はふりの書 (witoitaa)
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独裁者への反旗
#1 スケニウの農民


ネステル・アルパから船で数時間行くと、スケニウというところにつく。その昔、ここにはこの「ハタ王国」を統治する万世一系の皇族「スカルムレイ一族」がアルパという屋敷を構えて王国を統治していた。しかし、突如王国を襲った地震によってハタ王国の中心都市は最近発見された一つの島に移った。スカルムレイ一族の去ったこの町では活気も半分くらいにまで落ちてしまったようだ。

私は、ここスケニウより少し南で農作業をしている農家に一つ質問をした。

「そこの生産者、ケンスケウ・イルキスのケンソディスナル家の場所を知らないかな?」

その問いを聞いた農家の男は笑い出し、

「あんた、商人なのにスケニウと南スケニウの地理関係も知らないのか?」

と逆に尋ねた。

私はすこし怒り、

「私は南スケニウへの行き方を問うておるのだ。私の無知さなぞ聞いていない。道を教えるんだ。」

「それが人に何かものを聞くときの態度か?まあいい、教えてやろう。まずあんたの知りたい南スケニウとここスケニウはかなり土地が違う。」

「そりゃ名前が違うんだ。距離は1以上あって当然だろう。」

「1なんてもんじゃない。ここから歩けば・・・そうだな、二週間はかかるかもしれんな」

耳を疑った。

「な、二週間!?」

「あんたまさかそれも知らないというのかい?これはアッタクテイさんとクントイタクテイさんくらい違うんだが」

「なんと、馬鹿にしていた。スケニウに対しての南スケニウなのだからもう少し近いものだと・・・」

私はかなり唸っていた。

「ところで違っていたら失礼だが・・・」

「なんだ?」

「さっきからあんたの話すユーゴック語がおかしい。もしかしてうわさに聞く『ファイクレオネ』という別世界から移動奇術を使ってきた者か?」

しばし時間が止まったように思えた。私は戸惑っていた。

「く、もしそうだと答えたら?」

「うむ・・・私はべつに何もしない・・・が、気を付けたほうがいいよ。ここから南の方へ行けばよくわかるさ。南の奴らはあんたのようなリパラオネの人種は警戒する。」

「それはつまりどういうことだ?我々の人種はいったいどういう疑いを掛けられている?」

「・・・ここだけの話なんだが、王国では最近庶民が消えるっていう珍事件が頻発していてね・・・・。そういった一連の事件の主犯がすべてあんたらなんじゃないかって噂されているんだよ。」

「え、私は何も知らないぞ?」

「ああ、でも南のほうではそうされている。正直あんたがあそこに行くのはあまり勧めない。」

「そうか・・・ありがとうな、王国民」

「いいさ、まさかあんたがファイクレオネのもんだとは思わなかった。この土地は初めてなんだな。悪いこと言ってしまった。」

「いや、もう大丈夫だ。」

 

そうしてその農家をあとに再び出発していった。ちょっと道草食ってしまった。私は少し考えたことがあった。彼はそんなことどうどうと喋ってよかったのだろうか。

しかし、よくよく思い出せば、結構周りをちらちら見ていた。誰かいたのだろうか?だとすれば私のせいであの農家を社会的に殺してしまうことになる。

そんなことをおもいながら私は足を運んで行った。この道は南スケニウに通じており、さっきの農家の言った通り二週間は歩く必要があるらしい。これは想像以上に長旅になりそうだ。

彼に見破られた通り、私は根はリパラオネ人だ。ここで移住するにあたって、なるべくハタ人の外見に合うように、黒いカラコンを入れたり、髪をあえて黒く染めたりと、今にもばれそうな変装をしている。

また、ユーゴック語も学んできた。過去の移住者がネステルで作り上げてきた「ファイクレオネ人向けユーゴック語教室」にも通ったのだ。ここは連邦にとっていまだ未開拓の地である。調査を終えれば連邦へなにか報告するのも悪くない・・・

 

なんてことを考えて歩いていたらいつの間にか夜だ。そろそろ宿に入るか、テントでも建てるか。

その時、はっと思い出す。私はリパラオネ人だ。もし王国の宿にそれがばれたらさっきのようには見のがしてはくれないかもしれない。なにかあれば、手元にあるウェールフープ可能化剤で一掃・・・といったこともできるがさすがにそれをするとパニックになりかねない。しかたなくテントを建てようと鞄の中を出す。

すると、後ろから女性の声が聞こえてきた。

 



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#2 宿を営む女将

「そこのあなた、すぐ近くに宿があるというのになぜそこで店広げようとしているの?」

「え・・・あなたは?」

「私はこの宿を営んでいるの。あなたは旅人でしょ?遠慮せずに泊っていけばいいわ。」

これは助かった。向こうから話しかけてくれるとは。それにしてもこの国の宿は分かりにくい。というのもおそらくすべて有字だからであろう・・・。それにしても話しかけられてしまった。これは応じてもいいのだろうか?なにより、この宿に泊まれるほどの金を私は持っているのだろうか・・・

「あ、今私は宿に泊まるほどの金がないのだが・・・」

「料金なんて後から払えばなんとでもなるわ」

「おお、なんとありがたい。」

「ふん、なんて調子のいいのかしらね」

「いや、私の故郷ではそんなことはありえない。あなたは非常に慈悲深き人だ」

「あら、よほどつらいのね、あなたの故郷は。まあいいわ、とりあえずあがりなさい。」

「どうもありがとう」

その女性に招かれるがままに建物の中に入る。普通の木造であった。

 

「えーっと、ここがあなたの部屋ね。はい鍵」

その女性が部屋の名前が書かれた地図のようなものを持って言う。

「あ、どうも」

「夕飯はどうする?」

「あ、是非。」

「そこは遠慮しないのね。」

「駄目だったか?」

「いや、別にいいけれども。7時ごろにはできているからそのころに呼ぶわ。部屋でゆっくりしてて。」

食事は女将の手作りか・・・古風な雰囲気が漂っているな。とりあえず部屋へ行こう。

部屋へは階段で二階に上がる必要があった。ぎしぎしと独特の木がこすれあう音がする。こんなのもあそこではまず聞かない。

 

部屋に入り、地べたに座る。そのまま寝てしまいそうだったが何とか起きた。

 

そして女将が言っていた時間に近づく。そろそろ食堂に行ってみようかな。

 

「あら、来たわね。」

「いや、もうそろそろかと思って」

「食事に関しては妥協しないのね。」

「ああ、まあ・・・」

「まあいいわ、食べて。」

 

メニューは魚を中心としたもののようだ。それに米、スープもある。ラネーメ人が食いそうなメニューであった。

 

しばらく食べていると女将が尋ねてきた。

「そういえば、あなた名前は?」

少々驚いた。どうしよう、ここでアロアイェーレームを名乗ればかなり怪しまれる。ここはユーゴック語教室時代に付けてもらったユーゴック名を名乗るか・・・

「ガルタ=ツラエルトゥロムだ。」

ガルタ(Garta)は「炎」の意味。男性名では使われやすい単語の一つ。ツラエルトゥロム(Tsuraertrom)は直訳すると「四万本の道」になり、ネステルに多い庶民的な名字。庶民的とはいえ珍しい部類に入る。いずれもそんなに突飛した名前ではない。系統的にはファイクレオネ人との混血であるSazasyimi姓やその分家と言われるRantein姓がいいんだろうが、それは自分が異邦人であると断言したようなものである。かといって王国人であることを主張してIzartaSyiinaria姓とかKariiphaTeriin姓とかにするとそれはそれで怪しまれる。なのでその中間ともいえるTsuraertrom姓は自分みたいな立場の人間が名乗るのにちょうどいいかと考えた。

やはり、予想通りの反応を得られた。

「へー、向こうの出身なのね。めずらしいわ。この辺ではあまり見ないわね。」

「そうなのか・・・あなたは?」

「私はタースマング=スカスラルカスっていうの。」

「タースマングか・・・」

「あら下の名前で呼ぶなんて、ずいぶんと馴れ馴れしいじゃない。」

「そうなのか?」

文化が違うのだろうか?まあいい。

スカスラルカスといえば南スケニウにはよくいる名字だ。直訳すると「南西」。ようするに南西さんということになる。

氏はともかく、、なんとすばらしい名であろうか。タースマングときたもんだ。つまり美しい子というかなんというか、そういう直訳になる。

「タースマング、美しい女性なんだな。」

「ふふ、あのあたりにはそういう親バカな名前が多いわよ?」

「なるほど、面白い」

 

「ごちそうさまでした。」

「はい、お粗末さまでした。」

「すみませんね、迷惑かけて。」

「なに、仕事よ。」

「では部屋に戻りますね。」

「ええ、どうぞ。ちなみにそこの廊下真っ直ぐ行けばお風呂あるから、よければどうぞ。」

「ありがとう」

 

とりあえず部屋に戻る。

ちょっと興奮に駆られた私はその辺のタンスを開けてみた。布団が一式収納されていた。やはりか。

ふと、風呂の話を思い出す。連邦では水につかるなんてことしないのにな、と文化の違いを感じつつ着替えを持って風呂場へ行く。

 

途中でタースマングが通りかかった。

「お風呂入る気になったかしら?」

「ああ、不潔はよくないからね。」

 

服を脱ぎ、浴槽につかる。風呂に入るなんてネステルにいた時以来だ。

そして上がって体を洗う。普通のせっけんだ。

そしてあがる。服を着て廊下に出るとタースマングが立っていた。

「ん?タースマング、どうしたんだ?」

「あ、ガルタ・・・」

タースマングが少々焦っているように見える。するとすぐに持ち直していつも通りの笑顔で。

「なんでもないわ、最近風呂場の火の調子が悪くて心配だったのよ。」

そうか、今でこそウェールフープの渡来によってガス技術が伝わったとはいえやはりこういう辺境にはまだ行き届いていないのか。普及させるにはまだまだ時間がかかるな。だからこういうところでは水を温めるのに火を起こしているのか。

と、自己解釈をする。

 

かるくあいさつを交わして部屋に戻る。時計を見ると9時であった。まだ寝るには早い。しかたないので、暇つぶし用に持ってきた小説でも読み進める。もちろん布団の上で・・・

 

---

 

気が付くと朝になっており、本が私の顔の上に乗っかっていた。

「寝てしまったか。」

布団を片づけて荷物を整理して、部屋を出る。そしてタースマングに礼を言う。

「あなたとはなにか縁があったみたいね。じゃあ、さようなら。もしかしたらどこかで会えるかもしれないわ。」

「また会えるといいね。それじゃあ、ありがとう。」

 



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#3 商店街で

先日の農家曰く、南スケニウの中心につくまで二週間はかかるとのこと。これではさすがにきつい。もう宿を出てから3日立ったが、さすがにずっと歩きっぱなしだと足も限界が来る。

なにか楽できそうなものはないだろうか。この国はまだ鉄道技術が発達していないし行き届いていない。遠くへ行こうとすると時間がかかる。

――いっそウェールフープで移動するか・・・

ウェールフープを使えばおそらく数秒で着くが、着く場所によってはやばいかもしれない。いきなり町のど真ん中に現れたらそれはそれで困る。そのせいで攻撃をされたらどうしよう。もっと厄介なことになる。

やはり地道に歩いていくしかないのか・・・。せめて馬とかでも使えたらいいのだが。

 

そんなことを考えていると少し開けたところについた。ここはなんていう町なのだろう。近くには屋台があったり、家があったり、結構盛り上がっているところのようだ。もしかして、もう南スケニウに着いたのか?ためしに、近くで焼き鳥を打っている屋台の人に聞いてみた。

「あの、旅のものなんだが、ここはなんというところだ?」

「ここはワストゥルだが?」

「ワストゥルか・・・どうもありがとう。」

「ちょっと待ちなアンタ」

「え?」

「ほれ、食え!」

「んぶ」

屋台の人は私の口に焼き鳥をブチ込んだ。そして私は口をもぐもぐした。

おいしい。しかし、何のつもりだろうか。

「うまいだろう?」

「え、あ、うん」

「よし、40ケテな」

「なん・・・だと?」

 

く、なんか知らんけれど金とられてしまった・・・。まあまだあるけれど。

さてここはなにかの祭りでもやっているのだろうか。まあ、細かいことは後から調べよう。そこでワストゥルという場所を調べるために地図を広げる。見てみると、目標としている南スケニウの「ディスナル」との中間地点であった。どうやらここはもともとディスナルという集落から都へ向かう途中みたいだからそこに宿とか市場とかが集まって栄えたみたいだ。海も近い。漁業とかもしてそうだ。

「折角だからすこし立ち寄っていくか。かるく観光する程度に。」

街道のわきにあった商店街らしき通りに入っていく。すると先ほどよりもより多くの屋台が並んでいた。見ると、焼肉とかかれた看板さえもある。ほかには、麺類などを売っているところが多い。商売は自由なのだろうか?聞いてみることにした。

「まあ、自由っちゃあ自由かな。でも今日出ている屋台は多分年末祭とかトイタネイン前期祭とかがほとんどだと思うよ」

どうやら祭りの時期らしい。そういえばハタ王国の暦では今はもう晩年なんだった。そりゃ盛り上がるわけだ。

あの農家の言うように、今まで歩いてきて異邦人だと絡まれることはあまりない。あの人が思っているよりも南の地域は寛容なのだろうか?はたまた風のウワサってやつか?

そんな疑問を後に、とりあえず、うどんのようなものを売っている屋台で食事を済ませてから再び旅立つことにした。

「ごちそうさま」

「はい毎度あり。ところであんた、この辺ではあまり見ない顔なんだが、お客さんかなんかか?」

「私は旅のものだ。ネステルから来た」

「はぁー、ネステルからか!そりゃずいぶんな都会から来たな!」

「そうか?」

「そりゃそうだ!こんな田舎からしたらあんなところねえ」

と、屋台のおばさんが横で作業していたおじさんに話を振った。

「んえ?ああ、そりゃそうだ。特にこんな時期は冷えが激しいからなあ。体の中まで凍りそうだ」

「ネステルってあれだろう?その辺の建物に入れば普通に暖かいって話だよなぁ、坊や?」

屋台で同じように食事をしていた少年に話しかける。

「え!?そうなの?すごいなー」

どうやらここではあの辺はかなりあこがれの地のようだ。

「そんなにあこがれるのか。私の財政力があれば、今この屋台にいる人全員くらいはネステルへ連れて行くことができるが」

「え?本当かい?どんな金持ちなんだよ」

おばさんが少々驚く。

「さっすが、都会もんは言うことが違いやすねー」

と、横のおじさんが言う。

「ほらほら、客がつっかえている。あんたも今日はこれでお帰り」

「わかった」

 

商店街を後にしてふたたび街道にもどる。来た方向を確かめて左向きに歩き出す。

まだ太陽は沈んでいない。どうやら3時とかそのあたりのようだ。

 



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#4 再会

あれからさらに三日たった。ずっと歩いているがディスナルはまだ見当たらない。来る道を間違えたか?半分不安な気持ちで歩いていく。もう一週間も歩いているため、足が痛い。むかしのファイクレオネ人もこうやって移動していたのか。

目の前に坂がある。その坂はジキンディス・アケイリといい、坂に潜む吸血鬼アケイリ・チェクセルが誕生した魔の上り坂と伝承されている。そのため「食べられる橋」と呼ばれる。いつかのトイター教の伝承集で見た。本当にそんなことがあるのだろうか。いや、それは古代の人々の迷信。古風な王国とはいえ少しくらいは近代的なものが入ってきているだろう。そう思いながらしっかりとした脚で坂を上る。上る。

――すると、

「!!」

なんとこけてしまった。やはり、なんだか呪われている。昔の人々もこういう体験をしてそういう迷信が伝わったのかなとしみじみ思う。多分ないなと思い立ち上がって歩きすすむ。チェクセル恐ろしやと思い坂を上りきると、それはまた下り坂になっていた。すると、その先には、何やら町が見えてきた。あれはディスナルだろうか?と思い、下り坂を下る。

 

---

 

やがて町へ着いた。看板を見てみる。なんとディスナルと書いてある!

「やっとついた・・・」

と、思いホッとする。

しかし、思い返してみると、かかった日数は6日くらいしかない。農家の話によれば二週間であったが実際は一週間もかからなかった。・・・と思い今日の日付を確認するためカレンダーを見る。すると、あることに気付いた。

「そうだ、トイター暦だと一週間が4日なんだった。それで考えても二週間とまではいかないけれど、おそらく彼と私の間では一週間の感覚がずれていたようだ。」

自分の間違いにやっと気づく。気が付けばもう夕方だった。町まで来たのだからそろそろ宿を探そうかな。これくらい大きな町ならば宿くらいあるだろう。

・・・と踏んでいたが、なんと、宿らしき建物が見当たらない。というかまず人がかなり少ない。町に活気と言うものが感じられない・・・

すると、ある広場に出た。広場には井戸らしきものが存在しており覗いてみると水が張ってあった。すると、ある一人の女性が井戸の近くにやってきた。しかし、その女性には前にも感じたことのあるような、少し違うような雰囲気が漂っていた。

「・・・!?」

「あら?」

「た、タースマング?」

「え?」

「いや、人違いみたいだ。悪かった。」

「いえいえ、全然。タースマングってあのエルデルからワストゥルの間あたりで旅館を経営しているタースマング=スカスラルカスのことでしょう?」

「え、」

「私はツァピウル=ケンソディスナル(Tsafiur=Kensodisnar)。彼女の姉です。」

「え、そうだったのか!」

なんと、やっとケンソディスナル家の者を見つけることができた。聞けば、ツァピウルはやはり巫女をやっているらしい。なるほど、たしかにそれっぽい服を着ている。しかし、疑問に思ったことがある。

「ならば、なぜ姉と妹で名字が違うんだ?」

「うーん・・・」

彼女はすこし黙り込んでしまった。

「それは、いわゆるケンソディスナル家の秘密ってやつですわ。」

「そうか」

喋りたくない事情でもあるのだろうか。とりあえず、だいぶ打ち解けてきたのでいろいろ訊いてみることにした。

 

「私は今この町に来たばかりだ。この町は、かなり建物が建っていて商店街らしきものも多い。しかし、人が全く見当たらないんだ。何か知っているか?」

すると彼女は突然無表情になってしまった。・・・まずいこと聞いちゃったかな?

「ああ、すまない。なにかまずいことを聞いてしまったかな?」

「・・・いえ、教えてあげますわ。あなたはかなりいい人だと見込みます。」

どうやら信用されたようだ。いいだろう、こんなかわいい子のためなら・・・っといけないいけない

 



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#5 新興独裁勢力 #6 反逆ののろし

「実は、このあたりでは人が突然閃光に包まれて消えるという事件が多発しているんです。」

「え・・・?」

私はどこかに余裕があるような顔で驚いた。

「ハフリスンターリブを知っていますか?」

「ああ、前に誰かから聞いた。」

・・・すると何かを思い出した。そういえば、あの時の農家が言っていた。「人が突然消えるという事態が頻発している」と。もしかしたらそのことかもしれない。

「この町では人が突然消えるのは完全にハフリスンターリブの仕業だとされています。しかも、最近は、ハフリスンターリブの影響力がここまで来てしまいました。」

そういえば、ここはハタ王国の中でも端っこの方に存在する町である。しかも、ハフリスンターリブはちょうど真反対のハフルに拠点を置いていると聞いている。

「ハフリスンターリブには王国でも勝てないような不思議な魔法を使って王国を乗っ取ろうとしているのです。

人が突然消えるのもそういう不思議な魔法に関連して言われているものだと思われます。」

おそろしいな。その辺の町を歩いていたら突然自分が消える。それよりも周りの人間が驚くであろう。突然目の前にいた人間がいなくなる。こんな恐ろしいことはない。

「人々は完全に怖がってしまって、外にも出られないというわけです。」

「ふむ、なるほどな・・・これは悲しいことを聞いてしまった。」

「ふふ、気前がよろしいのですね。」

 

「こちらの事情も教えたほうがよいか?」

「ええ、是非。あなたが何者なのか。何故この町に来たのか。」

「私は、表向きはただの旅人だ。」

「あら、そうなんですの。ようこそケンソディスナルの統治するディスナル地方へ。歓迎いたします。」

「ああ、どうも。それでだ、私はずっと都会暮らしをしていたわけだ。」

「都会と言うと・・・イザルタとかネステルですか?」

「ああ、ネステルだ」

「あらま、ずいぶんなところから来られましたね。いったいどんな目的で?」

「知りたいか?」

「ええ。」

「実は私はハフリスンターリブの一人だ。」

 

すると、ツァピウルの驚く様子がうかがわれた。

「・・・え?・・・え??」

無理もない、さっきまで本当に親密にお話をしていた相手だ。

「では、この町へはテロを起こしに・・・?」

「そりゃ、出発した時は、そういう目的であったが・・・」

私は、迷いを感じていた。こんな平和な町を制圧して何になるのか。彼女らもまた反逆者としてハフリスンターリブの裁きにかけるというのか。

それは人道に反している。ならば私が今できることは、この危機から救うことだ。

「もう君たちを殺す気はないよ。友達じゃないか。」

「・・・!」

「だから私がこの場でやるべきことは一つ。君にいち早く会って、民たちをまとめてもらってハフリスンターリブへの抵抗の意思を示すことだ。」

「あなたは・・・本当の救世主なの?」

「そうだ。」

「実は謀っているのではなく?」

「どんなに疑うんだ。本心からそう思っている。」

「あ、ありがとう・・・」

まだ何もしていないというのに。そうだ、念のため、こちらの名前も紹介しておこう。

「私の自己紹介が遅れたね。私はガルタ=ツラエルトゥロムという。」

「あら?普通のユーゴック名なのですね?」

ツァピウルが首をかしげる。

「だが、こちらで身を隠すための名前だ。」

「え?あのファイクレオネで命名された名前があると?」

「そうだ。ファフス・ラヴヌトラート(FAFS.lavnutlart)という。」

「ファフス・・・ラブヌトラート?」

「ラ"ヴ"ヌトラートだ。」

「ラ・・・ヴ・・・?」

そうだ、ユーゴック語にはこの音はないんだった。これは転写に困る。

「ラヴヌトラート。まあラブヌトラートでもいいよ」

「そう、よろしくね!ラブヌトラートさん!」

なんと素晴らしい笑顔であろうか。

「あ、一応言っておくけれどリパライン名ではFAFSが姓だからな?ラヴヌトラートは名だ。」

「え!じゃあ今私、下の名前で男性を呼んじゃったのね・・・」

ツァピウルが落ち込む。ハタ王国では男性よりも女性のほうが立場は上だ。レディーファーストがさらに強くなった感じ。

「ごめんな。ユーゴック名では逆だったんだよな。ケンソディスナルが名字だろ?」

「そうです。ケンソディスナル家ですから」

しばらく彼女と冗談を交えて雑談をした。彼女の笑う顔は非常に愛らしく、もう自分の本来の目的が目の前にいる女性たちを殺すことなのだという自覚が薄れてしまうほどであった。しかも、まわりに出歩いている人はいない。この広場には二人しかいない。私たちはのめり込むようにお話をしていた。そして、私はついに、王国民に決して言ってはいけないことを言ってしまいそうになった。

 

――

 

「!!!」

気が付くと彼女はもう目の前から姿を消していた。360°どの方向を見ても彼女の姿が見当たらない。すると、靴のみがその場に残されていた。

「・・・!!まさか」

すると体全体に謎の痛みが生じた。全身が軽くなったような気がした。すると、目の前が闇に包まれた。さきほどまでの水たまりも広場もすべて見えなくなった。

 



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#7 ようこそ、デュインへ

一人の男が話しかける。

"そういえばまた新しい奴らを拉致ったみたいだな。"

それに対してもう一人の男が応答する。

“ああ、そうだ。これでまた古リパラインの存続が可能となる。”

“またxelkenケートニアーの拉致係がやったのか。どれくらいの規模だ?”

“今回の拉致は大体1万人の規模で行った。狙ったのは座標で言うと135.67.3221.45くらいかな。ハフリスンターリブのやつらが支配している小さな国の南あたりだよ。”

“もはやハフリスンターリブはxelken.valtoalによって重要な収入源になっちまったな。もしあそこが落とされたらやばいんじゃないの?”

“いや、ハフリスンターリブのところは大丈夫だろう。俺らの総統はそれを見込んであいつらと契約をしたんだ。”

なにやら自分の後ろから会話をしている声が聞こえる。久々に聞くリパライン語だ。しかも古リパライン。

“ところで、こんなところで堂々と話して大丈夫なのか?目の前にいる奴らは拉致の対象者だぞ?”

“大丈夫だ、問題ない。こいつらはまだ古リパライン語を教わっていない。俺らの話しだって理解されねえさ”

私はものすごく驚いた。私は立場的にはハフリスンターリブの幹部、つまりこいつらに拉致されるような対象ではない・・・。ずいぶんとお粗末な管理だ。

“さて、そろそろ拉致られた奴らの顔色をうかがおうかな。”

・・・!?誰か入ってくる!?

“ご機嫌麗しゅう!弱小なネートニアーどもよ!”

「あ、あいつはいったい・・・」

「ここはどこ!?」

なんと、耳に入る言葉のうちほとんどがユーゴック語だ。そりゃそうか。あの辺りを中心に狙ったらしいからな。

・・・それにしても驚いた。ハフリスンターリブが自ら国民を支配し、拉致しているといううわさは聞いたことはあるが、まさか契約を結んでいる団体がほかにもいたとは。xelken.valtoalと言ったかな?その団体も聞いたことがある。何百年ぶりに聞いただろうか。まさかハフリスンターリブとxelken.valtoalが共謀しているとでもいうのか・・・?

「ラブヌトラートさんは・・・どこ?」

!?・・・ツァピウルだ。やはり一緒に拉致をされたようだ。く、この私の体の上に乗っかった奴らを全員退かさないと動けない・・・。

と思ったその時、

“よし!今日からお前たちは古リパライン語の伝統を引き継ぐための階段となってもらおう!”

なにやらリパライン語で呼びかけている。しかし、分かるはずがない。拉致られた人々のほとんどがおそらくユーゴック語を母語としている。

“おい、聞こえねえのか!ついて来いっていっているんだ!”

なんと無慈悲な。xelken.valtoalは表向きではずいぶんと言い奴らかのようなふるまいをしていたが・・・やはり裏ではこんなことが為されていたか。

 



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古理派の中で
#8 xelkenの再教育


だめだ。ツァピウルを見失ってしまった。冗談じゃない。このまま死ぬまでこいつらに服役しないといけないのか?

しかし、なぜ私が拉致られなければならないのか。私はもうリパライン語を話せる。というかファイクレオネでは中理派だ。私はウェールフープを使えるケートニアーなので脱走を図った。

“おうおう古理派のみなさんよぉ!”

“何!?”

“なんだお前は、神聖な古リパライン語の授業に口出しを・・・!?”

“お前・・・よく見るとリパラオネ人だ!なんかカラコンとか入れていて最初分からなかったが・・・なぜ拉致られている!”

“は!まさか・・・NCF(連邦特別警察)のやつか!?”

周りにいた王国民の顔をちらりと見てみる。完全に言葉を失っている。いや、元からだ。

“私をここから逃がしてほしい。私はもうリパライン語を話せるし、見てのとおりリパラオネ人だ。”

“ほう?そうか。では、アロエイェーレームを名乗ってみろ”

“FAFS.lavnutlartだ”

“・・・は?”

“ふぁ、FAFS氏?”

“そんな・・・まさか・・・”

しばらく前に立っていたxelken.valtoalのやつらが戸惑う。そして考え終わるとさらに睨みつけるような表情で、

“ほう、旦那さん。嘘はいけんよ。”

“な、なに?”

“ADLPから追放され、裏で学会を操って、3代目リパライン語というリパライン語を逸脱した言語を作られたが、今でも一部の人間は皇族として崇めるFAFS.sashimi氏と貴様が同じ血族だというのか?FAFS氏は貴様のようにあんな時代遅れな国をのほほんと歩くほど馬鹿ではない!”

“その私が歩いていたんだ。私を解放しろ!”

“それは駄目だ。貴様は怪しすぎる。いいか?貴様が生きたままこのXelken.valtoalのデュイン秘密留置所から逃げ、このことを外部に漏らされると今ここで貴様に仕込む予定のこと以上のものを仕込むことになる。貴様のみのため、古リパライン語に命をささげろ。”

“どうせ、お前は逃げられないさ。”

”なんだと!?じゃあこの場で試してみるか!?”

“あ?”

「ツァピウル!この場にいるんだろう!?立ち上がってくれ!こいつらもハフリスンターリブのグルだ!お前の敵だ!殺すんだ!」

ツァピウルの様子は見られない。

「く・・・おいお前ら!ハタ王国の者だろ!?」

私は近くにいる者達に鼓舞をする。

しかし、誰も応じない。

「クソッ、しかたねえ。iska lut xelkener!」

手からウェールフープを放とうと力を込める。

「!?」

しかし、うまく発動できない。

“ふん、ここに連れて行く前に念のため拉致った者全員にウェールフープが打てないように人体改造を施した。もと連邦民だというのにそんな技術も知らないのか?”

“ほれ、反逆者だ。さっさと特別再教育所で連れていけ。”

“御意”

“・・・?おい!”

“じゃあな、ラヴヌトラート。いい思想を持ってまた来いよ。”

“うわあああああああああああああああ・・・」

 

――

 

私は目が覚めた。すると私の頭の中にはある意識があった。それはxelken.valtoalへの限りない尊敬。古リパラインを神聖だと思う心。今までそれらを否定してきた自分の考えが馬鹿らしくなってきた。

 



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#9 内部から見たxelkenの風景 #10 白昼の騒ぎ

テロ組織xelken.valtoalの朝は早い。6時には全員が起きて、朝礼をする。そして全員が集まって古リパラインを神の言語とする祈りをささげる。あとは各自で朝食を済ませて、各々が作戦に入る。なかでも古リパライン語の相続者の教育には力が入っている。

子子孫孫、孫の代、その孫の代まで古リパライン語を残す。一方で新理派や反理派の駆逐を行う。今は新大陸デュインの植民地化を進めている。

私は今xelken.valtoalの古リパライン語の教育を王国より拉致られたものと共に受けていた。今周りにいる反理派も早く古リパラインについていけばいいというのに。

 

“そうだ。お前はアロアイェーレームをもっているのか?”

“持っているけれど、もう禁じ名です。本当は新しいアロアイェーレームを求めているところです。”

“ふむそうか。では、名付けてもらう必要がありそうだな。”

何かの打ち合わせの結果。Tarf.lavnutlartという名がついたようだ。

“よし、lavnutlart、十分はお前は立派なxelken.valtoalの一兵になった。”

“本当ですか!?ありがとうございます!”

なんとうれしい限りであろうか。xelken.valtoalの一兵にまでなれた。夢を見ているようだ。

“まずは、君の身体能力を計って戦闘員向きかを判断する。それまでは古リパライン語の存続の為に教育係に移ってもらおう。”

“はい!光栄です!”

 

xelken.valtoalの人たちはいい人ばかりだ。皆自分の通すべき筋を通している。しかもそれが正しい。xelkenにいてよかった。リパライン語をやっててよかった。

 

そうして私は古リパライン語を後世に語り継ぐために教員となった。

 

もう教員をしてから2週間になる。意外と早い。おかげで生徒たちの扱いもわかってきた。どうしても生徒が従わないというときは再教育を行使してもよいらしい。当然であろう。古リパラインに従わないものなんて人生を損している。ならばいっそそうしたほうがその子の人生のためにもなる。

そして、古リパラインを通しての労働。xelkenの軍備は日々進化している。それをこなせるということがいかに素晴らしきことか、生徒たちに理解させるのだ。もちろん軍備だけでなく、xelkenを運営していくうえで重要な雑務もすべて任せている。

そして今日も異世界から拉致ってきた者達をxelkenとするため、授業を始める。

“さあ、リパライン語の授業をはじめるぞ!”

“椅子なんて贅沢なモンはねえ!地べたでやれ!”

今日は何人かの者がはむかってきた。

「こんなところでやっていけるか!」

どうやらハフリスンターリブのところから来たやつらのようだ。こんなものなんてことはない。ウェールフープの発動をしようとする。と、そこで横にいたAles先輩に制止される。

“やめろ。こいつもまた貴重な人材だ。再教育にかけたりとか、他にもやりようはある。”

それもそうだった。なんということだ。xelkenとして恥ずかしい。

“そうですね。Ales先輩の言う通りです。”

“わかればいいのさ。新人よ。こういう輩はちゃんとリパライン語の神聖さというものを身に染みて感じて初めて治るもんだ。”

“なるほど。すばらしい”

私は感心した。さすが、xelken歴50年にもなる人は違う。今日は古リパラインの歴史の一部を教えた。FAFS.sashimiがADLPを作った時の話だ。私もこの話をするのは好きだ。リパライン語の歴史の中では。

そしてxelkenの一軍人としての訓練を受ける。xelkenの基地内では基本的なウェールフープの制御の練習。ウェールフープライフルの取り扱い。幹部に関してはNZWPの取り扱いまでも練習ができる。

今日の任務を済ませたのでxelken基地の休憩所に入ってきた。xelkenデュイン指令室のロビーにはコーヒーサーバーがついており、組織の一員であればただで飲める。また、xelkenは一般企業としての事業展開もしており、xelkenの資金の一つともなっている。主に牛乳の生産を行っているらしい。

と思いつつ椅子に座ってコーヒーを飲んで一服していた。

刹那、基地の正面玄関で謎の警告音が聞こえた。

“!?”

どうやら外で誰かが暴れているらしい。見てみることにした。

“どうやら、拉致をしてきたハフリスンターリブのところから来た女性が騒いでいるようだ”

同志のXelken tarf eliだ。私と同時期にxelkenに入ってきた同期だ。

“基地内での反逆か?ずいぶんと命知らずだな。”

“まったくだ。ここは我々の巣だぞ。”

早速現場に駆けつけてみる。

中央回廊に出ると、そこにはナイフを数本持ったハタ人女性がいた。

“ラヴヌトラート、前に俺は聞いたことがあるぜ。”

“え?”

“ハタ王国という国にはウドゥ・ミトと言う名の国技があるんだ。おそらく彼女はそれの使い手か何かだろう。”

“へー。ずいぶんと原始的な方法で戦うんだな。”

“まあ、伝統なんだろうな。”

“具体的にウドゥ・ミトはどんな感じなんだ?”

“それは私も見たことはない・・・しかもこれはユーゴック語らしいから全くどんなんなのか想像できないな・・・”

ウドゥ・ミトの使い手であるその女性は再び暴れ始めた。彼女はナイフを投げてガラスをまず割り、破片を拾ってさらにそれを四方八方に投げた。すると彼女を取り押さえようとしたxelkenのネートニアーの兵士が全員駆逐された。

“つ、強い・・・”

私は思わず感心してしまった。

“なるほど、始めてみたが、ようするにナイフ投げなのか・・・!”

中央回廊の奥からさらに三等兵の兵士が女性に向かって攻撃をしてくる。20人くらいはいるだろう。一人の女性相手に何人がかりでやっているのだろう。

それを見た女性はどこからか棒を取り出した。その棒は直径5mmくらいであり長さが30cmくらいだった。女性はジャンプをしてその一人の兵士の頭の上に着地した。乗っかられた兵は首を折ってその場で倒れてしまった。兵士たちが同心円状に引きさがり、彼女から距離を置く。女性はある兵士がいる方向へ棒を向けた。

「死ね!」

すると、その方向へ何かが飛び、そこが吹っ飛んだ。兵士たちが倒れる。

“!?”

“WPライフルかなにかか!?”

