じゃしんに愛され過ぎて夜しか眠れない (ちゅーに菌)
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番外編
番外編 パック開封デスマッチ





「ボクは人間が憎いのだ! ロコちゃん!!」

「止めてハム太郎!? 闇の力に負けないで!」

「へけっ!!!」






 

 

 

 

 

「大変よリック!? 十代!?」

 

『大変でーすよー!』

 

「うん? 血相を変えてどうしたんだ?」

 

「あら、明日香じゃない?」

 

「あっ、明日香クン!?」

 

『ますたぁ……?』

 

 とある休日の昼下がり。余りに暇だったので、オシリスレッド寮生からなんとなく募ってみたモリンフェンとシーホースを使い、暇そうにしていた十代、丸藤、万丈目らと、朝から俺に着いてきた藤原を加えたメンバーでトランプタワーを作っていたところ、明日香とその精霊のサイバー・チュチュがやって来た。

 

 最近のオシリスレッドではもっぱら万丈目が、袖で溢れた醤油やらソースやらを拭いているのをたまに見掛ける。黒の一張羅を時々、無理矢理洗濯しているサイレント・マジシャンが口を尖らせて不機嫌そうだが、対岸の火事なので気にしてはいけない。というか、万丈目が小火ならこっちは山火事である。

 

 食堂の立て付けの悪い扉を勢いよく開け放ったせいで、机を退けてそこそこの段数を床から積んでいたモリンフェンとシーホースのトランプタワーが崩れたが、元よりネタになるだけのゴミみたいなカードなので仕方あるまい。

 

 さっきから俺の片腕にしがみついてくるせいで、トランプタワーの建造難易度を上げていた藤原を目にした明日香は、半眼になると溜め息を漏らす。

 

「雪乃……。やっぱり、ここにいたのね。寮に2日帰ってないから鮎川先生心配してるわよ」

 

「規則は破るためにあるの。ふふっ、それにまた怒られたらデュエルで解決するわ」

 

犯罪(ストーカー)には手を染めても規則はちゃんと守る天音ちゃんに謝れ」

 

「いや、それどっちもどっちじゃないっスか……?」

 

 丸藤に諭されて、現実を突き付けられている気がするが知らないったら知らない。俺が被害届を出さない限りは犯罪じゃないんだよ多分。

 

 デュエルアカデミア本館から近いということは、オシリスレッド寮から無茶苦茶遠いオベリスクブルー女子寮から走ってきたのか、明日香は肩で息をしていたので、とりあえずお茶を渡して置こう。

 

「あら、ありがとう――」

 

「それより明日香! 大変な用事ってなんだ?」

 

「あっ……それよ十代!」

 

 明日香は用件を一瞬忘れていたようで、少し溜めるように間を開けてから目を見開いて叫ぶ。

 

 

「メデューサ先生が――"パック開封デスマッチ"をするからいつもの面子を集めろって言ってきたわ!?」

 

『そうなんですっ!』

 

「パック……」

 

「開封……」

 

「デスマッチ……?」

 

 

 邪神クラスの蛇神がデスマッチという単語を使うだけで、デュエルモンスターズの精霊は即逃げ出しそうだが、頭についた妙な単語のせいで、聞きなれない言語と化したそれは――死ぬほど馬鹿らしい事をしようとしているということだけはよくわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《これより"パック開封デスマッチ"を開催します!!》

 

 

オシリスレッドに居合わせたいつもの面子――俺、十代、丸藤、万丈目、明日香、藤原の5名に、途中で偶々居合わせたツァンを加えた6名は、デュエルアカデミア本館の購買部へ向かった。

 

 そして、こちらを見るなりメデューサ先生の姿になっているヴェノミナーガさんは、何故か拡声器を使って声を大きくしつつそう高らかに宣言する。

 

 見ればその傍らには、風呂桶のような大きさのプラスチックケース一杯に詰まった色とりどりのパックが入っており、少しそれらを知るものなら、ほとんどが最新弾ではなく古いパックだということに気付くだろう。

 

 また、ヴェノミナーガさんの目には本気(マジ)という意志がありありと浮かんでいるのだが、悪戯っぽくもあるため、長年の経験からどうにも真のデュエルや精霊の力が絡むようなことを仕出かすようには思えず、非常に微妙な気分になった。

 

「なんだ……? パックの開封でも手伝わされるのか?」

 

「でもメデューサ先生のことっスから普通にやらせる気ないっスよ万丈目君」

 

「ボクなんでこんな得体の知れない集まりについて来ちゃったんだろう……」

 

 本当になんでツァンはついてきてしまったのだろうな。食堂までの廊下で会ったので、もしかするとお昼前だったのではないかと考えると本当に可哀想でならない。

 

 どうせ、いつものヴェノミナーガさんの思い付きで、傍迷惑なイベントかと思っていると、働いている時間のため購買部の制服を着ているサンという名の店員――砂の魔女が、何故か視界の隅でそわそわしている様子が映る。

 

 そちらに目を向けると、ピクリと反応した後、あたふたしつつ目を泳がせてから意を決したように手をきゅっと握り締めてから俺の前までやって来た。

 

「こ、こんにちは……。今話していい……?」

 

「うん、いつでも話していいぞ」

 

「――――!」

 

 そう言うと砂の魔女は表情と口を少しだけ綻ばせる。本当にこのやたら細やかで可愛らしい人は精霊に変えられた人間とかではないのだろうか?

 

「そ、その……購買部に古いパックの在庫が結構溜まっていて……」

 

「ああ、買われない在庫か」

 

 場所が購買部かつケースの中身の古いパックを見ればなんとなく察していたが、やはり在庫パックの山らしい。

 

 この世界ではパックから既存の全てのカードが出る闇鍋である。そのため、新パックが追加されても新規カードが出る確率すら非常に少なく、加えてアニメオリカや時代を先取りして存在している謎カードなどの存在から同時期のOCGよりもカードプールが若干多い。結果、とんでもないレアカードの高額インフレを引き起こす要因のひとつになっているのだ。

 

 まあ、型落ちしたパックは小売店では若干値引きして販売されるため、大人買いしやすくもなっているため、基本的に在庫が過剰に余るようなことはあまりない。少ないお小遣いで子供がやや多めにパックを買えるので、ショップでは見てて微笑ましい限りである。

 

 しかし、このデュエルアカデミアではデュエリストの卵のためにパックがある程度絞られているので話が異なる。前世のように数十枚とはいかなくとも、かつてあった"EXPERT EDITION"のように数百枚程度には纏まってパックが販売されているのだ。

 

 そうなるとパック毎に人気というものが生まれるため、やたら余るパックが出て来るのも当然と言えるだろう。

 

「ヴェ――メデューサ先生にどうにか買って貰う方法はないかと相談したら……急に全部購入して……」

 

《まさにDEATH☆GAME!!!!》

 

「こうなったのか……」

 

「こうなりました……」

 

 こうなってしまったなら仕方ないな……うん。ヴェノミナーガさんは台風みたいな自然災害的な何かだから過ぎ去るのをただ待つしかない。

 

《ちなみに! 今、この購買部には他の生徒が入って来ないように人払いの結界ならぬ"幻影(げんえい)(かべ)"をあなた達が入ってきた直後に立てて置いたので、このデスゲームから逃れることは出来ませんよ……!》

 

「あっ、入り口が消えてる!?」

 

幻影(げんえい)(かべ)

星4/闇属性/悪魔族/攻1000/守1850

このカードを攻撃したモンスターは持ち主の手札に戻る。ダメージ計算は適用する。

 

 どうやらヴェノミナーガさんは是が非でも俺たちに遊んで貰いたいらしい。無茶苦茶構ってちゃんだからなぁ……この人。

 

 しかし、既に色々と諦め掛けていた俺を含むヴェノミナーガさんの関係者を他所に、万丈目だけは怒りと挑戦的な視線を向ける。

 

「くッ!? こんな茶番やってられるか! 手札に戻るだけならぶっ壊せ、サイレント・マジシャン!」

 

『はいっ! サイレント――』

 

《あらあらいいんですぁ……? ちなみにお外の廊下はラビリンス・ウォールを貼ってマップとして異界化してあるので、無理矢理突破すると必ず迷子になりますよ?》

 

「なんでコイツ、こんな明らかに下らないことに用意周到なんだ!?」

 

迷宮壁(めいきゅうへき)-ラビリンス・ウォール-

星5/地属性/岩石族/攻 0/守3000

フィールドに壁を出現させ、出口のない迷宮をつくる。

 

 うん、というか生徒が入れないようにしてるのって、ラビリンス・ウォールくんの律儀な仕事ぶりのお陰じゃないかな。

 

「なんだ。パックくれるのか先生?」

 

《もちろん、あげますよぉ……ただぁしッ!》

 

 ヴェノミナーガさんはわざわざ言葉を区切って更に続ける。

 

《負けた場合は……! 私かリックさんと特別なデッキでデュ↑エル↓して制裁されて貰いますよォ!?》

 

「なんで俺まで仕掛人の側に回らされてるんですか?」

 

《なぜなら……今の私は制裁を司る神だからです》

 

 そう言いながらヴェノミナーガさんは何故か頭を触る。するとそこには羽の付いたカチューシャのような冠を被っているが、そもそも元々ヴェノミナーガさんは神なので何が言いたいのかさっぱりわからん。

 

《後、ペットの責任は飼い主の責任だからです》

 

「その身体でとんでもないこと言わないでください」

 

 答えになっているようでさっぱり答えになっていないヴェノミナーガさんの話をこれ以上聞いても、こちらの精神を磨耗させるだけだと思い、心を無にしてそれ以上の言及は避けた。

 

 ちなみに先生をしているときにこのテンションや言動は色々と不味いのではないかと思われるかもしれないが、最初にカニパンして生徒を襲っていた頃から似たようなテンションのため、恐らくデュエルアカデミアの生徒は気にも留めないと思われる。ヴェノミナーガさんの扱いは、ちょっと残念な不思議系クソ強先生なのだ。

 

「で、ルールは?」

 

《皆さんで私が購入したこのカードパックを100パックずつ開封して貰い、出したレアリティを得点にして、低い人から一人ずつ抜けていき罰ゲームデュエルをしてもらうのデスッ!》

 

「そうですか。まあ、ちゃんと自分のお給料で購入するようにしたなら何も言いませ――」

 

《えっ?》

 

「えっ? ――テメェ、また他人(ヒト)のカードを勝手に……」

 

《ちょっと何言っているかわからないです》

 

 まあ、勝手に使われる金使いに関しては正直、ヴェノミナーガさんからは感謝してもしきれないぐらいのカードによるリターンを既に貰っているため、全然問題ないのだが、そんなことを一言でも仮に口走れば、とんでもなく付け上がりそうなため注意しなければならない。後、モラル的に気に入らない。

 

 人様のカードを無断で使うな。頼むから使うな。

 

《――さあ、そして点数はスーパーレアが1点! ウルトラレアが2点! シークレットレア、アルティメットレア、ウルトラシークレットレア、ホロレアなどのウルトラレア以上のレアリティは3点に統一します! 分かりやすいでしょう!?》

 

 ジト目で睨んでいると、ヴェノミナーガさんはそそくさと遊☆戯☆王の漫画原作初期みたいな闇のゲームのルール説明に入る。時々忘れそうになるが、遊☆戯☆王って最初の方はカードゲームじゃないものな……。

 

「パラレルレアとかは?」

 

《ノーマルカードなどもパラレルレアになりえるので、元のレアリティで計算します。他の似たようなレアリティも同様です! そして、今回私に勝てなかった場合には――》

 

 ヴェノミナーガさんはまた言葉を区切ると、購買部の隅に何故か掛かっていたカーテンを捲る。

 

 そこには白い粉で満たされた巨大なボウルのような物体が置いてあり、その真上でラーイエローの制服を着た生徒が縛られて雑にぶら下げられていた。

 

《食堂で廃棄予定だった日切れのホットケーキミックスの海に三沢っちがダイブすることになりますよぉ……?》

 

「くっ……皆すまない……。起きたらこんなことになっていた……」

 

「三沢ァ!?」

 

「三沢くん!?」

 

「ええ……」

 

 しかもよく見ると、三沢の胸ポケットにはリカちゃん人形の男性が差し込むように入れられていた。三沢はピケル好きなぐらいで、そのような趣味は無かった筈だが……。

 

《あっ、ちなみにそれは香山ピエールです。リカちゃんのお父さんで、36歳の音楽家のフランス人ですよ》

 

 えっ、リカちゃん人形ってちゃんとそういう設定あるんだ……。

 

 そんなことを考えているとヴェノミナーガさんは念力のような力で三沢の胸の香山ピエールを抜き取り、自身の服の胸ポケットに差し込んだ。何故か、ブッピガンという擬音が聞こえ、悪魔合体してしまったような感覚を覚える。

 

《アッアッアッアッアッ!! さて、デスマッチを始めようじゃないか! リックくん! 私はデスマッチ無しでは生きていけない身体なのだよ!》

 

「メデューサ先生どうしちゃったの……?」

 

「発作みたいなものだから気にしなくていいぞ、ツァン」

 

 そんなこんなで仕方なくヴェノミナーガさんのパック開封デスマッチが始まった。

 

 そして、ヴェノミナーガさんを含めた7名が100パックをそれぞれ剥き――。

 

 

ウルトラレア(2点)

千年原人

星8/地属性/獣戦士族/攻2750/守2500

どんな時でも力で押し通す、千年アイテムを持つ原始人。

 

ウルトラレア(2点)

エビルナイト・ドラゴン

星7/闇属性/ドラゴン族/攻2350/守2400

邪悪な騎士の心に宿るドラゴンが実体化したもの。

 

スーパーレア(1点)

ジャック・ア・ボーラン

星7/炎属性/アンデット族/攻1500/守2200

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札からアンデット族モンスター1体を捨てて発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):相手メインフェイズに、自分または相手の墓地のアンデット族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。その後、表側表示のこのカードをエンドフェイズまで除外する。この効果で特殊召喚したモンスターは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

 

「5点か……」

 

 まあ、確率的にわかってはいたが、100パックぐらいではこんなものであろう。むしろ、この世界の激渋パックかつレアリティで言えば無茶苦茶いい引きなぐらいである。

 

 後、現実なら千年原人とエビルナイトドラゴンのウルトラレアとか、数百万の価値がありそうだな。まあ、こちらの世界でも普通にレアモンスターのため、数百万の価値はする。まあ、エビルナイト・ドラゴンはカーボネドンで出せる通常モンスターなので普通に悪くないな。

 

カーボネドン

星3/地属性/恐竜族/攻 800/守 600

「カーボネドン」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが炎属性モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に発動する。 このカードの攻撃力は、そのダメージ計算時のみ1000アップする。

(2):自分メインフェイズに墓地のこのカードを除外して発動できる。 手札・デッキからレベル7以下のドラゴン族の通常モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

 

 しかし、ジャック・ア・ボーランか……うーん、強力ではあるが、俺のデッキではあまり使わないだろうなぁ。どちらかと言えば――ああ、そうだ。

 

「天音ちゃんの方が使えると思うからあげる」

 

「末代まで大切にするわ……」

 

 それはちょっと重過ぎるんじゃないかな。

 

 それぞれ引いたカードをあげたり交換してみたりと多少ワイワイと過ごしていたが、敗者は直ぐに決定した。

 

「いや、普通にみんな引き良すぎッスよ……」

 

 丸藤翔 1点

 

 まあ、100パック程度で引けただけでもマシなので、丸藤の言い分はごもっともであろう。

 

《早速、罰ゲーム! さあ、このデッキでリックさんは翔くんとデュ↓エル↑してください!》

 

 そんなことを考えて多少気の毒に思っていると、ヴェノミナーガさんが俺にやや枚数の多いデッキを投げ渡して来る。ちなみに神どころか大人気ない彼女は17点も取ってやがるためほぼ独走状態である。ふざけんな。

 

 だいたい、誰がデュエルなんて……し……て……やる……か――。

 

「………………はーん、よし丸藤。デュエルしようじゃないか」

 

「え゛!? こ、怖いッス!? なんでデッキを確認しただけでそんなにイイ笑顔になったんスか!?」

 

「翔いいなー」

 

 

 

 そんなこんなで丸藤とのデュエルが始まった。まず、丸藤に先攻を渡してから俺のターンである。

 

「ドロー」

 

手札

5→6

 

 カードを確認しつつ、丸藤のフィールドを見る。

 

ジャイロイド

星3/風属性/機械族/攻1000/守1000

このカードは1ターンに1度だけ、戦闘によっては破壊されない(ダメージ計算は適用する)。

 

ジャイロイド

DEF1000

 

 まあ、壁としては悪くはないが、魔法罠ぐらいブラフでも貼るべきだな。さてさて――ちょっと試させて貰おうか。

 

「俺は手札から通常魔法、"(となり)芝刈(しば)かり"を発動。自分のデッキの枚数が相手よりも多い場合に発動できる。デッキの枚数が相手と同じになるように、自分のデッキの上からカードを墓地へ送る。効果により、丸藤のデッキ34枚と俺のデッキ54枚の差――20枚のカードを墓地に送る」

 

「え゛……なんスかその意味わからないカード」

 

 芝を苅るだけで墓地が貯まるとんでもないカードだが、利用価値がわからなければゴミのように見えるカードの代表格だな。

 

「そして、"(やみ)誘惑(ゆうわく)"を発動。自分はデッキから2枚ドローし、その後手札の闇属性モンスター1体を除外する。除外するカードは"ネクロフェイス"だ。効果によりこのカードがゲームから除外された時、お互いはデッキの上からカードを5枚ゲームから除外する」

 

「あれは天音がよく使ってるカードね」

 

手札3→5

 

ネクロフェイス

星4/闇属性/アンデット族/攻1200/守1800

このカードが召喚に成功した時、ゲームから除外されているカードを全てデッキに戻してシャッフルする。このカードの攻撃力は、この効果でデッキに戻したカードの枚数×100ポイントアップする。このカードがゲームから除外された時、お互いはデッキの上からカードを5枚ゲームから除外する。

 

除外0→6

 

「俺は墓地の"妖精伝姫(フェアリーテイル)-シラユキ"の効果を発動する。このカードが墓地に存在する場合、自分の手札・フィールド・墓地からこのカード以外のカード7枚を除外して発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。効果により墓地からカードを7枚除外」

 

妖精伝姫(フェアリーテイル)-シラユキ

星4/光属性/魔法使い族/攻1850/守1000

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを裏側守備表示にする。

(2):このカードが墓地に存在する場合、自分の手札・フィールド・墓地からこのカード以外のカード7枚を除外して発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

 リスと白雪姫を合わせたような可愛らしい小さなケモノの女の子が特殊召喚された。

 

妖精伝姫(フェアリーテイル)-シラユキ

ATK1850

 

除外6→13

 

「か、可憐な……!?」

 

 吊るされた男こと三沢が何故か反応したが、聞かないであげよう。誰にだって隠れた性癖のひとつやふたつあるものである。

 

「あの見た目で、攻撃力1850もあるのね……」

 

『チュチュじゃ、チュチュボンになっても勝てません……』

 

「そんなことないわ! あなたはいつだって私のオンリーワンよ!」

 

『えへへ、明日香さまー!』

 

 何故か抱き着いている明日香とサイバー・チュチュ。なんだか、最近明日香が吹雪さんに似てきたような気がしないでもないが、本人に言ったら絶望しそうなので止めておこう。

 

「更に墓地の"機巧蛇(きこうじゃ)叢雲遠呂智(ムラクモノオロチ)"の効果発動。このカードが手札・墓地に存在する場合、自分のデッキの上からカード8枚を裏側表示で除外して発動できる。このカードを特殊召喚する」

 

「ナイトメアとメデューサ教諭に墓地を与えてはならんな……」

 

機巧蛇(きこうじゃ)叢雲遠呂智(ムラクモノオロチ)

星8/闇属性/機械族/攻2450/守2450

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードが手札・墓地に存在する場合、自分のデッキの上からカード8枚を裏側表示で除外して発動できる。このカードを特殊召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):自分のEXデッキからカード3枚を裏側表示で除外し、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊する。

 

 フィールドに金と黒のカラーリングをした獣のような三つ首の機械蛇が特殊召喚された。

 

機巧蛇(きこうじゃ)叢雲遠呂智(ムラクモノオロチ)

ATK2450

 

除外13→21

 

「ヒィ!? 言わんこっちゃないッス!?」

 

「更に通常魔法、"左腕(ひだりうで)代償(だいしょう)"を発動。このカードを発動するターン、自分は魔法・罠カードをセットできない。このカード以外の自分の手札が2枚以上の場合、その手札を全て除外して発動できる。デッキから魔法カード1枚を手札に加える。俺は"強欲(ごうよく)貪欲(どんよく)(つぼ)"を手札に加え、そのまま発動する」

 

手札0→1

 

除外21→25

 

「このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。自分のデッキの上からカード10枚を裏側表示で除外して発動できる。自分はデッキから2枚ドローする」

 

手札0→2

 

除外25→35

 

「ウフフ……。あんなにあった彼のデッキがもう10枚もないじゃない。イイわぁ……そういう戦い(デュエル)ゾクゾクしちゃうわ……!」

 

「そして、俺はたった今引いた"紅蓮魔獣(ぐれんまじゅう) ダ・イーザ"を攻撃表示で召喚する」

 

 

紅蓮魔獣(ぐれんまじゅう) ダ・イーザ

星3/炎属性/悪魔族/攻 ?/守 ?

(1):このカードの攻撃力・守備力は、除外されている自分のカードの数×400になる。

 

 そして、待っていたと言わんばかりに俺のフィールドに紅蓮の悪魔のようなモンスターが召喚された。

 

紅蓮魔獣(ぐれんまじゅう) ダ・イーザ

ATK?

 

紅蓮魔獣(ぐれんまじゅう) だと……? 妙なデメリットカードはそのためか……!」

 

「ダ・イーザですって……? あのモンスターの効果は……あっ――」

 

「なんかわからないけど強そうだな!」

 

「"紅蓮魔獣(ぐれんまじゅう) ダ・イーザ"の効果! このカードの攻撃力・守備力は、除外されている自分のカードの数×400になる! 俺が除外したカードは"闇の誘惑"で1枚! "ネクロフェイス"で5枚! "妖精伝姫(フェアリーテイル)-シラユキ"で7枚! "機巧蛇(きこうじゃ)叢雲遠呂智(ムラクモノオロチ)"で8枚! "左腕(ひだりうで)代償(だいしょう)"で4枚! "強欲(ごうよく)貪欲(どんよく)(つぼ)"で10枚の35枚! よって攻撃力・守備力は14000だ!」

 

 

紅蓮魔獣(ぐれんまじゅう) ダ・イーザは凄まじい速度で巨大化すると共に、全身から発生した地獄の業火と見紛う炎がフィールドを覆い尽くす。

 

紅蓮魔獣(ぐれんまじゅう) ダ・イーザ

ATK?→14000

 

「酷いッス……酷過ぎるッス……こんなのデュエルじゃな――」

 

「更にもう1枚の手札――魔法カード、"封印(ふういん)黄金櫃(おうごんひつ)"を発動。当然、選ぶのは"ネクロ・フェイス"だ……。そして、"ネクロ・フェイス"が除外されたことにより、デッキは残り5枚。更に"ネクロ・フェイス"の効果により0枚となる! さあ……コイツで血の海渡って貰おうか……?」

 

「――――――――――」

 

《やっぱり思った通り、もう完全にナイトメアのスイッチ入ってますねこの人》

 

除外35→41

 

 そして、ダ・イーザの片腕に炎で作られた巨大な剣が現れ、それを天に聳えるように掲げた。

 

紅蓮魔獣(ぐれんまじゅう) ダ・イーザ

ATK14000→16400

 

「翔には悪いが……また良いものを見せて貰ったな……」

 

「ええ、三沢……。なんて退廃的で美しいデュエルなのかしら……」

 

 

妖精伝姫(フェアリーテイル)-シラユキ

ATK1850

 

機巧蛇(きこうじゃ)叢雲遠呂智(ムラクモノオロチ)

ATK2450

 

紅蓮魔獣(ぐれんまじゅう) ダ・イーザ

ATK16400

 

「"妖精伝姫(フェアリーテイル)-シラユキ"と、"機巧蛇(きこうじゃ)叢雲遠呂智(ムラクモノオロチ)"で"ジャイロイド"を攻撃して破壊! そしてェ! "紅蓮魔獣(ぐれんまじゅう) ダ・イーザ"の直接攻撃ィ! (つい)秘剣(ひけん) 火産霊神(カグツチ)ィ!」

 

「うわぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!?」

 

 

 

丸藤翔

LP4000→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………(ちーん)」

 

「ふう……スッキリした」

 

「なるほど……確かにこれはデスマッチだ……」

 

「パックのレアを引けなかったデュエリストから罰――制裁をリックかメデューサ先生から受けるというわけね……。なんて惨いの……!」

 

「このスリル……ゾクゾクしちゃうわ!」

 

「だめ押しの"封印(ふういん)黄金櫃(おうごんひつ)"が彼らしくて最高……うふふ!」

 

「いいなー、翔。俺もデュエルしたいぜ!」

 

「なんなのこれ……本当になんなのこれ!? ボクはなんでこんなところに来ちゃったの!?」

 

《アッアッアッアッ! さあ、皆さん……このパック開封デスマッチの趣旨を理解していただいたようで――》

 

 非常にたっぷりと間を開けてからヴェノミナーガさんは拡声器で声を張り上げる。

 

《さあ、続いてパック開封の第2ラウンドと逝きましょう! まだまだデスマッチは始まったばかりですよォォ!!》

 

 まだ続くのかコレ……。というか、自然過ぎて今まで気づかなかったが天音ちゃんどこから生えてきたんだ……。

 

 

 

 

 








待たせたな!(半年以上) 理由は……前話の話作るのに燃え尽きちゃったからですね(震え声)

火力制裁担当――リック・べネット
ハメ殺し制裁担当――ヴェノミナーガ

※投稿50話記念の特別番外編です。

パック開封デスマッチが何かわからない啓蒙の足りないそこのキミ! 今すぐ"パック開封デスマッチ"を検索するんだぜ!(深淵への誘い)

ちなみに続きが出来ると最終的にヴェノミナーガさんが制裁されます(お約束)


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番外編 パック開封デスマッチ その2



「香山家と君が出会ってしまったことが、この全ての人生が狂ってしまったことだ」

             ーby.ネオピエールー







 

 

 

 

《アッアッアッアッ、明日香くん! さあ、パック開封デスマッチの時間だよ! しかし、いい乳だね君は!?》

 

《ピエール!? また性懲りもなくこんなことをして!?》

 

《私はデスマッチだけが生き甲斐なのだよメデューサくん!》

 

《皆を解放しなさいピエール!? くそっ!? パック開封デスマッチをするしかないんですね……!》

 

「………………ヴェ――メデューサ先生って腹話術上手いわね」

 

「まあ、元々腹話術得意そうな身体してるからな」

 

 なぜ香山ピエールなのか、悪いのは人形なのか、ヴェノミナーガさんがやらされている設定なのか。そんな疑問を消し飛ばし、勝手に人格が分裂したような言葉を話しているヴェノミナーガさんを見ていると、本当に何故こんなのが俺の精霊なのか考え、とても悲しい気分になる。

 

 それを他所に、脱落した丸藤を除くヴェノミナーガさん、俺、明日香、十代、万丈目、藤原、ツァンの6名は黙々と100パックを剥いて行く。いつの間にか発生していた天音ちゃんは見学である。

 

 

シークレットレア(3点)

デビルマゼラ

星8/闇属性/悪魔族/攻2800/守2300

このカードは通常召喚できない。このカードは「万魔殿-悪魔の巣窟-」がフィールド上に存在し、 自分フィールド上に表側表示で存在する「ゼラの戦士」1体を 生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚できる。このカードが特殊召喚に成功した場合、相手はランダムに手札を3枚捨てる。この効果は自分フィールド上に「万魔殿-悪魔の巣窟-」が存在しなければ適用できない。

 

ウルトラレア(2点)

堕天使(だてんし)ゼラート

星8/闇属性/天使族/攻2800/守2300

自分の墓地に闇属性モンスターが4種類以上存在する場合、このカードは闇属性モンスター1体をリリースしてアドバンス召喚できる。

(1):手札から闇属性モンスター1体を墓地へ送って発動できる。相手フィールドのモンスターを全て破壊する。

(2):このカードの(1)の効果を発動したターンのエンドフェイズに発動する。このカードを破壊する。

 

ウルトラレア(2点)

大天使(だいてんし)ゼラート

星8/光属性/天使族/攻2800/守2300

このカードは通常召喚できない。このカードは「天空の聖域」がフィールド上に存在し、自分フィールド上に表側表示で存在する「ゼラの戦士」1体を 生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚できる。光属性のモンスターカード1枚を手札から墓地に捨てる事で、相手フィールド上に存在する全てのモンスターを破壊する。この効果は自分フィールド上に「天空の聖域」が存在しなければ適用できない。

 

ウルトラレア(2点)

ゼラ

儀式モンスター

星8/闇属性/悪魔族/攻2800/守2300

「ゼラの儀式」により降臨。

 

 

 俺は9点だった。大概上振れた気がするが、ヴェノミナーガさんは16点とかいう大人げなさ過ぎる得点をまた叩き出しているため暫定1位である。

 

「いや、リックさんも当て過ぎな上、引きの偏りが可笑しいッスよ……」

 

 最初の犠牲者となった丸藤が伸びたまま譫言(うわごと)のように何か言っているが、知らないったら知らない。そもそもゼラなんてこんなに何に使えってんだゴラァ!

 

 

 そして、パック開封デスマッチなるモノの二順目の脱落者は――。

 

 

「なんなのよこれ……ホントなんなのよ……」

 

 

 3点だったツァンであった。彼女は引きに余り頼らない堅実なデッキ構成が売りの六武衆を使っていたりする辺り、ドローにそこまでは秀でていないため仕方あるまい。

 

《アッアッアッアッ! また、尊い犠牲者が出てしまったぞリックくん!》

 

《では今回は私が直々に制裁してくれましょうねぇ!?》

 

「勝手に犠牲者増やしてるんだよなぁ……」

 

 腹話術を交えつつ最初からフルスロットルなヴェノミナーガさんは、新しいデッキを取り出してデュエルディスクに差し込む。

 

「な・に・が制裁よッ! 要は勝てばいいんでしょう勝てば!?」

 

《なに勘違いしているんですか?》

 

「えっ……?」

 

《あなたにターンなんか回ってきませんよ?》

 

 最初から嫌な予感しかしなかったが、この時点でそれは半ば確信に変わる。

 

 そして、先にデュエルディスクを起動したヴェノミナーガさんは、恐らくはクソみたいなデッキで、無理矢理先攻をぶん取るという姑息極まりない手段を行った。

 

制裁神ヴェノミナーガ

LP4000

 

ツァン

LP4000

 

 

《ドロー! おらッ!! "王立魔法図書館(おうりつまほうとしょかん)"!!》

 

制裁神ヴェノミナーガ

手札5→6

 

王立魔法図書館(おうりつまほうとしょかん)

星4/光属性/魔法使い族/攻 0/守2000

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分または相手が魔法カードを発動する度に、このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大3つまで)。

(2):このカードの魔力カウンターを3つ取り除いて発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

王立魔法図書館(おうりつまほうとしょかん)

ATK0

 

 なんとも形容し難いソリッドビジョンをしつつ現れたそれは、少し知識のあるOCGプレイヤーが見れば、即座に顔をしかめるようなある意味ではあらゆる禁止カードより質の悪いモンスターであった。

 

「おい、ちょっと待て……」

 

《更にフィールド魔法、"魔法都市(まほうとし)エンディミオン"を発動! 魔法を発動したことによって、"王立魔法図書館(おうりつまほうとしょかん)"に魔力カウンターが乗ります!》

 

王立魔法図書館(おうりつまほうとしょかん)

魔力カウンター 0→1

 

「そんなことしちゃいけない!?」

 

《更にィ……私は手札から魔法カード、"ミックススパイス―ガラムマサラ"を発動! 効果によってマジックスパイスと名のつくカードを3枚まで手札に加えます。加えるカードは"マジックスパイス―レッドペッパー"、"マジックスパイス―シナモン"、"マジックスパイス―キャラウェイ"です!》

 

制裁神ヴェノミナーガ

手札3→6

 

「スパイス……カード……?」

 

「スパイスカードだと……? ふざけているのか!?」

 

「最初からメデューサ先生はふざけていると思うのだけれど?」

 

「うわぁ……」

 

 大概のデュエリストからすれば存在価値のわからない魔法カード――俺やヴェノミナーガさんからすれば爆アドデッキ圧縮カードである。

 

 

ミックススパイス―ガラムマサラ

通常魔法

自分のデッキから「マジックスパイス」と名の付くカードを3枚まで手札に加える。

 

マジックスパイス―レッドペッパー

通常魔法

発動ターンのエンドフェイズ時まで、自分フィールド上の全てのモンスターの攻撃力は300ポイントアップし、相手フィールド上の全てのモンスターの攻撃力は300ポイントダウンする

 

マジックスパイス―シナモン

通常魔法

自分フィールド上のモンスターは全て守備表示になり、相手フィールド上のモンスターは全て攻撃表示になる。

 

マジックスパイス―キャラウェイ

通常魔法

相手プレイヤーにポイントに200のダメージを与える。自分のライフポイントを200ポイント回復する。

 

 

 ハッキリ言って性能はモウヤンのカレーに毛が生えたり、重力解除のほぼ完全下位とゴミもいいところであるが、問題は"ミックススパイス―ガラムマサラ"の余りにもイカれた補給能力と、全て魔法カードである点であろう。

 

 こんなん悪用してくださいと言われているようなものだ……まあ、俺も含めて普通のデュエリストならば、精霊に喧嘩を売るようなデッキのため、ソリティアワンキルデッキはまず回ってくれないのだが、あの人曲がりなりにも神だしなぁ……。

 

《"魔法都市(まほうとし)エンディミオン"は、このカードがフィールドゾーンに存在する限り、自分または相手が魔法カードを発動する度に、このカードに魔力カウンターを1つ置きます! そして、魔法カードの"ミックススパイス―ガラムマサラ"の発動で、"王立魔法図書館(おうりつまほうとしょかん)"と"魔法都市(まほうとし)エンディミオン"に魔力カウンターが乗ります!》

 

王立魔法図書館(おうりつまほうとしょかん)

魔力カウンター 1→2

 

魔法都市(まほうとし)エンディミオン

魔力カウンター 0→1

 

《そして、魔法カード、"マジックスパイス―キャラウェイ"を発動し、相手プレイヤーにポイントに200のダメージを与え、自分のライフポイントを200ポイント回復します! これによりカウンターが乗ります!》

 

「熱っ!?」

 

制裁神ヴェノミナーガ

LP4000→4200

 

ツァン

LP4000→3800

 

王立魔法図書館(おうりつまほうとしょかん)

魔力カウンター 2→3

 

魔法都市(まほうとし)エンディミオン

魔力カウンター 1→2

 

《"王立魔法図書館(おうりつまほうとしょかん)"の魔力カウンターを3つ取り除いて発動! 自分はデッキから1枚ドローします!》

 

王立魔法図書館(おうりつまほうとしょかん)

魔力カウンター 3→0

 

制裁神ヴェノミナーガ

手札5→6

 

《魔法カード、"マジックスパイス―レッドペッパー"を発動! 発動ターンのエンドフェイズ時まで、自分フィールド上の全てのモンスターの攻撃力は300ポイントアップし、相手フィールド上の全てのモンスターの攻撃力は300ポイントダウンします! カウンター乗りますね!》

 

王立魔法図書館(おうりつまほうとしょかん)

ATK0→300

 

王立魔法図書館(おうりつまほうとしょかん)

魔力カウンター 0→1

 

魔法都市(まほうとし)エンディミオン

魔力カウンター 2→3

 

《"魔法都市(まほうとし)エンディミオン"は、1ターンに1度、自分がカードの効果を発動するために自分フィールドの魔力カウンターを取り除く場合、代わりにこのカードから取り除く事ができます! "魔法都市(まほうとし)エンディミオン"の魔力カウンターを3つ取り除き、"王立魔法図書館(おうりつまほうとしょかん)"の効果でデッキから1枚ドロー!》

 

制裁神ヴェノミナーガ

手札5→6

 

《はい、"魔法都市(まほうとし)エンディミオン"を貼り直しますね。これでまた魔力カウンターを取り除く効果を再使用でき、ついでに"王立魔法図書館(おうりつまほうとしょかん)"の魔力カウンターが溜まります》

 

王立魔法図書館(おうりつまほうとしょかん)

魔力カウンター 1→2

 

《まだまだ行きますよー! 魔法カード、"()煉獄(れんごく)"を発動! 自分の手札が3枚以上の場合に発動する事ができ、自分のデッキからカードを1枚ドローし、このターンのエンドフェイズ時に自分の手札を全て捨てます! また、"王立魔法図書館(おうりつまほうとしょかん)"の魔力カウンターが3つになったのでカードを1枚ドロー――》

 

「えっ……これいつまで続くの……?」

 

「ツァンが爆破されるまでかな」

 

「爆破!? 私、爆破されるの!?」

 

 エクゾディアはヴェノミナーガさんと俺との取り決めで互いに使用禁止にしているので、マジカル・エクスプロージョンでブッ飛ばされると見て間違いないだろうなぁ……。

 

「おはよう! いい朝だな!」

 

「もう昼だよラーちゃん……」

 

 するとソリティアしているヴェノミナーガさんを他所に、購買部の奥のスタッフルームからラーが出て来て砂の魔女に挨拶している。時間は既に12時を回っているため、後者の言い分が完全に正しいがラーは特に気にした様子はない。

 

「うぬぬ? なにこれ? なにしてんの?」

 

「パック開封デスマッチらしい」

 

「………………熱はないか? お前ら、ここは購買部だぞ? ごはんやカードを買うとこで何をしているんだ?」

 

 止めないか。いきなり正論で殴るのは。

 

 ラーに本当のことを話したところ頭の心配をされてしまった。まあ、やっている奴も主催した奴も言葉通りの単語も意味不明なのは間違いないため仕方なかろう。

 

ツァン

LP5400→6400

 

 それからラーと他愛もない話をしていると、いつの間にか"成金ゴブリン"などの効果でツァンのLPが増えていた。減りに減ったヴェノミナーガさんのデッキ枚数的にもどうやら佳境を迎えたらしい。

 

《――よーし! ターンエーンド! からのー……罠カード、"残骸爆破(ざんがいばくは)"、"残骸爆破"、"残骸爆破"、"マジカル・エクスプロージョン"を発動! 一応、数えると墓地の魔法カードだけで31枚です!》

 

 通常罠カード、残骸爆破(ざんがいばくは)。マジカル・エクスプロージョンほど著明ではないが、実質2枚目以降のマジカル・エクスプロージョンとなっている先攻ワンキルパーツである。俗に【マジカル・エクスプロージョン1キル】等と呼ばれる今はマジカル・エクスプロージョンが禁止カードになったために消滅したカテゴリーである。

 

 効果は自分の墓地のカードが30枚以上存在する場合に発動する事ができ、相手ライフに3000ポイントダメージを与えるという非常にシンプルで重たいカードである。しかし、発動タイミングがほぼ完全にマジカル・エクスプロージョンと被るため、マジカル・エクスプロージョンが準制限や制限だった時代に強引に差し込む手段としてよく用いられた。今でも相手ライフの回復を1000ポイント未満にすれば、ある程度の再現は出来なくもない。

 

 そして、悪名高き、マジカル・エクスプロージョン。今さら説明するようなことでもないが、マジカル・エクスプロージョンは、自分の手札が0枚の時に発動する事ができ、自分の墓地に存在する魔法カードの枚数×200ポイントダメージを 相手ライフに与えるという効果の通常罠。恐らく公式は何てこともない普通のカードとして出した筈であろう。

 

 しかし、頭の可笑しいOCGプレイヤーに目を付けられ、相手のLPを半分にしてしまえるドクマガイが採用されて生まれたのが、遊戯王史上最も美しいクソデッキの1つと言われており、先攻勝率8割にして、未だに名前だけは知らぬOCGプレイヤーは居ないレベルで有名な【ドグマブレード】である。

 

 この世界はまだマジカル・エクスプロージョンは無制限だが、謙虚にもヴェノミナーガさんはマジカル・エクスプロージョンは1枚のみで、残骸爆破3枚で【マジカル・エクスプロージョン1キル】をしているというわけだ。

 

 HAHAHAHAHA!!

 

 4000デュエルじゃ、残骸爆破2枚と火炎地獄1枚で7000ポイントになり、成金ゴブリン3枚入れてぴったりになるんだよふざけんな。

 

「は……? はァァ!? ちょ、ちょっと先生止め――」

 

《エクスプロージョン!!!》

 

 ちなみに合計ダメージは3000+3000+3000+(31×200=6200)=15200である。

 

「いやァァァァァ!!!?」

 

ツァン

LP6400→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………(ちーん)」

 

 今度はツァンが物言わぬデュエリストに変わってしまった。なんなんだこの茶番は……。

 

「ツァン……! なんて酷いの……!?」

 

「パック開封デスマッチ……余りにも惨過ぎる!?」

 

「へー、そんなデッキもあるんだなー!」

 

「やっぱりゾクゾクしちゃうわ……!」

 

 ちなみに脱落してまだ気絶している丸藤は、購買の隅に設けられた簡易休憩スペースで寝かされている。

 

 頭にちょこんと赤十字のマークが付いた帽子を被ったラーちゃんが介抱しているので、命に別状はあるまい。人間に化けていてもラーちゃんから若干放たれている光でちょっと眩しそうだけどな。

 

《ぐへへ……これがぁ! 【マジエクスパイス】ですよォォォ!!》

 

「神がデュエルモンスターズの力にモノを言わせてOCGでアニメレイプすんの止めろ」

 

 なんだコイツ、頭にカレーでも詰められたのか?等と内心で思っていると、早くパックを剥けとばかりのジェスチャーをヴェノミナーガさんは行う。

 

《さあ、今シーズンも私はダイヤ以上にならなければいけないノルマがあるのでちゃっちゃとやってしまいましょう!》

 

 急にやや身体を反り、両手でメロイック・サインのようなものをしつつ、"ヒーハー!"等と声に出すヴェノミナーガさん。何故かどこからともなく取り出したモンスターエナジーをキメて見せている。

 

《脱獄したピスキで、2度とうまぴょい出来ない身体にしてやりますよ!》

 

「――!?」

 

 トリテは投獄されたけどな。気安く流行りに乗っかろうとするんじゃない。後、弓が強過ぎる。

 

 それより何故か砂の魔女がぷるりと身を震わせている。(おもむろ)に取り出しているスマホを胸に抱いて守るようにしているが、深くは追求しないようにしよう。

 

《アッアッアッ! この魔女め! お前のスマホを初期化してやるからな!? 早く競馬場から帰ってくるのだよ!》

 

「や、止めてください……!」

 

 なぜ天使のような砂の魔女が魔女だ等と謂れのない罵倒を受けているのかと少し考えたが、そう言えば魔女だったことを思い出し何とも言えない気分になる。こら、他人が稼いだお給金の幾ばくかの使い方をとやかく言うのは止めなさい。

 

 パック開封デスマッチなどせずにヴェノミナーガさんの好きなゲームでも勝手にやっているべきなのではないかと思いつつも、言えば小癪なレパートリーに富んだこちらのカロリーが多く消費されるだけの反論をされるので、無心で三度目のパックを剥いた。

 

 

アルティメットレア(3点)

アルティメット・インセクト LV(レベル)

星7/風属性/昆虫族/攻2600/守1200

「アルティメット・インセクト LV5」の効果で特殊召喚した場合、このカードが自分フィールド上に存在する限り、全ての相手モンスターの攻撃力・守備力は700ポイントダウンする。

 

ウルトラレア(2点)

ジャベリンビートル

儀式モンスター

星8/地属性/昆虫族/攻2450/守2550

「ジャベリンビートルの契約」により降臨。場か手札から、星の数が合計8個以上になるよう カードを生け贄に捧げなければならない。

 

ウルトラレア(2点)

ブレイン・クラッシャー

星7/闇属性/昆虫族/攻2400/守1500

このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った場合、破壊したモンスター1体をそのターンのエンドフェイズ時に墓地から特殊召喚する事ができる。この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

ウルトラレア(2点)

カレー魔人(まじん)ルー

星8/炎属性/悪魔族/攻0/守0

(1):このカードの攻撃力は、お互いの墓地に存在する 「スパイス」と名のついたカードの枚数×200ポイントアップする。

(2):このカードの攻撃力は、ゲームから除外されているモンスターの数×300ポイントアップする。

 

スーパーレア(1点)

ミラーフォース・ランチャー

永続罠

(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに手札からモンスター1体を捨てて発動できる。自分のデッキ・墓地から「聖なるバリア -ミラーフォース-」1枚を選んで手札に加える。

(2):セットされたこのカードが相手の効果で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。墓地のこのカードと自分の手札・デッキ・墓地の「聖なるバリア -ミラーフォース-」1枚を選び、そのカードとこのカードを自分フィールドにセットする。この効果でセットしたカードはセットしたターンでも発動できる。

 

 

 なんやこの偏り。

 

 嬉しいことは嬉しいのだが、何だかパック開封デスマッチをしてから引きが異様な偏りを見せている上、さっきの今でスパイスカードの切り札である"カレー魔人ルー"を引く辺り何らかの因果すら感じる。というか、翌々ルーを見返したらなんだこの根暗な方の藤原から貰ったクリアー・バイス・ドラゴン並みに悪用し甲斐のあるとんでもないカード。イカれてやがる。

 

『アァァアァ――!』

 

 まあ、早速、俺の肩に小さく出現したインセクト女王は新たな昆虫カードに歓迎ムードなので良しとするか。

 

 

 

 そして、パック開封デスマッチはデュエリストたちの悲鳴で、高く穏やかに運ばれていく――。

 

 

 

 

 三回戦敗者――藤原雪乃。5点。

 

 

 

 

「雪乃が攻撃したモンスターは"ダイス・ポット"だ。お互いにサイコロを1回ずつ振る。相手より小さい目が出たプレイヤーは、相手の出た目によって以下のダメージを受ける。相手の出た目が2~5だった場合、相手の出た目×500ポイントダメージを受ける。相手の出た目が6だった場合、6000ポイントダメージを受ける。お互いの出た目が同じだった場合はサイコロを振り直す」

 

「あら? 私とサイコロ遊びがしたいの? 勿論いいわよ」

 

《マスターのギャンブルデッキは、そんな生易しい次元の話じゃないんだよなぁ……》

 

「……?」

 

「雪乃からでいいぞ」

 

「私は……4ね」

 

「そうか。俺は……6だな。よって6000ポイントのダメージだ」

 

「ちょ――」

 

藤原雪乃

LP4000→0

 

 

ダイス・ポット

星3/光属性/岩石族/攻 200/守 300

リバース:お互いにサイコロを1回ずつ振る。相手より小さい目が出たプレイヤーは、相手の出た目によって以下のダメージを受ける。相手の出た目が2~5だった場合、相手の出た目×500ポイントダメージを受ける。相手の出た目が6だった場合、6000ポイントダメージを受ける。お互いの出た目が同じだった場合はサイコロを振り直す。

 

 

 

 

 四回戦敗者――万丈目準。6点。

 

 

 

 

《私はァ! 通常魔法、"簡易融合(インスタントフュージョン)"の効果により、1000ライフポイントを払って、"LL(リリカル・ルスキニア)-インディペンデント・ナイチンゲール"を攻撃表示で特殊召喚!》

 

LL(リリカル・ルスキニア)-インディペンデント・ナイチンゲール》

ATK1000

 

「攻撃力たったの1000の融合モンスターだと……? それに"簡易融合(インスタントフュージョン)"の効果で特殊召喚したモンスターは攻撃できず、エンドフェイズに破壊されるだろうが」

 

「おい、馬鹿止めろ」

 

《そして、私はァァァ!! "LL(リリカル・ルスキニア)-インディペンデント・ナイチンゲール"を生け贄に、"The tyrant NEPTUNE(ザ・タイラント・ネプチューン)"を召喚します!》

 

The tyrant NEPTUNE(ザ・タイラント・ネプチューン)

ATK0

 

「プラネットシリーズだとぉ!?」

 

《"The tyrant NEPTUNE(ザ・タイラント・ネプチューン)"は、特殊召喚できず、妥協召喚できます。そして、このカードの攻撃力・守備力は、生け贄召喚時に生け贄にしたモンスターの元々の攻撃力・守備力をそれぞれ合計した数値分アップします》

 

The tyrant NEPTUNE(ザ・タイラント・ネプチューン)

ATK0→1000

 

《そして、このカードが生け贄召喚に成功した時、墓地に存在する生け贄にした効果モンスター1体を選択し、そのモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得ます。当然、"LL(リリカル・ルスキニア)-インディペンデント・ナイチンゲール"を選択です》

 

「……? そんなATK1000しかないモンスターを――」

 

《"LL(リリカル・ルスキニア)-インディペンデント・ナイチンゲール"の効果は、自身の星の数×500ポイント攻撃力をアップさせ、このカード以外の効果を受けません。そして、"The tyrant NEPTUNE(ザ・タイラント・ネプチューン)"は星10なので、攻撃力は6000となり、全ての効果を受けません」

 

The tyrant NEPTUNE(ザ・タイラント・ネプチューン)

ATK1000→6000

 

「は……?」

 

《後、1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。このカードのレベル×500ダメージを相手に与えるので、毎ターン5000の効果ダメージを万丈目さんに与えますね?》

 

「――ふざけるな! インチキ効果もいい加減にしろ!?」

 

《これがとばっちりで禁止カードとなったネプネプの力ですよォォォ!! いい加減、返せってんだよォォォォ!!!? あっ、効果発動しますね?》

 

「うわぁぁぁぁ!?」

 

万丈目準

LP4000→0

 

 

LL(リリカル・ルスキニア)-インディペンデント・ナイチンゲール

融合モンスター

星1/風属性/鳥獣族/攻1000/守 0

「LL-アセンブリー・ナイチンゲール」+「LL」モンスター

(1):元々のカード名に「LL」を含むXモンスターを素材として このカードが融合召喚に成功した場合に発動できる。そのモンスターが持っていたX素材の数だけ、このカードのレベルを上げる。

(2):このカードの攻撃力はこのカードのレベル×500アップし、このカードは他のカードの効果を受けない。

(3):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。このカードのレベル×500ダメージを相手に与える。

 

The tyrant NEPTUNE(ザ・タイラント・ネプチューン)

星10/水属性/爬虫類族/攻 0/守 0

このカードは特殊召喚できない。このカードはモンスター1体をリリースしてアドバンス召喚する事ができる。このカードの攻撃力・守備力は、アドバンス召喚時にリリースしたモンスターの 元々の攻撃力・守備力をそれぞれ合計した数値分アップする。このカードがアドバンス召喚に成功した時、墓地に存在するリリースした効果モンスター1体を選択し、そのモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。

 

簡易融合(インスタントフュージョン)

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):1000LPを払って発動できる。レベル5以下の融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃できず、エンドフェイズに破壊される。

 

 

 

 

 五回戦敗者――天上院明日香。9点。

 

 

 

 

ラーの翼神竜

ATK12300

 

「なにかありますか?」

 

「ないわよッッ!?」

 

「では喰らえ、ゴッド・ブレイズ・キャノン」

 

「リックの人でなしぃぃ!?」

 

天上院明日香

LP1200→0

 

《ヒトデナシなのは征竜ラーなんだよなぁ……》

 

『なにおぅ!? アタシ、悪くないもん!』

 

 

 

 

 そして、デュエリストの屍は積み重なり、死屍累々の様相を呈したパック開封デスマッチは、残り3人となりひとまずの最終局面を迎える。

 

 

 

 六回戦敗者――遊城十代。13点。

 

 

 

「見てくれよリック!? "E・HERO(エレメンタルヒーロー) ジ・アース"だってよ!? 見たことないヒーローだ!」

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ジ・アース

融合モンスター

星8/地属性/戦士族/攻2500/守2000

「E・HERO オーシャン」+「E・HERO フォレストマン」

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

(1):このカード以外の自分フィールドの表側表示の「E・HERO」モンスター1体をリリースして発動できる。このカードの攻撃力はターン終了時まで、リリースしたモンスターの攻撃力分アップする。

 

「ああ……それプラネットシリーズだからな。こんなところに眠っていたなら道理でどれだけ探しても見掛けなかったわけだ」

 

「へー、そうなのか」

 

「…………ふむ。何度も言った気がするが、一応、また言っておくと世界で1枚しかないカードだぞ?」

 

「マジかよぉぉぉ!!? あっ、でも融合素材のヒーローは両方持ってないや……」

 

「"E・HERO(エレメンタルヒーロー) オーシャン"なら今出たぞ。ほら」

 

《"E・HERO(エレメンタルヒーロー) フォレストマン"なら私も出ましたよ? あげます》

 

「マジで!? ありがとう!」

 

(……なんか十代さんって甘やかしたくなるんですよねぇ。わかりますマスター?)

 

(わかりみ)

 

「ん? どうかしたのか二人とも?」

 

「いんや」

 

《いえいえ、滅相もない》

 

 

 残った3名(我々)はわりと和気藹々としていた。

 

 というか、全てを諦め受け入れている俺と、濁流のようなヴェノミナーガさんと普通に接する事が出来るだけで大物であることは揺るぎない事実であろう。

 

「それで? 十代への制裁とやらはどうするんですか? 順当に行けば先生の番ですが、今までのハメしてもデュエルそのものが大好きなコイツは無傷ですよ?」

 

《アッアッアッ!! 何を寝惚けたことを言っているのかねリックくん! こんなときのための切り札は用意しておくものだよ!》

 

 その香山ピエールで腹話術をしつつ、そんな言葉と共に空間にいつもの大陸移動用の孔を開けて見せるヴェノミナーガさん。見た目だけは無駄に禍々しく、毒々しいブラックホールか何かのようにさえ思えるため、明らかにヤバそうなモノに思えるだろう。

 

 デュエルアカデミア教員の姿でしていいことではないが、十代以外の生徒は全員伸びており、ラーちゃんに介抱されているためやりたい放題だ。いや、最初から今日はいつにも増してやりたい放題なんだがな。

 

 尚、途中で天音ちゃんは"なんでも鑑定団"の再放送の時間とのことで、イレイザーで空間に穴を開けて自室に帰って行った。ちなみに今日の目玉は、デュエル王国時代に海馬CKで極少数だけ生産され、円盤状をしたデュエルディスクの試作品らしい。俺もそっちが観たい。

 

「うぉ!? 何が起こるんだ先生!?」

 

《我らが帝王ニンジンマン様より野菜嫌いを皆殺しにせよとの命令が出ました。よって野菜を食べない悪い子は野菜帝国が制裁を下します》

 

「……? 俺野菜も好きだぜ?」

 

 十代は出されたものは、間違えて調理したアスパラガスの食べられないところとかでも旨そうに食べるからな。

 

 そんなことを考えていると、このゲートは出口だったようで、その中から3mを超え、黒いローブを纏った山羊の頭蓋骨に人間の全身骨格を付けたような存在――。

 

 

 

 ダークネスさんがあらわれた。

 

 

 

………………………………。

…………………………。

……………………。

………………。

…………。

……。

おファッ!?

 

 

「我が名はダークネス。我は世界の影、闇。そして、安寧である。故あって汝に罰を与えよう……」

 

「お、おう……? なんだかわからないけど、デュエル出来るなら大歓迎だぜ! よろしくなダークネス!」

 

 十代はデュエルディスクを展開し、ダークネスさんは翼にカードを展開する。そして、デュエルは始まってしまった。

 

 

『デュエル!』

 

 

遊城十代

LP4000

 

ダークネス

LP4000

 

 

 

(何してるんですか、ヴェノミナーガさん。いや、何をしたらこうなったんですか?)

 

 とりあえず、俺はヴェノミナーガさんを問い詰める事にした。今ならば大成仏をデッキが出来るほど投げつけるのも辞さない所存である。

 

(いや、普通にうちの生徒とデュエルしないかと誘ったら来ました)

 

 するとヴェノミナーガさんは目を泳がせて、額に多少の冷や汗を浮かべながらやや引き吊った笑みで更に呟く。

 

(来ちゃいました……)

 

 どうやらヴェノミナーガさんでも予想外だったらしい。まあ、最近俺とデッキを強化したのだが、デュエルする相手が居なくて暇していたのかも知れない。

 

 この絶妙なフットワークの軽さと何とも言えない気安さは、やはりダークネスさんとヴェノミナーガさんは親子のようなものなんだと感じつつ、仕方なくデュエルの成り行きを眺めるのであった。

 

 

 

 







※本格的なパック開封デスマッチは尺の都合によりリック VS ヴェノミナーガ戦で行われます


~使用制裁デッキ紹介~

1回戦:芝刈りダ・イーザ

2回戦:マジエクスパイス

3回戦:ギャンブルデッキ

4回戦:ナイチンネプネプ

5回戦:征竜ラー

6回戦:強化ダークネス




 みんな! ホットケーキミックスの海の上に吊るされている三沢くんのこと忘れなよ!




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~第二回蛇道楽(シンクロフェス)~



生存報告がてらの番外編です。

シンクロフェスティバル向きのデッキをデッキレシピ付きで神様が紹介してくれるだけの緩い内容となっております。肩の力を抜いてお楽しみください(笑顔)







 

 

 

 どうもみんなの偶像(アイドル)ヴェノミナーガです。審判ばっかりでまたリックさんが構ってくれないのでこっち(暇潰し)に来ました。

 

 良いですね……マスターデュエル。あなた方の世界が活気付いていて何よりです。こっちはシンクロの登場までもまだ少し時間が掛かりそうですよ。

 

 そう、折角ですので今回の解説は自然な流れでシンクロ――そのエキシビションであるシンクロフェスティバルとやらを解説していきましょうか……ラダー↑ンフェスティバルッ!(下方修正)

 

 まだ、一週間ぐらいありますし、へーきへーき。

 

 さて、そもそもシンクロとはチューナーと非チューナーのモンスターの星を足して、揃えることでそのレベルのシンクロモンスターを場に出せる召喚方法の事です。展開が大量かつ難解なお陰で、満足民と呼ばれる方々が発生したり、ソリティア等と揶揄され始めたのもこの辺りですね。一旦、止めた方々も少なくないかと思われます。

 

 まあ、そんな復帰勢の方々が分かりにくいというか、手を出したくない召喚方法の三強がシンクロ、ペンデュラム、リンクでしょう。マスターデュエルしてたらリンクは切っても切り離せないので、覚えた方々も多いかも知れませんが、シンクロとペンデュラムはあまり多くのデッキでしか使わない事も多々あるでしょうねぇ。

 

 そして、今回のシンクロフェス。今回のレンタルデッキはかなり強いと巷で言われているため、意気揚々と使ってみた方々を襲ったのは、ソリティア前提の余りにも難解な何かでした……ラダー↑ンフェスティバルッ!(上方修正)

 

 私めが見ても"うわ……レンタルデッキ強くしろとはアンケに書いたけどここまでやれとは言ってねぇよ……"とマスターが言いそうな姿が見える見える。折角、運営さんが頑張ってくれたのにデュエリストの女心は難しいですね。

 

 はい、という訳で今回私が初心者さんや復帰勢にオススメして解説するカテゴリーは――。

 

 

 

【電脳堺】

 

 

 

 ――です♡

 

 はい、そこのあなた即リタ止めてください。召喚ミッションと、戦闘破壊ミッションが終わらないでしょうがっ! なんでシンクロフェスなのにシンクロ回数のミッションが無いんですか、もう……。

 

 まあ、まだ居ない【相剣】とかいうシンクロを名乗る何かや、爆アドと化したブロックドラゴンさんを酷使する【アダマシア】に比べれば、まだマトモにシンクロしつつ戦っているカテゴリーでしょう。ん? 先行制圧? 何故か脱獄して潜伏しているV.F.D.(ザ・ビースト)? シンクロフェスには居ないので知らない子ですね。

 

 ちなみに私が初心者or復帰勢に進めるカテゴリーはもちろん、【エルドリッチ】さんですよ。極論EXデッキいらない上に誘発と汎用とエルドリッチ以外にURいらないのでとても安くて、現代遊戯王を少ししつつ動かすの分かりやすくて、万能型なので環境デッキにも割りと勝算ある92~93点ぐらいのデッキですからね。ゲームなんて勝てなきゃやってられません。誉れは霜で踏みました(下方修正)

 

 まあ、真面目な話。シンクロフェスで強いデッキの中で、ほぼそのままランクに戻れるデッキの筆頭は間違いなく【電脳堺】でしょう。実際、元々あった【電脳堺】のメインデッキ40枚はそのままでEXデッキだけ多少差し替えてシンクロフェスに挑んだリアリストの方々も多いと思います。

 まあ、シンクロフェスの為だけにURを作るのもそれはそれで風情は在りますね。最終的にはそちらの判断ですが、無理はしない方がよいのでは?(オーメル仲介人)

 

 はい、では先行で老々が出て来た辺りでリタイアを始めた方々も居なくなったと思うので、早速解説していきましょうか。

 

 【電脳堺】とは――?

 

 電脳堺は展開力に長けたテーマであり、住人たちは共通して互いを助け合う能力を持つという和気藹々としたテーマです。メダロット世代やメカ娘好きには堪らないテーマでもありますね。

 また、風属性・サイキック族と地属性・幻竜族で構成されており、メインデッキはレベル3とレベル6の2グループで、そこから3・6エクシーズ、6・9シンクロ等を展開していくコンセプトは分かりやすいデッキとなっております。えっ、9エクシーズ? ちょっと何言っているかわからないですね。シンクロフェスに不純物を持ち込まないでください。

 

 ではでは、まずシンクロ・エクシーズでない大多数の電脳堺モンスターには共通効果と固有効果があるので、それを貼ります。

 

~共通効果~

・このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

・このターン、自分はレベルまたはランクが3以上のモンスターしか特殊召喚できない。

・このカードが手札に存在する場合、自分フィールドの電脳堺カード1枚を対象として発動できる。そのカードとは種類(モンスター・魔法・罠)が異なる電脳堺カード1枚をデッキから墓地へ送り、このカードを特殊召喚する。その後、"固有効果"できる。

 

 

~固有効果(デッキに入れてるカードのみ)~

 

電脳堺媛-瑞々(レベル3・チューナー)

対象のカード及び墓地へ送られたカードとは種類が異なる同名カード以外の「電脳堺」カードをサーチ

 

電脳堺豸-豸々(レベル3)

エンドフェイズに墓地の同名カード以外の「電脳堺」モンスターをサルベージ

 

電脳堺悟-老々(レベル6・チューナー)

墓地へ送られたカードとはカード名が異なる「電脳堺」モンスターを効果無効・守備表示で蘇生

 

電脳堺麟-麟々(レベル6)

対象のカード及び墓地へ送られたカードとは種類が異なる同名カード以外の「電脳堺」カードをデッキから墓地へ送る

 

 

 共通効果に関しては、このカードが手札に存在する場合、自分フィールドの電脳堺カード1枚を対象として発動できる。そのカードとは種類(モンスター・魔法・罠)が異なる電脳堺カード1枚をデッキから墓地へ送り、このカードを特殊召喚する事だけ覚えていれば問題ないです。

 

 要するに――。

 

フィールドから選択

デッキから墓地へ送る

 

電脳堺モンスター

電脳堺魔法・罠

 

電脳堺魔法

電脳堺モンスター・罠

 

電脳堺罠

電脳堺魔法・モンスター

 

 ――と言った具合の効果です。

 

 そのため、初動で電脳堺魔法か、緊急テレポートがあると召喚権を使って電脳堺モンスターを出さずに効果を使えるため、展開が加速します。

 

 また、電脳堺媛-瑞々のサーチと、電脳堺悟-老々の蘇生は明確に1ターン目から役に立つので多用して行きます。電脳堺麟-麟々は2種類の電脳堺カードを墓地へ送れるので、電脳堺の魔法・罠を落とすのに使います。電脳堺豸-豸々はエンド時にサルベージなので先行での優先度は低めですが、電脳堺悟-老々を回収するとほぼ返しのターンにシンクロ出来ます。

 

 

~それ以外の電脳堺~

 

電脳堺姫-娘々(レベル3・(1)の効果使用後はチューナー)

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが墓地に存在し、自分フィールドにレベル3モンスターが召喚・特殊召喚された場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードはチューナーとして扱い、フィールドから離れた場合に除外される。このターン、自分はレベルまたはランクが3以上のモンスターしか特殊召喚できない。

(2):このカードが除外された場合、このカード以外の除外されている自分のカード1枚を対象として発動できる。そのカードをデッキに戻す。

 

 緊急テレポートで引っ張ってきたり、通常召喚したりして、フィールドでのシンクロと墓地効果でもう一度シンクロを使ったり、他の電脳堺で墓地に叩き落として、墓地効果だけを使ったりします。除外した時にカードをデッキへ回収出来る効果は主に除外した電脳堺魔法・罠カードを回収するといいでしょう。

 ちなみに娘々ちゃんは他の電脳堺モンスターの効果発動時に墓地へ送っても効果処理中のため、特殊召喚出来ません。手札から星3を召喚したり、老々で墓地の星3を蘇生したり、緊急テレでデッキから引っ張ってきたりして効果は使いましょうね。

 え? 電脳堺嫦-兎々? ちょっと何言ってるか分からないですね。シンクロフェスに不純物を持ち込まないでください(濡れ衣)

 …………実際、【電脳堺】って先行で老々・麟々・電脳堺罠・誘発のみとか悪夢みたいなハンドになる事もあるので事故要員をこれ以上増やせないんですよ……(小声)

 

 次は【電脳堺】の魔法・罠の紹介をしていきましょう。

 

 

~電脳堺 魔法・罠~

 

電脳堺都-九竜

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):デッキから「電脳堺門」カード1枚を自分の魔法&罠ゾーンに表側表示で置く。その後、自分フィールドの「電脳堺門」カードの数によって以下の効果をそれぞれ適用できる。

●2枚以上:このターン、自分フィールドの「電脳堺」モンスターの攻撃力は200アップする。

●3枚以上:自分のデッキの上からカードを3枚墓地へ送る。

●4枚:EXデッキから「電脳堺」モンスターを4体まで特殊召喚する(同名カードは1枚まで)。

 

 デッキから電脳堺門の魔法・罠を発動出来ます。状況によりますけど、とりあえず後述する電脳堺門-朱雀を置いておけば間違いはあんまりないです。9エクシーズに繋げるとなると色々考えなければなりませんが、それは気のせいです。

 

 

電脳堺門-青龍

永続魔法

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の墓地から「電脳堺」カード1枚を除外し、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの効果をターン終了時まで無効にする。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。 デッキから「電脳堺」モンスター1体を手札に加える。その後手札を1枚選んで墓地へ送る。

 

 (1)の効果も強いですけど、(2)の効果の為にもっぱら使われます。とりあえず、他の電脳堺カードで墓地に叩き落とし、このカードを除外して状況に応じて欲しいカードを手札に加え、墓地に行って欲しいカードと交換しましょう。

 

 

電脳堺門-朱雀

永続罠

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。除外されている自分の「電脳堺」カード2枚を選んでデッキに戻す(同名カードは1枚まで)。その後、対象のカードを破壊する。

(2):自分メインフェイズに墓地のこのカードを除外し、自分フィールドの「電脳堺」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのレベルまたはランクをターン終了時まで3つ上げる、または下げる。

 

 (2)の効果も小回りが利きますが、(1)の効果が強烈です。電脳堺カードの除外なんて気付いたら勝手に貯まっているので、実質ノーコストで表側表示カードをフリーチェーンて破壊できます。何よりも永続罠なので相手ターンにも発動出来ます。除外を肥やして相手の盤面をぐちゃぐちゃにしましょう。

 応用的な使い方だと後述する電脳堺狐-仙々が相手に手札に戻されるか除外される時に発動して、電脳堺狐-仙々を破壊する事でサクリファイスエスケープも出来ます。瞬間移動やめろ(エルデの害獣)

 

 

電脳堺門-玄武

永続罠

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドに他の「電脳堺門」カードが存在する場合、自分・相手のバトルフェイズに、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。 そのモンスターの表示形式を変更する。

(2):自分メインフェイズに墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の「電脳堺」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを効果を無効にして特殊召喚する。その後、手札を1枚選んで墓地へ送る。

 

 3枚の電脳堺門カードだと一番微妙というか使いにくいですが、(1)は相手がモンスター1体しかいなければ表示形式変更で一切攻撃させませんし、(2)は墓地から好きな電脳堺モンスターを蘇生できるので、それでまたシンクロしましょう。デッキに1枚入れておくカードですね。

 

 お次は目玉のシンクロモンスター達です。汎用多めで私の独断と偏見を込めつつ優先度☆1~3で評価します。

 

~シンクロモンスター(レベル6・9のみ)~

 

電脳堺狐-仙々

星9/風属性/サイキック族/攻2800/守2400

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドから墓地へ送られるカードは墓地へは行かず除外される。

(2):自分のモンスターの攻撃宣言時に発動できる。除外されている自分または相手のモンスター1体を選んで墓地に戻す。

(3):このカード以外の、元々の種族・属性が異なるモンスター2体を自分の墓地から除外して発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

優先度☆☆☆

 シンクロフェス最大の問題児のひとり。とりあえず、先行なら雑に出しておけば外れはないです。マクロコスモス以下次元の裂け目以上の何かを内蔵し、元々の種族・属性が異なるモンスター2体を自分の墓地から除外するだけで破壊された次のターンから自身を蘇生させる不死身のモンスターです。

 ついでに1ターンに1度、自分のモンスターの攻撃した時、除外されている自分または相手のモンスター1体を選んで墓地に戻せるので、2ターンすれば蘇生分の除外がチャラになります。他にもスター・ダスト・ドラゴンみたいな自身を除外してフィールドから逃げる奴を無理矢理墓地に戻す事で、完全に除去出来ます。

 攻撃力2800と無駄に最上級モンスターラインの攻撃力を持つことも拍車を掛け、使ってみると想像の10倍ぐらいイカれています。マレニア並みにしぶといエルデの害獣がよ……。

 

 

炎斬機ファイナルシグマ

星12/炎属性/サイバース族/攻3000/守 0

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上 このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードはEXモンスターゾーンに存在する限り、「斬機」カード以外のカードの効果を受けない。

(2):EXモンスターゾーンのこのカードが相手モンスターとの戦闘で相手に与える戦闘ダメージは倍になる。

(3):このカードが戦闘または相手の効果で破壊された場合に発動できる。 デッキから「斬機」カード1枚を手札に加える。

 

優先度☆☆☆

とりあえず、先行なら雑に出しておけば外れはないです(その2)。色々効果が書いてありますが、単純に攻撃力3000のカード効果を受けないモンスターです。でも戦闘では普通に死ぬので油断は禁物です。

 尚、リンク使わないと各プレイヤーは1枠しかEXにモンスターを置けないので、ファイナルシグマだけ置くようにするといいですね。

 

 

飢鰐竜アーケティス

星9/水属性/魚族/攻1000/守1000 チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(1)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがS召喚に成功した場合に発動できる。そのS素材としたモンスターの内、チューナー以外のモンスターの数だけ、自分はデッキからドローする。

(2):このカードの攻撃力・守備力は自分の手札の数×500アップする。

(3):手札を2枚捨て、フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

優先度☆☆

 出したいカードと言うよりもファイナルシグマを出し易くしつつ、(1)の効果で手札を補充するためのカードですね。

 例えばフィールドに星3のチューナー2体と星3のモンスターが2体との計4体居ると、合計で12ですが、チューナーが2体いるのでファイナルシグマは出せません。

 しかし、先に星3のチューナー1体と星3のモンスター2体を使って、アーケティスをシンクロする事で、(1)の効果でカードを2枚ドローしつつ、最後に星9のアーケティスと星3のチューナーでシンクロしてファイナルシグマを出せます。リソースを稼ぐ為のカードですね。

 尚、このデッキで攻撃力を3500以上に出来るモンスターはこのアーケティスと、後述するウォルフライエとクリスタルウィングだけなので一応、その用途で使えなくもないです。手札消費はあれですが、フリーチェーンも強力です。

 

星風狼ウォルフライエ

星9/風属性/獣族/攻2500/守 0

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):「星風狼ウォルフライエ」は自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(2):攻撃力4000未満のこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカード以外のモンスターの効果が発動する度に、このカードの攻撃力は300アップする。

(3):1ターンに1度、このカードの攻撃力が4000以上の場合に発動できる。このカードと相手フィールドのモンスターを全て持ち主のデッキに戻す。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

優先度☆☆

 書いてあることが難しいので、簡単に言い換えると、このカードを出してから自分相手問わずに5回モンスター効果が発動すると、このカードと相手フィールドのモンスターを全て持ち主のデッキに戻せるようになるフリーチェーンのモンスターです。

 電脳堺は兎に角、モンスター効果を連発して盤面を組み立てるので慣れれば、最初にウォルフライエを立ててから展開して、5回モンスター効果を発動し、相手にターンを渡す事が可能です。まあ、条件を満たせないで3~4回で止まっても後は、相手にモンスター効果を発動して貰えれば条件を満たせるので、割りと簡単に使えますし、ソリティアを許さない結構な制圧力があります。

 

 

灼銀の機竜(ドラッグ・オン・ヴァーミリオン)

星9/炎属性/機械族/攻2700/守1800

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):1ターンに1度、自分の手札・墓地及び自分フィールドの表側表示モンスターの中からチューナー1体を除外し、フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

(2):S召喚したこのカードが効果で破壊され墓地へ送られた場合、除外されている自分のチューナー1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

 

優先度☆☆

 自分に使ったチューナーをコストにカードを破壊し、死ねば使ったコストを回収出来ると雑に強いです。後、名前がカッコいい。主に返しのターンで立てるシンクロとして優秀です。

 

 

 はい、ここから星6シンクロになります――。

 

 

瑚之龍

星6/水属性/ドラゴン族/攻2400/守 500

チューナー

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):1ターンに1度、手札を1枚捨て、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

(2):S召喚したこのカードが墓地へ送られた場合に発動できる。 自分はデッキから1枚ドローする。

 

スターダスト・チャージ・ウォリアー

星6/風属性/戦士族/攻2000/守1300

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上 「スターダスト・チャージ・ウォリアー」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがS召喚に成功した時に発動できる。 自分はデッキから1枚ドローする。 (2):このカードは特殊召喚された相手モンスター全てに1回ずつ攻撃できる。

 

優先度☆☆☆

 用途がほぼ同じなので2体まとめます。アーケティスと同じくシンクロの経由地点でドローするためのモンスターです。コイツらの場合は9シンクロか、ファイナルシグマの繋ぎですね。この2体を意識して使えるようになれば、グッと電脳堺の展開力か上がり、後述するアルティマヤ・ツィオルキンはもっぱらレベル6で出されるので、使い勝手がまるで変わってきます。

 ちなみに瑚之龍がチューナー、スターダスト・チャージ・ウォリアーがただのモンスターです。使い分けるので、どちらかではなく両方必須です。

 

 

レッド・ワイバーン

星6/炎属性/ドラゴン族/攻2400/守2000 チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):S召喚したこのカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、このカードより攻撃力が高いモンスターがフィールドに存在する場合に発動できる。フィールドの攻撃力が一番高いモンスター1体を破壊する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

優先度☆☆

 展開が余ったらとりあえず出して置くモンスターとして、低燃費な上に優秀です。星6シンクロで、ノーコストで1度だけフィールドのこのカードより攻撃力が一番高いモンスター1体を破壊出来ます。何よりフリーチェーンの妨害モンスターです。相手が攻撃力2500以上のモンスターを出したらすかさず差し込んで妨害しましょう。自分のターンで効果を使った場合は、可能なら星9シンクロにしてしまいましょう。

 

 

電脳堺獣-鷲々

星6/風属性/サイキック族/攻2400/守1700

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):元々の種族・属性が同じでカード名が異なるモンスターが自分の墓地に2体以上存在する限り、フィールドのこのカードは戦闘・効果では破壊されない。

(2):元々の種族・属性が同じでカード名が異なるモンスター2体を自分の墓地から除外し、フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを墓地へ送る。

 

優先度☆

 ここからの優先度は低めです。と言うよりも状況に応じて使い分けていく感じで、基本的には出さないモンスターですね。電脳堺獣-鷲々は耐性も(2)の起動効果もとても優秀ですが、(2)の効果を使うと耐性を失い兼ねない上、電脳堺は主に電脳堺狐-仙々が墓地のモンスターを除外と反復横飛びさせまくるので、耐性がイマイチ安定しません。必要能力値がチグハグで高いんでしょうね……夜と炎の剣(下方修正)

 なので、思い切って(2)の起動効果目当てにシンクロし、効果を使ったら星9シンクロにしてしまうと言うのが良いですね。そのため、基本的には後攻か、返しのターンに使うカードのため、優先度は低めです。まあ、【電脳堺】のパック剥いて出たら入れとくかぐらいでいいと思います。2枚とかまず使わないので1枚以上出たら砕いていいです。他のURの足しにしましょう。

 

 

メタファイズ・ホルス・ドラゴン

星6/光属性/幻竜族/攻2300/守1600

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):このカードがS召喚に成功した場合、そのS素材としたチューナー以外のモンスターの種類によって、以下の効果をそれぞれ発動できる。

●通常モンスター:このターンこのカードは自身以外のカードの効果を受けない。

●効果モンスター:このカード以外のフィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。 その効果を無効にする。

●Pモンスター:相手フィールドのモンスター1体を相手が選び、 自分はそのコントロールを得る。 このターンそのモンスターは攻撃できない。

 

優先度☆

 色々書いてありますが、要するにノーコストで相手のフィールドのカード1枚を何でも無効化出来ます。魔法・罠に対しては実質、モンスター効果無効以外の耐性を貫通出来る完全除去です。効果を使ったら星9シンクロにしてしまいましょう。

 

 

オリエント・ドラゴン

星6/風属性/ドラゴン族/攻2300/守1000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードがシンクロ召喚に成功した時、 相手フィールド上のシンクロモンスター1体を選択してゲームから除外する。

 

優先度☆

 ノーコストで相手のシンクロモンスター1体を除外出来ます。シンクロモンスターの除外耐性持ちは稀なので大方除外出来ます。効果を使ったら星9シンクロにしてしまいましょう。

 

 

 さてさて、ここからはみんな大好きアルティマヤ・ツィオルキンさんです――。

 

 

~アルティマヤ・ツィオルキン関連(6・9シンクロ以外)~

 

アルティマヤ・ツィオルキン

星0/闇属性/ドラゴン族/攻 0/守 0

ルール上、このカードのレベルは12として扱う。このカードはS召喚できず、自分フィールドの表側表示のレベル5以上で同じレベルの、チューナーとチューナー以外のモンスターを1体ずつ墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。

(1):1ターンに1度、自分フィールドに魔法・罠カードがセットされた時に発動できる。「パワー・ツール」Sモンスターまたは レベル7・8のドラゴン族Sモンスター1体をEXデッキから特殊召喚する。

(2):フィールドのこのカードは、他の自分のSモンスターが存在する限り、攻撃対象及び、効果の対象にならない。

 

 時々話に出ていたアルティマヤ・ツィオルキンです。読んでいて不思議な効果なのでこのデッキで要約します。

 星6チューナーの電脳堺悟-老々と、星6の電脳堺麟-麟々か星6シンクロを1体ずつフィールドから墓地に送ることで場に出せるモンスターです(墓地の電脳堺門-朱雀を除外してレベルを変更しても可)。効果としては1ターンに1度、魔法・罠カードをセットすると、後述するクリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンか月華竜 ブラック・ローズを特殊召喚出来ます。

 

 ちなみに知らないとよくやる間違いですが、特殊召喚のためには”墓地へ送る”必要があるので先に電脳堺狐-仙々がいるとフィールドから墓地へモンスターを送れないため、アルティマヤ・ツィオルキンを特殊召喚出来ない点は要注意です。

 よく見たら赤くてプリプリしてゆで立てみたいですよね……。エビ好きに、悪人はいねえ(600ルーン)

 

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン

星8/風属性/ドラゴン族/攻3000/守2500 チューナー+チューナー以外のSモンスター1体以上

(1):1ターンに1度、このカード以外のモンスターの効果が発動した時に発動できる。その発動を無効にし破壊する。この効果でモンスターを破壊した場合、 このカードの攻撃力はターン終了時まで、この効果で破壊したモンスターの元々の攻撃力分アップする。

(2):このカードがレベル5以上の相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に発動する。このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップする。

 

 とりあえず、先行なら雑に出しておけば外れはないです(その3)。特に理由が無ければアルティマヤ・ツィオルキンで最初に出します。ターン1でモンスター効果妨害+自身を強化 & レベル5以上のモンスターに対してまず戦闘で負けません。強いことしか書いていないことが特徴です。

 

 

月華竜 ブラック・ローズ

シンクロ

星7/光属性/ドラゴン族/攻2400/守1800

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードが特殊召喚に成功した時、または相手フィールド上にレベル5以上のモンスターが特殊召喚された時に発動する。相手フィールド上の特殊召喚されたモンスター1体を選択して持ち主の手札に戻す。「月華竜 ブラック・ローズ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 アルティマヤ・ツィオルキンで出せます。シンクロ召喚時ではなく、特殊召喚時にバウンスなのでアルティマヤ・ツィオルキンで出してもまずバウンスしてくれます。その後は相手がレベル5以上のモンスターを出したら1ターンに1度バウンスしてくれます。誰に似たのか、ドS爆アドドラゴンです。

 

 他にもお手軽除外の"ライトロード・アーク ミカエル"や、デッキによっては出すだけで詰む"魔王龍 ベエルゼ"、ここにも入る"フルール・ド・バロネス"など、アルティマヤ・ツィオルキンから直接あるいは間接的に出せるパワーモンスターは沢山いますが、一応、初心者や復帰勢向けを名乗っているので、シンクロと電脳堺とアルティマヤ・ツィオルキンに慣れてからの方がいいので今回は見送りました。

 

 

 

~展開目標(必須のみ)~

 

 基本的な電脳堺のシンクロフェスでの展開目標は主に二通りです。

 

"電脳堺狐-仙々+炎斬機ファイナルシグマ"

 先行でこれを置くだけで基本的になんとかなります。相手は墓地利用を封印されたままカード効果を受けない3000のモンスターと無限に蘇る2800のモンスターを相手取る事になるので、高打点のシンクロモンスターを出すにはそれなりに準備が必要な仕様上、シンクロフェスならデッキによっては最早イジメです。

 

 

"電脳堺狐-仙々+アルティマヤ・ツィオルキン+クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン"

 こちらでも特に問題はありませんし、クリスタルウィングが妨害出来るので多少の制圧にもなりますので、理想展開となります。がしかし、ファイナルシグマは出せてもアルティマヤ・ツィオルキンは出せないと言うことはよくありますが、その逆はほぼないので出せたら良いなぐらいでもいいです。手札に魔法・罠が必要な点も念頭に置かなければいけないので、頭ファイナルシグマにした方が色々楽です。

 とは言え、このデッキでは麟々+老々・6シンクロ+老々・3レベル(+朱雀)+老々(or麟々)でクリスタルウィングが出て来るので、狙えばすぐ出せます。

 

 

 まあ、色々話しましたが、電脳堺狐-仙々だけ立てられればフィールド限定のマクロコスモを貼ったようなものなので、凄まじく妨害出来ます。ついでに何故か無駄に2800も攻撃力があるため、容易に落とされません。とりあえず、目標は電脳堺狐-仙々。炎斬機ファイナルシグマを出すときはそれだけEXモンスターゾーンに置く。アルティマヤ・ツィオルキンを出すなら電脳堺狐-仙々よりも先に出すと言うことを念頭に置けば大丈夫だと思います。

 

 さて、ではデッキレシピをば。そこそこ軽めに作って見ました――。

 

~メインデッキ(40枚)~

・モンスター(23枚)

電脳堺媛-瑞々×3 SR

電脳堺豸-豸々×3 N

電脳堺悟-老々×3 R

電脳堺麟-麟々×3 N

電脳堺姫-娘々×2 SR

灰流うらら×3 UR

増殖するG×3 UR

PSYフレームギア・γ×2 SR

PSYフレーム・ドライバー×1 N

 

・魔法・罠(17枚)

電脳堺都-九竜×3 R

電脳堺門-青龍×3 R

電脳堺門-朱雀×2 R

電脳堺門-玄武×1 N

強欲で貪欲な壺×2 SR

緊急テレポート×2 SR

墓穴の指名者×2 UR

禁じられた一滴×2 UR

 

~EXデッキ~

炎斬機ファイナルシグマ×1 UR

アルティマヤ・ツィオルキン×1 UR

電脳堺狐-仙々×1 UR

飢鰐竜アーケティス×1 SR

星風狼ウォルフライエ×1 UR

灼銀の機竜×1 SR

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン×1 UR

月華竜 ブラック・ローズ×1 UR

瑚之龍×1 SR

スターダスト・チャージ・ウォリアー×1 SR

電脳堺獣-鷲々×1 UR

レッド・ワイバーン×1 SR

メタファイズ・ホルス・ドラゴン×1 SR

オリエント・ドラゴン×1 SR

自由枠×1

 

 だいたい、こんな感じですね。ちなみに――。

 

~EXデッキ~

炎斬機ファイナルシグマ×1 UR

アルティマヤ・ツィオルキン×1 UR

フルール・ド・バロネス×1 UR

電脳堺狐-仙々×1 UR

飢鰐竜アーケティス×1 SR

星風狼ウォルフライエ×1 UR

灼銀の機竜×1 SR

氷結界の龍 トリシューラ×1 UR

PSYフレームロード・Ω×1 UR

魔王龍 ベエルゼ×1 SR

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン×1 UR

月華竜 ブラック・ローズ×1 UR

瑚之龍×1 SR

スターダスト・チャージ・ウォリアー×1 SR

電脳堺獣-鷲々×1 UR

レッド・ワイバーン×1 SR

 

 誰とは言いませんが、誰かさんはこんなEXデッキらしいですよ? ちなみにこの場合のフルール・ド・バロネスは、アルティマヤ・ツィオルキンで月華竜 ブラック・ローズを出してバウンス、3レベルチューナーを出してバロネスにして効果で破壊、そして1妨害という後攻用コンボの為だけに入れております。

 

 

 えっ、URが高い? もう少し安くしろ? 仕方ないですねぇ……。

 

~メインデッキ(40枚)~

・モンスター(23枚)

電脳堺媛-瑞々×3 SR

電脳堺豸-豸々×3 N

電脳堺悟-老々×3 R

電脳堺麟-麟々×3 N

電脳堺姫-娘々×2 SR

灰流うらら×3 UR

増殖するG×3 UR

PSYフレームギア・γ×2 SR

PSYフレーム・ドライバー×1 N

 

・魔法・罠(17枚)

電脳堺都-九竜×3 R

電脳堺門-青龍×3 R

電脳堺門-朱雀×2 R

電脳堺門-玄武×1 N

強欲で貪欲な壺×3 SR

緊急テレポート×2 SR

墓穴の指名者×2 UR

ライトニング・ストーム×1 UR

 

~EXデッキ~

炎斬機ファイナルシグマ×1 UR

アルティマヤ・ツィオルキン×1 UR

電脳堺狐-仙々×1 UR

飢鰐竜アーケティス×1 SR

灼銀の機竜×1 SR

浮鵺城×1 R

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン×1 UR

魔王龍 ベエルゼ×1 SR

ライトロード・アーク ミカエル×1 SR

瑚之龍×1 SR

スターダスト・チャージ・ウォリアー×1 SR

甲纏竜ガイアーム×1 R

レッド・ワイバーン×1 SR

メタファイズ・ホルス・ドラゴン×1 SR

ハイパーサイコライザー×1 R

 

 ――メインデッキの復帰勢や初心者は余りお持ちでない禁じられた一滴を強欲で貪欲な壺とライトニング・ストームに差し替え、EXデッキのUR枚数を4枚まで抑えました。閃こう竜 スターダストの採用も悩みましたが、実際の用途は異なりますけど、仮に閃こう竜が刺さり続けるような状態ならベエルゼ様でビートダウン出来るので、今回は見送りました。ぶっちゃけ電脳堺狐-仙々を立て続けて、それより火力ある相手を殴り殺していればいつの間にか相手は倒れます。

 可能な限りSRは抑えめにしましたが、もう流石にパック剥いてください。先月まで毎日コツコツミッション選り好んで得た130ルピがあるでしょーが。

 

 あ、また審判始まりますのでそろそろ行きますね。

 

 ………………また来ますよ。こう見えても私、相変わらず暇なので。

 

 

 

 

 

 

 






Q:なんで作者の電脳堺に二ビルと抹殺の指名者入れてないの?

A:最初入れてたけどフェスティバルなせいか入れなくても別に勝てるので抜きました(最高15連勝)。過剰防衛。多分、レンタルデッキに墓穴の指名者ぐらいしか入ってないせいでしょう。というか、そのカードは初動の事故要因にもなるから極力入れなくていいならば入れたくはないですね。



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入学前
じゃしん


とある晴れた日の出来事。

私の友達が1枚のカードを見せて言いました。

『コイツヒロインで小説書いてくれよ』

その時、私に電撃走る。



 

 

 

 突然だが、俺は風で飛んだ1枚のカードを拾うため車道に飛び出し、拾ったはいいが既に回避できない距離にワゴン車が来ていた。

 

 信号を見ると赤、住宅地をそのスピードで走っているとなると信号無視だろう。

 

(あ、これ死んだ)

 

 これが走馬灯なのか、今までの前世を足して30年ばかりの人生が甦った。

 

 俺は所謂転生者だった。

 

 死んだ俺は気付けば遊戯王の世界に転生していた。

 

 街中でデュエルディスクを付けた人と、ソリットビジョンのモンスターを見かけ、バトルシティの対戦をお茶の間から見たので間違いない。

 

 俺はコブラ(父さん)に拾われ、今ここにいるのだ。

 

 原作キャラのリックに憑依していた事をその時、初めて知った時でもある。

 

 そして今は俺が死ぬイベントだろう……。

 

 無論、俺も気を付けていなかった訳ではない…が、初めて貰ったデッキに感激してそんなこと忘れてしまったのだ。

 

 この遊戯王の世界の遊戯王カードの価格はヤバい。ウルトラレアと言うだけで、どんなに弱かろうと最低数十万は確実にするし、スーパーですら数万だ……デッキを貰ってテンションが上がらない訳がない。

 

 あーあ……前世含めたら俺もう魔法使いじゃん…ヤりた…彼女とか欲しかったな……。

 

 ……そう言えばあのデッキなんだったんだろう?

 

 俺は飛び、今の状況を作り出した元凶の1枚のカードを見た。

 

 え……マジか、こんな高そうなカードくれたのか……。

 

 あれ? そう言えばコイツって……神のカードじゃね?

 

 

『あなたはまだアンデットになるのは早すぎます』

 

 

 は?

 

 何処からか女性の声が聞こえた。

 

 

『どうせなら私のマスターになっちゃって下さい♪』

 

 

 その瞬間、目の前に半透明の前世ですごく見覚えのあるカードの一応、女神が俺の前に出てきた。

 

 

『イケメン、古代人並の高精霊(カー)能力持ち、見える人の三拍子。これ以上の良好物件はありません! て言うか、颯爽と現れてご主人様を助けるなんて今私最高に輝いてません!? それに顔とか超タイプ~! これが玉の輿? きゃー☆私って勝ち組~。…と、言うわけで…』

 

 

 散々、空気を破壊し、自分の頬に手を当てふりふりと謎の行動を取った挙げ句に彼女は腕を振り上げた。

 

 

『交通違反にマスターを巻き込み、未来を断とうとは恥を知りなさい。後、私の未来も』

 

 

 彼女が手を降り下ろすとワゴン車のフロントが凄まじい音を立てながら陥没し、ワゴン車が縦回転しながら俺の頭上を舞う。

 

 そして俺の数m後方で2、3回転して止まった。

 

 車は見事にスクラップである。

 

「リック!? 大丈夫か!?」

 

 コブラ(父さん)が駆け寄り、俺を抱き締める。

 

「あ、うん。コイツが守ってくれたっぽい」

 

「お、お前は……いったい?」

 

 父さんは俺を抱き締めたまま、精霊から守るようにしつつ、その精霊を見つめた。

 

『おや? あなたも見える人ですか、なら話は早いですねぇ。このような見た目ですが、少なくとも私は彼の味方ですよ』

 

「………それの話は後にしよう」

 

 父さんが何かに気付いたようで、俺もそちらを見ると、ワゴン車から3人の銃とスポーツバッグを持った男が這い出て来た。

 

 THE・銀行強盗といった服装だ。スポーツバッグから金と覆面がはみ出てるし。

 

「ふん……ッ!」

 

 父さんは人間か疑うスピードで駆け出すと直ぐに3人を素手で気絶させてしまった。

 

 流石元特殊部隊、人間の格が違う……。

 

 父さんがのしたところで、後ろからサイレンの音が聞こえてきた。

 

「後は任せよう。そいつのことも聞きたいからな」

 

 俺は神のカードを一度良く見てから、再び神を見てそっとデッキに戻してから言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よろしく、"ヴェノミナーガ"さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふふふ、これからよろしくお願いいたしますマスター♪』

 

 そう言って毒蛇神ヴェノミナーガは赤い目を光らせた。

 

 

 

 

 

《毒蛇神ヴェノミナーガ》

効果モンスター

星10/闇属性/爬虫類族/攻 0/守 0

このカードは通常召喚できない。「蛇神降臨」の効果及びこのカードの効果でのみ特殊召喚できる。このカードの攻撃力は、自分の墓地の爬虫類族モンスターの数×500ポイントアップする。このカードはフィールド上で表側表示で存在する限り、このカード以外のカードの効果の対象にならず、効果も受けない。このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、このカード以外の自分の墓地の爬虫類族モンスター1体をゲームから除外する事で、このカードを特殊召喚する。このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時から3ターン後、このカードのコントローラーはデュエルに勝利する。

 

 

 

 

 

 こうして俺の長い長い蛇神との生活が始まった。

 

 

 

 

 






なぜこの人(?)がヒロインの小説が1つもないのか(ふんす)。

おい、他の小説書けよ という言葉は受け取らないので悪しからず(震え声)。


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神のカード

 

 

「で?君は一体何なんだ?」

 

 さあ、始まりました第1回家族会議。

 

 議長コブラ。毒蛇神ヴェノミナーガ。実況は死亡フラグをヴェノミナーガさんにへし折って貰ったリックがお送りします。

 

『カードの精霊ですよ』

 

 おっと、ナーガ選手自分を精霊表明だぁ!車をワンパンで空に飛ばす精霊などそうそういるわけがない、というか間違いなく邪神…いや蛇神なのにぃ!

 

「カードの精霊だと……」

 

 実況に熱が入ります!

 

『そうですよ。私はデュエルモンスターズの精霊。あなたも見える人ですからね』

 

 ナーガ選手爆弾発言で父さんを攻撃ぃ!これはクリティカルヒットだぁ!

 

「見える人?」

 

 そんなことより、ヴェノミナーガさんがその巨体で器用に椅子にどうやって座ってるのかの方が気になるぅ!

 

『そう、あなたには精霊が見える』

 

 ナーガ選手爆弾発言Vツゥー!!!

 

「うるさいぞリック」

『うるさいですマスター』

 

 ごめんなさい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、言うわけで普通のテンションでヴェノミナーガさんの話を聞こう。

 

『見える人とは大きく2つに別れます。1つはマスターのように生まれつき精霊を扱える能力に長けているために見える者。そしてお父様のように……』

 

 そこまで言うとヴェノミナーガさんは言葉を止めた。

 

「どうした?」

 

『間近で大切な人が死ぬのを見た人です』

 

「…………そうか」

 

 父さんはそれを聞いて少し影が差したような表情になった。

 

 父さんにとっては見事なまでの地雷だろうな……。

 

『尤も例え見えたとしても普通は精霊を見ることなんて滅多に無いでしょう。私みたいな精霊を見るのはその様子だと初めてみたいですからね。あ、これって初体験って奴ですね! キャー☆ そう言うとなんかエロい! でもいい響きですね! じゅるり…』

 

「………………」

 

「………………」

 

 しかし、地雷を踏んでも何のその、そんなことを言いながらくねり出すヴェノミナーガさん……なんなんだコイツは……。

 

『こほん。話を戻しますと精霊が見れる人は結構な数がいるんですよ。具体的に言えば100人に1人はその辺を精霊が飛んでいれば普通に見ることが出来るでしょう』

 

「そう言う割にはデュエルモンスターズの精霊は眉唾物の話程度のハズだったのだが…」

 

 まあ、父さんの言いたい事はわかる。だが、これは現実だ。

 

『まあ、見えるからといって普通、精霊は見えないでしょうね。その辺をぴゅーっと精霊が飛んでいるわけでも無いですし。ですが精霊は全てのカードにいるんですよ? 例えば…』

 

 ヴェノミナーガさんが腕を伸ばし、1枚のカードをリビングの隅のカードプールから取ってきた。

 

 

 

 

シーホース

星5/地属性/獣族/攻1350/守1600

ウマとサカナの体を持つモンスター。海中を風のように駆け巡る。

 

 

 

 

 ……………………なぜソイツをチョイスしたし。

 

『これをこうします』

 

 ヴェノミナーガさんの手に集まる黒紫色のドス黒いオーラのような何かがシーホースのカードを覆った。

 

 するとカードは全長3mぐらいの上半身が馬で、下半身が魚の生物になっていた。

 

 シーホースだ……圧倒的シーホースだ……。

 

『このようにカード全てには精霊が宿っているため…『ヒヒーン!』あ』

 

「あ」

 

 シーホースは一鳴きするとそのまま開いている窓から外へ飛び出し、車道を跳ぶように駆けると直ぐに見えなくなってしまった。

 

『…………』

 

「…………」

 

「……大丈夫なのか?」

 

『大丈夫です。かなり温厚な精霊ですから……きっと自分が所有者だと認めた者のところにでも旅立ったのでしょう』

 

 "きっと太平洋を横断して日本へ向かうのですね"とか言いながらヴェノミナーガさんはどこか晴れがましい表情で話を続けた。

 

『人は決闘できたんですよ……マスター』

 

 ……なんの話だよ。

 

『話を戻しますと今のように精霊を扱う力があればカードに宿る精霊を自由に具現化し、デュエルディスク無しで召喚することが可能です。私を見ての通り、物質化しているので……』

 

 ヴェノミナーガさんはまた手を伸ばし、窓から出してから戻すと、手に今の俺が一抱えぐらいの大きな石が握られていた。

 

『えいっ』

 

 ヴェノミナーガさんが手を閉じると石は粉々に砕けた。

 

『このように精霊に物理的に攻撃させることも可能です。やったー♪』

 

 おい、デュエルしろよ。

 

 ……少なくともヴェノミナーガさんの手だか口だからわからない腕はサメやワニより遥かに噛む力があるということはわかった。

 

「……つまり、リックには君のような精霊を扱う力があると?」

 

『珍しいことじゃないですよ。5000年……いや、8000年? まあ、それぐらい前はその能力があることがデュエリストの最低条件でしたからね』

 

「ようするにどういうこと……?」

 

 そう言うとヴェノミナーガさんは首を傾げた。

 

『ひょっとしてマスターはデュエルディスクを使ってデュエルしたことが無いんですか?』

 

 ん? なんでそうなる? でもそう言えば一度も使ったことが無いような……。

 

「納得の行くデッキが出来ないから……」

 

 だってさ……攻撃力1800のバニラですら5万ぐらいするんだぜ? 作れねぇよ。

 

 それに折角、奇跡的に当たったレアカードも現状使い道無いし……。

 

『なるほど…どうりで…なら実戦あるのみですね』

 

 何が?

 

『それはそうと、精霊は人とは違う異世界に住んでいるんですよ』

 

 そう言いながら机の上に置いてあるA4のコピー用紙にペンでスラスラと図形を描いて行くヴェノミナーガさん。

 

 なんか話を反らされたような………それにしても、その手……手でいいのか? すげぇな。

 

『とまあ、こんな感じですね』

 

 紙には人間界と真ん中に書かれた大きな丸と、その横に精霊の世界と真ん中に書かれた大きな丸が書かれていた。

 

『人は人、精霊は精霊の世界で暮らしているわけです。ちなみに……』

 

 ヴェノミナーガさんはまたペンを動かす。

 

 精霊の世界と書かれた大きな丸の方に幾つかの小さい丸が書かれた。

 

 数えてみれば12個書かれている。

 

『精霊の世界は12個に別れており、それぞれその世界の環境に適した精霊が暮らしています。例えば三邪神を崇め、悪魔族が統治する世界とか。時戒神を崇め、天使族と機械族の統治する世界だとかがあります。まあ、個性豊かですね』

 

「ほう……」

 

 やはり、デュエリストである父さんは興味津々と言った様子だ。

 

 三邪神は兎も角、時戒神ってなんだろう?

 

「時戒神ってなに?」

 

『時戒神と言うのは機械の身体を持つ天使の神々の事です。デュエルモンスターズの神と人間界で言われている三幻神と大体、同格の神のカードです。と言っても救われない者に総出で手を差し伸べ、その者が救われるまで共にいる事もたまにあるぐらい素直な方々ですから恐怖することはありません。寧ろコピーカードを使うだけで天罰を落とす三幻神の方がよっぽど凶悪ですよ』

 

「待て……」

 

 父さんがヴェノミナーガさんの話を止めた。

 

「神のカードは三幻神だけではないのか……?」

 

 ……尤もな疑問だ。

 

『はい、勿論。正直、三幻神は神というカテゴリーの属性を持ってはいますがその実力自体は大したことはありません。現に闇属性、悪魔族に分類される三邪神の方が力が強いですから……アバターにゃ、私だって逆立ちしたって勝てませんからねー。あのソルディオス砲め…』

 

 ソルディオス砲が何かはよくわからないがディスっているのだけは伝わった。

 

『絵で表すとこんな感じですね』

 

 そこにはホルアクティと書かれた大きな丸から1本の線が延びており、神&精霊と真ん中に書かれた大きな丸に繋がっていた。

 

『そもそもデュエルモンスターズの精霊の祖は三幻神ではなく、創造神 ホルアクティという名のそれはそれはど偉い神です。ホルアクティが様々な神々を創造し、さらに精霊全てを創造したんです。つまり生まれながらに神は神。精霊は精霊ということです』

 

「毒蛇神……まさか君もか?」

 

 父さんはヴェノミナーガさんのカードを持ち、凝視しながらそう言った。

 

『にょろーん! 私は十二界の内の1つにて崇められている神のカードなんです!』

 

 目を光らせ、誇らしげにさらっと爆弾を投下した。

 

「神のカード……」

 

『ちなみに私の神としての実力は上の中ってところですね。うん、私ったらとっても謙虚』

 

 自分で言うのか……。

 

『とまあ、簡単な説明はこれぐらいですね』

 

「そうか…」

 

 それを聞くと父さんは椅子から立ち上がり、カバンを持った。

 

「すまないがデッキを渡しに戻っただけで仕事があるんだ」

 

 なんだそうだったのか。

 

「お疲れ様、行ってらっしゃい」

 

 そう言うと父さんは笑った。

 

 父さんは基本的に家にあまりいない。まあ、父子家庭だから仕方ないわな。

 

「ああ……」

 

 父さんはヴェノミナーガさんに向くと頭を下げた。

 

「本当にありがとう……」

 

『ふぇ? あ……こちらこそ?』

 

 それだけ言うと父さんはリビングから立ち去り、暫くすると玄関ドアの閉まる音と、車が走り去る音が聞こえた。

 

「………………」

 

『………………』

 

 二人しかいない空間でヴェノミナーガさんと向き合う俺。

 

 蛇に睨まれたなんとやらとはこのことだろう。向こうは睨んで無いけど。

 

『さてと……』

 

 そう言うとヴェノミナーガさんの姿が薄れ、半透明になると俺の背後に憑いた。

 

 背後というか俺の頭上に覆い被さっている。

 

 頭の上の感触はたぶん、胸だろう。重さは感じないが感触は感じるとはこれいかに。

 

「はい?」

 

『いやー、最高の眺めですねー。絶景かな絶景かな』

 

「何してんですか?」

 

『イヤだなー。敬語だなんて止めて下さいよ! マ・ス・ター♪ くー、いい響きですねー! 我が世の春って奴ですね!』

 

 …………本当になんなんだろうこの人は。

 

『……これからよろしくお願いいたしますね?』

 

 ヴェノミナーガさんの顔は見えないが小声で言われたその言葉は俺に届いた。

 

 その言葉は少しだけ震えているように感じる。

 

 命の恩人である彼女を受け入れない選択肢は俺には無かった………………それに強いものな。

 

「こちらこそよろしく。"ヴェノミナーガ"さん」

 

『…………えへへ……』

 

 表情は見えないがヴェノミナーガさんから漏れた言葉から大体は予想が出来た。

 

 正直なところ、これからヴェノミナーガさんと迎える人生が楽しみで仕方ない。

 

 

 

 

 

『うっしゃー! 言質とったらー! これでいられるぜー! ひゃっはー!』

 

 ………………たぶん、大丈夫だろう。

 

 

 

 






 ちなみにヴェノミナーガさんの神格はラー以上アバター未満ぐらいです。


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遊戯王あるある使えないカード

信じられるか……?

遊戯王なのに今回もデュエル無いんだぜ?


 

 

 

「はあ……」

 

 ヴェノミナーガさんが来てから数日後。

 

 俺は自分の持つカードの群れの中で溜め息をついていた。

 

「足りねぇ……」

 

『カードがですね』

 

「うん……」

 

 どれだけパックを買ってもGB版の遊戯王ゲーム程度のデッキを作るカードしか揃わない……。

 

 この世界のパック、貧相過ぎんだろ……。平均相場が凄まじいわけだよ……。

 

『ほへー。1000枚以上あって最高打点の4レベモンスターが魔法剣士ネオですか…ていっ』

 

 あ、こら投げるな。

 

 魔法剣士ネオとか……GBA版の初期遊戯王ゲームじゃ、よく使ってたなー。エキスパートⅠだったか。

 

 ……ってマジで笑えねぇよ……。

 

『で? 一番のレアモンスターってコレですか?』

 

 ヴェノミナーガさんはヒラヒラと俺のネオを振っていた。

 

 ちなみにこの世界の遊戯王カードは恐らく素材が紙ではない。

 

 だって水没しても大丈夫だし、上手く投げると壁に刺さるし、そもそもよく飛ぶしな。

 

「いや、コレ」

 

 俺は懐から1枚のカードを取り出した。

 

 このカードは確かに強い。レアリティも凄い。だが……使えない。

 

 何を言ってるかって………まあ、こういうことだ。

 

 

 

ガーディアン・デスサイス

星8/闇属性/悪魔族/攻2500/守2000

このカードは通常召喚できず、このカードの効果でのみ特殊召喚できる。「ガーディアン・エアトス」が戦闘・効果で破壊され自分の墓地へ送られた場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。このカードが特殊召喚に成功した時に発動できる。デッキから「死神の大鎌-デスサイス」1枚をこのカードに装備する。このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分は召喚・特殊召喚できない。このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動する。手札を1枚墓地へ送り、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

 

「………………出せねぇんだよ!」

 

『プギャーm9』

 

「その指…いや、舌は止めろ」

 

 ただ、俺の知っているデスサイスは蘇生効果ではなく、破壊耐性だったような…。それに絵がなんかちょっと違う気がする。

 

 まあ、遊戯王じゃ、よくあることか。

 

 マジでこんなのどうすればいいんだ……。奇跡的に当たったレアカードだから思い入れはあるし、使いたいとも思う。

 

 だが、ガーディアン・エアトスなんていくらすると思ってやがる……。

 

 ガーディアン・デスサイスは市場に出回らない超レアカードだが、それはガーディアン・エアトスも同様。

 

 市場に出回ってるのを過去から現在にかけて見たことがないから値段なんか知らんが、過去に女神の聖剣ーエアトスが日本サイトに出たのを見つけ、値段を見てみるとあらビックリ。

 

 

在庫切れ(※入荷未定) 女神の聖剣ーエアトス 9000万円。

 

 

 高ェー!

 

 ちなみにおおよそレアな専用サポートカードは大体、サポートを受けるモンスターの4分の1の価格と言う謎の法則がある。

 

 それから考えるとガーディアン・エアトスは……3億6000万円になりますね。合わせて4億5000万円だー。

 

 ………………バカじゃねぇの?って言いたいところだが、重要なことはデュエルで解決するこの世界ではデュエルの強さ=人の価値、あるいは実行力になるわけだ。

 

 そりゃ、高いわ……。

 

 その点、HEROは凄いね! 融合モンスターと融合以外は打点が低すぎるせいか、1万以内にHEROのバニラは揃っちゃうよ!

 

 融合モンスターの出す条件のキツさから融合モンスターも結構、お得だし。

 

 主人公と被るのにも関わらず、鞍替えしそうに何度なったか……。

 

『それなら、ここは私が一肌脱ぎましょう!』

 

「脱皮なら外でやってくれ」

 

『ちょ……ひでぇ!? とりあえず近くのショップに行きましょうよー』

 

 ヴェノミナーガさんが手を絡めながらグイグイ引っ張って来るので俺は仕方なく外へ行くことにした。

 

 どうでもいいが精霊って回りの人からあんまり見えないから、今の俺は他の人から見えない何かに引っ張られてる少年になるわけだ。

 

 こわっ……。

 

『お出かけれすかー♪ お出かけれすよー♪』

 

 ……やっぱり俺視点だと怖くないわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほんでホームセンター並の大きさのカードショップ。

 

 子供から老人まで様々な人が真剣な、あるいは純粋な眼差しでカードを吟味したりしている。

 

 ちなみに屋上は駐車場ではなく地域解放されているデュエルディスクを使ったデュエル場になっているのだ。

 

 まあ、突然道路のど真ん中でデュエルされても困るからだろう。結構こういったブースがどこにでも必ずある。

 

 まあ、今回はそこではなくパック売り場にいる。

 

 そこには十数列、全ての列の両面でパックの穴を通して吊るすアレがところ狭しと並んでいた。

 

 そして、その全てに1色で同じ柄のパックが吊るされている。

 

 全て最新のパックだ。何万枚あるんだか。

 

 突然だが、この世界のパックは前世のパックと大きく違う点がひとつある。

 

 価格? いや、約150円。

 

 枚数? いや、5枚。

 

 正解は……。

 

 

 

 "最新のパックからは全ての種類のカードが出ることだ"

 

 

 

 つまり、最新のパックからは追加カードを含めた現存する全てのカードの中から5枚選出して1つのパックになっているのだ。

 

 …………パックが150円なのにピンのカードが高いわけだよ。これだと何かしらの新カードが出る確率すら1%未満だ。

 

 これはひどい。

 

 なぜなら新カードがパックに入る度に古参のレアカードの入手率が下がるからだ。

 

 つまり古参レアカードはレア度がさらに上昇し、価格がさらに高騰するのである。

 

 そして最新のパックが出た時点で古いパックの製造は止められるのである。

 

 結果、有り得ないレベルの価格インフレが起こるわけだ。

 

 シリーズデッキをただの一般的な家庭の子が作るだって?寝言いってんじゃねェ。

 

 これなら、昔テレビ特集で見たデュエルアカデミアの試験日当日に新パックが入荷してあれだけ人が雪崩れ込むような光景も合点がいく、恐らくアカデミア限定のカードがある程度、厳選され、レアが多少出やすいパックだったりするのだろう。ああ、早く入学してぇ……。

 

 ちなみに価格が上がり続けるにはもうひとつ理由がある。

 

 これは公式発表されているのだが…ちょっとサイトに繋ごう。よし、来た。

 

 適当なレアは……コレでいいか。

 

 

 

天界王 シナト 枚数140枚。

 

 

 

 おわかり頂けただろう。レアカードは現存枚数が公式ホームページで確認できるのだ。

 

 即ち、この世界にシナトさんは140枚しか存在していないのである。

 

 それが全て所有されているか、まだパックに残っているかなどは流石にわからん。

 

 これが第2のインフレの原因、異常なほど低い、レアカード封入確率だ。

 

 全世界にパックがあるのにも関わらず……いや、全世界でパックが売られているからこそ、シナトさんですらロトくじの1等の以上の価値があるのだ。

 

 これから考えると数億だなんて低い方だろう。だって年末ジャンボ当てる方がまだ現実的だもん。

 

 そもそも新旧含め、推定数十万枚のパックがあるこの店ですらレアカードが出るかどうすら怪しい。全て開封して数枚高額レアカードがあれば御の字だろう。

 

 まあ、例えば10万枚買ったとしても約150×100000=約1500万円。うわー安い(白目)。

 

 遊戯王カードのピンはこれからさらに高騰するんだろうな……。

 

 それでもパックを買ってしまう……ビクンビクン。なんてボロい商売だ。

 

 だってねぇ……レアカードが出たらとか考えるとねぇ……前世より遥かに1パックからの夢が広がるぜ……。

 

 こうして子供は少ないお小遣いを溶かしていくのである。俺のようにな!

 

 数年買い続けた結果がガーディアン・デスサイスだよ!

 

 いや……レアカードが出てるだけマシなんだろうな……。

 

 ちなみにサーチ対策は完璧なようでそんなことする人は一人もいない。そもそもサーチの概念が無いのだろう。

 

 ガーディアン・デスサイス出した時にも癖で裏をスリスリしたが感触が他のパックと全く同じだった。対策は完璧だったようで、ざんねん。

 

 ちなみに、この店で最も安いウルトラレアカードはこれだ。

 

 

トーチゴーレム (日本円にするとおよそ)11万円。

 

 

 なんでや! トーチゴーレム関係ないやろ!(錯乱)

 

 まあ……実際、この世界でコイツの利用法考えてる暇があったら他のことするわな。 ぶっちゃけ金のムダだ。

 

 ああ、そうそうこの世界でも前世でも全く、変わらないことがあるぞ。

 

 それはな……。

 

 

 

 

 

"女子キャラは高い"

 

 

 

 

 

 喜べ、お前らの思考は結局、どこでも同じらしい。

 

 ダメだ人類……早くなんとかしないと……。

 

 そのせいでエアトスが高いんだ。訴訟。

 

『マスター! マスター!』

 

「ん?」

 

 ヴェノミナーガさんが2段ぐらい前のパックを1つ持っていた。

 

 たぶん、ワゴンに残ってたヤツだろう。

 

『はい』

 

「はいって……買えってこと?」

 

『精霊の力が一番強いヤツを選んでみました』

 

 え? なにそれ新手のサーチ?

 

『とりあえず買ってみましょうよ。きっといいのがでますよ』

 

 そこまで言うなら仕方ない。俺は適当に選んだ新パック1つと、ヴェノミナーガさんが持ってきたパックを購入した。

 

『開封ー、開封ー』

 

 こちとらこれだけが楽しみで……。

 

 

 

ゴキボール

星4/地属性/昆虫族/攻1200/守1400

丸いゴキブリ。ゴロゴロ転がって攻撃。守備が意外と高いぞ。

 

 

 

「………………」

 

『そんな謀ったな、シャア! みたいな顔は止めてくださいよ! まだ、一枚目でしょう!?』

 

 4枚目までは普通のカードだ……ん? 後ろ光ってるな! 当たりか!

 

 

 

トライホーン・ドラゴン

星8/闇属性/ドラゴン族/攻2850/守2350

頭に生えている3本のツノが特徴的な悪魔竜。

 

 

 

「……………」

 

『考えていることを当てましょうか?パッとしないカードが出たなとか思ってるでしょう? 顔に出てますよ?』

 

 トライホーンって……トライホーンってお前……。

 

『でも強い精霊の力を宿しています。きっと土壇場で引けますよ!』

 

「ピンチの時に手札に来られても寧ろ事故だろ」

 

『ぐぬぬ……』

 

 まあ、売れるか。うん、売れるな。高値で。

 

 ん? ヴェノミナーガさんどこ行った?

 

『イジイジ……イジイジ……』

 

 ……ヴェノミナーガさんが視界の隅っこでイジイジしていた。いや、イジイジ言っている。

 

 手の鼻先という非常に形容しがたい部分で、ぐるぐると円を書き続けているようだ……。

 

 相変わらず何なんだこの神様は……。

 

『そもそもデッキなら私があるじゃないですか……イジイジ……』

 

 ぶっちゃけヴェノミナーガさんのデッキは強すぎるんだよ……。

 

 俺の今の年齢の子供なんて普通、高い攻撃力のモンスターが出たら勝ちみたいなデュエルしてんだぞ。ヴェノム・スワンプがチートに近い。

 

 ………………はあ……。

 

「ありがとうヴェノミナーガさん」

 

『!!? やっぱり嬉しいですよねー! ひゃっほー!』

 

 飛び跳ね始めたヴェノミナーガさんを尻目に俺は新パックを開封した。

 

 どらどら、はは相変わらずのバニラ率……ん? ……ん!?

 

「は?」

 

『どうかしましたか? ほうほうそれはまた…』

 

 

 

 

 

 

竜騎士ブラック・マジシャン・ガール

星7/闇属性/ドラゴン族/攻2600/守1700

「ブラック・マジシャン・ガール」+ドラゴン族モンスター。このカードは上記カードを融合素材にした融合召喚でのみ特殊召喚できる。1ターンに1度、手札を1枚墓地へ送り、フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。その表側表示のカードを破壊する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

 

 

 

 

 

 そこには騎士の鎧を着てキリッとした表情のブラック・マジシャン・ガールがなぜか社長の嫁に乗っていた。

 

 俺は無言でトライホーン・ドラゴンを見た。

 

 "ほら、俺を使えよ上級ドラゴンだぞ?"と煽られている気がする。

 

『で? ブラック・マジシャン・ガールは?』

 

「張っ倒すぞ……!」

 

『バッチ来いや! さあ! さあ!』

 

 こうして俺のデッキ作りは順調に進んでいった。と、願いたい。

 

 

 

 

 

 

 






 ちなみに竜騎士BMGは遊戯王の世界でのカード化に伴い、ティマイオスのところのテキストが削除され、ティマイオスじゃなくて社長の嫁に乗っているという設定です。ついでに強化されてますけどね。

 さあ、楽しいデッキ作りの始まりだ!


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デュエルをしよう1

 

 

 

「うーん……」

 

 ヴェノミナーガさんが来てから結構、経ったが、相変わらずデッキ作成の段階で頭を抱えていた。

 

 竜騎士ブラック・マジシャン・ガールが出たせいで下手にトライホーン・ドラゴンを手放すのは得策では無くなったし……。

 

 結局、なんも変わっとらん。

 

 だが、クズなどと呼ばれるカードから一応デッキらしきモノは出来た。

 

 いや、出来たのだが……本当にこれで良かったのか疑問だ……。

 

『まだ、唸ってるんですか?』

 

「そんなこというならヴェノミナーガさんは俺の持ってるカードでこれ以上のデッキ作ってよ?」

 

『そうだマスター! デュエルしようぜ! YATTA!』

 

 コイツ……露骨に話を……。

 

 まあ、デュエルならいいけど。

 

『デュエルディスク持ってくださいよ』

 

「デュエルディスク?」

 

 えーと、どこだったかな……。

 

 確か4年ぐらい前に父さんから誕生日プレゼントに貰って……あ、クローゼットに仕舞ってあるわ。

 

「あった、あった」

 

 これこれ、鋭利でカッコいいんだよなー。

 

 あー、使ってデュエルしたい。

 

『おー、青銅器みたいに綺麗なデュエルディスクですねー……って』

 

 ヴェノミナーガさんは俺からデュエルディスクを奪い、掲げた。

 

『"ドーマのデュエルディスク"じゃねーですか!? 一体、お父様はこれをどこで!?』

 

「こら、結構、気に入ってるんだぞ?」

 

 えーと……? 確か……父さんが昔、仕事先でデュエルを吹っ掛けてきた奴を逆に返り討ちにして入手したと言っていた。

 

 へっ……父さんに正面から挑むなんて恐れいるぜ。名もないドーマはそれはそれは酷い目にあったんだろうな……。

 

 ちなみに父さんはヴォルカニック使いで様々なデュエル学校の臨時教員などをしている。無茶苦茶、強い。

 

『それを丸々息子にプレゼントですか……いやはや知らないとは怖い……ん?』

 

 ヴェノミナーガさんはデュエルディスクを弄り始めた。

 

『なんで起動しないんでしょう? いや、待てよ?』

 

「?」

 

『まさか!』

 

 ヴェノミナーガさんが隅のスイッチを押し、確かフィールド魔法カードを入れる場所が開かれた。

 

『………………』

 

 ヴェノミナーガさんがカードを見たまま止まったので、そのカードを横から覗き見た。

 

 六芒星のような緑色の魔法陣が描かれたカードだ。はて? 凄く見覚えがあるような……ん?

 

 

 

The Seal of Orichalcos

This Spell Card is impervious to negation, destruction, and removal. Increase the ATK power of all your monsters by 500.You control a back row of monsters that cannot be attacked while a monster is in the front row.Send this card from your hand to the Graveyard to negate and destroy any card.The soul of whichever Duelist loses this Duel is forfeit to the winner.

 

 

 

 ぬう? 英語じゃないか。全く……遊戯王の世界は世界標準語が日本語だというのに……。

 

 最近は日本語は読み書き話出来るが、英語を書いたり、話すことの出来ないアメリカ人とか普通にいるんだぞ。ふんす。

 

 訳すか……えーと。こうだな。

 

 

 

オレイカルコスの結界

このカードはいかなる場合にも無効にならず、破壊および除外することもできない。自分フィールド上に存在するモンスターは攻撃力が500ポイントアップする。自分フィールド上に前衛モンスターが存在する限り、後衛モンスターを攻撃することはできない。このカードを手札から墓地に送る事で、あらゆるカードを無効にし破壊する。このデュエルに敗北したデュエリストは勝者に魂を奪われる。

 

 

 

 なんだ。オレイカルコスの結界か、どうりで見覚えがあるわけだ。

 

 相変わらず、チート染みた効果だ。でも魂だけは勘弁な。

 

 ………………ん? オレイカルコス?

 

 オレイカルコスの結界!?

 

『これは……あれ? でも……』

 

 そう言うとヴェノミナーガさんは首を傾げた。

 

『どうやらこれは最早、脱け殻ですね』

 

「脱け殻?」

 

『ええ、このカードは"オレイカルコスの神 リヴァイアサン"という、デュエルモンスターズの神々の中でもトップクラスの力を誇っていた神と誓約を結ぶ事で手に入るカードなんです。そして、大災害の1歩手前まで行ったドーマ事件の首謀者でもあります。なのですが、どうもこのカードには力が無い。どうやらリヴァイアサンは完全に眠りについたか、封印でもされたようですね』

 

 流石神様何でも知ってやがる……。

 

『まあ、マスターに言ってもわかりませんよね。まあ、とりあえず……』

 

 そりゃ、ヴェノミナーガさんは俺にうろ覚え程度の遊戯王の知識があることを知らない訳だからなー。

 

 って言ってもアニメは幾つかあるのは知ってるがATMの遊戯王以外はあんまり見てないんだよな。

 

 でもカードは結構、知ってるぞ? アニメは見なくとも友達とやったりするためにパックとかは出る度に箱買いとかしてたから。

 

 それよりさ。

 

 ヴェノミナーガさんはオレイカルコスの結界をなんで俺に差し出してんのさ?

 

「?」

 

 いや……ん? ヴェノミナーガさんはいったい何がしたいんだ?

 

 その次の瞬間、俺は耳を疑った。

 

 

 

 

『"折角ですから作ったデッキに入れましょう"』

 

 

 

 

 

…………………………。

……………………。

………………。

…………。

……ふう。

 

「腐ってやがる……遅すぎたんだ…」

 

『ちょ……如何に温厚な神のカードの私でも正面からの罵倒は流石に傷付きますよ!? あ、でもそれはそれで悪くないと言うか…マスター……何か酷い言葉で何度が罵ってくれませんか? 新しい扉が開けそうな気がします……はあはあ……!』

 

 ……ダメだこの神、早くなんとかしないと……。

 

『真面目な話。たぶん、使っても大丈夫です。だって魂を捧げる神が不在では最後の効果は不発になりますからね。デュエルモンスターズでいう、条件を満たしてないってヤツですよ』

 

「だとしても、もし復活したのを知らずに使ったりしたら危ないだろう」

 

『それは少なくとも数千年はありえませんし、復活すれば神である私が直ぐに気がつきますよ。まあ、それでもダメだと言うのなら……』

 

 ヴェノミナーガさんがオレイカルコスの結界を右手で飲み込んだ。

 

『少々、お待ちを……』

 

「おう……?」

 

 暫くするとヴェノミナーガさんの左手からカードが出てきた。

 

 ……どうなってんだ?

 

『出来ました』

 

 そのカードをヴェノミナーガさんから受け取り、とりあえず読んでみた。

 

 ん? テキストが日本語に書き変わってる? いや、これは……。

 

 

オレイカルコスの結界

このカードの発動時に、自分フィールド上の特殊召喚されたモンスターを全て破壊する。このカードがフィールド上に存在する限り、自分は融合モンスターを特殊召喚できず、自分フィールド上のモンスターの攻撃力は500ポイントアップする。1ターンに1度、このカードはカードの効果では破壊されない。自分フィールド上にモンスターが表側攻撃表示で2体以上存在する場合、相手は攻撃力の一番低いモンスターを攻撃対象に選択できない。「オレイカルコスの結界」はデュエル中に1枚しか発動できない。

 

 

 

 OCG化しやがった……!? 定期の更新じゃねーんだぞ!?

 

『これなら使えますね!』

 

「いや、使える使えないとかでは無くて……これ、ルール上問題ないのか?」

 

『まだるっこいですね……』

 

 ヴェノミナーガさんは手から2枚のカードを取り出した。

 

「それは……?」

 

 

クリッター

星3/闇属性/悪魔族/攻1000/守600

このカードが墓地におかれた時、自分のデッキから攻撃力1500以下のモンスターを1枚手札に加え、デッキを切り直す。

 

クリッター

星3/闇属性/悪魔族/攻1000/守600

このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下のモンスター1体を手札に加える。

 

 

『両方とも同じカードです。片方は旧クリッター、もう片方は新クリッター。ですが、この2枚は別の効果を持っています。さて、問題でーす。どちらの効果を公式のデュエルで使えるでしょう?』

 

「新しい方?」

 

『ブッブッー、正解は両方です』

 

「は?」

 

 両方……?

 

『理由知りたいですか? 仕方ないですねぇ!』

 

 うわ、ウザイ。

 

『例えばですよ。それまでその効果でデッキを組んでいるプロデュエリストがいたとします。カード効果が改正されて効果が変わってデッキが機能しなくなってしまいました。どうなったと思います?』

 

「デュエル出来なくなる?」

 

『ブッブッブッー、正解はそのプロデュエリストが訴訟を起こしたんです』

 

 あ……そうか……プロデュエリストがデュエル出来なくなったらそりゃ、そうなるわな。

 

『そういった事例が何件か発生し、最終的にこう決定しました。"デュエルモンスターズはテキストに書いてある効果が全て"だと』

 

「な、なるほど…」

 

 公式が折れたわけか…。

 

『マスターも1枚そういうカードあるじゃないですか』

 

「え?」

 

『ほら、ソレですよ』

 

 ヴェノミナーガさんの差した方向にはガーディアン・デスサイスがあった。

 

『そのカードは本来はパラディウス社で1枚だけ製造されたカードなんですよ』

 

「へ、へー……」

 

 レの人のカードですねわかります。

 

『ですがマスターのカードはパックから出ましたよね? つまりはそのリメイク品です』

 

「あー……」

 

『パラディウス社のデスサイスは破壊耐性を持っていますが、逆に蘇生効果は持っていません。一方パックで出るデスサイスは破壊耐性を持ちませんが蘇生効果を持ちます。ちなみにですが……』

 

 ヴェノミナーガさんは邪神ゲーのストラップのついた青いスマホを取り出すと操作し始めた。

 

『これには驚きましたよ』

 

 なになに……ん? 公式サイトじゃないか。これに一体な……に……?

 

 

 

ガーディアン・デスサイス 枚数1枚

 

 

 

「1枚?」

 

『1枚ですね。どうやらとある会長の悪ふざけでリメイクされたカードらしいですよ?』

 

「1まい……」

 

『1枚です』

 

「1……」

 

『超レアレアですね』

 

「売れる……?」

 

『売ったら2度と戻っては来ないかと』

 

「ですよねー」

 

 これで1つハッキリした。例え、俺がデスサイスデッキを作れたとしてもデスサイスは1枚しかデッキに入れれないということだ…。

 

『ま、要するにテキストに書いてあればそれに従えって事です。マスターは全問不正解ですが参加賞としてこの旧クリッターをあげましょう』

 

「やったね!クリちゃん! サーチができるよ!」

 

『おい、やめろ。というかマスターの作ったデッキは打点が極めて低いんですから入れておきましょう』

 

「ヴェノミナーガさん……」

 

『はい?』

 

「俺の目は誤魔化されない」

 

 俺はオレイカルコスの結界の一番上のテキストを指差した。

 

「"このカードの発動時に、自分フィールド上の特殊召喚されたモンスターを全て破壊する"」

 

『な、なんのことでしょうか…?』

 

 ヴェノミナーガさんが目を反らした。

 

「これでヴェノミノンを破壊す『さあ、デュエルしましょうデュエル!』

 

 そう言いながらヴェノミナーガさんは何かのデッキの準備と片腕をデュエルディスクのように変えた。

 

『だったらデュエルで決めましょう! 私が勝ったらデッキに入れてくださいね!』

 

「仕方ない……」

 

 まあ、この人に何を言ってもムダだろう。

 

 俺はリビングの机を移動させてから、デッキをデュエルディスクにセットした。

 

『行きますよー』

 

 ヴェノミナーガさんのデッキは俺が持っているからあれはヴェノミナーガさんのデッキでは無いのだろう。多少、楽しみだ。

 

 

 

 

 

『「デュエル!」』

 

 

 

 

 

 まあ、まず俺に勝ち目は無いだろうな。うん。

 

 

 

 






 次回、リック君のデッキその1とヴェノミナーガさんのガチデッキが判明。

 先に言っておこう。99%ネタデッキです。相手を笑わせたらリック君の勝ちだ。


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デュエルをしよう2


カードを知らない人のため、初めて登場するモンスターカードの能力値や効果をそのまま乗せています。

邪魔だなぁ…と思った人は我慢して下さい。

それでもイライラする人は5D'sを全話一気に見てストレスを晴らしましょう。3日徹夜して見続ければ全て見ることが可能です。



 

 

 

ヴェノミナーガ

LP4000

リック

LP4000

 

 

『先攻はどうぞ』

 

「へいへい、ドロー」

 

 まあ、どうせ負ける。色々と試させて貰うか。

 

「俺は"キラートマト"を守備表示で召喚」

 

キラートマト

星4/闇属性/植物族/攻1400/守1100

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスター1体を

自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

 

 顔のついたトマトが召喚された。米版なので顔がキモい。

 

 おー、本当に表側守備表示で出た。

 

キラートマト

DEF1100

 

「カードを2枚伏せてターンエンド」

 

手札3

モンスター1

魔法・罠2

 

 

『私のターン! ドロー!』

 

手札5→6

 

『私は"おろかな埋葬"を発動。デッキから"処刑人-マキュラ"を墓地へ送ります』

 

「マキュラだと……」

 

処刑人-マキュラ

星4/闇属性/戦士族/攻1600/守1200

このカードが墓地へ送られたターン、このカードの持ち主は手札から罠カードを発動する事ができる。

 

 遊戯王初期の半ば辺りで猛威を振るったカードだ。

 

 1ターン目に罠を発動することでワンキルを行うための必須カードだったからな。

 

 さらに、1ターン目からカウンター罠などを手札から使い、防衛出来るという強みもある。

 

『私は運命の宝札を発動。まず、ライフを1000ポイント払います』

 

 運命の宝札?

 

ヴェノミナーガ

4000→3000

 

『その後、サイコロを1度振り…』

 

 ヴェノミナーガさんが取り出したサイコロを投げた。

 

出た目は……6か。

 

『出た目の数だけ自分のデッキからカードをドローします。その後、出た目の数だけ自分のデッキからカードをめくって除外します』

 

「は?」

 

 えーと……期待値3.5枚のドローカードだと……。

 

ヴェノミナーガ

手札4→10

 

『"フォーチュンフューチャー"を発動。このカードはゲームから除外されている自分の"フォーチュンレディ"と名のついたモンスター1体を選択して墓地に戻します。その後、デッキからカードを2枚ドローする魔法カードです』

 

 またドローか……ってかフォーチュンだと……?

 

『さらにこれを後、2枚発動します』

 

「げぇ!?」

 

手札7→13

 

『私は"死者蘇生"を発動。自分の墓地のフォーチュンレディ・ダルキーを特殊召喚します』

 

フォーチュンレディ・ダルキー

星5/闇属性/魔法使い族/攻 ?/守 ?

このカードの攻撃力・守備力は、このカードのレベル×400ポイントになる。また、自分のスタンバイフェイズ時、このカードのレベルを1つ上げる(最大レベル12まで)。このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上の「フォーチュンレディ」と名のついたモンスターが

戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、自分の墓地の「フォーチュンレディ」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚できる。

 

 ヴェノミナーガさんのフィールドに長杖を持った黒い魔女が召喚された。

 

『フォーチュンレディ・ダルキーの攻撃力は星の数×400。今は2000です』

 

フォーチュンレディ・ダルキー

ATK2000

 

「フォーチュンレディ……」

 

 毎ターンレベル上昇という珍しい効果のモンスターだ。それに合わせて攻撃力・守備力も上昇して行く。

 

 この世界ではお目にかからない上、オークションなどに出ないから今の時代には存在しないカードだと思っていたが……。

 

『興味津々といった様子ですね。それもそのはず、フォーチュンレディは私しか持っていませんから』

 

「え? ヴェノミナーガさん専用?」

 

そんなことは無いような……気がするのだが……。

 

『占い魔女ってカード持ってますよね?』

 

「ああ、あの攻守ゼロのバニラね…」

 

 中々の確率で出てくるハズレカードだ。

 

 専用魔法があればそこそこ強くなるらしいがそこまで思い入れも無いし。

 

『いや、持ってたが正しいですね』

 

「持ってた?」

 

『はい! マスターのカードから3枚づつ拝借した占い魔女ちゃんたちに私の神的なパウワァーを暇潰しに当てたら偶々、生まれたのが彼女たちなんです!』

 

「……………………」

 

『ビックリしたでしょう?』

 

「………………や――」

 

『や? ヤンバルクイナ?』

 

「闇堕ちだこれー!?」

 

 そう言った瞬間、ダルキーが全力で顔を俺から背けた気がした。

 

『まあ、デュエルは続行です。マキュラの効果により"リビングデッドの呼び声"を手札から発動。墓地の"フォーチュンレディ・ウォーテリー"を特殊召喚します』

 

フォーチュンレディ・ウォーテリー

星4/水属性/魔法使い族/攻 ?/守 ?

このカードの攻撃力・守備力は、このカードのレベル×300ポイントになる。また、自分のスタンバイフェイズ時、このカードのレベルを1つ上げる(最大レベル12まで)。自分フィールド上に「フォーチュンレディ・ウォーテリー」以外の「フォーチュンレディ」と名のついたモンスターが存在する場合にこのカードが特殊召喚に成功した時、デッキからカードを2枚ドローする。

 

 青い魔女が召喚された。あ、この流れは……。

 

『さらに手札から速攻魔法、"地獄の暴走召喚"を発動します。マスターはトマトを可能な限り召喚して下さい』

 

 ヴェノミナーガさんのフィールドにウォーテリーがさらに2体並んだ。

 

 俺のトマトも守備表示で2体場に出る。

 

キラートマト

DEF1100

 

キラートマト

DEF1100

 

『"フォーチュンレディ・ウォーテリー"の効果。 自分フィールド上に"フォーチュンレディ・ウォーテリー"以外のフォーチュンレディと名のついたモンスターが存在する場合にこのカードが特殊召喚に成功した時、デッキからカードを2枚ドローします。それが3体フィールドにいるため、私はカードを6枚ドローしますね』

 

手札11→16

 

『"フォーチュンレディ・ウォーテリー"の攻撃力・守備力は星の数×300。つまり1200です』

 

フォーチュンレディ・ウォーテリー

ATK1200

 

フォーチュンレディ・ウォーテリー

ATK1200

 

フォーチュンレディ・ウォーテリー

ATK1200

 

 あはは、おかしいな……手札が増え続けるよ……。

 

なんだろう? エクストラデッキかな? 違うなエクストラデッキは15枚だもんな……あは……あははは…………。

 

『あ、忘れてました。"強欲な壺"を発動。デッキからカードを2枚ドローしまーす』

 

手札15→17

 

「鬼か!?」

 

『神です!』

 

「うん、知ってた」

 

『それにまだ私のターンは終わってませんよ!』

 

 マキュラが捨てられた今、ヴェノミナーガさんの手札の中のカウンター罠。例えば運命湾曲とか、運命湾曲とか、運命湾曲とかで俺の魔法罠は完封されるだろう……詰み過ぎである。

 

『私は"フォーチュンレディ・ダルキー"を生け贄に捧げ――』

 

 ああ、通常召喚してなかったな……。

 

 ん? 生け贄に捧げられたダルキーがフィールドに残ってるぞ? どういうことだ?

 

 いや、Tウィルスと書いてある注射器みたいなモノ持ってる。

 

 あ、首に突き刺した。

 

 その瞬間、何かがダルキーの首を伝い、ダルキーの中に入り、注射器がポロリと手から滑り落ちた。

 

 

『私の配下!" The tyrant NEPTUNE"を召喚!』

 

 

The tyrant NEPTUNE

星10/水属性/爬虫類族/攻 0/守 0

このカードは特殊召喚できない。このカードはモンスター1体をリリースしてアドバンス召喚する事ができる。このカードの攻撃力・守備力は、アドバンス召喚時にリリースしたモンスターの元々の攻撃力・守備力をそれぞれ合計した数値分アップする。このカードがアドバンス召喚に成功した時、墓地に存在するリリースした効果モンスター1体を選択し、そのモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。

 

 ダルキーの目が真っ赤に染まり、片腕が溶けるように長杖と一体化した。

 

 さらに全身から白い湯気のようなオーラが放出されていた。

 

 あ、なんだ。念能力者か、ネテロかな?

 

『"フォーチュンレディ・ダルキー"の効果と名前を持った"The tyrant NEPTUNE"ですがレベルはそのままです。つまり10×400…』

 

The tyrant NEPTUNE(フォーチュンレディ・ダルキー)

ATK4000

 

「オウフ……」

 

『総員突撃~』

 

 ヴェノミナーガさんの掛け声と共にトマト軍団がウォーテリーの魔法で射ち抜かれて汚ぇ花火×3になった。

 

「"キラートマト"の効果発動。デッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚する。俺は…"終末の騎士"を特殊召喚」

 

終末の騎士

星4/闇属性/戦士族/攻1400/守1200

このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから闇属性モンスター1体を墓地へ送る事ができる。

 

 ちなみに、こっちの世界では墓地に需要が薄いせいで悲しいほど安い。

「効果でデッキから"ダーク・プラント"を墓地へ送る。もう一体も"終末の騎士"。デッキから墓地へ送るのは同じく"儀式魔人リリーサー"だ」

 

『ほうほう、儀式魔人ですか』

 

「最後のトマトの効果も"終末の騎士"。墓地へ送るのは"儀式魔人リリーサー"だ」

 

終末の騎士

ATK1400

 

終末の騎士

ATK1400

 

終末の騎士

ATK1400

 

Sickle(シルク) of(オブ) ruin(ルーイン)

 

 The tyrant NEPTUNEの長杖と一体化した片腕の先端から発生した巨大な光線が終末の騎士を消し飛ばし、俺に命中した。

 

LP4000→1400

 

『 "The tyrant NEPTUNE"の"フォーチュンレディ・ダルキー"の効果発動。 自分フィールド上のフォーチュンレディと名のついたモンスターが、戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、自分の墓地のフォーチュンレディと名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚できます。私はフォーチュンレディ・アーシーを特殊召喚』

 

フォーチュンレディ・アーシー

星6/地属性/魔法使い族/攻 ?/守 ?

このカードの攻撃力・守備力は、このカードのレベル×400ポイントになる。また、自分のスタンバイフェイズ時、このカードのレベルを1つ上げる(最大レベル12まで)。このカードのレベルが上がった時、相手ライフに400ポイントダメージを与える。

 

 ヴェノミナーガさんのフィールドに黄土色の魔女が現れた。

 

『"フォーチュンレディ・アーシー"の攻撃力・守備力はダルキー同様星の数×400ですがこちらの方が1レベル上です』

 

フォーチュンレディ・アーシー

ATK2400

 

『バトル』

 

終末の騎士がまた1体破壊され、攻撃が俺にも届いた。

 

LP1400→400

 

 まあ、恐らく耐えれたがどの道これでヴェノミナーガさんにカウンター罠を伏せられ完封されるだろう。

 

 やっぱ神様つえーな……引きがおかしい。

 

 そしてものスゴく……。

 

 

 

 

 

"大人気ない"

 

 

 

 

 

『"ワンダーワンド"を"フォーチュンレディ・ウォーテリー"に装備。さらに生け贄に捧げることでカードを2枚ドローします』

 

手札15→17

 

『"マジック・プランター"発動。残った"リビングデッドの呼び声"を墓地へ送り、カードを2枚ドローです』

 

手札16→18

 

『カードを5枚伏せてターンエンドです。手札制限で7枚捨てますね』

 

ヴェノミナーガ

モンスター4

魔法・罠5

手札6

 

 

「俺のターン…ドロー」

 

手札3→4

 

 でもなんだろうな、凄く楽しい……。

 

 だって手加減無用の神様のデュエルなんて普通ならそうそう拝めるモノじゃないだろ?

 

 まず、勝てないだろうけど……それならさ……。

 

 盛大に……"笑わせてやるよ"。

 

 さて……ヴェノミナーガさんの伏せカードは5。そして、伏せる前の手札枚数は18。

 

 マキュラが入っているから魔法使い族の里はまず、入っていない。一族の結束なども同じ理由で入らない。それどころかタクティカルな戦法を取るためにもロック系罠も入っていないだろう。

 

 とすると罠の半分はカウンター罠と思ってもいいだろう。

 

 なら確実に今、伏せられている中にカウンター罠は入っている。運命湾曲だけでなく、魔宮の賄賂なんかも入っていれば最悪5枚以上のカウンター罠が入っているだろう。

 

 だが、もし俺がヴェノミナーガさんの側だったとすればどうする?

 

 5枚全て伏せる? いや、それはありえない。

 

 ヴェノミナーガさんは初手でマキュラを使って来るぐらい堅実な戦法を取る。だったら次の為にも手札にカウンター罠を残しておくだろう。

 

 とすると全てカウンター罠ということはまずありえない。

 

 とするとおおよそのカウンター罠の数は……。

 

 …………3枚だ……!

 

「俺は伏せていたカードを発動。"ストレートフラッシュ"」

 

『罠カード発動、"運命湾曲"。 自分フィールド上の表側表示モンスターが、フォーチュンレディと名のついたモンスターのみの場合発動出来ます。魔法・罠カードの発動、モンスターの召喚のどれか1つを無効にし、そのカードをゲームから除外します。もっとも、このターンのエンドフェイズ時に、この効果でゲームから除外したカードは持ち主の手札に戻りますがね』

 

 1枚……。

 

「なら手札からブラックホールを発動」

 

『罠カード発動、"魔宮の賄賂"。魔法・罠カードの発動を無効にし、破壊します。その後、マスターはカードを1枚ドローします』

 

 2枚……。

 

「ドロー!」

 

 ――!? 来た……これで全てのキーカードが揃ったぞ!

 

「罠カード発動。"つり天井"」

 

『罠カード、"運命湾曲"発動。無効にし、エンドフェイズまで除外します』

 

 3枚……削ったか、これでダメなら負けるだけだな。

 

「逝くぜ! 俺は"ダーク・プラント"を墓地から除外し、"薔薇の刻印"を発動! "The tyrant NEPTUNE "へ装備!」

 

『まだ隠し球が……』

 

 The tyrant NEPTUNEに薔薇の刻印が浮き上がり、俺のフィールド上に移動した。

 

 よし、カウンターは来ない!

 

 ならば……貰った!

 

「儀式魔法! ○○○を発動!」

 

『今、なんと?』

 

 あまりの事態にヴェノミナーガさんは自分の耳を疑ったのだろう。

 

「そして、俺は"The tyrant NEPTUNE"を生け贄に捧げる!」

 

『ちょっと……待っ』

 

「手札から……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"ハングリーバーガー"を特殊召喚‼‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハングリー……バーガー……?』

 

 キョトンとしているヴェノミナーガさんを尻目に俺はハングリーバーガーを見た。

 

 それはハンバーガーをそのまま、魔物にしたようなファンシーなモンスターだ。

 

ハングリーバーガー

星6/闇属性/戦士族/攻2000/守1850

「ハンバーガーのレシピ」により降臨。フィールドか手札から、レベル6以上になるようカードを生け贄に捧げなければならない。

 

 効果……特にナシ。

 

「さらに戦士族専用装備魔法カード。"融合武器ムラサメブレード"をハングリーバーガーに装備」

 

 天から落ちてきたムラサメブレードはそのまま垂直にハングリーバーガーの中心を貫き、止まった。

 

 にもかかわらずハングリーバーガーは気にも止めていないようだ。

 

 なぜなら、ムラサメブレードはファミレスのサンドイッチや、ハンバーガーの型崩れを防ぐための留め具を果たしていたからだ。

 

ハングリーバーガー

ATK2000→2800

 

 そして俺は最後の仕上げに取り掛かった。

 

 わざとヴェノミナーガさんにも見えるようにその魔法カードを掲げた。

 

 そのまま、数秒止まり、深呼吸を1度してから再び動き出した。

 

『それは……え? ちょ!? まっ……!?』

 

 俺は速攻魔法"神秘の中華鍋"を発動した。

 

「ヴェノミナーガさん……これが……!! これこそが……!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"クッキング流"だ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュエルには負けた。

 

 だが、俺はヴェノミナーガさんの腹筋を崩壊させる事に成功した。

 

 きっと俺ぐらいであろう。デュエルモンスターズの神の腹筋を崩壊させたのは。

 

 あのデュエルキング武藤 遊戯さえ、出来なかった偉業だ。

 

 ふう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はいったいなにをしているんだろうか……。

 

 

 






 やったぜ。

 日本よこれがファンデッキだ。





お気に入りが4日で1000件越えたから嬉しくなってつい……やっちゃったんだ☆ ランランルry)

ごめんなさい、次回からちゃんとやります。orz

リック君にはちゃんとしたそれなりにガチのファンデッキを持たせるので安心してください。



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魔霊

 

 

 

 皆さんは夏を如何お過ごしだろうか?

 

 俺はというと日頃からエアコンも無しでけっこう快適である。

 

 それというのもヴェノミナーガさんがひんやりしているから、抱き枕にすると冷たくて丁度いい。

 

 夏場は涼しく、冬場は軽く死ねる寒さのヴェノミナーガさんなのである。

 

『はあはあ……マスターペロペロ……』

 

 …………これさえ無ければ良いんだがな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相変わらずデッキを組み立て中の俺。

 

 流石にクッキング流じゃ、ムリがあるからな。

 

 ヴェノミナーガさんデッキ以外のひとつデッキもあるが、それはごり押し中心のデッキなので、今度は防御に定評のあるデッキを作っている最中である。

 

『マスター、マスター』

 

 後ろを振り向くと何か紙を持っているヴェノミナーガさん。

 

 と、その後ろにヴェノミナーガさん以上の体躯を持った精霊がいる。

 

『ゲッゲッゲ……』

 

 その精霊は俺と目が合うと妙な笑い声でケタケタと笑いながら、鉤爪状の片手を振ってこちらに会釈してきた。

 

 ……相変わらずどう見てもバケモノなのにコミュニケーション能力の高い奴だ……。

 

 ちなみにお分かりの通り、コイツは俺の精霊その2である。

 

 実は最近になって父さんが俺に2つデッキをくれたのだ。

 

 ちなみにその時言っていた事が――。

 

 

"デュエルディスクと共にデッキも奪った事を忘れていたよ。弱くは無い相手だったから今のリックならさらに使いこなせるだろう"

 

 

 との事である。

 

 父さんはどうやらドーマとの1対2のデュエルで勝っていたらしい……。

 

 まあ、そのお陰でバトルシティ出身のカードのクセに前世の世界でも、未だに現役で使えるコイツが専用デッキごと3枚も手に入ったのは非常にありがたいがな。

 

 流石に80枚のカードをひと纏めにして、カードを追加すればそれなりのデッキになった。

 

 というかこの精霊、3枚のカード全てに同じ1体の精霊が宿っているらしい。ヴェノミナーガさんから見ても珍しいタイプの精霊だとか。

 

 それはそれとして、ついでにオマケで手に入った、ダーツが元の持ち主に渡したのであろう、パラディウス社製の1枚のカードが入手出来たのがかなり嬉しい。

 

 ちなみにパラディウス社なのだが、極端な中央集権制を取っていたため、ダーツが消えた後は緩やかに崩壊していったところを海馬コーポレーションに吸収されたらしい。

 

 だから、パラディウス社製のカードは既に絶版となっており、非常に価値があるのだ。まあ、売らんが。

 

 デッキの方はちょっと改造したら、同年代では無敵と言ってもいい性能になっている。

 

 コイツのデッキとヴェノミナーガさんのデッキで様々な大会を荒稼ぎさせて貰ってるぜ……。

 

『コレ見てくださいよ』

 

 ん? なになに……。

 

「デュエルモンスターズ ジュニアカップ?」

 

 確かI2社主催の全米規模の巨大なデュエルの公式大会だ。

 

 数年に1度開催され、予選を含めると数百万人~千万人ほどのジュニアが凌ぎを削り合うそうだ。

 

 参加年齢は……15歳までか。

 

「ふーん……どこまで行けるかやってみるか」

 

 ちなみに俺は現在、11歳だ。資格は当然ある。

 

『それもそうですが後ろです。後ろ』

 

「後ろ?」

 

 俺は紙を裏返すと、そこには参加方法や、提携カードショップチェーン店の名前などが書いてあった。

 

 ん? 優勝商品が載っているのか。これだけの大会なんだからそれなりのカードな……ん…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

優勝商品 コレクターズレア"ブラック・マジシャン・ガール"

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴェノミナーガさん」

 

『登録はもう、済ませときましたよ』

 

「予選の曜日は?」

 

『来週の土曜日です』

 

「ヴェノミナーガさん、デッキの調整手伝って?」

 

『あいあいさー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、大会予選当日。

 

 300人ほどの参加者がトライホーンなどを当てたカードショップの屋上に来ていた。

 

 予選はI2社と提携している大型カードショップなどによって行われることから今回の大会の規模の大きさがわかる。

 

 そしてそこには巨大なトーナメント表が張り出されており、そこには既に2本の線しか残ってはいなかった。

 

 そして中央の一番大きいデュエルリングを囲むように子供とその保護者を含めた数百人が集まっている。

 

 そこで、行われているのは予選の決勝戦だった。

 

 駐車場と屋上を使い行われたトーナメント対戦の結果は俺と、俺と同じぐらいの少年が残ったようだ。

 

『決勝でも私、使ってくれないんですかー!?』

 

 ヴェノミナーガさんは強すぎるから使えません。それ以前に、大会で神のカードの御披露目なんて出来るかっつうの。

 

 というかいつも、使ってないでしょうに。

 

『ゲッゲッゲ……』

 

『ぐぬぬ……』

 

 俺の後ろではぐぬぬするヴェノミナーガさんと、ケタケタ笑いながらヴェノミナーガさんに鉤爪で器用にピースしていたもう片方の精霊がいた。

 

 対戦相手の準備は終わったようでデュエルリングに歩いてきていた。

 

 そろそろ、俺も行くか。

 

 立ち位置でデッキをデュエルディスクにセットし、構えるとドーマのデュエルディスクはカシャカシャ音を立て、伸びるように開いた。

 

 向こうも同じように構えている。

 

 

「「デュエル!」」

 

リック

LP4000

男の子

LP4000

 

 

「俺のターン、ドロー」

 

 先攻は取れたな。

 

「"おろかな埋葬"を発動。デッキから"黄泉ガエル"を墓地へ送る」

 

 自分から俺が墓地へ送った事で男の子の頭に?が出ていた。

 

 まあ、仕方ないな。

 

「俺は"メルキド四面獣"を攻撃表示で召喚」

 

メルキド四面獣

星4/闇属性/悪魔族/攻1500/守1200

4つの仮面を切り替えながら、4種類の攻撃をしてくる化け物。

 

 何かに4つの仮面が張り付いたようなモンスターがフィールドに現れた。

 

メルキド四面獣

ATK1500

 

「カードをセットしてターンエンド」

 

リック

LP4000

モンスター1

魔法・罠1

手札3

 

 

「僕のターン! ドロー!」

 

 ドローを終えた男の子はニヤリと笑った。

 

「"ブラッド・ヴォルス"を召喚!」

 

ブラッド・ヴォルス

星4/闇属性/獣戦士族/攻1900/守1200

悪行の限りを尽くし、それを喜びとしている魔獣人。手にした斧は常に血塗られている。

 

 やられ役、社長のやられ役じゃないか!

 

 しかし今回の大会でATK1900は初めてみたな。

 

ブラッド・ヴォルス

ATK1900

 

「さらに"デーモンの斧"を"ブラッド・ヴォルス"に装備!」

 

 ブラッド・ヴォルスの斧がデーモンの斧にランクアップした。

 

 ブラッド・ヴォルスはデーモンの斧の刃を自分に向けると、舌なめずりを始め、俺を威嚇しているようだ。

 

 止めろ……なんでそうやって世紀末の住人のように自分から死亡フラグを立てて行くんだ……。

 

 ブラッド・ヴォルスを見てこちらのメルキド四面獣は仮面を変え、ムンクみたいな仮面を正面に向けている。

 

 こら、お前も乗るな。

 

 しかし、ブラッド・ヴォルスにデーモンの斧ねぇ……使いやすいペアが当たる子もいるもんだ。正直、羨ましい。

 

ブラッド・ヴォルス

ATK1900→2900

 

「行け! ブラッド・ヴォルス!」

 

 ブラッド・ヴォルスが飛び上がりながらメルキド四面獣を一刀両断しようとすると……。

 

 メルキド四面獣が回り、仮面がニタッとした笑みを浮かべた仮面に変わり、口が開いた。

 

 口の中にあるのは……導火線に火のついた爆弾だ。

 

「罠カード、"ヘイト・バスター"発動。自分フィールド上の悪魔族モンスターが攻撃対象に選択された時に発動できる。相手の攻撃モンスター1体と、攻撃対象となった自分モンスター1体を選択して

破壊する」

 

「え!?」

 

 メルキド四面獣はしめやかに爆発四散!

 

 ブラッド・ヴォルスはそれに巻き込まれて消し飛んだ。

 

「そんな……」

 

「さらに破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える」

 

「うわっ!?」

 

 爆発でぶっ飛んだデーモンの斧が男の子に命中した。

 

男の子

LP4000→2100

 

「た、ターンエンド」

 

 …………せめてなにか伏せようぜ……。

 

男の子

LP2100

モンスター0

魔法・罠0

手札4

 

 

 これが俺と同年代の実力だ……ぶっちゃけハンバーガーでも充分なんだよな……。

 

 まあ、万が一もありえるからこっちのデッキ使ってるけど。今回は勝ちに来ているからな。

 

「ドロー」

 

手札3→4

 

「スタンバイフェイズ時、魔法・罠カードゾーンにカードが無いことで"黄泉ガエル"を特殊召喚」

 

黄泉ガエル

星1/水属性/水族/攻 100/守 100

自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在し、自分フィールド上に魔法・罠カードが存在しない場合、このカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。この効果は自分フィールド上に「黄泉ガエル」が表側表示で存在する場合は発動できない。

 

黄泉ガエル

ATK100

 

「魔法カード、"思い出のブランコ"を発動。自分の墓地の通常モンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを特殊召喚する。メルキド四面獣を特殊召喚」

 

メルキド四面獣

ATK1500

 

「この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズ時に破壊されるが……関係無いな。俺は"メルキド四面獣"と"黄泉ガエル"を生け贄に――」

 

 2体のモンスターがフィールドから消え、黒い霧が辺りを覆う。

 

 そして霧が晴れると俺を股の間に立たせるような場所に巨大な体躯のモンスターがいた。

 

『ゲッゲッゲ……』

 

 頭上からあの笑い声が聞こえてくる。

 

 

「"仮面魔獣デス・ガーディウス"を特殊召喚」

 

 

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

星8/闇属性/悪魔族/攻3300/守2500

「仮面呪術師カースド・ギュラ」「メルキド四面獣」どちらかを含む生け贄2体を捧げない限り特殊召喚できない。このカードがフィールドから墓地に行った時、デッキから「遺言の仮面」1枚をフィールド上モンスターに装備させ、デッキをシャッフルする。

 

 4本の鉤爪、歴史書の悪魔のような体躯、全て表情の違う3枚の青い仮面の顔、そして腹部に張り付けにされた女性のような物体が不気味さに拍車を掛けている。

 

 そして、その火力は……。

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

ATK3300

 

 正面から社長の嫁を潰せるのである。

 

「3300……」

 

 男の子が唖然としている。

 

「バトル。"仮面魔獣デス・ガーディウス"で直接攻撃」

 

『ゲヒャヒャヒャ!!』

 

 デス・ガーディウスが地面に両腕を突き立て、凄まじい速度の四足歩行で男の子に詰め寄り、片腕を振り上げた。

 

「ひっ!?」

 

 腰を抜かして倒れたがそんなことは関係無い。

 

 デス・ガーディウスの鉤爪をドス黒い光が包み込んだ。

 

「ダーク・デストラクション」

 

 デス・ガーディウスの鉤爪が降り下ろされた。

 

 

 

男の子

LP2100→0

 

 

 

 

 

 

『まず、終わりましたね』

 

「終わったな」

 

 というわけで予選は終了した。

 

 次からは本大会に!

 

 

 

 

 

 

『次の予選もどんどん行きましょうね!』

 

 なんてことは無い。

 

 うん……これ、地区予選なんだ。

 

 そりゃ、数百万人、下手すれば千万人は参加者がいるんだから予選自体がかなりの数あるわけだ。

 

 仮に100万人だとしても今日の通過者が俺1人なので300で割ったとして、後3000人以上が残っている計算になる。

 

 32人まで絞る必要があるため、後数回は最低でも予選があるだろうな。

 

「次はいつだ?」

 

『明日ですね』

 

 そんな会話をしながら俺は家を目指した。

 

 

 

 

 

 







 ヴェノミナーガさん まさに神

 デス・ガーディウス まさかの3300+ノーコス強奪


 リック君は何かしらぶっ飛んだモンスターを自分の精霊にすることに定評があります。

 そう言えば未だにデス・ガーディウス軸のデッキを主人公が使ってる二次作を見たことないんですよね。

 作者の最も長く使ってるデッキなんですが……もう十年とちょっとぐらいですね。いやー、懐かしい。


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大会その1

 

 

 

『くうー、疲れました。予選は強敵でしたね』

 

「そうだな」

 

 主に会場が地味に遠かったりした時の移動が強敵だったな。

 

 2回ぐらい精霊が見える人がヴェノミナーガさんを見て声を上げたりしてな。

 

 それは兎も角、現在、俺は本大会の選手控え室にいた。

 

 ちなみに父さんは今、選手の親族用のVIPルームにいる。

 

 俺に激励したりすることはまず無いだろう。父さんはそういう人間だからな。

 

 決して厳しいからというわけでも、無関心だからというわけでもない。

 

 公の場での過度な期待や、励ましの言葉というものはかえって重圧になることを知っているからだ。本当に良くできたデュエリストだ…。

 

 それにしてもここまで長かった……主に予選期間が。

 

 なんというか……デス・ガーディウスを出すとサレンダーする奴が現れたりして到底デュエルと呼べるものが少ない予選だった……。

 

 あれはデュエルじゃなくていじめだったな、うん。

 

 気を取り直して……大会はAブロック16人、Bブロック16人のトーナメントだ。

 

 両方で勝ち残った選手が最後に戦い、頂点が決まるそうだ。

 

 まあ、ごく普通だな。

 

『マスターはAブロックの第一試合ですね』

 

「ってことはもうか」

 

『ちなみに対戦相手はマスターの1つ下で……』

 

 そんな話をしているとデュエルリングに出てこいとのアナウンスが流れてきた。

 

「行くか」

 

『レッツらゴーです』

 

 ちなみにヴェノミナーガさんと長く居すぎて俺の感覚が狂っていたのだろう。

 

 普通の精霊は常に側に居続けたり、ご飯を三食要求したり、勝手にポテチ漁り出したり、日本から輸入した炬燵を占拠したり、テレビを見ながらゴロゴロ(物理)したり、布団に勝手に入ってきたりしないらしい。

 

 デス・ガーディウスもとい普通の精霊の行儀の良さをみてスゲービビったのは記憶に新しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュエルリングに上がり、所定の位置に付くのとほぼ同時に対戦相手も出てきた。

 

 ツンツン頭でマツゲの特長的な子だ。

 

 それはそうと右を見ても、左を見ても客席に座る人、人、人。

 

 よくもまあ、これだけ暇人が集まったもんだ。

 

 俺はデュエルディスクを構えた。

 

 向こうもそれに遅れて構えてくる。

 

 

『Aブロック第1試合、リック・べネット対五階堂 宝山』

 

 天井の装置から声が聞こえてきた。

 

 おいやめろ。俺の姓を晒すな。

 

『残念だったなぁ、トリックだよ』

 

 後で覚えてろ蛇……。

 

 

 

『開始』

 

 その言葉と同時に俺と男の子は声を張り上げた。

 

「「デュエル!」」

 

リック

LP4000

男の子

LP4000

 

 

 

「ドロー」

 

手札5→6

 

「俺は"切り込み隊長"を召喚」

 

切り込み隊長

星3/地属性/戦士族/攻1200/守 400

このカードが召喚に成功した時に発動できる。手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手は他の戦士族モンスターを攻撃対象に選択できない。

 

切り込み隊長

ATK1200

 

「"切り込み隊長"の効果で手札から仮面呪術師カースド・ギュラを特殊召喚」

 

仮面呪術師カースド・ギュラ

星4/闇属性/悪魔族/攻1500/守 800

呪いの呪文で相手を念殺する、仮面モンスター。

 

 仮面を付けた亡霊のようなモンスターが現れた。

 

「2体を生け贄に"仮面魔獣デス・ガーディウス"を特殊召喚」

 

『グギャギャギャギャ!』

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

ATK3300

 

 召喚されて喜んでいるデス・ガーディウスのケタケタと笑う声とその姿と火力に会場の歓声が一時、止んだ。

 

「1ターンで最上級モンスターを……」

 

「カードを2枚セットしてターンエンド」

 

リック

LP4000

手札1

モンスター1

魔法・罠2

 

 

 

「ぼ、僕のターン……ドロー」

 

手札5→6

 

 男の子は青い顔をしている。デス・ガーディウスを仕留めるカードが無いのだろう。

 

 ふむ……顔に出るのは良くないなぁ。

 

「俺は罠カードを発動。"見下した条約"」

 

「え!?」

 

 知らないのか? けっこう使えるカードだがな。

 

「このカードは相手のターンにのみ発動する事ができる。相手はデッキからレベル4以下のモンスター1体を選択して特殊召喚する事ができる。だがその場合、俺はデッキからカードを2枚ドローする。お前が効果を使用しなければ俺は1000ポイントのダメージを受ける。さあ、どちらか選べよ?」

 

 ダメージか特殊召喚か?

 

 まあ、あの様子なら答えは出ているな。

 

 途端に表情が明るくなった。

 

「僕はデッキから"不死武士"を特殊召喚!」

 

不死武士

自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、このカードを墓地から特殊召喚できる。この効果は自分の墓地に戦士族以外のモンスターが存在する場合には発動できない。このカードは戦士族モンスターのアドバンス召喚以外のためにはリリースできない。

 

不死武士

ATK1200

 

「なら俺はカードを2枚ドロー」

 

手札1→3

 

「さらに不死武士に"グレード・ソード"を装備!」

 

 不死武士が西洋剣を持った。

 

不死武士

ATK1200→1500

 

「"グレード・ソード"は戦士族のみ装備可能! 攻撃力300ポイントアップ! さらに装備しているモンスターは1体で2体分の生け贄になる!」

 

 ほう……。

 

「僕は"ギルフォード・ザ・レジェンド"を召喚!」

 

ギルフォード・ザ・レジェンド

星8/地属性/戦士族/攻2600/守2000

このカードは特殊召喚できない。このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在する装備魔法カードを可能な限り自分フィールド上に表側表示で存在する戦士族モンスターに装備する事ができる。

 

ギルフォード・ザ・レジェンド

ATK2600

 

「ギルフォード・ザ・レジェンドの効果で墓地の"グレード・ソード"を装備!」

 

 ギルフォード・ザ・レジェンドの剣がグレード・ソードに変わった。

 

ギルフォード・ザ・レジェンド

ATK2600→2900

「さらに手札から神剣ーフェニックス・ブレードを装備! 攻撃力300ポイントアップ!」

 

 さらに柄がフェニックス・ブレードに変わる。

 

ギルフォード・ザ・レジェンド

ATK2900→3200

「さらに執念の剣を装備! 攻撃力500ポイントアップ!」

 

ギルフォード・ザ・レジェンド

ATK3200→3700

 

 そしてに執念の剣の黒紫色のオーラを剣に纏った。

 

「バトル! "ギルフォード・ザ・レジェンド"で"仮面魔獣デス・ガーディウス"を攻撃」

 

 ギルフォード・ザ・レジェンドの剣がデス・ガーディウスの身体を縦に切り裂いた。

 

リック

LP4000→3600

 

「やった!」

 

 男の子は勝ち誇ったような顔をしている。

 

 それを見ながら俺はもう片方のカードの効果を発動させた。

 

「おめでとう」

 

「え……?」

 

 男の子は俺の賛美に驚いたのだろう。

 

「これはプレゼントだ」

 

『ゲヒャヒャ……ゲヒャ! ゲヒャ! ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!』

 

 半分になったデス・ガーディウスが尚、笑い声を上げながら自分の残った半身の心臓の部分に腕を突っ込んだ。

 

 血が吹き出し、肉が裂ける音が響くがそれでもデス・ガーディウスは笑い続ける。

 

 そして、引き出された腕にはおぞましい赤い仮面が握られていた。

 

 それをギルフォード・ザ・レジェンドに投げつけるとデス・ガーディウスは溶けるように消えてく。

 

 最後にその仮面はギルフォード・ザ・レジェンドの顔に張り付いた。

 

「な……」

 

 その異様な光景に絶句する男の子。

 

 そして――。

 

『フフフ……』

 

「ギルフォード・ザ・レジェンド?」

 

 ギルフォード・ザ・レジェンドの様子がおかしい事に気がついたのだろう。

 

 だが、手遅れだ。

 

『ゲッゲッゲ……』

 

 ギルフォード・ザ・レジェンドはデス・ガーディウスと同じようにケタケタと笑い始めた。

 

「…………!?」

 

 それにどうしたらいいかわからず男の子は軽く涙を浮かべていた。

 

「"仮面魔獣デス・ガーディウス"の効果。このカードがフィールドから墓地に行った時、デッキから"遺言の仮面"1枚をフィールド上モンスターに装備させ、デッキをシャッフルする。装備対象はもちろん"ギルフォード・ザ・レジェンド"」

 

「……な!?」

 

「そして、"遺言の仮面"の効果。"仮面魔獣デス・ガーディウス"の効果を使用した場合は装備カード扱いとなる。装備モンスターのコントロールはその時点のコントローラーの対戦相手に移る」

 

「ということは……」

 

 ギルフォード・ザ・レジェンドは歩いて俺のフィールドまで移動すると男の子の方を向いた。

 

 遺言の仮面はどこかデス・ガーディウスに似ている。

 

「さらに俺は"仮面魔獣デス・ガーディウス"が破壊された時、カードを発動している」

 

「それは……」

 

 男の子は既に発動している俺の罠カードを見た。

 

 開かれた罠カードから巨大な扉の付いた鉄釜のような機械が現れた。

 

「"時の機械-タイム・マシーン"」

 

 タイムマシーンは蒸気を吹き上げながら動き出し、暫くするとチーンとレンジの温め終わりのような音が響いた。

 

 その次の瞬間、鉄扉と鉄扉の間から8本の鉤爪がはみ出し扉と扉を掴む。

 

 そして、強引に鉄扉を開きながらデス・ガーディウスが這い出てきた。

 

『ゲッゲッゲ…』

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

ATK3300

 

 1度召喚条件を満たした仮面魔獣デス・ガーディウスは墓地からの蘇生が可能だったりする。

 

「そんな……」

 

「まだお前のターンだぞ?」

 

「た、ターンエンド……」

 

装備で伏せカードは使いきったと言ったところか……。

 

男の子

LP4000

手札2

モンスター0

魔法・罠3

 

 

 

 

 

「俺のターン。ドロー」

 

手札3→4

 

「俺は"巨大化"を"仮面魔獣デス・ガーディウス"に装備」

 

 デス・ガーディウスの大きさが倍ほどになった。

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

ATK6600

 

「6600…」

 

「バトル、"仮面魔獣デス・ガーディウス"。ダーク・デストラクション」

 

『ゲッゲッゲ……』

 

 遥かに長く太くなったその腕をその場で振り上げ、鉤爪に黒いオーラを纏わせた。

 

『タヒ!』

 

 妙な声を上げてからデス・ガーディウスは鉤爪を降り下ろした。

 

「うわぁぁぁぁ!?」

 

男の子

LP4000→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなに強くはなかったなぁ……」

 

 控え室で俺は呟いた。

 

『マスターそんなこと言って……可哀想じゃないですか。まあ、雑魚は雑魚ですけどねー』

 

「ヴェノミナーガさんの方が酷い」

 

『真面目な話、仕方無いですよ。そのデッキはプロデュエリストが使っててもおかしくないデッキですから。しかも精霊憑きですからね』

 

『ゲッゲッゲ……』

 

 ヴェノミナーガさんの言葉につられてか、デス・ガーディウスが出てきた。

 

 控え室に入らない大きさのため、床に首だけが生えている。けっこうホラーだ。

 

「まあな」

 

 ぶっちゃけ精霊が憑いているというのが一番デカイだろう。

 

 最初の手札には必ず1枚入ってるし、欲しいときに引けるし、遺言の仮面はこれだけデュエルしてるにも関わらず1度も手札に来ないしと非常に万能である。

 

『そ・れ・に……』

 

 ヴェノミナーガさんが俺の前に出てきた。

 

『デュエリストたるもの、どんなに弱かろうが強かろうが常に全力で掛からないと相手に失礼というものです。キラッミ☆』

 

 イラッ……。

 

 正直、大会の人間なんかよりヴェノミナーガさんの方が1000倍強い……。

 

 ヴェノミナーガさんアレ以外にもデッキ持ってるんだけど…ソリティアしないデッキが存在しないし。

 

「そんなこと言ってもヴェノミナーガさんのデッキは流行らないし、流行らせない」

 

『ヒドイ!?』

 

 そんなことを話しながら次の対戦まで暇を潰していた。

 

 

 

 

 

 






 リック流戦術"上げて落とす"



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大会その2

 

 

 

 

『ちょっと外に出ますねー』

 

「はいよ」

 

 そう言いながらヴェノミナーガさんは扉をすり抜けて行った。

 

 珍しくヴェノミナーガさんが俺から離れているな。

 

 こんだけ人がいるんだから知り合いの精霊でもいるんだろう。たぶん。

 

 じゃ、カードの整理でも……。

 

『HEY! マスター!』

 

 扉から出て行ったハズのヴェノミナーガさんが俺の座っているソファーの壁から生えてきた。

 

『Love letterは許さないからネ!』

 

「はよ行け」

 

『へぶしっ!』

 

 俺は大成仏をヴェノミナーガさんの額へ投げつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その少年は唖然とした表情で、選手控え室のTVからリアルタイムで行われているデュエルを食い入るように見ていた。

 

 

 

『バトル、"仮面魔獣デス・ガーディウス"。ダーク・デストラクション』

 

『うわぁぁぁぁ!?』

 

LP

4000→0

 

 デュエルを終えた彼は対戦相手を一瞥してから軽く溜め息をつくと、踵を返して歩き出す。

 

 

 

 そこで中継は終わった。

 

「…………」

 

 見終えた後も少年は暫くそこに佇んでいる。

 

 見たこともない強力なレアカードを軸とした、繊細かつ大胆なタクティクス。

 

 にも関わらず、根底は圧倒的な火力で相手を押し潰す戦法。

 

 悔しいがその全てにおいて少年は自分の方が下だと直感的に理解していた。

 

 そして、何より恐ろしいのは終始相手を手玉に取り続けた彼の手腕だろう。

 

 わざわざ、相手に塩を贈るカードまで戦術に組み込む徹底ぶりだ。

 

 どれをとっても一級。まるでプロデュエリストの試合を見ているようだったと少年は思っていた。

 

「勝てるのか……? 俺はあんな化け物に……」

 

 少年が1勝すれば次に当たるのはリック・べネットその人だ。

 

 少年には確実に勝つために兄から貸し出されたデッキがある。

 

「ムリだ……!」

 

 兄のデッキではデス・ガーディウスに火力で勝てるモンスターが居なかった。

 

 さらに倒せたとしてもモンスターのコントロールを奪われる。

 

 少年の脳裏にはデス・ガーディウスの嘲笑うような笑い声が響いていた。

 

「くそっ……!」

 

 少年は机に手を叩き付けた。

 

 自分のデッキでもあのデッキに打ち勝つヴィジョンが浮かばない。八方塞がりという奴だ。

 

「こんなところで、俺は……」

 

「うぬは力が欲しいか?」

 

「うわぁっ!?」

 

 突然、横から声を掛けられた事で少年はソファーから転げ落ちた。

 

「誰だ! 驚かすな!?」

 

 少年が声の方向を見ると、青いようにも紫のようにも見える長髪をした少年と同年代ほどの綺麗な少女がニコニコしながらそこにいた。

 

「本当に誰だ……?」

 

 少年にそんな知り合いは居ない。

 

 とすると部外者、あるいは一般人だろう。

 

「まあまあそんなことはどうでもいいじゃないですか」

 

「いいわけある――」

 

「勝ちたいのでしょう?」

 

 ここは選手控え室。当たり前だが関係者以外の立ち入りは禁止だ。それを咎め立てようと少年はしたが少女の言葉に止められてしまった。

 

「っ……!?」

 

「図星ですね」

 

 相変わらず少女はニコニコとしている。

 

「だったら……」

 

 少女は1度指を立てた。

 

「これを差し上げましょう」

 

 手を1度振るうと、手に3枚のカードが握られていた。

 

「あなたのところに行きたがっていますからね」

 

 少女は強引に少年にカードを持たせた。

 

「カード? そんなものイラ……!?」

 

 そのカードを見て少年は驚愕した。

 

「な!? これは伝説の……どういうつもりだ!」

 

 少年がカードから顔を上げ、少女へ言葉を吐いた。

 

「え?」

 

 だが、そこには誰も居なかった。

 

 それどころか部屋の何処にも少女の姿はなかった。

 

 机に3枚のカードを置き、外に出ようとしてみるがノブが回らなかった。

 

 それもそのはず、部屋に1つしかないドアには少年が内側から鍵を掛けていたからだ。

 

 それ以前に外には2人のガードマンが立っていて誰かが入れるわけはない。

 

 そして防犯上の理由から控え室には窓も無かった。

 

 いったい、少女はどうやって入り込み、どうやって出て行ったというのか?

