ロリコンと奴隷少女の楽しい異世界ハクスラ生活 (いらえ丸)
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ロリコン、異世界に立つ。

 適当に続けていけたらいいなと思います。
 ジャンルは「冒険・バトル」ですが、冒険も日常もあります。「日常」と迷いました。どっちなんでしょう?
 劇的で面白い話じゃなく、読んでてほんのり楽しい話を目指していきたいですね。



◆注意◆
 主人公は若干頭がおかしいです。
 一般人ですが、まともではありません。
 アライメントは「秩序・悪」です。中立寄りです。


 恥の多い人生を送っていると思う。

 

 初恋は、画面の中の二次元ロリだった。

 アニメ専門チャンネルで見た、とある魔法少女。界隈では人生ブレイカーとかロリコン製造機とか言われてたりする魔性の幼女だ。

 だが、初恋とは叶わぬもの。その子は続編アニメで立派なキャリアウーマンになってました。成長した彼女はムチムチのボインボイン体型になってしまったのだ。そうして俺の淡い恋心は見事砕け散ったのである。

 その程度と言われればそうだし、薄情と言われればそうだろうと思うが、俺は大きくなった彼女に何の魅力も感じなくなってしまったのだ。

 

 その時、思い知った。

 俺はロリコンだったのだ。

 

 背の低い女の子が大好きで、幼い仕草にトゥンクと来て、メスガキトレンドに真っ先に飛びつき愛好し続ける類の人間だった。

 背の高い女性を愛せない。妖艶な女優に興味を持てない。大きなお尻、大きなお胸に何の魅力も感じない。

 

 初恋が二次元なんてのは今どき珍しい事じゃない。それがロリでも、まぁおかしな事はないだろう。当時、俺はショタだった。ショタがロリに恋をするなんてのは健全も健全ド健全。何が問題ですか?

 しかし、デカくなった俺は三次元のロリも好きなタイプのロリコンだった。

 

 画面の中じゃない初恋は、友達の妹だった。

 高校生の頃だった、遊びに行った友達の家で、とても可愛いJCを見て、心の臓にバキュンと一発。目と目が合うーって奴だった。

 その子は性格も良くて、兄の友達である俺にも礼儀正しく挨拶してくれた。まさに天使みたいな女の子だった。

 けれど、彼女は堕天した。翌年の夏休み、黒髪の妹君は髪を染め、濃ゆいギャルメイクをするようになっていた。で、両親や兄とも仲が悪くなり、中学生にして朝帰りをする事もしばしばになってたとか……。

 再度、俺の恋は砕け散った。天使は失墜し、ロリのロリたる所以が失われたのである。三次は惨事だ。

 

 やっぱり、俺はロリコンだった。

 年上は無理だ。同い年ももう無理だ。年下もある程度すると無理になると思い知った。

 ……いや、今のは嘘だ。年上でも同い年でもオッケーだ。肝要なのはロリな事であって、実年齢がどうのではない。二次ならば。

 真のロリコンはロリを愛するが、ロリも愛する。しっくりくるね。ロリババアはいいぞ。

 

 閑話休題。

 

 そんな俺だが、現代日本的な倫理観はしっかり持ち合わせていた。

 イエス・ロリータ・ノー・タッチ。当然として、リアル女児に手を出す事はなかった。遥か昔の日本ならともかく、俺が生まれたのは世紀末後の現代日本である。ロリと結婚できるってだけで戦国大名に強い憧れ抱いちゃうが、俺はただの一般人だ。法律という名の投石攻撃は怖いのである。

 二次と三次は等価であったが、俺は特に二次に傾倒した。三次への興味が失せたというより、叶わぬ恋をするよりも好きなアニメやゲームをやってた方が有意義だと思うようになっていた。

 実際、三次のロリはロリじゃなくなる。合法ロリにはなれたとしても、ロリババアにクラスチェンジはできぬのだ。ある意味健全である。

 

 俺はロリコンだ。

 

 犯罪者予備軍なのかもしれない。けど犯罪者じゃない。

 ヤバい奴かもだが、ヤバい事はしてない。

 そんな、多分どこにでもそれなりの人数いるタイプのロリコンが、俺。

 石黒力隆という男だ。

 

 石黒力隆(イシグロリキタカ)(21)

 12月11日生まれ。

 尊敬する人、ルイス・キャロル。

 好きなお菓子はホワイトロリータ。

 

 

 俺はロリコンだ。

 俺には夢がある。

 

「異世界行ってロリのハーレム作りてぇ……」

 

 大志を抱けと言いますが、抱いた夢がこれじゃあね。

 

 虚しい呟きが狭い風呂場に反響した。

 ま、無理なんですけどねってのは、自身の性癖を知ってから自覚している事である。

 二重も三重も無理な夢だ。要点はロリであるが、現実じゃ無理なのでさらに無理な夢もどきで欲望を覆ってるだけだ。あほくさ、である。

 

 ロリコンとは悲しい生き物だ。

 初恋も、将来の夢も、結婚も。

 絶対に叶うものではないのだから。

 

「さて、イベント周回がんばるぞい」

 

 などと言いつつ、俺は俺の人生にそれほど不満はなかった。

 元の性格がそうさせるのか、俺は物事をそんな深刻に考えない性質なのである。

 悩む事、ヘコむ事は最低限でいい。そんな事する暇があったら、青山先生の新刊を読むほうが有意義だ。新作のアニメ化まだですか?

 画面の中、紙面の文字、電子の書籍のロリたちは、いつも俺の心を満たしてくれるのだ。

 これ以上の幸せはロリコンにゃ眩し過ぎる。

 

 そうして、俺はいつものルーティンをこなし、寝床についた。

 明日は予約してた同人エロゲの発売日。来週はきららの発売日。一か月後にゃよさげなロリアニメが始まる。

 

 異世界でもないし、童貞のままだし、ハーレムも作れやしないが。

 半径3メートル以内にロリがある。

 まぁまぁいいじゃないか、ロリコン人生。

 

 温かい布団の中、俺は安らかな眠りについた。

 

 

 

 で、今に至る訳だが……。

 

「異世界じゃん」

 

 目が覚めると、異世界に来ていた。

 お尻に硬い感触。ベッドで寝ていたはずの俺は、いつの間にか噴水の淵に座っていた。

 周囲を見ると活気ある出店が軒を連ねていて、そこの店主や客には現代日本人にはあり得ない特徴があった。耳が長かったり、ケモミミが生えてたり、髭もじゃのずんぐりむっくりだったり……。

 

 やっぱ異世界じゃん。

 

 ふと幼女の声が聞こえた。反射的に目を向けると、通りの方からピンク髪と緑髪の女の子二人がこっちに向かって走ってきた。

 二人はピンクとグリーンというカラフルな髪色をしていて、頭にはネコ科動物っぽい耳が生えていた。彼女らの後ろから同色の髪色をした男女がやってきて、二人を微笑ましげに見守っていた。両親らしき二人の頭にも、猫耳が生えていた。ヒト耳が無ぇ。

 うん、ここ日本じゃねぇ。アメリカでもねぇ。勘と経験が言っている、異世界だ。

 

「……マジ?」

 

 手を見る、俺の手だ。服を見る、寝間着のジャージだ。うん、これ転生じゃなくて転移的な奴だな。

 恐ろしいもので、ネットネイティブ世代の俺からすると異世界転移は存外あっさり受け入れられるものであった。

 

「どうすっかなぁ……」

 

 ぼんやりと空を見る。

 異世界受容こそ早かったが、途方に暮れてしまうのは仕方ないだろう。

 ある意味、長年の夢の第一歩が叶ったかもな訳だが、如何せん素直にゃ喜べない。

 

 なんせ、これ全然デイドリームの可能性あるから。

 幸福な夢から覚めた時の反動が怖くて、はしゃげない。

 銀魂の無人島全裸案件。あるいは一人かめはめ波練習になりそうで、異世界ヒャッハーができなかった。

 

 まあ、とはいえだ。

 

「うわ、あの子めっちゃ可愛い……」

 

 夢の中でも、異世界でも。

 ロリの笑顔は俺の心を満たしてくれた。

 俺は、異世界でも俺のままであった。

 

 ロリコンの魂百まで。

 我魂魄百万回生まれ変わってもロリコン。

 ロリ愛でる、故に我あり。

 

「ま、なんとかなるだろ」

 

 俺は腰を上げた。

 

 不安の中、無理やり希望を捻りだす。

 ここは日本じゃない。異世界だ。なら、ロリと結婚できるかもしれないし、エターナルロリがいるかもしれない。ハーレムだって、できるかもだ。

 やれるだけ、頑張るだけ頑張ってみよう。異世界産のロリを見て、そう思えた。

 

 とはいえだ。

 俺は貧弱一般人。獣一匹殺した事ない身からすると、腕一本でファンタジーやれる自信はなかった。

 

「特典、あったらいいなぁ……」

 

 俺の呟きは、広場の喧噪に流されていった。

 

 

 

 

 

 

 異世界転移から、約一週間。

 

 俺は今、体育館ほどの広さの洞窟で死闘を繰り広げていた。

 

「しゃアッ! 死ねオラァ!」

 

 現代日本では絶対発さないであろう暴言を飛ばしつつ、相対する化け物の腹を横一文字に切り裂き、勢いそのまま通り過ぎる。

 ズサーっと靴底が地面を滑り、振り返って構えを取った。その間、コンマ以下秒。流れるような一連の動きは前の世界じゃあり得ないほど俊敏で、現実離れしていた。これぞ“剣士”のアクティブスキル“切り抜け”だ。

 数瞬遅れて、奴の腹から切れ目に沿った血が飛び出た。最後っ屁が来るかもしれない、切っ先を向けて構える。奴は振り返らない。やがて、どしんと膝をつき、迷宮の主は倒れた。

 そして、身長約4mの熊型ボス――ナックルベアは、青白い粒子となって俺の身体に吸い込まれていった。

 

「んぁ~……たまんねぇ」

 

 瞬間、俺の身体に冬場の風呂に浸かった時みたいな快感が溢れた。

 奴の魂を取り込み、俺の魂魄強度を上げたのだ。実際そうかは知らないが、なんかそんな感じがする。何度も味わったこの感じは間違いなくレベルアップだ。

 はじめてこれ体験した時、まるでソウルシリーズみたいだなと思ったものである。

 

「よし! 剣士レベル10!」

 

 言いながら、慣れた操作で空中投影されたコンソールをスワスワする。

 アイアンマンのアレか、あるいはSAOのアレみたいなコンソール画面には、現在の俺のステが載っていた。

 

 

 

◆イシグロ・リキタカ◆

 

 剣士:レベル10

 新規習得スキル:回転斬り

 

 能動スキル1:切り抜け

 能動スキル2:受け流し

 能動スキル3:生命活性

 補助スキル1:魔力変換

 

 生命:28

 魔力:22

 膂力:28

 技量:27

 敏捷:27

 頑強:24

 知力:16

 魔攻:18

 魔防:19

 

 

 

 剣士レベル10。能力値はバランス前衛型。RPG的には駆け出しなんだと思う。実に分かりやすい。

 けど、他の人にこのコンソールは開けない。開けられる人はいるかもしれないが俺は見たことない。つまりこのゲーム的仕様こそ、俺の特典……なんだと思う。

 

「ま、考えるのは後でいっか」

 

 ステ確認か鑑定かコンソールか。一見なにそれショボとか思ったものだが、これほど便利なものはないと今ではそう実感していた。

 物騒なこの世界、前と同じく自分の能力値を数値化する事はできない。けど俺はできた。どっかの誰かの言う通り、敵のお尻と己のお尻を知ってれば百回戦っても勝てるのだ。

 安心安全なレベリング。それにより、今の俺の剣士レベルは10だ。異世界初心者にしてはなかなか良い調子なんじゃないだろうか。

 

 まぁ、これはあくまでも特典のひとつで、俺がこれまで生きてこれたのは別の要因がでかいんだが。

 それはともかく、今日も無事帰還である。

 

 討伐後、ボス部屋中央に出てきた巨大クリスタルに触れ、転移する。

 瞬間、足先から順に俺の身体が青白い粒子に変換されていく。転移のエフェクトだ。

 最初は怖かったが、転移すると返り血とかも綺麗さっぱりだから便利だ。簡易の風呂だと思えば慣れるのも早かった。

 

 しばらくして、目を開けた。切り替わった視界には、見慣れた転移神殿の風景が広がっていた。

 さっきのボス部屋が体育館だとしたら、ここは野球場といった印象だ。冒険者は、この場所からダンジョンへと転移するのである。

 学校ひとつ程度覆ってしまえそうなほど高い天井には、数えるのも面倒な程多くの発光クリスタルがあった。ここは昼も夜もいつでも明るく、独特な熱気に満ちている。

 遠く神殿の入口付近にはギルド受付があり、笑顔の受付さんが新人冒険者っぽい兄ちゃんと話していた。今からひと狩り行く気のパーティが転移石板の前でダンジョンを選んでいた。

 野球場でいうベンチとかの辺りには道具屋や武器屋が並んでおり、ダンジョンアタックに必要な物品を扱っている。

 転移神殿という名の此処は、まるでハクスラRPGの拠点みたいだった。

 

 俺は出口用の転移石板を離れ、コミケ仕込みのすり抜けスキルを駆使して人混みの中を歩いた。

 そして、いつもの受付さんの前に立つと、慣れた手つきでアイテムボックス――虚空に腕を突っ込むタイプの奴である――から本日の戦果を差し出した。

 どさっと卓上に置かれたのは、種々様々なダンジョン産アイテムとその他諸々である。殆どはダンジョンモンスターが落とすガラクタばかりだが、中には赤子の拳サイズの宝石みたいなのもある。

 

「換金お願いします」

「ん? おぉ、あいよ。番号札は緑の1番な」

 

 そう言って、受付さんは俺に緑色の番号札を渡してきた。受け取ると、おじさんは俺が持ってきたアイテムを背後のクソデカ天秤にセットしていた。曰く、ギルドご自慢の換金魔道具らしい。

 ダンジョンモノの定番、受付さんはもちろんベテランっぽいおじさんだ。登録も換金も、俺はいつもこのおじさんに頼んでいた。理由は簡単で、ここが一番空いててスピーディだからだ。

 他の受付さんの前には長蛇の列ができている。列の先には、凡そ多くの現代人が美人だと思うであろうお姉さんが笑顔を振りまいていた。対する男は嬉しそうに顔を赤らめていた。

 

「にしても、あんた意外としぶといな。三回目あたりで死ぬと思って賭けてたから大損こいちまったよ」

「職員って賭博やっていいんですか?」

「飲み代くらいじゃしょっぴかれねぇよ。おっ、換金済んだな。ほら札返せ」

「はい」

 

 雑談などしつつ、渡されたお金――金貨銀貨だ――をアイテムボックスにしまう。

 念のため、お金の確認はここではやらないようにしている。スリの危険性があるからだ。俺はまだ遭遇してないが、現場に居合わせた事はある。こっちの治安は日本ほどよくないのだ。

 

「お前……明日も潜るのか?」

「ええ、そのつもりです。では、ありがとうございました」

 

 柵抜け人抜け扉抜け、すたすた歩いて神殿を出た。

 すると、視界いっぱいに暗くなり始めた異世界の街の景色が広がった。

 

 神殿の出入り口の前にはこれまた広くて大きい階段がある。そこから、この街をある程度俯瞰できるのだ。

 階段の下、いくつもの屋台や飲食店が軒を連ねていた。外の席では同業と思しき人たちが酒を飲んで仲間と騒いでいる。かと思えば殴り合いの喧嘩がはじまって、周囲の人が盛り上がっていた。

 

 楽しそうだなと思いつつ、俺は人混みを避けて大通りを抜けた。

 少し歩いて右に左に。遠い喧騒が薄れてくると、目的地にたどり着いた。宿屋である。

 

「お、今日も来たね。昨日と同じでいいかい?」

「頼みます。先にお湯頂いてもいいですか?」

「あいよ。少し待ってな」

 

 宿屋の主人に挨拶し、昨日と同じコースで部屋を借りる。

 一階の洗い場に行き、装備していた防具を脱いでいく。ブーツに手袋に胸当てと、ホントに最低限の防具類だ。転移直後のパンツ以外の持ち物を全部売って揃えたのだ。探索の後、貯まったお金は殆ど貯金に回している。

 装備を外し、全裸になる、もらったお湯で身体を拭いて、ついでに装備も洗う。迷宮探索での汚れは転移で消えるのだが、汗や垢は残るのでちゃんと洗わないといけない。この世界は普通に大衆浴場があるのでそっちに入った方が気持ちいいのだろうが、今は節約しているのだ。

 綺麗になったところで食堂に行き、頼んでおいた夕食を食べる。異世界食は存外悪くなかった。とりわけ美味しくもないが、不味くもない。ちゃんとした飯屋に行けば美味しいご飯が食べられるのだろうが、今は節約しているのだ。

 

 飯を食べ終えて、借りた部屋へ。

 四階建ての最上階。一番安くて狭い部屋だ。大体三畳くらいの広さ。此処が俺の住処だ。持ち金的には普通にもっと良い宿屋に住めるのだが、今は節約している。

 俺は、節約しまくっているのだ。

 

「さて、と……」

 

 堅いベッドに寝そべりつつ、コンソールを弄る。

 ステの確認と、今後の方針についての思索だ。

 

 この世界は、ゲーム的だ。

 ダンジョンの怪物を倒すと経験値が得られ、ある程度溜まるとレベルアップする。レベルは職業ごとに分かれ、転職するとその職業のレベルになる。レベルは引き継げないがステは据え置きで、本人の強さは職業レベルじゃなく積み重ねた職業レベルの総合とステータスで決まるのだ。

 また、ステは職業ごとに伸びる項目が違う。戦士なら膂力や技量が、魔術師なら魔力関連がといった具合に。俺はジョブを転々としているので、ステの構成は前衛の割にバランス型だ。

 分かってる範囲だが、ジョブは基本職→下位職→中位職……と上がって行くのだと思われる。今の俺のジョブは剣士なので、下位職という訳だ。

 まあ、こんな感じ。ドラクエっぽいし、FEっぽくもある。

 

 で、今現在、俺が何に頭を悩ませているかというと……。

 

「ジョブチェンジかぁ……」

 

 ジョブチェンジについてである。

 この世界、例によって一定条件を満たすと特定のジョブにつけるらしいのだ。多分、剣士10+魔術師10=魔法剣士みたいな感じだと思う。

 現在、俺の職業レベルは戦士レベル10と魔術師レベル5と剣士レベル10である。さっき確認したが、どうやら戦士10+剣士10で“剣闘士”という下位職になれるらしい。

 剣闘士は剣士と同じ下位職だが、剣特化の剣士と違って盾を扱う事ができるようだ。多分、剣闘士で覚えられるスキルみたいなのもあるんだろう。実際気になるし、剣闘士って何か強そうだ。ステの伸びも剣士より少し上だ。

 けれど、今の俺の戦闘スタイル的に剣士がしっくりきてるので変えたくないのだ。あと、先に剣士レベルを上げてみたい気持ちもある。剣士の次のジョブも気になるしね。

 

 扱いやすい剣士を貫くか。

 今後の事を考えて剣闘士のレベルも上げておくか。

 悩みどころである。

 

「ふふっ……」

 

 ベッドの上、思わず笑みがこぼれた。

 悩みどころといいつつ、楽しんでいた。ゲームをやっていて楽しい時とはこういう時間だと思うのだ。

 命のかかった生業。死にゲーみたいなダンジョン。決してよろしくない治安。

 けれど俺は、この異世界をけっこう楽しんでいた。

 

 石黒力隆(21)

 俺には夢がある。

 

 異世界でロリのハーレムを作り、酒池肉林の限りを尽くすのだ。

 その為に、俺は毎日命張って金策し、節制して金を貯めている。

 何故か? 奴隷を買う為だ。この世界、普通に奴隷売買があるのだ。無論、そういう奴隷も。何しても、いいのだ。

 まあ、乗るよね。

 

 健全なロリコンなら、健全なパーティを組んでロリとの出会いを求めるのだろう。

 だが、俺は違う。前世の俺は法に従って生きていたが、それはあくまでそういう法があったから従っていただけで、ロリ奴隷が合法な環境ならさっさと欲を満たす方向に進んじまうのである。

 あと、探してみたが、女冒険者はいてもロリ冒険者は見かけた事はない。悲しい、めぐみんはどこだ。ロキシー先生はどこだ。見つからない。期待薄だろう。

 

 奴隷少女、可哀想だが、大好物だ。

 前世、俺には好きな同人ゲームがあった。有名な作品だ。傷ついた奴隷少女を買い、優しく接して愛を育んでいくというハートフルな作品だった。

 ぶっちゃけると、奴隷少女っていう文字列がツボなのだ。

 

 おいおい、現実甘くねぇぞとか。

 そんな都合よくいくかよとか。

 そう思うかもしれない。

 

 けど、ここは異世界。

 レベルがあり、ステがあり、奴隷が合法化された世界なのだ。

 

 異世界生活、楽しんだもん勝ち。

 

 俺はそれまでを、こうやってゲームに没頭するかの様に過ごしていた。

 奴隷少女の事を思えば、節制生活も辛くない。レベルアップする毎日は楽しい。ジョブチェンジに悩む時間はワクワクする。

 

 なに、大丈夫。

 ミスっても死ぬだけだ。

 

 ロリハーレムの為ならば、命なんざナンボでも賭けてやる。

 それが俺、ロリコン石黒の生き方である。




 感想もらえると励みになります。



 本作は、「異世界迷宮で奴隷ハーレムを」と「異種族レビュアーズ」に触発されて書いた作品となっています。
 中でも内密氏へのリスペクトは強めな作風となっております。パクりでもオマージュでもなく、リスペクトです。
 ああいう感じで続けていきたいなぁという気持ちですね。


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せめて、ロリコンらしく

 感想・評価など、ありがとうございます。
 感想もらえるとすごく嬉しいですね。気が向いたら何か適当に投げてやってください。すると作者がハッピーになり、続きを書くモチベに繋がります。

 今回は三人称、受付のおじさんから見たロリコン。
 一般庶民のロリコンがなんでこんな強いねんってのはまた今度書きます。

 ロリはまだ出ません。



 ある日、高名なベテラン冒険者が死んだ。

 

 彼は英雄ではなかったが、間違いなく成功した類の冒険者だった。

 堅実にやっていた。無理をせず、自己を管理し、内外の同業者から尊敬されていた。

 粗暴な奴が多い冒険者にあって、善意の化身の様な温厚な男だった。

 

 王都冒険者歴30年という、極めて異例な経歴を持つ古強者。

 まさに、全冒険者が模範とすべき傑物だった。

 

 ある日、その冒険者は珍しく単独で迷宮に潜った。

 引退した仲間の娘の病を治す為、その薬を買ってやるのだと言って、たった一人で迷宮に向かって行ったのだ。

 歴戦の冒険者だった。腕の立つベテランだった。機に敏く、頭が回り、決して仲間を見捨てない、頼れる頭目だった。

 そんな奴が、呆気なく姿を消した。迷宮に、喰い殺されたのだ。

 

 よくある事さと、ギルド職員の男は酒を片手に俯いた。

 10年も迷宮に潜り続け、今の今まで五体満足だった。これまでが、出来過ぎていただけだ。

 肩入れしていたつもりはなかった。しかし、酒に頼る羽目にはなった。

 

 一ヵ月、約30日。

 それは、冒険者としての最も大きな分岐点である。

 平均寿命ではない。それは恐らくもっと短い。

 これは、引退の区切りだ。

 

 冒険者は、すぐに死ぬ。

 それでも、冒険者の人口は年ごとの増減はあっても一定数を下回った事はない。迷宮には、夢と名誉と財宝があるからだ。

 第一の踏破者、初代国王。彼は様々な種族の盟友を連れ、迷宮に潜り、見事宝を持ち帰り、国を興してみせたのだ。まさに、英雄の中の英雄であった。

 迷宮が吐き出す莫大な利益。この国の歴史は、迷宮との戦いの歴史であった。輝く剣の第二王子。農村生まれの公爵。史上最強の宿屋の娘。眩い程の栄光は、自らもまた英雄たらんと冒険者たちを駆り立てた。

 まるで狂気の坩堝であった。皆、最後は迷宮に喰われて帰ってこない。

 迷宮とは、そういうものだ。 

 

 ある日、引退した元冒険者の男が死んだ。

 娘の治療費の為、迷宮に潜り、帰らなかった。

 

 よくあることさ、とギルド職員の男は酒を傾けた。

 少し、酒の量が増えた。

 

 

 

 王都西区、第三転移神殿。

 冒険者支援組織、通称“迷宮ギルド”。

 

 男は、冒険者たちを支援する組織の職員だった。

 ギルドとは、迷宮に挑む冒険者たちを支援する組織だ。冒険者の位階に合わせた迷宮の紹介。迷宮でも通用する武具の販売。迷宮産アイテムの換金などを行う、国営の組織であった。

 ギルド職員とは、新人冒険者の登録手続きや換金手続き。血の気の多い冒険者の管理や、冒険者一党の斡旋などを行うのが仕事だ。

 

 国営の組織故、その職員になるには相応の学と能力が必要であった。また、飲み屋で「俺ギルド職員なんだぜ」と言えば「きゃーすごーい」と言われる程度には地位の高い職であった。

 男は、そんなギルドでは珍しく、けっこう不良気味な職員であった。軽い賭博はやるし、コミュ力に難ありで、受付態度もよくない。けれども、ギルドでは重宝されていた。

 何故か? 清濁呑んで、しっかり仕事ができるからだ。

 

 そんな職員には、ひとつの不文律があった。

 

 ――冒険者に肩入れする事なかれ。

 

 心を壊さぬように。

 情深い職員を守る為の、古い教えだ。

 心を配り過ぎ、気を遣い過ぎ、そうやって病んだ職員を、男は何人も見てきた。

 

 その点、男には適性があった。

 男は冒険者に期待しない。そんなもんだと思っている。五体満足に帰ってこようと、仲間が遺品を持ち帰ってこようと。心を病む事はない。よくある事さと、酒を飲んで忘れる事ができたのだ。

 それが、ギルド職員に求められる最も重要な資質であった。なまじおつむが良いと、こんな生き方はできないのだから。

 

 冒険者は、すぐに死ぬのだ。

 

 異界の迷宮を探索し、怪物を倒して財宝を持ち帰る。実に華やかで、実に夢のある生業だと思う。

 しかし、それはごく一部の者だけだ。

 

 半数の冒険者は、初の迷宮探索から帰ってこない。

 生き残った内の半数も一ヵ月以内に死ぬ。

 そこから半数が一ヵ月の区切りで冒険者を辞め、そうでなくても一年以内に見切りをつける。それから蓄えた財を手に真っ当な職に就く。現役中に力を見込まれ、騎士団に入った冒険者は何人もいる。

 あるいは、長い間浅層をブラブラするか。最近はこっちが流行であった。けれども、不思議な事にそういう奴は長生きしないものだ。

 

 本当に強い奴は頭がおかしい。

 

 そして、一年過ぎてなおより深く迷宮を潜り続ける冒険者は、皆どこか狂っていると言われている。職員視点でもそうだし、ギルド全体も何となくそう思っている。冒険者上がりの王家など、重々承知の事であった。

 莫大な富と名声を手に、それでも死と隣り合わせの迷宮に潜るのだ。まともな損得勘定ができるなら、そんな分の悪い賭けはしない。故、強者は頭がおかしいと言われるのだ。

 ベテラン冒険者は、頭のどこかが、欠けている。心底戦いが好きだとか、ただただ強くなりたいだとか、皆の為に金を稼ぐとか。

 どこぞの善人の様に、何か何処かが狂っているのだ。

 

 冒険者は、迷宮の狂気を吸って帰る。

 だからだろう、迷宮帰りの多くは生来の思想や欲望が膨れ上がり、異常な程自我が強くなる。

 そして、自他の命に執着しなくなる。迷宮において、生と死はあまりに近い。

 

 

 

「あのー、すみません。冒険者の登録ってここで合ってますか?」

 

 長年職員をやっているからか、男はたまに変な勘が働く事がある。

 このヒョロガリは一見弱そうだが、実は強いぞとか。こいつは次の探索で死ぬなとか。そういう類の虫の知らせだ。

 それなりに外れる事もあるが、強烈な奴に限っては百発百中だった。 

 

「お前さん、名前は? 字は書けるのか?」

「母国語で良ければ。イシグロ・リキタカと言います。こういう四文字なんですけど……」

「あー、わかった。代筆な、こっちで書く。イシグ……あんた苗字持ちかい。どっちがあんたの名前だ?」

「イシグロが苗字で、リキタカが名前です」

 

 そんな男からして、新たに登録した黒髪黒目の冒険者は、一等異質に見えた。

 狂ってはいない。粗野な奴が多い冒険者の中では理性的で、社交的だった。

 パッと見、弱そうだ。生まれてこの方喧嘩なんかした事ありませんみたいな顔つきと身体つき。どう見ても新人丸出しの装備と武器。生き残れそうには、見えない。

 しかし、その黒々とした瞳の奥には、男をして異様な熱を感じる程だった。まるで、少し前に死んだ善人冒険者の様な。

 

「すみません。換金はここでいいですか?」

「ん? あぁ、朝の。ほう、あんた初迷宮で初踏破か。この札持ってろ、換金終わったら呼ぶから」

「はい。……ハードオフかな?」

 

 黒髪の新人冒険者は、無事五体満足で帰ってきた。

 第一の洗礼を突破し、あまつさえ主を討伐してのけたようだ。

 二度目以降の探索からも帰還したあたり、運も腕もいいのだろう。

 しかし、何処かが異質だった。その異質さは、雰囲気だけでなく行動にも表れていた。

 

「換金お願いします」

「あいよ。ん? 杖か、あんた魔法使えたのか? なら冒険者証に書き足さなくちゃいけねぇんだが」

「え、そうなんですか? すみません。また代筆してもらってもいいですか?」

「仕方ねぇな。両方終わったら呼ぶから、緑の2番な」

「ありがとうございます」

 

 冒険者業は儲かる。

 例え初心者御用達の浅層迷宮でも、一回潜って主を倒せばギルド職員の給与一ヵ月分の金が手に入るのだ。

 一度探索に成功すれば、しばらく遊んで暮らすのがその日暮らしの冒険者流である。それは、死を遠ざけ生を繋ぐ大切な儀式の様なものでもあるのだ。

 それを、この黒髪の青年はしないらしい。酒にも女にも、興味を示さないようだった。

 

「ほらよ」

「ありがとうございます」

「あ~、お前さんよ、いい加減新しい装備買った方がいいぞ。武器はころころ変えてるみてぇだが、もうボロボロじゃねぇか」

「お気遣いありがとうございます。けど、この防具動きやすくて気に入ってるんですよね。兜も視界狭めちゃうじゃないですか。試してはみたんですけど、ちょっとアレはな~って」

「そうかよ」

 

 朝、決まった時間に迷宮に潜り、夕方近くになると帰ってくる。

 決まってその手に主を討伐した証と、ごく稀にしか吐き出されない聖遺物を持って。

 

「お前さん、一党は組まねぇのか?」

「一党、ですか? 仲間的な?」

「ああ。なんべんも単独で踏破してんだ。収納魔法も使えんだ、引く手あまただろうぜ」

「あぁ~、それはまた今度で。当分は一人で潜ろうと思います」

 

 通常、冒険者の迷宮探索とは、もっと時間をかけて行うものだ。

 迷宮は生き物だと言われる。冒険者が足を踏み入れると、その都度構造を変えるのだ。一度抜けると、二度と同じ迷宮には入れない。それを何とかする為に迷宮固定の“楔”を打ち込み、楔が抜けるその前に何度も挑んで主を討伐するのがセオリーなのだ。

 それを、この黒髪の冒険者はしない。楔の存在を教えてやっても、ギルドの帳簿に奴の購入履歴はなかった。一度入ると、主を倒すまで帰ってこないのだ。

 

「すみません。換金お願いします」

「ん? あ、あんた、昨日大怪我してなかったか?」

「はい、死にかけました。まぁでも宿屋で寝たら全快したんで」

「そ、そうか……。ほら、緑の4番」

 

 それだけじゃない。その黒髪の冒険者は、神殿前広場で酒盛りをするでもなく、より強力な装備を揃えるでもなく、稼いだ金を懐に入れてそのまま宿屋に向かうというではないか。

 奴は狂っていない。理性的で、社交的だ。死に魅入られてもいないし、恐怖に快楽を感じている訳でもない。

 無事帰還した事に安堵し、稼いだ金を受け取ると満足そうに笑う。どこまでいっても一般庶民。街のどこでも見かけるような、ありきたりな俗人だ。

 そんな庶民が、俗人のまま、狂人の如き速度と頻度で迷宮を踏破し続けているのだ。

 狂っていないが、異質であった。

 

「換金お願いします」

「あぁ……今日も潜ってたのか。ほら、緑の1番」

 

 それも、単独でだ。

 多くの場合、冒険者は一党を組んで迷宮に挑む。奴は、それをしない。何度か勧誘された事もあったようだが、断った様だった。今となっては奴の異質さに勘付いてか、仲間に誘う一党はいなくなっていた。

 

「換金お願いします」

「おう。緑1番」

 

 群れる事なく、後ろ盾も持たず、たった一人で迷宮に挑み、必ず帰還する。

 莫大な富を持ち、比類なき力を有し、驕ることなく迷宮に挑み続ける。その手に、数打ちの武器を握って。

 それはまるで、彼の伝説の再現の様であった。

 

「換金お願いします」

「あいよ、緑の2番。なんだ、お前さん今日は棍棒かい」

「はい。まぁでも、ちょっと使いづらいですね、これ。攻撃はやりやすいんですが、カウンターが難しくて……」

「イシグロさん、すみません。お時間よろしいですか?」

「はい、何でしょう?」

「ギルドから昇格の試験を受けるよう言われていまして」

「へー、早いですね。いいんですか? こんなペースで上がっちゃって」

「間隔は短いですが、功績が……。そうじゃないと他の冒険者に示しがつかないんです」

「わかりました。換金終わってからでもいいですか?」

「はい。換金が済みましたら、東側のあの扉までいらしてください」

 

 そして、奴は区切りの一ヵ月が過ぎても自分のスタイルを変えなかった。

 相変わらずみすぼらしい装備で、弱っちい武器を持って、毎日の様に迷宮に潜っていた。

 この頃になると、すぐに死ぬだろうと思われていた黒髪の冒険者は職員たちの注目の的になっていた。

 圧倒的な功績。尋常ではない踏破速度。一ヵ月生き延びた、確かな実力。 

 そうして、慣例として彼には当代ギルド長からこのような二つ名が与えられる事となった。

 

 ――黒剣のリキタカ。

 

 しかし、ギルド長直々につけたこの二つ名はあんまり浸透しなかった。ありがちな「色+武器」というネーミングに前例がありすぎたというのもあるだろう。あと、彼は剣以外にも色んな武器を使うので、ギルド長はニワカを晒してしまったのがちょっぴり痛い。

 代わりに、同業者や職員からは、彼はこう呼ばれていた。

 

 ――迷宮狂い、と。

 

 単独で、毎日、黙々と、必ず主を倒し、帰ってくる。

 狂っているとしか思えない彼の生き様は、畏怖と尊敬を込めてこのようにあだ名されたのだ。

 

「換金お願いします」

「あいよ」

「あと、なんかボスから変なモン出て来たんですけど、これも換金できますか?」

「ん? おおっ!? これ深域武装じゃねぇか! あんた、こりゃ滅多にお目にかかれねぇ希少品だぞ? ホントに売っちまう気か!?」

「へー、レアドロなんですね。んー、まぁ今は使う予定はないけど、せっかくなんでいつかの為に残しときます」

「そうしとけ。それ売る時はよっぽど切羽詰まった時だ。あんたはそうはならなさそうだが」

 

 けれど男は、彼と最も面識のあるギルド職員は、知っている。

 奴は狂ってない。ただの庶民で、ただの人間で、ちょっと真面目な青年で。

 なんてことない、異質なだけの男なのだと。

 

 

 

「あのー、すみません。とある店への紹介状を書いて欲しいんですけど……」

「ん? 珍しいな。おう、何処の店になんて書けばいい?」

「えーっと……その、西区の……」

 

 ある日、件の黒髪が変な事を言いだした。

 曰く、奴隷を買いたいから、奴隷商人宛に紹介状を書いて欲しいと。

 その店は、貴族御用達の高級奴隷店であった。

 

「へえ、あんた奴隷買うのかい」

「え、規則じゃ大丈夫って聞いたんですけど」

「あぁ問題ねぇ。奴隷を買う冒険者も珍しくねぇよ」

 

 実際、奴隷を買う冒険者は多い。それは主に、楔を打った迷宮に連れて行く調査用の囮としてだが。

 そうなると、わざわざ高級奴隷を買う理由というのが分からない。スッキリしたいなら、手っ取り早く娼館にでも行けば済む話である。バカ高い店の性奴隷を買うよりよっぽど安上がりだ。

 もしやこいつ、高級奴隷でしか叶えられないような性癖の持ち主なのか? 男は訝しんだ。

 まあ、他人の性癖だ、何も言う気はない。男は紹介状を書き終え、黒髪の男に目をやった。

 

「あいよ、書けた……ぞ」

 

 その時、男は直感した。

 勘が働いたのだ。

 こいつはこの為に、迷宮に潜っていたのだ、と。

 

「ありがとうございます」

「お、おう……」

 

 何でそうなるのかは分からなかったが、こいつは高級奴隷を買う為に毎日死と隣り合わせの探索を続けてきたのだ。

 それも奴が貯め込んだ財と名声がないと購入できないような、とんでもない奴隷を買う為だけに、命がけで戦ってきたのだ。

 いるかどうかは知らないが、竜族の奴隷ならそれくらいするだろう。天使族なら、吸血鬼族の奴隷なら、かなりの額になるはずだ。

 もしかしたら、買った奴隷を教育して、ガチで迷宮最深部を踏破する気なのかもしれない。

 彼の、建国王のように。

 

 並みの冒険者じゃ手も出せないような超高級奴隷。それを使って、何かをするつもりなのだ。この男は。何か、とてつもなく大きな事を。

 何故ならば、いつもぼんやりしていた黒髪の青年が、これまで見たことない程ギラついた瞳をしていたからだ。その熱さ、尋常ではない。

 その瞳の輝きは、熱に溺れていなかった。無垢な少年がするような、強く真っすぐな光を放っていた。

 迷宮狂いじゃない。ただの真面目な青年でもない。

 夢追い人の眼をしていた。

 

「あんた、引退するのか?」

「え、引退ですか? いえ、まだその予定はないですね」

 

 どうやら、未だ道半ばであるようだ。やはり、並みじゃない。なるほどこいつについて来れる奴は、此処にはいないだろう。なら、連れて行くしかないのだ。

 一般ギルド職員の男には、ちょっと遠いような気もしてたが。

 異質なこの男の事が、少しわかった気がした。

 

「ま、がんばりな」

「はい」

 

 男にしては、珍しく。

 いつの間にか、この夢追い人に肩入れしたくなっていた。

 

 

 

 当然だが、黒髪の迷宮狂い――石黒力隆氏に、ギルド職員のおじさんが思っているような、そんな大そうな事をする気はない。

 むしろ、現代日本倫理的には下劣で醜悪な事を考えている。夢追い人なのはその通りだが、抱いた夢がこれじゃあね。

 それ即ち、ロリ奴隷ハーレム。

 

「あぁドキドキしてきたぁ……!」

 

 この男、ロリコンにつき。

 

 

 

 ちなみに、迷宮狂い氏は知らない。気づいていない。

 こいつが欲しがっているような奴隷は、それほど高額ではないという事に。

 ぶっちゃけ、彼の夢を叶える為のお金など、ずっと前から貯まっていたという事に。

 

 ハクスラが楽しくて、相場を調べる事を怠った馬鹿の縮図であった。




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奴隷商人のうちへ遊びに行こう

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 今回、無駄に膨らんでしまった。
 次回以降はもう少し抑えてスッキリさせたいですね。


 光陰矢の如し。

 

 この世界に来てから、だいたい三ヵ月の時が過ぎた。

 その間、俺はダンジョンと宿屋を往復し、たまに休んでまたダンジョンという生活を繰り返していた。

 まさに、リアルハクスラであった。

 

 すると、あったよこの世界にも冒険者ランクが! との事で、俺はあれよあれよと昇格していった。

 異世界お馴染み冒険者証。この世界の冒険者の身分証明証はオバロとかゴブスレみたいなドッグタグ風の紐付き板と、前世でよく見た名刺みたいな奴の二種類だった。

 最初、渡されたのはドッグタグ風の奴だけで、なんとみすぼらしい木の板に名前が書いてあるだけのアイテムだった。それが一回昇格しただけで鉄のプレートになり、二回目で少し綺麗な鉄プレートになり、今ではハガレンの銀時計みたいな奴になった。なお時計機能はない。

 名刺の方は一回目の昇格の際に書いてもらった。そこにはプレート同様名前や所属に加え、使える魔法や使える武器やらが書いてある。TRPGのキャラシみたいな感じだ。表に名前や身分が、裏に技能や経歴が載っている。

 これら二つを見せて、あっしはこういうもんでございやすとなるのである。

 

 ちなみに、この昇格は異世界転移から二ヵ月以内の出来事であり、以降昇格はしていない。

 曰く、普通これ以上昇格はしないとか。一応あと二回昇格できるらしいのだが、一個上が国に数人のレベルで、最上位が初代国王限定ランクらしい。

 つまり今の俺はゴブスレでいう銀等級に当たる訳だ。早すぎない?

 

 で、一端の冒険者となった俺だが、前述の通り転移直後と同様ほぼ毎日ダンジョンに潜っていた。

 駆け出し時代では禁止されていた敵強めのダンジョンにも潜った。聞いた通りそこのエネミーは中々強く、ダンジョン自体も広かった。

 そこでは戦ってる最中に武器が壊れてしまい、俺は初めて撤退した。それから武器防具を新調して挑み、見事高難易度ダンジョンを踏破する事ができた。ボスを倒した時など脳汁がドバーっと出たものである。

 そして、難易度の高いダンジョンは駆け出し時代に通っていたダンジョンよりずっとドロップが美味しかったので、味を占めた俺はさらにハクスラに没頭していった。

 ザコ一体、ボス一体倒す度、経験値がじゃりんじゃりん溜っていくのが楽しかったのだ。当然、転移からずっと質素倹約を旨としているので、俺の持ち金もじゃりんじゃりんであった。

 

 で、銀級になったタイミングでギルドから「頼むからお金を銀行に預けてくれ」とお願いされた――アイテムボックスに入れたお金はダンジョンで死ぬと消えてしまうらしいのだ――ので仕方なく預けたところ、いつの間にか目標金額を上回っている事に気が付いた。

 レベルアップとジョブチェンジに夢中で、いつの間にか結構なお金持ちになっていたのである。

 

 そろそろ、奴隷を買ってもいいかもしれない。

 あーでも、キリのいいとこまでレベルアップしときたい。

 そういう気持ちで、俺はちょっとずつ準備をしつつ、今日も今日とてダンジョンに向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 前世、俺は一度として喧嘩をした事はなかった。

 小学校3年から6年までフルコンタクト空手を習ってはいたが、試合以外で人を殴った事はなかった。

 武器を使った戦いなど、何をか言わんや。

 

 そんな俺が異世界迷宮でソロ活できるのには理由がある。コンソールだけじゃない、それを軸としたチートじみた戦闘手段があったのだ。

 以前にも言ったが、この世界はゲーム的だ。レベルがあり、ジョブがあり、スキルがある。そんなゲーム的な世界観だからこそだろうか。

 あったのだ、救済措置が。

 

「っしゃア完璧ィ!」

 

 迫りくる攻撃を“受け流し”、僅かな隙を見つけて“切り抜け”る。文字通り、流れるような動きであった。

 切り抜けスキルの勢いを利用して前衛エネミーの攻撃範囲を抜け、次いで飛んできた太い針を軸ずらしで避ける。背後からの体当たりを振り返る事なくジャスト回避。拡張された刹那の見切り、敵の弱点にクリティカル攻撃を入れた。

 敵を倒した後はすぐに動く。足を止めず、同時に相手にする状況を作らない。跳躍して斬り、走って斬り、逃げ回ってから振り向いて斬る。それはさながら、迫りくる新選組に孤軍奮闘する幕末志士の様。こんなのお侍の戦い方じゃないが、誉れは元々持ってないのでノーカンである。

 

 現代日本人じゃ絶対無理な動き。速さといい身のこなしといい、プロのアスリートでも絶対真似できない。前世基準、常人離れした立ち回りであった。異世界三ヵ月で、俺は既に前世オリンピック選手を優に超える身体能力を手に入れていた。

 これもすべて、件の救済措置による恩恵だ。

 

「ふぅ……。こんなもんか」

 

 敵を掃討し、一度剣をアイテムボックスに入れ、もう一度取り出す。そうすると剣身に付着した汚れが落ちる。異世界ライフハックだ。

 綺麗になった剣を握り、ボス部屋らしき場所に足を踏み入れた。するとそこには、異世界初心者時代にボスとして戦ったナックルベアくんがいた。見るに、前より筋肉が増量していた。

 熊型ボスと目が合う。奴は腕を上げて威嚇してきた。俺も剣を構え、獲物に向かって吠えた。威嚇には威嚇をぶつけんだよ。

 

「行くぞオラァアアアアアッ!」

「グゥォォォオオオオオオッ!」

 

 そうして、数えるのも面倒になるくらい繰り返してきた死闘がはじまった。

 斬る、避ける、逃げる。回り込んで斬る。さながらそれは、ボスと戦う死にゲー主人公の様。

 ちょっとでも気を抜くと、マジで死ぬのだ。ガチでいく。

 

 さて、話を戻そう。

 救済措置についてだ。

 

 最近のゲームって、昔のより親切になっている感じはないだろうか。難易度どうこうでなく、やりやすさという意味で。

 ビッグタイトルの場合、そういうの顕著だと思う。より多くの人にプレイしやすいよう、色々と配慮された作りをしている。ラスアスの設定項目には度肝を抜かれたよね。エリー好き。

 そういうのが、コンソールで使えるようになったのだ。

 

 難易度変更でもない。無敵モードでもない。残機無限でもない。

 それは……。

 

「ふんッ!」

 

 素早い踏み込み、腰の入った刺突攻撃。俺の付き出した剣の切っ先は、見事ダンジョンボスの喉を貫いた。死闘の結果、俺が勝ったのだ。

 当然として、俺に剣の技能などない。ついでに言うと今のは剣道の突きでもない。システムによる恩恵だ。ジョブ対応の武器を握ると自動発動する、恐らく俺固有の救済措置。

 分かりやすく言うと、“モーションアシスト”だ。

 

 モーションアシスト。

 分かりやすいからそう言っているが、実際にはこれは“動作最適化”というらしい。コンソールにそう書いてあった。

 これは文字通り俺の動きをアシストしてくれる機能だ。オンにすると、戦士ジョブの際に近接武器を持つと一端の戦士にしてくれて、剣士ジョブの際に抜剣すれば俺を一端の剣士にしてくれるのだ。

 

 前述の通り、俺に剣術の心得はない。実際剣を振ったところで、せいぜい見様見真似ん女々しかチェストになっとが関ん山じゃ。おいは恥ずかしか。

 しかし、モーションアシストをオンにすると、どうだ。剣を握る様、立ち姿も普段の俺のまま、けれどもいざチェスト姿勢を取ってみると薩摩ホグワーツ生の如き堂に入った蜻蛉の構えができるではないか。そんまま剣を振っと、そんたもう強そうなチェストがでくっど。よかね。

 しかしこれは、一から十まで自動で動いてくれる訳じゃない。チェストしたいなら薩摩的構えを、ガトチュしたいなら剣を片手で持って例のポーズを取る必要がある。そこからその気で攻撃すると、チェストができるし牙突が撃てるのだ。

 もっと簡単に言うと、アシスト使えば俺もプロボクサー顔負けのシャドーボクシングができる訳だ。一度鏡の前でシャドーしてみるといい、絶対変だから。その変さが、なくなるのである。

 

 また、このモーションアシストはあくまでも通常攻撃及び防御行動にのみ適用されるものであるらしく、ジョブ由来の能動スキルには含まれないようなのだ。

 例えるなら、通常攻撃はそのままボタン一つでブンブンする技で、スキル攻撃はダクソとかエルデンとかの戦技に近い感じだ。

 

 無論、俺は貧弱一般人、多少補助輪がついてた程度で戦えるようになるわけもない。

 俺には、モーションアシストの他にもいくつかコンソールを軸としたチートオプションがあるのである。

 

 ホント、そうでもないと生き残れなかったと思う。

 

 転移直後の頃である。

 とにもかくにも行動だとなって、俺はあっちへこっちへ歩き回って情報を集めつつ、脳内の異世界ライブラリーから使えそうな情報を掘り出していた。

 体内に魔力的な未知のエネルギーが流れてないかとか。この世界の文明レベルはどうなのだとか。そもそもリンゴは木から落ちるのかとか。色々をだ。

 そして俺は念にパントマイムにと試行錯誤してやっと開けたコンソールを、これまた何か良いモンねぇかと弄りまくった。

 

 結論として、このコンソールはステやレベルを確認する為だけのものではなかった。

 装備やスキルの着脱。アイテムボックスの確認。次回レベルアップまでの必要経験値。色んな項目を参照したり弄る事ができた。

 その中で見つけたのが、オプションの項目にあった“アクセシビリティ”であった。

 

 アクセシビリティ。利用しやすさ。ゲーム以外にも見るが、ゲームでもよく見る項目である。

 ゲーム画面に表示されるアイコンの大きさ設定とか、字幕の色とか、はたまた追跡シーンでのカメラ追従設定とか。その設定項目は作品ごとに異なり、それら全てはプレイヤーに快適なゲームプレイを提供するための措置である。

 俺のゲーマー感覚が言っていた。これだ、と。

 

 コンソール内のアクセシビリティの設定には、実に色んな項目があった。

 前述のモーションアシストのオンオフ。危険攻撃の感覚アシスト。ジャスガ、ジャスト回避時間の延長などなど……。中には言語の自動翻訳というのもあり、それは最初からオンになっていた。神の手を感じざるを得ない。

 ステータスといい、アクセシビリティの設定といい、実にゲーム的で、実に親切設計であった。

 

 当然、異世界初心者の俺は俺に有利そうな項目のほぼ全てをオンにした。

 するとどうだ。敵の攻撃の軌道は予知できるし、危険攻撃は「今から強いのいきまっせ」と事前に分かる。ちょっと集中すればジャスガも回避も余裕だし、上手く決まればクリ確で与ダメ倍増である。ついでにダンジョンも街も一度歩けば自動でマッピングしてくれる。

 便利機能ガン積みロリコンマン。これぞ人生イージーモード。それが今の俺。チート野郎と笑いたきゃ笑え、俺は死にたくないんでね。

 

 そう、異世界はゲーム的であってもゲームではないのだ。

 攻撃食らうと痛いし、怪我をすると血が出るのだ。痛いのは普通に嫌である。ロリの為なら命を賭けられる俺ではあるが、別に死にたい訳ではない。

 故に、俺は俺に極限まで環境を甘くする事にした。ゲームでは極力壊れを遠ざけてきたが、リアルとなれば話は別だ。ヨシツネもヴァルマンウェもびりびりショットもじゃんじゃん使っていく所存。

 

 閑話休題。

 

 モーションアシストや危機察知など、お陰で俺はあっという間に強くなった。

 レベルが上がり、冒険者の階級も上がり、預金の方もかなりの額にまで膨らませる事ができた。

 今や俺は駆け出し冒険者ではない。金も地位もゲットした、ギルドお墨付きの二つ名あり銀細工持ち冒険者なのである。

 今後の事を考え、宿屋のグレードも上げた。武器も防具もワンランク上の物にした。顔が元のロリコン顔なので強そうには見えないだろうが、パッと見みすぼらしくはないだろう。

 どこをどう見ても、立派な冒険者だ。

 

 さて、そんな立派な冒険者となった俺は今。

 奴隷商館の所に来ていた。

 

 

 

 高級奴隷専門の老舗奴隷商会。その王都西区支部。

 

 目の前には如何にも高そうな大きな館。まるで北海道の赤れんがの様だ。ついでに大きな扉の前には槍を持った人までいる。

 前の世界なら観光スポットになりそうな見てくれだが、中身は奴隷を扱う店舗である。その造りは重厚で、その守りは厳重であった。

 

「よし……!」

 

 お金はある。身分証明書もある。ギルドからの紹介状も書いてもらったし、服もこの日の為にお高い服屋で見繕ってもらった。今の俺は誰が見ても紳士なはずである。まぁ元から心はロリコンという名の紳士ではあるが、今日ばかりは見てくれもそうだ。

 そう、俺は異世界ロリコン紳士だ。俺の夢はあくまでもロリと叡智な行為をする事。前世では絶対にできなかった事を、合法でやるのだ。何も問題はない。今更だ、現代日本で積み上げて来た倫理観など、捨ててしまえ。

 

 俺は、決意を固めて一歩踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 前世、奴隷といえば古代ローマというイメージがあった。

 いつだったか、図書館で読んだ本によると、古代ローマ人にとっての奴隷とは現代人にとっての家電製品に近い存在であったとか。

 庭を掃除する奴隷。公衆トイレの番をする奴隷。中には宴会でおもしろ話を披露する奴隷なんかもいたらしい。

 そして、今俺が求めているのは、俺の愛玩用のロリ奴隷。要するに、性奴隷だ。

 犯罪的だが、異世界無罪である。地球と異世界の法律をごっちゃにしてはいけない。この心の根にこびりついた枷からは、とっととオサラバしたいところである。

 

「お待たせしました。支部長のクリシュトーと申します」

 

 奴隷商館の一室。向かい合わせのソファーとお茶のセット。それと控えめな調度品が置かれたそこは、三ヵ月の異世界体験で最も現代的……というか、洗練された印象の部屋であった。

 そんな部屋で握手を求めてきたのは、アルカイックスマイルの髭ダンディであった。店主と名乗った男は奴隷商人と聞いてイメージしていた種付けおじさんスタイルというより、演劇とか映画とかに出ていそうな英国紳士スタイルの人間族のおじさんだった。

 

「イシグロ・リキタカです。イシグロが苗字で、リキタカが名前です」

 

 俺も握手を返し――握手は「敵意はありませんよ」という意思表示らしい――、次いでお互い向かい合って座った。

 そのまま軽い自己紹介とトーク。どうやらあちらは俺の事を知っていたらしく、何か会えて光栄です的な事を言われたが、俺からすると早く商談を進めたくて仕方が無かった。

 ぶっちゃけ、俺の股間は限界であった。なにせ転移後はずっとダンジョンアタックをやってたので、これまで一度もブラストバーンをしていないのである。さっきから期待と興奮と緊張で思考回路がスピード違反を連発している。

 

「ところで、商品についてなんですけど……」

 

 なので、ぶっこんだ。もう我慢できねぇ。

 そしてそのまま、俺が此処に来た理由と欲しい奴隷についての要望をぶちまけていった。ハーレム形成の為にもこの店には今後もお世話になりたいので、一から十まで俺の性癖と欲望を垂れ流させてもらった。

 兎にも角にも今すぐ可愛い子を紹介してほしいのである。

 

「ふむ……」

 

 できるだけ丁寧に、かつ誤解を生まないよう俺のロリコン道を説くと、対する奴隷商人は表情そのまま考えるような仕草をした。

 その目は俺の目とばっちり合っており、何やら値踏みされているみたいで居心地が悪かった。ポリを見ると怯む俺、そういう風に見られるとさっきまで猛っていた股間のリザードンもヒトカゲになってしまいそうである。

 けれども俺は強い心を維持した。そうだよ俺はロリコンだよ悪いかよコラと開き直ってやった。いいじゃねぇか合法なんだろという心の中の海賊魂が気炎を上げている。新世界は目の前だ。

 

 やがて、老舗高級奴隷商館の主は、こう云った。

 

「……申し訳ありませんが、当店にイシグロ様のご希望に添える商品はございません」

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 ひょ?

 

 待て待て、マテマテマテ……いや、そんな馬鹿な。

 俺はたまの休日に、色んなところで色んな情報を集めてきた。奴隷を買えるようなところの情報を中心に色々とだ。

 で、皆が言うのだ。此処が一番だと。この店が王都で一番の奴隷商会で、最もお高い性奴隷を販売するお店なのだと。

 そんな王都民みんなに聴きました最高の奴隷商会は何処? で一位なのが、此処なのだ。

 にも関わらず、ない? 俺の求める奴隷が?

 

「あ、あの……いない、というのは……どういう……?」

 

 まさか、金ないとか思われてる?

 そんな事はないはずだ。おじさんに代筆してもらった紹介状も見せたし、冒険者証も見せた。なんなら、俺は最高のロリ奴隷を買う為に最上級奴隷を買えるくらいの貯金があるのだ。なんなら証拠見せたろかという気分である。

 

「申し訳ございません。ご存じの通り、当店は高級奴隷専門でして、イシグロ様のご要望を叶えられる奴隷は扱っていないのです」

「ん? え? なんで?」

 

 完全に素が出た。多分、今の俺はめちゃくちゃアホ面をしている事だろう。

 対する店主はポーカーフェイスとアルカイックスマイルを悪魔合体させたような表情をしている。どういう顔だ。

 

「失礼ながら、イシグロ様はここよりずっと遠い国の出身とお見受けします」

「はい」

「この国における美しい女性とは、人間族の20代女性を基準としているのです。勿論、種族による好みの違いもあるのですが、人間族含め多くの種族の方は健康的で豊満な人間族の女性を好む傾向にあるのです。その点、イシグロ様の好みは……」

「あぁ……」

 

 あぁ、つまり、アレだ。

 ロリコンバイバイだ。

 

 前世、俺にはしょうもない悩みがあった。

 アニメにしても、ゲームにしても、ロリキャラが巨乳ヒロインの添え物にされてはいないかという話だ。

 勿論、人気投票で一位になるロリもいる。コッコロちゃんとかキョウカちゃんとかね。けど、多くの場合一番人気は巨乳の女の子じゃなかろうか。

 となると、沢山女の子が出る系の作品で中心にされるのは巨乳ヒロイン。右を向けば巨尻。左を向けばムチムチ太もも。哀れ、華奢なロリはライザのキックで吹き飛ばされてしまった。

 白米が金髪巨乳。汁物が黒髪清楚。主菜が銀髪巨乳で、ロリは副菜扱いされてる気がする。違うのだ、ロリこそメインディッシュなのだ。

 

「あの……未成熟で小柄な女性を愛好する方はいないのでしょうか?」

「ドワーフの男性などは小柄な女性にも魅力を感じるようです。しかし、同じドワーフ族同士でも、男性は同族の女性に豊満な肉体を求める傾向にあるようです。聞くところによると、ドワーフ美女の条件は第一に身体全体の豊満さで、第二に高い背丈であるようです」

 

 この世界のドワーフは、男が髭もじゃガチムチ小男で女が髪の毛もふもふロリという紳士諸兄に優しい種族である。

 そんな種族の男性でも、同族女性に求めるのがムチムチボインとは……なんてこった。ドワーフ女のムチムチボインという事は、ロリというより背の低い豊満女性ではないか。ウマが合わないぞドワーフ男。

 

「そ、そうですか……」

 

 よもやよもやだ。

 まさか、異世界でもそうだとは思わなかった。

 前世、ロリコンは一定数いたのだ。古代ギリシャでも古代ローマでも性癖のうちのひとつだったのだ。なら異世界でもロリコン用にロリ奴隷もいるとばかり思っていた。

 口ぶりからして、いるにはいるのだろう。しかし悲しい哉、高級店にはいない。いるとすればもっと大衆向けの、もっと質の低い奴隷商会に。

 別に高く買いたい訳でもない。高級奴隷というブランドに価値を感じている訳でもない。けど、俺は知っているのだ。大衆用奴隷売買に、質のいい奴隷はそうそういないという事を。

 

「ふむ……」

 

 ちょうど異世界一ヵ月目の頃だった。俺はロリ奴隷購入の為、本格的に情報を集めはじめたのだ。

 そして、人の多いところをブラブラしていると、広場で何やらオークションみたいなのが開かれていたのだ。行ってみると、そこには体育館のステージみたいな場所があって、壇上では複数の男女が並んでいた。

 その人たちは全裸で、胸の前に板を持たされていた。そこは奴隷市場だった。話を聞くと、その奴隷オークションは中級の奴隷即売所であるらしかった。

 出品されていた奴隷の多くは男性で、如何にも労働用という雰囲気だった。たまに女性もいたが、前世基準でも異世界基準でもあんまり美人ではなかった。中には背の低いドワーフ女子やケモミミ女子もいたのだが、ちょっとう~んってなる子ばかりだった。

 そういう経験もあって、俺はこの高級奴隷商会に来たのだ。ここなら、めっちゃ可愛いロリ奴隷がいると思って。

 

 俺視点、この世界は美男美女が多い傾向にあると思う。

 前で言うとクラスで五指に入る女子が集まってる感じだ。無論、一本目と五本目にはまぁまぁ差がある。また、それはあくまで傾向であって例外がない訳でもないのだ。

 何を偉そうにとなるところだが、せっかく奴隷を買えるのだ。ならクラス一位のロリ美少女がいいでしょうよという気持ちである。五位でも全然イケるのだが、そのオークションには圏外女子しかいなかったのだ。

 

「ふむ、イシグロ様」

「なんですか」

 

 そう、此処にはいないらしい。

 いないなら、俺の次の行動は決まった。可愛いロリ奴隷を求め、掘り出し物を探しにいくのだ。

 あのオークションで出品されていなかっただけで、何処かにはいるはずなのだ。可愛い子は、きっと。

 だからもうこの店に用はなかった。申し訳ないが、ご縁が無かったという事でお暇させてもらおう。

 

「現在、当店には適当な商品はありませんが……」

 

 さてどうやって切り出そうかと思っていると、おじさんが平坦な声で云った。

 さっさと話を終わらせたくて、ぞんざいな返事しちゃったよね。

 

「幼い容姿の、背の低いサキュバスなら預かっています」

 

 ん?

 

 背の低い、サキュバス? 幼い容姿って事は、ロリのサキュバス?

 情報はある。この世界のサキュバスは、生まれて一年で成長が完了するらしいのだ。そして、その多くはムチムチボインの男ウケMAX体型をしているのだと。

 また、サキュバスは魔族のうちの一種であり、他種族のオスの精を吸って生きるらしい。誘惑の魔法に長け、本能的に淫蕩を好み、常に他種族のオスを狙っているとか。

 ついでに全員美形らしい。それで低身長ってんなら、つまりロリ美少女……ってコト!?

 

「サキュバス、ですか……?」

「はい。ちょうど、このくらいの大きさの」

 

 言って、店主は手を上げて件のサキュバスちゃんの身長を教えてくれた。

 それは、ロリコン計測で高さ約138センチだった。

 

 身長140未満のサキュバス……。

 エッチな事が大好きな、美少女……。

 ロリ奴隷の、エッチな美少女……!?

 

「彼女はサキュバスの中では落ちこぼれと伺っています」

「落ちこぼれ、というと?」

 

 一拍空けて、奴隷商人は云った。

 

「処女という事です」

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 来てよかった。




 感想投げてくれると喜びます。



 本作を書くにあたり、「古代ローマ人の24時間」と「奴隷のしつけ方」という書籍を参考にしています。
 あくまで参考です。いらないトコは削ってこねてアレコレしてます。ご都合主義です。


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奴隷商人のうちへ遊びに行こう その2

 感想・評価など、ありがとうございます。感謝の極み。
 誤字報告も大変助かっています。重ねて感謝。

 推敲よりも投稿を重視しました。
 変なトコは後々修正します。

 今回やっとヒロインが出てきます。
 まだ性格の大部分は分からないままかと思われますが、まぁキャラクターの方向性は分かるかと。


 この世界には、実に色んな種族の“人”がいる。

 ファンタジーお馴染みのエルフやドワーフ。獣人や鬼人。天使や吸血鬼なんてのもいるらしい。

 中でも最も数が多いのは人間族だ。平均としては貧弱なものの繁殖力に優れ、ほぼ全ての異種族と子を成す事ができるのだ。また、全種族の中で最も戦闘力の上限が高く、最も戦闘力の下限が低い種族であると。個体差が激しいんだな。

 

 これら異世界の種族を大別すると、人間族とそのハーフはそのまま人間種。エルフやドワーフ等は亜人種。吸血鬼族や魔族は魔人種になる。ちなみに、天使族や竜族はちょっと別枠らしい。

 文献によると、それら全ての種族は共通して同じ言語を話し、皆二本足で歩くそうな。これまたちなみに、獣人相手に料理だけ出して食器を出さないという行為は、獣人を獣扱いしているとみなされ殺害も許されるレベルの侮蔑に当たるようだ。異種族コミュニケーションには気を付けよう。

 

 会話ができて、二本足で歩く事ができる。それができる種族は皆、トモダチなのだ。

 つまりこの世界、ケンタウロスやアラクネといった複脚種族はいないらしいのだ。まぁロリコン的にはあんまり関係のない話だな。一応、獣人の中に馬人族というのがあるらしいが、彼ら彼女らも二本足だ。ウマ息子とウマ娘だな、ルビー実装前に転移した我が身の不幸よ。

 

 で、俺が今から購入する予定なのが、魔族のサキュバスである。

 魔族、それは生命の根源を魔力に由来する種族である。曰く、魔族は例え手足が千切れても魔力さえあれば修復されるらしい。逆に魔力が無くなると五体満足でも死んでしまうとか。頑丈だが、儚い。いずれにせよ殆どの人間種よりも強いのだが、その生態の多くは他種族に依存している傾向にあるようだ。吸血鬼とかね。

 

 さて、サキュバスについてだ。

 サキュバス――淫魔は魔族に当たるので、魔人種だ。つまり魔人種の魔族の淫魔さんである。

 淫魔は他種族のオスから精を吸って生きる。これを吸精という。吸精手段は主に性交であり、そうして集めた精を取り込んで魔力を回復し、力をつけ、やがて溜め込んだ精を任意使用して同族の子を産むのだ。あと、生存とか繁殖とか関係なしにエッチな事が好きらしい。

 つまり淫魔にとっては、エッチな事=食事兼筋トレ兼繁殖行為兼趣味なのだ。すごい種族である。

 

「彼女の名はルクスリリア。種族は先ほど申しました通り、魔人種の小淫魔となっています。出身は淫魔王国。前職は高位貴族の召使いをしていたようです」

 

 サキュバスちゃんが来るまでの間、俺は奴隷商人の奴隷紹介を聞いていた。

 こうやって商品の情報がスラスラ出てくるあたり、このおじさんが如何に優秀かが分かるね。カンペもなしにようやる。

 

 数分前、奴隷商人のサキュバスいるぜ発言に飛びついた俺は、前向きに購入を検討したい旨を伝えた。

 するとおじさんは一度ベルを鳴らして従業員に件のサキュバスをここに連れて来るよう命じた。事前に顔見せしてくれるらしい。

 この世界にパネマジはない……ないと信じたいが、「君写真と違うね?」とはなりたくないものである。俺はおじさんの語りを聞きながら、マリアナ海溝の深奥まで沈んだ心を物凄い勢いで浮上させていた。

 

「彼女は母国……淫魔王国内で罪を犯し、女王の裁きによって我が商会に売られました。勿論、正式な手続きの上の売買契約です。その際、淫魔女王手ずからいくつかの呪いを施されたとの事で、現在淫魔としての特性をいくつか封印されている状態です」

 

 どうやら、ルクスリリアちゃんは罪人であるらしい。罪状は知らないが。ついさっき落ちこぼれと言っていたあたり、落ちこぼれ犯罪者という事になる。ロリはモテないらしいし、扱い悪そうな。

 ここまでの話を聞くと、何故店主がロリコンの俺にすぐルクスリリアをオススメしなかった理由がわかる。ロリといえばロリだが犯罪者で、多分もともと性奴隷としての見込みは薄かったのだろう。恐らく、魔族の強靭な肉体を使った労働用の奴隷として売るつもりだったのではないだろうか。サキュバス的に性奴隷制度が罰になるとは思えないし。

 その点、俺のような冒険者に宛がわれるのは罰になるのだろう。なにせ、此処で最上位の契約魔術を施された奴隷は主人が死ぬと連鎖して死ぬ事になるのだ。常時鉄火場にいる冒険者の奴隷となれば、ほとんど処刑みたいなもんである。無論、俺に死ぬ気はないが。

 

「ご存じかもしれませんが、淫魔は誘惑と淫奔の魔法に長け、他種族の男の精を吸い取ります。ですから、サキュバス奴隷の扱いには慎重に慎重を重ねる必要があるのです。これは条約により定められたもので、何の処置もなく商品化する事は許されないのです。仮に一切の枷もない飢餓状態の淫魔を街に解き放ってしまうと、その街が機能を停止してしまう恐れがあるのです」

 

 これじゃあサキュバスが生物兵器みたいな言い方である。

 まぁ確かに、話に聞くサキュバスの魔法を遠慮なしにぶっ放してしまえば一般ピーポーは暴走してしまうのだろう。むべなるかなであった。

 

「ですので、サキュバスを奴隷化する場合、呪いとは別に高度な契約魔術を施す必要があるのです。本来、彼女はうちの傘下の労役用奴隷店に任せる予定でしたが、イシグロ様がお望みとあれば……」

 

 そう言って、再度値踏みするような目を向けてくる店主。その口元はほんの僅かに笑みを作っていた。

 客を試す失礼な態度というより、「わかってますぜ?」というような雰囲気があった。こういう親しさを見せる事で俺の心を解くつもりなのか。

 その企みは分かっている。俺に心を開かせ、財布のヒモを緩めたいんだろう。

 

「いくらですか?」

「王国金貨で150枚となっています」

「買った」

 

 うん、余裕でノッちゃう。

 

 ちなみに、奴隷の値段は前世でいう車に近い感覚だと思う。

 多くの場合、客が欲しがるのは燃費と性能に優れた軽自動車や乗用車だろう、実用性重視、コスパが良い奴が売れる訳だな。デザインが良いと嬉しいよねって感じ。

 対し、高級奴隷はフェラーリとかアストンマーチンみたいな趣味性の高い車扱いになるんだと思う。デザインやブランド性重視で、実用性はそこまで重要視されない感じ。それでも高値で売れるのだから、売り手も買い手もハッピースマイルだ。高い奴はホント意味わからんくらい高い。

 それで言うと、ルクスリリアちゃんは燃費も性能も良いけどデザイン悪くてブランド性ゼロで悪目立ちしちゃうチグハグ高級車になるんだと思う。金持ちは欲しがらないし、コスパ重視勢からすると微妙と。やめよう、この言い方は悲しくなる。

 

「ありがとうございます。ですが、実際にご覧になってからお決めになられた方がよろしいかと」

 

 店主は小さく微笑むと、先ほどまでの雰囲気を霧散させた。

 さっきの掛け合いは冗談。そう顔に書いてあった。

 

「あ、そうですね。つい……」

 

 まあ、ここまでの流れは読めていたんだろう。今のですぐ契約を迫るような余裕のない店じゃありませんよというポーズだ。

 その甲斐あって、俺から店主への心の硬度は柔らかくなってる訳だし。こっちだとこういう商談方法がメジャーなんだろうか。

 

 それから、俺と店主はこの世界のロリコン事情について話した。

 敵と己のお尻だ。ロリについて知ってもらえば、今後もサキュバス以外の顔の良いロリを仕入れてくれるかもしれない。

 

「そうですね、こちらでは未成熟な少女を愛でる習慣は聞きません。やはりあくまでも子供として、ですね。イシグロ様の故郷ではそういった嗜好の方が多かったのですか?」

「どうでしょう、法で禁止されていたので大っぴらに喧伝する人はそういませんでした。私もです。ですが、母国の男性の多くには大なり小なり琴線に触れるモノがあったのではと思います。言わないだけで、皆少女が好きだったのだと」

 

 そうこうしていると、扉の先に気配――アクセシビリティの敵味方レーダー機能である――を感知した。

 控えめなノックの後、「連れて来ました」という男の声。さきほどルクスリリアを迎えに行った従業員である。

 

「入ってください」

 

 店主の許可を得て、扉が開かれた。

 ゆっくりと、木製のドアが開いていく。心臓の音がうるさい。来た、来た、来た。ついにロリの奴隷をこの目にできるのだ。

 

 緊張の瞬間。ファーストコンタクト。運命の出会いである。

 さてさてご対面……と思って凝視していると、そこには全身を真っ黒なマントで覆った小さな邪教徒みたいなのが立っていた。多分、ルクスリリアちゃんなのだろう。実際ちんまい。

 それは首から足首までを黒いマントで覆っていた。ご尊顔はパペットマペット氏の如き黒い袋で隠され、色気もクソもない。一歩彼女が歩み出ると、むき出しの足元からじゃらりと鎖の音が聞こえた。

 

「これは……?」

「万一の事があってはいけませんので、現在彼女からは聴覚を除く感覚を封印しています。イシグロ様ならば平気かもしれませんが、私のような者には淫奔魔術の耐性がありませんので。契約魔術もまだなので、もしもの時は即座に無力化します」

 

 どうやら、サキュバスは俺が思っていたよりも危険な種族として見られているようだ。

 俺なら大丈夫というが、どうなんだろう。そういうデバフ系は薬で無理やり治してきたからどれだけの耐性があるのか分からないんだよな。

 

「クリシュトーさん」

「ええ。封印を解除してください」

 

 ともかく、俺は早く顔が見たい。その気持ちを視線に込めて店主を見ると、店主は従業員に許可を出した。

 まず、頭を覆っていた袋が取られた。そこから現れたのは、俺の想像を優に超える美少女の顔であった。

 

 パッと見で分かった。クソかわロリ美少女だ。肌は艶やかできめ細かく、荒れた部分が全くない。そして、ミルクを溶かし込んだように白く、透明感があった。

 顔立ちといい体型といいロリそのものだが、ロリコン目線じゃなくても肌艶だけでかなりの色気がある。前世のジュニアアイドルと100人組手しても絶対勝てる。

 

「おぉ……!」

 

 髪は輝くような黄金だった。ヘアスタイルは前世でいうとミディアムヘアになるんだと思う。毛先が外側にぴょこっとウェーブしていて、大人の女性というよりも少女といった印象が強い髪型だ。

 ぼんやり開かれた瞳はじっと見ていると吸い込まれそうなほど大きい。虹彩は濃いワインの色をしていて、髪と同色のまつ毛は驚くほど長かった。

 真ん丸で大きな双眸の割に、鼻と唇は小ぶりだ。よく聞く表現だが、ルクスリリアはまるで人形の様な顔立ちをしていた。ゴスロリ衣裳でも着れば前世のオタク君を一発KOできそうである。無論、俺の心は既に奪われていた。

 そして何より目につくのが、ヒト耳の上――側頭部にある左右一対の漆黒の角の存在だ。それは鬼や牛王を連想させるような厳つい形状ではなく、羊の様な丸っこい形をしていた。

 

 彼女の美貌に見とれていると、背後に立った従業員が何事か呟いた。わずかな魔力感覚、魔法の詠唱だ。封印とやらを解いているらしい。

 すると、ルクスリリアは寝起きの様に数度瞬きをした。どうやら今の今まで目が見えてなかったらしい。ぼんやりと開いてたさっきと違い、今はパッチリとした瞳が全開だ。

 彼女はロリロリしい顔立ちに対して、その目は蠱惑的に吊り上がっていた。メスガキの目で伝わると思う、あのツリ目だ、大好物である。

 

「ルクスリリア、こちらは銀細工持ち冒険者の“黒剣”のイシグロ様です。貴方のご主人様になるかもしれない方です、失礼のないように」

 

 そしてキョロキョロと辺りを見渡すと、最初に奴隷商人と目を合わせた。

 それから視線をスライドして、俺と目が合った。その瞬間、俺の心臓が跳ねたのが分かった。ロリと目が合った。もうそれだけでドキがムネムネである。

 

「うぁ……ぉぇあ……」

 

 ルクスリリアが何事か云っている様だが、言語になっていない。そういうのも封印されているようで、従業員さんはさらに詠唱を続けた。

 封印解除の詠唱が響く中、俺と彼女はずっと視線を交わし続けていた。

 

「あぅえ……ぉあぁぁ……、ぉうぁい……ぃあぁぁ……!」

 

 繋がれる視線と視線。

 メスガキめいて吊り上がった瞳からは、彼女の感情が伝わってきた。

 ロリコンじゃなくても、分かる。彼女は、助けを求めていた。その眼には恐怖があった。涙は流していない。身体も震えていない。けれど、奴隷となった落ちこぼれサキュバスは、俺という個人に助けを乞うていた。

 これまでのロリコン人生、これほどまでにロリから何かを求められた事があったろうか。いやあったにはあったが、それはお年玉だった。勿論喜んで課金した。「おじさんありがとう」というボディブロウを食らった思い出が蘇る。21歳はおじさんではない。

 ともかく、彼女は俺を救世主でも見るような、縋る様な目で見ていたのだ。理由は分からない。俺を、善人だとでも思っているのか。

 

「はっ……!?」

 

 やがて詠唱が終了すると、行動を制限する封印は解かれたようで、彼女は一度ビクンと身体を震わせた。

 身体の自由を得たルクスリリアは、まず自身の手を見てグッパグッパしていた。マントの隙間から出た両手には、ゴツい手錠がついていた。

 それからもう一度俺と目を合わせると、その大きな赤い瞳を潤ませ始めた。

 

「ルクスリリア、挨拶を」

 

 店主の命令が聞こえていないのか、彼女はなおも俺を見つめ続けていた。滲むような涙はすぐに大粒の涙となり、それは彼女の頬を伝っていった。

 対する俺は、唖然となって彼女の涙を凝視していた。すがる目の理由は分からないが、涙の意味には気づいたからだ。

 

 当たり前の事だった。

 これは、枯れる前の奴隷の涙だった。

 

 分かっていたつもりだった。覚悟していたつもりだった。奴隷を買うという事は、ひとつの命を踏みにじるという事を。一人のロリを泣かせるという事を。

 罪人とはいえ、性行為が罰にならないとはいえ、誰が好き好んで個人所有の奴隷になるというのか。当然、哀しいはずだ。悲劇で然るべきだ。俺はそれを、ロリ奴隷ハーレムなどと嘯いて欲望を満たそうとしている。浅ましく、醜悪だ。自覚のある事を、今こうしてその結果を見せつけられたのだ。

 強者は奴隷の上で嗤い、奴隷は強者の下で泣く。それがこの世界だ。日本じゃない、ここは異世界なのだ。俺が欲望を叶えるには、その事実を飲み下さないといけないのだ。

 

 かわいそうなのでぬく決意を抱かないといけない。

 俺にとって、俺の夢がホントの夢であるならば。

 悪徳に漬かる覚悟がいるのだ。

 

「ルクスリリア、挨拶を」

 

 温和な店主の冷たい声。

 命令された奴隷は、涙を流しながら俺を見ていた。

 ルクスリリアが口を開く。身体が震えている。ジャラリと鎖が鳴ると、背後の従業員が身構えていた。

 

「あ、あぁ……た、たっ……!」

 

 そうして、彼女は……。

 

 

 

「アタシを買って下さいッスゥゥゥーッ!」

 

 

 

 叫ぶと同時、俺に向かってジャンピング土下座をぶちかました。

 唐突な土下座に、俺の葛藤は完全にフリーズしてしまった。店主は額に手をやって「あちゃー」ってなってて、身構えていた従業員も固まっていた。

 俺視点、金色の毛玉が足元にすがりついてるような構図だ。忠誠のポーズというより、命乞いのポーズに見えた。

 

「お願いッス! アタシを買ってください! 料理できます掃除できます家畜の世話もできるッス! ご飯もほんの少しでいいッス! サキュバスは低燃費ッスから大丈夫なんス! 迷宮にも喜んで同行させて頂くッス! 女王陛下の呪いで簡単に死ねない身体なんで! 盾も囮もできるはずッス! 冒険者様ぁぁぁッ!」

 

 最初はただの大声だったのが、台詞の途中から涙&鼻水混じりのダミ声に変化していた。

 彼女は見た目に似合うかわいらしい美声の持ち主であった。しかし、その鈴のような声は、台詞の中盤から先代ドラえもんの如きドラ声になっていた。かわいいのベクトルが変わったのだ。

 

「おぉぉぉ願いしますッスゥゥゥ! 100年無休で坑道掘るのは嫌なんスゥゥゥ! つるはしなんて一度も持った事ないんスゥ! いやぁああああ! 周りに男いるのに一切誘惑できない環境なんて生き地獄ッスゥゥゥ! 冒険者様ぁ! 助けてほしいッスゥゥゥ!」

 

 なんというか、哀れを通り越してギャグだった。

 高級そうな絨毯には、現在進行形でロリの涙と唾液と鼻汁が流れ落ちて水たまりを形成していた。

 

「えぇっと……」

 

 正直、困った。こういう時、どういう顔すればいいか分からない。

 俺は店主を見た。店主は硬度ましましのポーカーフェイスになっていた。

 

「買って下さい! 何でもしますからぁあああ!」

「強制発動、“沈黙”」

「ぐェっ!?」

 

 どうやら店主は魔法を使ったらしく、哀れロリは絞め殺されたニワトリみたいな鳴き声をあげて沈黙した。びっくりして上げられたルクスリリアの顔は、せっかくの美貌が台無しになるレベルでぐちょぐちょだった。

 

「……連れて行って下さい。別室で待機を」

 

 店主の命令は、疲れていた。

 なるほど、真っ先にオススメしない理由のひとつはコレかと、納得した。




 感想ありがとうございます。



 本作、割と解説というか説明というか、隙あらば異世界語りをする訳ですが、「ここ分からねぇぜ!」ってトコがあれば気軽に聞いてやってください。
 割と喜んで答えます。


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ロリに朝が降る

 感想・評価など、ありがとうございます。たすかる。

 来週はどうなるか分からないので今のうちに投稿しときます。

 今回は三人称、ルクスリリアの過去編。雰囲気は軽いです。
 ヒロインの過去編はルクスリリアしかしないかもという保険をかけておきます。


 ルクスリリアは大罪を犯した。

 

 

 

 小淫魔ルクスリリアは落ちこぼれサキュバスである。

 ルクスリリアは同じ小淫魔の母から生まれた下級淫魔だ。平民淫魔など殆どが小淫魔でありぶっちゃけ弱いのだが、ルクスリリアは中でもぶっちぎりのザコサキュバスであった。

 あまつさえ、生まれて一年で身体の成長限界を迎える淫魔にあってルクスリリアは一年経っても幼い容姿のままであった。小さくて細くて胸がないクソザコ淫魔、それがルクスリリアだった。

 

「えーマジ処女!? キモーい!」

「処女が許されるのは一歳までだよねー!」

「う、うるせぇえええ! アタシだって好きで処女やってんじゃねぇんスよ!」

 

 この世の美とは即ち豊満さである。巨乳にあらずんば淫魔にあらず。おっぱいが正義であるならば、ちっぱいは悪になるのだろうか。

 当然のように、ルクスリリアは他種族の男から全然モテなかった。同い年の淫魔がどんどん処女を卒業していく中で、ルクスリリアだけが処女を捨てられずにいた。

 淫魔は処女のまま10歳を迎えると最強の魔術師になれるという言い伝えがあるが、それは嘘だった。何故嘘だと分かるかというと、ルクスリリア当人がそれを証明してしまったからである。

 

「こんなに悲しいのなら……こんなに苦しいのなら……愛などいらねぇッス!」

 

 と、10歳の誕生日で一念発起したルクスリリアは、淫魔王国兵として軍隊に志願した。

 が、ダメだった。一応入隊自体はできたものの、ルクスリリアに兵士の素質はなかったのである。

 

「このクズどもめ! トロトロ走るんじゃない! なんたるザマだ! 貴様らは最低の処女だっ! ヴァージンだっ! この世界で最も劣った魔族だ! そうじゃないと言うなら腰振ってケツの穴絞めろ! エルフの処女みたいにひんひん鳴きおって! みっともないと思わんのかこの純潔吸精鬼ども! 童貞が喰いたいなら強くなれ! 強くなって吸精しろ! 強請るな勝ち取れ! さすれば与えられん!」

「んんぐぉおおおお……! 童貞……! アタシも童貞食べたいッスゥゥゥ……!」

「ルクスリリアァ! ペース落とすなぁ!」

「はいッスゥ……!」

 

 前述の通り、ルクスリリアは身体が小さく、細い。体格相応に体力がなかった。重い物も持てないし、足も遅かった。

 ホントにそれだけなら魔力でどうとでもできるはずなのだが、ルクスリリアにはどうにもできなかった。何故なら、処女だから。吸精した事がないから、魔族にとっての一番大事な魔力が致命的に少なかったのである。

 

「はぁ……はぁッ! き、キツいッス! 無理ッス! なんでみんなそんな動けるんスかぁ!? ヴォエぇぇぇ……!」

「ルクスリリアァ! 何をチンタラやっとるかァ! 貴様ちゃんと男食ってンのかァ!?」

「処女なんスゥゥゥ!」

「あ、悪い。そういうつもりじゃ……」

 

 ぶっちゃけ、処女のルクスリリアには新兵訓練も厳しかった。

 でもガッツはあったので、毎日ヘトヘトになりながらも続ける事はできた。

 しかし、そんなルクスリリアの心をへし折る事件が起きたのだ。

 

「お久しぶりです、レギン卿。今年もどうぞよろしくお願いします」

「こちらこそ。この日の為に新兵どもには禁欲を命じておりました」

「おや、それは頼もしいですな」

 

 淫魔軍の隊長と、人間軍の隊長が握手している。

 淫魔王国兵お楽しみの、他種族との合同訓練(意味深)であった。ついに、この日が来たのだ。ルクスリリアはこの日の為に頑張って来たといってもいい。

 

「それでは、これより合同魔術訓練を行う! 名前を呼ばれた奴らは前に出ろ!」

 

 大きな広間で、淫魔軍と人間軍の新兵たちが向かい合っていた。

 それから、名前を呼ばれた淫魔軍の兵士たちは列になって人間軍の兵士の前に立ち、人間に向かって誘惑魔法と淫奔魔法をかけるのである。人間はその魔法に抵抗し、淫魔はその抵抗を破るべくガチで魔法をかけるのだ。

 そして、見事人間を誘惑できた淫魔は晴れて合格となり試射場(意味深)で寝技鍛錬(意味深)ができるのだ。

 ちなみに、負けた側の兵士は翌日訓練場全体の掃除をさせられるのだが、人間側が掃除するのが慣例だった。

 

「ふぅ……ふぅ……! やるッスよルクスリリア……! アタシはこの日の為に訓練してきたんス。今日こそ処女を捨ててやるッス……!」

 

 合同訓練はつつがなく進行し、試射場では既に何人もの男女がウォークライを上げていた。

 やがてルクスリリアの番が来た。相手は優しそうな印象の兵士だった。隊長の「はじめ!」の号令と同時、ルクスリリアは最高最強の魔法をぶっ放した。

 魔力も練った。魔法も発動した。手応えが、あった。

 

「……あの、すみません。やっぱ無理みたいです」

「ッス……!?」

 

 が、ダメだった。

 誘惑魔法は効いた。淫奔魔法も効いた。実際、彼の股間にはズボンを突き破らんばかりの聖槍が屹立していた。

 けれど、彼の視線はルクスリリアの隣の淫魔新兵にくぎ付けだった。

 ルクスリリアのロリ性が、ルクスリリアの魔法を相殺してしまった様だった。

 

「あーっと……明日、お前は掃除しなくていいぞ」

「はいッス……」

 

 結局、ルクスリリアが誘惑した兵士は、隣の淫魔がペロッと平らげてしまった。

 それどころか、皆が徹夜でお楽しみしてる中、ルクスリリアは淫魔用の部屋で一人寂しく丸くなっていた。

 そんな事があって、ルクスリリアは兵士を辞めた。

 

 軍を抜けたルクスリリアだが、縁には恵まれていた。上官の勧めで、とある貴族の召使いとして雇ってもらえる事になったのだ。

 決して好待遇という訳でもなかったが、そこまでキツい仕事ではなかった。休日もあったし、給金もそれなりにもらえた。処女こそ卒業できなかったが、何気に良い暮らしができるようになっていたのだ。

 しかし、召使いの仕事には一つめちゃくちゃキツい時間があった。

 

「本日は猪人族のガチデ・ハラマース様の一族がお越しになります。失礼のないように」

「はいッス」

 

 ルクスリリアの主人は、頻繁に他種族を招くのだ。すると決まって、夜はレッツパーリィをするのである。

 その間、ルクスリリアは何をしているか。ナニもできないのだ。

 

 大広間では淫魔VS屈強な他種族男衆がドンパチ賑やかにやっているというのに、ルクスリリアは家畜小屋併設の宿舎でひと眠り。朝が来れば下級使用人一同で大掃除である。

 

「うぅ……アタシも男食べたいッス……! もう童貞じゃなくてもいいッス……! ヒトオスなんて贅沢言わないッス……! せめて死ぬ前に吸精してぇッスよぉ……!」

 

 そんな日々が続き……。

 

 いつの間にか、ルクスリリアは20歳の誕生日を迎えていた。

 そして、奴は弾けた。

 

「あぁ~! 童貞ヒトオスの性奴隷になってご主人様にめちゃくちゃにされてぇッス~!」

「リリィ、馬鹿言ってないでこれ運んできて」

「あいッス~」

 

 ルクスリリアは処女をこじらせていた。

 通常、淫魔は位階が低い程性欲・精力共に弱く低燃費であると言われる。

 しかしながら、ルクスリリアは生まれつき性欲だけは並外れて強かった。そんな性欲激つよ処女サキュバスは、20を超えた瞬間なにかどこかがおかしくなっていた。

 

 それから、しばらく。

 悪い意味で運命の出会いがあった。

 

 ある日、いつものように主人の淫魔が他種族男性を招いた時の事。

 そのご一行の中に、如何にも童貞な人間族の少年がいたのだ。

 仕事の最中、その少年と目が合ったルクスリリアは……。

 

「そろそろ狩るッスか♡」

 

 完全に危ない淫魔になっていた。

 

 夜、ルクスリリアはトイレ中の少年にこっそり接近し、誘惑魔術を使った。

 しかし、失敗した。普通にレジストされ、他の人を呼ばれ、同意なく客人に手を出そうとしたとして大問題になった。

 

 かつて、淫魔はあらゆる種族の女性からウンコのついたお菓子の次に嫌いな種族と言われていた。

 なにせ勝手に男を誘惑して連れて帰るのである。そんで絞り殺す。何気にヤバい。男特効だ。男が大半を占める軍相手の場合、サキュバス軍はマジで強かった。

 

 それから色々と歴史的なアレコレがあったりして……。

 

 現代、サキュバスの大半はひとつの国に引きこもって暮らしている。

 人間族の国で住んでる淫魔もいるが、彼女等は極めて強い理性を持っている希少種だ。

 

 同意のない吸精の禁止。一方的な淫魔特性の行使の禁止。他国での誘惑行動全般の禁止などなど……。

 こういった条約を結び、淫魔はようやっと他国や他種族と手と手を結んで生きる事ができるようになったのだ。

 

 今の淫魔は大人しい。そうであれと教育される。

 時たまやってくる観光客や行商人、あるいは国が招いた人たちを食べて生きる。もちろん、両者同意の下で、決して絞り殺さないよう加減をする。

 それを破った淫魔は重罪人として扱われる。まして、高位淫魔の客人に対して誘惑魔法を行使しようものなら……。

 

「てなわけで~! リリィちゃん? キミぃ、奴隷堕ち!」

「ひえぇええええええ!」

 

 残念でもないし当然の裁きであった。

 むしろ温情ある処置とも言えた。相手側が怒ってないというのもあるが、ルクスリリアが処女であるというのもある。

 えぇ……その歳で処女なの? あ、そうなんだ……。じゃあ、我慢難しいよね……という同情意見が多数寄せられたのだ。

 でも、罪には罰が必要であった。

 

「安心して。奴隷って言っても人間族のところに売るから、運が良ければ性奴隷にしてもらえるかもよ?」

「それ本気で言ってるッスか?」

「ん~? 世界は広いから、もしかしたらリリィちゃんみたいなちんちくりんが好きっていうヒトオスちゃんもいるかもよ?」

「いる訳ねぇでしょうがぁああああ!」

 

 そんなこんな。

 

 晴れて奴隷身分となったルクスリリアは、淫魔女王直々にいくつかの呪いをかけられ、出荷される事となった。

 檻に入れられ、ドナドナされるルクスリリア。遠ざかる淫魔王国を見ながら、ルクスリリアは……。

 

「クソソソソソソ……! いつか絶対伝説の超ビッチになってアタシを馬鹿にした奴全員見返してやるからなぁぁぁ! 角洗って待ってろッスゥウウ! これで勝ったと思うなッスよぉぉぉ!」

 

 不屈の精神で己の処女魂を燃やしていた。

 そう、ルクスリリアにはガッツがあるのだ。

 

 

 

 さて、時は進んで奴隷商館。

 

 ルクスリリアは、運命の男と出会う。

 今度は、良い運命だ。

 

「ルクスリリア、こちらは銀細工持ち冒険者の“黒剣”のイシグロ様です。貴方のご主人様になるかもしれない方です、失礼のないように」

 

 閉ざされていた瞳が開くと、目の前には二人の男がいた。奴隷商人の男と、もうひとり。

 黒髪黒目。並みの淫魔以上の魔力量。如何にも高そうな服を着て、首に高位冒険者の証である銀細工を下げていた。

 そして、驚くべき事が二つあった。

 

「うぁ……ぉぇあ……」

 

 イシグロという男は、童貞だった。

 ひと目で分かった。彼はピチピチフレッシュの汚れなき童貞だった。その身に巡る魔力に混じって、童貞特有の香りがぷんぷんしていた。これまで見てきた男の中で最も美味しそうだった。

 そして何よりも、イシグロはルクスリリアを見て、性的に興奮していたのだ。

 

「あぅえ……ぉあぁぁ……、ぉうぁい……ぃあぁぁ……!」

 

 一瞬、ドッキリかと思った。故郷のいじめっ子が良い感じのタイミングで現れて「ドッキリ大成功~!」ってやった後に目の前でこの男を喰い始めるのだと思った。

 だが、それはなかった。イシグロの曇りなき瞳には、ルクスリリアへの強すぎる情動が満ちていた。

 それはルクスリリアが一度として感じた事のない感覚だった。いつも他の淫魔が向けられていた情欲に満ちた瞳だった。羨ましかった。妬ましかった。いつか自分もと渇望し、ついぞ手に入れられずにいた視線だった。

 

 イシグロという男は。

 童貞で、ヒトオスで、ルクスリリアに欲情できるご主人様候補だったのだ。

 

 だから……。 

 

 

 

「アタシを買って下さいッスゥゥゥーッ!」

 

 

 

 こうなった。




 感想投げてくれると喜びます。



 ちなみに、サキュバスは平気で100年以上生きます。淫魔の20歳はまだまだヒヨッコです。
 軽い口調で話してる淫魔女王は1000歳超えてます。


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ロリコンの見る夢は、黒より暗い暗闇か?

