学園黙示録 覚醒のモブメガネ (上平 英)
しおりを挟む

プロローグ ☆

 かな~り前から貰っていたリクエスト作品です。

 原作の展開上R-18を入れるのが難しくて諦めていたんですが、TSUTAYAで学園黙示録の原作を借りたのをキッカケに、開き直ってプロットを新しく組みなおして、描きました!


 石井かず。

 

 ごく普通の高校に通う男子高校生。歳は17。高校2年生。

 

 見た目を一言で表すと、普通。

 

 漫画でいうところの典型的なモブキャラで、唯一の特徴はメガネと七三分けの髪の毛。

 

 それ以外の特徴は見当たらず、体型も中肉中背なので、あだ名はもちろん『メガネ』だ。小学校3年生の頃からずっと『メガネ』と呼ばれ、本名を覚えてるのは親か教師、かなり親しい友人ぐらい。

 

 一見、その容姿から勤勉タイプの真面目で模範的な生徒に見られるけど、成績は並で、上と下の間を行き来している状態。

 

 ちなみに素行も普通だと思う。不良でもなく優等生でもない普通。校則違反もしたことないし、ピアスや髪染めもなく、喫煙もしたことない。飲酒に限ってあるが、それも正月のお祝いで少し飲まされた程度だ。

 

 母親は物心つく前に鬼籍に入っていて、肉親は父親のみ。その父親も高校入学から半年後に地方へ転勤になり、今はひとり暮らし中。

 

 近所に数年来の付き合いになる美人のお姉さんが住んでいる。

 

 あと、中1から中3の始め辺りまで中二病を患っていた(・・)

 

 患って『いた』のだ。

 

 高校2年生になる今はもう卒業済みで、

 

『このメガネを外すと秘められた力が……ッ!』

 

『俺の左腕には聖なる闇の炎が宿っていて……ッ!』

 

『さあ、跪け! この愚民共!』

 

 ……などといった『痛い』言動、『痛い』行動など、もうやっていない。

 

 本当に、やっていない。

 

 たまに自宅の自室や登校中の通学路なんかで妄想にふけることはあるけど、深夜アニメを録画して観てたりするけど、痛い行動や言動はしないようになった。

 

 無駄に視力がいいのに、まだ伊達メガネをかけてるのは……アレだよ。アレ。

 

 中ニ病になる前からずっとメガネをかけていたから、今さら外すと落ち着かないんだよ。決して中ニ病の名残ではないよ。本当に。

 

 まあ、高校2年生となった今のボクは、これといって特徴がないモブキャラのひとりとなっている。

 

 毎日毎日他の生徒たちに混ざって登校し、授業を受け、保健室の先生の雑用を手伝い、帰宅する。

 

 平凡で、普通な日常。

 

 このまま卒業まで同じような日々を繰り返し、大学への進学や就職といった進路へ進む、モブキャラの……。

 

「……早く、しなさいよ」

 

「……ほ、本当にいいの?」

 

「……別に。いいわよ、もう……」

 

「わ、わかったよ」

 

「――っ。んっ……!」

 

「狭っ。……くっ……も、もう少し……」

 

「痛っ……! もうちょっと、や、やさしく……っ!」

 

「わかってるよ……ッ! でも、早く挿入してしまわないと痛いのがずっと続くからッ。もう少し頑張って!」 

 

「……ッ、くっ……ぁん……ううっ……」

 

「はぁはぁ……はぁはぁ……。……全部、入ったよ」

 

「はぁはぁ……もう……終わり、なの?」

 

「いや、これから動いてから……なんだけど。まだ痛いよね?」

 

「あっ、当たり前でしょ! 初めてなんだから! あんたが息するだけでもすごく痛いわよっ!」

 

「それはゴメン。だから、今は動かないで少しずつ慣らそう。そうすれば痛みも引いていくはずだから」

 

「うう……わかったわ」

 

 モブキャラのはずである俺が、

 

 今、同じクラスで、人気者の宮本(みやもと)(れい)さんの処女膜をペニスで突き破った。

 

 ラブホテルのベッドの上で。

 

 …………。

 

 ――どうしてこうなった!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高校2年生も終わりに近づき始めた、冬のある日。

 

 ザーザーと朝から降り続けている冷たい雨を傘で弾きながら歩いていると、クラスメイトを発見した。

 

 そのクラスメイトは、宮本(みやもと)(れい)さん。

 

 明るくて活発、友人も多くて誰にでも優しく、クラスでも中心にいる女子生徒。見た目も優れていて、男子からの人気も当然高い女の子。

 

 そんな人気者の宮本さんは、降り続ける雨の中、傘も差さずに道の端に立っていた。

 

 手には鞄もなく、全身ずぶ濡れで顔を俯かせ、いつもの明るい雰囲気など微塵も感じさせず、見るからに暗い雰囲気を身に纏わせている。

 

 とても普通の様子には見えない。

 

 何か、あったのかな?

 

 道を歩いている人たちは彼女に顔を向けるものの、普通ではない様子の彼女とは関わりあいになりたくないのか、避けて通っていく。

 

 ボクも、他の人たちに混じって彼女を避けて通ろうとするが――。

 

「……あの、宮本、さん?」

 

 避けて、通れなかった。

 

 クラスメイトの女の子が雨の中、傘も差さないで、立っている。しかも、普通ではない様子で。

 

 見捨てて、知らないふりして、無視して、通り過ぎるなんて、ボクには出来なかった。

 

 ボクは傘を差し出しながら宮本さんに声をかける。

 

「大丈夫? どうかしたの?」

 

「…………」

 

 うっ、無反応……。ちょっと辛い……。

 

「傘、ないの? 風邪ひいちゃうよ?」

 

「…………」

 

 やっとこっちを向いた。でも、目が死んでるっ!?

 

「たか……」

 

「え?」

 

「あ……」

 

 こちらを向いて、何か言いかけて止める宮本さん。また俯いちゃったよ。

 

 ん~……改めて見ると本当にびしょ濡れだなぁ。いつから立ってるんだ?

 

「えっと……宮本さん。とりあえずどこかで雨宿りしない?」

 

「…………。……放っておいて……」

 

 視線もあわせず宮本さんは小声でそうつぶやいた。わかっていたけど、かなり不機嫌そうだ。

 

 このまま、本当に放っておいて帰ってもいいけど……。

 

「こんな状態で放っておけないよ。クラスメイトだし。ね、どこかで雨宿りしよう」

 

「あま、やどり……」

 

「そう、雨宿りだよ。どこかで体拭かないと本当に風邪引いちゃうよ」

 

 それに、制服もヤバい。

 

 セーラー服が雨で濡れて、ブラジャーがスケスケだ。制服が肌に張り付いてて、普段は見えない肌色が見えて、エロい。

 

 このままじゃ危ない男にどこかへ連れて行かれそうなレベルだった。

 

 何とかタオルで体を拭いてもらって、傘を渡さないと……。

 

「……わかったわ」

 

 腕を組みながら、小さくつぶやいた宮本さん。

 

「よかった。わかってくれたんだね」

 

「……ええ」

 

 相変わらず不機嫌そうで、落ち込んでる様子のままだけど、何とかわかってもらえたらしい。

 

「じゃあ、どこかの……」

 

 ――喫茶店で……。

 

 そう、続けようとしたとき。宮本さんがボクの腕を掴んだ。

 

「え?」

 

「…………」

 

 無言の宮本さん。宮本さんの顔を覗き込もうとした瞬間。グイッと腕を強く引っ張られた。

 

「みっ、宮本さん!?」

 

「…………」

 

 宮本さんは無言でボクの腕を掴んだまま、早足でツカツカと歩き始める。

 

 力強っ!? ていうか、いきなり何!?

 

 そのまま大通りから狭い路地へと入り、いくつかの角を曲がって、商店街のはずれへ。

 

 商店街のはずれにあるそこは、少年少女の教育上あまりよろしくない建物がいくつも建ち並んでいるエリアだった。

 

 宮本さんはボクの腕を掴んだまま、近くにあった建物に入ろうとする。

 

 特徴的な蛍光ピンクの看板に、壁に付けられたプレート。プレートには休憩と宿泊があって、3000円~5000円などいくつかの料金が書かれていた。

 

「宮本さん、ここって!?」

 

「…………」

 

 相変わらずボクを無視して、宮本さんは建物の中に入る。

 

 建物が建物なので、制服姿の僕らは補導される可能性があったが、幸いカウンターに人はいなかった。どうやら自動販売機のような機械で部屋を選択するタイプらしい。

 

 部屋の様子が大まかに記されているいくつかあるパネル。黒くなっている部屋は使用中らしく、使用されていないパネルのボタンのひとつを、宮本さんが指で押して……。

 

 部屋の番号が書かれたシートが落ちてきた。

 

 宮本さんはシートを手に取り、確認すると、また歩き始めた。

 

 無言で、気マズいまま、エレベーターに乗り込み、廊下へ出て、シートの番号と同じ部屋に入る。

 

 部屋に入ると、部屋のカギが自動的に施錠された。

 

 清算機が近くにあるので、おそらくお金を払えば、開錠されるのだろう。

 

 部屋の明かりをつけると、これまた『いかにも』というピンク色の光。いちおう普通の明かりにもできるらしい。

 

 宮本さんは俺の腕を掴んだままズカズカと部屋の奥へと入って行き、ベッドまでやってくると、こちらを振り向いた。

 

 振り向いても相変わらず俯いたままの宮本さん。宮本さんに改めて声をかけようとして、

 

「――っ!?」

 

 ――キス、された!?

 

 そのまま宮本さんはボクの首に両腕を絡めて、ベッドへと押し倒した!

 

「宮本……さ……ッ」

 

「…………」

 

 宮本さんはグイグイと唇を押し付けながら、片腕で学生服のボタンを外し始める。上から下までボタンを外し、バッと胸を肌蹴させて、下に着ている夏服のボタンも外し始めた。

 

「くっ……あうっ……」

 

「はぁ……ん……」

 

 唇を重ね、舌を出して唇を舐めてくる宮本さん。うわ……す、ごい……。

 

 ベルトまで外し終わると、一旦体を起こして、自らの服へと手をかける。

 

 一瞬躊躇うような仕草を宮本さんは見せるが、そのまま一気に上着を脱いで下着姿へ。

 

 ピンク色のレースのブラジャーも外して、宮本さんは裸になった。

 

「綺麗、だ……」

 

 思わず口から感想が漏れる。

 

 雨で濡れた髪に、健康的な小麦色の肌。大きな胸にピンク色のかわいらしい乳首。くびれた腰と、広がるスカートから生えている太もも。

 

 部屋の天井から降り注ぐ、ピンク色の明かりが照らし出す彼女の姿は、とても魅力的で美しかった。

 

「宮本さん……」

 

 理性が、崩壊する。

 

 クラスでも人気者の宮本さん。そんな宮本さんにホテル……ラブホテルに連れ込まれ、押し倒されたんだ。

 

 高校2年生の理性なんて簡単に崩壊してしまう。

 

 この状況を深く考える前に、体が、本能が動き始めた。

 

「宮本さんッ」

 

「キャッ!」

 

 腰の上に乗っていた宮本さんをベッドへ押し倒し返す。ぐるりと回るように上下を交代して、襲い掛かる。

 

「はぁはぁ……んっ、ちゅ……ぅんん……はぁ……」

 

 唇を押し付け、唇を交わす。宮本さんの鼻息が頬に当たる。温かくて、くすぐったい。

 

「宮本、さん……」

 

「んっ……」

 

 唇から首筋へと舌を這わせる。

 

 細い首。浮き出た鎖骨。舌先に感じるのは雨の味。雨の臭いの奥には彼女の匂い。

 

 上から体を重ねると、彼女の感触と体温が伝わってくる。

 

 冷たい。雨に濡れて冷え切った体だった。

 

「…………」

 

 宮本さんが両腕を腰に回してくる。寒いのか、ボクの体を抱き寄せて、抱きしめる。

 

 ボクは宮本さんに抱きしめられながら、キスを続けた。

 

 首筋から胸、唇に戻って、頬や耳。また唇。

 

 ひんやりした彼女の体が気持ちいい。

 

 明確だった体温の差がゆっくりとなくなっていく。

 

 体温から視点が肌や感触へと移り、お互いの肌の感触が際立ち始める。

 

 触れ合わせている胸。胸に感じるのは勃起した乳首の感触。

 

 宮本さんの乳首……。

 

 ボクのも感じてるのかな?

 

 発情して蕩けだした頭でそんなことを思い浮かべ、抱きしめあう。

 

「はぁはぁ……んっ、はぁぁ……」

 

 耳を舐めていると、宮本さんの口からそんな声が漏れ始めた。

 

 学校では聞いた事もない、艶のあるエロい声。

 

 冷たかった体がいつの間にか火照り、死んでいた表情に精気が戻ってきていた。

 

「やっぱり、今の宮本さんのほうがかわいい」

 

 いつも教室で見かける楽しそうな笑顔。陽だまりのように明るく、元気な彼女。

 

 無表情だったり、落ち込んで俯いているのは似合わない。

 

 ……まあ、その表情も少しは良かったけど。

 

「はぁはぁ……っん……あ、くぅんん……や……」

 

「宮本さん、すごく綺麗だよ」

 

「くっ……ううっ……」

 

 両手で宮本さんの胸を揉み始める。学年でも巨乳に入る大きな胸。

 

 柔らかくスベスベで、手の平に吸い付くような感触。

 

 押すと広がり、弾力がある。

 

 コリコリに勃起している乳首は、思わず吸いつきたくなる。

 

 手の平を胸に押し付けるように重ねて、ゆっくりと小さな円を描く。

 

 やさしくやさしく。

 

 焦らず、ゆっくりと感触を楽しむ。

 

 ああ、これが宮本さんの胸か……。

 

 極上の感触といってもいいだろう。この谷間に顔を埋めたり、挟めたりしたらどんなに気持ちいいだろう?

 

 そんなことを夢想しながら揉んでいると、

 

 痛みを感じた。

 

 自然に動いた腰から、明確にはパンツのなかからだ。

 

 意識を下半身へと向けて見る。

 

「あっ……」

 

 テントが張ってあった。

 

 黒のボクサーパンツを押し上げるテント。

 

 うう……いつの間にかフル勃起してた。

 

 フル勃起したことで、むき出しの亀頭がパンツの生地を押し上げるように擦り、痛みを感じたんだろう。

 

 ……ど、どうしよう……?

 

 動きを止めて、フル勃起したモノをどうたものかと考えていると、

 

 宮本さんと目が合った。

 

 さっきまでずっと話しかけても、どこも見ていなかったのに、やっと目を合わせてくれた。

 

「…………」

 

 十数秒で、無言のまま、また離された……。

 

 ……その反応に少しだけテンションが下がる。

 

 元気にフル勃起していたペニスも元気がなくなり――。

 

「……早く、しなさいよ」

 

 視線を外したまま、小声で、そうつぶやいた宮本さん。

 

『早くしなさい』って?

 

 ……え? それって、いいってこと?

 

 信じられないと、半信半疑になって訊ねる。 

 

「……ほ、本当にいいの?」

 

「……別に。いいわよ、もう……」

 

 そう言ってボクの腰に回していた腕を解き、仰向けで顔を背ける宮本さん。

 

 抵抗はしない。勝手にしろ。という態度だ。

 

 そんな宮本さんを正面から見下ろし、生唾を飲んで、覚悟を決める。

 

「わ、わかったよ」

 

 上半身を上げて、ズボンとパンツを脱ぐ。

 

 宮本さんのスカートのファスナーを下ろして脱がせ、ブラジャーと同じピンク色のレースのパンツをクルクルと丸めながら脱がして、他の衣類の上に置く。

 

 お互い一糸纏わぬ裸。

 

 ボクは宮本さんの太ももを両手で開いて、間に体を滑り込ませる。

 

 フル勃起したペニスの先端を、宮本さんの薄っすらと生え始めた陰毛の下、少しだけ開いた割れ目の間に押しつけた。

 

「――っ。んっ……!」

 

 ビクッと体を震わせた宮本さん。ボクは手で竿を掴み、宮本さんの割れ目に先端を押しつけて穴の位置を探る。

 

 神経を集中させて穴を探し出し、角度を合わせ、そのまま挿入を始める。

 

「――っ、狭っ。くっ……」

 

「痛っ……! もうちょっと、や、やさしく……っ!」

 

 ミチミチと広がっていく穴。愛液は出ているが、愛撫が足りないのか、経験がないのか、硬くて全然解れていない。宮本さんの表情が苦痛に歪んだ。

 

「わかってるよ……ッ! でも、早く挿入してしまわないと痛いのがずっと続くからッ。もう少し頑張って!」 

 

「……ッ、くっ……ぁん……ううっ……」

 

 両膝を抱えてミチミチ、ブチブチと千切るような音を響かせながらペニスを奥まで挿入し続ける。

 

 熱く、何重にもつなげられた太いゴムの輪を潜り続けるような感覚。

 

 まだ奥のほうは濡れておらず、全体的にどこか硬くて、ギチギチと強く締め付けてくる。

 

 ヒダの感触と締め付け。そして、体の下にいる宮本さんに思わず射精してしまいそうになるが、我慢して挿入し続けていると、

 

 コツン。

 

「あうっ!」

 

 ビクッと宮本さんの体が大きく跳ねた。どうやら子宮口まで到達したようだ。まだ竿が余ってるのでもっと挿入できるが、腰を引いて動くのを止める。

 

「はぁはぁ……はぁはぁ……。……奥まで、入ったよ」

 

「はぁはぁ……もう……終わり、なの?」

 

 後ろ手にシーツを掴みながら、恐る恐る訊ねる宮本さん。

 

 ボクは首を横に振って言う。

 

「いや、これから動いてから……なんだけど。まだ痛いよね?」

 

「あっ、当たり前でしょ! 初めてなんだから! あんたが息するだけでもすごく痛いわよっ!」

 

「それはゴメン。だから、今は動かないで少しずつ慣らそう。そうすれば痛みも引いていくはずだから」

 

 ……と、冒頭に戻るわけだけど……。

 

 ――どうして、こうなった!?

 

 モブキャラであるはずの俺が、宮本麗さんとラブホテルでセックスしてるんだ!?

 

 しかも、宮本さんは初めてで、オマンコから本当に血が出てるし……。

 

 …………。

 

 ……ま、まあ、今はいいか。

 

 それよりも……。

 

「はぁはぁ……はぁはぁ……はぁはぁ……んっ……」

 

 宮本さんが呼吸をする度に、オマンコが蠢いて……気持ちいいっ。

 

 きゅっきゅっと呼吸に合わせて強く絞まったり、緩くなったり、蠢いたりで、気持ちよすぎる……ッ!

 

 すごく動きたいっ!

 

 ああっ、動きたいっ! ていうか、動かなくても射精しそうだよ!

 

「はぁはぁ……んっ……。えっと……メガネ、くん」

 

「……石井だよ、宮本さん。石井かず。『メガネ』くんは止めてよ」

 

 この状況で。

 

「じゃあ、カズ」

 

「いきなり呼び捨てですか……」

 

「ダメなの?」

 

「うんん。別にいいよ」

 

「そう。私のことも麗でいいわよ」

 

「それは……」

 

 なかなかハードルが高いけど……。

 

「……麗、さん」

 

「『さん』は別に入らないわよ?」

 

「……ゴメン。女の子を下の名前で呼び捨てっはちょっと無理」

 

「ふふっ、まあ、いいわ。それより――」

 

 宮本さんは……麗さんはボクを見上げて、

 

「他に経験、あるでしょ」

 

「――っ!」

 

「ぁんっ! まっ、まだ痛いんだからいきなり動かさないでよっ!」

 

 思わず腰を引こうとするが、両足で尻を挟まれ、怒鳴られる。

 

 僕は動きを急停止させて謝罪する。

 

「ごっ、ゴメンっ! だ、だけど……」

 

 ボクの態度に麗さんは確信を得たようだ。

 

「やっぱり。経験あるのね」

 

「う、うん……」

 

 麗さんの言う『経験』とは、セックスのことだ。ボクは素直に白状し始める。

 

「き、近所のお姉さんと……」

 

「近所のお姉さんね……。どおりで。服脱がせたり、触るときとか、妙に慣れているはずよね。今だって中に入れてるのに動かないでいられるんだから」

 

「う……」

 

 麗さんの指摘に、なぜか顔が熱くなる。

 

 下のほうではペニスから麗さんのオマンコがビクビクと蠢いていて……。

 

「……でも、正直言うとこのまま我慢してるのはかなり、ギリギリなんだよ?」

 

「それは、わかってるわよ。動いてるの、わかるんだから。――んっ、また動かした」

 

「…………」

 

 ……え、エロい。

 

 自覚はない、だろうけど……エロいっ!

 

 下腹に手を置いて、「また動かした」とか。

 

 エロいよ!

 

「れっ、麗さんっ。あのっ、う、動いてもいいですか?」

 

「う、動くって……」

 

「くっ……もう、我慢できないッ」

 

「――っ!? 痛っ……ちょっ……カズ……ッ!」

 

 ギリギリで留めていた理性が崩壊し、ピストンを開始する。

 

 苦痛に歪む麗さんの顔。

 

 ボクは麗さんの両脇の下に両手をついて覆いかぶさり、ピストンを続けながら唇を貪る。

 

「はぁはぁ……ん、麗、さぁん……」」

 

「んあぁ……ふ、か、じゅ……ッ」

 

 開いた唇の間から舌を滑り込ませ、ツルツルの歯と歯茎を舐める。

 

「あふっ……はあぁぁぁ……」

 

 ヌルヌルで温かい口内。ザラついた舌の感触。舌を絡めると麗さんの味が広がり、背筋がゾクゾクする。

 

「ああ、最高……。すごくいいよ、麗さん」

 

「はぁはぁ……か、カズ……」

 

 ピストンに合わせて揺れる双球。ぷるぷると揺れて、誘惑してくる。

 

 ボクは誘惑にかかり、胸に顔を埋めた。

 

 谷間の間に顔を埋めて、舌を這わせ、乳首へと狙いをすませて咥え込む。

 

 唇で乳輪を覆い隠し、口のなかに含んだ乳首を舌で舐める。

 

「かっ、カズ……ッ。――っ、ぁんんっ……」

 

 麗さんの両腕が頭に絡みつく。

 

「舐めちゃ……んっ、吸うのもダメぇぇ……ふうううう……ッ」

 

 ――麗さんの艶っぽい声。

 

 もっと聞きたい。

 

 ――麗さんのエッチな表情。

 

 もっと見たい。

 

 ――麗さんの体。

 

 もっと感じたい。

 

 ボクはピストンの動きを変えながら、愛撫の趣向を変えながら、麗さんの性感帯を探り始める。

 

 健康的な脇を舐めてみたり、首筋に吸い付いてみたり、耳の穴を穿ってみたり、乳首を甘噛みしてみたり、わき腹を撫でてみたり、耳たぶを噛んでみたり、口のなかに指を突っ込んで舐めさせてみたり、

 

 ペニスでオマンコの上側を擦ってみたり、下に向けて擦ってみたり、陰毛を撫でてみたり、プニプにした大陰唇を摘まんでみたり、小さなクリトリスをやさしくかわいがってあげたり、

 

 たっぷりと時間をかけて、何度も何度もビクビクと体を震えながら絶頂を迎える麗さんを見下ろし、肉体を味わいながらセックスを続ける。

 

 ビュッ! ビュルルッ! ビュビュゥウウウッ!