私も驚いていた。ウェールフープ技術が王国にも伝わっていることは知っていたがまさかこれほどとは・・・

「王国の伝統工芸品と最新技術の融合、その名も『光るメシェーラ』。見るがいいわ!」

 

あっという間に数十人いたネートニアーの三等兵たちが倒されてしまった。私も驚いた。そしてその女性がこちらに気付く。そして、女性は持っているナイフを私たちの方向に向けてきた。しかし、しばらくたつとその手を下した。

「あなた、生きてたのね」

とつぜんその女性が私に向かって話しかけた。その顔には若干の安心するようなところがあった。彼女が私に近づく。

「あの時xelkenのやつに拉致られて拷問にでもかけられたのかと思ったわ。」

彼女は私の知らない言葉で何かを話しかけている。それはどこかで聞いたことがあるような、ないような言語であった。でも意味は分からない。

“な、なんだお前は。誰だ!”

“エリ、とりあえず落ち着け。”

“だがラヴヌトラート、こいつはおそらくxelkenがとらえているハタ王国出身の奴。容赦してはいけん!”

“・・・”

「どうしたの?ラブヌトラート、早く王国に帰りましょう?」

“・・・何を言っているんだ貴様は?”

“むかし王国にハマってユーゴック語勉強したことあったけれど、忘れたな・・・ヒヤリングすらできん”

エリは昔王国にしょっちゅう旅行に行ってたらしい。それが今では古リパライン語を教えて傷つけているという立場だ。よくわからない。

「どうしたの?奴らに何かされてユーゴック語も話せなくなったの?」

あ、今ユーゴックって言った。でもそれ以外は全く分からない。これは、攻撃した方がいいかもしれない。

“おい、私から離れ早々に部屋に戻れ。さもなくば殺す。”

「・・・!?」

“ん、通じたのか?さすが毎日古リパラインを押しつけているだけのことはあるな”

「・・・そう、もういいわ」

そして彼女はどこかへ去っていった。彼女の眼には涙があった。エリは

“おい、待て女!どこへ行く!ちゃんと部屋へ戻れ!”

と彼女を追って行った。私はその背中をずっと見て立ち尽くしていた。

なぜ私はエリとともに行かないのか。何を躊躇ってるのか。まわりにはさっきの三等兵の血と鮮やかな血に塗られたガラスの破片が散らばっているだけであった。

 

私は何事もなかったかのようにロビーへ戻りコーヒーをいただこうとしていた。すると、エリが彼女を連れ戻す雑務を終えてこちらに駆け寄ってきた。

“おい!お前!”

“え?”

“どういうつもりだ!俺はあの女をわざわざ部屋に戻したというのに、なに先にロビーに戻ってやがる!”

私は言葉が出なかった。

“まさか、xelkenとしての自覚が薄れてしまったか?ついにxelkenに対して反抗意識を抱いてしまったか?今まであんなにxelkenにたいして忠誠だったのに?前までのお前ならもっと激しく彼女を追い返していたはずだ”

“・・・”

“どうしたんだ!お前らしくないぞ!?”

“・・・いや”

“!?・・・もしかしてお前・・・あの女のことが...”

“なんでもないといいただろうが!”

私は怒鳴ってしまった。

“この私が!xelkenを慕い、一生をささげたこの私が!今更xelkenに反抗意識を持つか!?まだ二週間とはいえ私の筋はそんなものではない!”

するとエリは黙ってしまった。

“・・・そうか。悪かったな。煽ったりして”

“あ・・・ちょ”

エリは肩を落としながら奥へ引っ込んでしまった。

悪いことしたかな・・・そう思いながら部屋に戻ることにした。

 



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#11 ラメスト遠征

あの事件から一か月。

あの「王国人暴動事件」以来、私についての噂がxelken幹部たちの間で広まるようになった。「古リパラインのよさを見失って拉致してきたものを見逃した」とか、「実は女に弱いのでは」とか、酷いものだと「私が王国人女性に恋をしている」とか。そんなのが多くなった。そのせいでxelken追放、とかそういうのはなかったけれどやはりいい気はしなかった。今までものすごくあこがれていたxelken。それが実はこんなに陰湿な集団だったのかと思ってしまった。私はxelkenに対して忠義を通している。それなのにどうして――

 

――

 

あの事件から一年。

さすがにあの時の噂はもう時代遅れであるかのようになくなった。私も普通に同僚たちと会話できるようにまで関係が回復した。あれ以来、女性は私の前に現れていない。本当になんだったのだろうか。

ところで最近はもはやxelkenの幹部ともいえるようにまで上層部に近づいてきた。ケートニアーというものはもともと階級を上げやすいらしい。いまや普通の作戦でも重要な戦力として重宝されるようになってきた。戦うのは嫌いではない。早速今日は一度ファイクレオネの本部へ向かいそこの兵たちと合流した後部隊を率いてラメストというところを攻撃するという任務を授かった。まずこの基地からは15人の幹部、その下には一人の幹部に大体数千の兵がついている。

“皆の者!士気を高めよ!”

総司令官Xelken.lavyrlが前で叫ぶ。

今思う、名字にxelkenが入っているのはあこがれる。私なんてTarf.lavnutlart。まあこれはあとから名づけられたものだけれど。今からにでも総司令官とか頼んでxelken姓をつけてもらおうかな?いや、やめておこう。それだとxelken姓に対するロマンが失われる。

でもやっぱり憧れる。エリもフルネームはXelken tarf eliでxelken姓だ。三ヶ名だけれど。

とはいえ、あと数分でこの巨大な体育館みたいな部屋ごとウェールフープで移動してラメストまで行き各自テロを始めるそうだ。どうやら現地には治安維持隊やら警察気取りのケートニアーとかがいるらしい。すべて蹴散らしてやる。

 

すると、目の前に閃光が広がる。どうやら間もなくのようだ。

“いざ、ラメストへ!”

あまりにも眩しくて総司令官の姿も見えなくなった。

 

――

 

ラメストについた。我々はただ道の真ん中で規則正しく並んでいた。しかし、それは数秒もたつと崩れ、各々さだめられた方向へ進撃していった。我々はラメストの南部を制圧する。私は幹部なので兵士を率いている。また、同じくエリも一緒についてきている。

 

今回のプランはこうだ。

まずはこの大通りを制圧してラネーメ公営地下鉄の事務ビルを占領する。上層部の人間を人質に取った後、地下鉄をハイジャックしまくって暴れまくる。総司令官の合図があったら殺しまくる。と言った感じらしい。なんとアバウトな。

ちなみに今回のテロで連れてきた兵士の中には強制的に兵士にさせた拉致被害者も交じっている。従わなければ再教育。さもなくば殺してもいいらしい。これは楽しみだ。

早速我らの軍も進撃せねば。

“いくぞ!”

今回のラネーメ公営地下鉄の占領を担当するのは3部隊だがそれら部隊を取り仕切るのはXelken.skarnaだ。彼は私より2年ほど前にxelkenに入ったエリート。あこがれの一人でもある。

 

まずはその辺に爆弾を置きまくる。いずれもWP爆弾だ。当然あたりは爆破四散する。今ので何人死ぬんだろうな。楽しみだ。

すると数分でラネーメ警察が駆けつけてきた。逮捕しに来たらしい。向こうもNZWPを持っているが数で言えばこちらが断然勝る。

早速警察との交戦を開始した。警察は最初にNZWPを発射してきた。しかし、それは周りのなんかの建物にぶつかった。あーあ、警察が市民の家を吹っ飛ばしちゃった。我々はこれらをいちいち手でWPを発動させて吹き飛ばした。すると警察軍が出てきた。我々は囲まれた。さすがに囲まれていると隙だらけのNZWPでは破壊されて終わりだ。どうしよう。

“おい、お前。あれくらいお前一人でやれるだろう。”

どうやらXelken.skarna指令がエリに指示を出した。

“はい、やってみせましょう。”

エリはやるようだ。

エリは戦車から出て上に立った。警察軍が銃口を彼に向ける。どうせケートニアーだから死なないというのに。そのことをエリは予想したかのように相手に叫んだ。

“あなたたちがいくら俺を私を撃っても弾の無駄だ。私はケートニアーだ。”

すると警察軍が一瞬ひるむ。その隙を見てエリはそこらじゅうにウェールフープを仕掛けようとする。しかし、銃弾のほうが速い。数百にも及ぶ銃弾は彼の体を突き抜けた。案の定、すぐに元に戻る。頭も攻撃されていない。

やがてWP波を放つ。警察軍は4割が吹っ飛んだ。残った警察は怯み、一部は逃げようとした。

“ふふ、観念したか”

エリがニヤリと笑い第二波を放つ。するとそれはすべて防がれてこちらに返ってきた。

“!?”

“お前らXelkenだな?”

煙の中から一人の男が出てきた。警察軍のケートニアーのようだ。

“フン、古リパラインを理解するまで、貴様をたっぷりいたぶってくれる。”

エリは戦車から降りて応戦しようと戦車の上で低い姿勢になる。

“おい!待て!”

指令がエリに注意を促した。

“こんなところでそんな奴相手にしてはいけない。相手もお前と同じ実力を持っているかもしれないぞ。目的を見失うな!”

“・・・はい、分かりました。”

 

“先輩!Xelkenが逃げます!”

“いいさ。また捕えにかかる。そんなことより負傷者の手当てを。”

そんな警察たちのやり取りが私の耳には入ってきた。

しかし、その直後。あたり一帯は閃光に包まれた。そうだ、私たちが仕掛けたWP爆弾が一気に爆破したのだ。するとさっきまでいた警察の姿もほとんど見えなくなった。あたり一帯にはがれきが散らばっていた。

 



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#12 ラネーメ公営地下鉄

私はxelkenに入って初めて人を殺した。古リパラインを使わないものは死ねばいい。これでいいのだ。

さて、ある程度襲撃したらラネーメ公営地下鉄へ向かい、上から制圧していく。私の部隊は下から攻撃していくことになった。まずは大通りの向かいの茂ったところで待機する。合図があれば私とエリは正面から突撃。スカーナさんは一気にWPで最上階に向かい窓ガラスを割って突撃する。

今は昼の11時ちょっと前なので11時になったら一斉に突撃するらしい。

“緊張するよな!こういうカウントダウンって!”

エリのテンションが上がっている。よくわからない。

“お前ら、気を引き締めろよ。いつだって殺される可能性は十分にあるんだ。”

“え?私たちはケートニアーですよ?そんなのあってたまりませんよ。”

そうこうしているうちにもう40秒前になった。

“おっと、もうそろそろだ。”

“正面入ったら全員捕えてやるぜ。”

“・・・”

あれ?確かタイマーを設定しておいたはず。しかし、ならない。

“なんだ?なぜ11時にならない。誰か時空をゆがめているのか!?”

スカーナさんがわけわからないことを言っている。

時計を見る。

――あ、タイマーのセットを一時間遅らせてセットしてた。

“く・・・アホか!”

 

なんか閉まらないまま襲撃を開始した。

するとスカーナさんたちはすぐに上方へWPを使って跳んだ。ぼちぼち我々も突撃しよう。

(バリーン)

ビルの正面の自動ドアのガラスが割れる。そして兵士全員で銃を構える。私とエリは後ろから偉そうに現れる。

“ラネーメ地下鉄の奴らよ!我らxelken.valtoalのもとに観念しな!”

すると受付の女性やその周辺にいたスーツ姿の人間も一斉にどよめく。よしよしビビッているな。目的はひっとらえることなんだ。全員古リパを教えて強制労働させればそれでいい。

“降参するならおとなしく降りてもらおう!”

“だが断る。”

“!?・・・だれだ!”

すると奥から一人の男がやってきた。

“私だ。アレス・ラネーメ・リファン(Ales lanerme lifan)だ”

“な・・・”

事前の調査ではこいつがこのビルの最高権力者でありここの会社のボスである。なぜこんなところをうろついている!?頭がおかしいのかこの企業は!?

“ここ、ラネーメ公営地下鉄のビルを狙ったことを後悔するがよい。”

“さあ、どうかな”

“やるのかい?”

“やってやろうじゃねえか・・・エリ!”

“おう、全員、構えろ!”

兵士たちが一斉に彼に銃を向ける。一方の彼は平気そうな顔をしている。ケートニアーなのか?まあとりあえず撃ってみればわかるだろう。

“撃て!”

エリが叫んだ。一斉に兵士たちが銃の引き金を引く。けたたましい銃声が鳴り響く。一部のビル内の人間は頭を抱えた。しかし、後に奥に引っ込んでいった。

やがて対象の周りの煙が晴れていく。奴は・・・死んだか?

 

“!!”

エリと私と兵士は目を疑った。なんどラネーメ公営地下鉄の先頭車両が盾に8本くらい並んでバリケートを作っている。

“うちの列車はすべてほぼきれいな直方体であり縦に並べれば見事な壁ができるのさ!”

“なん・・・だと”

そんなジェンガみたいな構造の列車だったのか。あの地下鉄今まで何回も乗っていたけれど地下だったからさすがに全体図までは見たころがなかった。

“さて、このことを知ってしまった君たちには口封じに消えてもらうしかなさそうだ。もしくはウチに入社するか?”

冗談じゃない。ならばそちらが口封じとなれ。そういえばスカーナさんはどうしたんだろう。上から制圧する計画だったか。

“ふふ、このビルの正面玄関にはもっとも列車設備が施されている場所なのさ。”

“あ?どういう意味だ”

すると彼は何かのリモコンのボタンを押した。すると周りの壁が動き出して縦に立てかけ並べられた数十台の列車が現れた。いずれもジェンガのような形をしている。

“な・・・なんだこのビルは”

“さあ、死ぬがよい”

なんと、ジェンガのような列車でできた見事な壁が迫ってくる。く、なんだこのビルは。こんなの情報にないぞ・・・?

すると寸のところで止まった。面積が縮まったため兵士たちの逃げ場が無くなってしまった。すると、さっき社長の前で見事な壁を作っていたジェンガ列車がこちら側に倒れてきた。我々は顔が引きつった。

“!?やばいぞ!”

“ぺちゃんこになる!”

く、こいつらを失うとかなり戦力が奪われる・・・

“ハッ!”

とっさにウェールフープで爆発を起こし倒れてくる列車をはじき返す。

“げっ”

社長が今度は顔が引きつる。すると社長は横に転がった。社長運動神経凄すぎ。ロビーの一部の壁が潰れたが社長は何とかのがれた。

“なんと!君はケートニアーだったのか!”

“今更おせえよ!”

“ふふ、しかしいい情報を得られた。うちの列車の原動力もそろそろ完全にWPに切り替えようと思っていたところだ。”

うわ、ラネーメ地下鉄結構時代遅れだな。

“あ!いま時代遅れって思ったね?甘い甘い!この電気を使うというレトロ感がいいんだろうが!”

うわ、すごい趣味を持っているな。WPを嫌うのか。

“この列車の動きもすべて電気で成っているぞ!”

“そんなこと誰も聞いてねえよ!”

“あれー?君たちの中で誰か一人くらいこれ分かってくれる人いるかなーって思ったんだけれどなー”

“いや、それはないな。だって我らxelkenはWPを使って古リパライン語を伝える集団だ。電気の動力なんて使うわけがない。”

“いやーわかってないねー”

社長がなんか渋い顔をする。

“ま、いいや。このビルにはそういう仕掛けが多いから楽死んで逝ってね!”

“あ!待て社長!”

すると社長は忍者のように去っていった。

“とりあえずロビーにいる奴らを全員ひっとらえるぞ!”

 



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#13 愉快な人質たち

これで捕虜を数人確保できた。全員基地に連れて帰ってxelkenへ勧誘するらしい。

そりゃそうだ。xelken.valtoalなのだから。

まずは一階と二階を制圧できた。このビルは36階建てなのでまだまだ上に行く必要がある。やっと任務をしっかり遂行できそうだ。しかし参った。社長があんなに強かったとは。これは少しスカーナさんの力を借りる必要があるかもしれない。

 

“そろそろ上の階へ侵略していこうか。”

”xelkenの高層ビル侵略にエレベーターを探すなんて概念はない。今立っている場所がエレベーターになるのだ!”

そういってエリがミサイルを上に向けて一気にぶっ放した。さすがエリ、大胆だ。上に大きく風穴があいた。もたもたしては時間がかかるので一気に30階くらいまで風穴を開けた。上から砂埃が落ちてきたりがれきが落ちてきたり、それを頭にぶつけて倒れた兵士が数人いた。それでは適当に脚立を伸ばして進むか。

“いけー!いけー!”

このxelkenの脚立は幅が2mほどあり、頑張れば一気に4人くらい上に持っていくことができる。当然これでは足りないのでもう一つ風穴を開ける。もうビルが潰れそうだ。

やがて上のほうで猛威を振るう兵士たちの声が聞こえた。頑張って制圧してくれ。もし中にネートニアーがほとんどを占めるのならば君たちのWPライフルで一掃できるであろう。

そして生きている兵士全員あがったのを確認すると我々も上ることにした。正面玄関のすぐ上はどうやら会議室のようだった。椅子がたくさん並べてあり、今まさに会議中であった。

“誰だ貴様らは!?”

前に座っていた重役と思われる人間が叫んでいる。スーツを着た大量の人間が必死に会議室から逃げようとするのでそれはさせまいと銃を持った兵士が扉を閉めて見張る。これでこの会議室にいた人間は全員閉じ込められた。ついで通信機器を、すべてWP波を放って破壊した。ここに捕虜を置くことにしよう。

 

ついでにさっきの風穴は入れば逃げ道となるため封じることにした。またこうすると我々が侵略をできなくなるためWPを使って壁をすり抜けることにした。

“よし、暴れまくってやる。”

壁を抜けると絨毯の敷いてある廊下であった。ずいぶんと金を持っている会社だなと思った。

ここで私とエリはとりあえず待って兵士たちに行かせることにした。とりあえずさっきの会議室で捕虜たちをいたぶるとしよう。

そして壁を抜ける。

よくよく舞台のほうを見てみると新入社員の研修であった。なるほど、ここにいる若い奴らは全員新入社員か。ふふ、社長の本当の顔も知らずにね。

適当にその辺で壁に倒れ掛かっていた重役に話しかけることにした。

“お前、名前は?”

“ああ?それよりそちらから名乗れ!”

“はっはっは、我々はxelken.valtoalの人間だ。”

“ちっ、やはりxelkenの奴らだったか。こんなことするのは!

私を捕えてもなにもいいことはないぞ?”

“そうか?基地に連れて帰って古リパライン語の講習をすればお前だって十分使える人材になるのだ。”

“ほう・・・貴様にやれるのか?”

“はは、やるのは私ではなくxelken.valtoalという組織の名においてだ。実行は私のほかの誰かだ。”

“フン、そんな貴様らの願望のためだけに私がやっと得たこの地位を譲るわけにいくか。”

“いや、こちらはお前の地位なんて興味もない。”

“へぇ・・・”

重役はずいぶんと余裕な顔をしていた。かなりイラつく面構えだ。捕虜の顔と思えない。

そこで別の重役を見てみる。こちらは明らかに気が弱そうなやつであった。

“おい、あいつが余裕そうな顔をしているんだが”

“あ、え?ああ、あいつはいつもそんなやつなのさ。緊張感が足りない。あいつの余裕そうな顔は信用できない。”

ずいぶんと喋ってくれる。こいつも余裕なんじゃないのか?

ついでに基地から持ってきた食料をいただく。

 

さて、無線で伝わってきた。ついに兵士がスカーナさんの軍と合流したらしい。12階だそうだ。午後2時の出来事だった。そろそろ前も警察だらけになっているだろう・・・と前を見ると、その通りだった。ずっとこの部屋にこもっていたせいで気づかなかったが警察官が拡声器で勧告をしている。警察も暇人なんだな。警察を無視して部屋の中の人質と遊ぶか・・・と思ったら警察がビルに入ってきた!やばい!

“おい!エリ!警察がビルに侵入してきたぞ!”

“なにっ”

“とりあえずこいつらを人質にとって警察のところまで行くか?”

“いやまて、それは最終手段だ。”

 



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#14 最強の社長

そのうちこの部屋にも入ってきて降参を命じるに決まっている。だが、そこはxelkenらしく、堂々と出てきて皆殺しだ。そう考えていた。

するとさっき私が入ってきた壁からスカーナさんから伝言を預かったという兵士が来た。エリも私も驚いた。

“司令より命令です。このビルの制圧をやめて、ラネーメ地下鉄の本線を狙います。それだけでもかなり奴らにとって損害です。”

“え、今日の遠征で我々三つの部隊はこのビルを中心に襲うと聞いていたが・・・予定が変わったのか?”

“はい、見てのとおり警察がたむろしているので屋上へ突破して空から逃げてやるというようです。もちろん捕虜は全員連れて行きます。”

“ふむ・・・上の命令なら仕方がない。エリ、行くぞ。”

しかしエリは何かを疑うような顔をしていた。

“どうした、エリ?”

“お前、あの誓いの言葉を言ってみろよ。”

“?”

目の前の兵士がすっとぼける。

どうやらエリは目の前の兵士の立場を疑っている様子だった。

“んな・・・!エリ!”

“ラブヌトラート、ここは戦場なんだ。ついさっき現れて自己紹介もしないでやってきたやつがいきなりこの作戦を大幅に変えるような伝言を届けに来たんだぞ!?それならばスカーナさんが直々に無線あるいはこちらまで来て連絡を入れるはずだ!”

“そ、そうなのか?”

兵士の顔は依然、平常である。実は警察か誰かが成りすましているのか?

“おい、どうなんだお前!xelkenのあの誓いの言葉を俺たちに言ってみろ!”

“クックックッ”

兵士が不気味な顔で嘲う。ついに頭がおかしくなったか?

“なるほど、所詮脳筋バカのxelken.valtoalだと思っていたが・・・さすがに引っかからなかったか・・・!”

“な・・・お前!”

“そこの青年の言う通り、私は君たちの仲間でもないし君たちの上司から伝言を授かったわけでもない”

“ちっ、やはり・・・お前はどこの人間だ!所属を言え!”

“ならばこれでわかるだろう。”

なんと、奴はリモコンを取り出して巧みに操作した。

“!?”

“君たちには言った筈だ。このビルにはそういう仕掛けが多いと・・・!”

“なんだと?”

“つまり、普段新入社員の研修に使っているこの部屋は・・・すべてうちの列車によってつくられている!”

“えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ”

なんと、こいつはあのキチガイ社長だった。しかしこいつには謎が多すぎる。ケートニアーなのか、なぜこんなにメカが好きなのか。なぜ社長なのか。見た目はたしかにラネーメ人だが。

“そういうわけだ。xelkenの若旦那たちよ!”

“くっ、おのれ!”

“スライスパンのようにぺちゃんこになれ!”

すると左右の壁のコンクリートだと思っていたところは実はただの薄い皮であり、それらがすべて破れるとさっきのきれいな直方体をした列車が現れた。

“!?”

そして迫ってきた。このビルは忍者屋敷か・・・。

“やばい!潰れる!”

エリがあわてる。

“おい、お前ら!お前らの力で頑張って壁を押し返せ!”

“イェッサー!”

私は兵士たちに迫ってくる壁に抵抗しようと全員で押し返すように指示をした。

なんとか壁が迫ってくるのを止めることはできたが止めているのは人力。いつ力が尽きるかわからない。それにしてもなぜこの社長は壁を使って押しつぶすのが好きなんだ・・・

“おのれ、社長!”

すると、社長はすでに姿を消していた。はと後ろを見る。

なんとステージにはガラスが貼ってあり社長と捕虜にしていた新入社員たちが避難していた。

“君たちの死に際はこの私が娶ってあげよう”

“断る!”

咄嗟に私は上下にウェールフープを発動して天井と地面に穴をあけようと試みた。しかし、

“なん・・・だと?”

なんと、上下がいつの間にかあのジェンガのような列車になっていた。

やばい。このままでは本当に潰される!

“いちかばちか、NZWPをぶっ放してみるか・・・?”

“こんなところでやったらさすがに俺らでも吹っ飛んじまう!”

エリはそれをさせない。たしかにケートニアーの私たちでも吹っ飛んでしまうかもしれない。ならば鉄さえも溶かしてしまうほどのWPレーザーを放って丸ごと溶かすしかなさそうだ・・・

“エリ!高圧WPレーザーだ!”

“もはやそれしか方法はないか・・・!”

すると兵士たちの力も尽きてきた。中には壁によって中へと追い込まれる兵士に挟まっているものもいた。

“仕方ない!喰らえ!”

ついに鉄さえも溶かすようなWPレーザーを放った。予定通り、それらのレーザーはジェンガ列車の車体を液体にして見せた。壁がすべて液体となり、うまいこと外に流れる。何とかなったと思いきや、高圧レーザーが社長たちを隔てるガラスに当たって乱反射した。

“!!!”

当たりは爆発した。そのあと私はどこかに吹き飛ばされたと思うのだが、どうも気を失ってしまった・・・

 



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#15 目覚めよ、ガルタ

気が付くといつものデュイン基地のベッドで横になっていた。私は生きていたようだ。そとから声が聞こえる。

“やっぱり入ってから一か月しかない子はケートニアーだとしても遠征には難しかったんじゃないの?”

“んん・・・そうかもしれんな。今は病室で安静にさせている。また回復しxelkenの立派な戦士の一人として活躍してくれることを祈ろう。”

どうやら私は倒れたらしい。しかし、何時間たったのかは覚えていない。はっと起き上がると隣に前にエリがいた。エリはもっと怪我が激しかったようだ。どうやら片目が包帯で巻かれているが・・・

“まさか!”

包帯をとってみて確認してみる。そこには無残にも焼けて溶けてしまった目玉があった、エリはどうやら片目を失ったようだった。そういえば私にはなにか体の害はあったのだろうか?と、全身を触ってみる。見た感じ、異常はないようだ。ちゃんと景色が見えるし周りの声も聞こえた。五体満足である。よかった。

そこで、ウェールフープを試してみる。が、その必要はなかった。体が勝手に修復されていくのが感じられた。未だケートニアーのままだ。

しかしエリはどうなのだろうか。そういえばエリはケートニアーだったのだろうか?そういえば奴がウェールフープを放ったところは見たことがない。

 

「起きたのね。」

!?

横から女性の声が聞こえた。ふと、反対側を見てみる。やはり女性がベッドの上で横になっていた。しかし、どこかで見たことがある。

「おっと、古リパラインで話さないとね・・・」

“私 会った あなた 廊下 数か月前”

ずいぶんな片言。だが大体意味は分かった。とするともしかしてこの女性はあの時のナイフ投げ・・・?

“中央回廊か?たしかにあのときは大変だった。それがどうした。お前は誰なんだ?”

“私 です ハタ王国から。私 いた あのとき。投げた ナイフ。”

やはり片言だが言いたいことは分かった。やはりあの時のナイフ投げのようだ。

“そうか、あのときの王国民か。そういえばあの時なぜ私に話しかけた?”

“・・・”

女性は黙り込んだ。

“私 名前 です ツァピウル ケンソディスナル。”

ずいぶんと「ピ」に力が入っている。しかし、名字が後に来ている。

“あなた FAFS.labnutlart. ない?”

“え?”

なんと、私の名前っぽいものを出してきた。しかし、私の名前はla”v”nutlartでありla”b”nutlartではない・・・。しかも名字はFAFSではなくTarfなんだが。

“lavnutlartだ。ツァピウルと言ったな。お前はなんなんだ?なぜ私に話しかけてくる?”

“あなた 友達。以前 xelken 入る。”

え?

“ハフリスンターリブ・・・”

女性が私に向かって話した最後の単語である。ハフリスンターリブ?あのウチの組織の同盟国であるあの王国か・・・?

その時私の頭の中に何かが戻ってきた。なぞの言語、宿の女性、祭りの人たち、旧都市の生産者、辺境にある町を総べる女性・・・そして謎の装置!

 

――

 

「は!!!!」

となりに寝ていた男が私の叫び声に反応して起きた。

“どうした?ラヴヌトラート”

どうやら古リパライン語を話しているようだった。なぜか私にはわかる。

すると反対側に咳き込む女性がいた・・・ツァピウル!?

「ツァピウル!なぜここにいるんだ!?いや、なぜ私がここにいるんだ・・・??」

「いいえ、あなたは今まで夢を見ていたのです。」

「ふむ、そうか?」

「そんな詳しい事情は私があとでいくらでも暇なときに喋ってあげますから早急に外へ出ましょう!」

「え?うん、たしかあのとき私たちは拉致をされて・・・今はxelkenのところなのか?」

「ええ、そうです。あのとき私とあなたはディスナルからここにテレポートしてきました。」

「な、そんなことが・・・」

「い、いまはそんなことはいいのです。早く外へ!」

「しかし、ツァピウル、横になっていたということは怪我をしているのではないのか?」

「いいえ?あなたを戻すために仮病を患ったのです。」

え?戻す?

 

“んんー・・・”

「え?」

反対側で寝ていた男性が起き上がった。

“んー?・・・あ!!ラヴヌトラート!”

「え?私?」

かなり戸惑った目の前の男性は私の名前を呼んだ。

“よかった。生きていたのか・・・ってそいつはこの前の王国民じゃないか!お前って・・・・”

「なんなんだ?お前は。彼女は私の友人だ。」

“な、おいお前、何語を喋っているんだ!?早く古リパラインに切り替えてくれよ!お前が作った謎言語はいいから!”

「悪い、私たちは急いでいるんだ。私は早くこの牢獄みたいなところから出なければならないんだ。」

“え・・・?今「牢獄(anka)」って言った?おいちょっと待て!”

「あ、牢獄ってリパライン語でも通じるんだ。ユーゴック語はリパライン語の借用がいくつかあるのは知っていたけれど。ま、いいや。じゃあな!」

“え?ちょ!”

私はウェールフープを使ってこの基地から抜け出して元いたあの井戸の前に現れるようにWPを発動しようとした。

すると扉から誰かがやってきた。

“ラヴヌトラートさん!どうしたんですか!?おちついて!ていうかウェールフープ発動しないでください!それと・・・あ、王国民!なにしようとしているんだ!”

「く、これではウェールフープできないな・・・」

「任せてください。こんな奴ら私一人で掃除できます。」

「え?ツァピウルって戦えるのか?」

「戦えない巫女なんてただの巫女ですわ!」

するとどこからか数十本のナイフを取り出した。なんと、ツァピウルがナイフ投げだったとは。

それらのナイフはすべて命中し、駆けつけてきたxelkenを全滅させた。

「助かるよ!それでは、戻ろうか!」

「はい!」

ツァピウルが私の腕をつかんだ。よし、移動しよう・・・

「iska lut xelkener! じゃあな、古リパオタクどもよ!」

“な・・・この・・・裏切り者、”

まだ息の合ったxelkenのやつが私に対して何かを言っていたがすべての言葉を聞く前に転送が始まった。

 



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討伐と感嘆
#16 ようこそ王国へ


まわりの閃光が晴れた。目の前には懐かしい井戸があった。

「やりました!戻れました!」

「ふぅ~よかった」

風景はあまり変わっていなかった。が、以前と明らかに変わっているのは人がいたということ。突然二人の人間が現れて驚いている庶民がいた。

「な・・・ケンソディスナル氏・・・?」

「今までどこへ・・・?」

「あ、みなさん。迷惑かけました?」

「かけましたよ!ケンソディスナル氏!3年も前に行方をくらましてからわれらディスナルの民はいったいどうすればよいのかと・・・!」

「ああ、よかった。我らが美しき主たちは生きていた!」

「これもアルムレイ殿のご加護か・・・!」

「しかし、ケンソディスナル氏!貴女の横にいるその男は何者ですか?」

「ああ、彼は私の友人です。」

「な・・・チェクセルか何かでしょうか!?あの世からやってきた・・・?」

「馬鹿な!我らがケンソディスナル氏が死滅界なんぞに送られるわけがない!」

まわりが騒ぎ始めた。これは面倒だ。ツァピウルよ、早くしてくれ。

「皆の者、静粛に!」

ツァピウルがなにやら怒鳴った。すると周りにいた民衆は一気にしずまった。さすが、トイタクテイ家の子孫とされる一族の一つ、ケンソディスナル家。なんとも威厳がある。

「いいですかみなさん、これよりあの忌々しきハフリスンターリブへ反旗を掲げます!」

「な、なに?」

「あんな奇術使ってくる奴らに勝てるのか?」

「それにどんどん人が消えていくせいで人民の数だって余裕がありません!勝てるはずが!」

「そのための彼なのです。」

民衆は驚きあたりはしずまった。

「私はあの人が消えていく事件に巻き込まれてしまい、ここから姿を消してしまいました。しかし、そのおかげで、これらの事件は拉致であることが分かったのです!」

「な、拉致?やはりハフリスンターリブか?」

「いえ、ハフリスンターリブが直接やっているというわけではありませんでした。」

「な・・・じゃあ誰だ!」

「ハフリスンターリブの先祖にSazasyimi一族がありますね?そのSazasyimi一族の出身はファイクレオネでした。そしてそのファイクレオネには過去の伝統を保持しようとする過激派がいます。まるでかつてハタ王国に存在したクン・シーナリアの一派のようです。」

「な・・・」

「その過激派はxelken.valtoal。私たちを『拉致』したのはそこの人間であるというわけです!」

「・・・」

「だから、ハフリスンターリブを討伐すれば、ついでにxelken.valtoalもやってきて同時に対処することができるというわけです!」

「ケンソディスナル氏・・・」

一人の民衆が手を挙げて発言をした。

「あなたは・・・この町・・・いや、この『村』が今どんな状況かわかっていっているんですか?」

「分かっていますよ。拉致被害のせいで景気は不安定、当然人が減っており作物も少ない状態。スカルムレイ一族からは完全に見放されてしまい、町を出歩けばすぐに拉致をされるという始末。」

「おうおう、分かっているではありませんか。」

「当然です。」

「ならば、もうこのディスナル市があの集団に立ち向かうというのは無理なんじゃないかと言うことです。」

「そうですよ、ケンソディスナル氏!ハフリスンターリブに屈するしかありません!」

「・・・そうですか。」

え、諦めた!?ツァピウルが?