 感想・評価など、ありがとうございます。直でモチベになっています。
 誤字報告も助かっています。ありがとうございます。申し訳ない。

 今回、最後にアンケートがあります。
 しょうもない変化ですが、お答えいただけると幸いです。
 こういうの普通にやります。


 俺はロリコンである。

 

 それも二次限定のロリコンでなく、普通に三次もイケちゃう類のヤバめのロリコンだ。

 二次の初恋はとある金髪ツインテ高速戦闘型魔法少女だった。実在女性への初恋は友達の妹だった。

 そして、画面の中の三次ロリへの初恋は、とある映画のヒロインだった。

 

 前世、俺はハリ〇タのハーマ〇オニーが好きだった。

 金曜ロードショーでたまたま見た「〇リー・ポッターと賢〇の石」。この映画に出ているハーマイオ〇ー・グレン〇ャーに一目惚れしたのだ。

 

 なんだあのメスガキ可愛すぎるだろ! というのが率直な俺の気持ちだった。

 あまりにも可愛くて、休みの日にさっそく続編映画を観た。秘〇の部屋のハーマイオニ〇も信じられないくらい可愛かった。

 □ンに呪文を教える時の勉強のできるクソガキっぷり。あのクソ長マフラーを巻いていたウィンタースタイルの悪ガキっぷり。完全にツボだった。今思うと、ハーマイオ〇ーは俺のメスガキ嗜好の走りだった気がする。当然、俺はメスガキ大好きだ。

 

 魅惑の魔女〇ーマイオニー・〇レンジャー。

 しかし、またも俺の恋は砕け散った。

 

 秘密の部屋を見終わり、さて次の映画を観ようかなと思って、ワクワクしながら見始めたアズカ〇ンの囚人。

 そこには、すっかり大人になったハー〇イオニー・グ〇ンジャーの姿があったのだ。

 

 メスガキというよりティーンエイジャー。幼女というより少女。少女というより美女。ハーマ〇オニーは、大人になっていたのだ。ロリコンの俺、無事死亡。

 そんな事もあり、俺はアズカバ〇以降のハリポ〇を知らない。俺にとってのハーマ〇オニー神話は、秘密の部屋で終了したのだ。

 おそらく、この経験をしたロリコン諸兄は結構多いのではないだろうか。

 

 仮に、である。

 

 仮に秘密の部屋のハーマイ〇ニーが、ずっとあのままの姿であったなら。

 身体的に成長せず、ずっとメスガキのままであったなら。

 それは、とても素晴らしい事だと思うのだ。

 

 自分、ロリコンですから。

 

 

 

 あの後、結局俺は奴隷商人にルクスリリアを購入する旨を伝えた。

 例の奇行にはちょっとビックリしたが、理由はどうあれああも求められると断る選択肢はなかった。

 そも、エタロリだ。最高である。言い方はアレだが、ルクスリリアはハーマ〇オニーより好みだったのだ。此方も抜かねば不作法というもの。

 

「……と、このように淫魔の奴隷には様々な制約がありまして。もしこのいずれかに違反してしまった場合、その責任はすべてイシグロ様が負う事になります」

 

 購入するぜと言ったら、今度は店主の口からいくつか注意事項を伝えられた。

 事項は色々あったが、要するに大型犬とかに近い印象だ。もし犬が他の人噛んだら飼い主の責任になるよ、みたいな。これのサキュバス版だ。

 

「では、こちらの契約書にサインと指印を」

 

 で、説明を受けると、前世基準でも綺麗な紙を渡された。その紙はA4用紙ほどの大きさで、ところどころに装飾のついた豪華な契約書だった。また、その紙全体からうっすら魔力の反応があった。

 そこには異世界語で書かれた文章と、サイン箇所と指印箇所であろう空白部分があった。書くべき場所は明白なのだが、ちょっと問題があった。

 

「すみません。私、この国の公用語が書けないのです。母国語なら書けるんですけど……」

「左様にございますか。ですが、ご安心ください。こちらの契約書には翻訳魔術が施されてありますので、イシグロ様の母国語でも問題ございません。ですが、偽名はお使いになりませんよう。偽りの名では契約魔術を結ぶ事はできないのです」

「あ、そうなんですね。では」

 

 よく分からんが、この紙は翻訳こんにゃく化されてるらしい。多分、ここが高級奴隷商会だから施されてるサービスだな。

 言われた通り契約書に日本語でサインすると、書いた漢字が青白い光を放ち、収まると同時に「石黒力隆」の上にこの世界の文字でフリガナが振られていた。何気に凄い魔法だ。まさにファンタジーである。

 OKらしいので指印も押すと、ほんの僅かに魔力を吸われた感覚があった。これで契約完了である。

 

「ご契約頂きありがとうございます。では、奴隷証を」

 

 契約書を確認したおじさんは、次いでこれまた高そうな小箱から“奴隷証”なるものを渡してきた。

 促されるまま手に取ると、それは細いチェーンと板で構成された銀の首飾りであった。

 

「これは?」

「奴隷の身分を証明するものです。これを身に着ける事により、その者が誰の所有奴隷であるかを証明します。魔力を注いでいただければ、イシグロ様の名が刻まれます」

 

 奴隷証というそれは、前世でいうドッグタグによく似ていた。表面にはこちらの文字でルクスリリアの名前があり、裏面にはこの店の情報が書いてある。

 手で握って魔力を流すと、空いたスペースに俺の名前が浮かび上がってきた。イシグロ・リキタカの所有奴隷。ルクスリリアちゃんの証明証だ。

 

「これをルクスリリアの首にかければ、奴隷契約が完了します」

「なるほど……」

 

 ドクン、と。俺の心臓が高鳴った。

 それは、そのまんま、飼い犬に首輪をつけるのと同じではないか。

 あのルクスリリアにつける、俺の奴隷であるという証。

 たぎらない訳がなかった。

 

 

 

 それからしばらく、ルクスリリアには準備がいるとの事で店主と雑談して時間を潰していた。

 その間、俺は店主から商談を受けていた。

 

「ええ。私であればイシグロ様のお好みに合う奴隷を選別し、良い状態で提供する事ができます」

 

 奴隷商人のおじさん曰く、俺が求めるような奴隷……美少女ロリ奴隷というのは、あまり奴隷市場には回ってこないらしい。需要がないからだな。でもまぁ、いない訳でもないと。

 そこで、界隈に顔の広い店主が手ずから選別して上質なロリ奴隷を俺の為だけに紹介してあげるよとのお話だった。俺の好みは既に伝えてあるので、そこはある程度信頼していいと思う。

 その代わり、お値段は手間相応とな。

 

「ありがたいですね。ぜひ」

 

 当然乗るよね。

 ルクスリリアは俺が夢見たエタロリだが、俺の夢はロリハーレム。ハーレムというからには、第二第三のロリが必要不可欠なのだ。

 それを集めてきてくれるというのだ。感謝、圧倒的感謝である。もともと最上級のフェラーリを買うつもりだったのだ、ハイエースくらい全然余裕である。

 

「かしこまりました。商品を見つけ次第、使いの者を出しますので、それまでお待ちください」

 

 あと、ルクスリリアは存外安く買えた。

 雑談で提示してきた金貨150枚は冗談だったようで、実際にはその四分の一程度の値段で買えた。

 俺にとってのルクスリリアと、商人にとってのルクスリリアの値段の差だな。少なくとも、俺からすると金髪赤目ロリサキュバスを買えるのなら王国金貨150枚程度普通に出せるし、そのつもりだったのだが。

 

 そうこうしていると、再度敵味方識別レーダーに感があった。

 ルクスリリアと従業員がやってきたのである。

 

 ノックの後、店主の許可が下りる。ドアが開くと、そこには素顔のままのルクスリリアがいた。

 前と違い、今度はちゃんとした服を着て……なかった。

 

 別に全裸って訳じゃない。全裸じゃないが、今のルクスリリアはとても露出度の高い服を着ていた。隠しているのは胸周辺と股間周辺だけで、肩も腹も太もももガッツリ出ていた。前世でいう水着程度しか着込んでなかったのである。

 サマーメスガキ、そんな第一印象を受けた。

 

「ルクスリリア、今日からあなたのご主人様になるイシグロ様です。挨拶を」

「は、はいッス!」

 

 店主の命令に、ルクスリリアは新兵の様にピシッと返事をした。聞いていた通り、従軍経験をうかがわせる起立姿勢だった。

 見ると、彼女の肌艶はさっきよりも良くなっていた。契約書を書いてる間に風呂に入っていたのか、むさい男共の中にあって石鹸に混じった甘酸っぱいロリの匂いがした。

 

「い、イシグロ様! 買ってくれてありがとうッス! あーっと、頑張るッス!」

 

 新兵のような起立姿勢から、童貞のような挨拶が飛んできた。

 気持ちは分かる。見なくても分かる、多分店主は「あちゃー」みたいな顔をしている事だろう。

 

 というか、今気づいたのだが、ルクスリリアの背後に黒い紐みたいなのが見えた。それは小指程の太さで、先端にはたけのこの里みたいな突起がついていた。

 これ、アレだ。悪魔の尻尾だ。尻尾は彼女の感情を表すように左右に揺れており、先端が常にこちらを向いていた。どうやら感情と動きが連動しているタイプの尻尾であるらしい。まるでシャミ子みたいである。新刊読みたかったなぁ。

 

「あーっと……こちらこそよろしく」

 

 などと考えていたからか、俺も俺で童貞みたいな返事をしてしまった。間違っちゃいないが、なんだか恥ずかしい。

 

「イシグロ様、奴隷証を」

「あ、はい」

 

 ソファから立ち上がると、俺はルクスリリアに接近した。手が届く距離まで近づくと、その目線の差に驚いた。

 わかっちゃいたが、ルクスリリアは本当に小っちゃかった。彼女の背丈は俺の肩ほどもなく、こうも接近すると首が痛くなるくらい見下ろさないといけない。逆にルクスリリアの視点だとほぼ真上を見ている構図だ。

 これだとキツイだろう。俺は片膝をついて、目線を合わせた。

 

「じゃあ、付けるよ」

「はいッス。んっ……」

 

 そして、極力彼女の肌に触れないように、ドッグタグの鎖を通していった。

 鎖をくぐらせる際、手の甲が髪に触れると、ルクスリリアはくすぐったそうな声を漏らした。

 後頭部の辺りで鎖を繋げる。動作の都合上、顔と顔の距離が近い。真紅の双眸が俺の黒目を反射しているのが見えた。

 

「これからよろしく。ルクスリリア」

 

 手を離すと、奴隷証がちゃりんと鳴った。

 

「はいッス!」

 

 ルクスリリアは、何か物凄いにんまり顔になっていた。

 

 

 

 

 

 

「本日は我が商会の奴隷をお買い上げいただき、誠にありがとうございます。それでは、イシグロ様。今後とも我が奴隷商会をどうぞご贔屓に」

 

 館を出ると、時刻は既に夕方になっていた。

 

 店主自らお見送りをされ、俺とルクスリリアは奴隷商館を後にした。

 主人と奴隷、二人きり。とりあえずはと、俺は人生初奴隷を連れて宿屋の方へと歩き出した。

 

「きひひっ、イシグロ様はどんなトコロに住んでるんスかぁ?」

「あぁ……同じ西区の宿屋で生活してるよ」

「へぇ~? そこどんな部屋なんスかぁ?」

「まぁまぁ広いよ。一階にはお風呂があるし、それなりに綺麗なトコロ」

 

 店を出て、しばらく。

 奴隷商館が見えなくなったあたりで、ルクスリリアは道中あれこれと話しかけてきた。

 最初の方は奴隷らしく? 三歩後ろをついてくる感じだったのが、いつの間にか俺の真横を歩いていた。

 見ると、彼女は何が愉快なのかにまにまと笑みを浮かべていた。

 

「きひひ……歩き姿もサマになってるッスねイシグロ様ぁ♡」

「そ、そうかなぁ……?」

 

 なんか、よく分からない表情だった。

 初対面の時、彼女は俺に土下座して自身の購入をせがんできた。それが叶って喜んでるのかもしれないが、ちょっとベクトルが違う気がするのだ。

 

「イシグロ様ぁ♡ 迷子になるといけないんでぇ♡ お手々繋いでもいいッスかぁ?」

「お、おう?」

「わぁ~♡ イシグロ様の手ぇ♡ 大きくてカッコイイ~♡」

 

 うん、あの……なんだろう、これ。

 ロリと手をつなぐのは、前世からの俺の夢だった。それをこんなガチかわ美少女と叶えられるなんて、最高にハッピーだしめちゃくそ興奮する。

 するんだけど、なんだろうこの気持ち。行った事ないけど、キャバクラとかの接待を受けてるような感覚がするのだ。

 

「きひひひひっ……!」

 

 横目をやると、ルクスリリアはなおも満面スマイルだった。

 ついでに握った手をもう片方の手で包んでいた。さながら遊具のタイヤにしがみつくパンダの様。

 

「え!? イシグロお前、そいつぁ……?」

 

 と思っていると、何やら聞き覚えのある声がした。

 振り向くと、そこには見るからにオフな雰囲気の受付のおじさんがいた。彼は屋台で買ったと思しき串焼き肉とお酒を持っていた。

 

「お疲れ様です。今日は休みですか?」

「あ、まぁな……。いや、お前こそ街で見るの初めてなんだが」

「普段から休みは取ってますよ」

「そりゃ、そうなんだが……」

 

 言うと、おじさんは目線を下げて俺の手を握ったままのルクスリリアを見た。

 ルクスリリアは何故か首の奴隷証を見せつけるようにして堂々とした態度を取っていた。

 

「えっと、サキュバスの、奴隷か……?」

「はい。ルクスリリア、この人はギルドのおじ……お世話になっている職員さんです。挨拶して」

「はいッス」

 

 主人ってこれでいいのかなと思いつつ命令すると、ルクスリリアは軍隊仕込みの起立姿勢を取り、自信満々に答えた。

 

「アタシはルクスリリア! 出身は淫魔王国ッス! この度、イシグロ・リキタカ様の奴隷となりましたッス! 元淫魔王国軍所属、退役後はボンキュー侯爵家に侍従として仕え、その後紆余曲折あってイシグロ様の奴隷となった身でありますッス!」

「お、おぅそうか……。元王国兵で元貴族の侍従……?」

「はいッス!」

 

 おじさんが神妙そうな顔をしている。

 

「へっ……そういう事か。なるほど、流石だ」

 

 かと思えば、何やら合点がいったみたいな顔になった。

 何がどう流石なのかは知らないが、異種族奴隷を買うなんて凄いわねみたいなノリだろうか。

 

「じゃあな。急に声かけちまって悪かったな。次も、生きて帰って来いよ。お嬢ちゃんもな」

「はあ」

「はいッス!」

 

 何が流石なのかは分からないが、そう言うとおじさんは街の喧噪に消えていった。

 そして、何故かルクスリリアはドヤ顔になっていた。異世界人特有の何かだろうか。

 

「イシグロ様、尊敬されてるんスね♡」

「どうだろ。真面目な冒険者やってるとは思うけど」

「銀細工持ちなんてそうそういないじゃないッスか♡ そんな主人に仕える事ができて、アタシは嬉しいッス♡」

 

 そう言って、今度は大胆に腕を組んできた。

 いや腕を組む、というよりしがみ付いてきたのが近いだろうか。

 と思った、次の瞬間であった。

 

 ――ふにゅん、と。

 

 前腕に、柔らかい感触があった。

 柔らかいといっても、それはふわふわもちもちした感じじゃなかった。ほんの僅か、ほんの小さなソレ。BでもCでもない、Aのアレだ。

 手をつなぐ、なんてチャチなもんじゃあ断じてない。触れ得ざる胸。即サツボンバー。前世における、禁忌の中の禁忌。

 

「さっ♡ アタシ等のお家に行くッスよ♡ イシグロ様ぁ♡」

「はい……」

 

 イエス・サキュバス・ゴー・タッチ。

 

 その瞬間、俺の思考はふにゃふにゃのマシュマロ状態になった。

 布一枚隔てた平たい胸の感触が、俺のどうでもいい葛藤を取り去って行ったのである。

 

 そうだった。そうだったのだ。

 この子の身体はもう俺のものなのだ。

 普段努めて奥底にしまっている危ない欲望がむくむくと鎌首をもたげてきた。

 

 あ、ヤバい。

 

 勃起した。

 

 

 

 ぼんやりしたまま宿屋に着くと、俺たちは主人への挨拶もほどほどに借りた部屋へと直行した。

 部屋に入ると、俺は前かがみ歩行を止めて息を吐いた。

 

 仮の宿だが、やっぱり落ち着く。

 

 広いワンルームといった感じの部屋である。部屋の隅には大きなベッドがひとつあって、クローゼットとテーブルセット。それと魔法式暖炉の前のソファ。異世界基準、結構いい部屋だ。

 そんな部屋に、俺とロリだけがいた。

 

「お着換え手伝うッス♡」

「ん、あぁ、ありがとう」

 

 言うと、ルクスリリアは服を脱ぐのを手伝ってくれた。

 今は奴隷商館用に買った高い服を着ているので、色々と着込んでいるのだ。着慣れないこれは、ごてごてしていて着るのも脱ぐのも大変である。

 上着を脱ぎ、銀細工を外し、そのままシャツとズボンも……。

 

「どうなさいましたッスか? イシグロ様ぁ♡」

「あ、いや、なんでもない」

 

 一旦止まってしまったが、もうどうしようもない。

 俺は購入したばかりの奴隷に、ズボンを脱がしてもらった。

 

「あは~っ♡♡♡」

 

 そうして、前世から愛用していたボクサーパンツ越しに、俺の股間のジオングがパオングになっている様を視られてしまった。

 あぁやっちまったという感覚。前世、こんな事やったら間違いなくポリス案件だった。後戻りできない気持ちと、毒を食らわば皿までの精神が俺の心を押していた。

 するとどうだろう。見られた事でGジェネ進化を果たしたのだろうか。俺のパオングはα・アジールとなり、ネオ・ジオングと化していったではないか。

 

 いや、これはユニコーンだ。

 デストロイモードになったのだ。

 もう止まれそうになかった。

 

「ルクスリリア……!」

「はいッス♡」

 

 ルクスリリアの肩をつかみ、立ち上がらせる。

 見上げる瞳を見つめる。視線を下げ、唇を見た。とても小さくて、柔らかそうだった。荒くなる鼻息を我慢できなかった。

 呼吸する度、俺の心臓はドクドクと大きく跳ねた。心身ともに、興奮が最高潮にまで達していたのだ。

 

 思えば、よく我慢できたものだ。

 三か月間、ずっと戦ってきた。来る日も来る日も化け物を斬り、潰し、時に死にかけたりした。

 それもこれも、今日この日、この時の為だったはずなのだ。

 

 なのに、今になってチキってどうする。

 もう分かるじゃん。相手はサキュバスだ。散々話を聞いて、そういう種族なのわかってるじゃん。

 据え膳だろう。このまま、食うしかない。

 

「服を脱げ」

 

 俺は、ついに一線を超える覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 一旦切り替わって、ルクスリリア視点。

 

 運命の相手を見つけ、無様購入懇願土下座をぶちかまし、色々あってマジで買われてしまった訳で。

 所有物である証明をつけられ、手を握って歩き、話してみて、分かった。

 

 ついに我が世の春が来たのだ、と。

 

 しかしこのこじらせ処女、生まれつき性根がひん曲がっている。

 ルクスリリアという淫魔は、純朴でも純真でも純粋でもないのだ。犯罪やっても懲りないし、生まれてこの方反省なんてした事ない。

 割と性格の悪い女であり、良い性格をした女であるのだ。

 

 さて、そんな彼女はこの時、何を考えていたか。

 宿に連れられ、身体を掴まれ、逃げ場を失くした拗らせ処女が、

 今にも純潔を散らそうとしていた淫魔が、何を思っていたか。

 

 それは……。

 

 

 

(あは~! 童貞ヒトオスくんクッッッソちょれ~! 最初はびっくりしたッスけど、淫魔女王が言ってた通りアタシに勃起する男もいたんスねぇ~! 顔真っ赤にして鼻息荒くして、かっわいい~!)

 

(きひひっ……! この男、強いだけの阿呆ッス! 戦っても勝てやしねぇッスが、夜のバトルで淫魔が人間なんぞに負ける訳ねぇんスよね! いっちょここでアタシのテクでわからせて、主導権握ってやるッスよ! そんでじっくり調教してアタシ専用ミルクタンクになってもらうッス!)

 

(さぁ! いつでも来いッス! その童貞、もらい受けるッス!)

 

 

 

 なんて事を考えていた。

 

 まあ、お分かりだと思うが。

 無理な話である。

 

 イシグロ・リキタカは、既にこの世界基準でも相当な強者である。

 レベルという絶対法則をその身に宿し、幾多の怪物を屠ってきたイシグロは、既にそこらの魔族を鼻で笑える程度の肉体能力を持っているのだ。

 

 さて、そんな英雄が、

 英雄の力を持つロリコンが、

 

 ただの耳年増の淫魔に、

 20年間処女をこじらせてきただけのメスガキに、

 

 負ける道理があるだろうか。




 感想投げてくれると喜びます。



 今回のアンケは頂いた感想に触発されて実施したものになります。
 このように、本作は皆さまのご意見・ご感想を積極的に取り入れていくスタイルでやってく予定です。
 ぼんやりちょっとずつ世界観を広げていきましょう。


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ロリサキュのチュロスの夢は夜開き、勇者のランスは聖槍ならぬ性槍で、サンシタメスガキは永遠にわからせ!

 感想・評価など、ありがとうございます。励みになってます。

 タグ増やしました。今回、少し過激な表現が出てくるので、もしダメだったら大人しく18版にこのエピソードだけ投稿します。
 まぁ大丈夫だとは思うんですけど……。直接描写はしてませんし。
 レビュアーズとかもOKなんやし、いけるはず。

 アンケートのご協力、ありがとうございました。
 アンケの結果、ルクスリリアからの主人公の呼び方は「ご主人」になりました。
 普段は「ご主人」。感想欄で頂いたアイデアで、デレると「ご主人様」みたいになりますかね。



 古代ローマ皇帝、マルクス・アウレリウス著「自省録」には、このような一文がある。

 

『あらゆる行動に際して一歩ごとに立ち止まり、自ら問うてみよ。死ねばこれができなくなるという理由で死が恐るべきものとなるだろうか、と』

 

 

 

 前世、俺はそんなに“死”が怖くなかった。

 どうせ皆死ぬし、普通じゃね? くらいに思っていた。観たいアニメがあったし、やりたいゲームもあったから、死にたい訳でもなかったが。

 それはそれとして、いつ死んでもいいくらいの感覚はあった。その上で、まぁまぁ幸せを享受できていたのだ。元来そんな物事を深く考えないってのもある。ある意味、そういうのもあってすぐに異世界に順応できたのかもしれない。

 

 幸せだから、死にたくないし、生きてたい。

 しかし生に執着はしてない。

 そんな感じ。

 

 それは多分、俺の中の“生きがい”が稀薄だったから、そうであったのだと思う。

 アニメもゲームも楽しいが、それは楽しいから好きなのであってこれが無いと死ぬぜ! とはならない。

 アニメがなくても、まぁ生きれる。ゲームがなくても、まぁ生きれる。生きていきたくなくなるだろうが、死にたくなるほどのものではない。

 

「ちゅっ……ちゅぅ……。ん……ちゅ、はぁ♡ あぁ~、いいッスよイシグロ様♡ 上手ッスよ♡」

 

 が、今の俺は違う。

 これがないと死んだも同然、というモノが見つかったのだ。

 ルクスリリア。本物のロリサキュバス。俺の奴隷。

 この娘と離れる事など、考えられない。

 

「きひひっ、なんスか? 淫魔は母乳なんて出さないッスよ? ほら、良い子良い子♡」

 

 どこかの誰か、多分哲学者の言葉に、「愛されるにはまず愛しなさい」みたいなのがあったと思う。

 別に、恋愛がしたい訳じゃなかった。見返りを求める事自体、おこがましい事だとも思った。それでも俺は彼女を全身全霊で愛した。

 前世の偏った知識を総動員して、何とかよくなってもらおうと頑張った。けど上手くいかなかった。最初など、ほんの一瞬で腰砕けになってしまった。

 情けなさと、夢の一部が叶った幸福感で心がぐちゃぐちゃになった俺は少し泣いてしまった。

 

「も~、しょうがないッスねぇ~♡」

 

 ルクスリリアは、そんな俺を抱きしめ、頭を撫でてくれた。

 するとまた元気になった。

 

「あは~♡ 流石銀細工持ち冒険者~♡ こっちの方も不屈ッスね~♡」

 

 その後、俺は続けてルクスリリアと情を交わした。

 

「んん~♡ はぁ~、お腹いっぱい食べたの生まれてはじめてッス~♡ 他の淫魔が夢中になる訳ッス♡」

 

 何度も、

 

「へぇ? 人間にしては体力あるんスねイシグロ様ぁ? でも大丈夫ッスか? これ以上やると絞り殺しちゃうかもッスよ?」

 

 何度も……、

 

「はぁ……はぁ……や、やるじゃないッスかイシグロ様。童貞とは思えぬ勇気、賞賛に値するッス……! けどね、そういう勇気はヒップの勇、ホンモノの勇気じゃないッスよ。えっ、もっかいッスか?」

 

 何度も何度も、

 

「はぁ、ン! ……はっ、はっ、はっ! ちょ、ちょっと待つッス! 流石に吸精が追い付かないッス! あ、あんたホントに人間かよォ!? ひぎぃッ!?」

 

 何度も何度も何度も、

 

「んぐぉぉぉおおおおおッ!?」

 

 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も……。

 

 

 

 で、多分12ラウンド――スプラッシュは計算しないものとする――が終わったところで、俺くん思った。

 流石に元気過ぎない?

 

 前世、俺は健康的な一般ロリコンだった。

 性欲も精力も並み程度で、そんな一日に何度もトランザムできるほどGN粒子貯蔵量は多くなかったはずである。

 しかし今は、どうだ。時間は分からないが、夕方から今にかけて12ラウンド。まだまだ余裕であった。余裕どころか、終わる度にすぐもう一回もう一回とライザーソードの発動準備に入るのである。

 おかしい、やっぱこれはおかしい。

 

「はあっ! はあっ! はあっ! はあっ! うっ、はっ! あぁ……はっ、はぁ……はぁ……!」

 

 12ラウンド終了直後、ルクスリリアは打ち上げられた魚みたいになっていた。

 淫魔であっても大連続狩猟クエストは厳しかったようで、身体びくびく息も絶え絶えといった様子だ。シビレ罠を使えば捕獲できそうである。

 

 ルクスリリアが息を入れている間、しばし休憩となって俺はいつもの癖でコンソールを開いてみた。

 したらビックリ。別にダメージを食らってもいないにも関わらず、HP・MPが減少していたではないか。死ぬ寸前とは言うまいが。

 HPは四分の一程度、MPに関しては五分の三程度減っていたのである。

 

 ゲーム的不思議法則がまかり通る異世界。多分、これはサキュバスの種族特性の“吸精”の影響なのだと思う。HPかMPか、あるいは両方かを吸われたのだ。もしくはトランザムバーストで減ったのか。

 

 ふむ、実に興味深い……。

 HPゲージとMPゲージをHUDに表示して……。

 実験してみよう。

 

「リリィ、もう一回いい?」

「ひぃ!? ま、まだやるんスかぁ!?」

 

 なので、13ラウンド開始である。

 いくら童貞の俺でも、こうも回数をこなすと上手くなる。俺は独りよがりにならないよう、ルクスリリアの弱点属性を攻めまくった。

 イシグロの みだれづき! こうかはばつぐんだ!

 それからしばらく、俺はノルマ達成からのハイドロポンプをぶっ放した。ルクスリリアは たおれた!

 

「はぁ……はぁ……! も、もう腹ん中がぱんぱんッス……!」

「お、やっぱりな」

 

 結果、俺のHPとMPが両方減少したのが分かった。

 その減少幅は若干MPのが多く、HPは僅かだった。多分ステータスの生命力と魔力の差だと思う。

 どちらが作用しているのかは分からないが、ステの高さが性の元気さにつながっている感じだろうか。実に不思議である。俺の身体どうなってんだ。

 

「ばび!?」

 

 なのでもう一回。

 気持ち良かった。

 

「でぃん!?」

 

 あともう一回。

 気持ち良かった。

 

「げるずげー!?」

 

 あともう1ターン。

 気持ち良かった。

 

 まだ終わらない。

 

 まるでかっぱえびせんの様である。止められない止まらない。

 ふと見ると、ルクスリリアは使い過ぎたボロ雑巾みたいになっていた。俺はルルーシュじゃないので捨てる気は皆無である。むしろ使い続ける。

 

「あっ……あひ……、ひ……あぁ……」

 

 まぁ世の中色々興奮するものってのはありますけど、一番興奮するのってのは所有奴隷のメス顔ですよね。

 間違いないね。

 興奮してきたな……よし行くか。

 

 

 

 そうして、時が過ぎ。

 

 気がつけば歳の数だけファイトしていた。

 恐るべしルクスリリア、魔性の女である。

 

 見ると、窓の外が明るくなっていた。

 どうやら徹夜してしまったようである。徹夜なんていつぶりだろうか。少なくとも、異世界に来てからは早寝早起きだったので新鮮である。

 

「ぁ……あぁ……」

 

 視線を戻す。ベッドの上、そこには真っ白に燃え尽きた淫魔の姿があった。たくさん吸精したのだ。生命力には満ちてるはずなのに。生命力に欠けた眼をしていた。

 灰となったルクスリリアはまさに轢かれたカエルといった姿勢で、力なく舌を出しながら時折痙攣していた。工口同人みたいに、工口同人みたいに。

 

「興奮してきたな」

 

 正直勃起モンの光景である。アサルトアーマーの準備が整った。

 が、如何せんどこもかしこも汚れていてその気になれない。幸い俺にそういう嗜好はなかった様である。

 けど、まだしたい。

 

 曰く、淫魔は吸精によって生命力を蓄積し、栄養に換えるらしい。以前聞き知った情報だけでなく、昨夜ルクスリリアの口から直接伝えられたのだ。嘘じゃないだろう。だから、「好きなだけイッて良いッスよ~♡」との事だ。

 なので、まだまだしたいのである。

 

 ところで、この世界の魔法には割と便利なものがある。

 多くは戦いで使う類の炎とか岩とかを打ち出すモノなのだが、中には普通に生活で使える魔法があるのだ。ただ水を出す魔法とか、マッチ程度の火を出す魔法とか。

 中でも、俺は“清潔”という魔法を愛用していた。

 

 この魔法、すごく便利である。魔力流して詠唱して、指定した物や人を綺麗に洗浄してくれるのだ。

 多分これ、迷宮とかの毒沼の汚れを洗い流す為の魔法なんだろうが、便利なので俺はこれを日常生活でも使っていた。

 洗濯にお風呂に歯磨きに。無論、それらの仕上げとしてサラッと使う感じだ。洗っても落ちづらい汚れとかあるじゃない。アレを洗浄する事ができるのだ。

 で、そんなこんなほぼほぼ毎日使っていると、その“熟練度”が上昇した。すると“清潔”で綺麗にできる範囲やモノを細かく指定できるようになったのである。

 

「条件指定、範囲指定……“清潔”」

 

 つまり、こうである。

 ベッドに“清潔”を使い、昨夜の諸々を綺麗にする。ついでに俺とルクスリリアに付着した諸々も洗い流し、部屋中に付着したアレやコレやも綺麗にした。

 魔力こそ消費するが、ぶっちゃけ掃除機より便利である。凄すぎだ。

 

「さて、ルクスリリア」

「ん……んちゅっ……ちゅっ……ぷふぁ……。ちゅぅ……はむ、ちゅ……」

 

 朝の一仕事を終えたところで、ルクスリリアにキスをした。

 したら興奮してきたので、覆いかぶさった。

 完全に徹夜明けテンションだった。そのくせ俺の股間のマキバオーはとってもウマナミであった。

 いや、多分そこらの競走馬超えてるな、今の俺。

 

 事後、俺のMPが枯渇しかけていた。やはりHPより先にMPが切れそうである。

 なので、俺は魔術師レベル10で習得できる能動スキル“魔力循環の活性”を使用した。すると、HPが減少し、MPが回復した。

 

 魔力循環の活性。

 これは、HPと引き換えにその名の通り身体の魔力循環なる機能を急速に活性化させ、MPを回復するスキルだ。例えるなら、ブラッドボーンでHP使って水銀弾補充する感じだろうか。

 基本前衛ビルドだけあり、俺はMPよりもHPが高い。これでトントンである。

 

 HPはまだまだ余裕。MPも回復したので大丈夫。

 俺はその後も、ルクスリリアをたくさん愛し続けた。

 

 

 

 それから何度目かの後。

 

 ふと思い至って、コンソールを開いてみた。

 そしてスワスワしてみると、あった。

 パーティメンバー、ルクスリリアのステータスだ。

 

 強さは……今はいい。

 ジョブもいい。

 HPとMPは……。

 

 やはり、今のルクスリリアはMPは満タンだがHPがレッドゾーンだ。

 道理で疲れてる訳である。いくら魔力=生命力な魔族でも、HPが減ると疲労困憊になるようだ。

 

 無論、なんとかせねばならない。

 さて、他人に使うのははじめてだが……。

 

「魔力過剰充填、“中治癒”」

 

 魔法を唱えると、手のひらから淡い緑色の光があふれ出し、ルクスリリアの全身に降り注いだ。

 これは回復魔法の“中治癒”という奴で、その名の通りHPを回復する魔法だ。

 あと、何気に驚いたのが、この世界の回復魔法は聖職者の奇跡とか祈祷とかじゃなく、がっつり魔法の一種にあたるらしい事だ。魔術師も聖職者も魔力を使って回復するんだな。

 

「あぁ……生き返るッス~」

「おっ、そうか。じゃあ続きしよう」

「……えっ!?」

 

 元気になったところで、再戦である。

 知り得たか。ロリコン紳士、イシグロを。

 もう一回遊べるドン!

 

 

 

 そして よが あけた!

 

 

 

 気が付くと、またまた朝になっていた。

 連戦の末、少し寝ていたらしい。見ると、俺の腕枕でルクスリリアが眠っていた。その身体はぴったり俺にくっついている。

 昨夜の後、なんか急にデレてくれたのである。

 

 二日目の夜だった。冷静になった俺は流石に近所迷惑を気にして、じっくりコトコト聖戦の系譜を紡いでいたのである。

 すると、何故かルクスリリアは急にしおらしくなり、俺にアレしてコレしてと甘えてきたのである。嬉しくなったので、俺はその要求ひとつひとつに応対していった。

 キスしてと言われればキスをして。抱っこしてと言われれば抱っこする。頭撫でてと言われれば優しく頭をなでなでした。

 その結果、最後には俺の事を「ご主人様」と呼んでくれるようになったのだ。

 それ以降の記憶がない。

 

 そして、今に至る。

 

「んんっ……え、ご主人……?」

「おはよう、リリィ」

 

 眠っていたルクスリリアが起き出した。

 その目はトロンと呆けており、焦点が合っていない。

 やがて、目が合う。

 

「ンンーッ……!?」

 

 かと思えば、瞬間顔を真っ赤にして背中を向けられてしまった。

 

「どしたの?」

「いや! あの! 申し訳ねぇッス! えっと、なんか凄い恥ずかしいっていうか! うわはずかし! 淫魔的にちょぉーっとNGな痴態晒しちゃったというか! うぅぅぅぅ……アタシは淫魔の風上にも置けない奴ッス! やらかしたッスゥ!」

 

 なんか分からんが、肌を晒す事は平気でも淫魔的に痴態? を晒すのは恥ずかしいらしい。よく分からんが。

 

「恥ずかしいの?」

「褥で淫魔が他種族に負けるなんて末代までの恥ッスよ! あぁ先祖に顔向けできねぇッスゥゥゥ……!」

 

 種族的なプライドだろうか。得意フィールドで負けるのがそこまで恥ずかしいのか。

 いや、勝ちも負けもないとは思うのだが。

 それはそれとして。

 

「リリィは可愛いなぁ」

「ひぅっ……!?」

 

 ともかく、昨日一昨日と今現在のルクスリリアは最高なので、俺はそのまま彼女の身体を抱きしめた。

 したら全身を震わせた後、恐る恐る俺の方を見てきた。その眼は何故か少し潤んでいた。

 

「あの……その……。ご主人、さまは……」

「うん?」

「その、アタシ……そんなに、良かったッス……か?」

「ああ、最高だった」

 

 横向きのまま、ぎゅっと抱きしめる。

 身長差がありすぎてちょっと不格好になってしまったが、仕方ない。いやむしろ良い。

 

「へ、へぇ? そうなん、スか……?」

 

 言うと、ルクスリリアは身体をもじもじし始めた。

 また顔を背けられてしまったが、口角が上がっているのは分かった。

 

「ご主人様♡」

「なに?」

「きひひっ、何でもないッス♡」

「そっか」

 

 なんだろう、一昨日の夕方は営業用の笑顔だったのが、今は素に近い笑顔のような気がした。

 あと、何気にこういう掛け合いには憧れていたので普通に嬉しい。

 

「ご主人様♡」

「なに?」

 

 と思っていると、再度反転したルクスリリアと正面から目が合った。

 その目は真っすぐ俺の双眸を映しており、そこに邪気や企みみたいなのは感じ取れなかった。

 

「その……チューして欲しいッス」

 

 顔を赤くして言われた言葉は、直後に目を背けられてしまった。

 俺は彼女の後頭部に手を添え、一昨日から何度も繰り返してきたキスをした。

 

「ん。ちゅ……」

 

 唇を合わせるだけの、子供みたいなキス。

 特に動きもないキスは、そう時間をかけずに終了した。

 

「……ん?」

 

 と思ったら、ルクスリリアは眉根を寄せて“何か”に反応した。

 まあ、分かる、俺が原因だもん。

 

「あの……ご主人?」

「なに?」

「……当たってるんスけど」

「まぁね」

 

 目が合う。ルクスリリアは引きつったような笑顔になっていた。

 ここまで来て、一度冷静になったから分かる。流石にやり過ぎたのだ。

 過ぎたるは及ばざるが如し。いくら栄養に変換できても、食べ過ぎは身体に毒である。多分そういう事だろう。

 

 しばし、沈黙。

 

 瞬間、身をよじって逃げようとしたルクスリリアを、俺はガバッと抱きしめてホールドした。

 

「も、もうお腹いっぱいなんス……! いくらご主人の精が美味しくても、もう食べきれないッス! あと普通に疲れたッス! ア゙ダシドカラダヴァボドボドナンズ!」

 

 吸精は淫魔にとっての食事兼筋トレ兼趣味である。流石にもう分かったが、やり過ぎはよくない。

 けど、別に吸精しなくてもやれる事はあるのだ。

 

「別に吸精しなくていいよ」

「え……?」

「こっちで楽しむから」

「ひぇぇぇぇ……!」

 

 なので、食事以外の事を教え込む事にした。

 まだまだやりたい事、試したい事はいっぱいなのだ。

 

 

 

 一時間後……。

 

 俺は宿屋の主人から怒られてしまった。

 素直に謝罪である。




 感想投げてくれると喜びます。


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偽りの街角にロリの微笑みを…

 感想・評価、ありがとうございます。やる気がモリモリ湧いてきます。

 こういう話を書くのは楽しいですね。楽しいと速く書けます。
 あと、第2話で説明もなくいきなり出てきた「深域武装」というものが出てきます。皆さん覚えておいででしょうか。

 今回、最後にアンケートがあります。
 しょうもない分岐ですが、よければ投票してやってください。


 異世界の飯って美味いのか? という疑問は、割と多くのオタクが感じるものだと思う。

 その点、俺が転移したこの世界は存外悪くなかった。

 

 この世界の食事事情は、当初俺が想定していたよりは洗練されていた。

 俺の基準……というか、現代日本の基準的に、如何にもファンタジー世界の食事なんて食えたもんじゃねぇとばかり思っていたのである。

 

 農林出身の友達が言うには、現代で流通されてるような野菜やフルーツというのは、先人たちの努力の結果ああいう形と味になったのだという。想像しかできないが、きっと長い時間と労力をかけて品種改良を続けてきたのだろう。ありがたいですね。

 対し、一般オタクくんが異世界といって想像されるようなところで、そんな品種改良されたお野菜が食べられるかというと、ちと考え難い。保存技術や加工技術も未成熟だろうし、そうそう美味い飯にはありつけないと思っていたのだ。

 

 そも、転移者が食って腹壊さないの? とかも思ったものだが……。

 

「はあ、異世界ッスか」

「うん、多分ね」

 

 宿屋さんに怒られた後、俺たちは部屋で朝ご飯を食べていた。

 献立は平たいパンもどきとスープ。あと小っちゃいチーズ。 これはこの食堂で最もリーズナブルなメニューである。転移後から現在まで、俺はずっとこんな感じのご飯を食べていた。

 つい先日まで泊まっていた宿屋よりも、こっちの宿屋のご飯のが美味かった。値段は青銅貨3枚ほど。

 

「“日本”って国なんだけど知らない? なんか、そっから来た人がいたとか、そういう伝説」

「う~ん、知らないッスね~。女王陛下なら知ってるかもッスけど、あの人の武勇伝に異世界人の話はなかったと思うッス」

 

 で、その間俺は俺の奴隷に俺の出自の事とかを話していた。

 別に隠すものでもないし、言っちゃおうと思ったのだ。

 もうチートとかの事も言っちゃったのである。これまた隠す理由もない。無暗に情報を晒すなど愚か者のやる事だ、とかどこかの誰かに言われそうだが、誰も信用しない人こそ心が貧しいと思うのだ。愚かで何故悪い。

 

「もしかして、日本ってご主人みたいな人ばっかだったりするんスか?」

「どうだろ。まぁ俺は普通だったよ」

「ひょえー、怖いトコなんスね~」

「治安はこっちより良いけどね」

 

 などと話しながら食べていると、ルクスリリアは残ったチーズをぺろりと食べた。その表情は満足そうである。

 

「チーズ好きなの?」

「え? あ、そうッスね。というか、精以外の栄養補給としては、乳製品が一番効率いいんス。本能的? に美味しく感じるらしいッス。実際、故郷では牧場が一番デカいシノギだったと思うッス」

「へぇ、どんな感じ?」

「おう? えっと、そうっすねぇ……」

 

 ちょっと食い気味に訊いてしまったが、しゃあない。

 俺はこういう話を聞くのが好きなのだ。

 

 前世、俺は「異国迷路のクロワーゼ」という作品が好きだった。

 主人公? ヒロイン? の子がバチクソ可愛かったというのもあるが、その作品で描写されるフランスの情景や風土、文化が好きだった。日本とは全然違う街や人や思想。そういう、異国情緒が好きだったのだ。

 そういうのもあり、現地人から異世界の話を聞くと「あぁ~異世界来たんだな~」という気持ちになって、ほんのり楽しくなるのだ。

 分かる人多いんじゃないかな。

 

「えーっと? 畜産は割と国全体が大々的にやってて、淫魔王国にはおっきいの小っちゃいの色んな牧場があったッス。で、それで一番多かったのが乳牛牧場ッスね。絞ったミルクでチーズ作ったりバター作ったり、ミルクに保存魔法かけてそのまま出荷したり……」

「ふんふん」

「淫魔と畜産って割と相性良かったっぽくて、アタシが物心つく前から国のメインのシノギになってたッス。そう、交配関係がとにかく強くて。一応普通の畑とかもあったッスけど、そういうのだとダークエルフにゃ敵わないッスから。淫魔といえば畜産! みたいな」

「へぇ。育ててたのは家畜だけなの?」

「ほとんど家畜だったッス。あっ、いや女王様直轄の組織で輸出用の馬とか育ててたッスね。なんか、上手に交配させて強い馬作って売る~、みたいな。確か、この国の騎士団とかが乗ってるのも淫魔王国産ッスよ」

「はぁ~、サキュバスってスゴイんだな~」

「まぁ、サキュバスに育てられた馬は結構な頻度で発情するようになるらしいんで、取り扱い注意らしいッスけどね」

 

 などと話していると、楽しい朝食タイムは終わってしまった。

 俺が匙を置くと同時、ルクスリリアは元気に立ち上がった。

 

「食器返してくるッス~」

 

 言って、愛しの淫魔は二人分のお皿を食堂に返しに行った。

 購入直後では多分しなかった行為な気がする。

 

 その間、俺はコンソールを弄る事にした。ちょうど気になる事があるのだ。

 昨日見て気づいた、俺以外のステータス。パーティメンバーについてだ。

 

 空中をタップしてコンソールを開き、「ステータス→仲間→ルクスリリア」と開いていく。前までは仲間という項目はなかったが、リリィ購入後に気づけば生えていたのだ。

 すると、コンソールにルクスリリアのステータスが表示された。

 

 

 

◆ルクスリリア◆

 

 

 

 中淫魔:レベル1

 淫魔兵:レベル4

 新規習得スキル:魔力飛行

 

 

 

 能動スキル1:魔力飛行

 

 

 

 生命:16

 魔力:29

 膂力:22

 技量:17

 敏捷:25

 頑強:13

 知力:21

 魔攻:20

 魔防:27

 

 

 

 

 

 

「ふぅむ」

 

 当然ながら、三ヵ月迷宮に籠ってた俺よりは全然弱い。

 が、転移直後の俺と比べると全能力上である。これだけステあるなら最初からそれなりのダンジョン潜れそうである。

 

 種族柄だろうか、パッと見では魔法型に見える。

 魔力とはそのままMP関連の数値であり、MPの総量だけでなく回復力や放出力も変わってくる。あと、魔族にとってのHP的なものでもあるのかな。いや、どっちかというと残機か?

 知力は魔力を使う能力の事で、魔法の発動速度や連射性能が関わってくる。

 魔攻・魔防はそのまま魔法を用いた攻撃力と防御力だな。ポケモンでいうとくこうととくぼうである。

 

 ルクスリリアは、というかサキュバスは魔法職に適性のある種族なんだとは思う。けど、話を聞くに割と淫魔王国の軍隊はバリバリ肉体派って印象だ。どうなんだろうね。

 一応、ついてるジョブは万能職っぽい。“淫魔兵”とは読んで字の如く淫魔軍の兵士の事だろう。淫魔兵がそんなジョブなのかは知らないが、俺の初期ジョブの“戦士”や“魔術師”に相当するジョブなんじゃなかろうか。

 

 ところで、この世界のジョブ関連には一個たまげた事があった。

 それはジョブごとに武器の制限があるという事だ。

 ドラクエやFEの様に。

 

 戦士は杖を持っても魔法を使えないし、魔術師が弓を持ってもひょろひょろ矢しか撃てない。それはステータスが足りないからそうなるのでなく、そもそもシステムとしてそうなっているっぽい。この世界の古事記にも書かれていた。

 で、俺はそれをモロに体感できる。何故か? モーションアシストの有無だ。戦士でチェストする剣と、魔術師でチェストする剣では力も技も速さも比べ物にならない。ついでに動きもへっぴり腰のへなちょこと化すのだ。

 

 あと、この世界のジョブは位階が上がって行くにつれ使用できる武器の制限が強くなる傾向にある。

 例えば、基本職の戦士は盾含む近接武器全般を使えるが、下位職剣士になると短剣・直剣・大剣等の剣カテゴリーのみとなり、中位職の“ソードダンサー”は短剣・直剣などの片手剣のみというようになるのだ。

 強くなると、特化していく印象である。

 

「ただいまーッス。何やってるッスかご主人?」

「リリィのステ見てた」

「あぁ~、なんか見えるらしいッスね。アタシにはさっぱりッス」

 

 と、戻ったルクスリリアに返すと、何気なく見たステータスに引っかかる部分があった。

 

「リリィって小淫魔なんだよね?」

「え? まぁそうッスね」

「なんか、中淫魔ってなってるけど」

「ん~?」

 

 もう一度見る。ジョブのレベルとは別に、ルクスリリアにはもう一つレベルがあったのだ。

 中淫魔レベル1。これは何だろうか。人間にはない、魔族固有のレベルという奴だろうか。ジョブとは独立してるっぽいが。

 

「いや、アタシは小淫魔ッスよ。母も小淫魔だったんで」

「進化したんじゃないの? なんか“魔力飛行”ってスキル新しく生えてるっぽいし」

「進化ッスか? いやいやご主人、あり得ないッスよ。いいッスか? 確かにアタシら魔族は力を蓄えると種族としての位階を上げられるッス。けど、小淫魔が中淫魔になるには、それはもう過酷な実戦経験が必要なんス」

「それってどういう?」

「そりゃあ、栄養たっぷりの精を食べたり、強いオスと交尾したり、何百人という男を絞ったりッスよ。あと、単純にモンスター狩りまくって進化っていうパターンもあるッスね。まぁいくらなんでも、20そこらで進化できるなんざあり得ねぇッスよ」

「そうなんだ」

 

 ともかく、中淫魔になるには時間と労力がかかるらしい。

 再度、見る。やっぱり中淫魔だ。ルクスリリアを見る。確かに見てくれは変わっていない。ロリのままだ。

 けど、なんだろう。以前よりも感じる魔力がほんのり多い気がするのだ。これは数値にできない感覚的なものなんだが。

 

「試しに飛んでみてよ。魔力飛行使えるらしいよ?」

「はあ、飛ぶったって、どうやればいい……か?」

 

 瞬間、ルクスリリアはぽかん顔になった。

 口を半開きにして、虚空を眺めている。

 

「おぉ!?」

 

 かと思えば、急にふわりと浮かび上がったではないか。

 何事かと思って注視すると、ルクスリリアの背中から蝙蝠みたいな翼が生えていた。

 翼はなんかそういうコスプレのアクセサリーくらいの大きさで、どう見てもルクスリリアの身体を浮かせられる程のパワーがあるとは思えない。

 というか、その翼はたまにパサッと羽ばたくだけで、基本的には動かさずただ浮いてるだけだ。某飛行機兄弟が見たら卒倒しそうな光景である。

 

「できたッス……」

 

 宙に浮いたルクスリリアは、呆然とした面持ちで呟いた。

 そのまま、空飛ぶリリィは部屋をふよふよと移動し始めた。

 右へ、左へ、一回転して天地逆転。スピード上げてクルッとターン。なんというか、飛行というより浮遊……ラムちゃんみたいな空の飛び方だ。

 

「と、飛べたッス! 飛べたッス! いつの間にかアタシの背に翼が! アタシ、もう小淫魔じゃない!? このアタシが!? いぃやっほぉぉぉぉう!」

 

 そして、ルクスリリアは宿部屋狭しと爆走しはじめた。

 その速さはなかなかのもので、少なくとも後ろからの奇襲であれば前世人間程度なら一方的に狩猟できそうであった。

 実際、ダンジョンで出くわす飛行エネミーはクソウザい。上を取るのはそれだけでかなりのアドなのだ。

 

「はぐぇ!?」

 

 やがて、アイアンマンスーツではしゃいでいたトニー・スタークみたいだったルクスリリアは見事天井へと頭をぶつけた。めちゃ痛そうである。

 落下してきた女の子を、俺はパズーの様にキャッチした。

 

「魔力過剰充填、“小治癒”」

「あ、ありがとうッスご主人……」

 

 回復魔法を使い、頭にできたたんこぶを治す。とはいえ痛いのは飛んでかない仕様なので、キャッチした淫魔は元の椅子にリリースした。

 

「飛べたみたいだけど、これは中淫魔になったっていう事じゃあないの?」

「うぅ……まあ、そうッスね。飛べる魔族なんて珍しくないッスけど、淫魔は中位じゃないと無理なんス。生まれつきの中淫魔は最初から飛べるんスけど、小淫魔は進化しねぇと飛べねぇんス」

 

 見ると、たんこぶ跡をさすっているルクスリリアの背中から例の蝙蝠翼が消失していた。

 どうやら、飛ぶ時だけ出てくる仕様らしい。

 

「おめでとう。ルクスリリアは中淫魔に進化した」

「は、はあ……ありがとうッス……」

 

 とはいえ、めでたい事なのだと思う。俺はパチパチ拍手して新たな中淫魔の誕生を祝った。

 

「多分ッスけど、昨日一昨日と吸精しまくった後、寝てる間に進化したっぽいッスね」

「嬉しくない?」

「そりゃ嬉しいッスよ。強くなれた訳ッスし、寿命も延びたんス。いやでも……なんなんッスかねこの気持ち」

 

 と、ここにきてぺちんと一発。ルクスリリアはおもむろに自身の角を叩いた。

 

「まっ! ご主人の言う通りめでてぇモンはめでてぇッス! これでアタシも一端の淫魔戦士ッスね! 一般兵から昇格ッス!」

「あ、その事なんだけど……」

 

 いいタイミングだったので、かくかくしかじか。

 俺はコンソールで見た彼女のステの内容と、その他諸々についてを話した。

 あと、ダンジョンの同行についても話した。せっかくだし、一緒に強くなりたいものである。

 

「はい、アタシは最初からそのつもりッス! おあつらえ向きに、女王陛下の呪いで死に難い身体にされちゃったんで、迷宮探索には喜んで同行するッスよ!」

 

 すると、ルクスリリアはダンジョンへの同行を承諾してくれた。まぁこれは契約前に聞いた内容ではあるが、今一度確認したかったのだ。

 

「ありがとう。ところで、その呪いっていうのは?」

「あぁ……あれッス。寿命削って魔力沸かすみたいな? 魔力枯渇した時に未来の魔力を前借りするんス。まあ、飢餓状態でも労働する為の処置ッスね、ははは……」

 

 急に世知辛い話になった。

 やな話である。

 

「ま、でもそれはご主人のお陰で心配なくなったッスけどね!」

「そうなの?」

「きひひっ、そりゃあ……あんだけ注いでくれたんスから、アタシの魔力は常時満タンのフル勃起状態ッスよ!」

 

 ふんす、と両手を上げてマッスルポーズをするルクスリリア。コロンビアを思い出すドヤ顔だ。

 

「リリィはかわいいなぁ」

「きひひっ、素直に受け取るッス。あ、でも昨夜みたいなのはNGッスよ。いくら淫魔でも食べ過ぎは身体に毒なんス」

「はいッス」

「そうッス」

 

 さて、ダンジョンアタックへの許可が下りたところで、本格的に準備に入ろう。

 ルクスリリア用の武器や防具も買わないといけないし、何ができて何ができないのかも把握しておきたい。俺もパーティ行動は初めてなので、ちゃんと練習しておきたいものである。

 

「とりあえず、実際ダンジョンに行くのは後日って事にして、今日は買い物に行こうと思う。リリィの装備整えないとね」

「はいッス! できれば一番いい装備がいいッス!」

 

 それに関しては大丈夫だ問題ないと返せる自信がある。

 なんたって俺は銀細工持ち。銀行には何百枚という王国金貨が預けられているのである。武器の一個や二個余裕だ。多分。

 

「ところで、淫魔はどうやって戦うの? 武器とかは?」

「ん~、割とその人次第ッスね。素直に魔法やる淫魔もいれば、鞭使う淫魔もいるッス。アタシが兵士やってた頃の教官は大鎌使ってたッス。あ、女王はなんか変な楽器で戦うって聞いたッスね」

「へえ。リリィは何使うの?」

 

 聞いてみると、ルクスリリアはこれまた自身の角を撫でた。

 

「いや~、アタシってば軍すぐ辞めちゃったんで、まともな武器の扱いなんて習ってねぇんスよね~。やったのはせいぜい初歩的な格闘術とか、基本の魔法訓練くらいッスかね」

「なるほど」

 

 もう一度コンソールを見て、ルクスリリアのジョブの淫魔兵をタップしてみる。

 すると、淫魔兵のジョブの簡単な説明が出てきた。

 

 ふむ、どうやら俺の読み通り淫魔兵=戦士みたいな感じらしい。とはいえ、そこは淫魔に適合して魔法も使えるようだ。魔法戦士とでも言おうか。強そうというより、器用貧乏な印象だ。

 で、使用可能武器を見てみると、さっきルクスリリアが言った通り鎌とか鞭とかが出てきた。戦士より使える武器多いぞ。

 

「ふむ……?」

 

 なんか、引っかかる記憶があった。

 俺は使わないが、確かアイテムボックスの奥底にちょうどリリィに合う武器をしまっていたような気がするのだ。

 

 えっと、アレはいつだったか。普通にダンジョンボス倒して、出てきたドロップアイテムの中に異様な武器があったのだ。

 で、それを受付おじさんに見せたら「レアだから持っとけ」って言われたんだよな。

 

 確か、その名前は……。

 

「深域武装……?」

「ん? どしたッスか?」

 

 曰く、ダンジョンボスが時たま落とすレアな武装の事……だったと思う。

 その武装はこの世界の住人では再現のできない不可思議なパワーが宿ってるとか何とかで……。

 とかく凄い武器らしいのだ。これまた曰く、この国の初代王様も深域武装を使ってたとか。

 

「深域武装って知ってる?」

「ええ、まぁ知ってるッスよ。あれッスよね、迷宮が吐き出す特別強い武器。うちの女王が使ってる楽器も深域武装ッスよ」

「へえ」

 

 話しつつ、虚空に手を突っ込んでお目当ての深域武装を探す。

 如何せんいつ入手したかも覚えてないので、どこにしまったのか分からないんだよな。

 まさかドラえもんみたいにぽこじゃかアイテム放り出す訳にもいかないし……。

 

「……っと、あった」

 

 俺は探していたアイテムを取り出し、そのままルクスリリアへと手渡した。

 

「ほえ、なんスかコレ?」

「深域武装、あげる。これ使って」

「はあ……はぁあああッ!?」

 

 という訳で、俺はルクスリリアに深域武装を装備させる事にした。

 武器は装備しないと意味がないぞ。




 感想投げてくれると喜びます。



・深域武装(しんいきぶそう)
 ダンジョンボスがドロップするレア武器。
 街で買える武器とはけた違いの性能で、武器ごとに固有の能力・効果を宿している。
 ソウルシリーズのデーモン武器とかソウル錬成武器みたいなもん。銀細工以上の冒険者は一つは持ってる。



◆ルクスリリアの情報まとめ◆

・初期の力は弱いが、種族レベルの上昇により克服可能。
・種族柄、魔力に優れるが、お察しの通り知力は微妙なので沢山の魔法は覚えられない可能性がある。
 戦場童貞の為、本人の適性は現状不明。前衛向きかもしれないし、後衛向きかもしれない。
・魔力による浮遊行動が可能。これに関してはかなり才能があり、飛ぼうと思ってすぐ飛べたのは何気に凄い事である。
・女王の呪いの影響で、脆いが死に難い。減った寿命は吸精により回復可能。


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気楽なロリの斃し方

 感想・評価など、ありがとうございます。お陰様で楽しく続けられています。
 誤字報告兄貴も本当にありがとうございます。感謝です。
 あと、以前投稿した話の一部描写を修正しました。話には関係ないところですが。

 アンケートのご協力ありがとうございます。もう少しだけ設置します。
 アンケート、大鎌と箒の接戦ですね。当初の作者の予定では、ルクスリリアは鞭を使う予定でした。アンケしてよかったと思います。

 以前感想でいただいた「貨幣」について少しだけ触れています。
 まだ本格的に触れてはいませんが、おいおいねです。
 街の描写もしたかったんですけど、テンポ重視で省きました。おいおいねです。


 生まれてこの方、俺はファッションというものにてんで興味を持ってこなかった。

 流行の季節コーデとか、来年流行る色とか、そんなん言われても何やそれという気持ちである。そも、まだ使える服があるというのに次々服を買い替えるなんて色々もったいないなぁと思う性質の持ち主だったのだ。

 ゲームの装備は見た目で決める癖に、リアルだと見てくれ軽視勢であった。

 

 どうせ買うなら、機能性に優れた奴がいい。そんな俺はジャージ愛好家だった。

 乾きやすいし、丈夫だし、動きやすい。家でも外でも、俺は普段からジャージを着て過ごしていた。近所のスーパーくらいは上下ジャージでOKという人間だったのだ。その事をファッションモンスターの友達に言うと、「ないわー」と言われてしまったのだが。

 

 別に、服に金使う奴とか全員バカだろとか思ってた訳じゃない。

 ファッションを“楽しむ”って感覚が、全く分からなかっただけだ。

 

 当然、異世界転移した後も俺のその性質に変化はなかった。

 迷宮に向かう際は鎧のセットを装備し、休日には安い服屋で適当に買ったものを着て情報収集をしていた。両方とも割と適当というか、飾り気のない見てくれである。

 意外と色鮮やかな服を着てる異世界人の中で、現代日本人の俺は地味な服を着ていたのだ。

 

 そんな俺でも、TPOに合わせた服くらい着る。

 奴隷商館に行った時は、事前に高級志向の仕立て屋さんでお高い服を繕ってもらった。これは華美な装飾やら繊細な刺繍やらがゴテゴテしているので、俺の趣味ではない。脆いし着づらいし動き難いこの服が、どうしてああも高いのか。

 愛しのジャージは今はない。転移直後に着ていたジャージは装備を整える為に売却したので、今の俺は年中ジャージマンを卒業した。ちなみにジャージは結構高値で売れた。今思うと、買い叩かれなくてよかった。

 ともかく、日本でも異世界でも、俺に服飾へ向ける情熱はなかったのである。

 

 しかし、別腹があった。

 

 前世、俺はポケモンが好きだった。

 普通にゲームとして好きというのもあるが、バトル以外にも好きな要素があったのだ。

 主人公の着せ替えである。

 

 俺は自分が着飾る事に全く興味はないが、ゲームの女の子を着飾らせる事は大好きだった。

 ミヅキもユウリもアオイも、アイテムそっちのけで服装にお金をかけてたものである。

 

 一度でいいから、めちゃかわロリを着せ替え人形にしたいものだ。

 

 

 

「淫魔は皆こんな感じの服着てるッスね。基本、魔族は暑い寒いのに強いッスから、衣服の基準は各々の好みでって感じッス。アタシは動きやすさ重視ッスね」

「へえ」

 

 朝食後、俺とルクスリリアは街に出かけていた。

 ダンジョンアタック前の準備と、今後必要になるであろうルクスリリア用の日用品購入の為だ。

 

 現在、ルクスリリアは奴隷商館から着ているサマーメスガキファッションのままである。胸と股間周辺しか隠していないそれは、現代日本人の俺からしたら結構ビックリしちゃう服装である。

 その事をルクスリリアに言ってみると、前述のような返答がきたのだ。

 

「あと、竜族や吸血鬼族の人たちは結構おしゃれらしいッスね。前仕えてた家の主人がそんな事言ってたッス」

「そうなんだ、一度会ってみたいな」

 

 竜族に吸血鬼族……ほんとにこの世界には色んな種族がいる。

 ルクスリリアに不満がある訳では断じてないが、居るというならいつかそういう種族のロリもハーレムに引き入れたいものである。

 まるでペット扱いみたいだが、もうそういう葛藤は全部無視する事にした。幸せならそれでいいじゃん。ウチはウチ、他所は他所である。

 

 果報は寝て待て。奴隷商人曰く、良い奴隷を仕入れたら連絡してくれるとの事なので、それまで焦らず待とうと思う。

 あと、珍しい種族になればなるほど値段も高くなるらしいので、今後もしっかりハクスラしていこう。

 まっ、王国金貨何百枚持ってる俺が買えない奴隷なんている訳ないけどな。勝ったな、がははっ!

 

「ご主人ご主人、此処ッスよ」

「あ、ごめんごめん」

 

 次なるロリを妄想していると、いつの間にか目的地についていた。

 俺たちがやってきたのは防具屋であり、王都西区にある此処は転移神殿併設の防具屋よりも良いモノを扱ってる。

 ……らしい。

 

「淫魔兵はどんな装備してるの?」

「まぁ軽装ッスね。うちら魔族は攻撃食らっても魔力さえあれば動けるんで、下手に動きの邪魔する鎧とかは好まれないんス」

 

 らしい……というのも、俺は今の今までその事を知らなかったのである。

 教えてくれたのはルクスリリアだった。曰く、「ギルドが売ってるのって基本駆け出し冒険者用のが大半なんで、銀細工持ちのご主人には相応しくないと思うッス」との事。

 そういう事もあり、俺たちは少しお高めの防具屋に来たのである。

 

 店の中は魔道具の照明のお陰で明るく、床や壁もよく掃除されてるようでピカピカだった。

 小さめのスーパーくらいの店内には冒険者風の人が数人いて、皆こっちを見ていた。こっち、というか俺の銀細工を見てるのか。

 

「いらっしゃいませ。どういった装備をおもと、め……?」

 

 注がれる視線を無視しつつ展示された防具を見ていると、店主らしき紳士が現れた。

 かと思えば、彼は俺の首に下げられた銀細工を見て、次いで俺の顔を見て、もっかい銀細工を見て、固まってしまった。

 なんか緊張してるっぽい。此処は銀細工持ちがよく来る店って聞いたんだけど……。一見さんお断りとかだろうか。王都怖いわー。

 

「あの、防具を買いにきたんですけど……」

「し、失礼しました。お初にお目にかかります。私、店主のアンドレと申します。“迷宮狂い”のイシグロ様にお会いできて誠に光栄でございます」

 

 ん? 迷宮狂い? 人違いじゃね、ソレ。

 俺が銀細工の一個前にランクアップした時、なんか偉い人から二つ名なるものを頂戴した訳だが、その時もらったのは“黒剣”だったと思うんだけど。

 

「すみません。イシグロは私で合っていますが、迷宮狂いさんとは別人だと思います」

「え、はっ!? ししし、失礼しました! とんだご無礼を……!」

 

 言うと、店主はものすごい勢いで頭を下げて来た。ぼるぜもんもニッコリのお辞儀っぷりだ。

 俺の隣ではルクスリリアが「迷宮狂い?」と首をかしげていた。ついでに店内の客がヒソヒソ話をしながらこっちを見ている。コッチヲ見ルナ。

 

「いえいえ、気にしてないので顔を上げてください」

「どどどどうかお許しを! せめて私の首だけで! 何でもしますから……!」

 

 うーん、なんだろうねコレ。

 NPCに謝罪されてる時のモモンガさんってこんな気分だったのかな。すごく気まずいし、普通に疲れる。率直に言ってやめてほしいのだが。

 

「ん? 今何でもするって言ったッスか?」

 

 かと思えば、隣の淫魔が満面のメスガキスマイルで詰問した。

 嫌な予感を感じて掣肘しようとしたが、先制店主はバッと姿勢を正してルクスリリアに相対した。その視線はリリィの首の奴隷証に向けられていた。

 

「は、はい! お許しの機会を頂けるのであれば!」

「きひひっ、どうしますご主人様ぁ? 店主はこう言ってるッスけどぉ、二つ名間違いなんて無礼千万ッスよねぇ? 処すぅ? 処すッスかぁ?」

「ひぃ……!?」

 

 言いながら、ルクスリリアは俺の腕にしなだれかかってきた。

 店主を見る。老練な立ち振る舞いこそ取り戻しているが、その顔面はひどく青い。普通に可哀想である。なんか申し訳ない。

 銀細工持ち冒険者って、怖がられてるのかな。

 

「男女平等チョップ」

「あいたッ!?」

 

 なので、メスガキは軽いチョップでわからせる事にした。

 たんこぶなんて出来てる訳ないのに、リリィは頭を押さえて恨めしげな目を向けてきた。

 

「こちらこそ奴隷が失礼をしました。どうでしょう、ここはお互い様という事にしませんか」

「は、はっ! 恐縮であります!」

 

 実際、呼び間違いとか無礼とか謝罪とかはどうでもいい。

 俺は適当な装備一式買って、さっさと下山したいのである。

 

「おっ、こんな所にちょうどいいくらいのローブがあるじゃねぇか。こんくらいの服なら俺でも買えるぜ」

 

 ちょっとわざとらしい気もするが、俺はさっそく展示された女性用ローブを手に取り、ルクスリリアの身体に合わせてみた。

 話によると、こういう高級店で売られているような防具には自動サイズ調整の魔法が施されているらしく、俺でもロリでも着ればフィットするのだとか。

 なので、サイズ合わない問題はないのである。SからXLまでご自由にだ。

 

「おぉ、似合う似合う」

「はあ、似合うったって着て見ない事には。性能もどうなんスかね」

「あ、そだね。すみません、試着してもいいですか?」

 

 と言ったものの、この世界に試着の文化があるかどうかは知らない。

 店主を見ると、なんかホッとした表情でこちらを見ていた。

 

「ええ。どうぞ、ご試着してみてください。お着換えはあちらの部屋で」

 

 店主の案内で試着室の近くに行くと、ルクスリリアは入ってすぐ出てきた。どうやらメスガキ服の上から着ただけの様だ。

 

「可愛い」

「そうッスか? そりゃあ、いいッスけど……う~んなんか動きにくいッス~」

 

 動きにくいとの事なので、俺は店主に軽装で良い感じのをいくつか持ってきてもらう事にした。

 

「この鎧は? かなり軽いよ」

「ギチギチして気持ち悪いッス~」

「へえ、魔族用チェインメイルなんてのもあるんだ」

「軽いちゃ軽いッスけど……」

「これは? 革鎧なのかな? ピッチリスーツに見えるけど」

「お、これは良いッスね。動きやすいし軽いッス」

 

 数度の試着の末、やっと良いのが決まったと思えば……。

 

「ちょっと飛んでみるッスね。えいや……アレ?」

 

 良い装備を着てご満悦のルクスリリアだったが、いざ飛行を試みてみると何故か使用できなかったらしい。

 気になったので背中側を見て見ると、どうやら背中部分の生地が翼の生成を邪魔している様だった。

 

「背中が開いてないと飛べないみたいだね」

「あぁ~、道理で偉い淫魔みんな背中出してたんスね。確かに、天使族とか翼人族とかも背中開けてたッス」

 

 なので、装備選び再開である。

 俺は店主と協力して、尻尾孔ありで背中開いてて且つ動きやすくて軽い防御力の高い防具を探した。

 ローブ系は背中隠してるからダメ。鎧は言わずもがな。翼人用の装備も、あれは常時翼出してる人向け装備なのでイマイチ良くなかった。

 あれこれとリリィの防具を選んでいる時間はけっこう楽しかった。なんか夢のひとつが叶った気分である。

 

「お、これは……ビキニアーマー?」

「お~、いいッスね!」

「はー、まさかこの世界にビキニアーマーがあるなんて。着てる人ひとりも見た事ないけどなぁ……」

「ご主人、胸のサイズが合わないんスけど。これホントに魔法かかってんスか……?」

 

 色々試してみたものの、展示品の中にリリィにマッチする装備はなかった。

 で、すっかり落ち着いた店主に相談してみると……。

 

「少々お待ちください。倉庫の奥に以前淫魔の方が注文された装備があると思います」

 

 との事なので、俺とルクスリリアはしばらく待つ事にした。

 入店してすぐは客が何人かいたのだが、気づくと店は俺とルクスリリアの貸し切り状態になっていた。

 

「ご主人は何も買わないんスか? もっと良いの使った方がいいッスよ」

「んー、でもなー、あんま高いの買ってもなー」

「アタシぃ♡ ご主人がカッコいい鎧着てる姿見たいッス~♡」

「せっかくだしなんか買うかぁ」

 

 そうこうしていると、店主がミニ棺桶くらいの箱を持ってきた。

 開けてみると、中には黒い革製装備が入っていた。

 

「手に取っても?」

「どうぞ」

 

 広げてみると、それは黒革のボンデージっぽい装備だった。

 けど、これがただの革装備ではないのにはすぐ気づいた。注視しなくても分かる、この装備には隅から隅まで膨大な魔力防御が施されていたのだ。

 後ろ側を見ると、そこは大胆に露出しており、肩甲骨周辺だけでなく腰あたりまで開いていた。

 

「この鎧は銀細工持ち冒険者である“淫魔剣聖”シルヴィアナ様からのご依頼で仕立てたものになります。ですが、シルヴィアナ様はこの鎧の納品前に……」

 

 どうやら、ちょっと曰く付きの鎧らしい。

 なんかそういうんは気分良くないぞ。

 

「冒険者を辞めて一党の頭目と結婚し、王都東区で料理屋をはじめたのです」

 

 どうやら、めでたい装備らしい。

 そういうの嫌いじゃないよ。可哀想なのは抜けない。

 

「そうですか。リリィ、試着してみて」

「は、はい! まさかアタシがあのシルヴィアナ様の装備を……」

 

 言いつつ、緊張しながらもウキウキと試着室に行ったリリィ。

 どうやら淫魔的にはシルヴィアナさんは有名人だったようだ。

 

「その、シルヴィアナさんは、今は……?」

「ええ、今でも旦那様と一緒ですよ。旦那様はエルフでしたので、店ではお互いの郷土料理を振る舞っています」

「あ、会いに行ける人だったんですね。そのお店はどんなところなんですか?」

「はい。ミルクシチューや乳粥といった伝統的な淫魔料理や、森人豆を使った様々なエルフ料理がお楽しみいただけます。開店から現在に至るまで、実に多くの方に愛されているお店ですよ。最近では御息女様もお店の手伝いをしているとか」

 

 なんか雰囲気よさそうである。思えば俺は異世界に来てからちゃんとした料理を食ってない気がする。

 機会があればリリィと一緒に行ってみよう。

 

「よッス~、着替えてきたッスよ。どうッスかご主人? 似合うッスか~?」

 

 などと話していると、試着室から淫魔剣聖装備に切り替えたルクスリリアが出てきた。

 

「おぉ……似合う似合う! 可愛いしかっこいいよ!」

 

 黒革で出来たそれは、胴と腕と足の三つのパーツで構成された装備だった。

 前から見ると、胴体部は黒いスク水のようだった。ツヤのある黒とツヤ消しの黒の調和がいい感じである。腕は指先から二の腕までを覆うロンググローブで、足はツヤなしのニーソにツヤありのロングブーツを履いてるようなデザインだ。尻尾も翼も邪魔していない、まさに淫魔用の装備って印象である。肩と太ももの露出が実にエッチだ。

 当然、施された魔法によりサイズはルクスリリアにぴったり合っていた。どうやらシルヴィアナさんは高身長サキュバスだったようだが、ちゃんとリリィにフィットしている。

 

「きひひっ、ほらちゃんと飛べるッスよ~」

 

 言って、ふよふよ浮遊して寄ってくるリリィ。

 脇に片手を入れて抱き上げると、俺はライオ〇キングの冒頭みたいな体勢を取った。

 そして、そのまま空いた手でコンソールを開き、この装備の性能をチェックした。

 

 

 

◆双角黒馬の革鎧◆

 

 物理防御力:550

 魔法防御力:650

 

 補助効果1:魔力回復(大)

 補助効果2:空中制動

 補助効果3:空中加速(大)

 補助効果4:魔法防護(中)

 補助効果5:全状態異常耐性(中)

 補助効果6:自動修復

 補助効果7:自動最適化

 補助効果8:魔法装填(嵐纏い)

 補助効果9:刺突耐性(小)

 

 

 

 

 

 

「えっ……」

 

 出てきた数値にびっくりして、思わずルクスリリアから手を離してしまった。

 支えを失ったルクスリリアだったが、少し落ちただけですぐに元の高さまで浮上してきた。

 

「ごしゅじ~ん、急に離さないでほしいッス~」

「あ、ごめん……」

 

 なんか生返事になってしまった。

 というのも、この装備の性能に愕然としてしまったのである。

 

 コンソールを弄り、今度は俺の装備を見てみる。

 すると、物理防御力のところには「210」と書いてあった。魔法防御力など「190」である。しかも、あちらには存在した“補助効果”なるものが一つもない。

 え、なにこれ。なんやそれ、チートやチート! チーターやろそんなん! という気分である。

 

「店主さん」

「はい」

「銀細工持ちの冒険者って、みんなこんな装備してるんですか?」

「ええ。ですが、シルヴィアナ様はその中でも上位のお方。同じ銀細工持ちでもこれほどの逸品をお持ちの冒険者様はそうはいません」

「そう、だったんですね」

 

 転移直後、俺は自身の生活と奴隷購入の夢の為、質素倹約を旨とし、できるだけ消費を抑えてやってきた。

 食事や宿も健康を害さない程度にし、迷宮探索の必需品だと言われた楔も必要性を感じなかったので買ってない。

 けど、武装や回復アイテムには金をかけていたつもりだった。駆け出し時代はともかく、ある程度余裕が出てきてからはギルドの店でできるだけ良いのを買っていたのだ。

 

 が、実際には全然そんな事なかった。

 上の防具と下の防具には、これほどの差があったのだ。

 てっきり、言うて防具なんて鉄とか革とかの差しかないし、そんな変わらんやろとばかり思っていた。けれどもここは異世界、魔法のアレコレか素材のナントカで、同じ革製でもその防御性能にはかなりの差があったのである。

 

 なんだよ双角黒馬の革って……俺の鎧なんてただの熊革だぞ。前世だとかなりの耐久力だったはずだろ。熊が馬に負けんなよ。

 しかも何だよ“魔法装填”って、アレだろこれあらかじめ魔法セットして好きなタイミングで使えるんだろカッケェじゃん羨ましいわクソが。

 

「どしたッスか? ご主人」

 

 リリィを見る。光沢ある革鎧に、質感ある手袋。魅惑の絶対領域。そして、今は持ってないがここに深域武装もプラスされるのだ。あまつさえ美少女である。

 それに比べて俺である。熊さんの革鎧に、量産品の剣。装飾? そんなもの、うちにはないよ。

 これもう(どっちが奴隷か)分かんねぇな。

 

「これ買います」

「ありがとうございます」

 

 とりあえず、ルクスリリアの装備は買う事にした。

 女の子を着飾らせるのは好きなのだ。

 

「5000万ルァレに勉強させていただきます」

 

 割引されてなお、余裕でルクスリリア二人買えるくらい高かった。

 

「ありがとうッス! ご主人!」

「俺は銀細工持ち冒険者、イシグロ・リキタカだぞ。こんくらいなんて事ねぇ……」

 

 その後、俺は最低限主人に相応しい装備を買っていった。

 店主お勧めの武器屋で武器も買った。

 めっちゃ高かった。

 

「おぉ~! 似合ってるッス! かっけぇッスよご主人~!」

「おぅ……」

 

 まあ、別に損した訳じゃあない。

 相応の装備だ。きっとダンジョンアタックに役立つはずさ。

 強くなったのだ、いいじゃないか。

 

 でも、なんだろうこれ。

 この敗北感。

 俺は何に負けたんだ。

 

「金、貯めないとな」

 

 次なるロリの為、俺はさらなる金策を誓うのであった。




 感想投げてくれると喜びます。



 書き忘れましたが、ジョブごとに武器制限はありますが、防具の制限はありません。
 防具はステータス次第ですね。


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磨け、ロリ鎌

 感想・評価など、ありがとうございます。おかげで続けられています。
 誤字報告も感謝です。

 アンケートのご協力、ありがとうございました。
 結果、ルクスリリアの武器は大鎌になりました。

 感想欄を拝見するに、大鎌好きの方は「ロリ×大型武器」というロマン重視で、対抗馬だった箒好きの方は「ロリ×箒」という構図が好きな人の他に「やっぱ遠距離魔法チクチクだろ」という実戦思考があるんじゃないかなぁと感じました。
 なので、作者は逆に考えました。前衛大鎌で遠距離攻撃しちゃってもいいさと考えました。

 今回は性能だけのお披露目ですが、次回か次々回に使う事になると思います。


 学生時代、俺は帰宅部だった。

 

 別にスポーツや文化活動が嫌いだった訳じゃない。小学生の時やらされてた空手も、まぁそこそこ良い思い出にはなったと思う。

 けれど、中学以降の部活となると話は別。打ち込みたいスポーツもなければ、やりたい文化活動なんてのもない。多くの人はその上で部活を選び、やってくうちに楽しくなって夢中になるのかもしれないが、俺はそうなる事に対して強い忌避感を感じていた。

 何故か? ロリ活の時間がなくなるからだ。

 

 中学一年生時点で自身がロリコンであるという事を自覚していた俺は、当時狂ったようにオタク活動をやっていた。

 家に帰れば新旧のアニメを見て、ゲームをやって、マンガやラノベを読んでいた。それが健全かとか、社会的にどうのとか一切気にしていなかった。それを許してくれる両親だったというのもあるだろう。お陰で俺は毎日楽しくロリコンをしていた。

 しかし、胸の奥には部活動というものへの“憧れ”はあったのだ。

 

 よく、勘違いされる事なんだが。

 俺はロリコンだが、ロリコンなだけの人間ではない。

 ロリコンである前に、一般人なのだ。

 

 今でこそ吹っ切れているが、思春期の時分には自身の性癖に懊悩していたものである。

 どうにも周囲と話が合わない。興味関心が他と違う。そういう、普通じゃない事へのコンプレックスがあったのだ。

 だから、俺も部活動を通して、普通の人と一緒になりたかったのだ。

 

 ロリコンであるという事は、少数の貧者になる事だ。

 そういう覚悟を持つまでに、俺は数年の時を要した。

 普通の“夢”を捨てる覚悟である。

 

 ふと、思う事がある。

 もし俺がロリコンじゃなかったら、どんな風に学生生活をしていただろうかと。

 友達と遊んで、同年代の女の子と恋愛をして、何か世間的に貴ばれるモノに熱中していたかもしれない。

 

 部活とか、してたのかな。

 

 

 

 王都西区、転移神殿。

 別名、西の迷宮ギルド。

 

 それは王都にある四つの転移神殿のうち、西区の中央にある巨大な施設である。

 外観はまさに海外旅行の観光地の古い大きな建築物って感じで、なんとなくノートルダム大聖堂と大英博物館がポタラ合体したみたいな印象を受ける。

 入口は東西南の三つがあり、南側が一番大きい正面入り口である。南側、デカくて広い階段を上ると、見上げるばかりの木造クソデカ両開きドアがヘイらっしゃいとお出迎えしてくれるのだ。

 

 神殿内部は野球場ほどの広さがあり、球場でいうベンチとかそこらへんにはギルド受付や売店が並んでいる。

 真ん中には巨大な楔があり、それを囲むように数えるのも面倒になるくらいの石碑が並ぶ。この石碑前にある転移石板に触れて、ダンジョンへと転移するのだ。

 

 受付、売店、石碑。それだけじゃない、此処には冒険者に必要なすべてがある。

 魔法で癒してくれる治療院もあるし、マッサージ屋もある。ダンジョンに持ってく用のお弁当屋さんがあれば、バーみたいに飲み物とか軽食とか売ってる店もある。

 それと、冒険者用の鍛錬場もあるのだ。

 

「ほえー、凄い人ッスねー」

「はぐれないように気をつけてね」

 

 武器はある。装備も揃えた。アイテムも十分。

 そんな訳で、異世界初めての連休明け、俺たちは真新しい装備を身に纏い転移神殿にやってきた。

 目的は、ルクスリリアのトレーニングだ。

 

「ん? あ、あんたイシグロか? それに、お前さんはあん時の淫魔の嬢ちゃん?」

「どうも。鍛錬場を使わせてほしいんですけど」

 

 いつもの受付おじさんのとこに行くと、おじさんは俺とルクスリリアを見て目を丸くしていた。

 多分、見てくれが変わった俺と立派な淫魔装備のリリィに驚いてるんだろう。

 

 なんという事でしょう。以前までの俺は、モンハンの初期装備一式みたいだったのが、今では上位ハンターめいた立派な防具をつけているのだ。革=俺と認識している人からしたらかなりのビフォーアフターではないだろうか。

 しかも隣にはメガテンピクシーかマシュ・キリエライトかと思われる装備を付けた美少女がいるのだ。目立つったらない。実際さっきから他の冒険者くんたちがヒソヒソ話をしながらこっちを遠巻きにしている。だからコッチヲ見ルナ。

 

「あ、あぁ……少し待ってろ」

 

 言うと、おじさんは机の裏から一枚の紙を出してきた。そこには鍛錬場使用の注意事項と、いくつかの記入箇所があった。

 転移神殿にある鍛錬場は、こうやって申請をしないと使用できないのだ。利用料金は一人一日10万ルァレで出入り自由。俺はこれまで一度も使った事はないが、余裕がある今はしっかり使っていこうと思う。あと、このバカ高い利用料金は銀細工持ちになってからの話なので、駆け出し冒険者はもっと安くしてくれるようだ。

 

「まぁ分かっちゃいるとは思うが規則なんでな、説明させてもらうぜ。ザッとこの辺のアレコレに同意しろ、いいな? 説明終わり。最後に此処に名前書け。まあ、それは俺でやっとくよ。お前さんはここに指印だけすればいい」

「ん? 名前ッスか?」

 

 申請にはサインがいる。当然ながら、俺にこの世界の文字は書けない。なのでいつものように代筆してもらおうとしたら、隣にいたルクスリリアが机によっかかってきた。

 

「はいはいッスー。アタシ文字書けるんで、ご主人の代わりにアタシが書くッスよー」

 

 言うなり、ルクスリリアはおじさんから紙をひったくってサラサラとサインしていった。

 書き終えた紙はおじさんにリリース。おじさんはきょとん顔で紙とリリィを見ていた。

 

「お前さん、字ぃ汚ぇな……」

「え、だめッスか?」

「いや別にいい、読みづれぇが何とか分かる」

 

 異世界文字の上手い下手はあんまり分からないが、確かにチラッと見えたリリィの字は蛇とナメクジがシャルウィダンスしてるみたいだった。

 とはいえOKらしいので、指印してお金払って、ダンジョンには行かず鍛錬場へと向かった。

 

「てっきりリリィも文字書けないと思ってたよ」

「きひひっ、淫魔の識字率はほとんど100パーなんスよー」

「へえ」

「そうじゃないとエロ本楽しめないッスからね」

「へえ……」

 

 あるんだ、異世界にもエロ本。

 

 などと話しながら歩き、やがて目当ての場所までやってきた。

 目の前にはダンジョン行きのものとは少し違う見た目の石碑&石板。石碑の表面には「鍛錬場」と書いてある。

 

「えーっと、どこにしよっかな」

 

 使い方は分かる。ダンジョンと同じなのだ。

 石板に触れ、浮かび上がってきた文字に従って操作し、行き先を設定する。まるでATMを操作しているかの様である。

 

「ま、シンプルな闘技場風のトコでいいか」

 

 この鍛錬場は空間魔法を応用して作られた、いわば精神と時の部屋的な場所である。経過時間にそう変化はないが。

 鍛錬場を作ったのはこの国の初代王のパーティメンバーで、偉大なる魔術師さんらしい。彼? 彼女? は一人でこのシステムを作り上げ、後世の者たちが強くなれるよう何百年と残る設計にしてくれたのだ。ありがたいですね。

 だが、悲しい哉、件の魔術師さん以後、この空間魔法を使える者は皆無で、新たにこういった鍛錬場を作る事はできないのだという。

 

「リリィ、ここに手置いて」

「こうッスか?」

 

 設定を終え、最後に転移する人みんなで石板に手を触れる。リンダキューブを思い出すね。

 すると、石板が光り出して、俺とルクスリリアは粒子となって転移していった。

 

 やってきたのは、四方が石壁で囲まれたコロシアム風の場所だった。

 特にギミックや特殊機能のないここは、転移可能な鍛錬場の中で最もシンプルで最も多くの冒険者が使用する場所だという。

 

「さて……」

 

 トレーニング開始である。

 

 周囲に人はいない。というか誰も来れない。

 転移で来るこの鍛錬場は、一緒に転移してきた人しか入る事ができないのである。何か悪い事に使われそうだが、どうやらこの空間の出来事は記録されるらしく、悪い事しても即バレするのだとか。あと、人数制限もあるので大規模な悪事はできない。多分スケベな事もできない。いやできるのか? どうなんだ?