 

 避妊など頭になく、ただ本能のままに、欲望のままに大量の精液を子宮に吐き出し、麗さんを楽しむ。

 

「麗さん、麗さん、麗さん……ッ! 麗ッ!」

 

「はぁはぁっ、はぁはぁっ、はぁはぁっ……ッ!」

 

「最高にいいよ、麗ッ。本当に、気持ちいい!」

 

「はぁはぁっ、んんっ、わ、わたひも……きもひ、いぃ……」

 

 蕩けた表情でそう返す麗さん。

 

 対面座位になって、正面から抱き合いながら唇を交わす。

 

 麗さんの腰を抱きしめ、ベッドのスプリングを利用して上下に動く。

 

「――っ、また射精()すよっ!」

 

 ビュッ! ビュビュッ! ビュビュウウウッ!

 

「~~~~っ! ああああぁぁぁぁああああああ!」

 

 射精に合わせて麗さんの体が反応する。口から美声が発せられ、体はビクビクと痙攣し、オマンコは激しく蠢き精液を子宮へと導き入れる。

 

 ボクも射精による快感を味わうけど……。

 

 まだ満足しない。

 

 数回目の射精を経て、量は減ったけど、まだまだペニスは硬いまま。

 

 精液を飲む込もうとするオマンコの蠢きと、麗さんの姿で、勃起が収まらない。

 

「麗……」

 

「はぁはぁっ……はぁはぁっ……」

 

 未だに軽い絶頂を迎えながら、荒い息を吐いている麗さんを包むように抱きしめる。まだまだやり足りないけど、麗さんの体力が底をついたようだ。

 

 ボクも、精力はともかく、かなり疲れた。

 

 ボクは麗さんの体を支え、ゆっくりと体を倒して、ベッドへと倒れこむ。

 

 横になって、ゆっくりとペニスを抜いて、仰向けになる。

 

「はぁはぁ……はぁはぁ……はぁはぁ……はぁ……はぁ……」

 

 麗さんも一度仰向けになって息を整え……。

 

「すぅ……すぅ……」

 

 そのまま寝てしまった。

 

 どうやらボクが思ったよりも疲労していたようだ。完全に眠ってしまった。

 

 ラブホテルのベッドには色々な体液が散乱し、麗さん自身色々な体液で汚れている。特に麗さんのオマンコからは数回発分だろう大量の精液が溢れ出てきていた。

 

 ぽっかりと開いた膣口から大量に溢れ出てくる精液。あまりに精液が大量すぎて、破瓜の血が精液の白で薄まり、ピンクになっている。

 

 と、とりあえず、ティッシュティッシュ。

 

 精液を綺麗に拭きとって、こぼれないように包んで丸める。部屋の見える位置に置かれたゴミ箱のなかへ入れて、次はベッドの掃除へと移る。

 

 正直かなりダルい作業だが、このまま寝るのなら、しないとマズい。

 

 特に麗さんは汚れだらけのベッドで寝させられない。

 

 部屋に置いてあるティッシュなどを使いベッドの汚れをある程度落とし、自前のタオルで麗さんの体を拭き始める。

 

 まずは顔から始めて、首、胸、両腕、脇、腰からお腹、下へと拭いていき、うつ伏せにして背中も同じように拭いていく。

 

 麗さんは熟睡しているのか、全身を拭き終わっても起きなかった。

 

 最後に麗さんに布団をかけて終わりだ。

 

 麗さんの制服やスカート、下着なんかの衣類は畳んで纏め、自分の衣類も同じように纏めて、ボクは部屋にあるお風呂へと向う。

 

 シャワーで一気に汚れを洗い流し、ベッドに入る。

 

 こちらも裸なので、麗さんに気を使ってベッドの端に寝転がると、

 

「ん……」

 

 ……寝ぼけた麗さんが擦り寄ってきた。

 

 麗さんは横向きのまま、ボクの腕を胸に挟むようにして抱きついてくる。

 

 うわ……猫みたい……。

 

 かわいいなぁ。

 

 体温を求めているのか、体を押し付けてくる麗さん。こちらも向き合うように横向きになると、麗さんは体をさらに近づけてきた。

 

 麗さんの体温。息づかい。匂い……。

 

 ――本当に、どうしてこうなったんだ?

 




 とりあえず、プロローグなので描写抑えて、終わりです。

 プロットは原作7巻まで、いちおう完結。

 さくさく進ませていく予定です。

 できれば、原作の返却期限である今週の水曜日までには完結させたいっ。予定では十数話に届かないぐらいで終わる予定ですしね。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話 モブメガネが恋をした。 ☆

「……ん、んん?」

 

 強い芳香剤の臭い。体にかけられている薄い布団。スベスベのシーツに硬いベッド。

 

 そして、すぐ隣に感じる女性の存在。

 

 片手で目を擦りながら隣を見てみると、

 

 宮本麗さんが、スヤスヤと寝息を立てて、ボクの隣で眠っていた。

 

「…………」

 

 信じられない光景に、ボクは一度目を瞑り、指で眉間を揉む。

 

 ゆっくりと、時間をかけて眉間を揉み解して、もう一度、改めて隣を見る。

 

 腰まで伸ばしている金髪。整った顔立ち。学年でも巨乳に入る大きな胸。

 

 今までセーラー服姿や体操着姿ぐらいしか、それも、同じクラスメイトとして。ほとんど背景の一部としてしか見ることがなかった、宮本麗さん。

 

 その宮本麗さんが、今、ボクの隣で、全裸で眠っている。

 

「夢じゃ、なかったのか……」

 

 手を額に当てて、息を吐く。

 

 静かな部屋に聞えるのはボクと麗さんの息づかい。そして、ザーザーという音。真っ暗になった窓の外では、未だに強い雨が降り続いているようだった。

 

 しばらく真っ暗な窓を見つめて現実逃避。

 

 真っ暗な窓には、上半身裸で起き上がっているボクと、シーツを被って寝ている麗さんが映っていた。

 

「はぁ……」

 

 何度目となるかわからないため息をついていると、麗さんがもぞもぞと動き始めた。

 

 ボクの腕を大きな胸の谷間に挟んだまま、太ももを動かし、ゆっくりと目を開けて――。

 

「んー?」

 

 寝ぼけた顔でボクを見つめてきた。何度か瞬きをして、不思議そうな顔を浮かべて首をかしげる。

 

「お、おお……おはよう、麗さん」

 

「? おはよう?」

 

 …………。

 

 部屋に流れる沈黙。

 

 聞えるのは窓をうつ雨の音。

 

 眠たげな瞳が開いていき、定まっていなかった視線がボクの体へ向き、驚いたように大きく開く。

 

 そして、驚いた様子のまま次に自分の体を見下ろして――。

 

 ぶわっと涙腺が決壊したかのように、号泣し始めた。

 

「私……ッ、わ、私は……ッ!」

 

 涙が溢れて、ポタポタと落ちていく。両手で何度拭っても、涙は流れ続けた。

 

「麗、さん……」

 

「なんで……私……こんな……」

 

 ――大丈夫?

 

 そう、声をかけようとして、止める。

 

 突然号泣し始めた彼女に、号泣させた原因だろうボクが今話しかけるのは、あまりにも無神経だったからだ。

 

 嗚咽を漏らしながら号泣し続ける麗さんを見つめながら、無言のままベッドで体育座り。

 

 ――本当に、今はどういう状況なんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザーザーと強くふっていた雨が弱くなり始めた頃。ゆっくりとだけど、麗さんが落ち着きを取り戻し始めた。

 

 麗さんは裸が見られないようにシーツで体を隠し、顔だけ出した状態で、話しかけてくる。

 

「メガネ……じゃなかった。……カズ」

 

 泣きはらした真っ赤な目。そして、震えが残るか細い声。

 

 ……その弱々しい姿だけで、心が抉られる。

 

「私たち……その……本当にしたの?」

 

「……うん。確実にしちゃってる」

 

 はっきりと全部覚えてるし、破瓜の血も見た。膜を千切る感覚も感じた。

 

「麗さんは? 覚えてないの?」

 

「…………」

 

 無言で俯く麗さん。「あんまり」と小さくつぶやいたが、実際はかなり覚えてると思う。

 

「……い、一応聞いておくけど……大丈夫な日?」

 

「…………」

 

「だ、ダメな日だった?」

 

「……よく、わからないわ……。計算したことなんてあんまりなかったから……」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「もしも……出来ちゃった時は……」

 

「その時は……結婚、かな?」

 

「……え?」

 

 意外そうな顔でボクを見上げてくる麗さん。いや、でもさ。やり捨ては、いくらなんでも、ね?

 

「このまま放ってなんかおけないし、産むなら結婚しておいたほうが……」

 

「……カズ?」

 

「いや、それよりも先にご両親に挨拶……」

 

「カズってば……」

 

「うっ……確実にご両親からは殴られるな……。あんまり怖そうな人じゃなきゃいいけど……」

 

「カズッ!」

 

「――っ!? は、はい!」

 

 突然の大声に驚いて背筋を伸ばす。い、いきなりなに!?

 

 恐る恐る隣の麗さんへ視線を移すと、頬を膨らませて怒っていた。

 

 麗さんはボクの顔を指差して言う。

 

「なんでいきなり私とあなたが結婚する事になっているのよ?」

 

「それは……赤ちゃん産むなら結婚しておいたほうが……」

 

「バッ、バカじゃないの! まだ出来たって決まったわけでもないのに。怖いこと言わないでよ、もうっ!」

 

「ご、ごめん……」

 

 謝るボクに、麗さんは腕を組んで続ける。

 

「それに少し前までただのクラスメイトだった人なんかと結婚なんて出来るわけないでしょ! お互いのことなんて何も知らないんだから」

 

「た、確かに。そうだね……」

 

 どうやらボクは焦りすぎていたようだ。ここは正しい順序に戻らないとっ。

 

 ボクは麗さんを正面から見つめる。

 

「な、なによ……?」

 

「麗さん」

 

 ボクの目を麗さんが正面から見つめ返す。その瞳に怖気づきそうになるが、覚悟を決めて、言う。

 

「宮本麗さん。ボクと、交際してください」

 

「…………。……え?」

 

「まずは友達からでもいいです。お互いのことを知り合うためにも、ボクと付き合ってください」

 

 何とか最後まで言い切って、顔が熱くなる。一方、心のなかでは羞恥心や恐怖心など様々な気持ちが混ざり合い、胃をキリキリとしめつけた。

 

 数秒、十数秒、数十秒。もしかしたら、数分間。

 

 沈黙が部屋を支配したあと、麗さんは小声で、

 

「友達……からでいいなら……」

 

 つぶやいた。

 

 それは、本当に小さな声だった。独り言だったかもしれない。

 

 思わずつぶやいた心にもない言葉だったかもしれない。

 

 ――けど、ボクの耳は麗さんの言葉をはっきりと拾い上げた。

 

「はい。友達から、よろしくお願いします、麗さん」

 

 改めて頭を下げるボクに、麗さんはシーツで顔を隠してうなずいた。

 

「……う、うん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋の別室から聞えてくるのは雨とは違う、水の音。

 

 音の発信源はお風呂場。使っているのは麗さん。

 

 一応体を拭いていたけど、まだ体がベトベトするらしく、今シャワーで汚れを洗い流しているところだ。

 

 ちなみにボクはというと、部屋に置いてあるドライヤーを使い、麗さんの制服を乾かしている最中。

 

 壁のハンガーに服をかけて、1枚ずつ温風を当てて乾かしていく。

 

 ひらひらと揺れるセーラー服と、ピンク色のレースの下着。

 

 完全にビショビショだった服たちも、少しずつ乾いてきた。

 

 ――ガラッ。

 

 風呂場の扉が開く音。どうやら麗さんがお風呂から上がったらしい。

 

「もう少し乾くまで時間がかかるみたいだよ」

 

 そう言って振り返り……。

 

 バスローブ姿で立っている麗さんを発見した。

 

「な、何よ。……仕方ないでしょ。着れる服がないんだから。……あ、あんまりこっちを見ないでよ」

 

 体から立ち上る湯気。艶を帯びた金髪のロングストレートヘア。生地が薄いのか、それとも起っているためか、乳首の形が透けて見える。

 

 そして、顔を赤くして恥ずかしがる姿は……。

 

「ちょっと、何無言で親指立ててるのよ! う~……」

 

「うん! 最高っ!」

 

「――っ。何起ててるのよ! このスケベっ!」

 

 真っ赤な顔でそう言うと、麗さんはベッドに入ってしまった。……あ、ボク、まだ裸のままだ。

 

 麗さんはベッドの隅に寝転がる。こちらにお尻を見せて。くびれた細い腰に比べて大きいお尻。丸くて、感触も最高だった。

 

 ……と、とりあえずパンツはもう少し収まってから穿こう。

 

 ドライヤーを止めて、ベッドの端に腰掛ける。

 

「麗さん。制服は朝までには乾くと思うよ」

 

「……ありがとう」

 

「うん」

 

 時刻はまだ深夜2時。朝までまだまだ時間がある。

 

 …………。

 

「麗、さん?」

 

「…何?」

 

「ずっと、気になっていたんだけど……。何か、あったの?」

 

「…………」

 

「雨の中傘も差さずに立っていたし、ここまでボクを引っ張り込んだり……普段の麗さんと様子が違うから……」

 

「…………」

 

 無言で黙る麗さん。やっぱり何かあったようだ。ボクはなるべく落ち着いた、優しい声で訊ねる。

 

「……話してみない?」

 

「……あんたに話してどうにかなるの?」

 

 不機嫌そうな声。ボクは口調を変えずに言葉を重ねる。

 

「それはわからないよ。でも、少しは楽になると思うよ」

 

「…………」

 

「話したくないのなら、話さなくても……」

 

「……紫藤、先生に……」

 

 ポツリと、麗さんが話し始めた。ボクは口を閉ざして訊く。

 

「留年……させられたの……。私のお父さん……警察官で。紫藤議員の捜査をしてて……」

 

「うん」

 

「紫藤が、私の成績を操作して……」

 

 麗さんの体が小さく震える。声に涙が混じっていく。

 

「お父さん、泣いて……私に謝って……。どんなことにも動じなかったお父さんが……」

 

 嗚咽を漏らしながら、麗さんは泣き始める。ボクはベッドに上がり、麗さんの肩に触れる。

 

「麗さん……」

 

「私……どうしていいかわからなくなって……。カズに声をかけてもらったときは頭がメチャクチャになってて……自分でもわけがわからないことして……ッ」

 

「……辛かったんだね」

 

 頭を撫でる。

 

 やさしく、心を込めて……。

 

「――っ」

 

「よしよし……」

 

 幼い子供を慰めるように。何度も撫でる。

 

 嗚咽を漏らしながら泣き続ける彼女を、ボクは慰め続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝日が昇り始めた頃。窓から差し込む日差しに、ボクは目を覚ました。

 

「おはよう、カズ」

 

「……お、おはよう、麗さん」

 

 目を、完全に覚ました。

 

 普段は低血圧で朝に弱いはずのボクが、寝起きの余韻なんて忘れて、完全に目を覚ました。

 

「麗……さん?」

 

「何?」

 

「あの……なんで、えっと……その……」

 

「どうかしたの?」

 

「……な、なんで、ボクらは抱き合ってるんでしょうか?」

 

 しかも、腕枕。ボクは裸。麗さんはバスローブ姿だけど、密着具合が……麗さんの胸がボクの胸に完全に当たってます。

 

 一応、シーツを体にかけているので、上からは見えないけど。

 

 えーっと……昨夜は麗さんを慰めてから……。

 

 それから……

 

「何? 嫌なの?」

 

 頬を膨らませる麗さん。麗さんにボクは考えを打ち切って、即答で返す。

 

「いっ、嫌じゃない! むしろっ、う、うれしいよ」

 

「なら、いいじゃない」

 

「……うん」

 

 麗さんはボクの首元に顔を埋める。

 

 腰から背中に回された麗さんの腕。麗さんはボクの背中を指で撫でる。

 

「う……」

 

 もう片方の手が腹筋を撫でる。わき腹から太ももまで触られ――、

 

「貧弱ね」

 

 グサッ。

 

 ナイフが……。言葉のナイフが心に刺さる。

 

「全然筋肉ついてないし、少しは鍛えたほうがいいんじゃない?」

 

 ペタペタと体を触ってくる麗さん。麗さんの手の感触を感じる余裕は今のボクにはない。

 

 貧弱ぅ……。

 

「女の私のほうが力あるんじゃないの?」

 

「それは……でも、麗さんは運動部だから。ほら、槍術部だっけ?」

 

「あら? 知ってたの?」

 

「一応、クラスメイトだからね。――あと、麗さんも……」

 

「キャッ!?」

 

 お返しとばかりに麗さんの腰に触れる。貧弱と言ったお返しに、ささやかな意地悪を……。

 

「お腹の肉……肉……?」

 

「な、何よっ! 太ってるって言いたいわけ?」

 

 麗さんからキッと睨まれるけど……今のボクはそれどころではなかった。

 

 改めて手で麗さんの腰を触る。

 

 スベスベの手触り。摘まもうとしても摘まめない程よく搾られた肉体。柔らかいなかにしなやかさが存在する。足も太くはないのに、筋肉が発達していることが伝わってくる。

 

「ほ、本当に鍛えてるんだね、麗さん」

 

 これならボクの体を貧弱と呼びたくなるわけだ。

 

「~~っ」

 

 感心するボクとは違って、カアアアッと麗さんの顔が真っ赤になる。

 

「麗さん?」

 

「……お、女の子らしくなかった?」

 

「うんん、すごく女の子らしいと思ったよ。柔らかいし、スベスベで」

 

「ううぅ……」

 

「いい匂いもしてるし。すごく魅力的で……もっと触りたいと思ったよ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 麗さんは俯く。

 

 うわぁ……照れてる麗さん。激レアだなぁ。すごくかわいいです!

 

「キャッ」

 

「? どうしたの、麗さん」

 

「カズ~~」

 

 ジト目で睨んでくる麗さん。えーっと……?

 

 麗さんは体を少し離す。腰に回していた手で太もも辺りを1回触る。

 

「……あっ」

 

 下半身に意識が向けられて、気づいた。

 

 慌てて片手で覆い隠す。

 

「ご、ゴメン……っ」

 

 勃起してしまったペニスを隠しながら謝るボクに、麗さんは顔を背けて言う。

 

「別にいいわよ。お、男の子なんだから」

 

「ほ、本当にゴメンね」

 

 うわぁぁぁ……。す、すごく恥ずかしい。これはすごく恥ずかしいよっ。

 

 うう、顔が熱いっ。

 

 ボクは麗さんに背中を向けて、勃起してしまったペニスを隠す。

 

 早く収まれ、早く収まれ、早く収まれ、早く収まれ……ッ!

 

「……カズ?」

 

「落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け……」

 

「…………」

 

「煩悩退散煩悩退散煩悩退散……」

 

「……ふふっ、カズ~」

 

「――っ!?」

 

 背中に広がる2つの幸せ! お尻に当たる『毛』の感触! 腰から胸へかけて腕が伸びてきて、耳元で囁かれた声は甘い……。

 

「れっ、麗さん!?」

 

「ふふっ」

 

「あの……離れてくれないと、収まりが……」

 

 心臓の音と一緒にペニスが硬く、大きくなる。

 

 小さく縮こまっていると、麗さんが耳元で囁くように訊ねてきた。

 

「カズ。私で興奮してるの?」

 

「う……。そ、そうだよ。だから、離れてくれないと……」

 

「襲う?」

 

「おっ、襲わないよ!」

 

 襲ったら返り討ちにあうだろうし! そもそもそんな勇気はないよ!