「ならばあなたたちを戦火に放り込むことはやめておきます。」

「おお、なんと」

「ただし、私一人で行けばかならず、あなたたちにも・・・」

そういってツァピウルはケンスケウ・イルキスの方向へ歩いて行った。

 



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#17 スカルムレイ家

ついにケンスケウ・イルキスにたどり着いた。私もツァピウルについていった。そういえば私がケンスケウに入るのは初めてだ。

「ああ、ラブヌトラートさん、こっちよ。」

私は案内された。なるほど、これがイルキスか。本堂に入ると座席がいくつかあってその中心には道があり、おくにはなにやらテントがある。あれがジルケタだろうか。

「あなたって、ウィトイターなのですか?」

「そうだな。ハフリスンターリブだったころからイルキスに赴くなんてことやったことはない。トイター教を排他する戒律もあったからな。」

「ですよね。」

「悪いな。だがいずれは入信しようと思う。」

「それは有難いですね。あ、客間はこちらです。」

するとジルケタの横の扉を開けて中へ案内した。木材を基調としている家。古風な感じがする。

 

そしてなにやら古い感じの部屋に案内された。

「さて・・・まずあなたに言っておきたい話が二つあります。」

「え?」

「まず一つ目です。私は50年(トイター暦で50年。西暦で言うと25歳くらい)ハフリスンターリブの時代に生きてきましたがようやく謎が解けたのです。」

「そうだな。これは王国にとって大きな事実だ。」

「そこで私がこのことを広報して皆さんに知っていただこうと思います。そのためにスカルムレイ陛下のところまで行き告げなければなりません。」

「ん、それによって王国部隊を動かすのか?だがそれをやるにしてももうスカルムレイも力を失っているんじゃあ・・・」

「いえ、スカルムレイ陛下が力を失ったとしても影響力は健在です。あの方がこのことを、私のことを信頼し、スカルムレイ陛下が呼び掛けてくれればよい宣伝になります。」

「なるほど・・・!そういうことか!」

「なので、明日には身を整えてディスナルを出発する必要があります。あなたにお供してほしいのです。」

「うーん、そうか」

「かなりの長旅になるとは思います。船が通っており港からアルパまでは鉄道がとおっているらしいので楽なのですが・・・スケニウまで行くのが難しいのです。」

たしかに、スケニウへはかなりの距離がある。私も痛感した。ならば・・・

「じゃあ、あの方法を使うか?」

「え?どういうことですか?」

「私がデュインからここに来る時、どうやったと思う?」

「まさか、ウェールフープですか?」

「そうだ、それを使えば鉄道よりも早いぞ!」

「な、なるほど!」

彼女は喜んだ。

「あ、しかし、それでも今から行くわけにはいきません。スカルムレイ陛下に会うのです。身支度は十分にしないと」

「じゃ、いずれにしても出発は明日以降だな。」

「そういうことになりますね。」

そうか、とりあえず今日はディスナルで一晩を過ごすことになりそうだ。しかし、前も見たんだがこの町には宿が見当たらない。

「ああ、あなたの寝床なら安心してください。私の隣で寝かせますんで。」

「ファッ?あ、はい、お気遣いなさらずに・・・」

「あ、そういえば、この家ってツァピウル意外に人はいるのか?」

「あー・・・」

ツァピウルは黙り込んでしまった。まずい、また悲しいことを聞いてしまったか。

「実は、両親はすでに他界していて、妹のタースマングは以前言った通り宿を経営する女将になったので・・・ここには私が独り暮らしをしているのです。」

なるほど。そういうことか。じゃあ、昔住んでいたご両親の布団が少なくとも一つくらいは残っているだろう。

「そうか、ならよかった。じゃあ私は少し外を散策してくる。」

「え、もう夜ですよ?危険です」

「私はケートニアー。死にはしない。そんなことよりこちらが君自身の心配をするよ」

「そうですか・・・行ってらっしゃいませ」

 



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#18ケンスケウ・イルキスの夜

これがケンスケウ・イルキスの境内か。

実は「ケンスケウ・イルキス」と呼ぶのは中心にある最も大きな建物のことであり、この敷地全体は「キス」と呼ぶ。また、ケンスケウなので「ケンスケウ・キス」と呼ぶ。以前のツァピウルとの雑談で聞いた。トイター教はまだ知らないことが多いな。ちなみにこのキスの敷地面積によってもイルキスの価値は当然のように変化する。スケニウ・イルキスはなかなかの大きさらしい。なんせクントイタクテイ家のイルキスだからな。ここ、ケンスケウ・イルキスは中の上という当たりらしい。

さて、私が散策と言う名目で外に出たのは警備目的だ。このイルキスには見張り番が雇われていないし、私があそこに残したWP波をたどってxelkenのやつらがこちらに追跡に来るかもしれない。そうしたらツァピウルも強いとはいえやはり男である私が戦わなければならない。そのためになるべく遅くまで見張りをする。

なのでイルキスの頂上、「ペルニウ」という避雷針の様なものにて見張りを行うことにした。

ここならどこから敵が来ても飛び道具などを出せば撃退できる。しかし、ケートニアーとはいえ寝なければならない。数時間たったら私も床に入るとしよう。

 

30分後。

向こうになにやら松明のような光が見える。その光は少しずつこちらに近づいているようだった。目を凝らしてよく見てみる。

「あ・・・あれは・・・!」

xelkenの旗が見える。ここまで追ってきたのか?これは確実にこちらに来たようだ。どうする、ツァピウルを起こすか?

松明は急に走り出してこちらへ向かってきた。明らかにこちらを狙っている。

「!!」

突然こちらに銃弾が飛んできた。間一髪のところで私は銃弾を素手でキャッチする。しかし、なぜWPライフルなどではなく普通の拳銃なのだろう。私は飛んできた銃弾を飛ばそうとも考えた。しかし、そうすると相手への宣戦布告になる。穏便にせねば。

そこで銃弾はその辺に捨てることにした。

 

そして双眼鏡をとってきて向こうのほうを見てみる。確かあちらは井戸の方角だ。

こちらへ近づいている。

 

そしてついにケンスケウ・イルキスのエンネ(鳥居)の前に来た。もうこれは応戦するしかない。私はペルニウから飛び降りて奴らの目の前に現れた。

 

“誰だ!”

古リパライン語だ。どうしよう、古リパラインで話すか。

“私はこのイルキスの見張りをしている。そちらこそ何者だ。即刻立ち去れ。”

“な、ならば貴様も押し倒してやる。”

一人の男が拳銃を向けた。私は嘲笑いながらその拳銃をWPで一瞬で破壊した。

“は・・・?”

“あんまり派手なことをしない方がいいぜ。私はケートニアー。”

“ち、なんでケートニアーなんかが見張りをやってんだ!王国の分際で!”

“おい、今王国を侮辱したな?”

“な、お前は王国派の人間なのか?”

“当然だ。ここから出ていってもらおう。”

私はWPを発動する。前にいる3人の男を全員海の方向へ吹き飛ばした。

“うわああああああああ・・・・”

おそらく奴らはそのまま飛ばされて海に落ちたか、場所が悪くて地面に激突したか、どちらかだろう。どのみち奴らは数百km吹き飛んだ。命はないな。

そう思いながらもう誰もいないことを確認して私はイルキスに入り寝ることにした。

「え・・・」

さっきの客間から寝室に入ると、なんと大きな一つの布団が真ん中にドンと敷いてあり、その右側にツァピウルが寝ているという様子だった。

「あれ、布団ってこれしかないのか?」

失礼と思いながらタンスを見る。布団は見当たらない。

どうしよう、布団用意し忘れて寝ちゃったのかな・・・と、ふと思い出す。

「ああ、ハタ王国では基本的に一つの大きな布団に寝るのが基本だったな。」

そんな習慣もあったかと思いつつ仕方なくツァピウルの横で寝ることにした。

 



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#19ネステル・アルパ

銃弾を素手でキャッチした夜も明けて朝になった。私が起きたころにはすでにツァピウルは支度を進めており、私が起きるのを待っていた様子だった。

「おはよう」

「おはようございます」

昨日言った通りネステルへ行くのだった。私も用意をせねば。といってもウェールフープで移動するのである程度の食糧とかがあれば。

伸びをしながら起き上がる。

「・・・!」

支度をした時のツァピウルの美しさに翻弄されつつも布団は自分で片づけてケンスケウ・イルキスから出ることにした。

「私が不在の間、ケンスケウ・イルキスとディスナルはふたたび狙われるでしょう。なので、ここの見張りをしてくれる町の方を雇います。」

「やっぱり危険なのかな」

そしてある一人の男性を連れてケンスケウ・イルキスの前に立たせて武器を持たせた。

これで準備は整った。いざ、ネステルへ。

「ネステルへ行くのは久々だな」

「ディスナルへ来る前はネステルに住んでいたんですよね?」

「そうだな。ハフリスンターリブに各地の調査を依頼されていたから、基本的にいろんなところに住んでいたけれどやはりネステルが一番長かった。」

「私はおそらくネステルへ行くのは10年ぶりだと思います。」

「あれ?前にも行ったんだ。」

「ハタ王国のシャスティは基本的に成人するとスカルムレイ陛下のもとへ挨拶に行くのです。なのでスカルムレイ陛下はだいたいのシャスティの名前は覚えておられます。たぶん」

ふーん、という感じで聞いていた。

「まあ私は田舎者ですから私の名前を覚えてくれているという保証はないですね。データに残っているわけではありませんし、スカルムレイも変わります。」

ふむ、これはさすがに知らなかった。王国に住んでかなり経つけれどウィトイターだったせいでトイター教周りはあんまり詳しくなかった。

 

「さて、この辺でウェールフープを発動するか。」

「ええ、そうしましょう」

意識を集中させる。そしてネステルへの経路をイメージする。

そしてはっと目を開いて叫ぶ。

「iska lut xelkener!」

 

――

 

ある郊外に私とツァピウルは現れた。ここはネステルのなかでももっとも南にあるオートゥロム通りの少し外のようだ。なぜここにテレポートしたかというと、もちろん怪しまれないためである。いきなりアルパの真ん前に現れたら・・・ねえ。

「ここは・・・ネステルですか?」

「あそこに『オートゥロム・イキュル』って書いてあるだろう?」

「あ、本当ですね」

ネステル市内は形は四角形であり碁盤のように通りが置かれている。これはオートゥロム通りとイキュル通りの交差点というわけだ。

 

ここからネステル市の中心まで行く。アルパはこのネステルの都の真ん中にある。歩くとかなり時間がかかるので王国鉄道を使ってネステル駅まで行ってあとは徒歩で行く。

「よし、王国鉄道に乗ろう。」

「あ、はい」

 

ってことでオートゥロム駅へ着いた。ネステル駅へは列車で行けば4駅しかない。

「自転車レンタルで借りていけばよかったかな」

そして列車に乗る。ツァピウルはやはり電車に乗るのは成人以来のようだ。私はここにいたころは毎日のように使っていたが。

それにしても懐かしい。かつてはここで毎日を暮していた。

二分くらいでクトゥロム駅についた。私が住んでいたところだ。駅からハフリスンターリブのアジトが見える。もちろんネステルのアジトだけあってスカルムレイとかにばれないように非常に分かりにくいところにあるけれど。この風景も懐かしい。

いろいろ思い出している最中に次の駅へと発車した。

次はリトゥロム駅だ。なぜこんなに駅名が似ているかというとネステルの通り名に沿っているからである。あえて直訳すると「二条通り」とか「三条通り」とかになる。

 

やがてナトゥロム駅につく。

ここから歩いて数分のところにネステル・アルパがありここにスカルムレイが住んでいる。やはりアルパ。非常ににぎわっている。が、ハフリスンターリブがいることもあってかなり緊張した雰囲気になっている。それでも大陸側のイザルタとかその辺に比べればまだまだ平和な方だ。

 

二人でアルパの門の前に立つ。すると門の前に立っていた二人の門番が反応する。

「君たちはなにものだ?どこからきた!」

「私はケンソディスナルです。スカルムレイ陛下へ一言告げたく参りました。」

「な、ケンソディスナル氏!?あのディスナルからはるばるここまで・・・いったい何を告げに来た?」

「それは・・・あとから陛下本人に直接聞いてみてください。」

「ふむ、ならば通れ。」

「ありがとうございます。」

なんだろう。ハタ王国のなかではシャスティの一家というのは力を持っているはずなんだがこの門番は特に敬意とかそういうものは感じられない。上の位なのだろうか?私は聞いてみた。

「確かに私たちケンソディスナル家は力を持っている方ですがここはアルパです。そういうものは通用しないのです。」

「そうなのか。」

よほどスカルムレイが力を持っているのであろう。それにツァピウルのこの丁寧な口調もたぶん元からだ。そう思い、アルパ前の謎の通路を歩いていく。後ろには案内の男がついていた。

「ところで君・・・何者だ?」

案内の男が私に話しかける。

「私か?私はガルタ=ツラエルトゥロム、彼女の友人だ。」

「はっ、君みたいな庶民がこのケンソディスナル卿と知り合いだとは驚きだな。」

「ハフリスンターリブの思想の影響だろう」

「ふん・・・そうかもしれんな」

 

謎の階段を上っていきやがて謎の一室の前にたどり着いた。

「スカルムレイ陛下、ケンソディスナル卿が参られました。」

すると中から非常に艶めかしい声が聞こえてきた。

「あらあら、ディスナルから?いいわ、入れて頂戴」

「承知しました。」

「ご苦労様、ダスデア。下がってよいわよ」

「はい。」

すると案内の男は一歩下がった。

「では、ケンソディスナル氏。入ってくれ。何を告げたいのか知らんが」

ケンソディスナルに続いて私も入ろうとする。しかし、案内の男がそれをさせない。

「おい、礼儀を弁えろよ。我々男はあの一室には許可なしには入れない。」

「ほう、そうか、失礼。私は田舎者なので。」

するとそこへツァピウルが来た。

「いいですよ、ツラエルトゥロムさん。横に並びましょう。」

「あ、おう」

「ふん、好きにするがよい」

私は緊張しながら謎の一室の中に入った。

 



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#20 カリアホ=スカルムレイ

「これはこれは、ケンソディスナル卿。ディスナルからはるばる、よくぞお越しいただきました。歓迎いたします。」

「はい、ありがとうございます。」

私ははじめてスカルムレイの顔を見ることができた。なんと美しい・・・おっといけない。

目の前にいるこの女性はハタ王国65代目スカルムレイ、カリアホ=スカルムレイ(Kariaho=Sukarmrei)である。革新的か保守的かと言われれば中立的。しかし、ハフリスンターリブについては何か少しでも問題を起こせば即刻排除することを公表している。ウェールフープ技術については寛容的らしい。

「さて、ケンソディスナル卿。わたくしに告げたいことがあると伺っております。」

「仰せのとおりです。話があります。」

私はやりとりする二人をじっと眺めていたがスカルムレイと目があいニコッとされたので笑顔で返した。

「私はあの例の人が消える事件に巻き込まれました。」

「ええ、存じております。」

「そこで、私は被害者が何をされたのかを知ることができました。」

辺りが一瞬静まる。

「すべてをハフリスンターリブがやっているのではなく、やつらと手を組んでいる組織がほかにありました。」

スカルムレイは黙ってきいていた。

「その組織の名はxelken.valtoal。この集団はあのハフリスンターリブと同じ奇術を使って私たちを拉致し、強制労働などをさせていたのです。」

スカルムレイはすこし驚いている様子だったがすぐに表情を戻した。

「それは・・・本当?ケンソディスナル卿」

「それは、彼が保証してくれます。」

するとスカルムレイの目線がこちらに向いた。

「そこの若旦那、お名前をどうぞ?」

「ガルタ=ツラエルトゥロムです。」

「では、お聞きします。ツラエルトゥロム。あなたと彼女はなぜ知り合いなのです?あなた所属は?どこの出身なのです?」

どうしよう、どこまで話せばいいのだろう。ここでハフリスンターリブを主張すればどうなるであろう。スカルムレイはすぐに私を消しにかかるかもしれないしケンソディスナルも危ないかもしれない。

しかし、私は思った、それならばなぜ私に話を振ったのか。おそらく私が知っていることを全て話してほしいと思って言ったのであろう。ならば、話そう。すべて。王国の為に。

「彼女は・・・私がこの国に戻しました。」

「え?」

「私はハフリスンターリブの幹部です。初めは彼女を捕虜にするために接触を図りました。」

「あらあら、そうだったのですね」

意外と驚かない。スカルムレイは意外と寛大なのかもしれない。

「この、Garta=Tsuraertromという名前も・・・この国で平和に住むための通称です。別の・・・ハフリスンターリブの名前があります。」

私はハフリスンターリブの名前を出すことにした。この女性ならなにもしてこないだろう。

 

「あなたたち二人の言いたいことはよくわかりましたわ。このこと、すべてハタ王国全土に公表してほしいという旨ですね。」

「仰せのとおりです。」

「もちろん、助力しますわ。顔を上げてください。」

私たちはもう一度スカルムレイの目を見る。

「それならば、もうやるべきことは決まりましたわね。」

「と、言いますと?」

「彼がいれば、この危機を脱することができます。今にでも、王国全土のシャスティへ呼びかけて反旗を掲げましょう」

 

――

 

そんな感じでアルパから出てきた。なんか案内の男がものすごい目で私を見つめているが気にしない。門の前でもさっきの門番にものすごい目で見つめられているが気にしない。

そんな感じでまた来た道を返すことになった。

 



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#21 社長再び

私はさっきのスカルムレイとの会話を再び思い出した。

スカルムレイは言っていた、「今から反旗を掲げるにはまだ重要なものが一つ残っています。今はそれを見つけなければなりません。」と。

私にはどうもこの言葉の意味が理解できない。ほかにも誰か重要な人物が必要なのだろうか。たぶんこのことはツァピウルも理解できていないと思う。あの時たしかに一緒に首をかしげていた。

どういうことなのだろう。私はしばらくこのことに頭を悩ませたがナトゥロム駅に着くと考えることをやめた。

 

さっきの王国鉄道に乗ろうとする。しかし、なにかさっきと光景が違う。なんだか車両の形が今まで見たことがないほど四角い・・・!

「はーーっはっはっは!」

するとどこからか高笑いが聞こえた。

「誰だ!」

ふと、列車の上を見上げる。なんとパンタグラフに見たことのないラネーメ人らしき人間が乗っている!

“また会ったな、xelkenの若旦那よ。今度こそ仕留める!”

相手の言語はどうもリパライン語、しかも古リパラインではなく二代目のようだ。

“くそ、なんだかよくわからねえが・・・”「ツァピウル!下がってろ!」

するとツァピウルは数歩後ろに下がった。

“ほう?xelkenの若旦那、連れの女がいたのかい?ずいぶんと可愛いじゃないか!”

“へへ、うらやましいか?ラネーメ人!”

そう思い相手の顔を見てみる。それにしてもなぜラネーメ人がいるのだろう。

“今日は君にウチの自慢の列車搭載ビルを破壊されまくった報復をしに来たのさ。覚悟しな!”

ラネーメ人はホームに止まっていた列車を操作した。するとそこから大砲が現れ私に照準を合わせた。

“まずは一発、お見舞いするぜ!”

「あぶね!」

私はとっさに横に転んでその砲撃を交わした。どうやらライト版のNZWPのようだ。なぜ鉄道がNZWPを・・・。

やられてばかりでは仕方ないので列車に近づいてウェールフープで攻撃をした。

「はぁ!」

これで破壊で来たか?

土ぼこりが晴れていく。

列車は残っていた。

「な・・・!」

“残念だったな。うちの列車はケートニアーのウェールフープでは潰れないような特別加工を行っている。”

なんだこの謎の軍事力。こいつは何者なんだ。

“ふふ、利益の限り、うちの列車は進化する。今日は君にウチの列車の最終変化を見せてやろう!”

“な、最終変化!?”

“発動、ラネーメ地下鉄ロボット!”

するとさっき攻撃した車両が突然動き始めて謎の変形を行った。

「な、何が起こっている!」

“おい!乗務員とか乗客どうすんだよ!”

“安心するがいい。彼らは皆ウチの戦闘員だ!”

そして、いくつもの列車が合体しあい、最終的には巨大ロボになった。

“な、列車になんて改造を・・・!”

“これが電気エネルギーの力だ!”

するとそのロボットはこちらに向かってパンチを放ってきた。こいつ、ホームをつぶす気だ。ホームに立っていた民衆たちが離れていく。駅長大丈夫かよ。

するとホームにひびが入った。これはひどい。

“悪いな、わが社の科学力はこんなものじゃないんだ。”

すると、ロボットの目が発光して電気光線を放った。

「うわあ!」

私は間一髪のところで避けたがそれらは時刻表で反射した。

“鉄道にとって、ダイヤは命!ウチのレーザーは時刻表であれば何でも撥ね返す、倍の威力でな!”

「なん・・・だと?」

すると光線は屈折しツァピウルの方向へ向かった。

“あ、”

「ツァピウル、よけろ!」

するとツァピウルは顔を上げて睨みつけた

「茶番・・・」

ドォォォオン

するとさっきの巨大ロボットはなくなっていた。

“な、どういうことだ!”

さっきの自称社長があわてる。

「光線をもう一度反射させてそちらにぶつけました。二階撥ね返ったので単純計算で威力は4倍になったはずです。」

なるほど、さすがだ。しかも今まで古リパラインを教えられていたこともあってあのラネーメ人の説明もしっかり聞いていたようだ。

“ち、ならば直接相手せい”

“ほう?私はケートニアーだぞ?直接戦えばどうなるかわかっているな?”

“ほう、ならばやってみるがいい”

“ふふふ・・・”「iska lut xelkener!」

ドォォォォオン

「やったか・・・」

 

「何を狙ったんだい?」

「な、なん・・・だと?」

さっきのラネーメ人はしっかり立っていた。”私の後ろに”。

“な、私と互角とは・・・!貴様はいったい何者だ・・・”

“ふふふ、私はただの、ラネーメ公営地下鉄の・・・社長だよ”

ドォォォォォオン

 



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#22 改姓

“ちょっと待て、なぜラネーメ公営地下鉄の社長であるAles lanerme lifarlin氏がここにいるんだ?”

“あれ、xelkenなのに知らないのかい?”

“え?xelken?何の話だ?”

“あっれー、まあいいや。わが社の顔は広いんだよ。ラネーメ公営地下鉄は実はハタ王国公営鉄道に対して4割ほど列車を投資しているんだ。”

“な、そうだったのか。”

“初耳かい?まあ、そういうわけだよ。だからハタ王国公営鉄道を利用しているとたまにわが社の車両に出くわすよ。”

“ああ、そうなのか・・・”

本当にこいつは誰なのかよくわからない。なのでもう早々に戻ることにした。

「ツァピウル、もう面倒だ。ウェールフープで飛んで逃げよう」

「え?テレポートしないのですか?」

「む・・・そうだな、テレポートしようか」

そういって私はケンスケウ・イルキスをイメージして意識を集中させた。

「iska lut xelkener!」

 

――

 

「よし、ケンスケウ・イルキスに着いた。」

「ふう・・・生きて帰ってこれました。」

どうやらイルキスはなにも傷ついていない。門番として一時的に雇った男もしっかり働いてくれたようだ。

私とツァピウルはイルキスの中へ入ってゆっくりすることにした。

 

さて、これからどうするのか・・・。

そういえば、ここでネステルへ出発する前夜、ツァピウルは話が二つあると言っていた。そのうち一つはおそらくネステル遠征なのだろうけれどもう一つは何なんだろう。たしか何も聞いていない。

聞いてみることにした。

「ツァピウル。これで一つ目の話が住んだけれど、もう一つの話って何?」

するとツァピウルは過剰に反応した。

「ファッ?ああ、そうでしたね。よく覚えていましたね。」

すこし顔を赤くしたツァピウルは私に話し始めた。

 

「な、それって・・・え?」

「お願いです・・・ほかに相手がいないんです・・・」

「え、でも・・・ああまあいいか、仕方ない。応えよう。」

 

ツァピウルが申し出たのは婚姻である。もちろん付き合いが長いというのもありそうだけれど・・・まあ子孫を残すのは大事だね。トイターも言っていたことだ。と、前にユーゴック語教室で聞いた。

だが心配なのはこれを町の人々が受け入れるかどうかだ。ディスナルは今不安定である。こんな時にどこから来たのかもわからないような私と婚姻関係なんて、絶対取り乱すに決まっている。

ということをツァピウルにも言うことにした。

「あー、それなら大丈夫です。先にスカルムレイ陛下に言っておきました。スカルムレイ陛下も認めてくださったのでおそらく大丈夫です。数か月たてばきっと町の民たちも受け入れてくれるでしょう。おそらく、私たちの子も」

スカルムレイ強いな・・・、さすが寛大だ。あの人には頭は上がらない。

「あの方、寛大でしょう?でもあれもスカルムレイ陛下によって違ったりするのです。」

「あ、やはりそうなのか」

「先代の・・・いや先々代のスカルムレイでしょうか・・・、あの方はひどかったと聞いています。もちろん私はその時代は生まれていなかったので母親から聞いたのですが。」

「ふーん、そうなんだ」

私は特に興味なさそうに聞いていた。それにしても、彼女と暮らすことになるのか・・・これからも。ハフリスンターリブのころは恋愛は禁止だったかな。そりゃそうだ。なんか計画の妨げになるとか言っていた。もう私は奴らの仲間ではないんだな。うらぎってしまったが仕方ない。正義のためだ。

 

「あと、あなたは私と婚姻関係を結んだので名字をTsuraertrom姓からKensodisnar姓に変えてもらうことになります。」

「あ、そうなのか。ここでは男性が女性に合わせるんだね。」

「そうですね。これであなたもケンソディスナル家の一員というわけです。」

そういうことでGarta=Kensodisnarになった。あんまり実感がない。だが、ハフリスンターリブのころの名前よりかはいいだろう。

さて、大変になりそうだ。

 



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#23 イザルタシーナリア

結婚生活を初めて2年たった。トイター暦で2年なのでピリフィアー暦にすると1年くらいだ。

私も料理にだいぶなれてきた。ツァピウルの笑顔を見るのは楽しかった。

しかも、今日は中でも特別な日。ついにケンソディスナル家に女の子を授かったのだ。なんとうれしいことだろう。今まで他人だと思っていたツァピウルがまさか子を持つほどになるとは。ハフリスンターリブにいたらこんなこと絶対なかった。生涯独身だっただろう。まさにこの子は私たちのために生まれてきたようなものだ。これからの明るいケンソディスナル家のため、明るい王国の未来のため、この子はユーゴック語で「~のため」を表す「カラム(Karam)」という名がつけられた。Karam=Kensodisnar、いずれはこのディスナルの象徴となってほしい。私たちはこの子を育てることにした。

 

ふと思ったことがある。赤ん坊を抱きかかえる姿はツァピウルにとても似合っている。

 

そんなある日の夜、ツァピウルは私に話を持ちかけてきた。

「賽は投げられました。」

「え?」

「この紋章を見ください。」

そこには十字架があり中心には丸、そこには有字でH-Tと書かれていた。

「これは?」

ツァピウルは語りだした。

「これはイザルタ地方にあるイザルタ・イルキスの主、レイマング=イザルタシーナリア(Reimang=IzartaSyiinaria)が中心となっている団体「独裁反対武装連盟」の紋章です。」

「へえ?」

「イザルタでより本格的なハフリスンターリブの討伐運動が広まっているってこと。普通はあの周辺にこれが届くはずなんだけれどスカルムレイなどの助言もあってここケンスケウ・イルキスにも届いたと考えられます。」

「それは・・・つまり・・・」

「私もこの運動に参加することになったということです。」

「そんな無茶な!私が行く!」

「あなたは・・・」

ツァピウルはカラムを見る。

「この子を次の世代に生かしてあげてください。」

「そんな・・・」

「私はハタ王国に、そしてスカルムレイにこの身をささげたトイター教のシャスティの一人。逃げるわけにはいかないのです。」

その時のツァピウルの目は真剣だった。非常に男らしく、強気で、誰にも負けないような顔をしていた。女だけど。

非常にいい顔をしている。これはやってくれる目だ。私は彼女を信じてカラムのことに精を尽くすことにした。

「わかった。君に加担しよう。この子は私が命を懸けて守る。がんばってハフリスンターリブを討伐してくれ・・・」

「もちろんです。」

「ちなみに、いつごろに予定しているんだ?」

「今はtoi.2631ですね?では3年後のtoi.2634です。」

「その三年の間は何をするんだ?」

「心の準備という感じです。まあ、作戦計画を立てたりですね。」

よかった、まだ近くにいてくれるようだ。ツァピウルは強い。そう簡単に死ぬわけがない。それまでにこの子を立派に育てないと。

そう思って、生きている時間を楽しむことにした。

ハタ王国では歩けるようになったらウドゥ・ミトの習得をなるべくさせるらしい。しかし、そのころにはツァピウルはここにはいないと思われるので私に基本的な動きを教えることにした。今までウェールフープに頼った戦闘をしていたので体術も学ぶことにした。すべては後の世代に語り継ぐため。そういえば、一族にケートニアーが混じっていた場合はその子もケートニアーとして生まれる可能性もある。カラムはどうなのだろう。だが今はそんなことよりもまずは技術を教わらなければ。

ウドゥ・ミトはやはり基本はナイフ投げを中心とする。とてつもないコントロール力が必要だ。私にこれができるかどうか・・・。

とりあえずは鼻水を拭いたちり紙を遠くにあるゴミ箱まで投げて捨てるといった練習を行ってみた。しかし、そこは長く生きているだけのことはあって習得は早かった。私は安心した。

また、ウドゥ・ミトではナイフのほかに剣を使って戦う。「ミト」といいながら剣を使う。剣術なら何年か前にやったことがある。だが、王国の剣は「剣」というより「ペン」だ。

ウェールフープ技術が渡来して戦闘にウェールフープが取り入れられた。それはハタ王国の伝統的な筆記具「メシェーラ」にも表れており、ウェールフープ技術を利用してペンでウェールフープを起こせるようになった。

 

――

 

あれから二年たった。

ここはイザルタ。アラナス島進出以前はスケニウに続く第二の都市であった。

数千年前、古代文明イーグティェルーアルー文明が栄えたハタ王国の中でもっとも歴史が深い地。ここではスケニウに中心が移ってからもなお人々はこの町のこれからのため頑張ってきた。そこの土地の繁栄の象徴ともいえるイザルタ・イルキス。今日、そこではほかの町から集まったシャスティ達が一堂に会していた。

「皆さん、よくぞ集まってくれた。」

一人の女性がしゃべる。

「暁は来た!あの邪知暴虐なハフリスンターリブを必ず排除するのだ!」

「そうだ!」

「すべては王国の未来の為に!」

ここではハタ王国の歴史上最大の「ハタ人によるハフリスンターリブ排除」が計画された。その名も独裁反対武装連盟。

彼女はそれらを指揮する最高司令官となった。名前をレイマング=イザルタシーナリア(Reimang=IzartaSyiinaria)、イザルタ・イルキスの持ち主であるシャスティであり、ハタ王国史上最強の”ゼースニャル・ウドゥミト”の使い手である。

この場に、ディスナルよりはるばる来たケンソディスナル氏も来ていた。

いずれにしてもこの場に集まった者達は精鋭の中の精鋭であった。

 

天気は快晴。ここにハタ王国へ反旗を掲げる者がまた犠牲となるのであった・・・

 



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#24 遠距離

私は危惧を覚えていた。ツァピウルが、最愛の妻が死んだりしないかどうか。戦死したりしないかどうか。カラムは順調に育っていっている。こちらは何も問題がない。今日もツァピウルから手紙が来た。あの日以来、お互いに手紙を通じて状況を教えあうようにしている。心配だからだ。

今日の手紙には何が書かれているだろう。

 

ガルタへ

 

今日も手紙を送ります。元気ですか?

こちらはイザルタより出発してから3日ほど経ちましたが未だ全員生存です。精鋭中の精鋭と言われているので負けてられません。イザルタ・イルキスからハフリスンターリブのいるハフルへは4日かかるらしいのであなたが手紙を読んでいるころにはすでにハフリスンターリブと対峙していると思われます。

かならず王国に光をともして帰ってきます。すべては二黄一緋旗のために。

 

ツァピウルより

 

ツァピウルは手紙を書くのにまだ慣れていないのだろうか。その時何を感じたかとか、その時の情景を書いたりとかをしない。本当に、起こったことしか書かない。もしかしたら向こうの状況があまりにもきつすぎて詩みたいなのを書く暇がないのかもしれない。

ということでこれに続く形で私も手紙を書くことにした。

 

ツァピウルへ

 

今日も手紙を送る。元気だろうか?

カラムは順調に育ってきている。もう歩けるようになった。言葉も少しずつ話すようになった。それでも私は子育てなんてしたことがないからいまだに困ることが多い。やはり女性にしか勤まらない仕事もあるのだろうか。

私がツァピウルのことで最も恐れているのはツァピウル自身の身の危険だ。死んでしまっては元も子もない。ハフリスンターリブに慈悲なんてものはない。私がいたころはそうだった。今、私とあなたが結んでいる「愛」でさえもハフリスンターリブは生きる上で障害になるとしている。しかも外の世界のものが入らないようにハタ王国を独立させた。そんな奴らに戦いを挑んでいるのだ。死なないでほしい。

 

ガルタより

 

どうしよう、死なないでとかそんなことしか書けなかった。男なのに情けない。

でも、本当のことを書いた。ツァピウルも理解してくれるであろう。そんな両親の様子も知らずにカラムはイルキス内をはしゃいである歩きまわっていた。

こんな時こそ酒にすがりたいものだ。酒は私の気分転換にもなる。しかし、ハフリスンターリブでも、ファイクレオネでも酒は許されなかった。ハタ王国では許されているがあんまり公の場で飲まれることを好まない。

そういえば酒なんて何十年ぶりだろうか。

 



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#25 決着の時

toi.2639、あれから5年たった。カラムは8歳になった。ピリフィアー暦で言うと4歳くらいなので、歩けるようになり簡単な言葉も話すようになった。成長したな。あれ以来少しずつ手紙の頻度が遅くなりながらも手紙が切れたことはなかった。それでも今日は来なかった、明日は来るだろうか、という心配が増大することも多かった。3日ほど空くこともあった。

それで今日も手紙が来たカラムがよちより歩きで手紙を見に来る。

「お母さんの手紙―!」

「待って、カラム。お父さんが開けるからね。」

今日の手紙はどうだろう。

「!!」

手紙の端が血に滲んでいた。いや、血で滲んでいるのはそんな珍しいことではないんだが、今回のはけっこうべったりとついていた。もしかして、と思って私の心臓の音が止まらない。止まっても困るけれど止まらない。

 

ガルタへ

 

元気でしょうか?今日も手紙を送ります。

困りました。ハフリスンターリブの本拠地に侵入して下から殺していったのはいいんですが、いくら殺しても上が現れません。その間に兵士も3分の2くらい失って10分の1ほどのシャスティが死にました。何人の人間がハフリスンターリブのところまで行けるんでしょうね・・・。

今日もハフリスンターリブの幹部と一対一で戦ったから血がよりべったりついています。見栄えが悪くてごめんなさい。絶対に生きて帰ってきますのでカラムを宜しくお願いします。

明日、ついにハフリスンターリブのボスであるハタ=ハフリスンターリブ(Hata=HahurisnTaarib)と相手することになります。不安もいっぱいですがこの戦いに勝てば王国に光をもたらすことができます。おそらく強敵でしょう。

生きていたら、また・・・

 

P.S.

この手紙以降は、戦闘の関係で手紙を書くのが厳しくなると思われます。なので、永久に手紙が来なかったり、帰ってこなかったりしたら、おそらくもう会えないでしょう。

 

ツァピウルより

 

今回の手紙はかなり重い内容だ。もうかなりの年月がたったが、もうそこまで進んだのか。ハフリスンターリブの奴らとずっと戦って大変であっただろう。連戦は疲れになる。シャスティ達も一旦引いたりするなりして休めばいいというのに。

それにしてもこの手紙以降は手紙が届かないのか。それ少し不安だな。次にツァピウルを見るころにはもう屍になっているのかもしれない・・・。そんな私をよそにカラムは不思議そうに泣いている私を見ていた。ああ、カラムよ。母親に続いて次はお前が戦うこととなるのかもしれないというのに。

 

そう考えて初めてここ、ディスナルにたどり着いたときに事を思い出す。もし、あのままこの町の制圧をしていたら、ツァピウルとこんな関係となってお互いに想いあうような仲にはなっていなかっただろう。そして気が付いたらxelkenのところにいたんだっけか。そういえば私はその時の記憶があまりない。いったい何をしたんだろう。なぜ気が付いたらあそこにいたのだろう。なぜあのラネーメ公営地下鉄の社長と意思疎通ができたのだろう。今思えば謎である。

ふと、私は思い出せるとこまで思い出してみた。拉致られて、身動きが取れないところを必死にもがいていたのは覚えている。それで・・・たしか自分はハフリスンターリブであるというのを理由に自分だけ逃げようとしたんだっけか・・・あれって成功したんだっけか?あのまま戦争になったのだろうか?そうなるとそこから記憶がない。そうだ、そこからだ。それで気が付いたら謎の牢屋の中でベッドで寝ていてツァピウルと謎の男が横になっていた。よし、かなり思い出せたな。そこからどうしたんだろう?

xelkenには記憶を操るような技術があるんだろうか?ふと瞑想をしているとあるものを思い出した。ウェールフープで相手の記憶を操作するというものだ。もしかしたらなんかの拍子に捕縛されて記憶を操作されて洗脳されたのかもしれない。そのままxelkenに操られた?ってことは私はxelkenと同じことはしたことになるのか?最悪だ。私は向こうでは事実上犯罪者だ。

ああ、どうしよう・・・

 

「お父さん?」

なんだろう、女の子の声が聞こえる・・・かなり小さめだ。

「お父さん?」

うるさいな・・・なぜ私をお父さんと呼ぶ・・・

 

「は!」

カラムの声だった。

どうやら寝ていたようだ。気が付いたら早朝だ。いつもならばカラムよりも早く起きるのだが、なぜかカラムのほうが先に起きている。いったいどうしたのだろう。

「誰かきてるよ?」

・・・え?客?なぜだろう。なぜこんな時間に。

そう思って身支度をしてイルキスを出て門まで向かう。そして門を開けると一人の男が立っていた。

 



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条約締結
#26 豪華な刺客


「だ・・・誰だ?」

「おや、ツァピウル=ケンソディスナル氏はどうした?」

「私の妻ならば現在遠征中だ。かわりに私が相手をしよう。」

「ふむ、そうか。まあいい、もともと貴様に用があったからな。」

「あ、なんだ。そうなのか。」

「とりあえず話を聞いてもらおうか。長くなる。」

「そうかい、ならばとりあえずウチに入んなさいな」

私は一人の男をケンスケウ・イルキスへ案内しようとする。

あれ、どうした?なぜ来ない。

「いや、長くなるとは言ったが立ち話で済ませたほうがよいということだ。」

「そうか、余計に言い回しはしなくてもいいから聞こうか。」

すると、男は顔を少ししかめていった。

「貴様はユーナリア=ハフリスンターリブだな?」

私は頭が真っ白になった。

「・・・は?」

「とぼけるな、ユーナリア。ネステルへの滞在を許してディスナルの制圧を任せたはずなのになぜここで新婚生活を送っているのだと聞いているんだ。」

「はっ、身分もわからん奴に急にそんなに質問をされても困るね。」

すると男は「何言ってんだこいつ」という顔をした。

「は?お前長らく新婚生活を送っているせいで私の顔も忘れたのか?」

「ん?誰だ貴様は。それになぜ私の旧名を知っている。」

「はあ、だから恋愛は駄目だといったんだ。貴様はちょっとハフルを離れれば自分の弟の顔も忘れるのか?」

「ああ?貴様が私の弟?名を名乗れ。」

「ハタ=ハフリスンターリブ。名前なら何回も聞いているはずだ。」

私は愕然とした。

「は、ハタ!?」

そういえば、私の記憶の片隅にあるハタと多くの部分で一致している。そうか・・・こいつは私の弟であり現ハフリスンターリブのボス、ハタ=ハフリスンターリブだ。なぜここにいる。ツァピウル達はどうした?