 

 狐に摘ままれたような気分になりながら、夢でも見ていたのだろうと少年は解釈し、ソファーに戻る。

 

 そして机に目を落とし、目を見開いた。

 

 なぜなら――。

 

 

 

 

 

 机の上の"2枚のモンスターカードと、1枚の魔法カード"が夢では無い事を示していたのだ。

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 少年は無言で3枚のカードをそっと手に持ち、自分の本来のデッキを取り出し、それらを眺めた。

 

 伝説と呼ばれるカードシリーズのひとつ。それが今、ここにある。

 

 しかも、その中で最も人気と希少価値が高いカードだ。

 

 少女はなぜこれを少年に渡したのか?

 

 それを知る術は少年にはない。

 

 ひとつ確かなことはこのカードならデス・ガーディウスを打倒することが可能だということだ。

 

「………………てやる」

 

 少年はポツリと何かを呟いた。

 

「やってやる……勝つためなら亡霊だろうが、悪魔だろうが、伝説だろうが使ってやる! 俺はッ!」

 

 少年はソファーから勢いよく立ち上がり、高らかと宣言した。

 

「デュエルキングになる男! "万丈目 準"だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マスター、マスター』

 

「ん?」

 

 1時間半ぐらいどこかへ行っていたヴェノミナーガさんが急に目の前に現れ、話し掛けてきた。

 

『知っていますか?』

 

「何が?」

 

『踏み台というモノは高ければ高いほど、踏み越えた後に高いモノに手が届くようになるんですよ?』

 

「?」

 

 踏み台? 何かの比喩だろうか?

 

『やっぱりするなら刺激的なデュエルですよねー。うふふー』

 

「あなたの刺激的はソリティアでしょうに」

 

『失礼な!?』

 

「事実でしょうに」

 

『ぐぬぬ……』

 

 そんな会話をしているとまた、デュエル場に出ろとのアナウンスが流れてきた。

 

「そろそろか」

 

 やっぱ待ち時間が長かったな。

 

『次の対戦相手は同い年の万丈目 準という子ですね。万丈目財閥の三男です』

 

「なあ、ヴェノミナーガさん……?」

 

『はい?』

 

「アメリカ人は……?」

 

 ABの両ブロックの対戦表を見てみるが、アメリカ人の子が半分切っているという有り様である。

 

 これ全米大会なんじゃ……。

 

『そりゃ、全米を対象にしてはいますがIS社による超巨大なデュエル大会ですからね。世界中の金持ちの子はアメリカに渡航してわざわざ参加してるんですよ』

 

妙に日本人が多いのはやっぱりデュエルキング発祥の地だからか。

 

『まあ、金=実力ですからね。途中までは』

 

「まあな」

 

ぶっちゃけ、結局のところ金だ。

 

 弱いモンスターでも下克上の首飾りなりで強化すればいい?

 

 じゅあ聞くがさぁ……。

 

 レベル1通常に装備すれば、凄まじい攻撃力の跳ね上がりを見せる下克上が本気で安いと思ってるの?

 

 寧ろ下手なウルトラレアよりよっぽど高いわ。

 

 ワゴンに埋まってるから魂喰らいの魔刀使え、魔刀。

 

 ただ……カードが揃わないので運用は難しいけどな。

 

 というかレスキューキャットorオジャマ系でも使わない限り、ディスアドバンテージが凄く痛い。

 

 レスキューラビットというカードは世界に存在しないしな……ちくせう……。

 

 ラビットさんさえあればデス・ガーディウスがどれほど出しやすくなるか……。

 

「じゃ、そろそろ行くか」

 

『40秒で支度しな……って置いてかないでくださいよー!』

 

 俺はなんか言ってるヴェノミナーガさんをほっておいてデュエルリングに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュエルリングでは既にその万丈目とやらが腕を組んで待ち構えていた。

 

 ってか頭凡骨率高いな。

 

「来たな! リック・べネット!」

 

 万丈目は早くもデュエルディスクを構えた。

 

『うっほー、やる気満々ですねー』

 

「血気盛んな事で……」

 

 俺もデュエルリングに上がり、位置についた。

 

 まあ、今度はもっと楽しめればいいが……。

 

「行くぞ、デス・ガーディウス」

 

『ゲッゲッゲ……』

 

 そう言いながらデッキをデュエルディスクにセットするとデュエルディスクが音を立てて展開され、それに応えるように背後にデス・ガーディウスが現れた。

 

『Aブロック第9試合。リック・べネット対万丈目 準』

 

 この時、俺はまだ知るよしもなかった。

 

『開始』

 

「「デュエル!」」

 

リック

LP4000

 

万丈目

LP4000

 

 

 

 この万丈目という奴とは結構な腐れ縁になるということを。

 

 

 

 

 






 多分、勘のいい人なら万丈目君に渡ったカードが何かわかりますよね。


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大会その3

1日で書き終えましたが字数が1万越えました。

毎日書いて投稿してますけどそろそろ心が折れそうです。




 

 

「俺のターン、ドロー」

 

 先攻(ここ)は譲れません。

 

手札5→6

 

「ん?」

 

 俺は手札を見て少し、首を傾げた。

 

「どうした? 手札事故か?」

 

 そう言う万丈目の表情は明るい。

 

 そりゃ、大会で対戦相手が事故ったら嬉しいだろうな。

 

 尤も……その真逆だが。

 

「いや、どうやらデス・ガーディウスはお前を徹底的に叩き潰したいようでな」

 

『ギヒ……ギヒヒヒヒ! タヒ』

 

「なに……?」

 

「手札から"強欲な壺"を発動。カードを2枚ドローする」

 

手札5→7

 

「俺は"天使の施し"を発動。 自分のデッキからカードを3枚ドローし、その後手札を2枚選択して捨てる」

 

 ふむ、やはり相変わらずこのカードが手札に来た時は切り込み隊長や死者蘇生が来ない。

 

 1ターンでは終わらせたくないのか。

 

「そして、"思い出のブランコ"発動。墓地の通常モンスターをフィールド上に特殊召喚」

 

メルキド四面獣

ATK1500

 

「手札の"創世の預言者"を召喚」

 

創世の預言者

星4/光属性/魔法使い族/攻1800/守 600

1ターンに1度、手札を1枚捨てて発動できる。自分の墓地のレベル7以上のモンスター1体を選択して手札に加える。

 

 俺のフィールドに金の衣と、軽い鎧を纏った巫女のような女性が現れた。

 

創世の預言者

ATK1800

 

「"創世の預言者"の効果発動。手札を1枚捨てて自分の墓地のレベル7以上のモンスター1体を手札に加える」

 

「デス・ガーディウス……」

 

「ご名答。俺は"メルキド四面獣"と"創世の預言者"を生け贄に"仮面魔獣デス・ガーディウス"を特殊召喚」

 

『ゲッゲッゲ……』

 

 2体のモンスターが黒い霧に変わり、霧が晴れるとそこにはデス・ガーディウスが佇んでいた。

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

ATK3300

 

「俺は速効魔法、発動」

 

 ちなみにこの魔法カードはヴェノミナーガさんから誕生日プレゼントとして渡されたカードであり、普段は流石に自重しているカードである。

 

 というかマジでこんな壊れカードをプレゼントすんなし。

 

 家に色々溜まってんだぞ。

 

「"時の女神の悪戯"を発動。1ターンスキップし、自分のターンのバトルフェイズとする」

 

「なに…?」

 

 デス・ガーディウスの肩に女神というよりも、魔法少女のような人が座り、足をぶらぶらさせていた。

 

「つまり、このターンは既に次の俺のターンのバトルフェイズになっているということだ。要するに攻撃出来る」

 

「なんだと…!?」

 

 肩の女神を見ると、凶悪な効果にも関わらず、女神はただ無邪気に笑っていた。

 

「"仮面魔獣デス・ガーディウス"の攻撃。ダーク・デストラクション」

 

 デス・ガーディウスは女神様が危なくないように片手で手摺の代わりを作り、もう片手の鉤爪に黒いオーラを宿しながら突進して行った。

 

 律儀だなお前。

 

「うわぁぁぁ!!?」

 

 想像してみよう。

 

 2~3階建ての家ほどの大きさで、どう見てもサイレントヒル出身の化け物のデス・ガーディウスが正面から殺る気満々で突っ込んでくる姿を。

 

 軽いトラウマになることは間違いない。

 

『タヒ!』

 

「ごふっ!?」

 

 デス・ガーディウスがしゃくりあげるように鉤爪を下から振り上げたため、万丈目が3mぐらい上にぶっ飛び、地面に落ちた。

 

 ソリッドビジョンも3000越えた辺りになると肉体に被害が出始めるからな。

 

 女神様はデス・ガーディウスに手を振ると消えた。

 

 ちなみに消えるまでの間、デス・ガーディウスは女神様に手を振り返していた。

 

LP4000→700

 

「カードを2枚セットしてターンエンド」

 

リック

モンスター1

魔法・罠2

手札1

 

 

 

「俺のターン……ドロー!」

 

手札5→6

 

「"強欲な壺"発動。カードを2枚ドロー!」

 

手札5→7

 

「俺は地獄戦士を召喚!」

 

地獄戦士

星4/闇属性/戦士族/攻1200/守1400

このカードが相手モンスターの攻撃によって破壊され墓地へ送られた時、この戦闘によって自分が受けた戦闘ダメージを相手ライフにも与える。

 

地獄戦士? 随分、使い難いモンスターを入れてるんだな。

 

地獄戦士

ATK1200

 

「さらにカードを4枚伏せてターンエンドだ」

 

万丈目

モンスター1

魔法・罠4

手札2

 

 

 

「ドロー」

 

手札1→2

 

ふむ……誘ってるな。

 

「確実に攻撃反応系の罠を張ってるのは明白。ついでにダメージ反射モンスターね……」

 

「だったらどうする!」

 

「そんなの決まっているだろう」

 

『ゲヒャ! ゲヒャヒャヒャ!』

 

 デス・ガーディウスは両手の鉤爪にドス黒いオーラを纏わせた。

 

「正面からいかせてもらおう。このデッキにはそれしか能がないからな」

 

 というか、デス・ガーディウスが戦わないとダメージソースがほぼ無くなってしまう。

 

 俺はモンスターをディスクに置いた。

 

「ただ、多少趣向は凝らす。俺は自分のフィールド上に"トーチトークン"2体を特殊召喚し……」

 

 俺のフィールドに2体の簡素な鉄人形が現れた。

 

トーチトークン

ATK0

 

トーチトークン

ATK0

 

「"トーチ・ゴーレム"をお前のフィールド上に攻撃表示で特殊召喚」

 

「なにぃ!?」

 

トーチ・ゴーレム

星8/闇属性/悪魔族/攻3000/守 300

このカードは通常召喚できない。このカードを手札から出す場合、自分フィールド上に「トーチトークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を2体攻撃表示で特殊召喚し、相手フィールド上にこのカードを特殊召喚しなければならない。

このカードを特殊召喚する場合、このターン通常召喚はできない。

 

 万丈目のフィールドに身体中に丸鋸の刃が組み込まれたような巨大な鉄の巨人が現れた。

 

 さあ、どうする? これでデス・ガーディウスを破壊しても俺の手にトーチ・ゴーレムが渡り、それで攻撃すればお前はKOだ。

 

トーチ・ゴーレム

ATK3000

 

「バトル。ダーク・デストラクション」

 

『ゲヒャヒャ!』

 

 デス・ガーディウスは跳躍し、地獄戦士の眼前まで迫ると、上から両方の鉤爪を振り下ろした。

 

「トラップ発動! "ホーリージャベリン"! これで"仮面魔獣デス・ガーディウス"の攻撃力分のダメージを回復する! さらに発動! "ホーリージャベリン"」

 

万丈目

700→4000→7300

 

 ほう……。

 

「無論、地獄戦士の効果は発動される!」

 

 地獄戦士は破壊されるのと同時に、飛んできた地獄戦士の剣が俺に襲い掛かった。

 

万丈目

LP7300→5200

 

リック

LP4000→1900

 

「この瞬間! 罠カード発動! "リビングデッドの呼び声"! 戻れ! 地獄戦士!」

 

地獄戦士

ATK1200

 

「そして、速攻魔法"地獄の暴走召喚"! 相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる! その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から全て攻撃表示で特殊召喚する! 相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する! 出ろ! 地獄戦士たち!」

 

地獄戦士

ATK1200

 

地獄戦士

ATK1200

 

「ふーん……残念だが"仮面魔獣デス・ガーディウス"は"地獄の暴走召喚"では特殊召喚出来ないな」

 

 これは考えたなぁ……これで俺のデス・ガーディウスは攻撃表示の地獄戦士に攻撃出来なくなったぞ。

 

「さあどうする!」

 

「ハハハ……」

 

「何がおかしい……!?」

 

「いや、これがデュエルだなって思ってな」

 

 ではヴェノミナーガさんからの誕生日プレゼントその2。

 

「手札から"天よりの宝札"を発動。互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにカードを引く」

 

リック

0→6

 

万丈目

2→6

 

「俺は魔法カード、"黙する死者"を発動。メルキド四面獣を守備表示で特殊召喚」

 

メルキド四面獣

DEF1200

 

「そして、"メルキド四面獣"と…」

 

「また、"仮面魔獣デス・ガーディウス"か…」

 

 俺はニヤリと笑った。

 

「"仮面魔獣デス・ガーディウス"を生け贄に捧げ、"仮面魔獣デス・ガーディウス"を特殊召喚する」

 

「なんだと……?」

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

ATK3300

 

「"遺言の仮面"の装備効果は強制効果。つまりこれでも発動する」

 

遺言の仮面が飛んで行き、トーチ・ゴーレムに張りつくと、トーチ・ゴーレムは俺のフィールドに移動した。

 

「俺は"トーチ・ゴーレム"のコントロールを得る。そして"至高の木の実(スプレマシー・ベリー)"を発動」

 

 小さく白い小鳥が俺に木の実を届けに来た。

 

 あらかわいい。やっぱり、俺のデッキのアイドルカードなだけはあるな。

 

『じゅるり……』

 

 おいやめろ。ヴェノミナーガさん。

 

「このカードの発動時に、自分のライフポイントが相手より下の場合は自分は2000ライフポイント回復する。自分のライフポイントが相手より上の場合、自分は1000ポイントダメージを受ける。今回は前者だ」

 

リック

LP1900→3900

 

 ちなみに後者の時に発動すると小鳥ちゃんが可愛らしい大きさの爆弾を運んできます。

 

 トムとジェリーのジェリーの爆弾みたいな威力だけどな。なめてると黒焦げにされるぜ。

 

「カードを2枚伏せてターンエンド」

 

モンスター4

魔法・罠5

手札2

 

 

 

「俺のターン! ドロー!」

 

手札6→7

 

「俺は……"苦渋の選択"を発動! 自分のデッキからカードを5枚選択して相手に見せる。相手はその中から1枚を選択し、相手が選択したカード1枚を自分の手札に加え、残りのカードを墓地へ捨てる!」

 

 誰が苦渋を飲まされるんですかねぇ……。

 

「さあ、選べ!」

 

 万丈目の出したカードは……。

 

ブラッド・ヴォルス

 

ブラッド・ヴォルス

 

ヘルカイザー・ドラゴン

 

ヘルカイザー・ドラゴン

 

聖なるバリア-ミラーフォース

 

 ふむ……ヘルカイザー・ドラゴンがどうにかして飛んでくるな。

 

「俺は聖なるバリア-ミラーフォースを選択する」

 

「なに……?」

 

 それを選ぶのは予想外だったらしく万丈目は一瞬、動揺したがすぐに墓地に4枚カードを送った。

 

「俺は"死者蘇生"を発動! 墓地から"ヘルカイザー・ドラゴン"を特殊召喚!」

 

ヘルカイザー・ドラゴン

星6/炎属性/ドラゴン族/攻2400/守1500

このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、通常モンスターとして扱う。フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。

●このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 

 うん、知ってた。

 

「"ヘルカイザー・ドラゴン"を再度召喚!」

 

「二回攻撃か……」

 

「お前のフィールドには攻撃0の"トーチトークン"が2体! これで終わりだ!」

 

「終わるわけないだろ」

 

「なんだと?」

「"無力の証明"を発動」

 

 デス・ガーディウスは万丈目へ特攻した。

 

「自分フィールド上にレベル7以上のモンスターが存在する場合に発動できる。相手フィールド上のレベル5以下のモンスターを全て破壊する! 蹂躙しろデス・ガーディウス!」

 

『ゲッゲッゲッ……!』

 

 デス・ガーディウスは万丈目に突撃を掛け、1体の地獄戦士を踏み潰し、残りの地獄戦士を両手で鷲掴みにした。

 

『ギハ! ギハ!』

 

 そして、地獄戦士の入った両手を天に掲げ……。

 

「止めろ…!」

 

『ヒ……ヒッ! ヒャーハッハッハ!!!!』

 

 万丈目が声を上げるがそれを聴いてデス・ガーディウスは歓喜の声を上げ、手の中のモノを握り潰した。

 

「このカードを発動するターン、自分フィールド上のモンスターは攻撃できないが、相手ターンに発動すればデメリットは無くなる」

 

「だが、ヘルカイザー・ドラゴンは…」

 

「だが、無意味だ。"闇のデッキ破壊ウイルス"を発動。自分フィールド上に存在する攻撃力2500以上の闇属性モンスター1体を生け贄にし、魔法カードまたは罠カードのどちらかの種類を宣言して発動する。俺は罠カードを宣言する」

 

 デス・ガーディウスの身体が黒い霧に変わり、万丈目のフィールドを包んだ。

 

「そして、相手フィールド上に存在する魔法・罠カード、相手の手札、相手のターンで数えて3ターンの間に相手がドローしたカードを全て確認し、宣言した種類のカードを破壊する」

 

「俺の罠カードが……」

 

 黒い霧が万丈目のカードを破壊する。

 

手札6→3

 

「さらに"仮面魔獣デス・ガーディウス"が墓地に送られた事で"遺言の仮面"を"ヘルカイザー・ドラゴン"に装備する」

 

「バカな……」

 

「"ヘルカイザー・ドラゴン"は貰うぞ」

 

 仮面の張り付いたヘルカイザー・ドラゴンは俺のフィールドと移った。

 

 これで俺のフィールドには……。

 

トーチトークン

ATK0

 

トーチトークン

ATK0

 

トーチ・ゴーレム

ATK3000

 

ヘルカイザー・ドラゴン

ATK2400

 

「………………」

 

 万丈目は唖然として俺の場のモンスターを見ていた。

 

「まだお前のターンだそ?」

 

「俺は……"一時休戦"を発動。お互いに自分のデッキからカードを1枚ドローする。次の相手ターン終了時まで、お互いが受ける全てのダメージは0になる」

 

 ふむ、休戦まで入ってるのか。

 

万丈目

手札2→3

 

リック

手札2→3

 

「ターンエンドだ…」

 

「これで"闇のデッキ破壊ウイルス"が1ターン経過だ」

 

万丈目

モンスター0

魔法・罠0

手札3

 

 

 

「俺のターン、ドロー」

 

手札3→4

 

 ふむ、パラディウス社製のレアカードか……たまには使うか。

 

「トーチトークン2体を生け贄に"創世神(ザ・クリエイター)"を召喚」

 

創世神(ザ・クリエイター)

星8/光属性/雷族/攻2300/守3000

自分の墓地からモンスターを1体選択する。手札を1枚墓地に送り、選択したモンスター1体を特殊召喚する。この効果は1ターンに1度しか使用できない。このカードは墓地からの特殊召喚はできない。

 

 俺の目の前からフィールドに向かって激しい光が差し、万丈目が目を覆った。

 

「くっ…」

 

 そして、俺の前には赤みを帯びた金色の巨人が立っていた。

 

創世神

ATK2300

 

「"創世神"だと……?」

 

「"創世神"の効果。手札を1枚を墓地へ送り、墓地のモンスター1体を特殊召喚する。甦れ"仮面魔獣デス・ガーディウス"」

 

 創世神の背中の翼のようなものが開き、創世神の手と手の間で激しい光が起た。

 

 それが止むと俺のフィールドのモンスターが1体増えていた。

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

ATK3300

 

「さらにカード1枚セットしてターンエンド。この瞬間、"一時休戦"の効果が切れる」

 

モンスター4

魔法・罠5

手札1

 

 

 

「ドロー…」

 

手札3→4

 

「"闇のデッキ破壊ウイルス"の効果でドローしたカードを確認する」

 

「"暗黒の扉"だ」

 

 うわ、懐かしい。

 

「………………」

 

 万丈目は目を閉じ、俯いた。

 

ここまでだろうか?

 

まあ、罠を潰され手札はモンスターと魔法のみ。

 

 俺のフィールドには4体の上級モンスター、魔法・罠ゾーンには5枚中3枚の伏せカード。

 

 この状態から起死回生できるカードは少ないだろうな。

 

「…………俺は……」

 

 ん?

 

「……なるんだ……俺はッ!」

 

 ほう、まだ折れないか。

 

「俺はデュエルキングになるんだ!」

 

 万丈目はそう宣言しながらモンスターカードをデュエルディスクに力強く置いた。

 

「"サイレント・マジシャン LV4"を召喚!」

 

サイレント・マジシャン LV4

星4/光属性/魔法使い族/攻1000/守1000

相手がカードをドローする度に、このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大5つまで)。このカードに乗っている魔力カウンター1つにつき、このカードの攻撃力は500ポイントアップする。このカードに乗っている魔力カウンターが5つになった次の自分のターンのスタンバイフェイズ時、フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地へ送る事で、自分の手札またはデッキから「サイレント・マジシャン LV8」1体を特殊召喚する。

 

 万丈目のフィールドに小さな魔法使いの少女が現れた。

 

サイレント・マジシャン LV4

ATK1000

 

「なんだと……?」

 

 この世界では伝説とまで言われているLVモンスター……?

 

 その上、デス・ガーディウスと最悪の組み合わせのサイレント・マジシャンだと……。

 

 おいおい、神様は嫌がらせが好きなのかよ。

 

 というか、この世界でそういうモンスターが手札に来ている場合はほぼ間違いなく……。

 

「さらに"レベルアップ!" フィールド上に表側表示で存在するLVを持つモンスター1体を墓地へ送り発動する」

 

 やはりか。

 

 サイレント・マジシャンLV4が消え――。

 

「そのカードに記されているモンスターを、召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。 効果により手札から――」

 

 しかも手札からかよ……。

 

 フィールドに閃光が広がり、それが止むと一人の女性が佇んでいた。

 

「"サイレント・マジシャンLV8"を特殊召喚!」

 

サイレント・マジシャン LV8

星8/光属性/魔法使い族/攻3500/守1000

このカードは通常召喚できない。「サイレント・マジシャン LV4」の効果でのみ特殊召喚できる。このカードは相手の魔法カードの効果を受けない。

 

その魔法使いは冷淡な目で偏にこちらを見つめた。

 

サイレント・マジシャン LV8

ATK3500

 

「"サイレント・マジシャンLV8"で"仮面魔獣デス・ガーディウス"を攻撃!」

 

 サイレント・マジシャンが杖をデス・ガーディウスに向けた。

 

「サイレント・バーニング!」

 

 サイレント・マジシャンの杖の先から魔弾が放たれ、それがデス・ガーディウスに着弾し、弾け飛んだ。

 

「くっ……」

 

リック

LP3900→3700

 

「"サイレント・マジシャンLV8"は相手の魔法カードの効果を受けない! つまり……」

 

「俺の"遺言の仮面"はアクセサリーにしかならないってことだろ。少し、悪趣味だが」

 

「そうだ! お前の"仮面魔獣デス・ガーディウス"は"サイレント・マジシャンLV8"の前には通用しない!」

 

「だが、使い手は未熟だな」

 

「なに!?」

 

「"創世神"は毎ターン効果を発動出来る。つまり、"創世神"を破壊しない限り"仮面魔獣デス・ガーディウス"はフィールドに出続ける。お前は俺にたった200ポイントのダメージを与えたに過ぎない」

 

「くっ!? だがお前のフィールドにも墓地にも"サイレント・マジシャンLV8"を越える攻撃力のモンスターは…」

 

「戯れ言はいい、早くターンを回せ」

 

「……"暗黒の扉"を発動し、ターンエンドだ……」

 

「この瞬間、"闇のデッキ破壊ウイルス"発動から2ターン経過」

 

万丈目

モンスター1

魔法・罠1

手札0

 

 

 

「ドロー…」

 

手札1→2

 

「フフフ……」

 

「何がおかしい……?」

 

「面白くなってきたじゃねぇか……これだよ! こういうデュエルがしたかったんだよ!」

 

『うっひょー。マスターが元気になりましたー』

 

「俺はまず、"創世神"の効果を発動。手札を1枚墓地へ送り、墓地の"仮面魔獣デス・ガーディウス"を特殊召喚」

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

ATK3300

 

「"ヘルカイザー・ドラゴン"を生け贄に罠カードオープン。"ナイトメア・デーモンズ"」

 

「"ナイトメア・デーモンズ"だと!?」

 

 万丈目のフィールドに切り絵の悪魔のようなモンスターが3体出現した。

 

ナイトメア・デーモンズ・トークン

ATK2000

 

ナイトメア・デーモンズ・トークン

ATK2000

 

ナイトメア・デーモンズ・トークン

ATK2000

 

「 相手フィールド上に"ナイトメア・デーモン・トークン"(悪魔族・闇・星6・攻/守2000)3体を攻撃表示で特殊召喚する。"ナイトメア・デーモン・トークン"が破壊された時、このトークンのコントローラーは1体につき800ポイントダメージを受ける」

 

「くっ……」

 

「"仮面魔獣デス・ガーディウス"の攻撃。ダーク・デストラクション!」

 

デス・ガーディウスの攻撃でナイトメア・デーモンズ・トークンが引き裂かれ、その直後に大爆発を起こした。

 

「うあぁぁ!!」

 

万丈目

LP5200→3900→3100

 

「別に"サイレント・マジシャンLV8"を倒すだけが勝利に繋がるわけではない」

 

「くそっ……」

 

 このデッキの最大の弱点は相手に完全な防御の態勢に入られる事だ。

 

 だったら破壊できるモンスターをこっちが作ってしまえばいい。

 

 もしくは相手を強制的に攻撃表示にさせるとかな。

 

「"暗黒の扉"効果でバトルフェイズは終了。カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

リック

モンスター3

魔法・罠4

手札0

 

 

 

「ドロー!ドローしたカードは"闇より出でし絶望"だ」

 

手札0→1

 

 このタイミングで最上級生け贄モンスターかよ……。

 

「"ナイトメア・デーモンズ・トークン"2体を生け贄に"闇より出でし絶望"を守備表示で召喚」

 

闇より出でし絶望

星8/闇属性/アンデット族/攻2800/守3000

このカードが相手のカードの効果によって手札またはデッキから墓地に送られた時、このカードをフィールド上に特殊召喚する。

 

闇より出でし絶望

DEF3000

 

「"サイレント・マジシャンLV8"で"創世神"を攻撃! サイレント・バーニング!」

 

「残念だったなぁ、"安全地帯"発動」

 

 創世神が俺の後ろに逃げた。

 

 ………………そこは安全だな……。

 

「この永続罠はフィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターは相手のカードの効果の対象にならず、戦闘及び相手のカードの効果では破壊されない。そのモンスターは相手プレイヤーに直接攻撃できない。さらにカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。そのモンスターがフィールド上から離れた時、このカードを破壊するなどとデメリットはあるが今の状態では関係ないな」

 

「だが、ダメージは受けてもらうぞ!」

 

リック

LP3700→2500

 

「ターンエンドだ……」

 

「これで"闇のデッキ破壊ウイルス"の効果は終わりだ」

 

万丈目

モンスター2

魔法・罠1

手札0

 

 

 

「俺のターン、ドロー」

 

手札0→1

 

「俺は"創世神"と"トーチ・ゴーレム"を守備表示にする」

 

創世神

DEF3000

 

トーチ・ゴーレム

DEF300

 

 創世神を守備表示にすると今度は俺の目の前に立ち塞がり、仁王立ちのような姿勢を取った。

 

 安全地帯中だから正に壁だな。だが、前が見えないから退いてくれ。よし。

 

「そして"闇より出でし絶望"を攻撃。ダーク・デストラクション」

 

 闇より出でし絶望はデス・ガーディウスの攻撃でズタズタに引き裂かれ、霧のように霧散した。

 

「ターンエンド」

 

リック

モンスター3

魔法・罠4

手札1

 

 

 

「ドロー! これは……いや……だが……」

 

 万丈目は何かドローしたようだが、表情は明るくない。

 

「カードをセット」

 

 罠か? いや、なんだ?

 

 いずれにしろ1枚、対処は容易だ。

 

「"サイレント・マジシャンLV8"で"トーチ・ゴーレム"を攻撃。サイレント・バーニング!」

 

 トーチ・ゴーレムは跡形もなく吹き飛んだ。

 

「ターンエンドだ……」

 

万丈目

モンスター1

魔法・罠1

手札0

 

 

 

「ドロー」

 

 まあ、もういいだろう。充分楽しんだ。

 

手札1→2

 

 俺は最初から2番目に伏せたカードを開いた。

 

「1000ポイントライフを払い、セットカードをオープン。永続罠、"スキルドレイン"を発動」

 

リック

LP2500→1500

 

「な……!? その場所……キサマ最初からずっと伏せていたのか!?」

 

「使う必要が無かったからな」

 

 使うほど窮地でもないという表現が正しいか。

 

「このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上の全ての効果モンスターの効果は無効化される。さらに手札から"巨大化"を発動。"仮面魔獣デス・ガーディウス"に装備」

 

 デス・ガーディウスの体躯が倍に膨れ上がる。

 

『ゲヒャヒャ!』

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

ATK6600

 

「バトル、これで終わりだな」

 

 万丈目は顔を伏せて下を向いていた。

 

 完全に諦めたのだろう。

 

『タヒ!』

 

 黒いオーラを纏わせた人間の数倍の大きさの鉤爪が振り上げられた。

 

 超過ダメージは3100。万丈目のライフポイントと同じ数値だ。

 

「ダーク・デストラクション」

 

 その言葉と共に鉤爪が降り下ろされる最中、俺は言葉を耳にした。

 

「俺は罠カードを発動……」

 

 このタイミングでか? まあ、俺にはコイツが伏せて――!?

 

 俺は開かれた万丈目のトラップカードを見て目を見開き、そして俺はカードの発動を止めた。

 

 なるほど……デュエリストだ……。

 

 すまんな、死んでくれデス・ガーディウス。

 

 俺はただその光景を見ることにした。

 

 次の瞬間、デス・ガーディウスの鉤爪が吹き飛んだ。

 

 フィールドには攻撃力6600の仮面魔獣デス・ガーディウス。

 

 そして……サイレント・マジシャンLV8の攻撃力は…………。

 

 

 

 

サイレント・マジシャンLV8

ATK6900

 

 

 

 

「"プライドの咆哮"! デス・ガーディウスを倒せ! サイレント・マジシャン!」

 

 サイレント・マジシャンは特大のサイレント・バーニングを作り、デス・ガーディウスは残った片腕でサイレント・マジシャンを突き貫こうと攻撃を放った。

 

 

 

 

 プライドの咆哮は戦闘ダメージ計算時、自分のモンスターの攻撃力が相手モンスターより低い場合、その攻撃力の差分のライフポイントを払って発動する。ダメージ計算時のみ、自分のモンスターの攻撃力は相手モンスターとの攻撃力の差の数値+300ポイントアップする罠カード。

 

 現在の万丈目のライフポイントと俺のデス・ガーディウスの攻撃力の差は3100。

 

 すなわち、現在の万丈目のライフポイントは……。

 

 

 

万丈目

LP0

 

 

『ヒヒ……ヒヒ……ヒャハ……』

 

 サイレント・マジシャンのサイレント・バーニングを受け、半身が消し飛んだデス・ガーディウスはゆっくりと地面に崩れ落ちた。

 

 そして、デュエル終了を告げるサインと同時にソリッド・ビジョンが停止し、勝敗が決した。

 

 昔の世界なら空打ちになるがこっちの世界では、デュエルディスクが空気を読んでくれるためプライドの咆哮を発動できるのだ。

 

 万丈目は地面に膝を付けて項垂れていた。

 

 ここまで来ての敗北が堪えたのだろう。

 

 俺は敗者に声を掛けるのもどうかと思ったが、これだけは言っておくことにした。

 

「楽しかったよ」

 

「………………」

 

 それだけ言って立ち去ろうと踵を返した。

 

 デュエルリングから出る直前で何かが聞こえ、足を止めた。

 

「……いに……しろ……」

 

 振り返らずにそれを聞く。

 

「お前はこの万丈目 準に勝ったんだ!

絶対に優勝しろ!」

 

「……………………」

 

 俺は振り返らずに手で会釈だけすると俺は控え室に戻った。

 

 

 

 

 

 






 正解はサイレント・マジシャンLV4 サイレント・マジシャンLV8 レベルアップ! でした。

 なぜサイレント・マジシャンかですって?

 そんなの決まってるじゃないですか。

 袖で醤油を拭き、半年洗ってないあの黒い服を洗う人が流石に必要だからですよ!

 世話焼き女房的な。




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大会その4

 

 

 

『マスター、マスター』

 

「ん?」

 

『13試合目の相手が決まったようですよ』

 

 ヴェノミナーガさんは控え室のテレビを指差しながらそう言った。

 

 俺は相手の切り札を戦いながら自分の目で見るのが楽しみなので見ていないが、ヴェノミナーガさんはスナック菓子をポリポリしながら全部見ていたらしい。

 

「どっちが勝った?」

 

『男の子の方です。まあ、当たり前ですよね。現、日本のジュニアチャンプなんですから』

 

「そうだな」

 

『どうします? マスターの今のデッキでは分が悪いですよ? ぜひ! ぜひ!私のデッキを…いいえ、私のデッキを使ってください! お願いします! 何でもしますから! ゲヘヘ…』

 

「どうどう」

 

 俺に分が悪いデッキなのか。

 

 それは兎も角、ヴェノミナーガさんの何でもするとかいう言葉はヴェノミナーガさんにプラスになることにしかならない。

 

 ちなみにだが、こっちの世界では大会の最中であってもデッキの中身どころか、デッキそのものすら変えることが出来るのだ。

 

「ならフィールドに出て回りのモノを何も壊さないって約束できるか?」

 

 ヴェノミナーガさんの事だ。

 

 出した瞬間、ヒャッハー!して周囲が大惨事世界大戦になることは間違えない。

 

『……………………ちょっぴりですから…』

 

「ちょっぴり会場を半壊?」

 

『……………………4分の1ぐらい…』

 

「何がぐらいだコラ! 大会中止になるわ!」

 

『ぐぬぬ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来ねぇ…」

 

 時は進み、第13試合目。

 

 俺は開始時間の10分ぐらい前からデュエルリングに立っていた。

 

 だが、開始時間を過ぎ、数分経過したというのに対戦者が現れないのだ。

 

『このままなら不戦勝ですね』

 

「ふむ…」

 

 審判には30分は待ってくれと言っておいたからまだ、大丈夫だろう。

 

 現、日本ジュニアチャンプの実力をこの目で見てみたいのだ。

 

 どうしたものかと考えたところで人影がデュエルリングに登ってきた。そして、開口一番に一言――。

 

「すみませーん。寝過ごしましたー」

 

『ふぉ!?』

 

 ヴェノミナーガさんがドリフトのような転け方を見せた。

 

 俺も片手を額に置いていたが。

 

 どうやらコイツが俺の対戦者……。

 

 "茂木 もけ夫"というらしい。

 

 想像できないだろうがなんとコイツ、日本のジュニアカップのチャンプなのだ。

 

「君もその精霊さんたちも待たせちゃったね。ごめん」

 

「なに……?」

 

『おー、この子見えてるんですねー』

 

『ゲッゲッゲッ…』

 

 ヴェノミナーガさんとデス・ガーディウスが普通に見えてるのにケロっとしてるってどうなってんだ…。

 

「じゃ、行くよー」

 

「おう」

 

 それから直ぐにアナウンスが流れた。

 

『第13回戦 リック・ベネットVS茂木 もけ夫』

 

 俺と茂木はデュエルディスクを構えた。

 

『開始』

 

 

「「デュエル!」」

 

リック

LP4000

 

茂木

LP4000

 

 

 

「待たせちゃったから先攻どうぞ」

 

「ああ、ドロー」

 

手札5→6

 

「俺は"切り込み隊長"を召喚。効果で"仮面呪術師カースド・ギュラ"を特殊召喚」

 

切り込み隊長

ATK1200

 

仮面呪術師カースド・ギュラ

ATK1500

 

「2体を生け贄に捧げ、"仮面魔獣デス・ガーディウス"を特殊召喚」

 

『ゲッゲッゲッ…』

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

ATK3300

 

「カード2枚、セットして……」

 

 悪いが本気で行かせて貰うぞ。

 

「"天よりの宝札"発動。お互いにカードが6枚になるようにドローする」

 

リック

0→6

 

茂木

5→6

 

 ん? コイツは…。

 

 俺はデス・ガーディウスを見ると、ピースサインを出していた。

 

 日本のジュニアチャンプと本気で闘いたいということだな。

 

 正直、このデッキの強さはデス・ガーディウスの匙加減で決まると言ってもいい。

 

 このカードまで出すということはかなり本気だ。

 

「手札から永続魔法、"生還の宝札" 自分の墓地に存在するモンスターが特殊召喚に成功した時、自分のデッキからカードを1枚ドローする事ができる。さらにカードを1枚セットしターンエンド」

 

リック

モンスター1

魔法・罠4

手札4

 

 

 

「ドロー。スゴいね。そんなモンスター直ぐに出しちゃうなんて」

 

手札6→7

 

 茂木はデュエルディスクのフィールド魔法を入れる場所をあけた。

 

「こっちも頑張らないとね。"ヘカテリス"と"天空の使者 ゼラディアス"を墓地へ送り、効果でデッキから"神の居城-ヴァルハラ"と"天空の聖域"を手札に加えるよ。そして、"天空の聖域"を発動するよ」

 

 フィールドが雲の上に立つ神殿へと変わった。

 

「"天空の聖域"は天使族モンスターとの戦闘で発生するダメージを0にするよ」

 

 茂木はカードを1枚魔法・罠ゾーンに置いた。

 

「手札から永続魔法、"神の居城-ヴァルハラ"を発動するよ。このカードは自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、手札から天使族モンスター1体を特殊召喚する事ができるよ。この効果は1ターンに1度しか使用できないけどね」

 

 いや、一回で充分過ぎる。

 

「僕は"神の居城-ヴァルハラ"の効果で手札から" The splendid VENUS"を特殊召喚するよ」

 

The splendid VENUS

星8/光属性/天使族/攻2800/守2400

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、フィールド上に表側表示で存在する天使族以外の全てのモンスターの攻撃力と守備力は500ポイントダウンする。また、自分がコントロールする魔法・罠カードの発動と効果は無効化されない。

 

 煌めく光を放つ天使が降臨した。

 

The splendid VENUS

ATK2800

 

「The splendid VENUSだと…」

 

「うん、優勝した時に貰ったんだ」

 

 プラネットシリーズ…売ったら高いんだろうな。

 

 そう言えばヴェノミナーガさんも持ってたな。

 

『絶対、売りませんよ!?』

 

「ちっ…」

 

 何も言ってないのに先に言われた。

 

「じゃあ、" 神秘の代行者アース"を召喚するよ」

 

神秘の代行者アース

チューナー

星2/光属性/天使族/攻1000/守 800

このカードが召喚に成功した時、自分のデッキから「神秘の代行者アース」以外の「代行者」と名のついたモンスター1体を手札に加える事ができる。フィールド上に「天空の聖域」が表側表示で存在する場合、代わりに「マスター・ヒュペリオン」1体を手札に加える事ができる。

 

 大天使の横に可愛らしいエンジェルが召喚された。

 

 アース…だと…奴が…来る…!

 

神秘の代行者アース

ATK1000

 

「"神秘の代行者アース"の効果で"天空の聖域"がフィールドにある時、"マスター・ヒュペリオン"をデッキから手札に加えるよ。そして…」

 

 アースが光になり、光球に変わる。

 

 そして、その光球は数倍の大きさに膨れ上がり、内側から弾けた。

 

 そこには白い両翼をゆったりと羽ばたかせ、炎を纏った大天使が存在していた。

 

マスター・ヒュペリオン

星8/光属性/天使族/攻2700/守2100

このカードは、自分の手札・フィールド上・墓地に存在する「代行者」と名のついたモンスター1体をゲームから除外し、手札から特殊召喚する事ができる。1ターンに1度、自分の墓地に存在する天使族・光属性モンスター1体をゲームから除外する事で、フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。フィールド上に「天空の聖域」が表側表示で存在する場合、この効果は1ターンに2度まで使用できる。

 

 出たな! 一時期、アースを制限に追い込んだ戦犯者! そして最終兵器天使め!

 

 マスター・ヒュペリオンのなにがヤバイかってまず、マスター・ヒュペリオンのゆるゆるな特殊召喚条件だ。

 

《このカードは、自分の手札・フィールド上・墓地に存在する"代行者"と名のついたモンスター1体をゲームから除外し、手札から特殊召喚する事ができる》

 

 コイツは使ってみるとこの効果の恐ろしさがわかる。

 

 アースの効果を含めるとコイツはほとんどの場合で4ターン目までに1体は余裕でフィールドに出せるからだ。その上、特殊召喚も通常召喚も可能だから尚質が悪い。

 

 そして、さらにヤバイのがこの起動破壊効果。

 

《 1ターンに1度、自分の墓地に存在する天使族・光属性モンスター1体をゲームから除外する事で、フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。フィールド上に"天空の聖域"が表側表示で存在する場合、この効果は1ターンに2度まで使用できる》

 

 このまたも、条件のガバガバな壊れ効果のせいで墓地が手札よりも価値が出て来るのだ。

 

 その上、光属性、天使族にはヘカテリスや天空の使者 ゼラディアスなど手札から捨ててサーチできるモンスターがいるがソイツらの真価はコイツによって250%引き出される。

 

 マスター・ヒュペリオンに並ぶほど墓地に価値が出る場合なんてシャドールシリーズぐらいだろう…。

 

 そして何より最もヤバイのがデッキにもよるが大概の場合、特に長期戦になればデッキ、手札、墓地、除外のどこにいようと自身の効果、専用カードのアース、奇跡の降臨や、奇跡の代行者ジュピターなどの種族サポート、大天使クリスティアなどによってどこにいようと即座に飛んでくるため、対処が非常に難しい事だ。

 

 帝コントロールぐらいかと覚悟していたらヒュペ天かよ…。

 

 分が悪いというか…ヒュペ天に分が悪くないデッキなんて次元帝などの墓地除外デッキぐらいだろう! いや、それでも爆発力を抑えるだけで潰せるわけではないが…。

 

『マスター? 顔色悪いですよ?』

 

「気にするな」

 

『ボルガ博士、お許しください!』

 

マスター・ヒュペリオン

ATK2700

 

「"天使の施し"を発動するね。3枚ドローして2枚捨てるよ」

 

 天使の施し下のマスター・ヒュペリオンかー。眩しいなー、輝いてるなー。

 

「墓地には天使族モンスターが4枚だから、"大天使クリスティア"を手札からを特殊召喚するよ」

 

大天使クリスティア

星8/光属性/天使族/攻2800/守2300

自分の墓地に存在する天使族モンスターが4体のみの場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。この効果で特殊召喚に成功した時、自分の墓地に存在する天使族モンスター1体を手札に加える。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、お互いにモンスターを特殊召喚する事はできない。このカードがフィールド上から墓地へ送られる場合、墓地へは行かず持ち主のデッキの一番上に戻る。

 

 外殻に包まれた大天使が上から降臨した。

 

 クリスティア……お前もか…。

 

大天使クリスティア

ATK2800

 

「"大天使クリスティア"の効果で墓地の"マスター・ヒュペリオン"を手札に加えるよ。"大天使クリスティア"が存在する限りお互いにモンスターは特殊召喚できないから気をつけてね」

 

 クリスティアは普通に特殊召喚できるクセに…。

 

「"マスター・ヒュペリオン"の効果発動をするよ。墓地の光属性、天使族モンスター1体を除外し…」

 

 マスター・ヒュペリオンが2つの小太陽のようなものを両手に作り始めた。

 

「速攻魔法、"禁じられた聖杯"。エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は400ポイントアップし、効果は無効化される。選択するのは無論"マスター・ヒュペリオン"」

 

「あー」

 

 マスター・ヒュペリオンが作っていた小太陽は霧散し、代わりに1つの聖杯が握られていた。

 

マスター・ヒュペリオン

ATK3100

 

「でもこれなら"The splendid VENUS"の効果で攻撃力の落ちた"仮面魔獣デス・ガーディウス"の攻撃力を越えたね」

 

 The splendid VENUSはフィールド上の天使族以外のモンスターの攻撃力・守備力を500ポイント下げる効果を持っている。つまり、今のデス・ガーディウスの攻撃力は…。

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

ATK2800

 

「"マスター・ヒュペリオン"で"仮面魔獣デス・ガーディウス"に攻撃するよ」

 

 マスター・ヒュペリオンは腕を振りかぶり、限界まで引き絞ると……。

 

 

 全力で聖杯を投げた。

 

 

 聖杯はデス・ガーディウスを貫き、俺にまで届く。

 

『聖杯を相手のモンスターにシュゥゥゥーッ!! 超! エキサイティン!!』

 

 黙れ蛇。

 

リック

LP4000→3700

 

「この瞬間、罠カード発動。"自由開放"」

 

『ゲヒャァ…』

 

 デス・ガーディウスは腹に大穴を空けたまま相手に突撃すると、マスター・ヒュペリオンと大天使クリスティアの頭を鷲掴みにした。

 

 その瞬間、自由開放は発動し、マスター・ヒュペリオンと大天使クリスティアが消え、デス・ガーディウスは崩れ落ちた。

 

「自分フィールド上のモンスターが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時に発動する事ができる。フィールド上に表側表示で存在するモンスター2体を選択して持ち主のデッキに戻す。そして"仮面魔獣デス・ガーディウス"の効果発動」

 

 消える寸前のデス・ガーディウスは最後にThe splendid VENUSへ向かって仮面を射出した。

 

「デッキから"遺言の仮面"を発動し、The splendid VENUSへ装備。効果により、装備されたモンスターのコントロールを移す」

 

 The splendid VENUSが俺のフィールドに移った。

 

「うわー、スゴイ効果だねー」

 

 自分のフィールドが、がら空きになったというのになに食わぬ顔をしている茂木。

 

 まだ何か……………あ…。

 

 俺はクリスティアで手札に加えていたモンスターの事を思い出した。

 

「墓地の"奇跡の代行者 ジュピター"をゲームから除外して"マスター・ヒュペリオン"を特殊召喚するよ」

 

 天使の施しの時か…。

 

マスター・ヒュペリオン

ATK2700

 

「さらにカードを1枚セットしてから"命削りの宝札"を発動するよ。効果でカードを5枚ドローするね。5ターン後全て捨てるよ」

 

手札0→5

 

「"ヘカテリス"を墓地へ送り、"神の居城-ヴァルハラ"を手札に加えるね。それから"マスター・ヒュペリオン"の効果を発動するよ」

 

 マスター・ヒュペリオンが再び小太陽を2つ造り出す。

 

「墓地の光属性、天使族モンスター1体を除外するね」

 

 マスター・ヒュペリオンの小太陽の片方が激しく光り出した。

 

「さらにもう1体を除外するよ」

 

 マスター・ヒュペリオンの両手の小太陽が激しい光りを帯び、炎を撒き散らし始めた。

 

「いっけー。W(ダブル)フレア」

 

 マスター・ヒュペリオンが放った小太陽が俺の遺言の仮面と、生還の宝札に着弾し、爆裂した。

 

「"遺言の仮面"が破壊された事で"The splendid VENUS"のコントロールはこっちに戻るよ」

 

「くっ…」

 

 流石日本ジュニアチャンプと言ったところか。

 

「最後にカードを3枚伏せてターンエンド」

 

「その瞬間に罠カードオープン"リビングデッドの呼び声"。墓地から"仮面魔獣デス・ガーディウス"を特殊召喚する」

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

ATK3300→2800

 

茂木

モンスター2

魔法・罠6

手札1

 

 

 

「ドロー」

 

手札4→5

 

「俺は"ダブル・サイクロン"を発動。自分フィールド上の"リビングデッドの呼び声"と相手フィールド上の"天空の聖域"を破壊する」

 

 2つの色違いの竜巻が2枚のカードを襲う。

 

 成功すればデス・ガーディウスは破壊され、天空の聖域は消える。

 

「"神罰"を発動。このカードはフィールド上に"天空の聖域"が表側表示で存在する場合に発動する事ができるよ。効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にし破壊するね」

 

 だが、竜巻は天空の聖域の神殿から出た雷によって破壊されてしまった。

 

 だが、本命はこっちだ。

 

「"スート・オブ・ソード X"発動」

 

 俺の頭上でカードがゆっくり回転し始めた。

 

「このカードは正位置に止まれば正位置の効果を、逆位置に止まれば逆位置の効果を得る。正位置の効果は相手フィールド上のモンスターを全て破壊する。逆位置の効果は自分フィールド上のモンスターを全て破壊する」

 

「どっちでも君しか得しないね」

 

 まあな。デス・ガーディウスと最高の相性のカードだ。

 

「ストップコールは相手が掛ける。どうぞ」

 

「んー、ストップ」

 

 気持ちのいい音を出してスート・オブ・ソード Xは止まった。

 

 その位置は……正位置だ。

 

「" スート・オブ・ソード X"の効果発動。相手フィールド上のモンスターを全て破壊する」

 

「うわー」

 

 茂木のフィールド上のモンスター全てが爆煙に包まれた。

 

「負けないよ? フィールド上に存在するモンスターが自分の墓地へ送られた事で"道連れ"を発動するよ。フィールド上に存在するモンスター1体を破壊するね」

 

 爆煙の中から全身がひび割れたThe splendid VENUSが現れ、デス・ガーディウスに光球を放ち、消し飛ばすとThe splendid VENUSは光と消えた。

 

「俺は"テイク・オーバー5"を発動。 デッキの上からカードを5枚墓地へ送る。このカードが次の自分のスタンバイフェイズ時に墓地にある場合、このカードと同名のカードをデッキ・手札・墓地から選択しゲームから除外する事で、デッキからカードを1枚ドローできる。このカードが墓地にある時、自分のカード効果でデッキから墓地にカードを送る効果を無効にする」

 

 俺はデッキの上から5枚カードを墓地へ送った。

 

「"思い出のブランコ"発動。今、墓地へ送られた"トライホーン・ドラゴン"を特殊召喚する」

 

 赤青金の恐竜のようなドラゴンが現れた。

 

トライホーン・ドラゴン

ATK2850

 

「さらに"仮面呪術師カースド・ギュラ"を召喚」

 

仮面呪術師カースド・ギュラ

ATK1500

 

「バトル、 "仮面呪術師カースド・ギュラ "で直接攻撃。念殺」

 

 波動が茂木を襲う。

 

茂木

LP4000→2500

 

「"光の召集"を発動するよ。自分の手札を全て墓地へ捨てるね。その後、この効果で墓地へ捨てた枚数分だけ自分の墓地から光属性モンスターを選んで手札に加えるよ。捨てたカードは1枚だから"The splendid VENUS"を手札に戻すよ」

 

 このタイミングで? だが、俺のやることは変わらない。

 

「トライホーン・ドラゴンの直接攻撃」

 

 トライホーン・ドラゴンは口から黄金色のブレスを吐き、その攻撃は茂木のフィールドを飲み込んだ。

 

茂木

LP2600→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、一向にソリッド・ビジョンが解除される様子は無い。

 

 さらに、茂木のフィールド上にはさっきまで存在しなかったThe splendid VENUSが佇んでいる。

 

The splendid VENUS

ATK2800

 

 そして、茂木は1枚の罠カードを発動していた。

 

「"魂のリレー"ライフポイントが0になった時に発動する事ができるよ。手札からモンスターを1体特殊召喚するね。こっちのデュエルの敗北条件を特殊召喚したモンスターが破壊された時とするよ」

 

「なに…?」

 

 俺の手札は無く、魔法・罠も無い、そしてフィールド上には仮面呪術師とトライホーンがいるがトライホーンは思い出のブランコの効果でターン終了時に破壊される。

 

 この状況でThe splendid VENUSを撃ち破るのはかなり厳しいな…。

 

「ターンエンド。エンドフェイズ時に"トライホーン・ドラゴン"は破壊される」

 

リック

モンスター1

魔法・罠0

手札0

 

 

 

「ドロー」

 

手札0→1

 

「"大寒波"発動。 次の自分のドローフェイズ時まで、お互いに魔法・罠カードの効果の使用及び発動・セットはできないよ」

 

「"The splendid VENUS"で攻撃するよ。ホーリー・フェザー・シャワー」

 

 The splendid VENUSの両翼から出たガトリングのような光弾の雨で仮面呪術師が消し飛んだ。

 

リック

LP3700→1800

 

「くっ…」

 

「ターンエンドだよ」

 

茂木

モンスター1

魔法・罠2

手札0

 

 

 

 大寒波発動状態で俺のカードは無し。

 

 相手は最上級モンスター The splendid VENUS。

 

 俺の勝率は低いだろう。

 

 だが、1枚だけ今の状況で勝てるカードがまだデッキにある。

 

「フフフ……」

 

 これだ…このスリルだ…本当に…。

 

「クセになりそうだ…」

 

 俺はデッキからカードを引く。

 

「ドロー!」

 

手札0→1

 

「……………………フフフ…」

 

 俺は口角を吊り上げた。

 

「"仮面魔獣デス・ガーディウス"の特殊召喚効果で1体…"テイク・オーバー5"の効果で…3体…"仮面呪術師 カースド・ギュラ"が墓地へ落ちてさらに1体…」

 

 そして、手札のモンスターをモンスターカードゾーンに置いた。

 

「自分の墓地に闇属性モンスターが5体以上存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しないことにより"ダーク・クリエイター"を特殊召喚!」

 

ダーク・クリエイター

星8/闇属性/雷族/攻2300/守3000

このカードは通常召喚できない。自分の墓地に闇属性モンスターが5体以上存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合に特殊召喚できる。1ターンに1度、自分の墓地の闇属性モンスター1体をゲームから除外する事で、自分の墓地の闇属性モンスター1体を選択して特殊召喚する。

 

 俺の目の前に黒い創世神が出現した。

 

 こいつは無論、俺が2枚持っているパラディウス社製のレアカードだ。創世神の片割れでもある。

 

ダーク・クリエイター

ATK2300→1800

 

「"ダーク・クリエイター"の効果発動。墓地の闇属性モンスター1体をゲームから除外し……墓地の闇属性モンスター1体を特殊召喚する。選ぶのはもちろん…」

 

 ダーク・クリエイターの翼が開き、ダーク・クリエイターが手を合わせる。黒い闇の球が形成され、それが徐々に膨らむと弾けた。

 

「"仮面魔獣デス・ガーディウス"だ…」

 

『ギャー! ハッハッハッ! ゲヒャヒャヒャ!』

 

 現れたのは俺の心を代弁するように笑うデス・ガーディウスだった。

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

ATK3300→2800

 

「あーあー、負けちゃったよ。でも楽しかったよ」

 

「ああ、俺もだ」

 

デス・ガーディウスが鉤爪を構えると、それに従いThe splendid VENUSも臨戦態勢に入った。

 

「"仮面魔獣デス・ガーディウス"! ダーク・デストラクション!」

 

「迎え撃て"The splendid VENUS"。ホーリー・フェザー・シャワー」

 

 2体のモンスターは正面からぶつかり合い、互いに一歩も引かぬ攻防を続け、最後に両者最大の一撃を放った。

 

 それによりThe splendid VENUSの心臓に1本の鉤爪が刺さり、デス・ガーディウスは全ての頭と片腕が消し飛んでいる。

 

 2体がゆっくりと消えるのと同時にデュエルディスクに俺の勝利のサインが表示された。

 

 

 

 

 






はい、対戦相手はもけもけを使い始める前の茂木 もけ夫君でした。

もけもけ使って世界ランク9位を沈めれるぐらいでしたから昔はこれぐらい強かったのかなーと。

リック君はデュエリストなのでディスティニードローぐらい出来ます。え? あの世界の人たちってディスティニードロー標準装備でしょう?(すっとぼけ)


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大会その5

 

第15回戦目。と、行きたいところだが今日の部はもう終わりだ。

 

ブロック決勝と大会決勝は明日行われるそうだ。

 

と、言うわけで今夜はパックを買いに会場の近くのカードショップに来ている。

 

どのパックにするべ?

 

『マスター、マスター』

 

「ん?」

 

頭を傾げながらパックを眺めていると、ヴェノミナーガさんがツンツンと触って来た。

 

『めっちゃ、見られてますよ?』

 

回りを見ると俺から半径10mぐらいを境に人が集まっていた。

 

「そりゃ、デュエルは生中継されてるからな」

 

デュエルチャンネルというチャンネルで全世界規模でな。

 

『ウザいですねー、追い払いましょうか?』

 

「ほっとけ」

 

こっちから何かしない限り何もしないだろう。

 

俺はそのまま、パックを選ぶと店から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

現在、人の居ない公園のベンチでパックを開封中である。

 

こちとらこれだけが楽しみで……。

 

ドールパーツ・ブルー

ドールパーツ・ピンク

ドールパーツ・ゴールド

ドールパーツ・レッド

千眼の邪教神

 

「……………………」

 

『意外! それはオール攻守ゼロ!』

 

さらに言えば1レベル、闇属性、魔法使い族、バニラも共通だけどな!

 

………………もう占い魔女とドールパーツはいらないお…。

 

『まあまあ、まだ1パックあるじゃないですか』

 

「まあな…」

 

そう言いながら最後のパックに手を掛け、破いた。

 

「スーパーレアだ!」

 

やったぜ! 何か……。

 

 

 

六武の門(永続魔法)

「六武衆」と名のついたモンスターが召喚・特殊召喚される度に、このカードに武士道カウンターを2つ置く。自分フィールド上の武士道カウンターを任意の個数取り除く事で、以下の効果を適用する。

●2つ:フィールド上に表側表示で存在する「六武衆」または「紫炎」と名のついた効果モンスター1体の攻撃力は、このターンのエンドフェイズ時まで500ポイントアップする。

●4つ:自分のデッキ・墓地から「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。

●6つ:自分の墓地に存在する「紫炎」と名のついた効果モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

 

「…………………………」

『ほら、スーパーレアカードだぞ? 笑えよ』

 

いや確かに強いけど…。

 

俺は六武の門をそっと胸ポケットに仕舞った。

 

「お!」

 

一番後ろの奴も光ってるじゃないか!

 

文字も光ってるな! ウルトラレアか!

 

いや、これは……そのさらに上のレアのパラレルレアじゃないか! やった…。

 

 

 

 

 

 

聖獣セルケト

星6/地属性/天使族/攻2500/守2000

このカードは、自分のフィールド上に「王家の神殿」が存在しなければ破壊される。このカードが戦闘でモンスターを破壊する度に、破壊されたモンスターはゲームから除外され、このカードの攻撃力は500ポイントアップする。

 

 

 

 

 

 

「ンッギイィ゛ィイイ゛イ゛!」

 

『マ、マスター! 落ち着いてください! 巨乳を見つめるRJさんみたいになってますよ!』

 

「クフフフ……誰でもいい気分なんだ…………デュエル…俺にデュエルを……」

 

『あーあー、マスターに変なスイッチが入っちゃいました』

 

俺はゆらゆらと人工の明かりの多い方へ移動していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…デュエッ…デュエッ…デュエッ……ん?」

 

暫く移動すると面白そうな現場を見つけた。

 

「いいカード持ってるよね? 僕たちとアンティデュエルしようよ」

 

一人の俺と同い年ぐらいのピンクの頭の女の子を3人の中学生ぐらいの男の子が囲んでいた。

 

路地裏などではなく普通の道端で堂々とだ。

 

ただ、気になるのはリーダーポジションにいる男の子とその取り巻きの服装だった。

 

リーダーはまるで一昔前の英国貴族か何かのような服装をしており、取り巻きはタキシードのような何かを着込んでいたのだ。

 

「い、イヤよ! 逆恨みなんてみっともないわよ! バカじゃないの!」

 

「ああん!? ふざけんじゃねぇ! あの時は偶々運が悪かっただけだ! この僕様が負けるわけねぇんだよ!」

 

「ひっ…」

 

体格の違いすぎる者からの一括で女の子は身を寄せて引いた。

 

ふむ、話を聞く限り、あの貴族坊っちゃんが女の子にデュエルで負けてその腹いせにアンティデュエルとな。

 

暫くそれを眺めていると貴族坊っちゃんが何か閃いたようで悪い笑みを浮かべた。

 

「アンティデュエルしないなら……お前ら! デュエルディスクを壊して次のデュエルが出来ないようにしろ! カードも全部破り捨てろ」

 

「わかったぜ」

 

「悪く思うなよ? 命令だからな」

 

「や、止めて!」

 

命じられた男の子たちは女の子が抱えるデュエルディスクとデッキを奪いに掛かった。

 

「ああ、やっぱりデッキは破るな。僕様が使ってやるからな!」

 

貴族坊っちゃんはそんなことを言いながらゲラゲラと笑っていた。

 

俺は回りを見渡した。

 

女の子が襲われているというのに回りの大人たちは早足で通り過ぎるか、見向きもしない者ばかりだった。

 

「はぁ…」

 

俺は溜め息を付き、携帯を出すとカメラを起動し、何枚も彼らの写真を撮った。

 

「おい、そこのガキ! なにやってんだ!」

 

案の定、気付かれて貴族坊っちゃんが声を上げた。

 

それに気付いた取り巻きの手も止まった。

 

テメェもガキだろうが。

 

「人のカードの強奪、デュエルディスクの破壊。これって重罪なんだ。……知らないわけ無いよな?」

 

「…な!?」

 

証拠写真を撮られていたことに今、気が付いたのだろう。

 

貴族坊っちゃんは顔を青くした。

 

「勝ったら消してやるよ…」

 

俺は坊っちゃんたちが何か言う前に先に提案を出した。

 

「俺とカードを掛けてアンティデュエルしろよ。3対1で良いからさ…」

 

俺はデュエルディスクを構えると、ドーマのディスクは気持ちのいい音を立てながら開いた。

 

「このゴミクズ共が…」

 

その言葉が引き金になり、3人はデュエルを挑んできた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「大満足」

 

パックを開封した時にいた人の居ない公園で、そう言う俺の目の前には伸びた貴族坊っちゃんたちが転がっていた。

 

そして、俺の手には120枚のアンティデュエルでゲットしたカードが収まっている。

 

ちなみにアンティデュエルは犯罪ではないぞ。れっきとしたデュエル方式の1つだ。

 

神聖なデュエルで行われた事は例え、裁判に掛けようと覆すことは出来ません。

 

『あれ? カードを掛けたアンティデュエルだったような…』

 

「ヴェノミナーガさんは眼科いった方がいいな。あるじゃないか120枚のカードが…」

 

『色々ヒデェ!?』

 

これも社会勉強だ。良かったな、坊っちゃんたち。

 

『とりあえず後腐れの無いように証拠隠滅しときますね』

 

ヴェノミナーガさんは坊っちゃんたちに黒紫色の身体に害のありそうな光線を当てた。

 

『これでよし、記憶とデュエルレコーダーの改竄終了です。全部、突如、空から降って来た"モイスチャー星人"のせいにしましたよ』

 

モイスチャー星人かわいそう。

 

「ち、ちょっと……」

 

「ん?」

 

一応、助けた事になる女の子が声を掛けてきた。

 

「………………あ、ありがとう…」

 

お礼を言われた。ピンクの癖ッ毛にリボンを乗せた女の子だ。

 

『にょろーん! ピンクは淫乱! こいつはくせえッー! ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッ─────ッ!! 具体的に言えばこの事が切っ掛けでマスターにときめきキュンキュンになってしまってぇ! いつか下のお口もキュンキュごはっ!?』

 

『タヒネ!』

 

「気にするな」

 

俺がピースサインを出すと、ヴェノミナーガさんがデス・ガーディウスの剛拳にぶん殴られて50mぐらいぶっ飛んで行った。

 

「とりあえず証拠の写真はやるよ。何かあったらこれで脅しとけ」

 

「う…うん…」

 

俺は女の子に赤外線で撮った写真を渡した。

 

「じゃあな」

 

それだけ言ってその場を立ち去る俺。

 

一刻も早く選手に用意されたホテルに戻ってこの偶々、手に入ったけっこうレアカードが入った120枚のカードをチェックしなければな。

 

え? 門? セルケト? なにそれおいしいの?

 

「待ってよ!」

 

「ん?」

 

「どうして……ボクを助けたの?」

 

ははは、そんなの決まってるじゃないか。

 

「俺の信条は"情けは人の為ならず"だ」

 

だから人助けとかは良くするたちなんだよ。

 

あ、そうだ。今、とっても気分が良いからこの色んな意味でクソカードのコレをプレゼントしよう。

 

「これやるよ」

 

俺は胸ポケットに仕舞ってあったカードを渡した。

 

「"六武の門"!? こんなレアカードなんで…」

 

「じゃあな」

 

今度こそ俺は立ち去った。

 

もう、後ろから声が掛けられることは無かった。

 

『おー、痛い。デス・ガーディウスに殴らせるなんて酷いじゃないですか』

 

ちなみにデス・ガーディウスには、ヴェノミナーガさんが煩い時にピースサインを立てるとヴェノミナーガさんを全力で止めろと指示してあるのだ。

 

なぜ、ピースか? そりゃ、人混みでしてても可笑しくないしな。

 

後、平和のブイは勝利のブイだからな。

 

「お前が煩いのがいけない」

 

『それにしても"情けは人の為ならず"ですか……"情けは人のためではなく、いずれは巡って自分に返ってくるのであるから、誰にでも親切にしておいた方が良い"って意味ですね』

 

俺は120枚のカードを持ち上げた。

 

「これ、その成果」

 

『相変わらず、現金な人ですねマスターは』

 

「当たり前だ。俺は無償のヒーローでも、伝説の勇者でもないからな。見返りが無いとやってられんよ」

 

『だったらまず、私に親切にしてくださいよー。愛が欲しいですマスター』

 

「ヴェノミナーガさんは人じゃないじゃん」

 

『ぐぬぬ……』

 

そんな会話をしながらホテルへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は遡り少し前。夜間は全く人通りの無い公園で3対1のデュエルが行われていた。

 

『こいつで血の海渡ってもらおうか? "仮面魔獣デス・ガーディウス"を特殊召喚。さらに"思い出のブランコ"で"トライホーン・ドラゴン"を特殊召喚』

 

「嘘だ…最上級モンスターが1ターンで2体……」

 

『あの世へスキップしな』

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 

 

 

 

「そんなインチキ効果……ふざけるな!?…」

 

『 ああん? 文句があるってんならてめえも自分の手で集めたらどうだ。"仮面魔獣デス・ガーディウス"に"巨大化"を装備。ダーク・デストラクション』

 

「攻撃力6600……か…勝てるわけな……うわぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 

 

 

 

『俺はお前達に知ってほしいんだデュエルの無限の可能性を! お前達にだって、俺を倒せるかもしれない…それがデュエルなんだって!』

 

「最上級モンスターを5体並べて言うことか!?」

 

『ならさっさと沈め。速攻魔法、"時の女神の悪戯"』

 

「い、いやだぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

「凄い……」

 

デュエルが終わり、3人をたった1人で打ち負かした少年をみて彼女は自然と声を出した。

 

彼が誰かは彼女は知っていた。

 

彼の名は"リック・べネット"

 

I2ジュニアカップ予選を全て一方的な展開で叩き潰し、本選でも快進撃を続け、Aブロック決勝まで登り詰めた男だ。

 

当初は彼に期待しているものは誰もいなかった。

 

なぜなら、彼が当たったのは全員、大会優勝候補筆頭だった日本人ジュニアデュエリストだったからだ。

 

そして、それを全て退け現在、優勝候補最有力になっていた。

 

スポーツクジはとんでもない大判狂わせになったことだろう。

 

そして、彼女の対戦相手でもあった。

 

しかし、彼の評価は決して高くない。

 

予選や、1と9回戦で見せていた相手にエースモンスターを出させてからそれを自分のエースモンスターで態々叩き潰したり、自分のエースモンスターの効果で奪い取ったりする明らかな見下した戦法を主体にしていたからだ。

 

さらに彼のエースモンスターも原因だ。

 

彼のエースモンスターは"仮面魔獣デス・ガーディウス"

 

それはバトルシティでデュエルキング 武藤 遊戯と、海馬コーポレーション社長 海馬 瀬戸の奇跡タッグを敗北寸前まで追い詰めた2人組のデュエリストのエースモンスターだったからだ。

 

戦法からエースモンスターまでまさに筋金入りのヒール。

 

当然、特に若年層からの評価が高いわけもなかった。

 

だから彼女からしてみれば現在の現状は戸惑いを隠せない。

 

先の対戦相手に目の敵にされ、窮地に陥っていた彼女を助けたのは大人でも、白馬の王子様でもなく、次の対戦相手であり、この大会の完全な悪役であるリック・べネットだったからだ。

 

普通なら未来が掛かった大会での次の対戦相手の窮地などまず助けないだろう。

 

助けるとすれば相当なアホか、正義感に満ち溢れた者ぐらいだ。

 

彼の場合、"頭の良い外道"という最悪の組み合わせであると彼女は思っていた。

 

だが、現在の彼の行為はその真逆だ。それが彼女を混乱させていた。

 

ハッと我に返った彼女はデュエルが終わったのにも関わらず、彼に礼すら言っていない事に気付き、彼に近付いていった。

 

近くで見ると細身に見えるが、よく見れば体格がかなりしっかりしており、常人より遥かに鍛えられているのがわかった。

 

自分と同い年のはずだが、2~4ぐらい上にすら感じた。

 

だが、その雰囲気は大人と言われても遜色無かった。

「ち、ちょっと……」

 

「ん?」

 

彼が振り向いた。

 

その表情は極めて冷淡な顔だ。

 

彼女に興味が無いのだろう。彼の視線は直ぐに手元のカードに戻った。

 

「………………あ、ありがとう…」

 

そのそっけなさに思わず、言葉が詰まったが、伝えたい事は伝えることができた。

 

彼女がそういうと彼は視線をカードから彼女に戻し、少し彼女を見つめてから視線を他に向け、指を2本立て…。

 

「気にするな」

 

一言、そう言った。

 

彼なりの意思表示だろうか…。

 

その後、彼はまた彼女を脅した連中が何かしても大丈夫なように、現行犯を押さえた写真を携帯で彼女に渡すと、そのままその場を去ろうとした。

 

「待ってよ!」

 

彼女は彼を引き止めた。

 

「ん?」

 

彼は足を止め、振り返った。

 

「どうして……ボクを助けたの?」

 

彼女の最もな疑問だ。

 

その問いに彼は一言、こう言った。

 

「俺の信条は"情けは人の為ならず"だ」

 

それは日本のことわざで"情けは人のためではなく、いずれは巡って自分に返ってくるのであるから、誰にでも親切にしておいた方が良い"という意味だ。

 

正直、彼には全く似合わないと彼女は思った。

 

彼は思い出したように彼女に近付くと胸ポケットに指を入れた。

 

「これやるよ」

 

彼が胸ポケットから出したカードを見て彼女は目を疑った。

 

「"六武の門"!? こんなレアカードなんで…」

 

六武の門、六武使いの彼女が持っていない最強の六武サポートカードだ。

 

末端価格なら家が立つほどの金額になるだろう。

 

「じゃあな」

 

そんなカードを渡しておいて彼は何食わぬ顔で立ち去って行った。

 

次の対戦相手に態々、彼女の持っていない最強のカードを渡す、これがどれ程致命的な行為かデュエリストならわかるハズだ。

 

彼女は彼の背を見ながら考えた。

 

彼の本質、リック・べネットという人間の人となりを。

 

きっと本当の彼は凄く好い人なのだろう、そして彼女が知る誰よりも熱いデュエルが好きなのだ。

 

だが、それを知られれば相手が彼に本気を出せないかも知れない。

 

それは彼の望むところではない、相手の100%いや、150%の力を引き出した状態で彼は戦いたいのだろう。

 

だからこそ対戦相手にここまでするのだ。

 

そして、自分を悪役にすることで、彼なりの最大限のリスペクトデュエルをするのだろう。

 

なんて不器用で、愚直で、誠実な人だ。

 

それはまるで彼女の理想とする武人そのままだった。

 

「リック・べネット……」

 

彼女は気づけば彼の名前を呟いていた。

 

その頬はほんのりと赤く染まっているように見えた。

 

 

 




あー、次の対戦相手はいったい誰でしょうか? さっぱり、わかりませんわ。


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大会その6

デュ↑エルだぁ!

先に言っときます。かなり一方的な展開になります。


 

 

 

 

次の日、第15回目の対戦時刻。

 

そこには俺。

 

そして、相対するのはなんと昨日助けたピンクの女の子だった。

 

まあ、これも何かの縁だろう。

 

………………助けなきゃよかった気がしないでもない。

 

「こっちは準備オッケーよ!」

 

その俺の動向を察してかどうか、彼女は声を張り上げてデュエルディスクを展開した。

 

「ああ」

 

俺もそれに合わせ、デュエルディスクを展開する。

 

『第15回戦 Aブロック決勝 リック・べネットVSツァン・ディレ』

 

それと同時にアナウンスが流れた。

 

『開始』

 

「「デュエル!」」

 

リック・べネット

LP4000

 

ツァン・ディレ

LP4000

 

 

 

「ボクのターン!」

 

あ、畜生…先攻持ってかれた。

 

「ドロー!」

 

手札5→6

 

「"強欲な壺"を発動! カードを2枚ドローするわ!」

 

手札5→7

 

引いたカードを見た彼女は小さくガッツポーズした。

 

あらかわい…

 

「ボクは永続魔法、"六武衆の結束"を発動。"六武衆"と名のついたモンスターが召喚・特殊召喚される度に、このカードに武士道カウンターを1つ置く。また、武士道カウンターが乗っているこのカードを墓地へ送る事で、このカードに乗っていた武士道カウンターの数だけデッキからカードをドローする。このカードに乗せられる武士道カウンターは最大2つまでよ!」

 

くねぇ!?

 

ろ、六武衆だと……。

 

俺……門渡しちゃったような…。

 

「さらに"六武衆の結束"を発動。そして……」

 

彼女は1度、俺にカードを向けてから発動した。

 

「永続魔法、"六武の門"を発動!」

 

オウフ……。

 

『プギャー! なんて盛大なブーメランなんでしょう…ブフッ…』

 

覚えてろ糞蛇…。

 

ちなみに六武の門とは…。

 

"六武衆"と名のついたモンスターが召喚・特殊召喚される度に、このカードに武士道カウンターを2つ置く。自分フィールド上の武士道カウンターを任意の個数取り除く事で、以下の効果を適用する。

●2つ:フィールド上に表側表示で存在する"六武衆"または"紫炎"と名のついた効果モンスター1体の攻撃力は、このターンのエンドフェイズ時まで500ポイントアップする。

●4つ:自分のデッキ・墓地から"六武衆"と名のついたモンスター1体を手札に加える。

●6つ:自分の墓地に存在する"紫炎"と名のついた効果モンスター1体を特殊召喚する。

 

まあ、手早く言えば紫炎or六武衆を召喚特殊召喚するだけで、六武衆or紫炎の火力上げ、六武衆のデッキサーチor墓地回収、紫炎の蘇生を1枚でこなす頭の可笑しいチートカードである。

 

王家の神殿無しには進撃の帝王などの庇護を受けないと生きていけないセルケトさんも少しは見習ってくれませんかねぇ…。

 

「フィールド魔法、"六武院"発動! "六武衆"と名のついたモンスターが召喚・特殊召喚される度に、このカードに武士道カウンターを1つ置く。相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターの攻撃力は、このカードに乗っている武士道カウンターの数×100ポイントダウンするわよ!」

 

フィールドがどっかの剣客と、CCOが戦った場所のようなフィールドに変わった。石油施設は無いな。

 

「 永続魔法、"紫炎の道場"発動! "六武衆"と名のついたモンスターが召喚・特殊召喚される度に、このカードに武士道カウンターを1つ置く。 このカードを墓地へ送る事で、このカードに乗っている武士道カウンターの数以下のレベルを持つ"六武衆"または"紫炎"と名のついた効果モンスター1体を自分のデッキから特殊召喚するわ!」

 

武士道カウンター関連の魔法が5枚…ってことは1体でも六武衆か紫炎を場に出せば確実にモンスターがデッキから出てくるわけかー。

 

既にモンモンより悪い状況じゃねぇかよ……。

 

「"真六武衆―カゲキ"召喚! カードに武士道カウンターが乗るわ!」

 

真六武衆-カゲキ

星3/風属性/戦士族/攻 200/守2000

このカードが召喚に成功した時、手札からレベル4以下の「六武衆」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する事ができる。自分フィールド上に「真六武衆-カゲキ」以外の「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は1500ポイントアップする。

 

手の多い真六武衆が召喚された。

 

真六武衆―カゲキ

ATK200

 

六武衆の結束0→1

 

六武衆の結束0→1

 

六武の門0→2

 

六武院0→1

 

紫炎の道場0→1

 

「"真六武衆―カゲキ"の効果で手札から"真六武衆―ミズホ"を特殊召喚! 武士道カウンターがさらに乗るわよ!」

 

真六武衆-ミズホ

星3/炎属性/戦士族/攻1600/守1000

自分フィールド上に「真六武衆-シナイ」が表側表示で存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。1ターンに1度、このカード以外の自分フィールド上に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体をリリースする事で、フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。

 

真六武衆の紅一点であるミズホが現れた。

 

真六武衆―ミズホ

ATK1600

 

六武衆の結束1→2

 

六武衆の結束1→2

 

六武の門2→4

 

六武院1→2

 

紫炎の道場1→2

 

「"真六武衆―カゲキ"は効果により攻撃力1500ポイントアップ!」

 

真六武衆―カゲキ

ATK200→1700

 

「さらに武士道カウンターを4つ取り除いて"六武の門"の効果発動!」

 

六武衆の結束2→1

 

六武衆の結束2→1

 

六武の門4→2

 

六武院2

 

紫炎の道場2

 

「デッキから"真六武衆―シナイ"を手札に加え、自分のフィールドに"真六武衆―ミズホ"が存在していることで自身の効果により、特殊召喚よ! もちろん武士道カウンターが溜まるわ!」

 

真六武衆-シナイ

星3/水属性/戦士族/攻1500/守1500

自分フィールド上に「真六武衆-ミズホ」が表側表示で存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。フィールド上に存在するこのカードがリリースされた場合、自分の墓地に存在する「真六武衆-シナイ」以外の「六武衆」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える。

 

棍棒を2本持った真六武衆が現れた。

 

真六武衆―シナイ

ATK1500

 

六武衆の結束1→2

 

六武衆の結束1→2

 

六武の門2→4

 

六武院2→3

 

紫炎の道場2→3

 

「そして、再び武士道カウンターを取り除き、"六武の門"の効果を発動よ!」

 

六武衆の結束2→1

 

六武衆の結束2→1

 

六武の門4→2

 

六武院3

 

紫炎の道場3

 

「"真六武衆―キザン"を手札に加え、キザンの効果を発動! 自分のフィールド上に"真六武衆-キザン"以外の"六武衆"と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できるわ! そして武士道カウンターが溜まる! さらに2体以上いることにより、攻撃力・守備力300ポイントアップ!」

 

真六武衆-キザン

星4/地属性/戦士族/攻1800/守 500

自分フィールド上に「真六武衆-キザン」以外の「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。自分フィールド上にこのカード以外の「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で2体以上存在する場合、このカードの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。

 

刀を持った黒い真六武衆だ。

 

真六武衆―キザン

ATK1800→2100

 

六武衆の結束1→2

 

六武衆の結束1→2

 

六武の門2→4

 

六武院3→4

 

紫炎の道場3→4

 

「そして最後にもう一度"六武の門"の効果を発動! デッキから"六武衆の師範"を手札に加えるわよ!」

 

六武衆の結束2→1

 

六武衆の結束2→1

 

六武の門4→2

 

六武院4

 

紫炎の道場4

 

「"六武衆の師範"の効果! 自分フィールド上に"六武衆"と名のついたモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる! そして武士道カウンターが乗るわ!」

 

六武衆の師範

星5/地属性/戦士族/攻2100/守 800

自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。このカードが相手のカードの効果によって破壊された時、自分の墓地の「六武衆」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える。「六武衆の師範」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 

黒い真六武衆の後の姿がそこにいた。

 

六武衆の師範

ATK2100

 

六武衆の結束1→2

 

六武衆の結束1→2

 

六武の門2→4

 

六武院4→5

 

紫炎の道場4→5

 

「"六武衆の結束"2枚を墓地へ送り、4枚カードをドローよ!」

 

手札0→4

 

「永続魔法、"連合軍"発動! 自分フィールド上の戦士族モンスターの攻撃力は、

自分フィールド上の戦士族・魔法使い族モンスターの数×200ポイントアップするわよ! つまり、今は1000ポイントアップ!」

 

真六武衆―カゲキ

ATK1700→2700

 

真六武衆―ミズホ

ATK1600→2600

 

真六武衆―シナイ

ATK1500→2500

 

真六武衆―キザン

ATK2100→3100

 

六武衆の師範

ATK2100→3100

 

「カード2枚セット……これでターンエンドよ」

 

ツァン

モンスター5

魔法・罠5

手札2

 

 

 

「……………………」

 

俺は自分のターンになっても暫く動かなかった。

 

「どうしたの? 戦意喪失?」

 

彼女が少し誇らしげにそう言った。

 

「…………ドロー」

 

手札5→6

 

「"強欲な壺"を発動…カードを2枚ドロー…」

 

手札5→7

 

「俺は1000ライフを払い"旧神の印"を発動。相手の裏側カードを全てめくった後、元に戻す。この時、カード効果は発動しない」

 

「ピ…ピーピング!?」

 

リック

LP4000→3000

 

2枚のセットカードが捲れた。

 

六尺瓊勾玉

カウンター罠

自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合のみ発動する事ができる。相手が発動した、カードを破壊する効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。

 

究極・背水の陣

ライフポイントを100ポイントになるように払って発動できる。自分の墓地の「六武衆」と名のついたモンスターを可能な限り特殊召喚する。(同名カードは1枚まで。ただし、フィールド上に存在する同名カードは特殊召喚できない。)

 

「…………"天使の施し"を発動。3枚のカードをドローし、2枚捨てる」

 

「ちょ…せめて何か反応を…」

 

「………………ふう…」

 

俺は溜め息をつくと目を見開き、言葉を放った。

 

「お前のデュエルは素晴らしかった!」

 

「え!? あ、ありがとう…」

 

突然の俺の態度の変化に彼女は顔を赤くしながらそう返した。

 

「カードのコンビネーションも、戦略も!」

 

「そ、そんなに褒め無くても…」

 

「だが、しかし!」

 

「え?」

 

彼女のキョトンとした呟きが会場に木霊した。

 

 

 

 

「まるで全然、この俺を倒すには程遠いんだよねぇ!」

 

 

 

 

俺は驚く彼女を無視して魔法を発動した。

 

「"高等儀式術"発動! デッキから"トライホーン・ドラゴン"を墓地へ送り、手札から"仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー"を特殊召喚!」

 

仮面の付いた杖のようなものを持ち、全身に仮面を付けた儀式モンスターが降臨した。

 

仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー

ATK3200

 

「そして! "思い出のブランコ"を発動! 墓地の"トライホーン・ドラゴン"を特殊召喚」

 

トライホーン・ドラゴン

ATK2850

 

「"受け継がれる力"を発動! 自分フィールド上のモンスター1体を墓地に送る! 俺は"トライホーン・ドラゴン"を墓地へ送る! そして"仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー"を選択!」

 

トライホーン・ドラゴンが消えるとその場にはトライホーン・ドラゴンのような仮面が落ちており、それをマスクド・ヘルレイザーが拾い上げると顔に被った。

 

「選択したモンスター1体の攻撃力は、発動ターンのエンドフェイズまで墓地に送ったモンスターカードの攻撃力分アップする!」

 

仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー

ATK3200→6050

 

「そして"巨大化"を発動!」

 

マスクド・ヘルレイザーが巨大化し、六武衆が小人に見えるほどのサイズになった。

 

仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー

ATK6050→9250

 

「俺のライフは"旧神の印"により3000ポイント。お前より1000ポイント下だ…」

 

「そ、そのために…」

 

「お前の敗因…それは俺のデッキに対して、打点の低い六武衆デッキで先攻を取った事だ…」

 

「くっ……」

 

「止めに"禁止薬物"を発動! 選択したモンスターは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる!」

 

マスクド・ヘルレイザーの全身の血管が浮き上がり、バイオのスーパータイラントにしか見えなくなってきた。

 

「"六武衆の師範"を攻撃! 念眼殺!」

 

マスクド・ヘルレイザーの全身の仮面が全て六武衆の師範を向き、全ての仮面の瞳が光った。

 

次の瞬間、六武衆の師範を中心に凄まじい爆発が起こり、跡形もなく消し飛んだ。

 

「あぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ツァン

LP4000→0

 

「まだ攻撃は残っている! 巨大化の効果で攻撃力は多少下がるが…」

 

仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー

ATK9250→4450

 

「念眼殺!」

 

彼女のフィールドの真六武衆のどれかが吹き飛んだ直後、デュエルディスクに勝利のサインが出た。

 

 

 

 

 

 

 




いやー、ツァン・ディレちゃんは強敵でしたね。


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大会ラストデュエル 前

ツァン……なんとかちゃんとの対戦後、俺は控え室でのんびりしていた。

 

と、いうのも大会決勝はメインイベントなのでまだ時間がかなりあるのだ。

 

ヴェノミナーガさんはまたどっかに行って戻って来ないしな。

 

大会中、何回か俺の周りからいなくなるんだけど何やってんだろう?

 

そんなことを考えていると控え室のドアをコンコンと軽くノックする音が響いた。

 

ヴェノミナーガさんでも帰ってきたのかと思い、立ち上がったがよく考えればヴェノミナーガさんが正しい出入りなんてしてくるハズもない事を思い出した。

 

じゃあ、人間だろうか。

 

「デス・ガーディウス」

 

『ゲッゲッゲ…』

 

デス・ガーディウスの顔が地面から生えてきた。

 

ふむ……敵意ある不審者なら"誰も知らない所(精霊界)"へ持って行ってから、喰っていいと命じてあるデス・ガーディウスがケロッとしているのなら心配は要らないだろう。

 

俺はドアまで行くと扉を開けた。

 

「あ……」

 

ツァンなんとかちゃんと目があった。

 

手の位置から察するにドアノブに手を掛けようかどうかというところで止まっていたのだろうか?

 

「……あ、あう…………」

 

彼女は顔を真っ赤にさせてわたわたしていた。

 

なんだこれかわいい。

 

暫く見ているのもいいかと思ったが、取り敢えずこのままだと話が進まない。

 

「…………逆恨みなんてみっともないんじゃ無いのか?」

 

「ち、違うわよ! そんなわけないじゃない!」

 

皮肉の1つでも言うと彼女はいつも通りに戻ったようだ。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「絶対勝ちなさいよ! 私を倒したんだから………頑張ってね…」

 

WhatsAppの連絡先を交換し、妙に機嫌のよくなった彼女は最後にそれだけ言って走り去って行った。

 

俺は彼女の背中が見えなくなるまで小さく手を振りながら見送った後、控え室のソファーに腰を降ろした。

 

時計を見るとけっこう話し込んでいたようで、想像以上に時間が経っていた。

 

尚もヴェノミナーガさんは戻ってこない。

 

いつもなら異性と会話をしているだけで何かと茶々を入れてくるのだが、今回はそれが無かったので寧ろ違和感に感じる。

 

マジで何やってんだあの人。

 

そんなことを考えていると俺の最終の試合を告げるアナウンスが流れてきた。

 

仕方なくそのまま、デュエルリングへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「HEY! やっと来ましたね!」

 

デュエルリングの相手が立っている所にはなにかがいた。声は違うが非常に聞き覚えのある喋り方だ。

 

見た目は俺と同い年ぐらいの少女だった。

 

藤色にも青色にも見えるとても長いストレートヘア、整った顔立ち。

 

そして、赤い眼からはまだ少女にも関わらず、可憐、あるいは美しいという表現が適切だろうか。

 

ただ……。

 

『ここであったが私換算1万年目! 未だにエースデッキを使わないマスターに鉄槌を下すべく、推★参!』

 

妙なことさえ直接俺の脳内へ、言っていなければの話だがな…。

 

ついでに言えば、あの少女から漏れている黒紫色の瘴気みたいなオーラはどう見てもヴェノミナーガさんのオーラだ。きっと特質系だ。

 

『ま、本当の所。マスターが万が一負けてもBMGが貰えるように私なりの気遣いですよー。どや!』

 

うわ、うざい。

 

ヴェノミナーガさんが相手とは……Bブロックはただのイジメじゃねぇか…。

 

『ならば負けてくれるかと思ったでしょう? 残念! そうは問屋が卸しません。こちとら、win×winな関係で身体を借りていますからねー』

 

「身体を…?」

 

『はい、この身体は他人のモノですから』

 

特質系じゃなくて操作系だった…。

 

「これ以上、言葉は不要です」

 

最後の対戦者、ヴェノミナーガさんはデッキを青色のデュエルディスクに差し込んだ。

 

それを見て俺もデュエルディスクにデッキを差し込んだ。

 

『大会決勝 リック・べネットVS藤原 雪乃』

 

互いにデュエルディスクを構えた。

 

『開始』

 

「「デュエル!」」

 

リック

LP4000

 

ヴェノミナーガ

LP4000

 

 

 

 

「先攻はどうぞ」

 

「なら俺のターン、ドロー」

 

手札5→6

 

「俺は手札からモンスター1体を墓地へ送って"ワン・フォー・ワン"を発動。手札・デッキからレベル1モンスター1体を特殊召喚する」

 

フィールドに羽の生えたカエルが現れた。

 

「"黄泉ガエル"を特殊召喚」

 

黄泉ガエル

ATK100

 

「"メルキド四面獣"を召喚」

 

メルキド四面獣

ATK1500

 

「"黄泉ガエル"と"メルキド四面獣"を生け贄に"仮面魔獣デス・ガーディウス"を特殊召喚」

 

『ゲッゲッゲ…』

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

ATK3300

 

「カードを1枚伏せ、"天よりの宝札"を発動。互いに6枚になるようにドローする」

 

リック

手札0→6

 

ヴェノミナーガ

手札5→6

 

「さらにカードを1枚伏せてターンエンド」

 

さーて、ヴェノミナーガさんのデッキ。

 

今回はどんな鬼畜なデッキなんだか。

 

リック

手札5

モンスター1

魔法・罠2

 

 

 

「私のターン、ドロー」

 

手札6→7

 

「私は"仮面魔獣デス・ガーディウス"を生け贄に"ヴォルカニック・クイーン"を特殊召喚します」

 

ヴォルカニック・クイーン

星6/炎属性/炎族/攻2500/守1200

このカードは通常召喚できない。相手フィールド上のモンスター1体をリリースし、手札から相手フィールド上に特殊召喚できる。1ターンに1度、このカード以外の自分フィールド上のカード1枚を墓地へ送る事で、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。また、自分のエンドフェイズ時にこのカード以外の自分フィールド上のモンスター1体をリリースするか、自分は1000ポイントダメージを受ける。このカードを特殊召喚するターン、自分は通常召喚できない。

 

デス・ガーディウスが消え、よく燃えている頭に女性のようなものがついた竜みたいなモンスターが特殊召喚された。

 

「くっ…」

 

「"仮面魔獣デス・ガーディウス"の強制効果により、フィールド上のモンスター。すなわち"ヴォルカニック・クイーン"に"遺言の仮面"を装備して貰いますよ」

 

遺言の仮面がヴォルカニック・クイーンに張り付き、ヴォルカニック・クイーンがヴェノミナーガさんのフィールドに移った。

 

「うふふ、私はフィールド魔法、"影牢の呪縛"を発動します」

 

「そのデッキまさか…!?」

 

フィールドの床が闇色に染まり、一色で塗り潰された。

 

「"影牢の呪縛"の効果。一つ目はこのカードがフィールドゾーンに存在する限り、"シャドール"モンスターが効果で墓地へ送られる度に、1体につき1つこのカードに魔石カウンターを置きます。二つ目は相手ターン中、相手フィールドのモンスターの攻撃力は、このカードの魔石カウンターの数×100ダウンします。三つ目はこのカードがフィールドゾーンに存在する限り、自分が"シャドール"融合モンスターを融合召喚する度に1度、このカードの魔石カウンターを3つ取り除き、相手フィールドの表側表示モンスター1体を融合素材にできます」

 

「シャドールデッキ…だと…?」

 

説明しよう。

 

シャドールとは対融合、シンクロ、エクシーズメタデッキである。まあ、厳密にはエクストラ召喚メタデッキなのだがそれは置いておこう。

 

最近の遊戯王では特にエクシーズが猛威を振るっていたため、その性能は凄まじいの一言だ。

 

何せ、手札が減らない。デッキから効果で墓地へ送るだけでモンスターが増える。エクシーズすればデッキから素材を持ってこられる。ネフィリムこわい。

 

とやりたい放題である。

 

バカな…そのデッキカテゴリーは今の世界には存在しないはずでは…?

 

そんなことを考えているとヴェノミナーガさんが呟いた。

 

「デュエルモンスターズノート3"シャドール"」

 

そ、それは…俺が昔…書いた未来のモンスターのイラストノートじゃねぇか!?

 

『私の神的なパウワァーを持ってすればイラストのカード化なんて造作も無いことです! さあ、自らの夢の前に崩れ落ちなさい!』

 

こいつマジで俺の精霊かわからなくなるほど容赦がねぇ…。

 

「"影依融合(シャドール・フュージョン)"発動。 "影依融合"は1ターンに1枚しか発動できません。自分の手札・フィールドから"シャドール"融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスターをエク…融合カードゾーンから1体を融合召喚します。もうひとつ効果がありますがそちらの説明は不要でしょう」

 

ちなみにもうひとつの効果はエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが相手フィールドに存在する場合、自分のデッキのモンスターも融合素材とする事ができるというメタ効果である。

 

「私は手札の"シャドール・ビースト"とフィールドの"ヴォルカニック・クイーン"を墓地へ送り、"エルシャドール・エグリスタ"を融合召喚します」

 

エルシャドール・エグリスタ

融合・効果モンスター

星7/炎属性/岩石族/攻2450/守1950

「シャドール」モンスター+炎属性モンスター

このカードは融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚できる。「エルシャドール・エグリスタ」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):相手がモンスターを特殊召喚する際に発動できる。その特殊召喚を無効にし、そのモンスターを破壊する。その後、自分は手札の「シャドール」カード1枚を墓地へ送る。

(2):このカードが墓地へ送られた場合、

自分の墓地の「シャドール」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

 

爆炎を巻き上げながら人型の巨大なモンスターが現れた。

 

エルシャドール・エグリスタ

ATK2450

 

「さらに"シャドール・ビースト"の効果発動。このカードが墓地へ送られた場合に発動できます。自分はデッキから1枚ドローします」

 

手札3→4

 

「"シャドール"モンスターが効果で墓地へ送られた事で"影牢の呪縛"に魔石カウンターを1つ置きます」

 

影牢の呪縛0→1

 

「エルシャドール・エグリスタの攻撃! 城之内ファイヤー!」

 

おい、それリアルタイムで見てたけどラヴァ・ゴーレムの技(?)だろ。

 

エルシャドール・エグリスタの効果上、今伏せカードを使うのは得策ではないか…。

 

エルシャドール・エグリスタも空気を読んだのか城之内ファイヤーと全く同じ攻撃をしてきた。

 

「ごふっ…」

 

リック

LP4000→1550

 

「カードを2枚セットしてターンエンドです」

 

ヴェノミナーガ

モンスター1

魔法・罠2

手札2

 

 

 

 

そこまで言ったところでヴェノミナーガさんから立ち上っていた瘴気が晴れた。

 

さらに髪の色が藤色とも青色とも取れた色から藤色に変わった。

 

「さあ、ボウヤのターンよ? あなたも私の求めた男ではないのかしら?」

 

それだけ言ってヴェノミナーガさんのニコニコした笑みとは違う妖艶な笑みを浮かべると、再び髪の色は藤色とも青色とも取れる色に戻り、黒紫色のオーラが放出された。

 

そしてニコニコとした笑顔に戻った。

 

『とまあ、今の通り、この娘には了承済みですから』

 

「おい待て、中身(?)の方がキャラ濃いじゃねぇか」

 

「濃いキャラと濃いキャラが合わさり、最強に見えるでしょう?」

 

それ以前にヴェノミナーガさんから立ち上る黒紫色のオーラのせいでラスボスに見えます…。

 

あ、決勝だから大会のラスボスか。

 

俺はデッキに手を置いて目の前の敵を見た。

 

恐らく、今回の大会最大の壁だろう。

 

それが身内とは皮肉だがな…。

 

「フフフ…」

 

面白いじゃねぇか…俺はカードをドローした。

 

 

 




デュエルモンスターズのカードに人間が操られるってよくあるはなしですよねー(白目)


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大会ラストデュエル 後

「ドロー!」

 

手札5→6

 

しかし、どうするか…エグリスタの効果は1ターンに1度だけ特殊召喚を無効にし、破壊できる効果。任意効果なのがまたエグい。

 

ミドラーシュ出されたら詰みかねない。まあ、ヴェノミナーガさんならブラックホールなどを警戒して出して来ないとは思うが…。

 

「"高等儀式術"発動。デッキから"トライホーン・ドラゴン"を墓地へ送り、手札の"仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー"を特殊召喚」

 

「"エルシャドール・エグリスタ"の効果。

相手がモンスターを特殊召喚する際に発動できます。その特殊召喚を無効にし、そのモンスターを破壊します。城之内ファイヤー!」

 

エグリスタの城之内ファイヤーによってマスクド・ヘルレイザーが消し炭にされた。

 

だが、これでエグリスタの効果はこのターン使えない。

 

「罠カード、"リビングデッドの呼び声"を発動。墓地の"仮面魔獣デス・ガーディウス"を特殊召喚」

 

床の闇を突き破り、デス・ガーディウスが現れた。

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

ATK3300→3200

 

「"仮面呪術師カースド・ギュラ"を召喚」

 

仮面呪術師カースド・ギュラ

ATK1500→1400

 

「2体を生け贄に"仮面魔獣デス・ガーディウス"を特殊召喚」

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

ATK3300→3200

 

さっきと同じデス・ガーディウスだが、1つ違うのは遺言の仮面を持っている事だ。

 

デス・ガーディウスは遺言の仮面をエグリスタへ、ぶん投げた。

 

「そうは行きません。 速攻魔法、神の写し身との接触(エルシャドール・フュージョン)"神の写し身との接触"は1ターンに1枚しか発動できません。自分の手札・フィールドから、"シャドール"融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合カードゾーンから融合召喚します」

 

エグリスタが消えたことで対象を失った遺言の仮面が風を切り、消滅した。

 

「私はフィールドの"エルシャドール・エグリスタ"と、手札の"超電磁タートル"を墓地へ送り、"エルシャドール・ネフィリム"を特殊召喚します」

 

エルシャドール・ネフィリム

星8/光属性/天使族/攻2800/守2500

「シャドール」モンスター+光属性モンスター

このカードは融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚できる。

(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「シャドール」カード1枚を墓地へ送る。

(2):このカードが特殊召喚されたモンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時に発動する。そのモンスターを破壊する。

(3):このカードが墓地へ送られた場合、

自分の墓地の「シャドール」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。

そのカードを手札に加える。

 

ヴェノミナーガさんのフィールドに、神を模した巨大な影人形が現れた。

 

エルシャドール・ネフィリム

ATK2800

 

「エグリスタが効果で墓地に送られたことにより、墓地の"影依融合"を回収します。さらに"影牢の呪縛"に魔石カウンターが1つ乗ります」

 

ヴェノミナーガ

手札1→2

 

影牢の呪縛1→2

 

「そして"エルシャドール・ネフィリム"の効果。特殊召喚に成功した時、デッキから"シャドール"と名の付いたモンスター1体を墓地へ送ります。私は"シャドール・ビースト"を墓地へ送ります。"シャドール・ビースト"の効果によりデッキからカードを1枚ドローします」

 

手札2→3

 

手札が減らねぇ…。

 

「そして"影牢の呪縛"に魔石カウンターがまた1つ乗ります。これで終わりです」

 

影牢の呪縛2→3

 

これで3番目の効果の発動条件を満たしたか…。

 

「ちなみに"エルシャドール・ネフィリム"は特殊召喚されたモンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時に発動、そのモンスターを破壊します」

 

「手札から"マジック・プランター"を発動。残った"リビングデッドの呼び声"を墓地へ送り、カードを2枚ドロー」

 

手札1→3

 

「"至高の木の実"発動。俺のライフポイントを2000回復する」

 

白い小鳥が木の実を持ってくる。相変わらず可愛い。

 

「やっぱり美味しそうですね……」

 

止めい。

 

LP1550→3550

 

「"強欲な壺"発動。カードを2枚ドローする。さらに罠カード"無謀な欲張り"を発動。カードを2枚ドローし、次の自分のドローフェイズを2回スキップする」

 

手札1→3→5

 

これは……行けるか?

 

いや、待て。

 

ヴェノミナーガさんのフィールドには特殊召喚されたモンスターを強制的に破壊するネフィリムかいる。

 

俺のデッキには遺言の仮面がまだ1枚残っている。

 

よって例え、デス・ガーディウスで特攻を仕掛けて倒されてもネフィリムを奪い、大ダメージを与えられる。

 

だが、墓地には相手のバトルフェイズを終了させる超電磁タートル。

 

そして、影牢の呪縛の魔石カウンターが3つ溜まっていることで融合召喚に成功すれば相手のモンスター1体を融合の素材に出来る。

 

だが、デス・ガーディウスの効果上、素材にするのは悪手。

 

だったらまず、ヴェノミナーガさんのターンになればネフィリムでデス・ガーディウスを攻撃して来るだろう。

 

ヴェノミナーガさんにとってネフィリムを失ったところでプラスしかないので間違いなくやって来る。

 

それから融合召喚を行い、影牢の呪縛の効果で俺のフィールドに移ったネフィリムと手札のシャドールを使い、再びネフィリムを特殊召喚。

 

俺はヴェノミナーガさんの1枚の伏せカードを見た。

 

テーマデッキのため、伏せカードがカウンターの可能性は限りなく低い。

 

寧ろ攻撃反応系、或いは攻撃阻害系の線が濃厚か。

 

だが、次元幽閉などの出の遅いカードをヴェノミナーガさんが使っているとは思えない…。

 

とするとフリーチェーンの攻撃阻害or堕ち影の蠢きあたりが妥当か。

 

堕ち影の蠢きだったとしてヴェノミナーガさんのターンでドラゴン落とされたら俺は負けるが…この手札なら…やるしかないな。

 

ならば……賭けだなこれは1つでも繋がらなければ負ける。

 

だが、そもそもシャドール相手に長期戦は確実にこちらが負ける。

 

ならば……やるしかないな。

 

「"仮面魔獣デス・ガーディウス"で攻撃。ダーク・ディストラクション!」

 

幸いまだ、ヴェノミナーガさんの墓地に光は1体。

 

まず、タートルが入っている時点で100%入っているであろう開闢の特殊召喚を阻害するまでだ。

 

「私は墓地の"超電磁タートル"を除外することで相手のバトルフェイズを強制終了します」

 

どこからともなく現れた亀がフィールドに電撃をばらまくと全てのモンスターの動きが止められた。

 

「俺はカードを5枚伏せてターンエンド」

 

モンスター1

魔法・罠5

手札0

 

 

 

「私のターンドロー」

 

手札2→3

 

「私は"エルシャドール・ネフィリム"で"仮面魔獣デス・ガーディウス"を攻撃します」

 

エルシャドール・ネフィリムが動き、デス・ガーディウスに狙いを定めると口から波動砲のような光線をデス・ガーディウスへ、放った。

 

「罠カード発動! "ドゥーブルパッセ"! 相手モンスターの攻撃を直接攻撃に変更し、攻撃対象となった自分モンスターが同時に相手に直接攻撃する!」

 

『ゲッゲッゲ…』

 

波動砲は俺に向き、デス・ガーディウスはヴェノミナーガさんの目の前へ、数歩で移動し、腕を振り上げた。

 

「させません。罠カードオープン。"デモンズ・チェーン"。フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動します。選択したモンスターは攻撃できず、効果は無効化されます」

 

『グゲッ!?』

 

デス・ガーディウスに黒い鎖が絡み付き、行動を完全に封じた。

 

「これにより"ドゥーブルパッセ"は不発となります」

 

「甘い! 速攻魔法"サイクロン"! "デモンズ・チェーン"を破壊!」

 

「くっ…!? やりますね」

 

鎖が破壊され、再び動き出したデス・ガーディウスのダーク・ディストラクションがヴェノミナーガさんを襲い。

 

シャドール・ネフィリムの波動砲が俺に降りかかった。

 

「速攻魔法、"禁じられた聖杯"発動! エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は400ポイントアップし、効果は無効化される!」

 

「火力上げですか! ですがそれでも攻撃力3700にしかなりません」

 

聖杯は飛び、モンスターに張り付いた。

 

「選択するのは……"エルシャドール・ネフィリム"!」

 

エルシャドール・ネフィリム

ATK2800→3200

 

「なんですと?」

 

次の瞬間、お互いのエースモンスターがお互いを襲った。

 

リック

LP3550→350

 

ヴェノミナーガ

LP4000→700

 

「うぐっ…」

 

俺は波動砲に吹き飛ばされながらも、カードを発動した。

 

「速攻魔法発動! "ヘル・テンペスト"!」

 

「げ!? そいつは…聖杯はそれのために…」

 

「 3000ポイント以上の戦闘ダメージを受けた時に発動する事ができる!」

 

発動直後、天からフィールド全てを覆い尽くすほどの巨大な火球が落ちてきていた。

 

「お互いのデッキと墓地のモンスターを全てゲームから除外する!」

 

次の瞬間、フィールドと両者を火球が飲み込んだ。

 

「私のデッキが…」

 

一気に半分ほどに落ち込んでいた。まあ、俺もだが。

 

「デッキと墓地、全てのモンスターを除外されては最早、どうすることも出来まい」

 

「まだ…私のフィールドには"エルシャドール・ネフィリム"。そして手札には"シャドール"が…それに条件ならあなたも同じ、それどころかドローも出来ず、私より悪い状況…」

 

「最後の罠カード発動」

 

『タヒネ!』

 

その罠カードから実体化したソレをデス・ガーディウスは掴むと全力で振りかぶり、投げた。

 

「げっ!?」

 

それはヴェノミナーガさんの目の前まで飛び、チッチッチッ…と規則的に音を立てている。

 

「"D.D.ダイナマイト"……相手が除外しているカードの数×300ポイントダメージを相手ライフに与える…除外されているカード枚数は?」

 

「エグリスタ含め…20枚…」

 

俺は片手を銃のように例え、ヴェノミナーガさんへ向けた。

 

 

 

「ばーん」

 

 

 

次の瞬間、ヴェノミナーガさんのフィールドが再び消し飛んだ。

 

ヴェノミナーガ

LP1000→0

 

 

 

 




リック君のヘルコンボの成功率は現実でやったら2%ぐらいです。

なんで出来るかって? あっちとこっちの世界では運命力が違いますぞ。

一部、OCGでは無理な場所がありますが、まあ、遊戯王の世界自体蘇生制限が無かったりしますしこれぐらいいいですよね! というか…良くないと2話分の構成をやり直すことになるので勘弁してください。そのうちひっそりと修正しますが。

人に遊戯王wikiれとか言う割にこれじゃダメですねー。

毎日更新か……苦しいです評価して下さい。



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大会その終

毎日更新終了のお知らせorz


決勝が終了し、現在は残りの敗者の順位決めの対戦中であるため、俺は控え室でうだうだしていた。

 

『ぐすん…ヒドイです…ヘル・テンペストとか…インチキ効果もいい加減にしてください…』

 

「自業自得…ってかお前が言うな」

 

『失礼な! ラスボスとしてシャドール使ってマスターとデュエルしただけで、視聴者のヘイトを稼ぎまくってしまったメインヒロインの身にもなってくださいよ!? ウザいとか言われてるんですよ!?』

「知らねえよ」

 

視聴者がイジメるぅ…とか言いながらヴェノミナーガさんは部屋の隅っこで丸くなった。

 

シャドールはそんなに観客受けが悪かったのかよ。

 

デス・ガーディウスよりは悪目立ちしないと思うけどなぁ…。

 

「ところでヴェノミナーガさん」

 

『はい?』

 

「今度は手加減しないでくださいね」

 

『………………』

 

ヴェノミナーガさんは鳩が豆鉄砲食らったような顔になった。いや、この場合は蛇か。

 

これまでかなりの数十回ヴェノミナーガさんとデュエルしているが……1ターン目で手札増強カードを使われなかった試しがないからだ。

 

多分、初手で残った手札の片方は宝札かなんかだったんだろう。

 

『あれは本気でやった結果ですよ。手加減なんてしていません。していませんよー』

 

そう言うとヴェノミナーガさんは部屋の隅から俺の座るソファーの隣に戻って来た。

 

ふむ、機嫌は直ったようだな。

 

「そういや、ヴェノミナーガさん。そっちのBブロック決勝の相手ってどんな感じだった? ツァンちゃんが対決が残ってるから」

 

『大したことありませんでしたよ。六武衆なら余裕でしょう。まあ、私は確実にマスターの元にBMGが行くように、マスターの居ないBブロックを叩き潰すのが目的でしたから苦戦すらありませんでしたが……ってツァンちゃん? いつの間に名前を呼び合う関係に?』

 

「ついさっき」

 

な、名前で呼びなさいよ…バカ…とか言われたので名前で呼ぶことにした。

 

俺? みんなにリックって呼ばせてるに決まってるじゃないか。

 

べネットって呼ばれるとどうも調子が狂う。

 

『あの淫ピ! 見ないうちに抜け抜けとぉ! 今から行って実体化して闇のデュエル挑んできます♪』

 

「おいやめろ」

 

ヴェノミナーガさんの尻尾の先を掴み、止めていると控え室のドアが開いた。

 

「お邪魔するわ」

 

ヴェノミナーガさんをどうやって止めようか考えていると、聞き覚えのある声をした方を見ると藤色の髪をしたツインテールの少女がドアの前に立っていた。

 

見覚えがあるような…。

 

「こうすればわかるかしら?」

 

少女はツインテールを解いた。

 

「あ」

 

ヴェノミナーガさんの中の人じゃないか。いや、寧ろ外の人?

 

『おー、ゆきのんさん』

 

「こんにちは、ナーガさん」

 

うわ、なんかスゴい親しそう。

 

確か…藤原 雪乃と言ったかな?

 

「これ、返すわ」

 

『どうも』

 

藤原はデッキをヴェノミナーガさんへ渡した。ああ、シャドールデッキか。

 

すると藤原は俺の隣へ移動し、俺の顔を覗き込むように身を乗り出してきた。

 

「………………」

 

「………………」

 

互いに見つめ合う時間が暫く過ぎる。

 

間違えなく将来凄まじい美人になるだろうな、なんて事を考えていると藤原が身を引いた。

 

「私は女とデュエルを磨いてあなたに釣り合うぐらいになるわ」

 

そして、笑みを浮かべながら言った。

 

「だから、それまで輝いていてね?」

 

それだけ言うと藤原は部屋から出ていった。

 

「なあ、ヴェノミナーガさん?」

 

『はい?』

 

「憑依先はどうやって決めたんだ?」

 

『正直、誰でもよかったので、キャラの濃さです。そっちの方が憑依(つい)てて楽しいですから』

 

「納得」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

全ての対戦が終了し、表彰式が行われた。

 

ちなみに順位だが…。

 

 

1位リック・べネット

2位藤原 雪乃

3位ツァン・ディレ

5位茂木 もけ夫

9位万丈目 準

 

 

だったようだ。万丈目と茂木が2段と3段のトップになっているあたり、あいつらやっぱり強かったんだな。

 

あん? 表彰式の様子? ねぇよそんなもん。

 

トムくんのようにペガサス会長からトロフィー貰ったぐらいだな。トロフィーは父さんに預けといた。

 

それで今は優勝賞品を受け取るためにペガサス会長の後について部屋に入ったところだ。

 

俺はヴェノミナーガさんとちょうど部屋の中央に立っている。

 

ペガサス会長は部屋の机の上にある小さめのジュラルミンケースを拾い上げると俺に向いた。

 

銀髪の長髪、黄色の目、目に優しくない赤スーツ。

 

どこからどうみてもペガサス・J・クロフォードその人だ。

 

「改めて言いましょう。リックボーイ、素晴らしきデュエリストよ。よくぞ、この大会を制しましたね!」

 

生ペガサス会長。本来なら感動するところだろう。

 

『ほー、この人。見えない人ですね』

 

俺の目の前のペガサス会長へ、尻尾を絡み付かせているヴェノミナーガさんがいなければ俺だって感動しただろうな…。

 

俺、絶賛苦笑いである。

 

「表情が固いのデース。リックボーイはジュニア最高の名誉を手にしたのデース」

 

「は、はい」

 

『ほうほう、この人、片目義眼入れてますね』

 

…………それにしてもどうすればこういう喋り方になるんだろうか…?

 

「まあ、いいでしょう」

 

ペガサス会長は小さいジュラルミンケースを俺に差し出した。

 

「優勝賞品のコレクターズレア加工、ブラック・マジシャン・ガールを差し上げマース」

 

ペガサス会長から小さいジュラルミンケースを受け取った。

 

開けてみるとキラキラと光に反射して光る後ろに魔法陣が描かれ、帽子を押さえているブラック・マジシャン・ガールのカードだった。

 

「そのレアリティのブラック・マジシャン・ガールは世界に1枚のカードデース。さらに言えばこれ以上作る気もアリマセーン。大切にしてくだサーイ」

 

なにそれ使いづらい…。

 

『でも使うんでしょう?』

 

俺の背後に戻ってきたヴェノミナーガさんがそんなことを言ってきた。

 

まあ、使わない選択肢は無いが。

 

「そして、リックボーイのプロデュエリスト入りを我がインダストリアル・イリュージョン社がスポンサーとなり、支援いたしマース」

 

は? え? なにそれ知らない。

 

俺はどういう事か理解出来ないでいると、ヴェノミナーガさんがペガサス会長の後ろに回り、何かの紙をこちらに向けて来た。

 

それはいつかヴェノミナーガさんが持ってきた大会のチラシの拡大コピーだった。

 

そこには優勝賞品 コレクターズレア"ブラック・マジシャン・ガール"という文字が書かれている。

 

だが、拡大コピーにはその下に余白がかなり、残っていた。

 

まさかと思いながらヴェノミナーガさんが余白をなぞると長い文章が出現した。

 

それを要約すると…。

 

"インダストリアル・イリュージョン社のスポンサー権利"

 

というプロデュエリスト垂涎のモノだった。ちなみに期間はプロ入りから引退までらしい。

 

なるほど……日本から参加者の質がおかしい上、数年に1度しか開催されないと思ったらそれだったわけか…。

 

ヴェノミナーガさんは紙を見せ終わると俺の背後に戻ってきた。

 

ヴェノミナーガさん…最初から俺を…。

 

まあ、確かにそんなのついてたら俺が渋っただろうからな…特に理由もないが。

 

『マスターのためですよ。これ以上の条件はありませんし。ちなみにお父様はもちろんこの事を知っています』

 

はいはい、わかりましたよ。俺もいつかはプロデュエリストになりたいと思ってたしな。

 

ペガサス会長を見ると、握手をするために俺に手を伸ばしていた。

 

まあ、もっと面白いデュエルが出来るなら最高だな。

 

それに応じるために俺は手を伸ばした。

 

『あ、マスター待って…』

 

「ん?」

 

ヴェノミナーガさんが静止の声を掛けたが、その時は微妙に遅く、俺の手が止まったのはペガサス会長と手を繋いだ瞬間だった。

 

「………………」

 

するとさっきまで笑顔を浮かべていた急に曇り、目を見開いていた。

 

手に加えられている力も強まっている。

 

『あーあー』

 

ペガサス会長はどうやら俺より上の場所を見ているようで、目線を辿ると俺の背後のヴェノミナーガさんへと辿り着いた。

 

「あ…」

 

「あ?」

 

『あ?』

 

「アンビリーバボー! ナイトメーアー! モンスター!」

 

『誰が、悪夢で化け物ですか!?』

 

どう見ても悪夢に出そうな化け物だよヴェノミナーガさん……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これがデュエルモンスターズの精霊…イッツァ・ミラクル! エクセレーント!」

 

ペガサス会長はさっきの絶叫は何処へやら、今度は俺の手を握り締めながら俺の近くに浮くヴェノミナーガさんと、部屋に入り切らないので床から上半身だけ生えているデス・ガーディウスに対して歓喜の声を上げていた。

 

『マスター、まだ自分の力を中途半端にしか制御出来ないんですから人に触れたら、触れてる間ぐらいは見えない人も見えちゃうんですよ?』

 

『ゲッゲッゲ…』

 

ヴェノミナーガさん曰く、今の現象はそういうことらしい。

 

そろそろ手が痛くなってきた。せめて肩にして欲しい。

 

「ユーらは精霊なのですね!」

 

『はい、私は喋りますがそっちのは喋れないので何か聞きたければ私に聞いてください。こう見えてもあなたの百倍以上生きてるので、デュエルモンスターズに纏わることならどんな質問にも完璧な答えを用意して差し上げましょう。私は知らない答え以外は、天地万物、森羅万象、一切合切、有象無象、全て知り尽くしていますわ』

 

「実に頼もしい限りデース! それなら…」

 

目がキラッキラッしてるペガサス会長はヴェノミナーガさんに質問を始めた。

 

あ、ダメだこれ長くなるわ。

 

ってかペガサス会長よく、この凶悪な見た目の2体に普通に接せれるな…。

 

流石に創始者なだけは…………いや、ペガサス会長の切り札って中々アレな造型のサクリファイス系だったなぁ…。

 

ってかヴェノミナーガさんそれって要するに知ってることを答えるって事だよな?

 

そんなことを考えながら俺は考えることを放棄していた。

 

 




次回は時間が飛ぶかもですね。設定は後付け後付け。


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悪夢

大会から約半年後。

 

俺は現在、日本の海馬ドーム内で他のプロデュエリストとデュエルしていた。

 

リック

LP4000

 

佐藤 浩二

LP800

 

ターンは俺でライフは優勢だが、俺のフィールドのモンスターはガラ空き。

 

そして対戦相手のフィールドは…。

 

 

スカブ・スカーナイト

ATK0

 

仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー

ATK3200

 

 

マスクド・ヘルレイザーをパクられた。

 

『さあ! 挑戦者、佐藤 浩二の"スカブ・スカーナイト"が"悪夢(ナイトメア)"の一柱、"仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー"のコントロールを奪ったぞ!』

 

MCの熱の入った実況はぶっちゃけうるさい。

 

ちなみにスカブ・スカーナイトはこんな感じのステータスと効果だったな。

 

スカブ・スカーナイト

攻撃力0/守備力0/闇属性/戦士族/星4

このカードと同名カードが存在する場合、このカードを破壊する。攻撃表示で存在する相手モンスターは、このカードに攻撃しなければならない。このカードは攻撃表示で存在する限り、戦闘では破壊されない。攻撃表示のこのカードと戦闘を行ったモンスターに、スカブカウンターを1つ乗せる。バトルフェイズ終了時、スカブカウンターの乗ったモンスターのコントロールを得る事ができる。このカードが表側表示で存在する時、お互いのプレイヤーのライフポイントを回復する効果を無効にする。フィールド上の全てのモンスターを破壊し、互いのプレイヤーは破壊したモンスター1体につき、500ポイントのダメージを受ける。

 

なんつう、ピーキーカードを使うもんだ。最初と最後の効果が噛み合ってないじゃないか…まあ、俺も人の事は言えないがな。

 

そんなことを考えているとMCがまた解説を始めた。

 

『 "悪夢(ナイトメア)"の異名を持ち、プロデュエリストの超新星にして不戦敗を除けば公式戦無敗の少年リック・べネット! 彼のデュエルスタイルとは逆の展開だ! これは流石の"悪夢(ナイトメア)"も動揺を隠せないか!?』

 

眉ひとつ動かねぇよ。昔ならモンスターの強奪なんて日常茶飯事だ。

 

どれだけのモンスターをシンクロやエクシーズの素材にされたか…。

 

「モンスターを奪われるのは初めてかい…?」

 

そう言いながらも対戦者は咳をしていた。

 

対戦者の目は俺には曇っているように見えた。

 

「…デュエルしてて楽しいか?」

 

真っ当な疑問をぶつけてみた。

 

少なくとも俺に挑戦してくる人はもっとマシな目をしているからだ。

 

「楽しい…? 私は……自分のためにデュエルしたことなど1度もない」

 

「そうか」

 

俺はモンスターカードを対戦者に向けた。

 

それを見せた瞬間、対戦者の顔が歪んだ。敗北を確信したのだろう。

「そ、そのカードは…」

「ならあなたのような下らない人間は、俺に一生掛かっても勝てないよ」

 

俺がカードをフィールドに置くのと同時に相手フィールド上の2体のモンスターが消えた。

 

「俺は相手フィールド上の"スカブ・スカーナイト"と"仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー"を生け贄に捧げ、"溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム"を相手フィールド上に特殊召喚」

 

溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム

星8/炎属性/悪魔族/攻3000/守2500

このカードは通常召喚できない。相手フィールド上のモンスター2体を生け贄にし、手札から相手フィールド上に特殊召喚できる。自分のスタンバイフェイズ毎に、自分は1000ポイントダメージを受ける。このカードを特殊召喚するターン、自分は通常召喚できない。

 

対戦者が檻に囲われ、対戦者の背後に巨大な溶岩のゴーレムが現れた。

 

「"溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム"はコントローラーのスタンバイフェイズ時に1000ポイントダメージを与える。つまらないデュエルだった。沈め…」

 

「う…あ…」

 

俺のターンエンド宣言と共に相手にターンが移る。

 

まあ、尤も…完全に詰みだが。

 

「さあ、ドローしろ」

 

「……………………………………………ドロー…」

 

ドローの一部始終を見終えたラヴァ・ゴーレムは檻の中の対戦者へ、輪郭の崩れた笑みを浮かべると、灼熱の吐息を吹き掛けた。

 

あ、これ後攻ワンキルモドキだ。

 

「うわぁぁぁぁ!!!!」

 

佐藤 浩二

LP800→0

 

 

 

終わった瞬間、会場の空気は完全に止まっていた。

 

が、数秒後…会場は大歓声に包まれた。

 

『強い! 強すぎるぅ! プロランク4位"悪夢(ナイトメア)"! これで50勝4敗! その4敗は何れも不戦敗! 実質50連勝だぁぁ!』

 

『キャー! リック様ー!』

 

『いいぞー! もっと刺激的なデュエルをー!』

 

『マスター抱いてー!』

 

俺は倒れて運ばれている対戦者を尻目に踵を返し、来た道を戻った。

 

当たり前だが最後の声援はヴェノミナーガさんである。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「いや、相変わらず君のデュエルは素晴らしい。非番に見に来た甲斐がありましたよ」

 

「そりゃ、どうも」

 

控え室に戻る途中で、壁に背中を預けながら俺に拍手を送る眼鏡を掛けた細身の男性がいた。

 

「見たでしょう? 対戦者のラヴァ・ゴーレムを見せたときの顔…そして、その後の絶望した表情…! 最高でした…」

 

彼の名はエックス。

 

プロランク5位のプロデュエリストである。まあ、見ての通り、サディストだ。

デッキ破壊デッキを使い、ライフを0にして勝利するのではなく、デッキ切れによって勝利する戦術を取るため、恐らくプロデュエリスト1の嫌われ者だ。

 

彼と戦った相手はデュエリストとしての誇りやデュエルへの情熱を失くし、二度とそのデッキを手にしなくなるという。

 

俺に言わせりゃどんだけ豆腐メンタルなんだって話だ。

 

デッキ破壊も普通に歴とした戦術の1つだろ。寧ろ、中々デッキ破壊をするデュエリストに出会えなくて困ってたんだぞ。

 

その事を本人に言ったところ。

 

酷く驚かれ、一言。

 

"変わってますねぇ…"と言われた。

 

解せぬ。

 

そしてそれ以来、交流が続いているのである。

 

ちなみに俺と戦うまでは初めて戦った相手には負けたことがなかったらしい。

 

ちなみにその時は…。

 

 

これでお前のデッキは半分を切った! 高レベルモンスターを主軸にするそのデッキでは2ターンも持つまい!

墓地利用、大回転☆

バカな…この私が…orz…

 

 

という酷い試合になった。

 

ちなみに隠れ甘党である。

 

まあ、不気味なオッサンが普通にファミレスでパフェ喰ってたら絵にならないわな。折角、素だけどキャラも定まってるわけだし。

 

『後、ヤザン・ゲーブルに声が似てますね』

 

似てるけどそれどうなのよ…。

 

エックスさん曰く、俺とは同じ穴の狢らしい。無関係に見えても根は同じ、或いは同類or仲間って意味だ。

 

まあ、否定はしないがな。

 

「これはいいモノを見れたお礼です。どうぞ受け取って下さい」

 

エックスさんはそう言って笑顔で俺にカードを渡してきた。

 

文字もカードも光っている。ウルトラレアだ。ウルトラレアなのだが…。

 

 

 

魔王ディアボロス

星7/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守1000

このカードは特殊召喚できない。このカードを生け贄召喚する場合、生け贄にするモンスターは闇属性モンスターでなければならない。相手のドローフェイズのドロー前に発動する。相手のデッキの一番上のカードを確認してデッキの一番上または一番下に戻す。また、このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、カードの効果では生け贄にできない。

 

 

 

うわぁ、ディアボロス。リック、ディアボロスだーい好き……ふう…。

 

「……いつもどうも…」

 

「ククク……いえいえ、それでは私はこれで…」

 

それだけ言うと歩いて俺の前から姿を消した。

 

「なんで毎回こう…微妙なモノをチョイスしてくるんだろうな…」

 

チラ見魔王様……。

 

『それを受け取った時のマスターの微妙な表情を楽しんでいるからじゃないですか?』

 

「ですよねー」

 

ホント徹底してんな、あの人。まあ、人の心をへし折るには悪くないカードなのだが…。セルフディスティニードロー潰せるし。

 

『この辺まで来れば大丈夫でしょう。そろそろ家に帰りましょうか』

 

「そうだな」

 

ヴェノミナーガさんが宙をなぞると、空間が裂けた。

 

裂け目には家の見慣れたリビングが見えていた。

 

数千kmを平面に繋げて、移動の超短縮が可能なヴェノミナーガさんは流石神様ってところか。

 

『早くしないと閉じちゃいますよー』

 

「はいはい」

 

俺はそのまま、そこへ入って行った。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

『マスター、マスター。ちょっと見てくださいよー』

 

「ん?」

 

とある日、自宅にてヴェノミナーガさんが自分のスマホを見せてきた。

 

それは過去から現在に至るまでのプロデュエリスト達の記録が書いてある最も人気のファンサイトだった。

 

『マスターのもありますよ』

 

あ、ホントだ、なになに……。

 

 

 

 

リック・ベネット

プロ戦績

50勝4敗(敗北は全て不戦敗)

プロデュエリスト男子最年少の12歳にしてプロランク4位の座にいる若き天才デュエリスト。数度勝ち越した相手に対し、"やるだけ無駄だから勝ち点はやる。もう挑戦して来るな"という理由で不戦敗をしなければDDに並ぶとさえ言われている実力者。ジュニアI2大会にて優勝するまでにも大小多数の大会を制覇。

 

エースモンスターはブルーアイズさえ凌ぐ攻撃力を持ち、バトルシティでデュエルキング武藤 遊戯とKC社長海馬 瀬人のタッグを敗北寸前まで追い込んだ逸話を持つ伝説級の絶版悪魔族モンスター"仮面魔獣デス・ガーディウス"。

 

伝説級のカードをエースモンスターとして使っているにも関わらず、それを自ら破壊するなど捨て駒のように扱う事。

"仮面魔獣デス・ガーディウス"の"遺言の仮面"により、相手自身のエースモンスターを奪い取った上でのオーバーキルを頻繁に行う事。

彼がつまらないと言っているのにも関わらず、何度も挑戦する相手に対し、相手のエースモンスターをハンバーガーにしてしまう恐ろしいデッキを使用し、心を完全に折る事。

それらの行いから付いた異名は"悪夢(ナイトメア)"。

 

ちなみに彼のデッキのレアカードは"仮面魔獣デス・ガーディウス"だけに留まらず、過去、KCすら越える勢力を持っていたパラディウス社で1枚ずつしか製造されていない幻のレアカードである"創世神"、"ダーク・クリエイター"などがある。そして、世界唯一のコレクターズレア"ブラック・マジシャン・ガール"を所有している。

 

今や、美術的な価値すら出てきているパラディウス社製の特注生産デュエルディスクを愛用する数少ないデュエリストの1人。

 

 

彼と戦った事のあるデュエリストによる証言抜粋。

『ダイレクトアタックを決めたと思ったらデッキと墓地のモンスターを全て消された』

『気がついたら最上級モンスターで相手の場が埋まっていた』

『ワンターンスリーキルされた』

『デス・ガーディウスの攻撃力が6600になってどうしたら勝てるの? と思っていたら直ぐに10000越えた』

『寝ても覚めても彼の事が忘れられない』

『俺のエースモンスターがハンバーガーにされた』

などとかなりの逸話がある。

 

 

 

 

「…………………………なにこれ?」

 

『だいたいあってる』

 

いや……確かにあってるけどさ…。

 

俺は溜め息を付くと手を額に置いた。

 

 

 

 




ちなみになんでヴェノミナーガさんが使われないかですが…もちろん最大の理由があります。

原作効果のヴェノミナーガさんを見てくれコイツをどう思う?


《毒蛇神ヴェノミナーガ》
効果モンスター
星10/闇属性/爬虫類族/攻 0/守 0
このカードは通常召喚できない。「蛇神降臨」の効果及びこのカードの効果でのみ特殊召喚できる。このカードの攻撃力は、自分の墓地の爬虫類族モンスターの数×500ポイントアップする。このカードはフィールド上で表側表示で存在する限り、このカード以外のカードの効果の対象にならず、効果も受けない。このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、このカード以外の自分の墓地の爬虫類族モンスター1体をゲームから除外する事で、このカードを特殊召喚する。このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時から3ターン後、このカードのコントローラーはデュエルに勝利する。


(最後の効果が)すごく………チート………です…。

こんな神より化け物カード普通に使えるか!?

リック君の引きと合わせたら三國無双になるわ!


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ゴミ処理

作者……明日から追試なんだ…。

多分、暫く更新が止まります。すいませんね。


冬、俺は朝の冷たさで目を醒ました。

 

時計を見ると未だ5時半だった。

 

『マスター……好きです…むにゃむにゃ…』

 

「……………………」

 

『ほげっ!?』

 

冷てえんだよこの変温動物。

 

という念を込めながら俺に抱きつくヴェノミナーガさんをベッドから蹴り落とすのが日課になっているのである。

 

『いつもヒドイじゃないですか~』

 

「いつもいつも死ぬって言ってんだろ!?」

 

『だったら暖房タイマーにしなければ良いじゃないですかー』

 

してねぇよ! エアコンも日本製だな。と思って、寝静まったのを感知してエアコンが勝手に切れるというエコな機能の付いてる奴を買ったらそれが裏目に出てんだよ!

 

そんなことを思っているとヴェノミナーガさんが全身をくねられながら俺に巻き付いて来た。

 

今度は蹴れないようにぐるぐる巻きにされている。

 

『すぴー…すぴー…』

 

そしてまた寝息を立て始めた。

 

つ、冷たい…せめてエアコンを付けなければ…。

 

俺は唯一動く片手でリモコンがあった方へ手を伸ばした。

 

 

"ふにょん"

 

 

掌にどう考えても可笑しい感触が伝わってきた。

 

明らかに可笑しいと思い、そちらを見ると、誰かが寝そべってこちらを見ていた。

 

俺は彼女の胸を触れていたらしい…。

 

それは最近出てくるようになった人型の女性の精霊だった。

 

魔女らしい帽子。

 

魔法使いらしい衣。

 

澄んだ緑の眼。

 

そして、壁の隅に立て掛けてある魔道具が彼女の何よりもの証拠だろう。

 

俺の新しい精霊。その名は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

"砂の魔女(サンド・ウィッチ)"である。

 

 

 

 

 

 

 

 

いつぞや、作っていると言った防御に定評のある岩石族デッキの主軸モンスターだ。

 

能力値はこんなん。

 

 

砂の魔女

融合モンスター

星6/地属性/岩石族/攻2100/守1700

「岩石の巨兵」+「エンシェント・エルフ」

 

 

効果? 何それ美味しいの?

 

え? デス・ガーディウスを攻撃表示で置いて置いた方がよっぽど防御になる?

 

イヤダナー、ソンナワケナイジャナイデスカー。

 

ブラック・マジシャン・ガール? 知らない娘ですね。

 

…………本当のところ言うと、デッキを作ろうとはしている。

 

だが、かの有名なデュエルキングのせいで魔法使い族サポートカード、さらにとある社長のせいでドラゴン族サポートカードが異常に高いのだ。

 

プロデュエリストでファイトマネーはかなり入るが…それでも暫くはお預けだ。

 

それはそうと砂の魔女さん?

 

なんで胸に置いた手を離してくれないの?

 

リモコンでエアコン付けて温度を上げないとヴェノミナーガさんのせいで俺の命が…。

 

こちらをじっと見ている砂の魔女は胸に置かれた俺の手の上に両手を重ねると、こちらににこりと笑いかけた。

 

いつもそんなに表情を変えない彼女の突然のギャップに俺は少し、戸惑った。

 

そして、砂の魔女はゆっくりとそのまま目を瞑り…。

 

 

 

『…すー…すー…………』

 

 

 

寝た。

 

「………………」

 

片手は砂の魔女に持たれ、首以外はヴェノミナーガさんに絡め取られている。

 

この場合の俺の取るべき行動は……。

 

俺は息を吸い込み言葉を張り上げた。

 

「助けてデス・ガーディウス!」

 

『ゲッゲッゲ…』

 

ああ、持つべきモノは人型以外の精霊だな…。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

『電気ヒーターを買いましょう!』

 

今朝、デス・ガーディウスにぶん殴られたヴェノミナーガさんは、いつものように家の炬燵の70%程を占領するだけに留まらず、炬燵の板をバシバシ叩き、そんなことを言い出した。

 

その炬燵にはヴェノミナーガさんの尻尾を押し退けながら俺と砂の魔女も入っている。

 

外を見れば軽く雪が降っており、10cmほど積もっているようだ。

 

「そんな金はない」

 

『嘘つきー! 人でなしー! ペットを飼うならちゃんと餌代や、ヒーターなどのことも考えてから飼わなきゃいけないんですよ!』

 

「なら外に捨ててやろうか?」

 

『ヒドイ!? 越冬するはめになるじゃないですか!?』

 

ヴェノミナーガさんはブーイングを始め、砂の魔女はお茶請けの海苔煎餅を1枚掴むと小さな口でポリポリ食べていた。

 

『そもそも"エアコンは日本製に限る"とかマスターが言い出したのがイケないんじゃないですか。今、日本製に対してどう思ってるか言ってみて下さいよ!』

 

「日本人はすぐに機械を複雑にしやがって…」

 

『ほら、そうじゃないですか』

 

「ぐぬぬ……」

 

仕方ない…電気ヒーター買って来るか…。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

『いやー、冬場の電気ヒーターって中々、無いモノですね』

 

「そりゃなぁ…」

 

4店舗ぐらい梯子してやっと見つけて買ってきたのである。

 

時間はもう夕方、空は黄昏色に染まり、人通りも無くなっていた。

 

「デュエッ! デュエッ! デュエッ、ゴキボール♪」

 

『んー?』

 

俺が若干デュエルに飢えながらゴキボールの歌を歌っていると、ヴェノミナーガさんがどこかを見詰めながら首を傾げた。

 

『マスター、いつものアレです』

 

「アレか…」

 

それを聞いた俺はほくそ笑むと、より人気の無い方へ移動していった。

 

 

 

 

 

 

10分ほど歩き、とあるそれなりの大きさの廃工場の内部の中心にいた。

 

そこでデュエルディスクにいつものデス・ガーディウスのデッキ……ではなくヴェノミナーガさんのデッキを取り出し、差し込んだ。

 

『ヒャッホーイ!』

 

なんだがテンションが急上昇したヴェノミナーガさんをほっておき、適当に声を掛けた。

 

「出て来いよ。俺のカードが欲しいんだろ?」

 

そう言うとかなり背の高い、筋肉質の男性が現れた。

 

ああ、やっぱりカード強盗ね…。

 

プロデュエリストになってからというものこういう輩が結構増えたのだ。

 

まあ…律儀にデュエルを挑んで来る強盗を強盗と呼べるのかはわからんが…。

 

まあ、もし実力行使に及んできたらデス・ガーディウスか、ヴェノミナーガさんにぶっ殺されるだけなのだがな。

 

「ほう、わかっていながらデュエルで方を付けるか…」

 

「その代わり俺が勝てばお前のデッキは頂く、ついでに警察に突き出す。OK?」

 

『ホント、どっちが強盗だかわかりませんね…』

 

何言ってるんだ。デッキとデッキを掛けた正しいアンティデュエルじゃないか。

 

そんなことを思いながらデュエルディスクを構えた。

 

「よかろう。私はドクター・コレクター! 行くぞ!」

 

 

 

「「デュエル!」」

 

リック

LP4000

 

ドクター・コレクター

LP4000

 

 

 

「俺の先攻、ドロー」

 

手札5→6

 

『ドクター・コレクター? ああ、テレビでよく特集されているIQ200の天才指名手配犯じゃないですか』

 

「ふーん、少しは楽しめそうだな」

 

「なに?」

 

「いや、こっちの話。俺はモンスターをセット、更にカードを3枚伏せ、フィールド魔法、"ヴェノム・スワンプ"を発動」

 

フィールドの床が毒々しい色をした沼へと変わった。

 

「なんだそれは……お前のデッキにそんなカードは…」

 

「 フィールド魔法、"ヴェノム・スワンプ"はお互いのターンのエンドフェイズ毎に、フィールド上に表側表示で存在する"ヴェノム"と名のついたモンスター以外の表側表示で存在する全てのモンスターにヴェノムカウンターを1つ置く。ヴェノムカウンター1つにつき、攻撃力は500ポイントダウンする。この効果で攻撃力が0になったモンスターは破壊される」

 

「なんと強力なダウンカード…」

 

まあな。

 

「ターンエンド」

 

リック

モンスター1

魔法・罠4

手札1

 

 

 

「私のターン。ドロー!」

 

手札5→6

 

「永続罠カード発動、"サモンリミッター"。このカードがフィールド上に存在する限り、お互いのプレイヤーは1ターンに合計2回までしかモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚できない」

 

「"サモンリミッター"だと!?」

 

おや、相性の悪いデッキかな?

 

「……"マジシャンズ・ヴァルキリア"を召喚」

 

マジシャンズ・ヴァルキリア

星4/光属性/魔法使い族/攻1600/守1800

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手は他の魔法使い族モンスターを攻撃対象に選択できない。

 

ブラック・マジシャン・ガールの親戚っぽい魔法使いが召喚された。

 

マジシャンズ・ヴァルキリア

ATK1600

 

『マスター! 高額魔法使いですよ!』

 

やったぜ。

 

「更に"二重召喚"発動。このターン通常召喚をもう一度行う。"マジシャンズ・ヴァルキリア"をもう1体召喚」

マジシャンズ・ヴァルキリア

ATK1600

 

「バトル! "マジシャンズ・ヴァルキリア"でセットモンスターを攻撃!」

 

マジシャンズ・ヴァルキリアが俺の伏せモンスターに魔弾を放ち、伏せモンスターがその姿を現す。

 

アルカナフォース0-THE FOOL

DEF0

 

アルカナフォース0-THE FOOL

星1/光属性/天使族/攻 0/守 0

このカードは戦闘では破壊されず、表示形式を守備表示に変更できない。このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、コイントスを1回行い、その裏表によって以下の効果を得る。

●表:このカードを対象にする自分のカードの効果を無効にし破壊する。

●裏:このカードを対象にする相手のカードの効果を無効にし破壊する。

 

アルカナフォース0-THE FOOLは瞬間移動し、マジシャンズ・ヴァルキリアの魔弾をいとも容易く避けた。

 

ケーシィかお前は。

 

「"アルカナフォース0-THE FOOL"は戦闘によって破壊されない。本来なら他にも効果があるがそれは召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に発動するため、今はただの戦闘によって破壊されないモンスターだ」

 

ヴェノム・フール、蛇使いフールなど散々な言われようのフールさんである。

 

「くっ……ターンエンド」

 

…………いつも思うんだがこの世界の住人は4000という少ないライフを過信し過ぎだと思うんだよな。まあ、ヴァルキリアロックは掛かっているが。

 

それとも単に事故ったか?

 

「この瞬間、"ヴェノム・スワンプ"の効果発動。"ヴェノム"以外のモンスター全てにヴェノム・カウンターを1つ置く」

 

全てのモンスターに毒沼から飛ぶように現れた水色の小さな蛇が巻き付き、毒を注入した。

 

苦痛に声を上げるマジシャンズ・ヴァルキリア達、そしてアルカナフォース0-THE FOOLは巻き付いているヴェノム・カウンターを無言で撫でていた。

 

マジシャンズ・ヴァルキリア0→1

 

マジシャンズ・ヴァルキリア0→1

 

アルカナフォース0-THE FOOL0→1

 

「それにより、攻撃力500ポイントダウン」

 

マジシャンズ・ヴァルキリア

ATK1600→1100

 

マジシャンズ・ヴァルキリア

ATK1600→1100

 

「"アルカナフォース0-THE FOOL"の攻撃力は元から0のため、変動しない。よって"ヴェノム・スワンプ"で破壊されることはない」

 

ドクター・コレクター

モンスター2

魔法・罠0

手札3

 

 

 

「ドロー」

 

手札1→2

 

「"ヴェノム・スワンプ"の効果発動」

 

ヴェノムカウンターがマジシャンズ・ヴァルキリアを襲う。

 

マジシャンズ・ヴァルキリア1→2

ATK1100→600

 

マジシャンズ・ヴァルキリア1→2

ATK1100→600

 

アルカナフォース0-THE FOOL1→2

 

「ターンエンド」

 

リック

モンスター1

魔法・罠4

手札2

 

 

 

「私のターン…」

 

「スタンバイフェイズに永続罠、"聖なる輝き"発動。このカードがフィールド上に存在する限り、モンスターをセットする事はできない。また、モンスターをセットする場合は表側守備表示にしなければならない」

 

「くっ…」

 

こちらがヴェノム・スワンプに無理矢理掛けようとしている事を理解したのだろう。表情が歪んだ。

 

「ドロー! よし!」

 

手札3→4

 

ドローしたカードを見たドクター・コレクターは声を上げた。

 

「私は"大嵐"を発動! 魔法・罠カードゾーンのカード全てを破壊する!」

 

「 手札の"ヴェノム"と名のついたモンスターカード1枚を相手に見せて発動。俺は"ヴェノム・サーペント"を見せる。そしてカウンター罠、"蛇神の勅命"を発動。相手の魔法カードの発動と効果を無効にし、それを破壊する」

 

ヴェノム・サーペントが跳んでいき、大嵐を破壊した。

 

「ぐ…ならば…"マジシャンズ・ヴァルキリア"2体を生け贄に捧げ、"コスモクイーン"を守備表示で召喚…」

 

大きな冠を被り、ローブを纏った黒髪の女性モンスターが現れた。

 

コスモクイーン

星8/闇属性/魔法使い族/攻2900/守2450

宇宙に存在する、全ての星を統治しているという女王。

 

コスモクイーン

DEF2450

 

こりゃまたレアな。トライホーンの親戚だな。

 

「ターンエンド…」

 

最早、ヴェノム・スワンプを言う必要も無いだろう。

 

コスモクイーン0→1

ATK2900→2400

 

アルカナフォース0-THE FOOL2→3

 

ドクター・コレクター

モンスター1

魔法・罠0

手札2

 

 

 

「ドロー」

 

手札2→3

 

「俺はカードを2枚伏せターンエンド」

 

リック

モンスター1

魔法・罠5

手札1

 

コスモクイーン1→2

ATK2400→1900

 

アルカナフォース0-THE FOOL3→4

 

「ドロー…!」

 

手札2→3

 

「"次元の裂け目"発動! 墓地に送られるモンスターは…」

 

「手札の"ヴェノム・サーペント"を相手に見せ、"蛇神の勅命"発動」

 

「くそぉぉぉ!?」

 

「悔しいでしょうねぇ」

 

そりゃ、このデッキのコンセプトはじわじわ絞め殺すだからな。ククク…。

 

「ターンエンド…」

 

コスモクイーン2→3

ATK1900→1400

 

アルカナフォース0-THE FOOL4→5

 

フールはヴェノムカウンター5個を丸めて器用にお手玉を始めた。おい、ジェスター・ロードみたいだぞ。

 

ドクター・コレクター

モンスター1

魔法・罠0

手札2

 

 

 

「ドロー」

 

手札1→2

 

「ん? これは…」

 

俺はヴェノミナーガさんを見た。

 

『そろそろ詰ませましょうか』

 

「ククク…そうですね…」

 

「何と話している…?」

 

「俺の神様」

 

「神だと…?」

 

「見せてやるよ。神をさぁ…」

 

『いえーい!』

 

「俺は魔法カード、"命削りの宝札"を発動。手札が5枚になるようにドロー。このカードが発動してから5ターン目のスタンバイフェイズ時、自分の手札を全て捨てる」

 

手札1→5

 

「手札から"スネーク・レイン"を発動。手札を1枚捨て、デッキから爬虫類族モンスターを4体墓地へ送る」

 

これで5体…。

 

「罠カード発動。"リビングデッドの呼び声"。墓地の"毒蛇王ヴェノミノン"を特殊召喚」

 

赤紫色の毒の中から全身から蛇の生えた男のようなモンスターが現れた。

 

毒蛇王ヴェノミノン

星8/闇属性/爬虫類族/攻 0/守 0

このカードはこのカード以外の効果モンスターの効果では特殊召喚できない。このカードの攻撃力は、自分の墓地の爬虫類族モンスターの数×500ポイントアップする。このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り"ヴェノム・スワンプ"の効果を受けない。このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、このカード以外の自分の墓地の爬虫類族モンスター1体をゲームから除外する事で、このカードを特殊召喚する。

 

毒蛇王ヴェノミノン

ATK0

 

「攻撃力0だと…」

 

「もちろん、効果がある。"毒蛇王ヴェノミノン"は墓地の爬虫類族モンスター1体につき、500ポイント上昇する。墓地の爬虫類族モンスターは4体。つまりは2000ポイント」

 

毒蛇王ヴェノミノン

ATK0→2000

 

「だが、コスモクイーンの守備力2450には届かん!」

 

「そうだな。カードを2枚伏せてターンエンド。ちなみに"毒蛇王ヴェノミノン"は"ヴェノム・スワンプ"の効果を受けない」

 

コスモクイーン3→4

ATK1400→900

 

アルカナフォース0-THE FOOL5→6

 

リック

モンスター2

魔法・罠6

手札1

 

 

 

「ドロー!」

 

手札2→3

 

引いた瞬間、再び目が輝きを取り戻した。

 

「神を見せると言ったわりには大したことはないな! 私は"次元の裂け目"を発動!」

 

「罠カード発動。"毒蛇の供物"。自分フィールド上の爬虫類族モンスター1体と相手フィールド上のカード2枚を選択して破壊する」

 

「なん…だと…」

 

「"毒蛇王ヴェノミノン"、"コスモクイーン"、"次元の裂け目"を選択。沈め…」

 

毒蛇王ヴェノミノンとコスモクイーンと次元の裂け目が、ヴェノム・スワンプの毒沼から生えた大量の蛇のような黒い触手に巻き付かれ、溺れるように飲み込まれて行った。

 

ただ、ヴェノミノンはそれに歓喜するように高笑いの声を上げており、そのまま沈んで行った。

 

「な、なんだというのだ…」

 

異様な事態に動揺するドクター・コレクター。だが、これは始まりだ。

 

「罠カード…"蛇神降臨"」

 

毒沼の水面に波紋が拡がり、それに合わせるように建物の廃工場全体が揺れた。

 

それに耐えきれず廃工場内部の各地で外壁が崩れ、あらゆる古びた機材が吹き飛び、建物の倒壊が進んでいた。

 

「うぉぉ!?」

 

それにより天井が崩れ、巨大なトタンや、煙突や、コンクリート壁が俺らの真上に降ってきた。

 

だが、それらは降ってくる途中でヴェノム・スワンプから出た触手に掴まれ、外側に放り捨てられるため、チリ1つ落ちてくる事は無かった。

 

 

 

「"毒蛇神ヴェノミナーガ"……特殊召喚」

 

 

 

『ヒャッハー☆』

 

ヴェノミナーガさんは妙な声を上げながらヴェノム・スワンプから浮上した。

 

『ひっさ、びさの舞台だぜー!!!!』

 

毒蛇神ヴェノミナーガ

ATK0

 

ヴェノミナーガさんが出た頃には廃工場は半壊していた。

 

「自分フィールド上に表側表示で存在する。"毒蛇王ヴェノミノン"が破壊された時に発動できる。手札・デッキから"毒蛇神ヴェノミナーガ"1体を特殊召喚する」

 

原作効果って……素敵ね…。

 

「"毒蛇神ヴェノミナーガ"の攻撃力は"毒蛇王ヴェノミノン"と同じく墓地にある爬虫類族モンスター1体につき、500ポイントアップ」

 

毒蛇神ヴェノミナーガ

ATK0→2500

 

「ば、バカな……こんな…」

 

「なにもしないならターンエンドと見なすぞ? まあ、"次元の裂け目"を狙い続けた所から見て片方は"次元融合"。もう片方はモンスターを墓地へ送るカードか?」

 

それを指摘するとドクター・コレクターは手札を落とした。

 

それはやはり、次元融合と天使の施しだった。

 

「やはりか…芸が無いな。ってそのカードも俺のモノになるんだから汚すなよ」

 

アルカナフォース0-THE FOOL6→7

 

ドクター・コレクター

モンスター0

魔法・罠0

手札2

 

 

 

「ドロー」

 

手札1→2

 

「"強欲な壺"発動。カードを2枚ドロー」

 

手札1→3

 

「俺は"スネーク・レイン"を発動。効果はわかるな? これで手札から落としたカード含め、5枚また落ちた」

 

毒蛇神ヴェノミナーガ

ATK2500→5000

 

「ありえない……」

 

「まだまだ終わらないよ? "ソウル・チャージ"発動。自分の墓地のモンスターを任意の数特殊召喚できるが、この効果で特殊召喚したモンスターはそのターン攻撃できず、特殊召喚するモンスターの数×500ポイントのライフを払う必要がある。俺は"毒蛇王ヴェノミノン"3体を特殊召喚」

 

ビバ、アニメ効果。

 

毒沼から3体のヴェノミノンが浮上した。

 

毒蛇王ヴェノミノン

ATK3500

 

毒蛇王ヴェノミノン

ATK3500

 

毒蛇王ヴェノミノン

ATK3500

 

リック

LP4000→2500

 

「これにより"毒蛇神ヴェノミナーガ"の攻撃力は3500にダウン」

 

毒蛇神ヴェノミナーガ

ATK5000→3500

 

「当たり前だが、"毒蛇神ヴェノミナーガ"は"ソウル・チャージ"で蘇生した"毒蛇王ヴェノミノン"と違い、問題なく攻撃出来る。アブソリュート・ヴェノム」

 

『アークエネミー! ウロボロス!』

 

ヴェノミナーガさんが手の口を開けるとその中から舌ではなく、細い1本の蛇が伸び、そのままドクター・コレクターを貫き、そのまま持ち上げて地面に叩き付けた。

 

ドクター・コレクター

LP4000→500

 

「な…なんだこれは…い、痛い…貫かれた痛みが…なぜ…」

 

ドクター・コレクターが俺を見る目は怯え切っていた。

 

そりゃ、最初から闇のデュエルだったからな。

 

「う……うぁぁぁ…!!」

 

そして、ドクター・コレクターはデュエルを放棄して、逃げ出そうとした。

 

『させるわけねぇです♪』

 

ヴェノミナーガさんがそう言うとヴェノム・スワンプから生えた蛇状の触手がドクター・コレクターの足を掴み、無理矢理デュエルの場に引き摺り戻した。

 

「放せ! 放せぇ!」

 

「ちなみにヴェノミナーガさんの効果は……って聞いてないか。なら俺のターン」

俺が手を上に掲げるとヴェノミナーガさんと、3体のヴェノミノンが全ての蛇を向けた。

 

「た、助けてくれ! 金なら好きなだけやる! カードもだ! なんだってする!どんなカードも入手する! だから…」

 

「俺はね。人には慈悲を向けるよ。"情けは人のためならず"が性分だし」

 

「なら……!」

 

「でもさぁ…」

 

俺はドクター・コレクターに笑いかけた。

 

 

 

「"生ゴミに情けを掛ける変態的な趣味はしてないんだよねぇ"!」

 

 

 

そして、俺は手を下ろした。

 

それと同時にヴェノミノンの蛇から発射された毒液の雨と、ヴェノミナーガさんの細い蛇がドクター・コレクターを襲った。

 

「ぐあぁぁぁぁぁ!!!!?」

 

ドクター・コレクター

LP500→0

 

 

 

 




ちなみにヴェノミナーガさんは格ゲーのキャラの性能で言うとユウキ=テルミとλ―11を足して10で掛けた程度の性能をしています。

ちなみにヴェノミナーガさんのデッキはロックヴェノムでした。作者の6つのヴェノミナーガさんのデッキの中で最もめんどくさいデッキです。

え? ドクター・コレクター? 生きてるんじゃないですか? 警察に突き出すとか言ってましたし(震え声)


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顔芸

私の初恋の漫画キャラはああっ女神さまっのヴェルダンディーです。回りの奴らに誰?と言われるのが寂しい今日この頃。

それはさておき追試が終了しました。やったぜ。




 

 

 

とあるカードショップの中古のカードの棚。

 

そこには中古ではあるがレアカードや、様々なカードがショーケースの中に並んでいた。

 

だが、そことは一切関係ない、店の隅のブース。

 

そこでは世間一般に雑魚などと称される中古のカードが山のように積み上げられていた。

 

普通は異様な光景だが、圧倒的にカードの供給量の多いこの世界では別段珍しくもない光景だ。

 

その最も下の方にとあるカードが1枚ある。

 

それは"砂の魔女"というカードだった。

 

さらにそのカードの山の陰に隠れるような場所に1体の精霊が体育座りしている。

 

そしてその精霊は"砂の魔女"のカードの精霊だった。

 

彼女はずっとここにいるわけではない。

 

彼女はかつてはペガサスが開催した王国や、海馬が開催したバトルシティでも使われていた経歴を持つ。

 

その頃の彼女は自分の使い手を探しながら転々とする充実した日々を送っていた。

 

だが、時代の流れというものは恐ろしい。

 

彼女より後に強力な効果や、攻撃力を持った彼女と次元が違うといっても差し支えないようなカードが次々と登場していったのだ。

 

少なくともそれらは効果を持たず、低い火力の上、融合モンスターである彼女を舞台から引き摺り下ろすには十分過ぎた。

 

彼女は雑魚や、クズカードといった烙印を押され、殆ど使われる事が無くなってしまったのだ。

 

そして、このカードショップに安値で売られて以来、数年間彼女はずっとこの店で、誰に必要とされる事もなくただそこにいる。

 

この店には彼女ほど強い力を持つ精霊は少なくともいない。だが、それに気づく者もいなかった。

 

彼女は全て諦め、嘗ての栄光を思い出しながら膝を抱え続けていた。

 

 

 

 

 

「おっ…!」

 

 

 

 

カードの山から掘り出した彼女のカードを掲げる少年を見るこの時までは。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

『………………』

 

何やらこちらをじーっと眺めてくる砂の魔女さん。

 

現在、炬燵で砂の魔女と向かい合う形になっている。

 

相変わらず口数が少ないせいで、ヴェノミナーガさんや、デス・ガーディウスとは違う意味で何考えてるかわからない。

 

まあ、とりあえず…。

 

『……!?』

 

実体化してる砂の魔女の帽子を取った。

 

「実体化してるなら室内でまで帽子被ってるんじゃない」

 

『…………はい…』

 

砂の魔女は黒衣の端を掴み、俯きながら頷いた。

 

うーん、もうちょっといい反応をしてくれるといいんだけどな。

 

ヴェノミナーガさんが言うには砂の魔女という精霊は本来、活発な性格のカードのハズらしい。

 

『……捨てないで…』

 

「捨てねえよ」

 

なぜ、そうなるし。というか君が抜けたら岩石族デッキが壊滅するわ。

 

…………テレビでも見るか…。

 

俺はリモコンのボタンを押した。

 

俺はそれを聞き流しながら手元に目を移した。

 

えーと…コスモクイーン、マジシャンズ・ヴァルキリア、マジシャンズ・ヴァルキリア、マジシャンズ・ヴァルキリア、黒魔導士クラ…。

 

《今日は天気予報を繰り上げてお送りします。昨日、世界的カード犯罪者"ドクター・コレクター"が、プロデュエリスト"リック・ベネット"にデュエルで敗北し、逮捕されたとの事です。"ドクター・コレクター"は罪を全面的に認め、内容についても詳しく話しているようですが、"私は善人になる…善人になるんだ…"等の内容の話を口々に繰り返しており、精神状態が不安定なようで》

 

「………………」

 

『ちなみにですが、いつも通り、プチマインド・クラッシュで精神をBANしたので私のデッキについては何も話さないでしょう。向こうのデュエルディスクはあのデュエルの事故で粉々に砕け散ってしまったのでデータを取るのも不可能です』

 

炬燵の中からヴェノミナーガさんがぬーっと生えてきて俺に絡み付いてきた。

 

その手にはスマホが握られており、視線もそこへ向いている。

 

事故ねえ……。

「真相は俺とヴェノミナーガさんだけか…」

 

『まあ、そうなりますね』

 

そんな話をしていると突然、ヴェノミナーガさんがガッツポーズをした。

 

『よし! やっと完成しましたルシフェル暗黒ハーレムSレジェパーティー! 見てくださいよ!』

 

ヴェノミナーガさんがやり遂げた顔でスマホをしているので、それを見た。

 

[堕天使長]ルシフェル スキルLV14

[富欲]マンモン スキルLV14

[死冥神]プルート スキルLV14

[炎獄爵]ベリアル スキルLV14

[嵐凶神]バアル スキルLV14

 

『ねっ? 凄いでしょう?』

 

「黙れ廃課金」

 

『重課金ゲーで課金するなとは酷なことをいいますねぇ…』

 

「だいたい、それならプルートじゃなくてベルフェゴールの方がよりそれっぽいだろ」

 

『だってプルートの方が強いんですもの』

俺はヴェノミナーガさんへ溜め息を付いた。

 

「あ」

 

そういえば父さんに聞きたいことがあったのでスマホの電話帳を開いた。

 

 

《あ》

ヴェノミナーガさん

エックスさん

オブライエン

《さ》

斎王 琢磨

《た》

ツァン・ディレ

父さん

《は》

フランツさん

藤原 雪乃

ペガサス会長

 

 

我ながら少ねぇ…まあ、歳が近い奴が4人いるだけマシっちゃマシか。

 

『少ないですねぇ…』

 

「友達の少なそうなヴェノミナーガさんだけには言われたくはない」

 

『私、精霊の友達とかの含めれば電話帳に1000はありますけど? ほら、この通り』

 

「なん…だと…?」

 

俺がヴェノミナーガさんとの戦闘力(友人数)の差に驚愕していると電話が掛かってきた。

 

宛先を見ると"ペガサス会長"と出ている。

 

「………………」

 

俺は手元の元デッキを見てからTVに目を移し、最後にヴェノミナーガさんを見た。

 

『だいたいそれで合ってるかと』

 

ですよねー。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うとペガサス会長の呼び出しは例の件ではなかった。

 

そして現在、なぜか……。

 

『ほら、見てくださいよマスター。ここからまだ微妙に奴隷の血と汗と涙の結晶が見えますよ』

 

「だいたい合ってるが、ピラミッドを妙な呼び方をするな」

 

エジプトにいた。

 

なんでもヴェノミナーガさんは数千年前のデュエルモンスターズの遺跡の場所を多数知っており、時々、それをペガサス会長に教えているらしい。

 

あの電話はヴェノミナーガさんの指定した場所をいくら掘っても出て来なかったので、その場所の再確認の電話だったのだ。

 

流石に発見チームまで組まれているのを無下に出来るわけも無いので、エジプトまで急行した。

 

…………遺跡自体に強力な人払いの結界が張ってあったせいでそこに剥き出しで出土しているのにも関わらず、誰も気づけないというシュールな事になっていたのは流石にビビったが…。

 

まあ、何だかんだで結界をヴェノミナーガさんが素手でぶち破ったため、見つかったから良いだろう。

 

そう言えば遺跡に潜るペガサス会長達を尻目にヴェノミナーガさんが"三邪…おっと! どんなカードの石板があるか楽しみですねぇ…"とか言っていたが最初のは俺の聞き間違いだろう。そう願いたい。

 

そして、今は帰宅中である。

 

といってもヴェノミナーガさん式帰宅法で直ぐに帰れるので寄り道だ。

 

『着きましたね』

 

おお、ここが……。

 

俺は現代の石造りの巨大な建造物を下から見上げた。

 

『童実野美術館で一時期開催されていた古代エジプト展のですね』

 

出来れば童実野美術館に展示されていた時に見たかったんだが、あの頃はまだデッキすら無い頃だったしなぁ…。それ以前に国が違ったし。

 

特に理由もないけど見たかったんだよな。

 

『行きましょー!』

 

そんなわけで入場料を払ってから中に進んでいった。

 

 

 

 

 

『ねぇねぇ今どんな気持ち? 未だにカード化されず石版に埋まってるってどんな気持ち? 私なんてマスターが出来ちゃったんですよ! 勝ち組ですよ! あはは! ははは……』

 

なんかヴェノミナーガさんが石版を叩きながら煽ってる…。

 

あそこまで心が荒むほど千~万年単位でマスターが出来なかったのかと思うと、憐れみの気持ちすら沸き上がってくるな……。

 

そんなことを考えながら回っているとヴェノミナーガさんが鉄扉の前で止まった。

 

そこには特別展示室というプレートが付いており、特に立ち入り禁止などは書かれていないが鍵が掛かっているようだった。

 

『ほうほう…』

 

ヴェノミナーガさんが顎に手を当ててから鉄扉の向こうへ消えていった。

 

直後、鍵がガチャリと空く音が聞こえた。

 

『マスター! ここ鍵開いてますよー! 』

 

驚きの白々しさ…。

 

しかし、あそこには確かブルーアイズの石版とかあったな…。

 

俺は少し、考えた。

 

 

アニメ知識からの好奇心>自制心

 

 

注意書とか無いし、偶々開いてたなら仕方ないね。

 

『私、マスターのそういうところ大好きです』

 

「よせや、褒めるなや」

 

俺は鉄扉の先に進んで行った。

 

 

 

 

「これがブルーアイズの…」

 

目の前にあるのは一際、巨大な石版だ。

 

威圧感というか、存在感があるな…。

 

写メりたいが流石にそれはダメだ。入り口に書いてあったし、中のそこら中に撮影禁止マークあるしな。

 

しかし、ずっと見ていると動き出しそうだ。

 

『うーん?』

 

なぜかヴェノミナーガさんが首を傾げているがそんなことはどうでもいいから暫く見ていよう。

 

フランダースのネロの気持ちが何と無くわかるなぁ…。

 

 

 

「誰かそこにいるのかい…?」

 

 

 

後ろから声を掛けられた。

 

だが、それ以上に俺は衝撃を受けた。

 

まさか……。

 

俺はゆっくりと振り返る。

 

 

 

「ああ、鍵が開いてたから入ってきちゃったのかな。ゴメンね。ここは立ち入り禁止なんだ」

 

 

 

俺はその人物を見た瞬間、電撃を受けたような感覚に陥った。

 

鞄からあるものを2つ取り出すとそれを手に持ち一直線にその人物へ駆け出す。

 

そして、それをその人物へ差し出した。

 

 

 

 

「サインください! マリクさん!」

 

「え? あ? い、いいよ?」

 

やったぜ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

マリクさんとは遊戯王における "顔芸"の開祖である。

 

アニメ版のバトルシティ編決勝戦・闇遊戯VS闇マリクにおける、そのインパクトのある"顔芸"の数々は多くの視聴者を魅了し、虜にしたという………。原作ではそれほど顔芸している訳ではないのだが、アニメ版ではやたらと感情の起伏が激しく、その域がもはや"顔芸"と呼ぶに相応しいものであった事から、いつしかこの名がつき、親しまれる様になったのだ。

 

そして、俺はTVの生中継を見ていたのだ! シリアスなシーンにも関わらずニヤニヤしながら時々声を漏らしている俺を何度父さんが心配したことか!

 

そして目の前にいるのは本人! これが興奮せずにいられるか!

 

もっともそんなことは一切顔に出さず、マリクさんと会話していた。

 

「ボクのファンだなんて珍しいね」

 

「そりゃ、もうデュエルキングなんて目じゃないですよ」

 

「ほ、本当に変わってるね」

 

まあ、あれはあれで……ATMとか、俺ルールとか、HA☆NA☆SE!!とかな。

 

「ところであの人は君の精霊かい?」

 

『うんー?』

 

マリクさんの視線の先には尚もブルーアイズの石版の前で唸っているヴェノミナーガさんがいた。

 

「ええ、見た目より…」

 

「へー、優しそうな精霊だね」

 

…………目腐ってませんか?

 

あ、この人もペガサス会長の仲間(デッキの中身)だったな。

 

「彼女はなにをしているんだい?」

 

「さあ? 俺にもさっぱり」

 

ヴェノミナーガさんの行動原理がわかったら苦労しないぜ…。

 

「ふーん…」

 

そう言うとマリクさんはヴェノミナーガさんに近付いて行った。

 

「何をしているんだい?」

 

『あら? あなたは見える人ですか』

 

マリクさんすげぇ…。

 

『いえ、ちょっとこの石版普通じゃない…というよりもおかしいと思って』

 

「なんだって?」

 

『これではまるで……』

 

ヴェノミナーガさんは言葉を区切ってからまた呟いた。

 

 

 

 

 

『恋する一人の娘の魂が、この中でずっと閉じ込められているように感じます』

 

 

 

 

 

キサラさん入ってるのバレてーら…流石はデュエルモンスターズの神様か。

 

「……!?」

 

『その上、閉じ込められているのにも関わらず出ようと足掻くわけでもなく静かに誰かを想い続けているようですね。全く……』

 

ヴェノミナーガさんは下らないと一別した。

 

『悲劇のヒロイン気取りですか…実に腹立たしい。こういうのを見てると虫酸が走るんですよ』

 

ヴェノミナーガさんは石版に向けて片腕を構え、そして厚いアクリル版を超えて石版の中に腕を突っ込んだ。

 

「なっ!?」

 

『そんな間接的な愛であなたの大切な人をいつまでも思っているぐらいなら……』

 

ヴェノミナーガさんが石版から腕を抜くと、青白く淡い光の球体が握られていた。

 

さらにそれを床に叩き付けるように投げた。

 

そして、ヴェノミナーガさんの両腕を黒紫色のオーラが包んだ。

 

『いい加減、その想いを直接本人に伝えなさい』

 

その刹那、床の上の光の球体がヴェノミナーガさんの腕から放たれた黒紫色のオーラに包まれ、爆発的に輝いた。

 

そして光が晴れるとそこには……。

 

『シリアスで救いの無いクソムービーよりも、激甘なラブストーリーの方が絶対、楽しいに決まってますもの!』

 

銀髪で青い瞳をした女性が、驚いた表情でヴェノミナーガさんを見上げながら床に座っていた。

 

そして、ヴェノミナーガさんは手の鼻先で器用に1枚のカードをくるくると回している。

 

そのカードには絵もテキストも何一つ描かれていなかった。色から察するに効果モンスターではあるようだ。

 

『名前は"青き眼の乙女"で良いですね』

 

カードの回転が止まると、微笑むキサラさんの絵と、カードテキストが浮き出た。

 

 

青き眼の乙女

チューナー

星1/光属性/魔法使い族/攻 0/守 0

このカードが攻撃対象に選択された時に発動できる。その攻撃を無効にし、このカードの表示形式を変更する。その後、自分の手札・デッキ・墓地から「青眼の白龍」1体を選んで特殊召喚できる。また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードがカードの効果の対象になった時に発動できる。自分の手札・デッキ・墓地から「青眼の白龍」1体を選んで特殊召喚する。「青き眼の乙女」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

『あなたの身体は70%人で30%カード精霊ってところにしておきましたので人と差し支えない生活が送れるでしょう』

 

「キミはいったい…」

 

ポツリとマリクさんが呟くと、ヴェノミナーガさんはマリクさんの方へと向き、ウィンクした。

 

『私はごく普通のデュエルモンスターズの神様ですよ。人間一人程度の生死ぐらい思いのままです』

 

俺はいつもは平常運転のヴェノミナーガさんに呆れていることが多いが、今回はヴェノミナーガさんの足元にいるキサラさんを見ながら小さくガッツポーズしていた。

 

 

 

 




昨日はスマブラ3DSの発売日!

と、言うわけで……。

スーパーファミコンとロマサガ2買ってきました。


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至高のカード

ついに来た……全てはこの1枚のカードを手に入れるためだ!


 

キサラさんのことをペガサス会長に話したところ。

 

"それなら今すぐに海馬ボーイに会いに行きましょう。連絡はしておきマース"

 

と、言われたのでエジプトからペガサス会長のジェット機で日本に戻り、現在はヘリでKC本社を目指していた。

 

ヘリの中は俺の向かいに下を向きながら小さくなっているキサラさん、その隣にやり遂げた顔でドス黒いオーラに包まれている3枚のカードを眺めているペガサス会長という構図である。

 

あの3枚のヴェノミナーガさんと同じぐらい禍々しいカードは何なんですかねぇ…。

 

しかし、カード化早いなあ。前にペガサス会長が使ってたバトルドレスみたいな奴を持ってきてたのか。

 

俺の絶妙な表情を受け取ったのかヴェノミナーガさんが話し掛けてきた。

 

『ちなみにあのカードですが、対破滅の光用の最終兵器ですよ』

 

破滅の光ねぇ…昔、ヴェノミナーガが言ってたが確か、全てを滅ぼさんとする巨大な悪意の塊みたいなもんだったかな。

 

それに立ち向かうのがヴェノミナーガさんみたいな優しい闇の力を持った連中なんだよな。こんな胡散臭い話を普通に信じられる自分にビックリだが…。

 

『あの3体を世に送り出せば、破滅の光に立ち向かえるほど強く、また自分にとって居心地の良い闇の心を持つ者を探すことでしょう。まあ、それまでに死者が出ないとも限りませんが、その辺はコラテラルダメージでしょう。何時破滅の光に襲われても良いように戦力を増やしておくべきですからね。ペガサスさんも了承済みです』

 

そうか…まあ、地球のためなら仕方ないな。俺が死ぬまではいつも通りの世界であって欲しいしな。

 

ん?

 

「遊戯さんとか、海馬社長とか、馬の骨とかに渡せばいいんじゃないのか?」

 

そう言うとヴェノミナーガさんは呆れたような表情になった。

 

『マスターは自分と最も仲の悪い人の使用済みの上履きを使いたいですか? カードとはいえ選ぶ権利ぐらいあると思いますよ』

 

……ああ、なるほど。使えるけど使われたくないわけか。

 

『ちなみにマスターはあのカード欲しいですか? マスターなら使いこなせるとは思いますよ』

 

「でも御高いんでしょう?」

 

『いえ、多分、ペガサスさんに言えば貰えますよ? ただ、あのカード達は個性が過ぎるので、日常生活に1枚につき私が1人増えるような状態になると思いますが…』

 

ちょっと想像した…………ウボァ。

 

「…………俺はヴェノミナーガさん一人で十分です…」

 

『ウフフ、それは嬉しい』

 

ヴェノミナーガさんは優しい口調とは裏腹に全力でガッツポーズしながらそう言った。

 

『ところでマスター。1つ気になる事がありませんか?』

 

「なにが?」

 

『それはもちろん…』

 

ヴェノミナーガさんは腰に手を当てると、俺の目の前に胸が来るように屈んだ。

 

『私のスリーサイズです!』

 

(ヒップ)どこだよ」

 

『冗談ですよ! 冗談! ……3割ぐらい』

 

ほぼ本気じゃねぇか。

 

『残りは乙女の淡い期待です!』

 

「………………」

 

『そんな回らない寿司屋の水槽の魚を見るような顔をしないで下さいよ!? こほん…ペガサスさんの事ですよ』

 

ペガサス会長の?