 

 完全に勃起し終えたペニスを両手で隠す。

 

 そんなボクをおかしく思ったのか、麗さんは声を上げて笑い出す。

 

「うう……酷い……」

 

「ふふっ、ゴメンゴメン」

 

「うう……」

 

「…………」

 

 急に無言になる麗さん。今のうちにどうにかペニスを小さくしようとしていると――。

 

「……私が……してあげようか?」

 

 麗さんがそんなことをつぶやいた。

 

「……へ?」

 

 空耳? 聞き間違え? 気なって後ろを振り返る。

 

 そこには少し顔が赤い麗さんがいて、

 

「ずっと慰めてもらってたし……。え、エッチもしたんだから。い、いまさらでしょ?」

 

「それって……」

 

「抜いてあげるって言ってるのよ! もうっ、これ以上恥ずかしいこと言わせないでよ……」

 

 …………。

 

「それで、どうするのよ? エッチはさすがにダメだけど……。他のことなら、いいわよ」

 

「ほ、本当に?」

 

 ボクの問いに、麗さんは、うなずいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちゅっ……あ……れい、さん……。すごくいい、です……」

 

「んっ、キスしながら、しゃべらないでよ……んんっ……」

 

 ベッドの上に座って、麗さんと唇を重ねる。

 

 舌同士を絡めて、唾液を混ぜあう。

 

「はぁはぁ……どう? 気持ちいい?」

 

 唇を離した麗さんが訊ねてくる。ボクは首筋にキスをしながら答える。

 

「うん……すごくいいよ」

 

 女の子らしい細くて柔らかい麗さんの手。

 

 その手が今、ボクのペニスを扱いている。

 

「本当に、最高だよ」

 

 手で竿を包み込み、雁首から根元へ向って上下に扱く。ペニスから伝わるスベスベした手の感触と圧力に、快感を感じる。

 

「麗さん……」

 

「ひゃっ!? こ、コラ……耳は……」

 

 麗さんの口から漏れるエッチな吐息。ペニスを握る手にも力が入る。

 

 ……ああ、興奮する……。

 

 頭が……体が熱い……。

 

 麗さんの魅力にクラクラする。

 

「はぁはぁ……麗、さん……」

 

「ぁん……カズ……」

 

「ボク……ッ、もう……」

 

 麗さんの肩を掴んでベッドに押し倒す。

 

 バスローブに包まれた胸が揺れる。少しだけ開いた足の間から、麗さんのオマンコが見えた。

 

「麗さん……ボクはもう……」

 

「か、カズ……?」

 

 戸惑う麗さん。だけど、もう止まれない。

 

 麗さんに覆いかぶさり、唇を重ねる。

 

「か、カズ……ッ。う、あぅ……」

 

 口内に舌を伸ばし、唾液を送り込む。こくっと動く麗さんの喉。

 

 手でバスローブの結び目を解き、胸元を肌蹴させて、胸を揉む。

 

「――っ、こ、ら……」

 

「はぁはぁ……ゴメン、麗さん」

 

 手から大きくあまり、プルプルと震える巨胸。かわいらしい乳首がしだいに硬くなっていく。

 

「……あ、謝るなら、早く胸から手を……あんっ、そ、そこは……ッ!」

 

 胸から股へと手を移動させると、水気を感じた。少しだけヌメリ気を帯びた液体。

 

 麗さんのオマンコから染み出すように分泌されている。

 

 ……そうか。

 

 麗さんも、感じてるんだ。

 

 ボクは一度起き上がり、麗さんの股の間にまわりこむ。

 

 M字に立ててある膝を掴んで体を進め、

 

「挿入するよ、麗さん」

 

「――っ! そっ、それはダメっ! これ以上中で射精()されちゃうと、本当に妊娠しちゃうじゃないっ」

 

 両手でオマンコを守る麗さん。

 

「で、でも……」

 

 もう我慢が……。

 

 直前で踏みとどまりながらも、ボクは照準を動かさない。手で守られている先を狙い――。

 

「それだけはダメなのっ」

 

 逃げられた。

 

 麗さんはボクから距離を取り、ベッドに座る。両手で胸と股を隠して、視線を外す。

 

「うう……」

 

 このまま欲望の赴くまま強引に……というのは、無理だ。やりたくない。

 

 けど、フル勃起したペニスはどうすれば……。

 

 挿入直前。四つんばい状態でうな垂れるボク。

 

 そんなボクに、麗さんは小声でつぶやいた。

 

「く、口で、してあげるから……」

 

「――っ!」

 

「それで、我慢して」

 

 真っ赤な顔で、恥ずかしそうに。

 

 …………。

 

「麗さぁぁぁん~っ!」

 

「――っ! こ、コラッ。抱きつかないでよっ。カズ、ちょっと、聞いてるの!」

 

 ジタバタともがく、麗さん。

 

 それでもボクの麗さんを抱きしめる。

 

 強く感じる彼女の存在。

 

 心臓がうるさいぐらい高鳴る。

 

 目の前の麗さんがすごく綺麗で、かわいく見えて、様々な感情が溢れだす。

 

 雨のなかの出会いから、今までのシーンが次々の頭の中で流れて、ある感情が作り出される。 

 

 その感情を一言で表すなら、『好き』。

 

 好き。

 

 麗さんが、好き。

 

 ボクは、麗さんに好意を抱いている。

 

 心の中でつぶやくと、溢れていた感情に輪郭が生まれた。

 

「……好き……。麗さんが、好きだ」

 

「――っ!?」

 

 口から耳に、全身に自分の言葉が浸透していく。

 

「ボクは、麗さんが好きなんだ」

 

 数時間前までは、昨日まではただのクラスメイトだったのに。ほとんど知らなかったのに。

 

 ボクは目の前のクラスメイトに恋していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、気持ちいいよ、麗さん」

 

「まったく。さっきは真剣に告白したくせに」

 

「ご、ゴメン……。でも、なおさら我慢できなくなって……」

 

「はぁ……もう、いいわよ。別に。――それより、あと2、3回ぐらい抜いたら、今度こそここを出るわよ」

 

「うん、ありがとう。麗さん」

 

「まったく、どうして私がフェラチオで……」

 

 不満げにつぶやきながらも、麗さんはボクのペニスに舌を這わせてくれる。

 

「ああぁ……気持ちいい……」

 

「はぁ……まったく……」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 はじめての修羅場

 午前10時。ボクと麗さんは身支度を整えて、ラボホテルから出る。

 

 部屋の使用料を入り口にある清算機に吸い込ませ、周りを警戒しながら出入り口へ。

 

 出入り口から頭だけ出して、表の通りを覗き、知り合いがいないか確認する。

 

「大丈夫みたいだね」

 

「ええ」

 

 ボクと麗さんはそそくさと繁華街を抜けて、住宅地のほうへ向う。

 

 住宅地へ戻れても、今日は平日だ。学生は学校へ行く日である。

 

 このまま制服姿で住宅地をうろうろするのはマズい。警官にでも見つかったら、補導されるかもしれない。

 

 周囲に目を配りながら声をかける。

 

「麗さん」

 

「何?」

 

「麗さんの家はここから遠い?」

 

「ええ、10分ぐらいは歩かないといけないわ」

 

「10分……。それなら、一旦ボクの家に行かない?」

 

「カズの家?」

 

「うん。ここから5分もかからないよ。親もいないし、学校が終わる時間までボクの家に……」

 

 麗さんがジト目で見る。怪しむように見つめて、

 

「変なこと、しないでしょうね?」

 

「へっ、変なこと!? そんなことしないよ!」

 

 じーっとボクの目を見る麗さん。

 

「ほ、本当にしないから。ただ、補導されたりしないためだから」

 

「…………」

 

「ほ、本当だよ……?」

 

「……わかったわ」

 

 麗さんはボクから視線を外す。ふぅ……。

 

「じゃあ、こっちだから」

 

 麗さんを先導して、ボクは自宅へと向った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 住宅地の真ん中にある、四方を塀で囲まれた2階建ての一軒屋。

 

 表札には石井の文字。

 

 ボクの自宅だ。

 

 ドアのカギを開けて、まずは麗さんをなかへ入れる。

 

「おじゃまします。――へえ、結構広いのね」

 

 麗さんに続いて、ボクも家のなかへ。玄関のカギを閉めて、訊ねる。

 

「とりあえず制服でも洗濯する? ホテルの臭いがついちゃってるし」

 

「そうねえ……」

 

 麗さんは腕を鼻に近づけて制服の匂いを嗅ぐ。

 

「確かに臭うわね……。うーん……」

 

 悩むように唸りながら、ボクを見る。

 

「どうかした?」

 

「…………」

 

 数秒無言で見つめられて、気づく。

 

「あっ、着替えなら――下着は、ないけど……。まだ着てないパーカーとズボンがあるよ」

 

「…………」

 

「男物は嫌、かな……?」

 

 恐る恐る訊ねたボクに、麗さんはなぜか小さく息を吐いた。

 

「男物でもいいわ」

 

「じゃあ、着替えついでにシャワーも浴びてきたらどうかな? その間に洗濯すればいいし」

 

「それもそうね。そうさせてもらうわ」

 

「お風呂場は右側のドアだから。その反対側がトイレだよ」

 

「右がお風呂場ね。あと、洗濯は自分でするから触らないでよ?」

 

「うん。洗剤も好きに使っていいよ。着替えはカゴに用意して入り口の側に置いておくから」

 

「わかったわ。――ありがとう、カズ」

 

「うん。じゃあ、ボクは着替え用意しに行くから」

 

 そう言って自分の部屋がある2階へと向った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 麗さんの着替えを用意して、ボクも制服から私服に着替える。

 

 そして、昨日から何も食べていないことを思い出す。

 

「麗さんもラーメンでいいかな?」

 

 一応、冷蔵庫に食材はあるのだけど、調理はあまり得意じゃない。ボクが一生懸命調理したとしても、おそらく不味いものが出来上がるだろう。

 

 麗さんに不味い料理を食べさせるぐらいなら、大量に買い込んでいるノンカップ麺を作ったほうがいいと思う。

 

「まっ、先にサラダでも作っておくか」

 

 ラーメンはすぐ出来るんだし。

 

 ボクは食器棚からガラスの皿を2枚取り出し、冷蔵庫へ。

 

 冷蔵庫から最初からカットされた野菜を取り出し、皿へ乗せる。

 

 トマトとハムを切って野菜の上へ乗せて、ドレッシングを数種類テーブルに用意。

 

 調理時間2分もかからず完成。

 

「…………」

 

 あまりに早すぎたな……。

 

 サラダを作り終え、テーブルに座って待っていると、お風呂場のドアが開く音が。

 

「カズー?」

 

「こっちだよ、麗さん」

 

 席を立って廊下へ顔を出し、麗さんをリビングに呼ぶ。

 

「着替えはそれでよかった?」

 

「ええ、充分よ。ありがとう」

 

 笑顔でお礼を言う麗さん。

 

 灰色のパーカーにジーパンという普通の格好だったが、ドキドキした。

 

「よ、よかった。じゃあご飯でも食べようか? お腹、空いてるよね?」

 

 ボクは麗さんに悟られないように、顔を背ける。うるさい心臓を無視して、麗さんに訊ねた。

 

「うん……。そういえば、昨日から何も食べてなかったわ」

 

「一応、ラーメンでも作ろうと思ってるよ」

 

「ラーメン?」

 

 小さく首を傾げた麗さん。やっぱり女の子にラーメンはダメだったかな? カロリーとか高いし。

 

「嫌だったら、他のを作るけど……」

 

「食材はあるの?」

 

「冷蔵庫のなかに、あるにはあるけど、料理は苦手で……」

 

「それなら――私が作ってあげようか?」

 

「えっ!? 作ってくれるの?」

 

「シャワーとか洗濯機まで貸してもらってるんだから、それぐらいするわよ。それに、こう見えても私、料理は得意なのよ」

 

 麗さんはそう言ってニッコリ微笑んだ。

 

「じゃ、じゃあ、よろしくお願いします、麗さん」

 

「ふふっ、任せなさい」

 

 麗さんは振り返って、冷蔵庫のほうへ向う。

 

 麗さんの手料理……ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……食べた食べた」

 

「ふふ、美味しかったでしょ?」

 

「うん。本当に美味しかったよ。こんなにたくさん食べたの、久しぶりだ」

 

「そう言ってもらえると、私もうれしいわ」

 

 ご機嫌そうに、鼻歌混じりに食器を洗う麗さん。

 

「…………」

 

 ボクは机に頬杖をついて、ボーッと後ろから麗さんを見つめる。

 

 背中越しに時々覗ける陽だまりのように輝く笑顔。

 

 そんな笑顔を見つめながら、改めて思う。

 

 この人が好きなんだ、と。

 

 …………。

 

 ――っ。何恥ずかしいことを考えてるんだ、ボクは!?

 

 うう……顔から火が出そうだ……。熱い……。

 

 コップに入れたお茶を飲んで、何とか心を落ち着かせる。

 

「じゃあ、そろそろ洗濯が終わる頃だと思うから」

 

「う、うん。乾燥機もあるけど、使う?」

 

「うーん……乾燥機はすぐ乾くけど、シワが出来ちゃうのよねえ」

 

「なら、外――はマズいから。部屋のなかに干そうか? 2階に空き部屋があるし」

 

「ありがと、助かるわ」

 

「うん。空き部屋でよく洗濯物干してるから、道具もそろってるよ」

 

「じゃあ、取ってくるわね」

 

 そう言って、麗さんがお風呂場へと洗物を取りに向う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 洗濯物を両手に抱えた麗さんを連れて階段を昇る。

 

 階段を昇りながら麗さんがつぶやく。

 

「そういえば、カズの家って少し変わってるわね。壁とか音楽室みたいだし」

 

「あははは、音楽室か」

 

 確かに、ボクの家の壁は普通の家とは違う。ボクは壁を触りながら言う。

 

「この壁は防音素材なんだよ」

 

「防音?」

 

「うん。家全体の壁とか色々、音が漏れないようにされてて……」

 

 あれ?

 

「どうしたの、麗さん」

 

「その防音って、私が大声で叫んでも……」

 

「まず誰にも聞えないと思うよ」

 

「そう、なんだ……」

 

 麗さんの表情が硬く強張る。……ああ、そういうことか。

 

「誤解させちゃったみたいだけど、家の防音は父親が音楽家だからだよ」

 

「そう、なの……?」

 

 少しだけ表情が和らぐ。うん、やっぱり誤解させちゃっていたか。

 

「うん。1階の部屋にはピアノもあるよ。ここって住宅街だから、近所迷惑にならないようにって、完全防音にしたそうなんだ」

 

「そ、そうだったんだ……」

 

「ゴメンね、誤解させちゃったみたいで」

 

「う、うん。私も誤解してゴメンなさい」

 

 誤解が解けたところで、2階へ向う。

 

 廊下を曲がって、一番奥の部屋が空き部屋だ。

 

 ドアノブに手をかけてまわす。

 

「結構換気とか掃除もしてるから、キレイだと思うよ」

 

 ドアを開けて、部屋のなかへ。

 

 絞まっているカーテンを開けて窓を開けると、冷たい風と共に部屋の空気が変わり、冬の日差しが部屋を照らし出す。

 

 床一面に敷かれた畳。部屋の隅に置かれたタンス。一般的な和室になっていて、壁の上辺りに洗濯物を干すための突っ張り棒が2本付けられている。

 

 その2本の突っ張り棒にはいくつものハンガーがかけられていて、いくつかのハンガーにはすでに服がかけられていた。

 

 その服の中で特に目を引いたのは、メロンが入りそうな巨大なブラジャー。黒色で、豪華なレースの模様が美しい。

 

 そして隣にも、数サイズ小さい黒色のスポーツブラがかけてあった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 …………。

 

「カズ、これは、何?」

 

 仮面のように動かない笑顔を顔に張り付かせた麗さんが指を指す。

 

 ボクは指が指された方向とは全く別の方向を見る。

 

「カズ? あなたの家族構成は?」

 

 すぐバレる質問なので、正直に答える。

 

「……ち、父親だけ、です」

 

「そうよね。お姉さんや妹さんはいないのよね?」

 

「はい……。肉親は父だけです」

 

「そのお父さんは?」

 

「た、単身赴任中です。去年から」

 

「……じゃあ、部屋にかけてある女物の下着は何かしら?」

 

 麗さんがボクを睨むっ。まるで取調べの刑事さんのような視線に、ボクは自白を始める。

 

「き、近所の……お姉さんのモノです」

 

「違うサイズが混じってるけど?」

 

「お、お姉さんは、ふ、2人……いて……ですね……」

 

「そういえばカズって『経験』があったのよね? その2人としたの?」

 

「は、はい……」

 

「へえ……」

 

 声の温度が下がる! こ、氷のようだ。怖いっ、今の麗さん、怖いっ!

 

「カズ……」

 

「……はい」

 

「私のこと、『好き』って言ったわよね?」

 

「うん」

 

「お姉さんたちは?」

 

「……え?」

 

「お姉さんたちは好きじゃないの?」

 

「それは……」

 

 言いかけて、止まる。正直、2人に対してそういう事を考えたことがなかった。

 

 どうなんだろう?

 

 ボクは2人のことが好きなのかな?

 

 …………。

 

「好きは……好き、だと思う。けど……」

 

「けど?」

 

「麗さんに向けてる『好き』と、2人に向けてる『好き』が同じか、よくわからないんだ」

 

「…………」

 

「麗さんに向けてる感情は、もちろん恋愛感情だと思うよ。でも、2人にボクが向けてる好意が恋愛感情なのか、よくわからないんだ」

 

「わからないんだ……」

 

「うん。今まで本当のお姉さんのように過ごしてたから、改めて訊かれるとね」

 

「エッチはしてるのに?」

 

「うっ……。……うん。ゴメン」

 

 正面を向いて頭を下げる。

 

 麗さんはしばらく無言だったが、

 

「ふぅぅ……まあ、いいわ。とりあえず洗濯物を干すから出て行って」

 

 息を吐いて、雰囲気をやわらげてくれた。

 

「あっ、2人の服は乾いてるみたいだし、先に片付けるよ。かけるときに邪魔になるだろうから」

 

「……そうね。お願い」

 

「……う、うん」

 

 ボクは急いで2人の洗濯物をハンガーから外し、両手にかかえて部屋から出て行く。

 

「じゃあ、ボクは1階にいるから」

 

「ええ、干したらすぐ行くわ」

 

 ……とりあえず畳むのは後にして、自分の部屋のベッドに洗濯物を放っておく。

 

 うう……2人の洗濯物を干してたの、忘れてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キッチンに隣接している1階のリビング。

 

 ボクはソファに腰掛け、大型テレビに映っているニュース番組を観ているフリをしながら、後ろで電話をしている麗さんに聞き耳を立てる。

 

 麗さんの電話の相手は家の人。

 

 服を干し終えたあと、リビングの壁にかかっている時計の時間を見て、さすがに一度は家に連絡を入れないマズいと、ボクの家の固定電話から自宅へ電話をかけたのだ。

 

「うん……こっちは大丈夫。……うん、昨日は友達の家に泊めてもらったから。心配かけてゴメンなさい」

 

 麗さんは携帯電話……というか、今は財布も何も持っていない。お父さんから話を聞いて、思わず家を飛び出して来たから、何も持ってこなかったそうだ。

 

「うん、今日は……夕方までには帰るから。うん……じゃあね」

 

 ガチャ。

 

 通話を終えたのか、麗さんが受話器を置き、戻ってくる。

 

「電話貸してくれて、ありがとう」

 

「うん。それで、家の人は?」

 

「すっごく心配してたわ」

 

 麗さんはボクの隣に腰を下ろす。大きく息を吐いて、背もたれに体を預けて、天井を見上げた。

 

 天井を見上げたまま、麗さんはつぶやく。

 

「ゴメンなさい」

 

「え?」

 

「すごく迷惑だったでしょ? ホテルのお金とかも払ってもらったり、こうして家にいさせてもらったり……。私、カズにすごく迷惑かけてる」

 

 そう言って息を吐く麗さん。そんな麗さんに、ボクは正面を向いたまま言う。

 

「全然、迷惑なんかじゃないよ」

 

「…………」

 

 麗さんが顔をこちらに向ける。

 

 ボクも、麗さんのほうを向いて言う。自分の素直な気持ちを伝えるために。

 

「まあ、最初は戸惑ったし、ホテル代で財布の中身は一気に軽くなったけど。麗さんのこと、全然迷惑だなんて思ってないよ」

 

「……本当に?」

 

「うん。本当に。――むしろボクは麗さんが近くにいるだけでうれしいよ」

 

 麗さんの手に、自分の手を重ねる。

 

「…………」

 

 麗さんはボクを無言で見つめたまま、ゆっくりと手の平を返して手を繋いだ。

 

 しっかりと手を繋いで見つめ合っていると、

 

「はあぁぁ……」

 

 麗さんが突然大きく息を吐いた。息と共に麗さんの体から力が抜けていく。

 

 部屋の暗かった雰囲気もゆっくりと霧散していき――。

 

 全身から力を抜いた麗さんは、ゆっくりとボクの肩へと寄りかかってきた。

 

「麗さん?」

 

「……少し、寝るわ……」

 

「……うん、おやすみ」

 

「ん……」

 

 ボクの肩に寄りかかって目を閉じる麗さん。

 

 ボクは静かにテレビの電源を落とした。

 

 ――おやすみ、麗さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日も暮れ始めた夕暮れ。制服も無事に乾き、麗さんは元のセーラー服姿に戻っていた。

 

「じゃあ、帰るわね」

 

 靴を履き、玄関のドアを開ける麗さんに、ボクは声をかける。

 

「そこまで送っていくよ」

 

「別にいいわよ。そこまで遠いわけじゃないんだから」

 

「でも……。ボ、ボクが麗さんを送りたいんだ」

 

 ドアに手をかけたまま、麗さんがボクを見る。クスリと笑って、

 

「じゃあ、お願いするわ」

 

 手を差し出してきてくれた。

 

 ボクはその手を優しく掴む。

 

「うん。ありがとう、麗さん」

 

「ありがとうって。それは送られる私のセリフでしょ」

 

「あはは、そうだったね」

 

「ふふふっ」

 

 2人で笑いあって、ドアを開ける。

 

 手は繋いだまま、僕らは歩き出す。

 




―帰り道―

麗  「もうすぐ家だからここまでいいわ。送ってくれてありがとう、カズ。また明日、学校でね」

カズ 「どういたしまして。またね、麗さん」

麗  「うん、またね」


―近くの路地―

孝  「なあ、永。あれって……」

永  「……」

孝  「麗、だったよな?」

永  「……ああ。麗だったな」

孝  「隣のヤツと手ぇ繋いでなかった?」

永  「繋いでたな。それに、すごく親しそうだった」

孝  「そういえば、昨日の夜、麗の家から電話が……」

永  「俺のことにも電話がきた。麗がそっちに行ってないかっていう電話だった」

孝  「もしかして、さっきのヤツのところに……?」

永  「……」

孝  「いや、だけど……。麗があんなひ弱そうなヤツとなんか……」

永  「あ、相手の見かけなんて、麗には関係ないだろ」

孝  「それはそうかもしれないけど……って、永? 大丈夫か?」

永  「はぁはぁっ……ああ、大丈夫だ。俺は冷静だよ、孝」

孝  (全然大丈夫そうに見えない……)

永  「まさか、孝じゃない他の誰かに取られるなんて……」

孝  「僕もまったく同じことを思ってるよ、永」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 2回目の修羅場

 麗さんを送り届けたボクは、自宅のソファに横になっていた。

 

 現在の時刻は7時を回ったところ。冬の太陽はすでに沈んでいて、窓の外は暗くなっている。

 

 ボクは横に寝転んだまま、電源が入っていない、真っ暗なテレビを見つめて、息を吐く。

 

 ボクの頭のなかを占領しているのは、麗さん。

 

 昨日の昼まではただの同級生のクラスメイトだった女の子。

 

 そんな女の子のことばかり、今のボクは考えてる。

 

「はぁ……」

 

 冷たい雨の中、傘も差さずに立っていた麗さん。

 

 突然ボクの手を取って歩き出した麗さん。

 

 そのまま、いきなりラブホテルへと連れ込まれて……セックス、した。

 

 麗さんは処女で、痛がって……ボクは我慢できなくなって……。

 

「ううっ……」

 

 心臓の音に合わせてペニスが大きくなり始めた。

 

 鮮明に焼きついている麗さんとの行為を思い出すだけで、射精しそうになる。

 

 無言で自分の手を見つめる。

 

「……まだ、麗さんの感触が手に残ってる」

 

 柔らかくて、スベスベで、胸なんか手に吸い付くようで……。

 

「こ、これ以上思い出すのは止めとう……」

 

 でないと、このままリビングのソファでしてしまいそうだった。

 

 ボクはソファから起き上がり、煩悩を振り払うように頭を振る。

 

 ソファの前に置いた背の低いテーブルからテレビのリモコンを手に取り、電源を入れた。

 

 真っ暗な画面が鮮やかな色を映し出す。

 

 適当にバラエティ番組を映したところで、玄関のインターホンが鳴った。

 

 もしかして、麗さん!?