「はっはっは、言わなくてもわかっているよ。君の愛する妻がどうなっているか知りたいんだろう?」

「ちっ、どうすれば教えてくれるんだ。」

ハタはにやっとした顔をした。

「ふん、別に何もせんでも教えてやるわい。最近私の要塞に貴様の妻を含む女子集団が襲ってきたのはそちらも知っているな?」

「当然だ。」

「もちろん知っていると思われるがうちはファイクレオネの古理派と契約を交わしている。全員生け捕りにして古理派にぶちこむさ。ただし、上層部はおそらく消し去るであろうな。ツァピウルは当然、首をはねられただろう。」

「な・・・」

では今からすぐにウェールフープで飛んで救出せねば・・・

そう思い手に気をこめて意識を集中させる。

「無駄だよ、ユーナリア。うちの部下は作業が速いんだ。貴様とは違ってな。今頃すでに屍となっているだろうね。デュインで。」

 

私はその言葉を聞いて、真っ青になった。ツァピウルが死んだ?ありえない。あんなに強気でここを出て行ったというのに。一緒に平和な王国を眺めようといったのに、カラムの成人式に二人で参加しようと言ったのに。ツァピウルとの出会いが改装される。悔しさのあまりに声も出ないし涙も出ない。自分は彼女を助けることができなかった。一緒に死を迎えることができなかった。

「どうした?ユーナリア、まさか本気であの女を愛していたとでもいうのか?」

「黙れ!」

私は激してしまった。目の前の男が憎い。憎い。今すぐにでも殺してやりたい。

「お前に人の心はないのか!?人を信じるという概念はないのか!?お前の目的が分からない!なぜこんなことをする!?どうしそうまでしてこの国に対して破壊活動を行う!?」

ハタは私を嘲笑した。

「貴様より数年生まれるのが遅かったからだよ、ゴキブリ。」

いま、この男は私を笑ったか?私を馬鹿にしたか?私の心は完全に錯乱状態。もうなにも止める者がない。私は目の前の男に対して刃を向けた。

「はっはっは!まさか本当にあの女を愛していたとはね!まったく、馬鹿馬鹿しいよ!」

ハタは私の振りかざした剣を難なく避ける。

「うああああああああ」

もう一度剣をハタの方向に振る。するとハタは私の後ろにテレポートをした。

 

「今日、貴様のところに来たのは君の愛する妻の死を教えに来たってわけではない。」

「黙れ!!ハタ!」

後ろをウェールフープで爆破する。ハタはそれを上にジャンプして避けて私の頭の上に着地する。

「ぐはっ・・・」

「今日は貴様を強制連行しに来たんだ。ハフリスンターリブの裏切り者としてね。」

私は頭を振ってハタを振り落したのちに数百のナイフを出現させてハタを狙った。

ハタは再びテレポートをして向こうの木の上に出現した。すると指を鳴らして合図をした。

「さあ、ユーナリアを捕えよ!」

すると草陰から無数のハフリスンターリブの軍が出てきた。

「抵抗してもいいけれど朝起きたばかりの貴様にこいつらをすべて一掃できるかな?」

 

四方八方から兵士たちが襲いかかってきた。どうしよう、まずはカラムをウェールフープでネステルに強制送還してからある程度相手して離れるか・・・。

いずれにせよ私とカラムはここにはいられない。

まずはキスの中に入ってカラムにネステルに送ることを伝えよう。

そう考えて悔しさを踏ん張って塀を越えてイルキスに駆けつける。

「ふふ、逃げたか・・・?貴様ならもう少しうまい方向に逃げると思ったんだがな。」

境内を歩いていると地面の下で待ち伏せしていた兵士もいた。そこで地面から少し浮かせてなんとかイルキス内に逃げ込む。

「ほう?建物に逃げるとは。」

そしてカラムに話す。

「いいか?今から前にも行っていた偉い女の人の近くまで行く。ネステルというところなんだ。ちょっと私たちは今命を狙われているから、まずカラムから先に送る!」

「え?お父さん?うん、分かった。でも時間かかるよ?」

「私があの魔法を使えるということを忘れたか?」

「あ、そうか。便利だね。」

「そうだな、じゃあ送るぞ・・・」

するとイルキスの正面入り口をたたく音が聞こえた。まずい、突破されてしまう。

急いで意識を集中させてなんとかカラムを転送する。するともう後ろにはハフリスンターリブの兵が入ってくる様子が見受けられた。

「くそ・・・」

ウェールフープを発動させて相手をなぎ倒す。

どうする、このままでは袋のネズミだ。後ろの森林にも兵士が数人いて待ち伏せをされている可能性がある。そうだ、どうせケートニアーなんだ。真上から出て空中戦を展開しよう。

そして上を見て、足に気をためてジャンプをする。

イルキスの上空に出た。下を見てみるとやはり裏の森林にも兵が待ち伏せをしていた。全員巧みな狙撃で殺しておく。とりあえず周りで待ち伏せをしていた奴らは全員倒れた。ネートニアーだったようだ。そして門の方向を見る。何人かの兵士が入ってきた。完全に狙われていたようだ。全員ウェールフープ波を放って対処する。

このくらいにしようか・・・そう考えて自らの転送を試みる。すると誰かに殴られる。

「カハ・・・!」

「逃がさないさ。裏切り者。」

ハタだったようだ。地面に落ちる。これはしつこいぞ。

私は地面に頭から落ちたがケートニアーなので死にはしない。そうかんがえて上から追撃をしてくるハタを見かねてウェールフープを発動しようとする。

「させるか」

ハタが瞬間移動をしてきた。ウェールフープができなくなる。

 

「引っかかったな。いくら強くてもやはり思考は幼稚なままのようだ。」

「なんだと?」

今ハタが地面に落としたものは私のウェールフープで作った分身である。

「くそ、どこにいる!」

ハタはあたりを見回すが気配はしない。

「お前ら!くまなく探せ!」

ハタも完全に見失った。まいたみたいだ。よし、ネステルへ行こう。カラムが待っている。

 



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#27 アルパ再び

ネステルのある道路裏の森林に出た。するとすぐそばでカラムも突っ立っていた。よかった、無事に合流で来た。すぐにカラムに立ち寄る。

「大丈夫だったか?怪我とかはないか?誰にもあっていないか?」

「なにもなかったよ。」

ふーっと安心する。よかった。

 

さて、ハフリスンターリブに完全に指名手配された。私はお尋ね者だ。おそらくカラムもだろう。反逆者の直系の娘なのだから。さすがにここでは過ごしづらいかもしれない。なので本当ならばすぐにファイクレオネに逃げ込みたいところだが愛する妻を殺した連中をただ見放すわけにはいかない。スカルムレイに耳打ちしておかないと。

 

そう思って今日はネステル・アルパに来た。以前もあった門番の男に話しかけられる。

「ん?お前はどこかで見たような。」

「ケンソディスナルの夫だ。」

「え?あー、数年前に来たケンソディスナル氏の夫であったか。名を名乗れよ。」

「ガルタ=ケンソディスナルだ。スカルムレイ陛下と話がしたい。」

「おう?まあいいが、何を言う気だ?」

「それは、後で本人から直接聞くんだな。」

そして通してもらった。以前も見たことのある案内係の男がまた現れる。

「おい、お前。ケンソディスナルの夫なんだってな?なぜここに来た?」

「ハフリスンターリブのことだ。スカルムレイにぜひやってもらいたいことがある。」

私はついに気づいた。スカルムレイが言っていた「重要なもの」。それはハフリスンターリブ、およびxelkenが恐れる権威だ。たとえば王国のある人間を陥れようと思った時に一番有効なのはスカルムレイや公共機関、警察、その人の親などに告げるというのが一般的だ。それと同じで、xelkenとハフリスンターリブにもなにか所属する権威があるはず。それを見つける必要があると言っていたのだ。それなのに私もツァピウルもまったく気付かずに計画を実行してしまった。なんと私たちは馬鹿なんだろう。このことに気付くだけでツァピウルを死なさずに済んだ。という後悔がこみ上げてくる。

やがて一室に着いた。

「私は急を要しているんだ。女性であればこの娘を入れるから私もその中に入れてほしい。」

「うーむ・・・まあいいか、ケンソディスナルの夫ならば。」

「恩に着るぞ。」

私は一室に入り、再びスカルムレイと話すことになった。

 

「あらあら、あなたはあの時の若旦那ではありませんか。ケンソディスナル卿はどうなされましたの?」

「実は・・・」

スカルムレイにすべてを自白した。この方はまるで私自身の母親のように信用できる。今ではよい相談相手になってしまった。

「なんと・・・」

またスカルムレイは驚くがすぐに元に戻る。

「それは・・・大変だったわね。」

「そこでです。貴女は仰っておりました。『重要なもの』が一つ欠けていると。」

「そうです。欠けているのです。」

「我々はそれに全く気付かずに・・・こんなことを・・・」

「いえいえ、あなたが罪を背負う必要はないのです。私もあなたたちに任せずにその時にすぐに言えばよかったのかもしれません。」

「とにかく、今はそれが分かりました。」

「そうですか?では、言ってみてください。」

「奴らの権威となるものです。」

「ふふふ・・・さすが、男の人は頭が切れますね。あなたのような人でしたら、それが誰なのかすぐに分かると思ったのです。」

「ええ、ハフリスンターリブ、およびxelkenの権威となるものはファイクレオネの諸国です。すなわち、貴女が直接それらに勧告してくだされば、解決はかなり近づくものだと思っております。」

「ふふふ、さすがですわ。では、明日にでもそちらの方へ赴かねばなりませんね。」

「日程なのですが、どうなされましょう?」

スカルムレイは少し考えて後ろにいた役人らしき男に話しかけた。

「では、明日にでも。」

まじかよ。何も計画していないぞ。

「心配ありませんわ。あなた、強いんでしょう?」

「え、まあ・・・」

そんな感じで今晩は特別にアルパで泊めてもらって明日スカルムレイと共に例の世界に行くことになった。

 



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#28 下の世界

翌朝になった。全員準備を済ませてアルパ内のあるホールに集まる。

前にはスカルムレイ、大臣らしき女性が二人、そしてなぜか私が座っていた。

朝礼台のようなものに立った男が話す。

「諸君、よく集まったな!今から、ハフリスンターリブを除去するための第一歩を踏む!」

すると、その声を聞いたアルパの人間が騒ぎ始める。

「まさか、戦うのか?武力を持って?」

「そんなので勝てるはずがない・・・」

また男が話す。

「違う、武力を持って奴らを排除するのではない。しかし、武力も少なくとも必要にはなるであろうがいきなり戦うのではない。」

すると一同がぎょっとする。

「王国民よ、すべての解決のカギはリパラオネ連邦にある!今からこのホールにいる人間全員で”彼”の移動魔法と言語能力を生かしてそこに向かう!ハフリスンターリブの先祖がいたとされるところだ!」

「は?それじゃあ今度こそ我ら王国民は殺されるんじゃないのか!」

「違う、すべてのリパラオネ人があんな考えを持っているわけではない。そのこともすべて彼が証明してくれる。」

すると、私のところに話が振られた。私は戸惑いながらも話す。

「ハタ王国の人たちよ。私はリパラオネから王国に来てもう何十年もたつが、こんなに素晴らしき国は初めて見た!このことはリパラオネ連邦の人間の共通の考えであろう!」

「で、そこに行って何をするんだ?」

「やることなど決まっている。相互不可侵の条約を結び、連邦の力を借りるのだ!」

そして私は合図を受ける。このホールの中の人間を全員リパラオネに送る。そのため、手にウェールフーポを溜め、意識を集中させる。リパラオネ連邦本土には久しぶりに行く。そして目を見開いて叫ぶ。

「iska lut xelkener!」

 

――

 

ここはリパラオネ連邦、ラメスト。ラネーメ国の重要都市のひとつであり、ラネーメ地下鉄ラメスト駅などが存在する都市。ここのとあるビルの屋上で私たちは現れた。

まわりの閃光が晴れて景色を望むことができる。

「な・・・ここはどこだ!?」

王国から来た大臣が戸惑う。当然である。突然言葉では説明できない現象が目の前で起きて平常心出られるはずがない。私にとってはこんなこと日常茶飯事なのだが。

「ケンソディスナル氏、私たちがここからどうすればよいのでしょう?」

私の横でともにウェールフープをしたスカルムレイが訊ねてくる。

「ここは多分ラメスト市と思われますが・・・あたりに人は見当たりませんし廃墟のようにも見えます。」

とても形容しがたい風景が広がっていた。人影はせず、ビルには蔓が伸びていた。錆びているビルもある。しかもまるで日陰のように薄暗い

「これは・・・出てくるとこが悪かったかもしれません。」

「どうも薄暗いのですが・・・上に何か見えますか?」

「屋根でもあるのかもしれませんが・・・あ、確かに何かあります。しかしあまりにも暗くてよく見えません。」

「うわあああああああ」

どこかで大臣が叫ぶ声が聞こえた。スカルムレイと私が何が起きたのかを確かめる。

「な、よくわからねえけれど熊のような怪物が現れた!」

確かに熊のような生物がいたが目が赤くこちらを睨みつけているような目をしている。

私がすぐに駆けつけてウェールフープで抹殺する。相手は倒れた。ラーデミンなどではなかったようだ。

「おかしい。何かがおかしい!ファイクレオネは数年でここまで壊滅的な状態になるような場所じゃない!」

やがて私は上の存在に気付く。

「いや、もしかして・・・」

スカルムレイが私に目を向ける。

「どうしたんですの?」

 

「いえ、もしかしてなんですが、あいつら上に逃げたんじゃないかって」

 



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#29 モンスターと空中要塞

「え?空に人が住んでいるんですか?」

スカルムレイが問う。

「ウェールフープは・・・かなり応用がきくんです。ここがこんな状況だからそれから避けるために上に逃げたということも考えられます。」

とはいえ可能性が低い。しかしここにきて早々こんなトラブルに巻き込まれるとは思わなかった。

「どちらにせよ、上に行って確かめてみるしかないのでは?」

私はしばし考えた。

「・・・そうですね。しかし、私がいない間、何かないかどうか気がかりです。あるいは別の人に行かせますか?」

「この中であそこの人たちに会って対応ができそうな人はあなたくらいしかいません。」

と、スカルムレイに言われる。

「む、そうですね。では、先に失礼いたします。」

「安心してください。我々、スカルムレイ軍は精鋭中の精鋭。あのモンスターなんて一瞬で翻弄できます。」

 

そして空中へと飛んだ。まだあの浮遊物体には到達できない。そう思いつつ下を見てみる。だんだん周りの状況が分かってきた。どうやら陰になっているのはこのあたりだけのようで少し遠くを見通せばすぐに日光がさしていた。

そしてどんどん小さくなるスカルムレイとそのほかの人たち。今頃王国はどうなっているだろうか。ハフリスンターリブが何かしていないだろうか。

今思ってみても自分の実の弟がハフリスンターリブの総長だなんて考えられない。なぜあいつは私と違う方向に進んだのだろう。

 

私は四人兄弟で生まれたらしい。私が長男で、その下に二人、その下にはハタがいた。独裁家ハフリスンターリブの子として生まれたのでハフリスンターリブの思想や、反王国的な思考もすべて叩き込まれた。やがて、四人は無事に成長し、中学生ほどの年齢にもなったころに、ウェールフープの力を試すために、兄弟全員が戦場に駆り出されて跡継ぎの為に訓練をした。私もその頃はこのことに抵抗を持っていなかった。おそらく、下の弟たちも、ハタも。

いつから私とハタはここまで思想が分かれたのだろう。残りの弟二人はどこに行ったんだろう。なんせ何十年も前のことだから覚えていない。もう100年以上も生きているとそうなるか・・・。

「!?」

自分の頭が何かにぶつかり、埋もれる。一時呼吸ができなくなるがやがて顔を出す。そして当たったものを確認する。

それは下の方で見ていた例の浮遊物体そのものであった。

「本当に空中に雲以外のものが浮いているとはな・・・」

そう考えて私は外側に回って入り口を探そうと考えたがそれよりもここに穴をあけたほうがよさそうだ。何かあれば私の名前を使えばいい。そう思いながらウェールフープを使って細長い穴をあける。すると、ある建物の中に出た。

 

ちゃんと顔を出して周りを見渡してみる。何かの建物のようだが、まさか本当に空中に文明があるとは思わなかった。しかも文字が作られており、リパーシェが使われている。そうか、あそこのリパラオネ人やラネーメ人はここに移住したのか。下の世界があんなことになってしまったから。とはいえこの周りを捜索してスカルムレイ達の居場所を確保しないと。

すると向こうから一人の男が現れた。

見た感じはリパラオネ人、身長は高い。よく見ると胸にFFと書かれている。・・・警察か何かかな?

“おや、君は?”

なんと、リパライン語にも聞こえるが若干新しい。どうやら私が王国にいた間に三代目に移行していたようだ。

“私はFAFS.lavnutlartなり。下の世界から逃げ込んできた。あと、連れが数百人いる。彼ら・・・いや彼女らの安全も確保してほしい。”

“な、FAFS氏!?それは失礼。なぜ下から現れたんだ?”

“いろいろと事情があってな。とりあえず今は助けを求めている。”

“わかった、早急に対応しよう。おっと、申し遅れた。私はレシェール・ラヴュール(Lexerl.lavyrl)という。特別警察の外交部に所属しているよ。”

とりあえず何とかしてくれるようだ。私は下にいるスカルムレイ達を上にウェールフープで持っていくことにした。

 

 



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#30 中央フェーユ

「iska lut xelkener!」

スカルムレイ達をここに持っていく。

“ん、君はケートニアーなのか?”

ラヴュールが質問をする。

“そりゃ、そうしないとここに来れないだろう。”

“ああ、そうか”

 

するとスカルムレイのみがここに現れた。

「おや?」

“わ、誰だ?”

ラヴュールが驚く。スカルムレイも突然聞く謎の言葉に驚く。

「あ、どなたでしょう?」

“え?え?”

「ほかの人たちもこちらに呼びます。」

「いいえ、その必要はありませんわ・・・」

「え?だって・・・」

「彼らは・・・十分王国民としての役目を果たしてくれました・・・」

「まさか・・・」

そんなまさか。そうまでしてこの方を守ってくれたのか。

“あの、もしもし?

“おっと、失礼。彼女はつい先ほど仲間の死を見たんだ。”

“そうか・・・誰だか知らないが、大変だったな。お嬢ちゃん”

お嬢ちゃん?まあ見た目二十歳くらいだもんな。

 

“そうだ、リパラオネ連邦の外交担当者と話がしたいんだ。”

“ん?リパラオネ?”

しばしラヴュールは考えた。するとはっとした。

“ああ、今はユエスレオネ連邦というんだ。この要塞の名前をユエスレオネというからな。”

“ああ、そんなこともあったのか。”

“ん?そんなこともあった?”

“いや、なんでもない。とりあえず外交担当者を。”

“んん・・・とりあえず連邦の総務省に話をつけるか・・・”

そういうことでとりあえず連邦の偉い人と話すことになった。おそらく私がスカルムレイと偉い人の通訳をするのだろう。

とにかく、中央フェーユに来た。ラヴュールは警備の仕事があるようなので中央フェーユで解散した。

 

“私はFAFS.lavnutlartだ。ハタ王国の国王、スカルムレイ陛下から連邦に対して要求がある。”

窓口にいた受付の女性が対応する。

“えーと、彼女は同伴者ですか?”

“彼女こそがスカルムレイだ。”「陛下、簡単に自己紹介を」

スカルムレイが急に呼ばれてハッとする。

「あ、ハタ王国の国王、スカルムレイです。」

“な、女王が直々にお出向きとは。彼女はリパライン語を話せないようですが通訳はあなたがするのですか?”

“そうするしかないだろう。ところで総務部長と話がしたいんだが。”

“えーっと、Ales氏なら今外出中です。ここに帰ってくるのは明日以降と思われます。”

“んー、そうか。わかった。これが私への連絡先だから帰ってきたらここに連絡をしてほしい。”

“かしこまりました。”

とりあえず一段落する。すると女性の方から話しかけてきた。

“古理派とかの情報で噂されていましたけれど、ハタ王国っていう専制政治国家って本当にあったんですね。私はハタ人にはあったことはないんですけれど。”

“んー、やはり連邦にはハタ王国の存在は知られていないのか。私は故郷は王国だが育ったのはファイクレオネなんだ。だから、ずっとハタ王国とこの世界を行き来してきた。”

“あら、ずいぶんと複雑な家庭ですね。”

“ちょっと事情があってな。私たちはここで失礼するよ。”

 

そういうことでビルを抜け出した。

中央フェーユにはビルがたくさん立ち並んでいる。これが空中要塞の政治経済の中心と言ったところか。大企業のビルが立ち並んでいたり、大規模なショッピングモールが立っていたり。スカルムレイは少々驚いていたようだ。

「どうです?始めて見る大都会は。」

「すごいですわね。王国もいつか、こんな大都市になればいいですわ。近代化の規範としたい国ですわね。」

ハタ王国の建物は当然のように高さが低い。ネステルはある程度高いものがあるがさすがにフェーユにあるような高層ビルほどは高くない。私は久々にここで大都市というものを見た。最後にこのような景色を見たのはいつだろう。結構長い間ネステルにいた。

すると、向こうで爆発音がした。

“なんだ!?”

「きゃっ」

爆音は南の方角。ユエスレオネ中央大学がある方向である。

「うーん、もしかして・・・」

スカルムレイを連れて現場に急行する。するとユエスレオネ中央大学のうち一つの建物が爆破四散した様子が見受けられた。するとがれきのなかから一人の女性が出てきた。

“あーもー、これ治すの面倒なのにー”

 

それをみたスカルムレイは驚いた顔をした。

「この国では・・・よくこんなことが起きるのですね。こわいですわ」

「まあ、そうですね。ウェールフープの研究はリパラオネ連邦のころから盛んでしたし。まあ、あのころはxelkenがほとんどやっていましたけれど。」

 

そのあとは中心のフェーユデパートへ行きスカルムレイにいろいろ見せて回ることにした。

「私もフェーユという街自体は初めて歩くんですよね。だから地図を持っていないと迷子になります。」

書店、服屋、などいろいろ見てきた。スカルムレイもやはり女子なので服などには興味があるようだ。

「私は小さいころからこのスカルムレイ・スカルタンばかり来ていましたからね。こういう服を見るのは初めてです。」

 

ゲームセンターもあったが、スカルムレイが中がうるさいというのではいるはやめておいた。

「ハタ王国でこんなもの置いてたらお祈りができないでしょうね」

 

――

 

暗くなってきた。女王様に野宿をさせるのは非常に酷なのでホテルを探した。ある大通り沿いにあったので泊ることにした。こういう宿を探して止まるのも久々だ。タースマングを思い出す。そういえば彼女元気にしているだろうか。

さすがに私みたいな民衆が女王様と同じ部屋というのはまずいので二部屋とろうとした。

「この私を部屋に一人で置く気ですか!?」

と、なんか駄々をこねてきたので仕方なく一つだけ取ることにした。やれやれ、護衛のものよ、別に意味で生きていてほしかった。

部屋にチェックインする。本当に申し訳ないな。女王様をこんなところに泊めておいて。

ふたりで入室して鍵を閉める。

スカルムレイと共に窓を除くと星が見えた。

 



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#31 フェーユの夜

こんな宙に浮いた巨大要塞でも星がしっかり見えるんだな。宇宙って素晴らしい。

「きれいですね、ケンソディスナル氏。」

「陛下、夜更かしはいけませんよ。お体をきれいにして早く寝ましょう。」

「あーそうですわね。」

スカルムレイはアルパから持ってきたと思われる寝巻を出した。そしてタオルらしき布を持って風呂場に入っていった。やれやれ。

私はとりあえず、先に寝て夜中に入ることにした。

 

私は目が覚めた。外はまだ暗く、ビルの明かりが一部ついているような感じだった。こんな時間に遊んでいる人間がいるとは驚きだ。目線を下に落としてみるとスカルムレイが真横で寝ていた。ああ、我らが女王が私のすぐ横で眠りについている。王国のパンシャスティ達に知られたら確実に殺されるな・・・。

そしてベッドから出る。窓のところまで行く。もちろん、警備のためだ。私たちはハフリスンターリブに指名手配されている。いつxelkenやウェールフープを使って私たち二人を襲ってくるかどうかわからない。朝気づいたら囲まれている可能性もある。ケンスケウ・イルキスでもそういうことがあったかな。銃弾を素手でキャッチしたあの夜か。もう、あそこで彼女と共に過ごすこともないんだな。そう考えると涙が出てくる。その涙は部屋に敷いてあったマットを濡らしていく。

 

久々にみる、大都会の夜の風景。まだファイクレオネからの移住が完了していないとはいえ、やはりここはいつでも近代的だった。しかし、最近の私の感覚では古風な家も悪くないなと感じていた。アルパとか、イルキスとか。ネステルに住み始める前はそうでもなかったか。

 

刹那、こちらに銃弾が飛んでくる。その銃弾は窓ガラスに激突すると下へ落ちた。

「な・・・!」

すると誰かがターザンの要領でこちらに向かっているのが見受けられた。まずい、スカルムレイが寝ているというのに・・・!

“ハハハハハ―wwwwww”

奇妙な叫び声も聞こえた。しかし、どこかで聞いたことのあるような声。だんだん近づいてくる、見た目はラネーメ人・・・まさか!

“リファーリン!”

“リファンだっつってんだろうがぁ!?”

名前間違えたせいでキレられらた。何故ラネーメ公営地下鉄の社長がここへ?

“り、リファン!なぜここに来た!?なぜ場所が分かった!?”

リファンが窓枠にうまいこと着地する。そして私の質問に問いかける。

“はっはっは、今回は君の命を狙ったりはしないよ。”

“な・・・”

“ただ、忠告をしたかったのさ。”

リファンがこちらに飛び移るときに伸ばしていたロープを収納する。

“な、なんだ?”

“君とそこのお嬢ちゃんが止まっているそこの部屋。実はちょうど一週間ほど前に我々ラネーメ公営地下鉄の社員が止まったばかりでね。部屋のどこかにウチの列車と時限爆弾が置かれているんだ。”

私は唖然とした。なぜこんなホテルの一室に爆弾を。

“は?・・・すぐに解除してくれ!”

“いや誠に残念だ。その時限爆弾だが私もどこに置いたかわからなくなってしまってな。悪い悪い”

“悪い悪いで済む問題か!?どうしてくれるんだ!”

“いや、本当にそれについてはどうしようも・・・その部屋を早急に離れてもらうか急いでチェックアウトするか・・・”

なるほど、こんな時になぜこの部屋が空いているのか不思議だなと思っていたんだがそういうことだったのか。そのたびに毎回こいつが忠告していたのか?

“はっはっは、冗談だよ。ラネーメ公営地下鉄は非常に慈悲深い。代わりの宿くらいうちが用意しておくさ。それっ”

ピッ

「え、」

謎の社長がリモコンのスイッチを押した瞬間、私たちは謎の閃光に包まれた。

 

「んー?」

“よし、テレポートできたな。今夜君たちはここで寝てもらおう。朝9時になったら強制的に追い出すよ。”

“なんて無慈悲な”

部屋は見た感じ、普通の部屋だ。だが窓らしきものが全くない。地下にあるのだろうか。

ふと荷物が心配になりあたりを見回すがちゃんとあった。スカルムレイもベッドごとこちらにテレポートしてきたようなので依然寝たままだ。

“じゃ、お二人さん。よい夜を。”

“おい、ちょっと待て”

謎の社長の足が止まる。

“なんだい?”

“お前の目的はなんだ?”

“・・・目的?”

社長はぼーっとした顔でこちらを見ていた。

“ラネーメ公営地下鉄は・・・聞けば軍隊も、核兵器も数台だがNZWPも持っていると聞いた。”

“ほう、なぜそれを知っているんだ?”

“風の噂だよ・・・!”

私は続けた。

“普通の鉄道会社が運営していくには鉄道と線路と人材さえいれば後は何とかなるはずだ。なのになぜ兵器を持っている?自らの会社の危機であれば連邦に要請すれば何とかしてくれるはずだ。”

社長は少々うつむいた。まずいか?殺されるか?

するとはっと顔を上げて目を見開いた。

“私は・・・今あるユエスレオネ連邦を…そのほかの行政機関を信じていないのさ。”

“・・・は?”

 



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#32 アレス・ラネーメ・リファン

社長節は続く。

“君は思ったことがないのかい?今君の目の前にいる権力者が突然自らを敵とみなして襲いかかってきたら・・・!”

何を言っているんだろう。そうならないために権力者に従ってその権力者のもとに生きるのが利口なんじゃないんだろうか。

“ウチの会社は・・・それに備えるために兵器を蓄えているのさ。”

“馬鹿な、勝てるわけがない!それに連邦が・・・祖国が私を裏切るって何千年先の話をしているんだ?”

“私はつくづく不安に感じていることがあるんだ。”

一瞬辺りが静まった。社長の顔はだんだんひきつってきた。いつも愉快な顔をしているが今回ばかりは真面目だった。

“私のフルネームはアレス・ラネーメ・リファン。見た目は普通なんだが・・・二つ目の名前を注目してほしいんだ。”

“・・・ラネーメ?”

社長は深くうなずいた。

“そうだ。”

“それがどうしたんだ?”

“我々、ラネーメ族はかつてラネーメ国を作り国王として君臨していた。私と・・・あとはユエスレオネ中央大学のリパコール氏とかかな?私たちにこの名前がつく以上、私はラネーメ人を至上とするラネーメ民族党に加担しなければいけないんだ。だがな・・・”

“だが?”

“自分の生まれた民族の為に自分の考えを矯正される必要があるのかって話だよ。”

リファンのこのときの顔は普段の様子からは全く想像できないものであった。ものすごく真剣な顔。半分男らしいと思えば、半分気持ち悪い。

“そこで私は考えた。自分の考えは捨てない。私には私なりの持論がある。それに反論して攻撃してきたらウチの兵器で撃ち落とすまで。”

“な・・・”

“理由はそれだけじゃないさ。誰だって・・・あらゆる人類の支配者になりたいという欲望がある・・・!”

“・・・まさか!”

“連邦がワクチンを作って・・・動物がみなモンスターになって・・・そこまではいいんだ。だが、天空に地面を作って生活を初めてどうするんだ?人類は土の上で繁栄してきた。ケートニアーもネートニアーも、リパラオネ人もラネーメ人も、みなここで生まれた。目の前の人間は殴り殺せても大地を殴ったところで自分の拳が傷つくだけだ。みんな忘れちまったのさ。大地というものの有難さを・・・!”

“ならばどうした?地上にいたままあのモンスターたちに殺されればいいというのか?”

“そこが、連邦の頭の抜けているところだよ。今までフィア戦争とか、ネルト大虐殺で散々人を殺してきたというのになぜ下の世界のモンスターたちは殺さないのか・・・!そういう時にウェールフープを使えばいいというのに。”

私は黙って聞いていた。

“まず、ワクチンを作ろうとすること自体が私にとってはどうもね。”

“むむ・・・”

“だから、連邦はとりあえず今は力を失い始めている。この世界全体の景気だってかなり悪いぞ?”

“ああ、そうだな。”

“だが、ラネーメ公営地下鉄はどうだ?連邦とか、他の企業に依存しないような経営をしているから、ここに移っても黒字のまま。電気が動力だからウェールフープミスによる爆破も全くない。”

社長の表情にだんだんゆるみが見えた。

“兵器も蓄えているからxelken.valtoalの馬鹿にテロを仕掛けられても全く陥落しないのさ・・・!”

社長の生き方にはハタ王国の人々に通じたものもあった。なるべくほかのものに依存しない。ツァピウルもハタらと戦うときに私の助けを求めなかった。王国民はプライドが高いが、この社長も似たようなものだと直感した。

“これが・・・ラネーメ公営地下鉄のやりかただ。わかったかな?若旦那。”

“なるほど、よくわかったよ。”

“はっはっは、普段こんなこと社外には話さないんだがね。もう何回も君とは遭遇するからつい話してしまったよ。”

“そうか・・・”

 

“あんた・・・ハタ王国に興味はないか?”

“王国?”

“私は小さいころ、あの国とファイクレオネを行き来したんだ。ハタ王国は庭みたいなものだよ。”

“そうだったのか・・・。で、私にその国への興味を訊いて何をする気だ?”

“王国の開拓をしてほしいんだよ。”

社長はしばし考えた。

“開拓?ハタ王国は古風な国だと聞いたが、近代化をするつもりなのか?”

私はスカルムレイに目をやる。

“そこに少女が寝ているだろう?彼女はハタ王国を千年以上前から統べてきた女王の血を引いているんだ。しかも現女王だ。”

社長が驚く。

“そんな少女が言ったことなんだ。相手してやってくれ。”

“女の子の頼みごとなら仕方がないね。”

“助かるよ。”

交渉成立。これでラネーメ公営地下鉄も仲間だ。やっと話が落ち着いてきた。

 

“はー・・・連邦ではありえないよ。こんないたいけな少女が”

“そうか?”

“それと・・・君はxelkenをやめたのかい?”

“え?”

 



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#33 友情

朝になった。あんまりのんびりしていると社長に強制的に追い出されるらしいので早めに準備する。どうせろくな追い出し方じゃない。

結局昨日はあの後すぐに寝たんだけれど結構早く起きてしまった。これ絶対昼寝するな。スカルムレイはあれからずっと寝ていたようだ。そういうことで今起こそうとしている。

「陛下、お時間ですよ。起きてください。」

「んん、んー・・・」

「起きてください。朝になりましたよ。」

「んー、朝―?」

「今日こそは大臣に会いに行きますよ?早く準備をしてくださらないと」

「あー・・・そうだったわねー・・・仕方ないなー・・・」

スカルムレイがやっと起きた。部屋には私とスカルムレイ以外誰もいない。どうやって奴を呼べばいいんだろ。すると、ふいにドアが開いた。

“起きたかい?”

