ロリコンと奴隷少女の楽しい異世界ハクスラ生活 (いらえ丸)
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ロリコン、異世界に立つ。

 適当に続けていけたらいいなと思います。
 ジャンルは「冒険・バトル」ですが、冒険も日常もあります。「日常」と迷いました。どっちなんでしょう?
 劇的で面白い話じゃなく、読んでてほんのり楽しい話を目指していきたいですね。


 恥の多い人生を送っていると思う。

 

 初恋は、画面の中の二次元ロリだった。

 アニメ専門チャンネルで見た、とある魔法少女。界隈では人生ブレイカーとかロリコン製造機とか言われてたりする魔性の幼女だ。

 だが、初恋とは叶わぬもの。その子は続編アニメで立派なキャリアウーマンになってました。成長した彼女はムチムチのボインボイン体型になってしまったのだ。そうして俺の淡い恋心は見事砕け散ったのである。

 その程度と言われればそうだし、薄情と言われればそうだろうと思うが、俺は大きくなった彼女に何の魅力も感じなくなってしまったのだ。

 

 その時、思い知った。

 俺はロリコンだったのだ。

 

 背の低い女の子が大好きで、幼い仕草にトゥンクと来て、メスガキトレンドに真っ先に飛びつき愛好し続ける類の人間だった。

 背の高い女性を愛せない。妖艶な女優に興味を持てない。大きなお尻、大きなお胸に何の魅力も感じない。

 

 初恋が二次元なんてのは今どき珍しい事じゃない。それがロリでも、まぁおかしな事はないだろう。当時、俺はショタだった。ショタがロリに恋をするなんてのは健全も健全ド健全。何が問題ですか?

 しかし、デカくなった俺は三次元のロリも好きなタイプのロリコンだった。

 

 画面の中じゃない初恋は、友達の妹だった。

 高校生の頃だった、遊びに行った友達の家で、とても可愛いJCを見て、心の臓にバキュンと一発。目と目が合うーって奴だった。

 その子は性格も良くて、兄の友達である俺にも礼儀正しく挨拶してくれた。まさに天使みたいな女の子だった。

 けれど、彼女は堕天した。翌年の夏休み、黒髪の妹君は髪を染め、濃ゆいギャルメイクをするようになっていた。で、両親や兄とも仲が悪くなり、中学生にして朝帰りをする事もしばしばになってたとか……。

 再度、俺の恋は砕け散った。天使は失墜し、ロリのロリたる所以が失われたのである。三次は惨事だ。

 

 やっぱり、俺はロリコンだった。

 年上は無理だ。同い年ももう無理だ。年下もある程度すると無理になると思い知った。

 ……いや、今のは嘘だ。年上でも同い年でもオッケーだ。肝要なのはロリな事であって、実年齢がどうのではない。二次ならば。

 真のロリコンはロリを愛するが、ロリも愛する。しっくりくるね。ロリババアはいいぞ。

 

 閑話休題。

 

 そんな俺だが、現代日本的な倫理観はしっかり持ち合わせていた。

 イエス・ロリータ・ノータッチ。当然として、リアル女児に手を出す事はなかった。遥か昔の日本ならともかく、俺が生まれたのは世紀末後の現代日本である。ロリと結婚できるってだけで戦国大名に強い憧れ抱いちゃうが、俺はただの一般人だ。法律という名の投石攻撃は怖いのである。

 二次と三次は等価であったが、俺は特に二次に傾倒した。三次への興味が失せたというより、叶わぬ恋をするよりも好きなアニメやゲームをやってた方が有意義だと思うようになっていた。

 実際、三次のロリはロリじゃなくなる。合法ロリにはなれたとしても、ロリババアにクラスチェンジはできぬのだ。ある意味健全である。

 

 俺はロリコンだ。

 

 犯罪者予備軍なのかもしれない。けど犯罪者じゃない。

 ヤバい奴かもだが、ヤバい事はしてない。

 そんな、多分どこにでもそれなりの人数いるタイプのロリコンが、俺。

 石黒力隆という男だ。

 

 石黒力隆(イシグロリキタカ)(21)

 12月11日生まれ。

 尊敬する人、ルイス・キャロル。

 好きなお菓子はホワイトロリータ。

 

 

 俺はロリコンだ。

 俺には夢がある。

 

「異世界行ってロリのハーレム作りてぇ……」

 

 大志を抱けと言いますが、抱いた夢がこれじゃあね。

 

 虚しい呟きが狭い風呂場に反響した。

 ま、無理なんですけどねってのは、自身の性癖を知ってから自覚している事である。

 二重も三重も無理な夢だ。要点はロリであるが、現実じゃ無理なのでさらに無理な夢もどきで欲望を覆ってるだけだ。あほくさ、である。

 

 ロリコンとは悲しい生き物だ。

 初恋も、将来の夢も、結婚も。

 絶対に叶うものではないのだから。

 

「さて、イベント周回がんばるぞい」

 

 などと言いつつ、俺は俺の人生にそれほど不満はなかった。

 元の性格がそうさせるのか、俺は物事をそんな深刻に考えない性質なのである。

 悩む事、ヘコむ事は最低限でいい。そんな事する暇があったら、青山先生の新刊を読むほうが有意義だ。新作のアニメ化まだですか?

 画面の中、紙面の文字、電子の書籍のロリたちは、いつも俺の心を満たしてくれるのだ。

 これ以上の幸せはロリコンにゃ眩し過ぎる。

 

 そうして、俺はいつものルーティンをこなし、寝床についた。

 明日は予約してた同人エロゲの発売日。来週はきららの発売日。一か月後にゃよさげなロリアニメが始まる。

 

 異世界でもないし、童貞のままだし、ハーレムも作れやしないが。

 半径3メートル以内にロリがある。

 まぁまぁいいじゃないか、ロリコン人生。

 

 暖かい布団の中、俺は安らかな眠りについた。

 

 

 

 で、今に至る訳だが……。

 

「異世界じゃん」

 

 目が覚めると、異世界に来ていた。

 お尻に硬い感触。ベッドで寝ていたはずの俺は、いつの間にか噴水の淵に座っていた。

 周囲を見ると活気ある出店が軒を連ねていて、そこの店主や客には現代日本人にはあり得ない特徴があった。耳が長かったり、ケモミミが生えてたり、髭もじゃのずんぐりむっくりだったり……。

 

 やっぱ異世界じゃん。

 

 ふと幼女の声が聞こえた。反射的に目を向けると、通りの方からピンク髪と緑髪の女の子二人がこっちに向かって走ってきた。

 二人はピンクとグリーンというカラフルな髪色をしていて、頭にはネコ科動物っぽい耳が生えていた。彼女らの後ろから同色の髪色をした男女がやってきて、二人を微笑ましげに見守っていた。両親らしき二人の頭にも、猫耳が生えていた。ヒト耳が無ぇ。

 うん、ここ日本じゃねぇ。アメリカでもねぇ。勘と経験が言っている、異世界だ。

 

「……マジ?」

 

 手を見る、俺の手だ。服を見る、寝間着のジャージだ。うん、これ転生じゃなくて転移的な奴だな。

 恐ろしいもので、ネットネイティブ世代の俺からすると異世界転移は存外あっさり受け入れられるものであった。

 

「どうすっかなぁ……」

 

 ぼんやりと空を見る。

 異世界受容こそ早かったが、途方に暮れてしまうのは仕方ないだろう。

 ある意味、長年の夢の第一歩が叶ったかもな訳だが、如何せん素直にゃ喜べない。

 

 なんせ、これ全然デイドリームの可能性あるから。

 幸福な夢から覚めた時の反動が怖くて、はしゃげない。

 銀魂の無人島全裸案件。あるいは一人かめはめ波練習になりそうで、異世界ヒャッハーができなかった。

 

 まあ、とはいえだ。

 

「うわ、あの子めっちゃ可愛い……」

 

 夢の中でも、異世界でも。

 ロリの笑顔は俺の心を満たしてくれた。

 俺は、異世界でも俺のままであった。

 

 ロリコンの魂百まで。

 我魂魄百万回生まれ変わってもロリコン。

 ロリ愛でる、故に我あり。

 

「ま、なんとかなるだろ」

 

 俺は腰を上げた。

 

 不安の中、無理やり希望を捻りだす。

 ここは日本じゃない。異世界だ。なら、ロリと結婚できるかもしれないし、エターナルロリがいるかもしれない。ハーレムだって、できるかもだ。

 やれるだけ、頑張るだけ頑張ってみよう。異世界産のロリを見て、そう思えた。

 

 とはいえだ。

 俺は貧弱一般人。獣一匹殺した事ない身からすると、腕一本でファンタジーやれる自信はなかった。

 

「特典、あったらいいなぁ……」

 

 俺の呟きは、広場の喧噪に流されていった。

 

 

 

 

 

 

 異世界転移から、約一週間。

 

 俺は今、体育館ほどの広さの洞窟で死闘を繰り広げていた。

 

「しゃアッ! 死ねオラァ!」

 

 現代日本では絶対発さないであろう暴言を飛ばしつつ、相対する化け物の腹を横一文字に切り裂き、勢いそのまま通り過ぎる。

 ズサーっと靴底が地面を滑り、振り返って構えを取った。その間、コンマ以下秒。流れるような一連の動きは前の世界じゃあり得ないほど俊敏で、現実離れしていた。これぞ“剣士”のアクティブスキル“切り抜け”だ。

 数舜遅れて、奴の腹から切れ目に沿った血が飛び出た。最後っ屁が来るかもしれない、切っ先を向けて構える。奴は振り返らない。やがて、どしんと膝をつき、迷宮の主は倒れた。

 そして、身長約4mの熊型ボス――ナックルベアは、青白い粒子となって俺の身体に吸い込まれていった。

 

「んぁ~……たまんねぇ」

 

 瞬間、俺の身体に冬場の風呂に漬かった時みたいな快感が溢れた。

 奴の魂を取り込み、俺の魂魄強度を上げたのだ。実際そうかは知らないが、なんかそんな感じする。何度も味わったこの感じは間違いなくレベルアップだ。

 はじめてこれ体験した時、まるでソウルシリーズみたいだなと思ったものである。

 

「よし! 剣士レベル10!」

 

 言いながら、慣れた操作で空中投影されたコンソールをスワスワする。

 アイアンマンのアレか、あるいはSAOのアレみたいなコンソール画面には、現在の俺のステが載っていた。

 

 

 

◆イシグロ・リキタカ◆

 

 剣士;レベル10

 新規習得スキル;回転斬り

 

 能動スキル1:切り抜け

 能動スキル2;受け流し

 能動スキル3;生命活性

 補助スキル1;魔力変換

 

 生命;28

 魔力;22

 膂力;28

 技量;27

 敏捷;27

 頑強:24

 知力;16

 魔攻;18

 魔防;19

 

 

 

 剣士レベル10。能力値はバランス前衛型。RPG的には駆け出しなんだと思う。実に分かりやすい。

 けど、他の人にこのコンソールは開けない。開けられる人はいるかもしれないが俺は見たことない。つまりこのゲーム的仕様こそ、俺の特典……なんだと思う。

 

「ま、考えるのは後でいっか」

 

 ステ確認か鑑定かコンソールか。一見なにそれショボとか思ったものだが、これほど便利なものはないと今ではそう実感していた。

 物騒なこの世界、前と同じく自分の能力値を数値化する事はできない。けど俺はできた。どっかの誰かの言う通り、敵のお尻と己のお尻を知ってれば百回戦っても勝てるのだ。

 安心安全なレベリング。それにより、今の俺の剣士レベルは10だ。異世界初心者にしてはなかなか良い調子なんじゃないだろうか。

 

 まぁ、これはあくまでも特典のひとつで、俺がこれまで生きてこれたのは別の要因がでかいんだが。

 それはともかく、今日も無事帰還である。

 

 討伐後、ボス部屋中央に出てきた巨大クリスタルに触れ、転移する。

 瞬間、足先から順に俺の身体が青白い粒子に変換されていく。転移のエフェクトだ。

 最初は怖かったが、転移すると返り血とかも綺麗さっぱりだから便利だ。簡易の風呂だと思えば慣れるのも早かった。

 

 しばらくして、目を開けた。切り替わった視界には、見慣れた転移神殿の風景が広がっていた。

 さっきのボス部屋が体育館だとしたら、ここは野球場といった印象だ。冒険者は、この場所からダンジョンへと転移するのである。

 学校ひとつ程度覆ってしまえそうなほど高い天井には、数えるのも面倒な程多くの発光クリスタルがあった。ここは昼も夜もいつでも明るく、独特な熱気に満ちている。

 遠く神殿の入口付近にはギルド受付があり、笑顔の受付さんが新人冒険者っぽい兄ちゃんと話していた。今からひと狩り行く気のパーティが転移石板の前でダンジョンを選んでいた。

 野球場でいうベンチとかの当たりには道具屋や武器屋が並んでおり、ダンジョンアタックに必要な物品を扱っている。

 転移神殿という名の此処は、まるでハクスラRPGの拠点みたいだった。

 

 俺は出口用の転移石板を離れ、コミケ仕込みのすり抜けスキルを駆使して人混みの中を歩いた。

 そして、いつもの受付さんの前に立つと、慣れた手つきでアイテムボックス――虚空に腕を突っ込むタイプの奴である――から本日の戦果を差し出した。

 どさっと卓上に置かれたのは、種々様々なダンジョン産アイテムとその他諸々である。殆どはダンジョンモンスターが落とすガラクタばかりだが、中には赤子の拳サイズの宝石みたいなのもある。主にこの宝石を売ってお金を稼いでるのだ。

 

「換金お願いします」

「ん? おぉ、あいよ。番号札は緑の1番な」

 

 そう言って、受付さんは俺に緑色の番号札を渡してきた。受け取ると、おじさんは俺が持ってきたアイテムを背後のクソデカ天秤にセットしていた。曰く、ギルドご自慢の換金魔道具らしい。

 ダンジョンモノの定番、受付さんはもちろんベテランっぽいおじさんだ。登録も換金も、俺はいつもこのおじさんに頼んでいた。理由は簡単で、ここが一番空いててスピーディだからだ。

 他の受付さんの前には長蛇の列ができている。列の先には、凡そ多くの現代人が美人だと思うであろうお姉さんが笑顔を振りまいていた。対する男は嬉しそうに顔を赤らめていた。

 

「にしても、あんた意外としぶといな。三回目あたりで死ぬと思って賭けてたから大損こいちまったよ」

「職員って賭博やっていいんですか?」

「飲み代くらいじゃしょっぴかれねぇよ。おっ、換金済んだな。ほら札返せ」

「はい」

 

 雑談などしつつ、渡されたお金――金貨銀貨だ――をアイテムボックスにしまう。

 念のため、お金の確認はここではやらないようにしている。スリの危険性があるからだ。俺はまだ遭遇してないが、現場に居合わせた事はある。こっちの治安は日本ほどよくないのだ。

 

「お前……明日も潜るのか?」

「ええ、そのつもりです。では、ありがとうございました」

 

 柵抜け人抜け扉抜け、すたすた歩いて神殿を出た。

 すると、視界いっぱいに暗くなりはじめた異世界の街の景色が広がった。

 

 神殿の出入り口の前にはこれまた広くて大きい階段がある。そこから、この街をある程度俯瞰できるのだ。

 階段の下、いくつもの屋台や飲食店が軒を連ねていた。外の席では同業と思しき人たちが酒を飲んで仲間と騒いでいる。かと思えば殴り合いの喧嘩がはじまって、周囲の人が盛り上がっていた。

 

 楽しそうだなと思いつつ、俺は人混みを避けて大通りを抜けた。

 少し歩いて右に左に。遠い喧騒が薄れてくると、目的地にたどり着いた。宿屋である。

 

「お、今日も来たね。昨日と同じでいいかい?」

「頼みます。先にお湯頂いてもいいですか?」

「あいよ。少し待ってな」

 

 宿屋の主人に挨拶し、昨日と同じコースで部屋を借りる。

 一階の洗い場に行き、装備していた防具を脱いでいく。ブーツに手袋に胸当てと、ホントに最低限の防具類だ。転移直後のパンツ以外の持ち物を全部売って揃えたのだ。探索の後、貯まったお金は殆ど貯金に回している。

 装備を外し、全裸になる、もらったお湯で身体を拭いて、ついでに装備も洗う。迷宮探索での汚れは転移で消えるのだが、汗や垢は残るのでちゃんと洗わないといけない。この世界は普通に大衆浴場があるのでそっちに入った方が気持ちいいのだろうが、今は節約しているのだ。

 綺麗になったところで食堂に行き、頼んでおいた夕食を食べる。異世界食は存外悪くなかった。とりわけ美味しくもないが、不味くもない。ちゃんとした飯屋に行けば美味しいご飯が食べられるのだろうが、今は節約しているのだ。

 

 飯を食べ終えて、借りた部屋へ。

 四階建ての最上階。一番安くて狭い部屋だ。大体三畳くらいの広さ。此処が俺の住処だ。持ち金的には普通にもっと良い宿屋に住めるのだが、今は節約している。

 俺は、節約しまくっているのだ。

 

「さて、と……」

 

 堅いベッドに寝そべりつつ、コンソールを弄る。

 ステの確認と、今後の方針についての思索だ。

 

 この世界は、ゲーム的だ。

 ダンジョンの怪物を倒すと経験値が得られ、ある程度溜まるとレベルアップする。レベルは職業ごとに分かれ、転職するとその職業のレベルになる。レベルは引き継げないがステは据え置きで、本人の強さは職業レベルじゃなく積み重ねた職業レベルの総合とステータスで決まるのだ。

 また、ステは職業ごとに伸びる項目が違う。戦士なら膂力や技量が、魔術師なら魔力関連がといった具合に。俺はジョブを転々としているので、ステの構成は前衛の割にバランス型だ。

 分かってる範囲だが、ジョブは基本職→下位職→中位職……と上がって行くのだと思われる。今の俺のジョブは剣士なので、下位職という訳だ。

 まあ、こんな感じ。ドラクエっぽいし、FEっぽくもある。

 

 で、今現在、俺が何に頭を悩ませているかというと……。

 

「ジョブチェンジかぁ……」

 

 ジョブチェンジについてである。

 この世界、例によって一定条件を満たすと特定のジョブにつけるらしいのだ。多分、剣士10+魔術師10=魔法剣士みたいな感じだと思う。

 現在、俺の職業レベルは戦士レベル10と魔術師レベル5と剣士レベル10である。さっき確認したが、どうやら戦士10+剣士10で“剣闘士”という下位職になれるらしい。

 剣闘士は剣士と同じ下位職だが、剣特化の剣士と違って盾を扱う事ができるようだ。多分、剣闘士で覚えられるスキルみたいなのもあるんだろう。実際気になるし、剣闘士って何か強そうだ。ステの伸びも剣士より少し上だ。

 けれど、今の俺の戦闘スタイル的に剣士がしっくりきてるので変えたくないのだ。あと、先に剣士レベルを上げてみたい気持ちもある。剣士の次のジョブも気になるしね。

 

 扱いやすい剣士を貫くか。

 今後の事を考えて剣闘士のレベルも上げておくか。

 悩みどころである。

 

「ふふっ……」

 

 ベッドの上、思わず笑みがこぼれた。

 悩みどころといいつつ、楽しんでいた。ゲームをやってて楽しい時とはこういう時間だと思うのだ。

 命のかかった生業。死にゲーみたいなダンジョン。決してよろしくない治安。

 けれど俺は、この異世界をけっこう楽しんでいた。

 

 石黒力隆(21)

 俺には夢がある。

 

 異世界でロリのハーレムを作り、酒池肉林の限りを尽くすのだ。

 その為に、俺は毎日命張って金策し、節制して金を貯めている。

 何故か? 奴隷を買う為だ。この世界、普通に奴隷売買があるのだ。無論、そういう奴隷も。何しても、いいのだ。

 まあ、乗るよね。

 

 健全なロリコンなら、健全なパーティを組んでロリとの出会いを求めるのだろう。

 だが、俺は違う。前世の俺は法に従って生きていたが、それはあくまでそういう法があったから従っていただけで、ロリ奴隷が合法な環境ならさっさと欲を満たす方向に進んじまうのである。

 あと、探してみたが、女冒険者はいてもロリ冒険者は見かけた事はない。悲しい、めぐみんはどこだ。ロキシー先生はどこだ。見つからない。期待薄だろう。

 

 奴隷少女、可哀想だが、大好物だ。

 前世、俺には好きな同人ゲームがあった。有名な作品だ。傷ついた奴隷少女を買い、優しく接して愛を育んでいくというハートフルな作品だった。

 ぶっちゃけると、奴隷少女っていう文字列がツボなのだ。

 

 おいおい、現実甘くねぇぞとか。

 そんな都合よくいくかよとか。

 そう思うかもしれない。

 

 けど、ここは異世界。

 レベルがあり、ステがあり、奴隷が合法化された世界なのだ。

 

 異世界生活、楽しんだもん勝ち。

 

 俺はそれまでを、こうやってゲームに没頭するかの様に過ごしていた。

 奴隷少女の事を思えば、節制生活も辛くない。レベルアップする毎日は楽しい。ジョブチェンジに悩む時間はワクワクする。

 

 なに、大丈夫。

 ミスっても死ぬだけだ。

 

 ロリハーレムの為ならば、命なんざナンボでも賭けてやる。

 それが俺、ロリコン石黒の生き方である。




 感想もらえると励みになります。



 本作は、「異世界迷宮で奴隷ハーレムを」と「異種族レビュアーズ」に触発されて書いた作品となっています。
 中でも内密氏へのリスペクトは強めな作風となっております。パクりでもオマージュでもなく、リスペクトです。
 ああいう感じで続けていきたいなぁという気持ちですね。


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せめて、ロリコンらしく

 感想・評価など、ありがとうございます。
 感想もらえるとすごく嬉しいですね。気が向いたら何か適当に投げてやってください。すると作者がハッピーになり、続きを書くモチベに繋がります。

 今回は三人称、受付のおじさんから見たロリコン。
 一般庶民のロリコンがなんでこんな強いねんってのはまた今度書きます。

 ロリはまだ出ません。



 ある日、高名なベテラン冒険者が死んだ。

 

 彼は英雄ではなかったが、間違いなく成功した類の冒険者だった。

 堅実にやっていた。無理をせず、自己を管理し、内外の同業者から尊敬されていた。

 粗暴な奴が多い冒険者にあって、善意の化身の様な温厚な男だった。

 

 冒険者歴10年という、極めて異例な経歴を持つ古強者。

 まさに、全冒険者が模範とすべき傑物だった。

 

 ある日、その冒険者は珍しく単独で迷宮に潜った。

 引退した仲間の娘の病を治す為、その薬を買ってやるのだと言って、たった一人で迷宮に向かって行ったのだ。

 歴戦の冒険者だった。腕の立つベテランだった。機に敏く、頭が回り、決して仲間を見捨てない、頼れる頭目だった。

 そんな奴が、呆気なく姿を消した。迷宮に、喰い殺されたのだ。

 

 よくある事さと、ギルド職員の男は酒を片手に俯いた。

 10年も迷宮に潜り続け、今の今まで五体満足だった。これまでが、出来過ぎていただけだ。

 肩入れしていたつもりはなかった。しかし、酒に頼る羽目にはなった。

 

 一ヵ月、約30日。

 それは、冒険者としての最も大きな分岐点である。

 平均寿命ではない。それは恐らくもっと短い。

 これは、引退の区切りだ。

 

 冒険者は、すぐに死ぬ。

 それでも、冒険者の人口は年ごとの増減はあっても一定数を下回った事はない。迷宮には、夢と名誉と財宝があるからだ。

 第一の踏破者、初代国王。彼は様々な種族の盟友を連れ、迷宮に潜り、見事宝を持ち帰り、国を興してみせたのだ。まさに、英雄の中の英雄であった。

 迷宮が吐き出す莫大な利益。この国の歴史は、迷宮との戦いの歴史であった。輝く剣の第二王子。農村生まれの公爵。史上最強の宿屋の娘。眩い程の栄光は、自らもまた英雄たらんと冒険者たちを駆り立てた。

 まるで狂気の坩堝であった。皆、最後は迷宮に喰われて帰ってこない。

 迷宮とは、そういうものだ。 

 

 ある日、引退した元冒険者の男が死んだ。

 娘の治療費の為、迷宮に潜り、帰らなかった。

 

 よくあることさ、とギルド職員の男は酒を傾けた。

 少し、酒の量が増えた。

 

 

 

 王都西区、第三転移神殿。

 冒険者支援組織、通称“迷宮ギルド”。

 

 男は、冒険者たちを支援する組織の職員だった。

 ギルドとは、迷宮に挑む冒険者たちを支援する組織だ。冒険者の位階に合わせた迷宮の紹介。迷宮でも通用する武具の販売。迷宮産アイテムの換金などを行う、国営の組織であった。

 ギルド職員とは、新人冒険者の登録手続きや換金手続き。血の気の多い冒険者の管理や、冒険者一党の斡旋などを行うのが仕事だ。

 

 国営の組織故、その職員になるには相応の学と能力が必要であった。また、飲み屋で「俺ギルド職員なんだぜ」と言えば「きゃーすごーい」と言われる程度には地位の高い職であった。

 男は、そんなギルドでは珍しく、けっこう不良気味な職員であった。軽い賭博はやるし、コミュ力に難ありで、受付態度もよくない。けれども、ギルドでは重宝されていた。何故か?

 清濁呑んで、しっかり仕事ができるからだ。

 

 そんな職員には、ひとつの不文律があった。

 

 ――冒険者に肩入れする事なかれ。

 

 心を壊さぬように。

 情深い職員を守る為の、古い教えだ。

 心を配り過ぎ、気を遣い過ぎ、そうやって病んだ職員を、男は何人も見てきた。

 

 その点、男には適性があった。

 男は冒険者に期待しない。そんなもんだと思っている。五体満足に帰ってこようと、仲間が遺品を持ち帰ってこようと。心を病む事はない。よくある事さと、酒を飲んで忘れる事ができたのだ。

 それが、ギルド職員に求められる最も重要な資質であった。なまじおつむが良いと、こんな生き方はできないのだから。

 

 冒険者は、すぐに死ぬのだ。

 

 異界の迷宮を探索し、怪物を倒して財宝を持ち帰る。実に華やかで、実に夢のある生業だと思う。

 しかし、それはごく一部の者だけだ。

 

 半数の冒険者は、初の迷宮探索から帰ってこない。

 生き残った半数は一ヵ月以内に死ぬ。

 そこから半数が一ヵ月の区切りで冒険者を辞め、そうでなくても一年以内に見切りをつける。それから蓄えた財を手に真っ当な職に就く。現役中に力を見込まれ、騎士団に入った冒険者は何人もいる。

 あるいは、長い間浅層をブラブラするか。最近はこっちが流行であった。けれども、不思議な事にそういう奴は長生きしないものだ。

 

 本当に強い奴は頭がおかしい。

 

 そして、一年過ぎてなおより深く迷宮を潜り続ける冒険者は、皆どこか狂っていると言われている。職員視点でもそうだし、ギルド全体も何となくそう思っている。冒険者上がりの王家など、重々承知の事であった。

 莫大な富と名声を手に、それでも死と隣り合わせの迷宮に潜るのだ。まともな損得勘定ができるなら、そんな分の悪い賭けはしない。故、強者は頭がおかしいと言われるのだ。

 ベテラン冒険者は、頭のどこかが、欠けている。心底戦いが好きだとか、ただただ強くなりたいだとか、皆の為に金を稼ぐとか。

 どこぞの善人の様に、何か何処かが狂っているのだ。

 

 

 

「あのー、すみません。冒険者の登録ってここで合ってますか?」

 

 長年職員をやっているからか、男はたまに変な勘が働く事がある。

 このヒョロガリは一見弱そうだが、実は強いぞとか。こいつは次の探索で死ぬなとか。そういう類の虫の知らせだ。

 それなりに外れる事もあるが、強烈な奴に限っては百発百中だった。 

 

「お前さん、名前は? 字は書けるのか?」

「母国語で良ければ。イシグロ・リキタカと言います。こういう四文字なんですけど……」

「あー、わかった。代筆な、こっちで書く。イシグ……あんた苗字持ちかい。どっちがあんたの名前だ?」

「イシグロが苗字で、リキタカが名前です」

 

 そんな男からして、新たに登録した黒髪黒目の冒険者は、一等異質に見えた。

 狂ってはいない。粗野な奴が多い冒険者の中では理性的で、社交的だった。

 パッと見、弱そうだ。生まれてこの方喧嘩なんかした事ありませんみたいな顔つきと身体つき。どう見ても新人丸出しの装備と武器。生き残れそうには、見えない。

 しかし、その黒々とした瞳の奥には、男をして異様な熱を感じる程だった。まるで、少し前に死んだ善人冒険者の様な。

 

「すみません。換金はここでいいですか?」

「ん? あぁ、朝の。ほう、あんた初迷宮で初踏破か。この札持ってろ、換金終わったら呼ぶから」

「はい。……ハードオフかな?」

 

 黒髪の新人冒険者は、無事五体満足で帰ってきた。

 第一の洗礼を突破し、あまつさえ主を討伐してのけたようだ。

 二度目以降の探索からも帰還したあたり、運も腕もいいのだろう。

 しかし、何か何処かが異質だった。その異質さは、雰囲気だけでなく行動にも表れていた。

 

「換金お願いします」

「あいよ。ん? 杖か、あんた魔法使えたのか? なら冒険者証に書き足さなくちゃいけねぇんだが」

「え、そうなんですか? すみません。また代筆してもらってもいいですか?」

「仕方ねぇな。両方終わったら呼ぶから、緑の2番な」

「ありがとうございます」

 

 冒険者業は儲かる。

 例え初心者御用達の浅層迷宮でも、一回潜って主を倒せばギルド職員の給与一ヵ月分の金が手に入るのだ。

 一度探索に成功すれば、しばらく遊んで暮らすのがその日暮らしの冒険者流である。それは、死を遠ざけ生を繋ぐ大切な儀式の様なものでもあるのだ。

 それを、この黒髪の青年はしないらしい。酒にも女にも、興味を示さないようだった。

 

「ほらよ」

「ありがとうございます」

「あ~、お前さんよ、いい加減新しい装備買った方がいいぞ。武器はころころ変えてるみてぇだが、もうボロボロじゃねぇか」

「お気遣いありがとうございます。けど、この防具動きやすくて気に入ってるんですよね。兜も視界狭めちゃうじゃないですか。試してはみたんですけど、ちょっとアレはな~って」

「そうかよ」

 

 朝、決まった時間に迷宮に潜り、夕方近くになると帰ってくる。

 決まってその手に主を討伐した証と、ごく稀にしか吐き出されない聖遺物を持って。

 

「お前さん、一党は組まねぇのか?」

「一党、ですか? 仲間的な?」

「ああ。なんべんも単独で踏破してんだ。収納魔法も使えんだ、引く手あまただろうぜ」

「あぁ~、それはまた今度で。当分は一人で潜ろうと思います」

 

 通常、冒険者の迷宮探索とは、もっと時間をかけて行うものだ。

 迷宮は生き物だと言われる。冒険者が足を踏み入れると、その都度構造を変えるのだ。一度抜けると、二度と同じ迷宮には入れない。それを何とかする為に迷宮固定の“楔”を打ち込み、楔が抜けるその前に何度も挑んで主を討伐するのがセオリーなのだ。

 それを、この黒髪の冒険者はしない。楔の存在を教えてやっても、ギルドの帳簿に奴の購入履歴はなかった。一度入ると、主を倒すまで帰ってこないのだ。

 

「すみません。換金お願いします」

「ん? あ、あんた、昨日大怪我してなかったか?」

「はい、死にかけました。まぁでも宿屋で寝たら全快したんで」

「そ、そうか……。ほら、緑の4番」

 

 それだけじゃない。その黒髪の冒険者は、神殿前広場で酒盛りをするでもなく、より強力な装備を揃えるでもなく、稼いだ金を懐に入れてそのまま宿屋に向かうというではないか。