 

 ソファから立ち上がり、廊下に出て、玄関へ向う。

 

 私服のシワや髪型を手で直して、玄関のカギを開け……、

 

「ただいまー♪」

 

 ――る前にカギが開けられ、そんな声と共に、いつもの方が玄関から入ってきた。

 

「あら、カズくん。お出迎えしてくれたの~?」

 

 ボクをくん付けしながら、無邪気なニコニコ笑顔でそう訊ねてくる女性。

 

 キラキラしている長い金髪のストレートヘアを、お尻の位置でひとつに結んでいる。白のブラウスと紺色のスーツスカートの上から白衣を纏っている、女性。

 

 細くくびれた腰に反して、ブラウスを突き破らんばかりのJカップの巨乳の持ち主で、動く度にプルプルと大きく揺れ動くそれは男を誘惑し、

 

「遅くなってごめんね~。少しお仕事長引いちゃって」

 

 かわいらしく、美しくも見える整った顔立ちは、身に纏う柔らかな雰囲気と相まって、彼女の魅力を何倍にも引き上げていた。

 

 地味で、メガネ以外特徴という特徴のないボクとは、世界が違うといっても過言ではない、美女。

 

 そんな美女を前に、ボクはいたって冷静に対応する。

 

「おかえりなさい、静香さん」

 

 鞠川(まりかわ) 静香(しずか)。ボクが通っている高校の校医さんで、数年来の付き合いになる、

 

 2人いる『近所のお姉さん』の内のひとり。

 

「リカは今週も土日仕事なんだって。寂しいからカズくんのところに着ちゃった」

 

 もっと正確にいうと、近所のお姉さんの、お友達のお姉さん。

 

 …………。

 

 あはははは、帰ったばかりの麗さんが家に来るわけないよね。

 

「元気ないわねぇ。どうかしたの? ――あっ、そういえば今日学校、休んだでしょ?」

 

「そ、それは……」

 

「もしかして風邪? 私が診察してあげようか?」

 

「風邪なんか引いてないから、大丈夫だよ、静香さん」

 

「そう? ――じゃあっ、とりあえず今夜は飲み明かしましょ♪ 映画とか色々レンタルしてきたの♪」

 

 そう言って静香さんは手に持っている鞄とビニール袋を渡してくる。鞄を空けるとDVDが。ビニール袋からは大量の缶ビールとチューハイなどの酒が出てきた。

 

「お酒弱いんだからあんまり飲みすぎないでね、静香さん」

 

「うん、気をつける♪」

 

 まったく気をつける気ないな、この人……。

 

 何度目かわからないセリフに、ボクは肩を落として廊下を進んだ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、翌朝。

 

 ボクはむせ返るようなアルコールの匂いと、息苦しさで目を覚ました。

 

 目を開けても相変わらず真っ暗な視界。

 

 顔や体に感じる人肌の感触。触れ合っている部分から伝わってくる熱。

 

 はぁはぁ……く、苦し……。

 

 とりあえず、さっきから感じている息苦しさから脱するために、ボクは体を起こす。

 

「う~ん……カズく~ん」

 

 すぐ近くで聞えてくるエッチな猫なで声や、首に回される腕などの様々な誘惑を振り切り、完全に体を起す。

 

 かすみが取れ始めた視界に、リビングの惨状が映った。

 

 あちらこちらに転がった缶ビールや缶チューハイの空き缶。テーブルには夕食兼酒のツマミが食べかけ状態で残されていて、テレビにはDVDのホーム画面が映りっぱなし。

 

 そこには昨日、麗さんと過ごしていたときの甘くて切ない感じなどまったく皆無で、視線をもう少し下に向けると、全裸の静香さんがいた。

 

 静香さんは起き上がっているボクの腰に両手を回して、抱き着くような状態でスヤスヤと寝ていた。

 

「静香さん……」

 

 ボクはその場で肩を落とす。

 

 先に言っておくが、事後ではない。

 

 昨夜は静香さんが借りてきたB級映画を観ながら、いつものように静香さんのお酒に付き合い、深夜12時を回ったぐらいで完全に酔い潰れて眠ってしまった静香さんを、ボクが眠っていたソファとは別のソファに寝かせて、ボクは反対側のソファで寝た。

 

 決してボクは静香さんに手を出していない。

 

 未成年で、酒も飲んでいないので確実にだ。

 

 静香さんが全裸なのは、いつものこと。静香さんは泥酔して眠ると、寝苦しいのか、熱いのか、よく服を脱いでしまうのだ。

 

 ボクが寝ているソファに入ってきて、隣で寝たのはおそらく部屋が寒かったから。

 

 抱き合って寝ていたのは間違いないけど、エッチはしていない。

 

 そりゃあ、静香さんの体に反応はしたよ。健全な男の子として女性の裸を見て反応しないわけにはいかないから。

 

 でも、ボクは踏み止まった。

 

 十代後半の青年が秘める欲望に打ち勝ち、ボクはソファから下りて、裸体を隠すように布団もかけた。

 

 完全に無防備だった静香さんを襲わないよう、ボクはすごく頑張った。

 

 ――ピン、ポーン……。

 

 息をつく暇もなく、来客を知らせるインターホンが家に鳴り響いた。

 

 無意識に時計を見て時刻を確認すると、午前8時24分だった。

 

 こんな時間に誰だろ?

 

 玄関に向いながら考える。

 

 まず、もう1人のお姉さんではない。あの人の仕事は少し特殊で、仕事場に泊まることが多いし、あの人ならインターホンなんか押さない。たまに荷物を抱えている時なんかは押すけど、ほとんど自分の家のように勝手に入ってくる。

 

 他に単身赴任……というか、海外を拠点に音楽家として活動している父親。宅配便などが考えられるが、その可能性は低い。

 

 なら、誰だ?

 

 もしかして、今度こそ麗さん?

 

 ……いや、それはない。

 

 昨日、別れる時に「また明日学校で」と言ってしまったけど、今日は土曜日で休日だったからだ。

 

 様々な疑問を抱きながら、ボクはカギを開けてドアノブを回す。

 

「はーい、どちらさ、ま……?」

 

「おはよう、カズ」

 

「れ……麗、さん?」

 

 玄関の前に立っていたのは、麗さんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玄関には、セーラー服姿の麗さんが立っていた。

 

「え……? ほ、本当に麗さん?」

 

 思わず訊ねてしまったボクに、麗さんが照れくさそうに話し始める。

 

「あははは……。昨日別れた時に今日が土曜日だって忘れてて。家にも少し居辛かったから。――カズのとこに着ちゃった。迷惑、だったかな?」

 

「そっ、そんなことないよ! すごくうれしい!」

 

「ふふっ、ならよかったわ」

 

 うれしそうに微笑む麗さん。ボクは舞い上がってしまいそうになる気持ちを抑えつつ、

 

「とりあえず家のなかに――」

 

 そう言い掛けたところで、思い出す。リビングの惨状と裸で寝ている静香さんに。

 

 まっ、マズい! 今リビングには静香さんが……。

 

「そうね。お邪魔します」

 

 何か対策を講じる前に、麗さんが玄関のドアを潜って家のなかに入ってきた!

 

 麗さんは昨日ボクがやったようにドアのカギをキチンと閉めて、靴を脱ぐ。

 

 マズい……。本当に、マズい……ッ!

 

「? どうしたの、すごい汗だけど?」

 

 心配した様子で、麗さんが下からボクの顔を覗き込んでくる。

 

 それは物凄くドキドキするシチュエーションなのだが、今のボクは別の意味でドキドキしていた。

 

 絶対に、い、今の静香さんに麗さんを会わせられないッ!

 

 普段の静香さんならともかく、今の静香さんは何を仕出かすか、何を言うかわかったものじゃないし、そもそも全裸という時点でマズすぎだ。

 

「べっ、別になんでもなくて……」

 

 ボクはなるべく平静を装い、リビングではなく2階へ誘導しようとするが――。

 

 ――ヌルリ。

 

 背中のほうから首を伝って胸へと回される2本の腕。背中に広がる……というか、背中を挟むという表現が近い2つの巨大な球体。肩を通って、ゆっくりと顔がでてくる。

 

「カズくん、誰か来たの~?」

 

 ボクの肩から出てきた顔を見て、麗さんの目が大きく開いた。信じられないと指を指しながらつぶやく。

 

「ま、鞠川……先生……? は、裸なの?」

 

「は~い♪ 鞠川静香ちゃんで~す♪」

 

 まだアルコールが残っているのか、ハイテンションで返事をする静香さん。

 

 麗さんはボクと静香さんを無言で、交互に見つめて、目を閉じる。

 

 数秒息を整えて目を開き、昨日2階で見たあの笑顔を浮べて、

 

「これはいったいどういうことなのかしら? もちろん説明してもらえるわよね、カ・ズ・く・ん」

 

「……は、はぃ」

 

「あはははは~、怯えてるカズくんもかわいい~♪ ん~……ちゅ。ふふっ」

 

 お願いですから止めて下さい静香さん。麗さんの雰囲気が昨日よりも物凄いことになってます。

 

「カズ~?」

 

 ……ボクの恋は、3日も経たない内に終わったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、エッチはしてないのね?」

 

「はい。していません」

 

「お酒の空き缶が落ちてるけど、カズもお酒飲んだの?」

 

「いいえ。一応まだ未成年なので、飲まないようにしてます」

 

「鞠川先生が裸なのは、自分で脱いだからで、カズが脱がせたんじゃないのね?」

 

「はい。静香さんは酔っ払うと、よく服を脱ぐんです」

 

「鞠川先生が、カズが言ってた『近所のお姉さん』なの?」

 

「はい。……もっと正確に言うと、『近所のお姉さん』のお友達です」

 

「『近所のお姉さん』繋がりで鞠川先生と知り合ったってこと?」

 

「はい。5年ほど前に。『近所のお姉さん』と知り合って間もなくして、知り合いました」

 

「へえ、そうなの。先生になる前からね……」

 

 麗さんは部屋の中央で腕を組み、ソファの上で気持ち良さそうに眠っている静香さんへ視線を向けた。

 

 ちなみにボクは床に正座をしている。今から少し前に時間を戻せば、ボクの人生の初の土下座と、冷たい視線でボクを見下ろす麗さんが拝めたことだろう。

 

 麗さんは静香さんをしばらく見つめたあと、再び視線をボクに戻した。

 

「カズ」

 

「……はい」

 

「カズは……私が好きだったんじゃないの?」

 

「はい。ボクは麗さんが好きです」

 

「じゃあ……じゃあなんで鞠川先生を家なんかに上げたのよ?」

 

「そ、それは……」

 

 弁解しようと麗さんの顔を見上げて、言葉を失う。

 

「私……カズに好きって言われて、うれしかったのに……ッ」

 

 涙が溜まった瞳。嗚咽混じりの言葉と一緒に、ポタポタと麗さんの顔からカーペットへ向って水滴が落ちる。

 

「麗さん……」

 

「すごくうれしかったのよ……ッ!」

 

 麗さんはボクの胸ぐらを掴みながら、その勢いのまま倒れ込んで来る。

 

 完全に倒れてしまわないようボクが支えると、麗さんはボクの胸に顔を埋めて泣き始めた。

 

「麗さん……ゴメン」

 

 恋に浮かれていた頭を冷静にして思い出してみれば、麗さんは大変な目に遭っている最中だったのだ。

 

 ボクと深く知り合うことになった理由も、麗さんが深く悩み、傷ついていたからであって。知り合ったのも、昨日今日の話だ。

 

 そんな大変な状況にある彼女を、さらに追い詰めるような、混乱させてしまうマネをボクはしてしまった。

 

「本当にゴメン、麗さん。ボクが無神経だった」

 

 ゴメン。本当に、ゴメン。

 

 ボクは麗さんを抱きしめ、何度も謝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 麗さんに謝りながら抱きしめ続けて、数十分ぐらいだろうか?

 

 麗さんがゆっくりとボクの胸から顔を出した。

 

 この3日で何度も見た、麗さんの泣きはらした顔。麗さんは鼻を啜りながら、片手で涙を拭う。

 

「大丈夫?」

 

「……うん。少しは落ち着いたわ。取り乱して、ゴメン……」

 

「いや、今回は完全にボクが悪かったよ。ゴメンね」

 

 謝りながら背中に回している手で、麗さんの頭を撫でる。

 

 麗さんは無言でボクの胸に額をつける。胸に置いていた手をゆっくりと背中に回して――、

 

「――っ」

 

 突然麗さんが固まった。

 

「? 麗さん?」

 

 麗さんが心配になり、視線を下へ向けようとして、ある存在に気づく。

 

 ギギギギ……と、脂が切れたロボットのように存在のほうへ顔を向けて見ると、

 

「んふふふふ~♪」

 

 そこには無邪気な笑みを浮かべた静香さんがいた。

 

 全裸でニコニコした笑みを浮かべている静香さんは、そのまま床に両膝をつくと、麗さんの顔を両手で挟み込んだ。

 

 静香さんの突然で意味不明な行動に、逃げることも忘れて硬直する麗さん。

 

 数年来の付き合いになるボクは、静香さんの両頬が膨らんでいることに気づき、その理由ややろうとしていることまで理解するが……、

 

「むぐぐっ!? むぐぐぐぅ~~~!?」

 

「んふっ……♪」

 

 一歩、遅かった……。

 

「ううっ!? うぐぐぅぅ……くっ……んくっ……んくっ……」

 

 頬を固定され、静香さんの唇によって、完全にふさがれた麗さんの唇。麗さんの喉が数度大きく動いたのを確認して、静香さんは麗さんから離れる。

 

「うふふふふ♪」

 

 後に残ったのは、ご機嫌で微笑む静香さんと、力尽きた様子でボクの胸に顔を埋める麗さん。

 

「静香さん、麗さんに何飲ませたんですか?」

 

「すこーし素直になっちゃうジュースかしら?」

 

「ジュース?」

 

 まさか酒か? でもさすがに酒は……。

 

「これよ、これ」

 

 静香さんが見せてきたものは栄養ドリンクサイズの瓶で……。

 

「そ、それって、リカさんが前に言ってたヤツなんじゃ……?」

 

 ボクの問いに、静香さんは笑顔でうなずく。

 

「ええ。海外の、ちょこっと強めのね♪」

 

 訂正。酒よりもマズい。この巨乳校医、麗さんに媚薬飲ませやがった!

 

「これってぇ、男女用で別になっててねぇ……」

 

 静香さんはそう言って手に持っていた空き瓶を捨て、さっきのとは文字は一緒だけど、ラベルの色が違う瓶を取り出し、キャップを開けて、一気に口に含んだ。

 

 飲み込まずに、口いっぱいに瓶の中身を溜めたまま、静香さんが顔を近づけてくる。

 

「しっ、静香、さん……!?」

 

「ん~ふ~……♪」

 

 麗さんがいるからにっ、逃げられない!

 

 頬っぺたに両手を添えられ、固定される。

 

 ゆっくりと静香さんの顔が近づいてきて――、

 

「――っ!?」

 

 瑞々しくて柔らかい唇が押し付けられ、そのまま口内を舐めまわされながら、液体を流し込まれた……。

 

「ふふっ♪」

 

 満足気に唇を離す静香さん。指先で唇をなぞり、無邪気な笑顔を浮べて微笑んだ。

 

「シリアスって、苦手なの♪」

 

「……し、静香さん……」

 

「だからね、ここは皆でエッチしましょ♪」

 

 蕩けた顔でつぶやいた静香さん。まだ酔ってるよ、この人。

 

 普段は無害で、天然の入ったおっとり系お姉さんなのに。酒が入り過ぎると、酔ったリカさん並みに性質が悪くなるんだよなぁ……。

 

「はぁはぁっ……んっ……ッ! はぁはぁっ、はぁはぁっ……か、ず……わっ、私……ッ!」

 

「はぁ……はぁ……。うふふ、さすが外国製ね。かなり……効いてるわ♪」

 

 ……とりあえず。

 

 さっき飲まされた媚薬が原因だろう。

 

 この場を冷静に収める方法よりも、どう2人と楽しむかで頭がいっぱいになっていた。

 

 ボクの理性も、2人と同じく、崩壊したんだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 理性を失って ☆

「はぁはぁっ……あっ、ああぁああああ……」

 

 ボクの腕のなかで、麗さんが震えている。

 

 ビクビクと小刻みに体を震わせ、ボクの胸に顔を押しつけながら、激しく呼吸している。

 

「はぁはぁっ……はぁはぁっ……か、体が熱い……。カ、ズ……私……ッ」

 

 暖房とは違う熱気。麗さんの体が熱く火照り始め、肌は桜色に色づき、汗の玉が浮びだす。

 

 ボクを見上げる表情は切なげで、すごく魅力的だった。

 

 鼻から麗さんの匂いが入ってくる。

 

 昨日とは違う、薄い香水の匂いと、家とは違う女物のシャンプーの匂い。そして、麗さん本来の匂い。

 

「……か、カズ……私の体っ、へ、変に……」

 

 ボクを見上げている顔は、完全に(オス)を誘う、(メス)の表情になっていた。

 

 ――っ。

 

「麗さんッ」

 

 すでに我慢が効かなくなっていたボクが、麗さんを押し倒す。

 

 床に押し倒され、逃げられないように両手を掴まれた麗さん。戸惑うような視線をボクに向けるが、

 

「かっ、カズッ!? ――ぅん……ッ!」

 

 無視して強引に唇を重ねた。

 

 反射的に麗さんがボクを跳ね除けようと両腕に力を入れる。ボクは腕に力を入れ返して押さえつけ、唇を重ね続ける。

 

「……か、かふぅ……。……あっ、むむぅ……っ!」

 

 麗さんの唇が開いた瞬間、口内に舌を差し込み、顔をさらに押しつけた。

 

 出来るだけ奥まで舌を伸ばし、欲望のままに動かす。

 

 舌から伝わる麗さんの唾液の味。柔らかい口内の感触。素肌よりも温かく、全体に広がる液体が、麗さんの口内に舌を入れているという事実を、強く感じさせる。

 

 ああ……麗さん……。

 

 心の中で広がる満足感。快感で背筋がゾクゾクする。

 

 ――今、麗さんはボクだけのものだ。

 

 大きく開けた口から、舌を使って唾液を送り込む。

 

「――っ」

 

 ぎゅっと目を瞑った麗さん。首をゆっくりと上下に動かして、ボクの唾液を飲み込んでくれた。

 

 今度はボクの番だと、強請るように麗さんの唇に軽く吸いつく。

 

「んっ……」

 

 ボクの意図に気づいた麗さんは、ゆっくりと口内に唾液を溜め始める。頬を動かし、口を窄めて、唾液を送り込むためにボクの唇へ自らの唇を押し当てた。

 

「ちゅ、じゅるるるぅぅ……」

 

 ワザといやらしい音を鳴らしながら唾液を啜る。ほんのり甘い麗さんの唾液の味が口いっぱいに広がった。

 

 麗さんの唾液を喉を鳴らして飲み干し、口を離す。

 

「はあぁぁ……」

 

 ため息を吐きながら余韻を味わい、唇から漏れた唾液を舌で舐め取る。

 

 ボクの下では、麗さんが潤んだ瞳でボクを見上げていた。

 

 いつの間にか力が抜けている麗さんの腕から、セーラー服へと手を移動させる。

 

「――っ。だ、ダメ……」

 

「ゴメン、麗さん……でも、もう我慢できないんだ」

 

 パンツのなかではすでにペニスが勃起し終え、過度な興奮からか大量のカウパーが漏れ出し内側に湿り気まで感じている。

 

 そんな状況で、明らかに発情している麗さんを前にボクが我慢なんて出来るわけがない。

 

「服、脱がせるよ」

 

 問いかけではない、宣言。

 

 ボクは麗さんのセーラー服を脱がすために手で掴んだ。

 

 そんなボクの態度に麗さんも諦めたのか、もしくは媚薬によって昂ぶらされた興奮で、麗さん自身理性の限界に達したのか、

 

「……やさしく、しなさいよ」

 

 麗さんはボクを受け入れた。

 

「うん! もちろんやさしくするよ、麗さん」

 

 自分でも自覚してしまうぐらい満面の笑顔を浮べて、麗さんにうなずく。

 

 まずは上着を脱がせると、昨日とは違う、かわいらしいピンク色の下着が現れた。

 

「すごくかわいくて麗さんに似合ってるね」

 

「あ、ありがと……」

 

 スカートも脱がせて、改めて下着姿だけになった麗さんを見下ろす。

 

「……ごくっ」

 

 思わず生唾を飲み込む。

 

 すごくおいし……いや、エロ……。と、とにかくこれ以上ほんとに無理……。

 

 逸る気持ちを抑えるようにボクも服を脱いで、パンツからペニスを取り出すと――。

 

「…………」

 

 え? なにこれ?