“ああ、おはよう。”

社長が来たようだ。今朝の社長は昨晩のあの姿からは想像できないほど陽気だ。

“昨晩言った通り、あと20秒で追い出すぞ。”

え、もう?

“ちょ、今何時!?陛下がまだ支度をされているんだが・・・”

“もう8時59分だぞ?ウチの社員は全員7時に会社に来るんだよ。”

“は?早すぎだろ。ていうか追い出すってどうやって?”

“物理。”

 

15

スカルムレイに喚起しなければ。

「陛下!早くお着替えください!ああ・・・スカルタンがちょっと傷んでいますね・・・」

「んー、ケンソディスナルー?なんでそんなに急いでいるのー?」

 

14

「ですから、早くしないと、物理的に追い出されるようなんです!ここはラネーメ公営地下鉄のおそらく地下!如何にして追い出されるかまったく見当もつきません!」

「えええ!?」

“おい、誰かウチを比喩したか?”

 

13

「えええ?ていうかここどこ?私たちってあの部屋で寝ていたんじゃないの?」

「事情は後で説明しますから、今は早くご支度を!」

 

12

「あれ?髪飾りはどこやった?」

「え?え?荷物の中を見てはどうですか?って、社長また消えたぞ!」

 

11

「んー、荷物ってどこだー?もしかしてホテルに置いたまま?」

「え、そんなはずは・・・あ、ありました!」

 

10

「おお、流石ですわね。って、ふわわわわ!?」

「え?」

 

9

「いったー、なにかしらこれ」

「んんんん?」

 

8

なんだろうこれ、なんか配線がある。電線だろうか?いったいどうやって追い出されるんだ?

あ、社長が現れた。

 

7

「あと7秒だぞ。」

社長がカウントダウンを始めた。

「へ、陛下、荷物をお持ちになってください!」

「え、あ、うん」

 

6

「えーっと、あとは・・・あー!!陛下!髪を整えに!」

「え、えー!?」

 

5

“あと5秒だ。”

「と、とりあえず、この櫛で何とかしてください!」

「あ、うん」

 

4

「な、直らないわよ寝癖!」

「んー、やっぱり女性の髪形を数秒で治すには無理があるかー・・・」

 

3

「と、とりあえず髪全部まとめておきましょう」

「あ、うん、お願い、やって頂戴」

「え、私がですか!?」

 

2

うーん、ツァピウルの時どうしたんだっけ?確かこれをこうして・・・

「いててててて」

「ああああすいません!」

「いえいえいいの」

 

1

「よ、よ、よし!なんとかなった!これなら女王様として大丈夫でしょう!」

“おい、スイッチ入れるぞ”

“あああああちょっと待て”

 

 

ピッ

「え、」

途端に床が開いた。私とスカルムレイと荷物は下に落下した。するとラネーメ公営地下鉄の列車が待ち構えており天窓が開いていた。

“はっはっは!ラネーメ公営地下鉄をご利用いただき、ありがとうございます。次はフェーユ・シュユだ!あばよ!”

“は・・・?”

“ウチに泊ったご褒美はわが社の始発へ特別乗車だ!”

“え?これ始発!?遅すぎだろ!9時だぞ?”

“常識にとらわれてはいけないのさ。では、進行!”

“うわっ”

「きゃっ」

 

すると鉄道は走り始めた。だんだん社長の顔が見えなくなる。とりあえず私とスカルムレイは座席に座ることにした。

「うーん、状況が全く掴めませんわ」

「私もですよ、陛下。あの社長・・・行動が読めない。また来るかもしれません。そんなことより、早く大臣と両国の相互不可侵条約を結びましょう」

 

“おーっと君たちー!”

“な、社長!?”

社長が時速100kmくらいで走る列車に走って追いついてきた。そして、ジャンプをして窓に張り付いて窓を開けた。

“な、列車に追いつくなよ。”

“忘れ物だぞ。”

“あ、え?”

“ほら、私の連絡先だ。”

“え、”

社長は電話番号が書かれた連絡先を我々に渡してきた。どういうつもりなのだろう。

“忘れたとは言わせねえさ。昨夜の誓いをな・・・!”

スカルムレイはただ座ってみていた。私には初め言葉の意味が理解できなかったがすぐに笑顔を見せた。

“・・・ああ。よろしくな。社長。”

“はは、リファンでいいさ。”

“そうか、リファン。”

 

“もし連邦が相手にしなくても、わがラネーメ公営地下鉄が、友の為に共に戦おう。ラヴヌトラート。”

 

するとリファンは後ろを振り向いて列車から飛び降りて超高速で向こうへ戻っていった。5秒もすれば姿が見えなくなっていった。

 



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#34 シュカージュー

地下鉄は進んでいき、中央フェーユで止まった。

「Fery, fery. Fqa es fery.」

「フェーユにつきました。では陛下、再び交渉に行きましょう。」

「そうね」

 

昨日と同じようにあのビルのところまで行く。すると昨日と同じ女性が窓口に立っていた。

“どうも、おはようございます。”

“ああ、おはよう。日を改めて再び来た、ハタ王国の者だ。総務省大臣アレス氏と会わせてほしい”

“かしこまりました。ご案内いたします”

女性は横から窓口を出てエレベーターの前に立ちボタンを押した。我々もそれについていく。

“ところで、昨晩はどう過ごされましたか?”

“フェーユのホテルの部屋が空いていたからそこに泊った。”

“ビジネスマンみたいですね。”

すると腹の虫が盛大に鳴る。スカルムレイからだ。

「あ・・・」

“お腹が空いているようですね。面談中、食事も用意しますから。”

するとやっとエレベーターが来た。三人は乗る。女性は21階のボタンを押した。

そういえば、昨日からおそらく何も食べていない。そりゃおなかがすくわけだ。私もさすがに体が持たなくなってきた。

チンッ

エレベーターが止まる。するとドアが開いた。女性は歩き出した。

私たちは廊下を歩いた。

あるところで曲がるとある男性が突っ立っていた。

“き、君は・・・”

“あ、”

なんとレシェール・ラヴュールだった。いったいどうしたのだろう。何故ここにいるのだろう。

“なぜここにいるんだ?”

“君だって用があってここに来たのだろう?それが終わったら教えるさ。”

どうやらなにかしでかしたようだ。その事情はラヴュールの表情からうかがえる。なにかミスでも犯したのかな?

するとある部屋の前に着いた。

“どうぞ、こちらです。”

女性はドアを開けて入室を促した。

“どうも、はじめまして。アレス氏。”

すると椅子に座っていた男性がこちらを向いた。

“はっはっは、はじめまして。FAFS.lavnutlart氏。私はAles.xkardzyr、ユエスレオネ連邦総務省の大臣だよ。よろしく。”

“私の自己紹介はいらなかったか。名前をご存じなようだな。”

“ああ、彼女からすでに聞いているよ。”

すると横に立っていた女性を指した。秘書さんかな?

“だが君の横のそのお嬢ちゃんは始めて見るな・・・お名前は?”

“分かった。自己紹介をさせよう。”「陛下、名前を尋ねております。」

“Am je Kariaho=Sukarmrei adi Naara fo Hata. Je kanna karam am seenhhe aam.”

“・・・は?”

シュカージュ―はぽかんとした顔をした。

“通訳しよう。「私はハタ王国から来た、カリアホ=スカルムレイだ。お会いできて光栄だ。」と仰っておる。”

“もしかして、ハタ王国かな?うわさには聞いていたがまさかあの専制政治国家が本当に実在するとは思わなかった。”

“彼女こそが、そこの女王様だ。”

“ほう・・・して、本日はどのようなご用件で?”

私は軽く咳き込む。

「陛下、要件を尋ねております」

“Amz Hata naaraman syaazi tetai en naara. Bwins mostor syerken en Tiromsath. Am wana h’aamz syetsona. Yanba?”

“えーっと・・・”

“通訳しましょう。「我々ハタ王国民にはある敵がおり、彼らはユエスレオネのxelken.valtoalと関係を持っている。彼らを排除してほしい。」”

“!”

しばらく時が止まったように思えた。シュカージューは驚いた顔をしていた。

“私も愛する妻を奴らに殺された。あれらは貴方達のだろう?早急に対応してほしい。”

“ふむ、要件は分かった。うちの領土内での争いごとならばさておき、他国にまで侵略しているとは、許し難い状況だな。すぐにハタ王国の安全の確保に努める。だから、ここでは条約で済ませないか?”

条約?相互不可侵の条約か?それを結んだところで王国にはすぐにそれを何とかしようとする権限も持っているから結局同じなんじゃ?

“効果がないと思っているのかい?これは王国と連邦、互いに反映していこうというものだ。今回のxelken.valtoalの件はもちろん、これからxelkenに限らずウチの暴力団体がそちらに害を加えないように、反対にそちらがウチに害を加えないようにという条約だ。そこのお嬢さんにも状況を説明してやれ。”

“おい、口を慎めよ。彼女は見た目はお嬢様だが王国の女王様だ。”

“おっと、これはすまない。”

「陛下。交渉は成立です。相互不可侵の約束をします。そのために貴女の同意が必要です。」

「・・・ええ、アレス氏。」

“スカルムレイよ”

 

“とはいえ、こちらもさすがに事情を抱えている。詳しい内容は後日そちらへ使いを送るので、本日はお引き取り下され。”

“ああ、ありがとうな。”

 



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#35 許せなかった #36 決意

部屋を出た。

そして私は真っ先にラヴュールのところまで行った。何があったのだろう。

“見つけたぞ、ラヴュール!事情を聞かせてもらおうか。”

“・・・”

ラヴュールはうつむいている。

“そうだね。仕方ない。”

するとラヴュールはウェールフープを行い、特別警察のビルと思われるある部屋に三人を転送した。

「・・・は?」

スカルムレイがまた驚く。さっきからほったらかしにして申し訳ない。

 

“さて、簡潔に言うとだな・・・総務部を下された・・・!”

“え?”

どうやら格下げされたらしい。なぜ?ラヴュールという青年はどこからどう見ても真面目そうな顔をしているというのに。

“君たちは中央フェーユにいなかったのかもしれないから知らないのかもしれないが・・・昨晩、xelkenが現れたんだ。”

“ほう”

“奴らはまたいつものようにテロを起こしていたんだ。それで私たちが派遣された。”

“え・・・それは連邦軍の仕事ではないのか?”

“さあね、上層部の考えることはよくわからない。とにかく、派遣されたんだ。”

“そこで上の奴らはどう指示を出したと思う?民間人を巻き込んでもいいから町一帯を焼き払えというんだ・・・!”

“んな無茶な”

信じられない。連邦がそんな判断をするとは。

“さすがにそんなことはできない。とりあえず一人ずつxelkenの兵たちを始末していったさ。当然やり残しが出るだろう?それで私は任務を意図的に遂行せず連邦に反したっていう責任がかかったんだ。”

そのとき、リファンの言葉が脳裏を横切る。彼はこれを恐れていたのかもしれない。

“なにが連邦の狗だ・・・!当然私は反対したさ。その結果が・・・これだよ”

たしかにこれでは連邦が本当に信じられるものなのかが怪しいな。だからリファンがいるのか。このまま連邦と条約を結んで救済を受けていて大丈夫なのだろうか?実は条約に反するのではないだろうか。連邦と王国では明らかに連邦のほうが国力がある。

“FAFS氏、これは私の持論だが・・・遠い権力者ほど信用できないのさ。初めからそれに頼ろうとするやつは、もう負けているよ。”

ラヴュールとリファンは同じような顔をした。とてもたくましい顏。先人たちが残した顏。どちらも私のほうが年上のはずなのに。私は特別警察のビルを後にして帰国することを決意した。

 

私とスカルムレイはある広場の中心に立った。

「それでは王国へ帰りますよ。」

「あの、条約のほうは?」

「・・・半分決裂、半分成立と言ったところでしょう。また後日話します。」

「え?それはつまりどういう・・・」

息を吸って意識を集中させる。そして目を見開く。

「iska lut xelkener!」

 

――

 

「陛下!!」

「スカルムレイ殿!!」

この前の場所に出た。全員が一堂を会したあのホールだ。そこでは数人の王国民が立っていた。

「ああ、よかった。ファイクレオネへ行って行方をくらまして10年、やっと帰ってこられた。我らが主よ!」

「このこと、早急に同志に伝えなければ」

そしてスカルムレイと私は誘導された。

「こちらへ!」

「え、ちょ、」

スカルムレイがまず男性に連れて行かれた。あちらはたしかベランダの方角だ。

「さあ、ケンソディスナル氏。あなたも。」

「え、私もか?」

なぜか私まで連れて行かれた。いったい何が待っているのだろう。

 

「こ、これは・・・あなたたち・・・」

ベランダの先にはおそらく各地から集まったと思われる王国民が広場に集まっていた。

事情を聴くことにした。

「陛下。実は、そこのケンソディスナル家の娘、カラム=ケンソディスナル氏がついにあの忌々しきハフリスンターリブへ母の敵を討つことをお決めになったのです。そして、あのユエスレオネ連邦と話をつけてきてくださったあなたをずっと待っていたのです。」

なんと、そこまで事が進んでいたとは。聞けばあれからすでに6年たっていたようだ。カラムも一人前に成長している。どうやらむこうとこちらでは時間の進み方がかなり違うようだ。あるいはウェールフープをミスったか?

「それでは、スカルムレイ陛下。ぜひ、演説を」

スカルムレイの様子は変だった。無理もない。交渉は半分決裂したのだ。すると、スカルムレイが私に話を振った。

「ん?どういうことですか?」

「彼がすべてを話してくれるわ。彼に拡声器を。」

「?はあ・・・」

 

「ケンソディスナル氏、貴方があそこで見たこと、すべてを私の代わりにぶつけて頂戴。」

そうか、もう連邦に頼ってはいけないのか。今は我々の力で打開せねばならない。しかし、それならもうとっくに私の妻が犠牲になった。だが、それとはもう違う。我々はもう一人ではない、なんのためにラネーメ公営地下鉄だ。私は息を吸った。

 

「王国の皆、我々はついに復讐のやり方を見つけてきた!」

 

「今の時点で連邦にすべて頼っては、王国は衰退の道をたどるだろう!」

 

「いるんだろう?ラネーメ公営地下鉄、Ales lanerme lifan社長!」

 

すると一同は騒ぎだしその男を探そうとする。

 

「ほう、流石、”FAFS氏”だ。私を感知してしまうとは」

私は少し驚いた。リファンがユーゴック語を話している。実は話せるのだろうか?

「予てより、王国とは列車を投資するという関係があった。ユーゴック語くらい話せて当然だ」

 

「ガルタ=ケンソディスナル氏!どういうつもりだ!?奴は誰なんだ?」

下にいたある民衆が叫ぶ。

「ふふふ、私はただの、ラネーメ公営地下鉄の・・・社長だよ」

 

「そうさ、スカルムレイ・ハタ王国はラネーメ公営地下鉄と協力することによって、ハフリスンターリブの排除をする!」

「なぜお前なんぞが勝手に決めているんだ!スカルムレイ陛下はそんなことすぐに反対をされるはずだ!余所者め!」

「どうなんですか陛下!」

 

するとスカルムレイは息を吸って目を閉じた。そして見開いて叫んだ。

「お黙りなさい!」

スカルムレイが拡声器に向かって、王国民に向かって叫んだ。

「私、スカルムレイの言うことが聞けないというの・・・?彼らは王国の味方よ。それを拒絶しようとするあなたたちは王国の敵も同然。ハフリスンターリブと苦楽を共にするといいわ!」

スカルムレイの言葉にはカリスマ性があった。この方ならば頼ることができる。それを彼女自身の表情と、声と、「スカルムレイ家」という一族の歴史がそれを助長する。

「すみません。陛下。貴女に従います」

 

「いいですね?あなたたちとラネーメ公営地下鉄、いえ、彼の”友人”の力と、カラムちゃんが合わさればハフリスンターリブを、あわよくばxelkenでさえも地獄の底に追い込むことができます。二度と無駄な血を流してはいけません。同じ歴史を繰り返してはいけません。」

 

するとどこからか少女の声が聞こえた。

「イザルタシーナリア氏らの犠牲・・・無駄にしてはいけません。」

カラムだ。私の実の娘。我々が向こうにいた間、ずっと戦闘の修業をしていたと聞いている。しかも、私の直系だ。もしかしたらケートニアーなのかもしれない。それにしても素晴らしい女性になった。

 

「進撃は、今すべきです。皆の者、私についてきなさい。」

なんと、我々は今帰ってきたばかりだというのに。もう行くらしい。

「父上と陛下はアルパに残っていても結構よ。父さん、疲れているでしょう?陛下もおそらく。」

 

「いや、カラム。父さんは行くぞ。母さんの敵は私も討たなければならない」

「・・・そう」

 

 



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独裁派討伐
#37 ラヴァウ=ジャッハルタ


ついにアラナス島から大陸側についた。ここはイザルタ。イザルタシーナリア家のイザルタ・イルキス、などが存在し、古くから文明が栄えてきた。そんな地にカラム率いる王国軍は数週間かかって到着した。あの独裁反対武装連盟が敗退して以来、イザルタ・イルキスはハフリスンターリブに占拠されてしまった。今日はそれを取り返す。作戦は簡単。まずこの兵士たちに警備の兵たちを戦わせる。そのまま私やカラムのような首脳がここを占拠して指揮をしているやつを始末する。とりあえず正門から突撃するらしい。

イザルタ・イルキスは国内でトップ5に入るほどの大きさなので制圧に時間がかかるだろう。

まず、一人の兵を向かわせる。

「おい、イザルタ・イルキスへ参拝したいんだが。」

すると前に立っていた門番らしき男が対応する。

「ああ?誰だ。ここはもうトイターの建物じゃなくて我らハフリスンターリブの」

咄嗟に兵士が門番を殴りにかかる。

「な・・・おのれ!」

門番の男が立ち上がって反撃をしようとする。そこへ二人兵士を追加。一気に取り押さえた。数攻めだ。

 

「開戦だ!幹部を下から殺していけ!」

抑えられた門番の男が叫んだ私の顔を見る。

「!?・・・あんたはまさかユーナリアさん!」

「なんだ、貴様は」

「う、うらぎったのか・・・兄が弟を・・・!」

「知ったことではない。」

私は門番の顔をけった。

 

兵士たちが正面から相手に攻めかかる。さすが武装組織ハフリスンターリブ。対応も早い。数秒すればすぐに数百ほどの兵士が出てきた。

「撃て!滅ぼせ!」

「誰だ貴様ら!?王国か!?」

ハフリスンターリブの軍は見たところ銃などしか持っていないようだ。xelkenと契約を結んでいるからxelkenの武器がハフリスンターリブにも流れているかと思ったら。

かなりの兵士が中から出てくる。しかし、一人でも素人では勝てないような実力を持っているこちらの兵士。簡単に負けるわけがない。あっという間に全滅させて、イルキス本堂の中に入る。

「ここのリーダーはどこだ!?出てこい」

ある一人の兵士が切りかかる。

 

「んー、だれだー?」

すると中から一人の男が入ってきた。見た目はハタ人。身長は普通くらい。ハフリスンターリブの幹部特有のあの帽子をかぶっている。こいつが間違いなくここの司令だ。

「貴様がハフリスンターリブのラヴァウ=ジャッハルタだな!?おとなしく我ら王国に降伏しろ!」

ラヴァウは笑った。

「へ、やなこった」

「降参する気はないみたいだな・・・!」

 

見事にやられた兵士たちを横に眺めながらイルキスへ入る。そこで私は驚いてしまった。

「な・・・!」

ウチの兵士の3割ほどが地面に血を流して倒れており残りの奴らもラヴァウにやられていた。

「馬鹿か!つまらん理由で命を落とすんじゃない!」

「け、ケンソディスナルさん・・・!」

「そうよ、貴方達。私たちに任せればいいのよ!」

「す、すいません。カラムさん。」

 

「おい、あんたらどこのやつだ?」

ラヴァウが問う。

「我々は、ハフリスンターリブの宿敵だ・・・!」

 



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#38 イルキスでの戦闘

私とラヴァウは交戦状態に入る。初めはラヴァウは普通に敵対者を処理するような顔をしていたが次第に変わっていく。

「あんた、どう見てもウチの幹部のユーナリア=ハフリスンターリブの顔なんだが・・・?」

「ふん、そんな昔のことなど忘れた。」

「はっは、弟もご先祖も裏切るとは、俺はあんたみたいな男についていったことがあったのかと思うといろいろと悲しいよ。」

「言うな。今はガルタ=ケンソディスナルだ。」

私は手に気をこめ、戦闘準備に入った。相手はさっきの様子から見てどうみてもケートニアー。私が相手しないとダメだ。

 

「ネステルに十年近く住んでついに平和ボケしちまったか?俺が今から目覚ましてやるからよお」

「斷る!」

とっさに前方にウェールフープを放つ。しかし外れた。とっくに瞬間移動をされていた。

「おっとっと、マジになっちゃったか。ユーナリア先輩」

 

ラヴァウ=ジャッハルタ(Lavau=Jahharta)。たしか20年くらい前にハフリスンターリブに入ってきた奴だ。来る前はネステルのマフィアの下っ端だったらしく、ある日ボスに見放されてここに来たとか。かなり重たい来歴を持っているが根っからのウィトイターでありケートニアーだ。ハタはこいつをたいそう可愛がっていた記憶がある。惜しくも右腕のような男にはならなかったがこうして一つの軍隊の司令をやっている。

 

「貴様のそのハフリスンターリブへの執着心、叩きなおしてやる」

私は手に力を込めて槍を生成してそれを投げつけた。ラヴァウはそれを軽く避ける。

「あらあらあら」

ラヴァウは手に力を込めた後こちらに向けた。

「?」

するとあたりに小刀が現れそれらは私を貫こうとする。

「無駄無駄無駄ァ!」

「へ、何がハフリスンターリブへの執着心だい。ハフリスンターリブ姓の奴に言われたくはないねー」

「その名前はもう捨てたと言っているだろうが。ハタの進んでいる道は明らかに間違っている。それを正すのが私の使命だ。」

そう考えてラヴァウが振った剣をイナバウアーで避ける。

「何があっているか、間違っているか。それはあんたが決めることじゃないさ。」

3メートルはありそうな巨大な剣を私を狙って振り下ろす。私は真剣白刃取りをした。やはり、並の強さではないか。だが、この程度ならまだ勝てる。

「そうさ、世論が決めることさ。その世論と、あんたたちのやっていることは違うってことなんだよ。」

剣をキャッチした手に力を込める。すると剣は爆発し、ラヴァウまで届いた。

「ぐっ・・・」

ラヴァウがのけぞった。チャンスだ。

「じゃあな!」

ウェールフーポを纏って向こうへ投げるように手を振る。あたりは爆発し、ラヴァウの姿はなくなった。死んだか?

「や、やったか?」

「いや、多分逃げたな。」

足の速い奴め。だがもしこのまま逃げられ、ハフリスンターリブに告げられたら・・・いや、私はもともとハタに追われていたのだ。今更動じることはない。いずれは戦ってケリをつけなければならない。

「ケンソディスナル氏、ずいぶんと強いんですね。」

一人の兵が訊ねてきた。ウェールフープを知らないのだろうか?

「私は根っからのケートニアーだがさっきの男はおそらくウェールフープ可能化剤を使っていたようだ。」

「ウェールフープ・・・?ケートニアー・・・?」

「もともと人類には二種類の人種がいる。ケートニアーとネートニアーだ。ケートニアーはさっきのウェールフープという魔法を使える人間、ネートニアーが使えない人間。ここユーゲ平野ではケートニアーは完全に滅んでしまったがあのファイクレオネでは普通に使われているんだ。」

「はー・・・ウェールフープウェールフープってずっと耳にしていましたけれどそのことだったんですね。」

 



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#39 蜘蛛十字

イザルタ・イルキスの奪還に成功した。おそらくここまで厳重に警備しているのはここぐらいだろう。それ以外のところは同志たちに任せて早くハフリスンターリブの本拠地、ハフルまで行こう。しかし、気になることがある。曇ってきた。さっきまであんなに晴れていたのに。

その上空を、さっきやられかけたラヴァウ=ジャッハルタの使いが飛んでいるということを彼らは知らなかった。

 

――

 

ここは王国北部の上空。

「驚いた・・・ユーナリア先輩が戦ったところって昔何回か見たけれどこんなに強かったなんて・・・やはりハタ司令に戦っていただいた方がいいな。何より、早くハフルまで行ってこのことを伝えないと。通信機が兵たちに壊されたからな・・・」

ラヴァウはウェールフーポの節約のため、飛んでいくことにした。ハタであればそんなことしなくてもいきなりテレポートできるであろう。一気に加速する。この速さで行けばハフルまでそんなに時間はかからない。

 

やがてハフルが見えてくる。そしてその中心には広大な敷地がありその真ん中あたりには大きなビルが建っている。

「着いた・・・」

これがハフリスンターリブの本拠地。おそらくハタもここに住んでいると思われる。

「今すぐに報告せねば・・・」

 

――

「ハフリスンターリブのネットワークにかかればすぐにラヴァウがやられたことが広がり今すぐにでも追手がやってくる。奴らはおそらく私とカラムが力を合わせないと一掃できないような奴らが来るから、みな見つけたらこちらから仕掛けずに私に報告してほしい。」

そうだ、ハフリスンターリブは反逆者へは容赦がない。逆らう者は皆処刑。まさに「独裁」だ。

私もディスナルでハタにつかまりかけた。なんとか逃げて見せたが、今回ばかりは逃げてはいけない。

 

 

イザルタからハフルへ続く街道を通ってしばらくするともうハフルの端の方につく。端とはいえイザルタに比べると数倍ハフリスンターリブの影響力が強い。かつて、ここから先はスカルムレイの支配対象ではなかった。それゆえここではハタ王国とはちょっと違う文化が存在していた。そのためここではユーゴック語の方言がよりきつかったり、リパラオネ人などファイクレオネから来た人間が多かったり、ということがある。ユーゲ平野にファイクレオネ人が渡来してからずっとこの地に住んでいるのがTarf一族だ。のちにサシミ一族、サザシミ一族に分離し、サザシミ一族は今のランテイン地方に行きランテイン一族を気づきあげた。サシミ一族のほうはアケハフルに赴いた。また一部のサザシミ一族は海を渡り、今のウィルキタイ地方に移った。そのため古くからここではウィトイターが最も多く、イルキスもまったく存在しないか、取り壊されているであろう。ここでウィトイターが暴動を起こしてもおかしいことではない。

「な、なんだあれは・・・」

一人の兵士が感嘆する。

その先には看板があった。「トイムルクテイお断り」とあった。

「トイター教排除運動が非常に盛んなようだね。こんな奴らがずっとここに住みついていたのかと思うとぞっとするよな。」

「ええ、本当にそうです・・・」

 

ここでいったん休憩し、各自で食料をとる。

こんな休息中に襲ってくるのがハフリスンターリブだ。私はおにぎりを食いながらも空中浮遊をして上から監視していた。

 

すると、私の顔のすぐ横を何かが通り過ぎていく。

「ようこそ、ハフルへ・・・!」

「!?」

女性っぽい声が聞こえた。敵だろうか?はっと、後ろを向く。しかし、当然のように誰もいない。

「こんな大軍を引き連れて・・・ハタ様になにか御用かしら?」

後ろか!

手を振り回す。すると何かが突き刺さる。

「痛っ」

これは王国のナイフだ。ウドゥ・ミト使いか?

はっと前を見る。やっとその女性の姿を拝むことができた。

「・・・シャスティ?」

見た感じだと、ツァピウルやカラムと同じ、普通のスカルタンを着ているように見えた。

「おしいわ、もうあんな見たこともない人間に縛られる生活はやめたの・・・」

よく見ると、胸にアスタリスクのようなマークが見えた。

ハタ王国では家によってスカルタンの柄が少しずつ違う。たとえばケンソディスナル家では胸から腰にかけて縦に細長い有字のKが二つ、イザルタシーナリア家では右胸に旧有字でIが刺繍されている。

してみてみると、これは蜘蛛十字のようだ。蜘蛛十字とは十字架の一つで蜘蛛の足をかたどった棒が十字に付け足して描かれている。となると、該当するシャスティ家は一つ・・・

「アンテカ=ウロカーシャテリーン(Anteka=UrokaasyaTeriin)・・・だな?イザルタシーナリアの独裁反対武装連盟に参加し、ともにハフリスンターリブと戦ったシャスティの一族・・・」

あの時代のウロカーシャテリーンのシャスティと言えばたしかアンテカだ。ならば間違いない。

「ん?知らないわよ?私はハフリスンターリブに属するただの女。今はハタ様にあなたの討伐を命じられているの・・・あなたはだれ?」

「ガルタ=ケンソディスナル、真の王国を取り戻しに来た。」

「ふふ、面白い!」

アンテカはお得意のナイフを投げてきた。こちらに届くのが異様に速く、一秒もしないうちにこちらにすべて刺さる。

「ガハッ・・・!」

私は血を吐いた。ケートニアーだから死にはしないが、痛いものはいたい。だがすぐに修復する。

「・・・やはりケートニアーなのね。」

するとアンテカは合図をした。すると街道の周りの林から無数のウェールフープライフルがこちらに銃口を向ける。やはり兵を連れていたか。

私は何とかよけようと空中を移動しようとする。

「!!?」

なぜか、体全体が何かに固定されているような気がして動けない。なんだ?ウドゥ・ミトに相手の動きを止める術なんてあったか?

するとアンテカは地上に降りた。

「撃ちなさい!!」

私はこんなところでやられるのか?まさかハタに一矢報いることもなくやられるのか?必死に身をひねるがまったく動けない。

けたたましい銃声が聞こえた。一瞬にしてなにかが近づいてくる。それはウェールフーポが交換されている様子。私の死期を表しているともとれる。

下の方でカラムや兵士たちがこの世の終わりでも来たかのような顔をしている。

私は目を閉じた。

 



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#40 力の覚醒

私は・・・死んだのか?空中で浮いたまま死んだのか?目を開けようとすると容易に開いた。

「生きてる・・・」

しかし、真っ暗で何も見えない。

「これは・・・」

すると何か、機械の音がした。

「助けに来たぜ、ラヴヌトラート」

ラネーメ公営地下鉄の社長、もといリファンだ。どうやらあのブロックのような列車で私にガードを張ってくれたようだ。

「それはありがとうな。ところで、真っ暗で何も見えない。」

「おっと、それは失礼。」

すると光がさした。さっきまで見た光景。同心たちやカラムが下にいた。

 

「いいか、私はラネーメ公営地下鉄の社長であり、彼の友人だ。彼に何かあろうならばすぐに貴様らを滅ぼしに行くからな・・・!」

「おい、リファン・・・」

「心配するな。彼らは私一人で相手しよう。君はそこの女の子でも片づけてな」

「は?」

どうしよう、私は女の子を傷つけるなんてできない。絶対ためらってしまう。そこでカラムを見る。

「私がやるわ。倒したらそちらまで行く。先に行ってて、父さん!」

「すまない!行くぞ、お前ら!」

「はい、ケンソディスナルさん!」

それにアンテカが制止をしようとする。

「者ども、奴らを止めよ!ハフル楼へは行かせるな!」

「ウロカーシャテリーン、何をよそ見しているの?」

けたたましいナイフのぶつかり合う音がする。

「あなたはハフリスンターリブに操られているだけ・・・真のあなたはハフリスンターリブに味方なんてしないわ。目を覚ましなさい!」

「さあ、何のことを言っているのかしら」

ナイフを解いてアンテカが反撃する。カラムはそれらをバク転しつつ避ける。

ハタ王国の戦い方ではまずは投げナイフで遠距離戦を行って間を詰めたりナイフを使い切ったら剣で戦うことになっている。今回は二人ともナイフの尽きが早かった。

「ふん、ウロカーシャテリーン、真剣勝負よ」

「あら、望むところね」

アンテカはどこかから剣を取り出すのかと思いきやウェールフープライフルを取り出した。

「!?な・・・」

「ハフリスンターリブにそんなに律儀に戦うような決まりなんてないわ。ならば先にこちらが殺してあげる・・・」

アンテカは銃口を向けた。カラムが若干戦意を失う。

「ふふふ、さらばケンソディスナル!お父さんにはよく伝えておくわ・・・!」

「な・・・動けない・・・!?」

ふたたび銃声。それを同心たちと共にアンテカの部隊と戦っていたリファンが見る。

「カラムちゃん!!」

 

ウェールフープライフルは間違いなくカラムを狙っていた。しかし、カラムの体には一瞬穴が開いたがすぐに治り、倒れない。死なない。

「これは驚いた・・・」

「そ、そんな・・・まさか」

アンテカが震える。

「そうか、”彼の”娘だもんな・・・」

 

「私・・・死んでいない・・・!」

リファンは何か世紀の大発見をしたような感じになった。ああ、ラヴヌトラートよ。君の娘は、あの一族の血を持って生まれた。彼女もまた君と同じ道を歩むこととなるかもしれない・・・。

 

怯んでいるすきに社長たちを罠にかけて列車で押しつぶす。やがてカラムのところに近寄って、カラムの胸に手を当てる。

「は!?////」

「間違いない・・・!」

――父ガルタに続いて娘カラムも”ケートニアー”だ――

 



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#41 第三の男

ガルタはハフル楼に到着していた。

「よし、はじめよう。」

やはり前には門番が二人立っていた。

それにしてもどう潜入しようか。普通に正面から突入した後有力者を下から殺していくか?それもいいが、やはりここは安全に行った方がいいだろう。

とも思った。そのあとそれは無効なことに気付いた。私は今裏切り者としてハフリスンターリブ内で言われている。どうせすぐにバレルであろう。

「まあ、とりあえず、ウェールフープで二人とも静かに殺そう。」

私はウェールフープを操作して正門一帯の酸素を全て抜く。当然門番は全員窒息するだろう。

「ァ!・・・ァァァ・・・」

一人は泡を吐いて死んだ。もう一人は門に入って侵入者を告げようとしたら門の前で倒れてうつ伏せになって死んだ。

さて、これは使えるな。

 

そのまま何のためらいもなく門を開けて侵入した。

すると一気に銃弾をこめるような音がした。私は両手を上げた。

「ユーナリア=ハフリスンターリブだな?」

すると正面玄関から男が来た。やはりどこかで見たような顔。ハフリスンターリブの幹部、クェール=ハフリスンターリブ(Qerl=HahurisnTaarib)だ。

ハフリスンターリブには三人の幹部が鎮座していた。一人は最初に戦ったラヴァウ=ジャッハルタ。たしか、三人の中ではもっとも弱い。その次にこの男、ウェール=ハフリスンターリブだ。かつては私が三人目だったが私は抜けたので今は誰なのかわからない。

「クェールか。私に何の用だ?」

「ふん、そちらこそ、ついに自首する気になったか?」

「いや、その反対だな。」

「ずいぶん余裕ではないか。ついでに言っておくが、貴様の仲間どもは全員ウチの奴らが片づけに行ったぞ。」

ん?こいつらが?やつらを?そんなわけあるか。

「は、貴様らみたいな雑魚にやられるほどうちは弱くないぜ。」

「さあ、どうかな。」

すると外から警笛の音がした。

「ん?電車?」

すると後ろから12両ほどの列車が壁を破壊して走ってきた。

「・・・は!?」

その列車は正面広場を爆走し、周りで銃を構えていた兵をなぎ倒していった。

「お、おい、止まれ!」

クェールはウェールフープを放った。列車がひっくり返る。

「おい誰だよ、この私の自慢の直方体列車に攻撃を仕掛けた奴はぁ・・・」

「ふざけるな。誰だ!」

「私か?私はただの・・・ラネーメ公営地下鉄の社長だよ。」

「な、なぜ生きている?」

「さあ、着いたぞお前ら!」

「ん?お前ら?」

するとすべての扉が開いた。ピンポーンピンポーン

「着いたのね、ハフル楼。」

カラムが出てきた。けがはない様子。

「カラム=ケンソディスナル!?なぜ・・・」

「ああ、お前らが私たちに送り込んだ刺客ならば全員このラネーメ公営地下鉄でなぎ倒してやった。ちょちょいのちょいだぜ」

「ち、撃て!」

銃を構えていた周りの兵士たちが一斉に引き金を引いた。

 

――

 

「あいにく、全員ケートニアーなんだ・・・!」

そういえばリファンはおそらく銃弾を食らっているがそこはやはり社長なので簡単には死なないのだろう。しかし、カラムが倒れていないのが気になる。

「か、カラム、大丈夫なのか?」

「えっと・・・」

それを見かねたリファンが答える。

「カラムちゃんは君と同じ、ケートニアーだった。ケンソディスナルにはケートニアーの血が混ざってしまったようだね。」

私は社長の目を見てそれは本当のことだと確信した。

「・・・そうか。ついにハタ王国のシャスティにもケートニアーの血が・・・!」

 

「お、お前らどうかしてるさ・・・」

クェールが驚いている。ネートニアーが数人ならまだしもケートニアーが二人、しかも二人ともウェールフーポが強い。その上謎の強さを誇るラネーメ公営地下鉄の社長、アレス・ラネーメ・リファン。それに加えて数十人のウドゥミトの使い手たち。これだとケートニアーとはいえ勝てる気がしないであろう。

「お父さん、あの男は誰?味方?」

カラムが問いかけてくる。もう何も考えなくていい。今は目の前の奴を倒すことを考える。

「いや、敵だ。殺せ。」

「へへ、そうこなくっちゃ」

 



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#42 トイタクテイとウィトイター

「え?私が?」

「何かあれば私がやろう。奴はお前に任せた。ハタは私がしっかり殺して決着をつけたい。」

「そう、分かった。」

「任せたぞ。」

社長が中に入っていく私を追いかける。

「リファンは・・・一緒に来てくれ。」

「フフ、友のためならどこまでも行こう。」

「待て、中へは入らせない!」

クェールがウェールフープで私を射抜こうとする。しかし、それは列車によってガードされた。

 

――

カラムは目の前にいる男を倒さなければならない。

「ほう、お嬢ちゃんが戦うのかい?」

「父さんの頼みだし仕方ないわ。」

「ははは、まあいいさ。君も早く生け捕りにしてハフリスンターリブの者として生きてもらおう!」

クェールが襲いかかった。クェールの目には下心さえ見える。

「はっ!」

カラムは上に飛び突進を避ける。同時に空中からナイフをお見舞いする。しかしどれも弾かれる。

(どうしよう、今までウェールフープなんて撃ったことないし・・・でも撃たないと勝てないか・・・!)