 

 そんな鍛錬場で、とりあえずはとアイテムボックスを探り、ルクスリリア用の件の深域武装を取り出した。

 虚空から出てきたのは、一挺の黒い鎌だった。長さは大体2メートルほどで、鎌部分の刃は大曲剣を思わせる程に長大だ。

 

 外見はまさに“死神”でイメージされる大鎌そのもので、パッと見十字架の「十」の左側が湾曲した刃になっているように見える。右側の先には斧の様な刃がついていて、上部の先端は槍のような鋭利な構造になっていた。

 また、三つの刃の刀身には何やら厳めしい文字列が彫り込んであり、柄や十字の真ん中にも精緻なレリーフが施されていた。石突部分には短い鎖がぶらさがっており、鎖の先端には紫色の水晶がくっ付いていた。

 なんというか、RPGで一番強い大鎌という印象である。

 

「おぉ……!」

 

 鎌を見て、ルクスリリアが感嘆の声を上げた。

 俺はその鎌の性能を今一度確認してみる事にした。

 

 

 

◆ラザファムの大鎌◆

 

 物理攻撃力:300

 属性攻撃力:500(魔)

 

 異層権能:召喚(守護獣)

 

 補助効果1:魔力収奪(小)

 補助効果2:形状変化(伸縮)

 補助効果3:自動修復

 補助効果4:魔法装填(破壊する魔力の刃)

 補助効果5:魔法装填(追いすがる魔力の矢)

 補助効果6:魔法装填(貫く魔力の槍)

 補助効果7:魔法装填(炸裂する魔力の岩)

 補助効果8:魔力消費(中)

 

 

 

 

 

 

 強い(確信)

 

 どう見ても強い。よく分からんけど強いのだけは分かる。だってつい先日まで使ってた俺の剣の攻撃力とか200だもん。

 強い、強いのだが、俺は今までこの武器を使ってはいなかった。

 何故かというと、俺が就く事のできるジョブで大鎌を使用可能なジョブがなかったからだ。あと、なんか雰囲気的に魔法偏重っぽいし、俺には使いこなせないかなって。

 以前は軽く振ってみて「いらね」ってアイテムボックスにポイしちゃって補助効果だのなんだの色々忘れちゃってたが、この鎌にも“魔法装填”ってのがあった。ちょっと試してみたものの、発動しなかったんだよな。

 

「じゃあ、これ持って」

「う、うッス……!」

 

 そんな訳でルクスリリアに大鎌を渡すと、彼女は物騒な形の鎌を宝石でも扱うように恭しく受け取った。

 すると、前もそうだったがやはりこの鎌は重たいようで、ルクスリリアはよいしょと一度踏ん張ってから両手を使って担いでみせた。

 身長140ないルクスリリアからすると、自分より大きい鎌は持つだけでも厳しいのだ。両手持ちでなんとかで、片手だと振るどころか保持も難しそう。

 

「じゃあちょっと振り回してみて」

「了解ッス!」

 

 だが、ここは異世界、前世地球の物理法則は通用しない。

 どれだけ大きくても、どれだけ重量差があっても、ステータスが足りてれば使いこなす事ができるのだ。

 ルクスリリアは非力な方だが、それは魔族基準での非力だ。並みの人間よりは膂力がある。少なくとも転移直後の俺よりは力持ちだ。

 

「えっと……そいや!」

 

 気の抜けた掛け声と共に、ラザファムの大鎌は横凪ぎに振るわれた。

 その攻撃動作は、存外流麗に見えた。まるで普段からこういう武器を使ってきたかの様である。

 

「でぇい!」

 

 薙いだ鎌を、回転そのままもうひと凪ぎ。すり足で姿勢を整え、腰を落としてえぐるような切り上げ。一歩引いて振り下ろし。ズボッと、鎌の先端が闘技場の地面に突き刺さった。

 それは、まるで武器術の演舞を見ているようだった。動きのひとつひとつがしっかりしてて、何か中学生が木刀振り回してる様とは全然違って見えた。

 重量に振り回されてもいない。むしろ遠心力を利用して、次の動きに繋げていた。俺のような素人にも分かるほど、綺麗なコンボだったのだ。

 

「ふむ……?」

 

 正直、想定と違った。大鎌なんてキワモノ武器、そう使いこなせるとは思っていなかったのである。だからこそ練習する為に鍛錬場に来た訳で。

 実際あれだけで判断するのもどうかと思うが、ルクスリリアはちゃんと武器を武器として振っていた感じがしたのだ。

 しかし、驚きこそすれ困惑はない。俺はこの現象に見当がついていた。

 

 見ると、ルクスリリアは大鎌を持った自分の手を見つめていた。

 まるで己の内なるパワーが覚醒した……と思いこむ中学生の様だ。

 

「まさか……アタシってば、武器の天才だったッスか……!?」

 

 それからもう一度大鎌を振り上げると、今度は翼を生やして飛行状態のままぶんぶん振り回しはじめた。エルデンリングのマレニアを思い出す動きだ。

 速度こそそこまででもないが、空中で大鎌を振り回す様は堂に入っており、地上同様武器に振り回されている感じはなかった。

 数度の乱舞攻撃を終えると、ルクスリリアはぴたりと空中でSEED立ちをして決めポーズを取った。その顔はマジりっけなしのドヤ顔だった。

 

「ご主人、アタシ天才だったかもしれねぇッス……」

「かもね。じゃあこっちのも持ってみて」

 

 ドヤ顔のリリィから大鎌を取り上げ、さっき出したハンマーを持たせてみる。

 予想通りなら多分……。

 

「ふん、まぁ武器術の天才たるアタシにまかせへぇぇぇん……!?」

 

 予想通り、ぶんっとハンマーを振ったルクスリリアは、遠心力に負けて盛大にすっ転んでしまった。

 それはさながら、強振フルスイングで空振りしたパワプロ君の如しであった。

 

「あれぇ~? おかしいッスね。さっきはこんな事なかへぇぇぇん……!?」

 

 再度、ハンマーフルスイングからのすっ転び。

 うん、確信した。

 どうやら、俺のモーションアシストがルクスリリアにも適用されてるみたいだった。

 

「えーっと、多分さっきの大鎌を上手く使えたのは、俺のチートの影響だと思う。モーションアシストっていうんだけど」

「もーしょん? なんスかそれ」

「武器を使いこなせる程度の能力。淫魔兵の使用武器に大鎌はあったけど、槌はなかったからね」

 

 多分、そういう事である。

 俺もモーションアシストで剣ぶんぶん振り回して悦に入ってた時あるもん。わかるよその気持ち。

 

「は、はあ、なんでもアリっすねご主人……」

 

 と言って、呆れたような諦めたような顔をするリリィ。

 そんなリリィからハンマーを受け取り、今度は事前に用意しておいた木製の十字槍を持たせる。鎌の代用だが、これは淫魔兵でも使えるはずだ。

 

「あれ? 鎌の性能確かめるんじゃないんスか?」

「それは後でね。モーションアシストが機能してるのが分かったから、他にもちょっと試してみたい事があってね」

 

 数歩下がり、アイテムボックスから事前に買っておいた木剣を取り出した。

 それから、コンソールをいじって俺のジョブを中位ジョブの“聖騎士”に変更。

 

「他の機能もオンになってるかどうかを先に調べときたいんだ」

「はあ。アタシはどうすればいいッスか?」

 

 最初は大鎌の性能を見て、それから時間をかけて慣らしていくつもりだった。

 けど、モーションアシストがあるんなら話は別だ。俺はその凄まじさを身を以って知っている。使いこなしさえすれば、アレはいとも容易く一般人を戦士に変えるのだ。

 ただ、動きがよくなっただけでは心もとない。ちゃんと、他のチートの確認もしておくべきだと思うのだ。

 

「これから斬りかかるから、避けたり防いだりして」

「え? あ、はいッス」

「できれば反撃もして」

「はいッス」

「なんか妙に勘が働いたり未来予知するかもしれないから、そういうのには素直に従って」

「はいッス?」

 

 困惑しきりのリリィ。まぁ分かる。話してもいまいちだろう。

 

「じゃあ、行くよ」

 

 なので、初手は思いっきりぶつかる事にした。

 

 

 

 まあ、結果を言うと俺の推測は当たっていて、ルクスリリアは俺同様色んなアクセシビリティを使う事ができた。

 危ない攻撃の予知。適切なガードタイミングと反撃アシスト。視野外からの攻撃の察知。

 実験の結果、ルクスリリアはその全てが可能だった。

 

 けれど、ちょっと予想外な事もあった。

 

 ところで、俺が頼りにしてる“危機察知”とか“危険攻撃の視覚アシスト”だが、例によってこれも万能ではない。

 真に万能なら、俺は死にかける事はなかっただろうし、怪我ひとつ負う事なく三ヵ月過ごせただろう。

 確かにヤバい攻撃は分かる。確かにジャスガは簡単だ。確かに最適解がイメージできる。

 

 でも、それはそれとして。

 

「ひぎゃっ!?」

「あ……」

 

 ビビると無意味なのである。

 

 ふと、ジョジョ4部の億泰の兄貴のセリフを思い出した。

 どんなモンスターマシンもビビッて乗るとみみっちい運転しかできないって奴。

 例えどんなチートを与えられてたとしても、使いこなせないと意味がないんだな。

 

 まあ、道筋は見えた。

 やるべき事は単純である。

 

「うぅ……痛いッスご主人~! もう大鎌使って無双でいいじゃないッスか~! アレ使えばアタシでも戦えるッスよ~!」

「ルクスリリア」

「なんスか?」

 

 俺は女の子座りするリリイに手を差し伸べ、言った。

 

「使いこなせるよう練習しよう」

「え……」

 

 まるで、部活の先輩が後輩を導くように。

 若い衝動をひたすらにぶつけるように。

 俺とリリィは、トレーニングに励んだ。

 

 この後めちゃくちゃわからせた。




 感想投げてくれると喜びます。



 作者は武器・魔法・技などを考えるのが苦手です。 


・魔法装填
 あらかじめ使用する魔法をセットしておいて、使用者が魔力を流す事で発動する。
 基本、装填できる魔法は低威力で魔力消費も高くなる。最大の利点は近接格闘中にも即座に発動できるところ。



・ラザファムの大鎌
 イシグロが入手した深域武装。特殊な能力は守護獣の召喚。
 性能は魔力重視で、物理攻撃力よりも属性攻撃力のが高い。
 鎌部、斧部、槍部、水晶部にそれぞれ魔法が装填されており、近~遠距離のどこでも威力を発揮できる。
 なお、大抵の冒険者には使いこなせないので、ぶっちゃけハズレ武器である。


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往きて、ロリし

 感想・評価など、ありがとうございます。お陰で捗ってます。
 誤字報告にも感謝です。前話、ひどい誤字ありましたね。忍びねぇ忍びねぇ。

 作者が一番好きな大鎌はダクソ3の「フリーデの大鎌」です。非常にオサレ(隙鎌語)

 今回は三人称、おじさんとその周辺です。
 頂いた感想に触発されて今回過去の偉人が申し訳程度に出てきますが、あくまでフレーバーです。主人公たちとは全く関係がありません。


 人類生存圏、中心部。

 

 ラリス王国。

 またの名を、英雄の生まれる地。

 

 力を貴び、知を敬い、なにより勇を誉れとするその国は、遥か昔の英傑たちの栄光によって興された。

 始まりの英雄たち。それは、六人六種の一党であった。

 

 彼の者、闇夜にて地に在る月の如し。

 放浪の竜、数多剣士の到達点。

 銀竜剣豪・ヴィーカ

 

 彼の者、鬣に太陽を宿すが如し。

 猛き雄、栄光を背に笑う者。

 獅子拳聖・イライジャ

 

 彼の者、真紅の美酒の香りの如し。

 血煙の麗人、永遠の眠り姫。

 純血大公・リアルイーザ

 

 彼の者、青空に浮かぶ白雲の如し。

 許されざる大罪人、病魔を殺す者。

 極光天使・ジュスティーヌ

 

 彼の者、清廉なる森の泉の如し。

 第一の友、魔道と知の探究者。

 魔道賢者・ゼノン

 

 そして、英傑を率いる者。

 勇気ある男。心折れぬ男。輝くは鎧にあらず、その魂こそ真なる黄金。

 勇者・アレクシオス

 

 古代、彼らは迷宮に挑み、幾度も凱旋し、その恩恵を万民に授けた。

 枯れた大地に水を。荒れた木々に命を。死の霧の原には太陽を。

 やがて謳われた、比類なき人の王。

 

 強き者、驕る事なかれ。

 弱き者、一歩ずつ進め。

 俯く者よ、我らが背を御覧じろ。

 

 人類よ、此処から始めよう。

 

 この世界の誰もが知る、建国の物語である。

 

 

 

 ラリス王国、王都西区。

 

 転移神殿の受付にて、ギルド職員の受付おじさんは昔聞かされた御伽噺を思い出していた。

 曰く、昔々の王様は色んな種族の人と一緒に迷宮に潜って、色々便利なモンを持って帰っては困った人に気前よく分けてくれたらしい。

 当時の人類は今よりずっと過酷な環境に生きてて、伝承によると吸うだけで死ぬ煙とか週一で来る魔物の大群とかでそれはもう大変だったようだ。

 おまけに地面は枯れ放題で、癒やしの雨には肌を焼く酸が混じってたらしい。夜になると何処からともなく骸骨が襲ってくるとか。怖すぎだろ。

 その頃の人からすると、今の人類様はさぞ楽してるように見えるんだろうなーと、おじさんは欠伸をかみ殺しながら思った。

 

 ギルド職員は多忙である。

 ただでさえ量の多い机仕事に加え、アホな冒険者の相手や人同士の諍いなどにも公平に対処せねばならないのだ。

 その点、おじさんは要領が良かった。人気がないので冒険者の相手はそれほどしないし、回ってくるごたごたもない。その代わりにと他職員の書類仕事をお手伝いしては上手にヘイト管理をしていた。

 パワハラもモラハラもアルハラもしない、実に良いベテランさんであったのだ。

 

 そんな中……。

 ある種、忙し過ぎて余裕のない職員の中で、おじさんだから気づいた事があった。

 

「そういや、イシグロの奴は今日も休みか」

 

 最近噂の彼、迷宮狂い氏の事である。

 彼は冒険者になってからというもの、七日に一日程度休むくらいでほぼほぼ毎日迷宮に入っていた。それ自体マジでアタオカなのだが、奴は加えて毎度毎度主を倒して帰還するのだ。意味不明である。

 いや、一回だけ撤退した事があったようだが、翌日にはお礼参りして凱旋した。迷宮の構造上同じものではないが、見事雪辱を果たした訳だ。

 

 そんな、迷宮狂い氏の迷宮狂いっぷりからして、二日連続の休暇はこれまでになかった異常事態である。

 仕事が落ち着いてくると他職員も違和感を覚え始めた様で、休憩室で彼についての話題が出た。

 

「今日も休みなんですね、イシグロさん」

「ですねー。まぁでも、これが普通……というか、それでもおかしいんだけど」

 

 銀細工持ち冒険者といえば、月一ペースで迷宮に潜るのがスタンダードだ。

 また、銀細工持ちの連中は勇気はあっても蛮勇の持ち合わせはない。優秀な奴ほど準備に余念がないものである。

 事前情報から適切な装備を整え、必要ならその都度武器を職人にオーダーメイドで作ってもらう。その上で鍛錬して手に馴染ませ、迷宮に入って楔を打って、楔が砕ける前に時間をかけて攻略するのだ。失敗しても、生きてりゃ勝ちだ。

 それから、金がなくなるまで遊びまくり、腕が鈍らないうちにまた迷宮に戻ってくるのである。

 

「おじさんは聞いてないですか? 迷宮狂いさんが休んだ理由」

「おじさんって言うな。まぁ……昨日街で会ったな」

「え!? イシグロさん街で遊んだりするんですか!?」

「いや、そんなんじゃなかったな。前紹介状書いた店で奴隷買ったらしい。真新しい服着て、奴隷連れて歩いてたよ」

「へ~、あのイシグロさんが奴隷を……」

「しかもあの店の奴隷でしょ? そりゃ、お金は余裕でしょうけど、何でだろ?」

 

 困惑する休憩中の職員たち、けれどおじさんは知っていた。

 知った上で、黙っていた。何故か? なんかそっちのがクールだからだ。

 

「変な性癖持ちとか?」

「いやいや、高級娼館でいいでしょ。それこそ西区には娼館なんて山ほどあるんだから」

「殺していい奴隷が欲しかった、とか……?」

「それこそその辺の安い奴隷でいいじゃない。ていうか、流石に失礼」

「特定の種族にしか興味ないとか?」

「あ~、上森人限定とか? 確かに、上森人抱ける店は西区にないよな~」

 

 きゃいきゃいと騒ぐ若者を背に、おじさんは椅子から立ち上がった。

 違う、奴は変な性癖持ちでも快楽殺人鬼でもない。

 

「……鍛えるのさ、自分について来れる英雄の卵を」

 

 ギルドのおじさんは(あえて)誰にも聞かれない声量で呟き、スタイリッシュにクールに去った。

 

 

 

 

 

 

 結局、件の迷宮狂いさんは翌日も翌々日も転移神殿に来なかった。

 これにはそういうのに敏感なギルド職員だけでなく、西区の転移迷宮を拠点とする冒険者たちもざわついていた。

 

 やれ死んだんじゃないのとか、借金返して引退する準備中なんじゃねとか、あるいは購入したらしい奴隷に夢中になって今もベッドで腰振ってるんじゃねぇのとか。

 神殿内のバーで、あるいは神殿前の広場で、イシグロは酒の肴にされていた。

 

「俺、今日見ましたよ。迷宮狂いさん」

 

 と、ギルドのバーで飲んでいたとある冒険者が言った。

 その発言に、バーテン含む近くの冒険者が驚愕して発言の主に視線をやった。

 言葉の続きを促されたと思った冒険者は、グラスの中のハチミツ入りワインを飲み干すと、ついさっきあった事を思い出しながら言った。

 

「えーっと、見たというか出くわしたって感じなんですけど。西区の綺麗な防具屋あるじゃないですか。自分がそこで新しい兜探してる時にやってきて、なんか店主さんと揉めてました」

「揉めてたって、あのイシグロがか?」

「まあ、何て言ってたのかは覚えてないですけど、店主さん頭下げてましたよ」

 

 迷宮狂いといえば、やってる事はガチ狂人なくせに温厚で誠実な人柄でお馴染みである。

 誰であっても物腰は柔らかく、問題を起こしたなんてのは一度も聞いたことがない。異常なほど昇格が早かったのには、功績の他にもそういうところが評価されていたというのもあるのだ。

 そんなイシグロが防具屋の店主に頭を下げさせるなど、何でどうしてという気持ちである。

 

「にしても、あのイシグロが防具ねぇ? なんか事情があるのかと思ってたが、やっとまともなモン着ける気になったか」

「いえ、なんか連れてた淫魔の奴隷の装備選んでましたよ?」

「淫魔ぁ?」

 

 飛び出てきたビックリ情報に、これまたバーテン含む周囲の人らがビックリ仰天した。

 

「淫魔の奴隷たぁ……んなもん何でって話だがなぁ……?」

「ある意味、流石っすね。俺じゃ絶対無理っすわ」

「俺もちょっと無理だわ。度胸試しっつっていっちょ相手してみたがよ、ありゃおっかねぇよ。悪い思い出じゃねぇが、二度目はいいや」

「そうかな? 僕は好きだよ。慣れれば逆に良いものさ。まさか彼も僕と同類だったとはね」

「淫魔狂いがよぉ……」

 

 この世界の淫魔は古いタイプの女性からは牛乳拭いて一日放置した雑巾の如く嫌われているし、人間族含む多くの種族の男からは憧れ半分恐れ半分といった目で見られている。

 なにせ、エッチな事をすると生命を奪われるのだ。曰く淫魔の吸精は最高に気持ちいいが、同時に本能的な恐怖を感じるらしい。それなら素直に娼館で発散した方が冒険者の感覚的には健全である。

 それで言うと、例の高級奴隷店で買ったらしい淫魔の奴隷でアレコレするなんてコスパ悪いわレア過ぎるわ度胸あり過ぎるわで意味不明である。

 

「いえ……なんでしょう、そんな感じはなかったというか……」

「なんだよ。まぁそりゃ淫魔フェチってんならああも女に興味ねぇのは分かるがよ。知ってっか? アイツ牛人族の女からのお誘い断った事あるんだぜ?」

「そうではなく、その淫魔奴隷ってのが……こう、子供みたいだったんです」

「子供?」

 

 話を聞いてた冒険者たちの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。

 淫魔といえば、皆が皆ムチムチボインで男好きのする身体の持ち主と相場が決まっている。にも関わらず、子供とは?

 

「ガキの淫魔って事か? あぁそりゃ、高級店にしか売ってねぇだろうな」

「ほう、子供の淫魔ですか……大したものですね。僕も一度淫魔の子供を自分好みに育ててみたいものです」

「あ~、それならオレにも分かるわ。で、育ったところで美味しくいただくと」

「馬鹿、お前なんざ一晩で干し物よ」

「最低でも一ヵ月の禁欲は必須です。さもないと貴方、絞り殺されますよ?」

「げぇ! んなら普通に娼館行くわ!」

 

 そうして、イシグロ=子供淫魔を育てて後に美味しく頂きたい系変態という話に落ち着きかけたところで、件の冒険者はさらなる話の種を投下した。

 

「いえ、子供ではなく、子供みたいな淫魔だったんです。ちゃんと角が生えてましたから」

「……はぁ?」

「ふむ、小柄な淫魔という事ですか?」

「はい。子供みたいっていうのは背とか胸とかの事で、魔力量的にも十分成熟した淫魔でしたね。あれは多分、中淫魔なんじゃないでしょうか」

「は、はあ……?」

「小柄な中淫魔ですか。とても希少ですが、まぁいなくはないでしょう。吸精の機会にも恵まれないでしょうから、恐らく生まれつきの中淫魔でしょうね」

「お、寝取りか? イシグロとやり合う気か?」

「バカ言わないでください。最低でも僕は僕の頭が埋まる程の胸にしか興味ありませんよ」

 

 つまり、アレである。

 イシグロという男は、高い金払って貧相な淫魔の奴隷を買って、ついでに自分用じゃなく奴隷用の装備を買いに行ったと。

 かけた手間的に、迷宮で使い潰すって訳でもなさそうである。こうなると、イシグロ考察勢の冒険者たちは振り出しに戻ってしまった訳で。

 あいつ、ホンマなんやねんって話である。

 

 

 

 

 

 

 その翌日。

 

 迷宮狂いさんはひょっこり転移神殿に顔を出した。

 小さな淫魔奴隷を侍らせて。

 

「あれ、イシグロか?」

「でもイシグロがあんな強そうな装備着ける訳ないだろ」

「ほなイシグロちゃうか」

 

 が、悲しい哉、件のイシグロさんは見てくれに変化があり過ぎて顔見知りの冒険者から別人判定されてしまった。

 イシグロくん21歳日本人。弱そうな装備=イシグロという風に覚えられていた。

 

「にしても、あの奴隷の装備はなんだ? さっきから鼻がヒクヒクするくらいの魔力感じるが」

「あぁ、ありゃただの防具じゃねぇ。どう見ても一級品……それも銀細工持ち冒険者でも上位の奴が着る鎧だ。背中も空いてるし、それこそ魔族とか翼人用に作られた一点モノだぜ」

「てかあの奴隷は何だ? 魔族だよな、淫魔に見えるが……」

「いや淫魔があんなちんちくりんな訳ないだろ」

「ほな淫魔ちゃうか」

 

 むしろ、イシグロよりもその隣の矮躯の奴隷に注目が集まっていた。

 魔力に敏感な者は、その鎧に込められた膨大な魔術的加工に鼻がヒクヒク目がチカチカする思いだった。

 さっきちらりと見えた奴隷証からして、あの男の奴隷なんだろうが、あれは奴隷に着せるようなモンじゃない。というか、主人の方は上等といえば上等だが割と普通の革鎧を着ているので、着るべき鎧の質が逆である。

 

 そうして、件の二人組は受付おじさん――迷宮狂いの担当職員扱いを受けている――の元へ向かい、何やら申請をし始めた。

 かと思えば、サインの段になると隣にいた奴隷が筆を取ったではないか。奴隷に主人の名を書かせるなど、考えられない行為である。無礼とか失礼とかじゃなく、恥ずかしい事なのである。

 

 そして、二人組は鍛錬場の方へと歩き出した。

 ちょうどその時、件の恥ずかしい主人と目が合った。

 

「あ、迷宮狂い……」

 

 その男、イシグロであった。

 輝くばかりの銀細工。前と違って上等な革鎧。隣には噂にあった小さい淫魔奴隷。マジだった。マジでちんちくりん。あいつマジでガキみたいな淫魔の奴隷連れてやがった。

 主人が主人なら奴隷も奴隷だった。レアな冒険者とレアな淫魔が合わさり変人に見える。まさにイロモノコンビであった。

 

 件のイロモノコンビは鍛錬場の転移石板を操作し、姿を消した。

 相変わらず、無駄な事をしない。ていうかアイツが鍛錬場行くの初めて見た。

 

「マジだったな」

「あぁ……」

 

 彼を見ていた冒険者二人は、呆然と石碑を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 イシグロ連休事件の後、幾日の時が経った。

 

 その間、イシグロと淫魔奴隷の二人組は毎日鍛錬場を利用し、昼になるとご飯を食べに行ってまた鍛錬場に入り、夜が近づくと帰るというルーティンをこなしていた。

 最初は「迷宮狂いが迷宮に行かない!?」とビックリしていた職員&同業者たちも、毎日の鍛錬場利用には「熱心だなー」と思うようになっていた。

 それと同時に、あの淫魔奴隷には同情の目が向けられていた。

 

 頭のおかしい冒険者でも、一等頭のおかしい冒険者の奴隷で、恐らく性奴隷でなく戦闘奴隷として買われたのだろう。そうでないと小さい淫魔を買う理由に説明がつかないからだ。

 その上で、あの迷宮狂い――史上最短銀細工到達者――と共に毎日鍛錬場を利用しているのだ。あの中ではどんな地獄が再現されているのか分かったものではない。迷宮狂いに相応の、王国騎士団が裸足で逃げだす訓練をしている事だろう。

 

 しかし、いざ奴隷の様子を観察してみると、件の淫魔は朝に鍛錬場へ行く時はゲッソリ鬱っぽい表情をしているのに、鍛錬場を出てくる時は満面スマイルなのだ。まるで今しがた“美味しいもの”でも食べてきたかのように。

 一体、何がどうしてそうなってるのか、さっぱり分からなかった。当のイシグロはというと、妙に晴れやかな表情で鍛錬場をエンジョイしてるのでこれまた意味不明である。

 

「あいつ、やっぱ頭おかしいな」

「奴隷の淫魔かわいそう」

「けど、ああやって鍛錬場に通うのは、見習うべきなのかもな」

 

 冒険者三人は、目を合わせ、今日の予定を決めた。

 そろそろ、次の段階に進もう。

 

 その前に、ちゃんと鍛錬をした上でだ。

 

 

 

 それから、しばらく。

 

 お馴染みイシグロ&淫魔奴隷の二人組は、何食わぬ顔で転移石碑の前に行き、石板を操作した。

 行き先は石碑を見れば分かる。あれは、駆け出しを卒業した者しか挑戦を許されない高難度迷宮。

 

 通称、巨像迷宮。

 

 決して、駆け出し同然の淫魔奴隷を連れて行っていいような迷宮ではない。

 そこは、堅い渋い怖いの三拍子がそろった、冒険者に嫌われてる迷宮ランキング上位の迷宮なのだ。

 

 二人は一切逡巡する事なく、ヤバい鉄火場へとあっさり転移していった。




 感想投げてくれると喜びます。



 なんか意味深な過去の世界設定ですが、別にこの異世界、遠い未来の地球とか遥か昔の地球とか地球とは違う銀河の星とかではないです。
 ただの異世界です。異世界にただもクソもあるかという話ですが。当然、物理法則も違います。


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異世界ダンジョンに三ヵ月潜ってきたがようやく帰ってきた、ぞ

 感想・評価など、ありがとうございます。マジでやる気に繋がってます。

 今回はダンジョン回です。
 ただ、例によって隙あらば異世界語りをしているので、文量が無駄に膨らんでしまいました。
 おかしいですね。

 第二ヒロイン早く出したいですねー。


 鍛錬場でのトレーニング生活は、存外楽しいものだった。

 

 毎日、朝早くから運動場で汗をかき、お昼時になると二人でランチを食べて、少し休んだ後にまた運動。

 まるで失われた青春を取り戻しているかの様であった。部活の合宿でもしている気分だぜ。した事ないから分からないけど。

 

「ぐぇ!?」

「魔力過剰充填、“中治癒”。昨日は30手だったけど、さっきのは36手だったね。成長してるよ。大丈夫、強くなってる」

「は、はいッスぅぅぅ!」

 

 まあ、内容は内容だが……。

 

 最初に行ったのは、モーションアシスト含む共有チートの確認と習熟だった。

 これには危機察知とかの一人じゃできないものがあるので、俺はひたすらルクスリリアと打ち合って限界まで防御と反撃をしてもらっていた。

 もちろん、攻撃はかなり加減している。それに練習に使っているのはお互い刃引きしている武器なので、実際当たっても痛いだけで死にはしない。まあ、地球人なら死ぬかもだが。

 

 興味深かったのは、アクセシビリティチート持ち同士がやり合うと、まるで早送りした時代劇の殺陣シーンみたいにお互いの武器を高速でぶつけ合う拮抗状態になった事だ。

 そりゃ、互いが互いにどこにどう打ち込むか分かってて、意識せずとも普通に防御も反撃もできるのだから千日手になるのは当然ではあったのだ。練習中、俺とルクスリリアの間には絶えず金属同士を叩きつける音と激しい火花が散っていた。

 で、そんな状態で結局何が勝敗を決めるかというと、やはりステータスと集中力だった。

 

「はぅぐぁ!」

「魔力過剰充填、“中治癒”。39手、惜しいね。もう少しで40手まで行けたね。でもどんどん伸びてってるよ」

「はいッスぅ……!」

 

 ステータスはそのままの意味だ。膂力とはそれ即ちパワーであり、技量とは精密動作性であり、敏捷とは動きの速さである。人が虎に勝てないように、能力が違えば小手先の技術など意味がないのだ。

 その点。俺はルクスリリアの倍以上も膂力も技量も敏捷もある。その気になればゴリ押しで勝てる。けどそれだとトレーニングにならないので、そうはしない。

 

 集中力というのは、これまた読んで字の如しだ。あるいは慣れといってもいい。

 危機察知、最適な切り返し、危険攻撃への適切な対処。気が抜けると、わかっちゃいるが心と体がおいつかないってのが発生する。ゲームでどう動けばいいか分かってたのに何故かミスったみたいな経験。あんな感じだろうか。かくいう俺もそれで何度か失敗したし、異世界じゃあ何度も死にかけた。やっぱリンチが怖いよリンチが。

 車やバイクの運転というのは最初はわちゃわちゃしちゃうものだが、慣れると音楽聞きつつ人と話しながらできるだろう。そんくらい習熟させたいものである。

 

「じゃ、今日はラザファムの大鎌の練習をしようか」

「はいッス! 待ってたッスよ!」

 

 で、トレーニング開始から数日。

 ある程度チートを使えるようになってから、ルクスリリアは本格的に深域武装の練習に入った。

 

 アクセシビリティ同様、どんなモンスターマシンでもビビッて乗るとみみっちい運転しかできない。なので、本番で試し切りするよりしっかり武器自体にも慣れるべきだと思ったのだ。

 大鎌の動きに関しては街の武器屋さんで買った安い大鎌を刃引きしてもらった奴を使って練習してきたので無問題。あとはこの大鎌型深域武装の習熟だ。

 

「色々補助効果があるみたいだから一つ一つ試していこう。とりあえず、“形状変化”って奴からやってみようか」

「はいッス。ん~っと、こうッスかね? えい!」

 

 ひょいっと、厳めしい大鎌はネコパンチみたいな軌道で振るわれた。

 するとびっくり、モーションに連動するように鎌部分の刃がギャリギャリと分裂して伸び縮みしたではないか。いわゆる蛇腹剣、いや蛇腹鎌か。

 まるで鞭かガリアンソードか、形状変化した大鎌は見た目以上のリーチを発揮したのだ。

 

「うひょおおおおお! なんスかこれたまんねぇッスぅぅぅ! こんなん一方的に殴れるじゃないッスかぁあああ!」

 

 調子にのってギャリンギャリン鎌を伸縮させて遊ぶリリィ。それはさながら針付きの釣り竿を振り回す小学生の様。哀れ、鍛錬場の地面は数秒と保たずズタズタになってしまった。

 どうやら鎌部の伸長はモーションに応じて長短が決まるようだ。そんでモーションの終了と同時に元の形状に戻ると。まるでブラッドボーンの仕込み杖か獣肉断ちの様である。炎エンチャしたら綺麗かもしれない。

 

「リーチは大体刃渡りの3倍くらいか。先端チクチク戦法でも相手によっては普通に反撃届いちゃう距離だな」

「きひひっ、知らねぇんスかご主人? 戦いは距離なんスよぉ? あのリアルイーザ様もほとんど魔法使ってたらしいッスよ? 魔族史が証明してるッス!」

「じゃあ一回試してみる?」

「え……?」

 

 と調子に乗っていたので、深域武装持ちのメスガキは速攻でわからせた。

 空中飛び回りながらチクチクされてたらもっと面倒くさかっただろうが、まだそこまで習熟してないようだ。練習あるのみやね。

 

「はい隙あり」

「ぐへぇ!?」

「はい“中治癒”」

 

 この世界、ステさえ高けりゃ大概の無茶ができる。間合いの広さ、動きの速さは前世地球人の限界を優に超えているのだ。

 仮に、前世地球人の槍術の達人と戦ったとしても、異世界帰りチート継承の俺なら槍への接触なく接近して普通に殴り殺す事ができると思う。人は虎に勝てないし、達人は超人に勝てないのだ。

 

 その点、俺は幸運だった。前世で武道の類にマジになってなくて良かったと思う。もし俺が武道に自信ニキだったら、人間相手の合理性を怪物退治にも適用させてしまっていただろうから。

 ぶっちゃけ、前世地球の常識はあんまりアテにならない。武器の使い方も根本の思想が違うのだ。攻撃力10の斧の一撃より攻撃力100の短剣のひと刺しのが強い世界、前世で培われてきた人間同士の戦いの技術は前提が崩れる。

 まあ、もし同格同士の戦いなら別かもしれないが、それでも相当な工夫が必要だろう。やるとしたら陰実の主人公が前世武術を異世界流にアレンジしてたように、世界観に準じた合理性を追求すべきだ。悲しい哉、俺にそんな技術の蓄積はない。フルコン空手の経験など、ダンジョンアタックで如何ほど役に立とうかという話である。

 

「じゃあ次は魔力装填の魔法を使ってみてほしいんだけど、できそう?」

「やってみるッス!」

 

 そうして、俺とルクスリリアは深域武装の完熟訓練に勤しんだ。

 途中、装填された魔法の発動で魔力枯渇起こしたリリィに魔力補充(意味深)したりしたが、マッポが飛んでくる事はなかった。セフセフ。

 

「んはぁ~♡ 枯渇状態からの吸精ほんとキマるッス~♡ ハマッちゃいそ~♡」

「ん~、やっぱ容量の問題だよね。これはレベリングしないと解決しないかな」

 

 どうやら、大鎌に装填された魔法はリリィがもう少し強くならないと十全に扱えないらしい。

 それと、実際使ってみて分かったのだが、武器に装填された魔法には使用者の魔攻の補正が乗らないようだった。要するに、装填された魔法は固定値なんだな。魔攻10が使っても魔攻100が使っても同規模同威力と。

 その仕様にリリィは「なんじゃそりゃッス!」と嘆いていたが、俺は色んな使い方できそうだなぁと楽しくなっていた。魔力さえあれば誰が使っても同じなら、そもそも補正の乗らない魔法を装填すればいいのである。この武器じゃできないが、いつか魔法装填特化型の武器がほしいね。ゲーム脳が熱くなる。

 

「じゃあ、明日一日休んで、その次の日にダンジョン行こうか」

「かしこまッス! はぁ~! これでアタシも冒険者かぁ~……!」

 

 なんにせよ、成長が楽しみである。

 

 

 

 

 

 

 この世界のダンジョンは、大きく分けて三種類ある。

 

 一つは、洞窟とか宮殿内みたいな四方を壁で覆われた“屋内型”。

 大きさも広さもマチマチで、迷路化してたりしてなかったりで、ボス部屋とかの概念がある最もスタンダードなダンジョンだ。

 こういうところで大事になってくるのは、やはり集団リンチ対策である。囲まれると普通に死ねるので、何よりもマップの構造を把握しながら進むのが肝要である。

 

 もう一つは、だだっ広いお外に召喚される“屋外型”。

 これはどっちかというといきなりオープンワールドゲームが始まったような感じである。出現エネミーも徘徊してるタイプが多く、ボス部屋とか罠部屋とかが存在しない。空こそ見えるが空模様は固定であり、夜ダンジョンはずっと夜だし雨ダンジョンはずっと雨だ。

 このタイプのダンジョンでいつも思うのは、やっぱ足が欲しいというものだ。そりゃ今の俺はサラブレッド並みに速いが、ラストスパートん時の速度を出してるとそのうち疲れる。疲れると戦いに支障が出るので、いつも疲れない程度に走っているのだ。今回はリリィも同行しているので、俺のペースに合わせる訳にもいかない。やっぱ車かバイクが欲しいものである。オープンワールドには高速移動手段が必要だろう。

 

 最後のは上記ふたつの要素を含んだ“複合型”だ。

 外で始まり、そこから地下なり建物なりに押し入ってボス部屋のボス倒して終わるのだ。これは初心者用ダンジョンには存在せず、ランクアップ後じゃないと行けない高難度専用ダンジョン限定の仕様だ。

 イメージでいうと、ブレスオブザワイルドのハイラル城に近い。なお、エリア外は謎バリアによって進行不可だった。攻略してて一番楽しいのはこれである。

 

 ちなみに、それら全タイプのダンジョンで共通なのが、入る度にダンジョンの構造が変わってるってところだ。

 これはシレンとかの仕様だろう。屋外型でも地面とか空模様とかは共通でも、配置されてる岩やら川やらは違ってたりする。慣れたダンジョンを走って攻略、とかはできないんだな。

 いずれにせよ、しっかりコツコツ油断せず行こうという話で。

 

 

 

 さて、色々あって俺たちがやってきたのは、屋外型のダンジョンだった。

 

 どんよりした曇り空に、見渡す限りの荒野。奥の方にはジャングルジムサイズから高層ビルサイズまで大小の岩山が点在している。

 そして、スタート地点兼撤退用転移スポットである楔の前に、俺とルクスリリアは立っていた。

 そう、本日ルクスリリアは冒険者デビューする事になったのだ。

 

「と、とうとう来ちまったッスね、迷宮に……。ふぅ……ここで強くなって、やがては大淫魔になってやるッスよ……!」

「このダンジョンは奇襲とか罠とか無いから、今はそんな緊張しなくていいよ」

「あ、そうなんスか?」

 

 転移直後、ルクスリリアは謎のファイティングポーズをしていた。緊張している様である。

 そんなルクスリリアにアイテムボックスから出した深域武装を渡しつつ、俺も一応周囲を警戒し始める。

 まだ経験はないが、転移直後にハイズドーンと攻撃される恐れがないではない。あり得ないなんて事はあり得ないって、好きな漫画の好きなキャラが言ってたし。

 

「なぁんか殺風景ッスね~。ここホントに迷宮なんスか? 魔物の反応がないッスよ~」

「説明した通り、此処のは近づかないと襲ってこないんだ。それまでは大人しいよ」

「へぇ、魔力探知にも引っかからないなんて、マジで寝てるんスね~」

 

 見渡す限り、荒野。その奥に、ちらちらと小さく見える大きな影があった。それこそがこのダンジョンの雑魚エネミーである“巨像”だ。

 このダンジョンは、通称を“巨像迷宮”といい、その名の通り大きな巨像……というか、色んな形のクソデカゴーレムたちしか存在しないダンジョンなのだ。

 そのゴーレムたちは一様にデカくて硬くてゴツい。今まで見た一番小さいのでもボトムズのスコタコくらいデカい。それなりに強いが、リンチはないのでそんな難しいダンジョンではないと思う。難しくは、ないのだ。

 

「じゃあ行こうか」

「はいッス」

 

 俺はアクセシビリティの一つ“目的地の表示”に従って、淫魔を連れて歩き出した。 

 これ、こういうチートは共有されないらしい。

 

「おさらいするよ。ここのゴーレムは大体寝てるし、起きてる奴もぼーっとしてる。気づかれると襲ってくるけど、見つからない限り無害なんだ。で、そのゴーレムはどんな攻撃してくるか、覚えてる?」

「はいッス。主以外はみんな物理攻撃のみで、魔法の類は使ってこないッス。けど、針飛ばしてくる奴はマジで強いので逃げるが勝ちッス!」

「エクセレント! すっげぇ!」

 

 道中、俺はルクスリリアとダンジョンについておさらいしていた。

 

 前述の通り、このダンジョンの敵は全部ゴーレムだ。

 ゴーレムというと、俺的にはモンスターファーム系のクッキングパパみたいな顔した玩具めいた石人形を想像する訳だが、ここのゴーレムはそんな愛嬌あるデザインではない。

 どいつもこいつも、なんかゴツゴツして粗削りで雑なデザインなのである。出現ゴーレムの形こそパターンはあるが、そのひとつひとつには細かな違いがある。巨人型でも腕の長い短いがあったり、獣型でもライオン型とか馬型があったり、しかも全部が全部微妙にデッサンが狂っていてなんというか絶妙に気持ち悪いのである。おまけにその目は漏れなくモノアイだ。強そうではあるが、愛嬌はない。

 

「ゴーレム戦の基本戦術は覚えてる?」

「えーっと、可能なら奇襲からのたたみかけ。基本は足を攻撃しまくって転がして、弱点部位に強いのを当てるッス。あ、でもアタシは空飛べるから頭上から魔法ブッパで勝てるとも言ってたッスね!」

「正解。まぁでも勝てるとまでは言ってないかな。多分、先にリリィがガス欠起こすし。でも飛んで死角に回り込むのは有用だと思う」

「がすけつ? 誰のお尻ッスか?」

「頭ドスケベ条例かよ」

 

 そんな不気味ゴーレムのいるこのダンジョンは、俺にとっては割と思い出深いダンジョンである。

 あれは駆け出しを卒業し、好きなダンジョン行っていいよ許可証が発行された後の事。俺はさらなる稼ぎを夢みて早速このダンジョンにレッツゴーしたのだ。

 が、いざ件のゴーレムと戦ってみると、なんと戦いの最中に武器が壊れてしまったのだ。

 

 流石にこれには焦ったよね。急いで撤退した俺は、翌日ギルドで大量の武器を買い込んで、買った武器を使い潰しながら再攻略したのだ。

 武器なんて消耗品ってのは分かっちゃいたが、これまでずっと数打ちの武器でやってた身としては文字通り武器を消耗しながら戦う敵はかなり衝撃的だった。

 おまけに、このゴーレムとくれば斬撃にも刺突にも打撃にも魔法にも強い万能耐久型だったのだ。何か明確に弱い属性がなかったので、ただただ堅い奴を殴るしか殺す方法がなかったのである。ちょっとゲームバランス崩れてんよー。

 

「ルクスリリア、もしお前の魔力がヤバくなったらどうする?」

「逃げるッス! アタシは飛べるんで、高度上げて避難するッス。それからゴーレムが待機状態になるまで隠れ続けるッス」

「判断が早い! いやー、リリィが逃げるの躊躇わない子でよかった」

「ご主人も逃げる事あるんスか?」

「そりゃ逃げまくりだよ。逃げるのは恥じゃないし、役に立つからね」

「きひひっ、やっぱご主人とは気が合うッスね」

 

 そんで、受付おじさん曰くこのダンジョンは他冒険者からは人気がないとの事。なんでかというと、敵が硬くて強いくせに儲からないからだとか。

 実際そうだった。ハッキリ言って此処はクソだ。

 

 再戦し、色々ありつつボスを倒して凱旋したはいいものの、いざいざ戦利品を売ってみるとそれはもうショボい事ショボい事。

 そりゃこれまで潜ってきた駆け出し用ダンジョンよりは儲かったが、武器代とか危険性の割にゃあ合わないんじゃないのというショボさ。ボス倒して脳汁ドバーのテンションに冷や水ぶっかけられたよね。

 で、それから俺は、「二度と来ねぇよこんな店!」となって此処に来る事はなかったのだが……。

 

「おっ、いいの居るじゃん」

 

 一時間ほど歩いたところで、遠くに良い感じのエネミーを発見した。

 それは大きさ凡そ5メートル程の人型ゴーレムだった。そいつは二階建て住宅サイズの岩山に背を預け、半立ち状態で脱力していた。休眠状態である。

 ここのエネミーの殆どは、ああやってポツンとぼっちをやってるのだ。その間、ゴーレムたちの目に光はなく、さながら眠っているかの様。俺はこの状態を勝手に休眠状態とか待機状態とか呼んでいる。

 

 で、そいつの何が良いのかというと、上手くやれば休眠状態のゴーレムには初手不意打ちからのハメ殺しができるのだ。

 前ならともかく、今の俺なら相当なタイム短縮もできそうである。

 

「打ち合せ通り、最初は俺がやってみせるから。リリィはそこで見てて」

「は、はいッス……!」

 

 俺は腰に差してあった杖を引き抜き、自身に“静寂”の魔法をかけた。これは文字通り自身の出す音を静かにしてくれる魔法で、足音や武器のカチャカチャ音などを消してくれる魔法だ。

 それからコンソールを弄り、ジョブを下位職の“ウィザード”から中位職の“ソードマスター”に変更した。杖をしまい、予備の剣を確かめた。

 そしてそのままカカッっと移動。奴さんの背面に回り込んで、音を立てないよう背後の岩山を登って行った。

 

 このダンジョンのゴーレムは、主に光と音と魔力で敵対者を感知している。

 だから、音を消した上で寝ている間に背後を取り、魔力を使わず接近すれば先制攻撃を入れる事ができるのだ。

 

 岩山のてっぺんに登り、一度ルクスリリアの方を見る。リリィは岩陰に隠れながらこっちを見ていた。軽く手を振って、よく見ておくよう合図する。

 それから眼下のゴーレムを見下ろし、意識を集中してアクセシビリティの“弱点部位の表示”を起動した。すると、俺の視界にゴーレムの部位ごとのダメージ倍率が表示された。

 イメージでいうと、モンハンワールドの調査表みたいな感じである。ここに攻撃入れるとこんくらいダメージ出るよみたいな。表示によると、奴は右肩を攻撃すると大きなダメージが出るようだ。

 

「ふぅ……よし」

 

 弱点は右肩。乗って突き刺しまくる戦術は逆に危ない。なら、やり方はひとつだ。

 覚悟を決め。抜剣した俺はその場で5メートルほど跳躍。全身に魔力を籠める。腹から肩、腕から指先へ。身体全体に、力が充填された。

 やがて、落下の勢いそのまま下方向目掛け“切り抜け”を使用した。瞬間、身体がグイと引っ張られる。落下+切り抜けで加速し、俺は奴の肩を深々と切りつけた。

 右肩から脇の下を切り裂いたものの、切断には至らない。というかできない、仕様だからだ。

 

「グォオオオッ!」

 

 時速にして何キロだったろうか。凄まじい勢いで地面に激突した俺は、アクセシビリティの“落下ダメージの無効化”の恩恵ですぐに姿勢を整え、間髪入れず奴の右足に“切り抜け”を使用した。魔力の通った剣が、ゴーレムの足首を切り裂いていく。

 人間でいうアキレス腱を切っても、この世界のモンスターは普通に立ち上がる。俺は右から左に切り抜けた後、今度は左足首目掛け“切り抜け”スキルをブッパした。そして反転して再び右足首に“切り抜け”る。移動と攻撃を同時に行えるこれは、俺が最も熟練した能動スキルだ。

 

「おぉぉぉぉぉぉッ……!」

 

 右、左、右、左。ゴーレムが初撃を入れられてから立ち上がるまでに、計4回ほど足首に攻撃を入れた。それを上から見た場合、俺の動きは「8」の軌跡を描いていただろう。

 そして、奴はようやっと反撃し始めた。足元への攻撃は足踏みと相場が決まっている。巨大な足の動きに注意しつつ、構わず俺は切り抜けループで足首をズタズタにしていく。

 やがて奴は例によって姿勢を崩すと、ズシンと四つん這いになった。

 

「スゥゥー……はっ!」

 

 一拍、呼吸を整えた俺は、助走をつけて大きく跳躍。奴のお尻を片手跳び箱の要領で乗り越えると、弱点の肩目掛けてそのままゴーレムの背中を疾走した。

 疾駆の最中、ソードマスターレベル10で習得した能動スキル“剛剣一閃”を起動。黄金の光が剣身に凝集し、如何にも強い攻撃できまっせと教えてくれる。

 

「死ィねぇぇぇえええッ!」

 

 やがて迫った弱点に、俺は全体重を叩きつけるようにして剣を振り下ろした。

 攻撃ヒット後、勢いそのまま空中に投げ出される。空中で一回転し、しっかり両足で地面に着地した。

 地を滑り、慣性を殺す。即座に振り返ると、ゴーレムの身体は粒子となって俺の身体に流れ込んできた。

 初撃から、約20秒の出来事であった。

 

「ふぅ、まぁ前よりは上手く殺れたな。一応、剣も折れてないし……」

 

 俺は岩陰のルクスリリアに手を振って、勝った事を伝えた。

 するとリリィはものすごい勢いで飛んできて、俺の周囲をグルグル飛び始めた。その手には大鎌があるので、お迎えの天使というかお迎えの死神の様である。

 

「すごい! 凄すぎッスよご主人! なんスかあの動き! あんなのウチの将軍でもできるかどうかッスよ! マジかっけぇッス! 素敵! 抱いて!」

「まぁチートありきだけどね」

 

 前述の通り、ここのエネミーは皆ゴーレムで、動きは鈍いが硬いし強いし儲からない。

 だが、このようにすれば一方的に狩る事ができるのだ。当然、強さ相応に経験値も美味い。

 だから選んだ。

 

「リリィ、ドロップアイテム集めるの手伝って」

「はいッスー!」

 

 とはいえ、だ。

 やはり、ここのモンスターは嫌われて当然ではあると思う。

 

 地面に散らばった石を見る。

 拳大の黒い石とか、小さい宝石とか、なんか白い丸い石とか色々。

 単にこれを集めるの大変ってのがあるし、高く売れないってのもあるけど。

 それはいい、承知の上だ。

 

「ん? この石、魔力が籠ってないッスね。ダンジョン産のアイテムって皆この鎌みたいに先っちょからお尻までギッシリ魔力詰まってると思ってたッス」

「此処のはそうでもないんだよねー」

 

 この世界、ダンジョンのエネミーを倒すと、例によって何かしらのアイテムをドロップする。しない場合もあるが。

 獣系の奴なんかは分かりやすく、死んで粒子に還ったらご丁寧に毛皮なんかを落としてくれるし、宝石巨人みたいなの倒したら魔力の籠った宝石をポコジャカ落としてくれる。

 それらはダンジョン産のアイテムとして高値で売れるのだが、此処のダンジョンのエネミーは地上で採掘できる鉱石しか吐き出さない。量が量なのでそれなりの値段になるし需要もあるが、ぶっちゃけ割に合わない。だから人気がない。

 でも、俺的にはそれとは別の理由が一番嫌だと思う。

 

「集めてきたッスよー」

「ありがとう」

 

 ここのエネミーは巨大である。小さいので4メートルくらいで、大きいのは15メートルくらいある。ボスにもなるとサザビーサイズだ。

 そいつらは図体相応に力が強く、一撃の威力がハンパではない。歩き足にヒットしたら凄まじいノックバックとダメージでHPが半分くらい削れちゃうし、キックなんて食らおうものなら今の俺でも多分一発で瀕死だろう。

 

 ハメれば倒せるが、一撃が怖く報酬も渋い敵。

 まぁそれだけならいいのだ。ハメれば殺せる。

 ドロも渋いが、まぁいい。強いのも、まぁいい。

 そこじゃないのだ、そこじゃ……。

 

「はぁ……けっこう削れたなぁ……」

「何がッスか?」

 

 コンソールに書かれた、俺の新品の剣の耐久度。

 そこには、耐久度の半分が削れたよという悲しい事実が書いてあった。

 

 これである。ただ硬いなら許せる。多少渋い程度なら許せる。けど、このゴーレムたちは武器耐久度をガリガリ削っていくのだ。安物じゃあなくとも容赦なく。それはゴーレムが硬いから……ではなく奴さん等の特性らしい。

 

「はぁ……」

 

 先日買ったこの武器は、それなりに上等な剣だ。前使ってたのが攻撃力200だったのに対し、この剣は攻撃力500もあるのだ。耐久度もお値段以上である。

 にも関わらず、さっきの一戦で半分である。もっかい使ったら壊れる。最悪である。また買わないといけない。だから予備武器がいるのだ。で、予備武器代がかかるのだ。

 武器修復の魔法とか、あればいいのにと思う。

 

「リリィ」

「なんスか?」

 

 とはいえ、だ。

 

 今回はリリィのレベリングの為に来ているのである。未だ経験値の仕様は把握していないが、検証の為にもルクスリリアには色んな方法で何度も戦ってもらう予定だ。

 なにより、ルクスリリアの大鎌は深域武装。例え耐久度が削れても“自動修復”で何とかなる。壊れない武器があるなら、此処はそれなりにうま味なダンジョンなはずなのだ。

 チートもガン積み、例え正面からやっても空飛べるリリィなら何とでもなるはずだ。

 

「次は正面から当たってみるから、よく見ててね」

「はいッス!」

 

 まあ、それはそれ。

 

 やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。

 

 人を動かした事などないが、先人の知恵には倣っていこうと思う。

 俺はアイテムボックスから新しい武器を取り出し、さっきの剣と交換した。

 

「いやぁ、やっぱご主人って強かったんスね~! 銀細工持ちってあんな動けるもんなんスね! アタシ感動したッス!」

「他の冒険者がどれだけ強いかは知らないかな~」

 

 歩きながら、少し前を歩くリリィの背中を見る。

 ゆらゆら揺れる尻尾に、ばっくりと開いた背中。中心を通る窪みに、うっすら浮き出た肋骨が実にエッチだ。

 

 ……そいえば、ダンジョン内って他の人いないんだよな。

 

「なんスか?」

「なんでもないよ」

 

 俺は歩くスピードを上げ、次のエネミーを探し始めた。

 やっぱ、移動用の足が欲しい。




 感想投げてくれると喜びます。




【挿絵表示】




 この度、ぴょー様より素敵な支援絵を頂きました。
 掲載OKとの事で、思いっきり自慢します。どやと言いたい。

 支援絵の掲載は経験がないので、もし作者がアカン事やってたら「これはアカンぞ」「間違ってるで」って指摘してやってください。作者は愚かなので間違いが多いのです。


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炉利(ろり)が呼ぶ声

 感想・評価など、ありがとうございます。お陰で楽しく執筆ができています。
 誤字報告も大変助かっています。前話の誤字数ハンパなかったですね。申し訳ない。

 前話の後書きにて、頂いた支援絵を掲載しています。まだご覧になっていない方はぜひ。

 今回は引き続きダンジョン回。次で帰還ですかね。

 感想欄に触発されて、大幅に加筆&修正しました。文量が増えたので分割。
 作者は抜けているので、何故そこに気づかない? みたいなのにマジで気づきません。ご意見・ご感想は積極的に参考にしていく所存です。


 前世、俺はポケモンが好きだった。

 主人公の着せ替え要素といった部分も大好きだったが、普通にいちゲームとしても好きだったのだ。

 

 お馴染みポケモンには色んな楽しみ方がある。

 強いポケモンを育成し、ストーリーを攻略するとか。珍しいポケモンを捕まえたり、色違いを探したり。対戦をガチったりとかもメジャーな楽しみ方だろう。

 そんな中、俺は図鑑埋めが好きなタイプのトレーナーだった。

 

 御三家を選び、旅に出る。観た事ないポケモンはとりあえずゲットして、一匹一匹進化させる。そして、少しずつ少しずつストーリーを進めるのだ。

 こいつ進化したらどうなるんだろうとか、こいつレベルアップしたらどんな技覚えるんだろうとか、そういう小さなワクワクを感じながら遊んでいたのだ。そうして、旅の中で出会ったお気に入りのポケモン達でクリアするのが好きだった。

 当然、シナリオの進行は遅い。他のポケモン好きの友人が数日でクリアしてるのに対し、同時に始めたはずの俺は普通に序盤だったりした。実際、SVも凄い時間かかった。早くナンジャモに会いたい気持ちと、ゆっくり進めたい欲の間で板挟みになってたのを覚えている。

 

 そんな俺である。ポケモン以外のゲームでも、よくそういう感じのゲームプレイをしていた。

 ドラクエでは街の住人全員に話しかけ、如くでは目についたサブストーリー全てに絡んでいく。カジノやミニゲームに入り浸り、メインストーリーそっちのけで寄り道をエンジョイしていた。

 とはいえ、絶対全部埋めてやるぜ! というような思考はしておらず、あくまで目についたもの限定なので寄り道ガチ勢ではなかった。

 

 ともかく、昔から俺はそういうタイプのゲーマーだったのだ。

 

 さて、ロリコンゲーマー・イシグロは、異世界に来ても“そういう”楽しみ方をしていた。

 順当に、「戦士→剣士→ソードマスター」とジョブチェンジしていくのではなく、「戦士→魔術師→剣士→剣闘士→ウィザード→魔法剣士→重戦士→騎士……」といった風に、ジョブチェンジの道のりをフラフラしまくっていたのだ。

 幸い、この世界のステータスはジョブチェンジごとにリセットされる仕様ではなかった。が、ぶっちゃけただ強くなるだけなら、さっさと上位職についた方が良いのである。実際、基本職と中位職ではステの伸びがダンチだ。

 これまでの経験、その全てを剣特化なり魔法特化なりにしていれば、俺は今頃最上位職に到達して、かつステータスも今より高かったんだと思う。

 

 けど、俺はそうはしなかった。

 何故か? ジョブ埋めが楽しかったからだ。

 命を賭けたダンジョンアタック。だからこそ、楽しく命を賭けたかった。

 

 ポケモンと同じだった。騎士レベル20で次なにになるんだろうとか、ウィザードレベル10で何に派生するんだろうとか、気になっちゃって埋めたくなるのである。

 おかげで俺のステは平均的。ソロの使い勝手を考慮して前衛寄りになってはいるが、それでもガチガチ前衛タイプではない。

 その中で一番使いやすいのが剣系ジョブなので、ガチる時はソドマスを使うが、俺は剣も斧も魔法も回復もそれなりにできるのだ。

 色々できると何かと楽しい。Gジェネでもそうだったが、俺は強い技一個持ってるユニットより、色んな技持ってるユニットのが好きなのだ。

 

 しかし、そんな俺でも埋めてないジョブがあった。

 武闘家系である。

 

 この世界、というか多分人間の基本職は戦士と魔術師の二つである。そんで、どちらもレベル10・20・30で色んな下位職にジョブチェンジできるのだ。戦士10で剣士、魔術師10でウィザードといった風に。

 で、戦士レベル20でソレが生えてきたのだ。武闘家さんである。

 

 武闘家。作品によって扱いはマチマチだが、大体のイメージは拳や蹴りを主として戦い、防御は脆いがパワーもスピードもあるみたいな、こんな感じだろう。

 実際、この世界の武闘家もそうだった。その手に武器を持たず――この世界にセスタスといった拳系武器はない――、己の肉体のみで怪物を打倒するストロングスタイル。性質上、鎧等の関節可動域を狭める装備は身に着けず、軽装かあるいは殆ど裸めいた格好でダンジョンに潜るのだ。

 曰く、伝説の最強の武闘家――獣人イライジャ氏はパンツ一丁でダンジョンアタックやってたらしい。伝説って? あぁ!

 

 もはや言うまでもないが、この世界は前世地球とは物理法則が異なる。

 石での殴打よりヤクザキックのがダメージが出る世界観である。パン一武闘家は武器さえ持たずとも剣士や魔術師と肩を並べて戦えるのだ。

 この世界では、無手での殴る蹴るの暴行は立派な怪物退治の手段の一つなのである。

 

 わかってはいた。そういう世界である。魔法があってゴーレムがいてエタロリがいるファンタジー。攻撃力10の斧の連撃より、攻撃力100の素手ワンパンのが強いのだ。

 けれど、俺はこれまで武闘家系ジョブに手を付けてこなかった。何故か? 武器ないとか怖くね? である。

 

 ていうか、迫りくるモンスター相手にステゴロでやる勇気がなかった。例えやるにしたって剣ひとつ、槍一本持ってたいのが人情だろう。

 それを、ろくに保護してない拳で怪物退治するなど、マジかよという気持ちだったのだ。

 

 そんな訳で、埋めてくのが好きな俺、武闘家には手を出してなかった。

 多分、今後もステゴロジョブは使わないだろうなーと、思っていた。

 

 が、巨像迷宮にて、何体目かのゴーレムを倒し、見事剣が折れた直後である。

 瞬間、俺は天か異次元かどこかの宇宙から、謎の電波を受信したのだ。

 

『なに? ゴーレム戦で武器が壊れて仕方ない? 逆に考えるんだ。武器なんてなくていいさと考えるんだ』

 

 天啓であった。

 

 そうじゃん。武器壊してくる敵には、武器なしで戦えばいいじゃんであった。

 おあつらえ向きに、この世界の武闘家は火力面で優遇されてるし、防御こそ脆いがスピードは凄いのだ。盾はないが回避盾ができる。

 という訳で……。

 

 石黒力隆、ここにきて武器を捨てる覚悟を決めた。

 

「キャストオフ!」

「うわぁなんスかご主人!?」

 

 ついでに装備も脱いだ。今の俺はパンツ一丁である。

 異世界に来てからというもの日々の運動を欠かしていない肉体は、まさに戦士の肉体と化していた。ボクサーの様な体ではない。プロレスラーの様な体でもない。強いていうなら、自衛官めいた肉体をしていた。

 

 ゴーレムの一撃、どうせ当たれば死ぬのである。なら、極限まで回避力に振る方がいい。

 俺はコンソールを開き、ジョブをソードマスターから下位職の“武闘家”に変更した。

 武闘家レベル1。変更と同時、俺のスキル欄から“切り抜け”や“剛剣一閃”といった剣士専用スキルが消えた。

 

「行くぞルクスリリア。作戦はさっきと同じ。俺が下、リリィが上だ」

「は、はあ……。いやそうじゃなく、ご主人……武器は?」

「拳で」

「なんでもありッスね異世界人!」

 

 それはこっちの台詞だと言いたい気持ちだったが、それはともかく。

 俺とルクスリリアは。次なるゴーレムへと挑んでいった。

 

 

 

 

 

 

 巨像迷宮、多分北部。

 その名の通りゴーレムしかいないダンジョンの一角で、大きな影と小さな影が戦っていた。

 

 大の影はひとつ。全高約10メートル程の獣型巨像。足の数は四つで、首が異様に長い。キリン型ゴーレムである。ビールが恋しくなる敵だ。あのキリンはキリンさんじゃないが、それはいい。

 小の影はふたつ。蝙蝠の様な翼で空を舞い、身の丈を超える鎌を振るう淫魔と、パン一すっぽんぽんスタイルでキリンゴーレムの足に拳を叩き込み続ける駆け出し武闘家。

 

「オラァ!」

 

 裂帛の気合と共に、何の保護もされてない拳がキリンの足に叩き込まれる。ゴーレムの武器破壊特性は素手には適用されず、ぶち込んだ俺の拳には傷ひとつない。ついでに痛くもない。

 すると、拳がめり込んだ部分から蜘蛛の巣状に亀裂が広がり、やがてバギンと音立てて砕けた。前脚一本の先っちょが割れたのだ。攻撃を与えまくったが故の部位破壊である。

 痛みを感じた訳でもないだろうが、キリンゴーレムは残る三本足でバタバタ藻掻きはじめた。わかっていたので範囲を抜けると、入れ替わるように空に影が差す。ルクスリリアだ。

 リリィは両手で持った大鎌を、まるで空中ゴルフでもするように構え突貫していた。俺にキリンのヘイトが集まっている間隙を縫って、小さな淫魔は獣ゴーレムの首の根本まで接近した。

 

「どっせぇぇぇい!」

 

 そして大鎌フルスイング。ブゥンと振られた鎌部が分裂し、根本から先端までの湾曲刃がマフラーめいてキリンゴーレムの首に巻き付いた。

 リリィは勢いそのままスパイダーマンのように舞い上がり、一定高度に達した後にふんすと力を入れて大鎌を引き寄せる動作をした。それはさながらマグロ一本釣りの様。

 すると、分裂して首に巻き付いていた刃がギャリギャリと物騒な火花を散らして元の形状に戻っていく。その間、当然の様にキリンの首はずたずたに切り裂かれ続けていた。首刈りチェーンソーである。

 

「マジか」

 

 このゴーレムの弱点は首だった。そうなるとあの長い首に攻撃入れるのが効率いいのだが、その位置と動き的に一撃離脱で入れるしかないと思っていた。

 そこへ、ルクスリリアは深域武装の形状変化を活かし、弱点部位にチェーンソーめいた継続ダメージをぶち込んだのである。実際ゴーレムのHPはガンガン減っていった。

 

「あ、ヤベ、倒しきれてない!」

 

 だが、殺しきれていない。俺は再度突貫し、残る一本の前脚関節部に全力飛び蹴りを敢行した。

 ドガン! 膝カックンを受けたキリンの姿勢が傾く。もっかい弱点に攻撃すれば倒せる。チラリとリリィの方を見ると、得たりと三下スマイルを浮かべたルクスリリアは、自身の魔力を深域武装へと籠めはじめた。

 ラザファムの大鎌、その鎌部分に赤黒い光が凝集していく。そして、担い手は再度空中ゴルファーとなって。深域武装を大きく振りかぶった。

 

「はぁぁぁっ!」

 

 空中で、ゴーレムの首を刈るべく刃が振るわれる。その軌跡をなぞるように、禍々しい刃状の魔力光が飛ぶ斬撃として射出された。

 

“破壊する魔力の刃”。

 

 赤雷の尾を引いて放たれたそれは、着弾と同時に激しい爆発を起こした。

 映画館のスピーカーの大音量より凄い爆音。派手なエフェクト、如何にもな破壊描写。これで低威力だったらクソ技認定で草も生えないが、リリィ渾身の装填魔法は見事ゴーレムの首を爆砕してのけた。

 

 キリンが倒れ、粒子に還っていく。

 青白い粒子は半分が俺に、もう半分はルクスリリアに吸い込まれていった。

 

 どうやら、パーティでの経験値配分は、戦闘での“貢献度”的なものによるらしい。

 アタッカーなら与ダメで、サポーターならバフで。どういう基準かは分からないが、明確に戦闘に貢献した者に多めに配られるようである。

 つまり、ノビさんにトドメを刺させただけではあんま効率よくないって仕様だな。

 

「きひひ~、ご主人どうだったッスかさっきの動き~。強かったっしょ? 凄かったっしょ? いや~、我ながら自分の才能が恐ろしいッス~!」

 

 などと言いつつ降りてきたルクスリリア。だが、何故降りてきたのかは知っている。魔力不足だ。

 今のルクスリリアは未だ基本職のまま。レベルこそ上がったが、魔力の伸びはそこまでなのだ。先ほどの大魔法を使った後では魔力の残りも心許ない。ほとんど魔力消費のない飛行も厳しいのである。

 

「鎌を首に巻き付けるのは素直に凄いと思った」

「でっしょ~」

「けど最後に大技使ったのは如何なものかと。あれ普通に“貫く魔力の槍”でも十分だったよね」

「ぎく! いや~、まぁ? 念には念を? みたいな?」

「まぁカッコつけたい気持ちは分かるけどね。次からは大技じゃなくクールな技巧で魅せてほしいな」

「はぁい」

 

 話しつつ、キリンがドロップしたアイテムを拾っていく。

 相変わらずの石石石……素手&深域武装でコスト削減したとはいえ、やっぱり渋い。俺のアイテムボックスにどんどん余計な石が溜って行きますよ。

 

「きひひっ、ご主人様♡ ん、ちゅっ……♡」

 

 ドロップアイテムを集め終えると、浮遊状態で寄ってきたルクスリリアが首に腕をからませてきた。

 そしてそのまま唇を合わせると、彼女は半ば無理矢理舌をねじ込んできて、俺の口内をねぶり始めた。

 

「ん……ちゅ♡ あむっ♡ れろ♡ ちゅ……れろ♡ れろぉっ♡ んん、じゅるるぅ……♡」

 

 戦闘後、ダンジョン内での唐突なベロチュー。一応、これには理由がある。色々あるが一言で言うと吸精だ。

 基本、淫魔の吸精は男女のアレやコレやで行うものだ。けど、他にも手段がないではない。こうして唾液を飲む事でも吸精できるし、文字通り“精”を飲む事でも吸精できる。

 ちなみに、ルクスリリアと生活して分かったのだが、どうやら魔族はトイレをしないらしい。じゃあそのケツは何の為のケツなんだと訊いたら「ナニの為のお尻ッスよ♡」と返された。ソッチでの吸精はまだ試していない。いつか試そうとは思っている。

 

「ん、じゅる……れろれろぉ♡ ちゅぅぅぅぅぅ……ぷはぁ♡ きひひっ、ごちそう様ッス♡」

 

 ハイオク満タン! とはならないが、こうして給油する事はできるので俺とリリィのダンジョン探索に魔力切れの心配はなかった。

 実際、魔族は魔力がなければへなちょこだが、魔力さえあればほぼ不死身である。魔力補給の手段があるのはダンジョンアタックでかなりのアドだ。多分、彼の淫魔剣聖女史もパーティメンバーの方をタンク(意味深)にしてたのではないかな。

 

「むぅ……」

 

 ところで、前述の通り俺の今の恰好はオーセンティック武闘家スタイルのパン一なので、俺のジムがジムスナイパーになってるのは確定濃厚バレバレな訳だが。

 

「きひひ……なんスかご主人様ぁ♡ そんな怖い目しちゃってぇ? 次行くッスよ次ぃ♡」

 

 当のルクスリリアは、絶対分かった上でこんな事を言っていた。

 まぁ、軽い戯れである。ロリコンとロリサキュバスが一緒なのだ。こうもなろうという話で。

 乗ってやろうじゃんである。

 

「範囲指定……“清潔”」

 

 俺はジョブをウィザードに変え、杖を振って俺の身体を綺麗にした。

 次いでルクスリリアにも“清潔”を使い、キリン戦で被った汚れ等を除去していった。

 それから近くを飛んでいたルクスリリアを捕まえ、優しくその頭を撫でた。

 

「お? なんスかぁ? これどういう奴ッスか? きひひ……♡」

 

 癖のある金髪を撫でる。ふわふわした毛の感触が心地よい。

 そして、丁度良いところにあった角を鷲掴みにした。

 

「へ?」

 

 杖をしまい、もう片っぽの手で残る角を握りしめる。グイと引き寄せ、正面から相対する。

 丁度、両手でリリィの左右の角を掴んでる状態だ。浮遊してるので目線は一緒である。

 

「リリィ」

「はいッス……?」

 

 ところで、この世界の多くの種族には“角”がある。

 話に聞く牛系の人には牛っぽい角があり、鬼人族には如何にも鬼っぽい角が生えてるらしい。竜族にも角があって、それは龍の竜たるパワーの源なのだとか。

 そんな中、淫魔には羊の様にねじれた角があるのだ。まるで何かのレースゲームのハンドルのように、それはそれは掴みやすそうな角があるのだ。

 

「次に備えて魔力満タンにしとこうか」

「え、あ、はいッス」

 

 なので、そうする事にした。

 この角、前々から使ってみたかったのである。

 ハンドルみたいに。

 

 実際にやってみた。

 

 気持ち良かった、まる。




 感想投げてくれると喜びます。


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ローリンロリンを討て!

 感想・評価など、ありがとうございます。励みになってます。
 誤字報告もありがとうございます。申し訳ない。

 すごい今更ですけど、本作はバーッと書いてドバーッと投稿してるので、色々と詰めが甘いです。ご容赦頂きたく。


 屋外型ダンジョンは広い。

 歩きで移動すると、それはもう時間がかかる。一日じゃ絶対クリアできない。

 目についたゴーレムを片っ端から倒すなどをしていては、何をかいわんや。

 

「はぁ~、アタシ何気に焚火とかするの初めてッス~」

「俺も久しぶりだな。前友達と行ったキャンプ以来だから、二年くらい前か」

 

 多分、夜。

 ダンジョン内はずっと同じ空模様なので時間の感覚が狂ってしまうが、多分夜だ。

 

 朝に転移して、何回も戦って、途中休憩挟んでからまた戦って……。

 それから、なんとなくお腹が空きはじめたので、今日はもうおしまいとしてダンジョンでキャンプしようとなったのだ。

 ダンジョン内で寝泊まりとか考えただけで怖いが、幸いここはゴーレムが近くにいない限り安全なので、ある程度安心して休憩できる。

 

「この銀細工が時計だったらいいのになぁ」

 

 今が夜なのか、まだ夕方なのか、わからない。

 時間感覚が狂うダンジョン内、何かしら時計みたいなのがあると便利だと思う。

 しかしこの世界、そんなものはなかった。

 

 一応、時間を示すモノはあるのだ。教会っぽい建物の鐘である。日光か何か、そういう原始的な方法で時間を計っているらしく、俺が親しんできたような時計はまだない。技術を見るに歯車自体はあるようだが、それを使って時間を計る機械を作るという考えには至っていないようである。

 だからか、この世界の住人は時間にルーズな感じがある。なんとなくだが、そんな感じがするのだ。

 何か、代用できたりするものとかないかな。

 

「とけいって、そんな良いもんスかね?」

「便利ではある。俺のいたところでは皆持ってたよ」

「やーっ! アタシは嫌ッスね。皆が皆時間気にして生きてたら、そんなの時間に見張られてるようなもんッスよ。考えただけで気が狂いそうッス」

「そうかな、そうかも……」

 

 割と胸に刺さる発言だった。

 時間通りに生きるのが普通だった身としては、今のルクスリリアの言葉はボディブロウのように心に突き刺さる。

 

「……いや、止めよう」

 

 うん、止め止め。深く物事考えないのが俺の数少ない美点である。俺はそう思っている。

 せっかくの焚火、夢にまでみたロリ美少女とのゆるキャンである。全力で楽しみたい。

 

「さて、人生初挑戦……!」

 

 良い感じの火に、大きいフォークみたいな串に刺したチーズを近づける。

 これは以前リリィと買い物中に買った淫魔王国産のチーズで、とても美味しいらしい。これを使って、夢の“アレ”を作るのだ。

 

「ぐーるぐーる」

「おっ、じゃあアタシも。ぐーるぐーる♪」

 

 奴隷と主人、二人して串チーズをぐるぐるする。

 そうして溶け始めたチーズを、ちょうどいいところで引いて用意してきたパンの上にシュート。するとどうだ、アニオタが人生で一度は食べたいアレの出来上がりである。

 ハイジのアレだ。

 

「おぉ……!」

 

 模倣とはいえいざ実物を見ると、何かこう込み上げてくるものがあった。

 如何にも堅そうなパンの上に、ギリギリ形を保っている溶けかけチーズ。焼けたチーズの匂いが鼻孔を直撃する。

 

 一度唾を飲んで、いざ実食。すると、案の定めっちゃ熱かった。

 めちゃ熱いが、異世界ナイズドされた俺の舌はチーズの熱に打ち勝った。濃厚なミルクの味と塩気、淡泊なパンとの組み合わせでちょうどいい具合の塩梅になっている。

 ていうかコレ、ぶっちゃけ異世界飯で一番美味かった。これまで質素な飯しか食ってなかったのもあるだろうが、それにしたってこのチーズはバチクソに美味い。ホントに美味しいお米はそのままでも美味しいが、まさにソレ。淫魔王国産のチーズはただ焼いただけで物凄い美味しかった。チーズ単品なら前世込みでも一番美味いな。

 

「はぁ~! うんま~!」

「きひひっ、でしょ~? そう言われるとなんか悪い気しないッスね!」

 

 ルクスリリアも、美味しそうにハイジのアレを食べている。

 まぁハイジのアレといいつつ、このチーズは牛乳で作られてるので山羊チーズで出来たハイジのアレとは違うハイジのアレなのだが、ソレはソレ。ハイジのアレは牛でもハイジのアレなのである。

 

 そうしてハイジのアレに舌鼓を打った後、アイテムボックスからこれまた淫魔王国産のクソデカソーセージを取り出した。畜産国家淫魔王国は肉類も美味いらしいのだ。

 取り出したソーセージをズブリとデカ串の先に刺して、淫魔ソーセージを焼き始めた。

 

「このソーセージは肉用の牛を専門にしてる牧場で作られた奴なんで、他牧場のとは全然違う味なんス。まぁ食べた事ないッスけど」

「へえ、じゃあリリィも初めてなんだ」

「はいッス! ご主人のお陰でこういう美味しいもの食べれて嬉しいッス!」

 

 いい感じまで焼き上げ、熱々のソーセージをそのまま頂く。

 ガブリと一口。口の中に肉汁が溢れ、次いでハーブ系の爽やかな香りが鼻を通った。これまた即脱衣級に美味いソーセージである。

 そして、傍らに置いてあった水を一気飲み。ぷは~とおっさんじみた息を吐いた。

 

「はーッ! オイオイちょっと待てよ淫魔王国最高じゃん! 淫魔のソーセージ美味すぎだろ! 教えはどうなってんだ教えは!」

「ん~! 確かにこれは美味しいッス! うん! 貴族共は毎日こんな美味ぇモン食ってたんスか! たまんねぇッス!」

 

 その後も、危険極まるダンジョン内でつかの間のキャンプを楽しんだ。

 焚火と飯とロリ。世界の全てである。

 

「さて、と……」

 

 パチパチと薪が爆ぜる音を聞きながら、俺はコンソールを開いた。

 見るべきは俺のステじゃなく、ルクスリリアのステだ。「仲間→ルクスリリア」とタップし、情報を表示する。

 すると、さっき確認した通り、彼女はもう淫魔兵レベル30に到達していた。実質カンストである。さすがの高難度ダンジョンであり、さすがのゴーレムであると言える。

 まあ、基本職だから上がりやすいってのが一番なんだが……。

 

「ん? ご主人、コンソールっての見てるッスか?」

「ああ。ルクスリリアの見てる」

「へー、なんて書いてあるんス?」

 

 一部チートを共有していても、こういうチートは共有できない。俺はコンソールを弄りつつ、仲間のデータを眺めていた。

 

「淫魔兵のレベルが上がって、次のジョブになれるみたい」

「ジョブ? なんスかそれ」

「戦士とか剣士とか。ルクスリリアがなれるのは、“淫魔戦士”と“淫魔術師”と“淫魔将官”。あと“淫魔騎士”ってのがあるね」

「いんまきし!?」

 

 言うと、さっきまで空中で休日おっさん寝してたルクスリリアは、俺の手元を覗き込むように寄ってきた。

 いやあんたコンソール見えないでしょうに。

 

「淫魔騎士ッスか!? それ、アタシが成れるんスか!?」

「まあ、ジョブチェンジの条件は満たしてるね」

「それ! アタシそれに成りたいッス!」

「はあ、じゃあこれにするね」

 

 ポチッとな。

 何が何やら分からないが、ルクスリリアはボタン一つで件の“淫魔騎士”にジョブチェンジした。

 見てみると、どうやら淫魔騎士とは淫魔兵から一部要素を削ぎ落したジョブであるようで、物理も魔法もまんべんなく成長していくジョブであるらしい。

 しかも中位職。基本職から下位職飛ばして中位とは、結構な出世である。

 

「なったみたいだけど」

「あっさり! 実感ないッスけど、でも嬉しいッス! 淫魔騎士といえばエリートの中のエリート! 王城務めが許される超絶出世街道ッスよ!」

「へぇ」

 

 ルクスリリアの話をまとめると、こうだ。

 淫魔騎士とは、淫魔王国における王城務めの精鋭の戦士であり、軍人というよりは女王の近衛にあたるらしい。

 また、淫魔騎士には才能ある選ばれた者しかなれず、これまで小淫魔スタートで淫魔騎士にまで成り上がったのは歴史上数人しかいなかったとか。

 

 女王の近衛たる淫魔騎士は三つの部隊に分かれる。それぞれ、攻と守と奏。

 攻はその名の通り敵を殺しにかかる騎士で、守とは淫魔女王の近くでその身を守り、奏とは女王が思い切り力を発揮できるよう魔力支援を行う騎士であるようだ。

 

「ルクスリリアはどれに当たるの?」

「わかんねッス。けど、淫魔騎士に選ばれた淫魔は、厳しい試練の後に適性見られて配属されるらしいッス。アタシが裁かれる時なんかは、謁見の間に何人もいたッスね~、あと団長等も」

「そうなんだ……」

 

 で、彼女等は皆、武器術にも魔術にも長けた戦闘エリートであり、かつて戦争で投入された時などは他種族の中隊を小隊で殲滅したらしい。マルス算かよ。

 

「確か、現騎士団長三人はそれぞれ鎌と鞭と楽器を武器にしてたッスね。いやー、皆さん目が怖かったッス! あと、皆さんお尻が弱そうな顔してたッス!」

「如何にも女騎士って感じだったんだ」

 

 そんな憧れのエリートに、ルクスリリアはなった訳だけど。

 まぁ引き続きレベルアップあるのみだよね。ジョブチェンジしてもステに変化はないし、物理も魔法も伸びる淫魔騎士のレベルを上げていけば、そう遠くないうちにラザファムの大鎌も使いこなせるようになると思う。

 

「じゃあ、そろそろ寝よっか」

「はいッス!」

 

 という訳で、先日買った簡易テントに入る。

 前世アウトドア用品ほど洗練されてないこれは、ホントに雨風を防ぐ為だけのザコテントだ。その中に布を敷いて、枕置いて寝るのである。これでも異世界基準でまぁまぁ贅沢、アイテムボックス持ちの特権だ。

 ついでにお互いの色んなところに“清潔”をかけていく。

 

「明日はボス倒しに行くから、そこでも安全重視でよろしく」

「はいッス! 危なく成ったら全部お任せするッス!」

「うん、まぁそっちのが良いかな……」

 

 明日は決戦である。

 魔力も補充せねばならない。

 

 何気に、ダンジョン内で一日過ごすのは初めてだった。

 

 

 

 

 

 

 ダンジョン内で夜(?)を明かすという経験の後、俺たちはHP・MP・精神的疲労を考慮しながら、本日もこのだだっ広い荒野を歩いていた。

 ローグライク的仕様の異世界ダンジョン。こういう屋外型ダンジョンは出入りしても基本は大体同じだが、ボスの居場所がランダムである。その点、今回はハズレくじを引いてしまったようでボスまでの距離は結構遠い。俺はアクセシビリティの恩恵でボスの居場所が分かっちゃうが、他の冒険者からするとホントに此処はマジクソだと思う。

 などと考えつつ歩いていると、ふと思いつく事があった。此処に入った直後の思考である。足が欲しいな、だ。

 

「ところで、その鎌の“守護獣”もう呼び出せるんじゃない?」

「あ、かもッスね。一回試してみるッスか」

 

 ラザファムの大鎌、機能の一つ、その名を“異層権能”。何がどう権能なのかは知らないが、武器固有の特殊能力みたいなもんだろう。で、鎌自体の権能は守護獣の召喚というものだった。

 守護獣とは何ぞや? 召喚とはどんな仕様なんや? と、一度鍛錬場で試してはみたのだが、どうにも魔力か知力かともかく何かが足りなかったようで何も召喚できなかったのである。

 だが、今のリリィは以前までのリリィではない。淫魔兵を卒業し、戦闘エリートたる淫魔騎士にジョブチェンジしたのだ。やってみる価値ありますぜ。

 

「じゃあ、行くッスよ! むむむ……!」

 

 そう言うと、ルクスリリアは鎌を掲げて唸り声を上げた。何か念じているようだ。

 何が「むむむ」かと思っていると、突如ルクスリリアの前方に青白い魔法陣? 錬成陣? みたいなのが出てきて、そこからヌルッと守護獣さんが召喚された。

 

「「おぉ……!?」」

 

 まず見えたのは、左右にねじれ上がった大きな角だった。それはリリィのようなカワイイ系の角と違い、威厳と風格を備えた一対の鹿角であった。

 次いで、角の付け根である頭が這い出てきた。それは、前世ディ〇カバリーチャンネルで見たヘラジカに似ていた。デカい角といい、丸い瞳といいまさに鹿の王といった感じ。

 そのまま一歩ずつ全身を晒していくと、やがて守護ヘラジカは太い四本足で立ち上がった。その大きさは地球産ヘラジカよりも大きく、つま先から背中まで大体2メートルくらい。厳つい角にゴツい肉体で数字以上にデカく見える。

 何より目についたのは、左右の首の付け根から生えている鳥の翼であった。パッと見、それは単なる羽毛風の飾りなのだと思ったが、よく見るとそれは時折バサリと動いていて、多分異世界航空力学的に飛ぶ事ができる翼なのだろう。ついでに尻尾も鳥の尻尾っぽかった。

 

「で、でっけぇッス……!」

 

 立派な角は金色で、つぶらな瞳は黒々としている。体毛は濃いめの茶色で、翼と尻尾もまた黄金。蹄の先には青白い魔力の光が揺らめいている。

 なんというか、如何にも強そうな動物……いや、守護獣だった。

 

 ふむ、鹿の体に鳥の羽?