 奴は狂っていない。理性的で、社交的だ。死に魅入られてもいないし、恐怖を快楽に感じている訳でもない。

 無事帰還した事に安堵し、稼いだ金を受け取ると満足そうに笑う。どこまでいっても一般庶民。街のどこでも見かけるような、ありきたりな俗人だ。

 そんな庶民が、俗人のまま、狂人の如き速度と頻度で迷宮を踏破し続けているのだ。

 狂っていないが、異質であった。

 

「換金お願いします」

「あぁ……今日も潜ってたのか。ほら、緑の1番」

 

 それも、単独でだ。

 多くの場合、冒険者は一党を組んで迷宮に挑む。奴は、それをしない。何度か勧誘された事もあったようだが、断った様だった。今となっては奴の異質さに勘付いてか、仲間に誘う一党はいなくなっていた。

 

「換金お願いします」

「おう。緑1番」

 

 群れる事なく、後ろ盾も持たず、たった一人で迷宮に挑み、必ず帰還する。

 莫大な富を持ち、比類なき力を有し、驕ることなく迷宮に挑み続ける。その手に、数打ちの武器を握って。

 それはまるで、彼の伝説の再現の様であった。

 

「換金お願いします」

「あいよ、緑の2番。なんだ、お前さん今日は棍棒かい」

「はい。まぁでも、ちょっと使いづらいですね、これ。攻撃はやりやすいんですが、カウンターが難しくて……」

「イシグロさん、すみません。お時間よろしいですか?」

「はい、何でしょう?」

「ギルドから昇格の試験を受けるよう言われていまして」

「へー、早いですね。いいんですか? こんなペースで上がっちゃって」

「間隔は短いですが、功績が……。そうじゃないと他の冒険者に示しがつかないんです」

「わかりました。換金終わってからでもいいですか?」

「はい。換金が済みましたら、東側のあの扉までいらしてください」

 

 そして、奴は区切りの一ヵ月が過ぎても自分のスタイルを変えなかった。

 相変わらずみすぼらしい装備で、弱っちい武器を持って、毎日の様に迷宮に潜っていた。

 この頃になると、すぐに死ぬだろうと思われていた黒髪の冒険者は職員たちの注目の的になっていた。

 圧倒的な功績。尋常ではない踏破速度。一ヵ月生き延びた、確かな実力。 

 そうして、慣例として彼には当代ギルド長からこのような二つ名が与えられる事となった。

 

 ――黒剣のリキタカ。

 

 しかし、ギルド長直々につけたこの二つ名はあんまり浸透しなかった。ありがちな「色+武器」というネーミングに前例がありすぎたというのもあるだろう。あと、彼は剣以外にも色んな武器を使うので、ギルド長はニワカを晒してしまったのがちょっぴり痛い。

 代わりに、同業者や職員からは、彼はこう呼ばれていた。

 

 ――迷宮狂い、と。

 

 単独で、毎日、黙々と、必ず主を倒し、帰ってくる。

 狂っているとしか思えない彼の生き様は、畏怖と尊敬を込めてこのようにあだ名されたのだ。

 

「換金お願いします」

「あいよ」

「あと、なんかボスから変なモン出て来たんですけど、これも換金できますか?」

「ん? おおっ!? これ深域武装じゃねぇか! あんた、こりゃ滅多にお目にかかれねぇ希少品だぞ? ホントに売っちまう気か!?」

「へー、レアドロなんですね。んー、まぁ今は使う予定はないけど、せっかくなんでいつかの為に残しときます」

「そうしとけ。それ売る時はよっぽど切羽詰まった時だ。あんたはそうはならなさそうだが」

 

 けれど男は、彼と最も面識のあるギルド職員は、知っている。

 奴は狂ってない。ただの庶民で、ただの人間で、ちょっと真面目な青年で。

 なんてことない、異質なだけの男なのだと。

 

 

 

「あのー、すみません。とある店への紹介状を書いて欲しいんですけど……」

「ん? 珍しいな。おう、何処の店になんて書けばいい?」

「えーっと……その、西区の……」

 

 ある日、件の黒髪が変な事を言いだした。

 曰く、奴隷を買いたいから、奴隷商人宛に紹介状を書いて欲しいと。

 その店は、貴族御用達の高級奴隷店であった。

 

「へえ、あんた奴隷買うのかい」

「え、規則じゃ大丈夫って聞いたんですけど」

「あぁ問題ねぇ。奴隷を買う冒険者も珍しくねぇよ」

 

 実際、奴隷を買う冒険者は多い。それは主に、楔を打った迷宮に連れて行く調査用の囮としてだが。

 そうなると、わざわざ高級奴隷を買う理由というのが分からない。スッキリしたいなら、手っ取り早く娼館にでも行けば済む話である。バカ高い店の性奴隷を買うよりよっぽど安上がりだ。

 もしやこいつ、高級奴隷でしか叶えられないような性癖の持ち主なのか? 男は訝しんだ。

 まあ、他人の性癖だ、何も言う気はない。男は紹介状を書き終え、黒髪の男に目をやった。

 

「あいよ、書けた……ぞ」

 

 その時、男は直感した。

 勘が働いたのだ。

 こいつはこの為に、迷宮に潜っていたのだ、と。

 

「ありがとうございます」

「お、おう……」

 

 何でそうなるのかは分からなかったが、こいつは高級奴隷を買う為に毎日死と隣り合わせの探索を続けてきたのだ。

 それも奴が貯め込んだ財と名声がないと購入できないような、とんでもない奴隷を買う為だけに、命がけで戦ってきたのだ。

 いるかどうかは知らないが、竜族の奴隷ならそれくらいするだろう。天使族なら、吸血鬼族の奴隷なら、かなりの額になるはずだ。

 もしかしたら、買った奴隷を教育して、ガチで迷宮最深部を踏破する気なのかもしれない。

 彼の、建国王のように。

 

 並みの冒険者じゃ手も出せないような超高級奴隷。それを使って、何かをするつもりなのだ。この男は。何か、とてつもなく大きな事を。

 何故ならば、いつもぼんやりしていた黒髪の青年が、これまで見たことない程ギラついた瞳をしていたからだ。その熱さ、尋常ではない。

 その瞳の輝きは、熱に溺れていなかった。無垢な少年がするような、強く真っすぐな光を放っていた。

 迷宮狂いじゃない。ただの真面目な青年でもない。

 夢追い人の眼をしていた。

 

「あんた、引退するのか?」

「え、引退ですか? いえ、まだその予定はないですね」

 

 どうやら、未だ道半ばであるようだ。やはり、並みじゃない。なるほどこいつについて来れる奴は、此処にはいないだろう。なら、連れて行くしかないのだ。

 一般ギルド職員の男には、ちょっと遠いような気もしてたが。

 異質なこの男の事が、少しわかった気がした。

 

「ま、がんばりな」

「はい」

 

 男にしては、珍しく。

 いつの間にか、この夢追い人に肩入れしたくなっていた。

 

 

 

 当然だが、黒髪の迷宮狂い――石黒力隆氏に、ギルド職員のおじさんが思っているような、そんな大そうな事をする気はない。

 むしろ、現代日本倫理的には下劣で醜悪な事を考えている。夢追い人なのはその通りだが、抱いた夢がこれじゃあね。

 それ即ち、ロリ奴隷ハーレム。

 

「あぁドキドキしてきたぁ……!」

 

 この男、ロリコンにつき。

 

 

 

 ちなみに、迷宮狂い氏は知らない。気づいていない。

 こいつが欲しがっているような奴隷は、それほど高額ではないという事に。

 ぶっちゃけ、彼の夢を叶える為のお金など、ずっと前から貯まっていたという事に。

 

 ハクスラが楽しくて、相場を調べる事を怠った馬鹿の縮図であった。




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奴隷商人のうちへ遊びに行こう

 感想・評価など、ありがとうございます。励みになってます。

 今回、無駄に膨らんでしまった。
 次回以降はもう少し抑えてスッキリさせたいですね。


 光陰矢の如し。

 

 この世界に来てから、だいたい三ヵ月の時が過ぎた。

 その間、俺はダンジョンと宿屋を往復し、たまに休んでまたダンジョンという生活を繰り返していた。

 まさに、リアルハクスラであった。

 

 すると、あったよこの世界にも冒険者ランクが! との事で、俺はあれよあれよと昇格していった。

 異世界お馴染み冒険者証。この世界の冒険者の身分証明証はオバロとかゴブスレみたいなドッグタグ風の紐付き板と、前世でよく見た名刺みたいな奴の二種類だった。

 最初、渡されたのはドッグタグ風の奴だけで、なんとみすぼらしい木の板に名前が書いてあるだけのアイテムだった。それが一回昇格しただけで鉄のプレートになり、二回目で少し綺麗な鉄プレートになり、今ではハガレンの銀時計みたいな奴になった。なお時計機能はない。

 名刺の方は一回目の昇格の際に書いてもらった。そこにはプレート同様名前や所属に加え、使える魔法や使える武器やらが書いてある。TRPGのキャラシみたいな感じだ。表に名前や身分が、裏に技能や経歴が載っている。

 これら二つを見せて、あっしはこういうもんでございやすとなるのである。

 

 ちなみに、この昇格は異世界転移から二ヵ月以内の出来事であり、以降昇格はしていない。

 曰く、普通これ以上昇格はしないとか。一応あと二回昇格できるらしいのだが、一個上が国に数人のレベルで、最上位が初代国王限定ランクらしい。

 つまり今の俺はゴブスレでいう銀等級に当たる訳だ。早すぎない?

 

 で、一端の冒険者となった俺だが、前述の通り転移直後と同様ほぼ毎日ダンジョンに潜っていた。

 駆け出し時代では禁止されていた敵強めのダンジョンにも潜った。聞いた通りそこのエネミーは中々強く、ダンジョン自体も広かった。

 そこでは戦ってる最中に武器が壊れてしまい、俺は初めて撤退した。それから武器防具を新調して挑み、見事高難易度ダンジョンを踏破する事ができた。ボスを倒した時など脳汁がドバーっと出たものである。

 そして、難易度の高いダンジョンは駆け出し時代に通っていたダンジョンよりずっとドロップが美味しかったので、味を占めた俺はさらにハクスラに没頭していった。

 ザコ一体、ボス一体倒す度、経験値がじゃりんじゃりん溜っていくのが楽しかったのだ。当然、転移からずっと質素倹約を旨としているので、俺の持ち金もじゃりんじゃりんであった。

 

 で、銀級になったタイミングでギルドから「頼むからお金を銀行に預けてくれ」とお願いされた――アイテムボックスに入れたお金はダンジョンで死ぬと消えてしまうらしいのだ――ので仕方なく預けたところ、いつの間にか目標金額を上回っている事に気が付いた。

 レベルアップとジョブチェンジに夢中で、いつの間にか結構なお金持ちになっていたのである。

 

 そろそろ、奴隷を買ってもいいかもしれない。

 あーでも、キリのいいとこまでレベルアップしときたい。

 そういう気持ちで、俺はちょっとずつ準備をしつつ、今日も今日とてダンジョンに向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 前世、俺は一度として喧嘩をした事はなかった。

 小学校3年から6年までフルコンタクト空手を習ってはいたが、試合以外で人を殴った事はなかった。

 武器を使った戦いなど、何をか言わんや。

 

 そんな俺が異世界迷宮でソロ活できるのには理由がある。コンソールだけじゃない、それを軸としたチートじみた戦闘手段があったのだ。

 以前にも言ったが、この世界はゲーム的だ。レベルがあり、ジョブがあり、スキルがある。そんなゲーム的な世界観だからこそだろうか。

 あったのだ、救済措置が。

 

「っしゃア完璧ィ!」

 

 迫りくる攻撃を“受け流し”、僅かな隙を見つけて“切り抜け”る。文字通り、流れるような動きであった。

 切り抜けスキルの勢いを利用して前衛エネミーの攻撃範囲を抜け、次いで飛んできた太い針を軸ずらしで避ける。背後からの体当たりを振り返る事なくジャスト回避。拡張された刹那の見切り、敵の弱点にクリティカル攻撃を入れた。

 敵を倒した後はすぐに動く。足を止めず、同時に相手にする状況を作らない。跳躍して斬り、走って斬り、逃げ回ってから振り向いて斬る。それはさながら、迫りくる新選組に孤軍奮闘する幕末志士の様。こんなのお侍の戦い方じゃないが、誉れは元々持ってないのでノーカンである。

 

 現代日本人じゃ絶対無理な動き。速さといい身のこなしといい、プロのアスリートでも絶対真似できない。前世基準、常人離れした立ち回りであった。異世界三ヵ月で、俺は既に前世オリンピック選手を優に超える身体能力を手に入れていた。

 これもすべて、件の救済措置による恩恵だ。

 

「ふぅ……。こんなもんか」

 

 敵を掃討し、一度剣をアイテムボックスに入れ、もう一度取り出す。そうすると剣身に付着した汚れが落ちる。異世界ライフハックだ。

 綺麗になった剣を握り、ボス部屋らしき場所に足を踏み入れた。するとそこには、異世界初心者時代にボスとして戦ったナックルベアくんがいた。見るに、前より筋肉が増量していた。

 熊型ボスと目が合う。奴は腕を上げて威嚇してきた。俺も剣を構え、獲物に向かって吠えた。威嚇には威嚇をぶつけんだよ。

 

「行くぞオラァアアアアアッ!」

「グゥォォォオオオオオオッ!」

 

 そうして、数えるのも面倒になるくらい繰り返してきた死闘がはじまった。

 斬る、避ける、逃げる。回り込んで斬る。さながらそれは、ボスと戦う死にゲー主人公の様。

 ちょっとでも気を抜くと、マジで死ぬのだ。ガチでいく。

 

 さて、話を戻そう。

 救済措置についてだ。

 

 最近のゲームって、昔のより親切になっている感じはないだろうか。難易度どうこうでなく、やりやすさという意味で。

 ビッグタイトルの場合、そういうの顕著だと思う。より多くの人にプレイしやすいよう、色々と配慮された作りをしている。ラスアスの設定項目には度肝を抜かれたよね。エリー好き。

 そういうのが、コンソールで使えるようになったのだ。

 

 難易度変更でもない。無敵モードでもない。残機無限でもない。

 それは……。

 

「ふんッ!」

 

 素早い踏み込み、腰の入った刺突攻撃。俺の付き出した剣の切っ先は、見事ダンジョンボスの喉を貫いた。死闘の結果、俺が勝ったのだ。

 当然として、俺に剣の技能などない。ついでに言うと今のは剣道の突きでもない。システムによる恩恵だ。ジョブ対応の武器を握ると自動発動する、恐らく俺固有の救済措置。

 分かりやすく言うと、“モーションアシスト”だ。

 

 モーションアシスト。

 分かりやすいからそう言っているが、実際にはこれは“動作最適化”というらしい。コンソールにそう書いてあった。

 これは文字通り俺の動きをアシストしてくれる機能だ。オンにすると、戦士ジョブの際に近接武器を持つと一端の戦士にしてくれて、剣士ジョブの際に抜剣すれば俺を一端の剣士にしてくれるのだ。

 

 前述の通り、俺に剣術の心得はない。実際剣を振ったところで、せいぜい見様見真似ん女々しかチェストになっとが関ん山じゃ。おいは恥ずかしか。

 しかし、モーションアシストをオンにすると、どうだ。剣を握る様、立ち姿も普段の俺のまま、けれどもいざチェスト姿勢を取ってみると薩摩ホグワーツ生の如き堂に入った蜻蛉の構えができるではないか。そんまま剣を振っと、そんたもう強そうなチェストがでくっど。よかね。

 しかしこれは、一から十まで自動で動いてくれる訳じゃない。チェストしたいなら薩摩的構えを、ガトチュしたいなら剣を片手で持って例のポーズを取る必要がある。そこからその気で攻撃すると、チェストができるし牙突が撃てるのだ。

 もっと簡単に言うと、アシスト使えば俺もプロボクサー顔負けのシャドーボクシングができる訳だ。一度鏡の前でシャドーしてみるといい、絶対変だから。その変さが、なくなるのである。

 

 また、このモーションアシストはあくまでも通常攻撃及び防御行動にのみ適用されるものであるらしく、ジョブ由来の能動スキルには含まれないようなのだ。

 例えるなら、通常攻撃はそのままボタン一つでブンブンする技で、スキル攻撃はダクソとかエルデンとかの戦技に近い感じだ。

 

 無論、俺は貧弱一般人、多少補助輪がついてた程度で戦えるようになるわけもない。

 俺には、モーションアシストの他にもいくつかコンソールを軸としたチートオプションがあるのである。

 

 ホント、そうでもないと生き残れなかったと思う。

 

 転移直後の頃である。

 とにもかくにも行動だとなって、俺はあっちへこっちへ歩き回って情報を集めつつ、脳内の異世界ライブラリーから使えそうな情報を掘り出していた。

 体内に魔力的な未知のエネルギーが流れてないかとか。この世界の文明レベルはどうなのだとか。そもそもリンゴは木から落ちるのかとか。色々をだ。

 そして俺は念にパントマイムにと試行錯誤してやっと開けたコンソールを、これまた何か良いモンねぇかと弄りまくった。

 

 結論として、このコンソールはステやレベルを確認する為だけのものではなかった。

 装備やスキルの着脱。アイテムボックスの確認。次回レベルアップまでの必要経験値。色んな項目を参照したり弄る事ができた。

 その中で見つけたのが、オプションの項目にあった“アクセシビリティ”であった。

 

 アクセシビリティ。利用しやすさ。ゲーム以外にも見るが、ゲームでもよく見る項目である。

 ゲーム画面に表示されるアイコンの大きさ設定とか、字幕の色とか、はたまた追跡シーンでのカメラ追従設定とか。その設定項目は作品ごとに異なり、それら全てはプレイヤーに快適なゲームプレイを提供するための措置である。

 俺のゲーマー感覚が言っていた。これだ、と。

 

 コンソール内のアクセシビリティの設定には、実に色んな項目があった。

 前述のモーションアシストのオンオフ。危険攻撃の感覚アシスト。ジャスガ、ジャスト回避時間の延長などなど……。中には言語の自動翻訳というのもあり、それは最初からオンになっていた。神の手を感じざるを得ない。

 ステータスといい、アクセシビリティの設定といい、実にゲーム的で、実に親切設計であった。

 

 当然、異世界初心者の俺は俺に有利そうな項目のほぼ全てをオンにした。

 するとどうだ。敵の攻撃の軌道は予知できるし、危険攻撃は「今から強いのいきまっせ」と事前に分かる。ちょっと集中すればジャスガも回避も余裕だし、上手く決まればクリ確で与ダメ倍増である。ついでにダンジョンも街も一度歩けば自動でマッピングしてくれる。

 便利機能ガン積みロリコンマン。これぞ人生イージーモード。それが今の俺。チート野郎と笑いたきゃ笑え、俺は死にたくないんでね。

 

 そう、異世界はゲーム的であってもゲームではないのだ。

 攻撃食らうと痛いし、怪我をすると血が出るのだ。痛いのは普通に嫌である。ロリの為なら命を賭けられる俺ではあるが、別に死にたい訳ではない。

 故に、俺は俺に極限まで環境を甘くする事にした。ゲームでは極力壊れを遠ざけてきたが、リアルとなれば話は別だ。ヨシツネもヴァルマンウェもびりびりショットもじゃんじゃん使っていく所存。

 

 閑話休題。

 

 モーションアシストや危機察知など、お陰で俺はあっという間に強くなった。

 レベルが上がり、冒険者の階級も上がり、預金の方もかなりの額にまで膨らませる事ができた。

 今や俺は駆け出し冒険者ではない。金も地位もゲットした、ギルドお墨付きの二つ名あり銀細工持ち冒険者なのである。

 今後の事を考え、宿屋のグレードも上げた。武器も防具もワンランク上の物にした。顔が元のロリコン顔なので強そうには見えないだろうが、パッと見みすぼらしくはないだろう。

 どこをどう見ても、立派な冒険者だ。

 

 さて、そんな立派な冒険者となった俺は今。

 奴隷商館の所に来ていた。

 

 

 

 高級奴隷専門の老舗奴隷商会。その王都西区支部。

 

 目の前には如何にも高そうな大きな館。まるで北海道の赤れんがの様だ。ついでに大きな扉の前には槍を持った人までいる。

 前の世界なら観光スポットになりそうな見てくれだが、中身は奴隷を扱う店舗である。その造りは重厚で、その守りは厳重であった。

 

「よし……!」

 

 お金はある。身分証明書もある。ギルドからの紹介状も書いてもらったし、服もこの日の為にお高い服屋で見繕ってもらった。今の俺は誰が見ても紳士なはずである。まぁ元から心はロリコンという名の紳士ではあるが、今日ばかりは見てくれもそうだ。

 そう、俺は異世界ロリコン紳士だ。俺の夢はあくまでもロリと叡智な行為をする事。前世では絶対にできなかった事を、合法でやるのだ。何も問題はない。今更だ、現代日本で積み上げて来た倫理観など、捨ててしまえ。

 

 俺は、決意を固めて一歩踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 前世、奴隷といえば古代ローマというイメージがあった。

 いつだったか、図書館で読んだ本によると、古代ローマ人にとっての奴隷とは現代人にとっての家電製品に近い存在であったとか。

 庭を掃除する奴隷。公衆トイレの番をする奴隷。中には宴会でおもしろ話を披露する奴隷なんかもいたらしい。

 そして、今俺が求めているのは、俺の愛玩用のロリ奴隷。要するに、性奴隷だ。

 犯罪的だが、異世界無罪である。地球と異世界の法律をごっちゃにしてはいけない。この心の根にこびりついた枷からは、とっととオサラバしたいところである。

 

「お待たせしました。支部長のクリシュトーと申します」

 

 奴隷商館の一室。向かい合わせのソファーとお茶のセット。それと控えめな調度品が置かれたそこは、三ヵ月の異世界体験で最も現代的……というか、洗練された印象の部屋であった。

 そんな部屋で握手を求めてきたのは、アルカイックスマイルの髭ダンディであった。店主と名乗った男は奴隷商人と聞いてイメージしていた種付けおじさんスタイルというより、演劇とか映画とかに出ていそうな英国紳士スタイルの人間族のおじさんだった。

 

「イシグロ・リキタカです。イシグロが苗字で、リキタカが名前です」

 

 俺も握手を返し――握手は「敵意はありませんよ」という意思表示らしい――、次いでお互い向かい合って座った。

 そのまま軽い自己紹介とトーク。どうやらあちらは俺の事を知っていたらしく、何か会えて光栄です的な事を言われたが、俺からすると早く商談を進めたくて仕方が無かった。

 ぶっちゃけ、俺の股間は限界であった。なにせ転移後はずっとダンジョンアタックをやってたので、これまで一度もブラストバーンをしていないのである。さっきから期待と興奮と緊張で思考回路がスピード違反を連発している。

 

「ところで、商品についてなんですけど……」

 

 なので、ぶっこんだ。もう我慢できねぇ。

 そしてそのまま、俺が此処に来た理由と欲しい奴隷についての要望をぶちまけていった。ハーレム形成の為にもこの店には今後もお世話になりたいので、一から十まで俺の性癖と欲望を垂れ流させてもらった。

 兎にも角にも今すぐ可愛い子を紹介してほしいのである。

 

「ふむ……」

 

 できるだけ丁寧に、かつ誤解を生まないよう俺のロリコン道を説くと、対する奴隷商人は表情そのまま考えるような仕草をした。

 その目は俺の目とばっちり合っており、何やら値踏みされているみたいで居心地が悪かった。ポリを見ると怯む俺、そういう風に見られるとさっきまで猛っていた股間のリザードンもヒトカゲになってしまいそうである。

 けれども俺は強い心を維持した。そうだよ俺はロリコンだよ悪いかよコラと開き直ってやった。いいじゃねぇか合法なんだろという心の中の海賊魂が気炎を上げている。新世界は目の前だ。

 

 やがて、老舗高級奴隷商館の主は、こう云った。

 

「……申し訳ありませんが、当店にイシグロ様のご希望に添える商品はございません」

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 ひょ?

 

 待て待て、マテマテマテ……いや、そんな馬鹿な。

 俺はたまの休日に、色んなところで色んな情報を集めてきた。奴隷を買えるようなところの情報を中心に色々とだ。

 で、皆が言うのだ。此処が一番だと。この店が王都で一番の奴隷商会で、最もお高い性奴隷を販売するお店なのだと。

 そんな王都民みんなに聴きました最高の奴隷商会は何処? で一位なのが、此処なのだ。

 にも関わらず、ない? 俺の求める奴隷が?

 

「あ、あの……いない、というのは……どういう……?」

 

 まさか、金ないとか思われてる?

 そんな事はないはずだ。おじさんに代筆してもらった紹介状も見せたし、冒険者証も見せた。なんなら、俺は最高のロリ奴隷を買う為に最上級奴隷を買えるくらいの貯金があるのだ。なんなら証拠見せたろかという気分である。

 

「申し訳ございません。ご存じの通り、当店は高級奴隷専門でして、イシグロ様のご要望を叶えられる奴隷は扱っていないのです」

「ん? え? なんで?」

 

 完全に素が出た。多分、今の俺はめちゃくちゃアホ面をしている事だろう。

 対する店主はポーカーフェイスとアルカイックスマイルを悪魔合体させたような表情をしている。どういう顔だ。

 

「失礼ながら、イシグロ様はここよりずっと遠い国の出身とお見受けします」

「はい」

「この国における美しい女性とは、人間族の20代女性を基準としているのです。勿論、種族による好みの違いもあるのですが、人間族含め多くの種族の方は健康的で豊満な人間族の女性を好む傾向にあるのです。その点、イシグロ様の好みは……」

「あぁ……」

 

 あぁ、つまり、アレだ。

 ロリコンバイバイだ。

 

 前世、俺にはしょうもない悩みがあった。

 アニメにしても、ゲームにしても、ロリキャラが巨乳ヒロインの添え物にされてはいないかという話だ。

 勿論、人気投票で一位になるロリもいる。コッコロちゃんとかキョウカちゃんとかね。けど、多くの場合一番人気は巨乳の女の子じゃなかろうか。

 となると、沢山女の子が出る系の作品で中心にされるのは巨乳ヒロイン。右を向けば巨尻。左を向けばムチムチ太もも。哀れ、華奢なロリはライザのキックで吹き飛ばされてしまった。

 白米が金髪巨乳。汁物が黒髪清楚。主菜が銀髪巨乳で、ロリは副菜扱いされてる気がする。違うのだ、ロリこそメインディッシュなのだ。

 

「あの……未成熟で小柄な女性を愛好する方はいないのでしょうか?」

「ドワーフの男性などは小柄な女性にも魅力を感じるようです。しかし、同じドワーフ族同士でも、男性は同族の女性に豊満な肉体を求める傾向にあるようです。聞くところによると、ドワーフ美女の条件は第一に身体全体の豊満さで、第二に高い背丈であるようです」

 

 この世界のドワーフは、男が髭もじゃガチムチ小男で女が髪の毛もふもふロリという紳士諸兄に優しい種族である。

 そんな種族の男性でも、同族女性に求めるのがムチムチボインとは……なんてこった。ドワーフ女のムチムチボインという事は、ロリというより背の低い豊満女性ではないか。ウマが合わないぞドワーフ男。

 

「そ、そうですか……」

 

 よもやよもやだ。

 まさか、異世界でもそうだとは思わなかった。

 前世、ロリコンは一定数いたのだ。古代ギリシャでも古代ローマでも性癖のうちのひとつだったのだ。なら異世界でもロリコン用にロリ奴隷もいるとばかり思っていた。

 口ぶりからして、いるにはいるのだろう。しかし悲しい哉、高級店にはいない。いるとすればもっと大衆向けの、もっと質の低い奴隷商会に。

 別に高く買いたい訳でもない。高級奴隷というブランドに価値を感じている訳でもない。けど、俺は知っているのだ。大衆用奴隷売買に、質のいい奴隷はそうそういないという事を。

 

「ふむ……」

 

 ちょうど異世界一ヵ月目の頃だった。俺はロリ奴隷購入の為、本格的に情報を集めはじめたのだ。

 そして、人の多いところをブラブラしていると、広場で何やらオークションみたいなのが開かれていたのだ。行ってみると、そこには体育館のステージみたいな場所があって、壇上では複数の男女が並んでいた。

 その人たちは全裸で、胸の前に板を持たされていた。そこは奴隷市場だった。話を聞くと、その奴隷オークションは中級の奴隷即売所であるらしかった。

 出品されていた奴隷の多くは男性で、如何にも労働用という雰囲気だった。たまに女性もいたが、前世基準でも異世界基準でもあんまり美人ではなかった。中には背の低いドワーフ女子やケモミミ女子もいたのだが、ちょっとう~んってなる子ばかりだった。

 そういう経験もあって、俺はこの高級奴隷商会に来たのだ。ここなら、めっちゃ可愛いロリ奴隷がいると思って。

 

 俺視点、この世界は美男美女が多い傾向にあると思う。

 前で言うとクラスで五指に入る女子が集まってる感じだ。無論、一本目と五本目にはまぁまぁ差がある。また、それはあくまで傾向であって例外がない訳でもないのだ。

 何を偉そうにとなるところだが、せっかく奴隷を買えるのだ。ならクラス一位のロリ美少女がいいでしょうよという気持ちである。五位でも全然イケるのだが、そのオークションには圏外女子しかいなかったのだ。

 

「ふむ、イシグロ様」

「なんですか」

 

 そう、此処にはいないらしい。

 いないなら、俺の次の行動は決まった。可愛いロリ奴隷を求め、掘り出し物を探しにいくのだ。

 あのオークションで出品されていなかっただけで、何処かにはいるはずなのだ。可愛い子は、きっと。

 だからもうこの店に用はなかった。申し訳ないが、ご縁が無かったという事でお暇させてもらおう。

 

「現在、当店には適当な商品はありませんが……」

 

 さてどうやって切り出そうかと思っていると、おじさんが平坦な声で云った。

 さっさと話を終わらせたくて、ぞんざいな返事しちゃったよね。

 

「幼い容姿の、背の低いサキュバスなら預かっています」

 

 ん?

 

 背の低い、サキュバス? 幼い容姿って事は、ロリのサキュバス?

 情報はある。この世界のサキュバスは、生まれて一年で成長が完了するらしいのだ。そして、その多くはムチムチボインの男ウケMAX体型をしているのだと。

 また、サキュバスは魔族のうちの一種であり、他種族のオスの精を吸って生きるらしい。誘惑の魔法に長け、本能的に淫蕩を好み、常に他種族のオスを狙っているとか。

 ついでに全員美形らしい。それで低身長ってんなら、つまりロリ美少女……ってコト!?

 

「サキュバス、ですか……?」

「はい。ちょうど、このくらいの大きさの」

 

 言って、店主は手を上げて件のサキュバスちゃんの身長を教えてくれた。

 それは、ロリコン計測で高さ約138センチだった。

 

 身長140未満のサキュバス……。

 エッチな事が大好きな、美少女……。

 ロリ奴隷の、エッチな美少女……!?

