取った。

 

「あっ! 私の!」

 

「お前のではないだろう! 久しぶりだな龍見。こんなに持ち運びやすくなってワタシは嬉しいぞ!」

 

「うん、喜んでもらえて、嬉しいけど………苦し………」

 

 がっしりと胸の谷間に挟まれるように抱き抱えられた龍見人形は少しもがくものの、すぐに沈黙した。

 

「先生!!! 焔耶さん! 離してください!!」

 

「嫌だ!!」

 

「あ、あぁ、いだだだだだっ!!?!? 引っ張るな!! ち、千切れ」

 

ーーブチッ

 

「「「あっ………………」」」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「災難でしたね、龍見さん」

 

「災難で済みませんよ。オレが人形じゃなかったら死んでますって。桃香さんからも厳しく言っておいて下さいよ」

 

 焔耶と雛里に左右から引っ張られた龍見人形は両腕が引き千切れるという災難にあったものの、何とか自力で修復した。その間に騒ぎを聞き付けた愛紗が駆け付け、焔耶と雛里は自室に謹慎する事となった。

 今龍見人形は桃香に連れられて蜀での挨拶回りの最中だ。皆最初は驚くものの、龍見の仕業だと分かるとある程度納得してもらえる。

 

「さ、紫苑さんの部屋に着きましたよ」

 

「ありがとうございます。はぁ、緊張するな………………」

 

「紫苑さん失礼しまーす」

 

「ちょぉっ!? 心の準備させて!!」

 

 龍見人形の緊張などいざ知らず、桃香は紫苑の部屋へと入る。紫苑は璃々を膝に乗せて裁縫をしていたが、桃香の来訪を笑顔で迎え入れた。

 

「桃香様、どうなさいました?」

 

「突然ごめんなさい。ちょっと会ってもらいたい人がいるんです」

 

「それならば桃香様がわざわざご足労なさる必要もありませんのに」

 

「大切なお客様なんですよ。ね、龍見さん」

 

 後は任せたとばかりに話し掛けられた龍見は気恥ずかしそうに頬を掻きながら紫苑に声を掛けた。

 

「お久しぶりです、紫苑さん。元気そうで何よりです」

 

「えっ………た、龍見さん? 随分と小さくなられて」

 

「おとうさん璃々よりちっちゃいね!」

 

「本体の代わりにこちらに滞在させてもらう人形ですから。本体がずっと傍にいるのが理想なんですけど、そうもいかないので、代わりにオレが術の指南したりする事になりました」

 

「ふふ、そうやって気遣いをしてもらえるだけでも嬉しいですよ」

 

「ねえおとうさん、あそぼ!」

 

「いいぞ。こんな格好だが、今日はいっぱい遊んでやる」

 

「やったー!!」

 

「良かったね璃々ちゃん。じゃあ私は退散しようかな」

 

 家族団欒の時間を邪魔しないように気を使ってくれた桃香に感謝しつつ、その日は璃々が眠くなるまで時間いっぱい遊ぶのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 魏に滞在している龍見人形は毎日忙しく過ごしていた。術の指南に勤しんだり、華琳の話し相手になったり、一刀の警羅に付き合ったりしているのだが、今日は一刀の剣術の稽古をつけてやっている。

 

「ほれ、腕が下がってきたぞ」

 

「いたた! 髪引っ張らないで下さいよ!」

 

「君の生存率を上げるためだ。まだまだ素振りはしてもらうぞ」

 

「うぅっ、スパルタだ………………」

 

「文句あるならオレより強くなるこった」

 

「おったおった。龍見の旦那! 例のものが完成したで!」

 

「でかした!」

 

 龍見人形に頭をペチペチ叩かれながら素振りをする一刀の元に、何か細長い袋を抱えた真桜が駆け寄ってきた。

 

「真桜、なんだそれ?」

 

「龍見の旦那が考えた隊長への贈り物やで」

 

「開けてみ。魏の職人に頼んで回って漸く完成したんだ。良いものになっていると思うぞ」

 

「有り難く頂きます………………………………これ、日本刀ですか!?」

 

 それなりに重量のある袋から取り出されたのは一振りの日本刀だった。この時代にはないはずの武器。柄も鍔も鞘も、当然刀身も一刀のよく知る日本刀そのものだ。

 

「振ってみなよ。これから一刀君の腰に携える愛刀になるんだ」

 

「は、はい」

 

 手に掛かるしっかりとした重みは竹刀や木刀とは比べ物にならない。正眼に構え、基本に忠実に真っ直ぐに振り上げ、真っ直ぐに降り下ろす。それだけの動作だが一刀の体は震えた。

 

「怖いか?」

 

 龍見人形に言い当てられ硬直する。一刀にとっては初めての、人を容易に殺せる武器。その重みがこれまでの訓練が人殺しのためのものであったのを実感させた。

 

「一刀君、それはもう鞘に閉まっておくといい。いつ使うかは君次第だけど、多用はしない方がいいぞ」

 

「………はい」

 

「よし」

 

 声は小さいが力強い返答に龍見人形も満足したのか、一刀の頭をポンポンと叩いた。それが終わるのを待っていた真桜は龍見人形へと声を掛けた。

 

「なあ龍見の旦那。最近凪の寝起きが悪い気がするんやけど、少し見てやってくれへん?」

 

「そういえば最近やたらと眠そうだったな。貧血かもしれんし診察するか。一刀君、出発だ」

 

「あ、俺が動くんですね」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「おぉ、黒のお兄さん、いいところにいましたね」

 

「ん? どうした風。悪いが術の鍛練ならまた後で」

 

 凪を早く診察してやりたい龍見人形は風の話を聞く前に断りを入れるが、そうではないと風は首を横に振った。

 

「いえいえー、風の用事ではないのですよ。3日ほど前から稟ちゃんが全くと言っていいほどに鼻血を出さなくなってしまったのです」

 

「何だって!? 一大事じゃないか! 龍見さん、どうします?」

 

「確かに気になるな。風、動くのに支障なければ稟を連れてきてくれ。凪と一緒に診察する」

 

「わかりましたー」

 

 小走りで去っていく風を見届け、まずは凪の診察をするため龍見人形を乗せた一刀は歩く。凪の部屋にやってくるとちょうど凪が部屋から出てきたところであった。しかしながらその目は非常に眠たそうだ。

 

「凪、おはよう」

 

「あ、隊長、おはようございます………旦那様も、おはようございます」

 

「おはよう。一先ず部屋に戻れ。少し健康診断だ」

 

「えっ………いえ私は至って健康ですが………」

 

「いいからいいから。健康ならそれでいいんだよ。もしもの為だ」

 

「旦那様がそう仰るのなら、よろしくお願いします」

 

 凪を室内に戻して椅子に座らせると、龍見人形は凪の体に移動して診察を開始する。小さな体でちょこまかと動き回り、脈拍や心音、体温等の基本的な部分を診察していくが異常は見当たらない。ただ血圧が低かった。低血圧だったから最近寝起きが悪かったのだろう。

 

「ちゃんとご飯食べてるか?」

 

「あの、その、実は最近食欲がなくて………………時折吐き気もあります………………」

 

「おいおい、ちゃんと教えてくれないと駄目だろ。オレが信用ならないか?」

 

「そんな事はありません! ただ、ご迷惑を掛けたくなくて」

 

「こんなの迷惑でもなんでもないっての。次はもっと精密に調べるからな」

 

ーーコンコン

 

 診察しようとした時にノック音が響いた。どうやら風が稟を連れてきたらしい。部屋に入ってきた稟は凪とは違って正常そうだ。

 

「あの、診察しろと風に言われたのですが。私は健康だと思います。最近なんてめっきり鼻血も出なくなりましたよ」

 

「鼻血出さないとか明らかに異常だろう。人間ってのは普段と違う症状があったらどっかしらに異常があるもんなの。ほれ、座れ」

 

「はぁ、わかりました」

 

「龍見さん、何かやりますか?」

 

「ん~、風と遊んでてくれ」

 

「えぇ………」

 

「およよ………」

 

 続いて稟の診察に取り掛かる。やはりと言うべきか平常時よりも血圧が低い。ふとある可能性が頭をよぎり、術を使って精密に調べてみた龍見人形は少しすると無言で凪の診察に戻り、それもすぐに終わらせると二人の前に立った。

 

「あー、えー、何て言うか、二人とも同じ症状だ」

 

「稟殿と同じ?」

 

「まさか流行り病か何かですか?」

 

「落ち着いて聞いてほしい………………妊娠している」

 

「「えっ?」」

 

「やったじゃないか凪!!」

 

「おぉ、稟ちゃんおめでたですか」

 

 一刀と風に祝われた二人だが、実感がないのか呆けた顔をしていた。

 

「責任は取る。二人が幸せになるように」

 

「旦那様! 今すぐみんなに報告に行きましょう!!」

 

「ちょい!? 何をいきなり掴んで、ぇえぇええええええぇぇぇぇ………………」

 

「ま、待ちなさい凪!! ずるいわよ!!」

 

 龍見人形が非常に真面目に決意を伝えようとしたら、凪が龍見人形を鷲掴みにして部屋から飛び出していった。その後を追うように稟も走っていき、部屋には一刀と風が残された。

 

「お兄さん」

 

「なんだ風?」

 

「幸せそうで良かったですね。この調子でお兄さんも頑張って下さいね」

 

「あ、あははは………………」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 恋と恋歌の為に置いていかれた龍見人形は普段は恋と一緒に恋歌の世話をしているのだが、夜になると貂蝉と共に左慈の同行を探っていた。

 

「もう三日は徹夜してるわよぉ。大丈夫なのぉ?」

 

「魔力がある限り問題ない。自動(オート)人形(マタ)だからな。しかし見つからねぇな」

 

 貂蝉か持ち込んだ世界地図にダウジングをしても一切の反応はない。それはつまりこの時代の地球上に左慈が存在しない事を示していた。別時代か、もしくは次元の狭間にでもいるのだろう。だからといって警戒は怠れない。常に見張っているという事を示す事が防衛となるのだ。

 

「龍見、お茶」

 

「恋? こんな時間に悪いな。頂くよ」

 

「ふぅ、龍見ちゃん、こっちも休憩するわよぉん」

 

「あいよ。お疲れ」

 

 龍見人形用のお猪口に入ったお茶を一気に飲み干し、大きく溜め息を吐いた。

 

「龍見?」

 

「あ、いや………………何でもない訳じゃないんだが………………恋、オレが殺された夜を覚えているか?」

 

「うん」

 

「あの時使われたものはオレの時代の兵器だ。あれは偶々対人用だったが、もし対軍用の兵器でも使われたらと思うとな」

 

「勝てないの?」

 

「無理だ。指先一つで数万の命を奪うものだってある」

 

 その言葉に恋は息を飲んだ。並みの兵のみなら自分でも万の軍を相手にしても何とかする事は可能だろう。だが指先一つでなど不可能だ。

 

「どう対策しても勝ち目は皆無だ。本当に厄介極まりない。だからもしそんな兵器を持った左慈と戦う事となればオレだけで戦う。そうすれば大量殺戮兵器をみんなに使われる事はないだろうからな。本体だってそう考えているはずだ」

 

「駄目! そんなの絶対、駄目」

 

「大丈夫。オレだって死ぬ気はねぇさ。それにもしもの話だ。今は貂蝉があいつらが兵器を使えないように対策しているらしい。オレもオレで対策は立てている。だから安心してくれ」

 

 恋を安心させるために微笑み掛けた龍見人形は休憩を終えると再び左慈の同行を探り始めた。恋はそれを見ると邪魔をしないようにそっと出ていった。

 

「無理、しないで」

 

「ありがとう。愛してるよ」

 

「恋も」



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第四十五話

新年一発目!!
皆さんあけましておめでとうございます。


 今日も龍見の朝は早い。呉に来てからは一段と早起きになっていた。その理由は………………

 

ーーニャーニャー

 

「今日はまた随分と多いな。マロ、お前が誘ったのか?」

 

「………………」

 

「沈黙は肯定と見なすぞ。ったく、少し餌付けしたら調子に乗りやがって」

 

 猫である。それも十数匹はいる。呉はどうやら野良猫が多いらしく、恋と一緒に動物の世話をしていたのを思い出して少し餌付けをしたら大量に集まってしまったのだ。

 

「チビ、食い過ぎ。他のにも譲ってやれ。タマ、周りを押し退けるんじゃない。ブチは遠慮せずに食え」

 

 無論誰かから許可を得たわけではないが、この時代は別に餌付けを禁止する法律があるわけでもないので遠慮なく餌付けをしていた。何よりこうして動物と触れ合っていると意外と人との交流も多くなる。

 

「………………何故いつも馬淵様の周りだけお猫様が集まるのですか」

 

「体質だと何度も言ってるだろ。周泰ちゃんだって好かれてる方だぞ」

 

「むむむ」

 

「まーぶーちっ!!」

 

 龍見の背後から孫尚香が飛び付いてきた。その程度では龍見はぐらつきもしない。

 

「こーら、突然抱きついてきたら危ないだろ」

 

「えへへ、ごめんね」

 

「しゃ、小蓮様!! 男に抱きつくなどはしたないですよ!!」

 

「明命は固いんだからぁ。別にこれくらいいいじゃん。それより馬淵、お姉ちゃんが探してたよ」

 

「孫権さんか? よし分かった。案内頼むよ。よいしょ」

 

「キャー、たかーい!」

 

「何をしているのですか!」

 

「肩車だよ。しゅっぱーつ」

 

「しゅっぱーつ!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 城の敷地内にある広場に孫権はいた。甘寧と訓練をしていたようで、その手には剣が握られていた。

 

「お姉ちゃん! 馬淵連れてきたよ」

 

「ご苦労様、ってなんで乗っているのよ。降りなさい」

 

「はーい。馬淵、降ろして」

 

「あいよっと。孫権さん、今回は何の用ですか?」

 

「手合わせをしてもらうわ」

 

 孫権は剣の才能はあるものの、実力は未だ発展途上。普段は甘寧に相手をしてもらっているものの、明らかに手加減をされている。孫権自身もその様子に無意識で遠慮してしまっているところがあった。だが龍見ならば実力も孫権と比較的近いとの話だ。ちょうど訓練の相手としてはいいと判断されたのだ。

 

「いいですよ。早速やりますか?」

 

「すぐでいいの?」

 

「もちろん」

 

 愛用の短刀を抜いて構える龍見の目に飛び込んできたのは凄まじい速さで突きを繰り出す孫権の姿だった。何とか短刀を挟み込んで即死は免れたものの、短刀が弾かれて丸腰となる。

 明らかに人を殺す一撃に何があったのかと驚きを隠せない龍見は孫権の考えを知るべく彼女の表情を見た。だがそこから分かったのは龍見以上の驚きと痛みからくる苦痛の表情だった。

 

「う、ぐっ………………なんで!? か、らだが、勝手に!?」

 

 孫権自信の意識ははっきりとある。洗脳の類いではない。それに洗脳ならば恋並みの速度や力は引き出せない。

 

「肉体を無理矢理操ってやがるのか! 解呪(ディスペル)!!」

 

「避けて!!!」

 

「オレが、失敗!?」

 

 様々な術に精通している龍見が解呪を失敗するなど初めての経験だった。その動揺は相当のもので孫権の警告すら聞こえておらず、反応が遅れた。

 

ーーザシュッ ゴキャッ

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!!? つう、かく………切断!」

 

 回避するために横に跳んだが、間に合わずに右足を切断された。凄まじい激痛に悲鳴を上げるものの、すぐに痛覚を停止させる事によって何とか気絶だけは逃れた。

 足が切断される音と同時に聞こえてきたのは何かが折れる音。龍見の肉体から聞こえたものではない。無理矢理限界以上の動きをさせられた孫権の肉体が耐えられず、骨が折れたのだ。それでいてなお暴走が止められる事はない。足を失い倒れた龍見へ凶刃が降り下ろされる。

 

「く、そ、があぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

 

「きゃあっ!?」

 

 動く左足を何とか使い、孫権へと飛び掛かり、そのまま押し倒す。暴れてとても近寄れなかった孫権の動きが僅かの時間だが止められたのだ。

 

「! よくやった馬淵! 明命、蓮華様を押さえ込むぞ!!」

 

「はい!!」

 

「来るな!!!!」

 

 孫権の動きを完全に止めるべく甘寧と周泰が動こうとするが、何故か龍見によって制止される。どうにかして止める手段があるのかと思えば、容易に拘束から抜け出され、孫権の両手は龍見の首を掴み、そのままへし折った。

 

「い、や………いやいやいやーーーー!!」

 

 自身の意思で操る事が不可能になった肉体だが、感覚はそのままだ。自身の骨が折れた苦痛も感じたし、龍見の足を斬り、首をへし折った感覚もしっかりと伝わってきた。そして今なお折れた首を引き千切ろうとしている感覚も。孫権は目の前の光景から目を背けるため瞼を閉じ、嫌な音から逃れるために叫んだ。すぐに手から感じる感覚はなくなった。きっと首を千切り終えたのだと思い、僅かに目を開けた孫権の見たものは想定外にも程がある光景だった。

 

「孫権さん、すぐに助けてやる。だから、少しの間我慢してくれ」

 

「な、なんで? 今確かに死、きゃあぁぁぁっ!!!?」

 

 目の前に殺してしまった龍見が立っていた。何が起こったのか尋ねる前に再び肉体が暴走を始める。高速の斬撃が飛び交うが、龍見はそれを全ていなしたのだ。

 

「冷静になれば単純過ぎて避けやすいぜ。孫権さん、ほんの少しですが痛いですよ。エレキコントロール!!」

 

「いっ………………あ、う、動か………………」

 

 龍見の右手が帯電し、暴れまわる孫権に少し触れると痺れる痛みが孫権の全身に走った。それと同時に暴走をしていた肉体が完全に止まったのだ。肉体が無理矢理動き出そうとする感覚はあるが、指先一つ動かない。そんな孫権の背後へ素早く回り込んだ龍見は孫権のうなじへと手を伸ばした。何かが抜き取られる感覚を孫権は覚えた。

 

「これが犯人か。解呪が効かないわけだ」

 

ーーパンッ

 

 龍見の指先には小さな糸のようなものが摘ままれていた。動きがある事から生きているのが分かる。龍見が少し力を込めると軽い破裂音と共にその生き物は消失した。

 

「………………はっ! 蓮華様!! ご無事ですか!?」

 

「お姉ちゃん大丈夫!? もう暴れない!?」

 

「蓮華様! 腕は大丈夫なのですか!?」

 

 現実離れした光景に唖然としていた甘寧達が孫権へと駆け寄ってくる。

 

「ありがとう、みんな。もう何かに操られていないみたい。折れた腕も痛みは………折れてない………? 馬淵が生き返った事といい、馬淵、何をした………………の………………? 馬淵、どうして倒れているの?」

 

 先程まで立っていたはずの龍見が地面へと倒れ伏していた。全く動く様子がなく、孫権達が心配して近寄るとビクンと痙攣するように一度動き、口から大量の血と嘔吐物を吐き出した。

 

「ゴホッ!? オエェェェッ!!?」

 

「馬淵!?」

 

「しっかりとしろ!! 明命! 医学に詳しいものを呼べ!! すぐにだ!!」

 

「はい!!!」

 

 龍見の意識は既になく、それでも内臓すらも吐き出さんというばかりの勢いで嘔吐をしている。すぐに周泰が医師を連れてきたものの原因は分からず、嘔吐が完全に止まってから寝かされる事となった。以後丸二日、龍見が目を覚ます事はなかった。




新年早々殺される主人公。復活後も死にかける主人公。なんだこれは………たまげたなぁ。


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第四十六話

龍見は呉でどれくらい愛人を作るんですかね。実は特に決まっていないので、流れに身を任せていきます。


ーーグウゥ~

 

「腹が………………減った」

 

 目覚めの第一声がこれである。二日前謎の暴走をさせられた孫権を助けた龍見だが、それ以降気を失っていた。その事をぼんやりとだが思い出し、何故こうなったのか考える。

 これまで死から復活した後は異常なまでの気だるさがあった。もしかしたらあれは警告だったのかもしれない。復活直後に動くと何かしらの反動があるという警告。今回はそれを無視して孫権の相手をしたためにあんな嘔吐をしたのかもしれない。如何せん龍見にとっても初めての経験のために可能性の考察をする他ない。

 

ーーガチャ

 

「………………」

 

「暗い顔しているな。そんなんじゃ綺麗な顔が台無しだぞ、孫権さん」

 

「ま、馬淵? 起きたの!? 体は大丈夫なの!?」

 

「腹減った以外には何も、っと」

 

 へらへらと笑っている龍見の胸に大粒の涙を溜めた孫権が飛び込んできた。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。私、わ、たひ………あなた、を、殺し」

 

「顔を上げて下さい。あれは孫権さんのせいじゃありませんよ。それに今こうしてオレは生きている。何も問題はありません」

 

「うん、うん………………」

 

「それよりお腹が空きました。何かこう、柔らかい食べ物はありませんかね?」

 

「待ってて、すぐに用意するわ」

 

 急いで部屋を出ていった孫権を見届けて、龍見は置いてあった水に口を付ける。少しの時間何も考えずに過ごしていたが、今回の事を貂蝉に連絡しておこうと思い立ちテレパスを開始する。

 

『貂蝉、オレだ。報告がある』

 

『何かしらぁ?』

 

『寄生虫みたいのに操られた孫権に襲われた。まずあいつらの仕業だ。心当たりはあるか?』

 

『于吉ちゃんね。左慈ちゃんにそういうのを使うのを好んでいたもの』

 

『そうか。対処法はあるのか?』

 

『その寄生虫を殺す以外はないわねぇ。ただ細かい命令は出来ないはずたから簡単に倒せるはずよぉん』

 

 貂蝉の言う通り直線的な動きだったからなそ勝利できたのだ。仮に複雑な動きをあの速度でやられようものならまず勝ち目はない。

 

『ま、そっちも気を付けてくれ』

 

『龍見ちゃんもねぇ』

 

 テレパスが終わるとすぐに扉が開く。お粥を持った孫権、そして母である孫堅がそこに立っていた。

 

「目を覚ましたんだね。うちの娘を助けてくれてありがとよ」

 

「その程度お気になさらず。同盟国でしょう」

 

「そう簡単に済む話でもないさ。蓮華、それをさっさと馬淵に渡しな。馬淵、食いながらでいいから話を聞いてもらいたい」

 

「いいですよ」

 

「どうぞ、熱いから気を付けて」

 

「ありがとう、孫権さん」

 

 出来立てのお粥を頬張る。シンプルな塩味だが、何もない胃には優しい。

 

「さて馬淵、まずこれからは呉の全員を真名で呼んでもらいたい」

 

「いいんですか?」

 

「蓮華は呉の次世代を担う一人だよ。命を掛けてまで蓮華を守った功績は真名を預ける理由として十分すぎる。受け取ってくれるな?」

 

「分かりました。丁重にお受けします。これからはオレの事も龍見と呼んで下さい」

 

「分かったよ龍見。それともう一つ。あんたほどの男はそういない。妖術を使いこなし、戦いだって無難にこなせる。頭の回転も悪くない。更には天の御使いという特別な存在。だからその血が是非とも呉に欲しいのさ」

 

「血………………まさか、子作りでもしろと?」

 

 分かってるじゃないかという笑顔で頷く炎蓮に龍見は頭を抱えた。これまで何度も何度も女性を抱いてきた。子も孕ませた。そこには間違いなく愛情はあったし、後悔などしてはいない。しかしいつも恋への後ろめたさだけはあった。だからこそ恋愛感情が生まれた時のみそういう関係になるようにしていたのだ。今回は違う。命令に近いものだ。なので炎蓮の申し出を受けるつもりはなかった。

 

「申し訳ありませんがお断りします」

 

「ほう、よく言い切ったな。理由ぐらいは聞いておこうか」

 

「オレの我が儘ですよ。子作りは愛し合った者同士でやるものです。国の発展のために子作りをしたくはありません」

 

「………………ふふ、あははははははっ!!! ま、まるで生娘じゃないか!!」

 

「母様!! 失礼ですよ!!」

 

「い、いやごめんよ。でも龍見の言う通りだったよ。少し国の事を考えすぎて個人の事を考えてる余裕がなかったよ。いやいや本当に悪かった。まだ体調も戻ってないだろうからゆっくり休んでくれ」

 

 まだ笑いが止まらないのか肩を震わせながら出ていこうとしたところで何かを思い返したかのように振り返った。

 

「そうそう、愛し合った者同士でならいいって言ったよね。これから呉の総力を持ってあんたを落としにかかるから覚悟するんだよ」

 

「………………いやいやいや!! 恋愛ってそういうもんじゃないですし!! 結局何にも分かってないんじゃ」

 

ーーバタンッ

 

「………行ってしまった」

 

「ごめんなさい、龍見。母様は昔からああで」

 

「いや孫、蓮華さんは悪くないよ。うん」

 

「ありがとう。あ、さん付けは止めてもらってもいい?」

 

「なら呼び捨てにするよ」

 

 黙々とお粥を貪る龍見を蓮華は何かするわけでもなく見つめていた。やがて龍見もそれが気になったのか、声を掛けてみる。

 

「えっと、何かオレの顔に付いているか?」

 

「き、気になったならごめんなさい。ただ美味しそうに食べてくれているのが嬉しくて」

 

「もしかしてこれ作ったの蓮華なのか? かなり旨いよ。普段から料理はするのか?」

 

「ええ………………龍見、知りたいのだけれど、どうやって私を止めたの?」

 

「あの時の事か。なかなか理解してもらうのは難しいと思うが、あれは電気を使ったんだ」

 

 筋肉には微弱ながら電流が流れており、それで肉体を動かしている。今回龍見はそれよりも強い電気で肉体を支配したのだ。あの時蓮華の肉体に寄生虫が巣くっていたのは殺される直前、蓮華を押し倒した時に調べた。寄生虫は神経を支配していたが、神経から流される電流よりも龍見の流した電流の方がより強いので上書きが可能だった。その時同時に寄生虫の肉体も支配し、表に引っ張り出してもいた。

 

「なんだか凄いのね」

 

「はは、そうだな。凄い事かもしれん」

 

「私も妖術を覚えたら今回みたいにならないように身を守れるのかしら………………」

 

「それは分からないとしか言えないな。でも覚えたかったらいつでもオレのところに来てくれればいいよ」

 

「そう、ありがとう………………あ、どうやって生き返ったのかも訊いてもいい?」

 

「そっちは秘密だよ。聞かれたら大変だからな」

 

「そうよね。ごめんなさい。気が利かなかったわ………………ねぇ、龍見」

 

「どうし」

 

ーーチュッ

 

 唇に感じたとても柔らかで湿った感覚。目の前にある蓮華の顔を見て、どこか他人事のように自分は口付けされているんだな、と龍見は考えていた。

 

「ま、またお見舞いに来るから!!」

 

ーーバタンッ

 

 顔を真っ赤にしながら逃げるように出ていった蓮華の姿を見て、龍見は困ったように頬を掻いた。

 

「………………………………まさか、こんな事になるなんてな」

 

 龍見は自分を愛してくれる相手を同様に愛そうと決めた。だが今回の蓮華の気持ちは吊り橋効果から来た一時的なものだろう。もちろんここから本物の愛に発展する可能性はある。だが今すぐに蓮華の気持ちに応える事は出来なかった。

 

「願わくば冷静になってもらいたいもんだ」

 

「何ぼやいてるの?」

 

「ぬおっ!? 孫尚香ちゃん! いつの間に?」

 

「お姉ちゃんが部屋から飛び出していってすぐだよ。それより、シャオって呼んでよね、龍見」

 

「あ、すまん。シャオちゃんもお見舞いか?」

 

「うん! ねぇねぇ、座っていい?」

 

「ああ、いいとも」

 

「お邪魔しまーす」

 

 さも平然と膝の上に座る小蓮。そして龍見も当然のように受け入れて頭を撫でている。

 

「シャオだってすっごく心配したんだからね! だから今日はずっと一緒だよ!」

 

「参ったなこりゃ。仕方ない、お姫様の言う事には従いますよ」

 

 そう軽く言ってしまったのが運の尽き。本当に一日中居座られ、寝る時ですら同じ寝床で寝る事となってしまった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 深夜、小蓮と寝ていた龍見がふと目を覚ます。襲撃にあって間もないため探知用の結界を張っていたのだが、それに誰かが引っ掛かったらしい。

 

(誰か入ってきたな。左慈達って感じでもねぇ)

 

 薄目で誰が入ってくるのか確認したところ、どうやら炎蓮だったようだ。誰かが変装していたりする様子もない。ただネグリジェのような薄い寝間着を着た姿はなかなか股間に悪かった。

 炎蓮は静かに龍見の横まで歩いてくると耳元でそっと囁いた。

 

「まだ起きてるなんて悪い子だね」

 

「貴女が来たから起きただけですよ。こんな時間にどうしました?」

 

 龍見のいた時代とは違い、この時間に起きて活動する人などほぼいない。そんな時間にわざわざ一人でやってくるのだ。何かあったのではないかと龍見は考えた。

 

「こんな時間にやる事なんて一つだよ」

 

「すみません。検討もつかないのですが」

 

「こういう事は鈍感なんだね。ならはっきりと伝えておくよ。夜這いしに来たよ」




流れに身を任せた結果がこれだよ


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第四十七話【R-18】

書きたいのと違う!!


 夜這い。性行をするために夜更けに異性の元を訪れる行為である。龍見にとっては二度目の経験だ。炎蓮のような美女に言い寄られて嫌な顔をする男は普通はいないはずなのだが、この時の龍見は何とも言い難い、呆れたような顔をしていた。

 

「本気で言っていますか? 隣で小蓮ちゃんが寝ているんですよ。出来るわけないでしょう」

 

「安心しなよ。小蓮は一度寝たら朝まで起きないんだ。それと小蓮を逃げ道にするのは良くないよ」

 

「読心術でも使えるんですか?」

 

「経験ってやつさ」

 

 不敵な笑みを浮かべる炎蓮を見て、龍見は肩を落とした。小蓮の名を出せば流石に控えてくれるだろうという考えが甘かった。これは敵いそうにないと諦める事にした。

 

「参りました」

 

「おや、諦めが早いね」

 

「こちらがどんな言葉を口にしても、それを全て返せるように準備くらいしているんでしょう?」

 

「正解。あんたもなかなかやるね」

 

「心理くらい読めないと術師をやっていけませんので」

 

 互いにクスリと笑う。しかし龍見はすぐに真面目な顔になって炎蓮に問い掛けた。

 

「オレは遊びで女性と関係を持つつもりはありません。抱いてしまえば本気で貴女を愛します。炎蓮さんは本気でオレに抱かれてもいいと思っていますか? もしただ優秀な子を作りたいとかいう理由なら」

 

「そこまで」

 

 人指し指で軽く唇を押さえるようにして、炎蓮は龍見の言葉を止めた。先程まで軽い感じのしていた彼女だが、今は真剣な眼差しで龍見を見つめていた。

 

「遊びで体を許すほど私も軽くないよ。馬淵龍見という男に魅了されたからここにいる。あんたに抱かれたい。それにこっちこそ訊きたいけれど、私みたいなおばさんに夜這いを掛けられて迷惑じゃなかったかい?」

 

「………………チュッ」

 

「! ん、チュプ、んんあ………レロ………………んふふ、情熱的な返事だね」

 

「さ、移動しましょう」

 

「何を言っているんだい。今すぐやるよ」

 

「いやいや! 流石に小蓮ちゃんが真横で寝ている状況でやるのは無理ですよ!」

 

「起きたら起きた時だよ」

 

 開いた口が塞がらないとはこの事。炎蓮は本気で娘に行為を見られても問題ないと思っている。どうにかしてこの場から移動してやろうと考え続けた龍見はある結論に到った。

 

「ならなるべく音を出さないように注意しないといけませんね」

 

「どう注意するつもりだい?」

 

「こうします」

 

 龍見は再び口付けをした。今度は先程よりも長く、なかなか終わる気配がみえない。更に龍見は口付けをしたまま炎蓮の体へと手を伸ばす。ここで炎蓮も口付けしながら行為に及ぶのだと理解した。確かに喘ぎ声というものは響きやすい。ずっと口付けをしながらというのも少し息苦しいが、繋がり続けるというのは悪い気はしないなと炎蓮は思い、龍見の口内へと舌を這わせる。

 対して炎蓮の体を愛撫していた龍見はその豊満な肉体に興奮していた。日頃から鍛え上げているのが適度な筋肉が付いた手足から判断できるが、それでありながら腹部や臀部は女性らしく非常に柔らかい。そして何よりも胸。大きいというのは見れば分かるのだが、それだけではない。重量感があるのに垂れておらず張りもある。触れば柔らかく指が沈むのに離すとすぐに戻る。乳首は少し大きく、感度が高いのか撫でると炎蓮がビクンと動く。

 

「………………」

 

 口付けをしている事も忘れて胸を弄る。その様子に炎蓮は非常に満足そうだった。彼女は自身の胸を誇りに思っている。過去どれだけの男をこの胸で骨抜きにしてきたか。

 

「プハッ………龍見、そんな服の上からばっかりでいいのかい? ほら、直接触ってみな」

 

「ゴクリ」

 

 上を脱いだ炎蓮の姿に思わず生唾を飲み込む。褐色の大きな胸。少し色素が沈着した乳首は勃起し、先からは白いものが滴っている。母乳だ。

 

「ふふ、シャオを産んだ後から妊娠していなくても母乳が溢れるようになってきて大変なんだよ。吸ってもいいんだよ」

 

 龍見は炎蓮の胸へと手を伸ばす。直接触れるとその柔らかさがよく分かる。更に絹のような滑らかな肌は手に吸い付くようだ。そっと顔を近付けてきた龍見の姿に炎蓮はほくそ笑んだ。龍見が魅力的で惹かれたのは事実だ。しかしそれよりも龍見を籠絡し、呉へと引き込む事を目的としていた。

 これまで炎蓮は数多の男に抱かれてきた。どの男も少し体を許せば簡単に支配できた。だから炎蓮は自分の体に絶対の自信を持っていたし、男を軽く見ていた。なのに龍見は優しく炎蓮を押し返した。

 

「? どうした?」

 

「口付けしながら、やるのを忘れるところでした。小蓮ちゃんも寝ていますし、今は静かにやりましょう? 激しくやるのは二人きりの時に、ね?」

 

 その言葉に炎蓮の中で様々な感情が渦巻いた。これまで通りに進まない事への驚き。魔性の魅力に耐え抜き自制した龍見への称賛。そしてその龍見が自分よりも優先した隣で寝ている娘への嫉妬。

 男を自在に支配してきた彼女にとっては有り得ない事態であり、それが彼女の目的を一つに絞らせた。国も、娘も関係ない。ただ自分だけを見ていてもらいたい。龍見を自分だけのものにしたい。

 

「炎蓮さん?」

 

「龍見、一つ訊いてもいいかい?」

 

「はい」

 

「もしこれまであんたが抱いた女の世話をこっちでするって言ったら、私だけのものに」

 

「炎蓮さん、怒りますよ」

 

 先程まで自分の体に魅力されかかっていたとは思えないほどに重い声と冷たい視線に炎蓮は息を飲んだ。

 

「オレはオレを愛してくれた人を大切にします。それが炎蓮さんのように打算があろうと関係ありません」

 

「! 気が付いて、いたんだね」

 

「はい。それでも貴女はオレに抱かれてもいいと思った。そこに偽りはなかった。だからオレもそれに応えて貴女を愛そうと思ったんです。でもごめんなさい。オレは誰か一人のものにはもうなれないんです。これまで何人もの女性を抱いた。その全員がそんなオレを愛してくれた。好きだと言ってくれた。それに応えるためにも誰かだけのものにはなれません」