 何か、前世の記憶に引っかかるものがあった気がした。

 

「おおっと……?」

 

 と思っていると、当の鹿さんは身体ごと俺の方を向くと、匂いを嗅ぐようにして俺に鼻を擦り付けてきた。ゴツい角が眼前にあってちょっと怖い。

 一応、敵味方識別レーダーには味方とあるが、それでも角アタックは痛そうである。

 

「リリィ、こう……何か念的なものでお話できないの?」

「ん~? できるような、できないような? なんスかね、今はご主人に夢中? みたいな?」

「はあ」

 

 仕方ないので鹿さんの頭を撫でると、満足したのか「ふんす」と一息吹いて再度召喚時の威厳ある守護獣のポーズに戻った。

 

「あ~、はいはいッス。なるほどね……」

「なに?」

 

 リリィもリリィで角に手を当てて頷いている。スマホで通話しているかのような光景だ。

 

「なんか、群れ? のリーダーに挨拶した……みたいな感じらしいッス。で、自分より強い奴に従うって言ってるッス。ていうか、召喚したのアタシなんスがね……?」

 

 どうやら召喚者と守護獣には精神パシー的な繋がりがあるようで、ルクスリリアはうんうん唸って続けて念通話をしていた。

 対する鹿さんはどこ吹く風で、時折ぶわりと翼を動かしていた。

 

「ふむ……」

 

 にしても、だ。

 鹿さんの足を見る。長く、そして太い足だ。サラブレッドの様なしなやかさはないが、ジョナサン・ジョースターを思わせる丸太のような脚をしている。

 こいつならヘラジカめいて自動車をひっくり返すなんて訳ないだろうし、異世界ヘラジカならコンボイ司令官もひっくり返せそうである。

 何がどうって言うと、良い“足”になりそうって思ったのだ。乗り心地は……よくなさそうだけど。

 

「鹿さん」

 

 呼ぶと、鹿さんはこっちを向いた。角は怖いが、目は可愛い。

 ルクスリリアは無視するようだが、俺の言葉には反応してくれるようだ。

 それは多分、さっきリリィが言ってたように俺がこの群れのリーダーだからだろう。強そうな鹿さんだが、倒せる感じはあるのだ。例え反逆してきても難なく処理できると思う。

 

「背中乗せてくれない?」

 

 言葉が通じると信じて命令すると、なんと鹿さんは俺が乗りやすいように四本足を畳んでくれたではないか。軽く感動である。

 感動しつつ、えっちらおっちら背にまたがると、彼はそのまま力強く立ち上がってくれた。目線が高い。乗馬体験で乗った引退馬よりずっと大きいぞ。

 

「オイオイオイ! ちょっと待てッスぅ! お前の主人はアタシ! 乗せるならまずアタシ乗せるんが仁義ってモンでしょうがぁ!」

 

 眼下でルクスリリアが騒いでいた。ロリのキンキン声に反応する事なく、鹿さんは次の命令を待つようにじっとしていた。

 

「リリィも乗せていい?」

 

 なんとなく、不承不承という感じに頷かれる。賢いなやっぱ。

 俺は飛んできたリリィをキャッチすると、御伽噺のお姫様みたいに俺の前に座らせた。

 

「ひょえー! 高いッスねー!」

「リリィ、この鹿さんの名前は何ていうの?」

「え? 名前? んーっと、ちょっと待って下さいッス……」

 

 一秒、二秒、三秒……。

 鹿さんが欠伸をし終えると同時、ルクスリリアは角から手を離した。スマホかな?

 

「ないらしいッス。強いて言うなら、“ラザファムの大鎌の守護獣”らしいッス」

「ないんだ」

 

 ないなら名付ければいいじゃん、と思わないでもないが、どうなんだろう。

 正直、鹿さん……守護獣の仕様が分かってないので、安易に名前をつけていいものかという話である。

 仮にこの鹿さんがお亡くなりになったとして、もっかい召喚できる保証もなければ、再召喚できたとてこの鹿さんとは違うのが来るかもしれないのだ。

 そう思うと、鹿さんに名前をつけるのには抵抗があった。愛着湧きそうだし。

 

「ん? えーっとぉ……なんか、死にかけるか魔力がなくなると鎌に戻るらしいッス。で、呼び出されたらまたこいつが来るって、言ってる? ッス……?」

 

 俺がうんうん悩んでるのに気づいてか、鹿さんはリリィに念を送ったようだ。

 なんというか、賢いし人の心をこうも察するなんて凄いわねである。前世の犬猫よりずっと賢いじゃないか。

 ふむ、となるとやっぱ名前はあった方が便利よな。

 鹿さんって言うのもアレだし。

 

「ヤックル……いやこれはダメだ」

 

 うん、ヤックルはダメだ。ヤックルはダメだ。大事な事だ。

 じゃあ、せんと……いやコレもダメだ。ううむ、ネーミングは苦手である。RPGでも何でも、名前はいつも本当に適当につけていた。ドラクエ11の勇者に「やきそば」と名付けた俺である。責任ある名付けは怖い。

 

「リリィは名前何がいいと思う?」

「え? そうッスね、じゃあ……んがぉ!?」

 

 リリィは片頭痛でも起こしたように頭を抱えた。

 

「あ、アタシに名付けされるのは絶対嫌って思念が……! こ、このクソジカがよぉ……!」

「えぇ……?」

 

 どうやら、この鹿さんはマジで自分より強い奴にしか従順じゃあないようだ。

 となると俺が付けないとだが……困った。

 

 こいつ、“ラザファムの大鎌”の守護獣だし、ファム太郎とか?

 ファム? ラザ? 鎌? 鹿?

 ラザ……ラザ……ら、ざ?

 

「ラザニア」

「らざにあ?」

 

 ペットに食べ者の名前をつけるのは、割とメジャーである。ツナとかチョコとかココアとか。

 じゃあ、ラザニアでもいいじゃんであった。

 

「ラザファムの大鎌……贅沢な名だね。今からお前の名前はラザニアだ。いいかい?」

 

 という訳で、今日から鹿さんの名前はラザニアだ。

 ラザニアはふんすと鼻息を漏らすと、ブワッと翼を動かした。

 

「了解って言ってるッス」

 

 認知してくれたらしい。

 

 多分、昨夜に久しぶりに美味しいご飯食べた影響である。

 明日から食事のランク上げよう。

 

 

 

 

 

 

 新たにラザニアを加えた二人と一頭のダンジョンアタックは、実に快適であった。

 というのも、ラザニアは足が速かったのだ。俺が原付だとしたら、こいつはハーレーだった。ドコドコした股下の感触が心地よく、上裸で感じる風がスースーして気持ちがいい。歩きと鹿じゃあ速度がダンチだ。

 当初不安視していた野生動物乗り心地問題もクリアできており、守護獣の仕様か異世界物理法則がそうさせるのか、鹿の背中に乗った俺とリリィをしっかり保持してくれたのだ。

 横幅的にまたがると股間クリティカルするかとも思ったが、ラザニアの背中は存外ふわふわで柔らかく、普通に胡坐をかいてもバランスを崩す事はなかったのである。毛掴んでりゃ落ちる事もないしね。

 

「死ねよやぁあああああ!」

「いただきッスゥゥゥゥ!」

 

 で、ラザニアと一緒にシームレスにゴーレム戦。

 予想通り、ラザニアはその身の翼で空を飛ぶ事ができ、リリィと共にゴーレムの周りをちょろちょろして気を引いてくれた。

 しかもその角からは何かしらの魔法を放つ事ができるようだった。確認したのは、カマイタチ的な奴と突風的な奴と、あと全身に風を纏っての角アタック。見てくれ相応に強靭で、見てくれ不相応に器用であった。

 

「あぁ~! 強化の音ォ~!」

 

 どうやら、ラザニアの戦闘貢献は全てルクスリリアにいくらしく、ラザニア加入後はルクスリリアにじゃんじゃん経験値が貯まっていった。

 ラザニアはルクスリリアを睨みつけていた。

 

 多分朝からしばらくして、お昼時。

 ゴーレム数体倒してお昼休憩となって、そいえばラザニア何食うのと思ったら、何も食えないらしいのだ。

 じゃあどうやって実体化してんの? エネルギーいらず? って訊いたら。

 

「ん~? この鎌で吸った命を糧に生きてるっぽいッス。道理でアタシの魔力減ってねぇ訳ッスね」

 

 なるほど、ついでにわかったが、何故鍛錬場で来なかったのかも分かった。あの時、ラザファムの大鎌は新品の童貞武器だったので鎌に命のストックがなかったんだな。

 で、ゴーレムを倒した事で現界できるようになったと。オタクには理解の容易な設定である。

 

 そんなこんな昼休憩が終わり。

 ラザニア特急に乗った俺たちは西へ東へゴーレム狩りの旅に出て、ボスを手前にあっちこっち寄り道をしていた。

 

 そこで、ちょっと変なモノを見つけた。

 

「うわ、なにあれ?」

「えぇ? なんか変ッスね。あれ、あいつが迷宮の主なんスか?」

「いやぁその反応はないなぁ……」

 

 荒野の果て、大きな岩山の裏で見つけたのは、何とキンキラ金色に輝く成金ゴーレムであった。

 黄金の鉄の塊でできたそいつは高さ5メートル程とこのダンジョンにしては小柄で、普通に人間のシルエットをしていた。身体のバランスは他ゴーレムよりずっとヒトに近く、むしろスタイルの良いモデル体型である。他がアーマードトルーパーだとしたら、こいつはアーマード・コアって感じだ。

 百式かフェネクスかアカツキかゴールドスモーかアルヴァアロンか、ともかくそんくらいキラキラしてるそのゴーレムは、他ゴーレムと同様に休眠状態で岩山に腰かけていた。真っ白に燃え尽きた矢吹丈のように。

 

「気になる……」

 

 怪しい、すごく怪しい。

 あからさま過ぎて、ぜひ怪しんでくださいって感じである。

 

 多分だけどアイツ、めっちゃ強いんだと思う。

 ああいう広いフィールドにぽつんといるイロモノモンスターは、異常に強いか異常に逃げ足が速いかの二択である。

 君子危うきにウンタラかんたらとは言うが、俺はあの金色ゴーレムが気になって仕方なかった。

 

 リリィを見る。まだ不慣れだろう。やるなら俺一人で行くべきだ。

 でも、俺が死ぬと奴隷契約でリリィも死ぬんだよな。俺一人ならともかく、リリィまで道連れにするのはどうかと思うし。可哀想なのは抜けない。

 あぁ……うん、やっぱ普通に死にたくないなぁ……。でも気になるなぁ……。

 

 ラザニアを見る。こいつは翼を使って高速移動ができる。戦ってる時しか観てないが、こいつの飛行能力はリリィより上であり、地上より空中のが速度も出ていた。

 虎穴に入らずんば虎児を得ず……。

 

 よし、決めた。

 

「とりま一回殴ってみるよ。ヤバくなったら全力で逃げるから、その時はラザニアに乗って逃げてね」

「は、はいッス……!」

 

 と、いう訳で。

 俺は久しぶりに装備を着込み、一番強い剣を装備した。

 あいつに武器破壊効果があるのかは知らないが、予備武器の用意もしておこう。

 やっぱ、ガチな時はソドマスだ。

 

「じゃ、行ってくる」

 

 

 

 結論を言うと、金ゴーレムは結構強かった。

 けど、難しい敵ではなかった。

 

 定石に則って最初は様子見に徹していたが、どうやら魔法とか飛び道具の類はやってこないようだった。

 スピードは他ゴーレムより圧倒的に速く、動きもアグレッシブでスタイリッシュだった。スライディングキックからのフライングボディプレス。起き上がり際の足払い攻撃。どれも此処のゴーレムがやってこない類の攻撃で、人間ならできそうな動きであり……見切るのは容易だった。

 なので、さっさと弱点を殴りまくり、カウンターを入れ、最後にギリシャ彫刻のような頭部にキツい一撃を入れて試合終了。お疲れ様でスターである。

 

「おぉ~」

 

 したら経験値がドバドバ入ってきてビックリ。だいたいゴーレム3体分くらい美味しかった。

 勝利後、はしゃいで飛んできたルクスリリアを抱きとめ、ひとしきり喜び合うと地面に散らばったアイテム群に目がいった。

 

「なんスかね、これ」

「ただの鉄とかじゃないよね。異世界不思議ストーンなのかな?」

 

 ゴールドゴーレムがドロップしたのは、大量のキラキラ石であった。青光りする石とか、なんか赤く光ってる石とか、黒くて艶のない石とか、色々。でかいきんのたまもある。

 その中のひとつ、ピカピカの銀の玉を手に取ってみると、それは見た目以上にずしりと重かった。表面はツルツルとしてて触り心地が良く、まるでビー玉でも触ってる感じである。

 コンソールを開いて確認すると、このクソデカパチンコ玉は「輝銀魔石(シルウィタイト)」というらしい。いや名前だけわかってもねであるが、コンソールでの解説は名前しか出てこないので、これが何でどう使うのとかは教えてくれないのだ。

 

「リリィ、輝銀魔石って知ってる?」

「んー? 知らないッスね~。淫魔あんま石好きくないッスから、そこらへん全然詳しくないんスよ~」

「そうなんだ。でも高く売れそうだよね」

 

 まあ、何に使うかは分からんが、まさか無価値で何の使いでもないアイテムって事もないだろう。

 俺はこれまで、こういう屋外型ダンジョンは敵倒して満足してたから知らなかったが、中にはこういうレアモンスターがいるのを知れて、ちょっと嬉しい。

 ジョブ以外にも図鑑埋めができそうな要素発見である。

 

「さて、じゃあ続き行こっか」

 

 俺は壊れた剣をしまい、再度武闘家にジョブチェンジした。

 装備を外すのも忘れない。なんか癖になりそうである。

 スネークの言う通り、裸は気持ちがいい。

 

 

 

 

 

 

 数時間後、俺たちはダンジョンボスを倒した。

 いやー、迷宮の主は強敵でしたね。

 

「初踏破、おめでとー!」

「あざーっす! あざーっす!」

 

 と、ひとしきり祝ったところで、ラザニアとお別れである。

 粒子となって大鎌に吸い込まれるラザニア。なんか寂しい。

 また会おう。

 

 そうして、俺たちはボスを倒した事で出現した巨大水晶に触れ、転移神殿へと戻って行った。

 

 

 

 神殿に戻ると同時、何故か周囲の人たちから一斉に視線を浴びてしまった。

 いつもはここまで注目される事ないのに、なんか嫌な感じである。俺は目立ちたがり屋ではないのだ。

 

 突き刺さる視線を努めて無視して受付おじさんのところまで行くと、珍しくおじさんの前で並んでた冒険者たちが逃げるように道を空けてきた。

 これまた不思議である。「お先にどうぞ」と言ったら無言で首をブンブンされた。なんじゃそれ。

 釈然としないままおじさんの前に立つと、おじさんも俺を見ながら目を丸くしていた。

 

「何ですか?」

「生きて……。いやお前、何って……」

 

 おじさんは、一拍空けて言った。

 

「服くらい着ろよ」

 

 あー、なるほど。

 

 道理で目立っていた訳である。

 今の俺、パンイチ武闘家スタイルだもんね。本職の人も神殿だと普通に服着てるもんね。

 恥ずかしいね、全く。

 

「あと……お嬢ちゃん?」

「ん? なんスか?」

「その、なんだ。深域武装か? それ?」

「そうッスよ」

「……神殿の中で、担ぐもんじゃねぇぜ」

「あ、こいつぁ失礼したッス!」

 

 あー、なるほど。

 

 道理で目立っていた訳である。

 今のリリィ、大鎌担いだ死神スタイルだもんね。大型武器持ってる人も、神殿だと邪魔にならないよう背中とか腰とかにつけてるもんね。リリィだとキツそうだけど。

 申し訳ないね、ほんと。

 

「リリィ」

「はいッス」

 

 大鎌を受け取り、アイテムボックスに入れる。

 そして……。

 

「ちょっと失礼しますね。先に他の方をお願いします」

「お、おう」

 

 俺は慌ててトイレに駆け込んだ。

 俺に露出性癖はなかったようである。




 感想投げてくれると喜びます。



 長くなったのでボス戦はカットしました。


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強くて危ない謎のロリ

 感想・評価など、ありがとうございます。HPが回復します。
 誤字報告もありがとうございます。助かってます。

 チュートリアル終了って感じですね。
 別に何がどうって話じゃないですが。


 銀細工持ち冒険者・石黒力隆はロリコンである。

 俺が転移したのはダンジョンを擁する異世界の王国である。

 ロリ奴隷ハーレムを築く為、黒剣のリキタカはダンジョンへ挑むのだ。

 

 

 

 例の事件の後。

 

 おじさんに断りを入れ、急いで神殿内のトイレに駆け込みいそいそとお着換えをした俺は、赤面しそうになる顔を制御しつつ再度受付の前に立つのであった。

 心なしか、おじさんからの視線が温い気がする。気のせいだと思いたい。今の俺は出撃前の革鎧スタイルなので、何も恥ずかしいところはない。リリィも鎌担いでないし。大丈夫なはずだ。

 

「えー、あの、換金したいんですけど……」

 

 いつもの換金ルーティンも、いつもみたいにスムーズにはできなかった。

 未だ周囲の人らの視線が熱いし鋭い。リリィはこういうのに強いのか興味がないのか、相変わらず周囲をキョロキョロして注意力散漫といった感じ。これでパドック出たら確実に評価下がるだろうな。

 

「おう」

 

 了解を得たので、アイテムボックスからドロップアイテムを出していく。

 今回のは量が多いので、あらかじめサンタさんめいた袋に入れているのだ。パンパンニナッタソレを、一つ二つ三つと机の上に置いていく。

 

「ずいぶん多いな。おい、空いてる奴ちょっと手伝ってくれ」

「か、かしこまりました!」

 

 おじさんからの応援要請に、後ろで見ていた若い職員が駆けつけサンタプレゼントを受付奥の換金台へと運んでいった。

 基本、ダンジョン産のアイテムはお馴染み換金天秤に掛けて換金するのだが、巨像迷宮から排出されるのは全てダンジョン外からも出る鉱石なのである。仕様上、外で掘れる鉱石だと天秤が機能しないのだ。

 

「あと、これとこれとこれと……」

「どんだけあんだよ」

 

 机いっぱいにサンタ袋を並べ、運んでもらう。

 なくなると同時、さらに第二陣のサンタ袋を置いていく。

 ただでさえ天秤を使わない人力換金は時間がかかるのに、この量だと相当だろう。その点でも巨像迷宮はクソだ。

 

 ギルド名物・天秤型換金魔道具。

 正式名称を“宝秤(たからはかり)”。

 

 前述の通り、この天秤はダンジョン産アイテムの金額を査定してくれる便利魔道具だ。

 使い方は単純。片側の皿にドロップアイテムを載せると、その内包魔力量に応じて残る片側の皿に魔力的な謎エネルギーが溜まっていき、やがて平行になって査定完了となるのだ。で。計測した魔力量に応じて金額が決まると。

 が、実はこれ、金策効率が悪い。物の価値とは時代によりけり。需要が高いアイテムは、天秤が示す金より高く売れる時がままある。そうなると素直に職員さんに渡した方が儲かる訳だが、これはちょっと時間がかかる。その点、天秤はスピーディに査定が終わるので、俺は天秤査定をよく使っていた。いうて、よほどの事がない限りそこまでの差額はないのである。宝秤くんは優秀なのだ。

 

 ちなみに、宝秤の開発者は初代国王のパーティメンバーの一人である例の魔術師さんだ。鍛錬場を作った人と同じだ。

 例によって現代の魔術師ではこの天秤は再現不可能らしく、宝秤は王都とかの古い転移神殿にしか設置されてないらしい。

 

「で、これが最後です」

「おう、重そうだな」

 

 最後に、少し小ぶりなサンタ袋を机にドン。

 これはかなり重いので、この場で鑑定してもらう事になった。中身は金ゴーレムのドロップアイテムだ。

 

「じゃあ俺が鑑定するが、いいか?」

「お願いします」

 

 よろしくお願いして、いつもの番号札を渡される。とはいえ、他冒険者はおじさんのトコにはいないので、最近御無沙汰な緑の1番だ。

 

「時間かかりそうだし、神殿で何か食べよっか」

「はいッス!」

 

 天秤だとすぐだが人がやる換金は時間がかかる。その間、暇を潰す必要があるのだ。

 前世だとそのへんで適当にスマホでも弄ってりゃなんとでもできるのだが、異世界でそれはできない。なので何処かで軽食でも食おうとなるのである。

 さて、何処行こうかな……と思ったら。

 

「うお!?」

 

 背後に低声。振り向くと、それはおじさんが袋の中身を見て上げた声であるらしかった。

 俺だけでなく、他の人らもおじさんに目がいったようである。今度は地味なおじさんが注目を浴びる番だ。

 

「お、おうイシグロ! すまんがちょっと来てくれ!」

「はあ」

 

 言われた通り向かうと、おじさんは袋の中の石――金ゴーレムが吐き出した色んな石――を机上の鑑定台に数個並べていた。

 

「悪いな。確認するが、お前が行ったのは巨像迷宮で合ってるよな?」

「はい」

「調べによると、あそこで取れるのは普通の鉱石のはずなんだが……」

「そう聞いています」

 

 金ゴーレム産の石、そのうちのひとつを手に取って、おじさんは言った。

 

「えっとな……俺の目利きに間違いがなけりゃ、これは真銀(ミスリル)だ。で、こっちは金剛鉄(アダマンタイト)。この青いのは多分聖鋼(オリハルコン)……」

 

 その後も、おじさんは袋の中のアイテムを出しては名前を言って、出しては名前を言ってを繰り返した。

 俺とルクスリリアは、「おじさんすげー」みたいなアホ面でそれを眺めていた。

 実際、コンソールのアシストもなくスラスラ石の名前が出るのは何気に凄いと思うのだ。まさにプロの業である。

 

「で、これが最後か。これもさっき言った、輝銀魔石(シルウィタイト)だ」

「凄いですね」

「凄いッス!」

「お、おう……? いや、それはいいんだが」

 

 コトンと、銀の玉をテーブルに置いたおじさんは、神妙な顔で言った。

 

「悪いが、こいつらは換金できねぇ」

「え?」

 

 固まる俺に、おじさんは続けた。

 

「前例がねぇんだ。巨像迷宮だけじゃねぇ、他の石系ダンジョンからもこういう希少金属は出た事がねぇんだ。だから、もし換金したいんならギルドと鍛冶組合と石商連のお偉方が会議した後じゃねぇと。あと、すぐ決まる保証もねぇな」

「はあ、そうなんですか」

 

 まあ、なんとなく分かる。

 言ってた通り、こういう銀玉とかは鉄や鋼同様に地上で手に入るモノではあるんだろう。けど、その名の通り希少な金属であり、そう数のあるもんじゃないと。

 そうなると、値段をつけるのは慎重にならないといけない訳だ。それも、ドロップの前例がないのなら尚の事。各方面と協議して色んなルールやらなにやらを作る必要があるんだろう、知らんけど。

 

「えーっと、だな。それでなんだ、多分……いや恐らく、間違いなくこの中の一個はしばらくギルドで預かる事になると思う。さっき言った通り会議しなきゃいけねぇからな。実物がいるんだ。それは了承してくれ、必ず返す」

「それはいいですけど」

「あんがとよ。で、これまたさっき言った通り、これらは今すぐは換金できねぇ。あと、この石とかはできれば銀行に預けてくれ」

「はあ」

 

 なんか面倒臭い事になってきたぞ。

 こういう身体を重くするモノを持ち歩くのは嫌なんだが。

 しかも何やら大事になってるし、周囲の視線……今度は職員連合様方からの視線が強くなってる気がする。

 

 仕方ないので不承不承キラキラ石をアイテムボックスにしまっていると、おじさんは気まずそうな声音で言った。

 

「一応、それを武器屋に持ってけば普通に買うよりゃ安く済む。言えば自分好みの武器を作ってもらえるぞ」

「え? そうなんですか?」

 

 初耳である。なんだそのモンハンシステム。俄然興味湧きますね。

 俺はさっさと石をしまうと、おじさんの武器屋チュートリアルに聞き入った。

 

「あぁ。希少金属じゃあまり例のない話だが、他のダンジョンアイテムではよくされてる事だぞ。ほら、そのお嬢ちゃんの鎧とかも」

「ん? これッスか?」

 

 おじさんが示したのは、ルクスリリアが着ているピクシーめいた革鎧だ。

 確かにそうだ。この鎧は如何にも魔物っぽい奴の革で作られていて、ダンジョン外の動物の革で作られてるとは思えない強度と性能をしているのだ。

 

「だから、石の出所さえ保障されてれば、武器屋に持ってって良いモン作ってもらえると思うぜ。普通なら素材集めに時間食われるとこだが、実物持ってくんだから作成もすぐだ」

「ほえー」

 

 なんとまあ、ビックリ情報であった。

 つまり、俺はこれまでずっとモンハン鍛冶屋縛りをやってた訳だ。店売りの鉄系武器しか使っておらず、アーティラートや大砲モロコシやヴァイスorヴァーチやナルカミや天上天下天地無双刀の入手法を知らなかったのだ。

 なんだそのマゾ縛りは。モンハンの楽しいところ抜きまくりじゃん。

 

「なるほど、お教え頂きありがとうございます」

「おう? まあ、ずっと知ってるもんだと思ってたからな……」

 

 普通に知らない事である。

 俺はこれまで、手に入れたドロップアイテムはあんまり考えず天秤に任せてたからな。加えて街での情報収集も奴隷の事ばっかだったから、そういうの全然なのである。モンスター素材にそんな使い道があるなら早めに教えてほしかったものである。

 いや、今知ったのは逆に良かったかもしれない。多分、あのタイミングで奴隷商館行かなかったらルクスリリアに会えなかっただろうし、おじさんは運命のおじさんだ。

 

「何処かオススメのお店とかありますか?」

「ん? あぁいや、職員からはオススメできねぇんだわ。だが紹介状は書いてやるよ」

 

 さて、希少金属を換金するにしろしないにしろ、他鉱石は全換金のつもりなのでいずれにせよ待つ必要がある。

 なので、俺とルクスリリアはダンジョン踏破後もしばらく神殿で暇を潰すのであった。

 

 

 

 

 

 

「ぬわーん! 疲れたッスもぉん!」

 

 結局、宿屋に戻った頃には夜になっていた。

 

 あの後、鑑定終わったとかで受付に行くと、何やらギルドの人に呼び出されて応接室的なところに連れて行かれていくつか質問をされたのだ。

 この石をドロップしたのはどんな奴だった? とか。そのゴーレムはどんくらい強かった? とか、それはもう根掘り葉掘り。

 根掘り葉掘りって言うけどよーという気持ちになりつつ受け答えしていると、今度はギルドの偉い人が来て再度説明をさせられる事になり、かと思えばゴーレムはどうやって倒したとかの突っ込んだ話になった。

 

「普通に一人で倒しました」

「嘘は……ついてないようですね」

 

 しかもその部屋には嘘発見魔道具を持ち込まれていたので、やましい所はなくとも全然落ち着かないでやんの。こちとらダンジョン後で疲れとるんじゃい。

 そうこうしていると時間は過ぎ、そのうちルクスリリアも立ったまま船を漕ぎ始めた。で、流石にもうOKとなって返されたのだが、神殿を出るとすっかり夜だ。

 

 神殿前広場で呑んでる冒険者たちは元気だが、普段の俺ならおねむの時間だった。

 帰り道、さんざんギルドへの文句を垂れ流しながら宿屋に着くと、さっさと風呂入ってベッドにインである。

 

「ダンジョンというか、偉い人との話で疲れたよ」

「ご主人も緊張とかするんスねー」

「そりゃあ……」

 

 疲れた。ダンジョン潜るより疲れた。

 主に心がお疲れなので、癒やしを求めてベッドの上でルクスリリアを抱き枕にする。

 すっぽり収まる小さな身体は、俺の心身を癒やしてくれるのだ

 

「明日は休みにしよう」

「そうッスね~、……ん? 明日“は”……?」

 

 リリィのレベリング。召喚獣との出会い。ハイジのアレ。ダンジョンでは色んな事があった。

 なにより金ゴーレムの存在を知れたので、楽しみのない巨像迷宮も楽しくなってきたところだったが、ついさっきの事で少し間を空けたくなってしまった。

 せっかくの脳汁ドバー状態に冷や水ぶっかけられた気分である。そういえば、前も巨像迷宮踏破後に冷や水かけられたな……。

 

 あー、うん、これ以上考えないようにしよう。

 

「リリィは可愛いなぁ」

「わ、ちょっとご主人! 急に尻尾握らないでほしいッス!」

「ごめんごめん」

 

 それより、突如知らされたモンハン鍛冶案件である。

 曰く、素材を持っていけば武器屋で安く良いオーダーメイド武器を作ってくれるらしいのだ。

 そんなん、いちハンターとしては使わざるを得ない。

 

 願わくば、自動修復付きかとても頑丈な剣が欲しい。

 あるいは、もっと堅くて動きやすい鎧でもいいだろう。

 RPGでお馴染みの指輪とか首飾りとかのアクセ系とかもいいかもしれない。あ、だから指輪とかしてる冒険者多かったのか。

 

 ワクワクが止まらないな。

 

 思えば、今俺が思い浮かべたようなモノは店に陳列されてなかったように思う。良いモンは完全受注生産なのかもしれない。

 リリィの鎧もオーダーメイドの奴らしいし、そろそろ俺もオーダーメイド武具に目を向けるべきだな。

 

「きひひっ♡ どこ触ってんスかご主人♡」

 

 ベッドの上、二人して動くでもなく身体をまさぐり合う。

 お互い疲れてるので、激しい運動は抜きだ。

 たまにはこういうのもいいだろう。

 

「ご主人♡ お返しッス♡」

 

 俺が異世界に来て、だいたい三ヵ月と少し。

 戦って金稼いで、貯金して情報集めて、そんでリリィを購入する事ができた。

 

 当初、俺はロリ奴隷はフェラーリかロールスロイスだと思っていた。けど、違ったのだ。

 夢の為、ロリハーレムの為の貯金はまだまだある。今にして思うと、もうそんなに急いで金策しなくていいのではないか、と思う。

 追加購入の為、それなりに蓄えはほしいが、まさか俺の貯金がすっからかんになるレベルの高級奴隷なんてそうはいないだろう。

 

「あは~♡ ご主人、乳首立ってるッスよ~♡」

 

 それはそれとして、何だかんだダンジョンアタックは楽しいので、続けたい。

 ホントにロリ奴隷ハーレムだけ作りたいなら、リリィを置いて一人でダンジョン潜る方が安全だし確実だろう。けど、俺の少年心はリリィと一緒に潜りたいと言っている。幸い、俺の奴隷はそれを了承してくれているし、積極的だ。

 好きな女の子と冒険なんて、全男が憧れるシチュだろう。

 

「は~い御開帳~♡ あは~♡」

 

 なら、せめて武器や防具くらい良いモノを揃えるべきだろう。危険を冒すのが冒険だが、極力危険を冒さないようにするのも冒険だ。

 ケチって金策せず、使って金策して、ダンジョンで楽しく遊ぼう。

 

 いや、ダンジョンだけじゃない。

 ダンジョンで食べたハイジのアレ。淫魔王国のチーズはとても美味しかった。異世界飯にも興味出てきた。

 あと王都の観光もしてみたい。俺は西区しか行ってないから、他の区や王都以外も気になる。

 大衆浴場も入ってみたいな。パッと見、西区で一番の銭湯は転移神殿に勝るとも劣らぬ大きさだったのだ。スーパー銭湯は好きなので、異世界銭湯にも興味がある。

 

 やってみたい事が多いな。

 

「明日、武器屋見に行こうか」

「了解ッス~♡ じゃ、さっそく♡ いっただっきま~す♡ ん~、ちゅっ♡」

 

 そんな訳で、ルクスリリアとの初めてのダンジョンアタックは完了した。

 宿に帰るまでがハクスラである。

 

 あと、結局このあとめちゃくちゃ吸精された。

 きもちよかった、まる。




 感想投げてくれると喜びます。



 タイトルにハクスラとありますが、実際はハクスラ以外も結構やる感じですね。


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なにがなんだかロリコンさん!

 感想・評価など、ありがとうございます。燃料になってます。
 誤字報告もありがとうございます。本当に助かっています。

 チュートリアルの続き。
 デート回の予定でした。

 今回、変な口調のキャラが出てきますが、こいつが喋ってるのは江戸言葉でもヤクザ口調でもなく、「映画の中盤で死にそうな商人キャラ」の口調です。
 ちゃんとした江戸言葉はちょっとカロリーが高いです。


 俺が住んでいる王都西区は、前世でいう東京都新宿区に近い雰囲気があると思う。

 見た目がどうのとかじゃなく、何となくの雰囲気だ。猥雑な繁華街に煌びやかな商店街。路地裏の怪しさといい、ありとあらゆる清濁をかき集めて来たような感じがそう思わせるのである。

 

 建物とか道路とかはイタリアとかフランスとかドイツとかイギリスとかをごちゃまぜにしたようなオーセンティックカジュアルファンタジースタイルではある。所謂ナーロッパだ。いや、どうだろう。なんとなく、アサクリ2よりはBHとかオリジンズに近い印象なんだよな。うん、ナーロッパというよりナローマだな。実際あっちこっちに銭湯あるし、闘技場もあるし。ローマはヨーロッパなのでなんか変な感じになっちゃうが、いやそれはいい。

 大小の建築物。清濁併せた街。人の欲望と熱気。ともかく、ナローマ風の王都西区を、俺は東京都新宿区みたいだと感じたのである。

 

 王都というだけあり、人や店の数もまた膨大だ。

 通りに出れば人人人……。建物と建物の間に架けられた紐には「この道まっすぐに武器屋!」みたいな広告が吊るされ、大通りに面したところには色んなお店がぎっしり詰まっている。

 広い道路の真ん中では馬車とか牛車とか巨大鳥車とかが走り、道行く人は休日の歌舞伎町並みに多く、姿は比較にならない程多様性に満ちている。

 歩く人歩く人、皆二足歩行という点こそ一致しているが、その頭には角があったりお尻に尾があったり背に翼があったりで、色合いも鮮やかだ。緑髪のエルフがいれば紫髪のドワーフもいる。身長を見ると日本人視点やや平均が高く見え、2メートルを超えてる人もザラにいるのだから凄い。

 

 店の種類もまた多様で、ごちゃごちゃしている。

 武器屋の隣に飲食店があり、その隣に錬金術的な店が並んでたりする。娼館の前では客引きの爆乳牛人や長身翼人がいて、道行く人に声をかけていた。

 特に多いのは飲食店で、パッと見では専門店が大半な印象だ。香ばしい肉の匂いがする店があれば、何か謎の豆を炒めている店もある。そういう店は玄関開けっ放しで、前世のようにしっかり戸締りされた感じはない。肉と煮物とチーズと豆と色んな料理の匂いが合わさり最高にカオスだ。

 

 大衆向けの店が大半を占める西区だが、転移神殿の近くに行くとより冒険者向けの店が多くなる。高給取りを狙い撃ちにするお店たちだな。

 神殿付近の武器屋や防具屋はワンランク上の雰囲気になり、カジノや娼館といった店も如何にも高級店といった感じ。あちらが歌舞伎町だとすれば、こちらは都庁周辺という印象だ。なんかしっくりこないが、まぁ大体分かるだろう。

 ぎっしり詰まった大衆向け店舗と違い、冒険者向けの店はどれも敷地が広く造りも立派だ。以前行った防具屋もこの区画だが、全体で見ると小さい方だった気がする。

 

「へー、此処が武器屋ッスかー。なんかショボいッスね」

「店の前でそんな事言うもんじゃあないよ」

 

 そんな転移神殿の周辺の一角。俺とルクスリリアは、とあるお店の看板を眺めてぼーっとしていた。

 眼前にはこじんまりした石造りのお店。ドアの上には異世界語で「武器工匠のアダムス」と書いてある。他が大きくて立派な建物なのに対し、ここはちょっと小さい。前の防具屋がスーパーマーケットだとしたら、ここはコインランドリーである。

 コインランドリーもとい武器工匠のアダムスは、俺の数少ない情報源である受付おじさんや他のギルド職員から教えてもらった武器屋であり、前防具屋の紳士に教えてもらった武器屋と違い、此処は完全オーダーメイド専門店らしいのだ。

 おじさん曰く、何やかやあって職員は店のオススメはできねぇらしかったのだが、神殿周辺の店の存在だけは教えてくれた。で、聞いた感じここが一番いいんじゃないのという気持ちで来たのだが……。

 

「まぁ入ってみよう」

「はいッス」

 

 ぶっちゃけちょっと怪しい。

 前世でここ美味しいよと言われた店が妙にボロかった時みたいな気持ちだ。オイオイ大丈夫か? みたいな。

 緊張しながら、俺は店のドアを開いた。

 

「すみませ~ん」

 

 店の中は、想像通り薄暗かった。

 事前に武器屋と聞いてはいたのだが、周囲の棚にはスクロールとか分厚い本が並んでおり、そこに武器らしきものはひとつもなかった。古い木と古い本の匂いがする。武器屋特有の鉄臭さはしなかった。

 なんというか、〇リポタの杖屋さんみたいだなと思った。

 

「あー、ちょっと待っててくだせぇ!」

 

 すると、店の奥から若い男性の声が聞こえてきた。

 言われた通り待っていると、声の主と思しき青年が姿を現した。

 

「どうもすいやせん。冒険者様、どうぞおかけください」

「はい、失礼します」

 

 現れたのは、金髪碧眼高身長イケメンエルフだった。

 イケメンエルフは声の若さ相応に若い見てくれをしていたが、地球人の俺からするとエルフの年齢なんて分からない。実際に若いのか、あるいはめちゃくちゃ歳を取っているのか。

 

「あっしぁ此処の店主のアダムスと申しやす。失礼ですが、御手前様のお名前を伺ってもよろしいですかい?」

「イシグロ・リキタカと申します。イシグロが姓で、リキタカが名前です」

「へへっ、その歳で銀細工持ちですかい。そいつぁスゲェや」

「それほどでも」

 

 彼はエルフと聞いてイメージする細身のエルフそのままの容姿をしており、つま先から頭までスラリとしたイケメンオーラで覆われていた。

 足腰もしっかりして、身のこなしもキビキビしている。見た目も佇まいも、若い。

 若い、のだが……。

 

「こちら、ギルドからの紹介状になります」

「へへ、どうも。ここで拝見しても?」

「どうぞ」

 

 が、なんか粗野だ。

 職人風というか江戸っ子風というか。如何にもティーン受けしそうなエルフさんは、ドワーフ鍛冶屋と聞いてイメージされるドワーフ鍛冶屋みたいな言葉遣いと佇まいをしていた。さながらドワルフだ。

 ドワルフは紹介状を流し読むと、今度は顎をさすさすしながら俺の方を見てきた。

 

「えーっと、あっしぁ巷の噂にゃあ疎いんでさぁ。失礼を承知の上で聞きてぇんですが、此処に書いてある事ぁマジのガチなんですかい?」

「はい、間違いありません。お見せしましょうか」

「すいやせんねぇ」

 

 言って、俺はアイテムボックスから昨日鑑定してもらった希少金属を出していった。

 一種類につきひとつずつ、金に銀に黒いの青いの色々。今あるのはこれだけだが、銀行にはもっとたくさん預けてある。

 ドワルフ氏はそれらひとつひとつに鋭い眼を向けていた。

 

 おじさんに書いてもらった紹介状には、俺の身分の他にもこの石の入手経路についても書いてある。

 前例のない話だと言ってたので、実際ドワルフ的にも信じがたい事なんだろう。希少金属は管理しっかりしてるっぽいし、盗品なり偽物なりを心配してるのだと思う。

 

「鑑定させてもらってもいいですかい?」

「どうぞ」

 

 一応、これら石ひとつひとつにはギルド印の鑑定証がついてるのだが、彼は手に取った石を矯めつ眇めつし、時々人差し指でこつこつして触感を確かめていた。

 その眼差しは鋭く、まさに職人といった感じ。睨まれてる訳でもないのに、俺は少し緊張してしまった。

 

「マジのガチじゃないですかい……」

 

 最後の石を確認し終えると、ドワルフは感嘆の息を漏らした。

 手に持っていた石を丁寧に戻し、背もたれに身を預ける様は職人というより会社員のおじさんといった感じ。つられた俺も安堵の息を漏らした。

 

「へへっ、すいやせんねぇ。あっしぁ自分で確かめたモンしか信用しない性質なんでさぁ。あっしが保証しやす、こいつぁどれもマジのガチ。それも一等上モノときた」

 

 言うと、何が面白いのか「へっへっへっ」と笑うドワルフ。

 それを見て、俺は「映画の中盤で死にそうな商人キャラ」みたいな人だなと思った。ゴーグルかけて片手がサイバネ腕だったらもっとそれっぽかっただろう。

 

「おっと失礼、年を取ると無駄話が好きになっちまって。若い時分はむしろさっさと用件言えーってお客に怒鳴ってたもんですが、いやはや……」

「あのー」

「あ、これまた失礼。で、銀細工持ちの御手前様がうちに来たって事ぁ、武器の作成依頼ってんで合ってますかい?」

 

 頷くと、ドワルフは希少金属を眺めて言った。

 

「こんだけ良い石揃ってちゃあ、形にしてやらねぇと可哀想ってモンですわな。で、何が欲しいんです? 槌かい? 槍かい? ウチぁ鎧以外なら大抵のモン承りますぜ」

 

 欲しいのは剣なのだが、それを言う直前で俺の口が一瞬止まってしまった。

 今一度、ドワルフを見る。細い腕、白い肌。オーダーメイドの武器屋と聞いて、この人が作るのだろうかと思ってしまった。さっき石を眺めてた眼差しは職人そのものだったが、その身体つきはむしろモデルに近い気がするのだ。

 まあ、この世界の住人は体格以上の腕力とか普通に持ってたりするのだが。リリィとかまさにそうである。

 そんな俺の視線に気づいてか、店主は頭をぽりぽり掻いた。

 

「あー、失礼ついでに訊くんですがね。御手前様ぁ強ぇ武器の仕組みとかご存じねぇ感じで?」

「はい」

「へへっ、ならあっしんナリ見て疑う気持ちぁ分かりますぜ。見ての通り、あっしぁ鉄は打たねぇ。ま、並みの鍛冶屋よりゃデキるがね?」

 

 手をプラプラするドワルフ。飄々とした振る舞いだが、そこには俺が持ち合わせていない強固な自信が満ちているように思えた。

 

「いいかい、強ぇ武器ってのは“皆”で作るんでさぁ」

 

 背もたれに体重を預け、腕組みして語り出すドワルフ氏。

 それは世間知らずな俺を見下す視線というより、良いモノを知らない人に良いモノを教えてあげる系の視線だった。

 

「剣ひとつ作るのにだって色んな職人が関わるモンでさぁ。刃打つ鍛冶師。魔術を籠める魔工師。呪い纏わせたいなら呪術師の協力もいるし、魔物素材を合成する錬金術師だって必要だ。そいつら職人共が最高のモン仕上げて、最終的に出来るのがマジのガチで強ぇ武器な訳よ。外で使う剣じゃねぇ、迷宮で振るう剣だ。並みのモンじゃねぇし、それを作るにゃあ並みの職人じゃ無理ってもんだ」

 

 彼の語り口は、好きなアニメを語るオタクそのものだった。

 それも早口オタクではなく、宇宙世紀を初代から順に裏設定まで含めて語る時のおじさんガノタに近い。

 熱く、重く、とてもねっとりしている。

 

「当然、それにはまずどんな武器を作るか決める奴がいるし、必要な素材や組み合わせを検討する奴、職人共を管理する奴もいる。それがあっし等、“工匠”だ」

 

 こういう人の話を聞くの、俺は割と好きだった。

 好きな事を一生懸命話す人ってのは、見ようによってはキモくてウザいのかもしれないが、そういう時の皆さんは一様に楽しそうなのである。

 そんな楽しそうに話す人には、独特な面白みがある。普通の人と話すより、よっぽど面白いと思うのだ。

 

「設計・管理っつっても、ただ紙に図ぅ描くだけじゃあねぇぜ。必要素材の選別やら適切な設計やら、籠める魔術体系の相性とか使い手の腕とか……まぁ見るべきやるべき事が多いモンなのよ」

 

 話がヒートアップしてきたところで、ドワルフは胸にある謎の飾りを誇示してきた。

 それは鈍い銀色をしたバッジだった。前世、偉い軍人が胸につけてた奴みたいなの。飾りの中心にはラリス王家のマークが彫刻されている。

 

「モノホンの工匠に必要なのは、知識と経験と実績。この通り、あっしぁ王家からお墨付きもらってる。モノホンって事だ」

 

 そんなモノホンの工匠は、受付机に両肘を乗せてゲンドウポーズを取った。

 イケメンエルフである彼がやると、司令官というより映画の広告ポスターの様である。

 

「で、工匠の最初のお仕事は、御手前様方からの要望を聞く事な訳だ。どんな剣が欲しいとか、こんな弓にしてほしいとか。場合によってはあっしから提案させてもらう事もありますがね。出来る限りご要望通りのモンを作らせてもらってまさぁ」

 

 長い話だったが……。

 要するに、この人は刀鍛冶じゃなく銃開発者かガンスミスみたいな感じなのね。あるいはオーダースーツ専門店の店員さん。

 

「で、御手前様はどんな武器をお求めで?」

 

 なら話は早い。

 

「そうですね。“自動修復”付きの剣か、めちゃくちゃ頑丈な剣が欲しいです」

「ほう……それから?」

「え? えーっと、なるだけ鋭い方がいいなぁと」

 

 実際、パッと思いつくのはそれくらいだった。

 武器の何がアレって、やっぱ壊れるところなんだよな。地球の武器ほど壊れやすくはないが、安物ならゴーレム一体でパキン。上物でもゴーレム二体でバキンンだ。

 ゴーレムだけじゃなく、他ダンジョンのボスでも一回やれば大体半壊する。死闘となると武器に気を遣うなんて真似は俺にはできないので、壊れない武器なりがあればいいなぁとは常々思っていた。

 

「そんだけですかい?」

「まあ、それくらいですかね」

 

 で、戦ってる最中に壊れると最悪で、その都度アイテムボックスに手ぇ突っ込んで新しいの出さないといけないのだ。隙だし、面倒だ。タイミング次第じゃ死に直結する。

 そういうのもあって、俺は武器にはまず壊れにくさを求めたいところなのである。

 

「あ~、そうだな~」

 

 その旨を話すと、ドワルフはこれまた腕組み姿勢になって天井を眺めはじめた。

 それは宇宙世紀のどこを話そうかとするガノタというより、ガンダムの「ガ」の字も知らない女の子に逆シャアの見どころを解説しようとするガノタの様だった。

 

「紹介状にあった通り、御手前様ぁ腕はいいらしいがコッチの事情はからっきしだな。あーいや、けなしてんじゃねぇぜ。褒めてんだ。マジのガチ、モノホンの冒険者ってな」

「そうですか」

「あぁ。近頃の冒険者とくりゃ、やれ効率だやれ損得だのと小賢しいの何の。まだるっこしいったらありゃしねぇ。そういう奴に限って身の丈に合わねぇ武器担いで死んでくんだ、阿呆臭くて仕方ぁねぇや」

「なるほど」

「人がせっかく死なねぇ為の武器作ってやってんのに、あいつらとくりゃ金金金っつって身の丈以上の武器で身の丈以上の迷宮行って……。んで運よく生き残れればはいサヨナラと武器にも迷宮にも背ぇ向けやがる。そんな奴ぁ戦士でも冒険者でもねぇ、ただの知識層気取りの玉無しクソ博徒よ」

「はあ」

「第一に迷宮への恐怖がねぇ。第二に武器への敬意がねぇ。第三に未来への希望がねぇや。どいつもこいつも死んだ魚の目ぇして潜るもんだから、どんだけ良い武器持ってこうがす~ぐおっちんじまう。いいかい、モノホンの冒険者ってのぁなぁ……」

「ご主人~、お腹空いたッス~」

「お昼は近くの屋台で食べよっか」

「だいたい……!」

 

 その後も、ドワルフの最近の若者トークは続いた。

 そんでしばらく、良い職人と悪い職人の話になったところで、彼は急に口を閉じて、言った。

 

「あ~、すいやせん。剣の話でしたね」

「そういえばそうでしたね」

 

 軌道修正したドワルフ氏の話をまとめると、こうだ。

 

 まず、武器とはその質によって籠められる魔術の数や強さが変わるらしいのだ。

 良い武器には強い魔術。悪い武器には弱い魔術。あるいはそもそも付けられないよとか。素材や形状によって、籠める魔術体系なんてのも変わってくるらしい。

 これは分かりやすい。要するに、良い武器には沢山の空きスロットがあるという話だろう。籠める魔術というのも、多分“補助効果”の事だな。モンハンの装飾品か、あるいはブラボの血晶石か。そういう認識でいいだろう。

 

 で、俺が持ってきたような希少金属を使うんなら、それはもう凄い上質な武器が作れるとの事。

 頑丈で鋭い武器を作れる金剛鉄。補助効果を沢山つける事のできる真銀。魔術への親和性が高い聖鋼。

 一個でも凄い武器が作れるし、良い職人が最高の技術を使えばそれら全部使って最強の合金を作る事もできるとか。

 

「あれ? 輝銀魔石は?」

「あー、そいつぁ魔法特化でさぁ。剣にゃ関係ねぇ」

「なるほど、そういうのもあるんですね」

 

 中には今は使いでのないアイテムもあったらしいが。

 そんな良いアイテムが沢山あるのに、俺は補助効果を一つしか所望してこなかったから変だねって話だった。

 

 確かに、リリィの防具には補助効果が沢山ついてたし、深域武装にも凄い数の魔法が装填されていた。“自動修復”なんて、ついで感覚なのかもしれない。

 奴隷の武具がそうなのだ。銀細工持ちの冒険者である主人は、もっと欲張った武器を使ってもいいのかな。

 

「と、言われてもね……」

「普通、潜るダンジョンに合った武器を担ぐモンですぜ。悪霊迷宮にゃ霊によく効く聖属性。猛獣迷宮にゃ獣殺しの呪いつけたりとか」

「それで言うなら、汎用性の高い剣が欲しいんですけど」

「“自動修復”は確定と。そんで純粋に上等な武器ですかい。んなら、やっぱ好みになるでしょうねぇ……」

 

 言うと、店主は背後の棚から一冊の本を取り出し、それを広げて俺に見せてきた。

 そこには異世界文字で補助効果の目次が記載されていた。

 

「へへっ、最初からこれ渡しときゃって話でしたね。こん中から欲しいモン選んでくだせぇ。まぁ相性云々で無理な時ぁ無理って言わせてもらいますがね」

「ありがとうございます」

 

 俺は渡された設定資料集を手に取り、さっと目次を流し見た。異世界文字は書けないが読めるのだ。

 そこには、自動修復や魔法装填など知っている補助効果に加え、俺の知らないスキル名も書いてあった。

 

「リリィはどれがいいと思う?」

「え? そうッスね~」

 

 後ろで暇そうにしていたリリィに訊いてみると、「うむむ」と唸って存外真剣そうに考えてから言った。

 

「ご主人はよく敵の痛がるトコに攻撃入れてるんで、そういう戦い方に合った奴がいいと思うッス」

「おぉ、確かに」

 

 言われてみれば、である。

 モンハンでもそうだ。大剣に抜刀術。スラアクに高速変形。ガンスに砲術。武器ごと、プレイヤーごとに適したスキルがあるものだろう。

 それで言うなら、俺は各種チートオプションのお陰でエネミーの弱点部位とかジャスガからのクリ確攻撃とかができるので、それにマッチしたスキルを選べばいいのだ。

 敵に合わせた特攻武器でなく、いつでも強い汎用武器ならば一から十まで俺の癖に合わせた剣こそ具合がいい。

 

「えーっと、弱点に攻撃入れると威力が上がる的な……そういう補助効果ってありますか?」

「そりゃ“弱点特効”ですね。技巧派ってんなら、“会心特効”を併せるのもお勧めでさぁ」

「おぉ! じゃあ、とりあえずその三つで」

「おいおい、これだけの素材だ、まだ付けられますぜ。まあ、モノを絞って効果上げるのもアリっちゃアリだが、ちょいと勿体ねぇな。あと一つ二つ三つは全然余裕ですぜ」

「そうですか? じゃあ……」

 

 そんなこんな。

 俺と店主は、それからもああでもないこうでもないと剣に付与する補助効果について話していた。

 

 途中、暇そうにしていたルクスリリアにお小遣いを渡して何か適当に買ってきてもらい、三人で食べた。

 ちなみに、ドワルフ氏は普通にお肉食べてた。「エルフも普通に肉食いますぜ?」との事。

 

「まっ、こんなもんですかね」

「すみません、お時間取らせてしまって」

「気にしなさんな。こっちこそ年甲斐もなくはしゃいじまって、すいやせんねぇ」

 

 結局、剣のオーダーが完了したのはお昼を過ぎた頃だった。

 朝に入ってもうお昼過ぎだから、かれこれ5時間弱話してたらしい。

 ゲーマーはこういうの好きなのだ。

 

「知ってるたぁ思いますが、代金は作成前にもらう事になってるんでさぁ」

「はい」

 

 俺は、アイテムボックスから今回オーダーした剣の代金を支払った。

 お値段、3000万ルァレ。しかも希少金属持ち込みでお安くなったうえでの値段だ。

 余裕でルクスリリアを買える値段である。宿屋での朝食が200~500ルァレなあたり、やっぱ冒険者家業は儲かるが金遣いが荒くなる。

 

「今から図描いたり職人集めたりで色々やるんで、出来上がるのはもうちょい先になりまさぁ。完成したら適当な使い寄越しますんで、楽しみにしててくだせぇ。最高の剣をお見せしやしょう」

 

 それから、イケメンエルフのお見送りを背に、俺とルクスリリアは傾き始めた太陽の方へ歩いていった。

 モンハンだと作った武器はその場で装備できたりしたが、異世界でそんなの出来る訳もないので、完成までお預けである。早く試し切りがしたいね。

 

「きひひ……今日のご主人、なんか楽しそうでしたッス」

「うん、楽しかった」

 

 アーマード・コアでもガンダムブレイカーでもそうだったが、とかく男子は「俺専用」というのが大好きなのだ。当然、俺も例外ではない。

 異世界での俺専用のオーダーメイド武器。その注文である。それはもう楽しかったし、ワクワクした。

 

「まあ、けっこうお金かかったけどね……」

 

 3000万ルァレ。決して安い額じゃない。

 運が良ければルクスリリア級のロリ奴隷を買える値段なのだ。剣ひとつにしてはお高い気がせんでもない。

 

「でもまだまだ残ってるんスよね?」

「まあね」

「流石ご主人~♡ 甲斐性の塊~♡」

 

 とはいえ、だ。

 大枚をはたいたのは事実、失った分は補填したいところである。

 なので……。

 

「明日のダンジョンも頑張ろう」

「きひひ~♡ ……え、明日? 潜るんスか? 迷宮?」

「そのつもり」

「……昨日行ったッスよね?」

「今日休んだからね」

「……ぇぇ?」

 

 見ると、ルクスリリアは千と千尋の神隠しのカオナシみたいな表情になっていた。

 時折、「アァ……アア……」と呻いているあたりソックリである。

 

「あの、ご主人?」

「なに?」

「ご主人ってもしかして、可哀想な人なんスか?」

「失礼だな、リア充だよ」

「いやだって、普通休みの日にゃあやりたい事の一つや二つあるもんッスよ? それこそ、あそこのカジノとかで遊んだりしないんスか?」

「興味がないではないけど、今はいいかな」

「えぇ……じゃあ、今まで休みの日は何を?」

「情報収集」

「それは休んでないんじゃあ……?」

 

 実際、この世界で休日にやりたい事など、特にはないのだ。

 ゲームもないし、アニメもないし、マンガもないし、映画もない。

 この世界には、家族も友達もいないのだ。

 

「ご、ご主人?」

「なに?」

 

 などと考えていると、浮遊して寄って来たルクスリリアは、俺の耳元に唇を寄せて、囁いた。

 

「アタシ……連れ込み宿に興味あるッス♡」

「なら明日は休みにしようか」

 

 ダンジョンには行きたいが、それはそれ。

 ルクスリリアをハック&スラッシュするのも楽しい。

 俺は明日の予定を切り替える事にした。

 

「ふぃ~、とりあえずは回避できたッス~」

 

 ルクスリリアが何か言っていたが、街往く人の話し声に紛れて聞こえなかった。

 多分、腹減ったみたいな事だろう。

 

 

 

 結局、次のダンジョンアタックは剣の注文から三日後の事になった。

 ちょっとハッスルし過ぎたかもしれない。




 感想投げてくれると喜びます。



 ルクスリリアはオチに便利ですね。


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炉利魂の鐘は二度鳴る

 感想・評価など、ありがとうございます。お陰でやる気アップイベントが発生しやすくなってます。
 誤字報告も助かっています。

 主人公が少しジョブについてお話しします。


 轟! という爆音。

 腹の底まで届く振動は、巨像迷宮の主より打ち上げられた巨大魔弾の発射音だった。

 

 七色に光る魔弾はひゅるひゅると舞い上がり、やがてパァンと花火のように弾けた。花火だったら綺麗だったろうが、落っこちて来る小魔弾ひとつひとつが敵対者を殺すべく追尾してくるのだから堪らない。

 最初、バラけて落ちてきた小魔弾は、途中泳ぐウミヘビのような軌道で俺とリリィとラザニアに殺到してきた。それはさながら、指向性を持った雨が人を襲うような光景であった。

 

「カバー!」

「はいッス!」

 

 あらかじめ決めておいた合図。

 俺は即座にコンソールを弄り、武闘家から“聖騎士”にジョブチェンジし、空いた手でアイテムボックスから大盾を取り出した。

 迫りくる弾雨。リリィは俺の背後にパサリと降り立ち、鎌を掲げてラザニアを戻した。

 

 魔力を籠める。盾の表面に黄金の光が灯る。聖騎士スキル“抗魔壁”だ。

 腰を落とし、まるでゾンビ集団からバリケードを守るように盾を構えた。気持ち的には回避一択だが、パーティにはタンクが必要なのだ。

 

「おぉぉぉぉぉッ!」

 

 そして、俺は飛来する魔弾をガードした。

 豪雨の時に差した傘の感覚を超ド級にしたような音と衝撃。絶え間なく押し込まれる圧に、ザリザリと両足が地面を削る。が、倒れない。何故なら後ろにロリがいるからだ。ロリを守護るロリコンは最強なのだ。

 

「よし防いだ! リリィ! ゴーゴーゴーッ!」

「しゃあ! タマ取ったらァア!」

 

 やがて致死の大瀑布が終わると、俺は盾をしまって走り出した。鎌を担ぎ、ラザニアにまたがったリリィも続く。大技後の今がチャンスなのだ。

 走りながらコンソールを弄る。聖騎士から武闘家へ。ボスが迫る。硬直している。脚に力を入れる。1、2、3で大ジャンプ。

 

「イィィィヤァアアアーッ!」

 

 天高く跳んだ俺は、ファッキン害悪ゴミカスはずれボス獅子型ゴーレムの頭に、渾身の空中回転踵落としをブチかました。

 これが真のカラテである。

 

 ダンジョンボス殺すべし、慈悲はない。

 

 

 

 ボスを倒し、ドロップアイテムを袋詰めし、転移神殿に戻ると、俺はさっさと受付おじさんのところまで歩いて行った。

 今回はちゃんと服を着ているし、リリィの鎌もしまっている。変な注目など浴びようはずもない。

 はずもないのだが、道中俺を発見したギルド職員さんはビクリと肩を震わせ引きつり笑いをしていた。俺は何も悪い事してない。

 

「換金お願いします」

「お、おう……」

 

 ドサリドサリドサリ……相変わらず空いてるおじさんの机の前に、鉱石入りサンタ袋を置いていく。

 やがて机上が住宅街のゴミ捨て場みたいになったところで、俺はアイテムボックスから手を離した。

 

「こりゃまた多いな……」

「ええ、入れ食いでした」

 

 剣の注文から、大体二週間。

 俺とルクスリリアは、二日おきのペースで例の巨像迷宮に潜っていた。

 ラザニアのお陰で、以前までとは周回効率がダンチだ。広い巨像迷宮も一日で終わるし、ゴーレム討伐数も多くなる。やっぱオープンワールドには移動手段が必須だな。

 

「あー、イシグロ。今日は希少金属はねぇのか?」

「はい、見つかりませんでした」

「そうか……」

「代わりに半透明の変な奴がいたので討伐しました。ドロップアイテムはこの黒い袋にまとめときました」

「……そうか。ああ……少し、いや結構待っててくれ。緑の1番な」

「はい」

 

 番号札を受け取る。すると、背後で待機していたギルド職員は配膳ロボットのようにサンタ袋を回収し、工場ロボットのように石を仕分けし始めた。最近見慣れた光景である。

 おじさんも首をゴキゴキやった後、鑑定台を引き寄せてレアドロップ品の鑑定作業に入った。袋の中身はただの魔力なし宝石だ。

 

「すみません。フルーツ牛乳と淫魔菓子セットふたつお願いします」

「かしこまりました」

 

 鑑定が終わるまで、神殿のバーで暇を潰す。神殿内のバーはいくつかあるので、俺はその中の誰も座ってないところに腰を下ろした。

 差し出されたフルーツ牛乳――淫魔王国産の牛乳と夜森人(ダークエルフ)経営の果樹園で栽培された果実のハイブリッドである――を飲みつつ、これまた淫魔王国産のチーズケーキを食べる。とても美味しい。

 隣に座ったリリィも同じようにしている。やっぱり、お菓子を食べるロリの笑顔は最高である。

 この子に淫魔王国のご飯情報を教えてもらわなかったら、俺は今でも堅いパンもどきと謎スープだけで生きてたかもしれない。食事のグレード上げてよかったと心の底から思う。

 

「夕飯はなに食べるッスか?」

「そうだなー。昨日はお魚だったし、今日はお肉が食べたいな」

 

 などと話しつつ、コンソールを弄る。

 見ると、そこには武闘家ジョブレベル30の文字。カンストである。

 ずっと放置していた武闘家系。最近鍛えてレベル30になって生えて来たジョブは、“ストライカー”という中位職だった。

 

 感覚的に、この世界のジョブは派生すれば派生するほど武器や戦法が特化してく印象である。

 武闘家レベル10では、“モンク”と“魔拳使い”の二つが生えてきた。少し触ってみたが、それぞれ「回復+格闘」と「攻撃魔法+格闘」といった感じ。

 武闘家レベル20で生えて来たのは、“剛拳士”と“柔拳士”の二つ。これまた、単発特化と連撃特化といった印象の格闘ジョブだった。

 で、他ジョブでもそうだったが、レベル30で生えてくるのは大体元になったジョブの単純上位互換である。剣士からソードマスター。ウィザードからハイウィザードといったように。それでいくと、この“ストライカー”も武闘家の強化版なんだろう。試し切りならぬ、試し殴りが楽しみだ。

 

 こうやって、ジョブを埋めていく作業は実に楽しい。

 俺視点、娯楽の少ない異世界生活において、俺はダンジョンアタックとレベルアップ及びジョブチェンジを第一の遊びと捉えていた。

 

「ご主人ご主人」

「なに?」

「お酒頼んでもいいッスか?」

「いいよ」

「やったッス! マスター、淫魔酒マティーニをステアせずにシェイクで。ご主人は飲まないんスか?」

「んー、じゃあ……エールで。あと森人豆(エルフまめ)の燻製もお願いします」

 

 儲けはないがやりやすい巨像迷宮のお陰で、俺の武闘家レベルはカンストできた。

 しかし、ルクスリリアのレベリングはまだ微妙であった。

 

 現在、ルクスリリアは、“淫魔騎士”という中位職である。基本職である淫魔兵レベル30で習得した、物理も魔法も強いジョブだ。

 で、ジョブチェンジしてしばらく、今日の淫魔騎士のレベルは6。全然上がってない。これはゴーレムの経験値がショボいというより、戦闘貢献度の問題と、中位職である淫魔騎士の問題だろう。

 この世界、ジョブのランクは上がれば上がるほどレベルアップ時の恩恵はデカくなるが、その分必要経験値が増えるのだ。実際、6まで上がったルクスリリアは淫魔兵12レベル分くらいステータスが伸びている。やっぱ、ただ強くなりたいだけなら一つのジョブを極めた方が効率いいな。

 

 それと、最近気づいた事なのだが、ルクスリリアは他のジョブにも普通にチェンジできるみたいだった。剣士とか武闘家とかに。

 てっきり俺は、淫魔は淫魔兵あたりにしかなれないと思っていて、戦士や剣士は人間族専用だと思っていた。が、それは違ってたようだ。

 その気になれば、ルクスリリアを俺と同じソードマスターにする事もできる訳だ。選択肢が広がる。けど、せっかく淫魔専用ジョブがあるのだから、そっちを優先したい気持ちもある。

 実に悩ましいし、実に楽しみだ。

 

 ソードマスターといえば、注文した俺専用剣はまだ未完成である。

 曰く、まぁまぁ時間かかるらしい。そりゃ話を聞くだけでも大変そうだもの。一人じゃなくチームで作る武器作成。作るもんも作るもんで質相応に時間がかかるのだ。

 

 俺が注文したのは汎用性重視の直剣であり、特定のダンジョン攻略用の特化武器ではない。

 これまたドワルフが言うには、冒険者は潜るダンジョンに合わせて武器を決めるらしいのだが、俺はこれまでそんなのをしてこなかった。せいぜい、打撃が効く骸骨系にメイス使ったり、刺突が効く鳥系に槍使ったりする程度だった。

 

 この世界のエネミーは、けっこう色んな属性を持っている。ポケモンでいうと、エスパーとほのおとでんきとフェアリーの複合タイプモンスターがうじゃうじゃいるといった感じだろうか。いや、FGOのエネミーって言った方が分かりやすいかもしれない。

 偏に獣系といっても、鉄っぽい獣やゴーストっぽい獣や毒滴る獣がいたりする。思うに、あれらは対獣属性の特効対象であると同時に、他属性の特効対象でもあるのだと思う。

 例えば、アンデッド獣がいたとして、そいつに対獣属性攻撃が効いて与ダメアップ。アンデッドに効く聖属性プラスで更に与ダメアップ。全部合わせて浪漫火力だ! ってな感じで、複数属性持ちのエネミーには特化武器で凄いダメージが期待できる。試しちゃいないが、話を聞くに多分そう。その為の、特化武器だ。

 うーん、いいねえ……。ゲーマーの血が騒ぐ。

 

「あ……」

 

 ふと、思いついた事があった。

 そういえば、俺は武闘家以外にも埋めてないジョブツリーがあったのだ。

 そのうち埋めてこうとしてたのじゃなく、仕方なく埋めれなかった奴。

 

 剣士レベル20で解放された、“侍”という中位職。

 俺には分かる、強ジョブだ。間違いなく強い。侍が弱いゲームなんてそうそうないのである。

 が、俺はこの侍をレベリングする事はできなかった。理由は簡単で、武器がなかったからだ。

 

 侍は“刀”系武器に特化したジョブであり、使用武器がかなり制限されている。侍で剣や斧は使えないし、何故か弓や槍も使えない。侍なのにも関わらずだ。となると、刀を使うしかないのだが……。

 悲しい哉、これまで買い物した事ある武器屋に、刀は置いてなかったのである。神殿内はもちろん、防具屋紳士に教えてもらった高級武器屋さんにもなかった。

 刀もなしにどうやって戦えばいいんだ! という話だ。そういう訳で、俺はこれまでこのジョブに就く事はできなかったのである。

 

 しかし、今ならできるのでは? と思う。

 ないなら作ればいいじゃない。ドワルフさんに頼んで、オーダーメイドカタナを作ってもらおうじゃあないか。作れるかどうかわからないし、他注文中に可能かどうかも分からないが、やってみようと思う。

 上手くいけば、俺も鬼殺隊めいてバッサバッサと魔物を斬る事ができるかもだ。今の俺の身体能力なら、色んな漫画の色んな技再現できそうだし、すごく楽しみだ。

 なんなら小太刀二刀流とか、セフィロスの刀みたいなのでもいいだろう。想像するだけで胸がぽかぽかするな。

 

 そうだ。どうせなら、何かのダンジョンで使える特化武器にしてもらおう。

 汎用武器はあるのだ。なら、刀は斬撃・刺突に弱いエネミー専用で、且つ特定エネミーの命を刈り取る補助効果をつけよう。

 炎属性を付与してシャナめいた刀にするのもいいし、魔力属性を付与してエルデンリングの月隠みたいにしてもいい。夢が広がる。

 

「ふふ……」

 

 っと、思わず笑ってしまった。

 幸いルクスリリアとのお話中だったので、笑うタイミングとしては不自然ではなかった。

 いや、ロリとの会話中にコンソールを弄り思考に耽るなど、ロリコンとしてNGだな。次からは止めておこう。

 

「あの……イシグロ様、換金の準備が整いました」

 

 と、ちょうどいいところでおやつタイム終了。

 

 バーテンからお声がけいただいたので、料金を払って受付へ。

 大量の鉱石と交換されたお金は、命賭けのビズにしては渋い金額だった、まあ、冒険者の感覚だからそう思うのであって、一般人感覚では十分な大金なのだろうが。

 それでもロリ奴隷も専用武器も、これじゃ全く足りない。武器消費なしでも、やっぱ巨像迷宮は金策に不向きだ。チリツモである。

 

「ご主人、今日はどうするッスか?」

「そうだなー。一回宿屋に帰ってから、ご飯食べに行こうか」

「きひひ♡ はいッス♡」

 

 ルクスリリアと話しながら帰路を歩く。

 美しいファンタジー世界の街並みに、活気ある広場。大量の金に、隣で歩くロリ奴隷。

 実に、良い。

 

「あ、あそこ喧嘩はじまったッス」

「危ないから近づかないようにしようか」

「えー、ご主人ならあいつらワンパンっしょ? いっそ殴り込んで全員やっちゃうってのはどうッスか?」

「俺は非暴力主義なの」

「日常的に迷宮潜ってる人が非暴力ッスか。ウケるッス」

「それはそれ」

 

 ルクスリリアと二人、夜の街を歩く。

 

 何だっけ、昔読んだ時代小説で書いてあった事……。

 住む所、着る物、それと食事と運動と性交。これらが揃ってると人はとても健全に健康に楽しく毎日を生きられる……みたいなの。

 今の俺は、まさにそれ。

 

 割と充実していると思う。

 俺とリリィは、奴隷と主人という前世日本じゃ許されない関係だが、それでもだ。

 俺は、とても健やかに毎日を過ごせていると思うのだ。

 

 こう充実した日々を過ごしていると、俺の中のハーレム欲がどんどん薄れていく感覚がする。

 もうルクスリリア一人でいいんじゃないかなという気持ちだ。

 

 聞いた話によると、リアルでハーレム作るには相当な度量と甲斐性が必要とか何とかで……。

 少し前まで童貞だったのだ。そんな俺に、上手に俺中心の共同体を築ける自信はなかった。

 もう、このままでいいんじゃないか?

 

「あ、イシグロさん」

「はい?」

 

 宿屋に入ると、店主が話しかけて来た。

 いつもはおかえり的な軽い挨拶しかしないのに、何故か今日は名前呼びである。

 

「あのー、昼頃にどこそこの使いを名乗る方がいらして、イシグロさん充てのお手紙を預かってるんですけど……」

 

 店主から手渡されたソレは、手紙というには簡素なメモ帳サイズの紙だった。

 そこには、綺麗な異世界文字で「例の件についてお話がございます。お時間のよろしい日にいらしてください」と書いてあった。

 なるほど、簡素な紙にこの内容なら、仮に盗まれても何のこっちゃだろう。プライバシーへの配慮を感じる。

 

「ありがとうございます」

 

 そして、差出人の名は、こうであった。

 

「誰からッスか?」

「足の長い紳士から」

「んー?」

 

 店の名前も、主人の名前も明かさない。事前に決めて置いた仮の名前。

 え? そんなん必要ある? と訊くと、「万が一の事がございます」と言われて決めた、俺と彼にしか伝わらない差出人。

 

 足の長い紳士。

 またの名を、奴隷商人・クリシュトー。

 

「……来たか」

 

 まあ、うん……。

 やっぱ、そうそう夢は諦められないって事で。

 ハーレムは男の夢って話で。

 

 二人目のロリが来た。

 

 またぐらがいきり立つ!




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第二のロリ奴隷、エリーゼ!(ネタバレ全開ですね)

 感想・評価など、ありがとうございます。お陰で捗っております。
 誤字報告も助かっています。バーッと書いてるので誤字脱字がドバドバあります。いつもすみません。

 前回、ちょっとした設定ミスを発見したので修正しました。すり替えておいたのさ!
 こういう事平気でやります。

 変なとこあるかもしれません。場合によっては加筆します。
 今回、いつにもまして雑だなーと思わんくないです。


 ルクスリリアを購入した際、俺は奴隷商人と次なるロリ奴隷の購入についてお話をした。

 それは奴隷市場に回りづらい上質ロリを手に入れる為の、奴隷商人とのお話であった。ロリ探してあげる代わりに、少し高めに買ってねという。

 

 この契約のメリットは二つ。俺が直接奴隷市場に行かなくていいところと、奴隷商人のネットワークにより幅広く良い商品を検索する事ができるところだ。

 デメリットも存在する。それは、俺が直接確認できないところだ。別にはい見つけました買ってくださいつーか買えコラと押し売りされる訳じゃあないが。もしダメだったら、その時はまぁしゃあない。

 

 あと、それによる問題もある。彼がちゃんとロリを連れて来るか分からないところだ。カテゴリーエラーは勘弁である。

 ロリコンのいない異世界。俺の嗜好が生粋の異世界人であるクリシュトーさんに、ちゃんと伝わってるかどうかは分からない。彼にはロリコンという生き物について一から十まで説明はしたが、どうなる事やら。

 ロリコンってこういうの好きなんでしょ? とロリ巨乳奴隷をお出しされる可能性があるのだ。いやロリ巨乳はロリコン界隈では意見が分かれる訳で……。

 

 そうでなくても、美醜の基準なんて時代や文化によりけりだ。異世界人視点美少女でも俺視点で美少女かどうかは分からない。

 というか、何となくだがこの世界の美の基準は「顔<身体」といった印象がある。前にパーティ勧誘してきたムチムチ巨乳牛人族の女性も、顔はクラスで7位くらいな雰囲気だったが、他の男性からはモテてた感があったのだ。

 

 うん、まぁ何が言いたいかというと……。

 チェンジと言える勇気を持とう、と。

 そう心に留め置くべきだと思ったのだ。

 

 

 

 以前と同じく、お高い店で買ったお高い服を着て、例の奴隷商館に行くと、俺とルクスリリア――こっちはいつものサマーメスガキファッションだ――は丁寧なお迎えと共に応接室へと通された。

 相変わらずセンスの良いお部屋だった。絨毯もフカフカで気持ちがいい。思えば、こういう部屋は異世界じゃここしか知らない。ギルドの応接室も床は木だった。

 

「どんな奴隷ッスかねー。できれば前出て戦ってくれる奴隷だと嬉しいんスけど」

「そうだねー」

 

 あと、事前にルクスリリアに第二奴隷購入について話すと、それは存外あっさりと受容された。

 曰く、「いいと思うッス! 戦力拡充はきゅーむッス!」との事。

 嫌がられたかったのか、嫉妬されたかったのか。俺という奴は、烏滸がましくも第一奴隷にやきもちを焼いて欲しかったらしい。実に浅ましい性分である。

 

「お待たせしました。お久しぶりです、イシグロ様。店主のクリシュトーでございます」

 

 やがて出されたお茶など啜っていると、足の長い紳士こと店主のクリシュトーが現れた。

 彼は以前とは違う服を着ており、これまた上質そうな仕立てである。俺ももう一個くらい良い服買った方がいいのかな。

 

「以前は我が商会の商品をお買い上げ頂き、誠にありがとう存じます。どうでしょう、あれから商品の様子は」

 

 一通りの挨拶の後、オサレ紳士は軽い世間話をはじめた。話題はルクスリリアについてだ。

 というか、当の本人が後ろで待機してるのにそういう事訊くのか。何も返答に困るものではないが。

 

「ええ、とても満足しています。今は迷宮で鍛錬中ですが、すぐに戦力になってくれると思います」

「それは何よりでございます」

 

 ちらりと、ルクスリリアを見る店主。

 その視線に気づいてか、高そうな壺をツンツンしようとしていたリリィはビシッと姿勢を正した。

 

「はっ! ご主人のお陰で中淫魔になれたッス!」

「ほう……?」

 

 訊いてもいないのに、ルクスリリアは偉い人からの視線に慌てて返事をした。

 別に失礼って事は……いや異世界マナーなんざ知らねぇが、ともかく奴隷商人は彼女の返事に意味深な頷きを返した。

 

「クリシュトーさんには感謝しています」

「左様にございますか。奴隷商人冥利に尽きるお言葉と存じます」

 

 何か詮索される前に会話を打ち切る。

 別に探られて痛い腹はないが、俺はさっさと第二ロリについての商談をはじめたかった。

 

 そんな俺の態度に気づいてか、クリシュトーさんはお茶で舌を湿らせると、声色を少し堅くして云った。

 

「契約通り、イシグロ様に自信を持ってお勧めできる商品が見つかりました。現在、別室にて保護しております」

 

 来た! 俺はお膝のお手々を拳に変えた。

 もうバレてるし、バレていいと思っている。カモられてもいい、それがロリ奴隷商売であるならば。

 クリシュトーは一拍空けて、これまた声色低くして続けた。

 

「さっそくお見せしたいところなのですが、先にお伝えしたい事がございます」

 

 その言葉に、俺の胸に緊張感が走った。

 別に騙されてもいいとは思っちゃいるが、ロクでもない取引がしたい訳でもない。

 俺は彼とは良好な関係を構築したいと思っている。彼も俺を良い客かカモと思っていてほしいものだ。

 願わくば、今から彼の言う言葉が、俺からの信用を崩さないものであらん事を。

 

「それは何でしょうか」

 

 俺の緊張感は把握しているはずだ。その上で、彼はこれまた一拍空けた。

 やがて、彼としっかり目が合った。目を見ただけで嘘が分かるとか、そんな技術は俺にもアクセシビリティにもない。けれど、彼の瞳には真摯さがあると感じた。

 

「少々、値が張ります」

 

 少々、というところは気になったが、俺が想定していた言葉の中では全然余裕で受け止められる言葉だった。

 前提として、ここの奴隷は高い。また、曰くちんちくりん少女奴隷は需要がなく安価であるとも言ってたはずだ。にも関わらず、値が張ると。

 これはどういう事なのだろう。俺はその謎を探る為、アマゾンの奥地へと足を進めた。

 

「少々、とは?」

「私が取り扱ってきた商品の中で、最も高額な商品という事です」

 

 それは少々じゃあないだろうとは思った。

 そも、ここの奴隷は高い。安いのでルクスリリア級で、中くらいのだと注文中の俺専用オーダーメイド剣くらいする。最高の奴隷にもなると、俺剣の倍はするとかしないとか。

 となると、俺剣の3倍か、あるいはそのまた倍の値段なのかもしれない。

 

「そうですか」

 

 でも、大丈夫だ、問題ない。

 

 いうて、俺は億万長者である。伊達に三ヵ月命がけでダンジョンアタックしてきた訳ではないのだ。

 ルクスリリアを買い、防具を買い、専用剣を買って尚、ダメージは軽微なのだ。それに、金策に不向きとはいえ巨像迷宮である程度補填できている。普通のダンジョンに潜りさえすれば、黒字にするのも難しくない。

 クリシュトー史上最高額でも、それがロリなら構わんよ。俺は我知らず強張っていた身体を解した。

 

「もちろん、それには理由があります」

 

 ロリ奴隷は安いのに、俺にオススメする奴隷が高い理由。

 そりゃ相応の理由はあるのだろう。クリシュトーはなおも俺の目を見ながら云った。

 

「個体数の少ない種族の奴隷は相応に高価であると、以前お話したと存じています」

「ええ、覚えています」

「今回の商品は、まさにその典型でございます。例え容姿が幼くとも、所有する事に価値が発生する類の商品なのです。ですが、私はこの商品はイシグロ様にこそ相応しいと考えています」

 

 まるで宝石か調度品のような扱いであるが、まぁ異世界倫理と現代日本倫理を同列に考えるべきではない。そういうもの、と認識すべきだろう。

 実際、俺は既にその恩恵を享受しているのだ。それは俺の後ろでテーブル上の茶菓子を見つめている存在である。

 

「その種族とは?」

 

 問うと、熟練の奴隷商人は小さな怖れを吐き出すように、僅か低声で云った。

 

「……竜族の娘にございます」

 

 その言葉に、背後のルクスリリアの身体が震えたのが分かった。それは発言の主である奴隷商人も同じで、彼は気を静めるように一口お茶を飲んだ。

 が、俺にはさっぱりだった。竜族? ドラゴン? なにそれスゲーくらいの気持ちである。個体数が少ないってのも、まぁそんなもんかって気持ちだ。

 

「竜族ですか」

「はい」

 

 イージャン、である。

 無論、ロリコンの俺が思うイージャンポイントは、その希少性や能力が云々ではなく、その種族特性のひとつに由来する。

 

 ルクスリリア購入前、王都西区の有料図書館で調べた事がある。色んな種族の事と、それら生態についてだ。

 希少だがメジャーな竜族については、割としっかり記載があったのだ。

 

 俺はその内容を思い出しながら、膨らみそうになる股間を気合で抑え込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 ――竜族。

 

 竜族とは、かつて暗黒時代の異世界を暴威によって支配した半神的存在である。

 しかし彼らは、大災厄の謎の奇病によって、大きくその数を減らした。

 

 奇病が収束した後、彼らは絶滅一歩手前まで追い詰められた。

 やがて竜族の命脈も絶たれようとしたその時だった。

 

 勇者・アレクシオス。

 

 後に王となる男が現れ、共に世界の危機に抗おうと、竜族の戦士をパーティに勧誘したのだ。

 しかし、御多分に漏れずプライドの高かった竜族は首を縦に振らなかった。竜族視点、下等生物と共に戦うなんて恥だったんだろう。

 それでも諦めなかったアレクシオスは、当時竜族最強だった男と決闘し、力を認めさせ、彼と友誼を結ぶ事に成功したのである。

 

 勇者と決闘し、勇者と共に戦った竜族の男こそ、後の英傑の一人。

 銀竜剣豪・ヴィーカである。

 

 まあ、その後については竜族史というより王国史になるので割愛するとして……。

 ともかく、竜族というのは、昔から居て傲慢で支配者意識の強いプライド高すぎ長生き種族なのだ。

 

 

 

 この世界には、色んな種族がいる。

 俺やクリシュトーの様な人間族。ルクスリリアの様な淫魔。それぞれ、人間族は人間種。淫魔は魔人種とカテゴリー分けされる。

 

 一言で獣人といっても、獣人にも色々あるのだ。

 虎っぽい特徴を持った虎人族。これは獣人種虎人族になる。

 で、これまた虎人族でも色々分かれるのだ。白虎とか赤虎とか。魔虎というのもいるが、こっちは魔人族だ。ややこしいね。

 

 そんな中、竜族は特別扱いで。なになにのなにというものがなく、竜族は竜族というカテゴリー。で、種類も2パターンしかない。

 旧支配者の血を引く竜族と、竜族に支配されていた翼竜(ワイバーン)族だ。

 まぁ翼竜族については今はどうでもいい。

 

 竜族である。

 それは、ロリコン視点で見てなかなか良い種族だと思うのだ。

 何故か? エタロリだからだ。ロリであるならば、の話だが。まぁこの世界での不老特性は珍しくないが、それはそれ。

 

 例によって、彼らに老化現象は発生しない。

 大体10年で成長限界を迎え、そこからは成長も老いもない。不老の種族であり、おまけに魔族に似た特性もあるのでほぼ不死である。

 

 竜族は凄い。何が凄いって、生命としての平均能力値が人間とはダンチなのだ。

 まず身体能力。無論の事、人間とは比較にならず、その比較対象は獣人種で、一等マッチョな熊人族と同等である。

 それと魔法適性。これまた人間とは比べものにならず、比較対象は森人とかその辺。パワーも精密動作性も持続力も、森人の上澄みと同等である。

 んでもって生命力。当然人間とかカスであり、比較対象は魔力生物である魔族。まぁ1でも魔力があれば生きてる魔族と違い、竜族は心臓潰されると死ぬらしいが、それでもお腹真っ二つになろうが頭パーンになろうが心臓さえ無事なら普通に全快するらしい。

 

 とかく、竜族は他種族より遥かに強い種なのだ。

 まぁ、それでも勇者アレクシオスとか現ラリス国王とかよりは弱いらしいが、平均値は高いのである。

 

 あと、もうこれだけで十分チート種族な気もするが、それに加えて竜族には個体ごとの“竜族権能”なる能力があるらしい。

 なんじゃそれって思ったが、要は異能かスタンド能力みたいなもんだった。

 権能は魔法とは別種の力。触れたモノを金に変える力とか、毒霧を生成し操作する力とか色々。

 こいつら、世界観違くね? って思ったよね。

 

 そんなアルティミット・シイング・ドラゴン様だが、運営からナーフでも食らったのか一個明確に弱いところがある。

 繁殖力の無さだ。

 

 竜族はマジで子供ができない。

 いや不老不死のめちゃ強種族が量産されるとかそれはそれで怖いが、その強さ故か竜族同士の子供はかなり珍しいのだとか。ピュアドラゴンベビーが生まれた際など、一族総出でお祝いするんだって。

 加えて、竜族は竜族同士でしかドラゴンベビーを作れないらしく、他種族との間の子供は大概相手側の種族になり、運よく竜の子ができても弱いドラゴンベビーとして生まれ、不老特性を除く殆どの竜族パワーを失うとか。竜族視点。そんなのドラゴンじゃないやいとなるのかもしれない。

 

 だからこそ、純粋な竜族の子供は貴重なのだ。

 それが、どういう訳だか人間族の奴隷商会で商品になっていると。

 レアもレアである。お金持ちの好事家なら、例えロリでも買うのだろう。知らんけど。

 

「だから高いのですね」

「ええ……。ですが、イシグロ様にとってもお値段以上の価値がある商品であると自負しております」

 

 おやおや、おやおやおやおや……。

 この男、ずいぶん竜族奴隷を推してくる。よほど買って欲しい理由でもあるのか、さて……。

 

「彼女の名前はエリーゼ。父は彼の傲魔竜アヴァリ。母は宝銀竜テレーゼ。歳は140。容姿は幼く、処女でございます」

「ほう」

 

 親の説明とかされても困るが、140歳幼女とか滾らない訳がない。

 俺は続く奴隷商人の奴隷紹介に耳を傾けた。

 

「そして、母方の祖父は彼の大英雄……銀竜剣豪のヴィーカ様でございます」

 

 しばしの静寂。

 

 決め顔のクリシュトー。

 御茶菓子をくすねて食べようとしていたところでビックリして固まったリリィ。

 別に変化のない俺。

 

 ごほんと咳払いひとつ。クリシュトーは仕切り直した。

 

「……イシグロ様は、ラリス王国の歴史についてはご存じでしょうか」

「図書館で読める分は。ヴィーカ氏の存在も知ってます。勇者様の次に強かったらしいですね」

「さ、左様にございますね。えー、はい。エリーゼはそのヴィーカ様の孫娘にあたります。容姿が幼く性奴隷としての需要はなくとも、その希少さと血統には相応の価値が発生します」

「なるほど」

 

 俺視点、血統とかどうでもいい。別に祖父が英雄だろうが、そのロリ性に影響はないだろう。大事なのはロリな事であって、カワイイに関係ない項目はどうでもいいのだ。

 レア中のレア中のレアなのは分かった。スネークじゃないが、「で、味は?」と訊きたいところである。

 

「それで、そのエリーゼはいくらなんでしょうか」

 

 なので、ぶっこんだ。

 血統だの希少性だのブランド性だのは知らないが、例え高価でもエタロリならば検討に値する。

 最終的には見て決めるだろうが、俺は先に値段を訊く事にした。

 

「ええ。もしイシグロ様にご購入いただけるのであれば……」

 

 そして、クリシュトーはゆっくりと口を開いた。

 

「10億ルァレとさせて頂きます」

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 ん?

 

 いや、待て、おい……。

 こいつ、さっき“10億”と言ったか?

 安くしときますみたいなニュアンスで、「10億にしときまっせ」と言ったのか?

 こんなに高くてごめんねっていうニュアンスなのか? 分からん!

 

 ……いや、高くね?

 

「10億ですか」

「はい」

 

 無表情のおじさん。何故に無の顔なんだ。

 明らかに何かまだ言ってない事あるぞ、この人。

 

 これまで、俺はずっと貯金をしてきた。

 ルクスリリアも専用剣も買って、それでもまだまだ余裕あるぜってくらいには貯金してきたのだ。

 冒険者は儲かる。ヤバいダンジョン行けばめっちゃ金入る。私生活も切り詰め、こつこつ貯金した後、それなりの買い物をした上で。

 今の俺の残高は……。

 

 約11億ルァレ。

 

 ほとんどなくなるやん、である。

 

「安いッスね……」

「え?」

 

 背後でルクスリリアが呟いた。

 マジかよ、これ俺の感覚がおかしいのか?