 

「彼女はサキュバスの中では落ちこぼれと伺っています」

「落ちこぼれ、というと?」

 

 一拍空けて、奴隷商人は云った。

 

「処女という事です」

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 来てよかった。




 感想投げてくれると喜びます。



 本作を書くにあたり、「古代ローマ人の24時間」と「奴隷のしつけ方」という書籍を参考にしています。
 あくまで参考です。いらないトコは削ってこねてアレコレしてます。ご都合主義です。


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奴隷商人のうちへ遊びに行こう その2

 感想・評価など、ありがとうございます。感謝の極み。
 誤字報告も大変助かっています。重ねて感謝。

 推敲よりも投稿を重視しました。
 変なトコは後々修正します。

 今回やっとヒロインが出てきます。
 まだ性格の大部分は分からないままかと思われますが、まぁキャラクターの方向性は分かるかと。


 この世界には、実に色んな種族の“人”がいる。

 ファンタジーお馴染みのエルフやドワーフ。獣人や鬼人。天使や吸血鬼なんてのもいるらしい。

 中でも最も数が多いのは人間族だ。平均としては貧弱なものの繁殖力に優れ、ほぼ全ての異種族と子を成す事ができるのだ。また、全種族の中で最も戦闘力の上限が高く、最も戦闘力の下限が低い種族であると。個体差が激しいんだな。

 

 これら異世界の種族を大別すると、人間族とそのハーフはそのまま人間種。エルフやドワーフ等は亜人種。吸血鬼族や魔族は魔人種になる。ちなみに、天使族や竜族はちょっと別枠らしい。

 文献によると、それら全ての種族は共通して同じ言語を話し、皆二本足で歩くそうな。これまたちなみに、獣人相手に料理だけ出して食器を出さないという行為は、獣人を獣扱いしているとみなされ殺害も許されるレベルの侮蔑に当たるようだ。異種族コミュニケーションには気を付けよう。

 

 会話ができて、二本足で歩く事ができる。それができる種族は皆、トモダチなのだ。

 つまりこの世界、ケンタウロスやアラクネといった複脚種族はいないらしいのだ。まぁロリコン的にはあんまり関係のない話だな。一応、獣人の中に馬人族というのがあるらしいが、彼ら彼女らも二本足だ。ウマ息子とウマ娘だな、ルビー実装前に転移した我が身の不幸よ。

 

 で、俺が今から購入する予定なのが、魔族のサキュバスである。

 魔族、それは生命の根源を魔力に由来する種族である。曰く、魔族は例え手足が千切れても魔力さえあれば修復されるらしい。逆に魔力が無くなると五体満足でも死んでしまうとか。頑丈だが、儚い。いずれにせよ殆どの人間種よりも強いのだが、その生態の多くは他種族に依存している傾向にあるようだ。吸血鬼とかね。

 

 さて、サキュバスについてだ。

 サキュバス――淫魔は魔族に当たるので、魔人種だ。つまり魔人種の魔族の淫魔さんである。

 淫魔は他種族のオスから精を吸って生きる。これを吸精という。吸精手段は主に性交であり、そうして集めた精を取り込んで魔力を回復し、力をつけ、やがて溜め込んだ精を任意使用して同族の子を産むのだ。あと、生存とか繁殖とか関係なしにエッチな事が好きらしい。

 つまり淫魔にとっては、エッチな事=食事兼筋トレ兼繁殖行為兼趣味なのだ。すごい種族である。

 

「彼女の名はルクスリリア。種族は先ほど申しました通り、魔人種の小淫魔となっています。出身は淫魔王国。前職は高位貴族の召使いをしていたようです」

 

 サキュバスちゃんが来るまでの間、俺は奴隷商人の奴隷紹介を聞いていた。

 こうやって商品の情報がスラスラ出てくるあたり、このおじさんが如何に優秀かが分かるね。カンペもなしにようやる。

 

 数分前、奴隷商人のサキュバスいるぜ発言に飛びついた俺は、前向きに購入を検討したい旨を伝えた。

 するとおじさんは一度ベルを鳴らして従業員に件のサキュバスをここに連れて来るよう命じた。事前に顔見せしてくれるらしい。

 この世界にパネマジはない……ないと信じたいが、「君写真と違うね?」とはなりたくないものである。俺はおじさんの語りを聞きながら、マリアナ海溝の深奥まで沈んだ心を物凄い勢いで浮上させていた。

 

「彼女は母国……淫魔王国内で罪を犯し、女王の裁きによって我が商会に売られました。勿論、正式な手続きの上の売買契約です。その際、淫魔女王手ずからいくつかの呪いを施されたとの事で、現在淫魔としての特性をいくつか封印されている状態です」

 

 どうやら、ルクスリリアちゃんは罪人であるらしい。罪状は知らないが。ついさっき落ちこぼれと言っていたあたり、落ちこぼれ犯罪者という事になる。ロリはモテないらしいし、扱い悪そうな。

 ここまでの話を聞くと、何故店主がロリコンの俺にすぐルクスリリアをオススメしなかった理由がわかる。ロリといえばロリだが犯罪者で、多分もともと性奴隷としての見込みは薄かったのだろう。恐らく、魔族の強靭な肉体を使った労働用の奴隷として売るつもりだったのではないだろうか。サキュバス的に性奴隷制度が罰になるとは思えないし。

 その点、俺のような冒険者に宛がわれるのは罰になるのだろう。なにせ、此処で最上位の契約魔術を施された奴隷は主人が死ぬと連鎖して死ぬ事になるのだ。常時鉄火場にいる冒険者の奴隷となれば、ほとんど処刑みたいなもんである。無論、俺に死ぬ気はないが。

 

「ご存じかもしれませんが、淫魔は誘惑と淫奔の魔法に長け、他種族の男の精を吸い取ります。ですから、サキュバス奴隷の扱いには慎重に慎重を重ねる必要があるのです。これは条約により定められたもので、何の処置もなく商品化する事は許されないのです。仮に一切の枷もない飢餓状態の淫魔を街に解き放ってしまうと、その街が機能を停止してしまう恐れがあるのです」

 

 これじゃあサキュバスが生物兵器みたいな言い方である。

 まぁ確かに、話に聞くサキュバスの魔法を遠慮なしにぶっ放してしまえば一般ピーポーは暴走してしまうのだろう。むべなるかなであった。

 

「ですので、サキュバスを奴隷化する場合、呪いとは別に高度な契約魔術を施す必要があるのです。本来、彼女はうちの傘下の労役用奴隷店に任せる予定でしたが、イシグロ様がお望みとあれば……」

 

 そう言って、再度値踏みするような目を向けてくる店主。その口元はほんの僅かに笑みを作っていた。

 客を試す失礼な態度というより、「わかってますぜ?」というような雰囲気があった。こういう親しさを見せる事で俺の心を解くつもりなのか。

 その企みは分かっている。俺に心を開かせ、財布のヒモを緩めたいんだろう。

 

「いくらですか?」

「王国金貨で150枚となっています」

「買った」

 

 うん、余裕でノッちゃう。

 

 ちなみに、奴隷の値段は前世でいう車に近い感覚だと思う。

 多くの場合、客が欲しがるのは燃費と性能に優れた軽自動車や乗用車だろう、実用性重視、コスパが良い奴が売れる訳だな。デザインが良いと嬉しいよねって感じ。

 対し、高級奴隷はフェラーリとかアストンマーチンみたいな趣味性の高い車扱いになるんだと思う。デザインやブランド性重視で、実用性はそこまで重要視されない感じ。それでも高値で売れるのだから、売り手も買い手もハッピースマイルだ。高い奴はホント意味わからんくらい高い。

 それで言うと、ルクスリリアちゃんは燃費も性能も良いけどデザイン悪くてブランド性ゼロで悪目立ちしちゃうチグハグ高級車になるんだと思う。金持ちは欲しがらないし、コスパ重視勢からすると微妙と。やめよう、この言い方は悲しくなる。

 

「ありがとうございます。ですが、実際にご覧になってからお決めになられた方がよろしいかと」

 

 店主は小さく微笑むと、先ほどまでの雰囲気を霧散させた。

 さっきの掛け合いは冗談。そう顔に書いてあった。

 

「あ、そうですね。つい……」

 

 まあ、ここまでの流れは読めていたんだろう。今のですぐ契約を迫るような余裕のない店じゃありませんよというポーズだ。

 その甲斐あって、俺から店主への心の硬度は柔らかくなってる訳だし。こっちだとこういう商談方法がメジャーなんだろうか。

 

 それから、俺と店主はこの世界のロリコン事情について話した。

 敵と己のお尻だ。ロリについて知ってもらえば、今後もサキュバス以外の顔の良いロリを仕入れてくれるかもしれない。

 

「そうですね、こちらでは未成熟な少女を愛でる習慣は聞きません。やはりあくまでも子供として、ですね。イシグロ様の故郷ではそういった嗜好の方が多かったのですか?」

「どうでしょう、法で禁止されていたので大っぴらに喧伝する人はそういませんでした。私もです。ですが、母国の男性の多くには大なり小なり琴線に触れるモノがあったのではと思います。言わないだけで、皆少女が好きだったのだと」

 

 そうこうしていると、扉の先に気配――アクセシビリティの敵味方レーダー機能である――を感知した。

 控えめなノックの後、「連れて来ました」という男の声。さきほどルクスリリアを迎えに行った従業員である。

 

「入ってください」

 

 店主の許可を得て、扉が開かれた。

 ゆっくりと、木製のドアが開いていく。心臓の音がうるさい。来た、来た、来た。ついにロリの奴隷をこの目にできるのだ。

 

 緊張の瞬間。ファーストコンタクト。運命の出会いである。

 さてさてご対面……と思って凝視していると、そこには全身を真っ黒なマントで覆った小さな邪教徒みたいなのが立っていた。多分、ルクスリリアちゃんなのだろう。実際ちんまい。

 それは首から足首までを黒いマントで覆っていた。ご尊顔はパペットマペット氏の如き黒い袋で隠され、色気もクソもない。一歩彼女が歩み出ると、むき出しの足元からじゃらりと鎖の音が聞こえた。

 

「これは……?」

「万一の事があってはいけませんので、現在彼女からは聴覚を除く感覚を封印しています。イシグロ様ならば平気かもしれませんが、私のような者には淫奔魔術の耐性がありませんので。契約魔術もまだなので、もしもの時は即座に無力化します」

 

 どうやら、サキュバスは俺が思っていたよりも危険な種族として見られているようだ。

 俺なら大丈夫というが、どうなんだろう。そういうデバフ系は薬で無理やり治してきたからどれだけの耐性があるのか分からないんだよな。

 

「クリシュトーさん」

「ええ。封印を解除してください」

 

 ともかく、俺は早く顔が見たい。その気持ちを視線に込めて店主を見ると、店主は従業員に許可を出した。

 まず、頭を負っていた袋が取られた。そこから現れたのは、俺の想像を優に超える美少女の顔であった。

 

 パッと見で分かった。クソかわロリ美少女だ。肌は艶やかできめ細かく、荒れた部分が全くない。そして、ミルクを溶かし込んだように白く、透明感があった。

 顔立ちといい体型といいロリそのものだが、ロリコン目線じゃなくても肌艶だけでかなりの色気がある。前世のジュニアアイドルと100人組手しても絶対勝てる。

 

「おぉ……!」

 

 髪は輝くような黄金だった。ヘアスタイルは前世でいうとミディアムヘアになるんだと思う。毛先が外側にぴょこっとウェーブしていて、大人の女性というよりも少女といった印象が強い髪型だ。

 ぼんやり開かれた瞳はじっと見ていると吸い込まれそうなほど大きい。虹彩は濃いワインの色をしていて、髪と同色のまつ毛は驚くほど長かった。

 真ん丸で大きな双眸の割に、鼻と唇は小ぶりだ。よく聞く表現だが、ルクスリリアはまるで人形の様な顔立ちをしていた。ゴスロリ衣裳でも着れば前世のオタク君を一発KOできそうである。無論、俺の心は既に奪われていた。

 そして何より目につくのが、ヒト耳の上――側頭部にある左右一対の漆黒の角の存在だ。それは鬼や牛王を連想させるような厳つい形状ではなく、羊の様な丸っこい形をしていた。

 

 彼女の美貌に見とれていると、背後に立った従業員が何事か呟いた。わずかな魔力感覚、魔法の詠唱だ。封印とやらを解いているらしい。

 すると、ルクスリリアは寝起きの様に数度瞬きをした。どうやら今の今まで目が見えてなかったらしい。ぼんやりと開いてたさっきと違い、今はパッチリとした瞳が全開だ。

 彼女はロリロリしい顔立ちに対して、その目は蠱惑的に吊り上がっていた。メスガキの目で伝わると思う、あのツリ目だ、大好物である。

 

「ルクスリリア、こちらは銀細工持ち冒険者の“黒剣”のイシグロ様です。貴方のご主人様になるかもしれない方です、失礼のないように」

 

 そしてキョロキョロと辺りを見渡すと、最初に奴隷商人と目を合わせた。

 それから視線をスライドして、俺と目が合った。その瞬間、俺の心臓が跳ねたのが分かった。ロリと目が合った。もうそれだけでドキがムネムネである。

 

「うぁ……ぉぇあ……」

 

 ルクスリリアが何事か云っている様だが、言語になっていない。そういうのも封印されているようで、従業員さんはさらに詠唱を続けた。

 封印解除の詠唱が響く中、俺と彼女はずっと視線を交わし続けていた。

 

「あぅえ……ぉあぁぁ……、ぉうぁい……ぃあぁぁ……!」

 

 繋がれる視線と視線。

 メスガキめいて吊り上がった瞳からは、彼女の感情が伝わってきた。

 ロリコンじゃなくても、分かる。彼女は、助けを求めていた。その眼には恐怖があった。涙は流していない。身体も震えていない。けれど、奴隷となった落ちこぼれサキュバスは、俺という個人に助けを乞うていた。

 これまでのロリコン人生、これほどまでにロリから何かを求められた事があったろうか。いやあったにはあったが、それはお年玉だった。勿論喜んで課金した。「おじさんありがとう」というボディブロウを食らった思い出が蘇る。21歳はおじさんではない。

 ともかく、彼女は俺を救世主でも見るような、縋る様な目で見ていたのだ。理由は分からない。俺を、善人だとでも思っているのか。

 

「はっ……!?」

 

 やがて詠唱が終了すると、行動を制限する封印は解かれたようで、彼女は一度ブクンと身体を震わせた。

 身体の自由を得たルクスリリアは、まず自身の手を見てグッパグッパしていた。マントの隙間から出た両手には、ゴツい手錠がついていた。

 それからもう一度俺と目を合わせると、その大きな赤い瞳を潤ませ始めた。

 

「ルクスリリア、挨拶を」

 

 店主の命令が聞こえていないのか、彼女はなおも俺を見つめ続けていた。滲むような涙はすぐに大粒の涙となり、それは彼女の頬を伝っていった。

 対する俺は、唖然となって彼女の涙を凝視していた。すがる目の理由は分からないが、涙の意味には気づいたからだ。

 

 当たり前の事だった。

 これは、枯れる前の奴隷の涙だった。

 

 分かっていたつもりだった。覚悟していたつもりだった。奴隷を買うという事は、ひとつの命を踏みにじるという事を。一人のロリを泣かせるという事を。

 罪人とはいえ、性行為が罰にならないとはいえ、誰が好き好んで個人所有の奴隷になるというのか。当然、哀しいはずだ。悲劇で然るべきだ。俺はそれを、ロリ奴隷ハーレムなどと嘯いて欲望を満たそうとしている。浅ましく、醜悪だ。自覚のある事を、今こうしてその結果を見せつけられたのだ。

 強者は奴隷の上で嗤い、奴隷は強者の下で泣く。それがこの世界だ。日本じゃない、ここは異世界なのだ。俺が欲望を叶えるには、その事実を飲み下さないといけないのだ。

 

 かわいそうなのでぬく決意を抱かないといけない。

 俺にとって、俺の夢がホントの夢であるならば。

 悪徳に漬かる覚悟がいるのだ。

 

「ルクスリリア、挨拶を」

 

 温和な店主の冷たい声。

 命令された奴隷は、涙を流しながら俺を見ていた。

 ルクスリリアが口を開く。身体が震えている。ジャラリと鎖が鳴ると、背後の従業員が身構えていた。

 

「あ、あぁ……た、たっ……!」

 

 そうして、彼女は……。

 

 

 

「アタシを買って下さいッスゥゥゥーッ!」

 

 

 

 叫ぶと同時、俺に向かってジャンピング土下座をぶちかました。

 唐突な土下座に、俺の葛藤は完全にフリーズしてしまった。店主は額に手をやって「あちゃー」ってなってて、身構えていた従業員も固まっていた。

 俺視点、金色の毛玉が足元にすがりついてるような構図だ。忠誠のポーズというより、命乞いのポーズに見えた。

 

「お願いッス! アタシを買ってください! 料理できます掃除できます家畜の世話もできるッス! ご飯もほんの少しでいいッス! サキュバスは低燃費ッスから大丈夫なんス! 迷宮にも喜んで同行させて頂くッス! 女王陛下の呪いで簡単に死ねない身体なんで! 盾も囮もできるはずッス! 冒険者様ぁぁぁッ!」

 

 最初はただの大声だったのが、台詞の途中から涙&鼻水混じりのダミ声に変化していた。

 彼女は見た目に似合うかわいらしい美声の持ち主であった。しかし、その鈴のような声は、台詞の中盤から先代ドラえもんの如きドラ声になっていた。かわいいのベクトルが変わったのだ。

 

「おぉぉぉ願いしますッスゥゥゥ! 100年無休で坑道掘るのは嫌なんスゥゥゥ! つるはしなんて一度も持った事ないんスゥ! いやぁああああ! 周りに男いるのに一切誘惑できない環境なんて生き地獄ッスゥゥゥ! 冒険者様ぁ! 助けてほしいッスゥゥゥ!」

 

 なんというか、哀れを通り越してギャグだった。

 高級そうな絨毯には、現在進行形でロリの涙と唾液と鼻汁が流れ落ちて水たまりを形成していた。

 

「えぇっと……」

 

 正直、困った。こういう時、どういう顔すればいいか分からない。

 俺は店主を見た。店主は硬度ましましのポーカーフェイスになっていた。

 

「買って下さい! 何でもしますからぁあああ!」

「強制発動、“沈黙”」

「ぐェっ!?」

 

 どうやら店主は魔法を使ったらしく、哀れロリは絞め殺されたニワトリみたいな鳴き声をあげて沈黙した。びっくりして上げられたルクスリリアの顔は、せっかくの美貌が台無しになるレベルでぐちょぐちょだった。

 

「……連れて行って下さい。別室で待機を」

 

 店主の命令は、疲れていた。

 なるほど、真っ先にオススメしない理由のひとつはコレかと、納得した。




 感想ありがとうございます。



 本作、割と解説というか説明というか、隙あらば異世界語りをする訳ですが、「ここ分からねぇぜ!」ってトコがあれば気軽に聞いてやってください。
 割と喜んで答えます。


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ロリに朝が降る

 感想・評価など、ありがとうございます。たすかる。

 来週はどうなるか分からないので今のうちに投稿しときます。

 今回は三人称、ルクスリリアの過去編。雰囲気は軽いです。
 ヒロインの過去編はルクスリリアしかしないかもという保険をかけておきます。


 ルクスリリアは大罪を犯した。

 

 

 

 小淫魔ルクスリリアは落ちこぼれサキュバスである。

 ルクスリリアは同じ小淫魔の母から生まれた下級淫魔だ。平民淫魔など殆どが小淫魔でありぶっちゃけ弱いのだが、ルクスリリアは中でもぶっちぎりのザコサキュバスであった。

 あまつさえ、生まれて一年で身体の成長限界を迎える淫魔にあってルクスリリアは一年経っても幼い容姿のままであった。小さくて細くて胸がないクソザコ淫魔、それがルクスリリアだった。

 

「えーマジ処女!? キモーい!」

「処女が許されるのは一歳までだよねー!」

「う、うるせぇえええ! アタシだって好きで処女やってんじゃねぇんスよ!」

 

 この世の美とは即ち豊満さである。巨乳にあらずんば淫魔にあらず。おっぱいが正義であるならば、ちっぱいは悪になるのだろうか。

 当然のように、ルクスリリアは他種族の男から全然モテなかった。同い年の淫魔がどんどん処女を卒業していく中で、ルクスリリアだけが処女を捨てられずにいた。

 淫魔は処女のまま10歳を迎えると最強の魔術師になれるという言い伝えがあるが、それは嘘だった。何故嘘だと分かるかというと、ルクスリリア当人がそれを証明してしまったからである。

 

「こんなに悲しいのなら……こんなに苦しいのなら……愛などいらねぇッス!」

 

 と、10歳の誕生日で一念発起したルクスリリアは、淫魔王国兵として軍隊に志願した。

 が、ダメだった。一応入隊自体はできたものの、ルクスリリアに兵士の素質はなかったのである。

 

「このクズどもめ! トロトロ走るんじゃない! なんたるザマだ! 貴様らは最低の処女だっ! ヴァージンだっ! この世界で最も劣った魔族だ! そうじゃないと言うなら腰振ってケツの穴絞めろ! エルフの処女みたいにひんひん鳴きおって! みっともないと思わんのかこの純潔吸精鬼ども! 童貞が喰いたいなら強くなれ! 強くなって吸精しろ! 強請るな勝ち取れ! さすれば与えられん!」

「んんぐぉおおおお……! 童貞……! アタシも童貞食べたいッスゥゥゥ……!」

「ルクスリリアァ! ペース落とすなぁ!」

「はいッスゥ……!」

 

 前述の通り、ルクスリリアは身体が小さく、細い。体格相応に体力がなかった。重い物も持てないし、足も遅かった。

 ホントにそれだけなら魔力でどうとでもできるはずなのだが、ルクスリリアにはどうにもできなかった。何故なら、処女だから。吸精した事がないから、魔族にとっての一番大事な魔力が致命的に少なかったのである。

 

「はぁ……はぁッ! き、キツいッス! 無理ッス! なんでみんなそんな動けるんスかぁ!? ヴォエぇぇぇ……!」

「ルクスリリアァ! 何をチンタラやっとるかァ! 貴様ちゃんと男食ってンのかァ!?」

「処女なんスゥゥゥ!」

「あ、悪い。そういうつもりじゃ……」

 

 ぶっちゃけ、処女のルクスリリアには新兵訓練も厳しかった。

 でもガッツはあったので、毎日ヘトヘトになりながらも続ける事はできた。

 しかし、そんなルクスリリアの心をへし折る事件が起きたのだ。

 

「お久しぶりです、レギン卿。今年もどうぞよろしくお願いします」

「こちらこそ。この日の為に新兵どもには禁欲を命じておりました」

「おや、それは頼もしいですな」

 

 淫魔軍の隊長と、人間軍の隊長が握手している。

 淫魔王国兵お楽しみの、他種族との合同訓練(意味深)であった。ついに、この日が来たのだ。ルクスリリアはこの日の為に頑張って来たといってもいい。

 

「それでは、これより合同魔術訓練を行う! 名前を呼ばれた奴らは前に出ろ!」

 

 大きな広間で、淫魔軍と人間軍の新兵たちが向かい合っていた。

 それから、名前を呼ばれた淫魔軍の兵士たちは列になって人間軍の兵士の前に立ち、人間に向かって誘惑魔法と淫奔魔法をかけるのである。人間はその魔法に抵抗し、淫魔はその抵抗を破るべくガチで魔法をかけるのだ。

 そして、見事人間を誘惑できた淫魔は晴れて合格となり試射場(意味深)で寝技鍛錬(意味深)ができるのだ。

 ちなみに、負けた側の兵士は翌日訓練場全体の掃除をさせられるのだが、人間側が掃除するのが慣例だった。

 

「ふぅ……ふぅ……! やるッスよルクスリリア……! アタシはこの日の為に訓練してきたんス。今日こそ処女を捨ててやるッス……!」

 

 合同訓練はつつがなく進行し、試射場では既に何人もの男女がウォークライを上げていた。

 やがてルクスリリアの番が来た。相手は優しそうな印象の兵士だった。隊長の「はじめ!」の号令と同時、ルクスリリアは最高最強の魔法をぶっ放した。

 魔力も練った。魔法も発動した。手応えが、あった。

 

「……あの、すみません。やっぱ無理みたいです」

「ッス……!?」

 

 が、ダメだった。

 誘惑魔法は効いた。淫奔魔法も効いた。実際、彼の股間にはズボンを突き破らんばかりの聖槍が屹立していた。

 けれど、彼の視線はルクスリリアの隣の淫魔新兵にくぎ付けだった。

 ルクスリリアのロリ性が、ルクスリリアの魔法を相殺してしまった様だった。

 

「あーっと……明日、お前は掃除しなくていいぞ」

「はいッス……」

 

 結局、ルクスリリアが誘惑した兵士は、隣の淫魔がペロッと平らげてしまった。

 それどころか、皆が徹夜でお楽しみしてる中、ルクスリリアは淫魔用の部屋で一人寂しく丸くなっていた。

 そんな事があって、ルクスリリアは兵士を辞めた。

 

 軍を抜けたルクスリリアだが、縁には恵まれていた。上官の勧めで、とある貴族の召使いとして雇ってもらえる事になったのだ。

 決して好待遇という訳でもなかったが、そこまでキツい仕事ではなかった。休日もあったし、給金もそれなりにもらえた。処女こそ卒業できなかったが、何気に良い暮らしができるようになっていたのだ。

 しかし、召使いの仕事には一つめちゃくちゃキツい時間があった。

 

「本日は猪人族のガチデ・ハラマース様の一族がお越しになります。失礼のないように」

「はいッス」

 

 ルクスリリアの主人は、頻繁に他種族を招くのだ。すると決まって、夜はレッツパーリィをするのである。

 その間、ルクスリリアは何をしているか。ナニもできないのだ。

 

 大広間では淫魔VS屈強な他種族男衆がドンパチ賑やかにやっているというのに、ルクスリリアは家畜小屋併設の宿舎でひと眠り。朝が来れば下級使用人一同で大掃除である。

 

「うぅ……アタシも男食べたいッス……! もう童貞じゃなくてもいいッス……! ヒトオスなんて贅沢言わないッス……! せめて死ぬ前に吸精してぇッスよぉ……!」

 

 そんな日々が続き……。

 

 いつの間にか、ルクスリリアは20歳の誕生日を迎えていた。

 そして、奴は弾けた。

 

「あぁ~! 童貞ヒトオスの性奴隷になってご主人様にめちゃくちゃにされてぇッス~!」

「リリィ、馬鹿言ってないでこれ運んできて」

「あいッス~」

 

 ルクスリリアは処女をこじらせていた。

 通常、淫魔は位階が低い程性欲・精力共に弱く低燃費であると言われる。

 しかしながら、ルクスリリアは生まれつき性欲だけは並外れて強かった。そんな性欲激つよ処女サキュバスは、20を超えた瞬間なにかどこかがおかしくなっていた。

 

 それから、しばらく。

 悪い意味で運命の出会いがあった。

 

 ある日、いつものように主人の淫魔が他種族男性を招いた時の事。

 そのご一行の中に、如何にも童貞な人間族の少年がいたのだ。

 仕事の最中、その少年と目が合ったルクスリリアは……。

 

「そろそろ狩るッスか♡」

 

 完全に危ない淫魔になっていた。

 

 夜、ルクスリリアはトイレ中の少年にこっそり接近し、誘惑魔術を使った。

 しかし、失敗した。普通にレジストされ、他の人を呼ばれ、同意なく客人に手を出そうとしたとして大問題になった。

 

 かつて、淫魔はあらゆる種族の女性からウンコのついたお菓子の次に嫌いな種族と言われていた。

 なにせ勝手に男を誘惑して連れて帰るのである。そんで絞り殺す。何気にヤバい。男特攻だ。男が大半を占める軍相手の場合、サキュバス軍はマジで強かった。

 

 それから色々と歴史的なアレコレがあったりして……。

 

 現代、サキュバスの大半はひとつの国に引きこもって暮らしている。

 人間族の国で住んでる淫魔もいるが、彼女等は極めて強い理性を持っている希少種だ。

 

 同意のない吸精の禁止。一方的な淫魔特性の行使の禁止。他国での誘惑行動全般の禁止などなど……。

 こういった条約を結び、淫魔はようやっと他国や他種族と手と手を結んで生きる事ができるようになったのだ。

 

 今の淫魔は大人しい。そうであれと教育される。

 時たまやってくる観光客や行商人、あるいは国が招いた人たちを食べて生きる。もちろん、両者同意の下で、決して絞り殺さないよう加減をする。

 それを破った淫魔は重罪人として扱われる。まして、高位淫魔の客人に対して誘惑魔法を行使しようものなら……。

 

「てなわけで~! リリィちゃん? キミぃ、奴隷堕ち!」

「ひえぇええええええ!」

 

 残念でもないし当然の裁きであった。

 むしろ温情ある処置とも言えた。相手側が怒ってないというのもあるが、ルクスリリアが処女であるというのもある。

 えぇ……その歳で処女なの? あ、そうなんだ……。じゃあ、我慢難しいよね……という同情意見が多数寄せられたのだ。

 でも、罪には罰が必要であった。

 

「安心して。奴隷って言っても人間族のところに売るから、運が良ければ性奴隷にしてもらえるかもよ?」

「それ本気で言ってるッスか?」

「ん~? 世界は広いから、もしかしたらリリィちゃんみたいなちんちくりんが好きっていうヒトオスちゃんもいるかもよ?」

「いる訳ねぇでしょうがぁああああ!」

 

 そんなこんな。

 

 晴れて奴隷身分となったルクスリリアは、淫魔女王直々にいくつかの呪いをかけられ、出荷される事となった。

 檻に入れられ、ドナドナされるルクスリリア。遠ざかる淫魔王国を見ながら、ルクスリリアは……。

 

「クソソソソソソ……! いつか絶対伝説の超ビッチになってアタシを馬鹿にした奴全員見返してやるからなぁぁぁ! 角洗って待ってろッスゥウウ! これで勝ったと思うなッスよぉぉぉ!」

 

 不屈の精神で己の処女魂を燃やしていた。

 そう、ルクスリリアにはガッツがあるのだ。

 

 

 

 さて、時は進んで奴隷商館。

 

 ルクスリリアは、運命の男と出会う。

 今度は、良い運命だ。

 

「ルクスリリア、こちらは銀細工持ち冒険者の“黒剣”のイシグロ様です。貴方のご主人様になるかもしれない方です、失礼のないように」

 

 閉ざされていた瞳が開くと、目の前には二人の男がいた。奴隷商人の男と、もうひとり。

 黒髪黒目。並みの淫魔以上の魔力量。如何にも高そうな服を着て、首に高位冒険者の証である銀細工を下げていた。

 そして、驚くべき事が二つあった。

 

「うぁ……ぉぇあ……」

 

 イシグロという男は、童貞だった。

 ひと目で分かった。彼はピチピチフレッシュの汚れなき童貞だった。その身に巡る魔力に混じって、童貞特有の香りがぷんぷんしていた。これまで見てきた男の中で最も美味しそうだった。

 そして何よりも、イシグロはルクスリリアを見て、性的に興奮していたのだ。

 

「あぅえ……ぉあぁぁ……、ぉうぁい……ぃあぁぁ……!」

 

 一瞬、ドッキリかと思った。故郷のいじめっ子が良い感じのタイミングで現れて「ドッキリ大成功~!」ってやった後に目の前でこの男を喰い始めるのだと思った。

 だが、それはなかった。イシグロの曇りなき瞳には、ルクスリリアへの強すぎる情動が満ちていた。

 それはルクスリリアが一度として感じた事のない感覚だった。いつも他の淫魔が向けられていた情欲に満ちた瞳だった。羨ましかった。妬ましかった。いつか自分もと渇望し、ついぞ手に入れられずにいた視線だった。

 

 イシグロという男は。

 童貞で、ヒトオスで、ルクスリリアに欲情できるご主人様候補だったのだ。

 

 だから……。 

 

 

 

「アタシを買って下さいッスゥゥゥーッ!」

 

 

 

 こうなった。




 感想投げてくれると喜びます。



 ちなみに、サキュバスは平気で100年以上生きます。淫魔の20歳はまだまだヒヨッコです。
 軽い口調で話してる淫魔女王は1000歳超えてます。


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ロリコンの見る夢は、黒より暗い暗闇か?

