【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! (そとみち)
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1 峰田ァ! お前の前のオレオ取ってオレオ!!

ヒロアカ二次創作を読み漁ってたらなんか閃いたので初投稿です。
ノリだけで書いている作品なので色々ご容赦。


「峰田ァ! とうとう見つけたぜェ『要救助者』をよォ!!」

「マジかよよくやった()()()ぉ! 『要救助者』のトリアージは!?」

「トリアージイエロー! 頁まで全損はしてねぇ! 補修すりゃ余裕で読めるレベルだッ!」

「タイトルは!? これまでの成果と被ってねェだろうな!?」

「最近のグラビアだぜ!! 増刊号ッ!」

「っしゃアアアァァッ我が世の春ゥゥゥッ!!」

 

 俺──幾野 潜(いくの せん)は、河原でエロ本を発見し、狂喜乱舞した。

 俺の隣、身長108cmという全国男子中学生平均身長に著しい影響を与える体を持つ親友、峰田実と喜びを共にする。

 今夜はこのエロ本でオ〇ニーだ!

 

 なんでこんなにテンションが上がってるかって?

 そりゃもう俺たちはまだ中学生であるからして、合法的にエロ本を取得する手段がないからだ。

 だからこうして地道に文字通りの草の根活動を行いエロへの探求を止めないのである。

 

「っしー…久しぶりに見つけられたな。この町のモラルの低さに感謝だぜ」

「最近は全然エロ本見つからなくて、クソ真面目に河原のゴミ拾いしてるだけの健康優良ボランティア中学生に成り果ててたからなオイラ達。まぁいいんだけどさそれはそれで、ヒーローらしい奉仕活動出来てたし」

「それな。だが今日は違うぜ! 見せてやろうぜ俺らのエロ本修復技術をよォ!」

「このために地元の図書館で本の修復ボランティアやってたからよ……止まるんじゃねぇぞ……!」

 

 戦果物をゴミ袋にしまって、俺たちは引き続き河川敷のゴミ拾いに戻る。

 時間は早朝、学校が始まるまではまだ時間があるとはいえここでだらだらエロ本を読みだすのはまずい。

 絵面もそうだし本が破損しちまうからな。しっかりと本を修復*1してから廻し読みしねぇとな。エアストリーム乾燥法も固着剝がしもフラットニングもお手の物だぜ!

 なお図書館ではでかい水災や汚損などした本を修復する仕事があり、俺たちは学生ボランティアでそれを手伝い修復技術は完璧に身に着けている。

 

 表向きは()()()()を目指すものとして社会に奉仕活動するため。

 真の目的はエロ本を獲得するため。

 

 そう……ヒーロー。

 俺たち二人が目指している将来の夢だ。

 

 ヒーロー飽和社会と呼ばれるようなこの時代。

 個性という力に目覚めた人類が新たに生んだこの職業。

 俺たちはそれになるために、毎日こうして()()を続けてるってわけだ。

 

 なぜヒーローを目指してるかって?

 モテるために決まってんだろ!

 

「ヨシ! 今日の掃除エリアは完了! そんじゃ帰っか」

「おー。んじゃいつもの如くオイラが今度は個性使って走るから後ろついて来いよイクノ」

「あいよ。この時間ならまだ人も少ねーだろーし問題ねーだろ。ズッコけんなよ峰田」

「オイラの”脚”を”舐め”るんじゃあねーゼ……!?」

 

 河原の掃除を切り上げて、10kmほど離れた地元まで走って帰る俺達。30分もありゃ帰れるだろ。

 ヒーロー志望の俺たちは中学1年の頃に出会ってからずっと身体能力を磨き上げている。

 そんじょそこらの中坊とは地力が違いますよ。

 生憎俺の個性は高速移動できる力はないが、峰田は努力の末にそれを獲得するに至っている。

 

 ゴミ袋の口を結んでから、頭のもぎもぎを取り外して靴の裏にくっつける峰田。

 最初は自分の体では反発しか生まれなかった峰田のもぎもぎだが、俺との個性特訓の末に、触れていればもぎもぎの効力をコントロールすることができるようになっている。

 便利な個性だよなコイツ。使いようによっちゃタイマンで相手を封殺できる強個性だ。俺の個性ほどじゃないけど。

 

「よし、そんじゃ行くぜオイラの必殺! 【跳峰田(はねみねた)】っ!!」

「うおっしゃー!! 走れ走れえええ!! 今日こそ追いついちゃるわー!」

「追いついてみろやお前の脚でよぉ!!」

 

 足の裏のもぎもぎをバネのように使いながら峰田が高速で飛び跳ねていく。

 俺はその後ろを全力疾走で追いかけて、スタミナ特訓の一環も兼ねる。

 因みに、河川敷に行くときには峰田は個性無しで走る。個性無しなら俺の方が足が速いので峰田のスタミナ特訓にもなるってわけだ。

 

 早朝の河原掃除でボランティア兼エロ本探し。

 行き帰りのマラソンでスタミナ訓練。

 放課後には学校で勉強か、裏山で個性使った組手で実戦特訓。

 休日は町で遊んでエロとの出会いの探求と情報収集。

 

 俺は峰田という親友とそんな中学生活を送っていた。

 すべては俺達がモテるために。

 ヒーローとなるために。

 

「……なぁイクノ」

「なんだね峰田」

「もうすぐ入試だよな」

「せやな」

 

 ぽんぽん飛び跳ねる峰田を追いかけながら会話を果たす。

 俺は全力疾走なので息も切れ切れではあるが、会話できる程度の余力は残っている。

 

「オイラ不安でよぉ……オイラみてえなやつがちゃんと受かるかってよぉ……」

「あー? どうした急に。やれるだけの事はやってきたじゃねーか! 俺もお前も絶対受かるって、雄英!」

「まぁそりゃそうなんだけどよ……オイラも筆記の方は大丈夫だと思うんだけどよぉ……でもやっぱ不安は残るっつーか」

 

 峰田の不安の言葉に俺は本心でそう返した。

 やれるだけやってきたという言葉は嘘じゃない。勉強なら高校の範囲まで予習しているし、英語だって問題なく喋れるくらいには堪能なのだ。

 何?どうやってそこまで覚えたのかって?

 まぁそもそも前提として俺も峰田も素の頭がよかったってのもあるんだけど、これは俺の入れ知恵が関係している。

 峰田のやつは、エロが絡むと無限の原動力を得ることが出来るのだ。

 

『───なぁ峰田。もしヒーローになって海外に行ったとするだろ?』

『なんだよ急に。勉強中だぞオイラ』

『そこで金髪爆乳のちゃんねーが出てくるじゃん』

『続けて?』

『襲われてるところを華麗に助けてセンキュー! って感謝されるじゃん』

『続けて?』

『だが……そこで英語が出来ない峰田はコミュニケーションが取れずに童貞のまま……!!』

『!?』

『だが英語を万全に覚えた峰田なら……金髪爆乳はもはや手の内ッ!!』

『オイラちょっとTOEIC満点取ってくるわ───』

 

『───なぁ峰田。雄英に合格したとするじゃん』

『なんだよ急に』

『可愛いクラスメイトの女子達に囲まれるじゃん』

『続けて?』

『まぁ雄英ヒーロー科と言えども当然座学もあるじゃん。テストもあるじゃん』

『続けて?』

『そこで高校の勉強のスピードに躓いた峰田は成績が落ちて女子に呆れられちまうわけだ』

『!?』

『だが……高校の範囲まで完璧な峰田は女子から憧れの眼差しで見られて女子だらけの勉強会を開けるッ!!高校生だからどんな過ちが起きてもおかしくないッ!!!』

『オイラちょっと全国共通模試で一位取ってくるわ───』

 

 とまぁこんな感じで炊きつけたらめっちゃ結果出してきて笑った。

 俺もそんな峰田に馬鹿にされてムカついたので必死に勉強の方でも追いついてやった。

 親友とは共に肩を並べられる存在だからな。一人にはしねぇ。

 俺とお前で雄英首席合格するんだよぉ!!

 

「不安ねぇ……ま、俺は全くないけどな、そういうの」

「そりゃお前は個性がスゲーからよっぽどのことがなきゃ大丈夫だろうけどよ! 不安なんだよオイラ! いざって時にビビっちまわないかって!」

「心配ねぇ」

 

 お互いの家も近づいてきて、町にも人が増えてきたので峰田がもぎもぎを外して普通にクールダウンで走りだす。

 公共の場での個性使用は怒られちまうからな。いつものように、お互いに肩を並べて軽いジョギングみたいな形になる。

 ジャージの袖で汗を拭いながら、不安を抱える親友に俺は本心から浮かべる笑顔を見せて言ってやった。

 

「───お前がこの3年間頑張ってきたのは、俺が見てたからさ。心配ねぇって。俺を信じろよ、峰田」

「っ……!」

 

 にっこり笑顔を浮かべてそんな言葉を親友に贈った所、急に峰田の顔が真っ赤になり、俯いてしまった。

 ん? どした??

 どうしたのかなぁ峰田くん?????(煽り)

 

「……これ以上……」

「ん? どうした峰田?」

 

「これ以上オイラの性癖を壊すんじゃねええええええ!!!」

 

 おやおやおやおや。近所迷惑ですよ峰田君?

 どうやら俺の笑顔で峰田の性癖が壊れちまったらしい。

 血涙を流しながら叫ぶ峰田の見上げる顔がウケる。写メとっとこ。

 

「お前がァ!! オイラの親友やってるせいでなぁ!! オイラはいつか過ちを犯しかねないんだよォ!!」

「いいのよ?」

「よくねぇよぉぉぉ……お前ホント性自認どうなってんだよぉぉぉ……オイラをあんまりからかうなよぉ……親友でシコりたくねぇよぉぉぉ……」

「峰田ならいいよ♥」

「よくねぇよぉぉぉ……!!!」

 

 ナイーブな峰田が出てきたな。

 なんで急に峰田がちんちん迷子みたいなセリフを吐いているかと言えば、これは俺の外見が理由である。

 

 簡潔に自己紹介をしよう。

 

 俺は幾野 潜(いくの せん)。15歳。

 170cmの身長に、赤くて長い腰まで届くストレートのサラサラヘア。

 顔はアイドル顔負けの可愛い系美少女。母親譲りの超銀河アイドル級フェイス。

 鍛えているのでウエストはくびれのある美しいラインを描き、お尻はぷりんと安産型桃尻。

 街を歩けば男の半分は振り返る美少女is美少女スタイル。

 

 だが男だ。

 

 性自認も男子でちんちん保有。

 峰田と同レベルで女体の神秘を求める性癖の破壊者。

 それが俺、幾野 潜。

 

 

 これは、俺が完璧で究極のヒーローになるまでの物語だ。

 

*1
「エロ本 修復」で検索すると面白いぞ!




幾野 潜(いくの せん)

 潜’s頭 峰田と共にエロガソリン発電によりめっちゃ頭いい。エロに溢れてる。
 潜’s体 身長170cm、体重52kg。軽い。だが男だ。
 潜’s顔 めっちゃ美少女顔。可愛い系フェイス。だが男だ。
 潜’s胸 つるぺたで余計な筋肉はどこにもない。だが男だ。
 潜’s腰 腹筋どこってくらいくびれてるメス腰。だが男だ。
 潜’s尻 桃を連想させるプリ尻。叩くといい音。だが男だ。
 潜’s個性 ?????


【峰田 実】

 今作品の被害者。
 美少女顔の親友がいることで性癖がねじ曲がった。
 人のふり見て我が振りを直して原作よりも下ネタを吐く頻度は減っているが煩悩は薄れていない。
 幾野との特訓により個性が強化されており、自分が触れているもぎもぎはくっつく力と跳ねる力をコントロールできるようになった。
 足の裏や体にもぎもぎをくっつけつつ反発させて跳ね回る【跳峰田】を使える。
 大体原作中のチームアップの時くらいの強さに。
 狭い路地で跳峰田使えばホークスすら捉えられるってマ?



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2 入試に来たら彼女連れと間違われた件

第一話で一か所勘違いされそうな箇所があったため以下の訂正があります。

訂正前:性自認は男子。
訂正後:性自認も男子でちんちん保有。 ←ちんちんnew!

ちんちんを追加しました。
生物学上このオリ主は男です。かしこ。




 オイラ達は雄英一般入試の実技試験会場にやってきていた。

 隣を歩くイクノは随分とリラックスしてるが、オイラはめちゃくちゃ緊張している。

 周囲を歩く他の生徒たちがオイラ達の方を見て「は?可愛い」「隣のちっちぇえ男子は彼氏か?」「彼女連れかよ余裕だな」とか呟いていくのが耳に入ってもそれに返す言葉も出ないくらいにだ。

 

「峰田」

「なんだよイクノ」

「やっぱ俺って可愛いかな?」

「オイラそれになんて返せばいい?? 緊張して結構余裕ないんだけどオイラ???」

「ちんちんに聞いてみて?」

「オイラのちんちんは何も答えてくれない」

「ちんちんだけにチン黙を保つってか! あははは!」

「殴るぞ」

「今の俺の笑顔可愛くない?」

「顔に自信ありすぎだろぉぉ……!」

 

 オイラの緊張をほぐすためにイクノが言葉をかけてくれてるようだけどリトルミネタまで惑わさないでほしい。

 こいつはいいやつだ。エロ全開で中学校生活を過ごしていてもオイラが結構学校になじめてたのは、たぶん、こいつがいつも隣にいてくれたからだと思う。

 コイツの行き過ぎたエロ談義を見てオイラ自身の発言も見直せたし、女子がドン引きしないラインってのもコイツから教わった。

 相変わらずオイラの脳内はエロ一色ではあるけれど、矯正されたと言ってもいい。

 

 いや、捻じ曲げられたって表現すべきだな。

 オイラはこいつのせいで男の娘モノとふたなりモノとTSモノで抜けなくなりました。

 返せよ……! オイラの性癖……!!

 

『どけデク!』

『かっちゃん!!』

 

 なんか門の前で大声が聞こえた。

 あ、あいつテレビで見たことあるわ。ヘドロ事件の時のバクゴーとか言うやつだ。

 へー、あいつも雄英なんだな。

 もし合格しててもオイラ達と違うクラスだといいなぁ! 男に用はねぇからなァ!!

 

「……むっ!」

「どしたイクノ……むっ!」

 

 そしてその方を眺めていたところ、オイラたちは美少女を発見した。

 なんかズッコけそうになった男子生徒を助けてる天使のような可愛い笑顔の女子だ。

 いいね、レベルが高い。コートで厚着してるが結構あると見た。

 

「優しみがある……そして笑顔がある……」

「胸もある……」

「ハチロク……E」

「オイラはD予想……その代わりムチムチ太腿……」

「ああ……夏が楽しみだな……!!」

「受かってほしいなあの子……!!」

 

 オイラ達はいつものようにエロ談義に花を咲かせ、緊張をほぐしながら試験会場に向かうのだった。

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 さて、試験会場ではボイスヒーロー「プレゼントマイク」が試験の概要を説明している。

 どうやら同じ学校同士では試験会場が違うみたいだな。

 まぁ当然か。オイラとイクノで協力し合えるなんて状況になったら絶対受かっちまうしな。

 

「仮想(ヴィラン)が三種。でもって『行動不能』でいいのか。やったな峰田、お前の個性が最高に輝くぞ」

「みてーだな。こりゃ緊張するまでもなかったかなぁ? これくらいの内容ならイクノだって問題ないだろ」

「だな。俺の場合はあとは敵倒すスピードだけだ」

 

 小声で隣に座るイクノと話す。

 この条件なら───オイラの『もぎもぎ』は絶大な効果を発揮する。

 イクノと何度も組み手をして、個性の使い方も色んな発想で鍛えてきた。

 その3年間の成果を試せそうな内容に、思わずにやりと笑みを浮かべちまった。

 

『───プリントには四種の(ヴィラン)が記載されております! 誤載であれば───』

 

 眼鏡かけてクソ真面目そうなやつが男子生徒が質問し、0点のギミックがあるという説明も追加された。

 そのついでにさっき校門前でずっこけそうになってた男子をつっついてたが、あんまり気分はよくねぇな。

 オイラたちも遠くではあるが話してたし。他の学校でも小声でつぶやいてるやつはいる。一人だけへの攻撃みてぇになってるじゃねぇか。

 こんな人前で指摘されたら可哀そうってもんだ。共感性羞恥というか、気にしちまうのがオイラのノミの心臓よ。

 

「……あいつも緊張してんだろーなー多分。紛らわすにもやり方あるとおもーんだけど」

「……かもなー」

 

 けど、イクノはそんな様子を見てもたいして気にしてなさそうだ。

 基本的に図太いんだよなコイツ。ちんちんの話ではなく。

 性格的な話で。

 ま、そうでなきゃこの外見を貫き通しはしねーだろーけどな。

 

『Plus Ultra!! それでは皆、よい受難を!!』

 

 プレゼントマイクのその言葉で、オイラたちは分かれて演習会場に向かうことになった。

 お互いの合格を誓い合い、オイラ達は分かれた。

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 スタート地点に集まる生徒たちの群れの中にオイラはいた。

 こういう時キャラデザの都合で身長が低いと不利だよな。下手すると蹴っ飛ばされかねねぇぞオイラ。

 なので集団の後ろの方に位置して、冷静に同じ会場の生徒たちを見渡すことにした。

 

 むっ!

 あの長い黒髪のカエルっぽい雰囲気の女の子いいねェ……!

 おっぱいもあるし、髪がきれいだ。異形型の個性なんだろうけど、にしても顔も可愛いし。

 んー……女子が中々粒ぞろいだな。あ、あっちの眼帯してるサイドポニーの子もいいな。ビッグな夢が詰まってる。

 余裕があったらあの二人は助けよう。クラスメイトは美女に限るぜ!

 

『─────ハイスタートー!』

 

 と、そんなことを考えてたらプレゼントマイクの気の抜けたアナウンスが響いた。

 え、マジ? これでスタート?

 

『どうしたあ!? 実戦じゃカウントなんざねえんだよ!! ()()()()ぇ!!』

 

 ポカンとしていたオイラだが、その言葉で意識が一気に切り替わる。

 『走れ走れ』。

 そう言いながら、3年間オイラを毎朝追いかけまわしてくれたダチがいたからだ。もはや条件反射だ。

 最後尾の位置にいるなんて関係ない。

 始まったなら、オイラは駆ける。

 

「──────【跳峰田】ッ!!」

 

 脚の裏にもぎもぎをくっつけて、両足の強化完了。

 オイラは一息で飛び出して、敵ロボのせん滅に向かった。

 

「なっ!?」

「あのチビ、速っ……!!」

「くそ、俺達も!」

 

 オイラの後に続くように他の生徒達も飛び出してきたが、速度が違う。

 プロヒーローと比べても、オイラの跳峰田はかなり俊敏な動きが出来るほうだという自信がある。

 さらに言えばここは市街地だ。壁もビルも、跳ねる対象はいくらでもある。

 ダチと鍛えたこの速度についてこられるもんかよ!

 

『標的捕捉!! ブッコロス!!』

「っと、きたか……!!」

 

 オイラの目の前に壁を破壊して1Pの敵がやってきた。

 身長が低いオイラからすればかなりの大きさに見える。だいたい2mくらいか。

 だがこの程度。ヒーローを目指すオイラに取っちゃ通過点ですらない。

 

「ほらよォ!!」

 

 もぎもぎを二つもぎって敵に投げつける。

 ダチと鍛えたオイラの強肩は正確に高速に敵ロボの首関節部と地面設置部にくっついた。

 そのまま跳躍して首の上から拳を叩き込み、首と胴体をくっつけてやる。

 これで終わりだ。もうアイツは首を挙げられないし、移動することもできない。

 グレープラッシュを使うまでもない。動きも遅かった。

 これならイクノの生身の方がよっぽど怖い。

 

(大した事ねェな、これなら。オイラの方は合格イケるぜ、イクノ!!)

 

 かなりの手ごたえを以て、オイラは市街地を突き進み、次々と敵を行動不能にしていった。

 

 


 

 

 試験も残り3分となった。

 ここまでのポイントは数え間違いがなければ46P。いいペースだ。

 基本的に投げれば終わりなのがオイラにとっちゃありがてぇ。

 敵の数と試験を受けてる生徒の数からして、30P前後が合格ラインだろう。

 まず間違いなく行ける、はず。

 

(けど油断はできねーな。最後までポイントは諦めずに────っ!?)

 

 そう考えながら街中を飛び跳ねているオイラの耳に、声が聞こえた。

 

「……ケロっ……!?」

「むっ!!」

 

 女子の声だ。

 かなり独特な鳴き声だったが、間違いなく女子。

 さっき見たカエルっぽい子か? 途中で見かけたけど、飛び回ってて機動力も破壊力もある感じの子だったから心配ないかと思ってたんだが。

 でも、今のは明らかに声色が困っている感じの声だった。

 助けなければ。

 オイラは声が聞こえた方に向かって跳ねる。どこだ? どこにいる?

 

「……いた! ……ってマジ!?」

「ケロ……」

 

 おりましたわ。

 長く伸びる舌が敵ロボの残骸に巻き付いて、でもそこから離れようとしていませんでしたわ。

 なんで困ってるのかって?

 そりゃね。

 オイラのもぎもぎが舌とロボをくっつけちまってるからですわ!!

 あれさっきオイラが倒した2Pのロボじゃん!!

 

「おわぁぁぁ!! ゴメンよぉぉぉ!! それオイラの個性だぁぁぁ!!」

「ケロ……貴方、一番に飛び出していった……」

「すまん!! すぐ外すから……!!」

 

 慌てて駆け寄り、舌にくっついていたもぎもぎに触れる。

 オイラは触れることで、もぎもぎの性質をコントロールすることが出来るようになっている。

 あっけなくロボと舌をくっつけていたもぎもぎが離れて、カエル子ちゃん(仮称)が舌を巻き戻して拘束を逃れた。

 

「ごめんな!! マジで!! ケガはないか!? ポイント大丈夫!?」

「ケロ。いいのよ、移動の為によく見ないでロボの瓦礫に舌を伸ばした私が悪いの。悪気があったわけではないのでしょ?」

「そりゃ勿論だけどさぁ!! オイラのせいでアンタが合格できなかったら申し訳なさ過ぎて割腹自殺しちまうよぉ!!」

「切腹はダメよ。……ええと」

「あ、オイラ峰田。峰田実」

「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんって呼んで。峰田ちゃん、助かったわ」

「お、おお……梅雨ちゃん! 可愛い名前だな!! で、ポイントはホントに大丈夫か?」

「ええ。それなりに稼げているから、たぶん大丈夫────っ!?」

 

 オイラのせいで捕まっちゃってた梅雨ちゃんを助けて誠心誠意詫びていたところ、ある程度余裕のある答えが返ってきた。

 まぁ確かに、めっちゃ活躍してたもんな梅雨ちゃん。オイラのせいで不合格に……とかはならなさそうで安心した。

 そして女子と話せてオイラ的にもめっちゃ嬉しい。これをきっかけに始まる恋、あると思います。

 あと梅雨ちゃん髪めっちゃ綺麗。こーれイクノに伝えたら喜ぶわ。

 アイツ髪フェチだからな────────なんて思ってたら、急に地響きが鳴り始める。

 驚いた梅雨ちゃんと共に音の方を向けば、ビルよりも大きな超大型の敵ロボが現れた。

 

「おわああああああああ!? なんだアイツゥゥゥゥゥ!?!?」

「ケロ……あれが0点のギミックってやつかしら」

「やべぇ!! 逃げよう梅雨ちゃん!! ここにいたら踏みつぶされちまうよぉ!!」

「そうね、流石にこれはまずいわ。下がりましょう」

 

 オイラ達は危険と判断し、大通りを駆け抜けて大型ロボと距離を取る。

 0点だし、倒すメリットがない。周りを見れば、他の生徒達も我先にと逃げ出している。

 そりゃそうだ。圧倒的脅威、挑むメリットもない相手。逃げるが正解だ。

 命あっての物種、だ────────

 

「っ!? 避けろッ!!」

「!!」

 

 巨大ロボが大きな腕を振り上げ、こちらに振り下ろしてくるのが見えた。

 マジかよ中学生相手にやる攻撃じゃねーぞ!!

 オイラは【跳峰田】で、梅雨ちゃんも攻撃に気付いたようで舌を上手く伸ばしてその場から退避し、振り下ろしの腕を回避する。

 瓦礫が爆砕する音が聞こえたが、なんとか回避できた。

 っぶねー!

 

「ケロ、本気でやばいわね。でも残り時間も少ないわ、このまま逃げ切れれば……」

「ああ、もっと距離を─────っ!?」

 

 しかし、そこでオイラは見つけてしまった。

 先程の攻撃の余波で飛んだ瓦礫が当たってしまったのだろう。

 巨大ロボの進路上で、頭から血を流して倒れている、女子の姿を、見つけてしまった。

 

「くっ……う、あ……」

 

 ─────助けねぇと!!

 

「梅雨ちゃん!! 右下、倒れてる女子がいる!! 舌で運べる!?」

「ケロッ!? 本当だわ! 運べるけれど、敵の攻撃が……」

「オイラが足止めするから急いで!!」

「っ……わかったわ」

 

 加速する思考の中で飛ばした指示を梅雨ちゃんは聞いてくれた。

 倒れた女子……試験前に見たサイドポニーの子だ。おっぱいがおっきい可愛い子だった。その子の方に向かう梅雨ちゃんだが、舌で人ひとり抱えての移動は速度が落ちるだろう。

 安全な場所まで距離を離すまで、時間を稼がねばならない。

 

 助けなければならない。

 女子は、絶対に助けなければならないのだ。

 

「そうだよな、イクノ……!!」

 

 そう、オイラ達は誓い合った。

 エロを探求する親友と誓い合ったのだ。

 

 女子を守って死ねるなら上等よぉ!!

 

「こっちだデカブツぅ!! オイラはまだまだ元気だぜぇ!?」

『GYAAAAAAA!!!』

 

 大声を張り上げた挑発にどうやら乗ったらしい。

 バーカ。これでまず目的の半分以上は達成した。女子へ矛先は向かなくなった。

 後はもう半分、こいつを行動不能にするだけだ。

 

 だがそれもオイラにとっちゃ苦でもねぇ。

 さっきまではビビって逃げ出すことを選択したが、オイラの後ろにかわいこちゃんが二人もいるこの状況では逃げはもう選択肢に入らない。

 こいつを一刻も早く止める。

 オイラにはそれが出来る!

 

「食らえ必殺のぉぉぉ─────」

 

『GYAOOOOOOOO!!!』

 

「─────【グレープラッシュ】!!」

 

 振り回してきた大腕を飛び越えてビルよりも高く飛びあがり、オイラは巨大ロボに向けてもぎもぎの嵐を投げつけまくる。

 もちろん無造作にではない。狙いは関節部、そして腕の先端だ。

 体を、腕を、脚を動かすたびにもぎもぎが張り付いて機動性を奪っていく。

 そしてバランスを崩してビルに寄り掛かれば、もうオイラの勝ちだ。

 ビルと巨大ロボの間にさらにもぎもぎを投げつけて、接着。

 もぎもぎは力ずくでは絶対に取れない。

 破壊するまでもなく、巨大ロボはうなりをあげながらも、その動きを停止した。

 点数にはならないが上等だな。

 

「……っふぅー。これで時間稼ぎは出来たな。二人は……?」

 

 地上に降り立って、市街地の大通りの先を振り返る。

 すると、かなり遠くまで離れた梅雨ちゃんと、それに肩を貸してもらっているサイドテールちゃん(仮)が地面に座っているのが見えた。

 オイラがそっちを見たのを梅雨ちゃんも気づいたのか、ぐっとサムズアップを見せたので、こちらもびしっとサムズアップを決めてやった。

 

 そして、その瞬間。

 

『終ゥ了~~~~~~~~!!!!』

 

 試験終了のアナウンスが響いたのだった。

 

 

 

────────────────

────────────────

 

 【side 梅雨】

 

 

 すごいものを見た。

 先程試験中に出会い、彼の個性に引っかかってしまった私を助けてくれた、彼。

 峰田実の実力を見た。

 

 試験開始前は、こちらに生温い目を向けてくる男子生徒、という認識でしかなかった。

 いや、校門で同じ学校の女子と謎の卑猥な談義を行っているのも見たので、変人なんだなと。

 自分の事を棚に上げてしまうが、個性の影響か、彼は身長が著しく低い。

 フィジカルははっきりと運動能力に影響が出る。

 あの身長では、今回のような敵を破壊する試験では厳しいだろうと。

 彼女を連れてくるあたり、記念受験のような物なのだろうと。

 

 けれど、彼は試験でいの一番に飛び出していった。

 自分の個性を十全に活かす使い方。

 敵ロボにも果敢に向かう勇気、一瞬で行動不能にする強い個性。

 肉体的な鍛錬も、個性の鍛錬も行っているのだと理解できた。

 彼は合格するだろうな、と確信できてしまうほどの活躍。

 俊敏な動きに負けないように、私も敵ロボを倒していった。

 

 それなりにポイントを稼げた、その後。

 移動の為に倒れた敵ロボの瓦礫に舌を伸ばして絡めた際に、彼の個性の玉に舌が触れてしまった。

 しまった、と直感した。

 そしてその直感通り、彼の個性の玉は私の舌から離れず、ロボの残骸から私は離れられなくなった

 重量のあるこの残骸から離れられなければ移動できない。

 私は躊躇した。舌は切れないし、ロボを砕くにも時間がかかる。

 点数は十分にあるのだから、無理はしないでも、と思いかけたその時だ。

 

「おわぁぁぁ!! ゴメンよぉぉぉ!! それオイラの個性だぁぁぁ!!」

「ケロ……貴方、一番に飛び出していった……」

「すまん!! すぐ外すから……!!」

 

 個性の持ち主、峰田ちゃんが私の声に気付いて駆け寄ってきてくれたのだ。

 そして個性もコントロールが利くらしく、外してもらえた。

 これだけでも、彼の性根が伝わってくる。彼からすれば私は放っておいてもよかったのだ。これは試験なのだから。

 ライバルが一人でも少ない方がいい試験において、彼は己の個性で不利益を被った私を助けてくれた。

 いい人なんだな、と。

 私はそこで彼に対しての心証を新たにした。

 

 しかし、そこで超大型敵ロボが現れた。

 0Pの敵。倒す意味のない相手。

 ビビり散らす峰田ちゃんほど恐怖はしなかったが、私も最善手として逃げを選択する。

 彼の言葉で攻撃をかわしながらも、残り試験時間も短いことから、このまま終了まで粘れば、と思っていた時に。

 またしても、彼の言葉に驚かされた。

 

「梅雨ちゃん!! 右下、倒れてる女子がいる!! 舌で運べる!?」

「ケロッ!? 本当だわ! 運べるけれど、敵の攻撃が……」

「オイラが足止めするから急いで!!」

 

 助けたのだ。

 彼は自分の命すら危うくなる相手に恐怖で追われる中で、人を救うために行動した。

 その身長では人を運べないだろう彼は、私に適切に指示を出した。

 もちろん私もそれに倣い、倒れていた拳藤さん(あとで名前を聞いた)を助け出した。

 私だってヒーローになりたい。人を助けられるヒーローに。

 峰田ちゃんが声を掛けなくても、きっと助けはしただろう。そう、あっただろう。でも。

 私の個性は飛び跳ねる力もある。ひとり二人を抱えても、移動はできる。

 だが速度は落ちてしまう。その間に大型敵ロボからの攻撃が来ないように……峰田ちゃんは、アレに立ち向かった。

 

 そして、勝った。

 破壊こそできなかったものの、最善の手を打ち、一瞬で行動不能にまで追い込んだ。

 彼の頭部の玉は随分と数を少なくして歪になり、そこからは血が流れ落ちている。

 小柄でデフォルメな体も加味して、随分と満身創痍に見える。埃と衝撃で服もぼろぼろで。

 

 けれど、私の眼には。

 

 笑顔でサムズアップを返してくる彼の姿が、本物のヒーローのように映っていた。

 




なお拳藤ちゃんの出番はしばらくないです。
個人的に梅雨×峰田カップリングが推しなので作中で推します(断言)


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3 名は個性を表す説あると思います

ランキング入ってました。感謝。
面白いと思ったらお気に入り登録とか感想とか評価とかいただけると嬉しいです。




 

「ふーう。これで60Pってところか」

 

 俺は実技試験の残り分の時点でまず合格間違いないだろうポイントは稼げていた。

 個性と相性のいい試験で助かった。敵ロボの数と時間から見ても流石にこれだけ稼げばいけるだろ。

 もう残り敵ロボの数も少なくなってきたし、あとは消化試合か。

 

「峰田のほうは頑張ってっかな……ま、アイツなら問題ないだろうけど」

 

 別試験会場で試験を受けているだろう親友の事をふと考える。

 この程度の敵ロボなら、アイツなら軽くいなせるだろう。

 筆記試験もお互いに落としてないし、二人での合格がリアルに見えてきたことでだいぶ嬉しさもこみあげてきている。

 だが最後まで気を抜くわけにはいかない。残り3分、試験官にちゃんとアピールしねぇとな。

 

「さて、んじゃ次の敵ロボは……っと!?」

 

 市街地を走っていると、背後から凄まじい轟音が生まれたので咄嗟に振り返る。

 そこには超巨大な敵ロボがビルに手をかけて姿を現していた。

 あれが0Pのお邪魔ロボってやつか。()()()()()()()()()()()()

 

「しかし、このサイズはやべぇな!!」

 

 俺は思考を切り替える。

 試験に向けた本気ではなく、人を助けるために本気になる。

 逃げ遅れる様な生徒が出てはならない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()が、他の生徒はアレに一撃でも貰えば良くて重傷、打ちどころが悪ければ万が一もあるだろう。

 避難誘導が必要だ。

 

「焦らず全力で下がれっ!! 命あっての物種だ! 周りに怪我して動けない奴がいたら運んでやれ!!」

 

 周りの受験生たちが我先にと必死に逃げる中で、俺は大声を上げた。

 少しでも周りが落ち着いてくれればいいのだが。

 

 さらに、俺は個性を発動。

 周囲の捜索を行う。

 先程口に出したように、もし物陰で怪我して動けないような奴がいたら大変だ。

 俺自身で運ぶか、場合によっては増強系の個性を持ってるやつにお願いして運んでもらわないと────む。

 

「いた……!」

 

 動けなくなってる生徒。女子。

 他の人が逃げる時に、個性の余波で崩落したビルの傍に一人。

 恐らく落ちてきた瓦礫を避けようとしたのだろうが、瓦礫に脚が挟まっちまってる。

 動いてるから気を失ってたりはしてないようだがまずいな。

 あの瓦礫を俺一人で持ち上げられるか?厳しい。

 ならばパワーのある個性の持ち主に応援を頼むしかない。

 

「誰かっ! 瓦礫を持ち上げられる個性の奴はいるか!? 脚を挟んでる子がいる!」

 

 声を上げ、何人かが振り返ってくれたが、「すまん!」と返事が返ってきたり、首を横に振られたり。

 駄目か。確かに近くにいる数人の個性は見たが瓦礫を持ち上げたり破壊できたりするタイプの奴らじゃない。

 ヒーローを目指すならそれでも止まってほしかったが、自分の命が絡んでいる状況だ。無理強いはできない。

 ならば他──駄目なら俺の個性を無理に使ってでも──と考えていると、颯爽と飛び跳ねる黒い影が視界に映った。

 あいつは……影みたいな攻撃で敵ロボを倒していたやつだ。パワーも十分にあったのを俺は個性で見ていた。

 あいつなら行ける。

 

「おいっ!! そこのカラス君!!」

「っ、俺か? 俺は常闇だ」

「じゃあ常闇! 悪いが力貸してくれ!! そっちのビルの向こうの路地、瓦礫に脚挟まってる女子がいる! 助けてやってくれ!」

「お前、感知系か!? っすぐに向かう! お前も早く逃げろ!! 黒影(ダークシャドウ)よ、行けっ!」

『アイヨ!!』

 

 カラス頭の男子、常闇に俺は叫んだ。

 どうもあいつはヒーローの素質があるようで、俺の簡単な指示ですぐに向かってくれた。

 これで向こうは大丈夫だな。あの黒影とかいう個性のパワーは把握してる。あのサイズの瓦礫をどかすなら何とかなるだろう。

 女の子の怪我が小さいのを願う。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

「さて……お前にはこれ以上行かせねぇよデカブツ!!」

『GYAAAAAAA!!!』

 

 常闇を見送り、俺は超大型敵ロボに相対して挑発する。

 どっかにカメラがあるのだろう、そうじゃないと生徒に向かって攻撃できないしな。

 そして頭みたいなところが明らかに俺の方を向いてくれた。助かる。無視されたらそれはそれで面倒なことになったんだ。

 お邪魔ロボってプレゼントマイクが言ってたから、近くの生徒を無差別に攻撃とかするタイプなのかもしれん。

 こいつの注意を残り時間引きつけてれば俺の勝ちだ。

 

「かかってこいや!! デクの坊!」

『GYAOOOOOOOO!!!』

 

 こちらに向けて振り下ろしてくる巨腕を大きく横に飛びのけて回避する。

 俺の方から攻撃してぶっ壊してもよかったのだが、あのサイズだと流石にちょっと面倒だ。

 残り時間も少ない以上、俺の勝利条件はこれ以上コイツを前に進ませない事だ。

 だったらシンプルだ。挑発して攻撃を誘発する。

 一撃一撃が大きな動作だし、回避するのは苦でもない。個性無しの俺の動きでも避けきれるだろう。

 叫びながら腕を振るってくるが、その度に俺は全力で回避した。叫びながら攻撃するタイプか。

 

「ヘイヘイピッチャーびびってるー!! 動きがスロウリィだぜー!?」

『GYAOOOOOOOO!!!』

 

 そのまま煽りつつ攻撃を回避していると、どうやら常闇は無事に女の子を救出できたらしい。

 振り返り、常闇が出口付近に走る姿を見つける。

 個性を発動したままなので、黒い影の中にいる女子の姿も見えていた。

 そのまま常闇は生徒たちが避難したところにたどり着き、黒い影を解いて女の子を下ろして─────って。

 

「えっ全裸!? あれ全裸だよねぇ!?」

 

 余りの驚愕に俺は思わず全力で大型ロボに背を向けて振り返り女の子をガン見してしまった。

 クソァ!! 望遠鏡持ってくればよかった!!

 でもあれ絶対服着てないって!? えっ、さっきは建物の向こうだったから気付かなかった! 全裸やん!!

 常闇が横たえる女の子の胸元の大いなる双丘が重力と拮抗し黄金比を保ってるやん!!

 

「え…? なんで周りの奴らなんも反応してないの……!? 怖……」

 

 少なくともここに峰田がいたら一目散に駆け寄ってジャージをかけてやるところやぞ。

 とか思ってたらちゃんと常闇がジャージかけてやってた。優しい。でももうちょっと粘れなかったか?

 

 ─────なんて、下らない思考に耽っていたのが悪かったのだろう。

 何故かこちらに飛び出してきた常闇が、何かをこちらに叫んだ途端に。

 

『終ゥ了~~~~~~~~!!!!』

 

 試験終了の声を告げるアナウンスが響き。

 それと同時に、

 

『──────!!』

 

 俺の頭上から振り下ろされる超巨大敵ロボの大きな腕が。

 ズシン、と俺の体を押し潰すように地面に突き刺さった。

 

 


 

 【side 常闇】

 

 

 実技試験で十分なポイントを稼ぎ、満足していたのもつかの間。

 突如現れた0P敵ロボの被害から逃れるべく走る学生たちの波に合流するように黒影を使って走っていた。

 一つの目的は勿論、危機から逃れるため。

 もう一つは、もし逃げる生徒の中で身の危険がある様なものがいれば、助けるため。

 俺が目指すものはヒーロー。

 であれば、赫奕たる騒乱の内に不運が舞い降りし者を救うのもまた使命。

 

「おいっ!! そこのカラス君!!」

「っ、俺か? 俺は常闇だ」

「じゃあ常闇! 悪いが力貸してくれ!! そっちのビルの向こうの路地、瓦礫に脚挟まってる女子がいる! 助けてやってくれ!」

 

 そんなときに、俺に叫んできた女子がいた。

 口調はまるで男のようだが、その顔は傾国すら思わせる美貌。中性的な声色。意志を感じる瞳。

 彼女もまた試験を受ける学生の一人なのだろう。

 その口から語られる内容に俺は了承の意を返してから、驚愕を覚えた。

 

 視界にすら映らぬ先の事象を、この女は己が意のままに把握している。

 恐らくは感知系の個性なのだろう。

 であれば今回の試験は些か相性が悪い。

 ポイントを稼ぐのも楽ではない、もしかすればあまり良い成績を残せていないのではないか。

 

 だが、そんなことは関係なしに彼女は人を助ける道を選んだ。

 己の細腕では救出が叶わぬと知り、力を持つ俺に声をかけた。

 その志、眩しいほどにヒーロー。

 敬意を表する。であれば、俺も彼女の意志をせめて遂げよう。

 俺は彼女の指示の通り、ビルの向こうにある路地に駆けた。

 

 だが。

 

「……!? 誰もいないぞ!?」

 

 その先に映る光景に俺は息をのんだ。

 確かに彼女の言う通り瓦礫が散乱している。しかし、彼女の言っていた要救助者が見当たらなかった。

 一瞥し、改めて確認しても、誰もいない。

 なぜだ?

 先程の女の言葉はまさか虚言?

 

「ごめんなさーい!! 助けて!! 脚が挟まっちゃって…!!」

 

 だが、そんな思考を巡らせる俺に声が届いた。

 瓦礫の傍からその声は聞こえる。だが誰もいない。

 

「どこだ!? まさか瓦礫の下か!?」

「ちがーう! 瓦礫に脚挟まってるだけ!! 透明なのが個性なのー!! ここー!!」

 

 声の後にバシバシ、と音がして、瓦礫の傍の埃が僅かに舞った。手で地面を叩いたのだろう。

 透明人間か。そういえば試験開始前、服だけが宙に浮いていたな。彼女か。

 そこにいるのははっきりした。先ほどの女はこれを感知していたのだ。

 際どかったと言えよう。もしあの女がこの透明人間を感知していなければ、俺が来なければ、誰も気づけずにあの超巨大ロボの攻撃の余波で万が一もあり得た。

 これは試験なので本当に危うくなればプロヒーローが助けに来るであろうが、そのような事態にならなくて僥倖であった。

 

「いま助ける! 悪いが動くな、目視できんので体の位置を図る! 黒影!」

『アイヨッ!! オジョーチャン、ウゴクンジャネェゼ!!』

「うわきゃあ!? や、優しくしてね!?」

 

 俺は黒影で透明人間の体を包み、位置と体勢を確認し、負担にならないように瓦礫を払う。

 しかし……透明人間が全く見えないということは。服は、その。

 ……やめよう。今考えるべきではない、救助を優先だ。

 

「瓦礫はどかした。脚は抜けるか?」

「うん、大丈夫そう……ありがと! 痛っ…!」

「無理をするな、骨折の可能性もある。支えて遠くに離れるぞ」

「ごめんね、試験中なのにこんな……えっと……」

「常闇だ。常闇踏陰。こっちは個性の黒影(ダークシャドウ)

『ジットシテロヨー』

「常闇君と黒影君ね、ありがと!! 私、葉隠透!!」

「葉隠か。礼なら俺ではなく、お前の存在を感知し俺に指示を与えた女に言え。赤く長い髪を持つ女だ」

 

 俺は葉隠の体を黒影で包み、改めて人が集まる出口付近に向かう。

 あそこまで人が集まれば何かあっても対処しやすいだろう。そこに葉隠を一度置いて、ジャージを脱いで体にかけてやる。

 透明なので俺も葉隠の姿は見えなかったが、女子に対しては配慮するべきであろう。ここに誰かがいると知らせる意味合いもある。

 踏まれてしまってはたまったものではないからな。

 

 さて、これで救助は完了した。

 改めて超大型ロボの方に振り返れば─────そこには、何故かこちらを見て棒立ちになっている先ほどの赤髪の女の姿が見えた。

 

「っ!? あの女……!?」

「えっ!? 何々!? 戦ってるの!?」

 

 バカな。

 なぜまだあそこにいるのか。

 逃げろと伝えたはずなのに……いや、もしや俺が葉隠を救出する時間を稼いでいたのか?

 

「……!? 何をしている!? 後ろだ女、気付け……!!」

 

 棒立ちのままの女の、その隙を逃す巨大ロボではない。

 今度は雄たけびを挙げぬままに、静かに腕を持ち上げ、今にも振り下ろさんとしている。

 距離がある。これでは俺は間に合わない。

 気付け、女。気付け!!

 

「女っ!! 避けろ!?」

 

 思わず駆け寄りながら放つその言葉に、へ?と間の抜けた顔を浮かべたその女の、頭上に。

 

『終ゥ了~~~~~~~~!!!!』

『──────!!』

 

 試験終了のアナウンスと同時に、その巨腕が振り下ろされた。

 

 

 ────────即死。

 

 

 その二文字が、脳裏によぎる。

 

「っ……!! おいっ!! 返事をしろ、おいっ!!」

 

 なぜ、なぜあんな油断をした。

 試験終了が間近だったから気が抜けた?

 俺が葉隠を助けたことを知って気が抜けた?

 

 なぜ逃げなかった。

 なぜ俺は間に合わなかった。

 なぜプロヒーローは助けなかった……!!

 

「おいっ!! まだ俺は、お前の名前も聞いていないぞ……!!」

 

 動きを停止した巨大ロボの巨腕に近づき、叫ぶ。

 後方、学生たちが避難しているところでは、何人かがその光景を目撃してしまったのだろう、動揺したり気を失ったりする大混乱が起きてしまっている。

 何人かはこちらに駆け寄ってきているが、しかしその間もロボの腕の下から返事はない。

 

「おいっ!! 誰か手を貸せ!! この腕をどける……!!」

 

 だが、まだ生死が確定しているわけではない。

 ならばできることはある。俺は後続からくる集団に声を掛けながらも、黒影を用いて腕をどかそうと─────

 

「あ、ワリ。普通に生きてっから」

「ッッ!?!?」

 

 唐突に、俺の後ろから声を掛けられた。

 中性的な声。間違いなくあの女で、振り返ればそこには全くの無傷のそいつがそこにいた。

 怪我はしていない……いや、ジャージが汚れたり破れたりもしていない。

 散歩の途中とでも言うかのような気軽さに、思わず俺も腰を抜かし、ぺたんとその場に座り込んでしまった。

 

「大丈夫かー? そうだよな、悪い。心配したよな俺の事」

「な、お、お前っ……ど、ういう、ことで……」

「あー、個性だ個性。絶対死なない確信があってさ、さっきの女の子も助かってたしすっかり気が抜けちまったんだわ。ポイントも稼げてたしな」

 

 あっけらかんという彼女に、まず驚きが俺の内を通り過ぎ、その後に安堵が生まれ、そうして怒りが沸き上がってきた。

 この女は、俺に、ここまで心配させて─────!!

 

「……貴様! そういう能力があるならそう言え!! よほど心配したぞ俺は!!」

「あー、うんうん悪い悪い。マジでちょっと反省してるわ。そうだよな、峰田じゃねぇもんなみんな」

「誰だそれは! ……全く、無事であったからいい物の。見ろ、お前の死に際を見て幾人かは意識を飛ばしてしまったぞ」

「え、マ? ……うわマジだ。こりゃ悪いことしたなぁ。もしかしてこれのせいで俺、試験落第ってことはないよな?」

「知らん、落ちてしまえ貴様など」

「ひでぇよ常闇ー! あ、そういや女子救出はマジでナイスな! 俺の代わりに助けてくれてありがとよ!」

「フン……!」

 

 鼻息を荒く返事を返してやると、女もまたごめんって、とはにかむような笑顔と共に謝罪を零してきた。

 コイツは……くそ、卑怯だ。

 そんな顔で謝られては、折れぬ男はいないだろう。俺の怒りも随分と雲散霧消してしまった。

 

「……名前は」

「ん?」

「貴様の名前だ。俺はまだ……貴様の名乗りを受けていない」

 

 試験官も集まってきて、女が無事であることが分かり、集まってきた生徒達にも安堵の空気が広がってきていた。

 試験内容は芳しくない者もいるだろうが、死んだと思われていた女が生きていたことで、一つの活劇を見たかのような安堵感があるのだろう。

 まったく、騒がせてくれる。

 

「そういやまだ言ってなかったっけ。俺は幾野だ。幾野 潜(いくの せん)。好きに呼んでくれ!」

「イクノか。……貴様の名、忘れん。雄英で会おう」

 

 俺はイクノから延ばされた握手に応じ、彼女の柔らかい手を強く握りしめた。

 




常闇君の脳が破壊されるまであとわずか(確信)
常闇は犠牲になったのだ……性癖の破壊者、その犠牲の犠牲にな……。

葉隠ちゃんも筆者の推しです。出番増えます。


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4 36人合格するから多分30Pくらいが足切りライン

UA一万超(まんこ)えてました。誠に感謝。
今回はキリ悪かったのでちょい短め。


 

 

「実技総合成績出ました」

 

 

「今年は上位陣が凄まじい成績だな……爆豪勝己、救助Pが0で3位とはなぁ!!」

「タフネスの賜物だな。強力な個性を使いこなしている」

「だが一位が二人とも余りにも抜けている。Pは3位に2P差の同率一位だが、P以上の実力があるぞ」

「峰田実……戦闘向きの個性ではないと感じたがここまで使いこなせているとは」

「あの飛び跳ね回る俊敏さだけで言えばプロヒーロー並だ。個性の玉もあらゆる用途が考えられる」

「最後に女子を助けたのもよかったなぁ! 意外と愛されキャラみたいなヒーローになるんじゃねぇか?」

「ヒーローとしての見栄えを考えるなら幾野潜が一番だろう、あの顔は間違いなく人気が出る」

「あれで男子というのは本当なのか? 正直、今でも信じられん。あの顔、あの腰つきで……」

「あ、セクハラですよーそれ。気持ちは分かりますが大切な生徒になるんですからね、LGBTQには配慮して接する必要があるかと」

「全教員で再度LGBTQの講習を受けるか……いい機会だ」

「見た目もそうですが、彼の個性はすごいな。調整が難しいだろうに、完璧に使いこなしているように見える」

「使い方次第では無敵だな……尤も、それで最後に油断するのは減点だが。この試験が減点方式でなくてよかったよ」

「将来が楽しみな卵ですね。アレを前にしてすぐに救出に考えが()()()は評価できる」

「イクノだけに?」

「黙れ」

「救出といえば9位の緑谷も────────」

「一撃でぶっ飛ばしちゃったのは久しく見てないね────────」

 

 


 

 

「─────俺たちは強い!!!」

「スラダン読んだ?」

 

 俺は一人暮らしをする自室で遊びに来た峰田と共にエロ本の修繕、保存、管理を行いながら急に叫んだ。

 お互いに雄英ヒーロー科合格、しかもまさかの同率主席だ。叫んでも仕方ない事だろう。

 中学校では先生に盛大に祝福された。ありがてぇてぇ。

 

「首席だぜ首席! トップに立ったんだぜ俺達は!」

「まぁオイラも嬉しいけどさ。別に成績云々はどうだっていいんだよなぁ」

「……どうしたんだね峰田くん。急に賢者モードになってしまって」

 

 謎の態度を浮かべる峰田に怪訝な視線を向ける。

 おかしい。いつものコイツなら「首席として目立っちまうなぁ!! これは女子たちが放っておかないぜぇ!! バラ色の高校生活開始ィィィィ!!!」とか叫び出しそうなものなのだが。

 謎の余裕がある。問い詰めなければならない。

 

「女か?」

「お前の勘どうなってんだよ鋭すぎだよダツかよ」

「女の勘、かな……」

「男であることを諦めんなよぉ……!!」

「で、マジでどうした? いい出会いでもあったん?」

「お前の鋭さが怖ぇよ!? まぁ……スゥー……実はぁ……そうなんだけどなぁぁぁぁ!!!」

「チクショオオオオオオオ違ってて欲しかったァァァ!!!」

 

 峰田がこれ見よがしにスマホの連絡先を見せつけてくる。

 そこには『蛙吹梅雨』『拳藤一佳』と名前が二つ新着で入っていた。

 こいつのスマホに女の名前だと……!?

 母親以外に女と連絡先を交換してなかったコイツが……!?

 

「削除してやろ」

「やめろォォォォ!! 動きに躊躇いがなくて怖ェよ!?」

 

 俺が奪い取ったスマホを操作しようとしてたところで峰田が奪い返そうとしてくる。

 しばらく個性を使っていなしてたらマジでキレそうになってたから流石に返してやった。

 

「オイラの努力の結晶のつながりを一時の感情で削除しようとするんじゃねぇぇぇ!!」

「ええ……ごめん……。でもなんだな、マジでよかったな女の子とのつながりが出来て」

「それな。二人とも可愛いし胸もあるしめっちゃ可愛いしな。悪いなイクノ、オイラは先に高みに至っちまうからよ……」

「やっぱ削除してやろ」

「やめろォォォォ!! ノーモーションでオイラのスマホ奪うんじゃねぇぇぇぇぇ!!!」

 

 ぎゃーすかぎゃーすか二人で部屋で騒いでも誰にも怒られない。

 いいな一人暮らしって。最高やんけ。エロ本もエログッズも置き放題のシコり放題。

 この便利さを知ってしまったら俺はもう抜け出せないかもしれない。

 峰田(事実)とか男子の友達(願望)とか彼女(願望)とかハーレム(叶わぬ願い)とか呼ぶことあるだろうし掃除はしっかりやっとこ。

 

「まぁ俺も試験で友達出来て現地で交換したんだけど」

「は? キレそう。それ男? 女?」

「両方。カラスみたいな頭の男子と透明人間の女子」

「女子がいるじゃねぇか!? オイラのこと言えねぇじゃねぇかお前ェ!?」

「めっちゃ美人だった」

「お前しか見えねぇだろ透明人間ちゃんだとよぉ!?」

「全裸でぼいんちゃんでした」

「許せねぇよなァ!? あぁ!?」

「あと二人とも俺を女子だと勘違いしてる」

「……それ確信犯だろ?」

「そうだよ」

「性癖の破壊者がよぉ……!! その男子が今から気の毒でならねェよ」

 

 下らない話で盛り上がる。

 あの試験の後、常闇と葉隠ちゃんとは連絡先を交換したのだ。

 二人とも無事受かったと連絡が来て何よりである。

 透明な個性の葉隠ちゃんはあれどうやってポイント稼いだんやろ? 救助P高めだったのかな。若しくは素手で敵ロボ壊せる体術があるのか。気になる。

 

「そんなわけで俺がクラスでどうやって性別カミングアウトしたら面白いか会議を始めます」

「オイラを今日呼んだのってそんな理由? そんな理由なの?? 試験の振り返りとかこれからの学園生活の相談するんじゃないの??? オールマイトが教師になるって話でワクワクするんじゃねぇの????」

「峰田。お前がいてくれるから俺、新しい生活でもぜんっぜん怖くないよ♥」

「いい顔で言うんじゃねぇよ脳内ちんちん野郎がよぉぉ……!!」

 

 やっぱ峰田はからかうと面白いわ。

 なおこの後めちゃくちゃ作戦会議した。

 

 




葉隠ちゃんどうやって試験受かったんやろ……(疑問)


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5 高校デビュー初日にやらかすと絶望するよね

日間ランキング2位になってました。夢か?デカパイ(たいへん)感謝。
現時点で体育祭編あたりまでは書き上がってますので暫くは毎日21時投稿が続くと思います。
とりあえず自分で読んでて楽しい作品になってるので今後もお楽しみいただければ幸いです。


 

 

「おっはよーさんっ!!」

「テンション鬼かよぉ……おはよー」

 

 高校生活初日を迎え、峰田と共に登校して教室のドアを元気にオープンした。

 幸運なことに峰田とは同じクラスだった。素直に嬉しい。

 あと俺が会場で知り合った常闇と葉隠ちゃんも一緒だ。峰田の方の知り合いだって言う梅雨ちゃんもA組だが、拳藤ちゃんは残念なことにB組だったらしい。

 まぁクラス近いしすぐ仲良くなれるやろ。

 

「む……来たかイクノ」

「あー! センちゃんだー! おっはよー!!」

「おー、常闇に葉隠ちゃん! おはよーさん!」

「ケロ、峰田ちゃんおはよう。会えてうれしいわ」

「梅雨ちゃんオッス! よかったなー拳藤も合わせてオイラたち三人とも合格してて」

 

 俺達が教室に顔を出してすぐに、お互いに試験会場であった常闇、葉隠ちゃん、梅雨ちゃんが声をかけてくれる。

 これは割とありがたい。知り合いが少ない教室ってプレッシャーあるしな。

 とりまこの3人は今後も仲良くしていきたいな。

 

「梅雨ちゃん、だっけ。初めまして、俺は幾野。峰田の彼女だ」

違ェよぉ!? いきなり何ほざいてんだよお前はよォ!?

「ケロ……イクノちゃんね、蛙吹梅雨よ、よろしく。峰田ちゃんはこんなにきれいな彼女さんがいたのね……」

「違うからな梅雨ちゃん!? ただのダチ!! ただの同中(おなちゅう)のダチだから!!」

「人をオ〇ニー中毒みたいに言わないでくれる?」

初っ端からトバしすぎだよお前ぇ!?

「……峰田と言ったか。俺は常闇だ。なぁ、こいつはいつもこうなのか」

「……ああそうだよ。よろしくな常闇(今日の犠牲者)

「なんて?」

「発言があけすけすぎるよイクノちゃん!? 女の子なんだから慎み持たないと駄目だよー!?」

「んにゃぴ。メンゴメンゴ」

 

 とりあえず梅雨ちゃんには冗談を交えて自己紹介しておいた。

 ってか髪マジでキレイだなこの子。すごい、しっとり濡れているかのような艶のある黒髪だ。癖もない。

 これは素晴らしい。向こうに座ってる、えーと、おっぱいがご立派で髪を結い上げてる子も髪がきれいだ。

 マジかよ天国か? 捗るわ。後で二人にどんなシャンプー使ってるか聞いておこう。

 そして本日の犠牲者である常闇君にはいずれ脳破壊を楽しんでもらおう。

 葉隠ちゃんはいい子だね。うまい棒あげたいな。俺のスーパーうまい棒(推定平均サイズ)。

 

「君! 机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか!?」

「思わねーよてめーどこ中だ端役が!!」

 

 そんな話をしてたら会場で緊張をほぐす手段にヘイトを使ってた眼鏡君とヘドロとの交合経験アリという歪んだ性癖になってしまっていたバクゴーがなんか話してた。

 悲しいなバクゴー。その歳でヘドロまみれ性癖などというニッチな性癖に目覚めてしまって。

 俺がちゃんと性癖をゆがめ直してやるからな。

 

「お前のその目が怖ぇよ……何考えてんだよイクノぉぉ……!」

「あ、会場でヘイトぶつけた相手と仲直りしてんだな。いいなぁ、青春だな」

「絶対そんなこと考えてなかっただろぉ!?」

 

 そうして眺めてたら緑谷、というらしい少年と飯田が仲直りして、そこに試験会場で見た天使の子が声をかけていた。

 よし、声掛けよ。いくぜ峰田!

 

「よーお二人さん、試験会場では目立ってたな! 二人ともよろしく! 俺、幾野潜! あ、そっちの女の子もよろしくな!」

「コミュ強がよぉ……あ、オイラ峰田な」

「む! 幾野くんに峰田くんか! よろしく、俺は飯田天哉だ! しかし幾野くん、淑女たる者発言には気を付けるべきだ! 少し聞こえてしまっていたぞ!」

「へぇぁっ!? じょじょ女子から一日に二回も声かけられるなんて……!? あっ、ぼぼぼく緑谷でです……よよ、よろしく……!」

「麗日お茶子、よろしくね! 幾野さん、すごいキレイな髪やね、羨ましい!」

 

 お茶子ちゃん天使かよ。飯田は少し頭は固そうだが言ってる内容はまともだな。緑谷は童貞か。

 よし、明日は緑谷の脳を破壊しよう。

 

(どうしてお前は次々被害者を増やそうとしてるんだよぉ……!)

(入学当初にしかこの遊びはできないから……ですかねぇ……)

(クソ野郎がよぉ……!!)

 

 峰田とアイコンタクトで会話をしながらその流れで俺はクラスにいるやつら全員に挨拶を交わしていく。

 ノリが受け入れられたのか、大体みんな快く挨拶を返してくれた。

 芦戸ちゃんいいねェ……ピンクの肌に黒目、ニッチな性癖に突き刺さります。明るいしボディもごっくん。92点。

 八百万は顔がいい、体がいい。性格は今後掴んでいくがとりあえず現時点で98点は与えたい。

 耳郎ちゃんは耳からコード伸びてるけどツリ目が可愛い。体はちょっと貧相ですかね。85点、今後の成長に期待。

 女子は6人か。全体的にかなりレベルが高くてむほほですわ。むほほ。

 

 

「─────お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここはヒーロー科だぞ」

 

 

 そんな風にクラス内で交流を深めていたらなんか廊下に変な人が落ちてた。

 なんかいるぅぅ!!!というクラスメイトの魂の叫びが聞こえてきそうなほど変人だ。

 

「ハイ、静かになるまで25秒かかりました。コミュニケーションも大切だが……時間は有限。君たちは合理性に欠くね」

「むしろ初日にそこまで関係を深める努力をした俺を褒めるべきでは?」

「おい静かにしろよイクノ……!」

「幾野……中学の推薦書通りだな。コミュ力はあるが遠慮に欠ける。担任の相澤消太だ、よろしくね」

 

 ふむ、この人担任の先生だったのか。すげーな教師なのに寝袋で寝てたよさっきまで。合理性ってやつか。

 しかし相澤消太先生か。ショウタ先生……ショタ先生。閃いた。薄い本に出来そうな設定ですよこれは。

 若返り系か時を巻き戻す系の個性を持つ人を見つけたら先生をショタにしてみよう。意外とイケるかもしれん。

 

「早速だが体操服着てグラウンドに出ろ。机の中に入ってる」

 

 

 ───────は?

 

 

 相澤先生はその一言を置いて教室を出て行ってしまった。

 それぞれの机の中にジャージを発見。これに着替えろという事なのだろう。

 まさか初日の最初から体育? 嘘だろ?

 入学式とかガイダンスで初日って終わるもんなんじゃないの??

 着替えてグラウンドに集合ってこと? 着替え??

 つまり更衣室に行けってことか? マジ?

 

 これじゃ──性別カミングアウトの予定が全部狂っちまうじゃねぇか!?!?

 

「ウケる」

「黙れ峰田」

 

 俺はジャージを手に選択を迫られていた。

 今着ている制服はズボンタイプのもので普通に男子用のものだが、異形型の個性が増えていることもあり、ユニセックスに理解のある社会になっているため、男女関係なくズボンかスカートかを選べるようになっているのはここにいる全員が把握している。

 つまり今の所俺は女子だと思われているだろう。この顔、髪、プリケツで男子だと思うやつはいないはず。

 だがここで俺が素直に男子更衣室に移動するとなれば性別がバレる。

 しかし女子更衣室に入るとなると……なるとぉぉぉぉ……!!!

 

「……峰田」

「おう」

「俺は……女子を泣かさないっ……!!」

「血涙拭えや怖ぇわ」

 

 そして俺は決意した。カミングアウトは諦める。

 女子更衣室に入っても多分すぐにはバレないだろうけど後々バレてから女子に何を言われたか分かったものではない。

 何より女子は気分を害するだろう。それは俺の本意ではない。イエスエロス、ノー涙。

 仕方ない。常闇に「トイレ……行きたいんだけど、場所が分からなくて……」って恥ずかしそうに声をかけてトイレに案内してもらった後に男子トイレに突入してその場でカミングアウトして常闇の脳を破壊するという俺の夢ははかなくも崩れ去ったがやむを得ない。

 仕方ないから男子全員を巻き込もう。

 

「ケロ、イクノちゃんどうしたの? 女子更衣室はこっちよ」

「そうだよセンちゃん、あの先生遅れたら怖そうだよー?」

「はよ着替えよ?」

 

 A組全員で男女で部屋が並んだ更衣室に向かい、俺が男子更衣室の扉の前で佇んでいると、梅雨ちゃんと葉隠ちゃんと麗日ちゃんが俺に声をかけてくれる。

 何て友達思いなんだ。こう、もっと面白いタイミングでカミングアウトしたかった。しかし最早止まれぬ。鬼哭啾々。

 

「いや、さ……スゥー……」

「どうなされたのですか、イクノさん。何か気になる事でも?」

「そだよー、早くいこー?」

「……あ、もしかして一緒に着替えるのNG? ズボン履いてるし口調も……それならウチらの後で入ってもいいけど?」

「八百万ちゃん、芦戸ちゃん……耳郎ちゃんも気を遣ってくれてありがとな……でも大丈夫だ。実は俺────」

 

 

 

「────────男なんだ」

 

 

 

「は」

「え」

「ケロ」

 

「「「ええええええええええ!?!?」」」

 

 廊下に大絶叫が響いた。

 峰田だけはプークスクスと嘲笑してやがる。お前後で覚えとけよ。共有エロ本のフィニッシュシーンの所に俺の自撮り写真挟んでやるぞこの野郎。

 まぁ驚きも当然なので、気にせずに俺は速やかに男子更衣室に入った。

 峰田が続き、男子たちが狼狽しながらもついてくる。

 

「イクノ、お前……お前、男子ってマジか!? その顔で!?」

「嘘だろ!? え!? こんなに可愛いのにちんこついてんの!?」

「ちょ、えっと変なこと言ったらごめんなイクノ! その、もし性自認が男っていうあれなら、俺ら、えーっと……!」

「……トランスジェンダーか。皆、急ぐこともあるし今日の所は幾野の方を見ないで着替えよう」

「その、配慮できてないところとかあれば言ってくれよな!」

 

 先程あいさつしてた切島、上鳴、瀬呂、障子、尾白が気を遣った言葉をかけてくれる。優しみかよ。

 そんなに優しくされると悪戯しようとした俺が申し訳なくなってくるんだけど!! やめろよ俺に優しくするの!!

 

「大丈夫、普通に心も体も男だから配慮はいらんわ。可愛いの自覚してるしちんちんついてるぞ?」

「前後の文脈の噛み合わなさがすげーよ!?」

「ほれほれちんちんびろーん!!」

「見せなくていいから!! やめろォ変な気持ちになる!!」

「明け透けにもほどがあるだろうがよォ!!」

「……マジでついてんのか」

「ワォ☆ 大胆だね」

「………///」

 

 俺は開き直ってパンツを脱いでちんちんを御開帳した。

 切島と上鳴はばっちり目撃して顔を赤らめている。轟は確認でちらりと見てきた。青山もあまり気にしてなさそうだ。口田はシャイだな、何も言わず照れてしまった。可愛いね♥

 まぁ毛も処理しているしちんちんなければ女子の下腹部と言っても過言ではないからな。

 ちんちん出したら留飲下がったわ。すっきり。これが賢者タイムってやつですか。

 ふと目をやると更衣室の隅で常闇が頭を抱えていた。

 

「ぐっ……ぐぁぁ……っ!! 俺の、俺の脳が……! 矛盾の因果より生まれし灼熱に晒されている……ッ!!」

「常闇……何も言うな。わかるぜ。オイラも三年前に味わったからよ……」

「峰田……俺はお前に敬意を払うっ……!! あれと共に3年を過ごしたお前を……!」

「よせよ。まー諦めろ、アイツ色々と頭おかしいから」

 

 脳が無事に焼かれたらしい。よかったな。

 しかし峰田よ、勝手に人を狂人にしないでくれないか。

 俺はマトモである。健康優良不良男子高校生である。イイネ?

 

 




常闇君の脳破壊が捗る。

次は君だ!(ダブルミーニング)


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6 個性って得手不得手あるから(震え声)

日刊ランキング……一位……?(おめめごしごし)
ご愛顧いただき感謝です。やはり峰田。峰田は全てを解決する。




 

 

 「「「個性把握……テストォ!?」」」

 

 一悶着あってからグラウンドに集合した俺たちは相澤先生の言った内容に驚愕を返した。

 え、マジで。行事出る時間すらないの。俺と峰田が入試首席だから新入生代表挨拶とか結構真面目に考えてたんだけど。

 そこで性別カミングアウトしつつLGBTQについても理解を深めていきましょう的な話をして全生徒の脳を揺らすことも腹案として考えてたんだけど。

 マジかー。全部カットかー。自由な校風とは言うけど流石だな雄英。

 

「あー……首席の幾野と峰田だと非合理的か。爆豪、中学の時ソフトボール投げ何mだった」

「アァ? ……テメェら二人か、首席ってのはァ……ちっ、67m」

「じゃあ個性を使ってやってみろ」

 

 なんか爆豪君にめっちゃ睨まれた。峰田なんか睨まれて震えてしまっている。

 全く、朝の様子でも見たが随分と態度が悪いやつみたいだな。「死ねぇ!!!」とか叫んでるし。

 よし決めた。

 俺の脳内で今から爆豪は金髪ロリ巨乳の女の子になってもらおう。

 

「そうすれば爆豪もかわいく見えてこないか峰田? ほらツンデレ系ロリ巨乳みたいでさ」

「お前が何言ってるのかオイラさっぱり分からねぇよぉ……!!」

 

 分からんか……峰田にまだこのレベルの話は。後でイメージ共有してやるとするか。そうすれば峰田も爆豪を好きになれるさ。

 

 さて、しかしこの個性把握テストだが、けっこうまずい。

 何がまずいって、俺はこのテストの中で()()()()()()使()()()()のだ。

 素の身体能力でやる以外に方法が思いつかない。

 きちーわ。

 

「よし。トータル成績最下位のものは見込みなしと判断し除籍処分としよう」

「「「はあああ!?」」」

 

 そして会話の流れでなんか最下位が除籍処分の憂き目にあうことになった。

 ふざけんな死ィ~っ!

 

「イクノ──」

「峰田……俺ちょっとやばいかも……」

「───楽しかったぜェお前との高校生活ごっこォ!!」

「ぜってぇ除籍されねぇからなこの野郎ォ!!」

 

 峰田が煽ってきたが俺はむしろそれでやる気がもりもり湧いてきた。

 いや、これを見越して煽ってきてくれたのかもしれないな。やはり峰田。峰田isGOD。

 優しいやつなんだよな。

 

 ……ま、俺の個性の事は相澤先生も知ってるだろうし、たぶん除籍にはならんだろ。

 合理的なウソの可能性もある。気楽にやるか。

 

 


 

 

【第1種目 50m走】

 

 飯田がクソ速かった。ウマ娘かな?

 峰田は跳峰田使って5秒を切ってた。大したやつだ。やはり天才か。

 俺? 俺は普通に走ったよ。それしかできないもん。

 

「幾野、5秒26」

「え、普通に速くない? 峰田、あれイクノの個性?」

「いやあれ素。イクノのやつ結構鍛えてるからな。多分このテストであいつの個性は使えないと思う」

「おー、私と一緒か! 頑張ろーセンちゃん!」

「おう! 葉隠ちゃんも頑張れよ!」

 

 

【第2種目 握力】

 

 俺は女子力高めの細腕で全力でにぎにぎして62kg。鍛え上げたオナ筋*1が違うわオナ筋が。

 峰田は流石に個性使えないし俺以下だった。煽り散らしてやった。

 

「540kgって! ゴリラ!? タコか!!」

「タコってエロいよね……」

「腕が多い分やれるプレイが増えるよね……障子の将来の彼女が大変だなこりゃ……」

「幾野に言われると俺はどんな顔をすればいいか分からなくなる」

「笑えばいいと思うよ」

 

 

【第3種目 立ち幅跳び】

 

 どうにもならんわ。個性無しジャンプの皆様の中ではトップだったと思う。

 峰田は30mくらい跳ねてた。水を得た魚。

 あと梅雨ちゃんもめっちゃ跳ねてた。カエルの個性って割と強そう。

 

 

【第4種目 反復横跳び】

 

 峰田が一番輝いていた。もぎもぎの最高効率出たな……お前がナンバーワンだ!

 俺は髪が靡きまくって目立ったのでよしとしよう。個性無しで挑む人が多かったので高順位。

 

 

【第5種目 ボール投げ】

 

 麗日ちゃんズルしてまーす!! せんせー!! あれズルでーす!!!

 俺も60mは投げられるけど峰田はグレープラッシュの為に肩を鍛えてるし手は大きいから普通に100m以上投げられるんだよな。くっ……また峰田に負けた……!!

 

「緑谷くんはこのままだとマズいぞ……?」

「だなー。俺と一緒で個性は使ってないみたいだけど最後までそのまま通すつもりか?」

「ったりめーだ無個性のザコだぞ! むしろ手前ェもなんで個性使わねェんだよ!?」

「そんなに怒らないでよ爆豪ちゃん、まったく可愛いんだからーんもー」

「ア゛ァ!?」

 

 飯田の言葉に俺も同意を返したところ、爆豪ちゃんが理由を伝えてきた。

 既に俺の中で金髪ロリ巨乳になってるので可愛いって思わず返したら人を殺せそうな目で威嚇してきた。可愛い。

 しかし緑谷マジか、無個性なのか。マジで? やべーな! 無個性であの試験を突破してきたのか。

 素手で敵ロボを倒したのか、それとも救助に専念したのか……どちらにせよヒーローの素質十分だ。ちょっとオタク気味な雰囲気だったけど見直したよ緑谷。

 でもその後飯田が入試で緑谷すごかったんだぞって言ってたから爆豪ちゃんの勘違いの可能性あり。若しくは緑谷が個性を隠してたか。

 わからんちん。とりあえず様子を見守ろう。

 

「46m」

「───な……今確かに使おうって……!?」

「個性を消した。つくづくあの入試は合理性に欠くよ……」

 

 一投目で緑谷は平凡な結果を残してしまった。どうやら相澤先生の個性で緑谷の個性がキャンセルされたらしい。

 え、マジ? 見るだけで人の個性を抹消する個性のイレイザーヘッドさんなの? マ? 俺が一番()()()()()()ヒーローじゃん。

 いや、多分大丈夫なんだろうと思うけど。あかんな、後で俺の事見てもらって個性消せるのか試してもらわなきゃ。

 

「おー!! すげー飛んだな!」

「やっとヒーローらしい記録出したよー!」

「指が腫れ上がっているぞ。入試の件と言いおかしな個性だ……」

 

 そんな風に思考の海に沈んでたらいつの間にか緑谷の2投目終わってたわ。

 でも記録は700m超。おお、普通にスゲー。爆豪ちゃん並みの記録じゃん。指が痛そうだけど平気かな。

 

 ……あれ、ヤバくね? あんだけのパワーが出せるなら俺が最下位に近づく可能性高まってね?

 あ、いや、葉隠ちゃんのほうがヤバいか。流石に素の力で俺が女子に負けることはない。

 葉隠ちゃんも個性使って凄い記録を出したりするのだろうか。……どうやって?

 いや、むしろ俺も何とかして個性を使わなきゃならんか? ……どうやって?

 

「オイラ的には葉隠よりもお前が落ちるべきだと思ってるよ」

「安心しろ峰田、俺も葉隠ちゃんに除籍になってほしくねぇ。テストに手加減はしねぇけどもし葉隠ちゃん最下位だったら全力で相澤先生に抗議するわ。マスコミと文科省に凸るわ」

 

 まぁ嘘なんだろうけどな多分。どう考えてもありえねーもん、初日で落とすとか。

 1カ月くらいで素行や素質、能力を見て除籍とかならまだわかるけどまだテストしかやってない。俺や葉隠ちゃんみたいにこの試験に有効じゃないけど強い個性なんていくらでもあるしな。一切それを見ずに除籍なんてナンセンスの塊だ。

 

「どーいうことだコラ!! ワケを言えデクてめぇ!!」

「うわああ!!!」

 

 峰田とそんな話してたらまた爆豪ちゃんが暴れてた。

 成程、緑谷の事が好きなんだな爆豪ちゃんは。ツンデレロリ巨乳に愛されるとかやるじゃん緑谷。

 俺は微笑ましいものを見る目で緑谷と爆豪ちゃんを眺める壁になった。

 

「お前の精神状態が分からねぇよぉ……なんで微笑ましいものを見る様な目をしてんだよぉ……!」

「爆豪is金髪ロリ巨乳」

「何を言っているんだ幾野くん!? 頭は大丈夫か!?」

「駄目だ飯田。イクノの奴はもう頭が残念なんだ」

「くっ……初日にして学友の脳に障害が判明するとは……!! 何という悲劇!!」

「お前ら仲いいな?」

 

 そんなこんなでテストは続きます。

 

 

【第6種目 上体起し】

 

 峰田が背中にもぎもぎくっつけて高速ピストンマシンと化していた。

 うまく使えば閨の際に女を喘がせられるのでは? とアドバイスしたらやる気出して腰にもぎもぎをつける方法を模索するらしい。

 なお俺は男子の中では上位でした。

 

「幾野の髪が揺れるたびに甘い香りがするんだけど!? 完全に女子の匂いだよこれ!?」

「コンディショナー気ぃ遣ってるから」

 

 脚支えてくれてた尾白が褒めてくれた。照れる。

 

 

【第7種目 長座体前屈】

 

「幾野ちょっと気持ち悪いくらい体柔らかいな!?」

「柔軟性はすべての基本よ基本」

 

 俺は上鳴に計測してもらいながら自慢の柔軟性を発揮してぺったりと胸が膝に着くまで折り曲げてやった。

 まぁ俺の関節多分女子並みに開いてるし、柔軟も頑張ってたからな。いろんな体勢取れるほうがエクストリームオナニーの時に便利なんすわ。

 

 

【第8種目 持久走】

 

「走れ走れェェェ!! オラァァァアッ!!!」

「峰田速いな!? あと何気にイクノもやべぇって!!」

「轟に負けてねぇぞあいつ!?」

「……大したスタミナだ」

「あんがとよ轟! お前もやるな!!」

 

 これは得意種目と言えるだろう。なにせ毎朝20km走ってるのだ、峰田と。

 峰田は跳峰田で全力で走ってるから流石に追いつけなかったが、瞬間速度はバイクで爆走する八百万といい勝負をしていた。

 俺は素の体力で途中まで轟と互角ってところ。最後に氷ぶっぱして加速したので俺の負け。爆豪ちゃんは爆破を上手く使って加速してた。飯田も速かった。

 

 

 

 

 はい、ここでタイマーストップ。

 記録は11位でした。普通だな!

 峰田が9位で煽ってきやがる。頭に来たので今夜俺の際どい自撮り写真送ってこいつのオナニーを妨害しよう。

 

 そして問題の除籍だが、葉隠ちゃんと僅差で緑谷が最下位となっていた。

 この結果は……葉隠ちゃんを褒めるべきなんだろうな。緑谷も途中から指の痛みであまり力は出てなかったようだが、それにしたって葉隠ちゃんもかなりいい動きをしていた。武術とかやっていらっしゃる?

 悲しいが緑谷については相澤先生の言う通りだ。個性で毎回自爆してたらヒーローになるのは難しい。

 もっと個性をコントロールできるようになるか、素の体も鍛えねぇとな。

 

「ちなみに除籍はウソな。君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

「「「はーーーーーーーー!!!???」」」

「あんなのウソに決まってるじゃない……」

「ちょっと考えれば分かりますわ!!」

「どうして急にカットインして来ましたのイクノさん!?」

「いや、なんか八百万ちゃんならそう言いそうかなって」

「確かに言おうとしていましたが! 私のセリフを奪わないでくださいまし!?」

「そのお嬢様言葉でイクノさんって呼ばれるとなんかウマ娘みたいだね」

「ごめんなさい存じ上げませんわ!?」

 

 結局除籍の件はやっぱりウソだったらしい。よかったな緑谷。

 文科省に凸することがなくなって俺もほっと一息。

 

 どうやらこれで後は教室で入学に関わる案内になるらしい。カリキュラムの確認とかなんとか。

 緑谷は保健室行くようだ。早く治るといいなその指。

 

 

 

*1
両利きなので左右共にオナ筋=スカイウォーカー




※誤字報告について
誠に感謝。漢字間違いとか見つけたらどしどしお願いいたします。
ただこの作品の肝は()ンポだと思ってるところあるので会話とかで文法上おかしくてもそのままにしておく場合があります。ご了承下さい。


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7 そろそろ見せてやるか俺の本気ってやつを

筆者のここすきゾーンがみんなにここすきされてるとめっちゃ嬉しい。


 

 

 

 登校初日も放課後になった。

 俺と峰田が帰り支度しながら雑談していると、何人かのクラスメイトがやってくる。

 

「幾野ちゃん」

「センちゃんって呼んでくれ梅雨ちゃん」

「センちゃん。朝言ってた峰田ちゃんの彼女って言うのはウソだったのね」

「そだね、合理的虚偽ってやつ」

どこにも合理性なかったよなぁ!? オイラの風評が落ちるだけだったよなぁ!?」

「ケロ、だめよ峰田ちゃん。同性の間でも愛があれば否定はいけないわ」

「ごもっともなんだけどそれにしたってオイラ被害者だよねぇ!? コイツとの間に愛は欠片もないんだよなぁ!?」

 

 梅雨ちゃんに朝のあれはジョークだったことを説明して理解を得た。

 その後は男子からも女子からも色々俺に対しての質問が出てきてそれぞれに俺はちゃんと答えてやる。

 

「幾野の顔とか体つきって個性の影響なの? はっきり言うけどマジで男に見えなくてさ」

「自前だよ耳郎ちゃん。少なくとも異形型でないのはそう。ホルモンとかは乱れてるかもだけど」

「マジ……?」

「この見た目を維持するためにそれなりに努力はしてる。まぁムダ毛とか生えないし肌ケアとかも最低限ってくらいだけど。髪だけはガチ目に整えてる。趣味みたいなもんかな」

「あー、確かに髪は綺麗だよなー幾野。まぁ今日一日の様子でお前が性欲にまみれた男子なのは分かったんだけどよ」

「そんなに褒めてくれるな上鳴くぅん!」

「髪しか褒められてねぇよ一日で化けの皮がはがれるお前の言動を見直せよカスがよぉぉ……!」

 

 どうやらいつも通り過ごしていたらすっかり俺はエロ会話に躊躇いのない男子として認識されたらしい。

 外見と発言のギャップに苦しんでいるクラスメイト達が新鮮だ。そのうち完全に脳破壊が出来るだろう。

 とりあえずジャブ打っとこ。

 

「そんなに褒められると上鳴くんのこと好きになっちゃうぞ♥」

やめろよ!? まだ感情が整理ついてねぇんだからよ!? 美少女で頭バカ男子のお前に言われたらはっきりノーで返事できねぇんだよ!?」

「冗談だよ冗談」

「冗談で済ませるには余りにも見た目が整いすぎだろ幾野……ってか、聞いていいか? 何でそこまで頭バカ男子なのに、見た目そこまで可愛くしてんだ?」

「やだ可愛いなんてそんな当たり前なこと言うなんて切島ったら大胆♥」

その自信すげーな逆に!?