 

『その顔はやっぱり、興味アリですか』

 

ヴェノミナーガさんはカードを何枚か取り出した。

 

どれも大したカードではないがなんだろうか?

 

『これらはペガサスさんが、石版を見て造ったカードなんですよ』

 

へー。

 

『これを見て不思議に思いませんか?』

 

「はい?」

 

別になんの変鉄もないカードだ。不思議? はて?

『答えは色です』

 

色…………? ああ!

 

『そう、博物館でも見た通り、石版に色はついていません。エジプトなら砂岩単色ですね。にも関わらずペガサスさんはなぜ的確に精霊の色通りのカードを作ることが出来るのでしょうか?』

 

確かに……精霊には初めから色ついてるもんな。

 

『先に種を明かすと、ペガサスさんには精霊を見る能力は無くとも、精霊を描く能力があるということです。正にクリエーターの鏡ですね』

 

「なるほど…」

 

『まあ、私が言いたかった事は人が持つデュエルモンスターズに纏わる能力にも色々あるということですよ。例えばマスターは精霊の健在化と、破壊が特に得意ですよね?』

 

「ああ」

 

ヴェノミナーガさん曰く、俺が精霊のカードを所有しているだけで精霊は自分の力を一切使わずに具現化出来るらしい。

 

まあ、モウヤンのカレーを具現化して傷を癒したりも出来るけどな。

 

あ、どうでもいいけどモウヤンのカレーって相手か自分を選択して回復出来るんだぜ? マジでどうでもいいけどな。

 

『まあ、この世にはブルーアイズを宿している女性もいましたから今更驚く事でもありませんか』

 

ヴェノミナーガさんがチラリとキサラさんを見た。

 

俺もつられてそっちを見る。

 

キサラさんは顔を上げて俺とヴェノミナーガさんとの話を聞いていたようで、それがバレた事に気付いたのか身を震わせると慌てて視線を下に向けた。

 

…………なるほど…。

 

『マスター? 社長が惚れるのもわかるとか思いませんでした?』

 

「エスパーか」

 

『残念、女の勘です』

 

そっちも充分怖いと思うがな。

 

『ところでマスター?』

 

「ん?」

 

『いい加減、そのカードを見つめながらニヤニヤするの止めたらどうですか? キサラさん若干怖がってますよ?』

 

「だってお前…」

 

俺はずっと手元にあるカードを何度目かわからないがヴェノミナーガさんに見せた。

 

王家の神殿

永続魔法

このカードのコントローラーは、罠カードをセットしたターンでも発動できる。

また、自分のフィールド上のこのカードと「聖獣セルケト」を墓地へ送る事で、

手札・デッキ・融合デッキからモンスターカードを1枚選択し、特殊召喚できる。

 

圧倒的、王家の神殿である。

 

しかも、ただの王家の神殿ではない。

 

デッキケースで、デッキと状況に応じてデッキに入れるカードの仕切り板代わりにされていたセルケトを見たマリクさんから貰った王家の神殿である。

 

ぶっちゃけ、BMGよりよっぽどうれしい。

 

『…………ダメだこりゃ…』

 

そんなやり取りをしながらふと、窓の外を見ると遠くに独特な形をしたビルが見えてきた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

とあるビルの一室。そこで片手に持つ小型端末を見ながら表情を歪めている人物がいた。

 

「ペガサスめ…」

 

それはデュエルディスク技術を世に広め、自身もデュエリストである海馬 瀬人その人だった。

 

彼の視線は小型端末に送られてきたメールに注がれている。

 

その内容はこうだ。

 

"海馬ボーイにプレゼントがありマース。きっと気に入りマース"

 

要領を得ないどころの話ではない。一切の詳細が謎である。一応、下の方に直接届けるので指定の時間に本社ビルで待っていてほしいなどと書いてはあったが。

 

問題はそのプレゼントとやらの差出人がペガサスな事だ。

 

社と社で提携に限りなく近い状態だとしても、ペガサス自体に海馬社長が快く思うかと言えば微妙なところである。

 

そのペガサスからのサプライズプレゼント。素直に受け取る気になれないのは当たり前に近いだろう。

 

時刻は間も無く指定の時間。

 

するとデスクの上の固定電話に内線のサインが出たため、スイッチを押した。

 

『I2社のヘリが到着しました』

 

「通せ」

 

一言だけ呟き、電話を切った。

 

「つまらん内容なら承知しないぞ…」

 

そう呟くと社長は背もたれに体重を掛け、天井を見つめながらその時を待った。

 

そして凡そ5分ほどたち、入り口の扉が開いた。

 

が、誰も入ってこない。

 

代わりにバタバタと紐で上半身をぐるぐる巻きにされた小柄な人間が暴れるような音が響いた。

 

『たくっ…往生際が悪いってんですよ。大人しく愛しの彼に養われなさい!』

 

「こ、心の準…」

 

『知るかボケぇー! 女は度胸です! そもそもこの期に及んでもじもじしてるのがいけないんでしょうが! 中には彼しかいませんよ? さあ、入って私の教えた言葉を言いなさい!』

 

「あ、あんなの恥ずかしい…」

 

『ああん? その中途半端な胸にはいったい何が詰まってるんですか!? ああ、中途半端だから今まで中途半端な引き籠りだったんですね! 私納得!』

 

「ち、違っ…」

 

ドアの横の廊下で女性が二人言い争っているのが聞こえてきた。

 

片方が凄くうるさい、さらに下品である。

 

ペガサスはいったい何を持ち込んできたのだと頭が痛くなりそうな海馬社長だったが、その声の片方が妙に懐かしいという不思議な感情が涌き出ていた。

 

「や、止め…」

 

『むしろひん剥いてやりましょうか? 色仕掛けならイチコロですよ! ゲヘヘ…ボブァ!?』

 

『ゲヒャヒャヒャ!!』

 

かと思えば鈍い音と共に何かが吹き飛び壁に当たる音が聞こえた。

 

「きゃっ!?」

 

その弾みでか、部屋の中に体勢を崩した1人の女性が入り込み、部屋のほぼ中央で倒れこんだ。

 

海馬社長はその女性を見て目を見開いた。

 

それは白銀の髪に白魚のような肌をし、白い薄手の服にカーディガンを羽織り、青いスカートを履いた女性だった。

 

その女性が顔を上げると、深い青色の瞳が海馬社長を射ぬいた。

 

「な…!?」

 

「あ……」

 

互いの思考が完全に停止し、永遠とも言える一瞬の時間が流れた。

 

どこかの蛇神が壁にぶち当たっていなければ目と目が合う~などと歌い出しそうな光景である。

 

「わ…わた…私…」

 

先に動いたのは意外にも女性の方だった。

 

そして、一度呼吸を整え、しっかりと海馬社長を見据えた。

 

そして、頬を真っ赤に染めると目をぎゅっと瞑りながら口を開いた。

 

 

 

 

「わ、私がプレゼントです!!!!」

 

 

 

 

海馬社長がアテムにマインドクラッシュを受けた時のような衝撃を受けたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

生暖かい目で一部始終を見ていた俺とペガサス会長はドアを閉めると2人で歩き出した。

 

「そう言えばこの辺りには美味しい日本料理店がありマース。行きませんかリックボーイ?」

 

「賛成です」

 

俺は前が見えねぇ…とか言っているヴェノミナーガさんの手を引きながら童実野町へと足を進めた。

 

ビルの外に出た辺りでペガサス会長が口を開いた。

 

「それにしてもリックボーイ」

 

「はい?」

 

「本当に1枚も必要ないのですか? リックボーイらがこのカードたちの発見の最大の功労者デース」

 

ペガサス会長は懐から丸っこい図形だけが描かれたようなカードを取り出すと俺に向けてきた。

 

よりにもよってチョイスするか…。

 

というか、だいたいヴェノミナーガさんの手柄な気がするのだが…。

 

まあ、大発見だというのはわかる。

 

三幻神がアテムと共に古代エジプトに帰った今、破滅の光とやらに対抗する最終手段が1度に3つも見つかったのだからな。

 

邪神が最後の希望とは実に遊戯王らしいじゃないか。

 

「いりません。だってほら…」

 

『にょろーん!』

 

ペガサス会長には見えないだろうが、現在俺に絡み付いているヴェノミナーガさんを見つめながら言った。

 

「俺の神様はコイツだけですから」

 

「そうですか…」

 

「でしたら何かカードを1枚贈呈しましょう! 何でも構いまセーン!」

 

そう言ってペガサス会長は両手を広げ、俺に向けた。

 

ん? 今、何でも構わないって言ったよね?

 

ってことは……アレでも良いってことか…?

 

『何ですかその顔? 何か欲しいカードでもあるんですか?』

 

ひとつある。間違いなくペガサス会長にしか出来ない頼みで、唯一のカードが。

 

初めて見て、度肝を抜かれたもんだ。

 

まさか、まだ残ってるとはな…ダメ元で聞いてみるか…。

 

『………………まさか…』

 

ヴェノミナーガさんは俺の欲しているカードに気がついたのか表情を引き攣らせた。

 

「なら……」

 

俺はしっかりとペガサス会長の目を見つめながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「"ラーの翼神竜"のコピーカードをください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




研究用に唯一残るラーの翼神竜のコピーカード。つまり、ヲー。※GX85話参照

ぶっちゃけ、大会を経てI2社をスポンサーにした理由はこのカードが欲しかったからだったりします。

しかし、このカードの凄まじいところはラーの翼神竜のコピーカードだからというわけではありません。このヲーじゃなきゃ、ダメなんです。

古代神官文字を唱える必要もなく、ゴッドフェニックスモードは全体効果。墓地から特殊召喚された時ではなく、普通に効果を発動出来るというまさかの本家の完全上位交換のヲー。コピーってどういう意味なんでしょう? ホムンクルスかな?

ぶっちゃけ本物の方が遥かに弱ry)。


『俺の神様はコイツだけですから(神様のコピーカードを使わないとは言っていない)』



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㌔㍉コン

 

 

朝。

 

「ん……」

 

女性のか細い声が響き、ベッドから緑のパジャマとファンシーな緑に白の水玉の帽子を被った女性がむくりと起き上がった。

 

彼女の名は"砂の魔女"、昔懐かしい効果の無い融合モンスターの精霊である。

 

時計を見ると6時前。まだまだ早朝に当たるが彼女は2度ほど目を擦ってからベッドから立ち上がった。

 

彼の引きの力と彼女の精霊の力を持ってしてもガチと言えない性能の彼女にとって、家の家事などを引き受ける事が最近のアイデンティティーになっているのである。

 

要はシャッターを開けたり、朝食を作ったり、掃除したりするために起きるのだ。

 

「んっ……」

 

彼女は朝は強い方ではないが自分を使ってくれる彼を想えばこれぐらいまさに朝飯前である。

 

彼女は部屋から立ち去ろうとするが、ドアに手を掛けたところで足を止め、枕元に戻るとそこに置いてある銀のロケットを首に掛けた。

 

さらにロケットを開くとそこには珍しく純粋な笑顔を浮かべている彼と、縮こまりながらも彼にピッタリとくっついている彼女が写っていた。いろんな意味で珍しい写真である。

 

それを見た彼女は微笑みを浮かべると言葉を吐いた。

 

「おはようございます。リックさま」

 

本人に面と向かって言えない彼女の最大限の努力であろう。

 

それを終えると今度こそドアを開け、下へ降りていった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「なっはっはっはー! びゃーはっはっはっはー!」

 

階段を降りる途中で幼げで、下品な笑い声が聞こえてきた。

 

それを聞き流しながらドアを開けると、炬燵の上の辺りにランプでも置いてあるのかピカピカと輝いているようだ。

 

彼女が炬燵に近づくとそこには下らないバラエティー番組で爆笑している幼女が炬燵の天板の上に胡座をかいて乗っていた。

 

容姿は長い銀髪に金の瞳に褐色の肌をし、際どい水着並みの露出度の服を着た少女……いや幼女だ。

 

信じがたい話だがこの幼女が彼が欲したラーのコピーカードなのである。

 

よく見れば眼の赤い隼の頭のような金の被り物や、所々の金の装飾品により一応、ラーなのだと確認できる。

 

ちなみにこんなになっているわけだが、実に単純だ。

 

オシリスの天空竜ですら社長ビルに巻き付ける大きさだというのにそれに準じる大きさの精霊であるラーが家に入れるわけも無かったからである。

 

初めのうちの1週間ぐらいは家の上に浮いていたりしたのだが、冬場の外でリビングの窓からいろんな意味で暖かそうな団欒を眺め続けるという拷問に神のパチモンの彼女は堪え切れなかったらしい。

泣きながらあたしも入れてー!と人の姿になってドアを叩いて以来今に至るのだ。

 

現在のラーは冬場の暖房器具兼抱き枕として活躍している。少々眩しいのと犯罪臭がするのがたまに傷だが。

 

彼女はラーの後ろに立つと馴れた手付きで持ち上げ、一言呟いた。

 

「乗っちゃ…めっ…」

 

「なう!?」

 

持ち上げられたラーは声を上げたが、そのまま座布団の上に置かれた。

 

彼女が次にリビングのシャッターを開けていると後ろから抗議の声が上がった。

 

「なんだ! 少しばかりあたしより胸と身長が大きいからって調子にノリおって!」

 

少しとは偉大な言葉である。例え、月とスッポンであろうがワイトと青眼の白龍であろうが人の捉え方によっては少しに収まるからだ。

 

片や無口系グラマラスお姉さん。

 

片や光源系褐色ロリ。

 

カードの世界でも現実は非情なのだろう。

 

彼女は振り向くと中腰になり、ラーと目線を合わせながら頭に手を置いた。

 

「よし…よし…」

 

「撫でるな!」

 

彼女はラーの頭を子供をあやすように優しく、丁寧に撫で始めた。

 

「ラーちゃん良い子…私より偉い…可愛い…綺麗…」

 

それを聞いたラーの表情は真剣なものになり、彼女へ問い掛けを始めた。

 

「ほんとうか?」

 

「うん…」

 

「ほんとうにほんとうか?」

 

「うん…」

 

そういいながらもラーなでなでするのを止めない彼女。

 

ラーも止めない辺り、照れくさいだけで嫌では無いのだろう。

 

「そうかならばよい…むぅ、なんであろう…この違和感は…」

 

「朝ご飯は何がいい…?」

 

そう彼女が言うとラーはしいたけみたいな目になり元気に叫んだ。

 

「目玉焼きがいいのだ!」

 

黄金の装飾品とか付けており、全身金ピカのわりに実に金の掛からない神のカードである。

 

『マスター、おはようのキスをー』

 

「まずお前の正しい口はいったいどこだ?」

 

『ゲッゲッゲッ……』

 

そんな光景を繰り広げているとリビングのドアが開き、1人の青年とそれに絡み付く1体の精霊とその後ろに頭だけ地面から出して追従する精霊が入ってきた。

 

だが、1つかなり変わった事がある。

 

それは彼女らのマスターである青年…リック・べネット。そう青年だ。

 

彼の見た目の年齢は既に青年と呼べる程まで成長していたのだ。

 

それはラーがメンバーに加わってから3年程の月日が流れた事に他ならない。

 

彼に向かって一目散に向かうラーを見ながら彼女も彼の元へ移動して行った。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うとペガサス会長からラーの翼神竜を貰えました。

 

やったぜ。

 

だだ、ひとつ問題があった。

 

それはコピーカードは犯罪だということである。

 

まあ、カードの末端価格考えたら妥当なところだろう。

 

信じられるか? この世界の南米とかではコカインじゃなくてレアカード密造してるんだぜ?

 

まあ、そっちの方が全然稼げるって事なんだよな…。

 

麻薬の王<<(越えられない壁)<<レアカード

 

この世界もうダメかもわからんね。

 

だが、何事にも例外というものはある。

 

それというのも研究用のラーのコピーカードと言うのは殆ど肩書きだけだったからだ。

 

何せ使い手がいなかったらしい。

 

一応、制御が可能になる神縛りの塚なるものが生み出されたらしいが、神縛りの塚が切れた瞬間にいつもの4割増しぐらいの天罰を喰らうので誰もやりたがらなかったのだとか。

 

そんな時、自前の神のカードを普通に使っている少年がそんな問題児を引き取りたいと来たわけだ。

 

向こうとしても願ったり叶ったりだったのだろう。

 

まあ、要するに俺はI2社での三幻神のカードの研究という大義名分を盾に公式で普通にラーのコピーカードを使っているという認識で構わない。

 

実際、研究は捗ってるらしいから間違っては無いしな。うんうん。

 

ただ、古代神官文字の読み上げとかがあった気がするのだが、家のヲーさんは寛大にも必要ないようだ。

 

まあ……ひとつ問題があるとすれば…。

 

「おはよう(あるじ)! いい朝だな!」

 

「おう」

 

ラーがロリったことである。

 

ロリるという単語を初めて実用出来た瞬間だったりするが度肝を抜かれていたため、特に感動なんて無かった。無かったんや。

 

なんだが凄く石を防衛できそうなラーだがそれは放って置こう。

 

どうでもいいがヴェノミナーガさん曰く、本物だと金髪赤目でグラマラスな褐色お姉さんになるらしい…………ちょっと見たい気もする。

 

『㌔㍉コン』

 

「黙れ年増」

 

『スタァァァップ!』

 

最近、ヴェノミナーガさんに悪口を言えるぐらい慣れたと思う。悲しき成長である。

 

『ぐすん…だから身を固めようとしてるのに……ヒドイです』

 

歳の話はスンナってか? ><こんな目しやがって…。

 

………………だめだコイツ…暴言すらネタに変えやがる…早急にこの前注文した対精霊用アイテムの到着が待たれる。

 

……そう言えばヴェノミナーガさんはリアル独神か。ふっ…。

 

『マスター? なんかスゴく酷いこと考えた上で鼻で笑いませんでした?』

 

ヴェノミナーガさんは放置してそろそろ俺の最近の話をしよう。

 

中卒はヤバイので一応、デュエルアカデミア本校(なんでも父さん曰く、空気と水と飯が一番ウマイらしい)に席は置いている。

 

高等部からの編入なのだが今のところ1日も学校に行けていない。酷い不良もいたもんである。

 

真面目に話すとプロデュエリストが無駄に多忙なのがいけない。

 

特に季節の変わり目は何かしらのカップやイベントが開催されることが多く、かなりの確率で上位、或いは人気のプロデュエリストが強制参加させられるのである。

特に新たなプロデュエリストの参入が特に期待できる春……もとい今の時季は最も酷い。

 

まあ、それを語るならまずプロデュエリスト……もとい世界ランカーの仕組みから話そう。

 

プロデュエリストと呼ばれているが、これ自体の呼称は別に正式なモノではない。

 

プロデュエリストといっても1度でもアマチュアのプロで戦った事しかない者の事もプロデュエリストと言えなくもないし、逆にDDのような奴をプロデュエリストと言っておくのも過小評価な気もするし、アカデミアで最優秀だが新米でまだプロでのデュエル経験の無い者もスポンサー付きの者をプロデュエリストと言うこともある。

 

つまりは幅が非常にデカイのだ。

 

正式には俺やエックスさんのように世界で1~100番の番号が与えられている者をプロランカー。101~50000の番号が与えられているものをランカーと言うのだ。

 

ランカーは自分よりある程度上の相手にデュエルを仕掛けれるため、日夜激戦が繰り広げられている。ちなみに下に仕掛けるのは原則ダメである。

 

勝てば昇格、負ければ降格と実にわかりやすい。

 

そのため、目まぐるしいほどランカーの順位は日々変動する。ぶっちゃけ変動し過ぎてランカーの順位なんて実力を測る物差しになり得ない。

 

それに比べてプロランカーの方は順位が安定しているので順位=実力と考えても大概の場合は問題ない……例外も何人かいるがな。

 

つまりランカーとは挑戦者、プロランカーとは挑戦者にとっての最大のボスだ。

 

ちなみに勝てば番号がなり変われるのはランカーまでの話でプロランカーの順位が変動することはプロランカー同士で順位を掛けての対戦や、ランカーで規定数の連続勝利を上げた者がプロランカーに勝負を申し込み勝つ場合、 引退する場合などぐらいしか無いためあまり劇的な変動は見せないし、ランカーと違いプロランカーは中々消えないのだ。

 

まあ……例えば推しプロがランカーのように1週間で居なくなったらファンもガッカリだろう。グッズもスポンサーからすれば立派な収益だしな。

 

そのため、プロランカーになってからも相当酷い負けの連続でもしない限りは半年~1年ぐらいはプロランカーにいられるようになっているのである。

 

まあ、スポンサーに切られた場合はその限りではないがな。

 

ん? 俺のグッズ? スポンサーがI2社だから作る必要もないでしょ。というか誰が買いたがるんだ誰が……多少、作られていると聞いたこともあるが例えば自分の顔写真に値札付いたりしている光景を見たくはないので詳しくは知らん。

 

ちなみにプロリーグと言うのは精々、1000番ぐらいまでの人間が参加するものを指す。確固たる実力者100名に、多くは実力不明の900名。賭け事とは勝敗が不鮮明なほど多くの金が動くわけで挑戦者の実力が定まらないのならこれほど理想的な博打環境は無いだろう。

 

数多のプロデュエリストを生み出したプロリーグは同時に世界最大の博打場なのだ。

 

結局、プロも金だ。金、金、金、金。世界を回すのはカードではなく金だ。カードはその手段でしかない。

 

結果、勝てん馬はいらんと言うわけだ。クフフ……競走馬と違いプロを目指すデュエリストは掃いて棄てるほどいる分、馬の方がまだマシな待遇かもな。

 

俺が未だにプロランカーで4位という場所に拘る理由は希望に満ちた輩を俺がデュエルで潰し、そしてプロの現実を目の当たりにし、光を失い勝手に潰れて行く姿を眺めるのが堪らなく好きだからだ。それ以上に行けばルーキーがあまり挑戦して来なくなるからな。1位や2位なんかは強そうだが、銅メダルすら貰えない4位ならまだひと欠片ぐらいは勝てそうな気がするだろう?

 

とまあ、そこまで説明したところでこの春先にいつも行われるイベントがあるのだ。

 

それは単純に説明すると……この時季に入ったまだランカーとしての経験は少ないが、人気のあるランカーがプロランカーを自由に指定してデュエル出来るという非常に太っ腹で視聴率とお金も稼げる風物詩的なイベントである。

 

無論、公式戦ではあるが新米ランカーからすれば負けて当たり前の試合であり、雲の上のデュエリストに負けたからといって何が減るわけでもない。イベントだし。

 

だが、こっちの大多数のプロランカーからすれば堪ったモノではない。

 

向こうにとっては腕試しでも、こっちからすれば敗北でもしたら最悪スポンサーに切られる可能性だってあるのだ。

 

新参のランカーからすればそれに呼ばれることは誉れであるがな。

 

俺とかエックスさんなどの長年同じランクに居座り続ける者からすれば最早、生け贄だ。

 

なんというか……大衆というものは大判狂わせ(ジャイアント・キリング)を望むものだ。

 

例えば今のところ数年ぶっ続けで全勝中のDD。未だ不戦敗以外全勝の俺、ほぼ初見不敗神話を築いているエックスさん。

 

上からランク1位、4位、5位に留まり続ける怪物たち。

 

こいつらをまだプロデュエリストとして産毛が生えた連中が倒せたらどれだけ爽快か、そして倍率的な事で儲けられるか。そんな淡い夢を抱いて金を注ぎ込む愚…人達は非常に多い。

 

まあ、そんなもの奇跡の親戚に過ぎんとばかりに一切の躊躇も情けも無くルーキーを踏み潰すのが俺らの仕事である。

 

上位ランカーは勝ち続ける事が仕事。新参は1勝することが仕事。

 

まさに魔王と勇者の関係だな。

 

まあ、スポンサー企業を自前で付けてやってる他のプロデュエリストと違って余計な宣伝や広告を一切する必要がないのでこれでも楽な方なんだろうけどな。I2社様様だ。

 

問題はそのイベント中の対戦数が俺だけ異様に多い事である。

 

何故か知らんが俺は対戦相手として新米ランカーに大人気らしく、応募用紙の第1~第3希望までのどこかにほぼ必ず名前があるらしい。

 

よってイベント中に対戦する数はいつもの10倍近くに跳ね上がるのだ。

 

そのせいでイベント終了まで全く、スケジュールが空かなかった。

 

無論、4月を越えても学校に行けるハズもないため、ツァンちゃんにネチネチ、ネチネチと言われたりしているのである。

 

うん…なんでも彼女。その昔、デュエルアカデミア本校に俺が入学するって言ったせいで中等部から入学したらしい。天然だ…。

 

………………俺は一言も中等部に入るとは言っていないのだが…まあ、高等部から編入するとも言ってないがな。

 

それを電話で話した時に彼女は既に試験合格後だったらしく…せ、責任取りなさいよ!? とか言っていた。

 

責任……まさか…学費!? と肝を冷やしたが特に請求したりしてくることは無かった。やっぱり普通に良い娘である。

 

昨日やっとクソイベントも終わり、自宅で一息付いているのである。

 

まあ、今日明日中にデュエルアカデミア本校に向かうがな。

 

そんなことを考えつつ、スリスリ寄ってくるラーを昔飼っていた小鳥みたいだと懐かしみ撫でていると奇っ怪で中毒性のありそうなひと昔前のエロゲの曲が鳴り響いた。

 

音源を目で辿るとどこからともなくスマホを取り出したヴェノミナーガさんにその場の全員の目が注がれている。

 

『あ、どうもヴェノミナーガです』

 

どうやら知り合いからの電話のようだ。どう見てもバケモンのヴェノミナーガさんが普通に電話に応対しているというシュールな光景が目の前で繰り広げられている。

 

『え? はい、今一緒にいますよ。代わりましょうか?』

 

なんだ? 俺とかにでも用の電話か?

 

そう思いふと自分のスマホを取り出すと数分前に父さんからの不在着信が入っていた。

 

あ、サイレントにしっぱなしだったか。

 

『あ、はい。ではそう伝えておきますね』

 

俺が少しいたたまれない気持ちになっているとヴェノミナーガさんの通話が丁度、終わったようだ。

 

『お父様からでしたよ』

 

「そうか、要件は?」

 

『えーと……』

 

ヴェノミナーガさんは指ではなく蛇を立てながら呟いた。

 

『全校生徒の前でとあるオシリスレッドの生徒2名相手にデュエルしてくれると嬉しい、だそうです』

 

「ほう…」

 

その言葉を聞き入れた俺はデッキケースから5つのデッキを取り出した。

 

デッキの表のカードはそれぞれ、ハングリーバーガー、毒蛇神ヴェノミナーガ、仮面魔獣デスガーディウス、砂の魔女、竜騎士ブラック・マジシャン・ガールである。

 

デュエルでしかも父さんの頼みと聞いてはデュエルアカデミアだろうと、地球の反対側だろうと、精霊界だろうと行かなければならないな。

 

だとすればどのデッキを使うか……。

 

よし!

 

俺は真っ先にヴェノミナーガさんのデッキをケースにしまった。

 

『ちょ…!? そんな躊躇もなく!?』

 

そんなこんなで俺の高校生活が幕を開けようとしていた。

 

 

 




注意:この小説のラーはラーではなく、ラーのコピーなのでヲーいや、それどころかフーちゃんぐらいの精霊です。

ラーちゃんの画像見たい人は"LOV3 ラー"って検索すれば幸せになるんじゃないかな? きっとロリコンなら歓喜する。


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デュエルアカデミア 1年
上陸


どうもちゅーに菌or病魔です。最近ポケモンORASの厳選にハマる今日この頃。

誰か私に6Vメタモンを下さい(威圧)。

色違いメタモンなんていらないんですよ…。


日が傾き始めた頃。

 

俺は船着き場の船に紐を括り付けるゴルフのヘッドみたいな奴に座っていた。

 

本来、お昼頃にここへ来る予定だったのだが少々嬉しい誤算があったからだ。

 

なんとヴェノミナーガさんの次元断ルーラにここが登録されてたのである。

 

そのため、諸々を経由した上で連絡船やらヘリやらで来る必要などが無くなったのだ。浮いた時間で島の散策でもするとしよう。

 

「それにしてもヴェノミナーガさんはここに来たことがあるんですね」

 

『ほにゃ? ありませんよ?』

 

え……?

 

『ほら、私が前に憑依した人いるでしょう?』

 

ああ、藤原 雪乃ね…そういやアイツもここに入学してるんだっけか。

 

たまにメール寄越してくるんだよな。自撮りの写メとか。

 

『彼女の中に私の欠片が残っているので彼女が来た場所にも行けるんです!』

 

そうヴェノミナーガさんは誇らしげに言った。

 

変なところでボス補整みたいなの使うの止めてくれませんかねぇ…。まあ、使わせて貰ってる手前口には出さないが。

 

『お、第一村人発見ですよ!』

 

ヴェノミナーガさんの指した方向を見ると灯台の近くでオシリスレッドの赤い服を着た生徒が波消しブロックの上で何かしているのが見えた。

 

ふむ…折角だしデュエルアカデミア本館の場所でも聴くか。

 

『でも個人的には私の移動より、ボードに乗ってイヤッッホォォォオオォオウ!とか言いながらカーゴボブから飛び降りたら楽しかったと思いますよ?』

 

「誰がやるんだそんなアホなこと…」

 

そう言えば最近、エド・フェニックスとかいう名前の新人ランカーの後輩が出来たんだ。

 

俺の友人に占い師がいてソイツの友人のプロ入りを手伝ってほしいとのことで企業や審査会等に色々と……まあ、色々と手を回し、こっち(アメリカ)にあるS〇NYと大口契約を結んだ新たな人気ランカーが誕生したのである。

 

ちなみにその占い師なのだが、俺の未来だけは全く見えないらしい。

 

俺からするとペテン師か何かに見えんでもないが他者からの評判が良いことと妹が可愛いから多分本物なんだろう。うん。

 

なぜか未来が見えない俺を偉く気に入ったらしく、それから交流があるのだ。

 

まあ、ヴェノミナーガさんはあまりエドの事を気に入ってないらしく…。

 

"ただの独り善がりの早孰餓鬼(マセガキ)ですよ。全て自分の良いように思い込んでいるだけで現実も真実もそして隣人すら何もわかっていない。さながらピエロですよ、ウヒョヒョヒョ!"

 

と散々な評価である。 まあ、ヴェノミナーガさんは腐っても神様だし何か見えているんだろうな。

 

そんなことをしている内に数百m移動し、生徒の後ろへ移動した。

 

「おーい! 翔ー! どこだー!」

 

しかし、その少年は波消しブロックの隙間に声を張り上げることに夢中でこちらに気が付いていないようだ。

 

翔とはフナムシか何かなのだろうか? と思いながら光景をどうしたものかと見ているとオシリスレッドの生徒がふと振り向き、俺と目線を交えた。

 

「へ…?」

 

だが、生徒は間の抜けたような声を上げ、目線をさらに俺の斜め上へと移動させる。

 

そして指を指しながら歯をガチガチと鳴らしながら目を見開いた。

 

「な、な、な…………」

 

そして次の瞬間…。

 

「なんじゃこりゃあぁぁ!!!?」

 

絶叫が木霊した。

 

『ほへー、見える人ですねー』

 

「そうだな」

 

それを聞き流しながら感心したような言葉を吐くヴェノミナーガさんと、それに条件反射のような素っ気ない相槌を打つ俺。

 

最近、極稀に起こるこの反応に慣れてきた自分が悲しい。

 

『慣れていくのね…自分でもわかる…』

 

軟弱者!!

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「いやー、スマン! お前の精霊だったんだな!」

 

「気にするな。よく言われる」

 

オシリスレッドの生徒……もとい遊城 十代は頭を掻きながらそう言ってきた。

 

今のところ目に見える範囲で憑いている精霊はハネクリボーのようだが……デュエルディスクに付いているデッキを見る限り数だけで言えば俺より多そうだ。

 

そうだな…アニメはDM以外見ていない俺でもわかる。

 

コイツ……主人公だな。

 

名前に遊が入ってるし、既にうろ覚えだがCMなどで顔はみたような気がする。

 

やったぜ。これでコイツの周りにいればどんな闇の~とか、デュエリスト集団の~とか、破滅の光の~とかの生命に関わる問題が起ころうと最終的には助かるのが約束されたようなもんだ。

 

そんなことを考えているとハネクリボーを抱きながら撫でているヴェノミナーガさんが目に入った。

 

何だかんだ言ってもデュエルモンスターズの神様の一柱なんだな。他の弱いモンスターには優し…。

 

『おー、中々上物の毛玉ですねー』

 

『クリクリ~♪』

 

前言撤回。クリちゃんアカン、ソイツお前をカシミアのセーターとかを見るのと同じ目で見てるぞ…。

 

「うおっ!?」

 

俺は突如、後ろへ軽く20m程ジャンプし、遊城から距離を取った。

 

ははは、無駄な身体能力の高さに驚いてるな。でも闇のデュエリストならこれぐらい最低限度の標準装備だぞ? 身体強くなけりゃあんなデュエルやってられん。

 

「スゲー…何食ったらそんなの出来るんだ?」

 

「煮干し…?」

 

あれ美味いよね。安いし。でも1日にあんまりボリボリ食べてると砂の魔女が"食べ過ぎはめっ…"って言って袋取り上げて来るんだよな…解せぬ。

 

「それなら俺にも出来そうだぜ」

 

「まあ、なんだ…折角だしここはひとつ…」

 

俺はデュエルディスクを開いた。

 

いつも思うが俺のデュエルディスクは開くと言うより、伸ばすが正しいよな。

 

「デュエルでもどうだ?」

 

『いや、なんでそうなるんですか』

 

ふわふわ浮いているヴェノミナーガさんがそんなことを言ってきた。

 

何を言っている。ポケモントレーナー同士の目線が交差するとバトルになるのと同じように、デュエリスト同士が出会ったらデュエルになるのはこの世の真理だろう。

 

『いや、そのりくつはおかしい』

 

良いんだよ。ポケモントレーナーと違ってもう自己紹介は済ませたし、勝っても金は巻き上げないし、動物愛護団体が出て来そうなこともしてないしな。

 

『あの子が了承しないで…』

 

「おう! いいぜ!」

 

遊城は即答でデュエルディスクを展開した。

 

『ちょ…』

 

ヴェノミナーガさんを無視し、俺はその言葉を吐いた。

 

「「デュエル!」」

 

リック・ベネット

LP4000

 

遊城 十代

LP4000

 

 

「へへへ、先攻は貰うぜ!」

 

マジかよぉ。

 

「ドロー!」

 

手札5→6

 

「俺は"E・HERO フェザーマン"を召喚!」

 

E・HERO フェザーマン

星3/風属性/戦士族/攻1000/守1000

風を操り空を舞う翼をもったE・HERO。天空からの一撃、フェザーブレイクで悪を裁く。

 

フェザーブレイクで裁ける悪は少ないため、E・HEROらしく融合するのが基本となる緑色の翼男が召喚された。

 

E・HERO フェザーマン

ATK1000

 

ああ、E・HEROデッキか…まあ、この世界の人間なら引きの強さだけで回せるんだろうな。俺も言えたものではないが。

 

「ターンエンドだ!」

 

遊城 十代

手札5

モンスター1

魔法・罠0

 

 

『はぁ…』

 

世界最高ランクのデュエリストでもあるヴェノミナーガさんが溜め息を付いていた。

 

まあ、この世界ではそう珍しくもないプレイングなのだが……どうもデュエリストの皆さんは事故ってもないのに1ターン目にモンスター1体を攻撃表示で素出ししてそのままターンを終わらせたがるのだ。

 

4000しかないLPに無駄なダメージを喰らって何が楽しいのかわからんが……まあ、俺がその行為を理解することは一生ないだろう。

 

まあ、今はデュエルを通して遊城が学べばそれはそれでいいか。

 

「俺のターン、ドロー」

 

手札5→6

 

「俺は"火炎地獄"を発動。相手ライフに1000ポイントダメージを与え、自分は500ポイントダメージを受ける」

 

「あっち!?」

 

カードから出た業火がフィールドを覆い尽くし、二人にダメージを与えた。

 

十代

LP4000→3000

 

リック

LP4000→3500

 

「俺は"ダーク・エルフ"を召喚」

 

ダーク・エルフ

星4/闇属性/魔法使い族/攻2000/守 800

このカードは1000ライフポイント払わなければ攻撃できない。

 

フィールド場にホーリー・エルフの容姿を褐色肌に薄紫の髪色にしたような魔法使いが現れた。

 

要はホーリー・エルフの2Pカラーである。

「ダーク・エルフ…?」

 

む? なんだその目を輝かせながらもなにそのカードと言いたげな顔は?

 

全く…最近の若いもんはこのカードも知らんのか…。

 

強い(確信)、重い(対価)、可愛い(重要)の三拍子揃った素晴らしいカードだぞ。

 

「手札から"巨大化"を装備。効果により俺のLPがお前のLPを上回っているため、元々の攻撃力を半減する」

 

ポンッと音が立ち、煙が上がったかと思うとダーク・エルフを小学生ほどに縮めたような少女が立っていた。

 

ダーク・エルフ

ATK2000→1000

 

ダーク・エルフ(ロリ)は俺をにらみつけるでこうげき。俺のぼうぎょりょくはさがった。

 

うるさい。そんな目で見るな。

 

大体、女性型のモンスターは他のデス・ガーディウスとかと違ってサイズが半減、倍増するのではなく、半減=ロリ化、倍化=サイヤ人化するのがいけないんだ。

 

それが楽しくてほぼ全てのデッキに巨大化を入れているという事実無根の事実は一切無い。

 

「バトル、"ダーク・エルフ"で攻撃」

 

「態々、同じ攻撃力に下げて攻撃?」

 

ダーク・エルフが動く前にフェザーマンが動き、ナイフのような羽を放つフェザー・ブレイクをした。

 

それをモロに受けたダーク・エルフが1歩後退する。

 

ダーク・エルフは渋い顔をすると瞬間移動し、俺の背後に現れた。

 

ここまで精霊たちによるただの演出である。

 

うん、やっぱり精霊の力どうしがぶつかるとソリッドビジョンとは一味違うな。

 

「この瞬間、"ダーク・エルフ"の効果発動。このカードが攻撃するためには1000のLPを払わなければならない」

 

背後に立つダーク・エルフは俺の首筋へジャンプするとなんの躊躇もなく噛み付いてきた。

 

あ、ちょ…痛い痛い! マジで1000ポイント分のマナを吸おうとするな!

 

リック

LP3500→2500

 

俺からマナを吸ったダーク・エルフがフィールド場に戻ると、その姿はカードに描かれた元の身体に戻り、さらに全身から黒いオーラを放っていた。

 

「俺のLPがお前を下回ったことにより、"巨大化"の効果が変化。よって"ダーク・エルフ"の攻撃力は倍になる」

 

ダーク・エルフ

ATK1000→4000

 

「攻撃力4000!?」

 

あ、やべ…手加減忘れてたけど別にいいや。

 

ダーク・エルフが掌をくいくいと曲げ、フェザーマンを挑発するとフェザーマンはダーク・エルフへもう一度、ナイフのような羽……ではなくダーク・エルフへ接近して拳を突き立てた。

 

が、通るハズもなくダーク・エルフにより優しく手で止められた。こちらからは見えないがダーク・エルフはさぞナメ切った目をしているに違いない。

 

それを見たフェザーマンは距離を開けると翼を大きく羽ばたかせ、強力な風と羽の刃を放った。

 

しかし、今度は全身から放たれている黒いオーラにより全て止められてしまった。

 

「"ダーク・エルフ"の攻撃。ワード・オブ・ソウルスティール」

 

ダーク・エルフが向けた片手が黒く光り、フェザーマンの全身が黒い光に包まれると身体から緑色の魂のようなものが吐き出され、それはダーク・エルフの手に吸い込まれてしまった。

 

フェザーマンは膝をつき、ゆっくりと地面に倒れると一言呟いた。

 

『フェザーブレイクが完全に入ったのに…』

 

次の瞬間、フェザーマンが爆発し、デュエル終了のブザーが鳴った。

 

「フェザーマン!!?」

 

ブザーの音よりも遊城の悲痛な叫び声が頭に残った。その気持ちはわかる。

 

遊城

LP3000→0

 

 

 

 

 

『いやー、実に面白味の無い戦いでしたねー』

 

「俺、カード3枚しか使ってないものな」

 

終了後、俺、ヴェノミナーガさん、遊城、ハネクリボー。

 

それと俺のマナを吸い上げたために実体化しているダーク・エルフが話し込んでいた。

 

どうやらコイツはまだ精霊が見えてから日が浅いらしく、精霊などについてなんも知らなかったので情報交換をしている。

 

代わりに俺はデュエルアカデミアの情報を得ているからWin×Winだ。

 

ちなみにヴェノミナーガさん曰く、俺のマナはLP100程で1週間サーヴァントを普通に使役出来るぐらいの力があるらしい。序でに総量も半端ないんだとか。

 

例えが意味わからねぇ……まず、サーヴァントにどれだけ魔力が必要なんだ…。

 

「それにしてもスゲーなリック! あんなに高い攻撃力のモンスターを1ターンで作るなんて…」

 

ちなみに遊城がリックと呼んでいるのは馴れ馴れしく呼んでいるわけではなく、俺がリックと呼べと言ったからである。べネットなんて呼ばせません。

 

「なあ? ところでなんかどっかで見たことある気がするんだが…気のせいか?」

 

………………。

 

「さあ? 他人の空似だろう」

 

「そうかぁ?」

 

人間というものは単純で鈍感な生き物で目で見た者だけでは中々断定しようとしない。最低、2~3つぐらいの根拠が必要だ。

 

例えば目の前からアロハ姿の大統領がセブンのコンビニ袋を手に下げながら歩いてきたとして、顔や背丈に覚えがあるからというだけでそれを即座に大統領だと認識し、握手でも求めに行けるだろうか?

 

俺なら絶対できないな。まず、目を疑い、他人の空似だろうと結論付け何事もなく通り過ぎる。

 

それが大多数だというのが俺調べの結果だ。

 

と、言うわけで目の前の遊城も何か引っ掛かってはいるようだが、それ以上は踏み込まなかった。

 

「それより今度は守備表示に出しとくか魔法・罠張らないとダメだぞ?」

 

「そうだな……くそっ…なんか悔しいな。もう一回やろうぜ!」

 

そう言ってデュエルディスクを構えてくる遊城。

 

ほう…今度はBMGを見せてやろう…。

 

そう思いながらデュエルディスクを再度構えようとしたところでさっきの事が気になった。

 

「なあ、お前はここで何をしてたんだ?」

 

「へ?………………ああ!」

 

そう言うと遊城は暫く止まってから口を大きく開いたので耳を軽く塞いだ。

 

「そうだぁぁ! 翔ぉぉ!」

 

そう吐き叫ぶと俺にから離れ、内陸方面へ全力で走って行ったが、途中で止まり、こちらに振り向いた。

 

「ごめんな! 今、翔探してるからまたデュエルしような!」

 

それだけ言うと遊城は今度こそ走り去っていった。

 

俺は翔とはフナムシかアザラシの仲間なのだろうか? などと思いながらその背中に向けて小さく手を振っていることしか出来なかった。

 

『…………そう言えばあの(砂の魔女)2人(とラー)はどうしたんですか? 留守番ですか?』

 

ヴェノミナーガさんの何気無い問いに俺は振っていた手をグーにし、人差し指を空に突き立てるように上げると言葉を吐いた。

 

「ん? ああ、アイツらね。アイツらは多分、今頃…」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「あらあら、子連れのシングルマザーが暫く、アルバイトに来るって聞いてたけどこんなに可愛らしい娘たちだったのね~」

 

「私とラーちゃんをよろしくお願いします…トメさん…(ラーちゃんも…挨拶…)」

 

「よ、よろしくお願いするぞ…(納得いかないぞ…なぜこのあたしが娘…)」

 

「あら~、若いのに大変だろうけど頑張ってね!」

 

「がんばります…(ラーちゃんをこの島に連れて来るには…これしかないの…)」

 

「ぐすん…(もう…好きにせい…)」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「ってな精霊同士の念話を交えた会話が本館の購買部辺りで行われているんじゃないか?」

 

『バイトさせてるんですか!?』

 

と言うか砂の魔女を学生はいくらなんでも無理だろ。それとは逆だが、同じ理由でラーも無理だ。

 

「前々からしたいとは砂の魔女が言っていたんだが……アッチ(アメリカ)じゃどうも不安でな。ラーは…おまけの社会勉強?」

 

『過保護ですねー。ああ見えてあの娘たちは敵対者に容赦ありませんよ?』

 

「それが問題だ。強盗犯とか万引き犯を一々、石化させて砂にしたり、限界ギリギリまで炭化焼した死体にしたら捕まるだろ」

 

『ああ…』

 

まあ、ラーちゃんは一人で家に残しといたら寂しさで本当に死にそうだからだがな。

 

ちなみにウサギは寂しさでは死なん。というか野性動物が孤独で死ぬわけがない。

 

死ぬとすれば人間だって狭い牢に幽閉され、そのまま誰とも会話もコミュニケーションも出来ずにただ生きる屍のように生かされたら生きる活力を失って結果的に死ぬだろう? つまりはそう言うことだ。

 

寂しさでは死なないからってペットはケージから出して遊んでやれよ? 生きてるんだから。

 

『その優しさを半分でも私に下さいよ!?』

 

「神様は生き物じゃない」

 

『ぐぬぬ…』

 

そう言い放ちながら俺はデュエルアカデミア校舎へ向けて歩き出した。

 

 

 




ちなみにこのごく普通のデュエルが発生した理由は勿論、本戦で十代くんがフェザーマンを攻撃表示で召喚! ターンエンド! なんてことを考えないようにするためです。


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消しゴムさん

頭の中で消しゴムさんの声優を焼け野原ひろしにしてみましょう。

小説を書く上での最大の敵は磨かなければ光りようもない文才でも、小説を書く中で身に付けるべきセンスでも無く、作者自身のモチベーションだと思います(遠い目)。


 

 

ビルとマンションに囲まれ、光も余り射さない裏路地。

 

そこで一人のデュエルディスクを付けた男性が空を仰ぎながら佇んでいた。

 

だが、その男性は小刻みに震え出すと口から泡を吹き始め、終いには地面に倒れ込んでしまった。

 

『あーあー、コイツもダメか…』

 

どこからともなく中年程の男性のような声が響き、男性のデュエルディスクにセットされていたデッキから1枚のカードが浮き上がる。

 

それは人の胸程の高さで静止するとぼんやりと何かの精霊の輪郭を形作った。

 

『いい加減憑依先(マスター様)見つけねぇと蛇女がうるせえんだよな~』

 

そう呟きながら精霊は何か閃いたのか軽く手を上げると誰に話すわけでもなく、喋り出した。

 

『アイツは極上の宿主。オレは路上で宿無し。アハハハッ! 上手い!』

 

精霊は自分の冗談で一頻り笑うとガックリと肩を落とした。

 

『って洒落になってねぇよ…』

 

だが、精霊は直ぐに項垂れた様子から立ち直ると足元の男性に向けて言葉を吐いた。

 

『ま、足代わりにはなったわけだし、お疲れさん。アハハハ! じゃあねー』

 

精霊がピクリとも動かない男性に軽く挨拶した直後、その場からカードごと完全に消滅していた。

 

後に残るのは既に事切れた骸とデッキを失ったデュエルディスクだけだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

『お、懐かしいね~。外見は5000年ぐらい前となーんも変わってないな』

 

とあるビルの屋上からさっきと同じ精霊が見下ろして何かを見ていた。

 

その視線は道路を挟んだ建物の中でシュークリームにかぶり付いている青年に注がれている。

 

『旨そうに食いやがって…だが…』

 

精霊は値踏みするような目で暫く青年を見つめた。

 

そして1分ほどたった頃、両手を上にあげ降参するようなポーズを取った。

 

『やっぱ無駄足か、ありゃもう抜け殻だ…。それに今思えば流石にアレ使うのは蛇女どころかアイツらにも叱られちゃうわな』

 

精霊はポツリと呟く。その背に見えるのは哀愁かはたまた別の何かか。

 

『まーた振り出しか…』

 

今度は肩を落とし、暫くそのままの体勢でぶつぶつと独り言を呟いている。

 

『別に気にしてねぇし…オレの主人様は美人の女って決めてるし…大体、あの蛇女人使いが荒すぎるだろ。アリアハンの王様だって情報とつまらないものぐらいくれるぞ』

 

独り言は徐々に愚痴へとシフトしている。

 

『どっかに埋まってねぇかなー、可愛い娘ちゃん………………ん?』

 

その時、精霊の頭に電撃走る。

 

『あ、そっか! 別に生きてなくても良いんじゃん! アハハハ! そうと決まれば…』

 

次の瞬間、再びその精霊はその場から跡形もなく姿を消した。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

明るい町並みが見え、小高い場所にある墓地。

 

背面に金網があり、そこから見下ろせば登下校時に明るい生徒の声が響き渡る場所にポツンと1つの墓が佇んでいた。

 

だが、佇んでいるのは冷たい墓石だけではない。

 

その金網の前で佇みながら、下校途中の学生の楽しげな姿を見つめる、精霊のように半透明な少女がそこにいるのだ。

 

無機質な目をしている少女は下校途中の学生を見る度に自分の手の掌に爪を突き立てるように強く握る。

 

しかし、強く強く握られた拳からは血が流れる様子は無かった。

 

 

『よう、お嬢ちゃん。元気してる?』

 

 

突如として後ろから声を掛けられた事により、少女は少し驚いた表情で後ろへ振り向いた。

 

するとそこには墓石に尻尾を巻き付けながら、天辺に腰掛けるように座る半透明の何かが存在している。

 

自分以上に得体の知れないそれに少女は大きく目を見開いた。

 

『まあまあ、そんなに驚かないでよ。オジさんちょっとショックだな』

 

そう言いながらもその化け物は舐めるような視線を少女に送っている。

 

それに対して少女は何をするわけでもなくただ珍しそうに目の前の精霊を見つめていた。

 

『死んでも霊体のままこっちに留まり続けるあたりかなりの精霊の力を持ってるな……オレを扱うのに十分…いや二十分かな? アハハハ! いい! 凄くいいよ!』

 

値踏みと高笑いを終えた精霊がこれまでの様子と違い、瞳を閉じながら静かに静止した。

 

そしてゆっくりと精霊の目が開かれた。

 

『物は相談なんだけどさ。お嬢ちゃん。えーと……』

 

精霊は墓石をひと撫でしながらそこに刻まれた文字を読んだ次の瞬間、少女の目の前に移動していた。

 

『生き返ってオレと一緒に世界のために働いてみる気はないかな?』

 

さらに精霊は少女の頬に神話の悪魔のような腕を当てると、口の端を三日月のように吊り上げ、最後に言葉を続けた。

 

 

 

『"獏良(ばくら) 天音(あまね)"ちゃん』

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

『おーい、朝だぞー。寝坊助ー』

 

中年程の男性のような声に叩き起こされる形で彼女は目覚めた。

 

精霊と出会った時の夢……だが、彼女にとっては思い出す価値もない悪夢に等しいモノだった。

 

と言うのも夢の中でまでこの精霊といるのがイヤと言うただそれだけの理由である。

 

「………………」

 

彼女は自分の精霊を冷めた目で見つめた。

 

その姿はまるで悪魔と竜と鰻の良いところを足して3で割ったような容姿をした黒い精霊である。

 

精霊は彼女の視線に気付くと口を開いた。

 

『ん? どったの? そんなマジマジと見つめちゃって…オジさん照れちゃうなー、アハハハハ!』

 

そんなことを言うと精霊は気味の悪い笑い声を上げた。

 

それに彼女は若干冷めた目を送った。

 

彼女が自分の精霊を嫌う理由。

 

それは単純にどうでもいいことをいつもよく喋り、その癖に口がとんでもなく強いからである。

 

人とは何かしら繋がっていたい割に、口下手で根暗で一人が好きな彼女にとって不快感極まりない相手なのだ。

 

「黙れ…」

 

『アハハハ! こりゃ手厳しいねー』

 

彼女は精霊を無視してベッドから起き上がると枕元に飾ってある写真を抱き寄せ、暫くそうしていた。

 

「……はぁはぁ……」

 

『お嬢ちゃん、本当にそのプロデュエリストの事好きだねー。なんでさ?』

 

それを聞いた彼女は口の端を吊り上げながら答える。

 

「ずっと見てたから……墓場(あそこ)で……」

 

『ああ』

 

精霊は墓石から見える距離に大型カードショップがあり、店頭に巨大なテレビが設置されていた事を思い出す。死んでいた間はそれを見るぐらいしかやることが無かったわけで、その中で憧れた存在に今も信仰に近い感情を抱いているわけだろう。

 

『なーるほどねぇ…』

 

部屋を見渡せばそれはもう確実だろう。元は角部屋で日当たりの良好なオベリスクブルー女子寮の部屋だったわけだが……。

 

今はポスターからマグカップ、抱えているプロマイドに至るまで何でもござれ。完全に一人のプロデュエリスト博物館と言えるような状態だ。無論、博物館が本来人の住むのに適した環境であるわけもない。

 

ちなみに彼女の身体は死んだ年齢よりもかなり成長している。そのため、中々のプロポーションを持っているのだが、現在は完全に無駄……いや、持て余しているだろう。

 

それと勉強の方は完全に精霊に頼り切りである。長生きしてんだから高校の授業ぐらい楽勝楽勝とは本人談だ。

 

「……ァハ……"ベネット"様……」

 

『あの蛇女のマスターには霊に好かれる体質でもあんだかな? で? あの男のどこが好きなのよ?』

 

「昔の兄さんみたいなところ……」

 

『ああ……』

 

精霊はそう言えばあの男、どっかの裏人格の大泥棒と同じぐらい性格がねじ曲がっているなと感心していた。

 

「行くよ……"イレイザー"」

 

『へいへい、使い手様(マスター)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イヤッッホォォォオオォオウ!』

 

「…………なんかセルケトさんが荒ぶってるんだけど?」

 

『荒ぶってますねぇ』

 

現在、遊城から借りた釣り道具で魚を釣っている最中。突如としてセルケトさんが実体化してその辺で荒ぶり始めたのだ。まあ、こちらに被害は何もないのだが…。

 

「……逝ったか?」

 

『好きにさせておいて上げてください。とても良いことがあったんですよきっと』

 

そう言うとヴェノミナーガさんはどこか遠いところを見つめた。

 

『どこか別の世界線でね…』

 

「……?」

 

『それより早く魚釣っちゃって下さいよ。早く!早く早く!!早く早く早く!!!』

 

「ハリーハリーうるさい」

 

『ぶーぶー』

 

もう焚き火し始めてんじゃねぇよ。まだ、5分も経ってねえだろうが。

 

「それにしても早く来すぎたな…」

 

『そりゃあ、試合の3日前に来ちゃいましたからね。折角だからマスターのお披露目は試合当日にサプライズを兼ねてデュエルする予定になりましたからまだ授業などに出るわけに行きませんし』

 

「解せぬ」

 

『ところでマスター?』

 

「ん?」

 

『デュエルはタックデュエルらしいですけどマスターの相方は誰がやるんですか?』

 

「え?」

 

『え?』

 

その次の瞬間から空白のような時間が出来上がった。

 

数秒か数十秒か会話が止まり、それに耐えきれなかった俺は目を瞑って暫く考えてから目を見開いた。

 

「全く考えてなかった」

 

『駄目だコイツ…早くなんとかしないと…』

 

 

 




獏良天音
原作で既に死亡しているキャラ。闇サトシの妹だが回想すら無し。設定だけあるが使われないまま終わった悲しき少女。まあ、兄があれなら妹も良い感じに力があるであろう。

イレイザー
この星、最後の希望の内の一柱。原作効果だと中々に強い神のカード。が、攻撃力が相手に依存するため、キースには"相手によって左右される不甲斐ないモンスター"と言われ、海馬には"人頼みの神"と評されており、神らしからぬ扱いをされている。結局、火力なのか……。どうでも良いが誰もいない場所でひとりで喋るキャラを書くのはやはりどうにも違和感がある。


全くの余談だが、アーノルド・ シュワルツェネッガー主演で"イレイサー"と言う映画がある。中々スカッとするので見たことのないコマンドー好きは見ると良いと思う。



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制裁タッグデュエル 前

今、遊戯王20周年と言うことで土曜の朝から遊戯ボーイの遊戯王が放送していますね。もう、HA☆GAは散りました。

………………見ろ!(ド直球)。




デュエルアカデミア本館の一室。俺はソファーに座り、その周囲でくるくるとヴェノミナーガさんが世話しなく動いていた。

 

『いやー、私が気づいて良かったですねー』

 

「そうだな」

 

『……まあ、今思えば相方ぐらい学校側で準備していてもおかしくありませんでしたがね…』

 

「ん? なんか言った?」

 

『いえいえなんでもありません! それよりタッグデュエルですよタッグデュエル! 久々ですねぇ!』

 

「まあ、こちらはあれだがな」

 

なんか露骨に話を逸らされた気がするがまあ、良いだろう。それよりデュエルだデュエル。

 

どのデッキにするか。とりあえずヴェノミナーガさんのは抜いてと……。

 

『おいやめろ』

 

ぶっちゃけトマトでも良いが流石にそれはなぁ…。

 

『そもそもどうして一度私のデッキケースも机に並べてから真っ先に戻すんですか!? ほんの少しだけ希望を持たせる真似をいつもいつもしなくても良いでしょう!?』

 

「精神攻撃は基本」

 

『チキショー!?』

 

長い尻尾をバタバタと振るわせ、地味に絡み付いてくるヴェノミナーガさんの尻尾をそれとなく押し退けて立ち上がると、屋内デュエル場へ向かう為に足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

デュエルアカデミアの屋内デュエル場。最新の技術が盛り込まれたそこで二人のオシリスレッドの生徒がデュエルリングに上がっている。

 

観客席は超満員となり立っている者も出るほどだ。

 

これから行われるのはただの制裁デュエルにも関わらず、それだけの人が集まる理由は事前に知らされた情報によれば今日訪れるデュエリストがプロランカーだからである。

 

その道の学校の生徒に、その道の超一流のプロ。ここの学生なら足を運びたくなるのは自然的な事だろう。

 

尤も今日来るそのプロランカーの詳細も殆ど知られていないため、会場の生徒は誰が来るのかと言う話題で持ちきりのようだ。

 

「ではこれより対戦を行う。ライフポイントはそれぞれ二人で8000。0になった方がこのデュエルの敗者とする。一巡目のバトルは禁止。ルールはそれだけだ」

 

現在、デュエルアカデミア本校の教員であるプロフェッサー・コブラが遊城 十代と丸藤 翔の背に当たる場所に立ちながらそう宣言した。

 

レッド嫌いのクロノス・デ・メディチではなく、今回の制裁デュエルに最も消極的な姿勢を取っていた彼が立会人を勤めているのは妙な光景だが、それを疑問に思えど言葉に出すものはどこにも居なかった。

 

「でも先生。まだ、対戦相手が来てないぜ?」

 

「問題はない。ちなみに対戦相手は私の息子と、息子が選んだパートナーだ」

 

その言葉に会場は騒然となる。

 

「え? 先生の息子?」

 

「あ、アニキ! コブラ先生の息子と言えばあの…!」

 

すると会場の入り口から愉しそうな笑みを浮かべた青年と、赤い口しかないのっぺらぼうのような青い仮面を付けた女性がデュエルリングへと足を踏み入れた。

 

それによりざわついていた会場の騒音が止み静寂が広がる。会場の生徒の殆どは唖然とした表情で目を見開いているようだ。

 

「あれ? お前リックじゃんか?」

 

その静寂を愚かにも破ったのは制裁デュエルの対象である遊城 十代だ。

 

「よう遊城、対戦相手は俺だ。タッグもそれなりの奴を連れてきた。今日は楽しもうぜ?」

 

「おう、挑むところだ!」

 

そう言って遊城 十代はデュエルディスクにデッキを挿入したが、相方の丸藤 翔は驚いた表情のまま固まっているようだ。その顔は絶望したようにも見える。

 

「プロランク4位"ナイトメア"と、プロランク11位"ノーフェイス"…だと…?」

 

観客の中にいるこの学内でカイザーと呼ばれる青年がそう呟いた。

 

プロランク4位"ナイトメア"。本名はリック・ベネット。まだ、十代半ばにして不戦敗を除けば公式戦全勝の無敗神話を築くプロランカーである。その実力はDDに並ぶとさえ称され、世界最強の呼び声もあるプロデュエリストだ。尤もナイトメア等と異名が付く辺り、世界最強かは兎も角、世界最凶のデュエリストなら殆どが彼を推すであろう。

 

そして、プロランク11位"ノーフェイス"。本名はバルバロイ。男女比で言えば圧倒的に少ない女性プロランカーの中で最も高いランクにここ2~3年程留まるプロデュエリストである。言うなれば現在、世界最強の女性デュエリストと見て間違いはない。見た目はサファイアのような長い髪と、古風な舞踏ドレスを纏った長身の女性である。が、常に顔に付けているのっぺらぼうのように赤い口だけのある奇妙な藍色の仮面と、デュエル中一切の言葉を発さずにただ笑っている不気味さから付いたのが、とあるバニラカードからそのまま取ったノーフェイスという異名である。

 

つまりこれから遊城 十代と丸藤 翔が挑むのは最凶と最強のタッグということに他ならない。制裁なんて生温いものではなく、これは公開処刑に等しいだろう。

 

「お前プロデュエリストだったのか!?」

 

「ああ、そうだな。趣味でやっている」

 

「え? アニキ知り合いなんスか!?」

 

「ほら、2日ぐらい前に釣り道具借りに来た奴居ただろ? ソイツだよ」

 

「ああ!? あの時の!……ってええ!!!?」

 

「あの時は世話になったな。一応、俺はこの学校の一年に在籍しているんだ。別にどこにいても不思議はないだろう? まあ、本格的に通うのは明日からだがな」

 

「なんだ。それならそうと言ってくれればよかったのにな」

 

「まあ、なんだ。そろそろ始めようぜ? この前のデュエルが遊城の全力なんて事は無いだろう?」

 

「おう、望むところだ!」

 

会話を終え、丸藤を除いた三人は共にデュエル場の開始位置に移動し、丸藤はそれに遅れるように位置へと付いた。

 

ここに立ち、デュエルディスクを展開すればもう次に言う言葉はひとつだろう。

 

『デュエル!』

 

遊城 十代&丸藤 翔

LP8000

 

リック・ベネット&バルバロイ

LP8000

 

 

 

「ドロー!」

 

手札5→6

 

先攻を取ったのは遊城 十代だ。

 

「俺は"フェザーマン"を守備表示で召喚してターンエンドだ」

 

E・HERO フェザーマン

DEF1000

 

遊城 十代

LP8000

手札5

モンスター1

魔法・罠0

 

 

「くひひ……」

 

手札5→6

 

ノーフェイスはドローしてからモンスターを裏側守備表示でセット。さらに魔法・罠ゾーンにカードを3枚セットし、丸藤 翔に掌を返してターンの移行を促した。

 

ノーフェイス

LP8000

手札2

モンスター1

魔法・罠3

 

 

「僕のターンドロー。ジャイロイドを守備表示で召喚」

 

手札5→6

 

ジャイロイド

星3/風属性/機械族/攻1000/守1000

このカードは1ターンに1度だけ、戦闘によっては破壊されない。

 

アニメ風のヘリコプターの機械がフィールドに現れる。

 

ジャイロイド

DEF1000

 

「ターンエンド…です」

 

丸藤 翔

LP8000

手札5

モンスター1

魔法・罠0

 

 

「ドロー。俺は"融合"を発動。手札の"融合呪印生物-地"と"岩石の巨兵"を融合し、"砂の魔女"を特殊召喚」

 

手札5→6

 

砂の魔女(サンド・ウィッチ)

星6/地属性/岩石族/攻2100/守1700

「岩石の巨兵」+「エンシェント・エルフ」

 

彼のフィールド場に岩石の巨兵と融合呪印生物―地が現れ、それらが砂嵐に飲み込まれるとその中から赤い魔女服の女性が姿を現した。

 

砂の魔女

ATK2100

 

「サンド・ウィッチっスか…?」

 

丸藤 翔が微妙な表情を浮かべる。会場の空気もそうだ。リック・ベネットと言えば仮面魔獣デス・ガーディウスや、ラーの翼神竜や、竜騎士ブラック・マジシャン・ガールと言った一般庶民には手が届くハズもない伝説級のレアカードを主軸に置いたデッキを主に使うことで知られている。当然、ハングリーバーガーや砂の魔女を使えば彼が本気でやっていないような気がするのは仕方のないことだろう。

 

まあ、当の遊城 十代は珍しいカードを使うなと言った言葉を呟いている辺り、特に気にしたような様子も無いらしい。

 

「更にフィールド魔法"岩投げエリア"を発動する」

 

それにより、フィールド全体に幾つかの投石機が建ち並んだ。

 

「モンスターカードを裏側守備表示でセットし、カードを1枚セット。ターンエンドだ」

 

リック

LP8000

手札0

モンスター2

魔法・罠2

 

 

「ドロー!」

 

手札5→6

 

「よし俺も"融合"発動するぜ! 手札の"バースト・レディ"とフィールドの"フェザーマン"を融合! "E・HEROフレイム・ウィングマン"を融合召喚!」

 

E・HEROフレイム・ウィングマン

星6/風属性/戦士族/攻2100/守1200

「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

二体のヒーローが合わさり、一体の新たなヒーローが完成した。

 

E・HEROフレイム・ウィングマン

ATK2100

 

「バトルだ! リックの裏側守備表示モンスターに攻撃! フレイム・シュート!」

 

フレイム・ウィングマンの炎球が当たる前に裏側守備表示のモンスターが開き、小さな黒いゴーレムが姿を見せた。

 

「"岩投げエリア"の効果。1ターンに1度、自分フィールド上のモンスターが戦闘によって破壊される場合、代わりに自分のデッキから岩石族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。これにより俺はデッキから岩石族モンスターを墓地へ送る」

 

彼はデッキから一枚のカードを取り出すと墓地へと送る。

 

粘土で出来た人のような巨人が小さな黒いゴーレムの前に現れ、その巨体でフレイム・シュートからゴーレムを守ると砂の城が崩れるように崩れ去ってしまった。

 

「この瞬間、墓地へ送った"リバイバルゴーレム"の効果発動。一番目の効果を選択し、墓地から守備表示で特殊召喚する」

 

リバイバルゴーレム

星4/地属性/岩石族/攻 100/守2100

このカードがデッキから墓地へ送られた時、以下の効果から1つを選択して発動する。"リバイバルゴーレム"の効果は1ターンに1度しか使用できない。

●このカードを墓地から特殊召喚する。

●このカードを墓地から手札に加える。

 

砂から再び人の形を形成し、粘土の巨体がその姿を現した。

 

リバイバルゴーレム

DEF2100

 

「更に"ダミー・ゴーレム"のリバース効果が発動。相手はコントロールしているモンスター1体を選択する。選択したモンスターとこのカードのコントロールを入れ替える」

 

「なんだって!?」

 

ダミー・ゴーレム

星2/地属性/岩石族/攻 800/守 800

リバース:相手はコントロールしているモンスター1体を選択する。選択したモンスターとこのカードのコントロールを入れ替える。

 

ダミー・ゴーレム

DEF800

 

「まあ、今回はタッグデュエルだ。"フレイム・ウィングマン"か"ジャイロイド"を選択出来る。好きな方を遊城が選ぶと良い」

 

「そんな…!?」

 

彼がそう言うと丸藤から悲鳴のような声が上がる。

 

普通に考えればジャイロイドを渡すのが得策だろう。だが、これはタッグデュエルだ。そうすれば次のターンで間違いなくがら空きの丸藤へと攻撃が行われ、遊城 十代と丸藤 翔との間に小さな亀裂が生まれる事は想像に難しくない。

 

「へへへ、やるな。俺は"フレイム・ウィングマン"を選択するぜ」

 

「……そうか」

 

それを知ってかどうかは不明だが、フレイム・ウィングマンを選択した十代に対し、彼は少しだけ残念そうな表情でそう呟くとダミー・ゴーレムの目が光り、フレイム・ウィングマンとダミー・ゴーレムの位置が入れ替わった。

 

「俺は"強欲な壺"を発動。効果で2枚カードをドローするぜ」

 

手札3→5

 

遊城 十代のフィールドに緑の壺が現れ、手札が2枚加わった。

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

遊城 十代

手札3

モンスター1

魔法・罠2

 

 

「………」

 

手札2→3

 

ノーフェイスはドローしてから裏側守備表示のモンスターを反転召喚した。

 

ファーニマル・ライオ

星4/地属性/天使族/攻1600/守1200

このカードの攻撃宣言時に発動する。このカードの攻撃力はバトルフェイズ終了時まで500アップする。

 

それは羽の生えたぬいぐるみのような愛らしさを持つライオンだ。

 

ファーニマル・ライオ

ATK1600

 

「………」

 

更にフィールドにパスタマシンとミンチマシンを合わせたようなモンスターが召喚される。

 

エッジインプ・ソウ

星3/闇属性/悪魔族/攻 500/守1000

"エッジインプ・ソウ"の効果は1ターンに1度しか使用できない。このカードが召喚に成功した時、手札の"ファーニマル"モンスター1体を墓地へ送って発動できる。自分はデッキから2枚ドローし、その後、手札を1枚選んでデッキの一番上または一番下に戻す。

 

エッジインプ・ソウ

ATK500

 

そして手札から融合を発動するとフィールドのファーニマル・ライオとエッジインプ・ソウが合わさり、刃物という刃物で出来たライオンの玩具のような何かが完成した。

 

デストーイ・ホイールソウ・ライオ

星7/闇属性/悪魔族/攻2400/守2000

「エッジインプ・ソウ」+「ファーニマルモンスター」このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。"デストーイ・ホイールソウ・ライオ"の効果は1ターンに1度しか使用できず、この効果を発動するターン、このカードは直接攻撃できない。相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊し、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。

 

会場はその奇っ怪な見た目に恐怖を覚えるか、テレビの中のプロデュエリストのエースモンスターに歓喜するかのどちらかのようだ。

 

デストーイ・ホイールソウ・ライオ

ATK2400

 

「すげぇ! そんな融合モンスターもいるのか!?」

 

「くひひ…」

 

ノーフェイスは遊城 十代へと会釈の為か手を小さく振ると、デストーイ・ホイールソウ・ライオの効果を発動した。

 

「"デストーイ・ホイールソウ・ライオ"の効果は1ターンに1度しか使用できず、この効果を発動するターン、このカードは直接攻撃できない。相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊し、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える」

 

彼の説明の直後、デストーイ・ホイールソウ・ライオがジャイロイドに抱き付き、文字通り解体するとその残骸を丸藤 翔へと投げ付けた。

 

「うわぁぁぁ!?」

 

LP8000→7000

 

更に直接攻撃以外の攻撃権は残っているため、デストーイ・ホイールソウ・ライオはダミー・ゴーレムへ……ではなく彼のリバイバルゴーレムへと攻撃を仕掛けた。

 

「え!?」

 

「なんだ!?」

 

それに対戦相手の二人は特に驚いたであろう。だが、当の本人はノーフェイスに対してご苦労と言った視線を送るだけだ。

 

「"岩投げエリア"の効果発動。戦闘で破壊される代わりにデッキから岩石族モンスター1体を墓地へ送る」

 

それにより、二度粉々に砕けたリバイバルゴーレムは二度目の復活を遂げた。

 

バトルフェイズを終えたノーフェイスは掌を返し、丸藤 翔へとターンの移行を促した。

 

ノーフェイス

LP8000

手札1

モンスター1

魔法・罠3

 

 

「僕のターン…僕は"スチームロイド"を召喚」

 

手札5→6

 

スチームロイド

星4/地属性/機械族/攻1800/守1800

このカードは相手モンスターに攻撃する場合、ダメージステップの間攻撃力が500ポイントアップする。このカードは相手モンスターに攻撃された場合、ダメージステップの間攻撃力が500ポイントダウンする。

 

スチームロイド

ATK1800

 

「いいぞ翔! なら俺は永続罠カード"洗脳解除"を発動するぜ! これで"フレイム・ウィングマン"と"ダミー・ゴーレム"は元の持ち主に戻る」

 

「マジかよ…」

 

ピンポイントメタカードにより、彼の顔が多少引き吊り、フレイム・ウィングマンとダミー・ゴーレムが元のプレイヤーへと戻っていった。

 

「アニキ…なら僕はスチームロイドで砂の魔女を攻撃!」

 

スチームロイドが砂の魔女へと一直線に向かう。

 

「スチームロイドは相手モンスターに攻撃する間だけ攻撃力を500ポイントアップする!」

 

スチームロイド

ATK1800→2300

 

スチームロイドが砂の魔女を攻撃が当たる直前、砂の魔女が指を振るうと砂の魔女の前に岩壁が出現した。

 

「デッキから岩石族モンスターを墓地へ送り"岩投げエリア"の効果を発動」

 

「でも少しでもダメージは通るっスよ!」

 

岩壁が砕け、その破片が彼へ降り掛かる。

 

リック

LP8000→7800

 

「カードを三枚伏せてターンエンドっス」

 

丸藤 翔

手札2

モンスター1

魔法・罠3

 

 

「くはは…やはりデュエルとは殴り合いでなけりゃ面白くないな。どうも俺と戦う相手は守勢に回る奴が多くてつまらん」

 

手札0→1

 

戦闘ダメージを受けたことに対してか彼は機嫌の良い表情でそう呟いた。

 

「頼むぞバルバロイ」

 

「くひひっ」

 

彼がノーフェイスに対してそう言うと彼女は罠カード"強欲な贈り物"を発動した。

 

手札1→3

 

その効果により彼の手札が2枚増える。

 

「さらに手札から"強欲な壺"を発動。カードを2枚ドロー。さらに通常魔法"奇跡の穿孔"を発動。デッキから岩石族モンスター1体を選択して墓地に送る。その後デッキをシャッフルし、デッキからカードを1枚ドローする」

 

手札2→4

 

「そして俺は"ブロック・ゴーレム"を召喚」

 

ブロック・ゴーレム

星3/地属性/岩石族/攻1000/守1500

自分の墓地のモンスターが地属性のみの場合、このカードをリリースして発動できる。自分の墓地から"ブロック・ゴーレム"以外の岩石族・レベル4以下のモンスター2体を選択して特殊召喚する。このターンこの効果で特殊召喚したモンスターは、フィールド上で発動する効果を発動できない。

 

玩具のブロックで出来たゴーレムがフィールドに現れた。

 

ブロック・ゴーレム

ATK1000

 

「ブロック・ゴーレムの効果を発動。このカードを生け贄に捧げ墓地から"磁石の戦士α"と"磁石の戦士β"を特殊召喚する」

 

磁石の戦士α

星4/地属性/岩石族/攻1400/守1700

α、β、γで変形合体する。

 

磁石の戦士β

星4/地属性/岩石族/攻1700/守1600

α、β、γで変形合体する。

 

2体の磁石の戦士達がフィールドに並ぶ。

 

磁石の戦士α

ATK1400

 

磁石の戦士β

ATK1700

 

磁石の戦士(マグネット・ウォーリアー)だって!?」

 

遊城 十代の目が子供のように輝いた。

 

「ご名答。フィールドの"磁石の戦士α"と"磁石の戦士β"そして手札の"磁石の戦士γ"を墓地へ送り手札から……」

 

三体の磁石の戦士が変形し、合体することで究極の磁石の戦士が降臨する。

 

「"磁石(じしゃく)戦士(せんし)マグネット・バルキリオン"を特殊召喚」

 

磁石の戦士マグネット・バルキリオン

星8/地属性/岩石族/攻3500/守3850

このカードは通常召喚できない。自分の手札・フィールド上から、「磁石の戦士α」「磁石の戦士β」「磁石の戦士γ」をそれぞれ1体ずつリリースした場合に特殊召喚できる。また、自分フィールド上のこのカードをリリースして発動できる。自分の墓地から「磁石の戦士α」「磁石の戦士β」「磁石の戦士γ」をそれぞれ1体ずつ選択して特殊召喚する。

 

武藤 遊戯の伝説のカードの一枚にして、幾度となく神と交戦したモンスターでもある。レプリカや、コピーではなく本物のそれが目の前にいるのだから驚きもするだろう。

 

磁石の戦士マグネット・バルキリオン

ATK3500

 

「さあ、二人共。もっと楽しもうぜ? このデュエルをよぉ」

 

 

 




三人称でタッグデュエルとか作者のキャパでは限界やわ(遠い目)。

…………おい誰だヴルキリオンさんの事、どうせ噛ませとか囮とか言った奴止めてさしあげろ。


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制裁タッグデュエル 後

どうもちゅーに菌or病魔です。

久しぶりですね。lovaやっほー!

暇な方はlovaでフレンド検索でちゅーに病魔とでも掛けてみて下さい。


 

「"ドリルロイド"で守備表示の"マグネット・バルキリオン"を攻撃! 効果で"マグネット・バルキリオン"を破壊!」

 

ドリルロイド

星4/地属性/機械族/攻1600/守1600

このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、ダメージ計算前にそのモンスターを破壊する。

 

ドリルロイド

ATK1600

ドリルロイドの攻撃により、難攻不落と思われたマグネットバルキリオンが膝を着くように崩れ落ちる。

 

伝説を二人の連携によって打ち破った事で会場がどよめき、歓声が上がった。

 

スパークマンのスパークガンにより表示形式を変更され、ドリルロイドに貫かれて消えるマグネット・バルキリオンの背中には達観にも似たような哀愁が漂っているように見えた。

 

『いやぁ………バルキリオンは強敵でしたね』

 

「ほう…」

 

自らの伝説のカードの一角が倒れたと言うのにそれを歯牙にも掛けず、不敵な笑みを浮かべながらデッキに指を掛けている。

 

ちなみに自身の精霊の呟きはガン無視である。

 

「ドロー」

 

手札1→ 2

 

丁度、彼がマグネット・バルキリオンを召喚してから1ターン後。戦局は大きく動いている。

 

 

リック

LP7000

手札2

モンスター2(砂の魔女、リバイバルゴーレム)

魔法・罠1

 

ノーフェイス

LP7000

手札2

モンスター1(デストーイ・ホイールソウ・ライオ)

魔法・罠1

 

遊城 十代

LP3800

手札2

モンスター1(スパークマン)

魔法・罠3(洗脳解除、スパークガン)

 

丸藤 翔

LP3800

手札3

モンスター1(ドリルロイド)

魔法・罠1

 

 

主なダメージソースはデストーイ・ホイールソウ・ライオがフレイム・ウィングマンを効果破壊し、スチームロイドを戦闘破壊した事だろう。マグネット・バルキリオンのマグネットソードはバトルフェイズごと攻撃の無力化で止められ、今に至るようだ。

 

「俺は"天使の施し"を発動。カードを3枚ドローし、2枚捨てる。さらに魔法カード"流転の宝札"を発動。デッキからカードを2枚ドロー。発動したターンのエンドフェイズ時にカードを1枚墓地へ送る」

 

手札2→3

 

「"砂の魔女"に装備魔法"フュージョン・ウェポン"を装備。このカードはレベル6以下の融合モンスターのみ装備可能。装備モンスターの攻撃力と守備力は1500ポイントアップする」

 

砂の魔女の右手に紅い手甲のような装備が嵌められた。赤い魔女服に良く似合い、初めから彼女の武器だったかのようにも見える。

 

砂の魔女

ATK2100→3600

 

砂の魔女

ATK3600

 

「こ、攻撃力3600……」

 

一瞬でマグネット・バルキリオンを超えるモンスターが出来上がったのを目にし、丸藤 翔の足が僅かに後退する。

 

『確かに、砂の魔女を強化すれば、当面の殴り合いを回避できるでしょうけど、根本的な解決にはなりませんよね?』

 

「"砂の魔女"で"ドリルロイド"を攻撃。活殺化石衝」

 

『……ッ!』

 

精霊の片方の呟きを無視しつつ箒の先で印を結ぶようにドリルロイドに攻撃が繰り広げられる。

 

『あの…そろそろせめて反応を……』

 

「俺は"ドレインシールド"を発動! 」

 

が、突如として現れた盾から展開されたプライマルアーマーにより防がれ、攻撃は不発に終わった。

 

LP3800→7400

 

「"流転の宝札"の効果で手札を1枚墓地へ送る。ターンエンドだ」

 

『これじゃ、私…地球を守りたくなくなっちまうよ…』

 

無視され続け、悄気る神のカードを他所に彼はターンの終了を宣言した。

 

リック

LP7000

手札1

モンスター2

魔法・罠2

 

 

「ドロー!」

 

手札2→3

 

「よし! 行くぜ! まずは"スパークガン"で"リバイバルゴーレム"を攻撃表示に、"デストーイ・ホイールソウ・ライオ"を守備表示にするぜ!」

 

スパークマンは右手に持つスパークガンを左手に持ち変えると、2体を撃った。それにより、2体のモンスターの表示形式が変えられる。

 

リバイバルゴーレム

ATK100

 

デストーイ・ホイールソウ・ライオ

DEF2000

 

ヴァルキリオンを含め3度役目を果たしたスパークガンはスパークマンの手から消滅した。

 

「そして、手札から融合を発動! フィールドの"スパークマン"と、手札の"クレイマン"を融合! 来い! "E・HEROサンダー・ジャイアント"!」

 

E・HEROサンダー・ジャイアント

星6/光属性/戦士族/攻2400/守1500

「E・HERO スパークマン」+「E・HERO クレイマン」

このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。このカードの特殊召喚に成功した時、フィールド上に表側表示で存在する元々の攻撃力がこのカードの攻撃力よりも低いモンスター1体を選択して破壊する。

 

サンダー・ジャイアント

ATK2400

 

黄色と青を基準にした丸めの胴体を持つヒーローが召喚される。サンダー・ジャイアントは両手の中で雷の球体を発生させるとそれを砂の魔女へと向けた。

 

「砂の魔女の元々の攻撃力は2100。サンダー・ジャイアントよりも下だぜ! ヴェイパー・スパーク!」

 

砂の魔女に雷が直撃し、身体を震わせてから倒れるように消滅した。その光景を見た彼の表情が僅かに曇る。

 

「バトル! "サンダー・ジャイアント"で、守備表示の"デストーイ・ホイールソウ・ライオ"を攻撃! ボルティック・サンダー!」

 

デストーイ・ホイールソウ・ライオへと落雷が落ち、砕け散るように霧散した。

 

「ターンエンドだ。後は任せたぞ翔!」

 

「わかったよアニキ!」

 

遊城十代

LP7400

手札0

モンスター1

魔法・罠1

 

 

遊城十代がタクティクスにより、ナイトメアとノーフェイス両者のエース級モンスターを打ち破った事で会場全体がどよめく。

 

やはり人が望むのは大判狂わせなのだろう。

 

「きひひひひひ……」

何処か嬉しげなノーフェイスがカードを引く。

 

手札2→3

 

ノーフェイスは手札から強欲な壺を発動したことで更に手札が増える。

 

手札2→4

 

「いひひ…きひひひ…」

 

ノーフェイスは手札から無の煉獄を発動、チェーンして精霊の鏡を発動すると、止めとばかりにピシッと丸藤翔を指差した。

 

「通常魔法、"()煉獄(れんごく)"は自分の手札が3枚以上の場合に発動できる。自分のデッキからカードを1枚ドローし、このターンのエンドフェイズ時に自分の手札を全て捨てる効果を持つ。そして通常罠、"精霊の鏡"はプレイヤー1人を対象とする魔法の効果を別のプレイヤーに移し替える。これにより、"無の煉獄"の対象は丸藤へと移った。まずはドローだ」

 

ノーフェイスに代わり、彼が説明を終えると丸藤翔がカードを1枚ドローする。

 

丸藤翔

手札3→4

 

「そして"無の煉獄"のデメリット効果の通り、このターン。すなわちノーフェイスがターンエンド宣言をした時点で丸藤は全ての手札を墓地へ送るのだ」

 

「そ、そんな!?」

 

「な、なんだって!?」

 

流石に生のプロデュエリストにヤジを飛ばせるような者はこの場には居ないようだが、 あまりに露骨な手札破壊に会場が、騒然となる。

 

彼はその光景を鼻で笑い飛ばすと青銅色のデュエルディスク掲げ、声を張り上げた。

 

「デュエルに卑怯もラッキョウもあるものか!」

 

高らかに大声でそう宣言した事により、会場に静寂が訪れる。この男も何だかんだでノリノリである。

 

「きひっ…」

 

ノーフェイスは"天使の施し"を発動。手札交換を行う。

 

手札2→3

 

更に醜悪で小さな悪魔を召喚する。

 

トランス・デーモン

星4/闇属性/悪魔族/攻 1500/守 500

1ターンに1度、手札から悪魔族モンスター1体を捨て、このカードの攻撃力をエンドフェイズ時まで500ポイントアップする事ができる。自分フィールド上のこのカードが破壊され墓地へ送られた時、ゲームから除外されている自分の闇属性モンスター1体を選択して手札に加える事ができる。

 

トランスデーモン

ATK1500

 

最後に魔法・罠カードを1枚セットするとターンを終了した。

 

 

 

ノーフェイス

LP7000

モンスター1

魔法・罠1

手札1

 

 

「……うぅ…」

 

デッキに指を掛けたまま暫く、動かなくなる丸藤翔。その身体は目に見えて震えているのが会場にいるのもなら誰でも見て取れるだろう。

 

丸藤が目を向ければそこには次の手を待つように笑みを浮かべる二人の世界最高峰のデュエリスト。本来なら画面越しに見るような者なだけはあり、その実力は折り紙つきだ。LPは大して変わらないハズなのに勝てる気がしないのが証拠だろう。直感的に次のターンをナイトメアに回すことは何か嫌な予感がしてならないのだ。

 

だが、現に彼らと渡り合えているのは殆どは遊城十代ぐらいのものだろう。自分程度では相手にすらならない、寧ろ足を引っ張っているのではないかと丸藤に影が射し始める。

 

「翔!」

 

すると自分のパートナーから声が掛かり、丸藤はそちらへと顔を向けた。パートナーは対面している二人と同じように楽しそうに笑っている。

 

「デッキを信じろ」

 

その言葉に丸藤はハッとなり、自身のデッキに強く手を掛けた。

 

「ドロー! 来たっ!」

 

手札0→1

 

丸藤は伏せてあるカードを発動した。

 

「アニキの"サンダージャイアント"と、手札の"ユーフォロイド"を墓地に送り、"パワー・ボンド"を発動! "ユーフォロイド・ファイター"を融合召喚!」

 

ユーフォロイド・ファイター

ATK?

 

ユーフォロイド・ファイター

星10/光属性/機械族/攻 ?/守 ?

「ユーフォロイド」+戦士族モンスター

このモンスターの融合召喚は、上記のカードでしか行えない。このカードの元々の攻撃力・守備力は、融合素材にしたモンスター2体の元々の攻撃力を合計した数値になる。

 

UFOのような何かに乗ったサンダージャイアントが召喚された。

 

「効果により、このカードの元々の攻撃力・守備力は、融合素材にしたモンスター2体の元々の攻撃力を合計した数値になる!」

 

ユーフォロイド・ファイター

ATK2400+1200→3600

 

「更に"パワー・ボンド"で特殊召喚したモンスターの攻撃力は、その元々の攻撃力分アップする!」

 

ユーフォロイド・ファイター

ATK3600→7200

 

「ほう…」

 

その光景にナイトメアからも声が漏れる。

 

「行くっス! 攻撃表示の"リバイバルゴーレム"に攻撃!」

 

「その為の"スパークガン"か…」

 

ナイトメアらの残りLPは7000。リバイバルゴーレムの攻撃力は100。ユーフォロイド・ファイターの攻撃力7200。一撃で残りのLPを削り切るには十分過ぎた。

 

「フォーチュン・サンダー!」

 

極太の雷がリバイバルゴーレムに直撃した後、ナイトメアをも飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くひっ!」

 

が、雷は当たる直前で何かバリアーのようなもので防がれた。バリアーの前には半透明の亀のようなモノが居座り、雷が霧散したのを確認すると消滅するようにそこから姿を消した。

 

ノーフェイスは墓地のカードを一枚抜き取り、デュエルディスクの別の場所に差し込む。

 

「"超電磁(ちょうでんじ)タートル"の効果はデュエル中に1度しか使用できない。相手バトルフェイズに墓地のこのカードを除外して発動できる。そのバトルフェイズを終了する」

 

「な……」

 

「"パワー・ボンド"のデメリット効果。ターン終了時に元々の攻撃力分のダメージを受ける」

 

「ターンエンド…」

 

丸藤

LP7400→3800

 

丸藤翔

LP3800

手札0

モンスター2

魔法・罠0

 

 

「ドロー。本当に素晴らしい。これ以上に讚美の言葉がない。あまり慣れないタッグとは言え、俺らがこれほど追い詰められるとは…」

 

手札1→2

 

彼はデッキからカードをドローすると、底冷えするような冷たい笑みを浮かべた。

 

TVなどである程度彼を知る者なら気付いた事だろう。ナイトメアという異名がついた理由であり、勝ちに出る時に彼が決まってする表情だと。

 

「でも俺の方が強い」

 

彼は叩き付けるように手札からモンスターを召喚する。

 

「俺は自分の墓地の"岩石の巨兵"、"融合呪印生物―地"、"磁石の戦士α"、"磁石の戦士β"、"磁石の戦士γ"、"コアキメイル・ウォール"、"ブロック・ゴーレム"、"磁石の戦士マグネット・バルキリオン"、"コアキメイル・オーバードーズ"、"コアキメイル・サンドマン"、"コアキメイル・ガーディアン"、"砂の魔女"を除外し、"メガロック・ドラゴン"を特殊召喚」

 

メガロック・ドラゴン

ATK?

 

メガロック・ドラゴン

星7/地属性/岩石族/攻 ?/守 ?

このカードは通常召喚できない。自分の墓地に存在する岩石族モンスターを除外する事でのみ特殊召喚できる。このカードの元々の攻撃力と守備力は、特殊召喚時に除外した岩石族モンスターの数×700ポイントの数値になる。

 

ナイトメアとノーフェイスの二人のフィールドに収まり切る限界ほどの巨大な大きさの岩のような竜が現れる。

 

「"メガロック・ドラゴン"の元々の攻撃力と守備力は、特殊召喚時に除外した岩石族モンスターの数×700ポイントの数値になる。よって……」

 

メガロック・ドラゴン

ATK8400

 

がら空きの遊城十代のLPを軽く越えている。この時点で負けは確定だろう。

 

「だから見せてやろう。"リバイバルゴーレム"、"メガロック・ドラゴン"、"トランスデーモン"の三体を生け贄に……」

 

次の瞬間、二人のフィールドで三つの竜巻が発生し、それらはやがてひとつの渦となるとその中から黄金の姿をしたソレが姿を現した。

 

 

 

 

 

「"ラーの翼神竜"を召喚」

 

 

 

 

 

紅蓮より赤い瞳、日輪のような背、鷲のような体躯、そして黄金の身体。

 

その全身から会場を空気を塗り替える程の灼熱を放ち、この世に現存する最後の伝説は直視するのも憚る程の輝きを放っていた。

 

ラーの翼神竜

ATK?

 

「"ラーの翼神竜"の攻撃力、守備力は生け贄に捧げたモンスターの攻撃力、守備力を合計した数値になるすなわち…」

 

ラーの翼神竜

ATK10000

 

「攻撃力10000……」

 

「すげぇ…」

 

丸藤翔も、遊城十代も負けたことより、別の感情が心を埋めていたようだ。

 

「LPを1000払い。耐性を無視し、相手フィールド上のすべてのモンスターを破壊する。ゴッド・フェニックス」

 

リック

LP7000→6000

 

ラーの翼神竜がひと哭きすれば全身から炎が吹き出し、正に不死鳥のような出で立ちとなる。

 

ラーの翼神竜はそのまま全ての炎を相手のフィールドに解き放った。無論、いとも容易くユーフォロイド・ファイターは灰になり、姿を消した。

 

「これで終わりだ……」

 

ラーの翼神竜の開かれた嘴に、太陽のように輝かしい光球が形成される。

 

 

 

「ゴッド・ブレイズ・キャノン」

 

 

 

光球が直撃し、遊城十代と丸藤翔の二人が、観客席の壁に激突して気絶した直後、試合終了のブザーが鳴り響いた。

 

 

遊城十代&丸藤翔

LP3800→0

 

 

 

 




アニメのラーが出るのが85話だったので80話程先取りしてみました。その結果がこれだよ(白目)。

大丈夫、きっと十代たちはなんとかなります(震え声)。

活動報告にヴェノミナーガさんのデッキのミニレシピみたいなの載っているので良かったら見てやって下さい。


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女王様ー!

友人「そろそろ新しいおっぱい出せよ」
私「は?」
友人「結局、中々BMG出ないじゃないか。訴訟。新しいおっぱいを要求する」
私「しかたねぇなぁ……」
友人「雄っぱいとか無し」
私「はいはい、ボインの女王様出してやるよ」
友人「やったー」


ー読ませた後ー


友人「 」
私「アニメちゃんと見ろ。ボインボインだぞ。めっちゃ胸あるぞ」
友人「違う、そうじゃない」

という経緯で出来た今回の話。やったねリック! 精霊がふえるよ!





時は約二日程前に遡り、俺は埃の積もったデュエルアカデミア旧館のエントランスにいた。

 

どうやら打ち捨てられてからそう何年も時間が経ってもいないらしく、人の手で管理されていないとしても崩落などの危険性は無いようだ。

 

「知ってるかしら? ルールは破るために、約束は守るためにあるのよ」

 

産まれ立ての小鹿のような足取りで俺の腕にしがみつきながらそんなことを言う藤原こと、藤原雪乃。

 

何でも幽霊やらホラー映画やらが大の苦手らしい。そしてこの様である。

 

そんなに恐いのなら着いてこなければ良いものを…。

 

「ねぇ?」

 

「ん?」

 

「そもそもどうしてここに来たのかしら?」

 

誤魔化すのはそう難しくもないが、コイツに限っては止めておいた方が良いだろう。ヴェノミナーガさんも気に入っている事だし、長い付き合いになりそうだからな。それにツァンちゃん曰く、デュエルアカデミアでもかなりの浮いた人物らしいので情報が漏れる心配も無かろう。

 

「倫理委員会はどうやって遊城らがここに来たのを知った? そしてなぜあの二人だけが制裁タッグデュエルに選ばれた? この二つの疑問の解決と、可能ならここで起こった遊城の話の裏付けを取るためだ」

 

遊城が言うには3人で肝試し目的でここに入り、その最中に天上院という名の女子生徒がタイタンというデュエリストに拐われ、それを解放する為にデュエルをしたらしい。肝試しとは何だったのか。

 

「あら? 随分と彼に入れ込んでいるのね? 少し妬けるわ」

 

「父さんからの依頼だ。まあ、少し首を突っ込んだなら俺も勝手に調べただろうがな。今回の制裁タッグデュエルには奇妙な点が多過ぎる」

 

そもそもどうして倫理委員会がここに彼らが居たことを知れた?

 

彼らの中から教師に報告した者がいる? それはありえないだろう。と言うかする意味が毛ほどもない。

 

事情を知るオシリスレッドの寮生が通報した?

 

蹴落とす意味のあるオベリスクブルーならまだしも、最底辺の者がそんなことをするとも考えづらいだろう。愉悦に浸れる程度の意味しかない。

 

まあ、仮にどちらかだとしても先にもっと現実的な別の答えが見えてくる。

 

俺は内ポケットから取り出したカードを一枚掲げると精霊の力を行使した。

 

「"モンスター・アイ"」

 

モンスター・アイ

星1/闇属性/悪魔族/攻 250/守 350

1000ライフポイントを払って発動する。自分の墓地に存在する「融合」魔法カード1枚を手札に戻す。

 

わらわらと紫色の目玉が大量に召喚された。

 

悪魔が住む精霊界の様々な場所で監視する使い魔であり、見つかると煙幕を張って逃げる。すなわち、攻撃性能など元から皆無のカードである。

 

「それが精霊の力なの?」

 

「ああ」

 

藤原は恐らくヴェノミナーガさん以外に初めて見るであろうカードの精霊に目を丸くしている。

 

「可愛いわね」

 

「…………ただの目玉だぞ?」

 

「可愛いわ。色とか形とか」

 

ああ、そう言えばコイツのデッキはゲテモノ揃いだったな……何故に幽霊は怖くてこういうカードは好きなんだか。

 

「行け」

 

俺がモンスター・アイに指示を出すと、目玉たちは勢い良く旧館の奥へと飛んで行った。

 

「…………よし」

 

早ければ1分程、長くても3分程でほぼ全てのモンスター・アイから反応が返ってきたため、藤原を連れて奥へと足を進めた。

 

 

 

 

 

「やはりか」

 

「何をさせたのかしら?」

 

「この旧館の正しいマッピングだ。それと地下デュエル場を発見したらしい」

 

資料には無い場所だ。デュエルは旧館とは別の既に取り壊された屋内テニス場を兼ねる建物でされていたとあるが……ほう。

 

俺は藤原を連れ、そこに向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

地下デュエル場に入った瞬間に違和感と若干の嫌悪感を感じてふと、藤原の顔色を確認する。

 

「?」

 

ハテナを浮かべ、首を傾げながら藤原は俺を見つめ返しているようだ。

 

相変わらず、余裕を持った表情をした人類の上から数えた方が遥かに早い場所にいる人間離れした美人だ。大会の時で既にソレだったが、今では更に磨きが掛かっていると言える。完全に成熟すればどんな風になるのかなど想像もつかない。

 

「ふふ、私に見惚れてる?」

 

「美人だとは思う。けどそれだけだ」

 

「いけずね…」

 

どうやら違和感やら嫌悪感を感じているのは俺だけのようだ。藤原もかなり強力な部類(ヴェノミナーガさんが取り憑く程)の此方側の人間だが、流石に俺に比べればまだ可愛い。反応が微弱な為に藤原では感じ取る事が出来なかったと言うことだろう。

 

「ふむ…」

 

「きゃっ!?」

 

俺は"闇をかき消す光"のカードを懐から取り出し、それを掲げた。

 

カードから凄まじい閃光が放たれ、藤原が可愛い悲鳴を上げると共にフィールドを照らしていく。

 

次の瞬間、炙り出されたように小くて黒い、闇の精霊が大量に出現した。なるほど……失踪者が出るわけだ。

 

"闇をかき消す光"に照らされていることで、闇の精霊たちの動きは鈍り、俺の近くにいた闇の精霊に至っては浄化され始めている始末だ。一体一体はゴミでもこれだけ集まれば人間に害が出るレベルになるだろうな。

 

まあ……。

 

「デス・ガーディウス」

 

『ゲッゲッゲ……』

 

間近で光を喰らっても声色ひとつ変わらずに楽しそうにしている俺の魔霊と比べるのは酷か。

 

デス・ガーディウスは爪を振り絞ると、横に凪ぎ払った。それにより、一撃で部屋中の闇の精霊はほぼ壊滅する。ここまで減ってしまえば最早、人の世界に形をとることすら不可能だろう。

 

役目を終えたデス・ガーディウスは言う間も無く消え、残った闇の精霊たちは溶けるように消滅する。藤原が目を開いた頃には全てが終わり、部屋の中央には遊城の証言の通り、仮面を付けた黒い大男が倒れていた。

 

「た、助かったのか……!?」

 

起き上がった大男……タイタンは周りを見回しながらそんなことを呟く。そして、にやにやと笑う俺と目があった。

 

「なあ、タイタン? アンティデュエルしようや……」

 

「な…誰だお前らはァ!? なぜ私の名を…」

 

次の瞬間、黒い魔弾がタイタンの顔の真横を通過し、後方にあった棺桶にぶち当たると激しい音を立てて爆散させた。タイタンは音が出たその場所を眺めてから俺に視線を戻し、俺の腕がドス黒い何かを纏っている事に顔を青くしている。

 

俺の破壊の精霊の力を簡単に纏めるとこんな感じに色々なものをぶっ壊せる非常にわかりやすい能力だ。

 

「いいか? もう一度、よく聞け? 回答はYESかNOかだ。俺が負けたらレアカードを1枚やろう……その代わりお前が負けたらデッキからカードを1枚俺が貰い、そして、今回の仕事の依頼者の名前を吐いて貰う。いいな?」

 

「あ、ああ! わかった! わかった!」

 

どちらでもとりあえず家には帰れると踏んだのか、タイタンは首を大きく縦に振った。

 

「真のデュエリストってスゴいわね…」

 

気にするな。

 

「よし、俺はプロランクⅣ。ナイトメア」

 

「よォし!……………………は…?」

 

デュエリストで、テレビが家にあれば知っているような名前が出てきた事でタイタンはすっとんきょうな声を上げる。

 

「まあ、プロデュエリストとして、アマチュア以下のデュエリストをボコるのは信条に反するな……」

 

「……どの口が言うのかしら?」

 

うるさい、古代怪獣ツインテール。グドンにでも喰われてしまえ。

 

「と、言うわけで俺はシールドデッキで戦うとしよう」

 

説明しよう。シールドデッキとはパックを8枚開封し、それをデッキとしてデュエルをする遊びのひとつである。だが、これが精霊の力や、その手の才能の強いデュエリストになってくると遊びと呼べなくなってくる。

 

持ってきたカバンから購買で砂の魔女から横流し……げぶん…購入したカードを3箱取り出し、タイタンの目の前で3箱の蓋を開け、中のパックを全て外に出す。最後にそれを纏めて直感的に8つのパックを掴み取り、開封した。

 

「!」

 

こ、これは……いいカードだ…。なぜかこれを有効に使う為に他のカードも纏まって出ているし、精霊の力を引き出せばこれでも十二分に戦えるな…。

 

「待たせたな。さて始めようか……」

 

40枚のカードをデュエルディスクに嵌め込むと、既にデュエルディスクを広げて待っているタイタンとは逆の位置についた。

 

「約束は……」

 

「安心しろ。デュエルディスクに懸けてもいい」

 

「そうか……行くぞ!」

 

 

 

『デュエル!』

 

 

 

リック

LP4000

 

タイタン

LP4000

 

 

「俺のターン。ドロー」

 

手札5→6

 

「俺はカードを2枚伏せ、モンスターをセット。ターンエンドだ」

 

さてさて、遊城から聞いたデーモンデッキとやらを見せて貰おうか。

 

リック

モンスター1

魔法・罠2

手札3

 

 

「ドロォ!」

 

手札5→6

 

「私は"天使の施し"を発動。3枚ドローし、2枚捨てる」

 

手札5→6

 

「そして、"死者蘇生"発動ォ! 蘇れ! "迅雷の魔王-スカル・デーモン"!」

迅雷の魔王-スカル・デーモン

星6/闇属性/悪魔族/攻2500/守1200

このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に500ライフポイントを払う。このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、その処理を行う時にサイコロを1回振る。1・3・6が出た場合、その効果を無効にし破壊する。

 

スカル・デーモン

ATK2500

 

黒めのデーモンの召喚が地面から生えてきた。ほほう……中々に優秀なカードじゃないか。

 

あのデーモンの召喚の上位互換コンパチカードと言うだけはあり、幻のレアカードのひとつだ。その価格も、実用性も凄まじい。

 

「喰らえぃ! 怒髪天昇撃ぃ!」

 

…………何その攻撃名? 俺が使う時は魔降雷って言おう…。

 

「セットモンスターは"共鳴虫(ハウリング・インセクト)"だ。当然、破壊される」

共鳴虫

DEF1300

共鳴虫

星3/地属性/昆虫族/攻1200/守1300

このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下の昆虫族モンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。その後デッキをシャッフルする。

 

「だが、戦闘によって破壊された事で"共鳴虫(ハウリング・インセクト)"の効果発動。デッキから攻撃力1500以下の昆虫族モンスターを特殊召喚する。俺は"代打バッター"を選択」

 

代打バッター

星4/地属性/昆虫族/攻1000/守1200

自分フィールド上に存在するこのカードが墓地に送られた時、自分の手札から昆虫族モンスター1体を特殊召喚する事ができる。

 

代打バッター

ATK1000

 

夏の庭をよく探せば居そうなバッタが召喚される。トノサマバッタに近いので探すのは少し時間が掛かるかもしれないな。

 

「くっ……デーモン・ソルジャーを召喚し、ターンエンドだ」

 

デーモン・ソルジャー

星4/闇属性/悪魔族/攻1900/守1500

デーモンの中でも精鋭だけを集めた部隊に所属する戦闘のエキスパート。与えられた任務を確実にこなす事で有名。

 

デーモン・ソルジャー

ATK1900

 

それだけか……まあ、良いさ。

 

タイタン

モンスター2

魔法・罠0

手札3

 

 

「俺のターンドロー」

 

手札3→4

 

「魔法カード発動。"ブラックホール"。フィールド上の全てのモンスターを凪ぎ払う。"スカル・デーモン"は対象に取らない効果をキャンセルすることは出来ない」

 

「馬鹿なァ!? 」

 

代打バッターと、スカル・デーモンと、デーモン・ソルジャーは暗黒に飲まれ、消えていった。

 

「この瞬間、"代打バッター"の効果発動。自分フィールド上に存在するこのカードが墓地に送られた時、自分の手札から昆虫族モンスター1体を特殊召喚する事ができる。俺は……」

 

俺はデュエルディスクにそのモンスターを置く。さあ、早速だが使わせて貰おうか……。

 

「"インセクト女王(クイーン)"を特殊召喚する!」

 

インセクト女王

星8/地属性/昆虫族/攻2200/守2400

全フィールド上のこのカード以外の昆虫族モンスター1体につき、このカードの攻撃力は400ポイントアップする。このカードが相手モンスターを破壊したターンのエンドフェイズ時、自分フィールド上に「インセクト・ラーバ」(昆虫族・地・星4・攻1200/守0)1体を攻撃表示で特殊召喚する。「インセクト・ラーバ」は表示形式を変更出来ない。

 

巨大な蟻のような造形の昆虫の女王が表示されたカードから這い出るようにフィールドに現れる。インセクト女王は自分の身体を慣らすように羽根を世話しなく動かすと、荒々しい叫び声を上げた。

 

『アアアァアァァア____』

 

インセクト女王

ATK2200

 

「い、インセクト女王だと…? この場で幻のレアカードを引き当てたと言うのか!?」

 

しかも、最も強かった原作(コミック)版仕様のインセクト女王である。

 

OCG版より強い点。

 

自分を対象に取れない代わりに強化がかなり強い。

インセクト・ラーバ(インセクトモンスタートークン)が普通に使える性能。

攻撃コストが必要ない。

 

ぶっちゃけ、グレートモスなんか初めからいらなかったんや…。

 

「セットされた"無謀な欲張り"を発動。自分のデッキからカードを2枚ドローし、その後、自分のドローフェイズを2回スキップする」

 

手札2→4

 

ふむ、十分だな。この引きを見るにインセクト女王はかなりの精霊の力を持っているのだろう。嬉しい限りだ。

 

「俺は墓地の"共鳴虫"と、"代打バッター"を除外し、"デビルドーザー"を特殊召喚」

 

デビルドーザー

星8/地属性/昆虫族/攻2800/守2600

このカードは通常召喚できない。自分の墓地の昆虫族モンスター2体をゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、相手のデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。

 

デビルドーザー

ATK2800

 

赤く巨大なムカデがインセクト女王を護るように身体を曲げながらその場に現れた。

 

デビルドーザー。現実では環境に虫を台頭させた程のエースモンスターだ。デミスドーザーと聞けば当時を思い出し、手が震える方々も多い事だろう。その造形と、ゆるゆるな召喚制限から昆虫族では最早、まずデビルドーザーを用意してからデッキを組み立てられる程に愛好家も多い。同じ理由でジャイアントワームも貴重だ。こちらの世界では造形のお陰で使う人間を全く見ないがな!

 

「更に"ゴキボール"を召喚」

 

星4/地属性/昆虫族/攻1200/守1400

丸いゴキブリ。ゴロゴロ転がって攻撃。守備が意外と高いぞ。

 

ゴキボール

ATK1200

 

見よ我らのゴキボールを! ちなみにこっちではチョコボールの代わりにゴキボールというものが商品化されていて絶大な人気がある。嘴ならぬ顎に付いている銅の卵、銀の卵、金の卵をそれぞれ5枚集めると無駄にリアルな造形の銅のゴキ缶、銀のゴキ缶、金のゴキ缶に交換できるのだ! ちなみに俺はコンプリート済みだ。どれをとっても中身が殆ど変わらないという現実を教えてくれるぞ!

 

勿論、ゴキちゃんという子供向けと銘打っていながら登場する子供が全体的に毒舌で、無駄に現実味のある反応をするあの伝説のアニメで主役を飾っている。

 

どんなに人気者になろうとクズカードに変わりはないけどな!

 

「"ゴキボール"を生け贄に"アリの増殖"発動。自分フィールド上に"兵隊アリトークン(昆虫族・地・星4・攻500/守1200)"を2体特殊召喚する。尚、このトークンは生け贄召喚のための生け贄にはできない」

 

兵隊アリトークン

ATK500

 

兵隊アリトークン

ATK500

 

ゴキボールが消え、代わりに2体のアリトークンがインセクト女王の両隣を守護するように召喚された。

 

「更に墓地の"ゴキボール"を除外し、"ジャイアントワーム"を特殊召喚」

 

ジャイアントワーム

星4/地属性/昆虫族/攻1900/守 400

このカードは通常召喚できない。自分の墓地に存在する昆虫族モンスター1体をゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、相手のデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。

 

ジャイアントワーム

ATK1900

 

デビルドーザーをそのまま縮小し、緑色にしたようなムカデが現れる。

 

「セットカードを発動。永続罠カード"暴走闘君(ぼうそうとうくん)"。このカードがフィールド上に存在する限り、攻撃表示で存在するトークンの攻撃力は1000ポイントアップし、戦闘では破壊されない」

 

兵隊アリトークン

ATK500→1500

 

兵隊アリトークン

ATK500→1500

 

暴走闘君の状況下ではインセクト・ラーバの攻撃力は2200とかなりキツい火力になったりするが、この男が今のデュエルでそれを目にすることはないだろうな。

 

「そして、インセクト女王の効果。全フィールド上のこのカード以外の昆虫族モンスター1体につき、このカードの攻撃力は400ポイントアップする。4体居ることで1600ポイントアップだ」

 

「な………………」

 

インセクト女王の身体が原型を留めたまま、巨大化する。巨大化が終了したインセクト女王の体躯はデビルドーザーをも越え、タイタンを容易く見下ろしていた。

 

インセクト女王

ATK2200→3800

 

「な、馬鹿な……こんなことが……これが本物のプロデュエリストだと…?」

 

インセクト女王

ATK3800

 

デビルドーザー

ATK2800

 

ジャイアントワーム

ATK1900

 

兵隊アリトークン

ATK1500

 

兵隊アリトークン

ATK1500

 

俺のフィールドを見渡したタイタンは無意識の内に後ろに下がりながらそんな言葉を吐く。まあ、ここまで楽しんで貰えたのなら結構だな。これぞエンターテイメント。プロデュエリストの戦いだ。

 

俺はゆっくりと手を掲げると、自然に口角が上がる感じながら言葉を吐いた。

 

「さあ…道を開けろ悪魔(デーモン)。この世で最もおぞましい、女王の行進だ」

 

手を振り下ろした瞬間、デビルドーザーが意図も容易くタイタンを引き裂き、軍隊アリとジャイアントワームの顎がタイタンの身体を噛み砕く。

 

「クイーンズ・インパクト」

 

そして、止めにインセクト女王の口から極太の緑の光線が放たれ、タイタンを貫いた。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!?」

 

タイタン

LP4000→0

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

俺は迅雷の魔王 スカル・デーモン(思わぬ)インセクト女王(収穫)に心踊らせながらタイタンから今回の仕事の依頼者を聞き出し、放してやった。もう、滅多な事はすまい。アレも一応は被害者だからな。万が一を考えて、一般用の本土へのフェリーの利用券を渡してやったから大丈夫だろう。

 

それは兎も角、旧館のタイタンに、匿名の情報からの制裁タッグデュエル。ここまで遊城を陥れる理由はひとつだろう。

 

「セブンスターズの為か…」

 

「セブンスターズ?」

 

「デュエル・アカデミアの影丸理事長が集めているデュエリスト集団の事だ。ただのデュエリストを集めているだけならまだ良いが、どうやら影丸は闇のデュエリストやら、自分で現界出来るほど強いカードの精霊やらを集めているらしい」

 

「へぇ…詳しいわね?」

 

「俺も誘われたからな」

 

断ったため目的は知らんが、十中八九この島に封印されている三枚のカードの解放の為だろう。と言うか集団がセブンスターズと言う名前で、封印されている場所が七星門と呼ばれているのだからある程度知る者ならマジで隠す気あんのかジジイと突っ込みたくなるレベルである。

 

兎も角、あのジジイが遊城十代を今のデュエルアカデミアで一番の不確定要素で、危険要素だと踏んだのだろう。

 

釣竿を借りた時に遊城の舎弟からアニキはスゴいんだぞ!との言葉と共に入学してからの武勇伝を聞かされたが、確かにあのジジイも畏怖を覚えるだろう。大多数のデュエリストと違い、実力が底知れないデュエリストより恐いものはないのだから。

いや、あのジジイがと言うのには語弊がある。

 

倫理委員会にあの速度で情報を流せたのは寮生でも、その時のメンバーでもないのなら。日頃から嫌っているタイタンの依頼者か、胆試しそのものをけしかけた人物くらいだ。

 

俺はペンとメモ帳を取るとそこに書き記した。

 

『"大徳寺"か、"クロノス"は黒』

 

まあ、こんなところか。これだけわかればこっちの実入りも十分。後で父さんに渡しておこう。

 

まあ、気掛かりな事はもうひとつある。こちらの世界に影響を及ぼす程の闇の精霊が、霊地でもないのに勝手に集まるとは考え難い。恐らく、ここにあれらを引き寄せた何かがあったはずなのだ。

 

まあ、そこまでになってくるともう俺の手に負えるかは微妙なところだ。デュエルが出来るなら喜んで参加するがそうでないならヴェノミナーガさんに任せてしまうとするか。

 

「帰るぞ」

 

「ねえ、リック?」

 

「なんだ? ああ、そうだな。お前はもう寮…に…か……え………れ?」

 

藤原が指差す方向にはデュエルが終わっても未だ消えずに、フィールドに出た時の大きさで身体を向けてこちらを見つめるインセクト女王がいた。

 

「………………」

 

『………………』

 

恐る恐るお辞儀をしてみると向こうも同じ動作でお辞儀を返してくる。アニメでも思ったが、よく見ると顔はかなり美人だよな……顔も人間の造形してないけど。

 

「…………こんにちは」

 

『アァ___』

 

挨拶をするとなにやら声を発しながら会釈をしてきたが、人語ではないため、何を言っているかさっぱりだ。後で"若いお二人に任せて私は暫く何処かに行っていますねー。ひゅーひゅー"とか言いながら旧館に入る前に消えたヴェノミナーガさんにでも翻訳して貰うとするか……。

 

…………………………。

………………………。

……………………。

…………………。

………………。

……………。

…………。

………うん。

 

 

 

カードの精霊だこれー!?

 

 

 

 




わかりやすいリックくんの引きの強さ。
シールドデッキでテーマデッキが完成するレベル。

FGOで作者とフレンドになりたい方はIDと出来ればFGOでの名前(フレンド整理中に消去してしまう可能性があるのでリストを作るため)を書いて、メールでもしてください。実力に関係無く100%フレンドにしたい(願望)。フレンド枠がついにハーメルンのフレンドでパンクしました……。運営よなぜレベルでフレンド枠はさらに伸びない……なぜ課金で増やせない…。

ちなみに作者のトップは基本的にアルテミスさんです。男性はまかせろーバリバリー!



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真・制裁デュエル2


どうもちゅーに菌or病魔です。

今回はとある人の黒化をちょっとだけ後押ししてみました。遺影☆

ところで話は変わりますが、アストラ直剣でカンストロードランを行くと言う動画がニコニコにありましてね。その結晶洞穴編の最初の方で侵入してくる銀騎士がいるんですが。

あれ、私です。

まさかシースの脱税調査に来たらホモ扱いされるとは思わなかった(驚愕)。ちゅらいね。

最近はそこの隊長の闘技場の生放送で伝導者で踊りつつ、KOTYeのクリスマスソングこと冬のロンド(ED)をリクエストしたりしてました(オイ)。

冬のロンドのEDの"白い輪舞曲"は神曲だと思うので是非聴いてみると良いですよ。


後、なんか今回は本編と後書きで14000文字ぐらいになったので地味に長いです。

Q:ならなんでそもそもリックくんはタッグデュエルをしたの?
A:そこにデュエルがあったから


 

 

 

試合終了のブザーと共に遊城十代と、丸藤翔が、観客席を隔てる壁に激突する。

 

ラーの翼神竜は真っ直ぐに二人を見つめた後、ひと鳴きの声をあげると静かに消滅した。後に残るのは二人のプロデュエリストと、微かな熱風のみだ。

 

そんな最中、ノーフェイスと、ナイトメアが揃って恭しく一礼をしたことで、観客席の生徒や教員に試合が終了したことを告げる。

 

「二人を医務室へ連れて行け」

 

「きひひ……」

 

顔も向けずに彼がそう呟くと、ノーフェイスは即座に壁際で気絶している様子の遊城十代と丸藤翔へと迫り、その細身からは想像が付かないほど軽い動作で二人を肩に抱え、何処かへと走り去ってしまった。

 

「さてさて……」

 

彼が指を鳴らすと金髪の男性教員の手にあるマイクが、弾け飛ぶように彼の手中に引き寄せられ、マイクを握り締める。

 

《えーと、あー、あー、これより制裁デュエルへと移ります》

 

制裁タッグデュエルの勝者の奇妙な発言により、会場中の生徒と教員に疑問符が浮かぶ。

 

「な、何を言っているノーネ…?」

 

特に驚愕の色を浮かべたのは遊城十代らの敗北に小躍りしていた実技担当最高責任者のクロノス・デ・メディチだ。

 

クロノス教諭の小さな呟きを聞いていたのか、彼はそちらに身体を向けると再び口を開いた。

 

《そもそもこう言った制裁デュエル等は学校長、教員、そして倫理委員会の三つの決定の多数決によって最終決定が下される事は、クロノス教諭は特に良く理解されていると思います》

 

「そ、そうナノーネ! 決定は絶対でスーノ!」

 

最後のクロノス教諭の言葉を聞いた彼の口角が微かに上がったように見えたが、定かではない。

 

《実はですね。タッグデュエルの前に、倫理委員会が制裁タッグデュエルの決定を取り下げ、妥協案を提出してきたのをすっかり忘れてデュエルをしてしまいました。いやー、失敬失敬。俺の不手際です。これで制裁タッグデュエルに賛成が1、反対も1となりこの制裁タッグデュエル自体が成立していない》

 

要するに…と彼は句切り、頭を掻いてからハッキリと呟いた。

 

《無効試合です》

 

「マ、マンマミーヤ!?」

 

《後は鮫島校長が、この倫理委員会の意向に賛同、或いは変わらずに反対してくれれば済むのですが…? あ、勿論さっきのデュエルは私たちが倫理委員会の意向を汲み取らず勝手にしてしまったモノという事でノーギャラで構いません》

 

「勿論です…………後でサイン等を貰えませんか?」

《それぐらい幾らでも。さて、鮫島校長の同意も得られた事ですし、クロノス教諭も異論はありませんね?》

 

「ま、ま、待つノーネ! そんな急……な、何でスーノ?」

 

すると彼がクロノス教諭の隣りまで移動し、手の中にある何かをクロノス教諭だけに見えるように見せながら小さく耳打ちする。

 

その直後、みるみるうちにクロノス教諭の顔が青く染まって行き、最後には身体まで震わせ始める始末である。

 

彼は特に気にする様子もなくデュエルリングの中央に戻ると、笑顔を作りマイクを構えた。

 

《ありませんね…?》

 

「わ、私もそれで良いノーネ! こ、今回の件は少しやり過ぎだと思っていたところナノーネ!」

 

《では中継を繋ぎますね》

 

彼がそう言うとデュエル場の照明が一時的に落ち、スクリーンに映像が写される。そこには老年男性の姿があった。

 

《影丸理事長です》

 

『彼の説明の通りだ。では改めて制裁デュエルの内容を発表しよう……』

 

柳の大木のような枯れながらも確かな力を宿す老人の口から言葉が紡がれる。

 

『旧校舎へ侵入した遊城十代、丸藤翔、前田隼人、天上院明日香。それと…"藤原雪乃"、"リック・べネット"の計6名から代表を一人選出し、デュエルアカデミアで最も実力のある生徒とデュエルを行う。勝てば不問、負ければ実技担当最高責任者に処罰の内容は委託しよう』

 

それだけ告げると映像は止まり、デュエル場に明かりが戻った。

 

《との事です。実は俺も昨日、興味本意で侵入してしまいましてね。まさか、校則違反だったとは……露知らず》

 

やってしまったと言わんばかりに恭しく表情を作る彼。その様子を見ている観客席の紫髪の少女がひとりでなにやら身を震わせているが、この場で彼女の状態に気を向ける者は居ないだろう。

 

《それでクロノス教諭》

 

「ひょ?」

 

《代表者が敗北した場合、オシリスレッドの遊城十代、丸藤翔、前田隼人。オベリスクブルーの天上院明日香、藤原雪乃。そして、俺の処遇を直々に決定できる権利を得たわけですが……どうするおつもりで?》

 

「ナポリターナ!?」

 

既に逃走せんばかりの様子だったクロノス教諭に思わぬ重役が回ってきた事で奇声が飛び出す。

 

《もし、敗北すれば甘んじて受け入れましょう。ね? クロノス教諭》

 

後で本人が漏らした話だが、薄く開かれた目蓋から覗く彼の視線は、蛇に睨まれたかのような感覚だったらしい。

 

クロノス教諭は冷や汗とも脂汗ともつかないモノを滝のように流しながら絞り出すように口を開いた。

 

「は、反省文の提出でどうナノーネ…?」

 

《ではそうしましょう! 次は6人の内から代表者を選出しなければなりませんね。ですが、残念な事に遊城十代と、丸藤翔は現在医務室にいるので立候補出来そうにありません。とすると…》

 

「私がやるわ!」

 

彼の言葉を遮り、観客席でひとりの女子生徒が立ち上がった事でここにいるほぼ全員の視線がそちらに注がれる。

 

見れば名前を上げられていたひとり、オベリスクブルーの天上院明日香という女学生だ。

 

皆の注目がそちらに向いている中、彼はそっとマイクを下ろすと小さく舌打ちを鳴らしてからポツリと呟いた。

 

「行け、藤原…」

 

『君に決めた!』

 

その数秒後、天上院明日香が紫髪の女学生に後ろから口を塞がれ、凄まじい速度で何処かへと連れ去られて行くのが彼の目には映った。

 

「後でなんか要求されるんだろうな…」

 

『モテる男は罪ですねぇ…このこの!』

 

彼は誰にも聞かれぬように小さく呟いてからマイクを再び口元に寄せる。

 

《仕方がありません。俺が立候補しましょう。残りの方も異論はありませんね?》

 

実質、候補者が2名。それも片方はオシリスレッドの生徒のみとなった中で反論など出るハズも無かった。

 

彼はマイクを鮫島校長に渡すと、首を鳴らしながら自分とノーフェイスが立っていた場所の中間に移動し終える。

 

懐から取り出したデッキを既に刺さっているデッキと差し替え、ライフ版に瞳の装飾がされた青銅器のようなデュエルディスクを展開した。

 

「さ……誰でも来なよ。極上のデュエルをしようぜ」

 

彼の呟きの後、会場が完全に静まり返る。観客にすら有無を言わさない彼の態度はいっそ清々しい程に冷徹であり、豪胆に映る。

 

その最中、鮫島校長の声が響いた。

 

《では、丸藤亮君。制裁デュエルの相手を受けてくださいますか?》

 

「ああ……!」

 

歓喜にも似た呟きと共に、観客席からデュエル場へと背の高い青年が移動する。

 

青年はそのまま彼の対面に立つと、言葉を吐く。

 

「オベリスクブルー3年の丸藤亮だ……君の入学を歓迎する。それと…こんな形にはなってしまったが、早くに君と戦える機会に恵まれて光栄だ」

 

それを聞いた彼の瞳が大きく見開かれ、その後に口の端をつり上げ、笑みを作った。

 

「それはどうも先輩。俺も嬉しいですよ。俺とデュエルをしたいなんて言う生徒が少なくとももう二人も居て」

 

『1度でもデュエルしたプロデュエリストの97%に嫌われてますものね。マスター』

 

丸藤亮が生徒用のデュエルディスクを展開し、互いにデュエルディスクを構える。

 

 

 

『デュエル!』

 

 

 

リック・ベネット

LP4000

 

丸藤亮

LP4000

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「ドロー」

 

先攻は彼のターンからだった。

 

手札5→6

 

「俺は"天使の施し"を発動。3枚ドローし、2枚墓地へ送る」

 

手札5→6

 

「カードを4枚伏せてターンエンド」

 

リック

LP4000

手札2

モンスター0

魔法・罠4

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

手札

5→6

 

(随分、消極的なプレイングだな。いや、嵐の前の静けさと言うものか)

 

丸藤亮は彼……リック・ベネットにしては珍しく大人しいプレイングに若干の違和感を覚えるが、亮自身それに甘んじるようなデュエリストではない。

 

リック・ベネットあるいはナイトメア。

 

世界ランク4位のプロデュエリストにして、現在王座に輝き続ける伝説の全米チャンプでもある。

 

そして、何よりも特徴的なのは彼のデュエルスタイルであり、それを一言で言うのならば鬼畜。残虐で、如何に嫌われるプレイスタイルであろうと平然と行い、最後には勝利をもぎ取る。

 

だが、彼のデュエルには観客からのヤジが飛ばず、寧ろ観戦チケットが飛ぶように売れるのだから不思議である。

 

亮が彼の事を知ったのは他でもない。実技の責任者のひとりであるコブラ教諭が、ビデオ学習と称してプロデュエリストのデュエルを解説する授業を行うのだが、それに頻繁にコブラ教諭の息子である彼が題材に使われるからだ。

 

最初はコブラ教諭が自分の息子を贔屓しているのかと思えば、蓋を開けてみると様々な高レベルモンスターを召喚することを主軸に組まれたデッキや、ハングリーバーガーさえもエース級モンスターにしてしまう現代の魔術師のような手腕で作られた彼のデッキの数々は、タクティクスのひとつを取っても斬新かつ学ぶ事が非常に多い。

 

自分より2歳も下の人間が、あの場に立っている事も驚きだが、亮にとってはそれ以上に彼に惹かれるところがあった。それは彼と自分がどこか似ている気がした事だ。

 

片やプロデュエル界の悪夢。片やデュエルアカデミアの帝王。肩書きもデッキ構成も大きく違う。それでも彼のデュエルと、自分のデッキは何かが似ていると亮は感じていた。

 

故に亮は確実に罠が張られているにしても自分の出せる最高のカードを切る。悔いの無いように、互いに全力を出し切るように。

 

そして、願わくば疑問の答えが見れるように。

 

「ならこちらから行こう。手札から融合を発動。手札の"サイバー・ドラゴン"3体を融合して、"サイバー・エンド・ドラゴン"を融合召喚」

 

サイバー・エンド・ドラゴン

星10/光属性/機械族/攻4000/守2800

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

 

サイバー・エンド・ドラゴン

ATK4000

 

フィールドに三つ首の機械竜が現れ、その巨体が亮の場の殆どを埋めた。

 

それに驚いた様子もない彼は1枚のカードを発動する。

 

「永続罠カード"デモンズ・チェーン"を発動。対象は勿論、"サイバー・エンド・ドラゴン"。このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、その表側表示モンスターは攻撃できず、効果は無効化される」

 

サイバー・エンド・ドラゴンに無数の鎖が迫る。

 

「させん! 手札から速攻魔法"融合解除"を発動!」

 

サイバー・エンド・ドラゴンが光に包まれ、3体のサイバー・ドラゴンに戻る。対象を失った鎖は虚しく風を切った。

 

サイバー・ドラゴン

星5/光属性/機械族/攻2100/守1600

相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

 

サイバー・ドラゴン

ATK2100

 

サイバー・ドラゴン

ATK2100

 

サイバー・ドラゴン

ATK2100

 

「行くぞ…! バトル! エヴォリューション・バースト!」

 

3体のサイバー・ドラゴンが彼に迫る。これが通ればLPを削り切られることになるだろう。

 

「リバースカードオープン、"リビングデッドの呼び声"。俺は墓地の"トライホーン・ドラゴン"を特殊召喚する」

 

トライホーン・ドラゴン

ATK2850

 

だが、3本のツノが特徴的な悪魔竜が地面から生えるようにフィールドに現れ、サイバー・ドラゴンらの攻撃は断念を余儀無くされた。

 

(やはり、この程度はお見通しか…)

 

1度も召喚権を行使していないにも関わらず、彼のフィールド場にはサイバー・ドラゴンを越える上級モンスターが1体。

 

その上、全体で見ればターン終了時の彼のフィールドと手札を含めたカード枚数と、サイバー・エンド・ドラゴンを捌き切った上でのカード枚数に目立った変化が無い事が、世界の実力と言うものを痛感する。

 

「ターンエンド…」

 

丸藤亮

LP4000

モンスター3

魔法・罠0

手札1

 

 

「ドロー」

 

手札2→3

 

「手札から速攻魔法"死者への供物"を発動。フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を破壊する。対象は1体の"サイバー・ドラゴン"」

 

「くっ……」

 

3体の内の1体のサイバー・ドラゴンに死者への供物から伸びた白い聖骸布が巻かれ、全身を隙間無く埋めた直後、跡形もなく消滅した。

 

「その代わりに次の自分のドローフェイズをスキップする」

 

更に彼はフィールドに伏せられたカードを開く。

 

「"トライホーン・ドラゴン"を生け贄に罠カード"ナイトメア・デーモンズ"を発動。 相手フィールド上に"ナイトメア・デーモン・トークン(悪魔族・闇・星6・攻/守2000)"3体を攻撃表示で特殊召喚する」

 

「なに…!?」

 

前のターンで得たアドバンテージを自ら放棄し、更に敵に塩を送る。1ターン前の堅牢なプレイングからは嘘のような光景に思わず、亮の口から声が漏れる。

 

ナイトメア・デーモン・トークン

ATK2000

 

ナイトメア・デーモン・トークン

ATK2000

 

ナイトメア・デーモン・トークン

ATK2000

 

トライホーン・ドラゴンが糸が切れた人形のように倒れ、静かに事切れると、それに代わるように亮のフィールドに3体の悪魔が舞い降りた。

 

3体の悪魔は皆何かを嘲笑うかのような笑い声を上げ、相変わらず不敵な笑みを浮かべる彼のフィールドには、トライホーン・ドラゴンの骸だけが転がっている。

 

自暴自棄にでも陥ったかのようなあまりにも異様なプレイングと、自身のモンスターに対する良心が欠落しているかのような姿勢に殆どの生徒は言葉を失う。

 

亮も予備知識として知ってはいたが、それでもひとりのデュエリストとして聞かずにはいられなかった。

 

「君は何とも思わないのか…?」

 

大なり小なりアカデミアの門を叩いたようなデュエリストならば、自身のカードに愛着を覚えている。だが、そうでない下種な人種にしても嘲るような態度を取るだろう。だが、彼にはその様子も見受けられない。つまりは今のプレイングに対し、何の関心すら抱いていないのだ。

 

だが、亮のその言葉を聞いた彼は訝しげな……というよりも呆れたような表情を浮かべている。

 

「俺は自分のカード、引いてはデッキを、精霊達を骨の髄まで愛してる」

 

彼がそう呟いた次の瞬間、事切れた筈のトライホーン・ドラゴンがゆっくりと身体を起こし始める。

 

だが、その過程でトライホーン・ドラゴンの血肉が急激に溶け消え、立ち上がった頃には骨だけが残るがらんどうの姿となり果てていた。

 

「だからこそ、どんなデュエリストよりも刺激的なデュエルをしたいんだ。ほら、カードも笑っている」

 

化石館の展示品のようなトライホーン・ドラゴンの竜骨から骨と骨が擦り合うような奇妙な音が規則的に響く。

 

どこか笑い声にも似た音の中、彼は1枚のカードを掲げ、丸藤亮とのデュエル中に初めて小さな笑みを浮かべた。

 

その笑顔を見た瞬間、亮の背中にぞわりと悪魔に心臓を握り締められたかのような悪寒が駆け巡る。

 

テレビから見える彼はただ、最凶無敵のデュエリストであり、まるで演出のように激しく圧倒的なデュエルは見るもの全てを妖しく魅了する。だが、それはあくまでも客観的な視点でしかない。

 

デュエリストとして対峙し、この微かな笑みを見た瞬間、なぜ彼がナイトメアと呼ばれているのか亮は理解してしまった。

 

彼のデュエルは、演出でも、趣味でも、義務でもない。

 

その瞳に映るのはデュエルに対する異常なまでの恍惚。そして、根底に微かに見えたものは、この瞬間に覚えたであろう愉悦だということに。

 

狩られる瞬間に初めて気が付かされるその譫妄のような狂気は、対戦相手にとって悪夢以外の何物でもなかった。

 

だからこそ亮は理解した。目の前の何よりもデュエルに素直な狂人に自身の何を重ねていたのかを。

 

その瞬間の悦びを亮は生涯忘れることないだろう。

 

「速攻魔法"デーモンとの駆け引き"。このカードはレベル8以上の自分フィールド上のモンスターが墓地へ送られたターンに発動する事ができる。自分の手札またはデッキから……」

 

トライホーン・ドラゴンの竜骨が真っ黒に染まり、元の姿では存在しなかった翼と白銀の鬣が生え、目玉の代わりにぼんやりとしたふたつの光が灯る。

 

「"バーサーク・デッド・ドラゴン"を特殊召喚」

 

いつの間にか骨が擦り合う音は止み、トライホーン・ドラゴンだった何かは、歓喜にも生者を求める死者の嘆きにも似た咆哮を上げた。

 

バーサーク・デッド・ドラゴン

星8/闇属性/アンデット族/攻3500/守 0

このカードは"デーモンとの駆け引き"の効果でのみ特殊召喚が可能。相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃が可能。自分のターンのエンドフェイズ毎にこのカードの攻撃力は500ポイントダウンする。

 

バーサーク・デッド・ドラゴン

ATK3500

 

「それと言い忘れていたが、"ナイトメア・デーモン・トークン"が破壊された時、このトークンのコントローラーは1体につき800ポイントダメージを受ける。攻撃表示の"ナイトメア・デーモン・トークン"1体毎のダメージ量は2300ポイントだ。結果だけ先に言っておこう。あなたの敗けだ」

 

「……………」

 

沈黙する亮に対し、彼は更に続けた。

 

それに合わせるようにバーサーク・デッド・ドラゴンの口に黄昏色の光が充填される。

 

「"バーサーク・デッド・ドラゴン"は相手フィールド上の全てのモンスターに1度ずつ攻撃が出来る」

 

「……!?」

 

彼に無駄な行動などは無かったと言うことだろう。全てが彼の掌の上だが、彼の眼中には確かに亮が映っている。にも関わらず、相手にすらならない。

 

この現実に何れ程のデュエリストが心を折られたのか。そう思い浮かぶのは自然な事だろう。

 

「さらに装備魔法"パンプアップ"を"バーサーク・デッド・ドラゴン"に装備。装備モンスターの攻撃力をターン終了時まで倍にする」

 

バーサーク・デッド・ドラゴン

ATK3500→7000

 

充填された光が一気に数倍に膨れ上がり、その輝きを強めた。

 

「まだだ……フィールド魔法"パワー・ゾーンフィールド"を発動」

 

フィールド全体が赤黒いドーム状の結界に包まれ、身体が重くなったかのような重圧を感じさせる。

 

「フィールド上に存在するモンスターが戦闘によって破壊された場合、その時のモンスターのコントローラーに破壊されたモンスターの元々の攻撃力分のダメージを与える。これにより、あなたはモンスター1体につき否応なく"バーサーク・デッド・ドラゴン"の攻撃力分のダメージを受ける事になる。つまり……」

 

彼が手を掲げると、バーサーク・デッド・ドラゴンは、首を相手のフィールドへと向け、両手を地面に突き立てながら屈むことにより、身体を砲塔のように見立てる。

 

(ああ、そうか……)

 

亮は敗北を受け入れた今も変わらず、あの悪魔のような眼光から目を放す事が出来ない。

 

 

「総ダメージは"37400"だ……」

 

 

そして、ゆっくりと彼の手が降り下ろされる。

 

(あれこそが……俺の目指す…)

 

薄暗い場所から見える景色がある。悪人だからこそ善人に全力を出させる事が出来る。デュエルを最大に楽しみたいから誰よりも非情になれる。

 

「パニッシュレイ」

 

バーサーク・デッド・ドラゴンから無数の光線が放たれ、5体のモンスターを一瞬にして蒸発させた。

 

 

("理想のデュエリスト"か……)

 

 

丸藤亮

LP4000→0

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

『いやあ、楽勝でしたねー。マスター。これであの二人も釈放されましたし、万々歳です』

 

「そうだな」

 

現在、制裁デュエルも終わり、やっと入れるようになった高級ホテルのスイートルーム並かそれ以上に設備が充実し、清潔感のある自室でのんびりしているところである。

 

ヴェノミナーガさんは早速、部屋のテレビで去年のクリスマスプレゼントで要求してきたPS4を起動し、インターネット環境の設定をしているようだ。

 

ん? このテレビ、家のリビングの奴よりも3インチ大きいな…。

 

…………しかし、あの先輩面白かったな。デュエルが終わった後でやる前よりも清々しい顔をしていた。逆ならいつもの事だが、これは珍しい…。

 

何かあのデュエル中に得るものでもあったのか。

 

『しかし、サイバー流ですか』

 

デュエルには剣道などと同じように流派というものが存在する。サイバー流はそのひとつであり、一大勢力を築いている一門なのだ。

 

名前の通り、機械族のサイバー・ドラゴンを中心とした流派で、相手と己の力を十全に発揮することが出来るならば勝ち負けは関係ないというリスペクトデュエルなるものを信条にしている。

 

『マスターってサイバー流は嫌いでしたっけ?』

 

「別に…」

 

『それにしてはいつもより若干熱を入れて叩き潰してましたよね?』

 

「………………」

 

デュエルに関しては確りしている神様だなヴェノミナーガさん……この人に嘘はつけないか。

 

「好きではないな。ただ、あくまでもサイバー流がだ。リスペクトデュエルと、サイバー・ドラゴンに罪はない」

 

『ほー、理由は?』

 

「まず、リスペクトデュエルは賛成だ。相手と己の力を十全に発揮することが出来るならば勝ち負けは関係ないという事は、要するに互いに最大限楽しめるデュエルをしたいという事だからな。デュエルは遊びだ。遊びを楽しむ姿勢がないのは本末転倒だろう」

 

例えばだ。遊戯王がバトルシティ編ぐらいの生け贄ルールが出来立ての頃を思い出して欲しい。

 

友達の出したデーモンの召喚をブルーアイズで倒すのが楽しかっただろう。究極完全体グレートモスを召喚する事が楽しみだっただろう。冷静に考えると微妙な融合・儀式モンスターを召喚するのが好きだっただろう。

 

だが、それはなぜ楽しかったか?

 

それはフィールドに自分の好きなカードを出せたからに他ならない。

 

ましてや、この世界ではソリッドビジョンがあり、デュエルディスクがある。実際に己の好きなカードが映像として自分だけの為に戦ってくれるのだ。それが何れ程気持ちのいいことかなどということは言葉では言い表せないだろうさ。

 

だからこそ互いのエースモンスターと、エースモンスターがぶつかる光景そのものを見るだけでデュエルをする価値がある。そして、それは決して手加減ではない。

 

まあ、楽しんでデュエルをすることを手加減だと言うのならソイツの中でのデュエルと言うものは詰め将棋のような形骸的でつまらないモノなんだろうな。デュエリストとして生きてて楽しいのか甚だ疑問だ。

 

………………まあ、ここまでは建前。ここからは在りし日の思い出からは外れ、下劣な話になるが、エースモンスターとエースモンスターのぶつかり合いは映像映えする。つまりは見ていて楽しいのだ。

 

プロリーグは実力社会ではあるが、実力こそが一番ではない。プロデュエルはスポーツとゲームを合わせた魅せる究極の大衆娯楽なのだ。観客の為に舞い、踊り、そして散って行く。言ってしまえばプロデュエリストはエンターテイナーであり、ピエロ以下の道化である。

 

故に観客が最高に楽しく、華やかで、魅了されるデュエルをすることが、プロデュエリストの使命であり、存在価値だ。

 

「道化ねぇ……そこまで卑下する必要は無いんじゃないかしら?」

 

「まあ、その辺りは多くの人間は知る必要の無い部分だな。それに俺はそれが気に入っている。別に卑下しているわけではないぞ」

 

「ふーん……。じゃあ、サイバー・ドラゴンは? ワンショットキルの十八番よね」

 

「なんであれデュエルモンスターズに生まれたカードはカードだ。そこに強弱はあるが、それこそ嫌悪する必要はないだろう」

 

「じゃあ、なんであなたはサイバー流が嫌いなのかしら?」

 

「それはな……」

 

互いに尊敬して楽しみたい。

素晴らしいことだ。これ程デュエルを楽しめれば幸せだろう。

 

サイバー・ドラゴンで天下取るぜ。

どんなモノにせよ純粋なテーマデッキは良いものだ。しかも門下生になってある程度すればもれなくカードが貰えるのだから尚良し。

 

互いに尊敬出来る試合が出来ないからこのサイバーのカードは封印する。

………は?

 

「リスペクトデュエルでは互いに全力でぶつかる事に意味があるにも関わらず、態々既存のカードに勝手に制限を掛ける或いは禁止してデュエルをする。それは最早、リスペクトデュエルではなく、手加減のデュエルだ。本来の方向性を見失っているんだよあの流派はな」

 

「ふーん。今の在り方そのものが気に入らないのねあなたは」

 

「ちなみに……」

 

えーと……確かこの辺りに………あった。

 

「これが裏サイバー流のデッキだ」

 

俺が出したのはひとつのデッキ。多少禍々しい力が宿ってはいるが、使えないわけでもない。要は強くて暗い精霊を持っただけのデッキである。

 

「公式戦で数回ブッ飛ばして、果てにキメラテック・オーバー・ドラゴンをハンバーガーに変えてやった1ヶ月後の深夜に、このデッキでデュエルを仕掛けてきたサイバー流のプロデュエリストがいてな。それにもまた俺が勝ったら、叫び声を上げながらデュエルディスクを放り出し、デッキをバラ蒔いてどっかに消えてしまったんだ」

 

「へぇ……サイバー・ダーク……ホーン、エッジ、キールに鎧黒竜……。その人からこれは奪ったのね。相変わらず、ゾクゾクしちゃうわ……」

 

裏サイバー流デッキを見ている藤原は頬を赤らめながら身震いし、そんなことを呟く。

 

『カードは拾った』

 

せやな。

 

「欲しいならやるよ。俺は暇潰しでしか使わないしな」

 

ホーンとエッジにリミッター解除すると強いんだなこれが……ん? キール? ハハハ、何を言っているんだ。裏サイバー流にキールは居ない。いいね?

 

「うーん……折角だけど遠慮させて貰うわ。あんまり可愛くないんですもの」

 

「そうか。まあ、つまり何が気に入らないかと言えば、プロは大衆のためにあり、リスペクトデュエルも大衆のためにある。だが、このデッキは不適格だと烙印を押され、封印されていた。それが気に入らないんだ。この世に存在して困るカードはあるが、存在してはいけないカードなんてモノは1枚も無い。使ってもらえないカードたちより不憫なモノはないよ」

 

そう言い切ると珍しく藤原の目が大きく開かれ、暫く硬直した。そして、いつものように余裕綽々の薄笑いを浮かべると、俺の母親にでもなったかのような優しい声色で言葉を吐いた。

 

「………………ねぇ、リック。あなたは本当にただデュエルが好きなのね。私よりも……いいえ、きっと誰よりも」

 

藤原の言葉に俺は言葉を返さなかった。今更そんな解り切った返答をする必要は無いだろう。

 

『マスターだって私のデッキを禁止に…』

 

「ヴェノミナーガさんを普通に使ったら周囲のビルが倒れるぐらいの実害が出るでしょう?」

 

『チッ…』

 

左腕の蛇で小さく舌打ちしたぞこの神様。

 

……………………さて、そろそろ言うか…。

 

「なあ、藤原?」

 

「なあに? 私の愛しい人」

 

藤原からいつもの5割り増しの笑みが溢れ、俺に真っ直ぐな瞳を向けた。

 

「お前はなんで俺の部屋にいるんだ?」

 

「キッチンの小窓から入ってきたのだけれど?」

 

「方法は聞いてねぇよ…」

 

どうやら俺はこの学校にいる限り、藤原に悩まされる事になるらしい。無駄に美人な女性にダイナミックストーカーされるのは、悪い気もしない自分がいるために最早どうしようもない。

 

『マスターって際物にモテますよね』

 

「鏡を見てください。下手物の間違いでしょう」

 

『毒蛇神より毒舌なマスターって……』

 

何はともあれ俺の学園生活が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

『リックさんリックさん』

 

「ぬ?」

 

手洗い場付きのトイレから出ると、宙にふわふわと浮いたヴェノミナーガさんが声を掛けてくる。

 

『今回、あの2人の処分を撤回させるのに少々高く付きましたが、よかったんですか?』

 

「んー? そうだな」

 

「くひっ……ひひっ…」

 

すると俺の背後から耳に残るほどに妖艶な声色の笑い声が響く。振り向くまでもないが、後ろを振り返ると青い仮面を付けたドレス姿の女性ことノーフェイスが立っていた。

 

言葉で返答が来ることは無いとは思うが、とりあえず声だけは掛けてみることにする。飼っている動物に話し掛けるような感覚である。

 

「"セブンスターズ"のノーフェイスになった気分はどうだ?」

 

「…………………………いひっ!」

 

するとノーフェイスは片手で小さくピースを作った数秒後、壁に背を預けるように傾くと、そのまま壁を抜けて何処かへと行ってしまった。

 

相変わらず、可愛いげがあるんだか、不気味なんだかわからない奴だな…。

 

「まあ、良いんじゃないか。当の本人も楽しそうだしな」

 

『いえ、あの人の心配なんてしてませんよ。寧ろ、私が心配しているのはあの遊城十代という子が勝てる気がしないのですが……だってあの人、生態が生態なだけに"悪魔界で最強格のデュエリスト"でもあるんですよ?』

 

…………………………。

……………………。

………………。

…………。

……ふむ。

 

「………………まあ、なるようになるだろ。まだ、先の事を今考えても仕方ないって」

 

影丸理事長に倫理委員会の決定を覆させるためにノーフェイスをセブンスターズに推したのまではいいが、その辺りの事を考えていなかったとは言えまい…。

 

…………なんだ。とりあえず頑張るんだ遊城十代くん。ノーフェイスは多分、全てのセブンスターズが束になっても敵わないぐらい強いからな。

 

これ結局、俺が助けなかった方がイージーモードだったんじゃないか等と思いつつ、藤原が居るであろうリビングへと足を進めた。

 

 





~第一回蛇道楽(全体攻撃)~


どうもみんなの偶像(アイドル)ヴェノミナーガです。リックさんが構ってくれないのでここに来ました。

今回はリックさんが"バーサーク・デッド・ドラゴン"が出ましたね。

コイツはバトルシティの頃から存在する由緒正しき"全体攻撃"持ちのモンスターです。デスガーディウスさんのちょっと後輩ぐらいですね。

と、言うわけで今日はここで地味に体裁の複雑な全体攻撃について解説する事にしましょう。はい、拍手。

………………まあ、してもしなくても解説はするのでさっさと始めましょうか。


:全体攻撃とは?

広くは相手フィールド上のモンスター全てに攻撃ができる効果の事ですね。

ちなみに2回攻撃できる等の効果を持つモンスターと違い、モンスターとプレイヤーを同時に狙うことは出来ないため、モンスターを一掃した後に直接攻撃! なーんて事は出来ません。

まあ、要するに敵全体を攻撃する攻撃か、1回の直接攻撃かを選んで攻撃出来る効果と言ったところですね。

ちなみに全体攻撃中に新たに召喚されたモンスターにも効果は適用されるため、キモトマトや、仮面つけた龍等のリクルーターをわんこそばにすることは勿論、可能だったりします。

例としては
ジュラック・モノロフ
神機王ウル
バーサーク・デッド・ドラゴン
ヴァリアブル・アーマー
E・HERO ワイルドジャギーマン
究極恐獣
等がこの効果を持つモンスターです。私の治める世界にはジュラック・モノロフちゃんがいっぱい住んでいて、稀に究極恐獣ちゃんが私に体当たりをしてきたりしますよ。…………前者はじゃれてくる程度ですが、後者は私の調子が悪いとリスキルされ続けるので中々心臓に悪いですけどね。

それは兎も角、この効果は多少特殊で"相手モンスター全てに強制的に攻撃するもの"と、"任意の対象にのみ攻撃するもの"の2つがあります。

例の中だと究極恐獣ちゃんだけが、相手モンスター全てに強制的に攻撃する効果を持っています。…………ふと、思ったのですが獣と名前が付いていますから獣狩りの武器で特効が入るんですかね? ヤーナムの狩人さんこっちです。

この2つの効果の違いは読んで字の如くですが、5体モンスターがいれば全てに攻撃しなければいけないのが、究極恐獣ちゃんの効果。5体モンスターがいれば0体~5体を好きに攻撃出来るのがその他の効果です。

単純に考えれば明らかに前者の方がデメリットの塊に見えますが、ちょっと捻った使い方をすると微妙に異なります。

特に究極恐獣ちゃんの方に特殊で、最初に話した敵全体を攻撃する攻撃か、1回の直接攻撃かを選んで攻撃出来る効果を破ることが可能なのです。

どういうことかと言えば、例えば他の全体攻撃持ちが直接攻撃した場合、攻撃権をこの時点で使い果たすため、 ゴースの遺子……もとい冥府の使者ゴーズや、トラゴエディア等の主に直接攻撃を受けた事が特殊召喚の引き金となるモンスターを新たに攻撃する事は不可能です。攻撃権自体は1度ですから当然の話ですね。

ですが、究極恐獣ちゃんは例外で、相手モンスター全てに強制的に攻撃をしなければならないため、なんと直接攻撃した後に特殊召喚された敵に対しての攻撃権を得られるのです。

要するに究極恐獣ちゃんはゴースをカイエンごと刺し違える事が可能で、トラゴエディアは手札が4枚以下ならそのまま潰しちゃう事が可能なんです。

ちなみに究極恐獣ちゃんはバトルフェイズ開始時に強制的に攻撃する効果が適用されるため、そもそもバトルフェイズに入らないか守備表示にしておけば攻撃はしませんよ。

蛇足ですが、攻撃回数が増えるように認識されているキメラテック・オーバー・ドラゴンですが、このモンスターは実は結構なコンマイ語……もといルールの落とし穴があります。キメラオーバーさんはこのカードは融合素材としたモンスターの数だけ相手モンスターを攻撃できる効果です。

要するにキメラオーバーさんは全体攻撃と似たような効果だと言う事です。

あくまでも増やすのはモンスターへの攻撃回数であり、モンスターが居なくなればこの効果は終わりです。実質的に攻撃を続けられるのは戦闘によって破壊されないモンスターが相手フィールド上に存在する場合ぐらいの全体攻撃モンスターだと思うぐらいが丁度いいでしょう。

:まとめ
全体攻撃系のモンスターは一見強力に思えますが、以外とクセが強く、何かとコンマイ語に阻まれる事が多い子たちです。ぶっちゃけ、モンスターを攻撃破壊後に直接攻撃も出来る分、2回攻撃の方が使い勝手がいいと言われる事も屡々です。是非もないネ! まあ、それでもそれらを使ってデッキを組みたい場合は、何でも良いですからデュエルシュミレーターである程度動き方の予習をしてから友達との対戦に望むと良いですよ。


あ、リックさんが呼んでいるのでそろそろ行きますね。

………………また来ますよ。こう見えても私、暇なので。





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幕開け

~今更簡易登場人物説明(リックの精霊編)~

ヴェノミナーガ
諸悪の根源。元を辿ればコイツのせいなど、何かにつけてだいたいコイツが絡んでいる。神のカードのクセに全く威厳がない。ポテチは箸で食べる派。

仮面魔獣デス・ガーディウス
どんな環境においてもキャラのブレない程度の能力を持つ精霊。意外にも音楽鑑賞が趣味でジャンルは問わない。

砂の魔女
土より軽い砂の名を冠し、砂塵を自在に操れたらいいなと考える家政婦。趣味は部屋の緑化。

ラーの翼神竜
ラーの翼神竜……のコピーカード。そのため、正確にはヲー辺りの名前が妥当。好きなテレビ番組は月曜から夜更かし。

インセクト女王
デス・ガーディウス同様マスターに忠実な精霊。身体の柔らかい部分が人をダメにするソファー並の破壊力があるらしい。





 

制裁タッグ……もとい制裁デュエルが終了した夜。

 

オベリスクブルー寮の天井の高いホールでは白いテーブルクロスの掛かった丸テーブルが並んでおり、オベリスクブルー寮生は飲み物や食事を手に取り、何故か立ち食いで晩餐会のようなモノを楽しんでいるようだ。

 

食事は壁に沿うようにビュッフェスタイルで並んでおり、学生と言えば食堂と食券な俺のイメージを粉々に破壊してくれている。

 

生憎だが、俺の感性は極めて庶民的なのだ。何より場違いなようで息が詰まる。そもそも立ち食いってお前…。

 

『今日が特別なんじゃないですか? 普通に食堂はありましたよ』

 

まあ、そうだよな。こんなに手間の掛かりそうな食事をいつもはやらないだろう。ホグワーツじゃあるまいし。

 

『マスターなら間違いなく……スリザリン!』

 

「うるせえバジリスク」

 

俺はと言えば主賓席と思われる場所で、無駄にふかふかの椅子に座って食事を取っている。

 

ちなみに隣に置かれた椅子に常人にはフルステルスのヴェノミナーガさんが座っており、横から次々と俺が運んできた食べ物を手の口でかっ拐っていく。お陰で俺がフードファイターのような速度で量を喰っているように見えるが、もう慣れたものである。

 

その昔、ヴェノミナーガさんを一食抜きにしてみたらいつの間にか厨房に忍び込んで料理人に催眠を掛け、料理を作らせて食べていた事があったのである。

 

そういや、アタック・フェロモンのカードでヴェノミナーガさんがそんなことをやっていた気がしないでもないが、そんなことの為にイチイチ洗脳される料理人の方々が不憫で仕方がないのでちゃんと食事を取らせているのだ。

 

「ん?」

 

『む?』

 

大きなローストビーフの一枚肉が、ヴェノミナーガさんの手と俺のフォークで両端から押さえ付けるように引っ張られる。更に互いに一歩も譲らずにカタカタと肉の乗った皿が悲鳴を上げ始めた。

 

この通り、要するにヴェノミナーガさんは1日三食おやつ付きを常に要求してくる非常に傍迷惑な神様なのだ。オラリオでファミリアでも開いて社会貢献でもしやがれ。

 

ちなみに割りと普通にヴェノミナーガさんと小声で会話をしている理由は俺の席の半径10m程に人が居ないからである。

 

テーブルは用意されているが、流石にほぼ初対面の俺の側に寄ってまで食事をする神経のある人間は一人もいないらしい。その代わり更に十数m程の半円形の人のいない地帯が出来上がり、その外に人がいるといった様子だ。

 

実にいい傾向だな。人間は好奇心だけでは身を滅ぼす一方、それがなければ何も始まらない。

 

とは言え、"触らぬ神に祟りなし"。俺以上にこの言葉を長年噛み締めている者はいないだろう。だからいい加減その意地汚い手を放せや。

 

『食事は戦場です。蛇は鼠を狩るのにも全力を尽くすのです!』

 

「ビュッフェに戦場も何もあるか」

 

『だったらまた取ってくればいいじゃないですかー!』

 

ちきしょうコイツを崇めてたのはいったいどこの部族だ…? お前らの供物が足りなかったからこんなに残念に育っちゃったんじゃないのか!?

 

「あ……」

 

『まうまう♪』

 

健闘虚しく蛇神に肉を持っていかれてしまった。また取ってくるか……。

 

「随分楽しそうね」

 

敗北に若干放心していると隣から声が掛けられる。見ればそこには容姿だけは超一級品の紫色のツインテールが何処かから持ってきた椅子に座り、あたかも最初から俺の隣にいたかのような驚異の神経の図太さで食事を取っていた。

 

その様子には外野の生徒達からも小さな歓声が上がる程である。

 

「おま…」

 

「コレあげるわ。少し多く取り過ぎてしまったみたい」

 

俺が何か口を開く直前に藤原の皿のひとつから俺の皿に大きなローストビーフが移動して来た。

 

…………………………。

 

表現全般が湾曲していて、性格が微妙な方向に捻れ狂っている事を除けばいい奴なんだよな。

 

『チョロいな、かくしん』

 

うるせえチョロヘビ。

 

『ニホンカナヘビはトカゲですよ…』

 

「ん…?」

 

藤原が隣に来たため、何と無く外野の生徒を確認しているとその中でチラチラとこちらを見ているピンク髪の女子生徒が目に入った。

 

………………………………。

…………………………。

……………………。

………………。

…………。

……。

 

オウフ。

 

完全に彼女の存在が頭から抜けていた…俺が真っ先に話さなきゃならないのって彼女じゃないか。

 

俺は若干焦りながら席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……」

 

食事の席の一角で生徒同士の声にすら掻き消されてしまうような不安げで小さな声が上がる。

 

見ればオベリスクブルー女子のひとり、ツァン・ディレから放たれたモノであった。

 

彼女の人となりを知る者が見れば一目で異常だと判断するだろう。それほどまでに今の彼女は弱々しい。

 

そんな彼女の視線はこの晩餐会の主賓とも呼べるような存在である現役プロデュエリストかつこの学園の同級生、にして彼女の友人でもあるリック・ベネットに注がれていた。

 

ツァン・ディレとリック・ベネットの出会いはそこそこ運命的なモノである。袖振り合うも多生の縁。誰にも言わないが少なくとも彼女はそう思っている。

 

そして、 その縁から数年来の交友を持つ。まあ、現代とは不思議なもの。Skypeなどで週に1~2回は通話をしており、チャットはほぼ毎日程度の凄まじく遠距離から繋がっているだけであるがそれでも交友があると言えるだろう。

 

彼女にとって彼は友人であり、恩人であり、憧れであり、そして初恋の人でもあったのだ。

 

だから彼には秘密だが、彼が日本にあるデュエルアカデミア本校に入ると聞いた瞬間、志望校を投げ捨て、デュエルアカデミア本校中等部をトップクラスの成績で入学したりした。

 

まあ、それは結果的に彼女の空回り……というか聞き足らずだったわけだが…。どちらが悪いかと問われればなんとも言えないだろう。

 

ちなみに彼との話題作りや通話出来る時間を伸ばすためだけにPS4を購入したという購入動機も彼には秘密である。意外とハマったのは地球防衛軍4.1と、トロピコ5である。

 

そして、いざ彼を前にして、彼女も何か一言言ってやろうと今日の今日まで色々と考えていた。

 

だが、数年振りに実物の彼を目にした時にその全てが飛んでしまったのだ。

 

一言で言えばデュエルリングに上がった彼はデュエリストで有り過ぎた。

 

怪物か何かと見紛う程肌で感じるだけで嫌悪感と焦燥感を覚えるオーラ、真っ直ぐで殺人的なまでに余裕を浮かべた瞳。 さらにコレだけの人の前に立とうとも震えひとつない芯の通った声と、常に威圧的な言動は"覇王"などと常人には些か過ぎた例えをしても違和感がまるでないだろう。

 

最早のろけ話か何かに聞こえるが、要するに数年振りに現実で見た彼はテレビの中で見る彼よりもずっとずっと格好の良いものに映ったのだった。

 

そして、デュエルも終わり食事時。デュエルリングに立っていた時とは対照的に朗らかで優しそうな青年に映らないでもないが、案の定誰一人として彼に寄り付く者は居なかった。彼は慣れているのか全く意に返した様子はないが。

 

そんな最中、生徒から小さな歓声が上がる。それは彼の隣にとある女子生徒が現れ、そこで食事を取り始めたからだ。

 

地雷源でタップダンスを決めるような偉業を成し遂げたのは、デュエルアカデミア本校でも有数の変わり者である藤原雪乃だった。

 

それを見た瞬間、どろりと彼女の胸に何か黒くて熱いものが込み上げ、更に激しい焦燥感が襲う。

 

しかし、如何に頭で考えようともそれが一向に縮まる事はない。

 

そんな中、半ば睨むような目付きで彼を時より見つめていると、ふと彼が立ち上がった。

 

そして、徐々に彼と彼女の距離が詰まり、それに比例するように彼女の周りから生徒達が捌けていった。

 

そして、次の瞬間……彼に軽く抱きしめられた。

 

「え…?」

 

彼女の思考が止まり、身体が硬直する。そのまま彼が何か言っているようだが全身の至るところで起きている感覚によって会話を認識するどころではない。

 

そんな中、彼女が最初に拾ったのは彼の声ではなく、周りの生徒の視線と黄色い声であった。

 

「うひゃぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

脳の熱が限界を越え、彼女は彼の腕を取ると全力で放り投げた。

 

彼がお手本のような綺麗な受け身から流れるような動作で立ち上がった頃には、彼女は既にホールの出口の角を曲がる寸前だったという。

 

この後、頭が冷えた彼女が自己嫌悪に陥るのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

挨拶をしたらツァンちゃんに背負い投げをされた上で逃げられるという悲しみを背負い、場に謎の空気が漂った夕食後。俺は早足で自室の扉の前に来ていた。

 

嫌な事件だったね…。上司に叱られ、反骨心を抱えながらも言われた事は直そうと考えるサラリーマンのような気分で扉を開ける。

 

ちなみにヴェノミナーガさんは気付いたら消えていた。まあ、あの人はいつもの事なので気にすることもない。神だけに神出鬼没ってか…? へへっ…。

 

「たまごさん♪」

 

自室に入って扉を閉めた瞬間、待っていたかのような鈴の鳴るような女性の声が聞こえた。

 

「たまごさん~♪」

 

またかと思いながら部屋を進むと、キッチンで微妙に見覚えのある後ろ姿を発見する。

 

「まぜまぜしましょ♪ まぜしましょ♪」

 

装いは紺のロングパンツに黒のロングセーター。背後からは見辛いが眼鏡のつるから察するに黒縁眼鏡を描けているのだろう。

 

「えーっと……うふ♪」

 

そして、紫陽花のような薄い藤色の長髪をポニーテールに纏め、エプロンを着けている。

 

「今日のケーキはどんな味♪」

 

身長は172cmぐらい、体重は57kg程。スリーサイズはたぶん上から88/56/84。というか間違いなく本人が狙って見た目だけは完全再現しているのでこれで合っている。

 

「ひっとさじふったさじ甘い味♪ あなたと私の……恋の味♪」

 

どうやら更に図っていたかのように手元のケーキ作りも終了したらしく、銀のお盆に平皿を乗せるとそこに綺麗に盛り付けた。

 

「ルルル ルルル……」

 

小癪な事に凄まじく手際が良いらしく、キッチンに汚れどころか既に製作道具の洗浄まで殆ど終わっている。

 

「たまごさんっ♪」

 

女性はお盆に乗せられたケーキを片手にクルリと振り返った。

 

それによりエプロンにはPIYO PIYOの文字と、ひよこが描かれている事がありありと見せ付けられる。

 

「はぁ………」

 

全てネタに走りながらそれらに全く鮮度がない。もう、こんな矛盾塊かつ残念な物体はこの世に一柱しか居ないだろう。他に居て堪るか。

 

「それで"ヴェノミナーガ"さん?」

 

そう、このどっかのエロゲ出身のサブキャラ(人気投票相方のヒロインより上)の容姿を丸パクりし、某女神様の呟きをしながら、某管理人のエプロンをしている小癪なバリエーションに富んだ遊星からの物体Xはヴェノミナーガさんその人なのである。

 

まあ、神の贋作の家のラーは基本的に人間形態でしか居ないため、今更驚くような事でもないな。ヴェノミナーガさんが人の姿をしている事は滅多にない……というか俺でさえ数ヵ月ぶりに見た。

 

ヴェノミナーガさん曰く、長生きをした精霊は人間に化ける事が出来るらしい。猫又か何かかお前らは。

 

確かに猫に出来て精霊に出来ないというのも可笑しな話のため、わからんでもない。だが、なんか納得出来ねぇ…。

 

ちなみにヴェノミナーガさんが製作したのはバターケーキなようだ。こんなところまで地味に古い辺り、最早天然なのかもしれない。

 

いや、それとも超古代神がさとり世代まで思考が進化しているのを褒めるべきなのだろうか…?

 

「はい! なんでしょうか?」

 

とは言え、ヴェノミナーガさんが人化しているとなると少々話が変わってくる。

 

ぶっちゃけ言おう。ヴェノミナーガさんが下手に出る理由なんて一つしかない。

 

俺は盛大に溜め息を吐いてから眼鏡の奥でにこやかな笑顔を浮かべているヴェノミナーガさんに質問を投げ掛けた。

 

「今度はいったい何を買って欲しいんですか?」

 

するとヴェノミナーガさんは顔を赤く染め、視線を手元に下げながら暫くモジモジと指を遊ばせてからポツリと呟いた。

 

「"DARKS○ULSⅢ"を買ってください…」

 

「そんなことでしょうねぇ…」

 

余談だがヴェノミナーガさんは卵を使う料理しか作らない。というか今のところ卵を使う料理以外を作っている光景を見た事がない。何でも料理を作るなら卵が無いとテンションが上がらないとか何とか。

 

ちなみに更に蛇足だが、買って貰う事の決まったヴェノミナーガさんは、"買ってくれるんですね。やったー!!"と一声上げると即行で元の姿に戻った。そして、嬉しげにPS4を立ち上げるとBloodborneの聖杯で地底人に戻りましたとさ。

 

『いやァァァァァ!? 愚者形状変化ゼンマイいやァァァァァァァァァァ!!!?』

 

また、ひとり地底人が獣に堕ちたか……こういう時の為に狩人がいるんだろ!?

 

そんなこんなで俺のデュエルマシマシの学園生活はスタートしたのであった。

 

 

 




ちなみにヴェノミナーガさんはDL購入組。作者はヤマダ電機で購入組。

ヴェノミナーガさんのネタはいくつわかったかな? 全部正確にわかった君にはオプーナを買う権利をやろう。


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二人でただデッキを回しているだけ 前

チラッ…

チラッ…

よし、今なら誰も見てません…ソロリ…ソロリ…更新してもバレません。






 

 

制裁デュエルから数ヶ月経ち、その間に夏休みを挟みつつ現在はもう少しで冬休みと言ったところ。ヴェノミナーガさんの身体が入りづらいので一番後ろの廊下に面した席に座りつつ授業を受けている。

 

両隣りには最早慣れた光景の藤原と、何かといつも反応の初々しいツァンが座っている。両手に花と行きたいところだが、コイツら両方共に何処と無く残念な美人の香りがするので何とも言えない。ちなみにツァンは頭が沸騰すると物理攻撃が飛んで来て危ない。背負い投げしたのもほぼ無意識らしい。

 

少し遡り夏休みの思い出と言えばやたら泳ぎたがる藤原に促され、誘ったらついてきたツァンや、砂の魔女らや、暇そうな帰省していない生徒らを連れて3日に1度ぐらい行ったデュエルアカデミアの浜辺の事ぐらいか。

 

マイクロビキニやら、ブラジル水着やら、スリングショットやらとやたら際どいモノを着てくる藤原と、可愛い系の水着を着てくるツァンが対照的だったり、着痩せするタイプの購買のお姉さんこと砂の魔女の圧倒的なスタイルに二人が言葉を失ったりと中々珍妙なモノが見れた。

 

浜辺だけと言うのも味気無いので、材料費や、設備費は全て俺持ちでBBQをしていたら夏休みが終わる頃にはアカデミアに残っていたほぼ全ての生徒が浜辺に集合するようになり、軽いお祭りのようになっていたのも印象的である。まあ、それぐらいの費用なら聖なるバリアーミラーフォース1枚の値段にも遥か及ばないので俺の懐も安心である。

 

人が増えてきた夏休み中旬辺りでオシリスレッドの生徒たちを明らかに嫌悪しているオベリスクブルーの生徒らが出始めたりもしたが、それは俺が直ぐに穏便に解決した。

 

「……そりゃあ、その発端のオベリスクブルーとオシリスレッドの生徒までを1度のデュエルで全員のしちゃって、終わった後に"俺にとっては等しく見苦しいな"とか言われたら誰も君の前で問題を起こそうとする人なんて居なくなるでしょ…」

 

ツァンが若干呆れを含んだ半眼で俺を見ながらそう言ってきた。

 

それでいい。このアカデミアの格付け方式の寮体制的にそうなっているとも言えなくもないが、そもそもイジメというモノは人間が人間で有る限りは必ず発生する。思春期真っ只中の学生同士なら尚更だ。前世で多少人間発達学を学んでいた俺に言わせれば、全くイジメの無い事の方が人間社会としては異常だ。それは最早血の通った人間ではない。

 

だが、見てて気分の良いモノでもないから、俺の前でそういうイザコザが見えなければそれでいいんだ。

 

「本来は少し頑張ればラーイエローに上がれる筈なのに、オシリスレッドに留まり続ける生徒の学業態度にも問題がある。かと言ってオベリスクブルーにいる事を鼻に掛けるのも問題があるから両成敗しているって言いたいのよ彼は。相変わらず素直じゃないわねぇ」

 

「うるせぇ」

 

………そう言えば浜辺で時々海パン姿の鮫島校長が混じっている事もあったが、俺を含めて誰も突っ込まなかったな。あの人は小さなおじさんとかそういう類いの何かなのか。

 

秋はハロウィンのために砂の魔女の服装を奪ったヴェノミナーガさんが、例の人の姿になり、それを着て闊歩するという謎の事態が発生したぐらいで他に変わった事は特に無かったか。

 

『フィッシュ!!!』

 

突如、ヴェノミナーガさんの声が響き渡り、精霊の見える十代、藤原、俺はそちらを目を向ける。すると非常に長い尻尾を教卓まで伸ばし、今の講義を担当している冗長で特に面白くもない授業をする先生のカツラを尻尾の先端で奪い取っていた。

 

「ぶっほぉぉッ!!?」

 

「カツラが宙に浮いてるっス…」

 

「ミステリーなんだな…」

 

状況を理解出来ている為、噴き出す十代とカツラを眺めるオシリスレッドのふたりを他所に、ヴェノミナーガさんは開いている窓からカツラを放り投げた。人間を遥かに越えた大蛇の凄まじい筋力から放たれたカツラは、昼の星になるように彼方へと飛んでいった。

 

その光景に口の端をひくつかせていた藤原も机に突っ伏して笑い始める。

 

『つッッッッッッまんねぇぇぇぇんですよ!!!! こんなの私が授業した方が遥かにマシです! そもそもデュエルを座学で覚えさせる事自体が謎じゃねーですか!』

 

デュエルモンスターズの神様ご乱心である。まあ、言いたい事は痛い程にわかる。例え根本は闇のゲームだと言えど、ペガサスさんのデュエルモンスターズの原点は遊びなのだ。その授業が楽しめない等デュエルの神的にはNGだったのだろう。だが、鎮まりたまえ。

 

俺はブイサインを出した。その瞬間、拳を振りかぶったデスガーディウスの上半身がヴェノミナーガさんの真横の床から生える。

 

『ッ!? そう何度も同じ手は喰らいませんよ!』

 

学習したらしいヴェノミナーガさんはいつもデスガーディウスに殴られる腹部を両腕で押さえた。それを見た俺はブイサインを上下に小さく振る。

『ゲッゲッゲ…!』

 

その直後、繰り出されたデスガーディウスの拳はヴェノミナーガさんに当たる直前で開かれ、軌道が斜め上へと変わる。

 

そして、いつの間にか俺と同じブイサインとなっていたデスガーディウスの2本の鈎爪は全く無防備のヴェノミナーガさんの両目をコツンとそこそこ優しく小突いた。

 

『イイッ↑タイ↓メガァァァ↑』

 

妙なニュアンスで叫びながら目を押さえてゴロゴロと床をのたうち回るヴェノミナーガさん。まだかなり余裕そうである。いつの間にか俺の足元で尻尾がバタバタしている。

 

「やり過ぎじゃないかしら…?」

 

「よく見ろ。喜んでる」

 

『ああ、もう少しで何か新しい扉が開けそうです…!』

 

こんなのがデュエルの精霊どころか、デュエルの神の中で、最強クラスの耐性を持つ事が売りの神のカードなのだから世も末である。というか基本的に耐性が反映されているのか現実でも何も効かないので質が悪い。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「専用デッキが欲しい!」

 

ある腹立たしい程に晴れた日。部屋に引きこもる俺にラーがそんな事を言いに来た。陽だまりのような笑顔を振り撒く姿は完全に年相応に映る。

 

「自分用のデッキを作って欲しいのか?」

 

「そうなのだ!」

 

そう言えばラーだけは俺のデッキを転々としており、ラーデッキというものは存在しなかった事を思い出す。

 

まあ、確かに今までちょっと不公平かもしれないと感じないでも無かったが、急に言ってきたのは不思議だと思っていると、ふっふっふっ、とラーが可愛らしい声を上げながら目を瞑り、かっと目を見開くいた瞬間、俺の目の前に2枚のカードが出現した。

 

何やら誇らしげにその慎ましやかな胸を張るラーを横目に、俺はそのカードを受け取り眺めた。

 

「ほぉ…」

 

それを見た瞬間から感心を覚え、カードとラーを交互に見つめる。

 

どうやらラーはヴェノミナーガさんがやっていたようにカードを造ったようだ。その域まで力を高めたという事か。

「まだまだ"地祇(ちぎ)長様"には足下にも及ばないが、あたしのカードを生み出せるようになったんだ! それで精一杯だがな!」

 

カードを造るぐらいは高位の精霊ならば誰でも出来る事だが、その領域にただのコピーカードが足を踏み入れたのだから素直に喜ばしい事だな。

 

ちなみにラーが言う地祇長様とは三幻神、三邪神、時械神、ヴェノミナーガさん等の最高位の神格を持つ神の事を言っている。今の場合はラーの強化指導係りをしているヴェノミナーガさんの事だろう。ああ見えて、一応はスゴい神様なのだ。

 

まあ、突き詰めれば、その最高位の中でも神格に差があるわけだが、下のモノからすれば等しく見えるという畏敬を込めた呼び方だろうか。日々の態度のせいで忘れるが、ヴェノミナーガさんはあれでも一応は単独でその位にいる凄いカードの精霊だからな。

 

「偉いぞ、よくやったな」

 

「えへへ…」

 

褒める事となでなでを忘れない事が、このラーと上手く付き合う秘訣である。

 

早速、俺はデッキの構想を考えながら部屋のソファーに座り、2枚のカードをテーブルの上に置くと、1つのデッキケースから1枚のカードを抜き出す。

 

 

ラーの翼神竜

星10/神属性/幻神獣族/攻 ?/守 ?