 いや、でもリリィの感覚がおかしい可能性は十分あるし、クリシュトーがめちゃくちゃボッてる可能性もあるじゃあないか。

 

「ご主人、純粋な竜族なんて、買えたとしても10億じゃ絶対無理ッスよ。安いというか何というか、赤字覚悟? みたいな?」

「え、そうなの?」

 

 訊くと、その問いにはクリシュトーが答えた。

 

「ええ。約200年前、この店で取引された竜族の奴隷の値段が、こちらになります。開示には許可を頂いています」

 

 言うと、古めかしい雰囲気の契約書を見せてきた。そこには、竜族御一人1000億ルァレと書いてあった。爆撃機かな?

 契約書は保存魔術の匂いがプンプンしていて、リリィの契約時にも使っていた紙によく似ていた。

 了解を得てから手に取り、こっそりコンソールを起動。アイテム情報を見ると……。

 

「マジじゃん」

 

 マジだった。この契約書は偽造書類じゃなく、マジで200年前に契約した取引の証拠だった。

 チートに生かされてる俺だ。チートを疑ってもしょうがないと割り切っている。これはガチだ。

 取引相手はどこの誰だよと思ったら、当時のラリス国王だった。国のお金で奴隷買ったのか……。

 

「エリーゼの、この値段には理由があるのです……」

 

 色々と愕然としている俺に、奴隷商人は言葉の濁流をぶつける気らしい。

 ちょっと処理が追い付かないぞ。

 

「先ほど申しました通り、エリーゼはヴィーカ様の孫娘です。そうなると、本来ならば以前販売した竜族奴隷と同等かそれ以上の値段で然るべきです。しかし、そのような値段は妥当ではないと判断しました。理由は三つあります」

「そうですか」

「第一に、この奴隷の未成熟さです。容姿だけではありません。エリーゼは成竜済みであるにも関わらず、権能を発現していないのです」

「へー」

「第二に、受胎不可という点です。元の所有者は彼女に不妊の呪いをかけたようで、エリーゼは死ぬまで子を成す事ができないのです」

「それは惨い」

「これが一番大きな事なのですが……。第三に、ヴィーカ様の孫娘である点です」

「それは……それは何故?」

 

 ショートしていた脳を再起動し、俺はクリシュトーと目を合わせた。

 ちょっとおかしい。ヴィーカの孫娘である事が高価な理由なのに、ヴィーカの孫娘である事が値下げ理由になるなど、どういう事だ。

 

「……竜の逆鱗です」

「ああ~、そういう事ッスか」

 

 重々しいクリシュトーの言葉に、背後のルクスリリアは納得いった風の声を漏らした。

 視線をやると、ルクスリリアは一度クリシュトーと目を合わせた後に、口を開いた。

 

「えーっと、ヴィーカ様ってまだ生きてるんスよ。どこにいるのかは分からないッスけど」

「うん」

「で、奴隷になった孫娘を、祖父であるヴィーカ様が見たら……」

「キレる?」

「かもしれないッスね~」

 

 銀竜剣豪・ヴィーカ。伝説の英雄だ。間違いなく俺より強いだろう。俺でさえその気になれば東京タワーを破壊できるのだ。彼がその気なら北海道を二分割する事だってできるのではないだろうか。知らんけど。

 そんな人が奴隷化した孫娘を見てキレて暴れたら、間違いなく主人は死ぬ。ついでに一族郎党皆殺し。関係者も根切りゾ案件。王都も爆発四散しちゃうかも。

 奴隷契約でエリーゼちゃんも死ぬかもしれないが、人質ならぬ竜質になるかは怪しいものだ。いっそもろともとエリーゼサイドが言う事だってあり得る。ヤバ過ぎィ!

 

「伝説の通りの方なら、ヴィーカ様が激昂される可能性は低いでしょう。ですが、彼の逆鱗がどこにあるかは分かりません。もしかしたら、孫娘を販売した我が商会にも刃を向ける可能性もございます」

「怖いですね」

「怖いのです」

 

 なら、そんな奴隷をなんで商品化したんだよと思って見てみると、クリシュトーの無表情が更なる虚無顔になっていた。

 

「お客様の情報故、詳しく申し上げる事はできませんが……」

 

 紅茶を飲むクリシュトー。その手は少し震えていた。

 

「所詮、私の様な人間は、竜族の方には逆らえないのです。法を犯した訳でもない相手に、商会や王家が口を出せる訳もなく……。この値段は、イシグロ様が銀細工持ちの冒険者であるからでして、前述の理由を加味しても本来もっと高価にせねばならないのです。あまり安くし過ぎると、うちだけでなく多くの方の面子が……」

 

 なんか知らんが、どうやらエリーゼは押し付けられた商品であるらしい。彼的には、エリーゼはもうさっさと手放したい奴隷なのかもしれない。じゃあタダでくれよと思うが、それはできないっぽい。

 あと、俺だから10億ってのは何なのだろう。冒険者相手だと、奴隷を安く売ってもいいのだろうか。竜族特有の事情でもあるのか?

 分からん、分からんが、彼が俺にエリーゼを買わせたがってた理由は分かった。爆弾の押し付けだ。普通の好事家に売っちゃうと起爆の確率が高まっちゃうのか。じゃあ仲間内で……てのも、してないあたり無理なんだろうな。

 

「エリーゼは様々な方からのあつ……意向で、我が商会にやってきたのです……」

 

 ぱさりと、今度は真新しい契約書を見せられた。

それはエリーゼの契約書だった。そこには色々と細かい事が書いてあったが、その中には「こいつを適当なモンに売るんじゃねぇぞ!」みたいな記述があった。なんじゃそりゃ。

 どうやら、予想通りラリス王家や貴族や竜族など、一部販売相手には制限がされている様だった。なんじゃそりゃ、よく分からん。

 

「どう思う?」

「いいんじゃないッスか? ぶっちゃけ、ヴィーカ様と会う事なんて死ぬまでなさそうッスし。ご主人の好みで決めちゃっていいと思うッス」

「そう? ん~、でもな~」

 

 うーん、まあ、値段はいいのだ、値段は。

 やっぱ、そんな怖い人の逆鱗に触れる(かもしれない)契約は、したくないなぁという気持ちが湧いてきた。

 エタロリドラゴンとか最高やんけと思わなくもないが、それでも英雄様の大暴れは怖い。そも、ルクスリリア一人でいいじゃんとか考えてたのである。もうがっつくもんでもないのだ。

 

「……報復の可能性についてですが、エリーゼの主人がイシグロ様であるならば問題ないと考えられます」

「それは何故ですか?」

 

 絶対に大丈夫というなら考え直すかもしれないが、そんなのあるとは思えない。相手はろくに人となりも知らない英雄様だ。その感情など、推し量れるもんじゃないだろう。

 

「ヴィーカ様は生粋の武人。エリーゼの主人がイシグロ様であるならば、きっとお認め頂けるはずです。それに、一党の頭目である銀細工持ちのイシグロ様が彼女をいち戦士として遇しさえすれば、例え逆鱗に触れたとしてもイシグロ様を害する事はないでしょう。彼が彼自身の伝説を穢すというのは考え難いです」

「そうなんでしょうか」

 

 色々と言ってはくれたが、どれも確信のない事である。

 俺はチキンなので、そう言われても怖いものは怖い。

 

 10億で爆弾を俺に売りたい商人と、買ってもいいけど爆弾が怖い俺。

 聞くに、俺が買うのが最も起爆確率が低いんだろうが……。

 

「……これ以上値下げする事はできませんが、商品価格以外のサービスは全てこちらで請け負う所存です、勿論、可能な限りのサポートもご用意いたします」

「うーん……」

 

 残念ながら、それでも俺の天秤は買わない方向に傾いていた。

 玉無しロリコンと笑いたきゃ笑え。オイラぁ爆弾は怖いんだ。

 

「……では、一度お見せいただけますか?」

「ええ」

 

 うん、もう断って帰って寝よう。

 どんなロリが来ても、俺は爆弾を抱えたくない。

 けど、見るだけは見ようと思った。

 

 買うつもりはない。商品を見もせずに帰るのは、流石に今後に差し障ると思ったのだ。

 例え今回はダメでも、次の商品に期待したいものである。

 ロリハーレムはまだ諦めてねぇんだ。今回は御縁が無かったという事で……。

 

「エリーゼを此処に」

「かしこまりました」

 

 ベルを鳴らして現れた従業員に、クリシュトーはロリを連れて来るよう命じた。

 どうせ買わないのに、ちょっと申し訳ない事をさせてると思う。

 

「はぁ……」

 

 せっかくのロリ奴隷だが、やっぱり爆弾付きじゃあ買う気になれない。

 エリーゼちゃん、君は良いロリなのかもしれないが、君のおじい様がいけないのだよ。

 

「連れて参りました」

 

 しばらくして、ドア越しに従業員の声。

 主の許可の後、がちゃりとドアが開かれ……。

 

 

 

「我が名は、エリーゼ・フラム・ミラヴィーカ・アヴァリツィア。月夜に生まれし竜。傲魔と宝銀の娘。銀竜剣豪ヴィーカの孫。人間の貴方に、この私を愛でる覚悟はあるのかしら……」

 

 

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 来てよかった。




 感想投げてくれると喜びます。



 以前、歴史上の人物は主人公たちとは全く関係ないとか書きました。
 あれは嘘になりました。
 申し訳程度に関わります。とはいえガッツリって訳じゃありませんが。

 こういう事平気でやります。


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少女の居場所

 感想・評価など、ありがとうございます。楽しく書けています。
 誤字報告もありがとうございます。助かってます。

 今回は三人称、エリーゼ編です。

 何故エリーゼをヴィーカの孫にしたのかというと、頂いた感想に触発されたからです。
 こういう事平気でします。


 蒼い月の夜。

 

 エリーゼ・フラム・ミラヴィーカ・アヴァリツィアは、“愛”と共に生まれた。

 

 その日、父は我が子の誕生を寿いだ。

 その日、母は我が子の健勝を祈った。

 

 エリーゼは、愛で以て生まれ、

 やがて愛を失い、

 愛に飢え、死んでいない。

 

 弱き竜、儚き娘。

 宝を持たぬ貧しき子。

 

 誰でもないエリーゼは、思う。

 せめて、心だけでも、と。

 

 

 

 古今東西、竜族の赤子は貴重である。

 元より強靭な個である竜族は、人間のように子を成して命の灯を次代へ繋げる必要がない。よほどの事がない限り、ほっといても存続できるのだ。そのせいか、竜族は繁殖能力が極めて低い。

 が、必要かどうかでなく、それはそれとして愛の結晶が欲しいというのは竜も人間も変わらない。子を欲し、けれども叶わぬ竜族夫婦の如何に多い事か。

 大災厄の後、絶滅しかけたという歴史もある。感情的にも、実利的にも、子が生まれるのは喜ばしい事なのだ。

 

 そんな中、とある竜の一族に、ビッグニュースが報じられた。

 傲魔竜と宝銀竜の夫婦が、子を授かったというのだ。

 ただでさえめでたいニュースに加え、親が親であり、血統が血統であった。それはもう、一族総出でレッツパーリィである。

 

 傲魔竜アヴァリといえば、当代最強の竜魔導士で知られ、莫大な魔力と精密な魔法行使能力を有し、“呪詛”の権能を持つ最新の英雄である。

 宝銀竜テレーゼといえば、銀竜剣豪ヴィーカの娘であり、“祝福”の権能を持つ絶世の美女だ。その美貌は竜族一位。よしんば彼女が二位だとしても、竜族一位なのだ。

 なにより、生まれたのがヴィーカの孫というところが素晴らしい。ヴィーカの血統なんてナンボあってもええですからね。エリーゼの生誕で最も喜んだのは、彼の銀竜剣豪を輩出した一族の長であった。

 

「アヴァリ! よくやった! お前を一族に迎え入れてよかった!」

「そのお言葉ありがたく。しかし、順序が違いますな、長殿。逆鱗に触れますよ」

「おぉそうだったな! テレーゼもよくやった!」

「あら、はしたない。そうも喜んでは、長の威厳がなくなりましてよ」

「今日くらいは構わぬさ!」

 

 そんなこんなでお披露目会。

 赤子のエリーゼは、煌びやかな宴の最中代わる代わる色んな竜族の人たちに抱っこされた。

 一族の竜が挨拶に来る度、エリーゼの顔を見ては頬を緩ませ、歓喜の魔力をむんむん放出していった。

 髪の色がヴィーカと同じだとか、顔立ちは母親似だとか、目の色は父親と一緒だとか。

 竜族のイメージからは考えられぬ、賑やかで和気あいあいとした雰囲気の宴であった。

 

「エリーゼは本当に愛らしい……目元などお前そっくりではないか」

「ふふっ……赤子にしてこの魔力、貴方の子でもあるのよ」

「長ずれば私をも超えるかもしれぬな、はははっ!」

 

 大人たちは、エリーゼを祝福すると同時に、その将来に大いに期待していた。

 なにせ当代と古代の英雄ハイブリッド。魔法最強と近接最強が合わさり最強無敵に見えるのだ。どいつもこいつも頭がおかしくなっていた。

 

「おはようございます、エリーゼ様」

「ええ、おはよう……」

 

 新竜期、エリーゼは周囲の大人から蝶よ花よと愛されて育った。

 幼子にして、母譲りの美貌の持ち主であったのもあるが、何よりもエリーゼはその心根こそ一等美しかったのだ。

 

「今日は如何なさいますか?」

「何もないのでしょう? なら、書斎に行くわ」

「かしこまりました」

 

 在るべくして在り、驕らず、媚びず。それでいて華やかで、たおやかで、古典文学の似合う真の令嬢。

 生まれながらの貴人。命令されずとも、自ずと傅きたくなるような淑女であったのだ。

 

「おはようございます、エリーゼ様」

「礼は結構、続けて頂戴。武こそ騎士の本懐、励みなさい」

「はっ……!」

 

 両親に愛され、侍女たちにも愛され、近衛の騎士たちにも愛されていた。

 その頃のエリーゼは、皆から愛されていたのだ。

 

 しかし、エリーゼの竜生は、5歳の頃からおかしくなりはじめた。

 

「エリーゼ様、あまり大きくなりませんね……」

「一度医師に診てもらうべきでは?」

 

 竜族は、身体の成長が人間よりも早い。

 10歳で成竜を迎えるのだ。それ以上は不変となり、不老不死になる。自然、5つの頃には人間でいう10代前半くらいの容姿になるものである。

 けれど、エリーゼは違った。

 

「エリーゼ様は、本当にアヴァリ様のお子なのだろうか……?」

「馬鹿、聞かれたらどうする……!」

 

 1歳、エリーゼは新生竜だった。2歳、当然としてエリーゼは幼竜だった。

 3,4,5歳になって尚、エリーゼは幼竜の姿のままであった。

 それはまるで、同い年の人間族(かとうしゅぞく)の子供の様だった。

 

「病など、そんなはずはないわ……」

 

 エリーゼは祖父譲りの髪と、父譲りの瞳と、母譲りの美貌を持って生まれ、心身ともに美竜姫であると称えられた。しかしそれは将来性込みの賛美。幼竜時代が盛りなのではない。

 幼竜の美貌とはつまり、犬や猫の愛らしさ。竜族の女としては、相応しくないのである。

 

 この事で最も懊悩していたのは、当のエリーゼであった。

 愛により育まれたエリーゼは、母のように美しく、父のように強くなりたいと願うようになっていたのである。

 とても、純粋に。

 

 時は過ぎていく。

 

 いつだったか、エリーゼの母が城から姿を消したのは。

 いつだったか、父がエリーゼと話す機会が減ったのは。

 いつだったか、侍女たちがエリーゼを見る目に、侮蔑の色が混じりはじめたのは。

 

「本当、気味の悪い子ですわ……」

「一年にほんの少ししか背が伸びないなんて、どこか何かが狂っているのよ。病もないようだし、呪いなのかしら?」

「さぁねぇ……でも、やっぱり可能性としては……」

 

 竜族とは、魔力に敏感な種族である。

 竜の角は“権能”の源であると同時に、魔力を感知する感覚器官でもあるのだ。

 そういう感覚に敏感な竜族は、往々にして魔力に混じった“心”を感じ取る事ができる。

 

「いやだわ、態度ばかり大きいんだもの。混ざりものの癖に……」

「誰と交わったらあんな竜が生まれるんだか」

「前の騎士長は、そういえば青い瞳でしたわよね?」

「あー、あの大男? 強いばかりで頭の悪い……」

「そういえば、テレーゼ様が城を出たのも、騎士長が変わってからよね?」

 

 色付きの魔力。それは、表に出していい類のものではない。そういうものである。竜族が無暗に心を晒すなど、あり得ない事だ。

 森人もそうだ。心を静める事こそ森人の得意技。魔力に乗る感情は、ごく微弱。まして他者に心を悟られるなど、未熟の証である。

 

「おはようございます、エリーゼ様……」

「ええ、おはよう……」

 

 それが、下位の翼竜種ならどうか。

 それなりに高い魔力を持ち、魔力の操作が下手で、別に魔力に感情を乗せる事を恥だと思わない下位翼竜種(しもべたち)は、魔力感覚に秀でた竜族から見て、どうだろうか。

 

「はぁ……」

 

 エリーゼは、下位翼竜種が嫌いになった。

 けれど、それを表に出す事はなかった。

 エリーゼは高貴な竜族なのだ。下の者など、気にするべきではない。

 

 時は過ぎていく。

 

 6歳を過ぎたエリーゼからは、次々に欠陥が見つかって行った。

 容姿の異常性だけでなく、能力の異常性までも明るみになったのである。

 

「うぅむ、素晴らしい魔力だ。だが、どうにも形にならぬな。もう一度やってみろ」

「はい、お父様……」

 

 父からの魔法指導。

 魔力に秀でたエリーゼは、何故かあらゆる魔法の行使ができなかった。

 魔力はあった。父に勝るとも劣らぬ、莫大な魔力が。しかし、それを使う事ができなかったのだ。

 

「エリーゼ様、そろそろお止めになった方がよろしいかと……」

「はぁ、はぁ……いえ、もう少し続けます……」

 

 近衛騎士の下での、武技の鍛錬。

 ヴィーカの孫、テレーゼの娘。魔法はなくとも剣ならばと、エリーゼ自身そう思っていた。

 だが、これもダメだった。竜族にあるまじき膂力の欠如。竜族魔翼(つばさ)の展開ができず、竜族鱗鎧(よろい)も纏えない。諦めきれなかったエリーゼは、騎士が止めるまで技を磨くべく励んだが、それが実を結ぶ事はなかった。

 

「このままじゃ、このままじゃいけないわ……」

 

 やがて、運命の時が来た。

 幼子の姿で、魔法も使えぬ、力も弱いエリーゼの、権能お披露目パーティである。

 その宴には、祖父のヴィーカも出席するとの噂もあった。

 

「まさか、成竜で権能なしとはな……」

「もしやまだ成竜していないのでは? 年月を経れば、あるいは……」

「角は生えきっているではないか。我が子など、六つの頃には権能を有していたぞ」

「まさか、飛ぶ事さえできぬとはな……翼竜(ワイバーン)族の子供でもあるまいに……」

「あれがアヴァリ様の子か……?」

 

 10歳の誕生日であった。

 慣例により、一族総出で祝福されるべき場で、彼女は一族から見放された。

 身体の成長限界。魔法の無才。膂力の欠如。純粋竜族にあるまじき、“竜族権能”の未発現……。

 その様を、祖父のヴィーカも見ていた。

 

「申し訳、ありません……」

 

 生まれながらの貴人。英雄の子。英傑の孫。

 かつて、真の令嬢と謳われたエリーゼ。

 一族から見放され、侍従にまで見下され、あまつさえ偉大なる祖父にまで恥を晒してしまった。

 

「申し訳……ありません……!」

 

 竜族の子供は貴重だ。

 誕生は、とても喜ばしい事だ。

 だが、弱い竜は別だ。

 

 竜の竜たる所以とは、力にこそ在り。

 銀竜の一族であるならば、尚の事。

 そう、教えられてきた。

 

「俯くな、前を向け」

 

 恥辱に沈むエリーゼに、英雄は言葉をかけた。

 端から見ると、それは何に見えた事だろう。

 人間の感性なら、叱咤激励に見えたかもしれない。

 竜族の感性だと、死体蹴りに見えたかもしれない。

 

「弱さを認めろ。己を愛せ」

 

 英雄にどんな意図があったのかは、分からない。

 エリーゼが、その時どんな感情を抱いたかも、誰にも分からない。

 彼女はその日、“己”を知ったのだ。

 

「努々、忘れるな。我が孫よ」

 

 

 

 宴の後、エリーゼは実家の宝物庫で保管される事となった。

 誰あろう、父の指示によってである。

 

「エリーゼ、お前は脆い。だが価値はある。死なぬよう、傷つかぬよう父が守ってやる」

「はい、お父様……」

 

 母はエリーゼを愛さなかったが、父はエリーゼを愛し続けた。

 幼竜のまま成竜になった希少種。魔力を持ち、魔法を扱えぬ矮小な命。権能を持たぬ珍妙な竜。

 傲魔竜アヴァリ(エリーゼの父)は、娘を“宝”として愛した。

 娘は、父の所有物になったのだ。

 

 竜族は財宝を愛するものだ。

 それは殆どの竜族が持つ嗜好であり、父はそれが顕著な竜だった。

 だからこそ、エリーゼはとても大事にされた。

 

「エリーゼ様、お加減は如何でしょうか」

「悪くないわ……」

 

 宝物庫の最奥。最も大切で、貴重で、脆い宝を置いておくところで、エリーゼは保管される事となったのだ。

 宝の管理は信頼できる最上級の侍女に任せ、宝物庫は近衛最強の騎士に守らせ、城には常時翼竜族の兵士を駐在させた。

 

「久しいな、エリーゼ、身体の調子はどうだ?」

「はい、問題ありません。お父様……」

「うむ、美しい毛艶だ。良い仕事であるな……」

「ありがとうございます……」

 

 決して、宝に傷がつかぬよう、父は娘を保管した。

 嘘偽りない、愛ゆえに。

 

 

 

 そうして、100年と少しが経った。

 その間、エリーゼは一度も宝物庫の外を出ていない。

 

「おはようございます、エリーゼ様」

「ええ、おはよう……」

 

 宝物庫といっても、人間種が有している様な狭い物置部屋の様なものではない。

 古の空間魔法により拡張され、魔法により疑似的な月と太陽を再現し、庭や娯楽室なども存在するそこは、いわば城の中にある城であった。

 

「エリーゼ様、お手入れの時間にございます。どうぞ、こちらへ」

「ええ、分かったわ……」

 

 そんな場所で、エリーゼは100年の時を過ごした。

 最も信頼していた近衛騎士が死に、世話係の侍女が代替わりし、一年に一度会う父と話をしたりして。

 エリーゼは、腐る事なく生きていた。

 

「エリーゼ様、お散歩の時間ですよ」

「ええ、分かったわ……」

 

 幼子の時分、褒め称えられた淑女のまま。

 生まれながらの貴人の佇まいで、真の令嬢として。

 独り、俯く事なく過ごしていたのだ。

 

 ただ、飢えてはいた。

 

 

 

 ある日、それは突然にやってきた。

 傲魔竜の住まう城が襲撃を受けたのだ。

 

「オラオラオラァ! こんなんじゃ肩慣らしにもなりゃしねぇぞ!」

「一番強い奴! 出て来いやぁー!」

 

 襲撃者は世にも珍しい双子の竜族兄弟であった。

 背の低い魔術師の兄と、背の高い戦士の弟だ。

 

「チッ、どいつもこいつも腰抜けばっかじゃねぇか!」

「兄ちゃん! 兵士が逃げてくぜ! 追わなくていいのか?」

「馬鹿が、いいんだよ別に。狙いはあのクソ野郎なんだからな……」

 

 兄弟は傲魔竜アヴァリに恨みを持っていた。

 理由は単純。親の仇である。決闘でなく、奇襲で。誇りも誉れもなく、母はアヴァリに殺されたのだ。

 なので、復讐に来たのである。ついでに宝を奪いに来た。ちなみに理由の四割は後者だ。

 

「ふむ、よく来たな若竜共。最近の竜にしては骨がある。良い殺気だ」

「はっ、老いぼれが。決闘しにきてやったぜ、クソ野郎」

「母ちゃんの仇! オレが取ってやるぞォ!」

「二人がかりで決闘とは、まぁ良い……。相手をしてやろう、この傲魔竜アヴァリがな……!」

 

 大災厄より前、竜族同士の殺し合いなど珍しくもなかった。

 だが、現代だと珍しい。他竜族の城に殴り込んで宝を巡って争うなど、イマドキの竜族からすると野蛮に過ぎる。

 しかし、アヴァリは違った。彼は強欲で傲慢で、自身が欲しいと思った宝は力で手に入れてきたし、気に入らない奴は全員ぶっ殺してきた。相対する兄弟もまた、昔気質の蛮族竜であったのだ。

 

「私は我が財宝の全てを賭けよう。もちろん報復もさせない。貴様らは何を賭ける?」

「全てだ……!」

「オレも同じだ!」

 

 そして、財宝や誇りの為ならば、命を賭けて戦うのが昔気質の竜族男児というものだった。

 城の中には、既に下僕翼竜はいない。ほとんど兄弟に殺されたからだ。生き残った奴は逃げた。アヴァリは気にしない。どうせすぐ増えるからだ。

 

「ははははっ! 久しいなぁこの感じ! 存外やるではないか若いの!」

「落ち着け弟! 幻術に惑わされるな!」

「うぉおおおおおッ!」

 

 傲魔竜の玉座の間にて、三人の漢たちが戦っていた。

 呪詛が飛び、魔弾が爆ぜ、斬撃の余波で壁が崩落する、竜族同士の殺し合いだ。

 不死同士の殺し合いは凄惨で、血生臭い。四肢欠損と瞬時再生。飛び散る竜血。美しさなどない。狙いは常に一点、互いの心臓のみ。駆け引きなど、けん制など、全て一撃の為の布石である。

 故に竜族の決闘は、あまりにもあっさりと決着する。

 

「はははっ……! 見事だ、若いの……!」

「うるせぇ、死ね」

 

 ぐしゃりと、エリーゼの父の心臓が潰された。

 呆気なく、最新の英雄は死んだ。

 その戦いの勝者は、兄弟であった。

 

 アヴァリは既に息絶えている。心臓が潰されたのだ。再生する事はない。

 二対一とはいえ、尋常な決闘である。彼の一族からの報復はない。そして、勝者は全てを得るのである。

 

「さて……復讐も済んだし、あとは……」

「お楽しみの時間だな! 兄ちゃん!」

「おうよ!」

 

 兄弟が襲撃した理由は、復讐と財宝の簒奪である。そう、財宝だ。宝物庫の最奥にある、最高のお宝が真の狙い。

 それこそ、噂に聞く傲魔竜の娘であった。

 

 ヴィーカの娘、テレーゼ。アヴァリの妻といえば、竜族視点……否、異世界人視点最高に激マブの竜姫として有名である。

 ならばその娘は、きっと凄まじい美女に違いないと思ったのだ。実際、噂によると生まれながらの貴人とか真の令嬢とか言われてたらしいし、そんなん絶対激マブやんといった思考である。

 で、復讐の後でその娘を食べるのだ。蛮族思考の極みである。

 

「えーっと、どこだぁ……?」

「この扉じゃねぇか? オレでも壊せないぞ、これ」

「お、さすが弟。よし、今開けるぞ」

「兄ちゃん、オレ身体が熱くなってきたぞ!」

「うるせぇ! 集中させろ!」

 

 娘がいるのは、宝物庫の最奥であると思われた。

 アヴァリはよほど娘が大事と見え、宝物庫は恐ろしく厳重な施錠がされていた。

 物理的な罠や鍵は全て弟が破壊し、魔術系の仕掛けは兄が解除していった。

 

「はぁ! はぁ! もうすぐ、もうすぐテレーゼの娘を……!」

「もう我慢できねぇー!」

 

 道中、兄弟の息子は絶好調だった。

 あまりにも絶好調過ぎて、二人は歩きながら衣服を脱いでいった。全裸フルチンだ。

 戦闘後の熱が、今か今かと放出の時を待っていた。ギンギンだ。

 

「ここがその娘のハウスか!」

「いいから入ってみようぜぇ!」

 

 そうして、ギンギンフルチン兄弟は、宝物庫に押し入り……。

 

「我が名は、エリーゼ・フラム・ミラヴィーカ・アヴァリツィア。月夜に生まれし竜。傲魔と宝銀の娘。銀竜剣豪ヴィーカの孫。例え身体は屈しても、心まで屈するとは思わない事ね……」

 

 そこに、ちんちくりんがいた。

 

 噂通り、娘は美しかった。だがその美貌は、あくまで子供のソレであり、将来が楽しみだねとなる美しさだった。

 佇まいも噂通り高位竜姫そのもので、名乗りも最高に決まっている。もし一連の流れを平均的竜族女子がやれば、どんな竜族男子でも悩殺できてしまいそうなほど洗練されていた。

 だが、幼竜だ。いや幼竜に見える成竜だ。かわいいねとは思えても、全く全然これっぽっちも滾らない。

 

「弟よ、あの娘を犯せ」

「む、無理だよ兄ちゃん、ほら……」

 

 せっかくだからと事に及ぼうとしても、剣が無ければバトルができない。

 フルチン兄弟のギンギンは、エリーゼを見てしおしおになってしまったのである。

 それはまるで、花が枯れる様を早送りしたような光景であった。枯れたのは兄弟の性欲だが。

 

「くっ、不調法者……!」

 

 エリーゼは覚悟していた。

 城が襲撃され、父が敗れた事を悟った時、エリーゼはこれから起こる最悪な事態を、すぐに覚悟したのである。

 殺されるか、弄ばれるか。竜族を増やす為の孕み袋になる事だって、覚悟の上で竜の名乗りを上げたのだ。

 せめて、心だけでも、と。

 

「どうする、兄ちゃん?」

「あぁ~、そうだな~」

 

 にも関わらず、全くそんな事にはならなかった。

 別に期待していた訳じゃない。誰が好き好んで親の仇の慰み者になどなりたいものか。抵抗できる力があれば、エリーゼはとっくにやっていた。

 それはそれとして、屈辱であった。

 

「あー、まぁ……売るか」

「誰に?」

「人間種だよ。ナリはコレでも、ヴィーカの孫だ。人間どもの中にゃ、そんだけで高く買う奴もいるだろうぜ」

 

 そんなこんな……。

 

 エリーゼは戦利品として回収され、ラリス王国の老舗奴隷商会に売られる事となった。

 ついでのように不妊の呪いをかけて子孫繁栄ルートを潰してきたのは、せめてもの愉悦要素だったのだろうか。

 

 ともかく、こうしてエリーゼは外に出る事ができたのである。

 奴隷として、ではあるが。

 

 

 

 エリーゼが商品になってから、しばらく。

 

 かつてとは比較にならない安物の服を着せられ、ろくな調度品もない部屋で、座る椅子もボロい木の椅子で。

 しかし、エリーゼは高位竜族としての気品を保っていた。

 

「月なんて、100年ぶりに見たわ……」

 

 真に美しい者は、何があっても美しいのだと、エリーゼは信じている。

 例え泥の中であろうと、恥辱に塗れようと、奴隷に身を窶そうと。

 エリーゼには、己を愛する強さがあった。

 

 やがて買い手候補が現れたとの事で、エリーゼは別室で待機させられた。

 少し上等な服を着せられ、商会の女性従業員により身を清められ、何度も何度も「失礼のないように」と念を押された。

 だが、エリーゼにはどうでもいい事だった。誰に買われようと、自身がどうなろうと、全て些事だと思っていた。

 

 己は、ただ己であればいい。

 エリーゼは、約100年醸造し続けてきた信条を曲げるつもりはなかった。

 

「ふぅ……角の封印は息苦しいわ」

「静かに。くれぐれも失礼のないように、相手はあの……」

「分かっているわ。大変ね、貴方も……」

 

 そして、買い手候補がいるという部屋の前まで連れられ、ドアを開ける前に全ての封印を解除された。

 鮮明になった五感。解放された魔力感覚。手錠足錠はそのままだが、別に構わない。

 

「連れて参りました」

 

 で、準備完了となって、ドアが開けられた。

 

 

 

 ――その時である!

 

 

 

「ひゃ……っ!?」

 

 爆発だった。

 それは、生まれつき敏感な魔力感覚を持つエリーゼ視点、目の前で超巨大爆弾が起爆したかの様な衝撃だった。

 いや、爆発というには指向性があり、持続し過ぎている。それはさながら、爆発的な魔力の濁流であった。

 

 部屋には三人の下等種族がいた。奴隷商人と、ちんちくりんの淫魔と、絶えず爆発し続ける魔力源の人間族の男。

 それは、その青年から、エリーゼへ向けて放たれた、感情の乗った魔力であったのだ。

 

「かわいい……!」

 

 圧を増す魔力の奔流。それは、かつてエリーゼに向けられていたとある感情に似ていた。

 匂いで言うと果実。色で言うとピンク。味で言うとハチミツ。音で言うと「ゴゴゴゴゴ……!」で、触感で言うとふわふわねっとり。

 

 瞬間、エリーゼの脳内に閃く約100年前の記憶。

 母に抱かれ、父に見守られ、侍女や近衛に傅かれていた。

 誰もがエリーゼを肯定し、皆がエリーゼを尊重していた時分。

 己以外が、己を愛していた時の、あの感覚。

 

 これは、まさしく“愛”だ。

 

 いや、父からの愛というにはねっとりし過ぎている。けど愛だ。

 母から受けた事のある愛とも少し違う。それになんか脂っこい感じもするが、ともかく愛だ。

 下僕からの愛とも違う、あれはこんなに強烈じゃなかった。だが愛だ。

 

 今、エリーゼが感じた愛とは。

 初対面のこの男が向けてくる愛とは……。

 

 太陽のように眩く、

 暖炉のように熱く、

 青空のように純粋で、

 お菓子のように甘い……。

 

「我が名は、エリーゼ・フラム・ミラヴィーカ・アヴァリツィア」

 

 エリーゼは、愛で以て生まれ、

 やがて愛を失い、

 愛に飢え、死んでいない。

 

「月夜に生まれし竜。傲魔と宝銀の娘。銀竜剣豪ヴィーカの孫」

 

 弱き竜、儚き娘、

 宝を持たぬ貧しき子。

 

 誰でもないエリーゼは、思う。

 せめて、心だけでも、と。

 

「人間の貴方に、この私を愛でる覚悟はあるのかしら……」

 

 その時、100年ぶりに、

 己以外が、エリーゼの“飢え”を満たした。




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竜族襲来

 感想・評価など、ありがとうございます。励みになってます。
 誤字報告もありがとうございます。ホント申し訳ない。

 今回はこんな感じになりました。
 解釈違いなら申し訳ない。

 今回、最後にアンケあります。
 気軽にお答えください。



◆現在の状況◆

・主人公=手のひらドリル。このロリ……可愛すぎる……!
・エリーゼ=約100年ぶりの愛に内心大パニック。この下等種族、私の事好き過ぎだろ……!


「人間の貴方に、この私を愛でる覚悟はあるのかしら……」

 

 言って、小さな竜族少女は白銀の長髪を掻き上げてみせた。

 

 美しい少女だった。

 美しい声だった。

 そして、あまりにも洗練された、美しい立ち振る舞いだった。

 

 俺に相応の教養があれば、あるいは異世界流の礼儀作法の知識があれば、上手く返せたかもしれない。

 場に静寂が過る。何か、とにかく何か返事をしなきゃ感が湧いてきた。

 

「あ、うん……?」

 

 けど、初対面の子にこんな事言われて即返事ができる程、俺のアドリブ力は高くなかった。

 決まった、とばかりのドヤ顔の少女――奴隷商品のエリーゼは、ドヤ顔キープで何故か俺の双眸へ向け真っすぐ鋭い眼光を向けていた。なんで?

 敵視されてる感はない。侮蔑とか、そういう負の印象もない。なんだろう、何か期待されてるような、そうじゃないような……?

 

「あー、イシグロ・リキタカです。イシグロが苗字で、リキタカが名前。こっちは奴隷のルクスリリア、淫魔だよ」

「ど、どもーッス……」

「そう……」

 

 小さく頷くと、次いでエリーゼは腕組みモデル立ちになった。

 その容姿はあどけない幼女そのものだが、芯の通った立ち姿はとても様になっていた。

 

「ふむ……」

 

 それにしても、エリーゼは本当に可愛いロリだと思う。

 可愛いし、綺麗だ。綺麗系が極まり過ぎて、一周回って可愛い系だ。

 

 髪は腰に届くほど長く、ボリューミーだった。髪色は血統通り白銀で、どこかブルームーンを思わせる静謐な美しさがあった。

 瞳の色は夏の青空のような紺碧で、漆黒の瞳孔は縦に細長い形をしていた。綺麗で、澄んでいる。しかし、その眼差しには如何にも上位者然とした怜悧さと高慢さが根付いているように見えた。

 リリィがメスガキの目だとしたら、こっちは女王様の目だ。女王様アイズだが、ロリの目なので可愛い以外の何物でもない。おかわいい事。

 

 身長はリリィよりは大きいが、その差は5センチくらいしかない。ロリコン計測で142センチといったところか。身体つきはリリィより幼い印象で、リリィよりも華奢だ。

 肌はいっそ病的と言えるほど白く、けれど不健康な印象はない。血色の良い健康的な肌というより、白真珠のような肌だった。

 

 何より目につくのは、側頭部から生えた左右一対の角である。

 それはリリィのような羊然とした形ではなく、ゆるくS字状を描いて上を向いたパブリックドラゴンイメージの形状であった。角の生え際は太いが、先端にいくにつれ細くなっている。色は濃紺で、白銀の髪によく栄えている。

 

 幼い丸顔。小さな身体。丸く大きな瞳に、存在感のある髪と角。

 少女というより幼女。幼女というより淑女。ロリであり、レディである。エリーゼは、そういう女性だった。

 ロリコン的にはオールオッケーである。

 

「イシグロ様は、竜族の名乗りについてご存じですか?」

「……ええ、一応は」

 

 慌てて頷くと、奴隷商人は営業トークをはじめた。ロリに夢中で反応に遅れてしまったが、仕方ない。

 

 続くクリシュトー氏の話をまとめると、こうだ。

 竜族とは力と誇りと契約を重んじる種族なので、自身の名を偽る事は絶対にない。だから、今さっきの名乗りはマジなんだよ、と。

 

「ふぅむ……」

 

 エリーゼ・フラム・ミラヴィーカ・アヴァリツィア。

 長い名だが、記憶しやすい。詠唱の一種だと思えば難しくない。

 エリーゼとは彼女個人の名。フラムは生まれた場所で、ミラヴィーカは銀竜一族の一員という意味。最後のアヴァリツィアはアヴァリさんの娘って意味だ。

 これに偽りがないのなら、商人の言ってた血統に間違いはないという事だ。まぁそんなのどうでもいい事だが。肝腎な事はその身に宿すロリ性であり、血ではないのだ。

 

「エリーゼは別室で待機を」

「かしこまりました」

 

 しばらくの営業トークの後、血統書付き竜族は相手の山札に戻ってしまった。

 正直もうちょっと眺めていたかったが……。

 

 いや、いい。

 どうせすぐ眺め放題コースになるのだ。

 

「じゃあ、待っているわね……」

 

 去り際、エリーゼはこう言い残した。

 その言葉は絶対的な自信に満ちているように感じられた。本当に、よく分からない心理だが、彼女は俺が自分を買う事を確信しているようだった。

 

「ひょえー、マジもんの竜族ってあんな感じなんスねー。んー、でもなんか、ご主人に向ける目が変だったような?」

「うん、なんか睨まれてたね……」

「うーん、戸惑ってる? みたいな?」

「そうかな、自信たっぷりって印象だけど」

「それは……そうッスけどぉ、なぁんか違和感あるんスよねー」

 

 少ししか話してはいないが、彼女の言動ひとつひとつにはしっかりと芯が通っているように感じられた。

 声は大きくないのに、相づち一つ取ってもしっかり耳に響く良い発声をしていたのだ。教育の賜物か、あるいは竜族特性なのか。それに加えてあの立ち振る舞い、否が応でも自信自負自尊心というものを感じ取ってしまうね。

 

「あと、名前が長かったッスねー」

「エリーゼ・フラム・ミラヴィーカ・アヴァリツィア。フラム城生まれ銀竜育ち、アヴァリさんの娘のエリーゼちゃんって意味だね」

「わ、すごいッスねご主人!」

「ま、多少はね?」

 

 この程度、オタクからすると余裕である。

 俺はドラグスレイブも黒棺もインディグネイションも少佐の演説もルイズのフルネームだってカンペ無しで言えるのだ。

 

「もし、イシグロ様がご契約なさる場合、彼女はエリーゼ以外の名を失う事になります」

「そうなんですか」

「奴隷ですから」

 

 などと話しつつ、せっかちな俺は、さっそくクリシュトーさんに顧客として相対した。

 相手も俺の変化には気が付いているのか、対面前とは違い緊張の糸を緩ませている風だった。

 

「エリーゼですが、喜んで買わせて頂きます」

「……ありがとう存じます」

 

 クリシュトーさんは、ひと儲けの喜びというより、安堵の息を漏らして礼を述べた。

 逆鱗とか値段とか色々あるが、全部どうでもよくなった。

 目の前にクソかわロリがいるのだ。10億でも余裕で出しちゃう。

 

 

 

 さて、契約書やら何やらはつつがなく……とはいかなかった。完了はしたが、時間がかかったのだ。

 ルクスリリアの時は軽くサインするだけで済んだのに対し、エリーゼの場合値段的なアレか種族的なソレなのかで色々あったのだ。

 書類ひとつひとつの解説とサインと指印。同じような書類の内容の説明や、どこそこに向けた契約書とか色々。

 お金の用意にも時間がかかった。なんせ10億ルァレだ。それに関してもまぁ色々あったが、紆余曲折ありつつその日のうちに10億きっかり一括払いした。こういう支払いは現代日本ほど便利じゃないし、異世界なりの決済法があるのだ。実に面倒臭かった。

 

「これがエリーゼの奴隷証となります」

「はい」

 

 ややあって、俺はようやっとリリィの時と同じくドッグタグめいた奴隷証を渡された。

 魔力を流したドッグタグには、イシグロさん家の奴隷・エリーゼと書いてある。長い名前はなくなったので、これから彼女はただのエリーゼだ。

 

「随分遅かったのね……」

 

 そうして再会したエリーゼは、奴隷とは思えぬお嬢様風の服装で現れた。

 なんというか、露出度少なめのお上品お嬢様スタイルといった印象の服だった。露出してるのは顔とお手々のみで、細いおみ足も靴下とブーツで隠れている。

 リリィの服がサマーメスガキだとしたら、こちらは京都観光中のお嬢様といった雰囲気だ。露出度バトルじゃリリィの圧勝だが、お清楚バトルじゃエリーゼの圧勝である。俺はどっちも好きだ、可愛いから。

 

「じゃあ、付けるよ」

「ええ……」

 

 前回と同じくらい緊張しつつ、前回と同じように彼女の首にドッグタグを付ける。

 髪を分け、絡まらないように鎖を通し、首の後ろで連結させる。奴隷証が繋がると同時、魔術的束縛が機能してエリーゼは名実ともに俺の奴隷となった。

 

「今後ともよろしく」

「ええ、わかったわ……」

 

 胸の前に下がったドッグタグに触れ、エリーゼは小さく頷いた。

 商品の時も、俺の奴隷になった時も、エリーゼという竜族少女は変わらず凛としていた。

 

 

 

 そんなこんな。

 

 俺たちが店を出る頃には、辺りはすっかり夜になっていた。

 奴隷商館には朝食後すぐにやってきたのだが、契約書やらお金やらで色々と時間を食ったのだ。とはいえだ。10億の商品を取り扱うのである。本来ならもっと時間がかかって然るべきだったのかもしれない。今日中に終わって良かったと思うべきだろう。

 

「じゃあ帰ろう」

「はいッス!」

「ええ」

 

 俺の一歩後ろ、右にルクスリリア、左にエリーゼで歩く。

 当初はエリーゼは俺の三歩くらい後ろを歩いていたのだが、遠慮なく主人のほぼ隣で歩くリリィを見て位置を直していた。俺としてはそっちのが嬉しい、両手にロリだ。

 

「へぇー、竜族の角って魔力感知の機能もあるんスねー。だからあの時……」

「ええ。淫魔の角は何の為に?」

「何の為なんスかね? 飾り? なんかあった気するッスけど、ド忘れしたッス!」

 

 一歩後ろでは、エリーゼはルクスリリアとお話していた。物怖じしないルクスリリアと竜族お嬢様の相性は悪くないようである。

 二人の仲が良いのはとても嬉しい。いじめっ子のリリィなんて見たくないからね。

 

「ん? おう、イシグロか」

 

 そうして帰路を歩いていると、リリィ購入時と同じ場所でギルドの受付おじさんと遭遇した。

 彼はこれまたオフっぽい私服姿で、右手にデカい焼き鳥みたいなのを持っていた。休日をエンジョイしてるみたいで何より。

 

「こんばんは。良い夜ですね」

「おう……。あーっと、そっちの嬢ちゃんは新しい奴隷か?」

「はい。エリーゼ、こちらはギルドの受付をしてくれるおじ……職員さん。挨拶して」

「ええ……」

 

 後ろにいたエリーゼを前に誘導すると、彼女は大人相手に物怖じせず名乗りを上げた。

 

「我が名は、エリーゼ。イシグロ・リキタカの第二奴隷よ。姓はさっき捨てたわ」

 

 どうやら前の長い挨拶はしないらしい。が、前と同じくらい堂々と名乗った。

 堂々と、自身が奴隷身分である事を表に出したのだ。リリィもそうだったが、もしかしたら異世界人視点奴隷身分ってそこまで悪い立場じゃないのかもしれない。いや、でも街中の奴隷っていつも忙しそうに働いてるんだよな、うぅむ……。

 

「おう……こりゃどうも。イシグロ、こいつは竜族か?」

「はい」

「銀の竜族、か……。へっ、そういう事かよ……」

 

 おじさんは何かしたり顔で頷くと、エリーゼの方を見た。

 何がそういう事なのか分からないが、おじさんは竜族奴隷にいたく感心してる風である。竜族の奴隷なんて凄いわねといった感じだろうか。

 

「じゃあなイシグロ、次も生きて帰って来いよ。お嬢ちゃんたちもな」

 

 そう言って、おじさんは焼き鳥をひらひらさせながら去って行った。

 

「人間種って、歩きながら食事をするのね」

「基本的に座って食べるッスよー」

 

 などと話しつつ歩き、宿屋に到着。

 店主に住人が増えた事を伝え、追加料金を払って借りた部屋に向かう。

 道中、エリーゼは宿屋の内装を無感動に眺めていた。お嬢様視点、何か言いたい事があるのかもしれない。

 

「ただいまッスー」

「リリィ、服脱ぐの手伝って」

「あいッスー」

 

 やがて住み慣れた我が家に入ると、俺はルクスリリアに手伝ってもらって外行き用のお高い服を脱いでいった。

 これが装備品だったらコンソールポチポチで簡単に着脱できたのだが、こういう普通の服はいちいち着たり脱いだりしないといけない。

 もし異世界から地球に帰還したら、俺はまともにお着換えができなくなってるかもしれないな。まぁ仮にマジでそうなったら、俺は即自殺するがね。二人のいない世界に未練はない。

 

「ふぅ……あれ、エリーゼ?」

 

 息苦しい服から着替えると、エリーゼが立ち止まっている事に気づいた。

 放置していて戸惑わせちゃったか。いや、そんな感じはないな。奴隷初日の彼女は、初めての部屋で泰然自若と何かを待っていた。

 

「どうしたの?」

「侍従を待っているわ」

 

 淀みない返答に、俺はなるほどと納得した。

 よくは知らないが、聞くに彼女は良家の生まれ。単純なオタク思考だが、そういうトコのお嬢様は身の周りのお世話をメイドさんとかにやってもらってるイメージだ。お着換えもまた同様に。

 なるほどお嬢様だぜ、という気持ちである。

 

「えー? 竜族の人って自分でお着換えもできないんスかー?」

「できるわ。けれど、すべきではないわ。下の者の仕事を奪ってはいけないのよ」

「なんスかそれ~?」

 

 言いたい事自体は分かるが、まぁ残念ながらうちにメイドさんはいないので、これからは自分で脱ぎ脱ぎしてもらおう。

 俺がしてもいいのだが、それはもうそういうプレイだろう。お着替えが汚れてしまう。

 

「ごめんね。うちにそういう人はいないから、自分で脱いでもらえる?」

「わかったわ」

 

 言うと、エリーゼは存外あっさりと衣服に手をかけた。

 それからぱさりぱさりと服の留め具を外していき、やがて全裸になった。

 全裸になった。なんで?

 

「それで……私は何に着替えればいいのかしら?」

 

 そのまま、一糸まとわぬエリーゼは、誰憚る事なく俺の方を向いた。

 想定通り、エリーゼの身体は未成熟だった。当然のように胸は平坦で、お尻まわりにも肉がない。

 女性的膨らみに欠けるものの、全体的に丸く柔らかそうな印象で、手足も細く華奢だ。実際、左右の肋骨はうっすらと浮き出ていた。肌が白い分、陰影がはっきり見える。

 

「んー? また変わったッスか……?」

 

 何故か首をかしげるリリィだったが、俺の方は唐突なロリ全裸案件に完全硬直してしまった。

 見とれていた、という方が正しいか。

 

「貴方、やっぱり……」

 

 と、エリーゼの言葉にハッとなって、俺は慌ててアイテムボックスに手を突っ込んだ。

 危ない危ない、非童貞じゃなかったら即死だった。

 

「あ、あぁ……着替えはここに……」

 

 クリシュトーさんが付けると言っていた竜族購入特典には、エリーゼのお世話セットや竜族生態本が入っているのだ。その中には季節ごとのシーンごとのお着換えも入っている。至れり尽くせりである。

 俺はアイテムボックスから服の入ったカバンを取り出し、その中から適当な服を手渡した。

 

「これ着て」

「わかったわ……」

 

 エリーゼは渡された服をひっ被り、もごもごしながら着衣……できていない。

 順番が間違っているのか、さっきから頭から被った布がスライムめいて蠢いている。

 

「あ~、もうしょうがないッスね~!」

 

 どうしようか見ていると、見かねたリリィが加勢した。

 そのまま幼児のお着換えをサポートするように袖を通させていく。

 

「こんくらい自分でやってほしいッス~」

「ええ、そうするわ」

 

 まるで幼女が幼女の世話をしている様。見ようによってはキマシタワーが建ちそうだが、残念ながら幸運にも俺は間に挟まるロリコンポジであった。キテルグマには気を付けよう。

 

「ま、まぁ……とりあえず座って」

 

 俺はダイニングテーブルの椅子を引き、お嬢様を誘導した。

 お嬢様は「わかったわ」と言って、優雅に腰を下ろした。その対面の席に、俺とルクスリリアが並んで座った。

 すると、目の前のエリーゼから何故か鋭い眼差しを受けた。なんで?

 

「えーっと……」

 

 帰宅して、お着換えさせて、座らせた。

 このまま食事でもしながら親睦を深めようかと思ったが、なんかそんな雰囲気じゃあないぞ。俺まだ睨まれてるし。幼女の目なので怖くはないが、居心地は悪かった。

 うん、食事の前に、もう少し話そう。一歩進んで二歩下がる作戦だ。

 

「改めて、俺はイシグロ・リキタカ。この街で冒険者やってる。一応、銀細工っていう上の階級だよ」

「そう……。今の私は、貴方の奴隷のエリーゼよ。傲魔竜の娘で……その銀細工に彫刻されてる剣の持ち主の孫ね」

「え? そうなの?」

 

 いきなりの新情報である。俺は今一度自身の首にかかった銀細工を見た。

 これまであまり気にしてこなかったが、確かにハガレンの銀時計めいた円盤には、クロスした二本の剣が彫刻されていた。それぞれ長い剣と短い剣だ。

 これが銀竜剣豪マークなのだとしたら、ヴィーカ氏は二刀流の使い手だったのかな。

 

「そうだったんだ」

「ええ。剣の彫刻という事は、貴方は銀竜の年に昇格した事になるわ。その銀細工は建国の一党を象徴する彫刻をされるのよ……」

「へー」

「まー、アタシらご主人以外の銀細工持ち見た事ないッスからねー」

 

 流石は年の功というべきか、140歳幼女のエリーゼは博識だった

 それからエリーゼと色んな話をすると、彼女は特に古の知識に詳しい事がわかった。

 異世界あれこれのルーツとか、どこそこの種族の歴史や文化など。まるでロリペディアである。

 

「ええ。だから貴女は、勇者アレクシオスの遠い遠い子孫って事になるわね。珍しい事ではないけれど……」

「ほえー、全然知らなかったッス」

 

 みたいな感じで話している間、何やらエリーゼからチラチラと視線を頂く事があった。先ほどの鋭い眼とは違い、今度は「チラチラ見てただろ」と因縁付けたくなるチラ見だ。

 一体全体、それはどういう視線なのだと考えても、よく分からない。

 会話中の彼女は姿勢正しく、如何にもご令嬢といった雰囲気だ。話し姿もピシッとしていて、淀みがない。けれど時折、俺とルクスリリアを交互に見るのである。ちょっと不自然なタイミングで。

 

「んー?」

 

 その謎視線にはルクスリリアも気づいているようで、彼女は時たま首をかしげていた。

 思えば、ルクスリリアはちょくちょくエリーゼに訝しむような目を向けていた気がする。何か異世界人特有のアレやコレやがあるのかもしれない。

 

「……寒いわ」

 

 やがて、会話にひと区切りがついたところで、エリーゼは小さく呟いた。

 寒い……寒いのだろうか。曰く、ラリス王国にも四季があるらしいが、今はちょうど夏の始まりといったところである。その割に着込んでいたあたり、もしかしたら竜族は寒さに弱い種族なのかもしれない。

 

「暖炉つける?」

「……そこまででもないわ」

 

 魔法式暖炉をつけようと提案すると、断られてしまった。

 よく分からない。寒いんじゃないのだろうか。

 

「ん-? 竜族って魔力で……あっ」

 

 隣でルクスリリアの頭上に電球が灯った。

 すると、やおら浮遊したルクスリリアはエリーゼのところまで行くと、その耳に唇を寄せて何かごにょごにょ囁いた。対するエリーゼも僅か唇を動かしていた。

 異世界ナイズドされて強化された俺の耳でも分からないこそこそ話。とても気になる。

 

 やがて内緒話が終了すると、ルクスリリアは浮遊したまま一歩分後退した。

 そして、俺と目を合わせたエリーゼは、先ほどと同じく強い眼差しで俺を射抜いた。

 見つめ合うこと1秒、2秒、3秒後……エリーゼはいっそう目つきを鋭くして、云った。

 

「あ……貴方、今すぐ私を愛でなさい……」

「へ?」

 

 唐突なビックリ発言に困惑していると、エリーゼの後ろにいたリリィがクレーンゲームみたいにエリーゼを宙へと掴み上げた。彼女は飼い猫めいてされるがままだ。

 

「さ、ご主人こっち来るッスよ~♡」

「え? あぁ……」

 

 アームに引っかかったぬいぐるみみたいに運搬されるエリーゼに続き、誘導されるままソファの前まで歩く。

 

「ご主人、ここ座るッス!」

「うん?」

 

 言われるがままソファの真ん中に座ると、運搬クレーンと化したルクスリリアは商品を俺の上に持ってきて、ゆっくり下ろしはじめた。

 

「ご苦労様、ルクスリリア……」

「きひひっ、こういう時はお礼ッスよ~」

「そう、ありがとう……」

 

 ぽすん、と。

 そのまま、俺の膝の上にエリーゼが収まった。

 

 お膝の上のエリーゼはお上品に座っており、俺視点彼女のうなじと角の先端が見える構図だ。

 小さな竜族少女は、実際に触れてみると想像よりも細く、柔らかかった。

 

「え……これどういう状況?」

「……近い方がいいでしょう?」

 

 すぐ真下から返事。彼女の視線はソファ前の暖炉に向いている。

 

「いやー? 人間種のご主人にはちょっと分からない感覚ッスかねー?」

「そうなのね……」

「はあ」

 

 どうやら、二人には分かって俺に分からない事のようだった。

 

「悪くないわ……」

 

 何がどう良し悪しなのかは分からないが、俺は今日初対面の没落令嬢を膝の上にお乗せしていた。

 膝の上には布一枚隔てたエリーゼのお尻があり、ルクスリリアとはまた違うロリの匂いが俺の鼻孔を直撃していた。

 すると、異世界で箍が緩んでいる俺の息子がむくむくと元気になり始める訳で……ボタン連打で鎮静化しないと。

 

「じゃ、アタシご飯取ってくるッス! 一番良いのでいいッスよね?」

「あ、ああ、よろしく」

「ごゆっくり~♡」

 

 言うと、ルクスリリアは部屋を出ていった。

 自然、部屋には俺とエリーゼのみ。彼女は相変わらず綺麗なお嬢様座りで俺の膝にいる。かと思えば、たまにもじもじしてお尻を揺らしていた。

 やめろエリーゼ、その動きは俺に効く。

 

「えっと、これは……?」

「貴方、やっぱり変なのね……」

 

 控えめな問いには、変人認定が返された。いや変態認定か?

 何のこっちゃと思っていると、エリーゼはそのまま俺の背に体重を預けてきた。

 

 すとんと、俺の胸に彼女の後頭部が預けられた。

 量の多い髪がくすぐったく、幼竜の匂いが濃くなった。ふぅと吐いた彼女の息が、とても官能的に感じられた。

 

「あのー」

 

 どういう訳か、本日初対面の奴隷は、初対面の主人に身を預けて安らいでいた。

 やけに早い俺の心臓と、ゆったり鼓動する彼女の心臓の対比がおかしかった。

 

「私はもう、貴方の財宝(もの)よ……」

 

 しばらくそうしていると、不意にエリーゼは口を開いた。

 黙って聞いていると、彼女はゆったりと言葉を紡いだ。

 

「竜族にとって、宝は飾るものではないわ。愛でるものなのよ……」

 

 膝の上に置いていた彼女の手が動き、所在なく垂らしていた俺の手を取った。

 そしてそのまま、アトラクションの安全ベルトを締めるようにして、自らのお腹の前に持ってきた。

 

「宝を愛でるのは、主人の務め……」

 

 ドクンドクンと、まるで童貞卒業前のように心臓が早鐘を打っていた。

 対するエリーゼの体温に変化はない。本で読んだ通り、竜族は体温の変化に乏しいのだ。心拍もまた、一定である。

 

「私は……孕む事は、できないけれど……」

 

 クロスした手の上に、エリーゼの手が重ねられる。

 手まで熱くなってる俺と、ひんやり冷たい白い手。竜の手は、僅かに震えていた。

 彼女はなおも暖炉を見つめながら、云った。

 

「その覚悟は、あるのでしょう……?」

 

 よくは分からないが……。

 本当に、よく分からないが。

 現代日本人に、異世界竜族の思考回路はサッパリだが……。

 

 そういう事というのだけは、分かった。

 童貞だったら踏み出せなかっただろうが、今の俺は違う。

 欲望に負けた訳でなく、愛しさが勝って、据え膳食う覚悟を決めた。

 

「エリーゼの事、もう少し聞かせてもらっていい?」

「ええ。10年分しか、ないけれど……」

 

 あすなろ抱き、あるいは後ろ抱き。

 俺は膝上のロリ竜姫を、優しく抱きしめた。

 幼竜の、冷えた身体を暖めるように。




 感想投げてくれると喜びます。



 次回、エリーゼ堕つ!


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竜族、決戦中です!

 感想・評価など、ありがとうございます。お陰で続けられています。
 誤字報告もありがとうございます。助かってます。感想返信でも誤字ってるのホントどうかと思いますね。

 アンケートのご協力、ありがとうございました。
 結果、エリーゼはイシグロを「アナタ」と呼ぶ事になりました。

 今回、頂いた感想に触発され、エリーゼに新たな設定(?)を生やしました。
 悪いのは作者ではありません。

 あと、もし運営様から「ダメ!」と言われたら、このエピソードはR18版として短編で投稿します。
 一応、キスシーンは大丈夫なはず。青少年のなんかには配慮しており、極めて健全で社会的に害のないエピソードとなっております。


 性癖とは、何か。

 辞書に書いてある方の意味は置いておいて、それは自分自身の事だと俺は思う。

 自分の事を、ちゃんと知ってる人は案外少ないものである。

 

 俺はロリコンだ。

 目覚めたのは小学校高学年の頃で、以降この性癖に変化はない。自身の性癖を自覚するにしては、少し早めの歳ではあったと思う。

 実際、俺の友達も大体中学の三年間で何かしらの性癖に目覚めていた。

 

 前世、俺も人並み程度には友人たちと猥談などをして楽しんでいた。

 すると、出るわ出るわ性癖の嵐。皆、ホントに色んな(ヘキ)をお持ちだった。

 性癖語りは蜜の味。恥ずかしがるような奴もいたが、俺の周りは割とオープンな奴が多かった。

 

 男の娘こそ至高! 見よ、麗しき鰤のおみ足! 男の娘大好き侍・後藤くん。

 百合しか勝たん! 男なんていらんのや! ゆりんゆりんの伝道師・佐藤くん。

 足の太いは七難隠す! ジャイアニズム錬金術を食らえ! グリッドマンから特撮オタに変身した男・江藤くん。

 

 とか、まぁ色々……。

 女子三人集まれば姦しいというが、男子三人集まれば即猥談である。

 青春だね。

 

 で、そんなこんなさんざん猥談を重ねてきた友人たちと話すうち、なんとなく見えてきたものがある。“メイン性癖”と“サブ性癖”の存在だ。

 おねショタ好きの斎藤くんは、メインがそれで、サブに姉性癖があり、そのまたサブにショタ性癖があったりしたのである。勿論、メインのみの奴もいたが、複数のメインを持ってた奴はいなかったような気がする。

 俺で言うと、メインにロリ性癖があり、サブにメスガキやバブみや色々が付随する感じだ。あくまで中心はロリであり、他はロリを引き立たせる為の、もしくはメインから派生した性癖なのである。

 

 中には、いくつもの性癖を持っている剛の者もいたにはいたが、よくよく話すと彼も核となるメイン性癖があったように思われた。

 彼の語る性を深堀りすると、全てひとつの根に由来している癖のように推察できたのである。

 結局のところ全部おっぱいでは? と言った具合に。

 

 生まれ持った性癖。後からきた性癖。

 到底、コントロールできるものではない。

 まして、知らぬのならば、尚の事。

 

 で、何でか知らんが俺は異世界に転移して……。

 

 なんやかんや、無事童貞を卒業できた訳だ。すると、新たな性癖が生えてきたのである。

 いや、生えた……というより、隠れていたものを見出したといった方が正しいか。

 まぁそれはいい。

 

 当然として、性癖というのは地球人男子だけにあるものではなく、異世界人女子にも存在するものである。

 例えばルクスリリアの場合、彼女はS寄りのMである。

 普段はサディストっぽく振る舞ったり、攻める事でテンションを上げるのだが、堕ち往く際にはマゾヒストと化すのである。これがメイン性癖で、サブ性癖に童貞吸精とかおねショタシチュとかがあったようだ。

 曰く、処女時代のルクスリリアは、自身をM寄りのSだと思っていたらしい。が、実際にはその逆だったと。「淫魔は度胸、なんでもやってみるもんッスね」とは当人の談。

 

 メイン性癖と、サブ性癖

 自覚ある性の根源と、隠れた癖の発見。

 己の性癖を知るという事は、己自身の本質を知るという事。

 隠れた性癖を見出す事は、己の知らぬ己を見出す事。

 

 まぁ……何が言いたいのかというと。

 

 どれだけ猥談しようと、どれだけ深層心理を探ろうと。

 世に自覚のない性癖の何と多いことか、という話である。

 

 

 

 とある宿屋のとある部屋。

 

 ソファの上、小さな身体を抱きしめながら、俺はエリーゼの昔語りに耳を傾けていた。

 彼女の過去は、可哀想なのは抜けない派の俺にとって、普通に抜けない類の話だった。

 訥々と、淡々と、エリーゼは自身が生まれてから10年間の話を語った。主観でありながら、そこに感情を交えず、客観的に起きた事だけを話す様は、当人の過去であるはずなのにどこか他人事のような風だった。

 

 途中、夕飯を持ってきたリリィが参加してきたあたりから、話は四方八方に広がっていった。その段になって、彼女の語りにようやく色が付きはじめた。

 好きだった本の内容とか、宝物庫にあった宝の話とか、竜族の生態とか。いつしか、彼女の重い話は、他愛のない思い出話に変わっていた。

 ルクスリリアはこうなる事を見越してか、テイクアウトしてきた夕飯はカラオケのパーティメニューを思わせるおつまみセットだった。

 

「他の人と一緒の食事なんて、100年ぶりだわ……」

 

 曰く、竜族にとって食事とは娯楽の一つであり、食べ物は嗜好品であるらしい。

 美食を食べながら親しい人と話し、腹でなく心を満たす。竜族は飲まず食わずでも生存できるが、一切食事をしない竜族はいないとか。

 100年間ひとりだったエリーゼは、100年ぶりに食事をした。人間と淫魔と竜族で、優雅さの欠片もないおつまみセットを食べたのだ。

 

「……美味しいわね」

 

 場末の宿屋のおつまみセット。決して、美食という訳ではないご飯だった。

 けれど、心は満たされた様だった。

 

 その後、俺たちは三人で宿屋のお風呂に入った。

 この世界、お風呂は割と普及しており、宿屋の店主にお金を払えば魔道具で湯を沸かしてくれるのだ。この宿屋に居を構えている一番の理由はコレである。

 

「これは、どうすればいいのかしら……」

「ちょっと貸して。湯を浴びる前に、櫛で髪の汚れを落とすんだ」

「ご主人、なんでそんな事知ってんスか?」

「おにまいで知った」

 

 これまたエリーゼは初めてのお風呂体験だったようで、五右衛門風呂めいた宿屋のお風呂には物珍し気な目を向けていた。

 エリーゼの話では、竜族は蒸気の籠った部屋で身体を暖め、専門の侍従に全身に“清潔”の魔法をかけてもらうらしい。サウナ+あかすりみたいな感じだろうか。なんか優雅である。

 

「ご主人も得意ッスよね、“清潔”」

「そう……。なら、何故お風呂に入るのかしら?」

「風呂に入らないと一日が終わった気がしないんだよね」

「そう……人間って不思議ね」

 

 三人で湯舟に浸かり、しばらく。

 俺たちはほかほかの状態で部屋に戻った。

 そして、色々諸々の準備を終えて……。

 

 宝を愛でる時がきた。

 

 

 

 

 

 

 世の中には、色んな性癖がある。

 当然として、それは男子にも女子にも存在し、自覚的だったり無自覚的だったりするものだ。薄い少ないという人はいるが、全くない人はそう居ないだろう。

 

 異世界人もそうだ。リリィはサドマゾだし、顔見知りの冒険者には大の巨乳好きって人もいる。

 それは、異世界にて最強種である竜族のエリーゼも同じだった。後に聞いたところによると、無自覚に。

 

 結論から言うと、エリーゼは、

 所謂、“キス魔”の性癖持ちだったのだ。

 

 

 

「ん……♡」

 

 一度目のキス。それは俺からエリーゼへの、唇と唇を触れ合わせるだけのものだった。

 軽いリップ音もない、単に唇同士を重ねただけの行い。スケベといえばスケベだが、見ようによっては健全だろう。実際、俺は理性100パーの状態を維持してキスをした。それこそ、ボクシングでいうところのジャブですらない。拳と拳を合わせる試合開始の合図に近い。

 

「ん、ふぅ……これが、接吻というものなのね」

 

 唇を離すと、エリーゼは陶然とした面持ちで呟いた。エリーゼは表情の変化こそ乏しいが、全くの無表情という訳でもない。なんとなく、彼女の表情が分かってきた。

 小さな唇、細く白い指。エリーゼはファーストキスの感触を思い出すように、人差し指で自身の唇をなぞっていた。俺はその時、“妖艶”という言葉の意味を知った気がした。

 

「エリーゼ」

「ええ……」

 

 二度目、三度目のキス。

 最初は一度目と同様に子供の遊びのようなキスだった。回数を重ねる度、音を立てたり角度を変えたりして緩急をつけていく。

 エリーゼは最初からキスに積極的で、物怖じする事なくグイグイと唇を押し付けてきた。慣れてくると単に唇を合わせるだけでなく、エリーゼは俺の唇を食んだり啄んだりしてきたのだ。

 吸精が好きだからキスが好きなリリィと違い、エリーゼはキス自体が好きな雰囲気があった。

 

「ちゅ……ちゅぷ♡ んっ、んちゅっ、んぅ♡ ちゅぅ……♡」

 

 この時点で、エリーゼは唇の感覚に夢中になっている様だった。

 ちゅ、ちゅ、と控えめな音に混じり、エリーゼの喉奥からは籠った声が漏れていた。

 

「ふぁ……はむぅ、ちゅっ♡ ちゅ、ちゅ、ちゅっ……んんっ♡」

 

 当たり前だが、俺とエリーゼでは唇の大きさが違う。普通にキスをすると、俺がエリーゼの唇を食べるみたいになってしまうのだ。

 そのお返しとでもいうように、エリーゼは右・真ん中・左と三回に分けて俺の唇を湿らせ、同じ事をするよう視線で催促してきた。

 

「んんっ♡ ちゅぷ……んふっ、ちゅぅ……♡ んむ、ちゅ……ん、ちゅっ♡」

 

 そうやっていると、最初は理性100パーでキスをしていた俺の首輪付き獣も徐々に本能側に偏っていく訳で……。

 良い頃合いになったところで、俺は彼女の口に舌をねじこんだ。

 

「んんぅ!? んちゅうっ♡ んぷ、ちゅぅ……んぐっ♡ んんっ♡」

 

 そのまま、俺はエリーゼに舌の扱いを教え込んでいった。すると生来の特質か、エリーゼはあっという間にベロの使い方を覚え、応用してきた。

 竜族の舌は長く、そして冷たい。彼女はその特性を活かし、一転攻勢(ベロチューカウンター)して俺の口内を縦横無尽に舐り倒してきたのである。

 一旦唇を離そうとすると、俺の舌を絡め取っては外に引きずり出してきた。俺の舌に、細く冷たい舌が巻き付いている。上気したエリーゼの美貌は、とても美しかった。

 

 よほど気持ち良かったのか、その後もエリーゼはなかなかキスを止めてくれなかった。

 仕返しに俺の方がエリーゼの舌を吸ってやると、一度痙攣した後に大人しくなってくれた。

 キス魔ドラゴン、恐ろしい子……!

 

 その後は、ずっと俺のターンだった。バーサーカーソウルである。

 リリィ購入後、毎日のように経験を積んできたのだ。初めての相手といえど、戸惑う事はなかった。

 

 竜族の肌は冷たかったが、触っていると次第に温かくなっていった。

 夏になると重宝しそうな肌である。熱くないかと訊いてみると、むしろ心地よいのだと教えてくれた。

 

 まぁ色々あって……。

 合体からのバトルゴー。インスタンス・ドミネーションで、ダイナゼノンフルバースト。

 こうして、俺のユニバースの平和は守られた。

 

 そして、怪獣プロレスの後……。

 

 エリーゼは激しく息を乱す事なく、ぼうと宙を眺めて放心していた。

 激しく動く事はなかったが、とても情熱的で白熱した戦いだったのだ。

 

「はー、ちょっと前まで童貞だったご主人も慣れたもんッスねー♡」

 

 などと茶化してくるメスガキは速攻でわからせた。

 今回、リリィは一歩引いて見守ってくれていたのだ。なので誠心誠意、丁寧丁寧丁寧にわからせたのである。リリィは可愛いですね。

 気分的にはエリーゼに連コしたいところだったが、流石に自重した。彼女は竜族であり、淫魔ではないのだ。身が持たないだろう。

 

「きひひ……ご主人♡ いい事教えてあげるッス♡」

 

 で、二回ほどルクスリリアと気炎万丈したところで、抱き着いてきたルクスリリアは俺の耳元で囁いた。

 いい事とは何ぞやと思って耳を傾けると、どうやらエリーゼに関わる事らしかった。

 

「ご主人って、手を当てて回復する魔法使えるじゃないッスかぁ♡」

「“手当て”の事?」

「そうッス♡ それをエリーゼに使ってあげてほしいんス♡」

 

 ルクスリリアの言う魔法とは、モンクの能動スキルである“手当て”の事だろう。これはスキルなので魔法ではないのだが、まぁ魔力を消費するのは確かだ。

 このスキルは直接対象に触れて発動する類のスキルで、手を当てた対象にHPリジェネ回復効果と精神系状態異常の回復効果をもたらす事ができる。

 が、このスキルは正直ちょいと微妙だ。同じ回復魔法の“治癒”シリーズと違い回復には時間がかかり、その間ずっと相手に触れ続ける必要があるのだ。なら治癒でいいじゃんという。精神回復にしても専用の魔法があるので、使うならそれでいい。

 強いて優れた点をあげるなら、治癒よりも魔力の燃費がいいところか。時間はかかるが、小休止中に使うんならこっちのがお得ではある。

 

「それを、なんで?」

「きひひっ♡ いいッスか? 竜族ってぇ、とっても魔力に敏感な種族なんス♡ だから、誠心誠意やさし~く回復魔法を使ってあげると、とっても喜ぶ性質なんス♡ ほら、“清潔”使ってあげた時も嬉しそうだったッスよね?」

「あぁ……確かに」

 

 エリーゼを見る。彼女は尚もぼーっと放心していて、俺とルクスリリアの様子を眺めていた。

 無表情だが、無感情といった雰囲気はない。とにかく、色々あって疲れてる印象だ。風呂上りのボーッとタイムに近い感じだろうか。

 

「で、中でも角は魔力の通りが良いんで♡ そこに使ってあげるといいッスよ♡」

「そうかな」

「同時にキスしてあげると、エリーゼすっごく気持ちよくなってくれると思うッス♡ 淫魔のアタシには分かるッス♡ エリーゼ、すっごいキス好き竜族ッス♡」

「それは、まぁ……そんな感じするな。けど、今じゃなくてもよくない? もっと疲れた時のがさ」

「きひひ♡ 逆に、今だからいいんスよ♡ 今、いっきかせーに攻めずにいつ攻めるんスか♡ 大丈夫、淫魔はスケベな事には真摯ッス♡」

「そこまで言うなら……」

 

 まあ、喜んでくれるんなら、やろうと思う。

 コンソールを操作し、ジョブをモンクに変更する。そして、手のひらに意識を集中して、“手当て”を発動。俺の手のひらに緑色の淡い光が灯る。ちゃんと使える事を確認し、停止。

 これを、エリーゼの角に使えばいいのか?

 

「いいッスかご主人? 使う時には、エリーゼに“好き”って気持ちを籠めるんスよ♡ そうじゃないと失礼ッスからね♡」

「おう」

 

 それから、仰向けになっているエリーゼのとこまでにじり寄り、驚かさないようにその頬を撫でた。

 ぼうとした視線が重なる。彼女は何を言われる前に瞼を閉じ、キス待ちの体勢になった。

 

「ちゅ……」

 

 キスをすると、エリーゼはシームレスに舌を伸ばしてきた。稀代のキス魔である。

 脱力したまま、彼女はゆったりと舌を絡めてきた。

 

「れろれろ……ちゅぱ♡ れろぉ……♡」

 

 蠢く舌に応じながら、手探りでエリーゼの角に触れた。右手に左角。左手に右角。仰向けのエリーゼに覆いかぶさってキスをしている構図だ。

 その状態で、俺は回復スキルの“手当て”を発動した。

 

 

 

 後に聞いた話だが……。

 

 実際に、竜族は魔力に敏感な種族であり、角は魔力を感知する感覚器官であるらしい。

 中でも一等魔力に敏感な個体は、魔力に混じった“感情”をも感知するとか。

 つまり、初対面時点で俺からエリーゼへの感情も「スケスケだぜ!」状態だった訳だ。

 

 さて、ここで問題である。

 

 そんな竜族女子に。

 ロリコンの俺が。

 角にゼロ距離回復魔法をかけたら……。

 

 一体どうなる事だろうか。

 

 

 

 答えはこうだった。

 

「んんんんんんーーーッッッ!?」

 

 めちゃくちゃになった。

 

 某対魔ニンジャ活劇ゲーム風に言うなれば、それはさながら感度3000倍のアレでもキメてしまったかの様。無論、ノー・ドラッグだ。ダメ、絶対。

 しかし効果は同等かそれ以上で、淫れていたとはいえ何だかんだお嬢様ムーブを維持していたエリーゼは、もうぐちゃぐちゃのめっちゃくちゃ。サキュバスと見紛う程の御乱心。

 

「じゅるるるるぅ! レロレロぉっ♡ んぢゅるるるるーっ!」

 

 ぴくぴく痙攣しながらも、ベロチューを継続するエリーゼ。

 

「んむぅぅぅぅぅっ!?」

 

 竜族の長い舌で窒息しかける俺。

 

「ぎゃははははは! きひひっ! きぃひっひっひっ! あーオモロ! 魚みたいッスゥ! ぎゃはは! 上位種族のくせに! 竜族のくせに! きひひひひっ!」

 

 後ろでお腹を抱えて爆笑するルクスリリア。

 

 まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。

 いや俺視点では天国なのだが、寝ているところに弱点部位に大タル爆弾竜撃砲を食らったエリーゼからしたら、冗談ではなかった事だろう。

 

「フゥーッ!! フゥーッ! フゥーッ!」

 

 エリーゼの狂竜化状態は、“手当て”スキルを停止してもしばらく続く事となった。

 キスが終了した後も、エリーゼは理性をなくしたように全身の肌を擦り付けてきた。それは愛撫というよりは、犬猫が飼い主に自身の匂いを擦り付けている様に似ていた。

 

 ちょっと休憩し、俺はエリーゼと二回戦した。それはさながら、暴走する神を宥めるように。

 静まれ! 静まり給え! さぞかし名のある竜の娘と見受けたが、何故そのように荒ぶるのか!? 無論、俺と淫魔のせいである。

 戦いの後、エリーゼは疲れて眠ってしまった。ベッドの上はウルトラマンとゴジラとキングコングが乱闘した後みたいになっていた。

 

「あー、面白かったッス! じゃ、アタシはもう寝るんで、おやすみー」

「リリィ」

「しぐー!?」

 

 その後、ルクスリリアには無限列車編を敢行して全身全霊でわからせた。

 俺にも罪はあるが、リリィにも罪はあるのだ。

 いや、ていうか俺は得しかしてないな。まぁ主人特権という事にしておこう。

 

 

 

 

 

 

 朝、俺は両手にロリで目が覚めた。

 

 右にはミイラみたいになってるルクスリリア。吸精が追い付いてないようだ。

 左にはセミみたいに俺の身体に張り付いてるエリーゼ。今は安らかに瞼を閉じている。

 下には顔を入れ替えた後のあんぱんヒーローみたいな息子。今日もこの子は元気だ。

 

「はぁ……」

 

 充足感と共に、倦怠感のある朝だった。

 それと、罪悪感も。

 

 昨夜は、エリーゼには悪い事をしたと思う。

 そそのかされてやった事とはいえ、特に考えず実行したのは俺である。彼女はリリィと違って淫魔じゃあないのだ。トラウマになってないといいけど……。

 

「ん……」

 

 見ると、セミと化していたエリーゼは目を覚ました。

 そして、俺と目が合うと数度瞬きして、キッと鋭い眼差しを頂いた。

 

「お、おはよう、エリーゼ」

「ええ、おはよう……」

 

 しばしの静寂。

 

 やがて、ふぅと一息吐いたエリーゼは、優雅に上体を起こした。

 

「昨日はごめん。ちょっと調子に乗り過ぎた」

「いえ……自制できなかった私が悪いわ……」

 

 お互い謝って、収束。

 実に理性的である。

 

「それに、私はアナタの財宝よ。アナタの好きにすればいいわ……」

 

 目を合わせる事なく、彼女は窓の方を向いたまま云った。

 その物言いは、昨夜聞いた彼女の過去を鑑みてあまり良いものではないと思えた。ソファで聞いた“財宝”と、さっき聞いた“財宝”には違うニュアンスを感じたのだ。

 ソファの時は、誇り。今のは、諦め。俺が言うのも変な話だが、俺は彼女に誇りを持って自身を“財宝”と称してほしかった。

 

「えー? 昨夜あんだけ悦んでたくせにー?」

 

 するとそこへ、吸精から復帰したルクスリリアがエントリー。エリーゼの背に抱き着いて、彼女を無理やり俺の方へと向かせた。

 陽光に照らされたエリーゼの頬は、ほんのり赤くなっていた。多分、羞恥で。

 

「あれは、恥よ……」

「けど良かったッスよね?」

「そんな訳ないでしょう。とても苦しんでいたわ……」

「ふぅん? へぇ?」

 

 言うと、挑発的な表情になったルクスリリアは、再度目を逸らしたエリーゼの耳に唇を寄せ……。

 

「ざぁこ♡」

 

 と、俺にも聞こえる音量で囁いた。

 

「な……?」

「ざぁこ♡ ざぁこ♡ よわよわ竜族♡ 人間種のご主人に好き放題される上位種族♡ ちょっと“好き”を感知したくらいで気を遣っちゃう激チョロ竜♡ 誇りはどうなってんスか、誇りは♡」

「くっ……」

 

 まさに、メスガキだった。この世界にメスガキ概念があるかは知らないが、その煽りは前世で散々愛用した煽りそのものだった。

 俺からすると喜び半分ネタ半分の台詞だが、それを聞いたエリーゼは感情の昂りと共に全身に魔力を回し始めた。

 

「……貴女だって、淫魔でしょう? 人間種の好きにされておいて、よく言えるわね」

「きひひ♡ アタシはもう屈服済みなんで♡ 失うプライドなんて無いんスー♡」

「か、かとうしゅぞく……!」

 

 その時、エリーゼは初めて怒りの感情を明確に表に出した。

 ブワリと莫大な魔力が染み出して、彼女の髪が重力を無視して舞い上がった。それはさながら、突如として宿屋に高難度ダンジョンボスが現れたかの様。

 元気になってた俺の息子さんも、緊急事態を察して引っ込んでしまった。

 

「え、エリーゼ、ちょっと落ち着いて……」

「……ええ、わかったわ」

 

 一拍置いて、彼女は荒れ狂う魔力を静めた。さすがの自制心だ。

 とはいえ、話によると彼女は魔法を使えないらしいので、魔力はあっても攻撃はできなかったのだが。

 あ、だからルクスリリアはエリーゼをおちょくったのか。

 

「へいへーい♪ 竜族の旦那ぁ♡ もう認めちゃいましょうッスー♡ 私はファーストキスで感じちゃった真正の淫竜ですって♡」

「うるさいわね……」

 

 なおも纏わりついてくるメスガキに、お嬢様の対応も雑になってきた。

 ある意味、ようやっと素を見せてくれた感じなのだろうか。

 淫魔の感覚的には、同じ釜の飯を食った仲なのかもしれない。かなり親しげな距離感である。

 

 それは置いておいて、実際昨夜のアレはかなり拙い行為だったと思う。

 あれだけ気品を保っていたエリーゼが、盛りのついた雌犬みたいになってしまったのである。普通に危ないだろう。

 反省するし、以後封印する事を宣言すべきだ。アストルフォきゅんじゃあるまいに、触れれば転倒ならぬ触れれば絶頂。怖すぎである。そんな異能バトル見たくない。

 

「さっきも言ったけど、昨夜は本当にごめん。アレはやり過ぎだったと思うから、次からはしないよ」

「え……」

 

 言うと、エリーゼは勢いよく振り向いた。その口はお間抜けな半開きになっており、何気に一番わかりやすい表情になっていた。その顔はまるで、あげようとしていたおやつを取り上げられた犬の様。そのままじゃねぇか。

 ていうか、うん、そうなのか……。凄い分かりやすい反応だ。

 

「ふぅ……わかったわ」

 

 数秒後、緩んだ表情筋を戒めるように嘆息したエリーゼは、今度はしっかり俺の方を見てから云った。

 

「確かに、アレは心身に危ないと思うけれど……」

 

 エリーゼの顔は、以前と同じように作り物めいて白い。

 さっきまでの顔の赤さは鳴りを潜め、今はしっかりと精神を制御している様だった。

 

「もう少し加減してくれるのなら、毎日してほしいわ……」

 

 かと思えば、言い切ると同時に再度顔の赤みが復活した。

 恥ずかしかったらしい。俺まで顔が赤くなりそう。

 エリーゼの後ろでは、ルクスリリアがニチャア……っとした笑みを浮かべている。

 

「あ、うん、わかった……」

「それと……」

 

 頷くと、エリーゼは重ねるようにして続けた。

 そうして口をもごもごさせた後、僅か視線を逸らして云った。

 

「その、キスも……」

 

 その声は小さく、一瞬聞き逃してしまいそうだった。

 けど幸いな事に、俺に鈍感主人公の気はなかったようで、ちゃんと言葉もその意味も認識する事ができた。

 

「……できれば、毎日してほしいわ」

 

 素っ裸は恥ずかしくないらしいが、欲望を表に出す事は、恥ずかしいらしい。

 まあ、分かる。同性相手ならともかく、異性に性癖語るのは蜜の味しないもんな。

 

「う、うん」

 

 頑張って言ってくれたのだ。内心驚きこそすれ、聞き返すような事はしないようにした。

 

「宝を愛でるのは、主人の務めなのよ……?」

 

 今度の“宝”には、少しばかりの羞恥と、誇りがあるように思われた。

 気高さの中に、少女性が混じったのだ。

 

 うん、やっぱり……。

 俺に、可哀想なので抜く性癖はなかった様である。いや全くダメではないあたり、度し難いと思うが……。

 少なくとも、俺の近くで可哀想なのはNGである。




 感想投げてくれると喜びます。



 当初、エリーゼにキス魔設定はありませんでした。
 元々はキャラクター倉庫にしまってあるうちの一人がキス魔設定だったんですが、そこから引っ張り出してきた感じですね。
 こういう事平気でやります。


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竜の令嬢の家庭事情

 感想・評価など、ありがとうございます。励みになっています。
 誤字報告も本当にありがとうございます。忍びねぇ忍びねぇ……。

 今回、アンケがあります。
 後書きをお読みの上、お回答頂けると幸いです。
 感想欄にて度々作者が言ってた事です。早めに決めておいた方が良いかと思い、設置させて頂きました。


「ご主人って、エリーゼの“すてぇたす”はまだ見てないんスかー?」

 

 朝、久しぶりに店主さんに怒られた後の食事中、ルクスリリアが訊いてきた。

 今俺たちが食べているのは“淫魔王国風シチュー”のセットという奴で、前世でいうとこの白いシチューだ。淫魔ミルクと淫魔バターと淫魔チーズをドバドバ入れたこのシチューは、此処で供されるうちの日替わり最高級メニューの一つである。

 最近は稼ぎ相応に良いご飯を食べるようにしている。実際、食事のグレードを上げてからというもの、俺もリリィも上の口が喜んでいる。なんというか、活力が湧くのだ。

 

「そういやぁ、まだ見てないなぁ」

「すてぇたす……とは、何の事かしら?」

 

 付け合わせの森人豆(エルフまめ)の焼き団子を切りながら答えると、ナイフ&フォークでパンもどきを切っていたエリーゼは小首をかしげた。

 

「ご主人は異世界人なんで、仲間の能力とかを見たり弄ったりできるんスよ。アタシからは見えないッスけどね」

「そういえば、日本という国の出と言っていたわね」

「うん。こんな感じ、見える?」

「見えないわ……」

 

 目の前で虚空をタップしてコンソールを開く。すると、案の定エリーゼも空中投影ディスプレイを視認する事はできなかったようである。

 エリーゼが見えないって事は、この機能は魔力で動いてる訳じゃないのかな。

 

「それで、何ができるのかしら」

「色々できるよ」

 

 アイテムボックスの中身の確認とか、装備の着脱とか、手に取ったアイテムの情報の閲覧とか。まぁRPGのメニューみたいなもんである。

 中でもよく使っているのはステやジョブ関連だ。試しに、仲間からエリーゼをタップして、ステータス画面を開いてみた。

 

 

 

◆エリーゼ◆

 

 

 

 竜族:レベル3

 竜魔導士:レベル1

 

 

 

 竜族権能:祈り

 

 

 

 補助スキル1:琴竜循環

 補助スキル2:竜祖回帰

 

 

 

 生命:15

 魔力:751

 膂力:10

 技量:14

 敏捷:11

 頑強:12

 知力:17

 魔攻:13

 魔防:16

 

 

 

 

「……え?」

 

 話題の一つとして軽い気持ちで開いてみたにしては、エリーゼのステにはちょっと気になる内容が多かった。

 いきなり知らんワードが出てきたぞ。お琴 竜祖?なにそれなにそれである。

 

 まず、無いといっていた竜族権能だが、“祈り”なるものがあるやんけってのと。

 次に、補助スキルの“琴竜循環”と“竜祖回帰”って何や。モンハンの顕如盤石とかに近しい分かりづらさがある。なにがどうお琴と竜で循環してどう回帰するのだよ。

 最後に、魔力751って何だそれ。え、なに? 俺の何倍だ? リリィ何人分の魔力だ? 一瞬バグかと思ったよね。

 

「何かしら、ラリススナギツネのような顔をして……」

「わー、初めてみた表情ッスー。すっごい間抜けぇ♡」

 

 コンソールを前に呆然とする俺に対し、ロリ二人は白い目を向けていた。

 視線に気づいた事で精神を整えた俺は、未だ信じきれない内容のステータスを見ながらエリーゼに向き直った。

 

「エリーゼはその……権能は無いって言ってたよね?」

「そうね、無いわ」

「その、一応……“祈り”っていう奴があるみたいなんだけど……」

「そう……」

 

 言って、朝から優雅に白ワイン――竜族はお酒大好き種族らしい――を飲むエリーゼ。

 やがて、グラスを置いて、一言。

 

「吐くならもっと面白い嘘になさい……」

 

 無表情だが、その声色には少しばかりの怒りが含まれていた。

 言ってしまった後だが、確かに権能がなかったとして見下されていたエリーゼに、今のはNGだったと思う。配慮に欠けた発言だ。

 が、異世界をチートありきで生きてる俺である。コンソールに書いてある事はとりあえず在るモノとして扱う訳で。

 

「うん、いきなりごめんね。けど、ステータスにはそう書いてあるんだ」

「本当かしら……?」

「まぁ疑う気持ちは分かるッスけどねー。アタシもいきなり飛べるよって言われた時も何のこっちゃだったッス」

 

 もう一度ステを見て、“祈り”のトコをタップする。すると、新しくポップしたウィンドウに権能の概要が表示された。

 えっと、なになに……?