 

「龍見………………」

 

「人でなしと思ってもらっても構いません。無責任だと罵ってもらっても構いません。でもそれが今のオレの生き方なんです。ごめんなさい」

 

 深々と頭を下げる龍見を見て、炎蓮は脱いだ服を改めて纏った。

 

「謝るのはこっちだよ。あんたの生き方を侮辱しちまったみたいだ。ごめんよ、一度頭冷やさせてもらう。また、明日ね」

 

 静かに部屋を出ていった炎蓮は深く溜め息をついた。龍見の気持ちも、彼を愛した人々の気持ちも考えずに龍見を自分のものにしようとした。行為の最中に出てきて頭も体も火照っているのに、妙に冷静になった炎蓮は自己嫌悪に陥りかけていた。

 

「まともに恋愛してこなかったツケかね。これからどう接すりゃいいのか分からないや………………なあ蓮華、あんたはどう思う?」

 

 声を掛けられて、柱の影から蓮華が姿を見せた。

 

「………………いつから私が隠れていると気が付いていたのですか?」

 

「部屋の前に立った時からさ。やっぱり私の娘だね。同じ時に夜這いに来るなんて。それでどう思うんだい?」

 

「私にも分かりません。母様が龍見に言い寄った事に驚いて混乱しているんですから………………」

 

「そりゃそうだろうね。でもね蓮華、これだけは理解しておきな。今から私達は恋敵だ。龍見ならどっちも受け入れてはくれるだろうけど、先にあいつの子を孕むのは私だからね」

 

 そうはっきりと宣言し、炎蓮は立ち去った。その場に残された蓮華は迷ったように部屋の戸に手を掛けた。しかし中から気配を感じ咄嗟に隠れた。少しすると龍見が飛び出していき、蓮華は残念そうに帰っていった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 部屋に残された龍見も深い自己嫌悪に陥っていた。若造の自分が国のトップに対してなんて事を言ってしまったんだと。

 

「はぁ、明日謝らねぇと」

 

「えー、お母さんが悪いし気にしないでいいじゃん」

 

「いやあれは先に怒ったオレが………………………………小蓮ちゃん? 起きていたのか?」

 

「うん、お母さんが来たくらいから」

 

「ずっと見てたの?」

 

「お母さんは気が付いてたよ」

 

「………………………頭冷やしてくる」

 

 あれだけ気遣いをしておきながら既に起きていたのに気が付かなかった自分が情けなくなり、逃げるように出ていこうとした。そんな龍見に小蓮は声を掛けた。

 

「あ、龍見。シャオはね、龍見だったらお父さんって呼んでもいいから。お兄ちゃんでもいいよ」

 

「そ、そうか。あははははは………………」

 

 苦笑いしか出なかった。そのまま龍見は滝のある川まで全力で走って向かい、日が昇るまで滝に打たれ続けた。




龍見がヘタレで辛い。こいつほんとに主人公かよ。

今回から自己満足のために後書きで本編では使われないであろう設定を書きます。主に龍見のいた現代社会に存在している裏組織について毎回一つずつ書いていきます。第一回はこちら。

陰陽連盟
本部は京都。日本にいる陰陽師の大半がここに所属している。表向きにはアベノ製薬という製薬企業であり、全国に展開するドラッグストアも経営している大企業。
トップに立つのは14代目安倍晴明(JK)。陰陽術のみなら龍見以上。先代は表の企業の社長。
過去に何度も龍見の勧誘をしているものの全て失敗している。


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第四十八話

そろそろ久しぶりに番外でエロ話を書こうか思案中


「はい、というわけでこの錬金結果はこのようになります」

 

 手作りの黒板に術式を書き連ねる。本来真っ先にやるべき術の指南だったが、陸遜こと穏の特殊性癖のお陰で指南書が無駄となり、黒板を作るまで時間が掛かってしまった。幸いな事に黒板では穏の特殊性癖は発動しなかった。

 主に術の指南を受けているのは周瑜こと冥琳、呂蒙こと亞莎、そして穏と蓮華だ。全員が自主的に受けているだけあって意欲は高い。最も成績がいいのは穏だ。性欲さえなんとかなれば優秀な生徒である。

 

「では次は………………いや、今日はもう終わりにしようか。何か質問があれば後で個人的に頼む」

 

 指南を続けようとした龍見だったが、何かを思い出したかのように唐突に打ち切った。いつもなら一人一人の質問にもこの場で答えているので、何があったのか亞莎は尋ねてみることにした。

 

「龍見さん、何か大切な用事でもありましたか?」

 

「ああ、実は少しお呼ばれしていてな。早めに行かないと怒られないかねないんだ」

 

 お猪口を傾ける動作に全員が諦めたような顔をして納得した。呼び出したのは間違いなく黄蓋、祭だ。真昼から酒を呑むのは彼女くらいなもの。炎蓮や雪蓮も誘われれば参加はするが、自主的に昼から呑もうとはしない。

 

「あ、冥琳も連れてくるよう言われてるんだった。雪蓮からの誘いだが、どうする?」

 

「………………はぁ、大方歯止め役だろうが付き合おう」

 

「はは、お疲れ様」

 

ーーガシャンッ

 

「うわっ!?」

 

 喋りながら片付けをしていた龍見の手から教材が滑り落ちる。手に違和感があったので確認をすると僅かながらに震えていた。痺れなどがあるわけでもなく、何かの術の気配もない。

 

「大丈夫?」

 

「………いやわかんねぇ。悪いけど蓮華、これ部屋まで運ぶの手伝ってくれないか?」

 

「私も手伝いましょうかぁ?」

 

「「穏は駄目!」」

 

「れ、蓮華さまも龍見さんも酷いですよ」

 

「だって穏がオレの部屋の本を隠れて読んだら大変だろ」

 

「そういう事よ。そんなに量はないから安心しなさい」

 

 落ち込む穏を尻目に教材を運ぶ龍見と蓮華。その間も龍見は何度か物を落としそうになり、流石に蓮華も心配になってきた。

 

「今日は休んだ方がいいわよ。祭には私から伝えておくから」

 

「いや、体調の問題じゃないんだ。たぶん精神に問題がある」

 

「なら尚更休むべきじゃないの?」

 

「原因が分からない以上休んでも意味ねぇさ。でもこの感覚、どこかで覚えがあるんだが………………」

 

 思い出そうにも記憶が拒絶しているかのように思い出せない。まあ思い出せない以上仕方ないと諦めた龍見は教材を片付けると誘われていた酒場へと向かった。心配な蓮華はそのまま付いてきている。

 

「全く、体の調子が悪いのに昼間から呑むなんて」

 

「酒は百薬の長だ。ちょっとくらいなら問題ないさ」

 

「祭達と一緒に呑んでちょっとで済むと思う?」

 

「ははは、思ってません………………おっ、なんか震えが強くなってきた」

 

 酒場の近くまで来ると先程までの手の震えも大きくなり、龍見は首をかしげた、明らかに酒場に何かあるのだろうが、それが何かはさっぱり分からない。

 

「ここか。お邪魔しまーす」

 

 中が覗ける程度まで扉を開けた龍見は即座に扉を閉めた。凄まじいまでの冷や汗を流している。

 

「な、何があったの!?」

 

「震えの正体が、分かった。少し避難する!!」

 

 走り去っていく龍見。蓮華はおそるおそる酒場の中を覗き見る。そこには炎蓮、祭、雪蓮、そして先に来ていた冥琳の他に、筋骨隆々としながらも白いビキニと小さい紳士服のような上着を着た男、そして胸と局部を僅かに隠した鎧、俗に言うビキニアーマーを着た金髪ポニーテールの女が居た。後者二人に見覚えがない蓮華は間違いなく男が震えの原因だと判断した。あんな気持ちの悪い男など見た事がないのだから。

 しかしながらその予想は外れる事となる。ポニーテールの女が蓮華の方を向き立ち上がる。そして次の瞬間、女の姿が消え、蓮華に突風が襲いかかった。

 

「きゃあっ!?」

 

 店内からの風、そして消えた女。直感的に高速で移動した女が蓮華の横を通りすぎたのだと理解した。女が何故消えたのかもすぐに理解する事となる。

 

「もー、坊やったら逃げちゃダーメ♪」

 

「は、離してください!! それに坊やって呼ばないでくださいよ!! は、恥ずかしい………………」

 

「恥ずかしがってる坊やも可愛いんだから~♪」

 

 女が戻ってきた。それも相当遠くまで逃げたはずの龍見をお姫様だっこしながらだ。意味の分からない光景に呆然とする蓮華に女は微笑みかけた。

 

「貴女も一緒に呑みましょ♪」

 

 その顔はあまりにも美しく、同じ女性である蓮華が見惚れてしまうほどであった。龍見が抱えられていなかったらさぞや絵になったろう。

 

「なんだい龍見。女に抱えられるなんて情けないねぇ」

 

「そう言ってやるな炎蓮。この女が只者ではないのは気付いておったろう。ま、男として情けないのは同意じゃがな」

 

 炎蓮と祭の言葉に何も反論出来ない龍見は顔を真っ赤にしながら俯いていた。

 

「良いではないか。話に聞いていたよりもずっと愛らしい男子(おのこ)で儂の心はキュンキュンしておるぞ」

 

「あんた、貂蝉の師匠だな」

 

「如何にも。儂が貂蝉の師、卑弥呼である」

 

「ほう、卑弥呼とはまた大層な」

 

「なんじゃ龍見、その筋肉達磨と知り合いか?」

 

「知り合いの知り合いですよ祭さん。んで、オレに用事があるんだろう」

 

 卑弥呼は神妙そうな顔をして頷く。龍見もいい予感がしないのかその顔は暗い。これが変質者と女に抱えられている男でなければもっと絵になったろう。

 

「左慈は于吉をも喰らい更なる力を得ておる」

 

「于吉を喰った? まさか、魂魄喰いか!? この世界に火器を持ち込む事といい、とことん禁忌に手を出す野郎だな」

 

 魂魄喰い。文字通り人の魂を取り込む禁呪だ。魂というものは術の素質がない一般人でも高純度の魔力の塊であり、それを喰えば当然強力な力を得る事も可能となる。更にその魂の持つ記憶や技術をそのまま手に入れる事が出来る。しかしリスクも大きく、人を形成するものである魂は喰った術者の体内に残り続け、術者の人格を徐々に侵食していく。これは止める事は不可能であり、並みの術者なら一週間もせずに発狂してしまう。

 龍見も一度だけこれを使用した者に会った事があるものの、とても目も当てられないほどに狂っていた。

 

「うむ。それもあって管理者すらも手を出せぬ状態じゃ」

 

「あいつの精神力ならかなり持ちそうだけど、近いうちに攻めてくるかもしれないな」

 

「ねぇねぇ坊や。ワタシが倒してきてあげよっか?」

 

「結構です。てかいい加減離してくださいよ」

 

「いーや!」

 

「龍見、その人は誰か紹介してよ」

 

「ん、この方は………ってか雪蓮、お前名前も知らない人と一緒に呑んでたのかよ」

 

「よくあることよ」

 

「さいですか。えっとこの方はパラス・アテナ様。戦の神様であられる。まあ戦い以外にも芸術とか幅広い分野の神様でもあるんだけどな」

 

「そして何より坊やのママでーす! ぶいっ!」

 

 全員何も言えなかった。神とはもっと威厳のあるものだという常識があったから、こんな軽い感じで現世に降り立つなど考えてもいなかったからだ。ただ先程龍見を捕まえた動きやその美貌は間違いなく人のそれではない。

 

「あ、あの、神様」

 

「アテナさん、でいいわよ」

 

「えっ、あ、分かりました。ならアテナさん。まま、って何でしょう?」

 

 聞き覚えのない単語を訪ねてみる蓮華。それを聞いたアテナはポンッと手を叩いた。龍見を抱きながら器用なものである。

 

「そういえばこっちでママって言っても分からないわよね。ママっていうのはお母さんって意味よ」

 

『へぇ~………………………えぇっ!!?!?』

 

「みんな安心してくれ。アテナ様が勝手に言っているだけだ」

 

「あ~ん、坊やひどーい」

 

 龍見はすぐに否定したものの、炎蓮達からすればあながち嘘にも思えなかった。術だけならまだしも神を喚べるほどの力。まともな人間では持ち得ないものだが、神の子という理由ならまだ納得出来るというものだ。

 

「苦手だし怖いんだよこの方。やってくると体が震える」

 

「先程の震えはそれが原因か」

 

「昔は毎日ママ~ママ~って抱きついてきてくれたのにぃ」

 

「昔はもっと威厳があって真面目だったのになぁ。それにママって言っていたのはそうしないと拗ねるからですよ。今は通じませんからね」

 

「むぅー!」

 

「龍見はこれの何が怖いんだい?」

 

 炎蓮がアテナの頭をポンポンと叩きながら尋ねる。過去は威厳があったのかもしれないが、今はとてもではないが恐ろしさなど欠片もない。それでも龍見は体を震わせている。

 

「だってよ、アテナ様は油断したら襲ってくるんだぜ。性的な意味で」

 

「………………は?」

 

「始まりは七歳の頃だった………………」

 

 遠い目をして語り始める龍見。添い寝していたら無理矢理精通をさせられそうになり、精通したらしたで無理矢理犯されそうになり、もうやらないと約束したのに足コキで射精させられそうになったりもした。アテナには脚に掛かった精液から生命が生まれた伝説があるため、彼女に精液を与える事が危険と知らなければ大変な事になっていたかもしれない。

 

「ふふ………今でも震えるさ」

 

「た、大変じゃな」

 

「そもそも処女神なのに積極的に処女を散らそうとするってどうなんだよ」

 

「いい歳して処女とか恥ずかしいじゃない」

 

「神様が歳とか考えなくてもいいんですよ。よっと」

 

 アテナから離れた龍見は注がれていた盃を手に取ると一気に呑み干す。まだ足りないのか酒壺から酒を掬い出すとまた酒を呑む。

 

「おや意外といけるんだ。ほらもう一杯どう?」

 

「すまんな雪蓮」

 

「そういえば坊や。ママ、坊やが結婚して子作りまでしたって聞いたんだけど~。ママに黙って何してるのかなぁ~?」

 

 じわりと殺気が漏れ出す。アテナが嫉妬深いところがあるのを思い出したが、流石に愛する坊やを本気で殺すつもりなどないだろう。しかし宴の場でこれは相応しくない。覚悟を決めた龍見は潤んだ瞳でアテナを見つめた。

 

「………………ママ、怒ってるの? ボク悪い子なの?」

 

「………………………………ごめんね坊やぁっ!!! ママが悪い人だったわぁ!!! ね、大丈夫、ママは怒ってないから泣かないで。あ、パイパイミルク飲む?」

 

「ママ………………帰宅の時間ですよ」

 

「えっ? いたっ!?!?」

 

 突然引っ張られるアテナのポニーテール。気配なく行われた行為に驚きながらも怒気を露にして振り返る。

 

「誰よ!! いくら温厚なワタシでも怒るわよ!!」

 

『我だ』

 

「………………あ、あら~、ハデスのおじ様、ご機嫌麗しゅう? あ、相変わらず素敵な死臭ですこと。おほほほほ………………」

 

 そこにあったのは暗闇。そしてそこから伸びる手。姿は明確には分からないが、ハデスがそこにいた。

 

「ぼ、坊やったらいつの間に詠唱も無しに神様を喚べるようになったのかしら?」

 

「喚んでませんよ。ただ現状を伝えただけです」

 

『アテナよ。いつも龍見には迷惑を掛けるなと言っているであろう。折檻だ。来い』

 

「い、嫌あぁぁぁぁッッ!!! 冥府なんてじめじめした暗いところなんて行きたくないぃぃぃぃ!!! 助けて坊やっっ!!!」

 

「ママ頑張って! ボク応援してるよ!」

 

「がんばりゅぅぅぅぅぅっっ!!!! ってしまったぁぁぁ………………………………」

 

 あっさりと暗闇に呑み込まれていったアテナに手を振り、龍見はまた一杯酒を呑んだ。

 

「はぁ、疲れた」

 

「プッ、アハハハハハハ!! な、何よさっきの、ボク悪い子なの? って! お、お腹痛い………!」

 

「く、ふふふ、雪蓮、わ、笑いすぎだ。くくっ」

 

「ははは! 龍見もあんな声が出せるんじゃな!!」

 

「可愛いところもあるじゃないか! あいつの乳は吸えなかったし、代わりに私のものでも吸うか? ん?」

 

「た、たつ、み、ごめんなさい………………私も、おかしくって………ふふ」

 

「………………お前ら」

 

「致し方なし! 呑んで忘れるのが一番じゃぞ!」

 

「近くで叫ぶな卑弥呼! うっせぇんだよ!! チッ、こうなったら呑んで呑んで呑み明かしてやる!!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 数時間が経ち、ほぼ全員が酔い潰れた頃に卑弥呼は店を出た。その顔にはある種の覚悟が滲み出ている。

 

「どこに向かうつもりだ?」

 

「起きておったのか龍見よ。どこに向かうかなど分かっておるじゃろ」

 

「左慈のところか………………まあはっきりと言っておこう。死ぬぞ」

 

「覚悟の上よ」

 

 今の左慈に挑めば間違いなく死ぬ。そして喰われるだろう。だが喰われたとしても魂だけで対抗するのは不可能ではない。左慈が完全に廃人となればこの世界は救われるのだ。

 

「阿呆だな、お前」

 

「何?」

 

「お前がやろうとしているのは敵の強化だ。左慈はきっとお前を喰ったらすぐに攻めてくるぞ。第一お前が居なくなるとこっちが困る」

 

「………………困る? 龍見がか?」

 

「ああそうさ。この世界をある意味知り尽くしているのはお前だ。貴重な情報源に死なれたら困る。左慈の居場所とかも分かるのはお前だけだろ。それに左慈ぶっ倒してからもこの世界の管理を顔も知らねぇ管理者や貂蝉だけに任せるのは不安だ」

 

 龍見は卑弥呼へ近付いていき拳を突き出した。

 

「この先まだまだ働いてもらう事が山ほどあるんだ。犬死には許されねぇぞ」

 

「ふっ、そうかそうか儂はまだ働かねばならぬか」

 

 卑弥呼は龍見の気持ちに応えるように拳と拳をぶつけた。

 

「貂蝉のところへ行け。今オレの自動(オート)人形(マタ)と左慈対策を立てているはずだ」

 

「うむ。しかしお主は本当に良い男子よの。だぁりんと」

 

「呼ぶなキモい殺すぞ」




原典のアテナファンの皆様には土下座を。どうしてこうなったかなほんとね。

では出ないであろう裏組織設定に参ります。

妖魔連合
本部は岩手。昔から陰陽連盟とは敵対関係だったものの、党首が変わってからは一転して友好関係にある。表向きにはヨウマートというスーパーマーケットを経営。地元密着型であり、大型店舗にも負けない品揃えと安さで人気。
昔は過激派と穏健派に分かれており、過激派が多数を占めていた。その過激派が全国制覇に乗り出した時に当時不良だった龍見の怒りを買って壊滅。穏健派が新たな妖魔連合を作り出した。
党首は河童の川島流一(48)。妖怪にしては若い。
昔の妖魔連合はヤクザ染みていたものの、川島が党首になってからは妖怪の役所のような形になっている。


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第四十九話

龍見は全体的に子供に甘い。だからロリコン扱いされるのだ。


「朝っぱらから呼び出しちまってすまないね」

 

「構いませんよ炎蓮さん。ある程度の頼みなら聞くのも契約のうちですし。それで用件を聞かせてください」

 

「あー、うん、それか」

 

 炎蓮にしては珍しく歯切れが悪い。やましい事があったというよりも、頼みづらいといった印象を受ける。

 

「面倒事を頼む事になるんだけどいいかい?」

 

「ものにもよりますけど………」

 

「今日袁術が来るんだけど、目的はあんたの術見たさみたいでさ。同盟関係だった事もあって断りづらくてね。悪いけど相手してやってくれないかい?」

 

「袁術………………って誰でしたっけ?」

 

「会ったことないのか? 言うなれば小さい袁紹ってとこかね」

 

「うわぁ………………」

 

 袁紹にはいい思い出のない龍見は思わず苦い顔をする。何せ信頼する神様の術が効かなかった事がある相手だ。ある意味最強の敵とも言える。

 

「ま、いいか。死ぬようなことはないでしょうし、一度なら死んでも平気ですしね」

 

「助かった! もう袁術は部屋に通してあるから頼んだよ!」

 

「もう!?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 袁術がいると聞かされている部屋の前には見慣れない兵が数人いた。袁術軍の兵と思わしき彼らに軽く挨拶をしてから部屋の扉を開けてもらう。

 

「袁術様! 馬淵龍見が到着しました!」

 

「入れるがよい」

 

「はっ! 馬淵龍見、入れ」

 

「はいはい」

 

 随分と偉そうな言葉遣いの少女の声が聞こえた。あの袁紹が小さくなったのだから当然と言えば当然なのだが、龍見は何か袁紹との違いのようなものを感じていた。

 部屋には二人の女性がいた。一人は金髪のまだ幼い少女。こちらが袁術だろう。そして御付きなのか青髪に小さな帽子を乗せた女性が隣にいた。

 

「初めまして、でいいかな?」

 

「お主が馬淵龍見じゃな。聞いていたよりも弱々しいのじゃ。妾がわざわざ来たのだから楽しませなければ大変じゃぞ!」

 

「具体的に何が大変なのかな?」

 

「えっ………………うーんうーん………………め、名家たる妾を怒らせるととにかく大変なのじゃ!!」

 

「そうですよ! お嬢様の語彙の無さでは表現できないくらいに大変なんですよ!」

 

「くく、そりゃ怖い」

 

「どうじゃ怖いじゃろ!!」

 

 褒められてはいないのにない胸を張る袁術。子供ゆえの無知さを垣間見て龍見は思わず笑ってしまう。そして御付き女性はかなり辛辣だ。しかもそれを悪意なく行っている。

 

「んで君は誰だ?」

 

「私は大将軍の張勲です!」

 

 こちらは立派な胸を張って自己紹介をする。大将軍といえばかなりの役職ではあるはずだが、そんな威厳も力も感じられない。凡百の兵よりは少し上といった感じの技量か。

 

「それよりも早く術を見せい! 妾はそれだけが楽しみで来たのじゃ!」

 

「そうは言われてもな。派手なのが見たいなら火でも吹こうか?」

 

「危ないじゃろ! 非常識じゃな!」

 

「そうですよ。馬鹿ですか?」

 

「えぇ………………」

 

 まさかこの手の人物から正論が飛んでくるとは思わずに困惑してしまう。当然龍見も室内が燃えるような火力を出すつもりもなければ、そもそも魔力の火なので消そうと思えばすぐに消せる。

 

「あー、そっか。魔力だからあれが出来たな」

 

「むっ、なんじゃ? 楽しいのか?」

 

「普段絶対に見れないものではある」

 

 龍見が少し手を動かすとそこに水の玉が出現する。更に龍見は指先に小さな火の玉を作り出した。一瞬袁術が体を硬直させるが、とても何かに引火するような火種ではないのでホッとする。

 

「よーく見とけ」

 

 火の玉をそっと水の中へと入れていく。本来消えてしまうはずの火は水中でも燃え盛り水を蒸発させていくが、蒸発した水蒸気は再び集まって火を包み込む。

 

「おおっ! 七乃! 水の中で火が消えておらんぞ!!」

 

「ほぇー、不思議ですね」

 

「魔力の火だからな。オレが魔力供給を止めない限りは燃え続けるさ。更にこんな事も可能だ」

 

 蒸発し続けていた水の様子が徐々に変化していく。外が白くなっていったかと思うと、内に向かってどんどんと氷始めた。最後まで氷となったが、内部の火は以前灯ったままだ。

 

「触ってみるかい?」

 

「あ、熱くないかの?」

 

「周りは氷だ。むしろ冷たいよ」

 

「お、おぉ、ひんやりしておるのじゃ」

 

「かっちかちですね。中の火がとても綺麗です」

 

「ありがとう。術ってのはこういうお遊びでも使えるんだ」

 

「まだ何か出来るのか? 見たいのじゃ!!」

 

「はいよ。お嬢様の仰せのままに」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 あれから数時間。龍見は朝食も昼食も休憩すらなく術を見せ続けていた。それはまだいい。龍見が本気で研究をした時の最高記録は飲まず食わずで二日間だ。だが今回は独りぼっちでの研究ではない。

 

「馬淵! 次は空を飛ぶのじゃ!!」

 

「浮くのなら、出来るけどなぁ」

 

「美羽様のお願いが聞けないのですか?」

 

「人間、可能と不可能が、ある………………」

 

 子供の我が儘に付き合わされて数時間というのはかなりの体力を消耗するし、普段使わない術による魔力消費も馬鹿にならない。

 

「仕方ないのじゃ。表に出るぞ!」

 

「外で何を?」

 

「虎に乗りたい! 虎になるのじゃ!」

 

「まあ、変化なら………………」

 

 変化で子供を背中に乗せる。変則的だがお馬さんごっこだろうと安易に考えた。この考えが間違いだった。外へ連れ出された龍見がやってきたのは街道。街のど真ん中だ。

 

「………………ここで変化を?」

 

「そうじゃ!」

 

「………分かったよ。変化」

 

 要望通りに虎に変化する。変化は見た目を変えるだけ。着ぐるみのようなものである。そんな龍見の背中へ袁術は思いっきり飛び乗った。

 

「うっ………」

 

「見ろ七乃! 江東で虎を制したのじゃ!」

 

「流石です美羽様!」

 

 いくら子供の体重とはいえ、背中で跳ね回られると生身には相当辛い。肉体に強化の魔術を掛けて何とかやり過ごす。

 

「走るのじゃ!」

 

「はいはい」

 

「むー、遅い………………そうじゃ! 七乃、鞭を出すのじゃ!」

 

「はいこちらに」

 

「えっ? いやおい!! それはやめ………」

 

ーースパァンッ

 

「う"っ、ぐぉっ!?」

 

 馬用の鞭による打撃は人間には凄まじい痛みだった。強化を施していなければ皮膚が裂けて、血が噴き出していたかもしれない。

 唐突な痛みに龍見は思わず変化を解いて倒れてしまう。背中の袁術はすぐに降りると心配そうに龍見に声をかける。

 

「す、すまぬ。やり過ぎたのじゃ。すぐに誰か」

 

「どいて!!」

 

「ふにゃっ!?」

 

 袁術を押し退けて龍見に寄り添うように近付いてきたのは小蓮だ。

 

「し、小蓮ちゃん? なんでここに?」

 

「外に行くのを見たから気になって付いてきたの! まさかこんな事になるなんて………………大丈夫? 動けなかったらお医者さん呼ぶよ」

 

「いや、ヒーリングはしたから動くのに問題はないよ」

 

「そっか。良かった。ちょっとあんた!!!」

 

「ひっ、な、何なのじゃ! 名家たる妾に怒鳴り付けるとは何事じゃ!!」

 

「うっさい!! 何が名家よ!! 家柄が良ければ人を傷つけてもいいって言うつもり!?」

 

「そ、そんな事は………………」

 

「どうせお金で何でも解決してきたんでしょ! お金さえあれば何でも「うるさいっっ!!!!」っ!? 何よいきなり!?」

 

「うるさいうるさいうるさい!!! お前に、妾の何が分かる!! 馬鹿ぁっ!!!!」

 

「お嬢様!? お待ちください!!!」

 

 突然鬼気迫る勢いで叫んだ袁術はそのまま走り去っていった。進んだ先は入り組んだ小道。張勲はすぐに追い掛けたものの、見失ってしまう。

 怒鳴っていた側だったのに突然怒鳴られた小蓮は驚いて動けず、残された龍見は痛みも癒えたのか立ち上がった。

 

「小蓮ちゃん」

 

「龍見、もう大丈夫なの?」

 

「ああ。小蓮ちゃん、君に言っておかないといけない事がある。助けてくれたのはとても嬉しかったよ。でもね、人を傷付けるような事を言っちゃ駄目だ」

 

「で、でもそれはあいつが龍見を」

 

「確かに袁術ちゃんが大元の原因だ。そこは否定しない。小蓮ちゃんの人を助けたかったという気持ちも大切なものだ。だから人を助ける過程で他の人を傷付けたら駄目なんだ。誰かが助かっても別の誰かが傷付いたら本末転倒だろ」

 

「言ってる事は、分かるけど………………やっぱり許せないよ。大切な人を傷つけられたんだもん!」

 

 その言葉に龍見はにっこりと笑って小蓮の頭を撫でた。

 

「その言葉だけで十分オレは癒えたよ。さ、袁術ちゃんを探しに行こう」

 

「あんなの放っておいてもいいのに」

 

「あの子にはあの子なりの事情があるようだ。さっきの叫びで何となくそれが見えた。もし、袁術ちゃんが謝ったら許してあげてほしい。それと友達になってくれたら最高かな。あの子はきっと友達が出来たことがないだろうし」

 

 袁術を追い掛けるため走り出そうとした龍見の服が引っ張られる。

 

「………………私も行く」

 

「了解した。結構速く走るから落ちないように気を付けるんだよ」

 

 小蓮をおんぶして走り出す。気も魔力も皆無な袁術を捜すにはしらみ潰しに走り回るしかない。龍見は脚に魔力を回すと速度を上げて駆け回った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 時間は経ち、空には月が昇っていた。何処とも知れない場所をとぼとぼと歩く袁術の背中に覇気はない。やがて歩き疲れたのか道の突き当たりに座り込む。

 彼女は幼い頃に両親を亡くした。残されたのは大量の遺産。多くの大人がそれを目当てに彼女へと近付いた。幼子ながらそれに気が付いた袁術は必死に遺産を守った。誰よりも尊大に、全てを見下す事によってなんとか優位に立とうとし続けた。多少ならば金もばらまいて周りを黙らせた。

 

「あやつの言う通りじゃな。金さえあれば何でも………………」

 

 信用できる大人などいない。全てが敵だった。それは今でも変わる事がない。ただ張勲だけは少し違った。常に袁術のために動き、袁術を喜ばせようと傍に立ち続ける。彼女の目的は分からないが、それでも相当世話にはなった。思えば大将軍という称号を与えてからはろくに褒美も与えていない気がする。

 

「………………」

 

 袁術は一本の懐刀を取り出す。張勲がもしものためにと持たせてくれたものだ。

 

「もう、疲れたのじゃ。今、妾が死ねば国も金も七乃のもの。喜ぶかの………」

 

 そっと鞘を外して刀身を見つめる。命を奪うには十分な代物だ。懐刀をしっかりと握り締めた袁術はそれ自身の首へと突き立てた。鋭い痛みが走る。更に力を込めれば喉を貫くだろう。

 

「さよならじゃ七乃。最後の褒美、有効に使うのじゃぞ」

 

 目を閉じてグッと力を込める。痛みはない。死とはこうも軽いものかとどこか抜けた考えをして目を開ける。そこにあったのは刀身を握り締めた血塗れの手。そして泣きそうな張勲の顔だった。

 

「な、なの?」

 

「美羽様のばかぁ!! 何をしているんですか!!」

 

「ば、馬鹿とはなんじゃ!! 第一、何故妾を助けておるのじゃ………………妾が死ねば全てが大将軍である七乃の」

 

「美羽様、七乃が欲しいのは名誉でもお金でもないんです。美羽様の笑顔だけが欲しいんです。美羽様が死んだらもう手に入らないんですよ」

 

「七乃………………?」

 

「死なないでください。ずっと一緒に悪いことして、周りを困らせて、笑って過ごしましょう。ね?」

 

「笑うのはいいが、悪いことすんなよ馬鹿共」

 

「馬淵、お主まで………………」

 

 少し遅れてきた龍見が懐刀を取り上げる。そして袁術の首に付いた刺傷と張勲の手をヒーリングで癒していく。

 

「良かったな袁術ちゃん。金じゃ買えない大切な人がいて」

 

「私と美羽様の間に空気も読まずに割り込んだ上によくもまあそんな臭い台詞を言えたものですね」

 

「おっ? なんだ張勲はもう治療は必要ないのか」

 

「続けてくださいお願いします。痛いんです」

 

「………………ふふっ、お主らは愉快じゃな」

 

「ねぇ袁術、ごめんなさい」

 

「孫尚香? 何故謝る?」

 

「だって貴女を傷付けたでしょ。龍見を傷つけられて許せなかったけど、だからって貴女を傷つけていいってわけじゃないって龍見から教わったの」

 

「ならば悪いのは妾の方じゃ。お主の大切な人を傷付けてしまってごめんなさいなのじゃ」

 

 双方が頭を下げている姿を見て、張勲は少し驚いていた。袁術が頭を下げる事姿を見るのは初めてだったし、こんなに素直になるのも滅多にない。

 

「馬淵さん、貴方のおかげで美羽様の違う面が見れた気がします」

 

「そうか? 子供ってのはあんくらい素直なもんだ。これまでの袁術ちゃんが気を張りすぎてただけだよ」

 

「袁術、良かったら友達にならない?」

 

「と、友達? 妾でいいのか?」

 

「うん。袁術って友達いなさそうだから、私が最初の友達になってあげるよ」

 

「余計なお世話じゃ!! お主こそ友達がおらぬからわざわざそんな事を言うのじゃろう。仕方がないから友達になってやらなくもないぞ」

 

「言ったなー!!」

 

 じゃれあう二人の姿に龍見も張勲も微笑みながら眺めている。特に龍見は娘が成長した姿を思い描いてニヤケ顔が酷い。

 

「さ、仲良くなったところでそろそろ帰ろうか。時間も遅いからね」

 

「はーい!」

 

「馬淵、昼間の無礼を許してもらいたい」

 

「気にする事はないよ。オレもいい勉強になったよ」

 

「そうかの? ふふん、なら良かったのじゃ。だが無礼は無礼。謝罪というわけではないが、妾の真名を受け取ってもらいたい。当然孫尚香もじゃ」

 

「なら私の真名も預けるからね。よろしく美羽」

 

「オレは好きに呼んでもらって構わないよ」

 

「では兄上と」

 

「何ゆえ?」

 

「あ、今の何ゆえと兄上を掛けた洒落ですか? だとしたらつまらな、いたたたたっ!!? う、腕はそっちに曲がりません!!」

 

 くだらない事を言っている張勲の腕を締め上げて黙らせる。美羽は特に気にしていないらしく理由を述べた。

 

「兄上が欲しかったからじゃ」

 

「成る程、分かりやすくて結構。まあ好きに呼べと言ったのはオレだからな。好きにしてくれていいよ」

 

「ま、まぶ、ちさん………………もう限界」

 

「おー、すまんすまん。忘れてた」

 

「あー痛かった。なんという外道でしょう。まあそこは置いておいて、美羽様が真名を預けられるならば私の真名も預けないわけにはいきません。七乃です。今後ともよろしくお願いしますね」

 

「よろしくね!」

 

「よろしく頼む」

 

 その後十日に渡って美羽と七乃は呉に滞在した。本来二日だったらしいが、美羽がどうしてもという事で長期の滞在となったようだ。しかしその長期滞在が彼女らに問題を与える事となる。それは別れの日の朝の出来事であった。

 

「楽しかったのじゃ! 兄上、小蓮、今度は我が国に来てくれ。歓迎するのじゃ!」

 

「いやぁ、十日ってあっという間でしたね」

 

「こんなに国を空けて大丈夫なのか?」

 

「心配無用! 妾の国は強いのじゃ!」

 

 そんな話をしている時、街の外から沢山の人々がやってきた。雪蓮率いる軍勢のようだ。龍見が思い返す限り、彼女がどこかへ戦闘を仕掛けるという予定はなかったはずだ。

 

