MUV-LUV ALTERNATIVE 救世主になれる男 (フリスタ)
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00

以前から再投稿の依頼があったので、ゆっくりですが修正して投稿していきます。今日はとりあえず、このプロローグと第一話を投稿したいと思います。


俺の名前は海堂(カイドウ) 正樹(マサキ)

 

俺は今、俺を見ている。

トラックと電柱に挟まれて……原形を留めているのは首から下だけだ。

 

目の前の状況から察するに、俺は死んだみたいだ。

 

俺は自分が死んでも構わないと常日頃から考えていた。俺が死んでも誰かが困ったとしても、世界が傾くだとか、混乱が起きるわけでもない。どっかの歯車の一つで替えは利く。

 

熱くなるような打ち込めるものもないし、惰性で生きている自分が嫌だった。かと言って、自分で自分を変えられるほど行動派でもなかったと思う。だからいっその事、災害に巻き込まれたりして消えてしまえたら楽だと考えていた。

 

実際死んでみて? 痛ぇよ。でも一瞬で助かった。あんなに痛いのは耐えられそうに無い。

 

 

 

「なんだ。ショックも受けてないのかい」

 

死んでいる俺を俺が見つめていると、一人の女がやって来た。

長く赤い髪を風になびかせながら、ジーンズにTシャツ姿というラフな格好だった。

 

「俺が見えるのか……俺はどうしたらいい?」

 

勝手な想像で、死神だとか あの世への案内役だと思っての言葉だった。

 

「へぇ……アンタみたいなヤツは初めてだね。上司に聞いてたとおりか……一つ一つ説明させて貰ってもいいかい?」

 

女の人はタバコを咥えて火をつけて話し始めた。

 

「何かワケ有りか……頼む」

 

「アンタは手違いで死んだんだ。本来アンタはこれから就職活動の最終面接に行く予定だったんだけどね」

 

あぁ、確かそうだった。まぁ落ちる気がしないでもなかった会社だが。

 

「予定通りの人生なら、アタシの上司の力で人生を修正されて行く中で、その就職先に合格。社内恋愛、結婚。責任ある仕事を任されていき、アンタ自身もヤル気に満ちて行き、割とハッピーエンド的な感じでその人生を楽しめる予定だった」

 

「想像がつかないから別に良い。それで? 俺はあの世に行くんだろ?」

 

「それがね、今は定員オーバー状態なんだよ。予定者リスト以外の人に死なれると困るんだ」

 

そうは言っても死んでしまっている俺がそこにいた。

 

「そこでね。再生とかは出来ないから異世界へ言ってもらう事は出来ないかね? 特典モロモロ付けられるんだけど」

 

「異世界?」

 

「そう、アンタの事は聞いてるよ。色んなゲーム・アニメ・漫画をやったり読んだりしてきたんだろ? 好きな世界へ行かせてやれるよ。例えば魔法の世界へ行くなら、魔力MAXとかのオプション付きでさ」

 

「別にもう生きたくないんだけどな」

 

「そんな事言って~、自分を変えたいんだろ? 全部知ってるから大丈夫だって」

 

カラカラと笑う女性だ。不思議とイラつかされる事は無い。しかしまぁ随分と勝手な話だ。話をまとめると、俺は手違いで殺され、そのまま逝けるなら問題なかったのだが、あの世は定員オーバーで逝けないから、オプションを付けて異世界で過ごせということだ。

 

「それ以外方法は無いってことか」

 

「そうだね。行き先が決まらないならランダムか、アンタに合った世界をコッチで決めて送る事になるけど?」

 

どうやら回避不可の話しらしい。

 

「先に聞こう。オプションって言うのはアレか? チート的なものか」

 

「えぇと……あぁそれで合ってるよ。チート。専門用語使われると少し分からなくなるんだ悪いね」

 

女の人は書類をパラパラと確認して返答してくる。

 

「制限はあるのか?」

 

「ん~? いきなりその世界を崩壊させるとか、消すとかは無理だけど……あくまでもアンタの能力を上げたりだとか、知識を付ける事は問題ないみたいだね。いくつでもOKだね……あ、アンタの記憶とか頭の中から情報を掻き集めて、能力に反映させるから難しく考えなくていいみたいだよ」

 

「じゃあいっその事熱くなれる世界に行きたいな」

 

「おっ やっとその気になってくれたんだね。うんうん、その顔の方が良いよ。それで、どこに行くんだい?」

 

「マブラヴ・オルタネイティブの世界」

 

「えぇっと……うわ、すごい世界に行きたがるね……」

 

俺の頭の中を確認したのか、少し引き気味かつ興味ありげに女の人は声を上げた。

死ぬときは一瞬だからな。まぁ生き残るように頑張るが……。

 

「能力とかいいか?」

 

「あぁ何でも言ってよ」

 

「じゃあまず、魔装機神サイバスターを俺の専用機で使わせてもらうのと、スパロボ仕様で改造MAXで、強化パーツもチートできる限り搭載して」

 

「あぁまた専門用語……これか……うん……うん。その程度なら問題ないね」

 

「じゃあ後、俺の体力や運動神経とかの能力もその世界では困らないぐらいに強くしておいてくれないか」

 

「お、死ぬ気無くなったねアンタ……えぇと、軍人がこれぐらいだから、こんなモノかな。終わりかい?」

 

「えっと、それじゃあ、その世界の戦術機の操縦方法だとか設計も出来るようにしておいてくれないか? 世界を破壊しない程度のオーバーテクノロジーも使えたら嬉しい」

 

「欲望が溢れ出してるね~。うんうん人間は素直が一番だよね~。あ、そうそうアンタの顔がアンパン○ンみたいに使い物にならなくなったから、大元の素体から変えなきゃならないんだけど、希望はあるかい?」

 

鏡を取り出し俺に向けてくると、そこには ぼやける様に光る人型の姿しかなかった。今の俺ってこんなだったのか。これはコミュニケーションすら難しいな。

 

「何でも良いんだけどな……じゃあ、渚カヲルで頼む」

 

「えぇと、エヴァンゲリオンね。うん良い感じじゃん。私が人間なら惚れてるかもね。……でも少し幼くして長髪にしておくね」

 

「何か問題があったのか?」

 

「いや、ほら。アタシ男の娘が好きだからさ、それにサイバスターって機体が戦術機ってロボットと比べてかなり大きいみたいだからね、サイズ補正も込みで調整だよ」

 

サイズは理解できるが……お前の好みなんて知るか。

 

「まぁ戦闘とかに支障がなければ問題ないけど」

 

「さて、こんなもんかな? 他にはあるかい?」

 

俺自身が最強の分類で、戦術機にも乗れるがサイバスターがフル改造で専用機。男の娘だが、肉体も手に入った。

 

「……特に問題は無いな」

 

「じゃあ、これはサービスね(chu♪)」

 

「頬にキスがサービス?」

 

「言ってなかったけど私って一応は女神様なのよ」

 

嘘付け、タバコ吸ってる女神なんて聞いた事ねーよ。

 

「それはアンタの先入観。まぁアタシのキスは効力があるのよ」

 

「心を読むな。効力って?」

 

「これでアンタは割とモテモテよ。あ、でも【恋愛原子核】の効力の方が優先されるから、白銀(シロガネ) (タケル)の方を元々好きな子からの好きはLikeだと思ってね」

 

【恋愛原子核】。マブラヴの主人公、白銀 武の固有能力だな。能力と言うか特性と言うか、まぁ常時発動してるフェロモンみたいなものだろうと思う。

 

「面倒くさい事を……もう良いか?」

 

「えぇ、何かあったら念じてくれれば出来る限りは聞くから。アタシ一応アンタの担当だからねヨロシクね。マサキ」

 

そう言われて俺は光に包まれていく。

 

「担当って、アンタの名前は?」

 

「あぁ忘れてたわ。あたしの名前は……『フレイヤ』よ」

 

少し考えてから不良女神は『フレイヤ』と名乗るのだった。

 

そして、気がつけば俺は機体の中にいた。

 

 

 




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01

今日はここまで


Side マサキ

 

俺は女神様が用意していたらしい説明書を読みながらサイバスターで飛んでいた。

 

「えぇと、機体性能が書いてあるな……」

 

―――は!? いや、確かに 改造MAXにしろとは言ったけどさ……カロリックミサイル99発。ハイファミリア99発。コスモノヴァ5発って何だよ!? どこに隠し持ってるんだよ!? 弾数の改造はここまで大幅に出来ないはずでしょうが。

 

「あ、なるほど、カロリックミサイルは光弾仕様なのか……それならかさばらないか」

 

サイバスターは歴代のスパロボ系に何度か出ているが、実弾のミサイルと、光弾のミサイルがある。見た目が違うだけで、光弾でもジャマーの影響を受けたりするが、弾数としてはこれなら助かる。

 

ハイファミリアに関しては異次元からも呼び出せる仕様らしく、弾数が多くても基本的に問題ないらしい。

 

「コスモノヴァだけ5発なんだな……。まぁ十分すぎる気もするけど」

 

コスモノヴァは最強の必殺技だ。あの威力だから遠くに避難させても味方を巻き込んでしまいかねない。使う機会はあるのか?

 

 

 

「しかし、これは何だ?」

(敵を倒せば女神ポイントが溜まって、そのポイントは勝手に修復や補給に回されますので、じゃんじゃんBETAを倒して夢のグランドスラムを目指してくださいね☆)

 

「女神ポイントって何だ。あの女……キャラ変えてんじゃねーよ」

 

まぁつまり、このサイバスターで戦う限りは、修復や補給に悩む事はないというわけだ。何だグランドスラムって?

 

 

(ペラ)

 

このサイバスターは俺以外の人が触れたり、弄ろうとすると、アラームやら自爆装置が起動するらしい。自爆装置に関してはダミーなため、実際には爆発しない。それと、不可視にすることが出来るということらしい。

 

「これは基地内とかに入ればいらない機能だな……(ペラ)……ん? 【☆オ・マ・ケ☆】説明してなかったけど、このページにはさっき話したこと以外の特典内容が―――」

(―――書かれている。これもチート機能が付いているけど、あくまでもオマケで考えてね。内容の説明は不要だと思うから下に表を作っておいたわ。ま、マサキなら見れば分かるでしょう)

 

それは今までの正式なフォント等を使ってない手書きで書かれていた。案外カワイイ字を書くものだ。俺は下にある表に目をやる。

 

「なるほど、精神コマンドか……」

 

スパロボをやった事がある人なら分かるはずだが。機体性能以外にパイロットには精神コマンドと言って、一時的に攻撃力や回避能力を上げるシステムが存在する。どうしても勝てない敵、面倒だから一掃したい時、避けれないなどに使用するコマンドだ。

 

付いて来たコマンドは、【奇跡】【直感】【集中】【気迫】【加速】【魂】

 

「……あの女、バカじゃねーの?」

 

俺が言ったのはコマンド内容に対してもそうなのだが、使用した際のポイントの減り具合だ。例えば、幸運なら40減るだとか、直感なら20減るだとか、その効果のモノによって消費されるポイント数が違う。しかし、あのフレイヤという女神さんの作成した表を見ると……。

 

「消費が全部10って何だよ? しかも、俺の精神ポイントは自動回復するわ400あるわ……減らねーじゃ……ん?」

(いやーわけわかんないからさ、とりあえず全部10にしておいたわ。良い事した後って気持ちいいわね。あ、一応暇なときに【すぱろぼ】? やって勉強してみるから)

 

とか、フレイヤのキャラなのかイラストで手を振っている2頭身の女の子の絵が描かれている。

 

「うん、あの女はバカだ。どの口が良い事した後がどーのこーの言ってんだ? 俺死んでるじゃねーか……まぁあの女が殺したとは言えねーけど」

 

まぁ使う事自体がないだろうから頭の片隅においておこう。

 

 

 

 

 

下には廃墟が立ち並ぶ街並みが見える。

 

この惨状はBETAによるモノだ。

 

BETA(ベータ)とは Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race の略で、人類に敵対的な地球外起源種のこと。まぁ見た目からしてグロテスクな化け物集団だ。言葉は通じないし、いきなり現れては破壊殺戮の限りを尽くす。まぁ奴等からしたら破壊している気も殺戮してる気もないらしいんだけど……つまりそういう行動が自然と出る化け物たちだ。

 

「マサキ、この星には人間はいないのかニャ?」

 

「さっきから廃墟ばっかりニャ ゆっくりとは言え結構飛んでるのニ」

 

俺の脇や肩から、ファミリアの黒い猫と白い猫が声を上げる。名前はそのままで【クロ】と【シロ】だ。ファミリアっていうのは、使い魔みたいなものだ。サイバスターの兵器、【ハイファミリア】という鳥のような形状の物で標的の近くまで飛んで行き、不規則に動きつつ光弾を発射し攻撃したり、行動範囲が広いため偵察任務にも用いられる。

 

クロは女性(アニマ)的、シロは男性(アニムス)的な性格をしている。『~な』の発音や語尾がすべて『~ニャ』になる言葉遣いをする。

 

「いるはずなんだけど、この世界は初めてだからどこに何があるのか分からないんだよな」

 

ビーッビーッビーッ!!