 

「なんか、祈る事で“呪詛”と“祝福”を付与する事ができる……みたいだよ。んー、それしか書いてないなぁ……」

「そう……」

 

 コンソールくんは便利だが、親切という訳ではない。淡々と効果とかを教えてくれるだけで、それが何でどう使うかとかは書いてないのである。

 例えばゴーレム相手に使った能動スキルの“剛剣一閃”も、強力な一撃だよって書いてあるだけだったのだ。それがどんくらい強くてどんなモーションなのか、確かめてみないとよく分からなかったのである。

 なので、とりあえず試そうというのだ。実際気になるし。

 

「確か、両親の権能が呪詛と祝福だったんだよね? どんな感じだったの?」

「ふぅ……そうねぇ……」

 

 一度食器を置いて、顎に手を当てるエリーゼ。

 いうて約100年前の記憶だ。俺のような人間種とは脳も心も時間感覚も違うんだろうが、それでも実際昔々の記憶である。長寿族の脳構造でも、思い出すのには時間がかかるっぽい。

 

「お父様の呪詛は、武器や魔法に“呪詛”を籠めて、当たった相手に重篤な負傷を負わせる権能だったわ。とても強力で、竜族相手に使うと再生能力を弱める事ができたらしいわ。他にも色々と応用できたようだけれど、詳しくは知らないわね……」

「へえ。デバフとか毒属性みたいな感じなのかな」

「お母様の祝福は、竜族鱗鎧(よろい)や回復魔法に“祝福”を籠めてそれらを強める事ができる権能よ。祝福をかけた竜族鱗鎧(よろい)はより堅牢になって、祝福付きの回復魔法を受けると通常では治らない類の負傷も治療できたらしいわ。だから、戦う時のお母様は自分とその味方に祝福をかけて、絶対に負けない戦いをしていたそうよ」

「へえ。バフと強化回復って感じかな」

「その、デバフとバフって何なんスか?」

「弱化と強化、みたいな? ふぅむ……」

 

 エリーゼの話を聞いて、大体わかった。ゲーマー的に理解の容易な権能である。

 要するに、どちらも自分とか武器とか魔法とかに付与して発動する権能で、それぞれパパ権能がデバフ系でママ権能がバフ系な訳だ。攻めと守りの強化とも言えるか。

 で、エリーゼの“祈り”はその両方を使う事ができると……。

 

「言っておくけれど、これでも私は色々と挑戦して、一度も権能が表に出た事がないのよ。普通、自然に使えるようになるものなのに、私にはそういう経験も無かったわ……」

「それでも発動条件が分かりにくかったとか、そういうのあるかもしれないじゃん?」

「そう、まぁアナタに従うわ……」

 

 気になったのが、パパは武器に、ママは鎧に権能を付与していたというところだ。

 それなら今すぐ確認できるんじゃないのと。

 

 なので、食後にアイテムボックスから一本の短剣を取り出してみた。

 これは駆け出し時代に買ってみた短剣で、試しに一度使ってからずっと放置していた店売り武器だ。ぶっちゃけ弱い。

 

「はいコレ」

「これを、どうするのかしら……?」

 

 俺はその短剣をエリーゼの前にお出しした。さながらコース料理のように。

 エリーゼは突然お出しされた武器に首をかしげていた。

 

「試しに祈ってみて。聞くに、両親は武器に権能籠めれたんでしょ?」

「そう言われてもね……。祈るというのも、よく分からないわ」

「確かに何をどうすれば祈りになるのか、俺も分からないな」

「こう……お願いします何でもしますから! みたいな感じじゃないッスか?」

「お願いしますって……。こう、かしら……?」

 

 言いつつ、エリーゼは短剣に手のひらを向けてぶわぁ~っと魔力を放射した。

 凄まじい魔力である。魔法こそ発動していないが、単に出しただけでこの魔力はやっぱとんでもない。

 魔力を出し続けるエリーゼと、魔力を受け続ける短剣くん。当然、何にもならない。魔力とはそれ単体では何にもならない人間視点不可視のエネルギー。感じる事はできても、それ単体では何も起こらないのだ。

 

「……できないわ」

 

 やがて魔力放出を止めたエリーゼは、ふぅと一息吐いた。

 コンソールにあるエリーゼのHP・MPはミリも減っていないが、彼女は少し疲れたような顔をしていた。ある意味トラウマになっているのかもしれない。精神的に滅入ってないといいが、それでももし使えるのだとしたらそれは彼女にとって良い事だと思うのだ。

 

「ふぅむ……」

 

 短剣を持ち、調べてみる。

 確かに、呪われてもいないし祝われてもいない。ごく普通の短剣のままだ。できていない、発動していないのか。

 詳しく情報を見てみると、安物故だろうか、一回しか使っていないのにも関わらず、短剣の耐久度がごくわずかになってるのに気づいた。畜生あの店員クソ商品掴ませやがったか……?

 

「ん?」

「ご主人?」

 

 いや、何か引っかかる。うん、やっぱ変だ、何が変なのかというと、耐久度だ。

 この世界の武器は、地球のソレよりも頑丈である。手元に異世界産と地球産のナイフがあったとして、それらを岩にたたきつけまくったら、地球産ナイフは間違いなく刃こぼれするだろう。しかし、異世界ナイフは刃こぼれひとつないし、耐久度もほんの少ししか低下しない。実際試した事があるのだ。

 逆に、刃こぼれ等がなくとも耐久度が0になったらぶっ壊れるのが異世界ナイフなのだが、それまでは元気に切れ味を維持してくれるのである。ブレード自体の頑丈さも凄まじく、普通に牛くらいのモンスの突進をガードしても壊れないし曲がらないのだ。持ち主はノックバックするが、ナイフには傷ひとつない。耐久度は減るが。

 

 もしかして、である。

 呪詛とか祝福とか、祈りの仕様は分からないが、この耐久度減少とエリーゼの権能には何か関係があるのでは、と。

 気になる、試してみるべきだ。

 

「エリーゼ、もっかいやってみてくれる?」

「まあ、アナタが言うなら……」

 

 今度はアイテムボックスから取り出したピカピカの曲剣を置く。ちゃんと確認した、耐久度マックスの新品である。

 で、さっきと同じエリーゼ流の祈り魔力放出。ぶわぁ~っと出してもらったところで一旦止めて、対象物を見てみる。

 

「やっぱ減ってるじゃないか」

 

 魔力を当てられた曲剣は、しっかりと耐久度が減っていた。

 呪いも祝いも宿ってはいないが、それでも何かしらが発生しているんだな。

 

「減ってるって、何がどうなったんスか?」

「権能か何か、ちゃんと発動してるっぽいんだ」

「そう……」

「エリーゼ、次はちょっと強めにやってみてくれる?」

「わかったわ……」

 

 再度、同じ曲剣に同じ事をしてもらう。

 しばらくやってもらうと……。

 

「あら……?」

 

 バキンと、剣が折れてしまった。いや折れたというか分かれたというか、とにかく刃の真ん中あたりで分断されたのだ。

 真っ二つになった部位はそれぞれ“破損した曲剣の刃”と“折れた曲剣”という別個のアイテムになったのだ。

 ちなみに、俺のアイテムボックスには似たようなアイテムが大量にある。おのれゴーレム……。

 

「おぉ……これがエリーゼの権能ッスか!? 武器破壊とか超強いじゃないッスか! ん、いやでも……“祈り”の姿ッスか、これが……?」

「多分。確かに、祈りっぽくはないけど……。副作用的なものなのかもしれないね」

「単に、魔力を浴び過ぎたから壊れた、というのではないかしら……」

 

 確かにエリーゼの言う通り、その可能性はあるな。

 検証の為、俺もさっきの短剣に色のない魔力を放射する。イメージはドライヤーの風である。

 

「エリーゼ、ちゃんと魔力流れてる?」

「ええ、できてるわ」

 

 念の為魔力が見えるエリーゼに確認してもらいながら行う。

 俺とエリーゼの魔力はダンチなので、ちょっと強めにやる。魔力ドライヤーの風量を弱中強と上げていき、手のひらから出せる最大の魔力をぶっ放す。

 

「ふんぬぅぅぅぅぅ!」

「うわー、エリーゼも大概ッスけど、ご主人もご主人ですっごい魔力……! あぁ……もうご主人の魔力から童貞の匂いがしないッスぅ……」

「ええ……人間にしては凄い魔力ね。童貞の匂い、というのは分からないけれど……」

 

 やがてHUDに表示されてるMPゲージがレッドゾーンに突入したところで、俺は魔力放出を止めた。

 如何に俺とエリーゼの間に隔絶した魔力差があるとはいえ、エリーゼの言う通りなら多少なり短剣の耐久度は落ちてるはずだ。

 さてさて、変化はあるかなーっと……。

 

「……変わってないな」

 

 変化はなかった。

 耐久度も攻撃力も変わっていない。あれだけ魔力ぶん回したのに、体感的には一度目のエリーゼチャレンジくらいの魔力籠めたつもりだったのに、短剣の耐久度は微塵も変わっていなかった。

 こうなると、やっぱ曲剣を壊したのは魔力でなく権能と考えるべきなんじゃあなかろうか。もっと検証すべきだろうが、一旦そういう事にしておこう。魔法も権能も一歩ずつトラエラだ。

 

「エリーゼは魔力放出してる時って、どっち混ぜてるの?」

「どっち、とは何の事かしら?」

「呪詛と祝福。多分、どっちもはできないんじゃないかな、勘だけど」

「あぁ、その“祈り”の……? 分からないわ、なんとなくこうなのかしらと思いながらやっているだけだもの。祈る、というのもいまいち理解できていないのよね」

 

 ふむ、なんとなくだが、こうなんじゃないのというモノが見えてきた。

 まるでヒロアカの個性訓練をしてる気分である。明確なビジョンを持ってやらないと、“祈り”の権能はまともに発動しないんじゃないだろうか。

 

「じゃあ、次はこれに“呪詛”を籠めてみて」

「呪詛を?」

 

 次に出したのは、これまた新品のレイピアである。

 後々試してみようと思って買ったものの、機会がなくてアイテムボックスの肥やしになっていた武器だ。

 

「呪詛、呪詛ねぇ……。できるとして、どうやって籠めれば良いのかしら……?」

「そりゃあ、あれッスよ。殺してやる! とか、あいつゼッテェ許さねぇ! みたいな気持ちを籠めるんスよ」

「そうなのかしら……」

「アヴァリさんの魔力を真似るとか?」

「お父様の魔力……」

 

 うんうん唸って、とりあえずはとエリーゼ式魔力ドライヤーが始動した。

 彼女ほど敏感じゃない俺の魔力感覚でも、かなりの魔力が飛んでいるのが分かる。それはさっきまでと同じ色というか匂いというか雰囲気の魔力で、俺やルクスリリアが魔法を使う時と同じ感じだ。無力の魔力である。これじゃ耐久度に変化はないはずなのだが……。

 

「お父様の、お父様の、呪詛……。魔力の色は……なっ!?」

 

 その時、エリーゼに電流走る。

 といった反応をしたエリーゼ。魔力を出し続けたまま、その視線はレイピアに注がれておらず何にもない虚空を見ていた。

 

「エリーゼ?」

 

 心配になって声をかけてみた……その時だった。

 ブワッと、彼女の放つ無味無臭の魔力が、禍々しくドス黒い魔力に変化したのである。

 

「ひえ!?」

 

 魔力変化にびっくりしたリリィが俺の背に隠れた。俺も俺で反射的に目の前に“魔力障壁”張っちゃったよね。

 リリィが怯えるのも分かる。確かに、怖い魔力だ。色で言うと赤混じりの黒といったこの魔力は、まるでガス状のモンスターが獲物を補食するようにしてレイピアに絡みつき、その全体を覆っていった。

 とても感覚的な例えだが、スプラッタホラーの怖いシーンでも見ているかのような気分である。レイピアという何の変哲もない鉄の塊が、そうではない恐ろしいものに取り憑かれていくかの様。

 

「……こんな感じ、かしら」

 

 やがて魔力ドライヤーが終わると、エリーゼは一息吐いて背もたれに体重を預けた。

 疲れてそうなので背中をさすりつつ、件のレイピアを調べてみると……。

 

「補助効果に“呪詛”が付いてる……」

 

 攻撃力も品質もそのまま安物剣だが、そのレイピアにはお値段不相応に補助効果が付いていた。

 その名も、そのまま“呪詛”。説明によると、攻撃ヒット時に対象に呪いのデバフを蓄積するらしい。呪いが何なのかは知らないが、なんか強そうだ。

 あと、耐久度はミリしか残っていなかった。これはやっぱ副作用なんだろうか。

 

「エリーゼ、成功したよ!」

「え、えぇ……。“権能”を使う、というより……しっかりと“呪詛”を使う感じじゃないと、ダメだったのね……」

 

 その旨を伝えると、エリーゼは呆然とレイピアを眺めていた。

 手渡すと、魔力感知に優れたエリーゼはその剣身に宿った呪詛をまじまじと観察していた。

 

「私にも、あったのね……」

「やったじゃないッスか! こういう時は喜んどいた方が気持ちいいッスよ!」

「そう、そうね……」

 

 エリーゼの周りをグルグル回るリリィ。対するエリーゼは何か重たいものを吐き出すようにして脱力していた。

 これまで、ずっとなかったと思っていた、皆が当たり前に持っていた権能(もの)を、今になって自分も持っていたという事を知ったのだ。

 今の彼女の心には、俺なんぞには分からない複雑な感情の動きがあるのだろう。

 

「なによ、あったんじゃない……」

 

 天井を仰いだ彼女の瞳は、一体何を見ていたのだろうか。

 空白の100年を過ごした彼女にとって、この経験が良いものである事を願わずにはいられない。

 いや、きっと良い事だ。彼女の性格的に、過去を悔いる事はないだろうから。

 

 

 

 それから、同じ要領で“祝福”の方もチャレンジしてもらった。

 ぽーっと噴き出す綺麗な魔力。それを浴びているのは何て事もない安物の手斧だ。

 

「できたわ……」

「やはり天才か」

「大した奴ッス!」

 

 調べてみると、祝福の付いた斧は、呪詛とは逆に攻撃を当てる事で自身にバフを乗せる事ができるようだった。

 で、今度は防具に祝福してもらうと、祝福兜には所謂リジェネ効果が付き、祝福手袋には状態異常耐性が付いた。

 で、一度祝福したアイテムに呪詛を籠めてもらうと、そのアイテムは一瞬にして壊れてしまった。どうやら呪詛と祝福の重ねがけはできないらしい。実に興味深い。

 それと、成功しても効果が同じじゃないのは何故かと思っていると……。

 

「恐らく、練度だと思うわ……。お父様もお母様も、持って生まれた権能を訓練して多彩な術を編み出していたもの。だから、私も練習次第で決まった効果を付与する事ができるのだと思うわ」

 

 なるほど、そういう事か。

 つまり、今のエリーゼはランダムでバフ・デバフを付与している訳だ。使いこなす事で安定化させられると。

 実に伸び代と汎用性のある権能である。夢が広がるな!

 

「嬉しそうね……」

「ご主人、ああいうトコあるんスよ」

 

 ふと、ここで思いついた。

 天啓、まさしく天啓である。

 

 コンソールを開き、ジョブを弄り……あった。

 侍や武闘家系同様、これまで育ててこなかったジョブツリー。ソロだとちょっと使い勝手が悪く、どうにも後回しになってたのだ。

 今こそ、鍛える時なんじゃあないのという話だ。

 

「エリーゼ、私にいい考えがある」

「何かしら?」

 

 戦士レベル20で生えてきた下位職。

 その名も、“弓兵”。

 これを育ててみようじゃあないか。

 

「権能の練習には、矢を使おう」

 

 少し触ってみてわかった、この世界の弓の仕様。

 この世界の矢は、モンハンとかと違い消耗品である。矢を店で補充する都合上、一矢放てば矢一本分のお金が消費される訳だ。貧乏性の俺、無事死亡。

 矢筒嵩張るじゃん問題はアイテムボックスのお陰でなんとかなるのだが、それでも剣一閃で倒せるエネミーに安価とはいえお金を消費して攻撃するのには抵抗があったのだ。

 だが、今の俺は違う。如何にエリーゼ購入後とはいえ、銀行には一億ルァレあるのだ。矢の100本や1000本、余裕でまとめ買いできちゃう。

 

「矢ッスか? なんでそれを? ていうかご主人、弓使えるんスか?」

「まだ使えない。けど使えるようになる。頼むよ、エリーゼ」

「矢に権能を……。ええ、わかったわ。さっき思い出したけれど、お母様も似たような事をしていたわ。軍団の弓兵部隊に祝福を施した矢を撃たせていた、と」

「やったぜ」

 

 前例があるなら、頼もしい。

 エリーゼについては、まだまだ考えるべき事も多いが、とりあえずやる事は決まった。

 これから忙しくなるぞ、エリーゼが。

 

「ふふっ……楽しそうね」

 

 そう言って微笑むエリーゼこそ、楽しそうな顔をしていた。

 

「あ、そうだ。エリーゼにも俺たちと一緒に迷宮に潜ってほしいんだった」

「ええ、聞いているわ。どれだけ役に立てるかは分からないけれど、何とかしてくれるのでしょう?」

「ありがとう。勿論、私にいい考えがある」

「ええ、よろしくね……」

「あと武器の練習もしよう」

「そうね。武技の鍛錬は好きよ」

「武器の注文もしよう」

「あら、注文するのね」

「魔法の練習もしよう」

「使えないわよ」

「私にいい考えがある」

「そう? なら、いいけれど……」

「防具の注文もしないとな!」

「大変ね」

「お金も稼がないとな!」

「大変ね……貴女も」

「まあ、そういう人ッスから」

 

 そうして、三人の初めての朝は過ぎていった。

 

 

 

 人生を捻じ曲げてしまう程だった彼女の欠陥は。

 単に、使い方を間違えてただけだったと。

 そういう事であった。

 

 これからは、楽しくガンガン使っていこう。




 感想投げてくれると喜びます。



 アンケですが、作者がなんとなく考えていたヒロイン募集企画についてです。
 事前に細かいレギュレーションを設け、活動報告かメッセージとかで募集します。その後、お送りいただいたヒロインを作者がなんやかんやして作品に登場させます。
 所謂、ぼくのかんがえたさいきょうのヒロインですね。そもそも応募が集まるのかよといった問題もあるので、事前に。
 レギュレーションは後々。募集ヒロインを出す時に、応募者様の名前を出すかどうかも後々、

 作者的には一度チャレンジしてみたい気持ちがあるのですが、こういう企画を嫌う人がいるというのも把握しているつもりなので。
 以降全部そうじゃなくても、都度アンケで決めるのもアリでしょうか。
 うじうじ悩んでたら一生決まらないと思うので、とりあえずここで三人目の方針について決めてしまおうと思います。



◆追記◆

 アンケートを設置して少ししか経っていませんが、一旦ここで終了とさせて頂きます。アンケートのご協力、ありがとうございました。

 結論から言うと、三人目のヒロインは募集しない事にしました。
 というのも、頂いた感想や頂いたメッセージを見て、これはノリでやるべき事ではないなと思ったからです。
 作者はこういう催しに肯定的な気持ちも、否定的な気持ちも分かりますので。ほんとに時と場合によると思うんですよ、それでいうと、いや流石に3人目は早いかとそう思った次第です。

 なので、ヒロイン募集にしては「今は」やらないと判断いたしました。
 何故「今は」としたかというと、やっぱそのうちやりたいからです。そんだけです。

 多分そのうちやります。ただ、今ではありません。作者がやる気になったらやると思います。
 とりあえず、3人目ではやりません。

 3人目は明日作ります。
 現時点でどうなるかは分かりませんが、それは明日の作者がやるべき事なので今の作者には無関係です。今日はもうクソして寝ます。


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鍛錬場での一日!ロリの上の夢

 感想・評価など、ありがとうございます。励みになってます、ホントに。
 誤字報告もありがとうございます。助かってます。

 今回はエリーゼ修行編。
 どうするのという話。
 まぁ分かりやす過ぎますよね。


 俺は自他ともに認めるオタクだが、何でもかんでも好きなオールマイティオタクという訳ではない。

 実際、漫画にしても映画にしても好き嫌いはあるし、詳しくないジャンルもあった。ゲームに関しても、FPSとかはさほど面白いとは思わなかった。

 その中で、俺は特撮関連はさっぱりだった。好きじゃないと言うより、触れてこなかったんだな。どちらかというと、ニチアサはプリキュアに夢中だった。

 

 特撮に詳しくない俺だったが、知り合いには仲のいい特撮オタがいた。グリッドマンから特撮オタに変身した男こと、江藤くんだ。

 オタクでも何でもない一般スポーツマンだった彼は、ある日突然「SSSS.GRIDMAN」というアニメ――宝多六花の太もも――にドハマりしたのである。

 視聴後、原作に興味を持って特撮グリッドマンを見てドハマりし、続いてウルトラマンにハマり、仮面ライダーやスーパー戦隊その他色々へと手を伸ばし特撮沼に浸かっていったのだ。

 それはさながら、一学期は清楚だったのに夏休み明けにギャル化した女子の様であった。思い出すと今でも脳にダメージを負いそうだ……。

 

 俺の友人にしては極めて普遍的な性癖持ちだった江藤くん。

 グリッドマン以後は太もも太ももと喧しくなり、かと思えば「女型怪人の蹴りで死にたい」とか「ウルトラの母の胸にダイブしたい」とか言いだしたのである。

 現在、彼は自衛官として元気にやっている。「もし怪獣が来たら近くで見たいじゃん」という江藤くんの眩しい笑顔が忘れられない。グリッドマンの映画、一緒に観る約束だったのにな。

 

 閑話休題。

 

 太ももフェチから特撮オタになった江藤くんと、一般アニオタロリコンの俺はそれなりに仲が良かった。変身後の彼の家に遊びに行くと、毎度の様に特撮の上映会が開催されたものである。

 そんな中、これまで特撮に触れてこなかった俺でも素直にカッコいいと思えるヒーローがいたのである。

 

 仮面ライダーだ。

 あれは確か、ブレイドだったと思う。オンドゥル語がおかしくてゲラゲラ笑ってた俺だったが、主人公が戦う姿を見てロリコン感性ではない普通のオタク心が特撮ヒーローをカッコいいと感じたのである。

 一般人が変身し、外連味たっぷりに武器を構える姿が、なんとなくグッときたのだ。

 

 さて、話は変わって、俺が異世界に転移した後の事。

 

 奴隷購入前、俺は西区の有料図書館で色んな種族について調べていた。

 その中に、竜族について書かれた本があったのだ。

 

 それによると、竜族ってのはそれはそれは強い種族で……ってのはもういいか。

 竜族? 強いよね。近接、魔法、耐久……隙が無い。

 とにかく、竜族は強いぞと。

 

 で、竜族とて異世界人、お強い彼らも異世界ジョブシステムの内側にいる存在なのである。竜族の戦士。竜族の魔術師がいる訳だ。

 そこに固有の特殊能力――権能がプラスされるものだから、同じ竜族戦士でも戦い方は千差万別。実際、竜族には“ヴィーカ流剣術”しかまともな武術が存在しないらしい。竜族のほとんどは我流だ。

 

 だが、戦士でも魔術師でも、竜族の戦人には共通する戦闘法が一つある。

 竜族は皆、前衛でも後衛でも竜族鱗鎧(スケイルメイル(よろい))を纏い、竜族魔翼(ドラゴンウィング(つばさ))を生やして戦うのだ。それこそ、仮面ライダーのように“変身”するのである。

 図鑑に描いてあったとある竜族戦士さんの戦闘形態など、まんま特撮ヒーローだった。それも、ちょっとダーク寄りのヒーロー。普段は角の生えた人、戦う時は変身して全身鎧。いいじゃん、グリフィンドールに+1919点である。

 

 しかも空を飛べる。戦いにおいて、上を取ると有利なのは地球も異世界も変わらない。前後左右に加えて上下方向にも動けるのだ。

 そんな奴が全身に鎧を纏って魔法なり武器なりで攻撃してくるのだ。そりゃ強いだろう。権能ありで倍率ドン。やはりヤバい(確信)

 鱗の堅牢さは同じく鱗鎧を纏える蜥蜴人族には劣るし、飛行能力も翼人族に劣るらしいが、竜族はそれ以外にもご存じ再生力やら何やらがある。各能力でトップじゃなくても総合力1位である。

 

 竜族の成人は権能を証として認められるが、竜族の戦人は鎧&翼を使えて初めて認められるのだ。

 その点、鎧も翼も権能もなかったエリーゼは、さぞ肩身の狭い思いをした事だろう。

 

 ところで、エリーゼのステータスには、二つほど謎のスキルがあった。

 それぞれ、“琴竜循環”と“竜祖回帰”というものだった。

 この事をエリーゼに訊いて見ると……。

 

「分からないわ……」

 

 との事。

 

 件の項目を調べてみると、琴竜循環は「魔法が使えない代わりに、魔力が凄い強くなるよ」というスキルであった。

 どうやら、エリーゼはこのスキルのせいで魔法が使えなかったようだ。あと、このスキルのお陰で魔力の数値だけが異常に高かったんだな。

 

「……らしいよ」

「そう……。まぁ今更疑うのもバカらしいわね……」

 

 もう一つの竜祖回帰は「成長率が良くなるよ」というスキルだった。ていうか、それしか書いてなかった。

 え、何これ? と思ってエリーゼに訊くと、しばし考えた後、こう言った。

 

「よくは、わからないけれど……。竜の祖というのは、恐らく太古の竜族の事だと思うわ。今と昔じゃ、竜族は結構違っていたらしいのよね。大災厄の前、竜族には鱗も翼もなかったというもの。その代わり、角が大きかったそうだけれど……」

「エリーゼの角は小さいよね」

「小さくないわ、大きい方よ。それで、今の竜族の姿になったのは大災厄の後なのよ。少なくとも、災厄後生まれのお父様は1歳の頃には空を飛んでいたらしいわ。それと、成長しやすさが関係するのかは、分からないけれど……」

「へえ……。ヴィーカさんはどうだったの?」

「ヴィーカ様は空は飛べるけれど、鎧はなかったの。有名な話よ。災厄の直前に生まれたヴィーカ様は、生き残り含めて竜族で唯一鱗のない竜だったそうよ……」

「そうなんだ。てっきりヴィーカさんも変身するのかと……」

「けど、今生きてる人の中じゃ、ヴィーカ様がぶっちぎりの最強なんスよね。淫魔の一般家庭にも本あったッスもん」

「ええ、そうよ」

 

 要するに、昔の竜族には鱗も翼もなかったが、大災厄の後にできるようになってったのね。

 話ぶりからして、災厄前の生き残りもヴィーカさん以外は鱗鎧を纏えたと。

 

「成長っていうのは……多分、進化の余地の事なんじゃないかな。そういうの俺もあんま詳しくないけど、災厄前生まれのヴィーカさんは他竜族とは違う進化をしたから、竜族鱗鎧を纏えなかったんじゃない?」

「進化?」

 

 多分だけど、竜族という種の完成系は今の竜族……第二世代なんだと思う。

 災厄とやらの後、他種族に打ち勝つためのタクティカル・アドバンテージを進化の過程で身に着けたんじゃないかな。

 対し、災厄前の第一世代竜族は数は多いわ殆ど不死身だわでぬくぬく生きてたから、進化の必要性がなかったんだと思う。

 で、そんな中生まれたエリーゼは、第二世代にして第一世代に回帰したように、鎧も翼も使えない竜族であったと。角も大きい方らしいし。

 

 ……いや、この世界の種族が“進化”をするかどうかも、世代交代なしでそれができるかも知らないのだが。

 何でもありの竜族なら、なんかできそうじゃん? と思ったのだ。

 

「つまり、エリーゼは先祖の血を覚醒させたプリミティブ竜族な訳だ」

「そう、そうなのかしら……?」

「え、つまりなんスか? エリーゼは現代に生まれた太古の竜族で、しかも実質権能ふたつ持ちで、おまけにおじいちゃんはあのヴィーカ様の伝説の超血統って事ッスか?」

「そうなるのかしら……」

「うわー、なんスかそれぇ……? その設定ひとつ分けて欲しいッス」

 

 という事を、俺たちはお買い物などしながら話していた。

 俺とロリとロリの三人のお買い物。街を歩くだけでとても幸せだ。

 

 日用品の他にも、せっかくなので俺やルクスリリア達の服とかも買ったりした。

 そろそろ、夏が近いので。

 

 

 

 

 

 

 お買い物をして、お昼ご飯食べて、ひと休みして……。

 

 それから、俺たちはいつもの鍛錬場に来ていた。

 今回転移したのは、前回の闘技場とは別の場所。緑が美しい草原エリアである。

 草原鍛錬場は、まるでどこまでも続くゴルフ場の様。実際に池もあるし、ここでゴルフしたら楽しそうである。今度やってみようかな。

 

「はい、これ持ってみて」

「これは、深域武装ね……」

「えっ、見た事あるんスか?」

「ええ、宝物庫にあったわ。鎌ではなかったけれど……」

 

 ちょうどいいところまで歩いて、エリーゼにラザファムの大鎌を手渡す。

 エリーゼは手に持った大鎌をしげしげと眺めていた。お宝好きの竜の血が騒ぐのかもしれない。

 

「くれぐれも丁重に扱ってほしいッスよ~」

「ええ、わかったわ」

 

 鍛錬場に来た理由は、ルクスリリアの時と同様共有チートの確認と習熟。

 それと、エリーゼの特質についての確認の為である。

 

「ちょっと振ってみて」

「わかったわ。鎌を握るのははじめてだけれど……」

 

 言って、俺とルクスリリアは少し離れたところで見学。

 OKとなって、エリーゼは両手で構えた鎌を、大きく振りかぶってから横一閃。そこで一時停止。エリーゼは、何か違和感があるみたいに首を傾げた。

 それから、もう一度横一閃。切り返し。クルッとターンして、斬り上げ。

 そして、頭上でグルグルやった後、柄を地面に突き刺してガイナ立ちをした。

 

「……私は、大鎌の天才なのかもしれないわ」

 

 すごいドヤ顔である。

 そう言うという事は、俺のモーションアシストが共有されてる証拠だな。動き自体もしっかりしていたし、情報通り竜魔導士は鎌を使えるようだ。

 

 見ると、ルクスリリアはエリーゼに対し、何か微笑ましいものでも見るような目を向けていた。

 うん、二人の気持ち、俺もよく分かるよ。気持ちいいよね、アシスト付きで武器振り回すの。まるで自分が達人にでもなったかのような錯覚に陥るもの。

 

 まあ、これに関しては多分大丈夫だろうと思っていた。

 この調子なら危機察知とかのチートも使えそうだし、それは後々練習すればいい。

 で、今日確認したいのは、そこじゃあないのだ。

 

「エリーゼ、次はその武器に装填されてる魔法を使ってみて」

「魔法? 武器に? あぁ、この魔術式ね……」

 

 そう、確認したいのはそこだ。

 魔力はあるが魔法が使えないエリーゼが、武器の補助効果である“魔法装填”で籠められた魔法を発動できるかどうか。

 エリーゼに貸したのはルクスリリアの愛鎌であるラザファムの大鎌なので、装填された魔法は四つ。何でもいいが、これが使えるかどうかで今後が決まるのだ。

 

「やり方は分かるッスかー?」

「ええ、なんとなく……、こう、かしら?」

 

 言って、ライフルでも撃つようにして大鎌を構えるエリーゼ。

 鎌に魔力を籠め、そして……。

 

「おぉ……」

 

 一条。青白い魔力の光線が、大鎌の槍部分から発射された。例えるならそれは、まさにガンダムのビームライフルといった感じ。いや、色的にはデルタプラスか? まぁそれはいい。

 それは“貫く魔力の槍”という魔法で、貫通力と弾速に優れる単発魔法である。魔力消費はそこそこで、魔法装填の仕様により通常より少し燃費が悪い。魔攻の数値も乗らないので威力も微妙だが、やっぱ戦士でも遠距離魔法を使えるのは色々便利だ。飛んでる敵の対策にもなるしな。

 

「できたわね、魔法が……」

 

 発射姿勢そのまま、エリーゼは呆然と大鎌を眺めていた。

 権能に続き、補助付きとはいえこれまで出来なかった魔法を発動できたのだ。

 今の彼女の中に、嬉しい気持ちがある事を願いたい。

 

「よし……」

 

 その結果に、俺は内心ガッツポーズだった。

 魔力は高いが魔法が使えないエリーゼ。それを知っても動じなかったのには、ほんなら武器に魔法付けちゃえばいいじゃんという思惑があったからだ。

 武器に装填された魔法は、魔力さえあれば誰でも使える。実際、俺もリリィもラザファムの大鎌の必殺技である“破壊する魔力の刃”なんて覚えてないが、鎌を持って魔力を流せば撃てちゃうのである。無論、剣士や武闘家でも確認済み。

 なら、魔法が使えないエリーゼであろうと、魔力はあるのだから装填魔法は使えるだろうという予想だ。

 

 これが、見事的中。なら選択肢が広がるぞ、と。

 仮説を実証し、俺はゲーマー的わくわくが止まらなかった。

 

「ふぅ……はぁっ!」

 

 しばらく後、エリーゼは大鎌に装填された魔法を好き放題ブッパし始めた。

 消耗の激しい大技に、さっきのビーム。爆弾めいた魔法や、弾幕めいた魔力弾。しかもそれらを順ぐりに何度も何度も……。

 

 魔法装填で付与された魔法には、それぞれ独立したクールタイムがある。さっきのビームの場合、同じの撃つにはしばらく待たないといけないが、ビームの待ち時間中でも他の魔法は使えるのである。

 故に乱射。故にコンボである。エリーゼはまるでわんこそばのように次々と装填された魔法を回していった。

 

「ひゃー! アタシなら今頃枯渇してるッスよあれ~」

「俺もアレはできないなぁ」

 

 しかも、エリーゼは持ち前の魔力とMP回復があるので、消耗著しい魔法をぽんぽん連発しても魔力切れを起こしていない。

 実際、リアルタイムで彼女のMPを見ているが、魔法発動直後はミリ減ってもすぐにMAXになっている。ネクストACのブーストゲージの様である。

 

「どうだった?」

「ええ、とても爽快だったわ……」

 

 好き放題魔法を使った後、大鎌担いで戻ってきたエリーゼは、とてもスッキリした顔をしていた。当然のようにMP満タン。これもうチートだろ。

 それから、大鎌を持って、言った。

 

「アナタ……」

「なに?」

「この大鎌が欲しいわ」

「それは駄目ッス!」

 

 エリーゼの要求に、ルクスリリアは強い拒否感を示した。次いでエリーゼに襲い掛かると、持っていた大鎌を強奪した。

 

「あら……」

「これはご主人がアタシにくれた鎌なんス! ぜってぇ譲らねぇッスよ!」

「そう……。それなら仕方ないわね……」

「まあ、そういう事だから」

 

 実際、欲しいと言われてもこれはルクスリリアの愛鎌だ。奴隷のものは主人のものだが、それでもリリィから鎌を取り上げる気にはなれない。

 それに、エリーゼにはもっと良いものをプレゼントする気なのである。

 

「エリーゼには専用の武器を作ってもらうよ。そっちのが良いし、合うと思うよ」

「そうね。ごめんなさいね、いきなり……」

「まあ、わかりゃあいいんスよ、わかりゃあ」

 

 実際、この鎌は四つも魔法が装填されているが、だからといってエリーゼにベストマッチする武器って訳じゃあないのだ。

 ラザファムの大鎌はあくまで近接武器。魔法はその補助であり、魔法装填に特化した武器ではないのだ。

 エリーゼと“魔法装填”の相性も確認できた事だし、もっと良い武器を作ればいいだけの話である。

 

「エリーゼは魔法は使えないけど、魔力はある。だから魔法装填を使えば、色んな事ができるはず。なら、もうそれに特化した武器のがいいんじゃないかな。エリーゼにしか使えないエリーゼ専用の特化武器、ロマンがあると俺は思う」

「なるほど……」

 

 納得してもらったところで、しばらくは色んな武器を試していこう。

 エリーゼの場合、魔法といっても武器に籠められた魔法を使うんだから、別に魔法職や魔術師用の武器にこだわる必要もない。

 俺はコンソールを弄り、エリーゼを“竜魔導士”から“竜族戦士”にジョブチェンジさせた。

 

「エリーゼ、次はこれ振ってみて」

「ええ、わかったわ」

 

 そうして、その日の午後は鍛錬場で過ごした。

 武器を振るうエリーゼの表情は、とても晴れやかだった。

 

 

 

 時は過ぎ、夜。

 

 今日も一日楽しかったが、俺は寝る前にちょっと悩んでいた。

 いや、これは良い悩みだ。ゲーマー的に楽しいところでもある。

 エリーゼのビルドについてだ。

 

 エリーゼのステータスは、清々しい程の魔力特化の純魔ビルドである。

 しかし、これはあくまでほぼ初期レベル。“竜祖回帰”の恩恵がどれだけあるかは分からないが、通常の竜族よりは成長する事を期待したいですね。

 

 で、だ。

 

 ぶっちゃけ、魔力に関してはこれ以上要らない気もするのだ。魔法職にするメリットもない気がする。何故なら、魔法職とは魔力以外にも知力とか魔攻とかが上がりやすいジョブだからだ。

 エリーゼは武器の補助効果で魔法を使う都合上、魔攻の乗らない装填魔法にとって魔力以外の魔法系ステは無駄になってしまうのである。

 

 なら、前衛職のが良いんじゃないかと思う。

 既に魔力が極まってるのだ、ならば他ステを伸ばして弱点を補うというのはアリだと思う。もしかしたら、偉大なるおじいちゃんの様に鱗鎧無しでも立派な前衛になれるかもしれない。

 曰く、エリーゼは竜族にしては膂力に欠けるらしいが、ぶっちゃけ転移直後の俺よりは力持ちである。そういうのはレベルアップでなんとかなるはず。そう思いたい。

 

 けれどけれども、既に極まってる魔力を更に極めていくというのも、ロマンである。そっちのが強くなる、というのもあり得なくはない。

 でもでも、自衛の為にも前衛ジョブを伸ばして近接能力を上げる方が堅実だとは思う。生存能力の向上は大事だ。

 

 うーむ、悩ましい……。

 

 弱点を補う為、前衛職を鍛えるか。

 無駄はあるが、魔力を伸ばす為に魔法職を鍛えるか。

 はたまたどっちも伸ばす為に魔法戦士系統にするか。バランスは良いだろうが、開花に時間がかかりそうである。

 あるいは、もっと特殊なのを目指すのもいいだろう。あるかどうかは知らないが、例えば召喚士(サモナー)系とか遊び人とか。いや流石に遊び人は無さそうだが……。

 

 さて、エリーゼのビルド方針はどうしようか……。

 

「エリーゼはどういう成長がしたい?」

「そうね……。アナタの思う通りにしてほしいわ……」

「そっか、なら……」




 感想投げてくれると喜びます。



◆エリーゼの情報◆

・魔力はほぼ無限。
・魔法は使えない。“魔法装填”は使用可能なので、戦闘ではこれを主に使う。
・スキルの恩恵で成長率は軒並み高いと予想される。
・他の竜族と違い、鎧も翼も起動できない。だが、“進化”の余地がある。




【挿絵表示】




 ぴょー様より、素敵な支援絵を頂きました。エリーゼです。 
 掲載許可を頂いたので、自慢させていただきます。

「この私を愛でる覚悟はあるのかしら……」のシーンです。

 最高ですね! ありがとうございます!


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ロリでリテイク

 感想・評価など、ありがとうございます。気持ちが上がります。
 誤字報告もありがとうございます。感謝です。助かってます。

 前話にて、頂いた支援絵を掲載しています。まだご覧になっていない方はぜひ。

 アンケートのご協力、ありがとうございました。
 結果、エリーゼは特殊職ルートとなりました。

 感想欄を拝見して、いくつか「これいいなぁ」というアイデアがあったので、近いうちにそれのエピソード挟みます。
 今回のアンケでも参考にしたものがあります。

 話が進まないのは仕様です。本作はまったり進行していきます。


 俺が転移したこの世界は、まさにオタクくんが夢見るファンタジー世界といった雰囲気の“ザ・異世界”だった。

 

 石造りの建物に石畳。移動手段はもっぱら徒歩か動物で、車やバイクや飛行機なんて見たことない。

 そこに住む人類は皆さん二足歩行のヒトガタ動物。エルフやドワーフやケモミミ美少女とかがわんさといる、割とカジュアル寄りのファンタジーだ。

 

 ファンタジー系の異世界。そこには、剣と並んで欠かせないモノがある。

 魔法である。

 

 魔法……というと、どのようなものを想像するだろうか。

 杖振ってポンと出す感じの奴だろうか。オサレな呪文を詠唱する感じの奴だろうか。あるいは念じれば出る感じの奴だろうか。

 実際、その扱いは作品によりけりだ。

 

 この世界の魔法は、割と頭を使う感じに近い。

 別に何やかや計算してやる訳じゃなく、その発動には明確なイメージが必要であるという話だ。ちゃんと想像して、その上で杖なり手なりから魔法を出すのだ。

 

 実際は他にも色々あるらしいが、俺ら冒険者が使う戦闘用魔法は「イメージ+詠唱+魔力」で発動する、割とコンパクトな感じの奴である。

 例えば、最も単純な魔法である“魔力の礫”。これは野球ボールサイズの青白い魔力弾を放つ魔法で、威力は低めで燃費のいい奴だ。実際結構使える。熟練の魔術師も愛用しているくらい使用者の多い人気魔法である。

 で、これを使うにはまず、頭の中でその魔法ができる様子を考える。つってもそこまで詳細じゃなくていいし、元素だの何素だのといった知識もいらない。魔力で出来た青白い球……でOKだ。それから魔法の名前を詠唱し、杖なり手なりから出すのである。ポーヒーってな具合に。

 最初は難しかったが、慣れたら他の事考えながらでも出来るようになった。何も考えなくてもティッシュぐるぐるにしてボール作れる感じである。 

 

 魔法の発動に慣れてくると、アレンジを利かせる事もできるようにもなる。これは“熟練度”が上がってからの話だな。

 例えば、俺が愛用している“清潔”という魔法。これは最初は一定範囲を綺麗な状態にするという魔法なのだが、熟練すると何処をどのようにどれだけ綺麗にするかを指定できるようになる。

 床に味噌汁を零したとする。普通に使うと、味噌汁が消滅して床が綺麗になる。ついでのように範囲内の床の汚れも全部綺麗になる。熟練した状態で使うと、味噌汁の汁部分だけ消して中の具をそのままにする事もできる。なお具は床で汚れる。これもイメージが大事だ。

 そんな感じだ。どんな感じだ? 我ながら分かりづらいが、まぁ大体そんな感じである。

 

 さて、このような魔法を使うにあたり、使用者の負担を減らしてくれるアイテムがある。魔法触媒だ。

 魔法触媒、杖がそうである。別に杖だけって訳じゃない。神殿では魔導書っぽいの持ってる人もいたし、同じ杖でも長いのとか短いのとか、木製とか銀製とかのもあった。中には箒持ってる人もいたな。 

 

 別に杖がなくても魔法は使える。俺も億劫な時は手で使う。けど、多くの魔法職は杖を持つ。その理由は単純で、杖が魔法の発動を補助してくれるからだ。

 色々原理があるらしいが、要するに能力補正が乗るか乗らないかだった。手だと知力も魔攻も補正ゼロでおまけに燃費も悪いのだ。

 戦いで魔法使うんなら、杖ありにしない理由はそんなにない。

 

 話は変わるが、この世界での魔法は魔法使いだけの特権という訳じゃあない。貴族じゃなくても、まして魔術師じゃなくても使える奴は普通に使える。

 冒険者以外にも野良魔術師はそれなりにいるし、非戦闘員でも工事現場とか医療の現場とかで働いていたりする。そうでなくても、それなりの料理屋には火起こし魔道具があるし、高級料理店の店主なんて炎魔法使いながら料理してたもんね。

 他にも、牧場で穫れたミルクを魔法で保存する人がいたり、馬車と馬にバフかけて高速移動する商人がいたり、魔法使ってパフォーマンスする芸人もいたりする。

 

 この世界、人々の日常と魔法の間には切っても切れない縁があるのだ。

 おかげで現代人でも不便なく過ごせている。

 ありがたい事ですね。

 

 で、だ。

 

 一般人が使える魔道具があるという事は、魔道具を作る人がいる訳で、そういう人らは俺が使ってるみたいなコンパクト魔法とは少し違う体系の魔法を使うらしい。

 詳しくは知らないが、なんか普通の道具に文字とか何とか描いたり色々やったりして、魔道具を作るんだと。

 

 これに関しては、俺はさっぱりだ。

 原理は分からんが、便利だから使っている。

 そういうもんだろう。

 

 

 

「へっへっへっ、お久しぶりでさぁ旦那!」

「お久しぶりです、アダムスさん」

 

 鍛錬場で汗を流した日の翌日。

 エリーゼの専用武器を注文する為、俺たちはアダムスさんの店に来ていた。

 

 数日ぶりに会った――前に完成前の剣を見せてもらったのだ――武器工匠のアダムスさんは、相変わらずイケメンイケボイケエルフであった。

 そして、相変わらず映画の中盤で死にそうな商人キャラのような雰囲気をしていた。

 

「ご注文の剣はもう少し時間がかかりますぜ。今ちょうど“研ぎ”の段階でさぁ」

「ありがとうございます。今日は別の件で来たんですけど……」

「ほう、そうですかい。するってーと、後ろのお嬢ちゃん絡みかい?」

 

 言うと、ドワルフ――ドワーフみたいな雰囲気のエルフ――さんは俺の後ろで優雅に佇むエリーゼに視線をやった。

 視線に気づいたエリーゼは一度俺を見た。頷くと、これまた優雅に尊大に胸を張った。

 

「我が名はエリーゼ。イシグロ・リキタカの第二奴隷よ。姓はないわ」

「へっへっへっ、これはご丁寧にどうも……。竜族の奴隷たぁ、あっしぁ初めて見ましたぜ」

 

 ドワルフはその美しい双眸を細めてエリーゼを見ていた。いや、見ているのは彼女の角だ。彼にしては珍しく、ちょっと不躾な視線である。

 謎視線を向けられたエリーゼは、少しむすっとした顔になっていた。

 

「あの、エリーゼが何か?」

「おぅ、こいつぁ失礼。へへっ、見ての通りあっしぁ森人(エルフ)ですんで、こうもぎっしり詰まった魔力を見ると、目ぇ奪われちまうんでさ」

「そうでしたか」

「しかも銀髪ときた……。へへっ、これぁとんでもねぇ掘り出しモンだな、旦那」

 

 魔力感覚に敏感だというエルフには、何か感じるものがあるのかもしれない。

 実際、ルクスリリア視点のエリーゼは「なんスかね、もう全身から魔力がドバドバ出てる感じッスかね?」らしい。人間の俺にはよく分からん。

 

「で、本日ぁ竜族のお嬢さんの武器の注文って事でいいんですかい?」

「ええ、そのつもりです」

「へっへっへっ、竜族の使う武器ですかい……。で、何を使うんで? 剣かい? 杖かい? 竜族の武器たぁ、光栄な事でさぁ」

 

 と、何故かテンションを上げるドワルフ。

 多分、ドワルフさん的にはエリーゼは凄腕の魔術師か何かに見えてるんだろう。

 強者用の武器を作るのが好きらしいドワルフさんだ、エリーゼには相当な期待をしているのかもしれない。

 

「実は……」

 

 なので、少し申し訳ない気持ちになりつつ、エリーゼの事情についてお話しした。

 この通り魔力はあるが魔法は使えない事。その為に、“魔法装填”に特化した武器が欲しいんだよという話。

 俺が語る後ろで、エリーゼは腕組み姿勢で優雅に立っていた。ルクスリリアはこの前見せてもらった本を読んでいた。

 

「……という事なんです」

「はは~ん、そいつぁまた難儀な……あ、失礼。まぁそうでもねぇと説明つかねぇ魔力ではありますわな」

 

 うんうんと納得するドワルフ。

 曰く、エリーゼの魔力量は天才と一言で片づけるには首をかしげちゃう程らしい。世にはそういうトレードオフの才能の例がそれなりにあるんだとか。

 

「魔法装填特化武器ねぇ……。作った事ぁねぇが、そりゃできますぜ。へへっ、いやぁ燃えるじゃあないの」

 

 と、背もたれに体重を預けていたドワルフは、身を乗り出すようにして受付机に肘を置いた。

 

「まぁ詰める前に、まず“魔法装填”について話しとかねぇと不誠実ってモンだわな。旦那ぁ件の補助効果についてはどんくらいご存じで?」

「そうですね……」

 

 訊かれたので、俺が知っている範囲の事を話した。

 ルクスリリアの深域武装について、それに装填された魔法について。あと、後に少し調べて分かった範囲についてだ。

 

「……と、こんくらいですかね」

「へッヘッへっ、旦那ぁ勉強熱心でいらっしゃる」

 

 説明を終えると、ドワルフさんは感心したような声を上げた。

 

「まあ、そんだけ知ってりゃ話は早い。少し待っててくだせぇ」

 

 言うなり、席を立ったドワルフは店の奥に引っ込んでいった。

 しばらくの後、お盆の上にいくつかのアイテムを載せて戻ってきた。

 テーブルに置かれたお盆には、指輪とか短剣とかが載っていた。後ろのロリ二人も興味深げにお盆を見ている。驚くべき事に、その全てにうっすら魔力の反応があった。

 

「あー、ご存じの通り、魔法装填ってのぁ使う奴の業前に関係なく、魔力さえ籠めりゃ魔法を発動してくれる代物でさぁ。どんなへなちょこでも、どんな馬鹿でも、それなりの魔法を発動させる事ができる。その分、本職にゃ敵わねぇが、それでもあると便利ですわな」

「そうですね」

 

 いつものオタク語りをしつつ、ドワルフはお盆の上から一つの指輪をつまみ上げ、俺に差し出してきた。

 それは特に装飾のないシンプルな指輪で、美術品といった雰囲気のものではなかった。

 

「これは知り合いの魔工師が作った魔法の籠った指輪でさぁ。中にゃ“魔力の盾”が籠ってる。試しに使ってみてくだせぇ」

 

 促されるまま指輪をはめる。サイズは合っていなかったが、魔法のおかげでスルッとフィットした。それから、誰もいないトコに掌を向けて魔力を籠めてみる。

 すると、少しの魔力を消費し、青白い半透明の円盾が生成された。サイズはキャプテン・アメリカのアレくらい。覚えてはいるけどあまり使った経験のない“魔力の盾”だ。

 

「えー、なんかショボくないッスか? これならアタシが適当に素手で作った奴のが強そうッス」

「そうね……」

 

 けれど、俺が使った事のある盾と違い、気持ち多く魔力を消費したし、それになんか脆い気がする。その辺のワンちゃんエネミーの突進一発で壊れそうだ。

 

「次はこっちを使ってみてくだせぇ。中身は同じでさぁ」

「はい」

 

 さっきの指輪を外して、新しい指輪をはめる。それからさっきと同じように魔力を籠めてみた。

 すると、さっきと同じくらい魔力を消費し、さっきよりも頑丈そうな円盾が生成された。

 

「こっちの方が強靭ね」

「エリーゼにはそう見えるの?」

「ええ、魔力が綺麗に流れているわ」

 

 指輪を返すと、ドワルフは得意げな表情になって語った。

 

「この通り、同じ指輪で同じ魔法、同じくらいの魔力消費でも、モノによってはその効果の程は全然違うんでさぁ」

「それは何故ですか?」

「そりゃ勿論、魔工師の腕よ」

 

 言って、ドワルフは弱い方の指輪と強い方の指輪をそれぞれ別の手でつまむと、見えやすいように示してみせた。

 

「こっちの弱ェのぁ駆け出しのヒヨッコ魔工師の作。で、こっちの強ぇのが、熟練のモノホン魔工師の作。同じだけの魔力消費でも、職人が違えばダンチなんでぇ」

 

 よくは分からないが、なんとなくは分かる。

 要するに、同じ材料同じ器具同じ場所でも、料理人の腕が違えば作るご飯のおいしさが違うみたいな話だろう。

 どうやら、ファンタジー世界の魔法も熟練作と駆け出し作じゃ雲泥の差があるらしい。文字通り、レベルと熟練度が違う訳だ。

 

「魔工師の善し悪しは、籠められる魔法の種類とか威力とかまぁ色々で決まりますがね……。やっぱ、一番腕が出るのは魔力の消費量ですわな」

「なるほど……」

 

 これも、なんとなく分かる内容である。リソースの使い方の上手さって事だろう。

 それで言うと、弱いヒヨッコ指輪が消費5効果4。強いモノホン指輪が消費5効果8みたいな印象である。

 買うなら断然後者だし、前者は使いたくない。ありゃ盾というより傘だ。

 

「で、だ。中にはこんなのもあるんでさぁ。中身は同じ、職人もモノホン。どうぞ使ってみてくだせぇ」

 

 納得していると、今度もさっきと同じデザインの別の指輪を渡してきた。第三の指輪である。

 指輪をはめ、使う。すると、一瞬頭がクラッとするくらいの魔力を持って行かれ、“魔力の盾”が発動した。

 

「おぉ……なんかスゲェっす!」

「ええ。けれど、随分と雑ね……」

 

 発動したのは、確かに魔力の盾だった。

 しかし、その魔法盾はさっきのとは段違いにサイズが大きく、堅さも違う。色は同じ半透明の青白い盾だが、その表面にはバチバチと稲妻みたいなのが迸っている。いかにも強力そうである。

 ヒヨッコ盾がサランラップだとしたら、この盾は戦車の装甲だ。それくらい違う感じがする。これならダンジョンのボスの攻撃を受けても普通に保ちそうだ。

 凄い、凄い魔法である。けど……。

 

「うっ、これはキツい……」

 

 それにしたって消耗が激しい。

 気分が悪くなった俺は、さっさと指輪を外した。

 確かに凄い堅そうな盾を生成できたが、それでもこれは消費がデカ過ぎる。さっきの例えでいうと、消費100で効果50といったところか。実際、さっきの一回でMPゲージの三分の一が無くなった。マジか……。

 

「へっへっへっ、こいつぁまぁ所謂失敗作なんですわ。なんか、大事な工程の最中にくしゃみしちまったとかで……」

「なんでそんなものを……?」

「おもしれぇからよ」

 

 そう返したドワルフの瞳は、前世でよく見た類の輝きを放っていた。

 まるで、水星の魔女の話をするガノタの様。あるいは新作ガンプラの可動域のすばらしさを語るガノタの様。もしくは如何に初代ガンダムの脚本構成が優れていたかを熱弁するガノタの様。

 熱く、重く、とても楽しそうな、キラキラした瞳をしていたのだ。

 

「面白い、ですか……」

 

 言われてみて、俺もちょっと分かるマンと思った。

 指輪の性能はともかく、確かに面白い。何が面白いかというと、この“魔法装填”という補助効果の仕様がだ。

 

 要するに、この“魔法装填”というのは、ゴッドイーターのバレットエディットに近いものなのだと思う。

 最小の消費で、最大の効果を発揮できるよう試行錯誤する。腕前や工夫次第で、同じ魔法でも強弱や大小を設定できる。あっちを立てればこっちが立たず……。魔法の数値を弄って自分好みにカスタマイズしているのだ。

 え、なにそれ面白そう。やってみたいな……。

 

「わかる」

「へへへへっ、でしょう!?」

 

 一個目と、二個目と、三個目の指輪。同じ魔法で、違う効果。どれだけ数値を弄れるかはリソース次第、と……。

 なるほど……。

 

「そう、つまりだ! 魔力消費さえ気にしなけりゃ、モノホンの大魔術師が日に一回しか撃てねぇような大魔法だって……!」

「エリーゼなら、連発できる……」

「おう! へへへっ、さすがイシグロの旦那だ、話がわかる!」

「しかも魔法装填の仕様上、待ち時間中も違う魔法を撃つ事ができる……!」

「それも大魔法をでさぁ……!」

「……ええやん」

「でっしょー!?」

 

 俺とドワルフさんは、意気投合してテンションをぶち上げた。

 それはさながら、ニンテンドーダイレクトを一緒に見た友人同士の様。おもしろそう! わかる! ならアレもできるのかな? それいいねぇ! である。

 

「ご主人って、ああいう話好きなんスよねー」

「そうね、楽しそうだわ……」

 

 背後から、愛しのロリ奴隷の呆れたような会話が聞こえてきたが、その時の俺には全く響かなかった。

 だって、俺は俺が馬鹿な自覚があるもの。

 

 

 

 その後、例によってドワルフさんとのお話は長く続いた。

 途中、奴隷二人に小遣いを渡して適当に飯を買ってきてもらい、皆で食べたりした。

 

「これは、食器も無しにどう食べるのかしら?」

「そのままかぶりつけばいいんスよ」

「そう……。少し恥ずかしいわ……」

 

 という、エリーゼのお嬢様ムーブイベントなどもありつつ、食後もエリーゼの専用武器についてああでもないこうでもないと盛り上がった。

 素材については、前回持ってきたはいいものの使う事のなかった輝銀魔石(シルウィタイト)を使うとして、最も時間を食ったのは装填する魔法についての話題だった。

 

 最高の素材で作るとしても、装填できる魔法の数にはそれなりの制限があった。

 魔法用武器で、強い魔法なら6つ、弱い魔法なら8つ。近接戦で使うんなら強度の関係で4つが限界。小さい近接武器なら2つが限界だった。

 せっかく作った専用武器は大事にしたいので“自動修復”を付けるとして、それ以外の補助効果の付与はできそうにない。もしするとしたら、魔法の数を減らす必要があると……。

 

「俺としては、各属性の追尾系魔法をガン積みした奴がイイと思うんだよね。ミサイルカーニバルのロマンって奴で」

「いいや、ここはひとつの属性の魔法を全部載せした特化型がいいでしょう。属性特化のロマンでさぁ」

 

 と言った感じで、食後も色んな話をした。

 装填する魔法について、形状について、その他色々……。

 

 なんか、久しぶりにこういう話をした気がする。

 喧嘩みたいになっているが、喧嘩ではない。

 前世ではよくあった、好きなモノのプレゼン合戦である。

 お互い、こういう言い合いを楽しんでいるのだ。

 

 やっぱ、好きなモノについて語り合える相手がいるのは良いものだと思う。

 

 

 

 結局、帰る頃には夕方になっていた。

 前はスキルについて話すだけだったが、今回は魔法なり形状なり話題が多くて時間がかかったのだ。

 それとついでのように例の戦車装甲指輪も購入した。一度エリーゼに試させてみたら、全然余裕だったのだ。俺もドワルフもルクスリリアもドン引きした。

 

「ずいぶんと楽しそうだったわね」

「ごめんごめん……」

「皮肉じゃないわ……」

 

 暇過ぎて眠ってしまったルクスリリアをおんぶしつつ、帰路を歩く。

 隣を歩くエリーゼは。会議中武器の話題に乗ってくる事はなかった。自分が使う武器だというのに、あんまり関心がなさそうだったのである。

 

「でも、ホントに良かったの? 形も魔法も俺等で決めちゃって」

「いいのよ……」

 

 言って、エリーゼは俺を見上げた。

 いや、見ているのは俺ではない。俺におんぶされたルクスリリアの寝顔だ。

 

「私も、アナタから貰いたいのよ」

 

 そういえば、深域武装欲しがってたもんな。

 つまり、欲しかったのはあの大鎌ではなく……。

 

「ああ、なら……」

「次は、ルクスリリアに何か買ってあげて。この子が喜ぶ物を……」

 

 言いかけた俺の言葉を制するように、エリーゼは言葉を重ねた。

 

「竜族は欲しがりだけれど、何より身内を大事にするのよ……」

 

 その言葉を聞いて、俺は何だか嬉しくなった。

 俺が求めているのはロリハーレムだが、決して大奥みたいなものを築きたい訳ではないのである。

 可哀想なのは、嫌だ。

 

「そうする」

「そうなさい」

 

 帰り道、夕陽の街に三人の影が重なった。

 

 趣味を語り合う友も素晴らしいが、それはそれ。

 やっぱりロリは最高である。




 感想投げてくれると喜びます。


◆エリーゼと世界設定の情報補足◆

・魔法職になっても、魔法は使えない。
・レベルアップで習得する、魔力を消費するスキルは使用可能(手当て等)。
・この世界に銃はありません。銃の形をした杖なら作れるが、魔力を籠めた魔弾は不可能、
・武器と認識されないものは、モーションアシストの恩恵を受けられない。
・魔法装填に籠められる魔法は、職人の腕前次第。その職人の力を超えている魔法は装填不可能。
・魔法を装填できる物は、基本的に「武器・防具・装飾品」の三つ。




【挿絵表示】




 ぴょー様より、素敵な支援絵を頂きました。
 イイ、実にイイ……。
 あ^~、心がぴょんぴょんするんじゃ^~。


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ロリコン戦場へ帰る

 感想・評価など、ありがとうございます。お陰で続けられております。
 誤字報告もありがとうございます。助かってます。

 アンケートのご協力、ありがとうございました。
 結果、エリーゼの主要武器は王笏になりました。ジョブはロード系です。
 ロード系って作品によりけりですよね。本作ではバフ職というところでよろしくお願いします。

 今回は三人称。
 文中、頂いた支援絵を掲載しています。
 少し時間が進んでいます。既に新しい剣を持ってる状態ですね。

 読了後、活動報告をご覧になって頂けると幸いです。


 ――銀細工。

 

 銀細工とは、ラリス王国及びその周辺諸国において特別な代物である。

 迷宮探索を生業とする者たちと、その周囲の人々にとっては、尚の事。

 

 銀細工持ち冒険者。

 冒険者の中では、実質的な最上位である。

 位階こそ金細工の一個下だが、実力は大差ないとされる。銀細工持ちの中で比較的まともな奴がスカウトされ、それが承諾される事で銀から金にランクアップするのだ。

 

 金も銀も、その力は文字通り個人で一騎当千。迷宮に挑み、生還する傑物であり、有事の際には国防の要となる。

 しかし、強さと引き換えなのだろうか、銀の彼ら彼女らは大概頭がおかしい。喧嘩もめ事は日常茶飯事で、一般人視点訳も分からない理由で暴虐の限りを尽くしたかと思えば、驚く程しょうもない理由で自己犠牲的な救済をしたりする。

 銀細工持ち冒険者とは、総じて理解不能制御不能の怪物なのである。同じ怪物でも、国の言う事はちゃんと聞く金細工持ちとは大違いである。

 

 まさに、生ける災害。歩く伝説。

 もしくは、会いに行ける英雄だ。

 実際、何故だか市民からは金細工より銀細工のが人気である。訳の分からない怪物でも、基本的に任務で忙しくしてるか王城に籠ってる金細工持ちより、会って話せる銀の英雄のがアイドル性があるのかもしれない。

 

 さて、王都には幾人か名物冒険者というものがいる。

 

 有名どころで言えば、東区の名物冒険者。熊人のグレイソン。

 二つ名を、“猛る要塞”。

 

 獣人族で固めた一党の頭目。これまで一度も仲間を死なせた事のない、仁義厚き漢。

 その拳は山を穿ち、筋骨は過剰なほど隆々。常に前線に立ち仲間を守る様は、まさに英雄。頼れるリーダー。理想の上司。気は優しくて力持ちなのだ。

 冒険者にしては珍しく妻子持ちなあたり何かほっこりする。しかもドが付くほどの愛妻家で、酔うと妻の自慢話をするのだから堪らない。そんなところもご愛敬であり、東区で彼を悪く思う住民は居ない。おまけに異常な程の大食漢なので、東区の料理屋は彼の来客を待ち望んでいる。

 

 そんな人望厚いグレイソンだが、彼もまた銀細工持ち冒険者の例にもれず、頭がおかしい。

 

 以前、グレイソンがとある飲み屋でご飯を食べていた時、どういう経緯かエルフの一党と口論になった。普通の冒険者なら喧嘩=殴り合いになるところ、流石のグレイソンは口だけであった。

 しかし、ヒートアップした口論相手がグレイソンのテーブルの料理を落としてしまった。次の瞬間、彼はブチキレた。

 

 そのキレっぷりは尋常ではなく、普段冒険者にしては温厚な性格のグレイソンでは考えられないくらい荒れた。

 荒れに荒れ、終いにゃそのエルフとエルフの所属していた一党を皆殺しにした。怒りのまま、一人で全員撲殺したのである。

 

 いくら異世界、いくら冒険者界隈といえど、殺人は罪である。当然、グレイソンはギルドからペナルティを食らった。

 ギルド職員に「何故殺した?」と訊かれたグレイソンは、こう答えた。

 

「飯をこぼされたからだ」

 

 つまりグレイソンは、食べかけのご飯をダメにされたのにキレて、喧嘩相手の一党を殴殺したのである。これにはギルド職員も唖然となった。が、まぁ分かりやすいので他より実際マシである。

 ちなみに、グレイソンはその後、迷惑をかけた飲み屋に過剰な程の慰謝料を払い、店主に対しDOGEZAを敢行した事でも知られる。店主は慰謝料を拒否っていたが、半ば無理やり押し付けていた。

 

 似たような、あるいはもっとヤバいのは南区にも北区にもいるし、同じ東区にもあと数人こういうのが居る。

 少し前まで、西区にも似たような冒険者がいたが、今はいない。死んだからだ。西区を拠点とする銀細工持ち冒険者はそこそこいるが、彼ら彼女らは皆、今は違う国に行ったり遊んでたりで西区を離れている。ある意味、現在西区だけ看板不在なのである。

 そんな中、王都西区の転移神殿に、新たな英雄候補が台頭してきた。

 

 黒剣のイシグロである。

 

 

 

 最近、“迷宮狂い”が大人しい。

 

 同業者にも職員にも注目されているイシグロである。言葉にせずとも、そのように感じる関係者は少なくなかった。

 つい一か月前までは毎日毎日迷宮に潜っていたというのに、最近は一日迷宮に潜ったら一日二日休むのである。いやそれでもマジでおかしいのだが、全盛期のイシグロを知っている人からすると、今のイシグロは大人しく見えるのだ。

 

 イシグロが大人しくなったのは、奴隷を買った後からだ。

 あの、主人よりも上等な装備を纏い、主人の武器よりも強力そうな深域武装を持つ淫魔奴隷。謎のちんちくりん。淫魔なのに全然エロくないメスガキ。彼女が来てから、イシグロはかつてのハングリー精神(?)を失っているように思われていた。

 

 界隈では、欲望を満たした冒険者はすぐ死ぬと言われている。

 明確なデータはないが、なんとなくの経験則で伝えられるジンクスの様なものだ。

 しかし、これは意外と当たっているものだと、冒険者だけでなくギルド職員たちも思っている。

 

 以前、深域武装が欲しい欲しいと言って憚らない冒険者がいた。

 彼は深域武装への情熱に押されるように迷宮を潜りまくり、ついには銀細工まで上り詰め、ついに念願の深域武装を手に入れる事に成功した。

 すると彼は、これまで潜っていた高難度迷宮に潜るのを止め、適当な低難度迷宮に入り浸るようになり……深域武装と共に帰ってこなかった。

 

 例え銀細工持ち冒険者でも、欲望が満たされると弱くなる。そして、そのうち気が抜けてあっさり死ぬ。

 イシグロもそうなるんじゃないかと、一部の杞憂民は杞憂しているのだ。

 

 何でかは知らないが……奴隷が欲しくて頑張ってきて、それが叶った今イシグロはかつての強さを失っているのではないか。

 そういう風に考えるのは、おかしな事ではないだろう。

 

「バカ言え、そんな訳あるか」

 

 受付おじさんを除き。

 

 

 

 そんな中、王都西区の転移神殿に新たなビッグニュースが流れてきた。

 あの迷宮狂いが、新しい奴隷を連れて鍛錬場に入っていったというのだ。

 しかもそれは竜族の奴隷で、銀髪の女だった。もっと言うと、件の淫魔同様ちんちくりんで全然エロくなかったという。

 

 竜族男性といえば、皆美形で有名である。同じく、竜族女性も皆美女でお馴染みだ。

 種族別の「一晩お願いしたいランキング」で必ず上位に食い込むのが竜族女子なのである。ちなみに一位は牛人女子なあたり、異世界における巨乳信仰がわかるだろう。

 

 エロくない淫魔に続き、ちんちくりんの竜族。

 いくらちんちくりんだろうが腐っても竜族。淫魔とは比較にならないくらい高額だっただろうに。

 一体全体、イシグロはどういうつもりでそんな高い買い物をしたというのか。残念ながら、いや幸いなのか、ともかく異世界人にはまるで見当もつかないのであった。

 

 さて、そんなニュースが流れた数日後、イシグロの一党は再び転移神殿にやってきた。

 そして、淫魔の時と同様に三人で鍛錬場に転移した。

 

 あー、今度はあの竜族の娘を鍛えるのねと、皆が思った。

 しかし、違った。

 

 転移して数分後、イシグロは一人で神殿に戻ってきて、何食わぬ顔で迷宮に潜っていったのである。鍛錬場に奴隷を残して。

 しかも、迷宮の中でも極めて高難度で知られる“水晶迷宮”へと。

 

 一同、思う。え? なんで?

 せっかく奴隷を買ったのに、何故奴隷を連れて潜らない? すぐ潜りたいにしても、育ちきるのを待てよと。

 

 水晶迷宮といえば、巨像迷宮とは別の理由で嫌われてる事で有名だ。

 実入りはいいのだ。主が吐き出す聖遺物(レリック)は高値で売れるし、道中の魔物が落とす品も非常に美味しい。

 

 けれど、水晶迷宮の魔物はめちゃくちゃ強いのだ。それだけで、高難度迷宮とされているくらいである。

 まず堅い。弱点らしい弱点もないし、何の特効もないクソ耐性。おまけに俊敏で、攻撃も極めて苛烈。純粋な地力だけがモノを言う、小細工無しの真っ向勝負を強制されるクッソ危ない迷宮なのだ。

 

「オイオイオイ……」

「死ぬわ、アイツ」

 

 と、イシグロ牙抜け説を唱えていた同業者二人がほくそ笑んで言った。

 それから数時間後、イシグロは五体満足で帰ってきた。

 そして何食わぬ顔でいつもの受付に行き……。

 

「すみません、換金お願いします」

 

 全ての聖遺物(レリック)を金に換えた。

 

「おう、緑の1番な」

「はい」

 

 しばらく待って、換金を終えて、袋に詰まった大金を収納魔法に入れて……。

 いつの間にか鍛錬場から戻っていた奴隷二人を連れ、何事もなく帰って行った。

 

「オイオイオイ……」

「死ななかったわ、アイツ……」

 

 ここに、イシグロ牙抜け説は崩壊した。

 

 まあ、彼の迷宮狂い氏の強さが健在なのは誰にとっても嬉しい事である。

 これまでがおかしかっただけで、今の頻度が彼にとってちょうどいいんでしょ。そういう風に解釈し始めた……。

 

 翌日である。

 

 イシグロ御一行。奴隷と共に鍛錬場に入り、主人一人で戻ってきて、迷宮に潜る。

 昨日と同じ事をしていた。

 

「オイオイオイ……」

「なんで死なねぇんだよ、アイツ……」

 

 そんでもって普通に戻ってきた。

 で、奴隷と合流しておうちに帰った。

 

「ほう、二日連続ですか。大したものですね……」

「なんでもいいけどよぉ、相手はあの“雲羊”だぜ?」

 

 まぁ、二日連続なんてイシグロの探索記録じゃよくある話である。

 最近ではあまりしてなかったけど、前はよくあったのだ。

 

 迷宮連続踏破。

 

 周囲の予想を超えて、それはしばらく続く事となる。

 後に伝説となる、イシグロ・リキタカ狂気の迷宮探索記録だ。

 

 

 

 一日目、超高難度で知られる“水晶迷宮”、踏破。

 二日目、儲からないし魔物クソだしでお馴染みの“雲羊迷宮”、踏破。

 三日目、道中のギミックがウザ過ぎる事で有名な“暴草迷宮”、踏破。

 四日目、とにもかくにも主が強すぎる“巌牛迷宮”、踏破。

 五日目、毒・麻痺・睡眠オンパレードの“怪花迷宮”、踏破。

 六日目、沼・泥・根っこが邪魔過ぎる“燃樹迷宮”、踏破。

 七日目、とにかく魔物の数が多い“鱗群迷宮”、踏破。

 八日目、暗いよ狭いよ怖いよの“闇牙迷宮”、踏破。

 九日目、何でおかわりしてんだよ“水晶迷宮”、再踏破。

 

 結局、イシグロの迷宮探索は9日の間続いた。

 これまでさんざん迷宮狂い迷宮狂い言われていたイシグロでも、最大で六連続だったのが、一気に記録を伸ばして9連続。

 しかも全部踏破成功。

 

「やっぱりアイツは天才だよ」

「いや天才っていうか……変態?」

 

 銀細工持ち冒険者は頭がおかしい。

 その中でも、イシグロ・リキタカは一等頭がおかしい。

 王都西区の人たちは、改めてそう思った。

 

「もうあいつの二つ名、正式に“迷宮狂い”でいいんじゃね?」

「だよな、実際“黒剣”って呼んでる奴いねーし」

 

 と話しているギルド職員の後ろで、おじさんはイシグロの活動記録を眺めていた。

 おじさんは奴が冒険者登録してからずっと受付をしていた受付おじさんなのだ。伊達にイシグロと最も多く話した事のある職員ではない。

 だからこそ、イシグロが無作為に迷宮を選んでいない事を直感していたのだ。

 

「……なるほどな」

 

 そして、何気に頭が切れるおじさんは感得した。

 いや、前提となる情報がなければ、おじさんでも気づかなかっただろう。

 奴は、明確に目標を立てて迷宮に挑んでいたのだ。

 

 迷宮が吐き出す聖遺物を知っていれば、分かる。

 奴の目的は……。

 

純血大公の戦衣(リアルイーザのそうび)……へっ、そういう事かよ……」

 

 イシグロは、英雄の装備を再現するつもりなのだ。

 恐らく、新しく買った竜族奴隷の為に。

 ちぐはぐな気もしないでもないが、それは淫魔の時点でそうだ。そも、種族には頓着してないのかもしれない。大事なのは、危険を冒す(ハート)なのだろう。

 

「おもしれー男……」

 

 おじさんは、イシグロに関する真に驚くべき証明を見つけたが、それを書くには記録帳の余白が足りなかった。

 なので、誰にも言わなかったし、何もしなかった。そっちのがクールだからだ。

 

 それにと、おじさんは思う。

 もし奴の伝説を記録するなら、それはこんなショボい紙束じゃいけねぇ。

 もっと情緒と情感をたっぷり詰めて、かつ淡々とクールに書いた分厚~い本じゃねぇと。

 そして、聞き込みしてくるだろうその本の執筆者に、言ってやるのだ。

 

「俺か? 俺は、あいつの担当職員だよ。ただの、な……。へっ、決まった……」

 

 鏡の前、おじさんが時折このような妄想にふけるのを見て見ぬふりをする情が、他職員たちにも存在した。

 おじさんはパワハラもアルハラもモラハラもしない良いベテランさんなのだ。奇行の一つくらい、ご愛敬である。

 

 

 

 一方その頃、件の迷宮狂いの一党は……。

 

「ちょっと、もう少し優しくしなさいよ……」

「練習中なんスから、そうそう上手くはいかないッスよー」

「そう……。くれぐれも角に当てないよう気を付けるのよ?」

「わぁ~、竜族の髪ってホントに魔力たっぷりッスね~。食べたら魔力回復しないッスかね?」

「なんて事言うの、貴女……」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 いつもの宿屋にて。

 

 イシグロは、ロリ奴隷がイチャついているところを静かに眺めていた。

 その表情はパーフェクトアルカイックスマイル。背景には控えめな百合の花が咲いていた。

 

 石黒力隆、ロリコンであると同時に軽度の百合豚であった。

 この男、転天もリコリコも水星の魔女も大好きなのである。




 感想投げてくれると喜びます。



 はい、キャラ募集します。

 ヒロイン募集ではありません。
 ヒロイン募集ではありません。

 詳しくは活動報告をご確認ください。
 ご興味のある方は是非、軽い気持ちでご応募いただければと思います。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=296177&uid=59551


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剣とロリ

 感想・評価など、ありがとうございます。やる気ゲージが溜ってます。
 誤字報告も助かってます。感謝しかない。

 募集企画の方、ご応募頂きありがとうございます。良い刺激になっています。作者が想像してたよりやる気に繋がりますねコレ。
 出す時は何の脈略もなく現れるので、あんまり構えないで頂けると幸いです。いきなり登場します。登場キャラが作者作なのか募集キャラなのかを把握してるのは作者だけです。
 レギュにも書きましたが、頂いた案は盛大にアレンジしてナーフして誇張してメタクソに弄り倒してから出すので、ほぼ別キャラになります。ご了承の上、ごあんしんください。


 水晶迷宮。

 

 タイプは屋内型で、洞窟スタートで洞窟ゴールという、比較的オーソドックスな構成のダンジョンだ。

 例によって外に通じていない洞窟だが、それほど暗くはない。そこら中に生えてるクリスタルがぼんやり光ってるからだ。まるでラスダンみたいな雰囲気である。こういうダンジョン、ゲーム終盤だとよくあるよねって感じ。

 

 そんな水晶迷宮は、転移神殿から転移できる迷宮の中では相当高難易度なダンジョンで有名である……らしい。理由は単純で、エネミーが強いからだ。

 名前の通り、出て来るエネミーは全部何色かの水晶みたいな半透明の何かしらで、クリスタル馬とか浮遊するクソデカサイコロとか形は色々。種々様々なコイツ等は皆、硬い速い手強いの三拍子。

 まず硬さ。ゴーレムほどじゃないが確かに硬い、というか弱点属性がないのがクソだ。おまけに状態異常全般も効かない。速さはダンジョン基準で中の上くらいで、攻撃と攻撃の間に隙が少ない上、物魔近遠あらゆる間合いで攻撃してくるから手強いと。

 

 そんなクソエネミーのクソダンジョンだが、実入りはいい。

 どんな使い道があるのかは知らないが、ボスがドロップする謎水晶玉は驚くほど高値で売れる。道中エネミーが落とす品々も結構美味いし、ついでに経験値もなかなか。

 バランスを取るように罠の類はないのが救いである。けどまぁ、此処はその上で高難度って言われてる訳で……。

 

 持ってく武器は、しっかりしたのじゃないといけないのである。

 

 

 

 キン! キン! キン! 硬い物同士が激しくぶつかる音が鼓膜を震わせる。

 それは俺の両手に握られた剣と、青白い半透明の刃が連続で衝突し、擦過する音だった。

 

「1、2、3……!」

 

 半透明の怪物――水晶カマキリの斬撃をリズム良く“受け流し”ていく。

 青白い鎌が振られる直前、視覚と感覚に危険信号が送られ、慣れた反射で以て剣を振るう。目の前に盛大な火花が散り、例の音が響く。

 間髪入れず迫りくる連撃を、俺は努めて冷静に剣士系能動スキルで“受け流し”ていた。

 

 受け流し。これは剣を使った能動スキルの一つであり、相手の攻撃タイミングに合わせて使用する事で素晴らしい防御性能を発揮できるのだ。ぶっちゃけ、隻狼の弾きみたいなもんである。

 これは普通の剣ガードと違い、使用者側に貫通ダメージとかノックバックとかの戦術的不利を齎さない優秀スキル君だ。剣士系で多分一番大事で重要なスキルである。盾があれば別だが、剣士系は盾を持てないのだ。

 しかし、これまで俺はこのスキルをそんなに使ってこなかった。あくまで、ジャスガできそうにない敵への、且つ回避ができそうにない状態での緊急策として運用していたのだ。

 何故か? 武器耐久度が削れるからだ。だから、あんまり使ってこなかったのである。いやだって、武器壊したくないじゃん。

 

「1、2、3……4、5、6……!」

 

 リズム良く、次いでリズムから外れた攻撃も受け流していく。

 本来、こんな使い方をしてたら剣なんざ一瞬でおシャカである。が、この剣は別だ。耐久度もほんの少ししか減っていない。だから、こうして相手の動きを見る余裕を持てる。

 

 ギィン! と、強攻撃を“受け流し”た拍子に盛大な火花が散った。

 前世の剣なら、恐らくさっきので折れるなり曲がるなりしていただろう。例え異世界ブレードでも、今のは流石に耐久度がかなり削れたはずだ。

 が、俺の剣には傷ひとつない。耐久度減少もごくわずかだ。

 

 今俺が握っているのは、前に工匠でオーダーメイドした俺の専用剣だ。名前はまだない、無銘の剣だ。こういうのは買い手が付けるもんらしいが、現在保留中。俺にネーミングセンスはないのだ。

 この剣は極めて高い基礎性能に加え、複数の補助効果を付けている。そのうちの一つに、“武器防御”という補助効果がある。これは武器によるガードの際、耐久度の減少を抑えてくれる便利な奴だ。加えて“自動修復”も付いているので、戦闘中おじゃんになる事はないのである。

 だから、思いっきり雑に使って大丈夫なのだ。

 

「1、2、3……!」

 

 余裕を持って、凌ぎ続ける。回避は最小限、淡々と受け流す。どっしり構え、必殺を狙う。

 やがて、水晶カマキリが大技体勢になった。来た、もう飽きるくらい受け流してきてようやくだ。チートに集中する。感覚アシスト、視覚アシスト、危機察知が警鐘を鳴らし始めた。

 頭上からクロス斬撃が迫る。タイミングは分かっている。深呼吸する暇はないし、異世界慣れした身体はもうそのような心の準備を必要としない。殺す、殺すのだ。

 1、2の……!

 

「さんッ!」

 

 ギィィィィン! 掬い上げるようなジャスト“受け流し”が成功し、ボスの体勢が崩れた。これを待っていた。

 この世界、ジャスガが成功すると、された敵は姿勢を崩す。すると、よろけてる間だけ特定部位が“弱点”になるのだ。加えて、よろけ中の敵には確定で会心の一撃(クリティカル)が入る。

 とはいえ、普通ボスにジャスガ決めるだけじゃこうもいかない。これは、完璧なタイミングで“受け流し”たからこそのチャンスなのだ。

 

 時間が引き延ばされる。刹那の間、スローになる。

 流れるように構えを替える。大上段、踏み込む。狙いは弱点部位。カマキリの首。そこに、ソドマススキルの“剛剣一閃”をぶち込むのだ。

 

「スゥーッ……!」

 

 ところで、俺のオーダーメイド剣には先述の補助効果の他に、あと四つの補助効果を付けてある。

 そのうちの三つは、火力アップ系だ。

 

 一つ、“弱点特効”。これはそのまま、弱点部位へのダメージが増加する補助効果だ。

 二つ、“会心特効”。これもわかりやすい。会心の一撃の与ダメが増えるのだ。

 三つ、“無防備特効”。これまた文字通り、パリィなりジャスガなり受け流しなりで体勢を崩している敵への与ダメが増加するのである。

 

 さて、今現在、クソ堅水晶ボスは体勢を崩して無防備な状態を晒している。

 この状態になった敵へは、会心攻撃が確定する。かつ、時間制限付きで弱点部位が露わになるのだ。

 そこに、三つの特効が載った単発高火力技を入れると……!

 

「……死ねェエエエッ!」

 

 ズバァン! 剣を振り下ろす。狙いは完璧、鉄と水晶が激突し、されど感触は濡れ手拭いを断つが如し。

 使用者の戦闘術、製作者の運用思想が噛み合った一撃は、いとも呆気なくボスの命を刈り取った。

 

 ……が、まだだ。

 

 キン、と今度は控えめな金属音。眼前に飛んできた物体を、俺が剣身で以て受け流した音だ。勢いそのまま後方に逃げたソレは、水晶カマキリの頭部だった。

 そう、ここのボスは全種類HPを全部削った後に第二形態があるのである。といっても、やってくる事はどこぞの山犬君よろしくヘッドアタックだけなのだが、その動きは其処らのスピード型エネミーより速い。多分、ルクスリリアでは厳しい相手だ。こうなったコイツは流石に脆いが、速くて痛くて厄介だ。控えめに言ってクッソうざい。

 しかし、今回は二回目。以前は壮絶な追いかけっこが開幕したが、もう対策済みだ。ダクソでもエルデンでも、二周目ギミックボスは余裕で倒せるものである。

 

 二度目のアタック。受け流し、反撃する事なく反転。握りを替え、姿勢を整える。

 構えは片手。握りは逆手。それはさながら、陸上選手の槍投げの様。というか、この能動スキル(これ)は名称そのまま“投剣”だ。

 

「フン!」

 

 ピッチャー振りかぶって、投げた。ストライク! バッターデッドである。ド真ん中に剣を生やしたカマキリくんは粒子となって俺に吸い込まれていった。経験値が入ってきて気持ちがいい。

 

 さて、往生際の悪い水晶カマキリはこうして死んだとさ。ボスを倒した事で、部屋の真ん中に帰還クリスタルが生成された。

 これに触れれば帰れる訳だが、その前に剣を回収しなきゃいけない。

 

 なので、俺はおもむろに右腕を広げ、手を開いた。さながらそれは、マイティ・ソーがムジョルニアを呼び出す時のポーズの様。

 やがて、俺の剣は手のひらにすっぽり納まった。ていうか、ホントにマジでまさにソー。

 これ、超お気に入りである。

 

 俺の剣には、耐久度スキル二つ、火力スキル三つ。最後にこの“魔法装填(武器の呼び出し)”が付いている。

 呼び出しを付けるのだぜとドワルフに言うと、「もったいなくねぇですかい?」と返されたものだが、いやいやこれはいるでしょうと。実際使える。

 なによりカッコいい。俺はMCUも好きなのだ。勿論、ソーも大好きである。キャップの盾といい、アイアンマンの飛んでくるパーツといい、戻ってくる武装ってロマンじゃんである。

 

「あ~、やっぱカッケェなぁ……」

 

 こう従順に戻って来てくれると、愛着も湧こうというものだ。

 造形も性能も俺好みの、俺専用の剣。男の子心にグッとくる。

 改めて、俺は俺用の剣を眺め見た。

 

 

 

◆無銘のロングソード◆

 

 

 

・物理攻撃力:950

 

 

 

・補助効果1:弱点特効(大)

・補助効果2:会心特効(大)

・補助効果3:無防備特効(大)

・補助効果4:魔法装填(武器の呼び出し)

・補助効果5:武器防御

・補助効果6:自動修復

 

 

 

 

 

 

 オーダーメイド専用武器、無銘ロンソくん。

 形はシンプル十字のオーセンティックロングソードスタイルだ、飾り気もないので、パッと見ただの店売りの数打ち品に見える。

 全長は大体1メートルちょいだろうか。前世、授業で使った事のある竹刀と同じくらいである。使い慣れた異世界ロンソより少し長いが、今はステも上がってるので片手ブンブンも余裕である。

 剣身の色は暗い銀色だ。いや何それって感じだが、実際そんな例えがしっくりくるのである。なんというか、光沢あるけどキラキラしてないシルバーというか……。もっと言うと光を当てる角度によっては色んな色に見えるし、実に不思議カラーである。

 素材は金剛鉄(アダマンタイト)をベースに真銀(ミスリル)を混ぜた特殊合金で、曰くめちゃくちゃ手間と技術が要るんだとか。お陰でこんな不思議な剣身になったらしい。

 ブレードはそんな感じだが、柄全体はツヤのない黒統一である。握りの部分には金剛鉄(アダマンタイト)製の極々細い鎖が溶接されていて、滑り止めになってくれている。神は細部に宿るというが、まさにソレ。こういうトコに職人技のロマン感じちゃうよね。

 

 総合して、俺のオダメ剣はなんか黒っぽいシンプルロンソなのである。

 けど、中身はドワルフ曰く「モノホン中のモノホン」だ。

 俺はロトの剣みたいな武器も好きだが、こういう渋い武器も好きなのだ。

 うん、とても良い……。

 

「買ってよかったなぁ……」

 

 本当に、そう思う。いざ使ってみて分かったが、強い武器使うとマジで世界が変わる。エルデンで戦技縛りやってた俺が、マレニア戦で縛り解除した時並みに世界変わる。

 これまで店売りの安物ばっか使ってたから補助効果ナメてたけど、やっぱあるのとないのとでは全然違う。もし弱武器でさっきのボス倒そうと思ったら、多分剣何本もへし折ってたと思うし、そのうち隙晒して死んでた可能性あるアルヨ。

 上手く特効入れりゃHPごっそり持ってけるし、何より戦闘時間が短くなったから集中力が途切れないのがいい。チートは強いが、俺は弱いのだ。十全にチートを使うには、使用者の集中力が必須なのである。

 

 うん、これからは良い武器良い防具を使おうと思う。

 良い冒険には良い装備が必須だって、多分ばっちゃが言ってたし。多分飛べる方の豚もそう言うよ。

 

「……と、さっさと帰ろう」

 

 剣に見とれるのはこれで何度目だろう。なんか初めて原付買った時みたいだ。いい加減慣れねば……。

 俺はボスの聖遺物(ドロップアイテム)収納魔法(アイテムボックス)にしまうと、帰還クリスタルに触れて神殿に転移した。

 

 ロリが待ってる。

 

 

 

 

 

 

 神殿に戻ると。昨日と同じく多くの視線を感じ取った。

 最近、帰る度にこうである。いくら銀細工が珍しいからといって、そう注目しないでほしい。できれば前みたいに一般冒険者Bくらいの扱いをしてほしいものだ。

 辟易しつつ、いつもの受付へ向かう。

 

「はぁ……」

「ひっ……!?」

 

 我知らず溜め息を吐くと、すれ違った小柄な冒険者が小さく悲鳴を上げて肩を震わせた。

 それにビックリした俺が振り向くと、目が合った。

 

「え?」

「え?」

 

 彼は俺と目が合うと、サッと顔色を悪くした。固い笑みがひくひくしていて、連動した頬のタトゥーが震えている。

 俺でも分かる、何故だか彼は俺に怯えているのだ。迷宮帰還後は汚れが落ちるので血塗れホラー殺人鬼スタイルなんて事もないし、前みたくパンイチって訳でもない。同じ冒険者なのに、何故?