 

 軽々20cmは越えているだろう、太くて硬いペニスが飛び出てきた。

 

 ペニスの表面には血管がはっきりと浮き出ていて、先端からはカウパーが伝っている。

 

 ふ、フル勃起しても18cmちょっとが限界なのに……。

 

 見慣れない、まるで別物に変わってしまっている自分のペニス。パンツを下ろそうとしている体勢で停止し、見下ろしていると――、

 

「うふふふ~、さすが外国産ね♪」

 

 麗さんとは違う、とても聞き慣れている声が。

 

 声の方向へ視線を向けると、ふわふわした無邪気な笑顔を浮べている鞠川静香さんがいた。……そういえば静香さんが近くにいたんだった。

 

 静香さんは両手で頬を挟んで、うれしそうにつぶやく。

 

「男性用のはね~、興奮するのと一緒にオチンチンがおっきくなってぇ、すっごい絶倫になっちゃうのよ~♪」

 

 なっちゃうのよ~♪ ――じゃねえっ!

 

「か、カズ……私……」

 

 さっきまで受け入れ態勢だった麗さんが怯えちゃって股閉じちゃったじゃないか!

 

「そ、そんなに大きいのなんて……は、入るわけ……」

 

「よく解せば大丈夫よ♪」

 

「ま、鞠川……先生?」

 

 静香さんは怯えている麗さんに膝枕をする。いや、膝……枕? どちらかというとJカップの巨乳とムチムチの太ももの間に、麗さんの頭が半分近く埋まってるから、肉枕になるのか?

 

 ……まあ、そんなことは置いておいて。

 

 静香さんがボクをニッコリ笑顔で見つめる。

 

「カズくん、さあ、やさしく解してあげて♪」

 

「ほ、解すって……」

 

 真っ赤な顔で聞き返したボクに、静香さんはニッコリ唇に指を当てた。

 

 ――っ。

 

 その仕草を見て、ボクは静香さんの言葉の意味を理解する。

 

「か、カズ?」

 

「…………」

 

「キャッ、な、なんで足を掴んで……。――キャッ」

 

 麗さんの足を掴んで完全に伸ばし、太ももの間に両手を差し込んで、大きく開く。

 

 麗さんは恥ずかしそうに太ももを閉じようとするが、間にボクがいるために閉じられない。

 

 オマンコを見られないように、両手で隠そうとする麗さん。だけど――、

 

「鞠川先生ッ!?」

 

 静香さんに両腕を掴まれ、阻止される。静香さんはうっとりと麗さんにつぶやく。

 

「心配しなくてもカズくんの舌技はリカの仕込みですっごく気持ちいいから、ね♪」

 

「しっ、心配とかじゃなくて……」

 

 ボクの目の前に、麗さんのオマンコがある。

 

 恥丘にはまだ生えそろっていない、髪の毛と同じ色だけど、やや太めの陰毛。

 

 その下には麗さんのもうひとつの唇が。

 

「か、カズ……ッ!?」

 

「はぁはぁっ……ん、レロ……はぁぁ……麗さん……」

 

 麗さんの股の間に顔を埋め、舌を這わせる。

 

「や……ぁん……ッ。か、カズ……どこ舐めて……」

 

「もちろんあなたのオマンコよ♪」

 

 ボクの代わりに、静香さんが答えた。

 

 ボクはしゃべることも忘れて、夢中になって麗さんのオマンコに舌を這わせる。

 

 念入りに、外側からじわじわと味わっていく。

 

「はぁはぁっ……っ、んん……ああああ……ッ」

 

 麗さんの足がガクガクと揺れた。床に強いているカーペットを足の裏で引っかき、悶える。

 

 外側を味わったボクは、中身も味わおうと両手で大陰唇を開く。

 

 まだ破瓜から3日と経っていない、綺麗な薄ピンク色が、肌色の間から現れた。

 

 ムワッと立ち昇る熱気と女の匂いで頭がクラクラする。

 

「やああ……見ないでぇぇ……」

 

 必死に股を閉じようとする麗さんを無視して、ボクは感想も漏らす。

 

「すごく綺麗だ。麗さんのオマンコ。すごく綺麗で……魅力的だ」

 

 ドクッ、ドクッとうるさく心臓が跳ねる。

 

 麗さんのオマンコ、前よりずっと濡れている……ッ!

 

 以前は表面に留まる程度だったものが、口移しで飲まされた媚薬の効果か、ビショビショになって下までこぼれ落ちていた。

 

 ボクはゆっくりと顔を埋めて、舐める。

 

「ひゃうっ!? ああっ、んっ……あああっ……! カズ……ッ」

 

 少ししょっぱくて、ほんのりと甘酸っぱい……。これが、麗さんのオマンコの味なんだ……。

 

 静香さんともリカさんとも違う、愛液の味。

 

 麗さんの……味。

 

「あぅぅ……や、やだ……しっ、舌で……んっ、そ……そこは、き、汚いから……」

 

「全然汚くなんかないよ。むしろ綺麗で、ずっと舐めていたいぐらいだ」

 

「――っ!? なっ、何言ってるのよっ! はぁはぁっ……あんっ! こ、こらぁぁ……」

 

「ふふっ、かわいいなぁ」

 

 ボクは麗さんの膣口を狙い、舌を伸ばす。クリトリスから尿道口を通って、舌先を膣口に引っ掛ける。

 

 少しだけなかに入った先端を支点に、突き入れる。

 

 すごく熱くてヌメヌメした膣道。差し込んだ舌を、ちゅううっと絞めながら絡みついてくる。

 

 うわあぁ……トロトロになってる……。

 

 初めてのときはあんまり濡れてなかったのが、今は舌と膣口の間から漏れださんばかりに溢れていた。

 

 ボクはなかの感触を確かめるように舌を動かす。

 

 上から右、右から下、下から左へと時計回りにかき回し、前後にピストンさせる。

 

 押し返すようだった膣道の動きがしだいと柔らかくなり始め、膣口の絞めつけも緩くなってきた。

 

「はあはぁっ…うっ、う、あ……。か、カズの舌が……私の中で……」

 

「ふふっ、いった通りでしょ。すっごく気持ちいいって♪」

 

「……ん」

 

 静香さんの言葉に、麗さんが同意するように小さくうなずいた。

 

 それを谷間越しにボクは見て、心がいっぱいになる。

 

 麗さん、感じてくれてるんだ……。

 

 自然と笑みを浮かべてしまい、オマンコにキスをしてしまう。

 

 溢れ続ける愛液で顔が汚れてしまうのも構わず、顔を押しつけ、しゃぶりつく。

 

 このまま麗さんが潮を噴くまで、舐めてあげたいけど……。

 

 さすがにペニスのほうが限界にきていた。

 

 ボクは最後に指を挿入して具合を確認してから、体を起こす。

 

「麗さん」

 

「か、ず……?」

 

 首を起してボクを見つめる麗さん。ボクはペニスの先端を膣口にセットして、覆いかぶさる。

 

 初めてのときのように、両脇の下で手をついて、麗さんに言う。

 

挿入(いれ)るよ」

 

 ボクの言葉に、麗さんは一瞬だけ恐怖を瞳に宿したが、すぐに微笑みを浮べた。

 

 ボクの脇の下から、そっと背中へと両手を伸ばして、麗さんは言う。

 

「――っん。いいよ。――きて、カズ」

 

「うん。いくよ、麗さん」

 

 僕らは2度目のセックスを開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ……あああ……うっ……んんっ……」

 

 耳元で聞える麗さんの喘ぎ声。腰を進めると、麗さんのなかへペニスが飲み込まれていく。

 

「すごい……。一度目とは全然違う!」

 

 麗さんのオマンコは奥までトロトロに蕩けていて、肉壁がペニスを歓迎するかのようにやさしく包み込む。

 

「はぁはぁっ……か、カズが、私のなかに……は、入ってる……」

 

 大きく麗さんが呼吸をする度にきゅっ、きゅぅっと膣道が脈動する。

 

 昨日まで処女だったとは思えないほどの柔らかさ。昨日よりも凶悪なペニスを完全に受け入れている。

 

 ――ああっ、すごく、いいっ!

 

 まだピストンしていないのに、オマンコの蠢きだけで腰砕けになってしまうほどの快感が送られてくる。

 

 媚薬……のせいか? 麗さんのオマンコの感触が手に取るように伝わってくる。

 

 もう少し先に、子宮口が……ある?

 

 脳内に映し出されたビジョンの通りに腰を進めると――。

 

「くっ、あんんっ……!」

 

 コツンと先端が何かにぶつかる感触と共に、麗さんの体が大きく跳ねた。

 

「や……わた、し……ッ! うあああ……ひぃっ、あああああっ!」

 

「――っ、れ、麗さん……ッ」

 

「くっ、んぐぐ……い、イッ……私……いま……イッてるよぉぉぉっ!」

 

「れ……れい……ッ!」

 

 麗さんが体をビクビクと痙攣させ、オマンコがいやらしく蠢いた。ペニスに周りの膣壁が強く、精液を搾り取ろうといやらしく絡みついてきて……。

 

「……だ、ダメだ! ぼ、ボクも……中に射精()すよ!」

 

 挿入前から限界に達していたボクのペニスは、突如オマンコから送られてきた快感の大波に、呆気なく決壊した。

 

 ビュッ! ビュルルルルゥゥゥウウウウウウ……。

 

「ヒャンッ!? うああぁ……ッ。あ、熱いのが……広がって……わ、私っ! ま、また……」

 

 ビクビクッと先ほどよりも小さく体を震わせる麗さん。

 

 ボクは子宮口付近で征服感や満足感に浸りながら、いつもより大量で、長い射精を楽しむが……、

 

 な、なんだ? これ……ッ!? 射精……したのにっ、全然収まらない!?

 

 むしろ、収まるどころか……。

 

「はぁはぁっ……はぁはぁっ……なに、これ……? か、体が……。――あうっ、へ、変……ッ。私の体……おかしく……ッ」

 

 どうやらボクだけじゃなく、麗さんも同じらしい。オマンコの動きがさらに活発になり始めた。大量に精液を流し込んだのに、まだまだ足りないペニスに訴えかけてくる。

 

「麗さん……ボクも、さっきより体が……」

 

 ドクンッ、ドクンッと心臓が大きく波打ち、ペニスに血液が送られる。

 

 射精直後とは思えない、苦しいほど勃起したままになっているペニス。

 

 満足していたはずの性欲までもが、挿入前に戻っていた。

 

「はぁはぁ……う、ああっ、か、カズ……ッ。わたひ……お、オマンコが……疼いて……ッ」

 

 麗さんの腰が小さく動き始める。

 

 おそらく無意識に、快楽を求めて動かしているのだろう。

 

「あはっ、あはははは……」

 

 そんな麗さんの様子に、射精しても全く衰えない自分の性欲に、思わず口から笑い声が漏れた。

 

 ――ああ、そうか。

 

 まだ僕らは理性を失っていなかったんだ。

 

 これからが、やっと本番なんだ。

 

「麗……。……麗さん。くくっ。はああぁ……。――麗」

 

「はぁ……はぁ……か、じゅ?」

 

 ――ボクは、理性を失った。

 

「麗、動くよ」

 

「――っ!? まだ、わた……ひぃっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……ああ……あ~~~……あ、あああ……」

 

 カーテンが締め切られ、薄暗いリビングに麗さんの美声が響く。

 

「あぁ……ああああ……あんっ……ああぁぁぁ……」

 

 麗さんのお尻に向って、ボクが後ろから腰の打ちつけるたびに変化する美声。

 

 腰の速度や挿入する深さによって美声は変化し、いやらしくなる。

 

 やさしくお尻を撫でるとうれしそうに鳴き、覆いかぶさって乳首を抓ると短い悲鳴を上げる。

 

 キスを交わすといやらしい水音が鳴り響き、皮を被った小さなクリトリスに触れると、潮やおしっこが床に落ちる音が。

 

 オマンコをペニスでかき回すと、ぐちゅぐちゅといった水音が響き、濁ったピンク色したお尻の穴に指を突っ込むと、低い音の奇声を上げる。

 

 ――まるで、楽器のようだ。

 

 荒い呼吸を上げながら、ボクはそう思う。

 

 麗さんのオマンコにペニスを挿入したまま、もはや何度目かわからない射精をすると、

 

「あっ……ああっ……ああああぁぁああああ……」

 

 麗さんは背中を仰け反らせながら、音を奏でる。まるで全身で精液を、喜びをかみ締めるかのような声だ。

 

「あは……ああぁぁぁ……」

 

 ゆっくりと、麗さんが床に崩れ落ちていく。

 

 かろうじで体を支えていた腕や膝が力をなくし、床に向って顔から倒れこんでいった。

 

 お尻が前へ動いたことで、弛緩したオマンコからペニスがつるりと抜けた。

 

「ん……うあ……うぅぅぅ……」

 

 ぽっかりと開いたままになった麗さんの膣口。その開いたままになった穴から流し込まれた精液がドロリと漏れ始める。

 

「く……ぁ、んっ……」

 

 漏れ出した精液がオマンコから太ももへとゆっくり伝っていく。

 

 麗さんはオマンコから漏れ出てる精液に気づいているようだけど、動く気力はないようだ。

 

 一方、ボクのペニスはというと、まだまだ元気なようだ。

 

 勲章のように体液を纏ったまま雄雄しく反り返り、まだまだ射精し足りないと先端からカウパーを漏らしていた。

 

「はあ……はあ……」

 

 うつ伏せのまま、大きく呼吸をする麗さん。呼吸する度に体が上下し、ぱっくり開いたままのオマンコからは白濁した精液が未だに漏れ続けている。

 

 ……ごくり。

 

 無言で生唾を飲み込む。

 

 ボクの目の前で、うつ伏せで倒れている麗さん。

 

 じっとりと全身が汗ばんでいて、卑しい艶をおびている。体のところどころにボクの精液や体液がかかっていて、女性らしく美しいラインを描いた背中にも、ボクがつけたキスマークが散らばっている。

 

 ……も、もう、一度……。

 

 ……まだまだ、麗さんをボクで汚したい……。

 

 ぼーっと蕩けた、性欲や独占欲など一色で支配されたボクは、欲望のまま再び麗さんに襲い掛かろうとしてお尻に両手を伸そうと……、

 

「――あむっ、じゅるるるる……」

 

「んんっ!?」

 

「あはぁ……おいし♪」

 

「静香……さん……」

 

 ――横から静香さんにペニスを咥えられた。

 

 静香さんはペニスを口に咥えたままクスリと小さく微笑むと、舌を動かし始めた。

 

 むき出しの亀頭をペロペロと舐めて、裏スジから根元へに向って舌を這わせる。

 

 プルプルした柔らかい唇で竿を横から咥え、亀頭を頬の内側で受け止める。

 

「んじゅ……じゅるるぅぅ……ぷはぁぁ……」

 

 吸い付きながら、いやらしく口からペニスを吐き出した静香さんはそのまま頬ずりしながら下へと向う。

 

「――っ」

 

 スベスベとした細い指が、玉袋をやさしく触れた。一瞬、指の冷たさに驚いたボクだったが、すぐに暖かいものに包まれた。

 

 ――静香さんの口だ。

 

 静香さんは玉袋を口に含むと、舌で転がし始めた。

 

「あ……あああ……」

 

 緩やかな、やさしい快感にボクは思わず声を漏らしてしまう。

 

 声を漏らしたボクに気をよくしたのか、静香さんは玉袋を咥え込んだままニッコリと微笑み、ペニスを手で扱き始めてくれた。

 

 冷たい手の感触。細くてスベスベした指先がやさしく竿を包み込み、ゆっくりと上下に動き始める。

 

「っ……くぅ……」

 

 上下に扱かれ続けるペニス。舌で転がされる玉袋。もう片方の開いている腕が伸びてきて、乳首まで刺激をされ始める。

 

 さらに下では静香さんの巨大な双球が膝に触れていて、静香さんが少し動くだけでも、ボクに極上の感触を感じさせてくれた。

 

「し、静香さんっ……!」

 

 静香さんの愛撫が激しさを増し始めた。クリクリと指先で乳輪を撫でられ、亀頭を手の平で磨かれる。

 

 送られる快楽に腰を引いたボクに、「いつでも射精していいよ」と、竿越しに静香さんが微笑えまれ、ボクは呆気なく射精する。

 

 ビュッ、ビュビュッ、ビュウウウッ。

 

 快感と共にペニスから精液が噴出す。最初よりも少し量は減ったが、普段よりも多い精液。

 

 それらは静香さんの手の平には当たらず――、

 

「んっ……ああぁ……」

 

 麗さんの背中を汚していった。

 

 麗さんの髪や背中に精液が降りかかる。麗さんの金髪に白濁した白が混じり、背中に精液の水溜りが出来上がる。お尻に降りかかった精液は重力に従い、ゆっくりと下へ向かった垂れていく。

 

 麗さんは精液の熱を感じたのか、少しだけ体を反応させた。

 

 自分の精液で汚れた麗さんの姿に、また興奮が昂ぶり始める。

 

「ぷはぁっ……。やっぱり射精するときの玉袋の動きって面白いわね♪」

 

 玉袋から口を離して顔を上げる静香さん。ペニスを咥えてそのまま竿に残っていた精液を吸い出し飲み込むと――、

 

 すぐ横に置いてあるソファに腰を下ろして、こちらへ向って股を開いてきた。

 

 がばっと大きく開かれた静香さんの股。

 

 恥丘には上品に整えられた金髪のアンダーヘアが添えられていて、その下にはピンク色のオマンコが口を開いてペニスを待っている。

 

 静香さんは背中を深くソファに預けて、お尻の角度を調整する。オマンコをボクに見せつけるように突き出し、両手の指で大陰唇を左右に開く。

 

 大きく中身を露出させるオマンコ。

 

 麗さんよりも濃いピンク色で、形もいやらしく、ダラダラと涎を垂らしているオマンコ。

 

 クリトリスも包皮から半分ほど顔を出していて、ムワッと湯気を上げている。

 

 麗さんから視線を移したボクに、静香さんは無邪気な笑みを浮かべた。

 

「さぁ、今度は私の番ね♪」

 

「静香……さん……」

 

「ふふっ、さあ、いらっしゃい♪」

 

 露出させられているオマンコ。尿道口の下の膣口がクパクパとペニスを挿入して欲しそうに動いていて……静香さんのオマンコの感触や気持ちよさをよく知っているボクは……、

 

「は……い……」

 

 静香さんの誘惑に負けてしまった。

 




 とりあえず、今回は終了!

 残念ながら、次回は事後からの開始となります。

 理性を失っての静香とのシーンはカットになりました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 事後のそのあと、

 カーテンが締め切られた薄暗いリビング。テーブルの上や床には缶ビールやチューハイの空き缶。テーブルには夕食兼酒のツマミが食べかけの状態で残されていて、テレビは電源が切られて画面は真っ暗。室内には暖房器具の音がうるさく鳴り響いている。

 

 そして、家の主であるボクは、現在まったく身動きがとれずにソファに座っていた。

 

 唯一動かせる首を動かして周りを見ると、

 

 右側に、ボクに体を預けるように寝ている麗さんが。

 

 左側の下のほうへ視線を向けると、ボクの股の間に顔を埋めてスヤスヤと寝ている静香さんが。

 

 正面を見ると、電源が切られて真っ暗になっているテレビ画面に、2人の美女を両腕に抱いている、メガネをかけたひ弱ようなリア充男がひとり……、

 

 ――いや、ボクがいた。

 

「あは……あははは……」

 

 真っ暗なテレビ画面を見つめながら、ボクは乾いた笑い声を漏らす。同時に、テレビ画面に映っているボクも口を開いたが、画面に映っているボクは笑っているようには全く見えなかった。

 

「じ、実は夢落ちだったりしないのかな?」

 

 このありえない状況は、本当に現実じゃなくて、すべてボクの内なる妄想が創りだした夢で、目を覚ましたら自室のベッドで、このリアルな感触も全部リカさんが悪戯してるからであって本物ではない……、

 

 ――と、思い込みたいのだけど……。

 

「夢じゃないんだよね……」

 

 酒の空き缶とは明らかに違う、栄養瓶サイズの瓶……静香さんが購入して僕らに飲ませた、外国製の媚薬の空き瓶や、麗さんのオマンコから漏れてヒザとソファの間に出来てる精液溜まり。太ももに当たっている静香さんの爆乳から伝わってる体温と感触に、リビングいっぱいに充満している臭いと、使いすぎでヒリヒリと痛いペニス。午前8時30分からいつの間にか午後3時まで進んだ時計などが、この状況が現実なのだと証明していた。

 

 現実だと確認したボクはその場で大きく息を吐く。

 

 臭いを無視して部屋の空気を吸い込み、ソファの背もたれに頭を預けて天井を見上げる。

 

 媚薬で理性が飛んで、自分が何をしたかは――意外とハッキリと覚えてた。

 

 麗さんと2度目となるセックスで火がついて……それから麗さんが意識飛ばしてても、気絶しても構わずに何回もして……アナルを犯そうとしたとき、静香さんにフェラチオされて、誘惑されて……。

 

 静香さんを横目で見ながら思い出していく。

 

 オマンコで……3回? パイズリでも2回したな。そのあとお掃除フェラもしてもらって1回……。

 

 途中でもう一瓶ずつ媚薬を飲んでしてると気絶していた麗さんが起きてきて……、

 

「3Pも……したのか……」 

 

 静香さんの隣に座った麗さん。ボクは麗さんのオマンコに指を突っ込んで、中に残ってる精液を擦り込むようにかき回しながら静香さんをバックから突きまくって射精して……すぐに麗さんのオマンコに突っ込んで、静香さんと一緒になって麗さんを犯して、そのあと麗さんと一緒に静香さんを犯して……、

 

「最後に、ボクが2人かがりで攻められて轟沈したんだった……」

 

 麗さんに上半身……口や乳首を攻められて、静香さんには下半身……ペニスや玉袋、お、お尻の穴まで攻められて、射精しながら気絶したんだった……。

 

 最後まで思い出して、目を瞑る。

 

 状況的にはかなり……いや、ものすごくマズい状況なのだけど、気分的にはかなりよかった。

 

 燃え尽きたと言ってもいいぐらい、今のボクの頭はスッキリしている。

 