 

レッドアラート。敵とは限らないが、こちらに照準合わせ(ロックオン)している者がいる。

 

「左ニャ!」

 

「アレが戦術機かニャ?」

 

「あぁ、確かに戦術機だ。赤い……武御雷(たけみかづち)。まさか月詠さんか!? いや、まさかな。偶々色が同じだけだろう……」

 

ピピッ!

 

オープン回線で音声通信が入ってくる。十中八九あの機体からのコールだろう。

 

『こちら帝国斯衛軍所属の月詠中尉だ。前方の未確認機。所属を答えよ。答えねば―――』

 

ビーッビーッビーッ!!

 

「―――撃つぞ?」 と、再度ロックオンだけで示される。

 

「……あー、この声は間違いなく月詠さんだ。……あれ? でもおかしくないか? そもそも何でアッチに気付かれるまでコッチが気付けなかったんだ? マップだって機能していれば、少し遠くでも人や 活きている建物に反応するだろうに。この機体ってチート機体だからこの世界のどの機体よりも高性能だろう?」

 

「ニャ!? マサキ! マップ機能をこの世界用に設定してないニャ!」

 

「あぁ通りで。これはお前らが忘れていたせいか? 俺がやるべきことなのか?」

 

「何を冷静にしているニャ! 早く返答しニャいと撃たれるニャ!」

 

「あぁ、そうか……所属? ……あっ」

 

何も無い。この世界に俺はいない事になってる。戸籍などが無いのだ。元々の主人公のタケルちゃんなら死んだことになっていたりして、最低でもこの世界の住人という事になるのだが……俺には何も無い。

 

「あ、あー聞こえますか? 所属は無いです」

 

『……何だと?』

 

この世界、オルタネイティブの月詠さんって凄く怖いんだよな?

いきなり撃たれてBADEND も有り得るのか!?

せっかく来たのに、一瞬で終わりじゃ……ねぇ?

 

「マサキここは……」

「逃げた方がいいんじゃニャいか?」

 

賛成。これは対応できそうに無い。

 

「え えーと斯衛軍の方へ……き、聞こえますか?」

 

『聞こえている。返答はいかに?』

 

「すみません。失礼します」

 

『何?』

 

キィィィィィ……

甲高いエーテルスラスターの音が操縦席に鳴り響く。いや、実際にはそれほど大きくない音だ。これは俺の心臓の音が幻聴となって甲高く大きく聞こえているのだろう。操縦桿に触れる手も汗ばんでいるのが分かる。

 

『む? おいっ待て!』

 

「ごめんなさーいっ!!」

 

ドォッ……ン!!

まさに風のサイバスター。一瞬で音速を突破して相手の視界、レーダーを振り切る。

 

「「「あ~怖かった(ニャ~)」」」

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 月詠(つくよみ) 真那(まな)

 

早朝の演習の帰りに不穏な感じを受けて、部下達を先に戻らせて辺りを警戒してから戻る事にした。

 

「ふっ 勘も捨てたものではないな。しかし、あの機体……」

 

レーダーには機影が映るが、【unknown(所属不明)】との表示が出る。目視で確認しても同様だ。少し青みがかった銀色の戦術機……アレは。ん? いつまで噴射跳躍(ブーストジャンプ)している気だ? 推進剤の無駄だろうに……いや、

 

「まさか!? 飛んでいるのか?」

 

今更ながら気付けば高度も高すぎる。戦術機が居ていい高度ではない。

 

「馬鹿な!」

 

アメリカなどの新型? 聞いた事が無い。そもそも危険を冒してまで、日本に顔見せに来る行動も理解に苦しむ。では、あの機体はなんだ? こちらにも気付いていない? 私は鳥か夢でも見ているのだろうか? 私は確認も兼ねてその機体にライフルを向けて照準を合わせる。

 

ピッ

 

「こちら帝国斯衛軍所属の月詠中尉だ。前方の未確認機。所属を答えよ。答えねば―――」

 

夢とみなす……わけにもいかんか。

返答が帰ってこない。いきなり撃ち落すわけにもいかんし……何らかの反応(アクション)を起こしてほしいものだ。

 

すると、やっと通信が帰ってきた。

 

『あ、あー聞こえますか? 所属は無いです』

 

「……何だと?」

 

子供の声だ。どういうことだこれは。しかも、回線の使い方すらも初めてと言わんばかりの自信のなさ。少し間をおいて、また返答が来た。

 

『え えーと斯衛軍の方へ……き、聞こえますか?』

 

「聞こえている。返答はいかに?」

 

『すみません。失礼します』

 

「何?」

 

機体を注意深く見るが、特に動きは見られない。いや、機体の後部からブーストを溜めているかのような粒子が見える。

 

「む? おいっ待て!」

 

『ごめんなさーいっ!!』

 

ドォッ……ン!!

 

「なっ!?」

 

レーダーからは一瞬で消えてしまったあの機体。あの機体は一体……。

 

「疲れている気はしないのだが……やはり白昼夢か? 全くどう報告すれば……」

 

空を飛ぶ見たことの無い所属不明の戦術機。青みがかった銀色で、パイロットはかなり若い声をしていたが、日本人である事は間違いないと思われる。その機体は(ゼロ)から一瞬で100に到達するかのように、音速を超えて視界からもレーダーからも消えた。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

「どうだ?」

 

「大丈夫ニャ。これで迷子にならないニャ」

 

俺はマサキ・アンドーとは違う。レーダーがあれば迷わない……はずだ。

しかし、レーダーが無いと、さっきみたいに逆方向を延々と飛んでいることになるわけだ……そうレーダーのせいだ。多分。

 

 

「ジャミング機能に不可視の機能も起動させたよ」

 

「マサキの言う情報だと、この辺りになるはずニャんだけど……」

 

ピピッ

 

「生体反応 1。人がいるみたいニャ」

 

「あ~、ここだここ。家に戦術機の上半身だけが倒れ掛かってて……いや、そんな家もいくつかあったけど」

 

戦術機【撃震】が、その身を家に預けるかのように機能せずに居る。

そう、ここが白銀武の家だ。

 

「少し行って来る」

 

 

 

 

 

鍵は掛かっていなかった。床のきしむ音がわずかに響く。

階段を上がり、タケルの部屋を開ける。きれいな部屋だ。これが因果導体のタケルが部屋を出ればコンクリートむき出しの部屋に変貌するなんて信じられないところではあるが。

ベッドには人が寝ている膨らみが出来ている。

 

「……仕方ないな」

 

俺はベッドの掛け布団に手を掛け、ゆっくりと持ち上げる。

 

「……ぅん」

 

ごそごそ

 

「……うん?」

 

タケルが目を開ける。そして、固まる。そして……

 

「おはよ♪」

 

「キャーッ!!!?」

 

純情な女の子のように絶叫した。

 

「誰!? 幼女!?」

 

そこまで小さくねーだろ。これから出会うであろうタマよりも大きいぞ。多分だけど。

 

「初めまして白銀武。俺の名前は海堂正樹だ。先に言っておくぞ。俺は男だ」

 

「何ィーっ!?」

 

「それと、お前の記憶は間違いない」

 

「俺の……記憶?」

 

「BETA」

 

「っ!?」

 

目の前の青年はその身を震わせた。その表情は一瞬で絶望に近いものに変わった。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 白銀武(シロガネタケル)

 

「BETA」

 

「っ!?」

 

目の前の少女にしか見えない男の子(?)は、その表情を引き締めて、そう言い放った。

BETA。

 

じゃあ、今フラッシュバックしている、俺の知っている人達。地球を放棄した人類。オルタネイティブ5。これは……。

 

「お前……俺の事を?」

 

「知っている。と言っても曖昧になってきているけどな。一つ聞くけど、2回目だよな?」

 

2回目。それはつまりこの世界。BETAのいる世界の事だろう。

 

「あ、あぁ2回目だ」

 

「タケルはまた最初から始めるんだ。助けられなかった奴等がいるだろう?」

 

……いる。沢山いる。

 

「あの歴史を変えたいだろう?」

 

変えたい。

 

「じゃあ行こうぜ、横浜基地に」

 

「あ、あぁ……ところで」

 

「何だよ?」

 

「本当に男?」

 

本当に聞きたいのは性別なんかじゃない。マサキ自身の事だ。

俺のことを知っていて、2回目だと知っていて、でも俺の記憶に海堂マサキという人物はいないし、目の前に居る少女のような姿も覚えが無い。

 

一体誰なんだ?

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 横浜基地

 

「どう?」

 

「駄目です。やはり機影は確認できません」

 

「そう」

 

白衣の女性は、自分から聞いた割には興味がなさそうに呟いた。

聞いた内容は、数分前に確認された所属不明の謎の戦術機のことだ。帝国軍からの情報によると、空を飛びまわり、レーダーからだと斯衛軍衛士と接触したようにも見えたが、一瞬でレーダー圏外へ移動してしまった。その後はジャミングの類なのか発見出来ないとの事だった。

 

その機体がまた現れた。今度はこの横浜基地近くの広大な廃墟からだ。そしてまたすぐに消えた。

 

「レーダーの故障で済むならそれで良いんだけど……んなわけないわよね」

 

悩みの種にならなければ良いと思いながら、白衣の女性は司令室を後にした。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 




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02

Side マサキ

 

「(シロ、クロ聞こえるか? 忘れてたんだけど、これから行くところではリーディングって言って、心を読まれる可能性がある。防げるか?)」

 

「(大丈夫だよ)」

「(任せろニャ!)」

 

 

 

サイバスターでこの世界にリンクさせた時に表示された日付は10月22日。今の時間は大体8時30分頃だろう。原作通りの時間ぐらいだ。

 

俺達は家を後にして、荒廃した街並みを見ながら進んでいく。タケルは少し落ち込んでいるようだ。

 

「タケル。先に言っておくけど、今日は10月22日だ。お前の友人達も生きている」

 

タケルはその言葉に反応する。

 

「タケルが2回目を繰り返している理由とか詳しく俺は知らないけど、生きているなら助けられるだろ? しっかりやれよ?」

 

「……あぁ」

 

 

 

「見えてきたな。タケルは何も話すなよ? 話すのは夕呼先生に会ってからだ」

 

「分かった」

 

タケルが元々いた現実世界でのここは、タケルの通う学校だった。

しかし、【国連太平洋方面第11軍横浜基地】という今の現実の姿を見せている。

そう、これもタケルにとっては現実の世界なんだ。

 

「こんなところで何をしているんだ?」

 

門兵が2人いる。近寄ってきて俺たちに話しかけてくる。

 

「外出していたのか? 物好きな奴だな。どこまで行っても廃墟だけだろうに」

 

「隊に戻るんだろう? 許可証と認識票を提示してくれ」

 

タケルは俺の言った通りに黙っていてくれるが、「あぁそういえばこんな事もあったな……」という感じの表情を見せている。

 

さて、通じるかな?