 

「えっと、すみません……」

「あ、いや……」

 

 よく分からないので、さっさと先に行く事にした。

 どこまで行っても俺は地球人、異世界人の感性は分からない。何か、俺が異世界倫理的に良くない事をしてしまったのかもしれない。歩きながら溜息は威嚇になるとか? 分からん……。

 なら、異邦人は異邦人らしく振る舞おう。郷に入りては郷に従えとはいうが、それはそれとして何もかんも合わせる必要はないのだ。こういう時はスルーである。

 

「すみません、換金お願いします」

「おう、イシグロか。緑の2番な」

 

 慣れた手つきで札を受け取る。おじさんとこういうやり取りをするのには慣れた。たまに異世界の常識にはびっくりさせられるけど、ルーティンをこなすと安心するね。

 

「ん?」

 

 ふと思って辺りを見渡してみて、ルクスリリア達がいない事に気づいた。最近、迷宮帰りにはすぐ見つけて寄ってきてくれたのに。

 俺が迷宮に籠っている間は、彼女たちには鍛錬場でトレーニングするよう命じているのだ。いつも通りならもう神殿に戻ってると思ってたが……。

 

 誘拐、とかじゃないよな?

 ある意味、そういう対策の為にパーティメンバーのレベリングをしてる側面もあるのだ。ルクスリリアは大丈夫だろうが、エリーゼはまだ弱い。

 心配である、何もなければいいのだが……。

 

「あのー、うちの奴隷二人が今何処にいるか知りませんか?」

「奴隷? あー、あの……。いや、昼飯食った後は、また鍛錬場んとこに行ったな。それきりだぜ」

「そうですか」

 

 となると、単にまだ鍛錬場にいるってあたりだろうか。思いの外、俺のダンジョンアタックが早く終わったのかな。異世界は時間がわかりにくい。ここからじゃ外の様子分かりづらいし、今はまだそんな時間じゃないのかもしれない。

 

「ほらよ、番号札返せ」

「ありがとうございます」

 

 お金をもらうと、俺は急いで鍛錬場の方に向かって行った。早くロリに会いたい。

 と思ったら、件の転移石碑の出口側から見知ったふたつの影が転移してきた。

 金の髪と銀の髪、後ろ姿だけでもう可愛い。最高である。

 

「ルクスリリア、エリーゼ」

 

 名を呼ぶと、二人は振り返って歩いてきた。

 片方はぶんぶん手を振って、もう片方はおしとやかにゆっくりと。

 約束通り、二人とも渡した武器を布でグルグル巻きにしている。えらい。

 

「よッス~、今日は早いッスねご主人」

「あら、もしかして敗走でもしたのかしら……?」

「んな訳あるかい」

 

 などと言ってきた奴隷には、右手に持った金貨袋を見せつけてやった。

 水晶迷宮、ホントに儲かる。ま、これすぐ無くなるんですけどね。

 

「わぁ! 大漁大漁~! ご主人~、アタシ今日は美味しい夜森人(ダークエルフ)料理が食べたいッス~♡」

「いいね、そうしよう。エリーゼもそれでいい?」

「ええ。できれば、夜森人葡萄酒(ダークエルフ・ワイン)のヴィンテージが呑めるお店がいいわ」

「わかった。まぁ前と同じ店になるけど」

 

 合流し、諸々を終え、夜ご飯の話などしながら神殿を出る。

 夕陽が近く、夜はまだ遠い。少し早いが、今日はもうおしまいにしよう。

 一旦宿屋に帰って、ひと休みだ。

 

 明日は、お買い物デートである。




 感想投げてくれると喜びます。



 活動報告にて、キャラ募集企画を行っています。
 ご興味のある方は是非、お気軽にご応募下さればと思います。
 詳しくは活動報告にて。

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 一緒に世界観を広げていきましょう。


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あわてるな。これは淫魔の罠だ

 感想・評価など、ありがとうございます。楽しんで書かせてもらってます。
 誤字報告もありがとうございます。感謝感謝アンド感謝です。

 キャラ募集の方もありがとうございます。
 やる気に繋がっています。
 応募キャラは何食わぬ顔して唐突に現れます。気負わず構えず読んで頂けると幸いです。


 前世、俺は童貞だった。

 

 当然、年齢=彼女いない歴だし、異性とデートなんてした事ない。ロリコン故に風俗にも興味がなかった。

 中学は共学だったが、高校は男子校だったので俺もその周囲も女っ気ゼロ。彼女持ちはクラスで一人、彼のあだ名は“勇者”だった。

 佐藤くんも加藤くんも後藤くんも江藤くんも斎藤くんも安藤くんも須藤くんも伊藤くんも遠藤くんも、仲のいい友達はみんなみんな童貞だった。

 

 休み時間、日に一度は誰かが「彼女欲しい~」と言い、「わかる~」からのどんな彼女がいいか大会みたいなのが開催されたものである。

 まぁすぐ猥談に移行する訳だが……。

 

 そんな中、こんな話題が振られた事があった。

 彼女と、どんなデートをしたいかというものだ。

 

 佐藤くんは言った。「おうちデートで一緒にハッピーシュガーライフ観たい!」と、彼は百合豚だった。

 伊藤くんは言った。「動物園デートがしたい!」と、彼はケモナーだった。

 安藤くんは言った。「知るかばか! そんな事より“休憩”だ!」と、彼は性欲魔人だった。

 

「石黒、お前は?」

 

 俺は、その問いに、なんて答えたのだったか。

 俺がロリコンである事は、皆が知っていた。多分、ほとんどネタというかソフトな受け取られ方をしてたと思う。実際、法を犯す類の人ではなかったのだから。けれども、異世界無罪となれば即実行なあたり、まぁガチだ。

 

 デートなんて、考えた事がなかった。

 

 当時、俺は俺とロリが付き合う……という妄想をした事がなかった。スケベな事しか考えてなかったのである。

 交際など、全くもってリアリティがないし、もしリアルならポリスメン案件である。マッポ相手は股間が縮む。俺はNTRモノの次に婦警モノが苦手だ。

 そんな俺は、どのように返したのだったか……。

 

 あ、いや思い出した。

 

 どんなデートがしたいか。

 その質問に、俺は……。

 

 

 

「お待たせ、待った?」

「きひひっ、今来たとこッス~♡」

 

 王都西区、噴水広場にて。

 俺は、先行して出かけていた奴隷二人と合流した。

 この日の為、二人には先日購入したいつもと違う夏用おしゃれ服を着てもらった。とても可愛い。ルクスリリアの場合、普段からサマースタイルだが……まぁそれはいい。

 

「これ、何の意味があるのかしら……?」

 

 打ち合わせ通り応じてくれたリリィと違い、エリーゼはいつもの腕組みモデル立ちで心底不思議そうな顔を向けてきた。

 エリーゼの言う通り、意味はない。普通に一緒に出ればよかっただけである。だが、有意義なルーティンだと思うのだ。

 

「これやるとテンション上がるんだよね」

 

 世界関係なくいつも適当な服を着てる俺も、今日は二人と釣り合うように異世界ではオシャレとされる服を着ている。

 なんか、派手な青いシャツみたいなの。ブレスオブザワイルドのリンクみたいなんである。造形はシンプルだが、日本だと目立つ気がする。

 

「アタシもよくわかんないッスけど、なんかやるとご主人が喜ぶんスよね」

 

 ルクスリリアには、いつものサマーメスガキコーデではなく少し大人しい印象の服を着てもらった。

 頭には鍔の広い白帽子、服はシンプルな白いワンピースに白ブーツ。まさにサマー童貞特効スタイルである。いや童貞を卒業した俺も大好きなあたり、ロリコン特効なのかもしれない。

 

「そう……なら、次からはそうするわ」

 

 エリーゼには、所謂地雷系のファッションをしてもらった。とはいえ異世界にそういうのはなかったので、地雷系モドキだが。

 レース付のブラウスに革の靴。その他リボンとかカチューシャとかで飾り立ててみたのだ。パーツだけ見るとなかなかの地雷っぷりなのだが、エリーゼが着ると気品が勝って最終的にお嬢様ファッションになるのだから不思議だ。

 

「じゃあ行こうか」

「はいッスー」

「ええ……」

 

 三人、俺を真ん中に並んで歩く。地球オタク視点、リンクとリーリエとお嬢様のコスプレイヤーが歩いているように見える事だろう。

 だが、異世界じゃこんなの普通である。いや、どっちかというと地味めである。異世界人はみんな割と派手だ。地球とは別方向に。

 

 

 

 さて、買い物デートとは言うが、実際はただの買い物デーである。

 前は武器を注文したが、今回は別の物。RPGにおいて武器くらい重要な装備、防具とアクセサリーの購入だ。

 

 ルクスリリアは元銀細工冒険者の淫魔剣聖女史の装備を付けているが、エリーゼにはまだない。俺も俺で、良質だけれど何の補助効果もついてない店売り品装備である。

 あと。これまで無視してきた装飾品も買うつもりだ。同業者の中には指輪とかピアスとかしてる人がいたのだが、彼ら彼女らはゲームで言うトコのアクセサリーの欄もしっかり埋めてたのだな。俺は空欄のままだったが。

 良い武器の良さを知った今、良い装備を揃えない理由がない。多分、遅すぎるくらいだ。

 

「お久しぶりです。素材持ってきました」

「これはイシグロ様、ようこそいらっしゃいました。お久しぶりです、店主のセオドロスでございます。さぁ、こちらにどうぞ」

 

 まずやってきたのは、防具屋さんだ。

 ここは以前ルクスリリアの防具を買ったところで、当時は知らなかったが此処でもドワルフ店みたいに防具をオーダーメイドできるサービスがあるというのだ。

 曰く、店主のおじさん紳士――セオドロスさんという――は防具と装飾品の工匠資格を持っているとかで、二度目の来店時に相談と見積をしてもらったのだ。

 何の相談かというと、エリーゼと俺の防具。あと三人分の装飾品についてだ。今の俺は、もうただ質の良い装備じゃ満足できねぇのだ。

 

「えーっと、コレとコレとコレとコレと……」

 

 招かれた個室にて、アイテムボックスから集めたボスドロップ品を取り出していく。

 白雲羊(がいあくひつじ)の毛皮に、暴れ草蛇(くされクソスネーク)の茎、巌鎧猛牛(ザコウシ)の革。貪食毒花(どくどくウンコフラワー)の花弁と、火吹き大樹(やみおちウイスピーウッズ)の樹液。大首領蜥蜴(ザコトカゲ)の鱗と、あと暗黒蝙蝠(ザココウモリ)の翼膜。最後に色んな希少鉱石を必要個数……。

 それを、台の上に次々載せていく。個数自体はさほどでもないが、一個一個がデカいので人間用装備など余裕で作れちゃうのだ。

 

「……で、コレで最後ですかね」

「はい。しかと確認させていただきました。こちら、契約書となります」

 

 デザインとか性能とかは既に相談済みなので、あとはこの契約書にサインすればOKだ。サラサラ~で終わりである。

 

「それでは。出来上がり次第、使いの者を向かわせます。今後とも、我が商会をご贔屓に」

 

 お見送りをされ、店を去る。多分、三十分もかかっていないと思う。

 デートなら完全に減点だろうが、地球で童貞だった俺が異世界で気の利いたデートプランなど組めるはずもない。ぶっちゃけ、いつもの買い物を少しオシャレして行っただけである。

 

「いやー、これでやっとご主人がちゃんとした装備つけてくれるようになるんスねー」

「リリィもオーダーメイドの存在は知らなかったじゃん」

「アタシが言ってるのは見てくれの話ッスよー」

 

 今回、俺が注文したのは、エリーゼと俺の防具。それと三人分の装飾品である。

 ルクスリリア用の装備は「え? もうコレあるしいらなくないッスか?」という当人の一言で一旦無しになったので、とりあえず装飾品のみ。

 ちなみに、今の今まで知らなかったのだが、紳士店主曰く装飾品は一人一つが常識らしい。どうやら、補助効果付きのアクセを二つ以上付けると、どの効果も発動しなくなるんだとか。

 つまり、当初俺が考えていた指輪十個装備フルアーマー・エリーゼ計画は無理だったという事である。

 

「防具のデザインを考えるというのは、思いの外楽しい経験だったわね……」

「それは良かった」

「ええ。これまでは用意された服しか着てこなかったし、竜族に防具はいらないもの」

「そういやー、鱗纏った竜族って、元々着てた服とかどうなるんスか?」

「どうって、そのままよ?」

 

 あれこれ相談した結果、エリーゼは指揮系のジョブを育てる事にした。

 指揮系というと、割と作品によりけりな気がするが、この世界では戦士レベル20で生えてくる“指揮官”がソレにあたる。

 ちょっと触ってみたが、当時ソロ専だった俺には全く関係のない、スキルで味方を強化するタイプのジョブだった。一応、魔術師よりは前に出て殴れるっぽい。

 なので、エリーゼ用防具はソレっぽいのを注文した。完成が楽しみである。

 

「エリーゼの防具にはあれだけ時間かけてたのに、ご主人の防具は一瞬で決まったの何なんスかね」

「動きやすいのでって……もう少し、銀細工相応の装備にしたいとは思わないのかしら」

「動きやすさは大事でしょ。俺は俺が着飾る事に興味はないの」

 

 ちなみに、俺の防具注文は「軽くて堅くて動きやすいの」である。

 結果、やっぱりというか何というか革装備になった。完成予想デザインを見せてもらったが、地球基準だと派手で異世界基準だと地味なビジュアルであった。

 しかし性能は最高峰。黄金の鉄の塊にも負けないくらい強力な革の装備である。

 

「で、リリィはホントに何もいらないの?」

「え? あー、そうッスね。特には」

 

 そして、コレである。

 最近はエリーゼ用の買い物しかしてなかったので、ルクスリリアにも何か買ってあげようとしたら……何も欲しい物はないというのである。

 真のイケメンなら相手の欲してるモノをクールにプレゼントするのかもしれないが、俺にそんな能力はない。訊いてもこうである。チートがあってもわからない。チートは俺に何も言ってはくれないのだ。

 

「ルクスリリア、貴女の主人は貴女が喜ぶ顔が見たいのよ」

「ん~、つってもマジで無いんスよね~。いや、前は欲しいモンいっぱいあったんスけど……」

「え、じゃあそれでいいんじゃ?」

「ヒトオスの童貞♡」

 

 それはもう売却済みだし、もうルクスリリアのカートには俺発送の商品がいっぱいである。

 それに、申し訳ないが他男の童貞は俺の脳みそが破壊されるのでNGだ。

 

「あとは……エロ本? でももういらないんスよね~」

「他は?」

「……強さ?」

「今鍛えてるところじゃない」

 

 ルクスリリアさん、メスガキというキャラ性の割には、存外無欲な気質なのかもしれない。

 というか、もう満たされていると捉えていいのだろうか。

 

「ん~? あっ、じゃあアレ買ってほしいッス」

 

 そう言って指差した先には、如何にもな魔術師さんが店員をやってる屋台があった。見るに、何かお菓子の販売をしているようだ。

 ちょうどそこにカップルっぽい獣人男女が現れ、何かを注文した。店員魔術師は簡素な器を手に、見たことない魔道具を操作して、そこからニュルニュル出てきた白いものを器に入れ、出来上がったものに木匙を差してカップルに手渡した。

 カップルは近くのベンチで仲良く食べ始めた。ソレは白くてクリーミーで、そんな素晴らしい氷菓を買える二人は、きっと特別な存在なのだと感じた。

 

「アイスじゃん」

「知っているのかしら、アナタ?」

「多分……。王都にあるとは思わなかったけど」

「ほえー、ご主人よく知ってたッスねー。アレ、淫魔王国で最近出来た“淫魔氷菓(サキュバス・アイス)”ッスよ」

「食べたら発情しそうなお菓子だぁ……」

 

 それはそれとして、ロリのお願いは聞かねばならぬ。

 俺は早速、異世界アイスクリームを注文する事にした。

 

「すみません。淫魔氷菓ふたつ」

「え、銀細工……あっ! はい、氷菓二つですね! 承りました!」

 

 一瞬驚かれたが、魔術師店員はすぐに営業スマイルになった。彼の笑顔は引きつっていた。なんかもう銀細工外したくなってきたな……。

 けど、ギルドから街では出来るだけ付けてるようにって言われてるんだよな……。

 

「あの……ふたつで2000ルァレになります……」

「はい」

 

 アイスふたつで2000ルァレ……。内心ぼったくりじゃねとか思ったが、まぁそうならしゃーない。

 やがて出来上がったアイスを持って、人気のないとこのベンチに座る。それから二人にアイスを渡した。

 

「はい」

「あざーッス」

「あら、私もなの?」

「実は俺、甘すぎるお菓子苦手でさ……」

 

 異世界アイス、興味がない訳ではないが、注文を二つにしたのはそれが理由だった。

 前世、高校生あたりから何故だか甘い物を美味しく感じなくなったのである。別にお菓子の全部が嫌いになった訳ではないが、アイスクリームとかパフェとかはキツくなった感じである。実際、今でもチーズケーキとかは好きだ。

 

「私に買い与えたらルクスリリアへの労いにはならないんじゃないかしら……?」

「わ! めんどくせー! いいじゃないッスか別にそういうのー!」

「そう……貴女がそう言うなら、いいのでしょうけど……」

「ごめん、俺もあんま考えずに注文しちゃった」

「ご主人も真面目っつーか律儀っつーか。二人とも、もっと気楽に生きれんもんスかね?」

 

 そうこう言いつつ、溶ける前にと食べ始めるロリ二人。俺的にはその光景だけでお腹いっぱいである。

 淫魔氷菓という名の異世界アイスクリームを食べるロリは、とても幸せそうな顔をしていた。

 

「美味しいわね……。冷たくて、甘い……」

「淫魔の乳は世界一ッスからね!」

「なんか別の意味に聞こえるな」

 

 雑談しつつまったりしていると、ふいにルクスリリアが俺の方を見てきた。

 それから何か思いついたらしく、ニタァ~っといつものメスガキスマイルを浮かべた。

 

「ご主人様ぁ♡ はい、あ~ん♡」

 

 かと思えば、匙にすくったアイスを差し出してきた。

 なので、食べた。

 

「あ、アナタっ……?」

 

 よく味わって、飲み込む。幸せの味がした。

 ロリに「あ~ん♡」されるなど、全ロリコンの夢だろう。

 

「きひひ♡ 予想通り、ご主人こういうの好きなんスねー♡」

「うん、生きてて良かった……」

「そんな、はしたないわ……」

「あれぇ? どしたんスかエリーゼ様ぁ? 氷菓(アイス)食べないんスかぁ? もしかしてぇ、羨ましいんスかぁ?」

「くっ……」

 

 幸せを噛みしめていると、もう一人のロリから魔力の籠った視線を頂いた。

 見ると、エリーゼが無言で匙を差しだしてきた。

 

「えっと、食べていいの?」

「……早くなさい」

 

 そう言うエリーゼの顔は真っ赤になっていた。恥ずかしいらしい。

 まぁロリの「あ~ん♡」なんてナンボあってもええですからね。早速エリーゼの匙からアイスをもらった。

 

「ど、どう……?」

「すごく嬉しい」

「なら、いいのだけれど……」

 

 隣では、ルクスリリアがメスガキスマイルでエリーゼを眺めていた。

 その時、直感した。あ、コイツこういうの欲しがってるんだなって。

 

「ご主人様♡ もひとつどーぞッス♡」

「か、かとうしゅぞく……!」

 

 その後も、ルクスリリアは俺を経由してエリーゼで遊んでいた。

 恥ずかしがるエリーゼが面白かったらしい。俺視点かわいい以外の感想が持てないのだが、まぁ喧嘩じゃないしいいや。

 俺、得しかしてないし。

 

 それはそれとして、少し前まで童貞ロリコンだった俺が、どういう訳だか異世界ロリ美少女に挟まれて交互に「あ~ん♡」されるなど、誰が予想できただろう。

 幸せ過ぎる。俺、明日死ぬのかもしれない。

 

「異世界来てよかった……」

 

 しみじみ、そう思う。

 命賭けてダンジョンアタックした甲斐あるよ、ほんとに。

 

「ほらご主人様♡ こっち向いて~♡」

「もう、恥ずかしいわ……」

 

 結局、淫魔氷菓はほとんど俺が食べる事となった。

 甘いのは苦手だが、とても美味しい思いをした。




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 現在、本作に登場するキャラを募集しています。
 ご興味のある方は是非、気軽にご応募ください。
 詳しくは活動報告にて。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=296177&uid=59551

 一緒に世界観を広げていきましょう。



◆本作におけるtier◆

・tier1:銀竜剣豪ヴィーカ(伝説級)
・tier2:現ラリス国王(環境トップ)
・tier3:フルチンブラザーズ(種族代表)
・tier4:淫魔女王(種族屈指)
・tier5:宝銀竜テレーゼ(金銀最上位)
・tier6:グレイソン(金銀上位層)
・tier7:イシグロ(平均銀細工)
・tier8:銀細工下位層


 参考までに、能力値だけ見るとこんな感じです。


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ロリの使い魔

 感想・評価など、ありがとうございます。お陰で楽しく書かせてもらっています。
 誤字報告も感謝です。ありがとうございます。

 キャラ募集についても、沢山のご応募ありがとうございます。想像以上に作者のやる気に繋がっています。
 出る時はヌルッと出るし、出たら出たでほぼ別物になるのでご了承ください。

 今回の話は、感想で頂いたネタを元に追加したエピソードとなっています。
 作者の視点だと思いつかなかった要素ですね。

 この世界にはこういうのもあるよという話です。



「そういやー、旦那ぁ竜族のお嬢ちゃんにゃあ“使い魔”は持たせない主義なんですかい?」

 

 それはエリーゼの武器を注文した日、食後のティータイム中に言われた事だった。

 ちょっとした雑談といった感じで振られた話題だった。が、その“使い魔”なる者が何なのか俺にはよくわからなかったので、上手く返事ができなかった。

 

「すみません、その使い魔とはどういうモノなのでしょうか?」

 

 まあ、オタクのたしなみとしてゼロ使は読んだよ。そんな俺からすると、使い魔=ゼロ使的なアレである。サモンして呼び出すのかなって。

 ただ、そうなるとルクスリリアの召喚獣とは何がちがうんだとも思う訳で。

 

「あー、失礼。使い魔ってのは魔力で動く武装みたいなモンでさぁ。召喚獣ほど賢くねぇし、出来る事も少ねぇ。予め決めておいた事しかできねぇ、融通の利かない魔術師用の魔道具って感じでさぁ」

「え? なら召喚獣のが強くないッスか?」

「ま、そうだな。基本的にゃあ……」

 

 ルクスリリアの問いは、俺も気になった事だった。自分の事とあってか、エリーゼも真剣に聞いている。

 三人分の視線を浴びて、ドワルフは口を開いた。

 

「だが、召喚獣と違って、使い魔は職人が作るモンな訳よ。この、武器みてぇにな。さっきも言ったが融通が利かねぇ。が、こと一点に限れば召喚獣よりも良く働いてくれる」

 

 職人の腕次第だがな、と続けたドワルフ。次いで、男臭くニヤッと笑った。

 

「少し前、南区の方に良い職人が店ぇ構えたんです。興味あんなら、紹介状書いてもいいですぜ?」

 

 そういう事になった。

 

 

 

 ラリス王国、王都アレクシスト。

 

 王都には五つの区があり、それぞれ中央区・東区・西区・南区・北区と分けられている。

 新宿みたいな雰囲気の西区といった風に、王都は区ごとに特色があるらしい。また、中央区以外の四区には一つずつ転移神殿があるという。

 

 俺はこれまで王都西区でしか活動してこなかった。何故かというと、観光とかよりも金策を優先していたからだ。

 もっと言うと、西区も隅から隅まで歩き回った訳でもない。転移三ヵ月までは宿屋と神殿を行き来したりするだけだったし、以降も奴隷商館とか武器屋とかに行ったくらいでさほど活動範囲を広げてはいないのだ。

 西区以外の王都には、前々から興味はあった。機会があれば、観光したいとは思っていたのだ。せっかくの異世界なのだし。

 

 アイスを食べ、ひと休み。

 デートはこれからである。

 

 ドワルフさんの紹介状を手に、俺たちは一路件の使い魔屋さんを目指してあるいていた。

 使い魔屋さんは西区から歩いてすぐの南区にあるとの事で、乗合馬車など使わず歩いて移動していた。

 道中、色んな店や建物を眺めながら歩く王都は、けっこう新鮮だった。これまで如何に俺が異世界に目を向けてなかったかが分かる。お陰でルクスリリアとエリーゼに出会えたのだから結果オーライだとも思うが。

 

「多分、ここかな?」

 

 そうして歩いていると、ドワルフさんに教えてもらった住所にそれらしい看板を掲げた店を発見した。

 場所は通りから外れた路地裏で、なんか怪しい雰囲気である。扉の上には、“使い魔店・ガユウ”と書かれていた。ドワルフ氏曰く、店主はちょっとヤバめの人らしいので、念のため腰に“無銘”を装備しておいた。

 

「ええ、ここで合ってると思うわ。中から魔力が漏れ出ているもの……」

「その角便利ッスねー。アタシのと交換しないッスか?」

「貴女、発想がいちいち恐ろしいのよ……」

 

 エリーゼのお墨付きももらったところで、俺は勇気を出して件のお店に入る事にした。

 ドアノブに手を掛けると、扉は存外スムーズに開いた。チリンチリンと耳に心地よい鈴の音が鳴った。

 

「おぉ……」

 

 そして、いざ中に入ってみると、なんか前世で見たような光景が目に入った。

 視界いっぱい、物モノもの……。お香の焚かれた店内には、所狭しと置かれた謎アイテムが陳列してあった。いや陳列、というか割と乱雑に投棄されてる印象だ。

 木箱の中には謎のガラクタが山のように積まれているし、陳列棚にもとりあえず押し込んどけみたいなノリで玩具みたいなのが置かれている。なんか、異世界ヴィレヴァンとか異世界ドンキみたいな印象である。

 

 ちょっとビビリながら足を進めると、入り口周辺とは打って変わって受付周辺の商品は綺麗に陳列されていた。

 ガラス瓶に入った謎液体や、ボウリング玉サイズの水晶玉。中には恐らく金剛鉄製と思われる剣なんてのもあった。なんとなく、こっちのが本命商品なんだと思う。

 

「あのー、すみませーん」

 

 まぁそれはいいのだ。商品があっても店員がいないんじゃ始まらない。

 店の奥に呼びかけると、受付の奥からオウムサイズの鳥が飛んできた。一目で分かる、これは人工の鳥だ。魔法で動いてるらしく羽の動かし方がおかしいし、見た目もメタリックである。ガンダムSEEDにこんなんいたよな……。

 

「その鳥、魔力が流れているわね……」

「へー、これが使い魔ッスか?」

「多分ね。で、その魔力は店の奥と繋がってるわ……」

「へぇ~え? 良い“眼”してるじゃあないですか、竜族のお嬢さん。いや、良い“角”でしたっけ? ククク……」

 

 やがて怪しげな微笑と共に、それはヌルッと現れた。

 見上げるばかりの背丈。心配になるくらいの痩身。塗料を塗り込んだような濃ゆい青の髪に、死人の様に白い肌。猫背で曲がった細い首には、冒険者の位階を示す銀細工が下げられていた。

 聞いた通りの見てくれである。彼こそ、この店の主だ。

 

「おやまぁ、貴方も銀細工でいらっしゃる……」

「はじめまして、イシグロ・リキタカと申します」

「どうも、あたしは“傀儡廻し”のガユウ。見下ろしてると首が痛いんで、ちょっと座らせてもらいますよ……」

 

 言って、南区の銀細工持ち冒険者・ガユウは受付の椅子に座った。

 よっこいしょっと座した様は年寄りにも思えるが、その所作はいちいち優雅であった。

 

「あぁ~っと……? で、何がほしいんです?」

 

 傀儡廻しのガユウ。

 正確な年齢は不明だが、俺より年上なのは確定している。種族は魔山羊族(バフォメット)。大きな角と、くすんだ金の瞳が特徴的だ。

 南区の転移神殿を拠点とする冒険者で、使い魔のスペシャリスト。今は趣味と実益を兼ねて使い魔専門店を営んでいる。単独(ソロ)にして一党の頭目(パーティ・リーダー)という異端者。

 彼こそ、ドワルフ氏の言っていたモノホンの使い魔職人だ。

 

「今日はこの娘の使い魔を買いに来たんです」

「まあ、魔力的にゃあそうでしょうね。そっちの淫魔のお嬢さんは……」

 

 チラッとルクスリリアを見るガユウ氏。

 使い魔バードを突っつこうとしていたリリィは強者の眼力にビビッて「ペヤッ!?」と鳴いて直立不動になった。

 

「……もう何かしらと契約してますね」

「分かるものですか?」

「ええ、それはもう、鼻の曲がるような召喚獣の匂いがプンプンと……」

 

 よくは分からないが、彼は召喚獣が嫌いなんだろうか。鼻をつまんでは手を振っている。昔のハリウッド映画みたいなオーバーリアクションだ。

 

「多分、イシグロさんは知らないでしょうから説明させてもらいますとね。召喚獣は一党につき一匹と決まってるんですよ。専門の人員がいないと、召喚獣同士で喧嘩してしまうからですね。他にも誓約がありましてね。召喚獣と契約している奴は、使い魔との契約もできないんですよ。召喚獣が嫌がりますし、使い魔も怖がって不能になってしまう。契約者が別なら問題はありませんが、それでも獣系の使い魔は高位召喚獣にビビリやすいのでご注意を。あと、使い魔も一党につき一個ですんで、そこんトコよろしく」

 

 ガユウ氏の語りは、ドワルフのソレとは毛色が違う印象を受けた。

 ドワルフの語りがガノタだとしたら、ガユウ氏の語りはやる気のない理科の先生といった印象である。科学自体は好きだが、授業は好きじゃないみたいな。

 前世、似たような先生がいたのだ。

 

「それに、使い魔は召喚獣ほど燃費が良くない。淫魔のお嬢さん程度の魔力だと、まぁ一瞬で枯れちまいますね」

 

 言って、「ククク……」と笑うガユウ氏。

 一瞬失礼な物言いだと思ったが、多分この人にはそのつもりはないのだろうとも思った。馬鹿にしてるとかじゃなく、事実を述べて何故か自分でウケてるだけだ。

 

「なら、竜族のこの娘ならどうですか?」

 

 まぁ彼の人柄や接客態度はどうでもいい。使い魔関係の話に興味がないではないが、今日はオーダーメイド使い魔を注文しにきたんじゃなく、使い魔を買いに来たのだ。

 ちなみに、ドワルフ氏曰く此処は使い魔のオーダーメイドはしてくれないらしい。気の乗らない仕事はしない主義なのだろう。

 

「竜族ねぇ……。種族上、鱗系は無理ですし、獣系も淫魔のお嬢さんのせいで無理と。せっかく魔力もバカ高い訳ですから、あそこの棚のとかどうですかい?」

「そうですか」

「ま、分からない事があったら訊いてください」

 

 そう言うと、ガユウ氏は客そっちのけで本を読みはじめた。

 ドワルフさんともセオドロスさんとも違う、ずいぶん癖の強い商人キャラである。

 

「エリーゼはどれがいいと思う?」

「そう言われてもね……」

「どうせなら最強の使い魔選ぶッスよ」

 

 とりあえずと、入り口付近のガラクタコーナーではなく、店主おすすめの綺麗に陳列されてる棚を見る事にした。

 中でも一等綺麗なエリアには、如何にも高級そうなアイテムが並んでいた。俺程度の魔力感覚でも分かる、本命商品には相当な魔力が籠っていた。

 

「ここら辺が強そうだけど」

「そう思うわ」

 

 商品を眺めながら、俺は片手でコンソールを弄った。

 そして、商品を調べてみた。

 のだが……。

 

「……分からん」

 

 コンソールに表示されたのは名前とか耐久度だけで、それがどういう使い魔なのかは分からなかったのである。

 便利は便利だが、やはりコンソールは万能ではない。俺は読書中のガユウ氏に質問する事にした。

 

「すみません、これらについて訊いてもいいですか?」

「はい? あぁ、まぁそうなりますよね。えっと……」

 

 それから、さっきの面倒臭そうな態度とは一変、ちょっと楽しそうな顔になったガユウ氏は商品のプレゼンをし始めた。

 

「棚の一番右、その霊剣は契約者の護衛に特化した使い魔ですね。飛んできた攻撃や魔法を自動で斬ってくれたり、魔物の攻撃に反応して防いでくれます。召喚獣みたいにアレやれコレやれって命令はできませんが、ちゃんと指示すりゃ攻撃くらいはしてくれますよ。もちろん、使用中は浮遊してついてきてくれます。素材は金剛鉄(アダマンタイト)で、柄頭と鍔には真銀(ミスリル)を使ってあります。傑作ですよ」

 

 それは中でも結構目立っていた謎剣であった。どうやら、これも使い魔判定らしい。

 全長は俺の無銘剣より長く、太い。どこぞのドラゴン殺しほどデカくはないが、ダクソ基準の大剣くらいのサイズだ。

 形自体はシンプルな十字剣で、剣身や鍔には謎の文字列が彫刻されている。色は全体的に黒っぽく、艶がない。

 

「で、その隣のは使い魔の割に色々できる器用な人工粘体(スライム)君です。今は瓶サイズですが、魔力流すと豚くらい膨張しますよ。壁になっての護衛に、突撃して足止めと色々できます。浮遊こそできませんが、ちゃんと這いずってついてきてくれますよ。あと、荷物持ち機能まで付いてます。傑作ですね」

 

 次に説明されたのは、ジャム瓶みたいなのに入った薄緑の液体であった。

 コンソール時点でこれがスライムなのは分かっていたが、ちょっとガッカリな気がせんでもない。俺にとってのスライムは目と口がある可愛いアイツなので、こういうタイプのスライムには馴染みがないのだ。迷宮でもまだ出くわしていないので、この世界のスライムがどんなんなのかもよく分かっていない。

 説明によると、これは汎用性重視の使い魔であるらしい。多分、使い方としてはランサーに自害命じた方のエルメロイさんが連れてた水銀くんみたいな感じなんじゃないだろうか。アニメのあれ、なんか可愛かったな、うにょーんって。

 

「その隣の隣、それは使用者の魔力で魔法を使ってくれる自動魔導書(オート・スペルブック)です。計3種類の攻撃魔法が使用可能で、状況に合わせて上手に使い分けてくれます。護衛機能こそありませんが、使用者の攻撃能力を底上げしてくれますね。当然、追従してくれます。傑作ですね」

 

 三つ目は、まるで金色のガッシュベルに出てきそうなサイズの魔導書であった。

 どうやらこれは装備とは別枠の魔法装填特化武装であるらしい。コンソールで分かった事だが、魔法の内訳は“魔力の礫”と“魔力の槍”と“魔力の槌”であった。

 イメージでいうと、ニーアオートマタのポッドくんが近いんじゃないだろうか。火力はそこまででもないだろうが、弾幕は張れそうである。

 

「で、下にある奴、その玉。それは人工粘体とは別方向に色々できる奴です。探索に便利ですね。周囲に敵はいないかとか、この先に毒や罠はないかとかを調べてくれるんです。まあ、攻撃も防御もできないんですが、それはそれ。当然ですが、魔導書みたいに浮遊してついてきますし、それなりに遠くに飛ばす事もできますよ、傑作です」

 

 示されたのは、ボウリング玉サイズの半透明の水晶玉であった。

 色は青白く、中心にはゆっくり明滅している光球がある。コンソールで見たが、これは先の使い魔と比べると耐久度があんまりない。

 運用の仕方としては、探索とか索敵専用なんだと思う。アーマード・コアで言うレーダーの役割といった感じだろうか。ついでに罠の感知もできるらしいし、疑似的なシーフ職の仕事もできるのかもしれない。

 

「と、まぁ……竜族のお嬢さんに似合いの使い魔はこれくらいですね。あ、一応言っときますが、さっきの使い魔はイシグロさんや淫魔のお嬢さんじゃあロクに扱えませんよ。んじゃ、決まりましたら持ってきてください……」

 

 言うと、唐突にエンジンの回転数を下げたガユウ氏は再度読書タイムに入った。

 説明を聞くに、どれも一長一短な印象である。

 

「エリーゼはどれがいい?」

「そうねぇ……?」

「何でもできる最強使い魔なんていないんスねー」

 

 護衛に特化した浮遊剣くん。

 特化はしてないけど多機能なスライムくん。

 火力を底上げしてくれる魔導書くん。

 探索や索敵をしてくれるボウリング玉くん。

 

 ドワルフ氏の言う通り、確かに召喚獣と使い魔はモノの方向性が違うようだ。

 召喚獣がポケモンなら、使い魔はロボットって感じだ。

 

 俺は正直何でもいいと思ってるので、エリーゼにお任せである。

 気に入ったのを選んでくれるといいけど……。

 

「そうね、これがいいわ……」

 

 しばらくして、エリーゼはその中から一つの使い魔を選択した。




 感想投げてくれると喜びます。



 現在、本作に登場するキャラを募集しています。
 興味のある方は是非、お気軽にご応募ください。
 詳しくは活動報告にて。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=296177&uid=59551

 一緒に世界観を広げていきましょう。



◆ラリス王国の設定補足◆

・基本的に、種族問わず王族貴族の戦闘力は高いです。
・ラリス王国の爵位は戦闘力と貢献度で決まります。公爵級は銀細工持ち冒険者を数人まとめて相手できます。
・どれだけ優秀な冒険者でも、あたおかが過ぎると王族が抹殺しにきます。
・領地を守れない弱い貴族も同様に王族が抹殺しにきます。
・貴族の入れ替わりがそれなりにあるので、金細工冒険者が貴族になるルートも割とよくあります。優秀な冒険者は、未来の貴族候補として常にウォッチされています。


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ロリばっかなのは偶然だ。誤解するな。真顔でこっちを見るな。

 感想・評価など、ありがとうございます。お陰で楽しく書けてます。
 誤字報告にも感謝です。助かってます。

 アンケートのご協力、ありがとうございました。
 結果、エリーゼの使い魔は魔導書になりました。どう描写しましょうか。

 キャラのご応募もありがとうございます。作者のやる気に繋がっています。これ、マジで良い刺激になるのでとても有難いですね。
 登場の際は何食わぬ顔してヌルッと出て、且つ殆ど別キャラみたいになってます。ご了承ください。
 あと、レギュレーションにある通り応募者様は匿名ですので。出てきたキャラが作者作なのか応募キャラなのかは作者しか知りません。


 魔法装填。

 

 この世界に存在する不思議要素の一つで、武装やアイテムに“魔法”を籠める事のできる機能だ。発動には本来のより魔力を消費するものの、魔術師以外でも魔法が使えるようになる素敵オプションである。

 魔法の威力や効果は固定で、その値は装填した魔工師の腕前による。また、術者が違えば一つの魔法で色んな事ができるように、装填した魔法でも魔工師次第で色んな事ができるとか。

 威力を犠牲に連射性能をアップさせたりとか。弾速を犠牲に追尾性能をアップさせたりとか。魔力消費を犠牲に威力をアップさせたりとか……。

 

 魔法装填とは、そんな夢いっぱいの補助効果である。

 

 ところで、ゲームっぽいこの世界には、ゲームっぽくないところがある。

 何かというと、フレンドリーファイアが存在するところだ。

 まあ、そりゃあそうだろうとは思うが……。

 

 それでもこんな不思議異世界、味方が撃った魔法が味方すり抜けるくらいいいじゃないとも思わんでもない。

 以前、その事をリリィに話すと「何言ってんスかこの人……?」と戦慄されたものである。

 

 ともかく、この世界にはフレンドリーファイアがあり、矢も魔法も投擲物も味方に当てないよう……誤射しないよう気を付けないといけないのだ。

 ゴッドイーターの誤射姫は、この世界だと殺人姫になっちゃう訳だな。魔法のご利用は計画的にである。

 

 故、エリーゼの武器に装填する魔法には、色々と悩む事となった。

 もしFFがなければ、エリーゼには大規模魔法ドッカンドッカンの連射めぐみんみたいになってもらうところだったが、それは危ない。俺とリリィが死ぬ。

 ああでもないこうでもないと、ドワルフ氏と一緒に楽しく悩んだものである。

 

 悩んだ結果、ひとまずエリーゼの第一武装には――ひとつを除き――汎用性の高い魔法を装填する事にした。

 特化武器がマンセーされる異世界、そんな強くはならんやろ……。

 

 そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。

 

 

 

 曇天の空、広漠たる荒野に一人、白銀の髪をした少女が歩いていた。

 歩く姿はあくまで優雅、まるで舞台の壇上を往くが如し。紺碧の相貌、竜族を象徴する左右一対の角。美しい銀の長髪は彼女の魔力循環に呼応して風もなくなびいていた。

 右手には銀の王笏。左手には分厚い魔導書。頭には宝冠の如き銀の髪飾り。竜の王の様な、月夜に舞う姫の様な、あるいは闇を纏う騎士の様な可憐さと威厳を兼ね備えた戦装束。

 

私は強い(・・・・)……」

 

 ぶわり、と。立ち止まった彼女の体内から、莫大な魔力が放出された。次いで、戦装束に装填された魔法が起動する。少女の痩身に、月明かりの如き燐光が灯った。

 その名を、“血沸肉躍”。体内魔力のほぼ全てを消費し、肉体能力を引き上げる強化系最上位魔法である。

 

「ふぅ……」

 

 閉眼、小さな溜息。次の吸気にて、失われた魔力は補填された。滝の下に置いた水瓶の様に。

 目を開く、遠くそびえる敵を見据える。全高10メートルにも及ぶヒトガタ巨像。対する少女の、如何に矮小な事か。

 巨人が少女を見る。敵対者が相対する。巨影が動く。白銀の竜姫は手にある王笏に魔力を籠めた。

 

「……砕け散れ(・・・・)

 

 構えられた魔法は“破城槌”、零れた言葉は“呪詛”。所持者の魔力に共鳴し、銀の王笏が術式を組み上げる。

 そして、放たれた魔法は呪詛の籠った破城の槌となった。

 狙うは、足。

 

 轟! という破砕音。それは少女より放たれた、指向性を持つ黒い魔力の圧により引き起こされた。 

 敵意ある者を潰すべく足を動かした巨人だったが、その一歩目は矮躯の少女により妨げられてしまった。

 一撃で、巨像の片足が破壊されたのだ。

 

 ずしんと、片方の足関節を損傷した巨人が片膝をつく。しかし巨人は迷宮が生み出す理外の怪物、この程度すぐに再生する。

 その単眼は、ただ少女を排除すべく排除対象を捕捉し続けていた。愚直に、当然として無感情に。

 

苦しめ(・・・)……」

 

 そこに、少女の魔法が殺到する。大曲剣ほどある刃に、青白く光る騎士槍、三重螺旋の線を引いて迫る魔力の礫。

 それらを、玉遊びでもするように順繰りに放っていく。その全てにごくわずかな呪詛を籠めて、巨人の残る片足にぶつけ続ける。

 絶え間ない魔法の弾雨。蓄積していく呪い。破損した足の再生が追い付かない。

 

砕け散れ(・・・・)……」

 

 再度、破城槌。今度こそ、巨人の両足が破壊され、見上げるほど大きな影が崩れ落ちるように倒れた。

 だが、まだだ。まだ塵に還っていない。巨像の戦闘ルーティンは、このようになってなお十全に動いていた。修復しつつ、這いずって敵を殺せと。

 

首を垂れよ(・・・・・)……」

 

 似たような事を、竜族の姫も考えていた。まだ死んでいない。故に殺す、故にトドメを刺す。

 少女の背の魔法陣、放たれたのは三本の大鎖。獲物を狙う猛禽めいた軌道で飛んだそれらは、なおも藻掻く巨像の身体に巻き付き、拘束した。ぎりぎりと、魔力で生成された鎖が悲鳴を上げる。流石に長くは保たない。

 だが、それでいい。充分である。何故ならば……。

 

 トン、と。王笏の石突が大地を叩く。

 瞬間、少女を中心として巨大で複雑な魔法陣が展開された。大中小と三つ、いや九つ。なおも複雑な文様を描き続ける陣は瞬きの度に数を増し、かと思えば役目を終えた陣は呆気なく消失する。魔法陣に覆われた少女は、顔色一つ変えず静かに魔力を汲み上げていた。

 やがて魔法陣は一つに収束し、少女の眼前に展開された。ここに、殲滅の準備が整った。

 

死ね(・・)……!」

 

 何食わぬ顔で、放つ。

 一条、眩い程の光。それは、まさに魔力の奔流。特殊な効果もない。変わった発動条件もない。難易度もさほど高くない。使い勝手の悪い、ただ威力が高いだけの魔力系最上位魔法。

 名を、“魔導極砲”。建国の英傑、魔道賢者ゼノンの十八番である。

 

 光が収まると、そこには超ド級の大蛇が通った後の様に抉れた大地と、赤く溶けた土と焦げた匂い。それから、今まさに粒子に還っていく巨像の残骸……。

 

「……大した事ないわね」

 

 あと、若干イキりはじめたエリーゼが残った。

 

「うわぁ……」

 

 その一部始終を、俺とルクスリリアとラザニアは遠くで見ていた。

 まさかここまでヤバい事になるとは思っていなかった。

 いや、良い事……なんだけどさ。

 

「もうエリーゼひとりでいいんじゃないッスか?」

「……少なくとも、ゴーレムだと的にしかならないな」

 

 MP無限はヤバい。俺は改めてそう思った。

 

 

 

 

 

 

 ガユウ氏の店で魔導書を買ってから、大体一ヵ月後……。

 

 セオドロスさんの防具屋で、俺たちはオーダー装備の開封の儀を行っていた。

 ついでにドワルフに注文したブツも同時に開封する事にした。何故かついてきたドワルフ氏も開封の儀に参加していた。

 フルの場合、前世のオーダースーツは大体二か月以上かかるところ、異世界オーダー装備は一ヵ月で完成なあたり魔法の凄さが分かるというものだ。

 

「どうかしら、アナタ……?」

 

 注文した装備を纏ったエリーゼは、まさに戦うお姫様といった雰囲気であった。

 いや、闇堕ちした姫騎士といった感じのが近いかもしれない。

 

 

 

◆残月の聖鎧◆

 

・物理防御力:500

・魔法防御力:500

 

・補助効果1:全状態異常耐性(小)

・補助効果2:自動最適化

・補助効果3:自動修復

・補助効果4:魔法装填(血沸肉躍)

・補助効果5:魔法装填(魔力飛行)

 

 

 

 

 

 

 全体的に、色は黒っぽく――竜族のお嬢さんの趣味である――、メインが黒でサブが群青。差し色に白といったカラーリング。

 防具の種類としては軽鎧にあたるようだ。聖鋼(オリハルコン)真銀(ミスリル)の合金製の胴鎧&籠手に、各種迷宮産素材を贅沢に使用したインナーに、漆黒のマントがよく栄えている。

 デザインは一から十までエリーゼの要望が満載であり、彼女の趣味が垣間見える。なんとなく。邪ンヌっぽい印象を受けた。

 

 

 

◆月明かりの銀杖◆

 

・補助効果1:自動修復

・補助効果2:魔法装填(追尾する魔力の分かれ礫)

・補助効果3:魔法装填(破城槌)

・補助効果4:魔法装填(魔力の騎士槍)

・補助効果5:魔法装填(両断する魔力の刃)

・補助効果6:魔法装填(斬滅の魔導剣)

・補助効果7:魔法装填(聖光の極大治癒)

・補助効果8:魔法装填(束縛する魔力の鎖)

・補助効果9:魔法装填(魔導極砲)

 

 

 

 

 

 

 結局、エリーゼの武器には各部を聖鋼(オリハルコン)で補強した輝銀魔石(シルウィタイト)製の王笏みたいな杖を作ってもらった。

 王笏とはいえ本物ほど煌びやかではないが、使われた素材が輝銀魔石と聖鋼なので質感の良さが特に装飾もない武器に王笏めいた威厳を与えている。

 当然、中身は魔法装填特化だ。汎用性重視の構成は、魔法耐性のないほとんどの敵に有効である。攻撃面だけでなく、最強クラスの回復と妨害系魔法も付けておいた。

 

 

 

◆欠け月の宝冠◆

 

・補助効果1:自動修復

・補助効果2:魔法装填(聖光の極大快癒)

・補助効果3:魔法装填(魔力の大盾)

・補助効果4:魔法装填(魔力大砦)

・補助効果5:魔法装填(拒絶する魔力の嵐)

 

 

 

 

 

 

 アクセサリーは、輝銀魔石製の冠にした。

 これには攻撃系でなく、防御や状態異常回復の魔法と、近寄られた際の拒否技も入れておいた。身を守るためのアイテムだな。

 

 フル装備のエリーゼは、どことなくfateのジャンヌと邪ンヌがフュージョンしてロリ化したみたいな見た目になった。サンタではないが。

 中身は頭からケツまで魔法魔法魔法の魔法特化武装。攻撃にはやや弱いが、そこは武装にある防御魔法で何とかするしかない。そも、近づかせなければいいのである。

 

「すっごい似合ってるよ!」

「なんかウチの将軍様みたいッス!」

「はぁ~ん、アンタんとこも良い仕事してるじゃあないですかい」

「感謝の極み」

 

 とても中二っぽいが、とても似合っている。着られてる感が一切ないのは、エリーゼの素材が良すぎるからだろう。

 カッコいいし可愛い。ソシャゲなら間違いなく最高レアのビジュアルである。 

「ふふっ……アナタも似合ってるわよ」

 

 珍しく、年頃の少女みたいに微笑むエリーゼ。

 お返しといった感じで俺の装備も褒めてくれた。

 

 

 

◆石黒の鎧◆

 

・物理防御力:800

・魔法防御力:750

 

・補助効果1:全状態異常耐性(中)

・補助効果2:自動修復

・補助効果3:自動最適化

・補助効果4:簡易伸縮

・補助効果5:環境適応

・補助効果6:体温保護(中)

 

 

 

 

 

 

 デザインはどうでもよかったので、堅くて動きやすい服を注文したらこんな感じになった。

 迷宮産素材と希少鉱石を使ったインナーと鎖帷子に、胴体を守ってくれる革の胴鎧。上に鱗で補強した革ジャンみたいな革外套を纏い、同じく希少鉱石で補強した革手袋。下は金剛鉄(アダマンタイト)の鎖帷子を織り込んだ迷宮産素材製のズボンと、革のブーツ。

 見た目は革革革&鉄で出来た往年のバイカーファッションといった感じである。色は全部黒で、艶あり艶なし濃淡の違いでなかなかおしゃれ感のある全身黒である。いざ着てみると、補助効果のお陰で見た目よりずっと動きやすい。ジャージより快適まである。

 

「ていうか、アタシ等みんな黒いッスね!」

「FF15かな?」

「いいじゃない、お揃いの色って感じで……。私はこういうの好きよ」

 

 あと、俺とルクスリリアの装飾品は殆ど補助効果が同じ別アイテムにした。ルクスリリアが淫魔用の角飾りで、俺がベルトである。

 補助効果の内訳としては、まぁ状態異常とかの対策とか無難なのである。特に変わったものではない。

 モンハンでもそうだったが、俺はテクいスキル構成より堅実な生存スキルのが好みなのだ。実際、異世界だとそっちのが重要だと思うし。

 

「とりあえず、装備も揃ったし、明日はエリーゼのダンジョンデビューだな」

「きひひっ、迷宮は怖いッスよ~? ビビッて漏らすんじゃねぇッスよ~」

「むしろ楽しみね。この私でも、迷宮を踏破すれば強くなれるのかもしれないし……」

 

 そんなこんな、俺たちは勇んでいつもの巨像迷宮に挑んだ訳だが……。

 

 

 

 ドゴォォォッォォオン!

 

「ゴーレムが死んだッス!」

「この人でなし!」

「大した事ないわね……」

 

 ボゴォォォッォォオン!

 

「ウワッ、巨像が死んだッス!」

「そうだ、もう一回倒してみよう」

「ふぅ……運動すると気分が良いわ」

 

 ドッガァァァアアン!

 

「あーもうめちゃくちゃッスよ……」

「これもうどっちが怪物か分かんねぇな」

「強くなるって、こういう事なのかしら……」

 

 エリーゼは強かった。

 ひたすらに強かった。

 というか、ゴーレムとの相性が良すぎた。

 

 開幕“破城槌”で片足部位破壊からの、呪詛入り魔法ぶっぱで機動力を奪って“魔極砲”でトドメ。初陣から続くこのルーティンは、鈍足の人型ゴーレムにはばちこり刺さった。

 おまけに、エリーゼは機動力高めの動物系ゴーレムにも相性が良かった。捕捉して魔法連打、ついでに魔導書くんも援護射撃。突進攻撃は正面から“魔力の大盾”で受け切り、ゼロ距離“破城槌”でフィニッシュ。

 何がヤバいって、ゴーレムレベルの攻撃でもエリーゼの防御魔法を崩せないところである。加えて言うとエリーゼは飛べるので、その気になれば逃げる事もできちゃうのだ。

 

「お、“竜族戦士”から“竜戦士長”にジョブチェンジできるな。これが竜族版の“指揮官”なのかな? 言ってた通り変えるけど、いい?」

「ええ……。あら、前より杖が馴染む感じがするわ」

「ふむ……戦士長も指揮官と同じで、杖が使用武器に含まれてる訳ね。うん、書いてある通りだな」

「えっ、じゃあエリーゼまた強くなったんスか?」

「そういう事になるわね……」

 

 ゴーレム戦は報酬は渋いが経験値は美味い。ソロで何体もゴーレムを討伐したエリーゼは、すぐに竜族版指揮官である“竜戦士長”にジョブチェンジできた。

 こうもレベリングがスムーズだと、通常の指揮官のスキルも使えるようにそっちも鍛えるのアリだなと思える。まぁでも、とりあえずはステ上昇重視で竜族版を先に進めよう。

 

「ゴーレムって、思ったより脆いのね……」

 

 そう言うエリーゼは、ゴーレムを倒す度にイキり度が上がっていった。

 まぁでも、ゴーレム以外のザコ戦はそうでもないのかな……。

 と思っていたが、そんな事はなかった。 

 

 ザコの数が多い“鱗群迷宮”……。

 

「行くわよ。吹き飛べ(・・・・)……」

 

 空中からの呪詛入り“魔導極砲”ぶっぱで虐殺。

 俺とルクスリリアは地上でちまちまザコの相手をしていた。向こうがACfAだとしたら、こっちはACVである。

 

 次、暗所不意打ち上等“闇牙迷宮”……。

 

「常に“魔法大砦”を使っていれば怖くないわね……」

 

 常時全身バリアという、とんでもないゴリ押しで解決。此処でのエリーゼは前でタンクを担当し、火力は魔導書くんが頑張ってくれました。

 俺とルクスリリアはエリーゼの後ろからちまちま攻撃していた。

 

 次、魔法なんて効かねぇよ!“聖甲迷宮”。

 

「対象指定、魔力過剰充填……“竜令鼓舞”」

「「うぉおおおおおッ!」」

 

 祝福付きの指揮系ジョブスキルでガンギマリになった俺とルクスリリアが無双。

 どうやら、魔法は使えないエリーゼも、魔力を消費する類のジョブスキルは使用可能らしい。

 

 鎧を纏えず、翼もなく、権能もない。

 脆く、弱く、竜にあらずと蔑まれていたエリーゼは、今は……。

 

「ふぅ、存外呆気なかったわね……」

「はぁ……! はぁ……! つ、疲れたッス……! 強くはなったッスけど、まだ身体が追い付いてない感じッス……!」

「よく頑張ったわね、ルクスリリア。ほら、お疲れ様(・・・・)……」

「ああ~! しゅ、祝福しゅごしゅぎッスうぅぅ……!」

「パーティ・リーダーの姿か? これが……?」

「敗北を知りたいわ……」

 

 イキりが極まっていた。

 

 エリーゼ?  強いよね。魔法、支援、回復、隙がないと思うよ。

 いや、マジでそう。

 

「ぐぬぬ……! おいエリーゼぇ! ちょっとツラ貸せやッスゥ!」

 

 しかし、だけどアタシは負けないよと立ち上がる淫魔がいた。

 

「何かしら?」

「決闘ッス! 鍛錬場でタイマン張るッスよ!」

 

 これまでエリーゼの強化や成長には一緒に喜んでいたリリィだったが、イキり始めたエリーゼには何か思うところがあったのかもしれない。

 まあ、普段からそんな調子に乗ってる訳ではないんだけどね。ベッドでは相変わらずカワイイし、それに夜はルクスリリアのが強いし。

 

「決闘? 私は、いいけれど……」

「いいんじゃない? 今のエリーゼの動きも確かめておきたいし」

 

 そんな訳で、ダンジョン帰りに鍛錬場へゴー。

 バトルフィールドは例のコロッセオ空間。何もない場で、二人の決闘者が向かい合う。

 

決闘(デュエル)開始ィ!」

 

 さて、どうなるかなと思いつつ、俺はいつでも回復魔法を使えるよう準備しておいた。

 

 まあ、詳細は省くとして……。

 

「はぁ! はぁ! あ、アタシの勝ちッス……!」

「ええ、私の負けね……」

 

 意外というか何というか、決闘はルクスリリアが勝利した。

 

 二人のバトルは、とても見ごたえがあった。

 弾幕を張るエリーゼと、魔法を掻い潜って接近を試みるルクスリリア。その光景はまさにハイスピードバトルファンタジー。ACで例えると高火力の重二とブレード主体の軽二の戦いであった。

 中盤、ルクスリリアはけん制しつつ隙を見てラザニアを召喚し、挟み撃ちで攻め立てていった。すると途端にエリーゼの動きが鈍くなり、ラザニアを警戒すればいいのかリリィを警戒すればいいのか分からなくなっている様だった。全方位バリアを使えば負けなかったろうが、勝てなかっただろう。

 そして、最終的に一瞬の隙を突かれて武装解除させられ、イキリエリーゼ物語は終焉を迎えるのであった。

 

「お疲れ二人とも、はいジュース」

「あざーッス! ん~! 勝利の美酒は美味ぇッスね~!」

「そう……。私は武装が強いだけで、私が強い訳ではないのね……」

 

 台詞だけ聞くとすごく落ち込んでそうだが、どういう訳かそう言うエリーゼの表情は常よりも晴れやかだった。

 

「まぁルクスリリアには従軍経験とかもあるし、レベルも上だからね。なにより空中戦がホントに上手いから」

「ええ、そうね……。良い経験をしたわ」

 

 薄く笑んで返したエリーゼは、とても楽しそうな顔になっていた。

 どうやら、勝ったり負けたりという経験自体が楽しいらしい。

 

 そうして、俺たち三人パーティのダンジョンアタックの日々は過ぎていった。

 前衛の俺と、遊撃のルクスリリアと、馬鹿火力&支援&回復のエリーゼ……ていうかエリーゼの負担やべぇな。

 ともかく、良いパーティだと思う。とても楽しいハクスラ生活を送ってるね。

 

 ダンジョン潜って、叡智をして、デートして、買い物して、またダンジョン潜って……。

 毎日が充実している。

 

 願わくば、これからもずっとこういう生活が続けばいいと思った。

 ロリコンと奴隷少女の楽しい異世界ハクスラ生活。

 俺たちの戦いは、これからだ……!

 

 

 

「じゃあ、今晩ご主人の上はアタシが貰うッスね~♡」

「なっ!? そんなの賭けていないでしょうッ……? もう一回よ、構えなさいルクスリリア……!」

 

 まあ、二人は切磋琢磨してくれてるし、レベル上げも順調だし、タカキも頑張ってるし。

 この先、そうそう変な事は起きないだろ。

 異世界の日常、多いにアリだ。

 

 平和が一番! 勝ったな、ガハハ!

 

 

 

 

 

 

「イシグロねぇ? で、そいつは強ぇのか? 噂通りってんなら、ぜひとも群れ(ウチ)に血ィ入れてもらいてぇモンだが……」

 

 深い森の奥、猛き女戦士が犬歯を剥きだしにして笑う。

 

「“迷宮狂い”さんかぁ、どんな人なんだろ……。一党に淫魔連れてるんだよね……。奴隷、奴隷かぁ……私もなりたいなぁ……」

 

 王立第一図書館、目深にフードを被った変わり者の淫魔が想いを馳せる。

 

「使える冒険者っつってもよォ。ったく、人使いの荒い……。つっても、奴さん方だって情報集めてんだろ? この仕事、無意味なんじゃあねぇの?」

「師、先日の武器代、流石にそろそろ返済しませんと」

「わーってるけどよぉ……。なんかやる気出ねぇんだよなぁ……」

 

 王都地下、雇われの魔人が怠そうに依頼書を眺める。

 

「ふむ、こんなところか……。ところで、イシグロという男の動向については……。いや、焦らなくていい。下手に刺激はしたくない。奴の身辺については、慎重に探っておけ。まだ幼い人間なのだろう? 何をしでかすか分からんからな」

 

 豪奢な屋敷、美の化身の如き上森人(ハイエルフ)が熟考する。

 

「はい。噂の“迷宮狂い”氏については、こちらに」

「うん、ありがとうキルスティン。よくまとまっているね」

「ありがとう存じます、けれど、調べても彼のお人柄はいまいち見えてこないのですよ」

「それは仕方ないさ、クリシュトーさんも頑なだったしね……。いずれにせよ、誰の誇りも傷つけるべきではないよね。アホやらかしそうな兄上や姉上の動向には、気を付けておかなくては……」

 

 王城の中庭、幼き王子が国の未来の為に思索に耽る。

 

 

 

 転移者、石黒力隆は知らない。

 この世界にとって、自身が如何なる存在なのかを。

 

 冒険者、イシグロ・リキタカは気づかない。

 この世界が、如何に英雄を欲しているかを。

 

 王家。金細工。傭兵。淫魔。種族長、他多数……。

 彼らから、如何に“迷宮狂い”が注目されているか。

 英雄の卵、その価値の程を。

 

 

 

「ん……ちゅ♡ ご主人様、大好きッス♡」

「ほら、私にも……ちゅっ♡ 愛してるわ、アナタ……♡」

 

 ロリ奴隷相手に鼻の下を伸ばしている男は、自分が勇者アレクシオスを超える器を持つ事を、まだ知らない。

 

「あ~、幸せだな~」

 

 多分、一生気づかない。

 例え気づいても、「あ、そう?」で終わる。

 何故ならば……。

 

 この男、ロリコンにつき。




 感想投げてくれると喜びます。



 現在、本作に登場するキャラクターを募集中です。
 ご興味のある方は是非、お気軽にご応募ください。
 詳しくは活動報告にて。

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 一緒に世界観を広げていきましょう。



 別にシリアス路線に行くとか、そういうのじゃないです。


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かつてない程のロリ

 感想・評価など、ありがとうございます。楽しく書かせてもらっています。
 誤字報告も感謝です。ありがとうございます。

 キャラ募集の方もありがとうございます。頂くと作者のモチベが上がります。

 今回、本来予定していたプロットを逸脱した展開にしました。
 頂いた感想に触発された感じです。
 こういう事平気でやります。


 俺が転移したこの世界の迷宮(ダンジョン)には、いくつか特徴がある。

 

 一つ、同じ迷宮でも、潜る度に構造が変わる。

 これは分かりやすい、シレンとかのローグライク系だ。仕様上、他冒険者とダンジョン内で顔を合わせる事はない。ついでに、迷宮は“楔”というアイテムを使う事で構造の固定ができる。再アタックの為のアイテムだな。

 ちなみに、ダンジョンに入場制限はないが、パーティの人数制限はある。6人だ、理由は知らない。

 

 二つ、宝箱がない。

 これは、俺視点けっこう意外であった。ダンジョンというと何かどこかに宝箱があって、それをワクワクしながら開けて「ごまだれー」をするものと思っていたのである。

 この世界には普通にシーフ系というかローグ系というかそういうジョブはあるのだが、彼ら彼女らに鍵開けスキルは無い。試してみたが、この世界の盗賊職は戦闘と斥候に寄っている印象だ。実際ダンジョンには罠とかあるので、いると安心だと思う。

 

 三つ、同じダンジョンでもボスが違う。

 これは微妙に厄介な要素だ。同じ迷宮同じ属性でも、姿形が違うボスが出るのである。巨像迷宮でも、ライオン型とかクモ型とか色んな巨像がいたものだ。当然ボスごとに動きが違う。

 幸い、落とすアイテムは同じである。魔石落とすボスのダンジョンは、ボスが熊でもカニでも全部魔石を落とすのだ。

 

 さて、そんなダンジョンくんだが、勿論ダンジョンごとに難易度に違いがある。過去のデータから、ギルドが決めているそうな。

 それらは難易度ごとに括られ、それぞれ下位・中位・上位・最上位の四段階だ。

 

 木札級……駆け出しの冒険者は、まず下位の迷宮に潜る。

 下位といっても出て来る敵はまぁまぁ強く。剣攻撃一発で倒せるようなザコはまず居ない。雑魚一体倒すの、最初はけっこう難しかったな。

 ちなみに、下位はそもそも種類が少なく、最上位の次に選択肢がない。ついでに実入りも良くない。

 

 で、木札からランクアップして鉄札をもらった冒険者は、中位のダンジョンに潜る事を許される。

 色々あるダンジョンの中で、最も数が多く探索者も多いのがこの中位だ。基本的に俺が潜ってるのもこのランクで、俺もまだ全部のダンジョンを踏破してはいない。

 中位といっても、難易度はピンからキリまである。奇襲にさえ警戒しとけばいい奴とか、毒対策しとけば難易度が低くなる奴とか。よくお世話になってる巨像迷宮もこのランクで、実入りもよくないし武器壊してくるし一撃怖いしでとても嫌われてるのが特徴だ。やっぱクソだな。

 

 上位迷宮は、銀細工持ち以上の冒険者のみが探索を許されるダンジョンだ。

 上位ともなると、その難易度は下位とは比べ物にならないくらい高い。どこがどう難しくなってるかというと、全体的に中位から明確な脆弱部分が削られたような感じである。これしとけば安心、みたいな要素がないのだ。

 その分、上位迷宮の探索には高い地力を必要とする。当然としてザコもボスも強いし、実入りも良い。前潜った水晶迷宮はこのランクだな。

 

 最後に、最上位迷宮。

 これは一つの転移神殿に一つしかない特別な転移石碑で行けるダンジョンだ。俺も行った事はない。

 聞くところによると、最上位迷宮はこれまでのダンジョンと違い転移先が完全ランダムになるようだ。入ってみるまでどんなダンジョンなのか分からない。その上帰還の楔がスタート地点に無いらしい。ダンジョンのリセマラはできないと。

 なんか、ゲームのエンドコンテンツって印象である。

 

 あ、もう一個あった。四つ目の特徴。

 実はこれ、最近知った事なのだが、どうやらダンジョンは潜ったパーティメンバーの人数によって難易度が上がる仕様であるようだ。

 ダンジョンの広さ、敵の数、ボスの体力……人数が増えると全部上がる。まるでモンハンのソロとマルチの差みたいだった。例えの通り、多くの場合基本的には連携した方が安定する。

 実際、同じダンジョンでもソロの時と三人の時じゃ結構な違いがあったんだよな。

 

 パーティでのダンジョンアタック。

 安定はするが、稼ぎは渋くなる。経験値、ドロップアイテムは据え置きなのだ。一党内で金の配分で揉めるのなんて、界隈じゃ日常茶飯事らしい。

 それでも多くの冒険者は一党(パーティ)を組み、複数の一党で同盟(クラン)を組むなり参加するなりするようだ。あるいはソロで同盟に入るとか。

 

 同盟では、不戦の契約を交わした上で一党同士の交流や人員の貸し借り、合同で訓練をしたりするんだとか。なんかサークルみたいである。

 同盟に入っていれば、斥候が欲しいようとなれば同盟内の斥候が一党に加わり、悪霊特効の武器が欲しいようとなれば「貸してあげる」といった恩恵が受けられる。

 まあ、代わりにサークルごとに色々としがらみがあるのだが……。だから、俺は一党の誘いも同盟の参加も断ってる訳で。

 

 何が言いたいのかというと……。

 

 例えダンジョンの難易度が変わろうと、基本的にはパーティ・メンバーは多い方がいいのだ。

 1人より6人、6人より12人。助け合い、支え合いの精神である。ダンジョンは数だよ兄貴。

 

 それは、チート持ちの俺でも変わらない。

 不意打ちに強く、大抵の状況に対応でき、剣も魔法も使える俺だが、それでもやっぱり腕は二本な訳で。

 できない事、苦手な場面というのは存在するのである。

 

 

 

 浮蟲迷宮。

 

 基本構造は屋外型で、出現エネミーは全部ちょっと浮いてるデカ虫の中位ダンジョンだ。足を踏み外すと恐らく即死の浮遊島型迷宮である。 

 例えるならエルデンのファルム・アズラ。あるいは連結したスマブラのステージ。基本、動き回って立ち回る俺とは相性の悪いダンジョンである。

 加えて言うと巨像迷宮みたいに安全地帯がないので、おちおち休憩もできやしない。案の定、嫌われてる迷宮である。敵キモいし。

 

「リリィ退避! 蝶々の群れが来た!」

「かしこまッス! ラザニア、戻るッス!」

「準備できたわ」

「OK! 焼き払え……!」

「焼く訳ではないけれど……。堕ちよ(・・・)……!」

 

 そんな汚いラピュタみたいな迷宮を、俺たちは探索していた。

 気を抜くと落下死のダンジョンである。ルクスリリアとラザニアには常時空を飛んでもらい、あんまり動けない俺は、聖騎士にジョブチェンジして盾と剣スタイルでエリーゼを護衛していた。

 フレンドリーファイアが怖い異世界、エリーゼには基本的に防御に専念してもらい、ここぞという時に魔法を使ってもらっていた。

 

 迷宮探索は順調そのもの。俺たちはサクサクとこの気持ち悪い島を進んで行った。

 チートのお陰でどこにボスがいるのか分かるので、迷子になる事もない。チート様様である。

 

「さて、ボス戦だな。疲れてない? 飲み物あるよ」

「アタシは大丈夫ッス!」

「私も平気よ」

「そっか。じゃあ行こっか」

 

 ボスとして現れたのは、巨大なハエであった。

 そいつは俺たちを捕捉するなり、低音版の例の羽音を立てて飛び上がった。控えめに言って不快である。

 

「連携は打ち合わせ通りに!」

「了解ッス!」

「ええ……。範囲拡大、魔力過剰充填……“竜吠”」

 

 デカい虫など、地球人が目の当たりにしたらムシ・リアリティ・ショックで戦慄する事請け合いだと思うが、俺のパーティの女子二人は割と余裕そうであった。

 ていうか、俺は内心恐怖よりも気持ち悪さが勝ってるので、多分この中じゃ俺が一番ダメージ食らってるまである。エリーゼの指揮スキルがなければ勝手に虫デバフ食らってたかもしれない。

 カブトムシをカッコいいと思う少年心はあっても、ハエを可愛いと思える心を持ち合わせてはいないのだ。ボスのハエくんにはさっさと死んでもらおう。

 

「うわ、雑魚呼びやがった! リリィ! ガン逃げ作戦です!」

「おいッスー! 言われる前からすたこらさっさッスよー!」

「エリーゼ! 焼き払え!」

「準備はできてるわ。くたばれ(・・・・)……」

 

 ボス戦お馴染みの取り巻き召喚も対策済み。ラピュタバエの群れなど、巨神兵エリーゼの内閣総辞職ビームで一掃である。

 

 それからしばらく。

 

 激戦の末、巨大虫型ボスは粒子に還り、三人の身体に吸収されていった。ボスはキモいが、やっぱ経験値得る時は気持ちがいい。

 

「ふぅ……よし! 二人ともお疲れ~。怪我してない?」

「大丈夫ッスよ~。ていうか、淫魔は怪我してもすぐ治るの知ってるッスよね?」

「私も問題ないわ」

 

 と、こんな感じでエリーゼが来てからというもの、我がパーティのダンジョンアタックは極めて順調である。

 飛んでる敵、群れて襲ってくる敵、デカい敵に対してめちゃくちゃ刺さるのだ、エリーゼは。ルクスリリアも前に出てかく乱してくれるし、俺は状況次第で前にも後ろにも居れる。良い連携できてると思う。

 

「おっ、ルクスリリア今ので“淫魔騎士”レベル30になったね」

「おぉ~。よくわかんないッスけど、何か新しいのに成れたりするんスか?」

「えっと、新しく“淫魔騎士団長”と“淫魔姫騎士”ってのになれるね。どっちも上位職だ」

 

 

 パッと見、団長はバランス成長で指揮スキルも使えるジョブ。姫騎士は淫魔騎士の単純上位互換って感じである。

 どっちも使用武器に鎌があるので、好みでいいと思う。

 

「ひめの……きし? なんだか不思議な響きね……」

「団長? 団長ッスか~」

「どうする? リリィに任せたいけど」

「んー、じゃあ姫騎士になるッス!」

「はい」

 

 レベリングの方も順調。最近、経験値をエリーゼに取られがちなルクスリリアも今さっき上位職に到達できた。

 俺も俺で剣士ツリーは上位になれるようになったので、ランクだけ見ると並んだ感じだ。

 

「ルクスリリアも大分強くなったなぁ……」

「ま、こんだけ潜ってたら当然ッスね! 多分、同世代で一番強い淫魔だと思うッス!」

「よかったわね」

 

 わちゃわちゃしながら、ラザニアとお別れして帰還クリスタルに触れる。

 もう慣れたものである。俺たちは粒子となって転移神殿に帰還した。

 

 

 

 神殿に戻ると、なんかいつもと違う雰囲気を感じた。

 視線を集めてるとか、そういうのじゃない。神殿内の人の流れがいつもと違うのだ。

 

「なんスかね、あれ?」

 

 ルクスリリアが指差す方を見ると、そこには掲示板の前にできた人だかりがあった。

 皆、掲示板に書かれた内容を前にアレコレ話している。

 

「あの人達は、いったい何をしているのかしら……」

「さぁ?」

 

 転移神殿には、異世界冒険者ギルドお約束の“依頼掲示板”というのがある。

 ただ、これはゴブスレとかこのすばみたいなのとは趣が違う。どっちかというとその素材高く買います! 系の依頼が載ってるのだ。

 毎日確認してる訳じゃないから分からないが、あそこにソレらしい依頼が張り出されてるのを俺は見た事がない。

 

「ちょっと見に行ってみよう」

 

 普段はぱらぱら人がいる程度なのに、どうして今日に限ってという話である。

 その秘密を探る為、我々は神殿奥深くの掲示板へと足を進めた。

 

「あの、すみませんちょっと見せてもらえませんか?」

「あぁん!? 何だて……めぇ……?」

 

 異世界人は全体的に背が高い。中でも一等巨体なマッチョに声をかけると、彼は振り返りざまインネンをつけてきた。

 かと思えば、俺を見るなりしょんぼりピカチュウみたいな顔になっていった。

 

「すみません、少しでいいんで」

「は、はい、どうぞ……」

 

 ふむ、相手は鉄札か。冒険者界隈がどういう社会構造なのかは知らないが、ランクではこっちのが上である。もしかしたら、上のランクの人の言う事は絶対聞かないとダメだよみたいなのがあるのかもしれない。

 冒険者がそういう社会なのかどうかは知らないが、彼はそそくさとその場を離れていった。いや少し覗くだけなんだけど……。

 

「えーっと? 斥候募集?」

 

 掲示板には、珍しく異世界ファンタジーらしい募集が貼り出してあった。

 どうやら、俺が見かけてこなかっただけで此処もちゃんとこういう使われ方をしているようだ。夢が広がるな。

 報酬は、まぁまぁか。けれど依頼主はラリス王家だ、確かにこれは驚きである。

 

「まぁ俺達には関係ないな」

 

 なので、さっさと受付おじさんのところに行く事にした。

 

「イシグロは、ああいうのは興味ねぇのか?」

 

 いつもの様に受付にドロップアイテムを置いていると、おじさんが話しかけてきた。ああいうのとは、例の斥候募集の事だろう。

 興味がないではないが、別にうま味は感じない。ていうか俺斥候系ジョブあんま鍛えてないし。

 

「そうですね、それほどは」

「そうか。まぁお前にゃ合わねぇかもな」

 

 言うと、おじさんは何故か得意げに笑った。なんで?

 

「ほら、番号札返せ」

「ありがとうございます」

 

 雑談もほどほどに、俺たちは神殿を後にした。

 相変わらず、王都西区は活気がある。活気はあるが……。

 

「なんか、街そわそわしてるッスね」

「そうかしら……。私には、人間の弱い魔力は分からないわ」

「みんなエロい事あんま考えてないッスもん」

「すごいわね、淫魔って……」

 

 リリィの言う通り、確かに朝とはちょっと雰囲気が違うように感じた。

 別に何がどう変わった訳でもないが、どことなく住人がシリアスな顔になってる気がするのだ。

 

「戦争でも始まるのかな……」

「いやぁ? 今日日、ラリス王国とやりあう国なんて無いと思うッスけどね?」

「どこかの頭の悪い竜族が攻めてきたとか……?」

「だとしたら今頃王子とか王女とかがドッカンドッカンやってると思うッスよ。戦にしては雰囲気が地味ッス」

「さすが元兵士、詳しいね」

「訓練兵ッスけどね!」

 

 まあ、考えても仕方ない事である。俺は元来、物事を深く考えない性質なのだ。

 自分が動いてもどうにもならない事は、どうしようもない事として考えないのが一番だ。

 そんな事よりお腹が空いたよである。

 

「さて、今日は何食べようか」

「はいッス! 自分は昇進祝いに、故郷の料理が食べたいでありますッス!」

「あら、いいわね。確か、淫魔王国にもお酒があるのでしょう? 気になるわ」

「じゃあ今日は淫魔料理のお店に行こうか」

 

 なんか、きな臭い雰囲気を感じつつ……。

 俺たちはいつもと同じ日常を送るのであった。

 

 

 

 

 

 

 ある日の夜、宿屋に俺目当ての客人が訪ねてきた。

 なんとビックリ、客人は奴隷商人のクリシュトーさんであった。いつもより服が地味だ。

 彼は宿屋の店主に金を握らせ、人払いをさせていた。広い食堂で、俺とクリシュトーさんだけの状況である。

 

「イシグロ様、お久ぶりでございます」

「はい、お久しぶりです」

 

 二人っきりの食堂で、俺とクリシュトーさんは向かい合った。

 机に酒はない。世間話という雰囲気ではなさそうである。対面する彼の顔は、いつもより堅くなってるように感じた。

 

「あれから、ルクスリリアとエリーゼはどうでしょうか?」

 

 というジャブを打つ傍ら、彼は常にこちらの顔色を窺っていた。対する俺も無難に返し、話が進む。

 やがて話題も尽きたところで、彼は水で口を湿らせた後、重々しく口を開いた。

 

「イシグロ様、申し訳ありません……」

 

 突然の謝罪。何か悪い事でもあったのかと、なんだか心配になった。

 それから、彼は沈痛そうな顔で、云った。

 

「入荷予定だった奴隷が、輸送中に何者かの襲撃を受け、行方不明となってしまいました……」

 

 ん?

 

 彼が今、わざわざこんな話をしてるって事は、俺との契約の事だよな。良いロリ探すよ契約。

 入荷予定だった、奴隷? という事は、ロリなんだよな?

 つまり、良質ロリ奴隷だよな。エリーゼみたいな感じでなく、彼が探してくれてたという……。まぁ、最近は忘れかけていたが。

 とにかく、輸送中のロリが襲われて、行方不明だと……?