「あれ? あんたらまだこっちに居たんだ。通りで帰ってこないわけだ」

 

「む? どういう事じゃ?」

 

「あんたらが留守の間に国貰ったから」

 

「………………むむ?」

 

 雪蓮の言葉に首を傾げる美羽。対して七乃は体を震わせながら雪蓮へと質問した。

 

「あのー、同盟期間って、いつまででしたっけ?」

 

「あんたらが来る三日前には終わったよ。なのにのうのうとやって来るもんだから国を奪うのも簡単だったよ。無血開城ってやつよ」

 

 炎蓮が同盟関係『だった』と言っていたのを龍見は思い出した。どうやらもう関係は終わっているという意味だったらしい。

 

「………………うわあぁぁぁんっ!! 美羽様ぁ! 私達帰る場所が無くなっちゃいましたー!!!」

 

「な、なんじゃとー!? ひ、卑怯じゃぞ孫策!!」

 

「そっちが悪いんだもんね。ま、母さんに頼めば住む場所くらいは提供してもらえるよ」

 

「うぅ、兄上~、助けてほしいのじゃ~」

 

「うんうん、炎蓮さんにはオレから掛け合っておくからオレの部屋で休んでなさい。雪蓮、流石に謝ってやってくれ」

 

「そうだよお姉ちゃん! 私達にも知らせずにこんなことするなんて」

 

「あー、うん、ごめんよ。この通り」

 

「ヒック、グスン、もう、いいのじゃ………………」

 

「ゆっくり休みましょう、お嬢様」

 

 肩を落としながら立ち去っていく美羽と七乃を眺めていた龍見はある事を思い出し、確認をした。

 

「………………マジか」

 

 同盟関係を結ぶ時に刻まれた契約紋。それが消えていた。龍見も同盟期間が終わっていたのだ。




なんで袁術の話を書いているのか。自分でも分からない。次回はバレンタインも近いし番外編書けたら書こうかな。

では恒例となりつつある裏組織紹介。

マジカルカンパニー
本部はイギリス。表向きは世界中に展開する老舗の玩具メーカーであり、本社は会社、工場、学校、警察署等々がありそこだけで一つの街として成立するほどに広大。
裏では世界各国の魔法の才能を集めて教育する魔法学校。学園長はエドワード・ジョンソン(63)。龍見も三歳の時に彼の教育を一度だけ受けた事がある。
龍見も何度か特別講師として招かれており、常勤としても誘われているが、あくまでアルバイト感覚のため断っている。


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番外之五【R-18 】

バレンタインから一週間以内だからまだバレンタインネタでもセーフ(暴論)
なお今回R-18ですが全編を通してふざけにふざけたギャグです。


 魏にはこの時代としては一風変わった料理屋が存在している。全室個室の完全予約制。電話もないこの時代に似つかわしくないやり方だが、店の徹底した管理により表に出したくない話をする場として各地からの客足は絶えない。そして今日もとある一組の客がやってきた。

 

「すみません。予約していた董卓と郭嘉です」

 

「お待ちしておりました。手形確認の方よろしいでしょうか?」

 

「はい」

 

 この店では手形を残し、次の予約の時にはその手形を合わせて確認するという事になっている。月も稟も常連のため店側も顔を把握しているが、例外はない。

 

「ありがとうございます。ではこちらへどうぞ」

 

 料理の注文は必要がない。予約時に決めておくためだ。部屋に通された月と稟は出された水を飲んで一息つくと話を始めた。

 

「始めますか、稟さん」

 

「ええ、遂にこの時が来たかと思うと胸が踊りますね」

 

「うふふ、私もです。では第一回妄想委員会をここに開催します!」

 

「ワー!」パチパチ

 

「今はまだ二人の同志ですが、いずれは各国から逸材を集めて巨大組織としていきましょう!」

 

「現在の候補はうちの流々と呉の穏殿、蜀の翠殿と朱里殿、雛里といったところですかね。蜀は将来有望ですね」

 

「ただ一部扱いが難しい方々もいらっしゃいます。注意が必要です」

 

 この二人の扱いが何よりも難しいと皆が思うだろう。勝手に会員候補を妄想していたところへ料理が持ってこられる。

 

「失礼します。お料理をお持ち致しました」

 

「どうぞ」

 

「予約されていた品でお間違いないでしょうか?」

 

「問題ありません。ありがとうございます」

 

「流石にここの料理は美味しそうですね。あ、第一回の議題ですが、食べ物が関わっているんですよ」

 

「私達の議題で食べ物?」

 

 稟は不思議そうな顔をしていた。主にこの二人の妄想はスケベな事が前提だ。食べ物と言われてもピンと来ないのだろう。

 

「昨日龍見さんと魏へやって来た時の事なんですが………………」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 今回の魏への訪問は完全に月の個人的なものであり、かなり自由な時間があった。買い物も趣味である月は思う存分にそれを堪能していた。そんな時に龍見の姿を見かけた。各地に妻がいるために定期的に色々な国を渡り歩いている龍見に用事もなく遭遇するのは意外と貴重だったりする。

 

「いざ選ぶとなると迷うな………………」

 

「龍見さん、こんにちは。何を見ているんですか?」

 

「ん? 月じゃないか。今日はどうした。会議でもあったか?」

 

「私用ですよ。お買い物ならお手伝いしましょうか?」

 

「そうだな………………やっぱり女性は甘いものが好きか?」

 

「好きな人は多いと思いますよ」

 

 成る程と納得した龍見は様々な食材を買い集める。贈り物のようだが、手作り菓子になるらしい。

 

「いつもこうやって贈り物を作っているんですか?」

 

「いや菓子の類いは初めてだ。向こう、天がバレンタインでもなきゃこんな事はしなかったろうさ」

 

「ばれんたいん、ですか?」

 

「ああ、そういう名前の行事でな。オレもアテナ様が贈り物をくれたから知ったんだが、簡単に言えば普段世話になっている人に感謝や愛情を込めて贈り物をする日だ」

 

 オレの国ではだいぶ歪んでいるけどな、と苦笑いしながら話す龍見。元々どんなものなのか月も聞いたが、長くなるという事で断られてしまった。

 

「その日にはお菓子を送るのが一般的なのですか?」

 

「国によるかな。ただ菓子と言ってもこっちにはない洋菓子ってのが一般的で………………」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ちょこれいとにくっきい、けいきなんて名前のお菓子があるみたいですよ」

 

「あの、月殿」

 

「何ですか?」

 

「贈り物を送られる側になる私にその話をしても良かったのですか?」

 

「………………てへっ♪」

 

「可愛いので許します。ですがそのお菓子がどう我々の妄想に繋がるのですか?」

 

「それはですね、ましゅまろというお菓子の説明を聞いてもらえれば稟さんなら分かります」

 

「ほう、それはどのようなお菓子で?」

 

「ましゅまろは白くて丸いお菓子だそうです。とても柔らかくて指で押すと潰れてしまうほどだそうですが、弾力もあって潰れても戻るくらいだそうです。食べれば舌触りがとても滑らかで甘みも強いと言われました」

 

 稟は説明を纏めて頭の中でマシュマロを形作っていく。だがピンクの脳細胞がその方向性をどんどん歪めていく。

 

「理解しました。つまりはおっぱいですね」

 

 何も理解していなかった。

 

「流石は稟さん。私の見込んだ通りその結論に到りましたね」

 

 月は稟の何を見込んでしまったのだろうか。

 

「それと先程のちょこれいとですが、一般的にはちょこと略されるそうです」

 

「ち○こですね、分かります」

 

 その結論は誰も分からないし、分かりたくないだろう。

 

「極めつけはましゅまろには中にちょこの入った種類もあるそうです」

 

「おっぱいでち○こを包むと。これは卑猥ですね。更に言えば純粋にお菓子について教えて下さったであろうご主人様の想いを踏みにじって、こんな妄想に耽る今この瞬間が最高に堪りません」

 

 最低の所業である。龍見がこの場にいれば嘆いていたに違いない。

 

「では準備運動も終わりましたし、本番に入りましょう。ましゅまろ(意味深)でちょこ(意味深)を包む妄想を始めましょう」

 

「ちょこはご主人様として、ましゅまろは我々だけでは少々力不足では?」

 

「龍見さんがいるなら恋さんは必須ですよね。龍恋は正義。あとは白いましゅまろという事で紫苑さんでいきましょう」

 

 妄想に巻き込まれる三人もいい迷惑だろう。とここで稟が悩ましげに唸った。

 

「とても良いのですが、我々の必要性がなくなりませんか? いえあの三人でも十分に御馳走様なのですが」

 

「? どうしてですか?」

 

「あの二人のましゅまろに包まれてはご主人様のちょこも頭すら出せなくなって「甘い! それこそお菓子のように!」な、何ですって!?」

 

「考えてもみて下さい。龍見さんですよ。変身したり分身したり洗脳できたりする人なんですよ! ちょこの大きさくらい自在に決まっています!!」

 

 そんなもの決まっていないのだが、稟はその言葉に衝撃を覚えてしまった。妻である自分は龍見の事を理解したつもりでいたのだ。だというのに龍見の可能性を見ることが出来ていなかった。そう感じてしまった。

 

「うっ、わ、私はなんと、情けない。ご主人様を、こんなに軽視するなど」

 

「顔を上げてください。大丈夫ですよ。龍見さんならそんな事は気にしないはずです。さあ、再開しましょう。私達の妄想(ゆめ)」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 全裸で寝転がる龍見。そこに付いている逸物、ちょこは異常なまでに巨大だった。成人男性の二の腕ほどの太さもあり、長さは1mはあろうかというほどに長い。その周りには同じく全裸の月、稟、恋、紫苑がいる。

 

「ああ、なんと立派なちょこでしょう。私のましゅまろで包めるかしら」

 

「紫苑、一緒にやろ」

 

「そうですね。龍見さん、失礼しますね」

 

 恋と紫苑が龍見の左右から近付く。そして二人の胸、ましゅまろが龍見のちょこを包み込む。二人の巨大ましゅまろでやっと包めるほどの大きさのちょこはまだ先が大きく出ている。

 

「じゃあ私達は先っぽを包みますね」

 

「ご主人様の亀さんこんなに大きくなって。スゥー、ハァー、とっても臭くて素敵ですよ」

 

「稟は相変わらずだな。月は慣れないだろ。あまり無理するなよ」

 

「龍見さんは優しいですね。でも、こんなにお汁が漏れていますよ」

 

 月は龍見の脚に、稟は龍見の胸元に乗っかりちょこへと近付き、拳よりも大きな亀頭にしゃぶりつく。更に下の二人に邪魔にならない程度に上半身をちょこへと押し付ける。ましゅまろの大きさが劣る月と稟だが、上半身全てを使うことによって奉仕する。

 

「みんな、気持ちいいよ。すぐに、出ちまいそうだ」

 

「あらあら。でも仕方ありませんよね。四人のましゅまろに奉仕されているんですもの。たくさん出して下さいね」

 

「龍見の玉、ずっしり重くなってる。いつ出してもいいよ」

 

「ご主人様ぁ、濃いちょこ汁、いっぱいいっぱい飲ませてください」

 

「普段詠ちゃんとばかりですから男の人のを飲む機会ってないんですよ。楽しみです」

 

 全員が暴れるちょこをましゅまろで押さえつけながら、玉や竿、亀頭や鈴口にむしゃぶりつく。少しするとちょこの根本からお目当てのものが沸き上がってくるのを全員が肌で感じた。やがてそれが頂点まで到達すると間欠泉のように大量に噴き出した。

 

ーードビュルルルルッ ドクッドクッ ビュッビュルルッ

 

 液体というよりも固形物。濃厚すぎる白濁のちょこ汁は頭から爪先まで「失礼致します」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「新しいお料理をお持ち致しました」

 

「ありがとうございます」

 

「おお、これも美味しそうですね」

 

 妄想を中断されたというのに二人の顔は非常に晴れやかだ。何せ妄想内で龍見がイったのと同時に二人もイって賢者モードなのだ。多少の邪魔など気にもならない。

 

「ふぅ、ばれんたいんとは良いものですね。いつか天に行ってみたいものです」

 

「どんな世界なのでしょうね。さて、一休みとして料理を食べましょうか」

 

 二人はまだ見ぬ天に想いを馳せながら料理を口にする。今後もこのふざけた女子会は続いていくだろう。




これは酷い!! 何なんだよこの二人!! R-18シーンはともかく、二人の会話はスラスラ書けるから困る。

では恒例の裏組織紹介です。

聖堂合唱団
本部はローマ。全世界の教会に所属している女性でのみ構成されている。男性のみで構成されている聖堂騎士団という組織もある。基本的に悪魔や西洋のモンスターを浄化するのが仕事。
表向きには名前通りに教会の合唱団として活動しており、慈善事業にも積極的。
代表は盲目のシスター、アイ(17)。元々盲目の孤児であり、とあるシスターに拾われて育てられる。無意識で魔力をエコー代わりにして盲目でも比較的不自由なく生活していたが、7歳の頃に龍見と出会い、魔力を使って物を視る念視を教わって以来その才能を開花。視る事に特化し、千里眼、過去視、僅かながら未来視すら可能。しかし普段はその能力を龍見の監視にのみ使用するヤンデレ系少女。なお龍見は気がついて遮断した模様。

裏組織紹介じゃなくて人物紹介だこれ


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番外之六【R-18】

雛祭りに間に合った………………だと………………?


 これは少し未来のお話。龍見が夜なべして作っているのは一体の人形。可愛らしい顔付きから女の子の人形というのが見てとれる。手作りの黒くて長い毛髪を埋め込み、これまた手作りの着物を着せていく。

 

「よし、いい感じ。あとは微調整だな」

 

 夜が明ける前には愛らしい女雛が完成したのだが、龍見はそこに更に手を加えていく。結局納得いく形になったのは日も昇りきった昼頃だった。人形としては大きめの50cmの女雛はとても精巧に作られていた。

 

「我ながら惚れ惚れする一品だ」

 

ーードンドンドンッ

 

「ととさまー! ごーはーんーだーよー!」

 

「ああ、悪いな。今行くよ」

 

 娘の恋歌に呼ばれて本日初めて部屋から出る。小脇には作ったばかり女雛を抱えてだ。

 

「わー! おにんぎょうさんだー! ととさまがつくったの?」

 

「そうだぞ。みんなの悪いものを持っていってくれるお人形さんだ。さ、撫でてごらん」

 

「うん!」

 

 壊れ物でも触るかのように恋歌は優しく女雛の頭を撫でた。とても人工のものとは思えない艶やかな髪や、まるで生きているようにも見える輝く瞳は一瞬で恋歌を魅了した。

 

「ととさま! このこほしい!」

 

「ごめんな、この子には仕事があるんだ。恋歌にはあげられないよ。今度また別の子を作ってあげるから我慢してくれ」

 

「むぅー!! このこがいいのー!!」

 

「どうしたのよ。騒々しいわね」

 

「ちぃちゃーん! ととさまがおにんぎょうさんくれないの!」

 

「地和お母さんって呼びなさいっていつも言ってるでしょ。龍見、人形くらいあげてもいいじゃない」

 

「いやこれ流し雛として作ったもんでさ」

 

「何よそれ」

 

 流し雛とは人々の厄を吸い取り、川に流す事によって厄を祓う事を目的とした人形だ。本来は紙で作られているのだが、龍見は大陸全体から厄を集めるために相当気合いを入れて作ったために普通の人形となっている。

 

「これを置いておくといずれ厄が溜まって、回りに災厄を振り撒く事になるんだ。だからこれは渡せないんだ。恋歌も術師なら理解してくれ」

 

「むむむ………………かわり、つくってくれる?」

 

「ああ、約束だ」

 

「仲直りして良かったわ。それよりさっきの話だと、その人形を持って大陸全部回るの?」

 

「主要な都市だけだがな。それと家族は絶対だ。まずはここの全員の厄を祓わないとな。ちぃも撫でてくれ」

 

「わかったわ」

 

 撫でて分かるのだが、この人形は非常に完成度が高い。これなら子供が欲しがってもおかしくはないと地和も納得した。

 その後龍見は厄祓いのために人形片手に各地を巡った。普段なら各地に数日滞在するものの、今回は厄人形が一緒だ。下手に留まって厄を振り撒くわけにはいかず、厄祓いのみを済ませるとすぐに次の目的地へと向かう。結果半月もしないで各地を回りきる事となった。

 

「ふぅー、やっと終わった………………」

 

 龍見が城へと帰ってきたのは日も沈み、月が真上まで昇ってしまった深夜。今日のうちに帰れるとはテレパスで伝えたものの、想定よりも遅くなってしまった。もう誰も起きていないだろうと思っていたが、自室からは灯りが漏れている。

 

「恋? まだ起きていたのか?」

 

「お帰り龍見。恋歌、頑張ってたけど寝ちゃった」

 

「仕方ないさ。子供は寝るのが仕事だしな」

 

 恋の膝の上で静かに寝息を立てている恋歌の頭をそっと撫でた。次の瞬間、龍見と恋歌に電流が走る。

 

ーーバチィッ

 

「ぬあぉっ!?」

 

「ぴぎゃっ!?」

 

「きゃっ!? ど、どうしたの?」

 

「ぴ、ぴりぴりしゅゆ~」

 

「びびったぁ………変な術式作りやがって」

 

 龍見が帰ってくれば子供たちに顔を見せるのを恋歌は知っている。寝ていれば頭くらい撫でるだろう。そう考えた恋歌は龍見が触れると電流が走る術式を自分に纏わせた。龍見が遅く帰ってきても確実に起きれるだろうという考えだったが、電流の強さについては考えていなかったらしい。

 

「と、ととさま。おにんぎょうさんは?」

 

「苦労したが、三体作っておいたぞ」

 

「うん、ありがとう。それでさいしょのおにんぎょうさんは?」

 

「こっちか?」

 

 取り出された女雛は作られたばかりの時とは違い、何か禍々しさがあった。それだけ厄を吸収してきたのだろう。

 

「おにんぎょうさん、がんばったんだね」

 

「ああ。最後は流すだけだ」

 

「れんかもみる!」

 

「仕方ないな。恋、抱いてきてあげてくれ」

 

「いいよ。ほら恋歌、抱っこ」

 

「ありがとうかかさま!」

 

 近くの大きめな川までやってきた龍見は女雛が乗るための船を浮かべて、そこに女雛を乗せた。

 

「ととさま、おにんぎょうさんひとりぼっちなの?」

 

「ん? そうなっちまうな」

 

「じゃあれんかのおにんぎょうさんものせてあげて!」

「こいつらか? だがこれは恋歌の為に作ったんだぞ」

 

「れんかのなんでしょ? なられんかのすきにする!」

 

「むっ………」

 

「龍見の負けだね」

 

「ああ。一本取られたよ」

 

 恋歌に言われた通り女雛の乗った船に三体の人形を乗せてそのまま川に流す。ゆったりとした流れだが、確実に遠くへと流れていく。

 

「おにんぎょうさんばいばーい!!」

 

 手を振る恋歌だが、その動きは段々と遅くなっていく。

 

「眠い?」

 

「うゆ………………」

 

「もう遅いんだ。お休みなさいしような」

 

「ととさま」

 

「何だ?」

 

「れんかね、おとーとや、いもーとが、ほしい………」

 

 そう言って眠ってしまった恋歌。龍見と恋は顔を見合わせてクスクスと笑っていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 恋歌が寝てから、龍見は一人温泉へ入りに来た。湯に映る月が崩れないようにそっと入る。

 

「………………弟や妹ね………出来たらいいんだがな」

 

「なら、作ろ?」

 

「!? れ、恋!? いつ入ってきたんだ!!?」

 

「ずっと後ろにいたよ」

 

「全く気付かなかった………………」

 

 驚く龍見を横目に恋も温泉へ入る。そして龍見の肩へゆっくりともたれ掛かった。

 

「恋も、もう一人欲しい」

 

「………………オレも………………ちゅっ」

 

 どちらからというわけでもなく、互いに自然と顔が近付いていき、やがて唇が重なる。決して激しいわけではないが、長く、濃厚な口付けが続く。

 

「ん………………ぷはっ………………そういえば、初めてもお風呂だったね」

 

「はは、懐かしいな。少し肌が触れるだけで顔が熱くなってたな」

 

「今は熱くならない?」

 

「まさか。恋といるだけで熱いよ」

 

 湯船から上がって腰掛けた龍見の逸物は既に勃起しており、恋を誘うかのようにビクビクと動いている。恋も湯船から上がり、当たり前のように陰部に逸物をあてがうと、椅子に座るかのように逸物を飲み込みながら龍見の上に座った。

 

「あ、ふぁ………んんっ」

 

「久しぶりなのに随分とすんなり入ったな」

 

「お風呂、のまえ、んぅ、濡らして、おいたから」

 

「おっ、流石、だな………気持ちいいよ。最高だ」

 

 恋を抱き締めてゆっくりと腰を動かす。口付けと同様に激しさはない。久しぶりに味わう妻の体を隅から隅まで嘗め回すように貪る。

 恋も抱かれるだけでなく、龍見の身体中に吸い付き、まるで龍見は自分のものだと言わんばかりに真っ赤な痕を残していく。その間も膣内を蠢かせ、逸物を飽きさせないように意識する。

 互いに絶頂にあと一歩というような行為を何十分も続ける。愛を確かめあうようなそれに先に痺れを切らしたのは龍見だった。

 

「ごめん、恋。我慢の限界だ」

 

ーーパァンッ

 

「ひゃぁぁあぁっ!?」

 

 肉と肉がぶつかる音が響きわたる。龍見が恋の腰を掴んで思いっきり恋の腰を下ろしたのだ。同時に自分の腰も上げ、奥の奥まで逸物を叩き込む。その一撃で軽くイった恋は少しだが潮まで出ていた。

 

「ふんっ! どうだ! 気持ち、いいだろ!!」

 

「あっ、ひっ!? い、いい!! しょこ、もっと!! あ、あかちゃ、孕ませ、んあぁっ!!!?!」

 

「一人なんて、言わず!! 何人でも、作ろうな!」

 

「うん! うん!」

 

 先程までのゆったりとした行為とは真逆の肉欲をぶつけ合わせ性欲を満たす行為。じっくりと焦らした互いの性器は絶頂を待っていたかように感度を高めていた。

 

「出る! 膣が、満タンになるくらい、イくぞ!!!!」

 

「はっはっはっ、イく、イく!! た、つみ、の、熱いの、いっぱい、出して!!!!」

 

ーービュルルルルッ ドクッ ビュルビュルッ ドクンッドクンッドクンッ

 

「んんんんんん~~~~!!!!」

 

 宣言通り大量の精液が恋の膣内を蹂躙する。精液を吐き出そうと逸物が痙攣するたびに恋も絶頂する。陰部と逸物の間から漏れ出す精液がどれほどの量を注ぎ込んだのかを物語っている。

 

「た、つ、み」

 

「はぁはぁ、どう、した?」

 

「赤ちゃん、できるといいね」

 

「きっと出来てるさ。愛してるよ、恋」

 

「恋も、愛してる」




恋は筆が進むね。うん。
本編を期待されていた方々は申し訳ありませんでした。でも恋も書きたかったのです。

裏組織紹介!!

仙道会
本部は中国。仙人になるべく毎年数千の人々が入会する大組織。しかし仙人になれるのは十年に一人いるかいないかというほどに狭き門。
表向きには仙道医学という漢方を中心とした製薬企業。日本のアベノ製薬とはライバル関係。
代表は太公望。年齢や姿も不詳で、本当に存在しているのかも怪しい人物。大抵秘書を名乗る女性を通じて命令を出している。現代で太公望の姿を見たのはその秘書と龍見だけらしい。


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第五十話【R-18】

何とか生きて帰ってきました。


 同盟が切れてしまった翌日、龍見は呉の全員を集めていた。本来客人である龍見にそこまでの権力はないのだが、炎蓮に頼んだらすぐに話は通った。

 

「龍見、全員を集めてまで話すんだ。相当重要な事なんだろ?」

 

「はい。簡潔に伝えますと、同盟期間が終わりました」

 

「ほう、それはそれは」

 

 龍見の言葉に一部から殺気が漏れる。あくまで警戒心から出たものであり、本当に殺すつもりなどないだろう。龍見からすればその切り替えの早さは尊敬すら出来る。

 

「つまりは今のあんたは敵ってわけだね?」

 

「極端に言えばそうなります。だからといって敵対するつもりはないですよ。情報を漏らすつもりもありません。他と比べて呉で過ごした期間は短いですから術の指南も満足に行えていないので、延長の契約を」

 

「龍見、そんなの気にしなくてもいいんだよ」

 

 炎蓮はそっと龍見を抱き寄せた。そこには実の母のような慈愛しか感じられない。

 

「さっきはあんな事言ったけど、ここにいるみんながあんたを信頼しているし、信用もしている。変な契約なんて必要ないんだよ」

 

「炎蓮、さん………………」

 

「まあ、信頼しているからって何もしないわけじゃないけどね」

 

「へっ? ペヒョッ!!?」

 

 奇妙な悲鳴を上げて龍見は気絶した。首を極められて落とされたのだ。先程切り替えの早さに感心したばかりなのに、炎蓮の優しさに甘えた龍見の完全敗北である。

 

「よし確保。じゃ、交渉は私と蓮華でやるから付き人はいらないよ。行くよ、蓮華」

 

「えっ、えっ? は、はい!」

 

 龍見を肩に抱えた炎蓮は蓮華を連れていった。残された者達は何が起こったのかよく分からずに呆然としていたが、祭だけは一人笑っていた。

 

「くははははっ!! こ、交渉か。確かに間違ってはいないとはいえ………………くっ、ふふ………………策殿、小蓮様、家族が増えますぞ」

 

「あっ………そういう事………………交渉は交渉でも性交渉ね………………」

 

「そうなったら龍見はお義父さん? お義兄ちゃん?」

 

「私の場合年上の義弟になるかも………珍しいものではないとはいえ私がそうなるとは思わなかったわ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「うぅっ………………」

 

 呻き声を漏らしながら龍見は目を醒ました。記憶ははっきりとしている。ただ何故炎蓮に気絶させられなければないないのか心当たりがなかった。状況確認のために周囲を見回す。どうやら炎蓮の部屋らしく、自分が寝かされていたのは布団の上。これといって何かされたという感じもない。

 

「ふーむ、何を考えているんだ?」

 

ーーガタッ

 

 戸の開く音がした。反射的に顔を向けると髪を湿らせ、少し火照った顔をした炎蓮と蓮華と目があった。風呂にでも行っていたらしい。

 

「随分と早いお目覚めじゃないか。もっとしっかりと極めておくべきだったかね」

 

「えっ、と、龍見、大丈夫?」

 

「加減をしてもらえたお陰で何も問題はないよ。んで炎蓮さん、これはどういう事です?」

 

「説明するから隣失礼するよ」

 

 炎蓮はドサッと龍見の隣に腰を下ろす。風呂上がりのその姿はどこか欲情的だ。蓮華も遠慮がちに炎蓮とは反対側に座って龍見を挟み込む。

 

「あんたが言った同盟延長だけど、こっちとしてはやるつもりがない」

 

「確かに信用しているとは言われましたが、同盟については続けるとは言いませんでしたね。ではこれからのオレの処遇はどうなります?」

 

「これから提示するのを好きに選びな。まずは敵国の兵として捕虜になる」

 

「遠慮したいですね」

 

「ならうちの軍門に降る。いい待遇は用意するし、董卓にもこっちから手は出さないようにしてもいい」

 

「月を裏切るのは無理です」

 

「そう言うと思ったよ。じゃあ最後だ。私と蓮華の旦那になる」

 

「………………?」

 

 理解が追い付かずに首をかしげる龍見。しかし徐々に言葉の意味を理解していき、ぱくぱくと口を動かしながら何とか反論し始めた。

 

「な、ななな、何を言い出すんですか!? どこをどうすりゃそうなるんです!!?」

 

「そうよ母様!! そんなの聞いていないし、その、覚悟も………………できて、いないわけじゃないけれど………………」

 

「なんだい二人とも、そんなに動揺するような事じゃないだろ。龍見が旦那になるって事は家族になるって事。家族の仲間には手を出さないからわざわざ同盟なんて結ぶ必要はないってわけさ」

 

「その理屈はどうなんですかね?」

 

「それにだ」

 

 炎蓮は龍見の瞳をじっと見つめた。嘘は言わせないという雰囲気だ。

「こっちはあの時と違って覚悟してるんだ。そっちの覚悟、聞かせてくれるよな?」

 

「覚悟なら炎蓮さんに求められた時から出来ています。流石に最後の選択肢が旦那になれってのは驚きましたけどね。それよりも蓮華、覚悟が決まっているなら不躾な質問になるが、本気で俺でいいのか?」

 

「勿論よ。龍見が複数の女性との関係を持っていてもいいの。そんな事で龍見を嫌いになったりなんてしないわ」

 

「だが常にお前を見てやれるわけじゃないぞ。一緒にいれる時間だって限られる」

 

「理解しているわ。それに愛した相手と常に一緒に居られないのは龍見だって同じでしょ? なら我慢できるわよ」

 

「くく、やっぱ不躾な質問になったか。炎蓮さん、蓮華、オレで良ければ二人の婚約者となります」

 

「その言葉、撤回は許さないよ」

 

「二言はありません、っと」

 

 はっきりと言い切った龍見を炎蓮は抱き締めた。ここに連れてこられる前にこのような体勢で気絶させられたのを思い出し、龍見は思わず体が強張ってしまう。

 

「龍見、夫婦になるなら敬語くらい止めるべきじゃないかい?」

 

「そう、だな。なるべくは気を付けるよ」

 

「なら呼び捨ててみなよ。ほら練習練習」

 

「……可愛いよ、炎蓮」

 

 少し悪戯をしたくなったのか、慣れない甘い声を出して炎蓮の耳元に囁きかけた。それを聞かされた炎蓮はより強く龍見を抱き締めた。龍見からは見えていないが、その顔は真っ赤に染まっていた。

 そんな二人の様子を見せつけられていた蓮華は龍見の手を掴んで引っ張った。

 

「いつまでそうしているのよ。貴方の妻はこっちにもいるんだからね」

 

「ごめんごめん。無視していた訳じゃないんだ。何かしてほしかったら言ってくれ」

 

「何でもいいなら、抱いてちょうだい」

 

「へー、蓮華も言うようになったじゃないか。でもあんたに出来るのかい?」

 

「可愛いの一言で固まる乙女な母様に言われたくはないです」

 

「んぬっ!? ほ、本当に言うようになったね」

 

「あ、ははは……蓮華、初めてだよな。気を付けるが、痛すぎたりしたら言うんだぞ」

 

「ええ、そうするわ」

 

「ま、娘のお手並み拝見といこうか」

 

 龍見は蓮華の服を手際よく脱がしていく。想像以上の早さに蓮華は経験の差を実感してしまう。龍見も服の下に隠されていた豊満な肉体に思わず生唾を飲みこむ。

 

「流石に大きいな」

 

「もう! 見すぎよ!」

 

「男だからしょうがないだろ」

 

 龍見の目線を気にしたのか胸を隠す。その姿がまた欲情的に見えてきて興奮してしまう。そんな邪な気持ちが表に出てきてしまったのか股間が段々と膨らんでいく。蓮華はそれに気が付くと少し笑みを浮かべて龍見に飛び掛かった。

 

「えいっ!!」

 

「うわっ!? どうしたんだよ」

 

「私だけ裸なんてずるいわ。龍見のも見せてもらうから」

 

「ふ、服引っ張るな!」

 

ーーペチンッ

 

 無理矢理脱がされたズボンから勃起しきった逸物が飛び出し、蓮華の顔を当たる。それに蓮華は嫌な顔ひとつせず、逸物を掴むとそのまま口へと運んだ。

 

「お、おい、慣れてないのに口でやる必要なんて、うっ……」

 

「こりぇが、たちゅみの、おいひぃ……」

 

 先っぽを咥えながら口内で亀頭を舐め回していた蓮華は徐々に逸物を呑み込んでいく。ゆっくりとだが、初めてではまず不可能な喉奥まで容易に進めていった。

 喉奥で締め付けるような感覚、大量の唾液で温かくぬるぬるとなった口内。とても初めてとは思えないのだが、時々歯の当たる感覚から慣れていないのは窺える。

 

「ジュルルルル、ジュプッジュプッ」

 

 少し待ってからストロークが始まった。先端ギリギリまで上がるとまたすぐに根本まで呑み込む。蓮華は一切苦しそうな表情も見せず、むしろ惚けているようだ。ここしばらく溜まりに溜まった龍見の性欲はそんな激しい口淫を何度も受け爆発寸前だった。蓮華が再び逸物を呑み込んだ時、龍見は蓮華の頭を押さえ込んだ。

 

「んんっ!?」

 

「すまん! もう、出るッ!!!」

 

ーービュルルルルルルッ ドクッ ビュッビュッ

 

「んっ……んぐっ、ゴクゴクッ……」

 

 喉から食道、胃へと無理矢理流し込まれた大量の精液を、蓮華はむせる事なく綺麗に飲み干していく。最後の一滴まで口から漏らす事もなく、全て胃へと流し込んだ。

 

「蓮華、すげぇ良かった……って、もう離しても、おぅっ!?」

 

 射精が終わっても蓮華は逸物から口を離さない。手をしっかりと腰へと回し、龍見の方から離れられないように制限までしている。まるで乳房を吸う赤子のような無邪気さで、されど婬魔のようにイヤらしく逸物をしゃぶり続ける。龍見が少し肩を押してもだだっ子のように首を振って拒絶する。

 

「あんたいい加減にしなよ! やるべきは子作りだろうが!」

 

「んんんんんっ!? ちゅぽんっ! いやぁ、もっと舐めたかったのにぃ……」

 

「そんなにほしけりゃ朝にでも舐めておきな。今は子作り優先だよ。いいね! 龍見も早く抱く! 待たされる身にもなりな!」

 

「「は、はい」」

 

 これ以上待たせてはいけないと本能で察したのか二人はすぐに性交の準備に移る。先程まで舐められ続けていた龍見の逸物は既に勃起済みであるし、舐める事に快感を感じていた蓮華の陰部も愛液が溢れていた。

 

「入れるからな」

 

「うん、来て」

 

 そっと挿入していった龍見はある違和感を感じる。処女膜が見当たらないのだ。焔耶も同じだったが、蓮華は焔耶のように動揺しているようには見えない。

 

「蓮華、随分と自慰をしたんだな」

 

「な、何の事?」

 

「自分で処女膜を破ったんだな。普段あんなに真面目なのにこんなに淫乱だったなんて、みんなが聞いたらどうなるか」

 

「いやぁ、そんな事言わないで」

 

「そうだな。こんな事言ってても意味ないもんな。ほら、少し体勢を変えようか」

 

 なすがまま四つん這いにされた蓮華は、陰部に逸物をおもいっきり叩き付けられた。

 

ーーパァンパァンッ

 

「あっ、はぁひぃッ!! こ、こんな、獣みたいに……あはぁっ♪」

 

「はぁはぁ、蓮華みたいに性欲の強い子は、こういうのが好きだと思ったんだがな」

 

「好き! しゅきよぉ♪」

 

 これまで自慰によって鍛えられた膣内は、初めて受け入れた逸物を強く締め付ける。龍見はそれを押し広げるように強く腰を叩き付ける。蓮華も逸物をより感じたいのか自ら腰を振り誘惑をする。

 段々と呂律も回らないくらい快楽を感じている蓮華の子宮口は、先程まで蓮華が逸物をしゃぶっていたのと同じように亀頭に吸い付いていた。

 

「はは、上の口も下の口もそっくりだな! そんなにしゃぶるのが好きか!?」

 