 感想・評価など、ありがとうございます。直でモチベになっています。
 誤字報告も助かっています。ありがとうございます。申し訳ない。

 今回、最後にアンケートがあります。
 しょうもない変化ですが、お答えいただけると幸いです。
 こういうの普通にやります。


 俺はロリコンである。

 

 それも二次限定のロリコンでなく、普通に三次もイケちゃう類のヤバめのロリコンだ。

 二次の初恋はとある金髪ツインテ高速戦闘型魔法少女だった。実在女性への初恋は友達の妹だった。

 そして、画面の中の三次ロリへの初恋は、とある映画のヒロインだった。

 

 前世、俺はハリ〇タのハーマ〇オニーが好きだった。

 金曜ロードショーでたまたま見た「〇リー・ポッターと賢〇の石」。この映画に出ているハーマイオ〇ー・グレン〇ャーに一目惚れしたのだ。

 

 なんだあのメスガキ可愛すぎるだろ! というのが率直な俺の気持ちだった。

 あまりにも可愛くて、休みの日にさっそく続編映画を観た。秘〇の部屋のハーマイオニ〇も信じられないくらい可愛かった。

 □ンに呪文を教える時の勉強のできるクソガキっぷり。あのクソ長マフラーを巻いていたウィンタースタイルの悪ガキっぷり。完全にツボだった。今思うと、ハーマイオ〇ーは俺のメスガキ嗜好の走りだった気がする。当然、俺はメスガキ大好きだ。

 

 魅惑の魔女〇ーマイオニー・〇レンジャー。

 しかし、またも俺の恋は砕け散った。

 

 秘密の部屋を見終わり、さて次の映画を観ようかなと思って、ワクワクしながら見始めたアズカ〇ンの囚人。

 そこには、すっかり大人になったハー〇イオニー・グ〇ンジャーの姿があったのだ。

 

 メスガキというよりティーンエイジャー。幼女というより少女。少女というより美女。ハーマ〇オニーは、大人になっていたのだ。ロリコンの俺、無事死亡。

 そんな事もあり、俺はアズカバ〇以降のハリポ〇を知らない。俺にとってのハーマ〇オニー神話は、秘密の部屋で終了したのだ。

 おそらく、この経験をしたロリコン諸兄は結構多いのではないだろうか。

 

 仮に、である。

 

 仮に秘密の部屋のハーマイ〇ニーが、ずっとあのままの姿であったなら。

 身体的に成長せず、ずっとメスガキのままであったなら。

 それは、とても素晴らしい事だと思うのだ。

 

 自分、ロリコンですから。

 

 

 

 あの後、結局俺は奴隷商人にルクスリリアを購入する旨を伝えた。

 例の奇行にはちょっとビックリしたが、理由はどうあれああも求められると断る選択肢はなかった。

 そも、エタロリだ。最高である。言い方はアレだが、ルクスリリアはハーマ〇オニーより好みだったのだ。此方も抜かねば不作法というもの。

 

「……と、このように淫魔の奴隷には様々な制約がありまして。もしこのいずれかに違反してしまった場合、その責任はすべてイシグロ様が負う事になります」

 

 購入するぜと言ったら、今度は店主の口からいくつか注意事項を伝えられた。

 事項は色々あったが、要するに大型犬とかに近い印象だ。もし犬が他の人噛んだら飼い主の責任になるよ、みたいな。これのサキュバス版だ。

 

「では、こちらの契約書にサインと指印を」

 

 で、説明を受けると、前世基準でも綺麗な紙を渡された。その紙はA4用紙ほどの大きさで、ところどころに装飾のついた豪華な契約書だった。また、その紙全体からうっすら魔力の反応があった。

 そこには異世界語で書かれた文章と、サイン箇所と指印箇所であろう空白部分があった。書くべき場所は明白なのだが、ちょっと問題があった。

 

「すみません。私、この国の公用語が書けないのです。母国語なら書けるんですけど……」

「左様にございますか。ですが、ご安心ください。こちらの契約書には翻訳魔術が施されてありますので、イシグロ様の母国語でも問題ございません。ですが、偽名はお使いになりませんよう。偽りの名では契約魔術を結ぶ事はできないのです」

「あ、そうなんですね。では」

 

 よく分からんが、この紙は翻訳こんにゃく化されてるらしい。多分、ここが高級奴隷商会だから施されてるサービスだな。

 言われた通り契約書に日本語でサインすると、書いた漢字が青白い光を放ち、収まると同時に「石黒力隆」の上にこの世界の文字でフリガナが振られていた。何気に凄い魔法だ。まさにファンタジーである。

 OKらしいので指印も押すと、ほんの僅かに魔力を吸われた感覚があった。これで契約完了である。

 

「ご契約頂きありがとうございます。では、奴隷証を」

 

 契約書を確認したおじさんは、次いでこれまた高そうな小箱から“奴隷証”なるものを渡してきた。

 促されるまま手に取ると、それは細いチェーンと板で構成された銀の首飾りであった。

 

「これは?」

「奴隷の身分を証明するものです。これを身に着ける事により、その者が誰の所有奴隷であるかを証明します。魔力を注いでいただければ、イシグロ様の名が刻まれます」

 

 奴隷証というそれは、前世でいうドッグタグによく似ていた。表面にはこちらの文字でルクスリリアの名前があり、裏面にはこの店の情報が書いてある。

 手で握って魔力を流すと、空いたスペースに俺の名前が浮かび上がってきた。イシグロ・リキタカの所有奴隷。ルクスリリアちゃんの証明証だ。

 

「これをルクスリリアの首にかければ、奴隷契約が完了します」

「なるほど……」

 

 ドクン、と。俺の心臓が高鳴った。

 それは、そのまんま、飼い犬に首輪をつけるのと同じではないか。

 あのルクスリリアにつける、俺の奴隷であるという証。

 たぎらない訳がなかった。

 

 

 

 それからしばらく、ルクスリリアには準備がいるとの事で店主と雑談して時間を潰していた。

 その間、俺は店主から商談を受けていた。

 

「ええ。私であればイシグロ様のお好みに合う奴隷を選別し、良い状態で提供する事ができます」

 

 奴隷商人のおじさん曰く、俺が求めるような奴隷……美少女ロリ奴隷というのは、あまり奴隷市場には回ってこないらしい。需要がないからだな。でもまぁ、いない訳でもないと。

 そこで、界隈に顔の広い店主が手ずから選別して上質なロリ奴隷を俺の為だけに紹介してあげるよとのお話だった。俺の好みは既に伝えてあるので、そこはある程度信頼していいと思う。

 その代わり、お値段は手間相応とな。

 

「ありがたいですね。ぜひ」

 

 当然乗るよね。

 ルクスリリアは俺が夢見たエタロリだが、俺の夢はロリハーレム。ハーレムというからには、第二第三のロリが必要不可欠なのだ。

 それを集めてきてくれるというのだ。感謝、圧倒的感謝である。もともと最上級のフェラーリを買うつもりだったのだ、ハイエースくらい全然余裕である。

 

「かしこまりました。商品を見つけ次第、使いの者を出しますので、それまでお待ちください」

 

 あと、ルクスリリアは存外安く買えた。

 雑談で提示してきた金貨150枚は冗談だったようで、実際にはその四分の一程度の値段で買えた。

 俺にとってのルクスリリアと、商人にとってのルクスリリアの値段の差だな。少なくとも、俺からすると金髪赤目ロリサキュバスを買えるのなら王国金貨150枚程度普通に出せるし、そのつもりだったのだが。

 

 そうこうしていると、再度敵味方識別レーダーに感があった。

 ルクスリリアと従業員がやってきたのである。

 

 ノックの後、店主の許可が下りる。ドアが開くと、そこには素顔のままのルクスリリアがいた。

 前と違い、今度はちゃんとした服を着て……なかった。

 

 別に全裸って訳じゃない。全裸じゃないが、今のルクスリリアはとても露出度の高い服を着ていた。隠しているのは胸周辺と股間周辺だけで、肩も腹も太もももガッツリ出ていた。前世でいう水着程度しか着込んでなかったのである。

 サマーメスガキ、そんな第一印象を受けた。

 

「ルクスリリア、今日からあなたのご主人様になるイシグロ様です。挨拶を」

「は、はいッス!」

 

 店主の命令に、ルクスリリアは新兵の様にピシッと返事をした。聞いていた通り、従軍経験をうかがわせる起立姿勢だった。

 見ると、彼女の肌艶はさっきよりも良くなっていた。契約書を書いてる間に風呂に入っていたのか、むさい男共の中にあって石鹸に混じった甘酸っぱいロリの匂いがした。

 

「い、イシグロ様! 買ってくれてありがとうッス! あーっと、頑張るッス!」

 

 新兵のような起立姿勢から、童貞のような挨拶が飛んできた。

 気持ちは分かる。見なくても分かる、多分店主は「あちゃー」みたいな顔をしている事だろう。

 

 というか、今気づいたのだが、ルクスリリアの背後に黒い紐みたいなのが見えた。それは小指程の太さで、先端にはたけのこの里みたいな突起がついていた。

 これ、アレだ。悪魔の尻尾だ。尻尾は彼女の感情を表すように左右に揺れており、先端が常にこちらを向いていた。どうやら感情と動きが連動しているタイプの尻尾であるらしい。まるでシャミ子みたいである。新刊読みたかったなぁ。

 

「あーっと……こちらこそよろしく」

 

 などと考えていたからか、俺も俺で童貞みたいな返事をしてしまった。間違っちゃいないが、なんだか恥ずかしい。

 

「イシグロ様、奴隷証を」

「あ、はい」

 

 ソファから立ち上がると、俺はルクスリリアに接近した。手が届く距離まで近づくと、その目線の差に驚いた。

 わかっちゃいたが、ルクスリリアは本当に小っちゃかった。彼女の背丈は俺の肩ほどもなく、こうも接近すると首が痛くなるくらい見下ろさないといけない。逆にルクスリリアの視点だとほぼ真上を見ている構図だ。

 これだとキツイだろう。俺は片膝をついて、目線を合わせた。

 

「じゃあ、付けるよ」

「はいッス。んっ……」

 

 そして、極力彼女の肌に触れないように、ドッグタグの鎖を通していった。

 鎖をくぐらせる際、手の甲が髪に触れると、ルクスリリアはくすぐったそうな声を漏らした。

 後頭部の当たりで鎖を繋げる。動作の都合上、顔と顔の距離が近い。真紅の双眸が俺の黒目を反射しているのが見えた。

 

「これからよろしく。ルクスリリア」

 

 手を離すと、奴隷証がちゃりんと鳴った。

 

「はいッス!」

 

 ルクスリリアは、何か物凄いにんまり顔になっていた。

 

 

 

 

 

 

「本日は我が商会の奴隷をお買い上げいただき、誠にありがとうございました。それでは、イシグロ様。今後とも我が奴隷商会をどうぞご贔屓に」

 

 館を出ると、時刻は既に夕方になっていた。

 

 店主自らお見送りをされ、俺とルクスリリアは奴隷商館を後にした。

 主人と奴隷、二人きり。とりあえずはと、俺は人生初奴隷を連れて宿屋の方へと歩き出した。

 

「きひひっ、イシグロ様はどんなトコロに住んでるんスかぁ?」

「あぁ……同じ西区の宿屋で生活してるよ」

「へぇ~? そこどんな部屋なんスかぁ?」

「まぁまぁ広いよ。一階にはお風呂があるし、それなりに綺麗なトコロ」

 

 店を出て、しばらく。

 奴隷商館が見えなくなったあたりで、ルクスリリアは道中あれこれと話しかけてきた。

 最初の方は奴隷らしく? 三歩後ろをついてくる感じだったのが、いつの間にか俺の真横を歩いていた。

 見ると、彼女は何が愉快なのかにまにまと笑みを浮かべていた。

 

「きひひ……歩き姿もサマになってるッスねイシグロ様ぁ♡」

「そ、そうかなぁ……?」

 

 なんか、よく分からない表情だった。

 初対面の時、彼女は俺に土下座して自身の購入をせがんできた。それが叶って喜んでるのかもしれないが、ちょっとベクトルが違う気がするのだ。

 

「イシグロ様ぁ♡ 迷子になるといけないんでぇ♡ お手々繋いでもいいッスかぁ?」

「お、おう?」

「わぁ~♡ イシグロ様の手ぇ♡ 大きくてカッコイイ~♡」

 

 うん、あの……なんだろう、これ。

 ロリと手をつなぐのは、前世からの俺の夢だった。それをこんなガチかわ美少女と叶えられるなんて、最高にハッピーだしめちゃくそ興奮する。

 するんだけど、なんだろうこの気持ち。行った事ないけど、キャバクラとかの接待を受けてるような感覚がするのだ。

 

「きひひひひっ……!」

 

 横目をやると、ルクスリリアはなおも満面スマイルだった。

 ついでに握った手をもう片方の手で包んでいた。さながら遊具のタイヤにしがみつくパンダの様。

 

「え!? イシグロお前、そいつぁ……?」

 

 と思っていると、何やら聞き覚えのある声がした。

 振り向くと、そこには見るからにオフな雰囲気の受付のおじさんがいた。彼は屋台で買ったと思しき串焼き肉とお酒を持っていた。

 

「お疲れ様です。今日は休みですか?」

「あ、まぁな……。いや、お前こそ街で見るの初めてなんだが」

「普段から休みは取ってますよ」

「そりゃ、そうなんだが……」

 

 言うと、おじさんは目線を下げて俺の手を握ったままのルクスリリアを見た。

 ルクスリリアは何故か首の奴隷証を見せつけるようにして堂々とした態度を取っていた。

 

「えっと、サキュバスの、奴隷か……?」

「はい。ルクスリリア、この人はギルドのおじ……お世話になっている職員さんです。挨拶して」

「はいッス」

 

 主人ってこれでいいのかなと思いつつ命令すると、ルクスリリアは軍隊仕込みの起立姿勢を取り、自信満々に答えた。

 

「アタシはルクスリリア! 出身は淫魔王国ッス! この度、イシグロ・リキタカ様の奴隷となりましたッス! 元淫魔王国軍所属、退役後はボンキュー侯爵家に侍従として仕え、その後紆余曲折あってイシグロ様の奴隷となった身でありますッス!」

「お、おぅそうか……。元王国兵で元貴族の侍従……?」

「はいッス!」

 

 おじさんが神妙そうな顔をしている。

 

「へっ……そういう事か。なるほど、流石だ」

 

 かと思えば、何やら合点がいったみたいな顔になった。

 何がどう流石なのかは知らないが、異種族奴隷を買うなんて凄いわねみたいなノリだろうか。

 

「じゃあな。急に声かけちまって悪かったな。次も、生きて帰って来いよ。お嬢ちゃんもな」

「はあ」

「はいッス!」

 

 何が流石なのかは分からないが、そう言うとおじさんは街の喧噪に消えていった。

 そして、何故かルクスリリアはドヤ顔になっていた。異世界人特有の何かだろうか。

 

「イシグロ様、尊敬されてるんスね♡」

「どうだろ。真面目な冒険者やってるとは思うけど」

「銀細工持ちなんてそうそういないじゃないッスか♡ そんな主人に仕える事ができて、アタシは嬉しいッス♡」

 

 そう言って、今度は大胆に腕を組んできた。

 いや腕を組む、というよりしがみ付いてきたのが近いだろうか。

 と思った、次の瞬間であった。

 

 ――ふにゅん、と。

 

 前腕に、柔らかい感触があった。

 柔らかいといっても、それはふわふわもちもちした感じじゃなかった。ほんの僅か、ほんの小さなソレ。BでもCでもない、Aのアレだ。

 手をつなぐ、なんてチャチなもんじゃあ断じてない。触れ得ざる胸。即サツボンバー。前世における、禁忌の中の禁忌。

 

「さっ♡ アタシ等のお家に行くッスよ♡ イシグロ様ぁ♡」

「はい……」

 

 イエス・サキュバス・ゴー・タッチ。

 

 その瞬間、俺の思考はふにゃふにゃのマシュマロ状態になった。

 布一枚隔てた平たい胸の感触が、俺のどうでもいい葛藤を取り去って行ったのである。

 

 そうだった。そうだったのだ。

 この子の身体はもう俺のものなのだ。

 普段努めて奥底にしまっている危ない欲望がむくむくと鎌首をもたげてきた。

 

 あ、ヤバい。

 

 勃起した。

 

 

 

 ぼんやりしたまま宿屋に着くと、俺たちは主人への挨拶もほどほどに借りた部屋へと直行した。

 部屋に入ると、俺は前かがみ歩行を止めて息を吐いた。

 

 仮の宿だが、やっぱり落ち着く。

 

 広いワンルームといった感じの部屋である。部屋の隅には大きなベッドがひとつあって、クローゼットとテーブルセット。それと魔法式暖炉の前のソファ。異世界基準、結構いい部屋だ。

 そんな部屋に、俺とロリだけがいた。

 

「お着換え手伝うッス♡」

「ん、あぁ、ありがとう」

 

 言うと、ルクスリリアは服を脱ぐのを手伝ってくれた。

 今は奴隷商館用に買った高い服を着ているので、色々と着込んでいるのだ。着慣れないこれは、ごてごてしていて着るのも脱ぐのも大変である。

 上着を脱ぎ、銀細工を外し、そのままシャツとズボンも……。

 

「どうなさいましたッスか? イシグロ様ぁ♡」

「あ、いや、なんでもない」

 

 一旦止まってしまったが、もうどうしようもない。

 俺は購入したばかりの奴隷に、ズボンを脱がしてもらった。

 

「あは~っ♡♡♡」

 

 そうして、前世から愛用していたボクサーパンツ越しに、俺の股間のジオングがパオングになっている様を視られてしまった。

 あぁやっちまったという感覚。前世、こんな事やったら間違いなくポリス案件だった。後戻りできない気持ちと、毒を食らわば皿までの精神が俺の心を押していた。

 するとどうだろう。見られた事でGジェネ進化を果たしたのだろうか。俺のパオングはα・アジールとなり、ネオ・ジオングと化していったではないか。

 

 いや、これはユニコーンだ。

 デストロイモードになったのだ。

 もう止まれそうになかった。

 

「ルクスリリア……!」

「はいッス♡」

 

 ルクスリリアの肩をつかみ、立ち上がらせる。

 見上げる瞳を見つめる。視線を下げ、唇を見た。とても小さくて、柔らかそうだった。荒くなる鼻息を我慢できなかった。

 呼吸する度、俺の心臓はドクドクと大きく跳ねた。心身ともに、興奮が最高潮にまで達していたのだ。

 

 思えば、よく我慢できたものだ、

 三か月間、ずっと戦ってきた。来る日も来る日も化け物を斬り、潰し、時に死にかけたりした。

 それもこれも、今日この日、この時の為だったはずなのだ。

 

 なのに、今になってチキってどうする。

 もう分かるじゃん。相手はサキュバスだ。散々話を聞いて、そういう種族なのわかってるじゃん。

 据え膳だろう。このまま、食うしかない。

 

「服を脱げ」

 

 俺は、ついに一線を超える覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 一旦切り替わって、ルクスリリア視点。

 

 運命の相手を見つけ、無様購入懇願土下座をぶちかまし、色々あってマジで買われてしまった訳で。

 所有物である証明をつけられ、手を握って歩き、話してみて、分かった。

 

 ついに我が世の春が来たのだ、と。

 

 しかしこのこじらせ処女、生まれつき性根がひん曲がっている。

 ルクスリリアという淫魔は、純朴でも純真でも純粋でもないのだ。犯罪やっても懲りないし、生まれてこの方反省なんてした事ない。

 割と性格の悪い女であり、良い性格をした女であるのだ。

 

 さて、そんな彼女はこの時、何を考えていたか。

 宿に連れられ、身体を掴まれ、逃げ場を失くした拗らせ処女が、

 今にも純潔を散らそうとしていた淫魔が、何を思っていたか。

 

 それは……。

 

 

 

(あは~! 童貞ヒトオスくんクッッッソちょれ~! 最初はびっくりしたッスけど、淫魔女王が言ってた通りアタシに勃起する男もいたんスねぇ~! 顔真っ赤にして鼻息荒くして、かっわいい~!)

 

(きひひっ……! この男、強いだけの阿呆ッス! 戦っても勝てやしねぇッスが、夜のバトルで淫魔が人間なんぞに負ける訳ねぇんスよね! いっちょここでアタシのテクでわからせて、主導権握ってやるッスよ! そんでじっくり調教してアタシ専用ミルクタンクになってもらうッス!)

 

(さぁ! いつでも来いッス! その童貞、もらい受けるッス!)

 

 

 

 なんて事を考えていた。

 

 まあ、お分かりだと思うが。

 無理な話である。

 

 イシグロ・リキタカは、既にこの世界基準でも相当な強者である。

 レベルという絶対法則をその身に宿し、幾多の怪物を屠ってきたイシグロは、既にそこらの魔族を鼻で笑える程度の肉体能力を持っているのだ。

 

 さて、そんな英雄が、

 英雄の力を持つロリコンが、

 

 ただの耳年増の淫魔に、

 20年間処女をこじらせてきただけのメスガキに、

 

 負ける道理があるだろうか。




 感想投げてくれると喜びます。



 今回のアンケは頂いた感想に触発されて実施したものになります。
 このように、本作は皆さまのご意見・ご感想を積極的に取り入れていくスタイルでやってく予定です。
 ぼんやりちょっとずつ世界観を広げていきましょう。


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ロリサキュのチュロスの夢は夜開き、勇者のランスは聖槍ならぬ性槍で、サンシタメスガキは永遠にわからせ!

 感想・評価など、ありがとうございます。励みになってます。

 タグ増やしました。今回、少し過激な表現が出てくるので、もしダメだったら大人しく18版にこのエピソードだけ投稿します。
 まぁ大丈夫だとは思うんですけど……。直接描写はしてませんし。
 レビュアーズとかもOKなんやし、いけるはず。

 アンケートのご協力、ありがとうございました。
 アンケの結果、ルクスリリアからの主人公の呼び方は「ご主人」になりました。
 普段は「ご主人」。感想欄で頂いたアイデアで、デレると「ご主人様」みたいになりますかね。



 古代ローマ皇帝、マルクス・アウレリウス著「自省録」には、このような一文がある。

 

『あらゆる行動に際して一歩ごとに立ち止まり、自ら問うてみよ。死ねばこれができなくなるという理由で死が恐るべきものとなるだろうか、と』

 

 

 

 前世、俺はそんなに“死”が怖くなかった。

 どうせ皆死ぬし、普通じゃね? くらいに思っていた。観たいアニメがあったし、やりたいゲームもあったから、死にたい訳でもなかったが。

 それはそれとして、いつ死んでもいいくらいの感覚はあった。その上で、まぁまぁ幸せを享受できていたのだ。元来そんな物事を深く考えないってのもある。ある意味、そういうのもあってすぐに異世界に順応できたのかもしれない。

 

 幸せだから、死にたくないし、生きてたい。

 しかし生に執着はしてない。

 そんな感じ。

 

 それは多分、俺の中の“生きがい”が稀薄だったから、そうであったのだと思う。

 アニメもゲームも楽しいが、それは楽しいから好きなのであってこれが無いと死ぬぜ! とはならない。

 アニメがなくても、まぁ生きれる。ゲームがなくても、まぁ生きれる。生きていきたくなくなるだろうが、死にたくなるほどのものではない。

 

「ちゅっ……ちゅぅ……。ん……ちゅ、はぁ♡ あぁ~、いいッスよイシグロ様♡ 上手ッスよ♡」

 

 が、今の俺は違う。

 これがないと死んだも同然、というモノが見つかったのだ。

 ルクスリリア。本物のロリサキュバス。俺の奴隷。

 この娘と離れる事など、考えられない。

 

「きひひっ、なんスか? 淫魔は母乳なんて出さないッスよ? ほら、良い子良い子♡」

 

 どこかの誰か、多分哲学者の言葉に、「愛されるにはまず愛しなさい」みたいなのがあったと思う。

 別に、恋愛がしたい訳じゃなかった。見返りを求める事自体、おこがましい事だとも思った。それでも俺は彼女を全身全霊で愛した。

 前世の偏った知識を総動員して、何とかよくなってもらおうと頑張った。けど上手くいかなかった。最初など、ほんの一瞬で腰砕けになってしまった。

 情けなさと、夢の一部が叶った幸福感で心がぐちゃぐちゃになった俺は少し泣いてしまった。

 

「も~、しょうがないッスねぇ~♡」

 

 ルクスリリアは、そんな俺を抱きしめ、頭を撫でてくれた。

 するとまた元気になった。

 

「あは~♡ 流石銀細工持ち冒険者~♡ こっちの方も不屈ッスね~♡」

 

 その後、俺は続けてルクスリリアと情を交わした。

 

「んん~♡ はぁ~、お腹いっぱい食べたの生まれてはじめてッス~♡ 他の淫魔が夢中になる訳ッス♡」

 

 何度も、

 

「へぇ? 人間にしては体力あるんスねイシグロ様ぁ? でも大丈夫ッスか? これ以上やると絞り殺しちゃうかもッスよ?」

 

 何度も……、

 

「はぁ……はぁ……や、やるじゃないッスかイシグロ様。童貞とは思えぬ勇気、賞賛に値するッス……! けどね、そういう勇気はヒップの勇、ホンモノの勇気じゃないッスよ。えっ、もっかいッスか?」

 

 何度も何度も、

 

「はぁ、ン! ……はっ、はっ、はっ! ちょ、ちょっと待つッス! 流石に吸精が追い付かないッス! あ、あんたホントに人間かよォ!? ひぎぃッ!?」

 

 何度も何度も何度も、

 

「んぐぉぉぉおおおおおッ!?」

 

 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も……。

 

 

 

 で、多分12ラウンド――スプラッシュは計算しないものとする――が終わったところで、俺くん思った。

 流石に元気過ぎない?

 

 前世、俺は健康的な一般ロリコンだった。

 性欲も精力も並み程度で、そんな一日に何度もトランザムできるほどGN粒子貯蔵量は多くなかったはずである。

 しかし今は、どうだ。時間は分からないが、夕方から今にかけて12ラウンド。まだまだ余裕であった。余裕どころか、終わる度にすぐもう一回もう一回とライザーソードの発動準備に入るのである。

 おかしい、やっぱこれはおかしい。

 

「はあっ! はあっ! はあっ! はあっ! うっ、はっ! あぁ……はっ、はぁ……はぁ……!」

 

 12ラウンド終了直後、ルクスリリアは打ち上げられた魚みたいになっていた。

 淫魔であっても大連続狩猟クエストは厳しかったようで、身体びくびく息も絶え絶えといった様子だ。シビレ罠を使えば捕獲できそうである。

 

 ルクスリリアが息を入れている間、しばし休憩となって俺はいつもの癖でコンソールを開いてみた。

 したらビックリ。別にダメージを食らってもいないにも関わらず、HP・MPが減少していたではないか。死ぬ寸前とは言うまいが。

 HPは四分の一程度、MPに関しては五分の三程度減っていたのである。

 

 ゲーム的不思議法則がまかり通る異世界。多分、これはサキュバスの種族特性の“吸精”の影響なのだと思う。HPかMPか、あるいは両方かを吸われたのだ。もしくはトランザムバーストで減ったのか。

 

 ふむ、実に興味深い……。

 HPゲージとMPゲージをHUDに表示して……。

 実験してみよう。

 

「リリィ、もう一回いい?」

「ひぃ!? ま、まだやるんスかぁ!?」

 

 なので、13ラウンド開始である。

 いくら童貞の俺でも、こうも回数をこなすと上手くなる。俺は独りよがりにならないよう、ルクスリリアの弱点属性を攻めまくった。

 イシグロの みだれづき! こうかはばつぐんだ!

 それからしばらく、俺はノルマ達成からのハイドロポンプをぶっ放した。ルクスリリアは たおれた!

 

「はぁ……はぁ……! も、もう腹ん中がぱんぱんッス……!」

「お、やっぱりな」

 

 結果、俺のHPとMPが両方減少したのが分かった。

 その減少幅は若干MPのが多く、HPは僅かだった。多分ステータスの生命力と魔力の差だと思う。

 どちらが作用しているのかは分からないが、ステの高さが性の元気さにつながっている感じだろうか。実に不思議である。俺の身体どうなってんだ。

 

「ばび!?」

 

 なのでもう一回。

 気持ち良かった。

 

「でぃん!?」

 

 あともう一回。

 気持ち良かった。

 

「げるずげー!?」

 

 あともう1ターン。

 気持ち良かった。

 

 まだ終わらない。

 

 まるでかっぱえびせんの様である。止められない止まらない。

 ふと見ると、ルクスリリアは使い過ぎたボロ雑巾みたいになっていた。俺はルルーシュじゃないので捨てる気は皆無である。むしろ使い続ける。

 

「あっ……あひ……、ひ……あぁ……」

 

 まぁ世の中色々興奮するものってのはありますけど、一番興奮するのってのは所有奴隷のメス顔ですよね。

 間違いないね。

 興奮してきたな……よし行くか。

 

 

 

 そうして、時が過ぎ。

 

 気がつけば歳の数だけファイトしていた。

 恐るべしルクスリリア、魔性の女である。

 

 見ると、窓の外が明るくなっていた。

 どうやら徹夜してしまったようである。徹夜なんていつぶりだろうか。少なくとも、異世界に来てからは早寝早起きだったので新鮮である。

 

「ぁ……あぁ……」

 

 視線を戻す。ベッドの上、そこには真っ白に燃え尽きた淫魔の姿があった。たくさん吸精したのだ。生命力には満ちてるはずなのに。生命力に欠けた眼をしていた。

 灰となったルクスリリアはまさに轢かれたカエルといった姿勢で、力なく舌を出しながら時折痙攣していた。工口同人みたいに、工口同人みたいに。

 

「興奮してきたな」

 

 正直勃起モンの光景である。アサルトアーマーの準備が整った。

 が、如何せんどこもかしこも汚れていてその気になれない。幸い俺にそういう嗜好はなかった様である。

 けど、まだしたい。

 

 曰く、淫魔は吸精によって生命力を蓄積し、栄養に変えるらしい。以前聞き知った情報だけでなく、昨夜ルクスリリアの口から直接伝えられたのだ。嘘じゃないだろう。だから、「好きなだけイッて良いッスよ~♡」との事だ。

 なので、まだまだしたいのである。

 

 ところで、この世界の魔法には割と便利なものがある。

 多くは戦いで使う類の炎とか岩とかを打ち出すモノなのだが、中には普通に生活で使える魔法があるのだ。ただ水を出す魔法とか、マッチ程度の火を出す魔法とか。

 中でも、俺は“清潔”という魔法を愛用していた。

 

 この魔法、すごく便利である。魔力流して詠唱して、指定した物や人を綺麗に洗浄してくれるのだ。

 多分これ、迷宮とかの毒沼の汚れを洗い流す為の魔法なんだろうが、便利なので俺はこれを日常生活でも使っていた。

 洗濯にお風呂に歯磨きに。無論、それらの仕上げとしてサラッと使う感じだ。洗っても落ちづらい汚れとかあるじゃない。アレを洗浄する事ができるのだ。

 で、そんなこんなほぼほぼ毎日使っていると、その“熟練度”が上昇した。すると“清潔”で綺麗にできる範囲やモノを細かく指定できるようになったのである。

 

「条件指定、範囲指定……“清潔”」

 

 つまり、こうである。

 ベッドに“清潔”を使い、昨夜の諸々を綺麗にする。ついでに俺とルクスリリアに付着した諸々も洗い流し、部屋中に付着したアレやコレやも綺麗にした。

 魔力こそ消費するが、ぶっちゃけ掃除機より便利である。凄すぎだ。

 

「さて、ルクスリリア」

「ん……んちゅっ……ちゅっ……ぷふぁ……。ちゅぅ……はむ、ちゅ……」

 

 朝の一仕事を終えたところで、ルクスリリアにキスをした。

 したら興奮してきたので、覆いかぶさった。

 完全に徹夜明けテンションだった。そのくせ俺の股間のマキバオーはとってもウマナミであった。

 いや、多分そこらの競走馬超えてるな、今の俺。

 

 事後、俺のMPが枯渇しかけていた。やはりHPより先にMPが切れそうである。

 なので、俺は魔術師レベル10で習得できる能動スキル“魔力循環の活性”を使用した。すると、HPが減少し、MPが回復した。

 

 魔力循環の活性。

 これは、HPと引き換えにその名の通り身体の魔力循環なる機能を急速に活性化させ、MPを回復するスキルだ。例えるなら、ブラッドボーンでHP使って水銀弾補充する感じだろうか。

 基本前衛ビルドだけあり、俺はMPよりもHPが高い。これでトントンである。

 

 HPはまだまだ余裕。MPも回復したので大丈夫。

 俺はその後も、ルクスリリアをたくさん愛し続けた。

 

 

 

 それから何度目かの後。

 

 ふと思い至って、コンソールを開いてみた。

 そしてスワスワしてみると、あった。

 パーティメンバー、ルクスリリアのステータスだ。

 

 強さは……今はいい。

 ジョブもいい。

 HPとMPは……。

 

 やはり、今のルクスリリアはMPは満タンだがHPがレッドゾーンだ。

 道理で疲れてる訳である。いくら魔力=生命力な魔族でも、HPが減ると疲労困憊になるようだ。

 

 無論、なんとかせねばならない。

 さて、他人に使うのははじめてだが……。

 

「魔力過剰充填、“中治癒”」

 

 魔法を唱えると、手のひらから淡い緑色の光があふれ出し、ルクスリリアの全身に降り注いだ。

 これは回復魔法の“中治癒”という奴で、その名の通りHPを回復する魔法だ。

 あと、何気に驚いたのが、この世界の回復魔法は聖職者の奇跡とか祈祷とかじゃなく、がっつり魔法の一種にあたるらしい事だ。魔術師も聖職者も魔力を使って回復するんだな。

 

「あぁ……生き返るッス~」

「おっ、そうか。じゃあ続きしよう」

「……えっ!?」

 

 元気になったところで、再戦である。

 知り得たか。ロリコン紳士、イシグロを。

 もう一回遊べるドン!