このカードを通常召喚する場合、3体を生け贄にして召喚しなければならない。

(1):このカードの召喚は無効化されない。

(2):このカードの召喚成功時には(このカード以外の)魔法・罠・モンスターの効果は発動できない。

(3):生け贄召喚されたこのカードの攻撃力・守備力は、生け贄に捧げたモンスターのフィールド上での攻撃力・守備力をそれぞれ合計した数値になる。

(4):このカードは上級呪文であるカードの効果は1ターンのみ通じ、それ以外の効果は全て通じない。

(5):自分のライフポイントを100残すように払う事で、このカードの攻撃力・守備力は支払った数値だけアップする。

(6):自分フィールド場の他のモンスターを生け贄に捧げることで、そのモンスターのフィールド上でのステータス分の数値をラーの攻撃力・守備力に加算する。

(7):1000ライフポイントを払うことで、相手フィールド上に存在する全てのモンスターを耐性を無視して破壊する。

(8):このカードが「ラーの翼神竜-球体形」の効果以外で特殊召喚されている場合、エンドフェイズに発動する。このカードを墓地へ送る。

 

 

相変わらずOCGのヲーとは違い、神の名に恥じぬ性能である。だが、何と無くOCGっぽい効果も持っている辺りが、コピーカードらしさと言ったところだろうか。日々成長しているので能力(カードテキスト)がたまに変わるのも微笑ましい。

 

ちなみにこの何故か遊戯王R仕様の"このカードは上級呪文であるカードの効果は1ターンのみ通じ、それ以外の効果は全て通じない"という効果。範囲が広いチート耐性かと思いきや、三幻神の例に漏れず、何故か効くカードが多いので全く当てにならない。

 

正確には"このカードは上級呪文であるカードの効果は1ターンのみ通じたりする一方、ずっと通じる事もあり、それ以外の効果は全て通じないかもしれない"というのが妥当なところだろう。ヴェノミナーガさんのルール上の穴以外の全てに耐性を持つ効果を少しは見習って欲しいところである。

 

それとヴェノミナーガさんに"1000ライフポイントを払うことで、相手フィールド上に存在する全てのモンスターを耐性を無視して破壊する"という効果を使ってもラーでは絶対にヴェノミナーガさんを倒せないそうだ。ヴェノミナーガさんの能力であるその耐性は、本物のラーに神の進化を装備してのゴッドフェニックスですら耐えるレベルらしいので、コピーカードのラーには荷が重い。神という存在はこのように俺ルールを強いてくるので困る。

 

「それで、デッキの要望は?」

 

「太陽神たるあたしに相応しいデッキがいいな!」

 

「そうか……」

 

"今日の晩御飯何作る?"という問いに、"何でもいいですけど最近食べたモノと嫌いなものは嫌です"と答えられたような返答に困る微妙な気分になった。ちなみにヴェノミナーガさんがよくしてくる回答である。

 

それは兎も角、なるべく作るデッキは精霊の居心地の良いデッキにする事も重要だ。俺のように精霊と対話出来るものは直接精霊から聞けばいい、そうでないならばテーマデッキにするのが良いだろう。テーマではないカードが精霊ならば、そのカードをコンボに組み込むデッキにするとよく回ってくれる筈だ。

 

そこから考え、ラーとしては他から崇められたいという背伸びを顧みてデッキにすることにしようか。なに、元よりラーのデッキを作るのならばどんなデッキにするかの候補は幾つかある。後はラーの好みにあったデッキを選ぶだけだ。

 

ラーと対話しながらじっくりとデッキを構築していると、何時しか時を忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

休日だというのに人だかりが出来ているデュエルアカデミア本館のデュエル場。そこを偶々通り掛かった天上院明日香は、見れば立ち見している中に友人の浜口ももえの姿を見つけ彼女に話掛けた。

 

「あ! 明日香様丁度いい所に! 明日香も見て行きましょう!」

 

「いったい何が…」

 

若干興奮した様子のももえから目を離し、使用されているデュエルリングを目を下ろすと目を見開く。

 

そこにはデュエルリングに向かい合うように立つナイトメアと、藤原雪乃が居た。既にデュエルは行われている。

 

「驚いたわね。あの二人がデュエルしているなんて……」

 

「いつも一緒にいるのに何故かデュエルはしないですものねー」

 

このアカデミアに席を置くものならば、殆ど知られている事だが、ナイトメアと藤原雪乃は、リック・べネットとしての名で最後に挑んだI2カップの決勝戦まで勝ち残ったデュエリストなのだ。正に因縁の対決と言えるだろう。

 

ちなみに別にデュエルをしないわけではなく、藤原がいつもリックの部屋に入り浸る為、デュエルディスクを使わずに部屋でデュエルしていたり、気分転換に人気のない場所でデュエルをしていたりする為であるが、ここにいる者は知るよしもない。

 

明日香はデュエリストとしての好奇心と向上心を胸にそのデュエルを眺める。まずはナイトメアのフィールドだ。

 

 

ナイトメア

LP4000

手札2

モンスター1

魔法・罠2

 

 

ライフポイントは減っておらず、フィールドには一体のモンスターが出ている。そのモンスターを名前と姿を見て天上院は目を見開いた。

 

 

The supremacy SUN(ザ・スプレマシー・サン)

星10/闇属性/悪魔族/攻3000/守3000

このカードはこのカードの効果でしか特殊召喚できず、デュエル中1度でも「The supremacy SUN」と名のつくカードを通常召喚していない場合、このカードの効果で特殊召喚する事はできない。

自分のスタンバイフェイズ時、このカードが墓地に存在する場合、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

The supremacy SUN

ATK3000

 

ナイトメアのフィールドには正に悪夢を具現化したかのような黒々と輝く太陽の化身が静かに佇んでいた。後光として揺らめく漆黒の光は全てを覆い尽くすのではないかと錯覚する程に暗く眩しく冷たく熱い。

 

「"プラネットシリーズ"……まさかこんなところで目にするなんて…」

 

明日香の呟きも無理はない。何せ惑星の名を持つプラネットシリーズのカードは、この世に1枚づつしか存在しない伝説級の激レアカードだ。そんな伝説を超えてカルト的な神話にも近いカードの生のソリッドビジョンを一目見れた事と、余りにも神々しい姿に拝み始める生徒も出る程である。

 

ちなみにシリーズ初入手かつ最強と謳われるプラネットカードに浮かれながらナイトメアが効果を確認したところ、"微妙に原作効果より弱体化してんじゃねぇか"と思ったとか何とか。まあ、愚かな埋葬やら天使の施しで捨てられ、次のターンのスタンバイフェイズに当たり前のようにフィールドに出てこられたら堪ったものではないだろう。妥当な調整と見受けられる。

 

「"The supremacy SUN(ザ・スプレマシー・サン)"。リックがI2大会から程無くして全米チャンピオンになった時に景品として贈呈されたカードらしいわよ。入手して満足したから暫くホコリ被っていたみたい」

 

戸惑う明日香にももえの居る方とは逆の場所から声が掛かり、そちらの方を向くと、ツァン・ディレが居た。

 

ツァンは明らかに他とは違い、ナイトメアが友人として接している数少ない学生のひとりだ。

 

明日香はいつものように自分の世界に入り、話が通じなくなり始めているももえから離れるとツァンの隣に立った。

 

「そうなの。あなたは今日は彼とデュエルしないのかしら?」

 

故にその言葉が出た。彼女に悪気も、気に触る事を言ったつもりも一切無い。寧ろデュエリストとして当然とも言えるだろう。

 

しかし、その発言によりツァンの瞳が急激に濁る。そして、暫く沈黙したかと思うとポツリと口を開いた。

 

私のデッキ(六武衆)じゃ…彼のあのデッキに敵わないのよ……うふふ…えへへ…うふふ…」

 

このデュエルアカデミアでも有数の実力者であり、根っからの負けず嫌いであるツァンがここまで意気消沈している事に明日香は面食らう。その上、なんだが不自然に笑い声が漏れており、端から見ても不気味である。

 

「そ、そうなの…」

 

ちなみにツァンがここまで可笑しくなっている理由は、真っ先に今ナイトメアがデュエルリングで使っているデッキの最初の餌食となり、試運転がてらちょこちょこカードを入れ換えながら10回程ボコボコにされたからだったりするが、明日香にそれを知る術はない。この世界のデュエリストの精神はデッキと直結しているので、寧ろここまで精神を保てているツァンは偉大である。

 

とりあえず、そんなツァンはそっとしておき、明日香は視線をデュエルリングに戻す。

 

ナイトメアの魔法・罠ゾーンには伏せカードが1枚と、自分の墓地に存在するモンスターが特殊召喚に成功した時、自分のデッキからカードを1枚ドローする事ができる永続魔法の"生還の宝札"が置かれていた。

 

「ちなみに…"The supremacy SUN"の効果は要するに1度通常召喚に成功すれば、墓地に存在する限り、何度でもスタンバイフェイズに蘇るって効果よ」

 

「凄い効果ね……それで生還の宝札と組み合わせれば倒される程にプラスになる」

 

「インチキ効果も大概にしなさいよ…」

 

そんな言葉を呟くツァンを他所に、明日香は相槌を打ち、今度は藤原のフィールドを眺める。

 

 

藤原雪乃

LP4000

手札3

モンスター1

魔法・罠2

 

 

邪精トークン

ATK ?

 

「邪精トークン…?」

 

聞き慣れないトークンに明日香は首を傾げる。

 

「罠カード"フリッグのリンゴ"で特殊召喚されるトークンよ。自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、自分が戦闘ダメージを受けた時に発動する事ができる。自分が受けた戦闘ダメージの数値分だけ自分のライフポイントを回復し、自分フィールド上に"邪精トークン"(悪魔族・闇・星1・攻/守?)1体を特殊召喚するっていう効果。このトークンの攻撃力・守備力は、この効果で自分が回復した数値と同じになるわ」

 

「と、言うことは…」

 

邪精トークン

ATK3000

 

「今のところは互角の戦いをしているのね」

 

そして、どうやら今は藤原の切り返しのターンらしい。藤原は手札からカードを発動する。

 

「私は手札から装備魔法"光学迷彩アーマー"を"邪精トークン"に装備するわね。このカードはレベル1のモンスターのみ装備可能。装備モンスターは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができるわ」

 

すると邪精トークンの姿が跡形もなく消える。その直後、ナイトメアが何かに攻撃され、身体が多少浮き、ライフポイントが激しく減少する。

 

ナイトメア

LP4000→1000

 

「フィールドから"The supremacy SUN"を対象に速攻魔法カードを発動。"神秘の中華なべ"。選択はどちらでも同じだが攻撃力」

 

ナイトメアのフィールドに巨大な中華鍋が出現し、The supremacy SUNが吸い込まれる。暫くすると最高級のフカヒレスープがフィールドに並び、それが消えるとライフポイントが回復した。

 

ナイトメア

LP1000→4000

 

プラネットカードに対しての余りにもぞんざいな扱いにデュエル場にいる生徒らは顔を引きつらせているが、この自身のカードを使い潰すが如くのデュエル姿勢こそがナイトメア足る由縁の為、所々から歓声も同時に上がった。

 

「ふふ、それでこそ私の焦がれる人。ターンエンドよ」

 

藤原雪乃

LP4000

手札2

モンスター1

魔法・罠3

 

 

「ドロー」

 

手札2→3

 

「スタンバイフェイズに墓地に"The supremacy SUN"が存在することで自身を特殊召喚する。RESURRECTION(リザレクション)

 

ナイトメアの後方に黒い爆炎が発生し、それが収束して形を結ぶと、鍋で調理されたという事を一切思わせない風格を持つThe supremacy SUNが現れた。

 

The supremacy SUN

ATK3000

 

「墓地から蘇生した事により"生還の宝札"の効果でカードをドロー」

 

手札3→4

 

「手札から"ラーの使徒"を召喚」

 

ラーの使徒

星4/光属性/天使族/攻1100/守 600

(1):このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。手札・デッキから「ラーの使徒」を2体まで特殊召喚する。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分は「ラーの使徒」の効果以外ではモンスターを特殊召喚できず、このカードは「オシリスの天空竜」「オベリスクの巨神兵」「ラーの翼神竜」のアドバンス召喚以外のためにはリリースできない。

フィールドにラーを象った装いに身を固めた浅黒い肌の男性が召喚される。

 

ラーの使徒

ATK1100

 

「"ラーの使徒"の効果発動。手札・デッキから"ラーの使徒"を2体まで特殊召喚する。無論、2体の"ラーの使徒"を新たに特殊召喚だ」

 

ラーの使徒

ATK1100

 

ラーの使徒

ATK1100

 

「更に手札から"二重召喚(デュアルサモン)"を発動し、召喚権をもう一度だけ得る。さあ、来い。俺だけの太陽」

 

ラーの使徒達が手を合わせ、祈りを捧げると彼らは光となり、ナイトメアの上空で交わる。

 

「来るわ…」

 

「来るわね…」

 

ツァンも明日香も食い入るようにその時を待った。これより喚ばれるカードは模造であれ、世界で最も知名度のあるカードと言っても過言ではないモノだ。

 

光は閃光を上げて辺りを染め、それに続くようにソリッドビジョンを逸脱した熱風がデュエル場を包み、光は巨大な黄金のホルスの形を取った。

 

ラーの翼神竜

ATK3300

 

「終わったわね……」

 

相変わらず死んだ目でそんな言葉を漏らすツァン。返事はしなかったが、明日香も同じような感想を持っているのだろう。その言葉に否定も肯定もしていない。

 

「私の時みたいにゴッドフェニックスでフィールドを一掃して終わ…」

 

「"ラーの翼神竜"の攻撃。ゴッド・ブレイズ・キャノン」

 

「え…?」

 

ツァンはナイトメアが、効果でモンスターを一掃してからのダイレクトアタックではなく、普通に攻撃をしてきた事に目を丸くした。明日香にしてみれば1ターンで決着がつく事をしなかった事に少し不自然に思う程度だが、10回程ゴッドフェニックスで焼かれてダイレクトアタックで止めを刺されるという展開を味わったツァンにしたら堪ったものではないのだ。

 

「何で…?」

 

ひょっとしたら手加減しているのではという疑問がツァンの中で生まれる。それはツァンの中の彼の堂々たるデュエル像を激しく歪めかねなかった。

 

「彼は手加減などしていません。ツァンさん」

 

落ち着いた声色の女性の声が後ろから掛かり、ツァンと明日香は振り返る。

 

するとそこには藤色の長髪を毛先で纏め、眼鏡を掛けた背の高い女性がいた。教員服を着ているところからデュエルアカデミアの教員なのだろう。

 

彼女の名はメデューサ。最近カツラが吹き飛んでから転勤した教師に替わり、コブラの推薦でデュエルアカデミアの教師になった先生である。 メデューサ先生、蟹の人、カニパン先生、カニパンマン等と生徒からは呼ばれている。

 

少し前に、ハロウィンの日と前日の2日間で魔女の仮装をした謎の美女により、手当たり次第に生徒へデュエルかお菓子を要求して、120人以上が圧倒的なデュエルで叩き潰されるという被害にあった事件を起こした張本人だったりするが、生徒からは大それた宣伝だと思われ、故に極めて実力の高く、冗談の通じる教師という事である意味信頼されているのだ。

 

更に彼女が働き始めた理由について。"マスターのお金を使い込んでいつも星5の宝具Lvを5にしてたのがバレてお小遣いが……こほん秘密です♪" 等と宣っていたりもするが、なんの事だかは不明である。

 

「そうなんですかメデューサ先生…?」

 

「ええ、見ていれば直ぐにでもわかります」

 

そう言うとメデューサは明日香の隣の場所に立ち、デュエルの行く末を眺めた。

 

明日香の視線がデュエルに戻ると、輝かしい雷球がラーの翼神竜の嘴に灯り、既に発射態勢に入っている。顕現してしまった神を止める事など出来る訳がない。それが大概のデュエリストの見解というものだろう。

 

「うふふ、ダ・メ。永続罠カード発動、"強制終了"。自分フィールド上に存在するこのカード以外のカード1枚を墓地へ送る事で、このターンのバトルフェイズは終了よ。私は"光学迷彩アーマー"を墓地へ送るわ」

 

精邪トークンに掛けられていた迷彩が解けると、ラーの翼神竜の嘴に収束していた光が急激に収縮すると最後には消えてしまった。

 

ラーの翼神竜が少し渋い顔をしているようにも見受けられる。それに引き換え、ナイトメアの表情は何故か晴れやかでその瞳には歓喜すら含んでいた。

 

「そうだ。デュエルはそうでなければ面白くないな」

 

驚愕の渦に飲まれ、静まり返っているデュエル場にナイトメアのそんな言葉が響き、それを皮切りに生徒同士の会話が再び始まる。

 

「神が……止められた…?」

 

ツァンはそう言って固まっているが、隣の明日香も似たようなモノだ。正直なところ、あの強烈な耐性の壁を容易く越えられるとは、全く想像もしていなかったというのが本音だろう。

 

そんな二人を見たメデューサは何処か嬉しそうに口を開いた。

 

「確かに"ラーの翼神竜"は三幻神の中でも最高の耐性を持つ強力なカードです。それならば初めから破壊することなど考えなければ良いのですよ」

 

「直接、"ラーの翼神竜"に効果を与えない効果なら効くのね…」

 

「そういうことです。……まあ、ここだけの話、神もルールには勝てないのでそこを突けば私でも普通に倒せるんですけど…」

 

「先生何か言いました?」

 

「いえ、なんでもありません」

メデューサはそう言った為、明日香とツァンはその時は疑問符を浮かべながらも直ぐにナイトメアと藤原のデュエルへと意識を戻した。

 

 

「私のターンね。ドロー」

 

手札2→3

 

「手札から"強欲な壺"を発動。カードを2枚ドローするわ」

 

手札2→4

 

「そして、"儀式の下準備"を発動。デッキから儀式魔法カード1枚を選び、さらにその儀式魔法カードにカード名が記された儀式モンスター1体を自分のデッキ・墓地から選んで、そのカード2枚を手札に加えるわ。私はデッキから"イリュージョンの儀式"と、"サクリファイス"を手札に加えるわね」

 

「おい、"儀式の下準備"ってお前」

 

「勿論、ヴェノミナーガさんから貰ったカードよ」

 

「やっちゃえ、ゆきのんさん!」

 

何故か急にメデューサ先生が大きな声援を送ったが、明日香とツァンも彼らのデュエルを手に汗握る面持ちで見ている為、特に疑問には感じなかった。

 

手札3→5

 

(なんて下準備の名に違わない汎用性の高い効果のカード……欲しいわ…)

 

ちなみに明日香が、儀式の下準備はサイバー・エンジェルには対応していないという事を知り、ブルーになるのは割りとすぐ先のお話である。

「私は1ターン目に"天使の施し"で墓地に送った"儀式魔人プレサイダー"を除外して"イリュージョンの儀式"を発動するわ」

 

儀式魔人プレサイダー

星4/闇属性/悪魔族/攻1800/守1400

儀式召喚を行う場合、その儀式召喚に必要なレベル分のモンスター1体として、

自分の墓地のこのカードをゲームから除外できる。

また、このカードを儀式召喚に使用した儀式モンスターが戦闘によってモンスターを破壊した場合、その儀式モンスターのコントローラーはデッキからカードを1枚ドローする。

 

フィールドに瞳の紋様の彫られた壺が現れ、そこに儀式魔人プレサイダーが吸い込まれ、壺から黒紫色の煙が巻き起こった。

 

「うふふ、行くわよ。手札から"サクリファイス"を特殊召喚よ」

 

サクリファイス

星1/闇属性/魔法使い族/攻 0/守 0

「イリュージョンの儀式」により降臨。

(1):1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。

その相手モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する(1体のみ装備可能)。

(2):このカードの攻撃力・守備力は、このカードの効果で装備したモンスターのそれぞれの数値になり、このカードが戦闘で破壊される場合、代わりに装備したそのモンスターを破壊する。

(3):このカードの効果でモンスターを装備したこのカードの戦闘で自分が戦闘ダメージを受けた時、相手も同じ数値分の効果ダメージを受ける。

 

煙が晴れると、やじろべえのような見た目で青い体色をしたモンスターが降臨する。その頭はとある千年アイテムのひとつをそのままくっ付けたかのように酷似していた。

 

サクリファイス

ATK0

 

「"サクリファイス"……」

 

「デュエルキングダム時代の古いカードね」

 

「"サクリファイス"には戦闘ダメージを相手にも与える効果があります。前のターンで1000LPを払ってゴッドフェニックスを使っていたら"サクリファイス"が"ラーの翼神竜"に自爆特攻すればそれで終了でしたね」

 

「だから彼は…」

 

「まあ、彼のあの様子だと大方藤原さんのデッキの中身は知らないですが、デュエリストの勘で何と無くゴッドフェニックスを撃たなかったのでしょう。デュエリストの勘もスゴいんですよ彼」

 

明日香とツァンは妙にナイトメアの事を良く知っている様子のメデューサに多少疑問を覚えたが、彼女の極めて高い実力から恐らく元プロデュエリストやそれに準じる仕事をしていたのだろうと考えた。ちなみにハロウィンの日に明日香とツァンはデュエルを吹っ掛けられて手も足も出ずに敗北している。今ではメデューサ先生は、二人のデュエリストの理想像のひとつである。

 

「"サクリファイス"の効果を発動。ダーク・アイズ・マジック」

 

黒い輪がThe supremacy SUNを呪縛した。

 

「"The supremacy SUN"を吸収。ターク・ホール」

 

The supremacy SUNはサクリファイスに吸い込まれるように吸収され、跡形もなく姿を消した。

 

「"サクリファイス"の攻撃力と守備力は吸収したモンスターと同じになるわ」

 

サクリファイス

ATK3000

 

「私は1ターン目に同じく墓地に送った"ヴォルカニック・バレット"の効果を使うわ。ライフポイントを500払ってデッキから"ヴォルカニック・バレット"を1枚手札に加える」

 

藤原

LP4000→3500

 

ヴォルカニック・バレット

星1/炎属性/炎族/攻 100/守 0

このカードが墓地に存在する場合、自分のメインフェイズ時に1度、500ライフポイントを払う事で、デッキから「ヴォルカニック・バレット」1体を手札に加える。

 

手札3→4

 

「ヴォルカニック…?」

 

「ふふ、あなたのお父さんに頼んで貰ったの。コストにとても良いわ」

 

「……お前俺の知らないところで何してんの?」

 

「ヒ・ミ・ツ。私は装備魔法"進化する人類"を"サクリファイス"に装備」

 

「げ…」

 

何故かそれを見たナイトメアは、多少なり動揺しているようにみえる。

 

「確かライフポイントが相手より多い時は攻撃力を1000。少ない時は2400にするカードよね?」

 

「なんで攻撃力3000の"サクリファイス"に使ったの…?」

 

「あー……貴女たちが知らないのも無理はないですね。"進化する人類"は珍しい元々の攻撃力を変化させる魔法カードなんですよ」

 

「えっと……」

 

「"サクリファイス"が先に相手モンスターを装備してから"進化する人類"を装備した場合は、装備した相手モンスターの数値に"進化する人類"の数値を加算します。"進化する人類"を先に装備してから相手モンスターを装備した場合は、"サクリファイス"の攻撃力を更新する効果により装備した相手モンスターの数値になります。その後、装備された相手モンスターがフィールドを離れた時は"進化する人類"の効果を再適用します。よって攻撃力は1000もしくは2400になります。要は、"サクリファイス"と中々相性の良い装備カードなんですよ。さて、今の"サクリファイス"の攻撃力は幾つでしょうか?」

 

「それって…」

 

「まさか…」

 

メデューサの説明を聞いた二人は、藤原のフィールドのサクリファイスの攻撃力を参照した。

 

 

サクリファイス

ATK5400

 

 

「激しくね? ILLUSION(イリュージョン) SOLAR(ソーラー) FLARE(フレア)

 

サクリファイスからThe supremacy SUNの攻撃であるドス黒い極光が放たれ、ラーの翼神竜は容易に呑み込まれた。

 

ナイトメア

LP4000→1900

 

「戦闘によってモンスターを破壊した事で、"儀式魔人プレサイダー"の効果により1枚ドロー」

 

手札3→4

 

「フフ、"進化する人類"の効果で"サクリファイス"の元々の攻撃力は1000になるわ」

 

サクリファイス

ATK5400→4000

 

「終わりかしら? 邪精トークンでダイレクトアタックよ」

 

その言葉と裏腹に藤原の声色は楽しげで、明らかに期待を含んだ表情をしていた。

 

それに答えるようにナイトメアのフィールドで、金色の旋風と炎の渦が巻き起こる。

 

「まだだ、太陽は沈まない」

 

そうナイトメアが呟いた直後、風と炎は像を結び、そこには太陽の名に相応しい輝きと熱を放つ火の鳥が顕現した。

 

 

ラーの翼神竜-不死鳥(ゴッドフェニックス)

星10/神属性/幻神獣族/攻4000/守4000

このカードは通常召喚できず、このカードの効果でのみ特殊召喚できる。

(1):このカードが墓地に存在し、「ラーの翼神竜」がフィールドから自分の墓地へ送られた場合に発動する。このカードを特殊召喚する。この効果の発動に対して効果は発動できない。

(2):このカードは他のカードの効果は全て通じない。

(3):1000LPを払って発動できる。フィールドのモンスター1体を選んで墓地へ送る。

(4):エンドフェイズに発動する。このカードを墓地へ送り、自分の手札・デッキ・墓地から「ラーの翼神竜-球体形」1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。

 

ラーの翼神竜-不死鳥

ATK4000

 

「墓地からの特殊召喚により、"生還の宝札"の効果でカードをドロー」

 

手札

1→2

 

「…イイわ…ゾクゾクしちゃう……私はカードを1枚伏せてターンエンドよ」

 

「エンドフェイズ時に"ラーの翼神竜-不死鳥"の効果発動。このカードは墓地に送られ、"ラーの翼神竜-球体形"をデッキから特殊召喚する」

ラーの翼神竜-球体形(スフィア・モード)

星10/神属性/幻神獣族/攻 ?/守 ?

このカードは特殊召喚できない。このカードを通常召喚する場合、自分フィールドのモンスター3体をリリースして自分フィールドに召喚、または相手フィールドのモンスター3体をリリースして相手フィールドに召喚しなければならず、召喚したこのカードのコントロールは次のターンのエンドフェイズに元々の持ち主に戻る。

(1):このカードは攻撃できず、相手の攻撃対象にならない。

(3):このカードは上級呪文であるカードの効果は1ターンのみ通じ、それ以外の効果は全て通じない。

(2):このカードをリリースして発動できる。手札・デッキから「ラーの翼神竜」1体を、召喚条件を無視し、攻撃力・守備力を4000にして特殊召喚する。

 

ラーの炎は急激に鎮火し、その場に残っていたのは鈍い光を放つ月のような球体であった。

 

藤原雪乃

LP3500

モンスター2

魔法・罠5

手札3

 

「これでフィールドが硬直しました。彼は、"強制終了"と"サクリファイス"を破壊した上で、3500ポイントのライフを削り切らなければ勝てません。藤原さんは"サクリファイス"デッキのようですから例えゴッドフェニックスで破壊してもまたすぐに出てくるでしょう。そうなるとゴッドフェニックスの1000のライフ消費はそう易々と出来ません」

 

そう言ってから二人に聞こえないようにメデューサは言葉を溢す。

「さあ、マスター。どうしますかね?」

 

そう言うメデューサの表情は、悪戯をしている子供のように楽しげで、何処か嬉しそう映った。

 




おまけが本編

~ハロウィーンの日のヴェノミナーガさん(見た目は砂の魔女の服を着たfateのメデューサさん)~


VS丸藤亮

「あなたのフィールドに"トーチ・ゴーレム"を守備表示で特殊召喚します。バトルです、"KA-2 デス・シザース "で"トーチ・ゴーレム"を攻撃。ナノポイズン」

「くっ…何を…?」

「この瞬間、"KA-2 デス・シザース"の効果発動。このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターのレベル×500ポイントダメージを相手ライフに与えます。ちなみに"トーチ・ゴーレム"のレベルは8です」

「なん…だと…?」

「これこそが、初撃を当てさえすれば、超神速の爪に弾かれた空気と真空領域によって敵の行動を阻害し、まるで掃除機のようにプレイヤーを引き寄せ、特異な踏み込みによる強力な二撃目の爪で仕留めることが出来るという奥義。天翔蟹閃(カニパン)です」

丸藤亮
LP4000-(8×500)→0

KA-2 デス・シザース
星4/闇属性/機械族/攻1000/守1000
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、破壊したモンスターのレベル×500ポイントダメージを相手ライフに与える。



VS天上院明日香

「"サイバー・プリマ"を召喚! 効果であなたの"光の護封剣"と"強者の苦痛"を破壊よ! そして、"サイバー・プリマ"で"ニードルバンカー"とバトル! 終幕のレヴェランス!」

「ではプリマドンナにはこのような末路はいかがでしょうか? 永続罠、銀幕(ぎんまく)鏡壁(ミラーウォール)発動。相手の攻撃モンスターの攻撃力は半分になります」

サイバー・プリマ
ATK2300→1150

「ああ…ッ! プリマ!?」

「どうやら終幕は悲劇のようでしたね。"ニードルバンカー"の攻撃力は1700です。四の五の言わずにカニパンを喰らいなさい」

天上院明日香
LP3000-(550+6×500)→0

サイバー・プリマ
星6/光属性/戦士族/攻2300/守1600
(1):このカードがアドバンス召喚に成功した場合に発動する。フィールドの表側表示の魔法カードを全て破壊する。

ニードルバンカー
星5/闇属性/機械族/攻1700/守1700
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、破壊したモンスターのレベル×500ポイントダメージを相手ライフに与える。



VSツァン・ディレ

「"ギブ&テイク"で私の墓地の"トーチ・ゴーレム"をあなたのフィールドに守備表示で特殊召喚。更にそのレベルの数だけ自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体のレベルをエンドフェイズ時まで上かります。私は"KA-2 デス・シザース"を選択、"トーチ・ゴーレム"はレベル8なので、これでカニはレベル12です。だが俺はレアだぜ!」

「ゲッ……ATK0!?」

スプリット・D・ローズ
ATK0

「さあ、カニパンの時間です。"KA-2 デス・シザース"で、"スプリット・D・ローズ"を攻撃。ナノポイズン」

「わぁぁぁぁぁ!!?」

ツァン・ディレ
LP4000-(1000+7×500)→0

スプリット・(デモン)・ローズ
星7/闇属性/植物族/攻 0/守1500
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分フィールド上に「D・ローズトークン」(植物族・闇・星3・攻/守1200)を2体特殊召喚する事ができる



VS三沢大地

三沢大地
LP500

「初撃は許したが、これで君を打ち破る布陣は完成した! まず、永続罠、"グラヴィティ・バインド-超重力の網"を破壊しなければ"KA-2 デス・シザース"も"ニードルバンカー"も攻撃は出来ない! 更に"スピリット・バリア"と戦闘によって破壊されないモンスター達だ! 表示形式の変更すら意味はない!」

「じゃあ、"KA-2 デス・シザース"を生け贄に"邪帝ガイウス"を召喚します。効果で"邪帝ガイウス"を除外します。除外したカードが闇属性モンスターだったのであなたに1000ポイントダメージを与えますね? 喰らいなさい、形を変えて受け継がれるカニパンの意思を」

「な……!?」

三沢大地
LP500→0

邪帝ガイウス
星6/闇属性/悪魔族/攻2400/守1000
(1):このカードがアドバンス召喚に成功した場合、フィールドのカード1枚を対象として発動する。そのカードを除外し、除外したカードが闇属性モンスターカードだった場合、相手に1000ダメージを与える。



VSオベリスクブルー生徒

「カニパンは隙を生じぬ二段構え」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」

LP4000→0



VSラーイエロー生徒

「お前もカニパンにしてやろうか!」

「そんなぁぁぁぁ!!?」

LP4000→0



VSオシリスレッド生徒

トリック(悪戯)オア()カニパン()

「お菓子はぁぁぁぁ!!?」

LP4000→0



VS丸藤翔

「永続罠、"リミット・リバース"発動。自分の墓地の攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、表側攻撃表示で特殊召喚します。勿論、召喚するのは"KA-2 デス・シザース"です」

「また!? でもまだ僕のフィールドにはッ!」

「いいえ、ここまでです。手札のモンスターカードを1枚捨て、"KA-2 デス・シザース"を対象に罠カード、"共闘"を発動。このカードを発動するターン、私のモンスターは直接攻撃出来なくなります。その代わり、そのモンスターの攻撃力・守備力はターン終了時まで、このカードを発動するために捨てたモンスターのそれぞれの数値と同じになります。私の捨てたカードは"爆走特急ロケット・アロー"。その攻撃力は5000です」

KA-2 デス・シザース
ATK5000

「そんな…」

「健闘賞ですね。中々頑張りましたが、ここまでです。"KA-2 デス・シザース"で、"スチーム・ジャイロイド"に攻撃。ロケットカニパーン! またの名をメガネっ娘ナッコー!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

丸藤翔
LP1000-(2800+6×500)→0

「翔ッ…よく頑張ったな。俺よりも長く持っていたぞ…!」

「兄さん…!」

爆走特急ロケット・アロー
星10/地属性/機械族/攻5000/守 0
このカードは通常召喚できない。自分フィールド上にカードが存在しない場合のみ特殊召喚できる。このカードを特殊召喚するターン、自分はバトルフェイズを行えない。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分は魔法・罠・効果モンスターの効果を発動できず、カードをセットする事もできない。このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に手札を全て墓地へ送る。またはこのカードを破壊する。

スチームジャイロイド
星6/地属性/機械族/攻2200/守1600
「ジャイロイド」+「スチームロイド」



VS遊城十代

「あなたのLPは残り500ポイントで、手札もゼロ。私のフィールドには"ニードルバンカー"と、"マシンナーズ・フォートレス"がいますよ。諦めます? カニパンになります?」

ニードルバンカー
ATK1700

マシンナーズ・フォートレス
ATK2500

「まさか! ここからが面白いんだ! 俺のターン、ドロー!」

手札
0→1

「よし! 俺は"E・HERO バブルマン"を特殊召喚! 効果でカードを2枚ドローするぜ」

手札
0→2

「"強欲な壺"を発動。カードを2枚ドロー! 来たっ! "融合"発動!」

手札1→3

「"E・HERO フェザーマン"と、"E・HERO バーストレディ"を墓地に送り、"E・HERO フレイム・ウィングマン"を融合召喚!」

E・HERO フレイム・ウィングマン
ATK2100

「"E・HERO フレイム・ウィングマン"で、"ニードルバンカー"を攻撃! フレイム・シュート!」

「マジかよ…夢なら覚め」

メデューサ
LP2100→0

「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」



マシンナーズ・フォートレス
星7/地属性/機械族/攻2500/守1600
このカードは手札の機械族モンスターを
レベルの合計が8以上になるように捨てて、手札または墓地から特殊召喚する事ができる。このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。また、自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードが相手の効果モンスターの効果の対象になった時、相手の手札を確認して1枚捨てる。

E・HERO バブルマン
手札がこのカード1枚だけの場合、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に自分のフィールド上に他のカードが無い場合、デッキからカードを2枚ドローする事ができる。

E・HERO フレイム・ウィングマン
星6/風属性/戦士族/攻2100/守1200
「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」
(1):このカードが戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。





・この件についてのマスターからコメント
LP4000でカニとか常識ねぇのかよ…。

・ヴェノミナーガからの返信
壊獣と月鏡の盾がこの世界にはまだ無いだけ温情ですよ。



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冬休みと天音



やあ、皆! 年一更新小説の更新の時間だよ!(デーン)



痛い痛い! 止めて! スリンガーで石ころぶつけないで(モンハン脳)!

えーと…言い訳を申し上げると活動報告にもありますが、10月頃に携帯が操作不能状態でぶっ壊れましてメールが全て飛びまして。それに伴い10月下旬には更新できるかなと思っていた1万と8000文字ぐらいの二人でデッキを回しているだけ(下) が吹っ飛んだお陰で他の小説の書き貯めごと更新意欲も更地になりまして……。そういうわけでまた書こうと悩んではいたのですが一向に作業が進まず、結局流石に年一更新はヤバイと思いその次の話を書いて投稿してしまうという暴挙に出た訳です、はい。

作者の現状はこんな感じです、まだいるかはわかりませんが、楽しみにしていた方々には誠に申し訳ありませんでした。そろそろ半年……いや2・3ヶ月に1話ぐらいは更新ペースを早めようと思うので頑張りたいと思います。では拙い本編をどうぞ。



※ちなみに先に言っておくと相変わらず当たりが強いですが、リックくんは勿論ヴェノミナーガさんを嫌ってはいません。寧ろ男のツンデレの彼なりに好いています。静かな年末を送りたかっただけです。


 

 

 

 

 

冬休みに入り、直に新年になるため、家族と過ごす等で夏休み以上に人の居なくなったオベリスクブルー男子寮。父さんがオベリスクブルー寮に居るので何も関係無い俺は炬燵でぬくぬくとしながら残った奴らを呼んで何かしたり、カードを磨く等して何故かヴェノミナーガさんの居ない束の間の休日を楽しんでいた。

 

真冬になれば変温動物らしくヴェノミナーガさんの活動性やらウザさが少しでも弛むかと思えば全くそんなことはない。寧ろ家にいる時間が増えるので結局俺が割を食うのである。

 

ついでにヴェノミナーガさんは寒さに弱いアピールをよくしているが、多分そんなことはない。この前、色々あってこの島にある活火山の火口で見事なバタフライ遊泳をしていたので寧ろ寒さ程度でどうこうなるとは思えないし、冬は炬燵でアイスをパクつくのが生き甲斐らしいので間違いないだろう。

 

「………………(こくりこくり)」

 

まあ、居ない者のことは置いておき、現在進行形で白いセーターを着ている砂の魔女さんが寝かけているのを眺めているのが面白い。カードを磨く手も止まるというものだ。

 

ちなみにラーも居るが砂の魔女さんの膝を枕にして横に寝ている。掛けられたタオルケットはきっと砂の魔女さんの優しさで出来ている筈だ。

 

もし学生ならばきっと砂の魔女さんは優等生なのだろう。うつらうつらしている様子からも生真面目さが滲み出ている。これが授業中の十代だったならば顔を書いたお面を頭に着けて突っ伏しているところだ。

 

十代と言えばさっきまで十代たちもこの部屋に居たが、夜も近かったので帰ったところである。オシリスレッド寮に向かう道に電灯とか無いので早く帰らないと危ないのだ。

 

十代たちをオベリスクブルーの食堂で食事を取らせると、最初の頃はオシリスレッドの生徒を入れている事で、風紀だの規律だの品格だのと尤もらしいことを並べておっかなびっくり気味に俺に突っ掛かってくる先輩方がいたが、そこまで言うのならば要は余程に俺とデュエルがしたいのかと思ったので、片端から叩き伏せているといつの間にか無くなってしまった。暇潰しには持ってこいだったので実に残念である。

 

というか、夏は俺がオシリスレッドに行けばいいが、冬はあの寮クソ寒くて行きたくない。現役の薪ストーブには風情があると思うがそういう問題ではない。

 

そう言えば今はツァンは年末は家族と過ごすとのことで居ないな。

 

「ふふふ、可愛らしい寝顔ね」

 

手乗りサイズになっている俺のカードの精霊のインセクト女王のお腹を指でぷにぷに触りながら砂の魔女さんに対してそんなことを呟くのは一向に実家に帰る気配のない藤原雪乃である。

 

お前は実家に顔ぐらい見せてこい。というかもう寮に帰れ。

 

「大丈夫よ。ミラージュトークンが寮にはいるもの。自壊するのは明日の朝よ」

 

そう言いながら俺の部屋に置かれた箪笥の引き出しから当たり前のようにパジャマや下着を取り出す藤原。無論、俺の趣味ではなく藤原の私物である。

 

「お前の逞しさにはある意味脱帽だよ……」

 

「フフ、誉め言葉と受け取るわ」

 

そう言うと藤原は俺の部屋のバスルームへと消えて行った。泊まる気満々な以前に部屋に藤原の私物が当たり前のようにある事に突っ込む気力は枯れ果てた。

 

ちなみにミラージュトークンとは罠カードの物理分身からしか召喚されない激レアトークンである。かつてヴェノミナーガさんに取り憑かれていた経緯から藤原もそこそこカードを使えるのであろう。それにしても妙にマニアックなカードではあるがな。

 

とりあえずお茶を啜りながら藤原はいるが至って平和な年末を噛み締める。ヴェノミナーガさんと言えば、本当にヴェノミナーガさんが居ないと静かで和やかだ。

 

よくうるさい者がいなかったらいなかったで寂しい等と言う奴がいるが、そんなものは本当にうるさい上に腐れ縁を飛び越えて憑いてくる奴を知らない奴が言える台詞である。生活用水に微弱な毒を流されるように毎日地味に効いてくるのだ。

 

いやあ、ヴェノミナーガさんが島の外に行っているので本当に本当に平和なものである。冬コミとか呟いてた気がするのでどんなに早くても大晦日まで帰ってこな___

 

『マスター! 私は荷物を置きに一旦帰って来た! 見た! 買った!』

 

噂なんてしなきゃよかった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

『前々から高レベルの爬虫類族モンスターや、昆虫族モンスターが欲しいなーとマスターは口にしていましたよね?』

 

部屋の隅に戦利品の紙袋を置くと、目にも止まらぬ速度で炬燵に尻尾を突っ込んで温まったヴェノミナーガさんは更に突然そんなことを呟く。

 

ヴェノミナーガさんに叩き起こされた砂の魔女さんはもう遅い時間だからと学校から与えられた部屋にラーを連れて帰ってしまった。よってこの部屋には風呂場に藤原と対面にヴェノミナーガさんしかいない。地獄かここは。

 

まあ、それは一先ず置いておき、爬虫類族はいつでも欲しいし、昆虫族はヴェノミナーガさんにクリスマスプレゼントで貰った_。

 

俺は昆虫族デッキを取り出して机に中身を並べた。すると手乗りサイズのインセクト女王がデッキの隅にトコトコやって来てデッキを覗き込んでくる。これでもアリにしてはデカいが、本来の大きさより遥かに小さいためちょっと可愛い。

 

これを3枚と_

 

 

寄生虫(きせいちゅう)パラノイド

星2/地属性/昆虫族/攻 500/守 300

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。このカードを手札から装備カード扱いとしてそのモンスターに装備する。装備モンスターは種族が昆虫族になり、昆虫族モンスターを攻撃できず、昆虫族モンスターを対象として発動した装備モンスターの効果は無効化される。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):装備カード扱いのこのカードが墓地へ送られた場合に発動できる。手札からレベル7以上の昆虫族モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。

 

 

これを3枚に_

 

 

超進化(ちょうしんか)(まゆ)

速攻魔法

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):装備カードを装備した自分・相手フィールドの昆虫族モンスター1体をリリースし、デッキから昆虫族モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。

(2):自分メインフェイズに墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の昆虫族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをデッキに加えてシャッフルする。その後、自分はデッキから1枚ドローする。

 

 

それでなんか気が付いたらパワーアップしてデッキに1枚入ってた__

 

『アァァアァ__』

 

 

究極変異態(きゅうきょくへんいたい)・インセクト女王(クイーン)

星7/地属性/昆虫族/攻2800/守2400

このカードは通常召喚できず、カードの効果でのみ特殊召喚できる。

(1):フィールドに他の昆虫族モンスターが存在する場合、自分フィールドの昆虫族モンスターは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。

(2):このカードが攻撃したダメージステップ終了時、自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。このカードは相手モンスターに続けて攻撃できる。

(3):自分・相手のエンドフェイズに発動できる。

自分フィールドに「インセクトモンスタートークン」(昆虫族・地・星1・攻/守100)1体を特殊召喚する。

 

これらがあるので今は強い昆虫族が欲しいのである。

 

ちなみにインセクト女王はパワーアップしたとは言ったが、元の原作効果の方のインセクト女王も変わりなくデッキに1枚入っているので問題ない。どうやらデスガーディウスと似たようにインセクト女王と究極変異体・インセクト女王の2枚のカードに同じ精霊が宿る現象が起きているらしい。

 

ここまで色々とあると欲しい。具体的に言うと究極完全体・グレート・モスとか、アルティメット・インセクト等が欲しい。

 

しかし、グレートモスはデスガーディウスを越え、ブルーアイズより多少マシなレベルの神話級のレアカードなので俺ですら気軽に買える金額ではなく、アルティメットインセクトに至っては存在が伝説級のレベルモンスターのため購入以前に所在の特定すら困難である。現実は非情である。

 

『実はお出掛けのついでに使えそうなカードを南アメリカから拾ってきたんですよ』

 

どうして日本に行ったついでに南アメリカへ行ったのかは謎であるが、その辺りを言及するとやれ乙女心がわかってないだのミステリアスな美女の秘密だの小癪なレパートリーに富んだ意味の無い取り繕いが出てくる為にあえて流しておく。

 

『まだ暫く暇をもて余しているあの子達の一部にマスターの力を少し見せてから良かったら来ませんかと伝えたら二つ返事でOKされたのでなんと3体程連れてきましたよ!』

 

「ええ……神はちょっと…」

 

申し訳無いが、ヴェノミナーガさんが一体増えるレベルの個性をお持ちの方々はNG。

 

『いえいえ、封印されたままなので大した力は出せませんし、所詮他者に封印される程度の木っ端邪神。三幻神、三邪神、私等とは比べるべくもありません。私的には私と同格の神かちょい上ぐらいでなければ全然オッケーですね』

 

「そこまでこき下ろして大丈夫ですか……?」

 

『神とは元来尊大なもの。そして神格という序列が人間よりも遥かに確りとしています。寧ろ神格の高い神が神格が低い神に対して尊大なのは礼儀のようなものですよ』

 

なんかよくわからんが、そういうものらしい。そして頻繁に忘れるが、ヴェノミナーガさんの神格は三幻神のラーの翼神竜クラスなのである。偉いのである。

 

『それはそれとして、縛られる事には慣れている方々なので大変素行は良いです。封印されることなんと5000年! その道のプロですよ』

 

「それは……プロなのか?」

 

『ではではご照覧あれ!』

 

ヴェノミナーガさんは俺の訝しみを無視して3枚のカードを俺の目の前に出した。

 

 

地縛神(じばくしん) Uru(ウル)

星10/闇属性/昆虫族/攻3000/守3000

「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。また、1ターンに1度、このカード以外の自分フィールド上のモンスター1体をリリースする事で、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、エンドフェイズ時までコントロールを得る。

 

 

地縛神(じばくしん) Ccarayhua(コカライア)

星10/闇属性/爬虫類族/攻2800/守1800

「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。また、このカードがこのカード以外の効果によって破壊された時、フィールド上のカードを全て破壊する。

 

 

地縛神(じばくしん) Wiraqocha(ウィラコチャ) Rasca(ラスカ)

星10/闇属性/鳥獣族/攻 100/守 100

「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。また、このカードが召喚に成功した時、このカード以外の自分フィールド上のカードを3枚まで選択して持ち主のデッキに戻し、戻したカードの数だけ相手の手札をランダムに捨て、このカードの攻撃力を捨てたカードの数×1000ポイントアップする。

 

 

ほー、地縛神じゃないか。地縛神と言えば奇っ怪な自壊能力と攻撃対象に選択できない能力に直接攻撃能力とプラスアルファの効果をそれぞれ持ったカードだと記憶している。まあ、遊戯王は王様のアニメまでしかマトモに見ていない上に知識もとっくの昔に掠れているので、カードを見た感想としてはそう言えば居たなこんな奴ら程度の認識である。

 

『マスターの能力が化物染みて高いので憑いてるだけでかなり恩恵が得られますから、人々の魂とかはいらないそうです』

 

「ん? なんかさらっと恐ろしいこと言わなかったか…?」

 

『A:封印中です』

 

「……そう言えば神なのにコイツらの神の耐性はどこに行ったんだ?」

 

『A:封印中です』

 

「…………正直ウィラコチャなんとかさん弱くないですか…?」

 

『A:封印中です』

 

「アッハイ」

 

どうやらヴェノミナーガさんは何を聞いてもコイツらについてはノーコメントのようだ。ならば俺もこれ以上は聞くまい。これが正しいヴェノミナーガさんとの付き合い方である。

 

『そう言えば邪神ちゃんドロップキックアニメ化しますね』

 

俺にどや顔でカードを渡したヴェノミナーガさんは何やら呟くと珍しく炬燵から離れて部屋の隅まで下がった。

 

それを奇妙に思っていると何故か尻尾を等間隔でとぐろを巻き始める。その様はバームクーヘンや重ねたオニオンリングを思わせる光景である。

 

『というわけで……』

 

するとやがてとぐろを巻くのを終え、ヴェノミナーガの瞳がいつも以上に赤く怪しい輝きを見せた。

 

『くらいやがれですの! 殺人ドロップキック!!』

 

次の瞬間、映画アナコンダのアナコンダ並みの質量を持つヴェノミナーガさんの尻尾が、ヴェノミナーガさんごと俺めがけて飛んできた。

 

強………! 速……避………無理! 受け止める………無事で!? できる!? 否__死

 

「デスガーディウスッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『つまんねーなぁ…』

 

白髪の少女が眠る傍らに浮かぶ竜と悪魔を足したような姿をしたデュエルモンスターズの精霊がそう呟いた。

 

『天音ちゃんさぁ……まさか、丸々一年以上蛇女以外に気付かれずにずーっと彼をストーカーしてるなんて思うかよ…』

 

目の前ですやすやと眠っている少女_獏良天音の周りを見れば夥しい数の写真とそれを収納するアルバムが散乱していた。上を見上げればベッドの真上の天井を埋めるようにやはり写真が貼られている。

 

『こーんなにお熱になっちゃてさ』

 

獏良天音の精霊_邪神イレイザーが適当に写真を1枚拾い上げるとそこにはオベリスクブルーの制服に身を包み嬉々とした表情でデュエルを行っているプロデュエリストのリック・べネットの姿と彼に憑く中で最も強力な精霊の姿が撮されていた。

 

何故かリックはカメラの方を見ておらず、リックの精霊だけが両手の口から伸びる舌をピロピロと伸ばしでダブルピースでもしているような自己主張とカメラ目線している事が特徴だろう。と言うよりもこれらの写真の中では1枚足りともリックがカメラ目線の姿で写っている物はないのだが。

 

イレイザーは写真を適当に放ると肘を突きながら寝そべるような体勢を空中で取る。

 

『あーあ、いやー、天音ちゃんの筋金入りのストーカーっぷりとスキルを甘く見てましたよマジで。伊達に10年以上幽霊やってなかったんだなー、アハハハハ!』

 

イレイザーはもう片手で自身の頭を軽く小突いた。

 

『ってそうじゃねぇだろ…』

 

イレイザーは体勢を元に戻すと獏良天音の頭上に移動した。

 

『うーん……ちょっとオジちゃんこういうのが長続きするのは流石に良くないと思うなぁ……邪神を心配させるなんて天音ちゃんも罪な子だねー、全く……………………あ、そうだ!』

 

イレイザーは口元に手を当てながらもう片手に黒々と鈍い輝きを放つ光を出現させる。

 

『じゃあ! ちょっと"良い夢"でも見せてあげますかねぇ! アハハハハ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもと変わらないヴェノミナーガさんの居る年末をデュエルアカデミアで送ってから少したった頃。

 

プロの仕事を差し引いてもそろそろ冬休みにやることが無くなってきたところである。十代達とデュエルや遊びばかりしていたが、夏にも色々と遊んでいた分いい加減マンネリである。ならば無差別にデュエルを挑もうにもそもそも冬休みは生徒が夏休み以上にいないこれでは本末転倒である。

 

『ここ数日、その夏休み以上に人がいない冬休みの生徒を見つける度に嬉々としてデュエルを挑んで一切の容赦なく潰しまくってたのはいったいどこの誰ですかねぇ…?』

 

心外である。デュエルとはすなわちエンターテイメント、楽しいものなのだ。デュエルを怖がる要素がどこにあるというのだろうか。

 

『怖がられてるのはマスターなんだよなぁ…』

 

ヴェノミナーガさんの根も葉もない悪口は放っておき、今日も暇なのでデュエルアカデミア本校の校舎で生徒を探す。しかし、会うのはいつもの面子か既にデュエルし終えた生徒ばかりである。無論、いつもの面子がデュエルを仕掛けてくれば応じるがそれでもやはり新鮮味というものが足りない気がしてくる。

 

『あ、ちょっとそこの色男!』

 

ふとテンション高めの男性の声と共に肩を叩かれた為、そちらを見ると邪神イレイザーがヴェノミナーガさんのようにふよふよと浮いていた。

 

「………今日はもう寝るか、どうやら疲れてるみたいだ…」

 

『そうですねー、それが良いと思いますよ、プププ…』

 

『あ、ちょっ……現実だって! ってかナーガはわかってるだろ! オジさん苛めて楽しいかい!?』

 

『ええ、それはとても』

 

どうやら現実らしい。見ればヴェノミナーガさんよりだいぶ小さく顕現しているようで俺の腰までの高さ程しか無いように見える。

 

やはりというべきかヴェノミナーガさんと邪神イレイザーは知れた仲のようだ。

 

『で? 今更なんでしょうか? コチラは絶賛生徒狩りの最中だったのですが』

 

『あ、そうなの……ってそりゃ知ってるよ。お前ら昨日は22人もデュエル吹っ掛けてたもんな』

 

何故それを知っているのか聞こうとしたところでイレイザーの表情が曇り、頭を手で掻いた。良く見れば額に少し汗を浮かべているように見えなくもない。

 

『あー、もう時間無いから単刀直入に言うぞ』

 

邪神イレイザーは両手を合わせると笑顔で勢い良く言葉を吐く。

 

『やり過ぎちゃったわ! ゴメンね!』

 

それだけ言い残すと邪神イレイザーは跡形もなく消滅した。流石は神々神出鬼没である。

 

『あっ…(察し)』

 

ヴェノミナーガさんは何か思い付いた様子で固まっているが、何かぷるぷると小刻みに震えているため笑いを堪えているようにも見えた。

 

「"貴方"……」

 

とりあえずヴェノミナーガさんから流石に聞き出そうとすると背後から声が響た為、振り向くと10m程離れた場所に白髪のオベリスクブルー女子制服を来た生徒が立っていた。

 

「いったいどういうつもり?」

 

「……失礼だが、どうとはどういうことだろうか?」

 

「どうして私のところに来てくれないの? 昨日ちゃんと約束したでしょう?」

 

俺は更に首を傾げた。

 

遊戯さん程ではないが、彼女はそれに準じる程奇抜な髪型である。更に藤原やツァン並の美人な上、何故か容姿に既視感を覚える為、デュエルアカデミアで見掛けていたならば必ず覚えていた事だろう。要するに彼女と俺は全くの初対面だと言える。

 

「まさか……とぼける気? そう…………ずるい人。昨日、私の元を訪ねてきたのは貴方の方じゃない。昨夜は一晩中、朝まで私と一緒にいた……」

 

昨日は一晩中ヴェノミナーガさんとモンハンワールドやっていた筈なのだが…。

 

『斬裂ライトが死んだ時は涙で枕を濡らしました』

 

濡らしたのは俺のパジャマだったような……振った俺も悪いがちょっと黙っててくれヴェノミナーガさん。話が拗れる。

 

「全部、貴方がしたことよ。…………夢の中で」

 

「は……?」

 

『は……?』

 

ヴェノミナーガさんと呟きがハモる。彼女はそんな我々を気にする様子もなく両頬に手を置くとうっとりとして艶があるが、どこか暗い笑みを浮かべた。

 

「私の夢に貴方はここ最近毎晩現れるの。私は親しい人は誰もいない、唯一心を許せるのはずっと憧れていた貴方だけ。そして貴方はあの夜、私だけって誓ってくれたんだもの。そして貴方は私を…………ふふふ」

 

『マジかよ……そっちの路線かよ…』

 

いつの間にか俺の目の前まで歩いてきていた彼女はヴェノミナーガさんの呟きを無視して何故か背中に回り込んできた。

 

それを何事かと思っていると背中に柔らかい感覚が伝わってきた為、首をそちらに回すと彼女は俺の背中に抱き着いていた。そのまま彼女は背中から見上げながら俺の目を見つめて口を開く。

 

「今更言い逃れは許さないわ。夢の中で貴方は確かにそう誓ったんだもの……だから」

 

彼女の黄金色にも茶色にも見える瞳は俺を映したまま瞬きひとつしない。

 

「ずっと……憑いているわね」

 

彼女に軽い恐怖を覚えるのと同時に、邪神イレイザーの去り際の台詞を思い出し、やはり神にはロクな奴が居ないと確信するのだった。

 

 

 

 

 






(仲間が増えたファンファーレ)

獏 良 天 音 が な か ま に な っ た

天音ちゃんを中々本登場させなかった理由↓
ふじのんとツァンでリックの両手塞がるやん……

天音ちゃんを本登場させた理由↓
あ、背中があるやん

天音ちゃんのセリフの元ネタと結婚(支援S)した事のある人は作者と友達です(真顔)



◆ヴェノミナーガさんの技

・ヴェノミナーガ式殺人ドロップキック
ヘビさん6ぴきくらい♥ (攻撃力3000相当)

・アブソリュート・ヴェノム
時価(攻撃力)

強制封印・万魔神殿(パンデモニウム・ケトゥス)
試しにやったらなんかできた



◆リックくんとヴェノミナーガさんのモンハンワールド
・ヴェノミナーガさんの装備
みんな大好き超会心装備(アプデ前は更に斬裂ライト)

・リックくんの装備
ネルギガンテ武器(破龍珠)
ウルズヘルムβ(耐瘴珠)
ウルズメイルβ(治療珠+茸好珠)
ウルズアームβ(早食珠×3)
ウルズコイルβ(友愛珠×2)
ウルズグリーヴβ(治療珠×2)
友愛の護石Ⅲ

発動スキル
広域化Lv5
体力回復量UPLv3
フルチャージLv3
早食いLv3
瘴気耐性Lv3
回復速度Lv2
龍属性攻撃強化Lv1
キノコ大好きLv1
シリーズスキル 超回復

※シリーズ厨である作者の死なない誰も死なせないオン装備




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人造人間 VS 仮面魔獣



なんだこのZ級映画みたいなタイトルは……(困惑)


みんな! 年1更新の小説の時間だよ!(挨拶)

いやぁ……2~3ヶ月ぐらいで更新しようと考えていたのですが、鬼太郎の6期が嬉しくて書いた"犬山さんちのハゴロモギツネ"が評価10件ぐらいの黄色バーでお気に入り300ぐらい行ったらいいかなと考えていたのですがそれよりかなり、無茶苦茶、超好評でして……そちらの方に力を入れていたらすっかりご無沙汰になったといいますか……(小説の投稿を考えている方はこんなクソ作者にはならないでください)



 

 

 

 

 後数日で冬休みが終わろうという頃。俺は久々にオシリスレッド寮に来ていた。今いるところはその食堂である。

 

 ガラス扉のヒビをテープで止めていたり、イスが畳めないタイプの簡素なパイプ椅子だったり、ストーブに金色のやかんが乗せられているものが唯一の熱源だったりと寒々しい光景はもう慣れたものであるが、これが寮というのは中々斬新であろう。

 

 見ての通り寒いからという理由で、オシリスレッド寮にはあまり来ないのだが、今日はここにいる。このわけは実に学生らしい理由だ。

 

「リック~、これわかんねぇよー」

 

「リックさぁーん……」

 

「お前らせめて新しい問題を10秒ぐらい見つめる努力はしろ」

 

 十代たちの冬休みの課題を見ているのである。まあ、流石に丸藤の方は基礎問題は一通り出来るようだが、応用に入った直後にこの様である。というか課題ぐらい早く終わらせとけよな。

 

「リックのはいつ終わったんだ?」

 

「冬休み入る前に先に出来る奴は全部。残りは2日ぐらいで終わらせたな」

 

「うへぇ……」

 

「ど、どうしてリックさんはデュエルが強い上に頭までいいんスかぁ……」

 

「そうなんだナぁ……」

 

 それを告げると三人はムンクの叫びのような表情をした。

 

 どうでもいいが、ムンクの叫びという絵は叫んでいるのは空であり、絵画の人は耳を塞いでいるのである。それらの様々な特徴が似ているため、ムンクは統合失調症だったと言われているそうな。それからムンクの絵は詩と絵のセットになっている絵画であり、そういうところを楽しむといいと思うぞ。それから今度の10月頃に日本でムンク展があるので行こうかと思っているところだ。

 

「しかし、レッド寮に入り浸るなんてリッククンも物好きですにゃ」

 

「残ってる全校生徒狩り(デュエルし)尽くしちゃったんです」

 

「ああ……」

 

 猫のファラオを抱えて近くに座っていた大徳寺先生は納得した様子ながら微妙に顔がひきつっているように見えた。

 

 後は戦っていないのは戻ってくる連中だが、そういうのは基本的に前日とかに帰ってくるであろうからアテにはしていない。俺だってそうする。

 

 しかし、この大徳寺という男。仮に俺が思った通り黒だというのならば、かなりの食わせものだろうな。まるで人畜無害な人間そのものだ。ここまで無害だと俺の判断が間違っていたのではないかと疑い始めてしまう。

 

 だからこそずっと警戒していられるんだがな。俺に言わせれば表裏の無い人間などは存在しない。大徳寺先生はあまりに無害過ぎるのだ。

 

 まあ、今はそれよりも……。

 

「うふ……うふふふ……ふふふふ……」

 

 背中に張り付いたまま離れないこの獏良了に激似の獏良天音ちゃんの方が異様な光景だわな。

 

 オシリスレッド寮の食堂はパイプ椅子とはいったが、簡素な丸椅子なので座ったままでも後ろから天音ちゃんに憑かれるのである。

 

「リ、リック……大丈夫なのか?」

 

「なんかもう慣れた」

 

 天音ちゃんに引いた様子の十代たちに俺はそう答えた。

 

 元々ヴェノミナーガさんに憑かれてた俺としては寧ろまだまだ序の口である。ヴェノミナーガさんはノリと流れで何でもやりたがり、たまに被害も出るので危ない。そのため適度な身体能力が必要だ。

 

 何よりこういう輩の一番の対処法はありのままを受け入れ、否定も肯定もしないことだ。対処法があるだけヴェノミナーガさんに比べればそれこそ可愛いものだろう。

 

「す、すごいッスね……」

 

「肝が座ってるんだナ……」

 

 それから獏良了の妹である彼女の話を聞いたところ、彼女は死んでから幽霊としてこの世に残り続け、俺の精霊であるヴェノミナーガさんが発掘した三邪神のイレイザーと出会い、こうして今ここにいるとのこと。因果なものだ。これも俺が蒔いた種であり、拒む理由はあるまい。

 

 それにレッド寮は寒いのでコイツは湯たんぽだと思えばそこまで気にならないな。人肌で暖まれるというのは本当らしい。

 

「可愛いだなんて……もう……」

 

「それよりだ。お前は俺の心配なんかしてる暇があったら目の前のモノを片付けろ」

 

 何やら頬を染めている天音ちゃんは一旦置いておき、俺は十代たちの目の前にあるプリントと問題集の山、冬休みの課題と呼ばれる物体を指差した。

 

「しかし、自分で言うのもなんだが、プロランクⅣナイトメアが同級生の課題を見てるなんて柄じゃ無さ過ぎて笑えてくるな」

 

「そうっスねぇ……リックさんはその……えーと……なんていうか……」

 

「悪役とかヒールとか覇王とか言っても良いぞ。自覚してるし、そういうキャラで通ってるからな」

 

 俺は小さく笑いながら丸藤のいらぬ気遣いを振り払った。元々の性格でもあるし、今更否定する気も起きない。

 

「天音ちゃん、お茶頼む」

 

「ええ、淹れてくるわ」

 

 全員で使っている大きめの急須にお茶が無くなったので天音ちゃんに頼んだ。彼女はそれを嫌な顔ひとつせずに受けると、急須を取り食堂の流し台の方へと消えていった。

 

 ちなみに話は変わるが天音のデッキだが―――

 

 そこまで言おうとした次の瞬間、食堂の出入り口のガラス扉が勢いよく外れ、それに続いてガラスが割れる音が響いた。

 

 当然、俺を含めた皆の視線はそちらに集中する。

 

 そこにはオベリスクブルーの男子生徒が何かにすがるように手を伸ばしながら床に倒れている光景が広がっていた。

 

「サ、サイコ・ショッカーが僕を追いかけて…!」

 

 ………………なんて?

 

 『えーと、確かデュエルオカルト研究グループの高寺さんですね』

 

「うぉぉ!?」

 

「ど、どうしたんスかアニキ?」

 

 何故か俺の隣にある壁の中からヴェノミナーガさんの上半身の胴体部だけがせり出してきて、胸像のような状態で止まると、そんなことを言い出した。

 

 オシリスレッド寮は狭いので、場所を取るヴェノミナーガさんはこのように奇っ怪なところにいるのである。まあ、俺の精霊はいつもこのように壁抜けしたり地面抜けしたりしているので慣れたものだが、十代がビビるので極力止めて欲しいものだな。

 

『私のお茶はそれですね』

 

 そう言うとヴェノミナーガさんはしゅるしゅると天井を伝ったまま、俺らのいる机の端に上半身を移すと、ひとつだけ不自然に置いてあるお茶を持ち上げて飲み始めた。ちなみにこれが見えない人にどう見えるかと言えば、お茶がひとりでに宙に浮き、傾いて中身が何処かへと消滅するように見えるのである。軽いホラーだろう。

 

「あ、なんだ。リックさんの精霊が来たんだね」

 

「精霊さんなんだナ」

 

 ヴェノミナーガさんが見ての通り十代たちにまるで存在を隠す気が無いので、最初の方こそ怯えていたが、今では二人の反応はこの通りなのである。ヴェノミナーガさんに関しては見た目はアレだが、行動だけは可愛らしいので案外見えない方が良いのかもな。

 

「君は確かオベリスクブルーの高寺君だにゃ」

 

「大徳寺先生! それに精霊に憑かれていると公言しているリックさん! あなた方ならきっと分かってくださいますね!」

 

 大徳寺先生が高寺とやらに近付くと、急に元気になった高寺君とやらは大徳寺先生にすがりついた。

 

 なんだか、既にとても嫌な予感がするが、俺はとりあえず静観を決め込むことにしよう。

 

「お、落ち着くのだにゃ高寺君、最初から落ち着いて話してみるのだにゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の話を要約するとこうだ。

 

 冬休みに入る前に、彼ら高寺オカルトブラザーズことデュエルのオカルト研究グループ3人、向田、井坂、高寺はウィジャ盤を使ってデュエルの起源である精霊の呼び出しをしようとしたらしい。選んだのは何故か人造人間-サイコ・ショッカー。

 

 それでウィジャ盤が示した文字は、三体の生け贄を捧げろとのこと。そして、向田と井坂は既にサイコ・ショッカーの手に掛かり行方不明になったんだそうな。

 

「デュエルの精霊と心霊学を一緒にッひぃ!?」

 

「バカかテメェらは……?」

 

「ひぃぃぃ!?」

 

 俺は大徳寺先生の言葉を遮って言葉を吐きながら高寺の胸ぐらを掴むと片手で持ち上げた。

 

「精霊と心霊学を合わせるのも最低だが、それ以前に何故1人目が消えた時点で教員に頼らなかった? その上、2人目が消えた後は実家に帰ろうとしただと? 」

 

「は、はい……ッ!」

 

「はいじゃねぇよ。何でかって聞いてんだよこのスカタン……」

 

「が、がっこッ! 学校に! バレるのが怖かったからですぅ!」

 

 そんなこったろうなぁ。仮に校舎か、オベリスク男子寮にいる父さんに話していたのなら父さんが既に解決してくれているところだろうよ。

 

「馬鹿野郎が……」

 

 俺は捨て台詞と共に床に高寺をやや強く叩き付けた。

 

「うぐっ!」

 

「テメェ仮に帰れたとして親元までサイコ・ショッカーが着いてきてたらどうする気だった?」

 

「そ、それは……」

 

「お前一人っ子か?」

 

「え? 何で急に……」

 

「いいから答えろ」

 

「は、はいそ、はいそうですッ!」

 

「そうか。じゃあ、お前が自宅に招待したサイコ・ショッカーの気が変わって生け贄を3人から5人に増やそうとしたらどうする気だった?」

 

「え……そんな……」

 

「更に言えばお前が逃げられたとして、この島に取り残されたサイコ・ショッカーがお前以外の人間を生け贄に選ばないと何故思った?」

 

「あ……うう……その……」

 

「いいか? 精霊はテメェの玩具じゃねぇんだよ。温厚な精霊もいるけどな、上級の精霊ともなればこうやって簡単に人命を奪える力を持っているんだ。無論、人間の命なんて毛ほども考えちゃいやしない。むしろそのサイコ・ショッカーは少食で謙虚なものさ。他の人間には1人も被害を出してないんだからな。もし、まだ精霊を召喚する気があるんなら次は星1のバニラモンスターから喚べ。テメェらにはそれが似合いだ」

 

「うう……ひぐっ……うっ……ごめんなさい……」

 

「泣くんじゃねぇ、自分で蒔いた種だろうが」

 

 まあ、こんなものか。この手合いは1度痛い目を見ないとわからないだろうからな。

 

 すると突然食堂の電灯の調子が可笑しくなり、チカチカとついたり消えたりし始める。

 

「ひっ!? いったいなんで!?」

 

「ああ、サイコ・ショッカーもう近くに来てるなこれ」

 

 心霊で呼んじゃってるからな。そういった現象として影響を及ぼしているんだろう。

 

「ひい!? た、たたた、助けてください!」

 

「え? やだよ。なんで無関係な俺がテメェらの尻拭いなんかしなきゃならないんだ?」

 

「え……?」

 

「あのなぁ……俺は聖人でも悪魔払いでも僧侶でもないんだ。それどころかナイトメアだぞ? あ、ここ笑うとこね」

 

「そ、そんな……」

 

「だから助けて欲しけりゃせめて出すもん出せ。1枚でいいからさ。お前オベリスクブルーなんだならそこそこいいモノ持ってるだろ?」

 

 俺は指でお金……ではなく、カードを求めるジェスチャーをした。

 

『マスターのそういうところ私好きですよ?』

 

 なんだよ褒めるなや。

 

「ど、どうぞ……」

 

 高寺がデッキケースを差し出してきたのでそれを受け取った。だが、その瞬間に食堂の電灯が完全に消える。

 

 ちっ、もう少し待ってろ。

 

「デスガーディウス」

 

 『ゲッゲッゲ……』

 

「ちょっとお客さんと遊んでやれ。死なせない程度に手加減してな」

 

 その言葉と共にデスガーディウスの気配が俺の近くから消え、寮の外で何かと何かがぶつかり合う轟音が響き始める。

 

 

『ゲッゲッゲッ!』

『な、なんだ貴様!? ええい! 邪魔をするな!』

「うわっ!? リックのデスガーディウスじゃん!」

「アニキまたそんなこと言…………うわぁぁ!? 本当に見えるぅ!?」

「さ、サイコ・ショッカーと闘ってるんだナ……」

「せ、先生精霊は初めて見ますにゃ……」

 

 

 何やら表が騒がしい。ほぼ実体化している精霊が相手だからデスガーディウスも実体化しているのだろう。しかし、今はそれどころではないな。

 

 俺が精霊の力を込めて電灯に手を触れると、電灯は思い出したかのように灯りを灯す。そして、近くの椅子を引っ張ってきてそれに座ってデッキを眺めた。

 

「お茶が入ったよ……」

 

「ああ、ありがとう天音」

 

「ええ……うふふ……」

 

『私が言えることではないですけどあなたたち緊張感ゼロですね』

 

 ヴェノミナーガさんの暴言を聞き流しながら俺は、高寺のデッキを確認していると、ふと手が止まった。

 

 

デスサイズ・キラー

星8/風属性/昆虫族/攻2300/守1600

(1):このカード以外の自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。このカードの攻撃力はリリースしたモンスターの元々の攻撃力分アップする。この効果は相手ターン中でも発動できる。

 

 

『ぐ……小癪な、喰らえ!』

『ギイヒヒヒッ!』

『何ぃッ!?』

「すげー! デスガーディウスが電脳エナジーショックを弾いたぞ!」

「流石リックのエースなんだナ……」

 

 

 うわなんだこのクッソ悪用の効きそうなフリーチェーン見たことねぇぞ。って……漫画版のデスサイズ・キラーじゃないですかやだー。存在するんだろうなとは思っていたけどまさかこんなところで見つけるとは……やっぱりデュエルアカデミア凄いなぁ。

 

「気が変わった」

 

「え……?」

 

「コレくれたら助けてあげる」

 

「そ、それは……」

 

 高寺はすぐに首を縦には振らなかった。まあ、これ見るからに高そうだもんな!

 

 

『タヒネ!』

『がぁぁぁ!?』

「アッパーカットだ!」

「うわ、痛そう……」

「アレは全治2ヶ月は掛かりそうですにゃ……」

 

 

 いかん、そろそろデスガーディウスが勝ちそうだ。手加減しろって言ったのに……いや、手加減してアレなんだな多分。

 

「くれなかったらサイコ・ショッカーに突き出す。テメェらのケツは自分で拭け」

 

「さ、差し上げます! どうか助けてくださいッ!!」

 

「デスガーディウス。ダーク・デストラクション」

 

 

 『ゲヒャハハハハ!』

 

『がはぁっ!!?』

 

 

 その言葉と共にデスガーディウスの闇を纏わせた鉤爪による振り下ろしにより、サイコ・ショッカーの身体は後方に吹き飛ばされた。

 

 「ん? 逃げたか」

 

 するとサイコ・ショッカーの気配が遠退くのを感じ、少々面倒なことになったことで溜め息を吐く。まあ、追わないわけには行かないわな。

 

 高寺を立たせつつ渋々椅子から立ち上がった俺は、立ち上がってから背中にピタリと張り付き始めた天音ちゃんに声を掛けた。

 

「ところで天音ちゃんはあの精霊欲しいか?」

 

 天音ちゃんのデッキなら全然採用ラインだろう。無論、見た目的にである。

 

「サイコショッカー……凡骨……馬の骨……いらない……」

 

 辛辣だなぁ、オイ。取り付く島もない。

 

 しかし、俺は天音の返答を聞いて口の端を歪めた。

 

「そうかい……」

 

 ああ、楽しみだなぁ……。

 

「んじゃ」

 

 サイコ・ショッカーはサイバー流に呑まれはしたが、依然として伝説級のレアカード。その上、小回りの効く人型で強い力を宿した精霊なんて……。

 

「俺が貰うな」

 

 俺のものにしない理由がないじゃないか。いやぁ、向田と井坂だっけ? 君たちの犠牲は無駄にはしないよ。くふふふ……漫画版デスサイズ・キラーにサイコ・ショッカーとは今日はなんていい日なんだ!

 

『マスターも相変わらず現金ですねぇ、最初から無償で助ける気だったでしょう?』

 

 そりゃこのデュエルアカデミアで俺の目の前で誰かが死ぬことを許すほど、薄情でも人間を捨ててもないからな。でもほら? こっちの方がやる気出るじゃん?

 

『マスターのそういうところ私大好きですよ?』

 

 よせや褒めるなや。

 

 外に出ると十代たちが実体化しているデスガーディウスを中心に広い円を囲むようにしていた。いや、よく見れば十代だけはデスガーディウスにかなり近付いているな。

 

「すげぇ! 本当にリックのデスガーディウスだ!」

 

 元からデュエル中よく俺のデスガーディウスを目にする十代は違いがわかるんだろうな。まあ、この島どころかプロデュエリストでも俺以外にデスガーディウス使う奴知らないけど。

 

「なあリック!」

 

「なんだ?」

 

「アイツとデュエル出来るか!?」

 

「アニキ流石にそれは無理があるでしょう……」

 

……………………あー。

 

「今は止めとけ、それより逃げた人造人間を追わなきゃな」

 

 俺はこちらを向いて微動だにしないでいるデスガーディウスの目の前に移動すると、デスガーディウスに語り掛けた。

 

「追えるか? デスガーディウス」

 

『ゲッゲッゲ……』

 

 デスガーディウスは自身の胸に片手を当ててから笑い声を上げると、片方の掌を開いて俺の前に置いた。

 

 それを確認してから十代たちの方に振り向き、笑顔を作り、高寺を摘まみ上げて肩に担ぐと、デスガーディウスの掌に乗った。

 

「え……?」

 

「じゃあ、ちょっとデュエルして来る。着いてきたいならお好きにな」

 

 デスガーディウスはその巨体からは想像も出来ないような瞬発力によって夜空へと飛翔し、森へダイブすると草木を激しくざわめかせる。背後に驚きを上げる十代達の声が遠ざかって行くのを感じた。

 

 俺とデスガーディウスは、高寺の悲鳴を聞きながらサイコショッカーを目指した。相変わらず、デスガーディウスはサイレントヒル出身の化け物みたいである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『くっ……もう来たか……』

 

 案の定、創作物の刑事と銭形幸一ぐらいしか着ていなそうなコートを着た姿のサイコ・ショッカーは簡単に見付かった。どうやらこの島にある変電所のひとつを根城にしていたらしい。

 

『申し訳程度の機械族要素ですね』

 

 言ってやるな。それよりも嬉しい誤算がある。

 

「向田! 井坂! 生きてたのか……!」

 

 サイコ・ショッカーの生け贄にされたと思っていたオカルト研究会のメンバーは、サイコ・ショッカーの足元で眠らされていたことで高寺は感極まって膝を落として喜んでいた。一度に三人を生け贄にしようとしかしないなんて、中々紳士的じゃないかあのサイコ・ショッカー。

 

『紳士…的……?』

 

「おい、サイコ・ショッカー。デュエルしようや」

 

『なんだというのだこの人間は!?』

 

「賭けるものはそうだな。そこの高寺を賭けてやろう。ただし、俺が勝ったら言うことをひとつ聞け」

 

「え……?」

 

『何……? ふむ……ならばよかろう。吐いた唾は飲めんぞ』

 

 隣にいるそのために連れて来た高寺が親に身売りされた子供のような表情で俺を見て来た。

 

 サイコ・ショッカーはすぐにやる気になったようなので成功である。

 

「ま、まま、待ってください! どうして!? 助けてくれるって言ったじゃないですか!?」

 

「言ったさ。だからサクッとデュエルでブチのめして解決する。メリットの無いデュエルなんてしたがらないだろ? それは俺が負けると思っているのか? それともなんだ。お前がアイツとデュエルしてもいいんだぞ?」

 

 俺が手で示した方向にいるサイコ・ショッカーは既にやる気満々であり、デュエルディスクを構え、静かにこちらを待っている。

 

 さっきはデスガーディウスに劣りはしたが、伊達に攻撃力2400の壁を作ったというある意味伝説の精霊は伊達ではなく、デスガーディウスとはまた違った凄みがある。並のデュエリストならば相当な覚悟が無ければ前には立てないだろう。

 

「………………よろしくお願いします」

 

「おう」

 

 デュエルディスクを構えて、早速デスサイズ・キラーを投入した昆虫デッキを使おうとすると、肩をツンツンと触られる。

 

 何かと思って振り向くと、デスガーディウスが器用にもその爪の一本で俺をつついていた。

 

「どうした?」

 

『グギッギッ……』

 

 デスガーディウスは声を上げると、俺を制してサイコ・ショッカーと丁度逆の位置。すなわち、デュエリストが立つべき場所に立った。

 

『なんだ? 貴様に用はない』

 

『ゲッゲッゲ……』

 

『なんだと……!』

 

 なんか会話してるぞアイツら。

 

「タイマンではコチラに勝てもしないのだから、次はデュエルで遊ぼうか。先輩? って言ってますね」

 

 煽りおる。

 

 そういや、バトルシティでは微妙にサイコ・ショッカーの方がデスガーディウスより先輩だったな。

 

 ふと横を見ると、いつの間にかメデューサ先生の姿になっていたヴェノミナーガさんが立っていた。

 

「何してるんですか?」

 

「今日は折角ですから面白そうなので翻訳係です。後、同じ枠が多いと見辛いですからね。私なりの配慮ですよ」

 

 わけがわからない。いや、恐らくヴェノミナーガさんにしかわからないと思うが、そういうことらしい。時々ヴェノミナーガさんは宇宙悪夢的な思考に至るから困る。

 

『よかろう……まずは貴様から叩き潰してやろう』

 

『ゲッゲッゲ……』

 

「デュエルディスクを貸して欲しいそうですよ」

 

 特に異論はないので、俺はデスガーディウスにデュエルディスクを渡した。

 

 デスガーディウスは念力のようなもので宙にデュエルディスクとデッキを浮かせると、デュエルディスクにデッキが出現してデュエルディスクを起動した。

 

『デュエル!』

『キヒッ…』

 

デスガーディウス

LP4000

 

サイコ・ショッカー

LP4000

 

 

『私のターンドロー』

 

手札5→6

 

『私は"怨念(おんねん)のキラードール"を召喚』

 

怨念(おんねん)のキラードール

星4/闇属性/悪魔族/攻1600/守1700

このカードが永続魔法の効果によってフィールド上から墓地に送られた場合、自分のターンのスタンバイフェイズ時に墓地から特殊召喚する。

 

 歪な男の子の木製人形が召喚される。

 

怨念のキラードール

ATK1600

 

『更に永続魔法"エクトプラズマー"を発動する。そして、私はターンを終了。この瞬間、"エクトプラズマー"の効果が発動。 お互いのプレイヤーは、それぞれ自分のエンドフェイズ時に1度だけ、自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選び、そのモンスターを生け贄にし、生け贄にしたそのモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える』

 

 怨念のキラードールが消滅すると思念だけがそこに留まり、デスガーディウスの身体を貫いた。

 

デスガーディウス

LP4000→3200

 

 サイコ・ショッカーはエクトプラズマーデッキか。恐らくサイコ・ショッカー主体の魔法軸デッキと見える。破壊できないとかなり厄介なカードでもあるからな、エクトプラズマーは。

 

サイコ・ショッカー

LP4000

モンスター0

魔法・罠1

手札4

 

 

「おーい! リックー!」

 

「なんだ、随分早かったじゃないか」

 

「まあな! それよりデュエルだ!」

 

「や、やっと着いた……」

 

「運動はしんどいんだにゃ……」

 

 そのタイミングで十代達が追い付いた。十代だけ来るかと思ったら他も来ているらしい。

 

「おわ!? デスガーディウスがデュエルしてるのか!?」

 

「ええ……どういうことなんスか……」

 

 十代達は困惑しているが精霊の世界は現実以上にデュエルの強さが全てを左右するので別段不思議なことではないのだが、彼らにはまだ早い話であろう。

 

『ゲッゲッゲ…』

 

『減らず口を…』

 

「なんて?」

 

「たったそれだけか? だそうです」

 

 まだまだ煽りおる。

 

  真のデュエルのためライフポイントの減少に伴いデスガーディウスの身体が若干薄れているが、その程度でどうこうなるデスガーディウスではない。寧ろ愉しそうな様子だ。

 

 精霊をよくは知らない十代達からは何が起きているかもわからないであろう。まさか、命のやり取りをしているとは夢にも思うまい。いや、デュエルモンスターズは現代ではただのゲームなのだ。ならばそのように認識出来ていればそれでいいだろう。無知は罪とはいうが、知らぬが仏という言葉もある。

 

「あれ!? どうしてメデューサ先生がいるんですかにゃ?」

 

「デュエルあるところに我あり。つまりはそういうことです。デュエルの匂いを嗅ぎ付ければ私はどこにでも現れますよ」

 

「リックと同じってことか」

 

 おい、十代お前それどいういう意味だ。

 

 デスガーディウスはカードをドローした。

 

手札5→6

 

 そう言えばデスガーディウスがデスガーディウスのままでデュエルしているのって初めて見る――。

 

アトラの蟲惑魔(こわくま)

星4/地属性/昆虫族/攻1800/守1000

このカードは「ホール」または「落とし穴」と名のついた通常罠カードの効果を受けない。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分は手札から「ホール」または「落とし穴」と名のついた通常罠カードを発動できる。また、このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分がコントロールする通常罠カードの発動と効果は無効化されない。

 

 マジか欲しい。

 

 デスガーディウスは手札から、赤い玉の髪飾りが6個ついた紫色の髪をしており、どことなく蜘蛛っぽい印象を受ける薄着姿の少女を召喚した。

 

アトラの蟲惑魔

ATK1800

 

「な、なな、なんなんスかあの可愛いカードは!?」

 

「蟲惑魔は落とし穴の精霊みたいなものだな」

 

「そ、そんなカードもあるんスか!」

 

 だいたいあってる。

 

「蟲惑魔にも穴はあるんだよなぁ……?」

 

 人前で俺以外にも聞こえるから少し黙ろうかヴェノミナーガさん。

 

「それにしてもサイコ・ショッカー相手に蟲惑魔とは……随分皮肉が聞いていますね」

 

「ひでぇことしやがる……誰に似たんだか」

 

「ツッコミ待ちかな?」

 

 まあ、一応蟲惑魔の弱点でもあるんだがな。

 

 そうしているとデスガーディウスは二重召喚を発動し、更にモンスターを召喚した。

 

召喚僧(しょうかんそう)サモンプリースト

星4/闇属性/魔法使い族/攻 800/守1600

(1):このカードが召喚・反転召喚に成功した場合に発動する。このカードを守備表示にする。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードはリリースできない。

(3):1ターンに1度、手札から魔法カード1枚を捨てて発動できる。デッキからレベル4モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。

 

 シンクロ時代にダーク・ダイブ・ボンバーを筆頭としてレスキューキャットと共に大暴れしたあの方である。こいつといい、あるカードバトルのビショップのハゲといいどうして僧侶のクセに暴れたがるんだろうか。

 

召喚僧サモンプリースト

DEF1600

 

 デスガーディウスは手札から魔法カードを墓地に送り、モンスターを特殊召喚した。

 

トリオンの蟲惑魔(こわくま)

星4/地属性/昆虫族/攻1600/守1200

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。デッキから「ホール」通常罠カードまたは「落とし穴」通常罠カード1枚を手札に加える。

(2):このカードが特殊召喚に成功した場合、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動する。その相手のカードを破壊する。

(3):このカードはモンスターゾーンに存在する限り、「ホール」通常罠及び「落とし穴」通常罠カードの効果を受けない。

 

 次はどことなくアリジゴクを想起させる小さな二本角のような髪型をした少女が特殊召喚される。

 

「あ、また蟲惑魔ちゃんッス!」

 

 と、丸藤が言った瞬間にトリオンの蟲惑魔が消えた。

 

「え? ど、どこに行ったんスか?」

 

『なにぃ!?』

 

 サイコ・ショッカーから悲鳴が上がり、そちらに全員の意識が向く。

 

 そこにはサイコ・ショッカーのフィールドに突如として巨大なアリジゴクの巣が出現していた。

 

 次の瞬間、巣に比例する巨大さのアリジゴクが出現する。それによりエクトプラズマーは吸い込まれ、アリジゴクの大顎により両断された。

 

 そして、アリジゴクと巣は何事もなかったかのように消え、いつの間にかデスガーディウスのフィールドにトリオンの少女が戻っていた。

 

「トリオンの蟲惑魔の効果は特殊召喚に成功した場合、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動する。その相手のカードを破壊します」

 

「え……? 今のはなんスか……?」

 

「多分、あれがトリオンの本体なんじゃないかな。蟲惑魔の少女は言うなれば疑似餌なのだろう」

 

「嘘ォォ!?」

 

 なるほどなぁ……。まさにデスガーディウスにピッタリのカードたちというわけか。

 

「そう、あれがデスガーディウスさんの本当のデッキですよ」

 

『ゲッゲッゲッ……』

 

 デスガーディウスはアトラの蟲惑魔でサイコ・ショッカーにダイレクトアタックを行った。少女の姿のアトラの蠱惑魔が煙のように消えると、フィールドの中央から巨大な地蜘蛛が飛び出し、サイコ・ショッカーを襲った。B級パニックホラー顔負けである。

 

『ならん! 私は手札から"バトルフェーダー"を特殊召喚する』

 

バトルフェーダー

星1/闇属性/悪魔族/攻   0/守   0

(1):相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、その後バトルフェイズを終了する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

 風車かやじろべえのようなフォルムをした小さな悪魔が現れ、バトルフェーダーがひとつ鐘を打ち鳴らすと、バトルフェーダーの目前でアトラの蟲惑魔が急ブレーキを掛けて止まり、イソイソとフィールドの中央に帰ると地面に潜った。そしていつの間にか何事もなかったように少女の姿のアトラの蟲惑魔が元いた位置に立っている。

 

 なんだこのシュールな絵面。

 

 流石にエクトプラズマーを使う以上、がら空きのフィールド対策はしているというものか。

 

『効果によりバトルフェイズは終了だ』

 

『ケッ!』

 

 あ、ちょっとデスガーディウス悔しそう。

 

 デスガーディウスはカードを2枚魔法・罠ゾーンに伏せてターンを終了した。

 

デスガーディウス

手札0

モンスター3

魔法・罠2

 

 

『私のターン』

 

手札3→4

 

『この瞬間、"怨念のキラードール"は私の元に戻る!』

 

怨念のキラードール

ATK1600

 

 歪な男の子の木製人形が再び召喚された。

 

「私は"バトルフェーダー"を生け贄に"人造人間-サイコ・ショッカー(わたし)"を召喚する!」

 

 精霊だとそりゃそうなるのが当然だが、改めて聞くと凄い言葉だな、おい。

 

人造人間(じんぞうにんげん)-サイコ・ショッカー

星6/闇属性/機械族/攻2400/守1500

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いにフィールドの罠カードの効果を発動できず、フィールドの罠カードの効果は無効化される。

 

 サイコ・ショッカーに何処からともかく飛来した雷が直撃し、変電所施設の何処かにも当たったのか、小さな爆炎がサイコ・ショッカーを包みながら辺りに派手な土煙が巻き上がる。

 

 土煙が晴れると、そこにはコートを脱ぎ去り、完全に実体化したサイコ・ショッカーがフィールドに立っていた。

 

 俺とヴェノミナーガさんと少し驚いているだけで楽しそうな十代以外の全員があまりにリアルな―――もといソリッドビジョンではない雷とサイコ・ショッカーに軽く腰を抜かしている。

 

 

人造人間(じんぞうにんげん)-サイコ・ショッカー

ATK2400

 

「強い強いとは常々思っていたが雷の直撃にも耐えるのか……デュエルディスク……」

 

「「「「「そっち(にゃ)(ッスか)(じゃないんだナ)!? 」」」」」

 

 やっぱりスゲーな、社長の技術。寧ろ他に何があるというのか。

 

「真のデュエリストは常識に囚われてはいけないのですね!」

 

 なんかヴェノミナーガさんが見てると少し腹が立つ顔文字になりそうな表情をしているが、そっとしておこう。

 

 ちなみに英語でのサイコ・ショッカーの名前は"Jinzo"の一言。ぶっちゃけこっちの方がカッコいいと俺は思うの。

 

 ん? 何故アトラがいるのにデスガーディウスはサイコ・ショッカーの召喚を許したのだろう。カードの精霊が手札事故なぞ起こすわけもないのだがな。

 

「まずはお前だ! 電脳(サイバー)エナジーショック!」

 

 サイコ・ショッカーの代名詞であるビリビリ球によって召喚僧は消し飛んだ。

 

「悪行はそこまでじゃ!」

 

 スゲーよなアレ。未だに現役なんだもの。

 

 それはそれとして何故アトラを倒さなかったのかと考えたが、アトラの効果を知っているのはここでは俺と隣のヴェノミナーガさんとデスガーディウスぐらいのものだろう。この世界じゃ試合中に効果の確認とか出来ないからな。

 

「私はカードを1枚伏せてターンを終了する」

 

サイコ・ショッカー

LP4000

モンスター2

魔法・罠1

手札2

 

 

『ゲッゲッゲ……』

 

手札0→1

 

『ググギ…… 』

 

 デスガーディウスは伏せていた悪魔の蜃気楼を発動した。相手のスタンバイフェイズ時に1度、

自分の手札が4枚になるまでデッキからカードをドローし、この効果でドローした場合、次の自分のスタンバイフェイズ時に1度、ドローした枚数分だけ自分の手札をランダムに捨てるという効果の永続魔法である。 無論、前世では極悪禁止カードの1枚だ。

 

 悪夢(あくむ)蜃気楼(しんきろう)……サイクロンとか、非常食とか、王宮の勅命とのコンボには前世でお世話になりましたねぇ……蟲惑魔ならどうあってもメリットしかないわな。

 

 まあ、アニメ仕様の宝札系カードが当たり前のように現役のこの世界では寧ろ使いにくい部類なのだがな。ちなみに当たり前というかなんというか、宝札系カードはどれもこれも1枚で家が立つ値段であり、下手すりゃマンションも立つ。勿論、俺はほぼ全て3枚ずつ持っている。ファイトマネーはこうして使われるのである。

 

 更にデスガーディウスは手札から強欲な壺を発動し、カードをドローした。

 

手札0→2

 

『キヒッ……』

 

 デスガーディウスのフィールドにモンスターが召喚された。

 

メルキド四面獣

ATK1500

 

 頻度的にいえば、親の顔より見たカードの1枚になりつつある俺のカードである。

 

「あ……(察し)」

 

 これはいつものパターンですねぇ……。

 

 メルキド四面獣とトリオンの蟲惑魔が生け贄にされ、デスガーディウスが立ち位置をアトラの蠱惑魔の隣のモンスターカードゾーンに変えた。

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

ATK3300

 

 やはり当時としてはかなりのインチキ効果とお化けスタッツだなぁ。

 

「パパパパーンパパパパーン!(デンデン!) パパパパーン!(デンデン!)」

 

 改めて端から見てみると、デュエルリング1が脳内再生されそうな光景だなと心のどこかで考えていると、隣から言葉で流れてきた。ヴェノミナーガさんはひょっとして第四の壁とやらが見えているのではないかと最近思うことがある。

 

 というか今は一応教員の姿でまだバレてないんだからそういうのは控えなさい。

 

『ゲヒャヒャヒャ!』

 

 デスガーディウスはそのままバトルフェイズに入り、サイコショッカーに突撃した。基本的に後ろから見ているので新鮮だが、横から見ていても相変わらず、サイレントヒル出身の化け物の突撃は大迫力である。

 

「舐めるなぁ! "リミッター解除"!」

 

 サイコショッカーは伏せてあったカードを発動した。みんな大好きリミッター解除である。どうやらさっき現実の殴り合いで負けたことを根に持っていたようだ。

 

人造人間(じんぞうにんげん)-サイコ・ショッカー

ATK4800

 

「終わりましたね」

 

「終わったな」

 

 ただ、それはデスガーディウスに対してやってはいけない行動のひとつである。丸藤先輩もそれで俺に負けたことがある。後、こちらの世界では高いのであまり見かけないが、オネストもマズい。

 

「オォォォ! 電脳エナジーショック!」

 

 さっきよりも二回り程巨大なビリビリ球がデスガーディウスを迎え撃ち、デスガーディウスは爪先から砕け散るように霧散した。

 

デスガーディウス

LP3200→1700

 

『ゲッゲッゲ……』

 

 倒されたデスガーディウスはいつの間にか元居た場所に立っていた。

 

『ウェヒッ……』

 

「なに……?」

 

 するとデスガーディウスは爪を一本立てて、ちょんちょんと上を指差した。それに従ってサイコショッカーと俺らは上を向く。

 

「なっ!?」

 

 次の瞬間、上から降ってきた遺言の仮面が、サイコショッカーの顔に綺麗に被さった。

 

「い、いったいなんだ!?」

 

『ゲッゲッゲ……』

 

 闇雲に手を振るうサイコショッカーを見ながら笑うデスガーディウス。サイコショッカーの手には再び電脳エナジーショックが作られると、それは狙いを付けられることはなく空の彼方へと放たれた。

 

 そうしているうちにアトラの蟲惑魔も動き、突如アトラの代わりに現れた巨大な蜘蛛が怨念のキラードールを糸で引き寄せ、大顎から消化液を流し込み戦闘破壊した。

 

サイコ・ショッカー

LP4000→3800

 

「な、なんだ!?」

 

「十代、"遺言の仮面"の効果は?」

 

「えーと、装備モンスターのコントロールを得るだよな?」

 

「そう、そしてデスガーディウスはタイミングを逃さない効果だからこちらのターンに戦闘破壊されるとな――」

 

 そして、電脳エナジーショックは大きく弧を描きながらサイコショッカー自身へと帰った。無論、リミッター解除を受けたままの電脳エナジーショックである。

 

「当然こうなる」

 

『タヒネ!』

 

 サイコショッカーは自身の電脳エナジーショックを受けて凄まじい爆発を引き起こし、爆散した。

 

「ぐぁぁぁぁぁ!?」

 

サイコ・ショッカー

LP3800→0

 

 やべっ……これ真のデュエルだったよな……? 死んでないだろうな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論からいうとサイコショッカーは生きていた。真のデュエルで滅びのバーストストリームの1.5倍以上のダメージを受けておいて死なないとは中々タフな奴である。

 

 とはいえ、ギリギリだったのでさっさと契約しておいた。ダメージのショックでオカルトを合わせたものではなく、能力が比較的高い普通の精霊に戻ったようなので好都合だったといえよう。

 

 十代がデスガーディウスとデュエルしたいと目を輝かせていたが、そのうちすることになると思うのでその場はお茶を濁しておいた。

 

 それと、何故かサイコショッカーは残りのオカルト研究会の向田と井坂を生け贄にしていなかったので帰って来たが、無論、二人にも知識も無しにカード精霊を扱うのがどれだけ危険なのか、デスガーディウスをけしかけながら大徳寺先生が止めに入るまで力説しておいたので滅多なことは起こさないであろう。

 

 『相変わらず現金ですねぇ、マスター』

 

「その上、俺は偽善者だからな」

 

『もちろん、そういうところ大好きですよ』

 

 褒めても何も出ないぞ。

 

 俺は隣でふよふよ浮いているヴェノミナーガさんを尻目に、自室でニヤニヤしながらブラック・マジシャンより高く、マンションが建つ程のレアカードである人造人間-サイコ・ショッカーと、それほどではないが十分レアカードの原作仕様のデスサイズ・キラーを見つつ今日の収穫を噛み締めた。

 

 

 

 




この先のことは本編とは全く関係ない上、じゃあ買えよの一言で片付けられる愚痴のようなものなので、特に興味のない方は読まなくても大丈夫です。本当に特に興味のない方はすっ飛ばしてください。





ちょっとお知らせというかこの小説が数年クッソ遅い更新の最大の原因についてなのですが……。

えーと、ぶっちゃけた話、作者の手元に遊戯王GXの各話を見れる環境がありません。というのも再放送をしていた頃に録画を怠っていたということではなく、一応torneにしていたのですが、GXで容量が一杯になりそうだったのでPS3を容量の大きいものに切り替えて外付けHDDも繋いだところ中身のデータに互換性がないだけでなく、旧PS3に繋いでいたHDDのデータを見ることすら出来なくなるということが発生しまして、三期最後半より以前のデータを見れなくなるという事態になったのです。ちなみにこれ年単位で前の話ですね、はい。全くもってtorneを過信していた私の落ち度です。

となるともうGX自体を買うしかないのですが、あれ全て合わせると軽く4万円以上するんですよねぇ……なのでぶっちゃけ二次創作を書くためだけにそこまでの出費をするのも如何なものなのかと思いまして、全く更新が出来ていないというのが一番の理由だったりします。逆にハゴロモギツネの方がこちらに比べて異様に早いのはリアルタイムで録画を出来ているからですね、はい。

なのでこれ以上の更新をしようとするとぶっちゃけ買うか、他投稿者様の小説を拝見してそれと掠れた記憶を思い起こして本編の内容を想像して書くしかない次第なのです。前者はFGOで夏イベを控えている作者にはキツ……げふんげふん少し出費が難しく、後者はなんだかこうよく書き初めの作者様方が公表している二次創作を見ただけで小説の書いてみた状態になるのであまりやりたくはないというのが本心です。

しかし、後者を使えば急激に更新速度自体は上がると思われます。逆に使わなければこれ以上の更新はかなりキツいと言わざる負えません。

無論、じゃあ買えよそもそも二次創作自体お前の自己満足だろで片付けられる作者の愚痴のようなものでした。下らないことを書いてすみません。


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デュエルキング 前


どうもちゅーに菌or病魔です(小声)

よし、まだ一年経ってないからそっと更新してもバレない……バレない(忍び足)




 

 

 

 

 冬休みが終わって少し経った頃の休日。俺はこたつでお茶を楽しみつつ、机に広げたカード達を眺めていた。

 

 しかし、そんな平穏は俺には滅多にない。

 

『マスター! フルーツバスケットが再アニメ化しましたよ!?』

 

「そうか」

 

『いやー、素晴らしいですね! 前のアニメでは原作で慊人さんが――(ピー)だったことが判明していなかったので、正直微妙でしたが、やっぱりそれでも原作の空気はきちんと再現されていたので良作だと思いましたし、やっぱり何よりも堀江由衣さんが歌うオープニングテーマで主題歌の"For フルーツバスケット"が神曲で今での私の中に残り――』

 

「そうなのか」

 

 オタク特有の相手に興味があまりないにも関わらず、早口で話題を振り続ける口撃(こうげき)をしてくるのアレな方。悲しいかな、俺の象徴たるカードの精霊であるヴェノミナーガさんである。さっきからこたつの対面におり、ハイテンションで話し掛けて来るため非常に鬱陶しい。

 

 また、こういう時に限って藤原も、砂の魔女さんも、ラーちゃんも、天音ちゃんもいない。おのれ。

 

 っていうか再アニメ化って前に放送したのいつだよ? …………2001年じゃねーか、うっそだろお前!? どうりでヴェノミナーガさんが食い付くわけだよ!?

 

『あ、からくりサーカスもオススメですよ。原作は結構古い(22年前に連載開始)ので知らなくても仕方ありませんが、愛と勇気を与えてくれる素晴らしいアニメです。主人公がカンフーアクションで悪い奴をやっつけるんですよ!』

 

「へぇ、面白そう」

 

『はい、藤田作品は面白いですよ……愛と勇気を与えてくれるんです……』

 

 BOOKOFFで見掛けたことは結構ある奴だな。絵が独特で買おうとは思わなかった。なんか、珍しくヴェノミナーガさんにしては普通――。

 

『一生残る恐怖と衝撃で、一生残る愛と勇気をね!!』

 

 そう言いながらヴェノミナーガさんは、こたつの中で尻尾で俺の足を縛り付けると、どこからか取り出した全部で43巻のからくりサーカスと題名のある漫画を机に置き、1巻を目の前に置いてきた。

 

 その時のヴェノミナーガさんはまさに蛇神というより、邪神みたいなものすごい顔をしていたと後の俺は語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ええ! ですので、この世の果てで恋を唄う少女YU-NOは、

今は無きアーベルの菅野ひろゆき様の最高傑作でして、エロゲ史に燦々と輝く太陽のような存在なのです! それが実に23年もの時を経てアニメ化するなんて……くぅー! しかも2クール! これがどれほど嬉しいことかわかりますか!?』

 

「そうか」

 

 た す け て。

 

 ヴェノミナーガさんが、最近のアニメが楽しみ過ぎて、いつもの数十倍絡み付いてくるの。え? ひょっとしてあれなの? ヴェノミナーガさん、アニメ終わるまでずっとこの調子なの? てか早く職員室行けや。え? 職員室には切り離した左手が擬態してもう行った? JENOVA(ジェノバ)かよお前はよぉ!?

 

「おーい、リック~!」

 

 休日が終わり、他愛もない会話をしつつヴェノミナーガさんと本館を歩いていると、十代に声を掛けられた。隣には金魚のフンの如く十代の側にいる丸藤翔もいる。

 

 これを天の助けとばかりに応対すると、何でも義務教育レベルで誰でも知っている決闘王(デュエルキング)こと、武藤遊戯のデッキが公開されるらしい。

 

 まあ、紙束レベルのハイランダーデッキだが、やはりデュエリスト全ての憧れというものだな。

 

『いや、ドロー(りょく)に頼ったデッキの構成に関してはマスターも全く他人のこと全然言えな――』

 

「しゃらっぷ」

 

 何やらヴェノミナーガさんが言いたげだが、知らないったら知らない。

 

「それでな! ヘヘッ――」

 

 何でも十代曰く、整理券で見に行くと上野動物園のパンダが来たときやら、いつぞやの翠玉白菜の如くチラッとしか見えないのではないかと思い、深夜の展示場に忍び込もうという算段らしい。

 

 まあ、正しい人間としては叱るべきだが、一人のデュエルアカデミアの学生としては妥当なところだろう。ネームバリューだけで全校生徒が見に行くのは決まったようなものな上、いざ展示となればどうせ、オベリスクブルーの生徒が独占やら優待やらを始めるに決まってるしな。むしろ、勤勉なモノだ。

 

「だからリックも行こうぜー!」

 

「アニキ……流石にリックさんを誘うのは――」

 

「いいぞ」

 

 ふたつ返事で受けると、十代は当然のように喜び、丸藤は鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしていた。

 

「なんだ? 俺が優等生に見えたか?」

 

「え!? いや、だって学内試験でも常に最上位じゃないッスか!?」

 

 それとこれとは話が別である。単純な話、見つかったら最悪の場合にまた退学デュエルとかになったら洒落にならないであろう。そうなっても俺が居れば、庇えるので大事には至るまい。万が一、制裁デュエルになっても俺が出張れば、社長でも出て来ない限りは勝てるだろうしな。

 

「リック……」

 

「リックさん……」

 

 何やらとても感動した様子で見つめて来る二人。とてもむずむずして大変、居心地が悪い気分である。さっさと教室に行きたい。

 

『マスター……友達少ないから必死なんで――うわらば!?』

 

黙れ(cut it out)

 

 とりあえず、ヴェノミナーガさんに"成仏"のカードを投げ付けた。

 

 ちなみに、俺から出たネイティブな英語を初めて聞いた十代と丸藤には本当にアメリカ人だったんだと大変失礼な感想を抱かれた。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで決行日の深夜。既に展示場の近くにある広間の隅で俺は待っていた。"光学迷彩アーマー"を装備しているので誰も俺には気がつかない。ちなみに知り合いには見えるように設定してあるので便利なものである。

 

『マスターは何の自動人形(オートマータ)が好きでした?』

 

「ブリゲッラかな。敗北の一撃のタイトルが自身のことなのがいい。ヴェノミナーガさんは?」

 

『私はディアマンティーナちゃんですね。やっぱり女の子はあれぐらい積極的じゃないとダメですよ!』

 

「愛で空が落ちてくるってか?」

 

 まあ、漫画で落ちてきたのは宇宙ステーションだったがな。

 

「うふふ……楽しみね……」

 

 ちなみにどこかから嗅ぎ付けてきたのか、誰にも言っていないにも関わらず、天音ちゃんが背中に引っ付いている。まあ、いつものことなので特に思うことはない。

 

 それよりも光学迷彩アーマーの効果が天音ちゃんにも及んでいるようなので、この状態の天音ちゃんは装備カード扱いのようだ。ユニオンモンスターかな?

 

「ふふ、仲好さげで妬けちゃうわね」

 

 同じく教えていない藤原もいるのが疑問である。その上、俺と同じようにカードの力で身を隠していたりもする。人が来るときだけ、"ミストボディ"で消えているのだ。洒落てるなぁ。

 

『こんなの普通じゃ考えられない……!』

 

 条件反射のように呟かれたヴェノミナーガさんのやや分かりにくいギャグは放っておくに限る。本人もツッコミを望んでいるわけではないのである。

 

『ところで、いつも疑問なんですが、なんで雪乃さんの方が他の女性陣より微妙に扱いが悪いんですか?』

 

 藤原がお花を摘みに行ったところでヴェノミナーガさんがそんなことを聞いて来た。

 

「ほら、藤原はさ……本気で真っ直ぐに好意寄せて来るじゃん? だからその……照れる」

 

『そう言えばリックさんって男のツンデレでしたねぇ……』

 

「………………」

 

 何故か天音ちゃんが背中を掴む力が強まる。しかし、デュエルで鍛え抜いたこの体はその程度ではびくともしないのであった。

 

『ダメですよ天音さん! リックさんは憑かれることには覚者レベルで慣れてるんですから!』

 

「あなたのせい……」

 

『ちょ!? デュエルディスク開かないでください! 笑ってないで止めてくださいよマスター!?』

 

「リック~!」

 

 面白いので放っておこうとしたが、先に聞き覚えのある声が聞こえた。そちらを見れば十代と丸藤、それとラーイエローの三沢大地に、トイレから戻る途中で遭遇したのか藤原の姿もある。

 

「なんだ、三沢じゃないか。お前も来たのか」

 

「ああ、デュエルキングのデッキを是非じっくりと見学したくてな」

 

 熱心なデュエリストなことだ。ちなみに三沢は十代や丸藤亮と同じぐらい俺に嬉々としてデュエルを挑んでくる生徒なのでとても印象深い。デュエルアカデミアでの態度は俺よりよっぽど優等生なので、ここにいるのが不思議だと感じるほどだが、デュエル熱心なのだからそれも当然か。

 

 ちなみに三沢はデュエルアカデミアに俺が入学してから、十代の次にデュエルした回数の多い生徒だったりもする。三沢は俺と同じようにデュエリストにしては珍しく、デッキを大量に保有しているため、スタンスの近さからなんとなく話が合うのだ。

 

 すると展示会場の方からガラスが割れた音と共に、男性の声で奇っ怪な悲鳴が聞こえた。

 

『あら、クロノス教諭の悲鳴ですね。また、何かあったのでしょうか?』

 

「クロノス先生が!?」

 

 あれだけ色々とされたにも関わらず、普通に心配をした様子の十代を戦闘に展示会場へと全員で向かう。するとそこには頭を抱えているクロノス教諭と、その前にガラスを割られた空の展示ケースがあった。

 

 うーん、状況だけだとなんとも言えないが、とりあえず、先生に話を聞くことにしよう。

 

「先生。どうかしましたか?」

 

「し、シニョールリック!? こ、これは違うノーネ!? 私はやって――」

 

「ええ、わかってますよそんなこと。こんな大胆で馬鹿なことするのは、外部の人間か、自暴自棄になった阿呆ぐらいのものでしょう。探すぞお前ら、まだ遠くまでは行っていない筈だ」

 

 その言葉に皆は強く頷き、手分けをして探すことになったため、バラバラに散って行った。残ったのは先生と俺とヴェノミナーガさんだけだ。

 

「せ、先生は教員想いの生徒を持てて幸せなノーネ!」

 

「それはよかったですね」

 

 だったらもう少し、オシリスレッドにも優しくしてやればいいのにと思ったが、先生なりに考えがあるのだろうと思い、それ以上は何も言わなかった。

 

「それより今回のことは穏便にお願いしますよ? こちらもこんな時間にここにいることはそれなりの理由があったのです。もちろん、カード泥棒と比べれば可愛いものですが……」

 

「もちろんなノーネ! 先生も今回のことは内緒にしたいですーノ!」

 

 それだけ確認してから俺も捜索に向かうことにした。まあ、こんなことがバレたところで、俺には痛くも痒くもないし、また制裁デュエルが十代らに向けて行われようものなら今度は最初から俺が出てやるので、特に問題はあるまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

『皆さんに出遅れちゃいましたねー』

 

 展示会場を後にして、外の森に出た時にヴェノミナーガさんはそんなことを呟いた。口調から冗談で言っていることがわかったため、俺は小さく笑うと懐から2枚のカードを取り出した。

 

 それと同時に俺の目の前に暗い緑色の服装で固め、暗視ゴーグルと小型の通信機を装備したゴブリンが1体姿を現した。

 

 他にも暗い森には似た服装をしたゴブリンがところどころに見え、小さな気球も浮いている。

 

「もちろん、もう見つけてありますよ」

 

 懐から取り出したカードは、"ゴブリン偵察部隊"と"最終突撃命令"であった。割れたケースの前で佇むクロノス教諭を見つけた時点で発動していたのである。

 

『うわぁ……ブラック上司。それより、本当にマスターは素直じゃないですね。お友逹のために、まずひとりで』

 

「……うるさい」

 

 この世界がデュエル脳なのは百も承知だが、万が一、泥棒が武装しており、デュエルアカデミアの誰かに危害を加えてみろ。そんな寝覚めの悪いことは絶対にさせん。

 

『マスターって自分が思ってるよりこの学校生活を楽しんでますよね?』

 

「…………そうかも知れませんね」

 

 まあ、少なくとも嫌いじゃないし、退屈はしていない。それだけは確かだろう。

 

 俺とヴェノミナーガさんはゴブリン偵察部隊に先導されて犯人の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 崖の上で盗んだデッキを眺めながらギラギラと目を輝かせているデュエルアカデミアの生徒の姿を見つつ、俺はなんとも言えない気分になった。

 

「誰だアイツ……?」

 

『ラーイエローの神楽坂さんですね』

 

 どうやら犯人は外部犯ではなく、自暴自棄になった阿呆の方だったらしい。喜ぶべきか、悲しむべきかは微妙なところだ。

 

「うーん、デッキを見れば持ち主の顔ぐらいは思い出せるんだけどなぁ……」

 

『マスターどんだけデュエルお化けなんですか!?』

 

 失敬な。デュエルアカデミアでは手当たり次第に戦い過ぎて、人と名前が全く一致しないだけである。なので、途中からデッキの中身に関連つけて覚えることにしたのだ。

 

『違う、そうじゃない』

 

 何か違うらしいヴェノミナーガさんは放置し、俺は跳躍して、神楽坂の背後に音もなく降り立った。

 

『さらっと20mぐらい跳ばないでくれません? デュエリストってそういうものじゃないでしょう』

 

 デュエルをしていれば出来るようになる。大山(たいざん)だってドローを磨き続けた結果、あんな体になっていただろう。

 

「やあ、神楽坂。随分楽しそうだな」

 

「――!? ナ、ナイトメア!?」

 

 神楽坂は声を掛けてようやく気づいたようで、とても驚いた様子を見せている。その表情には何故か、同級生だというのに若干の怯えが見え隠れしていた。

 

『月夜にドーマのデュエルディスクを携えて、不敵に笑うマスター。そんな奴が背後に立たれて、怖がらないデュエリストなんていないと思うんですけど……?』

 

「まあまあ、そんな目をするな。別に取って喰おうというわけじゃない。見たところ、そのデッキ……君は中々お気に召していたようじゃないか」

 

「あ、ああ……これは紛れもなく最強のデッキだ!」

 

 デュエルキングとまで言われた人間のデッキだ。この世界のデュエリストなら誰に聞いてもそう言うだろう。

 

 しかし、それは前にも言ったように高レアカードを詰め込みまくったハイランダーデッキに等しい。そのため、仮に回せたのなら……ソイツは素晴らしい才能を持ったデュエリストだということだ。

 

 最強になれるポテンシャルのある人間にしか使えないデッキ。要するに常人にはただの紙束だ。神楽坂を見る限り、そのデッキを回せる自信があるのか……それならとんでもないダークホースだ。

 

『マスターの主力デッキも遊戯デッキより、多少マシなレベルの紙束ですもんね』

 

 ヴェノミナーガさんの言う通り、俺の主力(デスガーディウス)デッキははっきり言って、構成だけで言えば紙束だ。回るわけがない、回せる訳がない。そんなデッキだ。

 

 だが、この世界では構成などあまり役には立たない。デッキを信じる心、ドローの力、精霊の力など数々のモノが組み合わさり、この世界ではデッキとして成立しているのだ。故に事故が起こらないように保険を掛けてデッキを構成するようでは、それら全てを信じていないと言っているようなものだ。それではデッキは応えてくれない。

 

「折角だ。俺が相手になろう」

 

「え……?」

 

「デュエリストがふたり……後はわかるな?」

 

 神楽坂は狐に抓まれたような顔をしているが、俺は関係なく神楽坂から歩いて少し離れると、ドーマのデュエルディスクを構えた。

 少々、神楽坂は葛藤した様子だったが、やがて決心したように立ち上がるとデュエルディスクにデュエルキングのデッキを挿入して、デュエルディスクを構える。

 

 ああ、それでいい。デッキを盗んでしまうほどのデュエルへの情熱。俺は大好きだよ、そういう奴はさ。

 

 俺はデスガーディウスのデッキを取り出し、デュエルディスクに挿入する。ドーマのデュエルディスクは透き通るような金属音を響かせながら左右に開いた。

 

 

「さあ、始めようか」

 

 

 内輪揉めな上、真のデュエルをする必要もない。じゃあ、純粋にデュエルを楽しませて貰うとしようか。

 

 

 

 



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デュエルキング 中

 皆さん一年更新の小説の更新のお時間ですよ! あれ? なんかいつもと違うような……まあ、この小説が更新されたということは一年経ったということですね!(ホモは嘘つき) では、お楽しみください。


 

 

 

「俺のターン! ドロー!」

 

手札5→6

 

 当たり前のように神楽坂に先攻を持って行かれてしまったが、まあ向こうはぶっつけ本番なのだから、寧ろ俺が譲ってやるべきだったかもな。

 

 さて、あれだけの自信を見せたんだ。お手並み拝見といこうじゃな――。

 

「俺は手札から"融合"を発動! 手札の"幻獣王ガゼル"と"バフォメット"を融合し、"有翼幻獣キマイラ"を融合召喚!」

 

 は……?

 

有翼幻獣(ゆうよくげんじゅう)キマイラ

星6/風属性/獣族/攻2100/守1800

「幻獣王ガゼル」+「バフォメット」

(1):このカードが破壊された時、自分の墓地の、 「バフォメット」または「幻獣王ガゼル」1体を対象として発動できる。 そのモンスターを特殊召喚する。

 

有翼幻獣キマイラ

ATK2100

 

 荒々しい悪魔のような角が生えた双頭で、背には一対の白石翼が生え、鋭い爪を持つ四肢を地につけた獣がそこにいた。

 

『これマジ? 見た目の割に能力値と効果が貧弱過ぎるでしょう』

 

 まあ、昔から言われてるし、少なくとも2800ぐらいは攻撃力あっても――ってそうじゃないぞヴェノミナーガさん。

 

『はい、そうですね。確かあのデッキって、"幻獣王ガゼル"と"バフォメット"はピン刺しでしたよね? それに"有翼幻獣キマイラ"も武藤遊戯本人が、初ターンで出すことが比較的よくあったカードでしたね』

 

 そして、なにより特筆すべき点は自信に満ち溢れた神楽坂の顔である。一切、己のデッキに対して不安や恐れ、気の迷いを抱いていない理想のデュエリストのような風体だ。

 

 これは……想像以上の大物を引いてしまったかもしれん……。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

神楽坂

LP4000

モンスター1

魔法・罠1

手札2

 

 

「ん……? 悪いな神楽坂、少しだけ待ってくれ。観客が増えるぞ」

 

「え……? それはどういう――」

 

「おーい、リックー! ってやっぱりもう始めてるじゃねーか!」

 

 十代や藤原の精霊の力。そして、天音ちゃんの邪神の気配を感じたため、そう言うと、すぐに知った声が響いてきた。

 

「みぃつけた……」

 

「ほ、ホントにリックさんの匂いがするって天音さんが言った方向にいたっス……」

 

「とんでもない嗅覚を持っているのか……?」

 

「うふふ。いえ、それは愛よボウヤたち」

 

 声の方向を見れば、十代を先頭に友人たちがこちらに向かってくる姿が見えた。ふむ、もう見つけてくるとはな……デュエリストは惹かれ合うというものだろうか。それだとすれば十代らもデュエリストとして板についてきたようで喜ばしいことだな。

 

 その後すぐに、神楽坂の知り合いがいたため、何故そんなことをした等と三沢を中心に聞き始めた。また、話を聞く限り、十代らも知っていたようである。俺が止めたつもりだったが、少し待つ形になったなと思っていると、ヴェノミナーガさんが小声で話し掛けて来た。

 

『いや、現実を見ましょうよマスター。あの娘、当初私やイレイザーさんが考えていたより数段ヤバい娘ですって……』

 

『いやー、天音ちゃんったら、色んな意味で逸材だったねー! アハハハ!』

 

 いつの間にか、イレイザーまでヴェノミナーガさんの隣に湧いて他人事のように笑っている。

 

 最近、あえて考えないようにしているんだが……俺は将来どうなっているんだろうな……。まあ、プロデュエリストとして既に社会に出てはいるが、デュエルアカデミアを卒業した後の話だ。

 

 何かは掛け持ちするかも知れないが、依然としてプロデュエリストは続けているだろう。また、父さんに孫を見せたいので結婚願望はある。そんなことを考えると、無意識に浮かんでくる――。

 

 自尊心と個性の塊の藤原(あのやべー)と、元幽霊の現ストーカー(ふたり)が黙っている気がしないのである。

 

 いや、二人には大変失礼だが、仮に結婚したと仮定する。そうしたときに、普通に結婚生活をしているビジョンが全く浮かばないのだ。

 

 流石に唐変木ではないというか、藤原に関してはかなり大胆かつ手段を選ばずにアプローチを掛けて来ており、天音ちゃんは既にストーカーというより憑依レベルである。好意に気づかない方が可笑しいというか、あの二人は別方面に目が据わっており、多少恐怖を覚える。

 

 ちなみに天音ちゃんに比べれば、藤原がマシかと思うかもしれないが、朝起きたら当たり前のように隣で寝ており、起きたら悪びれることもなく笑顔を浮かべ、朝食を作って一緒に食べるまでされたことが一度や二度ではないため、藤原も大概である。なにより、それに慣れ始めている俺がいるのが、若干悲しい。

 

『融合モンスターと、ユニオンモンスターかな?』

 

 あの二人を当てはめると洒落にならないから止めるんだ。

 

 とは言え、二人は友人であり、別に嫌っているわけではない。ただ、今後の対応に困っているというのが現状なのである。

 

『ちなみにマスターはどんな女性がタイプなんです?』

 

「デュエルが好きで、家庭的な人」

 

『うわ……衝撃的なハードルの低さ……やはりあのツンデレピンク頭は遠ざけなければ……ああ見えて料理上手で家庭的ですし……』

 

 何故か、小声でぶつぶつと独り言を呟き始めるヴェノミナーガさん。いつも他人に迷惑を掛けない程度に静かならいいのに。

 

『――っていうかー! そもそも、ハーレム展開も、個別エンドも認めませんよ! マスターはもう、メインヒロインの私のルートに入ってるんですからね! これがトゥルーエンドなんですよ!』

 

 ん? というか、藤原はヴェノミナーガさんが体を一時的に乗っ取った時からの関係で、天音ちゃんはヴェノミナーガさんが三邪神を神として復活させてからの関係だよな……?

 

 元を正せばほとんどヴェノミナーガさんが原因なような……。

 

『………………どうしたら皆さん幸せになれるんでしょうねぇ。あっ――神楽坂さんと他の方のお話がとりあえず終わったみたいですよ!』

 

 コイツ……まあ、今はいいや。改めてデュエルの再開である。

 

 

「じゃあ、改めて行くぞ神楽坂。俺のターンドロー」

 

手札5→6

 

 引いたカードを目にし、あまり引きに関しては人のことを言えないなと思いつつ、そのままモンスターカードゾーンに置いた。

 

「俺は手札から"ガーディアン・エアトス"を特殊召喚」

 

ガーディアン・エアトス

星8/風属性/天使族/攻2500/守2000

(1):自分の墓地にモンスターが存在しない場合、 このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):このカードに装備された自分フィールドの装備魔法カード1枚を墓地へ送り、 相手の墓地のモンスターを3体まで対象として発動できる。そのモンスターを除外する。 このカードの攻撃力はターン終了時まで、 この効果で除外したモンスターの数×500アップする。

 

 そこに召喚されたのは、鳥の被り物を被り、背中に巨大な白い翼を持つ女性モンスターであった。ネイティブアメリカン風のへそ出しルックな衣装を身に纏い、良く見ると金髪なのが分かる。更にコレクターズレアのため、召喚からポージングまでの間だけ、彼女を引き立てる淡い虹色の光がキラキラと舞っていた。

 

 実際にソリッド・ビジョンで見てみると、女神のように美しい女性であり、これだけでも草の根を上げて買った価値があるというものだ。

 

ガーディアン・エアトス

ATK2500

 

「"ガーディアン・エアトス"は、自分の墓地にモンスターが存在しない場合、 手札から特殊召喚できる。更に装備魔法、"女神の聖剣-エアトス"を装備。効果によって攻撃力500ポイントアップ」

 

 そして、出現したエアトスの手に細身の直剣である聖剣が握られた。

 

ガーディアン・エアトス

ATK2500→3000

 

『聖剣……重打聖剣……地底人……うっ……頭が……』

 

「――な、なな、なんなんスかあのお美しいカードは!?」

 

 案の定、反応した丸藤の声を聞き、そう言えば入手時期が最近のため、十代らに対しては使ったことがないことに思い当たった。

 

『………………』

 

 丸藤の少々あれな反応にエアトスも眉を顰めて困り顔な様子だった。まあ、顔には眉以外出さないだけ優しさがあろう。

 

「ははは、スゴいだろ?」

 

 まあ、言わぬが華だが、所有者の収集家が手放したくないとのことだったので、所有者の会社の決定で重要なデュエルの助っ人になったり、想像以上に吹っ掛けられたので、ヴェノミナーガさんをけしかけたりと、それはそれは大変な値切り交渉の末――。

 

『結局、デスサイズと同様に新効果の方のエアトスは1枚しか存在しなかったので、所有者との密な交渉の末、5億もしましたからね』

 

「言うな」

 

「5億ぅ!?」

 

「え? なんスかアニキそれ?」

 

リックの精霊(ヴェノミナーガ)が言うには、あの"ガーディアン・エアトス"は5億円で買ったらしいぜ!?」

 

「へー…………へ? えぇぇぇぇぇ!?」

 

 俺の部屋に入り浸っているため、知っている藤原と天音ちゃん以外の面々は神楽坂を含めて酷く驚いた様子だった。神楽坂に関しては、時々教員のコピーデッキを揃えれる程度には家が金持ちだった気がするが、それでも1枚で3億レベルは早々ないのだろう。

 

 まあ、そうは言うが、まだ入手しやすい方のアニメのエアトスの効果って――。

 

ガーディアン・エアトス

星8/風属性/天使族/攻2500/守2000

(1):「女神の聖剣-エアトス」が自分のフィールド上に存在する時のみ、 このカードは召喚・反転召喚・特殊召喚する事ができる。

(2):墓地にモンスターがいない場合、このカードは生け贄無しで特殊召喚する事ができる。

(3):このカードに装備された「女神の聖剣-エアトス」を破壊する。 相手の墓地のカードを上からモンスターカード以外のカードが出るまで モンスターカードを取り除く。 取り除いたモンスターカードの攻撃力の合計値をこのカードの攻撃力に加える。

 

 ――なのである。流石にデスガーディウスのデッキに入れるには、使いにく過ぎるんだよなぁ……それだったら是が非でもOCG化した方を入手したいと思うだろう。

 

 …………まあ、高い買い物のついでにOCG化の方の女神の聖剣-エアトスと、死神の大鎌-デスサイスを探したら、それぞれ1億ほど掛かったが、それもまた言わぬが華だろう。こうして俺のプロ野球選手もビックリなファイトマネーは湯水の如く散財されるのである。

 

 そんなことを考えていると、何故か丸藤はエアトスを仏か何かのように拝み始めたため、エアトスは頬をひくひくさせていた。

 

「人気者だなデスサ――おっとエアトス」

 

『チッ…………さっさと私を殺しなさいよッ!』

 

 そういうと、エアトスは召喚時点からずっと作っていた凛々しい表情をぷるぷると強張らせ、遂に小さく舌打ちを打って物騒なことをいい始めるエアトス――もといデスサイス。

 

 彼女はガーディアン・エアトスの精霊というより、ガーディアン・デスサイスの精霊なのである。要するにガーディアン・デスサイスが脱いで、エアトスの服を着ている状態なのだ。地はひねたヤンキーのような性格をしているので、当人的にエアトスであることにかなり無理をしているらしい。

 

 ちなみに精霊として覚醒したのは、エアトスが揃った瞬間であり、今年の冬休みだったため、うちではヴェノミナーガさんよりも古参(最古参)にも関わらず、精霊としてはピカピカの新参者という妙な扱いをされている。

 

『……エアトス・オルタ』

 

 また、ヴェノミナーガさんがよく分からないことを言っているが、デュエル中なので無視である。

 

「"ガーディアン・エアトス"で、"有翼幻獣キマイラ"を攻撃。精霊のオペラ」

 

「ぐっ……キマイラが!?」

 

『喰らえ!』

 

 エアトスはキマイラの懐に飛び込むと剣で一閃し、更にキマイラの頭に回し蹴りを入れて戦闘破壊した。オペラ要素がまるでない。

 

神楽坂

LP4000→3100

 

「だが、有翼幻獣キマイラの効果を発動! 墓地から"幻獣王ガゼル"か、"バフォメット"を特殊召喚出来る! 出でよ! "幻獣王ガゼル"!」

 

幻獣王ガゼル

星4/地属性/獣族/攻1500/守1200

走るスピードが速すぎて、姿が幻のように見える獣。

 

幻獣王ガゼル

ATK1500

 

 相変わらず、名前のわりに400ポイントほど足りなそうな能力値ですね……。せめてガゼルがもう少し強かったらなぁ……。

 

「俺はカードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

リック

LP4000

モンスター1

魔法・罠2

手札3

 

 

 

「俺のターン! ドロー! 手札から"強欲な壺"を発動!」

 

 いつもの。

 

神楽坂

手札2→4

 

「更に"天使の施し"を発動! デッキから3枚ドローし、2枚捨てる!」

 

 相変わらず、イカれた効果だなぁと考えていると、神楽坂が"フッ……"とどこかで見たような声を漏らした。

 

「俺が引いたカードの内、1枚は"ワタポン"だ! このカードは効果によりデッキから手札に加わった時、特殊召喚出来る! 来い! "ワタポン"!」

 

ワタポン

星1/光属性/天使族/攻 200/守 300

このカードがカードの効果によって自分のデッキから手札に加わった場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

 

 クリクリとした目が特徴的な毛玉が現れる。

 

ワタポン

ATK200

 

「そして、"幻獣王ガゼル"と"ワタポン"を生け贄に――"ブラック・マジシャン"を召喚!」

 

ブラック・マジシャン

星7/闇属性/魔法使い族/攻2500/守2100

魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。

 

 紫色の薄い鎧を持ち、緑の杖を持ったデュエリストの間では最も有名な魔法使いが現れる。

 

ブラック・マジシャン

ATK2500

 

 懐かしいなぁ……個人的にはパンドラの方のブラック・マジシャンもカッコよくて好きだな。

 

「まだだぜ! リバースカードオープン! 永続罠、"永遠の魂"!」

 

「……!? そのカードは――」

 

『マスターがI2社の絵師兼カードデザイナーとして、お仕事で作ったカードですよね』

 

 しまった……あのデッキは一般公開用の遊戯のかつてのコピーデッキではなく、特別な方のコピーデッキか……。

 

 と言うのも、遊戯デッキとは言っているが、海馬社長の意向として、"仮にあの遊戯が今もいれば、デッキの中身が同じハズがない"。という、今も尚拗らせ続けている自称永遠のライバルかつ男のツンデレ理論により、俺に遊戯デッキを強化するようにという無茶振――依頼が来たため、俺の知るOCG化した遊戯デッキに使えそうなカードを何枚か入れておいたのである。

 

 まあ、ポリシーとして、なんかとなくそれはどうかと思うので、ペガサスさんみたいに露骨な自身のデッキ強化カードを作らないようにはしているのだが、未来の知識活用のツケを今支払うハメになっているのだ。

 

 何故、そんなことを忘れていたのかと言えば、その特別な仕様のデッキは社長を納得させるためだけに1年以上前にひとつ作った物だったため、今どうなっているのかなど知っている筈もなかったからだ。

 

「"永遠の魂"の効果発動! 1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる! 自分の手札・墓地から"ブラック・マジシャン"1体を選んで特殊召喚する。デッキから"黒・魔・導(ブラック・マジック)"または"千本ナイフ"1枚を手札に加える! 俺は墓地の"ブラック・マジシャン"を選択し、特殊召喚するぜ!」

 

 どうやら、天使の施しで先にブラック・マジシャンを落としていたらしい。

 

 ちなみに、もう2つ効果があり、1つは、このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、 自分のモンスターゾーンの「ブラック・マジシャン」は相手の効果を受けない。2つ目は表側表示のこのカードがフィールドから離れた場合に発動する。 自分フィールドのモンスターを全て破壊するである。

 

ブラック・マジシャン

ATK2500

 

 紫色のブラック・マジシャンの隣に、赤色の薄い鎧を纏って、浅黒い肌に白い髪をしたブラック・マジシャンが現れた。

 

 ちょっと待て、なんで2体もブラック・マジシャンが入って――あ……なんとなくパンドラの方のブラック・マジシャンも俺が入れたんだった。

 

『草』

 

「そして、自分のフィールド上に"ブラック・マジシャン"が存在することにより、手札から魔法カード、"師弟(してい)(きずな)"を発動! 自分の手札・デッキ・墓地から"ブラック・マジシャン・ガール"1体を選んで特殊召喚する。俺はデッキから"ブラック・マジシャン・ガール"を特殊召喚!」

 

ブラック・マジシャン・ガール

星6/闇属性/魔法使い族/攻2000/守1700

(1):このカードの攻撃力は、お互いの墓地の「ブラック・マジシャン」 「マジシャン・オブ・ブラックカオス」の数×300アップする。

 

 赤を基調とした魔法少女のような服装をして、白い杖を持った金髪の少女がハートを振り撒きながらフィールドに出る。そして、ポージングを決めた後は、キリッとした表情になったが、ほっぺのピンクの丸のせいで全く締まらない。

 

ブラック・マジシャン・ガール

ATK2000

 

『あ、マスターが作った別仕様のブラック・マジシャン・ガールですね』

 

 あ、うん。あのデッキ。悪ノリで製作した服装がパンドラ仕様の配色のブラック・マジシャン・ガールも入れてるから、ブラック・マジシャン・ガールも2枚入ってる。

 

「い、いい……色違いのブラマジガールだぁぁぁぁ!!!?」

 

 わかっていたが、今は丸藤を黙らせたい。他のメンツは神楽坂の怒濤のタクティクスを黙って見ているというのに。

 

「その後、デッキから"黒・魔・導(ブラック・マジック)"、"黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)"、"黒・爆・裂・破・魔・導(ブラック・バーニング・マジック)"、"黒・魔・導・連・弾(ブラックツインバースト)"のいずれか1枚を選んで 自分の魔法&罠ゾーンにセットできる。俺は"黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)"を選択し、そのまま発動!」

 

 空高く飛び上がったブラック・マジシャン・ガールの杖の先に、大きな魔弾が形成される。

 

「"ブラック・マジシャン・ガール"! "黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)"だ! 効果により、相手フィールド上の表側表示のモンスター全てを破壊!」

 

 そして、ブラック・バーニングがエアトスに向けて放たれ、フィールドごと派手に吹き飛び、一面をピンク色の光で染めた。

 

 

『ナメるんじゃないわよ……』

 

 

 そして、ピンク色の光が晴れた時、俺のフィールドには肌が一切出ないように包帯を纏い、黒いプレートメイルを身につけ、煤けた黒い髪の生えた白い面を被った死神のような女性が佇んでいた。

 

ガーディアン・デスサイス

星8/闇属性/悪魔族/攻2500/守2000

このカードは通常召喚できず、このカードの効果でのみ特殊召喚できる。

(1):「ガーディアン・エアトス」が戦闘・効果で破壊され自分の墓地へ送られた場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):このカードが特殊召喚に成功した時に発動できる。デッキから「死神の大鎌-デスサイス」1枚をこのカードに装備する。

(3):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、 自分は召喚・特殊召喚できない。

(4):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動する。 手札を1枚墓地へ送り、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

ガーディアン・デスサイス

ATK2500

 

 ああ……ずっと使えなかったカードを使える感覚は筆舌に尽くしがたいなぁ……。

 

「な、なんだそのモンスターは……!?」

 

「"ガーディアン・デスサイス"は、"ガーディアン・エアトス"が、戦闘・効果で破壊され自分の墓地へ送られた場合に発動でき、このカードを手札から特殊召喚する」

 

「めちゃくちゃ、リックっぽいな」

 

「そうっすね……エアトス様が……あっ、でもデスサイス様もなかなか――」

 

 十代と丸藤の言いたいことはとてもわかる。キャラに合っているので、是非とも使いたかったのだ。丸藤はそろそろ戻ってきて欲しい。

 

「さ……どうする神楽坂? ブラック・マジシャンと同じ攻撃力だが……攻撃するか?」

 

「…………ああ、行かせて貰うぜ! "ブラック・マジシャン"! 黒・魔・導(ブラック・マジック)!」

 

「迎え撃て、"ガーディアン・デスサイス"。フォビデン・レクイエム」

 

『上等よ!』

 

 赤い方のブラック・マジシャンが手を掲げて、ガーディアン・デスサイズにブラック・マジックを放つ。それに対して、ガーディアン・デスサイスはブラック・マジックを受けながらブラック・マジシャンに迫り、拳で胸を貫いた。そして、相討ちとなった両者は崩れるように消える。

 

 ごめんよ。今、死神の大鎌-デスサイスを装備させるのは得策じゃないんだ。

 

「これで、"ブラック・マジシャン"と、"ブラック・マジシャン・ガール"でダイレクトアタッ――」

 

「おっと、まだ俺のモンスターは残ってるぜ?」

 

 俺はデュエルディスクの墓地ゾーンに手札を1枚捨てながらそう言った。

 

手札2→1

 

 次の瞬間、俺のフィールドに怨念のような黒い霧状の何かが集まり、それはすぐに形を成して、ガーディアン・デスサイスになった。

 

ガーディアン・デスサイス

ATK2500

 

「デスサイスが生き返っただと!?」

 

「"ガーディアン・デスサイス"の効果。このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動。手札を1枚墓地へ送り、このカードを墓地から特殊召喚する」

 

「なっ……!?」

 

「そういうことだ。そして、俺の手札は後は1枚だが……どうする? ちなみに、"ガーディアン・デスサイス"の自己再生は強制効果だ。デスサイスが破壊されれば俺に選択権はないぞ」

 

 残り1枚の手札をヒラヒラと動かして神楽坂に見せながらそう言うと、神楽坂は額に汗を浮かべながら少し考えた後、意を決した様子で口を開く。その姿に思わずこちらも嬉しくなって笑みを浮かべてしまった。

 

『あーあー……神楽坂さんったらうちのマスターに火をつけちゃって……』

 

「"ブラック・マジシャン"で攻撃! 黒・魔・導(ブラック・マジック)!」

 

「ああ……いい……。デュエルはやはり、そうでなくては面白くないな! もう一度迎え撃て、"ガーディアン・デスサイス"! フォビデン・レクイエム!」

 

『吹っ飛べ!』

 

 今度は紫色のブラック・マジシャンとガーディアン・デスサイスが交戦し、戦いの末、互いに消滅した。

 

「これで俺の墓地に"ブラック・マジシャン"が2体! "ブラック・マジシャン・ガール"の攻撃力は2600になるぜ!」

 

ブラック・マジシャン・ガール

ATK2000→2600

 

「これで、デスサイスを倒せるのか! 神楽坂すげぇじゃねーか!」

 

「神楽坂はデュエルキングのデッキを研究し尽くしたと言っても、初見でここまで使いこなしているのか……」

 

「うふふ、そう上手く行くかしら? 相手はリック・ベネット。最凶のプロデュエリスト、ナイトメアよ?」

 

 俺は手札を1枚墓地に送り、ガーディアン・デスサイスを蘇生させた。

 

ガーディアン・デスサイス

ATK2500

 

手札1→0

 

「行くぞ! "ブラック・マジシャン・ガール"! "ガーディアン・デスサイス"に黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)"だ!」

 

 そして、最後に残ったブラック・マジシャン・ガールの杖先に魔力が迸り、魔弾が形成され、放たれたそれはガーディアン・デスサイスを貫く。

 

リック

LP4000→3900

 

「これで終わりだ!」

 

「ああ、おめでとう。だが、悪夢はまだ終わらない。と言うよりも……たった今始まったばかりだ」

 

 そう言った直後、再び黒い怨念のような霧が沸き立ち、俺のフィールド上で形になった。

 

ガーディアン・デスサイス

ATK2500

 

『それで終わりかしら? なら、ここがアンタの終わりね』

 

「な、何故"ガーディアン・デスサイス"がっ!?」

 

「俺が残り1枚で墓地に送ったカードはこれ、魔法カード"代償の宝札"」

 

 俺はカードの絵柄が描かれたカードを墓地から取り出し、それを神楽坂に見せつつ、話を続ける。

 

「"代償の宝札"の効果。このカードが手札から墓地に送られたとき、自分はカードを2枚ドローする。つまり、俺の手札は――後、1枚だ」

 

 俺はもう1枚残った手札を再び神楽坂に向かって振って見せる。 

 

手札2→1

 

「さあ……ここから本番だ神楽坂。久々に俺も……いつもに増して愉しくなってきた。もっと楽しもうじゃないか。倒したり、倒されたりしよう。もっともっと削り合おうじゃないか……!」

 

「くっ……ひとまずはここまでか……ターンエンドだ」

 

神楽坂

LP3100

モンスター1

魔法・罠1

手札1

 

 

「えへへ……リック……やっぱりいつ見ても、絞め殺す戦い方と、嘲笑うような雰囲気が、お兄ちゃんみたいで素敵……」

 

『アハハハ! 天音ちゃん、俺いつも思うんだけどさー。それって褒め言葉になってるの? 罵倒じゃない?』

 

 久々に新しいデュエルし甲斐のある人間をこんな形で見つけるとは……本当に嬉しい限りだ。しかも機会が今日この一戦しかないとなれば――貪り尽くすのがデュエリストの本懐だろう。

 

「俺のターン、ドロー」

 

手札1→2

 

 さあ、次はどうしてやろう? どうされるのだろう? ああ……楽しみだ……!

 

 

 

 

 

 






 まさか、神楽坂くんで3話引っ張ることになるとは……この海のリハクの目をもってしても読めなかった……。

 というか……デスサイスちゃんを精霊として出すまでに何年掛かってんだ……(5年2ヶ月と7日)

~QAコーナー~
Q:なんでデスサイスちゃんひねくれた性格してるの?

A:その長い期間中にグレました。



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デュエルキング 後


悪いものを食べて、そろそろ1年経ったと思うので初投稿です。










 

 

 

 

「俺は手札から魔法カード、"テイク・オーバー(ファイブ)"を発動する。効果により、デッキの上からカードを5枚墓地に送る」

 

 送られたカードはと……ふむ、中々悪くないな。

 

「手札から"強欲な壺"を発動。カードを2枚ドロー。更に魔法カード、"埋葬呪文の宝札"を発動。効果により、自身の墓地の魔法カードを3枚除外し、2枚ドローする。俺は墓地の"強欲な壺"、"女神の聖剣-エアトス"、"巨大化"を選択する」

 

手札

0→2→3

 

 さて、ひとまずはこんなところか。

 

「俺は手札から装備カード、"死神の大鎌-デスサイス"を"ガーディアン・デスサイス"に装備」

 

 ガーディアン・デスサイスの手にその象徴たる大鎌が握られた。その瞬間からデスサイスは黒い炎のような果てしない邪気を放ち始める。

 

「"死神の大鎌-デスサイス"は"ガーディアン・デスサイス"にのみ装備可能。装備モンスターの攻撃力は、 お互いの墓地のモンスターの数×500アップする」

 

「なんだと……!?」

 

ガーディアン・デスサイス

ATK2500→6500

 

「こちらの墓地のモンスターは4体だ。そちらの墓地のモンスターも4体のようだな。計8体で攻撃力は4000ポイントアップする」

 

「こ、攻撃力6500ッスか……」

 

「リックはエアトスに加えて、"テイクオーバー(ファイブ)"で3体墓地に送っていたようだな」

 

 まあ、まだ序盤にしては育った方だろう。さて、攻撃を通せばブラック・マジシャン・ガールの上から神楽坂のライフは0になる。

 

「さあ、ここからどう対処してくれる? "ガーディアン・デスサイス"の攻撃、フォビデン・レクイエム」

 

『ここがアンタの終わりよ!』

 

 そして、大鎌はブラック・マジシャン・ガールを一閃し、いとも容易く破壊した。 

 

「くっ……"ブラック・マジシャン・ガール"!?」

 

「ノォォォォ!!! ブラマジガールがぁぁぁ!!!? 短い夢だったッス……」

 

 やはりどこかで見たようにカードを心配する様子を見せる神楽坂。しかし、終わってもソリッドビジョンが止まっていないことが、未だデュエルが続いていることを物語る。一応、神楽坂のライフポイントに目を向けた。

 

神楽坂

LP3100

 

 その様子から遊戯デッキに入っているカードに思い当たり、口を開く。

 

「"クリボー"か」

 

クリボー

星1/闇属性/悪魔族/攻 300/守 200

(1):相手モンスターが攻撃した場合、そのダメージ計算時にこのカードを手札から捨てて発動できる。その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

 

 ダメージが発生しなかった理由は、遊戯王の代表マスコットである茶色の毛玉であろう。神楽坂の手札も1枚減り、0になっている。

 

「ああ、そうだ。すまない、クリボー……だが、良くやってくれた。流石は数千枚のカードの中から俺が選んだカードだ……お前がくれたチャンス、無駄にはしないぜ!」

 

「そうか。なら俺は手札から"サイクロン"を発動し、"永遠の魂"を破壊。ターンエンドだ」

 

『私で鍛えられたスルースキルの高さが生きてますね』

 

 悲しいことにな。それはそれとして、クリボーを使用したことで神楽坂の手札とフィールドにカードは残されていない。となると何かをドローしなければデスサイスを倒すことは不可能。ここが腕の見せ所だ。

 

リック

LP3900

手札1

モンスター1

魔法・罠3

 

 

「俺のターン……ドローッ!」

 

手札

0→1

 

 神楽坂は目を瞑るとデッキに手を置く。そして、精神統一をするように少し間を開けると、勢いよくドローした。

 

 それを見る十代らは何とも言えない表情をしているが、俺は経験と雰囲気からデスティニードローをされたと直感する。

 

 そして、神楽坂は明らかに何か引いた様子で口元を歪め、挑戦的な笑みを浮かべた。

 

「フッ……俺は墓地の"ワタポン"と"ブラック・マジシャン"を除外する!」

 

『うわぁ……なんつーイカれた引き。神楽坂さんが使ってるのは扱いにくいなんてレベルじゃない上にコピーデッキですのに……』

 

「光と闇、二つの魂を生け贄に捧げ――"カオス・ソルジャー -開闢(かいびゃく)使者(ししゃ)-"を特殊召喚!」

 

カオス・ソルジャー -開闢(かいびゃく)使者(ししゃ)

星8/光属性/戦士族/攻3000/守2500

このカードは通常召喚できない。自分の墓地から光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ除外した場合に特殊召喚できる。このカードの(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを除外する。この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

(2):このカードの攻撃で相手モンスターを破壊した時に発動できる。 このカードはもう1度だけ続けて攻撃できる。

 

 それは濃い海のような色の鎧を纏い、盾と剣を装備した輝かしい騎士であった。

 

カオス・ソルジャー -開闢(かいびゃく)使者(ししゃ)

ATK3000

 

「"カオス・ソルジャー -開闢(かいびゃく)使者(ししゃ)-"の効果発動! フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを除外する! 俺は"ガーディアン・デスサイス"を選択するッ!」

 

『そんな……!』

 

「よくやったデスサイス」

 

 デスサイスは悲痛な声を残して、開闢によって次元の外へと誘われた。あくまでもデスサイスの蘇生効果は墓地に送られた場合のみの効果のため、完全に除去されたと言っていい。

 

「この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。ターンエンドだ」

 

神楽坂

LP3100

手札0

モンスター1

魔法・罠0

 

 

「俺のターン、ドロー。更にこの瞬間、墓地の"テイク・オーバー(ファイブ)"の効果発動。手札・デッキ・墓地のこのカードと同名のカードをゲームから除外する事で、 デッキからカードを1枚ドローする」

 

手札

2→4

 

「神楽坂」

 

 俺はポツリと呟くと、楽しさから自然に笑みを浮かべて神楽坂を見つめた。何故かそのときに、神楽坂に加え、十代らまで小さな悲鳴を上げた気がしたが、今はそんな些細なことはどうでもいい。

 

「正直、あのまま、"ガーディアン・デスサイス"が残っていたら興醒めだと考えていたところだ。"ガーディアン・デスサイス"の効果で、他のモンスターを召喚と特殊召喚することができなかったからな。……では、こちらから行くぞ?」

 

「ああ、来いッ!」

 

 その心意気に感銘を受けつつ、俺は手札からモンスターを召喚した。

 

「俺は手札から"BM-4ボムスパイダー"を攻撃表示で召喚する」

 

BM-4ボムスパイダー

星4/闇属性/機械族/攻1400/守2200

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):1ターンに1度、自分フィールドの機械族・闇属性モンスター1体と相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

(2):自分フィールドの元々の種族・属性が機械族・闇属性のモンスターが、戦闘または自身の効果で相手フィールドのモンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動できる。その破壊され墓地へ送られたモンスター1体の元々の攻撃力の半分のダメージを相手に与える。

 

 TMー1ランチャースパイダーとよく似ているが、比べるとふた回りほど小さめで、若干武装や細部パーツの異なる機械の蜘蛛が現れる。

 

BM-4ボムスパイダー

ATK1400

 

「"BM-4ボムスパイダー"の効果発動。1ターンに1度、自分フィールドの機械族・闇属性モンスター1体と相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する」

 

「なんだッて!?」

 

 BM-4ボムスパイダーが見た目に反した機動性で地を駆け、開闢の使者目掛けて飛び上がると、四肢を駆使して、スフィア・ボム球体時限爆弾のように正面から張り付いた。開闢の使者は焦った声を上げつつ、脱出しようともがくが、己の身の犠牲を厭わないBM-4ボムスパイダーは振りほどけない。

 

「自分フィールド上の機械族・闇属性モンスターは無論、"BM-4ボムスパイダー"。破壊する対象は"カオス・ソルジャー -開闢(かいびゃく)使者(ししゃ)-"だ」

 

 その直後、BM-4ボムスパイダーの背中のボムランチャーが激しく光り輝き、大爆発を巻き起こした。

 

『イージス・ガンダム……』

 

「くっ……開闢の使者が……」

 

「相変わらずリックさんはカードを見てて可哀想になる使い方するッスね……」

 

「あら? それが彼の強さと美しさよ。ゾクゾクするわ……」

 

「正直、あそこまでのデュエルへのストイックさと非情さは俺も見習いたいところだ……」

 

 そして、爆風が晴れると、俺のフィールド上には巨大なシルエットが立っていた。

 

デスペラード・リボルバー・ドラゴン

星8/闇属性/機械族/攻2800/守2200

(1):自分フィールドの機械族・闇属性モンスターが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):1ターンに1度、自分・相手のバトルフェイズに発動できる。コイントスを3回行う。

表が出た数までフィールドの表側表示モンスターを選んで破壊する。3回とも表だった場合、さらに自分はデッキから1枚ドローする。この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

(3):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。コイントスを行う効果を持つレベル7以下のモンスター1体をデッキから手札に加える。

 

 それはリボルバードラゴンに似た姿をしているが、そちらに比べると見た目がやや生物的であり、若干トゥーン風にさえ見えたが、一回りは大きいため、却って威圧感がある。

 

デスペラード・リボルバー・ドラゴン

ATK2800

 

「なぜ、攻撃力2800のモンスターが!?」

 

「な、なんかいるッスよ!?」

 

「なんだあのモンスターは……"リボルバードラゴン"に似ているが……」

 

「カッコいいな!」

 

「"デスペラード・リボルバー・ドラゴン"の効果。自分フィールドの機械族・闇属性モンスターが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する」

 

「インチキみたいな効果ッスね……」

 

「まあ、丸藤の言うとおり、踏み倒しという意味ではかなりインチキだな」

 

 まあ、内蔵されている効果はもっとスゴいのだが、それはいつかのお楽しみだ。

 

「機械族・闇属性で、特殊召喚モンスターか……なぁ、リック?」

 

「なんだ三沢?」

 

「その"デスペラード・リボルバー・ドラゴン"は複数持っているのか?」

 

「ああ、他にも何枚かあるな。三沢の闇デッキに入れたいのか? なら"プラズマ戦士エイトム"と交換ならいいぞ。"BM-4ボムスパイダー"もつける。エイトム1枚ごとにその2枚で交換しよう」

 

「本当か! 是非、後で頼む!」

 

 やったぜ。

 

『どうせ、直接攻撃した"プラズマ戦士エイトム"のダメージステップ時に"禁じられた聖杯"を投げて使う気でしょう?』

 

 やだなぁ……当たり前じゃないですか。これでプロデュエルがまた捗る。

 

「さらに俺は手札から"死者蘇生"を発動。墓地から――"ゴッドオーガス"を特殊召喚する」

 

ゴッドオーガス

効果モンスター 星7/地属性/戦士族/攻2500/守2450

(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。 サイコロを3回振る。このカードの攻撃力・守備力は相手ターン終了時まで、出た目の合計×100アップする。 その後、出た目の2つが同じ場合、その同じ目によって以下の効果を適用する。出た目の全てが同じ場合、以下の効果を全て適用する。

●1・2:このカードは相手ターン終了時まで戦闘・効果では破壊されない。

●3・4:自分はデッキから2枚ドローする。

●5・6:このターン、このカードは直接攻撃できる。

 

 肌の一切出ない青い鎧を身に纏った身長数mはあろうかという巨大な剣士が現れる。大きな剣を操る、力の強さが自慢の戦士である。

 

ゴッドオーガス

ATK2500

 

「うお!? ヒーローみたいでカッコいいな!」

 

「"ゴッドオーガス"だとッ!?」

 

「三沢くん知ってる?」

 

「ああ、あのダンジョン・ダイス・モンスターズ出身のカードなんだが……確か、ダンジョン・ダイス・モンスターズのかなり大きな大会で優勝しないと手に入らないようなカードの筈だが……」

 

「……? リックはダンジョン・ダイス・モンスターズの全米チャンプよ……?」

 

『「「マジで!?(嘘ぉ!?)(なんだと!?)」」』

 

『じゃけん、"カルボナーラ戦士"いっぱいだして、戦線を伸ばして、"デューカーツインソード"と"千年の盾"でムキムキにしましょうねー』

 

 一応、俺のウィキにも載っているが、デュエルとは関係のない部分に記載されているため、誰も知らなかったようだ。業界も違うしな。

 

 元の世界と違ってダンジョン・ダイス・モンスターズも結構流行ってるため、個人的には嬉しい限りだ。こちらも精霊の力を使えるので、ほぼ無敗である。

 

「無論、"ゴッドオーガス"もダンジョン・ダイス・モンスターズに纏わる能力を持っている」

 

 そう言うと、いつの間にか、ゴッドオーガスの手に3つの青いダイスが握られていた。

 

「ダイスロール!」

 

 そう叫び、ダイスを投げる動作をすると、それに合わせて、フィールドの中央目掛けて、ゴッドオーガスがダイスを投げる。

 

 出目は……2・2・6。トリプル・クレストとはいかなかったが、及第点と言ったところか。

 

「それでどうなる?」

 

「ああ、"ゴッドオーガス"は1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。サイコロを3回振る。このカードの攻撃力・守備力は相手ターン終了時まで、出た目の合計×100アップする。 その後、出た目の2つが同じ場合、その同じ目によって以下の効果を適用する。出た目の全てが同じ場合、以下の効果を全て適用する」

 

 元々、説明するつもりだったが、折角なので、神楽坂の問いに答える形で説明する。ちなみにこの世界では、バトル中に相手のカード効果を読んだり、墓地を確認したりはできないため、わざわざ教える必要はないのだが、それはそれだ。

 

「1・2の目、このカードは相手ターン終了時まで戦闘・効果では破壊されない。3・4の目、自分はデッキから2枚ドローする。5・6の目、このターン、このカードは直接攻撃できる。出た目は2・2・6のため、1・2目の効果を発動、魔法反射剣(リフレクトソード)。そして、出目の合計は10のため、攻撃力を1000ポイントアップ、金剛剣(ダイヤモンドブレード)

 

 ゴッドオーガスが騎士のように胸の前で、剣の切っ先を空に向けて構えると、剣は淡い光を放ち始めた上、一回りゴッドオーガスが巨大になった。

 

ゴッドオーガス

ATK2500→3500

 

「攻撃力3500!?」

 

「すっげー! わくわくする効果だな! いいなー!」

 

 ………………ふむ。十代が俺のカードにあからさまな興味を持つのは珍しいな。

 

「総攻撃だ。"デスペラード・リボルバー・ドラゴン"、デスペラード・ガン・キャノンショット。"ゴッドオーガス"、ゴッド・ソード・クラッシュ」

 

 デスペラード・リボルバー・ドラゴンが3つのリボルバーで掃射を掛け、ゴッドオーガスが剣を振り上げて巨体を生かした振り下ろしを行い、それぞれ神楽坂を襲った。総ダメージは6300により、神楽坂が爆炎のような煙に包まれる。

 

 まあ、遊戯デッキならこの状況を覆せるカードは入っていな――。

 

 

超電磁(ちょうでんじ)タートル

星4/光属性/機械族/攻 0/守1800

このカード名の効果はデュエル中に1度しか使用できない。(1):相手バトルフェイズに墓地のこのカードを除外して発動できる。 そのバトルフェイズを終了する。

 

 

『カメェェェーッ!』

 

………………………………。

…………………………。

……………………。

………………。

…………。

……。

 

 いかん、遊戯デッキにソイツ入っていることを丸っと忘れていた。

 

『何気にバトルシティぐらいからあるカードですからね。その亀さん』

 

 元の世界だと11年半OCG化を放置されてたカードだからなぁ……。

 

「俺は"超電磁(ちょうでんじ)タートル"の効果を発動していた! このカード名の効果はデュエル中に1度しか使用できない! 相手バトルフェイズに墓地のこのカードを除外して発動できる! そのバトルフェイズを終了するぜ!」

 

「"天使の施し"で墓地に落としていたか……まさかとは思うが……デュエルキングのライフポイントをギリギリのところで削れず、敗北しないところまで、ある程度コピーできているのか……?」

 

『完全に天賦の才ですよねこれ。非常に特異な精霊の力ですよ』

 

 そう言えば、効果を使った後の神楽坂の口上で、クリボーの精霊が苦笑いをしていたため、無意識に精霊の力を行使できていることは明白だろう。

 

「……大したものだな。ターンエンドだ」

 

リック

LP3900

手札0

モンスター2

魔法・罠2

 

 

「敗北し、全てを諦めるか、尚も立ち上がり、その先の未来を見つめ、見果てぬ先まで続く戦いのロードを進むか否か、その先に必ず答はある。行くぜナイトメア! 俺のターンドロー!」

 

『もう、口上だけでマスター負けそう。この子、面白過ぎるでしょう。それは繋がりもなにもない精霊も力を貸したくもなりますわ』

 

手札

0→1

 

 いや……しかし、デスペラード・リボルバー・ドラゴンに加えて、戦闘・効果破壊不能のゴッドオーガスを1枚で同時に突破する方法なんて、あの遊戯デッキには――いや、待て……1枚だけあるぞ……というか俺が"エラッタ"して入れた! これはまさか!?

 

「俺は墓地の"カオス・ソルジャー -開闢(かいびゃく)使者(ししゃ)-"と、"クリボー"を除外して――"混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン) -終焉(しゅうえん)使者(ししゃ)"を特殊召喚!」

 

『アカンこれじゃマスターが死ぬゥ!』

 

混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン) -終焉(しゅうえん)使者(ししゃ)

星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

このカードは通常召喚できない。 自分の墓地から光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ除外した場合のみ特殊召喚できる。このカードの効果を発動するターン、自分は他の効果を発動できない。

(1):1ターンに1度、1000LPを払って発動できる。お互いの手札・フィールドのカードを全て墓地へ送る。その後、この効果で相手の墓地へ送ったカードの数×300ダメージを相手に与える。

 

 藍色と金の配色がなされた細身のドラゴンが現れ、赤く鋭い眼光を向けていた。ドラゴンからは闇と光が入り混じった尋常ならざるオーラを放っている。

 

混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン) -終焉(しゅうえん)使者(ししゃ)

ATK3000

 

「なに!? カオス・エンペラードラゴンは禁止カードなのでは!?」

 

「あれはエラッタ後の別バージョンの効果なんで、使えるんですよ。蘇生・帰還不可と、効果発動ターンは他の効果を発動できないという2つの制約が加えられています。そのため、普通にデュエルで使用してもルール上、問題ありません」

 

「あ、メデューサ先生ッスね」

 

「へー、そうなのか……ん? でもそれって今のフィールドじゃ、関係ないよな?」

 

「ええ、その通りですね。今のエンペラーさんはただの禁止モンスターです」

 

 ヴェノミナーガさんは三沢を中心に難解なところの解説に行っていた。しかし、こちらはそれどころではない。

 

「"混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン) -終焉(しゅうえん)使者(ししゃ)"の効果を発動! 1ターンに1度、1000LPを払い……お互いの手札・フィールドのカードを全て墓地へ送る!」

 

神楽坂

LP3100→2100

 

 カオス・エンペラー・ドラゴンが咆哮を上げた瞬間、神楽坂のカオス・エンペラー・ドラゴンと、俺のフィールド上のデスペラード・リボルバー・ドラゴンと、ゴッドオーガス、伏せカード2枚が消滅した。

 

「その後、この効果で相手の墓地へ送ったカードの数×300ダメージを相手に与える! セメタリー・オブ・ファイヤー!」

 

「っ……」

 

リック

LP3900→2700

 

「ターンエンド。これで仕切り直しだ」

 

「いや、残念だが……終わりだ。惜しかったが、辛うじて届かなかったな」

 

「どういうことだ……?」

 

「"デスペラード・リボルバー・ドラゴン"の効果発動。このカードが墓地へ送られた場合に発動でき、コイントスを行う効果を持つレベル7以下のモンスター1体をデッキから手札に加える」

 

「コイントス効果を持つ、レベル7以下のモンスターだと……? 通常召喚可能な2100以上の攻撃力――」

 

「俺は"地雷蜘蛛"を手札に加える」

 

 俺は手札に加えたカードを分かりやすく神楽坂に見せた。

 

地雷(じらい)蜘蛛(グモ)

星4/地属性/昆虫族/攻2200/守 100

このカードの攻撃宣言時、コイントスで裏表を当てる。当たりの場合はそのまま攻撃する。ハズレの場合は自分のライフポイントを半分失い攻撃する。

 

 既にあの遊戯デッキに入っている戦闘を止めるモンスターは使い切っている。ここからの逆転は不可能だろう。

 

 地雷蜘蛛を突き付けられ、神楽坂は観念したような表情を浮かべた。

 

「ここまでか……」

 

「ひとつ聞きたいが、神楽坂は俺とのデュエルは楽しかったか?」

 

「…………ああ、こんなに楽しかったのは初めてだ!」

 

「そうか……そうか……ならターンを回せ! 最後にもっと面白いものを見せてやる!」

 

「……! ああ、ターンエンドだ!」

 

神楽坂

LP2100

手札0

モンスター0

魔法・罠0

 

 

「ククク……クハハハ……ハッーハハハハハハッ! 神楽坂! お前にドローの真髄……そして、精霊との力というものを――真のデュエリストを見せてやる……ッ!」

 

 俺は完全に精霊の力を解放しつつデッキに手を置き、ドローすると共に、そのままカードを見ることなくモンスターカードゾーンに置いた。

 

「俺の墓地の闇属性モンスターは"ヘル・エンプレス・デーモン"、"BM-4ボムスパイダー"、"デスペラード・リボルバー・ドラゴン"の3体のみ! よって、"ダーク・アームド・ドラゴン"を特殊召喚!」

 

ダーク・アームド・ドラゴン

星7/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守1000

このカードは通常召喚できない。自分の墓地の闇属性モンスターが3体の場合のみ特殊召喚できる。

(1):自分の墓地から闇属性モンスター1体を除外し、フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

 全身がドス黒く染まり切ったアームド・ドラゴンが現れる。

 

ダーク・アームド・ドラゴン

ATK2800

 

「か、カードを見ずに召喚を……!?」

 

「見なかったんじゃない……引き寄せただけだ。デッキを信じれば必ず応えてくれる。神楽坂もそうだっただろう?」

 

「ああ……そうだな」

 

「だから、俺はデッキとお前に賭けて全力で叩き潰す。"地雷蜘蛛"を召喚」

 

地雷蜘蛛

ATK2200

 

 赤茶と黒の配色の巨大な蜘蛛が召喚される。

 

「バトルだ、神楽坂。お前は間違いなく強い。お前の模倣する癖は、紛れもない才能だ」

 

「俺が……強い……」

 

 ダーク・アームド・ドラゴンが、ダーク・ジェノサイド・カッターの体勢に入り、地雷蜘蛛が神楽坂を見据えて大顎を開き、俺は片手でコイントスを行った。

 

「次は誰で俺の前に立つのか、楽しみにしているぞ」

 

 コイントスを行った手が開かれると共に、2体のモンスターから攻撃が放たれ、神楽坂はどこか満足げな表情で、攻撃に呑み込まれた。

 

リック

LP2700→1350

 

神楽坂

LP2100→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「完敗だ……だが、もう退学でも惜しくはない……それどころか、ただ勝ちたいためだけに盗みを働いた自分が恥ずかしい……ッ!」

 

 終了後、何故か想像以上に俺との試合が心に響いたらしく、地べたに体を投げ出しながら涙を流していた。やはり、この世界のデュエリストは精神とデッキが直結しているのであろう。

 

 十代らは掛けていい言葉が見つからずにいたところで、俺の携帯電話が鳴ったため、それに出た。

 

「はい、リック・べネットです。どうでしたか……? 多少の退屈凌ぎにはなった? 本人には天地がひっくり返っても到底及ばないが、小指の先程度は見れるものがあった? むしろ、プロデュエリストのクセに、学生にいいようにされていた私の方が軟弱者? はは、返す言葉もありません。そうですか、では処分の方は? はい、罰程度のものを教員に決めて貰えばいいということですね? わかりました。本人には私から直接伝えておきます。はい、夜分に突然、すみませんでした。ありがとうございました」

 

 通話を終えて、電話を切るとその場の全員が不思議そうにこちらを見ていた。まあ、丁度いいので、このまま言ってしまおう。

 

「神楽坂。お前の処分は教員に決めてもらうが、恐らく反省文や1~2週間の寮掃除になる」

 

『えっ……?(あら……?)』

 

 やったことにしては、あまりにも軽い罰にその場にいたほとんどの人間が声を上げた。その中で、声を上げなかった三沢が口を開く。

 

「今の電話の相手はまさか……」

 

「ああ、海馬社長だ。神楽坂とのデュエルが始まった段階で、デュエルディスクを通して、デュエル内容をリアルタイムで海馬コーポレーションのサーバーに転送していたんだ」

 

 その言葉に場は騒然となった。まあ、経営者であり、伝説のデュエリストの1人なのだから当然と言えば当然か。

 

「いやー、あんなに機嫌よく他者を褒める社長なんて、久し振りだったよ。神楽坂を今回の件で、理事会や教員が神楽坂を退学させようものなら、社長が直々に俺へ指示を飛ばして、デュエルで黙らせに掛かると思うから安心していいぞ」

 

「え……? なあ、翔……今の電話内容で褒めてたと思うか?」

 

「け、貶されていたような気がするッスよ……」

 

 あの人は男のツンデレの元祖の1人みたいなものだから仕方ない。ああいう言い方しか出来ないし、しないんだ。

 

「まあ、退学は無しにしても罰は罰だ。それは甘んじて受けろ。それでも気が晴れないならそのときは勝手にしろ。ただ、俺はまたお前と戦いたいと思う」

 

「…………ああ、わかった」

 

 それだけ言って、神楽坂の手を取って立たせる。そして、もうひとつ言いたいことを言うことにした。

 

「さて、盗ったそのデッキだが、今返却しようと、夜明けに返却しようと君の罰は変わらないし、万が一教員に見つかってもデュエルで納得させていたと言えば万事解決する。しなかったら、制裁デュエルで俺が出る」

 

「えっと……つまり……?」

 

「デュエルキングのデッキと戦えるなんて、一生に一度あるかないかのことを、俺だけが楽しむのは不公平だと思うんだ」

 

「おい、リックそれって――!」

 

 十代のとても嬉しそうで、楽しげな笑みを眺めつつ更に口を開いた。

 

「どうせなら、ここにいる者のために全員とそれぞれ戦ってやってくれないか? 俺たちにそれぐらいの報酬があってもいいだろう。元々、忍び込んでデッキを見ようとしてきた訳だしな」

 

 それにその遊戯デッキには、まだまだ見せていないコンボや、出していないカード達が沢山いる。それを引き出せるのは……正直、俺でも怪しい。神楽坂にしかできないことだ。

 

「それは……願ったり叶ったりなんだが……」

 

「いや、リックさん……教員がいるッスよ?」

 

 神楽坂と、丸藤の視線の先にはヴェノミナーガさんこと、ニコニコと笑顔を浮かべているメデューサ先生がいた。

 

 その刹那、俺とヴェノミナーガさんはアイコンタクトを交わし、すぐにヴェノミナーガさんが動く。

 

「ははは、皆さん何を勘違いしているんですか」

 

 そう言いながらヴェノミナーガさんはどこからともかくデュエルディスクを装備し――。

 

「次に神楽坂さんとデュエルするのは私ですよ?」

 

 フォーチュン・レディか、シャドールか、カニパンのデッキをデュエルディスクにセットした。

 

「えっ……それはズルいぜメデューサ先生!」

 

「あら? それなら私もあのボウヤとシたいわ」

 

「先に言ったもん勝ちですよーだ。ほら、後が詰まっているのですから、早く構えなさい神楽坂さん」

 

「は、はいッ!」

 

 真っ先にデュエル好きの十代と、見た目に反してデュエル狂の藤原が食い付き、ヴェノミナーガさんと神楽坂のデュエルが始まった。

 

 ……シャドールか、流石に勝てな……いや、神楽坂ならいい戦いしそうだな。

 

 しばらく、ヴェノミナーガさんのソリティアデュエルと、神楽坂の超能力デュエルが続くので、十代に声を掛けることにした。

 

「十代、少しいいか?」

 

「なんだリック?」

 

「これ、欲しそうにしてただろ? やるよ」

 

「なんか、カードをくれるのか? それならありがたく――」

 

 

ゴッドオーガス

効果モンスター 星7/地属性/戦士族/攻2500/守2450

(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。 サイコロを3回振る。このカードの攻撃力・守備力は相手ターン終了時まで、出た目の合計×100アップする。 その後、出た目の2つが同じ場合、その同じ目によって以下の効果を適用する。出た目の全てが同じ場合、以下の効果を全て適用する。

●1・2:このカードは相手ターン終了時まで戦闘・効果では破壊されない。

●3・4:自分はデッキから2枚ドローする。

●5・6:このターン、このカードは直接攻撃できる。

 

 

 俺は十代にゴッドオーガスを渡した。

 

「えぇぇぇぇえぇぇぇ!!!? いや、流石に受け取れねーよ!?」

 

「まあ、俺も1枚しか持っていないが……正直、俺のところにいてもあまり活躍の場がなくてな」

 

 高レベルデッキの俺にとっては、トレード・イン非対応なのが地味に痛い。それに加えて地属性の戦士族モンスターは、大部分が闇デッキの俺にとってほとんどシナジーがない。宝の持ち腐れ……とまでは言わないが、もっと活躍できるデッキや、デュエリストは別にいる。

 

 その点、十代のヒーローデッキは戦士族対応カードも多いため、十分に活躍が見込めるだろう。十代自身に対しては、非の付け所のないデュエリストだ。

 

 …………まあ、他の理由としては、俺が使うにしては少しカードにヒール感が足りないため、プロデュエルでは使用していないことも挙げられる。

 

「遊戯さん風に言えば――"このカードが君のところに行きたがっているぜ"って奴だ」

 

「……そっか、へへへ。そこまで言うなら貰うぜ! ありがとよリック!」

 

「ああ」

 

「あっ、なら俺もやるよ。まあ、こっちは2枚あるからで悪いけどな」

 

「そうか、それなら――」

 

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) エッジマン

効果モンスター 星7/地属性/戦士族/攻2600/守1800

(1):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

 

 

 ………………これは……貰っていいのだろうか? いや、しかし、渡しておいてお返しを受け取らないというのはどうかと思うしな……。

 

「ありがとう大切にするよ」

 

「おう!」

 

 それだけ終えて、とりあえず観戦に戻ることにした。

 

 三沢との交換は後日終えて、プラズマ戦士エイトムを3枚入手したことも記しておこう。

 

 

 

 

 






~QAコーナー~
Q:デスペラード・リボルバー・ドラゴンの第三効果でリックくんは地雷蜘蛛以外に何を手札に加えることがあるの?