「はひっ! もっと、もっとおぉぉぉっっ!!」

 

「射精(だ)すからな! 最後まで飲むんだぞ!!」

 

ーードクッドクッドクン ビュルッビュルルルルルッ

 

「あひぃぃぃぃぃぃぃっっ♪」

 

「はぁー……少し、やりすぎたか?」

 

「も、もっと……♪」

 

「そんなに腰がガクガクで何言ってんだい。そこで休んでな。龍見、あんたも休む?」

 

「いいえ。散々待たせましたからね。やりましょうか」

 

「敬語」

 

「あっ……あはは、ごめん」

 

「もう、仕方ないねぇ」

 

 炎蓮は笑いながら龍見の頭を撫で回す。これだけ見ると夫婦というよりも親子だ。

 

「子供じゃないだから止めてくれよ」

 

「私からすりゃ子供さ」

 

「ふーん。つまり炎蓮は子供とこういう事をするんだ」

 

ーークチュッ

 

「んっ、ふふふ、さっきから思っていたけどあんたこういう時は強気なんだね。でも嫌いじゃないよ」

 

 頭を撫でられたお返しとばかりに炎蓮の陰部を弄る龍見。もう十分すぎるほどに潤っているが、それでも弄るのは止めない。

 

「あ、うふ、そこいいよ。んんっ、もうちょっと強く」

 

「ここか?」

 

「ひゃっ!? ちょ、ちょっと! 豆を強くしごくのは、ひ、ひきょ、うぅん!!?」

 

「一度イっておこうか。ちゅるるっ!」

 

「す、吸うのは、んあぁぁぁぁぁッッ!!?!」

 

 ある程度炎蓮の快楽が昂ってきたところで陰部へとしゃぶりついた。全体をむしゃぶるようにしながら、淫核を中心に攻め上げた。炎蓮もその攻めには耐えられず達してしまい、龍見の顔に潮がかかる。

 

「こ、このぉ……ほんとに性格変わるねあんた」

 

「炎蓮が可愛いからだよ」

 

「ま、また可愛いって……ふんっ!!」

 

「おわぁっ!?」

 

 少し怒った炎蓮が龍見を投げ飛ばして寝転ばせる。倒れた龍見は腰に重みと逸物を包み込まれる気持ち良さを感じた。

 

「ふふん、次はこっちの番だよ」

 

 騎乗位で龍見の逸物を呑み込んだ炎蓮は余裕を浮かべて龍見を見下ろしている。蓮華の若く強い締め付けとは違い、柔らかく包み込みながらも締め付ける部分は蓮華以上に強く締め付ける炎蓮の膣内はまさに名器と言うに相応しいものだ。

 

「あんたの二回も出したのにまだこんなに硬いなんて……そんなに溜まってたのかい? それとも元々?」

 

「ど、どっちでしょう」

 

「ん~、どっちでもいいさ。フニャチンじゃどっちも気持ち良くなれないからね!」

 

 激しく腰を上下させる炎蓮。膣内は逸物に合わせて形を変え龍見を絶頂へと導く。更に目の前で爆乳が汗と僅かな母乳を散らせながら揺れ動く様子は視界からも興奮を誘ってくる。しかし龍見は耐える。男の意地として先にイキたくはないのだ。

 

「はぁっ! はぁっ! いいよ! よく、我慢できてるね!! そういう、根性、大好きよ!!」

 

「うっ……も、う、限界……」

 

「いいよ! 先に果てても私がイクまで何度だって搾り取ってやるから!!」

 

「んなこと、させるか!」

 

 龍見は目の前で揺れている爆乳に手を伸ばし、その両乳首をつまみ上げた。刺激を受けて噴き出す母乳が龍見の顔にかかり、突然の快感に驚いたのか膣は更に逸物を締め上げる。結果龍見は自爆した。

 

ーードビュルルルルッッ ドクンドクンドクン

 

「~~~ッ……イって、しまった」

 

「あーーー、ふぅ……大丈夫、私も最後の一撃でイっちまったよ…………あんた性欲強いね。三度目の射精だってのに溢れるくらいに出てきてるよ……これならまだやれるね」

 

「え゙?」

 

 陰部と逸物の間から溢れ出る精液を掬い取り、炎蓮は口角を上げながら呟いた。すっとんきょうな声を上げる龍見。そして寝転がりながら休んでいた蓮華が起き上がる。

 

「私も参加します!!」

 

「流石は私の娘だ。良く言った! じゃあ龍見、二人同時だけど、頑張ってくれよ」

 

「えっ、あっ、ま、待って、助け…………」

 

 翌朝、肌艶のいい炎蓮と蓮華が脱水症状寸前の龍見を引きずる姿が目撃されたそうな。




龍見の嫁がこれ以上増える予定は未定なのです!
以下やっちまった龍見の事後報告





ーーーーーーーーー


龍見『あ、詠? 聞こえているか?』

詠『朝っぱらから何よ』

龍見『その、呉でもやってしまってな』

詠『はいはい御馳走様。それで相手は? 恋に伝えておくから』

龍見『孫堅と娘の孫権』

?『親子丼!? やりますねぇ!!』

龍見『……今、変な』

詠『気のせいよ』

龍見『いや、月のような声を』

詠『そんなわけないでしょ。月は術なんか使えない。いいわね?』

龍見『アッハイ』


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第五十一話

休日出勤は悪い文明


 どこからともなく轟音が響き、黒い影が呉の上空を横切った。皆が空を見上げる。そこには何か分からない巨大な物体。羽ばたくだけで突風を巻き起こし、街へ被害を与える。人々は未知の存在に怯え、隠れる。

 

「くおらぁっ!!!! こんのクソトカゲがっっ!!!!! ぶっ殺すから待ちやがれ!!!!!」

 

「私の可愛い可愛い妹と二喬を拐った罪は重いわよ!!! 死をもって償いなさい!!!!」

 

 そんな人々の恐怖の対象をブチギレながら追い掛けるのは龍見と雪蓮。いつになく殺気立つ二人が追い掛けている巨大な存在は翼竜。所謂ワイバーンだ。全長は20mを越えており、一度の羽ばたきで相当な距離を進んでいく。このような事態になったのは僅か数十分前の事である。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「どうしてこうなった………………」

 

 龍見が買い物に行くというのを聞いた小蓮が暇潰しとばかりに付いていきたいと言い出した。妹のような彼女の頼みを断るなどせず快諾したまでは良かったのだが、二人が話しているのを耳にした雪蓮が自分達も連れていけと大喬と小喬を連れてやってきたのだ。女子四人に敵うわけもなく、自分の買い物が完全に荷物持ちとなってしまった。

 

「男なら気にしないものよ、お義父さん」

 

「お姉ちゃんの言う通りだよ、お義父さん」

 

「てめぇら都合のいい時ばっかり義父呼ばわりしやがって」

 

「一つも四つも変わらないでしょ。男なら愚痴言うんじゃないわよ」

 

「小喬ちゃん、すごく違うと思うんだけど」

 

「折角だから冥琳にも何か買っていきましょうか。四つと五つなら大差ないでしょ」

 

「鬼かてめぇ!!」

 

 そんな談笑(?)をしていると龍見の動きが止まった。頻りに後ろを振り返り落ち着きがない。明らかに何かに対して警戒しているのが雪蓮にはすぐに分かった。

 

「敵?」

 

「いや……敵とは言い切れないが、面倒なものが迷い込んだらしい。しかし姿が見えないな」

 

「何がいるって言うのよ。正体は分かっているんでしょ」

 

「ん……俺の世界にいた竜種で、おそらくワイバー「グオォォオォォッッ!!!」ンンッ!? しゃがめっっ!!!!」

 

 雲の切れ間から突然急降下してきた竜は明らかに龍見達を狙っていた。真っ先に気付いた龍見と反応の早い雪蓮は回避に成功したものの、小蓮と大喬小喬は竜の爪に掴まれてしまった。

 

「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!?」

 

「小蓮ちゃん!? 待ちやがれクソトカゲェッ!!」

 

「追うわよ龍見!!!」

 

「ああ!!!」

 

 巨大なワイバーンの襲撃により決して小さくない被害が街を襲ったが、今の龍見と雪蓮には三人の無事の方が大切だった。近くにあった誰のものともわからない馬に乗りワイバーンを追跡する。そして冒頭へと繋がる。

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

「速い……いえ、一度の羽ばたきでの移動距離が大きすぎるわ。龍見! このままだと逃げられるわよ!!」

 

「分かっている!!」

 

 龍見の右手が淡く輝き始める。その手を伸ばすと凄まじい勢いで青白い紐が伸びていった。紐はワイバーンの脚に絡まると龍見を引き上げていく。

 

「ちょっ!? 私も連れていきなさい!!!」

 

「ぬおっ!? と、飛び付くとか無茶するんじゃねぇよ!!」

 

「一人で行くあんたが悪いのよ!!」

 

 魔力で出来た紐は二人分の体重を難なく支え、無事ワイバーンの脚に辿り着いた。

 

「シャオ! 大喬! 小喬! 怪我はない!?」

 

「お姉ちゃん! シャオは大丈夫だけど、二人が……」

 

 ワイバーンに掴まれた三人に外傷があるようには見えないが、気を失っている大喬と小喬は酷く気分が悪そうだ。急激に酸素の薄い上空へと連れ去られた事による高山病だと龍見は判断した。

 

「オレに任せろ。エアボール」

 

 薄い膜のようなものが小蓮達を包み込んだ。内部は暖かく呼吸もしやすい。空気の膜は三人を掴んでいたワイバーンの爪すらも押し退け、球体となった。

 

「これで脱出も容易だな。雪蓮も入っとけ。これの中なら落下しても衝撃はないからな」

 

 そう言いながら雪蓮も空気の膜で包む。そんな中雪蓮はある疑問を抱いた。

 

「えっ、それってこのまま落ちるって事? 何か他に手段とかあったわけじゃないの?」

 

「ないぞ。落ちるの前提だ。さあ行くぞ~」

 

 二つの空気の玉を掴み、有無を言わさず飛び降りる龍見。その速度はかなり早く、更には上空からの落下という通常体験しえないものに雪蓮も小蓮も言葉を失う。この時ばかりは大喬と小喬は気絶していてよかっただろう。

 

「……まあ、来るよな」

 

「な、何が?」

 

「! お、お姉ちゃん! 上っ!!」

 

 龍見の呟きに反応した雪蓮だが、小蓮の叫び声に上を見る。そこには大口を開けたワイバーンの姿があった。食われる。そう確信した瞬間、龍見がみんなを放り投げた事によって何とか一命は取り止めた。しかし龍見は回避する余裕などなくワイバーンに呑み込まれていった。

 

「た、龍見……?」

 

 呆然とする雪蓮。小蓮は無言で今の光景が信じられないという表情をしている。そんな状況だろうとワイバーンには関係ない。逃した獲物を捕らえるべく、旋回をして雪蓮達へと向かってくる。もう逃れる術はない。死を覚悟するしかなかった。

 

ーーボンッ

 

 だが死はくぐもった爆発音と共に消失した。ワイバーンの肉体は大きく膨らみ、眼球は飛び出し、穴という穴から血を噴出して落下していく。この目まぐるしく変化する状況に混乱しているうちに地上へと降りた。落下速度はかなりのものであったにも関わらず、エアボールが数回跳ねた程度で内部の衝撃は全くなかった。

 

「本当に大丈夫なのねこれ……どうやって出ればいいのかしら?」

 

「お姉ちゃーん」

 

「シャオ? どうやって外に」

 

「簡単に割れたよ?」

 

 雲のあるような高さから落ちても無事だったものを簡単に割るなどとても信じられなかったが、剣でつつくと泡のように弾けて消えてしまった。

 

「シャオ、二人は?」

 

「まだ意識はないけど、大丈夫っぽい」

 

 小蓮が寝かせたのか、平坦な場所に横になっていた大喬と小喬は静かに寝息を立てている。雪蓮が二人の体調を確認している最中、二人は目を覚ました。

 

「ふぁ……雪蓮、さま?」

 

「大喬! 痛いところはない?」

 

「えっ……は、はい」

 

「う、ぅーん。気持ち、わる……」

 

「小喬ちゃん、大丈夫?」

 

「あんまり無理しないで横になってなさい」

 

「お姉ちゃんに、雪蓮様? そういえば私、変な竜に……きゃあぁっ!?」

 

「小喬ちゃん? 何に驚いて、ひゃあぁぁっ!?」

 

 二人が見た先にあったのは二人を襲ったワイバーンの死骸だった。巨大生物の血塗れの死骸は目覚めには悪かっただろう。

 

「もう死んでるから大丈夫だよ」

 

「お、お姉ちゃん、あれ、本当に死んでる? 今、口が動いたような」

 

「そんな馬鹿な……龍見が命懸けで殺したはず……」

 

 だが小蓮の言う通り、僅かだか口元が動いた。剣を構える雪蓮。竜とはいえ死に損ない。勝つのは可能なはずだ。逆に言えば死に損ないとはいえ竜なのだ。決して油断は出来ない。

 

「誰が、こんなもんに命懸けたって?」

 

「……へっ?」

 

 竜から聞こえたきた声にすっとんきょうな声で返事をしてしまう。再びワイバーンの口が蠢くと、口を抉じ開けながら龍見が出てきた。全身に血を浴び、服は所々溶けている。何より……

 

「うぇっ、龍見近寄らないで……臭いわ」

 

「胃の中にいたからしょーがねぇだろ」

 

 全身を術で作り出した水で洗い流しながら文句を言う龍見。服が溶けている以外に怪我はないようだ。見た目は綺麗になったが、臭いは落ちきらず顔をしかめている。

 

「帰ったら風呂だな」

 

「ねぇ、龍見……その、助かったわ」

 

「ありがとうございます、龍見さん」

 

「おう、意識が戻ってたのか。二人が無事で何よりだ。シャオもあの状況でよく耐えたな」

 

「それだったら龍見も食べられたのによく無事だったよね」

 

「竜殺しは手慣れてるんだ。初めては十三歳の頃だったか。以降二十匹以上は狩ったぜ。人間と比べて躊躇しなくていいからおもいっきりやれるんだ」

 

「大したものね。今回はどうやったの?」

 

「あのデカさで空中なら食われるのは確定だ。そしてあいつらは呑み込める大きさの獲物ならあまり咀嚼をしないから、そのまま体内に潜り込んで爆発系の術を使えばいい。鱗や皮膚は異常に硬いが、生物である以上は体内が弱点なんだよ。また硬い鱗や皮膚は落下の衝撃から内部を守ってくれる。臭いけどな」

 

 今回起こった事を説明しながら龍見はワイバーンの肉体に刃物を突き立てる。鱗を数枚剥ぎ取ると、骨董品でも調べるかのように見回す。

 

「使えるな。少し持ち帰ろう。これ解体していくからみんなは先に帰っていてくれ」

 

「帰ったら応援の兵呼ぼっか?」

 

「それは助かるよシャオ。頼めるか?」

 

「任せて!」

 

「大喬、小喬、今日は疲れたでしょ。帰って休みましょう」

 

「「はい」」

 

「あ、龍見は捨ててきた荷物拾ってきてね」

 

「えっ……?」

 

 ワイバーンの解体した材料、ワイバーンを追い掛ける際に投げ捨てた荷物を持ち帰った龍見は周囲に臭い臭いと言われ、一人静かに風呂場で泣いた。




ちょっと久しぶりの裏組織紹介コーナー!

ハンターズギルド・グレンデル
本部は不明。どの国に存在し、誰によって結成されたのかも不明な近年新しく誕生した組織。判明しているのは所属人数が10人足らずの小さな組織というだけ。主な活動は危険な魔獣や精霊の討伐。この手の組織は数多く存在するが、グレンデルは短期間で同業他社の仕事を枯らすほど成果を出しているため、いい意味でも悪い意味でも注目されている。
ギルド長は当然不明だが、龍見はギルド長を知っているらしく、龍見曰く絶対に頭の上がらない人らしい。


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第五十二話

某笑顔動画のモンスターなハンターの動画にハマって想定より遅れました。


「少し部屋に籠るぞ」

 

 それは三日前の出来事。唐突に龍見がそんな事を言い始めて部屋に籠ってしまった。しかし誰も入ってこれないようにしているわけでもなく、誰でも入ってもいいし話しても問題ない。ただ龍見は作業に没頭しているのだ。

 龍見が行っているのはワイバーンの素材の加工。非常に硬く、取り扱いの難しいものだ。しかしそれ以外の作業はこれと言って大変なものはなく、龍見も訪問してきた誰かに頼む事が多い。今は亞莎と穏が縫い物を手伝っている。

 

「亞莎、目が悪いんだからあまり無理するなよ」

 

「いえ、この程度ならやれます」

 

「亞莎ちゃんは偉いですねぇ。私なんて肩が凝ってしまって辛いですよ」

 

「そりゃお前、胸がわりぃよ胸が。なあ亞莎」

 

「そ、そこで私に振りますか!?」

 

「亞莎ちゃんまでそんな事を考えているの?」

 

「そそ、そんな、事は……」

 

「はは、精神が乱れているぞ。術の基本は精神集中だと何度も教えたはずだぞ」

 

「乱したのは貴方でしょう!!」

 

 騒ぎながらも三人とも手を休める様子がない。術の指南と龍見が同時に教えた並列思考の成果だ。

 

「全くもう……それより龍見様、いい加減休まれては?」

 

「もう少しやったらな」

 

「最初にそう言ったのがお昼頃で、今は日が落ち始めていますが、龍見様にとっていつまでが少しですか?」

 

「……明日かな?」

 

「はぁ……」

 

「うふふ、こういう人には何を言っても無駄よ亞莎ちゃん。蓮華様が言っても止めなかったんですもの」

 

「いやはや、心配してくれてありがとな。でもまだ大丈夫だ。それより二人こそ疲れたろ。休んでくれ」

 

「……なら休ませてもらいます」

 

 本当に大丈夫かどうか分からないが、疲れを感じさせる様子もなく黙々と作業を続ける。そんな龍見の姿に流石に呆れたのか亞莎は言われた通り休むために部屋を後にした。

 

「それでは私も行きますね。また応援に呼んで下さってもいいですよ」

 

「明日には終わるさ。ありがとよ」

 

 立ち去る穏に礼を告げ、龍見は再び一人となった。何もなく静かな部屋で素材と向き合う。日は完全に沈み、月が昇り、そしてその月が沈み、また日が昇る。丸々一晩休みなく作業をしても終わりは見えない。それでも手は止められない。決戦はいつ始まるかわからないのだから。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 一方龍見が作業をしている深夜、厨房では別の戦い(?)があった。小さな何かがあっちへ行ったりこっちへ行ったり世話しなく動いている。

 

「うんしょ、うんしょ」

 

 慣れない料理に奮闘しているのは美羽だ。普段なら一緒にいる七乃はおらず、きらびやかな服を調味料で汚しながらも一人で料理をしている。ただ料理は悲惨なもので、焦がしたり、調味料を間違えたり、下処理が出来ていなかったりと他に誰かがいれば間違いなく止められるレベルのものだ。

 

「いっ……また切ってしまったのじゃ……」

 

 更には調理中、何度も怪我をしている。白く小さな手には小さな火傷や切り傷がいくつもある。いつもの彼女ならば少し傷が付いた程度でも投げ出していただろうが、今はやめる様子がない。

 

「兄上も頑張っておるのじゃ……妾も頑張らねば……むにゃ……はっ! 眠っては駄目じゃ! 料理が駄目になってしまうではないか!」

 

 美羽は龍見が作業を行っている間何も出来なかった。それを引け目に感じたのかこうして料理をしているのだが、段々と眠気が襲ってきた。普段の美羽ならば寝ている時間なので当然と言えば当然なのだが、今は眠ってはいけない。

 

「…………ぐぅ……」

 

 しかしそんな慣れない事が続くわけもなく、床に座り込んでそのまま眠ってしまった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ーーチュンチュンチュン

 

 小鳥のさえずりが聞こえ、窓から射し込む朝日を浴びて美羽は目を覚ました。直後自分のやっていた事を思い出して飛び起きた。

 

「ね、眠ってしまったのじゃー!!! り、料理は……あれ?」

 

 鍋の中にはとても良い匂いのする鶏白湯が煮込まれていた。小皿に取り分けて味見をしてみると非常に美味しい。明らかに自分が作っていたものは大違いだ。それに目を覚ましてすぐに気が付かなかったが、毛布は掛けられているし手の傷は処置されている。しかし周りには誰もいない。

 

「???」

 

 一番可能性が高いのは七乃だが、七乃の作ったものとは味が違う。首を傾げ、暫く考え込んだ美羽は鍋に蓋をして持ち上げた。

 

「誰じゃか知らぬが、ありがとうなのじゃ。兄上の為、ありがたく頂くぞ」

 

 それなりの量の鶏白湯が入った鍋をよたよたとした歩きで持ち運ぶ美羽。途中で侍女や兵が手伝いを申し出るが全て断った。誰かに作らせてしまった以上、運ぶのくらいは自分でやらなくてはならないと思ったらしい。

 

「はぁはぁ、あ、兄上ー、開けてほしいのじゃー」

 

「んん? 美羽か。少し待ってくれ。今体を拭いてるんだ。

 

「分かったじゃ」

 

 少しして龍見から戸を開けてくれた。長時間の作業のためか、部屋の中はかなり散らかっている。

 

「兄上ー、食事にするのじゃー」

 

「おお、わざわざ持ってきてくれたのか。そこに置いてくれ。後で頂くよ」

 

「駄目じゃ。今すぐ妾と一緒に食べるのじゃ」

 

「いやでも…………分かった。一緒に食べようか。でもその前に手を出しなよ」

 

「? はいなのじゃ」

 

 差し出された小さな手を龍見の手が包み込む。龍見が手を離すと傷は綺麗に治っていた。

 

「頑張ったんだな。ありがとう」

 

「おぉ、流石兄上なのじゃ……」

 

「流石ってほどでもねぇさ。じゃあ美羽が作ってくれたこれを食べようか」

 

「むぅ…………兄上、これを作ったのは妾ではない」

 

「? ならどうしたんだこれ?」

 

「分からぬ! 確かに妾も昨晩料理を作っておった。しかし情けない事に眠気に負けて眠りこけ、目を覚ますとこれがあったのじゃ」

 

「ほう、誰だか知らんが優しい人もいたんだな。それより美羽、すまんが取り皿を頼んでいいか?」

 

「うん! 少しだけ待っていてほしいのじゃ!」

 

 小走りで皿を取りに行った美羽。姿が見えなくなったのを確認した龍見は隠れている人物へと声をかける。

 

「炎蓮が作ってくれたのか?」

 

「そうだよ。あの子が溢さないか心配だったけど、余計な心配だったみたいだね」

 

「あいつもそこまでおっちょこちょいじゃないだろうさ」

 

「国を盗られるような子だよ。心配にもなるさ」

 

「それもそうか」

 

 二人がそんな話をして笑っていると美羽が駆け足で戻ってきた。

 

「お待たせしたのじゃ。むっ、何故炎蓮がおる」

 

「ちょっと旦那と話に来ただけさ。それより、耳かしな」

 

 美羽を引っ張って部屋の端で何か耳打ちをする炎蓮。龍見には聞こえないようにされているの上、口元すら見えないので読唇術も使えない。元々そこまでして盗み聞きするつもりもないが、気になりはする。

 炎蓮の話を聞いていた美羽の顔が徐々に赤くなる。対して炎蓮は時折龍見の顔を見てはにやついている。

 

「あんま変な事を教えないでくれよ」

 

「別に普通な事だよ。美羽、がんばんな」

 

 立ち去る炎蓮を見て美羽は小さく呟いた。

 

「呉の女は苦手なのじゃ」

 

「まあそう言ってくれるな。あいつもオレの奥さんなんだからさ。さ、それよりこれを食べようか」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「はぁ~、食った食った。旨かったな、美羽」

 

「うむ! 誰が作ったのか分かれば礼を言いたいほどじゃ!」

 

「くく、そうだな」

 

 さっき苦手認定した相手です、とは言えず苦笑いをする龍見。

 

「さて、やるか」

 

「もしかして、まだ何かするのかの?」

 

「大きさの調整くらいだが、やれるうちにやっておきたいんだ」

 

「頑張りすぎではないのか?」

 

「あと少しだから」

 

「兄上! こっちに来るのじゃ!」

 

 作業に戻ろうとした最中、怒鳴り声にも近い大声で呼ばれた龍見は何かあったのかと急いで美羽へと駆け寄る。しかしながら美羽は布団の上に座っているだけで何もない。

 

「寝転がるのじゃ!」

 

「えっ、えっ……ね、寝ればいいんだな?」

 

「頭はこっち!」

 

 美羽は引っ張るような形で龍見を寝かせると、龍見に膝枕をした。炎蓮に言われたのはこれだと察した龍見は美羽の顔を見た。その顔は林檎のように真っ赤になっていた。

 

「……重くないか?」

 

「そんな事はないのじゃ。兄上は人のために無理をしすぎじゃ。ここは妾に甘えて休むが良い」

 

「人のため? いやいや、オレは自分のために行動しているだけだよ。それが人のためになっているだけ」

 

「妾を助けるのも兄上のためになったのか?」

 

「うん? それは……」

 

 特別理由などなかった。子供を見捨てておけなかった。そこに損得感情はない。もし相手が子供ではなかったら助けに向かわなかったかと言えばきっとそれは違う。

 

「うふふ、やっぱり兄上は優しいのじゃ。でも今だけは人に優しくするのではなく、妾の優しさを受け取っておくれ」

 

「膝枕程度で恥ずかしがってた妹分がよく言う」

 

「五月蝿いのじゃ!」

 

「くふ、くく……ああ、しかし眠くなってきた……暫く、膝を借りるぞ」

 

「うむ、しっかり休むが良い」

 

 うとうとと眠気を感じ始めた龍見は美羽に頭を撫でられ、意識を落としていった。




R-18に繋げるか迷った結果止めました。美羽まで食ったら完全に犯罪者だもんげ。

裏組織紹介のコーナー!

モンスタートレイン
本部は不明、というより常に移動をしている。名前の通り列車であるが、世界中の空を飛び続けている上に自意識があるという奇妙な列車。中には西洋のモンスター、ヴァンパイアやワーウルフ、フランケンシュタインのような者達が住んでいる。
一応トップとしてまとめ役や交渉を行っているのはヴラド・ドラキュラ。本人曰くヴラド・ツェペシュとは無関係らしい。仮のトップはヴラドではあるが、全ての権限を握っているのはモンスタートレイン自身。またこのモンスタートレインは非常に強力な存在で、龍見が二十歳の頃に討伐依頼を受けて討伐に向かったものの、半壊程度で逃走される。またその時に龍見を一度殺している。


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第五十三話【R-18】

感想でもリアルフレンズにもツッコミを受けたので美羽を抱きます。


 美羽の膝枕に身を任せ、穏やかに寝息を立てる龍見。美羽は眠っている龍見を起こさない程度に頭を撫でて、心地よく眠れるようにと努めていた。

 

「……おふ、くろ」

 

「母親の夢でも見ておるのか? 良いぞ、今だけは妾が兄上の母上となる。さ、ゆっくりと眠るのじゃぞ」

 

 その言葉が聞こえているはずもないのだが、龍見はどこか甘えるように体を丸めて美羽へと寄り添った。その様子に美羽は満足げな表情を浮かべていたが、龍見が寝返りをうち美羽はひゃっ、と声を上げる。龍見の顔が美羽の股間に埋もれるような体勢になってしまったのだ。

 

「こ、これ。母の股間に顔を埋める子がおるか」

 

 龍見を起こさないように小声で抗議をするが、当然聞こえるはずもない。龍見が身をよじる度に吐息が美羽の股間の様々な部分へと当たる。始めはむず痒い感じだったが、服と下着、二枚の布を通しても感じる吐息に段々と体が熱くなってしまう。

 ふと龍見を見ると、股間の辺りが明らかに膨れていた。眠っている以上、興奮などで大きくなっているとは考えづらい。だが美羽はそれに気付く事はなく、自身の股間に顔を埋めているために大きくなっているとは思ったようだ。

 

「こ、これは母の責任じゃな。大丈夫じゃぞ、母は、んっ、責任を取るからな」

 

 龍見が丸まっているため、小さな美羽でも腕を伸ばせば股間まで手が届いた。そっとズボンと下着をずらし、勃起した逸物を取り出す。右手では龍見の頭を撫でながら、左手で逸物をしごく。時折龍見が逃げるように寝返りをうとうとしたら、優しく右手でそれを制する。お陰で龍見の顔は常に美羽の股間に埋もれる形となり、美羽としては龍見の寝息で自慰をしているようなものだった。

 

「あ、兄上の、とても立派で…片手では収まらぬ……あっ、お股、気持ちい……ふ、ふ、母を気持ちよくする親孝行な子には褒美をやらねば、な……良い子良い子♪」

 

 先走り溢れる亀頭を、我が子の頭でも撫でるかのように優しく撫でる。手はぬるぬるになるが、全く気にしていない。逸物が痙攣したように震える。

 

ーードビュルルルッ

 

「ひゃっ!? あ、こんなに、熱いのがいっぱい……どろどろなのじゃ……」

 

「んん……」

 

「おー、よしよし。いっぱい出せて偉かったのぉ。まだまだ母に任せて眠るのじゃぞ」

 

 射精した快楽からか目を覚ましそうになった龍見を撫でて落ち着かせる。美羽は左手にこべりついた精液を舌で舐めとる。

 

「んぇ…酷い味じゃ……ん、ちゅぷっ、れろ」

 

 不満を漏らしながらも頬を染めながら、どこか悦に入ったような表情で精液を舐めていた。そしてまだまだ硬い逸物を見ると顔をにやつかせる。その姿は膝枕で顔を赤らめていた少女とは思えないほど妖艶だった。

 

「元気なのは良い事じゃ。責任を取ると言った以上、最後までやらねばならぬな」

 

 自分の膝枕の代わりに普通の枕を龍見の頭に敷いて、そっと離れる。既に愛液で濡れてしまったいる下着を脱ぎ捨て、龍見を仰向けに寝かせる。

 天に向かってそそりたつような逸物に近寄り、美羽は自身の陰部をあてがった。自身の腕ほどあるのではないかと思わせるほどの逸物に少し戸惑いながらも、少しずつ、少しずつ逸物を受け入れるように腰を下ろしていく。まだ何も入れた事のない膣内が押し広げられていく僅かな痛みと大切な人のものを受け入れるという快感が美羽を満たす。

 

「あ、ふぅ……ここを、通せば……んんっ!!!」

 

 美羽は口を閉じ、覚悟を決めたように自身の処女を散らした。流れる血が太股を伝う。処女膜が破れた痛みは無理矢理抑え込む。そんな我慢が逸物を強く締め付け刺激した。

 

ーービュルッ ドクドクッ ビュルルルッ

 

「あぁぁぁっ!!?」

 

 突然の射精に美羽は思わず大きな声を上げてしまう。そんな声と二度の射精の感覚に熟睡していた龍見も目を覚ました。

 

「んぉ…………お?」

 

「あ、兄、上……起こしてしまったか。まだ、寝ておって……良いぞ」

 

「…………はっ?」

 

 妹だと思っていた美羽が雌の表情で自身の逸物を呑み込んでいる。そんな信じられない光景に龍見の思考は停止していた。

 

「まだ、大きいままじゃ……全部吐き出すのじゃぞ?」

 

「い、や…いやいやいや!!! 何やってんだお前!!! 今すぐ抜き、むぐっ!?」

 

「母は大丈夫じゃ。兄上は妾に任せ、そのままで良いのじゃ」

 

 抗議を上げようとした龍見の口を抑え微笑みかける美羽。まさしく母のような表情だったが、それでも龍見は納得しないし止まらない。

 

「母って何だよ!? それより自分が何をやっているのか分かっているのか!?」

 

「分かっておるよ。子作りじゃ。妾が自分の意思でやりたくてやっておる」

 

「馬鹿! 一方的な想いでやるもんじゃねぇよ!! どうしてはっきりオレに伝えないんだ!!」

 

「兄上は、そんな事で怒っておるのか?」

 

「オレからすりゃそんな事じゃねぇよ! いいか? オレは複数の女性と婚約しているし、もしかしたらいつかいなくなるかもしれねぇ……そんな奴を一時の迷いで好きになると…………いやそんな気持ちはないだろうけど、やっぱこういうのは互いの同意あってだな」

 

 寝起きで混乱しているのかとにかく言いたい事を言いまくる龍見。それを見て思わず美羽は笑ってしまう。

 

「くはははっ! なんじゃその慌てっぷりは!? い、いたたたっ!? 股が……」

 

「そりゃ初めてなんだから痛いに決まってるだろ!」

 

「す、すまぬ。それより兄上」

 

「どうした?」

 

「愛しておる。きっと初めてあったあの日から……何があってもこの気持ちが変わる事はないのじゃ。どうじゃ? これが妾の想いじゃ」

 

「……ったく、妹分がまさかオレを男と見ていたなんてな。まあここまでやるほど想っていてくれたなら応えるしかないな。いいよ、美羽。オレと一緒になろう」

 

 寝かされた龍見は体を起こすと美羽を抱き寄せて口付けをした。深く、口内全てを味わい尽くすかのような舌使いに美羽も慣れない舌使いで応える。数分間口付けは続き、龍見が口を離すと美羽は蕩けたような顔になっていた。

 

「これが、大人の口付けなのじゃな……はぁ、すご……」

 

「さて」

 

 龍見は美羽の両脇に手を差し込み、ゆっくり持ち上げた。膣内に入っていた逸物も抜け落ちる。

 

「あ、まだ」

 

「今日はここまでだ。初めから無理はするもんじゃない」

 

「でも兄上のまだ硬、あれ!? ふにゃふにゃなのじゃ!!?」

 

「性欲の制御くらいできらぁ。それより体でも洗っておいで。綺麗にしてきたら一緒に寝よう」

 

「うーん……分かったのじゃ!」

 

 少し悩んだようだが、一緒に寝るというのが魅力的だったらしく美羽は体を洗いに出ていった。龍見は一息付くと、決まりとなっている詠への連絡を始めた。

 

『詠、オレだが』

 

『今度は誰に犯されたの?』

 

『そっち確定かよ。でも間違ってないのが悔しいな。袁術だよ』

 

『あんたまた随分と小さいのに襲われたのね。たまには襲う側に回ったら?』

 

『それは断る。関係を持つ以上、本気だからな』

 

『襲われといてよく言うわ。たまにはこういう報告以外をするように頑張りなさい』

 

 最後に耳が痛い事を言われテレパスを切られた。苦笑いするしかない中、ふと気配を感じて戸の方を見た。戸の隙間から誰か、否、蓮華が覗いていた。

 

「龍見」

 

「……何か用か?」

 

「さっき美羽が機嫌良く歩いていった跡に精液が零れていたのだけれど」

 

 咄嗟に周囲を見回す龍見。布団の近くには美羽の下着が落ちていた。つまり現在の美羽はノーパンである。

 

「…………はい、美羽を抱きました」

 

「そう。別にそれはいいわ。龍見が誰を抱くのも龍見の自由だし、新しい奥さんが増えるのも、覚悟はしていたもの。でも、何の報せもないのはどうかと思うの…………今晩を楽しみにしておいてね」

 

「……はい」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 龍見から連絡を受けた詠は早速恋への報告に向かった。なんだかんだ言っても詠もこれを楽しんでいる節がある。

 

「恋、いる? 龍見がまた襲われたわよ、性的な意味で。相手は袁術だって」

 

 報告を受けた恋は少し悩むような表情を見せた。流石に袁術なんて武人でもない蜂蜜大好き少女に襲われる龍見に不満が出たのかと詠は考えた。

 