 

 

 

 そして よが あけた!

 

 

 

 気が付くと、またまた朝になっていた。

 連戦の末、少し寝ていたらしい。見ると、俺の腕枕でルクスリリアが眠っていた。その身体はぴったり俺にくっついている。

 昨夜の後、なんか急にデレてくれたのである。

 

 二日目の夜だった。冷静になった俺は流石に近所迷惑を気にして、じっくりコトコト聖戦の系譜を紡いでいたのである。

 すると、何故かルクスリリアは急にしおらしくなり、俺にアレしてコレしてと甘えてきたのである。嬉しくなったので、俺はその要求ひとつひとつに応対していった。

 キスしてと言われればキスをして。抱っこしてと言われれば抱っこする。頭撫でてと言われれば優しく頭をなでなでした。

 その結果、最後には俺の事を「ご主人様」と呼んでくれるようになったのだ。

 それ以降の記憶がない。

 

 そして、今に至る。

 

「んんっ……え、ご主人……?」

「おはよう、リリィ」

 

 眠っていたルクスリリアが起き出した。

 その目はトロンと呆けており、焦点が合っていない。

 やがて、目が合う。

 

「ンンーッ……!?」

 

 かと思えば、瞬間顔を真っ赤にして背中を向けられてしまった。

 

「どしたの?」

「いや! あの! 申し訳ねぇッス! えっと、なんか凄い恥ずかしいっていうか! うわはずかし! 淫魔的にちょぉーっとNGな痴態晒しちゃったというか! うぅぅぅぅ……アタシは淫魔の風上にも置けない奴ッス! やらかしたッスゥ!」

 

 なんか分からんが、肌を晒す事は平気でも淫魔的に痴態? を晒すのは恥ずかしいらしい。よく分からんが。

 

「恥ずかしいの?」

「褥で淫魔が他種族に負けるなんて末代までの恥ッスよ! あぁ先祖に顔向けできねぇッスゥゥゥ……!」

 

 種族的なプライドだろうか。得意フィールドで負けるのがそこまで恥ずかしいのか。

 いや、勝ちも負けもないとは思うのだが。

 それはそれとして。

 

「リリィは可愛いなぁ」

「ひぅっ……!?」

 

 ともかく、昨日一昨日と今現在のルクスリリアは最高なので、俺はそのまま彼女の身体を抱きしめた。

 したら全身を震わせた後、恐る恐る俺の方を見てきた。その眼は何故か少し潤んでいた。

 

「あの……その……。ご主人、さまは……」

「うん?」

「その、アタシ……そんなに、良かったッス……か?」

「ああ、最高だった」

 

 横向きのまま、ぎゅっと抱きしめる。

 身長差がありすぎてちょっと不格好になってしまったが、仕方ない。いやむしろ良い。

 

「へ、へぇ? そうなん、スか……?」

 

 言うと、ルクスリリアは身体をもじもじし始めた。

 また顔を背けられてしまったが、口角が上がっているのは分かった。

 

「ご主人様♡」

「なに?」

「きひひっ、何でもないッス♡」

「そっか」

 

 なんだろう、一昨日の夕方は営業用の笑顔だったのが、今は素に近い笑顔のような気がした。

 あと、何気にこういう掛け合いには憧れていたので普通に嬉しい。

 

「ご主人様♡」

「なに?」

 

 と思っていると、再度反転したルクスリリアと正面から目が合った。

 その目は真っすぐ俺の双眸を映しており、そこに邪気や企みみたいなのは感じ取れなかった。

 

「その……チューして欲しいッス」

 

 顔を赤くして言われた言葉は、直後に目を背けられてしまった。

 俺は彼女の後頭部に手を添え、一昨日から何度も繰り返してきたキスをした。

 

「ん。ちゅ……」

 

 唇を合わせるだけの、子供みたいなキス。

 特に動きもないキスは、そう時間をかけずに終了した。

 

「……ん?」

 

 と思ったら、ルクスリリアは眉根を寄せて“何か”に反応した。

 まあ、分かる、俺が原因だもん。

 

「あの……ご主人?」

「なに?」

「……当たってるんスけど」

「まぁね」

 

 目が合う。ルクスリリアは引きつったような笑顔になっていた。

 ここまで来て、一度冷静になったから分かる。流石にやり過ぎたのだ。

 過ぎたるは及ばざるが如し。いくら栄養に変換できても、食べ過ぎは身体に毒である。多分そういう事だろう。

 

 しばし、沈黙。

 

 瞬間、身をよじって逃げようとしたルクスリリアを、俺はガバッと抱きしめてホールドした。

 

「も、もうお腹いっぱいなんス……! いくらご主人の精が美味しくても、もう食べきれないッス! あと普通に疲れたッス! ア゙ダシドカラダヴァボドボドナンズ!」

 

 吸精は淫魔にとっての食事兼筋トレ兼趣味である。流石にもう分かったが、やり過ぎはよくない。

 けど、別に吸精しなくてもやれる事はあるのだ。

 

「別に吸精しなくていいよ」

「え……?」

「こっちで楽しむから」

「ひぇぇぇぇ……!」

 

 なので、食事以外の事を教え込む事にした。

 まだまだやりたい事、試したい事はいっぱいなのだ。

 

 

 

 一時間後……。

 

 俺は宿屋の主人から怒られてしまった。

 素直に謝罪である。




 感想投げてくれると喜びます。


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偽りの街角にロリの微笑みを…

 感想・評価、ありがとうございます。やる気がモリモリ湧いてきます。

 こういう話を書くのは楽しいですね。楽しいと速く書けます。
 あと、第2話で説明もなくいきなり出てきた「深域武装」というものが出てきます。皆さん覚えておいででしょうか。

 今回、最後にアンケートがあります。
 しょうもない分岐ですが、よければ投票してやってください。


 異世界の飯って美味いのか? という疑問は、割と多くのオタクが感じるものだと思う。

 その点、俺が転移したこの世界は存外悪くなかった。

 

 この世界の食事事情は、当初俺が想定していたよりは洗練されていた。

 俺の基準……というか、現代日本の基準的に、如何にもファンタジー世界の食事なんて食えたもんじゃねぇとばかり思っていたのである。

 

 農林出身の友達が言うには、現代で流通されてるような野菜やフルーツというのは、先人たちの努力の結果ああいう形と味になったのだという。想像しかできないが、きっと長い時間と労力をかけて品種改良を続けてきたのだろう。ありがたいですね。

 対し、一般オタクくんが異世界といって想像されるようなところで、そんな品種改良されたお野菜が食べられるかというと、ちと考え難い。保存技術や加工技術も未成熟だろうし、そうそう美味い飯にはありつけないと思っていたのだ。

 

 そも、転移者が食って腹壊さないの? とかも思ったものだが……。

 

「はあ、異世界ッスか」

「うん、多分ね」

 

 宿屋さんに怒られた後、俺たちは部屋で朝ご飯を食べていた。

 献立は平たいパンもどきとスープ。あと小っちゃいチーズ。 これはこの食堂で最もリーズナブルなメニューである。転移後から現在まで、俺はずっとこんな感じのご飯を食べていた。

 つい先日まで泊まっていた宿屋よりも、こっちの宿屋のご飯のが美味かった。値段は青銅貨3枚ほど。

 

「“日本”って国なんだけど知らない? なんか、そっから来た人がいたとか、そういう伝説」

「う~ん、知らないッスね~。女王陛下なら知ってるかもッスけど、あの人の武勇伝に異世界人の話はなかったと思うッス」

 

 で、その間俺は俺の奴隷に俺の出自の事とかを話していた。

 別に隠すものでもないし、言っちゃおうと思ったのだ。

 もうチートとかの事も言っちゃったのである。これまた隠す理由もない。無暗に情報を晒すなど愚か者のやる事だ、とかどこかの誰かに言われそうだが、誰も信用しない人こそ心が貧しいと思うのだ。愚かで何故悪い。

 

「もしかして、日本ってご主人みたいな人ばっかだったりするんスか?」

「どうだろ。まぁ俺は普通だったよ」

「ひょえー、怖いトコなんスね~」

「治安はこっちより良いけどね」

 

 などと話しながら食べていると、ルクスリリアは残ったチーズをぺろりと食べた。その表情は満足そうである。

 

「チーズ好きなの?」

「え? あ、そうッスね。というか、精以外の栄養補給としては、乳製品が一番効率いいんス。本能的? に美味しく感じるらしいッス。実際、故郷では牧場が一番デカいシノギだったと思うッス」

「へぇ、どんな感じ?」

「おう? えっと、そうっすねぇ……」

 

 ちょっと食い気味に訊いてしまったが、しゃあない。

 俺はこういう話を聞くのが好きなのだ。

 

 前世、俺は「異国迷路のクロワーゼ」という作品が好きだった。

 主人公? ヒロイン? の子がバチクソ可愛かったというのもあるが、その作品で描写されるフランスの情景や風土、文化が好きだった。日本とは全然違う街や人や思想。そういう、異国情緒が好きだったのだ。

 そういうのもあり、現地人から異世界の話を聞くと「あぁ~異世界来たんだな~」という気持ちになって、ほんのり楽しくなるのだ。

 分かる人多いんじゃないかな。

 

「えーっと? 畜産は割と国全体が大々的にやってて、淫魔王国にはおっきいの小っちゃいの色んな牧場があったッス。で、それで一番多かったのが乳牛牧場ッスね。絞ったミルクでチーズ作ったりバター作ったり、ミルクに保存魔法かけてそのまま出荷したり……」

「ふんふん」

「淫魔と畜産って割と相性良かったっぽくて、アタシが物心つく前から国のメインのシノギになってたッス。そう、交配関係がとにかく強くて。一応普通の畑とかもあったッスけど、そういうのだとダークエルフにゃ敵わないッスから。淫魔といえば畜産! みたいな」

「へぇ。育ててたのは家畜だけなの?」

「ほとんど家畜だったッス。あっ、いや女王様直轄の組織で輸出用の馬とか育ててたッスね。なんか、上手に交配させて強い馬作って売る~、みたいな。確か、この国の騎士団とかが乗ってるのも淫魔王国産ッスよ」

「はぁ~、サキュバスってスゴイんだな~」

「まぁ、サキュバスに育てられた馬は結構な頻度で発情するようになるらしいんで、取り扱い注意らしいッスけどね」

 

 などと話していると、楽しい朝食タイムは終わってしまった。

 俺が匙を置くと同時、ルクスリリアは元気に立ち上がった。

 

「食器返してくるッス~」

 

 言って、愛しの淫魔は二人分のお皿を食堂に返しに行った。

 購入直後では多分しなかった行為な気がする。

 

 その間、俺はコンソールを弄る事にした。ちょうど気になる事があるのだ。

 昨日見て気づいた、俺以外のステータス。パーティメンバーについてだ。

 

 空中をタップしてコンソールを開き、「ステータス→仲間→ルクスリリア」と開いていく。前までは仲間という項目はなかったが、リリィ購入後に気づけば生えていたのだ。

 すると、コンソールにルクスリリアのステータスが表示された。

 

 

 

◆ルクスリリア◆

 

 

 

 中淫魔:レベル1

 淫魔兵:レベル4

 新規習得スキル:魔力飛行

 

 

 

 能動スキル1:魔力飛行

 

 

 

 生命:16

 魔力:29

 膂力:22

 技量:17

 敏捷:25

 頑強:13

 知力:21

 魔攻:20

 魔防:27

 

 

 

 

 

 

「ふぅむ」

 

 当然ながら、三ヵ月迷宮に籠ってた俺よりは全然弱い。

 が、転移直後の俺と比べると全能力上である。これだけステあるなら最初からそれなりのダンジョン潜れそうである。

 

 種族柄だろうか、パッと見では魔法型に見える。

 魔力とはそのままMP関連の数値であり、MPの総量だけでなく回復力や放出力も変わってくる。あと、魔族にとってのHP的なものでもあるのかな。いや、どっちかというと残機か?

 知力は魔力を使う能力の事で、魔法の発動速度や連射性能が関わってくる。

 魔攻・魔防はそのまま魔法を用いた攻撃力と防御力だな。ポケモンでいうとくこうととくぼうである。

 

 ルクスリリアは、というかサキュバスは魔法職に適性のある種族なんだとは思う。けど、話を聞くに割と淫魔王国の軍隊はバリバリ肉体派って印象だ。どうなんだろうね。

 一応、ついてるジョブは万能職っぽい。“淫魔兵”とは読んで字の如く淫魔軍の兵士の事だろう。淫魔兵がそんなジョブなのかは知らないが、俺の初期ジョブの“戦士”や“魔術師”に相当するジョブなんじゃなかろうか。

 

 ところで、この世界のジョブ関連には一個たまげた事があった。

 それはジョブごとに武器の制限があるという事だ。

 ドラクエやFEの様に。

 

 戦士は杖を持っても魔法を使えないし、魔術師が弓を持ってもひょろひょろ矢しか撃てない。それはステータスが足りないからそうなるのでなく、そもそもシステムとしてそうなっているっぽい。この世界の古事記にも書かれていた。

 で、俺はそれをモロに体感できる。何故か? モーションアシストの有無だ。戦士でチェストする剣と、魔術師でチェストする剣では力も技も速さも足りない。ついでに動きもへっぴり腰のへなちょこと化すのだ。

 

 あと、この世界のジョブは位階が上がって行くにつれ使用できる武器の制限が強くなる傾向にある。

 例えば、基本職の戦士は盾含む近接武器全般を使えるが、下位職剣士になると短剣・直剣・大剣等の剣カテゴリーのみとなり、中位職の“ソードダンサー”は短剣・直剣などの片手剣のみというようになるのだ。

 強くなると、特化していく印象である。

 

「ただいまーッス。何やってるッスかご主人?」

「リリィのステ見てた」

「あぁ~、なんか見えるらしいッスね。アタシにはさっぱりッス」

 

 と、戻ったルクスリリアに返すと、何気なく見たステータスに引っかかる部分があった。

 

「リリィって小淫魔なんだよね?」

「え? まぁそうッスね」

「なんか、中淫魔ってなってるけど」

「ん~?」

 

 もう一度見る。ジョブのレベルとは別に、ルクスリリアにはもう一つレベルがあったのだ。

 中淫魔レベル1。これは何だろうか。人間にはない、魔族固有のレベルという奴だろうか。ジョブとは独立してるっぽいが。

 

「いや、アタシは小淫魔ッスよ。母も小淫魔だったんで」

「進化したんじゃないの? なんか“魔力飛行”ってスキル新しく生えてるっぽいし」

「進化ッスか? いやいやご主人、あり得ないッスよ。いいッスか? 確かにアタシら魔族は力を蓄えると種族としての位階を上げられるッス。けど、小淫魔が中淫魔になるには、それはもう過酷な実戦経験が必要なんス」

「それってどういう?」

「そりゃあ、栄養たっぷりの精を食べたり、強いオスと交尾したり、何百人という男を絞ったりッスよ。あと、単純にモンスター狩りまくって進化っていうパターンもあるッスね。まぁいくらなんでも、20そこらで進化できるなんざあり得ねぇッスよ」

「そうなんだ」

 

 ともかく、中淫魔になるには時間と労力がかかるらしい。

 再度、見る。やっぱり中淫魔だ。ルクスリリアを見る。確かに見てくれは変わっていない。ロリのままだ。

 けど、なんだろう。以前よりも感じる魔力がほんのり多い気がするのだ。これは数値にできない感覚的なものなんだが。

 

「試しに飛んでみてよ。魔力飛行使えるらしいよ?」

「はあ、飛ぶったって、どうやればいい……か?」

 

 瞬間、ルクスリリアはぽかん顔になった。

 口を半開きにして、虚空を眺めている。

 

「おぉ!?」

 

 かと思えば、急にふわりと浮かび上がったではないか。

 何事かと思って注視すると、ルクスリリアの背中から蝙蝠みたいな翼が生えていた。

 翼はなんかそういうコスプレのアクセサリーくらいの大きさで、どう見てもルクスリリアの身体を浮かせられる程のパワーがあるとは思えない。

 というか、その翼はたまにパサッと羽ばたくだけで、基本的には動かさずただ浮いてるだけだ。某飛行機兄弟が見たら卒倒しそうな光景である。

 

「できたッス……」

 

 宙に浮いたルクスリリアは、呆然とした面持ちで呟いた。

 そのまま、空飛ぶリリィは部屋をふよふよと移動し始めた。

 右へ、左へ、一回転して天地逆転。スピード上げてクルッとターン。なんというか、飛行というより浮遊……ラムちゃんみたいな空の飛び方だ。

 

「と、飛べたッス! 飛べたッス! いつの間にかアタシの背に翼が! アタシ、もう小淫魔じゃない!? このアタシが!? いぃやっほぉぉぉぉう!」

 

 そして、ルクスリリアは宿部屋狭しと爆走しはじめた。

 その速さはなかなかのもので、少なくとも後ろからの奇襲であれば前世人間程度なら一方的に狩猟できそうであった。

 実際、ダンジョンで出くわす飛行エネミーはクソウザい。上を取るのはそれだけでかなりのアドなのだ。

 

「はぐぇ!?」

 

 やがて、アイアンマンスーツではしゃいでいたトニー・スタークみたいだったルクスリリアは見事天井へと頭をぶつけた。めちゃ痛そうである。

 落下してきた女の子を、俺はパズーの様にキャッチした。

 

「魔力過剰充填、“小治癒”」

「あ、ありがとうッスご主人……」

 

 回復魔法を使い、頭にできたたんこぶを治す。とはいえ痛いのは飛んでかない仕様なので、キャッチした淫魔は元の椅子にリリースした。

 

「飛べたみたいだけど、これは中淫魔になったっていう事じゃあないの?」

「うぅ……まあ、そうッスね。飛べる魔族なんて珍しくないッスけど、淫魔は中位じゃないと無理なんス。生まれつきの中淫魔は最初から飛べるんスけど、小淫魔は進化しねぇと飛べねぇんス」

 

 見ると、たんこぶ跡をさすっているルクスリリアの背中から例の蝙蝠翼が消失していた。

 どうやら、飛ぶ時だけ出てくる仕様らしい。

 

「おめでとう。ルクスリリアは中淫魔に進化した」

「は、はあ……ありがとうッス……」

 

 とはいえ、めでたい事なのだと思う。俺はパチパチ拍手して新たな中淫魔の誕生を祝った。

 

「多分ッスけど、昨日一昨日と吸精しまくった後、寝てる間に進化したっぽいッスね」

「嬉しくない?」

「そりゃ嬉しいッスよ。強くなれた訳ッスし、寿命も延びたんス。いやでも……なんなんッスかねこの気持ち」

 

 と、ここにきてぺちんと一発。ルクスリリアはおもむろに自身の角を叩いた。

 

「まっ! ご主人の言う通りめでてぇモンはめでてぇッス! これでアタシも一端の淫魔戦士ッスね! 一般兵から昇格ッス!」

「あ、その事なんだけど……」

 

 いいタイミングだったので、かくかくしかじか。

 俺はコンソールで見た彼女のステの内容と、その他諸々についてを話した。

 あと、ダンジョンの同行についても話した。せっかくだし、一緒に強くなりたいものである。

 

「はい、アタシは最初からそのつもりッス! おあつらえ向きに、女王陛下の呪いで死に難い身体にされちゃったんで、迷宮探索には喜んで同行するッスよ!」

 

 すると、ルクスリリアはダンジョンへの同行を承諾してくれた。まぁこれは契約前に聞いた内容ではあるが、今一度確認したかったのだ。

 

「ありがとう。ところで、その呪いっていうのは?」

「あぁ……あれッス。寿命削って魔力沸かすみたいな? 魔力枯渇した時に未来の魔力を前借りするんス。まあ、飢餓状態でも労働する為の処置ッスね、ははは……」

 

 急に世知辛い話になった。

 やな話である。

 

「ま、でもそれはご主人のお陰で心配なくなったッスけどね!」

「そうなの?」

「きひひっ、そりゃあ……あんだけ注いでくれたんスから、アタシの魔力は常時満タンのフル勃起状態ッスよ!」

 

 ふんす、と両手を上げてマッスルポーズをするルクスリリア。コロンビアを思い出すドヤ顔だ。

 

「リリィはかわいいなぁ」

「きひひっ、素直に受け取るッス。あ、でも昨夜みたいなのはNGッスよ。いくら淫魔でも食べ過ぎは身体に毒なんス」

「はいッス」

「そうッス」

 

 さて、ダンジョンアタックへの許可が下りたところで、本格的に準備に入ろう。

 ルクスリリア用の武器や防具も買わないといけないし、何ができて何ができないのかも把握しておきたい。俺もパーティ行動は初めてなので、ちゃんと練習しておきたいものである。

 

「とりあえず、実際ダンジョンに行くのは後日って事にして、今日は買い物に行こうと思う。リリィの装備整えないとね」

「はいッス! できれば一番いい装備がいいッス!」

 

 それに関しては大丈夫だ問題ないと返せる自信がある。

 なんたって俺は銀細工持ち。銀行には何百枚という王国金貨が預けられているのである。武器の一個や二個余裕だ。多分。

 

「ところで、淫魔はどうやって戦うの? 武器とかは?」

「ん~、割とその人次第ッスね。素直に魔法やる淫魔もいれば、鞭使う淫魔もいるッス。アタシが兵士やってた頃の教官は大鎌使ってたッス。あ、女王はなんか変な楽器で戦うって聞いたッスね」

「へえ。リリィは何使うの?」

 

 聞いてみると、ルクスリリアはこれまた自身の角を撫でた。

 

「いや~、アタシってば軍すぐ辞めちゃったんで、まともな武器の扱いなんて習ってねぇんスよね~。やったのはせいぜい初歩的な格闘術とか、基本の魔法訓練くらいッスかね」

「なるほど」

 

 もう一度コンソールを見て、ルクスリリアのジョブの淫魔兵をタップしてみる。

 すると、淫魔兵のジョブの簡単な説明が出てきた。

 

 ふむ、どうやら俺の読み通り淫魔兵=戦士みたいな感じらしい。とはいえ、そこは淫魔に適合して魔法も使えるようだ。魔法戦士とでも言おうか。強そうというより、器用貧乏な印象だ。

 で、使用可能武器を見てみると、さっきルクスリリアが言った通り鎌とか鞭とかが出てきた。戦士より使える武器多いぞ。

 

「ふむ……?」

 

 なんか、引っかかる記憶があった。

 俺は使わないが、確かアイテムボックスの奥底にちょうどリリィに合う武器をしまっていたような気がするのだ。

 

 えっと、アレはいつだったか。普通にダンジョンボス倒して、出てきたドロップアイテムの中に異様な武器があったのだ。

 で、それを受付おじさんに見せたら「レアだから持っとけ」って言われたんだよな。

 

 確か、その名前は……。

 

「深域武装……?」

「ん? どしたッスか?」

 

 曰く、ダンジョンボスが時たま落とすレアな武装の事……だったと思う。

 その武装はこの世界の住人では再現のできない不可思議なパワーが宿ってるとか何とかで……。

 とかく凄い武器らしいのだ。これまた曰く、この国の初代王様も深域武装を使ってたとか。

 

「深域武装って知ってる?」

「ええ、まぁ知ってるッスよ。あれッスよね、迷宮が吐き出す特別強い武器。うちの女王が使ってる楽器も深域武装ッスよ」

「へえ」

 

 話しつつ、虚空に手を突っ込んでお目当ての深域武装を探す。

 如何せんいつ入手したかも覚えてないので、どこにしまったのか分からないんだよな。

 まさかドラえもんみたいにぽこじゃかアイテム放り出す訳にもいかないし……。

 

「……っと、あった」

 

 俺は探していたアイテムを取り出し、そのままルクスリリアへと手渡した。

 

「ほえ、なんスかコレ?」

「深域武装、あげる。これ使って」

「はあ……はぁあああッ!?」

 

 という訳で、俺はルクスリリアに深域武装を装備させる事にした。

 武器は装備しないと意味がないぞ。




 感想投げてくれると喜びます。



・深域武装(しんいきぶそう)
 ダンジョンボスがドロップするレア武器。
 街で買える武器とはけた違いの性能で、武器ごとに固有の能力・効果を宿している。
 ソウルシリーズのデーモン武器とかソウル錬成武器みたいなもん。銀細工以上の冒険者は一つは持ってる。



◆ルクスリリアの情報まとめ◆

・初期の力は弱いが、種族レベルの上昇により克服可能。
・種族柄、魔力に優れるが、お察しの通り知力は微妙なので沢山の魔法は覚えられない可能性がある。
 戦場童貞の為、本人の適性は現状不明。前衛向きかもしれないし、後衛向きかもしれない。
・魔力による浮遊行動が可能。これに関してはかなり才能があり、飛ぼうと思ってすぐ飛べたのは何気に凄い事である。
・女王の呪いの影響で、脆いが死に難い。減った寿命は吸精により回復可能。


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気楽なロリの斃し方

 感想・評価など、ありがとうございます。お陰様で楽しく続けられています。
 誤字報告兄貴も本当にありがとうございます。感謝です。
 あと、以前投稿した話の一部描写を修正しました。話には関係ないところですが。

 アンケートのご協力ありがとうございます。もう少しだけ設置します。
 アンケート、大鎌と箒の接戦ですね。当初の作者の予定では、ルクスリリアは鞭を使う予定でした。アンケしてよかったと思います。

 以前感想でいただいた「貨幣」について少しだけ触れています。
 まだ本格的に触れてはいませんが、おいおいねです。
 街の描写もしたかったんですけど、テンポ重視で省きました。おいおいねです。


 生まれてこの方、俺はファッションというものにてんで興味を持ってこなかった。

 流行の季節コーデとか、来年流行る色とか、そんなん言われても何やそれという気持ちである。そも、まだ使える服があるというのに次々服を買い替えるなんて色々もったいないなぁと思う性質の持ち主だったのだ。

 ゲームの装備は見た目で決める癖に、リアルだと見てくれ軽視勢であった。

 

 どうせ買うなら、機能性に優れた奴がいい。そんな俺はジャージ愛好家だった。

 乾きやすいし、丈夫だし、動きやすい。家でも外でも、俺は普段からジャージを着て過ごしていた。近所のスーパーくらいは上下ジャージでOKという人間だったのだ。その事をファッションモンスターの友達に言うと、「ないわー」と言われてしまったのだが。

 

 別に、服に金使う奴とか全員バカだろとか思ってた訳じゃない。

 ファッションを“楽しむ”って感覚が、全く分からなかっただけだ。

 

 当然、異世界転移した後も俺のその性質に変化はなかった。

 迷宮に向かう際は鎧のセットを装備し、休日には安い服屋で適当に買ったものを着て情報収集をしていた。両方とも割と適当というか、飾り気のない見てくれである。

 意外と色鮮やかな服を着てる異世界人の中で、現代日本人の俺は地味な服を着ていたのだ。

 

 そんな俺でも、TPOに合わせた服くらい着る。

 奴隷商館に行った時は、事前に高級志向の仕立て屋さんでお高い服を繕ってもらった。これは華美な装飾やら繊細な刺繍やらがゴテゴテしているので、俺の趣味ではない。脆いし着づらいし動き難いこの服が、どうしてああも高いのか。

 愛しのジャージは今はない。転移直後に着ていたジャージは装備を整える為に売却したので、今の俺は年中ジャージマンを卒業した。ちなみにジャージは結構高値で売れた。今思うと、買い叩かれなくてよかった。

 ともかく、日本でも異世界でも、俺に服飾へ向ける情熱はなかったのである。

 

 しかし、別腹があった。

 

 前世、俺はポケモンが好きだった。

 普通にゲームとして好きというのもあるが、バトル以外にも好きな要素があったのだ。

 主人公の着せ替えである。

 

 俺は自分が着飾る事に全く興味はないが、ゲームの女の子を着飾らせる事は大好きだった。

 ミヅキもユウリもアオイも、アイテムそっちのけで服装にお金をかけてたものである。

 

 一度でいいから、めちゃかわロリを着せ替え人形にしたいものだ。

 

 

 

「淫魔は皆こんな感じの服着てるッスね。基本、魔族は暑い寒いのに強いッスから、衣服の基準は各々の好みでって感じッス。アタシは動きやすさ重視ッスね」

「へえ」

 

 朝食後、俺とルクスリリアは街に出かけていた。

 ダンジョンアタック前の準備と、今後必要になるであろうルクスリリア用の日用品購入の為だ。

 

 現在、ルクスリリアは奴隷商館から着ているサマーメスガキファッションのままである。胸と股間周辺しか隠していないそれは、現代日本人の俺からしたら結構ビックリしちゃう服装である。

 その事をルクスリリアに言ってみると、前述のような返答がきたのだ。

 

「あと、竜族や吸血鬼族の人たちは結構おしゃれらしいッスね。前仕えてた家の主人がそんな事言ってたッス」

「そうなんだ、一度会ってみたいな」

 

 竜族に吸血鬼族……ほんとにこの世界には色んな種族がいる。

 ルクスリリアに不満がある訳では断じてないが、居るというならいつかそういう種族のロリもハーレムに引き入れたいものである。

 まるでペット扱いみたいだが、もうそういう葛藤は全部無視する事にした。幸せならそれでいいじゃん。ウチはウチ、他所は他所である。

 

 果報は寝て待て。奴隷商人曰く、良い奴隷を仕入れたら連絡してくれるとの事なので、それまで焦らず待とうと思う。

 あと、珍しい種族になればなるほど値段も高くなるらしいので、今後もしっかりハクスラしていこう。

 まっ、王国金貨何百枚持ってる俺が買えない奴隷なんている訳ないけどな。買ったな、がははっ!