 

「あ~戻る前に香月夕呼博士に連絡を取ってもらいたい」

 

「香月博士に? ……問い合わせてみよう。名前は?」

 

「白銀タケルと海堂マサキ。あ、それと伝えて欲しい事がある」

 

「何だ?」

 

「【4から5】【00】【脳】って伝えて欲しい」

 

「何だそれは? まぁいいが……」

 

夕呼先生なら反応するキーワードを伝えてみる。これで駄目なら捕まろう。

門兵の一人が連絡を取っている。

もう一人が少し緊張感を出し始めたので、一応ってことで俺は両手を上げて敵意は無い事を伝えておく。しばらく待たされて門兵が帰ってくる。

 

「おい。博士がお前の事を知らないそうだがお前と話したいそうだ」

 

 

 

俺は門兵たちに聞こえないように話し始めた。

 

『アンタ誰?』

 

初対面に向かってなんて口調だ。少し機嫌も悪そうだ。

 

「初めましてですね夕呼先生」

 

『先生? あたしは教え子を持った覚えは無いわよ?』

 

「この世界ではね。率直に言いましょう。俺は海堂マサキ、異世界から来た。それと白銀武の方は因果導体?って奴で、この世界は2度目だ」

 

『っ! ……異世界……因果導体。どこまで知ってるの?』

 

「タケルの方は計画が第5段階に進んだ経過を経験してる。俺は側面からそれを見てきた感じかな」

 

あなただったら、あなた自身の言葉を信じられる?牢屋で頭冷やして来なさい!!

とでも言われてしまいそうな予感がするが……。

 

『……迎えをよこすから待っていなさい』

 

よしっ第一関門クリア!

 

「何だって?」

 

「迎えをよこすだって」

 

門兵2人は疑問符を浮かべた表情で俺たちを見ていた。許可証と認識票を出せば通れるというのに何故? という顔だ。そりゃ仕方が無い話だ。どちらも持ってないんだから。

 

 

 

それから検査に4時間ぐらいかかり、俺とタケルは夕呼先生の執務室に通された。

 

「ふぁ~」

 

「眠そうね。あなたが海堂マサキ?」

 

「あ、はい。すみません」

 

まぁ仕方ないでしょう? 4時間も細かい身体検査や血液検査をさせられてるんだから。

 

「まぁいいわ、因果導体と異世界人ね……」

 

「異世界人?」

 

「あら聞いてないの? 海堂マサキはこの世界の住人じゃないわ。データを照合してもそれらしい人物は出ないし……その見た目で18歳とはね……」

 

「同い年!?」

 

「……あんた達本当に知り合いなの?」

 

「あ、今日初めて会っただけですから。言うの忘れてたスマン」

 

「え、あ、あぁ」

 

「それで? あんた達は何を知っているの?」

 

夕呼先生は椅子に体重を預けて、椅子の軋む音を鳴らす。机の引き出しに手を掛けるので、俺は一応止めとく。撃たれないと分かってても銃を向けられるのは嫌だ。誰だってそうだ。俺がそうだし。いや、撃たれる可能性もあるか。やっぱ止めよう。死ぬのはまだ早すぎる。

 

「あ、銃は勘弁してください」

 

「え? じゅう?」

 

「っ!? ……あんたは何? 人間なのかしら?」

 

「人間だって結果が出たと思うんですけど?」

 

「……まぁ今は良いわ、白銀から話してもらえる?」

 

「あ、はい」

 

タケルが話し始める。1回目に体験した事。覚えている事。そして、更にその前の世界は平和だった事。

 

人類がBETAに勝つ為のオルタネイティブ4。その結果が出せない『4』に見切りを付けて、10数万人だけ宇宙へ逃げ出すオルタネイティブ5。後の残された約10数億人は滅ぶのを待つだけの世界。そこから記憶があやふやだが、2年近く粘った気がすると。

 

タケルが1回目に体験した世界だと2ヵ月後の12月24日。そこが前回のタイムリミットだった。

 

「あなたが言っていること……どうやって信じればいいって言うの?」

 

「あ~その事なんですけど。隣で霞ちゃんがリーディングしてるんですよね?」

 

「そうなのか?」

 

「っ!?」

 

あ、驚かせちゃった。

(やしろ) (かすみ)。オルテネイティヴ3の時に生み出されたリーディング能力者だ。

 

「あ、すみません話の腰を折ってしまって」

 

「……いいわ。あなたは異世界から来たって言ったわよね?」

 

「はい」

 

「どうしてこの世界の事を知っているの?」

 

「ん~?……さぁ?」

 

俺が居た世界のゲームでしたなんてアホ過ぎるもんな。ここは知らぬ存ぜぬで押し通そう。俺にリーディングは効かない様にしてあるし普通に嘘付こう。

 

「気付いたらこの世界に来ていて、生体反応があったからタケルの家に入って、で ここに来たってところです。何故かこの世界の人の事を知ってるんですよね……知らない人もいるけど」

 

「……そう。生体反応って言ったわね。戦術機に乗っていたの?」

 

「似たようなものに乗ってきましたね」

 

「……アンタ、今日の朝 帝国斯衛軍衛士と会ったでしょ?」

 

「あれ、何で知ってるんですか?」

 

「やっぱりね。私があんた達に興味が湧いたのがタイミングの良さ、いえ悪さかしら? 今日正体不明の戦術機が空を悠々自適に飛びまわり、帝国軍斯衛の衛士と相対し、一瞬で振り切ったそうよ」

 

「一瞬で……振り切った?」

 

「あはは、申し訳なく思っております」

 

「はぁ~……頭痛くなってきた。その戦術機は今どこにあるの?」

 

「この基地に横付けしてあります」

 

「は? どこに?」

 

見えないようになってるから、そりゃそうだね。

 

「90番格納庫でしたっけ? そこに置いておけるなら見せられますけど」

 

「何でそんな事まで知ってるのよ……」

 

夕呼先生は頭を抱えながら机に突っ伏している。こんな人だっけ?

 

「90番格納庫?」

 

そう、タケルがこの2回目の世界で乗るXG-70の専用と言ってもいい格納庫だ。アレだけ広いんだからサイバスターの1機や2機格納しても問題ないだろう。

 

 

 

「広いな~」

 

ゴウン…ゴウン…。と、大型貨物を運ぶ音がする。乗っているのは見た目、管理の人が一人と夕呼先生。タケル。俺の4人だけなのだが。見えないサイバスターが更に乗っていた。

 

これに乗せる時に、見えないのに動作音などがする光景を夕呼は額に手を当てて溜息ばかりだった。

 

そして、ついに90番ハンガーに着いた。

 

「お~これなら少しは動かせそうだ。じゃあ不可視モード解除しますね」

 

姿を現す銀色の戦術機。いや、戦術機などではない。夕呼はその機体を食い入るように見つめていた。

 

「この3対6枚羽で飛ぶの? 武装が見当たらないけど? 動力は?」

 

「えっと、マニュアルによると、『フルカネルリ永久機関』で、俺の精神力みたいなものが持つ限り稼動できます」

 

「え? 燃料はガソリンとか、電気とか、そういうものじゃねーの?」

 

「魔法と科学が融合した様な機体でね。試してみます?」

 

ディスカッターを異次元から取り出す。

ジャキーン! とサイバスターの手に西洋の剣が輝き出現した。

 

「武装はこのように好きに出せます」

 

「夢ね」

 

いえ現実ですから。

何も無いところから出てくる剣に夕呼は頭を抱えるのをやめた。

 

俺は機体を降りて、シロとクロも連れてくる。

 

「で、こいつらが武装でもあり、使い魔(ファミリア)のクロとシロです」

 

「マサキ、それだけじゃ伝わらないニャ!」

「あ、こらシロ!」

 

タケルと夕呼先生の顔がキョトーンとしている。この表情は見た事が無いかもしれない。

「え? 今喋ったのってこの猫2匹?」 ていう顔をしている。

 

あ、視線がコッチに戻ってきた。クロとシロは「僕たち猫ですよ? 喋るわけ無いじゃないですか」 「お疲れなのでしょう?」みたいに俺の足元を歩き回っている。汗ダラダラ流してんじゃねーか。

 

「……喋る猫」

 

「喋ったわね」

 

「そりゃ喋るでしょう猫なんだから」

 

「「その理屈はおかしいニャ! ……あ」」

 

夕呼先生は再び頭を抱え始めた。

 

「と、まぁそんな感じでBETAを倒すための機体として参加させてもらいますよ」

 

「それは駄目ね」

 

はい?

 

「周辺国が黙っていないわ。ただでさえ未確認の空飛ぶ戦術機が目撃されてるのよ? 他の国にこれ以上の情報が行くのは大問題なの」

 

「はぁ? じゃあサイバスターは?」

 

「使えないわね。出撃禁止よ」

 

「そりゃねーよ。せっかく用意したのに……戦術機にも乗れるけど……はぁ」

 

「海堂、今何て言った?」

 

「せっかく用意したのに?」

 

「その後よ。戦術機にも乗れるって言ったわよね?」

 

「え? はい。でもタケルも乗れますよ?」

 

「白銀はこの世界を体験してるからいいのよ。何で異世界人のアンタが乗れるの?」

 

「ぁ……さぁ?」

 

「今、『あ』って言ったでしょ! 何を知っているの?」

 

「違います違います。『あ、そういえば何でだろう?』って意味ですよ」

 

ナイス咄嗟の一言!

 

「マサキは戦術機の知識もあるニャ」

「整備班としても役立つし設計も出来るニャ」

 

「海堂……何者よ」

 

「あ、何者で思い出した。お願いがあるんですけど、戸籍とか身分がないと動けないので何とかできますか?」

 

「あぁ、それならもうやってるわよ。でもあんた達をどこに配属させるか……」

 

「あ、夕呼先生。前の時は先生が俺を衛士訓練学校に入れてくれて『第207衛士訓練小隊』に訓練兵として……」

 

「なるほど……我ながらいいアイディアだわ……今回もそうしましょう。まだ外で訓練してるでしょうから行って来なさい。話は通しておくわ」

 

「はい!」

 

「シロ、クロ行くぞ。喋るなよ?」

 

「待ちなさい。アンタはこっちよ海堂」

 

何故にホワイ?

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 香月(こうづき) 夕呼(ゆうこ)

 

まりもに連絡を入れてからまた格納庫にあるサイバスターの前にやってきた。

 

「面白いモノを手に入れたわ」

 

因果導体にこの世界の知識がある異世界人。社のリーディング結果から言っても、事が不利に働く事は少なそうだ。

 

「このサイバスターって機体も気になるし……」

 

魔法と科学の合体? 魔法って何よ?