「……どうして龍見から手を出さないの?」

 

「やっぱあんた凄いわ」




龍見、ロリコンッッ!!! 圧倒的ロリコンッッ!!!!
本来ならラストバトルへ向けて動き出すはずだったんだけどなぁ。

裏組織紹介いきましょう。

キャバクラ・サキュバス
本店は東京。その名の通りサキュバスが経営するキャバクラ。値段設定がとても高い。ただし顧客満足度も高い。龍見は中学時代に父親に連れられて来店。輪姦され童貞を失う。トラウマとなる。なお龍見は極上の魔力源のため、来店しても金は取られない。代わりに精は取られる。近くにはインキュバスの経営するホスト・インキュバスがある。
店長はミス・ミリア。年齢不詳だが、見た目幼女のおばあちゃん口調。つまりはロリババア。ベテランサキュバスにもおばあちゃん扱いされるため、かなりの年齢と思われる。龍見を輪姦すのを指示した張本人。


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第五十四話

6月にギリギリ間に合っていくスタイル。実は6月はわちきの誕生月でした。


 暗い……一寸先も見えないほどに暗い。だが恐怖はない。これはオレが夢を見る前兆。何度も何度も体験した事だ。

 

『ふざけないでください!!!』

 

 怒鳴り声が聞こえてきた。ふと目をやると小さな男の子が暗い廊下で部屋の中を覗き見していた。ガキの頃のオレだ。そして怒鳴り声は部屋の中で親父と話していたお袋のもの。

 

『そんなに怒る事もないだろう。龍見が起きてしまう』

 

『よくもまあそんな呑気になれますね!! 私を散々騙しておいて!!!』

 

『騙してなどいない。黙っていただけだ』

 

 これはオレの不注意でお袋に術の、馬淵の秘密がバレた日の晩だったか。親父は既に身内だったお袋にバレた程度では動揺しなかったが、お袋は一般人だ。それも筋金入りの箱入り娘。大切に保護されてきた人間が突然有り得ないものに接触、それも家族がそれを隠していたとなれば混乱して怒鳴り散らかすのも不思議ではない。

 生憎とガキのオレはお袋が何故怒っているのか分からなかった。使用者は少なくても術や裏の世界はこの世に確実に存在すると親父に教えられてきたからだ。例えるならばアルビノの人間と同じように生まれついて少し人と違うもの。少し違う程度でお袋は何を怒っているのだろうと思っていた。

 

『今は休みなさい。君は興奮と混乱で冷静な判断が出来ていないだけだ。また明日話し合おう』

 

『明日などありません。私は出ていきます』

 

『!? 何を言っているんだ! まだ龍見も幼い。君に出ていかれては龍見が』

 

 お袋に手を伸ばした親父だが、その手は弾かれてしまう。お袋のその目は最早人を見るそれではなかった。子供ながらにそれが恐ろしかったのは覚えている。まあ本当に絶望するはこの後なんだけどな。

 

『触らないで! 化け物のくせに!』

 

『なっ……』

 

 親父は言葉を失い、オレも思考が真っ白になった。お袋は親父へ対し、はっきりと人間ではないと言ったのだ。親父が人間でなければ親父とお袋の子供であるオレは何なのか。

 お袋は逃げるように部屋を飛び出し、覗き見していたオレとぶつかった。驚いたお袋は倒れたオレに駆け寄ろうとしたが、その歩みは途中で止まる。

 

『おかあ、さん?』

 

『っ……! さようなら!!』

 

 それは誰に向けて言った言葉なのか。ただこれでお袋はオレも人として見ていないのがはっきりしてしまった。これ以降、お袋が家に帰る事はなく、オレは極力一般人としての生活を選ぶようになった。ま、どうあっても裏に巻き込まれるんだがな。そろそろ夢も終わりらしい。意識が浮上していく。何か、誰かが呼んでいるような…………

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「龍見ちゃん、起きなさぁい」

 

 聞き覚えがあるが、呉にいるはずのない声を聞いて龍見は目を覚ました。目の前には筋骨隆々としたオカマ、貂蝉の姿があった。それも目と鼻の先に。

 

「……ここは呉のはずだ。何があった?」

 

「少しは動揺してくれてもいいんじゃない?」

 

「そんな事はどうでもいいんだ。お前が呉までやってくる理由。間違いなく左慈関係だろ。もう一度聞くぞ。何があった?」

 

「南蛮と四州が制圧されたわ。一晩でね」

 

「……何を使われた?」

 

「戦車や軍事ヘリ。他にも仙術を用いた死なない兵隊よ。流石に無意味に死なせると不味い人は管理者権限でなんとか保護して、南蛮の孟獲ちゃんは蜀へ。袁紹ちゃん達は魏に逃げ込ませたわ」

 

 寝起きの頭に今の情報を叩き込む。そして到った結論は勝てないという事実のみ。勿論それは龍見単独での結論だ。

 

「桃香さんも華琳も今回の事は把握していると考えていいな」

 

「いいわよぉ。あたしが全部話してきたもの」

 

「手回しが早くて結構。これより各国の王を集めて会議をする。オレは炎蓮に話をしてくる。月にはお前が話してきてくれ」

 

「ええ」

 

 フッと消える貂蝉。空間転移が可能などと聞いていなかった龍見は驚いたものの、朝の間に蜀と魏を回ってきた事を考えれば空間転移ぐらい出来なければおかしいのだ。

 

「ったく、集まる時にはとことん酷使してやるからな」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 会議の場は魏となった。理由は空間転移では貂蝉に触れる必要があり、華琳がそれを拒否しただけだ。各国の王と軍師が集まる光景はいつぞやの反董卓連合での会議が思い出される。その場には袁紹と文醜もいた。

 

「みんな、久しぶり。自動(オート)人形(マタ)があったからそれほど久しぶりって感じでもないかな?」

 

「よく来たわね龍見。歓迎してあげる」

 

「龍見さん! お元気でしたか?」

 

「華琳も桃香さんも変わりないようで何よりだ」

 

 龍見が席に座ると雛里、稟、炎蓮による席取り合戦が始まるも、龍見の一喝で一先ずは鎮まった。

 

「あんた、呉の王にまで手を出したの? 節操なしも大概にしておきなさい」

 

「あ、はは、なんかすまん……さて、現状を再確認しよう」

 

 龍見の声が低くなり、一気に場の空気が引き締まる。貂蝉から何が起こったのか説明が入る。左慈の暴走による世界の危機、未来の兵器による襲撃、どれもがこの世界の人々にとっては絵空事のように聞こえる。だがそれを実際に体験した者もいる。

 

「袁紹、何があったかみんなに話してくれないか?」

 

「っ! お、思い出したくもありませんわ!!」

 

「あー、姫も心に傷負ってるからさ。あたいが話すよ。深夜に爆音と閃光が街に広がったんだ。太陽でも落ちたかと思ったよ。空には変なものが飛んで街を破壊する何かを飛ばしてくるし、地にはこれまた変な乗り物みたいのと白装束の奴等が変な道具で民を殺しまくってた……あたい達は、何も出来なかったよ」

 

 余程悔しかったのか血が滲むほど力強く手を握り締めていた。顔良や孟獲は恐怖により部屋に閉じ籠っているという。

 

「辛い事を思い出させてすまんな……もう少しだけ我慢してくれ。敵の数は?」

 

「分かんないよ。数えきれなかった」

 

「そうか……貂蝉、対処は可能か?」

 

「準備はしてあるけれど、ミサイルやヘリみたいな大型兵器を止められるくらいよ。銃系までは手が回らなかったわ」

 

 それを聞いた龍見は無言で考え込む。最低限とも言える対策はされているが、それでも厳しい事に変わりはない。

 

「龍見さん」

 

「どうした月?」

 

「龍見さんは敵地に攻めいると思います。その間、私達に出来る事はあるんですか?」

 

「……はっきり言ってない。各自の国を守ってくれとしか言えねぇ。ただ誰も外に出さず、誰も中に入れない。これが重要だ」

 

「分かりました」

 

「董卓ちゃん!? それでいいの!? 相手は南蛮と四州を一瞬で滅ぼしたんだよ!! そんな相手に龍見さんだけなんて」

 

「落ち着きなさい劉備。感情だけで動くなんて王として失格よ」

 

「あんた以外は全員龍見と同じ考えだよ。足手まといにしかならないなら動かない方がいいさ。妻としても夫の邪魔はしたくないからね」

 

「そんなのやってみないと」

 

ーーパァンッ

 

 乾いた音が響いた。この中でその音を聞いた事のある袁紹と文醜は身を震わせた。皆で囲んでいた机の中心には小さな穴が開いている。それをしたのは龍見の手に握られている拳銃だ。

 

「龍見ちゃん! そんなものいつも間に」

 

「材料は錬金術で作れるからな。軽く作ってみたんだ。威力は低いし連射も効かない不良品だけど、これについて知ってもらうには十分だ。さて桃香さん、相手はこんなものを何千、何万と撃ち続けてくる。こんな目にも見えない速度の鉛玉相手にあんたは何が出来る?」

 

「それ、は……」

 

「意地悪言って悪かったな。でも何も出来ないのも事実だろ。悪いがここから先はオレに任せてくれ」

 

「まあそんなもの取り出さなくても元から行けなかったわよ」

 

「どういう意味だ貂蝉」

 

「左慈ちゃんの周辺にはこの世界の住民の侵入を拒む結界が張ってあるのよ。この世界の住民を元に作られたあたしと師匠も入れないわ」

 

 管理者としての権限を持つ貂蝉や卑弥呼が入れないとなれば、最早左慈に管理者が手出しするのも不可能と言っているに等しい。

 

「龍見さん、もう一つ質問があります。神様の協力は得られないのですか?」

 

 月の言葉に全員がハッとした。かつて自分達を一瞬で戦闘不能に追いやった神の力ならば、例え強大な兵器を持つ相手でも勝てるのではないかと。だが龍見は力なく首を横に振った。

 

「許しは貰えなかったよ。自分で蒔いた種は自分で潰せとさ」

 

「あら、貴方の責任なの?」

 

「左慈と初めて会った時に殺す事は出来た。それをしなかったからな。オレの責任だよ」

 

 見逃す必要はなかったのに、見逃してもいいと言ってしまった。まさかここまでの事態になるとは思いもしなかったのだ。

 

「貂蝉、あとで頼みたい物がある。現代の代物だが、許してくれ。期間は二日だ。そして三日後に出る」

 

「ええ」

 

「龍見、あんたそれは早計過ぎやしないか?」

 

「相手の戦力は整っている。今すぐ出てもいいくらいだ。炎蓮、静かに見送ってくれないか?」

 

「見送るのはいいけどね、静かにってのは性に合わないよ」

 

「はは、違いない。華琳、オレの部屋は残っているか?」

 

「ええ、変わりなく」

 

「それは助かる。二日借りるぞ」

 

 世界の命運を賭けた決戦まで残り二日。




最終回まで残り僅かなのかな? 頑張るぞい。

最早恒例の裏組織紹介

魔女の占い館
フランスにある小さな占いの店。一回数百万という法外な料金の代わりに確実に当たる占いをするという。悪い結果だとしても誰も逆恨みしないらしく、訴えられたりした事はない。
経営しているのは一人の老婆。通称魔女の婆や。本物の魔女であり、龍見の魔法の師の一人。


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第五十五話

最終戦の勝敗と結末が決まらねぇよ。やべぇよやべぇよ


 部屋で一人、龍見は腕に短刀を突き立てていた。血が流れ落ちるが、それを気にする事もなく呪文を唱えながら短刀で腕に文字を刻み込んでいく。そんな作業をおよそ半日は続けていた。

 

「旦那様、食事をお持ちしました」

 

「…………ふぅ、ありがとう凪。少し休憩するよ」

 

「ご主人様! お茶をお持ち……凪、また先に?」

 

「ふっ、甘いぞ稟。その隙が命取りだ」

 

「どんな勝負してんだよ。稟、ヒーリング頼めるか?」

 

「! はい!」

 

 流れ落ちる血はすぐに止まるが、刻まれた文字が薄れることはない。一生消える事のない刻印なのだ。隠そうと思えば隠せるのでどうという事はないと龍見は言うが、稟にとっては自分の夫が自らの体を傷つける姿は見るのも辛い。

 

「そう苦い顔をしてくれるな。この戦いが終わったらこういう事はやらねぇからさ」

 

「ご主人様は自分の体を労らなさすぎです。少しは心配している私達の事も考えて下さい。凪も何か言ってあげて」

 

「うん? 自分が傷付く事については気にしない人だからな。どうしても止めたいなら私達が危ない目に合うのが一番だろう」

 

「凪、冗談とはいえ身重でその発言は止めてくれ」

 

 絶対に有り得ない事と分かっているが不安そうな顔をする龍見を見て、凪はクスクスと笑っていた。

 

「兄上ーーー!!!!」

 

「美羽じゃないか! どうしたんだ?」

 

「妻として夫を応援しに来てはおかしいかの?」

 

「妻……その子が袁術ですか。私は楽進。真名は凪だ。同じ夫を持つ者として真名で呼んでもらって構わない」

 

「妾は袁術、真名は美羽じゃ。そちらは郭嘉じゃな。龍見から話は聞いておるぞ」

 

「ええ、そうよ。私も稟で構わないわ」

 

「私達もいるからね」

 

「あの貂蝉ってのから聞いてはいたけれど、その腕凄いわね」

 

「炎蓮に蓮華も。美羽がいきなりやってくるなんておかしいと思ったけど、やっぱ貂蝉の仕業か」

 

 呆れつつも嬉しそうな顔をする龍見。いつ死ぬかも分からない戦場に赴く前に家族の顔を見れるのはそれだけ嬉しいのだろう。そしてこうなると残りの家族の来訪も予想は出来る。

 

「凪、稟、悪いが茶の用意を頼む。ここにいる三人とあとから来るだろう五人、いや六人分を用意してくれ」

 

「分かりました」

 

「すぐに用意します」

 

 龍見は自分の分のお茶を少し飲むと、凝り固まっていた体を伸ばす。

 

「ん、くぅ~、いやはやいつかは家族全員が顔合わせをする日を作らなきゃならないとは思っていたが、まさか突然やってくるとはな」

 

「旦那の大一番を見送るんだ。そりゃ全員集まらないとね。そこのあんたもそう思うだろう?」

 

「流石に気付くか。呉の王の実力は本物か」

 

「おう焔耶、格好つけてないで入ってこい」

 

「ああ、邪魔するぞ」

 

 案の定、蜀の妻達もやってきたらしい。焔耶が扉を開けると飛び込んできた璃々が龍見の胸元に飛び込んでくる。紫苑と雛里は微笑ましくそれを見ていた。

 

「おとうさん! おとうさん!!」

 

「はは、元気だな璃々。そんなにお父さんに会いたかったのか? 焔耶、紫苑、雛里。三人も元気そうで何よりだ。紫苑はお腹が大きくなったな。中の子は大丈夫か?」

 

「ええ、元気ですよ。それにしても私を呼び捨てして下さるようになったのですね。ちょっと嬉しいです」

 

「ん? そうか。炎蓮のお陰かな」

 

 自身より目上の人であり尊敬すべき相手という気持ちから敬語で話していたが、炎蓮との関係から家族に、それも妻にそれは失礼と考えるようになれた。

 

「ねぇ先生、その腕はどうしたんですか?」

 

「これは決戦に向けての準備だよ。呪文(スペル)刻印(スティグマ)と言うものだ。高度な呪文には長い詠唱と相応の魔力を必要とするのは言うまでもないな。オレくらいになれば呪文の省略は出来るが、威力はかなり削がれるし、魔力も通常の数倍を要する。そこで使うのがこれだ。事前に詠唱と魔力を肉体に刻む事によって起動に必要な魔力を流し込めば即座に発動する術式となっている。更にこれには……」

 

 雛里の質問に延々と回答を続ける龍見。興味を持って真剣に聞いているのは一部で、他は各々自由に行動している。凪と稟がお茶を持ってきたが龍見の話は終わらない。全員が自己紹介を済ませてもまだ終わらない。

 

「……であるから、これを使う上での注意点は」

 

「おとうさん…つまんない」

 

「おっと、ごめんな璃々。雛里がよく聞いてくれるもんだから夢中になっちゃったよ」

 

「むー」

 

 頬を膨らませる璃々の頭を撫でているとノックの音が聞こえた。どうやら最後の来訪者が来たらしい。

 

「開いてるよ」

 

「やっほー、龍見。元気? って何よこの人数。座るところもないじゃない。あんた少し手を出しすぎじゃないの?」

 

「そう言ってくれるな。自覚はしているんだ。それにちぃもその中の一人なんだからな」

 

「それを言われると何も言い返せないわね」

 

 そんな地和と龍見のやり取りを見ていた恋はようやく口を開いた。

 

「龍見……」

 

「どうした恋?」

 

「…………何でもない。外にいるね」

 

「そっか」

 

 そんな一見冷めたような会話をして恋はその場を立ち去った。龍見にとって誰が正妻だとかいうのは決まっていないが、一番惚れ込んでいるのは恋というのは全員が聞いている。だからこそ今の会話が理解できずに首を傾げる者が多かった。だが今のが何を意味するのか理解する者もいた。

 

「ならわたしも外に行こっかな。折角魏まで来たんだし、みんなで観光でもしましょ?」

 

「それはいいわね。凪ちゃん、稟ちゃん、案内をお願いできるかしら?」

 

「えっ、えっ?」

 

「凪、稟。頼むよ」

 

「ご主人様がそう仰るのなら……」

 

 何かを察した者もどういう状況か理解できていない者も部屋から出ていった。軽く手を振りながら見送った龍見は大きく息を吸うと全てを吐き出すように咳き込んだ。

 

「ゲホッ!! ゴホゴホッ!! ぅぅ……ハァハァ…………気を、使わせちまったな」

 

 手にこびりついた血液を眺めながら自嘲する。体がおかしいのは知っている。だが止まるわけにはいかない。龍見はまた腕へと刻印を刻み始めた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「恋! ちょっと待ちなさいよ!」

 

「地和、何?」

 

「一人よりみんな一緒に行きましょ」

 

「わかった」

 

 美女や美少女が何人も集まって街を歩く姿は見るものの目を奪った。彼女らの一部が物騒な武器を持ち歩いてさえいなければナンパされてもおかしくはない。

 

「流石は恋ね。よくもまあ一目で気付けたわね」

 

「それなら恋の言葉で気が付いた地和もすごい」

 

「伊達にあいつの妻をやってはいないわよ。まあ今の貴女には劣るのは認めざるおえないけれど、いずれは越えるから覚悟しなさい」

 

「あ、あの、先生に何かあったんですか?」

 

「体調が悪かった」

 

 悪そうなどという憶測ではなく、はっきりと悪いと恋は言い切った。想定外の答えに雛里は目を丸くする。あんなに元気そうだった龍見の体調が悪いなどと簡単に信じられるものではない。

 

「普通は気付けるもんじゃないから気にする必要はないわよ」

 

「そ、そうなんですか……紫苑さんと炎蓮さんも行動が早かったですけれど気付けたのですか?」

 

「ええ、恥ずかしながら私も呂布ちゃんがあんな行動をしないと気づけなかったでしょうけど」

 

「私達呉の人間はともかく、他は久しぶりに龍見に会って浮かれている状態だったんだ。仕方ないさ。だからこそ私達が気付いてやるべきだったんだがねぇ」

 

 その言葉にうつむき、気を落とすものも多い。妻でありながら夫の不調に気付けず、夫に会えた事で舞い上がっていた。何とも惨めで恥ずかしい。そんな中、地和は笑っていた。

 

「あはははは! いーのいーの! 自分が辛いのを浮かれてたのは龍見だって一緒よ。それにそんなにあいつの事を想うなら気にしないのも大切よ……たぶん」

 

「地和はそういうところが適当」

 

「恋だって龍見に対してかなり適当じゃないのよ」

 

「それはいけませんね。いくら旦那様が優しいとはいえ、いつか愛想を尽かされてしまいますよ」

 

 凪の言葉を皮切りに誰が龍見の一番だという話に発展していった。そんな不毛な話し合いだが、全員が交流するという意味合いでは良い結果になったらしい。

 

 決戦まで残り一日。




実は最終戦終了までエロ的なR-18シーンはないんやで。

ほならば裏組織紹介と参りましょう。

ネクロマンサー邪教団
本部はローマ地下にあるカタコンベ。表向きには葬儀屋などの死に関わる仕事をしている。裏では過去の偉人や天才の蘇生、そして彼らから知識を得て世界を牛耳ろうとする。というのが将来的な目標な集団。教団員がカタコンベと称するのは教団長の家の地下倉庫であり、邪教団も格好いいから名付けた。ご近所さんからは微笑ましい仲良しグループとしか見られていない。なお数ヵ月に一度龍見が指導にやってくるという裏社会では破格の待遇を受けているので、何かあるのではと各裏組織に警戒されている。
教団長はレベッカ・フォルトゥナ(26)。龍見の中学校に留学してきたのを切っ掛けに龍見と知り合う。現在金髪碧眼の女性で容姿端麗、才色兼備、実家は裕福で彼女自身株取引などで巨額の財産を抱えている。術の才能は皆無だが、特別な才能がある人々を引き寄せる劉備のような魅力を持つ。だが残念ながら日常でネットスラングを使う痛いオタクである。龍見曰く『世界一勿体無い美女』


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第五十六話

もう少し、もう少しで終わり


 時刻は昼過ぎ。太陽はすっかり真上まで昇っている のだが、龍見は全く部屋から出てこない。昨日のように部屋に閉じ籠って作業しているのかと思えば中からは寝息が聞こえてくる。だが寝ているにしてはあまりに長すぎた。

 

「おとーさーん! お昼だよー!!」

 

 扉は完全に施錠されており、開けようにも何か術を掛けてあるようでピクリともしない。今璃々がやっているように扉を叩いても何の反応もない。更に時間は過ぎていき、遂には日が傾き夕方になってしまった。ここでやっと龍見が部屋から顔を覗かせた。

 

「龍見! 寝過ぎよ。みんな心配したんだから」

 

「すまん蓮華。明日に向けて体を休めておきたくてな。飯はあるか?」

 

「もう夕食の時間を過ぎてみんな食べ終わったわよ。」

 

「うっ、ごめんなさい……」

 

 過剰な睡眠を取った割には健康そうな姿に蓮華はほっとした。何せ昨日は龍見が無理をしていたのに気が付かなかったのだ。今日はどうしても龍見の体調を注意深く見てしまう。

 そんな事に気付いていないのか、龍見は夕食を取るためにさっさと歩いていく。その様子はまさに健康そのものだ。

 

「あっ! 龍見さんやっと起きたんですか? 寝過ぎは体に毒ですよ」

 

「休めるのが今しかないんでな。それより流琉、飯くれ。とびきり精のつくのがいい」

 

「はい、すぐに作りますからね」

 

 料理が完成するまでの間、龍見は何かを考えるかのようにずっと宙を眺めていた。時折頭を振ってはまた宙を眺める。その頬には汗が伝っていた。

 

(うーむ、これまでの情報を纏めた上で最悪のパターンを考えると勝利のイメージが微塵も湧かん。更には左慈がどれだけ成長しているかなんて未知数だ。今イメージしている最悪を越えてくる可能性も考慮しないとな。それに、この状況は初めてじゃない)

 

 何度も何度もシミュレートを繰り返しても覆らない状況だが、過去にも何度もあった事だ。この世界の武将達と真正面から対峙した時には勝利のイメージよりも先に死のイメージが付きまとった。現代世界においても戦闘においては勝てない相手など複数いた。何よりも神々がいる。彼らがもし手足を縛られ身動きが取れなかったとしても、龍見は絶対に勝つことは不可能だろう。いや、事実不可能だった。

 かつて龍見はアテナへ今後一切の性的干渉を禁ずる事を条件とした勝負をした事があった。下らない理由による争いだったが、その時初めて神の本気というものを見せ付けられた。約一時間あらゆる攻撃を行ったところでその全てが無意味だった。対してアテナは持てる全ての力で防御をした龍見をただの拳骨一発で沈めてみせた。あの時と違い、成長したとはいえ今同じ事をやっても結果は変わらないだろう。

 

 これが左慈相手ならどうだ。全力の攻撃を一時間続けて無傷でいられるか。ただの一撃で防御に回った龍見を殺せるか。まずあり得ない。何十万という魂を吸収していたとしても、人間をベースに造り上げられた存在だ。それが神を越えるはずがない。

 

(最悪のパターンでの勝率は確かにゼロ。だが今のオレは万全。僅かな時間だが更に伸ばす事も可能だ。まだオレの敗けが確定したわけじゃねぇ)

 

「龍見さん、ご飯出来ましたよ」

 

「おっ、悪いな流琉。これは鰻丼か? 一刀君から教わったのか?」

 

「教わったというよりも頼まれたという形ですね。兄様が食べたがっていたのを再現してみました。それより龍見さん、考えすぎはよくありませんよ。皆さん話し掛けづらそうでしたよ」

 

「それは、悪い事をしてしまったな」

 

「皆さんも龍見さんが明日には大変な戦に臨むのは知っています。だからこそ今のうちに皆さんと触れ合って下さいね」

 

「おいおい、それじゃあオレが死ぬみたいじゃないか。勘弁してくれよ」

 

「あ、はは、そうでしたね……ごめんなさい。さぁ、熱いうちに召し上がって下さい」

 

「ああ、頂きます」

 

 戦場に出るというのは常に死と隣り合わせという事だ。龍見とてそれを理解していないわけではないし、流琉の言う事も分かっている。死ぬかもしれないのならば今を目一杯楽しむのもいいだろう。それでも龍見が見据えるのは明日だけだ。明日を越えなくてはこの世界に未来はない。

 結局龍見はまた考え込みながら鰻丼を貪る。そして食後に五つの小瓶を取り出すとそれを一気に飲み干した。

 

「あの、すみません龍見さん。少し大丈夫ですか?」

 

「何か用かな一刀君」

 

「貂蝉が頼まれたものの準備が終わったから来て欲しいと言っていました」

 

「来たか!」

 

「まさかあんなものを頼んでいたなんて驚きましたよ。それよりさっき飲んでいたのは?」

 

「薬だよ」

 

 意気揚々と頼んでいたものを取りに向かう龍見。先程飲んだものを簡単に薬と言い切ったが、薬は薬でも劇薬の類いだ。一本飲めば肉体は強化される。だが常人ならば三日間は悶え苦しみ、最悪死に至るような毒に蝕まれる事となる。それを五本だ。しかし龍見はその苦しみを感じさせるような事はなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 龍見が一刀と一緒に貂蝉の元へ向かうと、真桜が龍見の頼んだ目的物を弄り回そうとし、沙和がそれを引っ張りながら止めていた。

 

「はーなーせー!! うちの血が騒ぐんやー!!!」

 

「だーめーなーのー!!! それは龍見さんのなのー!!!」

 

「案の定か。まあオフロードバイクなんてもの見たら真桜は暴走するわな」

 

 龍見が貂蝉に頼んだものとはオフロードバイクだ。速く、自在に動かせ、尚且つ敵の攻撃に対して動物のように怯まない。そんな足が欲しかったのだ。

 

「あっ! 龍見の旦那!! これ触らせて!!」

 

「駄目だ。壊れたらどうする」

 

「ご希望に沿えたかしら、龍見ちゃん」

 

「完璧だよ。試運転は、まあいいか」

 

「あらいいの?」

 

「お前の事だ。チューニングは完璧だろ。オレはみんなに挨拶してくるよ」

 

 物だけ確認すれば十分なのか、龍見は誰も近付けないように貂蝉に頼んでから決戦前最後の挨拶をするために妻達の元へと向かった。始めは炎蓮、蓮華、美羽だ。

 

「いよっ、失礼するぞ。蓮華、さっきは起こしてもらって悪かったな」

 

「龍見、ご飯は食べたの?」

 

「腹一杯食ったさ。三人とも、明日は必ず帰ってくる。待っていてくれるか?」

 

 突然そんな事を言われた三人はきょとんとしていたが、まずは炎蓮が大声で笑った。

 

「あーはっはっはっ!! 何言ってんだい!! 待つよ。当然だろ」

 

「そうよ。貴方の妻ですもの。絶対帰ってきてね」

 

「妾が待っておるのじゃから帰ってくるのは当然じゃ!」

 

「くく、そう言ってくると思ったさ。ありがとう、元気が出た。んじゃ、他のとこに挨拶してくる」

 

 気を使ってくれたのか素なのか分からないが、元気の良い返事を貰った龍見は笑顔で凪と稟へと会いに行った。

 

「凪、稟、邪魔するぞ」

 

「旦那様……」

 

「凪、シャキッとなさい。ごめんなさいご主人様。凪ったらずっとこの調子で」

 

「……凪も稟もよく聞いてくれ。オレは必ず帰ってくる。だから待っていてくれ。いいな?」

 

 龍見が明日死地へ向かうというのが心苦しいのか凪はその瞳に涙を浮かべていた。稟とて気持ちは同じだろうが、気丈に振る舞っていた。

 

「旦那様……いか、な」

 

「凪!!!」

 

「!」

 

「それ以上口にしてみなさい。貴方をご主人様の妻として認めないわ……私達は信じて見送るしかないのよ」

 

「……ぐすっ、ごめんなさい旦那様、稟。旦那様、お帰り、心よりお待ちしております」

 

「必ず、必ず帰ってくる。だからもう泣くなよ」

 

「は、い」

 

「オレはまだ挨拶があるから行くが、稟は凪を頼んだ。ただ無理はしすぎるなよ。お前も辛かったら誰かを頼っていいんだ」

 

「ありがとうございます」

 

 これ以上凪を泣かせないため、必ず戻ってくると誓った龍見は紫苑、雛里、焔耶に会いに向かう。

 

「貴方、いらっしゃい」

 

「おとうさん! 起きるのおそーい!」

 

「すまんな璃々。みんな、聞いてもらいたい。明日は必ず帰ってくる」

 

「ふっ、そんな事は当然だろう。まだお前の子を孕んですらいないのだぞ。子が出来る前に未亡人にするつもりか貴様」

 

「焔耶さんの言う通りです。私だって龍見さんの子供が欲しいんです」

 

「産まれてくる璃々の妹か弟が父親の顔を知らないなんて事、嫌ですよ?」

 

「ああ、子供のためにも帰ってくるさ」

 

「おとうさん! 約束!」

 

「約束するよ璃々。さ、まだ挨拶があるんだ。もう行くな」

 

 次で最後。恋と地和の元へ向かう。

 

「恋、地和、話があるんだ」

 

「ん、恋も話がある」

 

「何だ? 先に聞こうか」

 

「明日何を食べたい?」

 

「……へっ?」

 

 突拍子もない普通の質問。いや明日が決戦であり、龍見の生死がどうなるか分からない状況では普通とは言えないだろう。だが恋はさも龍見が帰る事が当たり前のように質問をしてきた。

 

「恋ったら明日龍見が帰ってきてからの事ばっかり考えてるのよ」

 

「な、なら、肉が食いたいな」

 

「いやそうじゃないでしょ」

 

「肉。分かった」

 

「恋、あんたね……もういいわ。それで龍見は何の用?」

 

「……明日は生きて帰ってくると宣言しようと思ったんだが」

 

「そんな当たり前な宣言いらないわよ!」

 

「うんうん、帰ってくるのは当たり前。だから龍見、今日は休んで帰ってきたから何をしてもらいたいか考えておいて」

 

「わ、分かった」

 

「ほらさっさと寝に行く」

 

 二人に押されるように部屋を出た龍見は思わず笑ってしまった。みんな帰りを待っている。その期待に応えなくてはならない。龍見は最後の休息を取るために自室でゆっくりと眠った。

 

 決戦は明日。




次で遂に左慈との決戦になりますね。結果はどうなる事やら。

ではたぶん最後の裏組織紹介です。

世界魔法管理会
本部は日本。魔法や妖術といった世界中の裏の技術を管理、及びそれらによる犯罪を防ぎ、裁くための組織。世界中の力ある裏の人間が所属している。
会長は馬淵龍見。本作主人公である。なお本人はやる気がないため、他の会員が週代わりで仮会長として働いている。他の会員が会長にならないのは、やる気がなくても龍見が一番犯罪の検挙数が高いためである。


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第五十七話

最終決戦始まります。


 まだ日も昇らない早朝。龍見はオフロードバイクのエンジンをふかしていた。そんな龍見の元へ貂蝉と卑弥呼が歩いてくる。

 

「龍見ちゃん、準備はいいのね?」

 

「万全だ。今なら何だってやれる気がするぜ」

 

「良き事た。今世界の命運はお主の手に掛かっておる。もしお主が敗れ、左慈が既に独立したこの世界を破滅させれば、正史にも影響が出かねぬ」

 

「任せろって。左慈をぶっ殺して必ず家族の元に戻る。だから、飛ばしてくれ」

 

 無言で頷く貂蝉と卑弥呼。二人が両手を地面へと叩き付けると魔法陣が龍見を中心に展開された。次の瞬間には龍見は空中に投げ出された。特に動揺する事なく着地するとバイクを発進させる。目の前には結界に包まれた四州の地が広がっている。バイクが龍見を乗せたまま結界を突破すると同時に無数の弾丸が襲い掛かってきた。

 

「障壁展開!!」

 

 しかし龍見が一歩早い。容易に弾丸の雨を防いだ龍見は一直線にバイクを走らせる。左慈の異質な魔力は前方から感じる。あまりに膨大なそれは遠くにありながらまるで真横に存在しているかのように錯覚を受けるほどだ。

 障壁を展開し、動く要塞となったバイクは元々四州の人々だったはずの白装束の人間を引き殺しながら突き進む。暗く、更に仲間が死んでいく状況でも確実に龍見を狙ってくる射撃は彼等が傀儡となっている何よりの証拠だ。

 

「少し五月蝿いぞ。解呪(ディスペル)!!」

 

 術式が解除かれた人々は次々と倒れていく。肉体的には生きていても魂のない彼等に待つのは死のみだ。そんな中、空を切る轟音が響いた。暗闇の中をいくつもの閃光が飛び交い、龍見へと向かってくる。

 

「ロケットランチャー、でいいよな? 戦車やヘリコプターは使えなくてもこういうのは使えるのか。だが甘いな。エアロランス!!」

 

ーードゴォォオオオッ

 

 空気の槍が弾頭を貫き、大爆発を起こす。銃弾もロケットランチャーも通じない。それでも彼等は同じ事を繰り返す。それしか出来ない。それしかプログラムされていないのだから。傀儡となった人々が障害にもならないと判断した龍見はどんどんと突き進んでいく。進むごとに左慈の魔力は大きくなっていく。

 左慈の正確な距離は分からないが、確実に近付いている。そう実感させる出来事は突然起こった。地響きが辺り一面に木霊する。

 

「成る程、そう来たか」

 

 目の前に聳え立つのは巨大なゴーレム。大きさが100mを越えているのも問題だが、更なる問題はゴーレムを構成する材質だ。貂蝉達の尽力によって使用不可能へと陥った戦車やヘリコプター。それらをくっつけてゴーレムとしていた。破壊は容易いが、そこにかかる労力は大きなものだし、戦車やヘリコプターに燃料や火薬が詰まっていた場合はロケットランチャーを迎撃した時とは比べ物にならない爆発が起こるだろう。

 

「やっべぇ!!」

 

 ゴーレムがその巨腕を振るう。巨体に似合わず素早い一撃はとてもバイクに乗ったままでは回避不可能だ。即座に龍見はバイクを乗り捨て、巨腕に飛び乗る。ゴーレムは龍見ごと腕を地面に叩き付けるが、既に龍見はそこにはいない。腕を駆け上がり、ゴーレム胸元辺りに手をかざした。