「んー、まぁ質問答えておくと。素材が良かったからだな。別に女らしくして男に惚れられたいとか言う気持ちは欠片もない。普通に女の子好きだよ俺」

 

 続く切島の質問に俺は己の性癖について簡単に語る。

 こうして美少女スタイルを維持している俺だが、別に男が好きという事ではない。からかうと楽しいだけだ。

 俺に性欲の眼差しを向けるまでは面白いから許すが、恋とか愛とか男子から向けられても困る。普通に女の子が好きなエロ戦車ですしおすし。

 じゃあなぜ女の子スタイルをキープする努力をしているかって? 簡単な話だ。

 

「逆にここにいる男子に聞くけどさ。例えばお前らの外見がたまたま、自分でも超カワイイ! って思うくらいの美少女だったとするじゃん」

「……前提がかなり難しいな。俺は生まれつき複腕で女とは間違っても思われん体だった」

「俺や障子などは異形だからな、他者との違いという意味ではある意味理解できるとも言えるが」

「あー……ごめん、そこは例えってことで。で、仮に美少女だったとして、自分からわざわざそれ否定するか? って話。まぁ俺ほどガチで整えなくても、女装とか試してみたくならない? 自分が可愛いんだぞ?」

「んー……んんんー……!? どうだろ……!?」

 

 俺の問いかけに障子と常闇は首をひねるだけだった。まぁ確かに二人は異形型だからな、配慮足りなかったな。すまんこ。

 そして尾白は真剣に悩み始める。コイツ結構真面目だな。切島なんかはわけわからんって顔してるけど。

 

「男らしくねぇだろ!……とは思うんだけどコイツの頭は間違いなく男なんだよな……駄目な意味で」

「オイラ思うんだけど多分コイツVRアバターみたいに自分の体考えてんだよ。男でも美少女キャラに入って動かしたりすると新鮮で楽しいだろ? それの延長線上で楽しんでる感じある」

「お、峰田の表現が鋭いな。そんな感じかもなー、実際コスメとか選んだりするの面白いし。だから趣味、って話さ」

「ケロ。性自認とはまた別で、センちゃんは自分の外見で楽しんでるのね」

「そゆこと。折角こんな顔つき体つきで生まれちまったしね、否定するよりは受け入れて楽しんだほうがええやん?」

「そのせいで脳破壊される男子の被害者が次々増えてるんだけどな」

 

 俺の言いたいことは大体言った。男子も女子もまぁまぁ理解してくれただろうか。納得はまた別かもしれないけどな。

 ええやん。細かいことは気にしないでもろて。俺は俺だというだけですよ。

 こんな真面目に自分の事話す機会少ないからなんか真面目な説明になって変な気分になっちまうよ。

 テンションを戻そう。

 

「そんなことより彼女欲しいです」

「急に話題を変えてきましたわね」

「どうかな八百万ちゃん。俺と不健全なお付き合いしてみない??」

「出会って初日で告白されるとは思っていませんでしたわ!?」

「余りにも言葉が軽い」

「お茶子ちゃんにセリフ触られた説あるわね」

 

 その後適当に雑談して帰った。

 教室にいなかった緑谷や飯田や麗日ちゃんは先に帰ってたらしい。明日はあの三人を巻き込んで遊ぶとしよう。

 

 


 

 

 翌日。

 

「じゃ次の英文のうち間違っているのは?」

 

(普通だ)

(普通だ)

(くそつまんね)

(関係詞の場所が違うから……4番!)

(相澤先生ショタ化したらマイク先生と絡み合わせるのアリだな。ミッドナイト先生とどっちがアリだ?)

 

 午前中は普通に授業受けた。

 あとお昼も食べた。

 ランチラッシュ先生の作るご飯美味すぎんか??

 

 そして午後、とうとう始まるヒーロー基礎学。

 

「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!!」

 

「オールマイトだ……!! すげぇや本当に先生やってるんだな!!」

「画風違いすぎて鳥肌が……!!」

 

 やってきたオールマイトにクラスメイトもドキドキだ。

 俺も人並みにオールマイトファンでもある。純粋に彼の積み上げた実績に敬意を払っている。

 まぁタイマンなら負けないと思うけど。

 

「早速だが今日はコレ!! 戦闘訓練!!」

 

 どうやら初回の授業は戦闘訓練になるようだ。

 事前に要望を送っていた戦闘服に着替えての実戦。テンション上がるぜ。

 とうとう俺も個性を使える時間がやってきたな。戦闘服もバッチリ要望上げてるし楽しみ。

 

「イクノお前マジであのデザインで通したのか……?」

「ええやん俺らしくて。峰田のデザインもよかったよなー、マフラーとマントめっちゃかっこいいじゃん」

「だろ? お気に入りだぜ」

 

 早速着替えてグラウンドβに向かう。

 

「俺が────────来た!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「幾野お前それ……おまっ!? お前!? 完全に性別間違えてんじゃねーか!?」

「ぴっちりスーツ!? 腰回りにベルトがあるから股間はギリ隠せてるけど…!!」

「お前の腰つきと尻おかしいよやっぱ!! 性別詐欺だよ絶対!!」

「なんで胸膨らんでんだよ!? 何詰めてんだそこに!?」

「は? うちより腰細いやんか」

「ケロ……スタイルが良すぎるわセンちゃん」

 

 みんなからの驚きの目線がまぶしいね。

 俺のスーツは全身ぴっちりタイツタイプのスーツだ。俺の個性を十全に使うためにも動きやすさ重点。

 しかし攻撃力に欠けるので腰回りに様々な道具を入れられるごついベルトをつけてある。股間もこれでカバー。お尻のほうはどうしても隠れてしまうがラインはぷりんと出てるので問題なし。

 そして胸だが、一番攻撃されやすい部位を守らないのはナンセンスなので衝撃吸収素材の偽乳をつけてあり、装着してあるジッパーで中に道具を入れることも可能。バスト92くらいにしてある。揉み心地最高。

 マフラーもつけて峰田とお揃いにしてある。やはりヒーローコスチュームといったらマフラーだ。マフラーには漢のロマンが詰まっている。

 ちなみに背中は尻の近くまで開いている。通気性も考慮しないとな。

 つまりは童貞を殺すコスチュームだというわけだ。これでカメラに映れば人気が出ること間違いなし。性癖も駄目にしていきたいところあります。

 

「俺の可愛さが怖い」

「お前いずれミッドナイト先生みたいに18禁扱いされるぞ」

「前例がいてくれて助かると考えよう峰田くん」

「これ背中の露出がやばいよセンちゃん! えっち! えっちだよこれ!!」

「葉隠ちゃんはそう言うけど露出の多さなら八百万ちゃんの方がすごくね? 俺は背中だけだし」

「これはわたくしの個性を万全に発揮するための必要な露出です! 趣味に走ったイクノさんとは違いますわ!?」

「趣味に走ったことは否定できない。ってかヒーローコスチュームなんておおよそ本人の趣味みたいなもんじゃね? つまり葉隠ちゃんが全裸なのも趣味という事……!!」

「全裸じゃないよ!? ちゃんと手袋と靴も履いてるよ!? 趣味でもないよ!?」

「逆にフェチズム感じて捗ってしまいます」

「アクセル緩めよう!?」

 

 ってか俺のコスチュームよりも葉隠ちゃんの方がやべーだろ。全裸やん。

 個性を使ってしっかり確認させていただきましたが全裸です。ブラなしだけど大きなおっぱいが垂れずに形を保っていますね。若いですね。俺のビッグイクノも若さを主張し始めてしまいます。

 イケないイケない。お楽しみは今夜に取っておこう。今夜は葉隠ちゃんでシコります。

 クラスメイトをオカズにするときの背徳感って……凄い。

 

「ごめん、遅れて……!」

「あ、デクくん!? かっこいいね! 地に足ついた感じ!」

「麗日さ……うおお……!!」

「おぉ、ええやん緑谷。上半身はぴっちりしてて俺に近い感じだな」

「って幾野くん!? え、ええええ!? 嘘でしょ!? どうしたのその胸!?」

「うちよりリアクション大きいやん」

「緑谷。あまりイクノ見すぎんな、性癖歪むぞ」

「ええ!?」

 

 遅れてやってきた緑谷のコスチュームは若干俺のデザインに被った。全身タイツなところとか腰にベルト巻いてるのとか。

 俺は緑谷みたいに顔は隠してなくて赤い長髪を遊ばせてるから印象は全く違うだろうけど。

 いやまぁそもそも体つきが違いすぎてエロス度では俺の圧勝なんですわ。己の肉体の可能性が怖いわ。

 

「……ん、なんか素材が結構……あれか? 手作りな感じ?」

「あ、うん……実は母さんが作ってくれたんだ、このコスチューム」

「マジか。最高にイカしてんじゃん……かっこいいぜ緑谷。マジでな」

「っ、うん、ありがとう! 幾野くんも、その、似合ってるよ!」

「サンキュ」

 

 素材が若干普通っぽかったので聞いてみたら、なんと緑谷のコスチュームはお母様の手作りだという。

 いいな、そういうのは。()()()()

 機能性やデザイン云々じゃなく、それを胸を張って着れる緑谷が素晴らしい。

 完敗です。後で秘蔵のエロ本を緑谷に貸してやろう。

 

「んんん~~聖徳太子ィィ!!」

 

 みんなからの質問に困るオールマイトという珍しい光景を見ながらも俺は訓練の説明を聞く。

 二人ペアを組んでヒーローとヴィランに分かれて対戦……という事か。

 さて、誰とペアになったもんかな。選んでもいいんだが、今はまだクラスメイトとの付き合いも日が浅い。

 誰がペアになってもお互いを知るって意味じゃ悪くないか。俺は個性を使わずにくじを引いた。

 

 結果はこうなった。

 

 緑谷・麗日  VS  爆豪・飯田

 幾野・葉隠  VS  轟・障子

 峰田・八百万 VS  常闇・蛙吹

 尾白・口田  VS  耳郎・上鳴

 瀬呂・切島  VS  青山・芦戸

 

 葉隠ちゃんか。いいね。女子でよかった。

 さて、かっこいい所見せるためにもしっかり作戦練りますか。



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8 戦闘訓練で輝く俺のチート個性

※予告
明日明後日は日間ランキング一位達成ご愛顧頂き感謝の気持ちを込めて二回行動します。
朝九時と夜九時にそれぞれ投稿するのでご留意下さい。


 

 

 一試合目が始まった。

 緑谷・麗日ペアと爆豪・飯田ペアの試合だ。

 控室でみんなでその映像を見ながらそれぞれ意見を出し合っている。

 

「……緑谷、やべぇな」

「ん? 最後の一発のことかイクノ? 確かにあれはやべーよな、威力も反動ダメージも」

「いや、それもそうなんだけどさ……ホントに見るべきはそれまでの動きだろうよ」

 

 俺の呟きに峰田が質問してきたが、俺が見ていたのはそこではない。

 爆豪の怒濤の攻勢に、個性を使わずに凌いでいたことだ。どう考えてもアレがヤバイ。

 上鳴たちが言っていた通り、爆豪の戦闘センスは才能の塊だ。見ているだけでもわかる。

 繊細な個性のコントロールも出来ており、口調こそ荒いが冷静さを取り戻したところで緑谷を追い詰めていた。

 しかしそれだって緑谷は凌いでいたのだ。一撃で終わってもおかしくないのに。

 最後のアッパーカットも、なんなら左腕で爆豪の攻撃を見事に防御している。チームでの勝利を考えずに右手で普通にアゴにカウンターを入れていれば爆豪の意識を刈り取ることだって出来たかもしれない。

 個性無しで個性有の相手にもひかぬ胆力。攻撃の読み、分析力。そして適切な行動。

 爆豪の光にかき消されそうだが、間違いなく緑谷も才能マンだ。

 少なくとも俺はこの試合をそう受け取った。

 あいつは強くなる。

 

「ま、それはそれとして吐きそうになってる麗日ちゃんの俯いてるポーズでお尻が強調されててエロいな」

お前よぉ!? オイラでもそこは眼を逸らしてるってのによぉ!? 見境ないのかよぉ!?」

「ケロ……爆豪ちゃんが才能マンならセンちゃんは欲望マンね」

「授業中だぞ幾野少年ンン!!」

 

 すみませんオールマイト先生。

 シリアスなこと考えた後は一発下ネタをぶちかましたくなるんです。

 

 


 

 

 さて。

 緑谷が保健室に運ばれて行って、八百万ちゃんの見事な講評も終わって俺が戦う第二試合が始まる。

 俺たちはヴィラン側だ。最初に5分間のセッティング時間が与えられる。

 

「よーし、そんじゃ頑張ろうぜ葉隠ちゃん!」

「うん!! がんばろー!!」

 

 核兵器のあるフロアに移動し、5分間の作戦会議時間だ。

 核の前にたどり着き、俺はしゃがみ込んで葉隠ちゃんと打ち合わせを始めた。

 しゃがむ俺に合わせて葉隠ちゃんもしゃがみ込んでくれる。

 計 画 通 り。

 やってくれると思いました。同調行動。俺がしゃがみこむのに合わせてくれたのだろう。丸見えですよ葉隠ちゃん!

 

「よし……それじゃあ互いの個性のすり合わせをし」

「ねぇセンちゃん」

 

 俺のセリフを止める形で葉隠ちゃんが俺の方をじっと見つめてきた。

 え、何? もしかしてバレたん?

 しゃがみ込むことでおっぱいは太腿に潰れてエロくなるし大切なところが丸見えになるしで俺にwinwinなことがバレたん????

 

「……センちゃん、私の事見えてるよね?」

 

 バレてるゥ〜!!!!

 

「何のことかさっぱりわからんちんちんですね」

「試験の時さ、常闇くんが言ってたんだよね。見えない位置にいた私をセンちゃんが見つけたって。……見えてるよね?」

 

 退路がカラミティエンドしました。おのれ常闇*1!!

 

「……見えてるよね? 今、目が合ってるよね?」

「ひゃい」

 

 高まる葉隠ちゃんの圧に負けて俺は頷いた。

 そう、見えている。俺には葉隠ちゃんの姿が。

 正確には、色のない彼女の姿が。

 

「……まぁ、試験の時は実際助けてもらったし? 私が裸なのは私のせいだから、その。別に、いいよ? センちゃんが私を見るのは……恥ずかしいけど許してあげる」

「天使か?」

 

 照れて……いるのだろうか。顔色は分からないが、うつむき気味で上目遣いになりながら俺の事を許してくれる大天使ハガクレ=トール。

 マジか女神か。毎日葉隠ちゃんを拝むことにしよう。orz。

 

「土下座までしなくていいからね!? ……で、どんな個性なのセンちゃん? 試験では味方なんだし、教えてもらっていい? あ、私は見ての通り透明人間なんだけど」

「ん。それは勿論教えるよ。一言でいうと───」

 

 許してもらった大天使に俺の個性がどのようなものか説明するために、右手をわきわきと動かす。

 葉隠ちゃんが見つめるその腕を、俺は床に向けて伸ばし────そのまま()()()()()()()()()

 

「わ!? え、床に埋まってる!?」

「俺の個性────『潜行』だ。何にでも潜れる、って思ってもらえればいい」

 

 『潜行』。

 文字通り潜る。その対象は選ばない。()()()()()()()()()()

 

「で、こっから簡単に応用編その1。葉隠ちゃん、俺にビンタしてみて?」

「え、急に何? 私の事見えてる件なら別に、ホントに怒ってないよ? 人と目を合わせられるのってちょっと嬉しいくらいだし」

「優しみに溢れすぎている……!」

「あ、でもさっきからチラチラ視線が下に向かってるからやっぱひっぱたくね」

「男子なんだもん仕方ないでしょー!?」

「問答無用! てーい!!」

 

 葉隠ちゃんの手袋ビンタ。

 なんならこのまま受けて性的興奮を高めたい気持ちもあるのだが、個性を見せるためなので俺は個性を発動。

 すると、葉隠ちゃんの手は確かに俺のぷにぷにほっぺを捉えたが、そのままするりとすり抜けていった。

 

「……わ!? すり抜けた!?」

「正確には葉隠ちゃんの手に潜った、って感じかな。体がモノに潜れるんだから、モノが迫ってきてもそれは体が潜れるってことだろ?」

「えー、すごい! あれ、でも服の上から触ったらどうなるの?」

「触ってみ?」

「それじゃあよいしょ」

躊躇いなくパイオツ狙うじゃん

「……えぇ!? 服の上からもすり抜けるの!?」

「はい。この通り、俺が着てるもの、持ってるもの……俺のものだって認識してれば一緒に潜り込める」

 

 葉隠ちゃんが躊躇いなく俺のコスチュームの胸元、色んな道具が詰まってる偽乳に手を伸ばすがそれもずぶりと埋もれるように葉隠ちゃんの手が俺の体に沈み込む。

 まぁ沈んでいく彼女の腕が見えるのは俺だけなんだが。

 

「……え? 炎とか毒とかは?」

「全部潜り抜けられる」

「その、個性は? さっきの爆豪くんの爆発とか、麗日ちゃんの重力とかは?」

「個性も潜り抜けられる。峰田で鍛えてできるようになった」

「……無敵では?」

「無敵だよ?」

 

 俺は峰田と3年間行った個性の訓練で、自分の個性で出来ることを思いっきり拡大解釈した。

 俺が潜れるんだから潜れるんだよ。

 その精神で鍛え抜いた結果、物理だろうが熱だろうが光だろうが音だろうが個性だろうが何でも潜ってすり抜けられるのだ。

 これを使って入試試験ではロボを壊していった。走り抜けざまにロボに潜って体内のコードと基盤を千切って壊すだけの作業でした。

 

 さて。

 ここまで説明したところで、葉隠ちゃんがうーん? とあごに手を当てて首をひねる。可愛い。

 葉隠ちゃんは透明人間で目立たないのをなんとかするためか、一つ一つのリアクションが大きいよな。可愛い。

 

「うーん、何となくわかった……けど、それだとなんで私の事見えてるの? 潜るって個性と全然結びつかないんだけど?」

「だよね。ここからが応用編その2。さて問題です。例えば俺がそこの壁に全身を潜行させたとします」

「ふむふむ」

「その時、俺の目には何が写っているでしょう?」

「え? ……えーと、壁のコンクリが目の前に見えてる感じなのかな? それとも真っ暗になる?」

 

 俺の出した問題に葉隠ちゃんが出した答えは当たり前の発想だ。

 そう考えるだろう。そりゃそう。壁の中に潜って目を開いているんだから目の前は壁だ。光がないので闇になる。普通はそう。

 だが……俺の個性は違う!(ギュッ)

 

「フツーそう考えるよな。でも、それだと地面に潜り続けてる時に何も見えなくてヤバいじゃん? で……実はそうなってない」

「へ? じゃあ、どう見えてるの?」

()()()()()()。個性を発動している間だけ、視界が開けるんだ。なんて説明すればいいのかな……物体の輪郭だけ見えるって言うか……FPS詳しい? あれでいうウォールハックの視界っていうか……」

 

 ここは若干説明が難しい所だが、感覚で理解してもらうしかない。

 俺は潜行を発動して体のどこか一部分でも何かに潜っている間、視界が開けるのだ。

 すべてが透けて見えるというか。黒と白の2色の世界になり、主線だけの世界になるというか、なんというか。

 とにかく壁の向こうは見えるし、その向こうのビルの中にも人がいればその輪郭が見える。

 輪郭だけじゃなくて、これくらい近ければ今の葉隠ちゃんみたいに顔のつくりや体全体の輪郭も見える。

 遠すぎると望遠鏡使わないと見えないし、色も見えないんだけどな。

 葉隠ちゃんの秘所がどんな色なのかは俺には見えていません。透明? そうね。

 

「はー……よくわからないけどわかった! つまり、個性で埋まってる間は見えない物も見える! ってことだね!」

「うん、それでいいや。こればかりはちょっと説明が難しい……だから入試の時にビルの向こうにいる葉隠ちゃんも見つけられたわけ。今も脚だけちょっと潜ってウォールハックで葉隠ちゃん見てる感じ」

「オッケー!! 把握した!! それじゃあこれからどうしよう!?」

「そだね、作戦立てようか。ヒーロー側なら絶対負けなかったんだけどな……ヴィラン側だし守らないと」

 

 そうして俺の個性の説明もひと段落すれば、もうだいぶ時間が経ってしまっていた。

 いかん、まずいな。もうすぐ轟と障子が攻め込んでくる。

 

「んー、ゆっくり相談している暇はなさそうだな……よし! 行き当たりばったりでも何とかなるだろ!!」

「え、うわホントだもうこんな時間!? 5分は短いよオールマイトせんせー!」

「5回試合あるからやむなしやんな。それじゃあ葉隠ちゃん。まずは─────」

 

 


 

 【side 障子】

 

 

 試験開始の時間になり、俺は轟と共にビルに入る。

 打合せは最低限ではあったが、今回相棒になった轟は強い。昨日の個性テストでその実力は推し量れたつもりだ。

 であれば俺も負けずに、己に出来ることをやろう。まずは索敵だ。

 このビルの中と言ってもかなり広い。どこに相手がいるかをしっかり把握する必要がある。

 特に葉隠……あいつは透明人間だ。奇襲も十分にあり得る。

 だが、奇襲に対して俺の個性は活かせる。複製腕で音を頼りに相手の場所を捉えられる。

 

「轟、まずは俺がヴィラン側の位置を探る。不意の襲撃はお前も歓迎しないだろう」

「ああ、やってくれ。その後は俺が決める。透明な方はともかく幾野の方が何やらかすかわからねぇ」

 

 轟とはまだ短い付き合いだが、この短期間でお互いに幾野という男への共通見解が出来てしまっていることに苦笑を覚えた。

 轟は寡黙な男ではあるが、しかしそれでもあの破天荒な男の印象は深いのだろう。

 俺は複製腕で耳を複数作り、音で相手の位置を、行動を探った。

 

『……葉隠ちゃん────俺のものになれ』

『ちょっとセンちゃあん!? そんなっ、急に抱きしめないで!? 心の準備が、まだっ…!』

『俺のものにならないっていうなら─────…無理やりでも……すぐに────終わるから……』

『いや、ぁっ……! 耳元で、囁かないでぇ……!』

『……葉隠ちゃんのここ、柔らかいんだね────』

『やめてぇ……─────この体勢、恥ずかしいよぉ……』

 

 思いっきり噴き出した。

 

「……どうした」

「轟、急がないと葉隠の貞操がヤバい。幾野に性的に襲われている」

どうなってんだよマジで

 

 轟が慌ててビルの壁面に手を当てて、ビル全体を凍結させ始めた。

 

*1
冤罪。




 潜’s個性 『潜行』

 あらゆるモノに潜れるぞ!
 潜る時はごく僅かな抵抗を伴うが普通に動けるレベルだ!
 敵からの攻撃も個性も潜り抜けられる! 峰田のもぎもぎだって効かないぞ!
 身に着けている物や手に持ってる物も一緒に潜れるぞ!
 潜っているときは『ウォールハック』状態になって視界が開けるぞ!
 クソチート個性だ!


※通形ミリオとの相違点
ミリオのように解除→高速移動が出来ない。
すり抜けてないので物に沈み込む抵抗率を調整できる。
服が脱げない。(ミリオもコスチューム着れば同じ)
ウォールハックが使える。

スピード以外は上位互換と言えるかも?
まだまだ秘密があります。
ミリオくんも実は……?


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9 タイマン戦では無敵すぎ

連続投稿にしたのはバトル回はギャグ要素減るから説。


 

 ビル全体が凍り付いている。

 これは轟の個性だな。とんでもねぇ火力だ、いや凍力か? 冷凍室みたいに部屋の気温が下がっちまってる。

 俺は個性で寒さも潜り抜けられるから問題ないけど、今俺の腕の中でお姫様抱っこされている葉隠ちゃんは全裸だ。相当冷えてしまっているだろう。

 

「さ、寒……!」

「葉隠ちゃん大丈夫……?」

「ふぁんっ……耳元で囁かないでぇ……!」

「あっ耳が弱点でした?」

「せ、センちゃんは寒くないの……?」

「スーツ着てるのと、そもそも寒さも潜り抜けられるから……」

 

 さて、なぜ今俺が葉隠ちゃんをお姫様抱っこしているかというと、実は作戦の途中だったのだ。

 まず訓練が始まって最初に、葉隠ちゃんを『俺のもの』だと認識する実験を始めた。

 さっき説明した通り、俺のものだと認識できている物は俺の個性の対象になるから二人で潜れる。便利。強い。

 そう説明して葉隠ちゃんをぎゅっと抱きしめてみたのだが、正面から抱きしめられると恥ずかしいという葉隠ちゃんの意見により失敗。

 

 じゃあ次はお姫様抱っこしてみるかと提案し、葉隠ちゃんの脚、膝の裏あたりと背中に手を廻して持ち上げたところ、太腿が想像以上に柔らかくてちょっと堪能してたらまた葉隠ちゃんが恥ずかしがり始めたのだ。

 ちなみに葉隠ちゃんは葉っぱのように軽かったです。名は体を表す(確信)。

 じっくり彼女の体温と重みを堪能しかけたよね危うく。

 

 因みに俺は他人を俺のものと認識できたことはないです。

 でもほら……わからんやん。

 峰田でしか試したことないから他の人なら出来るかもしれんやん……?(建前)

 

 単純に俺がボディタッチしたいだけでは? という真実に葉隠ちゃんが気づき始めたところで、『ウォールハック』により確認していた轟が壁に手を当てて、個性を発動。

 だがこっちはちょうどよく葉隠ちゃんを抱き上げられてたので、そのまま轟の凍結をやり過ごしたってわけだ。

 

 こっからが本番だな。切り替えるぜ。

 

「……障子のやつがどうも音でこっちを調べてる感じがある。声聞かれてるかもな。小声で喋ろう」

「わ、分かった……ここからどうする?」

「二人ともなんか全力で向かってきてるからとりあえず俺が迎撃する。葉隠ちゃんはもし抜かれた時のフォロー、見えない位置から奇襲できるようにしといて。柱の陰とかで」

「お、オッケー!!」

「下ろすよ、靴は履いたままで。インカム使うかもだから外さないで。体冷えたら無理しなくていいから」

 

 葉隠ちゃんを腕の中から降ろして、俺は凍り付いていた己の両足で無造作に歩き出した。

 脚は凍り付いていたが俺の個性の前には意味をなさない。さっき葉隠ちゃんにも話した通り、基本的に対物理なら俺は無敵だ。

 氷をすり抜けて、濡れも冷えもしていない。

 しかし今回はヴィラン側なので守るべき核兵器がある。無敵とはいえ必勝は約束されていない。

 油断して相手二人の内どちらかが核兵器の方に直接向かわれると厳しい。

 

 ってわけで、葉隠ちゃんの活躍の機会を奪ってしまうことになるけど、俺は二人を一気に仕留めるつもりだ。

 悪いが一瞬で終わらせる。

 迎撃するために部屋を出て、二人が昇ってくる階段で待ち受けた。

 

「っ……! 幾野、てめえ!」

「葉隠は無事なんだろうな幾野!?」

「待って心当たりゼロなんだけど!?」

 

 登ってくる二人と顔を合わせたらなんか二人ともキレ気味で俺の事を糾弾してきた。

 なんでや。葉隠ちゃんとはまだ健全なお付き合いやぞ!

 

「凍れっ!」

 

 間髪入れずに轟が俺に向けて氷をぶちかましてくる。

 が、その氷ブッパそのものが俺にとっては隙だ。他の奴なら氷でやられるんだろうが、俺に取っちゃ何も起きていないに等しい。

 そのまま氷に向かって走り、()()()()()

 

「ッ!? 何だと!?」

「何!?」

 

 驚愕に目を見開く轟と障子。

 俺は氷の中を駆け抜けて轟の顔面に蹴りを放つ。

 それを咄嗟に首をひねり避ける轟だが、それが俺の狙いだ。俺の脚で轟の視界を奪いつつ、手の内にある確保テープを伸ばす。

 それを轟の体に向けてぐるりと一周。

 

「やらせんっ……!!」

 

 しかし至近距離にいた障子が素晴らしく早い判断で俺の確保テープに手を伸ばし、巻きつけようとするのを阻止しに来た。

 ()()()()()。この確保テープは俺のもの。俺と同じように、潜り抜ける個性が発動している。

 障子の手もするりと抜けて、そして轟にはきっちりテープが巻き付いていく。轟自身も腕を振り回して抵抗するがその腕すら潜り抜けてテープを巻き切った。

 

「ほい一丁あがりっと」

『轟少年、確保だ! それ以上動かないようにな!』

「……はぁ? どうなってやがる……!」

 

 よし、一名確保。

 次はお前だ障子くん。そのタコ腕を亀甲縛りにしてやるぜ。

 

「……幾野、やはり只者ではなかったか」

「入試主席だぜ? 舐めんなよ」

「欠片も舐めてなどいるものか……俺はあくまで勝ちを狙いに行く!」

 

 障子と軽い会話を交わし、続いて俺が飛び込もうとしたところで……障子は俺との戦いではなく、勝利を求めて行動した。

 ビルの外に続くガラス窓に飛び込んだのだ。

 

「っ!? やるじゃねぇか!」

 

 無論、それは逃走の一手などではない。

 あの複腕であればビルの外壁を伝うことは可能だろう。『ウォールハック』で見れば、すぐに凍り付いたビルの外壁に張り付いて、核兵器のある部屋を目指そうとしているのが分かった。

 成程、とっさの判断にしては悪くない。けど、そこまでだ。

 

 俺は壁に向かって走りながら、耳に手を当てて()()()()()()()

 

「葉隠ちゃん!!! ()()()()だ!!! 今だッ!!! やれッッ!!!」

「む!? 奇襲か──!?」

 

 俺がインカムに向けてわざと大きく叫んだ声は、壁の向こうの障子にも聞こえたのだろう。

 咄嗟に障子は複腕に目と耳を生成し、葉隠ちゃんからの奇襲に備えた。

 流石だ。冷静な判断力が障子の武器なのだろう。猪突猛進しないその判断、そうだ。

 ()()()()()()()()()()()()()

 

「っ嘘だよ悪いなっ!!」

「なっ、幾野!?」

 

 俺はビルの壁に潜り込み、そのまま外壁まで抜けてそこにいる障子の顔の真正面に顔を突き出した。

 この一瞬の驚愕で更に隙を生む。障子は外壁を複腕で掴んでいるので体勢が崩れている。

 腕の一本を振るい俺を迎撃するが、その拳は俺の胸に吸い込まれるようにすり抜けて、俺はそのまま確保テープを障子の体に巻き付ける。

 抵抗も空しく、テープをぐるりと障子の体に巻き付けることが出来た。

 ゲームセットだ。

 

「────悪い。レベルが違い過ぎた」

「くっ……!」

『……勝負アリ!! ヴィランチーム WINっ!!』

 

 オールマイト先生のアナウンスが流れ、俺達ヴィランチームの勝利が決まった。

 

 


 

【side オールマイト】

 

 

「すっげぇ!? 何だ今の個性!?」

「轟の氷で一気に決着かと思ったけど、幾野の動きがワケわかんねぇぞ!?」

「ケロ……すり抜ける? いえ、触ってはいるのね……峰田ちゃん、アレどうなっているのかしら」

「んー? 見ての通りだよ梅雨ちゃん。説明は面倒だから後でイクノ本人に聞いてほしいけど、基本的にアイツは無敵なんだ。チートってやつだよチート」

 

 私は第二試合の経過を有精卵たちと眺めながら、決着がついたところで彼らの勝利を宣言した。

 しかし、資料では見ていたが……幾野少年の個性はすさまじいな!

 『潜行』と個性届には記載があり、確かに入試試験の際は敵ロボの体に潜り込んで次々に倒していく姿を見たが……まさか氷まですり抜けるとは!

 どうにも葉隠少女の姿も見えているような節もあったし、もしや個性までもすり抜けているのか? この私の観察眼を以ても全容が察しきれないとはね!

 もしあらゆる物理攻撃に潜り込めるとするならば、彼は峰田少年が言うように『無敵』だ。この私ですら本気で殴ってもダメージを与えられないかもしれない。

 

 ああ、だが、それは決して「万能」を意味するものではない。

 彼にとって敵はいないだろう。だが、それで人々を守れるか? 迅速に災害現場に駆け付けられるか? ヴィランを倒せるか? それはまた別問題だ。

 無敵ではあるが、出来ないことはある。先日の体力テストのように、彼の個性もまた向き不向きがはっきりとしている。

 極めて有用な強個性ではあるが、ヒーローとしてさらなる成長を見込むためにまだまだ教えられることはいっぱいありそうだ。

 楽しみだな、幾野少年!

 

『んもー! 私の出番なかったよー! センちゃんの声うるさかったし! 鼓膜破れるかと思った!』

『ごめんて。や、でも葉隠ちゃんが透明だったから最後の陽動が使えたところもあるしさ。葉隠ちゃんはそこにいるだけでいいのです。脚大丈夫?』

『寒いだけで大丈夫ー! でも超寒いー!』

『俺に抱きついてもええよ。葉隠ちゃんは今度透明になるコスチューム作ってもらえば? 自分の髪とか混ぜて服作るといいって()()に聞いたことあってさ……』

 

 画面の向こう、インカムを通して喋る内容は私にだけ聞こえてくる。

 ふむ、そういえば幾野少年は現在雄英の三年生である()の従弟であったな、血縁上。

 確かによく似た個性ではある。使いこなす方向が違うが、いつかは二人を戦わせてみるのも面白いかもしれないな。

 まぁ、それはいつかの未来の話だ!

 今は私にとっての初授業をしっかりとやり遂げなければね!!

 

「よォし! 轟少年が氷を溶かしてくれたがビルがびしょ濡れになったので場所を変えよう! 次は常闇・蛙吹ペアと八百万・峰田ペアの勝負だ!!」

 

 次の訓練のくじを引き、出てきた内容を確認した。

 ふむ、そういえば峰田少年も幾野少年と同じく、首席での合格だったな。

 同じ中学の出身で友人であるとも聞くし、彼の事もちょっと注目したくなるな、おじさんは!!




(謎の従兄)<俺の従弟が性癖捻じ曲げに来るんだよね! 前途多難!!

彼の出番は随分先になると思います。


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10 峰田さぁ……狭い所ならホークスより速いってマ?

お気に入り登録5000、UA10万超(まんこ)えてました。
皆様の応援心より感謝です。




 

 

【side 八百万】

 

 

 正直に言えば、彼がここまでやるとは思いませんでした。

 

 

 今回、私とペアを組んだ峰田さん。

 イクノさんとは同じ中学で、親友であるとも聞いています。

 あの型破りな方と付き合えるほどですから、時々懐の深さを感じさせることがある方です。お体は小さいですが。

 ただ、イクノさんと同じく、下品なことに対しても明け透けなのはいただけません。どちらがどちらに感化されてそうなってしまったのでしょうか。

 

 さて、そんな程度の印象であった彼は、しかしこの試合で私の印象を大きく変えました。

 私達がヴィラン側で先にビルに入り、私が個性で作ったバリケードで入り口をふさいでいた時です。

 

「なぁ八百万、悪いけど捕縛テープ幾つか作れる? その個性で」

「え? ええ、作れはしますが……有効になるのでしょうか? もしもし、オールマイト先生?」

『今回はオッケーとしようか! 八百万少女の個性は万能の道具が作れるものだ! 現実でも手錠とか作ることがあるだろうしね!』

「……だってよ。4本くらい頼むわ。オイラが攻撃、八百万が守りで行こうぜ」

「わかりましたわ。峰田さんの動きはテストで見ています、信頼していますわ。部屋から出て攻め込むおつもりですか?」

 

 峰田さんの出した意見に私は反対しませんでした。

 確かに彼の俊敏さは目を見張るものが在ります。昨日の個性テストでも飯田さんほどではありませんでしたが、あの謎の玉を使って飛び跳ねる速度はすさまじい物でした。

 だからこそ、私はバリケードの他、相手が入ってきたことを察知できるセンサー類や、起爆式の地雷などを設置することでこの部屋の守りに徹する。作戦としては悪くないと考えたのです。

 

「あー……いや、オイラはイクノみてぇに索敵はできねぇからな。出過ぎて裏を取られても怖いし、この部屋で基本的に迎え撃とうと思ってる。入ってきた瞬間にオイラが相手を縛るよ。梅雨ちゃんと常闇ならオイラの方が速いと思う」

「……信じていいんですの?」

「駄目だが?」

「は?」

「まだオイラも常闇と梅雨ちゃんの本気を見たわけじゃないし、駄目かもしれないとは常に考えておいてほしいわけよ。八百万は頭もよさそうだし、オイラが駄目でも何とかしてくれるだろ? むしろオイラが信じてるわ」

 

 駄目だったときは任せた、と。

 逆にそう言われてしまい、私はむしろ彼への評価を高めました。

 自信満々というわけではなく、あくまで未知の相手への対処という点で油断せず。お互いに出来ることを全力でやるということでこの場でできる最適解を出したのですから。

 

 正直に言えば、ヴィラン側に準備された5分という時間は短すぎます。

 爆豪さんと飯田さんのように全く打ち合わせをしないのも問題ですが、イクノさんと葉隠さんのようにしっかりお互いの個性のすり合わせをするだけでも時間はつぶれてしまう。

 ならば、お互いが核兵器を守るために出来る最善を成すことで、お互いの持ち味を活かす。

 いい手です。そこまで考えていらっしゃるかは分かりませんが。

 

「とりあえず、オイラのもぎもぎはオイラ以外にはくっつく効果がある。絶対に触らないでくれよな、マジで1日は剥がれないから」

「わかりました。触らずに相手に対処できるものを創造しておきますわ」

「ん。入り口まわりと天井、あと柱のあたりにいっぱいくっつけておくから気ぃ付けてくれな」

 

 そうして峰田さんが部屋の天井や壁、柱に個性の玉を設置し、私は核兵器周りにモーショントラップを配置して準備は完了いたしました。

 訓練が始まり、ヒーロー側のお二人がこの部屋を目指して迫ってきています。

 二人一緒に、ではないようです。インカムを使って連携なさっているのでしょう。

 相手の生体反応を拾うレーダーを創造し、それで位置は把握できていました。

 

「峰田さん。常闇さんが8時方向の窓の外から飛び込んできそうですわ。蛙吹さんも逆側におります、外から奇襲を考えているようですわね」

「オッケー。そこまでわかれば十分。助かるぜ八百万」

 

 相手が突入して来そうな窓をわたくしが示せば、峰田さんはその傍の柱の陰に隠れました。

 そして、黒い影が部屋を覗き込んだ次の瞬間、常闇さんが窓をたたき割って突入して来ました。

 私はいつでもトラップを発動できるようにワイヤーを握り、峰田さんの動きを待ちます。

 

 ────いえ、表現が正しくありません。

 待とうとしたのです。

 ですが。

 

「いざ……ッ、なにッ!?」

「ホイ一丁あがりィ!」

 

 待つまでも、無かったのです。

 常闇さんが突入した瞬間に、峰田さんが部屋の中を跳ねまわりました。

 最早目にもとまらぬ速度で、常闇さんにむけて玉を投擲したのです。

 それもただの玉ではなく、わたくしがお渡しした確保テープの両端に個性の玉をつけたものを、回転させながら凄まじい勢いで。

 それを咄嗟に迎撃しようとした常闇さんの反射神経も流石でしたが、しかし黒い影が玉の片方を弾こうとした瞬間に、そこがくっついて支点となり、常闇さんの体を綺麗に一周。

 見事に確保テープが常闇さんのお体に縛りつけられました。

 

「ケロ……!!」

「当然タイミング合わせてくるよなぁ!! わかってるんだぜ梅雨ちゃんっ!!」

 

 そしてその瞬間、核兵器を跨いだ逆側に蛙吹さんが現れました。

 彼女もインカムで常闇さんとタイミングを計っていたのでしょう。一瞬の時間差を置いて、部屋の逆側の窓から突入してまいりました。

 峰田さんは距離がある、今度こそわたくしが──────そう思ってワイヤーを引っ張り、ネットランチャーを彼女に向かって放ちます。

 しかし、カエルの個性を持つ彼女は素早く飛び跳ねてネットランチャーを避けてしまわれました。

 もちろん、私の手札はそれだけではありません。しかしこの部屋の中で、素早い動きの蛙吹さんを捉えられる武器は何を────と、考えたその隙に、でした。

 

「『跳峰田』ッ!! 梅雨ちゃんも逃がすかよォ!!」

「ケロッ!? くっ…!」

 

 峰田さんが凄まじい速度で壁を、天井を、床を跳ね飛び、蛙吹さんに飛び込んでいきます。

 そして先ほどと同様に、確保テープのついた玉を投げて……しかし、蛙吹さんに回避されてしまいました。

 蛙吹さんはあの玉の恐ろしさを理解していたのでしょう。テープにも巻かれるまいと、大きく後ろへ跳躍したのです。

 増強系でないわたくしからすれば蛙吹さんの動作は恐ろしい速度でした。しかし、峰田さんはさらにそれを上回ります。

 

「へっ! こうまで近づけば舌での反撃は難しいよなぁ梅雨ちゃんっ!」

「峰田ちゃん……いやらしいわ、この間合い」

「心にグサっとくるセリフはやめろよぉぉ!?」

 

 さらに峰田さんが飛び跳ねて蛙吹さんに接敵。

 それを迎撃するために蛙吹さんが廻し蹴りを繰り出したところで、峰田さんが個性の玉を蛙吹さんに投擲。

 とうとう避け切れず玉を食らった蛙吹さんが思わずそれに手を伸ばし……自分の胸と手がくっついてしまったことから、着地の体勢が崩れます。

 舌を伸ばして柱に巻き付けて自分の体を引っ張り逃れようとしたところで、相手の手札をすべて切らせた峰田さんが3投目の確保テープ。

 まるで詰将棋のように、最後は蛙吹さんの体にも確保テープが巻かれ、相手チームはお二人とも行動不能となったのでした。

 

『ヴィランチーム WIN!! どっちのチームも悪くなかったぜ!!』

「っしゃオラァァァ!! オイラ達の勝利じゃーーーーい!!」

「……不覚」

「流石ね峰田ちゃん。私が立体機動で負けるなんて、ケロ」

「────────」

 

 私は、ほとんど何もできませんでした。

 いえ、バリケードを設置したり、トラップを設置はしていたのですが……それらを有効活用する前に、峰田さんが全て終わらせてしまいました。

 凄まじい機動性。閉所であればあるほど、峰田さんの玉で跳ね飛ぶあの動きは有効なのでしょう。

 必ずくっついてしまうという力も万能です。極論、あの玉が体のどこかにくっついたらほぼ勝負が決まってしまうような物。

 そして、その個性を十全に使いこなしていた峰田さんの戦闘技術。

 

 ああ、これが。

 これが、首席の実力、なのですね。

 

「八百万ー! 捕縛テープと索敵めっちゃ助かったー! 勝利のハイタッチしようぜハイタッチ!!」

「は、ハイタッチですか? ええと、こうですか?」

「そうそう─────ああっと身長差で思わずハイタッチがパイタッ」

「お下品ですわ!!」

「ふんげっふ!!」

 

 彼の手が私の胸に向かってきたので、準備していた掌でビンタを返してやりました。

 なるほど、間違いなくイクノさんの親友ですねこの方は。

 




クラネスハインド様よりファンアートを頂いたので紹介させていただきます!

①自撮りするセンちゃん

【挿絵表示】


②自撮りを峰田に送ったセンちゃん

【挿絵表示】


自撮りを峰田に送付する作中のシーンを描いていただけました。
幾野くんと峰田くんの理解度が完璧すぎて震える。
絶対こんな感じでした。峰田……お前のメッセージアプリの画像一覧が怖いよ……。
ファンアート心より感謝申し上げます。有難うございました!





※考察※
原作タイアップ漫画「チームアップミッション」にて、最速のヒーローであるホークスと緑谷・常闇・峰田がひょんな事から追いかけっこをするという話があります。
その中で常闇の飛行も緑谷のスピードもさらっと避け切ったホークスですが、狭い路地裏に誘導された後に、
・峰田単独で
・仲間の手助けなしで
・【跳峰田】による360度オールレンジ跳躍により
・逃げる際中のホークスの背中に一度とりつく
という離れ業を見せています。
その時は羽根を掴んでしまったため逃れられますが、その後はホークスも警戒したのか3人と距離を離して簡単に追いつかれないようにしています。
どう考えてもヤバイ。

つまり閉所、狭い空間ならば峰田はトッププロの速度も上回る、という認識でこの作品は書かれています。かしこ。


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11 三つ編みか眼鏡がないと委員長とは認めません!

 

 

 

 オールマイトの戦闘訓練の授業を終えて放課後。

 俺達A組のみんなは教室に残って今日の戦闘訓練の振り返りを行っていた。

 みんな向上心あるな。なんて素晴らしいヤツらなんだ。

 俺もしっかりと考えを述べて、今日の試験についての意見交換に混ざる。

 

「─────耳郎ちゃんが音の索敵で相手の位置を把握したのは初動としてはよかったよな。でもその後の上鳴が一人で先行したのは悪手だったかも。口田の個性で索敵され返されて結局耳郎ちゃんが先に狙われることになっちまったし。上鳴は電気を放つ個性だろ? 周囲に迷惑かけるからって単独行動したのかもしれないけど、それにしたって相手の位置と攻めるタイミングがはっきりするまでは固まっていた方が相手も攻めにくいよね。そう考えると峰田と八百万ちゃんはよかったよな、峰田が突出しないできっちり迎撃する形で構えたから挟み撃ちにも対処できてた。あれで峰田が迎撃しきれなくても八百万ちゃんが守りに入れる形が取れてたもんな。チームを組むヒーローって単独行動せずにいかにして全員の力を全部ヴィランにぶつけられるかが勝負だって前に記事で読んだから、多分そういうことなんだろ。俺らも今後授業の中で今回みたいにペア組むこともあるだろうから、互いの個性の把握は急務だな」

「誰だお前」

「偽物か?」

「雰囲気違い過ぎない?」

「お前真面目な話が出来るやつだったのか」

「ひどくね?」

 

 俺が真面目にそれぞれの試合の講評をしていたらなぜかみんなに変なものを見る目で見られた。

 なんでや。峰田だって真面目な話をしてるのに何も言われてねぇのに。

 

「つーかさ幾野、俺らとしてはお前の個性が一番分からねぇんだけど。何だったんだよアレ?」

「試合後の講評でも八百万が首を捻ってたもんな」

「透ちゃんなんて『変な動きはしていませんが組んだ相手が悪く活躍できませんでしたね』なんて評価されてたし」

「いや葉隠ちゃんはそこにいるだけで助かったから。透明な味方が一人いるだけでやれること増えたし。そう……葉隠ちゃんは俺が勝つために必要な犠牲になったのだ……犠牲の犠牲にな……」

「木の葉が潰れるよ!?」

 

 葉隠ちゃんがツッコみを入れてくるが実際犠牲にするような扱いをしてしまったので申し訳ないという気持ちがあります。

 メンゴの意味を込めて葉隠ちゃんの目を正面から見据えてぱちくりとウインクを返しておいた。

 照れてる。可愛い。

 

「───みんな、ゴメン! まだやってる!?」

「お、緑谷お帰りー」

「ケロ、なんだかすっきりした顔してるわね緑谷ちゃん」

「おかえり。爆豪とはちゃんと話せたか?」

「うん、ちゃんと話せた。ごめんね幾野くん、気を遣ってもらっちゃって」

 

 さてそれじゃあ俺の個性について説明しようとしたところで緑谷が帰ってきた。

 何やらかっちゃんを探しているということで、俺の個性で校内をウォールハックして、校門に向かう爆豪ちゃんの位置を教えてやったのだ。

 なんだか先程校門前でお話していたようだが、今の緑谷の顔を見る限り悪い話ではなかったのだろう。

 幼馴染のツンデレロリ巨乳と仲直りが出来たようで俺もほっこりだ。

 

「んじゃ緑谷も来たし改めて俺の個性の説明するか。俺の個性は────」

 

 そして爆豪ちゃんと先に帰った轟を除いたクラスの皆に、俺の個性の説明をする。

 『潜行』。対象を選ばないこと。持ち物や服も潜行させられること。個性発動時は周囲を透かして見える事。

 シンプルにして無敵。そんな能力を分かりやすく説明した。

 

「……成程。入試の時、巨大ロボに潰されても無傷だったのはそういうカラクリか」

「私のことも見えてるんだよね、色は見えないみたいだけど! 私、人と目が合うのって初めてだったからドキドキしたよー!」

「なんてすごい個性なんだ……!! 物理も温度も、個性にも潜れるなんて! つまりすり抜けているということで……そういえば去年の雄英体育祭でも似たような個性の人が……ブツブツ……幾野くんは服ごと通り抜ける……個性も通じないとなると1対1じゃあ本当に無敵?カウンターも効かない?……すごい、オールマイトでももしかして……ブツブツ……だけどスピードは身体能力に準じるから万能の個性じゃない……どうやって個性コントロールしてるんだろう……脚の一部だけすり抜けないようにして壁の中を歩いているのか……ブツブツ……スピードでは飯田くんや峰田くんに負けるからルールのある試合だとわからない……映像を見る限り障子くんはここで一目散に核に向かっていれば……」

「やめて怖いわ緑谷ちゃん」

 

 常闇が謎は解けたとばかりにフン、と鼻を鳴らし、葉隠ちゃんが何か期待するようにこちらを向いてきた気配がしたので俺はしっかりと目を合わせてニコリと微笑み返した。照れてる。可愛い。

 そして緑谷が急に早口でブツブツ分析し始めた。一瞬でそこまで思考が及ぶのは素直にスゲーな。

 

「葉隠さんも見えるほどの透視能力ですか……おや? では戦闘訓練の時は……葉隠さんの裸を……!?」

「幾野……改めて問いただすが試験の最初、お前は葉隠に何をしていた……?」

「誤解だからな障子! 葉隠ちゃんと一緒にいろいろ俺の個性を試したりしてただけだから!! 同意の上だから!!」

「被告人はこう申し上げておりますが原告葉隠から意見はありますか?」

「え、あっ、そ、それは大丈夫! 私も見てもいいよって言ったし!!」

「イクノォォォ!? お前女子から裸見る許可とか許せねぇよなァ!?」

「黙れ峰田。俺の人徳によるものだとなぜわからんか」

「殴りてぇこの笑顔!」

 

 八百万ちゃんが真実に気付いてしまい俺は障子に問い詰められたがちゃんと合意の上でのそれだったから。さきっちょまではセーフだから。

 峰田はお前何気に女子の前でいい所見せてるんだから細かいことで騒ぐなよ。弱く見えるぞ。

 そんなこんなでお互いに個性の紹介などをして放課後を過ごしたのだった。

 

 因みに夜は葉隠ちゃんでシコりました。いっぱいでた。

 

 


 

 

 翌日。

 

「なんかめっちゃマスコミいるな」

「何だ何だ」

 

 峰田と一緒に登校してたら校門前になんかマスコミがめっちゃいた。

 わからん。芸能人でも来たのか?

 ……あ、いやオールマイトがいるか。芸能人みたいなもんだなあの人。

 記者たちは登校する生徒達に次々とインタビューを投げかけている。

 街頭インタビューって許可なしでやっていいもんだっけ? わからん。

 

「あっ、そこの……うわ可愛い!? その、取材いいですか!? オールマイトの授業はどんな感じでした!?」

 

 そんな中、一人の女性記者がこちらを見つけて俺にもインタビューをしてきた。

 なお俺を見つけた時点で俺の顔にばかりカメラは向いて、残念ながら峰田はカメラの外である。

 仕方ないね。俺の顔カメラ映えするからな。

 

えっとぉ、そうですね……♥私も昨日、オールマイト先生の授業を受けたんですけどぉ……

「誰だコイツ」

 

 俺は声を作って可愛い系のメス声を出しながら、にっこりカメラに向かって微笑みかける。

 テレビの向こうのみんなー? 性癖歪んでるー?

 

とても勉強になったんですけれど……ふふっ、授業の途中でカンペをちらちら見てたんです。初々しくてちょっと笑っちゃいました♥

「欠片も思ってねぇだろそんなこと」

「カンペ!? オールマイトも教師としては新人ということですね!? 素晴らしいコメントありがとうございました!! この映像絶対使わせていただきますね!」

ええ、ご自由にどうぞ。お姉さんも、朝からお仕事お疲れ様です♥

「公共の電波に乗せちゃダメな笑顔」

 

 にっこり微笑んでからテレビの向こうの男子を駄目にするウインクを投げかけてやった。

 ヒーローとして大成するには名前が売れないといけないからね。体育祭では選手宣誓もする予定だし世間が俺を知る日は近い。

 

「コイツとつるんでると日に日に被害者ばかり増え続ける」

「失礼な」

 

 俺は髪をふぁさりと手で靡かせて口調を切り替え、A組の教室に向かうのだった。

 

 


 

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させてもらった」

 

 相澤先生のホームルームが始まった。

 爆豪ちゃんの態度面への指導が入り、続いて緑谷のケツを叩く言葉も零れた。

 口調こそ雑だが、それぞれ適切な指導だと思う。相澤先生なんだかんだよく生徒見てんな。いいこと言ってるよ。

 緑谷は個性の制御が課題か。手伝えることあるなら手伝ってやろうかな。

 

「さてHRの本題だ……急で悪いが今日は君らに─────学級委員長を決めてもらう」

「「「「学校っぽいの来たーーーー!!!」」」」

 

 そして話題は学級委員長を決めることに。

 すかさずみんなが手を挙げ始めた。えっ凄い。マジ? 緑谷も挙げてるやん。責任感が凄い。

 飯田も「投票で決めるべき議案!!」とか言いながらきっちり腕が聳え立っている。

 

「……あれ? 幾野、お前やらねぇの? こういうの喜んでやりそうなもんだと思ってた」

「いや、逆にみんなのアクティブさに驚いてる。そんなやりたいかね委員長って」

 

 左前の席に座る切島からの言葉に俺は首を傾げて答える。俺のほかには轟くらいか、静かにしてるのは。

 ……え? 俺がおかしいのか? そんなにやりたいか委員長って?

 確実に業務に時間が取られて、鍛錬の時間も勉強の時間も自由時間も削れるんやぞ? マジか?

 

「───だからこそここで複数票を取った者こそが真に相応しい人間ということにならないか!? どうでしょうか先生!!」

「時間内に決めりゃ何でも良いよ。……幾野は挙手しなかったな。お前が仕切ってとっとと委員長決めろ」

「マジすか。面倒押し付けられた感すごい」

 

 そして無言を貫いてたら逆に仕切ることになるというね。

 まぁいいやとっとと決めよう。俺は寝袋で眠りだした相澤先生の隣、教壇に立ってみんなを見下ろす形になる。

 

「───では今から皆さんには殺し合いをしてもらいます」

「殺し合い!?」

「まさかの実力至上主義の(バトロワ)教室!?」

「嘘です。……まぁさっき飯田が言った通り、投票で決める感じでいいだろ。で、今はこれで決めるけど、後々で性格とか仕事ぶりとか見て違うなーってなる可能性もあるし、一か月後に一回だけ、クラスの過半数の希望があれば不信任決議取れるようにしようぜ」

 

 俺は軽い冗談をかましてから簡潔に考えを述べる。

 飯田の案と梅雨ちゃんが零した話の折衷案だ。「日も浅いのに信頼もクソもない」という梅雨ちゃんの言葉通り、俺たちはまだお互いをよく知らない。

 そんな中で投票で決まった委員長でも、後日文句が出る可能性もあるだろう。だからこそ一か月後の再投票できる制度を設けることで、ある意味お試し期間としてこの一か月を過ごせるわけだ。

 こうすることで委員長に決まった人が責任感を持ってちゃんと仕事をするだろうという副次効果もカバー。

 みんなの顔を見ると、その内容でおおよそ納得してくれている様だ。これでいいスかと相澤先生に目配せすると寝袋からもぞもぞ腕を出してOKサインを作ってくれた。言質取ったど。

 

「んじゃ投票用紙作って配るわ。用紙の下に名前書いたの配るから、上側に投票する人の名前書いてね。投票用紙の内容は公表しないけど、当然ながら自薦は無効な。あー……麗日ちゃん、障子。準備手伝ってくれる?」

「ん、ええよ。用紙は……ノートでええかな?」

「ハサミをいくつか貸してくれ。俺の手なら複数枚切れるからすぐ準備できる」

「助かる。投票箱はー……別にいいか。書けたら用紙を折って教壇の上に出してもらうか。んじゃ配るぞー」

 

 教壇の前の席に座る麗日ちゃんと障子にも手伝ってもらい、ちゃっちゃと投票用紙を配り、名前を書いてもらう。

 俺は正直誰に投票してもいいんだよな。峰田に投票するのは流石に身内びいきが過ぎるし、アイツを委員長にすると女子のスカートの丈が膝上30cmになってしまうかもしれないからアイツにだけは投票しないが。

 もし峰田が委員長になったらその時は俺がスカートを履いてきて精神的カウンターをかまそう。これで女子は守られる。

 ……飯田でいいか。ついさっき、みんなが我こそはと手を挙げる中で唯一正論を述べてたのは評価に値する。

 

「ほいじゃあ全員出したな。集計しまーす。えー……緑谷……八百万……幾野……飯田……幾野……峰田……」

 

 全員の投票が終わったところで集計開始。

 結果は以下の通り。上位五名のみピックアップ。

 

 幾野  4票

 八百万 3票

 飯田  3票

 緑谷  2票

 峰田  2票

 

 なんでや。

 

「なんでや」

「えー、だってセンちゃんなんだかんだで話の中心になってること多いじゃん! 私はいいと思う!」

「昨日だって結構冷静に試合見てて、放課後に鋭い意見出してたしな! 今もテキパキ仕切ってくれてるしよ!」

「入学初日ですぐ挨拶して回れるくらいコミュ強じゃん。適任じゃね?」

「オイラの意志を継げるのはお前しかいねぇんだイクノ……!」

 

 葉隠ちゃん、切島、瀬呂、峰田がそれぞれ答えてくれた。

 なんでや。退路が無くなったじゃねぇか。いや峰田はなんか違うっていうか身内投票やめろとしか言えねぇけど。

 

「……えー、では不本意ながら暫定として俺が委員長になりました。みんな拍手ー」

「わー! 頑張れセンちゃん!」

「ケロ、応援しているわセンちゃん」

「マジで拍手返ってくると辛いんだけど!! 一か月後の不信任決議楽しみにしてるからな畜生!」

 

 そんなわけで何故か俺が委員長になってしまいました。

 ところで副委員長が八百万ちゃんと飯田で同点なんだけどどうしよう?

 

「どうする、幾野委員長」

「副委員長は一人と決まっていますわ。イクノさんが選んでいただければ」

「超悩んでるから今日の放課後まで待ってもらっていい?」

 

 実直の飯田、おっぱいの八百万ちゃん。

 この命題に俺は即答できなかったのでちょっと悩みます。

 ビアンカフローラの二択より悩むわコレ。

 

 





kabahamu様よりファンアートを頂いたので紹介させていただきます!
①背中おっぴろげプリケツスタイルの幾野くん&峰田

【挿絵表示】

②幾野くんのみver

【挿絵表示】


ヒーローコスチュームに身を包むセンちゃんを描いてもらえました。
このプリケツがよぉ!! ひっぱたきたくなるいいケツしてますわ。
背中が開いている要素を出してもらえて嬉しいです。峰田お前どんな感情なんだ(真顔)
ファンアート心より感謝申し上げます。有難うございました!




※クラスの席順

原作の席順から飯田の後ろに幾野in、砂藤out。
幾野くんの席は教室の一番右後ろになりますね。その分麗日ちゃんが前の席になりました。


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12 13号先生180cmムチムチボディとかドスケベじゃん

 

 

 

「お米がうまい!」

 

 お昼の時間になり、食堂に集まった俺たち。

 麗日ちゃんが美味しそうに白米を食べている。わかりみ深い。ランチラッシュ先生の米最高よ。

 

「それにしても……幾野くんに得票数で負けるとはな。……ああいや、君の人望や能力は疑っていない。おかしな言動の内にある、周囲への配慮や時折零れる気遣い。”多”を牽引するというよりは、いつの間にかまわりを引っ張るような君ならば委員長としても活躍できるだろう」

「飯田くんのいう事、僕も分かるな。人を褒めたり気を配ったり、進んで声をかけてくれたりするもんね」

「これで下ネタがなければよかったのになぁ。中学でも口を開かなければ完璧って言われてたぜコイツ」

「下ネタはお前のせいでもあるんだぞ峰田」

 

 結構気にしてくるなこの眼鏡。そして峰田よ中学時代の話は速やかにやめなさい。

 思い出したくないことも多いんだ。入学したての頃とか。

 

「でも飯田くんも委員長やりたかったんじゃないの? メガネだし!」

「何気にざっくりいくよね麗日さん」

「ああ……俺も悩んでる。メガネ要素で飯田を副委員長にするか、三つ編みをさせた八百万ちゃんにするか……!」

「お前が三つ編み見たいだけじゃねぇのかイクノ」

「やりたいと相応しいかは別の話……僕は幾野くんの判断に任せるさ。付き合いは短いが、最終的には決して思慮の無い判断はしないだろう、君は」

 

 俺が80%くらい本気で言った冗談に、ふっと笑って返してくる飯田。

 何だコイツ。イケメン微笑みでそんなこと言ってー! 俺のポイント稼ごうとしているんじゃないでしょうね!

 べ、別にそんなこと言われても嬉しくないんだからねっ! 90点! 暫定トップ!

 

「『僕』……!!」

「ちょっと思ってたけど飯田くんて……坊ちゃん!?」

「育ちの良さ漏れてるよな。オイラにはない品性」

「そう言われるのが嫌で一人称を変えてたんだが……」

 

 話は変わり、飯田の家の話になる。へー。ヒーロー一家なんだ。すげー。

 "ターボヒーロー"インゲニウム。聞いたことないけど緑谷が解説してくれた。それが飯田の兄さんなのか。

 いいな、兄貴に憧れてるってのは。仲のいい家族なんだろうな。羨ましい。

 

 そんな学生らしい談笑しながら昼食をとっていた、そんな時だ。

 

 

 『ウウーーーーーーーーーーーーーー!!』

 

 

 大音量の警報が食堂に木霊する。

 

「警報!?」

「何だ……!?」

 

 俺、緑谷、飯田は咄嗟に立ち上がる。

 麗日ちゃんは呑んでた味噌汁を噴き出しかけてしまった。峰田がそれにハンカチを差し出しているが……続くアナウンスは。

 

『セキュリティ3が突破されました』

『生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください』

 

 飯田が周りにいた3年に確認したところ、校舎内に誰かが侵入してきた、という事らしい。

 マジか。そんなことがあるのか……?

 先程のアナウンスにより、雪崩れ込むようにとんでもない人数が食堂に入ってくる。

 

「っ、こりゃやべぇ! 峰田っ!」

「おお、うおっ!? っと、悪いイクノ! 助かった!」

 

 この人数はヤバイと、咄嗟に峰田の体を掴んで肩車に持ち上げる。

 そして、その判断はどうやら正解だったらしい。

 この人数の人混みに峰田が埋もれてしまえば、五歳児並みの身長しかないコイツの場合マジで踏みつぶされて大怪我しかねない。

 

「麗日ちゃん! 緑谷! 飯田! 大丈夫か!?」

「大丈夫とは言い難いー!」

「流石最高峰! 危機への対応が迅速だ!! だが…!」

「どわー!? はぐれるー!?」

 

 どうにも大混乱の様相を成している。

 そもそも厳重な警備を誇っている雄英に何が侵入してきたって言うんだ。くそ。

 俺は個性『ウォールハック』を発動し、人垣の向こうの窓の外に視界を広げる。

 

「……あん!? 朝のマスコミじゃねぇか!?」

「んっ、マジだ! 外にマスコミが集まってる! あいつ等かよ侵入者って!?」

「何だと!? 何かと思えばただのマスコミ!?」

 

 俺がウォールハックで見て、峰田が高い位置からの視点で間違いないことを確認した。

 飯田もそれを聞いたようで、混乱を収めようと叫ぼうとしている。

 

「皆さん落ち着……あ痛!!!」

「飯田っ!? 大丈夫か!?」

「ああ……! 俺はまだ問題ない……が、切島くん! 上鳴くんも! くっ……!!」

「この混乱マジでやべーぞ! 下手するとケガ人が出る!」

「くっ、どうすりゃ…!」

 

 俺の個性を使えば俺個人はいくらでも脱出できるが、この混乱を収めるには至らない。

 峰田の個性も同じだろう。こんな中にもぎもぎを投げれば更なる混乱は必須。

 どうする、どうすれば──────

 

「麗日くん!! 俺を……浮かせろ!!」

「へっ!? う、うん!」

 

 俺が方法を模索していると、それよりも『速く』行動した男がいた。

 飯田だ。

 決意の眼差しを浮かべ、眼鏡すら弾け落ちるほどの速度で麗日ちゃんの個性を用いて浮き……空中を目立つように個性で加速。

 みんなの視線が集中する非常口看板の上に突き刺さり、そして。

 

「皆さん……大丈ー夫!!! ただのマスコミです!! 何もパニックになることはありません!!」

 

 大きな声で、短く、端的に、それでいて大胆に。

 見事な一喝で混乱する生徒たちの注目を集め、パニックを収めることに成功したのだ。

 

 ─────すげえ。

 

「……はっ。決まりだ」

 

 非常口の標識みたいなポーズで固まった飯田を見て、俺もまた決意を固めたのだった。

 

 


 

 

 午後。

 委員長以外の委員決めを行うホームルームにて。

 

「……えー、先ほど皆さんの投票により委員長になった俺ですが、悪いけど降りることにしました」

「「「何ィィィィ!?」」」

 

 俺は教壇の前に立ち、両隣に飯田と八百万ちゃんを並べて一言目にそう伝えた。

 何人からは疑問の叫びが上がるが、俺は続ける。

 

「ってか、元々俺は挙手してなかったように、委員長やりたいって気持ちじゃなかったってのがまず前提な。午前中の時は再投票の時間もなかったからとりあえずで受けたけど、よく考えてもやっぱ柄じゃねーわ、俺は」

「えー、センちゃん絶対しっかり委員長出来ると思うのにー」

「ありがと葉隠ちゃん。でも決めたんだ。俺より委員長に相応しいやつがいる。それが……飯田だ」

 

 俺は右隣に立つ飯田を指さして、話を続ける。

 

「昼の騒動をこいつは一発で収めて見せた。見てた人もいるかもだけど……緊急時に咄嗟に適切な判断が、正しい行動ができてた。俺はこいつにこのクラスの委員長を務めてもらいたい」

「あ、いいんじゃね! 飯田の活躍俺も見てたよ! イクノでも別にいいとは思うけどさ!」

「あー、非常口の標識みてぇになってたよなー」

 

 あの場にいた切島や上鳴、峰田や緑谷、麗日ちゃんも頷いている。

 八百万ちゃんも騒動の話は聞いていたのだろう、彼女から反対はなかった。

 

「飯田を委員長、八百万ちゃんを副委員長。男女でバランスもいいし、勿論最初に俺が掲げた一か月後の不信任決議だってみんなの希望があればやるさ。けど、飯田なら問題ないって俺は信じられるよ。だから……頼むぜ、飯田」

「────幾野委員長の指名ならば仕方あるまい!! 不肖飯田、これより委員長をしっかりと務めさせてもらう!!」

「任せたぜ非常口!!」

「非常口飯田! しっかりやれよー!」

 

 これで決まりだ。

 俺は委員長の責から逃れて、なるべくしてなる人間が委員長になった。A組ももうちょっとまとまりができるだろう。

 

「オイラのマニフェストを継ぐ者がいなくなっちまったじゃねぇかぁぁぁぁ……!」

「峰田は諦めろ。スカート見たけりゃ俺が履いてやるから」

「お前じゃ意味がねぇんだよぉ……!!」

 

 

 


 

 

 翌日の午後。

 

「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになった」

「ハーイ! なにするんですか!?」

「災害水難何でもござれ──人命救助(レスキュー)訓練だ!」

 

 相澤先生が今日の授業内容を説明する。

 どうやら救助訓練ってことは、戦闘力よりかは判断力、迅速な対応を求められそうだな。

 俺の個性が全く使えないってことはないだろうが、活躍できるかは場所次第か。

 水場とかだとどうにもならんし俺。水や空気に潜ることはできるけど。

 結局のところ潜った後の移動は脚の裏側を潜ってない判定にして普通に走るか腕で体持ち上げるかしかないからな。

 柔らかい程度ならまだしも液体や気体は潜っても動けない。空中浮遊を目指して訓練してた時期もあったけどダメでした。

 

「コスチューム自由か……幾野くん、君はどうするのだ?」

「着ていくさ。腰のポーチとか胸のあたりに道具入れてるしな」

「あの胸は道具入れだったのか!?」

 

 前の席の飯田にそう答えた。

 俺のコスチュームは全身ぴっちりスーツではあるが、胸元や腰のベルトにつけたポーチに色んな道具を入れてある。

 救助用の医療キットも入ってるし、ウォールハックで遠くを見る時に使う望遠鏡とかも入ってるしな。着て損はない。

 

 そうして、それぞれが着替えてから移動のためのバスの前に集まる。

 

「ん。デクくん体操服だ。コスチュームは?」

「戦闘訓練でぼろぼろになっちゃったから……」

「あー……そうだよな。もしかして捨てちゃうのか?」

「ううん、修復をサポート会社がしてくれるらしくてね、それ待ち」

「そか。お母さんの手作りだもんな、しっかり直ってくるといいな」

「うん! 実は追加の装備とかも考えてるんだ」

 

 麗日ちゃんが気付いた緑谷のコスチュームに俺も言葉を挟む。

 もしやぼろぼろになって捨てたのか……とも思ったがちゃんと修復できるらしい。何よりだ。

 

「バスの席順をスムーズにいくよう番号順に二列で並ぼう!!」

 

 早速飯田がフルスロットル委員長面している。ありがてぇ。アイツを委員長にしてよかった。

 まぁ対面式の座席だったんで無駄だったんだけど。

 俺は緑谷の右隣りに座る。前の方の席だ。

 

「私思ったことを何でも言っちゃうの緑谷ちゃん」

「あ!? ハイ!? 蛙吹さん!」

「梅雨ちゃんと呼んで。───あなたの個性、オールマイトに似てる」

 

 梅雨ちゃんのその意見を横で耳に挟む。

 緑谷の個性か。今のところ見てるのは指だけでボールを遠投したのと凄まじい威力のアッパーだが、アッパーの方は確かにオールマイトに似てるかもな。

 しかし緑谷は一撃一撃でケガするからな。切島も言うように、似て非なるアレだ。

 だがそれは今のところである。もしあのパワーを怪我無く使いこなせるようになったら、マジでオールマイトの再来になれるかもしれない。

 相澤先生が緑谷を買ってるような面があるのはそういう事なのかもな。一番伸びしろがあるのが今の所緑谷だ。

 

「増強型のシンプルな個性はいいな! 派手で出来ることが多い! 俺の『硬化』は対人じゃ強えけどいかんせん地味なんだよなー」

「分かるー。俺の『潜行』もぶっちゃけると自分の身を守る事にかけちゃ無敵だけど、誰かを守ったり迅速に行動したりってなると弱いんだよな、課題だわ」

「僕は二人ともすごくかっこいいと思うよ! プロにも十分通用する個性だよ」

「プロなー……しかしやっぱりヒーローも人気商売みてぇなとこあるぜ!?」

「俺は顔で人気出るからその辺は何とでもなりそう」

「ケロ、センちゃんの自信が凄いわ。否定できないけど」

「僕のネビルレーザーにも負けない輝きだよね、幾野くんのお顔☆」

「青山はお腹壊しちゃうのはヨクナイね!」

 

 話が盛り上がってきた。

 バスの中……密室に高校生が20人……盛り上がらないはずもなく……。

 

「派手で強えっつったらやっぱり轟と爆豪だな」

「無敵って意味での強さなら幾野のもやべーけどな」

「ケッ」

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそう」

「んだとコラ出すわ!!」

「ホラ」

「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」

「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」

「性格で言えば幾野の急にアクセル踏み込むエロ男子っぷりも大概だけどな。見た目に反して」

「男の性欲にブレーキはついてねぇんだよ。なぁ峰田?」

「オイラまで巻き込み事故やめてくれる?」

「低俗な会話ですこと!」

「あっはっは、でもこういうの好きだ私」

 

 次から次へと話が流れていったところで、最後に相澤先生の一喝でみんな黙り込むのであった。

 

 


 

 

 到着した。

 USJかよ。

 

「あらゆる事故や災害を想定し僕が作った演習場です。その名も……ウソの災害や事故(U S J)ルーム!!」

 

 USJだったわ。

 13号先生の説明に思わず脳内で突っ込んでしまう。

 授業では初めて見たな13号先生。宇宙服のようなコスチュームに身を包んでいる身長の高い先生だ。

 だが……俺には理解(わかる)。その宇宙服の内にドスケベボディが収納されているという事を……!!

 試しにウォールハックで意識して服を透かして見てみる。

 普通の服だと体に密着するから透かして見るのは難しいのだが宇宙服くらい着ぶくれしてれば逆に中まで見れるのだ。

 したらマジでドスケベボディがそこにあって驚いたよね。インナー着てるから裸までは見なかったけどお顔がお耽美……。

 

「えー始める前にお小言を一つ二つ…三つ……四つ……」

 

 次々増える13号先生のお小言、それをしっかりと聞き届ける。

 とてもまじめなお話だ。

 

「……しかし、()()()()()()()()()です。皆の中にもそういう個性がいるでしょう」

 

 ────────。

 

「……この授業では心機一転! 人命の為に個性をどう活用するかを学んでいきましょう! 君達の力は人を傷つけるためにあるのではない、救けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな」

 

 ……()()()()()()()()

 簡単に人を殺せる力、か。個性ってそういうもんだよな。

 目を逸らしたい現実だが、事実だ。それを背負って俺はヒーローを目指してるんだからな。

 うし、やる気出てきた! 一番の成績取ってやるぜ!

 

「以上! ご清聴ありがとうございました」

「ステキー!」

「ブラボー!! ブラーボー!!」

「心もお顔も綺麗ですよ13号先生ー!!」

 

 思わず拍手と共に俺も誉め言葉を返してしまった。

 お顔も、と言った時点でえっっっって顔で13号先生がこっち向いてきた。なんや。本心やぞ。

 

「そんじゃあまずは─────」

 

 相澤先生が授業についての説明を始める────刹那。

 

 闇が、USJの広場に広がって。

 

 

「一塊になって動くな!!!」

「え、何だアリャ!? また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」

 

「動くな!! あれは───(ヴィラン)だ!!!」

 

 

 日常が壊れる音がした。




クラネスハインド様よりファンアートを頂いたので紹介させていただきます!

①バニーコス&チアコスセンちゃん

【挿絵表示】


バニーガールを着たセンちゃんとチアコスで応援するセンちゃんを描いていただきました。
腰から下がマジでただのメスだよコレ! ドスケベ! ドスケベだよセンちゃん!
作中でこの姿になることが絶対ある(確信)
ファンアート心より感謝申し上げます。有難うございました!


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13 シリアスは苦手なんだよとっとと消えろヴィラン

 

 

「せっかくこんなに大衆引き連れて来たのにさ……オールマイト……平和の象徴がいないなんて……」

 

「───子どもを殺せば来るのかな?」

 

 

 唐突に現れたヴィラン。

 その内リーダー格と思われる手がいくつもくっついたやつ、手マンが呟く。

 ひでぇセンスだ。手マン。絶対アイツ逮捕される際に手マンって言われるやつだ。でもアナウンサーが手マンって放送倫理的に言えないから困ることになる。

 公共の電波にヴィランネームを流させない、なんて頭の切れるやつだ手マン。

 

「ヴィラン!? 馬鹿だろ!? ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!!」

「13号先生、侵入者用センサーは!?」

「もちろんありますが……!」

 

 だが、実際にセンサーは反応していない。

 センサーを無効化する個性を持っている者がいるという事だろう。轟の言う通り、用意周到に準備された襲撃のようだ。

 

「おのれ手マン……なんて秘裂(卑劣)なんだ手マン!! 汚いぞ手マン!!!」

「言いたいことは分かるけど連呼すんなよ!?」

「余裕あるな幾野!?」

「13号、避難開始! 学校に連絡(電話)試せ!電波系の個性が妨害している可能性もある。上鳴、幾野、お前らも個性で連絡試せ」

「ッス!」

「了解!」

 

 俺はスマホを取り出し、上鳴は装備している特製電子変換無線による無線通信で連絡を試みる。

 俺を相澤先生が指名した理由は明白、俺が敵の個性をすり抜けられるからだ。

 だが──────

 

「……駄目だ、やっぱスマホ介したら効果は途切れちまう。アンテナは立ってるけど通話しようとすると圏外だ」

「俺の方も無線飛ばねぇ……」

 

 お互いに駄目だったことを相澤先生に目線で伝える。

 それを確認し、相澤先生は戦闘準備に入った。

 

「イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛! 正面戦闘は…!」

「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号、任せたぞ」

 

 俺たち生徒を13号先生に任せて、相澤先生がヴィランの群れに飛び込む。

 プロヒーローの中でも特異な個性を持つイレイザーヘッド、その実力を───俺たちは目の当たりにした。

 増強系の個性ではない相澤先生の体術。捕縛布の操作。

 ものの見事に有象無象のヴィランたちを無力化していった。

 

「すごい……! 多対一こそ先生の得意分野だったんだ」

「分析してる場合じゃない! 早く避難を!!」

 

 俺も緑谷と共に相澤先生の動きに見惚れてしまっていた。

 きっと、俺が目指すべきもの。

 己の体術で瞬く間にヴィランを捕縛する力。あの力が欲しい!

 だが、その思考は今じゃない。今は飯田の言う通り、俺たちは速やかに避難するべきなのだ。

 俺は思考を切りかえてみんなと共に避難しようと──────

 

「させませんよ」

 

 っ!? 霧みてぇな体のヴィランが俺らの前に……こいつ、ワープ系の個性か!?

 

「てめぇがここにヴィランを連れて来たのか!?」

「鋭い生徒もいる……初めまして。我々は(ヴィラン)連合。僭越ながら……」

 

 そうして霧みてぇなやつ、もういいや切り身で。切り身が余裕ブッこいて言い放ったその宣言は。

 

『オールマイトに────息絶えて頂きたいと思っての事でして』

 

 生徒達に動揺を生むには十分な内容だった。

 だが、それにも怯えないヤツらが二人いた。爆豪ちゃんと切島だ。

 二人は切り身に飛び込んでいき───いや、その前に俺も飛び出していた。

 

「合わせろ! 俺は無視していい!」

「わかってらぁクソ男女ァ!!」

 

 俺の個性を把握している二人が、俺もろとも攻撃を切り身に繰り出す。

 尤も、俺自身の拳の威力は大したことない、目的は目くらましだ。

 目らしきものが浮かぶ顔面に向かい掌底を繰り出して、そのままぶつける。

 そして俺の背後から俺もろとも、爆豪ちゃんと切島がそれぞれ爆破と切り裂きを入れるが……回避された。

 

「っ……コイツ咄嗟に自分の体を影モヤに入れやがった!」

「……なんと、私の姿が見えている者がいるとは。奇妙な個性……危ない危ない。生徒と言えども優秀な金の卵……」

 

 俺の言葉に意外そうに反応する切り身。コイツ……戦い慣れていやがる。

 

「ダメだ! どきなさい三人とも!!」

 

 背後から13号先生の声が聞こえて、ここで俺は初めて13号先生の攻撃の邪魔をしてしまったのだと気づいた。

 そうか、彼女のブラックホールがあれば影モヤごと行けたかも……と、俺の失策に思い当った瞬間に。

 

『散らして────嬲り殺す』

 

 影靄が生徒達全員を包み込み。

 その()()で、どこかへと連れ去って行ってしまった。

 

「みんなッ!?」

 

 これは俺の叫びだ。

 俺の周囲、誰もいなくなってしまい一人ぼっちになった俺の叫び。

 

 俺だけが、影モヤのワープに連れていかれなかった。

 否─────ワープを潜り抜け、無力化した。

 

 何故なら、俺は()()()()()()()()()()()()()

 気付く気付かないに関わらず、体に危険が迫った際に自動的にそれを潜り抜けるようにしているから。

 

 ─────俺だけが、残ってしまった。

 

「……!!」

 

 目の前には出口のゲート。

 走ればすぐだ。ここを出て、応援を呼べる。

 バスで走ってきた時間はたいして長くない、3km程度の距離だった。10分も走れば校舎に着けるか?