カラムはナイフで応戦しながら戦闘中にウェールフープを放つ方法を探すことにした。

「喰らえ!」

クェールが再びウェールフープ。今度は衝撃波を飛ばしてきた。カラムはよけようとするが頬が掠る。

「くっ・・・」

「はっはっはっ!かわいい子ちゃんと遊ぶのは大好きなんだ!」

「な、こやつめ・・・」

「ははは、よそ見していていいのかな?」

「え、」

後ろを見る。クェールが分身している!

「きゃっ」

カラムは後ろから背中に衝撃波を食らって前に倒れる。

「ほらもらった!」

クェールがアッパーを繰り出す。比較的華奢な体形をしているカラムは上に浮いた。同時に口から血を吐いた。

「カ・・・」

「さあさあさあ、ハフリスンターリブに入ってもらおう、お嬢ちゃん!」

クェールはカラムをキャッチしようと落下地点を予想してお姫様抱っこの構えをする。と、カラムの中に何かが走る。父さんは陛下を連れてあの社長を連れて行ってくれた。兵力を連れて行ってくれた。今は父さんがいる。あの社長がいる。それなのに私が負けてどうするのか。

カラムはさっと向きを変えてナイフを取り出し刺そうとする。

「ウグァァァ!」

クェールは思いっきりカラムをお姫様抱っこする気でいたので素直に刺さる。

ついでに後ろへバク天をして間合いを取ってあと四本ほどお見舞いする。すべて頭を狙った。

「そうだ・・・頭を爆破しないといけないんだっけ。」

カラムは懐から巨大な刀を取り出して頭を切り刻もうとする。クェールに勝てると思っていた。

――しかし、彼もケートニアーだ。

「むん!」

カラムの振り下ろした剣をつかんてウェールフープで破壊。そしてカラムの首をつかんで持ち上げる。

「く、くるしい・・・」

「さあ、今度こそ!」

やはり、クェールには勝てないか?いや、まだウェールフーポを開放していないだけ。しかし、まだわからない。ナイフを投げている最中にいろいろ手に力を籠めたり振ったりしているけれどわからない。

カラムは半ばあきらめた状態で、最後の力を振り絞りクェールの顔面にパンチをぶちかます。その時、私の眼には何かが見えた。

「ぶ!?」

 

クェールは吹き飛んだ。私のパンチで。しかも数十mほど吹き飛び遠くにあった塀にたたきつけられた。

これは明らかにウェールフープだ。ついに撃てた。殺意さえあればいつでも実行できるようだ。父さんはなにやらわけわからない呪文を言っていたけれど、時にはそんなのなしで実行していた。

やはり、私はあの社長の言っていた通りケートニアーだったようだ。

「やああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「く、私もここまでか・・・」

 

やはり、ハフリスンターリブの血を継ぐ者だ。王国の血が混じっているとはいえ、あの初代ハフリスンターリブの、ララータ=ハフリスンターリブの末裔だ。

 

80年生きてきた私だったが、こんな小娘に負けてしまった。油断したな。ともに地獄へ行った仲間たちになんて言えばいいのか。死んで逝った同心たちになんといえばいいのか。ハタ総統よ、せめて貴男様だけは生きて、トイター教主義国家よりはるかに良い国を作ってください・・・。

真のスカルムレイは・・・貴男様に違いない。

 

カラムの手から光が炸裂しクェールを跡形もなく焼き尽くす。あとには灰のようなよくわからないものと、クェールの髪の毛一本だけが残った。

「・・・ごめんなさいね」

 



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#43 100年の時を経て

今、窓の外からすさまじい閃光と爆発音が聞こえた。どちらかがやられたのだろう。

「そんな心配そうな顔するなよ、ラヴヌトラート。カラムちゃんは無事だ。」

兵たちを列車でつぶしながらリファンは私の考え事を当てて見せた。

「む、なぜ分かるのだ?」

「あれが見えねえのか?」

社長は上を指した。上には天井しかない。

「ああ、確かに何かあるがそこには空気と天井しかない。」

「は、鈍感だな君は。」

「何が言いたい。」

 

「父親ならば、娘の無事を願うべきだろうが。君のその造・発モーニ体と数兆以上のDNA遺伝子は飾りか何かなのか?」

初め私にはリファンの言っていることが分からなかった。すると横からまた兵が来る。

「微量だが、ウェールフーポを感じる。貴様はケートニアーのようだな。」

「ああ、死んでもらおう、反逆者め!」

どこからか剣を取り出して私の頭を狙う。それを私は右手でキャッチしてウェールフーポを流し込み破壊する。

「くっ」

「無駄だよ」

真後ろにテレポートして頭をめがけて拳をぶつける。

腕は頭を貫いた。

「あ・・・」

「じゃあな、ヴィエナ=ランテインよ。」

腕で爆破を起こして内部から相手の頭を粉々にした。当たりに脳のかけらと思われるものと大量の血が飛ぶ。骨も砕け散った。

「ちっ、きたねえ」

 

私は次に殺す相手を探した。まだここにはたくさん人がいる。全員相手にしていると勿体ないので社長のあの技を使うことにした。

「リファン、あれを」

「御意」

リファンはまだ操作ボタンを押した。すると後ろにあった列車の正面が開く。

「よし、逃げるぞ!」

私はすぐに階段まで行って逃げようとした。しかし、リファンはなぜかそこにいる。

「おい、リファン、逃げるぞ」

「私は逃げることはできないよ。」

「え?」

「私には君を無事にハタのところまで向かわせる義務がある。君は早くカラムちゃんをここに持っていくんだ。」

そうだった。まずはカラムだ。意識を集中させる。そして手に何かを溜める。

「iska lut xelkener!」

「わっ」

目の前にカラムが現れた。よかった、無事だったようだ。

「ふー・・・」

「あ、父さん」

「よかった、生きてて。奴は?」

「奴ならほら。」

カラムは髪の毛を見せた。色は金っぽかった。

「ああ、ごくろうだったな。」

するとあたりが光り始めた。

「か、カラム。早くハタのとこまで行くぞ!襲いかかってきた奴らは全員殺せ。皆敵で間違いない!」

「ええ・・・でも・・・」

「リファンなら大丈夫だ。奴が鉄道会社を受け持ってから30年。ずっと兵器を開発してきたが一度も連邦のお世話にならなかった。あいつはネートニアーだが死なない!」

「う、うん」

 

たのんだぞ。リファン。すべてはスカルムレイ・・・いや、スカルムレイ陛下の為に。

 

私たちが階段を上り始めたころは下の方で爆発音が聞こえた。私は目に若干の汗を感じたがすぐに拭き取った。

「カラム=ケンソディぷ・・・けんs、けn、ケンソディスナルだ!」

「お前噛みすぎ!カラムでいいだろう!それにユーナリア=はf、ハフリスンターリブ!」

「お前も噛んでるじゃねえか!」

この声はハフリスンターリブ幹部、滑舌の悪さで有名なファムサ=ハフリスンとスティストイ=ハフリスンだ。

「はっはっは、しょうとう、そ、総統から頼まれだ、たんだ!。貴様のあひ、足止めをしろと!」

「なんだ、お前らか。軍も引き連れずにどう私たちを何とかするつもりだ?」

「軍ならいr、い、いるさ!出てこい!」

階段の壁が相手槍を持った兵が現れた。

 

「さあ、かかr、かかれ!」

四方八方から兵士がたかってくる。ふん、こんなもの。

「やあ!」

360度、あらゆる方向へ向かって衝撃波を放った。兵士は当然吹っ飛ぶ。

「よし、次はお前だ!」

「ほ、ほーはy、早いねーハハハハハハハハハハッゲホッゲホッ」

「むせかえった」

「だが、そいつらは一度ウェールフープを食らっtくらいじゃ死なないさ」

すると兵たちが起き上がって再び襲いかかってきた。何度かかってこようが同じだというのに。

「無駄だ、もう一度放てばいい!カラムも手伝うんだ!」

「・・・ええ!」

もう一度衝撃波を放つ。再び相手は吹っ飛んだ。カラムも加勢していたため奴らは壁に叩きつけられるだけではなく壁を突き抜けた。

「あt、あちゃー、派手にやったなー」

「さあ、あとはお前ら二人だ。」

「ファァ!?」

「死ぬがよい!」

 

――

 

ここはハフル楼最上階。ハタ=ハフリスンターリブが座っていた。

「まさか・・・奴が直々にここへ来るとは思わなかったね・・・!わざわざつかまりに来たのかな?」

ハタの顔は不気味に笑うか、でこにしわが寄っているかの二つの表情しかない。顔は蒼白で今にも頭から血が吹き出そうである。

横にいる一人の男がしゃべる。

「いや、今滑舌二人組が足止めをしに行ったところです。どうせ総統でないと勝てないでしょうからせいぜい足止めにしかなりませんが・・・連れの小娘はここでやれると思います。」

「フン、馬鹿か貴様は」

「と、言いますと?」

ハタはいつも怒っているような顔をしているがより激しい顔をした。

「貴様のその筋肉でできた脳をよくまわしてみろ。あの小娘は名字こそ王国の奴らの者だが父親は我らがハフリスンターリブの一人。奴もまた私と同じ血族なんだ。」

「ああ、そうでしたね」

 

「はっはっは、ユーナリア・・・いや、兄貴も昔は本当に強いハフリスンターリブの者だった。私はそうでもないが、ネステルへ行くまではおそらくわが組織のほとんどが奴を尊敬していただろう・・・!」

 

「だが、奴があの世界でFAFS姓を持っているのは初耳だな。何故皇族のものになっているのか・・・!」

「え?そうだったんですか?」

「ああ、奴はよくよく調べていけばFAFS.lavnutlartというアロアイェーレームを持っていた。だがこちらでの元の名字はHahurisnTaarib。おかしいだろう?ハフリスンターリブはTarf一族の分家らしいからFAFS姓をもっているのはおかしいはずなんだ。私でさえアロアイェーレームは持っていない。」

「うーん、なんででしょうねー」

ハタは知っていた。あの日のこと。ユーナリアがハフリスンターリブに誕生したときのことを。なぜ「誕生したところ」を二男であるハタが見たのか。正確に言うと、「誕生」ではなく「縁組」かもしれない。

「私は知っているさ。奴が養子としてハフリスンターリブ家に来た時のこと・・・!」

「え、あの人ってもともとのハフリスンターリブ家じゃないんですか?直接の血はつながっていないんですか?」

 

さて、このことは今話すべきことなのか。目の前の部下はこの話を信じるかどうか。

 

――

 



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#44 劣等生と優等生

私はハフリスンターリブ家に生まれた。今から95年ほど前だ。当時のハフリスンターリブの総統はChaz=HahurisnTaarib、私の親父だ。その親父がRaraata=HahurisnTaaribで祖父にあたる。私はこれからのハフリスンターリブの未来のためと言われウェールフープの演習をさせられたりと、幼少期から戦闘の訓練を受けてきた。しかし、腕前はいまいちだったらしい。その辺のネートニアーくらいは軽く殺せたがある程度の武術の達人ともなれば数秒かかった。

そんな感じで幼少期を過ごした。小さいころは親の愛情を受けて育ったと思う。トイター教に対して反対意識を持っていたし、これからのハフリスンターリブを担いたい、親父の、祖父の仕事を受け継ぎたいと思った。

そんなある日、ハフリスンターリブ家に新たな家族が来た。しかし、そいつは母親の体から生まれたのではなく、どこか違う世界から来た。

 

――

 

「ハタよ、今日はお前より5つ年上の養子を見せに来たぞ。ほら、こっちにくるんだ。」

「FAFS.lavnutlar( 」

「こら、さっき言った筈だぞ。お前の名前はユーナリア=ハフリスンターリブだと。」

ハタには明らかにユーゴック語ではない名前を聞いた。FAFS一族。彼はFAFS一族なのだ。

 

「・・・ユーナリア=ハフリスンターリブ。よろしく」

ユーナリアと名乗る、いや名づけられた少年は私に手を差し出してきた。握手を求めてきたのだろう。

「う、うん、よろしくね」

「ユーナリアはお前よりもウェールフープをうまく制御できるからな、お前もたくさん学ぶといい。」

 

そうして偽りの兄貴が家に来た。直接血がつながっていない。私の髪の色は少しだけ銀という感じだったがユーナリアはより銀が強かった。今思えばわかる。彼はハタ人ではないと。

 

――

 

数年後、さらに二人の子が生まれた、両親が亡くなった後、兄弟四人で頑張ってほしいとのこと。私は当然、四人の中のトップを目指して強くなろうとした。しかし、ユーナリアには勝てない。まるですでに数百年はウェールフープを操っているような体勢。

「ハタ、お前はウェールフーポが体の中に無限に存在しているわけではないということをわかっているか?」

「ああ、分かっているが、それがどうしたんだ、兄さん。」

「食料と同じだ。一度に食べてしまえばすぐになくなってしまう。節約をした方がいいよ。」

「・・・」

ユーナリアの助言は時として助けともなったが、私のプライドを傷つけることさえもあった。そして下の兄弟二人を見たが、彼らもユーナリアに夢中であった。

「いいよな、ユーナリア兄ちゃん。強いよな。」

「俺もあこがれるな。ハタ兄さんもそうだろ?」

「・・・いいか、ラルゼル。我ら四兄弟は次のハフリスンターリブの総統を目指して争いあっているんだ。誰かを褒めることはあってもそれを羨んでは前進できないぞ。」

私は弟たちに対して常にこう返していた。ユーナリアの強さは時として目障りとなった。

 

――

 

それから数十年、四兄弟は次のハフリスンターリブの後継者を選んだ。当然弟二人はユーナリアを薦めた。両親もユーナリアを選んだ。

しかし、私がそれを許さなかった。力の強さではユーナリアに劣るかもしれないが誰よりも人一倍努力をしてきた。たとえ弟とはいえ負けてはいられない。

しかし、世界はそう甘くない。チャルズ=ハフリスンターリブはユーナリアを選んだ。

「たのんだぞ、ユーナリア。理想国家は必ずお前がたt」

 



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#45 服従

「父さん!」

駄目だ。この親父は駄目だ。

「なにをするの、ハタ!」

「ハタ兄さん、やめてくれ!」

手に入れることができないなら奪ってしまえばいいんだ。権力者を殺してしまえばいいんだ。

「何をしているんだ、ハタ!」

「うるせえ、ユーナリア!!!」

「な・・・」

ユーナリアは怯んでいる。

私は親父をこの手で殴った。ウェールフープの手で。

「ラルゼル!ファッセ!ハタを取り押さえてくれ!」

親父が弟二人に向かって自分を取り押さえるように指示をした。だが、弟なんかに負けるような私ではない。

「邪魔をするな、敗北者。私は絶対に勝つぞ。」

「うわああ!」

母親がその時ウェールフープで私を吹き飛ばした。

「く、強い・・・」

「このハフリスンターリブの恥さらし・・・」

母が血相を変えて私を殺そうと近寄ってきた。

「やめるんだ、リファリン!」

「でも!こいつは・・・」

「馬鹿者・・・同じハフリスンターリブの者通しで殺し合いを始めてどうする!?ついにお前も狂ったか!?」

「っ・・・そうね、ハタ、落ち着いt」

その時の母親の態度は私に対しての同情にも感じた。その同情は遠まわしに私の実力を貶しているような気がした。油断しているすきだ。殺そう。

「お、お前・・・!」

「母さん!」

「父さん、ハフリスンターリブの次の当主はユーナリアなんかよりも、このハタのほうがお似合いだと思うんだが?」

父さんはしばし考えた。

なぜ考える。私であると、即答しろよ。なんで答えないんだよ。

「もうわかった。父さんも死ね」

「父さん!」

 

私は二人の弟を、そして両親をその場でウェールフープで殺して見せた。最後にユーナリアを殺す。

「待つんだ。ハタ。」

「!?」

 

「そんなにトップになりたいのなら、私が君の下に就こう。ただし、君が少しでもいけないことをしたら私はすぐに君に代わってハフリスンターリブとなる。」

「なにがいけないことだ?ウチはテロ組織なんだよユーナリア!」

「誰がテロをしろと?ハフリスンターリブはこの世に反トイター教主義を掲げては来たが誰も人を殺せとは言っていない。それは父親であるチャルズ=ハフリスンターリブも、祖父であるララータ=ハフリスンターリブも言っていない。」

「は、よくゆうね、ファイクレオネの皇族さんは。なんであのFAFS家を捨てたんだ?」

 

そのときユーナリアは確か理由を答えたのだろうが、今は覚えていない。ただ、ろくなことを言ってないのは覚えている。

 

――

 

「では・・・両親や弟たちをころしてこの座に?」

となりの男が驚いて私を見る。

「そうだ、何か意見があるなら言ってみな。場合によっては貴様も殺そう。」

となりの男はその時はただ「いいえ」と言って済ませた。

 



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#46 私の家族

「さあ!きえ・・・ヘーックション!消えてもらおう!」

スティストイがまず私へ手をかざす。

「ふん、無駄だ」

瞬間、後ろへテレポートして頭を殴ろうとする。

「そう来ると思ったぜ、ユーナリア!」

スティストイがしゃがむ。そこにファムスがかかる。

「おらおr、おr、おおお、おらrr、おああrおあららら」

私はあまりにも奴らが噛みまくっているので戦闘に集中できない。逆に天才だ。

ファムスは私の背中に向かって攻撃を仕掛けようとしているようだった。しかし、後ろを向いたころにはカラムが立っていた。

「父さん、一人でやるから父さんはそっちを!」

そうか、もう私は一人で戦っているわけではない。カラムはもう十分成長した。

「ありがたい、助かる」

 

「えーい、親子そろっt、そろってはんにゃくちゃ、反逆者かー」

「そうだ、ハタにはよろしく伝えておいてくれよ!」

咄嗟に前方一帯を焼き払う。

「そ、そそそそんn」

やった。相手は吹っ飛んだようだ。そこでカラムに加勢しようとするがそちらも決着はついていたようだ。

「オ・・・おう、このおべ・・・俺がこんなお嬢ちゃんに・・・ゲホッ」

「父さん、こっちも終わったわよ」

「ああ、見ての通りだな」

 

さて、私はこいつら意外に強そうな奴と言ったらやつしか知らない。しかし、あいつはここに来るのだろうか。とりあえず上に上っていることにした。あいつの思考回路からしておそらく最上階にいるだろう。

「カラム、このまま最上階まで急ぐぞ。」

「ええ、」

 

しかし、この塔にはエレベーターはないのか?すべて階段じゃないか。おそらく30階はある。さすがに足が痛い。ウェールフープで先を急ぐことにした。

 

――

 

「あ、」

ついに最上階のハタがいると思われる部屋にたどり着いた。しかし、そこには男が一人いるだけでハタはいない。

「おお、ユーナリア氏、来たんだな」

こいつはテイユ=ハフリスンターリブ、おそらくハフリスンターリブの幹部の中では最も強い。三人の幹部の一人だ。いつも私と互角で戦っていたか。

 

「おい、ハタはどこへ行った。」

テイユはどこかを向くような顔をして私から目を合わせずに答えた。

「総統にそんなに会いたいか?」

「ああ」

「ふん、ならば、私を倒して見せよ!」

テイユは私に手に気をこめてかかってきた。

「カラム、下がってろ。」

テイユはハタに続く強敵だ。ここでこいつを倒しておかないと。

まずはテイユの突進を避けた。

「さっき、総統から聞いたぞ。お前と総統の過去。」

「!」

テイユがしゃべろうとするが私はお構いなしに攻撃をする。相手の頭をめがけて槍を生成して飛ばした。槍はテイユの近くまで行った後になぜか自然消滅した。

「それを聞いて私はいろいろと失望したよ。」

「そうか、それがどうした。私には関係ないことだ。」

私は間合いに近づいて回し蹴りを行う。テイユは上にジャンプした。

「上か!」

咄嗟に上を爆破する。するとテイユは吹き飛んだ。

「やったか・・・!」

すると吹き飛んだはずのテイユが消えた。すると後ろから衝撃波が飛んできた。私は前方に飛ばされる。

「・・・!?」

「それは残像だよ、馬鹿野郎・・・私は虚像を操作できることを忘れたのか?」

「そうだったな。」

といいつつウェールフープで微粒子を飛ばす。後ろの窓ガラスがすべて割れた。

「あーあ、派手にやってくれたね。」

後ろから何かが近づいてくる。気が付くと私は体中を斬られ、血があらゆるところから吹き出ていた。

「父さん!」

痛い。痛いと感じる間もないほど痛い。ケートニアーなので数秒で傷口は消えるが。

「お、おのれ!」

何とか手を後ろに回して爆破させようとする。

「ユーナリア、お前はいったい何を思ってハフリスンターリブに来て、何を思って出ていったんだ?私にはそれが分からないんだ。」

ハフリスンターリブに来た理由、か。こいつに教えても何の意味はないんだがな。

「さあな、こっちの両親にも事情があったんじゃないか?」

「あんなFAFS家なんて名門がなぜわざわざ王国の独裁派に養子を預けようとするんだ?」

 

「はっはっは、そんなに知りたいか?」

私はもう一度ウェールフープ、今度は床を崩して足場を悪くしたので逃げられないであろう。すると攻撃はヒットし、テイユは吹き飛んだ。

「くっ・・・」

私は彼に近寄って頭をつかむ。

「それならば冥土の土産に教えてやろう」

私は目を鋭くして彼をにらんだ。

同時に当たりのウェールフーポをすべてこちらに集める。この技はかなりウェールフープを使いこなせるようにならないとできない。

「はぁ!」

テイユが反撃しようとするが当然、何も起こらない。

ゆっくりとテイユを持ち上げる。テイユが反抗して私をける。そこで私は体の一部を気体にして避けた。

「く、ユーナリア氏・・・!」

 

「最後に聞こうか。ハタはどこに行った?」

テイユが少し答えるのを躊躇うが、すこしすればすぐにため息をして話した。

「総統ならデュインに逃げたさ。xelkenの基地だ。そこでxelkenの兵器も組み合わせてあんたをつぶしに行くとか言っていた。」

逃げた?なんだ、私を捕まえるとか言っておいて自分からトンズラするなんてな。意外と腰の引けた奴だ。

「そうか。ならば、xelkenを落とせばよいことだな。」

「そうだ、私だって聞きたいことがあるさ。」

 

私がハフリスンターリブに入った理由だろうか?仕方ない。こいつはあと数秒で死ぬんだから教えたやるか。

「私がハタと5歳差というのは真っ赤な嘘だ。本当はすでに1000年は生きている。」

テイユは驚いた。

「!?」

少しずつ手に力を込めた。

「だ、だから・・・どうしたんだ・・・貴様の実年齢とハフリスンターリブに来たきっかけに何の関係がある?」

「ここに来たのは・・・両親の事情ではない。私の意思で来たんだ。」

「な、じゃあなぜそんなことを」

彼がすべて言い終わる前に頭をつかんでいた手に溜めていた力を全て開放して頭を爆破させた。

「すばらしい『兄弟』が・・・欲しかったんだよね。それでハフリスンターリブに潜り込んだんだが、ハタはそういうやつではなかった。」

そうだ、私はあそこを飛び出してちょっとみんなと会話を交わすことによってはるかによい家族を得られた。

「かわりに、ツァピウルという妻と、カラムという娘と、リファンという友人ができた。それで十分だ。」

最後の最も重要なことを言ったがその時にはすでにテイユの頭は飛び散っていた。こんな殺戮を行っている私もきっと地獄へ行くのだろう。

さて、あとはハタだ。ハタはデュインに行ったらしい。ならば地獄の底まで追いつめて殺すのみ。心配はいらない。ウェールフープ兵器を使ってくるとはいえその頃にはラネーメ公営地下鉄の兵器がある。

戦いはこれからだ。ここまで来たのはいいがまだ元凶であるハタを殺せていない。ハタを殺さないとこの戦いは終わらない。

「ツァピウルの敵は私が必ず取る」

 



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#47 打ち首

私は立ち上がろうとするがさっきの傷のせいで少しふらつく。

するとカラムが駆け寄ってくる。

「だ、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ、問題ない。」

すると下の方でものすごい音がした。床が一瞬揺れる。

「え!?」

ゴゴゴゴゴと、何かが近づいてくる。だんだん床が沈んでいるようにも感じる。すると車両が出てきた。きれいな直方体だ。そして中から一人の男が出てきた。

「おう、ラヴヌトラート。無事だったか。」

どうやらリファンのようだ。下にいた雑魚たちをすべて焼き払ったらしい。体中に傷がうかがえる。

「お、おい、リファン。大丈夫か?」

私は体を動かそうとするがこちらもふらつく。

「おいおい、お前こそ、いやお前のほうがやばそうだぞ?とりあえず横になってろ。」

とりあえず三人で座ってお互いに起こったことを話すことにした。

「はあ、とりあえず落ち着いたか。まずはリファン。なにかあったか?」

「えーっと、まずは一階から列車を上らせつつ雑魚たちを殺していったかな。ただ、その中でかなり有益な奴がいた。」

「・・・え?」

「そいつによると、あのイザルタシーナリアの時のシャスティ達は生きているっていうんだ」

「何を言っているんだ。全員再教育してxelkenにし上層部は殺したんだろう?」

「それなんだが・・・どうやら上層部の話らしい。」

「何?」

リファンは頭を抱えながら話した。

「世間的には打ち首ってことになっているが・・・」

「なっているが?」

「よく考えればおかしいんだ。」

「え?なにが?」

「なぜxelkenが打ち首なんて原始的な方法で処刑をするのか・・・聞けば処刑の時にはただ縄で縛るだけらしい。」

そんな甘い処刑があるのだろうか。

「光るメシェーラのウェールフープ縄を切って、ナイフを取り出して落ちてくる刃を受け止めてあとは一人で殺しまくって逃げる・・・そういったこともできるはずなんだ。」

「しかし、なぜそうなるんだ?そいつの言っていることは本当なのか?」

「さあ、それは分からない。実はもっと徹底されているかもしれない。」

「・・・だよな。」

なんだというような感じでため息をつく。

「まあ、こっちで起こったのはそれくらいだ。そっちはどうだ?」

「とりあえず、ハタの右腕であるテイユ=ハフリスンターリブ、そのほかの幹部たちは皆殺しにしたつもりだが、ハタだけはデュインに逃げたらしい。」

「え、っていうかデュインってどこだ?」

「あれ、知らないか?」

そうか。xelkenだけが使っている土地だから知らないのか。

「デュインっていうのはxelkenが見つけた新大陸だよ。新しい領土としてxelkenが私用している。主に拉致った人間を収容したりとかだな。」

「そうか、きみは元xelkenだもんな」

「ん?何の話だ?」

「いや、なんでもない。」

 

「カラム、何か見たか?」

「いえ、なにも」

しばらくあたりが静かになるがそこにリファンが何かを思い出すように喋った。

「あ、そういえば、この塔は後数秒で吹き飛ぶようにしておいたぞ」

「な、なんだと!?」

私とカラムがほぼ同時に叫ぶ。そういえばそうするしかないか。ここにハフリスンターリブが近寄ったりすると面倒だ。

「そ、そうか、とりあえず、逃げるぞ!」

私は急いで階段を降りようとした。

「いやいや、ラヴヌトラート。そんなことしなくてもだな・・・」

ピッ

「え、」

すると突然あたりが閃光に包まれた。

 



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#48 自滅

閃光が収まるとハフル楼の外にいた。

「は・・・」

カラムがいた。その横に社長が立っていた。はと方向を変えると、炎上するハフル楼があった。

「今は穏やかに燃えているがあと数分でドカーンだ。今すぐにでもデュインに行った方がいい。」

社長が言った。

穏やかに燃えているとはいってもかなりの大火事である。

「・・・そうか。わかった。皆、私に近づくんだ。」

決戦の地はデュイン。ついにハタを討てる。今度こそ逃がさない!

意識を集中させて手に気を溜める。世界をまたぐウェールフープの移動の場合はかなり体力を消費する。そして、はっと目を見開く。

「iska lut xelkener!」

瞬間、すさまじい爆発音が聞こえた。

 

――

 

ここはデュイン。とはいうがこれはリパライン語において命名したものであり本当はまた別の世界の大陸の一部なのである。その世界は一般的にスキ語世界と呼ばれ、他にもさまざまな世界から来た人間達がその言語を使って生活をしている。聞くところによると我らハタ人もここに住んでいるらしい。

 

「さて、ここが新大陸デュインなわけだが・・・ラヴヌトラート、大丈夫か?」

リファンが話しかけてきた。私のこの何か思いつめたような表情が気になったのだろうか?

実はリファンの読み通りで私には少し思い悩むことがあった。

最後、テイユを倒した時だ。奴はずっとハタの後を追ってきた。ハタに尽くしてきた。ハタに戦闘方法を教わったとも聞いている。実力で言えば私と並ぶはずなのである。それなのにずいぶんとあっさり負けてしまった。少々は抵抗したが、最後になにかを言い残すように私に話して死んで逝った。

「いや、最後にテイユっていってハタの右腕ともいえる奴を倒したんだが・・・あまりにも手ごたえがなくて。」

「ほう、ずいぶんと余裕だったようだな?」

「いや、そういうわけではないんだ。奴の目から本気とか、部下として私たちを生かせないようにしようという気迫が感じられなかった。」

「ふむ・・・奴が戦意を喪失していたとでもいうのか?」

「・・・そうかもしれない。」

そう思ってふと思いだす。

 

ケートニアーというものは一度全身を爆破されようが、頭を破壊されようが、ほんの少しだけ口をきくことができる。頭を内部から爆破させても、なお私に何かを伝えようとしていた。

 

――「ユーナリア・・・どうか、奴を・・・ハタを止めてくれ。あいつはもはやただのウィトイターではない・・・」

 

仮にも十年以上ハタに仕えてきた男。さすがに自らハタに挑むことはできないので自らが負けることでハタを何とかしようという魂胆だろうか。だが、あれほどの奴がなぜ今更ハタを?最後になにかあったのだろうか?

 

私の頭はそこまで回らず、気が付くと前方に大軍がいた。

 



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#49 再入獄

”見つけたぞ。ターフ・ラヴヌトラート。”

その大軍からは古リパラインが聞こえた。よく見ると見覚えのある旗を掲げている。

“貴様らは・・・xelken.valtoalで間違いないな?”

“とぼけるな。ラメスト遠征の後、貴様の戦友、エリと共に基地の休憩所にぶち込んでおいたはずだが突然隣に寝ていた王国の女と共にウェールフープで逃げたらしいな。すべてエリが話してくれたぞ。”

エリ?何の話だ?

“そこにいるのは王国の小娘と・・・ん?ラネーメ公営地下鉄?”

“黙れxelken!私の名前はラネーメ公営地下鉄ではなくアレス・ラネーメ・リファンだ!”

“何?リファーリンではなかったのか?”

“リファンだっつってんだろ!”

リファンは激怒した。しかし奴らは何者だ?何故私の名前を知っていて何故私に突っかかってくる?エリって誰だ?

 

すると、脳裏から何かが浮かび上がってきた。私はxelken.valtoalの勇敢な戦士。古リパラインの復活の為に生まれてきた。このファイクレオネに古リパラインを戻す。武力を持って古リパライン語を!

 

「おい、ラヴヌトラート、どうした?」

「お父さん?どうしたの?奴らと知り合いなの?」

ラネーメ公営地下鉄の社長?それと・・・なんだこの小娘の声は?

今度は一人の女性が浮かび上がってくる。そこにいた小娘と顔はよく似ている。が、小娘よりは成長している。

 

するとその女性は話し始めた。

“:@:/[@.[e@.@え@え;@[;@[4@;.\/?”

何を話しているのかわからない。ユーゴック語か?

“ラヴヌトラート、次の戦いが決まったぞ”

“ラヴヌトラート、よくやったな。昇格だ。”

「ガルタ、婚姻を・・・」

「私はただの・・・ラネーメ公営地下鉄の、社長だよ」

「革命をせよ!」

 

様々な人間が私に向かって問いかけている。彼らは確かにどこかで見た気がするのだがどうも記憶がぼんやりとしている。すると、またさっきの女性の顔が浮かんだ。

・・・ツァピウル?

 

――

 

「!?」

“目を覚ましたか、ラヴヌトラート。”

「・・・え?」

“どうした?私だ。xelken tarf eliだ。”

「いや、なんだお前・・・シェルケン?」

“ん?そうだ、シェルケンだ。お前はかつて私と共に奴らに我らの誇りを伝えるために戦っていた戦友だ。”

何を言っているんだろう。ここはどこだ?確か私はデュインに来て・・・

“あれ?おい、研究者チーム。再教育を本当に施したんだろうな?”

“ええ、エリ様。指示された通り。xelkenで戦っていたころの記憶をそっくりそのまま・・・”

「な!?シェルケン!?」

なんてことだ。捕えられてしまった。

“仕方ない。お前ら、もう一度あの装置にかけるんだ。”

“了解。”

「あ、おい、何をする!」

咄嗟に私が寝ていたベッドを爆破させて立ち上がり廊下を走って逃げる。そして突き当りで窓ガラスを見つけたので割ることにした。

「よし、外に出られる!」

“あ、ラヴヌトラートさん!どこに行かれるんですか!”