でも一瞬で武御雷を振り切るデータも届いてはいる。本当の事なら……。

私はサイバスターの脚部に触れてみる。

 

ビーコンッ! ビーコンッ!

『自爆装置が作動しました。停止には認証登録者による解除が必要です。自爆まで残り20分。自爆装置が作動しました。停止には―――』

 

「はぁ!?」

 

「あ、解除すんの忘れてた。いやぁ俺以外が触ると色々と起こる事になってるんですよ」

 

笑いながら目の前の少女のような少年は言う。

 

「暢気に言ってる場合じゃないのよ! 何? アンタ異世界から来た破壊神!? 全然笑い事じゃないわよ!」

 

「あはは、面白い事言いますね。ちなみにサイバスターはこの世界だと存在自体がブラックボックスみたいなんで、解析とかは一切出来ないです。よろしくお願いしますね……さて、どうです?」

 

「……止まった」

「(ふぅ、実際は自爆しない事は伝えない方が良いか……。絶対怒られるもんな) ところで、俺も訓練兵になるかと思ってたんですが?」

 

「一瞬でレーダーからも捉えられなくなる機体に乗っているという事は、相当なGが掛かっているということよね? それを容易く操り、更に戦術機も乗れるし、開発系統も出来ると」

 

「そうですね」

 

「そんな人材を遊ばせておくほど余裕は無いの」

 

「まぁそれは知ってますけど……まぁ大丈夫か」

 

「まずは実力から見せてもらうわよ?」

 

私は90番格納庫を後にして、海堂とともにシミュレーターデッキにやってきた。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 神宮寺まりも

 

夕呼から『新人が今からそっちに見学行くわ。白銀武って言ってね、アンタのタイプでしょうね。『特別な存在』だから後はよろしく』という連絡が来た。

 

「全く夕呼ったら……」

 

しかし、この時期に男が来るとは……しかも夕呼の言う『特別』。

 

「あれか?」

 

遠目に、こちらに向かってくる男がいた。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side タケル

 

夕暮れのグラウンドに来た。

 

「もし……そこのお方」

 

「え? ……俺?」

 

声を掛けてきたのは、御剣冥夜だ。

 

「……? 何か? ……どうかされましたか?」

 

俺は懐かしさを覚えてい凝視していた。

……救えなかった人の一人だ。

 

「あ、いや……えっと、何?」

 

「危険です故、外部の方のここからの立ち入りはご遠慮下さい」

 

「あ、いや」

 

あぁくそっ しどろもどろじゃねーか。

 

「どなたかをお探しですか?」

 

「―――御剣、いいんだ!」

 

更に後方から女性の声が掛かる。まりもちゃんだ。

 

「教官」

 

「……白銀武だな?」

 

「はい」

 

「…… ……。小隊集合ッ!」

 

「207小隊集合しましたッ!」

 

入院中の(よろい) 美琴(みこと)以外が集まる。

 

「よし……では紹介しよう。新しく207小隊に配属された白銀武訓練兵だ」

 

「白銀武です。よろしくお願いします」

 

「この時期というので驚いただろうが、とある事情により徴兵免除を受けていた者だ」

 

「色々とありまして……今後ともよろしく」

 

「訓練には明日から参加してもらう。わかったな?」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

「とりあえずは、一緒に食事でもして早く交流を深めることだ。榊、食事のあと兵舎への案内など、諸々頼んだぞ」

 

「はい!」

 

委員長がハッキリと返事をする。

やっぱり委員長って言っちまうな。

 

「では残り10分、引き続き訓練だ。白銀は少し見学をしていろ」

 

懐かしい顔ぶれだ。オルタネイティブ5が始まった時からもう記憶が無いかのようにボロボロだから、一緒に居たのか、離れ離れになったのか、死んだのか、生き残れたのかすらも分からない。だが、先はそう長くは無かっただろう。

 

「……でも、生きてる」

 

俺は訓練を続ける彼女達を見て、「今度こそは」と意気込んでいた。

 

 

 

委員長に基地内を案内された後、PXでの食事になっていた。俺はまりもちゃんに言われたとおり、食事を一緒にして親睦を深めようとしていた。

 

「ところで白銀」

 

「ん? どうした?」

 

「……聞いておきたい事があるの。単刀直入に聞くわね。あなた……期待して良いの? 神宮寺教官からは『特別な人物』だと聞かされているわ」

 

「ああ」

 

「それは、私たち……いえ、ひいてはこの国の、この星のためになる『特別』なのよね?」

 

「……そうだ……少なくともオレはそのつもりだ」

 

「それは頼もしいな」

 

「香月博士と神宮時教官のお墨付きだから、きっと大丈夫だよ!」

 

たまが賛同してくれるが、

 

「……だといいけど」

 

彩峰は本音は覗かせずに諦観しているようだ。

 

そんなこんなで一応仲良くやれそうだ。

明日からの訓練も楽しみだ。

 

まず最初の目標は総合戦闘技術評価演習をクリアして一刻も早く衛士になることだ。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

【目標沈黙】

 

【動作教習応用過程終了】

 

『言うだけの事はあるわね……これほど動ける奴は数えるほどしか見た事が無いわ』

 

モニター越しに夕呼先生の声が聞こえてくる。

 

「あの」

 

『何?』

 

「設定変えて良いですか? 動作が遅くて操作がし辛いんで」

 

『遅い? シミュレーター上、アンタが乗ってたのは【吹雪】なのよ?』

 

吹雪は非常に扱いやすい機体だ。様々なオプションパーツとも相性が良く更に上の【不知火】にも装備によっては引けを取らない。しかし、そう言われても試したい動きとかできなかったし。まぁでも、サイバスターの後だとどれでも同じに感じるかもしれない。

 

「すぐ済みますから。(カタカタカタカタカタッ)」

 

流石にその内出てくる新OSの【XM3】までは行かないが、これだけでも5%ぐらいは動きやすくなるはずだ。俺の与えられた技術屋としての頭脳がそう告げている。

 

「再起動して、再トライします」

 

『……もう出来たの?』

 

「仮設定ですけどね。……行きます」

 

仮想敵(アグレッサー)も少なかったため、3倍ぐらいに増やして、更に動きを高速化してみた。

 

『アグレッサーの設定まで……?』

 

36ミリ突撃砲を手に短距離跳躍(ショートブースト)を効かせながら最小限の動きで邪魔なものから排除していく。

 

『何て速さなの……残り4……いえ、3機』

 

カチッカチッ

 

「あれ、弾切れか……弾薬まで制限掛ける必要は無かったかな。まぁいい、ラスト!」

 

俺は短刀に持ち替えて残りの敵を排除した。

 

【動作教習応用過程・改訂版終了】

 

『……出てきなさい』

 

 

 

あー面白かった。思ったとおりには動けなかったけど楽しいもんだな

 

「海堂、今日はもう休みなさい。それと、明日私の執務室に来て。渡すものがあるわ」

 

「はぁ分かりました……。あの、どこで休めば?」

 

「ピアティフ」

 

「ご案内いたします」

 

夕呼先生の秘書官のピアティフ中尉だ。

俺はピアティフ中尉に付いて行きながら考え事をしていた。

 

結局俺は何を見られたんだろうか?

戦術機に乗せられて、BETAの巣(ハイヴ)を落としてこい。とか無理難題を吹っかけられるのだろうか? サイバスターに乗っていいなら成功の可能性は非常に高いと思うが……戦術機だとな……。

 

「海堂さんコチラです……右です右」

 

「あ、すみません」

 

考え込んでいる内にピアティフさんを見失っていたようだ。

 

「(やっぱり方向音痴ニャ)」

「(レーダーが無いとどこにも辿り着けないニャ)」

 

「(うるせいやい)」

 

明日は何を渡されるのだろうか……?

 

Side out

 

 

 

 




感想などは随時受付中です。



正直なとこ言うと、すごくシリアスに書き直したいというか、新作で最初から書きたいって気持ちもあるけど、基本シリアスが難しいと感じるので挫折する気しかしない。
その時は、ただの衛士で書きたいな。帝国軍で。それぐらいしか考えてない。


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03

Side マサキ

 

コンコン

 

「……ぅぅん」

 

コンコン

 

「……ぁ~い」

 

「起きていらっしゃいますか? ピアティフです。お迎えに上がりました」

 

あ、そういえば夕呼先生に呼ばれていて、夕呼先生の部屋に入るIDがないのと、そもそも執務室まで辿り着けるのかが不安という事で迎えに来ると言う話だったんだっけ。

 

俺は昨日渡されていた軍服に着替えて部屋を後にした。訓練生用の白い制服ではなく、正規兵用の黒い制服には、その時疑問など少しも感じなかった。

 

「海堂さん。寝癖が付いてますよ。あ、ネクタイも……」

 

俺が目を擦っていると、ピアティフ中尉は俺の髪を撫でるように寝癖を治し、ネクタイも直してくれた。良い人だ。何というクールビューティ。

 

そして、ピアティフ中尉の人気を知った。すれ違うもの皆、敬礼をしてくるのだ。ピアティフさんに倣って俺も敬礼を返しておく。みんな顔が緩みきっている気がするが、見なかったことにしよう。何か他にも視線を感じるような……。

 

「ふふふ」

 

「?」

 

人気があることは嬉しい事なのだろう。俺はそう思った。

 

 

 

 

 

コンコン

 

「入りなさい」

 

「失礼します」

 

シュィーン

 

夕呼先生の執務室のドアが開く。

 

机に書類の山を2つ3つ築き、先生はパソコンに何かを打ち込んでいる。

学生時代打ち込んだものは何ですか? 楔とキーボードです! 合格!

あれ? 俺は何を考えているんだ? まだ寝惚けているようだ。

 

「よく来たわね」

 

「来いって言われましたからね。何です? 渡したいものって」

 

先生はニヤリと口元を吊り上げ、B5サイズぐらいの封筒を渡してきた。

 

「見れば分かるわ……というか、制服でも分かると思うけどね」

 

「制服?」

 

俺は自分の着ている制服を見回すが、ピアティフ中尉が着ているものとの違いなどは分からなかった。スカートかズボンじゃないかの違いぐらい? つーか、これは当たり前だもんな? 仕方なく俺は封筒の中を広げると、自分の認識票になるドッグタグ ・ IDカード ・ 戸籍謄本 ・ 紙キレ一枚が入っていた。

 

「おぉ~ありがとうございます」

 

俺は早速ドッグタグを首から下げ、首のところを少し引っ張り胸元へ忍ばせた。ドッグタグの金属部分が肌に触れ、その冷たさが俺の身体に少しだけ震えを与えた。

 

次に戸籍の紙を見ていた。

 

えーと、俺はこの辺の出身ということで……

 

「ちょ! 性別欄が女なんですけど!?」

 

「あら~? 間違えちゃったかしら? まぁ作り物だから気にしないでぇ。それよりも もう一枚の紙のほうが苦労したんだから」

 

絶対嘘だ。わざとやりやがったこの極東の魔女め……。まぁ戸籍自体を確認される事は無いだろうから、俺は気を取り直してもう一枚の紙を見やる。

 

「え~と辞令? 右の者を次の階級とする……中佐?」

 

「そうよ? 苦労したんだから思う存分働いてもらうからそのつもりでね」

 

「いやいやいやいやいや。おかしいでしょうが! やるなら最高でも大尉ぐらいで上司も部下もいる感じで、「海堂“大佐”」「私は大尉ですが?」みたいなやり取りとかをですね!?」

 

「ワケの分からない事をうるさいわね~。偉い方が楽に動けて良いじゃない。アンタは開発も出来るし戦術機もこの基地で恐らくトップクラスの腕前。さらに昨日は私の目の前で見せ付けたわよね? OSをその場で書き換えて性能を向上させるなんてアホよ アホ」

 

「アホなら階級を落として下さい!」

 

「それにね、アンタはもう大人気間違い無しよ?」

 

あぁ全く聞いてない。

夕呼先生は机の上のモニターをこちらに向けて動画を再生させる。

 

「ピアティフ中尉と……俺?」

 

ピアティフ中尉が俺の髪を撫でてクセを梳かしている。これは……ついさっきの朝の映像か。歩き出して……。

 

「あ、ピアティフ中尉じゃなくて俺に敬礼してるのか?」

 

夕呼先生はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。

 

「今の階級章 見たか?」

「あぁ中佐だったぜ」

 

男は襟元を指で叩いて、同僚に話し始めた。

(あぁ、俺とピアティフ中尉の制服の違いってこれか。こんなん分かんねーよ)

 

「何であんな子供が……?」

「いやいや、そんな事よりも……」

 

「あぁ」

「「可愛かった……」」

 

ゾクッ

 

「ぇぇ~……?」

 

ムキムキの軍人二人組みに絶賛される少女の正体はもちろん俺のことだろう。それが分からないほど俺もアホじゃない。もちろん分かりたいとは思わないが。

 

「こんな感じでアンタのファンが増殖中よ。あの美少女中佐は誰だ!? てね」

 

俺はさっきピアティフ中尉が笑っていたのを思い出し、ピアティフ中尉を見た。

顔を逸らされた。罪悪感的なものがあるのだろうか。少し顔が赤い気がするが?