 いや、10分も待てるもんか。

 ウォールハックを使ってUSJ施設内を見れば、遠く、各施設に飛ばされたらしい学友たちの姿と、それを取り囲むヴィランの姿が見える。

 

「…………くそっ!!!」

 

 逃げられる訳がない。

 ここでみんなを置いて一人だけ逃げたらヒーローを目指しているなんて二度と言えなくなる。

 

 だから俺は決めた。

 ここに残り、ヴィランと戦うことを。

 最も近い位置にいる相澤先生をまず助けて、その後は指示を仰いで各個撃破。

 A組の皆がそう簡単にやられることはないと信じているが、俺には俺が出来ることを。

 

 だから。

 俺はそこで少しだけ()()()()()()()()()()()()をしてから、無事それをやり遂げて、急ぎ相澤先生の元に向かった。

 

 


 

【side 峰田】

 

 

「梅雨ちゃん……助けてもらって悪いけど、おっぱい当たってる……」

「ケロ」

「ツァ!!」

 

 ビターン!! とオイラは船の上に背中から梅雨ちゃんの舌で叩きつけられた。

 オイラはどうやら先程の影モヤに呑まれて、梅雨ちゃんと緑谷と共に水難ゾーンに飛ばされたらしい。

 オイラに続いて緑谷も船の上に引き上げてくれる梅雨ちゃん。

 最後に梅雨ちゃん自身も船上に上ってきた。

 

「大変なことになったわね」

「カリキュラムが割れてた……! 轟くんが言ったように……虎視眈々と準備を進めてたんだ」

「それより……早くここを出てイクノに合流しねぇと!!」

 

 緑谷と梅雨ちゃんが冷静に状況を読むが、オイラの頭の中にはイクノの事が浮かんだ。

 あの状況で、アイツの個性なら、多分。

 

「アイツだけは多分さっきの影モヤで飛ばされてねぇ! 一人で……下手すると相澤先生の手伝いに行っちまう!」

「峰田ちゃん……心配もわかるけれど、センちゃんならきっと大丈夫よ」

「うん、さっきも敵に飛び込めるくらい勇気があるし、幾野くんの個性なら万が一はないと思うけど……」

「違うんだよ! 説明は出来ねぇけど、アイツ追い詰められるとヤベぇんだって!! 相手はオールマイトを倒す算段のある奴らなんだぞ!?」

 

 オイラの心配は中々二人に伝わらない。

 当然だ。オイラだって、ここで全部は説明できない。アイツの過去を勝手に二人にばらすことはできない。

 確かに二人の言う通りアイツの個性は無敵だ。自分に向かう攻撃はなんだろうと無効化するんだから心配はいらないだろう。

 

 だが違うんだ。

 もし相澤先生が、生徒の他の誰かが危うくなってしまったら。

 それをアイツが見てしまったら。

 アイツは()()()()()かもしれないんだ。

 

「………奴らにはオールマイトを倒す算段がある……多分その通りだ……それ以外考えられない……何で殺したいんだ?ヴィラン……悪への抑止力となった人だから…?一人で平和の象徴と呼ばれる人だから!?……いや……」

「緑谷ァ!! 今はあいつ等の理由なんてどうでもいいだろうがよォ!!」

「っ! ……そうだ……理由なんて……!!」

 

 思考の海に沈みかける緑谷の腰を叩いて檄を入れてやる。

 緑谷もそれで目が覚めたのか、『理由なんて知るか!!』とでも言わんばかりに眼差しが強くなる。

 今はお前のその頭の回転が頼りなんだよ!

 オイラは個性こそ鍛えてるけど水難ゾーンじゃどう使えばいいか分かんねぇ!

 梅雨ちゃんは水場に適してるけど一人に全部任せらんねぇ!!

 お前の作戦に期待してんだからよぉ!!

 

「三人で力を合わせてとっととここを切り抜けるんだろぉ!! コイツら梅雨ちゃんをここに飛ばす程度の素人なんだぞ!!」

「っ、そうか、そうだ……!! 向こうはこっちの個性を把握していない、なら……!」

「ケロ……緑谷ちゃん、いい案があるの?」

「緑谷! お前の回る頭で考えてくれ! オイラの力も梅雨ちゃんの力もお前なら分析してるだろ!?」

「……うん、分かった……! そう、鍵は峰田くんのもぎもぎだ……投擲も正確無比、でも今水上に浮かんでるヴィランだけが全員かはわからない……水上じゃ峰田くんの機動力も活きない……敵はこっちを警戒して上がってきていない? 船に上がってくるならもっと早く来ているはず……梅雨ちゃんの機動力は脱出に……ブツブツ……僕の力は全部使えない……いや……これなら……!?」

 

 緑谷の高速詠唱が続いて、何かしら作戦が考え付いたか、という時に。

 

「っ!?」

「!!」

「うわぁぁぁ!?」

 

 ヴィランの攻撃で、オイラ達の乗っている船が割れた。

 沈み始める船の上で、緑谷の出す作戦を待つ。

 

「……! 決めた! 峰田くん、君の個性に頼る部分が大きいけど、いけるかな!?」

「無茶振りはイクノで慣れてるんだよぉぉぉぉ!!! とっととどうするか言えよぉぉぉ!!!」

「大声はいけないわ峰田ちゃん。でも……信じてるから」

 

 そして緑谷のいう作戦を確認しあったオイラ達は、覚悟を決めて作戦遂行を始めた。

 

「勝つにはこれしかない……!! ああああああ!!! 死ぃねぇぇぇぇぇッッ!!!!」

 

 まず緑谷が覚悟を決めて大きく船を飛び立ち、水中に飛び込みに行く。

 それにヴィランどもの視線が集まった瞬間に、オイラの出番だ。

 

「食らえ!! グレープラッシュ・スナイプッッ!!!」

 

 グレープラッシュのバリエーション。

 弾幕状に大量に投擲するのではなく、狙いを定めて一個ずつブン投げる。

 緑谷からの指示は2つ。

 まず水上に浮かんでいるヴィランそれぞれに、もぎもぎを正確に当てて、気を引いてほしい。

 

「ンなっ!? なんだこの玉……!!」

「クッソ正確に飛んできやがる!!」

「速ェ……!! だが威力は大したこと……なっ、これ取れな…!?」

 

 オイラの投擲力を舐めんな、イクノ相手にどれだけ投げたと思ってんだ。

 姿勢の崩れた船の上からでも、オイラが投げたもぎもぎは正確にヴィランに突き刺さった。

 それに少しでも触れば終わりだ。動揺と、動きを封じる事が出来る。

 

 そしてオイラの方に視線が向いた瞬間に、次。

 緑谷が、その身を顧みずぶっ放す。

 オイラと同じ年齢(とし)の、話によればつい先日まで個性にも目覚めてなかったヤツが。

 怖いだろうに、恐ろしいだろうに、それでも立ち向かえる緑谷が。

 

「デラウエア────SMASH!!!」

 

 己が勇気を水面(みなも)に解き放つ。

 超パワーから繰り出されるデコピンが水面に大穴をブチあけた。

 

「峰田ちゃん、行くわよ」

「おう……!!」

 

 この衝撃で水中にいるヴィランも水面にいるヴィランも関係なく大混乱。

 ここで梅雨ちゃんがオイラを抱えて脱出の為に飛ぶ。

 同時にオイラは彼女の腕の中から真の投擲をぶちかます。

 グレープラッシュは二段構え。どんなに血が出ても投げ続けてやるからなヴィランども!!

 

「グレープ─────ラッシュッ!!!」

 

 次々とオイラはもぎもぎを水面に放り投げてやる。

 出来る限り狙いは緑谷の開けた大穴、それが渦を巻いて戻ろうとする地点。

 ヴィランを巻き込みそうな位置に、いやそれすら考える必要がないほどの弾幕を水面に向けて投げ放ってやった。

 

「イクノが────待ってんだよォォォ!!!」

 

 水中にいくつも浮いたもぎもぎが、次々とヴィランの体に張り付いていく。

 広がった水面はまた中心に収束するから─────

 

「─────一網打尽。とりあえず第一関門突破って感じね、すごいわ二人とも」

 

 オイラ達は水難ゾーンを突破した。

 そして、急げ。

 相澤先生の元へ。

 イクノの元へ。

 

 アイツが悲しい決意をしないように、オイラが隣に立ってやらないといけないんだ。

 

 


 

 

【side 飯田】

 

 

 僕達……13号先生、麗日くん、芦戸くん、障子くん、瀬呂くんは、USJ入り口からモヤで飛ばされ、別の場所に転移させられていた。

 そして僕たちの目の前には、まだあのモヤのヴィランが存在している。

 多人数を、13号先生を一度に移動させた際にこいつもついてきたという事か。

 

「皆はいるか!? 確認できるか障子くん!?」

「散り散りになっているがこの施設内にいる。……幾野だけは飛ばされていない」

「…………!!」

 

 だが……あの時僕たちの傍にいた幾野くんだけがここにいない。

 なるほど、どうやら彼だけはその個性でモヤによるワープをかいくぐったのだろう。

 それは一つ朗報だ。彼ならば、きっと彼ならば一人だけで逃げるようなことはしない。

 単独で戦う相澤先生の力になってくれるはずだ。

 

「ここは……水難ゾーンと火災ゾーンの間ですか!」

「正解だよ13号。厄介なヒーローは散らすに限る……守る対象が多ければ貴女も力を発揮しきれない。一人取りこぼしてしまいましたが……」

「くそ、ヴィランがここにもいやがる……!」

「出口から離れちゃったよ!」

 

 状況を把握すれば、モヤのようなヴィランの他にも複数のヴィランに囲まれている状況だ。

 13号先生と僕達で出来るのだろうか、この窮地を突破することが。

 

「……委員長! 麗日さん!」

「は!!」

「は、はい!!」

()()に託します。学校まで駆けてこのことを伝えてください」

 

 その一言で、僕と麗日くんは理解した。

 ここは外周部に近い所。出口に向かって走るにはヴィランも多く、恐らく本命である手が大量に着いたヴィランもいる。僕自身もまだUSJの地理に明るくない。

 だが、外周の壁が背中にあり、ここに麗日くんがいるのであれば。

 

「通信は使えない……そういう個性の相手がいる。ならば君がUSJを出て駆けていった方が速い!」

「しかしクラスの皆を置いていくなど……」

「行けって! 外にさえ出られりゃ追っちゃこれねぇよ! お前の脚で助けを呼んで来いって!!」

「救うために個性を使ってください!!」

「飯田くん!! 食堂の時みたく……サポートなら私超できるから!! する!! から!!」

「お願いね委員長!!」

 

 少しだけ……そう、少しだけ僕は皆を置いて逃げるのか、という思考に駆られてしまった。

 だが違う。今、みんなを()()()ための()()を呼べるのが、僕だけならば。

 麗日くんがそう言ってくれるならば。

 僕は。

 

「わかった……麗日くん、頼む!!」

「はいよー!」

「頼んだぞ飯田!」

「───手段がないとはいえ敵前で策を語る阿呆がいますか? それにここは外周の近く……出口までは余りにも遠い」

「バレても問題ないから語ったんでしょうが!!」

 

 僕は13号先生がモヤのヴィランの気を引いてくれる隙に、麗日くんに触れてもらい、無重力の状態に。

 

「瀬呂くん、テープを僕の体に! 万が一の時のバランスを任せる! 上まで行けば着地は僕がやるから麗日くんは切っていい!」

「委細承知ぃ!」

「非常口んときみたいに回るなよ!!」

 

 あの時の感覚を思い出し、脚のブーストで加速するのではなく純粋な跳躍で僕は外壁を飛び越える。

 

「なっ!? それほどのジャンプ力……!? やらせるわけには!」

「それは僕のセリフですっ!! ゲートの後から放てば僕のブラックホールが上書きする!」

 

 瀬呂くんのテープで凧揚げのようにバランスを取ってもらいながら、すぐにも外壁の頂上が見えてきた。

 しかしそこで目前にモヤが現れる。ワープゲートを開いたのか。

 これではまずい……そう、思った瞬間にワープゲートは13号先生の放つブラックホールによってのみ込まれた。

 

「いよっしゃあ!」

「いけー委員長っ!!」

「個性切るよ! 後は任せた飯田くんっ!!」

 

 振り返る暇も、応える暇もない。

 今の僕に……いや、俺に求められているのは、そんなことではないから。

 俺に求められているのは、ただ全速力で走り抜け、応援を呼んでくることだから。

 そして、相澤先生を、幾野くんを、A組の皆を助けることだから。

 

「みんな、待っていてくれ……!!!」

 

 真に個性を活かす場を受け、俺のトルクが一段と甲高いエキゾーストを響かせた。

 

 





※原作との相違点1
原作では生徒達を飛ばすワープの際に入り口付近で黒霧と13号先生たちが対峙してましたが、作中では誰も逃がさないようにと黒霧が入り口付近から全員飛ばしてます。
でも一人ポツンと残ってしまったぼっち・ザ・イクノが相澤先生の元に駆け付けられてます。
相澤先生救済RTA始まります。

相違点2
峰田の性欲が駄々洩れになってないので梅雨ちゃんに手加減されています。
また、幾野がクラスメイトの個性把握が急務ということで検討してた結果、緑谷が迅速に作戦を考えられてます。

相違点3
飯田が幾野に任された委員長という立場を重んじて速攻で最適解を出してます。


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14 頼むから俺を本気で怒らせるな

 

 

 

 俺は広場で戦う相澤先生の元に駆け寄っていく。

 ついさっき果たした野暮用で少し時間はたったが、未だ相澤先生は健在だ。

 

「相澤先生!! 加勢します!」

「幾野か!?」

「なに? 生徒が残ってた? 黒霧のヤツ……なに漏らしてんだよ。まぁいい……逃げられたのに健気に向かってきちゃって……女子か、オールマイトの人質にはできるかな?」

 

 俺の声に反応する相澤先生と手マン。

 手マンの方は俺にねっとりした目を向けてくるが変態に用はない。俺を女子生徒だと思い込んでる異常者め。

 今からお前は俺にボコられるんだよ。

 

「先生!! 俺の方から()()()には話しましたっ! あと()()()が個性使ってた!」

「は?」

「? ……っ、なるほど、上出来だ!」

 

 俺は先生に伝えるべき情報を敵側にわからないように言葉を選んで伝える。

 どうやら相澤先生にはしっかり伝わったらしい。

 俺が伝えた意図は二つ。

 

 一つはつい先ほど俺がやったこと。

 USJを一旦出て、少し離れたところで通話を試みたのだ。

 すると見事に圏外ではなくなり、スマホで電話が出来るようになったのだ。やはりこの施設内に電波を妨害する個性の持ち主がいたという事だろう。

 速攻で職員室に電話をかけて校長に簡潔に事情を説明した。オールマイトが既に向かってくれているとのこと。

 君も逃げろと言われたが、みんなを残して逃げられるもんかよ。YESと答えてから舞い戻ってきた。

 

 そしてもう一つは、通話してる最中に全力ダッシュする飯田を見つけたこと。

 向こうが全力疾走し過ぎて会話はできなかったが、スマホを振ってOKサインを見せることは出来たから、飯田にも意図は伝わっただろう。

 その上で飯田には走れと全力で叫んでやった。応援を呼ぶにも俺の報告では簡潔過ぎてもしかすれば初動が遅れるかもしれないし、飯田が伝えてくれればより迅速な対応になることは疑いようがない。

 二重に応援を呼べている。すぐに学園の先生たち、強力なヒーローが応援に駆けつけてくれるはずだ。

 

 だから。

 あとは、俺が一番得意とする時間稼ぎをするだけだ。

 

「幾野! お前は───」

「──17秒。動き回るからわかりづらいけど髪が下がる瞬間が──」

「先生から手を離せボケッ!!!」

 

 相澤先生が飛び込んできた手マンに肘でカウンターを入れた瞬間、俺に下がれとでも言おうとしたのだろう。

 でも俺はもう決めている。俺はどうやっても傷つかないのだから、少しでも加勢する。

 相澤先生に掴みかかろうとする手マンの顔面に、俺は右ヒザを叩き込んでやった。

 

 の、だが。

 

「へぇ……いい動きをするね。でもそれが君の脚を奪う原因になるんだ」

「くっ……!? だぁラッ!!」

「生徒はやらせんっ!!」

 

 手マンの掌でガードされたのだ。右ひざが手に掴まれるような形になっている。

 相澤先生がさらに拳で追撃を繰り出す。

 当然俺も拳で追撃を繰り出す。死ねボケ!

 

「……は? ガッ────っ!!」

「あれ? 普通に入った」

「っ…!」

 

 俺の拳と相澤先生の拳が共に手マンに炸裂した。

 何だ? 急に余裕を出したから何だと思ったが、もしかしてコイツ弱いのか?

 

「何でだよ……!? クソ、イレイザーヘッドに消されたか……!?」

「あ、なるほどねその発言で理解したわ手のひらで発動タイプの個性ね? 射程短っ。雑魚個性の見本じゃんウケるわ。うちのクラスにお前の上位互換いるんすけど!」

「てめぇ……!」

「幾野、油断するな。このまま畳みかけるぞ、厳しくなったら下がれ」

 

 別のヴィランが横やりを入れてきたのを相澤先生がいなしつつ、俺の事も今は戦線に混ぜて問題ないと判断したのか、継続戦闘を許してくれた。

 まぁ個性使えば俺は怪我はしないからな。不意打ちだろうが何だろうが俺に傷をつけられない。

 俺の方に向かってきた雑魚ヴィランの顎を的確に蹴りで打ち抜いて意識を飛ばしつつ、俺は改めて手マンに注意を払う。

 コイツ、掌に相当自信がある様だった。相澤先生の瞬きの間も通せるような技術もある。

 さっき俺の膝を掴んだときは油断していたが、こいつが相澤先生に飛びこんだらヤバイ。

 なんなら他のザコを相澤先生に任せて俺は手マンをボコせば───────

 

「……やるなぁ。ところでヒーロー────本命は俺じゃない」

 

 その言葉の、次の瞬間。

 相澤先生の体が宙に吹き飛んだ。

 

「ぐふっ……!!!」

「先生ッ!?」

「対平和の象徴 改人『脳無』。個性を消せるなんて素敵な能力だけどなんてことはないね。圧倒的な力の前ではただの無個性だもの」

 

 いきなり現れた、全身が黒くて脳味噌が剥き出しになったヴィラン。

 異形型、なのか? 目にもとまらぬ速さで相澤先生を拳で殴り抜けやがった。

 ふざ、け、やがって。

 

「ああ……じゃあ次はそっちの女の子かな。君の個性はどんなものかな?」

 

 俺はその脳無とやらに飛び込んでいった。

 俺が突撃してきたことを察したらしく脳無の気持ち悪い顔がこちらを向く。

 直視したくないタイプだ、キモい顔晒しやがって。

 俺は全力で顔に向けて蹴りを放つ─────が。

 

「欠片も効いてねぇ……!!」

「────────」

 

 何もしゃべることなく、俺の命を刈り取るために脳無が腕を振るう。

 一瞬後に血まみれの肉片になることが予感される速度。

 それを俺は腹に受けて─────個性で潜り抜けた。

 

「……は? なんだそれ、効いてないのか?」

「こい、つっ……!!」

 

 その攻撃を潜り抜けて、俺は理解せざるを得なかった。

 こいつはヤバい。素の身体能力だけで生徒を全員殺せるほどの暴力の塊だ。

 少しでも俺が気を引きつけないと。

 オールマイトが、先生たちが来るまでの時間を稼がないと。

 

「オラッ!! どうした黒光り野郎! 下品な黒光りしやがって凌辱系同人誌からエントリーしたのか竿役ゥ! 俺は欠片もダメージ受けてねぇぞそんなもんかお前!?」

「─────」

「うわ……マジでどうなってんだよお前、全部すり抜けるじゃん。はー……チート個性かよマジやってらんねぇ……」

 

 口で煽りながら脳無の怒濤の攻撃をすり抜け続ける。

 時々こちらからも手を出すのだが、まったく効いている感じがない。

 剥き出しの脳味噌でも狙うか? いや、でもそれで殺しちまったら嫌だ。

 とにかく時間を稼げ。相澤先生はさっきのパンチで気を失っているし、俺がここで踏ん張らなきゃマジでヤバい。早く来てくれオールマイト!

 

「───死柄木弔」

「黒霧。13号はやったのか」

「13号は行動不能には出来たものの、生徒一名に逃げられました」

「は? はー……はぁー………黒霧お前……お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしてたよ……」

 

 俺が脳無と大立ち回りを演じている間に、黒モヤ野郎が戻ってきて手マン、死柄木弔ってやつと話しだした。

 状況が悪くなる一方じゃねぇか! 先生たちはまだか!?

 

「流石に何十人ものプロ相手じゃかなわない。ゲームオーバーだ。あーあ……今回はゲームオーバーだ。帰ろっか」

 

 帰る。

 そうか、ようやく諦めてくれたか手マン!

 マジで判断が遅いよビンタされろこんちくしょうが。そもそもヒーローの集う学校にいきなり奇襲とかどんだけ考え無しなんだよお前。

 この俺の目の前にいる脳無とやらもちゃんと持ち帰ってくれるんだろうなマジで! 早く帰れや!

 

 ……なんて楽観的に考えることは一切できない。

 なにせこいつらはヴィランだ。帰り際にまだ倒れている相澤先生を狙うことだって考えられる。

 出来るか? 俺一人でこの脳無と、手マン野郎と、黒霧を止めることが。

 応援は……応援はまだか……!

 

「けどもその前に、平和の象徴としての矜持を───」

 

 その瞬間を俺は見た。

 死柄木の目が、水難ゾーンの方を向いたことを。

 そして、その視線の先に緑谷と、梅雨ちゃんと、峰田が息をひそめていたのを。

 見た。

 

「───へし折って────」

 

 

 やらせるか。

 

 

「───────!?」

「っ何だと!?」

「あ……?」

 

 俺は咄嗟に脳無の両脚に飛び込んで潜り込む。

 そして、()()()()()

 脳無の両脚を()()()()()()

 

 その光景を見ていた黒霧が叫び、その声で手マンの動きが一瞬止まった。

 十分な隙だ。俺はぶっ倒れる脳無を尻目に、()()()()を無理矢理抑えつけて立ち上がり、手マンと黒霧の方に飛び込み更なる追撃を仕掛ける。

 

 ───『奥の手』だ。

 俺が何か物に潜り込んでいるときに個性を解除すると、()()()()()()()()()()()()()

 物体の硬さもエネルギー保存則も関係なく、俺がいた場所が無になるのだ。それで脳無の両脚を千切り取った。

 

 ……()()()()()()()()

 でも、今はこれしかない。

 13号先生が言っていた、『簡単に人を殺せる力』。その最たるものだ。加減など効かない。

 

 正当防衛だ。

 今、間違いなくこいつは俺の親友と友人たちを殺そうとした。

 このクソヴィランが。

 腕や足の一本や二本、千切られても文句は言わねぇよな。

 

「馬鹿な!? ショック吸収を持つ脳無の脚を千切るなど……!?」

「お前……お前! 何なんだよお前は!?」

「お前らこそふざけたこと言ってんじゃねぇぞヴィランッ!!」

 

 勢いのままに飛び込んでいったが、黒霧の開くゲートが間一髪で間に合ってしまい、距離を取られる。

 俺の腕を振るった攻撃は空振りし、その代わりに峰田たちの傍に手マンがワープしたのが見えた。

 ヤバイ、間に合わない。相澤先生はまだ気を失っている。

 

「峰田ァ!! 手に気をつけろォ!!」

「っ梅雨ちゃん!!」

「ケロ……!」

 

 咄嗟に叫ぶ。

 叫びで察した峰田がもぎもぎを手マンの掌に挟み込んだ。

 ナイスだ。それでアイツの個性は使えなくなるはず……だったのだが。

 もぎもぎがまるで塵になるかのように消えていった。どうなってんだ。あれがアイツの個性だってのか。

 クソ、これじゃ梅雨ちゃんが───────!!

 

 

「────────もう大丈夫」

 

 

 その瞬間。

 俺たちの悪夢の終わりを告げる声が。

 ヴィランたちの悪夢の始まりを告げる鐘の音が。

 USJに鳴り響いた。

 

 

「────────私が来た」

 

 

 ナンバーワンヒーロー、オールマイトがやってきたのだ。

 

 


 

 

 そこからは早かった。

 

 オールマイトが凄まじい速度で峰田たちを救出。

 続いて、俺が千切った脚を超再生で回復させた、一番危険度の高い脳無の相手はオールマイトが担当。

 俺も再び手マンと黒霧に向かおうとしたところで、飯田が引き連れてきた教師陣が集結。

 木っ端ヴィランも片っ端からぶっ倒してって一転攻勢となったあたりで、黒霧が手マンを連れてワープで逃走。

 残った脳無をオールマイトが仕留めて、この事件は一先ずの落ち着きを見せた。

 

「……イクノ、お前……使()()()()()()のか……? 大丈夫なのかよぉ……!」

「峰田……。……いや、大丈夫だ。……ありがとな」

「御礼なんて言うんじゃねぇよぉ……! オイラ、お前がヤバイってわかってても飛び出せなかったんだよぉぉ……!!」

 

 神経が削り取られるような時間を終えてへたり込んでいる俺に峰田が泣きながら謝ってきたが、俺はコイツの気持ちを知っている。

 わかってるよ。お前の事なんて。

 決して、敵にビビって出てこなかったんじゃないんだって。

 

「……怪我した緑谷と梅雨ちゃんもいた。あそこで峰田が飛び込んできちまったら、二人にも危険が及ぶって考えてたんだろ? 実際正しかったさ。俺やお前の個性は守るのに向いてない……あそこでお前たちが出てきたらもっとひどいことになってた」

「でも、でもよぉ……!」

「その上で、お前は何かあれば咄嗟に動けるようにもぎもぎを準備してくれてたんだ。じゃないと手マンの奇襲を防げてねぇし……それがあったから、オールマイトが間に合った。お前はよくやったよ、峰田」

「それでもイクノ! ()()()()()()()が……!!」

「大丈夫だ」

 

 ぽん、と峰田の頭に手を乗せる。

 俺が座っててこいつが立ってるのに身長差の都合で問題なく頭に手が伸ばせるの面白いな。

 ……なんて考える余裕も出てきたんだから、随分と俺も成長したもんだ。

 

「……誰かを助けるためなら、大丈夫だってわかったんだ。俺にとっても大きな成長だぜ。だから……過去の事はもう少し蓋をしておこう。俺は、大丈夫だからさ」

「お前ってやつはよぉ……!!」

 

 ぼろぼろと涙を零し始める峰田に、俺は苦笑を零した。

 本当に、お前はいいやつだよ。

 そんな俺たちを気遣うようにクラスメイト達が心配した顔で駆けつけてくるのを、俺は疲労の残る笑顔で迎えるのだった。

 





※原作との相違点1
相澤先生が脳無の腹パンで気絶。
ただし崩壊は食らってないので腕は無事。
幾野くんがハードモードになりました。
相澤先生は幾野の個性と実力を把握しているので、ここで幾野に戦うなというよりは手伝ってもらい早急に制圧して他の生徒を助けに行く方が合理的だと判断しました。幾野が無敵の個性だからこそ。

相違点2
幾野が学校に電話できたことで教師たちの初動が加速。
オールマイトにほぼ続く形で増援に来られました。
オールマイトも時間を全部使わなくて済んだし緑谷くんも両脚ベキらなくて済みました。
上鳴くんも無事救出。ウェイにはなってた。


次から話のテンション元に戻るのでご安心ください。


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15 一仕事終えた後の一発は最高に気持ちいいな!

 

【side (ヴィラン)

 

 

「痛ってぇ…」

 

 郊外のカフェの一室に、黒霧の個性によりワープしてきた死柄木が横たわる。

 両腕両脚をヒーロー『スナイプ』の個性で打ち抜かれ、重傷を負った状態だ。

 

「完敗だ……脳無もやられた。手下共は瞬殺だ……子どもも強かった……平和の象徴は健在だった……!」

 

 微動だにせず、呟くように文句を垂れる死柄木。

 

「話が違うぞ『先生』……!」

『違わないよ』

 

 そんな彼の言葉に、モニターから響く声が返事をする。

 

『ただ見通しが甘かったね』

『うむ、舐め過ぎたな。敵連合なんちうチープな団体名で良かったわい。…ところでワシと先生の共作の脳無は? 回収してないのか?』

「オールマイトによって吹き飛ばされました。正確な位置座標を把握できなければいくらワープとはいえ探せないのです。そのような時間は取れなかった」

『せっかくオールマイト並みのパワーにしたのに……まァ……仕方ないか……残念』

 

 先程の戦闘でオールマイトがショック吸収を無効化し吹き飛ばした脳無を回収することが出来ず、手駒を失った。

 しかしその事が大したそれでもないかのように、モニターの向こうの声は雑に返事が返ってくる。

 

「パワー……そうだ……」

 

 そして黒霧の言葉に、死柄木が思いだしたように言葉を紡いだ。

 

「一人……脳無のパワーすら欠片も通じなかった女子がいたな…………」

『…………へぇ』

 

 モニターからの返事は興味があるのかないのかわからない、無感情の声色。

 

「あいつ……すり抜けるような個性のくせに脳無の脚をぶっちぎってた……訳が分からないヤツだよ……あの邪魔がなければ生徒の一人や二人は殺せたかもしれない……ガキがっ……ガキ……!」

 

 死柄木の声は怨恨に満ちた呪いのような深みを持っていた。

 余りにも死に触れすぎた物だけが捩じり出せる呪怨。

 

『悔やんでも仕方ない! 今回だって決して無駄ではなかったはずだ。精鋭を集めよう! じっくり時間をかけて!』

『我々は自由に動けない! だから君のようなシンボルが必要なんだ死柄木弔! 次こそ君という恐怖を世に知らしめろ!』

 

 ヴィランの暗躍は、ここから始まる。

 

 


 

 

 翌日の早朝。

 

「昨日の夜シコったらめっちゃ濃いのいっぱい出た」

「朝の最初のセリフがそれかよお前ェェ!?」

 

 俺は峰田と共に日課であるランニングを行っていた。

 昨日はUSJで大きな事件があり、俺も峰田も相当疲労しただけあって今日は軽く流す程度のランニングだ。

 

「いやさぁ……なんか生命の危機に立たされたからかな? めっちゃ捗ってさぁ……いやぁ味わい深かったね……感動したぁ……」

「早朝とはいえ走りながらねっとり赤裸々にオナニー事情を話すんじゃねぇよバカがよぉ…!」

 

 下らない話で峰田をからかえる。この上ない平和を満喫できているな、ヨシ!

 

 まぁ昨日はあの後大変だった。

 幸いにして生徒全員、殆どケガがなくて済んだ。一番大きな怪我が緑谷の中指の骨折だったかな。

 それぞれがヴィランと対峙したと聞いたが、13号先生のいるところでは先生が身を挺して生徒をかばい、他の所では各々が迎撃したらしい。

 上鳴が一瞬人質になりかけてヤバかったらしいが、スナイプ先生ほか雄英教師陣が早めに応援に来てくれたのも生徒の被害が少なかった要因の一つだろう。

 やはり俺の判断が偉かった……! まず外部に連絡を試みた俺偉い……!!

 その点は校長先生からも褒められたけど、最初に黒霧に突っ込んだことと逃げずに脳無相手に大立ち回りを演じたことはめっちゃ怒られた。

 んにゃぴ……先生方が生徒を荒事に巻き込みたくない気持ちは分かるけど怒ることはないじゃんねぇ……。

 

「なので相澤先生にはいつか絶対ショタになってもらう。絶対にだ」

「担任の男性教諭にまで毒牙を向けるのかよお前はよぉ!?」

 

 いやああいう雑なオッサンに限って子供の頃可愛かった説あると思います。

 親御さんがお名前にショウタ君なんてつけるんだから美少年だったに決まってるだろ!

 髪を伸ばしてるのも若かりし頃自分の見た目に自信があった名残と見たね! 俺は詳しいんだ。

 

「それにしてもまー相澤先生も13号先生も軽傷でよかったよ。いくらリカバリーガールがいるとはいえ、命の危険もあったからなぁ」

「まぁなー。無事にこうしてオイラとお前で気兼ねなく走れてるのが有難いこったよ」

 

 最近見つけた河川敷公園を一周し終えて、俺と峰田は水分補給も兼ねて少し休憩する。

 改めて思い返せば昨日は本当にとんでもない体験をしてしまった。

 プロヒーローになればこれが日常となるのだろうか。プロってすげぇな。

 

「……ん。電話だ」

「お、こんな朝に? 誰だ?」

「あー……葉隠ちゃんだ」

「ハァ!? なんで!?」

 

 スマホが鳴ったので確認してみれば葉隠ちゃんからの通話だった。

 興奮し始める童貞少年を抑えながら俺は通話応答ボタンを押した。

 

『あ、出た! お、おはよーセンちゃん!』

「おはよ、葉隠ちゃん。どうしたの、こんな朝早く」

『あ、うん、えと、昨日の事が心配で、大丈夫だったかなーって……朝起きたらどうしても声聞きたくなって……』

「天使か? 葉隠ちゃんちょっと結婚しよ?」

「何話してんだよお前らよぉぉ……!!」

『え!? いきなり急すぎるよー!? いつものセンちゃんで逆にちょっと安心したよ!? ……あれ、峰田くんも近くにいるの?』

「あー、俺と峰田は毎朝ランニングしてんのよ」

 

 急に俺の声が聞きたいとか言う殺し文句を述べてきて青少年の不健全なナニかを刺激してくる大天使ハガクレ=トール。

 優しい子やん……。俺のこと心配してくれてたんやなって……。やはり天使……。

 帰ってシャワー浴びてから葉隠ちゃんでシコります。

 

「一先ず俺は無事だよ、昨日も怪我ひとつないの見たでしょ?」

『うん、それはそうなんだけど……昨日の夜にラインで梅雨ちゃんに聞いたら、センちゃんすっっっっごい頑張って敵を引き付けてたって聞いて……なんか、心配でいてもたってもいられなくて……!』

「天使か? 葉隠ちゃんやっぱ結婚しよ?」

「天丼で求婚するやつ初めて見た」

『まだ早いよー! うん、でも元気そうでよかった! 大変だったみたいだし落ち込んでないかなって心配しちゃったから……』

「葉隠ちゃんの優しさがスゥーっと染み込んでメンタルも完治したから大丈夫。いやほんと、心配してもらっちゃって悪かったね」

『ううん、全然! こっちこそこんな朝早くから連絡しちゃってごめんね! そ、それじゃまた明日!』

「おお、また明日」

「完全に彼氏彼女の距離感じゃん……まだ入学して一か月も経ってねぇのに……」

「人徳かな」

「根拠のない自信が怖ぇよぉぉ……!!」

 

 朝一から葉隠ちゃんとお話が出来て気分もホクホクですわ。

 きっと今日はとってもいい日になるねミネ太郎!

 

「ペッ!」

「河川敷公園に唾を吐き捨てるな」

「どうせオイラなんて誰からも心配されてねぇんだよ……昨日だって誰からも連絡来なかったしよぉ……」

「泣くなって峰田。昨日は俺が連絡したじゃねぇか」

クソ際どい自撮り送ってきたよなァ!? どんだけ鋼メンタルなんだよって驚愕したよオイラぁ!? あれのせいで萎びたわオイラのリトルミネタがァァ!!」

「今日の分欲しい?」

「話が通じない!」

「今ここで脱ごうか♥」

「殺さなきゃ……これ以上被害者を増やさないためにも今ここで……!!」

 

 下らない話で峰田をからかって楽しい時を過ごしたのだった。

 なお帰りのランニングの最中に峰田の方にも梅雨ちゃんから心配のラインが入って機嫌が直ったことを後述しておく。

 その後普通にグルチャで昨日大変だったねトークで盛り上がったのもさらに記しておこう。

 

 


 

 

 そして登校が再開した翌日。

 

「お早う」

「「「相澤先生復帰早ええええええ!!!!」」」

 

 そこには無事な様子を見せる相澤先生の姿が!

 脳無にぶん殴られて肋骨とか腕の骨とか折れてたって聞くけどだいぶすっかり治っていらっしゃる。

 リカバリーガールすんげぇ。

 

「先生! 無事だったのですね!!」

「ああ……幾野が踏ん張ってくれたからな。教師として、ヒーローとしては情けなさの極みだが……改めて言葉にしておく。一昨日は助かった、幾野」

「いえ、俺にはあれくらいしか出来んので。先生が率先してみんなを守ってくれて、飯田委員長が助けを呼んでくれたからこそ無事に今日があるものと俺も……」

「だがお前が無茶をしたことは後で指導する」

「ひどい手のひら返し!?」

「まぁ俺の安否はどうでもいい……何よりまだ戦いは終わってねぇ」

 

 持ち上げて堕とすのが好きなのかな相澤先生。サドってやつですか。

 謙遜して答えたのに突き放された。やはりショタにするしかねぇな。俺は決意した。

 

「戦い?」

「まさか……」

「まだヴィランが───!?」

 

 

 

「───雄英体育祭が迫ってる!」

 

「「「クソ学校っぽいの来たあああ!!!」」」




次話からギアを一つあげていきます。

次回、「オラッ! 緑谷の性癖ダメになっちゃえ♥」
ご期待ください。


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16 オラッ! 緑谷の性癖ダメになっちゃえ♥

 

 

 

 朝のHRで体育祭に関する説明を受けてクラスの皆でテンションを上げて、お昼に麗日ちゃんのテンションがさらにおかしいことになり、なんか緑谷がオールマイトにお昼を誘われて、そんでもってその日の放課後。

 

「───分かった、申請は通しておく。利用時間と下校時間は守れよ」

「了解っす」

「じゃあ行ってよし」

 

 相澤先生にUSJ襲撃事件の件で改めて職員室で絞られて、そのついでに野暮用を済ませてクラスに戻ってきたところで、なんかA組の前からかなりの人数がすれ違うように去って行った。

 なんやなんや。俺のファンか?

 

「あ、お帰り幾野くん」

「おお緑谷。なぁ、さっきの生徒の群れは何? 俺のファンだった? そっかー悪いことしたなーアイドル不在でがっかりさせちゃったかー!」

自意識過剰だし誤認してるよ!? 違くて、なんて言ったらいいか……他のクラスからの雄英体育祭に向けた敵情視察、みたいな? すごいライバル心で……かっちゃんが挑発しちゃってさらに、ね」

「はーん? ……ああ、俺らA組が目立ってるからか? 他のクラスも暇だね、どーも」

 

 緑谷が答えてくれる言葉に俺ははっと肩を竦めた。

 確かに気にはなるだろうさ、ヴィランの襲撃を生き延びたクラス。どんな戦闘があったのか、なんてのも同い年の奴らなら気にして当然。

 でもそれで俺らに向けて敵情視察に来て帰るのは違くない?

 本気で俺らを打ち負かしたいなら、やること違くない?

 

 本当にやることは敵情視察じゃなくて────鍛錬でしょ。

 鍛えnight。

 だったら鍛えnight!

 

「あー、クラスにいるみんな、ちょっといい?」

「ん、何だぁイクノ」

「また下ネタぶっぱなすんじゃないでしょうね」

「んん?? ぶっぱなしてほしいのかな耳郎ちゃん??? 欲しがりさんめ♥」

「ごめんウチが悪かった。悪かったから普通に用件言って頼むから」

 

 俺は緑谷や飯田、峰田など、まだクラスに残っているみんなを確認する。

 爆豪ちゃんと轟は帰っちまったか。ま、明日声かけりゃいいか。強制でもないしな。

 

「さっき相澤先生と話してきてさ、体育祭までの2週間、放課後に体育館γ借りる許可貰って来たんだわ」

「体育館を!?」

「借りた!?」

「えっオイラも初耳なんだけどイクノ。なんで急にそんな事……」

「そりゃお前と一緒に体育祭に向けて個性の訓練するからだけど」

「一言くらい相談しろよォォ!?」

「で、まぁ俺と峰田だけってのも寂しいしさ、一緒に訓練したい人がいたらどうかなって。個性も大量破壊とかしなけりゃ常識の範囲で使っていいって了解取ってるからさ」

「オイラの話聞いてねぇコイツ!!」

 

 俺はクラスの皆に、合同訓練はどうかと誘った。

 

 元々、昨日のうちに考えていたことなのだ。

 ヴィランの襲撃に会った時、俺は俺自身を守る事は出来たが、他の誰かを守る行動は出来なかった。

 強大な力を前に、俺の体は無事でも、周りの人を助けるだけの力が今の俺にはない。

 少なくとも俺はそう感じた。

 

 力が必要なんだ。

 体育祭云々というよりも、今後ヒーローをやっていくにあたり、ヴィランを相手にしても負けない力が。

 個性解除による空白なんていう使い勝手の悪いそれじゃない。

 相澤先生の戦闘技術のような、対ヴィランの力が。

 

 ……まぁ、それはそれとして一人で黙々と鍛えるのは俺らしくない。寂しい。

 折角だし仲を深めた学友とも一緒に意見出しあいながら鍛えられりゃあなーと思い、こうして声をかけているのだ。

 ああナカを深めるってそういう。捗るな。

 

「勿論、予定がなければぜひ参加させてもらおう! しかしこれは失態……! 訓練施設借用の申請は本来ならば委員長である俺が率先して動くべき事案……!」

「いいんだよ飯田、俺が勝手にやりたかっただけなんだから。これでまず一人な。後で組手とかもしようぜ、体育祭だと個人戦もあるし」

「あ、それじゃあ私もええかな!? 毎日は難しいかもだけど! 重力制御の許容量少しでも上げないとって思っとったんよね!」

「ウチも行こうかな……体育館γって土壁がいっぱいあるとこだよね? 気兼ねなくプラグ刺して個性の威力試せそう」

「わたくしも何回かはお顔を出させていただきますわ。家にも個性訓練できる施設はありますが、副委員長として皆様の様子も確認しなければ」

「俺も顔出してみっかなー」

「センちゃん、私も行くー!!」

 

 それぞれから乗り気の返事が返ってきて俺もにっこり。

 葉隠ちゃんがぶんぶん腕を振ってたのでにっこり笑顔を向けたら照れてる。可愛い。

 全員が毎日とは当然行かないだろうが、みんなで一丸となって練習するってのもきっといい経験になると思うんだよね個人的に。楽しみだ。

 お前ら全員俺と峰田の地獄の鍛錬についてこれるかなァ……!!

 

「参加も不参加も途中抜けも自由でいいよ、怪我だけはしないようにな。緑谷はどうする?」

「あ……そうだね、僕も行くよ。その、僕の場合は個性の調整が急務だし。焦らないとね」

「おう。そんじゃ今日から早速使えるんで、来たい奴はジャージに着替えて集合な。2時間は使えるってさ」

「お、オイラは今日が新作のグラビア雑誌の発売日だからお先に失礼────」

「逃がさんお前だけは」

 

 俺は逃げようとする峰田の首根っこをひっつかんで、着替えるために更衣室に向かうのだった。

 

 


 

 

「そういえばさ、幾野くん」

「おん?」

 

 ジャージに着替えて緑谷と峰田と並んで体育館γに向かっている最中に緑谷が声をかけてきた。

 なんだかこちらを心配しているような顔だ。なんだろう?

 

「何? おっぱい揉む?」

違うよね!? 今絶対そんな流れじゃなかったよね!? それに幾野くん胸はないよね!?」

「緑谷、コイツの相手を真面目にしちゃダメだ」

「これに3年耐えた峰田くんへの敬意が日に日に深まってしまう……! って、そんなじゃなくて……知らない? ほら、最近ネットで幾野くんの映像が話題になっててさ……」

「え、何それ知らん。どんな映像?」

 

 俺自身、あんまりネットとかみないしな。自撮りでも流出したか?

 いやエロサイト巡りはするんだけどそれしかしていないというか。緑谷はヒーロー関係の情報とか集めてそうだし、その中に俺の顔があったんか? なんで?

 

「この間マスコミが朝に校門前で取材してたじゃない? あれの映像で……幾野くんの顔と声がいい、って一部のネット界隈でバズってるんだ」

「マジか。世間がとうとうコイツを知っちまったのか。この世の終わりだ」

 

 緑谷にスマホで動画を見せてもらうと、確かにあの日の朝に俺がインタビューを受けた映像が切り抜かれていた。

 

お仕事お疲れ様です♥

 

「うわ可愛っ。誰これアイドル?」

君だよ!?

「冗談。……ほーん、つまり世間は俺の事を今可愛い女の子だと認識してるってわけだ……」

「ヤバイぜ最高に嫌な予感がしてきた」

「つまり……体育祭の選手宣誓で性別カミングアウトできるってことだよなァ!?

「地獄かな?」

「地獄だな」

 

 まさか入学当初に不発だった夢を叶えるチャンスが再び来ようとは!!

 ますます楽しみになってきたぜ体育祭!!

 待ってろよお茶の間の少年諸君!! 君達の性癖を取り返しのつかないようにしてやるからなァァ!!!

 

「幾野くんがかっちゃんよりも邪悪な存在に思えてきた」

「被害程度は大、致死率は小」

「峰田くんも首席だよね? 今からでも幾野くんを止めて峰田くんが選手宣誓できない?」

「オイラじゃんけんで負けたから……」

 

 ウキウキしながら俺は体育館γへ続く廊下をスキップし始めるのだった。

 

 


 

 

「…………くっ……!」

 

 体育館に集まり、各々がそれぞれの個性を、体を鍛える最中。

 緑谷が麗日ちゃんの隣でなんかオナ禁3日目くらいのつらそうな表情をしているのを見かけて、俺は声をかける。

 

「緑谷大丈夫か? おっぱい揉む?」

「二度目だよ!?」

「え、デクくん一度は揉んだん……?」

「誤解だよ麗日さん!?!?」

「5回も揉んだん!?!?」

「風評被害が止められない!!!」

「ウケる」

 

 こいつおもしれ。

 

「……で、どしたんよ緑谷。なんか悩んでる風だけど」

「あ、いや……その、個性の調整が上手くいかなくて」

 

 その悩みに、俺はあーね、と納得した。

 緑谷の個性。超パワーと引き換えに肉体が壊れてしまう諸刃の剣のそれだ。

 

「体が壊れないように個性を使いたい、ってことであってるよな?」

「うん……だけど中々これが……調整のコツをつかむイメージはあるんだけど」

「へー、どんなイメージ?」

 

 休憩がてら、俺は緑谷の悩みに付き合ってやることにした。

 個性を使う上でイメージは重要だからな。

 俺も出来ると思い込むことであらゆるものをすり抜けてきた過去を持つ。

 水分補給をしつつ、ジャージを空けて首元と胸元の汗をスポーツタオルで拭いながら緑谷の話を聞く。

 

「ふぅ……」

「私より所作に色気があるやん」

「イメージは……その、前に信頼してる人に相談もしたんだけど」

「うんうん」

「電子レンジの中で卵が割れないようなイメージで」

「なんて?」

 

 俺は緑谷の言葉に思わず突っ込んだ。

 何言ってんだコイツ。

 

「え、だから電子レンジの中で、ほら、温めると卵って割れ……」

「待て。待て待て緑谷。……すまん、まず最初に言うな? 気を悪くしたらごめんな?」

「えっ、何?」

イメージがマジでクソ

なんてこと言うの幾野くん!?

 

 本心からの言葉を緑谷に零してしまった。

 それに慌てる緑谷だが、いや、でもよく考えてみてほしい。

 

「いや、まずな? 緑谷、お前電子レンジで何Wでどれくらい温めたらどのサイズの卵が破裂するのか分かってる?」

「え!? ……えっと、わかってないかも……!?」

「だろ? 俺もわからんわ。なんでそんな分からないイメージでずっと考えてるんだって思わない?」

「……!!」

「それに卵が破裂して、その結果がケガなんだろ? イメージする卵の外見の変化にそれまでの過程がないじゃん。100か0じゃん。しかも100で体壊れるんだからそりゃ毎回怪我するわ」

「……ごめんデクくん、私も話聞いてそう思った」

「追撃!!」

 

 緑谷が俺と麗日ちゃんのダブルパンチで地に伏してしまった。

 いやでも実際そうとしか思わなかったもんで。

 え、だって電子レンジで卵温めても破裂する瞬間まで変化しないよな? なんでそんなイメージになっちまったんだ緑谷……。

 

「個性はイメージが重要ってのは俺も同意だけどさ。つか緑谷、イメージが悪すぎてこれまで自爆してたんじゃないか……?」

「うっ……否定できる材料がないです……!」

「あれか? もしかしてこのイメージが浮かんだときになんかさっき言ってた、その、信頼できる人からいい感じにアドバイス受けたのが成功体験になっちゃってるとか?」

「そ、そそ、そんなことは……!!」

「ああ、オールマイト?」

「鋭すぎるよ幾野くん!?」

 

 点と点が線でつながったので俺の中の女の勘(欺瞞)で問いただしたら図星だったらしい。

 オールマイトに目をかけられてたもんな。大ファンだって話だし、そりゃオールマイトにそのイメージを肯定されたら引きずりたくもあるか。

 まぁそこはいい。別に緑谷とオールマイトの関係は興味ないからな。

 今はとにかく。

 

「……じゃあ試しでいいから、それに代わるイメージでやってみようぜ? 0から100までの力の入れ方が分かりやすいイメージでさ」

「う、うん……でもどうすればいいか……」

「あ、それなら今考えたんやけど、水道とかどう? ほら、蛇口をひねると水の量変わるでしょ?」

「水道……あー、いいかもな。全開で蛇口開けば100で出るし、ひねれば微調整が効くし」

「成程……!! ちょっとやってみるよ!!」

 

 緑谷は眼を閉じて、再度イメージを膨らませる時間を取っている様だ。

 まぁ何事も試してみてナンボだ。俺だって個性をここまで鍛えるのに何度峰田のもぎもぎで試したか数えきれないしな。

 これで出力の調整が出来ればもうけもん。あれだけのパワーだ、10%、いや5%単位で出力したってかなりの動きになるだろう。

 

「ね、そーいえばさセンくん」

「ん」

「センくんってどんなイメージで個性発動しとるの? 潜る個性って……こう、何か複雑なイメージだから。手の一部とか脚の一部とか全身とか、そうやって考えてるのかなーって」

「そう? 逆に麗日ちゃんの無重力の個性の方が俺はピンとこないけど……まぁそこは。俺のイメージって言っても……んー、説明が難しい」

 

 緑谷がイメージを膨らませているところで麗日ちゃんが質問してきた内容に、俺は首をひねってから答える。

 

「そもそも、俺は個性を()()()()()()()してるからさ」

「えっ? ……ええええ!?」

「え!? 幾野くん、今なんて!?」

「いやだからずっと個性発動してるんよ。寝る時も風呂の時も。小さい頃からずっとそうしてきたからな……むしろ意識しないと個性解除状態にならないんだよ」

 

 俺は自分の個性のイメージの話から、常に個性を発動しているという事実を簡単に二人に説明する。

 幼少期のとある出来事がきっかけで、俺は個性を解除することを恐れるようになった。

 先日のUSJでだいぶトラウマは薄れてきているのが分かったが、それはそれとして個性常時発動はクセになってしまっている。

 

「え、でも幾野くん、別に今潜り込んでないよね……?」

「緑谷はイメージに戻れって。……潜り込んでないのは『潜らない』ってイメージしてるからだな。『潜る』って考えればその部分が潜ってくし、全身で飛び込むって思えば全身が潜るし……あと、不意に何か攻撃を受けたりしても無意識で『潜る』ようにしてある」

「……は? え、不意打ちも通じないん?」

「むしろそのために常に個性を発動していると言っても過言ではないというか。嫌じゃん急に隕石が落ちてきてITEッ!! ってなって死んだりするの」

「隕石はそうそうないけどね!? でもすごい……! 無意識で危機を感じ取って個性が自動発動するなんて……! どれほどの鍛錬をすれば……いやこの場合はイメージ? やっぱり幾野くんは個性の習熟度が段違いだ……峰田くんもそうだし二人でどれほどの特訓を……それに個性を発動し続けるスタミナだって……よほどキツい特訓だったのか……僕もそれを……いや……待てよ……?」

「また始まっちゃった」

「おーい緑谷戻ってこーい」

 

 俺の個性の話をしてたら緑谷が混ざってきたうえに思考の渦に溺れてしまっていた。

 分析することはすげぇいい事なんだけど急に来るのが悪癖かもなこいつのコレ。

 

「……幾野くん! 教えて!」

「お、戻ってきた。はぁい、なんでちゅか緑谷ちゃん♥」

なんで赤ちゃんみたいにあやしてきたの!? え、えっと……聞きたいんだけど、幾野くんのその個性って、常に全身で発動しながら、出力をコントロールしてる……って事なのかな!?」

「ん、あー……そんな感じだな。腕だけ個性発動して潜るよー、とかじゃなくて、まず全身で個性を発動して、潜らせる部位を選択するというか。勿論全身で潜ることだって多いけど───」

「やっぱり! そうか、幾野くんと同じイメージでいいんだ……!! 僕は今まで個性を『使う』って事に固執してた……! 必要な時に、必要な箇所に100%で……! スイッチを切り替えるようにしていた……!! それだとそもそも反応が遅れるし部位への負担も大きい……!!」

「ねぇ麗日ちゃん、そろそろ訓練再開しよっか?」

「せやね。私は個性の許容量増やさんとなー」

「なら始めからスイッチを全てつけておけばよかったんだ!! 一部にしか伝わってなかった熱がまんべんなく伝わるイメージ……!! 電子レンジを……いや、水道の蛇口をひねって、細い水が流し台に薄く広がる様なイメージで……!!」

 

 緑谷がまた百錬自得の極み(オナニー)に入ってしまったので俺たちは訓練に戻ろうと麗日ちゃんに声をかける。

 うーんと背伸びをして、さて筋トレをもうワンセット、と思っていたところで。

 

「そうだ、オールマイトも言っていた……!! 何で忘れてたんだ、水でよかったんだ……!! 僕の受け皿がまだ小さいならその受け皿に水を薄く張ればいい……! 全身、常時────身体許容上限(5%)────ッッ!!」

 

 緑谷の体に、赤い光の亀裂が走った。

 そして続けざまに、緑色の電気がバチバチと全身に帯電しはじめる。

 は?

 

「お、おおッ!? 緑谷お前、それどうしたお前それ!?」

「うわデクくん!? なんかすごいよ!?」

「う、んっ……!! イメージが、噛み合った……!! そうだ、器でよかった……!! 器と、蛇口から流れる水……!! 自分の体で受け入れられる力を、幾野くんみたいに、全身にっ……!!」

 

 バリバリと纏う紫電のコントロールに集中している緑谷。

 その様子に俺達だけではなく、周りで特訓していたクラスメイト達も注目を向け始めた。

 向けざるを得なかった。

 

 その緑谷の力は、なぜか、どうしてか。

 見ているだけでワクワクしてしまうような何かを感じとってしまうから。

 

「……緑谷。その状態で動けるか?」

「わかっ……らない……! どれくらいの力で、どれくらいの速度で動けるのかっ……!!」

 

 俺は緑谷に向き直り、声をかけた。

 奇しくもお互いの距離は5m。

 いい距離だ。ああ……とてもいい距離だ。

 ()()()()を始めるのに最適な間合い。

 そしてどんなに全力で殴っても壊れない()()()()()()()()()がここにいる。

 

 俺はにやりと笑う。

 

 

「─────試してみるか?」

 

「─────お願いするよ、幾野くん!!」

 

 

 緑谷も、応えるようににやりと笑った。

 




クラネスハインド様よりファンアートを頂いたので紹介させていただきます!
①野外露出で性癖を捻じ曲げに行くセンちゃん

【挿絵表示】

峰田の前で脱ぎだすセンちゃんを描いてもらいました。
上気した表情がエッチだよセンちゃん!
これに慣れてしまった時点で峰田の性癖はおしまいなのでは? 俺は訝しんだ。
ファンアート心より感謝申し上げます。有難うございました!



カルピー様よりファンアートを頂いたので紹介させていただきます!
①ヒーロースーツでエッチなポーズを考えるセンちゃん

【挿絵表示】

ヒーローコスチューム姿のセンちゃんを描いてもらいました。
腰つきよい……けど真のフェチズムは腋(真顔)
躍動感あふれるマフラーと髪もいい……カッコよさと可愛さが同居するセンちゃんの表情も素敵です。
ファンアート心より感謝申し上げます。有難うございました!



緑谷フルカウル習得RTAここでタイマーストップです。
記録は体育祭前。RTA走者のなかでは下の上と言ったところですかね。

幾野くんは常に全身に個性を発動してオート発動もしてます。
幼少期のトラウマ? んにゃぴ。


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17 まさかこのタイミングで閑話だと……!?

唐突に思いついた閑話を零していく回となります。
緑谷の筆おろし(意味深)は次回から。




 

【① 緑谷くん、おうちデートしよ♥】

 

 

 時は体育祭一週間前。

 俺は最近よく放課後に戦闘訓練を共にするようになった緑谷と一緒に下校していた。峰田も一緒だ。

 明日は授業が午前で半ドンで体育館も借りてないのでちょうどよいと思い緑谷に声をかける。

 

「なぁ、明日緑谷んち遊びに行っていい?」

へぇあ!? きゅ、急に何で!? ぼぼぼ、ぼっ、僕の家大したものないよ!?」

「ボボボーボ=ボーボボの話始めるのかと思った」

 

 遊びに行きたいと伝えたところ何故か緑谷が急に動揺し始める。

 なんや。別に変なこと言ってないよな?

 中学時代は峰田んちに何回も遊びに行ったし友達の家に遊びに行くのってそんなにおかしなことか?

 

「いやさ……俺、最近みんなと一緒に鍛錬する中で気付いたことがあんのよ」

「え、それってどんな……?」

「自分の言動がおかしい事にようやく気付いたか?」

「言動は恥じるところはない」

「恥じろよカス」

「なんつーか、俺ってヒーローに関する知識、全然足りてなかったんだなーってさ」

「……あー、うん……それについてはなんか僕もゴメンいつも早口で」

「いや緑谷が良く解説してくれてむしろ助かってる」

 

 何で遊びに行くのかというと、緑谷の家にあるヒーロー情報誌などの読み込みが目的だ。

 雄英に入学してから感じたのだが、俺の中のヒーロー知識が余りにも乏しい。

 峰田と共にエロに走り続けた中学時代、俺たちが注目するのは女性ヒーローで大体エロ目的だった。男性ヒーローは大きなニュースになったりランキング上位だったりの数名程度しかよく知らん。

 それでも中学時代は問題なかったが、雄英のヒーロー科にいる生徒としてそれはどうなん? となり、緑谷に助けを求めたわけだ。

 

「お前のその知識はマジでスゲーって。で、よかったら緑谷んちにあるそういう情報誌とか読ませてもらいながら、解説なんかしてもらえたら助かるなって思ってさ。頼るばっかりで悪いけど」

「あ、そういうことなら……僕は全然大丈夫だよ! 普段訓練に付き合ってもらってるし、そのお礼になれば! えへへ、家に友達を呼ぶのって初めてだ」

 

 急に悲しいことを言い始める緑谷。

 そうか……そういえばコイツ中学までは無個性だったっけ。個性社会の闇が垣間見える。

 初めてのお家に呼ばれたお友達となれば親御さんにはしっかり挨拶しねぇとなぁ!!

 学校帰りに寄る事になるから制服なのが惜しいぜ。私服なら緑谷を大混乱に叩き込めたのに。

 

「緑谷、オイラも行っていいか? ってか行くわ。お前の性癖をオイラは守らなきゃならねぇ」

どういうことなの峰田くん!? もちろんいいけど! でも峰田くんが求める様な本はうちにはないよ……!?」

「いやオイラも普通にヒーローの勉強付き合うからな? オイラもイクノの事茶化せるほど知識ねぇからよ」

「えっ、ごめん……」

 

 ついでに峰田もついてくることになった。まぁ言い出さなけりゃ俺の方から声をかけたけど。

 お菓子と飲み物買っていかないとな。あと秘蔵のグラビア雑誌を貸し出してやろう。緑谷にも女慣れしてもらわんと。

 麗日ちゃん相手にはだいぶマシになったけど入学当初は女子に声を掛けられるとビクっとしてたコイツの事だ。将来的にはやはりヒーローになるのだから男女の区別なくコミュ強にならなければ。

 

 ん?

 そこでふと思った。

 

「なぁ緑谷」

「ん、なに?」

「俺って可愛いよな」

脈絡!? いや否定はしないけど……! モデル顔負けだとは思ってるけど……!」

 

 うん、とりあえず俺の顔を緑谷はちゃんとメス顔として認識してくれてるらしい。

 しかし、それだと普段の様子に説明がつかない。

 訓練もそうだが、その前から緑谷は俺に対しては普通に男子に接するように話してくれてるのだ。

 なんで?

 

「ほら、緑谷って女子と話す時アガる癖があるじゃん?」

「それも否定できないね……これまで全然女子と話してこなかったから」

「闇か。……でも俺には普通に話せてるよな。なんで? ってちょっと思った」

「あー……それは……」

 

 うーん、と緑谷が僅かに悩む。

 言葉を探しているようで、俺と峰田はそれを待つ。

 

「……うん、実を言えば入学初日なんかはまだ女の子だと勘違いしてて……アガってたのも事実なんだけど……」

「だったな」

「それはイクノが悪い」

「うん、でも……ちゃんと男子だって言うのはその日のうちにわかったからさ。その、見た目で態度を変えるのって、やっぱりよくないと思ったんだ」

「っ……」

「幾野くんは男子で、こんな僕にも気さくに接してくれるから。その、友達として……友達に余計な気を遣わせたくないから、早く慣れたいなって思って。それで結構意識して、緊張しないようにしてた」

 

 緑谷の語る内容に、俺はトゥンク……と胸が鳴ってしまう。

 何だコイツイケメンか?

 顔はともかく心がイケメンすぎんか??

 

「ちょっとホレそう」

逃げろ緑谷!! ここはオイラに任せて早く行けェ!!

冗談だよね!? あはは……でも、こういう冗談も度が過ぎなければ楽しいよ。それに、なんていうか、幾野くんの顔で慣れてきたのか最近は女子とも前ほど緊張せずに話せるようになってるし。僕の方こそありがとうって感じ」

「精神的イケメン初めて見た」

「これがヒーロー……」

 

 成程、この会話で改めてわかった。

 緑谷は、心がどこまでもヒーローなのだ。なんでもまっすぐに向き合うやつなのだ。

 いいやつだ。これは俺も来週からの戦闘訓練にさらに精を出さなければならない。

 

「明日はエロ本何冊持っていけばいい?」

やめてね!? ウチ父さんが単身赴任で母さんしかいないからそういうのバレたらヤバいからね!?」

「ってかイクノの見た目でそれやられるの親御さんに見つかったらマジで緑谷への風評被害がヤバい事になる」

「そだね。それじゃあ……緑谷の部屋でこっそり……ね♥」

やっぱウチくるの断っていいかな!?

 

 けらけらといつものように緑谷をからかいながら、俺たちは多分青春っぽい何かを過ごしたのだった。

 なお遊びに行ったときには緑谷のベッドの下にグラビア雑誌を2冊ほど仕込んでおきました。時限式地雷。

 

 


 

【② なんだかんだで信頼度稼いでます】

 

 

「イクノ! 私は気付いたことがありますっ!!」

「どしたの芦戸ちゃん」

 

 午後のヒーロー訓練を終えてホームルーム前の時間。

 更衣室から教室に戻ってきて、芦戸ちゃんが俺に声をかけてきた。

 

「イクノの個性っていっつも発動してるじゃん!」

「せやね。こないだ説明したね」

「イクノの個性って壁もすり抜けて見えるじゃん!」

「せやね。色は見えないけど」

いつでも女子更衣室覗けるってことじゃん!?

「失礼な」

 

 芦戸ちゃんの言葉に、俺はふんすと鼻を鳴らして答える。

 いや、正直なところいつか言われるとは思っていた。実際、この力に目覚めたころに峰田にも言われたことがある。

 やろうと思えば覗ける、それは事実だ。

 だが、それをしない理由がある。俺は女子が泣くことは嫌いなのだ。

 

「そもそも本気で女子の着替え見たいなら初日の時点で女子更衣室に入ってるよ」

「う! そ、それはそうかもしれないけどー!」

「……俺の個性、悪用しようと思えばマジで何でもできちゃうからさ。だからこそマジでやらかすようなことには使わないよ。ヒーロー目指してるしな」

 

 真面目な表情を作りながら芦戸ちゃんのくりっとした黒い瞳を見据えて俺は答える。

 さっき言ったことが俺の想いの全てだ。

 やろうと思えば覗きどころかすり抜けて突入だってできるだろう。この個性は悪用するという意味で言えば証拠すら残さず何でもやり放題になってしまう。

 でも、だからこそ俺はこの個性だけはそういうコトに使わないと決めてるんだ。

 葉隠ちゃんはどうなんだって? あれは別枠。本人が脱いでくるんやもん。透明だから個性使わないと可愛いおめめが見えないし。許可取ってるし。

 

「あー……芦戸、それ実は俺も思ってたんだけどさ。そうじゃねーんだよ」

「ん、切島? なに、聞いてた?」

「ああ。確かに幾野はエロバカなんだけどよ、そういう所きっちりしてんだ」

「エロバカはひどくない?」

「事実だろ。ま、でもフォローしておくと、俺も切島も幾野が覗きしてないの知ってっからな」

「上鳴も? え、どゆこと?」

 

 そんなところに切島と上鳴がどうやら俺の助けに来てくれたようだ。助かる。

 

「幾野のやつ、更衣室で絶対女子更衣室側に顔向けねーんだよ」

「逆側の壁の方をずっと向いて着替えてんだよな。個性知った今だから分かるんだけど、あれ女子の方見ないようにしてんだろ?」

「……まぁね。そもそもウォールハックだってしてないけど、見た目には使ってるか分からないからな俺の個性。余計な詮索されないように逆側向いてる」

「そーなんだ!? ……あれ、これなんか私ゴメンだな!? イクノのこと疑っちゃってたな!?」

「いや、当然の疑いだと思うから全然怒ってないよマジで。むしろこれですっきりして他の女子にも大丈夫だって言ってくれれば助かる」

 

 切島と上鳴の弁明により俺の無罪が証明された。

 更衣室で着替える時、俺は必ず女子更衣室側に視線を向けないように努めている。

 俺の個性は場合によってはオート発動することもある。それで着替え中の女子を見たら申し訳ないからな。

 芦戸ちゃんが謝ってくるが全然気にしてない。にっこり笑顔を返しておいた。プリティスマイル。

 謝罪により頭を下げた結果前かがみになって少し揺れた芦戸ちゃんのおっぱいが眼福です。

 

「それに見たいときには真正面から見せてってお願いするから」

「イクノのそういう所だよ!?」

「そういう所に惚れちゃった?」

「ポジティブの塊!!!」

「行動は尊敬するくらいマトモなんだけど言動が余りにもエロバカなのが厄介なんだよなコイツ」

「初日の男子更衣室でちんこ披露してきたからなー。あん時はマジでビビったぜ」

「─────え?」

 

 上鳴が零した入学初日の俺のちんちんアピールの話を聞いて芦戸ちゃんがフリーズした。

 どしたの。俺の顔と股間を交互にチラチラ見てくるけど。

 えっちか? そういうのに興味あるお年頃?

 

「……あ、そうか、男子なんだもんね……?」

「今更?」

「いや、その、待って。男子だとは知ってて男子として話してたけど、え、そうか、ついてるよね……そりゃ、その」

「大丈夫か芦戸?」

「……え、その顔で……え、つ、ついてるの? どんなのが……?」

「落ち着け芦戸!? お前今脳破壊されかけてるからな!? やべぇ事口走ってるからな!?」

「平均サイズという自己評価」

「あっ……ああ? あ、あ、あ……?? こんなにかわいいのにおちんちんついてる……?」

「リカバリーガール!! リカバリーガール呼べ!! 要救助者一名!!」

「落ち着け芦戸!! 俺達も更衣室で着替えるたびに同じような葛藤を味わってるから大丈夫だ!!」

「慣れるためにも一度見せるべきかな?」

「幾野お前は黙ってろ!!」

 

 芦戸ちゃんが性別のパラドックスに陥ってしまいどうやら脳破壊が進んでしまったようだ。

 罪深い男ですわ。いやー罪深い。己の可愛さがつらい。

 その後芦戸ちゃんは虚無顔になりながら女子たちに慰められて、なぜか俺は女子たちに睨まれた。

 俺何も悪い事してないよね?????

 




akip様よりファンアートを頂いたので紹介させていただきます!
①葉隠ちゃんのヒーロースーツのコスプレをするセンちゃん@乳盛

【挿絵表示】

葉隠ちゃんのコスプレをするセンちゃんを描いてもらいました。
謎の光よありがとう……!!(多謝)
普段からこれの葉隠ちゃんやっぱ露出性癖だって。盛乳は個性の応用とかそんな感じですね多分。
ファンアート心より感謝申し上げます。有難うございました!


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18 スポーツマンヒップにモッコリ正々堂々と戦うことを誓います

総合評価ポイントが1万超(まんこ)えてました。大変感謝。



 

「ハァッ……ハァッ! 幾野、くんっ……ぅっ………くぁ……!」

はぁ……はぁ……♥緑谷……これ以上は、もうダメ……♥ そんな、暴れないでぇ……♥

「っ……ぐっ……でもっ……! まだ、終わりたく、ないっ……! あっ!……くっ、急に、締まって……ッ!! くっ、……イ、クっ……」

 

「───はい3分! 終わりー! 終わりでーす!! はよ離れてセンくん!!!」

 

「ん、終わったか」

「……くはぁっ!」

「……いやーつっかれた!! マジですごかった緑谷……!!」

 

 

 俺は抱きしめていた緑谷の腕と、太腿にぎゅっと挟み込んでいたもさもさの頭を解放し、脱力して床に体を投げ出した。

 ぜぇぜぇと息が整わない。額から汗が流れ、髪が頬に張り付いて気持ち悪い。

 とても濃密な時間だった。お互いの息の荒さが先ほどまでの運動の激しさを物語っている。

 特に緑谷は初めてだったこともあってとてつもない疲労のようだ。腰砕けになっちゃった。でも初めてにしては上手だったよ。こっちも色々試せてよかった。けっこうイケたし。

 もちろんこれは戦闘訓練の話である。

 

「デクくん、大丈夫!? ものっすごい動きしてたよー!?」

「大丈夫か緑谷ァァァ!? 主に性癖の方!!!

「麗日さん……峰田くん……うん……大丈夫……大丈夫………………多分……

 

 さて、何故俺が緑谷の頭をむちむちな太腿で挟み込んでいたかを軽く説明しよう。

 

 先ほど緑谷に目覚めた個性を試すため、俺と組手を行うことになった。

 俺は怪我するほどのダメージが来るような攻撃は自動で潜り抜けられるから全力でやっていい、と伝え、緑谷も俺の個性を信頼し、全力で飛び込んできた。

 

 凄まじい速度と、力だった。

 ビルをぶち抜いたアッパーの時のような威力ではないにせよ、体育館γに設置されている岩壁にパンチが入ればひびが入るほどの巨力。

 スピードも速い。俺があえて岩壁に挟まれたゾーンに戦闘区域を移動してからは、そこを飛び跳ね回り不規則な攻撃を仕掛けてきたのだ。

 並のヴィランでは間違いなく相手にならない。

 とんでもない力に緑谷は目覚めていた。

 

 だが、その攻撃は俺の目には見慣れた速度でもある。

 中学の頃、裏山で峰田と共に戦闘訓練をやっていたのが活きた。

 あの頃は山の中、飛び跳ね回る足場がいくらでもあるそこで、跳ねまわる峰田を相手に捌いていたのだ。もちろん俺も個性を使ってたが。

 その時に鍛えた動体視力で、今の緑谷の動きであればギリッギリ見切る事が出来た。

 パンチを避け、キックはいなし。反撃も繰り出して。時にはオート個性による回避が発動するほどの攻撃を受けつつも。

 力に目覚めたての緑谷がどんな動きが出来るのか確かめていくように、俺は攻撃をさばき続けていた。

 

 で、定めていた組手の時間が残り30秒を切るころだ。

 俺もかつて同じような経験があるからわかるのだが、個性は使い慣れていない頃は不意の衝撃や驚愕で解けてしまうことがある。

 それも緑谷に試してやることにしたのだ。

 飛びこみながら殴り掛かってくる緑谷に対して、俺は個性を発動させてカウンター気味に目潰しを仕掛ける。

 従兄から教わった技だ。『ブラインドタッチ目潰し』。

 目に実際に俺の手は当たらないが、ほぼ確定で相手に隙を生むことが出来る。

 

『っうわっ!? 個性が解けた……!?』

『はい隙ィ!』

 

 不意打ち気味のそれによる驚愕で体に纏っていた紫電が解けてしまった緑谷に、俺は慣れた動きで腕を取り、変形の三角締めを繰り出した。

 緑谷の身長は166cm。対して俺は170cm。スタイル抜群で脚も長いので割と完璧な体勢で極まった。

 すぐに体を持ち上げられないように腕も緑谷の下腹部に絡みつける。

 

『……!! ……っ、こ、れ……!! 個性を張り直す、集中が……っ!』

『あんまり動くと首が締まるぞ……!』

『……ぐっ、がっ、ぎ……ぃぃぃ……!!』

 

 ぎちぎちむちむちと俺の太腿に沈み込んでいく緑谷の頭。

 こいつの髪、癖が強いな。しっかりしたシャンプー使ってるんだろうか。

 そして緑谷も抵抗して何とか体を起こそうとしてくる。個性の再発動も試みているらしい。

 だがやらせん。もう集中させるか。

 

『……あんっ……♥』

『!!?!?!?!?!?!!』

 

 俺が緑谷の気を紛らわすために甘い声色で喘ぎ声をあげると、ビックーン!!!と目に見えてわかるレベルで緑谷の体が跳ねた。

 おもしれ。

 そのまま時間切れまで囁きながら粘り続け、冒頭の会話に戻り、緑谷が俺の名前を「イク」まで呼んだ所でタイムを計っていた麗日ちゃんの声で組手は終了したのだった。

 

「……いや、でもマジですげースピードとパワーだった。初めての組手の相手が俺でよかったな……その状態で力加減ミスれば死にはしないだろうが大怪我は全然ある」

「うん……僕も驚いたよ。でもこれで出来ることが一気に広がった……! まぁ幾野くんには負けちゃったけどね……」

「ははは、俺とタイマンで勝てる奴なんていないっての」

「あと最後のアレはお願いだからもうしないでね?」

「悪い悪い! 悪ノリしすぎた!」

 

 上体を起こし、すぐ隣で同じく座りこんでいる緑谷と顔を合わせて、勝負前の笑顔とはまた別の、友の成長を喜ぶ笑顔を浮かべる。

 緑谷もまた掴んだものが大きかったのか、珍しくにっかりとした満面の笑顔を浮かべ返した。

 

「緑谷の性癖終わっちまったかな……」

「大丈夫だよね!? 大丈夫って言って峰田くん!?」

 

 


 

 

 そして、緑谷やクラスメイト達と鍛え上げていった二週間はあっという間に過ぎ。

 雄英体育祭、本番当日がやってきた。

 

「皆! 準備はできてるか!? もうじき入場だ!!」

「コスチューム着たかったなー」

「公平を期すため着用不可なんだよ」

「結局爆豪は訓練にこなかったなー。勿体ない」

「ザコ共と訓練してどうなるってんだよクソが」

 

 A組の控室で全員ジャージに着替え、入場の時を待ちながら雑談を交わす。

 結局訓練に最後まで参加しなかったのは爆豪ちゃんと轟だけだった。

 勿体ない。めっちゃみんなで頑張ってたのに。

 未だにこの金髪ロリ巨乳はツン期を脱し切れていないらしい。

 

「─────緑谷」

「轟くん……何?」

 

 すると部屋の隅の方で轟が緑谷に声をかけているのが見えた。

 え、何?

 

「告白か?」

「どうして口に出すんだお前は」

 

 隣にいる峰田にキックされた。

 

「違う。……緑谷、客観的に見ても実力は俺の方が上だと思う」

「え!? う、うん……」

「……お前オールマイトに目ぇかけられてるよな」

「っ!!」

「別にそこ詮索するつもりはねぇが……お前には勝つぞ」

 

 そして轟の口からは宣戦布告が放たれた。

 これは珍しい。これまであまり感情を表に出してなかった轟が、緑谷に何か感じ入るものが在ったのか?

 ……まぁな!! 気持ちは分かるなー!! 俺のおかげで緑谷めっちゃ強くなってるからなー!!

 

「……轟くんが何を想って僕に勝つって言ってんのかはわからないけど……」

それは恋ってやつだよ、気付け緑谷……!

お前マジで口閉じろ!?

「でも……皆、他の科の人も本気でトップを狙ってる。僕だって……前に進む覚悟はできてるんだ。僕も本気で獲りに行く!!」

「……おぉ」

 

 茶化したらまた峰田にキックされた。

 でも緑谷がちゃんと言い返したのは好印象だな。俺達との特訓で自信がついてたからかも? そうだったら特訓付き合った甲斐があるね。

 

「……幾野」

「えっ俺にも告白?」

「お前よォォ!?」

「違う」

 

 続けざまに今度は轟が俺にも声をかけてきた。

 え、やだ。早速二股!? んもーこのプレイボーイめ!

 って返したら流石にキレられそうだったのでジャブで済ませておく俺優しい。

 結構ガチな雰囲気だったので俺も表情をガチなものに戻す。

 

「……お前の個性に俺は一度やられてる……正直、お前にタイマンで勝てる姿はまだ思い浮かばねぇ」

「……」

「だが、お前にも俺はいつか勝ちてぇ」

「……ははっ。いつかと言わず今日挑んで来いよ轟。俺は潜りはするが、逃げも隠れもしねーよ」

「ああ、そうするつもりだ」

 

 轟の言葉に俺もまっすぐ答えてやる。

 俺の個性はタイマンでは無敵だ。それを思い知りながら、それでも超えたいと言われてしまえば……俺だって感じ入るものはあるさ。

 今日はいい日になりそうだな。プルスウルトラ。

 

「入場の時間だ!! よし、行くぞA組!!!」

「「「おおーーーーー!!!!」」」

 

 飯田委員長の檄の声に猛る熱を叫び、俺たちは会場に向かった。

 

 


 

 

『どうせてめーらアレだろこいつらだろ!? ヴィランの襲撃を鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!! ヒーロー科!! 一年A組だろぉぉぉ!?!?』

 

 マイク先生のアナウンスで沸き上がる会場に俺たちは入場した。

 知ってはいたがとんでもねぇ人入りだな。やっぱ大人気だな雄英体育祭。

 こいつ等全員性癖歪ませてやるからな。ぐへへのへ。

 

「何とか……何とか今この場でコイツを殺す方法はないものか……!! オイラがみんなの性癖を守護(まも)らねぇと……!!」

「ケロ、物騒だわ峰田ちゃん」

 

 峰田がなんか言ってるけどあーあー聞こえなーい。

 

『選手宣誓!! ……静かにしなさい!! 選手代表、1-A幾野潜!!』

 

 この日の為に準備した選手宣誓の文言を改めて思い浮かべつつ、俺はミッドナイト先生のアナウンスに従い前に出る。

 

「おお、可愛い!」

「あれ、あの子この前インタビューに写ってた生徒じゃないか?」

「女子がやるのか、流石雄英だ」

「選手宣誓は入試の一位がやるのが恒例なんだよ。あの子が一位か……」

「胸はないがあの顔は人気が出るな……!」

「俺既にファンになりそう……」

「可愛いかよ……」

 

 観客席の方からちょっとした歓声が起きるのが俺の耳に入る。

 インタビューの映像がネットミームになっていたのが後押ししたな。これは熱い展開だ。

 

 マイクの前に立ち、しゃなりと前髪を手で払いにっこりとメス顔スマイルを浮かべて、俺は宣誓を述べる。

 

 

『────選手宣誓♥』

 

「ヤバイ……! 声を使いだしたぞ幾野のヤツ!?」

「ああ……終わりだ……」

「これを見ているお茶の間の青少年たちが歪んでしまう……!」

「悲劇だ……雄英体育祭の悲劇だよ……!!」

 

 うるさいぞクラスメイト共。

 

私達生徒一同は、日頃の授業の成果を発揮し、治安を支えてくれるヒーロー、学校を支えてくれる先生方、これまで支えてくれた家族の期待に応えるため、正々堂々競技を行い、全力を尽くすことを誓います♥』

 

 とりあえずは例文通りに読み上げる。

 拍手が始まってしまう前に、俺は言葉を続ける。

 

『───その上で、個人的な話を少しさせてください♥』

 

「やる……! センちゃんやるつもりだよ……!」

「幾野くん、何を言うつもりなんだ?」

「飯田お前ここまで来て危機感がないのは逆にすげぇよ!?」

「どうしてあんなに難儀な性癖になってしまったのでしょうかあの方は……」

 

 うるさいぞクラスメイト共。

 

先日、雄英高校の校門前で街頭インタビューを受けました。その映像がなにやらネットに出回っていると聞いて見てみると……私の映像に、色んな方のコメントが見られました。肖像権の侵害、とは言いません。目立つのもヒーローの条件。私の事を多くの方に知っていただけたのは嬉しいと思っています。けれど、私は顔だけではなく、力も見てほしい。知ってほしい。私がどんなことが出来るのか、今日は皆さまにお見せしたいと思っています。だから、あえてここで宣言します─────私が優勝する、と

 

「そこで止めるんだ幾野! そこで止めておけばお前は立派な生徒代表でいられる……!」

「ダメでしょイクノは止まらないでしょ。私詳しいんだ、アイツのブレーキ壊れてる」

「ケロ、絶対言うわセンちゃん」

「ウチ頭が痛くなってきた」

 

 うるさいぞクラスメイト共。

 

あと、最後に一つだけあのインタビュー映像で()()()されていることがあったので、訂正させていただきますね♥』

 

「終わりだ」

「清浄なる日本に深淵が溢れ出す。もはや止められぬ」

「長げぇわクソが」

「少子化が進行しちまうよぉぉぉ……!」

 

 

えー……ごほん』

 

 俺は喉の調子を整えて、そして。

 

 

『俺は男なのでちんちんあります』

 

 

 ぶちかました。

 

 一瞬の静寂。

 そして。

 

「「「「「えええええええええええええええええええええええええああああああああああああああああああああああええええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?」」」」」

 

 観客の大絶叫が会場に響いたのだった。

 

 




クラネスハインド様よりファンアートを頂いたので紹介させていただきます!
①ヴィランに催眠洗脳をかけられるバニーセンちゃん

【挿絵表示】

催眠洗脳をかけられるセンちゃんを描いてもらいました。
局部は出てないからR18じゃないな! ヨシ!
無敵の個性も貫通してくるヴィラン……何て恐ろしい存在なんだ(※作中には登場しません)
ファンアート心より感謝申し上げます。有難うございました!