窓から飛び降りた。

 

「は・・・高層ビル?」

窓から出ると私は空に跳んでいた。

「っとぉ」

何もなかったので着地する。

一体ここはどこなのだろう。確かハタを追ってデュインに来たはず。カラムとリファンはどこだ?

そういえば大軍に囲まれたところまでしか記憶がない。

「まさか・・・二人とも私のようにxelkenに捕らわれたか?」

そう思ってさっき飛び降りてきた基地の壁に穴を開けて侵入する。

“は・・・ラヴヌトラート!?”

すると偶然、ある男がそこにいた。

“悪いな、俺は急いでいるんだ。俺が連れてきていた女の子一人と変な社長はどこだ?”

“・・・貴様が連れてきていた例の二人ならば一人は取り逃がして一人は無事捕えたはずだ。”

カラムか?まずい、再教育される前に助けに行かないと。

しかし、この基地のどこに牢屋があるのかわからない。そこでデパート感覚で案内図を探す。そう思って私は走り去ろうとした。

「うわっ」

“馬鹿め、ラヴヌトラート。そう簡単に逃がすか”

“さっきのおっさん・・・お前誰なんだ?”

“xelken.skarna。xelken.valtoalの第二番隊隊長だ。”

“ほう、ずいぶんと簡単に所属をばらしてくれるじゃねえか。”

“私の誇りだからな。”

“ならばいいさ、こちらもあんまり時間はない。今は貴様の相手をしている場合ではないんだ。”

“いや、逃がさん。Tarf.lavnutlart!”

Tarf?俺はFAFSのはずだが。

“仕方ないな・・・!”

私はとりあえず立ち止まってじっくりと相手をして倒してから進むことにした。

“ならば、教えてやろう。FAFS.lavnutlart、ADLPの者だ!”

“・・・は?嘘をつけ。貴様のどこにあのFAFS家の血筋があるというのだ!しかもfaliraがついていないなんて・・・貴様はTarfだ!”

“おいおい、Tarfという固有名詞は罵倒に使うものじゃねえぞiska”

“なんだと?”

私は走り、相手にウェールフープを纏ってスカーナを殴りにかかる。

「むん!」

“とうっ”

スカーナは避けた。

“まだまだだな。”

私は手をかざして叫ぶ。

“xelkenの糞野郎が!”

手からビームを放った。その閃光はそのまま真っ直ぐ前に進んでいきスカーナにぶち当たりビルを突き抜けた。

“FAFSの力、見たか!”

“なんだ、今の爆発音は!?”

“おっとっと”

剣を生成する。

“来るぞ!”

“駄目だ駄目だ!スカーナさんを吹き飛ばしたんだ!俺らに勝てるわけがない、逃げろ!”

「無駄だな」

剣を一振り。すると前方が一気に斬れた。

“うわあああああああああああああ”

相手は吹っ飛んだり、体が真っ二つになったり。

“くそ・・・ラヴヌトラート氏め!いつの間にここまでの力を!?”

私が斬った方向から機械が爆発する音が聞こえた。

「何かサーバールームにでもぶち当たったか?」

そう思いつつ案内図を探した。

 

「ここにはないな・・・」

そう考えてはっと後ろを向くとプレートがあった。そこにはたしかに見取り図があった。

「え、本当に地図があったんだ。何だこの基地。」

早速牢屋に直行した。

 



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#50 成敗

廊下を走るすると誰かにぶつかった。

「う・・・誰だ?」

すると一人の女の子が立っていた。

「だ・・・誰?」

すると少女は私を見るなりぽかんとした顔で私を見ていた。

「あ、父さん!」

「カラム!」

どうやらカラムのようだ。

「カラム!無事だったか」

「と、父さん。どうしてここが分かったの?」

「ほら、あれを見ろ」

「あ」

ともあれカラムとは合流できた。あとはリファンだ。

「カラム、リファンは?」

「ラネーメ公営地下鉄の社長なら私と同じように連れ去られたと思うけれどあの人のことだから抜け出しているんじゃないかしら?」

うむ、十中八九。抜け出しているだろう。あの社長がxelkenの奴らにおとなしく再教育されるはずがない。

するとすぐ横の廊下の壁が爆発した。

「おお、噂をすれば」

「私が死ぬわけがないだろうが」

だろうな。

「で、何があったか説明してくれないか?」

「いいだろう。とりあえず君はなんか知らんが倒れた。それでそのまままんまとここに連れてこられたわけだ。それで私とカラムちゃんは君を助けようとしたがハフリスンターリブのラヴァウが入ってきて君を取り返せなかったのさ。」

「私が倒れた?」

一体何の話をしているのかどうかわからない。

「まあ、話は最後まで聞きなよ。それで私とカラムちゃんは基地の場所を探って基地内に侵入して助けに来たわけだ。」

するとカラムが話す。

「そのあと社長さんがはぐれてしまって私はxelkenにつかまってしまったのよ。危うく再教育装置にかけられそうになったところで突然あたりが爆発して装置が壊れたの。」

なるほど、何かサーバールームにでも当たったかと思われた攻撃は再教育装置に当たっていたってわけか。それはかなり危なかった。なぜならちょっと間違えたらカラムがxelkenとなっていたところだったのだ。

「リファン、迷子になるなよ」

「いやいやカラムちゃんが迷子になったんだろう」

 

とりあえずみんな集まった。テイユの言葉によればデュインのxelkenの基地に逃げたらしい。ということはここにいるのか?

それならば話は早い。すぐに部屋全体を爆破させてハタを見つけ出そう。そう考えていると上で爆発が起こった。すると何かが下に降りてきた。

「おっと、これはリアルにまずいな・・・」

我々はxelkenの軍と思わしきものに囲まれた。四方八方。

「どうするリファン、暴れるか?」

「いや、どうやらここはあんたの出番らしい」

すると奥の方からすさまじいウェールフーポが感じられた。

「はっはっは、わざわざ俺のところまで来てつかまりに来るとはな。邪魔ものよ。」

「ハタ・・・」

「はっはっは、本来であればそこの社長も小娘も再教育して貴様を殺させようとしたのだが予定が狂ってしまった・・・!かわりに私と奴らが貴様らを無慈悲に殺していこう。」

「奴ら?」

すると大軍は準備を始めた。前に並んだのは何台ものWP大砲と数台のNZWP。

「な・・・!」

「はっは、ユーナリアよ。私は反逆者を許さないさ。もちろん強いものに寄り添って生きていくのも嫌いだ」

「貴様は王国内であるシャスティの女の子に媚を売ってスカルムレイに接触できるほどの地位を上げただけに過ぎない!そんな奴はこの俺が成敗する」

私は憤怒した。

 



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#51 感情による犠牲

「どうした?この大軍を前に恐ろしくて動けねえか?」

「父さん・・・?」

「あーあ、この男、多分死んだぜ」

私はうウェールフーポさえも口から吐き出してしまいそうな勢いで叫んだ。

「黙れ!言った筈だ。私は彼女を守りたいと思ってこの行為に及んだ。お前に反逆した。いや、まずお前の考えにはちっとも賛同できない!」

ハタは睨み返した。

「ならば・・・死ね。三人ともな。」

すると奥から何人もの女性が現れた。彼女らは全員スカルタンを着ている。

「な・・・アケハフルの戦いのときのシャスティ・・・!」

「このなかに貴様の愛した女も入っているかもな。奴らを殺せ!」

やはり、情報通り、生け捕りにして洗脳させたらしい。だが彼女らは一人だけでもかなり強いし相手は女性。私が直接手を差し伸べるのも気が引ける。

「はっ、やはりそこは貴様らしいな。ユーナリアよ。女性が相手だと手が出ないんだろう?」

するとナイフが体に刺さった。どうしよう。ここでモーニを全開にしてケートニアーの体を使って元の王国民に再教育するか。

「Jiesesn!」

「リファン、聞いてくれ。彼女らを私が一人で再教育する!こうして見方を手に入れないと無理だ!さすがに私たち3人で大軍を相手するには無理がある!」

「はっは、ラヴヌトラート。その心配はないんじゃないかな。」

え?

「何のために彼女を連れてきたんだい?」

そう言ってカラムを見た。カラムは手に気をこめて戦闘準備をしていた。

「な、そんなの無茶だ!彼女らは一人だけでもかなり強いというのに!」

するとリファンは顔を変えた。

「安心するんだ。敵の女性たちは皆ネートニアー。ケートニアーとネートニアーの差別の歴史ぐらい、君も何年も前から見てきたはずだ・・・」

カラムは手をかざしてあたりを爆破させた。

 

「くそ、カラム!彼女たちを頼む!ただし、殺しては駄目だ!」

「ええ?私、これ撃てるのは分かったんだけれど強弱とかはまだわからないよ!?」

「ははは、大丈夫だよ。カラム、お前自身の感覚でやればいい・・・」

 

さて、我ら二人はハタの首を――

と、そこに銃弾が見えた。なんだ、何が起きている。

「あ・・・あ・・・」

リファンは胸を押さえてうずくまっている。

――リファン?

「リファン!リファン!」

リファンがどうやらウェールフープライフルで撃たれたようだ。

「り、リファン!お前、ケートニアーじゃないのか!?何故倒れるんだ!」

「い、いいから・・・お前、その力で治療できるんだろう?」

「あ、ああ、できるさ」

私はウェールフープでリファンの傷を治療しようと手をかざす。

すると私は後ろから何かに狩られた。

「!?」

気が付くと私の頭は吹き飛んでおり、何も見えない。体からは膨大な量の血が飛び出しており、内臓の様なものさえ見える。

「無力だな・・・」

ハタの声が後ろからした。

私は吹き飛んで廊下のずっと向こうにまで飛ばされた。そこにはカラムも同じように血を流して倒れていた。

「カラム!?」

「く、父さん・・・おそらくあの女たちもウェールフープを・・・!」

ウェールフープ可能化剤だろうか。さすがハフリスンターリブ。手下にするときはきちんと力を与えるか。

「戦場において、感情を持ち合わせるということはすなわち・・・死を意味する。」

「ま、まだだ・・・私はケートニアー・・・カラムもケートニアーだ!」

私はもはや血の塊でしかない手を押さえながらゆっくりと立ち上がった。

「愚かだな、過活動交換症候群というものを知らないというのか?」

私ははっとした。あんまり大きな損傷を受けると造・発モーニ体が異常に動いてしまう。最悪の場合ケートニアーでも死に至る。

「あ・・・頭痛が・・・」

「過活動交換症候群は休めば何とかなるが・・・そうはさせねえさ。お前ら!」

数台のウェールフープ砲がこちらを向く。

「まずはケートニアーの二人からだな・・・!撃て!」

私はやっと目が回復してきて周りがはっきり見えるようになってきた。

だがすでに遅かった。ウェールフープ砲からは閃光が見えた。

 

せっかくここまで来たというのに、こんなところでハタに攻撃を当てることもできずにやられてしまった。これでは今は亡きツァピウルに合わせる顔がない。

すまなかった。

 

――すると、有字のカリーファの文字が刺繍されたスカートが目に移った。

「そうはさせません」

 



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#52 サニス第二条約

私は生きていた。

初めの数秒間はそれが理解できなかったが”彼女”の顔を見ると理解した。

「あ・・あ・・・ツァピウル・・・」

それは確かにツァピウルだった。彼女はウェールフープ砲を全てハタの方向に向けた。

「王国の敵!」

「は!?」

ツァピウルはそれらの砲台をすべて発射させた。見事に全てハタに的中した。

「つぁ、ツァピウル!い、生きていたのか!?」

ツァピウルは私に背を向けて爆破を見ていたがやがてこちらを振り向いて笑った。

「はい、生きています。」

「な、ハタはとっくに君を打ち首にしたと聞いていたんだが・・・?」

するとハタは煙を切り裂いて再び現れた。やはり生きていた。

「あー畜生!」

「タフな奴ですね」

「くそ・・・ケンソディスナルめ・・・やはりxelkenから無理矢理奪ってしっかりと殺しておくべきだった!」

 

――

ここはデュインのxelken基地。ここではアケハフルの戦いでハタに挑んだシャスティ達が生け捕りにされていた。

“xelken.valtoalよ、あんたのところに投資だ。”

そこにはツァピウルも含まれていた。

“おっと、待て。そこの5人はこちらのものだ。そいつらが生きているとこちらに害だ。”

“どういうことだ?再教育すれば記憶もすべてなくなるはずだが・・・”

ハタは少し考えてやがて男のほうを向いた。

“そうかもな。全員お前のところにやろう。”

 

そのままツァピウルも含めて全員再教育された。これで女性たちはxelkenの兵となった。

“ところでもっと強い奴らはいなかったのか?女ばかりじゃこっちの戦闘力になるかどうか微妙だぞ?”

“なーに、心配するな。そいつらは王国の戦士の中でも精鋭中の精鋭だ・・・その辺のケートニアーくらいなら容易で殺れる。”

――

 

「少々難しいが・・・ツァピウル=ケンソディスナル。ここで貴様を殺す!」

するとツァピウルはハタの後ろにテレポートをし、一瞬のうちにハタの頭を粉々に斬った。

「カ・・・」

「おお」

 

ハタは倒れた。するとあたりが強烈な爆発を起こした。

“な・・・基地が吹き飛ぶ!?”

すると後ろから声が聞こえた。

「ケンソディスナル氏!連邦軍を呼びました。まずはこっちの軍でハフリスンターリブとxelkenの連合軍を全滅させます!」

「す、スカルムレイ陛下?」

そうか、サニスの件だ。私がいない間に連邦まで行って援軍を申請したのだろう。とりあえず彼らが戦ってくれれば勝機が見えてくる。

 

ハタとツァピウルのところではまだハタが倒れている。

「ハフリスンターリブ、愚かですね。」

「く・・・まだ効果が残っている・・・!」

ウェールフープ可能化剤はその人間の心理状況にかかわらずウェールフープを使えるようになる。ハフリスンターリブが我らを迎撃する前にウェールフープ可能化剤を打たせてツァピウルを一時的にケートニアーにしたのだろう。

「ここで少しでもあなたにダメージを与えることができれば上出来!」

するとあたりが爆破して周りが見えなくなった。

「!?」

“なんだなんだ?”

後ろから何かが迫ってくる。激しいモーニ交換が感じられる。

 

――

 

昔、まだユエスレオネができていないころだっただろうか。ファイクレオネではケートニアーとネートニアーの差別が激しかった。圧倒的な力を持つケートニアーはウェールフープで世界を、弱小なネートニアーを支配していた。ケートニアーがウェールフープを乱用し、ネートニアーが絶滅しかけていた。

リパラオネ教にもウェールフープで人殺しはしてはいけないと言われてきた。しかし、そんな戒律も守らない人のほうが多い。

そこでリパラオネ連邦はケートニアーによってネートニアーの数が減ることを危惧して物理的にケートニアーを大量に殺した。私はケートニアーだったがFAFS一族という皇族に属していたため殺されることはなかった。

しかし、友達であったケートニアーはみな殺されることになった。私はそれを何とか阻止しようとも思った。しかし、数十人のケートニアーにはさすがに勝てない。

ついにはケートニアーを一か所に集めてウェールフープをより効果的に使う大量殺戮兵器をも用いて数を減らしていった。Wper殺害減滅計画だ。

 

――

 

「こ、これはNZWPの爆破だ・・・」

当たりは吹き飛び私もどこかへ飛ばされた。

 



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#53 親子

――

ツァピウルとそのほかのシャスティは結局全員再教育装置にかけられxelkenの兵士となった。当然ネートニアーなのでウェールフープ可能化剤を投与して無理矢理ケートニアーにした。

 

そこへ、ガルタ=ケンソディスナル、もといユーナリア=ハフリスンターリブとケンソディスナル家の跡継ぎであるカラム=ケンソディスナル、ラネーメ公営地下鉄のアレス・ラネーメ・リファンが現れた。彼らはxelkenとハフリスンターリブを王国から守ることを目的としていた。

 

もちろん、ツァピウルもその戦いに駆り出された。すると彼らはある一人の少女を私たちに戦わせた。その少女はかなり強かった。しかし、こちらはウェールフープを一時的ではあるが使えるようになっている。そんなに押されるような相手ではない。

ツァピウルは真っ先に前に出てカラムを吹き飛ばそうとした。

しかし、私はその子の前に現れるとひどい頭痛が起こった。

この子は自分には殺すことができない。なぜかは分からないがどこからかそう思ってしまった。気が付くともうほかのシャスティ達がとっくに少女を殺そうとしていた。

 

すると、目を覚ました。

「カラム・・・生きていたのね・・・」

――

 

「私を殺さなかったおかげで・・・私がその子に会えたおかげで私はまた王国の戦士として戦うことができます。」

 

――

 

爆発がやんだ。どうやら連邦軍がNZWPをぶっ放して基地を丸ごと吹き飛ばしたようだ。跡形もない。

“く、連邦軍だ!それに・・・あの女は何だ?”

“xelken.valtoal!どうやら他国に進出していたらしいな。今回はハタ王国に加勢しにきた!”

あれは連邦軍の司令官のようだ。よかった。あれさえ加勢してくれれば大量のxelkenとハフリスンターリブ軍をやってくれる!

 

それにしても、私は何かの下敷きとなってしまったようだ。体が動かない。まずは退かさないとダメか。そう思って上に乗っかったものに手を回した。

「ひゃっ!?」

「え」

 

「あ、ラヴヌトラートさん、ごめんなさい!」

「ああ、ツァピウルが乗っかっていたのか!」

だが、あと一人足りない。

「じゃあ、カラムは?」

すると私の腰のあたりで何かが動いた。

「あ、父さん、ごめん」

なるほど、二人とも私の上に乗っかっていたわけか。どうりで重たいと思った。

「ああああラヴヌトラートさんの上に乗っかるのってあの時以来ですわ・・・」

 

「はっはっは、親子三人、仲がよさそうだな!」

「ああ、リファンか」

リファンが胸を押さえてこちらに歩いてきた。

「リファン、傷大丈夫なのか?」

リファンは目を閉じた。

「血さえあれば生きていられるさ。」

私は安心した。

「よかった。」

「それに・・・リア充に心配されるほどではないさ」

「妬んでろ。どうせ興味ないだろ」

「ああ、そうだな。女に恋するより、列車の新たなデザインを考える方が好きだな。」

ハタはどこに行ったのだろうと辺りを見回した。だが、どこにもいない。消えた?

 

「きゃー!あなたって確かあの時の・・・」

ツァピウルがリファンを見て叫んだ。

「ん?そういう君こそもしかして・・・」

「ネステル駅で暴れてた変人っ」

「心外!それに今は彼の友人だ!」

「え、ラヴヌトラートさん、本当なのですか?」

ツァピウルは私に尋ねた。そうか、あの時いたのはスカルムレイ陛下だった。

「・・・そうだな。彼は友人だ。私と共に戦ってくれる。」

紹介を受けたリファンは自己紹介をした。

「改めて自己紹介だ。アレス・ラネーメ・リファン。ラネーメ公営地下鉄の社長をしている。好きなことは電子工作と兵器実験、そして新車両の考案だ。」

 

「それにしても・・・参ったな。連邦の力に頼らずに、あの状況を打開したかったが・・・やむを得ず連邦に頼ってしまった。」

「リファン・・・」

「すまなかったな、友人よ。我らラネーメ公営地下鉄は君との約束を守りきることができなかった・・・」

「いいんだよ、絶対に約束を守るという縛りがあんまりきつくなると・・・主従関係になってしまう。それに・・・」

私は後ろで私を狙う男を見た。

「目的は奴を殺すことだ。」

 



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#54 足手まとい

ハタはにやっとした。

「連邦の邪魔が入って・・・しかもそこの女のおかげで命拾いしたな。反逆者。」

「命拾いではない。助けられたんだ・・・貴様にはそんなことは絶対ないだろうな!」

私は体内にあるウェールフーポを活発化させた。

「私が1000年かけて鍛えてきたウェールフープ技術。貴様を倒すために全力で使う!」

「はっはっは、貴様は馬鹿だな。そういう強大な力を他人のために使うとはな」

体の中からバチバチと音がする。

「ツァピウル、カラム、下がっているんだ。」

「ラヴヌトラートさん、私も戦います。」

私は後ろを向いた。

「もう一度言う。下がっているんだ。」

ツァピウルは私に詰め寄ろうとする足を止めた。

「・・・はい」

「ずいぶんと余裕だな!」

ハタは巨大な拳を私に当てに来た。私は気づくのが少し遅く。ぎりぎりのところで剣を生成して受け止めた。

するとものすごい轟音がなる。地面は少し凹み、衝撃波が飛ぶ。ツァピウル達は大丈夫だろうか?まあ社長がいれば大丈夫だろう。

「よそ見をしている暇などないぞ」

ハタは今度は拳を固定させながら手刀のように手を振り払った。

私は少し後ろに飛んだ。するとハタはツァピウルとカラムの方向を向いた。

「足手まといならば二人もいる!」

そんな・・・まさか!

「ツァピウル、カラム!逃げろ!」

駄目だ。間に合わない。

 

「ウグァアア!」

なんだ?何が起こっている。

ハタが血を流していた。

 

「父さん、私たちが何の戦力にならないとでも?」

「カラム、あなた強くなったのね。」

ツァピウルとカラムは二人して刀を構えていた。

「ハタ、もうさっきみたいに調子を取り乱したりしないさ」

「ち、ならば仕方がない。正々堂々、貴様を殺しにかかろう」

 

ハタは私の後ろにテレポートした。気が付けば頭がない。目も潰されたらしく何も見えない。

「!?」

「死ぬがよい。」

そのあと体に猛烈な斬撃を感じることができた。

見えないが体中から血をふいていたと思われる。

「今度こそ!」

すると目が復活して見えるようになってきた。ハタの追撃を察知してすぐに避ける。

ハタは私を後ろから殴って吹き飛ばそうとしていたようだ。あいにく私は避けたのでハタの周りは土ぼこりが立った。

「今度こそ目をつぶしてやるさ」

そろそろこちらからも攻撃を仕掛けよう。私は手を振り払った。

「当たらん!」

 

ならば、と思い両手を合掌する。

すると周りの地面がせり上がり爆発した。

「な・・・」

 

「とどめはこれだ」

私は爆炎に近づいて当たりの酸素を一気に抜く。すると炎はすべて消えた。中にはハタが喉を押さえて確かに倒れていた。



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#55 劇薬「ハフリンタ」

二人が真剣勝負をしている間、周りでは連邦軍とxelken軍の千万の兵たちが激戦を繰り広げていた。若干連邦が押しているように見える。

“撃て!撃て!”

これはxelken.skarnaの声であろうか。

たまにこちらに流れ弾が飛んでは来るが大体当たらない。すべて避けている。

さて、こちらの戦況だがハタはさっきの無酸素空間で倒れたままだ。一か所にとどまって動かない。奴のことなのでここであきらめたわけではあるまい。いやな予感がする。多分生きている。

はっと後ろを見るが何もない。連邦軍がいた。

“あ、ラヴヌトラート殿、独裁派を討たれたんですか?”

“よく見ろ、まだ動いている。”

 

本当に死んだかどうかを確かめるべく。無酸素空間に岩をぶつける。当たりは砂埃が立ち視界が悪くなった。そこで腕を一振りし煙を吹き飛ばす。

“あのーもう倒せたのでh”

“連邦兵!”

喋っていた兵士の頭が突然破裂した。それにビビッて周りにいた兵士もそこから離れる。

“うわああ”

“またか!”

また一人の頭が破裂した。

「ハタ!出てくるんだ!」

どこを見ても微量の砂埃が舞うだけでハタの姿は見当たらない。

「!?」

すると体が真っ二つに切れた。

“ラヴヌトラート殿!”

 

私はその場に倒れ込む。前を見るとハタがいた。

「ハタ!」

ハタは確かにそこに立っていたが目が赤く光っていた。そして顔は常に無表情。何もしゃべろうとしない。

「オレハ、反逆者ヲ許サナイ・・・」

私は上から迫る何かに潰されて目がまた見えなくなった。

すると後ろ半分が丸ごと削り取られた感触が感じられた。

「く・・・これはなんだ・・・」

覚せい剤でも服用したのだろうか。さっきまでとは明らかに顔も違うし・・・

「愚カダナ・・・!今俺ガ飲ンダノハ我ラハフリスンターリブノ傑作、『ハフリンタ』ダ」

ハフリンタ?ハフリスンターリブは薬剤にも手を染めていたらしい。それを使って自分の実力を上げているということだろうか。

だが、クスリには副作用というがある。効果が切れればこっちのものだ。

「サア、死ね」

ハタは赤く光る手を横に振った。私は地面をけって高速でジャンプし100mくらいの高さまで跳んだ。

するとハタの攻撃は半径10mくらいまで及びそのあたりにあった瓦礫をすべて弾いて見せた。

「同心円状に広がる衝撃波か・・・」

私は上から攻撃しようと大量の弓と矢を出現させて射抜く。

そして高速で下に降りてハタを取り囲むように衝撃波を撃つ。こうすればハタは押しつぶされて矢の雨の餌食になる。

「無駄也」

ハタは自身に流れてくる衝撃波を受け止めてこちらに投げてきた。

「何っ」

私は衝撃波を避けようと横に転がる。やがて上から矢が振ってくるがハタが手をかざすとそれらはハタの前で止まって消えた。

「やっぱりただでは攻撃は通らねえか。」

すると、ハタが唐突に吹き飛んだ。

「!?」

次に倒れたハタに追い打ちをかけるように二両の列車がハタを押しつぶした。

 



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#56 共闘

すると後ろからリモコンを持った社長が歩いて近づいてきた。

「ラヴヌトラート、君は何のために奴に挑むんだ?」

「・・・?」

「たしか最初の目的は、君の愛する人の敵を討つためだったはずだ。しかし・・・」

ラヴヌトラートと私は岩に持たれてこちらを眺めるツァピウルを見た。

「見てみろ。彼女は君に下がっていろ、と言われて君が押されている。」

「だ、だからなんだ。ツァピウルは生きていたとして私にはこれからの王国の為にこいつを倒さなければならないんだ・・!」

するとハタはこちらが隙だらけだと思い込んで攻撃してきた。私はそれを寸のところでガードする。

「そうじゃない。君は忘れているのさ。」

「・・・?」

「いつまで『ハフリスンターリブの反逆者』と思っているんだ。自分がつらいときは我々に頼ればいい」

「やめろ、危ないぞ!こいつは元の力は弱いとは言っても覚せい剤使ってこの私を殺そうとしているんだ!」

「・・・そのために自らが死んでどうするんだ。折角君の妻を助けられたというのに、ここまで来たというのに、ここで形式なんかだけ考えて我々を使うという手を使わずにどうするんだ!?君が何を言っても私が協力する!あの二人だって協力するぞ!?家族だからな!」

「・・・」

私は過ちを犯していた。社長の言うとおりだ。たしかに、この状況ではハタを倒すことはできない。

「人間は社会的な生き物なんだ。それは、ケートニアーも同じ。我ら四人で全力を尽くせ!」

 

「そうだな。」

私はカラムとツァピウルのいる方向を向いて、訴えた。助けが必要であること。今まで悪かったという気持ち。

すると口に出さずとも二人は立ち上がって走り始めた。

「無駄ダ・・・ナンニンカカロウガ・・・」

ハタは地面に手をやり前にやった。すると衝撃波が飛び、地面が二つに割れはじめた。

「ま、まずい、二人とも!逃げるんだ!」

しかし、二人は前を向いたままハタに近寄って刀を構える。ツァピウルは地面を走ったまま。カラムは空高く跳んだ。

「気にするなよ、ラヴヌトラート。」

リファンが手を差し出すと一両の列車が出現した。

「速度全開だ!」

列車がハタを轢いた。するとあたりに血が飛び散ってハタの姿は見えなくなった。

「当たったか?」

列車が通り過ぎる。するとそこには血まみれになって倒れたハタがいた。

「は、今だ!」

私は手からウェールフーポを開放して構えた。

そこへツァピウルが剣でハタを三等分にした。そこにナイフが数本刺さる。

「な、ケートニアーにはその程度じゃ効かないはず」

するとナイフが爆発した。おまけにさっき斬りつけたところも爆発する。

「王国の兵器にはウェールフープが仕掛けてあるのです!」

今だ。

私は溜めていたものを全て前方に出した。巨大ビームだ。いくらなんでもあの状態からこれを食らえば死ぬだろう。

「喰らえええええええええええええええええ」

 



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#57 神よ

手から強烈な光とウェールフープ波が飛び出し、ハタに直撃する。

「な、・・・」

最後に死にかけのハタの声が聞こえた。

外からは中が確認できないほど光っていた。

 

――

 

光が収まりあたりが見えてくる。ビームが直撃した地面は見事にえぐれ、そこから先まで広がっていた。ハタは死んだか、それとも跡形もなく消え去ったか。

社長が確認しに行った。

「リファン、どうだ?」

私は空を飛びつつ近寄った。

「血も残っていない。吹き飛んだんじゃないか?」

「うーん、どうなんだろう。」

「ビームがでかすぎて当たったのかどうかもわからないんだよな。このまま数秒誰も切られたりしなければ大丈夫かもな。」

うーん、どうだろうか。奴はしぶといから。

すると連邦軍の司令官、スカルムレイが近寄ってきた。

「あ、陛下」

“君がうわさに聞くガルタ=ケンソディスナル氏か。”

“ああ、いかにもそうだ”

“独裁派の棟梁は君たち四人が倒すことになっているとスカルムレイ陛下から聞いている。終わったのか?終わったのであればこの戦争を続ける意味はないんだが。”

“・・・それが、奴のことだから、死んだのかどうかまだわからないんだ。死体も見つからないし。このまま数分間誰も殺されなければ大丈夫なのかもな。”

“うーむ、難しいな・・・”

「ケンソディスナル氏、どうですの?」

「まだわからないです。今はただ、後ろに注意を払っていただければ・・・」

 

――!?

刹那、スカルムレイに斬撃が及んだ。

「きゃ・・・」

「へ、陛下!」

「スカルムレイ様!!」

ツァピウルがスカルムレイに近寄ってきた。

スカルムレイは背中の下のあたりを斬られたらしく、後ろから倒れた。

「くそっ、やっぱり生きていたか、ハタ!」

「いつの時代も、いつの時代も、結局は経験が勝つ。貴様のさっきのビームだって1000年の時を経て得たものなのだろう・・・」

ハタはこちらに手を向けていった。

「全く不憫である!ならば・・・あらゆる手段を使って貴様らを再生不能にしてくれる!!」

ハタの手に気が集中し始めた。

「く、来るか!」

“ご安心を、ケンソディスナル氏。今すぐにウチのNZWPを・・・”

「あんたの軍のNZWPならばすべて私が爆破しておいたさ・・・それに、ここ一帯に結界を張る。逃げられないさ」

結界!?

するとツァピウルが手に抱いていたスカルムレイが起き上がって叫んだ。

「あなた・・・結界なんて張れるのね・・・」

「それがどうした。スカルムレイ」

「・・・あなたがこの地で好き放題暴れ始めてから・・・他国から何の輸入も来ず、ネステル港からの船も全く帰ってこないと思ったら・・・あなたのその奇術のせいだったのね!?」

ハタは笑い始めた。

「クックックッ、その通りだよ・・・」

 

「外部からの刺激があるから、自らの政権をとりのがす!外部からの刺激なんかがあるから時代は変わってしまうんだ!ならば、それらを全て取っ払ってしまえば我らの支配が永遠にこの地に続くと思ったのさ!」

なるほど、こいつがすべての事件を犯していたのか。しかし、それをこちらに話してしまったのが運の尽きか。

 

「そういうわけだ・・・無力なネートニアー!そして王国民よ!貴様らは先に死んで逝った同じ王国の無能たちと共に屈辱を味わうのだ!」

ハタが手に溜めていた気を全てこちらに放出した。私は抵抗をしようとする。

「させるか!」

こちらも走り出して手に溜めて相手に放出する。しかし、あんまり巨大なものは出ない。さっきのでかなり使い果たしてしまったようだ。

「はっは、弱い!」

 

光る。辺りが光る。私が弾き飛ばされたように感じられた。

「な、何が起こっている?」

私は全くダメージを受けずにハタの方向を見ていた。同じように、スカルムレイ陛下も、ツァピウルも、カラムも、リファンも見ていた。私は今までに見たことのないものを見た。いや、「もの」と呼んだら失礼か。

なんせ、目の前にいるのは間違いなく・・・

「我はアルムレイ あなたたちの媒体です」

私はあまりにも強い光を前に直視ができずに女性っぽい、高き声を聞いていた。

「今、この男は私を侮辱したうえにこの支配者であるスカルムレイを殺そうとしました 私は この男をチェクセルによって永久にイミレホのできぬように 縛ります」

声が出ない。

するとハタが前に倒れ、血が一気に噴き出した。そして見る見るうちにハタの体は見えなくなり、血は天に昇り謎の黒いものによって見えなくなっていった。

 



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#58 戦争の終結

気が付くと、部屋のベッドで寝ていた。

「・・・?」

となりには誰もおらず、正面に時計がぶら下がっているだけであった。私はベッドから降りて窓を覗いた。

そこには以前にも見覚えのある中央フェーユの街並みが広がっていた。

私は最後の記憶を引っ張り出すことにした。

 

たしか、ハタと戦っていた。それで最後にハタにとどめのビームを当てたはず。それからどうなったんだっけ?あのまま勝ったのか?なぜ意識を失っていたんだ?

“ツァピウル殿、こちらに旦那様を寝かせております。”

“ありがと、助かる”

ツァピウルの声がする。まだ不自然なリパライン語。しかし三代目だ。

「ラヴヌトラートさん」

私は後ろを向いた。ツァピウルが立っている。

「どうしたんだ、ツァピウル?」

 

――

「そうか・・・君も記憶がないのか。」

「そうなんです。聞いてみればスカルムレイ陛下も、カラムも、社長も、司令も、あの時あそこでハタに狙われた人はみんな記憶がないのです。」

「ハタに一時的に記憶喪失にでもされたのかな?」

冗談を交えて私は言った。

「それは・・・違うと思います。」

ツァピウルは結構はっきり断ったがそれ以上私から理由を聞くことはなかった。

 

「先に言っておきます。これから私とあなたはこの建物を出ます。今夜はリファン氏に食事を食べに来てほしいとのことなので、昼から彼のビルまで行って途中はどこかで食べます。」

「そうか・・・陛下たちはどうしたんだ?」

「リファン氏は先ほど言った通りですね。スカルムレイ陛下は貴方より目覚めるのが早かったのですぐに使者を呼んでネステル・アルパに帰られたそうです。司令は軍に戻りました。カラムは今は外を散歩しています。あとは私二人だけです。」

カラムは外を歩いているのか。平和だな。

「結局、あの戦いはどうなったんだ?」

「連邦が勝ったらしいです。ハフリスンターリブもxelkenとともにそこでやられ滅びました。今ならもうスカルムレイ陛下の王政が復活していると思います。」

「そうなのか」

連邦が勝った。ハフリスンターリブを倒すことができた。よかった。私はこうして生きたまま平和な世界を見ることができている。まだフェーユにいるみたいだけれど、早く元気になったネステルと、イザルタを見たい。数年放置したままのディスナルも活気が戻っているかもしれない。

「早く、王国に帰りたいな。」

「ええ、本当です。」

 

するとドアが開いた。

「あら父さん、起きていたのね。」

「おう、悪いな、寝覚めの悪い父親で」

「いいよ、敵はもういないんだ」

カラムもそろったので早速ラネーメ公営地下鉄の本社まで行くとしよう。

私は支度をしてビルを出た。そのビルはどうやらあの時スカルムレイと泊ったホテルであった。

「結局あれ、爆発してないよな。」

「どうしたんですか?」

「いや、なんでもない」

 



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#59 愉快な本社ビル

中央フェーユの中心街に着いた。

「はー、ここがフェーユというところですかー!」

そうか、前に行ったのはスカルムレイと一緒だったか。ツァピウルは初めてか。当然カラムも初めてだろう。

「すばらしいわ。ハタ王国もこれくらい栄えるといいわね。」

 

私は二人を誘導して駅への入り口に着いた。

「奴のところまではラネーメ公営地下鉄を直接乗り継いでいった方がよさそうだ。」

乗ったのは中央フェーユ、フェーユ駅。そこからアル方面行きに乗ってパルソガで降りる。そこが一番本社ビルに近いらしい。

「乗るぞ」

パルソガまでは十駅くらいある。つくのには十分ほどかかるだろう。

「父さん、この電車は外が見えないのね。」

「今は地下を走っているからね。」

 

――

 

“Palcoga, Palcoga, fqa es palcoga.”