 おそらく賢者モードに入っているんだろう。そうに違いない。

 

 このまま悟りが開けそうなぐらい、スッキリとしていて気分がいい。

 

「ふああぁ……あれ? カズ?」

 

「ん~……ん? あらあら? カズくんのオチンチン?」

 

 ……悟り、本当にこのまま開けないかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザーッと流れ続けるシャワーの音。室内に充満する白い湯気。たっぷりとお湯が張られたバスタブにはボクと……女神がいた。

 

「あ、あんまりこっちを見ないでよ」

 

「ご、ゴメン……。でも、すごく綺麗だったから」

 

「綺麗って……うう……」

 

 ボクの正面には、胸を隠すように抱いて頬を赤らめる女神様……もとい麗さん。

 

 現在の麗さんはお風呂に入るために長い髪をアップに纏めていて、いつもはあまり見えないうなじが姿を現していた。

 

 ああ……またレアな麗さんが見れた。

 

「もうっ、ニヤニヤするんじゃないわよっ」

 

「ゴメン、麗さん」

 

「謝るんだったら顔、逸らしなさいよ」

 

「…………」

 

「コラ。無視しないの」

 

 そう言って麗さんは頬を膨らませる。ん~、本当にかわいいなぁ。数分前まで修羅場だったとは思えないよ。

 

 …………。

 

『あ、あれ!? なんで私裸……ッ!? って、鞠川先生も!? ……ああっ、そっ、そういえば……』

 

『あらあら~? 元気のないオチンチンねぇ。静香お姉さんが元気づけてあげましょうかぁ♪』

 

『し、静香さん……うっ、あ……』

 

『って、いきなり何咥えてるんですか、鞠川先生っ!』

 

『んふ? ぷはぁぁ……。何って、ナニだけどぉ?』

 

『カズは私のかっ……彼氏なんですよっ! それに、鞠川先生は教師でしょ! 教師が生徒に手を出していいんですか!?」

 

『ん~……でもぉ~、カズくんと私は教師と生徒になる前からの付き合いだからぁ。セーフじゃないの?』

 

『あっ、アウトですよっ!』

 

『そ、そんなぁ。……う、うう……うえええ~ん……カズく~ん、宮崎さんがイジめるぅ~』

 

『宮崎じゃなくて宮本ですっ。それに下手な泣きマネしながら咥えないでくださいよ……』

 

『あら? バレちゃってたの?』

 

『はぁ……。最初から、バレバレですよ……』

 

『し、静香さん。あの……酔ってます?』

 

『ん~……どうなのかしら? お酒はもう抜けたとは思うんだけどぉ……まだ子宮に精液が残ってるみたいだしねぇ』

 

『せ、精液って……。――っ! そ、そういえば私って……ま、鞠川先生とも……』

 

『うふふふ♪ 3人でするのもよかったわね、宮本さん♪』

 

『~~っ! あ、ううぅ……。か、カズぅ……』

 

『よ、よしよし……とりあえず落ち着こう。皆……。うん。落ち着こう。とりあえず静香さんも起き上がって』

 

『はぁい』

 

『……手コキも止めてください』

 

『ねえ、とりあえず皆でお風呂に入らない? ほら、体中ベトベトだし。精液のほうも早く処理しないと妊娠しちゃうかもしれないでしょ』

 

『ムッ……。それは……まあ、そうですね』

 

『静香さん、手を……。麗さんまで握らない……いえ、なんでもないです。……その、できれば少し力を緩めてもらえたら……うれしいです、ハイ』

 

『決まりね♪ じゃあ、皆でお風呂に行きましょう♪』

 

 ――と、まあ、こんな感じにお風呂場へと向かい、3人でお風呂に入っているわけだ。

 

 ちなみに、浴槽にある程度お湯が溜まるまでは洗い場でお互いを洗い合っていました。……まあ、洗い合っていたのは主に静香さんが麗さんを、だったけど。

 

 今は最後にまわった静香さんが洗い場で体を洗っているところで、先に体を洗い終えたボクと麗さんの2人は、浴槽に向かい合った状態で浸かっていた。

 

 麗さんとお風呂はものすごくうれしい、けど……。

 

「麗さん……あの……」

 

「……鞠川先生のこと、でしょ?」

 

「う、うん……」

 

 うなずいたボクを麗さんが正面からジッと見つめる。思わずその強い意思の込められた瞳に視線を逸らしそうになってしまうが、ボクは視線を正面から受け止めて言……、

 

「――いいわ」

 

「……え?」

 

 大きく息を吐いて、全身から力を抜いてバスタブによりかかる麗さん。横目でシャワーを浴びる静香さんを見ながらつぶやき始めた。

 

「元々……私が後だったわけだし……。鞠川先生やもうひとりのお姉さんについては目を瞑ってあげるわよ」

 

「え……め、目を瞑るって……」

 

「……エッチしてもいいって言ってるのよ」

 

 ボクの問いに、麗さんは視線を逸らしてそう小声で言い、体を寄せてきた。正面から抱きつくように体を寄せて、唇が重なりそうになるほど近くまで顔を近づけ、

 

「でも、ちゃんと避妊はすること。そして、2人以上に私ともその……エッチしなさい」

 

「れ、麗さん……?」

 

「そ、それが守れるなら、私は、2人のことについても、な、ないとは思うけど他に女を作っても何も言わないわ」

 

 ……キミは、いったい何を言って……?

 

 混乱するボクに、麗さんは指で作った銃をつきつける。その銃口は丁度谷間の間、ボクの心臓に向けられていて――、

 

「それで、カズ。――この約束、守れる?」

 

 し、死の恐怖をボクに感じさせた。

 

 ボクは麗さんから感じさせられている死の恐怖に耐えて、ハッキリとうなずく。

 

「ぜ、全力で守らせていただきます……」

 

「なら、いいわ。――でも、もしも約束を破って私を捨てたりしたら…………から」

 

「ボクが麗さんを捨てる!? そんなこと絶対しないよ!」

 

 ていうか、ハッキリと声には出さなかったけど、『カズを殺して私も死ぬから』ってつぶやいたよね!? それに一瞬、目がドロって濁ったような……。

 

「そう、信じてるわよ、カズ」

 

「……うん」

 

 うなずいたボクに、麗さんはうれしそうな笑みを浮かべて首に両手を回してくる。今の麗さんの状態を表すならツンデレのデレモードだけど……さっきの会話や態度を判断する限り、ヤンデレだよなぁ。それも、依存系の。

 

 う~ん……やっぱり留年とか家庭の問題とか、色んなストレスが原因なのかなぁ? 他の女とセックスしてもいいけど、自分を捨てないでっていうのは……。

 

 いや、でも……元々麗さんが相手に依存するタイプだったり?

 

 付き合いが短いからわからないなぁ。

 

 でもまあ、とりあえず……、

 

「ザバーン♪ ふふっ、お邪魔するわね♪」

 

「鞠川先生……」

 

「静香でいいわよ♪ それよりも話はまとまった?」

 

「じゃあ、私も麗でいいです。話のほうは一応まとまりました」

 

「そうなの、カズくん」

 

「と、とりあえずは……。って、静香さん、後ろから抱きつきながら触らないでください」

 

「え~……」

 

「言っておきますけど静香先せ……静香さん。カズは私の彼氏ですからね?」

 

「れ、麗さんまで……ちょっ、先端をいきなり握るのはさすがに……あうっ……」

 

「ごっ、ゴメンなさいっ。……大丈夫?」

 

「あらあら、オチンチンはやさしく触らないとダメよ、麗ちゃん」

 

「ううっ……本当にゴメンなさい、カズ」

 

「も、もう大丈夫だから、そんなに落ち込まないで、ね?」

 

「ふふっ、まだまだ麗ちゃんは男の子の扱いに慣れてないみたいねぇ。よかったら私がカズくんのイかせ方を教えてあげましょうか?」

 

「えっ!? か、カズのイかせ方……?」

 

「ええ、完全にマスターすれば3分もかからずに自分が思うままに射精させることができてぇ、カズくんをブタさんにみたいにできるのよぉ♪」

 

「ぶ、ブタ……?」

 

「麗さん、肉食獣みたいな目でボクを見ないで。静香さんも適当なことを言わないでください……」

 

「あらぁ? でも、3年ぐらいまでリカとするときのカズくんっていつも……」

 

「やめてっ! 静香さん、それはお願いですから言わないでください……ッ!」

 

「ん~……? 麗ちゃんに話しちゃダメなの?」

 

「あの、静香さん。私……聞いてみたいです」

 

「麗さん!?」

 

 ――とりあえず。2人は仲良くなって修羅場は回避したみたいだけど……。

 

「ええっ!? そんなにすごいんですか!?」

 

「そうなのよ、リカってすごく上手くてねぇ。カズくんったらあんまり気持ちいいから泣いちゃったりして、すっごくかわいかったわぁ♪」

 

 前と後ろ、麗さんと静香さんの肉体に挟まれながら、ボクの黒歴史ともいっていい、リカさんにやられたハードなプレイを初めて、たった先ほどできた彼女に聞かされ続けるという拷問を、話し手の静香さんがのぼせるまで受け続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お風呂から上がり、長話ですっかりのぼせてしまった静香さんを汚れの少ないソファに寝かせる。寒くないように新しく布団を用意して静香さんの体にかけて、ボクはリビングの掃除を開始し始めた。

 

 とりあえずゴミ袋を用意して、そこらに転がっている空き缶から片付ける。ちなみに麗さんはバスタオルを体に巻いた状態で電話中。電話相手は自宅で、今度はボクの家の電話からではなく、自分の携帯電話から電話している。

 

「うん、6時ぐらいには帰るから。……うん、気分変えたかったから、友達の家で遊んでるだけ。心配しなくても大丈夫よ、うん。」

 

 ちなみに麗さんがバスタオル1枚なのは、服が汚れたから。引き剥がすように脱がせてその辺に放っていたから、精液や愛液とか、その他様々な体液でぐっしょり、下着まで汚れてしまったので、現在洗濯中なわけだ。

 

 ボクの服を貸せたらいいんだけど、いかんせん胸がね……。静香さんほどではないにしても……というかそもそも静香さんは元から着れないけど、麗さんがボクの服を着た場合、エロく……なるんだよね。胸がはちきれそうっていうか、なんというか。

 

 ――と、麗さんの電話が終わったみたいだ。

 

 麗さんは携帯電話を閉じてテーブルの上に置くと、ゴミ袋を手に取った。

 

「じゃあ、カズ。私はテーブルの上を片付けるわね。残ってる料理はどうするの?」

 

「うん、ありがと。料理のほうはまだ食べれるだろうし、キッチンのテーブルに置いてもらえれば……」

 

 言いかけて言葉を止めて麗さんのほうを見ると、麗さんはツマミとして空けた缶詰を手に取って無言で見つめていた。

 

「麗さん? どうしたの?」

 

 気になって麗さんが覗いてる缶詰を覗き込んで見て……。

 

「ゴメン。やっぱり食べられそうなヤツだけキッチンのテーブルに置いて、他は勿体無いけど処分してください」

 

「……あ、う、うん……そうするわね」

 

 さすがに自分のヤツは食べたりできねぇよ……。ソファで寝てる静香さんは……喜びそうだけど。

 

「…………」

 

「……麗さん?」

 

「……えっ!? ああ、うん。捨てる……わね。勿体無いけど……」

 

 独り言のように小声で麗さんはつぶやき、ゴミ袋に缶詰の中身を捨てる。それから次々に食べれなくなってる食べ物をゴミ袋に集めていくが……、

 

「ごくっ……」

 

 時々ゴミ袋を見ながら麗さんがゴクリと喉を鳴らしていた。

 

 ……まさか……ね……。そんなわけ、あるわけがないよ。

 

 それから1時間ほどでリビングの掃除を終え、洗濯も乾燥もほどなく終って、麗さんは元の制服姿に戻った。

 

 リビングでゆっくりと休み、ボクは先日を同じように麗さんを家まで無事に送り届けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自宅へ帰ったあと、ボクは洗濯機にかけておいた自分と静香さんの洗濯物を2階の部屋に干した。

 

 洗濯物を終えて2階から1階へと戻り、夕飯の準備を開始する。今日の夕飯は無事だった昨日のツマミとおかずに、帰り道でかったコンビニ弁当だ。

 

 ソファで眠っている静香さんに声をかけて起し、一緒に食べる。

 

「ん~……おいし♪」

 

「静香さん、それをうれしそうに食べないでください……」

 

「でも本当に美味しいのよ、これ。独特の味がプラスされててねぇ、ちょっと苦いんだけどそれがまた……」

 

 昨晩の残りである缶詰を食べながら味の解説を始める静香さん。……麗さん、思いっきりダメな缶詰が残ってましたよ。

 

「カズくんも試しに食べてみる?」

 

「さすがに自分から出たのは食べたくないです……」

 

「そぉ? なら私の食べてみる?」

 

 そう言って静香さんは誘惑するような瞳をボクに向け、爆乳を持上げる。陶器のような白い肌と、ピンク色で少し陥没気味の乳首がボクの食欲……というより性欲を刺激した。

 

「うふふ♪ 食べてもいいのよ、カズくん」

 

 僕に向かって微笑む静香さんだけど……、

 

「今は……いいです」

 

「あらぁ? いつもなら満面の笑みでしゃぶりついてくるのに。どうしたの、カズくん」

 

 心配そうに訊ねてくる静香さんに、ボクは正直に告白した。

 

「昼間のやりすぎで、まだ表面が痛いんですよ……」

 

「そうだったの? お薬塗ってあげましょうか?」

 

「いや、そこまでは……。というか、いい加減服を着たらどうですか、静香さん」

 

「え~」

 

「え~、じゃないですよ。下着もつけないで寒くないんですか?」

 

 正直目の毒だから何か服を着てほしいです。たぷたぷ揺れる爆乳とかムチムチの太ももとかに目が吸い寄せられるし、下半身も反応してしまうから。

 

 ボクの指摘を受けた静香さんは、割り箸を咥えて「む~」とかわいらしく頬を膨らましたあと、頭脳は大人、体は子供の某少年探偵よろしく、ピキーンと明暗を閃いた。

 

「そうよ、カズくんも裸になって抱き合うってのはどうかしら? それなら私も寒くないし、むしろ温かいんじゃない?」

 

「静香さん、閃いたことをそのまま言わないでください……」

 

「え~……名案だと思ったんだけどなぁ」

 

 残念そうにつぶやいて再び夕食を食べ始める静香さん。そんなことされたら確実にボクのほうが我慢できなくなりますよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食後、ボクは自室のベッドに散乱させていた、静香さんともうひとりのお姉さんの衣服を片付け、麗さんにメールを打っていた。ちなみにアドレスは麗さんが自宅に電話する前に手に入れたものだ。

 

 メールを打ち終えて、携帯電話を閉じる。

 

 麗さんからの返信を読んで、了解メールとおやすみメールを送って、ベッドに仰向けに寝転がる。

 

「はぁ……明日は麗さんに会えないのかぁ」

 

 遠まわしに『明日も会えないかな?』とメールで訊ねてみたのだが、さすがに今頻繁に外出するのは両親を心配させるからと断わられた。

 

 麗さんから送られたメールの内容と、麗さんの身に起きていることを思い出しながら、ひとりで考える。

 

 紫藤議員の事件を追っているという、麗さんのお父さんで警察官。

 

 紫藤議員の息子で学年主任である紫藤先生が、麗さんの成績を操作して留年させようとしてる。

 

 おそらく麗さんを留年させようとしているのは、紫藤先生の背後にいる紫藤議員からの『警告』なんだろう。

 

 これ以上捜査を続けるつもりなら『本当に娘を留年させるぞ』という。

 

 最初に話を聞いたとき、はたして学年主任に生徒の成績を操作し、留年させようとする権力があるのか気になっていたが……。

 

「紫藤議員がうちの高校の理事長なら、ありえないこともないよなぁ」

 

 ボクの携帯画面に映し出されているのは紫藤議員のプロフィール。そのプロフィールには紫藤議員の経歴が簡単に紹介されていて、ウチの学校の理事であることも写真付きで紹介されていた。

 

 自分が理事を務める高校で、麗さんの学年の学年主任という立場には実の息子が座っている状況なら、生徒のひとりぐらい留年させるのもわけないか……。

 

 ボクは携帯電話を閉じて起き上がり、勉強机へと移動する。勉強机に置いたデスクトップのパソコンに電源を入れて椅子に座り、さらに考えを広めていく。

 

 ……今は冬休み直前。ちゃんとした成績表となって帰ってくるのがもう少しあとだから……今はまだ本当に『警告』の段階なんだろう。

 

 このまま麗さんのお父さんが『警告』を無視して捜査を続ければ、麗さんは留年。

 

 麗さんのお父さんが『警告』に屈すれば、捜査の打ち切りなどを引き換えに、紫藤議員は麗さんの留年を取り消すつもりだろうか?

 

 ボクはパソコン画面を操作して、紫藤議員についての情報をさらに集め始める。

 

 紫藤先生の実母で、紫藤議員の妻はすでに他界。

 

 別の女性との間にできた子供がいて……その子供は政治家志望?

 

 ……あれ? 死亡してる妻との間にできた、最初の子供である紫藤先生の情報があまりにも少なくないか? 浮気で作った子供のほうは結構情報があるのに。

 

 というより、紫藤議員と浮気で出来た子供のほうはずいぶん仲が良さそうだな? 支援団体の繋がりも紫藤議員とその子供ばかり目立っていて、紫藤先生のほうは……そもそも政治活動なんてしていない。

 

 うーん……ネットに書かれている紹介のページを読んだだけでも、何だが紫藤先生が冷遇されているように見えるな……。

 

「もしかして紫藤先生と紫藤議員の親子仲は悪いのか?」

 

 その辺りが気になったので、さらに探っていくと、ある記事を発見した。

 

 その記事は、紫藤先生の母親が酒が原因で死んだというものだ。なんでも紫藤議員が繰り返していた浮気が原因で、妻は無茶な飲酒を繰り返し、急性アルコール中毒で死亡したというものだった。

 

「この記事が本当なら、紫藤議員と紫藤先生の親子仲はかなり悪そうだけど……」

 

 実際に麗さんを留年させようと動いているところを見る限り、本当かどうかわからない。

 

 それにもうひとつ、紫藤先生が学校用のパソコンとは別の、ノートパソコンを持ち歩いていることに疑問を持った生徒がそのノートパソコンについて質問したところ、紫藤先生本人が『父親の仕事を少し手伝っていてね』などと答えた……らしい。

 

 まあその話は数日で自然消滅した噂話……単なる話題のひとつだったけど、今のボクには紫藤議員と紫藤先生の繋がりを示す貴重な情報だ。

 

 他に情報がないかもう少し調べたあと、パソコンの電源を切る。メガネを外して机の上に置き、ベッドに寝転ぶ。

 

 いつも見上げている天井を見上げ、ゆっくりと目を瞑り、考える。

 

 ……今の状況で、ボクが麗さんのためにできること。

 

 麗さんの留年を取り消させる方法。

 

 少なくとも年が明ける前に対策を講じないと正式な成績が出されて手遅れになる。

 

 あまり猶予は残っていない。残されてる時間は1週間ちょっとだ。

 

 その短い期間のなかでボクが切れる手札は……あるにはある。

 

 かなり危険で、確実に損害もでるし、失敗しようものなら逮捕の可能性も出てくる。おまけに不確定要素が多くて、成功したとしてもあとあと自分の身に危険が及ぶかもしれない。

 

 ――けど、

 

「麗さんと一緒に卒業したいし……」

 

 辛そうな麗さんを見たくない。

 

 普段は平々凡々に、背景の一部のように生きてるボクだけど、初めての彼女のためだったら……たまにだったら主人公になってもいいだろう。

 

「ボクはやるよ、麗さん」

 

 ――ガチャ。

 

「はあぁ……いいお湯だったわぁ♪」

 

「……静香さん、バスタオル1枚は服を着てることには入りませんからね? ていうか、湯冷めして本当に風邪引いちゃいますよ」

 

 それと空気を読んでください。できれば。無理でしょうけど……。

 

 小さくため息を吐いたボクだけど、静香さんは無視して無邪気な笑みを浮かべ、

 

「じゃあカズくんが私をあっためて♪」

 

 体に巻きつけていたバスタオルを両手で広げてきた。ベッドの上にいるボクに、静香さんは自身の裸体を見せつけるように近づき、上半身を屈めて笑いかけてきた。

 

 うわ……さすが爆乳。前かがみ+重力ですごいことになってる……。

 

「かぁ~ずくん♪」

 

 少ししゃべっただけでもふたつのおいしそうな爆乳は振り子のように揺れた。

 

「し、静香さん……いい加減にしないとボクにも我慢の限界というものが……」

 

「あらあら? 我慢なんて体に悪いわよ。麗ちゃんも公認なわけなんだし、ね? いいでしょ?」

 

「それは……でも、まだ表面がヒリヒリしてて……」

 

「なら、挿入はいいからイチャイチャしましょ♪」

 

「イチャイチャって……むぐっ」

 

 両手で頬を固定され、そのまま唇を重ねられる。プルプルと瑞々しい唇を重ねられつつ、静香さんの片手がボクの服へと移動し、脱がされ始めた。

 

「ちゅっ……んんっ……ほぉら、まずは脱ぎ脱ぎしましょうねぇ~」

 

「しずふぁさん……んぅ……」

 

 慣れた手つきで静香さんはボクを全裸すると、布団を捲って先にボクを寝かせ、自分も布団のなかへと潜り込んできた。

 

 布団に隠された内側で、静香さんはボクに体を寄せて密着させる。左腕をボクの背中へと回して、もう片方の手でボクの胸に触れる静香さん。

 

 静香さんは無邪気な笑みを浮かべてうれしそうにつぶやく。

 

「ほら、こうすればあったかいでしょ♪」

 

「――っ」

 

「あらあら? エッチはしないんじゃなかったの? 太ももに熱くて硬いのが当たってるわよ」

 

「……静香さん、ワザとやってません?」

 

 健全なる男子高校生が、美人で爆乳の持ち主であるお姉さんと全裸で、しかも布団のなかで抱き合ったら、どう反応するかわかるでしょう……。

 

「あらぁ、何のことかしら? 静香、全然検討がつかないわぁ」

 

 ニコニコ笑顔を浮べて惚ける静香さん。静香さんはススーッと胸に置いていた右手を下へと移動させ、

 

「あうっ……静香さんっ!?」

 

 ペニスを触ってきた!