ファンアートの紹介を作品前書きに掲載させていただいておりましたが、ちょっと縦に長くなってきたので活動報告に一覧として乗せることにいたしました。
お含みおきください。


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19 最大の障害はチート個性による孤独なのでは?

 

 

『今年の第一種目はコレ!! 障害物競走!!』

 

 先程の選手宣誓で観客の脳を破壊し終えた俺はうーん、と艶めかしく背を伸ばしながらミッドナイト先生の競技説明を聞く。

 なるほどね、障害物競走か。

 勝ったわ。

 

「障害物競走……!」

「む、競走か! 悪くない……俺の個性が発揮できる場だ!」

「オイラ、飯田、緑谷あたりは障害の配置次第で良し悪しでるな。障害が多けりゃ多いほどオイラ有利だ」

「俺だけただのマラソン説」

 

 障害と言うが俺にとって障害などないに等しい。

 ただ4kmを駆け抜けるだけで済む。

 4kmなら10分強といったところか。

 少なくとも第一種目で脱落するということはないだろう。よっぽどヘマしなければ。

 

『コースさえ守れば何をしたって構わないわ! さあさあ位置につきまくりなさい!!』

 

 その声でスターティングゲート前にぞろぞろと人が集まっていく。

 集まるのはいいんだけどゲートの先がまず狭いな。ウォールハックも適宜使って罠とかないかも探してみているが、どう考えてもここで人が詰まるわ。俺以外は。

 

「幾野くん」

「ん、こんなタイミングでなんだ緑谷」

「ギリギリでごめん。でも僕も言っておきたくて……改めて、この二週間は訓練に誘ってくれてありがとう。付き合ってくれて……でも、いやだからこそ、僕も君に勝ちたい!」

「……はっ、いいぜ。俺も本気で行くからよ、かかってこいよ緑谷!」

「うん!」

 

 スタートの寸前、緑谷からも正面から正々堂々の勝負を挑まれた。

 全く人気者は辛いぜ。

 手加減などするつもりもなかったが、俺も頭の中でギアを切り替える。本気で行く。

 ヒーローに油断という言葉はないのだ。常に先へ、もっと先へ。プルスウルトラァ!

 

 

『────スターーーーーーーーーーート!!!』

 

 

 ミッドナイト先生のスタートの合図とともに、俺は駆けだした。

 

 

 


 

 

『さーて実況してくぜ! 解説アーユーレディ!? イレイザーヘッド!!』

『ああ』

『しかしさっきの選手宣誓はひどかったな!! 爆笑しちまったぜ俺は!』

『幾野はああいうことするヤツだ。己の性別と外見に自信があり過ぎる』

 

 マイク先生と相澤先生の実況解説が始まる中で、俺達生徒はスタートの直後、凄まじい混乱に襲われていた。

 

「スタートゲートが狭い……! つまりスタート地点(ここ)がもう……」

「最初のふるい───!」

 

 スタートダッシュを決めた轟が氷結で後続を全員凍り付けようとしている。

 なお俺は轟の隣を併走している。スタートの混乱を全部個性で潜り抜けてきたのでシンプルにダッシュ中だ。

 

「……幾野。お前だけはどうにもならねぇか」

「俺に気を配る暇ないと思うぜ?」

「らしいな」

 

 持久走テストでほぼ互角だった俺たちはほぼほぼ並んで走りながらも、後続をちらりと見やる。

 

「甘いわ轟さん!!」

「そう上手くいかせねえよ半分野郎! 男女野郎もなァ!!」

「おらぁイクノぉ!! 待ちやがれェェェ!!!」

 

 A組の全員が、使い慣れた個性を使ったり、または訓練で磨いた体術で見事に凍結を回避して混乱を抜け出していく。

 

「大したやつらだよマジで」

「ああ……だがクラス連中は当然として、思ったより避けられたな……」

「B組だってよくやってるからな。委員長と仲いいからたまに話聞くんだけど向こうもバッチバチだよ」

「そうなのか」

 

 馴れ合いではないが轟と言葉を交わしつつも俺たちは先頭をキープして第一関門に突入した。

 

『さあいきなり障害物だ!! まずは手始め……第一関門!! ロボ・インフェルノ!!

 

 入試で出てきた0P敵ロボを含めたロボたちが大量にこちらに向いている。

 まぁ見えてたんだけど俺は。流石に轟も一度脚を止めて対策を考える。

 が、俺には全く関係ない。

 

「お先ぃ!!」

「ちっ……」

 

 そのまま足を止めず、個性を発動しながら敵ロボの群れに突っ込んでいった。

 

『あぁーん!? 1-A幾野!? ロボの群れにも全く速度を落とさず突っ込んでいくぜェ!? そして降りかかるロボの攻撃を次々とォ!? すり抜けていくゥゥーッッ!?!?』

『どんなものも潜り抜けるのがあいつの個性だ。……だがヴィランロボもまずアイツを狙ったせいで後続への攻撃が緩くなった、そこは失策とも言えるか』

『すげぇな!? 一抜けだ!! アレだなもうなんか……ズリィな!!』

 

 マイク先生の実況の通り、俺だけ今の所ただのマラソンだ。

 敵の攻撃なんざまったく関係ない、全部すり抜けていくだけだ。

 やりすぎ?

 バカ言え。俺の個性を万全に発揮できる場でやらなくていつやるのかって話よ。

 

 そう、それに。

 

『お、おおおおお!? トップもやべーがその後ろもやべーな!? 次々あのデカイのを突破してってるぞォ!? A組すげーな!?』

『他の科やB組も決して悪くはないが……立ち止まる時間が短い。各々が先日の経験を糧として迷いを打ち消している。ここ二週間は自主的に放課後集まって訓練もしてたしな』

『なるほどなァー!? おおっと1-A爆豪ほかそれぞれがクレバーに突破していくぜぇ!! 1-A峰田もとんでもねぇ機動性で一気にぶち抜いてきやがったァ!!』

 

 俺のクラスメイトは、そもそも俺よりも速いヤツが多いんだ。

 一度振り返る。まず轟、その後ろに峰田、爆豪、梅雨ちゃん、飯田ってところか。

 

「逃がさねぇ、幾野……!!」

「個性有りで走ればオイラの方が速いんだからなイクノォ!! 絶対テメェには負けねぇぞオイラ!!」

「俺の前を走るんじゃねぇクソがぁぁぁ!!!」

「ケロ……置いて行かれたくないわね」

「幾野くん……! 君を一人にさせるわけにはいかん!」

「あらやだ俺ったら大人気?」

 

 くっと笑みを零し、足を止めずにさらに走り抜ける。

 だが問題ない、次の関門でさらに差を広げればいいだけだ。

 さて次はどんな関門となっているのか──────

 

 

『第一関門チョロイってよ!! んじゃ第二はどうさ!? 落ちればアウト!! それが嫌なら這いずりな!! ザ・フォーーーーールッ!!!

 

 

 詰んだわ。

 

「俺への対策が整いすぎている……!!」

「はっはっは残念だったなイクノォォ!! お前はここで足止めだァァァ!!!」

「峰田ァ! お前も同じようなもんじゃねーか!! クソァ!!」

「大げさな綱渡りね」

 

 なんてことしやがる雄英。

 走れなけりゃ流石に俺は普通にこれを渡るしかない。

 ……いや……そうでもないか!?

 

 とりあえず一番にロープにたどり着き、普通に両腕を左右に伸ばしてほいほいとバランスをとって走って渡り始める。

 当然ながら体幹もしっかり鍛えているのでこれでバランスを崩すほどではない。スピードは出ないが。

 

「ちっ……流石に先に行かれちまうか、これじゃ」

 

 轟、爆豪ちゃんなんかは個性を有効活用してとっとと駆け抜けていくようだ。

 爆豪ちゃんあれ飛んでない? ズルくない?

 

「フフ……私達サポート科にとっては己の発想・開発技術を企業にアピールする場なのでスフフフフ!!」

「オイ……峰田、アレ見ろ……!?」

「なっ……!?」

 

 俺の後ろで高速でロープを這いずる峰田に声をかけた。

 俺らが目にしたのはサポート科の女の子がワイヤーで飛び越えようとする姿。

 の、その胸元。

 

選ばれし者(大いなる乳)……!!」

「あれは強い……! 強いぞ……!? ワンチャンA組総ナメあるか……!?」

「ゴーグルに隠れた顔が気になり過ぎる……!」

 

 下らないことをくっちゃべりながらロープを渡る俺達。

 

「っし渡り切った。さて……」

 

 俺はロープを一本渡り切ったところで振り返る。

 峰田が俺の後ろを続いており、その後ろには他の組の生徒が次々渡り始めている。

 第一関門の初動で俺に敵ロボの注目を集めすぎてそのおこぼれで突破した感じかな、だいぶ多い。

 女子生徒の不在確認ヨシ。

 穴の下にちゃんと救助ネットが張られているの確認ヨシ。

 俺はしゃがみ込み、手を伸ばしてロープを()()()()()()

 

「あっオイ!? イクノてめェ!?」

 

 峰田は気付いて慌てて飛び跳ねて逃げようとしているが、他の生徒はなんだ? と首を傾げている。

 このロープは鋼鉄製。多少力を入れても揺らせないし、切る事もできるはずもない。妨害するのだって時間もかかってしまうだろう。

 だが俺の個性なら一瞬で終わる

 今掴んでいるこのロープは、『俺のもの』だ。

 

「俺の後ろをついてきたら……こうなるぜ!!」

「「「なあああああ!?」」」

 

 個性を発動。

 ロープが『潜り抜ける』ようになり、そこに捕まっていた数人が哀れにも自由落下していった。

 

『1-A幾野の後ろのロープが一気に全員落ちたァァァ!? なんだありゃシヴィーーッ!?』

『妨害も作戦の内。しかし峰田は咄嗟に飛びのいて他のロープに移動したな……』

『ちなみに落ちてもちゃんとネットが受け止めるぜ!! 上に戻る道もあるから失格じゃねぇ! レッツ再トライ!!』

 

「おいイクノぉ!? お前やるならやれって言えよォォォ!?」

「いやお前なら避けるかなって」

「本音は?」

「一番俺の個性知ってて厄介なんで叩き落したかった」

「クソがよォォォォ!!!」

 

 峰田は巻き込めなかったか、残念。

 やるだけなら一瞬なので今後ロープを渡るときは毎回これをやっていこう。

 

『どんどん進んでいくぜっ!! 先頭はここで1-A轟に代わる!! 難なくイチ抜けしてんぞ!!』

 

「うーん、やりよる」

 

 俺もロープをぽんぽんとテンポよく渡るが、轟の氷の個性で加速しながら渡るよりかは速度が落ちる。

 ってか空を飛んだ爆豪にも抜かれた。飯田もあれカッコ悪いがバランス感覚地味にすげーな!?

 少し後ろを振り返れば、A組のメンバーもそれぞれ結構いい位置にいる。まずいな。

 最終関門は俺に有利な内容であってくれ……!!

 

『さあそして早くも最終関門!! かくしてその実態は────一面地雷原!!! 怒りのアフガンだ!!!

 

 勝ったわ。

 

「っしゃ!! 俺に有利ィィィ!!」

「ああアアァァァ許せねぇよなァァァ!!!」

 

 ようやくロープ地帯を突破した俺に峰田がもぎもぎを投げつけて妨害しに来るが無駄である。

 すり抜けて早速全力疾走の体勢に入る俺。

 轟も流石にここじゃ速度は出せていないようだ。いや、むしろ爆豪ちゃんが追い付いて妨害しあってくれている。

 

「俺には地雷原なんざ関係ねぇーーー!! てめェ!! 宣戦布告する相手を間違えてんじゃねえよ!!」

「爆豪……!」

 

 いいよー爆豪ちゃん! もっとやっちゃってもっと!!

 ツンデレロリ巨乳とイケメンクールスカシとのカップリングありだよー!!

 

『ここで先頭が変わったーーーー!! 喜べマスメディア!! お前ら好みの展開だああ!! 引っ張り合いながらも先頭二人がリードか……いや後ろを1-A幾野が猛追!! アイツには地雷も何も関係ねぇーーー!!!』

『際どいな……流石に幾野が迫ってくれば爆豪も轟も争いあう暇が無くなる。だが地雷原はあの二人には無視しきれるもんじゃない』

 

 この地雷原で完全にひっくり返った。

 俺はただ全力で駆け抜けるだけ。地面に埋まってる地雷もクソもない。

 一瞬遅れて後方で爆発しているがその衝撃を、音を俺は潜り抜けられるのだ。あとは油断せず走れば行ける……!!

 

「クソ! 男女ァ……!! てめェも俺が超えるべき壁だァ!!」

「幾野も来たか! こうなりゃ後続に道作っちまうが─────」

 

 俺が先頭争いに参戦することで二人も醜い争い合いを止めて俺に負けまいと個性で加速し始める。

 だがこっちは全力疾走の速度をキープできている。これならいい勝負に、と。

 そう、最終決戦の予感が走った瞬間に。

 

『KABOOOOOOOOOOOOM!!!』

 

『後方で大爆発ッッ!?!? 何だあの威力!? 偶然か故意か、A組緑谷が爆風で猛追ーーーーー!?!?』

 

 

 


 

【side 緑谷】

 

 

「対人地雷なんて深くても14cm~15cmくらいだこれですぐ掘り出せる…! よし……よし!!」

「何してんだ緑谷……」

 

 最終関門に至るまでに、僕は先日目覚めた個性の使い方【フルカウル】を使ってこなかった。

 あれはまだ、発動時間が長く持たない。

 最初から使い続けてたら途中でガス欠するってわかってたから。

 この判断は正解。第二関門なんかはフルカウルで跳ねても足場を踏み外したら落ちる様なところだったし。

 

(よし……借りるぞかっちゃん!)

 

 ここまで道具として持ってきた敵ロボの装甲板。

 今掘り出した対人地雷の山。

 準備は整った。

 

『先頭は爆豪・轟・幾野!! 最終関門を今抜けそうだが─────』

 

 今から僕は、三人に挑戦する。

 

「ワンフォーオール・フルカウルっ……大爆速ターボッ!!」

 

 全身に5%の力を張り巡らせたうえで、装甲板にサーファーのように乗る形で地雷を起爆。

 凄まじい爆発の勢いで、僕は先頭に向けてフルカウルを纏って吹っ飛んでいく。

 

「くっ!」

 

『A組緑谷!! 爆発で猛追────っつーか!!! 抜いたあああああ!!!!』

 

(やっぱ……勢いすごい!)

 

 爆風に乗った僕は先頭の3人を僅かに追い越すことに成功した。

 そして、ここからだ。

 着地の後の攻防も考えて、フルカウルを起動している。

 

「デクぁ!!! 俺の前を行くんじゃねえ!!!」

「後ろ気にしてる場合じゃねぇ……!!」

 

 僕の姿を見て、かっちゃんと轟くんが加速してくる。

 でも、この二人は─────僕の今の力を知らない!

 だから、本当に気を付けるべきは二人じゃない!

 

「緑谷ぁ! やるじゃねぇかよお前ぇッ!!!」

 

 全力疾走で飛び込んできて、こちらに腕を伸ばしてくる幾野くんだ。

 今がチャンス。一瞬でも前に出られた最初で最後のチャンス!

 掴んで離すな!!

 

「……やらせないっ!!!」

 

 もしここに幾野くんがいなければ装甲板を地面に強く叩きつけて、周囲の地雷を起爆してさらに加速して逃げてもよかっただろう。

 でもそれじゃあ幾野くんには通じない。ずっとこの競技が始まる時から考えてたんだ。

 幾野くんの弱点。

 

 無敵の防御力を持つけれど。

 攻撃力は、そこまで高くないって事!

 

「……くっ、緑谷!」

「てめっ、デク……!!!」

「行かせねぇよ緑谷!!」

 

 まず着地寸前、装甲板をフルカウルのパワーで振り回してかっちゃんと轟くんに牽制。脚を止める。

 そして着地。

 その瞬間を狙って首根っこを掴みに来る幾野くんに対して、僕はあえて()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ、緑谷……!!」

 

 幾野くんの伸ばしてきた腕の間合いの内側へ、辿り着いた。

 幾野くんは抱きしめるように僕を再度掴みに来るが、フルカウルのスピードなら攻撃を回避することは可能。USJで脳無相手に見せたような力は彼は友人には使わない。

 瞬時にしゃがみ込んで、両腕も回避。これで幾野くんがまともなら僕に脚をひっかけて転ぶんだろうけど、流石にそんなことはなく僕を潜り抜けて走り抜けていく。

 でもこれでいい。一度幾野くんの背後に回れた。

 幾野くん自身も、かっちゃんと轟くんがいるからここで脚を止められない。蹴りを繰り出せない。一度抜いた僕を振り返れない。

 僕が今踏んだ地雷の起爆まであと数瞬。しゃがんで力を溜めた僕には充分すぎる猶予時間。

 

 だから、ここからは。

 フルカウルの真骨頂、全身のバネを使ったスピードで勝負!

 

『着地の瞬間に咄嗟の攻防!! 緑谷は何故か一瞬逆走してしゃがみ───って何だァそのジャンプはァーー!?!? 地雷起爆より速くッ!! バネ仕掛けのような速度でゴールに向けて飛び跳ねたァッ!! 3人の頭上を越えていくゥゥ!!』

『脚も無事か! あいつ、掴んだか……!!』

『さらにその勢いを殺さず側転!? バク転ッ!? ムーンサルトォォォ!?!? 序盤の展開から誰が予想できた!? 今綺麗な着地を決めて一番にスタジアムへ還ってきたその男─────』

 

 

『───緑谷出久の存在をッ!!!』

 

 


 

 

「やられた……!!」

 

 最後の緑谷の大逆転に俺はかーっと天を仰いだ。

 最終順位は3位。最後、爆豪ちゃんよりは前に出られたが轟には後塵を拝した。緑谷に掴みに行っちまったことで脚が止まったな。

 なんなら飛んできた緑谷を完全に無視して走ってれば轟よりも前には行けたかもしれん。

 フルカウルとは言えど着地の瞬間のロスはある。そこを狙って仕掛けに行っちまったのが敗因だ。

 ()()()()()ムーンサルトまできれいに決められればもう完敗だよ。

 

「緑谷……なんだあの動き……」

「デクにも……半分野郎にも男女野郎にも負けた……!! また……くそっ!! くそがっ……!!!」

 

 轟も爆豪ちゃんも随分と驚いた様子であった。

 まぁあの二人にとってはデクのフルカウル(真性包茎)*1は初めて見るだろうからな。

 俺だけはあの技のスピードが分かっていたが、分かってたからこそ注意しすぎたか。

 くそ、俺の個性マジでスピード不足だな。課題だ。

 

「へいへいイクノくぅん!! ねぇねぇどんな気持ち?? 自分が鍛えた相手に一位かっさらわれるのどんな気持ち????」

「くたばれ」

「辛辣の極み!?」

「ケロ、口が悪いわセンちゃん」

 

 声に振り返れば、梅雨ちゃんとその背中に張り付いた峰田が俺の方にやってきた。

 え、なにそれ。サンバガエルの真似? 峰田のもぎもぎで割とマジでサンバガエルなんだけど??

 

「へっへっへ、オイラは梅雨ちゃんと手を組んで最終地帯を抜けたのさ!! オイラ天才!!」

「私の舌先と手足にもぎもぎをくっつければ、外周の鉄条網でも刺さらずに移動が可能……峰田ちゃんにくっつく力を調整してもらいながら、地雷原の外枠の上を跳ねていったというわけ」

「あー、なるほどな……梅雨ちゃんの舌の長さなら2,3回伸ばして跳ねれば突破できるか」

「途中の緑谷の大爆発でバランス崩しさえしなければお前らにも追いついたんだけどなー」

 

 うわ頭いいなコイツら。

 梅雨ちゃんがもぎもぎ付きの舌を伸ばす。鉄条網にくっつける。勢いで前に飛ぶ。

 鉄条網の上に着地する際には両手両足にもぎもぎくっつけて刺さるの回避して、んで峰田がくっつき力を消して、それを繰り返したってわけか。

 普通に有効だ。少なくとも地雷原を飛び跳ねるよりずっといい。

 こいつ……天才か?

 

『ようやく終了ね! それじゃあ結果をごらんなさい!!』

 

 障害物競走が終わり順位が表示される。

 A組は全員突破。B組も全員いるな……で、普通科から一人、サポート科のさっきのぼいんちゃんがギリ入ってる。

 

『そして次からいよいよ本番!! 第二種目はこれよ!! 【騎馬戦】!!!』

 

「騎馬戦!?」

「騎馬戦……!?」

「えっ、ハチマキの奪い合いだよね!?」

 

 A組全員の視線が俺の方に向いた。

 騎馬戦かー。

 ふむ。

 頭に巻いたハチマキを奪い合う競技ですよね???

 自分のものを取られないようにしながら、他の人のものを奪う競技ですよね?????

 

 

 勝ったわ。

 

 

*1
名付けの際に「なるほど真性包茎ね?」って言ったら緑谷にマジでキレられた。




緑谷の最後のヘビーアームズしぐさは幾野が訓練中に「これできる? ねぇねぇ緑谷これできる??」と見本見せながら煽って来たのでフルカウルの制御がてら覚えたトリッキーな移動法という脳内設定です。
爆豪と轟はびっくりして攻撃しそびれました。



以下、感想欄で生まれた閑話の紹介。
筆者の癖で感想欄で閑話が生まれる事があります。
本編とは直接関係ない、原作で言うすまっしゅ! 時空だと思ってください。





 ここはヴィラン連合のアジト。
 今日は先日襲撃した雄英高校の体育祭が開催されるということもあり、死柄木と黒霧はテレビで中継を眺めていた。
 いつものようにカウンターでグラスを磨いている黒霧に、グラスを傾けて気だるげに喉を潤す死柄木が、テレビの向こうで選手宣誓で壇上に上がった生徒の姿を見る。

「あ、あれこないだの女じゃん……首席だったのかよ……頭も顔もいいのかよ、ずるいなぁ……」
「成程、察しがいいのも納得ですね。私の個性の事もすぐに察した。優秀な金の卵というわけですか」
「ちっ……クソチート個性持ちだもんなぁ……いいよなぁ」

 ねっとりとした悪意を口から零す死柄木と、冷静な口調でテレビを見る黒霧。
 二人とも本気で映像に集中しているわけでもない。まだ競技も始まっていないので、半分は野次馬根性のような、まぁ気だるげな気分で画面を眺めていた。

「ブハッ。あの女、声作ってるじゃん。ウケる……」
「女性であれば見麗しくありたいということでしょうね。あの外見ではヒーローになれば人気も出ることでしょう」
「ぐっちゃぐちゃにしてやりたいよなぁ、そういう明るい将来を……マジでさ……」

 以前USJで聞いた、芯のあるハスキーボイスとは打って変わって甘い女声で続く選手宣誓に苦笑を零す死柄木と、表情は見えないがトーンを崩さずグラスを磨く黒霧。
 しかし、そんな気だるい二人の雰囲気は最後の一言でひどいことになった。

あと、最後に一つだけあのインタビュー映像で勘違いされていることがあったので、訂正させていただきますね♥』

「ハァ? 勘違い……?」
「例のネットでバズっているインタビュー動画ですね。何があったのか……」

えー……ごほん』

『俺は男なのでちんちんあります』

「ブホッ!!!!! ッゴホ!! ゲェホッッ!!! ゲホッ、ゲホッ!!!」
(グラスが手から落ちて割れる音)


 意外と、ヴィラン連合と雄英生は仲良くやれるのかも知れない。


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20 ほう…洗脳ですか。やりますよ彼は

 

 

『1位に与えられるPは……1000万!!!』

「……1000万?」

『上位の奴ほど狙われちゃう下克上サバイバルよ!!!』

 

 ミッドナイト先生のその言葉でようやく視線が俺から緑谷に移動した。

 それまではクラスの皆にやべーほど見られてたからな。まったく照れちゃうぜ。カメラ写りを気にして髪をふぁさっと靡かせる。

 

「幾野の髪ってマジで女子みたいな香りするから近くでそれやるのやめてくれる? 脳が混乱をきたすわ」

「ちんちん迷子か上鳴くん? もうウェイっちゃう?」

「ウェイってる時に絶対やるなよな!? 抱きしめちまいそうだからァ!!」

 

 近くにいた上鳴をからかって遊びつつ、さて、しかし俺はどうしたもんかな。

 ミッドナイト先生の説明を聞きながら俺は誰を仲間に選ぶか考えを巡らせる。

 

 まずそもそも、この競技は必勝だ。

 俺が騎手になりハチマキを付けた時点でそのハチマキは何があっても奪われない。

 後は奪うだけだがそれだって敵の攻撃を無効化できるのでよっぽど速く逃げられなければ問題なく奪えるだろう。

 そして俺は3位。俺のポイントだけでも相当なので、極論を言えば開始から動かなくても一位にはなれないだろうが勝ち抜けは出来るだろう。

 

 つまり。

 俺が選ぶ三人は、ほぼ決勝行きが確定するのだ。

 

『それじゃこれより15分!! チーム決めの交渉タイムスタートよ!!』

 

 戦の前の戦が始まった。

 

 


 

 

「イクノぉぉぉ!!! オイラと組もうぜェェェェ!!!」

「幾野!! 俺と組もう!!」

「いや私と組もうよイクノ!! 多少胸に脚が当たっても許すから!!」

「センちゃんと組みたいよー!! 私本気出して全部脱ぐから!!」

「僕のビームなら遠距離からの攻撃もできるよ幾野クン☆」

「幾野。背の高い俺が背負えば視点が高くなり高所からの戦闘が容易だろう。一考の価値はあると思う」

 

 クラスメイトがめっちゃ俺のまわりに集まってきた。

 まぁそらそうよね。分かるよ。逆の立場ならそうするわ。

 

 ここで雑に三人決めてしまってもいいのだが、しかし時間には余裕がある。

 とりあえず俺はぜひ決勝で戦ってぶちのめして世間に無様を晒させたいという思いから峰田の首根っこをひっつかんで肩車する。

 これで一人は決定。

 

「おおイクノ! 心の友よ……!!」

「決勝でぶつかったらお前は泣かす」

「地獄への超特急か!?」

「で……悪い、みんな。俺にめっちゃ期待してくれてるのは嬉しいんだけど、ちょっと色々考えさせて? 決勝に向けて他の組の個性とか考えとかも見てみたいしさ」

「えー、峰田だけずるーい!!」

「ゴメンね芦戸ちゃん。こいつは俺が拾ってやらないと誰も拾わなさそうだから」

「ひでェ言いぐさ!? オイラだって騎馬戦で相当便利だぞ!?」

「だから使い潰す」

「やっぱ地獄か!?」

「それにさ……これってチーム戦じゃん。やっぱそれぞれが自分の個性をばっちり発揮してアピールするべきだとも思うのよ。あえて言うけど俺と組んだら個性次第じゃただいるだけになるからね。個性を互いに活かせるような騎馬を組んでアピールするのも将来のためだと思う」

 

 半分は建前、半分は本音でみんなの追及をかわすために言葉を紡ぐ。

 時間も有限のため、その言葉でクラスの皆はしぶしぶそれぞれの騎馬を作るために色々と声を掛けに行ってくれた。

 ごめんな。全員を選べないから俺も辛い。

 

「……で、どうするんだよイクノ。何か考えでもあるのか?」

「まぁね……実は何人か候補を見つけててさ。確認してみる」

 

 俺は何人か目星をつけていた候補に声をかけるために歩き出す。

 まず一人目。この騎馬戦で折角だから仲を深めたいと思っていた子だ。

 

「ねぇ、拳藤ちゃん、ちょっといい?」

「ん? 峰田と幾野じゃん。あれ、もしかして誘ってくれてる?」

「おー拳藤か! 拳藤ならオイラも大歓迎だぜ!!」

 

 拳藤一佳。B組女子。

 峰田が入試試験で梅雨ちゃんと一緒に助けた女子だ。その縁で峰田とアドレス交換するほどの仲になっていた。

 入学してからは俺もB組に行って挨拶したし梅雨ちゃんも混ぜて昼飯を一緒したこともある。

 そして可愛い。おっぱい。可愛い。天使。

 

「ああ、よかったら一緒にどうかなってさ。別にクラス一緒じゃなきゃダメってんでもないし、B組の話も聞きたいしな」

 

 俺の個性についても軽く話したことがあるから拳藤ちゃんも俺と組むことのメリットは理解しているだろう。

 持っている物まですり抜けることは知らないが、それにしたって便利な個性だ。さてはて。

 

「あー……悪い! 折角誘ってもらってなんだけどさ、今B組でA組に勝つぞ! って感じで団結してるんだ! そんな中で委員長である私がA組と組んじゃうと……ほら……ね? 声かけてもらったことは素直に嬉しいんだけど」

「マジか」

「そーいや前にA組来た時にいけ好かないスカしたやつが煽ってきてたなそういや」

「ああ、物間な? 悪い奴じゃないんだけどどうにもあいつA組に敵愾心バリバリでさ。それが感化しちゃってるんだ、悪い事でもないから私も止めなかったんだけど。そんなわけでゴメン、私はB組で組むよ」

「了解。無理強いはできないしな、それじゃそっちも頑張って。俺も始まったら本気で挑むよ」

「うん、サンキュ! でも幾野の本気は怖いなー、すり抜けてくるんだろ? 勝つために逃げちゃおっと」

 

 残念ながらスカウトは失敗した。そういう事情があるならしゃーなしやな。委員長として責任感もある拳藤ちゃんいい子やで。

 まぁB組の内情がちょろっと聞き出せたのでプラマイゼロってところか。

 仕方ない。騎馬戦が始まったら物間とか言うやつは潰そう。

 

「また悪い顔してやがるコイツ」

「男にかける情けはねぇ」

 

 それじゃあ二人目のスカウティングに行くか……と考えたところで、なんと向こうからこっちに声をかけてきた。

 俺がスカウトしようと思ってた二人目、それは。

 

「……なぁ、さっきの障害走凄かったよなアンタら。見惚れちゃったよ、よかったら俺と組まない?」

 

 普通科の、心操。

 俺はコイツともぜひ話してみたかった。

 

「やだ見惚れちゃったなんて♥大胆♥」

「やめとけお前ェェ!? こいつと付き合うと性癖がっ─────」

「……ん? 峰田どした?」

「……!?」

 

 俺が軽いジャブから入り峰田のツッコミが続く……のだが、そのツッコミが途中で途切れた。

 なんだと頭を上げてみるとそこには()()()()、連続絶頂オナニーを終えた後の賢者タイムのように放心した峰田の顔があった。

 

「……アンタ、なんで……」

「……あ、なるほどね? そっか、お前の個性って会話がトリガーで発動するタイプ? マジかよ最強じゃん」

「っ……最初から疑ってたのか?」

「ああ。さっきの障害物競走のスタート直後の氷への対処、お前だけ回避の仕方が明らかにおかしかった。他の生徒の上に持ち上げられて……行動を強制するのか操るのか、どっちかだと思ったんだ」

 

 俺は驚いた表情の心操と、先ほどの競争の中で見た姿について話す。

 轟と並んで走ってた時に振り返った際、ウォールハックで見た生徒達の中に明らかにこいつだけが回避の方法がおかしかったので印象深く覚えていた。

 その後も周りに助けられながら走っていた。周りを操る力があるのか、とあたりをつけていた。

 面白い能力持ってるし、縁を深めておいて損はないと思ったのだ。

 

「……俺の個性は『洗脳』。俺と会話することで相手を洗脳状態にできる……」

「おおマジか。そんな簡単な条件でいいのかよ強っ」

「その簡単な条件を満たしてるのにお前は何でかからねぇんだよ……!!」

「俺は個性も含めて何でも潜り抜けられるからな、オートで。無敵ってやつだ」

「は……? マジかよ、クソ強個性じゃねぇか……!」

 

 なんだか恨みがましい感じの視線を向けてきた。

 自分の個性にコンプレックスでもあるのか? こんなに便利で同人誌の竿役ナンバーワンを狙えそうな個性なのに。それ抜きでもめちゃくちゃ便利な力なのに。

 

「なぁ、ところで洗脳ってどう解くの? 峰田を解きたいんだけど」

「……簡単に教えると思うのか?」

「教えなかったら今ここでお前が個性の洗脳を使って性的に襲い掛かってきたって甘い声で叫び出す」

狂ってんのかマジでやめろよ!? ……強い衝撃を与えると目が覚める」

「よし」

 

 俺は心操に解き方を聞きだす。素直に教えないのは当然なのでジャブで牽制したら意外と素直だった。

 しっかりツッコミもしてくれるしコイツ割と面白いやつかもしかして?

 

 さて、じゃあ峰田を起こそう。

 肩車した状態の峰田の脚を少し浮かして、俺のうなじと峰田の股間の間隔を少し開ける。

 そして両足を掴んで、思いっきりぐっと下に引っ張った。

 リトルミネタに大ダメージ。

 

「ッッがああああああああああ!!!あがああああああああッッ!?!?」

「お、ホントだ起きた」

「鬼か?」

 

 俺は峰田を覚醒させることに成功した。

 目覚めた峰田が俺の頭にぽこぽこ殴り掛かってくるが個性を使ってノーダメージ。

 

「峰田聞いてくれよ。コイツの個性『洗脳』なんだって」

「は? んじゃオイラはそれにかかってたってことか?」

「……悪かったよ。俺には後がねぇんだ。手段を選ぶ余裕がなかった……」

「こいつ誘おう」

「大賛成」

何でだよ!?

 

 俺と峰田の意見は一致し、こいつを誘うことに決めた。

 何故か心操は驚いているが、こんな強個性のやつを他のチームに組ませてやると思うか?

 他の騎馬隊全員に洗脳かけられて一致団結されたら俺もワンチャン負けるんだぞ?

 

「いや、お前の個性めっちゃスゲーじゃん。戦闘でも交渉でも、使い方次第であらゆる可能性があるし」

「対ヴィランに関しちゃほぼ初見殺しでいけるよな。羨ましいまであるわマジで。相手の騎馬操ってオイラの個性踏ませればそれで終わりだぞ? 勝つわ」

「っ……そんな事言われんの初めてだよ」

「あとエロいことに使えそうだよな!!!!」

分かる……!! 洗脳だぞ洗脳!? オイラお前とはぜひ親友になりてェよ!!」

「そういうことは言われ慣れてるよ。大丈夫なのかよヒーロー科」

 

 話をエロい方向に舵取ったらちょっと地雷踏んだらしくて機嫌が悪くなったのでちゃんとごめんと謝っておく。

 

「ごめんな、後でエロ本貸してやるから」

「反省してねぇだろ絶対」

「オイラもエロ本貸してやるから」

「エロ本が万能アイテムだと勘違いしてねーかお前ら!?」

 

 おかしい……俺達にとって一番誠意のある対応をしたはずなのに……。

 しかし心操はそれを受けて、はーーーーーっと大きなため息をつき、俺たちの案に乗ってくれた。

 

「……くだらねぇことで悩んでた俺が馬鹿らしくなってきた。わかったよ、乗るよ。結局のところ俺は勝って上に行かなきゃならねぇんだ。お前らに個性のネタも割れたし選択肢はねぇ。よろしく頼む」

「っし。よろしくな心操。俺は幾野だ」

「知ってるよ。選手宣誓で」

「オイラ峰田だ! イクノとは中学時代からダチやってる」

「すげぇなお前」

「オイラもそう思ってる」

「失礼がすぎる」

 

 仲間が増えました。やったぜ。

 新しい出会いが増えることは歓迎していきたいところあります。

 だからちょっとだけ真面目に心操に本音を話してやろう。さっきどうにもトゲがあった部分を、少しでも解してやりたい。

 

「なぁ心操」

「なに?」

「俺の個性、見たろ? どこだって潜れる……あと透視も出来る。クソ便利な力だ」

「なんだ、自慢か?」

()()()()()()()()()()()()()()

「……!」

 

 俺は心操に、多分子供の頃に苦い経験があったのだろうそこに切り込んでいく。

 わかるよ。

 俺も同じようなこと、言われたことがあるからな。

 

「……盗み、覗き。いっくらだって悪いことを出来る力だ。いや、それは俺だけじゃねぇ。あっちの緑谷とか爆豪だって、物も命も力づくでいくらでも盗める力だ。個性ってのはそういうもんだ」

「……何が言いてえんだよ」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()、って話さ。ヒーローとヴィランを分ける所は何か? 答えは一つ。そいつが正義か悪か、そんだけだ。周りが何て言おうがな」

「…………俺には、お前が何を言いたいのかやっぱり分からねぇ」

「そうか? ま、俺も実は言いたいことがよくわかってねぇんだよな。でもさ、お前が今、上を目指してるのがなんか眩しくてな。プルスウルトラ、いいじゃねぇか。立派に雄英生してるぜお前。ヒーローとしてな」

 

 隣に立つ心操の顔に、にっこりと心からの笑顔を見せる。

 お前もきっと、それでもヒーローを目指した男だからこそ。俺はそれを認めてると伝えたかった。

 

「……なぁ峰田」

「おん」

「お前、よくこれと長く付き合えてるな……」

「オイラもそう思う」

 

 おかしい。何故か心操が顔をそっぽ向けて俺と会話してくれなくなった。

 なぜだ。峰田はまたやってるよコイツって雰囲気だし。なんで。久しぶりにシリアスったの駄目だった?

 じゃあいつもの俺に戻りますよぉ。んにゃぴ……。

 

「じゃあ次は発目ちゃんだなサポート科の! このチームには今おっぱいが圧倒的に足りない!!」

「ああ!! 女子が足りない……!! うわ! 見ろイクノ!! 発目ちゃん今ゴーグル外してる超可愛い!!」

「俺組む相手間違えたかな」

「いや……何ィ!? 緑谷のヤツが既に組んでるだと!? これが一位の力なのか……!! アイツポイントで女を買ったぞ!!」

「クソ緑谷ァァァ!! 麗日とも組んでるじゃねぇかうらやましい!! 心操!! 今こそ出番だ!! お前の個性で発目ちゃんをオイラ達のチームにぃぃぃ!!」

「最低だよお前ら」

 

 心操が個性を使ってくれなかったので俺たちは最後に狙っていた発目ちゃんを誘うことはできなくなってしまった。

 くそ……意外と緑谷のやつ手が速いな。俺よりも早くダブルハーレムを完成させるとは……!

 ってか発目ちゃんはまだ推定だけど麗日ちゃんはマジで結構入れ込んでるよな。優しみの化身が既にお前を向いてるのに緑谷の奴め。

 最早容赦せん。1000万Pは俺が取る。

 

「残り時間も少ねぇぞ。俺との話に時間取っちまったのは悪かったが……もう一人、どうすんだ幾野」

「まだペアが決まってない相手から誰か選ぶしかねぇな」

「……あ、梅雨ちゃんがまだ残ってねぇか!?」

「マジかマジだ! よっしゃ勝ち確!! 梅雨ちゃーん!! 俺達と組まねぇか!?」

 

 最後の一人を選ぶ時間は無くなり慌ててあたりを見渡すとまだ梅雨ちゃんが残ってくれていた。

 えっ逆になんで? この騎馬戦で梅雨ちゃんめっちゃ強力じゃない? 誰も誘わなかったんか?

 

「ケロ。ようやく声をかけてくれたわね」

「え、もしかして待っててくれた感じ? 何かゴメンね!? 新しい出会いを求めてたところがあって俺……!」

「いいのよ、センちゃんはそういうコミュ強なところがいいところなのだから」

「梅雨ちゃんの力なら絶対誘われると思うんだけどな……」

「峰田ちゃん、一応何人かは声をかけてくれたの。けれど……そうね、センちゃんと峰田ちゃんがなんだか長話してたから、最終的に人数が足りなくなりそうだと思って待ってたわ」

「天使か?」

「梅雨ちゃんがオイラにとっての天使なのは確定的に明らか」

「テレるわ」

 

 何て優しい子なんだ梅雨ちゃん。

 確かに最初にめっちゃ誘われていた当初とは違い、一度断っちまっていたのもあって結構ギリギリだった。

 3人チームでもまぁ負けないんだけど、そこを心配して待っていてくれていた梅雨ちゃんが余りにも友達想いすぎる。

 峰田に微笑みかける梅雨ちゃんのその笑顔がまぶしすぎてなんか浄化されそう。

 

「……で、こちらの人は?」

「ああ、普通科の心操。『洗脳』の個性を持っててさ、組んでもらったってわけ」

「心操だ。よろしく……ええと」

「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんって呼んで、心操ちゃん」

「……A組は一気に距離詰めてくるな? まぁいい……よろしくな梅雨ちゃん」

「ケロ。個性が『洗脳』……この二人が見逃すはずないわね、そんな個性だと」

「A組の共通認識なのかよそこは。お前らの心労を心配するよ逆に」

「貴方も大変だったわね心操ちゃん」

「ホントだよ」

 

 梅雨ちゃんと心操もすぐに仲良くなったみたいだ。よかったな!

 その後、残り少ない開始時間までの間に、簡単に作戦を練ることにした。

 

『さァ上げてけ鬨の声!! 血で血を洗う雄英の合戦が今!! 狼煙を上げる!!!』

 

「うっし……峰田ァ!!」

「おう!」

「心操!!」

「ああ」

「梅雨ちゃん!!」

「ケロ」

 

「行くぜェっ!!」

 

『3!! 2!! 1!! START!!!』

 

 騎馬戦が幕を開けた。



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21 エロ戦車出撃ィィィ!!

 

 

「始まったな」

 

 俺はスタートの合図とともに、緑谷に向かっていく幾つかのチームを遠目に眺める。まずは様子見だ。

 ちなみにうちのチームの騎馬の形だが、かなり特殊なものとなっている。

 俺が騎手で身長170cm。

 峰田が108cm、梅雨ちゃんが150cm、心操が177cm。

 クソみたいにバラバラなので普通の騎馬が組めず、やむなく考えた陣形がこれだ。

 

「……心操、重くねぇか? 大丈夫か?」

「ああ、とりあえず問題ねぇ。梅雨ちゃんも支えてくれてるし……でもほぼ肩車のようなもんだよなこれ」

「え? もっと太ももで頭ぎゅってしてほしいって♥?」

「耳が腐ってんのかやめろ絶対やるな怖いんだよマジで柔らかくて。ホントに男かお前」

「確かめてみる? 男にしかないトコぎゅって押し付けて♥」

「今からでも棄権していいか?」

 

 俺が心操に肩車される形で乗って、前に出した脚を峰田が持ち、俺のお尻のあたりを梅雨ちゃんが心操の背中から支える形だ。

 バランスとるのめっちゃ(ムズ)ゥ~!!

 

「センちゃんのお尻すっごい柔らかいわ」

「やだ褒められた。あんまり揉まないでね梅雨ちゃん」

「ひっぱたきたいわね」

「意外と過激。でも梅雨ちゃんのお尻のプリティさには負けるよ」

 

 スパァン!! と尻を引っぱたかれた。なんでや。

 

「ふざけてねーでイクノ、これからどうするよ? とりま状況は緑谷が既に狙われてるけどよぉ」

「ああ……とりあえず、俺の危険度を知ってるA組は間違ってもこの時点で俺には立ち向かってこないだろうな。終盤ならともかく今は逃げの一手だ」

「なら狙うはB組か」

「ああ。気を付けたいのは範囲攻撃してくるタイプ……上鳴や轟みてーなのだ。騎馬であるお前らに攻撃が行くのが望ましくない」

「そうね。でも、その二人は同じチームのようだし、一先ずはB組を狙いましょ」

 

 他の騎馬より少し遅い歩みで俺はB組のよさそうな獲物を探す。

 さて誰から分捕りに行くか……って、おや。あれは葉隠ちゃんだ。

 

「葉隠ちゃんが全裸になってる」

「は?」

「お、マジだ。本気モードだな」

「あれ、でもハチマキがないわ……取られちゃったのかしら」

「待て? 驚いてる俺がおかしいのか? A組は変態の集まりなのか?」

 

 ウォールハックで見た所ちゃんと全裸だった。今日もエッチな大天使ですこと。

 騎馬になって支えてる口田と尾白がマジでうらやましい。耳郎ちゃんが騎馬の前側か。前は耳郎ちゃん、後ろは尾白の尻尾。いい組み合わせだ。

 だが梅雨ちゃんが言った通り、葉隠ちゃんの額にあるはずのハチマキが無くなってしまっている。

 そうかそうか。よし。

 

「葉隠ちゃんのハチマキ取ったやつ殺そう」

「物騒ねセンちゃん」

「あ、あそこのB組のやつじゃねーか!? ほら、拳藤ちゃんが物間って言ってたスカしたイケメン!!」

「よっしゃ全力で()りに行くぞォォ!! 心操走れェェェ!!!」

「了解」

 

 俺はB組の物間が葉隠ちゃんのハチマキを奪ったことを知り、殺しに向かった。

 俺の天使に何してくれてんだお前ェ!!

 

「おや、来たね幾野くん。あー……選手宣誓で一位を宣言してたけど、できるのかなァ? そんなに強い個性を持っているってこと? 気になるなァ……」

「うるせー死ね!! 葉隠ちゃんのハチマキ取りやがってこの野郎!!」

「あれぇ? そんなに恨むことかい? ちゃんとルールにのっとって競技をしているだけだよ? あ、わかった。好きなんだろ君、さっきの子のこと。透明人間を好きになるなんて変な嗜好だねぇ」

「コイツ……!!」

「乗るなイクノ!!」

「葉隠ちゃんの美少女顔を見れてねぇのか!! うわもったいなー!! もったいなー!! 葉隠ちゃん超美人なんだぜ知らねぇの!? うーわかわいそ! それなのに俺に噛みついてきたわけ!? なんかすました顔してるけどさー! どうやって俺を煽ろうか考えてるって感じ!? 俺に煽り合いを挑むわけ!? マジで!? あれだろどうせお前俺の見た目で攻めようとしたけど一目惚れしちゃって言えなかったんだろー!?」

「だから言ったんだお前煽るの好きすぎるからよぉぉぉ……!!」

 

 物間と対峙したら急に俺の事を煽ってきたので逆に煽り散らしてやる。

 口で俺に勝てると思ってんの?

 

「ハァ? 何か見るタイプの個性なのかな君は? しかし下らないね、そんなに歪んだ性欲満たしたいの? 全くヒーローらしからぬ発言だよそれ。そもそも君は男なんだろ? 僕は性自認が普通なんだから君に惚れるわけないじゃん?」

「ハイ語るに落ちるってヤツ~! LGBTQに配慮して煽ってるんですかー!? 切れ味微妙ですよ物間くーん! しかも見た目がダメとは言わないんだねぇ可愛いねぇ~! ちゃんと見た目は認めてくれてるんだぁ! やだ照れちゃう♥ もっと褒めて♥」

「褒めてないよねぇ? もしかして会話が通じないのかな? IQが僕と離れすぎてるのかな? 残念だな雄英にこんな生徒が入学出来てるなんて」

「あんま幾野を煽んな物間! あれと同じ土俵に立ったら終わりだぞお前!」

「拳藤ちゃんが何気に刺してくる!」

「ああそうだね。ヒーローらしくないし……」

「幾野も落ち着け、今やってんのは騎馬戦だぞ。そっちの……物間、だったか? お前もあんまコイツ煽らないでくれ、頭がおかしいんだ」

「アハハッ! 味方にまで頭がおか────────」

 

 よし、()()()

 テンション上がって口論が広がっちまったが、しかしここまでが作戦の内だ。

 幸いにして今の所、B組には俺の個性の詳細は伝わっていない。同じく、心操もだ。

 個性が分からない状態であれば、俺が個性を使って無理矢理ハチマキを分捕って手札を切るよりも、心操の洗脳で獲った方が効率的だし、何より心操の個性の有用性が目立つ。

 折角味方になってくれたんだし、こいつも活躍してほしいというのが俺の望みだ。

 

「梅雨ちゃん!」

「ケロッ、了解」

「峰田!」

「任せろ!」

 

 俺は二人に指示を出す。

 まず梅雨ちゃんが俺の尻を支えながら舌を伸ばして、動かなくなった物間から二本のハチマキをかっさらう。

 精度の高い遠距離攻撃が出来る味方がいるのめっちゃ便利だわ。梅雨ちゃんマジ天使。

 

「おい!? 物間!?」

「どうした急に!? なんで動かねぇ!?」

 

 そしてそうすれば騎馬の意識は必ず物間に行く。

 その瞬間が峰田の攻撃のタイミングだ。一度心操に抱きかかえられる形になってもらい、もぎもぎを物間の騎馬隊の足元や腕あたりに投擲する。

 

「ん、なっ!?」

「これ、くっついて…!? 足が離れねぇ!?」

「くそ、腕が動かせねぇ……!!」

「一丁上がりぃ!!」

「ちょろいぜェ! オイラたちを甘く見たなァB組よォ!!」

 

 これで物間の騎馬隊は終わりだ。

 あのもぎもぎを取り外すには燃やすか溶かすしかない。そんな個性があの4人の中にあれば別だが、少なくとも咄嗟に出していないことを見るにそういうのはないようだ。

 全員が靴を脱いで、服も破り捨てて、物間を再起動すれば動けるかもしれないが、それでも物間の露出した腕と騎馬の前側の男子の髪がもぎもぎで張り付いている。この時点でまともな騎馬としては動けないだろう。

 

「……その玉、効果えげつねーな」

「だろ? オイラの必殺技だぜ。降ろしていいぜ心操」

「おお。お前も随分軽いな峰田」

 

 心操が体重18kgの峰田の体を下ろす。

 俺も含め、体重が軽いから何とか動けてるなこの騎馬隊。あんまり心操が体鍛えてないから負担掛け過ぎねぇようにしないとな。

 俺は梅雨ちゃんからハチマキを受け取り、首あたりに巻き付ける。

 この瞬間、このハチマキは誰にも奪えないものになった。マジで俺のための競技だなコレ。

 

「よし……じゃ、このままB組を殲滅していこうぜぇ!! 俺と同じクラスになれなかったのを恨むんだなァ!」

「不可抗力の極みかよ」

「不条理の極みでもあるわね」

「やってること完全にチートだもんコイツ」

 

 俺たち騎馬隊は次の標的を求めて走り出すのだった。

 

 


 

 

『オイオイオイ……オイオイオイオイ!!! 緑谷チームがかなり粘ってるのもすげェが幾野がやべぇぞ!? B組キラーだぁ!! どんどん壊滅状態に追い込んでいくゥーーーッッ!!』

『やつの個性だけじゃないな。組んだ3人の力も上手く使ってるようだ』

 

 数分が経過して、B組の騎馬隊6組の内4組は行動不能に追い込んだ。

 ヤバかったのがツルみたいな髪を持つ女子*1だ。

 範囲攻撃に近いそれを持っており、全員を包み込まれるように蔓を伸ばしてきて厳しかった。

 ギリギリ心操の洗脳が間に合ったが、既に起こし方もバレてたので彼女に衝撃を与えられないように峰田に全力でグレープラッシュをしてもらって組んでる騎馬のメンバー全員が体を微動だに出来ないくらいに固めてもらっている。

 もし再び目覚めても距離は取ってるから大丈夫だと思いたい。

 因みに残る2組のうち、角の生えた可愛い女の子*2のチームは爆豪ちゃんが狩っていったようだ。ポイントが70Pだったから後回しにしてたんだけどな。

 

「くっ……ここまで一方的にやられるなんてね、幾野! 峰田!」

「悪いな拳藤ちゃん! 勝負は勝負だ、恨まないでくれよっ!」

「私はいいけど物間が後で五月蠅くなりそうだよ。だからせめて……一太刀でもアンタたちにっ!!」

 

 最後の標的となった拳藤ちゃんがその手を巨大化させて迫りくる。

 心操の洗脳は通じないか、会話に応じそうにない。向こうももう察したか。

 峰田はもぎもぎを構えておいてもらう。あの大きな手だ、もぎもぎを当てれば使えなくなる。

 しかし峰田もだいぶもぎってきたのでこれ以上グレープラッシュは使わせられない。

 梅雨ちゃんはまだ無事だがあの巨大な手に舌でやりあってもらうのは流石にな。

 速やかにハチマキを奪う必要がある。

 

「個性は使いよう! てぇえいっ!!」

「おっ……っとぉ!?」

 

 しかしそのまま掴みかかってくるかと思った拳藤ちゃんの行動は予想外のものだった。

 大きな手をまるでうちわのように、俺達に向かって仰いできたのだ。

 それにより強風が生まれ、俺たちチームの足取りが重くなる。

 

「くっ、オイラ吹っ飛びそうだ!」

「この風じゃ……中々前には……」

「ケロ、考えたわね。騎馬の脚を殺す……センちゃんは大丈夫?」

「ああ、俺は風にも潜れるからハチマキが飛ぶ心配もねぇ。けど考えたな……心操、姿勢だけは崩すなよ!」

「わかってる……!」

「支えるわ心操ちゃん」

 

 俺自身は強風をスルー出来るので強風が吹いていても髪も靡かないしハチマキも靡かない。

 その様子に驚いている拳藤ちゃんだが、しかしこれはなかなかいい手だ。少なくとも時間稼ぎと自分たちの身を守るにはうってつけ。

 

「これでも駄目かよ!? やっぱずるいわその個性……! 取陰!!」

「やってみるさ……!」

 

 そうして足踏みしていると、取陰と呼ばれた女子がこちらになんと手をロケットパンチのように飛ばしてきた。

 えっ何それ超カッコイイですわよ!?

 

「ま、無駄なんだが」

「っ……体だけじゃなくてハチマキもすり抜けんの!? なら脚を…!」

「おっと、露骨な騎馬への直接攻撃は駄目だぜ? ミッドナイト先生見てるよ」

「……むかつく!! くそっ、戻して……何ぃ!?」

「攻撃する瞬間が一番隙が出来るんだよなァ!!」

 

 取陰ちゃんの攻撃に一瞬みんなの気が行った隙に峰田が既にもぎもぎを投擲していた。

 風の影響をうけぬようにアンダースローで低く投擲し、拳藤ちゃんの騎馬の足元と地面をくっつける。

 これで相手の脚を奪えた。

 

「梅雨ちゃん!」

「ケロ、任せて」

「舌……!! やらせないっ!!」

 

 拳藤ちゃんに向けて舌を伸ばす梅雨ちゃん。

 ハチマキに引っかかる、その寸前で拳藤ちゃんのデカくなった拳が舌を弾き落とす。

 が、騎馬が動けなくなっているのは変わらない。大きな質量の手を振るったせいで、騎馬全体のバランスが崩れる。

 それで拳藤ちゃんの姿勢が崩れたところで……俺が、目の前に来た。

 

「……ちぇっ、やられたよ。あんた強すぎ」

「悪いね」

 

 腕を伸ばして拳藤ちゃんが防ぐ、その巨大な手のひらすら潜り抜けて、俺は拳藤ちゃんのハチマキを奪い取った。

 

 

『B組最後の砦も崩れるゥーーーーッッ!!! 幾野がB組全部取っちまった!! 順位はポイントは未だ緑谷……いやっ轟チームが取ったっ!!何が起きた速っ速ーーーー!! 飯田そんな超加速があるんなら予選で見せろよーーーー!!』

 

 さて、B組とは決着をつけて残り時間は一分弱か。

 見れば、今ちょうど飯田がとんでもない超加速を放って轟が緑谷からハチマキを奪ったところだった。

 その近くには爆豪ちゃんチームも来ており、最後に間違いなく大混戦になるだろう。

 

「よし心操」

「嫌な予感しかしねぇが」

「あそこに突っ込め。俺が全部取る」

「狂ってるぜお前」

 

 俺の言葉に、心操が冷や汗を垂らしながらもにやりと笑みを浮かべて走り出した。

 さて、最後にA組にちょっかいを出しに行きますかね。

 

 


 

 

「もう大丈夫!! 俺が来た!!!」

「一番来てほしくねぇやつが来た!!」

「幾野くんまで……!! くっ、1000万Pも無くなって状況は最悪……!! 考えろ、僕たちが勝つ方法……!! せめて決勝進出を……!!」

「レシプロバーストを使い切ってから来たか! 逃げの一手は使えない……!」

「幾野……!」

「男女野郎がァ……!!」

 

 乱戦の所に突っ込んでいく。

 今この場にあるハチマキは、轟の頭に緑谷から奪った1000万Pと元々持ってた615P。

 爆豪の頭に元々の665PとB組から取った70Pと障子・青山ペアから取った105P。

 それ以外全部俺。

 

 ────────さあ、楽しもうぜ。

 

 

『ラスト一分ッッ!! 最後の大混戦が始まるゥゥゥァッッ!!!』

 

『幾野チーム飛び込んだーーーッ!! 狙いは轟!! 上鳴の電撃は使い切ったか!? 威力が出ねぇぜ!!』

 

『轟も氷を放つが勢いがねぇっ!! これは……奪われる!! 奪われたァーーーッ!! 1000万Pは幾野チームに……いやッ!?』

 

『緑谷!? 緑谷チームが一位に復帰!? これは常闇の個性か!? 二人がやりあってる隙に轟から一本奪っていったキッチィーーーー!!!』

 

『だがそこに爆豪が文字通りぶっ飛んできたぁ!! これには緑谷……も何だとォ!? 緑谷も飛んだァーーーーッ!!! 空中大決戦ンンンン!!!』

 

『緑谷は発目からワイヤーが伸びてるぜ!? あれ障害走で使ってたやつだな!! しかも緑谷の動きがいいなマジで!? 緑の電撃が全身を包むゥ!! 緑谷の個性かァ!? 爆豪の攻撃をいなして地面に向けて投げおろすゥ!!』

 

『いやッここで緑谷に爆豪が反撃ィ!! 1000万Pが頭から外れて宙に舞うゥ!! ……って何とそれを奪ったのは幾野チームッッ!? 蛙吹が舌を伸ばしてからめとったァァァーーーー!!!』

 

『残るは爆豪のハチマキのみっ!! そっか爆豪の回収に瀬呂のテープ使わねーとだから取れなかったのか!! 轟も再び幾野チームに迫るがその手は無情にも幾野に吸い込まれてすり抜けていくゥ!! アイツのハチマキとれねーぞ!!』

 

『ああっと最後に爆豪チームに突っ込んでいった幾野チーム!!! 緑谷もチームに復帰してからそれを追うが間に合うか!? 爆豪チームに3組が迫る!! 爆豪どうなるーーーーッッッとんっでもねぇ光と爆音だァ!!!! スタングレネードかっつのォォ!?』

 

『緑谷チームと轟チームは今の爆破で標的を見失ったァァ!! 爆豪、自分のハチマキを守り切っ……ってないーーーー!!! 音も光も関係ねぇのかよぉ幾野ォ!? その手には最後の3本のハチマキがァァァ!!!!』

 

『そしてッここでTIME UPッ!! なんてこった!! なんてこっただ雄英騎馬戦ッッ!! とんでもねぇ決着になっちまったぞ!? いいか良く聞け!! 一度しか言わねぇぞ!? いいか!? 勝者ッ────』

 

 

 

『幾野チームッッ!! 全部のハチマキを奪い取ったァッッ!!!』

 

 

 

 

*1
塩崎茨

*2
角取ポニー




【次回予告】
第22話 「へー……チアガールで踊るんだぁ……」

ご期待ください。


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22 へー……チアガールで踊るんだぁ……

 

 

 騎馬戦が終わり、俺と峰田は事後処理に回っていた。

 具体的には峰田がB組に投げまくったもぎもぎの回収をしていた。

 

「本当に申し訳ございません、ウチの峰田が……」

「オイラに責任全部押し付けようとしないでぇぇぇ!?!?」

「このお方、美しいお顔に反して面の皮が厚すぎます」

「宣誓でブチまけるメンタルだもんな幾野」

「理解を拒むノコ」

 

 峰田の個性は俺との特訓で成長して、手に触れればくっつく力を解除できるようになっているのは最早説明不要だろう。

 B組女子の塩崎ちゃん、拳藤ちゃん、小森ちゃんから何故か辛辣な視線を向けられたがなんでや。

 

「困っちゃうよねェ!? そんなチートみたいな個性を持っていながら優先的にB組を狙うなんて! 性格が悪いよねぇ幾野くんは!! そんなんじゃヒーローやっていけないよォ!?」

「B組にも面の皮厚いのがいるじゃねぇか」

「ごめんな峰田、アイツ病気なんだよ」

「あらあらこれはこれは物間くぅん! いい勝負だったよお疲れ様! 健闘を称えあおうぜぇ!! 俺も一生懸命頑張って何とか決勝に勝ち抜けたんだけどねぇ! 物間くんはどうだったぁ? ごめんねぜんっぜんよく覚えてなくてさ物間くんの成績! こっちも必死でさぁ! まさか試合前にあんなに自分から発破かけてたんだから決勝に出られないってことはないと思うんだけどねぇ!?」

「大丈夫だウチのイクノも病気だから」

「そっか。お互い大変だな峰田」

「な」

 

 物間が煽ってきたのでこちらも煽り返してやったらなんか峰田が拳藤ちゃんの好感度を稼いでる。許さん。

 

「ってか俺が言うのも何だけどさ物間」

「急になんだい真面目な顔をして」

「煽り方は考えた方がいいと思うぞ?」

「は? どの口が言ってるの?」

 

 仕方ないので俺も拳藤ちゃんの好感度を遠回しに稼ぐことにした。

 具体的にはB組の問題児である物間の矯正を少しでも試みる。

 

「……お前が個人的にA組を煽るんならいいけど、今回はなんかB組全員でA組に勝つぞ、みたいになってんじゃん」

「それ悪いことかなぁ? プルスウルトラだろ? 競い合って高みを目指すのを否定するのかい君は?」

「それ自体が悪いとは言わねぇよ。でもさ、そこにお前の煽りが入ったら俺らA組の心象がお前だけじゃなくてB組全体にめっちゃ悪くなるなって考えない? 逆に潰されるってことは考えなかった?」

「……何が言いたいんだい」

「お前、自覚あるのかどうかは知らないけど結構リーダーシップある様に見えるんだよね俺の目には。拳藤ちゃんもなんだかんだ認めてるし。B組にもよく声かけしてるじゃん。障害物競走でもB組が余り上位にいなかったのはお前の指示? あれA組の個性を観察するためだよな? 気付いたとき成程と思ったもん俺。煽りさえなければお前かなりヒーローの才能あると思うよ」

「……褒めてるのか貶してるのかどっちなんだ君は」

「どっちも。煽るなとは言わないけど、同時に自分がB組の中でもリーダーシップあって代表的な立場にいるって周りに見られてるのを自覚しろよ、って話。拳藤ちゃんの心労も考えてやれよ」

 

 大体言いたいことは伝えた。

 これで物間の病気が少しでも快方に向かうといいのですが。駄目かな。だめかもしれん。筋金入りだったら俺はこれ以上力になれない。

 

「……今は反論しないでおくよ。敗者が勝者の言を否定はできないからね」

「急に素直になるじゃん」

「思う所があるってだけさ。一応、お礼を言っておくよ」

 

 そう言って物間が俺の方に手を差し出してきた。

 なんや。

 

「ちんちん触りたいの♥?」

どこをどう見たらそうなるのかなァ!? 握手だよ握手!!」

 

 あ、握手か。

 俺の可愛さに見惚れてしまって性癖が壊された結果ちんちんを求めて来たかと思ったわ。それなら素直に応じてやるか。

 

「ま、学校生活は長いんだ。これからもほどほどによろしく頼むぜ」

「ああ……、……スカだな」

「は?」

 

 えっ何? 怖。

 

「急な性癖COやめろ?」

ライン超えたよねぇ!? 人におちょくるなって言っておいて君はさぁ!?」

「え、だってスカとか言い出したし……でも俺ちょっとそっちはマジで無理かな……ごめんなわかってやれなくて……」

「僕の嗜好が勘違いされないために説明するけど違うよ!? 僕の個性の『コピー』を試したんだよ触ると個性のコピーが出来てさぁ! でも君はたまにある『外れ』だったって意味での『スカ』だからねぇ!?」

「あ、なるほど。多分それ俺がずっとすり抜ける個性張り続けてるからそもそもコピー出来てねぇんじゃねぇかな」

「どれだけ強個性なんだ君は!?」

 

 ばっ、と手を離して化物を見るような眼でこちらを見てくる物間くん。

 一先ずは彼がかなりニッチな性癖の持ち主でなくてこっちも安心だぜ。からかった俺も悪いが。

 ……いやわからんか? 咄嗟に嘘をついた可能性が微レ存……??

 

『えー、先ほどの騎馬戦について教師陣での協議の結果が決まったわ!! 流石に決勝戦に1チーム4人だけっていうのはアレだから、幾野チームにハチマキを奪われる前に最後までもっていたチームの順番に3チームを決勝に繰り上げますっ!! なので爆豪チーム、緑谷チーム、轟チームは決勝進出!! 幾野くんがこの競技に相性よすぎただけだからあまり気落ちしないで決勝頑張りなさいっ!!』

 

 その後先生方の協議により決勝に進むのは俺が最後にハチマキを奪いに行った3チームが繰り上げられることになった。

 流石にみんなあんまり露骨には喜んでなかったな。

 すまんな俺が強すぎて。

 

「お詫びに後でみんなに俺の自撮り写真を贈呈します」

「お前の趣味を周りに押し付けんなよォォォ!?」

 

 峰田にケツ蹴られた。なんでや。

 

「ケロ。やったわね三奈ちゃん、お互い頑張りましょう」

「いやー、爆豪は轟の氷と峰田のもぎもぎ対策で私入れてくれてただけで実力に見合ってんのかわかんないよー。梅雨ちゃんはスゴかったね」

「飯田くんあんな超必持ってたのズルイや!」

「ズルとはなんだ! 真にズルというなら幾野くんに向けて言うべきだろう!」

「ウェ~~~~イ(アイツマジで決勝でもどうしようもなくない?)」

 

 少し場も落ち着き、これから昼休憩を挟んで午後の部、決勝戦が待っている。

 俺も腹ごしらえをしようと食堂に行こうとしたところで。

 

「幾野。緑谷もいいか」

「ん、轟? なんぞ?」

「轟くん?」

「……あまり時間は取らせねぇ。話がある」

 

 轟に呼び出しを受けたのだった。

 

 


 

 

「轟くん……話って……何? 早くしないと食堂すごい混みそうだし……」

「緑谷の前で俺に告白しようとしてるならやめとけ? 緑谷もまだ俺に告白してないからな」

絶対そんな雰囲気じゃないよね!? 僕も告白しないよ!? 幾野くんのこと友人としてしか見てないよ!?」

「でもあの太腿の感触が忘れられないんだ……僕、おかしくなっちゃったのかな……」

アテレコやめて!? 轟くん早く話進めよう!?

 

 俺と緑谷が並んで壁に背を預け、対面には轟が同じように俺達を見てくる。

 緑谷をからかって遊んでたら轟にめっっっっっっちゃ睨まれた。

 ちょっとマジでゴメン。

 

「緑谷に気圧された。自分(てめえ)の制約を破っちまうほどによ」

「……そういえば……左側……」

「幾野にも負けた。騎馬戦じゃ最後までお前から逃げるしか手はねぇ。そうわかっちゃいたが出来なかった……俺がもっと早く緑谷からハチマキ奪えてりゃ、飯田の脚が残せてた」

「あれは飯田も判断ミスだったと思うがな。俺がいる以上、本気で勝ち抜けを狙うならハチマキ死守の逃げ一択だろ」

「……緑谷はオールマイトと何かしらつながりがある。幾野は現時点ではっきり俺より強ぇ。だから俺は……猶更勝たなきゃいけねぇ。俺の親父はエンデヴァー、知ってるだろ──────」

 

 そんな話から、轟が自分の過去について語り始めた。

 どこかで茶化すかと思っていたのだが、話の内容が重すぎやしませんか。

 ちょっとマジでクソ重いんだけど。茶化しも欠片も入れられねーわ。マジで。

 お母さんがそんな……。普通に辛い。泣きそう。エンデヴァーはクソだな!!!

 

「……ざっと話したが俺がお前らにつっかかんのは見返すためだ。クソ親父の個性なんざなくたって……いや……使わず『一番になる』ことで奴を完全否定する」

「…………」

「……重いよ話が」

 

 話が終わり、俺ははぁ、とため息をついた。

 緑谷もなんて言ったらいいかわからないと言った感じだ。

 そりゃそうだろう。俺も今の轟にかけられる言葉がない。俺にもいろいろあったが、こいつの場合はまた違う悩みが──────

 

「……轟くん。僕は……」

「緑谷?」

 

 だが、俺が何も言えなくなっているところに、しかし緑谷は去ろうとする轟の背に声をかけた。

 コイツマジか。さっきの話の後で声を掛けられるのか。

 

「ずうっと助けられてきた。さっきの騎馬戦だって、ここ二週間の訓練だってそう……幾野くんやみんな、僕以外の誰かに救けられてここにいる」

「……」

「オールマイト……彼のようになりたい。そのためには一番になるくらい強くなきゃいけない。君に比べたら些細な動機かもしれない……」

「緑谷……」

「でも僕だって負けらんない。僕を救けてくれた人たちに応えるためにも……!! だからさっき受けた宣戦布告、改めて僕からも……僕も、君に勝つ!!」

 

 ……なんて熱い言葉なんだ。

 緑谷の、彼の中にあるヒーローを目指す熱量。

 轟のそれとは違い、眩しいほどに煌く情熱の源泉。

 それが垣間見える様な、見事な啖呵を切り返していた。

 

 くそ。

 こんなの聞かされちゃ、俺も言わなきゃいけねぇじゃねぇか。

 

「……轟。俺は正直、さっきのお前の話に同情してる」

「幾野くん……」

「緑谷ほど強いモチベもねぇ。最終種目でも勿論手は抜かねぇけど、はっきりと俺が勝つって言えるほどじゃないんだ。お前の想いを否定も出来ない。けどな、けど……」

「……幾野」

「……俺はさ、轟。もしお前が辛い思いをしてたら、それをわかってやりたい」

 

 言葉を探し、そして紡ぐ、緑谷の出した答えとは違う俺の答え。

 それはきっと、俺の原点(オリジン)

 

 

「俺は───泣いている誰かの隣にいられるヒーローになりたいんだ」

 

 

 そう、それは。

 かつて、泣いている俺の隣にいてくれたヤツがいたから。

 そいつと同じように、俺も。

 

 涙で目を腫らした誰かが、二度と悲しまないように笑える。

 そんなヒーローになるために。

 

「幾野くん……」

「そんな俺だから、正直お前らみたいに絶対に何が何でも、ってわけでもねぇんだ。けど……それが手加減する理由にはならない。だからせめて約束する。もしお前らと当たったら、全力で勝ちに行くってな。油断も手加減もしねーからな」

「……ああ。お前に手加減されて勝っても何の意味もねェからな」

「僕も、望むところだよ」

 

 緑谷とそれに続く俺の言葉に納得したのか、轟はそれ以上何も言わずに去って行った。

 残された俺と緑谷。若干沈黙が広がる。

 随分と雰囲気が重くなってしまった。切り替えなければいけない。

 

「……幾野くん。僕、君がヒーローを目指す理由、初めて聞い──」

「なぁ緑谷」

「てっ、う、うん?」

「エンデヴァーって子沢山だよな。それってめっちゃセックスしたってことで……もしかして轟のお母さんってめっちゃエロ───」

今そういう流れじゃないよね流石に僕もキレるよ?

「ごめんなさい」

 

 轟くんのせいで調子狂っちゃったなー!! んもー、どっかで切り替えないと。

 その後緑谷にはマジで謝って許してもらって一緒に飯食べに行った。

 

 


 

 

 食堂で緑谷と飯を食べ終えて別れ、集合時間までぶらぶらしようとしていると、女子更衣室のほうに向かうA組女子たちを発見した。

 え、なんで? 着替えるの?

 ……ああいや一度汗拭いたり下着着替えるのかな? 女子だもんな。俺も汗ケアしてくるべきかな。

 

「あれ、幾野だ。メシは食ったの? ウチらが食べてる時に食堂にいなかったように見えたけど」

「野暮用で食堂行くの遅れてね。さっき掻っ込んできたから平気だよ耳郎ちゃん。そっちはどしたん?」

「ええ、それが……先ほど峰田さんと上鳴さんが相澤先生からの言伝を伝えてくれまして」

「午後は女子全員で応援合戦しなきゃいけないんだってセンちゃん! チアガール服に着替えに行くんだー!!」

「騎馬戦じゃいいとこ見せらんなかったしせめてチア合戦じゃ勝ちにいくよー!」

 

 な ん だ と。

 

「あー俺も峰田から食堂で話聞いたな。いいじゃん、目立つチャンスだよ」

「ウチちょっと恥ずかしいな……露出大きい服だし」

「ケロ。私もちょっとテレるわ」

 

 速攻で思考を廻してこの返事を出した俺を褒めてもらいたい。

 絶対に峰田と上鳴の嘘だろう。俺がいない食堂で女子を貶めようとしたのは間違いないな。

 しかし俺はそこを指摘するほど無粋ではない。

 むしろ俺も峰田から聞いたという事にして被害者面をする。

 

 ん? なぜ加害者じゃなくて被害者面になるかって?

 答えは簡単。

 

「ねぇ八百万ちゃん、チア衣装ってこれから創造する感じ?」

「ええ、そうですが……」

「あ、嫌な予感」

「俺も着るわ」

「「「言うと思った!!!!」」」

 

 俺自身がチアガールになるからだ。

 こんなおいしいイベント見逃してなるものかよォ!! 俺のチアガール姿で男子の性癖ブチ壊すんだよオラァッッ!!!

 

「え、本気(マジ)ですの……!?」

本気(マジ)本気(マジ)。絶対俺似合うと思うし。女の子達だけで楽しそうじゃん、俺も混ぜてよ」

「自信が凄すぎるやん」

「その自信に見合った体つきなのがマジで頭に来る……!」

「女子力でセンちゃんに負けられないっ!! 頑張るぞー!」

 

 百合の間に挟まるヤリチン構文を交えつつ口八丁で上手く丸め込んで混ざることには納得してもらえた。これまで信頼度稼いでおいてよかったぜ。

 女子だけに恥ずかしい思いはさせねぇから(建前)これからどんどん脳を焼こうぜ(本音)。

 

「ではイクノさんのものも作りますわ。ええと……身長とスリーサイズ……サイズは分かりますか?」

「170cmの75:57:92。股下は91cm。体重52kg。前にヒーローコス作った時に測った」

ガハッ

ンン゛ッ

ゲロッ

体重まで言う必要なかったよね!? 謝れ!?

 

 何人かが俺のスリーサイズと体重を聞いた途端に吐血して崩れ落ちた。

 どうした?? 俺のほうがウエスト細かったかな??? んん?????

 

「あと、その。下着はどうしましょうか」

「上は脱ぐし下はボクサーパンツだから裾を個性で潜り込ませればいい感じに隠れるでしょ。膝上30cmでいいよ」

「太もも過剰やん!? もうちょっと女子の聖域守ろう!?」

「ケロ、センちゃんは男子よお茶子ちゃん」

 

 俺は八百万ちゃんが創造したチアガール服を受け取って、汗の処理と着替えの為に男子更衣室に入った。

 うん、サイズぴったり。流石八百万ちゃん。

 ボクサーパンツも裾を体内に潜り込ませて女子並みの際どいラインを作ることに成功。

 後は踊るから髪をポニーテールにしてっと。

 

「うむ完璧」

 

 更衣室に備え付けの鏡を見て完璧なチアガールになった俺はにこりとほくそ笑む。

 さあ行こう。もう大丈夫、俺が来た。

 揺れろ雄英。これがA組だ。

 

 


 

 

『最終種目の前に予選落ちの皆へ朗報だ!! あくまで体育祭! ちゃんと全員参加のレクリエーションも用意してんのさ!!』

『本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ……ん、アリャ?』

『なーにやってんだ……?』

 

『どーしたA組女子ィ!!? チアガールコスチュームで登場してっていや幾野も混ざってんな!? 似合いすぎて恐怖すら感じるわお前マジでお前ェェェ!?!?』

『マジでなにやってんだ』

 

 俺たちはチアコス姿で会場に姿を現し、この時点で女子たちが峰田に騙されていたことに気付いたらしい。

 

「峰田さん上鳴さん!! 騙しましたわね!?」

「ゴメン」

「マジでゴメン」

「ケロ、意外と素直に謝ってきたわね」

「イクノがいるからだろーね」

「アホだろアイツら……幾野もアンタ、気付いてたでしょ?」

「ノーコメント」

 

 峰田と上鳴が一瞬めっちゃうひょー!! みたいな表情を浮かべたが、次の瞬間に俺を見つけてスンッ……って真顔になって謝罪してきた。ウケる。

 女子を孤独にせず下手人は性癖を破壊する。一石二鳥を成した俺は褒められるべきでは??

 

「まァ本戦まで時間空くし張り詰めてもシンドイしさー、いいんじゃない!? やったろ!!」

「透ちゃん好きね」

「真面目な話すると注目はされるわけだしな。ヒーローとして顔を売るのも大切じゃん? やるからにはちゃんとやろーぜ」

「幾野に正論言われんの腹立つ……!」

「その前にトーナメントの抽選が始まるようやけどね。今年ガチバトルかー……!」

「去年はスポーツチャンバラだっけ」

 

 チアコスチュームのままで俺たちは決勝トーナメントの抽選会に参加した。

 結果は以下の通りだ。

 

【Aグループ】

1 緑谷

2 心操

 

3 轟

4 瀬呂

 

5 幾野

6 上鳴

 

7 飯田

8 発目

 

 

【Bグループ】

1 芦戸

2 峰田

 

3 常闇

4 八百万

 

5 蛙吹

6 切島

 

7 麗日

8 爆豪

 

 

 

 ……ふむ。

 俺は二回勝てば緑谷か心操か轟か。瀬呂は流石に轟には勝てないだろうな。

 しかし、この結果は少しだけモノ申したいことがある。

 

「Aグループの女子率低すぎない?? 発目ちゃんだけだよ??? 色が足りないよ色がァ!!」

「悪ぃなぁイクノぉ!! オイラ女子とばっかり当たる可能性あるぜェマジで!!」

 

 峰田が煽ってきよる。お前決勝で俺と戦えると思うなよ。

 

「芦戸ちゃん、アイツのもぎもぎに酸有効だから。体にひっついたらすぐに酸で溶かすといいよ。髪に近い材質だからちゃんと剥がれると思う」

「マジで? 助かるわ」

「お前よォォォォ!?!?」

 

 俺は芦戸ちゃんに峰田攻略法を教えた。

 後で常闇と八百万にもちゃんと伝えとこ。

 

 

 それじゃチアリーディングの時間である。

 めっちゃカメラこっちに向いてる。

 さあどんどん性癖壊していこうぜぇ!!





女子勢からの幾野の呼び方まとめときます。(自分用)
麗日→センくん
梅雨、葉隠→センちゃん
芦戸→イクノ
八百万→イクノさん
耳郎→幾野

なお男子は峰田以外は幾野or幾野くん。峰田はイクノ。


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23 フレーッ♥フレーッ♥男子♥

 

 レクリエーションの時間。

 そこにはチアガール姿で女子たちと一緒に全力でA組を応援する俺の姿が。

 

 

「フレーッ♥フレーッ♥ A組☆」

「センくんの脚上げがすごい! かなり際どい!!」

「脚上げるたびに観客席からどよめき起きてる……」

「イクノちょっと真剣にダンスやってみない!? すごいキレッキレよ!? 頂点目指せるよ!」

「自分もこんなに才能あると思ってなかった」

 

 本場アメリカのチアガールの動きを見ながら真似て踊ってみたんだけど結構うまく出来てたらしく芦戸ちゃんが褒めてくれました。嬉しい。

 ダンスなんてやったことないんですがね。柔軟性と体幹の勝利か。やはり体幹……! 体幹はすべてを解決する……!

 

「あとみんなには見えてないかもだけど葉隠ちゃんの柔軟性も結構なもんだったよ」

「あー……靴やポンポンの角度でたまにおおって思ったけどやっぱすごいんだ」

「ケロ、二人ともよく動けてるわ」

「えへへー、センちゃんに褒められると照れるー!」

「なんだかんだ体動かしてたら緊張も解れたし楽しかったね!」

 

 そして応援合戦の時間も終わり、とうとう始まるトーナメント戦。

 

『いろいろやってきましたが結局これだぜガチンコ勝負!! 一回戦!! 障害物競走から急成長見せてるぜヒーロー科、緑谷出久!! 対!! 騎馬戦で恐ろしい騎馬になってたぜ能力まだ未知数普通科、心操人使!!』

 

「緑谷と心操か。心操の洗脳が決まるかどうかが全てだな……」

「一つ聞いていいかイクノ?」

 

 俺は観客席のA組が集まる所に戻って第一試合で出てきた顔見知りの二人を見て腕を組んで見下ろす。

 ベガ立ちしてると気分いいよね。なんかわかってる風になって。

 んなことしてたら峰田が何故かこちらを信じられないものを見る目で見てきた。

 なんですか。

 

「なんでお前まだチアガール服のままなんだよォォォ!?」

「え、なんでって……可愛くない?」

「否定はしねぇけどお前だけだよ今チアガールなの!? 女子はみんなジャージに戻ってるよ!?」

「常々思ってるんだけど雄英のジャージのデザインラインすごくいいよね胸元に沿う形でさ……」

「心から同意だけどお前早く着替えて来いよォォォォ!!!」

 

 真っ白いむちむち太腿を身長差と座席の都合で峰田の視界に映していたというのに何故か不評であった。

 あ、いや角度的にスカートの中チラチラ見えてるか?