 

「潰れろ。グラビティ・プレス」

 

 鉄の兵器で造られたゴーレムは自身へと掛かる重力が増大したのに耐えきれず崩れ落ちていく。そんな鉄塊には案の定火薬が積まれていたらしく、落下したときに発生した火花に引火して巨大な爆発を起こす。

 

「チッ、やっちまったか。こんなところで使いたくはなかったが……呪文(スペル)刻印(スティグマ)解放!! 召喚・ケルベロス!!!」

 

 一瞬腕の刻印が輝くと、何処からともなく現れた三つ首の魔犬が龍見を咥えて爆発範囲から一瞬で離脱した。

 

「ケルちゃんよくやった! 偉いぞー!!」

 

「クゥーン♪」

 

「グルル♪」

 

「ハッハッハッ♪」

 

 龍見に撫でられてどの首もご満悦といったところか。地獄の番犬が主人以外になつくのも有り得ないのだが、龍見は例外らしい。龍見はケルベロスの背中に乗ると左慈の元へ走るように指示をした。ケルベロスはオフロードバイクとは比べ物にならない速度で荒れた道を駆けていく。

 

「あれか……」

 

 何もない荒れ地にポツンと城のような建物が建っている。防衛策として用意されていたらしい今では使い物にならない兵器の数々が転がっている。ケルベロスから降り城へと近付く龍見。罠のようなものは見当たらない。

 

「ワンッ!!!」

 

 ケルベロスが上空に向かって吼えた。それとほぼ同時に身震いするような殺気を感じた龍見は転がるようにその場を離れた。直後に流星のような何かが降ってきた。その衝撃波に龍見もケルベロスも吹き飛ばされる。

 

「マブ、チ……タツミィイイイイイイッッッッ!!!!!!!」

 

「くっ……左、慈か?」

 

 とても声とは思えない叫び。そして人の形をしているが、その左半身には人の顔が幾つも浮かび上がった異常な容姿。そして死に身近なケルベロスさえ後退りするほどの濃厚な死の匂い。喰った魂に呑まれ掛けている。だがそれでなお龍見を殺すという意思に変わりはない。

 

「グオォォォオオオオオッ!!!」

 

「グァッ!? イヌ、ガ、ウセロオォオオオオオッッ!!!!」

 

ーーボンッ

 

 飛び掛かったケルベロスは左慈の左腕を食い千切ったが、カウンター気味に入れられた左慈の右アッパーを腹部に食らい、大きな穴が空く。一瞬で生命の危機に陥ったケルベロスは冥府へと強制的に帰還した。ケルベロスはサキュバスやワイバーンといった龍見がこの世界で会った生物とは格の違う魔獣だ。それを人に近い存在が一撃など有り得てはならない。

 

「……ふぅ~、こいつはとんでもないな」

 

 だが龍見は慌てない。この程度ならばまだ想定の範囲内だ。大きく息を吐いて敵を見据える。左慈も隙を探しているのかジリジリと近寄ってくる。無くしたはずの左腕は再生を始めており、既に腕の形になっている。龍見はチラリと自身の腕を確認する。残っている呪文(スペル)刻印(スティグマ)は五つ。その全てが一撃必殺級の威力があるが、発動前に殺されては意味がない。

 

「行けっ!!!」

 

 龍見の号令と共に服の中から無数の毒虫が黒い波となって左慈へと襲い掛かる。それと同時に龍見が注射器を数本首筋に突き刺した。前日に飲んだ劇薬以上に強力な瞬間的なドーピング剤だ。

 左慈は蹴りの風圧だけで毒虫を全て消し去り、龍見へと肉薄すると頭、腹、脚の三ヶ所へほぼ同時に蹴りを叩き込む。

 

「ナ、ニ?」

 

 しかしそれは全て空振り。先程より数m後方で龍見は腕の刻印を輝かせていた。

 

「呪文(スペル)刻印(スティグマ)解放。サンシャインレイ、ファイア!!!」

 

 龍見の頭上に大きな光の球体が浮かぶ。何かまずいと本能で察した左慈だかもう遅い。そこから放たれたのは膨大な熱量を持った光。いくら左慈が速くとも秒速約三十万kmの光に叶うはずもなく、全身を呑まれ蒸発した。

 

「……勝った?」

 

 あまりに呆気ない結末。少し気の抜けた龍見の全身に痛みが走る。無理な薬品使用が今になって襲ってきたらしい。そちらに気をやった瞬間、龍見の右腕は消し飛んだ。

 

「ぐぎゃあぁぁあああっっっ!!?!?!?」

 

 噴き出す血液と右腕のあった部分から走る大きすぎる痛みに思わず叫んでしまう。だがその状態でも殺気を感じる事は出来た。逃げるように左手へと跳んだが、右脚も一部が削られてしまう。

 

「あ……はぁ、はぁ、ファイア、ハンド!!」

 

ーージュオォォォォォォッッ

 

 痛覚を切断し、血が滝のように流れ落ちる右の傷口を焼いて止血する。それが終わるとほぼ同時に龍見の頭は潰された。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

「はっ!!」

 

 いつものような復活。だが今回は即座に動かなくては即死する。何とか顔を反らし死の踏みつけを避けた龍見は障壁で頭部を守る。やはりというべきか頭部に蹴りが入るが、何とか無事のようで転がりながら距離を取る。そして自身を蹴り飛ばしは存在が何者かを目視した。

 

「タ、ツ、ミイィィィ」

 

 それは、おそらくは左慈だろう。全身が焼け焦げ、皮膚はなく、骨と筋肉が剥き出しになっている。その上で先程のパワーとスピードだ。異常という他ない。

 

「て、めぇ……なんで生きて……」

 

「アァアアアァアァアアァアアアアッッッ!!!!!!」

 

 再び動き出す左慈。その速度は目にも映らないほど。龍見はそれでも左慈の心臓への一撃を回避した。半ば直感にも近かったが、人を殺すなら脳か心臓の二択が一番単純だ。だがおそらく次は避けれない。右腕はなく、右脚も削られている。機動力のない今、完璧に左慈の攻撃を避けるなど不可能だ。更に右腕の消滅と同時に右腕の刻印も失った。最も刻印があっても左慈復活の秘密が分からないうちは何をしても無駄だろう。

 

「最悪、のパターン……」

 

「シ、ネェェエエエエエエエッッッ!!!!!!」

 

「しょう、へき!!」

 

ーーゴキャッ

 

 避けられなくとも防御は出来る。障壁を展開し、左腕で防御を固める。頭部へ飛んできた蹴りは障壁で弱まったものの、左腕をへし折って龍見を吹き飛ばした。

 

「ゴハッ!! ウェッ、オエッ!!」

 

 復活と薬品によるドーピングが重なり血を吐き出す龍見。右腕の出血と合わせて既に致死量近い。それでも何とか立ち上がる。龍見の脳内に勝利という言葉は既に無くなっていた。だがただ一つ、生きて帰るという約束。それだけで、気力で立ち上がって逃走を始めた。ろくに動かない右脚を引き摺り、弱々しく亀のような速度で逃げる。出血多量で目は霞む。対する左慈は全身の再生が終わり、逃げる龍見に怒りを爆発させた。

 

「マブチィィ、タツミィィイイイイイイッッッッ!!!!!!」

 

 背後から感じる濃密な死。逃れる術なく受け入れるしかない。もう復活も不可能。それでも、それでも龍見は死にたくはなかった。

 

ーーザシュッ

 

 聞こえるはずもない斬撃の音が背後からした。



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第五十八話

左慈との決戦、ご覧下さい。


ーーザシュッ

 

「ガアァァアアアアアアアアッッッ!!?!?」

 

 背後から左慈の叫び声が聞こえる。それを聞いた龍見はまだ自分が生きているのだと実感した。だが何故左慈は攻撃出来なかったのか。そして斬撃の音は何なのか。それらの答えは直後に判明した。

 

「うおぉぉおおおおおおっっ!!! 龍見さんに、近寄るなあぁぁああっっっ!!!!」

 

「か、ず…とくん?」

 

 一刀の刀が左慈の頭部に深々と刺さり、一刀はそれを真横に振り抜いた。ここの結界はこの時代の人間を入れないというもの。確かに一刀ならばこの時代の人間には含まれない。だが彼が来たところでどうなるというのか。不意打ちは成功したが、再生を続ける左慈にはほぼ無意味。身体能力の差も圧倒的すぎる。勝ち目はない。

 

「呪文(スペル)……刻印(スティグマ)……解放……っ!!!」

 

 しかし勝ち目が生まれる方法がある。龍見の残った左腕。そこに刻まれた呪文(スペル)刻印(スティグマ)の使用。決まるかは分からない。だがやるしかない。

 

「ジャマ、ダ。ホンゴ、ウ、カズトォオオッッ!!!」

 

「黄泉、の手……!!」

 

 残った生命力を魔力に変換し、呪文(スペル)刻印(スティグマ)を起動させる。起動さえすればもう龍見がやる事はない。安心したかのように龍見は意識を手放した。

 

 一刀には向かってくる左慈の動きは全く見えなかった。死ぬかもしれないという恐怖で脚が震える。逃げ出したい気持ちで一杯になる。そして初めて人を刺した感覚で手が動かない。だがそれでも一刀は刀を構える。龍見はここまで戦い続けた。ならば次は自分の番。偶然かもしれないが、天の御使いとして喚ばれた自分がこの世界のために、龍見のために戦わなくてはならないという想いがあった。そんな気持ちがある種の奇跡を起こしたのかもしれない。

 

「うわっ!?」

 

「!?」

 

 何とか動こうとした一刀だったが、震えた脚で地面を踏み外して転んでしまう。左慈にとって想定外の動き。左慈の蹴りは虚しく空を切った。直後に左慈の身体に何か冷たいものが触れる。

 

「!? ウ、オオオオオオオオオオォォォオオオオオッッッッ!!!?!?!?」

 

 全身から何かが引き摺り出される感覚。引き摺り出されているものは魂だった。左慈が喰った約三十万もの魂が引き摺り出されている。

 

『一刀君、今しかない。人を斬るのは怖いかもしれない。でも、君しか出来ないんだ』

 

「龍見、さん! はい!!」

 

ーーザシュッ ザンッ ザンッ

 

 見えない何かに魂を掴まれて動けない左慈を切り刻む一刀。左慈は抵抗する事も出来ずに呻いている。そして不思議な事に先程まで不死身の回復を見せていた左慈の傷の治りが遅くなっているのだ。

 左慈の回復力の源は喰った魂だった。龍見から一撃必殺の閃光を受けた時も他の魂で自分本来の魂を守り、完全なる死は避けたのだ。魂さえ残れば魔力によって無理矢理肉体を復元出来た。だが今受けている黄泉の手は魂を直接死者の世界へと送るもの。左慈は喰った魂を犠牲に自身の魂は死者の世界へと送られないようにしているものの、黄泉送りは狙った魂は逃さない。その状況で肉体を傷つけられては回復など間に合うはずもない。

 

「このこのこのぉっ!!!」

 

 型もない滅茶苦茶な斬撃。最初硬い頭部を斬った時に既に刃こぼれが始まっていたが、今ではもう刀ではなく鈍器というほどに刃が潰れている。それでも一刀は振るう手を休めない。左慈の傷の治りの遅さを見て、攻撃を続けるのが最善手と判断したのだ。

 

ーーパキィッ

 

 刀が折れる。斬る事は不可能。ならばと柄を逆手に持ち、今度は突き刺し続ける。目に、喉に、耳に、比較的柔らかい弱点に突き刺し続ける。

 

「うっ、ぐぐっ、あぁぁああああああああああっっっ!!!!!!」

 

 左慈は叫んだ。持てる力全てを振り絞る。そして逃れたのだ。本来不可避の黄泉送りを。だがもう左慈には喰った魂は残っていない。肉体も一刀に傷つけられ過ぎた。そんな状態でも左慈は動いた。己の使命を全うしなくてはならないという意志。それだけで動いたのだ。しかしその時左慈はある疑問を浮かべてしまった。己の使命とは、何だったか?

 龍見を殺す事。一刀を殺す事。それらは使命ではない。自分達の使命はあくまで外史が正史に影響を出さないように外史を処理をする事。この外史は既に独立してしまっている以上、処理をすれば間違いなく正史に影響が出るだろう。では今自分がしている事はなんだ?

 

「終わりだぁあああああっ!!!」

 

 自分のやっている事に対して抱いた疑問。それによって立ち止まった隙を一刀は見逃さなかった。折れた刀を無理矢理頭に突き立てる。当然折れた刀がそう深く入るわけがないが、それを理解していた一刀は柄をおもいっきり殴り付けた。左慈が倒れても何度も何度も、自分の拳から血が流れ出ても殴り続け、根本まで刀を突き刺した。もう、左慈に息はなかった。

 

「はぁはぁはぁ……」

 

 初めて人を殺した感触に震えながらも何とか立ち上がった一刀はゆっくりと龍見の傍へと歩いていく。

 

「お、わりました。龍見さん、帰りましょう」

 

「一刀君、ありがとう。たっちゃんの最後のお願いを聞いてくれて」

 

「えっ? あっ、ミシャグジ様に、他の神様も」

 

 声を掛けられて振り返った一刀の後ろには龍見と契約している四柱の神々がいた。今回一刀がここまで来れたのも神々の尽力あっての事だった。

 

「北郷一刀よ。これより龍見の身は我らが預かる」

 

「もしかして、龍見さんの怪我を治せるんですか?」

 

「……んー、無理。だってねぇ、龍見はもう死んでるのよぉ」

 

「…………ま、またまた。だって龍見さんは一度死んだって生き返るんじゃ」

 

「坊やはその力を使った後でまた死んだのよ。もう、戻ってこれないわ」

 

「う、嘘だ。嘘だって言って下さいよ!!!」

 

 一刀も本当は気が付いていた。だがそれを認めたくはなかった。

 

「俺が戦っている時にも龍見さんは声を掛けてくれた!! 少なくともあの時には生きていたのはずなのに、どうして何もしてくれなかったんですか!!?」

 

「否、龍見は黄泉の手を起動させた時点で息絶えていた。その時は魂のみで語りかけていたのだ」

 

「そんな……なら、せめて龍見さんのお嫁さん達には、龍見さんと最後の別れを」

 

「それも出来ぬ。龍見の死後は我が預かる契約となっている。そこを退け」

 

「退けない……例え、神様相手でも!!」

 

 刀がない今鞘を代わりに構えるしかない一刀だが、神相手でも怯む事はない。神々とて一刀の気持ちは痛いほど理解できる。だが何よりも優先されるのは契約。神々と人との関係とはそういうものなのだ。

 硬直状態が始まった時、一刀の背中を誰かがつついた。

 

「! 誰だ!?」

 

「わぁっっ!!!!」

 

「うわぁっ!??」

 

「キャハハハッ!!!」

 

 振り返ると同時に浴びせられたのは何の意味もないただの大声。驚いた一刀は思わず尻餅をついてしまう。声の主はそれにご満悦なのかピョンピョンと跳ねながら一刀の回りを駆け回る。

 一刀を驚かせたのはおそらくは少女。おそらく、というのはその姿が不明瞭だからだ。見てもまるで砂嵐が掛かったようにその存在の姿のみが見えない。神々も突然の出来事に唖然としていた。

 少女は十分に駆け回った後で龍見へと近付いていく。一刀は止めようとしたが、腰が抜けてしまって動けない。

 

「パパ、起きて」

 

 少女がそう言って龍見の頭を叩くと折れていた左腕が、焼いた傷口が、消えた右腕が治っていく。いやその光景は治るというよりも逆再生を見ているかのようだった。

 

「…………あ、れ? オレ、死んで…」

 

「あ、ああ、良かった……良かったよぉ……たっちゃん生きてたぁ……ふえぇぇん」

 

「坊や、もう、本当に心配させて……グスン」

 

「ねぇ、冥府の王的に今回のはどうなのぉ? ってまさか貴方まで泣いてる?」

 

「……問うな」

 

「パパ、起きた?」

 

「! そうか、そういう事か。おはよう、お前もよく起きたな『マキナ』」

 

 まさかの出来事に歓喜する神々。龍見は自身に起こった事をすぐに理解すると、目を覚まさせてくれた少女の名を呼びながら頭を撫でた。すると姿が不明瞭だった少女に色がついていく。黒くて長い髪に黒い瞳。何処と無く龍見に似た顔立ちをした十歳程度の少女だ。

 

「た、龍見さん……生きているんですよね?」

 

「ああ、生きているさ。一刀君、迷惑をかけたな。さ、帰ろう。神々の皆様は自力でお願いしますね? 土像(ゴーレム)」

 

 かなり大きな土塊の馬が造り上げられる。魔力の方も万全らしい。少女と一刀を馬の背に乗せた龍見は魏へと馬を走らせた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「龍見さん、質問していいですか?」

 

「何が聞きたいのかは予想できるが、言ってくれ」

 

「この子は何なんです?」

 

「前に話した事があったと思うが、オレが契約しているのは四柱の神様と現象に近い神様だって言ったよな。この子がその現象に近い神様だったんだ。今ではこうして立派……とは言えないが神様になった」

 

 龍見が即席で作った知恵の輪を弄り回している少女が神様と言われてもなかなか納得は出来ない。だが先程龍見を生き返らせた力はまさしく神のそれだ。

 

「名前はマキナ。デウス・エクス・マキナだ。その力は時間操作だよ。オレがこれまで死んでも何とかなったのはこの子が死ぬ前に時間を巻き戻してくれていたからなんだ」

 

「こんな小さな子にそんな力が……でも何でこの子は龍見さんをパパなんて呼ぶんですか?」

 

「実質オレが誕生させたようなものだからな。こいつを見てくれ」

 

 龍見は上着を脱いで上半身のみ露出する。そして心臓辺りに手を当て、それを離すとそこには懐中時計が埋め込まれていた。術を使って隠していたようだ。

 

「そ、それは……?」

 

「マキナの本体さ。話すとなかなか長いが、まあ魏までのいい時間潰しになるだろう」

 

 神頼みというものがある。誰もが危機的状況に陥った時に一度はやった事のあるあれだ。これは全く根拠のないものではなく、神様の持つ気、神気を分け与えて頂く事によって自身の運勢を良い方向に導こうという行為だ。

 神気はある一定量ならば人の力を高めたり、運気を上げたりするが、それを越えると毒となる薬のようなものだ。龍見の場合四柱と契約している。通常では有り得ないレベルの神気を常に浴びているのだ。龍見の神気の許容力は常人とは比べ物にならないくらいあるものの、いずれはパンクし害となる。

 

「だからオレは神気を溜め込むためにこれを自分で埋め込んでおいたんだ。普段は幻術で見えないし、触っても分からないようにしていたんだ」

 

「なんで懐中時計なんです?」

 

「……た、体内時計という一発ギャグを」

 

「もう何も言わなくてもいいです」

 

「すまん…………話を戻そうか。通常では有り得ないレベルの神気を浴び続けたこの懐中時計は僅か数年で付喪神となったんだ」

 

 付喪神は長い年月をかけて物に魂が宿ったものとされる。ただの付喪神ならば妖怪の類いとして扱われるが、この懐中時計は神気を浴び続けたのだ。その力は神々と変わらないものになっていた。それが他ならぬ龍見の復活、時間の巻き戻しだった。そして今回、遂に自身の意識を手に入れた事によってその力は増大された。龍見のみの時間を長時間巻き戻せるほどに。

 

「名前のデウス・エクス・マキナは、ある種人の手によって造られた神様だから名付けたんだよ」

 

「できたー!!」

 

「おっ、よく頑張ったな。ご褒美の飴ちゃんだ」

 

「やったー!!」

 

「この子が神様ですか……」

 

「ミシャグジ様だって神様らしくないだろ。神様ってのは意外と威厳がないものさ。特にマキナは生まれたてだからな。それに気が付いていないかもしれないが、君も恩恵は受けたんだぞ。拳、怪我したんだろ」

 

「! な、治ってる。でも何で知って……」

 

「拳からマキナの魔力を感じてな。さ、話は終わりだ。魏まで飛ばすぞ」

 

「ゴーゴー!!」

 

 戦いは終わった。二人の御使いの手によって。




やっぱり主人公には頑張ってもらわないとね。どうやっても一般人の一刀君ですが、最後のトドメだけは持っていってもらいたかった。
次回、エピローグとなります。


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エピローグ

「はいそこ、その瓦礫はこっちへ持ってこい。そっちの穴埋めは注意しろよ」

 

 決戦から十日ほど経って、今は各国が左慈によって滅ぼされた四州と南蛮の復興に務めていた。四州も南蛮も住んでいた民の殆どは魂を抜かれ生ける死人となってしまっていたが、ハデスの助力とマキナの巻き戻しもあり半分近い人は蘇生に成功した。

 だが残り半分に関しては間に合わず死なせてしまった。その大量の死体はイシュタムが持っていった。本来そのような役目はないのだが、頑張った龍見へのご褒美らしい。

 

 そんな龍見だが、現在は現場監督のような立場で指示を出し、土像(ゴーレム)を各地に配置して人員不足を解決しようとしている。ただ龍見本人は戦いで無理な服用をした薬の副作用によって脚が完全に動かなくなっていた。最低限動くまで半年、完治までは一年は掛かるようで今はもっぱら椅子に座っている。

 

「龍見! お水を持ってきたのじゃ!」

 

「ありがとう美羽。お前も疲れたろ。少し休むか?」

 

「うむ」

 

 その言葉を待っていましたとばかりに龍見の膝の上に飛び乗る美羽。頭を胸元へ押し付けられたため龍見も思わず撫でてしまう。

 

「そっちの調子はどうだ?」

 

「それなりという感じじゃな。ただやはり人数は足りぬ」

 

「なら土像(ゴーレム)の数を増やそうか」

 

「あまり無理しては駄目じゃぞ? マキナに力を回しておると聞いたぞ」

 

「あんくらいは些細なもんだよ」

 

 生まれたばかりのマキナに世界を見せてやりたいという龍見の考えで、マキナはずっと肉体の維持が行われている。その維持に掛かる魔力は龍見の魔力の半分とかなりのものだが、それでも龍見には数万の土像(ゴーレム)を維持するだけの余裕があった。

 

「では七乃にはそう伝えておこう」

 

「しかしなんだ、美羽が協力してくれるとは思わなかったな」

 

「仮にも我が姉である麗羽の土地じゃったからな……では妾はもう行くとしよう。あまり休むと怒られるのじゃ」

 

「ああ、気を付けてな……それと美羽、夜寂しかったらいつ来てもいいんだぞ」

 

「ば、馬鹿者!! このような場所で何を言うか!!」

 

「いいじゃねぇか。夫婦なんだから」

 

 周りから見れば軽い冗談のようだが、本人としては至って真面目だ。龍見の脚が不自由になってからというもの、妻達は皆遠慮がちになってしまったのでなるべく龍見から誘うようにしている。脚は動かなくとも腰は動く、らしい。

 

『龍見、聞こえるわね? 増員を要求するわ』

 

『唐突だな華琳。まあいい、数は?』

 

『五千は欲しいわね』

 

『ったく、病人を労れよ。五千だな。すぐに用意する』

 

『自業自得だというのによく言えたものね。待っているわよ』

 

 時折こうして増員の要求が入っては新たな土像(ゴーレム)を生み出して供給している。どの陣営にも術は指南したので土像(ゴーレム)程度なら生み出せるものの、精度や耐久性に関してはやはり龍見には届かず、結果として各陣営の術師が無理をするよりも龍見が各陣営に供給する方が効率が良くなっていた。

 ものの数十分で大量の土像(ゴーレム)を生み出した龍見はそれを各地へと送り出す。龍見自身も移動のために土像(ゴーレム)に抱えあげられた。向かうは魏と呉が共同作業をしている地域だ。

 

「見えてきたな。なんか騒がしいけど、大丈夫か?」

 

「だーかーらー!! こっちの石材では加工に時間が掛かると言ってるじゃないの!! 陸遜、あんたのその無駄乳に詰まった栄養を少しは頭に回しなさい!!」

 

「そ、そこまで言わなくてもいいじゃないですか荀彧さん! 私達の復興作業は民のためのものですよ! 彼らが安全に過ごせるようにするのは大切です!」

 

 どうにも使う建材について争っているらしく、桂花は手早く建設を済ませる事のできる建材の使用を提案しており、穏は後々民が住んだ時に安全に過ごせるよう丈夫な建材の使用を提案しているらしい。

 

「あれ龍見、わざわざ来たのかい?」

 

「まあな。んで炎蓮、あれは放置するのか?」

 

「放置したら使うもんが決まらないだろ。ここはあんたに任せるよ」

 

「ったく、こういうのはお前や華琳の役目だろうに。華琳、お前はそれでいいのか?」

 

「下手に私達が口出しするよりも、中立の貴方が収めた方が二人とも納得するわ。頼んだわよ」

 

「へいへい。おーい、二人とも。そのくらいにしておけ」

 

「あっ、龍見。何しに来たのよ」

 

「龍見さーん! 荀彧さんが酷いんですよー!」

 

「はぁっ!? あんたが非効率な事言うからでしょ!!」

 

「それくらいにしておけって」

 

 また言い争いを始めそうな二人を窘める。現状、どちらかの案を選ぶ事になりそうだが、龍見の考えは既に決まっていた。

 

「建材の話だったよな。今回は桂花の案で進めてくれ」

 

「ふん、当然ね。よく分かっているじゃない」

 

「えー、そんなぁ……」

 

「ただ桂花は全ての強度や安定性なんかを確認しろよ。分かっているとは思うが、お前の案だ。責任は最後まで取るんだぞ」

 

「言われるまでもないわ」

 

「穏、お前の考えも間違っちゃいないが、如何せん今は家を無くした人が多すぎる。まずは仮でもいいからその人達の家を用意してやるのが先だ。分かってくれるよな?」

 

「うぅ、龍見さんがそこまで言うなら」

 

「嫉妬しそうなくらい信頼されているわね、龍見」

 

「茶化すな冥琳。それより蓮華の姿が見当たらないんだが、どこだ? 稟と凪もいねぇし……」

 

 普段龍見が来れば真っ先に近寄ってくる妻三人が不在という珍しい状況に龍見は首を傾げた。特に蓮華は呉の監督役といってもいい立場の人間だ。

 

「その三人なら一刀と一緒に蜀の担当場所へ向かっているわ」

 

「またなんで」

 

「あちらの現状確認よ。テレパスで通じ合えるとはいえ、人の目を通した方が分かる事があるもの。足りない事があれば手を貸す必要もあるのよ。蜀の子達って無理しがちでしょう?」

 

 確かに蜀から増員の依頼が来る事はほぼない。担当場所は魏と呉が共同作業をしている此処よりも圧倒的に狭いが、それでも消耗品の土像(ゴーレム)は不足するはずだ。

 

「念のためオレも見てくるか」

 

「そうしてきな。あ、どうせならあっちの子達と盛ってくるってのも」

 

「炎蓮……明日の順番飛ばすぞ」

 

「ごめんよ。それは勘弁しておくれ」

 

「蓮華と親子だってのにどうしてこうも違うんだか……じゃあオレはもう行くからな。作業、気を付けるんだぞ」

 

 再び土像(ゴーレム)に担がれて立ち去っていく龍見を炎蓮は手を振って見送る。

 

「……行ったね。じゃ、私も準備してくるとするかね。穏、荀彧、時間稼ぎご苦労様」

 

「はい、これくらい何でもないですよ」

 

「意外とあの男を騙せるというのが分かっただけ、いい収穫だったわ」

 

「曹操、ちょっとの間ここは頼んだよ」

 

「こちらこそ、一刀を頼むわよ」

 

 炎蓮は馬に跨がると急いでその場を後にした。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「えっ、もういない?」

 

「はい、もう戻られましたよ」

 

 蜀の担当場所にやってきた龍見に告げられたのは蓮華達四人の不在という報告だった。いつ向かったのか知らない以上、すれ違いになってしまうのもの不思議ではないが、だとすると途中遭遇しているべきなのだ。まさか全員が寄り道しているとも考えづらい。

 

「ふーむ……」

 

 ふと龍見はある事に気が付いた。雛里、紫苑、焔耶の姿がない。たまたま目に見える範囲にいなかったというわけでもなく、近辺に魔力や気の反応すらない。

 

「桃香さん、隠し事していますよね?」

 

「はい!」

 

「えぇ……いやそこは普通ははぐらかすものでは?」

 

「私が隠し事しようとしてもすぐにバレちゃうので。あっ、でも何を隠しているかは秘密ですよ。言っちゃ駄目って約束しているんです」

 

「はは、そうですか」

 

 口の前で指でバッテンを作っている桃香に龍見は笑う事しかできなかった。隠し事が苦手でも口を閉ざされては何も聞き出せない。

 

「なら妻達がどこにいるかも秘密ですか?」

 

「それなら恋さんのところですよ」

 

「恋の? 成る程、ありがとうございます。何を企んでいるのやら」

 

「楽しそうですね」

 

「ええ、とても楽しみです。っとと、忘れるところだった。蜀の現場は何か足りないものはないですか? 人員不足なのに無理していたりしませんよね?」

 

「うーん、特にはないですかね。龍見さんが用意してくださったあの土像(ゴーレム)も龍見さんの人形さんが整備していますから」

 

「あれまだ活動していたんですか。仕事なんてもうないのに、我ながら律儀だな」

 

「ほぇ? 術の指南ならいつもしてくれていますよ」

 

「……ついでなんで自動(オート)人形(マタ)を作った本当の目的を教えましょうか」

 

 龍見の自動(オート)人形(マタ)は極めて龍見に近い形で作られている。素材には龍見の血肉も加えられており、それ故に龍見と同じように術も使える。だがただ術の指南をするだけならそこまでの本当は機能は必要ないのだ。

 

「ならどうしてあんなにも龍見さんそっくりに作ったんですか?」

 

「簡単に言えば身代わりです」

 

 龍見はマキナの力で時間を遡り生き返る事が出来た。しかしそれはマキナの力がある程度回復するまで期間が空かないと発動する事が出来なかった。もし短時間で二度死ねば本当に死ぬ。

 それを防ぐのがあの自動(オート)人形(マタ)達だ。一体につき数分程度だが死後蘇生が可能だった。それだけの時間があれば致死状態から術で生き長らえるのも比較的容易だ。

 

「でもでも、あの道士の人との戦いだと使わなかったんですよね? 何でですか?」

 

「発動条件の問題ですね。オレの死後、すぐに復活してはまだ近くにいるであろう敵に殺されるのが落ち。だからある程度の時間を空けてから復活するようにしておいたんです。まあマキナのお陰で不要になりましたけど」

 

 この事は完全に龍見だけの秘密だった。もしも誰かに知られてしまえばそこから左慈にまで伝わってしまう可能性がゼロではない。そうなれば間違いなく人形は破壊されただろう。

 

「さて、あの人形どもが整備をしているなら問題ないでしょう。でも何かあったら言って下さいよ。無理していると愛紗さんに怒られますよ」

 

「えへへ」

 

「……怒られてますね」

 

「怒られちゃった」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 十数分ほど桃香に説教をした龍見は董卓軍の担当場所へと戻ってきた。そこでは龍見の帰還を知っていたと言わんばかりに月が待ち構えていた。大方詠にでも教えてもらったのだろう。

 

「お帰りなさい。少しお話ししませんか?」

 

「ああ、いいとも」

 

 まだまだ残る瓦礫を椅子代わりにする。思い返せばこうして龍見と月だけで話す事など相当久し振りとなる。

 

「色々、ありましたね」

 

「何言ってんだ。まだこれからだよ。この復興が終われば誰かが天下統一へ向かい出す。そうなればまた戦いの日々さ」

 

「そうですね。私も頑張って、少しでも平和な日々を続けられるようにしないと」

 

「ああ、みんなも協力してくれるさ。勿論、オレもな」

 

「頼もしいです。でも大丈夫ですか? 色々な国に奥さんがいるのに戦うなんて」

 

「そこはまあ、あれだ。傷付けずに勝つさ」

 

「ふふふ、頑張って下さい……龍見さん、一つ聞いてみたかった事があるんです」

 

「何かな?」

 

「こっちで奥さんが出来て、お子さんも生まれて、きっと龍見さんはこっちでずっと過ごす決意が出来ているんだと思います。でも、天に未練はないんですか?」

 

「そんな事か。ないよ。いつでも『帰れる』んだから当然だろ」

 

 しばし時が止まる。月は頭の中でも龍見の言葉を何度も反芻し、数分してようやく口を開いた。

 

「か、帰れるって、天に、そんな簡単に!?」

 

「これでも苦労はしたんだぜ。最初から不思議だったんだ。何故こっちのものを手にしただけでこの世界へと来れたのか。あの銅鏡がこっちへ移動する鍵のようなものかと思っていた。一刀君もこっちに来る前に銅鏡が関係した事件に巻き込まれていたそうだからな」

 

「そういう言い方をするという事はそうではなかったんですね」

 

「ああ。銅鏡が原因とするなら八尺のような怪異やサキュバスやワイバーンのような魔物がこっちに来たのも銅鏡に触れた事が原因となるが、それはあまりにも考えづらい。だからオレは捕獲した八尺を徹底的に調査してみる事にした」

 

 こいつの事だよ、と言って龍見が取り出したのは半透明の小瓶だ。かつて魏で流琉を襲った八尺が入った小瓶。龍見は流琉へ供養したなどと言ったが、それは真っ赤な嘘。本当はしっかりと保管していたのだ。

 

「うわぁ、ちっちゃな人が入ってる」

 

「狂暴な怪異だが、まあオレの敵じゃない。んでこれを調査したら面白い事が分かってな。ワームホールを通った痕跡があったんだ」

 

「わぁむほうる?」

 

「異世界へと繋がる穴だよ。後に狩ったワイバーンからも全く同様な反応があった。だから使い魔を使って色々と調べたら、こっちと天を繋ぐ穴があったんだよ」

 

「それじゃあ、それを使えば誰でも天に行けるんですか?」

 

「詳しい調査をして安全性が確認できたらな。何れは恋達を連れて両親に挨拶に行くつもりだよ」

 

 もうすっかり縁が切れているものの、両親である事に変わりはない。龍見の出来る数少ない普通の恩返しとして結婚して立派な旦那として生きているのを証明するつもりだ。ただ結婚相手の数が一般的ではないので、そこに頭を悩ませていたりする。

 

「そうですかぁ。いつか、私も行ってもいいですか?」

 

「当然だろ。うちの姫を放っておけるかよ」

 

「えへへ……もういい時間ですね。龍見さん、行きましょう」

 

「何処へ?」

 

「恋さん達のところです」

 

 月は瓦礫から飛び降りると少し駆け足で移動を始めた。龍見も土像(ゴーレム)に抱えられながら月を追い掛ける。着いたのは一つの大きなテント。食事をするための場所として用意されたものだったはずだ。月は中を覗くと龍見へと手を振った。

 

「準備出来ていますよ!」

 

「準備って、一体何の事なんだ……邪魔するぞ」

 

 テントに入るとそこにはエプロン姿の妻達、既に着席して苦笑いしている一刀、そして食卓には溢れんばかりの肉料理が並んでいた。ただ何故か恋の姿は見当たらない。

 

「えっ、えぇっ?」

 

「ども龍見さん、招待されてます。これ龍見さんの要望なんですって? 少し多くないですかね?」

 

 そういえば恋から帰ってきたら何を食べたいか聞かれていたな、と龍見は思い出す。

 

「いや一刀君、流石にこれはオレも予想外だ」

 

「何言ってんだい! 男二人、こんぐらい食えてなんぼだよ!」

 