A:斎王と交換したアルカナフォースXIV(フォーティーン-)TEMPERANCE(テンパランス)や、アルカナフォース(ゼロ)THE FOOL(ザ・フール)などを入れていることもある。





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微睡みの金星




アルカナフォースXXI(トゥエンティーワン)THE WORLD(ザ・ワールド)に一年間、時間を吹き飛ばして貰ったので初投稿です。








 

 

 

 

 定期試験。その言葉を聞いただけで竦み上がる者もいるであろうが、当然デュエルアカデミアでもそれはある。とは言え、基本的にはデュエルの学校のため、定期試験もデュエルの内容となっている。

 

 午前中は筆記試験。しかし、これはコンマイ語の勉強というより、"このカードのカード名を選べ"といった五択問題や、"デッキが0枚の時、貪欲な壺は発動できる"といった丸バツ問題、"互いのプレイヤーにダメージを与えるカードを4つ答えよ"といった筆記問題等、デュエルモンスターズの一般問題なので、正直そんなに難しくはない気がする。

 

 ふむふむ、特殊勝利条件はどのようなものがあるか4つ答えよ……か。封印されしエクゾディア、ウィジャ盤、終焉のカウントダウン、No.88 ギミック・パペット-デステニー・ レオ……はまだないカードだろうからラストバトル!辺りを書けばいいか。 

 

『"毒蛇神ヴェノミナーガ"……っと』

 

 教員が勝手に生徒の答案を書き換えないでください。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 そして、午後の実技試験は原則無作為に同じ寮、オベリスクブルーは女子と男子混合で同じ学年の生徒とデュエルをして、その経過や結果が点数になるのだが――。

 

 

オベリスクブルー女子生徒

LP700

手札0

モンスター3

魔法・罠0

 

竜影魚(りゅうえいぎょ)レイ・ブロント

DEF1000

 

素早いマンタ

DEF100

 

素早いマンタ

DEF100

 

竜影魚(りゅうえいぎょ)レイ・ブロント

デュアルモンスター

星4/水属性/魚族/攻1500/守1000

このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、通常モンスターとして扱う。フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。

●このカードの元々の攻撃力は2300になる。このカードは攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に守備表示になる。次の自分のターン終了時までこのカードは表示形式を変更できない。

 

素早いマンタ

星2/水属性/魚族/攻 800/守 100 フィールド上のこのカードが カードの効果によって墓地へ送られた時、 デッキから「素早いマンタ」を任意の数だけ特殊召喚できる。

 

 

リック

LP4000

手札4

モンスター5

魔法・罠3

 

ガーディアン・エアトス

ATK2500

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

ATK3300

 

デスペラード・リボルバー・ドラゴン

ATK2800

 

ヘル・エンプレス・デーモン

ATK2900

 

魔族召喚師(デビルズ・サモナー)

ATK2400

 

ヘル・エンプレス・デーモン

星8/闇属性/悪魔族/攻2900/守2100

このカード以外のフィールド上で表側表示で存在する悪魔族・闇属性モンスター1体が破壊される場合、代わりに自分の墓地に存在する悪魔族・闇属性モンスター1体を ゲームから除外する事ができる。また、フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、「ヘル・エンプレス・デーモン」以外の 自分の墓地に存在する悪魔族・闇属性・レベル6以上のモンスター1体を選択して特殊召喚する事ができる。

 

魔族召喚師(デビルズ・サモナー)

デュアルモンスター

星6/闇属性/魔法使い族/攻2400/守2000

このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、通常モンスターとして扱う。フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。

●1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。手札または自分・相手の墓地から悪魔族モンスター1体を選んで特殊召喚する。このカードがフィールド上から離れた時、この効果で特殊召喚した悪魔族モンスターを全て破壊する。

 

「ひ、酷いわ……こんなの酷過ぎる!?」

 

「さあ、バトルフェイズ……そして、コイントスだ。"デスペラード・リボルバー・ドラゴン"の効果発動、ロシアン・ルーレット」

 

 その瞬間、デスペラード・リボルバー・ドラゴンの頭部と両手、合わせて3つのシリンダーに3つずつ弾が出現する。そして、全てが同時に勢いよく回転し始めた。

 

「ストップ……よし。フルバースト・ガン・キャノンショット!」

 

「わぁぁぁぁ!?」

 

 全てが表だったため、対戦相手の3体の表側守備表示モンスターがデスペラード・リボルバー・ドラゴンの銃撃によって体に風穴を開けられて破壊され、フィールドはがら空きになった。

 

 それが終わるとデスペラード・リボルバー・ドラゴンから、どこか調子外れで場にそぐわないほど明るく、寂れたゲームセンターで耳にしたような音楽が響き渡る。

 

 すると、デスペラード・リボルバー・ドラゴンがこちらに振り返り、頭部の拳銃で俺の手札を銃撃した。それによって、俺の手札から煙が上がりつつも、1枚カードが増える。

 

手札

4→5

 

「3回とも表だった場合、"デスペラード・リボルバー・ドラゴン"の効果発動。俺はカードを1枚ドローする。コイントス効果を発動したターン、"デスペラード・リボルバー・ドラゴン"は攻撃できない……が、他のモンスターは問題なく攻撃可能だ。"デスペラード・リボルバー・ドラゴン"を除く、全てのモンスターでダイレクトアタック」

 

『ゲッゲッゲ……!』

 

『ぶっ飛べ!』

 

「うわぁぁあぁぁぁぁぁ!!!?」

 

オベリスクブルー女子生徒

LP700→0

 

 

『こんなことするから、試験前はあからさまにオベリスクブルーの生徒の様子が可笑しくなるんですよ……』

 

「生徒対生徒で行う実技試験の試験内容が悪い。更に言えば対戦相手をドローし損ねた相手が悪い」

 

 事故る奴は……不運(ハードラック)(ダンス)っちまったんだよ……。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 いつものように定期試験を終え、他で試験デュエルをしている生徒の様子を眺めたところ、十代の姿が見えたので、そちらに目を向ける。

 

「まーた、クロノス教諭が地味な嫌がらせをしてるよ……」

 

『懲りませんねぇ……あの方も』

 

「悪い人ではないんだけどなぁ……」

 

 むしろ、教員としてはかなり、いい人の部類に入るのだが、クロノス教諭は何故かオシリスレッドを目の敵にしているため、時々妙な行動に走るのである。

 

 現在も、十代がどういうわけかオベリスクブルーの男子生徒と戦わされているようだ。というか、十代は定期試験の度に、オベリスクブルーの生徒と戦わされているような気がする。その上、恐らくは3年生。

 

 でも、結果的に十代を楽しませてるだけなんだなぁ。

 

 

オベリスクブルー男子生徒

LP4000

手札1

モンスター3

魔法・罠0

 

ブラッド・ヴォルス

ATK1900

 

ジェネティック・ワーウルフ

ATK2000

 

バルキリー・ナイト

ATK1900

 

ブラッド・ヴォルス

星4/闇属性/獣戦士族/攻1900/守1200

悪行の限りを尽くし、それを喜びとしている魔獣人。手にした斧は常に血塗られている。

 

ジェネティック・ワーウルフ

星4/地属性/獣戦士族/攻2000/守 100

遺伝子操作により強化された人狼。 本来の優しき心は完全に破壊され、闘う事でしか生きる事ができない体になってしまった。その破壊力は計り知れない。

 

バルキリー・ナイト

星4/炎属性/戦士族/攻1900/守1200

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手は「バルキリー・ナイト」以外の戦士族モンスターを攻撃対象に選択できない。

(2):このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地から戦士族モンスター1体とこのカードを除外し、自分の墓地のレベル5以上の戦士族モンスター1体を対象として発動できる。その戦士族モンスターを特殊召喚する。

 

 

十代

LP200

手札0

モンスター0

魔法・罠0

 

 

「へっ……これで終わりだろ。なんだ、やっぱりオシリスレッドごとき、大したことな――」

 

「へへへ、わくわくしてきた! 俺のターンドロー! よし、俺は"E・HERO バブルマン"を召喚! 効果で自分のフィールド上に他にカードがないとき、カードを2枚ドローするぜ!」

 

手札

0→2

 

「更に手札から"死者蘇生"発動! 墓地から"ゴッドオーガス"を攻撃表示で特殊召喚だ! そして、"ゴッドオーガス"の効果を発動! ダイスロール! うし! 4・4・6だから俺はカードを2枚ドローし、"ゴッドオーガス"の攻撃力は1400ポイントアップ!」

 

ゴッドオーガス

ATK2500→3900

 

手札

1→3

 

「こ、攻撃力3900だと……!?」

 

「まだだぜ! "E・HERO フェザーマン"と、"E・HERO バーストレディ"を墓地に送り、"E・HERO フレイム・ウィングマン"を融合召喚!」

 

E・HERO フレイム・ウィングマン

ATK2100

 

「な……!?」

 

「行くぜ! "E・HERO フレイム・ウィングマン"で"ブラッド・ヴォルス"を攻撃! フレイム・シュート! 効果で戦闘によって破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与えるぜ!」

 

オベリスクブルー男子生徒

LP4000→3800→1900

 

「"ゴッドオーガス"で"ジェネティック・ワーウルフ"に攻撃だ! ゴッド・ソード・スラッシュ! ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

 

「う……嘘だ……オベリスクブルーの俺がオシリスレッドごときに負けるだなんて……」

 

オベリスクブルー男子生徒

LP1900→0

 

 

『わー……"ゴッドオーガス"のサイコロで増加した攻撃力で丁度ピッタリ……というか、十代さんっていつも、3・4を揃えるか、ゾロ目ですよね。いつから"ゴッドオーガス"はバブルマンの親戚になったんです?』

 

「E・HERO バブルマン・ゴッドじゃないですかね。色似てますし」

 

『殺意の波動に目覚めたバブルマンかぁ……』

 

 こんな感じにゴッドオーガスは十代のデッキで非常に生き生きしている。

 

 そんなこんなで、特に語ることのない定期試験はいつもこのように過ぎているのである。ちなみに俺の成績は学内トップだが、前世の知識を持ちつつ、プロデュエリストの俺がそうでなかったら逆にマズいので、その辺りは最早義務のようなものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『毎年恒例 、北にある姉妹校。デュエルアカデミアノース校との友好デュエルが近づいております。昨年は2年生だった丸藤亮くんが、ノース校代表を倒し、本校の面目躍如となりました』

 

 遊戯デッキの盗難から、神楽坂が教員からの罰を終えた程度の日にちが過ぎた頃。

 

 デュエルアカデミアでは講堂にて週の最初に学校らしく、校長先生の朝礼がある。その習慣だけでげんなりする気分になるかも知れないが、鮫島校長の話は俺の知る校長の中でも簡潔な上ダントツに短いため、特に苦ではなかった。

 

『今年の本校代表は、まだ決まっていませんが、誰が選ばれてもいいように皆さん日々努力を怠らないように』

 

 それだけ言って鮫島校長の朝礼は終わった。考えるまでもなく、俺には全く関係のない話だと思いつつも、自然と口から言葉が漏れる。

 

「ノース校との友好デュエルねぇ……」

 

「なら今年はリックがいるから余裕そうね」

 

 俺の呟きに対して、隣に立っている頭にリボンを乗せたピンク髪の女子生徒こと、ツァン・ディレが答えた。心なしか、何故かとても誇らしげな表情であり、手を腰に当てながら言っている。

 

 それに対して少し考え直してみたが、やはりよくはないという結論になったため、口を開く。

 

「いや、流石にデュエリストの養成校同士の親善試合で、現役4位のプロデュエリストを出すのは反則というか、趣旨的にどうなんだ……?」

 

 例えるならヒヨコの大きさを決める大会で、雄鶏を出すようなものである。畑違いというか、そもそも場違いであろう。

 

「た、確かにダメそうね……」

 

「そう言うツァンはどうなんだ? お前なら問題ない気が俺はするんだが?」

 

「ぼ、ボク!? だ、ダメよ……別に頭もよくないし……強くないし……」

 

『嘘をつけ淫ピ。少なくとも成績は最上位な上、アカデミアでの公式対戦記録では勝率9割超えですよコイツ。かっー! これだからピンク頭は信用なりませんねぇ!』

 

 ヴェノミナーガさんはピンク髪の女性に親でも殺されたのだろうか……? なぜ、いつもいつもツァンにだけ妙に風当たりが強いんだ……。

 

「まあ、順当に行けばカイザー。彼が辞退すれば他の奴がやるだろう」

 

 男子だとオベリスクブルーでは……特に思い当たらないが、ラーイエローでは三沢、オシリスレッドでは十代。オベリスクブルー女子では、天上院……はあまりこういう注目を集めるような性格ではなく、ツァンは変なところで引っ込み思案なのでまず名乗りを上げそうにない。

 

 藤原はこういうことに一番向いているだろうが、俺がでなければ、頭の隅にすら置かないだろうからまず出ない。そして、最後の候補は――。

 

 

「貴方……今日も広い背中ね……うふ……うふふ……うふふふふふ!」

 

 

 正直、この娘。オベリスクブルー女子ではトップクラスに強いんだが……出るわけもないか。

 

「そう言えばツァンも最初は天音ちゃんにとても驚いて、"俺が迷惑しているから人前で張りつかないで!"って言って、天音ちゃんにデュエルを仕掛けていたのに、今では随分慣れたな」

 

「…………そりゃあ、毎日毎日飽きもせず、背中に引っ付くのを見せつけられたらなれるでしょう……でっかいオナモミみたいなものよ」

 

 ちなみにデュエルでどちらが勝ったか、ということは天音ちゃんが、今日もデカいオナモミ化しているところから押して知るべし。本当に天音ちゃんはデュエルが、強いのである。

 

「あっ! 天音ったらまた寝癖つけたままで来て……ダメじゃない」

 

「むー……」

 

 そんなやり取りをしつつ、ツァンは櫛を取り出すと天音ちゃんの髪に櫛を通し始めた。天音ちゃんは口ではぼやいているが、動かずにされるがままにしており、ツァンもぼやいているが、優しく丁寧に櫛を通している。

 

 お母さんかな? いや、それ以前に天音ちゃんの獏良とほとんど変わらない髪型のどれが寝癖なんだ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鮫島校長のノース校についての朝礼から少し経った頃。結局、学校代表は三沢か十代となり、代表決めのデュエルの末に十代へと決まった。実に喜ばしいことだろう。

 

 しかし、オベリスクブルーの生徒の一部は、決まった後でも、オシリスレッドの生徒が代表になるなど言語道断だと言っている奴がちらほらと見られたが、1人ずつデュエルを交えて誠意を込めて話した結果納得して貰い、今では十代の学校代表に異議を唱える生徒はいないだろう。

 

『私はその誠意を込めたデュエルを見て、敵兵を無造作に地面に並べて、1人ずつ頭に銃口を押し当てて銃殺する紛争地帯の処刑風景が思い浮かんだんですけど……?』

 

 まあ、そうやって燻らせた奴が、友好デュエル日の前日に十代のデッキを奪って焼き捨てるような真似をしないとも限らないので、一応の対応だ。そんなの誰も望まないからな。

 

「ん……?」

 

『どうかしましたか?』

 

 丁度、授業が終わった直後、どこかで覚えのある精霊の力を感じた。気のせいかとも考えたが、依然として感じ続けるそれは明らかに知ったものだ。

 

『…………ああ、漂うこの力ですか』

 

「どこかで覚えがあるんだが……」

 

『まあ、もう何年か前に一度会ったきりですからね。忘れるのも無理はないです』

 

 既に特定している辺り、やはりヴェノミナーガさんは神様なんだなと再確認する。本当に喋らなければ素敵な方なんだけどな。

 

『本館の屋上、いつも十代さんがサボっている場所におりますので会いに行ってもいいのではないでしょうか?』

 

 その言葉を信じて、俺は1人でそこに向かうことにした。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 屋上に出ると、真っ先に都会よりも鮮やかに思える青空が広がっている姿が見え、その中に幾つか雲が浮かぶ様がある。空に目をやればいつもある光景ではあるが、建物の屋上から見上げるというだけで少し特別なものに変わるかもしれない。

 

 

「やぁ」

 

 

 すると、声を掛けられ、そちらの方向に目が行く。そこには屋上で寝そべりながら片手を軽く上げ、首を半分だけ起こす者がいた。その人物は着崩している上、所々が破れたオベリスクブルーの男子生徒の制服を纏っており、辛うじてデュエルアカデミアの生徒だということがわかる。

 

「ひさしぶりー、リックくん」

 

「…………ああ! "茂木もけ夫"……先輩ですか! I2ジュニアカップ以来ですね」

 

 驚きと共に途中で、歳上だったということを思い出し、言葉遣いを変えた。5年振り程になるのだろう。茂木先輩の背格好はあまり変わってないように見えるが、前よりも脱力感が上がっているような気がしてならない。

 

「生徒として見掛けたことはありませんでしたが、どうしてここに?」

 

「お天気がいいからねー。ここだとお日様がぽかぽか……雲がぷかぷか……なーんにもしたくなくなるよねぇ……」

 

「ん……?」

 

『彼も変わりませんねぇ……』

 

「わあ、リックくんの精霊さんだぁ。懐かしいなぁ」

 

 ヴェノミナーガさんを目の前に当たり前のようにこの反応なのだから彼は大物なのだろう。

 

「あのね、僕は精霊をデュエルから解放したいんだ」

 

 突然彼はそう言うと、彼の回りに星1~2のバニラモンスター達が現れ、声を上げで寝転びながら嬉しそうにぷかぷかと漂い始める。

 

「ほら、こんな感じでだらっとしているとみんな嬉しそう。だからデュエルなんかよりもこうしてたいんだ。君もそうしない?」

 

 その上、彼は同じ抑揚でヴェノミナーガさんに向かってそんなことを言い放った。あまりにも命知らずだが、その辺りが彼の良さともいえるかもしれない。

 

『はぁ……』

 

 ヴェノミナーガさんは小さく溜め息を吐いてから、何を今更とでも言いたげな表情で言葉を吐いた。

 

『突然何を言い出すかと思えば一考にすら値しないことを……少なくともマスターに具現化している精霊は1体として首を縦に振りませんよ』

 

「えぇ、そうなの?」

 

『特にデス・ガーディウスさんなんて、本来は人や精霊を欺き、獲って喰らうことを生き甲斐にするような生粋の怪物ですよ。現実では使い手の心を黒く染め、闇の道に引きずり込み、それをただ嘲笑う悪魔らしい悪魔です』

 

 ちょっとまて、そんなの一度も聞いていないんだが……?

 

 その呟きにヴェノミナーガさんが反応し、片手の口から俺にだけ聞こえるような小声で話した。

 

『マスターは最初から暗黒面にカンストしてるので、これ以上落ちることはありえませんから、デス・ガーディウスさん的には落とす意味がなく、居心地がいいのでオッケーらしいですよ。なので、マスターは三邪神の寄生先にもこれ以上ないぐらい適しています。というか、そうじゃなかったらそもそも私が寄生先に選びません。あ、でも外道と悪人はもちろん、違いますからね? マスターは後者です』

 

 えぇ……なんてったって俺は、この人生で半生を共にしていると言ってもいい精霊たちの真実と、邪神との無茶苦茶な適性を今さら聞かされているんだ……ん? ってことはやっぱりヴェノミナーガさんって邪神の仲間じゃないか!

 

「ええ!? そうなの……? 戦った時は優しそうな精霊に見えたんだけどなぁ……」

 

『それは接し方と性質の問題です。マスターはそういった戦うことに生きる意味を求める精霊を抱え込み、懐柔し、よき方に向かせることに長けています。茂木さんには争いを好まない温和な精霊が集まる。マスターには常に闘争と勝利を求める過激な精霊が集まる。だから、互いにひとつの側面しか見えない』

 

「…………そういうものかなぁ?」

 

 そう言われると、精霊はデュエルをするものと自然に解釈していたため、これまでは全く気にしていなかったが、血の気が多かったり、デュエル好きの精霊がほとんどだということに改めて気づく。砂の魔女さんも今はあんな感じだが、使われていた頃は全く違う性格だったらしいしな。

 

『平行線は決して交わりませんが、いつも隣にいます。どちらも決して間違ってはいなく、どちらかだけということもない。そんなものですよ』

 

「そっかぁ……うーん、難しいなぁ。リックくんの精霊は好きで戦ってるんだね――」

 

 そう言いながら茂木先輩は服のポケットの中身をまさぐると、体を半分だけ起こして座ったまま、俺にデッキケースを差し出した。

 

「ならこれをあげる」

 

 また、唐突なことだったが、俺はくれるというのなら貰う派なので、茂木先輩の前に立ち、デッキケースを受け取った。持つと重みと音から中にデッキがはいっていることがわかる。

 

「中を確認しても?」

 

「うん、もちろんいいよー」

 

 了解を取ってからデッキケースを開け、デッキを抜き出すと、一番裏にあったカードが見え――。

 

 

The splendid VENUS(ザ・スプレンディッド・ヴィーナス)

星8/光属性/天使族/攻2800/守2400

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、フィールド上に表側表示で存在する天使族以外の全てのモンスターの攻撃力と守備力は500ポイントダウンする。また、自分がコントロールする魔法・罠カードの発動と効果は無効化されない。

 

 

「これは……」

 

 真っ先に目に入ったカードに俺は固まった。だが、少し眺めてから放心したまま、とりあえず更に捲ってみる。

 

 

神秘の代行者アース

チューナー

星2/光属性/天使族/攻1000/守 800

このカードが召喚に成功した時、自分のデッキから「神秘の代行者アース」以外の「代行者」と名のついたモンスター1体を手札に加える事ができる。フィールド上に「天空の聖域」が表側表示で存在する場合、代わりに「マスター・ヒュペリオン」1体を手札に加える事ができる。

 

マスター・ヒュペリオン

星8/光属性/天使族/攻2700/守2100

このカードは、自分の手札・フィールド上・墓地に存在する「代行者」と名のついたモンスター1体をゲームから除外し、手札から特殊召喚する事ができる。1ターンに1度、自分の墓地に存在する天使族・光属性モンスター1体をゲームから除外する事で、フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。フィールド上に「天空の聖域」が表側表示で存在する場合、この効果は1ターンに2度まで使用できる。

 

 

 これは……間違いない。彼がI2ジュニアカップで俺と対戦したときに使っていた代行天使デッキそのものだ。

 

「なぜこれを俺に……?」

 

「君の話を聞いたらそのデッキはまだ戦いたそうかなって思ったからだよー。僕はもう全然使わないからね。使う人のところに行った方が精霊のためだよ」

 

 だからと言って自分が使っていたデッキをポンと渡せるものなのかと考え、返そうかと考えていると、更に茂木先輩が口を開いた。

 

「んー、他に理由があるなら、初めて精霊がちゃんと見える友達だからかな」

 

 笑顔でそう言う茂木先輩。精霊の見える友達、そう言われてしまえばこれを受け取らないことは失礼になるだろう。

 

 それを言われて少し考えると、自分も同じなことに気づき、これまで全く気にしていなかったにも関わらず、なんとも言えない気分になった。

 

「そうですか……そう言えば俺も初めてでしたよ」

 

「そっかぁ、なんか嬉しいなぁ。それじゃあ、いい夢見れそうだからちょっと寝るね。お休みー」

 

「ええ、お休みなさい茂木先輩」

 

 そのやり取りを最後に茂木先輩は、丸くなってすぐにイビキを立てて眠ってしまった。なんというか、独特で優しげなのに雲のように掴みどころのない人だ。

 

『不思議な人ですねぇ……彼』

 

「そうですね。けれど、精霊に対して、自分なりの答えを見つけて、折り合いをつけて生きているのですから……中々出来ることではないと思いますよ」

 

『ですね。今度だらけるのが好きそうな精霊に彼のことを紹介してみますよ』

 

 俺は受け取ったデッキをしまってから講堂に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……どうしよう」

 

 もけ夫とのデュエルの後、既に人がほとんど居なくなった講堂に戻ると、十代が自身のデッキを広げて、にらめっこをしていた。見れば天上院を含め、すっかり馴染んだいつもの面子に囲まれているようである。

 

「コイツを入れたら、コイツはいらないし……コイツを入れたら、もちろんコイツはいらない……あ゛あぁぁぁ……」

 

「いやいや、ここは"ウォーター・ドラゴン"を入れよう。炎属性には圧倒的に有利だ」

 

「"エトワール・サイバー"も入れるべきよ。直接攻撃の破壊力が違うわ」

 

「"デス・コアラ"もいいんだナ」

 

「あの……僕の"パワー・ボンド"も……」

 

「ああ! うるさい! 邪魔すんなよ!」

 

 どうやら、この前に三沢とのデュエルで勝利し、学校代表になったため、皆で十代のデッキの構築を和気藹々と応援している――とは百歩譲ろうが、色眼鏡を掛けようが見えそうにないな。明らかに邪魔になっているように見えるのだが……。

 

「何も邪魔をしているわけじゃない。今度のデュエルは学園の名誉を賭けた戦いだ。だから俺たちも一緒に戦うつもりで――」

 

「そうよ。学園の為なんだから――」

 

「冗談じゃない! 学園の為になんかデュエルするかよ! 俺は俺のデュエルなんだ。俺は楽しむためにやってるんだよ……」

 

「わかるぜ、その気持ち。デュエルは人の為じゃない、自分のためにやるもんだものな」

 

「うん!」

 

「だが、十代……俺の"ウォーター・ドラゴン"も入れてくれないか……?」

 

「"パワー・ボンド"も!」

 

「"ブレード・スケーター"も!」

 

「"デス・コアラ"もいいんだナ!」

 

 うん、じゃねーだろ天上院の奴。百歩譲って、さっきはエトワール・サイバーって言ってたじゃねーかというところは置いておき、馴染み方が男子生徒のそれでしかないところに笑うしかない。

 

 というか他の奴らも全員だ。ヒーローデッキに何でもかんでも詰め込むんじゃない。あれか? 皆で考え過ぎて、全員頭がパンクしたのか? それなら流石に休憩のひとつぐらい入れた方がいいだろう。

 

「むー、いいッスよねリックさんは……"ゴッドオーガス"がアニキのデッキに入ってるッスもの!」

 

「は?」

 

 流石に一言もの申そうと、十代たちに近づいたのだが、丸藤な俺を見るなり、妙にトゲのあることを言い、なんとも言えない気分になった。

 

 デュエルで目を覚まさせてやろうかと思ったが、流石にそれはあんまりなので自重しよう。彼は冷静な判断が出来なくなっているんだ、たぶん。

 

「そうね、だから同じ地属性・戦士族の"エトワール・サイバー"も入れるべきよ」

 

「はぁ……?」

 

「いや、やはり"ウォーター・ドラゴン"をだな――」

 

「"パワー・ボンド"もッスね」

 

「"デス・コアラ"なんだナ」

 

「いやいや、百歩譲って"エトワール・サイバー"と、"デス・コアラ"はまだ入れれなくもないが、流石に"ウォーター・ドラゴン"と"パワー・ボンド"はシナジーが皆無過ぎるんじゃ――」

 

「うわぁ!? うるさいうるさい! これじゃ、落ち着いてデッキも組めないよ!」

 

「あっ! 逃げた!」

 

「あっ! 待て! 俺の"ウォーター・ドラゴン"も!」

 

 えぇ……なにこれぇ……?

 

 まさか……アイツら……是が非でも自分のカードをデッキに入れさせて、十代に友好デュエルで使わせようとしてるの……?

 

『草』

 

「…………ふんっ」

 

『あばばばば!? 私何も悪くない!?』

 

 なんとなく、ヴェノミナーガさんの額に成仏を投げつけた。ちなみにビリビリして痛痒いらしい。要するに大したダメージにもならない。

 

『むがー! そんなんだから、神楽坂さんとのデュエルの時もさりげなく、最後にコイントス失敗するんで――ぎゃー!?』

 

 俺は言葉を吐き終える前にヴェノミナーガさんに大成仏を投げつけた。

 

『びーりーびーりーしーまーすー!?』

 

 "八つ当たり反対ですー!"と言ってぷりぷり怒るヴェノミナーガさんを視界から外し、一応十代たちの様子を見に行こうとした――が、どうせ十代はいつもサボっている時にいる本館の屋上にいるだろうし、そこにはもけ夫がいるだけだ。特に何も起こらないだろう。

 

 なにより、デュエルもしていないのに凄まじく疲れた気分だ……。

 

「寮に帰りましょうか、ヴェノミナーガさん」

 

『アッハイ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……?」

 

 寮の部屋に戻ると、何故か部屋の扉の前に腕を組んだネグリジェ姿の金髪の女性がいた。まあ、女性といっても俺と同じか少し上ほどに見える。

 

 そして、その女性は何故かとても怒っていますといった表情をしており、明らかに何かを待っているように見える。まあ、男子寮で他の生徒に彼女が見えていたら既に軽い事件になっていると思うので、恐らくはデスサイスであろう。

 

『相変わらず、デスサイスさんは寝巻き姿だとまるで原型無くなりますよね』

 

「そうだな」

 

『あっ……!』

 

「おう……?」

 

 するとこちらの会話に気づいたデスサイスと目が合い、すぐにビシッとこちらに指を指しながらズカズカとした足取りで俺の前までやって来る。

 

『部屋の中のアイツなんなのよ!? 今まで気持ちよく昼寝してたら急に現れてベッドを奪われたのよ!』

 

「アイツ……?」

 

『ベッドを奪われた……? あれ……というか、デスサイスさんったら、私たちがいないうちにマスターのベッドで寝ていたんですか?』

 

『………………ぴわぁ!? ち、違うわよ! 寝てない! そんなことしてないわ! 兎に角、アイツはどうにかしなさいよね!』

 

 何故か急に顔を真っ赤にして言ったことを否定し始めたデスサイスは、それだけ言い残すと逃げるようにその場から消え去った。

 

『いい子ですよねあの娘』

 

「ヴェノミナーガさんと違って部屋の片付けや、掃除もぶつぶつ言いながら自主的にしてくれるしな」

 

『デス・ガーディウスさんもやらないじゃないですか!?』

 

「お前……比べられる対象がデス・ガーディウスでいいのか……?」

 

 そんなどうでもいい会話をしながら自分の部屋にヴェノミナーガさんと入ると――。

 

 

 

『うぇへへぇー……新しいお部屋のベッドふかふかだぁ……』

 

 

 

 そこにいたのは――デス・ガーディウスと同じぐらい(4m弱)はある身長をした女神像のような天使――The splendid VENUS(ザ・スプレンディッド・ヴィーナス)だった。

 

 そして、何故か部屋の中央に置かれた俺のベッドに、うつ伏せで上半身を無理矢理の乗せながら、蕩けるようにだらけ切っている。

 

 えっ……なにこれは……。

 

『た、たぶん、貰ったデッキについていたカードの精霊だと思いますよ……』

 

「いや、それは見ればわかるが……いったいこれは……」

 

 ヴィーナスは巨体だが、デス・ガーディウスとは違い、人型のため、無理矢理部屋に収まっているのが却って妙な光景を生み出しているのだろう。頭は俺の枕に乗っているが、足はテレビ台の前にある。

 

 なんだこの光景は……。

 

『あぁ……? 新しいマスタァ? こんにちわぁ~』

 

「お、おう……」

 

 急に首だけグリンとこちらに向けて、目を半開きにして挨拶をしてくるヴィーナス。正直、見た目は翼の生えた女神像なのでかなり怖い。

 

『これからお世話になりますねぇ~、デュエル楽しみにしてまぁす…………ぐぅ……』

 

 そして、それだけ言い残してそのまま眠ってしまった。いや……どうするんだよコイツ……部屋の一角が完全に占領されているんだが?

 

『い、いや……確かデュエルしたとき、その後でちょっとお話を聞いたときは、もっと凛としていて、厳格で骨の髄までお堅そうな天使という感じだったんですけど……』

 

 それが一体全体、何がどうしてこうなったんだ。欠片もその要素がないぞ……。

 

『ひょっとすると、茂木さんといた期間が長過ぎて、性格そのものが変わってしまったのでは……?』

 

「えぇ……」

 

『SCPかな?』

 

 今日はもう寝て全てを忘れたい衝動に襲われた。しかし、ベッドはテレビ台との間の通路ごとヴィーナスに占領されている。

 

 ああ、クソ……売り飛ばしてやろうかコイツ……。

 

 そんなことを少しだけ本気で考えた気もするが、今後の学生生活に不安を覚えつつ、ソファーでふて寝を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 







もうちょい……もうちょいでセブンスターズ編だというのに……そこをどけ万丈目ェェェェ!(次回は友好デュエルになります)


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教えて!!眼出幽沙先生



友竜のボルバルザークくんに会いに行くための世界線超えに1日掛かったので、1年振りに初投稿です。






 

 

 

 

 それは白昼夢の中でうっすらと思い浮かぶような彼の悪夢。遥かに高いプライドに隠れた奥底の想いである。

 

 中等部から高等部に上がったばかりの頃までは、万丈目はリック・べネット――今はプロランク4位のナイトメアと呼ばれるデュエリストに対し、苦手意識は微塵も抱いてはいなかった。

 

 むしろ、かつて未だにナイトメアと呼ばれる前の彼と、I2ジュニアカップで雌雄を決したことが、小さな誇りのひとつでさえあった筈だった。

 

 そして、いつか自身も彼のようなプロデュエリストになると、漠然とした目標であり、一方的なライバルに見据えてさえおり、日々デュエルの腕を磨いていたのである。

 

 しかし、それが打ち砕かれたのはナイトメアが、デュエルアカデミア本校に、入学と共に遊城十代と丸藤翔の制裁タッグデュエルを行った日のことだった。

 

 実際にナイトメアのデュエルを生で目にした万丈目は、そのあまりに常軌を逸した迫力――言葉に言い表せないオーラのようなものを感じた。

 

 その上、ナイトメアは、カイザーと呼ばれ、このデュエルアカデミアで最強の男さえも3万以上の合計ダメージを与えた上で容易く倒してしまったのだ。

 

 それによって、デュエリストとしての高過ぎる実力により、自身と比べて遥かに遠く、開き過ぎている差を痛感し、直接会うことすらなく、万丈目はプライドを引き裂かれてしまったのである。

 

 兄たちと約束した万丈目家が政界、財界、カードゲーム界のトップになるという約束。そして、万丈目が目指すカードゲーム界のトップに最も近い男の背中は、余りにも遠く広く高かったのだ。

 

 ナイトメアは万丈目に言われた通り、優勝するだけに止まらず、不敗神話を築くプロデュエリストの1人となり、既に時の人で実力もそれ相応。それに比べて、同じだけの時間があったにも関わらず、些細な程しか成長していない己を恥じた。

 

 それから万丈目はナイトメアから逃げるように過ごし、決して彼の前に直接現れることはなかった。いつしか、その内に膨れ上がったやり場のないあらゆる想いは、暴力のようなデュエルへと向けられるか、自尊心を守るためだけに向いた。

 

 そして、その果てがオシリスレッドの遊城十代に完敗し、ラーイエローの三沢大地にも敗北し、オベリスクブルーにあった居場所すらなくなったことにより、彼らを怨み再戦を誓いつつも、デュエルアカデミア本校を出ていこうとした結果、現在に至るのである。

 

 

『――――!』

 

 

 ふと、悪夢の中で、その声は彼に対して投げ掛けられていた。

 

『――ス――!』

 

 

 その声は凛とした女性のものであり、未だ目が覚めてまもない彼には不明瞭な呼び声に聞こえた。

 

 

『――――ター!』

 

 

 その声により、彼は微睡みから叩き起こされるような感覚を覚えつつも、遂に自分を呼ぶ声を捉えた。

 

 

『マスター!!』

 

「うぉぉぉ!」

 

 

 彼――万丈目準の目の前には顔を一杯まで近づけている半透明の魔女のような女性モンスター――サイレント・マジシャン LV8がそこにいたのである。

 

『あっ……目が覚めたんですね! ここまで運べてよかったぁ……』

 

 更に声の質から呼び掛けていた声の主だということもわかり、幽霊かと一瞬考えた万丈目であったが、その容姿がデッキに入れていたサイレント・マジシャン LV8だったため、更に驚愕する。

 

「サイレント・マジシャンだと!? 俺は夢でも見ているのか!?」

 

『………………え?』

 

 その言葉に目の前のサイレント・マジシャンは酷く驚いた表情になり、持っていた杖を落とす。そして、瞳からぽろぽろと涙を溢すと、身を震わせ、感極まった様子で、万丈目に抱き着いた。

 

『やったぁ! マスター私が見えるようになったんですね!』

 

「うわっぷ!? な、なな……なんだ!?」

 

 半透明にも関わらず、触れられた熱の感覚や、サイレント・マジシャンの女性らしい柔らかな肉感がダイレクトに伝わり、抱き着いた拍子にサイレント・マジシャンの豊満な双丘が潰れて形を変えた感覚まで伝わったことで、万丈目は顔を真っ赤にしながらもやんわりと離そうとしたが、想像以上の怪力により、まるで離す気配がない。

 

『ずっと……ずっと私は待っていたんですよ! "お母さん"に作られて、マスターに渡されたあの日から!』

 

「お、お母さん……?」

 

「少しいいか?」

 

 サイレント・マジシャンから気になる単語が吐かれたため、それを反唱したとき、丁度何者からか声を掛けられ、万丈目は視線をそちらに向ける。サイレント・マジシャンは抱き着いていることを人前で見られていることに気づいたのか、顔を真っ赤にすると、逃げるように離れ、俯いたまま、万丈目の隣に正座し、帽子を深く被り直して顔を隠した。

 

「なんだこのワカメお化け!?」

 

 そこにはゴーグル付きの仮面を付け、頭にワカメを乗せ、厚手の服を着込んだ明らかに怪しい男が立っていた。

 

 それに気を取られた万丈目だったが、回りをよく見てみると、ひたすら氷上の銀世界が続いていることに気がつく。

 

「ここについて話してやろう」

 

 あまりにも自身が知る生活圏からは、様変わりした土地に万丈目は仕方なく、目の前の人間のような何かから話を聞くことにするのだった。

 

 そして、最初におジャマ・イエローを渡されてから、万丈目のデッキは何故か胸ポケットに乾いたまま入っていたサイレント・マジシャンとレベルアップ!を除いて、水に濡れ過ぎて使い物にならなくなったことと、ここより遠くに見える砂色の建物がデュエルアカデミアノース校であることを知らされ、そこに向かうように促された。

 

 最初はどうして自分が指図されなければならないのかと憤慨していた彼でがあったが、頭に復讐(リベンジ)を遂げたい遊城十代や、三沢大地。そして、いつか必ず超えねばならないナイトメアの姿が思い浮かび、彼は自らの意思で決意した。

 

(待っていろ……遊城十代……三沢大地……ナイトメア! 俺は――)

 

「俺は必ず、ここから這い上がるぞ!! 俺は万丈目準だ!」

 

『あっ、置いてかないでくださいマスター!』

 

 そして、謎の男を置いて、ズカズカとデュエルアカデミアノース校へ向かう万丈目の後をサイレント・マジシャンは追って隣に並んだ。

 

「お、お前も来るのか……」

 

『はい! 今までもこれからもずっと一緒ですよ!』

 

 そう言って、背中で鞄を持つように杖の端を両手で持ちながら、心底嬉しそうな笑みを浮かべ、鼻歌混じりで、万丈目の隣を歩くサイレント・マジシャン。

 

 女性経験のほとんどない万丈目は、精霊の彼女にどう接していいかわからず、ひとまず胸ポケットに入っているサイレント・マジシャンを確認した。

 

(ん……? 4枚あるな)

 

 ふと、キャラクターに見覚えはあるが、絵柄と効果テキストに見覚えのない1枚のカードを見る。

 

沈黙(ちんもく)魔術師(まじゅつし)-サイレント・マジシャン

星4/光属性/魔法使い族/攻1000/守1000

このカードは通常召喚できない。 自分フィールドの魔法使い族モンスター1体をリリースした場合のみ特殊召喚できる。

(1):このカードの攻撃力は、自分の手札の数×500アップする。

(2):1ターンに1度、魔法カードが発動した時に発動できる。その発動を無効にする。

(3):フィールドのこのカードが戦闘または相手の効果で破壊された場合に発動できる。手札・デッキから「沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン」以外の 「サイレント・マジシャン」モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。

 

「なんだこれは……」

 

『あ……そ、それは……』

 

 ふと、声を上げたサイレント・マジシャンを見ると、杖から片手を離し、丁度絵柄のようにその手で頭に触れた。しかし、凛とした氷のような絵柄の表情とは異なり、目の前のサイレント・マジシャンは嬉しさと恥ずかしさが入り雑じったように頬を朱に染め、頭を掻きながらポツリと呟いた。

 

『は、初めて私を見て頂いて、その上に会話まで出来たのが、嬉し過ぎて……感極まって増えてしまいました……』

 

「そ、そうなのか……」

 

 万丈目はサイレント・マジシャンのわかるようでわからない答えに、それだけ返すのが精一杯であった。

 

 彼は色恋沙汰に対し、空回りはするとはいえ、持ち前のプライドの高さから押すのは得意なのだが、押されるのは全く耐性がなかったのである。

 

 とりあえず、万丈目は頭をサイレント・マジシャンから打倒、遊城十代らへと切り替え、まずは目先のデュエルアカデミアノース校を目指すのであった。

 

 

 

 

 

『アニキー、ちょっとオイラのことも忘れないでよ~』

 

 それともう1体、精霊(おジャマ・イエロー)が万丈目に居憑いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《はーい、皆さん今日も私の授業――実戦デュエル学を始めますよー!》

 

 デュエルアカデミア本館の室内デュエル場で、そう言う女性教師――ヴェノミナーガさんことメデューサ先生はマイク片手にそう宣言した。

 

 メデューサ先生はデュエルリングの真ん中におり、ピンマイクを襟につけ、手には小さめのビンゴマシーンを抱えている。

 

《いつも通り、生徒皆さんの中から無作為に選出した方と、お題に沿った題材のデッキで私がデュエルをして、デュエルしながら授業致します!》

 

 そして、ビンゴマシーンに手を掛けた。

 

《じゃかじゃかじゃかじゃか……ジャン! ………………こっそり、もう一回……よし! オベリスクブルー女子の"枕田ジュンコ"さん! 前に出て来てください!》

 

「ええっ!? わ、私!?」

 

 無作為。引き直さないとは言っていない。まあ、たぶん当たったら心がへし折れそうな留年しているオシリスレッドの生徒を最初に引いたのだろう。

 

 しかし、枕田ジュンコと言えば、天上院の取り巻きの片割れだな。入学して以来、ずっと前田ジュンコだと思っており、最近になって枕田だったことを知ったのはナイショである。

 

「あら? 今日はジュンコなのね。羨ましいわ」

 

「そう思えるだけ天上院は勤勉だな」

 

 生徒は全員観客席に座っており、何故か俺の隣には天上院がいる。そして、観客席を見渡せば、明らかにいつもの授業よりも出て来ている生徒が多い上、教員がチラホラと座っている姿も見られた。

 

《今日の私のデッキテーマはこれ! "墓地利用"です!》

 

 スクリーンが起動し、デカデカと"墓地利用"という文字が浮かび上がった。

 

 墓地そのものが、前世では第2の手札と呼ばれるほど重要視されているため、非常に基本的なことなのだが、この世界ではまだカードプールが古いためにあまり浸透はしていないこと、未だに単純なカードパワーが至上なところがあるため、墓地はただの墓地と扱われていることも多いのである。

 

 実際、室内デュエル場にいる者の反応は、教員を含めてあまり好ましい様子はなかった。まあ、前回のデッキテーマが、装備カードであり、【ベンケイ1キル】などというロマンしかないデッキを使ったため、全員が目を輝かせていた反動もあろう。それに比べれば、題材がわかりにくく、ちょっと地味に見えるのは否めない。

 

 前回なんて、相手がカイザー先輩であり――。

 

当たり前のようにサイバー・エンド・ドラゴン融合召喚。

カードカー・Dでターンエンド。

サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃をバトルフェーダーで停止。

大嵐で伏せ除去、何かを感じたカイザー先輩が伏せていたリミッター解除を発動。ダンディライオンを愚かな埋葬で落としてトークン2体生成。重装武者ーベン・ケイ召喚後に団結の力2枚と魔導師の力1枚を発動。バトルフェーダー+トークン×2+ベン・ケイの4体で、団結の力1枚につき、攻撃力3200ポイントアップ。魔導師の力で1500ポイントアップ。ベン・ケイの攻撃力8400かつ装備の枚数だけ攻撃回数を増やすため、4回攻撃でフィニッシュ。

 

 ――という試合だったからな……。

 

 そんなことを考えているうちに枕田が先攻でターンを終えていた。

 

ハーピィ・レディ(ワン)

星4/風属性/鳥獣族/攻1300/守1400

このカードのカード名は「ハーピィ・レディ」として扱う。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、風属性モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。

 

ハーピィの狩場

フィールド魔法

(1):フィールドの鳥獣族モンスターの攻撃力・守備力は200アップする。

(2):自分または相手が、「ハーピィ・レディ」または「ハーピィ・レディ三姉妹」の召喚・特殊召喚に成功した場合、そのプレイヤーはフィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動する。そのカードを破壊する。

 

ハーピィ・レディ(ワン)

ATK1300→1600→1800

 

枕田

手札4

モンスター1

魔法・罠1

 

 うーん、狩場は先に置くカードではないような気がするが……まあ、いいか。他の生徒とデュエルしたときに比べてもかなりマシな先攻1ターン目だ。

 

《墓地利用を頻繁に行うデュエリストとして、最も有名な方はなんと言っても、我がデュエルアカデミアが誇る禁止カード級戦力、プロランク4位のナイトメアことリック・べネットさんでしょう》

 

手札

5→6

 

 メデューサ先生はドローして、手札に目を落としながらもピンマイクに話し続け、スクリーンのスライドが切り替わった、

 

《彼のデッキは延々と"仮面魔獣デス・ガーディウス"を使い回し、更にあらゆる最上級モンスターを出し続けるデッキと思われがちですが、追い詰めた場合に飛び出す切り札は"ダーク・クリエーター"や、"ダーク・アームド・ドラゴン"といった墓地の闇属性モンスター枚数を参照する特殊召喚モンスターです。そのため、彼のデッキには"おろかな埋葬"や、"テイクオーバー(ファイブ)"が積まれており、下級モンスターのほとんどは闇属性で構成されています》

 

 説明と共に次々と、俺がデス・ガーディウスや、ダーク・モンスターを使って生徒に止めを刺すときの姿を納めた写真が映っていた。明らかに俺の後方斜め上から撮られた奇妙な写真であるが、それを疑問に思うのは俺ぐらいであろう。

 

《ちなみに彼の持つダークモンスターは全て、既に海馬コーポレーションに吸収合併されたパラディウス社が数枚だけ製造した絶版レアカードなので、まず市場には流通しません。完全に蛇足ですが、彼は今は"ダーク・シムルグ"を3枚ほど探しているそうです。見つけて交渉すれば彼が1枚でも超高額で買い取ってくれると思いますよ》

 

 いや、確かに買い取るが、なんでそれをここで言うんだ……。

 

《デュエルに戻りますと、私は手札から魔法カード"封印の黄金櫃(おうごんひつ)"を発動。効果によって、"未来融合-フューチャー・フュージョン"を除外。私で数えて、2回目のスタンバイフェイズに手札へ加わりますね》

 

 万能サーチカード封印の黄金櫃、通称おひつとは懐かしいな。いつの間にか使わなくなって久しい。それにフューチャーフュージョンか……。

 

《更に私は"カードガンナー"を召喚します》

 

カードガンナー

星3/地属性/機械族/攻 400/守 400

(1):1ターンに1度、自分のデッキの上からカードを3枚まで墓地へ送って発動できる。このカードの攻撃力はターン終了時まで、この効果を発動するために墓地へ送ったカードの数×500アップする。

(2):自分フィールドのこのカードが破壊され墓地へ送られた場合に発動する。 自分はデッキから1枚ドローする。

 

 ふむ……今の展開で、墓地利用となると構成的には【未来龍】か、【未来オーバー】だろうか? カードガンナーを使うなら両方あり得るが、ソリティアやワンショットキル好きなメデューサ先生的には【未来オーバー】の方が濃厚か……。いや、サイバー・ドラゴンは、俺と同じくメデューサ先生もあまり使わないし、生徒向けなので、オーバーロード・フュージョンで、ガトリング・ドラゴンを作るデスペラード・リボルバー・ドラゴン軸の単純な【闇・機械】の可能もあるな。

 

「それだけの情報でもうデッキが判断できるのか……?」

 

「ええ、カイザー先輩。"未来融合-フューチャー・フュージョン"を使用する意味の強いデッキはあまり多くはありませんからね。その中で、現状のカードプールでは墓地利用を特に出来る種族がドラゴン族か、機械族です」

 

「なるほど……今回は特に参考になりそうだ」

 

 そう言いながら口元を僅かに歪ませるのは、俺から見て天上院とは逆サイドに座る3年の丸藤亮ことカイザー先輩である。

 

《"カードガンナー"の効果。1ターンに1度、自分のデッキの上からカードを3枚まで墓地へ送って発動できます。このカードの攻撃力はターン終了時まで、この効果を発動するために墓地へ送ったカードの数×500アップします。もちろん、私はデッキから3枚カードを墓地へ送ります》

 

「うわっ、超えられた!?」

 

カードガンナー

ATK400→1900

 

《無論、"カードガンナー"で"ハーピィ・レディ(ワン)"を攻撃。おさらばです》

 

枕田

LP4000→3900

 

《手札から"サイクロン"を発動。"ハーピィの狩場"を破壊します。更にカードを2枚セットしてターンエンドです》

 

メデューサ先生

LP4000

モンスター1

魔法・罠2

手札1

 

 

「……でもターン終了時に"カードガンナー"の攻撃力は400ポイントに戻るわよね?」

 

カードガンナー

ATK400

 

「ああ、それでいいんだ。"カードガンナー"には破壊された時にカードを1枚ドローする効果がある。普通に破壊されれば、アドバンテージを全く損ねず、墓地にカードを送れるモンスターだからな」

 

「そんなに墓地にカードを送る必要があるの……?」

 

「まあ、その辺りはすぐにわかるよ。"未来融合-フューチャー・フュージョン"が手札に加わったターンにな」

 

 そんな会話を天上院としていると、いつの間にか枕田の召喚したハーピィ・レディ・SB(サイバー・ボンテージ)により、カードガンナーが戦闘破壊された。

 

《リバースカードオープン、罠カード"ディメンション・ウォール"。この戦闘での戦闘ダメージは、代わりに枕田さんが受けます。そして、戦闘破壊されたことで、"カードガンナー"の効果発動。自分フィールドのこのカードが破壊され墓地へ送られた場合に発動、自分はデッキから1枚ドローします》

 

「なるほど……低いATKで破壊されることを見越して、"魔法の筒(マジック・シリンダー)"ではなく、"ディメンション・ウォール"を使っているのか」

 

「ほんと、当たり前のように引いていますよね」

 

メデューサ先生

手札1→2

 

枕田

LP3900→2500

 

「た、ターンエンドで……」

 

 枕田は倒したにも関わらず、ダメージを受けたことに困惑した様子でターンを終えた。

 

 平和なデュエルだなぁ……まあ、でもデュエルアカデミアでもこれぐらいが普通だからな。女子生徒はそもそも全員オベリスクブルーなので競争は薄く、枕田もまだ1年生なので、神楽坂や十代ぐらいデッキを回せという方が酷であろう。かといって、別にオベリスクブルーの1年の男子生徒が女子生徒よりも強いのかと言えば……正直、ドングリの背比べだな。大差ない。

 

枕田

LP2500

手札4

モンスター1

魔法・罠0

 

ハーピィ・レディ・SB(サイバー・ボンテージ)

星4/風属性/鳥獣族/攻1800/守1300 このカードのカード名はルール上「ハーピィ・レディ」として扱う。

 

ハーピィ・レディ・SB(サイバー・ボンテージ)

ATK1800

 

 

《私のターンドロー。私は手札から"強欲な壺"を発動》

 

手札2→3

 

《そして、"ハイドロゲドン"を攻撃表示で召喚します。更にリバースカードオープン、永続罠"リビングデッドの呼び声"を発動。"仮面竜(マスクド・ドラゴン)"を特殊召喚します》

 

ハイドロゲドン

星4/水属性/恐竜族/攻1600/守1000

(1):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時に発動できる。デッキから「ハイドロゲドン」1体を特殊召喚する。

 

仮面竜(マスクド・ドラゴン)

星3/炎属性/ドラゴン族/攻1400/守1100

(1):このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚する。

 

「ああ、"フロフレホルス"か……」

 

「……!? "ハイドロゲドン"と"仮面竜(マスクド・ドラゴン)"のたった2枚でもうデッキを特定したのか?」

 

「ああ? まあ……この辺は慣れだよ。少し珍しいデッキだな」

 

 三沢にはそれだけ答えたが……また、随分と懐かしい……数多の環境デッキの陰に埋もれた良デッキを持ってきたものだな……。

 

「けれどこれじゃ、"ハーピィ・レディ・SB(サイバー・ボンテージ)"は倒せないわよ? どうしてカードガンナーを蘇生させなかったの?」

 

「ああ、それはライフを必要経費とすれば、どちらでも大差ないどころか確実に墓地が肥やせるからだ」

 

《私は"仮面竜(マスクド・ドラゴン)"で"ハーピィ・レディ・SB(サイバー・ボンテージ)"を攻撃します》

 

「……え?」

 

メデューサ先生

LP4000→3600

 

 当然、ハーピィ・レディに仮面竜は負けて、戦闘破壊される。

 

《私は"仮面竜(マスクド・ドラゴン)"の効果で、"仮面竜(マスクド・ドラゴン)"を特殊召喚。そして、"ハーピィ・レディ・SB(サイバー・ボンテージ)に攻撃。更にもう一度これを繰り返します》

 

「め、メデューサ先生なにしてるの!?」

 

 まあ、無理はないが、枕田は酷く驚いた様子だった。繰り返される自爆特効に、生徒や教員も騒然とし、"遂に壊れたか"という声が生徒から聞こえ始める。

 

 遂に壊れただなんて失礼な……ヴェノミナーガさんは元から壊れているだろ。

 

メデューサ先生

LP3600→3200→2800

 

《最後の"仮面竜(マスクド・ドラゴン)"の効果で、"ボマードラゴン"を特殊召喚します。そして、"ボマードラゴン"で"ハーピィ・レディ・SB(サイバー・ボンテージ)を攻撃です》

 

ボマードラゴン

星3/地属性/ドラゴン族/攻1000/守 0

(1):このカードの攻撃で発生するお互いの戦闘ダメージは0になる。

(2):このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた場合に発動する。このカードを破壊したモンスターを破壊する。

 

 どう見てもあからさまにヤバそうな爆弾を抱いたままホバリング飛行するドラゴンが現れ、すぐにハーピィ・レディへと突っ込んで行った。

 

ボマードラゴン

ATK1000

 

「またっ!?」

 

《いえ、"ボマードラゴン"の戦闘時、互いにダメージは0になり、このカードが破壊され、墓地へ送られた場合、破壊したモンスターを破壊します》

 

 案の定、ボマードラゴンはハーピィ・レディからの迎撃の羽を飛ばす攻撃の全てを受けながらもまるで止まらず、そのままハーピィ・レディの目の前まで到達すると、爆弾が激しく光り輝き、大爆発を起こして2体とも消え去った。

 

 ソリッド・ビジョンで見ると、とんでもないカードだな……ボマードラゴン。

 

《最後に"ハイドロゲドン"で直接攻撃し、カードを1枚セットしてターンエンドです》

 

枕田

LP2500→900

 

メデューサ先生

LP2800

手札2

モンスター1

魔法・罠1

 

 いやぁ……ヴェノミナーガさんも生徒の授業用に随分自重してるなぁ……。 

 

「それでフロフレホルスっていうのは……?」

 

「ふむ……ホルスは"ホルスの黒炎竜"だということはわかるが……フロフレとはなんだ?」

 

「フロフレは"氷炎の双竜(フロストアンドフレイム・ツインドラゴン)"の略称ですよ。デッキの構成としては、【氷炎の双竜】、【お触れホルス】、【未来龍】の3つのデッキから、いいところだけを掛け合わせた複合デッキです」

 

「は、発想が既にスゴいわね……」

 

「統一デッキを2つ合わせるデッキがあるということは知っていたが、別のコンボを組み込んだデッキを3つ合わせたデッキなのか……」

 

「可能なのかそんなことが!?」

 

 ちなみに前には三沢がおり、フィールドを見ながら俺の話を熱心に聞き、時々声を上げつつメモを取っている。勉強熱心でいいことだな。

 

 また、メデューサ先生の半実技の授業中は、このように片側をカイザー先輩、もう片側を天上院に固められて座ることが多い。後ろの席には無論、天音ちゃんが座って比較的大人しくしている。

 

「可能も可能です。見ていればすぐにわかりますよ」

 

 実際、レシピを見てもイマイチぱっとしないというのは否めないが、それでもフロフレホルスは当時の強デッキのひとつだった。

 

 とは言え、その頃の環境トップと言えば、あの【帝コントロール】。【フロフレホルス】はそれに惜しくも及ばずに消えたデッキであり、環境に食い込んだ最後のホルスデッキとも言われている。また、フロフレホルスを最後に、ホルスの環境は約3年程だった。

 

 正直、俺は【帝コントロール】よりも遥かによく考えられた宝石のようなデッキのひとつだと思う。【ドグマブレード】や【活路エクゾ】も戦法はあれだが、最初に考え付いた奴は本物の天才だと思う事と同じだ。

 

 また、仮に氷炎の双竜か、ホルスの黒炎竜 LV6の攻撃力が2300ではなく、2500だったのなら……帝コントロールを抜けたかもしれないと思うと、なんとも言えない気分になるというものだ。

 

 そんなことを考えているうちに、バードマンでハイドロゲドンを倒し、カードを2枚セットして枚田はターンエンドした。

 

バードマン

星4/風属性/鳥獣族/攻1800/守 600

マッハ5で飛行する鳥人。その眼光は鷹より鋭い。

 

バードマン

ATK1800

 

メデューサ先生

LP2800→2600

 

《枕田さんのエンドフェイズ時に私は永続罠、"王宮のお触れ"を発動します》

 

「うっ……!?」

 

 両方トラップだったような反応だなぁ。

 

枕田

LP900

手札2

モンスター1

魔法・罠2

 

 

 さあ……始まるぞ。

 

《私のターンドロー。発動から2回目のスタンバイフェイズになったため、私は"未来融合-フューチャー・フュージョン"を手札に加えます。そして、"埋葬呪文の宝札"を発動。墓地の魔法カードを3枚――"封印の黄金櫃"、"サイクロン"、"早すぎた埋葬"をゲームから除外し、2枚ドロー》

 

手札2→4

 

《手札から"未来融合-フューチャー・フュージョン"を発動。自分の融合デッキから融合モンスター1体をお互いに確認し、 決められた融合素材モンスターを自分のデッキから墓地へ送ります。私は"F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)"を選択。融合素材はドラゴン族モンスター5体のため、"ブリザード・ドラゴン"3体と、"ホルスの黒炎竜 LV6"を2枚墓地に送ります》

 

 次々とデッキからカードを抜き出し、デュエルディスクのセメタリーエリアにカードが吸い込まれていく。

 

《発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に、確認した融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚します》

 

 やはり、エラッタ前の効果は凶悪だなぁ……。

 

《そして、私は墓地の"ブリザード・ドラゴン"を2枚と、"仮面竜(マスクド・ドラゴン)"を除外し、手札から1体目の"氷炎の双竜(フロストアンドフレイム・ツインドラゴン)"を特殊召喚。更に墓地の"ブリザード・ドラゴン"、"ハイドロゲドン"、"仮面竜(マスクド・ドラゴン)"の3枚を除外し、手札から2体目の"氷炎の双竜(フロストアンドフレイム・ツインドラゴン)"を特殊召喚します》

 

"氷炎の双竜(フロストアンドフレイム・ツインドラゴン)"

星6/水属性/ドラゴン族/攻2300/守2000

このカードは通常召喚できない。自分の墓地の水属性モンスター2体と炎属性モンスター1体をゲームから除外した場合のみ特殊召喚できる。1ターンに1度、手札を1枚捨てて発動できる。フィールド上のモンスター1体を選択して破壊する。

 

 二股に首が別れ、それぞれ氷の炎の首を持った細身のドラゴンが2体現れる。

 

氷炎の双竜(フロストアンドフレイム・ツインドラゴン)

ATK2300

 

氷炎の双竜(フロストアンドフレイム・ツインドラゴン)

ATK2300

 

《"氷炎の双竜(フロストアンドフレイム・ツインドラゴン)"は、墓地の水属性モンスター2体、炎属性モンスター1体を除外することで特殊召喚できるモンスターです》

 

 その光景にカイザー先輩、天上院、三沢は開いた口が塞がらないといった様子だが、補足することにした。

 

「メデューサ先生も説明していますが、それが"氷炎の双竜(フロストアンドフレイム・ツインドラゴン)"です。そして、これまでの過剰にさえ見える墓地送りは、全てこの時のためですよ」

 

「…………でもそれなら"仮面竜(マスクド・ドラゴン)"を3回も破壊する必要はあったのかしら? "未来融合-フューチャー・フュージョン"で送った分で炎属性は足りている筈よね?」

 

「ああ、それは……どうせ"竜の鏡(ドラゴンズ・ミラー)"を引いているからだよ」

 

《手札から通常魔法、"竜の鏡(ドラゴンズ・ミラー)"を発動。自分のフィールド・墓地から、 ドラゴン族の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、 その融合モンスター1体を融合デッキから融合召喚します。私が選択するモンスターは――"F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)"。墓地の"ホルスの黒炎竜 LV6"を3体、"ボマードラゴン"を1体、"仮面竜(マスクド・ドラゴン)"を1体除外し、"F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)"を特殊召喚します》

 

F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)

星12/闇属性/ドラゴン族/攻5000/守5000

ドラゴン族モンスター×5

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

(1):このカードは闇・地・水・炎・風属性モンスターとの戦闘では破壊されない

 

 闇・地・水・炎・風の首をそれぞれ持つ、デュエルリングに収まり切らないほど巨大なドラゴンが現れた。

 

F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)

ATK5000

 

「なるほど……墓地に水属性モンスター4体、炎属性モンスターが2体、ドラゴン族モンスターが5体の計11体存在しなければ成立しないコンボか……とてつもないな……」

 

「嘘……"カードガンナー"の効果がこんなところで……」

 

「な、なんなんだこのデュエルタクティクスは……想像すら出来ない!?」

 

「いや、まだですよ。メデューサ先生には後、手札が1枚残っていますからね」

 

 俺の予想が正しければ"次元融合"か、"死者蘇生"辺りだよなぁ。まあ、ホルスを全て除外していたので恐らくは――。

 

「流石にこれ以上は――」

 

《最後に魔法カード、"次元融合"を発動します。2000ポイントライフを支払うことで、お互いに除外されているモンスターカードを可能な限り、特殊召喚します。私は2体の"ホルスの黒炎竜 LV6"を特殊召喚です》

 

メデューサ先生

LP2800→800

 

ホルスの黒炎竜(こくえんりゅう) LV(レベル)

星6/炎属性/ドラゴン族/攻2300/守1600

このカードは自分フィールド上に表側表示で存在する限り、魔法の効果を受けない。このカードがモンスターを戦闘によって破壊したターンのエンドフェイズ時、このカードを墓地に送る事で「ホルスの黒炎竜 LV8」1体を 手札またはデッキから特殊召喚する。

 

 時空が歪み、その中から金属のような質感の体をした神の偶像の怪鳥が2体現れる。

 

ホルスの黒炎竜 LV6

ATK2300

 

ホルスの黒炎竜 LV6

ATK2300

 

 とんでもない大量展開により、カイザー先輩、天上院、三沢を含めて会場は誰1人として言葉の出ない有り様になり、対戦相手の枕田は放心しきっており、魂が出てしまったような状態になっていた。

 

 改めて、メデューサ先生のフィールド上を見渡してみる。

 

氷炎の双竜(フロストアンドフレイム・ツインドラゴン)

ATK2300

 

氷炎の双竜(フロストアンドフレイム・ツインドラゴン)

ATK2300

 

F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)

ATK5000

 

ホルスの黒炎竜 LV6

ATK2300

 

ホルスの黒炎竜 LV6

ATK2300

 

 なんかもうF・G・Dの巨体だけで、フィールド上の空きスペースがほとんどないにも関わらず、数mのドラゴンが4体も並んでいるので、寿司詰め状態だが、皆キリリとした顔で並んでいるため、圧倒的な壮観を覚える。

 

 少しだけ余韻に浸っているのか、メデューサ先生は止まって自分のモンスターを見渡した後、片手を掲げた。

 

《では、総攻撃。エレメント・バースト・フレア》

 

「先生待っ――」

 

枕田

LP900→0

 

 

 掲げた手は無情にも振り下ろされ、まるで必要のない俺もよくやる過剰召喚からの同時過剰攻撃により、枕田は自分のフィールドごと吹き飛び、ライフポイントを消し飛ばされた。

 

「…………ジュンコには悪いけど、いいものを見せて貰ったわ。後で慰めてあげなきゃね」

 

「そうした方がいいな……」

 

「3つのタクティクスの合成……デュエルモンスターズは奥が深過ぎるな!」

 

 枕田は地面に女の子座りで座り込んだまま、少し涙を浮かべていた。それはあんなものを普通に正面から見れば、ミンチすら残らないド迫力の死亡シーンだものな。

 

 そんな枕田を他所に、メデューサ先生は再びデュエルリングの中央にやって来ると、大きく体を動かしつつ、ピンマイクに声を張り上げた。

 

《さーて、ではいつも通り、私とこのデッキでデュエルしたい人はいるかなー!》

 

「はーい! はいはいはい! 俺! 俺がやります!」

 

《はい、じゃあ、遊城十代くん。デュエルリングに来て下さい》

 

 案の定、最初に食いついたのは、我らが十代であった。デュエルの前から非常に嬉しそうな様子かつ、軽やかな足取りで、デュエルリングに向かって行くのが見える。

 

「あっ、十代! 次は私よ!」

 

「ならその次は俺も参加したいな……」

 

「俺も忘れないでくれよ!」

 

 あれだけの光景を見せつけられても、これだけ挑戦者がいるのだからそれだけでも、このデュエルアカデミアに来た価値があるというものだ。

 

 そして、早速。十代 VS メデューサ先生のデュエルが始まった。

 

「それにしても、メデューサ教諭は一体何者なんだ……? 突然、現れたかと思えば特にこれといった経歴はないにも関わらず、極めてハイレベルのデュエルタクティクスを持ち、伝説と呼ばれるLVモンスターまであらゆるカードを持っている……」

 

 ある意味、当然の疑問がカイザー先輩から疑問が出たため、そのまま伝えることにした。

 

「それはもちろん、神様ですよ。デュエルモンスターズのね」

 

「ふふっ! 神様だなんて、リックったらおかしい……」

 

「フッ……いや、ナイトメアに神と慕われるほどの方なのならある意味納得だな」

 

「まあ、そんな感じですよ」

 

 メデューサ先生こと、ヴェノミナーガさんの実技授業はこのように行われ、ソリティアやワンショットキルはこのように役立っているのであった。

 

 






なんでこの小説の万丈目さんこんなにリア充なんですか?(殺意)


あっ、そうだ(唐突)。いつも感想ありがとうございます。感想は作者の養分かつポリシーとして全て返信いたしますのでどしどしお寄せください。




~QAコーナー~

Q:サイレント・マジシャンちゃんはどんな性格なの?

A:とある匿名の毒蛇神から毒気とウザキャラを抜いて、毒蛇神に致命的に足りない奥ゆかしさと、気立てのよさと、誠実さと、自重と、羞恥心を足したような性格だよ!


Q:なんで毒蛇神が引き合いに出させるの?

A:何故かは作者もまるでわかりませんが、生まれたのがI2ジュニアカップだとすると、リックくんが約11歳のときのお話なので、あの体型にも関わらず、現在は約5歳となっております。




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代表デュエル 前



『さあ、飛ぶわよ!』

今の環境はドロシー抜きドロシーですが、初投稿です。






 

 

 

 

 遂にノース校との友好デュエル日の当日となった。

 

 そして、ノース校代表団が港に来る筈のため、お出迎えとしてデュエルアカデミアの生徒が集まっているのだが――。

 

『なんで肝心な代表の十代さんが居ないんですかねぇ……』

 

「超がつくマイペースな上、緊張とは無縁の男ですからねぇ。まあ、丸藤が探しに行きましたし、すぐに来るでしょう」

 

 既にノース校の移動手段であり、目のマークがちょっと可愛い潜水艦が港に乗り付けられており、クロノス先生と、鮫島校長が、ノース校の一ノ瀬校長に対応している。

 

「校長先生。挨拶はその辺にしてさ。早く、俺の相手紹介してよ!」

 

 すると、クロノス先生と鮫島校長からするりと、十代が生えるよう現れ、雑談しつつ握手を交わす2人の校長らの会話に入った。

 

『………………最早、才能ですね』

 

「まあ、十代のそういうところは長所であり、短所ですからねぇ」

 

 あんな感じだから主に中等部から進学したオベリスクブルーや、ラーイエローの成績、プライド、しきたり等を重んじる生徒に反感を買い続けたんだろうな。それに、本人が一切気づいておらず、気にもしていないのだから質の悪い話だ。

 

 郷に入っては郷に従えとか、空気を読めとか、デュエルするなとか十代にはそもそも苦手なのだろう。

 

『あれ……? おかしいな……? ブーメランかつツッコミ待ちですか?』

 

「俺はちゃんと1人ずつデュエルで話し合った上で、好きにやっているので、全員了承済みですよ」

 

『十代くんや、十代くんらを普通にオベリスクブルー寮に入れるマスターによい感情を抱かない生徒を、片端からデュエルで叩き潰していただけなんだよなぁ……最近は"覇王"とか呼ばれ始めてますし』

 

 いいんだよ。そもそも校則上は他の寮の出入りについての制限は一切ない。唯一、男子生徒が、女子寮に入る際は予め、許可や申告が必要というか、流石にしないと不審者として捕まり兼ねないぐらいだからな。

 

『ただし、イケメンは顔パスですけどね、あの寮。丸藤亮さんとか勿論、たぶんマスターが入っても何も言われてないでしょう』

 

「いや、流石にそれはないんじゃないか……?」

 

 カイザー先輩だって無断で堂々と入れば捕ま……る姿は想像出来ないが、ダメだろ多分……。

 

『マスターだって、顔だけはいいんですから大丈夫ですよ』

 

「お前、本当そういうところだぞ」

 

『あっ、"お母さん"! リックさん! お久しぶりです!』

 

 ヴェノミナーガさんと他愛もない雑談をしていると、凛とした聞き覚えのある声が聞こえたため、そちらに向くと、白い服装の魔法使い――サイレント・マジシャンがヴェノミナーガさんが浮かんでいるのと同じ高さを、ふよふよと浮いていた。

 

『あらら? サイレント・マジシャンちゃんじゃないですか? 3ヶ月前に退学した万丈目さんについて行ったのに戻ってきたんですか?』

 

 このサイレント・マジシャンは、5年前にI2ジュニアカップで当たった対戦相手――万丈目準に対し、藤原に憑依中のヴェノミナーガさんが渡したカードであり、見ての通りの精霊である。

 

 そのときなんとなく、ヴェノミナーガさんの魂のひと欠片を複製・転写して生まれた精霊であるため、"性格は私とそっくりなんです!"……とは本人談だが、正直、ギゴバイトと、ゴギガ・ガガギゴぐらいはテキストの設定まで含めて違うレベルなので、鳶が鷹を生んだようにしか感じない。正直、ヴェノミナーガさんと交換して欲しいところだ。

 

 というか、最初に聞いたとき、精霊がそんな適当な生まれ方でいいのか……と思ったが、ヴェノミナーガさんが首を傾げて、当然のような顔で――"私、デュエルモンスターズの神様ですよ?"と言ったため、そう言えばそうだったなと久しぶりに思い出したりしたことも覚えている。

 

 ちなみに、万丈目がデュエルアカデミアにいることは知っており、何度も見掛けたが、結局一度もデュエルは仕掛けず、会話をすることもなかった。

 

 というのもサイレント・マジシャンに"マスターが会いたがっていないので、なるべくデュエルはしないで欲しいんです"と、入学してすぐに頼み込んできたため、真っ先にデュエルを吹っ掛けようとしていた俺だったが、仕方なく止めたのである。実際に生活していると、明らかに万丈目は俺を避けているようであり、結局退学までデュエルも会話もほとんどせずに今に至るのだ。

 

『ち、違いますよ! えへへ……遂にマスターが、私を見えるようになったんです! それに今回のノース校代表は、マスターなんですよ!』

 

「なんだって……?」

 

『あらら、それはまた、随分と面白いことになっていますねぇ……』

 

 すると、ノース校の潜水艦から取り巻きを引き連れ、黒いコートを纏った万丈目が現れる。

 

 そして、こちらが眺めていると、万丈目は俺と目を合わせ、今度は退学前と違い、いつかデュエルリングで対峙したときのような挑戦的な目を向け――。

 

 ――斜め上に浮かぶヴェノミナーガさんに目を向け、しばらく目を点にした後で絶叫した。

 

『あ、あれ……? お母さんのことはちゃんとマスターに伝えておいたんですけど……?』

 

「なんて?」

 

『はいっ! 常に活気と生命力に満ち溢れ、生き生きとして艶々な長い髪をし、綺麗で堂々とした素晴らしい女性だと!!』

 

「君の瞳に映る世界は何もかもがさぞ美しく見えるんだろうね」

 

『なんでや、サイレント・マジシャンちゃんひとつも間違ったこと言ってないでしょう!?』

 

 そんな会話をしていると、風と駆動音を感じたため、何かと思えば、突然港のヘリポートに"万"というマークが刻まれたヘリコプターが着陸し、テレビ関係の者がわらわらと現れ始める。

 

 目を丸くしつつ静観すると、どうやら万丈目の2人の兄が、万丈目には全く伝えずにテレビで生中継をすることにしたらしい。

 

「…………なんだか、キナ臭くなってきたな」

 

『知りもしない大手グループの犬も食わない家族の問題に首を突っ込んでもろくな結果にはなりませんよ?』

 

 それでもデュエルは、デュエリストとデュエリストの魂のぶつかり合いだ。それに水を差す輩がいるのなら……少しぐらい後押ししてもバチは当たらないだろう。

 

 勝ち気で、傲慢な程にプライドが高く、そのわりには傷つき易い、口は悪いが困っている人間を放っておけるほど悪人でもない。一度、デュエルし、その後は遠くから見ているだけだったが、俺の知る万丈目はそのような奴であり、また俺の前に立つのを楽しみにしている相手のひとりなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこで今日はお前をプロモートし、カードゲーム界のスターにするのが、我らの狙い」

 

 万丈目は、デュエルアカデミア本館の男子更衣室にて、長兄の万丈目長作と、次兄の万丈目正司に囲まれ、万丈目グループが政界、財界、そしてカードゲーム界の覇権を握る野望について聞かされる。

 

「準、クロノス教諭とかに聞いたが、お前……3ヶ月前にここを退学したそうじゃないか」

 

「それは……」

 

 万丈目の側にいつもいるサイレント・マジシャンの精霊は今日に限って何故かおらず、それに万丈目は無意識のうちに僅かばかりの心細さを覚えていた。

 

「いいか準! お前は元々、俺たち兄弟の落ちこぼれ!」

 

「我が万丈目グループ主催でテレビ中継するからには! 絶対に負けることは許さん!」

 

 その剣幕は相当なもので、執念とまで言えてしまえるほどの並々ならぬものが見られた。

 

「ここには、俺と兄貴が金にものを言わせたカードが山と入っている。これを使い、最強のデッキを組み立てるのだ! いいな準? 決して、万丈目グループの顔に泥を塗るようなことをするなよ?」

 

「準!」

 

「準!」

 

 その言葉に万丈目は答えることが出来ずに重圧を受け、それに答えなければならないことに足が震えていた。

 

 

 

「彼が"落ちこぼれ"ですか……」

 

 

 

 すると万丈目にとって、とても聞き覚えがある声が投げ掛けられる。

 

 2人の兄が声の方向を見ると、ロッカールームの扉の前に背が高く、やや筋肉質な好青年、遊城十代や、三沢大地よりも、万丈目にとっては打倒しなければならない最終目標の男――プロランク4位ナイトメア、リック・べネットの姿があった。

 

(な――!?)

 

 そして、彼を見下ろしつつ守るように神話のゴルゴーンの怪物のような女性モンスターがおり、見ているだけで万丈目は、2人の兄がまるで気にならなくなるほどの威圧感と絶望感を抱いた。

 

 また、その女性モンスターからは、絶えず赤黒と黒紫色をした闇のような力か溢れ出ており、精霊が見えるものならば、誰しもが決して関わってはいけない存在だということを本能的に直感するには余りあり過ぎる風体をしている。

 

 いるだけで、本能的な恐怖と絶望を与えるそのオーラ足るや尋常ではなく、

 

 しかし、そんな悪魔以上の何かを万丈目は、出迎えの時にも目にしているため、そこまでの驚きはなかった。そのため、何に驚いているのかと言えば――。

 

 何故かサイレント・マジシャンがいつも被っている帽子を、怪物が被っており、怪物の隣に自身の精霊であるサイレント・マジシャンがいたからである。

 

 それでも次の瞬間に、サイレント・マジシャンが頭から怪物に食べられてしまうビジョンがありありと目に浮かぶため、万丈目は非常に焦る。

 

「盗み聞きするような真似になってすみません……私はリック・べネットと申します。ロッカールームに忘れ物をしてしまい、取りに来たところ、ドアの外で貴殿方の声が聞こえたのでどうしたものかと考えていると、気になる言葉が聞こえたので思わず入ってきてしまいました」

 

「ぷ、プロランク4位のナイトメアか……」

 

「兄者……私でも知っているよ」

 

 二人の兄は彼に対して驚いた様子である。

 

(や、やはり見えていないのか……)

 

「そうか、無断で学舎の一角を借りている私たちにも非があった。すぐに出て行こう」

 

「いえいえ、別にいつでもいいものだったので、ごゆっくり。ただ、私が少しだけ思ったことは、そこの万丈目くんは、少なくともデュエルに関して落ちこぼれでは決してないということです」

 

「ほう……それはそれは……」

 

(え…………?)

 

 万丈目は自身のことなど、歯牙にも掛けていないであろうと無意識に思っていた相手からの予想だにしていない発言に思考が止まった。

 

「私、これでも何百・何千とデュエルを重ね、デュエリストを見る目だけは持っているつもりです。そして、その中でも彼のデュエルに対する姿勢は目を見張るものがあります。私が、I2ジュニアカップで彼と当たったあの日の試合を今も覚えているほどにはです」

 

(覚えていたのか……?)

 

 それに万丈目は目を見開いて驚く。何せ今や時の人であるナイトメアにとって、プロになる前の些細な試合のひとつなど、仮に自分ならば一考にすら値しないものであると思っていたからだ。

 

 そして、少しだけ嬉しく思った瞬間――。

 

『ほー、ふーん……やはり兄似というだけあって2人とも万丈目さんによく似てらっしゃいますねぇ』

 

「な――!?」

 

 突如として、怪物が樹の幹のように太い蛇の下半身をくねらせて、ずるずると床を伝いながらあっという間に2人の兄を体で囲んでしまった。

 

 2人の兄は、カードゲーム界で、事実上のトップに極めて近い知名度と実力を備えた男である彼に、ほぼプライベートで直接会えたため、コネクションを作ろうとしているようだ。

 

 無論、B級映画の大蛇のような体躯に囲まれながら触れられようとも怪物に対して全く気づく様子はないが、思わず万丈目は声を荒げる。

 

「に、兄さんたちから離れろ……!!!?」

 

「な、なんだ準……? 失礼だろ」

 

「どうしたんだ準……?」

 

「あっ……ち、違っ……な、なんでもありませんっ!」

 

 万丈目を褒めるナイトメアと話し、万丈目から他の話題に切り替え始めた頃に、突然万丈目が叫んだため、2人の兄は眉間に皺を寄せた。

 

 2人が見えていないことを思い出し、俯いて少し足元を見つめてから万丈目は顔を上げ――。

 

『へぇ……この私に指図ですか』

 

「う――ッ!?」

 

 怪物と視線が交じり、蛇に睨まれた蛙のような面持ちでか細い悲鳴を上げた。

 

 そして、怪物はナイトメアと話し始めた2人からは離れたが、万丈目の方に興味を示し、その巨体で彼を囲むと、血のように赤い宝石にも似た輝きを帯びる双眼で見据えて、後数cmのところまで顔を近づけて来る。

 

 さらに髪の代わりとなっている蛇が蠢き、万丈目を頭を避けつつも、触れずになぞるように顔を囲む。

 

 怪物の表情は笑顔のように見えるが、喜とはあらゆる他の表情にも見えるため、万丈目に背筋を凍らせるほどの恐怖を抱かせたであろう。

 

『なるほど……傲慢なだけでなく、恐れつつもそれでも立ち向かう気概……マスターが認めただけはありますね。私の名前は"ヴェノミナーガ"です。コンゴトモ ヨロシク……』

 

 怪物――ヴェノミナーガは何故か最後だけ片言になり、目を三日月のように歪ませると、髪の代わりの蛇の1匹から出た舌が頬をなぞる。

 

 それだけ終えると、最初にいたナイトメアの背後に戻り、サイレント・マジシャンと何か話し込み始めた。

 

 2人の兄もナイトメアと話しており、極めて平穏な様子で談笑を続ける。

 

 尤も、ナイトメアの背後の上方から2人を何を、考えているのかわからない眼光と表情で眺めるヴェノミナーガをただひとり見ることが出来る万丈目は、気が気ではなかった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 3分ほど万丈目が居心地の悪い時間を過ごした後。いつの間にか、長兄の万丈目長作は少し浮き立った様子でナイトメアとの会話をしており、何かを渡し、ナイトメアがそれにペンを走らせている。

 

 そのうちに次兄の万丈目正司は、万丈目の元に来ると、小さく耳打ちした。

 

「まさか、ナイトメアと友人だとは……パイプの方は既にしっかりと作っていたのだな。見直したぞ準。そのまま、今日のデュエルも頼んだぞ」

 

 その後、ナイトメアは走らせていたペンを止め、それから少し万丈目長作と話した後、2人の兄は万丈目に一声掛けてからロッカールームを後にする。

 

 友人というものもナイトメアが語ったものであろうが、そこまでの関係として紹介されるとは微塵も思っていなかったため、困惑するばかりだ。

 

 そのときによく見れば、万丈目長作の手に、どこから持ってきたのかサイン色紙が握られており、ナイトメアのサインと、走り書きの割には妙に上手いホワイト・ホーンズ・ドラゴンの絵が描かれていたが、万丈目は色々なことが重なり過ぎたため、それに気づくことはなかった。

 

「………………」

 

「………………」

 

 バタリとロッカールームの扉が閉じ、これで正真正銘人間は万丈目とナイトメアの二人のみとなり、何とも言えない時間が流れる。

 

 そんな静寂を打ち破ったのは、案の定ナイトメアの方であった。

 

「クククッ……少しは、実兄たちに迫られていた時よりもマシな顔になったじゃないか。というか、ヴェノミナーガさん? 笑いそうになったから会話中にあんなことするのやめてください」

 

『前向きに検討します』

 

「そんな事実上の拒否をして全く……」

 

 ナイトメアの顔はこれまでの好青年のものから、どこか人を食ったような笑みに変わり、相変わらずあらゆるものを犯す闇のようなオーラを撒き散らすヴェノミナーガと、まるで友人のように冗談を交えて会話をし始めていた。

 

 そして、すぐにナイトメアは万丈目へと向き直り、口を開く。

 

「随分、紆余曲折した兄弟愛……いや、家族愛だな。まあ、少なくともあの2人は万丈目のことを考えての行動のようだから、部外者があれこれ言えることもない。話していて、彼らなりに万丈目を愛していることがよくわかった」

 

「何をしに来た……俺を笑いにでも来たのか……?」

 

「生憎、俺はデュエル以外で他者を(なぶ)る趣味はない。だが、壁に耳あり障子に目あり。他人の秘密は蜜の味だ」

 

『デュエル以外で嬲る趣味ないとかウッソだろお前!?』

 

 そう言いながらオーバーリアクションで驚いた様子を見せて吐かれたヴェノミナーガの呟きを無視しつつ、胸ポケットからカードを取り出すと、ロッカールームの至るところから紫色の目玉が現れ、ナイトメアの周囲に集結した。

 

モンスター・アイ

星1/闇属性/悪魔族/攻 250/守 350

1000ライフポイントを払って発動する。自分の墓地に存在する「融合」魔法カード1枚を手札に戻す。

 

 雑魚モンスターと呼べるそれは、ナイトメアにとって文字通り目を任されているらしい。

 

「――!? 精霊の力か……悪趣味だな」

 

「よく言われるが、キャラ的に今さらだ。それに精霊を見える人間か、精霊以外にはわかりはしないさ」

 

 そんなことを言いながらナイトメアは椅子に座り、万丈目に背を向けつつ2人の兄が持ってきたアタッシュケースを開けると、中身を眺め始めた。

 

「うわ……"真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)"に、"エビルナイト・ドラゴン"だ。確かにレアカードだなぁ……。ふむふむ、そこそこシナジーのあるカードが集まってるし、あの2人ああ見えてどちらかはデュエル経験者かな?」

 

 そして、万丈目を他所に中身の感想まで述べ始めるナイトメア。その気ままにしか見えない姿を見せつけられ、万丈目は徐々に自分のペースを取り戻していき、沸々と怒りがこみ上げ始める。

 

「お前には――」

 

 そして、自身に課せられた万丈目グループの男としての責務の重圧により、絶対に勝たねばならないというプレッシャーを受けているにも関わらず、万丈目にとっての夢である場所に立ちながら、ふざけた様子のナイトメアに思わず、思いの丈を吐き出した。

 

「お前にはわからんだろうな!? 俺の背負っているモノの重さなんて!!」

 

「………………」

 

 それを聞き、アタッシュケースのカードを捲っていたナイトメアの手が止まる。そして、カードを戻して、アタッシュケースを畳むと再び言葉を吐いた。

 

「2人の兄、万丈目グループ、勝ち続けなければならない重圧ねぇ……。お前が背負っているモノの重さなんて俺には未来永劫わからないだろう」

 

「キサマ……!」

 

「何せ俺は最初からデュエルモンスターズが好きで、デュエルをするのが愉しい、愉しくて堪らない。ドローの1枚にすら快感を覚える。そして、以前のデュエルよりも面白いデュエルをひたすらに求め続けていたら、気づけばこうなっていただけだ」

 

「楽しい……面白いだと……?」

 

 世界最高クラスのデュエルタクティクスを持つ、ナイトメアともあろうプロデュエリストがデュエルをする理由が、万丈目が忌み嫌った遊城十代とそう変わらなかったことに彼は目を見開く。

 

「まあ、俺のような考えは流石に極論だな。だが、最初から重圧や、プレッシャーや、使命感などに駆られてデュエルを始めた奴なんて誰も居ない筈だ。カードゲームならば純粋な夢、情熱、楽しみ……そういった感情が必ずどこかにあった筈だろう。それだけはどんなデュエリストでも忘れてはならないと俺は思う」

 

「…………何が言いたい?」

 

 万丈目がそう言うと、ナイトメアは小さく笑い、年相応の朗らかな表情になった。

 

「少なくとも自分のためだけにデュエルをしている俺より、自分とそれ以外の何かのためにデュエルが出来る万丈目の方が、俺よりもよっぽど上等なデュエリストなんじゃないかと思うぞ」

 

「――――――ッ!?」

 

「俺はマナーを守って楽しくデュエルが出来ればそれでいいからな。まあ、流石に世界を滅ぼしてもデュエルが出来ればいいとは思わないけどさ」

 

 そう言ってくつくつと笑うナイトメア。万丈目はわざわざそんなことをいいに来たのかと思いつつ、"彼なりに万丈目を激励するためだけに来た"ことに今更ながら気付き、気恥ずかしさで少しだけ顔を赤くした。

 

 しかし、素直ではない万丈目はそれを口には出さずに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるばかりだった。

 

「結局、己の心の痛みなんて、それこそ自分自身しかわからない。というか、そもそもお前は慰めやら、共感やらをされたいとも思っていないだろう? だったらこれだけ聞くぞ?」

 

 ナイトメアは大きく手振りをして自身を示し、次に万丈目を指し示す。

 

「俺は俺――リック・べネットだ。さて、お前は誰だ?」

 

 その答えは言うまでもなく、ずっと昔から決まりきっており、万丈目はナイトメアを手で指し、魂から言葉を絞り出した。

 

 

「俺は――万丈目さんだッ! 待っていろよナイトメア! 十代の次は必ず貴様を倒す!」

 

 

 その宣言に対し、ナイトメアは心底嬉しそうに笑みを強めるとただ一言――"楽しみにしている"とだけ呟いて、ヴェノミナーガを同伴し、この場から立ち去って行った。

 

 気がつけば万丈目から今日のデュエルへの恐れや震えは消え、ただ真っ直ぐに上だけを見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前たち! この俺を覚えているかァ!」

 

 ノース校とのデュエルの直前。万丈目と十代は既にデュエルリングで対峙しており、開始前に万丈目がデュエルアカデミア本校の生徒に対して啖呵を切っている。

 

『雑草みたいな子ですよね彼』

 

「言葉を慎みなさい」

 

 ヴェノミナーガさんを嗜めつつ、俺は大きな溜め息を吐いて彼らのやり取りを眺めた。

 

「この学園で俺が消えて、清々したと思っている奴! 俺の退学を自業自得だとほざいた奴!」

 

『今考えていること当ててあげましょうか?』

 

「…………なんですか?」

 

「知らぬなら言って聞かせるぜ……その耳かっぽじってよく聞くがいい! 地獄の底から不死鳥の如く復活してきた俺の名は――ッ!」

 

『十代くんと三沢くんとついでに校長をデュエルでぶっ飛ばしてでも、学校の代表になればよかったとか思っているでしょう?』

 

 ははははは、やだなぁ……鮫島校長の前に天上院と、藤原と、ツァンと、天音ちゃんをデュエルで倒してから乗り込みますよ。

 

 

「一っ! 十っ!」

 

『百っ! 千っ!』

 

 

「万丈目サンダー!!」

 

『うぉぉぉ!! 万丈目ッサンダァァァァ!!!!』

 

 

 そのとき、ノース校の生徒全員が手を掲げて叫び、それによって空気の振動を感じるほどだった。この短期間で、どれほど万丈目がノース校で慕われていたのかがよく分かる。

 

 

「俺はッ!?」

 

『サンダァァァァ!!!!』

 

 

『マスター、せーの――』

 

 おう――。

 

 

「万丈目!!」

 

『サンダァァァァ!!!!』

 

『サンダァァァァ!!』

 

「サンダァァァァ!!」

 

 

「うわっ!? リックさんアニキじゃなくて、万丈目くんを応援してるんスか!?」

 

「うん……? もちろん、どっちもだよ」

 

 ああ、やっぱりいいねぇ……真のデュエルだとか、闇のデュエルだとかなしに……デュエルモンスターズって言うのは見る方もやる方も楽しくなくちゃな。

 

 こうして、遂にノース校との代表デュエルが幕を開けたのだった。

 

 

 







代表デュエル(デュエル本編があるとは言っていない)


~QAコーナー~


Q:お前、サンダー好きだろ?

A:うん、大好きSA!


Q:なんで今さらヴェノミナーガさんがこんなに邪悪なオーラを纏っているの? 急にイメチェン?

A:
○ヴェノミナーガさんのを見たとき声を上げた人の様子
・コブラ(お、お前は……いったい?)
・ペガサス・J・クロフォード(アンビリーバボー! ナイトメーアー! モンスター!)
・遊城十代(絶叫)

○他のヴェノミナーガさんを見た精霊が見える者の性格
・茂木もけ夫(何事にも物怖じしない超マイペース)
・藤原雪乃(唯我独尊スリル狂)
・獏良天音(メンヘラストーカー)
・リック・べネット(暗黒面にカンストしているらしい)

○万丈目の性格
・自尊心は極めて高いが、相対的に常識人で、元々精霊には懐疑的。



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代表デュエル 後

最近、この投稿に力を入れていて、宇宙の心が見えそうだったり、21gのダイエットに成功しそうですが、超余裕なので初投稿です。






 

 

 

十代

LP1600

手札3

モンスター0

魔法・罠0

 

 

万丈目

LP3600

手札4

モンスター1

魔法・罠0

 

 

アームド・ドラゴン LV(レベル)

星7/風属性/ドラゴン族/攻2800/守1000

このカードは通常召喚できない。「アームド・ドラゴン LV5」の効果でのみ特殊召喚できる。

(1):手札からモンスター1体を墓地へ送って発動できる。墓地へ送ったそのモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ、相手フィールドのモンスターを全て破壊する。

 

 万丈目のフィールドには赤い体に黒銀の刃の鎧を纏ったような巨大なドラゴンがいた。

 

アームド・ドラゴン LV(レベル)

ATK2800

 

 

 デュエル開始から数ターン後。盤面だけを見れば、フィールド上にはアームド・ドラゴン LV(レベル)7しかおらず、万丈目が優勢に見える。

 

「"アームド・ドラゴン LV(レベル)7"……あれが"ダーク・アームド・ドラゴン"じゃない方なのね……」

 

「ああ、凄まじい効果ではあるが……ちゃんとLVでの特殊召喚で、墓地から闇属性モンスターを除外して破壊はしないのだな……」

 

「アニキピンチッス!? …………けれどリックさんの"ダーク・アームド・ドラゴン"をたまに見てるからか、なんだかあんまり新鮮味はないッスね」

 

「色違いなんだナ」

 

『ほら、マスターがちょいちょい使っているせいで皆さんが、DRS(ダムドリアリティ・ショック)を起こしているじゃないですか!?』

 

 ダムドの使い勝手が良過ぎるのが悪いんだ……墓地闇3体になると使えと言わんばかりに毎回手札に来るしな……。

 

 それにしても仮面竜(マスクド・ドラゴン)からのアームド・ドラゴン LV3を出し、アームド・ドラゴン LV5に繋ぎ、アームド・ドラゴン LV7を召喚するというお手本のようなアームド・ドラゴンのムーヴに感動さえ覚える。

 

「俺のターンドロー!」

 

手札3→4

 

『クリクリ~』

 

「おっ、流石相棒! いいところで来てくれるぜ」

 

 引いたカードに語り掛ける十代。肩にハネクリボーも浮いているため、どうやらハネクリボーを引いたらしい。

 

「俺は"ハネクリボー"を守備表示で召喚!」

 

『クリクリ~!』

 

「ターンエンドだ!」

 

ハネクリボー

星1/光属性/天使族/攻 300/守 200

(1):フィールドのこのカードが破壊され墓地へ送られた場合に発動する。ターン終了時まで、自分が受ける戦闘ダメージは全て0になる。

 

 羽の生えた可愛らしい毛玉が召喚される。

 

ハネクリボー

DEF200

 

十代

LP1600

手札3

モンスター0

魔法・罠0

 

 

「いつもながらの逃げの一手か!? そんなものがなんの役に立つというのだ!」

 

『クリクリぃ~!』

 

「いっちょ前に怒ってやがる」

 

 やはり万丈目は非常にしっかり精霊が見えているらしく、ハネクリボーを煽り散らしていた。VWXYZ(ヴィトゥズィ)-ドラゴン・カタパルトキャノンをハネクリボー LV10(その毛玉)にオシャカにされた奴はいったいどこのどいつだと思わなくもないが、なんだか微笑ましい光景にも見えるのでいいだろう。

 

『でもアニキぃ……アイツならオイラの兄弟のこと知ってるかも知れないよ? なぁ、オイラをゲームに出して、聞いておくれよぉ』

 

「うるさい!」

 

『ふぇ~!?』

 

 すると万丈目から他のカードの精霊――おジャマ・イエローが飛び出し、なにやら小競り合いを始める。

 

 うーん……この辺り、常人から見れば明らかにヤバい人なのだが、ヴェノミナーガさんとの会話をそこまでは隠さなくなり、スルースキルをも磨いて久しい俺が言えた義理ではないな。

 

「この大事なデュエルにお前の出番などあるか!」

 

『そんなこと言わずにアニキぃ!』

 

『まあまあ、2人とも。そう熱くならずに』

 

 すると遂にはサイレント・マジシャンまで出て来て両者を宥め始める。

 

 ………………うん、流石に後でこれは伝えた方がいいかも知れないなぁ。というか、全国放送されているそうだが、大丈夫なのだろうか……?

 

『クリクリ……クリィ、クリクリ~!』

 

「えっ、なんだって万丈目のデッキに……? あっ、ホントだ! なあ、万丈目それって――」

 

「なっ……マズい!? 早く引っ込め! お前なんか使うわけないじゃないか! さっさと引っ込まんか! お前もイチイチ出てくるな!」

 

『やーんです! あーれー!』

 

 おジャマ・イエローは万丈目の回りを飛び回った末、蚊のように叩かれて消え、サイレント・マジシャンは構って貰えるのが嬉しいのか、笑顔でそんなことを言ってから自主的に消えた。

 

 とりあえず、状況が落ち着いたため、万丈目は肩で息をしながらデッキに手を掛ける。

 

「俺のターンドロー! お前など攻撃にも値しない雑魚だが――」

 

手札4→5

 

『クリクリィ!』

 

「見るがいい! 俺は"アームド・ドラゴン LV(レベル)7"を生け贄に、手札から"アームド・ドラゴン LV(レベル)10"を特殊召喚! フハハハハ! これが最強のアームド・ドラゴンだ!」

 

アームド・ドラゴン LV(レベル)10

星10/風属性/ドラゴン族/攻3000/守2000

このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在する「アームド・ドラゴン LV7」1体を リリースした場合のみ特殊召喚する事ができる。手札を1枚墓地へ送る事で、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。

 

 よりに二足歩行に近くなり、刃のような銀の翼が生えたアームド・ドラゴンが現れた。

 

『メガシンカかな?』

 

アームド・ドラゴン LV(レベル)10

ATK3000

 

 あっ、当時でもアームドデッキの事故要因になるので、あえて抜かれていたアームド・ドラゴンだ。

 

『なんでコイツだけ自動レベルアップ効果持ってないんでしょうねぇ……』

 

 まあ、手札に引ければ強いのは確かですからねぇ……。

 

「アームド・ビッグ・バニッシャー!」

 

『クリィ~!!』

 

 アームド・ドラゴン LV10は、引き絞ったその剛拳放ち、ハネクリボーを殴り潰すように戦闘破壊した。

 

「ああ、万丈目は"ハネクリボー"がいるので使いませんでしたが、"アームド・ドラゴン LV(レベル)10"の効果は、手札を1枚墓地へ送ることで、相手フィールド上の表側表示モンスター全てを破壊する効果ですよ」

 

「"ライトニング・ボルテックス"を内蔵したモンスターなのか……!」

 

「あ、アニキ!? そ、そんなの勝てっこないッスよ!?」

 

 まあ、十代なら何とかするだろう。何せ、デッキが手札のような引きをしているので、デッキがある限りは楽しく戦い続けることだろう。

 

『おまいう』

 

「ターン終了だ!」

 

万丈目

LP3600

手札4

モンスター1

魔法・罠0

 

 

「俺のターンドロー! まずは"強欲な壺"を使い、手札を増やすぜ! よし来たっ!」

 

手札

3→4→5

 

「魔法カード、"スペシャル・ハリケーン"!」

 

「なに……!?」

 

 するとデュエルリングの中央から巨大な白い竜巻が発生し、それに晒されたアームド・ドラゴンは苦しむ素振りを見せた後に破壊された。

 

「"スペシャル・ハリケーン"は手札を1枚捨てて、フィールド上に存在する特殊召喚されたモンスター全てを破壊する!」

 

 アームド・ドラゴンを倒したことで、特に丸藤を中心に歓声が上がる中、スペシャル・ハリケーンについて思い出す。

 

 出た当時のスペシャル・ハリケーンは、ほぼライトニング・ボルテックスの下位互換だとかなんとか言われていたのに、今ではほとんどサンダー・ボルトなんだから酷い話だよなぁ……。

 

「"E・HERO(エレメンタルヒーロー) ワイルドマン"を召喚!」

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ワイルドマン

星4/地属性/戦士族/攻1500/守1600

(1):このカードはモンスターゾーンに存在する限り、罠カードの効果を受けない。

 

 色黒で半裸の剣を持ったヒーローが現れる。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ワイルドマン

ATK1500

 

「行け、ワイルドマン! 万丈目……サンダーにダイレクトアタック! ワイルドスラッシュ!」

 

「ぐぁぁぁぁ!?」

 

万丈目

LP3600→2100

 

 ソリッド・ビジョンのダメージにより、万丈目が吹き飛ばされる。まあ、さっきはアームド・ドラゴンに十代が飛ばされていたので、これでトントンか。

 

「ターンエンドだ!」

 

 さて、現在の十代の手札は2枚なのだが、前のターンにフレンドックが破壊されて回収した融合か、これまでに破壊されたE・HERO(エレメンタルヒーロー)か、ドローしたカードの3枚の内2枚となっているため、決してよい状況ではない。ここからどう出るのか見ものだな。

 

十代

LP1600

手札2

モンスター1

魔法・罠0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい気になるなよ十代……ッ! 俺のLV(レベル)モンスターはアームド・ドラゴンだけではない! 俺のターンドロー! 更に"強欲な壺"で2枚ドロー!」

 

手札4→6

 

 万丈目はドローしたカードを見据え、小さく笑みを浮かべると、そのままモンスターカードゾーンに置いた。

 

 

「俺は"サイレント・マジシャン LV(レベル)4"を召喚!」

 

『小さな私です!』

 

サイレント・マジシャン LV(レベル)

星4/光属性/魔法使い族/攻1000/守1000

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手がカードをドローする度に、このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大5つまで)。

(2):このカードの攻撃力は、このカードの魔力カウンターの数×500アップする。

(3):このカードに5つ目の魔力カウンターが置かれた次の自分ターンのスタンバイフェイズに、魔力カウンターが5つ置かれているこのカードを墓地へ送って発動できる。 手札・デッキから「サイレント・マジシャン LV8」1体を特殊召喚する。

 

 万丈目のフィールド上に、オベリスクブルーの学生服のように白を基調とした青い配色の服を着ている銀髪の魔法使いの少女か現れる。

 

サイレント・マジシャン LV(レベル)

ATK1000

 

 サイレント・マジシャンは元々、中等部から万丈目が使っていたエースモンスターであり、デュエルアカデミア本校の生徒としては遂に出てきたかという反応を示していた。

 

(ナイトメア……ッ!)

 

 万丈目は十代の取り巻きや、丸藤亮などの面子と近い場所で座っているリック・ベネットを一瞥した。何故か、膝に彼が手を付けている様子のないポップコーンが乗っており、それを頭上に浮いているヴェノミナーガがパクついていたが、万丈目は特に気にしなかった。

 

(次はお前だ……!)

 

 そして、気づいたのかナイトメアと目が合うと、彼の口の端が三日月のように歪められ、挑戦的な笑みを浮かべた気がした。

 

「更に場に出した"サイレント・マジシャン LV(レベル)4"を生け贄に捧げ――"沈黙(ちんもく)魔術師(まじゅつし)-サイレント・マジシャン"を特殊召喚だ!」

 

『これが私の本当の姿!』

 

沈黙(ちんもく)魔術師(まじゅつし)-サイレント・マジシャン

星4/光属性/魔法使い族/攻1000/守1000

このカードは通常召喚できない。自分フィールドの魔法使い族モンスター1体をリリースした場合のみ特殊召喚できる。

(1):このカードの攻撃力は、自分の手札の数×500アップする。

(2):1ターンに1度、魔法カードが発動した時に発動できる。その発動を無効にする。

(3):フィールドのこのカードが戦闘または相手の効果で破壊された場合に発動できる。手札・デッキから「沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン」以外の 「サイレント・マジシャン」モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。

 

 するとサイレント・マジシャン LV(レベル)4が、着ている衣装と共に急激に成長を遂げ、白く輝く魔力を纏った魔法使いの女性となった。

 

沈黙(ちんもく)魔術師(まじゅつし)-サイレント・マジシャン

ATK1000

 

「あれ……攻撃力1000……? "サイレント・マジシャン LV(レベル)8"じゃないのか?」

 

「フンッ……! それだけなわけがあるか。"沈黙(ちんもく)魔術師(まじゅつし)-サイレント・マジシャン"は自分フィールド上の魔法使い族モンスターを生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚可能で、このカードの攻撃力は、自分の手札の数×500アップする! 俺の手札は4枚! 攻撃力は2000ポイントアップする!」

 

「何だって!?」

 

沈黙(ちんもく)魔術師(まじゅつし)-サイレント・マジシャン

ATK1000→3000

 

「バトルだ! サイレント・マジシャンで、ワイルド・マンに攻撃! サイレント・バーニング!」

 

『行きます! 十代さん!』

 

「お!? おう! 万丈目の精霊か!」

 

 沈黙(ちんもく)魔術師(まじゅつし)-サイレント・マジシャンが両腕を広げて十字架のような体勢になると、全身から白く輝く魔力の波動が拡がり、ワイルドマンを呑み込んだ。

 

「ワイルドマン!?」

 

十代

LP1600→100

 

「俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ。手札が減ったことで"沈黙(ちんもく)魔術師(まじゅつし)-サイレント・マジシャン"の攻撃力は2500になる」

 

 

沈黙(ちんもく)魔術師(まじゅつし)-サイレント・マジシャン

ATK3000→2500

 

万丈目

LP2100

手札3

モンスター1

魔法・罠1

 

 

「へへへっ……すっげーワクワクするな万丈目!」

 

「黙れ! 俺はそんな――」

 

 その先を言おうとしたが、ふとナイトメアがロッカールームで言っていたことを思い出した。

 

《何せ俺は最初からデュエルモンスターズが好きで、デュエルをするのが愉しい、愉しくて堪らない。ドローの1枚にすら快感を覚える。そして、以前のデュエルよりも面白いデュエルをひたすらに求め続けていたら、気づけばこうなっていただけだ》

 

(コイツらは同じなのか……)

 

 そう思い、冷静に考えた万丈目は2人の強さに納得は出来ないが、多少理解することは出来た。十代とナイトメアは、如何なる時も負けることを恐れずに楽しめる極めて強靭な精神そのものが強みなのだろう。プレッシャー、使命感、役割などそういったしがらみの外に居るのだ。

 

 十代の言うことを戯れ言と切り捨てるのは簡単だろう。しかし、万丈目の目には能天気にしか映らない十代だけなら兎も角、極めて高いデュエルタクティクスを駆使する悪魔のような思考のナイトメアも、根底のところが同じとなると、万丈目が自らを更なる高みへ引き上げる為にも、多少は見極めるべきだと考えたのである。

 

「――そんなことはどうでもいい! お前のライフはすでに風前の灯火だ! ここからどうする!? 遊城十代!」

 

 尤も万丈目は、プライドが許さないため、そんな想いを他者に告げるような性格はしてはいない。兎に角、遊城十代を叩き潰せればいい。今の彼の原動力はそれだけであり、いつの間にか、兄らや万丈目グループの男としてのプレッシャーはほとんど消えていた。

 

「おう! 俺のターンドロー! よしっ、俺は手札から"E・HERO(エレメンタルヒーロー) バブルマン"を召喚! 自分フィールド上に他のカードが無い場合、デッキからカードを2枚ドローするぜ!」

 

「またバブルマンだと……? 無駄な足掻きを……!」

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バブルマン

星4/水属性/戦士族/攻 800/守1200

手札がこのカード1枚だけの時、 このカードの召喚を特殊召喚扱いにできる。このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に 自分のフィールド上に他のカードが無い場合、デッキからカードを2枚ドローする事ができる。

 

 水色のアーマーを纏い、マントを着けたヒーローが現れた。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バブルマン

ATK800

 

「ドロー!」

 

手札

2→4

 

 カードを引いた十代は、目を色を変えて笑みを溢した。

 

「来たぁぁ! 行くぜ、万丈目! "融合"を発動!」

 

(掛かったな! 十代! これで俺の――)

 

 万丈目は勝ちを確信した。何故ならば沈黙(ちんもく)魔術師(まじゅつし)-サイレント・マジシャンには、1ターンに1度、魔法カードが発動した時に発動でき、その発動を無効にする効果を持つ。すなわち、十代の融合そのものを今潰せてしまえるのだ。

 

 そして、バブルマンの表示形式は攻撃表示。融合を無効にして、次のターンに戦闘破壊すれば、万丈目の勝利でデュエルは決するだろう。

 

(俺の……勝ち……)

 

 そんな時、デュエルをただ楽しむ十代と、デュエルが好きで愉しいからこそあの地位まで登り詰めたナイトメアの言葉を思い出しつつ、思考が加速し、時の流れが緩やかになる。

 

 そして、勝たなければならないというその思考に小さな綻びが生じ、すぐにある疑問符を出した。

 

(それでいいのか……? 本当にそんな勝ち方でいいのか……?)

 

 表情から十代がサイレント・マジシャンを倒すだけの手を引けていることは明白。

 

 これまで幾度となく、相手にメタをするようなこともあった万丈目であったが、ふと沸いたそれは水面を波立たせるように心を荒げた。

 

 そして、5年前のあの日。勝てる状況で"スキルドレイン"を使わず、ただの手加減だと今の今まで考えていた。だが、今まさにナイトメアが立っていた状況と、万丈目が同じ立ち位置に立ったことで、彼の脳裏には、これまでは見えなかった世界が開けた。

 

(そうか……アイツは――勝った上で勝ち方にこだわっているのか!?)

 

 負けるのを恐れていないことは確かにそうだろう。しかし、それ以上にナイトメアは勝った上で、どう勝つかを追求していた。十代と同じではなく、それとはまた別の何かであったのだ。

 

(これが最凶のデュエリストが最凶足る由縁……人を惹き付ける魔性のデュエルの正体か!)

 

 自身が納得して愉しみ、それを見た他者をも楽しませる。それはデュエリストというよりも、エンターテイナーのような思考であったが、それこそがナイトメアの悪魔的で圧倒的に映る強さの秘訣なのだろう。

 

 確かに勝ちさえすればいいのだが、既に兄らが用意したカードを使わずにデュエルに挑んだ万丈目にとって、無意識に勝ちだけのためにデュエルをした訳ではないことは明白であろう。

 

 しかし、勝たなければならない重圧と、勝ち方の吟味というものを知ってしまった己のプライドがせめぎ合い、どちらとも言えなくなった。

 

 そんなとき――。

 

『私は地獄でもどこでもマスターとずっと一緒ですよ』

 

 思考の中で、サイレント・マジシャンの声が聞こえ、ハッとすると共にサイレント・マジシャンの効果は発動させずに我に返った。

 

 ふと、フィールド上のサイレント・マジシャンを見ると、顔と体を少しだけ後ろに向けて、万丈目を見ながら微笑んでいる姿があった。

 

「精霊のクセに気など回しやがって……」

 

「手札の"E・HERO(エレメンタルヒーロー) フェザーマン"と、"E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーストレディ"を墓地に送り、"E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン"を融合召喚!」

 

 案の定、十代は自身のフェイバリットカードとも呼べる存在を融合召喚した。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン

星6/風属性/戦士族/攻2100/守1200

「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」

(1):このカードが戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。 

 

 アメリカンコミックからそのまま出てきたような見た目で、半身が緑、もう半身が赤の配色の翼を持ったヒーローが現れる。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン

ATK2100

 

「更にフィールド魔法、"摩天楼(まてんろう) -スカイスクレイパー-"を発動! ヒーローにはヒーローの戦う舞台が必要だ!」

 

 フィールドが月夜に変わると共に、次々とビルが生えていく。当然、"E・HERO"モンスターがその攻撃力より高い攻撃力を持つモンスターを攻撃した場合、攻撃モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ1000アップするというスカイスクレイパーの効果を万丈目は知っていた。

 

 と言うよりも、今ではデュエルアカデミア本校の生徒でスカイスクレイパーの効果を知らぬ者はいないであろう。

 

「 行くぜ万丈目サンダー! フレイム・ウィングマンで、サイレント・マジシャンを攻撃! スカイスクレイパーの効果で、攻撃力は1000ポイントアップするぜ! フレイム・シュート!」

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン

ATK2100→3100

 

 フレイム・ウィングマンがサイレント・マジシャン目掛けて殺到する。当然、これを通せば、フレイム・ウィングマンの効果を含めて合計3100のダメージを受けて敗北するだろう。

 

『ぐぅ――!?』

 

 そして、サイレント・マジシャンがフレイム・ウィングマンのフレイム・シュートをそのまま受け止め――。

 

「罠カード発動! "プライドの咆哮"! 戦闘ダメージ計算時、自分のモンスターの攻撃力が相手モンスターより低い場合、その攻撃力の差分のライフポイントを払い――ダメージ計算時のみ、自分のモンスターの攻撃力は相手モンスターとの攻撃力の差の数値+300ポイントアップする! 今度は……俺様の勝ちだ!」

 

『行きます! サイレント・バーニング!』

 

万丈目

LP2100→1500

 

沈黙(ちんもく)魔術師(まじゅつし)-サイレント・マジシャン

ATK2500→3400

 

 そして、放たれた極光はフレイム・シュートを掻き消し、フレイム・ウィングマンを貫いたことで、このデュエルに決着をつけた。

 

十代

LP100→0

 

 

 

 

 

「うぁぁ、負けたぁ!?」

 

 十代はソリッド・ビジョンが消えた直後、その場で大の字になって背後に倒れる。

 

 万丈目は自身で止めを刺したにも関わらず、何故か呆けたように止まっていたためか、先に動いたのは十代の方であった。

 

「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ! あっ、後で精霊のこと聞かせてくれよ!」

 

 立ち上がって特有の挨拶をした上、まるで負けたことを気にしていないように笑う十代。そんな姿に勝たねばならないにしても、勝つことそのものだけにこだわっていた自身が、急にちっぽけなものに感じ、万丈目はなんとも言えない気分になった。

 

「いや、まだだ……これで1勝1敗、負けを精算したに過ぎん!」

 

「おう、またやろうぜ! それより、さっきのやらなくていいのか?」

 

 十代がそういうとノース校の学生を中心に大歓声が上がっており、デュエルアカデミアの生徒も、2人の健闘を与えるように歓声が響いていた。

 

 そんな中、十代が言っていたことに気づいた万丈目は、気づかされたことに釈然としない顔をしながらも、全校生徒へ手を掲げた。

 

「いいか、お前ら! 勝者はこの俺だ! そして、俺の名は――!」

 

 

 

「一っ! 十っ!」

 

 

 

『百っ! 千っ!』

 

 

 

 

 

『「万丈目サンダー!!!!」』

 

 

 

 

 

 こうして、ノース校との代表デュエルはノース校の勝利という形で決着がつき。何故か、観客席で一際喜んでいるノース校の一ノ瀬校長と、一際沈んでいる本校の鮫島校長が印象的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュエル後、勝った方の校長に渡される褒美とは、購買部のトメさんキスであり、でれでれとしながら勝ち誇る一ノ瀬校長と、泣きながらその場を後から逃げ去る鮫島校長に、一年生はこんなことのために友好デュエルをやったのかと、大変馬鹿らしい気持ちになる一幕があった。

 

 そして、万丈目はと言えば、まだ十代とは1勝1敗や、いつかナイトメアを倒す等の彼らしい理由を挙げ、自らの希望でアカデミア本校に戻ることになった。しかし、3ヶ月間の出席日数がない関係でオシリスレッドに在籍することになったのである。

 

「この俺がオシリスレッドなどと……信じられん……」

 

『まあまあ、そう言わずに……』

 

 ノース校が帰った後も、未だに信じられないと言った様子でぶつぶつと独り言を呟く万丈目を、彼の精霊のサイレント・マジシャンが宥めていた。

 

 ちなみにノース校の秘蔵カードであるはずのアームド・ドラゴンなのだが、一ノ瀬校長が非常に気分が良いまま帰ったため、忘れていったらしく、未だに万丈目のデッキに入っている。まあ、ノース校で最強のデュエリストだったことには変わり無いため、なんだかんだ回収されたりはしないであろう。

 

「ん……なんだ――ッ!?」

 

 そんなとき、万丈目の通信端末に一件のメールが入った。

 

 そして、(おもむろ)にそれを眺めた万丈目は、目を見開いて固まる。それを心配したサイレント・マジシャンは、メールの中身を横から眺めた。

 

 そこにはただ一言"よければデュエルをしよう"と書かれており、今日の深夜0時にオシリスレッド寮の崖下にある場所で待っているとあった。

 

『差出人の名は……』

 

「み、見るな!?」

 

『あんっ! なんでですか!?』

 

 すると何故か、万丈目はサイレント・マジシャンが端末を見えないように隠してしまった。どうせ、彼が行くのならばサイレント・マジシャンもデュエルに行くのだが、その辺りは彼のナイーブなところなのであろう。

 

「今日の0時か……」

 

 十代に最初のデュエルを仕掛けたときは、逆に自身が送り付けたが、今度は送られた立場になっており、何とも言えない気分になりつつ、万丈目はデッキが差し込まれたデュエルディスクを握り締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 深夜0時。丸藤亮や早乙女レイが遊城十代と戦った場所に来た万丈目は、その場で佇むオベリスクブルーの男子生徒を見つけ、その隣には精霊の姿もあった。

 

 そして、そのメールの差出人の相手――リック・ベネットは心底嬉しそうに笑みを浮かべてから言葉を吐いた。

 

「来てくれたか……」

 

『り、リックさんとお母さんだったんですか!?』

 

『ちわーす。サイレント・マジシャンちゃん!』

 

「ああ、来てやったぞ! 何の用だ!?」

 

 あまりに簡潔な文章だったため、何か裏があるのではないかとも考えた万丈目はそう言ったが、それに対して、ナイトメアは首を傾げていた。

 

「……? 万丈目と十代のデュエルを見ていたら、居ても立ってもいられなくなって、デュエルを申し込んだんだけど?」

 

『と、言うわけです』

 

『ちょっと!? お母さん約束は!?』

 

『マスターはデュエルを本気でしたくなった相手とはデュエルをするまで決して止まらないので、諦めてください。私が止めても無駄ですもの』

 

 そう言いながら懐からデッキをひとつ取り出し、デュエルディスクに差し込むナイトメア。更にデュエルディスクを構えた。

 

「俺とのデュエルを受けたんだろう? なら早くやろうじゃないか……何か聞きたかったらデュエル中に答えるよ」

 

『もう待ちきれないよ! 早く出してくれ!』

 

「ヴェノミナーガさん、うるさいです」

 

 まるで理屈はわからなかったが、デュエリストとして受けないという選択肢もなく、デュエルディスクを構えたが、その前に気になる言葉があったため、サイレント・マジシャンに声を掛けた。

 

「おい、約束とはなんだ?」

 

『ぴぃ!?』

 

 するとサイレント・マジシャンは怒られた子供のように飛び上がり、目を様々なところに泳がせながら、しばらく挙動不審にそわそわした動作を繰り返した末、指と指の先を何度もつけながらすがるような表情でポツリと呟いた。

 

『お、怒りません……?』

 

「はぁ……それは後で聞いてから考える……行くぞナイトメア!」

 

「ああ、始めよう」

 

 

『デュエル!』

 

万丈目

LP4000

 

リック

LP4000

 

 

「ドロー! 俺は"仮面竜(マスクド・ドラゴン)"を守備表示で召喚! カードを1枚セットしてターンエンドだ!」

 

 仮面被った赤い竜が現れたが、守備表示のため、翼で体を守るように身を固めていた。

 

仮面竜(マスクド・ドラゴン)

DEF1100

 

(さて……ひとまずはそこそこ悪くない手札だが……どう出る?)

 

 ナイトメアが十代よりも遥かに凄惨なデュエルを行うことは当然知っている。そのため、細心の注意を払ってデュエルしつつも、思っても見なかった再戦の好機に心が踊る自分がいることを万丈目は感じていた。

 

万丈目

手札4

モンスター1

魔法・罠1

 

 

「俺のターンドロー!」

 

手札

5→6

 

「俺は手札から魔法カード、"コアキメイルの金剛核(こんごうかく)"を発動。デッキから"コアキメイルの金剛核"以外のコアキメイルと名のついたカード1枚を手札に加える。俺は"コアキメイル・オーバードーズ"を手札に加え、そのまま召喚する」

 

コアキメイル・オーバードーズ

星4/地属性/岩石族/攻1900/守1200

このカードのコントローラーは自分エンドフェイズ毎に 手札から「コアキメイルの鋼核」1枚を墓地へ送るか、手札の岩石族モンスター1体を相手に見せる。または、どちらも行わずにこのカードを破壊する。

(1):相手がモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚する際に、このカードをリリースして発動できる。それを無効にし、そのモンスターを破壊する。

 

 ナイトメアのフィールドに人間と岩を合わせたエイリアンのような形容しがたい人型のモンスターが現れた。

 

コアキメイル・オーバードーズ

ATK1900

 

「コアキメイルだと……?」

 

 デスガーディウスのデッキには入れそうにはなく、見覚えの無いカードに困惑する万丈目。その間にもナイトメアは場にカードを出して行く。

 

「フィールド魔法カード、"岩投げエリア"を発動」

 

 その瞬間、フィールドは岩埃の立つ古ぼけた城塞のような場所へと変わる。

 

「バトルだ。"コアキメイル・オーバードーズ"で仮面竜(マスクド・ドラゴン)を攻撃」

 

 コアキメイル・オーバードーズの爪によって、仮面竜は引き裂かれる。そして、効果の発動を宣言しようとした万丈目よりも早く、ナイトメアが口を開いた。

 

「"仮面竜(マスクド・ドラゴン)"の効果によって、デッキから"アームド・ドラゴン LV(レベル)3"を特殊召喚するといったところか?」

 

「…………ああ、そうだ」

 

 万丈目のフィールドにアームド・ドラゴン幼体が現れる。とは言ってもこの時点でかなり大きい。

 

アームド・ドラゴン LV(レベル)

星3/風属性/ドラゴン族/攻1200/守 900

(1):自分スタンバイフェイズにフィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。手札・デッキから「アームド・ドラゴン LV5」1体を特殊召喚する。

 

アームド・ドラゴン LV(レベル)

ATK1200

 

「そうか。永続魔法、"一族の結束"を発動。カードを1枚セットしてターンエンドだ。"コアキメイル・オーバードーズ"の効果により、維持コストとして、手札の"地球巨人 ガイア・プレート"を相手に見せる」

 

 万丈目の方へカードを1枚向け、そのままナイトメアのターンは終了した。

 

リック

LP4000

手札2

モンスター1

魔法・罠3

 

 

「キサマ……! どこまで俺を嘲笑えば気が済む!? それはデスガーディウスのデッキではないだろう!?」

 

 ターンは万丈目に回ったが、ナイトメアが使うカードを見た彼は怒りに身を震わせて、そう言い放った。

 

 岩投げエリアは岩石族のサポートカード。そして、一族の結束は種族を統一することで発動するサポートカードだ。つまり、ナイトメアが今用いているデッキは岩石族のデッキということになる。

 

 そのような理由から、デスガーディウスデッキを使っていないため、本気ではないと考えた万丈目が憤慨するのも無理はない話であろう。

 

「その通り、これは岩石族のデッキだが……ふたつ間違っているようだから教える」

 

 ナイトメアは口を開く。

 

「万丈目。少し、他の者から話を聞いたのだが……お前はプロデュエリストになるのだろう?」

 

「そうだ! それがなんだ!?」

 

「だったら、俺はこのデュエルアカデミアではお前とのデュエルでは絶対にデスガーディウスのデッキは使わない。何せ、あれは俺のナイトメアとしての象徴のようなデッキだからな。プロデュエリストになるというのなら、プロデュエリストとして、お前と戦う時にデスガーディウスのデッキを使いたい」

 

「ぐっ……」

 

 理由はある種の敬意のようなものであり、万丈目は閉口した。最高の時に、最高のデュエルを。また、プロデュエリストとして大成し、自身を引きずり下ろして見せろという挑戦状のようでもあった。

 

 そして、そこまで言われたことを受けて立たない万丈目ではなかった。

 

「…………いいだろう。ならば吠え面かかせて……今、この場で引きずり出してやる! 俺のターンドロー!」

 

手札4→5

 

「スタンバイフェイズ時に"アームド・ドラゴン LV(レベル)3"の効果を発動! デッキから"アームド・ドラゴン LV(レベル)5"を特殊召喚する!」

 

アームド・ドラゴン LV(レベル)

星5/風属性/ドラゴン族/攻2400/守1700

(1):手札からモンスター1体を墓地へ送り、そのモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。この効果を発動するために墓地へ送ったモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ、 その相手モンスターを破壊する。

(2):このカードが戦闘でモンスターを破壊したターンのエンドフェイズに、フィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。手札・デッキから「アームド・ドラゴン LV7」1体を特殊召喚する。

 

 そして、LV5のアームド・ドラゴンが場に出る。

 

アームド・ドラゴン LV(レベル)

ATK2400

 

「手札から"アームド・ドラゴン LV(レベル)5"を捨て、攻撃力2400以下のモンスターを破壊! 当然、"コアキメイル・オーバードーズ"を選択する! デストロイ・パイル!」

 

 アームド・ドラゴン LV(レベル)5の全身から放たれたトゲが、ミサイルのようにコアキメイル・オーバードーズへと殺到し、爆風が巻き起こる。

 

「効果にチェーンして罠カード、"岩投げアタック"を発動。自分のデッキから岩石族モンスター1体を選択して墓地へ送り、相手ライフに500ポイントダメージを与える。その後デッキをシャッフルする」

 

『アタックチャーンス!!』

 

「何を!? ぐぁっ!?」

 

『ま、マスター!?』

 

 突如、ソリッド・ビジョンの投石が万丈目の頭に当たり、倒れると共にライフポイントが削られた。

 

万丈目

LP4000→3500

 

「ちなみにデッキから墓地に送ったモンスターは"岩石(がんせき)番兵(ばんぺい)"だ」

 

「小癪な!? そんな湿気(しけ)たバーンをしても何も変わ――」

 

 そこまで言ったところで、デストロイ・パイルの爆風が晴れたところに"コアキメイル・オーバードーズ"が無傷で立っている姿が見え、万丈目は驚愕に目を見開いた。

 

「な!? なぜ、"コアキメイル・オーバードーズ"が生きている!?」

 

「"一族の結束"の効果は、自分の墓地の全てのモンスターの元々の種族が同じ場合、自分フィールドのその種族のモンスターの攻撃力は800アップするというものだ。墓地の"岩石(がんせき)番兵(ばんぺい)"は岩石族。そして、フィールド上の"コアキメイル・オーバードーズ"もまた岩石族だ。これで"一族の結束"の発動条件を満たせる。すなわち、今の"コアキメイル・オーバードーズ"の攻撃力は――」

 

コアキメイル・オーバードーズ

ATK1900→2700

 

「か、下級モンスターで攻撃力2700だと……? デストロイ・パイルで破壊できなかったのは――」

 

『ええ、攻撃力を参照する効果などは、フィールド上で指定された上限・下限値を上回ったり、下回ったりすると発動後でも効果は無効になるんです』

 

「…………デストロイ・パイルを使った瞬間に捨てた"アームド・ドラゴン LV(レベル)5"の攻撃力を超えたのか……」

 

『マ、ママ……マスター……と、とんでもなく強くないですか……? リックさん?』

 

「当たり前だ……アイツは最凶のプロデュエリストだぞ! デビュー以来5年間、未だに不戦敗以外、公式戦無敗の男だ!」

 

 そのサイレント・マジシャンの呟きにそう返す万丈目。その反応だけで、ナイトメアに対しての羨望や憧れと言った感情が混じっているように見えたが、場にいる者は言及することなかった。

 

 そんな中、ナイトメアは少し笑みを強めると口を開く。

 

「もうひとつ。いつ誰が……岩石族デッキが弱いだとか、俺が手加減していると言った? 公式戦ではあまり使わないだけだ。むしろ、今日のコレはお前と戦うために、少し組み直し、公式戦で使用していた時よりも数段強いデッキに仕上がっているぞ?」

 

「くっ……」

 

 ナイトメアの言うとおり、デスガーディウスのデッキではないからと、勝手に下に見て侮っていたのは他でもない万丈目自身であったため、それに返す言葉はなかった。紛れもなく、ナイトメアは全力で挑んでいることに他ならないのだ。

 

「さあ、愉しもうぜ……? 夜はまだまだこれからだ!」

 

『今宵のマスターはデュエルに飢えている……あ、いつもだそれ』

 

 立ち塞がるような宣言するナイトメアの姿はあまりに巨大に見えたが、不思議と万丈目の顔には笑みが浮かび、いつかの雪辱を果たすため、闘志を燃やしていた。

 

 

 

 






約2日で15000文字は普通にキツいぜ……(書き貯めとか最初からしてない)

 次回、万丈目くんを気に入り過ぎて【岩石族】ビートダウンを作り、ガチで殺しに来たリックくん VS 山より高く、海より深いプライドを持った男(アニメ予告参照)万丈目サンダーのデュエルの行方は!?

 ………………おかしいな……この小説ってリックくんが覇王みたいなもので、万丈目さんが主人公でしたっけ?(ぐるぐる目)



~QAコーナー~

Q:なぜ万丈目サンダーを勝たせたの?

A:勝っても負けてもシナリオの大筋に変更のほぼない唯一のデュエルであり、これ以降の十代と言えば――。
・過労死あんどネオスペーシアン見参
・覇王化
・二十代化
たぶん、ここが万丈目さんが互いに本気でやり合った十代に勝てる最初で最後の場所だと思うので……花を持たせてあげたいのです……。


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悪夢と意地



体中の痛みを隠し、そろそろ自分だけのゴールをしそうですが、初投稿です。






 

 

万丈目

LP3500

手札4

モンスター1

魔法・罠1

 

アームド・ドラゴン LV(レベル)

ATK2400

 

リック

LP4000

手札2

モンスター1

魔法・罠2

 

コアキメイル・オーバードーズ

ATK2700

 

 

 現在、万丈目のターンだが、一族の結束がある関係で、全ての岩石族モンスターの攻撃力が800ポイントアップしており、明らかな劣勢に立たされている。

 

 伝説級のカードのLV(レベル)モンスターがこれほど心許なく感じることもそうはないであろう。それだけ、ナイトメアのデュエルタクティクスとデッキ構成が優秀であるとも言い換えれる。

 

「くっ……ならば俺は手札から"レベルアップ!"を発動! フィールド上に表側表示で存在する"LV"を持つモンスター1体を墓地へ送り、そのカードに記されているモンスターを、召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する! 俺は"アームド・ドラゴン LV(レベル)5"を墓地に送り、"アームド・ドラゴン LV(レベル)7"を特殊召喚!」

 

アームド・ドラゴン LV(レベル)

ATK2800

 

『というかマスター、普通に考えて十代さんとかでもない限りは、"コアキメイル・オーバードーズ"より、他の岩石族のコアキメイルの方がよかったのでは? ルール上の特殊召喚をしてくる方はそんなにいませんし、万丈目さんもそんなに生け贄召喚等はしないですし』

 

「…………クセみたいなものですよ」

 

 何故かヴェノミナーガの呟きに対し、どこかとても遠いところを見るような目をし始めるナイトメア。何故か、その時の彼は酷く煤けて見えた。

 

「バトルだ! "アームド・ドラゴン LV(レベル)7"で、"コアキメイル・オーバードーズ"を攻撃! アームド・パニッシャー!」

 

 アームド・ドラゴン LV(レベル)7の拳が、コアキメイル・オーバードーズを捉えた。

 

「フィールド魔法、"岩投げエリア"の効果発動。このカードがフィールドゾーンに存在する限り、 自分のモンスターが戦闘で破壊される場合、代わりに自分のデッキから岩石族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。俺は"ナチュル・クリフ"を墓地に送る。尤も、この効果は1ターンに1度しか適用できない」

 

 しかし、当たる直前でどこからともなく飛んできた岩がコアキメイル・オーバードーズの目の前に突き刺さり、アームド・ドラゴン LV(レベル)7はそれを殴り壊した。

 

 そして、岩の破片はナイトメアに当たる。

 

「ぐっ……だが、ダメージは受けてもらうぞ!」

 

「ああ」

 

リック

LP4000→3900

 

「ターンエンドだ……」

 

万丈目

LP3500

手札3

モンスター1

魔法・罠1

 

 

「俺のターンドロー」

 

手札

2→3

 

「俺は手札から魔法カード、"奇跡(きせき)穿孔(せんこう)"を発動。自分のデッキから岩石族モンスター1体を選択して墓地へ送る。 対象は"礫岩(れきがん)霊長(れいちょう)-コングレード"だ。その後、デッキからカードを1枚ドローする」

 

『わぁ、私があげた岩石族のカードまで持ち出すだなんて、今日のマスターはテレビに出てる時よりも遥かに本気ですねぇ……』

 

「テレビの時よりも本気……? それはどういう意味だ?」

 

「そのままの意味だよ。プロデュエルは確かにカードゲーム界の花形だが、あまりに早くデュエルを決められてしまうと放送時間の尺などで運営側が困るんだ。他にもプレイングや負けて笑いを取らせるような者もいる。だから、ある種のプロレスのような一面もあり、強ければいいというわけでもなく、運営が決めた大切なデュエルは、あまり早く決まらないようにあえて、デッキを遅くしたりもする。ただ、デュエルをしていればいいというだけの仕事でもないんだ」

 

 ナイトメアがカードの手を止めて、少し自嘲気味に呟き始めた話は、万丈目グループの威信と、ただ強さを求めてプロデュエリストになろうとしていた万丈目にとって少なからず衝撃を与えるものであった。

 

「まあ、それでもプロデュエリストになりたいというなら俺は止めない。むしろ、歓迎するよ。それと一応、不敗神話を築くI2社直属の4位のプロデュエリストともなれば、そこそこ顔も利き、運営にも口出し出来る。新人のひとりふたりを捩じ込むなんて難しくはない。決心したらいつでも俺に言うといいさ。まあ、ナイトメアの推薦となると少しばかり、観客の期待は高まるかも知れんがな」

 

「………………………………そ、それはありがたく思っておく……」

 

『よかったですねマスター! これって凄いことですよ!?』

 

 流石に万丈目グループのゴリ押し等や、コネも何もなくプロデュエリストになることさえ難しく、マトモに活動できるのかも怪しいため、プロでも特大のコネと、少なくとも万丈目より遥かにプロデュエルの世界を知っている男の知識をふいに出来るようなプライドの立て方はしていなかった。尤も、かなり葛藤はしたようである。

 

 しかし、会話をする中、何故か万丈目に対してかなり優しげに接してくるナイトメアの様子や、プロの話からひとつの疑問を覚えたので、万丈目は口に出すことにした。

 

「…………まさか、お前がナイトメアとして、ヒールを貫いているのも?」

 

「それはもちろん、キャラを――」

 

『あっ、それはプロデュエリストのエックスさんと同じく素ですので大丈夫ですよ』

 

「ふんっ――!」

 

『あばばぱばばぱば――!!!?』

 

 どうやら素らしい。ヴェノミナーガの額に懐から取り出した成仏を投げつけて、痺れたような状態にさせているところを見ても明らかである。

 

「話もデュエルも逸れたな……。プロデュエリストの試合を視聴者が見るということは、そのプロデュエリストの売りを見に来ているんだ。例えば俺なら"仮面魔獣デス・ガーディウス"、"相手のエースモンスターの蹂躙"、"超レアカードの使用"、"無敗神話"の4つが主。だから、初見の相手には必ずデスガーディウスを使い、大切な試合でも使用する。何を売りにするかは、プロデュエリストによるが、売りを決めたなら責務として、それらを達成する。サーカスのピエ――エンターテイナーなんだよプロデュエリストはな」

 

「……なるほど」

 

 プロデュエリストの事情。それに加えて、ナイトメアがプロデュエリストとしてではなく、ただのデュエリストとしてこの場にいることに万丈目は合点が行く。

 

 そして、今日はナイトメアが、万丈目を倒すためだけにプロ以上にデッキを強化し、立ちはだかっていることに気持ちを引き締め直した――丁度そのとき。

 

「だから、万丈目――このターンで潰れてくれるなよ……?」

 

 ナイトメアがプロデュエルで見せる悪意に歪み、他者を嘲笑う悪魔のような笑みを浮かべたことで、デュエリストの勘から全身に鳥肌が走った。

 

「"天使の施し"を発動、カードを3枚ドローし、2枚捨てる。更に"トレード・イン"を発動、手札からレベル8モンスター1体――"ブロックドラゴン"を捨て、自分はデッキから2枚ドローする……」

 

 手札の枚数こそ、3枚から変わっていないが、凄まじい速度でカード交換をしていく姿に、万丈目は得体の知れない恐ろしさを感じていた。

 

「"強欲な壺"を発動し、カードを2枚ドロー……2枚目の"奇跡(きせき)穿孔(せんこう)"を発動し、"コアキメイル・サンドマン"を墓地に送り、カードを1枚ドロー。最後に"流転の宝札"を発動。自分のデッキからカードを2枚ドローし、ターン終了時にカードを1枚墓地へ送る。送らない場合、3000ポイントのダメージを受ける」

 

『あっ、ちなみに今の墓地の岩石族モンスターは合計7枚です』

 

手札

3→4→5

 

(なんだ……ナイトメアは何をしているんだ……!?)

 

 その鬼気迫る姿は、カード交換ではなく、墓地にカードをただ落としたいだけのようにさえも見え、普通のデュエリストにとっては異様な光景であった。

 

「では行くぞ……俺は墓地から"礫岩(れきがん)霊長(れいちょう)-コングレード"を2体と、"コアキメイル・ガーディアン"をゲームから除外し、墓地の"ブロックドラゴン"を攻撃表示で特殊召喚する」

 

ブロックドラゴン

星8/地属性/岩石族/攻2500/守3000

このカードは通常召喚できない。自分の手札・墓地から地属性モンスター3体を除外した場合のみ手札・墓地から特殊召喚できる。「ブロックドラゴン」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドの岩石族モンスターは戦闘以外では破壊されない。

(2):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。レベルの合計が8になるように、デッキから岩石族モンスターを3体まで選んで手札に加える。

 

 子供用のブロックで出来たファンシーな玩具のドラゴンだが、その大きさがアームド・ドラゴン LV(レベル)7の倍以上の巨体のため、かえって不気味さを感じさせた。

 

ブロックドラゴン

ATK2500

 

「な……墓地からの特殊召喚だと!?」

 

「驚くのは少し早いぞ? 更に手札から速攻魔法、"マグネット・リバース"。自分の墓地のモンスター及び除外されている自分のモンスターの中から、機械族または岩石族の通常召喚できないモンスター1体を対象に発動。そのモンスターを特殊召喚する。"礫岩(れきがん)霊長(れいちょう)-コングレード"を攻撃表示で特殊召喚」

 

『ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ!』

 

礫岩(れきがん)霊長(れいちょう)-コングレード

星8/地属性/岩石族/攻3000/守2000 このカードは通常召喚できず、カードの効果でのみ特殊召喚できる。

(1):相手の手札・デッキからモンスターが墓地へ送られた場合に発動できる。このカードを手札から裏側守備表示で特殊召喚する。

(2):このカードがリバースした場合、フィールドのカードを2枚まで対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

 フィールドに見上げるほど巨大な黒い岩のゴリラが現れる。映画のキングコングさながらの迫力であろう。そして、コングレートは見るからに凶悪な赤い瞳で万丈目を睨み、牙と黒紫色の舌を見せながら咆哮を上げた。

 

礫岩(れきがん)霊長(れいちょう)-コングレード

ATK3000

 

「な――!? こ、攻撃力3000のゴリラ!?」

 

『なんでゴリラって付くだけで、急にパワーワードになるんでしょうね? サイレント・マジシャンちゃん』

 

『え? わ、私に振らないでよ……お母さん』

 

「まだだ……墓地の"岩石(がんせき)番兵(ばんぺい)"の効果。このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できないが、このカードが墓地に存在し、自分フィールドのモンスターが岩石族モンスターのみの場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。効果により、"岩石(がんせき)番兵(ばんぺい)"を攻撃表示で特殊召喚。そして、手札から"トラミッド・ハンター"を召喚」

 

岩石(がんせき)番兵(ばんぺい)

星3/地属性/岩石族/攻1300/守2000

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが墓地に存在し、自分フィールドのモンスターが岩石族モンスターのみの場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。

 

トラミッド・ハンター

星3/地属性/岩石族/攻1400/守1100

(1):フィールド魔法カードが表側表示で存在する場合、 自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズに岩石族モンスター1体を召喚できる。

(2):相手ターンに1度、自分フィールドの 「トラミッド」フィールド魔法カード1枚を対象として発動できる。 そのカードを墓地へ送り、デッキからそのカードとカード名が異なる 「トラミッド」フィールド魔法カード1枚を発動する。

 

 石の大鉈を二本掲げた石像と、アヌビス神のような見た目のをした人形のように精巧な造りの石像が現れる。

 

岩石(がんせき)番兵(ばんぺい)

ATK1300

 

トラミッド・ハンター

ATK1400

 

「"トラミット・ハンター"の能力により、フィールド魔法カードが表側表示で存在する場合、 自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズに岩石族モンスター1体を召喚できる。それにより、"コアキメイル・オーバードーズ"と、"岩石(がんせき)番兵(ばんぺい)"を生け贄に……来い、"The despair URANUS(ザ・ディスペア・ウラヌス)"」

 

The despair URANUS(ザ・ディスペア・ウラヌス)

星8/光属性/岩石族/攻2900/守2300

(1):自分フィールドに魔法・罠カードが存在せず、このカードがアドバンス召喚に成功した時に発動できる。相手はカードの種類(永続魔法・永続罠)を宣言する。自分はデッキから宣言した種類のカード1枚を選んで自分の魔法&罠ゾーンにセットする。

(2):このカードの攻撃力は、自分フィールドの表側表示の魔法・罠カードの数×300アップする。

(3):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分の魔法&罠ゾーンの表側表示のカードは効果では破壊されない。

 

 ウラヌス――天王星の名を持つファラオの仮面のようなものが中心についた巨大な球体が夜空に浮かび上がった。夜空に浮かぶ巨体は暗い月にさえ思える。

 

The despair URANUS(ザ・ディスペア・ウラヌス)

ATK2900

 

「プラネットシリーズ……だと……? バカな……お前は他にも持っていた筈だが……」

 

「ああ、持っているが、ウラヌスは最近入手した。そして、コイツを実戦で使うのは万丈目が初めてだ。お披露目はプロデュエルでと考えていたが、出し惜しみは無し、全てをお前にぶつけよう」

 

『お知りかも知れませんが、マスターの趣味はレアカード収集ですから、とりあえずの最終目標はプラネットシリーズをコンプリートすることだそうです』

 

「世界で1枚しかないレアカードとか超そそる。"The despair URANUS(ザ・ディスペア・ウラヌス)"の攻撃力は、自分フィールドの表側表示の魔法・罠カードの数×300アップする。2枚存在するため、600ポイントアップだ」

 

The despair URANUS(ザ・ディスペア・ウラヌス)

ATK2900→3500

 

 そんなことを言いながらもナイトメアは墓地のカードを2枚取り出して除外した。

 

「俺は墓地の"コアキメイル・ウォール"と、"コアキメイル・サンドマン"を除外し、"地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレート"を手札から特殊召喚する」

 

地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレート

星8/地属性/岩石族/攻2800/守1000

このカードは自分の墓地の岩石族モンスター2体をゲームから除外し、手札から特殊召喚できる。このカードと戦闘を行う相手モンスターの攻撃力・守備力は ダメージ計算時のみ半分になる。このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に 自分の墓地の岩石族モンスター1体をゲームから除外する。 または、除外せずにこのカードを墓地へ送る。

 

 突如、バトルフィールドにしている海の中から岩で作られた無骨な巨人が現れた。しかし、これまでナイトメアが召喚したモンスターを遥かに超えるほどの巨体のため、下半身のほとんどは海に沈んだ状態でいる。

 

地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレート

ATK2800

 

「これで全部だ……万丈目」

 

 1枚だけ残った手札で万丈目を指しながらナイトメアはそんなことを言う。それに対し、万丈目はまるで言葉が出なかった。

 

ブロックドラゴン

ATK2500

 

礫岩(れきがん)霊長(れいちょう)-コングレード

ATK3000

 

The despair URANUS(ザ・ディスペア・ウラヌス)

ATK3500

 

地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレート

ATK2800

 

トラミッド・ハンター

ATK1400

 

 ターン開始時は確かに下級モンスターが1体いたのみであったが、今は4体の巨大でそれぞれことなる岩石族の最上級モンスターと、1体の下級モンスターが聳え立つように並んでいたからだ。

 

「当然、"一族の結束"の効果で全岩石族モンスターの攻撃力は800ポイントアップする」

 

ブロックドラゴン

ATK2500→3300

 

礫岩(れきがん)霊長(れいちょう)-コングレード

ATK3000→3800

 

The despair URANUS(ザ・ディスペア・ウラヌス)

ATK3500→4300

 

地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレート

ATK2800→3600

 

トラミッド・ハンター

ATK1400→2200

 

「さあ、バトルだ……! 止めてみろ万丈目サンダー!」

 

『30分アニメならこの辺でCM入りそう』

 

 その言葉と共に、まず地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレートが動き、その岩の巨腕をアームド・ドラゴン LV(レベル)7を万丈目ごと擂り潰さんばかりの振り下ろしを行った。

 

 それに万丈目は冷や汗を流しつつも、挑戦的な表情に顔を歪めながら

 

「……くっ!? だが、何体並べようと結果は同じだ! 罠カード、"聖なるバリア -ミラーフォース-"発動!!」

 

 聖なるバリア -ミラーフォース-。相手モンスターの攻撃宣言時に発動でき、相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊するという効果を持ち、あの武藤遊戯さえもデュエルキングダムの時代から愛用し、未だに現役かつ、罠カードでトップクラスの販売金額のカードである。

 

 アームド・ドラゴン LV(レベル)7の目の前に透き通った音と共に半透明で虹色に輝く2m程の1枚板のようなものが現れる。

 

 そして、地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレートの巨拳がミラーフォースに触れた瞬間、ミラーフォースは拡散する光の刃となり、ナイトメアの全モンスターへと殺到した。

 

「これでお前のモンスターは全滅だ!」

 

「オイオイ……岩石族をナメるんじゃないぞ?」

 

「なにィ……?」

 

 次の瞬間、ブロックドラゴンが弾け飛び、元のブロックへと戻った。そして、大量のブロックは宙を舞い、ナイトメアのそれぞれのモンスターの前で組上がると盾のようなものに姿を変えた。

 

 そして、ミラーフォースはブロックの盾となったブロックドラゴンに命中する。

 

「"ブロックドラゴン"の効果。このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドの岩石族モンスターは戦闘以外では破壊されない」

 

「バカな……!?」

 

 ミラーフォースを防ぎ切ったブロックドラゴンは再びブロックになると、元いた場所でドラゴンの姿に戻った。

 

「さて、戦闘は続行だ。地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレートの攻撃。プレート・テンペスト」

 

 攻撃を一旦止めていた地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレートが再び動き出し、拳を振り上げる。

 

「この瞬間、"地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレート"の効果発動。このカードと戦闘を行う相手モンスターの攻撃力・守備力はダメージ計算時のみ半分になる。スーパーブリューム」

 

「なにッ!?」

 

アームドドラゴン LV(レベル)

ATK2800→1400

 

「ぐぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレート"の岩拳はアームド・ドラゴンごと万丈目を吹き飛ばし、地面に転がされた。

 

万丈目

LP3500→1300

 

「寝てる暇は無いぞ? 残りのモンスターで総攻撃だ」

 

 攻撃をしていない岩石族モンスター――ブロックドラゴンは口にある発射台のようなパーツを向け、礫岩(れきがん)霊長(れいちょう)-コングレードは腕を振り回して力を溜め、The despair URANUS(ザ・ディスペア・ウラヌス)は顔の前に淡い光を放つ光弾が収束され、トラミッド・ハンターは杖を構えた。

 

『ウラヌスさんがソルディオス・オービットにしか見えない件について』

 

「まだだ……俺は負けん! 手札から"バトルフェーダー"を特殊召喚! 効果により、バトルフェイズを終了する!」

 

バトルフェーダー

星1/闇属性/悪魔族/攻 0/守 0

(1):相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、その後バトルフェイズを終了する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

 悪魔を象った風見鶏のようなモンスターが一体化しているベルを振ると、スッ……と効果音がつきそうな様子でナイトメアの全モンスターが攻撃を止め、移動していたモンスターは踵を返して元の位置に戻った。

 

「ふむ、ひとまず生き延びたか。なら教えておくが、"The despair URANUS(ザ・ディスペア・ウラヌス)"はモンスターゾーンに存在する限り、 自分の魔法&罠ゾーンの表側表示のカードは効果では破壊されない」

 

「なん……だと……!?」

 

 つまりブロックドラゴンにより、ナイトメアのフィールド上の岩石族モンスターは戦闘以外によって破壊されず、The despair URANUS(ザ・ディスペア・ウラヌス)がいる限り、ナイトメアの一族の結束は破壊されない。その上、岩投げエリアで1度だけ戦闘によって破壊されなくなる。

 

「ターンエンド。"流転の宝札"の効果で手札の"地球巨人(ちきゅうきょじん)ガイア・プレート"を墓地に送る。これが防御に定評のある岩石族だ……」

 

『おい、守備表示使えよ』

 

「攻撃は最大の防御」

 

リック

手札0

モンスター5

魔法・罠2

 

 

 ナイトメアの言っていることに万丈目は驚嘆と共に、その通りだと理解を示していた。

 

 破壊耐性を付与するブロックドラゴンの攻撃力はデスガーディウスと同じ3300、更にThe despair URANUS(ザ・ディスペア・ウラヌス)の攻撃力は4200、とどめに地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレートの攻撃力は3600だが、効果によって実数値は7200である。

 

 岩石族だからと万丈目が馬鹿にしたデッキは、おぞましい程の墓地送りの末の大量召喚と異様な破壊耐性で固めた超攻撃力の殺戮集団であり、途方もないデュエルタクティクスが用いられていたのだった。

 

("岩投げエリア"は任意効果……ならばナイトメアは"ブロックドラゴン"を戦闘から守ることにしか使わないだろう……となると俺は攻撃力3300の"ブロックドラゴン"を2度戦闘破壊しなければ――いや、破壊してもターンを渡せば攻撃力4200の"The despair URANUS(ザ・ディスペア・ウラヌス)や、実質攻撃力7200の"地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレート"に戦闘破壊されれば間違いなく負ける……クソ……クソックソッ!? まだ俺はナイトメアに何も――)

 

『マスター』

 

 眼前に立ちはだかるあまりにも強大で、凶悪なことにより、焦りと共に心が折れそうになった万丈目の背に、サイレント・マジシャンがそっと抱き着いたことで我に返った。

 

「お、お前!? と、突然なにを……!」

 

『正直、私も勝てないかもしれないと思っています。でも、勝ち負けだけが全てじゃないと思います。私はいつものマスターらしいマスターが大好きですよ』

 

「…………俺らしい」

 

 その言葉で万丈目は何かに気がつき、目から僅かに伺えた怯えの色が消えた。そして、拳を握り締めながら高らかに口を開く。

 

「ああ、そうだ……! 1度地獄を見た俺に、これ以上失うものなどなにもない! 俺は万丈目サンダーだッ! 行くぞナイトメア!!」

 

「ああ……攻略してみろ」

 

『流れ変わったな』

 

「ヴェノミナーガさん、少し黙ろうか」

 

「俺のターンドロー!」

 

手札

3→4

 

「俺は"サイレント・マジシャン LV(レベル)4"を召喚する!」

 

サイレント・マジシャン LV(レベル)

ATK1000

 

「そして、"サイレント・マジシャン LV(レベル)4"を生け贄に捧げ、"沈黙(ちんもく)魔術師(まじゅつし)-サイレント・マジシャン"を特殊召喚!」

 

『目にもの見せてあげます!』

 

 ナイトメアの山のようなモンスターらの前に現れた白い魔法使いは、あまりに小さく見えたことだろう。

 

「カードを1枚セットし、手札から"命削りの宝札"を発動! 自分の手札が5枚になるようにドローし、自分のターンで数えて、5ターン後に全ての手札を墓地に置く! 尤も、俺にそんな悠長な時間は残されていないがな! そして――」

 

手札

0→5

 

「魔法カード……"絶望の宝札"を発動ッ!」

 

『ちょ……それは……私とマスターも流石に自重して使ってないカード!?』

 

「自分のデッキからカードを3枚選択して手札に加え、その後、自分のデッキのカードを全て墓地に送る!」

 

『行きましょうマスター!』

 

手札

4→7

 

 3枚のカードと引き換えに残りのデッキ全てが墓地に送られたため、この時点で既に万丈目に次のターンはない。そして、このターンで決着を付けることもこの手札では出来ないことは万丈目が誰よりも理解していた。

 

 故にここからは既に敗北している万丈目の自身のプライドの咆哮そのものであった。

 

「俺は手札の魔法カード、"ダブル・アタック"を発動! 自分の手札からモンスターカード1枚を墓地に捨てる。捨てたモンスターよりもレベルが低いモンスター1体を自分フィールド上から選択し、選択したモンスター1体はこのターン2回攻撃をする事ができるようになる! 手札からレベル8の"闇よりい出し絶望"を捨て、レベル4の"沈黙(ちんもく)魔術師(まじゅつし)-サイレント・マジシャン"を選択! これで2回攻撃できる! そして、俺の手札の残りの枚数は5枚だ!」

 

「攻撃力は3500……"ブロックドラゴン"が200ポイント負けるか……」

 

"沈黙(ちんもく)魔術師(まじゅつし)-サイレント・マジシャン"

ATK1000→3500

 

「バトルだ! "沈黙(ちんもく)魔術師(まじゅつし)-サイレント・マジシャン"で"ブロックドラゴン"を攻撃! サイレント・バーニング!」

 

『はぁッ!』

 

 サイレント・バーニングが炸裂し、ブロックドラゴンを襲うが、それは岩投げエリアにより、何かの岩石族モンスターを墓地に送られたため、戦闘破壊は免れる。

 

リック

LP3900→3700

 

「もう一度だ! サイレント・バーニング!」

 

『これで終わりです! サイレント・バーニング!』

 

 そして、もう一撃繰り出されたサイレント・バーニングにより、今度こそブロックドラゴンは原型すら残らないほど粉々に吹き飛び消滅した。

 

リック

LP3700→3500

 

「"ブロックドラゴン"の効果を発動。このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動でき、レベルの合計が8になるように、デッキから岩石族モンスターを3体まで選んで手札に加える。俺はデッキからレベル8の"地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレート"1体を手札に加える。ああ……これだ……この感覚だ……ククッ……なら次は……次はどうする!? 俺にはまだ4体のモンスターがいるぞ!」

 

 ブロックドラゴンが破壊されたことで、満面の笑みになったナイトメアは、万丈目に向けてそう叫ぶ。

 

 当然、これだけで終わる筈はなかった。

 

「なら見せてやる! 俺は手札から"死者蘇生"を発動! 墓地の"アームド・ドラゴン LV(レベル)5"を特殊召喚!」

 

アームド・ドラゴン LV(レベル)

ATK2400

 

「更にセットしていた魔法カードは……"レベルアップ!"だ! これにより、"アームド・ドラゴン LV(レベル)5"を墓地に送り、手札から"アームド・ドラゴン LV(レベル)7"を召喚条件を無視して特殊召喚する!」

 

アームド・ドラゴン LV(レベル)

ATK2800

 

「そして、"アームド・ドラゴン LV(レベル)7"を生け贄に捧げ、手札から"アームド・ドラゴン LV(レベル)10"を特殊召喚する」

 

「――――――」

 

『わーお』

 

 ここに来てデュエルが始まってから初めて、ナイトメアの表情が驚愕に見開かれ、呆然とした面持ちで固まる。そして、流れる光景をただ眺めていた。

 

アームド・ドラゴン LV(レベル)10

ATK3000

 

「"アームド・ドラゴン LV(レベル)10"の効果――手札を1枚墓地へ送る事で、 相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する! 喰らえナイトメア! ジェノサイド・カッター!!」

 

 アームド・ドラゴン LV(レベル)10の全身から放たれる刃はブロックドラゴンの破壊耐性を失ったナイトメアの全てのモンスターを切り刻み、一斉に破壊した。

 

「これが地獄から這い上がった俺の意地だ!」

 

 そう吐き捨てて万丈目はターンを終了する。当然、デッキ枚数が0枚の彼に次のターンが回ってくることは決してない。

 

万丈目

LP1300

手札2

モンスター2

魔法・罠0

 

 

「ククク……」

 

 モンスターカードゾーンが、がら空きになったフィールドに佇み、不敵な薄笑い浮かべて声を漏らすナイトメア。その様子は明らかに彼なりにデュエルを全力で楽しめた結果に見える。

 

「クハハハ……ハッーハハハハハハッ! 最高だ……お前は最高のデュエリストだ万丈目サンダー! だから……デッキ切れなどという湿気た結末でなく、最高のドローで決着をつけてやる!」

 

 ナイトメアの手札はブロックドラゴンで手札に加えた地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレート。それだけでも万丈目を倒せるが、彼はそれ以上の方法をこの場で引いて見せると豪語する。

 

 それにいつかの遊城十代とのデュエルを思い出しつつ、胸の中でナイトメアの最後の1ドローに想いを馳せ、気づけば十代が言うところのワクワクと同じ感情を覚えていた。

 

 負けた事が確定しようと、意地のみで戦った。そこにはあらゆるしがらみは何もなく、ただデッキと、精霊、そして自身の信念を貫き通した。

 

(ああ……楽しい……ナイトメアとのデュエルがこんなにも――)

 

「ドロー!」

 

 そして、ナイトメアは万丈目がテレビでも見たことがないほど力強くデッキからカードをドローする。

 

 そして、ドローしたカードを眺めたナイトメアは嬉しげに笑い、そのカードよりも先に墓地のカード効果を使用した。

 

「"ブロックドラゴン"は自分の手札・墓地から地属性モンスター3体を除外した場合のみ手札・墓地から特殊召喚できる! 俺は手札の"地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレート"1体と、墓地の"地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレート"1体と、The despair URANUS(ザ・ディスペア・ウラヌス)1体を除外し、墓地から"ブロックドラゴン"を蘇生させる!」

 

ブロックドラゴン

ATK2500

 

 そして、手札の地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレートさえも除外し、手札がドローしたカードのみになったナイトメアは、デュエルディスクへ叩き付けるようカードを置いて発動した。

 

「さあ、行くぞ……手札から"次元融合(じげんゆうごう)"を発動! 俺は2000ポイントライフを払い、互いのプレイヤーは除外されているモンスターを可能な限り特殊召喚する! 俺が特殊召喚するモンスターは――"地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレート"3体と、The despair URANUS(ザ・ディスペア・ウラヌス)1体だ!!」

 

「ここで……"次元融合(じげんゆうごう)"……」

 

リック

LP3500→1500

 

 上空の時空が歪むと、ナイトメアの背後に次々と山のような岩の巨人が降り立ち、最後に空に浮かぶ天王星の化身が月夜に出でた。

 

ブロックドラゴン

ATK2500

 

地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレート

ATK2800

 

地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレート

ATK2800

 

地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレート

ATK2800

 

The despair URANUS(ザ・ディスペア・ウラヌス)

ATK2900→3500

 

 

「当然、全体"一族の結束"の効果が乗る!」

 

 フィールドにいるモンスターは一体一体が通常のデュエリストならば切り札以上の存在になる筈の最上級モンスターのみ。それらを時に使い捨て、無限に沸くかの如く擲ち、手足のように操る。

 

 その様は他者を圧倒し、凄惨で壮烈なデュエルを行う最凶のプロデュエリスト――ナイトメアの全身全霊が込められていた。

 

ブロックドラゴン

ATK2500→3300

 

地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレート

ATK2800→3600

 

地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレート

ATK2800→3600

 

地球巨人(ちきゅうきょじん) ガイア・プレート

ATK2800→3600

 

The despair URANUS(ザ・ディスペア・ウラヌス)

ATK3500→4200

 

「さあ、行くぞ万丈目サンダー! 俺のデュエリストとしての全てを受け止めて見せろ!」

 

 途方もない壁、遠過ぎる背中だと思っていた。

 

 しかし、それは自身の思い込みであり、ナイトメアもまた人間であり、ただのデュエリスト。今、その底を目にし、リック・べネットという男の実力を理解する。

 

 そして、前回は必ず優勝しろと言ったことを思い出し、万丈目は小さく笑みを浮かべると、迫り来るモンスター達を無視し、ナイトメアに真っ直ぐ視線を合わせながら咆哮した。

 

「必ず……必ず俺はお前をそこから叩き落としてやるぞ……ナイトメアァァァ!!!!」

 

「ああ……! その日をいつまでも楽しみにしている……万丈目サンダー!」

 

 そうして、万丈目はナイトメアのモンスターたちが一斉に放った一撃に呑み込まれていった。

 

 

万丈目

LP1300→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『デビル・ドーザーさんと似たような効果なので、よく間違われますけど、ガイア・プレートさんは通常召喚できますし、蘇生制限もないんですよね。というか、攻撃力2800/守備力1000のステータスを満たし、かつ生け贄召喚が可能なので、帝王サポートを使えたりもします。地球帝王 ガイア・プレート……』

 

 デュエル終了後。あまりにもソリッド・ビジョンのフィードバックが強過ぎたため、数分気絶していた万丈目が起きた。

 

 すると明らかにただの精霊とは間違っても思えないほど禍々しいオーラを纏った何か――ヴェノミナーガが、寝転がるような体勢のまま眼前にふよふよと浮かんでおり、万丈目とサイレント・マジシャンに対してそんなことを呟いた。

 

 そして、ふとナイトメアとデュエルをした場所を見れば――。

 

 

「ほれ、十代。ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ・ウラヌス・ブロックドラゴンだぞ」

 

「うぇぇぇぇ!? なんじゃそりゃあぁぁぁ!!!?」

 

 

「"一族の結束"2枚で、ゴリラの攻撃力は1体4600なんだナ……」

 

「うわぁ……サイバーエンドより強いッスよあのゴリラ……」

 

「皆さん夜ふかしはよくないのニャ」

 

「そう言う先生も口以外止めないで見てるじゃないッスか……」

 

「見てるんだナ」

 

「それは先生だってデュエリストで、オシリスレッドに門限はありませんニャ」

 

 

 遊城十代がとても酷い目に合っていた。というより、十代のことだからデュエルを吹っ掛けて返り討ちに合っているのだろうと解釈する。そして、周りも止める気はまるでない。

 

 このヴェノミナーガという見るからに邪悪な精霊は、外見よりも遥かに話がわかるらしく、言動や行動に多少目を瞑れば万丈目としても話せる相手であったため、聞き出してみることにした。

 

「なぜ、十代とナイトメアがデュエルをしているんだ……?」

 

『いや、そりゃ……あんな凄まじく巨大なモンスターとか、派手な攻撃のカードとかを互いにバンバン使ってデュエルしていたら、それに起こされたオシリスレッドの生徒で好戦的な子がマスターに挑むでしょう』

 

『えへへ……要するに崖の上からオシリスレッドの生徒の方々にデュエルをずっと見られていたみたいです』

 

「なに……!?」

 

 それに驚愕した万丈目だったが、負けたとは言え、見られても恥じるような試合ではなかったため、それ以上何か言うことはなかった。

 

 万丈目から見ても試合中の発言や、今の態度から本当にサイレント・マジシャンの親なのかと思う光景だが、その辺りは今聞き出す意味もないので聞かないでいると、ヴェノミナーガの方が動き、口でもあり手でもある右腕を万丈目の目の前に向けた。

 

「う、うおっ!? な、なにをする!?」

 

『私、ダイエット中なので人間は食べませんよ。マスターが万丈目さんが起きたら渡すようにと持たされたカードです』

 

 右腕の手先の口が開くと、すぐに舌が伸び、舌先には3枚のカードが握られていた。それを手渡され、万丈目はされるがままに狐に抓まれたような気分でカードを見つめる。

 

サイレント・ソードマン LV(レベル)

星3/光属性/戦士族/攻1000/守1000

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードを対象とする相手の魔法カードの効果は無効化される。

(2):自分スタンバイフェイズにフィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。手札・デッキから「サイレント・ソードマン LV5」1体を特殊召喚する。この効果はこのカードが召喚・特殊召喚・リバースしたターンには発動できない。

 

サイレント・ソードマン LV(レベル)

星5/光属性/戦士族/攻2300/守1000

(1):このカードは相手の魔法カードの効果を受けない。

(2):このカードが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合、次の自分ターンのスタンバイフェイズにフィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。手札・デッキから「サイレント・ソードマン LV7」1体を特殊召喚する。

 

サイレント・ソードマン LV(レベル)

星7/光属性/戦士族/攻2800/守1000

このカードは通常召喚できない。「サイレント・ソードマン LV5」の効果でのみ特殊召喚できる。

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、フィールドの魔法カードの効果は無効化される。

 

 

『さ、サイレント・ソードマンさんじゃないですか!?』

 

LV(レベル)モンスターじゃないか!? これ1枚ごとにどれだけの価値が……こんなもの受け取れ――」

 

『聞いての通り、マスターの趣味はレアカード収集。そして、本人は認めないと思いますが、収集したカードを使ってくれそう、精霊が行きたがっているようなデュエリストに渡すのも趣味なんですよ。私としても嘆かわしいことに、大概の場合、常人が決して手の届かないような超レアカードは、ろくにデュエルもしない金満家が持っていますからね』

 

 サイレント・マジシャンが声を上げて驚き、万丈目がヴェノミナーガに返そうとしたところで、ヴェノミナーガはそう言って聞かせる。そして、更に言葉を続けた。

 

『マスターは万丈目さんをデュエリストとして見込み、私はもうカードを渡しました。それはもう貴方の物です。売るもよし、破って捨てるもよし、燃やすのも構いません。ですが、マスターと私が受けとることだけはしませんので悪しからず』

 

「………………わかった。受け取ればいいんだろ受け取れば!」

 

『理解が早くて助かります』

 

 有無を言わさぬ様子だったため、万丈目は受け取ることにした。しかし、本心では無論、新たなLV(レベル)モンスターに心踊る自身がいたことも確かであった。

 

『よっと……』

 

 するとヴェノミナーガは宙に寝転がる姿勢から体勢を変え、いつもナイトメアの背後にいるように立って浮いた。それから再び言葉を投げ掛ける。

 

『まあ、私も……見てて面白いと思いましたし、マスターがあんなに楽しそうにしていたのは中々ないことなので、健闘賞としてカードを進呈しましょう』

 

 そういうと次は左腕を万丈目の前に出して口を開く。

 

 今度はチョロチョロと赤く覗く舌先にはカードはなく、なんのことかと万丈目が考えていると、ヴェノミナーガの夜闇よりも暗く濃い黒紫色のオーラが舌先に収束し、それが終わると3枚のカードが出現し、それを万丈目に渡した。

 

 

沈黙(ちんもく)魔導剣士(まどうけんし)-サイレント・パラディン

星4/光属性/天使族/攻 500/守1500

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。デッキから「サイレント・ソードマン LV3」または 「サイレント・マジシャン LV4」1体を手札に加える。

(2):このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、自分フィールドのモンスター1体のみを対象とする魔法カードが発動した時に発動できる。その発動を無効にする。

(3):フィールドのこのカードが戦闘または相手の効果で破壊された場合、自分の墓地の光属性の「LV」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

 

沈黙(ちんもく)剣士(けんし)-サイレント・ソードマン

星4/光属性/戦士族/攻1000/守1000

このカードは通常召喚できない。自分フィールドの戦士族モンスター1体をリリースした場合のみ特殊召喚できる。

(1):自分・相手のスタンバイフェイズに発動する。このカードの攻撃力は500アップする。

(2):1ターンに1度、魔法カードが発動した時に発動できる。 その発動を無効にする。

(3):フィールドのこのカードが戦闘または相手の効果で破壊された場合に発動できる。手札・デッキから「沈黙の剣士-サイレント・ソードマン」以外の 「サイレント・ソードマン」モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。

 

沈黙(ちんもく)(つるぎ)

速攻魔法

(1):自分フィールドの「サイレント・ソードマン」モンスター1体を対象として発動できる。

その自分のモンスターの攻撃力・守備力は1500アップし、ターン終了時まで相手の効果を受けない。このカードの発動と効果は無効化されない。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「サイレント・ソードマン」モンスター1体を手札に加える。

 

 

「な、なんだこれは……見たことすらないカードだ!?」

 

『まあ、こう見えても神ですので、それぐらい朝飯前ですよ。時間や空間の概念、人の(ことわり)の外に存在しますからね』

 

「神……? 何の話――」

 

『まあまあ、それよりもそろそろ、後ろの方々を相手にしてあげれば如何ですか?』

 

「後ろ……? うおっ!?」

 

『「「万丈目さん!!!」」』

 

 するとそこには目から大粒の涙を流し続けるオシリスレッドの生徒たちの姿があった。更によく見ればほとんどが、万丈目自身よりも少し高い年齢――というよりも大人びて見えた。

 

「お、俺……万年落第生だから……」

 

「ずっと……全て諦めてデュエルアカデミアで過ごしてたんです……!」

 

「けれど……万丈目さんは俺なんかよりもずっとずっと過酷だったのに、そこから這い上がった!」

 

「それで、あの悪魔のようなリックさんに挑んで……負けるとわかってもあんなに素晴らしいデュエルをしていた!」

 

「あれを見て、俺もまた頑張ろうと……入学したころの夢を思い出しました!」

 

「俺……もっと頑張ってみようと思います!」

 

『「「万丈目さん!!!」」』

 

 あのデュエルで何かを得たのは、万丈目だけではなかったということであろう。オシリスレッドの寮が近かったこともあり、ほとんど全ての寮生が、デュエルを目にし、個々で感じる事があったようだ。

 

 ついでに万丈目に感銘を受けた彼らは、万丈目を囲んで感涙に咽び泣き始める。

 

「ああ、うるさいうるさい! わかったから掴もうとはするな! それと俺のことは――!」

 

 そう言って、万丈目が手を掲げたことで、オシリスレッドの生徒はハッとした表情になり、すぐに真剣なものになり、手を掲げる。更にデュエル中のナイトメアと、十代も一旦手を止め、万丈目の方へ向くと手を掲げた。

 

 そして、万丈目が高らかに叫んだ。

 

 

 

「一っ! 十っ!」

 

 

 

『百っ! 千っ!』

 

 

 

『「「万丈目サンダー!!!!」」』

 

 

 

 こうして、万丈目はかなり早い段階で、既にオシリスレッドに心の底から受け入れられ、決して華々しくはないが、デュエルアカデミアで彼らしい復活を遂げたのだった。

 

 

 

 

 





 今日は17000文字を超えました。やっとセブンスターズ編に入れる……。

 それはそれとして、息抜きに短編で、ガチレズこと大庭ナオミちゃんがヒロインで、ひたすら罵られつつ、ナオミちゃん主導で、明日香にちょっかいを掛けていく、岩石族使いの男が主人公の遊戯王GXの小説書きたい(真顔) 書かせて(迫真) ダメ……? そ、そんなー!(ロロライナ・フリクセル風)



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ダークネス三連戦! その1


 うん、正直、この展開はとんでもなく強引ですが……はじめからこの為だけにリックくんの性格を設定しましたし、作者も流石に普通に4期まで書いたら城之内くんのように精神が焼ききれてしまうのでこうしました。

 先に言っておきますが、ある意味ホラー回です。では初投稿をお楽しみください。





 

 

 

《ああ、特待生寮の地下で起こった生徒の失踪事件についてなら、"ダークネス"の仕業だぞ》

 

「えっ……?」

 

 携帯端末での通話越しに、さも明日の授業の持ち物でも答えるような軽い口調でリック・ベネット――ナイトメアと呼ばれる男はそう言った。

 

 ナイトメアに電話を掛けた天上院明日香は、あまりに唐突かつ雑に訪れた妙な答えに困惑し、言葉が出せずに止まる。

 

 夜分にオベリスクブルー女子寮の自室で明日香がナイトメアへと電話を掛けた理由は、前日に港にある灯台の前でいつものように情報共有のために丸藤亮に会っていたところ、亮が"今さらだが……そういえばリックは制裁デュエルのとき、旧校舎に侵入したと言っていたな"とふと呟いたことが切っ掛けである。

 

 そのことを彼女も思い出したため、ひとまず何か知らないか聞いてみることにした結果がこれであった。

 

《ダークネスっていうのは……あー……ちょっと電話だけで1から説明するのはたぶん無理だから今は省く。要するに特待生寮での生徒の失踪には、デュエルモンスターズの精霊……のようなものが関わっているんだが……あー……どのみち説明し難いな》

 

「しっかり説明して! 電話で出来ないならどこかで会って話しましょう!」

 

 要領の得ない発言を繰り返すナイトメアに、遂に兄の手掛かりを掴んだと藁にもすがる思いの明日香は声を張り上げた。しかし、すぐに冷静になり、悪いことをしてしまったという想いが募る。

 

「……怒鳴って、ごめんなさい。でも教えて欲しいの。なんでも……どんな小さなことでもいいわ」

 

《ん? 今なんでもするって――》

 

《言ってない。ふむ……それは構わないが、妙にあの失踪事件に入れ込むんだな》

 

(あら? 今の声……メデューサ先生……? いや、まさかね)

 

 明日香はふとした瞬間に、ナイトメアの端末のマイクが、知り合いに似た女性の声を拾った気がしたが、その女性は現在進行形で、女子生徒に触れる場で女子寮の仕事をしている筈である。そのため、他人の空似や、電話越しなので、藤原雪乃や獏良天音といった人物がそう聞こえたのではないかと結論付けた。

 

 それと、ナイトメアは特待生寮の地下で明日香らが体験した出来事を知らず、更に明日香が兄の天上院吹雪を探していることも知らないことに気がつく。

 

 そのため、兄が失踪し、その手掛かりを探していることをナイトメアに伝えた。

 

《お兄さんが失踪……ダークネスに……か》

 

 そう呟いたナイトメアは少し考えているように会話に間が空き、少しすると神妙な声色で言葉を吐く。

 

《わかった。天上院にはダークネスの顛末を見届ける権利があるだろう。全部話すから、時間と場所の指定はそちらに任せる。ただ、デュエルディスクは持っていてくれ》

 

 その言葉にはやる気持ちを抑えつつ、明日香はいつも丸藤亮と会っている港の灯台に、ナイトメアを呼び出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明日香が思うナイトメアの印象は、丸藤亮よりも比較的話しやすいが、遊城十代ほど親しみやすくはなく、このデュエルアカデミアで一番何を考えているのかわからない人物であった。

 

 と言うのも、そもそもやはり、彼はリック・ベネットというよりは、テレビの中のプロデュエリストとして、慣れ親しんだナイトメアという血も涙もない凄惨で冷徹なデュエリストという印象が強過ぎるため、ナイトメアだということのイメージが先行してしまうためであろう。

 

 実際、明日香どころか、デュエルアカデミアのよく見ているプロデュエルの番組で、花形のプロデュエリストの1人のため、未だに大多数の生徒からは若干の適度な距離を置かれ、明日香自身も一目を置いていると自覚している。ちなみに、それを本人は特に気にも止めていない様子である。

 

 そして、前提としてヒールのプロデュエリストというマイナス評価から彼と接すると、誰しもが驚くであろう事としては、若干ぶっきらぼうではあるが、普通に優しいのである。

 

 いくつか例を挙げれば、定期試験日に試験は途中退出可のため、すぐに試験を終わらせて一息入れていたナイトメアは、窓から購買部のトメさんのトラックが坂で止まってしまい、十代が押しているのを見つけたとき、すぐに行動し、明らかに試験を受けていない十代に代わってトラックを押していた。

 

 購買部の店員の女性――サンの子供のラーがよく風邪を引いて熱を出すため、サンが看病しなければならないときに、不思議なことに学校は公欠扱いでナイトメアがサンの代わりに購買部の店員をしている。ちなみにナイトメアが店員をしているときは、レアが出やすいというジンクスがあるらしく、パックの売り上げが明らかに伸びるそうな。

 

 男女問わず、困り事などを頼まれた際は、ほとんどノーとは言わずに引き受けて最後まで行うが、彼では無理な内容に関しては、教員など可能な方に引き継ぐ。

 

 夏休み後半には浜辺で連日バーベキュー、冬休みには同様に本館の一角で連日鍋パーティー等の様々なイベントを、全て自費かつ誰でも参加可能で開催するという金持ちにしか出来ない道楽を行い、見返りは求めない。

 

 要するに、人並み程度には優しいのである。そして、それは不良が野良猫を拾っている姿を見て、常人の倍以上良い光景に映るのと同じ現象であろう。それが歴代のプロデュエリストでもぶっちぎりのヒールであるなら尚更である。

 

 まあ、良い面ばかりではなく、十代が可愛く見えるほどのデュエル狂であり、休日や放課後に暇そうな学生がナイトメアと目を合わせると、笑顔でデュエルディスクを展開し、半ば強制的にデュエルを持ち掛けて来たりもするため、悪夢で悪魔なことは確かであろう。

 

 ちなみに、そのことを生徒の間では"無差別破壊"と呼んだり、一人を犠牲に他の者は逃げる時間が出来るため、生徒の間ではそのことを"苦渋の選択"や、"生け贄人形"等と呼ばれてもいる。

 

 そのため、明日香としては話しやすいが、親しみやすくはないという評価になる。また、デュエルアカデミアで一番何を考えているのかわからない人物という点に関しては、やはりデュエルモンスターズの精霊が見えることを公言しており、押し付けようとはしないが、聞けば丁寧に説明することや、時々独り言を呟いている点が常人には異様であろう。

 

 

「来たか」

 

 

 そして、指定した時間の15分ほど前に到着した明日香は、既に待ち合わせ場所にいるナイトメアが――何故か、デュエルディスクを構えていた。

 

 月夜でドーマのデュエルディスクを構えるナイトメアは、いつもよりも真剣な面持ちをしており、本物の悪魔のような人外染みた雰囲気を纏っていたため、明日香は背筋が凍り付く感覚を覚える。

 

「いきなりで悪いが……デュエルをしよう。天上院」

 

「本当にいきなりね……」

 

 デュエルディスクを持ってくるように頼むのは、デュエルをするという暗黙の了解にも等しいため、ナイトメアがデュエルを挑んでくるであろうことは考えていた。

 

 そのため、明日香はナイトメアと対峙してデュエルディスクを展開する。

 

「ダークネスの話をするのなら、前提として理解して貰いたいことがあるからな。何も言わずにデュエルをして欲しい」

 

「わかったわ……」

 

『デュエル!』

 

 そうして、2人のデュエルが始まった。

 

ナイトメア

LP4000

 

明日香

LP4000

 

 

「私のターンドロー!」

 

手札5→6

 

 明日香はナイトメアとデュエルをしたことはこれまでに多々あったが、いつもとは何かが決定的に雰囲気が異なることを感じつつ手札を確認し、最良の手を行う。

 

「私は手札の"エトワール・サイバー"と、"ブレード・スケーター"を融合して、"サイバー・ブレイダー"を融合召喚!」

 

サイバー・ブレイダー

星7/地属性/戦士族/攻2100/守 800

「エトワール・サイバー」+「ブレード・スケーター」 このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

(1):相手フィールドのモンスターの数によって、このカードは以下の効果を得る。

●1体:このカードは戦闘では破壊されない。

●2体:このカードの攻撃力は倍になる。

●3体:相手が発動したカードの効果は無効化される。

 

 プリマドンナが降臨し、音もなく明日香のフィールドに降り立った。

 

サイバー・ブレイダー

ATK2100

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンドよ」

 

明日香

LP4000

手札2

モンスター1

魔法・罠1

 

 

「俺のターンドロー」

 

ナイトメア

手札5→6

 

「俺は手札を1枚捨てて魔法カード、"スネーク・レイン"を発動。デッキから爬虫類族モンスター4体を墓地へ送る。効果により、デッキから"毒蛇王(どくじゃおう)ヴェノミノン"3体と、"ワーム・クィーン"1体を墓地へ送る」

 

(いきなり墓地肥やし……何か来るのね)

 

 メデューサ先生の授業によって、デュエルアカデミアの生徒は多種多様な戦い方を見ているため、ナイトメアがしていることは墓地肥やしだと見当がつく。授業を受けていなければ、まだ気づくこともなかったであろうと、明日香は内心でメデューサ先生に感謝した。

 

「更に自分の手札から魔法カード、"ヴァイパー・リボーン"を発動。自分の墓地のモンスターが爬虫類族モンスターのみの場合に、チューナー以外の自分の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズ時に破壊される。俺は"ワーム・クィーン"を攻撃表示で特殊召喚」

 

ワーム・クィーン

星8/光属性/爬虫類族/攻2700/守1100

このカードは「ワーム」と名のついた爬虫類族モンスター1体をリリースして表側攻撃表示でアドバンス召喚できる。また1ターンに1度、自分フィールド上の「ワーム」と名のついた爬虫類族モンスター1体をリリースする事で、リリースしたモンスターのレベル以下の「ワーム」と名のついた爬虫類族モンスター1体をデッキから特殊召喚する。

 

 それは蟻のような下半身を持ち、蟻なら頭部がある部分からエイリアンのような上半身が生えた真っ白い体をしている。その上、数階建てのビルほどの高さの巨体をしているだけでなく、上半身と下半身で別の生物に見えるという地球の生物とは全く思えない怪物であった。

 

ワーム・クィーン

ATK2700

 

「"ワーム・クィーン"……? ワーム……そんなカードは見たことないわね」

 

「ああ、デュエルアカデミアでもプロデュエルでも1度も使わなかったデッキだからな……うるさい、ヴェノミナーガさんをデッキに入れてても天上院に対して使うわけないでしょうが」

 

 天上院の質問に答えつつ、何故か虚空を向いて宥めるような声を上げるナイトメア。十代や万丈目もたまにそのようなことをしていると天上院は考えていた。

 

「"ワーム・クィーン"の効果発動」

 

「なにを!?」

 

 その瞬間、ワーム・クィーンが自身の上半身を自身の下半身で食べ始めるという異様なことをし始めたため、明日香は驚き戸惑った。

 

「1ターンに1度、自分フィールド上の"ワーム"と名のついた爬虫類族モンスター1体を生け贄にする事で、生け贄にしたモンスターのレベル以下の"ワーム"と名のついた爬虫類族モンスター1体をデッキから特殊召喚する。俺は"ワーム・クィーン"をデッキから攻撃表示で特殊召喚」

 

 そして、下半身が上半身を喰らい尽くした後、下半身が痙攣し、内側から張り裂けるように爆散すると、そこには再びワーム・クィーンが立っていた。

 

ワーム・クィーン

ATK2700

 

「入れ替わったことで、1ターンに1度の制約はリセットされる。もう一度、"ワーム・クィーン"を生け贄にデッキから"ワーム・クィーン"を特殊召喚」

 

(気分が悪くなってきたわ……)

 

 光景だけでもかなりアレだが、何故か明日香にはそれがただのソリッド・ビジョンではなく、現実で起きたような感覚を覚え、吐き気を催していた。

 

ワーム・クィーン

ATK2700

 

「最後だ。"ワーム・クィーン"を生け贄に、"ワーム・キング"を攻撃表示で特殊召喚する」

 

ワーム・キング

星8/光属性/爬虫類族/攻2700/守1100

このカードは「ワーム」と名のついた爬虫類族モンスター1体をリリースして表側攻撃表示でアドバンス召喚できる。また、自分フィールド上の「ワーム」と名のついた 爬虫類族モンスター1体をリリースする事で、相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

 

 ワーム・クィーンからワーム・クィーンが出るものと同様の方法で現れたそれは、ワーム・クィーンと同じほどの巨体をし、酷似した造型をしているが、かなり筋肉質であり、より獣のような外見をした黄色い怪物であった。

 

ワーム・キング

ATK2700

 

「さて……それでダークネスを知る前に天上院とデュエルをして知って欲しいことだが……まあ、論より証拠だな。とりあえず、出来る限りは痛めないように配慮するが、身構えておいてくれ」

 

 そう言うとナイトメアは腕を掲げ、ワーム・キングに指示を出した。

 

「"ワーム・キング"で、"サイバー・ブレイダー"を攻撃」

 

『キング・ストーム!』

 

(え……?)