 男のパンツ見て何が楽しいんだお前(正論)。

 

「今着替えてないのは結局のところ趣味なんだけど、俺をこうした原因がお前だということは忘れるな峰田」

「アアアアァァお前という存在への配慮不足ゥゥゥゥ!!」

「上鳴も改めてちゃんと女子たち、特に八百万ちゃんには謝っとけよ。試合前なのに創造使ってくれてんだから」

「そこは後でしっかりワビ入れるけど未だにチア姿のお前に言われたくねぇよ!? そのまま俺との第一試合来るのかよマジで!?」

 

 俺は上鳴にもちょっかい出しつつ、ルール説明が始まりそうなので聞くことにした。

 

『ルールは簡単! 相手を場外に落とす! 行動不能にする! あとは「まいった」と言わせて降参させれば勝ちのガチンコだ!! ……って毎年やってたんだけど今年は悪いが新たにルールを新設するぜ!!』

 

「ん……新しいルール?」

「何だ?」

「珍しいよな。確かガチンコ戦の時ずっとこのルールだったぜ?」

 

 俺と峰田と上鳴は揃って首をひねる。

 

()()()()()()()()()が下手すると千日手になりそうだからよ! 時間制限を設けるっ!! 試合時間は最長で10分!! それまでに決着がつかなければ引き分け!! その場合は回復後に腕相撲とか簡単な勝負で勝敗を決めてもらうぜぇ!!!』

 

「マジか」

「完璧なイクノ対策」

「幾野が守りに徹したら絶対負けないもんなー、こりゃ俺にもワンチャンあるか!?」

 

 なんと試合に時間制限が設けられることになった。

 うーん……まぁでも仕方ない事だな。正直騎馬戦はやり過ぎたとも思ってるし、俺も俺でスピードってのは課題の一つだ。これを超えてこそプルスウルトラだろう。

 俺と戦う相手にワンチャン与えるってのは盛り上がる意味でも悪い話じゃない。

 会場中の視線がその言葉で俺に向き、俺はチアコス姿で大きく頭の上でマルを作ってにっこり笑顔を見せ、了承の意を返した。

 やっぱチアコスのままでいると目立てるな。もっと性癖歪めていけ。

 

『さぁそんじゃ早速一回戦始まるぜぇ!! レディーーーーーー………』

 

「緑谷……だったっけ」

「…………」

 

 もう間もなく一回戦が始まる。

 どうやら早速心操が仕掛けにいったようだ。

 俺は心操に緑谷の個性について説明してないし、緑谷にも心操の個性を説明していない。

 当然だ。お互いに今自分が持つ情報で戦うからガチバトルなのだ。

 ただ、緑谷が簡単に心操に返事をしていない。あいつの性格なら試合前に挨拶くらいはするだろうがそれをしていないとなると、警戒は間違いなくしてるんだろうな。

 さっきの騎馬戦で心操も個性を使って活躍していた。情報戦は緑谷に分があるか。

 

「幾野が言ってたんだけどさ」

「…………」

 

 え、俺なんか緑谷のこと心操に言ったっけ。

 覚えがない。

 

『START!!!』

 

「幾野で童貞捨てたってマジ?」

「何てこと言うんだ幾野くん!?」

 

 思っくそ噴き出した。

 何てこと言うんだ心操くん!? 言ってねぇしヤってねぇよやったのは唯の組手だよ!?

 俺の穴は純潔の乙女だよ今後一切ヤる予定もねぇよ!?

 どうすんだよこれ全国放送に声が乗ってたら!! 引子さん*1にどんな顔すればいいんだよ!?

 

「え……イクノお前……」

「やってねぇよ!? 俺は男に性的興味ありません!! 女の子に筆おろししてもらいたい方です!! おまっ心操おまえ後でマジで覚えてろよお前!!!!

「己の童貞宣言までするのかよ幾野……」

「ウケる」

「俺が失った物多すぎん??」

 

『おっとォここで緑谷開始早々完全停止ィ!! 心操の個性が炸裂かァーーーー!?』

「悪いな、くだらねぇ嘘ついて。こういう汚い煽り方をついさっき幾野に教わったのさ」

 

 \教えてないでーす!!/

 

『やっぱあの幾野と組めるほどのやべえやつか!! やべえやつだったのか心操!!』

 

「……恵まれた個性、恵まれてねぇ個性。そんなの自分(てめぇ)が決めることだって、アイツを見てたらなんか思えて来たよ。ガキみたいにスネるのはやめて俺もマジで獲りに行く。……だからお前に恨みはねぇが緑谷出久、振り向いてそのまま場外まで歩いていけ」

「……………」

 

『ああーーーー!! 緑谷ジュージュン!! これは決まっちまったかーーーー!?』

 

 心操の命令で場外に向けて歩き出す緑谷。

 これは決まったかな。緑谷、勿論応援してたし轟との試合も見たかったが……こればっかりはしゃーない、戦いだからな。

 心操との会話を警戒しながら乗っちまった緑谷が悪い。俺がダシに使われたのは業腹だけど。

 ……ん? 緑谷が負けたのって俺の責任が微レ存?

 

「────────!!!!!」

 

 そんなことを考えていると、会場に突風が生まれた。

 見れば、緑谷が……留まっている。

 呼吸を荒げ、左手の指の何本かが以前のように個性の使用で怪我をしちまっている。

 ……マジか。洗脳って解けるのか、自分で。

 

『おっと緑谷踏みとどまったァァ!? とんでもねぇ強引に行ったぜアイツウゥ!!』

 

「マジかよ……どういうことだよ」

「………っ!」

「幾野と同じタイプか!? いや……力で無理やりか、初めてだよそんな事されたのは! とんでもねぇ威力だ、羨ましいよ!!」

「…………」

 

 そして今度こそ緑谷が言葉を返さない。

 指の痛みをこらえながら、俺との訓練で仕上げた力───フルカウルを、その身に纏っていく。

 緑谷の体に紫電が走りだす。心操の声にももう返事をしない。

 

「俺は自分の個性にスネてスタートから遅れちまったよ……だがよ緑谷、俺も今日きっぱり決めたんだ」

「………!!」

「望む場所に、俺も行くってなぁ!! お前が先に向かう場所に、俺も絶対に追いついてやる!! 次は……次はっ!! 絶対にお前に────」

「──────ッッ!!!」

 

 フルカウルで緑谷が突っ込んでいき、蹴りを放つ。

 その蹴りは見事に心操の腹に直撃……緑谷も蹴り方を調整して、吹き飛ばすように再度腹の上から力を込めた。

 フルカウルの力を、腹に突き刺すためではなく体を吹き飛ばすために使った。

 心操が吹っ飛んでいく。勝負ありだ。

 

『心操くん、場外!! 緑谷くん二回戦進出!!!』

 

 


 

【side 心操】

 

 

 俺の個性は洗脳だった。

 悪い事し放題の個性。そう、子供のころから何度も言われ続けてきた。

 

『─────皆そういうよ』

 

 そりゃ俺も他人が持ってたらまず悪用を思いつく。

 ヴィラン向きだねって間接的に言われるのは慣れっこだ。そういう世の中、仕方のない事。

 

 でもさ。

 

「…………心操くん……」

「……緑谷」

 

 場外で倒れた俺に、緑谷が手を差し出してくる。

 

 昨日までの俺なら、この手は握れなかっただろう。

 心の中に棘が刺さっていた。

 洗脳という個性に、どこか負い目があった。スネてたんだ。

 ヒーローになりたいと思いながら、こんな個性でヒーローになれるわけがない、なんて。

 

 だけど。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

【答えは一つ。そいつが正義か悪か、そんだけだ】

【お前が今、ヒーロー目指してるのがなんか眩しくてな】

 

 俺と同じような悩みを持ち、それでも前を向いていた馬鹿を知ってしまったから。

 棘はいつの間にか、抜けていた。

 

「……心操くんは、何でヒーローに……」

「……憧れちまったもんは仕方ないだろ」

「……!!」

「……いいか緑谷、覚えとけ。憧れはもう挑戦になった。今回は駄目だったとしても俺は絶対に諦めない……ヒーロー科編入して資格取得して……絶対()()()より立派にヒーローやってやる!!」

 

 そう。

 お前や、幾野に負けないように。

 

 俺も、ヒーローになる。

 今日の原点(オリジン)を忘れない。

 

「────うn」(あ、やられ……)

「……ハッ。俺と話す時フツー身構えるんだけどな……身構えないのはお前と幾野くらいだよ。足、掬われんなよ緑谷」

「(あ、戻った)……うん!」

 

 俺は緑谷の手を固く握り、健闘を称えあった。

 会場の去り際、去る俺の背中に賞賛の言葉をかけてくれる普通科の奴らや観客の声が、随分と胸に染み入った。

 

 


 

 

 二回戦。瀬呂VS轟。

 結論から言おう。

 

「やりすぎ問題」

「瀬呂……ドンマイ」

 

 轟がやり過ぎた。

 全力の氷ぶっぱで瀬呂を一撃で凍り付かせて決着だ。

 会場もドンマイコールが響いている。これでは瀬呂が余りにも哀れだ。

 仕方ない、俺が一肌脱いでやるか!!

 

「どーんまい♥どーんまい♥がんばれ♥がんばれ♥瀬呂は出来る子だよ♥」

「オイラの右耳が穢れる!!」

「ってか俺達次の試合なんだからもう控室行くぞ幾野!! こんなに速い決着になるとは思ってなかったけどよぉ!!」

 

 チアガール姿で一生懸命友人を応援してみたら何故か変な顔された。なんでや。

 でもその後轟が氷を溶かしてステージを乾かす時間が生まれたので無事控室に移動できた。

 俺控室にいても何もやることないんだけどな。

 

「ってか次マジでどうしよ……お前相手に俺勝てる気がしねぇよ……電気もすり抜けんだろ?」

「俺もお前相手に負ける気はしねぇな」

「事実だけど口に出すなよォ!? 言葉に気を付けろ!?」

 

 控室に向かう道中で上鳴と軽く話す。

 まぁ上鳴の個性は増強系じゃない。どんなに電撃を放とうと俺には効かないんだから勝負は眼に見えてる。素の動きじゃ俺の方が上だしな。

 だからこそ、俺は言ってやった。

 

「お前が考えるべきはこの試合でどうすればベストかだと思うけどね、俺」

「いや、負けるんだからベストもクソも……」

「違うだろ。負けるにしたってやることはあるって話。さっきの瀬呂だって、なんなら初撃のテープは不発だったけどいい判断だったって思わなかったか? あの判断力を評価するヒーローはいると思うぜ?」

「……あー……?」

「お前も、お前がどんだけすごいヤツかってのを見せてやれよ観客に。俺が全部受け止めてやっからよ」

「……!! そっか、そういうことか……! そうだよな、負けるにしたってやれること全部やらなきゃな!」

「ああ。どんなにやっても俺は死なねぇんだから安心しろ。()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()んだぜ? 逆にチャンスだろ」

「はー……幾野、お前いいやつだな」

「今さら気づいた? 判断おせーわ」

 

 俺との試合で、お前がどれだけ凄いやつか見せつけてやれと。

 それは俺に勝つという意味ではない。

 体育祭のもう一つの面、プロヒーローへの、世間へのアピールに俺を使えと。

 

 速攻で終わらせるつもりは俺もない。

 時間制限があるから油断はしないが、とりあえずこの馬鹿が全力を出せるまでは待ってやるつもりだ。

 相手が俺じゃなけりゃなんなら上鳴だってチートみてぇな個性を持ってるんだ。一方的に潰すようなことはしねーさ。

 多分、教師陣も俺にそういうことを求めているはず。

 

「……でもお前チア服で戦うんだよな」

「やだ、見惚れちゃった♥?」

「台無しだよ色々ォ!」

 

 俺たちは控室に入り、試合が始まるのを待った。

*1
緑谷の母。以前緑谷の家に峰田と共に遊びに行ったときに初めて自宅に来た友達ということでめっちゃ歓迎された。




クラネスハインド様よりファンアートを頂いたので紹介させていただきます!

①チアコスで応援するセンちゃん

【挿絵表示】


チアガール服に身を包むセンちゃんを描いてもらいました。
このイラスト頂いたのがこの話を投稿する前で「がんばれ♥がんばれ♥」って作中で言うのを未来視されてました(恐怖)
サー・ナイトアイって呼ばれてたりしませんか??? 
ファンアート心より感謝申し上げます。有難うございました!


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24 何気に鬼門となるメガネ委員長

 

 

 選手に与えられた控え室に入ると、俺の次の試合に出る飯田がそこにいた。

 

「ハズレか。発目ちゃんのほうがよかったな」

失礼だな君は!? それと何故まだチアガール服なんだ!?」

「服は趣味。……ってかそっちこそ、なんでそんなにサポートアイテム装備してんのよ」

「発目くんの心意気に打たれたのだ! 対等に戦いたい、だからこそこちらにもアイテムを、と渡されてな!」

 

 騙されてるよそれ絶対。

 でも俺にはそれを口に出さない優しさがあった。

 アイテムの装備を手伝ってやりつつ自分の試合までの時間を潰していると、飯田から話を振ってきた。

 

「しかし、幾野くんの個性の有用性はまさしくこの体育祭で世間に認められたろうな。俺も騎馬戦で君への警戒を怠っていなければ、勝利は出来なくともすべてのハチマキを取られるようなことはなかっただろう……悔しいよ」

「ん。まー……そうな。轟も同じようなこと後悔してたけど、レシプロバースト、だっけ? あれを使っちまったのは焦ったな。あれがあれば最後ワンチャン逃げられただろうし」

「ああ。やはり学ぶべきことはまだまだ多いと感じたよ。この後、俺が発目くんに勝てば次は君とだな」

「だな。一番警戒してる相手だぜ、飯田は」

 

 取らぬ狸の皮算用をしすぎてもあれだが、次に当たる相手の予想はしておいて損はない。

 俺が飯田と戦う時に一番気を付けるべきはコイツの脚だ。レシプロバースト使わなくても俺より速いからな。

 お互いにどうしてやろうかと作戦を練っている。ダチではあるがそこはお互い当然にして作戦は漏らさない。

 

「……この体育祭が始まる際に緑谷くんにも言ったんだがな」

「ん?」

「ここ最近の緑谷くんの成長は著しい。思わず目を見張ってしまうほどにな。だからこそ、『君に挑戦する』と宣言したのだ。僕は、緑谷くんと戦うまでは負けたくはない」

「……なるほど?」

「だが、その前に君がいる」

 

 ここで改めて飯田が俺の目を真正面から向いてきた。

 茶化す雰囲気ではないので俺も正面から見据える。

 

「君は……入学当初から不思議な男だった。女のように整った顔立ちであるかと思えば、余りにも下品な言動に僕はすさまじい衝撃を受けた」

「ひどくない?」

「だが、しばらく付き合う間に君のそんな発言の内にある優しさもわかってきた。君は言動はアレだがいい人だ。委員長に推してくれた感謝も忘れることはないだろう。USJでも……、……僕は色々と君に恩がある」

「…………」

「そして、君は強い。はっきりと僕は君にまだ及んでいないとわかってしまっている。でも、だからこそ君にも言いたい。僕は、君にも挑戦すると!!」

 

 前振りは長かったが、結局飯田も男だという事だろう。

 緑谷、轟に続いて飯田もまた、俺に勝ちたいのだ。

 まったくもー男子なんだから。

 

「前振りなげーわ。でも、ま……俺だって誰にも負ける気はねぇさ。特に今回の試合は俺にも負けの目があるからな。油断はしねぇ。俺はお前にも勝つ。轟にも緑谷にも勝って、俺が一位になる」

「ああ、選手宣誓で述べていた君の決意だな。いいとも、僕はそれを食い止めて見せよう」

「はっ、お手柔らかに頼むぜ委員長」

 

 いつものクソ真面目な雰囲気に苦笑を零して、俺は肩をすくめる。

 そうしているうちに第三試合の会場準備が整い、俺は試合会場へ向かっていった。

 

「じゃ、また後でな」

「ああ」

 

 


 

 

『ステージを乾かして次の対決!! 今大会の台風の目!! キレイなハナだがこいつは男子だ早く着替えろ幾野潜!! バーサス!! スパーキングキリングボーイ上鳴電気!!』

 

「よぉ上鳴……ちゃんと溜めて来たか?」

「おォよ。手加減もクソもねぇ、ばっちり溜まってっからよ」

「オナ禁何日目?」

「お前どこまでも平常運転だな!?」

 

『─────START!!!』

 

 俺と上鳴の試合が始まった。

 速攻を決めに行かず、俺はまず上鳴の出方を伺う。

 とはいえ、おおよそこいつがやりそうなことは分かってっけどな。

 

「俺あんま頭よくないからさ、どうやって自分の力を発揮するかなんて控室じゃ思いつかなかったんだよ」

「おん?」

「けどさ、控室にいた子が解決してくれた」

「え、発目ちゃんか? えっ何??? ナンパした????」

「違ぇよ!? ちょっとかわいかったからコナかけたら全然ダメだったけど!! そうじゃなくてアレを見な!!」

 

 俺が上鳴が指さした方向を見ると、そこにはなんか数字が計測されるような表示板がある機械が鎮座していた。

 何だあれ。

 

「何あれ!? ミッドナイト先生ー!! アレ何ー!?」

「アレは上鳴くんの電撃の威力を計測するだけの機械よ!! 試合には直接影響ないから持ち込みOKにしたわ!!」

「成程発目ちゃんに準備してもらったわけね!! 遠くの電気量測れるってすごいね!?」

「だろ? 今から俺は俺の出来る全力で電気をぶっ放す……!! それにお前がもし耐えられなかったら俺の勝ち!! 耐えられても俺の電気の凄さを視認させられるってわけだぜ……!!」

 

 バチッ、と上鳴の体に紫電が走る。

 それは緑谷の纏うフルカウルのそれではない。そんな比ではない。

 純粋な雷撃の暴力。

 

「だから俺の全力……受け止めてみろや幾野ォ!! いっくぜぇ!!! 無差別放電130万ボルトッッ!!!!

「自分でボルト数公言しちゃってるぞお前!?」

 

 その瞬間、試合場内に落雷が落ちたかのような爆音と衝撃が生まれた。

 電撃の塊が試合場を覆いつくし、地面を焦がす。とんでもねぇ威力だ。

 余りの光量にミッドナイト先生も眩しそうに顔に手を当てている。

 

 ああ、だが。

 それでも、俺の個性には通じない。

 

『すっさまじい威力だァ!! これほどの電撃を放てたのか上鳴ィ!? サングラスつけててよかったァァ!! さっき置いてた機械はとんでもない数値をはじき出してやがるゥゥーーッッ!? 落雷並だァ!!』

『───っだがッッ!!』

『それでも幾野には全く効いてないぜこんちくしょオーーーーーーッッ!!!』

 

 放電が終わった後に、俺は無傷でそこに立っていた。

 電気の一切を潜り抜けた俺は、静電気で髪が逆立つこともなく、ピンピンした状態でその場に立っていた。

 先程の雷撃の威力の大きさと、それでも一切傷ついていない俺の姿に、観客席から大きなどよめきが生まれている。

 その声の中には上鳴の放電力を讃える声も多い。

 頑張ったんじゃねぇか、上鳴。

 

「……確かに見せてもらったぜ、お前の本気」

「ウェ、ウェ~イ……」

「お前、いいヒーローになれるよっ!」

 

 終わりだ。

 俺はウェイ状態になった上鳴に駆け寄って胴を抱え上げ、弱弱しく抵抗するのを無視してそのまま場外まで運んでぽーい、と投げ捨てた。

 

「決着っっ!!! 二回戦進出は幾野くんっ!!」

 

 ミッドナイト先生の審判が下り、俺は一回戦を突破した。

 

 


 

 

 俺はウェイった上鳴を保健室に放り込んできて観客席に戻ってきた。

 峰田を見つけてその隣に座る。

 試合場を見ればまだ飯田と発目ちゃんが戦っている様だ。

 

「ん、まだ飯田達やってんのか」

「おう。さっきからネットショッピングみたいなノリで色んなアイテム紹介になってら」

「何やってんだよ飯田」

 

 実況もハッキングされてるし。

 アイテム解説付きの鬼ごっこみたいな感じになってんじゃん……え、マジ?

 

「え、最初からずっとこんな感じ?」

「そうだよ?」

「発目ちゃんヤバくない?」

 

 マジで?

 いくらアイテムの補助があるとはいえ相手はあの飯田だぞ? A組で一番速い男だ。

 その攻撃を10分いなし続けてるってマジ??

 え、強くない??

 俺は真剣なまなざしで試合場を見守った。

 

「……発目ちゃんの動きがいい」

「あ、それはオイラも思った」

「胸が揺れてて眼福」

心から同意(それな)次オイラの試合だけど見逃せなさ過ぎて離れられん」

 

 いいもん見れたな!!!!!!

 

 なお試合は10分の時間制限ギリギリまで発目ちゃんがアイテムアピールに使い切り、なんと自ら降参する形で飯田の勝利となったのだった。

 飯田。俺に勝つ前にまずちゃんと発目ちゃんに勝ちなさい。

 

 

 そして次、峰田と芦戸ちゃんの試合。

 

「先手必勝ォォォ!!!」

「うわガチでやってきたー!? そういうキャラだっけ峰田!?」

「勝ってカッコいい姿を魅せるんだよオイラはァァァ!!!」

 

 芦戸ちゃんは酸を体にまとわりつかせてもぎもぎを防御しようと画策していたが、峰田がそれを読んで先手を仕掛けた。

 跳峰田で場内を飛び跳ね回り芦戸ちゃんの視線を切ったところで至近距離からのグレープラッシュ。

 酸の防御があるとはいえこれに驚いた芦戸ちゃんが防御姿勢を取ったところで峰田が突っ込んで脚を崩す。

 そのまま再度跳峰田で勢いをつけて飛び込んで体ごと芦戸ちゃんを押し出した。

 普通は転がる程度だったのだが芦戸ちゃんが最初に体に纏っていた酸が潤滑剤となり、カーリングの要領でそのまま場外まで滑って行ってしまい、決着となった。

 ううん。俺のアドバイスが芦戸ちゃんの視野を逆に狭めることになっちまったかな。反省。

 

「オイラ最強ォォォ!!」

「くっそー、普通にやられた! 普通にやられすぎて逆に驚いたよ!」

「オイラがいつでもおっぱいを狙っていると思うなよ……!?」

「急にイクノみたいな事言うじゃん峰田。どったの?」

「イクノが普段ひどすぎてそのストッパーになってるオイラの女子評価が思いのほか高かった件」

 

 試合後に健闘を称える握手も交わして試合は終了した。

 

 

 次、常闇VS八百万ちゃん。

 

「相手を動かしてカロリー消費させて疲れさせるんだ常闇ィ!! 揺らせ!! 八百万ちゃんはもっと個性使えるように脱げーっ!! 今からでもチア服になれーっ!!」

「最低だぞ幾野」

「最低ですわイクノさん!?」

 

 試合前にヤジ飛ばしたら怒られた。

 試合内容はさっきの峰田のように常闇が速攻を仕掛けて八百万ちゃんが準備したものを使わせずに押し切って勝利。

 

 

 次、切島VS梅雨ちゃん。

 

「動きは速ぇけど、俺に対する有効打が打てねぇな梅雨ちゃん!!」

「ケロ……相性が悪いわ」

 

 梅雨ちゃんが機動性を活かしてヒット&アウェイで仕掛けたのだが、いかんせん『硬化』の個性を持つ切島に有効打を与えられない。

 一瞬の隙を突いて梅雨ちゃんの舌を掴み、力任せにジャイアントスイングの要領で切島が梅雨ちゃんを場外に投げ飛ばして決着となった。

 女子の舌を掴んでぶん回す切島マジ鬼畜。

 

 

 次、爆豪ちゃんと麗日ちゃん。

 

「緑谷くん、先ほど言ってた爆豪くん対策とは何だったんだい?」

「ん! 本当大したことじゃないけど……かっちゃんは強い! 本気の近接戦闘はほとんどスキなしで、動くほど強力になっていく個性だ。空中移動があるけど……とにかく浮かしちゃえば麗日さんは主導権を握れる」

「麗日ちゃんの個性、触れば終わりって捉えると死ぬほど強いよな。無力化まではいかないけど」

「うん、幾野くんの言う通り……だから速攻で間合いを詰めて事故でも何でも麗日さんは触れればいい! かっちゃんは大抵最初は右の大振りから始まるからそれを避ければ……」

 

 緑谷と飯田と共に試合が始まった会場を眺めながら講評を始める。

 緑谷が言う作戦もまぁ御尤もだが、しかし爆豪ちゃんが本当に右手の大振りから始まるかね。

 だってよ、その緑谷が言う爆豪ちゃんの癖って。

 

「二度は油断しねぇよ丸顔ォ!!」

「!? やばっ……ぶわっ!!」

「なっ……かっちゃんが左!?」

「麗日くん!?」

「やっぱりか」

 

 緑谷が既に一度打ち破った戦い方だろうに。

 俺の予想通り、爆豪は同じ轍を踏まなかった。

 危機感を覚えて咄嗟に突進を止めた麗日ちゃんは何とかしのげたが、爆豪ちゃんの初手は左手の振り下ろしからの爆撃だった。

 

 あいつはバカではない。

 緑谷や轟、峰田や常闇がいかに戦闘で輝こうと、本物の天才はアイツだけだ。

 そして、この試合は欠片も油断していない。

 いや、アイツは今日はもう油断するようなことはないだろう。

 

 なにせ、既に二度も負けている。

 障害物競走では緑谷に。騎馬戦では俺に。

 その悔しさが、アイツに容赦をする甘さを与えていない。

 誰よりも貪欲に頂点を欲するアイツだからこそ。

 

「……麗日ちゃんもよくしのいでる。が、厳しいな……スタミナなら爆豪ちゃんに分があり過ぎる」

「が、がんばれ麗日さん!」

「むぅ……一方的になり始めた!」

 

 試合は進み、爆豪ちゃんが一方的に攻め始めた、ように見えるだろう。

 だが俺の目には違うものが写っている。

 粉塵が舞う試合場、それをウォールハックで一瞥すれば一目瞭然だ。

 瓦礫が、宙を浮いたままなのだ。

 

 恐らくあれが麗日ちゃんの最後の策。

 あれを一気に重力解除して振り下ろしてその隙に……って所か。

 

「ありがとう爆豪くん───油断してくれなくて」

「あ……?」

 

 あ、麗日ちゃん何やってんの!?

 隙を突いて解除しないと身構えるでしょ爆豪ちゃんが! 何も言わずにやればよかったのに!

 

『流星群ーーーー!!! 瓦礫が落ちてくるゥ!! だがっ何と爆豪会心の爆撃ッ!! 麗日の秘策を堂々と正面突破ッッ!!!』

 

 oh……。

 爆豪ちゃんの迎撃が間に合ってしまった。

 言わなくても間に合ってた可能性もあるけどちょっと失策だったかもな。ウォールハックで全部見えてた俺だから分かる視点なんだけどさ。

 

 その後、麗日ちゃんが再度突っ込もうとしたところで許容限界超過(キャパオーバー)

 まああんだけ瓦礫浮かせてたらやむ無しか。配分少しミスってたかもな。それだけ自信あったんだろうけど。

 意識はあるものの倒れてしまった麗日ちゃんを見てミッドナイト先生が行動不能を宣言し、爆豪ちゃんが勝ち上がった。

 

 うーん。

 女子同士の試合は見ごたえがありましたね。

 惜しかったところもあったが、流石は爆豪ちゃん、ってところに落ち着くか。

 決勝はアイツとかもな。

 

「麗日さん……」

 

 やはり普段から仲いいだけあって緑谷は麗日ちゃんを応援していたのだろう。

 なんか敵討ちに行くみたいな雰囲気出して控室に向かっていったが、お前こそ次の相手が正念場だからな。

 

 轟焦凍。

 アイツの闇を何とかするのは、きっとお前であってくれ。



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25 緑谷に後で秘蔵のエロ本を進呈しようと思う


「爆豪 女体化」で検索したら異様なヒット数でした(報告)



 

 

「お、爆豪ちゃん戻ってきたな」

「おーう何か大変だったな悪人面!」

「組み合わせの妙とはいえとんでもないヒールっぷりだったわ爆豪ちゃん」

「うるせぇ黙れ」

 

 A組が集まる観客席に麗日ちゃんを下した爆豪ちゃんが戻ってきた。

 相変らずキレてんなこの子。

 

「まぁーしかしか弱い女の子によくあんな思い切りの良い爆破出来るな」

「上鳴こそ可愛い子にまったく遠慮してなかったじゃねぇか」

それ自分で言うのかよ幾野!? お前が全力で来いって言ったよなぁ!?」

「フンッ!! ……麗日のどこがか弱ェんだよ」

 

 上鳴が爆豪ちゃんを茶化したので俺がカウンター気味に上鳴を茶化したところで五月蠅かったのか爆豪ちゃんがどかっと腰を下ろして鼻を鳴らした。

 揺れてる揺れてる(幻覚)。

 でも最後に零した言葉は本心だな。やっぱこいつツンデレ金髪ロリ巨乳か。可愛いね♥

 

『さーそろそろ始めようかぁ二回戦!! 今回の体育祭 両者ともトップクラスの成績ッ!!』

 

 しばらくしてマイク先生のアナウンスが入り、とうとう轟と緑谷の試合が始まる。

 

「センちゃん、次の試合でしょ? 控室行かなくていいの?」

「ああ……葉隠ちゃん。ちょっとね……この試合は見届けたいんだ」

 

 家庭の不幸に、親に縛られた轟が。

 それを受け止めてなお前を、上を向ける緑谷が。

 俺に何を見せてくれるのか。俺は見届けなければならない。

 

「イクノがシリアスな雰囲気出してるけどチアガール服で台無しなんだよな」

「ケロ、真剣なときの顔は本当に綺麗なのにね」

 

 黙れ峰田。梅雨ちゃんも続かないで。

 

 

『緑谷バーサス轟!! STARTッッ!!』

 

 

 そして試合が始まった。

 

 開幕の攻防は一瞬だった。

 轟が開始の瞬間に氷結をぶっ放す。

 ただしそれは瀬呂に放ったような広範囲高威力のそれではない。範囲を絞り直線に放つ氷の波。

 それに緑谷がフルカウルで応じ、横っ飛びに回避。凍り付くのを防いだ。

 

『おオオオ!!! 避けたああああ!!! すっげぇぜあの反射神経!?』

『跳躍の速度も相当のものだ。化けたな緑谷……』

 

 フルカウルの時の緑谷はそれこそ峰田の跳躍に勝るとも劣らない。

 峰田はもぎもぎを付けた上で脚でしかできないが、今の緑谷は四肢全てを使い高速で動き回る事が出来る。

 

 だからこそ、その後の攻防で俺は驚愕を覚えた。

 

「すげぇな…………()のやつ」

「あん? 緑谷が見事に避けてんだろイクノ。オイラでも平地じゃあそこまでは無理だぜ」

「ああ……でも轟が追い詰めてる。次か……その次だ」

「へ?」

 

 俺は正直な所、最初の攻防でこの試合緑谷に分があるものと思っていた。

 フルカウルの速度をキープし続けられれば、氷結を回避できる。轟は氷結を使いすぎると恐らく体温が下がって動きが悪くなるからそこで緑谷が攻めに転じれば……と。

 だが轟の戦闘センスがそれを上回った。氷を無造作に放つのではなく追い詰めるように緑谷の動きをコントロールし、必中のタイミングで放ったのだ。

 

 あれは緑谷に厳しい。

 脚か体が凍り付いてしまえば今度は中々フルカウルの力では割れない。フルパワーで撃つにしても怪我が───

 

「んぬ゛っ!!!!」

「……!」

 

 だがその瞬間に緑谷が決断的な行動に出る。

 いや、最初からここまで考えてたのか。フルカウルでできる限り回避し、回避できなくなったらフルパワーのデコピンで氷ごと粉砕。

 決して足を止められないように自分の出せるリソースを徐々に削りつつの持久戦。

 大したやつだ。緑谷はわかっていたのだ。

 

「爆豪、おめーも轟も強烈な範囲攻撃ポンポン出してくるからなー……」

「ポンポンじゃねぇよナメんな」

「おん?」

「個性だって身体機能だ。奴にも何らかの限度はあるハズだろ」

 

 ちょうど今、切島と爆豪ちゃんがその話をしていたので俺も混ざる。

 

「轟の限度は寒さだろ。使うたびに体が冷えてってるはずだ」

「……男女、テメェ知ってたのか」

「轟とはよく戦ったからな。障害物競走の時、最後の方明らかに轟の右半身が冷たかった。騎馬戦の時は騎馬の八百万ちゃんの事を考えてかあまり氷を積極的に使ってなかったけど……思えば前にやった戦闘訓練の時もそうさ。氷をぶっ放した後、轟の右半身は冷え切ってる。動きが悪くなるんだ」

「チッ……だがその読みで間違いねェな。今も半分野郎の動きが鈍い。体に霜も降りてやがる……ゲームのMPみてえなもんか」

「瀬呂の時の規模がおよそ最大限なんだろうさ。この持久戦……緑谷に分があるぞ」

 

 俺は轟との対戦回数がクラスの中でもダントツに多い。その分、アイツの個性については理解できているところがある。

 轟は氷結しか使わないせいで、体が冷えるのだ。それを温める手段があるのに使っていない。

 緑谷は恐らくそれを読んでいたのだろう。だからこそ持久戦に持ち込んだ。

 フルカウルの維持がかなり際どいが、まだ指は3本しかイッてない。

 それに対して既に轟は顔に霜がつき始めている。爆豪ちゃんのいう通り、動きが鈍ってきた。

 

「緑谷……」

 

 お前の出した答えは、それなのか。

 勝つことで、轟の想いを超えるのか。

 

 答えの分からない俺が緑谷の勝ちを確信し、呑み込み切れない思いを抱えていた。

 クラスメイトも、観客も、轟の敗色が濃厚になってきたことを感じ始めた。

 このままいけば、緑谷が勝つ。

 

 だが。

 あいつは。

 

「震えてるよ……轟くん」

「個性だって身体機能の一つだ、君自身冷気に耐えられる限度があるんだろう……!?」

「でもそれって左側の熱を使えば解決できるもんなんじゃないのか……?」

 

 轟を挑発した。

 いや、あれは挑発ではない。

 それは、きっと。

 

「っ……皆……本気でやってる!! 勝って目標に近づくために……一番になるために!!」

()()の力で勝つ!? まだ僕は君に傷ひとつ付けられちゃいないぞ!!」

 

「全力でかかって来いッッ!!」

 

 きっと、激励なのだろう。

 緑谷の疲労も極限だ。痛みもひどいものだろう。

 だが、それでも、緑谷は真正面から轟と向き合った。

 ()()()()向き合ったのだ。

 

「……何のつもりだ。全力……? クソ親父に金でも握らされたか……? イラつくな……!」

「遅い……! フルカウル……5……いや……8%ッッ!!」

 

『モロだぁーーーーー!! 生々しいの入ったあっ!!!』

 

 緑谷。

 緑谷、お前は。

 

「何で……!」

「ぐっ……腕が……! でも、氷の勢いも弱まってる……!」

「何で、そこまでっ!!」

「期待に応えたいんだ……!! 笑って応えられるようなかっこいいヒーローに……()()()()()()っ!!」

 

 お前は。

 一番を目指す想いを持ちながらも、俺が目指すものも。

 

「だから全力でやってんだ!! みんな!! 君の境遇も君の決心も僕なんかに計り知れるもんじゃない……でも……全力も出さないで一番になって完全否定なんてふざけるなって今は想ってる!!」

「うるせぇ……!!」

「だから……僕が勝つ!! 君を超えて!!」

 

 俺が目指す、誰かの隣に寄り添ってやりたいと思うそれすらも。

 お前はやっちまうのか。

 

「親父を────」

 

「君の! 力じゃないか!!」

 

 

『これは────────!?』

 

 

「勝ちてえくせに……」

「ちくしょう……敵に塩送るなんてどっちがふざけてるって話だ……」

 

「俺だって……ヒーローに……!!」

 

 

 俺は、轟焦凍の原点(オリジン)を見て。

 そして、それを導いた緑谷のフルカウルの輝きが、どこまでも眩しく見えた。

 

 


 

 

 緑谷と轟の試合が終わった。

 決着は、轟の勝利。左の炎の力を解禁した轟が水蒸気爆発のような大爆発を起こし、緑谷を吹っ飛ばしたのだ。

 セメントス先生のコンクリの壁がなければマジでヤバかっただろう。流石に全方位にあの衝撃をぶっぱなされたら緑谷がいくらフルカウルしても避け切れず弾け飛ぶ。

 逆転勝利の結果に終わり、そして続くは俺と飯田の試合だ。

 

「なぁ峰田、そろそろ髪型変えてったほうが新鮮で可愛いかな?」

「お前さっきまでシリアス面で観戦してたよなァ!?」

「ねぇ、葉隠ちゃんどう思う? ツインテールとサイドテールならどっち好み?」

「え、えっ? わ、私は今のポニーテールなセンちゃんも、す、好きだけど……でもツインテールも見てみたいかも?」

「よしツインテールで行くわ」

「人の話聞いてない!」

 

 いや、峰田に言われなくても感動したよ。

 むしろ俺まで叱咤激励された感じだ、緑谷に。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と思わされた。

 余計なお世話を焼いただけに見える? バカ言え。それがヒーローの本質だって従兄が言ってたよ。

 くそっ、緑谷ともやりたかったなぁ!

 

『よしステージの補修が終わったぁ!! それじゃ続いての試合は幾野と飯田! だけど幾野お前まだ観客席にいるじゃねぇかーーー!! とっとと降りて来いハリァーーーップ!!』

 

 俺が八百万ちゃんに追加のヘアゴム作ってもらってツインテールに整えていると次の試合がもう始まるころのようだ。

 マジか。セメントス先生頑張ってんな……あの人この体育祭で一番頑張ってるんじゃないか。

 

「せ、センちゃん言われてるよ!? 早く行かないと!!」

「向こう側に飯田くんもう出てきとるよ!?」

「わかってるって。んじゃ行ってくる……よっと!!」

 

 俺は思いっきり勢いをつけて、観客席の上段から試合会場に向けて()()()()()

 

「のわー!? センちゃーん!?」

「幾野何やってんだお前ェ!?」

「20mはあるぞ!?」

 

 みんなが心配の声をかけてくれるが、俺にとっては全く問題ない。

 

『ホゲェーーーーッ投身自殺ゥゥゥーーーーーーッッ!?!?』

『違うだろ。本当に派手好きなやつだ』

 

 試合会場前に体が着弾するかと思われた瞬間に個性を発動。

 脚が地面に潜り、普段よりも透過率を下げることで衝撃を吸収し、ノーダメージで()()する。

 衝撃を殺し切ったところで再度ジャンプ。ひらりと空中で一回転してから、試合会場に降り立った。

 一瞬遅れて結い上げたツインテールがふわりと舞って、観客席から大歓声が生まれる。

 

『な、なんとこの高さからとんでもねぇ勢いで降りてもノーダメージッッ!! お前観客沸かすの上手すぎだろォ!?』

 

「……ふっ、幾野くんらしい派手な登場の仕方だ」

「ごめん、待った?」

「いや、俺も今来た所さ」

 

 試合会場で見据える先、飯田がこっちに好戦的な笑みを向けてくる。

 それに返すように、俺もにぃっと口角を上げる。

 今の俺は随分と昂ってるんだ。悪いが様子見なんてしねーで本気で行くぜ、委員長!

 

『っしゃ場が温まったなぁ!! このままいくぜぇ幾野バーサス飯田!! レディーーー……START!!』

 

「さあ、どう来る幾野くん!」

 

 試合開始直後、飯田は突撃してこなかった。

 わかっているのだ、俺に不意打ちは通じないことは。

 アイツはルールの上で俺に勝つべく最善手を打った。

 すなわち、まずは10分逃げ切って引き分ける。

 俺との追いかけっこなら飯田に分がある。その判断は正解だ。だから。

 

「こう行くんだよォ!!」

 

 俺は開始地点から動かずに、()()()()()()()()

 『潜行』の真の恐ろしさを見せてやる。

 

『おおっと幾野がまず地面に潜り込んだァーーーー!! これがアイツの個性の真骨頂かァ!? フィールドには飯田がただ一人残されるゥ!!』

「事前に幾野くんとルールのすり合わせしてるけど、試合会場から潜り込むのはセーフ! でも当然場外から体を出したらアウト判定よ!! 出てくるなら場内のどこかからね!!」

 

 地中に潜った俺はマイク先生とミッドナイト先生の声を聴きながら、ウォールハックを発動させて上を向く。

 飯田は俺が地中に潜ったことで一瞬悩んだようだが、すぐに打開策を考えて行動した。

 レシプロバーストではない、己の個性で出来る最高速で試合場内を駆けまわり始めたのだ。

 

『どっから出てきても掴ませないために飯田が駆けまわるゥゥーーー!! こりゃ逆に幾野が厳しくなってねぇかァ!? 息切れで出てきちまうんじゃねぇか幾野よぉ!?』

『あのバカがそれを考えずに潜ると思うか?』

 

 相澤先生は俺の事をよくわかっていらっしゃる。

 そう、上にいる者には中々イメージできないだろうが、下から眺めている立場からすれば、飯田がどんなルートで走ってくるかというのは、割と読める。

 山の中で、峰田の跳峰田の速度と3年間やりあい続けてきたんだぞ。

 例え飯田と言えども、平面上を駆け抜けるだけならば、待ち伏せるのは難しくない。

 さらに言えば呼吸だって可能だ。俺が地面を潜り抜けて呼吸してるんだから呼吸できるんだよ。

 

 飯田のルート確認。

 3。

 2。

 1。

 今。

 

「ッッ!?!?」

「捉えたァ!!!」

 

 飯田が駆ける脚の、着地の瞬間を狙って俺は足首を掴んだ(グラップリング)

 俺の勝ちだ。

 

『ああっと幾野の腕が地面から生えてきて飯田を捉えたァ!!! がッ!?』

 

「この瞬間……俺が全力で逃げるとは思わなかったのか、幾野くん!!」

 

 俺が足首をがっしり掴んだ瞬間に、飯田がレシプロバーストを起動する。

 ああ、わかってたさ。お前がそうすることくらい。

 だがそれでも無駄なんだ。

 

「レシプロ……バーストッッ!!」

 

 凄まじい速度で飯田が駆け巡る。

 普通に足首を、いや体を掴んでいたとしてもこの速度では振り落とされてしまうだろう。

 

 だが俺だけはそうはならない。

 何故かって?

 既に足首を掴むことで、()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「………な、にッ!?」

「全力で走るたびに自分の体のパーツが取れたりするか? 取れねぇよな?」

 

 飯田の凄まじい速度で俺が地中から引っ張り上げられ、赤い長髪とスカートが翻り靡くが、その手は離れない。

 潜るということは一つになるという事。

 飯田の体内に負担をかけぬままに、俺は脚から徐々にずるりと潜り込んで離れない。

 

 ……ここで俺の個性を切れば、飯田の脚が千切れる。

 もちろんそれをやるつもりは微塵もない。それだけは二度とやりたくない。

 だが、相手の体内に潜り込めばこんな便利な機能もある、ということだ。

 

 つまり、俺が体に潜ればもう逃げられない。

 

『飯田がとんっでもねぇ超ッパヤで走るけど幾野が離さねぇーーーー!! どころか何の影響もないように飯田の体の中から登ってくぜ!? 体勢をゆっくり整えてやがる!!』

 

「幾野くん……」

「終わりか? 遺言くらいは聞いてやるぜ」

 

 レシプロバーストも終わり、機動力を失った飯田はその場で脚を止める。

 179cmの大きな体に、俺が背中におんぶするようにしがみつく形となっていた。

 なお、俺の腕は飯田の首にかけられている。まだ本極めではないが、チョークスリーパーの形。

 力を入れれば一分と掛からないだろう。当然、振りほどくことはできない。

 

「……あえて言おう」

「おう」

「君はズルだ!!」

「ははははは!!!」

 

 俺はその言葉に大きく笑い、ふわりと空にツインテールを泳がせてから、キッと力を籠めてチョークを極めにかかる。

 腕力だって素の男子の中じゃ上位である俺のチョークで、飯田がゆっくりと沈んでいく。

 お互いの顔は至近距離。耳元で、飯田がカエルがつぶれたような声でもがく。

 

「ぐっ……な゛あ゛、いぐの゛ぐん……っ」

「あんま喋んな、苦しくなるだけだぞ」

「……づ、ぎ、は……」

「………」

「つ、ぎは……負げ、ないぞ……! もっど速ぐ、走っ、で……ぎみに゛、がづ……!!」

「……ああ。マジで楽しみにしてる」

 

「───!! 完全に極まっていると判断しますっ!! この試合、幾野くんの勝利!!」

 

 俺のチョークスリーパーが極まりきっていると判断したミッドナイト先生が勝利を宣告。

 すぐさま腕を解き、ごほごほとせき込む飯田の背中を軽く叩く。

 顔を上げた飯田も、悔しさをにじませながらも苦笑を浮かべ、差し出した俺の手を取ってくれた。

 

 




今更ですが原作とあんまり変わらない部分の描写はあっさりしてます。
原作漫画読むかアニメ見て脳内補完してくだされ。

※補足と予防線※
本作中の決勝トーナメントの場外判定について。
出た瞬間にKO判定になるのは変わりありませんが、出る出ないの判定はドラゴンボールの天下一武道会タイプではなく幽遊白書の暗黒武術会タイプです。
何言ってるかわからん? んにゃぴ。


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26 ひとりふたりエッチしようか轟くん♥

タイトルは勢いでしかつけてないです。


 

 

 俺たちの試合が終わり、続いて峰田VS常闇。

 

「峰田。貴様には戦闘訓練で世話になった……その借りを熨斗を付けて返すッ!!」

「チクショォォォォォ!! 平場じゃなけりゃよォォォォォ!!!」

 

 前回の戦闘訓練では閉所のビル室内で峰田の奇襲に不覚をとった常闇だが、広い場所でスタートの合図とともに始まる試合では常闇にギリギリ軍配が上がった。

 もぎもぎの投擲も変幻自在の黒影(ダークシャドウ)が防御することでバトルスピードを落とさない。

 峰田の跳峰田も平地では閉所ほど速度は出ない。やはり黒影の方が速く、また常闇自身も接近されれば攻撃が出来る。

 その上で峰田の隙を突いて常闇が峰田の体を場外まで弾き飛ばした。

 ウェイトの差も大きかったな。あれが一般男子ならあそこまで飛んでない。峰田の体が軽いから跳峰田のスピードが出るわけだが、その分攻撃力や打たれ強さに欠ける。そこを見事に突いた常闇の勝利か。

 

「ウケる」

「せめて労りの言葉の一つもかけろよォォ!?」

「後で自撮り送ってやるから」

「罰ゲームじゃねぇか!?」

 

 

 さて続いて切島VS爆豪。

 

「爆豪ちゃんのセンスが怖い」

「えげつねェなオイ」

 

 俺と峰田は冷静に二人の動きを観察していたが、爆豪が余りにも冷静だった。

 切島も爆豪の爆破を受けて最初はノーダメージを貫いていたが、カウンターの拳を爆豪が避ける。

 あのタイミングで切り返せるのは異常というほかない。

 その上で、切島の硬化が解けるタイミングで的確に弱まった所を爆破する観察力。

 さらにそこから爆破の連打で畳みかけるスタミナ。

 

 バケモンだアイツ。

 

「……決勝は爆豪ちゃんか」

 

 俺は最終戦の相手を爆豪と確信した。

 常闇も十分な戦闘力を持つが、俺は常闇の個性の弱点を知っている。

 ここ2週間訓練する中で本人から聞いた『光に弱い』というのが余りにも相性負けだ。

 

 今の爆豪は、普段のキレ散らかしている様子ともまた違っているように見える。

 油断と慢心が削ぎ落ちているというか……何だろうな、うまく言えない。

 ただ分かることは、恐らくはこの俺を以てしても簡単に勝たせてはくれないだろうという事だ。

 

「へ。──────燃えるぜ」

 

 俺はにやりと笑みを浮かべ、次の試合に備えるために控室に向かった。

 

 


 

 

 控室に向かう道中、なんか急に気温が上がった。

 

「ん?」

 

 何だ? と思い俺はウォールハックを発動。

 俺が進む道の向こうを見れば、曲がり角の先になんかオッサンが立って待ち構えてるやん。

 

「あー、あれエンデヴァーか」

 

 最初はだれかと思ったが、よく見ればあれはエンデヴァーだ。

 ウォールハックでは燃えてる炎まで見えないから分からなかった。でも多分間違いない。流石に緑谷の家で勉強したトップヒーローの顔くらいはまだ覚えている。

 え、なんで俺を待ってんの? 出待ちか?

 かーっ!! トップヒーローに出待ちされるなんてつれーわー!!

 

 俺はそのまま歩みを進めてエンデヴァーに遭遇した。

 

「あ、サインですね? どこに書けばいいです?」

「何を言っているんだ君は」

 

 おかしい……出待ちしているファンに対する最適な対応だったはず……。

 とはいえ、流石に冗談はここまでにして相手を見上げる。

 デカいな。轟もいつかこれくらい身長高くなるのかな。若しくは轟は母さん似か?

 轟ってイケメンだよな。これはやはり轟のお母さん超美人説あるな。

 

「ふむ……幾野くん、だったな。見事なものだ。強力な個性をよく使いこなしている」

「お褒め頂き恐縮ですね」

 

 何言うかと悩んでたらエンデヴァーの方から声をかけてきた。

 なんか想像してたのと違う。結構普通に大人な感じの対応をされて拍子抜けしている。

 仕事と家で性格変わるタイプ?

 

「次は俺の息子と戦うだろう……正直に言えば君の個性を打ち破る力が焦凍にあるとは思っていなかった……先ほどまではな」

「……何をおっしゃりたいんです?」

「だが、先ほどの緑谷くんとの試合で焦凍は目覚めた。左右の力を使いこなせば、君にも負けん。いや、この試合のルールで言えば、逃げ切ることになるだろう」

「子煩悩なんすか?」

 

 そういえばこの人さっきの緑谷との試合でもウッヒョォォォ!! みたいなテンションで轟が炎使った時喜んでたな。

 ……あれ、もしかして意外と悪い人じゃない説あるな?

 これ轟が過去の事もあってこじらせてる感じあるな?

 いやそれでもこの人がやったことは取り消せないんだけど。ただ、こうして一人のヒーローとして話してみればそこまでの悪は感じない。

 それも当然か。この人は長年ナンバー2なんだ。それほどの実力と実績を積み上げているという事。

 俺も轟の家庭の事情は一旦頭から抜いて、素の俺で色眼鏡なしに話そうか。

 

「轟……ああいや、焦凍くんは本当にすごいですよ。人の事言うのもアレだけど、強力な個性を使いこなしてる。緑谷との試合でもっと伸びた」

「ふむ。君も正しく力を観察できているようだな」

焦凍くんのこと好きになっちゃいそうです♥」

ちょっと待ってくれ

 

 素の俺を出すということはこういう事だ。

 どっかで性癖茶化しを入れないと俺じゃないとも言えるよなぁ!?

 

「というのは冗談として」

「本気で焦ることを言うんじゃない!」

「はは、すみません。でも、焦凍くんの友人として……俺も、アイツを超えたいと思ってますよ。だからこそ、次の試合は俺だってアイツに全力で勝ちに行く」

「……ふむ。俺が君に声を掛けさせてもらった本題もそこだ。焦凍はまだまだ強くなる。そのために、越えるべき壁に君はなってほしいのだ」

「どうでしょうね。俺くらいの壁、焦凍くんならすぐに超えて行っちまうと思いますよ。ま、それは今日ではないですが」

「自信過剰だな。だが若さとはそういう事だ。先ほどの緑谷くんもだが……君も気に入った。スカウトを前向きに考えておこう」

 

 最終的に俺が轟にマジでボコりに行きますよ宣言をして、それを満足そうに受け止めたエンデヴァー。

 なんか……なんだな。轟、お前親父さんとしっかり話してんのか? お母さんとも。 

 もしかしてどっかズレてねぇか? と思っちまうくらいまともな人だったこのおっさん。

 

 まぁスカウトは絶対受けないんだけどな!! バーニンさんならともかくおっさんに指導を受けたくねぇからな!!

 バーニンさんだけずっと一緒にいてくれたら考えるわ。あの人可愛いよね。

 話し終えてエンデヴァーは観客席に戻って行った。

 

「……エンデヴァー……あんた……」

 

 緑谷の時も来てたってことは轟の試合が始まるたびに控室前に来てんの????

 

 


 

 

『さーさー準決(じゅんけつ)!! サクサクいくぜ!!』

 

 準決勝が間もなく始まろうとしたところで、俺は轟と試合会場でお互いに向き直る。

 試合が始まるまでに、さて。さっきの話をしておくべきか。

 

「轟」

「おう」

「さっきお前の親父さんに控室前で声かけられたよ」

「!? あのクソ親父、何を……! 変なこと言われてねぇか?」

「轟の事好きになっちゃいそうです♥って言ったらめっちゃ焦ってた」

「何やってくれてんだよお前」

 

 試合前のジャブとして冗談を言ったら結構クリティカルヒットした。

 

「死ぬほど焦ってたぞ。割と面白い顔してた」

「お前……いや、お前はそういうヤツだよな」

「お、轟もようやく俺のことわかってきたな?」

「ああ。今まで……俺は周りが見えてなさ過ぎたってのは、少しはな」

 

 そう言って轟が己の左手を見る。

 つい先ほど、緑谷との戦いの中で使った炎の力。それを、懐かしむような瞳で。

 

「緑谷……あいつ、無茶苦茶やって他人(ひと)が抱えてたもんブッ壊してきやがった」

「見てたよ、俺も」

「あいつ、昔からあんななのかな」

「かもな。爆豪ちゃんのコンプレックスって意外とそれなんじゃね?」

「……緑谷と戦ってた時、あの一瞬……クソ親父の事を忘れた」

 

 緑谷の激励に、声に、轟は自分の原点を思い出したのだろう。

 

『俺だって─────ヒーローに……!!』

 

 あの時、狂おしいほどの笑みを浮かべて叫んだことが、紛れもなくこいつの本心だったんだ。

 俺は、原点を思い出したコイツに何をしてやれるだろう。

 

「……あの後、分からなくなっちまったんだ」

「……何を?」

「キッカケを緑谷に貰ってよ……でも、俺だけが吹っ切れて、それで終わりってんじゃねぇ。それだけじゃ駄目なんだ……でも、どうしたらいいかわからねぇ」

 

 轟の葛藤を聞く。

 それは、轟と同じ経験をしていない俺には完全に理解できるものではないのだろう。

 轟がきっと、答えを見つけるべきこと。

 

 でも、俺も似たような悩みを抱えていた時期はある。

 だから、その時の経験で、俺は言ってやった。

 

()()()()()()()()

「……なに?」

「だから、今できる全部だ。……俺の話になるけどさ。俺も、すっげぇ思い悩んでた時期がある。答えの出ない迷宮を歩いてたような時期さ」

「……お前もそんなのがあったのか」

「ああ。けど、ある()()()()に助けられた。んで、そっからはもう俺が出来る事、俺の夢の為にやれることを全部やりまくってきた。勿論疲れるし大変なんだけど……これが結構、やりきったらスッキリするんだよ」

 

 轟が原点(オリジン)を思い出したように。

 俺も、俺の原点(オリジン)を忘れない。

 

()()()()()()()()、って言ったろ」

「!」

「お前の力、使えるもん全部使って、疲れてぶっ倒れるまで……やってみろよ。どんなにやったって俺には傷ひとつつかねぇ。わからないってのも分からなくなるくらい俺に吐き出してみろよ」

「……幾野」

 

 轟。

 お前がまだ迷ってるなら、俺はそんなお前がまっすぐ前を向けるまで隣にいてやりたい。

 

「……緑谷といい、お前といい……なんなんだよ。マジで、どっちもふざけやがって……」

「……」

「……敵だってのに、俺の事しか考えてないって顔してよ……敵に塩送ったり、全力出してこいなんてよ……」

「……」

「……ちくしょう、後悔すんなよ幾野……っ!!」

「するわけねぇだろ! 遊ぼうぜ轟!! ()()()()だ!! 俺から逃げ切ってみやがれ!!

 

 轟の右腕から冷気が、左腕から炎が上がる。

 両方の力を、惜しみなく開放する。

 空気が氷と熱の温度差で揺らめいて、お互いの姿を歪めて映す。

 

 逃がしてやるもんか。

 お前がお前の求めるヒーローになる様に、俺だって俺の求めるヒーローになるんだからな!!

 

『お、良い感じか? だいぶ待ったぜシッヴィー!!! よっしゃそんじゃ準決勝!! レディー!! START!!!

 

 

 


 

 

 鬼ごっこ。

 そう、これは鬼ごっこだ────俺が鬼で、轟が逃げる。

 ただし、逃げるのは複雑多岐の氷の城の中だ。

 

『轟がまたしても氷で加速して回避ィィィーーー!! だが!! 幾野が氷を蹴っ飛ばしてさらに跳ねる!! アイツも瞬発力やっべぇな!?』

『あの氷は熱で同時に溶けている。普通は足を滑らせるんだが……無法だな幾野』

 

 轟がまたしても氷を放ちその勢いで空中を高速移動する。

 その先、氷山を作りその頂点で一度息を入れた。あいつも体を冷やし過ぎては緑谷戦の二の舞になるから息を入れる必要がある。

 だが俺は氷に潜れる。あいつの生み出した氷そのものがアイツへのルートとなり、その上を俺は全力で跳ね回り駆け抜ける。

 

「オラァ!! 逃がすかァァッ!!」

「ハァー……ッ!!」

 

 さらに氷で逃げようともいつかは捕まえられただろう。持久戦は轟に不利であることは変わりない。

 しかし、今のコイツは違う。

 

『とうとう捕まるか轟!? これはヤバいぜッ……って今度は炎でぶっ飛んだァーーーー!!! 幾野を跳び越すように跳躍して回避ィィィイイ!!』

『まだ出力の調整は慣れていないようだな。だが、これでまた氷を生み出せる』

『こりゃ幾野キビっしいぜェ!? 無敵の個性だがなにせ生身っ!! スタミナは驚くほどあるが時間内に捕まえきれんのかっ!? 残り3分!!』

 

 炎の力も全力で使う。

 出力を間違えて吹き飛び過ぎたのか、着地位置が場外になったので氷を生み出して減速して着地しようとする轟。

 俺はその着地点にあらかじめ狙いを合わせて飛び込むが、さらに轟が氷を生んで左に飛んで回避する。

 いくつか作られている氷の山の頂上の一つに立って、俺を見下ろすように轟が佇んだ。

 

「……ハァッ……ハァ……! ハァー……!!」

「フーッ……くそ、やるじゃねぇか轟……!!」

「まだだ……まだ、俺は行けるぞ幾野……!!」

 

 お互いにかなり息が上がっている。

 気付いてるか轟? お前いま笑ってるぜ?

 

 だが、残り時間を考えればこの状態をこのまま繰り返していれば俺は轟をとらえきれないだろう。

 引き分けになれば、その後腕相撲などで決着を決めることになる。

 もちろん腕相撲でも負けるつもりはないが、俺はそもそもこの試合自体に負けるつもりは欠片もなかった。

 

 コイツにも『潜行』の本気を見せてやる。

 全力でぶつかり合うってのは、そういう事だ。

 

「……選んだ位置が悪かったな」

「なに……?」

 

 俺は轟が立つ氷山の、その低い位置に向けて手を伸ばす。

 これまでもやってきた動きだ。ここから氷に潜り込んで、一気に駆け上がって轟の足首を掴みに行く。

 だが飯田との時のような地面の下とは違い、氷の中だと俺の姿は丸見えになる。

 轟がすぐに氷や炎で飛び跳ねて、際どく俺の攻撃を回避してきた。

 

 だが、ここまで繰り返してきたその行動自体が布石だ。

 

「……もう、その手は通じねぇ!」

「どの手のことかわからねぇよ、轟……!」

 

 俺の手が、氷山に触れた。

 触れられる。轟の個性は、放った後は唯の自然現象になるのだから。

 これほどの大きさのものを()()()()のは流石の俺も相当に個性の許容量を削るが、勝つためにはこれしかない。

 

「───!! 幾野、まさかお前─────」

「この氷山は───()()()()だッ!!」

 

 氷山を触れる手に力を籠める。

 瞬間、そこにあるはずの氷山は、そこに何もないかのように……潜り抜けた。

 

 当然、頂上に立つ轟は足元が一気になくなるわけだから、姿勢が崩れて氷山の中に落ちてくる。

 

「な───ッ!?」

(すき)だぜ轟ッ!!」

 

 この瞬間こそが俺の勝機。

 俺も氷山に飛び込んで、落ちてくる轟が対処の為に左か右か、どちらの力を使うべきか迷った一瞬の隙を狙う。

 俺のジャンプと轟の落下、その頂点が触れ合った瞬間に、轟が氷の力を選択し、氷山の中でさらに氷を生んで噴射した。

 その勢いで氷山から飛び出したが……間一髪、俺の手が轟の脚を掴んでいる。

 

 掴みさえすれば俺の勝ちだ。

 もうお前を(にが)さない。

 

『おおおおおォォォーーーー!?!? 残り一分ッ!! とうとう幾野が轟を掴んだァァァーーー!! 何だったんだ今のォ!? 轟が自分で生んだ氷山が一気に溶けたのかァッ!? ボッシュートされたみたいに轟が落ちてったぜぇ!?』

『やったことは理解できるが……あそこまで応用が利くのかアイツの個性』

 

 こうなりゃ後は飯田との戦いの焼き増しだ。

 時間ももうない。俺は一気に轟の体を引っ張り、正面に立って真っすぐに目を見つめる。

 左側の火傷の痛ましい、整った顔が俺の目を正面から見据え返してくる。

 

「…………」

「…………」

 

 一瞬の静寂。

 俺は轟を離さないように前側から首に向けて手を伸ばし、頸動脈に手のひらを押し付ける。

 流石に体の内側まで潜り込まないが、外側からの圧迫だって轟には止められない。

 抵抗すら許されない。頸動脈をダイレクトに締めれば人は3秒で失神する。

 

「………幾野」

「何だ?」

 

 最後に。

 お互いに絞りつくした友人同士、他愛ない話を交わした。

 

「俺、鬼ごっこって初めてやった」

「マジかよ。悲しすぎるだろお前の幼少時代」

「ああ。けど……全力でやったら、だいぶすっきりした」

「そうか」

「ありがとな」

「おう」

 

 圧迫。

 1。

 2。

 3。

 

 

 ───────落ちた。

 

 

「っ!! 轟くん、気絶を確認っ!! 残り10秒で幾野くんの勝利よっ!!!」

 

 

 俺は片腕に倒れる轟の体を支え、氷の上で勝利の喝采を浴びるのだった。

 

 


 

 

「ん………」

「お、起きたか」

 

 氷山に囲まれた試合場で、俺は轟が目を開くのを確認した。

 頸動脈を抑えて気絶させるのは峰田で慣れてる*1からな。すぐに目覚める程度に加減はしたが、無事に目覚めてよかった。

 

「………負けたか」

「ああ、俺の勝ちだ」

 

 先程の状況を思い出したのだろう、轟が独白のように呟き、俺はそれを肯定する。

 決着はついた。今は轟が生み出しまくった氷を先生方が頑張って溶かしているところだ。

 

「……なぁ、幾野」

「なんだ? 男に貸す肩はねぇぞ?」

「お前俺の事好きなのか」

「急にどうしたお前!?!?」

 

 急に轟からストレートを見舞われて俺も全力で突っ込みを入れてしまった。

 どうしたの急に!? ウワーッ轟くんが悪い影響与えられてる!? 誰だよそんな影響与えたの!? おのれ緑谷*2!!

 

「いや、お前さっき言ったじゃねぇか。『好きだぜ轟』って」

「『隙』な!? 阜部(こざとへん)に小さい日の小さいって書く方の隙!! 俺はこんなナリだけど恋愛対象女子だから!? お前に友人(ダチ)として以上の感情はねぇからな!?」

「そうなのか」

「ンンンンド天然んんんん!!!」

「お前もそんな顔するんだな」

「お前のせいだからなこのクソボケがーっ!!!」

 

 違うって!! 俺にコイツに対する恋愛感情とか欠片もないって!!

 ほら見ろ向こうの観客席の方!! なんか火柱上がってるじゃん!! エンデヴァーだよアレ!!

 緑谷のお母さんといい轟の親父さんといいなんで俺クラスメイトの家族に心労かけてんだよ!?

 

「……俺にもやれることがあるって思い出した」

「急に話変わるじゃん」

「俺、母さんにまだ会いに行けてねぇんだ」

「!」

「……明日、会いに行ってくる。俺の存在が追い詰めねぇかって想いもあったけど……俺がもっかいヒーローを目指すためには、会って話をしねぇとって思ったんだ」

「……そっか」

 

 その言葉ののち、ゆっくりと体を起こす轟。

 そんな轟の顔を見て、俺は笑顔を()()()言ってやった。

 

「……いいじゃねえか。いっぱい話してこいよ。学校でダチが出来たって伝えてやりな」

「ああ」

 

 俺は轟に手を伸ばし、轟も俺の手を取った。

 立ち上がり、観客の喝采を二人で浴びる。

 

 

 いっぱいお母さんに甘えてこいよ、轟。

 

 まだ親孝行ができるうちにさ。

 

 

 

 

*1
被害届出していいよなオイラぁ!?

*2
絶対君だよ!?





※葉隠ちゃんのひみつ
センちゃんがシリアス顔してるとき、じっと横顔を見つめている。


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27 葉隠ちゃんマジ天使

 

 

 

「ぬぁぁぁぁ…………」

 

 俺は決勝戦までの時間を控室で過ごしていた。

 轟との戦いを終えた後、相澤先生に名指しで「お前決勝と表彰式その服で出たら除籍」と言われてしまい、仕方なくチアガール服から着替えるために更衣室からジャージを持ち込んで控室に戻ったのだ。

 一度A組の観客席に戻ろうかとも思ったが次の試合が爆豪ちゃんと常闇だ。常闇には悪いが、そんなに時間はかからないだろう。相性差で爆豪ちゃんの勝ちだ。

 というわけでチアガール服を脱いで一度制汗シートで汗を拭いているときの声が先ほどのやつである。

 クール系の制汗シートってなんかひゅっっってしない? 俺だけ?

 

「うおー!! ついに決勝だねセンちゃー………」

「ん」

 

 俺が上半身裸、下半身はボクサーパンツというほぼ全裸状態で汗を拭いていると、控室にジャージ服が飛び込んできた。

 服しか見えていないのと声で分かった。大天使ハガクレ=トールだ。

 

「んにゃああああああ!? ごめえええええん!?!?」

「訴えたら勝てるかな」

「何でそんなに冷静なの!?」

「いやだって逆に俺の方が葉隠ちゃんの裸見ること多いし……おあいこってことで」

「それはそうだけど恥じらいは持とう!? 早く服きてー!!」

「んにゃぴ……」

 

 大天使の言われるままに俺はちゃんと服を着始める。

 別に裸族とかそういうんじゃないんよ? 制汗シートで拭いたところが乾くまで待ってただけだからね。

 無事ジャージ服に戻った俺は、頭の後ろ、髪を服の下に巻き込んでるところに腕を伸ばしてばさりと服の下から髪を解放する。

 

「ふう。……んで、激励に来てくれたの?」

「ん! そうだよ! 個性が強いとはいえ決勝だもん! すごいよー!」

「ありがと。まぁ相性勝ちって所が強いけどね」

「それでもすごいよー! えへへ、私に何か手伝えることある?」

「膝枕して?」

「センちゃんの欲望マンな所出てるよ!?」

 

 折角激励に来てくれた葉隠ちゃんが言う事聞いてくれるというので俺は軽いジャブで返した。

 今なんでもって言ったよね?(言ってない)

 

「え、えっと……その、変なことしなければ、いいよ……?」

「えっ」

「ふ、服の上から膝枕くらいなら……うん……する?」

「あっ……スゥー……それじゃ、お願いします……」

 

 しかし我が心を照らす大天使ハガクレ=トールは何と膝枕OKと返事をくれた。

 えっちょっと。マジでOK出されると逆に少し怖気づくといいますか。DT反応が出てしまうと言いますか。

 そんなことを考えているうちに控室に備え付けの長椅子の端に葉隠ちゃんが座り、自分の太腿をぽんぽんとしているものだから俺の体はいつの間にか彼女の太腿に頭を預けて横になっていた。

 

「すっごい速いエントリーだったねセンちゃん!?」

「無意識でした。あっすっごい葉隠ちゃんの太腿柔らかい……天使……」

「は、恥ずかしいからあんまり動かないでね……?」

 

 俺は太腿に後頭部を預けながら天井を仰ぎ見る。

 足先だけ靴に沈めてウォールハックを発動し、葉隠ちゃんの顔を見る。

 いや見えないわ。視界の半分くらいジャージを押し出すたわわでふさがってるわ。たわわ戦闘力すごい。

 

「センちゃん、髪綺麗だよねー」

「ん。まぁ……それなりに手入れはしてますし?」

 

 葉隠ちゃんの瞳をじっと見つめていると、手持ち無沙汰になった葉隠ちゃんが俺の髪をしゃなりと指先で弄り始めた。

 自慢の髪を褒められてかなり嬉しい。お母さん譲りの赤髪だ。何よりも大切にしているものだ。

 

「……センちゃんはすごいよね」

「どしたの急に」

「うん……今日の体育祭、私あんまり結果残せなかったなー、なんて。最終競技まで残れなかったし」

 

 激励に来てくれたというのに距離が近まったからか俺にぼそりとそんなことを呟いてくる葉隠ちゃん。

 お互いに見つめあう瞳が少しだけ、彼女の長い睫毛が伏せるように揺れるのが見えた。

 

「競技内容が葉隠ちゃんの個性とは嚙み合いが悪かったかもね。でもあんまり気にすることも……」

「ううん。ヒーローになるためには必要な力だと思うんだ。速く走るのも、戦いも……でも、私は透明なだけで、みんなみたいに強くないから……」

「葉隠ちゃん……」

 

 どうやら随分思い詰めてしまっているみたいだ。

 それを俺に零してくれていることに信頼を感じて嬉しい気持ちもある。その信頼に応えられるように俺は葉隠ちゃんの隣に立つ決意をした。

 とりあえずネガティブな方向にこれ以上葉隠ちゃんの気持ちが行かないように、手を動かして葉隠ちゃんのおっぱいを下から支えた

 

うひゃぁんっ!? 急に何するの!?!?」

「んげっふ!」

 

 直後に腹パンが襲ってきて、俺のオート個性が発動しないギリギリの力加減で見事に丹田に突き刺さる。

 めちゃくちゃ慌てているがそれでも膝枕をキープしてくれてる葉隠ちゃんやはり天使か?

 

「メンゴ。なんか葉隠ちゃんが下向き始めたから、この大きなおっぱいの重さが原因かと思って支えてあげようって」

「絶対触りたかっただけでしょ!? 流石に私もおこだよおこ!」

「マジでごめんって。……そんな風に元気な姿を見せてくれないと、俺も調子が狂っちゃうわけ」

「あ……その、ごめん! 激励に来たのにこんな……」

「……いいかい葉隠ちゃん。俺はね、葉隠ちゃんに随分と癒されてる。今がそうだし……普段もそう。だから、そんな落ち込んでほしくないのよ」

 

 改めて、じっと葉隠ちゃんの目を見つめながら俺は本心を零す。

 

「さっきの話だけどさ……強いヒーローなんていっくらでもいるよね。でも、巨大なパワーがなくてもヒーローやってる人だっていっぱいいる」

「う、そ、それはそうだけど……」

「だからさ。大切なのは、葉隠ちゃんが()()()()()()()()()()()()()、じゃないかな」

「……私が?」

「そう。今日一日で少なくとも俺は……それを改めて考えさせられた。俺は、泣いてる誰かの隣にいられるヒーローになりたい」

「!」

「そのためには、勿論力もいるけど、心だって鍛えないとだからさ。そのためにこれからも頑張っていこうって前向きに思えるわけよ。何のために頑張ってるかがはっきりしてるから」

 

 今日一日を通して、俺が強く感じたこと。

 ヒーローになる、その原点(オリジン)

 それがはっきりしていれば、何をするべきかが見えてくるのだと。

 

「葉隠ちゃんがなりたいヒーローの形に力が必要なら、鍛えればいい。コスチュームやアイテムとかも駆使して、訓練すればいい。心が必要なら優しく在れるように努力すればいい。大切なのは葉隠ちゃんがどうなりたいか、だと思うよ」

「私……私は……」

「……この場で答える必要はないよ。けど、葉隠ちゃんが答えをまだ見つけられないなら、俺はそれを見つけられる手伝いをしたい。見つけられたら、今度はそれに向かう努力を一緒に頑張りたい」

「……センちゃん」

「だからさ。今日の体育祭でいい結果が出なくても、これからだよ、って話。言いたかったのはこれね。俺らまだ入学して数か月も経ってないんだから、落ち込んでる暇はないっしょ。プルスウルトラ、だろ?」

 

 だいぶ話が長くなってしまったが、言いたかったことは伝わっただろうか。

 結局のところ、俺達はまだまだこれからで。

 もちろん今日の体育祭で挫折を味わった生徒も多いだろうが、それを糧に前に歩いていかなければならない。

 俺もそう。そして、俺は俺がなりたいヒーローになるために、みんなを(たす)けてやりたいんだ。

 

「…………センちゃん、女たらしって言われない?」

「聞いたことないそんな評価」

「……ずるい」

「今日死ぬほど言われたねその評価」

「……んふっ。そりゃ言われるよねー」

「自覚はしてるよ」

 

 葉隠ちゃんは俺の言葉に感じ入るものが在ったのか、先ほどまでのネガる感情は薄れ、いつものように微笑みを見せてくれた。

 俺は君のその顔をいつまでも見ていたい。

 

「もっかい下から支えていい?」

「このタイミングでその発言はおかしいよね!?」

「いや……なんか真面目な話をしすぎて調子が崩れそうで……」

「どうしてそんな難儀な体になっちゃったの!? 駄目だよ!? そんなに私のおっぱい安くないからね!?」

 

 そして隙あらばハガクレ=トールのお胸を支え隊隊長である俺の続く言葉に葉隠ちゃんがまた慌て始める。

 可愛い。

 こんな彼女がいたら学園生活バラ色やな……体育祭終わったらワンチャン告白してみるか……?

 いや今行けるか……? 今かなりいい雰囲気じゃないか……!? 決勝で勝ったら告白してみるか……!?

 

「─────いよぉーイクノォ!! とうとう決勝だなおま─────」

「あ」

「お」

「────────ごゆるりと……」

 

 告白チャンスを窺っているとまたしても控室のドアが開き、峰田を先頭に緑谷や上鳴や麗日ちゃんや梅雨ちゃんが応援に来てくれたらしい。

 だが俺と葉隠ちゃんの体勢を見た瞬間にドアは閉じられた。

 

「ちょ、ちょっと待ってー!? 誤解!! 誤解してると思う!!!」

「もう誤解されたままでもよくない?」

ダメだよ!? ほら起きてセンちゃん!! もうすぐ決勝でしょー!?」

「ひどい」

 

 俺は立ち上がる葉隠ちゃんの太腿からぽーいと床に投げ落ちて床の冷たさを頬に感じる。

 先程までの柔らかく温かい感触とは大違いだぜ。世間って冷たい。

 

「峰田くんもみんなも待ってー!! 今のは違うのー!!」

「オイラ何も見てない」

「僕も見てない」

「俺も見てない」

「ウチも見てない」

「ケロ。仲が良さそうで何よりだわ」

「梅雨ちゃんだけ真実の瞳」

 

 俺たちはその後、俺達らしい下らない話をしながら、決勝までの時を過ごした。

 

 


 

【side 切島】

 

 

 俺は爆豪の控室の前にやってきた。

 つい先ほど準決勝で常闇を下し、15分の休憩を置いて決勝戦に向かうクラスメイトの応援に来たのだ。

 クラスの他の奴らは大体幾野の方に行っちまった。まぁアイツ人気あるもんな。

 俺だって幾野は嫌いじゃねぇ。頭おかしくなりそうな下ネタはアレだが、根本がいいやつだってのは知ってる。委員長決めるときもあいつに投票したし。

 ただ、爆豪は俺と共に騎馬戦に挑み、トーナメントでも争った仲だ。USJでも共闘している。

 言っちゃなんだが、そんだけ付き合いもあればダチだと思ってる。

 口こそクソ下水煮込みの悪さだが、勝利を目指す爆豪の心構えだけは尊敬できる。

 

「爆豪、入るぞー……っ!?」

 

 そして扉に手をかけて開いた瞬間に、俺は驚愕と困惑を覚えた。

 室内から、まるでスチームのようなどろりとした熱気が溢れたからだ。

 

「……切島か」

「爆豪、おまっ、コレ何だよ!?」

「ウルセぇ。熱気が逃げるからとっとと扉閉めろやボケ」

 

 そう指示されて慌てて扉を閉めて、控室内に入る。

 クソみたいな暑さだ。間違いなく30度は超えている。今日は涼しさもある気温なのに、これは異常だ。

 見れば、控室に備え付けのエアコンは最高出力で暖房が掛かっており、加湿器もフル稼働していた。

 

 そして、そんな部屋の中央。

 上半身裸で手を胸の前に組み、ひたすらにヒンズースクワットをして汗を流す爆豪の姿があった。

 

「……お前、何してんだ?」

「……、……っ。……男女をブッ殺す準備だ」

 

 俺が声をかけても、スクワットをやめようとしない。

 その下半身はジャージを超えて汗がにじみ出ており、足元には水たまりが出来ている。

 近くの机にスポーツドリンクがいくつも空になっていることから、水分補給をしながら汗を流しているのだろう。

 

 そして、俺はそこで気が付いた。

 スクワットをする爆豪の、胸の前で構える両手。ぐっと握られているそこに、何か布を包み持っている。

 汗。手。この爆豪の個性に両方とも関係するものだ。

 こいつの個性は確か、手からニトロみてーな汗を出して爆破させてるんだ。

 それを、溜めている──────?

 

「…………あのクソ男女に、負けた」

「……爆豪?」

「障害走でも、騎馬戦でも……男女にも、デクにも、半分野郎にも負けた」

 

 呟くように爆豪が言葉を放つ。

 それは俺に向けてというそれよりも、自分に言い聞かせる様な。

 

「クソが……俺よりも全員、前に居やがって。ブチキレるわ。ふざけんな……麗日だって……」

「…………」

「キレて、頭にきて、キレすぎて……一周回って、見えた」

「……何がだよ」

「俺が、なんでここにいる(ヒーロー目指してる)のか」

 

 ぎぃ、とスクワットをするたびに、汗にまみれたジャージがきしむように小さな音を立てる。

 俺自身もこの部屋の熱気に汗を流しながらも、爆豪の言葉を聞いた。

 

「俺は……昔から、変わらねぇ。一番になるんだ。オールマイトも超える一番になる。そのために勝つ」

「お前……」

「もう油断も慢心もいらねぇ。俺が出来ること、やれること全部やってあの男女に勝つ。追加ルールなんて関係ねぇ……勝つ。完膚なきまでに勝つ」

 

 勝つと。

 幾野に、あのチート個性の無敵野郎に勝つと。そう言い放った。

 上鳴はともかくとして、飯田も轟も逃げることを選択した相手に、勝つと。

 

 爆豪は、その体から立ち上る熱気とは裏腹に冷め切った目で、正面の壁を見据えていた。

 そこに、お前は何を映してるんだ。

 

「……、……っ」

「爆豪……」

「……もういいだろ。邪魔だ、出てけ切島」

 

 それを見て、俺は思っちまった。

 お前が、どんだけ前に居るんだって。

 俺から見て前に居るお前が、それよりも前に居る幾野に、何を見せてくれるのかって。

 

「……爆豪」

「……、……っ、……」

 

 もう返事はない。黙々とスクワットを続けている。どうやら己の世界に入ったようだ。

 なら俺も長居する理由はない。

 ただ、最後にダチに一言だけ。

 

「……勝てよ! 応援してるぜ俺は!!」

「……チッ」

 

 爆豪の舌打ちの返事がいやに心地よく響き、それを最後に俺は控室を後にした。

 涼しい空気が頬を撫でる。

 そんな風を感じながら、俺は決勝戦が恐らくはとてつもない試合になることを予感していた。

 

 





※爆豪ちゃん原作相違点
原作以上に緑谷にも轟にも幾野にもボコられた上に騎馬戦でも物間ボコれなくてフラストレーション貯まりまくり、キレすぎて一周してスンッ…ってなりました。
ちょっとだけ原作で言う先の方の安定メンタルになってます。
スクワット中ににぎにぎしている布はセンちゃんのおパンツではなく自分のインナーです。


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28 オラッロリ巨乳! ロリ巨乳解除! ロリ巨乳!!

ここまでひどいサブタイトルのヒロアカ二次創作見たことない。


 

 

 

『さァいよいよラスト!! 雄英一年の頂点がここで決まるっ!!!』

 

 決勝戦の時間になり、俺はジャージに着替えて試合会場に姿を現す。

 目の前では爆豪ちゃんがこっちを睨みつけてきている。

 そんなににらまれても怖くないぞ! この金髪ツンデレロリ巨乳め!