 

 静香さんはニコニコ笑顔を浮べたまま、さらに体を密着させてくる。

 

 ボクの胸に静香さんの爆乳が押し付けられ、柔らかい爆乳が圧力によって横に広がり、幸せな感触と静香さんの体温も広がっていった。

 

「し、静香さん……っ」

 

 静香さんの手の中で、ペニスがさらに硬く、大きく勃起する。

 

 自然と体を丸めるボクに、静香さんは笑みを浮かべたまま言う。

 

「さあ、イチャイチャしましょ♪」

 

「い、イチャイチャって……ボク、まだ痛い……」

 

「大丈夫よ、挿入は我慢するから、ね? うふふふ……」

 

 右手でペニスを撫で回し、背中に回していた左手でボクのお尻を撫でる静香さん。

 

「ま、まさか……イチャイチャって……」

 

 冷や汗が流れる。静香さんは微笑んだまま、無言でうなずいた。

 

「や、やっぱり……。これは……生殺しってこと、なんですね……?」

 

「ええ、そうよ♪ 勝手に彼女を作っちゃった誰かさんにお仕置きするためのね♪」

 

 静香さんはボクのペニスを握り、先端の尿道口を人差し指で押す。

 

「だからぁ~挿入は絶対ダメよ? もしも私が『いい』って言わないのに挿入しちゃったらぁ……」

 

「し、しちゃったら……?」

 

「そぉねぇ~……う~ん……ああっ、結構前に録画した『女装男子カズちゃん、美女2人に緊縛調教される(3時間)』を麗ちゃんの前で上映しちゃいましょう♪ うん、そうしましょ」

 

「なっ!?」

 

 なんてことを考えるんだこの人はぁぁぁああああああああ~!?

 

「でもぉ、他にも『強気な近所のお姉さんをガチ調教』とかぁ、『高校の美人保険医をアナル奴隷に』、『監禁陵辱~2人はこのボクのもの~』にぃ……『美女2人にアナルを弄られる男子生徒』なんてのもいいわねぇ」

 

「しっ、静香さんっ! そ、それって全部ボクが主演(男優役)で……遊び(プレイ)で録画したヤツですよね!? しかも、とてつもなくヤバい」 

 

「ふふっ……どれもいつもとは違うシチュエーションばかりだったから盛り上がったのよねぇ」

 

「盛り上がりすぎて色々人様に見せられないものばかりじゃないですかぁー!」

 

「見られたらカズくんに対する見方が変わっちゃうかもしれないわね♪」

 

 変わるどころか通報されるわっ!

 

「お願いですからやめてくださいっ! なんでも……なんでもしますから!」

 

「あら、ほんとに?」

 

「はい! ブランド物のバックでもネックレスでもなんでもプレゼントしますから! それだけはどうか……」

 

「ん~……そんなにお願いするなら、そおねぇ……」

 

 ボクを見つめる静香さん。ゆっくりと両手をボクの頬に添えて――、

 

「だったら、朝まで私をかわいがってくれないかしら?」

 

 そう、つぶやいた。

 

「……え?」

 

 呆けるボクに、静香さんは頬を膨らませる。

 

「む~……私じゃやっぱり不満なの? かわいい彼女ができたら私やリカをポイするつもり?」

 

「そ、そんなつもりないですよ!」

 

 いったいどこからそんな……、あ……。

 

「もしかして……静香さん」

 

「ん~……?」

 

「麗さんに焼餅やいて……イエ、ナンデモナイデス。スミマセン」

 

 言いかけたところでペニスをギュっされかけた……。

 

 ま、まあ、とにかく……。

 

 静香さんは焼餅をやいている可能性が高い、ということだ。

 

「それで、カズくん。どうするの?」

 

「……朝まで、静香さんをかわいがらせていただきます……」

 

「ふぅん……でも愛情がないのは嫌よ。作業みたいなエッチは嫌なんだから」

 

「ええっと、その……愛情なんですけど……。静香さん」

 

「?」

 

「ボクは……静香さんも、リカさんも好きですよ」

 

「……へ?」

 

 キョトンとする静香さんに、ボクは今の気持ちを正直に伝える。

 

「ただ、静香さんとリカさんに向けてる『好き』という気持ちが女の子に、異性に向ける『好き』なのかまだハッキリとわからなくて……ですね……」

 

「…………」

 

「5年以上付き合ってるからか、静香さんやリカさんに向けてる『好き』という感情が、家族の……『お姉さん』に向ける『好き』かで結論が出なくて……でも、麗さんと同じぐらい2人のことも好きで……」

 

 そこで言葉を止めてしまったボクに、静香さんは無言で両腕を首に回してきた。

 

「静香さん? ――うわっ!?」

 

 静香さんの顔を覗き込んだ瞬間、静香さんが首に腕をかけたまま、体を動かして仰向けになる。ボクも首に回されている腕に引き寄せられる形で引っ張られ、静香さんの体に覆いかぶさった。

 

 ボクは静香さんに体重がかからないよう、すぐに両腕をベッドに立てて起き上がると、

 

「むぐっ!?」

 

 再び引き寄せられ、唇を重ねられた!

 

 そのままたっぷり数十秒ほどキスしたあと、静香さんはいつもの笑みとは違う、艶のある妖艶な笑みを浮かべ、

 

「だったら今夜で私を『女』として意識させてあげるわ」

 

 ――と、自身たっぷりにつぶやいてきた。

 

 …………。

 

 ……どうやらボクのペニスに休息はないらしい。

 

「どうか、お手柔らかに頼みます……」

 

「ふふっ、ダーメ♪」

 

 静香さんは悪戯っ子のような笑みでつぶやき、唇を重ねてきた。

 

 ……お願いだからボクのペニス、頼むから今夜1日は耐えてくれ……。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 準備は必要

 いつもと同じ天井。いつも使っている布団の感触。首だけ動かし、机の上に置いた目覚まし時計を見てみると、時計の針は10時30分を少し過ぎたところをさしていた。

 

 ボクは時計から視線を戻して天井を見上げる。

 

 そのままボーッと天井を見上げながら、ふと思い出す。

 

「そういえば昨日もリビングで天井を見上げてたっけ……」

 

 あの時は麗さんと静香さんが隣で寝てて驚いた。今も、静香さんが隣で寝てる状況だけど、ボクの心は落ち着いていた。

 

 おそらく、静香さんに自分を『女』と意識させると宣言されてから、朝までとはいかないまでも夜遅くまでセックスし続け、ボクが静香さんへ向けていた感情をきちんと整理したからなんだろう。

 

 一晩じっくり考え、整理した自分の気持ち。

 

 静香さんに対する気持ちを、ちゃんと正直に伝えよう。

 

「ん……。……ぅん?」

 

 ボクがそう覚悟したとき、ちょうど目を覚ましたのか、静香さんの目がゆっくりと開き始めた。

 

 静香さんはまだ半分閉じかけてる瞳をボクに向けたあと、口元に手を当てて小さくあくびをした。

 

「ふわあぁぁ……おはよう、カズくん」

 

 まだはっきりと回っていない呂律でそう挨拶してくる静香さん。そんな姿をかわいらしく思いつつ、いつも通りの挨拶を返す。

 

「おはようございます、静香さん」

 

「ん」

 

 挨拶を返された静香さんはトロンと瞼を下げていき――再び夢の世界へと旅立ってしまう。

 

「スゥ……スゥ……」

 

 …………。

 

 かわいらしい小さな寝息を立てて、気持ち良さそうに眠る静香さん。

 

 その一方でボクはすっかり目も覚ましてしまい、その場に放置されている。

 

 ちなみにボクの腕は、ほとんど静香さんの爆乳に挟まれて身動きが取れない状況である。

 

「あのぅ……静香さん?」

 

「……ぅ、ん……? む~……どうしたの、カズくん?」

 

「おやすみ中、起してすみません。――でも、ボク……。これでも一応静香さんが起きたら整理した気持ちを伝えようと思ってて……」

 

 ボクは静香さんを正面から見つめて言う。

 

「ボクは静香さんのこと……たぶん、リカさんのことも……」

 

「――やっぱり、『女性』として『好き』でした」

 

「はい……って、静香さん!?」

 

 なんでボクが出した結論を先に!?

 

 静香さんはさらに体を密着させ、驚いているボクに向ってニッコリと笑顔を浮べる。

 

「だって、『女性』と思ってない相手に昨日みたいな愛情たっぷりエッチなんてできないでしょ♪」

 

「静香さん……」

 

「ふふっ」

 

 やさしく微笑む静香さん。ボクは改めて静香さんを見つめて言う。

 

「ボクは、ひとりの『女性』として静香さんが『好き』です」

 

 ボクの告白に静香さんは目を大きくさせて驚き、

 

「私も。リカと同じぐらいカズくんを好きよ♪」

 

 と、返事を返した。

 

「リカさんと同じぐらいですか……」

 

「あらぁ? リカと同じは嫌?」

 

「『男』としては……ですけど、リカさんと同じぐらい好かれてるなら、むしろ光栄です」

 

「ふふっ、大丈夫よ♪ 『男の子』だったらカズくんが1番だから、ね」

 

 静香さんはそう微笑んでボクの頬にキスをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前11時。ボクも静香さんもやっとベッドから起き上がろうとしたわけだけど……。

 

「――っ。はあぁ……やっぱり痛い……。これって完全にやりすぎが原因ですよね……」

 

「そうねぇ。結構赤くなってるし、今日1日は絶対安静にしといたほうがいいわね」

 

 下半身……ペニスの表面がヒリヒリと痛んだり、腰痛だったりとボクはベッドから起き上がれなかった……。

 

 一方の静香さんは少し腰とオマンコが痛いと言いつつも元気のようで。ベッドから降りたあと、ベッドの足元に置いていた、クリスマス兼正月用にと静香さんとリカさんがネットで購入して数日ほど前に届けられた大きな2つのダンボール箱のうち、ひとつを開封し始めた。

 

 起き上がれないので、首だけ向けて静香さんの様子を窺っていると、目的のものを見つけたのか、いくつかの袋を抱えてベッドに腰掛けてきた。

 

「静香さん?」

 

「むふふ……ちょっと待っててね、カズくん♪」

 

「?」

 

 静香さんは疑問符を浮べてるボクを放置して、袋を開封し始めた。

 

 まず最初に空けた袋からは……白のガーターベルトにストッキングが出てきた。

 

 静香さんはまずそれらを装着して、次の袋を開封する。今度は白の、Jカップを包み込むための巨大なブラジャーと、両側が紐のTバックが出てきた。どちらもバラの刺繍が施されていて、スケスケだった。

 

「ぅんしょ……っと、カズくん。ブラジャーのフック、止めてくれる?」

 

「は、はい……」

 

 金色の長い髪を掻き分けて、ブラジャーの紐を受け取り、背中でホックを留める。

 

「ありがと♪」

 

「どう、いたしまして……」

 

 ブラジャーを装着し終えた静香さんはすぐ後ろにボクがいるというのに、Tバックを穿き始める。

 

 両足に通し、太ももまであげてから立ち上がる。ボクの目の前で静香さんのお尻が振るえ、お尻の穴がチラリと覗けたが、静香さんは気にした様子もなくそのままTバックを装着した。

 

 突然の着替えシーンを見せられ、地味に興奮し始めたボク。そんなボクの興奮に気づいた様子もなく、静香さんは黙々と作業を続ける。

 

 今までよりも大きな袋を開けて、静香さんは中からある衣装を取り出した。

 

 静香さんはその衣装を両手で広げて確認しながら満足そうにうなずいて、着替え始める。

 

 数十秒ほどで着替えを終えた静香さんはその場でくるりと回り、ボクに見せてくる。

 

「どうかしら? 似合ってる?」

 

 少し照れくさそうに微笑んだ静香さん。

 

「…………」

 

「……似合わない?」

 

 ワンピースタイプで、太ももとストッキングの間の絶対領域が大きく見えてしまうほど短いミニスカート。

 

 頭にはナースの目印ともいっていいだろう、ナースキャップ。

 

 そのすべての生地は神聖さや純潔を示す白で統一されて、首にはおもちゃの聴診器がかけてあった。

 

 ――そう、静香さんが取り出して着替えた衣装とは、ナース服だった。

 

「ねえ、何か感想言ってくれないのぉ?」

 

 沈黙するボクの顔を静香さんはさらに顔を近づけて覗き込んできた。

 

 はちきれんばかりにナース服を内側から押し上げるJカップの爆乳が、静香さんの顔の下で振り子のように揺れている。

 

 ナース服もコスプレ用……いや、プレイ用らしく、生地がすごく薄くてブラジャーに刺繍されてるバラが浮かび上がり、なんだかボクをいけない気分にさせる。

 

 邪念をふり払うように視線を下げても、そこにあるのはミニスカートとストッキングの間から覗けている太ももの肌色……俗に絶対領域と呼ばれるものだった。

 

「……すごく、似合ってます」

 

 かろうじでつぶやけたボクだったけど、余裕はなかった。

 

 なにせ、あの静香さんがコスプレナースに変身してるのだ。やわらかい雰囲気をいつも身に纏わせ、いかにも天然そうな微笑みを浮べてる、やさしい爆乳お姉さんの静香さんが、だ。

 

 エッチなイタズラをしたくならないわけなんて、ないッ!

 

 むしろ、こんなエッチなナースさんにはイタズラをすべきなんじゃないか? 

 

 うん、そうだ……。

 

 ちょっどナース服のボタンも脱がせやすいようにミニスカートの先まで着いてるし、ここはまず診察してもらって、その途中で事故に見せかけてイタズラを……。

 

「カズくん?」

 

「――っ、は、はいッ!」

 

「さっきオオカミさんみたいになってたわよ? それも、今にも私に襲い掛かってきそうな」

 

「そっ、それは……静香さんが……」

 

 エロくてかわい過ぎるから……。

 

「ふふっ、この衣装を気に入ってくれたのはうれしいけど、今日は1日絶対安静よ。代わりにこの美人でやさしいナースさんが手厚く看護してあげるから、ね♪」

 

「ハハハハ……逆にナースさんが原因で症状が悪くなってしまいそうなんですが?」

 

「じゃあ、まずは診察から始めましょうか♪」

 

 無視……というか、聞いてない静香さんはボクの体にかけていた布団を隅に寄せて、診察を開始する。

 

「はーい……まずはお口を大きくあけましょうねぇ~」

 

「……はい。あ~……」

 

「……うん。腫れもないし、異常なしね。次は……」

 

 テキパキと診察をしていく静香さん。

 

 …………。

 

 ……ボクが思ってた診察と、だいぶ違う……。

 

 というか、ガチ診察だよな? ナースっていうか、もはや女医さんだよ。もしかして職業病?

 

 通常の診察を終えた静香さんは、ペニスを触診に移った。

 

 まず静香さんは最後の袋を開けて薄いゴム手袋を取り出し、しっかりと両手に装着する。……あれ、袋に貼られてたハート型のシールに、アナルプレイ用って書かれてなかった?

 

 半起ちになってるペニスに、静香さんの両手が触れる。

 

「――っ」

 

 いつもの手とは違う、吸い付くようなゴム越しの感触。

 

「うーん……血が出たりとかはしてないみたいだけど、やっぱり少し腫れてるわねぇ」

 

 つぶやきながらペニスに顔を近づける静香さん。そのまま慎重に竿を動かして、玉袋の裏側まで念入りに調べられる。

 

「し、静香さん……」

 

「あら? 痛かった?」

 

「そうじゃなくて……」

 

 ボクが向けた視線に、静香さんは「あ……」と小さく声をだして気づいた。

 

 フル勃起してしまってるペニスと、そのペニスを調子近距離から観察していた自分に。

 

「あらあら、ごめんなさいね」

 

 笑って誤魔化す静香さんだけど、その頬は赤かった。静香さん、完全に無意識だったな。

 

 じーっと静香さんの顔を見つめると、静香さんはさらに誤魔化すように視線を泳がせ、

 

「まあ、とりあえず……お薬ぬりましょ」

 

 と言ってきた。

 

「……お薬、ですか?」

 

「ええ。ほら、前にもやりすぎて腫れちゃったことがあったでしょ? あのとき使ったお薬よ」

 

「ああ……あれですか……」

 

 そういえばあのときって、リカさんが面白がって買った大量のオナホールで散々イジメられたりして腫れたんだよなぁ……。

 

 しかも、腫れたペニスが痛くて静香さんに泣きついてみれば……実は大量のオナホールたちは静香さんがネットショッピングで見つけて面白がり、カートに入れてしまい、リカさんが知らずに決済してしまったものだったことを教えられたんだよなぁ。

 

「オナホールの感触とオマンコの感触の違いとか、オナホールごとで感想しゃべらされたのはきつかった……」

 

「で、でも、あのあとすっごく謝って、色々慰めてあげたでしょ? ほら、幼児プレイとかしてかわいがってあげたりぃ……」

 

「ハハハハ。別に怒ってないので、そのことについては思い出させないでください。お願いですから……」

 

「そぉ? おっぱいちゅーちゅー吸われたり、ご飯食べさせたり、甘えられたりって私やリカは楽しんでたけど?」

 

「幼児プレイじゃなくて、ほんとに幼児退行してたからマズいんじゃないですか……。あのままだったら確実にボクの精神は幼児に戻ってましたよ」

 

 ――と、まあ、昔話はこの辺りで置いておこう。

 

「それより、お薬お願いします、静香さん」

 

「はぁーい♪」

 

 静香さんは元気よく返事を返して、触診につかったゴム手袋をゴミ箱へ捨ててから、部屋のクローゼットを開ける。中から中身が見えないアクリルケースを取り出した。

 

 静香さんはアクリルケースを空けて、平べったい楕円型の薬瓶を取り出し、持ってくる。

 

「じゃあ、お薬塗るわね」

 

 そう言って薬瓶の蓋を開封し、片手に新しいゴム手袋を装着する。ゴム手袋を装着した手で軟膏のような塗り薬を少量掬い取り、竿全体に塗っていく。

 

「――っ」

 

 ビクッと体が反応する。

 

 ひんやり冷たい薬。静香さんの手で薬が温まり、ヌルヌルし始めて……。

 

「はーい、もう少しの我慢よぉー」

 

「静香さん、これ……やっぱりヤバいです……ッ」

 

 まるでローションプレイ……しかも、ローション(薬)は肌に染み込んで不思議な快感を送り込んでくる。

 

「よし、終わりね♪」

 

 竿の根元から雁首まで丁寧に塗り終え、静香さんはペニスから手を離す。

 

「はぁはぁ……はぁはぁ……あ、危なかったぁ……」

 

 もう少しで射精しそうだった……。

 

 天井を見上げながら大きく息を吐いて呼吸を整える。まだ薬が染み込んでいく感覚に感じてしまうが、触られていないのならギリギリ耐えられる。

 

「偉いえらい。いい子ね、カズくん」

 

「うれしいですけど、今は頭を撫でないでください。……射精しそうなので」

 

「あらぁ? そんなにこの衣装が気に入ったの?」

 

「ええ。エッチなイタズラしてみたいです」

 

「ほんとにしちゃう?」

 

「今は……ううっ……イタズラじゃすまなくなるので我慢します……」

 

 そう言って大きくため息を吐くボクに、静香さんはニッコリ微笑んで立ち上がる。

 

「じゃあ、もうお昼だし、私はご飯作ってくるわね」

 

「それならボクもお手伝い……」

 

 起き上がろうとして、止められる。静香さんは口元に指を当てて、

 

「今日のカズくんは絶対安静。今日1日は大人しくこのナース静香に看護されてなさい♪」

 

 そう言うと、部屋から出て行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コスプレナース服の静香さんに手厚く看病されてから2日。

 

 麗さんを留年から救うチャンスは、思いのほか早くやって来た。

 

「……ここまでは、順調だな」

 

 時刻は午前9時丁度。現在ボクは、職員室近くの廊下、階段の踊り場の下に隠れていた。

 

「体育館で朝礼が始まったのは今さっき。職員室はおそらく無人のはず。それに、ここの教師は朝礼ぐらいでは職員室のカギを閉めない」

 

 完全に人の気配がしなくなったのを確認してから、慎重に廊下へと出る。

 

 物陰に隠れながら職員室へと進んで行き、職員室のドアに手をかける。

 

 やはりドアの施錠はされておらず、ボクは簡単になかへと侵入できた。

 

 ドアを閉めてから、一応、誰もいないか視線で確認する。このとき誰かいた場合は、少し怒られるぐらいですむからだ。

 

「誰も、いないな……」

 

 完全に無人の職員室。ボクは外の窓から見られないよう中腰で紫藤先生の机に向かい、私用のパソコンを確認したあと、両手にゴム手袋を装着する。一応、ゴム手袋は指紋を残らせないようにするためだ。

 

 机の横のホックにかけられた鞄からパソコンを取り出し、電源を入れる。

 

「パスワード設定されてなければいいけど……。――ふぅ、よかった。されてない」

 

 無用心な紫藤先生に感謝しつつ、ボクは急いでマウスを動かし、目的の情報を収集……。

 

「……ん?」

 

 デスクトップに変なフォルダがあった。フォルダの名前は紫藤議員の名前で、開いてみると――、

 

「これは……どういうことだ?」

 

 パソコンに写し出されたフォルダの中身に、しばしボクは固まった。

 

「後援者献金一覧に会計記録? いや、でも……」

 

 フォルダの中には、紫藤議員の内部情報が記載されているだろうフォルダがいくつも存在していたが、その他にもいくつかフォルダが存在していた。

 

 そして、それらのフォルダの名前は、どれもが『新しいフォルダ』のままだった。

 

「空……じゃないな?」

 

 一応、『後援者献金一覧』と『会計記録』の存在を確認できた時点で当初の目的は達成済みで、時間があればUSBに情報をコピーして自宅で調べるつもりだったのだけど……。

 

『新しい記録』と表示されたままなのに、他のフォルダとそう容量が変わらないフォルダの中身が気になった。

 

 ボクは残り時間を確認したあと、試しにフォルダのひとつを開いた。

 