 

 そのとき、明日香の耳にはどこかで聞き覚えのある女性の声が聞こえた気がしたが、周りには2人以外の姿はない。

 

 直ぐに我に返った明日香は、セットしたカードを発動した。

 

「罠カード、"ドゥーブルパッセ"発動!」

 

 ドゥーブルパッセは、相手モンスターが自分フィールドの表側攻撃表示モンスターに攻撃宣言した時に発動でき、攻撃対象モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与え、その相手モンスターの攻撃を自分への直接攻撃にする罠カード。

 

 未だに彼には使ったことがないカードであり、彼がいるときにも使っていなかったカードのため、ナイトメアは明日香がこのカードを入れていることは知らない。そのため、これ以上ないほど意表をつく形になった。

 

 ナイトメアは、ドゥーブルパッセの効果を知っているようで、珍しく驚いた表情を浮かべており、その事が明日香は誇らしく思う。

 

「"ドゥーブルパッセ"だと――!? マズい! ダメだ天上院!」

 

「え……?」

 

 そして、これまでとは一転し、酷く焦った様子になったナイトメアが叫んだため、明日香は疑問符を浮かべたが、すぐに殺到したワーム・キングの拳が既に眼前に迫っていた。

 

 その拳は明日香の身の丈程もあり、指からも筋骨隆々の様がありありと伝わってくるもので――。

 

 次の瞬間、凄まじい衝撃と、自身の内から聞こえる肉がひしゃげる音が響いたことを感じたと共に、明日香の視界は暗転し、そのことを不思議に思っている内に意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ……」

 

 次に目覚めたとき、明日香が真っ先に見たのは、夜空に浮かぶ月明かりに照らされた購買部の女性店員――サンの顔だった。

 

「サンさん……?」

 

「おはよう明日香ちゃん……」

 

 明日香が起き上がり、サンを見ると地べたに座っており、明日香は彼女に膝枕をされていたことに気づく。更に何故か、魔女のような服装をしており、隣に箒と帽子も置かれていた。

 

「もう怪我ない……大丈夫……だよ」

 

「怪我ですか?」

 

 明日香は自分の体を確認してみるが特に変わりはない。服装や髪型も元のままだ。

 

 それから辺りを見渡すと、ボラードに腰を掛け、斜め上を向いて話すナイトメアが目に映り――。

 

『全くもう……マスターの闇の力の素ステは元々無茶苦茶高いですが、特に破壊と殺傷能力に関しては、デュエルモンスターズの神に匹敵するレベルなんですから気をつけてください』

 

「とは言っても真のデュエルや、精霊の力を半信半疑で信じさせるだけならなんとかなるが、ダークネスまで理解させるとなると、最早言葉では無理だからなぁ……」

 

「ッ――!?」

 

(何あれ……!?)

 

 ナイトメアの視線の先に闇そのものだとでも言うように、明らかに異様な力を纏った神話のゴルゴーンのような何かが浮いていた。彼はそれといつも通りの様子で雑談をしており、手には1枚のカードが握られている。

 

 彼の手にあるのは回復カード……ではなく、何故か"死者蘇生"であったが、明日香はそこに注意が向いていなかったため、それが何のカードなのかまでは意識を向けていなかった。

 

『港でお昼寝もいいですねぇ~……ぐぅ……』

 

 それとナイトメアの座るボラードの隣のボラードを枕にして、巨大な女神像のような天使が寝ているが、そちらは今は考えないようにした。

 

 それよりもナイトメアという怪物の存在に気を取られていると、示し合わせたかのように怪物と目が合う。

 

『はーん……』

 

 すると――。

 

『がおー! 食べちゃうぞー!』

 

「きゃぁぁぁぁあぁぁぁ!!!?」

 

「――!?」

 

「なにしてんのアンタ!?」

 

 手を振り上げて冗談半分で怪物が威嚇したところ、それを真に受けた明日香が絶叫し、近くにいたサン――砂の魔女も肩を跳ねさせて驚いた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

『どうやら元々、素質はあったようですが、キングさんにぶん殴られ、マスターに引き戻され、生死の境を反復横飛びしたせいで、本格的に精霊の力に目覚めてしまったようですね。キングさんに殴られて精孔開いちゃった的な?』

 

「キメラアントみたいに言ってないで、真面目に話してください」

 

『くかー……』

 

 とりあえず、ナイトメアと砂の魔女による数分の説得の末、見た目よりは危ないものではないことを明日香は辛うじて納得したため、会話に入ることになった。

 

『とりあえず、見て感じて頂いた全ての通り、デュエルモンスターズの精霊、真のデュエルあるいは闇のデュエルについては納得してもらった形でいいですね?』

 

「そう……私、あなたに殺されかけたのね……」

 

「………………本当に申し訳ありません」

 

 戸籍上はアメリカ人にも関わらず、見事な土下座を見せるナイトメア。こういったところが、彼が周りの印象をよくわからなくしている所以である。謝るまでに若干の間があった気がするが、それが何を意味するかまで明日香は気にしていなかった。

 

 とりあえず、この精霊――ヴェノミナーガだけでなく、購買部のサンや、そこで寝ている大きな天使は全て、ナイトメアの精霊だということは理解した。それと、闇のデュエルなるものが、元々のデュエルモンスターズであり、古代では重要なことを決める際の祭事などにされていたとのことだ。

 

『さてさて、それではダークネスについて、私からお話しましょう――』

 

 そして、ポツリポツリとヴェノミナーガは何かの声真似を交えつつ口を開いた。

 

 

 

 真実の始まりはあまりにも遠く、遥かな昔。何も存在しない暗闇に、最初に1枚のカードが生まれた。そして、表と裏が生まれ、世界の始まりが訪れた。

 

 やがてそこに星々は生まれ、そして、この世界が築かれた。人間が万物の頂点になった。人間が世界の起源であるカード、デュエルモンスターズを見つけることは必然だったと言っていい。

 

 だが、故にデュエルモンスターズこそ、人間の心を計る試金石、心を映す鏡であった。

 

 もし、汝の住む世界をカードの表と例えるなら、我が世界はその影、闇。もし、デュエルモンスターズを操るデュエリストたちの心に光が宿り続けていたなら、表の世界の安息は約束されていたかもしれない。

 

 しかし、デュエリストたちの心の多くは闇に染まり、我が世界に流れ込んだのだ。

 

 我に野心はない。多くの闇に塗り込められた力が我を目覚めさせたのだ。我が世界がこの世界に取って代わるのは、水が高い場所から低い場所に流れる如く自然の(ことわり)。言うなれば我は救世主。

 

 流れ出した激流は止められん。我は流れのままに、そこに立ちはだかる小さな障害を排除したに過ぎん。

 

 

 

『――とまあ……ダークネスさんならこんな感じに呑み込む星で対峙するデュエリストに説明すると思います』

 

「…………………………は?」

 

 明日香は自然に自身の脳が理解することを拒否した。

 

『要するに、この宇宙ではデュエリストたちの心が汚れると、その世界――星そのものを淘汰しに来る摂理としての最終廃絶機構。それがダークネスさんです』

 

 "型月(タイプ・ムーン)にも探せばそんなのいそうですね"と明日香には全くわからないことを呟きつつ、ヴェノミナーガは更に言葉を続ける。

 

『ドーマの首謀者もとい首謀神、オレイカルコスの神ことリヴァイアサンが復活してしまったように、実際この世界はだいぶ、闇に染まっているというのは事実ですからね。既にダークネスさんは、この世界に手を出し始めているようですし、まだまだ先の話になりますが、この星の剪定に乗り出すと思いますよ………………まあ、例えば仮にですけど。これから毎年この星に、ドーマ規模ほどの何かしらの負荷が掛かるようなことがあれば、3~4年ぐらいでダークネスさんが来ちゃうかも知れませんけど』

 

「ははは、嫌ですね。ヴェノミナーガさん。流石に毎年世界の危機を救うハメになるなんて、そんなことあるわけないじゃないですか」

 

 ナイトメアが冗談を嗜める様子でそう言うと、ヴェノミナーガは大きな溜め息を吐きつつ再び口を開いた。

 

『つってもあの方は……他人の記憶を消して無理矢理ひきずり込んだり、個々に偽りの絶望の未来の幻想を見せ続けて心をへし折って取り込んだり、洗脳ついでに手駒にしたりします。行動が言ってることより、かなり外道じみていますし、それ以上に独善でしか行動しないので、話は出来ても対話するだけ無駄な方ですよ。狂化EXですね』

 

 無論、明日香はこれまでの説明と称した何かの内容を、一言目の話から既に理解できなかった。

 

『ふむ……この宇宙は1枚のカードから生まれたというところはわかりましたか?』

 

「…………わかると思う……?」

 

『まあ、思いませんね。私も最初から言葉でわかるとは思っていませんよ』

 

「え? そうだったんですか?」

 

 その直後、ナイトメアの呟きを無視し、ヴェノミナーガは目にも止まらぬ早さで下半身を明日香の全身に巻き付け、身動きを取れなくしてしまった。

 

「な、何をするの!?」

 

『いえ、こっちの方が遥かに分かりやすので、マスターにはどうせ反対されるので言いませんでしたが、少しの間――』

 

 ヴェノミナーガはニタリと笑みを浮かべた。

 

『手っ取り早く私と同化して貰います』

 

「え……?」

 

「は? いや、ヴェノミナーガさん何を言って――」

 

 次の瞬間、ヴェノミナーガは黒紫色の仄暗い異様な光と化し、明日香の体に吸い込まれるように消えて行った。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 ヴェノミナーガが完全に消えた直後、明日香は心ここにあらずといった様子で呆然とした表情で棒立ちしていると、徐々に髪の毛の色がヴェノミナーガの鱗と同じ青紫色に染まり、目の色が深紅に染まる。

 

 そして、どちらも完全に染まり切ると、目に光が宿り、苦虫を噛み潰したような表情をしているナイトメアに向き合い、満面の笑みを浮かべた。

 

「明日香ちゃんですよーミ☆」

 

「…………ヴェノミナーガさん、他人の体で遊ばないでください」

 

「むっ、遊ぶだなんて失礼な」

 

 そう言うと明日香――ヴェノミナーガはナイトメアの手を取り、谷間に押しつけて沈めつつ抱き着いて見せた。それをされているナイトメアは、能面のような無表情を貫いている。

 

 無論、今のヴェノミナーガの声は明日香と全く同じであるが、その言動は明らかに明日香ではない。

 

「見ての通り、私がいれば他のおんにゃのこにエッッッルロィことし放題ですよ! その上、洗脳から、常識改変、意識を残した強制奉仕までなんだって可能です! エロ同人みたいに! エロ同人みたいに! ぐへへへ……実際たまんねぇな!」

 

「よし、俺は今日この日までヴェノミナーガさんの危険性を見誤っていた。待っていろ天上院……この馬鹿をデュエルで跡形もなく消滅させて助け出してやる!」

 

「わー! わー! 流石にただの小粋なジョークですって!? …………30%ぐらいは」

 

「あ゛?」

 

「ひぃ!? 本気で怒ってらっしゃる!? わ、私の持っているダークネス関連の記憶や真のデュエル、精霊界の知識といったことを共有したら元に戻りますから朝まで待ってください!」

 

「おいこら、待て――」

 

「………………リック(マスター)

 

 すると突然、抱き着いたままの姿勢で、ナイトメアと自身を交互に見て、怒りに眉を顰め、わなわなと震え始めた。

 

「……天上院か?」

 

「ええ……天上院明日香よ……全部説明してくれるのよね?」

 

「あ、ああ……俺だと説明しきれないところもあるが、出来る限りは力になろう」

 

「私は元に戻れるのよね……?」

 

「まあ、明日の朝には戻れるようなことをヴェノミナーガさんは言って――」

 

「戻 れ る の よ ね ?」

 

 有無を言わさぬドスの聞いた声で言われ、ナイトメアは再び苦虫を噛み潰したような表情になるが、目を泳がせた末、観念した様子になり、口を開いた。

 

「すまん……ヴェノミナーガさんは俺でも理解不能なんだ……」

 

「…………そうなの」

 

 すると仏頂面のまま、何故か明日香はナイトメアの腕に抱き着く力を少し強め、より密着した。

 

「…………つかぬことを聞くが、天上院は俺から離れた方がいいんじゃないか? というか、流石に近過ぎるような……」

 

「………………そう言えばそうね。何故かしら……?」

 

 しかし、そう思うと共に、何故か明日香はこうしていることが自然であり、むしろ可能なら率先的にこのようにくっついていたいというよく分からない感覚を覚える。

 

 そして、ナイトメアの側にいることで、とても安心感を感じ、匂いを嗅いでいるだけで、幸せになれるような気さえし、胸の高鳴りを自然なものと感じていた。

 

《それはもちろん、憑依したゆきのんさんのときと違って、私と同化していますから、私のマスターへの好意がそのまま、引き継がれているんですよ。今の明日香さんはさながら体験版恋する乙女ですね!》

 

「は……?」

 

「なにかあったか?」

 

 突如、頭の中に響いたヴェノミナーガの声と、その内容に思わず声を上げる明日香。

 

リック(マスター)は聞こえないの?」

 

「マスターって俺のことか……?」

 

「……? リック(マスター)は、リック(マスター)でしょう?」

 

 そして、どうやらその声は、ナイトメアには届いていないらしい。その事に多少の落胆を覚えるが、明日香としては、それだけであった。

 

「ヴェノミナーガさん……元に戻ったら後で、覚えていろよ……」

 

 わなわなと震え出し、怒りを露にするナイトメア。その様子を見つつ、明日香はどうしたらヴェノミナーガに話を聞けるかナイトメアに聞いた。

 

「普通に天上院の中にヴェノミナーガさんがいる筈だから、心の中で質問してみてくれ……本当に申し訳ないが、マスターの俺でも手綱を握れるような存在じゃないんだあの人は……」

 

「そ、そうなの……」

 

 小言の一つでも何か言ってやろうと思ったが、疲れ切ったサラリーマンのような哀愁を漂わせる背中と、半笑いを浮かべて影が射した表情により、明日香はそれ以上の言葉を掛ける気にならず、とりあえず言われた通りに質問してみることにした。

 

(ねぇ、私に何をしたの?)

 

《A:調整中です》

 

(私はちゃんと元に戻れるの……?)

 

《A:調整中です》

 

(――話を聞きなさい!)

 

《A:調整中です》

 

 しかし、まるで壁とでも話しているようにマトモな返答が返って来ない。

 

「ダメね……何を言っても調整中って言葉が帰ってくるわ……」

 

運営(ヴェノミナーガさん)がポンコツなんだな……"成仏"か、"大成仏"か、"融合解除"でも投げつけてみればいい感じに分離しないか……」

 

《あっ、それはダメです。そんなことしたら明日香さんの魂が、逆に私と完全に融合して私の体の一部――具体的には意識を保ったまま、永遠に私の髪の毛の蛇の一匹になってしまいます》

 

「な……や、止めなさい! リック!? 私を生きたまま殺す気なの!?」

 

「お、おう……なんだかわからないがそうなのか……」

 

 このまま明日香を女子寮に帰す訳にも行かず、悩んだ末、こっそりと明日香を自室に連れて行き、朝まで様子を見ることにした。

 

「……? 私の帰る場所はリック(マスター)の部屋でしょう?」

 

 ――尤も、当の本人は最初から女子寮に戻る気はなかったようだが。

 

「完全にホラーだろこれ……」 

 

 死んだ魚のような目をしつつ、スリスリと身を寄せて鼻歌でも歌いそうなほど、機嫌が良さげな明日香を連れてナイトメアは帰るのであった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「お腹がすいたわ」

 

 部屋に戻ると、真っ先にヴェノミナーガの定位置になっている炬燵に入ったまま、テレビが一番見易い位置に陣取ると、開口一番に明日香はそう呟いた。

 

「…………そう言えば、そろそろヴェノミナーガさんが夜食を頼んでくる時間だな」

 

 部屋の時計を見つつ、そう呟くナイトメアに明日香は畳み掛ける。

 

「何故かしら? とても卵料理が食べたいのよ。まあ、無理にとは言わないわ」

 

「……わかった。とりあえず、冷蔵庫にある材料でオムライスでも作るから待っていてくれ」

 

リック(マスター)が優しいわ……いつもは残り物食えって言われるだけなのに……」

 

 明日香は感動した様子を見せつつ、炬燵のその場所から動かずに取れる位置に置いてある箪笥をまさぐり、お菓子とジュースと蛇の柄が描かれたコップを取り出して食べ始めた。

 

「……港にいたときより、侵食率上がってねぇか?」

 

《あ、ちなみに常人なら1日も同化していると、完全に私になってしまいますので気をつけてください》

 

「――ぶふっ!? どういうことよそれ!?」

 

「…………その様子的に長時間ヴェノミナーガさんといることは危なそうだな」

 

 ちなみにナイトメアはこう見えても、舌の肥えたヴェノミナーガにほぼ毎日食事を提供しているため、料理の腕は店を出せるレベルである。

 

 その後、食わせるだけ食わせ、明日香を自身のベッドで寝かせた後、ナイトメアは寝ずに朝まで見張り、遂に夜が明けた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「おはようリック(マスター)!」

 

「だから怖いって……」

 

 ナイトメアは知らないが、もけもけの時に見せていたような明らかにおかしい笑顔を見せる明日香。それにナイトメアは恐怖を覚えていた。

 

「なあ、朝になったし、もう戻るんだよな……? ヴェノミナーガさん……もう、怒らないから早く戻してくれ……俺に出来ることなら何でもするからさ……」

 

「ん……? 今、なんでもするって言ったかしら?」

 

「……言ったけど、言ってない」

 

 天上院がきたなくなってしまった……等とナイトメアは思いつつ溜め息を漏らした。

 

 その時である――。

 

『にゅーっと、"モルティング・エスケープ"! 記憶のコピペでの受け渡しは無事に成功しましたよー!』

 

 明日香の背中からヴェノミナーガが、海老が跳び跳ねるようにするりと抜け出した。ナイトメアはヴェノミナーガさんには装備できないじゃねーかと思いつつ、明日香を見ると、既に青紫色の髪は金髪に戻り、赤い瞳も元の色を取り戻していた。

 

 そして、明日香は顔を伏せたまま、わなわなと小刻みに全身を暫く震わせた後、急に立ち上がるとデュエルディスクを腕に装着し、ナイトメアと対峙する。

 

「デュエルよ! 私を殺して、あなたも死ぬのよ!!」

 

『普通、逆じゃないですかね?』

 

「無理もないが、錯乱して色々可笑しくなっているな……」

 

 明日香の瞳はぐるぐると回っているような色になっており、表情は羞恥と怒りと困惑とその他色々なものが混ざった形容しがたい感情の爆発で、真っ赤に染まっていた。

 

 その後、前日から今日に掛けてのことは、他言無用で、2人も互いに言及しないという取り決めをして、事なきを得た。実際に知識としての記憶は明日香に渡っていたらしく、彼女から譲歩してくれたのである。

 

 ちなみにデュエルはした。明日香が負けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三幻魔のカード?」

 

 数日後、校長室に呼び出された丸藤亮、遊城十代、天上院明日香、万丈目準、三沢大地、クロノス・デ・メディチは鮫島校長から三幻魔のカードについての話を聞かされていた。

 

「そうです。この島に封印されている古より伝わる3枚のカード」

 

「えっ? この学園ってそんな昔からあったのかぁ?」

 

「うるさい……黙って聞け」

 

 十代の呟きを万丈目が嗜める。その光景は既に他者からは見慣れた光景になりつつあった。

 

「そもそもこの学園は、そのカードが封印された場所の上に立っているのです」

 

 驚愕の事実にその場は騒然となるが、鮫島校長が再び口を開いたため、直ぐに静かになる。

 

「学園の地下深くに、その三幻魔のカードは眠っています。島の伝説によると、そのカードが地上に放たれるとき、世界は魔に包まれ、混沌が世界を覆い、人々に巣食う闇が解放され、やがて世界は破滅し、無へと()す。それほどの力を秘めたカードだと、伝えられています」

 

「破滅……」

 

「よくわかんないけど、なんか凄そうなカードだな」

 

「黙って聞いているノーネ!」

 

 今度はクロノス・デ・メディチが、十代を嗜めた。私怨10割ではあるが、状況としては間違ってはいない。

 

「そのカードの封印を解こうと、挑戦しに来た者たちが現れたのです。」

 

「一体誰が?」

 

七星皇(しちせいおう)――セブンスターズと呼ばれる7人のデュエリストです。全くの謎に包まれた。7人ですが、もう既にその1人はその島に……」

 

「なんですって!?」

 

「でも、どうやって封印を解こうと?」

 

「三幻魔のカードはこの学園の地下の遺跡に封印され、七星門と呼ばれる7つの巨大な石柱がカードを守っています。その7つの石柱は7つの鍵によって開かれる」

 

 そう言いながら鮫島校長は箱を取り出して開くと、そこには1枚の板状になっている鍵があった。しかし、その中でひとつだけ欠けており、6つある。

 

「これがその7つの鍵です。尤も、1本は既にリックくんに渡していますので、ここにあるのは6つですが」

 

 実力的にも申し分ないため、それを聞いた面々の反応は特に何か言うことはなく、むしろナイトメアが味方にいることに心強さを覚えている者もいた。

 

「じゃあ、セブンスターズが、この鍵を奪いに?」

 

「そこで、あなたたちにこの7つの鍵を守っていただきたい」

 

「守ると言っても一体どうやって……?」

 

「もちろん、デュエルです」

 

『デュエル!?』

 

 今度はほとんどの者が声を上げて驚く。デュエルがそこまで重要になるとは思っていなかったのだろう。

 

 しかし、唯一明日香だけは、ヴェノミナーガから与えられた知識により、闇のデュエルというものを完全に理解していたため、少し眉を顰め、不安げな表情になるだけに留まった。

 

「七星門の鍵を奪うには、デュエルによって勝たねばならない。これも古より、この島に伝わる約束事。だからこそ、学園内でも屈指のデュエリストであるあなた方に集まって貰ったのです。……まあ、1名数合わせに呼んだ者もいますが」

 

「あなたのことなのーネ!」

 

「ふんっ……」

 

 クロノスと十代の小競り合いが起こるが、鮫島校長は気にせずに言葉を続ける。

 

「この7つの鍵を持つデュエリストに、彼らは挑んできます。あなた方にセブンスターズと戦う覚悟を持っていただけるなら、どうかこの鍵を受け取って欲しい」

 

 その頼みを受けた生徒と教員は、使命に燃える光を目に宿した後、全員が鍵を受け取った。

 

「ありがとう皆さん。この瞬間から戦いは始まっています。どうかいつでもデュエルのスタンバイをしておいてください。そして、必ずや、三幻魔のカードを七星門の鍵を守りきってください」

 

 鮫島校長はそう締め括った後、更に言葉を続けた。

 

「ここからは秘密裏に、セブンスターズの調査を担ってくれていたリックくんと、コブラ先生に代わります」

 

「失礼する」

 

「失礼します」

 

『ちゃっちゃっちゃーっす!』

 

「――!?」

 

「ん? どうした明日香?」

 

「どうしたんだ天上院クン?」

 

 コブラとナイトメアに続き、当然のように妙な挨拶で入り込んできたヴェノミナーガに吹き出す明日香と、それを当たり前のことのような様子を見せる十代と、万丈目が非常に対照的であった。

 

 単純に慣れの差であろう。十代に関しては時々、ヴェノミナーガにデュエルを挑む程度には親しく、万丈目もサイレント・マジシャンが会いに来るときについて来るため、知り合いよりは上の関係である。

 

 2人と1体は鮫島校長の隣に並び、最初にコブラが前に出て話した。

 

「私があらゆる人脈を駆使して、セブンスターズの正体をひとりでも突き止めようとした結果だが、それらは全て空振りに終わった」

 

「なんだ……元軍人のコブラ先生でもダメだったのか」

 

 そう呟いた十代に対し、コブラは回答する。

 

「その通りだ。しかし、私が尻尾すら掴めなかったということは、逆に言えばセブンスターズはほとんどが、人間ではない可能性さえもあるということだ」

 

 そう言い切られた言葉に場は再び騒然となる。コブラは更に続けた。

 

「人間ならば、社会に何かしらの痕跡を残すだろう。それが何一つとして見つからないとなれば、逆説的にそうも言えてしまうのだ。そのため、相手に何が来るかわからない。そこだけは注意して欲しい」

 

 ちなみに実力的には上の筈のコブラや、メデューサが鍵を受け取らなかった理由は、互いに教員陣のトップであるクロノスの顔を立てるためと鮫島校長に伝えている。

 

 それだけ言い終え、次はナイトメアに移った。

 

「丸藤先輩もいるが、今日は敬語を抜きで頼む。俺からは確定情報を2つ。ひとつは悪いニュース、もうひとつはもっと悪いニュースだ。どちらから聞きたい?」

 

「どっちも悪いじゃんかよ~!」

 

 そう言う十代に対し、ナイトメアはクツクツと笑うと、"では悪いニュースから"と言って言葉を続けた。

 

「セブンスターズのうちの1人は、プロランク11位ノーフェイスだ」

 

「え!? ひとりはわかってんのか!?」

 

「なん……だと……?」

 

「なんですって!?」

 

 十代と他者の反応は明らかに食い違っていた。

 

「あの人かぁ……今度はちゃんとデュエルしてぇな!」

 

「待て十代……ノーフェイスと言えば、事実上の最強の女性プロデュエリストだ。一筋縄では行かんぞ!」

 

「待ってくれ。コブラ教諭が見つけられなかったことを、どうしてリックが知っているんだ?」

 

 三沢の質問に対し、ナイトメアは包み隠さずに答える。

 

「それは俺の元にもセブンスターズにならないかという誘いが直接来たからだ」

 

 あまりにも衝撃的な発言に鮫島校長とコブラ以外は非常に驚かされた様子であった。しかし、キャラクターや、その実力から誘いが来ても何も可笑しくはないとも考え始め、各々納得していた。

 

「……そこで納得されるのは少々遺憾だが……流石に俺は断った。学園や友人を売ってまでデュエルをする気はないからな。楽しくデュエルとは言えなくなってしまう」

 

『マスター、報酬のレアカードの目録を見せられたとき、30秒ぐらい悩んでましたよね?』

 

 ヴェノミナーガのその言葉に十代と万丈目と明日香は、ナイトメアらしいと何とも言えない表情を浮かべていた。

 

「まあ、問題はその後だ。拒否してから、セブンスターズになってスパイにでもなればよかったと思っていた頃に、十代らの制裁タッグデュエルが発生した」

 

「ああ、影丸理事長の意向が変わって、制裁デュエルに方針が変わったときの話か」

 

 その話題が出たとき、クロノスが面白いほど青白い顔になっていたが、誰もそれについては言及しなかった。

 

「あれは意向が変わったのではなく、意向を変えることを条件に影丸理事長の意向を変えさせたんだ」

 

「どういうことだ……?」

 

「要するにセブンスターズの元締めは、影丸理事長で、俺がスパイ目的でノーフェイスを送り込んだということだな」

 

 さらりと言われたとてつもない発言に場は困惑する。

 

「影丸会長がセブンスターズの元締め!?」

 

「何故だどうしてそんな!?」

 

「親玉までわかっているじゃないか!?」

 

「まあ、そのことは後で話す。今はノーフェイスについて聞いてくれ」

 

 そう言ってひとまず、その場にいた面々をナイトメアは宥め、溜め息を吐くと言葉を続けた。

 

「悪いことはスパイの意味が全くなかったことだ」

 

「どういうことだ……?」

 

「セブンスターズはほとんど雇われ傭兵に近かった。要するにセブンスターズ同士の横の繋がりは一切ないと言い切ってもいい」

 

「セブンスターズに情報源そのものがなかったということか……」

 

「ああ、正直、俺としても大誤算だった……」

 

 丸藤亮の言葉に深い溜め息を吐くナイトメア。しかし、それだけに留まらなかった。

 

「そして、もう一つ悪いことは、報酬とか関係なしに、ノーフェイスがセブンスターズの仕事をやる気満々なことだ」

 

「は……?」

 

 思わず、丸藤亮の口から出た呟きにナイトメアが返す。

 

「もう、ノーフェイスは単純にセブンスターズのノーフェイスとして襲い掛かってくるから、もし対峙した場合、一切容赦なく叩き潰して構わない。むしろ、向こうもそれを望んでいるだろう。すまない、正直、俺の人選ミスだった」

 

「なんだよリック! それなら良いことじゃんかよ! 心配して損したぜ!」

 

 謝るナイトメアに十代が嬉しげな様子でそう返したため、他の者もナイトメアを悪くは言い難い雰囲気になり、ひとまずこの話は終わった。

 

「そして、もっと悪い話だが……影丸理事長を法的手段や権力を使って止めることはまず不可能だということだ」

 

 直ぐにナイトメアは会話を続ける。

 

「まず、法的手段だが……影丸理事長は表面上は何も問題があることはしていない。セブンスターズ自体も、七星門の伝承通りに行っており、腹が立つほどルールに乗っ取っている。むしろ、デュエル以外の方法に頼れば、邪道なのはこちらになるだろう」

 

 場の雰囲気がかなり沈み始めているが、更にナイトメアは続けた。

 

「次に権力なのだが……そもそも影丸理事長は世界でも有数の権力者だ。彼に勝てるものなどほとんどいないため、考えるだけ無駄だろう。その上、海馬社長にこの件を取り次いだところ、"貴様らがデュエルで解決出来ることならばデュエルで解決しろ。自分達の学園の存亡ぐらい貴様らで守って見せろ"という大変ありがたい言葉を頂いた。要するにKCは今回の件に一切ノータッチ、またその話をペガサス会長に話したら彼からも似たような返事を頂いたため、I2社もノータッチだ」

 

「なんだ! やっぱり社長も会長も話のわかる奴らなんだな!」

 

 場の空気が通夜のようになり始めたところで、十代がそう言ったことで雰囲気が変わる。

 

「要するに全部、デュエルで解決すれば良いんだろ? 分かりやすいぜ!」

 

 全くもってその通りではあるが、それを言い切れる者はそうはいないであろう。ナイトメアが言いたいことはそれだけであったため、コブラとナイトメアは下がり、その場に居たデュエリストたちで少し会話をし、セブンスターズに対峙する意思を固めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。明日香は校長室で十代が言っていたことを思い出し、居ても立ってもいられなくなったため、オシリスレッド寮へと続く夜道を歩いていた。

 

(気になる……十代は強い者からデュエルを挑まれると言うけど……倒しやすい者から潰していく方が、自然な考え。だったら、オシリスレッドから――)

 

 途中でそんなことを考えていると、オシリスレッド寮から少しだけ離れた森に見覚えのある上半身が見えたことに気がつく。

 

(え……? "ワーム・キング"と"ワーム・クィーン"……?)

 

 それは巨体過ぎるため、森から上部がかなりはみ出ているワーム・キングとワーム・クィーンである。

 

 そして、それはすなわち、あの場所でナイトメアがデュエリストをしているということに他ならなかった。

 

「なんてこと!? まさか、もうセブンスターズと……?」

 

 明日香はナイトメアがいるであろう場所に向かい、駆け出した。

 

 その途中で、男性の悲鳴が聞こえ、ソリッド・ビジョンのワーム・キングとワーム・クィーンらが消えたが、明日香はナイトメアの元へと向かい――。

 

 

 

 黒い服を身に纏い、倒れ伏した様子の自身の兄――天上院吹雪と、吹雪の側に立ち、手に何らかの精霊の力を込めながら、1枚のカードを握り潰そうとしているナイトメアを目にした。

 

 

 

「ふ、吹雪兄さん!?」

 

「あ……?」

 

 その言葉でナイトメアは気がついたのか、明日香に目を向け、酷く驚いた様子を見る。見れば手にあったカードは握り潰した直後であり、それを中心に闇のようなものが溢れ出し、ナイトメアを急激に呑み込み始めていた。

 

「おい、ちょっと待て……なんでここに天上院が……いや、それよりも今ここに近づくな! 急いで離れ――」

 

「兄さん! 兄さん! 兄さん!?」

 

 しかし、明日香は既にナイトメアが眼中に入っておらず、遂に見つけた兄の姿に安堵の表情を浮かべながら駆け寄っていた。

 

 直ぐにナイトメアの手を中心に広がった生暖かい液体のような闇が明日香と吹雪を呑み込む。

 

『ああ、ダメですねこれ。その方とダークネスのカードを呼び水にする予定でしたが、私とマスター以外に明日香さんもごあんなーい!』

 

 そんなどこか調子外れなヴェノミナーガの声を他所に、明日香の意識は深く沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……?」

 

 目を覚ました明日香は生暖かい液体の中に漂うような感覚を覚え、周りを見ると何も入っていない水族館の水槽を下から眺めるような無意味な闇が広がるばかりであった。

 

「気がついたか」

 

 すると、隣から声を掛けられ、そちらを見ると、そこにはナイトメアとヴェノミナーガが立っていた。ナイトメアはいつも通りの表情だが、ヴェノミナーガは少し困ったような顔をしている。

 

「リック! 兄さんは!?」

 

「あのとき、元いた場所に置いてきた。一応、十代には場所のメールはしておいたから朝になれば発見されるだろう」

 

「そうなの……よかった……」

 

 ひとまず安堵する明日香。そして、周りの明らかに異様な様子に口を開いた。

 

「ここはどこなの……?」

 

「ああ、ダークネスの中だ。来てしまったものは、仕方ないから天上院は待っていてくれ」

 

「ダークネスの中ですって……?」

 

 ダークネス。

 

 宇宙が1枚のカードから生まれた時のカードの裏側。12次元の宇宙、つまりは宇宙の暗黒面そのものと言うべき存在であり、この果ての見えない暗黒の領域の全てがダークネスそのものである。

 

 知識を与えられた明日香はそのことに驚愕すると共に、絶望を覚え始めた。

 

『全くもう……明日香さんが悪いんですよ? マスターと私だけで全部解決しようと思っていましたのに……まあ、ギャラリーに徹してくださいよ。もし、運が良ければ私たちが負けても帰してくれるかもしれませんから気楽にどうぞ』

 

「え……? ダークネスを解決?」

 

 その言葉が、知識を与えられていても明日香には理解できなかった。というよりも、2人を理解することができなかったというのが正しいだろう。

 

 そうしていると、ナイトメアが前に出て、デュエルディスクを展開しつつ高らかに宣言する。

 

 

 

「おい、ダークネス! デュエルしようぜ!」

 

 

 

 そう言い放ったナイトメアの表情はいつも通りの愉しげな表情のままで、恐れなどの負の感情は欠片も見られなかった。

 

「え……?」

 

『スゴいでしょ私のマスター? 昔、ダークネスのことを最初に教えたときに真っ先に言ったことが、"つよそうだからデュエルしたい"ですもの』

 

 全てを理解した上でこの場に来て、あんな言葉が吐けるというのならば、精神状態が可笑しいとしか明日香は思えなかった。既にデュエルの好き嫌いという次元を超越している。

 

『まあ、破滅の光と戦うっていうのに、ダークネスさんまで構ってられないので、この辺りで退けておきたかったので、折角、セブンスターズとしてダークネスさんがやって来たついでに、デュエルで黙らせてしまおうというわけです』

 

「何を言っているの……?」

 

『ええ? 別に勝てば良いですからね。万物はデュエルで解決しますから、当然ダークネスさんもデュエルで負かせばいいのです。この星の未来のためですよ』

 

 知識として知り、ダークネスは何れ避けようもないことだと知った上でも、ナイトメアとヴェノミナーガの行動に明日香は理解出来なかった。格上などという次元ではない存在に立ち向かい、どうしてそこまで言い切れるというのか? 2人は命が惜しくはないのだろうか?

 

 

「ダークネスに挑戦者か……愚かなことだ」

 

 

 するとセブンスターズのダークネスだった天上院吹雪が着ていたものと、ほぼ同じデザインの黒服を来て、黒い仮面を付けた男が地面から生えるように現れた。

 

 明らかに異様な様子であり、人間としての要素がまるでない様は、存在そのものが、明日香に恐怖を抱かせた。

 

「事象の理、世界の真実、理解できぬ全てを否定することしか出来ない人の限界………だが、そんなゴミのようなお前たちを俺が肯定してあげよう。お前の挑戦を祝福しよう!」

 

「ああ、ご託や口上はどうでもいい。早速、愉しいデュエルをしようじゃないか!」

 

『デュエル!』

 

ナイトメア

LP4000

 

藤原

LP4000

 

 

「俺のターンドロー!」

 

手札

5→6

 

 先攻は挑戦者のナイトメアから始まった。

 

「俺は手札からフィールド魔法、"オレイカルコスの結界"を発動」

 

「――!? "オレイカルコスの結界"だと……ッ!?」

 

 明日香にも与えられた中にオレイカルコスの結界の知識はあった。ドーマ事件の首謀者、オレイカルコス神 リヴァイアサンが復活の贄のために人間の魂を集めるために造り出したカードである。

 

 なぜ、それがナイトメアの手にあるのかはわからないが、彼の額に紋章が浮かび上がり、瞳にギラつく赤い光が灯ったことで、紛れもない本物であることがわかった。

 

「"オレイカルコスの結界"はいかなる場合にも無効にならず、破壊および除外することもできない。無論、発動すれば最後、ルールで張り替えも出来ない。そして、このデュエルに敗北したデュエリストは勝者に魂を奪われる」

 

「な……に……俺の"クリアー・ワールド"が……!?」

 

 どうやら事実上のフィールド魔法封じが、対戦相手のダークネスにとってかなりの痛手らしく、声を上げて驚いていた。

 

 そんな彼に向けて、明日香の知るいつも通りの楽しそうな笑みを浮かべたまま、ナイトメアは口を開く。

 

「誰だか知らないし、興味もないが……見たところ、お前も先鋒のセブンスターズのダークネスと同じく人間だろう? 俺が倒したらカードに封印して、元の世界に連れて帰ってやるよ……それとも……お前が特待生寮のダークネス事件を引き起こした首謀者か? 仮に現実に嫌気が差してダークネスを呼んだのなら……お前にとって現実で生きることはさぞ地獄だろうなぁ! クハハハハハ!」

 

「よ、余計なお世話だ!」

 

 プロデュエリストとして、テレビで見せるような嘲笑を上げたナイトメアに、対峙するダークネスは酷く人間染みた反応を返す。

 

 明日香としては彼が兄の敵かもしれないことに気づかされると共に、どちらがそのままの意味でのダークネスなのか、わからなくなり始めていた。

 

 

「さぁ……久々のマトモな闇のデュエルだ……精々、どちらか力尽きるまで愉しもうぜ? ダークネスの次鋒さんよ。殺したり、殺されたりしよう。死んだり、生き恥を晒したりしよう。心を、体を、己、全てを、ついでに世界の命運を賭けて戦おうじゃないか……」

 

 

 そのとき、初めて明日香はナイトメアという名が誇張でもなんでもなく、誰にでも等しく訪れる悪夢そのものであることに気がついた。

 

 

 







今日は約20500字でした。リックくんの真のデッキはワーム軸ヴェノミナーガです。あ、一戦目は原作でも5戦5敗の方との試合だったため、流れで割愛しましたので、次回は二戦目になります。

ダークネスさんって最序盤から行こうと思えば行けるラスダンよりキツいダンジョンみたいなものでしょう?(すっとぼけ)

なので、折角ですから十代くんの世界を救う負担を4分の3にしようと思います(優しい)。


ナイトメアくんのパッシブスキル
・心理フェイズ完全耐性
・デュエル脳(コナミくんに準じるレベル)


・次回予告
やめて!オレイカルコスの結界の特殊能力で、クリアー・ワールドを対策され、心理フェイズまで無効なら、勝ち筋がクリアー・バイス・ドラゴンしかない藤原の精神まで焼ききれちゃう! そもそも発動出来たって、ワーム・ヴェノミナーガはほぼ光属性だからデメリットは手札公開だけなのに!

お願い、死なないで藤原!あんたが今ここで倒れたら、吹雪さんや顎関節症はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、ナイトメアに勝てるんだから!

次回、「藤原死す」。デュエルスタンバイ!



~QAコーナー~
Q:本当に疫病神じゃねーか!?

A:毒蛇神だぞぅ!

Q:ヴェノミナーガさんってやろうと思えば何が出来るの?

A:人々の魂を生け贄に捧げ続ければ、ドーマ編規模の大災害を引き起こすことも可能(設定や、やれることだけはモロにラスボスである)

Q:ヴェノミナーガさんって結局なにがしたいの?

A:面白おかしく生きる。破滅の光は殺す。


Q:リックくんってなんなの?

A:異界の最終戦士(文字通りの意味)





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ダークネス三連戦! その2



初投稿です。

○今回藤原優介くんを改心させる上で本来必要なものの縛り内容
・十代遊城
・天上院吹雪
・ヨハン・アンデルセン
・オネスト
・勇気、希望、夢など優介くんがゴミっていう世間一般でプラスなもの全般

○逆に改心させる上で使っていいもの
・闇のデュエル
・顔芸
・心理フェイズ
・ヴェノミナーガ
・オレイカルコスの結界
・ファンサービス←★

ナイトメア式改心術、はっじまっるよ~♪(★注意)




 

 

 

「俺は手札を1枚捨てて魔法カード、"スネーク・レイン"を発動。デッキから爬虫類族モンスター4体を墓地へ送る。効果により、デッキから"毒蛇王(どくじゃおう)ヴェノミノン"3体と、"ワーム・ヤガン"1体を墓地へ送る」

 

 ダークネスとのデュエルが始まり、ナイトメアは真っ先に爬虫類族モンスターを墓地に送るだけの異様なカードを発動する。

 

「そして、"ワーム・ゼクス"を召喚」

 

ワーム・ゼクス

星4/光属性/爬虫類族/攻1800/守1000

このカードが召喚に成功した時、デッキから「ワーム」と名のついた爬虫類族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。 自分フィールド上に「ワーム・ヤガン」が存在する場合、このカードは戦闘では破壊されない。

 

 上部に牙の並ぶ口のついた円盤状の体に、4つの突起が生え、突起の上に1つずつ4つの目が並び、粘性の強い体液で覆われた異様なモンスターが現れる。

 

ワーム・ゼクス

ATK1800

 

「"ワーム・ゼクス"の効果発動。このカードが召喚に成功した時、デッキから"ワーム"と名のついた爬虫類族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。それにより、"ワーム・クィーン"を墓地へ送る」

 

 更にワーム・ゼクスは口から何かを産み落としたように見えたが、それは生物の形をなしておらず、少し蠢いた後に痙攣し、やがて動かなくなり、溶けるように消滅した。

 

「な、なんなの……あのデッキは……?」

 

『元々は破滅の光の将兵と呼べる程度には有力な戦力で、この星や精霊界に侵攻してきた侵略モンスターたちですよ』

 

「通りで異様な――リックは破滅の光と既に戦っているの!?」

 

『ええ、もちろん。何度か交戦済みです。言うこともないとは思いますが、何れもマスターの勝利です。そうして、侵略して来た破滅の光の軍勢をデュエルで淘汰し、マスターの破壊の力で破滅の光の因子を根こそぎ消滅させ、肉体も精神も完全にへし折った上で屈服させて、こちら側に引き込むというのが、私とマスターの楽なカード収集手だn――ライフワークですね』

 

「……………………悪魔?」

 

『蛇神です』

 

 ダークネスの世界にいるためか、明日香に背中から抱き着くようにして守っている様子のヴェノミナーガと明日香がそんな会話をしている。

 

「更に墓地の"ワーム・ヤガン"の効果発動。自分フィールド上のモンスターが"ワーム・ゼクス"1体のみの場合、このカードを墓地から裏側守備表示で特殊召喚できる」

 

ワーム・ヤガン

星4/光属性/爬虫類族/攻1000/守1800

自分フィールド上のモンスターが「ワーム・ゼクス」1体のみの場合、このカードを墓地から裏側守備表示で特殊召喚できる。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。このカードがリバースした時、相手フィールド上に表側表示で存在する モンスター1体を選択して持ち主の手札に戻す。

 

 ワーム・ゼクスが呼び水となり、その口の中から自身の身の丈ほどの何かが吐き出された。

 

「裏側守備表示で特殊召喚だと……?」

 

「さあ、どんな効果だろうな?」

 

 そう言いながらも鼻歌すら歌い出しそうな様子のナイトメアに対し、対戦相手のダークネスは仮面の下で顔を歪めながら考える。

 

(なんなんだコイツは……?)

 

 どう見ても夢や希望を語るような人間ではなく、極めて闇に近い存在だということはわかる。しかし、それが何故、こうしてダークネス世界へ対峙しているのかということがまるでわからなかった。

 

 掴み所がなく、何を考えているのかわからない闇。ダークネスの一部である彼にさえもそのようにしか認識出来なかったのだ。

 

(まあ、いい……お前の心の闇を垣間見れば、直ぐにダークネスになる。さあ、お前の心の闇を見せてみろ!)

 

 対戦相手のダークネスは、双眼を青く光らせてナイトメアの心の中に侵入した。

 

 そして、彼の心の闇の根元足るものを見つけ、それを嬉々として覗き込んだ――覗き込んでしまったのだ。

 

 

 

サモサモキャットベルンベルンddbddbシャシュツシャシュツアザッシター

 

モンケッソクカゲキカゲムシャシエンシハンキザンキザンエクスカリバーマガタマケイコクセンコクセット 

 

ダンセルホネセンチギガマンホネダンセル 

 

カードが違います。カードが違うということです。

 

 

 

(は……?)

 

 対戦相手のダークネスは素でそんな反応をしてしまった。

 

 彼はナイトメアの心の闇を覗いた筈である。しかし、そこにあったのは謎の言葉の羅列だけであった。

 

「……………………」

 

 呪文か何かだろうかと考えていると、同じものを見せつけられたナイトメアが明らかに気落ちている様子が目に入ったため、なんだかわからないが効いたと判断した対戦相手のダークネスは読み上げでもしてやろうかと考え――。

 

「…………俺は愉しくデュエルがしたいんだ……」

 

「――な!?」

 

 突如、全身からこれまでよりも何倍も濃厚で禍々しい闇の力が流れ出し始めたことで、驚きつつ閉口する。どうやら、心の闇というよりも、純粋にナイトメアの地雷だったらしい。

 

「クソみたいなこと思い出させんじゃねぇよ生ゴミがァァァ!!」

 

(き、キレた!? なぜ!? あの呪文に一体何の意味が!?)

 

 あからさまにぶちギレた様子のナイトメア。あのまま、最上級モンスターの直接攻撃をモロに受ければ原型すら残らないのではないかと考え、冷や汗を流す程度にはナイトメアが殺意の波動にまみれたのである。

 

『激昂のナイトメア。うーん、"見鏡の盾"みたいな効果持ってそうですね』

 

「ねぇ? サモサモキャットベルンベルンってなんなの? なんだか、とても可愛いらしい響きだわ」

 

『あの中でそれをチョイスとはお目が高いですね! でも、ダメですよ明日香さん……過去最悪だったとマスターが未だに思っている時代の環境の暗黒面なんて知らない方がいいんです……』

 

「……?」

 

 ここにいる全員がビジョンを共有したため、明日香がヴェノミナーガにそんな質問をしていると、ナイトメアは闇の力を用い瞳が深紅の光に染まり切ると、対戦相手のダークネスへと視線を向ける。

 

 そして、片手の掌を開いて明らかに異質で莫大な闇の力が集まると、対戦相手のダークネスに片手を向けて握り潰すように勢いよく閉じた。

 

「ああ、でもいいものを見せて貰った……他人の心はこうやって覗くんだな……」

 

「――!?」

 

 対戦相手のダークネスの仮面が爆裂し、素顔が露になると共に、ナイトメアは自身の深層意識に入り込み、ゴミだと捨てきった筈のそれを抉じ開けられた。

 

 

 

 絆など、想いなど、そんなものがあるから人は苦しみもがく……。

 

《橋本……武山……冴木……丸藤……天上院……》

 

 どうせ忘れるんだよ。だったら最初から忘れてしまえばいいんだ。

 

《うぅ……父さん……母さん……》

 

 いや、彼らの方が忘れていったんだ。俺を置いて……。

 

《忘れたくない……! 忘れないでくれ……!》

 

 絆や想い、友人や家族、そんなものにすがっても何れは俺のことを忘れる。通り過ぎて行ってしまう。

 

《何れはみんな……僕を忘れるだろ……? だったら――》

 

 だったら、こっちから忘れてあげるんだよ。

 

 そうすれば……苦しくなんかないじゃないか!

 

 ゴミだと思えばいいんだよ! ゴミと! 

 

 ダークネスの意思に従ったまで……今の俺は苦しくない。

 

 

 

「はーん……お前、本名は"藤原(ふじわら)優介(ゆうすけ)"っていうのか。丸藤先輩と元同級生で……え? 藤原雪乃と親戚ってマジ……? 藤原家の遺伝子、変な方向に濃過ぎない……?」

 

「やめろォ!? 勝手に覗き見るな!?」

 

「おいおい、他人の中身は見るのに自分は見られたくないは無しだぜ? しかし、お前も藤原雪乃ぐらい図太ければ、こんな妙な拗らせ方しなかっただろうになぁ……」

 

「今のは……?」

 

『ダークネス……もとい藤原さんの記憶と想いですね。両親に先立たれたトラウマから、異様に他者に忘れられることに過敏になり、それでも友人たちを作り、楽しい学園生活を送った結果、友人らに忘れられることが怖くなり、忘れられるぐらいなら、こちらが忘れてしまえばいいという結論に至り、ダークネスを呼び出して今に至るようですね。また、自分がいた記憶や痕跡は、全て消してしまったようです』

 

「なんでそんなことを……」

 

『人間の心っていうのは、奇々怪々ですからね。難解なミステリー小説も、シュルレアリズムの作品も、ノーベル賞を取った研究も人間の頭から生み出されているんですから、どんな考えを持とうとも不思議はないでしょう』

 

「まあ、人間って、勝利だの、希望だの、未来だのといった言葉が大好きですからね。それに悪態つきたくなる気持ちはわからなくもないですよ」

 

G(ゴッド)ガンダム大勝利! 希望の未来へレディ・ゴーッ!!』

 

「大喜利止めろ」

 

 そんな会話を外野としつつ、カードの手を止めたナイトメアは三日月のように口を端を歪めると、ダークネス――藤原優介に語り掛けた。

 

「まあ、少なくともお前は現実から目を背け、逃げ続けた結果ここにいて、既に他者に迷惑を掛け始めているクズだということはよくわかった」

 

「なんだと……?」

 

「当たり前だ。お前のように両親に先立たれた子などごまんといる。その中でお前のように、両親の死にも向き合えず、それを憐れんだ他者からは表面だけ優しくされ、それを甘んじて受け、結局落ちるところまで落ちた結果がお前だろう? お前に必要なのはダークネスではなく、単純に精神病院への通院だったんだろうな」

 

「知ったことを……お前に()の何がわかる!?」

 

「ああ、欠片もわからんさ。だが、少なくともお前は、親戚にも友人にも、なんなら死んだ両親にも恵まれていた。にもかかわらず、多少も向き合おうとすらしなかったのはお前自身だ。誰のせいでもない。お前が決めたことだよ。そんな戯れ言をお前以外が理解できてたまるか」

 

「やはりお前も他と同じか……ダークネスの世界のことを理解できず、小さな――ゴミのようなことに未だ囚われ続けているだけのゴミだ!」

 

「まあ、お前がゴミだと思うなら俺はゴミなのだろう。そのゴミは戦争孤児で、戦火の中、義理の父に拾われて育った。本当の両親の顔など生死すら知らんが、少なくとも誰かさんのように、苦しみから逃れる為だけに、こんな下らないことはしていない」

 

「――ッ!?」

 

『あっ、ダメだこれ。藤原さんは生い立ちから既に心理フェイズでマスターに付け入る隙がない』

 

「……リックは戦争孤児だったの?」

 

『ええ、偶々コブラさんが、赤子のマスターを見つけたことで、奇跡的に彼だけ生き残り、それから退役してマスターを育てることにしたそうです』

 

 これ以上は互いに話にならないと悟ったのか、ナイトメアは再びデュエルに戻った。

 

「俺は手札から魔法カード、"ヴァイパー・リボーン"を発動。自分の墓地のモンスターが爬虫類族モンスターのみの場合に、チューナー以外の自分の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズ時に破壊される。俺は"ワーム・クィーン"を攻撃表示で特殊召喚」

 

 巨大な蟻のような下半身から、エイリアンのような上半身が生えた白い体のワームの女王が現れる。

 

ワーム・クィーン

ATK2700

 

「"ワーム・クィーン"の効果発動。1ターンに1度、自分フィールド上の"ワーム"と名のついた爬虫類族モンスター1体を生け贄にする事で、生け贄にしたモンスターのレベル以下の"ワーム"と名のついた爬虫類族モンスター1体をデッキから特殊召喚する。俺は"ワーム・クィーン"をデッキから攻撃表示で特殊召喚」

 

 ワーム・クィーンは自分自身を喰らい、その残骸からワーム・クィーンを生み出した。

 

「カードが入れ替わったことで、1ターンに1度の制約はリセットされる。もう一度、"ワーム・クィーン"を生け贄にデッキから"ワーム・クィーン"を特殊召喚。そして、再度効果を使用し、デッキから"ワーム・キング"を特殊召喚」

 

 最後にこれまでの中では、最も上半身が人間に近く、4本の腕を持つワームの王が現れた。

 

ワーム・キング

ATK2700

 

「手札から"命削りの宝札"を発動。自分の手札が5枚になるようにドローし、自分のターンで数えて、5ターン後に全ての手札を墓地に置く」

 

手札

0→5

 

「自分の墓地に同名モンスターカードが3枚存在するため装備魔法、"継承(けいしょう)(しるし)"を発動」

 

 ナイトメアのフィールドから生えるようにワーム・クィーンが現れる。

 

「そのモンスター1体を選択して自分フィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。選択したモンスターは"ワーム・クィーン"だ。更に"ワーム・クィーン"の効果を発動し、デッキから"ワーム・キング"を特殊召喚する」

 

 ワーム・クィーンが自身を喰らい、その残骸から2体目のワーム・キングが現れた。

 

ワーム・キング

ATK2700 

 

「手札から魔法カード、"埋葬呪文の宝札"を発動。効果により、自身の墓地の魔法カードを3枚除外し、2枚ドローする。俺は墓地の"スネーク・レイン"、"ヴァイパー・リボーン"、"継承の印"を選択する」

 

手札

3→5

 

「"オレイカルコスの結界"の効果により、俺のフィールド上のモンスターは攻撃力が500ポイントアップする」

 

 ワーム・ゼクスは上部の口の隣に、ワーム・キングは下半身の顔の眉間に、淡い緑の光を帯びたオレイカルコスの紋章が浮かぶ。

 

ワーム・ゼクス

ATK1800→2300

 

ワーム・キング

ATK2700→3200

 

ワーム・キング

ATK2700→3200

 

「カードを5枚セットし、ターンエンドだ。さあ、藤原優介……お愉しみはここからだ……お前のデュエルを見せてくれ!」

 

 ナイトメアは心の底からこの闇のデュエルを楽しんでいるといった様子でそう言い、藤原優介へとターンを渡した。

 

ナイトメア

LP4000

手札0

モンスター4

魔法・罠5

(墓地の爬虫類族モンスター6)

 

 

「俺のターンドロー……!」

 

(なんだ……なんなんだコイツは!? なぜ、ダークネスを前に恐怖も孤独も何もない!? 何もだ! そんなことあり得るのか……? まさか……これが無を超越した個だとでもいうのか!?)

 

手札

5→6

 

「俺は"天使の施し"を発動……3枚ドローし、2枚を捨てる!」

 

「俺は手札から通常魔法、"クリアー・サクリファイス"を発動! このターン自分が"クリアー"と名のついた レベル5以上のモンスターを生け贄にする場合、必要なリリースの数だけ自分の墓地の"クリアー"と名のついたモンスターをゲームから除外できる! 墓地の"クリアー・レイジ・ゴーレム"と、"クリアー・ファントム"をゲームから除外し――出でよ! "クリアー・バイス・ドラゴン"!」

 

クリアー・バイス・ドラゴン

星8/闇属性/ドラゴン族/攻 0/守 0

このカードがフィールド上に表側表示で存在する場合,このカードの属性は「闇」として扱わない。

このカードが相手モンスターを攻撃する場合、このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の倍になる。このカードは攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に守備表示になる。

また、このカードの戦闘ダメージ計算時、手札を1枚捨てる事でこのカードは戦闘では破壊されない。手札を1枚捨てることで、このカードを破壊する効果を持つカードの効果を無効にする。

 

 クリスタルの中に入った無機質なドラゴンのようなモンスターが現れる。

 

クリアー・バイス・ドラゴン

ATK0

 

「クリアーモンスターは個を持たないモンスターだ! よって属性を持たない!」

 

「ふーん……無個性ねぇ」

 

「そして、"クリアー・バイス・ドラゴン"には相手の個性を倍にして返す! このカードが相手モンスターを攻撃する場合、このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の倍になる! 食らえ、ダークネスに抗う愚か者よ! "クリアー・バイス・ドラゴン"で、"ワーム・キング"を攻撃! クリーン・マリシャス・ストリーム!」

 

クリアー・バイス・ドラゴン

ATK0→6400

 

 クリアー・バイス・ドラゴンは半身をクリスタルから出すと、ワーム・キングへ向けて攻撃を放った。

 

「……うん? それは最早、立派な個性だろ。折角だから本当に無個性にしてやる」

 

 ナイトメアは大きな溜め息を吐きつつ、セットしていたカードのうち、1枚を発動した。

 

「罠カードオープン、"ブレイクスルー・スキル"。相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。 その相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする」

 

「なにィ!?」

 

 藤原がクリアー・バイス・ドラゴンを見ると、中身まで色のないただのクリスタルと化していた。

 

クリアー・バイス・ドラゴン

ATK6400→0

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 クリアー・バイス・ドラゴンの攻撃はワーム・キングに届く前に消え去り、逆にワーム・キングがクリアー・バイス・ドラゴンの前に立ち、一撃で殴り壊した。クリアー・バイス・ドラゴンの破片が藤原に降り注ぎ、刃の嵐と化して全身を切り刻みながらライフポイントを激しく削る。

 

藤原

LP4000→800

 

「まあ、無個性ついでに無価値にもなってしまったようだがな。クククッ……それがお望みだろう?」

 

「ぐぅぅ!? クソッ……クソッ!? 俺は"死者蘇生"を発動し、"クリアー・バイス・ドラゴン"を守備表示で特殊召喚する……」

 

 闇のデュエルでの想像を絶する痛みに、顔を歪め、全身を強張らせながらも藤原は再びクリアー・バイス・ドラゴンを呼び出した。

 

クリアー・バイス・ドラゴン

DEF0

 

「俺は装備魔法、"アトリビュート・マスタリー"を"クリアー・バイス・ドラゴン"に装備だ。発動時に属性を1つ宣言し、"アトリビュート・マスタリー"を装備したモンスターが宣言した属性のモンスターと戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する。俺は光属性を選択! これでワームはクリアー・バイス・ドラゴンを破壊できない!」

 

「………………ああ、うん。そうだな」

 

『知らないって可哀想ですねぇ……色々と』

 

「そうなの……?」

 

『まあ、現状マスターには勝ち筋しかないので……』

 

 ハッタリだと外野の言葉に耳を貸さず、余計だと考えもせず、藤原は更にデュエルを続けた。

 

「更にカードを1枚セットして、ターンエンドだ……!」

 

藤原

LP800

手札2

モンスター1

魔法・罠2

 

 

「お前さ……デュエルしてて……いや、最早生きていて楽しいのか?」

 

 ナイトメアにターンが移り、開口一番にそんなことを彼は投げ掛けた。対する藤原は鼻を鳴らして嘲笑いながら答える。

 

「なんだと……? ハッ! そんなものダークネスには余計なものだ!」

 

「はぁ……」

 

 それを聞いたナイトメアは酷く大きな溜め息を溢し、あから様に落胆した視線を藤原へと向けた。

 

「万丈目の方が万倍つえーわ……ダークネスっていうからどれだけデュエルを愉しめるか期待してたんだけどな……まあ、所詮……ダークネス本体の前座か」

 

 そう言いつつ、ナイトメアはデッキからカードをドローする。

 

手札

0→1

 

「お前のデュエルからは焦りと不安、恐怖と必死さしか伝わってこない。お前が幸せな奴だとはどう間違っても思えないよ」

 

「よ、余計だと言っているだろう……!?」

 

「そもそもお前さ。記憶、繋がり、夢、希望、あらゆる人間足りえるしがらみをゴミだと言い切り、個性を憎み無個性を貫こうとしている割には……どうして、未だに友人や家族の記憶をお前自身が持っているんだ?」

 

「――――――!」

 

 その言葉に藤原は満足の行く回答を即座に用意出来ずに閉口した。

 

「忘れられたくない。ならこちらから忘れてやる。そう思ったなら真っ先に消されるのは、相手の記憶ではなく、お前自身の記憶の筈だろうに……。"今は辛くない"なら……辛かったことを未だに覚えている理由はなんだ?」

 

「そ、それは……」

 

「お前、心のどこかで未だに家族や友人を捨て切れていないんだろ? むしろ、いつまでも助けを望んでいるのだろう?」

 

「…………違う……違う違う違う違う! 不要だ……余計なんだよ何もかもが!! それともなんだ!? お前は俺を助け出すとでも言うのか!?」

 

 それを聞いたナイトメアは、目を点にしつつ少し間が空いた後、嘲笑うように大声で笑い出した。

 

「ハッーハハハハハハッ! ばーか……俺はナイトメア、悪夢そのものだ。お前を助けることなどする筈もないだろう? 他人の傷口を抉じ開けて、抉るだけ抉って、ついでに塩を塗り込むぐらいが俺のポリシーだ。テメェの友人にでも泣きつけってんだよ!」

 

「…………ある意味ブレないわね。でもダークネスの中だと心強いわ……」

 

『まあ、わりとマスターの長所なので……後、根は善人ですし……』

 

 ナイトメアはそのままの調子で、デュエルに戻った。

 

「"ワーム・キング"の効果発動。自分フィールド上の"ワーム"と名のついた爬虫類族モンスター1体を生け贄にする事で、相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する」

 

「な……に……?」

 

「俺は"ワーム・ゼクス"を生け贄に捧げ、伏せカードを破壊」

 

「くっ……!?」

 

 ワーム・キングはワーム・ゼクスを手に取ると、下半身の口に放り込んだ。そして、少し咀嚼した後、噛んだ後のガムのようになったワーム・ゼクスが口から弾丸のような速度で放たれ、藤原の伏せカードを破壊する。

 

 それは、聖なるバリア -ミラーフォース-であった。

 

「"ワーム・キング"の効果は、"ワーム・キング"自体をコストにすることも可能だ。そして、裏側守備表示の"ワーム・ヤガン"の効果はこのカードがリバースした時、相手フィールド上に表側表示で存在する モンスター1体を選択して持ち主の手札に戻す」

 

「なんだと……!?」

 

 つまりこの時点で藤原は詰んでいたのだ。そもそもオレイカルコスの結界によって、クリアー・ワールドが実質潰され、連鎖的にクリアー・ウォールも潰された彼のクリアーデッキは性能をほとんど発揮できなかったと言えるかも知れない。

 

 しかし、それはナイトメアの預かり知らぬところである。

 

 ダークネスの一部となった自身を、デュエルでも心理面でも手玉に取るナイトメアという男に、藤原は果てしない恐怖を抱いた。

 

「まあ、どうせなら派手に終わらせてやるよ……更に手札から永続魔法、"アタック・フェロモン"発動。そして、永続罠、"リミット・リバース"を発動する。"リミット・リバース"は自分の墓地の攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、 表側攻撃表示で特殊召喚する。俺は"毒蛇王(どくじゃおう)ヴェノミノン"を墓地から特殊召喚」

 

毒蛇王(どくじゃおう)ヴェノミノン

星8/闇属性/爬虫類族/攻 0/守 0

このカードはこのカード以外の効果モンスターの効果では特殊召喚できない。このカードの攻撃力は、自分の墓地の爬虫類族モンスターの数×500ポイントアップする。このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、「ヴェノム・スワンプ」の効果を受けない。このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時。このカード以外の自分の墓地の爬虫類族モンスター1体をゲームから除外する事で、このカードを特殊召喚する。

 

 ダークネスの暗黒に一滴の毒液が滴り落ち、それを中心に一体の暗黒を毒沼へと変える。そして、毒沼の水面を波立たせ、全身のあらゆる体のパーツが蛇で造られた異様な毒蛇の王が姿を表した。

 

毒蛇王(どくじゃおう)ヴェノミノン

ATK0

 

「攻撃力0……?」

 

「お前の"クリアー・バイス・ドラゴン"が無個性だというのなら、俺の"毒蛇王(どくじゃおう)ヴェノミノン"はある意味、個性の化身だ。何せ、弔った個性の数だけ力を増すのだからな」

 

「個性の化身だと……?」

 

「このカードの攻撃力は、自分の墓地の爬虫類族モンスターの数×500ポイントアップする。墓地の爬虫類族モンスターは、"毒蛇王(どくじゃおう)ヴェノミノン"2体、"ワーム・クィーン"3体、"ワーム・ゼクス"1体の計6体だ」

 

「攻撃力3000……!? そのためにお前はあれだけの数のモンスターを墓地へ送ったのか……!」

 

毒蛇王(どくじゃおう)ヴェノミノン

ATK0→3000

 

「そして、"ワーム・キング"の効果で、"ワーム・キング"を生け贄に捧げ――"アトリビュート・マスタリー"を破壊する」

 

「くっ……!?」

 

(コイツ……遊んで……! だが、それならば好都合だ……! "クリアー・バイス・ドラゴン"には手札を捨てて、戦闘と効果での破壊から免れる効果がある! このターンは凌げる!)

 

 ワーム・キングはアトリビュート・マスタリーへと向かい、それを4本の腕で抱き締めると、ワーム・キングの体が急激に膨張して爆裂することで破壊した。

 

「この瞬間、墓地に"ワーム・キング"が置かれたことで、"毒蛇王(どくじゃおう)ヴェノミノン"の攻撃力は更に上昇する。そして、"オレイカルコスの結界"の力は当然受ける!」

 

 毒蛇王(どくじゃおう)ヴェノミノンの人間で言えば頭部に当たる部位の額にオレイカルコスの紋章が浮かんだ。

 

毒蛇王(どくじゃおう)ヴェノミノン

ATK3000→3500→4000

 

「バトルだ。もう1体の"ワーム・キング"で"クリアー・バイス・ドラゴン"を攻撃」

 

 ワーム・キングが体躯からは想像できない俊敏な動きでクリアー・バイス・ドラゴンに迫り、4本の腕から同時に拳打が繰り出された。

 

「"クリアー・バイス・ドラゴン"の効果発動! このカードの戦闘ダメージ計算時、手札を1枚捨てる事でこのカードは戦闘では破壊されない!」

 

 藤原が手札を捨てると、クリアー・バイス・ドラゴンはワーム・キングの拳を弾く。

 

「あれ、カード効果破壊時だけではなかったのか……? まあ、どちらにせよ関係ない」

 

 しかし、ワーム・キングは獣の跳躍を見せながらクリアー・バイス・ドラゴンの背に回り込むと、クリスタルの内部に侵入し、4本の腕でクリアー・バイス・ドラゴンの手足を掴んで無理矢理クリスタルの外に己の体ごと押し出した。

 

「な、なんだ……!? "クリアー・バイス・ドラゴン"に何をしている!?」

 

「表示形式を見ろ」

 

 藤原はナイトメアに言われるがまま、フィールドでワーム・キングに拘束されてもがく、クリアー・バイス・ドラゴンを見た。

 

クリアー・バイス・ドラゴン

ATK0

 

「な、なぜ"クリアー・バイス・ドラゴン"の表示形式が!?」

 

「永続魔法、"アタック・フェロモン"の効果。自分フィールド上に存在する爬虫類族モンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、そのモンスターをダメージステップ終了時に表側攻撃表示にする。これで戦闘で破壊されようが、されまいが関係ないなぁ……?」

 

 ナイトメアが薄く目を見開いて、小さく笑いながらその言葉を呟くと、ヴェノミノンが多数の蛇で構成された両腕をクリアー・バイス・ドラゴンに構えた。

 

 ヴェノミノンの両腕の口から徐々に赤茶けた錆色の毒液が溢れ出し、光線が放たれる寸前のように収束する。

 

 既にヴェノミノンの攻撃を止める手立てはなく、藤原は最後に残った手札を地面に落としながら、恐怖が絶望に変わる感覚を味わわされていた。

 

「ほら、どんな気分なんだ……? 無個性が個性に押し潰される様は? 個性より上等な無個性でどうにかしてみたらどうだ?」

 

「あ……ああ……あ……」

 

 既にそこにはダークネスの一部となった男の姿はなく、他者に忘れられることをただ恐れた藤原優介という青年でしかなかった。

 

「喰らえ……"毒蛇王(どくじゃおう)ヴェノミノン"で、"クリアー・バイス・ドラゴン"を攻撃。ヴェノム・ブロー」

 

 ヴェノミノンから放たれたジェット噴射のような勢いの毒液が、クリアー・バイス・ドラゴンに命中し、即座にクリスタルごとクリアー・バイス・ドラゴンは全身を赤錆にまみれたような色に変えながら溶解し、崩れ落ちる。

 

 そして、ぐずぐずに解れ、どろどろした粘性の錆色の何かに置換されたクリアー・バイス・ドラゴンだった液体が、藤原へ と降り注ぎ、汚泥に呑まれるような様子に見えた。

 

 

藤原

LP800→0

 

 

 ソリッド・ビジョンならばここで終わったことだろう。しかし、これは闇のデュエル。それだけでは到底終わらなかった。

 

 藤原は即効性の劇毒を一切減衰されることなく全身から浴び、熱が沸き上がるように体中を襲う激痛、嘔吐、意識障害など数えることも憚られる程の異常を一度に体験し、地面に転がりながらのたうち回り、自然に絶叫が木霊する。

 

「あぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁ!!!?」

 

「敗者は無惨に死ぬ……闇のデュエルのことは自らダークネスになったお前もよく知っているだろう? 精々、愉しめよ? これも闇ならば、お前が欲しかったダークネスの安息の一面の筈じゃないか」

 

 そう言って全身から煙を上げて地面でもがき苦しむ藤原を見つつ、クツクツと声を漏らすナイトメア。少しだけ眺めてからポツリと口を開いた。

 

「そして、敗者は更に踏み(にじ)られる」

 

 その言葉の直後、それまでフィールド全体を覆っていたオレイカルコスの結界が、急激に縮み、藤原ひとり分のサークル程度にまで縮む。

 

 そして、オレイカルコスの結界は透明のカプセルに入れられたように不可視かつ絶対不可侵の壁となり、その事に藤原も気がつく。

 

「"オレイカルコスの結界"の効果発動。このデュエルに敗北したデュエリストは勝者に魂を奪われる」

 

「ああ――そんな……()はただ……! 怖くて――いつかみんなと居られなくなるのが嫌だっただけで――」

 

「うるせぇ。だから愉しめって言ってんだろ? 悪党の最期なんて等しく惨めで呆気ないもんだぜ? なあ、笑えよ?」

 

 藤原の独白をナイトメアは遮り、嘲笑と共に言葉を吐き捨てる。藤原は目の前にいるただの悪夢を恐れ、絶望し、一筋の涙を浮かべ、最後に呟いた。

 

「――けて、誰か……助けて……」

 

「………………遅えんだよ……その言葉は俺でもダークネスでもなく……友人に言うんだったな」

 

 どこかもの悲しげな抑揚のナイトメアの呟きを最後に、藤原は縮小したオレイカルコスの結界の輝きに囚われ、その魂は体ごとカードに封印された。

 

 そして、カードの絵柄を見ると、絶望と恐怖に歪んだ表情の藤原が描かれており、ナイトメアはそれを胸ポケットにしまう。

 

 すると明日香を連れつつ、ふよふよと漂ってきたヴェノミナーガがナイトメアに近寄り、真っ先に明日香が声を荒げた。

 

「リック……! あなたあの人を殺したの!?」

 

「……藤原優介は君の兄の仇でもあっただろう? まあ、それはそれとして、あの手の手合いはあれぐらい思い知らせてやらないと意味がない」

 

「それにしたってあんな――」

 

『お疲れ様ですマスター。あっ、大丈夫ですよ明日香さん。"オレイカルコスの結界"を貼っている時点で、最初から殺す気なんてマスターは更々ないので』

 

「え……?」

 

『ええ、確かに藤原さんは死んでいましたよ? もちろん、"オレイカルコスの結界"が無ければの話ですけど』

 

「どういう意味かしら……?」 

 

 ヴェノミナーガはピンと指の代わりに手の舌を立ててから口を開いた。

 

『"オレイカルコスの結界"を使うと、敗者が必ず魂を奪われます。しかし、それは逆に言えば闇のデュエルにも関わらず、発動した時点で絶対に両者はデュエル内では死ななくなるんですよ。今となっては便利な闇の道具ですね』

 

「…………そ、そんなところでもカードテキストの解釈があるのね……」

 

「まあ、でもオレイカルコスの神 リヴァイアサンがいない今、封印した魂はこの"オレイカルコスの結界"そのものに入るから、藤原の入ったこれは、ダークネスと戦う時にはもう使えない」

 

 ナイトメアはそう言いながら、デッキに1枚だけ入っていたオレイカルコスの結界を抜き、サイドデッキから1枚カードを抜き出して代わりとしてデッキに入れていた。

 

『そもそもマスターは今までに殺した人間は1人もいませんもの』

 

 ふと呟かれたヴェノミナーガのその言葉に驚いた様子の明日香は目を丸くしてナイトメアを眺めた。すると彼はさも当たり前のような表情で口を開く。

 

「だって、殺したらソイツとまたデュエルが出来なくなるだろ? そんなのもったいないじゃないか」

 

『藤原さんはあれで懲りなかったら、逆にスゴいと思いますよ』

 

 そして、ナイトメアは藤原が使っていたデュエルディスクの元まで行くと、そこに刺さっているクリアーデッキを抜き出し、デッキの中身を少しだけ確認し、クリアー・バイス・ドラゴンと、クリアー・ワールドを見て薄く笑みを浮かべてからデッキごと懐にしまい込んだ。

 

「なら……アイツにこれはもういらないな」

 

「…………本当にどこまでもあなたらしいわね……」

 

 完全にダークネスのカードであるそれを、当然の権利のように持って行く。ナイトメアの神をも恐れぬ図太さに脱帽しつつ、明日香が呆れ顔でそう呟いたところで、ヴェノミナーガが明日香を手で制し、ナイトメアが再びデュエルディスクを構えて前に出た。

 

「どうやら、今度は本命のようだな……」

 

 すると藤原がいた地点の闇が沸騰するように泡立ち始め、その中から3mを超え、黒いローブを纏った山羊の頭蓋骨に人間の全身骨格を付けたような存在が現れる。

 

 それから感じる異常なほどに生気のない様、がらんどうの目から覗く酷く冷たい視線。そして、闇そのもののような余りにも濃厚で、見ているだけで未知ゆえの恐怖を覚える人間でもデュエルモンスターズの精霊でもない何かに、明日香は底知れぬ寒気と畏怖を覚え、言葉のひとつすら出なかった。

 

「ほら明日香、電話越しで語るのは無理だろう?」

 

『まあ、こんなもの言葉で伝えれませんよねぇ』

 

 そして、それを前にしても冗談混じりにカラカラと笑うナイトメアと、ヴェノミナーガに明日香は何よりも驚いた。

 

『人間リック・ベネット。そして、デュエルモンスターズの一柱(ひとはしら)ヴェノミナーガ』

 

 

 とは言え、闇そのもの――ダークネスが口を開いたことで、ナイトメアもヴェノミナーガも黙る。この2人の表情が真剣そのものに変わっており、それだけの相手なのだということを感じさせた。

 

『汝ら、何ゆえ我を阻む? 特にヴェノミナーガ。汝は元より摂理には取り分け従順な一柱であったと覚えているが?』

 

 既にダークネスの本質を理解しているため、ダークネスは前口上や、己の説明はせずにそう投げ掛けた。それに対して、ヴェノミナーガは小さく鼻を鳴らしてから口を開く。

 

『あなた様が、宇宙の秩序を守る必要悪であることは重々承知ですよ。しかし、前々から言いたかったですが、如何せん白と黒しか判断しない嫌いがあり過ぎます』

 

『我は元より、それだけのためにある。故に摂理足る我に、それを考慮する余地はない』

 

『私は、宇宙の生誕以来、デュエルモンスターズの神として、あらゆる星々の生命たちを見て来ました。そして、それを考慮しても、この星の人間という種は闇が深い。誰しも闇を抱え、確かに日々それが増大しているのも事実でしょう』

 

『ヴェノミナーガよ。ならば我を拒む理由などない筈だが?』

 

 ダークネスのその返しにヴェノミナーガはナイトメアよりも前に出てハッキリと言い放った。

 

『いいえ、大有りですよ。だって、人間という生き物は不思議なことに誰しも心に闇を宿しながらも、それを受容し、向き合い、抗い、闇と共に生きることが出来る特異な種族なのですから』

 

『ほう……?』

 

 ここで、初めてダークネスがヴェノミナーガの言葉に個人的な興味を示したように明日香には見えた。

 

『あなた様にはそれはわからないでしょう。何せ、白か黒でしか判断しないのですから。人間は黒のままでも生きれる。そういう奇跡的な存在なんですよ』

 

『我が手を下さずとも、そう遠くない時代に人間の手による"絶望の未来"が人類に幕を下ろす。それはなんとする? 故に我の行動は救済に他ならない』

 

『けれど、絶望の中でも一筋の希望のために抗い、過去を変え、未来を変えようとした"機械人形たち"もまた人間でしょう? 二律背反、人間とはそういう不格好な生き物なのです』

 

 明日香にはダークネスとヴェノミナーガの間で交わされる言葉の意味はわからない。しかし、ヴェノミナーガが人を慈しみ、人間の為に今ここに立っていることは伝わった。

 

『そのようなか細い可能性に賭けることこそ、神足る我のすべきことではない』

 

『まー、わかってましたけど本当、話になりませんねぇ……』

 

『デュエルモンスターズの一柱でしかない汝が我を退けると……?』

 

『うふふ……あなた様こそ、そんな化石どころか石油染みのような博打デッキを宇宙誕生以来今も使い続けているんですから、いつまで経っても進歩も停滞もないですよ。知っていますか? 原初の神を名乗る存在って、人間の神話だと大概我が子に殺される上、ロクな死に方をしないんですよ……?』

 

 この辺りから明日香は"えっ?"と素直に思い、会話の雲行きが怪しくなってきたことを肌で感じ始める。

 

『痴れ者め……戯れ言をほざきおるわ』

 

『"虚無(ゼロ)"と、"無限(インフィニティ)"とか、人間の子供でも、もっとマシな名前つけるっつうの。センスもねーんですからどうぞカードの裏側にでもストッキングの裏側にでも引っ込んでくださいまし』

 

『そういう汝は遂に更年期にでも入ったのか? 無差別に憤怒を撒き散らし始めれば神も終わりだろうに』

 

『うふふふふふ……』

 

『クククククッ……』

 

 遂に互いのボルテージが高まり、交渉が決裂したことは明日香でも明白に見えた。

 

『やっちゃえマスター! 月姫2が出るまで絶対に人類は滅ぼさせませんよ! コミケだって第100回祝いをするんです!』

 

「よし、来い! デュエルだダークネス!」

 

『宇宙の暗黒面を知るがいい!』

 

 ナイトメアに対峙するダークネスはデュエルディスクの代わりに5枚の翼を背に展開した。

 

 

 

『「デュエル!!」』

 

 

 

ナイトメア

LP4000

 

ダークネス

LP4000

 

 

 そして、遂に始まったダークネスとの最終決戦を前に、一部始終を全て見ていた明日香は心が煤けたような面持ちになりつつ、とある結論に至った。

 

 

 

 "これって無茶苦茶スケールの大きいただの親子喧嘩なんじゃないかしら……?"と。

 

 

 

 

 






今日は15000字程でした。


~次回予告~
みなさん、いよいよお別れです!
地球を守るデュエリストは大ピンチ!しかも!ダークネス最終形態へ姿を変えた宇宙の暗黒面が、リックに襲い掛かるではありませんか!
果たして!全宇宙の運命やいかに!
ダークネス編 最終回「ヴェノミナーガ特殊勝利!希望の未来へレディ・ゴーッ!!」



~QAコーナー~

Q:おい、藤原虐め過ぎだろ。

A:この話の執筆中に作者がそんな易々と泣けるわけないじゃないか等と見る前は思いつつ、映画の"旅猫レポート"を見て、主人公の悟くんと微妙に境遇の重なる藤原優介くんが嫌でも重なった結果。優介くんに助走をつけて、フルアーマー・グラビテーションして、アームズ・エイドをユニオンして、団結の力を装備してぶん殴りたくなったせい。


Q:ミスターTなにしてんの?

A:闇の中で観戦しつつ、リックくんのナチュラル外道っぷりを素直に称賛してる。


Q:ヴェノミナーガさんのダークネスを倒す動機について。

A:昔から神々はすぐに、クソみたいな理由で戦争だの悲劇だのを引き起こすからね、仕方ないね。




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ダークネス三連戦! その3




次回予告詐欺ですが、初投稿です。

たぶん、セイバーウォーズでもキメながら話を作りました。是非、脳みそを溶かしながらご覧下さい。

正直に言いますと……ダークネスさんに負け筋が多過ぎるというか……ヴェノミナーガさんに何しても勝ち目がないにもかかわらず、こちらから心理フェイズは流石に不可能なので、盛り上げようがなかったのでこうなりました。




 

 

 

「ドロー」

 

手札

5→6

 

 先攻はダークネスから始まり、明日香は息を飲んでいた。

 

「我はフィールド魔法、"ダークネス"を発動」

 

 宙にカードが浮かび上がると、ダークネスの5つの翼にそれぞれセットされたカードが浮かび上がる。

 

「手札及びデッキから"虚無(ゼロ)"、"無限(インフィニティ)"、"ダークネス(ワン)"、"ダークネス(ツー)"、"ダークネス(スリー)"を1枚ずつランダムにセットする。この効果でセットされたカードを確認する事はできない」

 

ダークネス

フィールド魔法 

発動時に自分の魔法&罠カードゾーンのカードを全て破壊する。

手札及びデッキから「虚無」「無限」「ダークネス1」「ダークネス2」「ダークネス3」を1枚ずつランダムにセットする。この効果でセットされたカードを確認する事はできない。

お互いのターンのエンドフェイズに自分フィールド上の罠カードをセットされた状態に戻し、セットされた場所をランダムに変更する。

自分フィールド上の魔法・罠カードがフィールド上から離れた時、自分フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。

 

虚無(ゼロ)

永続罠 

「ダークネス」が発動している場合、以下の効果を発動する。

「無限」が発動していない場合、自分の魔法&罠カードゾーンのカード1枚を発動する。

「無限」が発動している場合、このカードと「無限」の間にあるカードを全て発動する。

 

無限(インフィニティ)

永続罠 

「ダークネス」が発動している場合、以下の効果を発動する。

「虚無」が発動していない場合、自分の魔法&罠カードゾーンのカード1枚を発動する。

「虚無」が発動している場合、このカードと「虚無」の間にあるカードを全て発動する。

 

ダークネス(ワン)

永続罠

自分フィールド上に「虚無」と「無限」が発動している時にこのカードが最初に発動した場合、以下の効果を得る。

●相手フィールド上のカード1枚を破壊する。

その後、「ダークネス」と名のついた永続罠カードが発動する毎に、相手フィールド上のカード1枚を破壊する。

 

ダークネス(ツー)

永続罠 

自分フィールド上に「虚無」と「無限」が発動している時にこのカードが最初に発動した場合、以下の効果を得る。

●自分フィールド上のモンスター1体の攻撃力をこのターンのみ1000ポイントアップする。

その後、「ダークネス」と名のついた永続罠カードが発動する毎に、自分フィールド上のモンスター1体の攻撃力をこのターンのみ1000ポイントアップする。

 

ダークネス(スリー)

永続罠

自分フィールド上に「虚無」と「無限」が発動している時にこのカードが最初に発動した場合、以下の効果を得る。

●相手に1000ポイントのダメージを与える。

その後、「ダークネス」と名のついた永続罠カードが発動する毎に、相手に1000ポイントのダメージを与える。

 

「"ダークネス・アイ"を攻撃表示で召喚する」

 

ダークネス・アイ

星1/闇属性/悪魔族/攻 0/守1000

このカードが攻撃表示でフィールド上に存在する場合、手札のモンスター1体を生け贄なしで通常召喚する事ができる。

このカードのコントローラーは1ターンに1度、自分の魔法&罠カードゾーンにセットされたカードを「ダークネス」の効果を無視して確認する事ができる。

 

 スタンドライトのような形をし、ライト部分が目玉に置き換えられたような黒く肉々しいモンスターが現れる。

 

ダークネス・アイ

ATK0

 

 そして、ダークネス・アイが場に出た直後、目玉がぐるりと回る。

 

「ターンエンドだ。お互いのターンのエンドフェイズに自分フィールド上の罠カードをセットされた状態に戻し、セットされた場所をランダムに変更する」

 

 エンドフェイズ宣言時、ダークネスのフィールドにセットされたカードが入れ替わる様子が見られた。

 

ダークネス

LP4000

手札4

モンスター1

魔法・罠6

 

 

「俺のターンドロー」

 

手札

5→6

 

 そうして、ナイトメアが真剣に手札を眺めているとき、ダークネス・アイの目玉がギョロギョロと動く様子が見えた。

 

 それから数秒経ち、手札をナイトメアが使おうとしたところ――。

 

『おいコラ、ちょっと待ってください』

 

 ヴェノミナーガがデュエルに割り込んで口を開いた。デュエル中に好き勝手にしていることは多々あれど、デュエル自体を止めようとしたことはほとんどなかったため、ナイトメアは目を丸くしている。

 

『待てって言ってるんですよ。そこの宇宙の暗黒面様。カードの効果発動宣言はどうしたかって聞いてるんですよ?』

 

「はい……?」

 

 その言葉にナイトメアは疑問符を上げ、明日香も意味がわからず、首を傾げていたところ、ヴェノミナーガは直ぐに話を続けた。

 

『"ダークネス・アイ"の効果は、このカードが攻撃表示でフィールド上に存在する場合、手札のモンスター1体を生け贄なしで通常召喚する事ができる。そして、もう1つは、このカードのコントローラーは1ターンに1度、自分の魔法&罠カードゾーンにセットされたカードを"ダークネス"の効果を無視して確認する事ができるでしょうが……で、今効果使いましたよね? 最後に会ったのが、幾つか星が生まれて滅びるほど前だからと言って私は忘れていねーですよ!』

 

『………………"ダークネス・アイ"の効果はそういうことだ』

 

 ダークネスはヴェノミナーガの捕捉説明の後、たっぷりと時間を掛けた上で重い口を開いた。

 

「えぇ……」

 

「それは……」

 

 明らかに意図してダークネスはダークネス・アイの効果をあえて宣言していなかったため、ナイトメアと明日香は訝しげな視線を向けるが、当のダークネスはどこ吹く風である。

 

『ダークネスさんったら……まーだ、対戦相手のデュエリストに対してそんなセコいことしてるんですね……百歩――いえ、万歩譲ってそれはいいとしても、ダークネスさんがそんなことやってたら暗黒系デュエルモンスターズの神々の威信に関わるから止めてください』

 

『直接的に関係のない部外者が、デュエル中に私情を挟むでない』

 

『あ゛? 今、なんつったオイ……?』

 

 その瞬間、普段は比較的温厚なヴェノミナーガの気配が荒々しいものになり、発生した闇の力がダークネス世界の空間そのものに多少の亀裂を生むほどに高まっていた。

 

『き、切れた……! 私の体の中で何かが切れた……決定的な何かが……せめてもの情けで顔を立ててやっていたらこの野郎付け上がりやがって……!! こうなったら――』

 

「ちょっと、ヴェノミナーガさん……?」

 

 嫌な予感がしたナイトメアは何か言おうとしたが、両腕でナイトメアの体を押さえ、じりじりと迫りつつ口を開く。

 

同化(GATTAI!)しますよマスター! ちょっと闇の力とデュエルディスク借りますね!』

 

「おい、他人(ひと)の了承を――」

 

 有無を言わさず、ヴェノミナーガはナイトメアの体に侵入すると同時に2人を濃厚な黒紫色の闇が包み込み、全身を隠した。

 

 一度、ヴェノミナーガに同化された経験のある明日香は、髪の色や目の色がヴェノミナーガと同じようになったナイトメアが出てくるのではないかと考えていると、黒紫色の闇が晴れ――。

 

 

 

「じゃーん! マスターの闇の力(ダーク・パウァー)を取り込み、私にユニオンさせ――女神ヴェノミナーガちゃん推参です!」

 

 

 

 斜め上、あるいは下の何かが現れた。

 

 そこにはメデューサ先生として活動している姿ではなく、緑色の宝石が額部分にハマった金のティアラと、豪華な金のネックレスを着け、色白の肌に長い青紫色の髪をし、深紅の瞳をした長身の女性――ヴェノミナーガそのものを人間の女性に変えたような姿がある。

 

 また、上衣には赤い胸当てのみを纏い、下衣には髪と同じ青紫色のスカートタイプのアラビアン衣装を着ており、非常に扇情的な服装をしていた。

 

 ナイトメアが使っていた工芸品のように艶やかなドーマのデュエルディスクが美しさを引き立ており、その美しさは、同性でそのような気のない明日香でも見ているだけでさえ胸が高鳴るほどである。

 

 無論、彼女――ヴェノミナーガが口を開いていない時に限るが。

 

『なんだその姿は……? 巫山戯ているのか?』

 

「へへん、スゴいでしょう? なんたって、いつもの擬態とは違い、今の私は神性を一時的にほぼ全て封印し、ほとんどただの人間になっているんですからね!」

 

 いつもの口調でとてつもないことを言い放つヴェノミナーガ。それに対し、似た神であるダークネスは酷く驚いた様子を見せる。

 

『馬鹿な……神が人に下るだと……? よもやそこまで堕ちたか……』

 

「チッチッチ……わかってないですねこの恐ろしさが――マスターと私で、100万パワー+100万パワーで200万パワー!! いつもの2倍の闇の力が加わり、200万×2の400万パワー!! そして、いつもの3倍の闇の力を加えれば、400万×3のダークネスさん! お前をうわまわる1200万パワーだーっ!!」

 

『……………………どういう意味だ?』

 

「要するに、純粋な()の闇の力と、純粋な人間(マスター)の闇の力を合わせ、私が人間になることで、2つの力を掛け、闇の力が無限大(インフィニティ)なんですよ!」

 

(も、もっとわからなくなったわ……)

 

 ちなみにナイトメア曰く"ヴェノミナーガさんのことをイチイチ相手にしていたら身が持たない"とのことである。

 

「まあ、そんな事はどうでもいいんだ。重要なことじゃない! お前にふさわしいソイルは決まった! 魔法カード発動、"トレード・イン"!」

 

 そうして、ヴェノミナーガは手札のワーム・クィーンを墓地に送りデッキに手を掛けると、そこに闇の力が集中する。

 

「この姿の私のドローは奇跡を呼びますよ……言わばシャイニン――おっとダークド――もやめておきましょう。まあ、もうこの際、ダークネスドローでも、ヴェノムドローでもなんでも構いません! そら、来い!」

 

 そうして、ヴェノミナーガが引いた2枚のカードは――ナイトメアがデッキに入れていないカードであった。しかし、それを知るものはナイトメアと、ヴェノミナーガのみである。

 

 ヴェノミナーガは引いたカードの片方を発動する。

 

「手札から"絶望の宝札"を発動! デッキからカードを3枚手札に加え、それ以外の全てのデッキを墓地に送ります!」

 

手札

5→8

 

 3枚のカードを手札に加え、残りのデッキは全て墓地へ送られる。

 

『馬鹿な……勝負まで投げ捨てたというのか?』

 

「な、なんてことを……」

 

「なに勘違いしているんです?」

 

「なに……?」

 

 ヴェノミナーガは余裕たっぷりの笑みを浮かべてからウィンクをしつつ舌を出して見せた。

 

「あなたに次のターンなんか来ませんよ?」

 

「なんだと……!?」

 

 そう言ったついでにヴェノミナーガはダークネスのデュエルディスク代わりである5枚の翼を端から指を指して口を開く。

 

「ふふん、マスターと合体し、人間になった今の私なら見ればわかります。ダークネスさんから見て右から2番目のカードが"虚無(ゼロ)"! 右から5番目のカードが"無限(インフィニティ)"! そして、挟まれているカードは"ダークネス(ツー)"と、"ダークネス(スリー)"です!」

 

『な……!? なぜわかった!?』

 

 既に伏せた魔法・罠カードをダークネス・アイで確認しているダークネスの様子からそれは真実のようだ。

 

「そんなことすらわからない……だからお前はアホなのだぁぁ! これが真のデュエリストってもんですよ! 見なくとも理解し、引きたいカードは引き当てるのです!」

 

 "まあ、デュエリストの能力の大部分はマスターですけどっ!"と補足してからヴェノミナーガは更に言葉を続けた。

 

「"ダークネス(ワン)"がないと除去は不能で、フィールド魔法のダークネスのせいで、他の魔法・罠はない! 墓地はゼロで、"超電磁タートル"も、"ネクロ・ガードナー"もない! 更に言えばダークネスじゃないから、"速攻のかかし"も、"バトル・フェーダー"も、"エフェクト・ヴィーラー"もデッキにない! 宇宙の暗黒面のクセに恥ずかしくないんですか?」

 

 そう言いつつ、ヴェノミナーガはトレード・インでドローしたカードのもう片方を場に出した。

 

「私は手札から永続魔法、"王家の神殿"を発動! このカードのコントローラーは、罠カードをセットしたターンでも発動できます!」

 

 ヴェノミナーガのフィールド上に古めかしい石造りの巨大な神殿が現れる。

 

「そして、カードを2枚セット! 更に"死者蘇生"を発動! 墓地から"毒蛇王(どくじゃおう)ヴェノミノン"を特殊召喚します!」

 

毒蛇王(どくじゃおう)ヴェノミノン

ATK0

 

「"王家の神殿"の効果により、セットした罠カード、"毒蛇(どくじゃ)供物(くもつ)"を発動! 自分フィールド上の爬虫類族モンスター1体と、相手フィールド上のカード2枚を選択して破壊します! 私は"毒蛇王(どくじゃおう)ヴェノミノン"と、フィールド魔法"ダークネス"、"ダークネス・アイ"を破壊!」

 

「くっ……その前に"虚無(ゼロ)"と"無限(インフィニティ)"を発動。2枚の間のカードを"ダークネス(スリー)"、"ダークネス(ツー)"の順で発動し、2000ポイントのダメージを与える」

 

「うぐぁっ……!?」

 

ヴェノミナーガ

LP4000→2000

 

 ヴェノミナーガに闇の閃光が襲い掛かると共に、毒蛇王(どくじゃおう)ヴェノミノンが内側から燃え盛り、その状態で両腕伸ばしてフィールド魔法のダークネスと、ダークネス・アイを掴んだ。

 

 その直後、ヴァレンチノの全身から迸る炎がフィールド魔法のダークネスとダークネス・アイに燃え移り、その全てを消滅させた。

 

「あはは……流石に人間の体だとちょっとキツい……いや、スゴく痛いですね……」

 

 闇のデュエルでダークネスから2000ポイントのダメージを受けたヴェノミナーガは、額から脂汗を流しながら胸に手を当て肩で息をしつつもデュエルを続行する。

 

「……フィールド魔法"ダークネス"が破壊されたことで、ダークネスさんの魔法・罠カードゾーンのカードは全て破壊されますね」

 

「我のダークネスが……」

 

 これでダークネスのフィールド上には何もカードがなくなった。

 

「さあさあ、お待ちかねです! 当然、私は罠カード、"蛇神降臨"を発動! 自分フィールド上に表側表示で存在する"毒蛇王(どくじゃおう)ヴェノミノン"が 戦闘以外で破壊された時に発動でき、手札・デッキから"毒蛇神(どくじゃしん)ヴェノミナーガ"1体を特殊召喚します! 私は手札から"毒蛇神ヴェノミナーガ()"を攻撃表示で特殊召喚!」

 

毒蛇神(どくじゃしん)ヴェノミナーガ

星10/闇属性/爬虫類族/攻 0/守 0

このカードは通常召喚できない。「蛇神降臨」の効果及びこのカードの効果でのみ特殊召喚できる。

このカードの攻撃力は、自分の墓地の爬虫類族モンスターの数×500ポイントアップする。

このカードはフィールド上で表側表示で存在する限り、このカード以外のカードの効果の対象にならず、効果も受けない。

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、このカード以外の自分の墓地の爬虫類族モンスター1体をゲームから除外する事で、このカードを特殊召喚する。

このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、戦闘ダメージを受けたプレイヤーは3ターン後、デュエルに敗北する。

 

 いつも見ている姿のままのヴェノミナーガがフィールドに現れる。しかし、ヴェノミナーガを中心に生命、物体、空間さえも侵す神の毒が溢れ出し、水面に落とされた一滴から生まれた波紋のように一瞬で拡がりながら、ダークネスの世界そのものを侵食していた。

 

毒蛇神(どくじゃしん)ヴェノミナーガ

ATK0

 

「私の攻撃力は、自分の墓地の爬虫類族モンスターの数×500ポイントアップします! 墓地に存在する爬虫類族モンスターは、"毒蛇王(どくじゃおう)ヴェノミノン"3体、"ワーム・キング"3体、"ワーム・クィーン"3体、"ワーム・ヤガン"3体、"ワーム・ゼクス"3体、"ワーム・アポカリプス"3体、"ワーム・ヴィクトリー"2体の計20体!」

 

毒蛇神(どくじゃしん)ヴェノミナーガ

ATK0→10000

 

「こ、攻撃力10000だと……そんな馬鹿な……」

 

「さながら私はあなたにとってのレオパルドンです! では喰らいなさい! アブソリュート・ヴェノム!」

 

「ぐ……ぐぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!?」

 

 神のカードによる攻撃はダークネスを貫き、一撃の元にデュエルに決着をつけた。

 

 

ダークネス

LP4000→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダークネスは敗れた。そのため、古来よりの(ことわり)に従い、この世界からしばらくは手を引かさせたため、俺とヴェノミナーガさんの目が黒いうちは大丈夫だろう。とりあえず、当初の目的は達成したと言える。

 

 しかし、それはそれ、これはこれである。

 

「正座」

 

『はい……』

 

 場所は変わり、最初のダークネスであった明日香の兄を倒した森の中。明日香の兄と解放された旧館での事件の生徒たちが意識を失って倒れているので、人を呼び、それを待っているところだ。

 

 その間、とりあえず、精霊に戻ったヴェノミナーガさんを正座させていた。蛇の下半身に正座が意味があるかどうかは不明だが、気分の問題である。

 

「ヴェノミナーガさんのしてはいけないことリスト、その17を言ってください」

 

『えーと……"ポテチを食べた手を拭かずにカードに触らず、倒してもいいように炭酸飲料のキャップは毎回しっかり閉めること"』

 

「それはその16です。17は"了承を取らずに他者に憑依や同化をしてはいけません"ですよ」

 

 最近、天上院でも破ったばっかりの項目である。ヴェノミナーガさんの行動で、毎回毎回同じことをしでかす事があるので、注意のためのリストを作っているのである。

 

『今日のはGATTAI!だからノーカンです……』

 

「ああ゛?」

 

『ひぃ!? まあ、近い世界の危機は去ったのですからいいじゃありませんか! それにデュエルを見ていたマスターならぶっちゃけ、ダークネスさんがそんなにデュエルが強くないことはわかったでしょう?』

 

 まあ、それは見ていて思ったことではある。なんというか、拍子抜けだったと言わざるを得ない。宇宙の暗黒面だというから、さぞ強いのかと思えば、なんだか、コンセプトから既に微妙だった気がしないでもない。

 

 正直、ヴェノミナーガさんのデッキを出す必要はなかったと思ったのは、仕方がないことだろう。

 

『まあ、普通に考えてみてもくださいよ。だって、ダークネスさんはカードの裏面から生まれたんですよ? 裏面なんて絵柄もカードテキストもパスワードも書いていないのに……表面から生まれたデュエルモンスターズの神々よりデュエルが強いわけがないじゃないですか』

 

 納得できるようで、やっぱりよくわからないようなことを言われて反応に困った。閉口しているうちにヴェノミナーガさんが更に言葉を吐く。

 

『それに小狡いこともしていましたしね』

 

 まあ、明らかに故意でセコいことをしていたことに対して、デュエルモンスターズの神として怒ることは無理はないと思うが――。

 

『そんなことは正直どうでもいいですけどアイツ! 私のこと更年期とか言ったんですよ!? ピチピチにょろにょろのレディに更年期ですよ!? 更年期! そんなの大義名分さえあればぶっ殺すに決まっているじゃないですか!』

 

「そっちかぁ……」

 

 うーん……どうして唯一フォローしようとした箇所すら自分で削ぎ落とすんだろうなぁ……ヴェノミナーガさんは。

 

 それに小狡いも何も、ヴェノミナーガさんなんてドローでデッキに存在しないカードを引いてたしなぁ……。

 

『そんなの最近ではもっとスゴいことを普通にやってるからいいんですよ』

 

「最近ってなんなんですか」

 

「ねぇ……?」

 

 これもしてはいけないことリストに加えておこうと思っていると天上院が声を掛けてきたので、そちらに対応することにした。

 

「何故か……とても……とてもとても疲れたわ……デュエルモンスターズってなんなのかしらね……この世界って……なんなのかしら……ウフフ」

 

 天上院の顔には影が差しており、背中には間違っても高校一年生の女子生徒が出してはいけないような哀愁が漂っている。横でまだ倒れている兄に寄り添いつつも、そんな永遠の哲学になりそうな題材をぼやく姿は今にも消え入りそうだった。

 

 これはケアしないと第2の藤原優介にでもなるかもしれない等と思っていると、ヴェノミナーガさんがするりと動いて天上院を背中から抱き締めると真面目な顔で叫んだ。

 

『明日香さんの心にこんな傷跡を残して……絶対に許しませんよダークネスさん!』

 

 もちろん、それはネタで言っているつもりなんだよな? な?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天上院だけが知っているダークネスとのデュエルから数日後。ダークネスに囚われていた者は大半が目を覚ましたが、やはりダークネスとなって闇のデュエルで俺に負けた天上院吹雪だけは目を覚まさないらしいが、命に別状はないということだ。

 

 それと、藤原優介の奴なのだが、オレイカルコスの結界から出したら失礼なことに俺を見た瞬間、泡を吹いて背中から倒れたため、今は天上院吹雪の隣のベッドで療養中だが、数日(うな)され続けているらしい。まあ、忘れられるより怖い、忘れられないものが出来たんだからよかったんじゃないかな?

 

 そして、天上院――もとい明日香のメンタルは持ち直した。あれだけ色々、あって今更苗字呼びは止めて欲しいとのことで名前で呼ぶようにもなった。

 

 最近の目標は、この世界はデュエルで強くなって損はないことに気づいたため、兎に角強くなることらしく、前よりも頻繁にデュエルを挑んできたり、デッキの構築で意見を求めるためにたまに俺の部屋に足を運んでいるのだが――。

 

「リック、お腹が空いたわ」

 

『マスター、お腹が空きました』

 

「2人とも冷蔵庫に残り物があるでしょう?」

 

「えー……リックのご飯美味しいのに……」

 

『ぶー! ぶー! 精霊いじめー! アカデミアの女王いじめー!』

 

「そうよ! よくないわよー!」

 

 最近はこんな感じである。

 

 ちなみに本館の食堂やデュエルスペースで集まらないのかと聞いたところ、この部屋にいて、炬燵で温まっていると何故か妙に落ち着くらしい。ヴェノミナーガさんと仲良く暖を取っている。

 

 なんだかまた似てきた気がする……これはアレか? 副作用とか、後遺症とかそういう類いのものなのか……? とりあえず、何も考えないようにすることにした。

 

 

 ああ、そうだ。藤原優介が消した記憶が人々に全て戻ってきた兼ね合いで――。

 

「ウフフ……藤原優介と、藤原雪乃(わたし)を同じ藤原で呼んだら混乱するわね」

 

「他学年の藤原とかでいいだろ」

 

「あら? あのボウヤは1年の出席日数は足りているみたいだから、復学するなら同級生よ。やっぱり、困ってしまうわね……」

 

「ならそのまま繋げて、藤原雪――」

 

「ダ・メ。雪乃よ」

 

「…………」

 

「嫌なら"ゆきのん"でもいいわよ? その代わり私も"りっくん"って呼ぶわ」

 

「……………………雪乃」

 

「フフッ……よくできました。私の可愛い人」

 

 そんなやり取りにより、半ば強制的に雪乃と呼ぶようになってしまったが、呼び名ひとつの変化で、最近とても雪乃が嬉しそうに見えるため、もっと早くそう呼んでやってもよかったかもしれないと若干後ろ暗さを覚えた。

 

 

 

 そして、何よりもの異様な出来事なのだが――実はあのダークネスはまだ意外なところに残っている件だろう。

 

 そこはなんと――俺の中である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ことの発端はダークネスを倒した2日後の夜まで遡る。

 

 その場所を具体的に言えば、就寝中の俺の夢の中であった。

 

『………………』

 

 夢の中で気が付けば、あのローブを纏った羊頭の大きな骸骨が目の前にいたのだ。ご丁寧に、ベッドの近くに置いていたカード用の棚と、枕元に置いて寝たデュエルディスクとデッキもあった。

 

 リベンジしに来たのかと思い、ダークネス戦はヴェノミナーガさんに持って行かれたため、とても嬉しくなり、デュエルディスクを構えると、ダークネスの方からとても歯切れの悪そうな様子で、ポツリと呟かれた。

 

 

『折り入って汝に頼みがあるのだが……デッキを見てくれないか……?』

 

 

 まさかの提案に目を点にしたものである。

 

 とりあえず話を聞くと、どうやらダークネスに抗う生物なら未だしも、自分より遥か年下のデュエルモンスターズの神こと、ヴェノミナーガさんに手も足も出ないどころか、ゴミのようにデュエルで後攻ワンキルされたのが、とてもショックだったらしく、流石にどうにかしなければならないと決意したらしい。

 

 しかし、ダークネスにも面子があるわけで、表のデュエルモンスターズの神々に頼むような真似は出来ないが、裏の神は自分しか存在しない。そんなとき、思い当たったのが、ダークネスさん曰く、この宇宙で異様に強く、ダークネスの適性もあり得ないほど高く、デュエルのことしか考えていない人間の俺だそうだ。

 

 原初の神さえ、デッキと精神が連結しているのだから、この世界の人間がほとんどそうでも納得だな。

 

 もちろん、俺は二つ返事でOKした。何せ、あんな面白そうなデッキを弄れる機会なんて滅多にあるものではないだろうからな。

 

 ダークネスは宇宙の摂理だし、一回デュエルでぶっ飛ばしたため、次に来るとすれば人類がまだ残っているかも怪しいレベルで時間が過ぎた後なので、俺には最早関係のないことだ。そもそも俺にはダークネスに因縁も何もない。

 

 と、言うわけで早速デッキを拝見したのだが――。

 

「うーん……デッキコンセプトは嫌いじゃないと思うんですが、実質ほぼ【フルモンスター】なのが痛過ぎるんですよねぇ……」

 

『【フルモンスター】か……』

 

 やはり真っ先に思ったことはそれであった。

 

 かといってフィールド魔法"ダークネス"と、それに連なる永続罠カードを計18枚も入れてやがるデッキが【フルモンスター】な訳もない。

 

 要はダークネスさんのデッキは実質【フルモンスター】のようなデュエルを自分で強いているにも関わらず、当然【フルモンスター】に投入出来るような"星見獣(ほしみじゅう)ガリス"や、"次元合成師(ディメンジョン・ケミストリー)"は入れられないにも関わらず、基本的な魔法・罠が全く使えないため、【フルモンスター】と同様にメタが異様に刺さり易い弱点と、フィールド魔法"ダークネス"を破壊されると壊滅するのに守りにくいという博打以前に極めて不安定なデッキなのだ。

 

『なんとかならんか……?』

 

「そうですね。例えばコイツらだと――」

 

 俺はダークネスさんの2枚のモンスターカードを手に取り、棚にあった2枚のカードを出す。

 

ダークネス・シード

星2/闇属性/悪魔族/攻撃力1000/守備力1000

このカードが墓地へ送られた後の2回目の自分のスタンバイフェイズ時に、墓地のこのカードを自分フィールド上に特殊召喚できる。この効果で特殊召喚したこのカードは戦闘で破壊されない。お互いのエンドフェイズ時にこのカードのコントローラーのライフポイントが4000未満の場合、このカードのコントローラーのライフは4000ポイントにする事ができる。

 

ダークネス・ブランブル

星6/闇属性/悪魔族/攻 2000/守 1500

お互いのエンドフェイズ時にこのカードのコントローラーのライフポイントが4000未満の場合、ライフポイントは4000になる。

このカードのコントローラーは1ターンに1度、自分の魔法&罠カードゾーンにセットされたカードを「ダークネス」の効果を無視して確認する事ができる。

 

冥府(めいふ)使者(ししゃ)ゴース

星7/闇属性/悪魔族/攻2700/守2500

自分フィールド上にカードが存在しない場合、相手がコントロールするカードによってダメージを受けた時、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。 この方法で特殊召喚に成功した時、受けたダメージの種類により以下の効果を発動する。

●戦闘ダメージの場合、自分フィールド上に「冥府の使者カイエントークン」(天使族・光・星7・攻/守?)を1体特殊召喚する。 このトークンの攻撃力・守備力は、この時受けた戦闘ダメージと同じ数値になる。

●カードの効果によるダメージの場合、受けたダメージと同じダメージを相手ライフに与える。

 

影王(かげおう)デュークシェード

星4/闇属性/悪魔族/攻 500/守2000

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、このカードの効果を発動するターン、自分は闇属性モンスターしか特殊召喚できない。

(1):自分フィールドの闇属性モンスターを任意の数だけリリースして発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードの攻撃力はリリースしたモンスターの数×500アップする。

(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、自分の墓地のレベル5以上の闇属性モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

 

「"ダークネス・シード"と"ダークネス・ブランブル"は効果自体はかなり強力にも関わらず、召喚条件が極めて緩いところがポイントですね。特に"ダークネス・ブランブル"は、"ヘルウェイ・パトロール"で手札から出せる最高打点モンスターです。そして、召喚方法を幾つか用意しておけば、"冥府の使者ゴース"を出し放題で、"影王(かげおう)デュークシェイド"で回収すれば"冥府の使者ゴース"を過労死させれますね」

 

『ほう……』

 

ヘルウェイ・パトロール

星4/闇属性/悪魔族/攻1600/守1200

(1):このカードが戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。そのモンスターの元々のレベル×100ダメージを相手に与える。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。手札から攻撃力2000以下の悪魔族モンスター1体を特殊召喚する。

 

「生け贄や場を考えるなら、"トラゴエディア"や、"バトルフェーダー"を入れて損はないでしょう。他にも闇・悪魔族のリクルーターなら、"ヘル・セキュリティ"、"ジャイアント・ウィルス"がいますし、"ジャイアントウィルス"は攻撃表示で特殊召喚のデメリットをほぼ無効にしつつ、相手にバーンダメージを与えられますね。単純なリクルーターとしてなら闇・機械族ですが、墓地では確りと闇属性として扱いますので、"クリアー・キューブ"も悪くないですね。そして、これらのリクルーター全般に言えることなんですが、攻撃力がとても低いので、"ダークネス・アウトサイダー"で送り付けるのにも適しています」

 

『ふむ……』

 

ダークネス・アウトサイダー

レベル1/闇属性/悪魔族/攻撃力0/守備力0

手札を1枚捨てて発動できる。自分フィールド上のモンスター1体と相手のデッキのモンスター1体を入れ替える。

 

ヘル・セキュリティ

チューナー

星1/闇属性/悪魔族/攻 100/守 600

(1):このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた場合に発動する。 デッキから悪魔族・レベル1モンスター1体を特殊召喚する。

 

ジャイアントウィルス

星2/闇属性/悪魔族/攻1000/守 100

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、相手ライフに500ポイントダメージを与える。さらに自分のデッキから「ジャイアントウィルス」を任意の数だけ 表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

 

クリアー・キューブ

星1/闇属性/機械族/攻0/守0

このカードがフィールド上に表側表示で存在する場合、このカードの属性は「闇」として扱わない。このカードがフィールド上から離れた時、自分のデッキから「クリアー・キューブ」1体を特殊召喚する事ができる。

 

「他にもダークネスモンスターは当たり前ですが、全て闇属性なので"ダーク・アームド・ドラゴン"は出しやすいです。また、このデッキだと魔法・罠を実質使わない関係で手札も余りますから、相手の特殊召喚に手札を1枚コストに手札から特殊召喚でき、相手の除外封じができて腐りにくい"カオスハンター"も輝きますね。リクルーターが増えれば当然、除去や状況に応じてバーンもこなせる"邪帝ガイウス"も使いやすく、"ジャイアントウィルス"から出して2体は戦闘破壊されることで、1000ポイントダメージを与え、"邪帝ガイウス"自体を"邪帝ガイウス"で除外し、1000ポイントダメージを与えることで"ダークネス(スリー)"から2枚を発動できれば合計4000ダメージで決着がつきますね」

 

『なるほど……バーンダメージか』

 

「他にも候補のひとつとして、私の友達も使っているカードですが――」

 

 俺は天音ちゃんから貰ったカードをダークネスに見せる。

 

カース・ネクロフィア

星8/闇属性/悪魔族/攻2800/守2200

このカードは通常召喚できず、カードの効果でのみ特殊召喚できる。このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):除外されている自分の悪魔族モンスター3体を対象として発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、対象のモンスターをデッキに戻す。

(2):モンスターゾーンのこのカードが相手によって破壊され墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動する。 このカードを墓地から特殊召喚する。その後、自分フィールドの魔法・罠カードのカード名の種類の数まで相手フィールドのカードを選んで破壊できる。

 

「この"カース・ネクロフィア"は、とてつもなくフィールド魔法"ダークネス"と相性がいいですね」

 

『おお……! 理想のカードだ!』

 

 まあ、効果さえ知っていればカース・ネクロフィアを相手が破壊することはそうそうないが、この世界は相手モンスターの効果確認が出来ず、基本的に誰も彼もが初見のような状態でデュエルしている節があるので、とんでもない地雷になるだろう。エンドフェイズ時に存在すればいいので、フィールド魔法"ダークネス"などのカードを効果なしで発動しておくだけでも効果がある。

 

『ん……? ふむ……』

 

「どうかしましたか?」

 

『いや、考えてみればフィールド魔法"ダークネス"はエンドフェイズ時にセットし直されるではないか。ならば"カース・ネクロフィア"の効果よりも先にフィールド魔法"ダークネス"の効果が発動してしまうのではないか?』

 

「ああ、エンドフェイズに生じる強制効果、任意効果の処理やコストの支払いなどは、優先権を持つプレイヤーから、好きな順番で処理できるので大丈夫なんですよ。チェーンを組みませんからね」

 

『………………つまりどういうことだ?』

 

「例えばですよ? 妥協召喚した"ミストデーモン"はターン終了時に自壊し、1000ポイントのダメージを与えますが、そのコントロールを"エネミーコントローラー"で奪った場合、"ミストデーモン"の自壊と、"エネミーコントローラー"のエンドフェイズ時にコントロールを戻す効果は、スペルスピードに関係なく、それぞれ任意の順番で処理を行う事ができるんです。ちなみに、この場合、先に"ミストデーモン"を相手フィールドで自壊させればダメージは相手に行きますね」

 

『そうなのか……』

 

「そのように"カース・ネクロフィア"とフィールド魔法"ダークネス"のエンドフェイズ時の効果は、好きな方からプレイヤーが処理していいので、"カース・ネクロフィア"の誘発効果の特殊召喚及び効果処理後に、フィールド魔法"ダークネス"の強制効果で裏側にしてセットし直せるんです」

 

『なるほど……』

 

 まあ、意外とこの辺りは前世の世界でも知られていないところかも知れないな。ゲーム作品だと基本的には勝手に処理されるので尚更だろう。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 そんな感じでたまに夢に出てはダークネスのデッキを弄ったり、普通にデュエルをしたりしているのだ。ヴェノミナーガさんは気づいているどころか"ついにうちのマスター、夢でまでデュエルし始めましたよ……"と呆れられた様子だった。

 

 しかし、そのせいか最近、微妙に日常生活で支障が出ていたりする。というのも――。

 

 埃を被っていた"レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン"が、殺意の波動に目覚めたのか"レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン"になり。

 

 裏サイバー流から回収したサイバーダークデッキの"鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン"が、満足したくなったのか"鎧獄竜サイバー・ダークネス・ドラゴン"になり。

 

 折角、買い取り願いの生徒に市場価格より色を付けて購入した"ダーク・シムルグ"が、"ダークネス・シムルグ"になり俺が叫び。

 

 果てはちょっとエモい目元用の黒いマスクをいつでも着けたり消したり出来るようになった等と微妙にありがた迷惑なことが起こるのだが、どうしたものだろうか……とヴェノミナーガさんに相談すると――。

 

『前も言いましたが、マスターは暗黒面にカンストしているので、"ヴェノム・スワンプ"に置いた攻守0のモンスターぐらいダークネスさんの影響をマイナス面には受け付けないので、貰えるものは貰っておいていいと思いますよ?』

 

 という"放置でおk"という大変ありがたい言葉をいただいたので気にしないことにした。とりあえず、"ダーク・シムルグ"と、"鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン"については今度、ダークネスに戻して貰――いや、別にまた入手して今度はダークネス化しないコツでも聞くか。

 

 なんだか、図らずもダークネスの力を取り込んでしまい、藤原優介と結果的には似たような状態になっている気がするが、戦利品ということにしておこう。むしろ、光と闇が両方そなわり最強に見える。

 

『闇と闇しかないんだよなぁ……』

 

 ダークネスから貰った本人が最初に使っていたものと中身は全く同じ、"ダークネスデッキ"を炬燵で確認しつつニヤニヤしながらヴェノミナーガさんの言葉は聞かなかったことにした。

 

『マスター、ダークネスの仮面を貸してください』

 

「いいけど、何に使うんですか?」

 

『お湯を入れたカップ麺の蓋を押さえる丁度いいものがないので』

 

「そうですか。はい、どうぞ」

 

『ありがとうございます』

 

 そんなやり取りをしつつ、そういえばセブンスターズを既に1人は倒していたことを思い出しつつ、2人目のセブンスターズが来ることを心待ちにするのだった。

 

 

 

 

 





ダークネス編のまとめ

・遊戯王らしく、共に戦ってきた精霊と力を合わせ、最後に覚醒し、強大なラスボスを倒す王道展開


~QAコーナー~
Q:なにあの形態?

A:世界をダークネスの危機から守り、希望の未来へと繋ぐために、ラスボス戦で覚醒したリックくんとヴェノミナーガさんの最終形態です(適当)

Q:ダークネス・アウトサイダーでとりあえずヴェノミナーガを潰せばよかったのでは?

A:召喚条件を無視できるのはボスデュエルの方のダークネスA(ダークネス・アウトサイダー)の方だけです。

Q:仮にダークネスにヴェノミナーガの攻撃を防がれていたらどうしたの?

A:ヴェノミナーガさん「私は手札から通常魔法、"アフター・グロー"を発動! 発動後、デッキの"アフター・グロー"をデッキからすべて除外します。その後、このカードをデッキに加えてシャッフルします。次のターンのドローフェイズにこのカードの効果で加えたこのカードをドローした場合、相手のライフポイントに4000ポイントのダメージを与えることができます! そして、私のデッキは"アフター・グロー"1枚のみ! 悔しいでしょうねぇ」


・呟き(読まなくていいところ)
 GXとか5D'sとかでTFキャラやら原作キャラとイチャコラしているだけの胃に優しそうな二次創作が読みたいなぁ……なぜにハーメルンで原作を遊戯王で検索していると、かなりの数がオリジナルの世界線で、オリジナルキャラだけ出して、オリジナルなデュエルしてるんでしょう?(純粋に素朴な疑問)
 個人的になんかこう、二次創作を求めている身としては、それだけで前提として違うので、内容以前にあんまり読む気になれないんですよねぇ。しかし、アニメ原作の二次創作は何故か軒並みかなり前に更新が止まっているので寂しいです(お前が言うな)

 まあ、何が言いたいかと申しますと――。

 当たり前だよなぁ? 俺もやったんだからさ(同調圧力先輩)




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獏良天音

 天音ちゃんの初デュエル回です。登場からなんと20話目もかかっていますが、初投稿です。


 

 

 

 

「しまったな……」

 

『困りましたねぇ』

 

 俺は荷物を纏めつつ自室でそんな呟きを上げていた。

 

 というのもダークネスが来たときと同様にセブンスターズの者が上陸したことを探知したため、デュエルを吹っ掛けに行ったのだが、どういうわけか今度のセブンスターズは、のらりくらりと逃げやがるのである。

 

 1日ほど追い回したが、まるでこちらとデュエルする気がなく、明らかに人間ではない方法で逃げ回るため、こちらも常人には出来ない方法に訴えたところ、今度は本格的に逃げ隠れ始め、闇の力というより種族の力を使っているせいか、俺でも足取りを探すのが難しくなったところでこちら側がタイムアップを迎えた。

 

 要するに数日デュエルアカデミアを留守にするプロデュエリストの仕事が差し迫ってしまったのである。

 

『これは新しいマスターの攻略法ですねぇ……間違いない』

 

 あのカミューラとか言う吸血鬼……まさか、俺のスケジュールを確認してそれを狙っていたんじゃないよな?

 

 まあ、実力が一番高く見える者を最後まで残しておき、弱く見えるものから潰していくというのも考え方としては間違ってはいないと思うが、ここまで徹底していると感心すら覚えてしまいそうなレベルだ。

 

『それで? この七星門の鍵は外での仕事の間、誰に預けるんです?』

 

「私に貸して……」

 

 七星門の鍵を掲げるヴェノミナーガさんがぼやいた直後、俺の背中に回り込んでいた天音ちゃんがそう呟く。

 

 デュエルをしているよりも見ている方が多い、彼女なだけに自分からそのように名乗り出たことは非常に意外であり、目を丸くしているうちに対応が遅れた。

 

「ダメ……?」

 

 しっとりとした目で見つめてくる天音ちゃん。まあ、自分から名乗り出ている以上は拒む理由も特にはない。

 

「いいぞ」

 

「ありがとう……」

 

 七星門の鍵を受け取った天音ちゃんは何を思っているのか、それを見つめている。どうも七星門の鍵やセブンスターズ全体というよりも、今度の対戦相手に対して個人的な興味を示しているように見えるが、俺が聞くような内容でもないな。

 

「ふんっ……」

 

『グギュィ!?』

 

『きゅっとしてドカーン!』

 

 とりあえず、流石に少し腹が立ったので、窓から顔だけ出して覗いていた目の赤いコウモリ――ヴァンパイア・バッツの精霊は闇の力で遠隔攻撃を行い、握り潰しておいた。まあ、体の一部だろうから効果はほぼないと言ってもいい。

 

 全く……なんだってセブンスターズの癖に俺とのデュエルを拒むというのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナイトメアがデュエルアカデミアを離れた直後、セブンスターズのカミューラはその時を待っていたかのように行動を開始した。

 

 七星門の鍵を守る面々は自身が留守の時にカミューラが動くだろうとナイトメアに知らされていたため、混乱はなかったが、それでも1戦目はクロノス教諭が倒され、2戦目は"幻魔の扉"の発動コストのためにカミューラが丸藤翔を身代わりにしたため、丸藤亮は敗北した。それによって2人は人形に魂を移される。

 

 そして、湖に立つカミューラの城から外に出された残りの面々が怒り、困惑、焦燥など様々な表情を浮かべた。

 

「なんなんだよこれって!? デュエルって楽しい筈のもんだろ!?」

 

 そんな中、遊城十代が叫んだそれは、魂からの慟哭であろう。

 

「なのに……なんで翔が泣かなきゃいけないんだ!? なんでカイザーがあんな目に合わなきゃいけないんだよ!?」

 

 他の者たちも言葉はないが、同じ心持ちなのか、十代に視線を向けながら各々が決意に燃えた瞳を浮かべているように見えた。

 

「俺はこんなデュエルをさせた奴らを許さない……! 絶対勝って……奪われた皆の魂を取り戻して見せる! クソォォォ! 待ってろよカミューラ! 待ってろよセブンスターズ! 今度は俺が相手だ!」

 

 そんな中、彼らの中で、2人の試合から今の今まで一言も言葉を話さなかった少女――獏良天音の拳が強く閉じられ、静かに震えている様子には誰も気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら? 小娘1人で来たの?」

 

 丸藤亮とのデュエルがあってからそう時間が経っていない頃。獏良天音は1人でカミューラの城に向かい、

 

 

「……私1人で十分だわ」

 

「生意気な小娘ね……所詮、ナイトメアの補欠でしょう? まあ、丁度いいわ。あなたを倒せばナイトメアの鍵を奪ったようなものですもの」

 

「ご託は沢山よ。始めましょう……?」

 

「風情がないわね……まあ、いいわ」

 

 無表情で、表情も暗く、煽りのひとつにも言い返さない天音にカミューラは悪態をつきつつデュエルディスクを構えた。

 

『デュエル!』

 

天音

LP4000

 

カミューラ

LP4000

 

 

 

「ドロー……」

 

手札

5→6

 

 そう言いながら天音がカードをドローした直後、カミューラと天音がデュエルをしている広間のギャラリーに十代を始めとした七星門の鍵を持つ面々とオシリスレッドの丸藤翔や前田隼人、オベリスクブルー女子のツァン・ディレなどが次々と現れた。

 

「天音!? 何をしているんだ!? ソイツには闇のアイテムがなきゃダメだ!」

 

「何してるのよ天音!?」

 

 十代を始め、親しい友人であるツァンが声を掛けるが、天音は少し視線を向けただけで、すぐにカードへと目を落としつつ口を開いた。

 

「大丈夫、闇のアイテムよりもずっとスゴいの持ってるから……」

 

『モノ扱いはちょっと酷いんじゃないのー? まあ、可愛い女の子に評価されるだなんてオジさんとしては鼻が高いなぁ!』

 

「うるさい」

 

 突然、天音から響き渡るどこか人を小馬鹿にしたような男性の声にカミューラを含め、周りの面々は驚くが、天音は特に気にせずに一言だけ呟いた後、カードを1枚手札から抜き出すと、そのまま魔法・罠ゾーンに置いた。

 

「私は手札から、"封印(ふういん)黄金櫃(おうごんひつ)"を発動……。デッキから"ネクロフェイス"を除外し、2ターン後のスタンバイフェイズに手札に加える……」

 

ネクロフェイス

星4/闇属性/アンデット族/攻1200/守1800

このカードが召喚に成功した時、ゲームから除外されているカードを全てデッキに戻してシャッフルする。

このカードの攻撃力は、この効果でデッキに戻したカードの枚数×100ポイントアップする。

このカードがゲームから除外された時、 お互いはデッキの上からカードを5枚ゲームから除外する。

 

 一瞬だけ、フィールドに現れ、消えていったモンスターは赤子の玩具の頭部の内部から触手が伸びているという異様な存在であった。

 

「"ネクロフェイス"は除外されたとき、お互いのデッキの上からカードを5枚ゲームから除外する……」

 

「面倒ね」

 

 天音とカミューラは互いにデッキからカードを除外したが、それらのカードを確認した天音は小さく笑みを浮かべる。

 

「うん……私は除外されている悪魔族モンスター3体、"ダーク・ネクロフィア"、"マッド・リローダー"、"グレイブ・スクワーマー"をデッキに戻し、手札から"カース・ネクロフィア"を特殊召喚する……」

 

カース・ネクロフィア

星8/闇属性/悪魔族/攻2800/守2200

このカードは通常召喚できず、カードの効果でのみ特殊召喚できる。 このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):除外されている自分の悪魔族モンスター3体を対象として発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、対象のモンスターをデッキに戻す。

(2):モンスターゾーンのこのカードが相手によって破壊され墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動する。 このカードを墓地から特殊召喚する。その後、自分フィールドの魔法・罠カードのカード名の種類の数まで相手フィールドのカードを選んで破壊できる。

 

 そこに現れたのは、青い人形のような女性モンスター――ダーク・ネクロフィアの身体が、青い炎のようにも呪詛のようにも見えるモノを静かに纏った異様な何かだった。

 

カース・ネクロフィア

ATK2800

 

「攻撃力2800のモンスターをもう!?」

 

「まあ、あの子、あんまり表ではしないだけで、私よりもデュエルは強いわ。それにちょっと怖いのよね天音のデュエル……」

 

「何……?」

 

 ツァンの呟きにカミューラが反応する。というのも、天音はカミューラはコウモリでデッキを覗き見ようとしたのだが、他とは違い一度もデッキの調整などを行っていなかったため、見ることが出来なかったのだ。

 

 そのため、他に比べれば然程実力はないのではないかと考えていたのだが、どうやらそういうわけではないらしい。

 

「お前、最初から私のコウモリに気づいて?」

 

「……どちらにしてもあなたのためにデッキの中身を変える必要もないわ……」

 

 それだけ言うと、天音はデュエルディスクのフィールド魔法カードゾーンを開け、そこにカードを差し込む。

 

「私は"ダーク・サンクチュアリ"を発動……」

 

「出たわアレ……」

 

 カードを知っている様子のツァンに一瞬、視線が集中した直後、フィールドの景色は一変した。

 

 地は黒ずんだ肉々しい色を帯び、それよりも赤黒く肉々しく、生きているような異様な城が天音の背後に(そひわ)え立ち、毒霧のような黒紫色の瘴気を撒き散らす。

 

 そして、空は暗黒と薄い紅に染まり、巨大な目や口が浮かび上がると、時折開閉を繰り返していた。

 

「な、なんだこのフィールド魔法カードは!? いや、どこかで見覚えが……」

 

「いや、待て……確か、バトルシティの本戦で武藤遊戯と戦った獏良了が使っていたフィールド魔法カードではないか?」

 

「お兄ちゃん……?」

 

 万丈目と三沢が上げた声に天音が反応し、ポツリと呟かれた言葉に仲間たちの視線が集まる。

 

「え? お兄ちゃんってどういうことなんだ?」

 

「私は獏良天音、獏良了の実の妹よ……」

 

 その言葉に既に知っているツァン以外の仲間たちは騒然となる。何せ、バトルシティ自体がデュエリストにとっては既に神話のようなものであり、本戦に進んだというだけでも伝説の一端と呼べた。そんな人物の妹とこれまで、普通に接していたのだから驚きも当然と言えるだろう。

 

 しかし、天音は特に気にした様子もなくデュエルに戻る。

 

「カードを2枚セット……更に手札から"命削りの宝札"を発動。自分の手札が5枚になるようにドローし、自分のターンで数えて、5ターン後に全ての手札を墓地に置く……」

 

手札

0→5

 

「カードを3枚セットしてターンエンド……はい、あなたの番よ……」

 

天音

LP4000

手札2

モンスター1

魔法・罠6

 

 

「私のターンドロー!」

 

手札

5→6

 

「あなたのメインフェイズ開始時に、永続罠カード発動……"ウィジャ盤"」

 

「"ウィジャ盤"ですって……?」

 

「相手エンドフェイズにこの効果を発動し、手札・デッキから、"死のメッセージ"カード1枚を"E"、"A"、"T"、"H"の順番で自分の魔法&罠ゾーンに出すわ……。そして、このカードと"死のメッセージ"カード4種類が 自分フィールドに揃った時、自分はデュエルに勝利する……」

 

「うぇっ!? なんだそのカード!?」

 

「その代わり、自分フィールドの"ウィジャ盤"または"死のメッセージ"カードがフィールドから離れた時に 自分フィールドの"ウィジャ盤"及び"死のメッセージ"カードは全て墓地へ送られる。あまりにも完成の難しい特殊勝利カードのうちのひとつだ。十代」

 

「全く、どんなデッキかと思えば、私もナメられたものね。そんなもの完成させるわけないじゃない。それどころかこのターンであなたは終わりよ!」

 

 カミューラは手札から魔法カードを発動し、その絵柄に仲間たちは目を見開く。

 

「手札から"幻魔の扉"発動! 効果は言わなくてもわかるわね? 私、慎み深いから生け贄の役をお前の仲間に譲ってあげる。さあ、誰の魂を生け贄にしようかしら? どうせなら、仲間たち皆の魂を生け贄にしてあげてもいいわね……そうすれば一気に鍵を頂けるわね」

 

「そう……」

 

 しかし、天音から返ってきた酷く素っ気ない反応にカミューラは眉を潜める。

 

「そう、じゃないでしょう? 可愛いげのない小娘ね」

 

「弱くて……つまらない人……私の知ってる強い人は……自分の命しか賭けず、決してデュエルで背中を見せない人よ」

 

「ふんっ、どうでもいいことよ。本当に可愛いげのないガキだわ」

 

「だってこんなの……障害でもなんでもないわ」

 

 そうしている間にも幻魔の扉は出現し、溢れ出した瘴気が仲間たちに届こうとした瞬間――瘴気はそれ以上にドス黒い、突如として出現した半透明の液体のような障壁に阻まれて止まった。

 

「何!?」

 

「…………思った以上に弱い力ね……その闇のアイテム不良品……?」

 

『いやいや、既製品にしても強力な方だよ天音ちゃん。でもそりゃ、あっちは闇のアイテムでも、こっちは邪神が憑いてますからねぇ。アハハハ! 地力が違い過ぎるってもんよ!』

 

 すると天音の影が長く伸びて、壁と天井を伝うようにして、竜と人間を合わせた悪魔のような巨影が浮かび上がる。それは明らかに天音のシルエットではなく、生きている影に思えた。

 

 そして、あまりに異様な光景に各々が目を疑っていると、巨影はカミューラと仲間たちに恭しく頭を下げる動作を行う。

 

『あっ、どうも。お初の人が多いかな? 俺は"邪神イレイザー"。天音ちゃんの精霊さんだよ』

 

「出て来てって頼んでないわ……」

 

『もー、そんな連れないこと言わないでって天音ちゃんさぁ……』

 

 思春期の娘と父親のようなやり取りとする天音とイレイザーを眺め、目を見開いて驚きながら、冷や汗を流しつつ三沢が口を開いた。

 

「邪神……聞いたことがある……ペガサス・J・クロフォードらが最近になって発見した三幻神の対になる闇の三幻神のカードだと……」

 

「か、神のカードだと!? それを俺は今見ているのか!?」

 

『アハハハ! 俺っちも有名人だこと! まっ、こんなデュエルでは出る幕もないだろうからギャラリー程度に思ってくれよ!』

 

 イレイザーは一頻り笑うと、それまでの浮わついた気配から一変し、天井まで伸びていた影も、天音と同じ程度の大きさになり、隣に並び立つように影が並んだ。

 

『しかし、まあ……"幻魔"とは和やかじゃないな。デュエルモンスターズは生徒に夢と希望を与えるためのものという先生の意思をここは尊重しよう。悪神とて神は神。そのカードはデュエルモンスターズの神の一柱として破壊させて貰おう……天音、頼む。勝ってくれ』

 

「わかったわ」

 

 これまでと一変して、物静かで厳格な雰囲気に変わるイレイザー。それに仲間たちが驚く中、天音が口を開く。

 

「一度発動した効果は止められない……"幻魔の扉"はあなたの命をコストに発動ね……」

 

「くっ……でもデュエルに勝てばなんのことはない……このターンで終わらせる! 私は誇り高きバンパイア一族の魂を幻魔に預け発動!」

 

 そうして、幻魔の扉により、カース・ネクロフィアは砕け散り、カミューラのフィールドへと移った。

 

カース・ネクロフィア

ATK2800

 

「そして、"不死(ふし)のワーウルフ"を召喚!」

 

不死(ふし)のワーウルフ

レベル4/闇属性/アンデット族/攻撃力1200/守備力600

このカードが戦闘で破壊された時、デッキから「不死のワーウルフ」1体を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。この効果で特殊召喚に成功した時、そのカードの攻撃力は500ポイントアップする。

 

 ギラついた目と、ナイフのような爪を持つ人狼が現れた。

 

不死のワーウルフ

ATK1200

 

「終わりよ! 小娘! "カース・ネクロフィア"でダイレクトアタック!」

 

 これが決まり、不死のワーウルフでもダイレクトアタックが通ればカミューラの勝ちとなる。仲間たちに緊張が走った。

 

「相手モンスターの攻撃宣言時にフィールド魔法"ダーク・サンクチュアリ"の効果発動……。コイントスを1回行う。表だった場合、その攻撃を無効にし、その相手モンスターの攻撃力の半分のダメージを相手に与える。結果は"カース・ネクロフィア"が教えてくれるわ……」

 

「なに……!?」

 

 それに従い攻撃しようとしていたカース・ネクロフィアをカミューラが見ると、カース・ネクロフィアは既に足を止めており、薄く目を開いて口許に少しだけ笑みを浮かべていた。

 

 カミューラが背筋に氷を入れられたかのような寒気を覚えた直後、カース・ネクロフィアの腹から、カース・ネクロフィアによく似た青白い亡霊のようなものが、カミューラ目掛けて放たれる。

 

「表ね……邪霊破(スピリット・バーン)

 

「ぐぁぁぁぁ!?」

 

 カース・ネクロフィアの霊魂はカミューラの体を凍てついた杭の如く貫いた。

 

カミューラ

LP4000→2600

 

 見た目とダメージ量以上の被害を及ぼしたようで、カミューラは体を丸めて想像を絶する痛みに耐えている。

 

「スゲー……攻撃した側が大ダメージだぜ……」

 

「だが、大博打だったぞ天音の奴!」

 

「え……? たぶん、それはないだろ。だって――」

 

 万丈目と話している十代が、カース・ネクロフィアを小さく指差した。

 

『フフフッ……』

 

 そこにはカミューラから天音へと向き直った後に、口元に手を当てて小さく笑うカース・ネクロフィアの姿があった。

 

「……精霊だったのか」

 

(仮にそうだとしても"幻魔の扉"を出される前提で、"カース・ネクロフィア"を出していたのなら食わせものなんてレベルじゃないぞ……)

 

 インチキじゃないかと思い浮かんだ万丈目だったが、これまでのカミューラの行動を省みて、いい気味だとしか思えなかったため閉口する。

 

「うふっ……うふふ……うふふふふふ! 良い顔……もっともっと見たいわ……ようこそ、私のオカルトデュエルへ!」

 

 すると悶えるカミューラを見た天音がこれまで見たことがないような黒い笑みを浮かべながらそんなことを言い放ったため、ほとんどの仲間たちは目を点にし、雪乃は身震いを行い、ツァンは苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

 

『兄妹ソックリなんだよなぁ……』

 

 そんな中、ポツリと呟かれたイレイザーの言葉は誰にも聞かれることはなかった。

 

「くっ……だが、まだ"不死のワーウルフ"が残っている! "不死のワーウルフ"でダイレクトアタック!」

 

「当然、何度でも"ダーク・サンクチュアリ"は発動するわ……2分の1よ」

 

 そして、不死のワーウルフは天音へと迫り――ダーク・サンクチュアリは発動することなく、その爪を彼女へと突き立てた。

 

「あぁ……!」

 

天音

LP4000→2800

 

「そう何度も成功するものか。これでお前も――」

 

「ああ……痛い……痛いわ……だから生きている……私生きているわ……ふふふ……私、生きているのよ! うふふふ!」

 

 すると天音はこれまでとは打って変わって、体を抱き締めながら1人で呟きつつ次第に叫びへと変わっていった。その様にカミューラも思わず口を紡ぐ。

 

 そんな中、天音は尚も自身の体を抱き締めながら、顔を伏せて言葉を吐く。

 

「私、とっくの昔に死んでいるのよ。それで長い間、地縛霊として墓石から離れられず、未練から成仏することもできずにずっといたわ……そして、憑いている精霊――"邪神イレイザー"に生き返らせて貰ったの……」

 

 天音はイレイザーの方に顔を向けると、イレイザーの影は天音の頭に手を伸ばす。彼女は特に気にしてはいないが、イレイザーの行動はそっと頭を撫でているように見えた。

 

「でも私……それだけじゃ嫌だった……だって生きる実感がないから……あんな眺めることしか出来ない想いなんてもう沢山だった! 寒いのは嫌! 何も感じれないのも嫌! なんでもいい! もっともっと感覚が欲しい! 人の暖かさでも……心臓の鼓動でも……着擦れの音でもなんでもいいわ!」

 

 天音はいつも見ている彼女とは思えないほど大声で叫ぶ。そして、抱き締めている力が強過ぎるのか、彼女自身の体が軋む音が鳴り、異様さが際立つ。

 

「だから……今度は人間よりも強い体で生き返らせて貰ったの……」

 

 そう言って天音は自身の体を抱き締めていた腕を離してカミューラを見据える。

 

 

 そして――カミューラと同じように人間以上に口を大きく開いて見せた。

 

 

「私の体は――ヴァンパイアよカミューラ……。あなたと同じ……」

 

『アハハハ! それぐらい闇の神なら余裕余裕! 俺は天音ちゃんの要望をちゃんと聞く悪魔の鑑さ! 一流の悪魔は契約者の利益になることしかしないんだよーん! …………悪魔が楽しむのは与えられた者のその後の軌跡だからな』

 

 無論、それに一番驚いたのは仲間ではなく、カミューラであった。天音は口を閉じてから再び会話を始める。

 

「体は凄く丈夫……あらゆる感覚が人間以上……色々能力も使える……血の味も美味しくて……とっても気に入った……弱点はあるけど……少し陽射しに弱くなったり、流水に弱かったりする程度で、本当にこの体になってよかったって……ずっと思っていたわ……!」

 

 嬉々として嬉しそうにヴァンパイアになった感想を語り始める天音。それは恍惚とさえ言ってしまえるものだったが、その表情は突然、落胆と失望に変わった。

 

「…………あなたに会うまでは……ね」

 

「――!?」

 

 つまらないモノを見るような冷えた目で吐かれたその言葉にカミューラは目を見開く。

 

「失望したわ……とても……とてもね。私のような偽物と違って、本物の吸血鬼って……誇り高い素晴らしい生き物だと思ってたのよ……? それが、あんなにも姑息で……下らないデュエルをするだなんて思いもしなかったわ……」

 

 天音な指を小さく動かすと、カミューラのコウモリのうち一匹が飛んできて指に止まる。その頭を撫でながら大きく溜め息を吐いた。

 

「人間よりずっとずっと優れているのに……強いのに……能力だって沢山あるのに……どうしてそんなに誇りのない生き方しか出来ないの……?」

 

 それを言われた瞬間、カミューラは視界が真っ赤に染まったと錯覚するほどの怒りを覚えた。

 

「あ、ああ……ああ――!」

 

 そして、これまでの自身の歴史を走馬灯のように思い出し、感情と共に吐き出す。

 

「アンタのような何も知らない小娘に! この私の何がわかる! デュエルに勝つことなど、私にとって何の意味もないのよ……!」

 

 カミューラの独白を天音も、その仲間たちも言葉を発さずに真剣な面持ちで聞いた。

 

「中世ヨーロッパにおいて、ヴァンパイア族は全盛を誇り、我々は誇り高き一族として孤高に生きていた。しかし、人間どもは……我々をモンスターと呼び、その存在すら許さなかった。そして、一族は滅んだ……残ったのは私1人だけよ!」

 

「…………イレイザーそれ知らない」

 

『聞かれなかったからなー』

 

 天音がイレイザーを問い詰めるが、イレイザーはどこ吹く風である。

 

「だから、私がデュエルした相手を人形にするのは、ただの遊びじゃない。この人形の魂を使い、滅びたヴァンパイア一族を復活させ、我々一族の魂を認めず滅ぼした魂に、復讐すること! 一族の運命を背負った私は勝たなければならない!」

 

「そう……それがあなたの誇り……わかったわ。ならもっともっと……私に生きる実感をちょうだい!」

 

 カミューラの――ヴァンパイアの誇りを受けた天音はそう返す。そして、デュエルに戻ったカミューラは手札からカードを発動した。

 

「魔法カード発動、"大嵐"! 全て消え去りなさい!」

 

「私はカウンター罠、"八式対魔法多重結界(はちしきたいまほうたじゅうけっかい)"を発動……。手札から魔法カード1枚……"ドールハンマー"を墓地に送る事で魔法の発動と効果を無効にし、 そのカードを破壊するわ……」

 

「くっ……!?」

 

 当然というべきか、4枚のセットカードの中にはカウンター罠が仕込まれていた。

 

 キラードールが描かれた魔法カードが墓地に置かれると、出て来たマシンが結界を張り、大嵐からカードを守り切った。

 

「……カードを1枚伏せてターンエンドよ」

 

「この瞬間、ウィジャ盤の効果により、"()のメッセージ「(イー)」"を場に出すわ……。でも"ダーク・サンクチュアリ"の効果で、"()のメッセージ「(イー)」"は悪魔族・闇・星1・攻/守0のモンスターとして、モンスターカードゾーンに特殊召喚される……」

 

「なんですって……?」

 

()のメッセージ「(イー)

DEF0

 

 天音のモンスターカードゾーンに2番目のメッセージを持った死霊が現れる。

 

カミューラ

LP2600

手札2

モンスター2

魔法・罠1

 

 

「私のターン……ドロー」

 

手札

1→2

 

「私はフィールドから"強制脱出装置(きょうせいだっしゅつそうち)"を発動……。効果で、モンスター1体を手札に戻す……私は"不死のワーウルフ"を選択」

 

 カミューラの不死のワーウルフは真下から現れた装置に撥ね飛ばされ、手札へと戻った。

 

「"不死のワーウルフ"が……」

 

「あなたの不死デッキは……死ななきゃ何も関係ないわ……。更に永続罠"悪魔(あくま)憑代(よりしろ)"を発動……。効果によって、このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、1ターンに一度だけ、自分はレベル5以上の悪魔族モンスターを召喚する場合に必要なリリースをなくすことができるわ……。"悪魔(あくま)憑代(よりしろ)"を使用し、"フレイム・オーガ"を通常召喚……」

 

フレイム・オーガ

星7/炎属性/悪魔族/攻2400/守1700

このカードは特殊召喚できない。このカードの召喚に成功した時、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 燃え盛る人間よりも遥かに巨大な人型の悪魔が場に現れる。

 

フレイム・オーガ

ATK2400

 

「なんだ。攻撃力は"カース・ネクロフィア"より下よ?」

 

「"フレイム・オーガ"の効果……。召喚に成功したとき、カードを1枚ドローする……」

 

手札

1→2

 

「更に手札から魔法カード、"強制転移(きょうせいてんい)"を発動……。お互いはそれぞれ自分フィールド上のモンスター1体を選び、そのモンスターのコントロールを入れ替える……。私は"フレイム・オーガ"を選択……あなたは?」

 

「くっ……"カース・ネクロフィア"よ!」

 

 場のフレイム・オーガとカース・ネクロフィアが入れ替わる。そして、すぐにカース・ネクロフィアがフレイム・オーガを見据えた。

 

「じゃあ、バトルよ……。"カース・ネクロフィア"で、"フレイム・オーガ"を攻撃……念眼殺(ねんがんさつ)

 

「ぐぅぅ!?」

 

 カース・ネクロフィアが両目を見開いて、全身に薄く青い輝きを帯びると、フレイム・オーガが突如粉々に爆散し、カミューラまでダメージを与えた。

 

カミューラ

LP2600→2200

 

「私は"埋葬呪文の宝札"を発動……。墓地の"封印(ふういん)黄金櫃(おうごんひつ)"、"命削りの宝札"、"ドールハンマー"を除外して、カードを2枚ドロー……。更に"強欲な壺"を発動してカードを2枚ドロー……」

 

手札

1→3

 

「カードを2枚セットしてターンエンドよ……」

 

天音

LP2800

手札1

モンスター2

墓地6

 

 

「私のターンドロー!」

 

手札

2→3

 

「私はフィールド魔法、"不死の王国―ヘルヴァニア"を発動!」

 

「リバースカード発動……"サイクロン"。"不死の王国―ヘルヴァニア"を破壊するわ」

 

「ぐっ……なら"天使の施し"を発動。デッキから3枚ドローし、2枚捨てる! "強欲な壺"で2枚ドロー!」

 

手札

2→3

 

「そして、手札から魔法カード、"生者(せいじゃ)(しょ)禁断(きんだん)呪術(じゅじゅつ)-"を発動! 私の墓地の"ヴァンパイア・ロード"を特殊召喚し、お前の墓地の"フレイム・オーガ"を除外よ! 来なさい"ヴァンパイア・ロード"!」

 

ヴァンパイア・ロード

星5/闇属性/アンデット族/攻2000/守1500

このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、 カードの種類(モンスター・魔法・罠)を宣言する。相手は宣言された種類のカード1枚をデッキから墓地へ送る。また、このカードが相手のカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、次の自分のスタンバイフェイズ時にこのカードを墓地から特殊召喚する。

 

ヴァンパイア・ロード

ATK2000

 

「そして、"ヴァンパイア・ロード"をゲームから除外し、"ヴァンパイアジェネシス"を特殊召喚!」

 

ヴァンパイアジェネシス

星8/闇属性/アンデット族/攻3000/守2100

このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在する「ヴァンパイア・ロード」1体を ゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。

1ターンに1度、手札からアンデット族モンスター1体を墓地に捨てる事で、捨てたアンデット族モンスターよりレベルの低いアンデット族モンスター1体を自分の墓地から選択して特殊召喚する。

 

 マントのような翼を持つ筋骨隆々で巨大なヴァンパイアがフィールドに現れた。

 

ヴァンパイアジェネシス

ATK3000

 

「バトルよ! "ヴァンパイアジェネシス"で"()のメッセージ「(イー)」"を攻撃!」

 

 しかし、カミューラの言葉にヴァンパイアジェネシスは動かなかった。

 

「ヴァンパイアジェネシス!? 何故攻撃しない!?」

 

「……ううん。できないのよ。死のメッセージのモンスターは、"ウィジャ盤"以外の効果を受け付けず、攻撃対象に選択できないわ……」

 

「くっ……なら"カース・ネクロフィア"を攻撃する! ヘルビシャス・ブラッド!」

 

 ダーク・サンクチュアリの効果が発動したが、結果は裏を示していた。

 

「んぁぁッ……!」

 

 ヴァンパイアジェネシスから放たれた黒紫色の旋風により、カース・ネクロフィアは戦闘破壊され、その余波が天音を襲う。

 

 カース・ネクロフィアは砕かれた人形のように粉々に砕け散り、赤黒い地に散乱する。

 

「もっと……もっと強く……うふふふ!」

 

天音

LP2800→2600

 

 天音はヘルビシャス・ブラッドの余波により、体に刻まれた切り傷の傷口に指を入れ、自身で広げていた。

 

「くっ、コイツ……闇のデュエルをなんだと思っているの……ターンエンドよ」

 

 傷口から天音が指を抜くと、ヴァンパイアとしての再生能力が発揮され、即座に跡形もなく傷跡は消滅した。そして、笑い声を上げながら言葉を吐く。

 

「うふ……ふふふ……うふふふ! さて……殺されたら……仕返ししなきゃね?」

 

 そう言うと、天音のフィールドに散乱していたカース・ネクロフィアの破片が一ヶ所に集まる。そして、一際巨大で憎悪に歪んだ表情をした女性の悪霊が破片の真上に現れ、破片へと吸い込まれると、そこには壊される前と全く同じ姿のカース・ネクロフィアの姿があった。

 

カース・ネクロフィア

ATK2800

 

「"カース・ネクロフィア"の効果……。モンスターゾーンのこのカードが相手によって破壊され墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動する……。このカードを墓地から特殊召喚するわ……」

 

 しかし、それだけではないとばかりに、カース・ネクロフィアの体を包んでいた青黒い呪いの炎が揺らぐ。

 

「その後、自分フィールドの魔法・罠カードのカード名の種類の数まで相手フィールドのカードを選んで破壊できるのよ……。モンスターカードの死のメッセージは魔法・罠にカウントされないから、私のフィールドにある魔法・罠カードは"ダーク・サンクチュアリ"と、"悪魔(あくま)憑代(よりしろ)"……2枚まで破壊できるわ……」

 

「な……に……?」

 

「私は伏せカード1枚を破壊……。人を呪わば穴二つよ」

 

 カース・ネクロフィアから溢れ出た青黒い怨念は亡者の形をした念弾となり、カミューラの伏せカード――"(あやかし)かしの紅月(レッドムーン)"を破壊した。

 

「これがカース……呪いよ……うふふ。そして、"ウィジャ盤"の効果で"()のメッセージ「(エー)」"をデッキから特殊召喚……。ああ、でも"ウィジャ盤"……いらなかったわね……」

 

()のメッセージ「(エー)

DEF0

 

 そして、天音にターンが移った。

 

カミューラ

LP2600

手札1

モンスター1

魔法・罠0

 

 

「ドロー……この瞬間、除外していたネクロフェイスが手札に加わるわ……」

 

手札

1→2→3

 

「誇りね……。私からしたら……デュエルを無意味だなんていうあなたはやっぱり、狡くて弱いヴァンパイアよ。どうして、私が"ヴァンパイアジェネシス"を破壊しなかったかわかるかしら……?」

 

「………………」

 

 カミューラは答えず、唇を噛み締めるばかりだった。これだけのカードが盤面にあり、破壊できる状況でしなかったため、勝ち筋は他にもあることなど嫌でも理解できたから。

 

「餌にちょうどいいからよ……"()のメッセージ「(イー)」"と、"()のメッセージ「(エー)」"を生け贄に――"ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア"を召喚するわ……」

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア

星7/闇属性/アンデット族/攻2000/守2000

(1):このカードが召喚に成功した時、または自分フィールドに「ヴァンパイア」モンスターが召喚された時に、 このカードより攻撃力が高い相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。この効果は1ターンに1度しか使用できない。

(2):このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップする。

(3):このカードの効果で装備カードを装備したこのカードが墓地へ送られた場合に発動する。このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 2つの死のメッセージが合わさり、ウィジャ盤が消えると、青白い霊魂の中からやや赤みを帯びた肌色をした銀髪のヴァンパイアの女性が現れる。

 

 その女性は前面をざっくりと開け、他は肌が一切出ない扇情的な服装をし、どちらかと言えば翼竜のような一対の翼を持っていた。

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア

ATK2000

 

「"連撃の帝王"は、使うまでもなかったわね……」

 

 天音は伏せているカードの1枚を見つつ、そう呟き、ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアのモンスター効果が起動した。

 

「な……ヴァンパイアジェネシス!?」

 

 ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアが妖艶な笑みを浮かべて手招きをすると、ヴァンパイアジェネシスは誘われるようにヴァンプ・オブ・ヴァンパイアの前まで来る。

 

 そして、ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアはふわりと飛び上がると、ヴァンパイアジェネシスの首筋に乗り、ゆっくりと腰を下ろしながらヴァンパイアジェネシスの頭に寄り掛かった。

 

 その状態で少し、ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアが何かを囁くと、ヴァンパイアジェネシスはヴァンプ・オブ・ヴァンパイアを肩に乗せたまま、天音のフィールドへと向かい、カミューラと対峙した。

 

「"ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア"が召喚に成功した時、または自分フィールドに"ヴァンパイア"モンスターが召喚された時に、 このカードより攻撃力が高い相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる……。そのモンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する……。そして、"ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア"の攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップするわ……」

 

「そ、そんな……」

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア

ATK2000→5000

 

「"ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア"で、あなたに直接攻撃……」

 

 ヴァンパイアジェネシスの首筋に座るヴァンプ・オブ・ヴァンパイアが、ヴァンパイアジェネシスの耳に舌を這わせてから、何かを囁く。するとヴァンパイアジェネシスは少し表情を緩めてから、その闇のような翼を広げた。

 

「や、止めなさい……こ、こんな……嘘よ……」

 

「さよなら……ヘルビシャス・ブラッド」

 

 カミューラの場にいた時よりも、遥かに強化されたヴァンパイアジェネシスのヘルビシャス・ブラッドにより、カミューラは全身を貫かれ、デュエルに決着がついた。

 

カミューラ

LP2200→0

 

 

 

「つ、強い……リックと同レベルのタクティクスだ……」

 

「いや、それどころか最後の煽り方がアイツにソックリだ……」

 

「すげー! 今度デュエルして貰わな――」

 

 そんな感想を仲間たちが話していると、幻魔の扉が発動し、カミューラの魂を奪おうと、大きく開いた。

 

 デュエルでのダメージが大き過ぎたためか、カミューラは全く体が動かせないようで、地に伏したまま、目だけでその光景を眺めている。

 

 そして、幻魔の扉からアクションが起こるより前に――天音が動いた。

 

「イレイザー、"幻魔の扉"を破壊して……今すぐ」

 

『えっ? 敗者が吸い込まれてからの――』

 

「やって」

 

『はいよっと……神使いが荒いマスターなことだ』

 

 カミューラの魂が吸い込まれる直前、イレイザーの影が再び伸び、今度は尻尾の影が空中を一直線に駆け抜け、顕現している幻魔の扉の中央部分に突き刺さった。

 

『滅びろ』

 

 一言、イレイザーがそう呟いた瞬間、幻魔の扉は尻尾の影に吸い込まれ、内側に沈んでいくように奇妙に歪むと、最後は跡形もなく消え去ってしまった。

 

 そして、それと連動するかのようにカミューラのデュエルディスクから幻魔の扉のカードが弾き出されると、何故か真っ黒に黒ずんでおり、すぐに裏表すらわからないほど黒く染まると、崩れ去るように消えた。

 

『あっ、十代クン。これ餞別と抜け駆けの迷惑料代わりにあげるよ』

 

「お、おう! ありがとなイレイザー!」

 

 そして、伸ばした尻尾を戻す途中で、カミューラの闇のアイテムを取り去り、十代へと投げ渡した。神からすれば、その程度の無用なものなのであろう。

 

 するとすぐに人形にされていた丸藤亮とクロノスが元の姿に戻ると共に、カミューラの城自体が音を立てて崩れ去り始めた。

 

「皆は彼を連れて早く行って……」

 

「でも、天音とカミューラは!?」

 

 負傷している丸藤亮を指差しながら天音がそう言うと、十代は2人を心配した様子でそう言った。それに天音は少しだけ微笑みを浮かべる。

 

「ヴァンパイア2人と、邪神1匹を心配している暇があったら早く逃げて……」

 

『一柱! 一柱だからねオジさん!?』

 

 そんなやり取りを見た仲間たちは一様に笑みを浮かべ、天音を信じることにし、城を後にして行った。

 

 そして、崩れる城の中で天音はカミューラの前に降り立つ。

 

「………………なによ? 敗者に言葉なんかないわ。もう、直に死ぬしね」

 

「そう……」

 

 それだけ呟くと、天音は見た目以上の筋力があるらしく、カミューラを軽そうな様子で抱き抱える。そして、背中からヴァンプ・オブ・ヴァンパイアのモノに似た一対の翼を広げた。

 

「話を聞いているのかしら……? 本当に可愛いげのない子ね」

 

「一度、助けた人に死なれるのは寝覚めが悪い……」

 

 天音は地を軽く蹴って数m飛翔すると、カミューラを抱き抱えたまま、空を飛んだ。天井や柱が崩れ落ちる中を、器用に避けつつ天音は飛び、ヴァンパイア一族のカミューラでさえ、舌を巻く程の飛行技術だった。

 

 ヴァンパイアになった少女。

 

 そんな奇妙な存在に完膚なきまで打ちのめされたせいか、命まで助けられたせいか、思い描いていたものとは似ても似つかなくとも独りではなくなったとかんじたためかは、本人にさえよくはわからないが、カミューラは自嘲気味に笑うと小さく呟く。

 

「あなたの言うこと、少しだけ考えたわ。そうね、姑息な手段は人間の常套手段だったわ……そんな下劣な方法でヴァンパイア一族を生き返らせても……皆から却って怒られてしまう。"誇りはないのか"ってね」

 

「そう……」

 

 これまでと同じ抑揚で同じ返しだが、カミューラは不思議と可愛いげがないとは思わなかった。

 

「ヴァンパイアになった理由は他にもあるわ……」

 

 今度は天音から呟いたが、その内容が少し恥ずかしいのか、天音は少しだけ顔を赤くしている。

 

「ヴァンパイアって、映画とかだといつも悪役でしょう……? でも、どれを見ても強くてカッコいいんだもの……憧れちゃったわ……」

 

「ウフフフ……馬鹿ねあなた。そんな理由でヴァンパイアになるなんて」

 

「でも便利そうだから魔女も捨て難かった……」

 

「魔女……魔女はダメよ!? アイツらは人間を盾にして魔女狩りから逃れたり、誇りもなにもありはしない奴らなんだから!」

 

「そうなんだ……」

 

 そうして、本物のヴァンパイアと、新米のヴァンパイアはしばらく他愛もない会話をしながら城から脱出した。

 

 

 

 これでセブンスターズは後、5人。そして、七星門の鍵は後、5本。セブンスターズと七星門の守り手との戦いは拮抗しており、この先どのようなことが待っているのかは、誰にもわからないのであった。

 

 

 

 

 ちなみに――。

 

 

 

 

「なあ、天音ってなんで自分からはデュエルしないんだ?」

 

 後日、十代が天音をデュエルに誘ったところ、普通に了解されたため、思わずそう呟いたところ、天音は難しい顔をしつつこう返した。

 

 

「だって……ソリッド・ビジョンって全然痛くないから、あんまり燃えないのよ……。それなら見ているだけでも楽しいから、誘われないと自分からはあまり……。ああ! 闇のデュエルがしたいっていうのならいつでも相手になるわ……ふふ……うふふ……うふふふ!」

 

 

 そんなとんでもない切り返しをされ、ナチュラル過ぎる闇の住人っプリに十代らは困惑しつつも天音らしい等と考えるのであった。

 

 

 

 

 




 なんてこった。作者の小説のヴァンプ・オブ・ヴァンパイアは両刀で異種も落として寝取れるとんでもねぇチャンネーになっちまった。

 ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアにこんなことされてぇなぁ、俺もなぁ(※"このカードより攻撃力が高い"相手フィールドのモンスター1体を対象として発動)



~QAコーナー~

Q:なんでリックくんは天音ちゃんをひっぺがさないの?

A:リックくん「あんなの言われたら引っ付くなって言えない……」


Q:天音ちゃんのデッキってなに? ウィジャ盤?

A:バクラデッキ(迫真)


Q:カミューラと天音ちゃん日射し大丈夫なん?

A:TFだとカミューラさんは、日射しが照りつける浜辺や港で普通にデュエルしてたりするから大丈夫じゃないですかね(適当)


Q:途中でコストになってたドールハンマーってなに?

A:作者がGX史上、5本の指に入ると思うチートカードの1枚。
効果はこんなん↓

ドールハンマー
通常魔法
自分フィールド上のモンスター1体と相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動する。選択した自分フィールド上のモンスターを破壊し、デッキからカードを2枚ドローする。その後、選択した相手フィールド上のモンスターの表示形式を変更する。

さらりとGX80話に当時したスーパー爆アドカード。自モンスターの万能自壊、デッキからの2ドロー、相手の表示形式の変更を1度にこなす凄まじいアドの詰め込みっプリ。その上、破壊はコストではないため、無効にすると破壊されなくなる相手への地味な嫌がらせも完備。一応、相手がいなければ発動は出来ないが、作中だと盤面にいた"バーストレディ"に選択を行っていないため、相手フィールド上にモンスターがいなくとも発動出来る可能性がある。
どれぐらい強いかと言えば80話の中で、相手が使用したのを見た十代が、わざわざ相手の墓地から引っ張り出して自分で使用したくなっちゃったぐらいは強い。十代も一目で垂涎になり、思わずパクったに違いない。俺もそうする。


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ボスデュエル その1


今日はゆるい(当社比)箸休め回なので初投稿です。ほとんど遊んでいるようなものなので、気楽に見れますねぇ!

先に行っておきますが……リックくんは主人公ですので忘れないように注意してください。





 

 

 

 デュエルアカデミアに戻ってくると、カミューラがクロノス先生と丸藤先輩を倒し、天音ちゃんがカミューラを撃破した。タニヤっちなるアマゾネス――正体は虎の精霊に三沢が骨抜きにされた。黒蠍盗掘団(くろさそりとうくつだん)が七星門の鍵を盗んだが、万丈目に叩き潰され、今では万丈目の部屋で楽しく精霊をやっている。アビドス三世なる八百長でデュエルキングをしていたファラオと十代が100年後にまたデュエルをする約束をした等と、居ない間に思っていたより、遥か斜め上で凄いことになっていたことを知って筆舌に尽くしがたいほど驚いた。

 

 影丸理事長はセブンスターズを一体なんだと思っているのかというほどのハチャメチャお祭り騒ぎ状態なのか、ダークネスとカミューラの投入に全力を使い過ぎて息切れしてしまったのかは謎であるが……このまま、後は2人のセブンスターズで、4本の七星門の鍵を奪い取れるのだろうか……?