 

『決勝戦!! 幾野 対 爆豪!!!』

 

 ……なんて余裕ぶっこくことはできない。いや、もうしない。

 これまでに俺が戦ってきたダチに申し訳がなさすぎるからだ。

 全力で()って、本気で勝つ。

 

「……男女」

「ん」

 

 そして試合開始アナウンスの前、珍しく爆豪ちゃんのほうから声をかけてきた。

 どうした急に。

 

 お互いに試合会場に上がって近くで爆豪ちゃんを見れば、何やら随分と汗だくの様子だ。

 ……おかしい。

 爆豪ちゃんは連戦とはいえ、前の試合とは15分の時間があったはず。

 少なくとも今までずっと汗をかき続けるはずがない。今日の気温は涼しめだ。

 であるならば───何か、準備してきたか?

 汗をかけばかくほど強くなるスロースターターであることは緑谷ノートを見せてもらって知っている。

 俺との戦いに備えて来たか爆豪ちゃん。

 

「テメぇの個性は無敵だ」

「急に褒めてくるじゃん」

「現実を見てるだけだクソが。……何の縛りもねぇタイマンならお前は負けねぇ。けどこりゃ試合だ」

「そうだな。10分のルールもある」

「ケッ……だからせめて、このルールの中じゃ俺がテメェに完膚なきまでに勝ってやる」

「ほう? 面白ぇ」

 

 爆豪ちゃんが急に褒めてくると思ったら落としてきた。上げて下げてくるってやつか?

 しかし……やっぱり決勝トーナメントになってから爆豪ちゃんの様子がおかしいな。

 いつものクソ下水煮込みじゃない。それ以上に……地に足がついているというか。

 油断、マジで欠片も出来ねえな。

 

「テメェも全力で俺を殺しに来やがれ───その上で俺がお前をブッ殺す!!

「俺だって元々───そのつもりだぜ爆豪ちゃんよぉ!!

 

 お互いに啖呵を切りあって、構える。

 

 

『っしゃ準備いいなァ!? レディーーー!!! START!!!

 

 

 試合が始まった。

 

 様子見、なんてもうしない。

 爆豪ちゃんの場合、スタミナが持てばという前提だが、空中に留まることで俺からの攻撃をすべて無力化することが出来る。

 もちろん10分全てをそれで果たすことはできないだろうが、最後の1分とかで逃げられたら面倒だ。

 だから真っすぐ。距離を詰めて掴みにかかる────────と、一歩目を俺が踏み出したところで。

 

『アアアアアァァァァンンン!?!? 何やってんだ爆豪ゥゥーーーーー!?!?!?』

 

 爆豪ちゃんがバックステップで場外ギリギリまで下がったのちに。

 唐突に脱ぎだした。

 

「何やってんの爆豪ちゃん!?」

「うるせェ!! 恥もクソもあるか俺がやれること全部やってテメェに勝つんだよォ!!」

 

 余りに予想外の行動に流石の俺も次の一歩を踏み出すのを躊躇ってしまった。

 上のジャージを脱ぎ捨てて爆豪ちゃんのたわわなロリ巨乳が……いや無理だわ流石にもうそういう目で見れねぇわ筋肉質な体が見えて来たわ。

 脳内フィルターをカットし、爆豪の姿を正面から捉える。

 

 上のジャージを脱いだその下、爆豪が着ているインナーが見える。

 そのインナーもまた、試合開始前に随分と汗を……いや、その量がおかしい。

 まるで水にどっぷりつけてそのまま引き上げたかのような水分含有量。

 

「……!? まさか!?」

 

 そこで俺はまず嫌な予感を覚えた。

 そして、予感に至った理由を導き出す。

 明らかに準備してきたものだ。普通に汗をかくくらいではああならない。まるでフルマラソンでもしてきたかのような、()

 汗────そう、汗だ。それを、あえて爆豪は下着のインナーに溜めてきた。控室でどっぷり汗でもかいたのだろう。

 

 では、もしあれが。

 全部()()だったら、どうなる?

 

「かっちゃん、まさか───!?」

「爆豪、行けェェェ!!」

 

 観客席で叫ぶ緑谷と切島の声が随分と近くに響くような錯覚を覚えた。

 爆豪の個性は爆破だ。手から出すニトロのような液体を爆発させている。

 そして今、インナーも脱いだ爆豪がそのインナーをぎゅっと丸めて両手に掴み、まるでこちらの足元に向けてドルオーラでも撃つかのように構えてきた。

 

 ()()()()

 爆豪の狙いは────

 

「────やべぇっ!?」

「もう遅ぇよ男女ァァ!!!」

 

 俺は慌てて個性を発動、足元に潜り込む。

 透過率マックス。まるで落ちるように沈んでいく。

 間に合うか、いや、間に合え。

 俺が沈み込んで一瞬後、爆豪の手が火を噴いた。

 

 

【FABOOOOOOM!!!!】

 

 

『ッッッッッ!!!! とんっでもねぇ爆発だァーーーーー!?!? なんだアリャアッ!? 爆豪ここまで威力高い爆破出来たかァーーーー!?!?』

『幾野相手に手加減無しで……だけじゃ説明できん威力だな。恐らく先ほど握っていたインナーに爆発の元である手汗を染み込ませてたんだろ』

『何とォ!? 試合前に汗吸わせてたってことかァ!? えっとこれどういう判定になるんだ!? サポートアイテムの持ち込みは厳禁で……』

『自分の汗だ、武器なんざ欠片も持ち込んでない。これダメにしたら電気貯め込んでくる上鳴なんか話にならないだろ』

『てことはセーフ判定か!! ってか威力ヤッベェーーーーーー!?!? ()()()()()()()()()()()()()()!?』

 

 なんてことを考えやがる爆豪。

 俺から逃げ切ることを考えてた飯田や轟と違って、()()()()()()()()()()()()()()

 

 ギリッギリで潜行が間に合った。

 いや、別に爆破を受けることだけ考えればノーダメージでギリギリもクソもないんだが、今回ヤバかったのは判定だ。

 爆豪の捨て身の大爆撃で、会場の8割がぶっ飛ばされてしまった。

 つまり、この時点で俺が爆発を潜行で受け流していたとしても、そこに立っていれば場外判定になるという事だ。

 そうしないためにも、えぐり取られる地面のさらに下まで潜り込まなければならなかった。

 そういう意味でのギリギリ。

 

「マジかよ、やってくれんじゃねぇか爆豪……!!」

 

 吹き飛んだ試合会場の底で、俺は爆豪の姿をウォールハックで捉える。

 見れば、流石にあれほどの威力は戦闘コスチューム無しでは受け止めきれなかったのか、両手の先から肘辺りにかけてまで火傷の跡が見える。

 相当の激痛のはずだ。肩だって外れかねない威力。

 

 思えば、爆豪のコスチュームの手首辺りにある手榴弾を模したパーツから放つあの技に似ている。

 あのパーツは爆豪の手汗を一時的に溜めておける道具であり、それに指向性を作って爆撃を放っていると緑谷に聞いた。

 今回はそれを、汗のチャージはインナーに染み込ませることで、指向性は両手で放つ先を絞ることで擬似的に再現した。

 だが素手でやった分、反動もダイレクトに体に返ってきているといったところか。

 

 まったく。

 そうやって自分の体すら顧みず、勝ちにくるなんてよ。

 

 

 ────今のお前、あいつ(緑谷)にそっくりだぜ。

 

 

「……幾野くんの姿は見えない!! まだ場外判定になっていないと判断します!! 試合続行!!」

 

 試合続行にしてくれるミッドナイト先生の俺への個性の信頼が厚いね。

 だがこうなれば俺が地表に出てくるゾーンが随分削られたことになる。

 どうする。一度爆豪から少し離れたところに出ていくか、それとも爆豪の足首をダイレクトに狩りに行くか。

 

 そう悩んでいたところで、爆豪が次の動作を進めた。

 軋み焼けた腕を動かして、先ほど脱ぎ捨てて己の脚の下に踏みつけていたジャージを拾い上げ、真っ二つに引き裂いたのだ。

 

 その動作を見て、俺は察する。

 インナーに染み込んでいた手汗で先ほど大爆発を起こしたが、当然にしてインナーからジャージに染み込んだ手汗もあるだろう。

 ならば、今度はそれを燃料に未だ残る2割の試合会場を爆発でぶっ飛ばすつもりか。

 そうなれば俺はもう爆豪の足元からしか出てこれない。

 それすら吹き飛ばされた上に、残り時間を空中で待機されれば、俺は勝てなくなる。

 

「くっ、そ────やらせるか!!」

 

 俺は急いで地中を蹴り進んで爆豪の足元へ向かい、その足首を掴みにかかった。

 一度掴んでさえしまえば俺の勝ちだ。

 その後いくら爆発しようが、空を飛ぼうが俺が爆豪の体から離れることはない。

 

 爆豪が破り捨てたジャージをそれぞれ両手に巻き付けて、今にも左右、残る試合会場を爆破しようと構えたのが見えた。

 今しかない。

 俺は地中から手を伸ばす──────それが、爆豪の計算とも知らずに。

 

「─────お前が強いってのを俺は認めてんだよ、幾野」

 

 最後に。

 爆豪の呟きが、聞こえるはずのない地中に響いた気がした。

 

「だからこそ───テメェが俺を掴みに来るのはこのタイミングしかねェよなァァ!!

「────!! し、まっ……!!」

 

 爆豪の脚の裏側から手を地上へと伸ばし、爆豪に潜り込んだ瞬間に。

 コイツは、左右に向けていた両手を足元へ振り下ろしてジャージごと起爆させ、()()()()()()()()()()()

 

『ッとォーーー!?!? 爆豪まさかの自爆ゥゥーーーーーー!?!?!』

『いや……()(セン)を取った! 幾野が足を獲りにいった瞬間を、あいつ……!』

『何ィッ!?!? 爆破した先には幾野の姿ァァァーーー!!! 怪我一つねぇけどこれはっ!! これは明らかにッッ!! ()()()()()()()()()()()()()ェェェェェェェ!!!!』

 

 己の足元を吹き飛ばした爆豪。

 その脚を掴んでしまっていた俺。

 

 当然にして、爆豪は爆破の衝撃で体を宙に浮かせて。

 その分、俺が地上に体を出してしまうことになり。

 そして、俺が地面からでてきたその地表は、爆豪に吹き飛ばされて既に試合会場ではなくなっていた。

 

 

「─────幾野くん、()()ッ!! よって───」

 

 

 ────────負けた。

 

 

「─────勝者!! 爆豪くんっっ!!!」

 

 

 ……爆豪の体が落ちてくる。

 最後の爆発で足元を吹き飛ばし己の体を浮かすのに、恐らくはすべての個性許容量を使い果たしたのだろう。

 すでに意識は落ちて、両腕両足もボロボロで。

 

 でも、落ちてくる爆豪の表情が。

 やり遂げた漢の笑みを浮かべていたのを、俺は見届けた。

 

「……やられた。完敗だぜ、爆豪」

 

 俺は爆豪の体をお姫様抱っこの姿勢に受け止めて、晴れ渡る青空を見上げる。

 

 

『以上ですべての競技が終了ッッ!!!』

 

 

 粉々になった試合場に無傷で佇む敗者の俺と、ボロ雑巾になり目を伏せる勝者の爆豪を包む大歓声。

 

 激しく熱い一日が、終わった。

 

 

『今年度雄英体育祭一年優勝は───A組 爆豪勝己!!!!』

 

 


 

 

「どうよ峰田? 俺の髪変なところないかな? やっぱツインテールにしたほうがいい?」

「いいから早く壇上に上がれよォォォォ!?」

 

 俺は自分の髪がさっきの爆発で万が一にも乱れてないかを峰田にチェックしてもらっていたらケツを蹴飛ばされて渋々表彰台に上った。

 んにゃぴ……一番注目される瞬間だから身嗜み整えたいじゃんねぇ……。

 

「それではこれより! 表彰式に移ります!」

 

 ミッドナイト先生の挨拶により、表彰式の壇上に登った俺達4人に拍手喝采が贈られる。

 3位の台に常闇と轟。2位の台に俺。1位の台に爆豪だ。

 なお爆豪は先ほどの試合でジャージの上着を全損しているが、今は緑谷から奪ったジャージを着用している。

 ん? いや別に爆豪は普通に立ってるよ? 俺との試合でだいぶ疲れてるけど。

 

「いやー、まさか爆豪が一位かぁ」

「センちゃん惜しかったよー!」

「イクノは最後焦ったよなー。もっと地中で待ってりゃ爆豪がぶっ倒れたかもしんねぇのに」

 

 うるせぇ峰田。

 俺だって分かってんだよ焦ってたってのは!

 今にして思えば爆豪の脚を狩りに行くタイミングを読まれたわけだからあそこで冷静になってりゃ全然勝ちがあったんだよなぁ!! くっそー悔しいなぁ!!

 

「メダル授与よ! 今年メダルを贈呈するのは勿論この人!!」

「私が!! メダルを持って来「我らがヒーロー!! オールマイトォォ!!」

 

 オールマイト被ってるし。ウケる。

 まずは3位からのメダル授与だな。常闇からか。

 

「常闇少年おめでとう! 強いな君は!」

「もったいないお言葉」

「ただ! 相性差を覆すには個性に頼りっきりじゃダメだ! もっと地力を鍛えれば───」

「──いえ、お言葉ながらそれは存分に承知の事。俺の目指すものはまだ遠く、しかしそれに並ぶためにも更なる努力を」

「ンン!! 向上心の塊!! いいね、その調子で頑張り給え!!」

「御意」

 

 常闇がなんか俺の方を向きながらそんなことを言ってきた。

 えっもしかして意識されてる? やだ、照れちゃう♥

 もう一回脳破壊できそうだなこいつ。

 

 

「続いては轟少年! おめでとう!」

「……ども」

「緑谷少年との戦いで目覚め、幾野少年との戦いで吐き出した。どうだい、今の気分は」

「……悪くないです。キッカケと、支えをダチにもらえました。あなたが緑谷を気にかけるのも……幾野が周りに一目置かれてんのも少しわかった気がします」

 

 そう言って轟も俺の方向いてきた。

 え? もしかしてモテ期か?? モテ期なのかこれ????

 何で男子しかいねぇんだよクソがよ。

 

「俺も貴方のようなヒーローになりたかった。ただ……俺だけが吹っ切れてそれで終わりじゃダメだって()()()()。色々清算して、俺も前に進みます」

「……顔が以前と全然違う。深くは聞くまいよ、君はここでよい出会いに恵まれた。今の君ならきっと清算できるさ」

 

 そうしてぎゅっとオールマイトが轟を抱きしめる。

 常闇も抱きしめられてたし俺もこれ抱きしめられるのかな?

 大丈夫?? オールマイト過激派に狙われないかな俺???

 

「さて……幾野少年!! 大暴れだったな!! 言っちゃなんだが間違いなく一番目立ってたのは君だったぜ!!」

えへへ……オールマイトにそんなこと言われると照れちゃいますね♥」

「ここの声は放送に乗らないよ?」

「そっすか」

 

 ついいつもの癖で声を作ってしまったがオールマイトに冷静にツッコミを入れられた。

 そっか。じゃあ素の俺で。

 

「本当によく暴れたよ! 清々しさすら感じられたな! 選手宣誓の伏線回収は残念だったが……」

「いえ、あれを聞いてた人の脳破壊が出来た時点で目標達成したので」

「ブレないな君は!!」

「数少ない取り柄ですかね」

 

 HAHAHA!! と笑われながら肩をぽんぽんと叩かれる。

 俺も併せてにっこりと笑顔を返しておいた。顔は放送に映るしバッチリ美少女スマイルだ。

 

「強い個性だ。しかし、今日だけでもまた課題が見えたことだろう」

「ええ、存分に。俺が目指すヒーローに向けて、足りないもんだらけです」

「ウム! それが分かっているのは偉い! まだまだ教えることがいっぱいあるぞ幾野少年!」

「楽しみにしてますよ、また熱い授業お願いしますねオールマイト先生」

 

 その言葉でニカッ! とオールマイトが笑顔を見せて、俺に手を差し出してきた。

 俺も手を差し出して応じる。

 握手握手。

 なんで??????

 

「抱きしめてくれないんすか?」

「イヤ……他の学年の表彰式でも女子生徒とかには一応、ホラ? 配慮するようにしててね???」

「俺は男子ですが????」

「じゃあ最後に爆豪少年だな!!」

「逃げるなァァァ!! 俺の外見から逃げるなァァァァ!!!!」

 

 俺の言葉をスルーして爆豪の方に向かうオールマイト。

 覚えとけよNo.1ヒーロー。いつか絶対変な噂流してやるからなァ……!!

 

 

「爆豪少年、見事な一位おめでとう!!」

「ッス」

「元気がないな? ……あえて言うが、見事な番狂わせだった!! 決勝で君は見事に君の可能性を示した!! プルスウルトラを体現したのだ、胸を張ってくれ!!」

「……この一位を価値のねェもんだとは思ってねぇ。けど……」

「けど?」

(じぶん)がまだ、コイツらに完全に勝ったと認めきってねぇんだよ」

 

 そう言ってまた爆豪が俺の方を向いてきた。

 何だお前ら。全員俺の事好きすぎんか。

 だが全員男子である。頼むから女子になれ。

 もういいよ爆豪ちゃん復活ね?? 金髪ロリ巨乳になーれっ。可愛いね♥

 

「うむ! 相対評価に晒され続けるこの世界で不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない! それを忘れることなく……一つの『(しるし)』として受け取れよ、このメダルを!!」

「……おぅ」

 

 そう言って恭しく頭を上げて、オールマイトからメダルを拝領する爆豪ちゃん。揺れてる揺れてる(幻覚)。

 拍手が沸き上がり、爆豪ちゃんを抱きしめるオールマイト。どうして。

 

「さァ!! 今回は彼らだった!! しかし皆さん! この場の誰にもここに立つ可能性はあった!! ご覧いただいた通りだ!!」

 

 最後にオールマイトの総括が入る。

 長かった体育祭も終わりか。マジで色々あったぜ。

 いい想い出になる日まで、俺もまた前に進もう。

 そう、最後の〆の言葉のように。

 

「次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!! ってな感じで最後に一言!! 皆さんご唱和ください!! せーの!!!

 

 

 

「「「「プルス・ウル『お疲れさまでした!!!』

 

 えっ。

 ウケる。

 マジでオールマイト先生最後まで何やってんです????

 

 


 

 

 

「ふーう」

 

 明日明後日と休みであることを相澤先生に帰りのHRで案内され、家に帰ってきた。

 一人暮らしのアパート、そこの()()()()()()()()中に入ると……先客がいた。

 

「やあ!! 今日は頑張ってたな、()()!!」

「は……?」

 

 勝手に鍵のかかった部屋に上がってのんびりグラビアを読む様な人間は一人しかいない。

 短い金髪、漫画みたいな顔。鍛え上げられた体。

 雄英三年生、今年に入ってBIG3と呼ばれるようになった学園最強の一人にして、()()()()

 

「……()()()()()()、急にどったの?」

 

 通形ミリオが、そこにいた。

 

「体育祭お疲れ様!! 久しぶりに従弟と飯でも食べに行こうと思ってさ!! よければどうだい!?」

「それ奢り?」

「もちろんだよね!!」

「っしゃ太っ腹ぁ! 行こうぜ! よし峰田も呼ぼ」

「あんまり人増やすと俺の財布がしぼむんだよね!! 峰田くんまででよろしくね!!」

 

 





次回、ヒーローネーム発表。



あとそこそこ区切りが良かったのでここまでの話のあとがきみたいなものを活動報告でまとめてます。
ここすき紹介などもしてますのでよかったらご覧ください。いつものやつ。
感想・評価などいただけますと筆者が喜びます。


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29 んにゃぴ……ヒーロー名ねぇ……

 

 

 

 俺はその後、ミリオ兄さんと峰田も一緒にファミレスで飯を食べた。

 体育祭の事や、学校の事、クラスの事、中学時代の事を話しあった。

 久しぶりに会うミリオ兄さんとの会話は懐かしくて、楽しかった。

 

「峰田くん!!」

「ん、なんスかミリオ先輩」

「頼むからセンのことこれからもよろしくな!! 君だけが頼りだ!! いろいろとね!!」

「オイラもその自覚あるんで平気ッス」

「なにゆえ」

 

 そしてミリオ兄さんとも別れ、峰田とも別れ、家に帰り、ミリオ兄さんと峰田に自撮りを送り、葉隠ちゃんの下乳の重みを思い出して一発抜いて寝た。

 すっごい出た。

 

 休みの二日間は峰田とも話し合い、久しぶりに朝練も休んでのんびりする時間に充てようと決めていた。

 今頃みんなはどうしてるだろうか。

 

 轟はお母さんとの面会、どうなったかな。

 

 飯田はご家族の都合で早退したらしいが、何もなければいいけどな。

 

 


 

 

「────兄さん!!」

 

 

 

「天哉…………母……さん……」

 

「ごめんな……天哉」

 

「兄ちゃん……負け……ちまった……」

 

 


 

 

「────お母さん」

 

「………焦凍?」

 

 

 

「────友達ができたよ」

 

 


 

 

「────父ちゃん母ちゃん!? えー!? なんでここに!?」

 

「来ちゃった」

「あんな奮闘した娘を見て駆けつけずにおれやんわ」

「ええー!? 仕事はー!? 新幹線で来たん!? えーー!?」

「お疲れ会しに来た」

 

「~~~言ってよぉ……!」

 

 


 

 

「──にしてもイズク、障害物競走の最後の動きすごかったね! あんなのいつ覚えたの? 力もコントロールできるようになってて母さん驚いた!」

 

「うん、力の調節もあの動きも、幾野くんに教わってね。咄嗟に出しちゃったんだ、飛んだ勢いを殺せなくて……」

 

「あっ……幾野くんね? うん……スゥー……ねぇ、イズク?」

 

「なに、母さん?」

 

「私はどんな愛の形も否定しないからね?」

 

「絶対誤解してるよ!?」

 

「今度LGBTQの本買ってきて勉強するから」

 

「もしもし幾野くんおはよう今大丈夫!? 母さんと代わるから誤解解いてくれる!?!?」

 

 


 

 

 体育祭での疲れも癒えて二日後の登校時間。

 空模様は生憎の雨だった。

 

「外で自由に個性使えりゃ傘ささなくてもいいんだけどなー」

「仮免とったらお前雨の日毎日それで行くつもりだろ」

 

 傘を差しながら峰田と共に学校まで歩く。

 お互いに雄英の近所に家を借りてるので電車通学ではない。

 俺が電車に乗ると5割くらいの確率で痴漢に遭うので男カミングアウトして*1犯人を絶望に叩き込んでから駅員と警察に突き出すので時間が調整しづらいのだ。

 朝練の時間も取りたいので頑張って物件探しましたよそりゃ。

 

 そんなふうに歩いてたら前を歩く緑谷を見つけたので声をかける。

 

「ん、緑谷だ。おはよーさん、昨日は災難だったな」

「君のせいだけどね? おはよう幾野くん、峰田くん」

「オッス。何かあったん?」

 

 俺が昨日あった引子さんとのやり取りを峰田に説明したら爆笑された。

 性癖を破壊するまでは俺の趣味のような物だが親御さんに迷惑をかけるのは本意ではないんですよ。

 やはり心操は後でさらに性癖を捻じ曲げてやらねばならんな。俺は決意した。

 

「何呑気に歩いているんだ!! 遅刻だぞ! おはよう三人とも!!」

「お、飯田おはよーさん。やべ、もうそんな時間か」

「おはよう……カッパに長靴!」

「ストロングスタイルで来たな」

 

 走ってきた飯田に合わせて俺達も急いで校内に入る。

 傘を閉じて個性発動、水を一気に切り終えた俺はカッパを脱ぐ飯田に声をかける。

 

「飯田、お前の─────」

「───兄の件なら心配ご無用だ。いらぬ心労をかけてすまなかったな」

「……ん。そっか。なんかあったら相談しろな」

「ああ」

 

 緑谷も同じように声を掛けたかったようだが、飯田が少なくとも笑顔を浮かべて返事をしてくれた。

 あの様子ならひとまず命に別状とか、そういう感じではなさそうだな。

 よかった。ニュースでインゲニウムの名前があったから結構気にしてたんだよ。

 今この場であまり根掘り葉掘り聞いてもだろう。後で思い詰めてるようなら話聞いてやるか。

 

 そして教室IN。

 まだ時間の余裕あるやんけ。委員長はさぁ……。

 

「超声かけられたよ来る途中!!」

「私もジロジロみられてなんか恥ずかしかった!」

「俺も!」

「俺なんか小学生にいきなりドンマイコールされたぜ」

 

 えっ? どした?

 みんながなんか俺の知らない話題で盛り上がってんだけど??

 

「え、俺声かけられてない……」

「オイラも……」

「ケロ、二人とも確か近くのアパート暮らしだったかしら。流石に校門前に出待ちはいなかったのね」

「雨だしねー! 晴れてたらセンちゃんの出待ちはいたかも?」

「チクショォォォオオオあんなに体育祭頑張ったのにィィ!!!」

「オイラもちやほやされたかったァァァァァ!!!」

 

 俺と峰田は血涙を流して悲しみを吐き出した。

 ちくしょう家が学校に近いという便利設定にこんな欠点があったとは思わなかったよ!!

 悲しい。クソッ今日が雨じゃなければ!!

 天候操作系の個性持ってるやつがいたら一度雨を全部晴れにしてやりてえよ!! クソが滅びろ雨雲!!

 

 そんなこんなしてたら予鈴が鳴り始めたので速やかに自席に戻り押し黙る。

 この瞬間だけはうちのクラスめっちゃ足並みそろってんな。

 相澤先生が予鈴と同時にクラスに入ってきた。おはようございまーす!!

 

「おはよう。早速授業始めんぞ。今日のヒーロー情報学はちょっと特殊だ」

 

 そして授業が始まる。

 ふむ、特殊な授業か。なんやろ。女性ヒーロー特集とかの勉強だといいな。

 ミッドナイト先生、ミルコ、バーニン、リューキュウ、プッシーキャッツの女性陣、ウワバミ、バブルガール、マウントレディ、13号先生……無限に夢が広がるな!!

 

「今日やるのは……『コードネーム』。ヒーロー名の考案だ」

 

「「「胸ふくらむヤツきたああああ!!!」」」

 

 面白っ!!

 なんや今日は当たり授業やんけ! 相澤先生が怖いツラしてるけどテンション上がってきたぜェ!!

 俺も期待で胸が膨らんでさらにメスボディになっちまうなーっ! これ以上エロい体にしてどうしようっていうのよこのショタ先生は!!(幻覚)

 

「……というのも先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる」

 

 相澤先生が続ける説明を聞く。

 先日の体育祭の結果でプロヒーローからのドラフト指名が来ているらしい。

 ふーん?

 どうしよう男性ヒーローからばっかりだったら。とうとう俺はヒーローたちの性癖も破壊しちまったのか。

 

「……で、その指名の集計結果がこうだ」

 

 相澤先生が電子黒板にA組の指名件数を表示した。

 

 

 幾野  2122

 爆豪  1676

 轟   1501

 常闇   464

 飯田   327

 緑谷   320

 上鳴   271

 峰田   241

 八百万  166

 切島    70

 麗日    52

 蛙吹    50

 瀬呂    11

 芦戸     7

 

 

 あらやだ俺が一番多い。

 

「例年並みにバラけたと言ってもいいだろうな。今回の決勝トーナメントだけ見てれば上位にもっと集中してもおかしくなかったが……()()()()()()がひっかき回したせいで、見る側のヒーローも単純に結果だけで見なかったようだ。悪い話じゃない」

 

「だー!! そうはいっても白黒ついたー!!」

「1位2位逆転してんじゃん」

「幾野の個性シンプルに無敵だからな、何でも出来すぎるし」

「流石ですわねイクノさん」

「あんがと」

「ケッ!!」

「わあああ!! ウチ指名あった!!」

「やったな緑谷! オイラ達も結構指名あるぜ!!」

「うん……!」

 

 結果は俺が票数トップ。爆豪ちゃんが二番手になっていた。

 まぁ個性の有用性というか、どんな場でも……って意味だと俺の個性は便利に見えるのかもしれん。スピード不足なのを除けば。

 そろそろコスチューム改造してスピード不足を補いたいところだ。サポート科に打診してみっかな。

 

「この結果を踏まえ……指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう」

 

 相澤先生が続ける説明の内容に、俺と峰田は来たか、と内心で頷く。

 ミリオ兄さんにその辺の事を聞いていたのだ。1週間くらいヒーローの元に勉強に行けるらしい。

 絶対女性ヒーローの所に行くからなァ……俺の指名の中に美人でぼいんなヒーローいっぱい入ってろよ……!!

 

「適当なヒーロー名を付けたら地獄を見ちゃうわよ!!」

 

 そう言って教室に入ってきたのは18禁ヒーロー、ミッドナイト先生だ。

 どうやら相澤先生はセンスのなさを自覚してミッドナイト先生に査定をお願いしたらしい。

 さて、俺が既に決めてるヒーローネームはどんな評価になるかね。

 

 

 ~15分後~

 

 

「じゃ、そろそろ出来た人から発表してね!!」

 

 順次発表することになった。

 まず青山。

 

「輝きヒーロー I can not stop twinkling☆」

 

 短文かよ。

 でもちゃんと指摘するミッドナイト先生優しいな。一声で呼べる名前がいいよね。

 

 次、芦戸ちゃん。『エイリアンクイーン』。それ映画では?

 次、梅雨ちゃん。『フロッピー』。可愛いかよ。推しです。ファンがつきまくりますねこれは。

 次、切島。『烈怒頼雄斗(レッドライオット)』。これ書く人が毎回タイピングするの面倒だからちゃんと横文字にしろ*2

 次、耳郎ちゃん。『イヤホンジャック』。分かりやすい。いいね! ドヤ顔も可愛いです。

 次、障子。『テンタコル』。シンプルイズベスト。触手推していけ。

 次、瀬呂。『セロファン』。もうちょっとひねれなかった?

 次、尾白。『テイルマン』。君ももっと捻ってええんやで?

 次、再び芦戸ちゃん。『ピンキー』。ええやん。可愛さ出てるよ! アクティブな感じ。

 次、上鳴。『チャージズマ』。語感がええやん。割と好きだなこれ。

 次、葉隠ちゃん。『インビジブルガール』。いいね!! 葉隠ちゃんの事バッチリ表してるよ!! 天使かな?

 次、八百万ちゃん。『クリエティ』。うん、何が出来るか一発で分かるいい名前だね。響きも可愛い!

 次、轟。『ショート』。お前さぁ。

 次、常闇。『ツクヨミ』。割とあり。俺そういう文化割と好きだよ。普通にかっけぇ。

 次、峰田。『グレープジュース』。いやこれは知ってた。昔からよくヒーローネーム一緒に考えたもんな。

 次、口田。『アニマ』。これもあり。なんていうか……アニマ。文字がカッコイイ。推すよ俺は。

 次、爆豪ちゃん。『爆殺王』。バカがよ。

 次、麗日ちゃん。『ウラビティ』。あらやだ洒落てて可愛いわ! 文字もなんか可愛い感じだし。うーんわかってますね。

 

「───思ったよりずっとスムーズ! 残ってるのは再考の爆豪くんと……飯田くん、幾野くん、そして緑谷くんね」

 

 あっ、みんなのヒーローネームの講評に入ってたら発表忘れてたわ。

 俺のこういうところかなぁ? 委員長も積極的にやろうとしてなかったの俺だけだし。積極性に欠けるのかもしれん。

 反省反省。じゃ、行きますか。

 

「んじゃ俺行きます」

「ん! 幾野くんのヒーローネームはどんなのかしら?」

 

 俺はフリップをもって教壇に立ち、ひっくり返してみんなに見せる。

 俺が求めるヒーロー像、それになるために。

 

 『イグジスト』

 

「……イグジスト?」

「ん? どういう意味の英語だっけ?」

「『exist』……『存在する』、『在る』、『生き延びる』……といった意味の単語ですわね」

「絶対センシティブで来ると思ったのに」

「あー……幾野の名前で文字った感じか?」

「いや、それもあるんだけどね……まぁ色々。響きカッコよくない?」

「ケロ。かっこいい名前だと思うわ」

「私もー! センちゃんのヒーローコスチュームはえっちだけど、イグジストって名前付いたらカッコよさも出てくるよ!」

「天使が二人おる」

 

 クラスの大多数がうーん? と首をひねるのを眺める。

 まぁ確かにな。俺がつけるには何だかズレた名前に見えるかもしれない。

 プリティフェイスとか、キュートヒップとか、名前で文字るにしても上鳴が言ったようにセンシティブとかあっただろう。

 けれど、俺はこれにした。

 

 ()()()()()()

 誰かの隣に、在れるように。

 

 このヒーローネームを思いついたとき、()()()()()()()()しっくりきた。

 だから、これにする。

 普通に響きがかっこいいしな!!

 

「幾野くんの場合、個性でどこにいるか分からなかったりするけど、ひょっこり出てきてここにいた! ってこともあるでしょうしね! 響きもカッコいいわ! いいんじゃない!」

「あざっす、ミッドナイト先生」

 

 俺のヒーローネームが決定した。

 今後これが変わっていくかは分からんけど、少なくとも職場体験ではこれで通すことになるだろう。

 後悔はない。

 俺はイグジストだ。

 

 その後、飯田が『テンヤ』、緑谷が『デク』でヒーロー名を発表した。

 お前らさぁ。

 いや緑谷は麗日ちゃんと爆豪ちゃん考案の名前だからまだいいけど飯田はさぁ。

 ……様子もなんか変な感じ。やっぱお兄さんの事引きずってんのかな。ミッドナイト先生も言った通りこの名前一生続くかもしれんのに。よし、後で愚痴でも何でもいいから話聞いてやろう。

 

 なお爆豪ちゃんは最後までクソ下水だった。

 どうしてそんなに殺したいんだお前は。マーダーライセンスでも目指してんのか。

 

 

 因みに職場体験は一週間後から始まるらしい。

 その間にコスチューム改造をサポート科に相談に行ってみよ。

 

*1
たまに喜ぶ奴がいる。

*2
マジで大変。次から横文字にする。




そとみち様よりファンアートを頂いたので紹介させていただきます!(欺瞞)

①しゃがみポーズをとるセンちゃん

【挿絵表示】

なんか……感想欄で「ジャック・オーのポーズしてほしい」ってあったから勢いで……。
ヒーロー名鑑にこのポーズで載ってそう。iの位置が意味深ですね。
手首の謎のアイテムについてはおいおいね。


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30 発目ちゃんとはじめての子作り♥

こういうオリジナルアイテム開発の話考えるの楽しいな?
独自設定タグが火を噴きます。ご注意。


 

 

 放課後にサポート科に顔を出して初対面の皆様に挨拶しつつコスチューム改造について相談してみた。

 

「コスチュームの改良だったら校舎の一階にある開発工房に行けばパワーローダー先生が聞いてくれると思うよ」

「マジ? サンキュ。お礼に俺のおっぱい揉む?」

出てけ!! 俺の性癖が歪む前に早く出てけよぉ!!」

 

 モブ男くん*1が涙目で教室から追い出してきたので仕方なく退散することにした。

 サポート科とも仲良くしたかったんだけどなあ。残念。

 そういえば発目ちゃんいなかったな。まぁ放課後だしな。

 

 さて。そんなわけで開発工房に向かっていたのだが、そこで見知った顔と出会った。

 

「お、心操じゃん。よっす、こないだの体育祭じゃどーもな」

「……幾野か。こっちこそ、世話になった」

 

 普通科の心操だ。

 体育祭では共に騎馬戦を勝ち抜いた仲。もはやダチと言っていいだろう。

 緑谷のお母さんに心労かけたのはまだ許してねぇけどな。

 

「どったのこんなところで」

「あぁ……実は相澤先生に」

「俺を探してた? やだもー、あの時の太腿の感触が忘れられなくなっちゃったの♥?」

「話聞けよ平常運転だな相変らずお前」

「メンゴ。で、相澤先生が何だって?」

「……体育祭の後に声かけられてよ。俺も職場体験でいくつかスカウトが来てて、行くならコスチュームまではいかなくてもなんか道具作っておけよってさ」

「おおマジ? やったじゃん! 騎馬戦頑張った甲斐があったな!」

「ああ……礼は言っとく。んで、案が固まったから相談に来たってワケ」

「なるへそ」

 

 心操の話を茶化しつつも聞いていたらなんとこいつにもちゃんとスカウトが来ていたらしい。

 やったな、マジで。まぁ洗脳なんつー強個性を見逃すようなプロがいたらそれはありえんと思ってたところだ。

 相澤先生にも声を掛けられたとなれば相当買われてるな。あの先生、人を見る目はマジでいいし期待されてんのかもな。

 

「相澤先生に放課後の特訓なんかも誘われててよ……頭が上がらねぇよ」

「いいじゃん、あの先生つっけんどんだけど面倒見いいからな。特訓俺もたまにつきあっていい?」

「ああ。先生がOK出せばな」

 

 さてはてと話しながら開発工房の扉をノックして、ちゃんと「失礼します」と言ってから扉を開ける。

 爆発した。

 

 は?

 

「……なんで?」

「ゲホッ……!! おい幾野、てめぇ何しやがった……!? 何、誰……!? 重……!」

「いや俺のせいじゃないからね!? ごめんななんか俺だけノーダメージで!?」

 

 心操がぶっ飛ばされて煤だらけになったやんけ!

 なお俺はオート個性が発動してノーダメージです。

 煙が中から溢れてよく見えん。何があった?

 俺はウォールハックを発動して周囲を確認する。

 

 すると、まず俺の横に立っていた心操が衝撃で倒れており。

 その上に、部屋の中から爆発の衝撃で吹っ飛んできていたのだろう、発目ちゃんがのっかっており。

 おっぱいが心操の胸板で押しつぶされていた。

 

「殺すか」

「物騒な発言が聞こえたぞ!? ってか……発目だっけ? こいつ」

「ごほっ……あれ!? 貴方たちは先日の体育祭の!」

 

 今すぐ発目ちゃんの下からどきなさい心操。繰り返す今すぐにどきなさい。

 美味しい思いしやがってよォ!! 俺の方に発目ちゃんが飛び込んで来てたら倒れることもなく抱きしめてたのによォォ!!

 

 その後煙を払ったり煤を払ったりして開発室内にお邪魔させてもらった。

 

「あ、パワーローダー先生。ちわっす! ヒーロー科の幾野です!」

「どうも。普通科の心操です、世話になります」

「けけ……悪かったな二人とも、コイツいつもこうでよォ。心操のほうはイレイザーヘッドから話は聞いてるよ」

「発目です! ごめんなさいお二人ともお名前忘れてました!」

 

 二人に挨拶して、部屋の中を見渡す。

 すんげぇごっちゃりしてんな。こんなもんなのか開発室って。

 

「で……幾野のほうはどうした。お前の個性で足りないもん埋めに来たか?」

「そっす。俺の個性、無敵ではあるんすけど火力とスピードが足りなくて。特にスピード、機動力をどうにかしたいなって……コスチュームの改良で何とかならないかなと」

「コスチュームの改良!? 興味あります!! 私に任せてみませんか!?」

「俺も発目ちゃんの事すっごい興味あるな。お互いに理解しあおうか」

「狂人と狂人が出会う恐怖だよ」

 

 急に発目ちゃんがぐいっと顔を近づけてきたので俺も彼女の顎にそっと手を添えて可愛いフェイスで迎える。

 したら心操がため息ついてた。幸せ逃げるよ?

 

「どんなベイビーが欲しいんですか! ピッタリな物作ってあげましょう!!」

「君とのベイビーが欲しいかな」

「アクセル緩めろ幾野」

「発目と話のテンションが合う生徒初めて見た」

 

 やだ……発目ちゃん天使かな?

 キレのあるカウンターで返したのにむしろ笑顔を向けてきよる。ヤバイこの子と相性いいぞ俺。

 

「おや!? 私の自家製が欲しいとは……わかってますねぇフフフフフ!! 初めての依頼、ばっちり要望に合ったものを作らせてもらいましょう!! では早速全身を計測しますね失礼します!!」

「えっちなところ触らないでね? テレちゃうから」

「いいえきっちり全身を測らせていただきます! 可愛いベイビーのためには必要なデータです!!」

んっそんな所弄られるの恥ずかしい♥」

「俺そろそろツッコむの諦めていいか?」

「このまま発目引き取ってほしいまである」

 

 メジャーを取り出して俺の体を測定しながらも直接触ってきて筋肉のつき方まで見てくる発目ちゃん。

 何だこの子えっちか? 峰田に絶対この部屋の存在教えねぇわ独り占めだわ。

 

「随分とお体が柔らかいですねえ! あれ程の動きを体育祭で見せていたのに無駄な筋肉がない!」

「可愛い子に全身をまさぐられるとちょっと興奮する」

「パワーローダー先生、一応相澤先生と打ち合わせたのがこの説明書なんすけど……」

「うん、声に関するアイテムだったね。見せて……ふむ……面白いなこれ。いいね、ちょっとデザイン考えていこうか」

 

 とうとう俺達へのツッコミを放棄して心操はパワーローダー先生と打ち合わせに入ったようだ。

 計測されながら横目でちらりと見たが、首に装着するタイプの変声機か。なるほど、心操の声色を変えられれば洗脳を繰り出す幅が広がる。いい案だと思う。

 だが、その上でちょっと俺は心操にアドバイスをしてやることにした。

 

「心操、その変声機……女子の声も再現できるのか?」

「ん? ……ああ、一応まともな声色なら男女区別なく出来るように要望出してある」

「そっか。じゃあ俺と一緒にメス声出す練習するか」

「何でだよ!?」

 

 俺が適切なアドバイスをしたら心操が頭おかしいのかって顔でこっちを見てきた。

 え。いや俺にしてはマジで至極まともなアドバイスなんだけど?

 

「いや心操お前、女子の声がもしかして普通に声変えるだけで出せると思ってんのか?」

「は……? 声色が高くなれば女子の声になるんじゃねぇのか?」

「ならねぇよ。いいか、女子と男子の声ってのは根本から違うの。ブレスの量、発音のタイミング……甘え声って分かるよな? あれ高い声で男がやってもキモってなるけど女子だと印象違うだろ? あれ全部女子なりのブレスがあるからだからな? 声だけ高くなってもキモ裏声男子にしかならねぇわ」

「……そう、なのか?」

「的外れでもないんじゃないかな。男性の声をどんなに調整して高くしても女性の声にはならないからね」

そういう練習もしないとちゃんと女の子の声を再現できないぞ♥

その声やめろ。……はぁ。でも確かにお前の声はちゃんと女子に聞こえちまうもんな……わかったよ、なりふりは構ってられねぇんだ。教えてくれ」

 

 俺がしっかり説明すると心操もある程度納得はしたのか、一先ずは俺からそういう指導を受けることに了承した。

 女子がどう声を出しているかを説明するのは難しいが、男子で女子の声を練習した俺なら適切な指導が出来るだろう。

 実際、発音に欠片でも照れが入ったら違和感しか残らないからな。個性をきっちり使いこなすためにもマジで必要な訓練だ。

 てなわけでこれから心操くんにはメス声習得してもらいます。

 

「じゃあまずは俺が練習してた時の参考音声スマホに送るから良く聞いてブレスのイメージ掴んでくれ」

「おう。どんな音声なんだ?」

「ASMRボイス『JK銀髪爆乳シスター初めての筆おろし「ふふっ♥今は神様は見ていません♥いっぱい出しましょうね♥」総集編』」

「学校になんてもの持ち込んでんだお前!?」

「聞かなかったことにしておくよ。個人の趣味だし。ホントに男子だな幾野」

「よくわからない音声を聞いてますね!!」

 

 俺は心操に取っておきのASMRボイスを転送してやった。いいんだこの音声。しっとりしてて。

 ブレスも多めだからマジで訓練になる。俺の女声はこのボイスに酷似させている。

 つまりこれから心操は俺の女声に似た声をずっと聴くことになるわけだ。

 性癖歪みまくれオラァッ!! 引子さん混乱させた報いだオラッ!!

 

「お体の計測終わりましたよ!! さて、アナタはどんなベイビーをご所望ですか?」

「お、ありがとね発目ちゃん。そうだな……イメージとしては瀬呂のテープとか梅雨ちゃんの舌みたいな、ワイヤー飛ばして高速移動できるアイテムが欲しいんだよね」

「む! となると私が体育祭で使った『ザ・ワイヤーアロウ』のようなやつですね!?」

「そんな名前だったんだ。そうね、あれがイメージに近い。で、出来れば場所取りたくないから手首辺りから出して、こう、スパイダーマンみたいに移動したいんだけど」

 

 さて、改めて俺の求めるアイテムの話に戻る。

 発目ちゃんが前に使っていたワイヤーアロウもいいんだが、あれでは装備がデカすぎる。できれば体はすっきりさせておきたい。

 だからこそ、手首にパーツを装備する感じで、街中とかビルとかで飛び回れるようにしたいんだよな。

 近接戦闘は体育祭でそこそこ出来たのを考えれば、俺の今のはっきりした課題は足場のない所にすぐに移動する速さだ。障害物競走の第二種目がはっきりとそれを表している。

 

「なるほどイメージは分かりました!! ですがかなり難しいですね!!

「アレ!? なにゆえ!?」

「あー……幾野。お前の言うイメージはよくわかるし、かっこいいから誰もが求めるよなァそういうアイテム。でもヒーローがそういうの使ってるの見たことあるか?」

「……あれ? ないっすね?」

「確かに、腕からワイヤー飛ばして移動なんてぱっとイメージできるけど誰もそんなアイテム使ってねぇよな」

 

 発目ちゃんにダメ出しされた。んでパワーローダー先生が話に混ざってきて、俺と心操は先生からかけられた問いにあれ? と首をひねった。

 確かに。誰もが考える道具なのに使ってる人誰もいない!

 

「先日私が使ったワイヤーアロウは射出機構を()()()にするためにあのサイズになってるんです!! 手首に装備するとなるとちょーっとデカくなりすぎますかね!」

「……ん? どゆこと?」

「射出する()()と射出する()()が問題なんだ。どっかに突きさしてワイヤーでブランコ移動するってことは、先端は尖ってなきゃならねぇ。だが、尖ってるモンを射出するってなると、爆薬とかの火力で射出しちまうと法律違反になるんだ。銃と同じ、殺傷武器扱いになっちまう」

「……ワイヤーの先端を鉤状に尖らせる以上、どうやっても拳銃とかと同じ凶器扱いになっちまうってことか。スナイプ先生みたいに個性由来でしっかり許可とってねぇと使えないと*2

「その通りです!! 重ねて言うとバネ仕掛けなどの法的にセーフな機構で放つにしてもやはり装備が大型になりますね!! 何とかしたいと考えた結果が先日のワイヤーアロウですが、安定して壁面に突き刺す射出機構とさらに回収機構までつけるとなるとあのサイズを下回れないのですフフフフフ!! いつかは作り上げてみたいものですが!!」

「なるほどなぁ」

 

 発目ちゃんとパワーローダー先生の説明に、俺と心操は納得を覚えた。

 成程確かに言われてみればそのとおりだ。そもそも発目ちゃんが以前に使ってたアレよりも小型で便利なものを作ってくれってのも無理な話だったな。

 ふむ。そうなるとどうすべ。

 俺のコスチュームは出来ればあのぴっちり感は残したい。けど機動力のためなら多少は装備をゴツくしちまっても……いや、待てよ?

 

 さっきの説明をまとめるとこうだ。

 

 突き刺さなきゃいけないから先端が尖って大きくなる。

 先端が尖る以上、火薬は使えない。

 火薬が使えない以上、射出機構がデカくなる。

 だから場所を取る。

 

 …………これ、()()()()()()()()()()()()()()

 

「……発目ちゃん、細めのワイヤーってある?」

「はい? いくらでもありますよ? その辺に転がっています」

「片付けもしような発目」

 

 俺は物は試しと、床に落ちてるそこそこの長さの良く動くワイヤーを拾い上げる。当然その先端には何もついていない。

 適当でいいんだ。ついでに拾ったガムテープをワイヤーの先端にぐるぐると巻いて簡単な重りを作る。

 

「何やってんだ幾野?」

「いや……ちょっと思いつき」

 

 俺は先端に重りがついて簡易フレイルと化したワイヤーをぐるぐると回して勢いをつける。

 そして適当な壁に投擲して。

 

 ─────個性を発動。

 

「……お?」

「おお!? 壁に先端が()()()()()()()()()()よ!?」

「……なるほどな? そうか、幾野の個性……持ってる物も潜らせられるんだったか。カカ、こりゃいい」

 

 俺が投げた重り付きワイヤーは壁にぶつかると思いきやそのまま壁を通過。

 そしてワイヤーに張り巡らせてた個性を弄って壁に埋め込んだまま固定。当然壁に埋まったワイヤーはそこから外れることなく、引っ張ればピンッと張力を生んだ。

 

 そう、俺が使う以上、先端の尖りはほぼ不要になる。

 埋めることは俺の方でできるのだから、大仰なパーツをつける必要すらない。

 極論、先端にピンポン玉がついててもどこにでも突き刺せる。

 

「……フォォォ……! すごい個性ですねそれ!? 出来る事広がりまくりじゃないですか!? フフフフフイメージが次々湧いてきましたよフフフフフ!!!」

「これで何とかなるかな?」

「少なくとも先端は何とかなるでしょう!! ですが射出機構がやはりネックです!! 小型化したとしてもまだ手首には巻けないですが腕全体を覆ってしまえば!!」

「重りは必要だから鉄球でもつけるとして、それでもやっぱり火器は厳禁だからね。回収機構も小型化するとはいえまだ手首サイズにはならないかな」

「ロマン求めるのも大変だな」

「んにゃぴ……」

 

 俺の案でフックのほうの問題は解決したが、それでもやはり射出機構と回収機構が問題らしい。

 んー、腕を覆うくらいなら何とかなるか?

 腕を覆う……ん?

 ひらめいた。

 

「発目ちゃん。腕を覆うように作るとして、肘の先、二の腕まで必要な感じ?」

「いえ、そこまでには至らないでしょう!! ガントレットのような感じになるかと!!」

「なるほどね? じゃあ、それさ───」

 

 俺はまたしてもそこらに落ちてるパーツの中から、だいたい500mlペットボトルくらいの大きさの鉄の棒を拾う。

 そして、それを自分の腕に埋め込んで見せる。

 

「────射出機構をさ、こうやって()()()()()()()()()()()()()()いいんじゃない?」

 

「っっっっ!!!!! 天才です!! 天才ですよアナタ!! 手首にワイヤー、腕の中に射出機構と回収機構!! イケます!!!」

「何でもありだなマジで幾野の個性」

「自分の個性に噛み合うアイテムを使うのもヒーローの資質だからね。しかし中々いいアイデアだ。ふむ、心操のペルソナコードと合わせて開発急いでみるか……」

 

 どうやらお眼鏡にかなったらしい。

 俺にしか装備できない、俺にしか使えないワイヤーロープ。

 手首と、さらにそこから肘までの腕の中に()()()()という理外の発想から生まれる移動機構。

 埋め込むワイヤー。名付けるなら『ダイブワイヤー』とでもするか。

 これがばっちり開発されれば、俺の強力な武器になりそうだ。

 

「これは忙しくなりますよぉ!! デザインについて打ち合わせましょう!! どんな外見がいいですかイクノさん!!」

「あ、初めて名前呼んでくれた嬉しい。そうだね、手首には既にリングみたいの着けてるからそこから大きくは形変えたくないかな……」

「パワーローダー先生、俺のペルソナコードもデザイン案いくつかいいっすか」

「勿論。折角ヒーロー目指すんだ、カッコつけろよ。ケケ……」

 

 その後、俺と心操と発目ちゃんとパワーローダー先生でめっちゃ新しいアイテムについて構想を練った。

 なお完成時期についてだが、心操のは既存の技術で組めるんだけど俺のは根本から新開発になるらしく、職場体験が終わるころに完成見込みらしい。

 ま、仕方ないか。完成を楽しみに待つとしよう。

*1
オリモブ

*2
この辺も独自設定。あの人だけ銃使ってんのズルくない?



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31 メガネを割るのは一度までは義務みたいなもん

 

 

 

「オイラはマウントレディ!!」

「オイラもマウントレディ!!」

「峰田ちゃんとセンちゃん、またやらしいこと考えてるわね」

「そうだよ」

「違ぇよ!?」

 

 職場体験も数日後に控えた朝のHR前の教室でクラスの皆とだべっていた。

 俺は峰田と共にマウントレディの元へ職場体験をする形で申請した。

 そこに決めた主な理由としては、デビューから短期間で一気に人気を集めており、まだソロ活動なことなどから、その辺りのコツや苦労話が聞けそうだったからだ。あと若いし美人だし。

 なお俺にはちゃんとマウントレディからオファーが来ていたが峰田は受入れ可の事務所からあえて選んでいた。

 お前も結構指名あっただろうがよ。多分指名の中に女性ヒーローがいなかったんだろうな。ウケる。

 

「芦戸もいくつかオファーあったよね」

「それな。ちょっと微妙ー! でも断るのも申し訳ない! うーん! 悩む!」

「デクくんはもう決めた?」

「まずこの320件もオファーを出してくれたヒーローたちの得意な活動条件を調べて系統別に分けたあと事件・事故解決件数をデビューから現在までの期間でピックアップして僕が今必要な要素をもっとも備えてる人を割り出さないといけないな……こんな貴重な経験そうそうないしオファーを頂けてるだけでもありがたいから慎重に決めるぞ事件がない時の過ごし方なども参考にしないといけないなああ忙しくなるぞうひょー」

「また始まってら」

「戻って来い緑谷」

 

 緑谷が安定の高速詠唱(オナニー)芸を見せている。

 クラスの皆を見てみればおおよそは行き先を決めている様だ。

 梅雨ちゃんは水難に係わる所に行くらしい。一番個性が発揮できるところだもんな。

 麗日ちゃんと葉隠ちゃんはバトルヒーローの事務所だって。ゴリゴリの武闘派だと緑谷が解説してくれた。可能性を広げるために求める強さ、良いと思います。

 

 さて、そんな中で俺が気にしてる二人に声をかけてみることにした。

 まず一人目。

 

()。お前はどこに行くんだ? まだ決めてない感じ?」

「幾野……俺はもう出した」

「ほほう。どこさ」

「親父ん所だ」

「お」

 

 轟。前の体育祭で随分と距離も縮まり、最近は一緒に飯食べたりもする仲になっている。ダチだ。でもこいつ蕎麦しか食わねぇ。

 話を聞いたところによるとお母さんともしっかり話せたとのことで俺もほっこり。

 そして今回の職場体験についても聞いてみると、なんとエンデヴァー事務所に行くという。

 おお、マジか。お母さんに続いて親父さんとも歩み寄り始めるのか。

 

「……前にお前言ってたよな、親父と話してみたら意外と普通のヒーローだったって」

「ああ、体育祭の控室前のあれね? そだね、俺が素で話した限り、普通に人格者に見えたよ」

「俺は……あのクソ親父の家ん中での顔しか知らねぇ。これからどうしていくか決めるためにも……まずは親父のヒーローやってる姿も見ねぇとって思った」

「そっか。……いいんじゃねぇか? 腐ってもナンバー2ヒーローなんだ。吸収できることは多いだろうしな。頑張れよ、何かあったらいつでも相談しろ」

「おお」

「エンデヴァーさんに『先日は大変お世話になりました♥』って俺が言ってたって伝えといて」

「ああ」

「俺のアドレスも教えていいから。あとでメッセージ貰えるようにお願いしてくれる?」

「わかった」

「あとバーニンさんとも出来ればアドレス交換したい」

「伝えとく」

「轟お前もうちょっとノーと言える日本人になれよォォォ!?」

 

 俺が轟にエンデヴァーとバーニンさんへのパイプつくりのお願いをしていたら峰田がツッコんできた。

 なんや。折角できた縁やぞ。悪い意味じゃなくてナンバー2ヒーロー事務所と関係出来たら今後のヒーロー活動に有利にしかならないだろが。

 

 さて、まぁそんな感じで轟の行き先は確認できた。

 次は……飯田だ。

 

 飯田。

 どうにもやはり今週に入ってから……お兄さんのインゲニウムが倒れてからというもの、いつもの調子ではないように見える。

 心配の意味も込めて声をかけた。

 

「飯田はどこ行くんだ? もう決めたのか?」

「……ああ。マニュアル事務所にしたよ」

「……マニュアル?」

 

 聞いたことのないヒーロー名だ。

 俺の、緑谷に教えてもらった程度の付け焼刃のヒーロー知識ではその名前に心当たりがない。

 妙だな。飯田ならあれ程オファーを貰えていたのだから、ある程度有名なヒーローからも指名があったと思うのだが。

 

 それどこのどんなヒーロー? と聞こうとしたところで始業のチャイムが鳴ってしまった。速攻で席に戻り相澤先生を迎えるクラス一同。

 仕方ない、緑谷にマニュアルについて教えてもらったうえでまた話聞いてみるか。

 

 


 

「ヒーローマニュアル? それは……東京のノーマルヒーロー『マニュアル』かな」

「流石は緑谷」

「確か水を操る系の個性だったと思うよ。あまりランキングは高くないけど……しっかりとした誠意ある対応でアンケートの平均評価は高かったはず」

「飯田がそこ行くんだってよ。あ、今日のかつ丼旨そうだな。カツ一切れちょうだい♥?」

「そんな声出さなくてもあげるよ? その代わりから揚げ貰うね。……でも、飯田くんがそこに行くんだ……」

「うまみ。……ん? 何か思うところある?」

「いや……確か、マニュアル事務所は東京の保須市にあったはずなんだ」

「ふんふん?」

「───インゲニウムが、『ヒーロー殺し』ステインにやられた地区だ」

「────────────」

 


 

 

 放課後。

 

「飯田、一緒に帰ろうぜ!」

「幾野くん……ああ、構わない」

 

 俺は教室を出る飯田に声をかけ、共に帰ることにした。

 もちろん、話を聞くためだ。

 こいつがわざわざマニュアル事務所に行くことにした、その件を。

 

「なぁ飯田」

「何だ?」

「マニュアル事務所行くんだよな……あれか? お兄さんと何か関係のある所なのか?」

「……いや、特段そういうものはない。でも誠実な仕事をするヒーローでね、それを学びに行きたいんだ」

()()()()()?」

「っ……」

 

 仕掛けた上でまっすぐに切り込んでいった。

 こいつは今、きっと、迷っているから。

 俺にも緑谷にも、誰にも職場体験の行き先を積極的に言おうともしない。お兄さんの件も。

 体育祭前と様子が違いすぎる。

 

「……保須市。お兄さんがヒーロー殺しにやられちまった所だよな」

「……」

「……飯田、お前どうするつもりなんだ?」

「……君には関係のない事だろう」

 

 隣を歩く飯田の語気が強くなった。

 どうしたよ飯田。どうしちまったんだ。メガネが曇ってんのか。

 お前、そんなこと言うやつじゃなかっただろ。

 

「関係ないわけあるかよ」

「僕の家庭の話で……」

「飯田。お前は俺とか緑谷とか、ダチの肉親が凶悪なヴィランにやられたって聞いて、それでダチが塞ぎ込んでて、でも関係のない話だから知りませんって言うのか? 言わねぇよな?」

「っ! それは無論、そうだが……!」

「なら俺も言わねぇの。……話聞かせてくれよ。お前がどうしたいのかをよ」

 

 飯田の反論は余りにも簡単に覆せた。

 当然の話だ。ダチが塞ぎ込んでたら話を聞いてやりたくなる。力になってやりたくなる。

 隣にいてやりたい。

 余計なおせっかいがヒーローの本質だからこそ。

 

「…………僕は、ヒーロー殺しが許せない」

 

 そして、飯田が零した言葉は漸くの本音なのだろう。

 苦々しく表情が歪み、言葉を紡いだ。

 

「兄さんは……兄は、下半身不随になるだろうと医者に言われた」

「!? ……マジかよ……!?」

「ヒーローらしからぬ感情だとはわかっている……だが、僕はあいつが許せない。だから……無駄なことかもしれない、それでも今は……追わずにはいられない」

 

 そこで俺は初めて、飯田のお兄さんが想像以上の重傷であったことを知った。

 下半身不随。マジかよ。間違いなく人生を大きく変える後遺症だ。

 ヒーローを続ける事なんてできるはずもない。何て悲劇だ。

 生きているからまだよかった──と俺の口から言えるはずもない。

 ()()()()()()()()()()()

 

「飯田──」

「……そんな、理由だ。俺が君たちに話せなかったのは。これ以上は……」

「──よし!! きっちりヒーロー殺しぶっ殺してこいよ委員長!!」

「何を言い出すんだ君は!?」

 

 そして俺は、飯田の言葉に俺の答えを出した。

 隣にいてやりたい。そんな俺の目指すものは、決して相手の感情の否定ではない。

 俺は、家族を想う人間として当然のその気持ちを、肯定する。

 

「違うのか? そういう事だろ? マニュアル事務所で保須をパトロールとかして、ヒーロー殺しを見つけたらぶっ殺すんだろ?」

「それは……! いや、違わない、が……殺すのは駄目だろう!?」

「だってお前そのつもりだったじゃねーか」

「!? 何を言っているんだ幾野くん!?」

「え、さっきヒーロー殺しを許せないって言ったときの目が完全にイッてたからそうなのかなって……」

「……いや、それだけは違うはずだ! 違う……!」

「いやゴメンな飯田? 俺の言いたいことまず言わせてもらうな?」

 

 俺は彼を応援したい、支えたいという気持ちを込めて、俺の言葉をぶつける。

 

「家族が襲われて重傷を負ったわけだ。そりゃ恨むわ。ふざけんなヒーロー殺し、ってなるよ。そりゃなる。誰だってなるさ。俺も同じ立場だったらなるよ」

「……だが俺は……」

「いいから聞けって。なぁ、()()()()()()()()()()()()? 家族を想う気持ちがないヒーローなんていないだろ? 家族じゃなくても、人々を傷つけるヴィランを取り締まるためにヒーローがいるんだからよ。これまでヒーロー殺しが害してきた人がいる以上、アイツは恨まれて当然なんだよ」

「……何が言いたいんだ、幾野くん……」

「いつも話長くなってごめんな? 俺緑谷の事言えねぇわ。まぁ……つまりはさ、視野を狭めず()()()()()()()()()()()()、って話」

「!!」

 

 俺が今飯田に言いたいことはこの一言に集約される。

 こいつが思い悩んで、敵を恨んで、でもそれを俺達に言い出せなかったのは、それが()()()()()()だと思っていたからだ。

 さっきの顔を見る限り、間違いなく思い詰めていた。視野が狭くなっていたんだ。

 

 俺も同じような経験がある。強い負の感情は、周りを見えなくさせる。

 だから、俺が視界を広げてやるんだ。

 

「ぶっ殺すって俺はさっき言ったけど、あれは言うなら爆豪ちゃんのセンスワードみたいなもんでさ。ヒーローとして正しくぶちのめしてくるんだよ。パトロールで凶悪なヴィランを見つけたらまず民間人の安全確保、ヒーローの応援呼んでから接敵。きっちり捕まえて警察に引き渡す。それがヒーローだろ?」

「……ああ。授業で、何度も習ったところだ。まずは市民の救出を……」

「いいじゃんそれで。どこに恥じる部分があるよ? 兄さんを害したヴィランが許せない、だから職場体験で少しでも情報を集めようとしました。そしたらヴィランに出会いました、ちゃんと職場体験先のヒーローと連携して、学校で学んだことを活かしてヒーローとして立派に活躍できたよ。……って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ッッ!!」

「お前の速さはクラスで一番だ、それはガチった俺が保証する。そんなお前がきっちりヒーローとして頑張れば、兄さんの仇だってワンチャン取れると思うんだよ。……だからさ、あんま思い詰めんな、ってことを言いたかった。……いや俺これマジで緑谷の事言えねぇな? 話まとめるのヘタクソかよ」

 

 勢いのままに飯田に言いたいことを全部言い終えて、俺は苦笑を零した。

 飯田はあっけにとられたように俺の方を見ているが、俺が言いたかったことは伝わっただろうか。

 いいんだよ。俺はお前の感情を否定しない。

 けど、やり方は間違えてほしくない。

 多分その一歩が、ヒーローとヴィランを分ける境界線になってしまうのだから。

 

「……幾野くん」

「おう」

「君はバカだな」

「俺より中間でいい成績取ってから言え」

「くっ……ははっ。そうだな、前の小テストでは君の方が上だったな」

 

 そして、飯田の口からようやく笑いが零れてくれた。

 この一週間、見えなかったそれを。

 

「……ああ、ようやく僕は、()が見えたよ。君の言う通りだ。視野が狭まっていたらしい」

「メガネ替えたら?」

「ふっ、この眼鏡はお気に入りでね。ああそうだ……僕が、正しく僕であれば、それは恥じるところはどこにもなかった。もっと早く君たちに相談しておけばよかったと後悔しているよ。君が言う通り、マニュアルさんの元でしっかりヒーローをしてくれば、それでよかったんだ」

「おう。……あとここまで焚きつけたけどさ、危険な事には首突っ込んでほしくないってのが本音だからな? 出会わなければそれが一番だ。プロヒーローに任せて、ちゃんと学生するのが俺らの本分だしな。職場体験でマニュアルさんに失礼すんなよ?」

「ああ、それもまさしくその通りだ! 委員長として皆の模範になれるようしっかり学んでくるとしよう!!」

 

 そして飯田のいつものやつ、腕をカクカクと動かして大げさにリアクションをする行動までも出てきた。

 よかった。その飯田が見たかったんだよ。いつもの委員長のやつ。

 俺の言葉が少しでも心の中のもやもやを払えてれば、それが一番嬉しい。

 これでマジで無茶したら眼鏡割るからな?

 

「うし。じゃあ話したい事話せたから俺帰るわ。また明日な」

「ん? ああ……もう駅前まで来てしまっていたか。すまない、付き合わせてしまったな……君の家のほうはとっくに通り過ぎていた」

「気にすんな。今度昼飯奢れよ」

「ああ。また明日」

 

 俺は駅前で飯田と別れ、来た道を戻る様にして家に帰った。

 

 


 

 

 職場体験当日になった。

 俺たち生徒はヒーローコスチュームをもって駅に集まる。

 ここから新幹線やら飛行機やらに乗ってそれぞれが向かうヒーロー事務所に移動するのだ。

 

「オイラ達は東京の渋谷だな」

「ああ。待ってろよ渋谷の若者……俺が性癖歪めてやるからなァ……!」

「お前そろそろ逮捕されるぞ?」

 

 俺と峰田は渋谷にあるマウントレディ事務所へ向かう。*1

 どんな職場体験になるのか今から楽しみだ。パトロール多めだといいな。ヒーローコスチュームで歩き回れる。

 

「幾野くん、峰田くん!」

「ん、飯田」

「オッス。そーいや飯田も東京だっけ?」

「ああ! しばらくは道中一緒だ! 周りに迷惑を掛けぬよう乗車ルールは守ろう!」

 

 先日話した飯田が声をかけてきた。だいぶ眼鏡の曇りはとれたみたいだな。いつもの委員長だ。

 峰田が持ち込もうとしたお菓子を没収する飯田を眺めていると、緑谷と麗日ちゃんが声をかけてきた。

 

「幾野くん、飯田くんも……」

「ウチら行き先遠いから……その、お兄さんの件で」

「ああ。すまない、二人にも心配をかけてしまったな、本当に」

「ホントだよ。安心しろ緑谷、麗日ちゃん。委員長が暴走しないようにちゃんと俺が言っといたし。何かあったら俺と峰田が近いからすぐ話聞きに行けるしな」

「……うん、幾野くんお願いね! 飯田くんも何かあったら言ってね、友達だろ!」

 

 緑谷の言葉と、こくこくと頷く麗日ちゃんに、飯田は正面から二人の顔を見て、言った。

 

「─────()()!」

 

 

 

 俺たちの職場体験が始まる。

 

 


 

 

 途中で飯田とも別れて到着しましたマウントレディ事務所。

 

「フツーのビルだな」

「だな。んじゃ行きますか」

 

 ビルに入り、事務所のインターホンを押す。

 返事があり、ガチャリと扉が開いて、ヒーローコスチュームに身を包んだマウントレディが出迎えてくれた。

 このコスチュームえっちだよね*2

 早速俺たちは挨拶する。

 

「雄英から職場体験に来ました、幾野潜です!」

「ええ、待ってたわ幾野くん! 歓迎するわ、マウントレディ事務所にようこそ!!」

「オイラ、峰田実です!!」

「チェンジで」

 

 対応の差が凄い。

 

「どういうことだよォォォ!? 暴れるぞオイラァ!?」

「いくらマウントレディと言えども親友(ダチ)への侮辱は許せません! おっぱいに触りますよ!?

「待ってアンタたちそういうノリのヤツ?」

 

 なかなかに濃い顔合わせになってしまったな。

 アガってきた。この先不安しかねぇぜ!

*1
独自設定。マウントレディ事務所が原作中でどこにあるか明記されてなかったので渋谷にした。初登場時に緑谷の通学中だったから静岡じゃないかって?細かいことは気にするな。何回も事務所壊れたからより目立つところに移転したんだよ多分。

*2
どの口が言ってんの?



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32 マウントレディと職場体験 ~巨女ってメジャーな性癖じゃないの!?~

 

 

「いーい? ヒーロー活動はねぇ、いかにして暇な時間を過ごすかが重要なのよ?*1

 

 ソファに横になり、情報誌を読みながらポテチをつまむマウントレディがそんなことを言った。

 俺と峰田が職場体験に参加して初日。

 まず事務所内の清掃を指示された俺たちは、しっかりとその指示に従っていた。

 

「なるほど? つまりどんな時でも心に余裕をもって過ごせって事っすね?」

「ねぇ幾野くん貴方どこからそのメイド服持ってきたの? 私より似合ってるじゃない?」

「あ、マウントレディ! トイレと台所と書斎棚と入口まわりと廊下の清掃終わりました! 台所の油汚れや水場のカビは全部オイラの個性で引っ付けて完璧に綺麗にしといたんで!」

「俺は天井の照明に埃が溜まってたんで全部落としときました! 書斎棚の上や机の裏の埃もバッチリです!」

「二人とも仕事が丁寧で早すぎない?」

 

 ピッカピカに生まれ変わった事務所内で、割烹着に身を包んだ峰田とメイド服に身を包んだ俺がふぅーっと一仕事やり終えた達成感で汗を拭う。

 掃除の話を俺達にする? 中学時代の3年間をボランティア活動に費やしたのは伊達じゃないんすよ?

 主に河原の清掃という名のエロ本探しから始まり、図書館での本修繕サービスの他、学校内清掃とか市内清掃とか掃除関係はめちゃくちゃ得意中の得意だ。

 お互いに個性をどのように掃除に活かすかを分かり切っている。高い所は俺、低い所は峰田で手分けして当たって最高効率をはじき出せるまである。

 もぎもぎを使えば頑固な油汚れもカビもバッチリとれるし俺の個性は物に潜り込めるので面倒な所の埃を取るのに最適だ。

 場数が違いますよ。

 

 なおメイド服は職場体験中にこんなこともあろうかと持ってきていた私物である。

 コスプレグッズそれなりに揃えてあります。

 

「いきなり掃除って言われたからなんかスイッチ入っちゃったなオイラ達」

「このために来たまであるな。満足感すごいわ」

私が悪かったところもあるけどお願いだから清掃だけで満足しないで? それで報告が学園に行ったら私が怒られるから」

 

 俺はメイド服を着用したままマウントレディと俺と峰田と仮面のお兄さんの4人分のお茶を入れて一息ついた。

 

「……まぁ、見てわかってもらえたと思うけれど、私はまだヒーロー活動始めて2年目だからそんなに事務所も広くないし、サイドキックもいないのよ。毎日自転車操業でやってるって感じね」

「あれ、そちらの仮面の方は?」

「あ、俺は会計士。一般事務員なのよ、顔のは異形型個性で生まれつきな*2

「なるほど。幾野です、一週間お世話になります」

「峰田っす。お世話になります」

「ああ。幾野くんに峰田くんだな。掃除ホント助かったよ、清掃員入れる金ないから自分らでやるんだけど普段なかなか隅々までやれなくてね。書類整理まで手伝ってくれてホント助かる」

「この二人有能過ぎない……?」

 

 一般会計士のお兄さんにも挨拶をしておく。

 清掃中に書類がなんだか大変そうだったので簡単に整理を手伝っていたのだ。図書館でのボランティアが活きたな。

 

「ヒーローと言ってもどうしても書類仕事はついてくるわ。ずっとパトロールだけ、ヴィラン退治だけが仕事じゃないし、むしろパトロールする時間は少ない方ね。渋谷はヒーロー事務所多いから。サイドキックが複数名いる大きな事務所ならその辺を手分けしてやれるところもあるけど」

「そういう所もぜひ教えてもらいたくて来てますからね。勉強になります」

「ヒーローは立ち上げてから1~2年の退職率が一番高いって聞くもんなー」

「私は幸いにしてこの美貌とインパクトのある個性、あと力もあったから人気も出たけどね。割とシビアよ、この世界」

「つまり俺は顔がいいから大丈夫ということですね」

「幾野くん自分に自信あり過ぎじゃない?」

「スミマセンいつもこうなんですコイツ……」

 

 メイド服でにっこりと笑って見せたらマウントレディがジト目で見てきた。なんや。顔の勝負なら負けんぞ。

 お茶をすすりながら、一先ずの職場体験中の方針について打ち合わせる。

 

「とりあえず最初の2日はヒーロー事務所がどんなことをしているのか見てもらうために、あえて普段と変わらない一日を過ごしてもらうわ。パトロールは午前の一回と午後の一回。応援要請やヒーロー要請が入ればその限りではないわね。それ以外は事務所で過ごしてもらう。その後は二人の働きを見て適宜考えるわ」

「了解です。事務所ではどんなことを?」

「書類整理……なんだけどそれはだいたいそっちの会計士がやってくれてるから、私は割と暇なの。情報を仕入れるって感じね。だから掃除なんかお願いしちゃったんだけど」

「むしろオイラその書類仕事の方も勉強してぇ」

「俺も。新設のヒーロー事務所がどんな苦労してどんな手続きしてるのかとか見たいですし。出来る限りそこも教えてもらっていいですか? あと棚にある過去の書類のファイルとか見てもいいです?」

「向上心の塊なの?」

「俺は構わないよ。手伝ってもらえるならここ最近溜まってる書類がはけそうだ」

「お願いします!」

「せっかくこうしてお時間を頂いてるわけだし、やれることはやらなきゃな」

「ええ……体育祭の様子からは考えられないくらい模範的……! あ、ちゃんとパトロールには同行してもらうからね! 二人ともその時はヒーローコスチュームでお願いね」

「了解です」

「うっす」

 

 そんな感じで方針が決まった。

 折角来たんだ。パトロールだけ、ヴィラン退治に同行するだけなんてもったいないにもほどがある。

 個人事務所だからこその立ち上げ直後の苦労の話とか、どんな申請をするのかとか、そういう方も存分に学んでいきたい。

 峰田もここは同様の考え。マウントレディの美貌を眺めて眼福に浸りながら仕事が出来るんだぞ? 最高やん。

 

「あ、そういえばマウントレディ」

「なぁに?」

 

 お茶のお代わりを入れながら俺はそういえばと気になっていたことを聞いてみる。

 

「確か、プロヒーローが雄英の生徒に指名を入れられるのは2名まででしたよね。どうして俺を選んでくれたんですか?」

「ああ、そんなこと?」

 

 気になったのはそこだ。

 マウントレディの仕事はいたって一般的なヒーロー事務所と変わらない。

 確かに俺は成績を残したが、俺の個性はそれこそ迅速な現場急行が求められる戦闘よりも被災地支援や潜入などで輝く個性。

 そういう仕事を主とするヒーロー事務所からのオファーがめっちゃ多かったのだが、何を理由に俺を選んでいたのだろうか。単純に成績かな?

 

「顔」

「余りにもシンプル!!」

「え、コイツ男っすよ……?」

「いいじゃない男でも。絶対にその顔は目立つしウケるわ。キャラが立ってるし一目見れば忘れないでしょ? 実際に体育祭でも一番目立ってたものね、幾野くん。その注目度を私は欲しかったわけ。私の人気の為に利用したかったの」

 

 顔だった。面食いか?

 だから最初の峰田との遭遇でチェンジとか言いだしたのかこの人。いやわかるけどさ。

 

「ワンチャンもう一人指名してた轟くんが来てくれれば美男美女侍らせてパトロール行けたのよねぇ……そうなればパトロール2倍に増やしたのに」

「エンデヴァーの息子さんに対してこの貪欲さは見習うべきところあるなオイラ」

「俺も男だから美男美男になるのでは。轟は親父さんのほう行っちまいましたから……でもまぁ俺だけでも十分注目はされると思いますよ、コスチューム自信ありますし」

「へぇ? そういえばまだ二人のヒーローコスチューム見せてもらってないわね……よし! じゃあこれから早速午前のパトロールに行きましょうか! 二人とも着替えてきてくれる?」

「はい!」

「よっしゃ!」

「着替えは隣の応接室使ってくれ。更衣室なくてごめんな」

 

 話の流れで早速俺たちはパトロールに出かけることになった。

 峰田と共に応接室でヒーローコスチュームを身に纏う。

 俺の全身ぴっちりスーツが若干マウントレディに被るな。でも色が白と黒だしそこまででもないか。俺の方は背中がぱっかり開いてるし。

 色合いもいずれデザイン変更してもいいかもな。そういうセンスあるやつ誰かいたかな。発目ちゃんだとなんか余計なアイテム付けられそうで怖い。

 

「着替えてきました!」

「初めてのパトロールだぜ!」

「まって幾野くん完全に男辞めてるじゃない!?」

「信じられんくらい背中空いてる……」

 

 ヒーローコスになった俺の姿を見てマウントレディがものすごい顔になった。

 会計士さんの顔も物凄い事になっている。

 その顔が見たかったァ……私に嫉妬するその顔がァ……!

 

「……いや、幾野くんのコスチュームこれ絶対人気出るわ。もう二度と忘れられないもん俺。悪い意味で」

「会計士さんのお墨付きもらえた」

「罪深い」

「幾野くんのそれは……まぁミッドナイト先輩みたいなのもいるからセーフか! あ、峰田くんはシンプルにいいわね、ポップなキャラクターが出てるわ」

「え!? オイラ褒められてる!?」

「いや俺も峰田のコス割と好きだぞ? 身長低い分なんつーかいい意味でコミカルさと可愛さ出てるじゃん。人気出るデザインラインだと思うけどな」

「はは、グレープ系飲料のマスコットキャラクターとか狙えるんじゃないか? マントとマフラーもイカしてるし」

「褒められ慣れてなさ過ぎて心臓が痛い!!」

 

 俺のコスチュームだけではなく峰田のコスチュームも割と好評を貰えた。

 完全に同意。いや、普通にキャラ立ちまくってると思うんよこのコスチューム。

 身長が低いのを逆手に取って漫画みたいなデフォルメ効いてるし。

 

「じゃ、パトロールね。行きながら色々説明するわ。あとパトロール中はヒーローネームで呼び合うのが慣例だからここからはそうします。二人のヒーローネームは? 決めてきたんでしょ?」

「俺は『イグジスト』です」

「オイラ『グレープジュース』です」

「OK。それじゃ行きましょ、イグジスト、グレープジュース。今日は駅前の方を回りましょうか」

 

 初めてのパトロールが始まった。

 

 


 

 

 初めてのパトロールが終わった。

 

「キタコレ族のカメラが全部幾野くんに持ってかれた……!!」

「元々ねじ曲がってた性癖をさらに捻じ曲げてしまったか」

「罪深い」

 

 とりあえず大きな事件は起きなかった。駐車違反の車を見つけて警察に通報したのと、初めての東京観光で駅前で迷いかけてた家族連れを案内したくらいか。

 ご家族の中にいた小さい女の子ににっこり笑顔を返したら喜んでくれて嬉しかった。こういうのもええな。

 なおマウントレディには熱心なファンがおり、キタコレ族と呼ばれるカメラ小僧がいるのだが、その人たちは何故か俺の方をめっちゃ撮影してきたのでファンサでポーズをとってやった。

 

「幾野くんの人気を舐めてた……!! そりゃ選手宣誓もしてあんだけ体育祭でも活躍してたから世間にも顔が売れてるだろうけどこの子と一週間ずっとパトロールしたら私の人気を奪われる恐れが……!!」

「逃がしませんよ絶対パトロールついていきますからね」

「どこから出てくるんだよその執念」

 

 体育祭後の登校日に持て囃されなかったことはまだ根に持ってるからな。この東京でバズるチャンスを逃す理由はない。

 実際歩いてたらめっちゃ声かけられてうれしかった。女性の方が声かけてくれる率高くて男性の方は遠巻きに信じられないものを見る目で見てた。ウケる。

 いくらでも顔売ってやるからなァ!! 東京を俺色に染めるんだよオラァ!!

 

「幾野くんがこれだと……4日目に予定してたファッションショーへの同行は避けた方がよさそうね」*3

「待って初耳の情報なんすけど? 死んでもついていきますが????」

「あー、そーいや今週末ファッションショーのイベントありましたっけ。ベストジーニストやウワバミも参加するやつ」

「あら、峰田くん知ってたのね? そうなのよ、そこにお呼ばれしてたからせっかくだし幾野くんたちもって思ってたんだけど……絶対暴走するわね幾野くんが」

「何言ってんすかそんなことしませんって。ちゃんと付き添いしますって」

「100割乱入するだろお前。オイラも行きたいけどイクノを止める方が優先度高いわ」

 

 マウントレディの口からファッションショーに参加するという新事実が判明したが何と俺は参加NGとなった。

 クソがよ。俺がユニセックスの服着て歩けばLGBTQの観点からも全員の目を奪えるってのによォ!!