 

「ん? そもそも誰が盗撮を……?」

 

俺は隣の部屋のドアを見つめた。もしかするとこれは……。

 

シュィーン

 

「……スミマセン」

 

霞が出てきた。手にはカメラがある。

いや、お前だと怒るに怒れないだろ。かわいいなぁ。黒いウサ耳をピコピコと動かし、霞はまたドアの向こうへと行ってしまった。

 

「あ、あとIDカードはアンタの網膜パターンと合わせれば最下層まで行けるようになっているけど、ハイブを落とす時とか以外はサイバスターは出しちゃ駄目だからね? それもちゃんと作戦を練ってやらないと拙いわ」

 

「本当に駄目なんですか……じゃあ俺の機体は?」

 

「近いうちに不知火が届くわよ。知ってるわよね?」

 

【不知火】か。94式戦術歩行戦闘機。かなりの高速機動には優れるが、改修・発展などは難しいとされる機体だ。日本純国産戦術機の第3世代戦術機だ。

 

「……色々悩む事もありますが、俺は何をすればいいんでしょうか?」

 

「技術開発とウチの部隊を鍛えて欲しいのと、要望があれば聞くわよ」

 

聞くだけだろうな~……。

 

「分かりました。ウチのって言うのはA-01部隊ですよね?」

 

「えぇ。流石、知ってると話が早くて助かるわ~」

 

俺はタケルと一緒に進めていくつもりだったんだけどな……。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「というわけで、俺は中佐になってしまった」

 

「は?」

 

タケルがフル装備でランニングをしているところに通りかかり、声を掛けていた。

他の隊員はそこまで重そうなものを担いだりはしていない。それに比べてタケルは、何ともまぁ重そうなバッグや重火器を持って走っていた。

なんか言ったなこいつ。

 

「白銀ーっ!! サボリとは良い度胸だな!!」

 

「なっ!? 違っ……!」

 

神宮寺まりも軍曹がタケルに矛先を向けた。

あぁ俺が話しかけた所為か……。

 

「任せろ。……あなたが神宮寺軍曹か?」

 

「は? ……っ!? 失礼しました! 私が神宮寺軍曹であります!」

 

俺の制服を見て、まりもちゃんはビシッと敬礼をした。

一瞬、何この子? みたいな目をしたのは見逃さなかった。

 

「失礼、私は本日付で横浜基地に配属になった海堂正樹。階級は中佐だ」

 

「ご苦労様です中佐殿!」

 

「彼、白銀武は傑物だ。よろしく頼む」

 

「はっ!!」

 

俺はタケルにウインクをしてその場を後にした。

こういう時に階級を使うのは間違ってるんだろうな~。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マサキ……良い奴だな……」

 

「白銀、今の子は? ……ウインクされてなかった?」

「随分かわいい人でしたねぇ。……マサキちゃん?」

「彩峰、次は近接戦闘の訓練であったな? エレメントを組まないか?」

「なるほど……いいね」

 

「……マサキ……この展開まで予想していたのか?」

 

マサキは知らないが、一人の新任訓練兵の叫び声がグラウンドに響いたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side タケル

 

マサキが中佐になるとはな~……。俺も早く衛士になって、発言力を持って、この世界をBETAから取り戻せるようにならなくちゃな。

 

俺は気分転換もかねて夜のグラウンドに散歩に出かけた。

 

ふと思い出したのは前回の12月24日のクリスマスの事だった。今思えばクリスマスを祝えるなんてありえない話だよな……。あの時は外に出るのも辛いぐらい寒かったけど、今の夜はまだ結構暖かい。

 

足音。走っている靴音がする。 誰かいるな。

 

「ん? 何だ、白銀か」

 

「冥夜か……っと、悪ぃ……」

 

また下の名前で呼んじまった。

 

「別に構わぬが……順序というものがあるぞ?」

 

「すまん、オレ慣れ慣れしいらしくてな……」

 

「わかっていても癖は直らんか……もっとも、だから癖と言うのであろうが」

 

冥夜は自主訓練でトラックを周回していたようだ。前回も聞いた事があったか?

 

「私は一刻も早く衛士となり、そして戦場に立ちたいのだ」

 

……そうだ、確かにオレはこの話をした。

 

冥夜はこの星。この国の民。そして日本を護りたいという。

 

「白銀、そなたにはないのか?」

 

「あるよ。地球と全人類だ。……別に対抗したわけじゃないぞ、念のため」

 

「誰もそんな事は言っておらん。だが何故そなたが『特別』と呼ばれるのか……納得できたのだ」

 

「あぁ……目的があれば、人は努力できる」

 

「ほう……? 簡潔で良い言葉だ……目的があれば、人は努力できる……か、私も倣わせてもらおう」

 

「もともと冥夜の言葉だ」

 

「え?」

 

あっとやべぇ。オレは誤魔化して、冥夜と別れた。

目的があれば、人は努力できる。よしっ! 一日も早く衛士になるぞ!

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

……これで良し。気分転換にアレやるか。これは最小化しとこう。

 

「あ~眠ぃ」

 

シュィーン

後ろの自動ドアが開く。やってきたのは夕呼先生だ。

 

「一日目で成果は出ないわよね。今日は何してたの?」

 

「タケルにオレの階級を伝えたのと、フォローしたのと、京塚のおばちゃんに「アンタちゃんと食べてるのかい!? 沢山食べて大きくなりな!」って特盛で飯食って、そっからはずっとここに缶詰ですよ。ふぁ~ぁふぅ……」

 

「今は何をしているところなの?」

 

夕呼先生はオレの後ろからパソコンの画面を見つめる。

 

「とりあえずは【XM3】ですね」

 

「えくせむすり~?」

 

「これはタケルの考えですけど、戦術機の機動に関してコンボとキャンセルを導入させているところですよ」

 

「コンボ? キャンセル?」

 

「コンボは、例えば『このボタンを押せばパンチを出す』というものがあったとして、3回押すとどうなります?」

 

「そりゃあパンチを3回出すでしょう」

 

「そう、普通なら片手でパンチを3回出します。でも連続で押した場合は変化が出てくる。『左ジャブ・右ストレート・左アッパー』みたいにね」

 

画面に表示された青い戦術機。

俺はその【吹雪】を模した2頭身タイプの戦術機を操作しながら答える。

そのキャラは俺が言ったとおりのモーションを取る。

 

「……何これ?」

 

「今日一日かけて作ったオリジナルキャラクター。SD戦術機の吹雪丸です!」

 

スパーンッ!

はいツッコミ入りましたーっ! あざーっす! おかげで少し目が覚めた。

でもさ、2頭身のロボットって言えばスパロボじゃないですか。出てほしいじゃないですか戦術機がスパロボの世界とか……いや、BETAは気持ち悪いけど、宇宙怪獣とかインベイダーとか出てるんだからあ大差ない気がするのは俺だけかな。

 

 

「何を作ってるのよ、何を」

 

「今はXM3の説明用プログラムですよ。大丈夫ですって明日は本題に取り掛かり始めますから」

 

「全く……で? キャンセルは?」

 

「戦術機って倒れそうになると勝手に噴出(ブースト)とかを使って受身をとろうとしますよね? その受身のシーケンスに入ると操縦が一切効かない状態になるんです。そのシーケンスをキャンセルして、射撃などの行動を取れるようにするんです。まぁ機体の自動制御をキャンセルするんです」

 

「電子機器や機体に負担がかかりそうね……整備兵に殺されるわよ?」

 

「まぁ衛士が立つ戦場ではそのシーケンスですら命とりなわけですよ。倒れながらでも射撃できた方が生き残る確立は上がりますからね。それに、殺されるも何も今朝の話だと、俺も整備する事になるでしょうしね。あ、それとコンボしてる最中にキャンセルも出来るようにします。まぁ突き詰めれば【並列処理】ですよ」

 

「……並列処理? っ まさか!?」

 

「えぇ、これは00ユニットのためでもあるんですから」

 

00unit(ユニット)。それはオルタネイティブ4に必要不可欠なもの。

タケルにとっても掛替えのない存在だ。

 

「……そう。白銀は前回は12月24日がタイムリミットだったって言ってたけど」

 

「間に合いますよ」

 

カタカタカタカカタカタ……。

俺はパソコンにプログラムを打ち込みながら、遮るように自信満々に答えた。

 

「大丈夫ですよ。この世界は人類のものだ……いつかって明言はできないけど、全てのBETAをこの星から……」

 

タンッ!

俺はもう一つのプログラムを組み上げ、

「出来た!」と言わんばかりにEnterキーを勢いよく叩いて言い放った。

 

「消します」

 

夕呼先生は息を呑んで画面に釘付けになった。

 

「……こ、これは?」

 

俺は画面に表示された緑の戦術機。

F-22A(ラプター)】を模した2頭身タイプの戦術機を操作しながら答える。

 

「吹雪丸のライバルのラプ蔵です!」

 

スパーンッ!

 

「違うんですよ聞いてくださいよ~」

 

「何よ? 納得のいく説明をくれるのかしら?」

 

もちろんですとも!

 

「いいですか? 吹雪丸は見も心も大和撫子のような女の子で、ラプ蔵はアメリカからの転校生なんです! 最初はいがみ合う二人ですが……!」

 

スパパーンッ!!

 

「もう寝なさい。くだらない事で力使って倒れられたら堪ったものじゃないわ」

 

シュィーン

 

俺はまた部屋に一人になった。俺はツッコミが入った箇所を擦り、少し伸びをした。

 

「ん~っ……ふぅ。おかげで目が覚めた。さて、続けるか」

 

最小化してあったプログラムを元のサイズに戻して、またキーボードの軽快なリズムが暗い室内に刻まれていった。

 

Side out

 

 

 

 




感想などは随時受付中です。



(前回通り)中佐になるマサキ。今のところの変更点は無し。

というか、そこまで変更すること無いかなと思ってます。

変なところがあれば文章の修正とかはしてます。

それに伴い、入力ミスが出てきたりしますw

例) 白銀 武(○)  ⇒⇒⇒ 白金 武(×)

こんな単純なミスがあったりします。気を付けます。
ご指摘いただけた方ありがとうございます。


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04

エイプリルフールとかいう日ですがネタとか何もなく平常運転です。




Side ???