 

 敵側の事情など考慮する気はないが、そんなことをふと考えてしまうのも仕方あるまい。他にも十代がデュエルアカデミア本館から少し離れた温泉施設で、カイバーマンにボコボコにされたとこちらが宇宙を感じてしまいそうなことを言われたり、万丈目がデュエルアカデミア本校を買収しようとしていた万丈目グループに立ち向かったりしたらしいが、一体俺が居ないうちに何があったというのだ……。

 

 特に後者に関しては、流石に俺へ一言も連絡を寄越さなかった海馬社長を、"セブンスターズもあるのに何を生徒へ押し付けているんだ俺へ回せよ"と、オブラートで包んでやんわりと問い詰めたところ――。

 

『貴様の学友……デュエルアカデミアのデュエリスト共はそんなことさえ、貴様に頼らねば掴み取れぬ凡骨以下なのか?』

 

 と、大変有難い返事をいただいたため、閉口せざるをえなかった。未だにあの人の威風堂々足るデュエル脳にはさっぱり勝てる気がしない。

 

 それはそれとして、今は前に校長室で見掛けたモノが気になったため、ヴェノミナーガさんと校長室にやって来たのである。丁度、今の時間は鮫島校長が校長室に居ないので、さっさと要件を済ませてしまおう。

 

『この娘自体は比較的普通のアンティークドールですね。精霊が宿り始めているので、ちょっと九十九神化し掛けてますけど』

 

 そこにあったのは恐ろしく精巧ながら愛嬌のある黒髪のビスクドールだった。ヴェノミナーガさんの言葉を信じるのなら、そのうちデュエルアカデミア七不思議のひとつになりそうだが、その頃には俺はデュエルアカデミアを卒業しているだろうから関係のない話だな。

 

 先にビスクドールのガラスケースを開けておく。

 

『さーて、纏わりついている悪戯っ子さんはなんですかねー?』

 

 そして、ヴェノミナーガさんがビスクドールに手を向けると、掃除機のノズルのように凄まじい吸引が行われる。すると、ビスクドールから黒い影が実体化して行き、最後にはシュポンと小気味良い音を立てて口へと吸い込まれた。

 

 とりあえずこれでこのビスクドールが悪霊化することはないだろう。

 

『えーと……真っ二つに破れてますね。"ドールキメラ"ですか』

 

ドールキメラ

星5/闇属性/魔法使い族/攻 0/守 0

このカードは通常召喚できず、「マリオネットの埋葬」の効果でのみ特殊召喚する事ができる。自分の墓地に存在する「ドールパーツ」と名のついたモンスター1体につき、 このカードの攻撃力は400ポイントアップする。このカードが破壊される時、デッキから「ドールパーツ」と名のついた モンスター2体を墓地へ送る事で、破壊を無効にする事ができる。

 

 壊れ掛けの無表情の人形という、子供が泣くこと必死なデザインのカードであった。

 

『他にもこんなに……』

 

 他にもドールパーツ全種類、さ迷いのビスクドール―アリス、マリオネットの埋葬、呪われたドールハウス、ドールハンマーなどのドールデッキ用のカードが出て来る。

 

 そして、破れたドールキメラに目を向ければ、既にほとんど闇のカード化していることがわかった。完全に闇のカードと化せば、修復され、このビスクドールを操っていたところだろう。

 

 無論、物事には理由があるわけなので、俺は藤原優介から覚えた心の闇を覗く方法を用い、ドールキメラの心の闇を見た。

 

 すると、そこに浮かび上がった景色は、校長室でデュエルをしていたオベリスクブルーの生徒が、使い難いからと言ってドールキメラを破り捨てる光景である。元々、このドールキメラに精霊が宿る可能性があった事と、偶々、精霊になり掛けているビスクドールの近くで起こったという奇跡が悪い方向に重なりあったのだろうな。

 

『まぁ……カードの精霊として、よい気分はしませんが、間が悪かったとしか言いようがありませんねぇ……捨てられたり、破かれたりするカードなんて、少なくは決してありませんもの。消滅させてあげますか?』

 

「ふむ……」

 

 ヴェノミナーガさんの珍しくデュエルモンスターズの神らしい発言に俺は考えた。

 

 確かにそうしてやるのが一番良いだろう。しかし、このカードにも十代とハネクリボーや、万丈目とおジャマのように平穏で素敵な未来があったかも知れないのだ。それを思えば、無闇に消していいものだろうか?

 

 ならば――。

 

「俺が引き取りますよ」

 

『……そのままだとただの悪霊ですよ?』

 

「だったら闇のカードとして、そのまま精霊にしてやります」

 

『フフッ……マスターらしいですね』

 

 俺はドールキメラとサポートカードたちに自身の闇の力――そして、俺の力と化しているダークネスの力を注ぎ込んだ。

 

 前にダークネスの力を得たばかりだった頃は、無意識に垂れ流していたため、ダークネスカードの適性があるカード達が書き変わる事態が起こったが、今では完全に制御出来るまでになったのである。

 

『事故みたいなモノとはいえ、本来時間を掛けてゆっくり馴染ませる必要のある譲渡された力を、3日ぐらいで完全に制御下においたことを知ったときのダークネスさんの表情ったらクソ面白かったですね』

 

 ああ、最近ダークネスさんが俺を派遣でいいからダークネスとして働かないか? と言うようなことを言っていたのはそういう意味だったのか……。

 

 まあ、本来のダークネスの仕事は救い様のないほど闇にまみれ、破滅以上に悪い結末を迎える星を最後の良心として滅ぼし、永遠の安寧を与えてやることなので、別に悪い仕事ではないのだがな。この星でやりたいことがなくなったら考えておくと言っておいた。そう言うと妙に上機嫌になったダークネスさんが印象に残っている。

 

『よくよく考えると、マスターの天職みたいな仕事ですね。救済が大義名分で、痛むような良心はどこにもありませんし』

 

「おい、コラどういう意味だ」

 

 そんなやり取りをしているとようやく、ドールキメラなどへの闇のカード化が終わった。ちなみにやったことは、ヴェノミナーガさんが前にしていた占い魔女をフォーチュン・レディにした事と全く同じのため、原型を残しつつ、別のカードへと変貌を遂げていることだろう。

 

 そうして、ウキウキとした面持ちで、ドールキメラらを眺めてカードを全て確認し――使い途の無さに表情が凍り付いた。

 

『ん? ちょっと待って? エクシーズ(いなり)が入ってないやん!! エクシーズ(いなり)を食べたかったから注文したの!!』

 

 俺の次にカードを眺めたヴェノミナーガさんが、よく分からないことを言い始める程度には使い途がない。というか、これだけ渡されてどうしろっていうんだ……これならドールキメラの方が全然使いやす――――――いや、待てよ……? もしかするとヴェノミナーガさんなら行けるんじゃないか……?

 

 ダメで元々で聞いてみるか。

 

「ヴェノミナーガさん」

 

『何ですか?』

 

「"――――――――"と"――――――――"って用意できます?」

 

 それを聞いたヴェノミナーガさんは珍しく少し驚いた様子を見せた。

 

『まあ、私に(ゆかり)がありますので、配下みたいなものですから、やろうと思えば可能ですが、いつもより少し多めに力と時間を使いますので2~3日掛かりますね。でもマスターが手伝ってくれれば私も疲れなくて、とっても効率的に出来るので作業を1時間ぐらいで終わると思います』

 

「そうなんですか? なら手伝いましょう」

 

 まあ、俺から頼んだことなので協力は惜しまないつもりだ。この世界の未来の延長線に存在しているのかわからなかったため、ダメかと思ったが、やはりヴェノミナーガさんの縁ならば出来てしまうようだ。

 

『やった! 初めての共同作業ですねマスター! これは最早籍を入れたと言っても過言ではないのでは!? 最高に高めたワタシのフィールで、最強の力を手に入れてやるぜ!!』

 

「そうですか、ありがとうございます。なら家事も分担しましょうね」

 

『ぐぬぬ……まだ、精霊でいいです……』

 

 となると他に必要なのは――植物族のカードに闇の力を与えて見れば出来るかもしれないな。

 

 ああ、そういえば、ドールキメラを破ったオベリスクブルーの生徒に心当たりがあるから、デッキが完成したら試運転の相手にするとしよう。きっとドールキメラも浮かばれるだろう。

 

『いや……この時代の個人に向けて使用していいデッキではないような……』

 

 試運転ですから試運転。

 

 ヴェノミナーガさんの呟きは無視してそんなことを考えつつ、再びウキウキした気持ちに戻り、足早に校長室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「闇のデュエルについて教えて欲しい……?」

 

 校長室に行った休日の午後。カードの作成と、試運転が終わり、オベリスクブルー寮の食堂でやや遅めの昼食を取っていたところ、十代、万丈目、明日香がやって来てそんなことを言ってきたのである。

 

「明日香の記憶に闇のデュエルについての知識はあるだろう?」

 

「あるけれど……私は出来る訳じゃないから知識だけじゃ限界があるの。だから、加減して闇のデュエルが出来たりはしないかしら?」

 

「もちろん、可能だが……俺が居ないときに天音ちゃんには頼らなかったのか?」

 

 そう聞くと俺が居ないとき、天音ちゃんにも頼んだらしい。しかし、天音ちゃんは"やるなら未だしも、教えるのは加減が下手だから無理"とのことで断念し、俺に回ってきたそうだ。

 

 ついでに言えば、俺が直接的あるいは間接的にも関わらなかったセブンスターズ3名は、何れも闇のデュエルらしいことをしておらず、危機感に欠け始めたということも理由らしい。

 

「そうか、それなら俺の出番だな」

 

 丁度、十代、万丈目、明日香、俺の4人で残っている七星門の鍵を持ったデュエリストは全員だ。となれば丁度いいと言えばそうであろう。

 

「ところで、確認だが、来たセブンスターズは全員1人ずつだったよな?」

 

「ああ、そうだな。タニヤとかアビドスとか、1人で挑んできたぜ」

 

「忌々しいことに、"黒蠍盗掘団"はまだ俺の部屋にいるがな……」

 

「そうか……となると――」

 

 ノーフェイスを含む残り2人のセブンスターズで、4人を倒さねばならないとなると、一対一のデュエルよりも、()()()で挑んでくる可能性の方が高いだろう。ラスボスならたまにしてくることもあるのが遊戯王。ならばしておいても損はない筈だ。

 

「――"ボスデュエル"をしようじゃないか。無論、ボスは俺。そして、対戦相手は君ら3人だ。丁度、新しいボスデュエル用のデッキが出来たところだしな」

 

『「「ボスデュエル……?(ですって!?)(だとっ!?)」」』

 

 かなり驚いた様子の明日香と万丈目に対し、ボスデュエル自体を何か分かっていない十代が印象的であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お……おい……リックさんがボスデュエルするってよ……」

 

「う、嘘だろ……? アレを生で見れるんだよな……?」

 

「ビ、ビデオ……ビデオカメラ持って来い! 誰か他の寮にも伝えて来い!」

 

 ナイトメア自身がボスデュエルをすると3人に対して宣言すると、食堂に偶々いたオベリスクブルーの男子生徒らが唖然とした様子で忙しなく動き始める。

 

 そんな中、状況を飲み込めない様子の十代がポツリと呟いた。

 

「なぁ、リック……?」

 

「ん?」

 

「ボスデュエルってなんだ?」

 

「十代!?」

 

「十代知らんのか貴様!?」

 

「おおう!?」

 

 すると何故か明日香と万丈目が酷く驚いた様子を見せ、それだけでなく激しい剣幕で万丈目が十代に詰め寄り、口を開いた。

 

「いいか? ボスデュエルというのはな……3 VS 1でデュエルを行うナイトメアがプロデュエル界で初めて提唱し、実際に行って見せた対戦形式の事だ!」

 

「へー、3 VS 1かぁ……って3 VS 1!?」

 

「そうだ。ナイトメア1人に他のプロデュエリストが3人で挑む。ボス側は1人に、挑戦者側はABCの3人だ。先攻はボスからで、A、B、Cの順にターンを渡していく。ボス側のライフポイントは12000で、挑戦者側のライフはそれぞれ4000。ルール自体はこれだけで非常にシンプルだ」

 

「なるほどなー、え……? でもそれボス側は無茶苦茶不利じゃないか? 普通に3人のデュエリストと戦ってるよな?」

 

「当たり前だ。ナイトメアは対戦形式としては非公式だが、ボスデュエルで今のところほぼ圧勝! 相手が有象無象のデュエリストなら兎も角、世界ランカーのプロデュエリストに対してそれが行えるのは、プロデュエリストでもナイトメアを除けば数える程しかおらず、その中でライブラリーアウトでの敗北を除き、勝率95%を超えているデュエリストはアイツただひとり! それがナイトメアが最凶のプロデュエリストと呼ばれる最大の由縁だからな!」

 

「へー、そうなのか……すっげぇなぁ! しかし、ホントに万丈目はリックのこと詳しいよなー」

 

「――!? け、研究だ研究! いつか打倒するためには相手を知ることが重要だからな!」

 

『マスターはリックさんの試合は必ず録画しているぐらい研究熱心ですからね!』

 

「だっ、黙れ! 出てくるな!?」

 

『何でですー!?』

 

 ふわりと万丈目の隣に現れ、笑顔でそんなことを告げたサイレント・マジシャンは、困惑と悲鳴が入り雑じったような声を上げながら消えていった。

 

「まあ、何はともあれ実戦あるのみ。セブンスターズの向こうさんも残り2人となれば1人で1度に数人を相手取る事も十分考えられるだろう。何が来てもいいように色々試してみるもんだ」

 

 ナイトメアのそんな言葉に3人は各自で目配せを行うと決意を胸に秘め、ナイトメアと共に今の時間は使用されていないデュエルアカデミア本館にあり、実技試験を行うための場所であるほど広く、6つのデュエルが同時に可能な屋内デュエル場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「さあ……愉しいデュエルを始めようか……」

 

 屋内デュエル場にて、ナイトメア1人に対し、十代、万丈目、明日香の3人が対峙していた。そして、加減はしていようと闇のデュエルを行うため、ナイトメアはいつも以上の威圧感と邪悪に満ちた気配を纏っている。その姿に3人はデュエル前だと言うのに額に汗を浮かべていた。

 

 また、観客席にはナイトメアがボスデュエルをするという話題を聞き付けた生徒や教員がぞろぞろと入ってくる様子が見られる。

 

 本来なら生で見るならばチケットを買わなければならないプロデュエルの中でも、ナイトメアのボスデュエルは他の数倍値段が高く、それにも関わらず倍率も凄まじく高いため、見れるだけでも人が集まるのは当然とも言えるであろう。

 

「一応、このデュエルで何か賭けるのなら……うん、勝者は敗者に出来る限りで好きなことを1度だけ頼めるようにしよう」

 

『ん? 今なんでもするって――』

 

「なんでもとは言ってない」

 

 3人に対してそれだけ言うと、ナイトメアが片手で目を覆い、手を退けるとダークネスとなっていた吹雪とデザインの似た黒い仮面が目元に装着されていた。

 

 そして、ナイトメアがドーマのデュエルディスクを構え、それに呼応するように3人もデュエルディスクを構えると、一斉に言葉を吐いた。

 

 

『デュエル!』

 

 

ナイトメア

LP12000

 

十代

LP4000

 

万丈目

LP4000

 

明日香

LP4000

 

 

「俺のターンドロー」

 

手札

5→6

 

 そして、ナイトメアは手札に目を通し、口元に笑みを浮かべた。

 

「俺は手札からフィールド魔法、"ヴェノム・スワンプ"を発動」

 

 フィールド魔法により、フィールドは赤黒い毒沼に全面が覆われ、周囲を枯れ木や枯れ草が覆う異様な地形へと変化する。

 

「な、なんだこれは!?」

 

「"ヴェノム・スワンプ"を常人に使うのは何だかんだ初めてだな。更に永続魔法、"フィールドバリア"を発動。このカードがフィールド上に存在する限り、お互いにフィールド魔法カードを破壊できず、フィールド魔法カードの発動もできない」

 

 そして、ヴェノム・スワンプ全体が透明の膜であるフィールドバリアに覆われた。

 

「そして、俺は"天使の施し"を発動。3枚ドローし、手札から2枚墓地へ送る。モンスターを裏側守備表示でセット。更に魔法・罠カードを3枚セットして、ターンエンドだ」

 

「随分、消極的ね……」

 

「何事にも理由がある。さあ、次は十代のターンだな」

 

「おう! 行くぜリック!」

 

ナイトメア

LP12000

手札0

モンスター1

魔法・罠5

 

 

「俺のターンドロー!」

 

手札

5→6

 

 するとナイトメアは薄笑いを浮かべながらデュエルディスクに触れた。

 

「この瞬間、罠カード、"パワーバランス"を発動。このカードは自分の手札が0枚の場合に発動する事ができる。まず、相手は手札が半分になるように選択して墓地に捨てる。選択するプレイヤーは当然、手札が6枚ある十代だ」

 

「はぁ!? なんじゃそりゃあ!?」

 

 仕方なく、その言葉の通り、十代は手札を3枚選択して墓地に捨てた。

 

手札

6→3

 

「そして、自分は相手が捨てた枚数分だけデッキからカードをドローする。十代が捨てた枚数は3枚なので、デッキから3枚ドローする」

 

「ひっでぇ!? なんだそれ!?」

 

手札(ナイトメア)

0→3

 

 効果の通り、ナイトメアは3枚カードをドローすると、ハンデスと手札補充をノーコストでこなすとんでもない効果に十代は声を上げる。

 

「おい、ナイトメア……なんだそのインチキカードは? 幾らなんで――」

 

「海馬社長が実際に使っていたカードだけど?」

 

「――まさに伝説のデュエリストに相応しい圧倒的なパワーカードだな! さあ、早くデュエルを進めろ十代!」

 

「お、おう……」

 

 観客も万丈目と同じように掌を返したような反応になる。やはり、伝説のデュエリストの名は今でも凄まじい影響力があるということであろう。

 

「俺は手札から"E・HERO(エレメンタルヒーロー) スパークマン"を召喚するぜ! そして、リックの裏側守備表示モンスターを攻撃! スパークフラッシュ!」

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) スパークマン

星4/光属性/戦士族/攻1600/守1400

様々な武器を使いこなす、光の戦士のE・HERO。聖なる輝きスパークフラッシュが悪の退路を断つ。

 

 青いボディスーツを着て、黄色の装飾が全身に施されたヒーローが現れ、そのままナイトメアのモンスターへと攻撃した。

 

「セットモンスターは"暗躍(あんやく)のドルイド・ウィド"。防御力は1800だ」

 

「うおっ!?」

 

暗躍(あんやく)のドルイド・ウィド

星4/闇属性/魔法使い族/攻 0/守1800

このカードがフィールド上から墓地へ送られた場合、自分の墓地の永続魔法カード1枚を選択して自分フィールド上にセットできる。この効果でセットしたカードはこのターン発動できない。「暗躍のドルイド・ウィド」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 2つの板を盾のように持ち、全身をローブや仮面で覆った魔法使いが現れる。

 

暗躍(あんやく)のドルイド・ウィド

DEF1800

 

 そして、スパークマンのスパークフラッシュを受け切ると、弾かれたスパークフラッシュの一部が十代に命中し、彼の体が少し跳ねた。

 

「十代、大丈夫!?」

 

「おう、明日香! ビックリしたけど、いつもよりかなり強めの衝撃だけだ! 闇の力って加減も出来るんだな!」

 

『まあ、マスターの場合、加減を覚えないと容易に死人が出ますからねぇ……』

 

 2人の会話に全体を見渡すためか、フィールドをふよふよと漂っているヴェノミナーガが入りつつ、反射ダメージを受けた十代のライフポイントが減る。

 

十代

LP4000→3800

 

「へへへ、面白くなってきたな! 俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

「そうだな。ではこの瞬間、"ヴェノム・スワンプ"の効果が発動。お互いのターンのエンドフェイズ毎に、フィールド上に 表側表示で存在する"ヴェノム"と名のついたモンスター以外の 表側表示で存在する全てのモンスターにヴェノムカウンターを1つ置く。ヴェノムカウンター1つにつき、攻撃力は500ポイントダウンする」

 

 その瞬間、沼の水で出来た蛇のような赤黒い何かが飛び出し、暗躍(あんやく)のドルイド・ウィドと、スパークマンの体に噛み付いた。

 

暗躍(あんやく)のドルイド・ウィド

ATK0→0

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) スパークマン

ATK1600→1100

 

「そして、この効果で攻撃力が0になったモンスターは破壊される。ボスデュエルでは自分のターンが再び回ってくるまでに4ターン掛かる。この意味がわかるか?」

 

「なんて嫌らしい効果なんだ……ナイトメアの全てが1枚に詰まったようなカードじゃないか」

 

『的確過ぎて草』

 

『お母さんって、精霊なのにリックさんに辛辣ですよね……』

 

「自分も相手も両方とも激しいデメリット効果を掛けるだなんて……」

 

「えっと……つまりどういうことだ……?」

 

 万丈目のフィールドに漂い、サイレント・マジシャンと談笑しているヴェノミナーガは放っておき、3人の中で1人だけ話に着いていけていない様子の十代を見たナイトメアは、噛み砕いて結果だけを説明した。

 

「次の十代のターン開始には、十代のフィールド上の全表側モンスターは、攻撃力が最大2000低下し、2000以下のモンスターは自動的に破壊されるということだ」

 

「ああ、なるほどなー! 攻撃力2000以下……スパークマン!?」

 

「まあ、諦めろ」

 

「まって、ならどうして攻撃力が0の"暗躍(あんやく)のドルイド・ウィド"は破壊されていないの?」

 

 明日香の質問にナイトメアは言葉を返す。

 

「"ヴェノム・スワンプ"の効果は、この効果で攻撃力が0になったモンスターは破壊されるだからだ。故に元から攻撃力が0のモンスターは"ヴェノム・スワンプ"では破壊されない」

 

『あの言語は難しいですねぇ』

 

『お母さんなにそれ?』

 

『サイレント・マジシャンちゃんには一生知る必要はなく、知っても誰も幸せにならないものですよ』

 

十代

LP3800

手札1

モンスター1

魔法・罠1

 

 

「俺のターンドロー!」

 

手札

5→6

 

「なるほど……案の定、"ヴェノム・スワンプ"専用デッキか。流石だな。だが、それならこれはどうだ! 俺は手札から"サイレント・ソードマン LV(レベル)3"を召喚!」

 

サイレント・ソードマン LV(レベル)

星3/光属性/戦士族/攻1000/守1000

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードを対象とする相手の魔法カードの効果は無効化される。

(2):自分スタンバイフェイズにフィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。手札・デッキから「サイレント・ソードマン LV5」1体を特殊召喚する。この効果はこのカードが召喚・特殊召喚・リバースしたターンには発動できない。

 

サイレント・ソードマン LV(レベル)

ATK1000

 

「そして、"サイレント・ソードマン LV(レベル)3"に手札から魔法カード、"レベルアップ!"を発動! デッキから召喚条件を無視して"サイレント・ソードマン LV(レベル)5"を特殊召喚する!」

 

サイレント・ソードマン LV(レベル)

星5/光属性/戦士族/攻2300/守1000

(1):このカードは相手の魔法カードの効果を受けない。

(2):このカードが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合、次の自分ターンのスタンバイフェイズにフィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。手札・デッキから「サイレント・ソードマン LV7」1体を特殊召喚する。

 

 小さな剣士は、巨大な剣を携えて黒いコートを纏った剣士へと変貌を遂げた。

 

サイレント・ソードマン LV(レベル)

ATK2300

 

「"サイレント・ソードマン LV(レベル)5"は相手の魔法カードの効果を受けない!」

 

「そうだわ! 万丈目くんのサイレントモンスターのほとんどは"ヴェノム・スワンプ"を受け付けない! このデュエル……万丈目くんを生かさせることが鍵ね!」

 

「おお、やるな万丈目! くぅぅぅ……なんだこのデュエル……無茶苦茶面白いじゃんか!」

 

「万丈目さんだっ! "サイレント・ソードマン LV(レベル)5"で、"暗躍(あんやく)のドルイド・ウィド"を攻撃! 沈黙の剣(サイレントソード)!」

 

 暗躍(あんやく)のドルイド・ウィドへと迫ったサイレント・ソードマンは、一太刀の元に容易く暗躍(あんやく)のドルイド・ウィドを斬り捨てた。

 

「やるな。この瞬間、"暗躍(あんやく)のドルイド・ウィド"の効果発動。このカードがフィールド上から墓地へ送られた場合、自分の墓地の永続魔法カード1枚を選択して自分フィールド上にセットできる。この効果でセットしたカードはこのターン発動できないが、あまり関係はないな」

 

「"天使の施し"で墓地へ落としていたカードか……」

 

 ナイトメアの魔法・罠カードゾーンに墓地から戻されたカードがセットされる。

 

「俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ!」

 

「"ヴェノム・スワンプ"の効果発動。全フィールド上の表側表示モンスターにヴェノムカウンターを1つ乗せる」

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) スパークマン

ATK1100→600

 

 再び沼から飛び出したヴェノムカウンターにスパークマンは噛み付かれ、攻撃力がダウンする。そして、ヴェノムカウンターはサイレント・ソードマンにも飛び付いた。

 

 しかし、相手の魔法を受け付けないサイレント・ソードマンにヴェノムカウンターが近づいた瞬間、サイレント・ソードマンはその剣でヴェノムカウンターを切り裂き、事なきを得る。

 

万丈目

LP4000

手札3

モンスター1

魔法・罠1

 

 

「私のターンドロー!」

 

手札

5→6

 

「私は"エトワール・サイバー"を攻撃表示で召喚!」

 

エトワール・サイバー

星4/地属性/戦士族/攻1200/守1600

このカードは相手プレイヤーを直接攻撃する場合、ダメージステップの間攻撃力が600ポイントアップする。

 

 白とオレンジの配色をし、長い茶髪のプリマがフィールドに現れる。

 

エトワール・サイバー

ATK1200

 

「バトルよ! "エトワール・サイバー"でリックに直接攻撃! "エトワール・サイバー"は直接攻撃時に攻撃力を600ポイントアップさせるわ! アラベスク・アタック!」

 

 ナイトメアにプリマが沼を滑るように迫って行く。しかし、到達するよりも先にナイトメアがカードを発動した。

 

「速攻魔法、"コマンド・サイレンサー"発動。相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。相手ターンのバトルフェイズを終了し、デッキから1枚ドローする」

 

「くっ……流石にそう易々とは攻撃を通してくれないわね……」

 

「無論だ」

 

 エトワール・サイバーの目の前にスピーカーのついたトーテムポールのようなものが現れ、それが怪音波を放ったことにより、エトワール・サイバーは戦闘を停止し、ナイトメアはカードをドローする。

 

手札(ナイトメア)

3→4

 

「カードを2枚伏せてターンエンドよ」

 

「"ヴェノム・スワンプ"の効果が発動する」

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) スパークマン

ATK600→100

 

エトワール・サイバー

ATK1200→700

 

明日香

LP4000

手札3

モンスター1

魔法・罠2

 

 

「俺のターンドロー」

 

手札

4→5

 

「俺はセットした――」

 

 そして、デュエルは2順目。ナイトメアのターンが再び始まり、フィールドから罠カードを発動した。

 

「"傀儡葬儀(くぐつそうぎ)-パペット・パレード"を発動する。このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多い場合、その差の数までデッキから"ギミック・パペット"モンスターを特殊召喚する。同名カードは1枚までだ」

 

「ギミック・パペット……?」

 

 聞いたことのないカテゴリーのカードに3人はハテナを浮かべた様子だった。

 

「俺のフィールド上と、相手フィールド上――十代、万丈目、明日香のモンスターを合わせた数の差は3体。よってデッキから"ギミック・パペット-マグネ・ドール"、"ギミック・パペット-ビスク・ドール"、"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"の3体を特殊召喚」

 

ギミック・パペット-マグネ・ドール

星8/闇属性/機械族/攻1000/守1000

(1):相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドのモンスターが「ギミック・パペット」モンスターのみの場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

 

ギミック・パペット-ビスク・ドール

8/闇属性/機械族/攻1000/守1000

(1):このカードは手札の「ギミック・パペット」モンスター1体を捨てて、手札から特殊召喚できる。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分フィールドの「ギミック・パペット」モンスターは相手の効果の対象にならない。

 

ギミック・パペット-ネクロ・ドール

星8/闇属性/機械族/攻 0/守 0

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが墓地に存在する場合、自分の墓地からこのカード以外の「ギミック・パペット」モンスター1体を除外して発動できる。このカードを特殊召喚する。

 

 血で薄汚れ、鉄と磁石とネジで作られたかのような簡素な作りで、空っぽの片目から血を流す人形――ギミック・パペット-マグネ・ドール。黒いケープとドレスを纏い、死人のような肌をし、頬に返り血の飛んだ少女の人形――ギミック・パペット-ビスク・ドール。赤とピンクの可愛らしい服装をしているが、所々血で濡れており、額と片目を覆うように頭に包帯が巻かれ、隠れた目から血を流す少女の人形――ギミック・パペット-ネクロ・ドールが現れる。

 

ギミック・パペット-マグネ・ドール

ATK1000

 

ギミック・パペット-ビスク・ドール

ATK1000

 

ギミック・パペット-ネクロ・ドール

ATK0

 

「同時に3体のモンスターを特殊召喚だと!?」

 

「攻撃力0に攻撃力1000……不気味な程低いわ……」

 

「なんだ? 何が起こるんだ!?」

 

 突如、現れた3体のドールに3人が思い思いの反応をする中、更にナイトメアは自分フィールドのドールに向かって口を開く。

 

「"ドールキメラ"……いや、もう"ギミック・パペット-ビスク・ドール"と、"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"か。新しい体の具合はどうだ?」

 

『とても心地よいわマスター』

『とても調子がいいわマスター』

 

「そうか、ならよかった」

 

『これなら復讐(ふくしゅう)ができるわ!』

『これなら怨讐(えんしゅう)が捗るわ!』

 

「うん、全部ぶつけてあげようじゃないか。ひとまず、目の前の人達は、君を使い難いと言って破り捨て、このデッキに手も足も出ずに蹂躙されたアイツよりは、愉しませてくれるだろう」

 

『うん! 精々すぐに壊れないでね! あはは!』

『私はゴミなんかじゃないわ! ゴミはあなたたちの方よ!』

 

 すると2体の人形は同時に話し始め、その様子は精霊を見ることが出来る3人を驚かせた。

 

「なに……なんなのあの見るからに邪悪な精霊は……?」

 

「リックも万丈目みたいにポンポン精霊増やすよなー」

 

「俺の精霊をアイツのと一緒にするな!? あそこまで邪悪な奴が一体でもいるか!?」

 

 ナイトメアは人形の精霊との会話を終えると、すぐにデュエルへと戻る。

 

「手札から"トレード・イン"を発動。手札のレベル8モンスター、"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"を墓地へ捨て、カードを2枚ドロー。更に魔法カード、"アドバンスドロー"を手札から発動。自分フィールド上に表側表示で存在するレベル8以上のモンスター1体――"ギミック・パペット-マグネ・ドール"を生け贄にして発動できる。デッキからカードを2枚ドローする」

 

手札

4→5

 

 何よりもナイトメアが恐ろしいのは、何れ程カードを使用しても場と手札のカードが減るどころか徐々に増えていくところであろう。ターンを回すだけで、状況が一変するのだ。

 

「そして……手札から"置換融合(ちかんゆうごう)"を発動。"置換融合"のカード名はルール上"融合"として扱う。自分フィールドから融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合デッキから融合召喚する。俺が指定するモンスターはトークン以外のフィールドの闇属性モンスター2体。当然、"ギミック・パペット-ビスク・ドール"と、"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"だ」

 

「うお!? "融合"を使うのか!?」

 

 2体の人形は互いに寄り添うように並び立つ。

 

「決して愛されなかった傷嘆の人形よ! 今ひとつとなりて、その怨嗟の彼方から、新たな地獄を生み出せ! 融合召喚! 現れろ! 飢えた牙持つ毒龍! "スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"!」

 

『さあ、悲劇の始まりよ!』

『さあ、虐殺の始まりよ!』

 

 2体の人形が手と体を合わせた直後、青白い怨霊のような火柱に飲まれる。そして、火柱は青から黒紫色のものへと変化していき、ナイトメアのフィールド全体を覆う程の巨大なものと化していた。

 

 そして、炎が晴れると、そこには身体中のあらゆる場所に赤い宝玉があしらわれ、黒紫色の配色をし、赤黒いオーラを纏った巨大なドラゴンがそこにいた。

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン

星8/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守2000

トークン以外のフィールドの闇属性モンスター×2

(1):このカードが融合召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を選び、その攻撃力分だけこのカードの攻撃力をターン終了時までアップする。

(2):1ターンに1度、相手フィールドのレベル5以上のモンスター1体を対象として発動できる。エンドフェイズまで、このカードはそのモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。

(3):融合召喚したこのカードが破壊された場合に発動できる。相手フィールドの特殊召喚されたモンスターを全て破壊する。

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン

ATK2800

 

「な、なんなのこのドラゴンは……」

 

「すっげぇ! カッコいいな!」

 

「これが"ヴェノム・スワンプ"に記載されていたヴェノムモンスターか!? なんと禍々しい!?」

 

『そうだよ』

 

 いつの間にか、ナイトメアのフィールドに戻ってきたヴェノミナーガが何か呟いたが、それだけでナイトメアのターンはまだ終わらなかった。

 

「"スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"の融合召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を選び、その攻撃力分だけこのカードの攻撃力をターン終了時までアップする。俺は"サイレント・ソードマン LV(レベル)5"を選択だ」

 

「なんだと!?」

 

「攻撃力5100ですって!?」

 

 スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンが腕をサイレント・ソードマンへ向け、何かを吸い上げるような動作をすると劇的にスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンのオーラの厚みが増した。

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン

ATK5100

 

「俺は万丈目のターンにセットした永続魔法、"パフォーム・パペット"を発動。更にカードを1枚伏せる。そして、墓地の"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"の効果発動。このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。このカードが墓地に存在する場合、自分の墓地からこのカード以外の"ギミック・パペット"モンスター1体を除外して発動できる。このカードを特殊召喚する。俺は墓地の"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"を除外し、"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"を守備表示で特殊召喚」

 

『いっぱい、足掻いてね?』

 

 そして、特殊召喚されたネクロ・ドールは1体で対戦相手の3人へ言葉を吐く。

 

ギミック・パペット-ネクロ・ドール

DEF0

 

「そして、"スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"の第2効果発動。1ターンに1度、相手フィールドのレベル5以上のモンスター1体を対象として発動できる。エンドフェイズまで、このカードはそのモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。対象は無論、"サイレント・ソードマン LV(レベル)5"。これでターン終了時まで"スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"は相手の魔法効果を受けない」

 

『いっぱい、苦しんでね?』

 

 更にスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンが再びサイレント・ソードマンを見つめると、何かがスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンに転写されたことがわかる。

 

「馬鹿な……!?」

 

『さあさあ! 行って!』

 

「では"スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"で、"サイレント・ソードマン LV(レベル)5"を攻撃。沈黙の剣(サイレントソード)!」

 

 スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンが片腕を振り上げると、手に黒紫色の光が集まり、サイレント・ソードマンと良く似た闇と毒で出来た剣が形成される。そして、それをサイレント・ソードマンへ向けて振るった。

 

「ぐぁぁぁぁあぁぁぁ!?」

 

「万丈目!?」

 

「万丈目くん!?」

 

 サイレント・ソードマンに直撃した瞬間、通常の数倍の衝撃が巻き起こり、万丈目の体を遥か後方まで吹き飛ばす。しかし、見た目よりも被害はないらしく、直ぐに彼は起き上がり、元の位置に戻ってきた。

 

「な、なるほど……確かに衝撃だけが異様に強いな……体にはほとんど異常はない。それより、とんでもないモンスターだな……」

 

万丈目

LP4000→1200

 

「俺はターンエンドだ。この瞬間、"ヴェノム・スワンプ"の効果で"E・HERO(エレメンタルヒーロー) スパークマン"は破壊される。そして、ヴェノムモンスターである"スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"は"ヴェノム・スワンプ"の効果を受けない」

 

『いっぱいいっぱい……絶望してね?』

 

『毒ウナギ使いやすいですねぇ……』

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) スパークマン

ATK100→0

 

エトワール・サイバー

ATK700→200

 

「スパークマン!?」

 

 ヴェノムカウンターに飛び付かれ、遂に攻撃力を0まで失ったスパークマンは断末魔を上げて爆散した。そして、ターンは十代へと移る。

 

「さあ、十代のターンだ……モンスターを倒したり、倒されたりしよう。破壊したり、破壊されたりしよう。もっともっとデュエルを愉しもうぜ?」

 

『あはははは!』

 

 こうして、ナイトメアがいない間に彼らが戦ったセブンスターズ達を遥かに凌ぐナイトメアに対峙し、3人は額に汗を浮かべながらも挑戦的な表情を浮かべて挑むのだった。

 

ナイトメア

LP12000

手札3

モンスター2

魔法・罠6

 

 

 







スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン「俺はヴェノムモンスターだ。誰が何と言おうとヴェノムモンスターなんだ」

グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン「そうだよ(便乗)」



~QAコーナー~

Q:何こいつ……?

A:※本作品の主人公です。


Q:なにこれぇ……?(デッキ)

A:
 昔に作者が大会で実際に使用していた所謂【捕食ギミパペ】の改悪型。正直、元々の【捕食ギミパペ】もぶっちゃけ【捕食sin】の方がグリーディー・ヴェノムにも神縛りの塚が乗る上、sin単体でもかなり動ける分強いのはご愛嬌だったが、割りと好きなカテゴリーでエクシーズを一杯出来たから作者が実際に使用した歴代の大会デッキの中でも嫌いじゃなかった。
 ちなみにこの小説でどう改悪されているかと言うと【捕食ギミパペ】 から融合召喚するモンスターをスターヴ・ヴェノムとグリーディー・ヴェノムの二種にし、エクシーズという概念を全て消去し、ヴェノム・スワンプとそれに対応できるモンスターを捩じ込んだ怪作。その関係でギミパペ以外のモンスターほぼ全て(ターン内で自壊させる意味のある効果と低ATKのモンスター以外)が攻撃力0で構成されている徹底ぶり。鈍足過ぎるので環境相手とかでは間違いなく使い物にならないが、友達と遊ぶ分には微妙に昔を感じつつスターヴ特殊召喚殺すマンっぷりと、グリーディーの破壊するとイチイチブラックホールを放ちやがる爆弾魔っぷりと、グリーディーのゾンビっぷりだけを素直に楽しめ、大量に墓地に落ちまくる上に除外されてもほぼ毎ターン墓地に1体は地味に戻ってくることもあるギミパペのせいで、自己再生にチェーンを差し込まれない限りは本当に無駄にグリーディーが原作効果のリバイバルスライムのごとき粘りを見せ、そこにロックカードでも差し込めば地味にウザいヴェノム・スワンプと合わさり、その上バウンスされても素材がゆるゆるなので直ぐに出るため(バウンスよりどちらかと言えば除外が痛い)、高確率で超泥仕合になる出来なのでお試しあれ(従兄弟の子供に使うと泣かれるタイプのデッキ※経験済み)
↓ちなみに次回出るであろう下手なアンデッド族よりもゾンビなグリーディーさんの効果
グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン
星10/闇属性/ドラゴン族/攻3300/守2500
「捕食植物」モンスター+元々のレベルが8以上の闇属性モンスター
このカードは融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚できる。
(1):1ターンに1度、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。ターン終了時まで、そのモンスターの攻撃力は0になり、効果は無効化される。
(2):このカードが破壊され墓地へ送られた場合に発動する。フィールドのモンスターを全て破壊する。その後、自分の墓地のレベル8以上の闇属性モンスター1体を除外してこのカードを墓地から特殊召喚できる。

…………あれ? GXのラスボスより強いぞコイツ……?


Q:パペット・パレードとかにあるギミパペのエクシーズの項目どうなってんの? エクシーズ(いなり)は?

A:作中ではその部分だけ全て削除され、エクシーズ単体のみの効果の魔法・罠・モンスターのサポート、エクシーズモンスターなどはそもそも存在しないことになっているので、ギミパペのカテゴリーが単体ではただのゴミと化しております。もちろん、エクシーズ(いなり)は入ってません。



~各話でリックくんを出さない理由~
34話→カイバーマンが全部やってくれるのでいると拗れる
35話→万丈目さんが全部やらないといけないのでリックくんが必要ないどころかいると邪魔しかねない
36話→三沢っちからタニヤっちをNTRかねない
37話→36話と同上
38話→話自体が箸休め
39話→リックくんの部屋に入った瞬間、SECOM(精霊)が起動して黒蠍盗掘団が即死する
40話→アビドスくんにトラウマを刻み込んで叩き返す気か
←イマココ
41話→若本さんは既にリックくんに救出されているので、ノーフェイスの話になる予定

真のデュエルや精霊が絡むと、イチイチ問題しか起こさねぇなこのデュエル狂!? こんなんプロデュエリストの仕事で外に飛ばしますわ……。ああ、プロデュエリストという設定話作る上で超楽ですね……(恐るべきクソ作者)




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ボスデュエル その2



 ダークネスさんに半話しか使わず、自分のデュエルに3話使う主人公がいるらしいですが、初投稿です。






 

 

 

「俺のターンドロー! よしっ!」

 

手札

1→2

 

 ナイトメアのターンが終わり、十代のターンが始まると、すぐに十代はドローしたカードを見てガッツポーズを行った。

 

「俺はリックの"パワーバランス"の効果で墓地に送られた"E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロダークマン"の効果により、手札の"E・HERO(エレメンタルヒーロー) エッジマン"を生け贄無しで召喚するぜ!」

 

「十代らしい引きだな」

 

「ええ、でもこれなら!」

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロダークマン

星5/闇属性/戦士族/攻1600/守1800

(1):このカードが墓地に存在する限り1度だけ、自分はレベル5以上の「E・HERO」モンスター1体をリリースなしで召喚できる。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) エッジマン

星7/地属性/戦士族/攻2600/守1800

(1):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) エッジマン

ATK2600

 

「エッジマンで"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"に攻撃! パワー・エッジ・アタック!」

 

『あぁぁあぁぁ!?』

 

 ギミック・パペット-ネクロ・ドールはエッジマンによって見るも無惨に砕け散る。そして、そのまま、エッジマンは止まらず、ナイトメアにも同様の攻撃を仕掛けた。

 

「エッジマンが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与えるぜ!」

 

「ぐっ……!?」

 

 パワー・エッジ・アタックを直撃したナイトメアは、後方に数m吹き飛ばされながらも、着地すると膝を突かずに踏み留まった。そして、十代の方を見ながら嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「クククッ……いいぞ……? やはりこうじゃないとな……もっと打ち込んでこい!」

 

「おう、望むところだ!」

 

『ほんと、デュエル中のマスターは身体と精神にスーパーアーマーついてますからねぇ……自分へのダメージだけは普通の闇のデュエルでやっていますのに……特に理由もなく12000のダメージを受け切る気満々って正気じゃないですよ……。まあ、正気じゃないからマスターは強いんでしょうけど』

 

 ヴェノミナーガのその言葉は誰にも聞こえないように小さく呟かれた。

 

ナイトメア

LP12000→9400

 

『ああ……痛い……憎い憎いわ! アイツを殺してマスター!』

 

「ああ……そうしたいならいいだろう」

 

 消え去る寸前、そう言い残したギミック・パペット-ネクロ・ドールの悔恨を受け、ナイトメアはカードを発動した。

 

「罠カード発動、"殉教者(じゅんきょうしゃ)(のろ)い"。自分フィールドのモンスターが破壊された時に発動できる。相手フィールドのモンスター1体の効果を無効化し、そのモンスターと自分フィールドのモンスター1体で強制的に戦闘を行う。"エトワール・サイバー"を対象にすることは出来るが……それでは報われまい。当然、"スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"の攻撃対象は、"E・HERO(エレメンタルヒーロー) エッジマン"だ」

 

「なんだって!? わかった受けて立つぜ!」

 

「あなた……デュエル内で自分の精霊の意思を……」

 

「な……」

 

「デュエルってのは1人でやってるものじゃないからな。さあ、何もかもを愉しもう」

 

 ギミック・パペット-ネクロ・ドールの死に際を眺めていたスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンは、片手に握り拳を作り、僅かに音が鳴り、震えるほど握り締めた。

 

 そして、そのまま体の向きを変え、怒りと憎悪の炎を宿したスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの瞳がエッジマンへと向けられ、エッジマンが声を上げて僅かに怯む。このときに、エッジマンの効果は無効化された。

 

「十代、ヒーローだって恨まれる……覚えておけ」

 

「ぐぐっ……!? 迎え撃てエッジマン! パワー・エッジ・アタックだ!」

 

 スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンが巨体から拳を振り上げ、エッジマンを狙い、エッジマンは突撃しつつ突破を図る。エッジマンの体とスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの拳が衝突し、僅かに拮抗した後、エッジマンは押し負けて爆散した。

 

十代

LP3800→3600

 

「くぅぅぅぅ!? 痛くはあんまりないが効くなこれ!?」

 

「俺は罠カード、"奇跡(きせき)残照(ざんしょう)"を発動。このターン戦闘で破壊され自分の墓地へ送られたモンスター1体を対象として発動できる。 そのモンスターを特殊召喚する。無論、"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"を守備表示で特殊召喚だ」

 

ギミック・パペット-ネクロ・ドール

DEF0

 

『終われない……苦しいわ……痛いわ! 憎いわ!』

 

「これぐらい感じた方がいつもより燃えるだろ?」

 

「おうよ! へへへ、俺はターンエンドだ」

 

「この瞬間、"ヴェノム・スワンプ"の効果により、"エトワール・サイバー"の攻撃力は0まで落ちる」

 

「ぅっ……"エトワール・サイバー"……」

 

エトワール・サイバー

ATK200→0

 

 エトワール・サイバーはヴェノム・スワンプにより、破壊された。

 

十代

LP3800

手札1

モンスター1

魔法・罠1

 

 

「俺のターンドロー!」

 

手札

3→4

 

 カードをドローし、万丈目のターンが始まる。

 

「俺は"おジャマ・イエロー"を守備表示で召喚する!」

 

『ええっ、アニキ!? どうしてこんな畑違いの場所にオイラを!?』

 

「うるさい! たまには役に立て! 雑魚には雑魚の使い途があるんだ!」

 

(なんだかんだ。万丈目は十代よりも精霊と一緒にデュエルしてるよな……向き合っているという意味ではだが)

 

(私も精霊の1体ぐらい憑いて貰えないかしら……?)

 

 そんなことをナイトメアや明日香が、その光景を見つつ考えていると、万丈目のフィールドにおジャマ・イエローが現れる。

 

おジャマ・イエロー

星2/光属性/獣族/攻 0/守1000

あらゆる手段を使ってジャマをすると言われているおジャマトリオの一員。三人揃うと何かが起こると言われている。

 

おジャマ・イエロー

DEF1000

 

『酷いよアニキ~……』

 

「俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

『え……? ひゃあぁぁ!?』

 

 エンドフェイズの瞬間、おジャマ・イエロー目掛けて沼の中からヴェノムカウンターが飛び出す。一貫の終わりとばかりに断末魔のような声を上げつつ顔を背けるおジャマ・イエローであった。

 

『あれ……痛くない?』

 

 ヴェノムカウンターに頭にかぷりと軽く噛み付かれたが、おジャマ・イエローはそんな言葉を溢した。

 

「お前、ナイトメアの説明を聞いていたのか? 攻撃力0のモンスターは"ヴェノム・スワンプ"では破壊されんのだ」

 

『そっかぁ! なんだ~……でもアニキこれ取れないよ?』

 

「そんなこと知るか!」

 

 おジャマ・イエローはヴェノムカウンターを取ろうと手を掛けるが、想像以上に確りと付いており、ナイトキャップのように見えるのが滑稽であろう。

 

万丈目

LP1200

手札2

モンスター1

魔法・罠2

 

 

「私のターンドロー!」

 

手札

3→4

 

「私はセットしていた儀式魔法、"機械天使(きかいてんし)儀式(ぎしき)"を発動! "サイバー・エンジェル"儀式モンスターの降臨のため、レベルの合計が儀式召喚するモンスターのレベル以上になるように、自分の手札・フィールドのモンスターを生け贄にし、手札から"サイバー・エンジェル"儀式モンスター1体を儀式召喚するわ! 私は手札の"サイバー・エンジェル-伊舎那(いざな)-"を生け贄に、"サイバー・エンジェル-荼吉尼(だきに)-"を儀式召喚!」

 

『あっ、電子の世界で暴れた方じゃないですか』

 

サイバー・エンジェル-荼吉尼(だきに)

星8/光属性/天使族/攻2700/守2400

「機械天使の儀式」により降臨。

(1):このカードが儀式召喚に成功した場合に発動できる。相手は自身のフィールドのモンスター1体を墓地へ送らなければならない。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分の儀式モンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ相手に戦闘ダメージを与える。

(3):自分エンドフェイズに自分の墓地の、儀式モンスター1体または「機械天使の儀式」1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

 

 青い肌をし、4本の腕でサーベル、唾の丸い反りのある剣、錫杖を持った仏神の名を持つ女性天使が降臨した。

 

サイバー・エンジェル-荼吉尼(だきに)

ATK2700

 

「"サイバー・エンジェル-荼吉尼(だきに)-"が儀式召喚に成功した場合に発動できる! 相手は自身のフィールドのモンスター1体を墓地へ送らなければならないわ!」

 

「…………俺は"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"を墓地へ送る」

 

 "サイバー・エンジェル-荼吉尼(だきに)-"の効果により、ギミック・パペット-ネクロ・ドールは消えていった。

 

「更に私は手札から魔法カード、"慈悲深(じひぶか)機械天使(きかいてんし)"を発動! このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない! 自分の手札・フィールドの"サイバー・エンジェル"儀式モンスター1体を生け贄にして発動できるわ! 自分はデッキから2枚ドローし、その後手札を1枚選んでデッキの一番下に戻す! このカードの発動後、ターン終了時まで自分は儀式モンスターしか特殊召喚できないわ! 私は"サイバー・エンジェル-韋駄天(いだてん)-"を手札から生け贄にして効果を発動!」

 

サイバー・エンジェル-韋駄天(いだてん)

星6/光属性/天使族/攻1600/守2000

「機械天使の儀式」により降臨。

(1):このカードが儀式召喚に成功した場合に発動できる。自分のデッキ・墓地から儀式魔法カード1枚を選んで手札に加える。

(2):このカードがリリースされた場合に発動できる。自分フィールドの全ての儀式モンスターの攻撃力・守備力は1000アップする。

 

「そして、"サイバー・エンジェル-韋駄天(いだてん)-"が生け贄にされた場合に発動できる! 自分フィールドの全ての儀式モンスターの攻撃力・守備力は1000アップするわ!」

 

サイバー・エンジェル-荼吉尼(だきに)

ATK2700→3700

 

「"スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"を超えたのか!」

 

「おお! やるな明日香!」

 

「ええ! 行くわよ! "サイバー・エンジェル-荼吉尼(だきに)-"で"スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"を攻撃!」

 

 サイバー・エンジェル-荼吉尼(だきに)-がスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの頭上に飛び上がると、その武器で急降下しながら全身を斬り裂いた。

 

ナイトメア

LP9400→8500

 

 しかし、斬り裂かれたスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンは、消滅する前にサイバー・エンジェル-荼吉尼(だきに)-を手で掴む。するとスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの全身から黒紫色の閃光が溢れ始める。

 

「融合召喚したこのカードが破壊された場合に発動できる。相手フィールドの特殊召喚されたモンスターを全て破壊する」

 

「なんだその頭から尻尾の先まで悪意に満ちた効果は!?」

 

「くっ……墓地の"機械天使(きかいてんし)儀式(ぎしき)"を発動! 自分フィールドの光属性モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる!」

 

 明日香が墓地から"機械天使(きかいてんし)儀式(ぎしき)"を除外すると、間一髪のところでサイバー・エンジェル-荼吉尼(だきに)-は明日香のフィールドへと戻り、スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンは誰も巻き込むことなく大爆発を起こしてフィールドから消えて行った。

 

「カードを1枚セットしてターンエンドよ。"サイバー・エンジェル-荼吉尼(だきに)-"は自分エンドフェイズに自分の墓地の、儀式モンスター1体または"機械天使の儀式"1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加えるわ。私は墓地の"サイバー・エンジェル-伊舎那(いざな)-"を手札に加える」

 

手札

1→2

 

 そして、ヴェノム・スワンプが発動し、サイバー・エンジェル-荼吉尼(だきに)-の攻撃力をダウンさせてからナイトメアにターンが移った。

 

サイバー・エンジェル-荼吉尼(だきに)

ATK3200

 

明日香

LP4000

手札2

モンスター1

魔法・罠2

 

 

「俺のターンドロー。俺は墓地の"置換融合(ちかんゆうごう)"を除外。墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の融合モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを融合デッキに戻す。その後、自分はデッキから1枚ドローする。"スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"を融合デッキに戻し、カードを1枚ドローだ」

 

手札

3→4→5

 

「融合デッキに戻したということは……!?」

 

「また、来るのか!?」

 

「クククッ……そんなに出して欲しいと期待されたのなら出さなければらないな。"ギミック・パペット-シザー・アーム"を召喚する」

 

ギミック・パペット-シザー・アーム

星4/闇属性/機械族/攻1200/守 600

このカードが召喚に成功した時、デッキから「ギミック・パペット」と名のついたモンスター1体を墓地へ送る事ができる。

 

 鋏が腕になり、後ろ手に体を縛られている女性の人形素体のような奇妙なモンスターが現れる。

 

ギミック・パペット-シザー・アーム

ATK1200

 

「"ギミック・パペット-シザー・アーム"の効果。このカードが召喚に成功した時、デッキから"ギミック・パペット"と名のついたモンスター1体を墓地へ送る事ができる。俺はデッキから"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"を墓地へ送る。そして、墓地の"ギミック・パペット-マグネ・ドール"を除外し、墓地から"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"を特殊召喚」

 

『何度だって蘇ってやる……呪ってやる……!』

 

ギミック・パペット-ネクロ・ドール

ATK0

 

「トークン以外の闇属性モンスターが2体……あまりに早い!?」

 

「おう! 来いよリック!」

 

「では手札から"置換融合(ちかんゆうごう)"を発動する。フィールド上の"ギミック・パペット-シザー・アーム"と、"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"を融合し、"スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"を再び融合召喚」

 

『絶望を与えて!』

 

 異様な人形と人形が重なり、それから溢れ出た怨嗟の炎から飢えた毒龍が再び生まれ出た。

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン

ATK2800

 

「当然、効果は忘れちゃいないな? "スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"は融合召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を選び、その攻撃力分だけこのカードの攻撃力をターン終了時までアップする。対象は無論、"サイバー・エンジェル-荼吉尼(だきに)-"だ」

 

 スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンがサイバー・エンジェル-荼吉尼(だきに)-に手を向けると、纏う赤黒いオーラが倍以上に膨れ上がった。

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン

ATK2800→6000

 

「"スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"は何よりも不徳を嫌う。闇龍の毒牙を受けるがいい……リベンジだ。"スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"で、"サイバー・エンジェル-荼吉尼(だきに)-"を攻撃」

 

『仮にそれが正しければ一番最初にスターヴさんに殴られるのはマスターなんじゃ……』

 

 ナイトメアのフィールドに戻ってきたヴェノミナーガがそんな言葉を溢すが、それを無視してナイトメアは指示を出す。

 

 するとスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの手にはサイバー・エンジェル-荼吉尼(だきに)-が持つ物と似ている黒紫色の錫杖を出現され、それを振りかぶり、振り下ろすと明日香のフィールドごと叩き付けられたかのような衝撃が襲う。

 

「ぐぅぅ!? 罠カード発動! "ガード・ブロック"! 相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる!  その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキからカードを1枚ドローするわ!」

 

手札(明日香)

2→3

 

「ダメージは防いだか。なら墓地の"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"の効果を使用。墓地の"ギミック・パペット-シザー・アーム"をゲームから除外し、"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"を守備表示で特殊召喚」

 

『終わらないわ……!』

 

ギミック・パペット-ネクロ・ドール

DEF0

 

「手札から"強欲な壺"を発動。カードを2枚ドロー。更に"埋葬呪文の宝札"を発動。墓地の"天使の施し"、"コマンド・サイレンサー"、"強欲な壺"を除外し、カードを2枚ドローする」

 

手札

3→4→5

 

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

ナイトメア

LP8500

手札3

モンスター2

魔法・罠6

 

 

「行くぜ! 俺のターンドロー!」

 

手札

1→2

 

 ターンは十代へと移り、ドローをすると直ぐにセットカードが開かれた。

 

「俺はセットしていた罠カード! "第六感(だいろっかん)"を発動するぜ! 自分は1から6までの数字の内2つを宣言する! 相手がサイコロを1回振り、宣言した数字の内どちらか1つが出た場合、その枚数自分はカードをドローし、ハズレの場合、出た目の枚数デッキの上からカードを墓地へ送るぜ!」

 

「お前、攻撃反応系カードではなく、ずっとそんな博打カードを伏せていたのか!?」

 

「だってワクワクするだろ?」

 

 驚きと共に叫んだ万丈目だけでなく、明日香も苦笑いを浮かべている。また、基本的にアドバンテージしかないと知っていても、明らかにただの博打カードとして使っている様子のため、ナイトメアも口元に笑みを浮かべていた。

 

「俺は……6と4を選ぶ!」

 

「5じゃないのか」

 

「ああ、なんとなくだ!」

 

「そっかぁ……」

 

 既に何かを察した様子のナイトメアは、無心でソリッド・ビジョンのサイコロを放り投げる。そして、しばらく転がったそれが示した面は――4だった。

 

「よっしゃー! じゃあ、デッキからカードを4枚ドローだ!」

 

「あ、当てやがった!?」

 

「嘘……」

 

「そんな気はした」

 

『リアル"第六感"かつセルフ"悪夢の蜃気楼"とはたまげたなぁ……』

 

手札

1→5

 

「"E・HERO(エレメンタルヒーロー) バブルマン"を召喚するぜ! このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に自分のフィールド上に他のカードが無い場合、 デッキからカードを2枚ドローする事ができる!」

 

『お前の方がよっぽど"壺魔神"なんだよなぁ……』

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バブルマン

ATK800

 

手札

4→6

 

「更にバブルマンに"突然変異(メタモルフォーゼ)"を発動! 自分フィールド上モンスター1体を生け贄に捧げ、生け贄に捧げたモンスターのレベルと同じレベルの融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する! "E・HERO(エレメンタルヒーロー) バブルマン・ネオ"を特殊召喚!」

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バブルマン・ネオ

星4/水属性/戦士族/攻 800/守1200

「E・HERO バブルマン」+「ヒーロー・キッズ」

カード名を「E・HERO バブルマン」として扱う。このカードと戦闘を行った相手モンスターをダメージステップ終了時に破壊する。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バブルマン・ネオ

ATK800

 

「そして、"E・HERO(エレメンタルヒーロー) バブルマン・ネオ"に"バブル・ショット"を装備!  装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップ! 装備モンスターが戦闘で破壊される場合、代わりにこのカードを破壊し、装備モンスターのコントローラーへの戦闘ダメージを0にするぜ!」

 

 そして、バブルマン・ネオはバブル・ショットを構え、スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンに狙いを定めた。

 

「バブルマン・ネオで"スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"を攻撃だ!」

 

 バブル・ショットから放水による攻撃が放たれ、スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの体を濡らした。そして、その直後にスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンは苦しみ出し、その末に爆散する。

 

「バブルマン・ネオの効果! このカードと戦闘を行った相手モンスターをダメージステップ終了時に破壊するぜ!」

 

『あの水に何が入ってるんですかね……』

 

「"スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"は、破壊されたとき、相手フィールド上に特殊召喚された全てのモンスター――今は"E・HERO(エレメンタルヒーロー) バブルマン・ネオ"を破壊する」

 

 そして、スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの爆発に巻き込まれ、バブルマン・ネオも跡形もなく消滅した。

 

「ぐっ……よくやったなバブルマン・ネオ……。カードを1枚セットしてターンエンドだ!」

 

十代

LP3600

手札3

モンスター0

魔法・罠1

 

 

「俺のターンドローだ!」

 

手札

2→3

 

 引いたカードを万丈目は確認し、その手札を隣にいるサイレント・マジシャンも眺めていた。

 

「俺はセットしていた永続罠、"おジャマパーティー"を発動する! 1ターンに1度、自分・相手のメインフェイズに発動できる。デッキから"おジャマ"カード1枚を手札に加え、その後手札を1枚選んで捨てる! 俺は"おジャマ・グリーン"を手札に加え、カードを1枚捨てる!」

 

 サイレント・マジシャンの隣にポンと音を立てておジャマ・グリーンの精霊が現れる。

 

「そして、"死者蘇生"を発動! "サイレント・ソードマン LV(レベル)5"を特殊召喚する! ……ついでに"おジャマ・グリーン"も守備表示で召喚だ」

 

サイレント・ソードマン LV(レベル)

ATK2300

 

おジャマ・グリーン

星2/光属性/獣族/攻 0/守1000

あらゆる手段を使ってジャマをすると言われているおジャマトリオの一員。三人揃うと何かが起こると言われている。

 

おジャマ・グリーン

DEF1000

 

『このままだと、普通に"おジャマ・デルタ・ハリケーン!!"されそうですね』

 

「フラグを立てないでください」

 

「更に"リビングデッドの呼び声"を発動! さっき墓地に送った"おジャマ・ブラック"を特殊召喚する!」

 

星2/光属性/獣族/攻 0/守1000

あらゆる手段を使ってジャマをすると言われているおジャマトリオの一員。三人揃うと何かが起こると言われている。

 

おジャマ・ブラック

ATK0

 

 万丈目のフィールド上におジャマトリオが終結した。

 

「そして、"おジャマ・デルタ・ハリケーン!!"を発動! 自分フィールド上に"おジャマ・グリーン"、"おジャマ・イエロー"、"おジャマ・ブラック"が表側表示で存在する場合に発動する事ができる!  相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する!」

 

「揃えるなんて……!」

 

「いっけー! 万丈目!」

 

「万丈目さんだっ! くらえナイトメア!」

 

『がんばれがんばれおジャマさんたち!』

 

『いっくぞ~!』

 

『アニキにアネキ! 俺たちの勇姿を見ててくれ~!』

 

『必殺技~! "おジャマ・デルタ・ハリケーン"!!』

 

 サイレント・マジシャンからの応援を受けつつ、万丈目のフィールドに集結したおジャマ達が空中で尻を合わせると、ぐるぐると回転し、次第に凄まじい回転力を生み出し始める。

 

『これが黄金の回転かぁ……』

 

「通してやりたいが……流石にさせん。カウンター罠、"大革命返し(だいかくめいがえし)"。フィールドのカードを2枚以上破壊するモンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時に発動できる。その発動を無効にし除外する」

 

『わぁぁぁ!?』

 

 しかし、おジャマ・デルタ・ハリケーン!!はナイトメアに停止させられ、おジャマたちは散り散りになった。

 

「チッ……"大革命返し(だいかくめいがえし)"を切らせただけでも御の字とするか……。ならば"サイレント・ソードマン LV(レベル)5"で、"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"を攻撃だ! 沈黙の剣(サイレントソード)!」

 

 サイレント・ソードマンの剣が、ギミック・パペット-ネクロ・ドールを斬り裂く。

 

「この瞬間に永続魔法、"パフォーム・パペット"の効果発動。1ターンに1度、自分フィールドの表側表示の"ギミック・パペット"モンスターが戦闘または相手の効果で破壊され墓地へ送られた場合、除外されている自分の"ギミック・パペット"モンスター1体を対象として発動。そのモンスターを特殊召喚する。俺は除外されている"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"を守備表示で特殊召喚する」

 

『悪夢は巡り……終わらないものよ……!』

 

ギミック・パペット-ネクロ・ドール

DEF0

 

「不死身かアイツは……! ターンエンドだ」

 

万丈目

LP1200

手札0

モンスター4

魔法・罠2

 

 

「私のターンドロー!」

 

手札

3→4

 

「私は"ブレード・スケーター"を攻撃表示で召喚!」

 

ブレード・スケーター

星4/地属性/戦士族/攻1400/守1500

氷上の舞姫は、華麗なる戦士。 必殺アクセル・スライサーで華麗に敵モンスターを切り裂く。

 

 明日香のフィールドに両手にブレードが装備され、スケート靴の刃もブレードになっている女性モンスターが現れる。

 

ブレード・スケーター

ATK1400

 

「"ブレード・スケーター"で、"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"に攻撃! アクセル・スライサー!」

 

『マスター! みんなみーんな殺しましょう!』

 

「そうか、君がやりたいのならそうしよう」

 

 ブレード・スケーターが、ギミック・パペット-ネクロ・ドールへ向けてヴェノム・スワンプの沼を滑りながら移動する最中。

 

 ナイトメアはギミック・パペット-ネクロ・ドールの声に従い、デュエルディスクの魔法・罠カードゾーンからカードを発動させた。

 

「罠カードオープン、"無力(むりょく)証明(しょうめい)"。自分フィールド上にレベル7以上のモンスターが存在する場合に発動できる。相手フィールド上のレベル5以下のモンスターを全て破壊する」

 

「なんだと!?」

 

「なんですって!? けれど"スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"を失ったあなたのフィールドに、レベル7以上のモンスターなんて……」

 

 レベル5以下のモンスターが4体フィールドにいる万丈目と、明日香は特に驚く。そして、そう呟きながらナイトメアのフィールドを見渡し、ギミック・パペット-ネクロ・ドールに目を止めた。

 

「――まさか!?」

 

「くっ!? 異様なまでに"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"をフィールドに維持させていた理由はこれか!?」

 

「ご名答。攻守ゼロで一切攻撃性能が無くとも"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"のレベルは8だ。では無力を証明しよう」

 

『あはははは! みんな消えちゃえ!』

 

 ギミック・パペット-ネクロ・ドールの全身からドス黒い怨念による闇が溢れ出し、全てを飲み込むと、全フィールドにはギミック・パペット-ネクロ・ドール以外のモンスターは残っていなかった。

 

『消えちゃった! 消えちゃった! 私がぜーんぶ消してやったわ!』

 

「このカードを発動するターン、自分フィールド上のモンスターは攻撃できないが、相手ターンに発動してしまえば関係はないな。さあ……この後はどうする?」

 

「……私はカードを1枚セットしてターンエンドよ」

 

明日香

LP4000

手札2

モンスター0

魔法・罠2

 

 

「俺のターンドロー」

 

手札

3→4

 

 ドローを終えたナイトメアはフィールドを眺める。3対1にも関わらず、3人のフィールドはがら空きであり、モンスターは存在しない。そして、薄笑いを浮かべると、3人へ向けて口を開いた。

 

「ではそろそろ、切り札を使うとしよう」

 

「なに!? "スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"は切り札ではないのか!?」

 

「あれより上がいるの!?」

 

「"スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"も切り札だ。だが、生憎このデッキは元々、2枚看板だからな。」

 

「すっげぇ! リック、早く見せてくれよ!」

 

「煽るな十代!?」

 

「ああ、もちろんだとも。俺は"捕食植物(プレデター・プランツ)サンデウ・キンジー"を召喚」

 

捕食植物(プレデター・プランツ)サンデウ・キンジー

星2/闇属性/植物族/攻 600/守 200

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分が融合素材とする捕食カウンターが置かれたモンスターの属性は闇属性として扱う。

(2):自分メインフェイズに発動できる。闇属性の融合モンスターカードによって決められた、フィールドのこのカードを含む融合素材モンスターを自分の手札・フィールド及び相手フィールドの捕食カウンターが置かれたモンスターの中から選んで墓地へ送り、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。

 

 見た目はエリマキトカゲなのだが、よく見れば葉から生えた無数の毛の先端に丸い粘液で体が出来ており、モウセンゴケで出来たエリマキトカゲだということがわかった。

 

捕食植物(プレデター・プランツ)サンデウ・キンジー

ATK600

 

「"捕食植物(プレデター・プランツ)サンデウ・キンジー"の効果発動。自分メインフェイズに発動できる。闇属性の融合モンスターカードによって決められた、フィールドのこのカードを含む融合素材モンスターを自分の手札・フィールド及び相手フィールドの捕食カウンターが置かれたモンスターの中から選んで墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合デッキから融合召喚する。対象の融合素材の指定は、"捕食植物"モンスター+元々のレベルが8以上の闇属性モンスター。よって、"捕食植物(プレデター・プランツ)サンデウ・キンジー"と、"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"を指定!」

 

『これが本当の絶望よ!』

 

「決して愛されなかった傷嘆の人形よ! 再び怨嗟の彼方から、新たな地獄を生み出せ! これが絶望と慟哭の顕現! 融合召喚! 現れろ! "グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"!」

 

グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン

星10/闇属性/ドラゴン族/攻3300/守2500

「捕食植物」モンスター+元々のレベルが8以上の闇属性モンスター

このカードは融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚できる。

(1):1ターンに1度、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。ターン終了時まで、そのモンスターの攻撃力は0になり、効果は無効化される。

(2):このカードが破壊され墓地へ送られた場合に発動する。 フィールドのモンスターを全て破壊する。その後、自分の墓地のレベル8以上の闇属性モンスター1体を除外してこのカードを墓地から特殊召喚できる。

 

 捕食植物(プレデター・プランツ)サンデウ・キンジーと、ギミック・パペット-ネクロ・ドールが、突如波立ったヴェノム・スワンプの毒沼の中に呑み込まれるように消えると、その代わりに巨大な龍の影がヴェノム・スワンプの中から這い出るように現れる。

 

 それはスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンを機械的な見た目に変え、紫色に輝くエネルギーで出来たような一対の翼を生やし、全身から紫電を放出するドラゴンであった。

 

グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン

ATK3300

 

「3300だと……」

 

「デスガーディウスと変わらないじゃない……」

 

「すっげぇ!! もっとカッコよくなったな!」

 

 グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンを融合召喚し終えたナイトメアは、更にカードをプレイする。

 

「更に俺は手札から速攻魔法、"ダブル・サイクロン"を発動。自分フィールドの魔法・罠カード1枚と、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。 そのカードを破壊する。俺の"ヴェノム・スワンプ"と、明日香の左の伏せカードを破壊だ。無論、"ヴェノム・スワンプ"は"フィールドバリア"により破壊されない」

 

「くっ……ミラーフォースが……」

 

 破壊されたカードは聖なるバリア -ミラーフォース-であった。それにはヴェノミナーガも思わず声を掛ける。

 

『そのまま、攻撃してたら出落ちして、残機マイナスでしたね』

 

「それは流石にアレでしたね。さて……これは流石に攻撃しなければ失礼だろうな。"グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"で万丈目を直接攻撃だ」

 

「くっ……!?」

 

 モンスターに加え、魔法・罠もおジャマパーティー以外は無く、手札もないがら空きの状態な上、グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの一撃でライフが削り切れる万丈目が狙われるのは当然と言えるだろう。

 

 グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンは万丈目の方を見据えると、雷光の光の帯を引きながら瞬間移動と見紛う速度で接近し、握り拳を作った腕を引き絞った。

 

 そして、拳が放たれ、万丈目が殴り飛ばされるその瞬間――。

 

「カウンター罠、"攻撃の無力化"を発動! 相手モンスターの攻撃宣言時に、 その攻撃モンスター1体を対象として発動できる! その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了するぜ!」

 

 十代の罠カードが発動し、渦を巻く障壁に阻まれて、グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの攻撃は届かなかった。

 

「十代!」

 

「十代……余計なお世話だ!」

 

「まあ、そう言うなって万丈目。折角、3人でデュエルしているんだから、連携をとらなきゃなと思ってさ」

 

「連携だと……?」

 

「連携……」

 

 そう言われてみれば3人は今の今までナイトメアに対して、個人で挑んでおり、協力して挑んではいなかった事に気づかされる。

 

「十代の言うことを真に受けるのは癪だが……ただ、愚直にナイトメアへ当たったところで勝算はない……いいだろう。乗ってやる!」

 

「そうね……このままやってもあまりに遠いわ! やれることを出し切らなきゃ!」

 

 万丈目と、明日香は新たな決意を胸にナイトメアと、グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンに対峙する。そんな2人の瞳を目にしたナイトメアは愉しげな笑みを浮かべた。

 

「いいじゃないか……戦いの中で成長する。それもまたデュエルだ」

 

 そう言いつつ、ナイトメアはカードを1枚セットし、更に手札の魔法カードを発動する。

 

「なら俺は魔法カード、"天よりの宝札"を発動する。効果は知っての通り、互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにカードを引く」

 

「おっ! いいのか? ラッキーだぜ!」

 

手札

0→6

 

手札(十代)

3→6

 

手札(万丈目)

0→6

 

手札(明日香)

2→6

 

 突然、手札が補充された事に純粋に喜ぶ十代と、驚く万丈目と明日香が対照的だった。その中で6枚ドローした万丈目は身を震わせ、声を荒げる。

 

「貴様……! なんのつもりだ!? 施しのつもりか!?」

 

「クハハハハ! 施しだと? 勘違いしているのはそっちだろう?」

 

『サンダーさんったら……マスターはいつだってこういう人なんですからいい加減慣れましょうよ』

 

 当たり前といった様子で溜め息を吐くヴェノミナーガ。そして、話をしながらもナイトメアは魔法・罠カードゾーンにカードを1枚差し込み、ターンエンド宣言をした後で口を開く。

 

「モンスターを召喚しろ! 魔法・罠で破壊しろ! お前らの手で俺の"グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"を殺し尽くして見せろ! さあ、もっと愉しもう……デュエルはまだまだこれからだ!」

 

「――ッ!」

 

 その言葉に万丈目は挑戦的な目付きになる。

 

 そして、そんな2人のやり取りと、ナイトメアの悪魔のような態度を目にし決意を新たにしつつも、明日香はふと心の端で思う。

 

(セブンスターズの残り2人って……こんなに強いのかしら……?)

 

 そんな思考は引いたカードに目を通したことで、すぐに消えて行った。

 

ナイトメア

LP8500

手札5

モンスター1

魔法・罠6

 

 

 

 







※主 人 公 で す


リックくんの墓地のレベル8以上の闇属性モンスター
ネクロ・ドール 3
ビスク・ドール 1
スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 1
(除外:マグネ・ドール 1)

グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの残機
→5
さあ、3人とも頑張るんだ!(3人はまだ知らない情報) それか十代! 完封出来るからはやく鬼畜モグラ連れてこい!(オイ)



~QAコーナー~

Q:リックのこのデッキってなんかコンセプトあるの?

A:ボスっぽい魔法・罠を沢山デッキに入れるように心掛けている(万丈目のヘルデッキと大差ない)


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ボスデュエル その3




ポケモンが面白いですが、初投稿です。






 

 

 

「俺のターンドロー!」

 

手札

6→7

 

 ドローを終えた十代は真っ先に融合のカードを高く掲げた。

 

「俺は手札から"融合"を発動! 手札の"E・HERO(エレメンタルヒーロー) クレイマン"と、"E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーストレディ"を墓地に送り、"E・HERO(エレメンタルヒーロー) ランパートガンナー"を守備表示で特殊召喚!」

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ランパートガンナー

星6/地属性/戦士族/攻2000/守2500

「E・HERO クレイマン」+「E・HERO バーストレディ」

このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。このカードが表側守備表示の場合、守備表示の状態で相手プレイヤーを直接攻撃する事ができる。その場合このカードの攻撃力はダメージ計算時のみ半分になる。

 

 黒い重鎧を纏い、それぞれ手がキャノンと盾とで一体化した武装を持つ女性モンスターが現れ、その場でしゃがみつつ構えを取る。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ランパートガンナー

DEF2500

 

「ランパートガンナーは表側守備表示の場合、守備表示の状態で相手プレイヤーを直接攻撃する事ができる。その場合このカードの攻撃力はダメージ計算時のみ半分になる! リックを直接攻撃! ランパート・ショット!」

 

「く……」

 

 ナイトメアに向かってキャノンから放たれた砲弾が飛んで行き、グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンをすり抜けてナイトメアに命中して着弾する。彼の体勢を大きく仰け反らせたが、膝をつくことはなく、笑みを浮かべて十代を見据えた。

 

ナイトメア

LP8500→7500

 

『3回目のダメージの上、既に闇のデュエルで4500ほど削れてますねぇ。普通ならプレイヤー1人分死んでますけど?』

 

「まだまだ……これぐらい大したことはありませんよ。それより、いいぞ十代。連携を優先し、モンスターより、俺を狙ってきたか。クククッ……愉しいねぇ」

 

「おうよ! カードを3枚セットしてターンエンドだ!」

 

『相変わらず、私のマスターは異様にタフですねぇ……』

 

「"ヴェノム・スワンプ"を忘れてはいまい? ランパートガンナーの攻撃力は500ポイントダウンだ」

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ランパートガンナー

ATK2000→1500

 

十代

LP3600

手札1

モンスター1

魔法・罠3

 

 

「俺のターンドロー!」

 

手札

6→7

 

 手札に目を通してから万丈目は、一度だけ隣にいるサイレント・マジシャンと目を合わせ、互いに頷くと、叩き付けるようにモンスターを召喚した。

 

「俺は"サイレント・マジシャン LV(レベル)4"を召喚! 更に場に出した"サイレント・マジシャン LV(レベル)4"を生け贄に捧げ――"沈黙(ちんもく)魔術師(まじゅつし)-サイレント・マジシャン"を特殊召喚だ!」

 

『行きますよ! リックさん! お母さん!』

 

 万丈目のフィールドに現れたサイレント・マジシャン LV(レベル)4は、急速に沈黙(ちんもく)魔術師(まじゅつし)-サイレント・マジシャンへと成長を遂げ、その杖をグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンへと向けた。

 

沈黙(ちんもく)魔術師(まじゅつし)-サイレント・マジシャン

ATK1000

 

「不用意にドローなぞさせるからだ! "沈黙(ちんもく)魔術師(まじゅつし)-サイレント・マジシャン"は自分フィールド上の魔法使い族モンスターを生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚可能で、このカードの攻撃力は、自分の手札の数×500アップする! 俺の手札は5枚! 攻撃力は2500ポイントアップする!」

 

沈黙(ちんもく)魔術師(まじゅつし)-サイレント・マジシャン

ATK1000→3500

 

「"グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"を超えたのね!」

 

「行け~! 万丈目!」

 

「サンダー! どうせ、"スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"のように何かしらの効果を持っているだろうが……バトルだ! サイレント・マジシャンで、"グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"に攻撃! サイレント・バーニング!」

 

『サイレント・バーニング!』

 

「なら迎え撃て"グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"!」

 

 グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンは翼の紫電をサイレント・マジシャンに向けて放出することで攻撃した。そして、サイレント・マジシャンから放たれた魔力の閃光は紫電と少し拮抗した後、紫電を呑み込み、グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの胴体に大穴を開けた。

 

 そして、グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの体から次々とスパークと共に小さな爆発が上がり、完全に崩壊するまでは秒読みに見えるだろう。

 

 しかし、体が崩壊していくにも関わらず、背中の雷光の両翼が異常な程に巨大化し、周囲のあらゆるものに被害を与え始めていた。

 

「な、なあ……これかなりヤバくないか……?」

 

「どう見ても……爆発するわね」

 

「3人とも、ぶっ飛びたくなければ衝撃に備えろ」

 

 明らかに様子の可笑しいグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンに対して、十代と明日香が呟いた直後にナイトメアが答えた次の瞬間、グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンはフィールド一帯全てを巻き込むほどの大爆発を起こした。

 

「うぉぉぉぉぉ!?」

 

「なんだぁぁぁ!?」

 

「きゃぁぁぁぁ!?」

 

 3人は異常極まりないほど凄まじい衝撃を受け、20m以上ほど後方に吹き飛ばされ、地面を転がった。明らかにソリッド・ビジョンの限界を超えているが、見た目ほどの怪我はないため、加減して闇のデュエルをしていることがわかる。

 

 そんな中、足の踏ん張りのみで耐え切っていたナイトメアは、指で頬を掻きつつポツリと呟く。

 

「………………思っていた以上の破壊力ですね」

 

『まあ、自重してない方の効果は破壊したモンスターの攻撃力分のダメージをプレイヤーに与えますし? 今はライフに一切ダメージないですけど、ちゃんとした闇のデュエルならダメージと関係なくプレイヤーの肉体に大ダメージを与えますよ』

 

「闇のカードじゃないですか」

 

『闇のカードですもの。それより、今の爆発で吹き飛ばないマスターの方が私にはミステリーなんですけど……? というか、今マスターの受ける体のダメージは普通に闇のデュエルで受けるものと変わりませんよね?』

 

「……? デュエルと、父さんの訓練メニューで日頃から鍛えてますし」

 

『確かにマスターは脱ぐと凄いですけど……デュエルマッスルとデュエル脳ってスゴいなぁ……』

 

 そんなやり取りをナイトメアとヴェノミナーガはして時間を潰していると、3人がデュエルに復帰し始めたため、ナイトメアが口を開く。

 

「"グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"が破壊され墓地へ送られた場合に発動する。フィールドのモンスターを全て破壊する。よって、十代のランパートガンナーと、万丈目のサイレント・マジシャンは破壊された」

 

「なんつうイカれた爆発力と効果だ!?」

 

「ま、まだ、目が回るわ……」

 

「星が見えるぜ……」

 

 しかし、倒しきったと勝ち誇ったような表示で万丈目は、モンスター効果を発動した。

 

「フィールドのこのカードが戦闘または相手の効果で破壊された場合に発動できる! 手札・デッキから"沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン"以外の "サイレント・マジシャン"モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する! 俺はデッキから"サイレント・マジシャン LV(レベル)8"を攻撃表示で特殊召喚!」

 

『光が……見えました……パァって光ったんです……』

 

サイレント・マジシャン LV8

星8/光属性/魔法使い族/攻3500/守1000

このカードは通常召喚できない。「サイレント・マジシャン LV4」の効果でのみ特殊召喚できる。このカードは相手の魔法カードの効果を受けない。

 

 フィールドに万丈目のサイレント・マジシャンが再び現れたが、間近でグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの爆発が直撃したためか、表情と発言が虚ろに見えた。

 

サイレント・マジシャン LV(レベル)

ATK3500

 

『悪夢は終わらないわ……』

 

 突如として、グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの残骸が散乱しているヴェノム・スワンプの水面に、半透明の上に幾つも人魂のようなものを引き連れたギミック・パペット-ビスク・ドールが現れ、3人は目の色を変える。

 

『さあ、立って……! 私を啜って立ちなさい……! 絶望はここから始まるのよ!』

 

 そして、ヴェノム・スワンプに自らの身を捧げるように手を組んで瞳を閉じたギミック・パペット-ビスク・ドールが、ヴェノム・スワンプに呑まれる。

 

 すると、ヴェノム・スワンプ全体が激しく振動を起こし、散らばっていたグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの残骸が一ヶ所に集結し、全ての残骸は水面に沈むと振動は止んだ。

 

 それを見届けたナイトメアは口を開く。

 

「"グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"の破壊効果には続きがある。その後、自分の墓地のレベル8以上の闇属性モンスター1体を除外してこのカードを墓地から特殊召喚できる。よって、墓地のレベル8以上の闇属性モンスター――"ギミック・パペット-ビスク・ドール"をゲームから除外し、"グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"を特殊召喚!」

 

 次の瞬間、ヴェノム・スワンプから這い上がるように再び、紫電を纏った機械龍の巨体がその姿を現し、ナイトメアの背後で3人を見据えた。

 

グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン

ATK3300

 

「じ、自己再生効果だと!?」

 

「全体破壊能力の上にこんな……」

 

「すっげぇ! どうやって倒せばいいんだ!?」

 

「ちなみにだが、今の蘇生で墓地のレベル8以上の闇属性モンスターは後、4体になった」

 

「後……4回自己再生を使えるの……」

 

「最低5回はあの爆発が起動するということか!? こちらの身が持たんぞ!?」

 

 そう言う万丈目をナイトメアは鼻で笑った。そして、当たり前のような様子で言い放つ。

 

「おいおい、それは楽観的過ぎるだろう。加減なしの闇のデュエルなら今が衝撃だけでなく、見たままの威力の爆発を受けるんだぜ? それに比べれば、こんなものはそよ風みたいなものだ。さあ、愉しもうじゃないか……」

 

 その言葉にそもそもこのデュエルは闇のデュエルを受ける訓練でもあったことを万丈目は思い出し、気持ちを引き締め直す。明日香も自分達が頼んだことだったことを思い出し、乗り越えなければならない壁だと言うことを再認識した。

 

「うーん……リックちょっとタイムしていいか?」

 

 するとグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンが自己再生してから、珍しく難しそうな表情を浮かべていた十代がそんなことを呟いた。

 

「理由は?」

 

「へへっ! "グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"を倒すのに万丈目と明日香と話し合いが必要だと思ったからだ!」

 

「はぁ!? デュエル中に何を言ってるんだお前という奴は!?」

 

「そうよ十代! 流石にそんなことは――」

 

「いいぞ。じゃんじゃんするといい。俺は聞かないようにしている」

 

「ほら、ナイトメアもこう言って…………は?」

 

「え…………?」

 

「お、お前!? 何を言ってるんだ! それでもデュエリストか!?」

 

 思わず、万丈目はナイトメアに向けてそう言い放った。しかし、ナイトメアは相変わらず、不敵な笑みを浮かべつつ、言葉を吐く。

 

「そちらの方が愉しいだろう? それにこれは訓練だ。それぐらい認めないと訓練にもならん」

 

 自分の意思を最初に持って行きつつ、それなりに正論を並べるナイトメア。とは言え、基本的に彼の無限に等しいデュエルへの原動力は愉しくデュエルをするというただの一点に注がれている。更に自分で自分のリスクを上げているだけのため、この場において彼の意思を曲げる意味は無かろう。

 

「サンキューリック! 皆ちょっと集合してくれ!」

 

 するとナイトメアは3人に背を向けて佇み、3人は万丈目の場所に集まり、話し合いが始まった。

 

 

「万丈目は"――――――"ってデッキに入ってるよな?」

 

「まあ、入れているが……」

 

「おお、あんな高いカードよく持ってるな!」

 

「フンッ……金さえあれば手に入る」

 

「それなら――――――られるカードはあるか?」

 

「それなら私があるわ」

 

「そうか! なら俺の"――――――――"に――――すれば――!」

 

「………………他に"グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"を倒せそうな見込みもない。いいだろう乗ってやる!」

 

「わかったわ。それなら私たちに出来ることは十代を温存させつつ、少しでもリックの戦力を削ぐことね」

 

 

 3人の話し合いは2分も掛からずに終わり、各自の持ち場に戻った段階でナイトメアが振り向き、万丈目のターンに戻る。

 

「で? サイレント・マジシャンに攻撃権は残っているが、攻撃はするか?」

 

「………………バトルフェイズは終了だ」

 

 万丈目の性格ならば1回でも蘇生回数を削ってくるのではないかと考えていたナイトメアは、少しだけ目を驚いた表情になるが、話し合いで変わったのだろうと、これまでとは別の笑みを強めた。

 

「俺は手札から速攻魔法、"サイクロン"を発動! ナイトメアの魔法・罠カードを1枚――"フィールドバリア"を破壊する!」

 

「ほう……」

 

 万丈目はどうやら、モンスターを倒す方向から生き延びて自身の妨害をする方向にシフトしたと肌で感じたナイトメアは小さく声を漏らす。そして、フィールドバリアはサイクロンから出現した竜巻により消え去る。

 

「その様子……元から"ヴェノム・スワンプ"はそこまで当てにはしてないようだな」

 

「そうでもないさ。3 VS 1だと凶悪なフィールド魔法カードには違いない。ただ、カード効果から守るなら今はそちらではない」

 

「だろうな……俺は手札から魔法カード、"エクスチェンジ"発動! お互いのプレイヤーは手札を公開し、それぞれ相手のカードを1枚選んで手札に加える! 俺が指名するのは十代だ!」

 

「えっ!? 俺か?」

 

「当たり前だろ! 次のナイトメアのターンに一番先に落ちる可能性が高いのは俺だ! だから"コイツ"はお前が持っていろ!」

 

「おう! ありがとうな万丈目!」

 

「サンダー! で、お前の手札は……HEROばっかり集めやがって……! ああもう、これでいい!」

 

 そんなやり取りをして万丈目と、十代はカードの交換を終えた。それを見届けたヴェノミナーガがポツリと呟く。

 

『サンダーさんの"エクスチェンジ"ってセルフハンデスに等しいですよね……実質相手は2枚の損失ですよ……えげつねぇ……』

 

「あのデッキ……相手プレイヤーが使えるカードほとんど入ってませんからね……」

 

 ナイトメアとヴェノミナーガはキーカードを奪われつつ、手札におジャマ関連カードやら、召喚不能な高レベルのLV(レベル)モンスターを引き取らなければならない光景を想像し、苦笑いをしていた。

 

「カードを3枚セットしてターンエンドだ!」

 

万丈目

LP1200

手札1

モンスター1

魔法・罠4

 

 

「私のターンドロー!」

 

手札

6→7

 

「私は"サイバー・チュチュ"を攻撃表示で召喚!」

 

サイバー・チュチュ

星3/地属性/戦士族/攻1000/守 800

相手フィールド上に存在する全てのモンスターの攻撃力がこのカードの攻撃力よりも高い場合、このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。

 

 明日香のフィールドにバレリーナ用の舞台衣装の名を冠した女性モンスターが現れる。ピンクブロンドの髪を首元で切り揃え、目元にはバイザーをし、紅白の衣装を身に纏い、ピンクのバレーシューズを履いた少女である。

 

 およそ、毒々しいヴェノム・スワンプのフィールドと、破壊の象徴のようなグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの前に立つには似つかわしくない存在であるが、それが却ってサイバー・チュチュの可愛らしさを強調させていた。

 

サイバー・チュチュ

ATK1000

 

『ピンク髪……ミニスカート……あざとい可愛さ……コイツはいけませんねぇ……』

 

「ヴェノミナーガさんはピンク髪の女性に親でも殺されたんですか」

 

 そんなやり取りをヴェノミナーガとナイトメアがしているのを他所に、明日香はサイバー・チュチュでバトルをしようかと考えていると、フィールドにいるサイバー・チュチュが両手を胸の前に構えた。

 

『頑張ります! 見ててくださいね明日香さま!』

 

「……………………え? チュチュ?」

 

 その様子に一番驚いたのは明日香であるが、他の3人もそれぞれ驚いている。

 

『はい! なんですか明日香さま――』

 

『案の定じゃないですか! がんばるぞいの構えなんかしやがりましてよォォォ!? ぞいって言いなさいよ、このあざとピンクめェェェ!!』

 

『ぴぃっ!? あの方スゴく怖いです明日香さま!?』

 

「ちょ、ちょっと……今は抱き着かないで。いい子だから」

 

 何故か唐突に切れたヴェノミナーガに驚いたサイバー・チュチュは、マスターである明日香に正面から抱き着く。

 

 明日香は突然のことに驚きつつも、長年使っていたカードが精霊になった嬉しさと愛おしさから少し顔を赤らめつつ、持ち前の面倒見のよさでサイバー・チュチュを宥めながら撫でていた。

 

 そんな光景を目の当たりにし、呆然とした表情になった万丈目は、全てを悟ったような温かい目をしながら(おもむろ)に呟く。

 

「………………イイ」

 

『マスター……? ちょっと後でお話がありますね……?』

 

「――な、なんだ……怖いぞお前?」

 

『う゛ー……マスターなんてもう知りません!』

 

 他の精霊が絡んでいるため、看過出来なくなったサイレント・マジシャンは笑顔で、背中からやや黒いオーラを漂わせながらそう問い掛ける。そして、我に返った万丈目がハテナを浮かべたが、サイレント・マジシャンは頬を膨らまして"私怒ってます"といった様子になった。

 

『ほらマスター! 私の分霊(こども)でもあれぐらいあざとくなれるんですよ!』

 

「ははは。カルピスの原液より、水で薄めた方が美味しく飲めるのは当たり前じゃないですか」

 

『なんだこの言葉の切れ味!?』

 

 ナイトメアとヴェノミナーガのやり取りを他所に明日香にまだ抱き着いているサイバー・チュチュは、ふとした瞬間に気づいたのか、自分の体を不思議そうに眺め、明日香を見上げて口を開いた。

 

『あれ? あれあれっ? 私……カードの精霊になってます明日香さま!』

 

「見ればわかるわ……なんでもっと抱き着くのよ」

 

『えへ……へへへ……だって明日香さまとぎゅっとできて、お喋りもできて……チュチュは幸せです……』

 

 そんなことを言いながら幸せそうな笑みで抱き着くサイバー・チュチュを、明日香は少し困り顔ではあるが、娘を見守る母親にも似た表情で見ていた。

 

 再び万丈目が据わった目で頬を赤らめ、何故か隣に瞬間移動してきたヴェノミナーガと共に言葉を呟く。

 

「………………イイ」

 

『………………イイ』

 

『お母さん!? 突然、マスターの隣に来て何してるんですか!?』

 

 そんなやり取りが隣のフィールドで行われる中、明日香はサイバー・チュチュの肩を掴んで引き剥がすと、真っ直ぐに目を見て口を開く。

 

「私もあなたと沢山話をしたいわ! けれど今はリックを倒すわよ! 行って、"サイバー・チュチュ"!」

 

『はい、明日香さま!』

 

 瞳に決意を宿したサイバー・チュチュはフィールドに舞い戻るとその場で回転を始め、彼女を中心に細身の竜巻を生む。

 

「"サイバー・チュチュ"は相手フィールド上に存在する全てのモンスターの攻撃力がこのカードの攻撃力よりも高い場合、相手プレイヤーに直接攻撃する事ができるわ! 行くわよ!」

 

 サイバー・チュチュの竜巻はグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンをすり抜け、直接ナイトメアへと攻撃を届けた。

 

「ヌーベル・ポアント!」

『ヌーベル・ポアント!』

 

「く……」

 

ナイトメア

LP7500→6500

 

「そして、手札から速攻魔法、"プリマの(ひかり)"を発動! 自分フィールド上の"サイバー・チュチュ"を墓地へ送り発動。手札の"サイバー・プリマ"を攻撃表示で特殊召喚するわ!」

 

『温かい光……』

 

サイバー・プリマ

星6/光属性/戦士族/攻2300/守1600

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、フィールド上の魔法カードを全て破壊する。

 

 そして、プリマの光により、サイバー・チュチュが光と化して消え去り、白銀のプリマが現れる。

 

サイバー・プリマ

ATK2300

 

『も ど し て』

 

「恨みたいのか、愛でたいのかどっちなんですか」

 

 そして、サイバー・プリマもまた口元に笑みを浮かべて明日香の方に振り向くと共に視線を重ねる。

 

『ええ、行きましょう。マスター』

 

「"サイバー・プリマ"!? あなたも精霊なの!?」

 

 明日香がそう言うと、サイバー・プリマは悪戯っぽい笑みを口元に浮かべ、サイバー・チュチュがしていたように胸の前で手を構えて見せる。既に美女と呼べるだけの美貌を持ち、年齢を重ねたサイバー・プリマだが、その仕草と表情はどこか可愛らしく、サイバー・チュチュを想起させるには十分だった。

 

『ふふっ、マスターも知っているでしょう? 私は――チュチュは"サイバー・チュチュ()"が成長した姿よ』

 

「ああ……そうだったわね。プリマ……いえ、チュチュ。やって!」

 

『一粒で二度美味しい! でも、ぞいって言え!』

 

「そろそろ黙ってくれませんか、ヴェノミナーガさん」

 

 相手の方へと振り向いて戻ったサイバー・プリマから、ダイヤモンドダストのように美しい閃光が放たれ、ナイトメアのフィールドを染める。

 

「"サイバー・プリマ"が召喚・特殊召喚に成功した時、フィールド上の魔法カードを全て破壊するわ! よって、万丈目くんの"サイクロン"で"フィールドバリア"を壊された今! あなたのフィールドの"ヴェノム・スワンプ"と、"パフォーム・パペット"を破壊よ!」

 

『さあ、私にこんな舞台は似合わないわ!』

 

 サイバー・プリマの輝きにより、パフォーム・パペットと共にヴェノム・スワンプは激しい音を立てて枯れるように崩壊し、通常のフィールドへと戻った。

 

「おお、やったな明日香!」

 

「連携あってこそだな! 更に"パフォーム・パペット"が消え去った今、除外された"ギミック・パペット"モンスターが返ってくることもない!」

 

「ええ、そうね!」

 

 十分と万丈目と明日香は遂に厄介極まりないフィールド魔法であるヴェノム・スワンプを破壊したことで喜びを露にする。

 

 しかし、ナイトメアは万丈目のターンに言っていたように特に気にした様子もなく、むしろ拍手でもし出しそうな程に笑みを強めており、不敵さに拍車が掛かっていた。

 

「私はカードを1枚セットしてターンエンドよ」

 

明日香

LP4000

手札1

モンスター1

魔法・罠3

 

 

「俺のターンドロー。愉しいなぁ……クククッ……」

 

手札

5→6

 

「俺は罠カード、 "トラップ・スタン"を発動。このターン、このカード以外のフィールドの罠カードの効果は無効化される」

 

 ナイトメアがグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンを見据ると、それに従ってグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンは、サイレント・マジシャンに手を向けた。

 

「そして、"グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"の効果発動。1ターンに1度、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。ターン終了時まで、そのモンスターの攻撃力は0になり、効果は無効化される。当然、俺が選択するモンスターは"サイレント・マジシャン LV(レベル)8"だ」

 

「な、なんですって!?」

 

「マズい!?」

 

 万丈目と明日香が叫ぶ中、サイレント・マジシャンの攻撃力は0まで落ちる。

 

サイレント・マジシャン LV(レベル)

ATK3500→0

 

「バトルだ。"グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"で"サイレント・マジシャン LV(レベル)8"を攻撃」

 

 グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンは即座に万丈目へと巨体から想像もつかない速度で突撃し、サイレント・マジシャンごと万丈目を破壊せんと迫る。

 

 そして、眼前でグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンは両腕を振り上げた。

 

「俺は墓地のモンスター効果を発動! 相手ターンに墓地の"ネクロ・ガードナー"をゲームから除外して、このターン、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にするぜ!」

 

ネクロ・ガードナー

星3/闇属性/戦士族/攻 600/守1300

(1):相手ターンに墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

 

 万丈目の代わりに半透明の黒い戦士が盾となり、グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの攻撃を防いだ。

 

「"パワー・バランス"の時に捨てたカードか……」

 

「そうだ! これで万丈目は――」

 

「だが、元より1ターンに1度しかほとんど攻撃しないこのデッキはそれだけでは終わらない! 手札から速攻魔法、"ダブル・アップ・チャンス"発動。モンスターの攻撃が無効になった時、そのモンスター1体を対象として発動できる。このバトルフェイズ中、そのモンスターはもう1度だけ攻撃できる。この効果でそのモンスターが攻撃するダメージステップの間、そのモンスターの攻撃力は倍になる。よって、"グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"は攻撃力6600となり、もう一度攻撃が出来る!」

 

「なんだって!?」

 

 ネクロ・ガードナーに攻撃が防がれたグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンは、空へと飛び上がると、翼の紫電を自壊する時のように放出し、大きくUターンすると共にそのまま、万丈目へと真っ逆さまに急降下した。

 

グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン

ATK3300→6600

 

「…………フンッ! 最後の最後でまたこのヒーローを目にするとはな…………元より俺は捨て駒だナイトメア! 十代を狙うべきだったな! だが、只では終わらん! 速攻魔法、"ツインツイスター"を発動! 手札を1枚捨て、フィールドの魔法・罠カードを2枚まで対象として発動できる。そのカードを破壊する! 手札の"E・HERO(エレメンタルヒーロー) フェザーマン"を墓地に捨て、お前のセットカード2枚を破壊する!」

 

 そのとき、確かに3人は竜巻ではなく、万丈目の背後にフェザーマンが現れ、フェザー・ショットにより、ナイトメアのセットカード――デストラクト・ポーションと、神の宣告が破壊される姿が見えた。

 

 そして、最初のターンから未発動だったセットカードは神の宣告だったということに気付き、既に頭上に迫るグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンは気にせず、得意気な笑みを浮かべてポツリと呟く。

 

「調子に乗るな――」

 

万丈目

LP1200→0

 

 

 万丈目は6600のグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの攻撃の直撃により、観客席の壁まで弾き飛ばされ、叩き付けられた末に気絶した。腐っても闇のデュエルということであろう。尤も、闇のデュエルならばエースモンスターの火力を倍にした一撃は、即死級のダメージであるが。

 

「万丈目!?」

 

「万丈目くん!?」

 

「大丈夫だ。死ぬどころか怪我もしていない。していても俺が後で治す。それにしても……温存し過ぎたな」

 

 墓地へ落ちた神の宣告を少し眺め、珍しくナイトメアは悔やむような表情を浮かべる。それだけでも、万丈目にとっては御の字と言える。しかし、初期ライフが12000の彼が3 VS 1のデュエルで使うのはリスクが高いため、その選択は間違いではなかっただろう。

 

 少なくとも言えることは、万丈目はこれから3人が考えた作戦の最大の障害を取り除いたのである。

 

「俺は手札から魔法カード、"苦渋(くじゅう)選択(せんたく)"を発動。自分のデッキからカードを5枚選択して相手に見せる。相手はその中から1枚を選択する。相手が選択したカード1枚を自分の手札に加え、残りのカードを墓地へ捨てる。俺は"ギミック・パペット-マグネ・ドール"を2枚、"ギミック・パペット-ビスク・ドール"を2枚、"ギミック・パペット-シザー・アーム"を1枚選択。さあ、選べ十代」

 

「ど、どう転んでも蘇生回数が3回増えるだなんて……」

 

「うーん、なら……"ギミック・パペット-シザー・アーム"を選ぶぜ。全力で戦いたいからな!」

 

「クククッ……そうか、そうか……」

 

 ナイトメアは墓地へ4体のドールを送り、これによってグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンは8回蘇生出来ることが確定した。

 

「俺はカードを3枚セットして魔法カード、"左腕(ひだりうで)代償(だいしょう)"を発動。自身の残りの手札を全て墓地に送り、デッキから魔法カードを1枚手札に加える。俺は"埋葬呪文の宝札"を手札に加え、そのまま発動。墓地の"埋葬呪文の宝札"、"ダブル・アップ・チャンス"、"左腕の代償"を除外し、カードを2枚ドロー。なら、見せてくれ……!」

 

手札

0→2

 

ナイトメア

LP6500

手札2

モンスター1

魔法・罠3

 

 

「俺のターンドロー! そして、手札から"強欲な壺"を発動! カードを2枚ドロー!」

 

手札

1→3

 

 そして、カードを引いた十代の表情に満面の笑みが灯った。

 

「よし来たぁ! まず、俺は永続罠、"リビングデッドの呼び声"を発動! エッジマンを墓地から特殊召喚するぜ!」

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) エッジマン

ATK2600

 

「そして、融合を発動! 手札のワイルドマンと、フィールドのエッジマンを融合し――"E・HERO(エレメンタルヒーロー) ワイルドジャギーマン"を融合召喚!」

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ワイルドジャギーマン

星8/地属性/戦士族/攻2600/守2300

「E・HERO ワイルドマン」+「E・HERO エッジマン」

このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃をする事ができる。

 

 十代のフィールドに金色の鎧を纏い、大剣を携えた色黒の男性のヒーローが現れた。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ワイルドジャギーマン

ATK2600

 

「罠カード発動!」

 

 すると次に声が上がったのは十代ではなく、明日香であった。

 

「"ライジング・エナジー"! 手札を1枚捨て、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる! そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで1500アップ! 私はワイルドジャギーマンを選択するわ!」

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ワイルドジャギーマン

ATK2600→4100

 

 そして、ワイルドジャギーマンから赤々とした闘気が放出され,攻撃力が激増する。

 

「よしっ! 手札から万丈目の速攻魔法、"(きん)じられた聖衣(せいい)"を発動! フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。対象はワイルドジャギーマンだぜ! 効果により、攻撃力は600ポイントダウン!」

 

「"禁じられた聖衣"だと……?」

 

『ああ……これは……』

 

 概ね、このあとの展開に予想がついたヴェノミナーガは自分のことのように溜め息を吐き、ナイトメアはより一層笑みを強めた。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ワイルドジャギーマン

ATK4100→3500

 

 ワイルドジャギーマンは金色の鎧の上から、更に金色の聖衣を纏う。結果的に、その攻撃力をグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンよりも200ポイントだけ多く上回る。

 

「へへへっ! これが俺たちの作戦だぜリック!」

 

「なるほどな……」

 

 ナイトメアは少し目を伏せると、やはり笑みを浮かべ、十代に対して高らかと言い放った。

 

「面白い! 3人の力で俺の"グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"を殺し切って見せろ!」

 

「おう! 望むところだ! 行けっ! ワイルドジャギーマン! インフィニティ・エッジ・スライサー!」

 

 まず、グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンに迫ったワイルドジャギーマンは頭からグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンを両断した。

 

 それにより、崩壊したグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンが大爆発を起こし、サイバー・プリマと、ワイルドジャギーマンをも呑み込む。

 

 そして、爆発が止み、立っていたのは――グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンと、ワイルドジャギーマンだった。

 

グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン

ATK3300

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ワイルドジャギーマン

ATK3500

 

ナイトメア

LP6500→6300

 

「"禁じられた聖衣"の効果! ターン終了時までそのモンスターは、攻撃力が600ダウンし、効果の対象にならず、効果では破壊されなくなるぜ!」

 

「……墓地から"ギミック・パペット-マグネ・ドール"を除外し、"グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"を特殊召喚だ」

 

「ワイルドジャギーマンは相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃をする事ができるぜ! 蘇った"グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"をもう一度攻撃だ!」

 

「クククッ……ああ、そうだな! 来い! 後、7回残っているぞ十代!」

 

「もちろんだ! ワイルドジャギーマン! インフィニティ・エッジ・スライサー!」

 

 再び、グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンはワイルドジャギーマンに両断されて爆破。そして、ナイトメアのフィールドに攻撃表示のグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンが現れた。

 

グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン

ATK3300

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ワイルドジャギーマン

ATK3500

 

ナイトメア

LP6300→6100

 

「墓地から"ギミック・パペット-ビスク・ドール"を除外! まだだ……まだまだ足りないだろう!?」

 

「ああ、行くぜ! インフィニティ・エッジ・スライサー!」

 

 そして、墓地のギミック・パペットとスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンを蘇生コストに、次々とグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンが倒されて行った。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

『どうして……?』

『なんで……?』

 

 そんな中、ギミック・パペット-ネクロ・ドールとギミック・パペット-ビスク・ドール――ドールキメラだったカードの精霊がヴェノミナーガと同じように半透明で、ナイトメアとヴェノミナーガの足元に出現する。

 

『"グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"の自己再生は任意効果……』

『守備表示で出すことも止めることも出来るのに……』

 

『それではあなたが報われないからでしょう』

 

 2体の人形の顔も見ずにポツリと呟いたヴェノミナーガに2体の人形の視線は集中する。

 

『せめて、マスターだけは本気で闇のデュエルをしなければ"ドールキメラ"の魂が報われないからです。誰を恨もうがいい、何を嘆こうが構わない、全てを呪ったっていい。それでもデュエルは愉しいと……それだけは忘れて欲しくない。少なくとも、マスターはそう考えていることを努々忘れてはいけませんよ』

 

『………………』

『………………』

 

 それ以降ヴェノミナーガも2体の人形も何も話さず、愉しそうな表情でグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンをワイルドジャギーマンに倒され続ける自身の主人の横顔を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「リック? どうかしたか?」

 

 あるとき、ナイトメアは片膝を突いて肩で息をしながら止まる。グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンは手に握られており、まだ終わっては居なかった。

 

 しかし、ナイトメアは闇のデュエルによるインフィニティ・エッジ・スライサーの連続攻撃のダメージと、自身にさえ被害を及ぼす、グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの爆破を浴び続けているため、それも当然と言えるだろう。

 

 というよりもこれだけ度重なるダメージを闇のデュエルで受け続け、既に7000以上のライフポイントを失いながら未だ片膝しか突けていないことの方がはっきり言って異常極まりないのだが、十代と明日香はそれに気づけるだけの実戦の知識はなく、ナイトメアだけが闇のデュエルそのままのダメージを受けていることなど夢にも思っていない。

 

 ナイトメアは未だに愉しげな笑みを浮かべながら立ち上がると、最後の墓地のコストモンスターに手を掛けた。

 

「いや、ただの寝不足だ。最近、デッキの調整ばっかりしていてね。この程度の衝突で少しばかり堪えるとは……焼きが回ったもんだ。体調管理は確りしないとな」

 

「おいおい、頼むぜ! こんな楽しいデュエルをやらないなんて無いものな!」

 

「ああ……無いな! クハハハハハ! これが最後だ! "ギミック・パペット-ネクロ・ドール"を除外し、"グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"を攻撃表示で特殊召喚!」

 

グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン

ATK3300

 

 笑いながらナイトメアは最後のグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンを特殊召喚し、ワイルドジャギーマンもそれに答えるように大剣を構え直す。

 

「よし、これで最後だ! ワイルドジャギーマンで"グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"を攻撃! インフィニティ・エッジ・スライサー!」

 

 そして、最後のグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンが斬り伏せられると、フィールドに残骸が残ることはなく、空に糸がほどけていくようにゆっくりとグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンは消え去って行った。

 

ナイトメア

LP4900→4700

 

「うし! "グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"! 倒してやったぜ! やったな明日香! 万丈目!」

 

「――――ええ……そうね!」

 

 明日香はグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンを倒し切った事と、今の2体のモンスターによる幻想のような戦いが信じられずにいたが、その言葉で我に返った。

 

「俺はターンエンドだ!」

 

十代

LP3600

手札0

モンスター1

魔法・罠3

 

 

「私のターンドロー……!」

 

手札

0→1

 

 やりきったという達成感があまりに強く、未だに現実感があまりないが、それでもデュエルを続けた。

 

「私は"荒野(こうや)女戦士(おんなせんし)"を攻撃表示で召喚よ」

 

荒野(こうや)女戦士(おんなせんし)

星4/地属性/戦士族/攻1100/守1200

(1):このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから攻撃力1500以下の戦士族・地属性モンスター1体を 攻撃表示で特殊召喚する。

 

 

 帽子を被り、マントを纏い、肌の露出の多い服装をした女剣士がフィールドに現れる。

 

荒野の女戦士

ATK1100

 

「"荒野の女戦士"で、リックにダイレクトアタックよ!」

 

 そして、荒野の女戦士がモンスターカードゾーンががら空きのリックに迫ると、明日香の心中を読んだのか、ナイトメアは一際獰猛な笑みを浮かべた。

 

「明日香……何勘違いしてるんだ?」

 

 ナイトメアは1枚の罠カードを起動する。

 

「俺もお前も十代も……まだ、誰も負けちゃいないだろうが! ここからだ! ここからが愉しいんだよ! クハハハハハ!」

 

「おっ、やっぱりまだ奥の手があるのか! ワクワクするぜ!」

 

「当たり前だよ! まずは……永続罠カード、"メタル・リフレクト・スライム"を発動! このカードは発動後、水族・水・星10・攻0/守3000の効果モンスターとなり、 モンスターゾーンに守備表示で特殊召喚する!」

 

「ここに来て、防御力3000のトラップモンスターですって!?」

 

メタル・リフレクト・スライム

星10/水属性/水族/攻 0/守 3000

このカードは罠カードとしても扱う。このカードの効果で特殊召喚されたこのカードは攻撃できない。

 

メタル・リフレクト・スライム

DEF3000

 

 ここに来て、今のワイルドジャギーマンですら破れない壁モンスター。ナイトメアは未だデュエルの気力に満ち溢れていた。また、それは十代も同様である。

 

 十代とナイトメアが先を見据えている姿を見せつけられ、きっと万丈目が残っていれば彼もそうだったのだろうと考え、明日香も気持ちを改めた。

 

「悪かったわね……ターンエンドよ!」

 

明日香

LP4000

手札0

モンスター1

魔法・罠2

 

 

「俺のターン……ドローだ!」

 

手札

2→3

 

 そして、スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンを失い、グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンをも砕かれたナイトメアのターンが始まる。

 

「墓地の"置換融合(ちかんゆうごう)"の効果発動! このカードをゲームから除外し、"グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"を融合デッキに戻し、カードを1枚ドロー!」

 

手札

3→4

 

「セットしていた速攻魔法、"異次元(いじげん)からの埋葬(まいそう)"を発動! 除外されている自分及び相手のモンスターの中から 合計3体まで対象として発動できる! そのモンスターを墓地に戻す! 俺は"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"2体と、"ギミック・パペット-ビスク・ドール"1体を墓地へ戻す!」

 

 ナイトメアは次々と魔法カードを駆使し、何かを集めて行く。

 

「そして、手札から魔法カード、"ダーク・バースト"を発動! 自分の墓地の攻撃力1500以下の闇属性モンスター1体を対象として発動でき、その闇属性モンスターを手札に加える! 俺は攻撃力1000の"ギミック・パペット-ビスク・ドール"を手札に加える! 更に手札から魔法カード、"悪夢(あくむ)(ふたた)び"を発動! 自分の墓地の守備力0の闇属性モンスター2体を対象として発動でき、その闇属性モンスターを手札に加える! 俺は防御力0の"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"2体を手札に加える!」

 

手札

4→5

 

『マスター勝って……!』

『マスター勝とう……!』

 

 ナイトメアの手札に加わったギミック・パペット-ビスク・ドールと、ギミック・パペット-ネクロ・ドールが彼の回りに現れ、彼を真っ直ぐに見つめながら左右から腕に抱き着く。

 

 その瞳は澄んだ明るいものに、表情はすっかり憑き物が落ちたような表情に変わっており、何故か2体共うっすらと涙を流している。それは元々の愛らしさも相まって小さな少女そのものにしか見えなかった。

 

 ナイトメアは少しだけ年相応の笑みを浮かべると、2体の人形の頭を優しく撫でる。そして、手札のカードに手を掛けた。

 

「ああ、最後まで一緒に戦おう! 俺は手札の"ギミック・パペット-ビスク・ドール"1体と、"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"2体の合計3体を墓地へ送り――手札から"モンタージュ・ドラゴン"を特殊召喚する! これがこのデッキの最終兵器だ……!」

 

モンタージュ・ドラゴン

星8/地属性/ドラゴン族/攻 ?/守 0

このカードは通常召喚できない。手札からモンスター3体を墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。このカードの攻撃力は、墓地へ送ったそのモンスターのレベルの合計×300ポイントになる。

 

 そこに現れたのはグリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンより遥かに巨大な3つ首の竜。しかし、首以上に巨大で発達した万力のような両腕が目を引いた。

 

モンタージュ・ドラゴン

ATK?

 

「攻撃力が決まってない……?」

 

「じゅ、十代……"モンタージュ・ドラゴン"の攻撃力は――」

 

 明日香がそれ以上の説明を続ける前に、ナイトメアが声を張り上げて叫ぶ。

 

「"モンタージュ・ドラゴン"の攻撃力は、特殊召喚するために墓地へ送ったそのモンスターのレベルの合計×300ポイントになる! そして、"ギミック・パペット-ビスク・ドール"と、"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"のレベルは8! それを3体合わせた攻撃力の合計は――」

 

 そして、モンタージュ・ドラゴンが巨大な咆哮を上げると、全身から途方もない力の奔流が巻き起こった。

 

 

「攻撃力7200だ……さあ、最後の一時(ひととき)を存分に愉しもうじゃないか……!」

 

 

モンタージュ・ドラゴン

ATK7200

 

 まさに別格かつ最終兵器の名に相応しい存在に十代と、明日香は絶句し、気がつけば通路まで溢れるほど増えた満員の状態の観客席の生徒や教員も息を呑んでいた。

 

 

 

 

 






ラスボス特有の形態の多さ。

もうちょっとだけ続くんじゃ(ラスボス特有の異様な粘り強さ)








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ボスデュエル その4



 作者が土日に書いた初投稿の新しい遊戯王の二次創作"古波さんちのメイドラゴン"も良かったらお読みください。

 リックくんがダークサイド過ぎるとのご意見がたまにありましたので、要望通り、よかれと思ってぴかぴかのライトサイドな主人公にしてみましたので、暇潰しにでもしていただければ幸いです。


 後、ボスデュエルは今回で本当に終わりで、次回はセブンスターズのノーフェイスのお話となります。





 

 

 

 

「行くぞ! "モンタージュ・ドラゴン"でワイルドジャギーマンを攻撃! 受け止めて見せろ! パワー・コラージュ!」

 

 モンタージュ・ドラゴンを召喚したナイトメアは一切臆する様子はなくモンタージュ・ドラゴンへ指示を出し、モンタージュ・ドラゴンはその拳でワイルドジャギーマンを襲った。

 

 そして、モンタージュ・ドラゴンがワイルドジャギーマンを倒そうとした次の瞬間――2体のモンスターの位置が入れ替わり、モンタージュ・ドラゴンが十代の場に、ワイルドジャギーマンがナイトメアの場にいた。

 

「……なにィ?」

 

「罠カード発動! "異次元(いじげん)トンネル-ミラーゲート-"! 自分フィールド上に表側表示で存在する"E・HERO"と名のついたモンスターを攻撃対象にした相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる! 相手の攻撃モンスターと攻撃対象となった自分モンスターの コントロールを入れ替えてダメージ計算を行う! このターンのエンドフェイズ時までコントロールを入れ替えたモンスターのコントロールを得る!」

 

 攻撃力7200のモンタージュ・ドラゴンと、攻撃力2600のワイルドジャギーマンの間で発生する戦闘ダメージは4600。ナイトメアのライフポイントをほとんど削り切れてしまうだろう。

 

 無論、それを許すナイトメアではなく、伏せていたカードを発動した。

 

「クハハハ! ならば罠カード、"愚者(ぐしゃ)裁定(さいてい)"を発動! 自分への戦闘ダメージを0にする!」

 

 モンタージュ・ドラゴンとワイルドジャギーマンの頭上に天秤が現れ、この戦闘でのダメージを無効化し、ワイルドジャギーマンは破壊された。

 

「ターン終了。さあ、何を見せてくれる?」

 

 ナイトメアのエンドフェイズ宣言により、十代の場のモンタージュ・ドラゴンはナイトメアのフィールドに戻る。

 

ナイトメア

LP4700

手札1

モンスター2

魔法・罠2

 

 

「俺のターンドロー!」

 

手札

0→1

 

 そして、十代はカードをドローし――。

 

「うっ……!?」

 

 ナイトメアと、明日香に伝わるほど大きな声で思わず声を上げていた。

 

 その十代にしてはあまりに珍しい様子から、2人は瞬時にカードをドローし損ねたということに気づき、明日香は驚き戸惑う様子で、ナイトメアは素の表情で目を丸くしている。

 

「あははは……わりぃ明日香。ターンエンドだ」

 

 そのまま十代はターンエンドの宣言をした。

 

 十代の場には魔法・罠カードだけだが、片方の罠カードはワイルドジャギーマンを融合時に、処理の関係で場に残ったリビングデッドの呼び声のため、実質1枚のみである。そして、その発言から残ったカードでモンタージュ・ドラゴンを止められないことも明白であろう。

 

十代

LP3600

手札1

モンスター0

魔法・罠2

 

 

「………………」

 

 明日香は自身のターンになるとドローせずに少し目を伏せ、すぐに見開くと十代へ向けて声を荒げた。

 

「十代……次のターンがあればなんとかなる?」

 

「………………ああ、明日香の力さえあればなんとかしてみせるぜ!」

 

「私の力……ね」

 

 そう強く言い放った十代の言葉にそう返事を返し、小さく笑みを浮かべた明日香は、決意に満ち溢れた瞳で真っ直ぐにナイトメアを見つめて口を開く。

 

「リック! 私を攻撃しなさい!」

 

「ほう……」

 

 その言葉にナイトメアは眉を上げて嬉しげに興味を示し、そうしているうちに明日香は動いた。

 

「私のターンドロー! そして、伏せていた罠カード、"強欲な瓶"を発動! カードを1枚ドロー! 更に手札から魔法カード、"強欲な壺"を発動するわ!」

 

手札

0→1→2→3

 

 明日香の手札が爆発的に増えていき、3枚に到達した直後、手札から"融合"の魔法カードが発動される。

 

「私は"融合"によって、手札の"エトワール・サイバー"、"ブレード・スケーター"を融合! そして、サイバー・ブレイダーを融合デッキから融合召喚するわ!」

 

サイバー・ブレイダー

星7/地属性/戦士族/攻2100/守 800

「エトワール・サイバー」+「ブレード・スケーター」 このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。(1):相手フィールドのモンスターの数によって、このカードは以下の効果を得る。

●1体:このカードは戦闘では破壊されない。

●2体:このカードの攻撃力は倍になる。

●3体:相手が発動したカードの効果は無効化される。

 

 それはデュエルアカデミア女子の女王――天上院明日香のエースカードであり、デュエルアカデミア本校の関係者ならば誰もが知る女性モンスターであった。

 

サイバー・ブレイダー

ATK2100

 

「"サイバー・ブレイダー"は相手がコントロールしているモンスターの数によって効果を変える! あなたのフィールド上のモンスターは"メタル・リフレクト・スライム"と、"モンタージュ・ドラゴン"の2体! よって"サイバー・ブレイダー"の攻撃力は倍になるわ! パ・ド・トロワ!」

 

サイバー・ブレイダー

ATK2100→4200

 

 サイバー・ブレイダーの攻撃力は本来ならば一撃でデュエルに決着をつけるのに十分な攻撃力となる。しかし、現在のモンタージュ・ドラゴンを超えるには、遥か遠かった。

 

「ねぇリック?」

 

「ああ?」

 

「バトルしましょう? これだけお膳立てをした私の誘い……もちろん受けてくれるわよね?」

 

 それでも明日香は挑戦的な笑みを浮かべ、ナイトメアに対して啖呵を切った。

 

 今だかつて、普段はあらゆるプロデュエリストを等しく撃滅する存在であるナイトメアが、プロデュエルにおいて、ここまで直球に他者から挑発を掛けられている姿は、テレビでは見たことがないため、観客は凍り付き、ざわざわと小さく声を立てるばかりである。

 

 そんな中、ナイトメアだけが目をギラギラと輝かせ、愉しげに口の端をつり上げていた。

 

「ターンエンドよ。さあ、来て……」

 

明日香

LP4000

手札0

モンスター2

魔法・罠1

 

 

「………………」

 

 そして、ターンはナイトメアへと移り、彼は相変わらず笑みを浮かべたまま、カードをドローする。

 

手札

1→2

 

 ナイトメアがモンタージュ・ドラゴンで選択できる攻撃対象は3つある。ひとつは十代へのダイレクトアタック、ふたつは何故か攻撃表示のままで残されている荒野の女戦士への攻撃、そしてみっつは2体の効果を持ち攻撃力が4200まで高まっているサイバー・ブレイダー。

 

「クククッ……明らかに何かが伏せてあり、それでもそんなに意思を持った目でわざわざ誘ってくるか……あり得ないなぁ……全く――」

 

 普通に考えれば、手堅いのは削り切れる可能性が最も高い十代へのダイレクトアタック。次点で攻撃さえ通れば一撃でライフポイントを削り切れる荒野の女戦士。選択の余地もないことが、攻撃が通っても3000のダメージにしかならず、意味のないサイバー・ブレイダーへの攻撃であろう。

 

 そして、ナイトメアは考えるまでもないといった様子でモンタージュ・ドラゴンへ指示を下した。

 

「デュエリストとして、その誘いには乗らざるを得ない! やれ! "モンタージュ・ドラゴン"! "サイバー・ブレイダー"を攻撃しろ! パワー・コラージュ!」

 

 ナイトメアの指示通り、モンタージュ・ドラゴンはサイバー・ブレイダーへとその巨大な拳を向ける。明日香にデュエリストのプライドを持ち出された時点で、ナイトメアに答えは1つしかなかったのである。

 

 しかし、サイバー・ブレイダーの華奢な体に命中すれば一溜まりもないであろう。

 

 それに対して明日香はほくそ笑んだ。

 

「ありがとう……罠カードオープン! "ドゥーブルパッセ"! 相手モンスターが自分フィールドの表側攻撃表示モンスターに攻撃宣言した時に発動できる! 攻撃対象モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与え、その相手モンスターの攻撃を自分への直接攻撃にするわ!」

 

「ああ……」

 

 わかっていたような軽い反応をナイトメアが返すと、モンタージュ・ドラゴンの拳をサイバー・ブレイダーは紙一重で(かわ)し、即座にナイトメアの目の前まで接近した。

 

「グリッサード!」

 

「――――!?」

 

 サイバー・ブレイダーのブレード状のスケート靴を履いた健脚から繰り出された一撃は、ナイトメアの体を一閃した。

 

ナイトメア

LP4700→500

 

 しかし、当然、ドゥーブルパッセの効果によってモンタージュ・ドラゴンの拳は明日香へと迫る中、明日香は十代へと視線を向けると口を開いた。

 

「さあ、後はあなたの仕事よ十代――」

 

「明日香ァァァ!?」

 

 それだけ言い残し、明日香は7000を超える攻撃力のモンタージュ・ドラゴンの剛拳をマトモに受け、万丈目と同様に観客席の壁際まで飛ばされて気絶した。

 

明日香

LP4000→0

 

 

「クフフフ……やるじゃないか明日香……それでこそデュエリストだな」

 

『アスリンの男気がスゴい』

 

「ヴェノミナーガさん……もうちょっとだけ黙っていて……下さい……」

 

 それだけ隣に浮かぶヴェノミナーガへと返すと、ナイトメアはサイバー・ブレイダーに一閃された体の傷を服越しに手でなぞり、掌に向けて咳をひとつ落としてから体を(ほぐ)すように肩を少し反ってからデュエルに戻った。

 

「……俺は手札から魔法カード、"ドールハンマー"を発動。自分フィールド上のモンスター1体と相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動。選択した自分フィールド上のモンスターを破壊し、デッキからカードを2枚ドロー。その後、選択した相手フィールド上のモンスターの表示形式を変更する。俺は自分フィールド上の"メタル・リフレクト・スライム"と、明日香のフィールドに残った"サイバー・ブレイダー"を選択」

 

 ライフを共有していない多人数でのデュエルでは、ライフポイントが削り切られたプレイヤーのフィールドのカードを他のプレイヤーが引き継ぐことは出来ないが、そのままフィールドや墓地に残されるため、多人数のデュエルらしい使い方と言えるであろう。

 

 メタル・リフレクト・スライムがフィールドから消えると共に、サイバー・ブレイダーは守備表示へと変わり、コントロールしているモンスターが1体になったことで戦闘によって破壊されない効果となる。

 

サイバー・ブレイダー

DEF800

 

手札

1→3

 

「さて十代……後はお前のドローに全てが掛かっている。ターンエンドだ。俺を愉しませてくれ……!」

 

ナイトメア

LP500

手札3

モンスター1

魔法・罠1

 

 

「………………」

 

 そして、ターンは3人側で最後に残った十代へと移り、ナイトメアとの一騎討ちになった。

 

 普通ならばボスデュエルは圧倒的にボス側が不利なため、この状態になること自体が珍しいが、ボスがナイトメアとなれば話は違う。

 

 彼がボスデュエルにおいて、ここまで3人側に消耗させられていること自体が異例だからだ。

 

 仮に普通のプロデュエリストが今のナイトメアと対峙したのなら、フィールド魔法"ヴェノム・スワンプ"を前に苦戦し、2度のスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンを退けることで精一杯であろう。それを後、ライフポイント500まで追い込めている時点で、3人の実力の高さが伺えた。

 

 しかし、だからと言って妥協することも諦めることも3人はしなかった。する筈もなかった。故に彼らは強くここまで来たのだ。

 

「行くぞ! ドローだ!」

 

 そして、十代はこれまでで一番力と願いを込め、スリルと楽しさにこれ以上ないほど満ちた表情をして、カードをドローした。

 

手札

1→2

 

 そして、ここにいる誰もが息を呑む中、ドローしたカードを見た十代は――ただ笑った。

 

「俺は手札から通常魔法 、"ミラクル・フュージョン"を発動! 自分のフィールド・墓地から、 "E・HERO"融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、 その融合モンスター1体を融合デッキから融合召喚する! 俺は墓地のフェザーマンとバーストレディを墓地から除外し、"E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン"を融合召喚!」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン

ATK2100

 

 そして、スパークマンの隣に並んだのは十代のフェイバリットヒーローとも言えるフレイム・ウィングマンだった。

 

 フレイム・ウィングマンの融合素材のフェザーマンは、万丈目がツインツイスターで墓地に送って居なければミラクル・フュージョンで融合できなかったが、摩天楼(まてんろう) -スカイスクレイパー-が、仮にあろうともモンタージュ・ドラゴンは倍以上の攻撃力を持つ。

 

 ヒーローの中では高いステータスと言っても、余りに高い攻撃力のモンタージュ・ドラゴンの前には足元にも及ばず、観客は大いに落胆した声を上げる。

 

 しかし、ナイトメアだけは違い、十代の方を見ながら、新たなるカードが場に出されることをただ待ち、それは訪れた。

 

「へへっ……! 行くぜリック! 俺は手札から更にもう1枚、"ミラクル・フュージョン"を発動! フィールド上のフレア・ウィングマンと、墓地のスパークマンを除外し――"E・HERO(エレメンタルヒーロー) シャイニング・フレア・ウィングマン"を融合召喚するぜ!」

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) シャイニング・フレア・ウィングマン

星8/光属性/戦士族/攻2500/守2100

「E・HERO フレイム・ウィングマン」+「E・HERO スパークマン」

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

(1):このカードの攻撃力は、自分の墓地の「E・HERO」カードの数×300アップする。

(2):このカードが戦闘でモンスターを破壊した場合に発動する。そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。

 

 白銀の姿で光を放ち、翼を持った輝かしいヒーローがこの場に見参した。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) シャイニング・フレア・ウィングマン

ATK2500

 

「そして、セットしていた魔法カード、"()()がれる(ちから)"を発動! 自分フィールド上のモンスター1体を墓地に送り、他の自分フィールド上のモンスター1体の攻撃力を、発動ターン終了時まで墓地に送ったモンスターカードの攻撃力分アップするぜ! 俺が墓地に送るのは明日香のフィールドの"サイバー・ブレイダー"だ!」

 

 明日香のフィールドに残されたサイバー・ブレイダーが光となり、シャイニング・フレア・ウィングマンはそれを纏う。光となったサイバー・ブレイダーはシャイニング・フレア・ウィングマンを背中から抱き締めているように見えた。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) シャイニング・フレア・ウィングマン

ATK2500→4600

 

「そして、シャイニング・フレア・ウィングマンの

攻撃力は、自分の墓地の"E・HERO"カードの数×300アップするぜ!」

 

 そして、シャイニング・フレア・ウィングマンの背後に、このデュエルで使用された数々のヒーローの幻影が浮かび上がる。

 

「俺の墓地の"E・HERO(エレメンタルヒーロー)"は除外されているフェザーマン、バーストレディ、フレイム・ウィングマン、スパークマンを除き――"パワーバランス"で墓地に送ったキャプテンゴールド! ネクロダークマン! エッジマン! バブルマン! バブルマン・ネオ! クレイマン! ランパートガンナー! ワイルドマン! ワイルドジャギーマンの9体だ! よってシャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は2700ポイントアップ! これが正真正銘、最後だリック!」

 

 そして、最終的なシャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は――。

 

 

シャイニング・フレア・ウィングマン

ATK7300

 

モンタージュ・ドラゴン

ATK7200

 

 

 たった100ポイント。シャイニング・フレア・ウィングマンが、モンタージュ・ドラゴンの攻撃力を僅かに上回った。

 

「究極の輝きを放て! シャイニング・フレア・ウィングマン! シャイニング・シュート!」

 

「ククク……クハハハ……ハッーハハハハハハッ! 迎え撃て"モンタージュ・ドラゴン"! パワー・コラージュ!」

 

 モンタージュ・ドラゴンで突撃するシャイニング・フレア・ウィングマンを、モンタージュ・ドラゴンは3本の首から同時に放つブレスで迎え撃つ。

 

 それはしばらく拮抗し、少しシャイニング・フレア・ウィングマンが押されたところで、更なる輝きを帯びたシャイニング・フレア・ウィングマンがブレスを突き破り、モンタージュ・ドラゴンの胸を貫き、遂に撃ち破った。

 

ナイトメア

LP500→400

 

「負けたか……」

 

 そう呟くナイトメアの目の前にシャイニング・フレア・ウィングマンが立ち、彼を見下ろした。

 

 ナイトメアはシャイニング・フレア・ウィングマンの顔を一瞥した後、クツクツと笑うと肩を竦めて見せる。

 

「そして、シャイニング・フレア・ウィングマンは、戦闘でモンスターを破壊した場合、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える! ガッチャ! 本当に楽しいデュエルだったぜリック!!」

 

「…………全く……お前らは大したものだ」

 

 晴れ晴れとした表情でそう呟いたナイトメアは、シャイニング・フレア・ウィングマンの光に呑み込まれ、7200の効果ダメージをその身に受けて、ライフポイントを削り切られた。

 

ナイトメア

LP400→0

 

 

 

 

 

「………………リック……?」

 

 効果ダメージを与え、十代のフィールドに戻ったシャイニング・フレア・ウィングマン。しかし、対戦相手のナイトメアは満身創痍以上の状態だった。

 

「クククッ……良いデュエルだった……な――」

 

 ナイトメアは全身から煙を上げ、辛うじて立っている様子でふらふらと体を揺らしつつもしっかりと十代を見据え、最後まで呟くと正面から地面へと倒れ伏す。

 

 そして、それきり全身が項垂れ、ピクリとも動かなくなった。

 

「リック……? おい、リック!?」

 

 自身だけは加減なしで闇のデュエルを行っていたため、ナイトメアは7200ものダメージを1度に受けた。それによる肉体の被害は計り知れないだろう。

 

 即死していても何も不思議ではない。明らかに異様な様子のナイトメアにデュエルを終えた十代は、自身のシャイニング・フレア・ウィングマンの横を通り抜け、焦燥を浮かべながら駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――じゃない!」

 

 突如、ナイトメアは手を支点に跳ねるように飛び起きると、バキバキと体を鳴らしつつ、高らかにそう宣言した。

 

 彼の体はどう見てもダメージを負っているが、その表情はこれ以上ないほどに喜色を示しており、まだピンピンしている様子である。

 

 更に気がつけば彼のフィールドには新たなモンスターがそこにいた。

 

 それは半透明のクリスタルの中に入り、全体的に灰色掛かった体躯に、巨大な両腕の鉤爪、灰の指骨に赤い飛膜をして、色が抜け欠けたようなくすんだ色調をした無機質なドラゴンである。

 

クリアー・バイス・ドラゴン

星8/闇属性/ドラゴン族/攻 0/守 0

このカードがフィールド上に表側表示で存在する場合,このカードの属性は「闇」として扱わない。

このカードが相手モンスターを攻撃する場合、このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の倍になる。このカードは攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に守備表示になる。

また、このカードの戦闘ダメージ計算時、手札を1枚捨てる事でこのカードは戦闘では破壊されない。手札を1枚捨てることで、このカードを破壊する効果を持つカードの効果を無効にする。

 

 また、ドラゴンは守備表示のためか、鉤爪状の腕を胸の前でクロスさせ、翼で体を覆っていた。

 

クリアー・バイス・ドラゴン

DEF0

 

ナイトメア

LP0

 

 更にナイトメアのライフポイントがゼロにも関わらず、ソリッド・ビジョンは健在で、デュエルが続いている。

 

「残念ながら今回はそうはいかない」

 

 立てた人差し指を横に振るい手振りでも強くアピールをするナイトメア。

 

 それだけではなく、ナイトメアは既にライフポイントがゼロにも関わらず、シャイニング・フレア・ウィングマンもクリアー・バイス・ドラゴンも消えておらず、彼のフィールドには1枚のトラップカードが発動していた。

 

「罠カード、"(たましい)のリレー"。ライフが0になった時に発動する。俺は手札からモンスター1体を特殊召喚し、相手の勝利条件をこの効果で特殊召喚したモンスターの破壊にする」

 

「な……なんだって!? そんなのありかよ!?」

 

「クククッ……全力で相手をしているからな。この効果により、俺は"クリアー・バイス・ドラゴン"を手札から守備表示で特殊召喚し、そして十代の勝利条件はたった今より、"クリアー・バイス・ドラゴン"の破壊に変更された。クハハハ! コレが俺のデュエルだ十代!」

 

 そして、ナイトメアは両手を広げ、ぐるりと観客席を見回すように、その場で1度大きく回ってから叫ぶように口を開く。

 

「闇のデュエル……? だからなんだ! いつ如何なる場でも常に観客を沸かせ、想像の上を歩き続けることこそがプロデュエリストの本懐! 闇のデュエルもまたエンターテイメントにしてしまえば良い! さあ、愉しいだろう十代? ワクワクするだろう?」

 

「ああ、楽しいぜ! すげぇ! すっげぇよ!? こんな闇のデュエル知らねぇ!?」

 

 十代は熱狂と興奮の渦にいるようなほど表情に興奮と喜色を強めており、心の底からデュエルを楽しめたようにナイトメアには見えた。

 

 それを見て、ナイトメアは少しだけ柔らかい笑みを浮かべ、すぐにいつも通りの獰猛な笑みに戻る。

 

「ちなみに切り札は2枚看板。なら最終兵器も2枚看板でおかしくはないだろう? そして、"クリアー・バイス・ドラゴン"の元々の攻撃力は0。そして、効果も永続効果のため"ヴェノム・スワンプ"に向いている」

 

「くっそー! それは全然考えてなかったぜ! それで、ソイツは一体どんな効果なんだ!?」

 

「ああ、コイツもプロデュエルにはまだ出していないカードだからな! じゃあ、俺のターンだ!」

 

 

手札

3→4

 

 ナイトメアはカードをドローし、カードは既に見ることはなく、直ぐにクリアー・バイス・ドラゴンに指示を出した。

 

「まず、"クリアー・バイス・ドラゴン"を攻撃表示に変更! ちなみに、このカードはフィールド上に表側表示で存在する場合、このカードの属性は"闇"として扱わない! つまり、無! 無属性のモンスターだ!」

 

「おおー!! なんかスゲーかっこいいな!! でも攻撃力ゼロなのか!」

 

クリアー・バイス・ドラゴン

ATK0

 

 クリアー・バイス・ドラゴンは攻撃表示になったことで、身を守っていた翼を背に戻し、クロスさせていた腕を横につける。

 

「さあ、バトルだ十代……"クリアー・バイス・ドラゴン"で、シャイニング・フレア・ウィングマンを攻撃!」

 

「ええっ!? 攻撃力ゼロでか!?」

 

シャイニング・フレア・ウィングマン

ATK5100

 

クリアー・バイス・ドラゴン

ATK0

 

 シャイニング・フレア・ウィングマンは受け継がれる力の効果が終了しても、現在5000以上の攻撃力を持つ。そう易々と倒せるものではなく、ナイトメアの復活から、攻撃力0のモンスターで攻撃という奇行に、遂に可笑しくなってしまったのではないかと観客から声が上がっていた。

 

 クリアー・バイス・ドラゴンはクリスタルの中から上半身を出すと、クリスタルごとシャイニング・フレア・ウィングマンの元へ、凄まじい速度で飛び、その巨大な鉤爪のような両腕をシャイニング・フレア・ウィングマンへと振り下ろした。

 

「迎え撃て、シャイニング・フレア・ウィングマン! シャイニング・シュート!」

 

 そして、シャイニング・フレア・ウィングマンはクリアー・バイス・ドラゴンに応戦し、その手が鉤爪と交錯した瞬間――。

 

「この瞬間、"クリアー・バイス・ドラゴン"の永続効果が発動する! このカードが相手モンスターを攻撃する場合、このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の――倍になる!」

 

クリアー・バイス・ドラゴン

ATK0→10200

 

 シャイニング・フレア・ウィングマンは拮抗することすらなく、瞬時に腕ごと全身を切り裂かれ、戦闘破壊された。

 

 それに見た十代は開いた口が塞がらないといった様子――実際に目を開き切り、口をあんぐりと開けながら叫ぶ。

 

「こ、攻撃力10200だって!? なんだそのとんでもない効果!?」

 

「さあ……終わりだ十代……」

 

 クリアー・バイス・ドラゴンはその場で口を開け、超過ダメージ分の5100を十代へと与える体勢に入る。

 

「クソォォォォ!? 次は絶対勝つからなぁぁぁ!? でも楽しかったぜ!!」

 

「おうよ! やれ! "クリアー・バイス・ドラゴン"! クリーン・マリシャス・ストリーム!!」

 

 クリアー・バイス・ドラゴンのブレスを孕んだ咆哮により、十代のライフポイントは削り切られ、他の2人と同様に観客席の壁まで吹き飛ばされて気を失った。

 

十代

LP3600→0

 

 

 

 

 

 

『わーい! マスター勝ったー!』

『勝った勝ったー! マスター!』

 

「おう、勝ったぞ2人とも」

 

 デュエルが終了し、気絶した者は全員医務室に運ばれた後。

 

 自室に戻ったナイトメアは、流石に肉体的に堪えたのか、体の至るところに湿布のように"ゴブリンの秘薬"や、"モウヤンのカレー"を貼ってベッドに座りつつ、その両サイドに座って足をパタパタと動かしながら喜んだ様子のギミック・パペット-ビスク・ドールと、ギミック・パペット-ネクロ・ドールの頭をそれぞれの手で撫でていた。

 

 2人の人形はあくまでも少女の死体のような精巧な人形であり、1mほどの身長しかないため、彼にとっては小さな妹が出来たような気分なのかも知れない。

 

 そんな微笑ましいような、そうでもないような光景を、どこか影が差したような呆れたような表情で眺めるヴェノミナーガはポツリと呟く。

 

 

『なんであの流れで勝っちゃうんですかマスター……いや、そこがマスターらしいんですけど……』

 

 

 その様子はヴェノミナーガを知る者からすれば珍しく疲れて見えたそうだ。

 

 こうして、残り2人のセブンスターズに備えるための訓練デュエルは終了した。個々で得るものがあったのならそれはきっと幸いなことであろう。

 

 

 

 

 ちなみに今日3人に使用されたボスデュエル用のヴェノムデッキ。プロデュエルのボスデュエルでナイトメアが使い、プロデュエリストが阿鼻叫喚の地獄絵図になる姿がお茶の間にお届けされるのは、そう遠くないほど先の話である。

 

 

 

 

 

 






1年のやや終盤の十代くんに、4年のラスト付近で戦ったクリアー・バイス・ドラゴン(アニメ効果)をぶつけるクソ野郎が主人公の小説があるらしい。

明日香さんによるリックくんに心理フェイズを仕掛けた貴重な成功例(勝てるとは言っていない)


~ラスボスリックくん(ボスデュエル用ヴェノムデッキ)~
第1形態
スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン

第2形態
グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ ドラゴン

第3形態
モンタージュ・ドラゴン

第4形態(最終形態)←イマココ
クリアー・バイス・ドラゴン(アニメ効果)


モンタージュ・ドラゴン「ヴェノム下でも2往復ぐらいは戦えて、初ターンに攻撃通せばほぼ確実に1人潰せるし、ギミパペだと極限までコスト軽くて、トレードインに対応して、最終的にアドバンスドローのコストにされるから実質ヴェノムだよ」

クリアー・バイス・ドラゴン「墓地だと闇属性だからグリーディーのコストになるよ。星8だよ。アニメ版は元々の攻撃力0で、ダメージ計算時のみ攻撃力2倍になるのは永続効果だから、幾つヴェノムカウンターが乗ってても攻撃力は2倍になるから実質ヴェノムだよ。後、実は安全地帯と腹立つぐらい相性がいいよ」

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン「そうだよ(便乗)」

グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ ドラゴン「お、そうだな(便乗)」


鬼畜モグラ「お待たせ! ドリルしかなかったけどいいかな?」


ヴェノム・スワンプ「――!?」
スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン「――!?」
グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ ドラゴン「――!?」
モンタージュ・ドラゴン「(ディスアドが)あー痛いっ痛い!!!痛いんだよお!!!」
クリアー・バイス・ドラゴン「――!?」

鬼畜モグラ「グランモールは獣族じゃなくて岩石族だということ覚えておくと、コアキ積み岩石族の取り回しが格段によくなるゾ。ちなみに作者は征竜全盛期の時代に征竜は通常召喚をまるで行わない兼ね合いから、征竜にモグラ刺して、大会で征竜のオベリスクとかバウンスしてたゾ(隙あらば自分語り)」






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セブンスターズ ノーフェイス



やっと投稿当初からずっとやりたいところまでこれたので初投稿です。

ノーフェイス編の始まりです。

力入れ過ぎて後書き含めて2万字超えましたので、どうぞごゆるりとお楽しみください。

後、ツイッターに質問箱作ったので、QAコーナーのネタにもなりますから、どんなことでもどしどしとどうぞ。




 

 

 

「明日香さまー!」

 

 いつものように授業が終わり、明日香がオベリスクブルー女子寮の自室に戻り、ソファーに腰掛けると、真っ先に正面から実体化した自身のデュエルモンスターズの精霊――サイバー・チュチュに抱き着かれた。

 

「えへへー!」

 

「はいはい……」

 

 明日香は少しだけ困ったような顔をしつつも、サイバー・チュチュを抱き止めて、あやすように背中をさすっていた。

 

 サイバー・チュチュは尻尾が生えていれば勢いよく振っていそうなほど嬉しそうな様子を見せている。

 

 数日前、ナイトメアとの闇のボスデュエル中に明日香のサイバー・チュチュが精霊として目覚めて以来、サイバー・チュチュはよほどに嬉しいのか、頻繁に抱き着いてくるのだ。

 

「でも、不思議ね。チュチュとは数日前に初めて話したばかりなのに……全然、初めてのような気がしないわ」

 

「はい! だってチュチュはカードとして、ずっとずっと明日香さまの側にいましたから! そのことは覚えているのでチュチュは明日香さまが大好きです!」

 

 そう言葉を返して抱き着く力を強めるチュチュ。そんな彼女を明日香は子を見守る母のような顔付きで眺め、受け止めていた。

 

「そうね、ごめんなさい。ずっと家族だったわね。兄さんが目覚めたらチュチュのことも話さなきゃ」

 

「吹雪さんかぁ……んーと、私は一番年下だから――」

 

 サイバー・チュチュは明日香に埋めていた頭を上げて視線を合わせると、花が咲くような笑顔で少し頬を朱に染めながら嬉しそうに呟いた。

 

「えへへ、なら明日香お姉ちゃんだね」

 

「――――――――――」

 

 その瞬間、明日香の全身を駆け巡るような衝撃と、何か多幸感にも似た極上の幸福を味わった。

 

「………………」

 

「明日香さま……?」

 

「――――ど」

 

「え……?」

 

「もう一度、お姉ちゃんって呼んで!」

 

「えっと……明日香お姉ちゃん……?」

 

 再び、明日香の中で何かが弾ける。そして、扉が開く音がしたような気がした。

 

「うふふ……兄さんはズルいわ……ずっとこんな気持ちを味わっていたのね……」

 

 そう呟くと明日香はサイバー・チュチュをぎゅっと抱き締め返し、そのまま口を開いた。

 

「私がお姉ちゃんよチュチュ!」

 

「はい、明日香お姉ちゃん!」

 

「ああ、チュチュったら可愛いわ……アイドルにだってなれるわ!!」

 

「えへへー!」

 

 二人の間に止めるものが誰もいなかったため、このやり取りは、明日香がふと我に返ってシラフになるまで続いたという。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「知っていますかジュンコさん? "ノーフェイス"さんが学校にいらっしゃるという噂?」

 

「ああ、知ってる知ってる。夜になると現れるっていうアレでしょ?」

 

「見てみたいですけどちょっと怖くもありますわねぇ」

 

「あの人、テレビで見てても一番よく分からないプロデュエリストだものねー」

 

「あら……?」

 

 ある日の朝。明日香はいつものように前田ジュンコと浜口ももえとの待ち合わせ場所に来ると、2人がそんな話をしている姿を耳にしたため、ノーフェイスがセブンスターズだという情報を持っている明日香は顔色を変えて2人に迫る。

 

「2人ともその話は本当?」

 

「あっ、おはようございます明日香さん!」

 

「おはよう明日香さん!」

 

「ええ、おはよう。それでノーフェイスのは本当かしら?」

 

 明日香はいつもより2割り増しの剣幕のため、ジュンコとももえは顔を合わせ、デュエル好きの明日香らしいと思いつつ口を開き、明日香は早速2人から仕入れた話の通り、深夜にデュエルアカデミア女子寮の湖の畔へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「くひひ……」

 

「サインありがとうございますノーフェイスさん!」

 

「やりましたわぁ~!」

 

「くひー……」

 

(ほ、本当にいたわ……)

 

 隠れることも何もせず、ノーフェイスはデュエルアカデミア女子寮から少し遠い位置の湖の畔にある苔むした岩の上に座っていた。

 

 見れば他の寮の生徒もちらほらと見られ、言われれば写真の撮影に応じたり、握手をしたり、サインを書いたりなどしており、あまりに堂々とした普通の様子だった。

 

 一般の生徒には知らされていないが、彼女はセブンスターズであり、それを知る明日香にとっては異彩を放ち、かえって不気味でしかなかった。

 

(え……というか、今サインして貰ってたのジュンコとももえじゃない!?)

 

 そんなことに気付き、ホクホクした顔でオベリスクブルー女子寮に帰っていくジュンコとももえを眺めながら明日香は顔を引きつらせていた。

 

 そして、流石にふてぶてし過ぎる態度が頭に来た明日香はデュエルディスクを展開し、ノーフェイスへと乗り込んだ。

 

「デュエルよノーフェイス! 勿論、受けて立たないわけないわよね!?」

 

「……………………」

 

 それを見たノーフェイスは対応していた生徒への手を止めると――釣り針に掛かった魚を見るように仮面の中の口の端と目を釣り上げる。

 

 そして、どこからともなくバトルシティ時代に使われていたあのデュエルディスクを取り出すと、それを展開した。

 

 これ以上、デュエリスト同士に言葉はいらないであろう。

 

「デュエル!」

 

「くひっ……!」

 

明日香

LP4000

 

ノーフェイス

LP4000

 

 

「私のターンドロー!」

 

手札

5→6

 

「私は手札から魔法カード"融合"を発動! 手札の"エトワール・サイバー"、"ブレード・スケーター"を融合! そして、サイバー・ブレイダーを融合デッキから融合召喚するわ!」

 

 デュエルアカデミア女子の女王、天上院明日香のエースカードである女性モンスター――サイバー・ブレイダーが現れた。

 

サイバー・ブレイダー

ATK2100

 

「カードを2枚セットしてターンエンドよ!」

 

明日香

LP4000

手札1

モンスター1

魔法・罠2

 

 

(考える限り、最高の手札だったわ! これでまずはノーフェイスの動きを見て――)

 

「くひひっ……!」

 

手札

5→6

 

 カードをドローしたノーフェイスは、即座に手札から魔法カード、"手札抹殺"を使用。お互いに手札のカードを全て墓地に捨て、同じだけドローするのだが、何故か彼女は捨てるカードを全て明日香に向けて見せた。

 

 

未界域(みかいいき)のビッグフット

効果モンスター 星8/闇属性/獣族/攻3000/守 0

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札のこのカードを相手に見せて発動できる。 自分の全ての手札の中から、相手がランダムに1枚選び、自分はそのカードを捨てる。それが「未界域のビッグフット」以外だった場合、さらに手札から「未界域のビッグフット」1体を特殊召喚し、自分はデッキから1枚ドローする。

(2):このカードが手札から捨てられた場合、相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。 そのカードを破壊する。

 

未界域(みかいいき)のサンダーバード

星8/闇属性/鳥獣族/攻2800/守2400

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札のこのカードを相手に見せて発動できる。自分の全ての手札の中から、相手がランダムに1枚選び、自分はそのカードを捨てる。それが「未界域のサンダーバード」以外だった場合、さらに手札から「未界域のサンダーバード」1体を特殊召喚し、自分はデッキから1枚ドローする。

(2):このカードが手札から捨てられた場合、相手フィールドにセットされたカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

未界域(みかいいき)のネッシー

星7/闇属性/水族/攻1600/守2800

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札のこのカードを相手に見せて発動できる。自分の全ての手札の中から、相手がランダムに1枚選び、自分はそのカードを捨てる。 それが「未界域のネッシー」以外だった場合、さらに手札から「未界域のネッシー」1体を特殊召喚し、自分はデッキから1枚ドローする。

(2):このカードが手札から捨てられた場合に発動できる。デッキから「未界域のネッシー」以外の「未界域」カード1枚を手札に加える。

 

暗黒界(あんこくかい)尖兵(せんぺい) ベージ

星4/闇属性/悪魔族/攻1600/守1300

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ

星8/闇属性/悪魔族/攻2700/守1800

このカードは「暗黒界の龍神 グラファ」以外の 自分フィールド上に表側表示で存在する 「暗黒界」と名のついたモンスター1体を手札に戻し、墓地から特殊召喚する事ができる。このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。相手のカードの効果によって捨てられた場合、さらに相手の手札をランダムに1枚確認する。確認したカードがモンスターだった場合、そのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

「えっ……【未界域】に【暗黒界】……?」

 

 暗黒界は暗黒界(あんこくかい)尖兵(せんぺい) ベージが、手札から捨てられた時に特殊召喚されるということは知っていた明日香だが、未界域というカテゴリーと、暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファについては全く知らなかった。

 

 そして、手札抹殺により、ノーフェイスが手札を全て捨てて、カードを5枚ドローした直後――。

 

「え……?」

 

 明日香のフィールドの全てのカードが跡形もなく吹き飛び、暗黒界(あんこくかい)尖兵(せんぺい) ベージが攻撃表示で特殊召喚され、デッキから未界域(みかいいき)のビッグフットを明日香に見せてから手札に加えた。

 

手札

5→6

 

暗黒界(あんこくかい)尖兵(せんぺい) ベージ

ATK1600

 

 起こったことはある意味、非常に単純である。墓地に捨てられたときの効果が、5枚全て発動しただけなのだ。その中でも未界域が手札から捨てられたときに発動する効果は1ターンに1度しか使用できないという制約がある。

 

 未界域(みかいいき)のビッグフットは、このカードが手札から捨てられた場合、相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。 そのカードを破壊する。

 

 未界域(みかいいき)のサンダーバードは、このカードが手札から捨てられた場合、相手フィールドにセットされたカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

 暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファは、このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。

 

 これにより、サイバー・ブレイダーは未界域(みかいいき)のビッグフットが、セットカード2枚は未界域(みかいいき)のサンダーバードと、暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファにより破壊された。

 

 そして、暗黒界(あんこくかい)尖兵(せんぺい) ベージは、このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、このカードを墓地から特殊召喚するため、この効果で、攻撃表示で特殊召喚された。

 

 最後に未界域(みかいいき)のネッシーの効果により、このカードが手札から捨てられた場合に発動できる。デッキから「未界域のネッシー」以外の「未界域」カード1枚を手札に加えるため、未界域(みかいいき)のビッグフットが手札に加わったのだ。

 

 しかし、ノーフェイスは笑い声しか上げないため、何が起きたかのかまるでわからない明日香はただ呆然とする他なかった。それを見ていた生徒たちも同じである。

 

「いひひ……!」

 

 そして、暗黒界(あんこくかい)尖兵(せんぺい) ベージが消え、手札に戻ると墓地からモンスターが姿を現す。

 

手札

6→7

 

 それはドス黒い竜の骨のような印象を受けながらも、筋肉質で人型に近い悪魔のようで巨大なドラゴンであった。

 

暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ

ATK2700

 

「グラファ……さっき捨てられたカードの1枚!? こ、攻撃力2700のモンスターがどうして……!?」

 

 そして、ノーフェイスは再び、骨で出来たアーマーを纏ったような体をして、骨のような槍を構えた暗黒界(あんこくかい)尖兵(せんぺい) ベージを攻撃表示で召喚する。

 

暗黒界(あんこくかい)尖兵(せんぺい) ベージ

ATK1600

 

暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファと、暗黒界(あんこくかい)尖兵(せんぺい) ベージの攻撃力の合計は4300だ。

 

 通ればライフポイントを削り切れる値であり、残りたったの1枚の手札で明日香がそれを止められる訳もなかった。

 

「いひひ……きひひひ……!」

 

 そして、ノーフェイスは手を掲げてバトルフェイズに入ると、暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ及び暗黒界(あんこくかい)尖兵(せんぺい) ベージは、明日香へと歩いて向かう。

 

「ああ……そんな……こんなことが……こ、こんなのデュエルじゃないわ……」

 

 それは敗者の負け惜しみでしかなかった。しかし、そうとでも言わなければ今の状況を認識出来ないのであろう。

 

 デュエリストであり、相応にプライドのある彼女は1枚の手札を地面に落としながら、その場で尻餅をついてただ震えた。

 

 しかし、何が起こる訳でもなく、2体のモンスターは明日香の目の前に到着し、グラファを腕を振り上げ、ベージは槍を向ける。

 

 ちなみに、暗黒界のモンスターはヴァリアブルブックによれば、見た目とは違い、優しい性格の者たちらしく、現に若干精霊の色が伺える2体の表情は、大変申し訳なさそうな様子に見えたが、最早そんなところに認識を向けれない明日香にはただの悪魔に見えた。

 

 そして、一思いに2体の一撃が振り下ろされると共に、明日香は――自分で自分の心がへし折れる音を聞いた。

 

明日香

LP4000→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにあれ……強過ぎるわよ……これまでのセブンスターズとレベルが違い過ぎるわ……というか比べたらこれまでがお遊戯よお遊戯……もうおしまいよ……誰も勝てないわ……三幻魔なんてあげちゃいなさいよ……」

 

 現在、オベリスクブルー寮の俺の自室の炬燵。ことの顛末を話し終えた明日香は、俺の腕を枕代わりにしながら顔を突っ伏したまま号泣していた。

 

 酷過ぎる様子だが、平均的なデュエリストならば精神崩壊していそうなほど見事なやられっぷりのため、これで踏み留まっている明日香は十分強い心の持ち主であろう。

 

『あ……【未界域暗黒界】デッキですとォォォ!? 前は【暗黒魔轟】デッキを使ってましたよね!? ってか【未界域】をどっから持ってきたんですか!?』

 

「アイツ。俺がこの前にあげた【未界域】を入れたんだな。ほら、少し前にフランツさんと沢山カード作ったときに出来た奴だよ」

 

お前(マスター)の仕業か!』

 

「あのときの俺はどうかしていたんだ……本当に……」

 

 ヴェノミナーガさんは、未だに若干後悔している俺を一喝した後、明日香をビシリと指差し、そのまま口を開く。

 

『割れてるんだよなぁ……。アスリンが割れてんだよなぁお前(マスター)のせいでよぉなぁ!』

 

「うふふ……何がオベリスクブルーの女王よ……もう"砲弾(ほうだん)ヤリ(がい)"になりたいわ……誰か"忘却(ぼうきゃく)(みやこ) レミューリア"に私を沈めて……うふふ……」

 

『これぇ! お前(マスター)見ろよこれなぁ! アスリンの(この)無残な姿よぉなぁ!? お前(マスター)()を植え付けて育ててた――』

 

「長い、うるさい、汚い」

 

『はい』

 

「オムライスが食べたいわ……卵は甘くして……」

 

「はぁ……わかったからそんなに気を落とすな。今日は間が悪かっただけだ」

 

「リック優しいわ……家事も万能だし……デュエル強いし……デュエル強いし……お願い……"ゾーン・イーター"ぐらい使い途のないデュエリストの私をお嫁に貰って……」

 

ゾーン・イーター

星1/水属性/水族/攻 250/守 200

「ゾーン・イーター」の攻撃を受けたモンスターは、5ターン後に破壊される。

 

 なんで、今日の明日香はそんなに水属性押しなんだ……しかも、ゾーン・イーターってお前……。

 

『"ゾーン・イーター"さんって、イラストなら"リヴァイアサン"と同じぐらいの能力はありそうなんですけどね……』

 

「はいはい、変なこと言ってないでシャキッとしなさい、シャキッと。さっき買ったドローパンで、金の卵が出たからやるよ」

 

「うん……ありがとう……本当に優しいわ……金の卵パン大好きなの……」

 

 どうせ、明日香はシラフに戻ると、やったことを思い出して、もう一度凹むなり、騒ぐなりするのだから滅多なことを言うんじゃないよ全く。それ以上に、女の子がすぐにそんなことを好きでもない男に言うんじゃありません。

 

 まあ、ヴェノミナーガさんの侵食率はまた若干上がっているようだが、まだ精神的には大丈夫そうなのでひとまず安堵した。

 

 とりあえず、既に俺の片腕は明日香の涙と鼻水でぐしょぐしょになっているのでかなりアレな状態である。

 

「ちょっと待ってろ。オムライスぐらいでいいなら――ん……?」

 

 とりあえず、それぐらい作ってやるかと思いつつ立ち上がり、ふと空気の入れ換えのために開けている窓の外を見ると――。

 

 

「………………クヒッ!」

 

 

 開いた窓から一番近い位置にある木の裏に発見して欲しいとばかりに、体の半分だけコソコソ隠れているノーフェイスを目にした。更にこちらが見つけると、小さく笑い、手招きをしていた。

 

 俺は小さく溜め息を吐いてから、オムライスよりも先にノーフェイスの方へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 週の始めの朝礼。デュエルアカデミア本校では、講堂に全校生徒を集め、鮫島校長がモニターで話すといういつもの行事である。

 

 既に習慣化しているため、これといって疑問を持たれることもなく、全校生徒は講堂に集まり、仲のいい友人などと談笑を交えながら待機していた。

 

 そんな中、そろそろ校長室の映像が映る時間のため、クロノス教諭が起立を促すと、全校生徒はぞろぞろと立ち上がり、私語を止めた上でその時を待った。

 

 そして、モニターが映像を映すと――。

 

 

 

『くひひ……!』

 

 

 

 デュエルディスクを腕に装着したまま、気絶して床に倒れ伏している鮫島校長と、校長室の机に座ってカメラに向けて笑いながら小さく手を振り、脚を組んだ美女の姿があり、全校生徒は困惑の渦に包まれた。

 

ウワー、ナンダ!? アスカガタオレタゾ!?

ギャグミタイニ、マウシロニタオレタッスヨ!?

ドウシマシタノ、アスカサン!?

キャー、アスカサァン!?