 

「ご主人ご主人、此処ッスよ」

「あ、ごめんごめん」

 

 次なるロリを妄想していると、いつの間にか目的地についていた。

 俺たちがやってきたのは防具屋であり、王都西区にある此処は転移神殿併設の防具屋よりも良いモノを扱ってる。

 ……らしい。

 

「淫魔兵はどんな装備してるの?」

「まぁ軽装ッスね。うちら魔族は攻撃食らっても魔力さえあれば動けるんで、下手に動きの邪魔する鎧とかは好まれないんス」

 

 らしい……というのも、俺は今の今までその事を知らなかったのである。

 教えてくれたのはルクスリリアだった。曰く、「ギルドが売ってるのって基本駆け出し冒険者用のが大半なんで、銀細工持ちのご主人には相応しくないと思うッス」との事。

 そういう事もあり、俺たちは少しお高めの防具屋に来たのである。

 

 店の中は魔道具の照明のお陰で明るく、床や壁もよく掃除されてるようでピカピカだった。

 小さめのスーパーくらいの店内には冒険者風の人が数人いて、皆こっちを見ていた。こっち、というか俺の銀細工を見てるのか。

 

「いらっしゃいませ。どういった装備をおもと、め……?」

 

 雪がれる視線を無視しつつ展示された防具を見ていると、店主らしき紳士が現れた。

 かと思えば、彼は俺の首に下げられた銀細工を見て、次いで俺の顔を見て、もっかい銀細工を見て、固まってしまった。

 なんか緊張してるっぽい。此処は銀細工持ちがよく来る店って聞いたんだけど……。一見さんお断りとかだろうか。王都怖いわー。

 

「あの、防具を買いにきたんですけど……」

「し、失礼しました。お初にお目にかかります。私、店主のアンドレと申します。“迷宮狂い”のイシグロ様にお会いできて誠に光栄でございます」

 

 ん? 迷宮狂い? 人違いじゃね、ソレ。

 俺が銀細工の一個前にランクアップした時、なんか偉い人から二つ名なるものを頂戴した訳だが、その時もらったのは“黒剣”だったと思うんだけど。

 

「すみません。イシグロは私で合っていますが、迷宮狂いさんとは別人だと思います」

「え、はっ!? ししし、失礼しました! とんだご無礼を……!」

 

 言うと、店主はものすごい勢いで頭を下げて来た。ぼるぜもんもニッコリのお辞儀っぷりだ。

 俺の隣ではルクスリリアが「迷宮狂い?」と首をかしげていた。ついでに店内の客がヒソヒソ話をしながらこっちを見ている。コッチヲ見ルナ。

 

「いえいえ、気にしてないので顔を上げてください」

「どどどどうかお許しを! せめて私の首だけで! 何でもしますから……!」

 

 うーん、なんだろうねコレ。

 NPCに謝罪されてる時のモモンガさんってこんな気分だったのかな。すごく気まずいし、普通に疲れる。率直に言ってやめてほしいのだが。

 

「ん? 今何でもするって言ったッスか?」

 

 かと思えば、隣の淫魔が満面のメスガキスマイルで詰問した。

 嫌な予感を感じて掣肘しようとしたが、先制店主はバッと姿勢を正してルクスリリアに相対した。その視線はリリィの首の奴隷証に向けられていた。

 

「は、はい! お許しの機会を頂けるのであれば!」

「きひひっ、どうしますご主人様ぁ? 店主はこう言ってるッスけどぉ、二つ名間違いなんて無礼千万ッスよねぇ? 処すぅ? 処すッスかぁ?」

「ひぃ……!?」

 

 言いながら、ルクスリリアは俺の腕にしなだれかかってきた。

 店主を見る。老練な立ち振る舞いこそ取り戻しているが、その顔面はひどく青い。普通に可哀想である。なんか申し訳ない。

 銀細工持ち冒険者って、怖がられてるのかな。

 

「男女平等チョップ」

「あいたッ!?」

 

 なので、メスガキは軽いチョップでわからせる事にした。

 たんこぶなんて出来てる訳ないのに、リリィは頭を押さえて恨めしげな目を向けてきた。

 

「こちらこそ奴隷が失礼をしました。どうでしょう、ここはお互い様という事にしませんか」

「は、はっ! 恐縮であります!」

 

 実際、呼び間違いとか無礼とか謝罪とかはどうでもいい。

 俺は適当な装備一式買って、さっさと下山したいのである。

 

「おっ、こんな所にちょうどいいくらいのローブがあるじゃねぇか。こんくらいの服なら俺でも買えるぜ」

 

 ちょっとわざとらしい気もするが、俺はさっそく展示された女性用ローブを手に取り、ルクスリリアの身体に合わせてみた。

 話によると、こういう高級店で売られているような防具には自動サイズ調整の魔法が施されているらしく、俺でもロリでも着ればフィットするのだとか。

 なので、サイズ合わない問題はないのである。SからXLまでご自由にだ。

 

「おぉ、似合う似合う」

「はあ、似合うったって着て見ない事には。性能もどうなんスかね」

「あ、そだね。すみません、試着してもいいですか?」

 

 と言ったものの、この世界に試着の文化があるかどうかは知らない。

 店主を見ると、なんかホッとした表情でこちらを見ていた。

 

「ええ。どうぞ、ご試着してみてください。お着換えはあちらの部屋で」

 

 店主の案内で試着室の近くに行くと、ルクスリリアは入ってすぐ出てきた。どうやらメスガキ服の上から着ただけの様だ。

 

「可愛い」

「そうッスか? そりゃあ、いいッスけど……う~んなんか動きにくいッス~」

 

 動きにくいとの事なので、俺は店主に軽装で良い感じのをいくつか持ってきてもらう事にした。

 

「この鎧は? かなり軽いよ」

「ギチギチして気持ち悪いッス~」

「へえ、魔族用チェインメイルなんてのもあるんだ」

「軽いちゃ軽いッスけど……」

「これは? 革鎧なのかな? ピッチリスーツに見えるけど」

「お、これは良いッスね。動きやすいし軽いッス」

 

 数度の試着の末、やっと良いのが決まったと思えば……。

 

「ちょっと飛んでみるッスね。えいや……アレ?」

 

 良い装備を着てご満悦のルクスリリアだったが、いざ飛行を試みてみると何故か使用できなかったらしい。

 気になったので背中側を見て見ると、どうやら背中部分の生地が翼の生成を邪魔している様だった。

 

「背中が開いてないと飛べないみたいだね」

「あぁ~、道理で偉い淫魔みんな背中出してたんスね。確かに、天使族とか翼人族とかも背中開けてたッス」

 

 なので、装備選び再開である。

 俺は店主と協力して、尻尾孔ありで背中開いてて且つ動きやすくて軽い防御力の高い防具を探した。

 ローブ系は背中隠してるからダメ。鎧は言わずもがな。翼人用の装備も、あれは常時翼出してる人向け装備なのでイマイチ良くなかった。

 あれこれとリリィの防具を選んでいる時間はけっこう楽しかった。なんか夢のひとつが叶った気分である。

 

「お、これは……ビキニアーマー?」

「お~、いいッスね!」

「はー、まさかこの世界にビキニアーマーがあるなんて。着てる人ひとりも見た事ないけどなぁ……」

「ご主人、胸のサイズが合わないんスけど。これホントに魔法かかってんスか……?」

 

 色々試してみたものの、展示品の中にリリィにマッチする装備はなかった。

 で、すっかり落ち着いた店主に相談してみると……。

 

「少々お待ちください。倉庫の奥に以前淫魔の方が注文された装備があると思います」

 

 との事なので、俺とルクスリリアはしばらく待つ事にした。

 入店してすぐは客が何人かいたのだが、気づくと店は俺とルクスリリアの貸し切り状態になっていた。

 

「ご主人は何も買わないんスか? もっと良いの使った方がいいッスよ」

「んー、でもなー、あんま高いの買ってもなー」

「アタシぃ♡ ご主人がカッコいい鎧着てる姿見たいッス~♡」

「せっかくだしなんか買うかぁ」

 

 そうこうしていると、店主がミニ棺桶くらいの箱を持ってきた。

 開けてみると、中には黒い革製装備が入っていた。

 

「手に取っても?」

「どうぞ」

 

 広げてみると、それは黒革のボンデージっぽい装備だった。

 けど、これがただの革装備ではないのにはすぐ気づいた。注視しなくても分かる、この装備には隅から隅まで膨大な魔力防御が施されていたのだ。

 後ろ側を見ると、そこは大胆に露出しており、肩甲骨周辺だけでなく腰あたりまで開いていた。

 

「この鎧は銀細工持ち冒険者である“淫魔剣聖”シルヴィアナ様からのご依頼で仕立てたものになります。ですが、シルヴィアナ様はこの鎧の納品前に……」

 

 どうやら、ちょっと曰く付きの鎧らしい。

 なんかそういうんは気分良くないぞ。

 

「冒険者を辞めて一党の頭目と結婚し、王都東区で料理屋をはじめたのです」

 

 どうやら、めでたい装備らしい。

 そういうの嫌いじゃないよ。可哀想なのは抜けない。

 

「そうですか。リリィ、試着してみて」

「は、はい! まさかアタシがあのシルヴィアナ様の装備を……」

 

 言いつつ、緊張しながらもウキウキと試着室に行ったリリィ。

 どうやら淫魔的にはシルヴィアナさんは有名人だったようだ。

 

「その、シルヴィアナさんは、今は……?」

「ええ、今でも旦那様と一緒ですよ。旦那様はエルフでしたので、店ではお互いの郷土料理を振る舞っています」

「あ、会いに行ける人だったんですね。そのお店はどんなところなんですか?」

「はい。ミルクシチューや乳粥といった伝統的な淫魔料理や、森人豆を使った様々なエルフ料理がお楽しみいただけます。開店から現在に至るまで、実に多くの方に愛されているお店ですよ。最近では御息女様もお店の手伝いをしているとか」

 

 なんか雰囲気よさそうである。思えば俺は異世界に来てからちゃんとした料理を食ってない気がする。

 機会があればリリィと一緒に行ってみよう。

 

「よッス~、着替えてきたッスよ。どうッスかご主人? 似合うッスか~?」

 

 などと話していると、試着室から淫魔剣聖装備に切り替えたルクスリリアが出てきた。

 

「おぉ……似合う似合う! 可愛いしかっこいいよ!」

 

 黒革で出来たそれは、胴と腕と足の三つのパーツで構成された装備だった。

 前から見ると、胴体部は黒いスク水のようだった。ツヤのある黒とツヤ消しの黒の調和がいい感じである。腕は指先から二の腕までを覆うロンググローブで、足はツヤなしのニーソにツヤありのロングブーツを履いてるようなデザインだ。尻尾も翼も邪魔していない、まさに淫魔用の装備って印象である。肩と太ももの露出が実にエッチだ。

 当然、施された魔法によりサイズはルクスリリアにぴったり合っていた。どうやらシルヴィアナさんは高身長サキュバスだったようだが、ちゃんとリリィにフィットしている。

 

「きひひっ、ほらちゃんと飛べるッスよ~」

 

 言って、ふよふよ浮遊して寄ってくるリリィ。

 脇に片手を入れて抱き上げると、俺はライオ〇キングの冒頭みたいな体勢を取った。

 そして、そのまま空いた手でコンソールを開き、この装備の性能をチェックした。

 

 

 

◆双角黒馬の革鎧◆

 

 物理防御力:550

 魔法防御力:650

 

 補助効果1:魔力回復(大)

 補助効果2:空中制動

 補助効果3:空中加速(大)

 補助効果4:魔力障壁(中)

 補助効果5:全状態異常耐性(中)

 補助効果6:自動修復

 補助効果7:自動最適化

 補助効果8:魔法装填(嵐纏い)

 補助効果9:刺突耐性(小)

 

 

 

 

 

 

「えっ……」

 

 出てきた数値にびっくりして、思わずルクスリリアから手を離してしまった。

 支えを失ったルクスリリアだったが、少し落ちただけですぐに元の高さまで浮上してきた。

 

「ごしゅじ~ん、急に離さないでほしいッス~」

「あ、ごめん……」

 

 なんか生返事になってしまった。

 というのも、この装備の性能に愕然としてしまったのである。

 

 コンソールを弄り、今度は俺の装備を見てみる。

 すると、物理防御力のところには「210」と書いてあった。魔法防御力など「190」である。しかも、あちらには存在した“補助効果”なるものが一つもない。

 え、なにこれ。なんやそれ、チートやチート! チーターやろそんなん! という気分である。

 

「店主さん」

「はい」

「銀細工持ちの冒険者って、みんなこんな装備してるんですか?」

「ええ。ですが、シルヴィアナ様はその中でも上位のお方。同じ銀細工持ちでもこれほどの逸品をお持ちの冒険者様はそうはいません」

「そう、だったんですね」

 

 転移直後、俺は自身の生活と奴隷購入の夢の為、質素倹約を旨とし、できるだけ消費を抑えてやってきた。

 食事や宿も健康を害さない程度にし、迷宮探索の必需品だと言われた楔も必要性を感じなかったので買ってない。

 けど、武装や回復アイテムには金をかけていたつもりだった。駆け出し時代はともかく、ある程度余裕が出てきてからはギルドの店でできるだけ良いのを買っていたのだ。

 

 が、実際には全然そんな事なかった。

 上の防具と下の防具には、これほどの差があったのだ。

 てっきり、言うて防具なんて鉄とか革とかの差しかないし、そんな変わらんやろとばかり思っていた。けれどもここは異世界、魔法のアレコレか素材のナントカで、同じ革製でもその防御性能にはかなりの差があったのである。

 

 なんだよ双角黒馬の革って……俺の鎧なんてただの熊革だぞ。前世だとかなりの耐久力だったはずだろ。熊が馬に負けんなよ。

 しかも何だよ“魔法装填”って、アレだろこれあらかじめ魔法セットして好きなタイミングで使えるんだろカッケェじゃん羨ましいわクソが。

 

「どしたッスか? ご主人」

 

 リリィを見る。光沢ある革鎧に、質感ある手袋。魅惑の絶対領域。そして、今は持ってないがここに深域武装もプラスされるのだ。あまつさえ美少女である。

 それに比べて俺である。熊さんの革鎧に、量産品の剣。装飾? そんなもの、うちにはないよ。

 これもう(どっちが奴隷か)分かんねぇな。

 

「これ買います」

「ありがとうございます」

 

 とりあえず、ルクスリリアの装備は買う事にした。

 女の子を着飾らせるのは好きなのだ。

 

「5000万ルァレに勉強させていただきます」

 

 割引されてなお、余裕でルクスリリア二人買えるくらい高かった。

 

「ありがとうッス! ご主人!」

「俺は銀細工持ち冒険者、イシグロ・リキタカだぞ。こんくらいなんて事ねぇ……」

 

 その後、俺は最低限主人に相応しい装備を買っていった。

 店主お勧めの武器屋で武器も買った。

 めっちゃ高かった。

 

「おぉ~! 似合ってるッス! かっけぇッスよご主人~!」

「おぅ……」

 

 まあ、別に損した訳じゃあない。

 相応の装備だ。きっとダンジョンアタックに役立つはずさ。

 強くなったのだ、いいじゃないか。

 

 でも、なんだろうこれ。

 この敗北感。

 俺は何に負けたんだ。

 

「金、貯めないとな」

 

 次なるロリの為、俺はさらなる金策を誓うのであった。




 感想投げてくれると喜びます。



 書き忘れましたが、ジョブごとに武器制限はありますが、防具の制限はありません。
 防具はステータス次第ですね。


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磨け、ロリ鎌

 感想・評価など、ありがとうございます。おかげで続けられています。
 誤字報告も感謝です。

 アンケートのご協力、ありがとうございました。
 結果、ルクスリリアの武器は大鎌になりました。

 感想欄を拝見するに、大鎌好きの方は「ロリ×大型武器」というロマン重視で、対抗馬だった箒好きの方は「ロリ×箒」という構図が好きな人の他に「やっぱ遠距離魔法チクチクだろ」という実戦思考があるんじゃないかなぁと感じました。
 なので、作者は逆に考えました。前衛大鎌で遠距離攻撃しちゃってもいいさと考えました。

 今回は性能だけのお披露目ですが、次回か次々回に使う事になると思います。


 前世、俺は帰宅部だった。

 

 別にスポーツや文化活動が嫌いだった訳じゃない。小学生の時やらされてた空手も、まぁそこそこ良い思い出にはなったと思う。

 けれど、中学以降の部活となると話は別。打ち込みたいスポーツもなければ、やりたい文化活動なんてのもない。多くの人はその上で部活を選び、やってくうちに楽しくなって夢中になるのかもしれないが、俺はそうなる事に対して強い忌避感を感じていた。

 何故か? ロリ活の時間がなくなるからだ。

 

 中学一年生時点で自身がロリコンであるという事を自覚していた俺は、当時狂ったようにオタク活動をやっていた。

 家に帰れば新旧のアニメを見て、ゲームをやって、マンガやラノベを読んでいた。それが健全かとか、社会的にどうのとか一切気にしていなかった。それを許してくれる両親だったというのもあるだろう。お陰で俺は毎日楽しくロリコンをしていた。

 しかし、胸の奥には部活動というものへの“憧れ”はあったのだ。

 

 よく、勘違いされる事なんだが。

 俺はロリコンだが、ロリコンなだけの人間ではない。

 ロリコンである前に、一般人なのだ。

 

 今でこそ吹っ切れているが、思春期の時分には自身の性癖に懊悩していたものである。

 どうにも周囲と話が合わない。興味関心が他と違う。そういう、普通じゃない事へのコンプレックスがあったのだ。

 だから、俺も部活動を通して、普通の人と一緒になりたかったのだ。

 

 ロリコンであるという事は、少数の貧者になる事だ。

 そういう覚悟を持つまでに、俺は数年の時を要した。

 普通の“夢”を捨てる覚悟である。

 

 ふと、思う事がある。

 もし俺がロリコンじゃなかったら、どんな風に学生生活をしていただろうかと。

 友達と遊んで、同年代の女の子と恋愛をして、何か世間的に貴ばれるモノに熱中していたかもしれない。

 

 部活とか、してたのかな。

 

 

 

 王都西区、転移神殿。

 別名、西の迷宮ギルド。

 

 それは王都にある三つの転移神殿のうち、西区の中央にある巨大な施設である。

 外観はまさに海外旅行の観光地の古い大きな建築物って感じで、なんとなくノートルダム大聖堂と大英博物館がポタラ合体したみたいな印象を受ける。

 入口は東西南の三つがあり、南側が一番大きい正面入り口である。南側、デカくて広い階段を上ると、見上げるばかりの木造クソデカ両開きドアがヘイらっしゃいとお出迎えしてくれるのだ。

 

 神殿内部は野球場ほどの広さがあり、球場でいうベンチとかそこらへんにはギルド受付や売店が並んでいる。

 真ん中には巨大な楔があり、それを囲むように数えるのも面倒になるくらいの石碑が並ぶ。この石碑前にある転移石板に触れて、ダンジョンへと転移するのだ。

 

 受付、売店、石碑。それだけじゃない、此処には冒険者に必要なすべてがある。

 魔法で癒してくれる治療院もあるし、マッサージ屋もある。ダンジョンに持ってく用のお弁当屋さんがあれば、バーみたいに飲み物とか軽食とか売ってる店もある。

 それと、冒険者用の鍛錬場もあるのだ。

 

「ほえー、凄い人ッスねー」

「はぐれないように気をつけてね」

 

 武器はある。装備も揃えた。アイテムも十分。

 そんな訳で、異世界初めての連休明け、俺たちは真新しい装備を身に纏い転移神殿にやってきた。

 目的は、ルクスリリアのトレーニングだ。

 

「ん? あ、あんたイシグロか? それに、お前さんはあん時の淫魔の嬢ちゃん?」

「どうも。鍛錬場を使わせてほしいんですけど」

 

 いつもの受付おじさんのとこに行くと、おじさんは俺とルクスリリアを見て目を丸くしていた。

 多分、見てくれが変わった俺と立派な淫魔装備のリリィに驚いてるんだろう。

 

 なんという事でしょう。以前までの俺は、モンハンの初期装備一式みたいだったのが、今では上位ハンターめいた立派な防具をつけているのだ。革=俺と認識している人からしたらかなりのビフォーアフターではないだろうか。

 しかも隣にはメガテンピクシーかマシュ・キリエライトかと思われる装備を付けた美少女がいるのだ。目立つったらない。実際さっきから他の冒険者くんたちがヒソヒソ話をしながらこっちを遠巻きにしている。だからコッチヲ見ルナ。

 

「あ、あぁ……少し待ってろ」

 

 言うと、おじさんは机の裏から一枚の紙を出してきた。そこには鍛錬場使用の注意事項と、いくつかの記入箇所があった。

 転移神殿にある鍛錬場は、こうやって申請をしないと使用できないのだ。利用料金は一人一日10万ルァレで出入り自由。俺はこれまで一度も使った事はないが、余裕がある今はしっかり使っていこうと思う。あと、このバカ高い利用料金は銀細工持ちになってからの話なので、駆け出し冒険者はもっと安くしてくれるようだ。

 

「まぁ分かっちゃいるとは思うが規則なんでな、説明させてもらうぜ。ザッとこの辺のアレコレに同意しろ、いいな? 説明終わり。最後に此処に名前書け。まあ、それは俺でやっとくよ。お前さんはここに指印だけすればいい」

「ん? 名前ッスか?」

 

 申請にはサインがいる。当然ながら、俺にこの世界の文字は書けない。なのでいつものように代筆してもらおうとしたら、隣にいたルクスリリアが机によっかかってきた。

 

「はいはいッスー。アタシ文字書けるんで、ご主人の代わりにアタシが書くッスよー」

 

 言うなり、ルクスリリアはおじさんから紙をひったくってサラサラとサインしていった。

 書き終えた紙はおじさんにリリース。おじさんはきょとん顔で紙とリリィを見ていた。

 

「お前さん、字ぃ汚ぇな……」

「え、だめッスか?」

「いや別にいい、読みづれぇが何とか分かる」

 

 異世界文字の上手い下手はあんまり分からないが、確かにチラッと見えたリリィの字は蛇とナメクジがシャルウィダンスしてるみたいだった。

 とはいえOKらしいので、指印してお金払って、ダンジョンには行かず鍛錬場へと向かった。

 

「てっきりリリィも文字書けないと思ってたよ」

「きひひっ、淫魔の識字率はほとんど100パーなんスよー」

「へえ」

「そうじゃないとエロ本楽しめないッスからね」

「へえ……」

 

 あるんだ、異世界にもエロ本。

 

 などと話しながら歩き、やがて目当ての場所までやってきた。

 目の前にはダンジョン行きのものとは少し違う見た目の石碑&石板。石碑の表面には「鍛錬場」と書いてある。

 

「えーっと、どこにしよっかな」

 

 使い方は分かる。ダンジョンと同じなのだ。

 石板に触れ、浮かび上がってきた文字に従って操作し、行き先を設定する。まるでATMを操作しているかの様である。

 

「ま、シンプルな闘技場風のトコでいいか」

 

 この鍛錬場は空間魔法を応用して作られた、いわば精神と時の部屋的な場所である。経過時間にそう変化はないが。

 鍛錬場を作ったのはこの国の初代王のパーティメンバーで、偉大なる魔術師さんらしい。彼? 彼女? は一人でこのシステムを作り上げ、後世の者たちが強くなれるよう何百年と残る設計にしてくれたのだ。ありがたいですね。

 だが、悲しい哉、件の魔術師さん以後、この空間魔法を使える者は皆無で、新たにこういった鍛錬場を作る事はできないのだという。

 

「リリィ、ここに手置いて」

「こうッスか?」

 

 設定を終え、最後に転移する人みんなで石板に手を触れる。リンダキューブを思い出すね。

 すると、石板が光り出して、俺とルクスリリアは粒子となって転移していった。

 

 やってきたのは、四方が石壁で囲まれたコロシアム風の場所だった。

 特にギミックや特殊機能のないここは、転移可能な鍛錬場の中で最もシンプルで最も多くの冒険者が使用する場所だという。

 

「さて……」

 

 トレーニング開始である。

 

 周囲に人はいない。というか誰も来れない。

 転移で来るこの鍛錬場は、一緒に転移してきた人しか入る事ができないのである。何か悪い事に使われそうだが、どうやらこの空間の出来事は記録されるらしく、悪い事しても即バレするのだとか。あと、人数制限もあるので大規模な悪事はできない。多分スケベな事もできない。いやできるのか? どうなんだ?

 

 そんな鍛錬場で、とりあえずはとアイテムボックスを探り、ルクスリリア用の件の深域武装を取り出した。

 虚空から出てきたのは、一挺の黒い鎌だった。長さは大体2メートルほどで、鎌部分の刃は大曲剣を思わせる程に長大だ。

 

 外見はまさに“死神”でイメージされる大鎌そのもので、パッと見十字架の「十」の左側が湾曲した刃になっているように見える。右側の先には斧の様な刃がついていて、上部の先端は槍のような鋭利な構造になっていた。

 また、三つの刃の刀身には何やら厳めしい文字列が掘り込んであり、柄や十字の真ん中にも精緻なレリーフが施されていた。石突部分には短い鎖がぶらさがっており、鎖の先端には紫色の水晶がくっ付いていた。

 なんというか、RPGで一番強い大鎌という印象である。

 

「おぉ……!」

 

 鎌を見て、ルクスリリアが感嘆の声を上げた。

 俺はその鎌の性能を今一度確認してみる事にした。

 

 

 

◆ラザファムの大鎌◆

 

 物理攻撃力:300

 属性攻撃力:500(魔)

 

 異層権能:召喚(守護獣)

 

 補助効果1:魔力収奪(小)

 補助効果2:形状変化(伸縮)

 補助効果3:自動修復

 補助効果4:魔法装填(破壊する魔力の刃)

 補助効果5:魔法装填(追いすがる魔力の矢)

 補助効果6:魔法装填(貫く魔力の槍)

 補助効果7:魔法装填(炸裂する魔力の岩)

 補助効果8:魔力消費(中)

 

 

 

 

 

 

 強い(確信)

 

 どう見ても強い。よく分からんけど強いのだけは分かる。だってつい先日まで使ってた俺の剣の攻撃力とか200だもん。

 強い、強いのだが、俺は今までこの武器を使ってはいなかった。

 何故かというと、俺が就く事のできるジョブで大鎌を使用可能なジョブがなかったからだ。あと、なんか雰囲気的に魔法偏重っぽいし、俺には使いこなせないかなって。

 以前は軽く振ってみて「いらね」ってアイテムボックスにポイしちゃって補助効果だのなんだの色々忘れちゃってたが、この鎌にも“魔法装填”ってのがあった。ちょっと試してみたものの、発動しなかったんだよな。

 

「じゃあ、これ持って」

「う、うッス……!」

 

 そんな訳でルクスリリアに大鎌を渡すと、彼女は物騒な形の鎌を宝石でも扱うように恭しく受け取った。

 すると、前もそうだったがやはりこの鎌は重たいようで、ルクスリリアはよいしょと一度踏ん張ってから両手を使って担いでみせた。

 身長140ないルクスリリアからすると、自分より大きい鎌は持つだけでも厳しいのだ。両手持ちでなんとかで、片手だと振るどころか保持も難しそう。

 

「じゃあちょっと振り回してみて」

「了解ッス!」

 

 だが、ここは異世界、前世地球の物理法則は通用しない。

 どれだけ大きくても、どれだけ重量差があっても、ステータスが足りてれば使いこなす事ができるのだ。

 ルクスリリアは非力な方だが、それは魔族基準での非力だ。並みの人間よりは膂力がある。少なくとも転移直後の俺よりは力持ちだ。

 

「えっと……そいや!」

 

 気の抜けた掛け声と共に、ラザファムの大鎌は横凪ぎに振るわれた。

 その攻撃動作は、存外流麗に見えた。まるで普段からこういう武器を使ってきたかの様である。

 

「でぇい!」

 

 凪いだ鎌を、回転そのままもうひと凪ぎ。すり足で姿勢を整え、腰を落としてえぐるような切り上げ。一歩引いて振り下ろし。ズボッと、鎌の先端が闘技場の地面に突き刺さった。

 それは、まるで武器術の演舞を見ているようだった。動きのひとつひとつがしっかりしてて、何か中学生が木刀振り回してる様とは全然違って見えた。

 重量に振り回されてもいない。むしろ遠心力を利用して、次の動きに繋げていた。俺のような素人にも分かるほど、綺麗なコンボだったのだ。

 

「ふむ……?」

 

 正直、想定と違った。大鎌なんてキワモノ武器、そう使いこなせるとは思っていなかったのである。だからこそ練習する為に鍛錬場に来た訳で。

 実際あれだけで判断するのもどうかと思うが、ルクスリリアはちゃんと武器を武器として振っていた感じがしたのだ。

 しかし、驚きこそすれ困惑はない。俺はこの現象に見当がついていた。

 

 見ると、ルクスリリアは大鎌を持った自分の手を見つめていた。

 まるで己の内なるパワーが覚醒した……と思いこむ中学生の様だ。

 

「まさか……アタシってば、武器の天才だったッスか……!?」

 

 それからもう一度大鎌を振り上げると、今度は翼を生やして飛行状態のままぶんぶん振り回しはじめた。エルデンリングのマレニアを思い出す動きだ。

 速度こそそこまででもないが、空中で大鎌を振り回す様は堂に入っており、地上同様武器に振り回されている感じはなかった。

 数度の乱舞攻撃を終えると、ルクスリリアはぴたりと空中でSEED立ちをして決めポーズを取った。その顔はマジりっけなしのドヤ顔だった。

 

「ご主人、アタシ天才だったかもしれねぇッス……」

「かもね。じゃあこっちのも持ってみて」

 

 ドヤ顔のリリィから大鎌を取り上げ、さっき出したハンマーを持たせてみる。

 予想通りなら多分……。

 

「ふん、まぁ武器術の天才たるアタシにまかせへぇぇぇん……!?」

 

 予想通り、ぶんっとハンマーを振ったルクスリリアは、遠心力に負けて盛大にすっ転んでしまった。

 それはさながら、強振フルスイングで空振りしたパワプロ君の如しであった。

 

「あれぇ~? おかしいッスね。さっきはこんな事なかへぇぇぇん……!?」

 

 再度、ハンマーフルスイングからのすっ転び。

 うん、確信した。

 どうやら、俺のモーションアシストがルクスリリアにも適用されてるみたいだった。

 

「えーっと、多分さっきの大鎌を上手く使えたのは、俺のチートの影響だと思う。モーションアシストっていうんだけど」

「もーしょん? なんスかそれ」

「武器を使いこなせる程度の能力。淫魔兵の使用武器に大鎌はあったけど、槌はなかったからね」

 

 多分、そういう事である。

 俺もモーションアシストで剣ぶんぶん振り回して悦に入ってた時あるもん。わかるよその気持ち。

 

「は、はあ、なんでもアリっすねご主人……」

 

 と言って、呆れたような諦めたような顔をするリリィ。

 そんなリリィからハンマーを受け取り、今度は事前に用意しておいた木製の十字槍を持たせる。鎌の代用だが、これは淫魔兵でも使えるはずだ。

 

「あれ? 鎌の性能確かめるんじゃないんスか?」

「それは後でね。モーションアシストが機能してるのが分かったから、他にもちょっと試してみたい事があってね」

 

 数歩下がり、アイテムボックスから事前に買っておいた木剣を取り出した。

 それから、コンソールをいじって俺のジョブを中位ジョブの“聖騎士”に変更。

 

「他の機能もオンになってるかどうかを先に調べときたいんだ」

「はあ。アタシはどうすればいいッスか?」

 

 最初は大鎌の性能を見て、それから時間をかけて慣らしていくつもりだった。

 けど、モーションアシストがあるんなら話は別だ。俺はその凄まじさを身を持って知っている。使いこなしさえすれば、アレはいとも容易く一般人を戦士に変えるのだ。

 ただ、動きがよくなっただけでは心もとない。ちゃんと、他のチートの確認もしておくべきだと思うのだ。

 

「これから斬りかかるから、避けたり防いだりして」

「え? あ、はいッス」

「できれば反撃もして」

「はいッス」

「なんか妙に勘が働いたり未来予知するかもしれないから、そういうのには素直に従って」

「はいッス?」

 

 困惑しきりのリリィ。まぁ分かる。話してもいまいちだろう。

 

「じゃあ、行くよ」

 

 なので、初手は思いっきりぶつかる事にした。

 

 

 

 まあ、結果を言うと俺の推測は当たっていて、ルクスリリアは俺同様色んなアクセシビリティを使う事ができた。

 危ない攻撃の予知。適切なガードタイミングと反撃アシスト。視野外からの攻撃の察知。

 実験の結果、ルクスリリアはその全てが可能だった。

 

 けれど、ちょっと予想外な事もあった。

 

 ところで、俺が頼りにしてる“危機察知”とか“危険攻撃の視覚アシスト”だが、例によってこれも万能ではない。

 真に万能なら、俺は死にかける事はなかっただろうし、怪我ひとつ負う事なく三ヵ月過ごせただろう。

 確かにヤバい攻撃は分かる。確かにジャスガは簡単だ。確かに最適解がイメージできる。

 