「それに妾達も食べるのじゃ。きっと問題ないのじゃ」

 

「炎蓮、美羽、二人も時間稼ぎでオレの相手をしていたのか」

 

「時間をかけて美味しい料理を作りたかったの。色々と振り回してごめんなさい」

 

「いや蓮華が謝る事でもないさ」

 

「ささ、旦那様。こちらへお座り下さい」

 

「どうせなら私を椅子にして頂いてもいいんですよ?」

 

「凪、稟を少し叩いてやってくれ」

 

「はい!」

 

「待って!? ご主人様以外に叩かれても嬉しくないわ!!」

 

「だからこそ仕置きになるんだろうに。龍見、全員が一品以上作っているんだ。味わって食べろよ」

 

「ありがとよ、焔耶。なかなかその格好も似合うな」

 

「そ、そうか? そこの白の御使い……一刀が教えてくれたものなのだが、そうか、似合っているか」

 

「先生! 私はどうですか! 紫苑さんに協力してもらって自分で縫ったんです!」

 

「雛里ちゃんは呑み込みが早くて楽しかったわ。あなた、私の感想も聞かせてほしいわ」

 

「自分でか! 凄いじゃないか。よく出来ていて可愛いぞ。紫苑は、その……いいぞ」

 

「龍見ったら今更何を照れる事があるって言うのよ。ここにいる全員を抱いたくせに」

 

「それとこれとは話が違うんだよ。って地和もよく似合っているな。流石はアイドル」

 

「ふふーん、当然ね」

 

「龍見、お待たせ」

 

「おぉ、恋。何処に」

 

ーードンッッッ

 

「……こ、これは?」

 

「豚の丸焼き。裏で焼いてたら遅れた」

 

 目の前の肉塊があまりにも巨大すぎて言葉を失ってしまう。恋のエプロン姿の感想すら出てこない。だが恋は驚く龍見の顔に満足したのか少し誇らしげだ。

 

「要望通り、肉料理」

 

「お、おお、完璧だよ……でも、食いきれるか不安」

 

「龍見、安心して。璃々とマキナと恋歌も応援してる」

 

「お父さん頑張って!!」

 

「パパ、ファイトだよ!!」

 

「あーぅっ!」

 

「あ、はは、はははは……」

 

 大量の肉料理というかつてないほどの難敵を前に、龍見は乾いた笑いをこぼしながら肉に貪りついた。妻達と娘達の応援を背に無謀な戦いに挑んだものの、案の定轟沈するのは後の話。




一先ずこれにて龍見のお話はお仕舞い。今後はちょくちょくと番外編を更新していく事になります。エロい話からくだらない話、帰省した話なんかも書くとは思います。

さて、では最後に。これまでありがとうございました。


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現代之一

今回より現代編へと少し入っていきます。
なおこの現代編、恋姫キャラよりも圧倒的にオリキャラが多数出演する事となっておりますので、苦手な方はご遠慮下さい。


 ある山中にて龍見は巨大な穴、現代へと繋がっているワームホールを調査していた。地面にぽっかりと開いたそれは直径20mはあり、まるで生きているかのように小さく拡大と縮小を繰り返している。

 龍見はそれに手を突っ込んだり、紐を付けた水入りの瓶を落としてみたりと、まるで小学生の実験のような事を何度も行い、時折飛び出してくる怪物を片手間で処理している。まだ脚は回復しておらず、杖がなくては歩けない状態だというのにそれを簡単に行うのだから、自称現代最高の術師は伊達ではない。

 

「不安定だな。オレらの時代の地球に繋がっているのに間違いはないが、出口がバラバラだ…………しかしこうして入り口は固定されている。ふーむ……なら出口も固定出来るよな。まずは座標を日本に固定しないとな。これは直接見るのが早いか」

 

 さも当然のようにワームホールへと首を突っ込んだ龍見の目の前には目まぐるしく変化する風景が広がっていた。時折海中や砂漠に出るものの、あまりの早さに顔に水や砂が付くような事はない。だが何百回に一度、数秒ほど景色が固定される瞬間がある。この瞬間こそがワームホールが安定する時だ。これが日本と重なるのを龍見はただただ待つ。

 

「! 空間掌握! 固定開始!!」

 

 丸半日顔を突っ込み続けてその時がやってきた。変化しようとするワームホールを無理矢理固定し、魔力を使って安定するまで押し付ける。しかしながら別世界を繋ぐほど強力な力を持つワームホールには流石の龍見といえども力不足だ。

 

「しゃーねぇ。マキナ、力を貸してくれ」

 

「うん!」

 

 何処からかひょっこりと顔を出したマキナがワームホールに手を触れると、完全にワームホールの動きが停止した。時間を巻き戻す事が可能な彼女にとって時間を止めるなど朝飯前という事だ。

 

「よくやったなマキナ。今日は恋に頼んで餃子三昧だ」

 

「わーい!! 恋ママの餃子好きー!!」

 

「……あれ? 抜けない」

 

 なお時間を止めるという事はワームホールのすり抜けも不可能になるわけで、龍見はワームホールと共に空中に固定される事となった。この後龍見は泣く泣く一人で時間の止まったワームホールが活動しても座標が変わらないよう固定化作業を続けた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「という事でオレらの国に行けるようになりました。はい拍手!」

 

ーーパチパチパチパチッ

 

「えっ、あの、本当ですか?」

 

「どうした一刀君。もっと喜んでもいいんだぞ」

 

「いえ、突然でしたから、何というか、感情が追い付いてなくて」

 

 困ったような嬉しいような顔をした一刀の隣では華琳が微笑んでいた。

 

「良かったわね、一刀。それで私と一刀をわざわざ洛陽にまで呼び出してそんな話をするという事は、私達をそこへ連れていくという意味でいいのかしら?」

 

「そうだ。約三年はこっちで過ごしていたんだ。たまには帰郷しないとな。一刀君も家族に華琳を紹介した方がいいかと思ったんだ。軽いお節介だよ。そしてオレも誰か連れていこうと思っているんだが、月はどうだ?」

 

「ええっ!? ど、どうして私なんですか?」

 

「前に行きたいって言っていたのは月だろ」

 

 誘われるのは龍見の妻達だと思っていた月にとっては突然の誘いだった。確かに行きたいと言った事はあるが、まさか一番手とは思ってもみなかった。思わず恋や地和を見てしまうが、二人は全く構わないという顔をしている。

 

「詠、今は仕事もないんだ。いいだろ?」

 

「そんな長期間という訳じゃないでしょ。構わないわ」

 

「えっと、えっと……お、お願いします」

 

 こうして最初の現代日本へと渡航者は決まった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「この穴? 本当に大丈夫なの?」

 

「オレが何度も往復している。安全は保証するさ」

 

 数日して準備を済ませた四人はワームホールの元へとやってきた。見送りなどはいない。ここまでの道は龍見が居ないと来れないように色々と細工をしてあるのだ。

 理由は単純に事故によって現代へと放り込まれない為。そして変な考えを持って勝手に現代へと行かない為だ。主に後者は真桜のような人物が該当する。

 

「全員手を繋いで。せーのっ、で入るからな。いくぞー……せーのっ!!」

 

 手を繋いだ四人はジャンプをしてワームホールへと飛び込んだ。そして次の瞬間にはワームホールから吐き出され、地面へと着地する。緑の芝が生い茂り、少し遠くには立派な校舎が見える。

 

「ここって、フランチェスカの中庭じゃないですか!? こんなとこにこんなものがあって大丈夫なんですか!?」

 

「おう、問題ねぇよ。誰も近寄れず、誰も感知出来ないようにオレがやれる限り最強の結界を張ってある」

 

「地面にある穴に飛び込んだのに地面にある穴から飛び出すなんて不思議なものね。それにしてもここが一刀の故郷……何というか、空気が違うわね」

 

「まだここは綺麗な方だが、現代の空気は汚れているからな。月、何ともないか?」

 

「はい。それよりあの大きな建物は? お城か何かですか?」

 

「いや私塾みたいな施設だ」

 

「「あれで!?」」

 

 小さな領主の城よりもずっと立派なものが私塾などというのは二人にとって衝撃的だった。天、現代日本が自分達の時代よりもよっぽど進んでいるとは聞かされていたが、ここまでとは思っていなかったらしい。

 

「龍見さん、こんなところに立っていたら誰かに見つかって警備呼ばれますよ。部外者なんですから」

 

「その辺りも対処済みだ。一般人にオレらの姿は見えていないよ。さてと、早速だが一刀君の実家に行こうか」

 

「行くって、方法はどうします?」

 

「知り合いから車を借りよう。裏の知り合いならすぐに応じてくれるはずさ。少しテレパスするから待っててくれ。この周辺だと……あいつのところの支社から借りるのが早そうだ」

 

 龍見はとある人物の魔力を探す。日本においては比較的大きな力の持ち主の為、探すのに苦労する事もなかった。

 

『よう、十四代目。久し振りだな』

 

『…………嘘やん』

 

 テレパスの相手は日本国内の裏社会において龍見が信頼しているうちの一人、十四代目安倍晴明だ。女性かつまだ大学生と若い彼女だが、アベノ製薬という日本有数の製薬企業の跡取りであり、裏組織の陰陽連盟の会長でもある。その実力は裏社会の中でも上位に位置する。

 

『何が嘘かは知らんが、龍見だ。声と魔力で分かるだろ』

 

『せやかて、たつ兄は三年前から行方不明で』

 

『この業界で行方不明なんぞ日常茶飯事だろ。それより頼みがある。フランチェスカ学園まで車を一台寄越してくれ。まだ学生身分だろうが、それくらいはやれるな?』

 

『ちょい待って。フランチェスカやな。うちも向かう!』

 

『お前は今本社付近だろ。待っていたら日が暮れちまう。さっさと車だけ寄越してくれればいい。出来ないなら他に頼む』

 

『…分かった。フランチェスカに車を一台やな』

 

『ああ。突然済まなかったな』

 

 龍見は用件をさっさと伝えるとテレパスをあっさり切った。あくまで必要なのは移動手段であり、裏と必要以上に関わるつもりはなかった。

 

「正門に行こう。すぐに迎えが来るはずだ」

 

 四人は車が来るまでの時間、正門で話し合っていた。主に月と華琳が質問をし、龍見と一刀がそれに答える形だ。正門ではたくさんの学生が行き交い、道路では無数の車やバイクが通行する。人の数や見た事のない物体は彼女らにとっては驚きでしかなかった。

 そうやって話をしていると二台の車が正門前で停車した。降りてきたスーツ姿の男達はキョロキョロと辺りを見回している。

 

「ったく、このくらいにも気付けないのか」

 

 龍見が術によるステルスを薄くすると一人が漸く気が付いた。

 

「馬淵様、お久しぶりです」

 

「ああ。用件は伝わっているな? 暫くこの車を借りるぞ」

 

「はっ! それと先代と十四代目より伝言です。事が終わり次第顔を見せてほしい、との事です」

 

「考えておこう。三人とも、乗ってくれ」

 

「うわぁ、椅子がふかふかです」

 

「こんな鉄塊があんな速さで動き回るなんて、どういう仕組みをしているのかしら」

 

「一刀君、家をナビに入力してくれ。使い方は覚えているよな?」

 

「大丈夫、だと思います。龍見さんこそその足で車の運転が出来ますか?」

 

「心配無用。普通に運転するぶんには支障はないさ。じゃあお使いご苦労さん……あいや、そういえば金がなかったな」

 

「馬淵様、先代から資金と偽造免許証は頂いております」

 

「おっ、流石。分かってらっしゃる」

 

 百万の札束と偽造免許証を平然と受け取る龍見の姿に、一刀は改めて龍見が別世界の人間なのだと感じた。

 龍見は車を走らせた。ナビを見る限り一刀の実家へは高速を利用しても五、六時間は掛かりそうだ。月と華琳には慣れない車旅。途中の休憩を何度か挟む必要を考えると予定時刻に一時間追加した方がいいだろう。

 

「わぁ~、速いですね!!」

 

「複数人をこんな速度で運べて、しかも揺れが少ないなんて……」

 

「揺れはこの国の道が整備が行き届いているから少ないのさ。他の国だとこうはいかない」

 

「二人とも、疲れてない?」

 

「はい!」

 

「月は普段より元気そうね。ああ、私も疲れてはいないわ。馬に比べたらずっと快適よ」

 

「おうおう、二人とも元気なこって。だが慣れない乗り物に乗っているんだ。無意識に疲れは溜まるだろうさ。休みは定期的に取るぞ」

 

 宣言通り何度かサービスエリアや道の駅での休憩を挟んだが、見た事のない施設や光景、食事などに興奮を隠しきれない二人は休む必要のないくらいの体力を見せた。逆に案内していた一刀の方が疲れて最後は車内で熟睡していた。龍見は久方ぶりに購入した煙草をふかし、楽しくドライブを続けた。

 想定されていた時間よりも少し遅く、一刀の実家付近へと着いた。日はすっかりと落ち、街灯と家々から漏れる光が道を照らしていた。

 

「夜なのに、明るい……」

 

「火とは違う灯りね。まるで術による灯りだわ」

 

「こう明るい夜道も久し振りだな。文明ってのはやっぱすげぇわ」

 

「あっ、龍見さん。そこがオレの家です」

 

 立派な門構えをした屋敷。隣には道場も併設されている。まだ灯りが灯っているので誰か起きているのだろう。車を門のすぐ傍に停め、四人は下車した。

 

「よし、行ってこい一刀君。何かあってもオレが助け船を出してやる」

 

「はは、心強いです……ふぅ、行きます」

 

 約三年ぶりの実家に緊張しながらもインターホンを押す一刀。中からドタドタと足音が聞こえてきて、戸が開かれる。

 

「こんな時間にどちら様…………えっ……?」

 

「た、ただいま。母さん」

 

「かず、と?」

 

「うん……」

 

ーーパシンッ

 

「この馬鹿息子!! 親をこんなに心配させて……!!」

 

「ごめん、母さん」

 

 平手打ちをされ、抱き締められ、一刀はただただ母の気持ちを受け止めていた。

 

「おーい母さん、何があった…………一刀? 一刀か!?」

 

「父さん、ただいま」

 

「そうか帰ってきたのか! ああ、良かった。無事で何よりだ! これまで連絡も寄越さず何があったんだ?」

 

「怒らないの?」

 

「もう母さんに怒られたんだろ。父さんはお前が無事なだけで満足だよ。それでこれまでどこに居たんだ?」

 

「失礼。それについては自分が説明しましょう」

 

 親子の再会を邪魔しないよう門の外から様子を見ていた龍見だったが、あの非常識な出来事の説明は自分がする必要があると表に出てきた。その姿を見た一刀の父も母も酷く驚いていた。それは見知らぬ人が出てきた事による驚きというよりも、一刀を見た時の驚きに近かった。

 

「君は、馬淵君か?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「いやー、まさか佑の奴がお二人のお世話になっていたとは。いつもありがとうございます」

 

「一刀と同時に行方不明となりましたから及川君も心配していましたよ」

 

 何があったのか説明するのに立ち話というのもなんだという事で、一刀の実家に上げてもらった龍見達はお茶を貰っていた。

 

「では今回の事件について説明しましょう。はっきり言って一般常識からすれば有り得ない事ですが、よろしいてますか?」

 

「ええ、お願いします」

 

「タイムスリップという言葉をご存知ですか? オレも一刀君も今回それに巻き込まれ、過去へと飛ばされました」

 

「「……へっ?」」

 

 拉致、誘拐監禁、はては事故によって何処かに閉じ込められていた等という事を想像していた一刀の両親は共に変な声が漏れてしまった。

 

「世の中色々と隠されているものでして、俗に裏と呼ばれている社会には魔法等という一般的には物語の中でしか存在しえないものが「ま、待って下さい」何でしょう?」

 

「あの、もしかしておかしな薬を使われて」

 

「母さん!! 龍見さんに失礼だよ!!」

 

「いやいや一刀君、これが普通の反応だよ。では少しだけ魔法をお見せしましょう」

 

 龍見がそう言った直後、一刀の両親の頭の中に突然自分達の座っている姿が映し出された。自分達の目はしっかりと龍見の姿を捉えているのに、脳内には龍見の見ている光景が映っている。

 

『テレパスという魔法です。オレの見ているもの、思考を相手に伝える事が可能です。信じてもらえましたか?』

 

 更には喋ってもいない龍見の言葉が脳内に響く。二人は黙って頷くしかなかった。

 

「ありがとうございます。では話を戻しますが、タイムスリップに巻き込まれたオレ達は俗に三国時代と呼ばれる時代に飛ばされました」

 

「ちゅ、中国の、あの?」

 

「その三国時代です。原因ですが、事故ですね。交通事故に巻き込まれたのと変わりません。こうして帰ってこられたのは幸運と言ってもいい」

 

「龍見さんが居なかったら帰ってくるなんて不可能でしたけれどね」

 

「そこについては一刀君の運が良かったよ。自慢じゃないが、オレ以外の裏の人間だと帰ってくるのは無理だったな。さて、何処で過ごしていたのかはこれで理解してもらえましたか?」

 

「ええ……まあ……では、そちらの女性二人は三国時代の?」

 

「そうです。観光ってとこですかね。あっちとこっち、もう自由に行き来可能ですから」

 

「はぁ……」

 

「ここからは一刀君、しっかり話すんだぞ」

 

「そ、そうですね。父さん、母さん……こちら、俺と結婚する事になっている華琳です!」

 

「お義父様、お義母様、初めまして。姓は曹、名は操、字は孟徳、真名は華琳と申します。一刀の妻とならせて頂く者です」

 

「「…………」」

 

 先程、あまりにも非現実的な説明を受け、非現実的な体験をした一刀の両親。だがそんなものが全て吹き飛ぶような衝撃。思考が追い付かずに完全に固まってしまった。行方不明の息子が帰ってきたら曹孟徳を名乗る嫁を連れてきました。

 その光景に龍見は口を押さえながらクスクスと笑っていた。

 

「龍見さん龍見さん」

 

「くくっ、なんだ、月?」

 

「楽しいですか?」

 

「とても愉しいよ」




そういえば一刀が嫁を両親に紹介するシーンって他だと見た記憶がないな、と書きながら思っていたのです。


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現代之二

とりあえず一度現代編終了!
なお今回はがっっっっつりオリキャラが登場します。


ーーチュンチュン

 

 北郷宅で一晩を過ごした龍見はむくりと起き上がった。昨晩は凄かった。一刀の嫁紹介を皮切りに父親は宴だと騒いで酒を浴びるように飲み、母親は娘が出来たとおそらくは自分のお古の洋服を華琳に着せていた。ついでに月も巻き込まれていた。その光景を龍見は笑って眺めながら酒の肴にしていた。

 まだ誰も起きていないようで家の中は暗い。時計を見るとまだ午前五時だ。洗面所へ向かい、顔を洗って、使いなれた短刀で髭を剃った龍見はその短刀を天井へと投げ付けた。

 

「ぐあっ!!?」

 

「電撃よ、走れ。ライトニング」

 

 人の唸り声が響いた。更に龍見は術で短刀から電撃を放つ。龍見にとっては軽い術でもその電流は凄まじい。天井が外れ、黒焦げになった人が落ちてきた。生きてはいるが重傷だ。

 

「朝っぱらからいい迷惑だ。てめぇ十四代目の式神だろ」

 

「…………」

 

 無言で倒れていた人は溶けるように消えてなくなってしまった。それが何よりの返事と言えるだろう。家の外にはいくつか人の気配がある。龍見は壊してしまった天井を直しながらどう対処をするか考えていた。

 

「今日帰る予定だったのに、帰すつもりはないんだろうな……無駄とは思うが、話し合ってみるか」

 

 玄関から表に出ると無数の黒ずくめの集団と長い黒髪をした和服の美女、十四代目安倍晴明が待っていた。

 

「えらい久し振りやね、たつ兄」

 

「失せろ。今は機嫌が悪い。いくら十四代目とはいえ容赦はしないぞ」

 

「昨日車と金と免許を用意したのに?」

 

「これまで十分な恩は売ったはずだ。お前にも、先代にも」

 

「うちはただたつ兄に一目会いたかっただけなのに、いけずやわ。このまま拐ってしまおうか」

 

「お前程度に出来るとでも?」

 

「この三年間、うちも随分成長したんよ。体も、実力も!! 行け!! たつ兄を引っ捕らえい!!」

 

 周囲に控えていた黒ずくめの集団が一斉に龍見へと襲い掛かる。尋常ならざるその速度は明命にも匹敵するだろう。

 

「解呪(ディスペル)」

 

 だがたったの一言で黒ずくめの集団は消失した。今のは十四代目の式神であり、通常の陰陽師の式神とは格が違う。彼女オリジナルの複雑怪奇な術式をしており、普通ならば式神達を解呪するなど不可能だ。しかし龍見は例外だ。元より彼女の術式の原型は龍見の考えたものだ。解呪など容易い事だった。

 

「確かに式神の動き、力、それを使役する技術、全てが向上しているが、術式くらい改造しろ。前までの形でオレに通用する訳ねぇだろ」

 

「せやかてこれが一番効率ええもん!!」

 

「怒るな怒るな。もう子供じゃないだから」

 

「ふえぇーん!! うっさい! たつ兄のばーか!! いじわる!! おとんに言いつけたる!!」

 

「お前が怒られるだけだと思うが……」

 

 癇癪を起こした子供のように泣き喚く十四代目安倍晴明。とても女子大生とは思えない。龍見にとっては昔に彼女の世話をしていた頃を思い出して懐かしくなれるのだが、やはり人の家の前でこうも騒がれてはたまったものではない。龍見は彼女に近付くとそっと抱き寄せた。

 

「よーしよーし、兄ちゃんが悪かったな。ごめんな」

 

「うぅっ……ぐすんっ、こ、子供扱いせんといて」

 

「そうか? 俺からすれば十四代目、いや清音はいつまで経っても子供だぞ。だから兄ちゃんにいっぱい甘えていいんだからな」

 

「むぅ~」

 

 不満そうな声は出すものの、しっかり頭を龍見の胸へと押し付けている。ふと龍見は気配を感じて振り返った。

 

「女の人を泣かせるなんて龍見さんも悪い人ですね」

 

「ニヤニヤしながら言うんじゃねぇよ。てか月、随分と早起きじゃねぇか」

 

「これが普段通りですよ。その方をちゃんと慰めてから帰ってきて下さいね?」

 

 そそくさと家へと戻っていく月。いつの間にかしっかりと抱き付いている清音が落ち着くまで龍見は動く事もままならなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「おばさんおかわり下さい」

 

「こら清音。少しは遠慮というものを知りなさい」

 

「いいのよ、おかわりなら沢山あるもの。うふふ、こんなに食べてもらえると嬉しいわ」

 

 八時、少し遅めの朝食である。というものの、一刀の母親が少し気合いを入れて量を作りすぎてしまったので、完成までに時間が掛かったのだ。父親は二日酔いで倒れており、そしてその代わりと言わんばかりに清音は帰らずに平然と食卓に混ざっている。

 

「一般家庭でこれほどの料理を……これが時代の差なのね」

 

「昨日お店で食べたものも美味しかったですけれど、こちらの方が好きかもしれません」

 

「あぁ、やっぱり白米はうめぇ……日本に生まれて良かった……」

 

「がっつり白米食うのも三年ぶりだからな。一刀君の気持ちも分かるぜ。どうせなら米を持って帰るか? 運ぶのならオレがやろう」

 

「マジですか!?」

 

「米くらいなら構わねぇよ」

 

 龍見と一刀がそんな会話をしていると母親はある事に気が付いた。

 

「一刀、向こうに行ってしまうの?」

 

「うん。今は龍見さんのお陰で行き来するのは簡単だし、それに三年間居なかった人間が当たり前のように過ごしていたら世間を騒がせちゃうからさ。あともしこっちで過ごすとなると華琳と離ればなれになるか、戸籍も何もない華琳をこっちに連れてくる事になっちゃうし。だから龍見さんと相談して基本的に向こうで暮らす事にしたよ。月に一回は顔を出すから安心してよ」

 

「一刀がそう決めたなら母さんは何も言わないわ。強いて言うなら、孫の顔はしっかり見せに来るのよ? 華琳ちゃん、頼りない息子だけれども、よろしくね」

 

「任せて下さい」

 

「母さんありがとう。朝飯食ったらもう行くよ。向こうで仕事もあるから」

 

「あらそうなの? じゃあ父さんを起こしてこないとね」

 

「えー! たつ兄も行ってまうん?」

 

「ったりまえだろ。オレなんか子持ちだぞ。重婚だってしてるんだから帰りを待つ人は多いんだ」

 

 さらっと言われた爆弾発言に清音は目を見開いた。清音にとって龍見は兄であり、師であり、そして初恋の相手であった。これまで何度もアプローチを重ねてきたが、全て断られてきた。それは清音に限った事ではなく、裏社会の多くの女性が龍見を求めてきたが、龍見はそれを断り続けていた。そんな龍見に子供が生まれ、更には重婚などという現代では考えづらい状態になっているなど、龍見を知る裏社会の人間が眩暈を起こしてもおかしくはない。清音も一瞬気が遠くなったが、龍見の発言を全て受け止め、それを自分の都合がいい方向へと向ける事で気を保つ事とした。

 

「つまり今更一人や二人増えても同じやな!! うちとアイと、それと楔さんも貰ってや!!」

 

「阿呆。これ以上結婚したらオレの体が持たんわ。好いてくれるのはいいが、妹に手を出すつもりはない」

 

「そうやっていっつも妹扱いしてー! うちはもう二十歳越えてるんやで!」

 

「妹に歳は関係ねぇよ。ほら、こっち来い」

 

 当たり前のように妹扱いをして、清音の頭を撫で回す。最早妹というよりもペットだ。その様子を見た華琳が清音へと囁きかけた。

 

「そいつ、妹扱いしていた袁術って娘にも手を出したわよ」

 

「…………は? ちょいたつ兄、どゆこと?」

 

「く、くび、しまっ……ガクッ」

 

「そーいう演技はええから答えんかいど阿呆!!!」

 

「清音さん落ち着いて! マジで龍見さんの首が絞まってるから!! 死んじゃうって!!」

 

「もう遅いわよ。死んでるわ」

 

「一回ならセーフセーフ」

 

 その後、当然のように復活したがグロッキーな龍見と、二日酔いでグロッキーな一刀の父親を交えたカオスな別れをし、一刀達は外史へと戻るために車を出した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 高速を走る車。龍見は窓を開けて風を浴びて何とか体調を持ち直していた。

 

「一刀君、もう大丈夫だ。ハンドルを代わろう」

 

「なら次の次のサービスエリアで交代しましょう。俺も久しぶりのドライブを楽しみたいですしね」

 

「そうかい? なら存分にアクセルを踏め。追われている」

 

「へぇっ!?」

 

「月だけだと思ったのに、一刀まで気が付いていなかったの?」

 

「かずピーはニブチンやねぇ」

 

「わ、私も気が付いていましたよ!」

 

「なら敵はどこにいるか教えてもらえるかしら?」

 

「えっ、えーっと……」

 

「華琳、うちの姫で遊ぶのはやめてくれ。上だ」

 

 一刀と月は窓からチラリと上空を見た。青空に二機のヘリコプターが飛んでいる。その進行方向はこの車と同じ方向だ。ヘリコプターの速度ならば容易に抜かせるはずなのに、明らかに速度を調節して自分達と付かず離れずの距離を維持している。

 

「しかし二日で襲撃に来るとは情報が早いな」

 

「やっぱり龍見さん関係ですか」

 

「おうよ。こう見えても結構殺し屋に狙われる立場なんだぜ」

 

「安心してええよ。流石にあいつらも民間人が多い高速では攻めてこんわ」

 

「何言ってるんだ清音。もう民間人なんていないぞ」

 

 全員が龍見の発言を理解できずにきょとんとした。だが華琳は殺気で、清音は魔力で周囲の車全てが敵であると判断した。

 

「まさか囲まれているとはね」

 

「えっ、マジで?」

 

「マジマジ。さて一刀君、もう一度聞くが、ハンドルを代わろうか?」

 

「お願いします」

 

「よし来た」

 

 龍見は器用に運転席の一刀を助手席に退かして、左手でハンドルを握る。右手は窓から外に出して掌を前方へと向けた。

 

「吹っ飛べ。エアーボム」

 

 空気弾が前方を塞いでいた二台の車の間に着弾すると、まるでガス爆発でも起きたかのような爆発を起こす。当然前方の車は大破し、道路へと転がった。

 

「一気に行くぞ!!! 何かに掴まれ!!!」

 

 アクセルを踏み込み速度を上げる。後続の車も爆発に驚いていたが、すぐに追走をしてくる。何よりも問題はヘリコプターだ。どれだけ速くしても道なりに進むしかない車に対し、空に道などない。常に最短距離で追い掛けてくるのだ。

 

「うるせぇ蝿だな。グラビティ「待ちなさい。私も少し運動がしたいわ」そうかい? なら頼むぜ華琳」

 

「少し戸を開けるわ。あまり揺さぶらないでよ?」

 

 車のドアを開けて体を乗り出した華琳は大きく腕を振りかぶった。手には光が集中し、それを一気に振り下ろす。光は刃となり、ヘリコプターのプロペラを引き裂いた。墜落の際に隣のヘリコプターも巻き込み、二機は墜落し爆発した。その墜落に動揺したのは後方の車の速度が落ちた。

 

「まだ操作に難ありね」

 

「範囲もだ。無詠唱であの威力なのは評価するが、あの大振りならもう少し広い攻撃範囲でもないと避けられるぞ」

 

「ほぇー、曹操さんは大したもんやな。たつ兄に褒められとる」

 

「えっ、褒めてますか?」

 

「せやで董卓ちゃん。たつ兄は基本的に駄目な部分の指摘しかせんのや。それなのに今は評価するって言うたんよ。これは大変な事よ」

 

「更に速度を上げるぞ。あんまり無駄話して舌噛んでも知らねぇぞ!!」

 

 車体、エンジン、タイヤ、様々な部分に強化の術を掛けて車を飛ばす。限界を越えた時速300㎞。刺客を全て置き去りにし、オービスに引っ掛かりながらもフランチェスカへは行きの半分程度の時間で到着した。

 

「清音、オービスはそっちで何とかしてくれ」

 

「お金」

 

「……オレの口座番号だ。ついでのここの金でプライベートジェットでも買っておいてくれ。車じゃ不便だ」

 

「ええで。いくらあるかは知らんけど、まあ足りんぶんは補填するわ」

 

「龍見さん、もう行きますか?」

 

「待ってくれ。清音に一つ聞いておきたい事がある」

 

「なんや?」

 

「曹操や董卓の性別って、学校でどういう風に習った?」

 

「なんや突然。決まっとるやん。『女』や」

 

「えっ!!?」

 

 驚き動揺する一刀だが、龍見の方は案の定と言わんばかりの顔をしていた。清音は何かまずい事でも言ってしまったのかと少しおろおろしている。

 

「ありがとう清音。おかしな事を聞いて悪かったな。また近いうちにこっちに来る」

 

「待っとるよ。あっ、佑にはこっちから伝えておくで」

 

「頼むよ」

 

 歩き出した龍見の隣へ一刀が駆け寄ってきて話し掛けた。当然聞きたい事は先程の質問と答えについてだ。

 

「さっきの、曹操が女として伝わっているってどういう事ですか?」

 

「私も気になるわね。一刀から聞いてはいたけれど、こちらでは私達は男として伝わっているはずでしょ?」

 

「そうだ。いやそうだった、というのが適切か。気になったのは昨日、一刀君が両親に華琳を紹介した時、あの人達は華琳が女である事について追及しなかった。清音も二人が女なのをごく自然に受け止めていた。おかしいと思わないか?」

 

 もしも日本の三英傑、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の性別が女としたらそれは日本の歴史が変わるほどの大問題と言えるだろう。三國志の英雄達もそれと同じだ。だというのに華琳達は性別について言及されなかった。

 

「つまりこの世界はオレ達の世界でありながら、外史が本来あった正史、三國志の英雄達が男たったという歴史と入れ替わったものと考えられる」

 

「どうしてそんな事が……」

 

「分からん。オレ達正史の人間が外史で影響が出るほどに活躍してしまった事。そしてワームホールによって外史と正史に繋がりが生まれてしまった事。色々と可能性はあるが、断定出来るものはない。でも問題はねぇよ。ただ歴史上の人物の性別が入れ違っている以外は何も変わってないんだ。むしろそこら辺の説明が省けて楽じゃないか。月、手を繋いで一緒に行くぞ」

 

「子供じゃないですから大丈夫です」

 

「安全のため、念のため、だ」

 

 笑いながらワームホールへと入っていく龍見。一刀はそれを楽観的と捉えながらも、自分が考えても特に何か変わるわけでもないのでその考えを受け入れ、龍見に倣い華琳と手を繋いでワームホールへと入っていった。




何か新作書こうか考え中。使うなら龍見と別作主人公であり、設定上龍見の学生時代の先輩である一条要のダブル主人公かと思っていますが、オリジナルでやるか二次創作でやるか……


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後日談之一【R-18】

ひっさしぶりのR-18で書き方を忘れている自分がいる


「凪、最近運動が出来ていないのではないか?」

 

 唐突にそんな事を言われて凪は目を丸くする。珍しく焔耶が自分をお茶に誘ったかと思えば突然深刻そうにそう話し出すのだ。驚きもする。

 

「まあ、確かに出来ていないな。お腹も大きくなってきたし、下手に動けば子に負担が掛かるだろう」

 

「やはりか……ワタシもいずれは子を孕むだろうと思って華陀や炎蓮達に妊娠中の注意点を聞いたのだが、適度な運動は大切らしいぞ」

 

「適度、と言われてもな。散歩とかか?」

 

「ああ。それくらいがいいらしいが、華陀曰くもっと効率的で体に負担を掛けないものとして、水泳があるという事だ」

 

 成る程、と凪も納得した。確かに体の浮く水中ならば強い負担が掛かる事も少ないだろう。しかし何故その話をわざわざ自分に持ち掛けてきたのかが凪には分からなかった。

 

「だからその、一緒に海に行かないか? 龍見も誘って……」

 

「遠回しだな。最初からそう言えばいいじゃないか」

 

「いや、まあ、そうなんだが、こういうのは、馴れていなくてな」

 

 恥ずかしげにモジモジしながら呟く焔耶の姿に凪は思わず可愛いと呟いた。それを聞いた焔耶は更に顔を赤くして俯いた。それを見て凪は次から自分も使わせてもらおうなどと考えていた。

 

「しかし解せないな。別に旦那様と焔耶の二人で行けばいいんじゃないか? もしくは私を誘いたいなら私と二人でも良かったと思うが。賑やかにしたいとしても三人は少ない。何故か教えてくれ」

 

「その、な、龍見と二人は……恥ずかしい」

 

「生娘か!! よくそれで旦那様と子作り出来るな!!」

 

「そ、それはいいんだ! そういうものと認識しているから……でも、そうでもないのに肌を晒すのがな」

 

「……続けて」

 

「だから二人なら恥ずかしさは薄れると思って……それに凪は口も固いからもし断られたとしても黙っていてくれるかな、と……」

 

「はぁ~」

 

 呆れたように大きな溜め息をつく。普段の勇猛果敢な姿はどこへやら。とてもではないが目の前の女性が焔耶には見えなかった。

 だが凪も龍見と一緒に過ごしたいという気持ちは日頃から持っている。恐らく龍見の事だ、妊娠している凪を気遣ってなるべく傍にいるようにするだろう。となると今回の誘いに乗っても凪は損しないだろう。

 

「分かった。付き合う」

 

「ほ、本当か! 後で嘘だったと言わないか!?」

 

「言わないから安心しろ」

 