 

 女性の見た目はサファイアのような長い髪と、古風な舞踏ドレスを纏った長身の女性である。そして、顔に付けているのっぺらぼうのように赤い口だけあり、奇妙な光沢を帯びた藍色の仮面が特徴的であろう。

 

 プロランク11位ノーフェイス。プロデュエリスト最高位の女性であり、事実上最強の女性デュエリストが何故かそこにいたのである。無論、彼女の手にはデュエルディスクが装着されている。

 

 そして、彼女が手を振るのを止めると――何故か、ナイトメア、メデューサ、コブラの3名が画面にフィードインしてきた。無表情のナイトメア、楽しげなメデューサ、困り顔で溜め息を吐くコブラと、それぞれ表情が異なる様子が酷く印象的である。

 

 その中で2人の教員のうち女性のメデューサが前に出ると口を開いた。

 

『ここにいる3名はただの通訳なので、気にしないでください』

 

 3人は通訳とのことらしい。机に座ったままのノーフェイスがメデューサを手招きすると、彼女がやって隣に並び立った。

 

『いひひ……』

 

『皆様、おはようございます。校長先生に代わり、(わたくし)。プロランク11のプロデュエリストにして、現在はセブンスターズ6人目の刺客である"ノーフェイス"と申す者です』

 

 プロデュエルの場で一度足りとも口を開いた事がなく、ただ笑っていることが特徴のプロデュエリストだったため、その光景に再び全校生徒が衝撃を受ける。

 

『くひひ……』

 

『さて、皆様。堅苦しい挨拶はこれぐらいにして、私がセブンスターズとして皆様に与える条件は単純。ここに私の3つのデッキがあります』

 

 そう言うとノーフェイスは懐からデッキを3つ取り出し、掲げて見せた。

 

『いひっ……』

 

『鍵を持ったものだけとは言わず、この島にいる"全員"で私を攻略してみてください。あなた方の勝利条件はこの3つのデッキをたった1度ずつ倒すこと。私の勝利条件はこの瞬間から1週間後の日付が変わるまでひとつでも負けていないデッキが残っていることです』

 

 つまり単純に今より、1週間以内に誰でもいいので3回ノーフェイスを倒せばいい。実にデュエルアカデミア側に有利な条件をセブンスターズのノーフェイスは突き付けてきた。

 

『くひっ……』

 

 するとノーフェイスの胸元から1本の七星門の鍵が現れ、手に取ってこちらに見せた直後、跡形もなく消える。

 

『1本は既に入手しましたので、義理としてたった今送りました。さて、皆様が私との勝負に負ければ、今のように残り3本の七星門の鍵も全て頂きます。勿論、期間中は誰が何度でも挑戦可能です。そして、闇のデュエルではなく、ただのデュエルを行います』

 

 そして、ノーフェイスは、また小さく手を振ると口を開いた。

 

『げっげっげ……!』

 

『さあ、皆様。見ての通り、既に校長は黙らせましたので、今日から1週間授業はありません。どうぞ、学園と世界のために奮ってご参加くださいませ。ヒーローになるのはあなたかも知れませんよ?』

 

 そして、言いたいことは言い終えたのか、映像は徐々にフェードアウトしていく。

 

『ああ、ちなみに我々、通訳は通訳のお仕事でノーフェイスさんとはデュエル出来ないということが、鮫島校長がたった今、デュエルで負けたため、決定したのでご了承下さい』

 

『み、皆さん……面目ない……私に力がないばっかりに……! 全然、全く……! これっぽっちも歯が立ちませんでした……!』

 

 最後にメデューサ教諭の補足と、涙ながらにそう語る鮫島校長を最後に朝礼の映像は途切れた。

 

 暫くの静寂の末、次第に冷静さを取り戻した生徒らは考える。

 

 鮫島校長はサイバー流の師範代であり、当然だが世間一般で弱いわけがないのである。実力はプロデュエリストクラスの筈だ。それが全く歯が立たなかったということは、ノーフェイスの実力が、最早異次元レベルだということは想像に難しくない。

 

 ならばと、デュエルアカデミアの最終兵器であり、最凶のプロデュエリストと名高いナイトメアことリック・べネット――通訳なるモノのため、参加不能。

 

 教員陣で、副最高責任者であり、クロノスに次ぐ実力と役職上はなっているが、実際のところ、この学園の生徒ならば、誰が考えてもクロノスよりも更に上の実力だと答えるであろうコブラ教諭――通訳なるモノのため、参加不能。

 

 そして、新米教員だが、地位などは関係なく、学園トップクラスの実力があり、満員の実技授業をいつも執り行い、実際ハロウィンには全校生徒を抜かんばかりの勢いで実力を示して見せたメデューサ教諭――通訳なるモノのため、参加不能。

 

 結果、実質上、デュエルアカデミア三大戦力が全員通訳になるという異常事態の中、今回のセブンスターズの相手は、女性最強のプロデュエリストである。

 

 その事実を誰からともかく、生徒は自然に認識していき――軽いパニックに陥る。

 

 今回のセブンスターズは、これまでと全く異なり、やり口は遊び半分にも関わらず、明らかに本気かつ全く抜け目なく、七星門の鍵を奪いに来たのであった。

 

 そして、そんな中で更に混乱することが起こる。

 

 

「本館の試験場にノーフェイスがいるぞ!?」

 

「オベリスクブルーの女子寮にノーフェイスがいるわ!?」

 

「ラーイエローの寮にノーフェイスがいるよ!?」

 

 

 この知らせが次々と、外に出て慌てた様子で戻ってきた各寮の生徒から聞かされたのである。

 

 講堂に残っていた生徒はハテナしか浮かばないであろう。しかし、様子から情報は確かのように思えるため、十代らは動くことにした。

 

 明日香は未だに戦える様子ではないため、オベリスクブルー女子寮には丸藤亮が。本館の試験場には万丈目準が。ラーイエローの寮には遊城十代が。

 

 それぞれ向かい、ノーフェイスがいればデュエルを仕掛けることにした。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「くひひっ……」

 

「本館の試験場にいたぞ! 俺が当たりだな! よし、この万丈目サンダーとデュエルだ! ノーフェイス!」

 

「では、通訳兼審判は私、コブラが勤めさせて貰う。位置について……デュエル開始!」

 

万丈目

LP4000

 

ノーフェイス

LP4000

 

 

 

「いひひっ……」

 

「オベリスクブルー女子寮にいたぞ……! 俺が引いたようだな……2人には悪いが倒させて貰う……! デュエルだ! ノーフェイス!」

 

「はーい、なら通訳兼審判は私、メデューサちゃん先生がやらせて頂きますねぇ! じゃあ、デュエル開始ィ!」

 

丸藤亮

LP4000

 

ノーフェイス

LP4000

 

 

 

「にひひっ……」

 

「おっ、ラッキー! へへっ! ラーイエローの寮にいたぜ! よろしく頼むぜノーフェイス!」

 

「じゃあ、通訳兼審判は俺、リック・べネットが担当する。では、デュエル開始ィ!」

 

十代

LP4000

 

ノーフェイス

LP4000

 

 

 

 全員、自身がノーフェイスとデュエル出来たものと思い、3体のノーフェイスとのデュエルがそれぞれ始まり――。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

『な、奈落はやめてくださいぃぃぃ! にゃぁぁぁぁ!?』

 

「サイレント・マジシャン!? ま、また手札から落とし穴系のカードだと……? だ、ダメだ……まるで上級モンスターを出せん……ターンエンドだ。モ、モンスターが手札にいた時点で"アトラの蠱惑魔"と一緒に攻撃されて終わる……」

 

「きひひっ……!」

 

「"魔界発現世行(まかいはつげんせゆき)デスガイド"を召喚。効果により、手札・デッキから悪魔族・レベル3モンスター1体を特殊召喚する! 出されたモンスターは"魔犬(まけん)オクトロス"だ! そして、魔法カード"トランスターン"を発動し、表側表示モンスター1体を墓地へ送り、墓地のそのモンスターと種族・属性が同じでレベルが1つ高いモンスター1体をデッキから特殊召喚する! 特殊召喚されたモンスターは"メルキド 四面獣(しめんじゅう)"!」

 

「そして、"魔犬(まけん)オクトロス"がフィールドから墓地へ送られた場合、デッキから悪魔族・レベル8モンスター1体を手札に加える! "仮面魔獣(かめんまじゅう)デス・ガーディウス"を手札に加える! そして、"魔界発現世行(まかいはつげんせゆき)デスガイド"と、"メルキド 四面獣(しめんじゅう)"を生け贄に、"仮面魔獣(かめんまじゅう)デス・ガーディウス"を攻撃表示で特殊召喚!」

 

仮面魔獣(かめんまじゅう)デス・ガーディウス

ATK3300

 

「ま、待って下さいコブラ教諭!? "魔界発現世行(まかいはつげんせゆき)デスガイド"で無効になった"魔犬(まけん)オクトロス"の効果がどうして発動するんですか!?」

 

「クッ……勉強不足だぞ万丈目! 効果が無効になっているのはフィールド上のみ! すなわち、墓地に送られた時点では効果は再び元に戻るのだ! 他でも応用できる故、覚えておけ!」

 

「そ、そうなんですか……。たった2枚の手札消費で"仮面魔獣(かめんまじゅう)デス・ガーディウス"を揃え切るなんて……なんというデュエルタクティクスなんだ!?」

 

「きひっ……!」

 

「く……クソォォォォ!? というか、お前誰だと思ったらナイトメアのデ――」

 

「たひね!」

 

「のわぁぁぁぁぁ!!!?」

 

万丈目

LP2200→0

 

アトラの蟲惑魔(こわくま)

星4/地属性/昆虫族/攻1800/守1000

(1):このカードはモンスターゾーンに存在する限り、「ホール」通常罠カード及び「落とし穴」通常罠カードの効果を受けない。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分は「ホール」通常罠カード及び「落とし穴」通常罠カードを手札から発動できる。

(3):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分の通常罠カードの発動及びその発動した効果は無効化されない。

 

魔界発現世行(まかいはつげんせゆき)デスガイド

星3/闇属性/悪魔族/攻1000/守 600

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。手札・デッキから悪魔族・レベル3モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは効果が無効化され、S素材にできない。

 

魔犬(まけん)オクトロス

星3/闇属性/悪魔族/攻 800/守 800 「魔犬オクトロス」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動する。 デッキから悪魔族・レベル8モンスター1体を手札に加える。

 

トラストターン

トランスターン

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールドの表側表示モンスター1体を墓地へ送って発動できる。墓地のそのモンスターと種族・属性が同じでレベルが1つ高いモンスター1体をデッキから特殊召喚する。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

サイバー・エンド・ドラゴン

ATK8000

 

「くっ……攻撃は防がれたか……。なら俺は"サイバー・ジラフ"を召喚し――」

 

「いひひ……!」

 

「あっ、ノーフェイスさんは召喚にチェーンして"()(にえ)(ふう)じの仮面(かめん)"を発動しました。このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、 お互いにカードを生け贄にできません」

 

「な、なにっ……!?」

 

「えーと……"パワー・ボンド"の効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は、その元々の攻撃力分アップしましたが、発動したターンのエンドフェイズに自分は この効果でアップした数値分のダメージを受けますけど……何かありますか?」

 

「いひっ……!」

 

「………………俺には……ない!」

 

丸藤亮

LP4000→0

 

サイバー・ジラフ

星3/光属性/機械族/攻 300/守 800

このカードを生け贄に捧げる。このターンのエンドフェイズまで、このカードのコントローラーへの効果によるダメージは0になる。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

デストーイ・シザー・ウルフ

ATK2000

 

「にひひっ……!」

 

「"デストーイ・シザー・ウルフ"に、装備魔法"凶暴化(きょうぼうか)仮面(かめん)"を装備。"デストーイ・シザー・ウルフ"の攻撃力は3000になる」

 

デストーイ・シザー・ウルフ

ATK2000→3000

 

「おおっ、攻撃力3000か! どんな効果なんだ!?」

 

「"デストーイ・シザー・ウルフ"は、このカードの融合素材としたモンスターの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。"魔玩具融合(デストーイ・フュージョン)"で墓地から除外されたモンスターの数は5体……つまり5回攻撃だ」

 

「へー、5回攻撃か! 解説ありがとなリック――って5回……? マジかよ!? "ヒーローバリア"と、"ネクロ・ガードナー"だけじゃ全然足りねぇじゃん!?」

 

「にひっ……!」

 

「う……うわぁぁぁぁ!?」

 

十代

LP1900→0

 

デストーイ・シザー・ウルフ

星6/闇属性/悪魔族/攻2000/守1500

「エッジインプ・シザー」+「ファーニマル」モンスター1体以上

このカードは上記のカードを融合素材にした融合召喚でのみ特殊召喚できる。(1):このカードは、このカードの融合素材としたモンスターの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。

 

魔玩具融合(デストーイ・フュージョン)

通常魔法

「魔玩具融合」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分のフィールド・墓地から、「デストーイ」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

 

凶暴化(きょうぼうか)仮面(かめん)

装備魔法

装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップし、守備力は1000ポイントダウンする。このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に1000ライフポイントを払う。または、1000ライフポイント払わずにこのカードを破壊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まるで勝てん……!」

 

「全く勝てない……!」

 

「やっぱり、ノーフェイスの奴……めッッッちゃくちゃ強いな!! 明日も挑戦するぜ! これから最高の一週間だな!」

 

 朝から夜の19時程まで3人は挑み続けたが、結果はこの有り様であった。

 

 オベリスクブルーの食堂で、食事を取る3名をオベリスクブルーの男子生徒は非常に生暖かい目で眺めている。

 

 通訳兼審判は途中で居なくなるが、食事時間以外は寝ずに24時間デュエルを受け付けているそうなので、今は他のデュエルアカデミアの生徒が挑んでいると思われるが、依然として難攻不落なことには変わりない。

 

「勝ちたい……アイツに勝ちたい……! "サイバー・ドラゴン"だけでは今の俺にはやはり足りんか……! クククッ……面白くなってきたな……! リック……今ならお前の世界が見えるぞ!」

 

「クソっ! 作戦の練り直しだサイレント・マジシャン! アイツの鼻を明かすには今のデッキ構成から変える必要がある! 如何に落とし穴系とホール系に引っ掛からず、手札に腐らせるかが勝利の鍵だ! お前らもだぞ雑魚ども! 低攻撃力なら少なくとも"奈落の落とし穴"には掛からん!」

 

『はい! 精一杯、協力しますマスター!』

 

『『『頑張るよアニキー!』』』

 

 そして、前向きなのは十代だけかと思えば、残りの2人もそれなりに前向きであった。万丈目にとっては負けることなど既に慣れているため、彼なりにプライドを通しつつのメタを考え、カイザーに関しては何か新たな扉を開き始めていた。

 

 尤も3体のノーフェイスに挑めるのはこの3人だけではない。他にもノーフェイスを打倒せんと躍起になる者たちはいる。

 

 明日は2日目。セブンスターズの刺客6人目――ノーフェイスの攻略は始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは遡ることノーフェイスの襲来から少し前。如何にして【未界域】が生まれたのかの経緯のお話である。

 

 

 

 

《可愛さと強さを兼ね備え、使いやすいドラゴン族を作れ》

 

 

 

 

 ある日、海馬コーポレーションのカード開発部門に、社長である海馬瀬人からあまりに唐突で奇っ怪な直々の注文が下る。

 

 常軌を逸したレベルの青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ ドラゴン)至上主義の海馬社長を知る者からすれば、頭がおかしくなってしまったのではないかと心配されるかもしれないが、社員からすれば、勅命を受けたにも等しいため、社員は全力で応え、このカードを製作した。

 

 

ラビードラゴン

星8/光属性/ドラゴン族/攻2950/守2900

雪原に生息するドラゴンの突然変異種。巨大な耳は数キロ離れた物音を聴き分け、驚異的な跳躍力と相俟って狙った獲物は逃さない。

 

 

 海馬コーポレーションのカード開発部門の職員としては会心の出来であった。

 

 可愛らしくも力強いデザイン。 バニラカードなのであらゆる意味で使いやすい。海馬社長にとって最強であり、この会社でも最強の象徴である青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ ドラゴン)と同じレベル・属性・種族が同じである。そして、守備力は400ポイント高いが、攻撃力は50ポイント低い謙虚さも忘れていない。

 

 カード開発部門の職員が満場一致でゴーサインを出したため、海馬社長へと届けられ――。

 

 

《俺ではなく、キサラが使うんだ。そして、カード1枚ではなく、デッキを作れ》

 

 

 ――先に言えよとカード開発部門の社員一同は誰しもが思った。また、海馬社長は遠回しにラビードラゴンが、青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ ドラゴン)の能力の総合値を超えていることが気に入らないそうで、ラビードラゴンは突き返された。

 

 依頼は白紙に戻った上、とんでもない条件を満たしたデッキを作れというとんでもない制約により、カード開発部門の社員一同は頭を抱えてしまった。いくら彼らが優秀とは言え、限度があるのである。

 

 そして、"完璧を目指すためにはI2社に依頼をした方がいいのでは?"とダメ元で海馬社長に提案したところ、何故かそれはすんなりと通ってしまい、I2社に無茶振りに等しいこの依頼は回された。

 

 依頼を受けたI2社の社員もほとんどが度肝を抜かれる依頼内容だが、非常に珍しい、海馬社長からの依頼に最も気をよくしたのは、デュエルモンスターズの生みの親であるペガサス・J・クロフォードであった。

 

 純粋に事実上の彼から自身への依頼というものが、嬉しかったのであろう。ペガサス会長は、自身がトゥーンモンスターを作ったとき並みの創作意欲を見せ、それはそれは全力で依頼通りのカードたちを仕上げ――。

 

 

 

巌征竜(がんせいりゅう)-レドックス

星7/地属性/ドラゴン族/攻1600/守3000

自分の手札・墓地からこのカード以外のドラゴン族または地属性のモンスターを合計2体除外して発動できる。このカードを手札・墓地から特殊召喚する。特殊召喚したこのカードは相手のエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。また、このカードと地属性モンスター1体を手札から墓地へ捨てる事で、自分の墓地のモンスター1体を選択して特殊召喚する。このカードが除外された場合。デッキからドラゴン族・地属性モンスター1体を手札に加える事ができる。「巌征竜-レドックス」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

地征竜(ちせいりゅう)-リアクタン

星4/地属性/ドラゴン族/攻1800/守1200

ドラゴン族または地属性のモンスター1体とこのカードを手札から捨てて発動できる。デッキから「巌征竜-レドックス」1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。「地征竜-リアクタン」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

瀑征竜(ばくせいりゅう)-タイダル

星7/水属性/ドラゴン族/攻2600/守2000

自分の手札・墓地からこのカード以外のドラゴン族または水属性のモンスターを合計2体除外して発動できる。このカードを手札・墓地から特殊召喚する。特殊召喚したこのカードは相手のエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。また、このカードと水属性モンスター1体を手札から墓地へ捨てる事で、デッキからモンスター1体を墓地へ送る。このカードが除外された場合、デッキからドラゴン族・水属性モンスター1体を手札に加える事ができる。「瀑征竜-タイダル」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

水征竜(すいせいりゅう)-ストリーム

星4/水属性/ドラゴン族/攻1600/守2000

ドラゴン族または水属性のモンスター1体とこのカードを手札から捨てて発動できる。デッキから「瀑征竜-タイダル」1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。「水征竜-ストリーム」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

焔征竜(えんせいりゅう)-ブラスター

星7/炎属性/ドラゴン族/攻2800/守1800

自分の手札・墓地からこのカード以外のドラゴン族または炎属性のモンスターを合計2体除外して発動できる。このカードを手札・墓地から特殊召喚する。特殊召喚したこのカードは相手のエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。また、このカードと炎属性モンスター1体を手札から墓地へ捨てる事で、フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。このカードが除外された場合。デッキからドラゴン族・炎属性モンスター1体を手札に加える事ができる。「焔征竜-ブラスター」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

炎征竜(えんせいりゅう)-バーナー

星3/炎属性/ドラゴン族/攻1000/守 200

ドラゴン族または炎属性のモンスター1体とこのカードを手札から捨てて発動できる。デッキから「焔征竜-ブラスター」1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。「炎征竜-バーナー」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

嵐征竜(らんせいりゅう)-テンペスト

星7/風属性/ドラゴン族/攻2400/守2200

このカード名の(1)~(4)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):手札からこのカードと風属性モンスター1体を墓地へ捨てて発動できる。デッキからドラゴン族モンスター1体を手札に加える。

(2):ドラゴン族か風属性のモンスターを自分の手札・墓地から2体除外して発動できる。このカードを手札・墓地から特殊召喚する。

(3):このカードが特殊召喚されている場合、相手エンドフェイズに発動する。このカードを手札に戻す。

(4):このカードが除外された場合に発動できる。デッキからドラゴン族・風属性モンスター1体を手札に加える。

 

風征竜(ふうせいりゅう)-ライトニング

星3/風属性/ドラゴン族/攻 500/守1800

ドラゴン族または風属性のモンスター1体とこのカードを手札から捨てて発動できる。デッキから「嵐征竜-テンペスト」1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。「風征竜-ライトニング」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

 

 ――その結果がこれである。

 

 どこかからインチキ効果もいい加減にしろとの怨嗟の声が聞こえて来る気がするが、トゥーン以外には戦闘で負けずダメージも受けず、直接攻撃可能という、トゥーンモンスターに比べれば、まだ優しいといえば優しいというのも酷い話であろう。

 

 しかし、征竜の強さは凄まじく、可愛さも子征竜がカードの設定ごと満たし、全てのカードのカードパワーの高さから非常に使いやすいドラゴン族であり、海馬社長の条件を全て満たしている辺りは、流石はペガサス会長と言える。

 

 そして、ペガサス会長は自身を持って征竜たちを海馬社長へと送り出し――。

 

 

《強さと可愛さは及第点だが、キサラ――デュエルモンスターズの初心者にも回せるデッキを作れ》

 

 

 ――と言われて数日後に返って来た。

 

 確かに翌々考えれば、この征竜というカテゴリーは状況に応じた判断力で、実力の全てが左右されると言っても過言ではないため、非常に玄人向けのデッキと言えるだろう。十全に扱うということを着眼点にすれば、並みのプロデュエリストでも満足に使えるような代物ではなく、当たり前だが、初心者が使いこなすのはほぼ不可能と言っても差し支えないデッキである。

 

 珍しく海馬社長が強さ等は認めているため、自分で一旦回してから及第点を出し、デュエル初心者のキサラに渡して回したところ――キサラがデュエルディスクを構えながら、征竜のテキスト多さと、デッキ・手札・墓地のシナジーの意味のわからなさにアワアワしてしまったことは想像に難しくない。

 

 そんなわけで、再び開発は白紙に戻り、この世に3枚ずつだけ生まれてしまった征竜は――。

 

 

『オーウ、仕方ありまセーン。ならこれは我が社のモニターデュエリストのリックに回しマース』

 

 

 ――というペガサス会長の鶴の一声により、リックへ流されることに決定した。こういった理由で、時々リックにはI2社の試作カードが流れてくることもあるのである。

 

 ちなみにペガサス会長から直々に征竜を渡されたリックは丸一日放心状態だったという。カードを一目見ただけで、征竜の強さを認識してそうなったと考えたペガサスは、改めて自身が知る限り、5本の指に入る強さのデュエリストであることを確認できた。

 

 また、その日、自室に戻ったリックは"こんな下らない理由で、この世界では悪魔が生まれたのか……"等と頭を抱えていたという。

 

 その後、海馬社長の依頼は難航した。流石のペガサス会長と言っても一度征竜で出し切ってしまったため、そうポンポンと新しいものは思い付かなかったのである。

 

『俺とフランツさんで作りますよ』

 

 そんな中、カードデザイナーのフランツと、彼とプライベートでも仲がよくカードデザイナーもしているリックが名乗りを上げた。

 

 征竜を手にした直後のためか、タガが外れてしまったのか、酷くギラついていながら光のない目でリックはそう言っていたため、社員は多少退きながら心配したが、リックとフランツに依頼を一任した結果――。

 

 

『"ドラゴンメイド"です』

 

『皆! 力作だ! これは凄過ぎる!』

 

『オーウ、これはキュートデース!』

 

 

 生まれたカードは怪作であった。

 

 しかし、確かにメイドもドラゴンも絵柄やソリッド・ビジョンが可愛い。デッキとしても纏まっており、各々のカードパワーが高いためにかなり強い。召喚・特殊召喚時効果、手札誘発効果、バトルフェイズ時の変身効果の中で、2つずつそれぞれ少し違った効果を持っており、非常に分かりやすく初心者に優しい。このように屁理屈もいいところだが、与えられた条件は全て満たしている。

 

 他のカードデザイナーが見習いたくなる程度には凄まじいカテゴリーであった。馬鹿と天才は紙一重というが、まさにこれはそれが表裏一体でなければ作りようもないカテゴリーだった。

 

 他のデザイナーとしては不安しか無かったが、表立っての非の打ち所はない上に、ペガサス会長も手放しで褒めている。

 

 そのため、ドラゴンメイドは海馬社長へと送り出され――。

 

 

《まあ、いいだろう。よくやった》

 

 

 ――海馬社長を知る者からすれば鳥肌が立つような返答が来たため、"オーウ、ファントム……?"等とペガサス会長すら困惑を見せていた。

 

 きっと、カードの可愛さにキサラが目を輝かせ、楽しげにデッキを使っている姿を目にし、精霊の友達まで出来たため、彼としては言うことがなかったのであろう。元々、常識からは最も遠い人間の1人である。

 

 まあ、そうでなくとも彼は青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ ドラゴン)と弟には非常に甘い。

 

 こうして、海馬社長から始まった騒動は2つの社外に広まることもなく、円満に収まったのだった。

 

 

 

 

 

 ちなみに蛇足だが――。

 

『リックくん! 神を縛ろう!』

 

『いいですね! メリット効果の塊にすれば神も快く縛られてくれるでしょう! 10レベル以上を対象にすれば、普通のカードにも使えるので更に多目に見てくれるかも知れません!』

 

『それだ! 早速、作ろうリックくん!!』

 

『イェーイ! たーのしー!』

 

『マスターが壊れました……絶対に許さねえ! 征竜ウウウウウウ!!』

 

 それから数日程、リックのテンションが可笑しかったため、フランツと共に様々なカードが生まれたりした。

 

 その間に生まれたカードのひとつが、未界域というカテゴリーなのであった。

 

 

 

 

 

 

 







げっげっげ……!(ソプラノボイス)

ちなみに【未界域暗黒界】を倒すデュエリストは既に決まっておりますのでお楽しみにしてください。



~QAコーナー~

Q:何で明日香さんちょっと姉を名乗る不審者化し始めてるん?

A:彼女は10JOINの妹


Q:なんでこんなにノーフェイス強いねん。

A:そりゃ、神(一応)をぶん殴れるぐらい元々凄まじくポテンシャル高い邪悪――げふんげふん。イッタイゼナンデショウネー。


Q:お前、明日香さん好きだよね。

A:
 遊戯王GXを1話から通して見て、明日香のキャラクター像が少しお高い感じの女性像に固まったところに、17話でドローパンを当てて、無茶苦茶喜んでいる明日香さんを見て、ホモもノンケ問わず好きにならない奴なんているわけないんだよなぁ……。


Q:出禁食らってる通訳の3人解放したらどうなるの?

A:
コブラ先生 VS 蠱惑魔
「私のフィールド上の"ボルカニック・ラット"を生け贄に"ナイトメア・デーモンズ"を発動! 相手フィールド上に"ナイトメア・デーモン・トークン"を3体特殊召喚! そして、"ブレイズキャノンートライデント"で、"ナイトメア・デーモン・トークン"を対象に手札の"ボルカニック・バックショット"を射出! 更に"ボルカニック・バックショット"をデッキから2体墓地に送り、相手フィールド上の全モンスターを破壊する! "ブレイズキャノンートライデント"の効果で500ポイントのダメージ! "ボルカニック・バックショット"の効果で1体につき500ポイントのダメージを与え、合計1500ポイントのダメージ! 更に破壊された"ナイトメア・デーモン・トークン"1体につき、相手プレイヤーに800ポイントのダメージ! 3体で合計2400ポイントのダメージだ! よって合計で4400ポイントのダメージを与え私の勝利だ!」
※当然ながら原作3期前半のラスボスの風格

メデューサ先生 VS 未界域暗黒界
「どうですか? "一時休戦"を3枚私が握っていたご感想は? とっくに準備は万端ですよ! "ギブ&テイク"で私の墓地の"トーチ・ゴーレム"をあなたのフィールドに守備表示で特殊召喚します。更にそのレベルの数だけ自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体のレベルをエンドフェイズ時まで上かりました。私は"KA-2 デス・シザース"を選択、"トーチ・ゴーレム"はレベル8なので、これでカニはレベル12です。だが俺はレアだぜ! 賢い【未界域暗黒界】には手札事故防止のために手札誘発がほとんど入ってないことは知ってるんですよォォォ!! 喰らえ天翔蟹閃(カニパン)!」
※4000デュエルで蟹はいけない

ナイトメアくん VS ファーニマル
「俺は墓地からドラゴン族モンスターを各2体、合計8体ゲームから除外し――ギャハハハハ! 地獄を見せてやるぜ!! "焔征竜(えんせいりゅう)-ブラスター"! "瀑征竜(ばくせいりゅう)-タイダル"! "嵐征竜(らんせいりゅう)-テンペスト"! "巌征竜(がんせいりゅう)-レドックス"を特殊召喚! ここが地獄の一丁目だァ!! そして、"死者蘇生"発動!  さあ、これが地獄に仏って奴だァ! 出でよ! "ラーの翼神竜(よくしんりゅう)"! さァ! 全ての征竜を吸え! これが顕現した地獄だァ! "ラーの翼神竜(よくしんりゅう)"! 攻撃力は征竜の合計値"9400"! そして、1000ライフポイントを払い、薙ぎ払え! ゴッドフェニックスモード! 全ての相手モンスターの耐性を無視して破壊する! そして、俺を吸え! これで更に2900ポイント上昇し、"ラーの翼神竜(よくしんりゅう)"の攻撃力は12300となる! コイツで血の海渡って貰おうか……? さあ、塵芥(ちりあくた)すら残さずに潰えろォォォ! ゴッド・ブレイズ・キャノン! クククッ……クハハハハ……ハッーハハハハハハ!」
※覇王






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サイバー・ダーク

やっとさらりと入手していたサイバー流の裏デッキのフラグを回収するので初投稿です。

ポケモン技など花拳繍腿なる小説を前は匿名投稿で書いていた(発動していた)ので、そちらの方もよろしくお願いします。暇潰しになれれば幸いです。





 

 

 

「これよりノーフェイス対策会議を始める!!」

 

 ノーフェイス攻略2日目の午前中。デュエルアカデミア本館、オベリスクブルー女子寮、ラーイエロー寮の凡そ中間にあり、ノーフェイスも居ないため、オベリスクブルー男子寮にある一室を貸し切ってそれは行われた。

 

「議長は俺、万丈目サンダーだ!」

 

 ホワイトボードの前に立つ万丈目が司会をしつつ、彼が見渡せば室内にある長い机を繋げて大きな四角を作った机には――オベリスクブルー男子の丸藤亮。オベリスクブルー女子の天上院明日香とその取り巻きの浜口ももえ、ツァン・ディレ、藤原雪乃。オシリスレッドの遊城十代、丸藤翔、前田隼人がいる。

 

 要するにいつものメンバーが集まっていた。

 

「あの明日香さん。ジュンコさんを知りませんか?」

 

「あら? そういえば居ないわね。どうしたの?」

 

「昨日の朝礼からジュンコさんを見掛けませんの……」

 

 ももえは周りから見れば、片割れなどと言われる程度には仲のいい友人が見当たらないことに不安げな様子であった。そのために珍しく、明日香が男子生徒の元に出向いている場にいるのであろう。

 

「あれ? そういえば三沢の奴はどうしたんだ?」

 

「探しに行ったんスけど、ラーイエロー寮にいないみたいなんスよね」

 

「どこにも見当たらないんだナ」

 

「言われてみれば、三沢の奴も昨日から見掛けてないよなー」

 

「昨日の朝礼には出席していましたわ」

 

 そう呟いたのはももえ。彼女は三沢がいたことを確認していたらしい。ちなみに理由はイケメンだかららしい。

 

「なら枕田ジュンコと、三沢が行方不明なのか……まあ、そのうちポロっと現れるだろう」

 

「三沢だもんな」

 

「三沢くんだものね」

 

「また、どこかでデュエルの特訓やデッキ作りでもしてるかも知れないんだナ」

 

「ジュンコさんを殿方と一緒にしないで欲しいですわ……」

 

「あら? 天音はどうしたのかしら?」

 

「闇のデュエルじゃないからパスだそうよ……全くあの子ったらもう……!」

 

「うふふっ、彼女らしいわね」

 

「会議中だ! 私語は慎みたまえ!」

 

 万丈目がそう言うと、ひとまず話していた者たちは黙る。そして、万丈目はホワイトボードにマジックで、"デュエルアカデミア本館"、"オベリスクブルー女子寮"、"ラーイエロー寮"と書き出して丸で囲った。

 

「まず、現状の確認だが、意味のわからないことにノーフェイスはデュエルアカデミア本館、オベリスクブルー女子寮、そしてラーイエロー寮の3ヶ所にいる」

 

 そして、それぞれのデッキを書き出した。

 

「デュエルアカデミア本館のノーフェイスのデッキは【蟲惑魔】。オベリスクブルー女子寮のノーフェイスのデッキは【未界域暗黒界】。ラーイエロー寮のノーフェイスのデッキは【ファーニマル】だ」

 

 更に万丈目は【蟲惑魔】の特性を書き出す。

 

「【蟲惑魔】は基本的に非常にシンプルなデッキだ。蟲惑魔を展開して蟲惑魔モンスターと罠カードをデッキから補充・墓地から回収しつつ、蟲惑魔によって発動と効果を無効化されない罠カードで、徹底的に相手の展開・召喚を潰しに掛かり、アドバンテージを意地でも確保してくる長期戦向けの非常に小賢しいデッキと言える。トドメは手札枚数に差が付いたところで、手札を2枚消費するだけで"仮面魔獣(かめんまじゅう)デス・ガーディウス"を出すか、"ローンファイア・ブロッサム"から"ギガプラント"をデッキから特殊召喚してひたすら蟲惑魔を蘇生して、場と手札だけで対処しきれなくなった奴を簡単に倒してくる。呆れるほど有効な戦術だ……!」

 

 最後に"じり貧で圧死"と万丈目は書いて、握り拳を震わせながら【蟲惑魔】デッキの説明を終えた。

 

「次にカイザー先輩。【未界域暗黒界】デッキの説明を頼みます」

 

「ああ……!」

 

 万丈目からホワイトボード用マーカーを受け取った亮は【未界域暗黒界】について書き出す。

 

「【未界域暗黒界】デッキは未界域の効果で手札をランダムに選んで貰って、捨てられたときの効果から展開するのが基本のデッキとなる。そのため、【暗黒界】とは特に相性がよく、複合したデッキになっているのだろう……」

 

「私のときは初手で"手札抹殺"をされたわ……うふふっ……」

 

 明日香は遠い目をして乾いた声を漏らしながら、亮の話の途中でそう呟いていた。

 

「…………全ての【未界域】及び【暗黒界】には捨てられた時に発動する効果があるため、手札が多いときに"手札抹殺"をされるととんでもないことになる。本当にとんでもないことになるんだ……!」

 

 亮も明日香の言っていることがよくわかるのか、握り拳を強く作り、そんなことを言う。

 

「そして、魔法・罠はドローカード、手札交換カード、魔法・罠の一斉除去カード、相手ターンになった瞬間に発動出来る攻撃宣言を停止させる・戦闘ダメージを防ぐカード、例外として"生け贄封じの仮面"しか入れていない。よって(ことごと)く"サイバー・エンド・ドラゴン"による攻撃が止められ、"生け贄封じの仮面"の存在からフィールドにセットされている"パワー・ボンド"を使うことさえ難しい……! あれは正しく悪魔のようなデッキだ……!」

 

 亮の言葉だけでは伝わりにくいが、【未界域暗黒界】の最大の恐ろしさは手札を消費しながらの極めて高い爆発力を持つにも関わらず、結果的に手札消費によるディスアドバンテージはそれほど多くなく、消費しても"終わりの始まり"などの大量ドローカードですぐに立て直せる上、下級暗黒界モンスターを通常召喚し、バウンスすることで"暗黒界の龍神 グラファ"をひたすら墓地から蘇生させることも可能な極めて高い場持ちのよさと、これまでの手札を捨てるデッキカテゴリーにあるまじき高さの継続戦闘能力が売りのデッキである。

 

 そのため、ワンショットキルの十八番であるサイバー流が相手にすると、大量展開される関係で"サイバー・ツイン・ドラゴン"とは相性が悪く、希望の"サイバー・エンド・ドラゴン"も、亮とデュエルのときにはデッキのカードを変えているのか、"威嚇(いかく)する咆哮(ほうこう)"や、和睦(わぼく)使者(ししゃ)などを積んでいるため、高確率で止められる。

 

 生け贄封じの仮面が入っている理由は不明であるが、【未界域暗黒界】自体が生け贄をほとんど使用するデッキではないため、入れられないカードでもない。

 

「よしっ! 次は俺の番だな!」

 

 亮からホワイトボード用マーカーを受け取った十代が最後のデッキの説明を始める。

 

「【ファーニマル】デッキはファーニマルとエッジインプモンスターを融合素材にして、デストーイモンスターを融合召喚するデッキだぜ! 俺のHEROデッキにそっくりだ!」

 

 すると十代は他の色のマーカーも使い、胴と手がハサミで繋がり、(ほつ)れた狼のぬいぐるみのようなモンスターの絵を最初に描く。

 

 次に眉間に口があり、その口の中で赤い目が覗き、足の先と頭の先にギロチンの刃のようなものがついた紫色のイカのオモチャのような絵を描いた。

 

 両方とも元の絵よりも若干、可愛らしく描かれているように見える。

 

「へへっ! こっちの狼が"デストーイ・シザー・ウルフ"で、こっちのイカが"デストーイ・ハーケン・クラーケン"」

 

(上手いな……)

 

(十代にしてはよく描けているな……)

 

(上手いわね……)

 

(ボウヤの意外な才能ね……)

 

(私より全然上手い……)

 

(お上手ですわ……)

 

(アニキって絵上手かったんスか!?)

 

(温かみのある絵なんだナ……)

 

 その場にいる全員が十代の描いた絵に対してそんなことを思っていたが、特に口には出さず、十代も特に気にしていないため、そのまま説明は進んだ。

 

「"デストーイ・シザー・ウルフ"は融合召喚に使用した素材の数だけ攻撃出来て、"デストーイ・ハーケン・クラーケン"は2回攻撃出来るんだ! これが【ファーニマル】の主力みたいだぜ!」

 

 ちなみにハーケンとは登山道具で、壁岸の割れ目に打ち込んで使われるあの道具のことだが、デストーイ・ハーケン・クラーケンのそれはどう見てもギロチンの刃である。

 

「"凶暴化の仮面"を装備させて攻撃力1000ポイント上げて、攻撃してきたりもするから、コイツらの攻撃でライフを削り取られないようにな!」

 

 そうは言うが、基本的にこう言ったカードはワンショットキルが成立する場面でしか出されず、ノーフェイスは明らかにそれを心掛けているため、ハッキリ言って攻撃を通した時点で即終了である。

 

 しかし、当の十代は感覚でデュエルをしているためか、それについて言及することはない――というよりも気づいていないようにすら見えた。故に現状を誰よりも楽しめているのかも知れない。

 

 ちなみになぜ凶暴化の仮面という、デーモンの斧のほぼ完全な下位交換の装備魔法カードをわざわざノーフェイスが使用しているのかは謎だ。

 

「総括するとだ……馬鹿正直に真っ正面から掛かっても絶対に勝てないような相手だということだ! 何かしらの対策をするか、新しいカードを入手するかでもしない限り、現状ではどうすることもできん!」

 

 説明を終えた十代からホワイトボード用マーカーを受け取った万丈目は"結論――全部別方面にやたらめったら強い"と書いてからそう言った。

 

「って言っても新しいカードの宛なんてないぜ万丈目?」

 

「万丈目議長! 後者は仮だ! 故に前者を全力で執り行い戦う必要がある!」

 

「そうかぁ? 俺は別に負けていいなら後6日もあるから、当たってればいつか勝てると思うし、ノーフェイスもデュエルを楽しむために来ているように見えるからそれでいいと思うけどなー」

 

(たる)んどる! 七星門の鍵を守る自覚はあるのかお前は!?」

 

(新しいカードか……)

 

 万丈目と十代の議論が一方的に白熱するいつもの光景が繰り広げられる中で、亮はそんなことを考えていた。

 

 デュエルディスクについた自身のデッキをチラリと見る。

 

 そこにあるデッキはモンスターのほとんどがサイバー流のカードで作られたデッキであり、そのために限界という壁があることを亮は、ノーフェイスとのデュエルで痛いほど認識していた。

 

 故に亮の場合、それ以上の強化を望むというのならデッキそのものを変えるのでなければ、新たなサイバー流のカードが必須と言える。

 

(サイバー流の裏デッキ……)

 

 そう考えた場合、サイバー流の使い手である亮に真っ先に浮かんできた答えはそれであった。リスペクトが出来ないという理由で、使用を封じられている裏のカードがあるとのことである。

 

 しかし、亮はナイトメアと戦ったことで一切容赦のない彼の強さの本質を理解し、ノーフェイスとの戦いで心の底から勝ちを渇望する感覚を覚えた。

 

 場合によっては相手のカードの展開すら許さないという本当の意味で一切容赦のないノーフェイスは、ある意味で彼が生業にしているリスペクトデュエルと対極にいるようなデュエリストだった。今回は闇のデュエルをしていないが、闇のデュエリストということは間違いではないと亮は考える。

 

 何せ、あそこまで非情に、あそこまであらゆる方法を用い、あそこまで勝つというただ一点のみを追求した戦い方をしているデュエリストを彼は彼女を除いて知らない。恐らくは、闇の中で殺すか殺されるかのデュエルをし続け、その果てにそれさえも楽しめるような実力を身に付けた生え抜きの獣のようなモノがノーフェイスなのではないかと半ば確信していた。

 

 そして、彼の中でもう一人の強者であるナイトメアは相手のエースモンスターを展開させ、それを遥かに凌駕して上から押し潰している。

 

 リスペクトデュエルとは、相手がやりたいことを感じ取り、そのルートを出来るだけさせて敬意をしながらデュエルをすること。ならば常にそれを行い、勝とうが負けようが全力で楽しみつつ、常に勝っているナイトメアに関しても、リスペクトデュエルをしているデュエリストの定義に当てはまってしまうだろう。

 

 尤も、リスペクトデュエルを生業にするものからすれば、全力で否定されることは間違いない。そもそもナイトメア自身、自分がリスペクトデュエルをしているかと問われれば、笑いつつ否定も肯定もしないであろう。

 

(なら俺はリスペクトデュエルを続け……リスペクトデュエルのせいで負けるのか……? デュエリストとして……勝ちにこだわるのは悪なのか……?)

 

 それは矛盾を孕んだ問いであろう。どれだけ考えようともその先の答えは出ない。リスペクトデュエルに近いものを続けながら勝ち続けるナイトメアと、勝ちだけを是が非でも奪い取るノーフェイスは両方とも異常なのだ。

 

(俺の求める強さとは……勝利とはなんだ……?)

 

 他の全員が方向性は多々あれ、ノーフェイスに対してそれぞれの方法で戦い方を模索し、挑戦的な光を目に宿す中、亮の疑問と葛藤は心に浮かんだ暗雲のように晴れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 2日目の昼時。亮は鮫島校長の校長室の前にいた。

 

 理由は鮫島校長がサイバー流の師範代であり、自身はその門下生のため、彼と話すためだ。とは言ってもそれは自身が一桁の年齢の頃の話であり、約3年前に入学してからは一生徒として接しており、サイバー流の師範代として接することはなかったが、今日は数年振りに門下生として話すことにしたのである。

 

(鬼にならねば……見えぬ地平がある! ノーフェイスのように非情な強さを! ナイトメアのような鬼に俺自身を! それが俺の目指すべき最強のはずだ……!)

 

 尤も、既に彼の腹の中はある程度決まっていたようで、今回来た理由は相談というより、絶縁にも近いであろう。最早、後戻りの出来ぬ覚悟が亮の表情には見て取れた。

 

 しかし、それでもあえて師範代の元に来たのは、彼自身の最後の良心と、未だに葛藤を続ける心を完全に断ち切るためなのかも知れない。

 

「失礼します」

 

 そして、亮は意を決して校長室の扉を開き、談話室代わりの向き合わされたソファーに座る鮫島校長の背を見つけ――。

 

 

「いや……鮫島校長……。その……ノーフェイスは私の仲間みたいなものです。なので、そもそもマッチポンプというか、今回の件は元を正せばノーフェイスをセブンスターズに送り込んだ私の責任ですので、気を落とさずにどうか頭を上げてください!」

 

「いえっ! そもそもの話、コブラ先生にセブンスターズについて調査を依頼したのは私で、十代くんたちの制裁デュエルにどうにか介入出来ないかとコブラ先生に相談したのも私です! 遡れば全て私が撒いた種です……! 私が昨日の朝にノーフェイスさんにデュエルで勝てさえすればそれで全てが丸く収まった筈でした……!」

 

「いえいえいえいえ! そんなことおっしゃらずに気持ちを楽にして、私を責めてください! まさか、ノーフェイスが私をマッチポンプにすらさせてくれないだなんて予想外どころの話ではなかったですから!?」

 

「そんな!? 我が学舎の生徒を学校長が責めれよう筈もありません! 有り得ませんが、仮にリックくんが間違っているとしても、それを許容し、尊重しつつも正し、導けなかった私は教職員としてあるまじき不徳者です!」

 

「いえいえいえいえ! こちらが――」

 

「そんなことはありません! こちらが――」

 

 

 何故か、ナイトメアと鮫島校長が互いに頭を深々と下げ合いながら、非常に低姿勢な謝罪合戦を繰り広げていた。既に会話は平行線に達しており、2人とも妙な方向に全く折れないため、最早中身がない上、まるで終わる気配がない。

 

 そんな気の抜けた光景を目にした亮は、それまでの覚悟がやや腑抜けさせられてしまったことを感じ、思わず顔を歪める。

 

 しかし、決意は変わらず、そのまま鮫島校長の元まで向かうと真剣な表情で亮は口を開いた。

 

「お話ししておきたいことがあります」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 亮は自身がナイトメアとノーフェイスというデュエリストとデュエルをし、それから自身がデュエリストとして考えた思いの丈を全て語った。

 

「亮くん……あなたは……」

 

「強さとはなんですか師範!! デュエリストとして勝ちたいことは悪ですか……! 最強を求めないことが善なのですか……!」

 

「それは……」

 

 それは血を吐くような叫びであった。

 

 そして、ノーフェイスに負け、この調子外れな茶番劇のようにも関わらず、世界の命運が掛かった一週間が始まってしまったことをつい先程まで悔いていた鮫島校長は、咄嗟に言い返すことが出来ず、言葉を詰まらせる。

 

 しかし、リスペクトデュエルはそもそも闇のデュエルに相対することを想定していない。互いに全力を出し切り、勝っても負けても悔いなく楽しめるようにという心持ちこそが本質である。

 

 しかし、そのようなことは百も承知で、全てを捨て去る覚悟を終えてこの場に来た亮にとっては最早関係のないことであろう。

 

「俺はリック……いえ、ナイトメアとデュエルをし、鬼にならねば見えぬ地平があることを知りました! そして、ノーフェイスとのデュエルで、勝利への渇望を得ました! ならば俺は俺のやり方で最強を目指したい!」

 

 きっと彼が独りで堕ちきったのなら、このような想いを誰かに告げることはなかっただろう。しかし、未だ鬼と人の中間に立つ亮は師範にだけは話すことを選んだ。

 

 そして、この場において、師範以外に一部始終を聞いている者――ナイトメアが口を開く。

 

「カイザー先輩。あなたはふたつ思い違いをしています」

 

「なに……?」

 

「まず、私は一度たりともカード……いえ、精霊を蔑ろにしたことはなく、自身が強くなるための踏み台にしたこともありません。あなたと最初にデュエルをしたときも言った通りです」

 

 そう言われ、デュエルのときに自身のカードや精霊を愛していると言っていたことを亮は思い出した。

 

「そして、私が思うにデュエリストの強さとは2通りあります。ひとつはカイザー先輩が考えるように孤高の強さ。誰も信用せず、誰も求めず、勝ちだけを得ようとする故の強さ」

 

 ナイトメアは言葉を区切ってから告げる。

 

「もうひとつは全てを信じる故の強さです」

 

「全てを信じる故の強さ……?」

 

 まさか、ナイトメアの口からそのような温かい思想が語られたことに亮だけでなく、鮫島校長も目を大きく見開いて驚いていた。

 

「私がどちらかはカイザー先輩自身に決めていただきたいですが……」

 

 そう言うとナイトメアは制服の片側に手を掛け、その片側の内側が見えるように開く。

 

 そこには三沢以上に大量のデッキがズラリと並んでおり、これだけのデッキを常に肌身離さずに持ち歩く、ナイトメアの異常とも言える信念が垣間見えた。

 

 そして、そのうちのひとつを手に取り、デッキごと裏側のカードを亮にも鮫島校長にも見えるように前へと掲げた。

 

サイバー・ダーク・キール

星4/闇属性/機械族/攻 800/守 800

(1):このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合、自分または相手の墓地のレベル4以下のドラゴン族モンスター1体を対象として発動する。そのドラゴン族モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

(2):このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップする。

(3):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合に発動する。相手に300ダメージを与える。

(4):このカードが戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードの効果で装備したモンスターを破壊する。

 

「そ、それは……!? 紛失したサイバー流の裏デッキのカード!?」

 

「サイバー流の裏デッキだと……!?」

 

 余りにもリスペクトに欠けるためと、初代サイバー流が封印した裏サイバー流の存在は亮も知るところだった。尤も、紛失していたということは初耳であったが。

 

「本堂を留守にしているときに盗まれたのです。サイバー流の門下生だった元プロデュエリストの子が、"修羅になる"とそれだけ書き置きを残して……。そういえば、あの子がプロデュエリストとして最後に対戦した相手は――まさか!?」

 

「ええ、私に敗れた果てに"キメラテック"を使用し、それでも勝てなかった。その約1ヶ月後にこの"サイバー・ダーク"を使って闇討ちしてきました。まあ、俺が持っている辺りから勝敗は察してください」

 

「なん……だと……?」

 

 つまりそれは、ナイトメアを打倒するためだけに亮と全く同じ思考に至り、禁を破って鬼――最早復讐の修羅と化し、裏サイバー流――サイバー・ダークのデッキを手にした同門の誰かが、それでもナイトメアに勝てなかったということを意味している。

 

 つまり亮が目指した最強は、ナイトメアの中では所詮取るに足らない程度のことだったというわけだ。

 

「まさかとは思いましたが、そのようなことが……」

 

「ええ、貰えるものは全て貰っておく主義ですから……。しかし、裏サイバー流という響きで、そこまで大切なデッキだと思っていなかったのでお返ししますよ。ただ、その前に――」

 

 ナイトメアはソファーに立て掛けていた自身のドーマのデュエルディスクを取ると、サイバー・ダークデッキを差し込んで亮へと向き合った。

 

「あなたを変えてしまった者の務めとして、一戦だけこのデッキを使った私とデュエルを致しませんか?」

 

「全てを信じる強さとやらがわかるのか……?」

 

「ええ、もちろん」

 

 そう言った直後のナイトメアの視線は、亮の背後にある何もない空間を一瞥したが、それに亮が気づくことはなかった。

 

「それなら見せましょう。全てを信じ、カードの精霊と心を通わせる闇のデュエリストのデュエルを」

 

 その言葉に亮は少し考えてから首を縦に振り、鮫島校長も一度亮を変えた彼ならば、もう一度変えられるのではないかと考え、ひとまずは静観することにした。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 場所はデュエルアカデミア本館の屋上に移された。

 

 今は昼休憩の時間であり、この場所はそれなりのスペースがあり、あまり生徒が集まらない上、他の場所から見られることも少ないため、静かにデュエルをするには向いている場所なのだ。また、十代が授業をサボっているときは基本的にここにいる。

 

 そして、その場でナイトメアとカイザー亮は対峙し、鮫島校長は息を呑んでデュエルを見守った。

 

『デュエル!』

 

ナイトメア

LP4000

 

カイザー

LP4000

 

 

「私のターンドロー」

 

手札

5→6

 

 先攻はナイトメア。そして、彼は引いたカードに目を落とすと、笑みを浮かべて1枚の魔法カードを発動する。

 

「私は手札から永続魔法、"守護神(しゅごしん)宝札(ほうさつ)"を発動。発動時に手札を5枚捨てます」

 

「"守護神(しゅごしん)宝札(ほうさつ)"だと!?」

 

「あのカードは……!?」

 

 それは亮や鮫島校長も知る。コストと効果が明らかに釣り合っていないドローカードであった。

 

「その代わり、自分はデッキから2枚ドローし、このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、 自分ドローフェイズの通常のドローは2枚になります」

 

「たったそれだけのアドバンテージの魔法を……!」

 

「ええ、そうですね」

 

 その上、カードに何らかの耐性が付いているわけでもない。破壊されればそれで終わりであるため、あまりにも割りに合わないと言えるであろう。

 

 舐めているのではないかと考えた亮を誰が責めれようか。しかし、残り全ての手札を墓地へと送ったナイトメアの様子は真剣そのものであった。

 

「私はカードを2枚ドロー」

 

手札

0→2

 

 そう言って、ナイトメアは守護神(しゅごしん)宝札(ほうさつ)の効果でカードを2枚ドローし――再び口の端をつり上げて笑みを浮かべた。

 

「私はたった今墓地へ送った"ギミック・パペット-ビスク・ドール"をゲームから除外し、同じく墓地へ送った"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"を墓地から特殊召喚します」

 

ギミック・パペット-ネクロ・ドール

星8/闇属性/機械族/攻 0/守 0

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが墓地に存在する場合、自分の墓地からこのカード以外の「ギミック・パペット」モンスター1体を除外して発動できる。このカードを特殊召喚する。

 

ギミック・パペット-ネクロ・ドール

ATK0

 

「あれは……」

 

 ギミック・パペット-ネクロ・ドール。ナイトメアが十代、万丈目、明日香の3人を相手にしたボスデュエルで用いていたモンスターカードである。

 

 試合中は、そのステータスの低さからヴェノム・スワンプを逃れ、また高レベルの闇属性モンスターということを利用し、ヴェノムと名のつくドラゴンの融合召喚に用いられていた。

 

 それは本当にサイバー・ダークデッキなのかと疑問を覚えた亮だったがそれは直ぐに杞憂となる。

 

『マスター! 呼んだー?』

 

「ああ、頼むよ。ネクロ」

 

『うんっ! 任せて!』

 

「私は手札から魔法カード、"突然変異(メタモルフォーゼ)"を発動。自分フィールド上モンスター1体を生け贄に捧げ、生け贄に捧げたモンスターのレベルと同じレベルの 融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。私はレベル8の"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"を生け贄に捧げ――同じくレベル8の"サイバー・ツイン・ドラゴン"を攻撃表示で特殊召喚」

 

サイバー・ツイン・ドラゴン

星8/光属性/機械族/攻2800/守2100

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

(1):このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。

 

 ナイトメアの背後に見慣れた双頭の機械龍が姿を表し、亮へと視線を向ける。

 

サイバー・ツイン・ドラゴン

ATK2800

 

『がおー! おっきくなった!』

『ぐおー! 強いぞー!』

 

「融合なしでサイバーのカードを全く使わずに"サイバー・ツイン・ドラゴン"を出すとは……!」

 

「これは――」

 

 鮫島校長も驚いてはいるが、それ以上に亮にとっては衝撃だった。

 

 そもそも彼にとってのデュエルの中心はサイバー・ドラゴンそのものである。そこだけは彼がどれほど身を堕としても変わらないことだろう。

 

 それ故、サイバー流でサイバーのカードを使わず、全く新しい方法を当然のように取り入れているナイトメアの姿勢は、そもそもデッキを組み直すのではなく、新たなサイバーのカードを求めた亮にとっては衝撃以外の何物でもなかった。

 

 そして、何よりも凄まじいことはそれを守護神(しゅごしん)宝札(ほうさつ)から当然のようにそのコンボを繰り出したことであろう。

 

 初手の手札に守護神(しゅごしん)宝札(ほうさつ)及びギミック・パペット-ネクロ・ドールとギミック・パペットモンスターが来ることと、たった2枚のドローで突然変異(メタモルフォーゼ)が引けることを信じていなければ、守護神(しゅごしん)宝札(ほうさつ)をデッキに入れることは出来ない。

 

 これが決して博打ではない何かであるということを亮はありありと見せつけられたのだ。

 

「精霊、デッキ、自分自身、勝利……あらゆる全てを信じて戦えれば、負けても何も悔いはないでしょう?」

 

 驚く亮を見てか、ナイトメアは口を開く。

 

「全てを疑って賢く生きるよりも、全てを信じた末に死ぬ馬鹿の方が私はいい。だから私は仮に闇のデュエルで今死のうと何も後悔はないのですよ。デュエリストとして、最期の一瞬まで私は笑ってみせましょう」

 

 それは信じるという言葉だけでは決して説明のつかない狂気の域にまで達した何かだった。

 

 そして、亮は遂に気づく――。

 

 ナイトメアが抱いているものは、立っている境地は、鬼など遥かに生温いデュエルの極地だと。リスペクトやアンチリスペクト以前に、決してマトモな人間ならば至ろうとはしない、至ってはいけない"理想のデュエリスト"そのものであると。

 

「最後に手札からフィールド魔法、"ブラック・ガーデン"を発動します」

 

 その瞬間、フィールドは屋上の景色から、(いばら)に閉ざされた深い暗黒の庭へと姿を変える。鬱蒼としつつも異様な生命力に溢れたそのフィールドは恐怖を孕んでいた。

 

「さあさあ、愉しいデュエルを致しましょう! ドローの1枚、戦闘のひとつ、魔法・罠のひとつにさえも全てを信じて己の魂を賭ける――それが私の愛したデュエルの形です」

 

 そう言って笑うナイトメアの様子は、無邪気にさえ思えてしまった。本当に心の底から信じ、愉しんでいるのだろう。

 

ナイトメア

LP4000

手札0

モンスター1

魔法・罠2

 

 

「…………そうか……クククッ」

 

 ナイトメアの本質を理解した亮は小さく声を漏らす。

 

(なんて……なんて簡単なことだったんだ……何も失う必要なんて最初からなかった……)

 

 そして、鬼の地平以上のモノを見た亮はゆっくりと自らのデッキに手を掛ける。

 

「いいだろう……俺も全てを信じてみよう……!」

 

 そして、亮はカードをドローし、目の前の怪物と同じ境地に立つことを理想に対峙した。

 

 

 

 







\【サイバー・ダーク(ガーデン軸)】/

暇潰しでしか使わない(魔改造されていないとは言っていない)

!鎧黒竜《がいこくりゅう》-サイバー・ダーク・ドラゴン

!鎧獄竜《がいごくりゅう》-サイバー・ダークネス・ドラゴン
※リックくんの裏サイバー流デッキで一番酷い点(まだ戻ってない)

サイバー・ダーク・インパクト!「ファッ!?」



~QAコーナー~
Q:十代って絵上手いの?

A:そんな描写は特にないですが、明らかに自作の寝るときに使っている自分の顔のお面が、やたら可愛いデザインで十代の顔の特徴をわりと捉えていて上手いなと作者が思ったからですね。可愛い絵とか得意そうな気がします。

Q:全てを信じる故の強さとか言ってるクセにリックくんが超邪悪なのはなんで?

A:信じているレベルがフェイスレス並みだから。






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サイバー流 VS 裏サイバー流



初投稿なので、次はそろそろメイドの方を投稿したいと思います。

このデュエルにちょっと力入れ過ぎたぜ……(23500字)





 

 

「俺のターンドロー!」

 

手札

5→6

 

(リックのフィールドには"サイバー・ツイン・ドラゴン"がいる……。そして、フィールド魔法、"ブラック・ガーデン"というものが存在するが……一体、あれはどのような効果を持ったフィールド魔法カードだ……?)

 

 そう思いつつも、亮は自身の手札に目を通す。

 

"サイバー・ドラゴン"

"サイバー・ドラゴン"

"サイバー・ドラゴン"

"パワー・ボンド"

"サイバネティック・フュージョン・サポート"

"アタック・リフレクター・ユニット"

 

(勝てる……! "パワー・ボンド"で攻撃力8000の"サイバー・エンド・ドラゴン"を融合召喚すれば、"サイバー・ツイン・ドラゴン"の攻撃力を4000以上、上回ることで、そのまま決着だ。リックの場には実質今は効果のない"守護神の宝札"と"サイバー・ツイン・ドラゴン"しかない。効果の不明なフィールド魔法の"ブラック・ガーデン"のみで8000もの攻撃力の"サイバー・エンド・ドラゴン"を受け止めれるとは到底思えない)

 

「俺は手札からパ――」

 

 そこまで口にしたところで亮は手を止める。

 

(待て……仮にだ。"ブラック・ガーデン"が、リックがボスデュエルで使用していた"ヴェノム・スワンプ"以上のステータスダウンカードだった場合どうする……?)

 

 そのようなカードが存在するか疑問だったが、ブラック・ガーデンの効果は未だ発動していないことが気掛かりになる。仮にナイトメアが生きていれば、デュエルに敗北するのはパワー・ボンドによるダメージを負った自分自身に他ならない。

 

(それに"サイバー・ツイン・ドラゴン"の攻撃力にも守備力にも変化がないことがあまりに奇妙だ)

 

『がおー!』

『ぎゃすー!』

 

サイバー・ツイン・ドラゴン

ATK2800

 

 ナイトメアの場のサイバー・ツイン・ドラゴンは、ブラック・ガーデンの異様な静けさの中で、不気味に佇んでいる。

 

(…………リックはなぜ、"ブラック・ガーデン"よりも先に"サイバー・ツイン・ドラゴン"を出した? 仮にメリット効果を受けさせる効果ならば普通逆の筈だ。…………そうか――!)

 

「クククッ……なるほどな。デメリット効果から"サイバー・ツイン・ドラゴン"を逃がしたのか」

 

 それを聞いたナイトメアは目を丸くして驚いていた。その様子はいつも対戦相手を手玉に取るデュエルをしているナイトメアからは余り見られない光景であり、それだけで亮は少し勝った気分を味わえる。

 

「"ブラック・ガーデン"の効果を知っていましたか?」

 

「いや……だが、リックのプレイングを見ていれば大方の予想はつく。相手フィールドにのみモンスターが存在するため、俺は手札から"サイバー・ドラゴン"を攻撃表示で特殊召喚する!」

 

サイバー・ドラゴン

5/光属性/機械族/攻2100/守1600

(1):相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

 

サイバー・ドラゴン

ATK2100

 

(さあ、何が起こる……?)

 

「これ以上ないほど正解ですよ。この瞬間、フィールド魔法 "ブラック・ガーデン"の永続効果が"サイバー・ドラゴン"に掛かります。"ブラック・ガーデン"の効果以外でモンスターが表側表示で召喚・特殊召喚される度に発動し、 そのモンスターの攻撃力を半分にします」

 

「クククッ……! これは怖かったな」

 

 サイバー・ドラゴンがフィールドに出た直後、ブラック・ガーデンから荊が伸び、サイバー・ドラゴンから力を奪い去った。

 

サイバー・ドラゴン

ATK2100→1050

 

「その後、そのコントローラーは、 相手のフィールドに"ローズ・トークン"1体を攻撃表示で特殊召喚します」

 

ローズ・トークン

2/闇/植物族/星/攻 800/守 800

 

ローズ・トークン

ATK800

 

 そして、奪い去った力はナイトメアのフィールドで花を開き、一輪の薔薇となった。

 

「りょ、両プレイヤーのモンスターの攻撃力を半減させるフィールド魔法なんて一体なんのため――――なるほど"サイバー・ダーク"のためということですか……」

 

 サイバー・ダークの効果を理解しているであろう鮫島校長はそう漏らすが、亮はそれを聞きつつも反応せずに手札のカードを使用した。

 

(クククッ! ならば勝てる……!)

 

 ブラック・ガーデンの能力に気づけたことは、亮のデュエルセンスもあるだろう。しかし、何よりもそれ以上に勝利への渇望を持っていなければ気付かなかったことだ。

 

「ならば……俺は手札から"パワー・ボンド"を発動! 手札の"サイバー・ドラゴン"2体を融合し、"サイバー・ツインドラゴン"を攻撃表示で融合召喚!」

 

サイバー・ツイン・ドラゴン

ATK2800

 

 亮のフィールドにナイトメアのフィールドのものと全く同じモンスターが融合召喚される。

 

「"パワー・ボンド"の効果により、攻撃力は元々の倍になる!」

 

サイバー・ツイン・ドラゴン

ATK2800→5600

 

「"ブラック・ガーデン"の永続効果により、攻撃力は半減。そして、私の場に"ローズ・トークン"が攻撃表示で特殊召喚されます」

 

サイバー・ツイン・ドラゴン

ATK5600→2800

 

ローズ・トークン

ATK800

 

「これで、"ブラック・ガーデン"の効果で攻撃力が800の"ローズ・トークン"が2体並んだな……バトルだ! "サイバー・ツイン・ドラゴン"で、"ローズ・トークン"を攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト! 第一打!」

 

「亮……あなたは――!?」

 

 それは本来の亮ならばまずしなかったであろう、相手へのリスペクトを度外視し、勝利を掴み取るためだけの行為であり、思わず、鮫島校長は声を上げる。

 

「俺は墓地の"ネクロ・ガードナー"を除外し、"サイバー・ツイン・ドラゴン"の攻撃を1度だけ無効にします」

 

ネクロ・ガードナー

星3/闇属性/戦士族/攻 600/守1300

(1):相手ターンに墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

 

「1度は防いだか……!」

 

 "守護神の宝札"で墓地に落とした初期手札にあったのであろう。これでローズ・トークンを戦闘破壊し、超過ダメージで決着を付けることは不可能となる。

 

「ならば……俺の"サイバー・ツイン・ドラゴン"で、リックの"サイバー・ツイン・ドラゴン"を攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト! 第二打!」

 

「――!? なるほど……迎え撃て"サイバー・ツイン・ドラゴン"! エヴォリューション・ツイン・バースト!」

 

『えう゛ぉりゅーしょん!』

『ついんばーすと!』

 

 互いのサイバー・ツイン・ドラゴンによるエヴォリューション・ツイン・バーストが衝突し、しばらく拮抗した上、最後に爆発するとその余波で2体のサイバー・ツイン・ドラゴンは消し飛んだ。

 

『またねー!』

『ばいばーい!』

 

「"パワー・ボンド"の効果を受けるのは、ターン終了時に融合召喚されたモンスターをコントロールしていたプレイヤー。場にいなければダメージはそもそも発生しない」

 

「フフッ……! "ブラック・ガーデン"の効果を見抜いた上で利用されるとは、流石にカイザー先輩程のサイバー流使い相手に同じ土俵では戦えませんね」

 

「クククッ……! 俺も丁度その程度で終わってしまえばどうしたものかと考えていたところだ。残っている"サイバー・ドラゴン"で"ローズ・トークン"を攻撃! エヴォリューション・バースト!」

 

 そして、会話の続け様にサイバー・ドラゴンから放たれた攻撃により、ナイトメアのフィールドのローズ・トークンが1体消し飛ぶ。

 

ナイトメア

LP4000→3750

 

 鮫島校長にとってリスペクトも何もない行為を受けようとも、ナイトメアは平然とその行為をカードで受け止めた上、心底愉しそうに笑っている。

 

 むしろ、亮のその行為さえもリスペクトデュエルであるような様は、あまりに堂々としたデュエリストの佇まいであり、ひと欠片も亮を責めるような様子はなく、ナイトメアと鮫島校長の認識の差が垣間見えた。

 

「俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

カイザー

LP4000

手札1

モンスター1

魔法・罠1

 

 

「では私のターン。"守護神の宝札"の効果で通常ドローに加えてもう1枚カードをドロー」

 

手札

0→2

 

「それにしても私がこれまでにプロデュエルで相手をしたようなサイバー流のプロデュエリストの方なら、とっくに"パワー・ボンド"で"サイバー・エンド・ドラゴン"を出して自爆していましたので、本当にカイザー先輩は強いデュエリストですよ」

 

「わ、私も……サイバー・エンドを出していたと思います……」

 

「さ、鮫島校長……そういうのは思っていても言わない方が得ですよ……?」

 

 顔を赤くして呟かれた鮫島校長の呟きに、ナイトメアは少し顔をひきつらせて答えていた。

 

「俺はまず、手札から"天使の施し"を発動。3枚ドローして、2枚捨てます。更に"強欲な壺"を発動してカードを2枚ドロー」

 

手札

1→3

 

「そして、"サイバー・ダーク・ホーン"を召喚」

 

サイバー・ダーク・ホーン

星4/闇属性/機械族/攻 800/守 800

(1):このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合、自分または相手の墓地のレベル4以下のドラゴン族モンスター1体を対象として発動する。そのドラゴン族モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

(2):このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップする。

(3):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、 その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

(4):このカードが戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードの効果で装備したモンスターを破壊する。

 

 現れた亮にとって初めて見るサイバー・ダーク・ホーンというサイバーダークモンスターは、竜の胴体の骨がそのまま機械化したような何とも言えないデザインをし、やや風化した骨の色合いをした奇妙なモンスターだった。

 

サイバー・ダーク・ホーン

ATK800→400

 

 更にブラック・ガーデンの効果により攻撃力が半減し、亮の場に"ローズ・トークン"が特殊召喚される。

 

ローズ・トークン

ATK800

 

「ほう……それが話に聞くサイバー流裏デッキのサイバーダークモンスターか」

 

「ええ、では"サイバー・ダーク・ホーン"の効果発動。このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合、自分または相手の墓地のレベル4以下のドラゴン族モンスター1体を対象として発動。そのドラゴン族モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備し、このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップします。これにより、墓地の"比翼(ひよく)レンリン"を"サイバー・ダーク・ホーン"に装備」

 

比翼(ひよく)レンリン

ユニオン

星3/闇属性/ドラゴン族/攻1500/守 0

(1):1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象とし、このカードを装備カード扱いとしてそのモンスターに装備する。 装備モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する。

●装備されているこのカードを特殊召喚する。

(2):装備モンスターの元々の攻撃力は1000になり、1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。

 

 全身が鳥のような羽毛で覆われ、2つの首と尻尾を持ち、体がエメラルドグリーンで、翼が赤みを帯びたドラゴンが墓地から現れる。

 

 そして、比翼レンリンはサイバー・ダーク・ホーンの真下に来ると、自分から背中を擦り付けるようにサイバー・ダーク・ホーンの竜のあばらの骨のような部分に体を捩じ込ませると、サイバー・ダーク・ホーンからコードが伸びて比翼レンリンの体に突き刺されると共に、あばらの骨のような部分で動かないように押さえた。その間、終始比翼レンリンは当然のような様子で全く動じていない様子である。

 

「じ、自分からサイバーダークモンスターに装備されるサイバー・ダーク以外のドラゴン族がいるんですか!?」

 

「まあ、"比翼レンリン"はユニオンモンスターで、元々効果を悪用――もとい、サイバー・ダークのためにいるような効果ですから。サイバー・ダーク・レンリン……ではなく"比翼レンリン"の効果は、装備指定のないユニオンモンスターの効果かつ、装備モンスターの元々の攻撃力は1000になり、1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できるというものです」

 

「……? ユニオンしたモンスターにしか効果は発動しないのではないのか?」

 

 飼い主にペットは似るというが、逆にペットに飼い主が似るという言葉を現しているかのように、ナイトメアは指を振って否定する。その動作は若干、人間に擬態したヴェノミナーガに似ていた。

 

「チッチッチ、"比翼レンリン"の効果は、装備モンスターの元々の攻撃力は1000になり、1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できるのです」

 

 少し間を置いた後、亮は気がついたのか小さく笑う。

 

「…………フッ。なるほど、つまりはあれか、まず"比翼レンリン"の効果と、既に"ブラック・ガーデン"の効果処理後に元々の攻撃力が変動するため、"サイバー・ダーク・ホーン"の元々の攻撃力は1000ポイントになる」

 

サイバー・ダーク・ホーン

ATK400→1000

 

「そして、見たところ"サイバー・ダーク"の共通効果が、装備モンスターの攻撃力を加えるようなもので、"比翼レンリン"の攻撃力の1500ポイントが加算され、ついでに2回攻撃を付与するといったところか……」

 

サイバー・ダーク・ホーン

ATK1000→2500

 

「ご名答。そのままです」

 

「まさしく"悪用"だな。というより、まるでその使い方が正解のような噛み合い方だ」

 

「ぶ、"ブラック・ガーデン"といい、"比翼レンリン"といい、サイバー・ダークではないのにサイバー・ダークの為にあるようなカードがそんなにあるのですか!?」

 

「鮫島校長。あったと言うよりも思ってもみないカードが全く、別のカードと噛み合うのはデュエルモンスターズならよくある話ですよ。それを探すのも醍醐味のひとつです。…………先攻で"フェニキシアン・クラスター・アマリリス"を10回破壊したりとか……」

 

 鮫島校長へ向けられた話は亮にとっても、さっきの突然変異(メタモル・フォーゼ)のように尤もなことであった。最後に呟かれたナイトメアの言葉は、誰にも聞こえないような小さな声だったため、2人には聞こえていない。

 

「……更に手札から"死者蘇生"を発動。"サイバー・ダーク・エッジ"を墓地から攻撃表示で特殊召喚します」

 

サイバー・ダーク・エッジ

ATK800→400

 

 竜の骨のようだったサイバー・ダーク・ホーンとは違い、サイバー・ダーク・エッジは三葉虫に刃の両翼を付けた機械のようなモンスターだった。

 

ローズ・トークン

ATK800

 

 そして、サイバー・ダーク・エッジの力からまた亮の場にローズ・トークンが現れる。

 

サイバー・ダーク・エッジ

星4/闇属性/機械族/攻 800/守 800

(1):このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合、自分または相手の墓地のレベル4以下のドラゴン族モンスター1体を対象として発動する。そのドラゴン族モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

(2):このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップする。

(3):このカードは直接攻撃できる。その場合、このカードの攻撃力はダメージ計算時のみ半分になる

(4):このカードが戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードの効果で装備したモンスターを破壊する。

 

「そして、このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功したため、"サイバー・ダーク・ホーン"と同じく、自分または相手の墓地のレベル4以下のドラゴン族モンスターを装備。私は自分の墓地からドラゴン族の"サイバー・ダーク・カノン"を装備します。これにより、"サイバー・ダーク・エッジ"の攻撃力は"サイバー・ダーク・カノン"の1600ポイント分アップ」

 

サイバー・ダーク・カノン

星3/闇属性/ドラゴン族/攻1600/守 800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードを手札から捨てて発動できる。デッキから機械族の「サイバー・ダーク」モンスター1体を手札に加える。

(2):このカードを装備カード扱いとして装備しているモンスターが戦闘を行ったダメージ計算時に発動できる。 デッキからモンスター1体を墓地へ送る。

(3):モンスターに装備されているこのカードが墓地へ送られた場合に発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

 するとまた墓地からモンスターが現れ、その姿は機械の竜の尻尾だけに申し訳程度の翼が付いたような妙なモンスターだった。

 

 そして、今度はサイバー・ダーク・エッジの背中にサイバー・ダーク・カノンが連結され、表面が内側からせりあがると砲塔のような形に伸びる。

 

サイバー・ダーク・エッジ

ATK400→2000

 

「ほう……やはり"サイバー・ダーク"のサポートモンスターの"サイバー・ダーク"もいるのだな」

 

「……え? リックくん……? 私、そんなカードは知ら――」

 

「更に私は! "ブラック・ガーデン"の第2効果を発動。フィールドの全ての植物族モンスターの攻撃力の合計と同じ攻撃力を持つ、 自分の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。このカード及びフィールドの植物族モンスターを全て破壊し、全て破壊した場合、対象のモンスターを特殊召喚します」

 

 鮫島校長の言葉を切るように轟音を立ててブラック・ガーデンがフィールド上のローズ・トークンを伴って消滅すると共に、墓地からモンスターが現れる。

 

「破壊した"ローズ・トークン"の攻撃力の合計は2400。よって現れろ"ダークフレア・ドラゴン"」

 

ダークフレア・ドラゴン

星5/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守1200

このカードは自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつゲームから除外し、手札から特殊召喚できる。1ターンに1度、手札とデッキからドラゴン族モンスターを1体ずつ墓地へ送る事で、自分または相手の墓地のカード1枚を選択してゲームから除外する。

 

 それはプロミネンスリングのようなものを体の周囲に展開しているような黒い細身のドラゴンだった。

 

ダークフレア・ドラゴン

ATK2400

 

「なんだ。"ブラック・ガーデン"は捨てたのか?」

 

「正直、侮っていました。"ブラック・ガーデン"さえ、置いてあればカイザー先輩の展開を大きく狂わせられるだろうと思っていたんですが……さっきのように"ローズ・トークン"を利用されて死に兼ねないので止めますよ」

 

「クククッ……殊勝だな」

 

「ええ、俺は"ダークフレア・ドラゴン"の効果発動。1ターンに1度、手札とデッキからドラゴン族モンスターを1体ずつ墓地へ送る事で、自分または相手の墓地のカード1枚を選択してゲームから除外します。私は手札の"サイバー・ダーク・クロー"とデッキの"サイバー・ダーク・カノン"を墓地に送り、カイザー先輩の"パワー・ボンド"を墓地から除外」

 

 ダークフレア・ドラゴンのプロミネンスリングに2体のサイバーダークモンスターが飛び込むように消え、燃料になると、プロミネンスリングから豪火が放たれ、亮の墓地のパワー・ボンドを跡形もなく消滅させた。

 

「…………見た目のわりにやることが地味だな」

 

「まあ、墓地の重要性がわかっていても見た目はそうですよね」

 

「コストの墓地に送る方が重要だからな。ついでに相手か自分の墓地のカードも消せる」

 

「ええ、ではバトルです」

 

サイバー・ダーク・ホーン

ATK2500

 

サイバー・ダーク・エッジ

ATK2000

 

ダークフレア・ドラゴン

ATK2400

 

 三体の闇の機械かドラゴンのモンスターがその掛け声に呼応し、亮の場のサイバー・ドラゴンへと一斉に視線を向けた。

 

「では"サイバー・ダーク・ホーン"で"サイバー・ドラゴン"を攻撃。ダーク・スピア」

 

 そして、サイバー・ダーク・ホーンのダーク・スピアによる攻撃――ではなく、装備されている比翼レンリンの片方の頭が動くと、闇のエネルギーのような黒紫色のブレスを吐き、サイバー・ドラゴンへと殺到した。

 

「罠カード発動! "アタック・リフレクター・ユニット"! 自分フィールドの"サイバー・ドラゴン"を1体生け贄に捧げ、デッキから"サイバー・バリア・ドラゴン"を特殊召喚する!」

 

サイバー・バリア・ドラゴン

星6/光属性/機械族/攻 800/守2800

このカードは通常召喚できない。このカードは「アタック・リフレクター・ユニット」の効果でのみ特殊召喚する事ができる。このカードが攻撃表示の場合、1ターンに1度だけ相手モンスター1体の攻撃を無効にする。

 

 亮のフィールドにいたサイバー・ドラゴンが光輝くと、襟巻きを巻いたような姿に代わり、頭部にある装置から自身を守るバリアーを展開して身を固めた。

 

サイバー・バリア・ドラゴン

DEF2800

 

「2800ですか……超えられませんね」

 

「ああ、ノーフェイスと戦っていたら、攻撃表示で特殊召喚するより、守備表示で特殊召喚した方がまだ壁になったからな……! サクリファイス・エスケープとしても使える……!」

 

 かなり色々な出来事から想いが籠った発言と使い方のようだ。

 

「なら私は"サイバー・ダーク・エッジ"の効果を発動。"サイバー・ダーク・エッジ"は半分のダメージで相手プレイヤーに直接攻撃できます。カウンター・バーン」

 

「くっ……!?」

 

 そして、サイバー・ダーク・エッジによるカウンター・バーン――ではなく、装備されたサイバー・ダーク・カノンにエネルギーが充填されて放たれる。それはサイバー・バリア・ドラゴンの真横をすり抜け、亮へと命中した。

 

カイザー

LP4000→3000

 

「この瞬間、"サイバー・ダーク・カノン"の効果発動。このカードを装備カード扱いとして装備しているモンスターが戦闘を行ったダメージ計算時に発動できます。デッキからモンスター1体を墓地へ送る。私は"サイバー・ダーク・クロー"を墓地へ送ります」

 

 するとサイバー・ダーク・カノンは発射後に再装填を行ったためか、内部からカードが1枚弾き出されて墓地へと送られた。

 

「これでターンエンドです」

 

ナイトメア

LP3750

手札0

モンスター3

魔法・罠3

 

 

「俺のターン……」

 

 亮はデッキに指を置いて考える。

 

(信じるか……ならば今欲しいカードは――)

 

 亮の脳裏にはサイバー・ツイン・ドラゴンが咆哮する様子が浮かんだ。

 

「ドロー!」

 

手札

1→2

 

「ドローした"天使の施し"を発動! まず3枚ドロー!」

 

 そして、引いた3枚のカードを見た亮はほくそ笑む。

 

「クククッ……信じるとはこうか……俺は2枚カードを捨てる。そして、手札から装備魔法、"再融合(さいゆうごう)"を発動! 800LPを払い、自分の墓地の融合モンスター1体を特殊召喚し、このカードを装備する! 墓地から"サイバー・ツイン・ドラゴン"を攻撃表示で特殊召喚!」

 

 亮の背後に再び双頭の機械龍が姿を現し、敵を殲滅せんと見据える。

 

サイバー・ツイン・ドラゴン

ATK2800

 

「バトルだ……! "サイバー・ツイン・ドラゴン"で"サイバー・ダーク・エッジ"を攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト!」

 

 サイバー・ツイン・ドラゴンの光線がサイバー・ダーク・エッジを襲うと上部に装備されたサイバー・ダーク・カノンが弾け飛んだが、サイバー・ダーク・エッジは健在だった。

 

ナイトメア

LP3750→2950

 

サイバー・ダーク・エッジ

ATK2000→400

 

「"サイバー・ダーク・エッジ"が戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードの効果で装備したモンスターを破壊します。そして、モンスターに装備されているこのカードが墓地へ送られた場合に発動でき、自分はデッキから1枚ドロー」

 

「身代わり効果か……!」

 

手札(ナイトメア)

0→1

 

(二打目は……無防備の"サイバー・ダーク・エッジ"に当てれば大ダメージを与えられるが、それをしたところで、1ポイントでもライフが残っている限り、リックは決して止まらないだろう。ならば……今更かも知れんが、墓地肥やしの手段を奪う方が先決だ)

 

「俺は更に"サイバー・ツイン・ドラゴン"で、"ダークフレア・ドラゴン"を攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト!」

 

 そして、更に放たれたサイバー・ツイン・ドラゴンの光線はダークフレア・ドラゴンを貫き、跡形もなく破壊した。

 

ナイトメア

LP2950→2550

 

「これで、ターンエンドだ……」

 

カイザー

LP3000

手札1

モンスター2

魔法・罠1

 

 

「俺のターン、"守護神の宝札"で2枚ドロー」

 

手札

1→3

 

 そして、ドローをしたナイトメアの目が変わる。

 

「俺は手札から"オーバーロード・フュージョン"を発動。自分のフィールド・墓地から、機械族・闇属性の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体を融合デッキから融合召喚する。俺はフィールドの"サイバー・ダーク・エッジ"と"サイバー・ダーク・ホーン"、墓地の"サイバー・ダーク・キール"と"サイバー・ダーク・クロー"と"サイバー・ダーク・カノン"の計5体をゲームから除外し――"鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴン"を攻撃表示で融合召喚!」

 

鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴン

星10/闇属性/機械族/攻2000/守2000

「サイバー・ダーク」効果モンスター×5 このカードは融合召喚でのみEXデッキから特殊召喚できる。

(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。自分の墓地からドラゴン族モンスターまたは機械族モンスター1体を選び、装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

(2):このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップする。

(3):相手が魔法・罠・モンスターの効果を発動した時、自分フィールドの装備カード1枚を墓地へ送って発動できる。その発動を無効にし破壊する。

 

 それはサイバー・ダーク・ホーン、サイバー・ダーク・キール、サイバー・ダーク・エッジの3体のモンスターを合成したような姿に、サイバー・ダーク・カノンとサイバー・ダーク・クローを武装として足し合わせたような異様な機械龍であった。

 

 また、その体躯はサイバー・エンド・ドラゴンにさえ匹敵し、全長に関しては遥かに上回る巨体をしていた。

 

鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴン

ATK2000

 

「これが"サイバー・ダーク"の融合モンスター! サイバー流の"サイバー・エンド・ドラゴン"に当たるものなのか!」

 

「"鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴン"……? 5体のサイバーダークモンスターで融合召喚していましたし、"鎧黒竜(がいこくりゅう)-サイバー・ダーク・ドラゴン"の筈では……?」

 

「………………気づいたら進化してたんです」

 

「えっ、進化?」

 

「――"鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴン"の効果! このカードが特殊召喚に成功した場合に発動! 自分の墓地からドラゴン族モンスターまたは機械族モンスター1体を選び、装備カード扱いとしてこのカードに装備します! そして、このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップ! 私が墓地から"鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴン"に装備するモンスターは……"爆走特急(ばくそうとっきゅう)ロケット・アロー"! その攻撃力は5000! よって"鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴン"の攻撃力は7000!」

 

「攻撃力7000だと……!?」

 

「ぱ、"パワー・ボンド"も使わずに……」

 

 サイバー・ダーク・エッジやサイバー・ダーク・ホーンと同じく、鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴンの下部にも存在するモンスターを抱える場所から、周囲に生える大量のコードが墓地へと伸び、奇妙なミサイルのような造形の巨大な車両――爆走特急(ばくそうとっきゅう)ロケット・アローを引き上げると、そのまま下部に装備された。

 

鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴン

ATK2000→7000

 

「バトル! "鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴン"で"サイバー・ツイン・ドラゴン"を攻撃! ヘル・ダークネス・バーストォ!」

 

 鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴンの大顎が開き、エヴォリューション・バーストを数倍巨大かつ、禍々しく黒い閃光が充填され――大気を幾重にも引き裂きながらサイバー・ツイン・ドラゴンを目掛けて放たれた。

 

 無論、当たればライフポイントが4000あろうとも一撃で削り切られる威力である。

 

「させんっ! 俺は墓地の"超電磁(ちょうでんじ)タートル"を除外し、相手のバトルフェイズを終了する!」

 

超電磁(ちょうでんじ)タートル

星4/光属性/機械族/攻 0/守1800

このカード名の効果はデュエル中に1度しか使用できない。

(1):相手バトルフェイズに墓地のこのカードを除外して発動できる。 そのバトルフェイズを終了する。

 

 突如、ドス黒い光線の前に現れた半透明の機械の亀が、極大の極光を受け止め、空へと受け流す。そして、役目を終えたそれは光になって消えていった。

 

「"超電磁(ちょうでんじ)タートル"……ああ……"天使の施し"の時に捨てたのですか」

 

「クククッ……ノーフェイスに負け過ぎて入れるようになったが――本当に使えるなコイツは、もう2度とデッキから抜けそうにない!」

 

「墓地にいるだけで安心感ありますからね。カードを2枚セットしてターンエンドです」

 

ナイトメア

LP2550

手札0

モンスター1

魔法・罠2

 

 

「俺のターン……」

 

 再び亮はデッキに手を置くと目を瞑る。

 

 そして、今手札にサイバネティック・フュージョン・サポートがあることを思い浮かべ、これを使用した上で鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴンを倒し、ナイトメアのライフを削り切るには、あのカードを引いた上で更に引かなければならないことを考え――。

 

(デッキを信じ、カードを信じ、己を信じ……そして、勝利を信じて最強を目指す……! たった……たったそれだけ、俺が目指すべき地平はそんな単純な事だったのか!)

 

 まるでそれがあまりにも簡単なことのように笑みを浮かべると、目を見開き、カードをドローする。

 

「来いっ! ドロォォォ!」

 

手札

1→2

 

「俺は……手札から"命削りの宝札"を発動! 手札が5枚になるようにドローする!」

 

手札

1→5

 

「次に"死者転生(ししゃてんせい)"を発動! カードを1枚捨て、墓地の"サイバー・ドラゴン"を手札に加える! 更にカードを1枚セットし、"打ち出の小槌"を発動! 手札の1枚の"サイバー・ドラゴン"をデッキに戻し――カードを1枚ドロー!」

 

 そして、亮は打ち出の小槌でドローしたカードを見て、自身もナイトメアと同じ舞台に立ったと確信する。

 

「セットした"未来融合(みらいゆうごう)-フューチャー・フュージョン"を発動! その効果により……俺は融合モンスター1体を指定し、その融合素材として"サイバー・ドラゴン"を含むデッキ全ての機械族モンスターを墓地に送る!」

 

「ま、まさか――!?」

 

 鮫島校長の驚きを他所に、亮は自身のデッキから全ての機械族モンスターを墓地へと送る。

 

「そして、俺はライフポイントを半分払い……速攻魔法、"サイバネティック・フュージョン・サポート"を発動! このターン、自分が機械族の融合モンスターを融合召喚する場合に1度だけ、その融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを自分の手札・フィールド上・墓地から選んでゲームから除外し、これらを融合素材にできる!」

 

LP3000→1500

 

 最後に亮は、最後に残った手札――"融合"のカードを掲げ、高らかに吠えた。

 

「これで俺は……俺は手札から"融合"を発動! 墓地の"サイバー・ドラゴン"とフィールドの"サイバー・ツイン・ドラゴン"を含む全ての機械族モンスターをゲームから除外し――」

 

「――!? い、いけない……! 亮、それは――」

 

 既に倒すべき敵を見据えている亮は、鮫島校長の制止を聞くわけもなく、今にも敵に喰らいつかんばかりの嬉々とした表情でそのモンスターを場に出す。

 

 

「――"キメラテック・オーバー・ドラゴン"を融合召喚ッ!!」

 

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン

星9/闇属性/機械族/攻 ?/守 ?

「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが融合召喚に成功した時、このカード以外の自分フィールド上のカードを全て墓地へ送る。

このカードの元々の攻撃力・守備力は、このカードの融合素材としたモンスターの数×800ポイントになる。

このカードは融合素材としたモンスターの数まで1度のバトルフェイズで攻撃できる。

 

 それは頭部のない蛇を思わせる鈍い黒と銀色をした巨大なサイバー・ドラゴンであった。

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン

ATK?

 

「クククッ……フハハハハハ! これが正真正銘、今の俺の全力だリック! 止められるものなら止めてみろォ!」

 

「亮……よもやそこまで……」

 

「ああ、なるほど……これは確かに全力ですね……!」

 

 そして、キメラテック・オーバー・ドラゴンを見て、何故か笑みを更に強めたナイトメアに亮は告げる。

 

「お前ほどのデュエリストならば知っているとは思うが――"キメラテック・オーバー・ドラゴン"の元々の攻撃力・守備力は、このカードの融合素材としたモンスターの数×800ポイントになり、更に融合素材としたモンスターの数まで()()()()()()()()()()で攻撃できる!」

 

 その言葉の直後、次々とキメラテック・オーバー・ドラゴンの胴体から黒と銀の配色のサイバー・ドラゴンのような首が、凄まじい本数生え、まるで機械で出来たイソギンチャクのような異様な姿に変わる。

 

「俺が融合素材にした数は――20体!!」

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン

ATK0→16000

 

 それは最早、怪物と言う言葉さえ生温く、サイバー・ドラゴンでさえ超えた最もおぞましい何かであった。

 

「さあ、バトルだナイトメア……!」

 

 亮のその声で、今までは思い思いに揺れていたキメラテック・オーバー・ドラゴンのそれぞれの首が、全て鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴンを見つめて静止し、中央にある首の1本が口を開き、鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴンのブレスさえ超える極光が灯る。

 

 そして、その全てを消し飛ばしても尚余る程の光が鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴンに放たれる――。

 

「では、まず罠カード、"攻撃(こうげき)無敵化(むてきか)"を発動! バトルフェイズにのみ、2つの効果から1つを選択して発動できる! 私が選択した効果はフィールド上のモンスター1体を選択し、選択したモンスターはこのバトルフェイズ中、戦闘及びカードの効果では破壊されない!」

 

「――!? なぜ、このバトルフェイズ中、自分への戦闘ダメージは0になる方の効果を選ばなかった!?」

 

 ――その寸前にナイトメアがカードを発動する。そして、笑いながら口を開く。

 

「カイザー先輩。全てを信じる境地はまだまだ、こんなものではありませんよ?」

 

「なに……?」

 

 そして、ナイトメアは答えの代わりに更にもう1枚の罠カードを発動した。

 

「"ハイ・アンド・ロー"発動。相手モンスターに攻撃された時、攻撃対象となった自分フィールド上のモンスター1体を対象に効果を発動します」

 

「馬鹿な!? "ハイ・アンド・ロー"だとッ!? なぜ、そんなリスクしかないカードを!?」

 

 亮だけでなく、鮫島校長もその効果を知っているようで、あり得ないといった様子の顔をしていた。

 

「デッキからカードを1枚めくり墓地へ送り、そのカードがモンスターだった場合、その攻撃力の数値分だけ対象モンスター1体の攻撃力をアップし、この効果を3回まで任意でくり返す事ができます」

 

「しかし……対象モンスターの攻撃力が相手攻撃モンスターの攻撃力を超えた場合、対象モンスターを破壊する……メリットが薄い上にとんでもない博打を要求するカードだ……!」

 

 それを言われてナイトメアは笑ってから真顔になると、自身のサイバー・ダーク・ドラゴンへと顔を向けた。

 

「おい、"サイバー・ダーク・ドラゴン"。お前、サイバー流裏デッキだか、裏サイバー流だかなんだか知らんが……正直、弱いだろ」

 

 そして、亮と鮫島校長は何故か、自身のフィールドにいるモンスターを煽るナイトメアに目を丸くし――。

 

 

『□□□□□□□□□□――!!!!』

 

 

 ――明らかに鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴンがナイトメアの方へ頭を向けて、怒りと共に威嚇するように咆哮した様子に驚愕した。

 

 二人は言葉が出ない中、ナイトメアは相変わらずの笑顔のままの涼しげな様子でまた口を開く。

 

「"キメラテック・オーバー・ドラゴン"はただ、サイバー流で禁じられたカードだろ? なのになんでわざわざお墨付きで裏デッキと銘を打たれてまで封印された上に俺の力でダークネスにまでなったお前に、ここまでお膳立てしてやらなきゃならねーんだ? 意地はないのか?」

 

『………………………………』

 

 そのあまりにもふてぶてしい態度と一切引かない様子にか、鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴンはナイトメアを見つめたまま閉口する。

 

 そして、ナイトメアはキメラテック・オーバー・ドラゴンに一度指を指して視線を変えさせてからデッキに手を置き、また口を開いた。

 

「お前が受け止めるべきはアレだ。では行きますよカイザー先輩……」

 

「ああ……面白い! 見せてみろ!」

 

 その言葉の直後、ナイトメアはカードをドローする。

 

「一枚目……ドロー! カードは"爆走特急(ばくそうとっきゅう)ロケット・アロー"! 攻撃力は5000!」

 

鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴン

ATK7000→12000

 

 "爆走特急(ばくそうとっきゅう)ロケット・アロー"を墓地へと送ると、鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴンの真下にもう一台のロケット・アローが現れ、それが装備された。

 

「二枚目……ドロー!」

 

 ナイトメアがドローしたカードをすぐに亮へと向けると、それはモンスターカードだと言うことがわかる。

 

「友好の証にくれた斎王に感謝だな……引いたカードは"アルカナフォースXXI(トゥエンティーワン)THE WORLD(ザ・ワールド)"! 攻撃力は3100!」

 

鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴン

ATK12000→15100

 

 サイバー・ダークネス・ドラゴンの背後に"アルカナフォースXXI(トゥエンティーワン)THE WORLD(ザ・ワールド)"が現れ、サイバー・ダークネス・ドラゴンは尻尾から大量のコードを伸ばし、その全身に突き刺して体の一部にした。

 

「そして、これが最後……ドロー!」

 

 当然のように3枚目のカードをナイトメアはドローし、その結果に亮と鮫島校長は息を呑む。そして、こちらに向けられたカードは――三度モンスターカードだった。

 

「カードは"サイバー・ダーク・キール"! 攻撃力は800! これで3枚の合計により、"鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴン"の攻撃力は8900ポイント上がり、15900となる!」

 

鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴン

ATK15100→15900

 

 最後に東洋の龍のような姿をしたサイバー・ダーク・キールが現れ、サイバー・ダークネス・ドラゴンの首に輪のようにまとわりついて、自身のコードをサイバー・ダークネス・ドラゴンに突き刺した。

 

「な、なんと……ギリギリまで高めるだなんて……!?」

 

「だが、攻撃力は"キメラテック・オーバー・ドラゴン"に100及ばないッ!」

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン

ATK16000

 

「ええ、でも……今の"鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴン"は"攻撃の無敵化"によって戦闘によって破壊されません……」

 

 ナイトメアは目を薄く長く開き、三日月のように口の端を歪めて笑みを浮かべると、両手で一度だけ手招きをし、わかりやすい挑発をする。

 

「攻撃するか? しないのか? 掛かって来てくださいよ……」

 

「――――! ク……クククッ……クハハハハハ! いいだろう! 行け"キメラテック・オーバー・ドラゴン"! エヴォリューション・レザルト・バーストォ!」

 

「迎え撃て……! ヘル・ダークネス・バーストォ!」

 

『□□□□□□□□□――――!!!!』

 

 遂に放たれたキメラテック・オーバー・ドラゴンの破壊の光。それに鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴンから放たれた破壊の闇がぶつかり、拮抗した上で相殺され、その余波をナイトメアが受けて、少しだけ怯んだ様子を見せる。

 

ナイトメア

LP2550→2450

 

「まだまだァ! エヴォリューション・レザルト・バーストォ! 2連打!」

 

 続けざまに別のキメラテック・オーバー・ドラゴンの首から光線が放たれ、それに再び鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴンが迎え撃ち、相殺した余波によるダメージをナイトメアが受け、一歩後退するがすぐに足を戻し、ギラついた目をフィールドへと向ける。

 

ナイトメア

LP2450→2350

 

 そして、サイバー流の最終兵器と、裏サイバー流の最終兵器によるバーストの撃ち合いが始まった。

 

「な、なんということだ……」

 

 次々とキメラテック・オーバー・ドラゴンによって繰り出される攻撃に、鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴンが応戦し続ける光景を目の当たりにして、鮫島校長は脂汗とも冷や汗ともつかないものを流しながら、ただ呆然とその光景を眺める。

 

 

「――グォレンダァ!」

 

ナイトメア

LP2150→2050

 

 

 そして、生唾を飲み干し、息を呑むとポツリと口を開く。

 

「キ、"キメラテック・オーバー・ドラゴン"と"サイバー・ダーク・ドラゴン"で…………リスペクトデュエルが成立している……!」

 

 その世界は異様でしかないが、永遠に続くような錯覚さえ覚えるほど不思議で、甘美な魅力と確かな熱を放ち、互いのデュエリストが終始笑顔なのが何よりも印象的だった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「――ニジュウレンダァァァァァァァ!!!!」

 

ナイトメア

LP650→550

 

 そして、亮のキメラテック・オーバー・ドラゴンは遂に20回に及ぶ攻撃を終え、それでも健在の鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴンと、体から煙を上げつつも、立ったまま肩で息しているナイトメアが確かにそこにいた。

 

「……ああ、これでターンエンドだ……フフッ」

 

(もう、このデュエルではやり切れてしまったな……もう、十分だ……)

 

 亮は自分の全てを出し尽くした余韻に浸りながら、デュエルアカデミアの誰もが知る亮の笑みを浮かべて声を漏らす。

 

カイザー

LP1500

手札0

モンスター1

魔法・罠0

 

 

『□□□……』

 

「ああん……? ボロボロだぁ……? 馬鹿も休み休み言え。ここからも面白いところだろ? たくっ……俺への仕返しで100足りない微妙な嫌がらせをしやがって……」

 

 そして、明らかに鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴンと話しているような様子を見せながらも、ナイトメアはデッキに手を掛ける。

 

「では、俺のターン……行きますよカイザー先輩?」

 

「ああ……来い!」

 

(フッ……削りきれなかった時点で――負けたなこれは……)

 

 まだ、勝敗は決していないが、亮はそう考える。そして、これまでのようにこのデュエルに対して勝利への執着は既に見られなかった。

 

「まあ……俺とお前はどのみちこれで最後なんだ。精々、派手に終わろうぜ? なあ、"サイバー・ダーク・ドラゴン"? クククッ……ドロー……!」

 

手札

0→2

 

 守護神の宝札の効果でナイトメアはカードを2枚ドローし、小さく声を漏らした後、そのままバトルフェイズに入る。

 

「じゃあ、今まで受けたもの……全部返させていただきますよ……?」

 

『□□□□□□□□□――!!!!』

 

 そして、鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴンはそれに呼応するように咆哮を上げると、今度はこちら側から行くと言わんばかりに大顎を開き、闇のエネルギー球を形成する。

 

鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴン

ATK15900

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン

ATK16000

 

 しかし、キメラテック・オーバー・ドラゴンとの攻撃力の差は依然として100ポイント負けており、今は戦闘によって破壊されるため、このまま撃てば負けるのは明白である。

 

 無論、それをナイトメアが引いたカードが許すわけもない。

 

「私は自分フィールドの融合モンスターが相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に手札から速攻魔法、"決闘融合(けっとうゆうごう)-バトル・フュージョン"を発動……! その自分のモンスターの攻撃力はダメージステップ終了時まで、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップする! これにより、"鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴン"は攻撃力を16000ポイントアップする……!」

 

鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴン

ATK15900→31900

 

 その瞬間、鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴンのエネルギー球がより黒い輝きを帯び、エネルギー球自体が、正面から見ると自身の胴体を覆い尽くすほど巨大に変わる。

 

 そして、発射される直前――。

 

「更に手札から"リミッター解除"を発動……! 自身のフィールドの全ての機械族モンスターの攻撃力は、ターン終了時まで倍になる!」

 

鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴン

ATK31900→63800

 

 そして、鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴンの全身が黒紫色の光が灯り、鈍くも激しい輝きを宿した。

 

「ヘル・ダークネス・バーストォォォォ!!」

 

「……ああ」

 

(まだまだ……まだまだ先は長い……!)

 

 そして、亮は遂に放たれた闇の極光を正面から眺め、声を漏らしつつ、己の未来に想いを馳せて笑みを浮かべた。

 

カイザー

LP1500→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けたな……」

 

「その割にはさっき言っていたほどは悔やんでいませんね」

 

 ナイトメアとのデュエルを終えた亮はそんなことを呟いていた。

 

「いや……このデュエルで色々なものを見れた。まだ、俺が"サイバー・ドラゴン"の戦術や可能性を全く突き詰められていないこともな。道理で、自分の精霊もいないわけだ……」

 

 そう言って亮は自嘲気味に鼻で笑い漏らす。それに対し、ナイトメアは何とも言えない表情を浮かべ、亮の斜め上の空間を一瞥してから懐に手を入れ、ひとつのデッキ程の数十枚のカードを取り出して亮に差し出した。

 

「よかったらどうぞ」

 

「これは……――!?」

 

サイバー・エタニティ・ドラゴン

星10/光属性/機械族/攻2800/守4000

「サイバー・ドラゴン」モンスター+機械族モンスター×2

(1):自分の墓地に機械族の融合モンスターが存在する場合、 このカードは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。

(2):融合召喚したこのカードが相手によって墓地へ送られた場合に発動できる。自分の手札・デッキ・墓地から「サイバー・ドラゴン」1体を選んで特殊召喚する。

(3):墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分フィールドの融合モンスターは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。

 

 何気なくデッキのような枚数のカードをひっくり返して一番に亮が見たそれは、彼が見たこともないサイバー流の融合モンスターであった。

 

「こ、これは……! こんなものをどこで!?」

 

 数十枚のカードを捲ってくが、全て見たことのないサイバー・ドラゴン関連のカードであり、それも3枚ずつある。

 

「いえ……少し前にフランツさんと――もとい、I2社で色々あった時に出来上がった試作品の"サイバー・ドラゴン"関連のカードです。まあ、今日のデュエルを通して、私よりも遥かにカイザー先輩の方が使い手として向いていると思いましたので、全て譲りますよ」

 

「おおっ!? よかったですね亮……!」

 

「あ、ああ……本当にいいのか?」

 

「今は現品限りの試作品ですからね。何れ世に出る為のテスターぐらいに思っていてください。私よりも使っていただけるなら、カードが喜ぶでしょう」

 

「カードが喜ぶか……」

 

 亮はポツリと呟くと、ナイトメアから渡されたカードをしまい込む。そして、鮫島校長に向き合うと口を開いた。

 

「師範……俺のことは破門で構いません。ですが……それでも俺は、デュエリストとして生きる以上は最強を目指します。そう決めました。無論、この"サイバー・ドラゴン"で……!」

 

「そうですか……そこまで言うのなら止めません。しかし、一度サイバー流の門を叩いた以上破門もしません。疲れたのなら……いつでも戻ってきなさい」

 

「フッ……考えておきますよ」

 

「ただ、カードの力にだけは溺れてはなりません。それで、相手さえ見なくなれば、デュエリストとしては終わりです。そのためのリスペクト精神なのです」

 

「クククッ……冗談ですか師範?」

 

 亮はその言葉がよほどに彼にとって面白かったのか、ツボに入ったように笑う。そして、当たり前と言わんばかりの表情で言葉を吐いた。

 

「力に呑み込まれるような奴が……リックに勝てるわけがありません。そんなこと……こちらから願い下げですよ」

 

 それだけ言うと、亮は最後にナイトメアに対し、"ありがとう"と呟き、その直後に暗い笑みを浮かべると、彼に対して言い放った。

 

「次はプロデュエリストとして、リック――いや、ナイトメア。お前を倒す……!」

 

「フフフ……クフフフフ……! ああ、それは楽しみだ……。是非とも……期待していますよ? "カイザー亮"」

 

 そして、亮は踵を返して本館の屋上から去って行く。その後ろ姿に最早、迷いの色はどこにもなく、鬼よりも修羅よりも恐ろしく、デュエルをし甲斐のある相手だと思い、ナイトメアは小さく身震いする。

 

 そして、素の表情に戻った彼は亮の背中を見送りながら、困ったような微笑ましいような様子でポツリと呟いた。

 

「精霊がいないのではなく……見えていないだけなんだよなぁ……多分、昔からずっとあなたの側にいますよ」

 

 誰に聞こえるわけでもなくそう呟いたナイトメアの視線の先には、亮の背後に浮かぶ半透明の"サイバー・エンド・ドラゴン"の姿が見えていた。

 

「さて、鮫島校長」

 

「はい」

 

 そして、ナイトメアも鮫島校長に声を掛ける。

 

「あなたの理想にはきっと添えなかったと思いますが、私のデュエルでは、カイザー先輩の迷いを断ち切らせる程度が精々でした。すみません」

 

「いえ、ありがとうございます。私では決して出来なかったであろうことをリックくんはやってくれました。それに彼は……遅かれ早かれ、ああなっていたのかも知れませんし、もっと酷い結果になっていたかも知れません」

 

「そうですか。まあ、そういう生き方もあるでしょう。私とはまた違ったデュエリストですから」

 

 そして、彼は自身のデュエルディスクにまだ置いてあった鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴンを手に取り、鮫島校長に手渡した。

 

「約束ですから、サイバー流裏デッキはお返ししますよ。ただ、もう昼食時間も終わるので、デッキも元のものに戻さなければならないですから、他のカードは明日にでもお渡しします」

 

「そ、そうですか……」

 

 試合中に確かにサイバー・ダーク・ドラゴンと話している様子だったとは思えないほど、ドライな様子でナイトメアはカードを返して来たため、鮫島校長はどうしたものかと考えていると、ふと渡されたカードのテキストに目が行き――。

 

「こ、この効果は……」

 

 ナイトメアが使わなかった鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴンの第三効果――相手が魔法・罠・モンスターの効果を発動した時、自分フィールドの装備カード1枚を墓地へ送って発動でき、その発動を無効にし破壊するというものだった。

 

 これさえ、サイバネティック・フュージョン・サポートに発動してしまえば、また別の展開があっただろう。少なくとも攻撃の無敵化があったため、ハイ・アンド・ローに頼ることはしなくても済んだ筈だ。

 

 そんなものを見つけてしまっては、鮫島校長も聞かずにはいられなかった。

 

「なぜこの効果を使用しなかったのですか……?」

 

 手加減。その言葉が鮫島校長の脳裏に一番に浮かんだ。同時に亮の顔を立ててくれたばかりに、あれだけリスキーなことをさせてしまったことを余りにも心苦しく思う。

 

「え?」

 

 しかし、ナイトメアいつもと同じ様子で、少しだけハテナを浮かべたような表情で答える。

 

「だって、あのときに使ってしまったらカイザー先輩も俺も"サイバー・ダーク・ドラゴン"も愉しくないでしょう? それよりも"ハイ・アンド・ロー"に賭けた方がずっとずっと愉しい」

 

「――――――!?」

 

 鮫島校長はナイトメアが何気ない様子で語った言葉に人生観が変わるほどの衝撃を受ける。

 

 自分と相手のデュエルでやりたいことを重んじるのがリスペクトデュエル。しかし、彼はそれに加えて、カードの精霊に対してのリスペクトを行っていたのだ。

 

 そんなことを、そもそも考えるリスペクトデュエリストがこれまでに一人でも居ただろうか? リスペクトデュエルを流派に取り入れた初代サイバー流の師範代ですら、サイバー・ダークを封印したことから、サイバー・ダークたちの気持ちなど考えもしなかっただろう。無論、鮫島校長自身もである。

 

 その考えこそが、ナイトメアという男のデュエルであり、他のリスペクトデュエリストとは似ても似つかない違いであることに鮫島校長は初めて気付かされた。

 

「まあ、それに使用していたら、"サイバー・ダーク・ドラゴン"の攻撃力が2000に戻ったので、どのみち"サイバー・ツイン・ドラゴン"に攻撃されて大ダメージを受けていたかも知れませんし、買い被りすぎですよ」

 

「あなたは……あなたという人は……――」

 

 "あなたこそが本当のリスペクトデュエリストだ"と言う言葉を鮫島校長は吐こうとしたが、ナイトメアはそれが自然体であり、意識すらしていない様子のことを思い出して、それ以上の言葉を紡ぐ。

 

 その代わり鮫島校長は新たな決意をし、即座にそれを実行した。

 

「私は……あなたから"サイバー・ダーク"を取り上げる権利はありません……! いえ、きっとサイバー流の誰にもないでしょう……! 初代の師範代さえもです!」

 

 そう言って鮫島校長は、鎧獄竜(がいごくりゅう)-サイバー・ダークネス・ドラゴンをナイトメアの手に握らせた。

 

 彼はそれを目を丸くして眺めた後、首を傾げて呟く。

 

「…………? えっと……それはどういう意味で?」

 

「どうか……その"サイバー・ダーク"デッキはこのまま、あなたに使っていただきたい! お願いします! この通りです!」

 

「………………は? いや、待ってください。なんだかわかりませんがわかりましたから学園長が生徒に頭を下げるのは止めてください!? 誰かが見てたら互いに問題になりますから!?」

 

 そんなやり取りがあり、再びナイトメアの手にサイバー流裏デッキが戻ったため、彼が使い手になった。

 

 現サイバー流の師範代がこう言ってしまっているため、彼としても突き返すような真似は出来ず、どうしたものかと考える。そしてまだ残っていたカードがあることに気付き、とりあえず鮫島校長にそれを3枚渡した。

 

サイバー・エタニティ・ドラゴン

星10/光属性/機械族/攻2800/守4000

「サイバー・ドラゴン」モンスター+機械族モンスター×2

(1):自分の墓地に機械族の融合モンスターが存在する場合、 このカードは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。

(2):融合召喚したこのカードが相手によって墓地へ送られた場合に発動できる。自分の手札・デッキ・墓地から「サイバー・ドラゴン」1体を選んで特殊召喚する。

(3):墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分フィールドの融合モンスターは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。

 

「これは……」

 

 それは亮へも渡した新たなサイバー・ドラゴンの融合モンスターであった。

 

「他は試作品なのでそんなに数はないんですが、そのカードだけは、部署内でもそのまま、近いうちに新作のパックに追加されるぐらいは好評だったので、言っていただければサイバー流全体に行き渡らせるぐらいは確保できます。交換条件にはあまりに弱いですが、貰うだけというものは個人的に忍びないので、よろしければどうぞ」

 

「そうなんですか……」

 

 翌々、じっくりとサイバー・エタニティ・ドラゴンの能力とテキストを見れば、サイバー・エンド・ドラゴンを全て逆にしたような能力に、墓地へ行けばパワー・ボンドで攻め込むための安全の確保も出来るというサイバー流の表裏一体を表しながらも、逆転の発想で作られたリスペクト精神溢れるカードである。

 

 まさに守りのサイバー・エンド・ドラゴン。I2社の部署内で好評だったことも伺えるほどの出来だった。

 

「そう言えば……聞いたことがあります。I2社にはズバ抜けてデュエルの腕が高いだけでなく、カードデザイナーとしても超一流の方がいると」

 

「…………所詮、下手の横好きですよ。やらずともいつか誰かがきっと作りますから……私は私利私欲のためにズルをしているだけです」

 

 それは肯定と取れる内容であり、その言葉の真意は彼にしかわからないような内容だったが、鮫島校長はあえてそれらには触れなかった。

 

「ありがとうございます。ではこれは貰います。それから、門下生に行き渡らせる分もお願いしていいですか?」

 

「ええ、もちろん。では枚数を――」

 

 そこまで言ったところで、昼食時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。それを耳にしたナイトメアは言葉を止めて、話の内容を変える。

 

「それはまた後日にしましょう。ノーフェイスの翻訳兼審判の仕事がありますので」

 

「ええ、ではまた今度」

 

「はい、また今度」

 

 そう言って、鮫島校長の元を離れ、ナイトメアは校舎内へと戻って行った。そして、そんな彼の背を見送りながら鮫島校長は思いにふける。

 

(やはり……デュエルは素晴らしい……! セブンスターズが丸く収まれば……来年度はこの学園でデュエルの大会を開いてみるのもいいかもしれませんね……)

 

 ナイトメアが見えなくなる直前、鮫島校長の目には一瞬だけ小さなサイバー・ダーク・ドラゴンが彼の右肩付近に浮いていたような気がした。

 

 

 

 

 







今回のまとめ
・酷いレベルでバランスが取れている



~QAコーナー~
Q:おい、アルカナフォースXXI(トゥエンティーワン)THE WORLD(ザ・ワールド)って……なんでサイバー・ダークに入ってるんだ……。

A:
 なんだか非常に真剣な様子の友達から最近送られてきたカード(OCG版)。ブラック・ガーデン下だと生け贄コストは無いに等しいので中々強い。アニメでは守備表示で召喚も出来るので、ブラック・ガーデン下では実質防御力6200の剛壁と化す。また、ブラック・ガーデンを自分の効果で叩き壊して、攻撃力800や1600のサイバー・ダークモンスターを出せば、すぐにターンスキップも出来るため非常に楽。
 え? どうやって正位置当てるの? アニメの遊戯王で当然正位置ィ!ぐらい出来ないようで主人公名乗るなんて甘いよ?(ハイ・アンド・ローでスカノヴァと同じ攻撃力にした遊星さんを見ながら)


Q:おい、キール使えよ。

A:実はキールってLP4000のデュエルでブラック・ガーデンを張っていると。自分の召喚時含めて攻撃表示のローズ・トークンが2体相手の場にいれば、比翼レンリン装備の2回攻撃と、キールがモンスター破壊した時の300ダメージとで――2500-800=1700 (1700+300)×2=4000となり、相手がこちらの攻撃だけで、直接攻撃すらせずに即死するというあまりにもチートなサイバー・ダーク最強のモンスターのため、出しませんでした(執筆中の実話)


Q:サイバー・ダーク・ドラゴン何に使うの?

A:精霊界での乗り物


Q:fateのキャラで例えるとリックって何?

A:スパルタクス





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女子寮のノーフェイス



待たせたな!(震え声)

ほんへの方です

ところで皆さん、マスターデュエルは順調ですか?
ちゅーに病魔とか、ちゅーに菌とかいう奴ももちろんやっているのでプラチナ帯で見掛けたらぼこぼこにしてやってください。ちなみに作者の主力はエルドリッチ、LL戦線、電脳堺、召喚シャドール、アンティーク・ギアです。対戦よろしくお願いします!(デュエルで皆を笑顔に)








 

 

 

 

 ノーフェイス攻略5日目の昼下がり。

 

「まるで終わらないわね……」

 

 オベリスク女子寮のデュエル場にて天上院明日香はノーフェイスと他の女性生徒がデュエルする様を眺めていた。

 

 一度は心をへし折られた彼女自身も改めて何度かノーフェイスに挑んだが、結果は未だ彼女ではない者とデュエルが続いている事が証明しているであろう。

 

「明日香さま……ジュンコさんがいませんの……ずっとずっと……」

 

(この娘もそろそろ限界ね……)

 

 明日香の取り巻きと他者から認識されている浜口ももえは、片割れの枕田ジュンコが約5日も姿を現さないため、気が気ではない様子である。

 

 とは言え、明日香やその他の女性生徒は現在審判をしているメデューサ教諭が"ジュンコさんは借りました。後で返します"等と公言していたため、あまり心配はしていない。

 

 しかし、一番の友人であるももえはそうではないらしく、また心配が度を越したのか、目に光がなくやや濁り始めているため、ダークネスを経験した明日香からしても若干怖いレベルであった。

 

「今回は勝てるかも知れないわ」

 

「そうなのですか……?」

 

 ももえの意識を反らすため、明日香は現在行われているデュエルに意識を向ける。

 

 

ノーフェイス

LP1800

手札2

モンスター1

魔法・罠0

 

藤原雪乃

LP700

手札2

モンスター2

魔法・罠1

 

 

 そこでは女子生徒――明日香の友人でもある藤原雪乃がノーフェイスとデュエルをしていた。更に互いのデッキ枚数は半分以下に落ち込んでおり、それだけ長く交戦していた事も伺える。

 

未界域(みかいいき)のネッシー

星7/闇属性/水族/攻1600/守2800

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札のこのカードを相手に見せて発動できる。自分の全ての手札の中から、相手がランダムに1枚選び、自分はそのカードを捨てる。それが「未界域のネッシー」以外だった場合、さらに手札から「未界域のネッシー」1体を特殊召喚し、自分はデッキから1枚ドローする。

(2):このカードが手札から捨てられた場合に発動できる。デッキから「未界域のネッシー」以外の「未界域」カード1枚を手札に加える。

 

『■■■……!』

 

 ノーフェイスの場には巨体と長い首を持つ未確認生物が、その首で己を守るように身を固めるばかりである。

 

未界域(みかいいき)のネッシー

DEF2800

 

 それに対する雪乃のフィールドには2体のエース級融合モンスターと1枚の伏せカードがある。

 

「うふふ……! もちろん、まだ……楽しませてくれるでしょう?」

 

 未だ交戦する姿勢に一切の曇り無い彼女の盤面はそれ相応のモンスターが並んでいた。

 

エルシャドール・ネフィリム

融合

星8/光属性/天使族/攻2800/守2500

「シャドール」モンスター+光属性モンスター このカードは融合召喚でのみEXデッキから特殊召喚できる。

(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「シャドール」カード1枚を墓地へ送る。

(2):このカードが特殊召喚されたモンスターと 戦闘を行うダメージステップ開始時に発動する。そのモンスターを破壊する。

(3):このカードが墓地へ送られた場合、自分の墓地の「シャドール」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

 

召喚獣(しょうかんじゅう)メルカバー

融合

星9/光属性/機械族/攻2500/守2100

「召喚師アレイスター」+光属性モンスター

(1):1ターンに1度、モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時、そのカードと同じ種類(モンスター・魔法・罠)の手札を1枚墓地へ送って発動できる。その発動を無効にし除外する。

 

 そこにいたのは闇色の光を纏う女神に似た巨大な傀儡と、チャリオットと半ば一体化した白銀の騎兵である。

 

エルシャドール・ネフィリム

ATK2800

 

召喚獣(しょうかんじゅう)メルカバー

ATK2500

 

 局面はライフポイント以外で完全に雪乃が優勢。また、エルシャドール・ネフィリムと、召喚獣(しょうかんじゅう)メルカバーは共に方向性の違う強烈な効果を持ったモンスターのため、5日に及ぶデュエルの果てにようやくノーフェイスが陥落するのかと、誰もが固唾を飲んで見守っていた。

 

 

「いひひっ……!」

 

ノーフェイス

手札2→3

 

 そして、ターンはノーフェイスに回り、彼女はそのまま魔法カードを発動した。

 

「手札から"ライトニング・ボルテックス"を発動します。手札を1枚捨てて発動され、相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊します」

 

 審判兼翻訳のメデューサ教諭の声に従い、手札が捨てられると共に雪乃のモンスターらの頭上に眩い雷光が輝き、全てを貫く落雷と化す。

 

「ダ・メ。"召喚獣(しょうかんじゅう)メルカバー"の効果を使うわ。1ターンに1度、モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時、そのカードと同じ種類の手札を1枚墓地へ送って発動できる」

 

 それに呼応するようにメルカバーがその武具を振り上げると、その切っ先に淡い緑の光が灯った。

 

「私は速攻魔法"神の写し身との接触(エルシャドール・フュージョン)"を墓地に送り、その発動を無効にし除外するわ」

 

 そして、振り抜かれると共に迸った光はライトニング・ボルテックスの雷光を切り払うと共に、この場から跡形もなく消滅させる。

 

『ノコッ!』

 

 かと思えばノーフェイスの場には、どこか愛嬌のある寸胴な蛇に似た未確認生物が姿を現した。

 

未界域(みかいいき)のツチノコ

星3/闇属性/爬虫類族/攻1300/守 0

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札のこのカードを相手に見せて発動できる。自分の全ての手札の中から、相手がランダムに1枚選び、自分はそのカードを捨てる。それが「未界域のツチノコ」以外だった場合、さらに手札から「未界域のツチノコ」1体を特殊召喚し、自分はデッキから1枚ドローする。

(2):このカードが手札から捨てられた場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。

 

未界域(みかいいき)のツチノコ

ATK1300

 

「いひっ」

 

「"ライトニング・ボルテックス"のコストとして墓地に捨てられたカード、"未界域(みかいいき)のツチノコ"の効果。このカードが手札から捨てられた場合に発動でき、このカードを特殊召喚します」

 

(そう言えばなんで暗黒界と未界域が捨てられた時に発動したりしなかったりするのかしら? まあ、任意効果――)

 

「それは暗黒界は"カードの効果で墓地に捨てられた時"、 未界域は"手札から捨てられた時" だからですよ、明日香さん」

 

 その言葉と共にいつの間にかメデューサは今まで居た位置から明日香の隣に居た。そのまま、メデューサは明日香の背を押して審判が立つ位置まで戻り、明日香の隣に据え置く。

 

「…………えっ……」

 

「つまりコストは効果ではないため、コストで捨てた場合の暗黒界は発動できず、コストなど関係なく捨てた場合のため未界域は発動できます。要は未界域カードはコストでもハンデスでも発動でき、暗黒界カードはハンデスのときのみ発動できます」

 

「なるほど……それよりもメデューサ先生? 今私声に出していまし――」

 

「更ァにっ! ノーフェイスさんドローした魔法カードを発動です!」

 

 明日香にしかわからない超能力のような何かを発揮しつつ明らかに話を反らすメデューサ。そんな彼女に眉を顰めつつも明日香は盤面に目を向ける。

 

ノーフェイス

手札0→1

 

「いひひっ……!」

 

 そして、ノーフェイスは引いたカードの1枚をそのまま発動する。

 

「通常魔法、"()わりの(はじ)まり"を発動。自分の墓地に闇属性モンスターが7体以上存在する場合、その内の5体を除外して発動でき、自分はデッキから3枚ドローします。効果により、墓地から5体のモンスターを除外して3枚ドロー」

 

ノーフェイス

手札0→3

 

 更にノーフェイスは1枚のカードを雪乃へと見せた。

 

未界域(みかいいき)のビッグフット

効果モンスター 星8/闇属性/獣族/攻3000/守 0

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札のこのカードを相手に見せて発動できる。 自分の全ての手札の中から、相手がランダムに1枚選び、自分はそのカードを捨てる。それが「未界域のビッグフット」以外だった場合、さらに手札から「未界域のビッグフット」1体を特殊召喚し、自分はデッキから1枚ドローする。

(2):このカードが手札から捨てられた場合、相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

「んー………右から二番目にするわ」

 

「いっひっひっ」

 

 その言葉に従い捨てられたカードは、暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファであった。

 

「あら……大当たりね」

 

 そのまま、人間の数十倍はあろうかという巨体の猿人である未界域(みかいいき)のビッグフットがその場に特殊召喚され、それと共に暗黒界の共通効果が起動する。

 

未界域(みかいいき)のビッグフット

ATK3000

 

「選ばれたカードは"未界域(みかいいき)のビッグフット"以外だったため、さらに手札から"未界域(みかいいき)のビッグフット"1体が特殊召喚されます。更に"暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ"がカードの効果によって手札から墓地へ捨てられたため、相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊します。対象は"エルシャドール・ネフィリム"です」

 

「くっ!?」

 

 "暗黒界の龍神 グラファ"による闇色の爆炎が直撃し、"エルシャドール・ネフィリム"が崩れ落ちる。

 

「ネフィリムの効果で"影依融合(シャドール・フュージョン)"を手札に加えるわ……」

 

「では手札から"暗黒界(あんこくかい)術師(じゅつし) スノウ"を召喚します」

 

暗黒界(あんこくかい)術師(じゅつし) スノウ

星4/闇属性/悪魔族/攻1700/守 0

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、自分のデッキから「暗黒界」と名のついたカード1枚を手札に加える。相手のカードの効果によって捨てられた場合、さらに相手の墓地に存在するモンスター1体を選択し、自分フィールド上に表側守備表示で特殊召喚する事ができる。

 

暗黒界(あんこくかい)術師(じゅつし) スノウ

ATK1700

 

「そして、"暗黒界(あんこくかい)術師(じゅつし) スノウ"を手札に戻し、"暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ"を墓地から特殊召喚します」

 

 未界域(みかいいき)のビッグフットと同じく、このノーフェイスのデッキのエースモンスターであり、暗黒界の底に住まう龍神が現れる。

 

暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ

ATK2700

 

「いひっ」

 

「このカードは"暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ"以外の自分フィールド上に表側表示で存在する暗黒界と名のついたモンスター1体を手札に戻し、墓地から特殊召喚する事ができます。ではバトルフェイズに入ります」

 

 ノーフェイスの2体のモンスターは、共に召喚獣(しょうかんじゅう)メルカバーへと迫る。

 

「私はトラップカード、"ドラグマ・パニッシュメント"を発動! 相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として、そのモンスターの攻撃力以上の攻撃力を持つモンスター1体を自分の融合デッキから墓地へ送り、対象のモンスターを破壊するわね。"召喚獣(しょうかんじゅう)メガラニカ"を墓地へ送り、その攻撃力3000以下の"暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ"を破壊よ」

 

 その発動と共に突如として地面から生えてきた赤熱する巨大なゴーレムに暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファが組伏せられ、ゴーレムから不穏な音と光が放たれた直後、爆裂して共々破壊された。

 

 残る未界域(みかいいき)のビッグフットは、そのまま召喚獣(しょうかんじゅう)メルカバーを豪腕で殴り付け、戦闘破壊する。

 

「うっ……」

 

藤原雪乃

LP700→200

 

 怯んだ雪乃が再び相手フィールドを見ると、そこには身体をくの字に曲げて助走を付けるように踏ん張っている妙な生き物の姿があった。

 

 その直後、それは跳ね飛ぶと共に身体を車輪のように丸めて凄まじい速度で雪乃へと突き進む。

 

「いひひっ……」

 

「では最後に"未界域(みかいいき)のツチノコ"でダイレクトアタックです。飛鳥文化アタック!」

 

『ツチッ!』

 

「はうっ!?」

 

 ぺちんと雪乃の額に小さなツチノコがぶつかり、その割には地味に1300も攻撃力のあるそれがライフポイントを削りきった。

 

藤原雪乃

LP200→0

 

 

 

 

 

「うーん……いい線行っていたのですが私の秘策(ゆきのんさん)はダメでしたかぁ……」

 

 デュエル終了直後に小声で不穏な事をメデューサが呟いたのを明日香は確かに耳にした。

 

 それと共に少し残念そうでありながら楽しげな笑みも浮かべた雪乃がメデューサの元に戻ってくる。

 

「負けてしまったわ。いいデッキだったのに残念ね」

 

「敗因はデッキのシャドール(リソース)切れですね。ノーフェイスさんの【未界域暗黒界】は長く戦うことに特化した組み方をしているので、ゆきのんさんの40枚組みの【シャドール召喚獣】では若干分が悪かったかもしれません。やっぱりフルルドリスちゃんと烙印ドラグマ混合にして60枚のを持たせるべきでしたかねぇ」

 

 小さく溜め息を吐きながらそんなことを言うと共に、まるで魔法のように掌からカードを湯水の如く生成して見せるメデューサ。明日香から見れば位の高いデュエルモンスターズの神が全く隠すことなくその権能を発揮しているだけなのだが、常人から見ればただの手品であり、それをわかってそのようにしている彼女は余りに人間という生き物を知り過ぎていると畏敬を抱く程であろう。

 

「ねぇ先生? このデッキ私にくれない? 気に入っちゃったわ」

 

 何でもないように雪乃から呟かれたその言葉に明日香は少なからず驚く。

 

「おやぁ? 負けておきながら大きく出ましたねぇ?」

 

 メデューサが笑みと共に細く歪めたその目と嘲笑と悦楽が同居した舐め回すような視線を前に明日香は、無意識にぞわりと背筋が凍らされるような感覚を覚える。

 

 基本的に丁寧な口調だが、その態度は極めて慇懃無礼。礼儀があるように見えて、その実自身の意思をほぼ曲げず、酷く尊大で傲慢。己の行いで相手がどうなるのかということを余り判断材料として捉えていない。何かに尽くすように見えると同時に何かを奪うことにまるで躊躇がない。

 

 概ね"神話の神"と言えるだけの傍若無人さを持つ彼女――真の名をヴェノミナーガは、言われてみれば確かに人間のそれとは掛け離れたものであり、知るからこそ恐れというものを確かに明日香は認識している数少ない人間なのだ。

 

「でも……まあ、構いませんよ。信奉者に賜はすのも主神の甲斐というものです。まあ、初めてにも拘らず、あれだけそのデッキを使いこなせるということはそういうことなのでしょう。慎んで持っていきなさい」

 

「ええ、ありがとう。大切にするわ」

 

(二人とも凄いわねぇ……)

 

 けっして、目の前の教員の形をしたものが人間などではない事を知っている明日香としては、神らしく傲慢な彼女と同時に、そんな彼女に対等ではなくともまるで恐れずに接する事の出来る雪乃も逸脱した存在だと考えていた。

 

 まあ、雪乃に関してはスリル中毒な気がある変わり者なためという認識もあるが、それでも明日香から見ても異様な精神構造をしているナイトメア並みに彼女と平常に接する事が出来る点は特筆に値すると言える。

 

 また、半日ほどこのデュエルモンスターズの一柱に同化されていた明日香は、彼女の趣向の一部をやんわりと理解しており、彼女は"かなり雑に面白いモノが好き"であり、雪乃や自分自身が明らかに該当している事を認識していることも始末に負えないだろう。

 

「んー?」

 

 すると彼女はデュエル場の所定の位置を見つめ、楽しげに頬を綻ばせた。

 

「ああ、真打ちの登場ですね」

 

「真打ち?」

 

「はい、マ――リックさんが用意した方の秘策です。私の方は私が少々本気でチューンナップしたデッキを使ったゆきのんさんでした」

 

 最早、取り繕う必要があるのかと思いつつ、ナイトメアの秘策だという挑戦者を明日香は眺め――。

 

 

「デュエルなノーネ!」

 

「いひひっ!」

 

 

(――………………?)

 

 しかし、そこにはノーフェイスとデュエルをし始めた実技担当最高責任者ことクロノス・デ・メディチしかおらず、明日香は首を傾げた。

 

 世界の裏そのものであるダークネスを特に苦もなく打倒し、明日香にとって恩人であり、レジェンドデュエリストという認識になっているナイトメアことリック・ベネットが用意した秘策ともなれば、高位の精霊でも連れてきたのかと考え、辺りを見回して空を見上げるが、特にそのような影はない。

 

 ちなみにオベリスクブルー女子寮で男性教員がデュエルしている理由は、教師陣としても明らかに差のある実力を認識しており、教員総出で攻略に乗り出したからだ。まあ、結果の程は未だにノーフェイスが立っている事から然るべきだろう。

 

『……? どうしましたか、明日香さま?』

 

(かわいいわ……)

 

 自身の隣を見れば、後ろに手を組んで顔を突き出すようにこちらを見上げるサイバー・チュチュと目が合うため、明日香が精霊を見る力を行使していない訳でも失った訳でもないらしい。

 

「いや、今デュエルしているではありませんか? 明日香さんもよく知る人でしょう?」

 

「あなたに先攻は譲りまスーノ!」

 

「いひっ」

 

 彼女の視線の先にはやはりクロノス・デ・メディチの姿があり、ノーフェイスがデュエルに応じ、流れるようにデュエルに行われる様子はこの5日間で最早見慣れた光景と化していた。斯く言う明日香もそのように考えており、仮にもノーフェイスがクロノスに倒されるビジョンなどまるで浮かばない。

 

 ちなみにこれまでの生徒たちの評価からか、特にクロノスがデュエルを行うため、生徒が見に集まるような様子はなく、明日香の評価が決して間違っている訳ではない事を意味していた。

 

「えっ……? 本当にクロノス先生が……?」

 

 しかし、どうやら秘策とやらはクロノスの事らしく、他に特別なデュエリストや精霊は見る影もない。

 

「本当に……? 私をオモチャにしているわけではなく?」

 

「明日香さんはオモチャにしていますが、本当です」

 

「本当の本当……?」

 

「本当の本当です。このカシオミニを掛けてもいいですよ」

 

 とても年期の入った電卓らしきものを掲げつつ念押ししてくるメデューサ。恐らくはデュエルディスクを使わない時のライフポイント計算用――かと明日香は一瞬考えたが、彼女はそういった場合にはメモ帳とペンを使って計算しているため、全く意味のわからない品であった。

 

 

「うしっ! 間に合ったぜ!」

 

 

 すると本来ならばラーイエロー寮のノーフェイスと戦っている筈の遊城十代が彼女らの前に姿を現し、意外な人物の登場に明日香は目を丸くした。

 

「あらボウヤ? 珍しいわね」

 

「リックに"クロノス先生が全力でデュエルするから見て来いよ"って言われたんだ!」

 

「リックが? クロノス先生を……?」

 

 その上、ナイトメアはクロノスが勝つと言うことをまるで疑っていないらしい。

 

 自身の評価と彼の評価が余りに解離する事を強く感じ、明日香は益々大きく首を傾げて疑問符を浮かべていると、十代はさも当たり前のような表情で口を開く。

 

「えっ? だって強いだろ? クロノス先生。ほら――」

 

 

 

古代の機械(アンティーク・ギア・)究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)

融合

星9/地属性/機械族/攻 2800/守 2000

「古代の機械参頭猟犬」+「古代の機械」モンスター1体

(1):このカードが融合召喚に成功した場合、相手のLPを半分にする。

(2):このカードは1度のバトルフェイズ中に3回まで攻撃できる。

(3):このカードが攻撃する場合のダメージステップ終了時まで、相手は魔法・罠カードを発動できない。

 

 クロノスのフィールドには歯車と鉄で構成され、赤紫色の体躯をした荒々しい三つ首の猟犬の姿があった。

 

古代の機械(アンティーク・ギア・)究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)

ATK2800

 

 

 

「すっげーわくわくするじゃんか!」

 

「わくわくアーゼウス」

 

 明日香は見覚えのない【古代の機械(アンティーク・ギア)】モンスターに目を見開くと共に、それが後攻1ターン目に融合召喚されていることに驚愕の表情を浮かべた。

 

 

 

 事の発端は4日目の正午まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノーフェイス攻略週間4日目の昼休憩の時間。2日目と3日目は全く状況が変わっておらず、4日目も既に半日が終わっていた。

 

 カイザー先輩はノーフェイス攻略をしつつ、半ば籠りながら新しいサイバー・ドラゴンのカードをデッキに組み込みつつ、サイバー流以外のカードをサイバー流に組み込む可能性を模索している様子である。

 

 籠る直前に"プロデュエリストになれば、ノーフェイスともいつでもデュエル出来るな"等と本気に聞こえる不穏な冗談を言っていた。また、食事もロクに取らずに、心底楽しそうな笑い声が部屋の外まで響いているので、数日はあの調子であろう。新しい超高額カードを落札した俺もたまにあんな感じになっているので気持ちはよく分かるために責められはしない。

 

 そのため、現在のカイザー先輩はどちらかと言えばデッキ構築と探求に対して多めに意識を割いているので、あまり戦力にはならないかも知れない。原因は新しいカードを渡した俺である。

 

 その上、最初から期待はしていなかったが、ノーフェイスが加減をする気も、容赦をする気も更々ないことが4日間でよくわかった。アイツのデッキ、揃いも揃って構成に殺意しかない。申し訳程度に仮面カードが刺されているが、しっかりとデッキに噛み合ったものを選んで入れており、デッキのパーツのひとつと化している。

 

「どうすんだよこれ……」

 

 流石に俺のせいで七星門の鍵が全て奪われることになれば洒落にならないため、食堂で頭を抱えていた。

 

 当たり前のように片手をメデューサ先生に変えて審判をしており、本体はこちらにいるヴェノミナーガさんに煽られても仕方のない事だろう。

 

『プギャー――あばばばば!?』

 

 それはそれとして、大成仏は投げ付けた。銭湯にある電気風呂ぐらいの効果はあるかも知れない。

 

『でも実際、ヤバいですよねー。事実上のデュエルアカデミアトップスリーを出禁にしてのデュエルなんて流石に思いませんでしたもの』

 

 まあ、ノーフェイスが来ても俺がぶち転がせばいいと思い、特に対策をしていなかった節は多分にある。

 

 まさか、良心の塊のような奴が、真っ正面からあんな姑息な手段を取るなどまるで予想していなかったのだ。

 

『え……? いやいやいや、今の環境に満足しているだけで、精霊界でのあの方はかなり狡猾で残虐寄りの精霊ですからね? 拠点周辺が多種族から禁域に指定されている程度には――』

 

 いつものヴェノミナーガさんの戯言は聞き流し、本格的にどうするか考える。

 

 まず、ラーイエローにいるデストーイデッキのノーフェイスは恐らく期間内に十代が倒してくれるだろう。始まってからずっと楽しそうにしてるし、主人公だし。

 

 とすると残るノーフェイスはオベリスクブルー女子と、デュエルアカデミア本館の2体だが、オベリスクブルー女子の方のデッキが余りにも凶悪過ぎる。

 

 【未界域暗黒界】――。

 

 リンク召喚全盛期にも関わらず、3期【カオス】に帰ったようなレベルのとんでもなく単純なカードパワーによるゴリ押しと大量展開で、環境まで伸し上がったカテゴリーである。

 

 また、手札から捨てられた時に効果が発動する性質上、夢幻泡影などのポピュラーな手札誘発では一切止められないと言うことも拍車を掛けただろう。後、ぶっ壊れてる方のチラ見魔王様こと暗黒の魔王ディアボロスとも割りと相性が良かったため、隣の芝刈り対策を兼ねて60枚にして強引に捩じ込まれたり、はたまたサイドデッキをフル活用したりすると、型は似ている全く別のデッキになる点も凶悪であった。

 

 まあ、要は並大抵のデッキが相手では、カードパワーが違い過ぎるのである。手札抹殺、相手は死ぬ。

 

『どうするんですかアレ? 私かラーさんを場に出すか、マスターとか十代さんのインチキドロー相手じゃないと1年やったって負けませんよ?』

 

 "精霊たちも生き生きしてますし"と更にヴェノミナーガさんは続ける。

 

 そうなのだ。【未界域暗黒界】及び【未界域魔轟神】はそれまでのデッキに比べるとソリティアの性質が違うと言ってもいい。また、ノーフェイスの構成の場合、極論、捨てて殴る――ただそれだけである。

 

 故にノーフェイスが手札事故を起こす事はまずないと言っていいだろう。

 

『で? 誰が倒すんですかアレ?』

 

 仕方がないため、俺は【征竜】を貰った頃に沢山はっちゃけて以来、カードの過度な生産は封印していたが、事情が事情なため、色々な意味での最終手段を使うことにした。

 

「ここに俺の"古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)"があります」

 

『ありますねぇ』

 

古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)

星8/地属性/機械族/攻3000/守3000

このカードは特殊召喚できない。

(1):このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。

(2):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

 

 デュエルアカデミア本校では言わずと知れたパワーカードである。表示形式の変更にも強いのがえらい。

 

 俺は古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)を片手に乗せ、それを指でずらすと何枚か同じカードが重なっている事がわかるだろう。

 

「そして、これが俺の手持ちには4枚あります」

 

『社長なら1枚破り捨ててそう』

 

 ブルーアイズのカードを持つ者は、世界で社長ひとりだけだからね、仕方ないね。ちなみに4枚ある理由は、3枚目を入手した時にそれまでのモノより遥かに安い4枚目を見つけてしまったため、腹が立って買ったものである。

 

「これに他の最上級の古代の機械(アンティーク・ギア)モンスターたちも沢山重ね……仕上げにダークネスさんから貰ったダークネスの力を用意します」

 

『本体よりつよそう』

 

 ヴェノミナーガさんは自分の親のような存在をなんだと思っているのか疑問に思ったが、よく考えたら煽られてボコボコにしているので、大した扱いはしていないのかも知れない。

 

 数多の古代の機械(アンティーク・ギア)最上級モンスターを一体化させることにより、特有の貫通能力と全体攻撃を会得し、ダークネスによって闇属性になるに違いないだろう。

 

『じゃあ、ついでに私の毒も振り掛けときますね。言いたいことも言えないこんな世の中じゃ――』

 

 蛇の片腕の舌からパウダー状の蛇神毒(ポイズン)を、高い位置から古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)などのモンスターたちにファサーっと振りかけ、異物混入させているヴェノミナーガさん。これによっていい感じにヴェノミナーガさんに似た耐性を会得するだろう。

 

 それと共に倍プッシュでダークネスの力を流し込む事で、カードたちは暗黒に包まれながら紫電を放ち始める。

 

 チクショウ、どう足掻いても分かり易過ぎるこの時代のパワーカードを4枚や他の古代の機械(アンティーク・ギア)最上級モンスターカードを集めるのにいったい幾ら掛かったと思ってやがるってんだ……。

 

『普段使わないですし、いいじゃないですか』

 

 俺の恨み節をヴェノミナーガさんが宥めつつ、カードたちは1枚のカードへと収束して行く。

 

 これと後は幾らかカードを見繕えばいいだろう。俺の知る限り、それらをそれとなくあの人に渡しておけば実力的にも人間性的にもきっと打倒してくれるだろうと思い馳せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オベリスクブルー女子寮――。

 

 この離島にあるデュエルアカデミア本校にて、本来ならば男子禁制の園である。

 

 しかし、現在そんな場所はセブンスターズのノーフェイスの襲来により、珍しく開放され、男女問わず出入りがなされていた。

 

 

「マズいノーネ……」

 

 

 そんなオベリスクブルー女子寮にて、よく整えられた中庭のベンチに座り、ひとり頭を抱えている教員にして実技担当最高責任者――クロノス・デ・メディチの姿がある。

 

 以前、下らない上に後ろ暗い理由でオベリスクブルー女子寮(ここ)に不法侵入した事がある人間とは思えない有り様だが、それというのは無論、女子寮のデュエル場の一角を占拠して行われているノーフェイスとのデュエルについてだ。

 

 既に5日目に突入したノーフェイスのデュエルは現在、本館、ラーイエロー寮、オベリスクブルー女子寮のデュエル場の三ヶ所にて、どのような力か同時にデュエルを行っているが、その中でも圧倒的な展開力と破壊で押し潰してくるデッキが女子寮の【未界域暗黒界】である。

 

 その強さは他のノーフェイスのデッキとは頭ひとつ以上抜き出ていると言っても過言ではなく、オベリスクブルー女子の女王と呼ばれる天上院明日香が瞬殺されて寝込む程であり、それ故に女子生徒の多くは遠巻きに見るばかりで、ノーフェイスを恐れてあまりデュエルをしたがらなかったのだ。

 

 そう言った事情で少数を除いた女子生徒は積極的にノーフェイスへ挑まず、元々このノーフェイスに挑んでいた丸藤亮は諸事情で頻度が低下しており、元々の格式の高さと隔絶感からあまり他の寮生は来ず、結果的に教員が総出でオベリスクブルー女子寮のノーフェイス攻略に乗り出す羽目になったのである。

 

 まあ、そもそもオベリスクブルーの女学生は平均的にあまりデュエル自体の実力は高くはない。尤もそれはピンキリであり、デュエリストの女性人口が多くはないという事実もあるが、男子生徒のみオシリスレッドからオベリスクブルーまで事実上の階級で別れており、女子はオベリスクブルーのみというところからも来ている。また、デュエルアカデミア本校そのものがエスカレーター式の名門校であり、学歴のために在籍しているという者も少なからず居ることも理由に挙げられるであろう。

 

(教員総出でまるで歯が立たないノーネ……)

 

 尤もクロノスが頭を抱えている理由はそんな女子生徒の事ではなく、教師陣が束になっても全く歯が立たない現状に対して向けられていた。

 

(カミューラに七星門の鍵を奪われてしまった以上ハ。今だけが力になれるチャンスナノーネ! だというのに……なんと不甲斐ないノーネ……!)

 

 抱えていた頭を離したクロノスの手には1枚の融合モンスターが握られていた。

 

古代の機械(アンティーク・ギア・)究極巨人(アルティメット・ゴーレム)

融合

星10/地属性/機械族/攻4400/守3400

「古代の機械巨人」+「アンティーク・ギア」

モンスター×2 このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

(1):このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。

(2):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

(3):このカードが破壊された場合、自分の墓地の「古代の機械巨人」1体を対象として発動できる。そのモンスターを召喚条件を無視して特殊召喚する。

 

 クロノスが生徒に対しては使った事の無いレア中のレアカードであるが、これを用いてもノーフェイスにはまるで歯が立たなかった。その事実に彼は憂いているのであろう。

 

(……なぬ? あれはシニョールリックとシニョーラメデューサでスーノ)

 

 するとクロノスの視界の端に昼食時だからか審判をしていないリックとメデューサの姿が映る。

 

 彼らはクロノスには気付いていないらしく、歩きながらメデューサがリックに対して捲し立てるように語る姿があった。

 

「今期のイチオシアニメはもちろん、"その着せ替え人形(ビスクドール)は恋をする"ですよッ! 五条くんという奥手な超良好物件ヒロインをコミュ強行動力の化身ギャル俺らな海夢(まりん)ちゃんが攻略するコスプレアニメなのですっ!! 既刊8巻好評発売中!!」

 

「キャラメルマキアートより訳のわからない話ですね」

 

「皆バニーが大好きだから!!」

 

「目が怖い。後、オタク特有の自分にしかわからないし、前提知識の必要な話題を他人に突然振るのは止めてください」

 

「実は私、コスには一家言ありましてねっ!」

 

「その姿、そもそもコスプレですものね」

 

(相変わらず、二人は姉弟かと思うぐらい仲が良さそうナノーネ)

 

 二人は教師と生徒を超えた仲――悪友のようなものだということは学校中の公然の秘密である。よく非常に下らない内容で仲良く喧嘩している姿も目にするため、犬も食わないアレなのであろう。

 

 ぎゃいぎゃいと騒ぎ立てる二人は、中庭の隅のベンチに陣取り、片方は肉巻きおにぎりを取り出し、もう片方は茶色い中身の普通の手作り弁当を取り出す。どちらがどちらなのかは語るまでもない。

 

「そもそも最初にまりんちゃんが希望してコスプレするのが、聖♡ヌルヌル女学園 お嬢様は恥辱倶楽部 ハレンチミラクルライフ2の黒江 雫たんです!」

 

「明らかにタイトルが抜きゲーじゃねーか」

 

「ちょっと興味沸いてきました?」

 

「………………1巻だけですよ?」

 

「シャオラァッ!!」

 

(な、なんの話しているのでスーノ……? アプリコット……?)

 

 ちなみにメデューサが授業中に内容がとんでもない方向に脱線しまくり、鮫島校長にお叱りを受けた回数は1度や2度ではない事も生徒によく知られた事実である。

 

 まあ、それでも全く降格されず、生徒からの人気はトップクラスの教諭なため、その実力とカリスマ性は確かなのであろう。"まず、デュエルの教科書を鞄にしまってください"と初授業で言い放ち、それ以来一度も教材を生徒に触らせていない事が生徒にとって好印象なのかも知れない。

 

「あー……アニメ3話のまりんちゃんの付き合っちゃう?発言を一ヶ月後のまりんちゃんに叩き付けてぇー……」

 

「そもそもギャルのオタクなんて存在するんですか?」

 

「ファンタジーやメルヘン――と思いきや現実にもいるんだなぁ……これが……。私行きつけのコンカフェとかにも滅茶苦茶いますよ? キャラとかじゃなくて」

 

「ウッソだぁ」

 

「だから週3で貢いでんだよ言わせんな恥ずかしい」

 

「それが己の給料の使い途か……」

 

「女の子が女の子とお酒飲んだらダメですか? 嫁のキャバク――コンカフェ通いぐらいは認めてください」

 

「その姿でとんでもないこと言わないでください。よく知らないですけど、酒飲んで帰って来ますもんね。ちなみに次点は?」

 

「TS百合マシマシという作者の性癖も透けて見える"怪人開発部の黒井津さん"ですねー」

 

「また、ニッチな……」

 

「失礼な! TS百合からしか摂取できない栄養素は間違いなく存在して――」

 

 5分程で食事を終えた二人は、ベンチから立ち上がるとまた何処かへと歩いて行く。

 

 その際、クロノスは二人が座っていたベンチの隣にポツンとアタッシュケースが残されている事に気づいた。インダストリアル・イリュージョン社のロゴと"あまびえさん"のカードのデカールがデカデカと貼ってあり、校内の人間ならば一発で誰の持ち物か理解出来る代物である。

 

「――! シニョールリッ――」

 

 それ故にクロノスはアタッシュケースに駆け寄り、二人が去って行った方法に目を向けたが、そこには既に彼らの姿はなかった。

 

 その直後、何故かいつも付けている筈のダイヤル錠が付いていないアタッシュケースの留め具が外れ、中身のカードが辺りに散らばる。

 

「ペペロンチーノ!?」

 

 慌ててカードを拾い上げるクロノス。見た事の無いカードからよく知られた汎用カードまで、様々なカードがそこにはあり、回収している内にふとそれを目にした。

 

古代の機械(アンティーク・ギア)……?」

 

 数にしてアタッシュケースの中にあったカードの幾らかが、【古代の機械(アンティーク・ギア)】のカードだったのである。何故か多くが3枚ずつ用意されており、他にも【ガジェット】【巨大戦艦】【マシンナーズ】【機械龍】などのカテゴリーが見られ、どうやらこのアタッシュケースには機械族のカードたちが入れられていたらしい。

 

(これだけでいったい幾らか掛かるノーネ……)

 

 世界でも有数のカード収集家として名の通ったナイトメアというプロデュエリストの財力にクロノスは気負されつつ、彼の中で別の感情が膨れ上がった。

 

(これは生徒のカード……しかし……!)

 

 してはならないことだとわかりつつもクロノスがカードを拾いつつ【古代の機械(アンティーク・ギア)】と幾らかの汎用カードを手繰り寄せる手は止まらない。

 

「――ぬ!?」

 

 そうしている内にクロノスは1枚の【古代の機械(アンティーク・ギア)】の融合モンスターを見つけ、その余りに無法な効果を目にした事で彼の葛藤は汚名やプライドを超え、覚悟へと至る。

 

(シニョールリック……今だけ借りるノーネ!)

 

 クロノスはカードたちを使い、自らのデッキを構築し直し始めたのだった。

 

 

 

 

 

 





~皆大好きアーゼウス集~
・わくわくアーゼウス
・百合の間に割り込みアーゼウス
・アーゼウスが寿司を握るのはダメですか?

※感想に似たようなアーゼウス構文を書くと増えるゾミ☆



~QAコーナー~

Q:明日香さんのヴェノミナーガさんに対する評価悪くない?

A:~明日香が見ている時にじゃしんさまが言ったり言わなかったりしたかもしれない発言集~
じゃしん「これよりパック開封デスマッチを行います!!(悦楽の極地)」

じゃしん「オラッ! 天翔蟹閃(カニパン)ッ!(お手軽4000バーン)」

じゃしん「明日香さん、胸でっかいですね(ダイレクトセクハラ)」

じゃしん「どうしてデュエルモンスターズの授業でデュエルしないんだ……?(教員にあるまじき発言)」

じゃしん「大事なことは全部バニーが教えてくれました(召命の神弓-アポロウーサ)」

じゃしん「悔しいでしょうねぇ?(ソリティア先行制圧)」

じゃしん「マスター、今日のご飯は何ですか?(失われた野生)」

じゃしん「あ゛~、やっぱりこたつが私のハウスです。むしろ、住んでます(神の居城-ヴァルハラ)」

じゃしん「マスター、ドローパン買ってきてください(逆転の女神)」

じゃしん「マスター、お昼ご飯はまだですか? えっ? さっき食べた……あれじゃ足りません。おやつください(時の女神の悪戯)」

じゃしん「は……? 私、餓死しますよ?(神の警告)」

じゃしん「いいですか、マスター。養えないならペットは飼うべきではないんです(神の忠告)」

じゃしん「はやくおやつを出さないと……なんかこう……デュエルアカデミアがすごいことになりますよっ!(神の通告)」

じゃしん「ちくわはおやつではない(神の摂理)」




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ハウンドドッグ



あけましておめでとうございますのついでに投稿すればきっとバレない……。


 

 

 

 

 

 

 時はノーフェイスが最初のターンを終え、クロノスのターン開始まで遡る。

 

 メデューサ――ヴェノミナーガは審判をしつつ、明日香や雪乃と話しながら意識の方は幾分か多めにクロノスへと割いていた。

 

 そして、大多数のデュエルアカデミア生徒から見れば盤面は絶望の一言に尽きる。

 

 

ノーフェイス

LP4000

モンスター4

魔法・罠0

手札5

 

未界域(みかいいき)のビッグフット

ATK3000

 

未界域(みかいいき)のネッシー

DEF2800

 

未界域(みかいいき)のサンダーバード

ATK2800

 

暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ

ATK2700

 

未界域(みかいいき)のサンダーバード

星8/闇属性/鳥獣族/攻2800/守2400

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札のこのカードを相手に見せて発動できる。自分の全ての手札の中から、相手がランダムに1枚選び、自分はそのカードを捨てる。それが「未界域のサンダーバード」以外だった場合、さらに手札から「未界域のサンダーバード」1体を特殊召喚し、自分はデッキから1枚ドローする。

(2):このカードが手札から捨てられた場合、相手フィールドにセットされたカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

(さーて……ノーフェイスさんは早速、先行展開で随分立てましたが、これぐらい返してくれなければお話になりませんよ?)

 

 ビルのような巨体の最上級未確認生物たちと、暗黒界の神足る最強の龍。その上、まるで減る気配の無い潤沢な手札を保持しており、これが挨拶代わりの小手調べだということがわかるだろう。

 

 有象無象のデュエリストならばこの時点で放心して諦めるか、恐怖のひとつでも覚えるものであり、実際これまでのクロノスも面白い反応を示していた事を彼女は記憶している。

 

(おや?)

 

 しかし、今のクロノスは真剣な眼差しで自身の手札を見つめて思考を巡らせるばかりで、ノーフェイスの盤面などまるで眼中に無いようだった。

 

「私のターン……ドローなノーネ!」

 

クロノス

手札5→6

 

 そして、クロノスは体に纏うタイプのデュエルディスクからカードを受け取る。

 

「私は"古代の機械猟犬(アンティーク・ギアハウンドドッグ)"を召喚するノーネ!」

 

古代の機械猟犬(アンティーク・ギアハウンドドッグ)

星3/地属性/機械族/攻1000/守1000

(1):このカードが召喚に成功した場合に発動する。相手に600ダメージを与える。

(2):このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。

(3):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。自分の手札・フィールドから、「アンティーク・ギア」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、 その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。

 

 クロノスのフィールドに歯車と鉄で出来た無骨な猟犬が現れた。

 

古代の機械猟犬(アンティーク・ギアハウンドドッグ)

ATK1000

 

「"古代の機械猟犬(アンティーク・ギアハウンドドッグ)"の効果。このカードが召喚に成功した場合、相手に600ダメージを与えるノーネ! ハウンドフレイム!」

 

「いひっ」

 

 召喚された古代の機械猟犬(アンティーク・ギアハウンドドッグ)が火炎弾を吐き出し、それがノーフェイスに直撃したことでのライフポイントが削られる。

 

ノーフェイス

LP4000→3400

 

(まあ、初動でそれは悪くありませんね。デビルぐらいは出してターンを渡して欲しいところですが――)

 

「更に私は手札から"簡易融合(インスタントフュージョン)"を発動するノーネ!」

 

(ガチガチじゃねーですか。よくもまあ、あれだけ大量に与えたカードの中で最適解を導き出したものですね。マスターも慕っているだけはありますか)

 

クロノス

LP4000→3000

 

「1000LPを払って発動! レベル5以下の融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚しまスーノ! 私は"古代の機械(アンティーク・ギア・)双頭猟犬(ダブルバイト・ハウンドドッグ)"を特殊召喚!」

 

古代の機械(アンティーク・ギア・)双頭猟犬(ダブルバイト・ハウンドドッグ)

融合

星5/地属性/機械族/攻 1400/守 1000

「古代の機械猟犬」+「古代の機械猟犬」

①:このカードが攻撃する場合のダメージステップ終了時まで、相手は魔法・罠カードを発動できない。

(1):1ターンに1度、相手フィールドにモンスターが召喚・特殊召喚された場合に発動できる。

そのモンスターにギア・アシッドカウンターを1つ置く(最大1つまで)。

この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):ギア・アシッドカウンターが置かれているモンスターが戦闘を行うダメージステップ開始時に発動できる。そのモンスターを破壊する。

 

双頭の古代の機械猟犬(アンティーク・ギアハウンドドッグ)がその場に現れた。

 

古代の機械(アンティーク・ギア・)双頭猟犬(ダブルバイト・ハウンドドッグ)

ATK1400

 

「"簡易融合(インスタントフュージョン)"の効果で特殊召喚したモンスターは攻撃できず、エンドフェイズに破壊されまスーが……"古代の機械猟犬(アンティーク・ギアハウンドドッグ)"の効果を使用! 1ターンに1度、自分メインフェイズに発動でき、自分の手札・フィールドから、【アンティーク・ギア】融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、 その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚するノーネ!」

 

(え……? まさか……アレを正規融合する気ですか?)

 

「"古代の機械(アンティーク・ギア・)参頭猟犬(トリプルバイト・ハウンドドッグ)"を融合召喚ナノーネ!」

 

古代の機械(アンティーク・ギア・)参頭猟犬(トリプルバイト・ハウンドドッグ)

融合

星7/地属性/機械族/攻 1800/守 1000

「古代の機械猟犬」+「古代の機械猟犬」+「古代の機械猟犬」または「古代の機械猟犬」+「古代の機械双頭猟犬」

(1):このカードは1度のバトルフェイズ中に3回までモンスターに攻撃できる。

(2):このカードが攻撃する場合のダメージステップ終了時まで、相手は魔法・罠カードを発動できない。

 

 さながらケルベロスのような三つ首の猟犬がフィールドに召喚された。

 

古代の機械(アンティーク・ギア・)参頭猟犬(トリプルバイト・ハウンドドッグ)

ATK1800

 

「そして、手札から"融合"を発動! フィールドの"古代の機械(アンティーク・ギア・)参頭猟犬(トリプルバイト・ハウンドドッグ)"と、手札の"古代の機械熱核竜(アンティーク・ギア・リアクター・ドラゴン)"を墓地へ送り、"古代の機械(アンティーク・ギア・)究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)"を融合召喚ナノーネ!」

 

古代の機械(アンティーク・ギア・)究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)

融合

星9/地属性/機械族/攻 2800/守 2000

「古代の機械参頭猟犬」+「古代の機械」モンスター1体

(1):このカードが融合召喚に成功した場合、相手のLPを半分にする。

(2):このカードは1度のバトルフェイズ中に3回まで攻撃できる。

(3):このカードが攻撃する場合のダメージステップ終了時まで、相手は魔法・罠カードを発動できない。

 

 クロノスのフィールドに歯車と鉄で構成され、赤紫色の体躯をした荒々しい三つ首の猟犬の姿を現す。

 

古代の機械(アンティーク・ギア・)究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)

ATK2800

 

「"古代の機械(アンティーク・ギア・)究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)"の効果! このカードが融合召喚に成功した場合、相手のLPを半分にするノーネ!」

 

「いっ……」

 

 地獄の番犬のような三つ首から吐き出された業火は、ノーフェイスの全身を容易に包み込み、そのライフポイントを焼き尽くす。

 

ノーフェイス

LP3400→1700

 

(うわ、出しやがった。あっ、さりげなくリアクターが墓地に……)

 

「"古代の機械(アンティーク・ギア・)究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)"に、装備魔法"古代の機械戦車(アンティーク・ギアタンク)"を装備! これによって攻撃力が600ポイントアップ! 更に"ブレイク・ドロー"を装備するノーネ!」

 

 古代の機械(アンティーク・ギア・)究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)の背に砲頭が増設される。

 

古代の機械(アンティーク・ギア・)究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)

ATK2800→3400

 

「バトル! "古代の機械(アンティーク・ギア・)究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)"で、"未界域(みかいいき)のサンダーバード"を攻撃!」

 

 古代の機械(アンティーク・ギア・)究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)は、砲撃を行い牽制しながらその四肢を駆使して瞬時に未界域(みかいいき)のサンダーバードの足元まで迫り飛び掛かると、その首を噛み千切った。

 

 そのまま、未界域(みかいいき)のサンダーバードは墜落し、地面に衝突すると二度とは動かなくなる。

 

ノーフェイス

LP1700→1100

 

「まだ、ナノーネ! このカードは1度のバトルフェイズ中に3回まで攻撃できまスーノ! 続けて"暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ"へ攻撃!」

 

 その勢いのままにグラファへと突撃すると、その顔面に向けて砲弾を叩き込み、その巨体を沈めた。

 

ノーフェイス

LP1100→400

 

 最後に残った攻撃表示の"未界域(みかいいき)のビッグフット"は攻撃力3000に対し、古代の機械(アンティーク・ギア・)究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)の攻撃力は3400。

 

 そして、ノーフェイスのライフポイントは丁度その差分の400であり、これまでただ流し見しているばかりだったギャラリーは、瞬時に巻き起こった怒濤の展開に生唾を飲むばかりだろう。

 

「これで最後ナノーネ! "未界域(みかいいき)のビッグフット"に攻撃! アルティメット・フレイム!」

 

 トドメとばかりにその四肢で大地を踏み締めた古代の機械(アンティーク・ギア・)究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)は、未界域(みかいいき)のビッグフットへと目掛けてその三つ首から業火を吐き出し、瞬時に灰へと変える。

 

「いひひっ……!」

 

 そして、背後にいたノーフェイスごと焼き尽くした。

 

ノーフェイス

LP400→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノーフェイスのフィールドは、古代の機械(アンティーク・ギア・)究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)の攻撃によって濃い煙に包まれ、フィールドの隅にいる未界域(みかいいき)のネッシーの身体が僅かに見えるばかりである。

 

「クロノス先生が勝った……?」

 

 明日香は唖然とした表情でその一部始終を見届け、回りの生徒も一様に似たような表情であり、誰も現実が受け止められないのか辺りは静寂に包まれていた。

 

 そして、そんな最中に真っ先に動いたのは日頃から嫌がらせを受けている遊城十代である。

 

「よっしゃあ! クロノス先生が勝っ――」

 

「まだ、ソリッド・ビジョンが消えてないノーネ!」

 

 しかし、それを一番に否定したのは、未だ真剣な面持ちでノーフェイスのフィールドを見つめているクロノスであった。

 

 ソリッド・ビジョンが起動し続けている――すなわち確かに4000のライフポイントを削った筈にも関わらず、未だにデュエルが続行している事に集まって来ていた他の生徒や教員が気づくと共に、ノーフェイスのフィールドを覆っていた煙が晴れる。

 

 

ノーフェイス

LP3000

 

 

 そして、そこには未だ大量のライフポイントを保持しながら以前として健在のノーフェイスの姿があった。

 

 ライフカウンターは確かにその数値を示しており、未だにデュエルが続いていることが何よりもの証明だろう。

 

「どういうことなの!? 確かに削りきれた筈じゃ……」

 

「ノーフェイスさんは"簡易融合(インスタントフュージョン)"の発動時に手札からカードを発動していました」

 

 審判のヴェノミナーガが呟くと、ノーフェイスの足元にぼんやりと少女のような形をした青白い何かが一瞬だけ像を結び、そのまま消えて行った。

 

「あー、アレを使ってたんだな」

 

「アレ?」

 

 それを見た十代は自身のデッキを取り出すと、その中から1枚のカードを抜き出して明日香に見せる。

 

「コイツだろ?」

 

「ええと……あら可愛いモンスターね。効果は――」

 

儚無(はな)みずき

チューナー

星3/水属性/アンデット族/攻 0/守1800

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できず、相手ターンでも発動できる。

(1):このカードを手札から捨てて発動できる。 このターン、以下の効果を適用する。

●相手がメインフェイズ及びバトルフェイズに効果モンスターの特殊召喚に成功する度に、自分はそのモンスターの攻撃力分だけLPを回復する。この効果で自分のLPが回復しなかった場合、エンドフェイズに自分のLPは半分になる。

 

 シスター服姿の儚げな少女という外見とは裏腹に、効果は全く可愛くなかった。ワンキルを絶対に許さないという鋼の意思を感じる性能である。

 

「えっ……なにこれは……」

 

「デュエルしてたらリックが前にくれたんだ」

 

『じー……』

 

(しかも精霊になってるわ……)

 

 十代は"デュエルしてたら時々カードくれるんだぜ"と気になる事を話すが、それよりも彼の足元で彼のズボンの裾を掴みながら体育座りをしつつ、明日香をしっとりとした瞳で見つめて来る美少女の精霊の方が余ほどに気になる明日香であった。

 

 只でさえ、常人に比べてリーサルラインが異常に遠い十代にこのような精霊が憑いてしまえば、鬼に金棒等というレベルではないだろう。

 

 ちなみに十代は多い日でナイトメアと1日で10戦はデュエルをしているデュエル馬鹿といっても差し支えない者である。

 

 また、日々大量に対戦しているとたまにナイトメアの方から月とスッポンレベルのレートでカード交換を持ち掛けてくる事があり、その度に十代のデッキに有用なカードや新しい【HERO】関連のカードが入り、複数ある彼の【HERO】がナイトメアの手元に来ているのである。

 

「つまりこういうことです」

 

 

4000(-600) バーン

3400(+1400) みずきちゃん

4800(+1800) みずきちゃん

6600(+2800) みずきちゃん

9400(÷2) LP半分

4700(-600) パンチ

4100(-700) パンチ

3400(-400) パンチ

3000 ←イマココ

 

 

 ヴェノミナーガは自身が全ての試合で残している直筆のメモ書きに少し加筆すると、それを二人に見せてくる。

 

 確かにライフポイント3000という数値は、何も間違ってはいない値であり、紛れもない現実であった。

 

「そんな……これでも勝てないなんて……」

 

「逆ですよ。彼女は今までの5日間で1度もあの誘発を切りませんでした。つまり、紛れもなく敗北するビジョンをあの方に見せ付けたということです」

 

「――――♪」

 

 それに答えるようにノーフェイスは軽く口笛を吹いて見せる。心底他人を馬鹿にしているように見えるが、そのこれまでと違う蔑むような行動は対等以上に見た相手への挑発とも捉えれるだろう。

 

 つまりここから先は、デッキの100%で襲い掛かってくるということだ。最早、今回のように彼女の油断を狙う事は出来まい。

 

「機械族専用装備魔法、"ブレイク・ドロー"は、装備モンスターが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、自分のデッキからカードを1枚ドローするノーネ。よってカードを3枚ドローしていまスーノ」

 

クロノス

手札0→1→2→3

 

「カードを1枚セットしてターンエンドなノーネ」

 

クロノス

LP3000

手札2

モンスター1

魔法・罠3

 

 

 

 

 

ノーフェイス

手札4→5

 

 ノーフェイスのターン。ドローと共に彼女は引いた"強欲な壺"をそのまま使い、更にカードをドローする。

 

ノーフェイス

手札4→6

 

 更に通常魔法カードの"()わりの(はじ)まり"を発動した。

 

「自分の墓地に闇属性モンスターが7体以上存在する場合、その内の5体を除外して発動できます。自分はデッキから3枚ドローします」

 

(あんなカードを普通に採用できるだなんて、本当に恐ろしいデッキね……)

 

 このノーフェイスのデュエルを数日見て来た明日香は、そのデッキがとんでもない量のドローソースと、闇属性モンスターによって成り立っている事を考え、見た目以上に絶望的な相手によって見ているだけでも緊張を覚える。

 

ノーフェイス

手札5→8

 

「いひひ……」

 

 そして、引いたカードを眺め、これまで以上に不敵で不遜な声色を浮かべた。

 

「さて、ミズキちゃんを切ってしまった以上出し惜しみする意味もないですし、そろそろ真打ちを出して来るでしょう」

 

「なんですって……? まだ全力じゃなかったの!?」

 

「いえ、未界域も暗黒界も多くは何かの下敷きにするデッキなんですよ。ノーフェイスさんのは60枚デッキですから十中八九隠し玉があるのは間違いないです」

 

 その言葉に釣られて明日香はノーフェイスのデュエリディスクにセットされたデッキを眺め、確かに明らかな太い厚みはそれを物語っているだろう。

 

 枚数は理解していたが、その先を持つなど明日香と言えども流石に彼女は考えていなかった。これではまるで――。

 

「…………まあ、アレの飼い主がそう言う事をする方ですからねぇ」

 

「………………」

 

 何となくノーフェイスが何なのか薄々気付いていた明日香は、誰に言うわけでもなく呟かれたヴェノミナーガの言葉に閉口する。

 

「さーて、一体何を隠して――」

 

 

 

ドラゴニック(ダイアグラム)

フィールド魔法

(1):フィールドの「真竜」モンスターの攻撃力・守備力は300アップする。

(2):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、アドバンス召喚した「真竜」モンスターはそれぞれ1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。

(3):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。このカード以外の自分の手札・フィールドのカード1枚を選んで破壊し、デッキから「真竜」カード1枚を手札に加える。

 

 

 

 不意にフィールドカードゾーンに貼られ、周囲の景色を天空に佇む輝かしい領域へと塗り替え――それまでニマニマと蛇のような笑みを浮かべていたヴェノミナーガの顔から笑みが失せた。

 

「"ドラゴニック(ダイアグラム)"……? 見たこと無いフィールド魔法カードね」

 

「………………ちょっと電話掛けますね」

 

「誰にかしら?」

 

(そう言えば――)

 

 明日香はノーフェイスが試合中に時々、フィールド魔法カードを裏側表示でセットし、そのまま発動せずにデュエルに勝利するという不可解なプレイングをしていた事を思い出す。どうやら伏せていたカードはそれだったようだ。

 

「マ――リックさんです。罪人を出廷させようと思いまして……」

《ノーフェイスさんは手札から通常魔法、"暗黒界(あんこくかい)取引(とりひき)"を発動し、効果でお互いはそれぞれデッキから1枚ドロー。その後、ドローしたプレイヤーは自身の手札を1枚選んで捨てます》

 

ノーフェイス

手札6→5→6

 

クロノス

手札2→1→2

 

 ヴェノミナーガはデュエルの審判を行いつつ、卓越した腹話術士の二重発声を超えた別々の声を出す何かをし、携帯電話を取り出して何処かへと掛ける。

 

 スピーカーにしているのか、プルプルと応答待ちの音楽が、虚空に響き、それから直ぐに電話の相手が出た。

 

『はい、I2社所属プロデュエリスト兼カード開発部門ジャパン支部エリアマネージャーのリック・ベネットです』

 

「詳しく……説明してください。今、私は冷静さを欠こうとしています」

 

 ヴェノミナーガは既に冷静さが残っていると思えない発言をしつつ、更に携帯電話の設定をテレビ電話に切り替えたらしく、目の前のデュエルリンクに電話を向けた。

 

『………………ああ……。ええと、それは私が【征竜】を貰った時に弾みで作ったカテゴリーのひとつですね』

 

「弾み過ぎて天空貫いてんだよなぁ……。どうしてくれんのこれ? ちょっと面貸してください」

《手札から捨てられた"暗黒界(あんこくかい)尖兵(せんぺい) ベージ"を特殊召喚します》

 

暗黒界(あんこくかい)尖兵(せんぺい) ベージ

ATK1600

 

「もう来てますよ」

 

「おっ、リックじゃん!」

 

 するとヴェノミナーガと明日香の背後から声が掛けられ、携帯電話を持っているリックの姿があった。

 

「そして、暗黒界と名のついたモンスター1体を持ち主の手札に戻し、墓地から"暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ"を特殊召喚です」

 

暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ

ATK2700

 

ノーフェイス

手札6→7

 

「更にフィールド魔法、ドラゴニック(ダイアグラム)の効果発動。1ターンに1度、このカード以外の自分の手札・フィールドのカード1枚を選んで破壊し、デッキから"真竜"カード1枚を手札に加えます」

 

 ノーフェイスの手札のうち1枚が破壊され、新たなカードがデッキから加わり――そのカードを横目で視認したヴェノミナーガから表情が消え、リックに身体を向ける。

 

「謎の地図」

 

「……ん?」

 

「ろびーな」

 

「いや、突然どうし――」

 

「いぐるん」

 

「……――あっ」

 

「えんぺん」

 

「おい、やめろ」

 

「サーチした結界像と夢の街置いて、自引きした旅じたくセットでターンエンド。加えたのは霞み谷なんで。あっ、スタンバイにアトラクター、チェーンしてG打ちますね? 何かありますか?」

 

「はい、クソゲー」

 

 "やってられっか"と言いつつ、リックは足元の小石を蹴り飛ばして遥か彼方の空へと打ち上げた。

 

「しかたないでしょう。作ってしまったモノは。まあ、何故か勝手に持ち出されているのは複雑な気分ですが、悪用はされてはない……ですし、たぶ――」

 

 

 

真竜剣皇(しんりゅうけんおう)マスター(ピース)

星8/光属性/幻竜族/攻2950/守2950

このカードを表側表示でアドバンス召喚する場合、モンスターの代わりに自分フィールドの永続魔法・永続罠カードをリリースできる。

(1):このカードは、このカードのアドバンス召喚のためにリリースしたカードと元々の種類(モンスター・魔法・罠)が同じカードの効果を受けない。

(2):アドバンス召喚したこのカードが存在する場合、1ターンに1度、自分の墓地から永続魔法・永続罠カード1枚を除外し、このカード以外のフィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

 

 

 フィールドに現れた王家の神殿が生贄封じの仮面を展開し、更に王家の神殿は未界域(みかいいき)のネッシーと共に消え去る。

 

 そして、気が付けば白銀の外殻と純白の翼を持つ剣士のような幻竜が、輝かしい光が降り注ぐフィールドに降臨した。

 

真竜剣皇(しんりゅうけんおう)マスター(ピース)

ATK2950

 

「なんでアカデミア(学院)にマスPがあんだよ

 教えはどうなってんだ教えは

 お前ら禁じられたカードを

 平気で使ってんじゃねえか

 分かってんのか!?

 シン竜が生まれたのは

 人間が特殊召喚に甘えたせいだろうが

 アド取んのかよ!?

 くそったれ!」

 

「失敬な……。【征竜】を作ったペガサスさんのお墨付きも頂いていますよ?」

 

「アイツ、自分専用トゥーンは無敵の最強厨で元ウォールハック野郎じゃねーですか」

 

「ははは、私の上司かつ好き勝手出来ている恩人をどう思っているのかよくわかりました……表に出ろ。世界一高級な三線にしてやる」

 

(相変わらず、リックは変なところで義理堅いというか、真面目というか……)

 

「男の人っていつもそうですよね……! ならばデュエルで決着をつけましょう!!」

 

「はははは、今デュエルディスクにデッキをセットする直前に"ディメンション・アトラクター"が見えたんですけど?」

 

「大丈夫ですっ! ハンデとしてURのすのーるは入れていません!」

 

「ガチガチじゃねーか。後で個人的にデュエルしてください」

 

(挑むのね……)

 

《"王家の神殿"を発動。そして、"王家の神殿"と"未界域(みかいいき)のネッシー"を共に墓地へ送り、"真竜剣皇(しんりゅうけんおう)マスター(ピース)"を生け贄召喚。マスPは表側表示で生け贄召喚する場合、モンスターの代わりに自分フィールドの永続魔法・永続罠カードを生け贄にできます》

 

「パンナコッタ……?」

 

「そんな召喚方法のカードがあるの……?」

 

「というか私にもください!」

 

「1枚3000円、マスP、ドラゴニック、ダイナマイト、継承、黙示録は別料金。セット購入なら命削りと強謙が付きます」

 

「金取んのかよ!? くそったれ!」

 

(や、安いわ……。私にも売ってくれるのかしら……?)

 

 明日香は少しときめきを覚えた。

 

「兎も角、不味いですね……。マス(ぴー)相手は勝算が激減しますよ」

 

 "せめて、ダースメタトロンにしておきましょうよ……"と溢すヴェノミナーガを見つつ、真竜剣皇マスターPを眺める。

 

真竜剣皇(しんりゅうけんおう)マスター(ピース)

ATK2950

 

 確かに輝かしい竜人の騎士のようなカードではあるが、その攻撃力は古代の機械巨人に僅かに及ばず、グラファと王家の神殿を生け贄にしてまで出すカードなのかと首を傾げるばかりであった。

 

「そんなに凄まじいカードなの? 確かに綺麗だけれど……」

 

「ドラグーンオブレッドアイズは2019年の改定で禁止入りしてはいるが、海外だと無制限。それに引き換え、コイツは2017年の禁止入り以来一度も緩和されていない真正の怪物にして、ただのオーパーツなんだよなぁ……」

 

「……?」

 

 リックが誰に言うわけでもなく小さく呟いた言葉の意味は全く理解出来ない明日香だったが、真竜剣皇マスターPが剣を掲げて構えた事でそちらに意識が向く。

 

「生け贄召喚したこのカードが存在する場合、1ターンに1度、自分の墓地から永続魔法・永続罠カード1枚を除外し、このカード以外のフィールドのカード1枚を対象として発動できます。そのカードを破壊します」

 

 そして、構えられた剣が極光を帯びると、それを古代の機械(アンティーク・ギア・)究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)へと向ける。

 

「サン・コンキスタ」

 

「ぐぎぎ……!?」

 

 振り抜かれた剣から放たれた光波は、古代の機械(アンティーク・ギア・)究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)を容易く両断した。

 

「ただでは倒れないでスーノ! "古代の機械戦車(アンティーク・ギアタンク)"の効果! 破壊され墓地へ送られた時、相手ライフに600ポイントダメージを与えるノーネ!」

 

 古代の機械(アンティーク・ギア・)究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)は、その機械の身体が崩れ去る寸前に雄叫びを上げながら背に生えた"古代の機械戦車(アンティーク・ギアタンク)"でノーフェイスを砲撃し、それを最期に物言わぬ残骸と化した。

 

「いひひっ!」

 

ノーフェイス

LP3000→2400

 

「ちなみに、この効果は相手ターンでも発動できます」

 

「えっ……」

 

「後、マスPは、このカードのアドバンス召喚のためにリリースしたカードと元々の種類が同じカードの効果を受けません。つまり、魔法カードモンスターを生け贄にしたため、魔法とモンスター効果を受け付けず、そのために"ドラゴニック・D"のステータスアップ効果を受けておりません」

 

「…………幾ら何でも強過ぎないかしら……?」

 

「まあ、釈放はされないでしょうからねぇ……」

 

 二人の会話を尻目にノーフェイスはそのままバトルフェイズに入り、真竜剣皇マスターPは剣を低く構えつつがら空きのクロノスのフィールドへと一飛びで突撃する。

 

「"暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ"と、"真竜剣皇(しんりゅうけんおう)マスター(ピース)"でクロノス教諭へ直接攻撃します。サン・リベリオン」

 

「クロノス先生!?」

 

 十代がクロノスを案じて叫ぶが、まだ闘志を目に宿すクロノスはデュエルディスクのスイッチを起動した。

 

「私の心配は不要でスーノ! 私は永続罠、"リビングデッドの()(ごえ)"を発動するノーネ! 自分の墓地のモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚すルーノ! 古代の機械(アンティーク・ギア・)熱核竜(リアクター・ドラゴン)!」

 

古代の機械(アンティーク・ギア・)熱核竜(リアクター・ドラゴン)

星9/地属性/機械族/攻3000/守3000

(1):「アンティーク・ギア」モンスターをリリースしてアドバンス召喚したこのカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

(2):「ガジェット」モンスターをリリースしてアドバンス召喚した

このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。

(3):このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時までモンスターの効果・魔法・罠カードを発動できない。

(4):このカードが攻撃したダメージステップ終了時に発動できる。フィールドの魔法・罠カード1枚を選んで破壊する。

 

 クロノスと真竜剣皇マスターPの間にプラズマが発生して攻撃を遮り、異質で巨大な機械の翼竜が地面から生え、紫に輝く機械の眼光で真竜剣皇マスターPを睨み付けた。

 

古代の機械熱核竜

ATK3000

 

「…………」

 

 攻撃力が自フィールドのモンスターを上回っているため、ノーフェイスは攻撃を中止し、バトルフェイズを終了する。

 

「いつの間にあんな最上級モンスターを!?」

 

「"融合"の時に手札から素材にしたカードですね。リアクターさんは蘇生制限ない上、主に欲しい効果は素材指定されてない伝説のガバ竜なので――」

 

 そう言ったヴェノミナーガは目を細めると、未だ冷めぬ闘志を瞳に宿してフィールドとノーフェイスを眺めるクロノスを一瞥し、ペロリと舌を出して己の唇を舐め――明日香はその瞬間にヴェノミナーガの全身から僅かに漏れ、その一滴でさえ致死量の猛毒を思わせる毒々しい性質のそれに恐怖を示した。

 

「ひっ……」

 

「――うふふふ……。ただの人間にしては中々愉しませてくれるではありませんか? これはどうして中々……」

 

「見える者が怖がるので、あんまり素を出さないでください……。そもそも新たな古代の機械(アンティーク・ギア)たちとクロノス教諭が合わされば、例えアイツでも化身程度では相手になるわけ無いですよ」

 

「そうだぜ、メデューサ先生! クロノス先生はこっからすっげーデュエル見せてくれんだ!」

 

 勝利を確信している様子のナイトメアと十代を尻目にノーフェイスは、手札のカード三枚を魔法・罠ゾーンにセットする。

 

「いひっ……いひひひひっ!」

 

 そして、無邪気な子供のような声色で調子外れに笑うと、クロノスの方へと掌を向け、ターンエンドの意思表示をしたのであった。

 

 

 

ノーフェイス

LP2400

手札2

モンスター2

魔法・罠4

 

 

 

 







真竜剣皇(しんりゅうけんおう)マスター(ピース)
 マスターデュエルでさえ元から出禁の最終鬼畜生物。製作段階で何故誰も止めなかったのか謎のカード。強いことしか書いてない。デメリットを付けろ。3000より申し訳程度に低いATK・DEF。恐らく二度と出てこない死刑囚。光属性なので様々な環境デッキやエルドリッチとも仲良し。せめて真竜永続罠・魔法だけに指定しろ。公式のオリカ。ドラグーンオブレッドアイズ。むしろ、こっちが2017年の1月、ドラグーンが2019年の12月なのでただのオーパーツ。



〜 QAコーナー 〜

Q:どうしてリックは暗黒面にカンストしているの?

A:OCGプレイヤーはカオスに精神を持っていかれ、故郷をインゼクターに焼かれ、征竜に目の前で家族を殺され、EMEmに洗脳され、リンクに魂を奪われ、ティアラメンツに溺れ、それでも尚、身体は闘争を求める者たちだからです







〜 読まなくていいところ 〜



 ところで皆様、ちょっと相談なのですが……。





 GXの世界に転生した騎士ちゃんを主人公にして、騎士ちゃんをユベルくんちゃんのように追い掛けて人間に転生した姫様(ラビュリンス)添えたGXの百合小説書きたいって言ったら怒りま――(カァオ!)




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