 でも、それはそれとして。

 

「ひぎゃっ!?」

「あ……」

 

 ビビると無意味なのである。

 

 ふと、ジョジョ4部の億泰の兄貴のセリフを思い出した。

 どんなモンスターマシンもビビッて乗るとみみっちい運転しかできないって奴。

 例えどんなチートを与えられてたとしても、使いこなせないと意味がないんだな。

 

 まあ、道筋は見えた。

 やるべき事は単純である。

 

「うぅ……痛いッスご主人~! もう大鎌使って無双でいいじゃないッスか~! アレ使えばアタシでも戦えるッスよ~!」

「ルクスリリア」

「なんスか?」

 

 俺は女の子座りするリリイに手を差し伸べ、言った。

 

「使いこなせるよう練習しよう」

「え……」

 

 まるで、部活の先輩が後輩を導くように。

 若い衝動をひたすらにぶつけるように。

 俺とリリィは、トレーニングに励んだ。

 

 この後めちゃくちゃわからせた。




 感想投げてくれると喜びます。



 作者は武器・魔法・技などを考えるのが苦手です。 


・魔法装填
 あらかじめ使用する魔法をセットしておいて、使用者が魔力を流す事で発動する。
 基本、装填できる魔法は低威力で魔力消費も高くなる。最大の利点は近接格闘中にも即座に発動できるところ。



・ラザファムの大鎌
 イシグロが入手した深域武装。特殊な能力は守護獣の召喚。
 性能は魔力重視で、物理攻撃力よりも属性攻撃力のが高い。
 鎌部、斧部、槍部、水晶部にそれぞれ魔法が装填されており、近~遠距離のどこでも威力を発揮できる。
 なお、大抵の冒険者には使いこなせないので、ぶっちゃけハズレ武器である。


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往きて、ロリし

 感想・評価など、ありがとうございます。お陰で捗ってます。
 誤字報告にも感謝です。前話、ひどい誤字ありましたね。忍びねぇ忍びねぇ。

 作者が一番好きな大鎌はダクソ3の「フリーデの大鎌」です。非常にオサレ(隙鎌語)

 今回は三人称、おじさんとその周辺です。
 頂いた感想に触発されて今回過去の偉人が申し訳程度に出てきますが、あくまでフレーバーです。主人公たちとは全く関係がありません。


 人類生存圏、中心部。

 

 ラリス王国。

 またの名を、英雄の生まれる地。

 

 力を貴び、知を敬い、なにより勇を誉れとするその国は、遥か昔の英傑たちの栄光によって興された。

 始まりの英雄たち。それは、六人六種の一党であった。

 

 彼の者、闇夜にて地に在る月の如し。

 放浪の竜、数多剣士の到達点。

 銀竜剣豪・ヴィーカ

 

 彼の者、鬣に太陽を宿すが如し。

 猛き雄、栄光を背に笑う者。

 獅子拳聖・イライジャ

 

 彼の者、真紅の美酒の香りの如し。

 血煙の麗人、永遠の眠り姫。

 純血大公・リアルイーザ

 

 彼の者、青空に浮かぶ白雲の如し。

 許されざる大罪人、病魔を殺す者。

 極光天使・ジュスティーヌ

 

 彼の者、清廉なる森の泉の如し。

 第一の友、魔道と知の探究者。

 魔道賢者・ゼノン

 

 そして、英傑を率いる者。

 勇気ある男。心折れぬ男。輝くは鎧にあらず、その魂こそ真なる黄金。

 勇者・アレクシオス

 

 古代、彼らは迷宮に挑み、幾度も凱旋し、その恩恵を万民に授けた。

 枯れた大地に水を。荒れた木々に命を。死の霧の原には太陽を。

 やがて謳われた、比類なき人の王。

 

 強き者、驕る事なかれ。

 弱き者、一歩ずつ進め。

 俯く者よ、我らが背を御覧じろ。

 

 人類よ、此処から始めよう。

 

 この世界の誰もが知る、建国の物語である。

 

 

 

 ラリス王国、王都西区。

 

 転移神殿の受付にて、ギルド職員の受付おじさんは昔聞かされた御伽噺を思い出していた。

 曰く、昔々の王様は色んな種族の人と一緒に迷宮に潜って、色々便利なモンを持って帰っては困った人に気前よく分けてくれたらしい。

 当時の人類は今よりずっと過酷な環境に生きてて、伝承によると吸うだけで死ぬ煙とか週一で来る魔物の大群とかでそれはもう大変だったようだ。

 おまけに地面は枯れ放題で、癒やしの雨には肌を焼く酸が混じってたらしい。夜になると何処からともなく骸骨が襲ってくるとか。怖すぎだろ。

 その頃の人からすると、今の人類様はさぞ楽してるように見えるんだろうなーと、おじさんは欠伸をかみ殺しながら思った。

 

 ギルド職員は多忙である。

 ただでさえ量の多い机仕事に加え、アホな冒険者の相手や人同士の諍いなどにも公平に対処せねばならないのだ。

 その点、おじさんは要領が良かった。人気がないので冒険者の相手はそれほどしないし、回ってくるごたごたもない。その代わりにと他職員の書類仕事をお手伝いしては上手にヘイト管理をしていた。

 パワハラもモラハラもアルハラもしない、実に良いベテランさんであったのだ。

 

 そんな中……。

 ある種、忙し過ぎて余裕のない職員の中で、おじさんだから気づいた事があった。

 

「そういや、イシグロの奴は今日も休みか」

 

 最近噂の彼、迷宮狂い氏の事である。

 彼は冒険者になってからというもの、七日に一日程度休むくらいでほぼほぼ毎日迷宮に入っていた。それ自体マジでアタオカなのだが、奴は加えて毎度毎度主を倒して帰還するのだ。意味不明である。

 いや、一回だけ撤退した事があったようだが、翌日にはお礼参りして凱旋した。迷宮の構造上同じものではないが、見事雪辱を晴らした訳だ。

 

 そんな、迷宮狂い氏の迷宮狂いっぷりからして、二日連続の休暇はこれまでになかった異常事態である。

 仕事が落ち着いてくると他職員も違和感を感じ始めた様で、休憩室で彼についての話題が出た。

 

「今日も休みなんですね、イシグロさん」

「ですねー。まぁでも、これが普通……というか、それでもおかしいんだけど」

 

 銀細工持ち冒険者といえば、月一ペースで迷宮に潜るのがスタンダードだ。

 また、銀細工持ちの連中は勇気はあっても蛮勇の持ち合わせはない。優秀な奴ほど準備に余念がないものである。

 事前情報から適切な装備を整え、必要ならその都度武器を職人にオーダーメイドで作ってもらう。その上で鍛錬して手に馴染ませ、迷宮に入って楔を打って、楔が砕ける前に時間をかけて攻略するのだ。失敗しても、生きてりゃ勝ちだ。

 それから、金がなくなるまで遊びまくり、腕が鈍らないうちにまた迷宮に戻ってくるのである。

 

「おじさんは聞いてないですか? 迷宮狂いさんが休んだ理由」

「おじさんって言うな。まぁ……昨日街で会ったな」

「え!? イシグロさん街で遊んだりするんですか!?」

「いや、そんなんじゃなかったな。前紹介状書いた店で奴隷買ったらしい。真新しい服着て、奴隷連れて歩いてたよ」

「へ~、あのイシグロさんが奴隷を……」

「しかもあの店の奴隷でしょ? そりゃ、お金は余裕でしょうけど、何でだろ?」

 

 困惑する休憩中の職員たち、けれどおじさんは知っていた。

 知った上で、黙っていた。何故か? なんかそっちのがクールだからだ。

 

「変な性癖持ちとか?」

「いやいや、高級娼館でいいでしょ。それこそ西区には娼館なんて山ほどあるんだから」

「殺していい奴隷が欲しかった、とか……?」

「それこそその辺の安い奴隷でいいじゃない。ていうか、流石に失礼」

「特定の種族にしか興味ないとか?」

「あ~、上森人限定とか? 確かに、上森人抱ける店は西区にないよな~」

 

 きゃいきゃいと騒ぐ若者を背に、おじさんは椅子から立ち上がった。

 違う、奴は変な性癖持ちでも快楽殺人鬼でもない。

 

「……鍛えるのさ、自分について来れる英雄の卵を」

 

 ギルドのおじさんは(あえて)誰にも聞かれない声量で呟き、スタイリッシュにクールに去った。

 

 

 

 

 

 

 結局、件の迷宮狂いさんは翌日も翌々日も転移神殿に来なかった。

 これにはそういうのに敏感なギルド職員だけでなく、西区の転移迷宮を拠点とする冒険者たちもざわついていた。

 

 やれ死んだんじゃないのとか、借金返して引退する準備中なんじゃねとか、あるいは購入したらしい奴隷に夢中になって今もベッドで腰振ってるんじゃねぇのとか。

 神殿内のバーで、あるいは神殿前の広場で、イシグロは酒の肴にされていた。

 

「俺、今日見ましたよ。迷宮狂いさん」

 

 と、ギルドのバーで飲んでいたとある冒険者が言った。

 その発言に、バーテン含む近くの冒険者が驚愕して発言の主に視線をやった。

 言葉の続きを促されたと思った冒険者は、グラスの中のジュース――神殿内でお酒は禁止である――を飲み干すと、ついさっきあった事を思い出しながら言った。

 

「えーっと、見たというか出くわしたって感じなんですけど。西区の綺麗な防具屋あるじゃないですか。自分がそこで新しい兜探してる時にやってきて、なんか店主さんと揉めてました」

「揉めてたって、あのイシグロがか?」

「まあ、何て言ってたのかは覚えてないですけど、店主さん頭下げてましたよ」

 

 迷宮狂いといえば、やってる事はガチ狂人なくせに温厚で誠実な人柄でお馴染みである。

 誰であっても物腰は柔らかく、問題を起こしたなんてのは一度も聞いたことがない。異常なほど昇格が速かったのには、功績の他にもそういうところが評価されていたというのもあるのだ。

 そんなイシグロが防具屋の店主に頭を下げさせるなど、何でどうしてという気持ちである。

 

「にしても、あのイシグロが防具ねぇ? なんか事情があるのかと思ってたが、やっとまともなモン着ける気になったか」

「いえ、なんか連れてた淫魔の奴隷の装備選んでましたよ?」

「淫魔ぁ?」

 

 飛び出てきたビックリ情報に、これまたバーテン含む周囲の人らがビックリ仰天した。

 

「淫魔の奴隷たぁ……んなもん何でって話だがなぁ……?」

「ある意味、流石っすね。俺じゃ絶対無理っすわ」

「俺もちょっと無理だわ。度胸試しっつっていっちょ相手してみたがよ、ありゃおっかねぇよ。悪い思い出じゃねぇが、二度目はいいや」

「そうかな? 僕は好きだよ。慣れれば逆に良いものさ。まさか彼も僕と同類だったとはね」

「淫魔狂いがよぉ……」

 

 この世界の淫魔は古いタイプの女性からは牛乳拭いて一日放置した雑巾の如く嫌われているし、人間族含む多くの種族の男からは憧れ半分恐れ半分といった目で見られている。

 なにせ、エッチな事をすると生命を奪われるのだ。曰く淫魔の吸精は最高に気持ちいいが、同時に本能的な恐怖を感じるらしい。それなら素直に娼館で発散した方が冒険者の感覚的には健全である。

 それで言うと、例の高級奴隷店で買ったらしい淫魔の奴隷でアレコレするなんてコスパ悪いわレア過ぎるわ度胸あり過ぎるわで意味不明である。

 

「いえ……なんでしょう、そんな感じはなかったというか……」

「なんだよ。まぁそりゃ淫魔フェチってんならああも女に興味ねぇのは分かるがよ。知ってっか? アイツ牛人族の女からのお誘い断った事あるんだぜ?」

「そうではなく、その淫魔奴隷ってのが……こう、子供みたいだったんです」

「子供?」

 

 話を聞いてた冒険者たちの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。

 淫魔といえば、皆が皆ムチムチボインで男好きのする身体の持ち主と相場が決まっている。にも関わらず、子供とは?

 

「ガキの淫魔って事か? あぁそりゃ、高級店にしか売ってねぇだろうな」

「ほう、子供の淫魔ですか……大したものですね。僕も一度淫魔の子供を自分好みに育ててみたいものです」

「あ~、それならオレにも分かるわ。で、育ったところで美味しくいただくと」

「馬鹿、お前なんざ一晩で干し物よ」

「最低でも一ヵ月の禁欲は必須です。さもないと貴方、絞り殺されますよ?」

「げぇ! んなら普通に娼館行くわ!」

 

 そうして、イシグロ=子供淫魔を育てて後に美味しく頂きたい系変態という話に落ち着きかけたところで、件の冒険者はさらなる話の種を投下した。

 

「いえ、子供ではなく、子供みたいな淫魔だったんです。ちゃんと角が生えてましたから」

「……はぁ?」

「ふむ、小柄な淫魔という事ですか?」

「はい。子供みたいっていうのは背とか胸とかの事で、魔力量的にも十分成熟した淫魔でしたね。あれは多分、中淫魔なんじゃないでしょうか」

「は、はあ……?」

「小柄な中淫魔ですか。とても希少ですが、まぁいなくはないでしょう。吸精の機会にも恵まれないでしょうから、恐らく生まれつきの中淫魔でしょうね」

「お、寝取りか? イシグロとやり合う気か?」

「バカ言わないでください。最低でも僕は僕の頭が埋まる程の胸にしか興味ありませんよ」

 

 つまり、アレである。

 イシグロという男は、高い金払って貧相な淫魔の奴隷を買って、ついでに自分用じゃなく奴隷用の装備を買いに行ったと。

 かけた手間的に、迷宮で使い潰すって訳でもなさそうである。こうなると、イシグロ考察勢の冒険者たちは振り出しに戻ってしまった訳で。

 あいつ、ホンマなんやねんって話である。

 

 

 

 

 

 

 その翌日。

 

 迷宮狂いさんはひょっこり転移神殿に顔を出した。

 小さな淫魔奴隷を侍らせて。

 

「あれ、イシグロか?」

「でもイシグロがあんな強そうな装備着ける訳ないだろ」

「ほなイシグロちゃうか」

 

 が、悲しい哉、件のイシグロさんは見てくれに変化があり過ぎて顔見知りの冒険者から別人判定されてしまった。

 イシグロくん21歳日本人。弱そうな装備=イシグロという風に覚えられていた。

 

「にしても、あの奴隷の装備はなんだ? さっきから鼻がヒクヒクするくらいの魔力感じるが」

「あぁ、ありゃただの防具じゃねぇ。どう見ても一級品……それも銀細工持ち冒険者でも上位の奴が着る鎧だ。背中も空いてるし、それこそ魔族とか翼人用に作られた一点モノだぜ」

「てかあの奴隷は何だ? 魔族だよな、淫魔に見えるが……」

「いや淫魔があんなちんちくりんな訳ないだろ」

「ほな淫魔ちゃうか」

 

 むしろ、イシグロよりもその隣の矮躯の奴隷に注目が集まっていた。

 魔力に敏感な者は、その鎧に込められた膨大な魔術的加工に鼻がヒクヒク目がチカチカする思いだった。

 さっきちらりと見えた奴隷証からして、あの男の奴隷なんだろうが、あれは奴隷に着せるようなモンじゃない。というか、主人の方は上等といえば上等だが割と普通の革鎧を着ているので、着るべき鎧の質が逆である。

 

 そうして、件の二人組は受付おじさん――迷宮狂いの担当職員扱いを受けている――の元へ向かい、何やら申請をし始めた。

 かと思えば、サインの段になると隣にいた奴隷が筆を取ったではないか。奴隷に主人の名を書かせるなど、考えられない行為である。無礼とか失礼とかじゃなく、恥ずかしい事なのである。

 

 そして、二人組は鍛錬場の方へと歩き出した。

 ちょうどその時、件の恥ずかしい主人と目が合った。

 

「あ、迷宮狂い……」

 

 その男、イシグロであった。

 輝くばかりの銀細工。前と違って上等な革鎧。隣には噂にあった小さい淫魔奴隷。マジだった。マジでちんちくりん。あいつマジでガキみたいな淫魔の奴隷連れてやがった。

 主人が主人なら奴隷も奴隷だった。レアな冒険者とレアな淫魔が合わさり変人に見える。まさにイロモノコンビであった。

 

 件のイロモノコンビは鍛錬場の転移石板を操作し、姿を消した。

 相変わらず、無駄な事をしない。ていうかアイツが鍛錬場行くの初めて見た。

 

「マジだったな」

「あぁ……」

 

 彼を見ていた冒険者二人は、呆然と石碑を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 イシグロ連休事件の後、幾日の時が経った。

 

 その間、イシグロと淫魔奴隷の二人組は毎日鍛錬場を利用し、昼になるとご飯を食べに行ってまた鍛錬場に入り、夜が近づくと帰るというルーティンをこなしていた。

 最初は「迷宮狂いが迷宮に行かない!?」とビックリしていた職員&同業者たちも、毎日の鍛錬場利用には「熱心だなー」と思うようになっていた。

 それと同時に、あの淫魔奴隷には同情の目が向けられていた。

 

 頭のおかしい冒険者でも、一等頭のおかしい冒険者の奴隷で、恐らく性奴隷でなく戦闘奴隷として買われたのだろう。そうでないと小さい淫魔を買う理由に説明がつかないからだ。

 その上で、あの迷宮狂い――史上最短銀細工到達者――と共に毎日鍛錬場を利用しているのだ。あの中ではどんな地獄が再現されているのか分かったものではない。迷宮狂いに相応の、王国騎士団が裸足で逃げだす訓練をしている事だろう。

 

 しかし、いざ奴隷の様子を観察してみると、件の淫魔は朝に鍛錬場へ行く時はゲッソリ鬱っぽい表情をしているのに、鍛錬場を出てくる時は満面スマイルなのだ。まるで今しがた“美味しいもの”でも食べてきたかのように。

 一体、何がどうしてそうなってるのか、さっぱり分からなかった。当のイシグロはというと、妙に晴れやかな表情で鍛錬場をエンジョイしてるのでこれまた意味不明である。

 

「あいつ、やっぱ頭おかしいな」

「奴隷の淫魔かわいそう」

「けど、ああやって鍛錬場に通うのは、見習うべきなのかもな」

 

 冒険者三人は、目を合わせ、今日の予定を決めた。

 そろそろ、次の段階に進もう。

 

 その前に、ちゃんと鍛錬をした上でだ。

 

 

 

 それから、しばらく。

 

 お馴染みイシグロ&淫魔奴隷の二人組は、何食わぬ顔で転移石碑の前に行き、石板を操作した。

 行き先は石碑を見れば分かる。あれは、駆け出しを卒業した者しか挑戦を許されない高難度迷宮。

 

 通称、巨像迷宮。

 

 決して、駆け出し同然の淫魔奴隷を連れて行っていいような迷宮ではない。

 そこは、堅い渋い怖いの三拍子がそろった、冒険者に嫌われてる迷宮ランキング上位の迷宮なのだ。

 

 二人は一切逡巡する事なく、ヤバい鉄火場へとあっさり転移していった。




 感想投げてくれると喜びます。



 なんか意味深な過去の世界設定ですが、別にこの異世界、遠い未来の地球とか遥か昔の地球とか地球とは違う銀河の星とかではないです。
 ただの異世界です。異世界にただもクソもあるかという話ですが。当然、物理法則も違います。


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異世界ダンジョンに三ヵ月潜ってきたがようやく帰ってきた、ぞ

 感想・評価など、ありがとうございます。マジでやる気に繋がってます。

 今回はダンジョン回です。
 ただ、例によって隙あらば異世界語りをしているので、文量が無駄に膨らんでしまいました。
 おかしいですね。

 第二ヒロイン早く出したいですねー。


 鍛錬場でのトレーニング生活は、存外楽しいものだった。

 

 毎日、朝早くから運動場で汗をかき、お昼時になると二人でランチを食べて、少し休んだ後にまた運動。

 まるで失われた青春を取り戻しているかの様であった。部活の合宿でもしている気分だぜ。した事ないから分からないけど。

 

「ぐぇ!?」

「魔力過剰充填、“中治癒”。昨日は30手だったけど、さっきのは36手だったね。成長してるよ。大丈夫、強くなってる」

「は、はいッスぅぅぅ!」

 

 まあ、内容は内容だが……。

 

 最初に行ったのは、モーションアシスト含む共有チートの確認と習熟だった。

 これには危機察知とかの一人じゃできないものがあるので、俺はひたすらルクスリリアと打ち合って限界まで防御と反撃をしてもらっていた。

 もちろん、攻撃はかなり加減している。それに練習に使っているのはお互い刃引きしている武器なので、実際当たっても痛いだけで死にはしない。まあ、地球人なら死ぬかもだが。

 

 興味深かったのは、アクセシビリティチート持ち同士がやり合うと、まるで早送りした時代劇の殺陣シーンみたいにお互いの武器を高速でぶつけ合う拮抗状態になった事だ。

 そりゃ、互いが互いにどこにどう打ち込むか分かってて、意識せずとも普通に防御も反撃もできるのだから千日手になるのは当然ではあったのだ。練習中、俺とルクスリリアの間には絶えず金属同士を叩きつける音と激しい火花が散っていた。

 で、そんな状態で結局何が勝敗を決めるかというと、やはりステータスと集中力だった。

 

「はぅぐぁ!」

「魔力過剰充填、“中治癒”。39手、惜しいね。もう少しで40手まで行けたね。でもどんどん伸びてってるよ」

「はいッスぅ……!」

 

 ステータスはそのままの意味だ。膂力とはそれ即ちパワーであり、技量とは精密動作性であり、敏捷とは動きの速さである。人が虎に勝てないように、能力が違えば小手先の技術など意味がないのだ。

 その点。俺はルクスリリアの倍以上も膂力も技量も敏捷もある。その気になればゴリ押しで勝てる。けどそれだとトレーニングにならないので、そうはしない。

 

 集中力というのは、これまた読んで字の如しだ。あるいは慣れといってもいい。

 危機察知、最適な切り替えし、危険攻撃への適切な対処。気が抜けると、わかっちゃいるが心と体がおいつかないってのが発生する。ゲームでどう動けばいいか分かってたのに何故かミスったみたいな経験。あんな感じだろうか。かくいう俺もそれで何度か失敗したし、異世界じゃあ何度も死にかけた。やっぱリンチが怖いよリンチが。

 車やバイクの運転というのは最初はわちゃわちゃしちゃうものだが、慣れると音楽聞きつつ人と話しながらできるだろう。そんくらい習熟させたいものである。

 

「じゃ、今日はラザファムの大鎌の練習をしようか」

「はいッス! 待ってたッスよ!」

 

 で、トレーニング開始から数日。

 ある程度チートを使えるようになってから、ルクスリリアは本格的に深域武装の練習に入った。

 

 アクセシビリティ同様、どんなモンスターマシンでもビビッて乗るとみみっちい運転しかできない。なので、本番で試し切りするよりしっかり武器自体にも慣れるべきだと思ったのだ。

 大鎌の動きに関しては街の武器屋さんで買った安い大鎌を刃引きしてもらった奴を使って練習してきたので無問題。あとはこの大鎌型深域武装の習熟だ。

 

「色々補助効果があるみたいだから一つ一つ試していこう。とりあえず、“形状変化”って奴からやってみようか」

「はいッス。ん~っと、こうッスかね? えい!」

 

 ひょいっと、厳めしい大鎌はネコパンチみたいな軌道で振るわれた。

 するとびっくり、モーションに連動するように鎌部分の刃がギャリギャリと分裂して伸び縮みしたではないか。いわゆる蛇腹剣、いや蛇腹鎌か。

 まるで鞭かガリアンソードか、形状変化した大鎌は見た目以上のリーチを発揮したのだ。

 

「うひょおおおおお! なんスかこれたまんねぇッスぅぅぅ! こんなん一方的に殴れるじゃないッスかぁあああ!」

 

 調子にのってギャリンギャリン鎌を伸縮させて遊ぶリリィ。それはさながら針付きの釣り竿を振り回す小学生の様。哀れ、鍛錬場の地面は数秒と保たずズタズタになってしまった。

 どうやら鎌部の伸長はモーションに応じて長短が決まるようだ。そんでモーションの終了と同時に元の形状に戻ると。まるでブラッドボーンの仕込み杖か獣肉断ちの様である。炎エンチャしたら綺麗かもしれない。

 

「リーチは大体刃渡りの3倍くらいか。先端チクチク戦法でも相手によっては普通に反撃届いちゃう距離だな」

「きひひっ、知らねぇんスかご主人? 戦いは距離なんスよぉ? あのリアルイーザ様もほとんど魔法使ってたらしいッスよ? 魔族史が証明してるッス!」

「じゃあ一回試してみる?」

「え……?」

 

 と調子に乗っていたので、深域武装持ちのメスガキは速攻でわからせた。

 空中飛び回りながらチクチクされてたらもっと面倒くさかっただろうが、まだそこまで習熟してないようだ。練習あるのみやね。

 

「はい隙あり」

「ぐへぇ!?」

「はい“中治癒”」

 

 この世界、ステさえ高けりゃ大概の無茶ができる。間合いの広さ、動きの速さは前世地球人の限界を優に超えているのだ。

 仮に、前世地球人の槍術の達人と戦ったとしても、異世界帰りチート継承の俺なら槍への接触なく接近して普通に殴り殺す事ができると思う。人は虎に勝てないし、達人は超人に勝てないのだ。

 

 その点、俺は幸運だった。前世で武道の類にマジになってなくて良かったと思う。もし俺が武道に自信ニキだったら、人間相手の合理性を怪物退治にも適用させてしまっていただろうから。

 ぶっちゃけ、前世地球の常識はあんまりアテにならない。武器の使い方も根本の思想が違うのだ。攻撃力10の斧の一撃より攻撃力100の短剣のひと刺しのが強い世界、前世で培われてきた人間同士の戦いの技術は前提が崩れる。

 まあ、もし同格同士の戦いなら別かもしれないが、それでも相当な工夫が必要だろう。やるとしたら陰実の主人公が前世武術を異世界流にアレンジしてたように、世界観に準じた合理性を追求すべきだ。悲しい哉、俺にそんな技術の蓄積はない。フルコン空手の経験など、ダンジョンアタックで如何ほど役に立とうかという話である。

 

「じゃあ次は魔力装填の魔法を使ってみてほしいんだけど、できそう?」

「やってみるッス!」

 

 そうして、俺とルクスリリアは深域武装の完熟訓練に勤しんだ。

 途中、装填された魔法の発動で魔力枯渇起こしたリリィに魔力補充(意味深)したりしたが、マッポが飛んでくる事はなかった。セフセフ。

 

「んはぁ~♡ 枯渇状態からの吸精ほんとキマるッス~♡ ハマッちゃいそ~♡」

「ん~、やっぱ容量の問題だよね。これはレベリングしないと解決しないかな」

 

 どうやら、大鎌に装填された魔法はリリィがもう少し強くならないと十全に扱えないらしい。

 それと、実際使ってみて分かったのだが、武器に装填された魔法には使用者の魔攻の補正が乗らないようだった。要するに、装填された魔法は固定値なんだな。魔攻10が使っても魔攻100が使っても同規模同威力と。

 その仕様にリリィは「なんじゃそりゃッス!」と嘆いていたが、俺は色んな使い方できそうだなぁと楽しくなっていた。魔力さえあれば誰が使っても同じなら、そもそも補正の乗らない魔法を装填すればいいのである。この武器じゃできないが、いつか魔法装填特化型の武器がほしいね。ゲーム脳が熱くなる。

 

「じゃあ、明日一日休んで、その次の日にダンジョン行こうか」

「かしこまッス! はぁ~! これでアタシも冒険者かぁ~……!」

 

 なんにせよ、成長が楽しみである。

 

 

 

 

 

 

 この世界のダンジョンは、大きく分けて三種類ある。

 

 一つは、洞窟とか宮殿内みたいな四方を壁で覆われた“屋内型”。

 大きさも広さもマチマチで、迷路化してたりしてなかったりで、ボス部屋とかの概念がある最もスタンダードなダンジョンだ。

 こういうところで大事になってくるのは、やはり集団リンチ対策である。囲まれると普通に死ねるので、何よりもマップの構造を把握しながら進むのが肝要である。

 

 もう一つは、だだっ広いお外に召喚される“屋外型”。

 これはどっちかというといきなりオープンワールドゲームが始まったような感じである。出現エネミーも徘徊してるタイプが多く、ボス部屋とか罠部屋とかが存在しない。空こそ見えるが空模様は固定であり、夜ダンジョンはずっと夜だし雨ダンジョンはずっと雨だ。

 このタイプのダンジョンでいつも思うのは、やっぱ足が欲しいというものだ。そりゃ今の俺はサラブレッド並みに速いが、ラストスパートん時の速度を出してるとそのうち疲れる。疲れると戦いに支障が出るので、いつも疲れない程度に走っているのだ。今回はリリィも同行しているので、俺のペースに合わせる訳にもいかない。やっぱ車かバイクが欲しいものである。オープンワールドには高速移動手段が必要だろう。

 

 最後のは上記ふたつの要素を含んだ“複合型”だ。

 外で始まり、そこから地下なり建物なりに押し入ってボス部屋のボス倒して終わるのだ。これは初心者用ダンジョンには存在せず、ランクアップ後じゃないと行けない高難度専用ダンジョン限定の仕様だ。

 イメージでいうと、ブレスオブザワイルドのハイラル城に近い。なお、エリア外は謎バリアによって進行不可だった。攻略してて一番楽しいのはこれである。

 

 ちなみに、それら全タイプのダンジョンで共通なのが、入る度にダンジョンの構造が変わってるってところだ。

 これはシレンとかの仕様だろう。屋外型でも地面とか空模様とかは共通でも、配置されてる岩やら川やらは違ってたりする。慣れたダンジョンを走って攻略、とかはできないんだな。

 いずれにせよ、しっかりコツコツ油断せず行こうという話で。

 

 

 

 さて、色々あって俺たちがやってきたのは、屋外型のダンジョンだった。

 

 どんよりした曇り空に、見渡す限りの荒野。奥の方にはジャングルジムサイズから高層ビルサイズの大小の岩山が点在している。

 そして、スタート地点兼撤退用転移スポットである楔の前に、俺とルクスリリアは立っていた。

 そう、本日ルクスリリアは冒険者デビューする事になったのだ。

 

「と、とうとう来ちまったッスね、迷宮に……。ふぅ……ここで強くなって、やがては大淫魔になってやるッスよ……!」

「このダンジョンは奇襲とか罠とか無いから、今はそんな緊張しなくていいよ」

「あ、そうなんスか?」

 

 転移直後、ルクスリリアは謎のファイティングポーズをしていた。緊張している様である。

 そんなルクスリリアにアイテムボックスから出した深域武装を渡しつつ、俺も一応周囲を警戒し始める。

 まだ経験はないが、転移直後にハイズドーンと攻撃される恐れがないではない。あり得ないなんて事はあり得ないって、好きな漫画の好きなキャラが言ってたし。

 

「なぁんか殺風景ッスね~。ここホントに迷宮なんスか? 魔物の反応がないッスよ~」

「説明した通り、此処のは近づかないと襲ってこないんだ。それまでは大人しいよ」

「へぇ、魔力探知にも引っかからないなんて、マジで寝てるんスね~」

 

 見渡す限り、荒野。その奥に、ちらちらと小さく見える大きな影があった。それこそがこのダンジョンの雑魚エネミーである“巨像”だ。

 このダンジョンは、通称を“巨像迷宮”といい、その名の通り大きな巨像……というか、色んな形のクソデカゴーレムたちしか存在しないダンジョンなのだ。

 そのゴーレムたちは一様にデカくて堅くてゴツい。今まで見た一番小さいのでもボトムズのスコタコくらいデカい。それなりに強いが、リンチはないのでそんな難しいダンジョンではないと思う。難しくは、ないのだ。