 フォルダの中身はワードで書かれた文章がいつくも……。

 

「…………」

 

 ボクは、一度開いた文章ファイルを閉じて、違う『新しいフォルダ』を開く。

 

 違う『新しいフォルダ』も文章ファイルで、もうひとつの『新しいフォルダ』はエクセルと文章ファイル。

 

『新しいフォルダ』の中身がどういうものかをすべて確認したところで、ボクはノートパソコンの電源を落とした。

 

 ふぅっと息を吐いてから、ノートパソコンを元の場所へと戻し、痕跡を残さないように足早に職員室から脱出し、そのまま保健室へと向った。

 




「はぁぁ……疲れた。……まあでも、とりあえずは何とかなりそうだな」

「何が『何とかなりそう』なのかしらぁ?」

「な、なんでもないですよ、静香さんっ……」

「むぅ~……怪しい。朝礼前に具合が悪いからって保健室に着たのに、朝礼が始まったらトイレ行くからって出て行って10分以上帰ってこないしぃ」

「そ、それは……」 

「具合のほうもほんとは悪くないようだし……。それに、なんだかスッキリしてる」

「うっ……」

「もしかしてカズくん……」

「な、なんでしょうか?」

「トイレで麗ちゃんとエッチ……」

「違います」

「そうよねぇ。だったら……」

「ひとりでもしてませんからね? というか、ひとりでする余裕はないです」

「そうなの?」

「はい。ちなみに女子更衣室や体操着を盗んだりとかもないですからね?」

「ふふっ、誰もそんなこと思ってないわよ」

「それはそう、ですよね……」

「ええ♪ だってカズくん、体操着ならもう何枚も持ってるんだし♪」

「…………」

「ん~……でもぉ、よく考えるとその体操着って全部プレイ用だしぃ、女子高校生の体操着が欲しくなってもおかしくは……」

「ちょっと黙ってくれますか静香さん……」

「そんな……黙れなんて……。ダメよ、カズくん。ここは学校の保健室で、私は保険医で先生、なんだから……。あと、学校では『鞠川先生』って呼ぶ約束……」

「はぁ……いい加減にしないと本当に押し倒して黙らせますよ」

「――あらぁ、意外と元気そうじゃないの、カズ」

「――っ!? 麗さん!?」

「やっほー、麗ちゃん♪」

「おはようございます、鞠川先生」

「麗さん、なんで保健室に……?」

「なんでって、それは……カズが、保健室に行ったから……」

「もしかして心配して?」

「当然でしょ、彼氏……なんだから。――そっ、それより! 保健の先生押し倒すぐらい元気なら休む必要ないでしょ! 教室行くわよ、ほらっ!」

「あっ、うん! わかったよ。静香……鞠川先生、じゃあ失礼しました」

「ええ。じゃあね、カズくん♪ ――あと、さっきの続きは今晩、ベッドの中でね♪」

「――っ!」

「ふふっ、体操着用意しといてね♪」

「カズッ! 早く行くわよ!」

「う、うん!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話

 ものすごく遅れました、すみません。


 紫藤議員に関する情報が紫藤先生のノートパソコンに存在する事を確認した、翌日の夜。ボクは隣町に設置されている公衆電話を使い、ある場所に電話をかけていた。

 

 そのある場所とは、県下最大勢力を誇る国粋右翼団体、『憂国一心会』の本部だ。ちなみに右翼団体という組織を簡単に言い表すと、ヤクザに近い過激な政治家団体のことである。

 

 まあ当然そんな巨大な組織が、公衆電話から発信された電話で、自分の名前も名乗らず、まともな挨拶もしないで組織の会長と話をさせろ、なんて一方的に要求しているんだからイタズラと判断されて怒鳴られながら電話を切られ、今夜は終わ……、

 

『会長の高城だ』

 

 …………。

 

 ……イタズラと判断されて今夜は終わり、再度数日かけて何度も電話して、それでも繋がらない場合は最初から脅迫まがいなことして、こちらが本気だと思わせた上で会長さんに繋いで貰う手筈……、

 

『どうした? 私と話がしたかったのだろう?』

 

 ……あれ? 切られるはずの受話器から威厳たっぷりな低い声が聞えてくるぞ?

 

「あの……もしかして『憂国一心会』の会長、高城(たかぎ) 壮一郎(そういちろう)さんですか?」

 

『そうだ』

 

 ……うん。

 

 なんでバカ正直に公衆電話からの電話に出てるんだこいつぅぅぅっ!? 普通会長ご本人が公衆電話からの電話なんかにでないだろ!?

 

 さっきまで受話器越しで会話――とも呼べない「会長を電話に出せ」っていう一方的な要求をされてた男も無礼すぎるボクに烈火のごとく怒っていたのにぃっ! なんで電話に出てんだよこいつはぁぁぁああっ!?

 

『なんだ、ただのイタズラだったのか?』

 

「――っ!」

 

 い、いやっ! そもそも会長を電話に出すことが目的だったんだ。予定してた目的は達成してるんだから、落ち着いて次のステップへ向えばいい。

 

 ああ、そうだ。それに失敗は出来ないんだし、ここで落ち着いて取引を進めないと……。

 

『私も暇ではないのでな。用がないならこれで……』

 

「待ってください」

 

『む?』

 

「用なら……ちゃんとあります」

 

 ボクはなけなしの勇気を振り絞り、県下最大勢力を誇る国粋右翼団体、『憂国一心会』の会長に向って、口を開いた。

 

「――ボクと、取引をしてもらえませんか?」

 

 

 

 

 

 

『取引だと?』

 

 受話器越しから聞えてくる声の温度が確実に5℃は下がった――が、無視して続ける。ここで怯んだらこちらの負けだ。取引を有利に、そして確実に進めるためにも弱みを見せられない!

 

「はい、取引です。――その取引でボクがあなたに要求することは、地元の議員をしている紫藤一郎氏を逮捕して……」

 

『警察をあたれ』

 

 ブツッ、と電話が切られた。

 

「…………」

 

 ま、まあ、こうなるよな……。公衆電話の上に積んだ10円玉を投入して、もう一度電話をかける。電話に出てくれたのは、会長だった。

 

『……なんだ?』

 

「逮捕して欲しいといっても、警察にそう呼びかけて調べさせるだけでいいんです。そうすればあとは勝手に紫藤議員がボロを……」

 

『話にならんな』

 

 ブツッ、と電話が切られる。

 

 …………。公衆電話の上に積んだ10円玉を投入してもう一度電話をかける。

 

 そして、相手が電話に出た瞬間に言う。

 

「こちらの要求を呑まない場合は、あなたの組織のバック……後援会や関係している会社を潰します」

 

『……なんだと?』

 

 こちらの取引材料……というか脅迫に、会長さんの声質がさらに低くなった。同時に会長さん(軍服&銃刀法違反ガン無視の日本刀を帯刀)の姿(+額に青筋数本)が脳裏に浮んですっごく怖いっ! 電話越しにも迫力が伝わってくるようだった……。

 

 ――けど、現時点でこの人を頼る他方法はない。これがダメならもっと自分を危険に冒すハメになる。

 

 受話器を電話の上に置き、あらかじめ印刷したリストの中からいくつかの社名を読み上げて受話器を取る。

 

「こちらの要求を呼んでもらえない場合は、先ほど読み上げた会社の株を暴落させます」

 

『…………。ふんっ……取引ではなく、脅迫か』

 

「紫藤議員を逮捕することが出来た場合、現金で5000万円をお支払いしましょう」

 

『…………』

 

 無言で黙る会長さん。……沈黙がものすごく怖い。居場所の逆探知をされてるんじゃないかって不安になる。

 

 電話が切れないように10円玉を投入しつつ、数十秒後……会長さんが重い口を開いた。

 

『私と紫藤議員が繋がってる(・・・・・)とは考えないのか?』

 

「……もちろん、考えています。紫藤議員と『憂国一心会』は同じ県……しかも比較的近い場所に存在しているので。当然横の繋がりも存在してるものと考えています」

 

『ならばどうして私に話を持ちかけてきた?』

 

 それは単純に紫藤議員よりも権力があって場所も近いし、海外の企業はともかく、日本で組織と関係のある会社の株は安くて手に入れやすく、脅迫しやすかったから――って言ったら怒りそうだな、このおっさ……男。

 

 脳をフル回転させて、いい感じになる理由を捜し、ゆっくりと口を開いていく。

 

「『正邪の割合を自分だけで決めてきた男』が、紫藤議員がこでまで裏で仕出かしてきた悪ぎょ……」

 

『嘘だな』

 

「…………」

 

 せめて最後まで言わせてくれよ……。

 

『おまえが、そのようなちんけな正義感で動くような男には見えない』

 

 …………。

 

『おまえは自分の利になること以外では決して動かない、狡猾な男だ。そのような男が正義感ごときでこのような危険を犯すはずがない』 

 

 そう断言してくれる会長さん。……わかっていたけど、酷いなぁ、ボクの評価。仕方がないけどさ。

 

 受話器の向こう側の会長さんは、小さく笑い声を漏らしてこう続けた。

 

『何か理由があるのだろう、お前には。危険を冒してでも行動に出なければいけない理由が』

 

「……それは……」

 

 ……これ以上、無駄に会話するのは危険、か。ボクは会長さんの話を強引に打ち切って話を戻す。

 

「それより、取引は? 結局のところ、受けてもらえるんですか?」

 

『ふっ、脅迫までしておいて今さらだな』

 

「……それは、受けてもらえると?」

 

『ふんっ、いいだろう』

 

「ありがとうございます」

 

 声に出ないよう、内心でバンザイしながら喜んでいると、

 

『――それで、紫藤議員を逮捕に追い込む材料はなんなのだ? 当然、用意しているんだろう?』

 

「――っ!」

 

 こちらが言う前に会長さんからそう訊ねられた! お、落ち着け……それぐらい読まれても当然だろ。元々一般市民のボクがいち組織のボスに交渉で勝てるわけがないんだから。落ち着いて取引を続けるんだ。

 

「はい、もちろん用意しています。――紫藤議員の息子、紫藤議員が理事を務めている高校の教師、紫藤 浩一(こういち)が所持しているノートパソコンのなかに、紫藤議員に関する情報が入っています」

 

『……そうか』

 

「では、これ以上の説明は不要でしょう。その他のやり方はお任せしますが……年明け前までに逮捕まで持ち込んでください」

 

『年明け前までとは随分と性急だな。一週間もないではないか』

 

 ……それは本当にすみません。

 

『……1億』

 

「はい?」

 

『1億で受けてやろう』

 

 最初の倍かよっ! で、でもまあ、受けてもらえるなら金ぐらい、いくらでも払うさ。元々、宝くじで当てた大金をゲーム感覚で株取引し続けて儲けて溜め込んでた金なんだし、麗さんのためならいくらでも。

 

「わかりました。1億の受け渡しは年明け。受け渡しの方法もその時に……ということでお願いします」

 

『了解した』

 

「では……」

 

 ガチャっと受話器を置いて、電話を切る。

 

「はあぁぁぁぁ……緊張したぁ……」

 

 大きく息を吐きながら、その場にしゃがむ。あ~……足がガクガクして立てねえ。ほんとに緊張したぁぁ……。

 

「それにしても本当にヤバいな、会長さん。さすが組織のボスっていうか、脅迫されてんのに最後まで威厳たっぷりだったし……。しかも当然のように報酬を倍に増やしたし……」

 

 だが、これで紫藤議員が逮捕されてくれれば……いいけど、されない場合は――、

 

「紫藤議員と一緒に、『憂国一心会』も潰さないといけなくなる」

 

 ……もしもそうなったら、マジでヤバいな。深みに嵌るどころの話ではなくなっている。

 

 改めて自分が危ない橋を渡っていることを認識し、電話ボックスの壁に寄りかかる。床を見下ろして緊張を解すように長いため息を吐く。

 

「自分の安全に億単位の金もかけてるんですから、本当にお願いしますよ、会長さん」

 

 

 

 

 

 

 それから3日後の朝。自宅のリビングで、静香さんと朝食を食べながらテレビを見ていると、

 

『――○○議員の紫藤一郎氏が警察に逮捕されました。罪状につきましては現在のところ情報は入ってきてませんが、紫藤一郎氏の息子である紫藤浩一氏が先に任意同行されていたことが……』

 

「あらぁ、うちの理事長と紫藤先生って逮捕されちゃったんだー」

 

「…………」

 

「あら? カズくん、ご飯こぼれてるわよ?」

 

「う、うん。ありがと、静香さん……」

 

「どういたしまして♪」

 

『まだ詳しいことはわかりませんが、捜査関係者からの情報によると、紫藤浩一氏が所持していたノートパソコンから紫藤一郎氏が今まで行なってきたと思われる不正の情報が次々に――』

 

 ……会長さん、ほんとに仕事が早いっスね……。

 

 

 

 

 

 

 紫藤議員の突然の逮捕報道から十数時間後の夜。前回とは違う町、違う場所の公衆電話からボクは『憂国一心会』へ電話をかけた。

 

 部下らしき男性から会長さんへ繋いでもらう。今度はすんなりと会長さんが電話に出てくれた。

 

『おまえか』

 

「はい。――こちらの要求通りに動いてもらったようで助かりました」

 

『ふん、脅迫されているのだから動く他ないだろう』

 

「それはそうでした。――では、報酬の1億は……」

 

『年明けでも構わん』

 

「そうですか、わかりました。年が明けてから……」

 

『私は年末から1月の半ばまで予定がある』

 

「……はい。それ以降にお電話させていただきます」

 

『うむ』

 

 ……うむ、じゃねえ! 脅迫されてるっていうならそんなに偉そうにするなよっ。ボクが脅迫されてるみたいじゃないか……。

 

『私も紫藤議員の逮捕で忙しくなってな。これ以上用件がなければこれで電話を切らせてもらうぞ?』

 

「はい……」

 

 ブツッと電話を切られた。

 

 ……ま、まあ、紫藤議員はともかく、どうやって紫藤先生を逮捕させたのか方法を聞いてないけど、別にいいか。聞いても仕方がないし。結果だけあれば十分だ。

 

 電話ボックスの扉を開けて、自宅へ向って歩き始める。

 

 夜道をひとりでしばらく歩いていると、携帯に電話がかかってきた。着信画面には『宮本 麗』と表示されてる。

 

 ボクは携帯の受話器ボタンを押して、電話に出る。 

 

「もしもし、麗さん?」

 

『もしもし、カズ!? 今日ね、紫藤議員と紫藤先生が逮捕されたってニュースが流れて……! それでね、お父さんがもう大丈夫だって! 私、留年しなくてよくなったんだって!』

 

「うん」

 

『紫藤先生のノートパソコンから不正の情報と一緒に私を留年させようとした情報も出てきたらしくて……』

 

 電話越しからも伝わってくる喜びの感情。興奮のあまり内容が途切れ途切れになってる麗さんだけど、言おうとしている事はしっかりとボクに伝わっていた。

 

 ボクは喜んでいる麗さんの姿を思い浮かべながら、心の底からつぶやく。

 

「本当に、本当によかったね、麗さん」

 

『うん! これで春からカズや皆と一緒に3年生よ!』

 

「ボクも麗さんと3年生になれてうれしいよ」

 

『本当によかったぁ……』

 

 安堵からか、電話越しに麗さんの泣き声が聞えてくる。

 

 とりあえず、麗さんの留年は回避そうだ。

 

 これであとは……会長さんがこのままボクのことを放っておいてくれるか、だな。

 

 まあ、明日明後日とそうすぐにボクまで足が着くことはないだろうし、約束の金も用意してる。取引通りに全額支払うつもりだ。もしボクの身元がバレたとしても、そうそう手荒い手段になんて出ない……はず、だよな?

 

 ……いきなり夜道で襲われたりとかないよね?

 

 暗がりに入ったところで新撰組よろしく斬り捨てられないよな?

 

 ……ちょっと不安になってきたぞ……。

 

 なにせ会長を含めて『憂国一心会』は腰に日本刀を帯刀してる連中だしなぁ。本当に斬り捨てられてもおかしくはなさそうだ。

 

 …………。

 

 と、とりあえず、突然襲われたとしても助けが呼べる程度には鍛えようかな。麗さんにも体触られた上で貧弱って言われたわけだし……。

 

 まずはランニングから始めるかぁ。

 

 

 

 

 

 

 紫藤議員と紫藤先生の突然の逮捕報道から2日後の月曜日。とうとう冬休みが始まるまで2日を切った頃。

 

「ねえ聞いた? 紫藤先生逮捕されたらしいわよ」

 

「うん、すごいよね、ニュースとかにもなってたし」

 

「結構カッコイイ先生だったのに、ざんねーん……」

 

「そういや父親の理事長も捕まったって話だよな?」

 

「ああ、親子そろって逮捕とか……笑えるよな」

 

「まあ学年主任の紫藤はともかく、紫藤議員のほうはそうとう汚いことやってたらしいからな、当然だろ」

 

「そういや結構有名だったよな、紫藤議員って。実は暴力団とかと繋がってるとかいう噂もあったし。女性問題でも結構週刊誌に載ってただろ」

 

 学校全体が紫藤親子の逮捕報道の話題で持ちきりだった。

 

 特に学校の理事長と学年主任がほぼ逮捕されたことで、学校前の校門には早朝から何十人という記者たちが集まり、登校する生徒たちにマイクを向けてインタビューしたりと、校門前はすごい騒ぎになっている。

 

 そして教師たちも、理事長と学年主任の逮捕報道についての説明を求める保護者たちに対応するべく、早朝からずっと職員会議を開いていた。

 

「さて、どうなるのかな?」

 

 ボクは窓側の一番後ろという最高の席から窓の外を見下ろす。人並みはずれた視力がグラウンドを越えた向こう側の校門を捉えてくれる。

 

 学校の校門には登校時とは違い、マイクや大きなカメラを持った記者たちの前に、数十人という人々が立っていた。服装から見て、おそらく学校に通っている生徒の保護者やPTAの方々だろう。その代表らしい人が怒りの表情を浮かべ、校門を開けるよう職員室に怒鳴っているようだった。

 

 代表らしい人が怒鳴り始めてからほどなくして、警備員と一緒に数人の教師が校門を開けにやって来たようだ。教師たちは保護者たちに怒鳴られながら、記者たちに問い詰められながら、保護者たちだけを体育館へと誘導していく。

 

 ぞろぞろと長い列を作って体育館へと向っていくPTAを含む保護者たち。この学園は全寮とはいかないまでも生徒の8割近くが寮に入っていて、普通の高校よりも生徒数が多いから、保護者たちの数も相当なものなんだよなぁ。

 

 おそらくこれから体育館で保護者への説明会でも始めるんだろう。未だに締め出されたままになってる記者たちは、保護者たちが戻ってくるまで待つつもりなのか、機材のチェックやどこかへ連絡を取り始めていた。

 

 ……この騒ぎのキッカケを作ったのは自分だけど、ほんと、ものすごい状況だな。昨日と今日では状況が違いすぎる。

 

 ――と、ここで教室の扉が開いた。

 

 扉を開けて入ってきたのは担任の男性教師ではなく、数学担当で卓球部顧問の女性教師、(はやし) 京子(きょうこ)先生だった。

 

 林先生の登場に、先ほどまで席を立って騒いでいた生徒たちが自分の席へと戻り、座り始める。

 

 林先生は教壇に立つと、現在の説明を開始した。

 

 まっ、説明といっても、もう皆が知っている紫藤議員と紫藤先生の逮捕と、学校側は当然の事態で何も把握で着ていないということ。

 

 そして、予定を前倒しにして冬休みになるということだった。

 

 2日早く訪れた冬休みに喜び合うクラスメイトと、それを宥める林先生。林先生はものすごく疲れた表情のまま、何種類かのプリントを配り始めた。

 

 プリントはおそらく終業式の日に配る予定で作っていた冬休みの生活を考えさせるもので、中には急造して作成したと思われる保護者さまへの説明プリントも入っていた。

 

 プリントを配り終えたあと、林先生は成績表を配ると出席番号順から呼び出し始めた。

 

 恐る恐る林先生から成績表を受け取った麗さんは、自分の席に戻る途中で、受け取った成績表を開いてボクのほうに見せてくる。

 

 麗さんの成績表には、新しく修正されたと思われる手書きの数字と、謝罪文らしい文章が記入されていた。

 

 成績表を閉じて満面の笑顔を浮べる麗さん。

 

 麗さんの成績を見る限り、これで留年はあり得ない。これで、麗さんの留年は完全に回避できたんだろう。

 

 ボクは「よかったね」という意味を篭めて麗さんに笑いかけた。

 

 

 

 

 

 

 終業式から数日後の12月24日。

 

「あの……麗さん? 大丈夫?」

 

「ん~……べつにぃ、ぜんせんだいほうぶよぉ~?」

 

「いやでも、全然呂律回ってないし……」

 

「もぉっ、だいじょぶっていっれるれしょっ! うるっさいかじゅなんか、こうしてやるんだかりゃぁ~」

 

「ちょっ!? 麗さん!?」

 

「ふへへへぇ~、よいではないか、よいではないきゃ」

 

「うわわっ!?」

 

「もうなによぉー? かじゅだってその気だったんじゃないのぉー」

 

「いや、それは……しっ、静香さんも見てないで助けてください……ッ!」

 

「ん~? 私にも混ざって欲しいの、カズくん」

 

「静香さん話聞いてました!?」

 

「ふふっ、もうカズくんったらエッチなんだから~♪ いいわよぉ、この静香サンタがカズくんにエッチなプレゼントを贈ってあげる♪」

 

「ダメだ! 全く聞いてない!」

 

「むぅ~、恋人のサンタさんよりカズは静香せんせぇのサンタがいいのぉ?」

 

「そ、そういうわけじゃないよ! というか麗さん、しゃべりながらペニスに頬ずりしないで」

 

「むふふっ♪ じゃあ私は上を攻めちゃおうかしら♪」

 

「静香さんっ!? ――むぐっ……!」

 

「うふふっ、美味しぃ♪ カズくんの口からさっきまで食べてたケーキの味がするわぁ……」

 

「せんせぇ、ずるーいっ! あたしもキスするぅー!」

 

 ……ボクは2人のサンタさんに襲われていた。

 




 エロシーンは先送り。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。