 

 さて。

 一通りマウントレディを煽ったところでお茶を入れて一服ついて、今日のパトロールの振り返りに入る。

 

「マウントレディ。今日のパトロールしながら思ったことがあったんですけど」

「ん、何かしら?」

「基本的に俺達学生って、許可が出ないと個性使用できないじゃないですか。でも正直に言うと、俺達でパトロールする場合、俺と峰田の二人が個性使えないのって相当痛いと思うんですよ。マウントレディが巨大化して対処するにもかなり場所を選びますし」

「あー、大通りを中心に歩いてはいたけどそれとして店の中や路地裏にヴィランが出てきたらマウントレディじゃ中々追いかけらんないよなー。広い場所での超パワーって意味なら最強なんだけどな」

「う゛っ……事実だから反論しづらい……!!」

「巨大化するたび建物壊して赤字運営だったんだよな1年前まで。最近は落ち着いてきたけど、二人の言う事マジでごもっともだよ」

 

 さて、そしてパトロールの中で思った、ということにして俺は一つの許可を貰いに動く。

 それはこの職場体験が始まる前から考えていたことだ。

 俺達がパトロール中に個性使用する許可を監督者であるマウントレディから貰う事。

 

「咄嗟に相手追いかけるスピードなら峰田の個性が街中なんで活きます。もぎもぎで遠距離から捕縛も出来ますし。壁の向こう索敵してヴィラン見つけたり潜り込んで相手を止めるだけなら俺の個性が活きます。敵に攻撃されてもご存じの通り俺は無敵ですし。市民の平和を守るためにもどうか個性利用の許可を頂けませんか」

「オイラたちも特段無茶とかするつもりはないし、マウントレディの指示には従うんで」

「うーーーーーん…………」

 

 峰田からも援護射撃があり、マウントレディも真剣に考えてくれている。

 まだ学生の身分を危険なことに巻き込むのにためらいを覚えてくれるのは当然だ。大人として、ヒーローとして当然の考えだろう。

 しかし、サイドキックがいないマウントレディとしては俺たち二人がただ付き添いをするという勿体なさも理解してくれるだろう。

 職場体験なのだ。折角なら深いところまで体験させてもらいたいところだ。

 

「……わかった、許可を出すわ。た・だ・し!! 必ず私の指示には従う事!! 幾野くんは個性が無敵だからともかくとして、峰田くんは防御力ないし物理攻撃じゃない個性のヴィランもいるんだから絶対に油断しないでね! 何かあったら私の責任問題になるんだから!」

「っ、有難うございます!」

「大丈夫っすオイラビビりなんで! マウントレディの傍から離れませんから!」

「いや市民を助けるための行動はちゃんとしなさいよ!?」

「ヒーローとして身の程を知るのは大切だと思うよ。身の程を知らなくて建物壊してたのがこの子だからね」

「ああ身の程ってそういう」

「2062cmでしたよね」

「結構詳しいわね!?」

「調べて来たんで……」

 

 そしてマウントレディが出してくれた結論に俺達はお礼を述べた。

 よし、これで動きやすくなった。

 俺たちの活躍を市民に見せる……なんていうそれじゃなく、ちゃんと市民を守れるように。

 飯田に発破かけておいて、俺はヒーロー活動なんもできませんでした、なんて言えねぇからな。

 立派に活躍して見せるぜ!

 

 

*1
アニメの職場体験でマウントレディが峰田に言ったセリフ。

*2
独自設定。原作3巻の番外編でマウントレディ事務所にいたけどその後のシーンでお顔が見えなかったのでヒーローではないんじゃないかな説。もしこのヒーローだよ!って情報があったら教えてください。

*3
『チームアップ!』5巻より



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33 放課後保須市集合な! 一狩り行こうぜ!!

会話の端々からマニュアルさんエモをにじませていきたい(推しキャラ)


 

 

 

【side 飯田】

 

 

 職場体験二日目。

 僕は職場体験先のヒーロー、マニュアルさんと共に市内のパトロールに出ていた。

 昨日も同様のパトロールを行ったが、大きな事件やヴィランの発生は一切なし。

 町中が先日の事件を発端として警戒モードに入っており、そうそうヴィランも出てきてはいないようだ。

 平和なのは何よりだ。たとえそれが兄のヒーロー生命を失わせた事件が原因だとしても。

 

「今日も今日とてパトロール。ごめんね代わり映えなくて」

「いえ……むしろ良いです! 平和こそヒーローの目指す社会ですから!」

 

 出来る限り周囲に目を光らせながらマニュアルさんの後を歩く。

 こんな時、幾野くんの個性『ウォールハック』が使えれば便利なのだろうか、とも思ってしまう。

 ただアレはあまり遠くなると透かす物の主線が増えて見えづらくなるらしい。索敵系の個性としては並以下だとも本人が言っていた。全く謙遜が過ぎる。

 

「……ねぇ、天哉くん。聞きにくいんだけどさ……」

 

 と、周囲への警戒に意識を割いていたら、マニュアルさんが心配そうな顔でこちらを向いてきた。

 

「……きみ、ヒーロー殺し追ってるんだろ?」

 

 そして続く言葉に、僕は少しだけ返事を躊躇ってしまう。

 それは、確かに事実ではあったから。

 僕がマニュアルさんの事務所を選んだのは、その理由が大きいから。

 

「それは……」

「ウチに来る理由が他に思い当らなくてね……や! 別に来てくれたことは嬉しいんだぜ!? ただ……私怨で動くのはやめた方がいいよ」

 

 そして、マニュアルさんが続ける言葉を、僕は聞き入れる。

 それは、一人のヒーローが述べる、正論にして忠告であったから。

 

「我々ヒーローに逮捕や刑罰を行使する権限はない。個性の規制化を進めていった中で個性使用を許されてるわけだからヒーロー活動が私刑となってはいけない。もしそう捉えられればソレはとても重い罪になる」

「…………」

「あ! いやヒーロー殺しに罪がないとかじゃなくてね! キミ真面目そうだからさ! 視野がガーっとなっちゃってそうで! 案じた!」

 

 ああ、正論だ。

 これを、もし3日前の僕が聞いたとしたら、納得できていなかっただろう。

 己の中に澱む負の感情に、気持ちを抑えきれていなかっただろう。

 

 しかし今は違う。

 マニュアルさんとは違う方向で、僕の視野を広げてくれた友がいたから。

 

「ご忠告、感謝します。しかし大丈夫です」

「え?」

「実を言えば……マニュアルさんのいう通り、兄の事があって職場体験先の事務所を決めたのは事実です。そこは重ねて陳謝いたします。復讐の気持ちに囚われていたのも事実でした。しかし……そんな僕を案じて、叱咤激励をくれた友がいました」

 

 そして僕はマニュアルさんに語りだす。

 僕の目を、復讐ではなく、立派なヒーローになるほうへ向けてくれた友の話を。

 

「友は言いました。家族を想い、ヴィランを恨む僕の気持ちは人が持つ当然のものだと。そして、その上で僕が何を目指し、何をしなければいけないのかを教えてくれました。僕はヒーローの卵です。兄……インゲニウムのような立派なヒーローになりたい。そのためにこの職場体験で、ヒーローとしてしっかり行動し、学ぶ。それが、兄が一番喜ぶことだというのを友の言葉で思いだした」

「天哉くん……」

「万が一ヒーロー殺しと遭遇したとしても、私情では動きません。必ずマニュアルさんと連携し、市民の救助や避難誘導を最優先として動きます。マニュアルさん、僕はあなたの元でヒーローになるために学びたい。僕の事をそこまで知っていながら受け入れてくれた貴方に感謝しているんです」

 

 幾野くん。

 君が僕の曇り切った目を晴らしてくれたから、僕にもう迷いはない。

 ヒーロー殺しが危険なことは分かっているからこそ、もし出会ってもヒーローとして適切に対処して見せる。

 

「……そっか。そこまで言うなら余計なお世話だったかな!」

「いえ、格別のご配慮と当然のご忠告かと思います! むしろ、マニュアルさんにそこまで心配をかけてしまい本当に申し訳ありませんでした!!」

「ははは、いいって。でも天哉くん、その友達? いいやつだねぇ。ご家族の事できっと相当思い悩んでただろう君にそこまで踏み込んでくれるなんて。大切にしなよ」

「ええ! 胸を張って自慢できる友人にして、僕の目標の一人です」

「おー、インゲニウムの弟さんにそこまで言わせるとは。どんな子なの?」

「幾野潜くん。赤い長髪を持つ男子です。体育祭を見ていればご存じではないですか?」

「え!? あの女の子みたいな男の子!? おおー……あの子そういう気配りも出来るタイプだったんだ。彼の個性凄いよねぇ」

「ええ、完敗でした! ですが次こそは逃げ切って見せます!」

「はっはっは! ありゃズルっていうんだズル! 天哉くんのトーナメントバトルも見たけど君も相当すごかったぞ?」

「恐縮です!!」

 

 マニュアルさんとも理解しあえて、改めてパトロールに戻る。

 今日も事件は起きなかった。町全体が警戒しているからか、ヒーロー殺し出現の報告なども入っていない。

 ヤツはこれまでに出現した場所すべてで必ず4人以上のヒーローに危害を加えている。目的があるのかジンクスかは知らんが必ずだ。

 保須ではまだ兄さんしかやられていない。再び出てくる可能性は高い。

 

 だが、それに固執はしない。

 出てきたらヒーローとして対処する。出てこなければ、平和であることを尊ぶ。

 僕が今やることは、兄さんのような……幾野くんのようなヒーローになるために学ぶことなのだから。

 

 


 

 

 職場体験三日目。

 俺と峰田は朝の清掃を終えて、マウントレディと茶を飲みながら今後の方針について話し合う。

 

「想像以上に二人が仕事できるから何させるか迷ってるのよ……」

「一応二人とも入試首席なもんで」

「勉強してきた甲斐があるってもんスわ」

「書類仕事覚えるのすごい早かったね……本気で助かった。給料出したいくらいだよ」

 

 この二日間で、既に俺たちはおおよそマウントレディ事務所の状況やヒーロー活動に当たり申請が必要な書類の事などを覚えていた。

 まぁそもそも中学時代に、そういう雑多な仕事もしっかりこなせたらモテるんじゃね? という原動力の元でヒーローの事務仕事に関する知識を図書館で本借りたりしながら覚えてたからな。

 実際に仕事をする中でよく使う知識、使わない知識なんかの経験も出来たから俺達もwinwinだ。

 

「逆に……そうね、二人から何かこういうの経験してみたい、というのはあるかしら? 出来る範囲でなら要望を聞くわよ?」

「ん……どうするイクノ? オイラはこれと言って特にないけど」

「あー……むしろそうですね、マウントレディがヒーローとしてどう活躍するかを見るのが望みというか。まだ職場体験ですしね、あんまり俺らに気を遣わなくてもいいですよ?」

「そう? うーん……どうしようかしらね……」

 

 俺も峰田も、特別に何かやりたいわけではない。マウントレディの普段の仕事、ヒーローとしての活動がどのようなものか勉強したいだけだ。

 強いて言うなら飯田の事が少し心配だが、しかしアイツもだいぶ自分を取り戻している。

 昨日の夜、緑谷も混ざってのライン通話じゃしっかりやれてる感じだったしな。

 なんならこのまま5日間、普段の業務を見せてもらうだけでも構わない。既に他のヒーローの所よりも色々やらせてもらってる。

 昨日なんかはパトロール中にコンビニ強盗のヴィランが出た場面に遭遇した。

 大した戦闘力のあるヴィランでもなく、峰田が速攻でもぎもぎ投げて動き止めつつ俺が地面から潜り込んできっちり捕まえたりした。マウントレディの出番なかったわ。

 渋谷は事件が多いと聞いたが本当にその通りのようで、それを経験するだけだって全然悪くない。

 

「んー……じゃあここ最近考えてた遠征にちょっと付き合ってもらおうかしら。二人の実力は見れてるしね」

「遠征ですか?」

「どこ行くんスか? 渋谷より事件が多い所なんてあんま思いつかないけど」

「ええ、そこは今は落ち着いてるわ、警戒態勢だしね。でも今そこの話題性がすごくあって、ここに近いから……事件は起きないかもだけど、普段と違う街でパトロールすることで渋谷の外の人にも顔が売れるかなって思ってたの。行く場所は東京の─────」

 

 ああ、しかし。

 彼女から言い出してくるならば、俺達がそれを断る理由はなかった。

 

「─────保須市よ」

 

 

 


 

 

「つーわけでいざヴィラン退治だ!」

 

「ええ!? いきなりですか!?」

 

「小僧、お前はそのフルカウルってやつをかなり使いこなせてる! 俺より前に()()()()()()()()()()()()()()? だが、だからこそ組手以外の経験を積むべきだ! 戦うだけじゃねぇ、事件解決の為に色々な状況の経験をしとくフェーズに入る!」

 

「仰る事はごもっともですけど……」

 

「そんなデカいヤマにゃ近づかんさ。ここでパトロールするよりも、人口密度が高くてトラブルも多い渋谷に行くぞ」

 

「渋谷!? まさかそんなハイカラの街にコスチュームで……!?」

 

「最高の舞台でコスチュームを披露できるのを喜びんさい!」

 

 

(───渋谷か。幾野くんと峰田くんのいるところだ……あと、保須市も横切るな。後で連絡してみよう)

 

 


 

 

『前例通りなら保須に再びヒーロー殺しが現れる。しばし保須に出張し活動する!! 市に連絡しろぉ!!』

 

(……どんだけクズでも、ナンバー2と言われるだけの判断力と勘の良さは認めざるを得ねぇ。幾野、お前の言う通りだったよ)

 

「む!? 焦凍ォ!! 何故移動中にスマホを見ている!!」

 

「幾野に保須に行くって連絡してた。あいつの職場体験先も東京なんだ」

 

「何!? 幾野くんだと……!? 焦凍、お前彼とどういう関係なんだ!? 詳しく教えろ焦凍ォォォ!!!」

 

「連絡先は伝えたじゃねぇか。本人に聞けよ」

 

「『幾野潜♥イグジスト』とか書かれた連絡先か!! くっ、仕方ない……俺からも挨拶の文面を送るか……!! 確かに彼は将来が楽しみなヒーローの卵……俺が正しい道に更生してやらねば……!!」

 

(幾野お前親父と何話したんだ?)

 

 


 

 

「保須市って……思いのほか栄えてるな」

 

「この街を正す……ハァ……それにはまだ……犠牲が要る」

 

 

「この世が自ら誤りに気付くまで……俺は現れ続ける」

 

 

「────アンタの面子と矜持、潰してやるぜ大先輩」

 

 


 

 

【side 飯田】

 

 

 パトロール中の僕とマニュアルさんの耳に爆音が響き、同時に黒煙が上がるのが見えた。

 人々がざわめく。間違いなくヴィランだ。

 周囲を見渡せば、新幹線も同時に襲撃があったのか、線路上に止まっているのが見えた。

 

「マジかよこのご時世に馬鹿だな! 天哉くん現場行く! 走るよ!」

 

 マニュアルさんの現場急行の指示。

 僕もそれにもちろん応じようとして、新幹線を向いていた方から視線を戻して前を向こうという、その瞬間。

 一瞬だけ、目に入った路地裏の先。

 むこうの、むこう。

 

 僕だけが、そういうところを観察するようにここ最近のパトロールをしていたからだろう。

 注目して、注視して、そして、見つけてしまった。

 

 

 ─────ヒーロー殺し。

 

 

「マニュアルさん待って!! こっちの路地裏の先、ヒーロー殺しがいました!!」

「んなにぃ!? 間違いないか!?」

「ハイ!! ヒーローが襲われていた、すぐに救出しなければ!! 追います!! 個性の使用許可をっ!!」

「くっ……君のその目、信じるぞ! 個性利用の許可を出す! 要救助者の救出、市民の避難、己の身を守ることに個性を使っていい!! 絶対に私怨では使うなッ!! 行くぞ!!」

「ハイッ!!」

 

 マニュアルさんに声をかけ、僕たちは路地裏に飛び込んでいく。

 僕の方が脚が速い。マニュアルさんはヒーロー間で共有できる情報媒体にヒーロー殺しが出現したことの報告を入れながら僕の後ろを追いかけて来てくれる。

 

 そして、路地裏に入ると、そこにいた。

 ヒーロー殺し、ステインと。

 それに今にも刃を突き立てられようとしている、ヒーローが。

 

 ──────助けなければ。

 

「ッッッ!!!」

 

 一瞬の交錯。

 僕が出せる最大速度でステインに近づいたが、殺気を感じて咄嗟に後方に姿勢を崩した。

 それが功を成し、ステインが振るった刃は僕のヘルメットを弾くだけにとどまった。

 

「……スーツを着た子ども……何者だ」

「ぐっ……!!」

 

 一度姿勢を整える。ステインは追撃してくる様子はない。

 マニュアルさんが来るまですぐだ。僕は、その時間を稼ぐ。

 復讐ではない。襲われているヒーローを助けるために、ヤツの気を引け。

 

「消えろ。子どもの立ち入っていい領域じゃない」

「血のように赤い巻物と全身に携帯した刃物……ヒーロー殺しステインだな! そうだな!?」

「……フン……その目……」

「僕の兄さんはお前にやられた……!! 僕はその意志を継ぐヒーロー『インゲニウム』だ!!」

「……ハァ……復讐の動機はある……だが目は穢れきってはいない……面白い、お前の本質を見せてみろ……」

 

 マニュアルさんが合流した直後に戦闘が始まった。

 僕は、必ずこの男を止める。

 そして襲われていたヒーローも助けて見せる。

 

 それが、僕が目指すヒーローの姿なのだから。

 

 


 

 

 保須市にマウントレディと峰田と共にきて、ファンとの交流をしながらパトロールを始めて一時間もしたところで。

 唐突な爆音と共に黒煙が上がり、ヴィランの襲撃を悟らせた。

 

「なに!? 急な爆撃!? 爆発系の個性……!?」

「駅前の方角だ!!」

「新幹線もぶっ壊れて止まっちまってるぜ!? ヴィランによる同時多発テロだとぉぉ!?」

 

 俺たちはそれぞれヴィランの襲撃がはっきりと分かるその惨状を目にして、すぐに意識を切り替える。

 ここはもう事件の現場なのだ。

 

「イグジスト! グレープジュース! ヒーロー活動に入ります!! 人々の救助や避難誘導を二人は優先!!」

「了解! ウォールハックで敵を見ます!」

「跳峰田装備するぜ!!」

 

 駅前に向けて3人で走りながら、俺はウォールハックを起動した上で偽乳に埋めていた望遠鏡を取り出して駅の方角を見る。

 流石に人が多いが、速く動いて戦闘行動をしている物ははっきりと視認できた。

 そして、俺の体が()()を思い出す。

 

 あれは──────

 

「脳無ッ!? USJで出てきたヤツがここになんでいやがる!? しかも複数だ!!」

「嘘だろオイ!? あの化物何人もいんのかよ!?」

「知ってる相手!? 迅速に情報共有!」

 

 走りながら俺と峰田はマウントレディに脳無の情報、その危険性を共有する。

 超再生と超パワーとショック吸収を兼ね備える、物理的な強度の高い相手。オールマイトとも殴り合える。

 形状が若干違うが、似たような力がありそうなことは望遠鏡で見て分かる。

 今は体が小さいロックマンみたいなヒーローが機動性で攪乱している様だが、被害は広がっている。

 

「それほどの相手──っ!! くっ、町への被害なんて言ってられないわね!! 巨大化して急ぎます!! グレープジュース、私の後ろをついてきて!!」

「了解ッス! あの時の借りを返してやるぜ! オイラのもぎもぎをくっつけりゃ無力化も出来る!!」

「俺は後からついていきます! 急いで!!」

 

 迅速な応援が必要だとマウントレディが判断し、大通りのど真ん中でその体のサイズを巨大化させた。

 流石に足元を気にしてか全力では無いが、それだって時速50キロ以上で走れる。ガンダムが走ってるようなもんだ。

 そしてその後ろを峰田が跳峰田でついていった。俺は取り残される。

 

 くそ、悔しいな。俺のダイブワイヤーが完成してれば二人にもついて行けたのに。純粋に俺の能力は速度が足りない。

 だが俺に合わせてゆっくりしていては被害がさらに拡大しかねない。仕方ないと俺は二人の後を追おうとさらに脚に力を込めたところで。

 

 スマホに、着信を示すバイブがあった。

 

「……こんな時に誰ぇ!?」

 

 自分は今走るだけで若干の手持無沙汰だ。もし戦闘中ならばわざわざ見ることはしなかっただろう。

 しかし飯田や轟がこの町に来ているという話も聞いている。緑谷も新幹線で通るとか。

 その内の誰かから迅速な情報共有かもしれない。その可能性を捨てずに偽乳にしまっていたスマホを個性で取り出して、表示を見る。

 

 そこには、緑谷から。

 クラスのグループラインあてに、現在位置を示す住所だけが送られてきていた。

 

「────────」

 

 一瞬考える。

 まず、緑谷がここに今いるのがおかしい。

 アイツは新幹線に乗って渋谷に向かっていたはずだ。俺らが保須に来てるからすれ違っちまったな、と苦笑してラインのやり取りをしたのを覚えている。

 そうなるとまず出てくる結論。あいつは、今ヴィランの攻撃を受けて止まっている新幹線に乗っていたんだ。

 で、新幹線が止まっちまって、アイツの職場体験先の……グラントリノだっけ、そんなヒーローと共に降りてヒーロー活動をしているのだ。

 

 そこまでは分かったが、しかし次に湧いてくる疑問は位置がおかしい事だ。

 新幹線から降りたなら、駅前の騒乱に加わってるはず。あいつも相当動けるようになったからさっき見た程度の脳無相手なら決して遅れは取らないだろう。

 だが示された位置は、マップアプリで確認すると駅前から離れたあたりだ。

 なんでそんなところにいるんだ?

 

 そして、推測はさらに結び付ける材料を見つける。

 飯田だ。

 今、この街には飯田がいる。あいつはヒーロー殺しを追ってこの町に来ている。

 アイツもまたパトロール中ならばこの騒乱は把握しているはず。そして、勿論駅前に向かい、救助活動とヴィランへの対処に当たっていたはず。

 だが、もしあいつがヒーロー殺しを見つけてしまったとすれば?

 そこで、襲われている誰かを見つけてしまったとすれば?

 

 ……根拠は強くない。

 緑谷が今ここにいる、それ以外の推理はもしもを重ねた推論だ。

 

 だが。

 その結果、緑谷が助けを求めてこの場所を通知しているという可能性があるのなら。

 俺は、それを無視できなかった。

 

「ってか、アイツが訳もなくグループライン使うわけがねぇよな……!!」

 

 俺はその考えに至り、それがゆるぎない根拠だと思い込む。

 緑谷はこんな訳の分からないメッセージを意味もなく飛ばす奴ではない。俺が全体テロで自撮りを送るのとはわけが違うのだ。

 だからこそ、絶対にこの住所に何かある。恐らくはヒーロー殺し。

 

「悪い峰田、マウントレディ。俺はダチを見捨てられねぇ……!!」

 

 駅前に向かう進路を切り替えて、緑谷の示した住所の方へ走る。

 間に合うか。

 結局のところ、やはり俺は緑谷、飯田、峰田らと比べても機動力がない。脚が遅い。

 だが、それでも間に合わせるために。

 

 もうなりふりは構っていられない。

 個性を発動して地中に潜り、一直線に現場に向かってただひたすら地面の中を駆け抜けるのだった。





※原作との相違点
飯田がマニュアルと一緒にステイン戦。
その結果駅前にマニュアルがおらず、緑谷が新幹線から降りてきた際にマニュアルの傍に飯田がいないことを理由にステインの元へは向かってません。

じゃあなんで飯田の所に行けたねんって所ですが、マニュアルの事務所が駅に近いのになんでマニュアルが来ていない?→駅に来る途中で他のヴィランを見つけた?→その傍に飯田くんがいる?ということで応援に行ったという感じです。
あと遠目に巨大化したマウントレディが見えて駅前の戦力は十分だと判断したのもあります。

話の根幹じゃないしあんまりその辺は気にしないでいただけると助かります。


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34 いやこれ偽乳なんですけど? もしかして童貞でした?

 

 

【side 飯田】

 

 

 状況は、また厳しくなってしまった。

 

 ステインと接敵後、僕とマニュアルさんが襲われていたヒーローを助けるためにヤツに立ち向かったが、やはりこのヴィランは恐ろしく強かった。

 マニュアルさんはプロヒーローということで警戒され、早期に襲われて血を舐められて動けなくなった。

 その隙を突いて僕も()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()まではよかったが、その際に腕を切りつけられてヤツの個性で動きを止められてしまったのだ。

 

 だが、そこで緑谷くんが救援に駆けつけてくれた。

 彼の動き、フルカウルと呼ぶその俊敏な動きはこの路地裏で万全に発揮される。

 峰田くんほどではないにせよ、ステインを相手取るのには十分な速度────だと、思ったのだが。

 ステインはそれすら凌ぎきった。

 僕たちと戦っていた時には本気を出していなかったのだ。

 

 さらにその後、轟くんも応援に駆けつけてくれたが、人数が増えたことで逆にステインの警戒を生んでしまった。

 緑谷くんが一度血を舐められて動きが止まり、轟くんが粘っていたところで緑谷くんが回復。

 二人で何とかステインの動きを止めていたが、本気を出したステインがそれを上回る。

 僕の体が動かせるようになったところで、緑谷くんも轟くんも血を舐められてしまったのだ。

 有効打もいくつか与えていたが、まだステインはヒーロー殺害の意志を捨てていない。

 

 今、動けるのは僕だけで。

 僕の後ろには、4人が体を動かせず倒れてしまっている。

 

「ハァ……見込みがある卵が3人……どけ、そこにいる偽物さえ殺せば俺は去る……」

「ふざけるな!! ここで貴様の凶行を見逃すヒーローがいてたまるか……!!」

 

 僕に出来ることは少ない。

 レシプロバーストも使い切り、脚のエンジンは既に冷却装置が故障してしまっている。

 緑谷くんの速度も轟くんの炎も氷もしのぎ切ったステイン相手に勝てるとは思えない。

 この男の、戦闘中に零していたヒーローに対する信念がそのまま力になっているような執念。

 それを、ここで抑えきることはできないのかもしれない。

 

 でも、それでも。

 僕はヒーローを目指しているのだから。

 退くといういう選択肢だけはあり得ない。

 

 僕は両手を大きく広げ、後ろの4人をかばうようにステインに立ち向かった。

 何があっても後ろの4人はやらせない。

 僕が、止める。

 

「来てみろステインッ!! 僕の命に代えても、友達と先輩ヒーローたちはやらせないッ!!」

「……貴様は助けるために力を使った……認めよう、本物だ……ハァ……だが、悪に立ち向かう以上、力がないものは死ぬ……!」

 

 ステインが刀を構えた。

 僕はぐっと睨みつける目と震えそうになる脚に力を籠める。

 一瞬後に突撃してくるだろう。何としても、この身を犠牲にしてでも止めて見せる。

 きっと兄さんならそうしただろうから。

 

 

 そんな決意をした瞬間だ。

 

 

 

 僕は確かに耳にした。

 

 

「────よく言ったぜ、委員長」

 

 

 その声は、ステインの足元から。

 絶対に声が生まれないはずのそこに存在する(イグジスト)、僕が目指す友の声。

 ステインの脚に、見覚えのある白い手が絡みついていて。

 

 

「────もう大丈夫。俺が来た!!」

 

 

 幾野くんが、地中からステインを掴み捉えていた。

 

 


 

 

「幾野くんっ!!」

「ハッ、おせぇんだよ幾野……!」

「最後まで油断するな!! そいつは強いぞ!!」

 

 俺は3人(ダチ)からかけられる声を耳にしながら、地中から体を引っ張り上げて、ステインの全身に潜り込み絡みつく。

 先程の飯田の時間稼ぎで間に合った。ギリギリだった。

 ウォールハックで現場は確認しながら地中に潜り込んで向かっていたが、もう少し遅ければコイツにみんなやられていたかもしれない。

 マジでよくやったぜ飯田。

 

「貴様……噂に聞く無法の個性の男……! 貴様は名声だけを求める紛い物か……!?」

「初めましてだなヒーロー殺しさんよぉ!! んで死ね!! 俺のダチに何してくれてんだボケッ!!」

「ハァ……! その目、躊躇いない行動、友を想う言葉……」

 

 かつて飯田との体育祭での試合でやったように、俺はステインの背中に回り、チョークスリーパーの体勢に取る。

 当然にしてステインは抵抗するが、逃がさない。

 今回は俺の脚を地面に潜らせたままステインを捉えている。

 こいつがどんなにもがき飛び跳ねようとしても、地面を支点にした俺を振りほどけない。

 躊躇いはない。即座に首をチョークで圧迫し始める。

 

「ガッ……! 本物……ハァ……! 本物か……!?」

「この胸は偽物だよバァカ!! とっとと落ちろやボケ!!」

 

 密着させた体から伝わるのは、コイツ自身も満身創痍であったという事。

 緑谷、轟、飯田のA組トップ3の攻撃はコイツ自身もしのぎ切れなかったのだろう。

 よくやったぜ3人とも。後ろの二人のヒーローも含めて、よくしのぎ切った。

 後は俺に任せろ!

 

「ッ……ケハッ……ぎ………ィィ……!!」

「締め堕としてやるよクソヴィランがぁぁ……!!」

 

 一切躊躇いない腕力でステインを締め堕とす。

 どんなに刀で抵抗しても腕を振り払おうとしても無駄だ。俺の存在(イグジスト)に恐怖しろ。

 俺が体に潜れば終わりだ。

 

「……グ…………────────」

 

 数十秒ほどだったか。頸動脈を締め続けていたにもかかわらずこいつは粘り続けた。

 だがその体が人である以上、必ずその時は来る。

 ふっとステインの体から力が抜ける。

 俺は油断せずにその後もしばらく締め続け、隙を作るために力を抜いたのではないことを確認してから、ようやく腕を離した。

 殺しちまったら終わりだからな。だが油断せず、まだステインの体には潜り込んだままだ。

 

「……墜ちた、か?」

「流石に気絶した……? ……っぽい……?」

「……流石だぜ幾野。じゃあ拘束して通りに出よう。何か縛れるもんは……」

 

 飯田の言葉に、ようやく体が動かせるようになったらしい緑谷と轟も続いて、呼吸を落ち着けた。

 その後ろの、ヒーローっぽい大人の二人も動けるようになったようだ。

 それぞれ裂傷がひどいが、しかし命に別状があるほどのそれは見えない。

 マジでよく粘ってたよ。ウォールハックで見ていたが、こいつの動きは俊敏すぎた。

 一人も死んでないのが奇跡だと思う。コイツは強かった。

 

「何があってもいいように俺が出来る限り潜り続けとくが……緑谷、そっちのゴミ置き場に太めのロープがある。それ使おうぜ」

「あ、ウォールハックで見たんだね。うん、わかった」

「さすがゴミ置き場、あるもんだな」

「捕縛術なら俺が覚えてる、縛るよ。しかし悪かった……プロの俺が完全に足手まといだった」

「いやネイティブさん、それを言うなら俺もですよ。天哉くんも……そっちの二人もよく頑張った。幾野くん、だったっけ? キミホントに強いな……」

「マニュアルさんがいてくれたからネイティブさんも助けられたんです。誰が欠けてもこの結果はなかった」

「ってか緑谷、マジでよくメッセージ送ってくれたな。機転利いてたぜ、助かった」

「幾野くんがUSJでやったことを真似ただけだよ。咄嗟にあの時の事が頭に浮かんだんだ」

 

 戦闘が終わり、少し緩和した空気が生まれつつ俺たちはステインをきっちり縛り上げて通りに出る。

 するとそこに、駅前での戦闘が終わったのか緑谷の職場体験先のヒーローのお爺ちゃん……グラントリノだっけ。その人がぷんすこ怒りながらやってきて緑谷にキックした。

 このお爺ちゃんあざとくない? 峰田みたいで結構好きだわこの感じ。

 

 さらにエンデヴァーから応援要請を受けたヒーローたちも集まってきてくれて、状況を教えてくれる。

 

「ひどいケガだ、救急車呼べ!」

「おい、こいつヒーロー殺しか!?」

「親父……エンデヴァーがいないのはまだ向こうは交戦中ということですか?」

「ああ! そうだ脳無の兄弟が……!」

「あいつらならほぼ制圧完了して残党いないか探してるところ! マウントレディとその職場体験先の学生が応援に来てくれてね、行動不能にしまくってたよ!」

「お、峰田やったな? よし偉い、後で褒美に自撮り送ってやろ」

「また峰田くんの性癖歪めようとしてる……」

 

 それぞれがヒーローとしての適切な処置、行動を進めていくところで、グラントリノが急に叫んだ。

 

「伏せろ!!」

「え?」

 

 声に、そして続いて耳に入る羽音に気付いて空を見上げると、飛行タイプの脳無がこっちに猛スピードで突っ込んできていた。

 俺の体が咄嗟に動く。

 一番そいつに近い位置に俺がいたから。

 

「緑谷あぶねぇッ!!」

「幾野くん……!?」

 

 一直線に迫られていた緑谷を突き飛ばす。

 それで緑谷は逃がせて、脳無が俺に向かって脚で掴んでこようとしていた。

 

 すり抜けるなら容易い事だ。

 だが、ここで俺がすり抜けちまえばさらにその後ろにいる轟が狙われてもおかしくない。

 アイツの脚を埋めつつ、ついでに空中にいても俺が迎撃できる体勢を作るために────あえて、捉えられた。

 

「幾野ッ!?」

「心配いらねぇ!! 潜ってる!! コイツは俺が───!!」

 

 飛行脳無の脚に潜り込んで、俺は空に連れていかれる。

 だが問題ない。もうこいつの体に潜り込んでいるんだ。

 脳無相手にはチョークは効かない可能性があるから、やりたくないが個性の解除で羽根と腕を千切りおとすしかないか。

 俺は個性を解除する躊躇いを乗り越えるために一度深呼吸をしてから、改めて脳無の上半身まで潜り登ろうとしたところで。

 

 

「────偽物が蔓延(はびこ)るこの社会も」

 

 

 ドッ、と。

 脳無の脳ミソに、気絶から覚め束縛を解いたステインが短刀をブッ刺した。

 目の前で行われた凶行により、脳無の体から力が抜けて墜落していく。

 こいつ。

 この、ヴィラン。

 

 

「粛清対象だ……ハァ……ハァ……全ては、正しき、社会の為に」

 

 

 涎を垂らしながら、キマりきった顔でステインが言葉を練る。

 その声に、形相に、濁り切った信念に、その場にいる全員が。

 つい今合流したエンデヴァーやマウントレディ、峰田の動きが、止まる。

 

 

「贋物……! 正さねば──誰かが血に染まらねば……!!」

 

 

 俺は、その震えるような圧を。

 

 

「『英雄(ヒーロー)』を取り戻さねば!! 来い!! 来てみろ贋物ども!!」

 

 

 ()()()()

 

 

「俺を殺していいのは本物の英雄(オールマイト)だけ───ガハァッ!?

 

 

 至近距離から、全力で拳を横っ面に叩き込んだ。

 

 こいつの言ってる言葉が、余りにも意味がなくて悲しくて。

 

 

「……このバカがッッ!!」

 

「てめぇがどんなに高尚な信念持ってようが……ヒーローを(うれ)おうが……!!」

 

 

「お前が人殺してヴィランになったら、誰もその言葉を聞かなくなっちまうじゃねぇかよ!!」

 

 

「馬鹿が!! そんなにヒーロー社会を想ってんだったら自分がそれを正すヒーローになればよかったんだよ!!」

 

「やり方間違えやがってよ、馬鹿野郎が……!!」

 

 

 俺の慟哭を受け止める相手はいなかった。

 

 ヒーロー殺しステインは、今度こそ完全に気を失っていた。

 

 


 

 

【side 緑谷】

 

 

 僕たちは、動けなかった。

 後から聞いた話なんだけど、この時ヒーロー殺しは折れた肋骨が肺に刺さっていたそうだ。

 誰も血を舐められてなんかいなかった。

 なのに、あの場であの一瞬、ヒーロー殺しの放った圧……その呪いのような執念に、地獄のような形相に、誰もが気圧されて動けなかった。

 僕達も、プロヒーローも。グラントリノも、後からやってきたマウントレディも峰田くんも、エンデヴァーですら。

 

 ただ、一人だけ。

 幾野くんだけを除いては。

 

 幾野くんだって、ステインの言葉を、形相を見ていたはずだ。

 心の底から震えあがってしまうほどのそれを。

 ヒーローが、轟くんが腰を抜かしてしまうほどの圧を、一番近い距離で受けていたんだ。

 

 そのはずなのに。

 まるで、それを無視したかのように幾野くんは動いた。

 怒りの拳をステインに叩き込んで、彼の想いを否定せず、彼の現状を否定した。

 

 幾野くんの言葉は正論だ。

 僕だって、ステインの言うこと自体は完全には否定はできないけれど、やったことは絶対に間違ってるって思う。

 やり方を間違えたんだ。彼はヴィランになってしまった。それが一番の間違いだ。

 ヒーローになっていれば、社会を憂う考えだって聞いてくれる人もいたかもしれないのに。

 

「幾野、くん…………」

 

 でも、僕は。

 あの場で唯一、体を動かせた幾野くんに対して。

 ほんのわずかな欠片だけ。

 

 

 ─────理解できない恐怖を覚えてしまったんだ。

 

 

 



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35 どうしてナース服ってあんなにえっちなんだろう……ウッ

 

 

 

 一夜明けて、ここは保須総合病院。

 俺達……緑谷、轟、飯田、峰田と俺の学生5人は、ここに入院患者として一泊していた。

 

「この病院のナースの美人率(アベレージ)すごくね?」

「わかる。オイラここに住みたいまである」

「平常運転だね二人とも!?」

 

 俺と峰田が一晩を過ごした感想を述べあっていると緑谷からツッコミがきちんと帰ってきた。

 よかったよ飯田と轟だけじゃなくて。ツッコミ不在になるからなそれだと。

 

「でも、冷静に考えるとすごい事しちゃったね……」

「そうだな」

「まーなんにせよ全員無事でよかったぜ。オイラお前ら3人が傷だらけになってるの見てチビりそうになっちまったよ」

「俺だけ心配されてない」

「峰田くんも相当頑張ってたみたいだな……脳無を3体も行動不能にしたらしいじゃないか」

「そうなんよ! へへっ、オイラの個性の見せどころだったぜ!」

 

 ベッドに座る、体の各部位に包帯を巻いた緑谷、飯田、轟の3人と、特に怪我はしてない俺と峰田。

 3人は当然入院が必要だったが、俺と峰田は検査入院だ。

 ま、俺達だけ先に帰しちゃまずい理由があるんだろうけどな、大人の。

 

「それにしても……ヒーロー殺し。多分……僕達には最初、手加減してた。僕の事、殺そうと思えば殺せたタイミングがあった」

「ああ。俺はあからさまに生かされたしな……血は舐められちまったが。飯田もよくあんなのからネイティブさん助けられたな」

「いや、マニュアルさんが隙を作ってくれたからこそネイティブさんを助けられたんだ。僕も歯が立たなかった」

「アイツも最後の方は余裕なくなって本気出してたように見えたしな。マジで俺間に合ってよかったわ」

「オイラいなかったけどそんなに強かったんか。危ねぇ橋渡り過ぎだよお前ら」

 

 ステインとの戦闘について、緑谷の言葉からそれぞれが所感を零す。

 俺はともかくとして、ウォールハックで見ていたアイツの動きはマジでクソ速かった。

 もし峰田があの場に参戦できていても、得意な閉所とはいえ不覚を取ったかもしれない。

 

「───おおォ起きてるな怪我人共!」

「まったく心配させて!」

「天哉くん、無事だったか!?」

 

「グラントリノ!」

「マウントレディも……」

「マニュアルさん……」

 

 そんな話をしていたら病室にぞろぞろと人が入ってきた。

 エンデヴァーを除いた俺達の職場体験先のヒーローと、身長が高い異形型、犬の頭をした人だ。

 ワンちゃんやんけ!

 グラントリノが保須市警察署署長の面構犬嗣さんだと教えてくれた。署長さんでいいか。

 

「掛けたままで結構だワン」

 

 何だよその語尾あざといかよ。

 

「君たちがヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね。そちらの峰田くんはヒーロー殺し討伐には混ざらなかったが、脳無を止める活躍をしたと聞いてるワン」

 

 俺たちは軽く頭を下げて、署長さんの話を聞く。

 とりあえず、ステインはそこそこの重傷で治療中だと。ただ言い方から察する限り命に別状はなさそうだ。

 よかったよ。俺の最後の拳で頸椎損傷とかになってたら後味悪かったからな。

 

「超常黎明期……警察は統率と規格を重要視し個性を武に用いない事とした。そしてヒーローはその穴を埋める形で台頭してきた職だワン」

 

 そして署長が話を続ける。

 長ったらしい話だったが……結局、言いたかったことはここだ。

 

「……資格未取得者が保護管理者の指示なく個性で危害を加えたこと。たとえ相手がヒーロー殺しであろうともこれは立派な規則違反だワン」

 

 ああ、なるほど。

 それは確かにまずいよな。でも俺と峰田はちゃんとマウントレディから個性利用許可取ったぞ?

 

「君たちの内、個性使用許可を得ずに戦闘した緑谷くんと轟くん、およびグラントリノとエンデヴァー。この4名には厳正な処分が下されなければならない」

「え、お前ら何やってんの?! 許可貰ってなかったの!?」

「う、うん……僕は新幹線襲われてから咄嗟に動いちゃって……」

「親父から了解貰わねぇで緑谷のほう向かっちまってた……」

「おバカ!!!」

 

 それはお前らが悪いよお前らがー!!

 いやお前らがいなくちゃヤバかったのは事実だけど!

 署長さんの言うこともそりゃ仕方ねぇよルールだもん!!

 

「……いや、僕も幾野くんに諭されていなければマニュアルさんに連携せず一人でヒーロー殺しに向かっていた可能性もある。二人の事を何も言えないな」

「オイラから見てもあの頃メガネ曇ってたもんな飯田」

「……君たちはまだ卵だワン。事情は察するが法とは守ってこそ意味がある」

 

 署長の言葉に、俺達は呑み込み切れない思いもあるが話を受け止めた。

 かばってやりたい気持ちも強いが、署長の言っていることに何の反論も返せない。

 まぁぶっちゃけ俺は平気だったしというところもあるけど。よかったちゃんとマウントレディとその辺打ち合わせておいて。

 

「……まァ以上が警察としての意見。で、処分云々はあくまで()()()()()の話だワン」

 

 お?

 風向き変わってきたな?

 

 その後に署長が続けた話はまとめるとこうだ。

 今回のステインとの戦闘は目撃者も極めて限られている。

 また、学生がステインを倒したことを公表すれば世論は喜び褒め称えるが緑谷たちの処罰は免れない。

 だから公表せずにプロヒーローが倒したことにすれば、この違反はここで握りつぶせるのだと。

 清濁併せ呑む、素晴らしい柔軟性だった。

 

「ただ……飯田くん、幾野くんは正式に許可を受けてヒーロー殺しと戦闘しているワン。だから5人が集まるここで話を聞きたかったんだワン」

「あ、そういう事なら俺は全然プロの手柄にしてもらっていいっす。ぶっちゃけ偉かったのは俺じゃなくて堪えた3人ですし」

「僕も同様です。ヒーローとして救助を優先できたとは感じていますが、私怨が欠片もなかったとは言えません。緑谷くんと轟くん、プロヒーローお二人の立場を尊重したご判断を願います」

「オイラどっちでもいいや、駅前での活躍はなかったことにならなそうだし」

「三人とも……うん、ありがとう! 僕も、それでお願いします!」

「初めからそう言ってくださいよ署長……俺もそれでお願いします」

「……ん! 君たちがそう言ってくれるならこの話はここで終わりだワン! 君たちを讃える声はなくなってしまうが……せめてともに平和を守る人間として。ありがとう!!」

 

 これで話は決まった。

 俺たちの活躍は人に知られることなく、エンデヴァーたちに助けられたという事になり。

 そして峰田の功績だけが世に残る形になった。

 ふざけんなお前だけいい思いしやがって。

 

「っていうか、それなしでも私は監督不行届きで軽い処罰あるんだからね! 特に幾野くん! 適切な判断ではあったけどせめて一声かけてから行きなさい!」

「ホントにそこはごめんなさいマウントレディ! 後で肩とか胸とかもみまくりますんで!!」

「胸は揉まないで!?」

「天哉くん、俺全然力になれなくてごめんな。でも何とかなってよかったよ、全員無事でさ」

「こちらこそ、色々とご迷惑をおかけしました……!!」

 

 その後、お互いの担当ヒーローと一言二言交わし、署長たちは去って行った。

 

 


 

 

 その日のうちに、俺と峰田は退院することになった。

 そもそも怪我してないからな。さっきの話を聞かせるために入院させてたってのが正しいんだろうな。

 大部屋で、怪我の治療もありもう一日入院していくみんなと話していた。俺らはもう1時間くらいで退院予定だ。

 

「俺さ……この病院に入院してからずっと疑問に思ってたことがあるんだよ」

「どうしたの幾野くん?」

 

 俺は緑谷に顔を向ける。なんだ、と俺の方を向いてきた轟、飯田、峰田の顔も見る。

 それぞれが自分のベッドに腰かけたり体を起こしていたりしている。

 この部屋には()()()()()()がある。

 

「何で俺だけ個室だったん???」

「極めて適切な配慮」

「僕この病院のグーグル評価☆5つけとくよ」

「同じ部屋に君を混ぜないのは英断だったと思う」

「LGBTQに配慮のあるいい病院じゃねぇか」

「お前ら林間合宿楽しみにしてろよマジで」

 

 なんか俺だけ部屋違ったんですけど!!

 一人で寂しかったんですけど!!!

 

 まぁその分気兼ねなくシコれたんで昨晩はこの病院のナースの皆様をオカズに抜いたんだけどさ。

 戦闘後の一発ってすごい濃いの出るよね。すっきり。

 

「そういや飯田は診察終わったところだよな。大丈夫だったか?」

()()。だいぶボロボロにはされたが、神経には異常はなかったようだ」

「結構深い傷だったもんなー飯田。無事で何よりだぜ」

「有難う峰田くん。不幸中の幸いだったと言えるだろう。これで本当のヒーローを目指してこれからも邁進できる」

「一緒に強くなろうね、飯田くん!」

「ああ! 幾野くんにも負けないように、頑張ろう緑谷くん!」

 

 飯田の体も無事ということで、本当に何よりだった。

 リカバリーガールがいると言えど大きな損傷は治し切れないからな。

 緑谷の手も一時期ヤバかったがフルカウルを覚えてからは治し切れないような怪我はしていない。このまま無事に行きたいところだな。

 

「緑谷もお前入学してからずっと無茶してんだからもうすんなよ? 引子さんにあんまり心配かけんな」

「あはは……最初の頃、本当に母さん心配してたからね。気を付けるよ」

「引子さんって誰だ?」

「緑谷のかーちゃんだ。オイラとイクノは緑谷んち遊びに行ったときに挨拶してる」

 

 話も落ち着いて、学生らしい雑な話に入って行くところで。

 だが、一つ。

 もちろん、他意はなかったのだろう。話の流れで、悪気はなくて、それでも。

 轟が、不意にそれを口にした。

 

 

「──幾野こそ()()に心配かけてねぇか? 体育祭といい今回といい、大立ち回りしてるしよ」

 

 

 その言葉に、まず峰田が反応した。

 轟にばっと目を向け、狼狽した表情を見せてしまった。

 ……露骨に反応するなよ峰田。俺が上手くスルーする言葉を考えてたのに。

 

「……え?」

「……峰田くん?」

「あ、いや、オイラ……」

「……悪い。聞かれたくなかったか……?」 

 

 部屋の中の空気が変わってしまった。

 これまでなるべく、俺のそういう話はしないように話題を誘導してきた。

 聞かれても困っちまうからだ。

 俺の家族の話を聞いても、誰も喜ぶことはない。

 

 ああ、でも。

 そろそろ、こいつらなら言ってもいいのかもしれない。

 

「ま、まぁイクノの話はいいじゃねぇか!! それよりもお前らの入院見舞いにどんなエロ本差し入れ─────」

「峰田」

 

 俺は誤魔化そうとしてくれる親友の名前を呼んで、その言葉を止めた。

 親友は俺の顔を見て、悲しそうな眼を向けてくる。

 そんな顔すんなって。お前がいてくれたから、俺はここに居られるんだからさ。

 

「大丈夫」

「イクノ……」

「……いい機会かな。轟にも飯田にも家族の話聞いてるし、緑谷の母さんともお世話になってるし。俺も、お前らなら話してもいい」

 

 この部屋にいる峰田を除く3人と、俺は付き合いが深くなっている。

 全員が友人……いや、もう親友と表現していいだろう。共に、理解をしあえる仲になっているんだ。

 こいつらは本当にいいやつだ。

 だから、聞いてもらいたくなったんだろう。

 俺の過去を。

 

「……つまんねぇ話になる。けど、俺はお前らに聞いてほしいって思えるようになった。俺の過去の話、聞いてくれるか?」

 

 

「幾野くん……うん。聞かせてほしい。その話を」

「僕への信頼に応えたい。たとえどんな話でも、僕が君を見る目は変わらないと誓おう」

「俺の話も聞いてくれたしな。聞かせてくれ幾野。お前の話を」

 

 

「わかった。じゃあ聞いてくれ。とりとめのない話になるけどな────────」

 

 

 俺は3人に、俺の過去を語りだす。

 

 ()()()()()()()()()()()を。

 

 


 

 

 ──────話し終えた。

 

 

「……うっ……ぐすっ……そんな……!」

「幾野くん……君は、そんな……」

「……幾野、お前……」

 

 俺にとっては、終わった話だ。

 既に、俺の心を救ってくれたヤツがいたから、整理がついた話。

 でも、その話を聞いて、緑谷は滝のような涙を流してしまい、飯田も轟も沈痛な面持ちになってしまっていた。

 

「イクノ……」

「悪いな、つまらねぇ話で。……でも、聞いてもらってちょっとすっきりしたよ」

 

 心配そうに俺を見上げる峰田の頭をぽんぽんと叩いてやりつつ、俺は改めて3人に声をかける。

 

 

「緑谷。引子さんのこと、これ以上泣かせるなよ」

「うん……! 僕、心配がげないぐらい、もっど強ぐなる……!」

「またお前んち、遊び行っていいか?」

「う゛ん……!!」

 

 

「飯田。ようやく言える……お兄さん、生きててよかったな」

「……ああ。僕は恵まれていたんだな……いっぱい、兄さんと話をするよ」

「お兄さんとも話してみてぇな。ヒーローとしてどんな心構えが必要かとかさ」

「ああ……! ぜひ今度うちにも遊びに来てくれ! 心から誇れる自慢の友人だと紹介させてもらおう!」

 

 

「轟。お前は俺とは違う……お前の辛さを分かるとは言えねぇ。けど、もっとお母さんと親父さんと話はしてみろよ」

「ああ。親父も……この職場体験で少し見え方が変わってきた。どうなるかはわからねえが……話せるうちに話しておく」

「よし。ところで轟、お姉さんとかいるか?」

「7つ上の姉さんがいる」

「今度紹介してくれ」

「ああ」

「そこはノーと言えよ轟ィ!?」

 

 

 最後に轟に声をかけた時にちょっと普段の俺を出したらちゃんと峰田が突っ込んでくれたので助かる。

 そのツッコミで緑谷も飯田もくすりと笑いを零して、ようやく室内の雰囲気の硬さが取れてきた。

 悪かったな、急に変な話してよ。

 

「轟のお姉さんだもんな……絶対美人だと思うんだよな……」

「俺も姉さんは綺麗だと思う」

「警戒しろよ轟ィ!? お前もしかするとイクノの義弟(おとうと)になるぞお前ェ!?」

「そうなのか?」

「轟くんの天然が出てる……!」

「幾野くんの欲望マンな所も出ているぞ! 級友の家族にコナをかけるのはやめたまえ!」

「いや普通に挨拶するだけだし。ところで22才ってことは社会人だよな? 何してる人?」

「小学校の先生やってる」

「女教師か……!!!」

「コイツ決意を固めやがった」

 

 雰囲気を切り替えて、その後はいつもの如く下らない話で盛りがったり、お互いの職場体験の話をしたりして。

 そして退院の時間も迫ってきたので、俺は一度自分の病室に戻り着替えて荷物を取りに向かったのだった。

 


 

【side 峰田】

 

 

 イクノは一旦オイラ達の部屋から出て行って荷物を取りに行った。

 オイラも退院に備えて服を着替えて準備を始める。

 

「……峰田くん」

 

 一度静まった病室で、緑谷がオイラに声をかけてくる。

 いや、見れば飯田も轟も、オイラの方を見ていた。

 

「君は……もう、ヒーローなんだね」

「峰田くん、僕は君を心から尊敬する。君は立派な人だ」

「俺もだ。お前、すごいやつだったんだな」

「よせよ、くすぐってぇ」

 

 さっきのイクノの話でオイラの中学時代の話も触れたからか、3人からの視線がこれまでと違っちまってる。

 そういうのマジでいいから。

 オイラはただ、イクノのダチであり続けるだけなんだからよ。

 

「イクノも言ってたろ? もう終わった話なんだって。今のイクノとこれまで通りにバカな話に付き合ってくれりゃそれでいいんだよ」

「む……そうだな。幾野くんもだが、君の見方も変えることはないか。君は君だし、幾野くんは幾野くんだ!」

「……そうだね。うん、ゴメン。これからもよろしくね、峰田くん!」

「いつか模擬戦付き合ってくれ峰田。俺はお前も超えたくなった」

「轟だけ物騒なんだよなぁ!? オイラの個性火に弱いんだから結果見えてるだろうがよぉ!?」

 

 コイツら3人ともいいやつだ。イクノが信頼して、話をするだけあるなやっぱ。

 コイツらなら誰にも漏らすこともないだろう。

 クラス全員が無理に知る必要はないし、そういう話の流れになったらフォローしてくれるだろ、多分。

 

「そんじゃ退院するけどお前らはもう一泊だっけ?」

「うん、そう聞いてる」

「職場体験の一日が削れてしまうな。君たちとの差がまた開いてしまう」

「またすぐ埋めりゃいいだろ。峰田のほうも無理すんなよ、渋谷だと事件も多いだろ」

「マウントレディがちゃんとしてくれてっから多分大丈夫だろ。オイラの個性ならそうそうヴィランに遅れは取らねーさ」

 

 荷物をまとめて着替え終え、オイラは4人部屋を後にする。

 しばらく入院するようだったらエロ本を差し入れてもよかったけど明日退院するんじゃあ無駄だな。

 またラインとかで連絡するか。

 どうせイクノのやつは止めないとコイツらに自撮りとか送りそうだし。コイツらの性癖もオイラが守らなきゃいけねぇや。

 

「うっし、準備OK! んじゃ行こうぜ、峰田」

「おー。んじゃお先にな、3人とも」

「うん! またね!」

「学校で会おう! さらばだ幾野くん、峰田くん!」

「またな」

 

 イクノも準備を整えて笑顔で病室に入ってきたので、みんなで笑顔を見せあって。

 オイラはイクノと一緒に、騒がしかった部屋を後にした。



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36 バズっちまったなー! かーっ! 人気者はつれぇわー!

 

 

【side オールマイト】

 

 

『緑谷出久! まったく! おかげで減給と半年間の教育権剥奪だ!』

「申し訳ございません……」

『とりあえず体が動いちまうようなところはお前そっくりだよ俊典!!』

「私の教育が至らぬばかりで……いやはや」

 

 私は今、職員室でかつての恩師であるグラントリノからお叱りのお電話を頂いていた。

 緑谷少年をグラントリノの事務所へ職場体験に勧めたのは私だ。私のようにいい勉強が出来ると思ったからだ。

 しかしまさか、ヒーロー殺しの事件にかかわり、級友と力を合わせて解決してしまうとは思っていなかった。驚きだ。

 いや、彼らの力は信じていたが、またトラブルに巻き込まれたという点で驚いている。

 全く緑谷少年はいつも無茶ばかりしてくれる!

 

『まァ今回電話したのは他でもない、ヒーロー殺しの件だ。実際に相まみえた時間は数分もないが───』

「グラントリノともあろう者を戦慄させるとは───」

 

 話は進み、ヒーロー殺しの脅威とそのカリスマ、それから今回の事件で示唆されたヴィラン連合とのつながりについて話し合う。

 これほど大きく事が動いたとなると、かつての大敵、AFOが動いたとみていいと。

 私自身もその線があるものと考えていた。グラントリノとも今後の事について相談し、緑谷少年にはAFOの事をいずれ話す必要がある、と結論を出した。

 私に残された時間は少ない。緑谷少年に託すことになるのは心苦しいが、しかし彼はその力を受け継いだものだ。

 きっと彼ならばやってくれるだろう。私もそのために尽力する。

 

『─────ああ、ついでに俊典。もういっこ気になったことがあんだ』

「は。どういったことでしょうか」

 

 話もひと段落したところで、グラントリノからまた新たな話が出る。

 

『ヒーロー殺しの最後の啖呵の時……唯一動いたヤツがいた。お前んところの幾野潜とかいう嬢ちゃんだ』

「幾野少年ですか? 彼は男性ですよ、あのような身形(みなり)でも」

『なにィ!? あれでか!? はー、流行りのLKYCSとかいうやつか!』

「LGBTQですね。まぁ彼の中身はどこまでも煩悩少年ですが」

 

 話はどうやら幾野少年の事のようだ。

 聞けば、彼はその場に居合わせたどのヒーローもステインの圧にやられて動けなかった時に、唯一動き出してヒーロー殺しに怒りの拳を叩き込んだという。

 締めるべきところは本当に締める子だ。型破りな言動の中に優しさと強さを持つ、逞しい少年だと私も認識している。

 

『ありゃやべぇぞ。あの場にいた中でいっちゃん経験が深ぇおれだからわかる……幾野とかいう坊主、あれは()()だ』

「は……? その、どういうことでしょうか」

『動けるはずがねェんだよ。あの場であの眼光を向けられりゃ、全盛期のお前だろうがそれを受け止めちまうくらいの信念があった。クソみてぇなモンだが、それほどの圧があの場にはあった。だが、幾野は動いた』

 

 現場にいなかった私では感じられなかったものを、グラントリノは感じたのだろう。

 だからこそあの場で動いた幾野少年の事を疑問に思っていると。

 

『なぁ、ハッキリ言うぞ俊典。あの幾野とか言う小僧────』

 

 そして、疑念の結論をグラントリノが口にする。

 

 

『────本当に、個性が『()()』なのか?』

 

 

「……はぁ。いえ、彼は確かに潜り込む個性です。中学時代に相当鍛えたようで、友人の峰田少年と共に目覚ましい活躍をしていますが……」

『にしたってやってることが多過ぎねぇか? わざわざ体育祭の映像も見たぞおらぁ。潜行という枠組みじゃ説明できねぇ動きがいくつかあったように見えたがなあ……』

「……どうでしょうか。本人の申告と、少なくとも授業中などは決して在り得ない動きはしていないと思いますが……」

 

 グラントリノの疑念に、自分も戸惑いを覚えながら受け答えをする。

 グラントリノ自身も答えが今の時点で出ているわけではないのだろう。言葉が疑問形が多い。

 しかし……改めて言われてみれば、幾野少年が個性を使って出来ることはかなり多い。

 彼の従兄である通形ミリオ少年の個性『透過』に近い性質を持つが、応用がかなり利いている。

 普段から見ているから私はそこまで疑問にも思わなかったが、初見のグラントリノからすれば異様に見えたのだろうか……しかし、グラントリノがそこまで言う圧にすら動けたとなると……圧を潜り抜けたとか、なのか?

 わからない。この電話で答えが出るような物でもないのだろう。幾野少年本人も、私が普段の様子を見る限り、冗談は言うが嘘をつくような性格でもない。

 個性を偽って登録しているという事でもないとは思うのだが……。

 

『……ま、ちっくら気になったってだけだから別に今すぐどうしろってんじゃねぇよ。おれが耄碌したって可能性もあるしな。ただ、意識はしてみてくれ』

「わかりました。彼の事もよく見るようにします」

『おぅ。あの小僧も鍛えりゃ将来は相当なモンになるだろうからな、教師としててめぇがちゃんと導いてやれや俊典』

「肝に銘じます」

 

 それで話は終わり、電話を切った。

 ふむ。AFOの話が勿論最も大きな内容であったが、しかし幾野少年か。

 確かにあの子の個性は極めて強力なものだ。本人も弱点をしっかり理解し、改善しようと努力している。

 クラスメイトからの信頼も厚い。他のクラスともコミュニケーションも取れているし、ヒーローとしての素質は十分だ。

 グラントリノが言うからではないが、今後はもっと注意してみてあげてもいいかもしれないな。

 

 まぁ私にまで性癖揺らしに来る冗談を言う所だけはやめてもらいたいがね!!

 

 


 

 

「短い間でしたがお世話になりました!」

「色々迷惑かけて申し訳なかったっす!」

「本当よ! 保須市の件は大変だったわ……まぁ駅前の戦闘でテレビに映って知名度はさらに上がったからいいけど……!」

「つらい……君たち二人という事務力を失うのが本当につらい……!」

 

 俺と峰田は職場体験も最終日を迎え、俺はマウントレディと会計士さんに最後の挨拶をしていた。

 途中、保須市でのヒーロー殺しの一件はあったがその翌日には職場体験に復帰。

 これ以上変な事件に巻き込めないと、地元の渋谷で普段通りのヒーロー活動に勤しみ、そこそこの事件解決を手伝って、無事に終了を迎えたというわけである。

 なお結局ファッションショーには同行させてもらえませんでした。クソがよ。

 

「幾野くんも峰田くんも、一先ずはお疲れさまでした。現場でもよく動けていたし、事務仕事もしっかり覚えてくれたわ。学校への報告は満点で考えています」

「マジすか。有難い」

「頑張った甲斐あるなぁ!」

「ただし保須市の一件でマイナス20点! 貴方たちは悪くないけど大切な生徒を預かる身として危険に飛び込む様な事は本気で怒ってるんだからね! 貴方たちは悪くないけど!! 偉かったけど!!」

「理不尽だ!!」

「オイラめっちゃ活躍したのに!!」

「トラブルメーカーなのかもね二人とも。渋谷でも結構事件あったもんなぁ」

「いやトラブルメーカーは峰田だけです」

「どう考えてもお前だろうがよォ!?」

 

 マウントレディの講評に一先ずはふんがーと反論したが、まぁでも考えてみればあれはしょうがない。

 誰の責任でもなくヴィランが悪いのだが、それにしたって大人の立場で子供を巻き込んだことは気にしているのだろう。

 先日にちゃんとその辺も謝ってくれたので、俺も峰田も言うほど怒ってはいない。

 むしろ心労かけてすみませんでしたマウントレディ。

 ストレスで小じわが増えちゃってたらごめんなさい。

 

(よこしま)な視線を感じるわ。……ま、でもなんだかんだこっちも楽しかったわ。貴方たちとは気を張らずに付き合えたし。こっちも学びのある一週間を過ごせた。次に会えるのは仮免を取ってインターンになったらね。強制はできないけど、ぜひまた顔を出してくれたらうれしいわ」

「また仕事手伝ってくれたら毎日メシ奢ってもいいよ俺は。ホントに助かったよ二人とも」

「ええ、そん時はまたぜひお邪魔させてください」

「オイラもまたここ来たいっす!」

「ん! 楽しみにしてるわね!」

 

 マウントレディと会計士さんと笑顔でぐっと握手をして、ビルを後にした。

 随分と濃密な5日間だった。プロの仕事を見せてもらい、また大きな事件にかかわって、マジでデカい経験ができて俺達も満足だ。

 

「じゃ、帰るか」

「んだな」

 

 俺と峰田はお世話になったマウントレディ事務所に背を向け、駅に向かって歩き出した。

 俺たちのヒーローアカデミアに帰るために。

 

 

 

「────パトロール中に駅前のメイド喫茶にめっちゃ可愛くてボインな子見つけたんだよね」

「寄るしかねぇじゃん……」

 

 この後めっちゃ立ち寄った。

 

 


 

 

 翌日。

 俺は殺されかけていた。

 

「ハハハハハ!!! 爆豪ちゃんお前マジでアッハハハハハハハ!!!」

「マジか!! マジか爆豪!!」

「ひーーー!! 8:2!! 8:2になってやがる!!」

「笑うな! クセついちまって洗っても直んねえんだ!!」

「ぶっっはははははは!!」

「おい笑うなぶっ殺すぞ!!」

「やってみろよ8:2坊やぁ!! アッハハハハハハ!!!」

「ダメだ死ぬ!! 笑い死ぬ!! 無敵の個性を貫通して俺爆豪ちゃんに殺される!!!」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

 笑い死ぬわマジで!!

 それはずる過ぎるだろ爆豪ちゃんよ。いや爆豪。フィルター外したわ!

 瀬呂と切島と笑い死にそうになってたら爆豪がキレて髪が爆発しボンッと元に戻っていた。

 

「元に!! 元に戻った!! ブァハハハハハハハ!!」

「死ぬーーー!! 死んじまうーーーーー!!!」

「アハハハハハ!! 腹筋いってぇえええ!! ハハハハハハ!!」

 

 その後爆豪ちゃんの攻撃をするするかわして落ち着いてから、他のクラスメイトの話も耳にしていく。

 俺らほどとんでもない経験した生徒は流石にいなさそうだな。梅雨ちゃんががんばったようだ。パトロールとトレーニングをしながら密航者を捕まえたとか。

 ……トレーニング? え、俺らトレーニングとかしてない……会計士さんの手伝いしかしてない……。

 

「お茶子ちゃんと葉隠ちゃんはどうだったの? この一週間」

「とても……有意義だったよ……」

「新たな自分に……目覚めたね……」

 

 話しかけられた麗日ちゃんと葉隠ちゃんの方を見れば、なんか二人ともオーラみたいなのが上がってる。

 一週間で変化凄い。武術的な構えをしてますね。

 バトルヒーローの所に二人で行ったんだったか。近接戦闘が考えられる二人が武を覚えるのはいい事だ。

 今度無理しない範囲で組手付き合ってあげようかな。

 

「……ま、一番変化というか大変だったのは……お前ら5人だな!」

 

 そして上鳴が話題を広げ、教室にいる俺達5人……俺と緑谷、飯田、轟、峰田の方を向いた。

 俺達がヒーロー殺しと会敵したことはクラスの皆も知っている。グループラインで共有したからだ。

 

「そうそう、ヒーロー殺しな!」

「……心配しましたわ」

「命あって何よりだぜ、マジでさ」

「峰田はすげー活躍だったな! 駅前の映像見たぜ、マウントレディと一緒に脳無と戦ってたの」

「オイラめっちゃ頑張ったからな。あの後渋谷でファンになった女の子にサイン書いたぜ」

「マジかよ羨ましいな!!」

「映像と言えば……()()()だよな」

 

 その中でも峰田の活躍は()()の映像として残っている。

 だが、映像が残っているのは俺も同じだ。

 

 非正規で、ステインが最後の啖呵を切った時の動画がネットに流れていた。

 その最後、ステインが言葉を吐き切った後に俺がぶん殴るところまでしっかり残っていたのだ。

 

 恣意的に俺のシーンだけ切り捨てられたものもあったが、オリジナルの動画は俺までばっちり写っている。

 選手宣誓やその前の取材映像でも俺の顔は売れていたため、世間では正論パンチを繰り出したセンシティブヒーロー『イグジスト』として割とバズっているようだ。やったぜ。

 まぁ、動画にステインの言うことに同意するようなコメントも多かったのは業腹なんだけどさ。

 

「あの動画の最後の幾野の啖呵は見事なもんだったよなぁ!」

「あんがと。俺もあんとき咄嗟に口走ってたから、あんなこと喋ってたんだーって映像見て思い出したけどな」

「俺も動画見たけどさ、ヒーロー殺しの言うことも一理あってかっけーなとか思っちゃったけど……結局幾野が言った言葉が全てだよなー」

「か、上鳴くん……!」

「え? ……あっ、飯田……ワリ! ヒーロー殺しの事肯定してるわけじゃなくてさ……!」

「いや、いいさ。上鳴くんの言う通り……幾野くんがあの場で言ったことが全てだ。ヒーロー殺しは信念の男ではあったが、やり方を間違えた。警鐘を鳴らすためにヒーローを粛正するなど本末転倒だ」

 

 上鳴が少し口を滑らせたが、飯田はそこまで気にしていないというふうに微笑みを見せる。

 こいつも自分の気持ちを乗り越えられたからな。俺も今は全く心配していない。

 

「俺の家族のような被害者をこれ以上出さぬためにも!! 俺はこれからもヒーローへの道を歩み続ける!!」

「飯田くん……!」

「さあそろそろ始業だ!! 席につき給え!!」

「よっ、かっこいいぜ委員長!」

 

 そしてビシィ!! と効果音すらなりそうなほどの飯田のいつもの腕の動きが出て、教室はいつもの調子を取り戻した。

 そうだな、俺達はまだ歩み始めたばっかりだ。ヒーローへの道を。

 

 これからも、みんなで一緒に歩いていこうぜ。

 



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37 発目ちゃんとの第一子が誕生しました。かわいいね♥

 

 

「ハイ私が来た」

「もうちょっとなんかなかったっすか?」

「喧しいぞ幾野少年!」

 

 ネタ切れ気味のオールマイト先生と共に今日もヒーロー基礎学の授業だ。

 まぁ毎回あのテンションで来るのも大変だろうからな。別にいいよ。根っこが真面目なヒーローだからそれは仕方ない。

 毎回テンションをずっと高くキープできるのは根っこから狂っている俺とか発目ちゃんくらいだ。

 

「職場体験直後ってことで今回は遊びの要素を含めた『救助訓練』レースだ!」

 

 オールマイト先生の説明に飯田が適宜質問を入れつつ話を聞く。

 一言でまとめると、この運動場γ、迷路のような密集工業地帯で誰が一番速く救難信号にたどり着けるかを競うというものだ。

 建物の被害は最小限にと付け足されて爆豪ちゃんが指さされてた。ウケる。

 

 しかしこの授業はなかなかに()()()()()だ。

 早速俺のニューベイビーが輝く授業が来たな。

 

「おん? イクノ、お前職場体験の時に手首の所そんな形だったっけ?」

「めざとい。これは今朝受領した俺の秘密兵器みたいなもんよ」

 

 以前に手首のあたりに着けていた腕輪飾りが、少々変化しているのを峰田に目ざとく見つけられた。

 前は浮き輪みたいな輪っかの形状で、小物を入れるだけのスペースだったが今は違う。

 発目ちゃんと開発した『ダイブワイヤー』がここに搭載されているのだ。

 

 形としては……うーん、なんて説明すればいいかな。こう、でっかくなったきのこの山というか。

 その先端をカットしたような形のアイテムを、手首から肘先までの腕の部分に埋め込んでいる。

 手首のあたりはアポロチョコの黒い部分をでっかくして外周だけ切り取ったような腕輪となってて……文章で説明するの無理!!

 まぁそんな感じだよ! 新しいアイテムが出来たんだよ!!

 ちょっと重さはあるけどそもそも俺は拳で戦うタイプでもねぇしな。関節の稼働や腕を上げ下げする分にはそこまで問題はない。むしろ腕が重くなってパンチが強くなるまである。

 

「さて、じゃあ初めの組は……緑谷少年、飯田少年、芦戸少女、瀬呂少年、幾野少年だ!!」

 

 お、一番最初の組か。悪くないね。

 しかしメンバーが中々に機動力に恵まれたやつばっかりだ。

 緑谷、飯田は言わずもがな、芦戸ちゃんも運動神経あるし酸で溶かして高所も動ける。瀬呂はこの工業地帯なら一番効率よくワイヤーアクションが出来るまである。

 ライバルは緑谷か瀬呂かな。飯田も悪くないがここまで密集した建物の地形では中々直線の加速は難しいだろう。

 

「クラスでも機動力いいやつが多いな」

「一か月前なら緑谷が絶望だったけどねー」

「緑谷さんも体育祭前に目覚めましたからね、ここではかなり速度が出せるかも……」

「芦戸も運動神経すげえぞ! ルート次第だけどいい勝負すると思うなオイラ」

「俺は瀬呂が一位と予想」

「あー……緑谷、飯田、瀬呂の誰かかなー」

「幾野も障害物は抜けられっけど速度がな、短距離ならともかく」

「まっすぐ走るってだけなら幾野と芦戸でいい勝負だもんな」

 

 スタート位置で準備していると他のクラスメイトが何やら一位予想をしている話が耳に入る。

 甘いな君達。人は成長するのだよ。緑谷と飯田を成長させた俺が成長しないわけがなかろう。

 

「……よぉ幾野、今日の訓練はようやく俺が勝てそうだな?」

「ほぉ、言うじゃねぇか瀬呂」

 

 準備運動をしていると、瀬呂がスーツのバイザーを上げてしょうゆ顔でにやりと挑発してきた。

 俺に声をかけたことを後悔させてやろうフフフフフ。

 発目ちゃんとの愛の結晶にお前は負けるんだよフフフフフ*1

 

「じゃあ勝負すっか? 瀬呂が負けたら昼飯奢れよ」

「おー、構わねぇよ? 幾野にゃあ絶対負けねぇし。お前が負けたら何くれんだよ幾野」

「際どい自撮りを進呈します」

「どっちも俺が辛いだけじゃねーか!!」

「そう? じゃあおっぱい揉む?」

「お前スーツ着ながら二度と言うなよそのセリフ!?」

 

 俺が自撮りを提供すると言ったら死にそうな顔するし、偽乳をくいっと持ち上げたら脳が破壊されたような顔をする。

 なんや。どっちもお前は喜ぶだろ瀬呂。

 

「瀬呂くん……幾野くんに口で勝てると思っちゃだめだよ」

「彼を()るなら無言のうちに実力で示すしかないだろう」

「喋れば喋るだけ不利になるって私知ってんだ」

「幾野の被害者がどんどん出てくる」

 

 失礼な奴らだ。

 俺はいつだって級友の事を想っているというのに。緑谷は今夜自撮り送るからなお前。

 

 さて、もう間もなくオールマイト先生もどこかゴール地点を決めたころだ。

 俺たちはスタート地点で構えて、合図を待つ。

 見せてやるぜ俺と発目ちゃんの愛の結晶をよォ!!

 

『START!!!』

 

 


 

【side 瀬呂】

 

 

 スタートの合図が響き、救難信号の位置を確認して俺はさっそく自分の個性『テープ』を建物に伸ばす。

 緑谷と飯田は個性で疾走。芦戸も酸を構えていつでも柔軟に動けるように構えながら走って行った。

 だが、俺の方が速い。言っちゃなんだがこの訓練はマジで俺向きだ。

 サポートアイテムでは決してできない、ワイヤーアクションによる高速移動。

 これが出来るのはうちのクラスでは梅雨ちゃんくらいのもんで、それだって俺よりも射程が短く一本しか飛ばせないから俺に分がある。

 俺自身もテープを伸ばして張り付けて移動する術ってのは結構練習してるところもあり、スムーズなもんだ。

 

「へっ、やっぱ俺向きだぜこの訓練!!」

 

 早速放ったテープが狙った建物の頂上にある給水塔にぴったりと貼り付いた。

 よし、そんじゃ巻き取りながら跳躍を────と。

 そう、動こうとした時だ。

 

 俺の隣から、まったく同じものを狙って、先端に分銅のような物を付けたワイヤーが放たれていた。

 

「なるほどね、そこを狙うわけね!」

「……幾野!? いつの間にそんなモン作ったんだよお前!?」

 

 幾野の手首辺りのパーツから、何かが射出されたのだ。

 だが、その先端についてる分銅のようなものは明らかに何かに刺したり、くっつけたりすると言った機構ではない。

 なんだそれ、新しい武器か? 俺の邪魔をするため? いや、そういう授業でもねぇだろこれ?

 一瞬のうちに俺が思考を巡らせていると、幾野が放ったワイヤーが給水塔に向かって飛んでいき。

 そして、その丸い先端は───給水塔に潜り込んだのだ。

 ぶつかってもいない。貫いてもいない。刺さってもいない。

 潜り込んだ。そして、一瞬後にワイヤーがピンと張力を生む。

 間違いない、幾野の個性だ。

 

「お前それっ、ズルゥ!! そのパーツのどこにそんな射出機構ついてんだよ!?」

「企業秘密ってやつ!」

 

 俺は慌ててテープを巻き取り、ワイヤーアクションの為に跳躍を果たす。

 しかし幾野も同様に跳躍し、ワイヤーを回収しながら俺と同じような軌道を描いてブランコ運動で移動していた。

 マフラーと長髪が靡いててかっけえなコイツのワイヤーアクション!!

 

「回収までできんのそれ!? マジかよ!? 俺の存在意義無くなるじゃん!?」

「いやこれ俺専用装備だから大丈夫だろ多分! ってか、やっぱこういう動きは慣れてんのな瀬呂! 参考になるよマジで!」

 

 共に空中をワイヤーアクションで走るが、しかしここは流石に俺に一日之長があり、体重移動や回収するタイミングなどで幾野と差をつける。

 だがそれだって向こうも速い。ワンアクションだが、先に走り出した飯田、緑谷と並ぶほどには前に出られている。

 

「くっそ! 欠片も油断できなくなっちまった!! でもまだ俺の方が有利だぜ幾野っ!!」

「どうかな! 俺はもう勝ち確だと思ってるけど!」

 

 俺は次の射出先を選定する。

 経験上、この移動はとにかく高くて遠い所につなげば早く動けるってもんじゃない。

 次と、その次の射出先も考えながら、時には短い距離を、時には狭い所を抜けるために、この移動法は結構な判断力を必要とする。

 単純にブランコ運動を繰り返すだけじゃどっかにぶつかるしな。スパイダーマンはすげぇよ。

 

 そして俺が次の狙いに定めた低い位置にある排水管にテープを飛ばすと、やはり経験不足なのだろう、幾野は随分と遠く、高い位置にある鉄塔の頂点にワイヤーを放っていた。

 そこは駄目だ、間違いなくダメ。振り子運動できるルートがほとんどない。

 体を引っ張り上げるしかないから遠心力が使えなくて単純に遅くなる。

 

「ははっ! 素人がすぐにできる移動法じゃねぇんだよなー! 後で教えてやってもいいぜ幾野ちゃんよぉ!!」

「優しいねぇ瀬呂くん♥ でも残念、俺の勝ち。負けた理由を明日までに考えて来てくださいっ!」

 

 しかし、俺が煽った言葉に幾野がにやりと笑い返してきて、そのまま跳躍した。

 何だ? バカなのか? どう見たってそっからは飛べねぇぞ?

 誰が見たってわかる。

 

 アイツの振り子運動のルート上には幾つも建物が密集していて。

 どうやってもぶつかっちまうから、振り子運動は出来なくて────────あ。

 

 あ。

 コイツ、()()()()()()()じゃん。

 マジ?

 

「おっ先ぃぃぃぃぃ!!!」

 

 こいつは、幾野の野郎は。

 建物なんて関係なく、()()()()()()()()()()()()()やつだった。

 

「「「「ズッルぅ~~~~~!!!!」」」」

 

 俺の、緑谷と飯田と芦戸の、これを見てるクラスメイトの慟哭が運動場γに響き渡る。

 

 幾野の野郎、建物も壁もなんなら地面も個性でスルーして、なーんもないかのようにブランコ運動で密集地帯を抜けていきやがった。

 理論上の最速効率を、こいつはいつでもやれるってことだ。

 ってか、何なら地面にワイヤー突き刺しても地中をブランコ運動できるって事か? ズルにもほどがねぇか!?

 

「汚い……! 流石幾野くん、汚いな!!」

「イクノの個性ズルすぎるよー!! 手加減しろー! バカイクノー!!」

「なんて移動方法だ……! まず発想が凄すぎる、確かに幾野くんの個性なら出来るけどこの移動は常識が邪魔してパっと思いつかない、幾野くんならではの発想……! それにあのワイヤー、放った瞬間に見えた先端は尖ってなかった、ワイヤーロープでの移動ならしっかり突き刺さなきゃいけないのにそこも幾野くんの個性なら埋め込めるから無視出来る……ブツブツ……それで小型化できた? 前に発目さんと騎馬戦の時に使ったあのワイヤーアイテムのサイズが小さくできる限度だって思ってたけどそれすら超えて? でも射出機構と回収機構がどこにも見えない、あの腕輪のような部分に全部入るほどとは考えられない……ブツブツ……いや待て……幾野くんが胸に色々仕舞ってるのと同じように、もしかして腕に射出回収機構を埋め込んでるのか……!?」

 

 俺のほかにあのワイヤーアクションと表現したくない移動方法を見てしまった飯田、芦戸、緑谷もまた文句を垂れている。いや緑谷はいつものになっちまってる。走りながらそれやれるお前もだいぶ個性使いこなしてんな!?

 

 ……いやこんなの勝負になるわけねぇだろ!!

 アイツだけストレスフリーな最高の空中散歩ができてるじゃねぇか馬鹿野郎!!