 

顔に大きな傷のある歴戦の勇士の顔を見せているその男は、数枚の書類を見つめていた。1枚、また1枚と読み進めていく早さはまるで流し読みしているのではないかという早さだが、何度も読み直している文面だ。当然のことながら、何度読み直しても内容は変わるはずもなく、その男、巌谷(いわや) 栄二(えいじ)は書類を机の上に置いた。

 

書類の内容はいたってシンプルだ。ただそれを長々と引き伸ばして書いたに過ぎないものだ。基本的に文章とはそういうもので、一枚ですむ内容も複数枚に及ぶことは、どの世界でもよくあることだ。そして、巌谷が何度も確認したのは仕事上の癖的なもので、別段これといって問題を感じさせるものではなかった。

 

コンコン

 

「入りたまえ」

 

「失礼します。お呼びでしょうか中佐」

 

「まぁ、そう硬くなりなさんな。唯依(ゆい)ちゃん」

 

巌谷は入ってきた女性に親しく笑いかけながら、内容を伝え始めた。

 

「横浜基地で面白そうなことが起こっているようだ」

 

「面白そうなこと?」

 

「確認してみたが、凄腕衛士で技術開発顧問で中佐だそうだ」

 

「はぁ……?」

 

いきなりの話に要領を得ない女性は。(たかむら) 唯依(ゆい)。日本の譜代武家出身の女性士官であり、日本帝国斯衛軍の装備実験部隊「白き牙中隊(ホワイトファングス)」の中隊長で階級は中尉だ。唯依は書類を渡されて読み進めていく。

 

「……私が横浜基地へですか?」

 

横浜基地。極東の魔女と謳われる香月夕呼がいる基地だ。周りからの目は冷ややかなものの、唯依自身としては香月夕呼の考え、行動には賛同的であった。何も知らない人間から見れば確かに利益を求める人間に見えるかもしれない。しかし、唯依からすれば純粋に日本だけではなく、世界からBETAの脅威を排除するために動いている人間に映ったからだ。しかし、それもあくまでも聞いた話を憶測でまとめた考えに過ぎない。だが、各国と無茶な取引をすることもある魔女のことが、深く考えると理に適っている点が多く見える気がするのだ。

 

唯依は更に読み進めると、先ほど巌谷が言った内容と思わしき文面が目に入ってきた。

 

「―――海堂正樹中佐。最近の配属ですか」

 

文面を見る限り、「最近の配属で右も左も分からないから補佐が欲しい」という内容が書いてある。それなら同じく横浜基地の人間で良いではないか? と唯依は腑に落ちない点も感じるが、命令ならば軍人である以上、行くだけである。

 

「写真などは無いのですね」

 

「色男だと良いな?」

 

「叔父様っ!」

 

巌谷は豪快に笑い飛ばして続けた。

 

「唯依ちゃんが横浜基地に行く代わりに、魔女さんが色々とよろしくしてくれそうだからってのも一つの理由ではあるがな。……頼んだぞ、篁中尉」

 

くだけた話し方を最後だけは軍人らしく止め、巌谷は唯依を見送った。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

「……さ……中佐……海堂中佐」

 

「ぅぅ、もう大盛しか食べれません~……」

 

「結構食べるんですね? じゃなくて、起きてください中佐」

 

「はぅ? (ポリポリ)……ピアティフさん?」

 

「はい、おはようございます中佐。こんな所で寝てたんですね。探しましたよ」

 

あ、寝オチをしてしまったのか。いかんいかん。

俺はあれから何日間かずっとプログラムを構築していた。XM3はほぼ完成といって良いだろう。後はハード面を変えて、実験すれば実用化できるところまで来ている。あとで夕呼先生のとこにも持って行こう。

 

「ふぁ~ぅ、くぁ~……何か用ですか~?」

 

俺は長い欠伸をしてピアティフ中尉に向き直った。

 

「香月副指令より、『A-01部隊のことも忘れずに』とのことです」

 

「忘れてはいないですけど……今いるんですか? この横浜基地に?」

 

原作だとココ、横浜基地がBETAに奇襲を受けた時ぐらいからしか見てないからそこら辺が分からない。

 

「大体、演習場で訓練をしているか、シミュレータデッキでの訓練。あとは……ミーティングをしていることもありますね。何かあれば香月副指令からの指示によって任務に出る事もありますが」

 

「へ~。でもまだやること片付いてないんで……あ、そうだ。A-01部隊の戦闘に関する動画とか、データ見れます?」

 

「香月副指令に聞いておきます」

 

「じゃあ、ソッチはその記録とかを見た後で対応します」

 

「了解しました。それと」

 

「はい?」

 

「朝食に行きませんか?」

 

「ん~寝起きでお腹減ってないんで、俺はもう少ししてからでいいですよ。お先にどうぞ?」

 

ポキッ

(ん? 何の音だ?)

 

「で、では また後ほど寄らせていただきますので、失礼します」

 

シュィーン

 

※ それは、ピアティフ中尉が持っていたペンなどが折れたとか、そういう単純な事ではなく、実際には聞こえるはずの無い、【フラグ】の折れた音だった。

 

 

 

 

遅くなってPX。

俺はシロとクロを連れて、朝食終了ギリギリでPXにやってきた。

 

「こんな時間に一人ご飯を食べる。何と寂しきことか……」

 

「マサキちゃんじゃないか、こんな時間に食べてて大丈夫なのかい?」

 

食事を取りに来た俺に飯をよそってくれるのは京塚曹長だ。民間人だが戦時特例法により、臨時曹長という階級になっているが、あくまでも食堂のおばちゃんだ。上も下もない京塚のおばちゃん。この周辺の廃墟が、廃墟になる前に、【京塚食堂】とかいう名前の店を経営していたようだが、この前見たとおり、周辺は廃墟だらけ、まともに立っている建物なんて一つも無い。今では基地のみんなの肝っ玉母ちゃんのような存在だ。俺も数回しか会ってないのに覚えられてしまった。

 

「マサキちゃんは止めてくださいって、男ですから俺。まぁ、みんなとする仕事が違うからずれちゃうんですよね~食事の時間」

 

「そうかい。何をやってるんだい? 衛士じゃないのかい?」

 

「一応は衛士ですけど、その内にでも整備も技術開発もすることになってます」

 

「偉いんだね~。はいよ大盛りね」

 

どんっ! と 出される量は特盛サイズ。あ、食欲が減ってきたぞ?

 

「残すんじゃないよ? シロちゃんと、クロちゃんはこれね」

 

あいあいさ~。

俺は残りモノで作ったらしいシロとクロの飯も貰い、1人と2匹で食べ始めた。

 

そういえば、俺って技術開発部とかの人知らないぞ? 紹介してくれないと始まらんぞ? そもそもどこに行けばいいんだよ?

 

「とりあえず後で夕呼先生のところに行くか」

 

「止めといた方がいいんじゃニャい?」

「オイラもそう思うニャ」

 

「何でだよ?」

 

「「迷うから」」

 

何回か行ってる場所だぞ? 流石に覚えてる。

 

 

 

 

 

そう思っていた時期が俺にもありました。

 

「……やっぱりニャ」

「自信満々だったから任せたけど、やっぱり案ニャイは必要だニャ」

 

俺は何とか飯を完食し、夕呼先生の下へ向かおうとしていた。しかし、もう30分以上歩き続けているが全く辿り着かない、それどころか見覚えのある場所にも出れずにいる。仕方がないから誰かに会ったら案内を頼もうと思ったが、誰にも会わない。

 

「これは、もしかして……俺を先生の下へ辿り着かせまいと、基地が変形をしているのか!? 何という巧妙なトラップ!!」

 

汗を拭う仕草をする俺に後ろから聞こえるように話している2匹の猫がいる。

 

「単に迷ってるだけだニャ。変形するわけニャいニャ」

「いい加減、方向音痴だって認めろニャ」

 

 

 

更に歩き続けること、2時間ほど。

さっき食べたばかりな気がするが、次の昼飯の時間になっていた。

 

「もう良いんじゃね?」

 

「ニャにが?」

「諦めても帰れニャいんじゃ……?」

 

俺は窓の外を見る。

2匹のネコは俺の考えを即座に読み取ったようで、飛び掛ってしがみ付いてきた。

 

「あぶニャいニャ!」

「マサキ止めるニャ!」

 

「良いからしっかり掴まってろよ?」

 

「わっ!? 何をしてるんですか!?」

 

「うわっ! って、まりもちゃん?」

 

「まりもちゃん!? ……確か海堂中佐でしたね。なぜ窓から飛び降りようとしてるんですか? ここは3階ですよ?」

 

目の前で人が飛び降りようとしていた驚きと、「ちゃん」付けで呼ばれたことに様々な考えを巡らせながら神宮寺軍曹は俺に質問を投げかけた。どうやら、シロとクロが喋ることはバレてないタイミングだったようだ。

 

「丁度よかった。副指令の部屋まで案内してくれませんか?」

 

「博士の? 何度か行っているのでは……。え、もしかして……」

 

どうやらさっきの行動と結びついたようだ。

 

「……迷子です」

 

まりもちゃんは頭に手をあて、「コチラです」と案内してくれた。

 

「訓練中だったのでしょうか? すみません」

 

「いえ、射撃訓練が終わり、次の教習の準備でしたので」

 

タケルは原作通り超人的な姿を部隊のみんなに広めたのだろう。

 

 

 

まりもちゃんは部屋の前で「次の訓練の準備があるので」と言い残し、戻って行った。

 

シュィーン

相変わらず書類の山に囲まれた夕呼先生は余裕を持って迎えてくれた。

 

「あら海堂、どうしたの?」

 

「俺って、まだ整備兵のみんなと会ってないんですけど、どこに行けばいいんですかね?」

 

「XM3ってやつは完成したの?」

 

「一応ってところですね。とりあえず、バグ潰しとかもしたいので、戦術機を借りて動作チェックに入ろうかと思うんですけど、あ、資料はまた今度持ってきます」

 

「……うそ。本当に終わったの!? 確か内容を詳しく聞いたときには、今のOSから30%ぐらい性能が上がるって言ってたやつよね!? 数日で終わるものなの!?」

 

「あぁ~いえ、OSだけです。CPUとかも変えないと処理が間に合いませんから、とりあえず一応です。一応」

 

「そう、まぁ丁度よかったかもしれないわね。紹介したい人材も早めに届いてるから」

 

ん? 人材? 届いてる?