 

「……無事なんですか?」

 

 我知らず、硬質な声が漏れた。

 声に反応して、クリシュトーさんの表情が強張るのが分かった。

 別に責めてる訳じゃない。俺は神様気取りのお客様じゃあないのだ。

 

「不明です。現在、我が商会の者に探らせていますが、依然行方は知れず……。ちょうど今、占い師に居場所を占ってもらっているところです」

「そう、ですか……」

 

 この件について、買い手としての怒りはなかった。

 せいぜい、予約してたゲームが延期になった程度にしか、俺の怒りゲージは変動してない。

 楽しみにしていた奴隷商談、それが延期なり中止になった。それはいい。

 マジで、それはどうでもいいのだ……。

 

 けれど、そういうのとは別のところで、俺は怒髪天を衝く程の激情を覚えていた。

 

 ロリが、輸送中に襲われたとか、行方不明とか……。安否も分からないとか……。

 怪我をしたかもしれない。盗賊とか山賊とかに捕まったのかもしれない。あるいは、価値がないと殺されたかもしれない。

 ぐるぐると、俺の頭に制御不能のマイナス思考が渦巻いていた。

 

「ご安心ください。商品は必ず我々が探し出し、無事奪還してみせます。この度はイシグロ様に……」

「依頼を……」

 

 その時、俺の脳裏に今日の神殿の光景が過った。

 ずっと買取価格を張り出してるだけの掲示板だと思っていたが、違った。

 あそこは、冒険者に冒険者らしい依頼を貼り出す事もできるのだ。

 

「クリシュトーさんの依頼で、俺を雇ってくれませんか?」

「そ、それは……!?」

 

 俺は、俺が動いてどうにもならない事は、全部どうでもいいと思うようにしている。

 けれど、俺が動いてロリの生存率が少しでも変わるのなら、俺にとってそれはどうでもいい事にはならない。

 珍しく、性欲ゼロのロリコン魂が燃えていた。

 

「人探しの経験はありませんが……」

 

 机の下で、コンソールを弄る。

 ステータスから、ジョブを選択し、目当てのジョブを探す。

 ソードマスターレベル30で生えてきた“ソードエスカトス”。ソドマスの単純上位互換で、剣士系の上位職だ。

 それに、ジョブチェンジした。

 

「それなりには()れると思うので」

 

 俺は、迷宮外で冒険をする覚悟を決めた。

 細かい事は、後だ。

 

「協力させて頂けませんか?」

 

 そもそも、助けない方がいいんじゃないのとか。

 悪いのはこっちサイドで、襲撃側のが正しいんじゃないのとか。

 そもそも自分の奴隷にしようとしてるのお前じゃんとか。

 

 そういうの、ひとまず置いておく。

 

 いずれにせよ、襲撃犯は暴力を振るってきたのだ。

 ならばこっちも暴力で返すのが道理だろう。

 

 人生は知恵捨て(チェスト)なり。




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 詳しくは活動報告にて。

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 一緒に世界観を広げていきましょう。



 あと、設定資料集のご要望があったので、活動報告に載せておきます。

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 すごい雑ですが。


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新たなるロリ奴隷、グーラ!(またよろしくお願いします)

 感想・評価など、ありがとうございます。楽しく書かせてもらっています。
 誤字報告も感謝です。まぁ流石にないやろとか思ってた過去話にもあったあたり作者は筋金入りのアレですね。許して亭ゆるして。

 キャラ募集の方もありがとうございます。やる気に繋がっています。
 出る時はヌルッと出てきますし、割と性格とかも変わっています。ご了承ください。
 なんなら名前も弄ります。同じ文字から始まるキャラが多い時とかですね。

 今回は最後だけ三人称です。
 よろしくお願いします。


 転移神殿は24時間営業である。

 何故かというと、迷宮に潜った冒険者が何時帰ってくるか分からないからだ。朝潜って当日帰ってくる場合もあれば、同じく朝潜って日を跨いだ夜中に帰ってくる事だってある。

 当然、その中には重傷で帰ってくる冒険者もいる訳で、神殿内の治療院は常に開いてないといけないし、何やらかすか分からない粗暴な冒険者を見張る職員も必要なのである。

 とはいえ、午前午後と人でごった返している日中と比べると、夜の神殿は静かなものだ。換金受付は一つだけになり、バーや飲食店、武器屋なども閉まっている。冒険者パーティも何組かいるくらいで、大体は帰る準備をしている。

 

 そんな夜の神殿に、俺の一党とクリシュトーさんはやってきた。

 依頼の為である。

 

「ちょっと行ってくる」

 

 依頼関係の事はクリシュトーさんにお任せし、俺は一人神殿内を歩く。

 歩きながら目当ての人を探す。クリシュトーさんから聞いた、優秀な斥候。その後ろ姿はすぐに見つかった。

 

「へへっ、こりゃイイ……これなら多少ふっかけても問題ねぇよなぁ……」

 

 例の掲示板を眺めている、小柄な人物。

 緑の髪に、片方しかない特徴的なイヌミミ。異世界冒険者にしては地味で見栄えのしない、多機能多収納な軽装。彼は、掲示板の依頼を眺めながら機嫌よさげに尻尾を振っていた。

 

「すみません、ウィードさんですよね?」

「え? そうだけど……イシグロォ!?」

 

 俺はそんな彼に声をかけた。目が合うと、ウィードさんはビクリと全身を震わせた。頬に入れ墨のあるその顔には、ありありと畏怖の感情が浮かんでいた。

 もうこういう反応は慣れたぜと思っていると、彼の顔を見て思い出した。この人、前に一度すれ違った人だ。

 

「いきなりすみません。ウィードさんに急ぎの依頼があるんです。力をお貸し頂けませんか?」

「えぇ……っ!?」

 

 まぁそんなのはどうでもいい。俺は今すぐ行かねばならないところがあるのだ。

 なので、細かい事は置いといてゴリ押しプレゼン開始である。

 

「依頼は王都外での人の捜索です。場所はカトリア領近郊の森、ウィードさんには森の中で対象を探し出してほしいのです」

「えっ? なに? なんで?」

「理由は後で。使用する道具は全部こちらが持ちます。戦闘も結構です。この依頼はストゥア商会のクリシュトーさんからの依頼となっています」

「ストゥア? え、クリシュトーさんのか!?」

「ええ。報酬はこれくらいです」

 

 チラリと報酬額を見せる。一瞬目を丸くしたウィードさんだったが、次いで訝しむような目を向けてきた。

 

「み、見つからねぇ時は、どうなンだよ……?」

「承知しています。ですので、こちら前金になります。お納めください」

 

 言って、有無を言わせず金貨の入った小袋を握らせる。

 ウィードさんは袋の重さを確認しては、ぶるりと身を震わせた。今度は俺への畏怖ではない。

 感触は悪くない、押せばいけるという感覚。故、畳みかける。

 

「他の冒険者から伺いました。ウィードさんは今、新しい武器が欲しいんですよね?」

「あ、あぁ……そうだが……」

「でもお金がない。お金がないから武器を買えないし、武器が弱いから良い迷宮に潜れない。そも、ウィードさんのスタイルはとかくお金がかかる……」

「まあ、そうだ……」

「もしこの依頼をお受け頂けたら、この金剛鉄(アダマンタイト)をお譲りしますよ」

「……え?」

 

 トンと、彼の残る手に希少鉱石を握らせる。

 右手に金、左手に金剛鉄という状況だ。

 

「いや、でも……そいつぁ売っちゃダメな奴だろ?」

「ええ、なのでお譲りするんです。一時的とはいえ、一党の仲間なのですから」

「マジかよ……。んな、いやイケるのか? えぇ……? な、なんで……?」

「あと、その耳も治してさしあげますよ。無料で」

「あ? あぁ? いや、そんなのできる訳が……」

「できますよ。自分の一党には魔法に秀でた竜族がいるんです」

「うっ……」

 

 ひとつ呻いて、逡巡するウィードさん。

 しかしその内心はわかってる。損得勘定をしているのだ。得る物は多いが、俺という友人でも仕事仲間でもない奴の依頼を受けるべきか否か。リターンがデカすぎる、何か裏があるんじゃないのかとか。そういうのだろう。

 こっちからすると裏も表もないのだが。

 

 ぶっちゃけ、絶対彼である必要性はなかった。要するに、占い師が示した森に適した斥候がいれば誰でも良かった。

 しかし、今現在ホントに優秀な斥候は皆、王家からの依頼に夢中である。そんな中、残った斥候となると数が限られる。そこで選ばれたのが、ウィードさんだ。

 

 クリシュトーさん曰く、ウィードさんは生来の好色さ&巨乳好き&面食い&娼館狂いのせいで、迷宮に潜らない日はほとんど神殿付近の高級娼館に入り浸っているらしい。当然、いくら冒険者でもそんなのしてたらすぐ金が尽きる。

 加えて言うと彼は多彩な道具を使い潰して迷宮に挑むタイプの冒険者であるらしく、ジョブの都合上複数人じゃないと活躍できない。当然報酬は山分け。渡りの所為で経費は自分持ち。貯金はしたいが貯まらない。

 要するにこの人は、腕はいいけど金欠な冒険者なのだ。斥候不足が懸念される今後、神殿内での斥候需要は爆上がり間違いなし。故、ここぞとばかりに稼ごうとしているのだ、彼は。

 

「ま、マジで戦闘はしなくていいんだな……?」

「ご安心ください。魔術式の契約書があります」

「マジか……」

 

 やがて、彼は俺の札束アタックに敗北し、我がロリ救出隊に参加する事となった。

 

 ちなみに、何故クリシュトーさんが彼の事に詳しかったかというと、どうやら彼は時たま奴隷市場を物色しているらしいのだ。そうなるとクモの巣に掛かった虫である。クリシュトーさんの情報網にかかれば、いち冒険者のパーソナルデータなど障子戸同然なのだろう。

 ついさっき、「え、客の事しゃべっていいんですか?」と訊いたところ「まだお客様ではございませんので」というスマイルを頂いたものである。流石というか何というか。

 

「じゃあ、よろしくお願いしますね」

「ん、あぁ……。まぁやれるだけやるっすわ」

 

 そんなこんな、俺たちはさっそく王都の外に向かう事となった。

 目指すは、王都の隣領、カトリア領だ。

 

 初の王都外と観光気分じゃいられない。

 焦らず急げ。

 

 

 

 

 

 

 ラリス王国は、王国というだけあり王様がトップにいて、その下にいくつか貴族がいて、貴族一人につきひとつの領地を任されてるという体制であるようだ。

 領主は領内に出没する魔物――ダンジョンと同じ奴であるらしい――を討伐したり、賊が出たら討伐したり、その他色々をして自領を守るのが仕事だ。 

 感覚的に、俺がイメージしてた貴族よりもマッチョでバイオレンスな立場なんだな。これまたイメージだが、貴族というより極道といった方が近い気がする。それでいうと、今俺が向かってるのはカトリア伯爵が治めるカトリア領となるので、ラリス組傘下カトリア組という事になるか。

 

 ところで、この世界の主な交通手段は陸路である。徒歩も馬車も皆、街道を使うのだ。それも多くは土むき出しの、あまり舗装されてない街道をである。

 当然ながらこの世界に自動車はない。最も使われてるのが馬車で、当然の様に車やバイクほど速度は出ないし長く動く事もできない。バフをかけた高速馬車でも、せいぜい時速30㎞程度を維持できるくらいだ。

 加えて言うと、長距離を馬車で移動するには馬用のエサや水や休憩時間なども必須である。そこは魔法でも何ともならない。まぁ水は魔術師がいれば何とかなるのだが、飼葉を出す魔法なんてないのでやっぱエサは要る。

 

 また、ネットもテレビもない異世界、連絡手段といえばもっぱら手紙である。当然、その手紙には運び手が必要なのだ。運び手の多くは、大体馬車である。

 他は伝書バトでも使うのかな? と思っていたら、それは無理らしい。曰く、「そんなの飛ばしたら即捕食されるッスよ!」との事。何に喰われるかというと、空中の魔物である。

 しかしながら、クリシュトーさんの下に連絡が来たのは、ついさっきの事だという。手紙によると、事態を確認したのは本日の午前中の出来事であったらしい。被害状況から推測するに、少なくとも数時間は経っていると……。

 

 車もバイクもない異世界だが、馬車もハトも使わずに午前の出来事をその日の夜に伝えられる技術があるのだ、ストゥア商会には。

 それは、異世界にしかいない存在、高速配達人である。クリシュトーさんお抱えの元冒険者の天馬族(ペガサス)さんの仕事だった。

 天馬族とは、要するに馬人と翼人を合体させた種族の事だ。分類は魔族で、空でも陸でも速いスピード特化種族である。ハトほど弱くないので空中の魔物も何とかできるし、ヤバくなったら地上で走れる。

 天馬族の配達人とは、この世界で最も速く荷物を届ける事のできる手段なのである。

 

「じゃ、準備はいい?」

「大丈夫ッス!」

「問題ないわ」

「う、うっす……。うぅ、これも金の為金の為……」

 

 そんな訳で、俺もその配達人にあやかる事にした。

 あっちがペガサスなら、こっちはヘラジカである。ちゃんとギルドの許可を得たラザニア宅急便だ。

 

「ノンストップで行く! 振り落とされるなよ!」

 

 王都を出た俺たちは、ラザニアの背にまたがった。列は前からルクスリリア、エリーゼ、俺、ウィードさんの順である。

 そんな訳で、クリシュトーさんのお見送りを背に我々は空の旅を始めた。

 

 タンと駆け出しバサっと舞い上がる。そして、グングン空へと昇っていく。

 今が昼だったら空からの景色に感動してただろうが、夜だし急いでるしでそんな心の余裕はない。暗視ポーションのお陰で夜でも良く見えるが、それでも異世界の夜は暗かった。

 

「ウィードさんはカトリア領の森に行った事は?」

「え? あぁ、入った事あるぜ、よほど奥にいない限り大丈夫っすわ」

 

 道中、俺たちは打ち合わせをしていた。

 商会お抱えの占い師曰く、現在件のロリは森を移動しているらしく、恐らく今も森の中だろうとの事だった。

 そも、街道を馬車移動していたはずのロリ奴隷が何故森にいるのかは分からない。現場では馬車が横転していて、馬や護衛が殺されていたらしい。その中から、ロリの入った檻だけ無くなっていたのだ。

 加えて言うと、馬車を護衛していたのは鋼鉄札持ちの冒険者である。恐らく奇襲だったとはいえ、そいつを殺せるとなると十把一絡げの賊じゃまずできない芸当だろう。

 

「二人もごめんね、こんな夜遅くに」

「大丈夫ッス! 夜は淫魔の時間ッスからね!」

「問題ないわ。その気になれば、竜族は三日三晩寝なくても戦えるのよ」

 

 今回のロリ探索には、二人にも同行してもらった。

 最初は俺一人で行こうと思ったのだが、やっぱり足は欲しかったのでルクスリリアにも同行を願い、そうなるとエリーゼを一人にさせる訳にはいかないので結局いつものパーティとなったのだ。

 

「お、見えてきたな。イシグロさん、あの丸いトコで降ろしてくれ」

「わかりました」

 

 ノンストップで飛んで二時間程度だろうか。道も信号もないラザニア移動は、迅速に俺たちを例の森へと運んでくれた。

 言われた通り森の開けた所に降りる。冒険者の身体スペック故だろうか、前世でバイクを降りた時の様な疲れはなかった。見るに、リリィもエリーゼもウィードさんも疲れてはないようだ。

 

「ウィードさん」

「おう、任せな」

 

 俺はアイテムボックスから、ロリ奴隷が乗せられていた馬車の破片を手渡した。ロリの似顔絵は確認したしウィードさんにも見せたが、今捜索の手がかりになるのはこれだけである。

 両耳をピクつかせたウィードさんは破片に鼻を近づけ、匂いを嗅いだ。猟犬族の彼からすると、このレベルの手がかりでも人探しができるのだ。

 

「んあ~、少なくとも近くにこの匂いは無ぇっすわ。足で探さねぇと……」

「わかりました」

 

 覚悟していた通り、ここからは森の探索である。ラザニアとお別れし、皆に専用の武装を渡す。俺も腰に無銘を佩いた。

 焦る心を抑えつつ、俺はそのまま夜の森へと足を進めた。先頭はウィードさんで、その後ろに俺、そのまた後ろにエリーゼとルクスリリアである。

 初の森探索だ。情報は入ってるが、油断はできない。

 

 

 

 カトリア領の森は、なんだか神秘的な雰囲気に満ちていた。

 まさに鬱蒼とした森という表現がぴったりで、そこには自然の息吹とでもいうべき大きな生命達が渦巻いているように感じられた。鼻で息をすると草と土と、それから僅かに生き物の匂いがした。

 もっと砕けた言い方をすると、なんかもののけ姫みたいな森だった。今にも白い山犬が襲ってきそうである。

 

「はあッ!」

 

 しかし、襲ってくるのは美しき森の守護獣でなく、クッソ汚い夜行性の魔物であった。俺は剣を一閃し、襲ってきたクソデカフクロウを真っ二つにした。奇襲はカウンターに弱いのだ。

 地球の自然も大概危険だったが、こっちの場合そこに魔物がプラスされるのだから難易度アップである。

 ちなみに、迷宮外の魔物もまた、迷宮内と同じように粒子に還り経験値になる仕様だ。何故かドロップはしないようだが。

 

「行きましょう、ウィードさん」

「お、おう……」

 

 前世、何度か森に入った事はあるが、その時は木の根や滑る地面に足を取られてロクに動けたものではなかった。舗装された道でそうなのだから、未開拓の森など何をかいわんやである。

 しかし、異世界ナイズドされた俺はズンズン進む事ができた。それどころか、エリーゼをおんぶして走る余裕さえあった。こういう所に異世界のステの凄さを感じる。

 ちなみに、リリィは飛んで俺についてきて、ウィードさんは獣人の特性でスイスイ移動している。俺もウィードさんも、プロアスリートよりも速く森を進んでいた。

 

「ほんの少し匂いがする……。こっちっすわ」

「はい。よっと……」

 

 足場が酷いところは、“柔拳士”スキルの“軽功”でぴょんぴょん移動する。

 熟練したスキルの場合、ジョブに関わらず使用可能な状態であればこのように使う事ができるのだ。軽功は足さえフリーなら使えるので、とても使い勝手がいい。

 逆に言うと、いくら熟練しても“切り抜け”等は剣がないと使えないが、本来切り抜けを覚えられない聖騎士や魔法剣士でも剣さえ持ってりゃ使えるのである。

 その点、武闘家スキルは便利だ。手足のどれかがフリーなら使えるモノが多いので、剣士やりつつ武闘家の動きができる。中でも足技は立ち回りに便利なので、普段から愛用している。

 

「止まってくれ、イシグロさん」

 

 しばらく走ると、茂みの先に開けたところがあった。

 ウィードさんの後ろから伺うと、そこには何人かの死体と、荒れた地面や折れた木などがあった。開けた所と思っていたのは、戦いで荒れた所だったのだ。

 

 先行したウィードさんが周囲を探り始める。俺も警戒を強くして後に続いた。

 斥候の彼はあっちこっち移動しては、死体や地面の状況を確認していた。時に四つん這いになってまじまじ観察したり、落ちてる何かの破片を矯めつ眇めつしていた。

 

「イシグロさん、見て分かる通り此処でその奴隷が暴れたんっすわ。アッチから走ってきて、ちょうどこの位置でやり始めた。それから、ソッチに逃げてったと……」

「無事なんですね?」

「多分な。逃げた方向も分かる。けど……」

 

 言って、ウィードさんは死体の胸元を指差した。

 

「こいつはある程度炎に耐えてる、現役冒険者っすわ。けど冒険者証がねぇ……。これ、先に誰かが見分して証取ってった可能性高いっすわ……。イシグロさん以外にも、この匂いを探してる人等がいるって事だな」

「襲撃犯ですか?」

「どうだろうな……」

「にしても凄いッスね。冒険者でもないのに、冒険者の追手を返り討ちにできるなんて……」

「魔力は残っているけれど、魔法の炎じゃないわね、これは……」

 

 ウィードさんとエリーゼの言葉通り、転がってる死体はどれも何かしらの方法で燃やされていた。焼死体である。

 腕がない焼死体があれば、頭が取れてる焼死体もある。けれど、全部どこかが焼かれていて、モノによっては全身黒こげのもあった。進撃の焦げミンを思い出す。とてもグロい。

 

「……情報通り、ではある」

 

 驚くべき事に、間近で死体を見たというのにも関わらず、俺の心は存外平静を保っていた。

 前世、俺は医者でも警察でもなかった。亡骸など、葬式で見た祖父の遺体しかない一般人だ。焼死体がショッキングなのは確かだが、それはそれとして不思議と一線を引いている感覚があった。何故かは分からないが、祖父とお別れをした時や交通事故の現場を見た時の様な衝撃は受けなかったのである。

 

 もしかしたら、俺の心は身体同様に異世界ナイズドされたのかもしれない。

 あるいはアドレナリンか何かの影響で、死や痛みに鈍感になってるのか。

 分からないが、それこそ後でいい。深く考えないのが一番だ。

 

「手がかりっつーと、これかぁ……?」

 

 周囲を見分していたウィードさんが、ひしゃげた鉄の何かを拾い上げた。形は変わっているが、元何だったのかは分かる。

 

「……見覚えのある魔力ね」

 

 奴隷用の拘束鎖だ。それも、とても強力な奴隷を縛る為の、特別性。

 エリーゼのような、超級の奴隷を縛る為の鎖である。

 

「焼けちまってるんでソイツの匂いは分からねぇが、この鎖の匂いなら追いやすい……こっちっすわ」

 

 駆けだしたウィードさんを追い、俺も後に続いた。

 ロリ奴隷が強いのは分かっていた。ひとまず追手らしき集団を返り討ちにしてたというのも、安心材料になってくれた。

 彼女が人を殺したのには、ショックはあっても忌避する感覚はなかった。ヤバい時に殺しなど、誰だってそうする、俺だってそうする。

 

 今回、俺がクリシュトーさんから紹介される予定だった奴隷は、特殊な出自の魔族の娘であった。

 名を“グーラ”と言い、とても強い力を持っているらしいのだ。

 その一つが、奴隷鎖を焼き溶かす程の炎熱能力。元は戦闘用として売られた、可愛いロリ奴隷だ。

 

 グーラは強い。グーラはエリーゼの様な観賞用竜族奴隷と違い、がっつり実戦用魔族奴隷としての需要があるのだ。

 裸で迷宮探索に同行させるとか、闘技場で戦わせるなんてのはマシな方で、最悪何かしらの鉄砲玉として使われる可能性もあるのだ。その価値は、戦闘力相応に高い。

 そうなると、多少アホな事して奪おうとする闇奴隷商会や、前述の通り鉄砲玉として使いたい賊連中からも狙われる可能性があるのだ。クリシュトーさんによると、正直誰が襲撃犯なのかさっぱりだという。候補が多すぎるのだ。

 

「うわ……! 止まれイシグロさん……!」

 

 急停止したウィードさんに従って、俺も停止する。背のエリーゼが「うっ……!」と呻いた。

 

「強者の匂いがする……! マジやべーっすわ、この先如何にもな冒険者がいるっすわ……!」

「冒険者……? 山賊とか盗賊とかではなく……?」

「ああ、武装の匂いが上質なんで恐らく……」

 

 それは、一体全体どうしてナンデという気持ちである。

 第三勢力? 奴隷を追ってるのは襲撃犯だけじゃないって事? いや、襲撃犯が冒険者を雇ったとかそういう線もあるのか? あるいは何の関係もない可能性もあるか……。

 ストゥア商会――クリシュトーさんの奴隷商会の名前だ――の関係者である事を示す合言葉はある。これが通じれば問題ないが、もしダメだったら即敵対である。会話ロールで何とかしたいが、そもそも話の通じる相手なのか?

 いやいや、もし相手も同じ子を捜索中というのなら、わざわざ姿を晒す意味はない気がする。ここはスルーして、匂いを追うべきか……?

 

「ウィードさん、匂いの方向は……?」

「その冒険者の歩く先っすわ……。あと、冒険者等も同じ匂い持ってる……」

 

 ファックである。これで全くの無関係って線は消えたわけだ。

 なら、せめて襲撃犯サイドでない事を願うばかりだが……。

 

「クソが、死ねよ……」

「ご主人……?」

 

 その時、我知らず俺は悪態をついていた。

 ただでさえロリの安否で精神が荒んでいるというのに、ここにきて競争相手のエントリーである。さっきまでギリで保たれていた冷静さが、件の冒険者パーティの出現で崩れはじめた。

 どうすりゃいい、何が一番良い選択肢だ? 残念ながら、異世界にステはあってもポーズはない。一時停止して考えるなど、できはしない。

 

「イライラする……!」

 

 あぁ……もう面倒臭くなってきたな。

 

「ふぅ……ルクスリリア、伏兵作戦だ。もし戦闘になったら、タイミング良く奇襲してくれ」

「は、はいッス」

「エリーゼ、降ろすよ。エリーゼはできるだけ魔力を抑えてて、気づかれるといけない」

「わかったわ……」

「ウィードさんは隠れててください」

「あぁ、わかった」

「あっ……これも一応かけとくか」

 

 俺はジョブを“ハイウィザード”に変更し、杖を取り出して俺を含めた全員に“静寂”と“隠形”と“無臭”をかけた。

 それからまたジョブを“ソードエスカトス”に戻し、腰の無銘を確かめた。

 

「じゃ、行ってくる」

 

 それから、さっきとは比べ物にならない速度で駆けだした。

 

 少し進み、冒険者たちの姿を捕捉した。

 彼らは俺の隠密には気づいていないようで、斥候の男を先頭に警戒しながら進んでいた。

 静かに尾行しつつ、俺は冒険者たちを観察した。

 

 前を歩いているのはフードを被った痩せ男だ。彼は足元を確かめながら、堂に入った斥候ぶりで後続を先導していた。

 その後ろに、円盾を持った赤毛の少女。大剣を背負った鬼人の少年。トンファーを持つ金髪の少女。最後尾に如何にも魔術師っぽい翁さんというパーティ構成。

 彼らのランクは知らないが、パッと見だと鬼族の大剣使いが一番強そうだった。

 

 多勢に無勢である。見つかりたくないし、戦いたくない……。

 

 しかしだ、彼らの足取りはこういう状況に慣れた風で、迷いなく獲物に近づいているのが素人の俺にも分かった。このままだと、追いついてしまう可能性がある。

 やっぱ、出るべきだろう。

 

 俺は覚悟を決め、跳躍した。

 

 

 

 

 

 

「どうも、こんばんは」

 

 闇夜の森、突如。その男は冒険者一党の前に姿を現した。

 いきなりの事だったが、流石は“迷宮帰り”の冒険者たちで。即座に警戒態勢を取った。

 斥候はカミソリを、赤毛の少女は槍を、金髪の少女は旋棍を、翁は杖を構え、鬼人の少年は楽しそうに笑んだ。

 

「自分は王都の西区で冒険者をさせてもらっている、イシグロ・リキタカと申します。イシグロが苗字で、リキタカが名前です。どうぞよろしくお願いします」

 

 武器を向けられた男は、自身をイシグロと名乗った。

 その名を聞いて、戦慄しない冒険者はいなかった。

 

 イシグロ・リキタカ。登録から僅か2ヵ月で銀細工の所持を許された、銀細工授与史上最速記録保持者。

 二つ名を“黒剣”。彼は、恐らくその由来となったであろう黒い柄の剣を佩いていた。

 

 そして、彼にはもう一つ、関係者しか知らない二つ名がある。

 黒剣のリキタカ、またの名を“迷宮狂い”。狂ったように迷宮に挑む、得体の知れない男。

 頭のおかしい銀細工持ちの中で、一等頭のおかしい輩である。噂が正しいのであればの話だが。

 

「ところで、えーっと……あぁ……」

 

 黒剣のリキタカは、先ほどまでの流暢な挨拶とは打って変わって、何故だか言葉に詰まっていた。その手は、無造作に剣の柄を弄っていた。

 やがて、意を決したように五人の冒険者を見て。云った。

 

「……今日は、()が良く見えますよね」

 

 その言葉を聞いた瞬間、後方にいた魔術師の翁が魔法の発動準備に入った。

 

「そいつは敵じゃ!」

 

 刹那、駆けだす鬼族とトンファー少女。鬼は凶笑と共に大剣を引き抜き、少女は気炎と共にトンファーを構えた。

 二人がかりの攻撃を前に、銀細工の狂人は……、

 

「クソがよ……」

 

 心底不愉快げに、腰の剣を抜いた。




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この転移者は身勝手すぎる

 感想・評価など、ありがとうございます。励みになってます。
 誤字報告も感謝です。おかげでドバーっと更新できてます。こんな作者で申し訳ない。
 キャラのご応募もありがとうございます。有難く拝見させて頂いています。作者のやる気に繋がっています。

 何度も書きますが、本作はバーッと書いてドバーッと投稿しているので、色々詰めが甘いです。
 そんなもんです。

 今回は三人称、とある冒険者視点。
 先に謝っておきます。すみませんでした!



◆追記◆
 5月4日。会話パート加筆。


 エレークトラは奮起した。

 必ず、かの乱暴狼藉の魔族を除かなければならぬと決意した。

 

 エレークトラには治政が分からぬ。

 エレークトラ・ヴィンス・カトリアは、伯爵家の娘である。学を修め、馬と遊んで暮らしてきた。

 けれども民を脅かす存在に対しては人一倍に敏感であった。

 

 エレークトラは末っ子である。

 カトリア伯爵家はエレークトラと両親と、兄三人の六人家族である。妾の子を加えれば、彼女の兄は九人いた。

 末っ子であるエレークトラは家族一同からたいそう可愛がられた。けれども心はお姉ちゃんであった。

 

 何故か? 性癖である。

 

 エレークトラには家族がたくさんいる。貴族の血を継いでいるだけあり、兄は皆エレークトラよりも強く壮健である。

 彼らの長である父は、領全体の長であり、当然として爵位相応に武に秀でていた。

 そんな父の口癖が、こうであった。

 

「貴族は民を守るものだ」

 

 これを聞いたエレークトラは、身も心も強い父に憧れ、自分もそうなりたいと思った。

 幼き日、エレークトラはお屋敷で淑やかに振る舞う令嬢よりも、強い貴族に憧れるようになったのだ。

 そして、父の教えはエレークトラの脳でこのように処理されたのである。

 

 強い貴族は民を守る→父は皆を守る→兄は妹を守る→私も兄と同じく民を守る→なら私は民みんなのお姉ちゃんである。

 

 それを悟った時、エレークトラは絶頂した。

 頭がおかしい。

 

 エレークトラは強い貴族に、ひいては皆の“お姉ちゃん”に憧れている。

 故、空いた時間は武術の鍛錬に励み、その成果を迷宮の踏破で以て示してみせた。

 

 迷宮踏破は貴族の誉れである。

 そんなエレークトラの気性を、家族みんなで喜んだ。

 これこそ、ラリス王国の理想的な貴族像である。

 

 

 

 ある日、エレークトラは屋敷を出発した。すれ違う民と挨拶をしながら、領唯一の転移神殿に向かっているのだ。

 神殿に着くと、何やら見かけぬ冒険者たちと商人風の男が話し込んでいるのが見えた。どうやら、依頼について話している様だった。個室を使ってないあたり、よほど急いでいるらしい。

 どうやら、森に暴走した魔族が出たので討伐してくれとの事だった。

 

「話は聞かせてもらいました!」

 

 そういう話に、人一倍敏感なエレークトラが首を突っ込まない理由はなかった。

 一瞬、商人は「うげ!」みたいな顔をした事に、気づくお姉ちゃんではなかった。迷宮踏破は貴族の誉れだが、治安維持は貴族の務めなのだ。頼られるのが好きなエレークトラは、内心ウッキウキであった。

 

 結局、森の魔族討伐にはその場に居合わせた臨時の一党で向かう事となった。

 円盾と短槍を使いこなす貴族令嬢。鋼鉄札のエレークトラ。

 最初から商人と一緒にいた魔術師の翁。鋼鉄札のルイ。

 商人と翁に同行を依頼されていた斥候の男。鋼鉄札のスキスキン。

 エレークトラ参戦を聞いて飛んできた同盟仲間。鋼鉄札のファリン。

 おもしろそー、と勝手についてきた鬼人少年。銀細工のラフィ。

 総勢五人の臨時一党。うち一人は銀細工持ち。なかなか豪華なメンバーである。

 

 実際、この一党は強かった。

 森を案内してくれるスキスキンに、前に突っ込んで攻撃するファリン。槍と魔法で中衛をこなすエレークトラと、後衛のルイの援護。最も強いラフィは基本ついてくるだけで、デカい魔物が出た時だけ一人突っ込んで一刀両断していた。

 皆、癖は強いが優秀である。自称お姉ちゃんなど、この一党の中では割と常識的なあたおかだ。自然、エレークトラは一党の常識人&苦労人枠に収まった。

 

 依頼は森に逃げた魔族の討伐である。

 どうやら、王都行きの街道を移動していた馬車が何者かに襲撃され、その時中で捕らえられていた魔族が逃げたらしいのだ。

 放置しておくとマズい。普通、こういうのはすぐ貴族にお願いするものだが、あの商人は何故ギルドに向かったのだろうかとエレークトラは思った。が、そこは貴族思考。「領民はアホだからアホな事して当然」マインドでスルーした。

 

 逃げた魔族は、既に自我を喪失した危険な暴走状態にあるという。

 魔族は不老不死な種族が多いが、だからこそ長寿の苦しみから逃れるように時折狂う者が出る。そういうのを討伐したり、未然に防いだりするのも貴族の務めである。

 これまた何故王都に輸送していたのかは分からないが、そんなのお姉ちゃん的にはどうでもいい。エレークトラは意気揚々と森を進んだ。

 

 森の行進は順調だった。

 襲ってくる魔物は片っ端から仕留めていき、治安向上に努める。道中、追跡の手がかりとなる戦闘跡を見分し、追手を撒いた魔族がまだ何処かにいる事を知る。エレークトラの貴族魂もといお姉ちゃん魂がメラメラ燃えていた。

 

 暗い森だった。

 何かが起きそうな、静かな夜だった。

 危険を冒す喜びと、戦の前の高揚。それと、自己実現の充足感がエレークトラを動かしていた。

 

 そして、奴が現れた。

 

「どうも、こんばんは」

 

 

 

 

 

 

「そいつは敵じゃ!」

 

 開戦は突然であった。イシグロが“月”と言った瞬間、寡黙だった翁が先んじて戦闘態勢を取ったのだ。

 号令と同時、駆けだしたのは二人。鬼人の少年・ラフィと、旋棍の少女・ファリンだ。二人に隠れるようにして、斥候のスキスキンもイシグロの死角に回り込むべく動いた。

 対するイシグロは、何事か呟くと迷わず腰の剣を引き抜いた。闇夜にあって鈍く輝く刃には、怜悧な闘志が満ちていた。

 

「オラァ!」

 

 先手はラフィであった。小柄な彼が持つには長大な剣を、彼は大上段から思い切り振り下ろした。ドゴン! と、剣が出したとは思えない轟音。鬼の剣が地面にめり込んでいた。仕留めていない。

 イシグロは鬼の剣撃を横っ飛びに避けると、続く少女の旋棍を剣で受けた。打突、打突、凪ぎ払い、都合三撃の旋棍は、いとも容易く防がれていた。文字通り死闘の数と格が違う。ファリンはイシグロを縫い付けるように攻めを継続した。こちらには仲間がいる。

 前にファリン。横からラフィ。背後に影、首目掛け閃く致命のカミソリを、イシグロは彼の手首を掴んで止めた。

 そして、まるで大槌でも扱うように、イシグロはスキスキンの身体を振り上げ……。

 

「ふん!」

「「おぉ!?」」

 

 ガン! と、冒険者の硬い身体が地面に激突した。地が陥没し、土が舞い上がる。ファリンは反射的に後方に逃れ、スキスキンは一瞬気を失った。やった事は単純で、乱暴極まる。即席のヒトガタ鈍器を思い切り振り下ろしたのだ。

 次いで、再度突進してきたラフィとファリンの間に投げつけたのだ。小柄な二人は飛んできた仲間を反射的にキャッチした。スキスキンはもっかい気を失っていた。

 

「対象指定……“絡みつく雷の矢”!」

 

 三人がもつれ合ってる間に、翁は場に即した実戦的な魔法を使用した。初速と拘束性能に優れた魔法が解き放たれ、イシグロに迫る。

 コンマ以下秒、イシグロは飛んでくる魔法を見て、あえて前に出た。そして、眼前に迫る魔法を、剣の腹で“受け流し”、一気に彼我の距離を消し飛ばした。それはあまりにも覚悟ガンギマリな神風ムーブであった。

 接近された魔術師は弱い。ルイとイシグロの視線が合う。ルイは反射的に防御魔法を展開しようとして、それより早くイシグロの足が躍動した。

 

「ぐあ……ッ!?」

 

 勢いそのまま、イシグロは魔術師のおじいちゃんに高速低空ライダーキックをぶちかましたのだ。翁の身体が「く」の字に曲がり、全身の骨が嫌な音を立てた。剣士が出せる蹴りの威力ではない。

 異世界物理法則に従い水平方向に吹き飛ばされたルイは、ぐしゃりと木に叩きつけられ、やがてぐったりと四肢を投げ出した。戦闘不能である。

 猫の様に慣性を殺したイシグロは、油断ない構えで先の戦士たちに振り返った。

 

 ほんの僅か、静寂が過る。

 瞬きの間だった。けれど冒険者にとっては慣れた時間感覚のはずだった。ラフィならば、ファリンならば、反応できない訳ではなかったはずだ。しかし、誰もルイを襲う狂人の動きを止められなかった。

 迷いのない狙い。惑いのない動き。そして、あまりにも慣れ切った攻守の転換であった。

 

 この男、囲まれる事に慣れている。

 

 笑みを消したファリンが旋棍を構える。

 いっそう笑みを深くしたラフィが大剣を担ぐ。

 気絶から復帰したスキスキンが息を殺して機を伺う。

 イシグロは、そんな三人に対峙して……否、四人に対峙して、空いた左手の指(・・・・)で虚空を叩いていた。

 

 張り詰める緊張の糸。戦場の中、エレークトラだけが動いていなかった。

 果断さがなければ死ぬ冒険者である。当然、エレークトラとて即開戦の現状に対応できなかった訳ではない。

 ではないが、なまじそのタイミングと翁の言葉に困惑して、どうすればいいか分からなくなったのである。いやいや、普通に話し合いフェイズだったでしょ。

 

 それに、気になる事もあった。

 

 先ほどの攻防、端から見ていたエレークトラだからこそ気づけたが、イシグロはその気になればラフィ以外の誰かを殺す事ができたのである。

 ラフィの剛剣を警戒するのは当然だろう。防御でなく、回避を選んだのも理解できる。しかし、その後の動きはどうだ。

 ファリンの攻撃には防御一辺倒で反撃をせず、スキスキンに対しては行き掛けの駄賃とばかりに首なり腹なりを切りつける事ができたはずだ。

 極めつけはルイへの攻撃である。飛来する雷魔法を受け流せる程の剣士が、何故剣でなく足で翁を攻撃したか。何故、殺さなかったか。

 

 その時、エレークトラのお姉ちゃん回路がスパークした。

 イシグロは、私たちを殺す気が無い。

 これは、不幸な遭遇戦なのではないか?

 

 正解である。

 

「どっちも待って! これは双方望まない戦いです!」

 

 聡明なお姉ちゃんであるエレークトラは、この状況で気丈にも声を張った。

 視線が集まる。これでいい。あっちもこっちも、話せばわかるはずなのだ。

 イシグロという男は、戦闘中にあって敵に気を配れるほど理性的な銀細工持ちなのである。決してガチのあたおかではない。

 

「私の名はエレークトラ・ヴィンス・カトリア! この森を領地とする、カトリア伯爵家の娘です! ここにはとある商人からの依頼で来ました!」

 

 言いつつ、率先して槍を放り投げた。自主的な武装解除である。次いでゆっくりとイシグロに歩み寄り、会話を進める。

 

「イシグロさん! 貴方は何故ここに来たのですか?」

「……依頼です」

 

 やっぱりだ。この人はあくまで冒険者の仕事で来ただけの人で、我々の敵ではない。

 タイミング的に、きっと目的も同じはずだ。お姉ちゃんのスパークした思考回路は絶好調だ。

 

「よかった、私たちもです。先ほどは突然攻撃してすみません。貴方が襲撃犯の仲間なのかと、一党の者が勘違いした様で」

「違います。エレークトラさんはどういう依頼で此処に?」

「私は、商人からの依頼で、暴走した魔族の討伐の為に来ました」

「討伐ですか……?」

「ええ。イシグロさんも同じですよね? 何方から依頼を?」

 

 エレークトラの問いに、何故かイシグロは答えなかった。

 その表情は蝋で固めたかの様な無であり、漆黒の瞳は激しく震えていた。

 みしり、という音が、彼の剣の柄から聞こえた。

 

「……とある商会です。何者かに襲撃され、それによって逃げた魔族を保護しにきました。討伐ではありません」

「魔族の保護?」

 

 エレークトラの思考が回転する。

 自分たちは魔族の討伐に来た。イシグロは魔族の保護に来た。恐らく狙いは同じだが、目的が違う。

 事実は不明だが、イシグロの言っている事が正しいならば、魔族の乗った馬車を襲撃したのは別の勢力という事になる。という事は、依頼主は輸送先の何者かだろうか。

 

 いや、待て……。

 

 そもそも、暴走兆候のある魔族を、何の為に輸送していた?

 こちらの依頼主も、緊急事態だとして何故このような依頼をいち冒険者に依頼をした?

 

 もしかして、貴族に依頼をしたくなかった……?

 

 暴走兆候のある魔族を輸送していた商人。

 魔族の輸送先と思しき、イシグロの依頼主。

 理由も分からぬ襲撃。

 本来貴族に依頼すべき内容の、怪しい討伐依頼。

 

 今更になって気づく。

 これは、貴族的に見過ごせない激ヤバ案件なのではないか?

 

「イシグロさんは、何故暴走した魔族の保護を?」

「……何故も、なにも、暴走したのは襲撃犯のせいでしょう。それで討伐されるなど、あっていい事ではありません」

 

 その瞬間、イシグロの無表情に明確な色がついた。憤怒である。

 否、表情だけではない、全身から、とても濃密な怒気が溢れた。

 

 まずった! と、エレークトラは内心歯噛みした。

 相手にその気がなさそうだったから油断したが、この男も立派な銀細工持ち。即ち頭がおかしい。対応を間違えて、キレさせてしまった。

 

 焦ったエレークトラは、無意識に先ほど放った槍を確かめた。槍は後方、全力で飛びつけばすぐ手に取れる位置だ。

 それが、相手の警戒心を煽った。

 

「動かないでください。動いたら攻撃します。今度は剣を使います」

 

 怒気に満ち、余裕のない声色には今にも爆発しそうな危うさがあった。

 エレークトラの一党の警戒が強まった。こちらも爆発寸前だ。エレークトラは、緊張を顔に出さぬよう苦心した。背中はびっしょりと汗をかいていた。

 

「答えてください」

 

 イシグロは強く剣の柄を握りしめていた。無意識だろう、その刃の向きが攻撃の前準備に入っていた。

 エレークトラは今すぐ退避できるようにしながら、迷宮狂いの次の言葉を待った。

 

「自分が“月”と言った時、何故敵だと言ってきたのですか」

「それは……」

 

 わからなかった。アレは翁が勝手に発した号令であって、頭目の指示ではなかった。

 何故、ルイがイシグロを敵認定したのかは分からない。月という、恐らく何かの符号を聞いた瞬間、こうなったのだ。理由など知るはずがない。

 暗部の符号? 翁の勘? ていうか月って何だよ。

 

「……分かりません」

「今の状況、自分の視点では貴女方が時間稼ぎをしている様に見えています。それはご理解頂けますよね」

「ええ、そうだと思います。ですが、時間稼ぎではありません」

「そうである事を願います」

 

 きな臭い依頼。おかしな翁の行動。殺意はないが、怒り心頭のイシグロ。

 エレークトラの脳はパンク寸前だった。話し合いを提案したが、これを上手く収める自信はなかった。けれどやらねばならない。

 それと同時に、今一度敵対してしまった場合の戦術も組み立てておくべきで……。

 

「クソがよ……」

 

 スッと、イシグロの目が細まる。ついに怒りが臨界点に到達したのだ。

 時間切れだ。もう話し合いはできそうにない。

 

「理由はともあれ、貴女方は暴走した魔族を討伐したい。間違いありませんか?」

「え、ええ……」

「自分は、貴女方を襲撃犯の味方だと疑っています。自分は、攻撃してきた貴女方を信用できません。貴女方を対象に近づけたくありません。それはそちらも同じでしょう」

「そう、ですね……」

「……自分には、依頼達成の為なら貴女方を無力化する用意があります。ここは、自分に譲って頂けませんか?」

「それはできません。一度受けた領民の依頼を、貴族の私が投げ出すわけにはいきません」

 

 反射だった。決断の前に、エレークトラは貴族の矜持を示した。それは過去の経験から自然に出た本心だったが、現状で口にすべき言葉ではなかった。

 イシグロは冷静ではなかった。同じくエレークトラも冷静ではなくなっていた。故に、ついいつもの貴族性が表に出てしまったのである。

 

 言葉の後、エレークトラは「はっ」となった。これは最適解ではない。

 その時、エレークトラは惑った。対話を再開すべく声をかけるか。急いで武器を取るか。けれども、相手は既に覚悟を決めていた。

 

「そうですか……」

 

 一瞬だった。鋼鉄札のファリンも、銀細工のラフィも、当事者のエレークトラも当然として、その動きに一切反応できなかった。

 エレークトラの視界からイシグロが消えた。背後に気配、振り返る。いない。前に気配、視線を戻す。眼前に、怒りを湛えた黒い瞳があった。

 

「ご安心ください。後で治療します」

 

 ストンと、尻もちをつくエレークトラ。両足に熱。膝から下が、無かった。防具ごと、切断されたのだ。

 二閃、イシグロは二度、この中の誰にも見切れぬ(はや)さで彼女の足を“切り抜け”たのだ。把握して、理解して、気づきたくもない痛みがやってきた。

 

「ぎゃあああああああああッ!」

 

 血しぶきが舞う。何度も怪我をした事のあるエレークトラでも、流石に足を欠損した事はない。魔物に手を噛みちぎられた時よりも痛い。怪我には慣れたが、十代の少女が欠損に慣れる訳がない。

 エレークトラは回復魔法を使う前に、恐慌状態に陥った。奇しくもイシグロは、一党唯一の回復役(ヒーラー)を排除できたのである。

 

「エレークトラ!」

 

 驚くべき事に、最も迅速に行動できたのは、この中で最も冒険者経験の浅いファリンであった。彼女は発揮できる最大の速度で以てイシグロに接近した。

 

「“小治癒”……!」

 

 しかし、銀の土俵にはまだ遅い。イシグロは片手を振るい、エレークトラの足の断面に“小治癒”をかけ、止血した。頑丈な冒険者だ、死にはしない。死ぬ事はないが、エレークトラは痛みで気絶した。

 それから一瞬たりとも視線を寄越す事なく、ファリンの攻撃を剣で弾いた。火花の奥、ファリンはイシグロを睨み、イシグロは迫るラフィに注意を払っていた。

 つまり、そういう事である。ファリンの怒りゲージが上限突破し文字通り怒髪天を衝いた。無意識に使用した能動スキル“激昂化”である。

 

「おぉぉぉぉぉ!」

 

 攻める、攻める、攻める! 連携を忘れ怒涛の連撃を繰り出し続けるファリン。その猛攻を、迷宮狂いは(チート)任せに防ぎ続ける。それどころか、途中から合間に取り出した安物の短剣で凌ぎはじめた。本命の剣は、念の為に取っておくつもりなのだ。

 

「邪魔だ退けぇ!」

 

 甲高い怒声、鬼人の咆哮だ。ファリンの後ろから鉄塊の如き剣が迫る。このままだとファリンに当たる軌道だ。

 待っていた。イシグロは短剣を振るってファリンを弾き返すと、その腹に強か蹴りを食らわせた。反動で退くイシグロ。大剣を振り下ろすラフィ。そして、斬撃の根本に蹴り出されたファリン。

 ぐしゃり、バキリ。肉が潰され、骨が砕かれた音である。狂人の目論見通り、ファリンは鬼人の一撃で片腕片足を持って行かれた。ラフィはなおもイシグロだけを見ていて、今度はイシグロが半死半生のファリンを見ていた。

 

「ギッ……!?」

 

 悲鳴を上げる間もない。短剣を投げて鬼人を牽制し、即座に接近したイシグロはファリンの金髪を掴み上げると、まるで西部劇のワンシーンの様に少女を引きずり駆けだした。イシグロの通った後に処女の鮮血が線を引く。

 この光景には流石の鬼人少年もためらいを見せ、脱兎の如く逃げたイシグロを追うのに僅かな間があった。イシグロは気絶した少女の傷口に“小治癒”をかけ、適当な所に力いっぱい投擲した。その手には金の髪が絡まっていた。

 

()ッ!」

「ぐおっ……!」

 

 かと思えば、黒鎧黒剣の狂人は流れるように剣を投擲した。次いで抑えた悲鳴。ルイを治療しようとしていたスキスキンの下腿に剣が突き刺さったのだ。

 転倒しかける男。しかし彼も流石の冒険者ぶりで、すぐさま受け身を取り是正した。が、隙が生まれた。

 

 トドメを刺すべく駆けるイシグロ。動きを察して先回りの剣を振るうラフィ。勢いよく駆けだした都合上、例え銀細工持ち冒険者であっても鬼人のこの斬撃から逃れる事はできない、未来予知じみた戦闘勘。まさに天才的神業である。

 しかし、イシグロはその上を行った。否、当人にそのつもりはなかった。たかだかチート持ちなだけの元一般人が、鬼人屈指の剣技をアドリブで何とかできる訳がない。ならばどうして、どうやって致死の一撃を掻い潜ったか。

 

「なんっ!?」

 

 加速して、逃げた。柔拳士ジョブの能動スキル“軽功”。その一歩は、その跳躍は、優秀な戦士こそ引っかかる初見殺しの歩法だった。もしイシグロがただの剣士であったなら、今ので決着がついていた。

 痛みを耐え、振り返って剣を確かめたスキスキンは、瞬きの間に全身黒ずくめの男に接近されていた。スキスキンの脳裏に今日の記憶が蘇る。こんな依頼受けるべきじゃなかった。

 

 加速する黒剣。更に一歩、軽功水平跳躍。右足を前に、左足を畳む。さっきの焼きまわし。体重を全て乗せた……。

 

「グゲァ!?」

 

 高速低空ライダーキックである。

 

 ズサーっと地を滑って慣性を殺すイシグロ。ついでに剣を呼び出しスキスキンに追撃。流れ作業的に彼の手足を分割すると、サッと雑に回復魔法をかけた。

 気絶中のスキスキンに痛みがなかったのが救いである。流れる血の量も、他よりマシだ。

 

 再度、戦場に静寂が戻る。

 周囲には複数の血だまりができており、むせかえる様な鉄の臭いが漂っていた。

 

 イシグロとラフィ。銀細工と銀細工。一対一になった。この段になって、ラフィの闘争心に火が付いた。

 元来、ラフィは単独の性質である。楽しい戦いを求めていた彼は、勘に従ってこの依頼に同行したのである。

 なるほど、やっぱ自分の勘は冴えていると、ラフィは自賛した。鬼人の少年は、今日一番の笑顔になった。

 

「来いよイシグロ! 細かい事はもういいでしょ! さっさと戦ろうぜ!」

 

 剣を構えるラフィ。そんな鬼人を前に、イシグロは収納魔法から取り出した剣の柄を後ろ手に投擲した。無意味な行動だが、隙はない。ラフィは微動だにせず彼の動きを注視した。

 イシグロの背後で翁の悲鳴。一瞬、視線をやる。気絶から復帰しかけていたルイの顎が砕けていた。再度、翁は気絶した。

 自分との死闘より、雑魚の無力化を優先したのである。

 

「あぁンっ!?」

 

 その時、ラフィはキレた。彼の中で決定的な何かが千切れ飛んだのが、やけに明瞭に感知できた。

 思考の前に飛び出ていた。銀細工最上位の膂力が唸る。“剛剣鬼”のラフィが、ついに牙を剥いたのだ。

 

「ガアアアアアアアアア!」

 

 一閃二閃三閃四閃……! 小枝でも振り回すような鉄塊の嵐! 一度でもかすれば剣圧にやられ、次の斬撃でジ・エンド! 盾も鎧も意味をなさぬ、あまりに粗暴な死の舞踏! 暴威の化身!

 その剣撃を、イシグロは両手で握った剣で防ぎ続けた。間髪入れず響く金属音に、咲き乱れる緋色の火花。怒りが振り切れた鬼は凶笑を、怒りが振り切れたロリコンは冷めた無の表情を浮かべていた。

 

 やがて鬼が鉄塊を掲げ、大上段から剣を振り下ろした。イシグロは、ずっとそれを待っていた。

 奇しくも、両者ともに思った。「これで決着だ」と。

 

 ガイン! と、鈍く重い金属音。膂力の程を示すように、深々と地面を抉る剣。そして、致命的な隙を晒す鬼。要するに、受け流されたのだ、剛剣鬼の必殺技が。

 決め手は、剣による“受け流し”。それは絶技ではなかった。妙技というほど鮮やかでもなかったし、奥義というには地味すぎた。それはまるで、単なる日常動作の一つを切り取ったかの様。

 引き延ばされた時の中で、イシグロは剣の握りを確かめた。

 

「グゥゥゥゥゥゥ……っ!」

 

 刹那、瞬剣二閃。持ち主の心より先に剣が落ちて、次いで先を失った肘が血を吹いた。だが、鬼人の目に絶望はなかった。伊達に銀細工ではない。まだやれるという確信がある。

 手がなくとも足が、そうでなくとも魔力があれば手は生える。少々ぼったくりな感のある魔力消費だが、一度きりの“極大治癒”に魔力を流せば一本生える。それから鬼酔酒を飲めばもう一本だ。そしたらまた戦える、まだ戦える!

 

「おっと、危ない」

 

 刺突。剣先には、砕けたラフィの装飾品。彼は思った「あ、これもう無理だ」と。再度斬撃、今度は両足を切断され、例によって断面を治癒された。

 銀細工持ち冒険者、“剛剣鬼”のラフィ。生まれて初めてタイマンで敗北した。

 

「……やっぱこいつ銀細工だったか」

 

 彼の名誉の為に言っておくと、ラフィは弱くない。ただ相性が悪かっただけだ。

 ラフィのパワーは銀細工随一。その膂力から繰り出される大剣の連撃は、同じ銀細工でもまともにやって防ぎ切れる奴はそういない。マジだ。

 だからこそ、対ラフィを考える場合、如何に彼と真正面からやり合わないかに焦点があてられる訳で……。

 

「お前、何なんだよマジでェ……!」

 

 ただ、イシグロはそういうのに慣れていた。

 致死の連撃を真正面から防ぎ、機を見て受け流して一撃を狙うSEKIRO戦法。この世界で二人の奴隷しか知らない、迷宮狂いの最も頭のおかしい狂人ポイント。

 この男、オワタ式のプロなのだ。

 

「うるせぇ死ね」

 

 その日、ラフィが最後に見た光景は、迫りくる黒の拳であった。

 受けて、分かる。やっぱ剣士の拳じゃねぇわコレ。

 

 

 

 

 

 

「ククク……流石は彼の有名な迷宮狂いさん、いえ……黒剣のリキタカさんでしたっけねぇ……?」

 

 背後から声。ゆっくりと近づいてくる、軽い足音。

 イシグロは剣を握ったまま、首だけを動かしてその男を見た。

 

 張り付いたような満面の笑み。上機嫌に揺れる尻尾。余裕たっぷりに屹立した獣の耳。

 滲み出る胡散臭さを取り繕わぬ男は、闇夜に栄える美しき白の槍を担いでいた。

 

「まさか同業相手にああも一方的に立ち回るとは、予想外です。ですが、想定の範囲内ではありますね」

 

 男は白かった。種族を示す獣の耳も。肌も、鎧も、その手に握る槍も。

 そして、瞳だけが赤かった。

 

「黒幕登場ですよ、もっとテンションを上げてくれないと……」

 

 イシグロは答えない。ただ静かに、且つ憤怒に燃えた瞳で男を見ていた。

 

「ストゥア商会を襲ったのは?」

「私の指示です。カトリア領のとある商会と協力しました。そういう契約です」

「この人等は?」

「私の手引きです。そこのジジイは内通者。まあ、カトリアのご令嬢がいるのは誤算でしたが」

「奪った奴隷を、どうする気?」

「私の駒にします。契約で縛り、調教して強くし、完璧な奴隷に仕上げます。貴方と同じですよ」

「そっか……。で、ここまで喋ったという事は」

「ええ、貴方はここでおしまいという事です。ついでに、そこの阿呆共も」

 

 男は懐から、半壊した銀細工を取り出してみせた。

 そこには、彼の名が記されていた。

 

「私の名前はモブノ・ザクーオ・アンダードッグ。二つ名を、“白銀の狂犬”。阿呆の餓鬼一人やったくらいで図に乗るなよ、後輩」

 

 言って、モブノは槍を構えた。

 めっちゃ強そうな構えだった。迷宮慣れはしても、対人慣れしていないイシグロと違い、この男は強者との戦いをこそ得意としているのが丸わかりであった。

 そう、その槍は、その視線は、全てイシグロに注がれていた。若輩とはいえ、仮にも銀細工の鬼人戦士を倒した技前、歴戦のモブノとて油断できるものではない。

 

「そうか、そうか、つまり君はそんな奴なんだな……」

 

 対し、イシグロも応じた。

 そして、剣を構えた。悠然と、余裕たっぷりに。否、あえて外連味たっぷりに見栄を切った。

 勝つ為にである。

 

「手早く済ませよう……」

 

 それは、あまりにもカッコいい構えであった。

 不自然なほど、隙だらけな。

 ちゃんと強いモブノからすると、一瞬ポカンとなる程に、素人丸出しの構えだったのだ。

 

 故に、勝敗は決した。




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 現在、本作に登場するキャラクターを募集しています。
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特撮!激戦区24時 暴かれたロリの黒幕!

 感想・評価など、ありがとうございます。励みになっています。
 誤字報告も感謝です。助かってます。

 キャラのご応募の方もありがとうございます。やる気に繋がっています。

 感想欄を見てちょっとビックリしたんですけど、まだ主人公の事をまともな奴だと思ってる人いたんですね。


◆追記◆
 あらすじ加筆しました。
 主人公は若干頭がおかしいですというところ。

 前話の会話パートを加筆しました。


 前世、覚えている限りにおいて、俺は一度もキレた事がなかったように思う。

 イライラする事とか、ムカつく事なんてのは普通にあった。多少声を荒げたり、軽い口喧嘩程度ならした事もある。

 けれども我を忘れて誰かを殴ったとか、怒りゲージがMAXになった記憶はなかった。

 そんな俺が、まさか剣と魔法のファンタジー世界でブチキレ童貞を卒業するとは思っていなかった。

 

 人それぞれで異なる性癖があるように、キレ方というのも人それぞれ個性があるものだ。

 キレるとバーサーカーになる奴とか、ネチネチ嫌味を言うようになる奴とか、無言で殴りかかる奴とか、色々いただろう。

 それで言うと、どうやら俺はキレると冷めるタイプだったらしい。最中、あぁ今俺キレてるんだな、というのが何となく分かったのである。

 

 さて、これから寝るぞとニッコニコの夜、突如として知らされた悲報。輸送中だったロリが襲撃され、行方不明生死不明襲撃犯不明……。

 そんな状況に、俺は居ても立っても居られなくなり、半ば無理矢理依頼をもぎ取って、ロリが逃げたかもしれないという隣領の森に向かったのである。

 控えめに言ってストレスマッハである。

 

 その時、俺の堪忍袋はかなり暖まっていた。テトリスでいうと六割ミノが積まれている状態だ。

 そこにきて競争相手が登場し、お邪魔ミノがドン。合言葉言ったら攻撃してきて更にドン。この時点でもうギリギリ。

 

 しかしだ、当時の俺にはまだ「話せば分かる」の平和精神が残っていた。だからロクに攻撃せず、いきなり敵認定してきたジジイだけを沈黙させた。こっちは殺す気はないよというのを、言葉より先に行動で示したかったのである。

 すると、俺の平和精神に呼応するように赤毛の少女が声を上げてくれた。彼女は自身を領主の娘と名乗り、これは無駄な争いだと説いてとにかく話そうと言ってくれたのだ。

 キレかけの俺である、当然上手い言葉を探すのに手間取っていたので、正直彼女の申し出は有難かった。斥候に投げを入れたり爺さんに蹴りを入れたりはしたが、それだけだ。これで何とかなると、そう思った。

 

 まあ、無理だったんですけどね。

 

 その時、俺は生まれて初めてキレたのだ。

 まるでスイッチが切り替わったようだった。それまで積み重なっていたテトリミノが全壊し、新しく頭にフローチャートが生えてきたのだ。

 ロリの保護。その為の捜索。それを邪魔する者の排除……。キレた脳が示した行動指針は、とてもシンプルだった。こいつらが襲撃犯か否かなど、どうでもよかった。邪魔だから排除する、それだけだ。

 

 敵を排除する覚悟を決めた。けれども、殺しをするつもりはなかった。

 どこまでいっても俺は現代日本人。いざ剣で攻撃しようとしたら、脳のどこかが「殺しはダメ!」と強く言うのである。躊躇はなかったが、リミッターがあった。

 殺しでなく、無力化。結局、少し迂遠だがそうすべきだと納得し、決断した。

 

 故に、手足を切り、顎を砕き、装備を奪って縛る事にしたのである。

 初めて人を斬った感想は、「こんなもんか」だった。

 ダンジョンで斬ったヒトガタモンスターと同じだと思った。

 

 なに、冒険者は丈夫だ、これくらいじゃあ死なない。

 なんたって、異世界には便利な回復魔法がある。コッチでは身体の欠損をワンクリックで治す事ができるのだ。

 その為のエリーゼ、あとその為の魔法装填。彼女の装備には、王都最高の回復魔法専門魔工師による魔力消費度外視の最強回復魔法が装填されているのだ。

 

 名を、“聖光の極大治癒”。

 効果はHP全快と、欠損の修復。これは古い欠損部位まで治してくれる優れもので、実際ウィードさんの欠けた耳はこれで治した。

 この世界は、マジで死ぬ事以外かすり傷なのだ。

 

 そんなこんな……。

 

 初の対人戦。俺は戦闘後に現れた黒幕含め、その場の敵対者の全員を無力化する事に成功したのである。

 加減はしても、躊躇はなかった。

 

 

 

「深域武装か、これ」

 

 黒幕との戦闘後……。

 

 奴の身ぐるみを剥いでいる時、俺は初めてラザファムの大鎌以外の深域武装を握っていた。

 それは今現在、手足を失って気絶しているモブノが持っていた槍だった。見た目は如何にも聖槍って感じなのに、コイツは典型的な悪党なのなんか草である。

 

「せっかくだし貰っとこう」

 

 確か、ギルドの規定でもOKだったはずだし、俺は戦利品の槍を収納魔法に入れた。

 そのうち使う機会もあるだろう。無かったら売って金に換えよう。

 

 現在、黒幕含めさっき戦った冒険者たちは全員無力化させてもらった。手足を切り、術者は顎を砕かせて頂いたのである。

 ついでに持ってる武器と防具も剥いだので、男はパンイチ、女は下着姿である。

 男は俺が剥いで、女はエリーゼとルクスリリアにお願いした。何故かルクスリリアは「ひゃっはー!」とはしゃいでいた。楽しそうで何より。

 ウィードさんには単独でターゲットの追跡を頼んでおいたので、今ここにいるのは俺の一党と裸の一党だけだ。

 

「へっへっへっ……いやぁ絶景かな絶景かな! 流石ご主人♡ やる事が派手ッスねぇ~♡」

「楽しそうね……」

 

 無力化して、装備を剥いで、ついでに逃げられないようにした。ウィードさんに借りた紐で、彼らの首を繋いだのである。これまた何故かルクスリリアがやってくれた。とても楽しそうに。

 こういう時、映画でもアニメでも紐ちぎって逃走と言うのがお約束だが、流石に手足のない状態で逃走は無理だろう。007でもこれは逃げられない。

 いや、黒幕とジジイ以外は被害者なので別に良いのだが、面倒な事にならないように大人しくしてもらいたかったのである。後にフォローはするつもりだ。

 

「うっ……!」

 

 さて、そろそろロリを追いかける準備をしようかと思ったところで、赤毛の貴族令嬢が目を覚ました。

 彼女はまず自分の状態を確認した。無い手を見て、無い足を見て、鎧を剥がれた自身の身体を見た。

 それから、震えた瞳で俺の目を見た。その目には恐怖があった。さもありなん。

 

「何故、私は生きているの……?」

 

 そういえば、この子は顎を砕いていなかったから喋れるんだな。流石に、今になって彼女の顎を砕こうとは思わない。

 それに後々の事を考えるとこの人にはある程度説明しておいた方が都合がいい気がした。

 

「エレークトラさん、先ほどはいきなり攻撃してすみませんでした。えっと、急いでいるので詳細は省きますが、貴女が受けたのはこの男が仕組んだ罠の依頼だった様です。逃げた魔族は存在しますが、それは王都に輸送中だったストゥア商会の奴隷で、この男が手引きした襲撃がなければ逃走する事はありませんでした。自分はその奴隷を保護する為にやってきました。こちら、ギルド発行の正式な依頼書となります。協力者とかそのへんは後にこの男から訊いて下さい、カトリア領のとある商会って言ってましたよ。あ、それと、そこの爺さんが内通者だった様です」

「なっ……?」

 

 言うだけ言って切り上げた。雑な説明だったが、普通に面倒だったので俺からはもうこれでいいだろう。

 それから、少女は一拍置いて口を開いた。

 

「な、るほど……。違和感は、ありました。これから、貴方は私たちをどうするおつもりですか……?」

「どうもしません。後の事はストゥア商会の人たちにお任せします。あと、諸々の事情を鑑みて貴女方の武装は全て自分の収納魔法に仕舞わせていただきました。事が終われば返却しますのでご安心を」

 

 これまた一方的な話を、エレークトラ女史は真剣そうに聞いていた。

 手足がない状態で裸かつ拘束状態だというのに、しっかり冷静さを保っているのは流石貴族といったところか。俺には真似できそうにない。

 やがて彼女は、ふぅとひと息吐いた。

 

「この度はイシグロ様に多大なご迷惑をおかけしました。敗者の身ですが、カトリアの名において謝罪申し上げます」

 

 それから、ゆっくりと首を垂れた。

 

「お詫びには及びません。実際、先に攻撃してきたのは内通者ですから、エレークトラさんに非はありません。自分も冷静ではありませんでした。重ねて謝罪します」

「いえ、そんな……! 臨時の一党とはいえ頭目は私、例え内通者であっても仲間の責任は私の責任です……! どうか、私の謝罪をお受け取りください……!」

 

 この世界の貴族事情は本で読んだ範囲の事しか知らない。情報によると、一般ラリス貴族的には在野の冒険者に敗北するなど恥以外の何物でもないはずだ。それでもこの状況で感情を抑えて謝罪ができるのは立派だと思った。

 俺も俺で、今になって思うと登場の時怪し過ぎたかなって気もするし。まぁお互い不幸な事故って事にしておくのが、異世界倫理観的には妥当か。

 

「この件につきましては、改めて謝罪の場を設けさせて頂きます。我がカトリア家の……」

「わぁあああああッ!? ちょっと何よコレぇええええ!?」

 

 唐突な大声。見ると、同じく裸の金髪の少女が騒いでいた。異世界にてトンファーを振り回していた、前衛の冒険者である。

 

「ファリン、落ち着いて。この人は敵ではなかったの」

「敵じゃなくてもコレはどういう事よぉおおおおおお! こらぁああああ! あたしのトンファー返せぇえええええええ!」

 

 それから少女はトンファートンファーと騒ぎ始めた。うるせぇなと思っていると、声に反応したか他の冒険者も起きはじめた。

 鬼人は欠伸などしながら、斥候の男――スキンヘッドの鼠人族だった――はむっつり黙り込んで、顎を砕かれた翁は絶望顔で。

 最後に、†白銀の狂犬†も目を覚ました様だった。彼も翁同様顎を砕いておいたので何もしゃべれない。念のため、彼は手足と顎以外の色んなところも破壊させてもらった。腹いせに生殖器も潰した。

 

「うわぁああああ! あたしの武器返してぇええええ! わぁああああああ! あぁぁんまりよぉぉぉぉぉぉぉ! トンファアアアアアアア!」

「ルクスリリア、お願い」

「うッス。むむむ、対象指定、魔力過剰充填んんん……オラッ“淫魔妖姫誘眠”!」

「はっ……!?」

 

 ルクスリリアの大鎌――驚くべき事に、最近これが魔法触媒である事を知った――から放たれた霧が少女の顔に纏わりつき、まもなく深い眠りへと誘った。

 この“淫魔妖姫誘眠”は、淫魔姫騎士になって生えてきた魔法で、相手を睡眠状態にする事のできる魔法だ。効果は極めて強力で、このように抵抗力の強いはずの冒険者を一方的に眠らせる事ができる。まあ、戦いで当たるものではないのだが。

 

「喧しかったので眠らせました。ご安心ください。皆さんの事はしっかり護衛するので、それまで大人しくしておいてください。そこの二人以外は手足も復活させますので、決して逃げたり暴れたりしないようにお願いします」

「おっ! マジで? ラッキー!」

 

 言うと、さっきまで剣戟をしていた鬼人の少年は屈託なく笑った。まるで買ったたこ焼きを一個おまけしてもらった子供の様な反応である。

 これが異世界人のメンタルか、見習いたい。

 

「いえ、それには及びません。これは私の失敗による不名誉な負傷……なので、皆さんの治療費は我が家がお支払いします」

「えー! でもそれじゃあ回復すんのいつになるか分かんねぇじゃん! イシグロが良いって言ってんだからそれでいいじゃんかよー!」

「こ、これ以上、私に恥をかかせないでくださいな……。はぁ……帰ったら家族に何て言われるかしら……」

 

 なんか揉め始めた。俺としてはどうでもいい事である。

 

「あーっと、ラフィ?」

「えっ、ウィードじゃん! 久しぶり! お前そっち側だったか! ていうかお前、耳治せたんか! よかったな!」

「お、おう……まぁな」

 

 かと思えば、ロリの追跡をしてもらっていたウィードさんが戻って来て、鬼人に話しかけた。顔見知りらしい。

 

「えーっとな、カトリアのお嬢さん? 悪い事は言わねぇから、大人しくイシグロさんの治療受けときな? 俺にしちゃ珍しい善意の助言だぜ?」 

「しかし……」

 

 ウィードさんがいないと追跡ができないので、俺は仕方なく奴隷ともう一度打ち合わせしておく事にした。

 

「確認な。エリーゼ」

「ええ。あの男が逃げたら焼けばいいのでしょう?」

「ああ。けど、何かあったらまず魔法打ち上げてくれ。内容は覚えてるな?」

「ええ、覚えているわ、慎重ね、アナタも……」

「よろしく。ルクスリリア、もうラザニア呼んでいいよ。ヤバくなったらエリーゼ連れて逃げてね」

「あいあいさーッス!」

 

 軽く打ち合わせてから、ウィードさんの下へ行く。

 

「そろそろいいですか? ウィードさん」

「ん? あぁ。じゃ、俺は言ったからな」

 

 そうして、俺とウィードさんはロリの追跡に戻った。

 優秀な斥候であるウィードさんは、さっきの探索で対象を発見した様だった。

 まだ生きてるというので、ひとまず安心である。

 

 俺は、今後の事を考えて無銘をアイテムボックスに入れた。

 ここからは、剣はいらない。

 

 

 

 

 

 

 森の奥の、開けた場所。

 白い花が咲き誇る、自然の花畑。

 

 少し走ったところで、彼女はあっさりと見つかった。

 木の洞に隠れるでもなく、洞窟に身を潜めるでもなく、彼女は花々の中心でぐったりと座り込んでいた。

 意識を失っているのか、眠っているのか。彼女は空に首を垂れるように、俯いていた。

 

 ゆっくりと、月明かりが差す。雲が晴れていく。満月が彼女の存在を照らした。

 純白の花に囲まれた彼女は傷だらけで、血や泥に汚れ、けれどもその後ろ姿には静謐な美しさがあった。

 

 情報通り、彼女こそグーラその人だった。

 怪我はしているが、しっかり息がある。生きていると確信して、俺はここまで張っていた緊張の糸を緩めた。安堵した事で、今一度彼女の容姿を見る事ができた。

 

 聞いていた通り、グーラは黒髪であった。髪型は、前世でいうところのミディアムウルフヘアという奴だろうか。ルクスリリアより長く、エリーゼよりはずっと短い。また、頭には種族を示す獣の三角耳が屹立していた。

 肌の色は褐色で、月光を纏う背中にはここまで逃げ切るのに負ったであろう傷が生々しく残っていた。

 そして、特徴的な二股の尻尾。彼女は、少し特別な娘なのである。

 

 後ろ姿だけで分かる、めちゃくちゃ可愛い。

 そして、要望通り、ロリだ。座っているので正確な身長は分からないが、恐らくエリーゼより少し大きいくらいだろう。

 

 にしても、ホントに無事でよかったと思う。

 この子が死ぬなんてのは世界の損失だ。

 

 安心して一歩近づくと、彼女はビクンと身体を震わせた。

 それから、それこそ獣めいた身軽さでこちらに振り向き、今にも襲い掛からんとする四つ足の戦闘態勢を取った。

 剣呑極まる黄金の双眸が、俺の目を射抜いた。

 

「グルルルルルル……!」

 

 彼女の唸り声は、威嚇する獣そのものだった。情報にあった、暴走状態だ。

 当然として、俺は警戒されているのだ。こいつを殺すべきだと、そう本能が叫んでいるのだろう。

 俺がもう一歩踏み出そうとした、その時である。

 

 ぼう、と。

 

 戦闘意思に呼応するように、彼女の全身から赤黒い炎が吹き上がった。種族特性の、炎熱能力だ。

 次いで、バチバチと身体全体に漆黒の雷が迸る。これもまた、彼女の種族特性であり、特異性だ。

 

「ウゥゥゥゥゥゥ……!」

 

 彼女の名は、グーラ。

 炎と雷の仔獣。

 極めて希少な、二つの異なる種族特性を宿した異端児。

 

 炎を宿す犬系魔人、獄炎犬族(ヘルハウンド)

 雷を宿す狼系魔人、轟雷狼族(らいじゅう)

 伝説の古魔人、炎雷(ほのいかづち)混合魔族(キメラ)

 

 獣人族の夫婦の間に生まれた、魔族の娘である。




 感想投げてくれると喜びます。



 現在、本作に登場するキャラクターを募集しています。
 興味のある方は是非、お気軽にご応募ください。
 詳しくは活動報告にて。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=296527&uid=59551

 こっちも投げてくれると喜びます。



▲火雷大神とは全く似ていません▲

 炎雷はノリです。特に深い意味はありません。遊戯王とも無関係。
 えんらい、でもカッコいいんですけどね。何となくです。


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思い出の底で

 感想・評価など、ありがとうございます。励みになってます。
 誤字報告も感謝です。助けになってます。

 アンケートのご協力、ありがとうございました。参考になりました。

 キャラ募集の方もありがとうございます。掛け値なしにやる気に繋がっています。

 何やかやあって、2話・31話・32話を加筆修正しました。
 31話は大幅な加筆を行いました。それなりに印象が変わっていると思われます。
 2話には何故銀細工の頭がおかしいかの答えを載せておきました。

 あとタグも増やしときました。

 今回は三人称、グーラ視点です。
 よろしくお願いします。


 グーラは花が好きだ。

 嗅ぐと、幸せな匂いがするから。

 

 

 

 ある日、狼人族の男が恋をした。

 相手は、山奥にある犬人の村の娘であった。

 

 男は名をフェレライと言い、斥候と前衛を兼任する鋼鉄札の冒険者であった。

 迷宮外での活動中、怪物退治で怪我を負ったフェレライは、狩猟中だった集落の狩人たちに保護された。

 その時、彼を治療したのが村一番の美女であるラーサであった。

 

 異世界の男女である。目と目が合って運命を感じた二人は、あっと言う間に恋に落ち、事に及んだ。

 怪我が治って即求婚即快諾、フェレライは犬人村の長にこれを事後報告した。

 異世界基準でもなかなかのスピード婚である。

 

 村長は、フェレライが村に住む事を条件にラーサとの婚姻を許可した。

 村の今後を考えると、そろそろ新しい血を入れる必要があったし、何より強者の血は魅力的である。幸い、フェレライは犬人と子を成せる狼人であった。

 それに、フェレライがいれば村の防衛にもなる。族長的には一石二鳥の申し出だった。

 

 こうして、二人は一つ屋根の下で生活するようになったのである。

 

 

 

 翌年、ラーサはめでたく懐妊した。

 村のアイドルの子である。強者フェレライの子である。日に日に大きくなる腹を、村人たちは親愛の眼差しで見守っていた。

 ラーサの子供だから、めちゃくちゃ可愛い子だろうとか。フェレライの子供だから、優秀な狩人になるだろうとか。

 しばらく、村での話の中心はラーサの妊娠についてだった。

 

 犬人族の出産は、一度に数人の子を産む。

 少ない場合も三人は産むし、五つ子くらいは普通にいる。外の医者の見立てによると、妊娠中のラーサの腹には四人の子供がいるとの話だった。

 フェレライとラーサの二人は、いや村人たちは、皆母子の安全を願った。

 

 それから、しばらく……。

 

 ある嵐の夜。雷雨と暴風の中、村の片隅で一人の娘が生まれた。

 父の様な瞳と、母の様な耳と。父にも母にもない、炎と雷を宿して。

 ラーサが死んで、グーラが生まれたのだ。

 

 その身の雷で兄弟を殺し、その身の炎でラーサを焼き、そうして生まれた獣の子は、両親の面影を残しながらも種族そのものが違っていた。

 獄炎犬(ヘルハウンド)と、轟雷狼(らいじゅう)の混合種。

 炎雷の赤子は、魔族だったのだ。

 

 獄炎犬族とは、炎を操る犬系魔族であり、その気性は極めて獰猛。魔族の中でも特に好戦的な種族として有名である。

 轟雷狼族とは、雷を操る狼系魔族であり、その気性は極めて残忍。異世界でも珍しい、翼無しで空を駆ける事のできる強力な種族である。

 グーラは、それら二種の混合魔族(キメラ)であった。混合魔族とは、第二大災厄の際に絶滅した古の魔族である。今現在、生き残りは確認されていない伝説の種族だ。

 

 獣人同士の間に生まれた、絶滅したはずの古の魔族。あり得ない訳ではないが、とても希少な例である。

 腹の兄弟を殺し、母のラーサを殺し、嵐の夜に生まれてきた。

 村人視点、忌み子である。

 

 グーラは愛をもって誕生を願われ、やがて存在を見捨てられた。

 元々、所属コミュニティ以外に警戒心の強い犬人である。犬人でも狼人でもない訳の分からぬ存在の、何よりラーサを焼いた赤子を、村人たちが歓迎する訳がなかった。

 そのうち、赤子のうちに間引くべきだという意見まで出始めた。

 

「頼む、僕に育てさせてくれ……! この子を殺すなんて、できない……!」

 

 それを止めたのは、偏にフェレライの威光であった。

 村に来てからというもの懸命に働いてきたフェレライは、すっかり村の頼れる存在になっていたのだ。そうでなくとも、村最強の戦士であるフェレライの怒りを買うのは恐ろしかったのだ。

 物心つく前の娘を、母を失った父が守ったのだ。

 

 結局、大人たちはグーラの存在を不承不承納得した。

 けれども、大人の感情は、素直な子供たちに伝播するものだ。

 

「おらぁー! 食らえ!」

「ぐぇ! お前、爪は駄目だって言われてただろ!」

「立ててねーし! 証拠あんのかよ証拠!」

「傷見りゃわかんだろコラァ!」

 

 獣人の成長は早い。生まれて二年にもなると、人間族でいう六歳児ほどに成長する。獣系魔族のグーラもまた、同い年の村の子供と同じくらいに大きくなった。

 犬人の子供は、小さい間に沢山喧嘩をして知恵をつける。爪の鋭さ、蹴りの痛さで加減を学び、友情を育むのだ。

 

「あ、あの……」

 

 けれども、その遊びにグーラが混じる事はできなかった。

 幼少の日、グーラはその身の種族特性を制御する事ができなかったのである。

 同族か、あるいは魔力操作に長けた森人なり竜族なりが居れば訓練をつけてくれただろうが、犬人の村にそんな存在はいなかった。

 

「あん? お前フェレライの」

「おいヤベーよ、コイツは……」

 

 気を抜くと、力んだ際に炎が出る。速く走ろうとすると、雷を伴って宙を駆けてしまう。

 それだけでなく、グーラはごく単純に膂力に秀で過ぎていた。大人の男や、あるいは父を超える程に。

 そんな規格外の怪物を、村の子供達は怖れ、大人たちは怪物の脅威から我が子を守った。

 

「魔族とは遊ぶなって、俺父ちゃんに言われてんだよ!」

「そうだ! あっちいけ!」

「あ、うん、ごめん……」

 

 幸か不幸か、グーラの気性は両親に似て温厚であった。

 無暗に力を振るう事はなかったし、子供達相手に横暴を働く事もなかった。

 だからこそ、一人だった。

 

「おかしいな、ボクもう三歳なのに……」

 

 あまつさえ、グーラは三歳以降身長が伸びなくなってしまったのである。

 それは成長期に必要量の魔力を浴びる事ができず、それを代用できるだけの食事を摂取する事ができなかったが故であった。幼少時、グーラは常に空腹であった。グーラにとって、犬人の食事は少なすぎたのである。

 無論、そんな事を山奥の村人が知るはずもなく、グーラはその点でも異端の烙印を押される事となった。グーラの影のあだ名は、“チビ魔族”であった。

 

「ただいま、グーラ。遅くなってごめんね」

「父さん、おかえり!」

 

 そんなグーラを、父のフェレライは深く愛した。

 愛し子でありながらラーサの死因となった娘に、父は何の躊躇いもなく愛を注いだのである。

 村長の勧めを断り、後妻を娶る事もせず、ただ一心に娘の為に生きるようになっていた。

 

「今日はな、グーラにおみやげがあるんだ。匂いで分かるかい?」

「んー、お花?」

「さあ、何色のお花でしょう?」

「んん~、白い奴!」

「正解! ほら、手を出してごらん」

「わぁ、可愛い……!」

 

 フェレライは今でも冒険者証を持つ現役の鋼鉄札だ。当然として、村最強の戦士であり、村最優の狩人であった。

 そんな父は、村の為、なにより娘を守る為に、人一倍働いた。

 外に出る際には綺麗な花や食べられる果実を摘んできて、可愛い娘にプレゼントしたりもしていた。

 

「これは、何て読むんだっけ?」

「えっと、右斜め、右斜め、下だから……“狩人”、です!」

「正解っ、グーラは賢いなー。それに、その言葉遣いは何処で覚えたんだい?」

「えへへ……。あの、今日村に来た商人さんと、村長さんが話してるの、聞いてました」

 

 フェレライは、空いた時間を出来る限り娘と共に過ごした。

 遊び相手になり、文字を教え、何より娘の孤独を癒やす存在になっていた。

 

「誕生日おめでとう、グーラ。これからは、村の皆を手伝って、ご飯をもらうようになるんだ。わかるね?」

「う、うん……でも、ボクに、できますか?」

「できるよ、きっとね」

 

 時が経ち、グーラと同い年の子供達も村の仕事を手伝うようになって、グーラも何かしらの仕事を宛がわれる事となった。

 けれども、上手くはいかなかった。

 

 畑仕事は力が強すぎて農具を壊してしまい、細かい作業は炎か雷が邪魔をしてミスをしてしまう。

 狩りならどうだと外に出ると、グーラの魔力に反応して獲物が逃げてしまうのだ。

 結局、読み書きができるグーラは家で写本の仕事をする事になった。本来、これは村にはない仕事だったが、父が街から持ってきてくれたのである。

 

「……っと、“心を歌え、ジュスティーヌよ。誇り高き戦士の名を、誰一人違わず呼び給え”。あれ、これで合って……よしっ」

 

 写本の仕事は、大人しい気性のグーラにとってそれなりに楽しい仕事だった。

 元々、父から聞く冒険物語を好んでいたグーラである。忍耐のいる写し作業は、彼女を一時楽しい本の世界へと誘った。

 

「聞いて父さん、今日は“獣拳記”のグレース伝を書いたんです! 終わった後もう一回読んで、ボクすごく感動しました!」

「へぇ、それは父さんも読んだ事ないなぁ。どんな話なんだい?」

「えっとね、グレースはイライジャの姪っ子で……」

 

 中でも、最もグーラが惹かれたのは、古の英雄である獅子拳聖・イライジャの物語、“獣拳記”であった。

 それは現代日本で言う国民的少年漫画的ポジションの獣王伝説であり、凄い強い主人公の獣人イライジャが、どんどん出てくる強い怪物とバトルしまくるという内容であった。

 少年イライジャの冒険を描く第一部。仲間と共に迷宮に挑む第二部。建国当時のゴタゴタを描いた第三部。アレクシオス亡き国を守る為、単身強敵に挑む第四部。

 その他、外伝とか前日譚とか、幼児用とか学者用とか色々ある。獣人で勇者アレクシオスを知らない子供はいても、イライジャだけは絶対知っているというくらい人気でメジャーな英雄譚なのだ。

 

「それでね、グレースの爪が折れちゃって。あわや死んじゃう! ってところに、“よく耐えた!”って言ってイライジャが来てですね!」

「へ、へぇ……」

 

 幸運にも、グーラはそれら全てを写本する機会を得て、件の英雄譚を読み込む事ができた。

 色んなバージョンの“獣拳記”の写本をしていくと、終いには何のどこでどんな台詞があったかを暗記する獣拳記オタクになっていた。

 獣拳記には、勇者アレクシオスの他にも魅力的なキャラクターが沢山出てくる。その中で、グーラは第三部外伝に登場する、アレクシオスに恋するイライジャの娘が第二の推しであった。一番の推しは勿論イライジャである。

 

「あ、その格闘術なら僕使えるよ。一回やってみる?」

「えっ!? 父さんそんな事できたんですか!」

「これでも鋼鉄札なんだよ、父さん」

「ぜひ、ぜひ習いたいです!」

 

 イライジャ推しになったグーラを見て、父は娘に獣人族に伝わる古武術を教える事にした。

 武術といっても、地球の様な体系化されたモノではなく、異世界の魔物を殺す為に伝承された立ち回り全般といった風のモノである。

 まるで、獣拳記第三部外伝第二章“父と娘”冒頭の様に、グーラは父フェレライに戦いの手解きを受ける事になったのだ。

 

「グルルルル……! はぁッ!」

「いいね、よく動けてるよ。脚を止めちゃダメだよ、休む時は距離を取って、そう!」

 

 娘が仕掛け、父が捌く。それはさながら、小さな魔物の攻撃を凌ぐ戦士の構図だった。しかし、それは異世界にて合理化された鍛錬法の一つであった。

 稽古の時間は、グーラにとって幸せな時間だった。大好きな父との言葉のない語らいは時間を忘れる程に楽しかった。

 そうして、父の教えを吸収し、グーラは日に日に強くなっていった。

 

「父さん、ボク強くなります。強くなって、イライジャみたいに村を守ります!」

「ははは……こりゃ娘に負ける日も近いかなぁ」

 

 強くなり、村を守る。

 そして、いつか村のみんなに受け入れてもらうのだ。

 そう願って、グーラはひたむきに鍛錬に励んだ。

 

 グーラは、イライジャの生き様に憧れていた。

 英雄になりたいと思った訳ではない。

 けれど、獣拳記を通して、イライジャの様になりたいと思うようになっていたのである。

 

 まだ、幸せだった記憶だ。

 

 

 

 ある嵐の夜。

 それは、突然現れた。

 

 深層迷宮の主、針鋼猛犬。

 肩高2メートルにも及ぶ、全身に鋼の毛を纏う魔物。

 何の予兆もなく、そいつが村の近くに出現したのである。

 

「フェレライ! 今すぐフェレライを呼べ! 狩人長もだ!」

 

 迷宮外に魔物が出現するなど、この世界ではありふれている。通常の獣型魔物一匹程度なら、村の戦士が囲んで叩けば難なく倒せる。

 だが、主級の魔物は無理だ。そも、主は滅多に外に出ないものだ。出てきても多くは人類生存圏の外からやってくる。そんな奴が普通の魔物の様に圏内に出現するのは、もう不運以外の何物でもない。

 あるいは、最寄りの転移神殿の冒険者が怠けているかだ。そうじゃなくとも、出る時はどうあっても出るものだ。

 

「無理です。僕では倒せません。一党を組んで、しっかり武装を整えても追い払う事さえできないでしょう」

「そんな、フェレライでもか……」

「はい……」

 

 針鋼猛犬は上位迷宮の主、一流の冒険者でも銀細工持ちが一党を組んで倒すべき、怪物中の怪物である。

 当然として、村にそんな怪物相手に太刀打ちできるような戦士はいない。

 故、村長は村を捨てる決断を下した。

 

「逃げよう。今夜のうちに荷物をまとめ、ヴァレンシュタイン様の街まで歩こう。証拠さえあれば受け入れて下さるはずだ」

 

 しかし、その決断は遅すぎた。否、例えもっと早かったとしても、被害者の桁は変わらなかっただろう。

 

 件の魔物を発見した狩人を追って、それは嵐の夜に村を襲撃してきたのだ。

 猛犬の突進で家が倒壊し、尻尾のひと凪ぎで戦士の脊髄がへし折れる。逆に、村にある剣や狩り道具程度では、その体毛に傷ひとつつける事はできなかった。

 

「おい! 今が死に時だぞお前ら! 女にいい恰好したい奴ぁ! 俺に続け!」

 

 逃げ惑う村人たち。敵わぬと知りながら、覚悟を決めて足止めをする戦士たち。

 足止め要員の中には、フェレライの姿もあった。

 

「グーラ! 逃げて! 生きるんだ! 絶対に死ぬな! お願いだ、死なないでくれ! 生きて、幸せになるんだ! いいね!?」

「父さんッ……! 父さんそんな!」

「愛してるよ、グーラ! 僕もこの村の戦士だ、行ってくる!」

 

 そう言い残して、フェレライは娘を逃がした。

 それが、父と娘の最期の言葉になった。

 

 

 

 近くの街に向かう最中、村人たちは皆意気消沈していた。

 当然だろう。この中に、家族を失っていない者はいないのだ。

 グーラもまた、父を失ったのだ、最愛で、唯一の、グーラを愛してくれる人をである。

 

「生きろって、幸せって……ボクは、どう生きればいいんですか……?」

 

 失意の中、グーラは歩く。

 何故父が死んだのか。理不尽な現状に対し、悲しみの次にやってきたのは虚無感であった。

 この時、グーラはまだ子供だった。身体でなく、心がだ。そんな子供が、唯一の肉親を亡くして途方に暮れる事を誰が責められようか。

 しかし、そんな事情、深淵の主には関係がない。

 

 ずしん、と。

 

 そこに、悪夢の獣が現れた。

 片眼を失い、後ろ脚を引きずり、満身創痍になってなお、迷宮の主は人類を殺すべく動き続けていた。迷宮内の魔物と違い、外の魔物は瞬時に怪我を治せないのだ。

 生物としては休むべきだろう。同族を食い、傷を癒やすべきだ。そうやって、迷宮外の魔物は強くなる。それでも、何か使命感に駆られるようにして、グーラの父を殺した魔物は猛っていた。

 ただ、人類を滅ぼす為に。

 

「グォオオオオオオオッ!」

 

 獣が吠える。

 

 瞬間、グーラを除け者にしていた同い年の娘が死んだ。

 次の瞬間、空腹のグーラに野菜クズをくれた少女が死んだ。

 また次の瞬間には、最初にグーラを忌み子と呼んだ女が死んだ。

 

「あ、暴れん坊、イライジャ……皆に石を投げられた。あいつがやったと、嘘を吐かれて……」

 

 その光景を見るでもなく眺めて、現実感を無くしていたグーラは、何故か推しの事を考えていた。

 眼前にある暴虐からの逃避だろうか。走馬灯の様なものだったろうか。けれどもそれは、実際どうでもいい事だった。

 

 何度も読んだ、少年イライジャの旅立ちと、その戦い。

 乱暴者のイライジャ。嫌われ者のイライジャ。寂しがり屋のイライジャ。

 やがて謳われる、獅子の男の英雄譚。

 

「ぐっ……うぅウゥゥゥゥ……!」

 

 ――胸が、熱い。

 

 全身から、黄金の炎が噴き上がる。

 心臓から手足の末端まで、空色の雷が迸る。

 二股の尻尾が立ち上がり、食いしばった歯の隙間から灼熱の火炎が僅かに漏れた。

 

「グゥゥゥゥゥゥ……! グルルルルルルウ……!」

 

 膨れ上がる魔力に反応した怪物が、警戒するようにグーラを見た。

 グーラは、弱い村人を見た。

 動けない村人は、グーラと魔物を見ていた。

 

 バチンと、グーラの炎雷(ほのいかづち)が臨界に達した。

 

「グルゥオォアアアアアアッ!」

「グォォォォォォッ!」

 

 そして、怪物相手に、忌み子のグーラは襲い掛かった。

 母によく似たその心には、父によく似た勇気が宿っていた。

 見た事も、会ったこともない英雄の勇姿が、グーラの心に火をつけたのだ。

 

「グルァアアアア! グガァアアアアア! ガァァアアアアアッ!」

 

 その戦いは、まるで野生の獣同士が命賭けの縄張り争いをしているかの様だった。

 大小の獣は止まる事なく上下左右と動き回り、ぶつかって縺れ合って弾き飛ばしてまたぶつかる。爪を突き立て、肉をそぎ、そがれ、痛みを忘れて食らいつく。

 雷が轟き、黄金の炎が鋼を焼く。矢ほど大きな針が褐色の身体を貫き、雷が穴を塞いで火が傷を覆う。

 両者、暴威そのもの。理外の化け物同士、命と命を削り合う、泥臭く、野蛮で、だからこそ目を奪われる原初の力のぶつけ合いだった。

 それは、村人が見た事のある、フェレライの怪物退治ではなく……。

 

「くたばれェエエエアアアアアッ!」

 

 怪物同士の殺し合いだった。

 

 

 

 戦いの末、グーラは嵐の去った空に、吠えた。

 誇り高き父へ。父の愛した母と、殺してしまった兄弟へ。

 遠く、遠く、自らの存在を吠えて伝えたのだ。

 

 その様を、泥に汚れた村人たちは見ていた。

 生まれたばかりの仔獣が、その母が、村長がグーラを見ていた。

 皆が恐れていた娘が、村人を守ったのだ。

 

 彼の英雄の、始まりの物語の様に。

 

 グーラは、村人の愛によって誕生を願われ、やがて愛を失った。

 グーラは、勇気を持って怪物を倒し、村人を守った。

 いつか、自分も群れの皆に受け入れてもらえると信じて……。

 

 乱暴者で、嫌われ者で、寂しがり屋だったイライジャ。

 彼の英雄譚の様に、誰かを救えば、救われると思っていたのだ。

 とても、純粋に。

 

 

 

 しかし、彼女は英雄ではない。

 英雄譚の主人公では、ないのだ。

 

 

 

 結論を述べると、グーラは金に換えられた。

 村長に、村人に、村の英雄は売り飛ばされたのである。

 生き残るには、得体の知れない英雄よりも、皆が生きていけるだけの金が必要だったのだ。

 

 獣人夫婦の間に生まれた、絶滅したはずの古の魔人。

 炎と雷を宿す、強き獣。

 とても、高値で売れた。生き残った村人を、救える程に。

 

「うぅ……父さん、父さん……」

 

 檻の中、鎖に繋がれたグーラは、絶望の底にいた。

 父を失い、皆に見捨てられたグーラには、もう縋る対象がなかったのである。

 生きる意味、生きる理由が、彼女にはもう存在しないのだ。

 

「でも、生きろって……幸せって、何なんですか……」

 

 それから、どれほどの時が経っただろう。

 仕立ての良い服を着た紳士に会った後、グーラの待遇はかなり改善された。

 鎖に繋がれたままだが、しっかりした飯が与えられ、清潔にされた。商品としてだが、ちゃんと価値ある存在として扱われたのである。

 けれども、グーラの心には穴が開いていた。過去から吹く隙間風が彼女の魂を凍えさせているのだ。

 

 幾日が経ち、広々とした檻の中、グーラは如何にも頑丈そうな馬車に乗せられた。

 何処に行くか、分からない。誰に買われるか、どんな事になるかなど、今のグーラには興味のない事だった。

 

 グーラは、もう生きたくなかった。

 けれど死にたい訳でもなかった。

 父の言葉を思い出すと、獣拳記の事を思い出すと、凍えた心が僅かに暖まってしまうのだ。

 

 ピクリと、獣人程ではないにしろ敏感なグーラの耳が、馬車の外の喧噪を感知した。どうやら、何か物騒な事が起こっているらしい。

 やがて馬車がひっくり返ると、扉を蹴っ飛ばして入ってきた男たちに、グーラは拉致されてしまった。

 檻を開けられ、袋に詰められ、誰かに担がれて運ばれたのだ。

 

「おい、こっちで合ってるか?」

「あぁ間違いねぇ。何度もやっただろ、ちゃんと覚えとけ」

「悪い。にしても、こいつ全然抵抗しねぇな、大丈夫なのかよ。ホントにこんなん役に立つのかね」

「無理なら売るだけだろ。希少種だ、バカは買う」

「へへっ、そうだな」

 

 袋の中、グーラの鼻は今自分が森の中にいる事を感知した。

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