 

「フィニーーーーーッシュ!! 俺が来た!!」

「ウム!! 幾野少年はズルいな!!!」

 

 俺ら4人をすっかり差し置いて、幾野の奴がオールマイトが待つ給水塔にゴールしちまった。

 何てやつだよマジで。

 ったく、これ以上置いてかれてたまるかってのによ。また先に行きやがった。

 

 

 

 なお、最終結果は俺が緑谷にギリ競り勝って二位。

 飯田は直線を走る機動力を生かせずに四位、芦戸は流石にこの面子じゃあ分が悪く五位だった。

 

「皆お疲れ様だ!! それぞれ個性の使い方に幅が出てたな! いい動きしてたぜ!! それでも幾野少年が一位だが……彼の本当に褒めるべきところはあの移動方法ではない!!」

 

 オールマイトの講評が始まり、それぞれ個性の使い方を褒められつつ、続くオールマイトの言葉を聞く。

 

「自分の欠点をすぐに把握し、それをどうするか考えて、サポートアイテムを開発したことだ!! ヒーローとは個性だけで戦うわけじゃないぜ!! コスチュームに、サポートアイテムに……いくらでも工夫して強くなれる!! それだってヒーローの成長だ!! 自分に足りないものを見つけそれをどう乗り越えていくか、みんなもよく考えるんだぜ!! 無論、アイテムに頼り過ぎもよくないがね!!」

 

 その言葉には、俺もなるほどと頷いた。

 俺の長所は機動力や拘束力。ただし短所は火力がないことや防御力に乏しい事だ。

 そっちの方にも目を向けねぇとってところか。

 ヒーローが得意な場でいつも戦えるわけじゃねぇもんな。気が引き締まるぜ。

 

「まぁとはいえ幾野少年の移動方法は間違いなく発想の勝利だ!! 私も驚いた!! HAHAHA!!」

オールマイトにそこまで言われると嬉しくなっちゃいますね♥」

「授業中だぞ幾野少年ンン!!」

 

 コイツマジでよくオールマイトを茶化せるよな。バカなんだな、うん。

 

 


 

 

「緑谷、何ぼーっとしてんだ?」

「んぁ? あ、うん……ちょっとね」

「大丈夫か? おっぱい揉む?」

「半裸で言わないで!?」

 

 俺はヒーローコスチュームを脱ぎ掛けの状態で緑谷に声をかける。

 偽乳はまだ胸部にあり、しかし肩を露出させて肌色マシマシの状態で声を掛けたら流石に最近これに慣れてきた緑谷も動揺するようだ。おもしれ。

 

「久々の授業で汗かいちゃった☆」

「俺、機動力課題だわー……幾野見てたら余計そう思った」

「情報収集やサポートアイテム開発で補うしかないな」

「それだと普通は後手に回んだよな……峰田や幾野が羨ましいぜ」

 

 みんなそれぞれ今日の授業で課題が見えてきたようだ。

 もしアイテムの件相談されるようだったら普通に開発室は教えてやろう。俺もサポート科に教わった口だしな。

 発目ちゃんとベイビーを設けるのは俺だけでいいけどなァ!

 

「……おいイクノ。やべェ事が発覚した。こっち来い」

「ん? 何だ峰田……って、そっち女子更衣室側じゃねーか。向きたくねぇよ」

「いいから来い。ウォールハック発動してねーだろ今」

「なんだよ……?」

 

 そこで峰田が深刻な声で俺を呼ぶものだから、仕方ないと女子更衣室がある側の壁の方に向く。

 前に芦戸ちゃんにも言ったように、出来る限りそっちは向きたくないのだが、まぁ最近はそういう方面での信頼度は稼げてることもあって、男子も別にそれで何とも言わないとは思う。

 で、そっちを向いて峰田が指さす先を見ると……経年劣化で剥がれたポスターの所に、500円玉くらいの穴が開いていた。

 

 は?

 

「……え? これ穴だよな?」

「ああ……向こうまで繋がってるかは確認できるはずがねぇけど」

「……は? 大問題だぞこれ??」

 

 いや、これ覗き穴だよな?

 これがもし女子更衣室まで貫通してたらやべぇにもほどがない?

 完全にニュース沙汰よ?

 女子更衣室覗くための穴をこの学園の男子生徒が個性使って開けたって事だろ??

 

「なんだ、どーしたよ二人とも……」

「上鳴、その辺に触んなよ。余計な疑いかけられんぞ」

「へ? ……あ、うわマジ?」

「飯田。委員長としてすぐに相澤先生に報告してくれ。フツーにヤバイ」

「む……そうだな。僕たちがどうこうするような問題ではない。判った、着替えたらすぐに行く」

「おう。女子には俺から触らないように言っとく。八百万ちゃんの個性なら埋められるかもだけど現場弄っちゃまずいだろうし」

「頼んだ」

「みんなも一先ずこれ他言無用な。相澤先生の判断を待とう」

「おお」

「とんでもねぇバカがいるもんだな……!」

 

 ええ……かなりショック。

 こんなことする生徒が雄英にいたんか。

 ポスターで隠れてたってことはもしかすると過去に穴開けたのは卒業生かもしれないけど。

 でもあれか? 覗き穴として使うってことは女子更衣室側はこれ穴が丸見えなんだよな?

 それにずっと女子側で気付かないってのもおかしな話だし開けたの最近か?

 テンション下がるわ。何考えてんだこれ開けたやつ。

 シンプルに犯罪じゃん。多分個性使っちゃって……うわー……退学で済むのかな。

 なんてバカなんだ。性欲方面での頭ステインかよ。

 犯罪は駄目だよ犯罪は……普通にグラビア雑誌とかで性欲発散しとけよ。

 

 なおその後こっちの話が聞こえてた耳郎ちゃんが穴の存在に気づいたらしく、でも俺の話も聞いてたみたいで穴は埋めずに先生方の実況見分に任せた。

 その日のHRで相澤先生から『報告して偉い、あとは忘れろ』って話が来て、そこでこの件は落ち着いた。犯人捜しは俺たちの領分じゃないしな。

 女子を泣かせるようなことする奴マジで許せんわ。峰田も結構ガチギレしてた。わかる。

 エロに積極的であっても女子を泣かすようなことはしない。俺と峰田の誓いだ。

 

「耳を澄ませて目を閉じれば脳内に女子更衣室内のイメージ広がるのにホントバカなやつがいたもんだよな」

「それな。意味のねぇことしやがって全く。リトルミネタが萎えたぜオイラ」

 

 俺と峰田はその日の帰り道、若干テンション下がりながら共に下校するのだった。

 

*1
発目ちゃんの癖がうつった。




峰田がまともになっちまって覗きイベントは発生しません。よかったね女子。

期末前に閑話を一つまみする予定です。
なお授業参観とかのアニメネタはあんまり入れる予定ないです。プールとエキスポくらいかな。


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38 センちゃんのなーんもないふっつーの一日

たまにはこういう閑話もね。


 

 

 

 静けさが染み込むようなAM4:30。

 毎朝この時間に勝手に目が覚める。

 朝の清掃活動は最早俺のルーティーンだ。

 

「ふわぁ─────にゃむ……」

 

 体を起こして大きく欠伸をひとつ、ふたつ。それだけで頭もだいぶすっきり。

 水分補給だけしっかりして、髪は軽く櫛だけ通して、ジャージに着替えて掃除道具が入ったバッグを抱えて早速アパートを出る。

 峰田の家を経由して、今日は8kmくらい離れた海浜公園まで向かう予定だ。

 

「えっほ、えっほ」

 

 流石にこの時間は街中に誰もいない。

 時々すれ違う配達員の人や郵便屋さんなどは顔見知りになっており、おはよーさんです! と挨拶を交わす仲だ。

 そして大した時間もかからず峰田んちに到着。

 

「峰田ー、起きてるかー」

「起きてらー。すぐ出るー」

 

 これで峰田が寝坊してたら俺が家に忍び込んで枕元に添い寝してやって性癖を破壊してやれるのだが、今の所こいつが寝坊したことは一回もない。

 事前に寝坊したらそれやるぞって断言しなけりゃよかったな。サプライズで仕掛ければ警戒されなかったかも。

 

「オッス。おは」

「おは。そんじゃ行くか」

「おぉ」

 

 毎日顔を合わせているだけあり挨拶もおざなりだ。まぁ峰田だし。

 お互いにゴミ袋などの清掃用具を抱えて、ここからは本気でマラソンだ。

 もちろん交通ルールは守ったうえで出来る限り全力ダッシュ。峰田は帰りの大通り以外の道でしか個性を使わないので俺が先行する形になる。

 

「海浜公園……!! もうすぐ夏……!! 水着の美女……!!」

「ビーチバレー……!! 弾ける胸……!! 溢れるポロリ……!!!」

 

 近づく夏にお互い想いを馳せて呪詛を呟きながら走ったらいつもより3分くらい縮まった。

 これヴィランとの戦闘に活かせるな??? 今後練習してみよ。

 

「っし、着いたな。ふーっ……」

「あー、結構ゴミあるな。デカいのは端に寄せるくらいしかできなさそうだ」

「な。んじゃ始めるか。海浜公園にエロ本があるか調べてみた生放送」

「by雄英生。絶対炎上するやつじゃん」 

 

 別に放送なんてしないけど。冗談を交わしつつ、俺達は海浜公園の清掃を実施する。

 俺達がこっちに引っ越ししてきた当初はかなーり綺麗だった公園だけど、日が経つうちに少しずつポイ捨てが増えてったんだよな。

 しばらくはここを拠点として掃除してもいいかもな。

 

「ウォールハックでざっと見たけどエロ本はやっぱ落ちてねぇわ」

「クソがよ」

「意識高いなこの町? やはり河原か……河原は全てを解決する」

「あそこ文字通りモラルハザードだもんな。なんで人類は河原にエロ本捨てたがるのか」

「わからん……俺達もまたそれに惹かれる誘蛾灯のようなものだからだ……」

「深淵with深淵理論やめろ」

 

 くだらねー会話をしつつ、ゴミ拾いは真剣にやる。

 燃えるゴミ、カンビンペットボトルプラスチックの分別も町のルールにのっとりつつだ。

 時々早朝にここを散歩してるおじいちゃんおばあちゃんがすれ違い、偉いねと褒めてくれるのでにっこり笑顔で返す。

 

「そういやお嬢ちゃんの顔、どっかで見たと思ったら雄英生なのかい? 体育祭で頑張ってたねぇ」

「あれ、見てくれてたのおばあちゃん? 嬉しいなぁ────」

「そっちのちっこいのもぴょんぴょんしてたなぁ」

「飛び跳ね回るのだけは得意なんスよオイラ────」

 

 他愛もない話。時々おばあちゃんが差し入れてくれる飲み物なんかも頂きつつ、1時間くらい清掃を行う。

 海浜公園は広い。明日からもまだまだやれるところはありそうだな。

 

「うし、んじゃ帰るか」

「おう。跳峰田装備するぜ」

 

 俺たちはゴミの詰まった袋の口を縛って零れないようにして、帰り道に着く。

 今度は峰田が跳峰田で先行。俺が後を追う形だ。

 直線にしか跳ねてない峰田に負ける俺の脚よ。ヒーローコスチュームがあれば負けねぇんだけどなぁ今なら。

 

「毎週火曜は燃えるゴミ!」

「拾ったゴミをゴミ収集スペースにシュウウウウウ!!」

 

 超エキサイティン!! とでも言わんばかりに燃えるごみをぶち込んでおいた。

 なお俺のアパートがゴミ出しは決めた場所に出せばいつでもOKな所だったので助かる。他のゴミもそれぞれ分別してゴミ置き場に出しておいて、これで朝の清掃は終了。

 

 

 さて、現在時刻は朝の七時。

 家に帰り、まずは汗を流すためにシャワーを浴びる。

 

「──────♪」

 

 ちゃんと髪をコンディショニングして整えて、ドライヤーで乾かして艶を出して。

 昨日コンビニで買っておいたサンドイッチ食べながら制服に着替えて。

 鏡の前でスマイル。うん、性癖歪ませる可愛さバッチリ。

 

「行ってきます」

 

 一人暮らしをしてからも欠かさない行ってきますの挨拶をして、学校に向かった。

 

 


 

 

「よっしゃ今日の英語の授業は遊びの要素も取り入れるぜェーー!! お前ら10分だべりまくれッ!! ただし日本語禁止で英語だけだぜシッヴィーーー!!!」

 

 今日の座学の英語の時間。

 マイク先生は実践的な英語を教えてくれる教師だ。普通に普段から勉強になる。

 そして今日は遊び心満載、普段通り英語で駄弁ってみろということらしい。

 なるほど、おもしれ。

 

「Hey, Sero, that 3D boot-up you showed us at the rescue training race the other day was really instructive, so why don't you teach me next time after school? I'll borrow the gymnasium.」*1

「ワッツ!? ワッツユーセイイクノォ!?」

「Ikuno says Sero's wire action is amazing and he wants you to go with him for training next time.」*2

「ミネタ!? ミネタイズオールソーワッツ!? アンビリーバブル!?」

「Well, you both speak English well, don't you? You are the best of the best! However, your pronunciation is still a little awkward.」*3

「Oh, we're self-taught. Yaoyoroz is amazing as a rock, it's like she's perfect when you listen to her.」*4

「I had to smash the TOEIC to be popular with American girls.」*5

「ヘールプ!! アイムヘッドイズクレイジー!!」

 

 俺と峰田は普通に英語喋れるんすよね。

 エロの力(暗黒面)に墜ちれば第二言語くらいは余裕っすよ。

 八百万ちゃんも流石としか言えないね。完璧な発音。お嬢様はちげぇや。

 

 

 はい。んでもって午前中の授業も終わってお昼の時間。

 峰田と一緒に飯を受け取って席を探して歩く。

 今日のお昼は中華です。なお俺は大盛り、峰田は普通盛り。

 これだって俺たちの体からしたら多いくらいだけどな。俺は腰細いし峰田は5歳児ボディだし。

 ただし毎朝クッソ運動してるのでこれくらい食べないと逆にやせてしまうのだ。

 

「今日混んでるなー」

「だなー。どっか空いてるところは……って、お? あの人……」

 

 俺は結構な混み具合の食堂を歩いていると、ちょうど端のスペースに見知った顔を見つけた。

 とはいえど、同じ学年の生徒ではない。心操でも発目ちゃんでもない。3年生だ。

 あの人と話すのはおおよそ()()()()だろうか。

 ちょうどいい。席も空いてるし、旧知の仲を深めつつ一緒にご飯していいか聞いてみよう。

 

「─────()()()()! お久しぶりっす!」

「お、あ! ホントだ! うわー久しぶりだわ先輩! 2年ぶりッスね!」

「……!? とっ……幾野と、峰田か。ああ、久しぶりだ」

 

 声をかけたのは、天喰先輩。

 俺の従兄であるミリオ兄さんの親友にして、俺らと同じ中学出身の先輩だ。

 声をかけてきたのが俺らだとわかって、天喰先輩も驚いたような顔から僅かに目元を柔らかくしてくれた。

 

「わー、マジで久しぶりです。お昼ご一緒していいっすか!」

「ああ、いいよ」

「3年にいる事は知ってたんスけど、学食で見かけたことなかったッスよね。普段は弁当だったりしたんすか?」

「インターンで出ていることが多くてな。ミリオも今日はインターンで不在だ」

 

 天喰先輩の普段を知っている人が見れば、今のこの態度ですら随分と明るく見えることだろう。

 基本的には陰キャな先輩だ。ただし、親友であるミリオ兄さんや、1年間毎朝清掃活動に付き合った俺ら2人の事は、よく覚えてくれている。

 

 俺らが中学一年生、ミリオ兄さんと天喰先輩が3年生の時に、俺達は奉仕活動として4人で早朝の清掃を行っていたのだ。

 二人が千葉の中学を卒業し、雄英に入学してからは俺らだけで続けていたのだが……一年間は二人の先輩も一緒だった。

 

「懐かしいな……あの後、朝の清掃は続けていたんだってな。ミリオに聞いた」

「勿論ですよ! 河原という河原を綺麗にしてやりました!」

「……お前ららしいよ」

「河原にあるエロ本というエロ本を根絶やしにしてやりましたよ!!」

「お前ららしいよ」

 

 ミリオ兄さんと天喰先輩はエロ方面には明るくなかったからな。バレずにエロ本を見つけるのも大変だったぜ。

 二人がいなくなって大手を振ってエロ本を集められたのは嬉しかったがその分寂しさもあった。やり遂げたし今もやってるけど。

 その後はしばらく懐かしい話に花を咲かせる。天喰先輩も食事しながらだが、笑みを浮かべて頷いてくれていた。

 

「あ、先輩。あん時スマホ持ってなかったけど今はあるんでオイラと連絡先交換してもらっていいスか? インターンの事とか色々聞きたいス」

「ああ、構わない。あまり俺からは送らないだろうけど、聞かれたら答えるよ」

「あ、じゃあ俺も……」

「ただし幾野お前は駄目だ」

「なぜゆえ!?」

 

 昔話などに花を咲かせつつそういえばまだ天喰先輩の連絡先を聞いてなかったことを思い出し、峰田に合わせて俺もお願いしたらめっちゃ断られた。

 どうしてそんなこと言うの……?

 

「お前と交換したら……絶対に自撮りを送ってくるだろう……!

「何故バレた」

「ミリオ先輩にも送り付けてるからじゃねーかな」

「俺と話したければ峰田かミリオを通じて連絡して来い」

「パイセンの完璧なセキュリティ意識誉れ高い」

「タルタロス並みのセキュリティレベル」

 

 結局天喰先輩と連絡先交換できませんでした。んにゃぴ。

 

 


 

 

 午後のヒーロー訓練も終えて放課後。

 

「あれ、イクノ? まっすぐ帰らねぇのか?」

「色々野暮用あってな。峰田も来るか?」

「ワリ、今日は予定あるわ。帰りに駅前にグラビアの新刊買いに行くんだ」

「そっか。悪いな付き合えなくて」

 

 HRが終わって帰る峰田に声を掛けられたが、俺は色々用事があるので今日は学校に残ると伝えた。

 とはいえ、体育祭の後も週2でやってる放課後の特訓でもない。あれはあれでクラスのみんなも積極的に参加してくれてるけどな。今日は体育館借りてないフリーの日だ。

 峰田はお気に入りのグラビアの新刊を買いに行くらしい。

 残念だったな峰田くん。お前は紙媒体を求めたが俺は直接の触れ合いを求めに行くのだよ。

 差がついちまったなー! かー! 俺のコミュ力が怖いわー!!

 

 さて、そしてやってきたのは開発工房。

 今日は発目ちゃんから呼び出しを受けていたのだ。

 発目ちゃんと連絡先交換してからは、こうして結構な頻度で放課後に呼び出されている。

 

「来ましたねイクノさん!! 今日もバッチリベイビーの試運転に付き合ってもらいますよフフフフフ!!」

「任せてほしいね。発目ちゃんとのベイビーがすくすく育つの見るのが最近の俺の楽しみよ」

「その調子で発目をなんとか手懐けてくれねぇか幾野」

「頼もしいですね!! ではまずはコレ!! パワードスーツ試作型!!」

 

 そして放課後にパワーローダー先生に見られながら何をするかと言えば、発目ちゃんが開発したサポートアイテムの試着、試用に付き合うのだ。

 発目ちゃんの開発力はすさまじいもので、そこはパワーローダー先生も認めている。

 ただし倫理観やブレーキというものが壊れているので90%くらいの確率で装着者の事を考えていないのだ。

 

 そして、そんな装備の試着こそまさしく俺の出番である。

 

「お、すごい。力入れようとしたら勝手に動く……ってコレ止まらないね?」

「おや? 可動域のプログラミングをミスってますかね?」

 

 早速装着したパワードスーツがなんか勝手に動き始めて止まらなくて俺の腰をねじ切る方向に動き続ける。

 これを常人が着てしまったら悲しい事件にしかならない。

 だが……俺は違う!!(ギュッ)

 

「あーこりゃいけませんいけませんあいたたた………あ、()()()

「おお!! でもこの角度までは動かせますね!! 協力感謝ですよイクノさん!! このデータは次に活かしましょう!!」

「ストップボタンは欲しいね。あとヒーロー用の装備なんだろうけど、これ介護現場とかでも使えそうだね。()()()()()()()()()()()()人とかのサポートに使えそうじゃない?」

「その発想はありませんでした!! デチューンして日常運動用にすれば行けそうですね!! 素晴らしい着眼点ですフフフフフ!!」

「褒められるとテレる」

「毎日ここに来てもいいんだぞ幾野……お前がいると恐ろしいほど平和だ……」

 

 限界を超えた挙動や、装置そのものがぶっ壊れてしまいそうなほど暴走したとしても……俺の個性の前では全く問題ない。

 今着ているパワードスーツも、痛みが限界点を超えた瞬間にオートで潜り抜けてノーダメージだ。

 前に装着した脚部搭載型電動ブースターは暴走して壁にぶつかって壊れそうになったがそれだって俺のものと認識しているのでアイテムごと潜り込んでノーダメージだったのだ。

 いくらでも実験できて、かつ実験に使ったアイテムが壊れないとすれば、そりゃあ発目ちゃんも俺を欲しがるよね。

 俺の体が狙われている(恣意的な表現)。

 

「では次はこちらのベイビー!! 試作型超圧縮おもり!! ものすごい重さにまで設定できます!!」

「ただのトレーニング用品では?」

「フフフフフ馬鹿にしてはいけませんよイクノさん!! これは教師陣がハンデとして使うことを考えたアイテム!! デザインコンペでいい所まで行っているんですよ!!」

「あ、そーなんだ? でも先生たちが使うなら逆に飾りは最小限で無骨な方がよくない? もうちょっとこう、シンプルに……」

「ムム!! 成程その考えはアリですね!! ではまず早速装備してみて……」

「ピースフル……工房がピースフルだ……」

 

 その後めっちゃ発目ちゃんと子作り(恣意的な表現)した。

 

 


 

 

 1時間くらい試着に付き合って開発工房を後にしたが、実はまだ帰るわけではない。

 顔だけ出していこうと、俺は運動場γに脚を向ける。

 確かここで今日は心操が相澤先生と特訓をしているはずなのだ。

 

 ついた。

 

「どこにいるかわからん」

 

 広いよな運動場。雄英敷地広すぎ問題。ヒーローマネー怖い。

 あとセメントス先生の存在が一番怖い。建築革命。

 

 いちいち探すのも面倒なので俺はウォールハックを発動。

 すると、運動場のど真ん中の建物が密集してる辺りに二人の姿が見えた。早速向かう。

 

「おー、やってるやってる」

 

 個性も使いつつ雑にまっすぐ向かった所、どうやら今は捕縛布の練習をしている様だ。

 心操のやつ顔がいいからジャージに捕縛布とペルソナコード装備するだけでめっちゃ様になってんな。クソかっけぇ。

 

「ちわー! 様子見に来ましたー!」

「幾野か。お前もマメだな。……キリもいい、少し休憩にするか」

「はぁっ……はぁーっ……、幾野か……」

 

 高台から二人に声をかけて、ぴょーんと飛び降りて地面に着水。

 随分としごかれていたようで、心操はだいぶ息が上がっている。

 あの捕縛布結構な重さらしいからな。その分強靭で使いこなせりゃ相澤先生並のワイヤーアクションが出来るんだから玄人向けの装備だ。

 俺も相澤先生に一度移動アイテムの相談をした際に選択肢に入れてたことはある。習得に時間がかかる点でそぐわなかったので諦めたけど。

 さっき買ってきたスポーツドリンクを心操に渡してやりつつ、相澤先生に様子を聞く。

 

「……サンキュ……っはぁー……!」

「おうよ。で、どうですか相澤先生。心操の調子は」

「悪くないよ。少なくともやる気はA組の誰にも負けてない。後は密度と時間だな」

「超高評価。中々相澤先生にここまで言われることねぇからな心操?」

「必死だよこちとら……お前に追いつこうってんだからよ……」

 

 息を整えながらスポドリをがぶ飲みする心操。流れる汗が素敵だね。

 

「さっき俺が口つけた奴だけどなそれ」

「ブッフォ!!!!」

「嘘でーす♥ やだ間接キス意識してるの心操くん??」

 

 冗談をぶちかましたらめっちゃ心操がむせてる。ウケる。

 

「幾野」

「すみません」

 

 相澤先生の髪が逆立ち始めたので俺は慌てて90度腰を曲げて謝意を見せる。

 

「お前今から心操と潜行なしで組手な」

「せめてオート発動は許してくれませんか!?」

「ダメだ。一度個性を切れ。そしたら俺がずっと見ててやる」

「先生のドライアイに負担をかけたくないっていう生徒の愛を無視するんですか!? 眼と眼が合う瞬間好きだと気づいちゃうかも」

「黙れ」

「はい(スンッ)」

 

 俺は観念し、一度深呼吸をしてから個性を解除した。

 常に発動し続けている物を解除するだけでも俺にとっては心的負担が大きい。

 だがその辺りも考えて相澤先生もこの話を出しているのだろう。万が一の機会はないと思いたいが、もし俺が個性を使えないような状態になっても心を乱さないように慣らしてくれているのだ。

 成長の機会を逃す俺でもない。口ではいやいやだが、同時に上着を脱いで心操に向けて構えてもいる。体は正直だね♥

 

「っし……ようやく幾野をブン殴れるってことだよな……?」

「手加減してね心操くん? 顔はやめてね??」

「リカバリーガールは毎日残業してるってよ」

「教職のブラック体制に物申す!!!」

「心操も捕縛布は無しだ。純粋な格闘でやってみろ。個性無しでも幾野は強いぞ」

「体育祭で見てわかってます。どんくらい俺が近づけたか、やってみますよ」

「5分で締め堕としちゃるわい!!」

 

 その後心操とめっちゃ組手した。

 2発ほどクリーンヒットを貰ってしまったがこっちは13発奢ってやった。

 まだまだだね。半年後はわかんないけど。

 

 


 

 

 放課後色々やってから帰宅。

 学校から家は近いので8時前には帰れました。

 リカバリーガールに傷跡ひとつなく治してもらった後、夕飯のおかずを買ったのでちょっと遅くなった。

 今夜の夕飯は豚肉とニラの炒め物。高野豆腐もセットでコラーゲン多め。お肌気にしないとね。

 うめうめしながらご飯を食べて、一発抜いて、ゆっくりお風呂に入って、髪のケアして、自撮りを峰田に送って、さらにもう一発抜いてから10時には就寝。

 

 

 今日も平和な一日でした。

 明日も平和な一日だといいね。

 

 

 

*1
なぁ瀬呂、こないだの救助訓練レースで見せたお前の立体起動やっぱ勉強になるからさ、今度放課後教えてくれない? 体育館は俺が借りるから

*2
イクノは瀬呂のワイヤーアクションがすげーから今度訓練に付き合ってくれって言ってるぞ瀬呂

*3
まぁ、お二人ともしっかりと英語を喋れますのね? 流石は首席ですわ! ただ、発音が僅かにぎこちなさが残っていらっしゃいますわね

*4
あー、独学だからね俺達。八百万ちゃんは流石にすごいね、聞いててもバッチリって感じ

*5
アメリカの女の子にモテるためにはTOEICをぶち殺す必要があったんだよ





なお英語の所はDEEPL翻訳先生にそのまま文章ぶち込んでちょっと弄ったものです。
細かい表現や誤訳は気にするな。


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39 爆豪ちゃんとだってフラグを立てるよ(なお行間)

 

 

 時は流れ、6月最終週。

 期末テストまで残すところ一週間を切っていた。

 

「「全く勉強してねーーーー!!!」」(19位・20位)

 

 中間でラスブービーの二人である芦戸ちゃんと上鳴の慟哭が教室に響く。

 

「体育祭やら職場体験やらで全く勉強してねーーー!!」(20位)

「確かに」(14位)

 

 などと供述しており。

 ってか常闇も確かにとか言ってるけどさ。それは唯の言い訳ではないかね?

 

「職場体験から1カ月は経ってるぞ?」(3位)

「オイラ達が職場体験行ったの5月下旬だったもんな。6月まるまるあったじゃねーか」(2位)

「なんでお前らそんなに成績良いんだよどこに需要あんだよ!?」

「世界……かな」

「俺は宇宙」

 

 俺と峰田は余裕の表情で敗北者たる上鳴を煽る。

 いやだって……俺ら大学共通テスト9割5分取れるくらいには予習してきてるし……。

 まあただ予習は予習であって、日頃勉強しなくても普通に授業受けてれば余裕でついていけるという程度である。

 

「アシドさん! 上鳴くん! 頑張ろうよ!」(6位)

「うむ! 勉学は学生の本分だ!」(4位)

「普通に授業受けてりゃ赤点は出ねえだろ」(7位)

「言葉には気を付けろ!!」(20位)

 

 緑谷も飯田も轟も普通に成績良いよな。飯田は流石眼鏡と言ったところ。

 しかし前回の中間では俺のほうが上だったので昼飯奢ってもらった。エロの力は偉大。

 

「お二人とも、座学なら私がお力添えできるかもしれません」(1位)

「ヤオモモーーーー!!」

 

 なお流石に俺も峰田も八百万ちゃんには負ける。俺らが高校範囲をバッチリ予習済みだとすれば、八百万ちゃんはその個性に使う知識として大学研究レベルの知識を収めているのだ。天才だよ。

 頭が良くておっぱいがデカい。彼女は一ヒーローに収まる器ではないと常々思っている。器がデカい。挟んでほしい。

 でもなんか演習の事を気にして落ち込んでるな。

 助け船になればと思い、俺は八百万ちゃんに声をかけた。

 

「八百万ちゃん。演習試験不安なの?」

「イクノさん……ええ、私は……実戦に弱いので……」

「んなこたねぇと思うけどな。俺以上に何でもできるじゃん八百万ちゃん」

「ってか演習試験は入試ん時みたいな対ロボットの実戦演習だしな。八百万ならチョロいだろ」

「……え!?」

「峰田お前なんで演習試験の内容知ってんの!?」

「あ、俺も知ってる」

「幾野くんも!? どうして!?」

 

 元気づける流れにしようとしたら峰田のアドバイスで他の何人かの目がこちらに向いた。

 緑谷の驚く顔が至近距離にあるんでむしろこっちが驚くわ。

 

「キスしたいの♥?」

「どうしてこの流れでそんな言葉が出てくるの!?」

「冗談です。ちなみに試験の内容知ってるのは俺の従兄が3年生で、その人からどんな試験やったか聞いたからな」

「オイラも懇意にしてる先輩二人ほどいるんで」

「二人とも無限に顔が広い!!」

 

 ってか、俺らが言わなくても誰かが先輩に聞けば解決する問題だからな。

 どうせバレた上で練ってくるよこの学校の先生方は。

 

「んだよロボならラクチンだぜ!!」

「やったあ!!」

 

 19位と20位がなんかテンション上がってるけど君達まずは勉強だからね??

 俺も八百万ちゃん主催の勉強会に顔出そうかな。面白そうだし。後でお願いしてみよ。

 

「人でもロボでもぶっ飛ばすのは同じだろ、何がラクチンだアホが」

「アホとはなんだアホとは!」

「うるせえな! 調整なんざ勝手に出来るもんだろアホが! ……なぁ、デク!!」

「っ!」

 

 そこに爆豪ちゃんが口を挟んできた。

 今日はイライラ率高いな。女の子の日かな?

 

「てめェの個性……体育祭の頃からたいして動きが変わってねぇよなァ。前に言ってた『俺を超える』って言葉忘れてんじゃねェかボケが。今のテメぇなら10秒で殺せるわ」

「……!」

「忘れんなデク!! テメぇが止まってる間に俺はさらに差ァつけてやる! 俺にブチ殺されたくなけりゃとっとと追って来い!!」

「っ……うん!!」

「轟ィ! 幾野ォ!! てめェらもだァ……!! 隙があればブチ殺す!!」

「おお」

「楽しみにしてるぜ爆豪ちゃん」

 

 イラつきながら爆豪ちゃんが放った言葉に、俺も轟も真顔で返す。

 態度こそクソ下水だが、言ってることは激励と発破を足して2で割ったような内容だ。

 言ってること自体は俺も全く否定しない。緑谷はフルカウルの出力が目覚めたころからあまり変わってないしな。俺もいつか言おうと思ってたことだ。

 それを授業の訓練で見ているだけで察するんだからやっぱ爆豪ちゃん才能マンだわ。

 いや緑谷だけしか目に映ってない可能性があるか……!? 幼馴染のこと気になっちゃう系ツンデレロリ巨乳か……!?

 

「なんだか……かっちゃん、最近変わったような感じがするな……」

「あー。ここ最近は放課後戦闘訓練やってたしな、俺と」

「初耳だよ!?」

 

 俺が思わず漏らしてしまった爆豪ちゃんとの秘密の逢瀬に緑谷のツッコミが入る。

 なんだ? 嫉妬か?? んん???

 

「あ、嫉妬してる? 可愛いね♥ 大丈夫、俺爆豪ちゃんにそんな気はないから」

違うよ!? その、かっちゃんがそんな、素直に訓練を一緒にやるなんて考えられなくて……!」

「まぁ最初は俺が放課後の暇つぶしに首根っこ掴んで運動場連れてって、からかいながらボコってたんだけど」

「幾野くん本当に自由人(フリーマン)だね!?」

「でも爆豪もどんだけマジで()っても怪我しない俺の事をサンドバッグとして気に入ったみたいで、たまに放課後練習する時に顔出すようになった」

「ええ……そんなことがあったんだ。僕も参加したかったな……」

「ごめんな。デクにだけは言うなって脅されてたから」

「あはは……かっちゃんなら言いそう」

「たまに他のクラスメイトは呼んでたけど」

「かっちゃん!!!」

 

 俺は爆豪ちゃんとの訓練の中で、俺の方からグイグイ押してコミュニケーションを試みた結果、とりあえず名前で呼んでくれる程度には仲良くなった。

 最初の頃は余裕がなかった感じだけど体育祭で結構変わったよな爆豪ちゃんも。

 アイツのどこまでも前を目指す姿勢はマジで見習うべきところだ。俺もからかいつつもアイツのいい所を学んでいる。

 ダチってそうやって一緒に前に進んでいくもんだと思うの。

 

「ま、演習の前に普通科目のテストがあるからな、まずはそっちからだね上鳴♥」

「なんで今語尾にハートつけた???」

「八百万ちゃん家の勉強会、俺も行くからね♥」

「いやな予感しかしねぇ!!!」

 

 そして今週末の休みの日に八百万ちゃんの家で勉強会を開くことになったのだった。

 

 


 

 

 勉強会当日。

 八百万ちゃんの家(死ぬほど敷地が広かった)に、芦戸ちゃん、梅雨ちゃん、葉隠ちゃん、尾白、耳郎ちゃん、俺、上鳴、八百万ちゃん、瀬呂、峰田が集まった。その順での会話が以下の通り。

 

「イクノの私服がマっっブ!!!」

「ケロ……いつ見てもスタイルが良すぎるわセンちゃん」

「えっちだよ!! センちゃん鎖骨がエッチ!!」

「目に毒!! 幾野が目に毒過ぎる!!」

「コレを男だとウチは認めたくない」

「安物で固めただけなんだけどね」

「これ街中で幾野と知らずに見たら絶対振り返る自信ある俺」

「似合ってますわイクノさん」

「素材良すぎだろ……ベストジーニストが見たら絶対声かけるわこの下半身」

「事案発生」

 

 俺は髪を軽く結い上げて遊ばせてベレー帽をかぶり、上は首元を開いて鎖骨まで見せた七分袖の白シャツに、下はぴっちりタイプのストレッチジーンズという当たり障りない私服で整えて来ていた。

 別にブランドものというわけでもない。帽子も上着もジーンズもレディースだけど。

 まぁ多少はアクセで飾ってるし、睫毛は軽くメイク入れて目はぱっちりさせてるし、最近顔が世間に売れてきたので濃度薄めの丸サングラスをつけては来てるけど。

 来る途中に読モのスカウトされたけど。

 

「昔っから何着ても似合うからなイクノは。でも今日はまだ控えめだぜ?」

「そうなのか峰田?」

「そういや峰田は同中だっけ。すごい時はどうなの?」

「フリフリ多めのガチ女子コーデで来る」

「もはやテロじゃん」

「失礼な」

 

 私服は気分で決めるんだけど、峰田と休みに街に繰り出す時とかはからかうためにガチめのコーデを決めてくることもある。

 それも中学時代でだいぶ耐性つけられたんで次はどんな過激な服でちんちん迷子にしてやろうかな。腕が鳴るぜ。

 

「ま、今日は勉強会だしな。流石に俺も勉強の邪魔するために来たわけじゃない。教えられるところは教えるからね」

「オイラも。八百万がメインだから基本は任せるけど、わかんない所とかあれば聞いてな」

「二人が普段の様子と打って変わってマトモが過ぎる!!」

「助かりますわ、この人数ですと中々一人一人にしっかり教えることが難しいですから」

「うおー! 私もちょっと中間やばかったもんね! やったろ! センちゃん教えてー!」

「ケロ、私も苦手な所を克服するわ」

「んじゃ早速はじめんべ」

 

 ながーいテーブルにお茶や菓子など準備しつつ、その後めっちゃみんなで勉強した。

 なお指導側は一番分かりやすいと人気があったのが峰田、次に八百万ちゃん、最後に俺だった。

 ちょっと男子ー。俺が教えるたびに鎖骨から露骨に目を背けるのやめなさーい。

 葉隠ちゃんはごくりと喉を鳴らさないでください(真顔)。

 

 


 

 

 そして演習試験当日。

 勉強会の成果もあって芦戸ちゃんも上鳴も普通科目は結構成績を残せたらしい。えらい。

 

「それじゃあ演習試験を始めていく」

 

 バスが準備された駐車場前に俺達A組はヒーロースーツに身を包んで集まった。

 今更なんだけど緑谷のスーツが入学当初からだいぶ変わってんな。俺あのちょっと抜けた感じのマスク結構好きだったんだけどな。パーカーみたいに後ろにつけっぱなしだ。寂しい。

 

「この試験でも勿論赤点はある。林間合宿いきたけりゃみっともねぇヘマはするなよ」

「……先生多いな……?」

「確かに……」

「5……6……8人?」

 

 耳郎ちゃんの呟きに頷く。葉隠ちゃんが数えた通り、なぜか8人の先生がそこに準備している。

 あと今の時点で突っ込んでいいのかわかんないけど相澤先生の捕縛布のところになんかおる。動いてる。

 

「諸君なら事前に情報仕入れて何をするか薄々わかってるとは思うが……」

「入試みてぇなロボ無双だろ!」

「花火! カレー! 肝試しー!!」

「残念!! 諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!!」

 

 うわ相澤先生の首元からひょっこり校長先生が出てきた!!

 えっずっとそこにいたの!? エッチじゃん。 相澤×校長……あるか……!?

 これは一刻も早く相澤先生をショタにしなければならないな。世界がそれを望んでいる。

 

 で、まぁ校長先生の話を聞けば、ロボとの戦闘訓練は実戦的ではなく、ヴィランが活性化している今はもっと対人戦闘、活動を見据えた実戦に近い教えを重視するらしい。

 それはとても素晴らしい事だ。ぶっちゃけロボ戦は入試に体育祭にと二回もやったしどっちも俺に取っちゃ手ごたえ欠片もなかったしな。

 

「諸君にはこれから、二人一組(チームアップ)でここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう!!」

 

 お、しかもチームアップか。こりゃ腕が鳴るぜ。

 無敵の俺が入る以上、俺と組んだ相手は絶対に赤点にはさせないぞ。

 

 そして先生方が独自に組んだペアと対戦相手は以下の通りだ。

 

 轟×八百万 VS イレイザーヘッド

 緑谷×爆豪 VS オールマイト(マジ?)

 芦戸×上鳴 VS 校長先生

 青山×麗日 VS 13号

 口田×耳郎 VS プレゼントマイク

 蛙吹×常闇 VS エクトプラズム

 瀬呂×峰田 VS ミッドナイト

 葉隠×幾野 VS スナイプ

 障子×切島 VS セメントス

 飯田×尾白 VS パワーローダー

 

 ふむ。俺は葉隠ちゃんと組んでスナイプ先生か。

 ……俺相手に、遠距離攻撃のスナイプ先生?

 これは……何か匂うな。

 

「匂うな」

「へ!? あああ、汗ケアはしてるよ!?」

「あっゴメン葉隠ちゃんの事じゃなくて。葉隠ちゃんはフローラルな香りだから大丈夫だよ」

「そ、そう?」

「もっと嗅いでいい?」

「ブレーキ!!」

 

 バスで移動する車内、隣同士に座る葉隠ちゃんと話しつつ、前の席に座るスナイプ先生の後頭部を眺める。

 ……装備が違う。以前USJで見た時と、顔を覆っているマスクの形が変わっている。

 カウボーイハットとマントで露出をかなり隠すタイプのスーツだが、どうにも様相が違う感じがするな。

 

 正直、タイマンの試験では俺が負けることはない。

 他のペアとは違い、俺の個性だけは相澤先生でも止められないのだ。普通にやるならまず合格するとは思う。

 しかし、教師側もそれは分かっているだろうし……この試験は何かありそうだ。

 

「匂うな」

「二巡目!?」

 

 俺はこの試験に絶対に何かあると確信し、改めて心を身構えた。

 

 



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40 大天使の輝きで世界が浄化されていく

独自設定タグが火を噴きます。


 

 

 

「ここは……」

「柱が多いね。ライトはある……けど、遮蔽物が多くて視界が通らなさそうだ」

 

 俺達二人はスナイプ先生と共に、演習試験の会場に到着した。

 天井の高い室内。柱がいくつもあり、それが視界を奪っている。

 ただこれ俺には通じないよな……もしここでかくれんぼでもしようってんなら俺が勝つ。

 

「幾野。葉隠。まずはルールを説明する」

「うす」

「はい!」

 

 スナイプ先生が銃の調子を確認しながら、今回の試験についての説明を始めた。

 説明はまとめると以下の通りだ。

 

 ・制限時間は30分

 ・生徒側の目的は、「ハンドカフスを教師に掛ける」or「どちらか一人がステージから脱出」

 ・格上相手に戦うか逃げるかの判断を問われる

 

 ……以上。

 しかし、それを聞いた時点で俺も葉隠ちゃんも、この試験が余りにも簡単すぎると感じていた。

 

 なにせ、俺がいる。

 逃げることが許可されているなら一瞬だ。俺がダイブワイヤーを使って出口に向かって飛べば、それを誰も止められない。

 葉隠ちゃんも同じ考えに至ったのか、俺の方を見て首を傾げている。

 ()()()()()()()スナイプ先生が、説明を続けた。

 

「……まぁ、ここまでが他のメンバーがやる演習内容だ。だが、お前らペアはさらにルールを課す」

「あー……来ると思った」

「……センちゃんがいるから、ですか?」

「そうだ。……はっきり言おう、幾野。お前の個性は強い。そしてお前はそれを自分で伸ばし、うまく活かす使い方ができている。教師陣の誰が……いや、全員でお前相手にこの試験をしても、誰もお前を捕まえられない」

 

 続けた説明の内容は、やはり俺という存在への注意。

 スナイプ先生が褒めてくれるのは嬉しいが、しかしそれで葉隠ちゃんに迷惑が掛かるのは嫌だな。んにゃぴ。

 

「だが、お前の個性でも難しい事はある。この試験はそれを見るために、さらに難易度を上げる」

「えぇ……いや俺はいいんすけど。葉隠ちゃんまでそのルールに沿うのはちょっと……」

「わ、私は大丈夫だよ! 頑張るよ!」

「安心しろ、葉隠の成績も難易度上昇を込みで査定する。決して条件未達成であっても無条件で赤点とはならん……成長を見るのが試験だからな。さて、では追加ルールの説明をする」

 

 その点だけ一応口に出したが、葉隠ちゃんはやる気満々だし、スナイプ先生もそこは考慮してくれるとのこと。

 まぁそれならとりあえずええやろ。ルールを良く聞こう。

 

「まず幾野、お前はハンドカフスを利用できない。葉隠の分だけを支給する。同時に、教師への直接攻撃を禁ずる」

「……ま、俺が触れたら基本終わりですもんね。……考えるに、俺が肉弾戦や締め技で対処できないヴィラン……脳無とか、そういう相手をするときの動きを見たがってます?」

「お前は頭も回るな。そう捉えてもらっていい……そして条件二つ目、この試験に脱出による合格はない」

「マジか」

「え、私も!?」

「ああ。つまりこの試験で勝利条件を満たすには、葉隠が俺にハンドカフスをつけるか正面から打倒するしかないという事だ」

 

 中々にシビアな条件じゃねーか。

 まず俺は脱出不可、直接の攻撃不可。防御とか支援はいいんだろうけど、これだけでやれることが随分と減る。

 そして葉隠ちゃんも同時に脱出不可ときた。これは困るな。

 つまり、俺達はこの室内で、スナイプ先生と籠城戦をしなければならないというわけだ。

 そして、そんなシチュエーションに至り、俺は一つ心当たりを覚えた。

 

「…………成程ね。俺に何をさせたいか何となくわかりましたよ」

「え、どゆこと?」

「それ以上は相談時間で二人で話せ。……最後に幾野、一つだけ伝える」

「なんすか?」

「この試験は、本来は二年でやる内容だ。そして去年の二年生の中で、()()()()()だけはお前と同じ条件を足されている」*1

「……!! ……そっか、スナイプ先生は今の3年の担任ですもんね」

「え、どなたさま……?」

 

 俺はこの条件を出されて、俺に求められている内容に何となく気が付いた。

 物申したい気持ちもあるが、続くスナイプ先生の言葉に俺の反論は許されなくなった。

 ……なるほどね? ミリオ兄さんの個性なら確かに、この条件は俺同様に速攻で勝利できる。

 だから俺と同じようなハンデを背負ったってことか。いや、むしろ俺にその条件を当てはめて適用させたって感じかな。

 

「通形ミリオはこの条件を呑み、見事に試験を突破した。……あえて聞こう。お前はこの条件を呑むか?」

「言い方ズルくないっすか? ……やりますよ。ミリオ兄さんが突破した試験で俺が怖気づけるわけがないでしょ?」

「いい顔だ」

「兄さん!? センちゃんお兄さんいたの!?」

 

 俺は試験内容の変更に了解の返事をする。

 後で葉隠ちゃんには説明しておこう。ただの従兄だから別に驚くことはないと思うけどね。

 

「なお、俺は超圧縮おもりをつけて動きは鈍らせるが……銃は使う。ゴム弾だが距離次第で骨も折れる威力だ。手加減はしない」

「ひぃ……!?」

 

 小さく悲鳴を上げる葉隠ちゃんの方をちらりと見てから、スナイプ先生が体重の半分の重量を装着するのを見る。

 なんか見覚えあんなあれ。

 あー。あれだ。

 

「……そのおもり発目ちゃんデザインのやつだ」

「ああ、デザインコンペで発目のが採用されたと聞いたな。知っていたのか?」

「一緒にデザイン考えたんで」

「え!? 発目ちゃんってあの体育祭の!? ……センちゃん? 詳しく話聞かせてくれる??」

「いや別になんも変なことはしてないですわよ?」

「痴話喧嘩は後でやれ。この試験が終わった後にな……10分の相談時間を設ける。その後、スタートの合図とともに開始だ」

 

 俺は葉隠ちゃんに問い詰められながらも一度出口側から離れた方の入り口に向かい、この試験に臨む作戦の相談に入った。

 

 


 

 

「まずゴメン。俺のせいでなんか試験難しくなった」

「センちゃんが謝る事じゃないよー! それに、勝利条件達成しなくてもちゃんと評価はするって言ってたし! やったる!!」

「うん……まぁそうなんだけどさ……」

 

 いったん入り口から外に出て葉隠ちゃんと作戦会議をする。

 俺のせいで余計な条件まで付けられて、葉隠ちゃんは俺を怒っていい立場なのにその顔は笑顔だ。やってやるぞという意気が見える。やはり大天使……結婚したい……。

 

 と、そんな甘い考えばかりしてはいられない。

 この試験は、間違いなく……

 

「……葉隠ちゃんが優先的に狙われることになるだろうな」

「え!? ……あ、でもそうか! センちゃん攻撃が効かないし!」

「いや、それも原因の一つなんだけど……違うんだよ、多分そういうことじゃない」

「へ?」

「この試験、俺から見ると明らかに意図してるものが見えるんだよね。頭に来るけど」

「……どういうこと?」

 

 俺は先ほどのスナイプ先生の説明で、はっきりとこの試験が条件戦になっていることを察した。

 それは、俺にとっては無敵の個性を持ってもどう動くべきか悩まされるもの。

 USJで、オールマイトが来なかったら果たせなかったこと。

 

「脱出が許されない……つまりマジのヴィラン戦の現場で、チームアップを組んだヒーローとどう連携するかがまず一つ。仲間を見捨てて一人だけ逃げるなんて出来ないっしょ?」

「ふむふむ?」

「……で、もう一つ。そのヒーローが()()()()()()()、俺が逃げ出さずにどう助けるかってところを見てるんだと思う」

「ふむ……え?」

 

 俺は葉隠ちゃんに俺の推理を述べた。

 恐らくはミリオ兄さんも同じような理由でこのルールを課されたのだろう。

 俺たちの個性は自分に向かう攻撃には無敵だが、どうしても誰かを守るという点では増強型の個性や火力型の個性に一歩劣る。

 もし相手がUSJで出てきた脳無並みのタフネスを誇った場合、市民や仲間を守れない可能性があるのだ。どうしたって個性が守りに向いてない。

 まぁ俺には奥の手の個性解除という手段はあるが。

 

 そして、その相方に葉隠ちゃんを選んでいるのも恣意的だ。

 俺は口にこそ出さなかったが、葉隠ちゃんは俺の言葉で察したのだろう。

 

「……つまりそれって……私が、()()()()()役ってこと?」

「表現が強いよ。……でも、俺の相方に葉隠ちゃんが選ばれたのは、そういう部分もある、と思う」

 

 業腹だ。

 これで仮に俺の相方が緑谷や飯田、峰田や轟、爆豪ちゃんなどであれば、どっちも攻撃に回れるから連携という面だけ見ればいい。脱出のスピードでも測れば十分試験になるだろう。

 けれど、葉隠ちゃんをここに入れる理由がそれしか思い当たらない。

 爆豪ちゃんワードセンスで言うならば、足手まといのヒーローを守りながらヴィランを倒すために俺がどうするかって話だ。

 

「……あったま来るー!!」

「だよね、俺もおこだよおこ。トサカに来てる」

 

 葉隠ちゃんがぷんすこと怒っている。手袋がわいわいと高く上がってるからこれは相当怒ってるな。

 もちろん俺も同様の怒りだ。

 まったく舐めてくれている。

 

 俺を、ではない。

 葉隠ちゃんを、だ。

 

 この子がいつまでも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。

 

「よし、葉隠ちゃん。スナイプ先生に一泡吹かせよう!」

「ん!! 絶対やってやるー!! どれだけ私が体育祭のあと()()()()()()()()()()()()()見せつけてやるんだから!!」

「授業じゃ使いどころないから見せてなかったもんね。俺は最低限、肝心要なところだけで動くようにするよ。俺の成績は全然気にしないでいい。葉隠ちゃんだけでスナイプ先生ボコっちゃおうぜ」

「了の解です!! 見ててねセンちゃん!!」

「信じてるよ、葉隠ちゃん」

 

 俺は体育祭で彼女の想いを聞いた後、放課後に体育館を借りた時には必ず訓練に付き合った彼女を間近で見てきた。

 立派なヒーローになるために、自分の限界を超えようとする彼女を見てきた。

 職場体験で近接戦闘も覚えて、自分の出来ることをがむしゃらにやってきた彼女を見ていたんだ。

 

 俺の大天使を舐めるなよ。

 俺たちは共に強くなっていけるんだ。

 

 その後、試験開始の時間まで、葉隠ちゃんと作戦を練りまくった。

 

 


 

 

【side スナイプ】

 

 

『レディイイイーーーー……ゴォォーーー!!!!』

 

 試験が始まった。

 俺は柱に身を隠し、幾野と葉隠、今回戦う二人がどのように攻めてくるかを待った。

 無論のこと、二人に対しての対策は万全だ。

 これが葉隠だけであればこちらも装備をいつものままにしていてもよかったが、幾野がいる以上対策は必須だ。

 

(幾野は見えても潜り抜ける。葉隠は見えないが物理は効く。二人を捉えるためにはこれが必要だった)

 

 まず、マスクには改造が施され、サーモグラフゴーグルが搭載されている。

 これで葉隠も幾野も基本的には見えるようになるだろう。

 そして幾野が床下に潜行して攻めてくる場合だが、脚裏には反射音を電気信号で捕捉するサポートアイテムを装着しており、潜行しているとはいえそこに何かいれば足裏に合図が来るようになっている。

 もっとも、これすらも潜り抜けられたら終わりではあるのだが。

 だが幾野は聡い。普段の思春期男子な様子とは打って変わって、戦闘では冷静な判断を行えることは、これまでの事件や体育祭での活躍が物語っている。

 とすればこの試験に求められていることも理解できているはずだ。

 直接攻撃もできないルールにしてある以上、葉隠をどのように守り、かばいながら俺に接敵させ、ハンドカフスをつけるかにこの勝負は掛かっている。

 

(……来たか)

 

 そして試験開始から一分。意を決して、というべきか、とうとう場が動いた。

 サーモゴーグルに頼らない、スナイパーとしての気配察知。それが敏感に相手の動きを捉えたのだ。

 

 影から僅かに顔を出してみれば、そこにはサーモゴーグルを介してこちらに走ってくる人型の赤い塊が見える。

 身長からして葉隠であることは間違いないだろう。赤外線越しだが、髪は幾野ほど長くはなく、尻回りもボリュームがない。

 向こうの陣営には幾野のウォールハックという感知方法もある。葉隠に俺の位置はバレていると思って間違いないな。

 

(だが、俺との距離は100m近くある……15秒で駆け抜けたとしても残弾を全て撃てる距離だ)

 

 俺は個性のホーミングを発動。

 サーモゴーグルの向こう、赤い人型を捕捉。

 確実に狙いを定めて銃を構える。ゴム弾だがこの距離でも肉離れはあり得る威力だ。

 流石に女子相手に顔は狙わないが、その代わり脚を削ぐ。

 

(さあ、どう守る幾野!)

 

 太ももに狙いを定め、引き金を握る指に力を籠めて、ゴム弾を放った。

 BANG!! と音を立てて放たれた銃弾は、見事に()()()()()

 

 ……なんだと?

 

(バカな!? 狙いは外れていない、個性を使ったのだ! それなのになぜ着弾音がしない!?)

 

 俺の個性は『ホーミング』。狙った対象に向けて確実に投げたものを当てる能力だ。

 それは銃撃も対象となる。俺が狙えば、それは必中だ。超圧縮おもりをつけて居ようと影響はない。

 だから、当たらないとすれば考えられる理由は二つ。

 

 撃った相手が幾野であり、個性を発動しているか。

 もしくは、俺の狙った対象、それそのものの位置がズレている可能性。

 

(くっ……!?)

 

 確かめるために再度サーモゴーグル越しの相手を狙う。

 今度は着弾面積の大きい腹部あたりを狙って、二発射撃。

 しかし今度も着弾音がしない。外れたのだ。

 もうお互いの距離は半分程度まで詰められてきている。

 

(ならば、あれは幾野か……!?)

 

 サーモゴーグルでは熱を映像として移す赤い視界しか得られない。

 俺は向かってくる相手を確かめるために、一度体を柱から出して、マスクに装着しているゴーグルをずらし、己が目で迫ってきている相手を見据えた。

 そして、そこには。

 

 ()()()()()()()

 

 いや、正確には空中に手袋と、ハンドカフスだけが揺れている。地面には靴が。

 つまり、俺に向かってきていたのは葉隠なのだ。

 

「なっ……!? なぜ当たらなかった!?」

 

 サーモゴーグルが故障していた? 幾野が何かやったのか?

 わからない。だが、もう情けをかける猶予はない。

 

 今は間違いなく自分の目で葉隠の位置を目視できている。

 いくら透明と言えども、手袋やハンドカフスが見えている以上位置は割れている。

 今度こそ狙いは外さない。

 

 俺は向かってくる葉隠に銃を向け、その上半身の高さを狙う。

 この距離だ。肋骨や胸骨の骨折はあるかもしれんが情けはかけん。

 

 そして、獲物を睨み、引き金を引こうとした、その瞬間だ。

 

「────集光屈折ハイチーズっ!!」

 

「がッ……!?」

 

 葉隠の体が、凄まじい光量で光り輝いた。

 薄暗い室内において余りにも強い光。俺はその眩しさにたまらず目を閉じてしまう。

 なんだ今の光は!?

 そんなことも出来たのか!?

 

「スナイプせんせー!! 覚悟ぉーっ!!」

 

 葉隠に至近距離まで距離を詰められ、俺は次の銃撃は一旦諦め、近接戦闘の構えをとる。

 近づけば、カフスをつけることができる。葉隠は職場体験で近接戦闘にも明るくなったため、遠距離を主とする俺相手には有利に立ち回れる。

 そう思われているならば見当違いだ。

 

 近づかれた時の対処を考えていないほど、プロヒーローは甘くない。

 

「ていっ! やっ……って、っとぉ!?」

「筋は悪くない……! 驚かされたぞ葉隠……!!」

 

 見えない体に、手袋と靴が躍動して攻撃が仕掛けられるが、俺はそれを体術を用いて捌く。

 なるほど、中々に厄介だ。相手の体の動きが見えないため、勘と経験でそれをさばき続けるしかない。

 だが、捌ける程度には動けているという事だ。プロヒーローを舐めるな。

 

「くぅー! おつよいー!!」

「ここまでやれた時点で評価は高い……! だが、俺も容易くやられはしない!」

 

 まさか正面から仕掛けて、接敵を成功させ、格闘に持ち込まれるとは思っていなかった。

 試合前の想像としては、隠れんぼのような……葉隠がいかにして自分にまで忍び寄り、ハンドカフスをつける勝負になるものかだと思っていた。

 幾野をおとりにして、葉隠を近づけると。そして、そうさせないための装備を整えていたというのに、想像の上を行ってきた。

 俺は葉隠を無礼(ナメ)ていた。

 だからこそ改めて気を引き締める。

 

「本気で教師が立ちはだかる試験だ! 悪いがもらった!」

「うわきゃあっ!?」

 

 葉隠の拳を大きく空ぶらせて、姿勢を崩したところで俺は後方に跳躍し、距離を離す。

 これだけ間合いが広がれば、銃撃が可能だ。

 もう一度あの強い光で目くらましをされる前に、脚を打って動きを止める。

 

 今度は迷わずに銃を構え、透明な葉隠の体を捉え、引き金を引く。

 カシュッ、と撃鉄が上がる音がして。

 

 そして、俺の銃は銃弾を放つことなく()()()()

 

「なッ……!?」

「───そりゃないでしょ先生。ここまで葉隠ちゃんが頑張ったんだからさ」

 

 ゴム弾と言えど射出には火薬による爆発を伴う。

 当然、実銃と同様の射撃機構で放たれている。

 そして実銃が暴発する理由は一つ。()()()()()()()()()()()()だ。

 

 俺が銃を撃つ瞬間に、地中から幾野が凄まじい勢いで飛び上がってきて。

 放つ瞬間に己の掌を銃口に潜り込ませて発射口を封じ、暴発を生み出したのだ。

 銃が暴発した衝撃で俺は手と腕に反動を受ける。当然にして激痛と痺れが走った。

 しかも、幾野の手には一切のダメージが入っていない。

 どれほど繊細な個性のコントロールができているんだこいつは……!!

 

 そして俺がこの試験で最大の隙を見せた瞬間だった。

 

「今度こそ隙ありぃー!!」

 

 銃をふさぐために俺の視界に現れた幾野の、その腹からハンドカフスだけが飛び出してきた。

 幾野が放ったのではない。葉隠が幾野の背中から潜り込んで飛び込んできたのだ。

 俺の手は銃の暴発で痺れている。今度こそ見えない拳を受け流せない。

 

 俺の手首に葉隠が仕掛けたハンドカフスがかけられて。

 この試験は、見事に勝利条件を達成されたのだった。

 

 

『───報告だよ。条件達成最初のチームは、幾野・葉隠チーム!!!』

 

 


 

 

「いよっし!! やったぜ葉隠ちゃん!!」

「いやったぁ!! ノーダメージ達成!!」

 

 俺は葉隠ちゃんとぺちーんとハイタッチを交わした。

 ハンドカフスをかけられ、手に軽いやけどを負ったスナイプ先生がそんな俺たちの様子に苦笑を零した。

 

「やられたな……いや、まさかだった。葉隠が真正面から突撃してくるとはな」

「ふふん。葉隠ちゃんの事舐め過ぎですよ先生」

「私はやれば出来る子ですっ!!」

 

 もう一度ハイタッチ。うん、葉隠ちゃんマジ大天使。

 俺はヒーローコスチュームの腰部にある医療キットを取り出して、先生の手当てをしながら、試験内容の検討を行う。

 

「色々と聞きたいことがあるが……まず、最初に俺の位置を察したのは幾野の個性だな」

「ええ。ウォールハックは俺の視界までですが望遠鏡も準備してますからね。それなりにすぐ見つけられました」

「で、インカムで私に場所を教えてくれて、私が突撃しました!」

「そこまではいい……分からないのは葉隠だ。俺はお前対策にサーモゴーグルを準備し、体温でお前を見ていた。だが、俺の狙いは外れた……そこが分からない」

「あ、やっぱサーモだったんすねそれ」

「センちゃんの予想が当たったね!」

 

 俺がここに来る途中のバス内で見たスナイプ先生の新装備。

 葉隠ちゃんを相手にするのだからサーモ関係のゴーグルでは? と予想を立てていたが当たったらしい。

 そして先生も首をひねっている点。なぜ葉隠ちゃんが最初の射撃を回避できたかについて。

 

「葉隠ちゃんはここ最近の訓練で透明化の個性を成長させて、光を操れるようになったんですよ」

「めっちゃ頑張りました!!」

「ああ、最後の全身での発光はそれか。あれもいい武器だ、使いどころ次第では切り札だな……だが、それでなぜ……いや、待てよ? 赤外線を見るサーモグラフを、もしや……?」

「予想の通りっすね。葉隠ちゃん、サーモグラフとかセンサーにも映らないような光り方って言うか……何ていうんだろ。波長をズラす光り方も覚えまして」

「めちゃくちゃ頑張りました!!」

 

 放課後訓練をする中で、俺は葉隠ちゃんの体の光の屈折に注目した。

 透明になっているということは光をどうにかして見えないように屈折させているわけで、それを操作できれば強いのでは、と。

 その結果まず生まれたのが集光屈折ハイチーズなのだが、葉隠ちゃんはただ光り輝くだけでは飽き足らず、あらゆる監視カメラ、センサーを誤魔化せないかと試行錯誤していたのだ。

 センサー関係は俺が発目ちゃんから借りてくれば準備できたからな。今や赤外線やサーモならかなり位置を誤魔化せるようになっている。

 

「で、それで射撃よけながら接近できればスナイプ先生は絶対自分の目で確認するだろうから、そこで集光屈折ハイチーズで目を潰して突撃して制圧しよーって話してて」

「上手くいったね! でもまさか近接戦闘で勝てないなんてー!!」

「ああ……いや、作戦としては悪くない。無論、俺もプロヒーローとしてそうなった時の対処も身につけていたからこそ抵抗できたが、葉隠は透明だから想像以上に捌きにくい。手袋を外していればもっとよかったな」

「あ、一応そこは俺から言ってたんです。手袋有りで仕掛けて、駄目だったら手袋無しに切り替えればさらに捌きにくくなるんじゃね? って。切り札は隠しておくものだと思って……」

「最後にハンドカフス投げる時には見えづらいように外してみたけど……もしかして最初からつけてなければよかった?」

「そこは今後の実戦経験で判断力を培うんだな。だが……最後まで葉隠には驚かされた。この難しい試験で葉隠を中心によくやった。満点だ」

 

 俺達が考えていた作戦も評価されたようで、先生の口から見事に満点の言葉が出た。

 やったぜ!! 葉隠ちゃん見返し作戦大成功!!

 

「やったな葉隠ちゃん!!」

「うん、ありがとー!! ……あれ、でもセンちゃんは? センちゃんも色々頑張ってくれましたよ?」

「ああ……勿論幾野も評価点は高い。まずこの試験の意図をすぐに察したこと。適切な作戦立案。最初の索敵。最後の銃を暴発させた技術……十分な高得点だ。しかし一点だけ感じたことがある」

「む。どういったところでしょう」

 

 俺はスナイプ先生の講評に耳を傾ける。

 

()()()だ。お前は人を助ける事、支援することへの努力は欠かさないが……その分、自分が何としても活躍して一番に、という強い気概が見えない。それは決して悪い事ではないが……緑谷や爆豪、他のクラスメイトと比較しても、どうにもお前は一歩譲った位置で物事を捉える癖があるな」

「あー……反論できないっすね。というか、それを変えようとも思っていないんすけど」

「言っただろう、悪い事ではないと。お前は……誰かを支える事に力を使いたいんだな」

「……ええ。俺の夢は、泣いてる誰かの隣にいられるヒーローですから」

「ん! センちゃんの目標だね! 私はそんなセンちゃんにも負けないくらい輝くヒーローになるっ!!」

「そうか。ならばいい。この難しい試験でお前たちはよくやった。幾野も満点としておこう」

「ヤッター!!」

「今夜はドン勝だよセンちゃん!!」

 

 そうしてスナイプ先生の講評と評価を頂いて、俺達は改めて笑顔でハイタッチ。

 先生の火傷の応急処置も済ませてから、葉隠ちゃんの手袋を回収し、俺達はリカバリーガールの待つ待機所に戻って行った。

 なんかさっき俺達が一番に突破とかアナウンスしてたからな。他のメンバーの試験も見れれば見ておきたいな。

 

*1
独自設定




クラネスハインド様よりファンアートを頂いたので紹介させていただきます!

①マブい私服で脳を焼くでセンちゃん

【挿絵表示】


前話の私服センちゃんを描いてもらいました。
すごい精度。筆者が脳内で描いてたセンちゃんがそのままイラストになってたからマジでビビったよね。
市民に顔バレしてるからサングラスの他に髪も弄るよなーとか思ってたらそのまま出てきて……作品への理解度が高すぎる。ありがてぇ!
隣の峰田まで含めて完成された一枚だと思います。
ファンアート心より感謝申し上げます。有難うございました!


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41 ぶっちゃけセメントス先生と13号先生はズルだと思う

 

 

 

「お二人とも見事な突破だったね! 怪我してないから私の手間も省けて偉いよ。ハリボー食べな」

「いただきまーす! ありがとーリカバリーガール!」

「ゴチです!」

 

 試験会場から戻ってきて、リカバリーガールの出張保健所に顔を出す。

 お互いに特に怪我なしと診察されていつものお菓子を貰いつつ、大量に設置されているモニターを眺めると、どうやら他のクラスメイトはまだまだ戦闘中のようだ。

 まぁ俺ら開始一分で葉隠ちゃんが突撃して突破したしな。期末試験RTA世界一位です。

 

「特に幾野。あんたは入学してから一回しか*1私の治療を受けてない。ここまで怪我しないヒーロー科の生徒は初めてだよ」

「そうなんです? でも、ミリオ兄さんとかも少なかったんじゃないですか?」

「あの子は無理な鍛錬でケガすることもあったからねぇ。あと……もう一つ、誉めておきたいことがある」

「え、なんでしょ」

 

 貰ったお菓子を葉隠ちゃんと並んでもっちもっちしながらリカバリーガールと話す。

 何気に俺、保健室利用回数ワーストだからリカバリーガールと普段話さないんだよね。これを機に仲を深めたいところあります。

 

「さっきの試験が終わった後さ。アンタは誰に言われるでもなく自然に、手を怪我したスナイプの応急処置に当たっただろ?」

「え。ああ、まぁ。俺がケガさせちゃいましたし、火傷でもちゃんと処置しないと後に響きますし……」

「センちゃんの腰の所のポーチ、色々入ってるよねー。治療セットもすっごいしっかりしたの入っててこないだ見せてもらったときびっくりした!」

「使い方もよく慣れてたさ。まず人の怪我を考えられるアンタは偉い。私が試験官だったら満点さね」

「なんとダブル満点をいただきました」

「やったねセンちゃん!」

 

 いえーい、と葉隠ちゃんとハイタッチ。いやぁ見てくれてる人は見てくれているもんですわ。

 俺がケガしない以上、複数人で長期戦闘なんてなったら俺が最後の砦になる。他人を治療する技術も必要だと思い、入学してヒーローコスチュームに治療キットを準備してからは使い方もめっちゃ学んだからな。

 褒められて素直に嬉しいです。リカバリーガール優しい……好き……流石に性的対象にはならないけど大人として好き……。

 

 閃いた。

 リカバリーガールも相澤先生と一緒に若返らないか?

 探すか……そういう個性……!!

 

「これで教室戻っても暇なんで、ここでみんなの試験見てていいっすか?」

「構わないよ。どうせ試験が終わったらみんなここに来るからね」

「おー……みんなやってるねー……あ、轟くんが宙づりになってる!」

「ウケる。相澤先生が相手じゃ個性は消されたか……? でも今は見られてないっぽいけどな?」

 

 さて、リカバリーガールからの了解も取れたので俺は皆の試合を見学する。

 どうやって突破するかな、みんな。

 

 

 

 まず轟と八百万ちゃんVS相澤先生。

 

 轟は足元にマキビシ巻かれてたけどそれ氷でも炎でも落ちる前に凍らせるか反発で横っ飛びすれば問題なかったよな???

 わからん。なんか逃げちゃいけないとかそんな雰囲気だったのかな?

 んで八百万ちゃんが逃げながらつらそうな顔してたけど、一度合流したところで轟の激励を受けて自分を取り戻してからは一気に動きが良くなった。

 

「はっ。轟の奴……やるじゃん」

「むー? どゆこと?」

「成長してるって話。体育祭の頃よりもずっとな」

 

 轟のやつ。

 ()()()に体育祭で()()()()()を、自分でもやりやがった。

 

 その後、八百万ちゃんが見事な作戦立案で相澤先生を捉えて勝利した。お見事だね。

 だが俺は一つだけこの試験に物申したいことがある。

 

「八百万ちゃんが捕縛布生成しているときの映像が斜め後ろからしかなかったぞ!? カメラ足りないよカメラァ!!!」

「せいッ」

「んげっふ!!」

 

 胸元をおっぴろげて布を生成してる八百万ちゃんを正面から映すカメラがなかったんですけど!!

 と大声で訴えたら葉隠ちゃんが拳を横っ腹に突き刺してきた。最近この子俺のオート個性が発動しないギリギリの威力を覚え始めてきたな。痛いです。

 

 

 さて、次は誰の所見るかな。

 

「あ、峰田くんがペアの瀬呂くん眠らされて一人になってる」

「ウケる」

 

 俺は瀬呂を何とか起こそうとしている峰田を見てプークスクスと腹を抱えて爆笑した。

 何やってんだアイツら。瀬呂お前……ミッドナイト先生のおっぱいにやられたか?

 全く俺でしっかり女体に耐性をつけておけとあれ程言っておいたのに。(言ってない)

 

「ま、峰田なら何とかするだろ」

「……センちゃん、峰田くんの事すっごい信頼してるよねー」

「アイツの力は俺が一番知ってるからね」

 

 なんとかなるやろ。俺は見る画面を別のものに映す。

 そこに映されていたのは……オールマイトに足蹴にされた爆豪ちゃんと、腕を掴まれた緑谷だ。

 

「おおぅ。オールマイト先生手加減しないなぁ」

「わー……すっごいヴィランっぽい」

「なんでオールマイトのコスチュームが何も言われなくて俺のぴっちりスーツが物申されるんだろうな。あっちだってスケベじゃん」

「流石に後で謝ろうセンちゃん!?」

 

 全身ぴっちりでムチッ♥ムチッ♥という擬音が似合いそうなオールマイトの筋肉マッチョな体を見せつけられて俺は首をひねった。

 なんでや。俺の方が魅力は上やぞ……!!

 

「さっきもちらりと見てたけど……爆豪ちゃんも緑谷との連携、決して悪くはないんだよな」

「普段は喧嘩してる二人だけど、訓練とかで組むときはしっかり連携取れてるよねー」

「お互いにお互いが出来ることが分かってるからだろうね。爆豪ちゃんも俺がトゲ取ったし」

 

 二人とも幼馴染なだけあって、お互いの事をよく見ている。

 爆豪ちゃんも自分が上に行くために躊躇わなくなってからは緑谷相手でも前ほどこじらせてはいない。

 であるからこそ、今のこの結果はオールマイトの強さが際立つ。

 まぁもちろん今だって本気ではないのだろうが、にしたってちょっとやりすぎである。

 

「……うわ。 今の緑谷大丈夫か……? 腰やってねぇか?」

「あれは痛いー!! 私オールマイト先生じゃなくてよかったぁ……!」

「でもちゃんと爆豪ちゃんがその隙に飛び込んで……お、あの構え。やるつもりだな、()()を」

 

 俺は見覚えのある爆豪ちゃんの手の形、ドルオーラのようなそれを見て体育祭を思い出す。

 決勝戦で俺相手にインナーを燃料にしてぶっ放したソレだ。あれをやるつもりだ。

 爆豪ちゃんの手の部分、手榴弾型のパーツこそ壊されてしまったものの手甲がまだ残っている。手汗はそこに溜めていたのだろう。

 リスクを取って緑谷の援護に出たか。マジで勝つために割り切る判断も早いな爆豪ちゃん。やっぱ天才だわ。

 

「ホント、懐かしいもんばっか見せてくれるぜ」

 

 その後緑谷が脱出する隙を稼ぐために身を削った爆豪ちゃんだが、緑谷はそんな爆豪ちゃんを置いていけなかったのかオールマイトにまさかの反撃に出る。

 うーん、あの判断は是非が分かれるな……俺は嫌いじゃないが。

 オールマイト先生が本気なら、緑谷の拳を受けた後でも反撃を繰り出せただろうが、なぜかそこを追わなかった。

 その前の時点で脱出は確定したと判断して追撃しなかったのかな?

 まぁいい。とりあえず気絶した爆豪ちゃんを引きずって緑谷が脱出し、無事試験は突破した。

 

 

 その後、重症患者になった爆豪ちゃんと緑谷がオールマイトによって運ばれてきた。

 寝かされた緑谷がお尻を高く突き出すような構えでベッドに四つん這いになっている。

 

「そんなにお尻突き出して……緑谷、誘ってんの♥?」

「絶対言われると思ったけど今マジで腰ヤバいから黙っててくれる???」

「ごめん」

 

 そうだよな、ちょっとマジでゴメン。さっきのオールマイトの腰への殴打ヤバかったもんな。

 リカバリーガールもギリギリだったと言っている。オールマイトはさぁ……手加減がヘタクソな人?

 爆豪ちゃんはしばらく目覚めないってことで校舎内のベッドへ。轟たちもそっちに行ったらしい。

 緑谷はここに残って俺達と一緒に他の試験を見届ける様だ。

 

 

 次に見たのは常闇・梅雨ちゃんペアとエクトプラズム先生。

 

「胃袋裏返した後の梅雨ちゃんの口から液体が零れてるのちょっとエッチだな」

「見るべきところはそこじゃないよね!?」

「ダメだよセンちゃん!? 欲望マン出てるよ!? 抑えて!?」

 

 んにゃぴ。

 でも常闇も黒影の使い方に磨きがかかってたし、梅雨ちゃんもいい動きしてた。見事な勝利だったと思うね。

 

 

 次は芦戸ちゃん・上鳴VS校長先生。

 

「んー……キツいなあれは」

「設定が厳しいよね……特殊な機動力のない二人が工業地帯って……」

「うおー! 頑張れ上鳴くん! 三奈ちゃーん!!」

 

 ちょっとあれは厳しそうだな。立体起動ができない二人がめちゃくちゃ壊れていく建物から逃げるだけになっている。

 校長先生の場所を見つけられればいいけど二人は索敵も厳しい。相性差で全てを語りたくはないが、マジで相性が悪い。

 ちょっと意地悪だな……頑張れ二人とも。諦めなければ途中の動きが評価されるかもだぞ。

 上鳴は俺との体育祭思い出せ。勝てなくてもやれることあんだからよ。

 

 

 次は耳郎ちゃん・口田VSマイク先生。

 

「これは分かりやすいね」

「な。ってなわけで葉隠ちゃん、これが何を意図した試験なのか100文字以内で答えてください」

「急に振られた!? え、えっと……二人とも音に関係する個性だから、マイク先生の大声で邪魔されちゃうって事!!」

「大正解。耳郎ちゃんは耳もいいからかなりきついな……今相殺を試みたけどやっぱ厳しいか」

「先生の音の方が大きいからね……うわ、耳郎さん耳から血が出てる……!」

「いたそー! うわー頑張れ口田くん!! 耳郎ちゃんを守ってあげてー!!」

 

 そして見守っていたところ、虫嫌いの口田が意を決して虫を支配。

 余りにキモい虫の攻撃でマイク先生が気絶した()()をして、無事二人で脱出した。

 んー……口田はよくやったけど耳郎ちゃんがちょっと活躍できなかったかな。相性って怖いわ。

 

「すごいや……! みんな着々とクリアしてく! みんな決して諦めない立派な雄英生徒だ……!!」

「そうさねぇ。見な、あの子なんて仲間まで何とかしようとしとるよ」

「え? あ、峰田くん……!」

「やってんなぁアイツ」

 

 俺は峰田・瀬呂コンビの画面に目を向ける。

 そこにはほっぺたがものすごくはれ上がった瀬呂と、それに更なるビンタを繰り出している峰田が見えた。

 ミッドナイト先生からどうにか瀬呂を取り返したのだろうが、出口に構えるミッドナイト先生に対抗するために瀬呂を起こしているのだ。

 ぶっちゃけ、俺の知るミッドナイト先生の実力なら、峰田一人で完封が可能だろう。

 一人だけ脱出するなら難しくない。だが、アイツはダチを助けることを選んだ。

 えらい。後で自撮り送ってやろ。

 

『……ぁ、峰田……?』

『ようやく起きやがったな瀬呂ぉ!! お前オイラを助けるためとはいえ先生に近づきすぎなんだよぉ!!』

『あ……マジ? 寝てたか……ワリ、足引っ張った』

『こっからだろうがよぉ!! もっかい仕掛けんぞ!! ミッドナイト先生が出口で待ってっからよぉ!! ひぃひぃ泣かせてやるんだろぉぉぉ!?』

 

「峰田くんの欲望マンな所出てるね……」

「センちゃんに似てるよねーああいう所」

「あっちがオリジナルだからな?」

 

 さて、ようやく瀬呂が目覚めたらしい。

 しかし試験時間は残り少ない。他のペアも次々と試験を突破している中で、時間のアドバンテージが少ない。

 

 だが、俺は全くあの二人を心配していなかった。

 だって峰田だぞ?

 この程度の試験で落ちるわけないだろうが。

 

『さて……残り少ない時間で、どうするのかしらね二人は……─────ッ!?』

『ッオラァァッッ!!!』

 

 50m以上離れた地点から、ミッドナイト先生に向けて峰田がもぎもぎを大遠投。

 その肩はクラス内で最強だ。100m以上の距離をレーザービームの軌道で投げられる程度には峰田は鍛えている。

 狙いも正確にミッドナイト先生に飛んでいくが……流石にそれの直撃を許さない。

 ミッドナイト先生が手に持った鞭でもぎもぎを弾き落とした。

 

 だが、当然にしてそれは一発で終わるはずもない。

 

『グレープラッシュ・スナイプッ!!!』

『なっ!? これだけの数を、この速度で……!?』

 

 峰田の速射砲によるもぎもぎの連射がミッドナイト先生に続けざまに放たれる。

 それを一つ一つ鞭で迎撃するミッドナイト先生だが、当然にしてもぎもぎは鞭にくっついて離れない。

 5個も落としたところで、既にそれは鞭として機能しない、歪な紐となっていた。

 そしてそれが地面に落ちれば大地と接着し、武器としても使えなくなる。

 

 その瞬間を狙って、本命の一発が峰田からブン投げられた。

 

『隙ありだぜ先生っ!!』

『くっ、鞭と手が密着させられて……!? なんて精密投擲! けれど出口付近は私の眠り香が舞っているわよ!?』

『二度は不覚とらねぇっす!! 峰田ァ!!』

『おうよっ!!』

 

 峰田が最後に投擲したもぎもぎがミッドナイト先生の手と鞭を固定し、出口付近で身動きを取れなくした。

 だが先生が言うように、このまま突撃しても眠り香が残っている。

 それを抜けるためには呼吸無しで一瞬で突き抜けるしかない。

 試験会場は平地。跳峰田だけでは速度を出し切れない恐れあり。

 

 だが、そこで目覚めた瀬呂が活きる。

 瀬呂がテープを峰田の腰に巻いて、まるでハンマー投げのようにぐるぐると峰田を勢いよく振り回しはじめた。

 峰田の体重が軽いからこそできる作戦だな。

 これで決まりだ。

 

『行くぜぇ!! 跳峰田withハンマー投げスタイルッ!!』

『そのままぶっ飛んでけ峰田ァ!!!』

 

 遠心力を足された初速で出口に向かい放たれた峰田が、その勢いを殺さぬように跳峰田でさらに加速。

 跳峰田の真骨頂は、速度を落とさず加速を重ねて跳躍が出来ることにある。

 本来は閉所で跳ね回り続けることで生み出す瞬発力を、瀬呂のテープによるハンマー投げで代用した。

 その勢いで思いっきり大きくもぎもぎジャンプ。

 出口ゲートまで峰田の体が吹っ飛んでいった。

 

「やるぅ、峰田くん!! 瀬呂くんも最後の機転ナイスだよー!」

「瀬呂くんを起こしたうえで、きちんと二人の長所を活かして突破……! 流石峰田くんだ!!」

「峰田はワシが育てた」

 

 うんうん。やっぱやる時はやるヤツなんすよアイツは。

 

「うん、味方を最後まで見捨てず、お互いに出来ることを使って脱出した。あの子もやるね……『峰田・瀬呂チーム条件達成!! そしてここでタイムアップだよ!!』

 

 そして、峰田たちが試験をクリアしたのと同時に、リカバリーガールがタイムアップを宣言したのだった。

 

 

 

*1
心操との組手で腹と太腿に怪我した。なお心操はぼこぼこにされた。



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