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side タケル

 

「―――よし、今日はここまで、解散!」

 

「―――敬礼!」

 

射撃の訓練が終わった。

 

「―――さて、昼飯行こうぜ? もう死にそうだ。……あれ? みんなどうした? メシ行かないのか?」

 

俺は腹ペコでPXへ歩き出そうとするが、皆が着いてこない。

 

「……そなたが今更どのような実力を発揮しようが、驚きはしないが」

 

あぁまたさっきの射撃訓練の話か。俺は長距離射撃をやってみてくれと言われ、850メートルの狙撃をやってのけた。この部隊で射撃に関しては右に出るものはいないタマより凄いことはやってないが、みんなはそれが引っかかるらしい。

 

「……白銀、兵役の経験あるんじゃないの? つい最近入隊した人間が、何でも普通以上にこなせるなんて、さすがにおかしいわよ」

 

委員長も冥夜と同意見……というか彩峰もタマも同じようだ。

 

「と、とにかく腹が減ってるから、先にPX行ってるぞ」

 

俺は逃げるようにPXへ急いだ。質問攻めにされるのは敵わない。

 

 

 

「きゃっ!」

 

「うおっと……すまん。前見てなかっ……た」

 

そこにいたのは鎧衣美琴。俺たち207小隊の入院中の美琴だった。

 

「あぁそうだ! ボク教官のところに行かなくちゃいけなかったんだ!」

 

そう言って美琴は去っていった。

 

「……まぁ挨拶はまた後でで良いか」

 

ともかく、これで全員そろった。早くみんなで衛士になるんだ。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

俺は強化装備に着替えるように言われ、夕呼先生に連れられて、シミュレーターデッキにやってきた。強化装備(これ)好きじゃないんだよね。やっぱりそのまま乗れるサイバスターが良いって。どうにか出来ないかなぁ。まぁ今はいっか、また今度考えよう。しかし―――。

 

「何でシミュレーター? 戦術機は?」

 

「まぁ乗りなさい。相手がお待ちかねよ」

 

(相手?)

 

俺はシミュレーターに乗り込み、とりあえず設定を確認する。俺の機体は吹雪だ。この前書き換えたままのデータが載っている。確認をしていると、夕呼先生から通信が入ってきた。

 

『とりあえずこの場での挨拶は無用とするわね。海堂、相手はとりあえずあなたの実力が知りたいそうよ。もし相手が納得いく力量があると判断すれば、あんたの手伝いをしてくれる。手加減とか考えなくて良いからね』

 

あぁなるほど、中佐だから補佐が付くと……で、俺が子供の姿だから「パチこいてんじゃねーぞ? ゴルァ! 俺様の補佐が欲しかったら実力を見せてもらおうじゃねーか!」っていうことかな? そういうのはいらないんだけどな。基地内コンシェルジュだけ欲しいかもしれない。

 

『じゃあ始めるわね。……スタート』

 

画面に相手の情報が出てこない。この基地の常備機体じゃないってことか、もしくは誤魔化してるのか……恐らく前者であろう機体の姿はまだ見えてこない。この基地じゃないとなると、アメリカとかかな?

 

ビルが立ち並ぶ市街地戦。視界は悪く、音感センサーを頼りに地道に進む……なんて事は面倒くさいから俺はビルの屋上へ飛び出した。

 

(……いたっ! 黄色……山吹色か?)

 

一瞬見えたのは山吹色の戦術機。しかし、俺の記憶する限り、そんな色の戦術機の種類は一機しか知らない。帝国斯衛軍の戦術機【武御雷】。俺がこの色の武御雷で知っている操縦者は篁 唯依だけだ。もちろんワンオフって機体でもないから、それ以外の軍人さんが乗っているだろう。なぜなら、篁 唯依という人物はこのオルタネイティブの中には出てきてないからだ。確か、【トータル・イクリプス】という、オルタネイティブの数ヶ月前の世界のキャラクターだったはずだ。

 

山吹色の武御雷は俺の姿を確認するとすぐさま建物の陰に隠れた。恐らく突然現れるという戦闘行動にあるまじき行為に咄嗟に反応してしまったのだろう。

 

(何故、帝国斯衛軍が補佐してくれるのか分からないけど、とりあえず落とす)

 

俺はビルの屋上から噴射降下(ブーストダイブ)噴出滑走(ブーストダッシュ)をして、距離を詰める。相手は逆に距離を取ろうとしているようだが、『この吹雪』は普通の吹雪とは違うため、差は徐々に縮まっていく。

 

武御雷は距離を取ることを諦め、逆に接近戦に切り替えたようだ。一気に俺との機体の距離が縮まる。目の前に迫った武御雷は俺に87式突撃砲を構え、撃ち放ってくる。

 

ビービービーッ!

 

けたたましく鳴り響くロックオンを受けている警告音。俺は構わず噴出跳躍(ブーストジャンプ)をして避けた。

 

『なっ!?』

 

相手の驚きの声が漏れた。女性衛士のようだ。しかし驚きは分からんでもない。普通の機体なら基本的に避けれないのだから。この前に改造しておいた吹雪だから避けれるものだった。それでもギリギリだった。左脚部に軽微の損傷を促す音声が流れる。

 

(掠ったか。―――っと!? すげぇ!)

 

武御雷はすぐさま反転し、俺が本来いる場所に向き直り、長刀に装備し直し、袈裟切りに切りかかってくる。素晴らしい切り替えの早さ、普通ならなぜ避けれるかに疑問を浮かべ続け自滅してしまうだろう。

 

しかし、そこに俺はいない。

 

『っ!!?』

 

俺はその抜刀からの一連の動きを上空から見ていた。そして、そのままロックオンし、突撃砲の雨を浴びせた。

 

『状況終了ね。二人とも降りてきて』

 

俺は念のため吹雪のパターンチェックをしてから降りたのだが、ちょっと時間が掛かってしまった。そして、先に降りて夕呼先生と話している衛士に駆け寄った。

 

「お待たせしました! 遅れてごめんなさい!」

 

「? あの……博士、この子は?」

 

「ふふふ、この子が今やった相手の海堂正樹よ」

 

「えっ!? ……あっ! 失礼いたしました! 篁唯依中尉であります!」

 

ビシッと帰ってくる敬礼に俺は返礼した。

ってあれ!? 篁唯依だ!! 何でだ!?

 

「は、初めまして、海堂正樹中佐です。えっと……補佐に就いてくれるって本当ですか?」

 

「は、はい喜んで!!」

 

夕呼先生は何故か笑っていたが、とりあえず補佐が付いたからには、迷子にならなくてすむぞ。何故に唯依姫かは分からないが。

 

「(ニャんか補佐の事、勘違いしてニャい?)」

「(確実にしてるニャ)」

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side (たかむら) 唯依(ゆい)

 

最初は市街地戦だからゆっくり近づいてくるかと思ったため、驚きしか出なかった。まさかいきなりビルの屋上に飛び出してくるとは思わなかった。アレが無くても勝敗は決まっていただろう。あの距離で突撃砲をかわされた瞬間、あとは苦し紛れに長刀を振りきる以外やりようがなかった。

 

一体どんな衛士なのだろうか?

 

「香月博士、こちらの我侭を聞いて頂きありがとうございました」

 

「いいのよ。コッチの方が話が通りやすくなって良いと思うし」

 

私が提示した我侭は『私に勝てる腕を持っていなければ、帰らせていただきます』というものだ。しかし、それで構わない上に、『全力で来ないと一瞬で終わるわよ?』と余裕すらも言い含められた。結果は瞬殺だ。あんなに早く行動不能になったことがあっただろうか? 記憶には無い。初めての仮想敵を用意したシミュレーターでも、早めに行動不能にはなったが、今日ほどではない。

 

「素晴らしい衛士ですね。余程屈強な方なのでしょうね」

 

「屈強ねぇ~? ふふふ、驚くわよ?」

 

巌谷の叔父様よりも凄い傷だらけなのだろうか? それともかなりの筋肉質? 負けたことに関しての悔しさなどは全く無く、早くお会いしたいという想いだけが私の中にあった。

 

少しして戦術機から降りて駆けてきたのは、黒と白のネコを一匹ずつ従えた少女のような男の子だった。猫も一緒とは随分とユルい基地だと思いもしたが、誰か他の部隊も訓練していたのだろうか? 私は香月博士を見るが、意味深な深い笑みがそこにはあった。

 

「お待たせしました! 遅れてごめんなさい!」

 

「? あの……博士、この子は?」

 

「ふふふ、この子が今やった相手の海堂正樹よ」

 

「えっ!? ……あっ! 失礼いたしました! 篁唯依中尉であります!」

 

海堂正樹。男。衛士。技術開発顧問。……この目の前にいるカワイイ生き物は何歳だ。

 

「初めまして、海堂正樹中佐です。えっと……補佐に就いてくれるって本当ですか?」

 

自信なさ気に目の前の男の子は上目遣いに言ってくる。

 

答えは決まっている。

 

「は、はい喜んで!!」

 

Side out

 

 

 

 




感想などは随時受付中です。


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05

今回はちょっと長いです




Side マサキ

 

俺はやっと整備兵チームと合流し、戦術機の整備、新武装の研究開発、XM3の導入に入っていた。篁中尉は基本的に俺と一緒に行動している。この前も道に迷いそうなところを助けてあげた。意外と方向音痴なんだな。

 

「(気づかれニャイ様に改竄するのはやめニャさい)」

「(見てるこっちが恥ずかしいニャ)」

「なんだとぉ~こうしてやるこうしてやる~うりうり~」

 

「海堂中佐。ネコと戯れてないで……この状況はまずいのでは?」

 

篁中尉は俺に対して口添えをしてくる。『まずい』という内容はシンプルだ。俺の見た目、つまり容姿がアレで【中佐】という階級から、周りの目というものが軍人ではない状態ということらしい。しかし、俺はあえて反論した。

 

「大丈夫でしょ? 唯依姫も気軽に呼んで良いよ?」

 

「その『唯依姫』も……はぁ」

 

俺は篁中尉の事を唯依姫(ゆいひめ)と呼んでいる。これも直らないものか? と唯依姫は額に手を添える。

まぁ俺からの視点だと、整備班はまじめに仕事をしている。というか、過去のデータを見る限り、今までのやり方と比較すると効率は上がっているように見て取れる。

 

「……でも、確かに『マサキちゃん』と呼ばれるのは……腹に据えかねるな」

 

俺はメガホンを取り、声を上げた。

 

『一旦作業中断。全体集合!』

 

ザッ! と、一斉に集まる技術開発チームと整備チーム。一声かければ軍隊のように集まってくる。その行動力は大したものだ。衛士と比べても遜色ないだろう。しかし、目は何というか……やはり軍人とは違う。どこかユルい。ゆるキャラでも目の前にいるかのような目だ。

 

『俺のことは好きに呼んでいいと言ったが、訂正する。次に『マサキちゃん』と呼んだやつはこの基地から追い出すから覚悟しろ』

 

「「「「「えぇ~!」」」」」

 

声を上げるのは、女性が多いが、男も若干名いるようだ。何コイツら。

 

「貴様ら! 上官だぞ! 口を慎め!!」

 

シーン……。

唯依姫の一括でみな軍人の目に切り替わる。

そんな目も出来るんじゃねーか。くそっこれもあのアホ女神のせいで……。

 

『呼び方は『主任・チーフ・店長・団長・会長・部長』の中から好きに呼んで構わない。名前を頭に付ける事は許す。さて、話は変わるが、これから新型OS【XM3】のテストを行う』

 

ざわっ。と、ざわめきが広がる。「ついにか」 「やっぱ主任は天才だよ」 「見たい見たい!」 様々な声がところかしこで起こるが、唯依姫がまた一括して納める。

 

『これで成功なら更に忙しくなるぞ? 気を引き締めてかかれよ』

 

「「「「「はいっ!!」」」」」

 

 

 

演習場には2機の戦術機。管制塔には技術開発班・整備班が詰め掛けていた。

 

俺はXM3搭載型【撃震】に乗り、唯依姫は通常の【不知火】に乗り込んだ。撃震はハッキリ言って重い機体だ。火力などで言うならもちろん不知火や吹雪に劣ることはない。しかし、偉人さんの名言どおり【当たらなければどうということはない】。センサーの感度、反応速度、重さによるブーストの効き。どれを取っても、不知火に数段劣る。それほどまでに不知火は早い。撃震が小学生の全力疾走なら、不知火はオリンピック選手だ。まぁこれは誇張しすぎかもしれないが、撃震が不知火に勝てる見込みは薄い。というか、ないに等しい。

 

『では準備はよろしいですね? カウント開始します。3…2…1…スタート!』

 

XM3のテストの内容は2点。

一つは機動力、精密性を測るための仮想敵(アグレッサー)の撃墜を含めたタイムアタックだ。これは俺だけの方で行う。俺は山あり谷ありのコースを出来る限り早く進み、仮想敵も落としていく。

 

「事前データより早いっ!?」

「アレ本当に撃震?」

「吹雪以上じゃないか?」

「主任の腕に寄るところも大きいだろうな」

「あの重そうな見た目で細やかな機動をするのね」

 

管制塔の連中は各々で、この撃震を評価していた。

 

ビーッ!