「ん、パルソガって言ったな。おーい、ツァピウル、カラム、起きろよー」

二人は電車に乗っている間に寝てしまった。そこで無理矢理起こす。

「あ、これ起きないわ。」

私は二人をウェールフープでホームの椅子にテレポートさせた。

そして私が降りる。

「よし、起きるんだ」

「んー、んん?」

「父さん、次の駅何?」

「いや、もう着いた」

「え?」

 

階段を上って改札を通って案内図を見る。すると駅のすぐ近くに「らねーめこうえいちかてつのほんしゃびるーみたいな?」と書いてあった。

「自己主張の激しい奴だな。」

しばらく歩くと巨大なビルの前に着いた。看板には「Raneeme’d menas cokangterf」と書いてあった。

「ここか・・・」

すると中央の入り口から男が出てきた。リファンではない。

「よくぞ、おいでくださいました。ラヴヌトラート殿。私はアレス・ラネーメ・リーダと申します。社長のご招待を受けたのですね。ご案内いたします。」

男は前にも聞いた、ラネーメ公営地下鉄の幹部の名前である

「さきに忠告しておきます。わが本社ビルには列車のトラップが大量に仕掛けられております。迂闊にとおまわりするとか、手すりに触るなどのことがないように。」

「手すり?手すりに何か罠が施されているのか?」

「それは企業秘密なので言えませんが、手すりに触ると、死にますね」

さすが、ラネーメ公営地下鉄。警備も抜かりなしか。

 

入り口から入ると何やら鉄のドアがあった。すると男はなにやら呪文を唱え始めた。

「>+`>*{$(“)*>?>”}$$%”~==|」

するとドアが開いた。

「そういえば、ここの社員はユーゴック語を話せるのか?」

「ご存知かもしれませんがわが社はハタ王国に投資をしておりますし現在はハタ王国の大規模都市開発計画にも貢献しておりますので毎年本社ビルにハタ人の教師を招いて社員全員にユーゴック語の教育をしてもらっています。。私のような幹部ともなりますとなおさら必要となってくるのです。」

なるほど、連邦と王国、互いに存在を意識し、互いの文化を尊重するようになったか。グローバル化というか、それが進んだのかな。

 

「社長は24階にて待っております。」

しばらく階段を上っていると部下が上から降りてきた。

“お、社長のご友人ですか。聞いておりますよ。アレスといいます。”

“おう、それはどうも”

“あ、君、”

“え、”

するとその下っ端はうっかり手すりに触れてしまった。

すると階段の上の方からものすごい轟音が聞こえてきた。

“ああああ、まずいぞ”

なんだ?いったい何が起こるんだ?

「君たちは少々下がっていてくれ」

え?

「なんだなんだ?何が起こるんだ?」

「私が食い止める」

「何を!?」

謎の轟音はどんどん近づいてきた。

「な、なんですか?何が起こっているんですか?」

 

すると階段の向こうからなにやら巨大な黒い球が転がってきた。

「鉄球!?」

黒い球を確認したリーダは謎の構えをした。

 



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#60 その男、アレス・ラネーメ・リーダ

「うわわわわわわ逃げろおおおお」

「お待ちください、逃げる必要はございません」

「だ、だってなんか重たそうなものが来ているんですよ?私の剣技で斬れそうな気がしません!」

「ツァピウル、彼を信じよう」

ツァピウルは落ち着いた。

「・・・はい」

ついに鉄球はこちらにどんどん近いて、もう2m以内に近づいた。

 

「やああああああああああああああああああああああああああ」

リーダが謎の奇声を上げたと思ったら謎のパンチを炸裂し謎の鉄球が謎の破壊をされた。

「謎だ・・・」

「さて、進みましょう。」”アレス君、手すりに触れてはいけませんよ”

“はい、気を付けます”

いや恐ろしい。普通の社員でも死にそうな目に合うのか。

 

もう5分ほど階段を上っているが一向に目的の階につかない。

「今何階だ?」

「今12階と13階の間ですね。」

「ツァピウル、カラム、大丈夫か?」

「ええ、な、なんとか・・・」

「なあ、リファンはこのビルにエレベーターは付けようと思わないのか?」

リーダはこちらを向いて話し始めた。

「社長は言っております。『あんな密室で物を運ぶこと自体頭がおかしい』と。あんな装置を使用していると事故の時の対応がしづらくなると言って設置しようとしないのです。」

「なるほどなー・・・」

まあ、あいつらしいっちゃああいつらしいか。ならば鉄道だっていつ何が起こるのかわからないのにな。

「なら、鉄道だってそうなんじゃないのか?」

「社長曰く、『鉄道の対応ならばわが社の右に並ぶ者はいない』だそうです。」

自信満々だな。

あれからさらに数分立った。

「さて、着きました。この廊下の向こう側の部屋にホールがあり、そこで会合が予定されています。」

「なるほど、ちなみにその会には私以外に誰か呼ばれるのか?」

「えーと、とりあえず彼に近いアレス・ラネーメ一族は大体呼ぶそうです。あとは聞いておりません」

呼ぶのか。まるで一家団欒だな。

 

「さて、着きました。ここが会場です。」

リーダが扉を開けた。すると中は結構広かった。

するとその部屋の舞台の中心に椅子がありそこにリファンが座っていた。

「やあ、ラヴヌトラート、ようこそラネーメ公営地下鉄の晩餐へ」

 

「おう、リファン。招待してくれてありがとう。なぜ私を呼んだんだ?」

するとリファンは立ち上がった。そしてこちらに歩いてきた。

「決まっているんだろう。君は私の友人だ。そして、今日は年に一度、ラネーメ公営地下鉄の本社の社員が集まる『ラネーメ晩餐会』だ。まさかあの事件がこの日とうまく重なるなんてね。君とは運命を感じるよ」

ラネーメ晩餐会か。ずいぶんとのんきな会社だな。だが、社長はあんまり堅苦しいシステムよりもこちらの方が好むのかもしれない。

「ちなみに、この会合には様々な言語の話者が来る。ヴェフィス語、リパライン語、ユーゴック語、アイル語、ナデュー語。しかし、この会合では統一してある言語を使うことにしている。」

「なんだ?」

「ユーゴック語だ。現時点では使用できる人数がこの会の参加者で最も多い」

 

「ところで、私は晩餐に呼ばれたわけなんだが何時にここに来ればいいんだ?」

「別に、パルソガ近郊を観光したいというのなら無理に留めはしない。」

なるほど、別にここにずっといてもいいというわけか。どうしようか。

「ツァピウル、カラム、どうする?」

ツァピウルは急に名前を呼ばれてはっとなった。カラムも同じである。

「観光しましょう?」

「カラムはどうだ?」

「ずっとここにいてもつまらないから私もそうしたいわ」

リファンは笑った。

「じゃあ、私が案内しよう」

 



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#61 ラネーメの街「パルソガ」

四人はビルを出た。

「私がここパルソガにラネーメ公営地下鉄本社を構えてから、この町は私と共に発展してきた。この道だって、あそこにあるデパートだって、ウチの会社が資金を一部提供したのさ!」

ユエスレオネ連邦自体は最近できたため、この街自体もここ数年でできたものである。なので全体的に計画的に都市開発が為されており、碁盤の目の都市でさえもあるようだ。土地によっては全く開拓されず岩盤のみのところもあるがここパルソガはそうはならなかった。

「この、ラネーメ公営地下鉄本社ビルは南北に中央パルソガ通り(sysit Palcoga’d vediet)とヴェラード・ヴェディエート、東西にズュラータド・ヴェディエートとパンクァド・ヴェーディエートに挟まれた土地に建っているんだ。この正面玄関に通じているこの通りが中央パルソガ通りだ。」

なにやらリファンによる町案内が始まった。

「そしてあの交差点を曲がったところにある通りがズュラータド・ヴェディエートでそこから南に下がると商店街だ。」

リファンは歩き始めた。

「あれ、バスとか車とか使わないのか?」

「あ?そんなもの使ったら町をちゃんと観光できないだろうが」

私とツァピウルとカラムは彼の後をついていった。

すると、ツァピウルのお腹から虫の音が聞こえた。

「はっ////すいません・・・」

「お腹が減っているのかい姉ちゃん。商店街に入ればそんな音出していられなくなるよ」

「やめてやれよリファン、女の子だぞ」

「おっと、これは失礼」

交差点に差し掛かり商店街に入った。

「これが第一ズュラータド・ヴェディエート商店街だ。おもに食べ物が多い。」

するといきなりどこからか味噌汁のようなにおいがしてきた。

「この町にはラネーメ人が多く住んでいるからね、ラネーメ人の米と主食としたご飯がほとんどを占めるのさ」

なるほど、王国民の彼女らにピッタリだ。さっそく昼ご飯をどこで食べようか決めることにした。カラムがそばを食べたいというので蕎麦屋に入った。

「まさかユエスレオネに来てそばを食べることになるとは思いませんでした!」

ツァピウルがこちらに向かって笑って話す。本当に生きていてよかった。あの時の私は本当にどうかなりそうだった。

 

ツァピウルの死がハタに告げられたあと、私は自らも命を絶ってツァピウルにあの世で会いに行こうとしたものだ。結局、私は彼女を自らの力だけで守ることはできなかった。が、今になって後悔はしない。リファンがいる、カラムがいる。それで助けられたという結果を得たほうがよっぽど嬉しいんだということに気付かされた。

するとカラムが口にそばを含んだままくしゃみをしてしまいリファンの顔に思いっきりかけてしまった。

「あ・・・ごめんなさい社長さん」

「いや、いいんだ。カラムちゃん」

カラムよ、お前はもう少し女の子としての自覚を持った方がいい。

 

「よし、腹ごしらえも済んだし、次はどこに行こうかな。」

「あんまり今からうごくと今夜騒げないからな。」

ふとツァピウルを見るとツァピウルは股を押さえて顔を赤くしていた。

「!?ツァピウルどうした?」

「お、お、おしっこ・・・」

「大丈夫だ姉ちゃん。この商店街を歩いているラネーメ人は『尿も便も肥料になる』と昔から言っていてその辺の草に平気でしt」

「おいやめろ」

とりあえずコンビニがあったのでツァピウルはそこに駆け込んだ。

 



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#62 “デュイン戦争”

ツァピウルが戻ってきた。

「どうだい姉ちゃん、トイレのにおいは」

「は////」

「おいこら」

 

リファンはそのまま商店街を進んでいった。

「しかし、さっきから食べ物のにおいしかしないぞ。この商店街ってレストランしかないのか?」

「ラネーメ人は『食こそが人類の生活の基盤』と昔から言ってきたんだ。私はこの町を作るときにその教えに従ったまでだ。どうだ、カラムちゃんも食うか?」

「え、私はそんなに食べないよ?」

 

“らっしゃーい、取れたてのマグロがなんとこのお値段だよー!”

遠くに魚屋があるらしい。

「リファン、ユエスレオネに海ってあったっけ?」

「ないこともないさ。人工的な海だが。」

「そういえば、陸地を作ったんだもんな。海も作るのか。適当に底に魚でも放流したって感じか?」

「そうなのかね。私はこの浮遊島にはあんまりかかわっていないから分からないね」

 

しばらく歩いているとカラムが止まった。

「ん、どうした?」

「とうさーん、私喉乾いたよー」

「そういえばあの蕎麦屋で水飲んでから何も飲んでいないのか」

私はその辺の店に入って水を注文しようとした。

“すいません、水を下さ”

“リンゴジュースを8つお願いします!!”

え、

“かしこましましたー”

“な、ツァピウル、そこまでリパライン語を話せるのか!?“

“ええ、当然ですよ。”

“ていうか、なにゆえリンゴジュースなんだ”

“えーっとー・・・”

飲みたかったのだろうか。わざわざ割り込んでまで。

しばらくするとりんごジュースが8つ渡された。

「ん?そういえば、なんで8つも頼んだんだ?私たちは二杯も飲めないぞ?」

するとツァピウルはカラムと自らの三つ、私とリファンに一杯ずつ渡した。

「あー、なるほどな、やっぱり飲みたかったのか」

「な、何か悪いですか?」

ツァピウルは少し怒り気味であった。

すると、商店街内にあるテレビに男が映し出された。

「え、」

すると、いきなり報道が始まった。その男はどうやらアナウンサーだったようだ。

「臨時ニュースか?」

 

“ニュースをお伝えします。先日、xelkenがここ数年急激に兵力を増やしていた理由がわかりました。また、数十年前に現れた伝説の専制国家「ハタ王国」も存在が確認され、xelkenがその土地へ拉致を行っていたことが分かりました。”

 

どうやらこの前の戦争の件についての報道だったようだ。

“このことを危惧して王国に被害がこれ以上及ばないように連邦はハタ王国の首脳である「スカルムレイ一族」と話をしてサニス条約を締結し、王国の護衛に努めました。戦場となったところはxelken.valtoalがここ数十年で見つけた新大陸で彼らは「デュイン」と呼称しております。xelken.valtoalと共に同盟を結んでいた王国の過激派「ハフリスンターリブ」は連邦軍と王国軍によって全員逮捕に至りました。”

すると、スカルムレイ陛下が映し出された。

「あ、陛下!」

“今回の事件に関して、大きく貢献されたケンソディスナル氏は来月にはハタ王国のネステル市、およびフェーユにて表彰がされる予定です。新大陸デュインに関して連邦の措置は未だ定まっておりません。”

 

私は社長の方向を向いた。社長は少し微笑んだ。

「万事解決だね。」

「ああ、そうだな・・・」

 

連邦にハタ王国の存在が確実に示され、新大陸デュインが見つかり、ハフリスンターリブも闇に葬り去ることができた。これでいいんだ。私は王国の為に、大切な人の為に動くことができた。

「さて・・・そろそろ時間かな」

 

この一連の戦争は「カラムの乱」「デュイン戦争」と後世に語り継がれることとなった――

 



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事後談「ラネーメ晩餐会」前編

四人は本社ビルに帰ってきた。

「お腹がすきましたね。」

「まってな、姉ちゃん。すぐにうちが呼んだ料理人が料理を持ってきてくれるさ」

コックまで呼んだのか。大がかりだな。

入り口にはもうリーダが待っていた。

「遅いですよ。もう会は始まっていますよ?みんな主役がいなくて待ちくたびれております。」

「はっはっは!それはすまないな。よし、すぐに行こう。」

「え、」

ピッ

 

「・・・は!」

気が付くともう例の会場への入り口と思われるところにいた。

「このドアはあの舞台に通じている。きれいな登場の仕方だろう?」

「おお、そうだな」

「よし、ツァピウル、カラム、開けるんだ」

「え、私がですか?」

「誰が開けても同じだろう。早く開けるんだ。」

「んー、まあ、いいですけれど」

ガチャ

 

ドアが開く、先にリーダが入った。

「あ、リーダ」

するとリーダが入ってきた途端に歓声が聞こえた。

「そんなに人がいるのかよ」

「ウチの舐めないでほしいね。連邦の企業だぞ?」

向こう側で声が聞こえる。

「皆さん、お集まりいただき、ありがとうございます!私はラネーメ公営地下鉄の副社長、アレス・ラネーメ・リーダです。」

するとまた歓声が聞こえた。

いや待て、あいつ今副社長といったか?

「リファン、リーダってここに副社長なのか?」

「いかにもそうだ。私が死んだら次の社長となるように約束している。」

 

「それでは、今回の主催者、アレス・ラネーメ・リファン氏の登場です。」

たしかに、リファンを舞台に呼ぶ声が聞こえた。

「よし、こっちにくるんだ」

「え、」

リファンは私を誘導して上にジャンプした。

 

すると下から謎の音楽が聞こえた。

“いやーさっさーいやーさっさーわれらーがしゃーちょーだよー”

「なんだこの入場曲」

「素晴らしいだろう。私が作曲した」

 

するとリファンはよくわからない穴へ飛び降りた。

「な、」

すると下で着地した。なんだこの登場の仕方。

「ハハハハハハーアレス・ラネーメ・リファンだよー!!!今日は楽死んで逝ってねーwww」

これは本当に晩餐なのだろうか。

すると野次が聞こえる。

「舞台爆発させてその煙からターミ●ーターの音楽流しつつ登場するんじゃなかったのかよー」

「リハンカ氏、もちろん爆薬はあなた自身がやってくれるんですよね?」

なんだこの茶番。すると社長はジャンプして私の手をつかんで私を引き込んだ。

「うわっ」

一同がざわめく。

「ははっはっはっは!みなさんご承知の通り今日はわが社の自慢のパトロンを用意してある。ファフス・ラヴヌトラートだ!ラヴヌトラート、適当に挨拶を」

「え、えーっと、ハタ王国から来ましt」

「堅い堅い堅ーいッ!」

リファンは私の頭を叩いた。一同は笑う。

「え?」

「いや、いいんだ、続けてくれ」

「は、ハタ王国で育った。彼の友人、ADLPの者だ。よろしく。」

「アァ~?ADLPだとぉ?アレス一族がそいつによってどうなったか知ってんのか~?」

「おい、リハンカ氏、潰されてえのか?彼は重要な客人だ。」

「あ?上等だ、コラ。そっちからかかってきな」

まずい。まずいぞ。いきなり乱闘を始めてしまう。

「はっはっは、相変わらず頭おかしいなラネーメ民族党」

ある客が笑っていた。

「む、貴様何者だ。」

「私か?私はアレスだ」

「おい、ここにいる奴らは彼を除いてみんなアレスだ。下の名前を言え。」

「悪いな。特別警察行政相談部部長アレス・ラネーメ・シュカージューだ。」

「おうおう、部長さんよ、最近のラネーメ一族はあのころの気迫を失いつつある。さもなければ貴様を殺すぞ!」

「はいはいはい、そこまでだ。殺し合いならば外でやってくれ。」

おい大丈夫かよ。私の自己紹介をしたばかりなのにもうこんなに荒れているぞ。

 

「おっと、彼には家族がいて妻と娘がいる。おい、呼んでくれ。」

「お、おう。」

私は舞台から引っ込もうとしたがリーダが止めた。

「ここは私が」

 

しばらくするとツァピウルとカラムが入ってきた。

「おうおうおう、かなりかわいい子ちゃんが入ってきたじゃねえか」

「リハンカ氏、彼女らに近づくとそこのラヴヌトラートが黙ってないぞこのエロジジイが」

「ちっ、若い奴はいいな」

「ほう?リハンカといったな。ラネーメ民族党のか?」

ラネーメ民族党のアレス・ラネーメ・リハンカか。たしか、もし本物ならば今は19歳か。私よりははるかに年下のはず。

「でもまあ、かわいいじゃねえか。その辺で適当にリパコール氏とでもいっしょに踊っときゃあいい見ものにうわなにをするやめr」

「おい、アレス・ラネーメ・ゲーン。しっかりするんだ(棒」

うむ、死人が出なければいいが。

 

――

 

「さて、今回の会合では全員分の晩餐をご用意しております。」

副社長が丁寧にしゃべった。

「おおお、うまいんだろうな?爆発しねえだろうな?」

リハンカだ。さっきから結構うるさい。

「は?そんなもの貴様が食ってから確かめろ」

社長が突っ込んだようだ。おいおい殺されるぞ。

運ばれたのは一見豪華に見える和風な食事だった。

「うむ、やはりラネーメ族はこれに限る!」

これもやはりリハンカだ。

「さあ、ラヴヌトラート氏も」

副社長が私のテーブルに料理を運んできた。

「おう、悪いね」

 

「!?」

「なんだなんだ?」

いきなりリハンカの方向から爆発音が聞こえた。どういうことだろうか。

「と、豆腐が・・・リハンカ氏の食べていた豆腐が爆発した!」

「は?」

やっぱり、ただの料理じゃねえか。

「ねえ、私の食べているこれも爆発するんじゃないかしら?」

「イヴァネ氏・・・」

 

「ぐっ、誰だこれを作ったのは!」

「私だ」

すると最も真ん中の列にて味噌汁を飲んでいたリパコール氏が言った。

「あ、アレス・ラネーメ・リパコール氏・・・本当なのか?」

なんと、あのユエスレオネ中央大学ウェールフープ研究所主任研究員がこの会合に参加しているとは。ラネーメがついているから呼ばれたのだろうか?

「この豆腐は私が作った。研究室でね。その中の一つに爆発性のあるウェールフーポを半分ほど混ぜておいたのさ。」

「貴様、なぜそんなことをした」

リハンカが立ち上がってリパコールに近づいた。

「盛り上げるため。」

リハンカは激し、ウェールフープした。

「姉さん!」

あれはアレス・ラネーメ・イヴァネだ。

「あら、イヴァネ、生きていたのね」

「生きてるよ!」

そこへリファンが止めにかかる。

「はっはっは、止めたまえよ君たち。もっとうまい豆腐が来るさ」

「ここには豆腐しか来ないのか?」

 

しかし、あのリパコール氏が用意したのか。一人でこの数を用意したのだろうか?

「リパコール氏か?」

「なによ、リパラオネ人」

「いやいや、ファフス・ラヴヌトラートだ。ユーゴック名はガルタ=ケンソディスナル。この晩餐は貴方が用意したのか?」

「はっはっは、ウェールフープを使えば食事の大量生産くらい容易だ」

「ほかにウェールフープで何ができる?」

リパコールは顎に指を当てて上を向いた。

「うーん、人殺しと周りを更地にするのと・・・あと産業とかに使えるかな。私が取引しているところだと再教育装置とかもあるわよ」

物騒な。

「そうなんだ。たとえばどこだ?」

「えーっと、FFとかxelkenとか」

ずいぶんとヤバいところと取引しているな。

「普段から研究所を爆破させたり、xelkenとっ捕まえて人体実験しているわけではないわ。これでもそろそろ新たな技術が生まれそうなのよ。」

新しい技術か。それはすばらしいな。

すると後ろにいたツァピウルが彼女に質問した。

「さっきから感じるこの気迫もウェールフープですか?」

「違うよ王国のお姉さん、姉さんから出ているのは狂気のオーラよ」

ツァピウルへの疑問にはイヴァネが答えた。

「ふっふっふ、いつからそんなオーラが出るようになったのかしらね・・・!」

するとそこへ社長が現れた。

「リパコール氏だな?適当に舞台で茶番をやってくれ。場を盛り上げるんだ」

「は?私が人を笑わせるだと?吹っ飛ばされてえのか?」

するとツァピウルはこちらに寄り付いた。

「ラヴヌトラートさん、この人恐い・・・」

私も今ばかりは彼女からすさまじきオーラを感じる。ウェールフープ研究所の主任研究員は非常に恐ろしいとは聞いていたがこれほどとは。聞けばその辺のケートニアーくらいなら数秒で殺せるらしい。

「はっは、人気が出るかもよ?」

「・・・」

何も話さずにリパコールは立ち上がって舞台に上がっていった。

「何が始まるんです?」

ツァピウルがリファンに尋ねた。

「知らん」

 

――

 

「あなた、マイクを」

「あいよ」

リパコールは舞台の真ん中に仁王立ちした。

「おいてめえらぁぁぁぁあああ私の方向をみろぉぉぉぉぉおおおおおおお」

まるで耳が潰れそうな音量。すべての参加者が彼女に視線を集める。

「今からラネーメ国家社会主義人民共和国国歌歌うぞぉぉぉぉぉぉおおおおおお耳ふさごうとするやつらは全員爆破だぁぁぁぁぁぁぁあああああ」

まさか歌を歌おうとするとは思わなかった。

リパコールは目を閉じて息を吸う。よく見るとマイクが試験管だ。

 

“喜んで、立ちなさいすべてのラネーメ人よ!”

“喜べ、汝の血がこれを成就する!”

“ラネーメ人の偉大なる国がここにある!”

“民族の血がこれを強靭とする!”

 

“喜んで、立ちなさいすべてのラネーメ人よ!”

“喜べ、汝の血がこれを成就する!”

“ラネーメ人の偉大なる国がここにある!”

“民族の血がこれを強靭とする!”

 

“喜んで、立ちなさいすべてのラネーメ人よ!”

“喜べ、汝の血がこれを成就する!”

“ラネーメ人の偉大なる国がここにある!”

“民族の血がこれを強靭とする!”

 

“喜んで、立ちなさいすべてのラネーメ人よ!”

“喜べ、汝の血がこれを成就する!”

“ラネーメ人の偉大なる国がここにある!”

“民族の血がこれを強靭とする!”

 

すると拍手の代わりに爆破が大量に起きた。歌い終わったリパコールは下がっていった。

「ご苦労だったな、リパコール氏よ」

「ええ、ほんと、ラネーメ至上主義者でもないのに」

ラネーメ人でもそんな奴はいるんだな。現にリファンがそうだった。

「安心せよ、私もラネーメ至上主義者ではない」

おいおい、リハンカが来るぞ。

「さて、次は誰に出てもらおうかな」

リファンは私を見ながらそう言った。

「な、なにをすればいい」

「いやいや、君は客人だ。客人にふるまいを城なんて無理なお願いはしないさ。私が見ているのはその後ろの人だ。」

後ろ?誰だ?

 

「そこ、シェルケン・ターフ・エリよ」

その男は片目に眼帯をしていた。

エリ?確かその名前ってデュイン戦争の時にも聞いたような。

「え?私かい?」

 

――

 

「そうだ、君だ。君は彼がxelkenにいたころの戦友でデュイン戦争の後はxelkenを抜けたと聞いているぞ」

そうだ、こいつは私がxelkenの基地で目を覚ました時に私を見ていた奴だ。

「おお、戦友よ、久しぶりだな。やはり私のことは思い出せないか?」

「・・・デュイン戦争のあの時以外な」

「残念だねー・・・あの時は私も君も古理語に夢中だったじゃないか・・・」

「そうだったのか。私にはその記憶が一切ないが」

「だがな・・・私はやはり王国への愛を捨てることはできない。私はやはり王国の文化が好きだ!」

「それはうれしいな。王国人と血縁関係がある私が喜ぼう。」

「だからこそ、またそこのお嬢ちゃんみたいに美人なシャスティを見ると興奮してたまらないんだ。」

まさか、ツァピウルか!?

エリは立ち上がってツァピウルとカラムまで近寄った。

「お、おい、ツァピウル、逃げるんだ、そいつの頭の中はもはやピンク一色だ」

「なあ、そこの元気なお嬢ちゃん。何て名前なんだああい??」

私はツァピウルをガードしていたがエリはカラムの肩に手を載せてニヤニヤした顔つきをした。こいつ・・・ロリコンだ。

「おいおい待て待てそこの子も私の娘だ。」

「えーなーんだ。面白くないnブヘェ」

気が付くとエリの顔が潰れていた。

「え、おい、エリ!」

 

「xelken.valtoalの奴だな!?死ぬがよい!」

「だ、誰だ!?」

「俺か、俺はAles lanerme elen、ラネーメ人民民族党の党首だ。」

「ラネーメ人民民族党?」

「そうだ、俺は古理語に執着し続けるxelkenは大嫌いなんだ。」

エリが起き上がった。

「ば、馬鹿を言うな。xelkenはもうやめたんだ。私は今後王国に移住することにする・・・ブヘッ」

「とぼけるな、貴様のかぶっているその帽子!」

「んん?この帽子はだな・・・」

エリは帽子の革をとった。すると特別警察の帽子が現れた。

「な・・・」

「これでわかっただろう?私はFFに転身したんだ。」

ドォォォオオン

「何だ!?」

舞台の方向から爆発音が響いた。煙が晴れて男が一人立っているのが見えた。

「な、アレス・ラネーメ・リパコール氏とアレス・ラネーメ・リーダ副社長!」

二人とも服が若干破れており息を切らしていた。

「な、私と互角とは・・・貴様は一体・・・!」

「ふっふっふ、私はただの、ラネーメ公営地下鉄の・・・副社長だよ」

ドォォォォォン

 

「おおお、リーダ、ラネーメ公営地下鉄の名を懸けてリパコール氏に勝つんだ!」

「おいおいリファン、奴らの戦闘を助長して大丈夫なのか?」

「大丈夫だ、問題ない。なぜならこの会場はウェールフープなんぞでは破壊されないようになっている」

イヴァネが叫んだ

「姉さんまた殺し合いしているのー!?」

 

「ふっふっふ、だが私と互角でいられるのもここまでよ・・・」

リパコールは紫の謎の液体が入った試験管を取り出した。

「何をする気だ」

「これで終わりだ!」

その試験管を空中に投げて手刀で割り火を近づけてなぞのシールドを出した。

「!?」

「これであなたを容赦なく殺れるわ」

「おのれ・・・ハッ!」

リーダの叫び声のみが響く。何も起こらない。

「な・・・ウェールフープが使えない!」

 

「残像だ。」

 

「リーダ!」

リパコールのすさまじい上段蹴り。リーダは吹き飛んだ。

「い、一体何が起こっている・・・!」

「見たかしら?これが『イールド』よ」

「い、イールド!?」

なんだその小細工は。

「イールドを張ることによってあたりのモーニ交換をできなくしてウェールフープを撃てないようにする技術よ。さあとどめね!」

「くっ、自動回復しない・・・」

なるほど、彼女がさっき言っていた新たな技術とはこれのことだろうか。

「り、り、り、リーダぁぁぁぁぁぁぁああああああおのれリパコール!許さん!」

「あ、ちょ、社長」

「リファン社長!何を」

リファンが手を前に出すと壁から列車が飛び出してリパコールを轢いた。

「ね、姉さん?」

 

――「その程度で私を倒せたと思っているの?」

「なにっ」

「残像だ。」

「り、リファン!」

 

リファンはぎりぎりのところでリパコールさんの巨大三角フラスコハンマーを避けた。

 



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ラネーメ晩餐会 後編

「はっはっは、甘いぞリパコール氏よ!」

「あら、結構危ないように見えたわよ?」

「なんのこれしき・・・!」

リファンはジャンプして距離をとって手を前に出す。どこからか列車が現れてリパコールを轢こうとする。

「やったか・・・」

「あいかわらずね、リファン。その戦い方。まだウェールフープに抵抗を持っているの?」

「急に列車を出現させるのはウェールフープだ。私もそこまで頑固ではない」

「あ、そう。じゃあ今日はそんなあなたがすぐにウェールフープ動力に変えたくなるようにしてあげるわ。」

リパコールが先のとがった試験管をもって構えた。社長も手を前に出して構えた。

 

と、そこへ誰かが近づいてリパコールの体にしがみつく。

「ちょっと、放してよ!」

「駄目だよ姉さん!落ち着いてよ!」

リパコールの妹であるイヴァネがリパコールを止めようとしていた。リパコールは必死に離れようとする。

するとどこからか野太い声がした。

「私は我慢できーん」

突然男がこっちに来てイヴァネから取り上げようとするようにリパコールに抱き付いた。

「きゃあああぁぁぁぁ誰!?誰!?」

リパコールが珍しく女みたいな声を出す。男は見た感じ40歳くらいだろうか。リパコールの胸部に吸い付いていた。

「り、リファン、どうする?」

「リパコールが何とかするだろ。」

するとリパコールが懐から先のとがった戦闘用の試験管を取り出した。そして目を赤く光らせた。

「試験管「リパコールスタージェネアフェル」!」

!?

リパコールが叫ぶと試験管が無限に飛び出して男を突き飛ばした後にすべての試験管が方向を変えて男に向かった。男は串刺しにされた。

「ア・・・グヘッ・・・」

男は血を吐いて倒れた。ネートニアーなのだろうか。

それにしても、リパコールって人気なんだな。

ツァピウルは手で口を押さえておびえていた。カラムもおびえていた。

「ツァピウル、カラム。気にするな。」

「あの男ってまさか女ならだれでもいいんじゃ・・・」

すると男が立ち上がった。

「!?」

リパコールが驚いてさらに舌打ちをする。

「・・・ケートニアーか」

 

何だろうこれは。とても宴とは思えない。

「リファン、リパコールが戦ったりみんなが暴れだすのはラネーメ晩餐会ではよくあることなのか?」

「ああ、酷い時はビルが吹っ飛ぶ。」

「まじかよ」

 

男はウェールフープを放って周りに威嚇をしてリパコールへのセクハラをうかがっていた。なんという変態。これはFFを呼んだ方がいいのではないだろうか。

「リファン、通報しないのか?」

「いやいや、そういう連邦の厳しい罰とかから離れることができるのがラネーメ晩餐会だよ。あいつがそんなにリパコールが好きならタックルすればいいしリパコールが受け入れないなら奴が殺せばいい。どっちにしても後でFFへは報告して捕まえるよ。」

「大丈夫かよそれで」

男はどうやらこちらを見てニヤリとした。

「ん?」

これはツァピウル、カラムを狙っているか?

「君に決めたぁぁぁぁぁぁ」

やっぱりツァピウル、カラム狙いだ。

「させるか!」

私は二人の背後に移動して二人を肩に背負ったままジャンプをした。

「ちょ、奴がこっちに来る前にウェールフープすればよかったじゃないですか!」

おぶられたツァピウルがこちらを向いて喋る。

「わるいな。ツァピウルやカラムをこうやって思いっきり触るのは久々なんで。」

「」

男は壁に激突した。

 

私は後ろを向いた。

「おいラネーメ人。名前なんて言うんだ?」

男はこちらを向いて喋った。

「Ales lanerme フガッ」

すると名前を言い終わる前にリパコールの漏斗が男の口にはまる。漏斗が引っ掛かって男はうまくしゃべれなくなった。

「そんな奴の名前なんて聞かなくて結構。ここであなたを消せばね!」

なんと手荒な科学者だ。

リパコールはさっきの紫色の液体が入ったビーカーからスポイトで液体を吸い上げて、漏斗を介して男の口の中に入れた。

「は・・・」

「あなたの体の中にイールドを入れることによって一時的に造発モーニ体を麻痺させたわ」

「なん・・だと・・・」

「さあ、死ね」

リパコールの手から光線が出た。すると男の姿は消えた。

「なんだ?何をしたんだ?」

リパコールは長い髪を押さえてこちらを向いた。

「あの男をこの壁の反対側に転送したのよ。」

壁の外か。ここの方向の外ってなんだっけ?

「その壁の向こうは確か外だ。下にまっさかさまだな。」

「ご愁傷様です。」

 

――

 

しばらくは特に喧嘩もなかった。逆にそれは面白くないとリファンは言う。でも、やっぱり平和も大事だと思う。こうやってみな穏やかに食事をしたり、飲んだりするのが一番いいと思う。私はそのことをリファンに言った。

「あっそ」

 

リパコールもそれ以降は特に何もしなかった。よくリハンカと豆腐のことで殴り合いになったがリファン曰く「なんでもない」らしい。

ユエスレオネに避難してもファイクレオネ人はファイクレオネ人。特別に人格が変わったわけでもない。人が死んでも何も思わない。つい数百年前、スステがスカルムレイとなった時の王国からすれば本当におかしく思える。だが、今や王国でもハフリスンターリブは処分された。王国と連邦の外交はこれからなのかもしれない。

 

やがて宴会はお開きとなった。気がついたら少し明るかった。

 

そのあと、テレビで古理派の派閥に変化があったことが報じられたが我々の知ったことではなかった。

 



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