「約束だぞ!」

 

「ああ、それよりも日程を決めないと。私はこの日から……」

 

「ふーむ、ワタシはここが……」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 青い空、白い砂浜、広大な海原。凪と焔耶に誘われて龍見は海へとやってきた。何か裏がありそうな予感はするが、相当久しぶりの海水浴なので何かあるまでは楽しませてもらうつもりのようだ。肝心の凪と焔耶は岩影で水着に着替えている。それを待つ間、自作の釣竿での魚釣りを楽しむ事とした。

 

「…………」

 

ーークンッ

 

「………………」

 

ーーググッ

 

「フィッシュ!!! チッ、ベラか」

 

「釣れていますか、旦那様」

 

「おう、雑魚が早速……」

 

「ど、どうですかこの水着は? 隊長から薦められたのですが、似合っているでしょうか?」

 

 凪が着ていたのはまさかの白スクだった。体のラインがはっきりと出て、妊娠に伴って大きくなった胸とお腹が強調されている。胸元にはしっかりと『なぎ』と書かれている。

 

「よく、似合っているぞ。一刀君にはお礼を言わないとな」

 

「そうですか、良かった。実はこれ気に入っているのですよ。旦那様にも気に入ってもらえて良かったです」

 

「龍見、凪、待たせてしまったか?」

 

「お、ほほー、焔耶はそうきたか」

 

 焔耶の着てきた水着は黒いビキニだ。大きな胸が溢れんばかりに主張しており、誰もが目を奪われるような姿をしている。

 

「とてもいいんだが、そんなに露出して肌は大丈夫か?」

 

「念入りに術は掛けてきた。余程の刺激でもない限りは大丈夫だ。それより龍見は着替えないのか?」

 

「ん? 言ってなかったか? 今回は泳ぐつもりはないぞ」

 

「「えっ!?」」

 

「ほら、脚がまだ完治してないだろ。流石にこれで泳ぐのは厳しいんだ。ま、浅瀬なら付き合うから安心しろ」

 

(龍見と一緒に泳いで溺れたふりをしたところを助けてもらう予定が……)

 

(旦那様と密着しながら泳ぐ予定が……)

 

(あっ、これなんかフラグ折ったな……)

 

 三者三様、思うところはあれども龍見が泳がない前提で来ている以上、凪と焔耶は無理を言ってまで龍見と泳ごうとは思わなかった。結局龍見は二人の様子を眺めながら釣りをしたり、浅瀬で遊ぶ事とした。

 

「行きますよ、それ!」

 

ーーバシャッ

 

「わぷっ!? こーら、顔に掛けるんじゃない」

 

 凪と龍見が浅瀬で水を掛け合っている時、焔耶は一人、海で泳いでいた。肌が人一倍敏感な彼女にとって刺激の強い海で泳ぐのは龍見と出会うまでは不可能だった。それが可能となった今、存分に泳ぎ回るつもりだ。

 

(ここが海中か……美しいな……)

 

 海上からは海の表面の美しさしか見えなかった。だが内から見るとその美しさは本当に上部だけのものだったのが分かる。河では見れない彩りの魚、広くて複雑な形をした地形、そして永遠に続いているかのようにも見える深くて暗い水底。思わず息を呑む風景がそこにはあった。

 

「プハッ…………すぅ………」

 

 一度浮上し、目一杯酸素を肺に送り込むと焔耶は再び潜っていく。先程よりも深く、海中を堪能するように進む。そんな時、焔耶が初めて見る生き物が泳いでいた。半透明でふわふわと海中を漂うそれはクラゲだ。不思議で美しく、また素早くもないそれに興味を持った焔耶はクラゲに近付いてしまった。

 

「!!? ゴポッ!?」

 

 突然焔耶の腕に走った痺れるような痛み。細く長いクラゲの触手に触れてしまったのだ。術で守っていたとはいえそれは表面だけ。触手の毒針は皮膚を貫き痛みを与える。その痛みに思わず術が解けてしまうと、次に襲ってきたのは海水による全身への刺激。肌の弱い彼女にとって海水の塩分はあまりに強かった。

 何とか海上へと出ようとするものの、痛みと痺れで体が上手く動かない。痛みを感じた時に肺の空気も一気に漏れて、いくらか海水も飲み込んでしまった。

 

(あぁ……まさか、こんなところで死ぬとは……情けない…………せめて、戦場で)

 

 死を感じた焔耶が全てを諦めかけた時、彼女を空気の玉が包み込んだ。

 

「ゴホッゴホッ!! こ、れは…ゲホッ!」

 

 感じるのは龍見の魔力。空気の玉は上昇していき、海上へと着くと今度は陸に向かい始めた。

 

「焔耶! 無事か!?」

 

「あ、あ、ゴホッ! す、すまない……」

 

「その腕、クラゲにやられたか。すぐに治してやるからな」

 

 陸で待っていた龍見は焔耶の腕の腫れを見て何があったのか全て理解した。一先ずは治療を行い、飲み込んだ海水もある程度は吐かせる。

 

「旦那様、焔耶は無事ですか?」

 

「多少海水を飲んだようだが、これなら大丈夫だろう。ほら、これで治ったはずだ」

 

「ああ、もう痛みはない……ゲホッ」

 

「いきなりお前の術が解除されたから何かと思ったらクラゲに襲われていたとはな。海には危険な生き物が多いのを伝えておくべきだった。すまないな」

 

「いや、ワタシの不注意だ……」

 

「ま、お前がそう言うならそういう事にしておこう。よっと、少し休むぞ」

 

 焔耶を背負って砂浜を歩く龍見。何もない平坦な場所に布を広げてその上に焔耶を寝かした。

 

「龍見、暫く手を握ってくれ」

 

「いいぞ」

 

「ん……」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 段々と日も暮れてきて、海も夕焼けに染まり始めた。結局あれから誰も海に入っていない。だが凪と焔耶は龍見と食事を取ったり、喋ってイチャイチャするだけで十分らしい。

 

「ん~、結構長居しちまったな。日も落ちてきたし水着じゃ寒いだろ。そろそろ帰るか」

 

「その前に少しだけいいか? こっちへ来てくれ」

 

「ささ、時間のあるうちに行きましょう」

 

「おう?」

 

 焔耶に手を引かれ、凪には背中を押され、誰もいない岩影にあった小さな洞穴連れ込まれた。もとよりこの海岸に人影などないのだが、この洞穴では海からも何をしているのか分からないだろう。

 

「ここで何か、んむっ!?」

 

「ちゅ……ぴちゃ、あっ…んん、ちゅぅ……」

 

 焔耶に顔を掴まれると少々強引に口付けをされる。じっくりと龍見の口内が舐められていく。その間に凪は背後から抱き付き、大きくなった胸を押し当てながら、逸物へと手を伸ばしてしごいていく。二人からの同時の攻めに逸物もすぐに勃起をし、それを確認した焔耶も口付けをしながら左手で亀頭をこねくり回す。

 

「ど、どうだ? 気持ちいいか?」

 

「旦那様のもの、もうこんなに立派になってしまって……一度手で出してしまいますか? それとも……」

 

 凪は逸物から手を離すと焔耶の股へと手を伸ばした。

 

「ひゃっ!?」

 

「こちらに種付けしますか?」

 

「な、凪! こちらにも準備というものがな」

 

「旦那様は準備が出来ているんだ。妻である私達はそれを受け入れればいい。そうですよね、旦那様」

 

「流石に相手の事は気遣うぞ。稟は除くがな。しかしお前達がこんな場所でこんな事をおっ始めるなんてな。正直驚いたが、オレもお前達の姿に少し欲情していたんだ。遠慮なく抱くぞ」

 

 龍見は焔耶を引き寄せ、水着の中へと手を突っ込んだ。そのまま僅かに濡れ始めていた陰部の愛撫を始める。

 

「あんっ! ひゃぁっ!? た、たつ、み……そん、んあっ!? はげし、いぃっ!!」

 

 術によるコーティングは龍見が剥がしてしまうため意味をなさず、ただただ敏感な肌を犯され続ける。しかしながら焔耶のその表情は恍惚としていた。細かい絶頂を何度も繰り返し、何度も何度も愛液を飛び散らせていた。

 

「あっあっあっ、イ、イクぅぅぅぅっっ!!!」

 

「ふむ、十分に濡れたかな。壁に手を付け、尻をこっちに向けろ」

 

「はぁはぁ……こ、こうか?」

 

ーーズププッ

 

「んあぁぁぁぁああああっっっ!!?!?!」

 

 絶頂をし、敏感になっていた陰部へと情け容赦なく逸物が挿入される。一切の躊躇なく子宮口まで突き刺さったそれの衝撃に焔耶は潮を噴き出しながら絶頂した。

 

「旦那様、先程気遣うと言っていたのは嘘ですか?」

 

「そうでもないさ。焔耶は否定するけど、激しいのも結構好きなんだよ」

 

「しょ、んな、こと……」

 

ーーパァンッ

 

「んひぃぃいいっっ!!?」

 

 尻を叩かれ焔耶は声を上げる。それは悲鳴というよりも歓喜の声。凪が覗き込むと、だらしなく涎を垂らし、悦びに打ち震える焔耶の顔がそこにはあった。

 

ーーチョロチョロチョロ

 

 緩んだ股からは尿が垂れ流され、脚はがくがくと震えている。岩肌に手を掛け、龍見に支えられて何とか持ちこたえているような形だ。そこへ追い打ちを掛けるように腰が叩き付けられる。

 

「ほら! これがいいんだろ!」

 

「あひっ!? あぁぁあああっっ!! いっ、いい!! もっろ、たちゅみぃぃいいいいっっっ!! イクッイクッ、あ、ああぁぁあああんっっっ♪」

 

「ずっと焔耶ばかりずるいですよ。私も気持ち良くして下さい」

 

「ああっ……悪かっ、たな」

 

 おもむろに凪の水着をずらすと、露になった乳房にむしゃぶりついた。

 

「ちゅぱっ、ちゅうちゅうっ……れろっ」

 

「あっ、もう、赤ちゃんじゃないんですから、んっ!」

 

 まだ母乳は出ないのだが、それを促すかのように舌で乳首を転がし、勃起すると軽く歯で挟み込む。また右手で少し強めにしゃぶっていない方の乳房を揉みしだく。餅のように柔らかなそれは龍見の手に合わせて形を変えていく。残った左手は焔耶の腰を支え、先程よりも激しく逸物を突き刺していく。

 強い刺激を何度も受け、失神寸前の焔耶。膣内は痙攣をしたように逸物を強く締め付ける。龍見は一度凪の乳房をしゃぶるのを止めると、両手で焔耶を優しく抱き締めて耳元で囁き掛けた。

 

「愛してるよ焔耶。オレの子、しっかりと孕んでくれ」

 

「っっ!! はら、む、から……いっぱい、出してくれ!!!」

 

 龍見は逸物を最奥まで突っ込み射精した。更には射精を続けながらも子宮口を抉じ開けんとばかりに腰を強く叩き付ける。そんな行為に焔耶は意識が飛び掛けるものの、絶頂の快感で意識が引き戻されるのを数度繰り返していた。

 

「あ、は、は……きも、ちい……」

 

「大丈夫か?」

 

「らい、じょーぶだ……」

 

「どう見ても大丈夫ではありませんね。旦那様、失礼します」

 

 すっかり腰が抜けて半笑いしている焔耶の頭を撫でていた龍見だが、凪に突然押し倒された。何をされるかと思えば凪は焔耶と龍見の体液がこびりついた逸物をしゃぶり始めた。

 

「ずちゅ、じゅるるる……じゅぷっ、ちゅぱちゅぱ」

 

「お、おい。掃除してくれるのはいいが、少し、強くないか?」

 

「じゅぷっじゅぽっ、れろぉ……ちゅーーーっ」

 

「そんな吸ったら、くっ……!!」

 

ーービュルルルッ ドクッドクッドクンッ

 

「んんーー、ごくっごくっ……んくっ、ご馳走さまでした」

 

「……嫉妬か?」

 

「ほんの少し……」

 

 平然としているようだが、少し口を尖らせている凪を抱き寄せ、口付けをした。

 

「ちゅっ、すまんな。凪は妊婦だから少し遠慮しちまったな。手で良ければ何度でもイカせてやるよ」

 

「……時間も遅いですし、一度だけお願いします」

 

 ほの暗い洞穴で、日が落ちきるまで水音と艷声は響いていた。




焔耶、妊娠確定にございます


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後日談之二

超絶久しぶりです。なんかR-18が書けなくなっていたので通常のお話です。


「恋、本気でいいんだな?」

 

「うん。龍見の限界見せて」

 

 龍見は脚に力を込めて駆け出す。全身には限界まで強化を施してある。今なら百メートルすら五秒で駆け抜ける事が可能だろう。一瞬で間合いを詰めた龍見は短刀を恋の首目掛けて振り抜く。それを恋は軽く払いのけ、返しの刃を胴へと叩き込む。服を強化し、更には服の下に竜鱗の鎧を着込んだ龍見の肉体に刃が食い込む事はなかったが、衝撃までは吸収しきれずに吹き飛ばされた。

 

「チッ、流石に接近戦は分が悪いぐぉっ!?」

 

 体勢を立て直した瞬間に戟による突きが額の肉を抉る。咄嗟に仰け反っていなければ間違いなく頭部を貫通していただろう一撃だ。だが避ければ隙になる。伸びきった恋の腕に手足を絡ませ、全体重を掛けてへし折りにかかる。

 

「んんんん……えいっ!」

 

「ぐへっ!?」

 

 だがへし折るどころか投げ飛ばされてしまった。そして恋は再び高速で近付いてきては戟を振るう。掠っただけでも肉が飛び散り骨に響くような斬撃だ。龍見も死なないように必死で回避する。対して攻めている恋は余裕かと言えばそうではない。僅かな時間でも間合いから離れられればそこからは龍見の術が津波のように襲い掛かってくるだろう。それをされれば恋に成す術はない。そうならない為にも龍見をここで確実に潰さなくてはならないのだ。

 頬を戟が掠める。耳までぱっくりと裂け口内が丸見えになる。柄が直撃しそうになり左手で弾く。骨が砕け皮膚を貫き表に出る。踏みつけが爪先に当たる。それが足だったかも分からないほどにぐちゃぐちゃに潰れる。どれもが重傷。しかし致命傷だけは的確に回避していく。

 

「ブッ!!」

 

「っ!?」

 

 龍見が血を水鉄砲のように吐き出し、恋の顔に直撃する。一時的な目潰しだ。咄嗟に目を瞑ったので直接血が目に入る事はなかったが、龍見が間合いから離れるには十分な隙となった。

 

「喰らえ水牢! 敵を呑み込め! アクアプリズン!!」

 

 一瞬にして水が集まり、巨大な水球となって恋を包み込み、そして弾けとんだ。恋が龍見の気配を察知し、拘束される前に戟を投げつけたのだが、それが見事に頭部に直撃し命を刈り取った。

 頭部が消し飛び、血を噴き出しながら倒れた龍見に何処からかやってきたマキナが触れると時間が巻き戻り、龍見は無事復活する。

 

「パパよわーい」

 

「弱くはねぇよ。恋が強いんだ」

 

「龍見、また手を抜いたでしょ」

 

「殺さないように本気を出したさ。しかしあれだな、これで七勝六十一敗か。今回は不意をついて接近戦に持ち込んだが、悪手だったか」

 

「これまでで最短だったね」

 

「次は絶対に近寄らねぇし近寄らせねぇから覚悟しておけ」

 

「うん。期待してる。じゃあ買い物お願い」

 

 マキナがいるからこそ行える命の取り合い。普段の手合わせとは違い本気になれる数少ない瞬間だ。ただ龍見はなかなか恋を傷付ける気になれないようで、こういう時でも手を抜いてしまう。対して恋は割り切りがしっかりと出来ているようで遠慮なく殺しに掛かってくる。

 

「今日は何にする?」

 

「んー、麻婆にしよ」

 

「あいよ。んじゃ買ってくる」

 

 まだ復活後の気だるさが抜けきっていないのかふらついた足取りの龍見を見送った恋はマキナと手を繋いで城内へと戻っていった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 ただ麻婆の材料を買いに街へ繰り出した筈なのだが、龍見の両手には大量の荷物がぶら下がっていた。仮にも世界の英雄。ちょっと出掛ける度に様々な物を渡されてしまう。善意を断る訳にもいかず、全て受け取っていたらとてつもない量になってしまった。

 

「はぁ、重。流石に貰いすぎたな。そろそろこういうのも止めてもらうようにしないと、みんなの生活に負担が掛かるかもしれねぇ」

 

 月か詠にでも相談すれば止めてもらえるように通達してもらえるだろう。その為にも早めに帰りたいのだが、荷物で腕も疲れているので少しお茶でもして休憩を取る事とした。

 ちょうど近くにあった店に入ると奥の席に見覚えのある顔がちらほら。霞と華雄、そして人和だ。

 

「珍しい組み合わせだな。霞、華雄、休みか?」

 

「おぉ龍見。せやで。あんたは買い物中か?」

 

「そうだな。善意の荷物があまりに重いものだから休憩に来たんだ。ここ、座るぜ」

 

「構わん。いい機会だからお前も人和の悩みを聞いていけ」

 

「悩み? どうしたんだ人和。頼りない義兄かもしれんが、オレでいいなら相談に乗るぞ」

 

「義兄さんが頼りないなんて事はないです! ただ、その……いえ、いずれは伝えなくてはいけない事でしょうし今伝えます。私、好きな人が出来ました」

 

「一刀君か?」

 

「ど、どうして分かるんですか!?」

 

「直感かな」

 

 実のところは直感などではない。人和はファンはファンで愛しているが、それはあくまでもアイドルとしての人和としての話。ファンである以上人和個人の好きな人とはなり得ない。となると身近な男性は龍見、華佗、一刀、兵士達だ。

 龍見は人和が自分に恋愛感情を向けていないのは知っているので除外。華佗はよく三姉妹の体調管理や栄養管理をしてくれるので一番身近かもしれないが、あの暑苦しさは人和の趣味ではない。兵士達は立場の違いからか常に一歩引いているので接触して恋に発展する可能性は極めて低いが、あり得なくはない。しかし一番可能性があるのは一刀だ。魏周辺でのライブではいつも付き添ってくれて三姉妹の世話もしてくれている。立場も対等であり友人に近い存在だ。何かの拍子に友人から恋人になってもおかしくはない距離感にある。

 

「ははぁん、前回の魏での公演で踊りを失敗して落ち込んだところを励まされたのが切っ掛けか。そこからお礼で食事に行ったりなんやかんやで距離が縮まって」

 

「読心術を使ってまで探らないで!! 魔力で分かるんだからね!!」

 

「おうおう、乙女の心を丸裸にするとは何事や」

 

「首でも落として黙らせてやろうか? 一度だけなら無事だろう?」

 

「すまん、オレが悪かった。得物は仕舞ってくれ。しかし一刀君ならオレも大賛成だ。彼も奥さんは多いが、余所から来たからってお前を蔑ろにしたりはしない筈だ」

 

「うちらもそれは同意件よ。せやけれどもどうしても人和のあいどるっちゅうもんが邪魔になるんよ」

 

「あいどるをやりながらの恋愛はお前と地和という前例がある。だがお前と地和のように成り立つとは限らん。拠点が違い、北郷にはお前のように離れていてもすぐに連絡するような手段はない」

 

「そうだな。人和もテレパスを少しは使えるが、効果範囲は狭いし、何より片方が使えるだけじゃ会話にはならないしな」

 

「やはり、私は恋愛をするべきではないのでしょうか」

 

 ただの遠距離恋愛というような形なら問題はなかっただろう。しかしながら一刀には既に華琳という妻がいる。他にも春蘭や秋蘭を始めとした魏の主要な人物とも婚約している。たまにしか会えないというのは不利となる。勿論一刀はそんな事は気にせず平等に接してくれるだろう。しかし人和が気にするのだ。

 

「そんな事あらへん! 恋なんて自由なもんや! こいつ見てみ、そこらじゅうで女作っとるで!」

 

「おい」

 

「私はまだろくに恋愛というものをした事がない。あいどるでもない。だから無責任な事を言わせてもらうかもしれないが、本当にどちらかを切り捨てないといけやいものなのか? 地和のようになんとか両立する道を探してからでも諦めるのは遅くないだろう」

 

「霞さん、華雄さん……」

 

「良かったな、こんだけ応援してもらえて。でもほどほどにしないと覚悟が揺らぐぞ」

 

「? どういう意味や?」

 

「人和、最初から一刀に告白するつもりでいたんだろ? ただ同意が欲しかった。違うか?」

 

「……その通り。義兄さんには敵わないわ」

 

「いずれ伝えなくてはいけないって最初に言ったのはもう告白するつもりだったから。でも人ってのは他人に肯定してもらったり、不安を否定してもらうと安心するものだ」

 

 霞も華雄も確かにそういう経験はあった。もう解決しているのならばやるべき事は相談ではない。

 

「他の女に負けるんやないで! 人和はええ嫁になれるっちゅうんを北郷に教えたり!」

 

「不安な事があれば言うといい。炊事洗濯掃除裁縫、何でも教えてやる」

 

「次の魏での公演は来月だな。その時には一緒に行ってやるよ」

 

「み、みんな、ありがとう……」

 

「よっしゃ、オレはそろそろ帰るぜ。早めに帰って食材渡さないといけないからな」

 

「義兄さん、次の公演はよろしく」

 

「任せとけ」

 

 重い荷物を持ち上げて帰路に着く。そんな龍見の頭の中にはどう一刀を人和に惚れさせ、華琳を納得させるかという考えが延々とループしていた。




この話、続きはまた暫く後になると思います。がんばりゅ


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後日談之三【R-18】

もう本編完結しているので書く気力が失せていたのですが、感想が貰えていまだに読んでくれている人もいるのだと知り、とりあえずですが書いてみました。


「ん、ちゅ……兄上の、おちん○んはまだまだ元気なのじゃな……お腹いっぱい、精液を飲ませてたもれ……れろれろ」

 

 朝から下腹部に違和感を感じ目を覚ました龍見だが、美羽が朝立ちした逸物をしゃぶっていた。しかも体の怠さと美羽の顔に付いているかなりの量の精液からして既に何度も射精させられているらしい。それでも美羽はしゃぶり続けている。それこそ母親の母乳を吸う赤子のような勢いだ。

 

「ちゅっちゅっ、ちゅーーーっ、手も、使った方がいいかの?」

 

 美羽は根本から精液を押し出すように逸物をしごき、鈴口を舌でほじったり、亀頭を咥え込んで一生懸命吸っている。普段の龍見ならば気が付いた時点で何か言うか止めに入るだろう。しかし今は寝たふりを続けている。それもこれも昨晩あった事のせいだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「兄上、王様げぇむなるものをしたいのじゃ」

 

「藪から棒になんだ」

 

 美羽からの突然の提案だった。一刀の仕業であるのは間違いない。

 

「一刀から聞いたのじゃ。これをやればより深い仲になれるらしいと言っておった」

 

「いやまあ、それは間違っているような合っているような……しかし王様ゲームは二人では無理だぞ」

 

「ふっふっふ、勿論人数は揃えてあるぞ。準備も一刀がやってくれたのじゃ」

 

「何がそこまで一刀君を駆り立てたんだ……てかいつ一刀と話す機会なんてあったんだ?」

 

 現在美羽は呉で暮らしている。雪蓮によって奪われた元領地の統治が主な仕事であり、わざわざ魏の一刀に会う機会などほぼないはずだ。

 

「向こうからやって来たのじゃ。雪蓮達に用事だったようじゃが、ついでに話してきたのじゃ」

 

「成る程、一刀君も仕事を頑張っているって事か」

 

「それで参加はしてくれるのじゃろ?」

 

「準備が整っているなら構わねぇけど、王様ゲームか……実際にやるのは初めてだな」

 

 比較的認知度は高いゲームではあるが、人数、男女比、命令内容等々、様々な理由によってあまり遊ばれる事はない。場合によっては良い関係に発展するのだろうが、気の知れた仲間内でもない限りは険悪なムードになる方が確率としては高いだろう。

 

「で、誰が参加するんだ?」

 

「妾と兄上、七乃と炎蓮と蓮華と小蓮、あと亞莎じゃな」

 

「思ったよりも多いな。蓮華と亞莎がいるのも意外だが、ともかくそれだけ人数がいるのならやっても構わないか」

 

「わーい! 早速みんなを呼んでくるのじゃ!」

 

 そうして始まった王様ゲーム。この手の遊びだと自重しない命令が多くなりがちだが、意外にも皆自制をしながら進めていた。

 

「王様だーれじゃ!!」

 

「あら、私ですね。美羽様の前で王様などおこがましいのですが、お遊びですから仕方ありませんね。では一番の方は六番の方をお母さんと呼びながら王様げぇむを進めて下さい」

 

「おっ、一番は私だが、娘を母親呼ばわりする可能性があるのか。なんだか恥ずかしいね」

 

「……六番はオレだ」

 

「……ま、この遊びの間だけ我慢しておくれよ。龍見お母さん」

 

 実害は全くないが、なんだか恥ずかしい命令が飛び出す事もあれば……

 

「王様だーれじゃ!!」

 

「ふむ、オレか…………迷うが、五番が三番をくすぐるというのはどうか」

 

「はいはい! シャオが五番だよ! 三番は誰かな?」

 

「わ、私です。小蓮様、どうかお手柔らかに」

 

「断るー!!」

 

「アハハハハハハ!!? そ、そんな、く、あは、いひひひっっ!!?! ひ、ひぃいいぃぃっ!!」

 

 加減のない暴走が始まったり……

 

「王様だーれじゃ!! って妾じゃな。二番と三番はちゅーするのじゃ!!」

 

「ちょっ!? み、美羽様!?」

 

「その反応、七乃が二番だったのね……はぁ」

 

「えっ、三番は蓮華さんですか? 私が龍見さんじゃなかったからってそんなにがっかりしないで下さいよぉ」

 

「いいから早くやって次の王様を決めるわよ」

 

「ま、待って、私初めて、んんんーーーっっ!!?」

 

 一部の大胆な行動が見れる事もあった。しかし遊びの時間というものは早く過ぎてしまうもので、日も暮れてきた頃合いでお開きになる事となった。ここで七乃がある提案を出した。

 

「最後は命令を固定しましょう。指定された番号の人は明日一日、王様の言う事を聞くというのはどうですかね?」

 

「へぇ、面白いじゃないか。乗ったよ」

 

「シャオも乗る!」

 

「母様にシャオがやるというのなら……」

 

「当然妾も賛成なのじゃ!」

 

「えっえっ? あ、その、私は……」

 

「こうなっちまった以上は腹を括るんだな。ま、誰も亞莎を悪いようにはしねぇよ」

 

 もしも亞莎が命令される側となったとしても、そんな無茶な要求をされる事はないだろう。問題は龍見が命令される側となった場合だ。十中八九面倒事に巻き込まれる。それだけは避けねばならぬと、そっとアポーツで当たりを引き寄せようとした。

 

「あっ! 不正は駄目ですよ龍見さん!」

 

「な、に……!? 亞莎、そこは黙っていてくれよ……」

 

「おやおや、何かしようとしたのかい? いけないね不正は。罰として言う事を聞くのは龍見で固定だね」

 

 この時龍見は気が付いた。ハメられたのだと。最後の条件を出せば龍見は何とか逃れようと何かしらの手段を用いて王様になろうとする。何かしらの手段は不明だが、術を使うのはほぼ確実。それを感知するのは集中していれば難しくはない。そして不正を見つければ後は先程のように命令されるのを龍見に固定するだけである。

 

「さあさあお嬢様、頑張りましょうね」

 

「兄上は譲らんのじゃ!」

 

「それはこっちも同じよ。負けるつもりはないわ」

 

「亞莎は蓮華に付きな。もし私が当たれば私だけで龍見を独占させてもらうからね」

 

「炎蓮様がそう仰るのならそうします」

 

 結果はご存知の通り美羽の勝利。こうして丸一日、龍見は言う事を聞かせられる事となってしまった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「美羽……そろそろ顔洗ってきなさい」

 

「ごくんっ、兄上起きておったのか? おはようなのじゃ」

 

「ああ、おはよう。ほら、さっさと顔洗う」

 

「はーい」

 

 朝から四度搾られているので相当気だるそうにしているが、前日から念のために準備しておいた栄養剤を飲み干して無理矢理体調を戻す。続いて唾液やら精液やらで汚れた下半身を拭き取り、服を着替える。今日はかなり厳しい日になる事を覚悟しストレッチで体を伸ばしておく。そうこう準備を整えているうちに美羽も汚れた顔をしっかりと洗ってきた。

 

「兄上、今日はずっと命令を聞いてもらう故に覚悟するのじゃぞ」

 

「覚悟ならとっくに済んでるよ。で、何をすればいい?」

 

「まずは抱っこじゃ。そのまま朝食を頂きに向かうぞ」

 

「はいよ」

 

 軽く小さい美羽をそっと抱き上げる。見る人によっては兄妹、下手すると親子にすら見られかねない。それでも二人は確かに夫婦だ。どちらも自信を持って愛していると言うだろう。

 

「今日の飯はどうするか」

 

「それならば握り飯で良かろう。兄上が作ったものが良い」

 

「そう言うならそうしようか」

 

 時々暇があると龍見が手料理を振る舞うのだが、それが美羽にとってはお気に入りだ。米は調理場で既に炊いてあるものを使い、具材も適当にその場にあるもので済ませる。

 手早く龍見がおにぎりを握る横で、美羽は龍見にしっかりと抱き付いている。正直龍見にとってはやりづらい事この上ないのだが、刃物は使っていないので我慢する。

 

「ほい、完成だ」

 

「食べさせてほしいのじゃ」

 

「おいおい、子供じゃないだろ。全くこいつは」

 

 不満を漏らしながらも龍見に嫌そうな表情は見られない。膝の上に座って親鳥から餌をねだる小鳥のように口を開ける美羽にそっとおにぎりを食べさせる。

 

「やはり兄上の食事は格別じゃ」

 

「そう言ってくれると嬉しいな。作った甲斐がある」

 

「しかし……これは困りものじゃな」

 

「何がだ?」

 

「旨すぎて他のものが食べられなくなる」

 

「そんな事を言っても毎日隣には居られないぞ。でも今日はずっとお前のものだ。好きなだけ我が儘を言ってくれ」

 

 いちゃつく二人に胸焼けでも起こしたのか食事をしていた兵士達はそそくさと何処かへ立ち去っていった。二人は二人でそれに気付かず互いにおにぎりを食べさせあったり、口元に付いた米粒を舐め取ったりしていた。

 そんな甘ったるい食事をしながら美羽は尻を龍見の股間へと擦り付ける。当然龍見の逸物も反応してしまう。

 

「おやおや兄上。こんなに硬くなっておるぞ」

 

「お前からやってきたんだろ。場所が場所だからやる気はないぞ」

 

「ならば早く兄上の部屋に戻るのじゃ!」

 

「はいはい」

 

 美羽をお姫様だっこし自室へと戻る。その間にも美羽は何度も口付けをしていた。そんな美羽を布団へと放り投げると龍見はその上に覆い被さる。

 

「やるぞ」

 

「うん」

 

 龍見は逸物を取り出すと美羽の股間へと擦り付けた。下着の上から何度も押し付ける。その間、龍見は美羽を抱き寄せて朝のお返しとばかりに口付けや、上半身の至るところを舐め回す。先走りと愛液で下着がびちゃびちゃになるまで続けると下着を剥ぎ取り、一息で挿入した。

 

「ふあぁぁぁっ!! あ、兄上ぇ、ぎゅっ、てしてぇ……」

 

「ああ」

 

 激しく腰を打ち付けながらも美羽を抱き締める力は、壊れやすい磁器でも触るかのようにとても優しい。美羽も感じながらしっかりと龍見に抱き付いている。

 

「あ、兄、上……イ、イク」

 

「いいんだぞ。我慢しなくてもいいからイけ」

 

「や……兄上と、一緒がいい、のじゃ……」

 

「んー、すぐには射精(だ)せそうにもないが、美羽の頼みならしょうがない」

 

 龍見にとって肉体のコントロールは容易な事。射精だってやろうと思えば可能だが、その時には快楽も何もないただの排泄に近い感覚なのであまりやりたがない。しかし今回は美羽の言う事を何でも聞く約束な以上やるしかなかった。

 龍見は子宮口に逸物を押し付ける。美羽の小さな体では龍見の逸物を全て呑み込む事は出来ておらず、最奥に達した状態でも逸物はまだ一部が外に出ている。

 

「なぁ美羽、射精する代わりにちょっと変わった事してもいいか」

 

「変わった、事? 良い、兄上のやる事なら……受け入れようぞ」

 

「ありがとう。じゃ、やるぞ」

 

 そっと美羽の腹部を撫でる。その瞬間、美羽は自分の体の異変に気が付いた。子宮口が開き、収まりきっていなかった逸物を徐々に呑み込んでいっている。これまで精液以外のものを受け入れなかった子宮に大きな物体が入っていく感覚は美羽の全身を痺れさせた。

 

「あっ、あっあ! こ、れ、だめ……い、ひゃっ!!」

 

「射精(だ)すぞ」

 

ーービュルルルッ ドクンドクッドクッ

 

「ああぁぁぁぁあっ!! イッ、クゥゥゥゥウッ!!! あひぃぃ!!」

 

 大量の精液が直接子宮の中へ吐き出される。子宮が満タンになってもなお止まらぬ射精。子宮口は逸物により蓋がされており、逃げ場のない精液は子宮に貯まり、美羽の腹部は軽く膨れるほどだった。

 

「おっ、ふぅ………………少しやりすぎたか?」

 

「い……いっぱい…………きもちいい、のじゃ……♪」

 

「それは良かった。じゃあ抜くぞ」

 

「ふぇ……? んあぁぁあぁぁあっ!!? あひぃぃぃいぃぃいっっ!!」

 

 惚けている美羽の返事を聞く前に逸物は抜かれた。子宮口から逸物が一気に引き抜かれた事により逸物が膣を削るような快感が走り、子宮に溜まっていた精液が噴射し体内を蹂躙する。ぽっかりと開いた膣からは止めどなく精液が溢れだし、美羽は腰をガクガクと痙攣させていた。

 

「す、すまん! 稟の時と同じ感じでやっちまった!! 大丈夫か?」

 

「あ、あに、うぇ…………もう、一回♪」

 

「…………案外頑丈だな」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 布団に寝転がり、互いに手をしっかりと繋いでいる龍見と美羽。共に全裸で、美羽の股間からはいまだに大量の精液が漏れだしてきている。

 

「はぁはぁはぁはぁ……んゆっ! あっ、はぁ、な、にもして、いなくても…………イって、しまうのじゃ…………」

 

「我ながらよく出たよ。美羽、どっか体が悪かったりしないか?」

 

「ふふ、むしろ良いくらいじゃ…………んっ…………兄上、実は、今日は…………子を宿せる日なのじゃ……」

 

「本当か! ならこれで出来たかもしれないのか?」

 

「授かり物じゃから、何とも言えぬが……これだけ出してもらったのじゃ。出来ておらねば困る…………」

 

「ああ、きっと出来てるよ」

 

 美羽の頭を撫でる。自分を兄と慕う愛らしい少女だが、自身の妻であり、今我が子を孕もうとしている。そんな美羽へ龍見は精一杯の愛情を与えるように撫でた。

 

「…………兄上、まだ…………してもらっても、いいかの?」

 

「ああ、今日はずっとしよう」

 

 また重なりあう二人。休み休みではあるが、深夜まで愛し合っていた。




R-18のリハビリは難しいなぁ。続きを書くかは未定です。


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