 

「じゃあ行こうか」

「はいッス」

 

 俺はアクセシビリティの一つ“目的地の表示”に従って、淫魔を連れて歩き出した。 

 これ、こういうチートは共有されないらしい。

 

「おさらいするよ。ここのゴーレムは大体寝てるし、起きてる奴もぼーっとしてる。気づかれると襲ってくるけど、見つからない限り無害なんだ。で、そのゴーレムはどんな攻撃してくるか、覚えてる?」

「はいッス。主以外はみんな物理攻撃のみで、魔法の類は使ってこないッス。けど、針飛ばしてくる奴はマジで強いので逃げるが勝ちッス!」

「エクセレント! すっげぇ!」

 

 道中、俺はルクスリリアとダンジョンについておさらいしていた。

 

 前述の通り、このダンジョンの敵は全部ゴーレムだ。

 ゴーレムというと、俺的にはモンスターファーム系のクッキングパパみたいな顔した玩具めいた石人形を想像する訳だが、ここのゴーレムはそんな愛嬌あるデザインではない。

 どいつもこいつも、なんかゴツゴツして粗削りで雑なデザインなのである。出現ゴーレムの形こそパターンはあるが、そのひとつひとつには細かな違いがある。巨人型でも腕の長い短いがあったり、獣型でもライオン型とか馬型があったり、しかも全部が全部微妙にデッサンが狂っていてなんというか絶妙に気持ち悪いのである。おまけにその目は漏れなくモノアイだ。強そうではあるが、愛嬌はない。

 

「ゴーレム戦の基本戦術は覚えてる?」

「えーっと、可能なら奇襲からのたたみかけ。基本は足を攻撃しまくって転がして、弱点部位に強いのを当てるッス。あ、でもアタシは空飛べるから頭上から魔法ブッパで勝てるとも言ってたッスね!」

「正解。まぁでも勝てるとまでは言ってないかな。多分、先にリリィがガス欠起こすし。でも飛んで死角に回り込むのは有用だと思う」

「がすけつ? 誰のお尻ッスか?」

「頭ドスケベ条例かよ」

 

 そんな不気味ゴーレムのいるこのダンジョンは、俺にとっては割と思い出深いダンジョンである。

 あれは駆け出しを卒業し、好きなダンジョン行っていいよ許可証が発行された後の事。俺はさらなる稼ぎを夢みて早速このダンジョンにレッツゴーしたのだ。

 が、いざ件のゴーレムと戦ってみると、なんと戦いの最中に武器が壊れてしまったのだ。

 

 流石にこれには焦ったよね。急いで撤退した俺は、翌日ギルドで大量の武器を買い込んで、買った武器を使い潰しながら再攻略したのだ。

 武器なんて消耗品ってのは分かっちゃいたが、これまでずっと数打ちの武器でやってた身としては文字通り武器を消耗しながら戦う敵はかなり衝撃的だった。

 おまけに、このゴーレムとくれば斬撃にも刺突にも打撃にも魔法にも強い万能耐久型だったのだ。何か明確に弱い属性がなかったので、ただただ堅い奴を殴るしか殺す方法がなかったのである。ちょっとゲームバランス崩れてんよー。

 

「ルクスリリア、もしお前の魔力がヤバくなったらどうする?」

「逃げるッス! アタシは飛べるんで、高度上げて避難するッス。それからゴーレムが待機状態になるまで隠れ続けるッス」

「判断が早い! いやー、リリィが逃げるの躊躇わない子でよかった」

「ご主人も逃げる事あるんスか?」

「そりゃ逃げまくりだよ。逃げるのは恥じゃないし、役に立つからね」

「きひひっ、やっぱご主人とは気が合うッスね」

 

 そんで、受付おじさん曰くこのダンジョンは他冒険者からは人気がないとの事。なんでかというと、敵が堅くて強いくせに儲からないからだとか。

 実際そうだった。ハッキリ言って此処はクソだ。

 

 再戦し、色々ありつつボスを倒して凱旋したはいいものの、いざいざ戦利品を売ってみるとそれはもうショボい事ショボい事。

 そりゃこれまで潜ってきた駆け出し用ダンジョンよりは儲かったが、武器代とか危険性の割にゃあ合わないんじゃないのというショボさ。ボス倒して脳汁ドバーのテンションに冷や水ぶっかけられたよね。

 で、それから俺は、「二度と来ねぇよこんな店!」となって此処に来る事はなかったのだが……。

 

「おっ、いいの居るじゃん」

 

 一時間ほど歩いたところで、遠くに良い感じのエネミーを発見した。

 それは大きさ凡そ5メートル程の人型ゴーレムだった。そいつは二階建て住宅サイズの岩山に背を預け、半立ち状態で脱力していた。休眠状態である。

 ここのエネミーの殆どは、ああやってポツンとぼっちをやってるのだ。その間、ゴーレムたちの目に光はなく、さながら眠っているかの様。俺はこの状態を勝手に休眠状態とか待機状態とか呼んでいる。

 

 で、そいつの何が良いのかというと、上手くやれば休眠状態のゴーレムには初手不意打ちからのハメ殺しができるのだ。

 前ならともかく、今の俺なら相当なタイム短縮もできそうである。

 

「打ち合せ通り、最初は俺がやってみせるから。リリィはそこで見てて」

「は、はいッス……!」

 

 俺は腰に差してあった杖を引き抜き、自身に“静寂”の魔法をかけた。これは文字通り自身の出す音を静かにしてくれる魔法で、足音や武器のカチャカチャ音などを消してくれる魔法だ。

 それからコンソールを弄り、ジョブを下位職の“ウィザード”から中位職の“ソードマスター”に変更した。杖をしまい、予備の剣を確かめた。

 そしてそのままカカッっと移動。奴さんの背面に回り込んで、音を立てないよう背後の岩山を登って行った。

 

 このダンジョンのゴーレムは、主に光と音と魔力で敵対者を感知している。

 だから、音を消した上で寝ている間に背後を取り、魔力を使わず接近すれば先制攻撃を入れる事ができるのだ。

 

 岩山のてっぺんに登り、一度ルクスリリアの方を見る。リリィは岩陰に隠れながらこっちを見ていた。軽く手を振って、よく見ておくよう合図する。

 それから眼下のゴーレムを見下ろし、意識を集中してアクセシビリティの“弱点部位の表示”を起動した。すると、俺の視界にゴーレムの部位ごとのダメージ倍率が表示された。

 イメージでいうと、モンハンワールドの調査表みたいな感じである。ここに攻撃入れるとこんくらいダメージ出るよみたいな。表示によると、奴は右肩を攻撃すると大きなダメージが出るようだ。

 

「ふぅ……よし」

 

 弱点は右肩。乗って突き刺しまくる戦術は逆に危ない。なら、やり方はひとつだ。

 覚悟を決め。抜剣した俺はその場で5メートルほど跳躍。全身に魔力を籠める。腹から肩、腕から指先へ。身体全体に、力が充填された。

 やがて、落下の勢いそのまま下方向目掛け“切り抜け”を使用した。瞬間、身体がグイと引っ張られる。落下+切り抜けで加速し、俺は奴の肩を深々と切りつけた。

 右肩から脇の下を切り裂いたものの、切断には至らない。というかできない、仕様だからだ。

 

「グォオオオッ!」

 

 時速にして何キロだったろうか。凄まじい勢いで地面に激突した俺は、アクセシビリティの“落下ダメージの無効化”の恩恵ですぐに姿勢を整え、間髪入れず奴の右足に“切り抜け”を使用した。魔力の通った剣が、ゴーレムの足首を切り裂いていく。

 人間でいうアキレス腱を切っても、この世界のモンスターは普通に立ち上がる。俺は右から左に切り抜けた後、今度は左足首目掛け“切り抜け”スキルをブッパした。そして反転して再び右足首に“切り抜け”る。移動と攻撃を同時に行えるこれは、俺が最も熟練した能動スキルだ。

 

「おぉぉぉぉぉぉッ……!」

 

 右、左、右、左。ゴーレムが初撃を入れられてから立ち上がるまでに、計4回ほど足首に攻撃を入れた。それを上から見た場合、俺の動きは「8」の軌跡を描いていただろう。

 そして、奴はようやっと反撃し始めた。足元への攻撃は足踏みと相場が決まっている。巨大な足の動きに注意しつつ、構わず俺は切り抜けループで足首をズタズタにしていく。

 やがて奴は例によって姿勢を崩すと、ズシンと四つん這いになった。

 

「スゥゥー……はっ!」

 

 一拍、呼吸を整えた俺は、助走をつけて大きく跳躍。奴のお尻を片手跳び箱の要領で乗り越えると、弱点の肩目掛けてそのままゴーレムの背中を疾走した。

 疾駆の最中、ソードマスターレベル10で習得した能動スキル“剛剣一閃”を起動。黄金の光が剣身に凝集し、如何にも強い攻撃できまっせと教えてくれる。

 

「死ィねぇぇぇえええッ!」

 

 やがて迫った弱点に、俺は全体重を叩きつけるようにして剣を振り下ろした。

 攻撃ヒット後、勢いそのまま空中に投げ出される。空中で一回転し、しっかり両足で地面に着地した。

 地を滑り、慣性を殺す。即座に振り返ると、ゴーレムの身体は粒子となって俺の身体に流れ込んできた。

 初撃から、約20秒の出来事であった。

 

「ふぅ、まぁ前よりは上手く殺れたな。一応、剣も折れてないし……」

 

 俺は岩陰のルクスリリアに手を振って、勝った事を伝えた。

 するとリリィはものすごい勢いで飛んできて、俺の周囲をグルグル飛び始めた。その手には大鎌があるので、お迎えの天使というかお迎えの死神の様である。

 

「すごい! 凄すぎッスよご主人! なんスかあの動き! あんなのウチの将軍でもできるかどうかッスよ! マジかっけぇッス! 素敵! 抱いて!」

「まぁチートありきだけどね」

 

 前述の通り、ここのエネミーは皆ゴーレムで、動きは鈍いが硬いし強いし儲からない。

 だが、このようにすれば一方的に狩る事ができるのだ。当然、強さ相応に経験値も美味い。

 だから選んだ。

 

「リリィ、ドロップアイテム集めるの手伝って」

「はいッスー!」

 

 とはいえ、だ。

 やはり、ここのモンスターは嫌われて当然ではあると思う。

 

 地面に散らばった石を見る。

 拳大の黒い石とか、小さい宝石とか、なんか白い丸い石とか色々。

 単にこれを集めるの大変ってのあるし、高く売れないってのもあるけど。

 それはいい、承知の上だ。

 

「ん? この石、魔力が籠ってないッスね。ダンジョン産のアイテムって皆この鎌みたいに先っちょからお尻までギッシリ魔力詰まってると思ってたッス」

「此処のはそうでもないんだよねー」

 

 この世界、ダンジョンのエネミーを倒すと、例によって何かしらのアイテムをドロップする。しない場合もあるが。

 獣系の奴なんかは分かりやすく、死んで粒子に還ったらご丁寧に毛皮なんかを落としてくれるし、宝石巨人みたいなの倒したら魔力の籠った宝石をポコジャカ落としてくれる。

 それらはダンジョン産のアイテムとして高値で売れるのだが、此処のダンジョンのエネミーは地上で採掘できる鉱石しか吐き出さない。量が量なのでそれなりの値段になるし需要もあるが、ぶっちゃけ割に合わない。だから人気がない。

 でも、俺的にはそれとは別の理由が一番嫌だと思う。

 

「集めてきたッスよー」

「ありがとう」

 

 ここのエネミーは巨大である。小さいので4メートルくらいで、大きいのは15メートルくらいある。ボスにもなるとサザビーサイズだ。

 そいつらは図体相応に力が強く、一撃の威力がハンパではない。歩き足にヒットしたら凄まじいノックバックとダメージでHPが半分くらい削れちゃうし、キックなんて食らおうものなら今の俺でも多分一発で瀕死だろう。

 

 ハメれば倒せるが、一撃が怖く報酬も渋い敵。

 まぁそれだけならいいのだ。ハメれば殺せる。

 ドロも渋いが、まぁいい。強いのも、まぁいい。

 そこじゃないのだ、そこじゃ……。

 

「はぁ……けっこう削れたなぁ……」

「何がッスか?」

 

 コンソールに書かれた、俺の新品の剣の耐久度。

 そこには、耐久度の半分が削れたよという悲しい事実が書いてあった。

 

 これである。ただ堅いなら許せる。多少渋い程度なら許せる。けど、このゴーレムたちは武器耐久度をガリガリ削っていくのだ。安物じゃあなくとも容赦なく。それはゴーレムが堅いから……ではなく奴さん等の特性らしい。

 

「はぁ……」

 

 先日買ったこの武器は、それなりに上等な剣だ。前使ってたのが攻撃力200だったのに対し、この剣は攻撃力500もあるのだ。耐久度もお値段以上である。

 にも関わらず、さっきの一戦で半分である。もっかい使ったら壊れる。最悪である。また買わないといけない。だから予備武器がいるのだ。で、予備武器代がかかるのだ。

 武器修復の魔法とか、あればいいのにと思う。

 

「リリィ」

「なんスか?」

 

 とはいえ、だ。

 

 今回はリリィのレベリングの為に来ているのである。未だ経験値の仕様は把握していないが、検証の為にもルクスリリアには色んな方法で何度も戦ってもらう予定だ。

 なにより、ルクスリリアの大鎌は深域武装。例え耐久度が削れても“自動修復”で何とかなる。壊れない武器があるなら、此処はそれなりにうま味なダンジョンなはずなのだ。

 チートもガン積み、例え正面からやっても空飛べるリリィなら何とでもなるはずだ。

 

「次は正面から当たってみるから、よく見ててね」

「はいッス!」

 

 まあ、それはそれ。

 

 やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。

 

 人を動かした事などないが、先人の知恵には習っていこうと思う。

 俺はアイテムボックスから新しい武器を取り出し、さっきの剣と交換した。

 

「いやぁ、やっぱご主人って強かったんスね~! 銀細工持ちってあんな動けるもんなんスね! アタシ感動したッス!」

「他の冒険者がどれだけ強いかは知らないかな~」

 

 歩きながら、少し前を歩くリリィの背中を見る。

 ゆらゆら揺れる尻尾に、ばっくりと開いた背中。中心を通る窪みに、うっすら浮き出た肋骨が実にエッチだ。

 

 ……そいえば、ダンジョン内って他の人いないんだよな。

 

「なんスか?」

「なんでもないよ」

 

 俺は歩くスピードを上げ、次のエネミーを探し始めた。

 やっぱ、移動用の足が欲しい。




 感想投げてくれると喜びます。




【挿絵表示】




 この度、ぴょー様より素敵な支援絵を頂きました。
 掲載OKとの事で、思いっきり自慢します。どやと言いたい。

 支援絵の掲載は経験がないので、もし作者がアカン事やってたら「これはアカンぞ」「間違ってるで」って指摘してやってください。作者は愚かなので間違いが多いのです。


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炉利(ろり)が呼ぶ声

 感想・評価など、ありがとうございます。お陰で楽しく執筆ができています。
 誤字報告も大変助かっています。前話の誤字数ハンパなかったですね。申し訳ない。

 前話の後書きにて、頂いた支援絵を掲載しています。まだご覧になっていない方はぜひ。

 今回は引き続きダンジョン回。次で帰還ですかね。

 感想欄に触発されて、大幅に加筆&修正しました。文量が増えたので分割。
 作者は抜けているので、何故そこに気づかない? みたいなのにマジで気づきません。ご意見・ご感想は積極的に参考にしていく所存です。


 前世、俺はポケモンが好きだった。

 主人公の着せ替え要素といった部分も大好きだったが、普通にいちゲームとしても好きだったのだ。

 

 お馴染みポケモンには色んな楽しみ方がある。

 強いポケモンを育成し、ストーリーを攻略するとか。珍しいポケモンを捕まえたり、色違いを探したり。対戦をガチったりとかもメジャーな楽しみ方だろう。

 そんな中、俺は図鑑埋めが好きなタイプのトレーナーだった。

 

 御三家を選び、旅に出る。観た事ないポケモンはとりあえずゲットして、一匹一匹進化させる。そして、少しずつ少しずつストーリーを進めるのだ。

 こいつ進化したらどうなるんだろうとか、こいつレベルアップしたらどんな技覚えるんだろうとか、そういう小さなワクワクを感じながら遊んでいたのだ。そうして、旅の中で出会ったお気に入りのポケモン達でクリアするのが好きだった。

 当然、シナリオの進行は遅い。他のポケモン好きの友人が数日でクリアしてるのに対し、同時に始めたはずの俺は普通に序盤だったりした。実際、SVも凄い時間かかった。早くナンジャモに会いたい気持ちと、ゆっくり進めたい欲の間で板挟みになってたのを覚えている。

 

 そんな俺である。ポケモン以外のゲームでも、よくそういう感じのゲームプレイをしていた。

 ドラクエでは街の住人全員に話しかけ、如くでは目についたサブストーリー全てに絡んでいく。カジノやミニゲームに入り浸り、メインストーリーそっちのけで寄り道をエンジョイしていた。

 とはいえ、絶対全部埋めてやるぜ! というような思考はしておらず、あくまで目についたもの限定なので寄り道ガチ勢ではなかった。

 

 ともかく、昔から俺はそういうタイプのゲーマーだったのだ。

 

 さて、ロリコンゲーマー・イシグロは、異世界に来ても“そういう”楽しみ方をしていた。

 順当に、「戦士→剣士→ソードマスター」とジョブチェンジしていくのではなく、「戦士→魔術師→剣士→剣闘士→ウィザード→魔法剣士→重戦士→騎士……」といった風に、ジョブチェンジの道のりをフラフラしまくっていたのだ。

 幸い、この世界のステータスはジョブチェンジごとにリセットされる仕様ではなかった。が、ぶっちゃけただ強くなるだけなら、さっさと上位職についた方が良いのである。実際、基本職と中位職ではステの伸びがダンチだ。

 これまでの経験、その全てを剣特化なり魔法特化なりにしていれば、俺は今頃最上位職に到達して、かつステータスも今より高かったんだと思う。

 

 けど、俺はそうはしなかった。

 何故か? ジョブ埋めが楽しかったからだ。

 命を賭けたダンジョンアタック。だからこそ、楽しく命を賭けたかった。

 

 ポケモンと同じだった。騎士レベル20で次なにになるんだろうとか、ウィザードレベル10で何に派生するんだろうとか、気になっちゃって埋めたくなるのである。

 おかげで俺のステは平均的。ソロの使い勝手を考慮して前衛寄りになってはいるが、それでもガチガチ前衛タイプではない。

 その中で一番使いやすいのが剣系ジョブなので、ガチる時はソドマスを使うが、俺は剣も斧も魔法も回復もそれなりにできるのだ。

 色々できると何かと楽しい。Gジェネでもそうだったが、俺は強い技一個持ってるユニットより、色んな技持ってるユニットのが好きなのだ。

 

 しかし、そんな俺でも埋めてないジョブがあった。

 武闘家系である。

 

 この世界、というか多分人間の基本職は戦士と魔術師の二つである。そんで、どちらもレベル10・20・30で色んな下位職にジョブチェンジできるのだ。戦士10で剣士、魔術師10でウィザードといった風に。

 で、戦士レベル20でソレが生えてきたのだ。武闘家さんである。

 

 武闘家。作品によって扱いはマチマチだが、大体のイメージは拳や蹴りを主として戦い、防御は脆いがパワーもスピードもあるみたいな、こんな感じだろう。

 実際、この世界の武闘家もそうだった。その手に武器を持たず――この世界にセスタスといった拳系武器はない――、己の肉体のみで怪物を打倒するストロングスタイル。性質上、鎧等の関節可動域を狭める装備は身に着けず、軽装かあるいは殆ど裸めいた格好でダンジョンに潜るのだ。

 曰く、伝説の最強の武闘家――獣人イライジャ氏はパンツ一丁でダンジョンアタックやってたらしい。伝説って? あぁ!

 

 もはや言うまでもないが、この世界は前世地球とは物理法則が異なる。

 石での殴打よりヤクザキックのがダメージが出る世界観である。パン一武闘家は武器さえ持たずとも剣士や魔術師と肩を並べて戦えるのだ。

 この世界では、無手での殴る蹴るの暴行は立派な怪物退治の手段の一つなのである。

 

 わかってはいた。そういう世界である。魔法があってゴーレムがいてエタロリがいるファンタジー。攻撃力10の斧の連撃より、攻撃力100の素手ワンパンのが強いのだ。

 けれど、俺はこれまで武闘家系ジョブに手を付けてこなかった。何故か? 武器ないとか怖くね? である。

 

 ていうか、迫りくるモンスター相手にステゴロでやる勇気がなかった。例えやるにしたって剣ひとつ、槍一本持ってたいのが人情だろう。

 それを、ろくに保護してない拳で怪物退治するなど、マジかよという気持ちだったのだ。

 

 そんな訳で、埋めてくのが好きな俺、武闘家には手を出してなかった。

 多分、今後もステゴロジョブは使わないだろうなーと、思っていた。

 

 が、巨像迷宮にて、何体目かのゴーレムを倒し、見事剣が折れた直後である。

 瞬間、俺は天か異次元かどこかの宇宙から、謎の電波を受信したのだ。

 

『なに? ゴーレム戦で武器が壊れて仕方ない? 逆に考えるんだ。武器なんてなくていいさと考えるんだ』

 

 天啓であった。

 

 そうじゃん。武器壊してくる敵には、武器なしで戦えばいいじゃんであった。

 おあつらえ向きに、この世界の武闘家は火力面で優遇されてるし、防御こそ脆いがスピードは凄いのだ。盾はないが回避盾ができる。

 という訳で……。

 

 石黒力隆、ここにきて武器を捨てる覚悟を決めた。

 

「キャストオフ!」

「うわぁなんスかご主人!?」

 

 ついでに装備も脱いだ。今の俺はパンツ一丁である。

 異世界に来てからというもの日々の運動を欠かしていない肉体は、まさに戦士の肉体と化していた。ボクサーの様な体ではない。プロレスラーの様な体でもない。強いていうなら、自衛官めいた肉体をしていた。

 

 ゴーレムの一撃、どうせ当たれば死ぬのである。なら、極限まで回避力に振る方がいい。

 俺はコンソールを開き、ジョブをソードマスターから下位職の“武闘家”に変更した。

 武闘家レベル1。変更と同時、俺のスキル欄から“切り抜け”や“剛剣一閃”といった剣士専用ジョブが消えた。

 

「行くぞルクスリリア。作戦はさっきと同じ。俺が下、リリィが上だ」

「は、はあ……。いやそうじゃなく、ご主人……武器は?」

「拳で」

「なんでもありッスね異世界人!」

 

 それはこっちの台詞だと言いたい気持ちだったが、それはともかく。

 俺とルクスリリアは。次なるゴーレムへと挑んでいった。

 

 

 

 

 

 

 巨像迷宮、多分北部。

 その名の通りゴーレムしかいないダンジョンの一角で、大きな影と小さな影が戦っていた。

 

 大の影はひとつ。全高約10メートル程の獣型巨像。足の数は四つで、首が異様に長い。キリン型ゴーレムである。ビールが恋しくなる敵だ。あのキリンはキリンさんじゃないが、それはいい。

 小の影はふたつ。蝙蝠の様な翼で空を舞い、身の丈を超える鎌を振るう淫魔と、パン一すっぽんぽんスタイルでキリンゴーレムの足に拳を叩き込み続ける駆け出し武闘家。

 

「オラァ!」

 

 裂帛の気合と共に、何の保護もされてない拳がキリンの足に叩き込まれる。ゴーレムの武器破壊特性は素手には適用されず、ぶち込んだ俺の拳には傷ひとつない。ついでに痛くもない。

 すると、拳がめり込んだ部分から蜘蛛の巣上に亀裂が広がり、やがてバギンと音立てて砕けた。前脚一本の先っちょが割れたのだ。攻撃を与えまくったが故の部位破壊である。

 痛みを感じた訳でもないだろうが、キリンゴーレムは残る三本足でバタバタ藻掻きはじめた。わかっていたので範囲を抜けると、入れ替わるように空に影が差す。ルクスリリアだ。

 リリィは両手で持った大鎌を、まるで空中ゴルフでもするように構え突貫していた。俺にキリンのヘイトが集まっている間隙を縫って、小さな淫魔は獣ゴーレムの首の根本まで接近した。

 

「どっせぇぇぇい!」

 

 そして大鎌フルスイング。ブゥンと振られた鎌部が分裂し、根本から先端までの湾曲刃がマフラーめいてキリンゴーレムの首に巻き付いた。

 リリィは勢いそのままスパイダーマンのように舞い上がり、一定高度に達した後にふんすと力を入れて大鎌を引き寄せる動作をした。それはさながらマグロ一本釣りの様。

 すると、分裂して首に巻き付いていた刃がギャリギャリと物騒な火花を散らして元の形状に戻っていく。その間、当然の様にキリンの首はずたずたに切り裂かれ続けていた。首刈りチェーンソーである。

 

「マジか」

 

 このゴーレムの弱点は首だった。そうなるとあの長い首に攻撃入れるのが効率いいのだが、その位置と動き的に一撃離脱で入れるしかないと思っていた。

 そこへ、ルクスリリアは深域武装の形状変化を活かし、弱点部位にチェーンソーめいた継続ダメージをぶち込んだのである。実際ゴーレムのHPはガンガン減っていった。

 

「あ、ヤベ、倒しきれてない!」

 

 だが、殺しきれていない。俺は再度突貫し、残る一本の前脚関節部に全力飛び蹴りを敢行した。

 ドガン! 膝カックンを受けたキリンの姿勢が傾く。もっかい弱点に攻撃すれば倒せる。チラリとリリィの方を見ると、得たりと三下スマイルを浮かべたルクスリリアは、自身の魔力を深域武装へと籠めはじめた。

 ラザファムの大鎌、その鎌部分に赤黒い光が凝集していく。そして、担い手は再度空中ゴルファーとなって。深域武装を大きく振りかぶった。

 

「はぁぁぁっ!」

 

 空中で、ゴーレムの首を刈るべく刃が振るわれる。その軌跡をなぞるように、禍々しい刃状の魔力光が飛ぶ斬撃として射出された。

 

“破壊する魔力の刃”。

 

 赤雷の尾を引いて放たれたそれは、着弾と同時に激しい爆発を起こした。

 映画館のスピーカーの大音量より凄い爆音。派手なエフェクト、如何にもな破壊描写。これで低威力だったらクソ技認定で草も生えないが、リリィ渾身の装填魔法は見事ゴーレムの首を爆砕してのけた。

 

 キリンが倒れ、粒子に還っていく。

 青白い粒子は半分が俺に、もう半分はルクスリリアに吸い込まれていった。

 

 どうやら、パーティでの経験値配分は、戦闘での“貢献度”的なものによるらしい。

 アタッカーなら与ダメで、サポーターならバフで。どういう基準かは分からないが、明確に戦闘に貢献した者に多めに配られるようである。

 つまり、ノビさんにトドメを刺させただけではあんま効率よくないって仕様だな。

 

「きひひ~、ご主人どうだったッスかさっきの動き~。強かったっしょ? 凄かったっしょ? いや~、我ながら自分の才能が恐ろしいッス~!」

 

 などと言いつつ降りてきたルクスリリア。だが、何故降りてきたのかは知っている。魔力不足だ。

 今のルクスリリアは未だ基本職のまま。レベルこそ上がったが、魔力の伸びはそこまでなのだ。先ほどの大魔法を使った後では魔力の残りも心許ない。ほとんど魔力消費のない飛行も厳しいのである。

 

「鎌を首に巻き付けるのは素直に凄いと思った」

「でっしょ~」

「けど最後に大技使ったのは如何なものかと。あれ普通に“貫く魔力の槍”でも十分だったよね」

「ぎく! いや~、まぁ? 念には念を? みたいな?」

「まぁカッコつけたい気持ちは分かるけどね。次からは大技じゃなくクールな技巧で魅せてほしいな」

「はぁい」

 

 話しつつ、キリンがドロップしたアイテムを拾っていく。

 相変わらずの石石石……素手&深域武装でコスト削減したとはいえ、やっぱり渋い。俺のアイテムボックスにどんどん余計な石が溜って行きますよ。

 

「きひひっ、ご主人様♡ ん、ちゅっ……♡」

 

 ドロップアイテムを集め終えると、浮遊状態で寄ってきたルクスリリアが首に腕をからませてきた。

 そしてそのまま唇を合わせると、彼女は半ば無理矢理舌をねじ込んできて、俺の口内をねぶり始めた。

 

「ん……ちゅ♡ あむっ♡ れろ♡ ちゅ……れろ♡ れろぉっ♡ んん、じゅるるぅ……♡」

 

 戦闘後、ダンジョン内での唐突なベロチュー。一応、これには理由がある。色々あるが一言で言うと吸精だ。

 基本、淫魔の吸精は男女のアレやコレやで行うものだ。けど、他にも手段がないではない。こうして唾液を飲む事でも吸精できるし、文字通り“精”を飲む事でも吸精できる。

 ちなみに、ルクスリリアと生活して分かったのだが、どうやら魔族はトイレをしないらしい。じゃあそのケツは何の為のケツなんだと訊いたら「ナニの為のお尻ッスよ♡」と返された。ソッチでの吸精はまだ試していない。いつか試そうとは思っている。

 

「ん、じゅる……れろれろぉ♡ ちゅぅぅぅぅぅ……ぷはぁ♡ きひひっ、ごちそう様ッス♡」

 

 ハイオク満タン! とはならないが、こうして給油する事はできるので俺とリリィのダンジョン探索に魔力切れの心配はなかった。

 実際、魔族は魔力がなければへなちょこだが、魔力さえあればほぼ不死身である。魔力補給の手段があるのはダンジョンアタックでかなりのアドだ。多分、彼の淫魔剣聖女史もパーティメンバーの方をタンク(意味深)にしてたのではないかな。

 

「むぅ……」

 

 ところで、前述の通り俺の今の恰好はオーセンティック武闘家スタイルのパン一なので、俺のジムがジムスナイパーになってるのは確定濃厚バレバレな訳だが。

 

「きひひ……なんスかご主人様ぁ♡ そんな怖い目しちゃってぇ? 次行くッスよ次ぃ♡」

 

 当のルクスリリアは、絶対分かった上でこんな事を言っていた。

 まぁ、軽い戯れである。ロリコンとロリサキュバスが一緒なのだ。こうもなろうという話で。

 乗ってやろうじゃんである。

 

「範囲指定……“清潔”」

 

 俺はジョブをウィザードに変え、杖を振って俺の身体を綺麗にした。

 次いでルクスリリアにも“清潔”を使い、キリン戦で被った汚れ等を除去していった。

 それから近くを飛んでいたルクスリリアを捕まえ、優しくその頭を撫でた。

 

「お? なんスかぁ? これどういう奴ッスか? きひひ……♡」

 

 癖のある金髪を撫でる。ふわふわした毛の感触が心地よい。

 そして、丁度良いところにあった角を鷲掴みにした。

 

「へ?」

 

 杖をしまい、もう片っぽの手で残る角を握りしめる。グイと引き寄せ、正面から相対する。

 丁度、両手でリリィの左右の角を掴んでる状態だ。浮遊してるので目線は一緒である。

 

「リリィ」

「はいッス……?」

 

 ところで、この世界の多くの種族には“角”がある。

 話に聞く牛系の人には牛っぽい角があり、鬼人族には如何にも鬼っぽい角が生えてるらしい。竜族にも角があって、それは龍の竜たるパワーの源なのだとか。

 そんな中、淫魔には羊の様にねじれた角があるのだ。まるで何かのレースゲームのハンドルのように、それはそれは掴みやすそうな角があるのだ。

 

「次に備えて魔力満タンにしとこうか」

「え、あ、はいッス」

 

 なので、そうする事にした。

 この角、前々から使ってみたかったのである。

 ハンドルみたいに。

 

 実際にやってみた。

 

 気持ち良かった、まる。




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