『第一段階終了。海堂中佐、機体に異常はありますか?』

 

「問題ない。すぐにでも次を始めても大丈夫だ」

 

2つ目のテストは通常タイプの不知火との模擬戦だ。当然、模擬(ペイント)弾を使用しているので、壊れはしないが、システムにより状況は詳しく分かる。脚部にペイントが掠る程度でも実際にそうなった場合の負荷がかかるようになっている。

 

そして、ビーッ! と、2回目の開始の合図が鳴り響く。不知火はまず俺の射線上から外れるように距離を詰めてくる。定石通りだ。火力がある相手に真正面から突っ込む馬鹿は新任衛士でもそうそうお目にかかれない。自分の機動力を活かし、距離を詰め、ヒットアンドアウェイの戦法が取れる相手なら、それが一番確実だ。しかし、『その戦法が取れる相手なら』の話だ。実際、先ほど同様にXM3を搭載したこの撃震は吹雪ぐらいまでの機動力を見せていた。まぁそれでも『吹雪ぐらい』だ。不知火に比べれば劣る。唯依姫は撃震の驚きの速さに慣れ始めたのか、徐々に詰めてくる。俺の砲撃は当たらない。そして―――。

 

 

 

 

 

『―――じょ、状況終了。お疲れ様でした……』

 

「惜しかったな……」 

「何言ってんのよ? 大したものよ」 

「主任以外が乗ってたらこうは行かなかっただろうよ」 

「あぁ、でも惜しかった」

 

戦術機のペイント弾に塗りつくされた光景を見て、管制塔のスタッフも整備兵も技術開発チームも息を飲んだようだ。

 

「ふぅ……よくやったな」

 

俺は撃震から降りて、胸部ユニットを撫でる様にそう呟いた。

コイツはよくやった。あそこまでやれれば十分だ。俺は純粋にそう思った。

 

「中佐!」

 

唯依姫が駆け寄ってくる。

 

「あんな装備は聞いてません!」

 

そして、怒っていた。

 

結果は引き分けだ。唯依姫の不知火が一気に距離を詰めて突撃砲を放とうとした瞬間。通常はただの肩・腕・脚パーツのはずの部分がその姿を変化させた。各部位の蓋が開かれたそこには、マイクロミサイルがギッシリ詰め込まれていた。

 

『なっ!?』

 

俺はその驚きの声を聞いて、ニヤリと笑みを浮かべた。一斉に放たれる模擬弾のマイクロミサイル。不知火の突撃砲も火を噴いた。相打ちに終わるが、不知火は元の色は何か分からないほどにペイント弾を全身に浴びていた。

 

 

 

「いや~楽しかった~」

 

「不謹慎です! 全く……」

 

『海堂正樹中佐、香月副指令がお呼びです。副指令執務室までお願いします。繰り返します……』

 

「今度は何をやったんですか?」

 

唯依姫は俺をジト目で見てくる。身に覚えがありすぎてどれで呼ばれてるのか分からん。

 

「……人聞きの悪い。さて何だろう?」

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 香月夕呼

 

私は数日前の白銀との会話を思い出していた。

 

「ラプラスの悪魔はもう存在しないわ」

 

「ラプ……? どういうことですか?」

 

量子力学の理の内にある限り、何人にも未来を予測できない。それが例え神や悪魔と呼ばれる存在しても。未来は不確定なもの。そういうことだ。

 

「あとはあなたが思うとおりに頑張ってみなさい」

 

私はそう言って、白銀を送り出した。

まぁつまり『自分の力で未来を勝ち取る他ない』ということだ。私自身も含めて。

 

 

白銀タケルはこの世界が2回目だという。

 

「11月11日ねぇ……」

 

白銀が言っていることは本当のことだろう。社のリーディング能力でそれは確認済みだ。そして、その白銀が1回目とは違うことをしようとしている。もちろん聞く限り1回目のまま進むと私も終わりなので協力をしている。白銀が言い出したのは、前回の世界の話だと、11月11日にBETAが佐渡島からやって来て、新潟に現れるということらしい。

 

とりあえず、A-01部隊には出てもらうことにして、更に越中と下越新潟地域の帝国軍に10日付で防衛基準体制2を出しておいた。これで抑えられるといいのだが、これ以上派遣するとなると変に勘ぐられてしまう。BETAの予測不可能な行動を予測している行為に等しいのだから。何故、新潟に部隊を派遣したのか? BETAが現れなかった場合も後の処理が面倒だ。

 

白銀が少し先の未来を体験していて、覚えているというなら、彼自身がラプラスの悪魔に成り得るのだろうか。いや、それこそ立証なんて出来ない。しかし、もう一人この世界を知っている男がいる。

 

「ピアティフ。海堂を呼んで」

 

『かしこまりました』

 

 

しばらくして、篁に連れてこられる形の海堂がやってきた。コイツは……いい加減ココまでの道のりぐらい覚えられないのだろうか? なぜ最近来たばかりの中尉が覚えられて、海堂は未だに覚えられないのだろうか。

 

「呼び出して悪いわね。海堂、アンタは……。篁中尉、外して貰えるかしら?」

 

「はっ 失礼しました」

 

篁は部屋を後にした。これで二人きりだ。

 

「明後日、11日なんだけど。何か知ってる? 11月11日」

 

「11月11日……。あ、BETAですか?」

 

「本当に知ってるのね。アンタのソレは何? サイバスターに使われている魔法か何か?」

 

その言葉に海堂は考え始めたようで、手のひらを拳の底で打った。何かを閃いた様だ。

 

「……古い閃き方ね」

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

「11月11日……。あ、BETAですか?」

 

「本当に知ってるのね。アンタのソレは何? サイバスターに使われている魔法か何か?」

 

俺は何故知っているかの理由を考え始めた。今後のためにも何か良い言い訳はないものだろうか? そして、夕呼先生の言葉を反芻して……『サイバスターに使われている魔法か何か?』その言葉に俺はピンッときた。頭に電球ピコーンッのマークを浮かべて手を打つ。

 

「……古い閃き方ね」

 

あ、知ってるんですね?

俺がピンッと来たのはサイバスターに搭載されている【ラプラス・コンピュータ】の存在だ。これは、ラプラスの悪魔の名を冠するコンピューターであり、ラプラス変換理論が応用されている。機体や兵器の制御のみならず、使う者の魔力次第で因果律を計算し尽くし、ある程度の未来予測を行うことも可能となっているものだ。素晴らしい言い訳! 素晴らしいコンピュータじゃないか! これで俺がこの世界を知っていても不思議ではない! 説明の手間が省けるってモンだ。

 

「……というわけです」

 

「何でソレを早く言わないの!!」

 

怒られたであります。

 

「ふぅ、確かにソレがあれば90番格納庫を知っていたり、戦術機の操縦方法、兵器開発とかも出来ると言えるかしら……それは完全なものなの?」

 

「この世界で言うところの予言や占いですからね。まぁそれよりは遥かに信憑性は高いと思いますが?」

 

「そう、なら あくまでも予言で留めていた方が良さそうね」

 

信じると、外れたときに痛い目にあうからな。それが良いだろう。

 

「それで? 11日が何です?」

 

「アンタ行きなさいよ」

 

あ、やっぱり? ですよね~。遂にサイバスターを使っていい時が……いや、そんな甘くはないか。

 

「戦術機で?」

 

「当然よ。サイバスターは駄目。代わりにアンタ用の不知火が届いてるわ。元々予備で取り寄せていたものが来たから新品よ……シート以外は」

 

あ、新品シートのビニール破るの好きでしたね。

 

「じゃあXM3の実験も兼ねて行きますよ。試したい兵装もありますしね」

 

「期待してるわよ」

 

「お任せあれ」

 

「あ、それと」

 

「はい?」

 

「新潟から帰ってきた頃にまた紹介するのがいるはずだから」

 

「はぁ……了解しました」

 

 

 

俺はそのまま格納庫に来た。

 

「明日までに仕上げるんですか?」

 

「そりゃあそうだ。明後日には新潟にいなくちゃいけないんだから。まぁ簡単なもんだよ。XM3キットを載せて、俺のパターンを入れてあげて、再起動してる間に開発してある武装に換装するだけなんだから」

 

XM3キットはOSとCPUのセットのことだ。まぁ他にも細かい基盤やら変える必要はあるが、そこまで時間はかからない。時間がかかるとしたら兵装のほうだ。

 

「明後日は私も同行します」

 

「唯依姫も?」

 

「補佐官ですから」

 

「別に良いけど今回はテストだから、データ収集をお願いしますよ」

 

「かしこまりました」

 

俺はその日は徹夜でOSの換装。テスト用の兵装を装備させて眠りに就いた。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11月11日 

新潟―――日本海沿岸。

 

ここだけで見るとかなりの戦術機が広がっている。海上には巡視船に潜水艦も何隻か構えている。

 

『大尉。BETAは本当に来るのでしょうか?』

 

『さぁな、しかし副指令の言葉だ。我々は信じるしかあるまい』

 

若い女性の声が通信で飛び交っていた。彼女たちはA-01部隊。香月夕呼の直属のエリートであり、特殊任務部隊であった。衛士としての腕は今の白銀タケル以上の者もいる。

 

『それと、あの【不知火】のテストって、何も実戦でテストする必要ないんじゃないですか?』

 

『聞いてるの? 馬鹿みたいなタンク積んで動けないとか止めてよね?』

 

彼女たちのモニター上の視線の先には不知火を太らせたような戦術機があった。ヘッドパーツを見れば間違いなく不知火であろうその機体の両肩にはミサイルポッドかと思われる装備があり、背中には大きめのタンクが背負われている。そのタンクから伸びるケーブルは、右手に持つ砲身の長めのライフルに繋がっている様に見える。タンクのケーブルは左手側にも伸びており、そこには戦術機の手の平から少しはみ出す位の筒状のモノが見え、左手の甲を覆うように特殊なカバーみたいなものが付いている。更に脚部も2周りほども分厚くなっている。

 

『副指令から聞いているが、期待できそうにないな。助けてやれんぞ?』

 

対BETA戦において、衛士が望むのは機動力だ。もちろん火力も必要だが、BETAの攻撃を回避できなければ火力も持ち腐れてしまう。彼女たちから見て『その不知火』はソレに見えた。新兵器だか知らないが、客観的に見てバランスの悪そうな機体なのである。最高峰の機動力を持つ不知火の機動力を殺した不知火。火力アップするだけなら、撃震で十分な気がしてならない。なぜわざわざ機動力のある機体の特性を捨てるのか?

 

しかし、その不知火に乗る衛士は鼻を鳴らして一言だけ答えた。

 

『テストデータ取り終わったら助けてやるよ』

 

『『『なっ!?』』』

 

驚きは2点に対してだ。子供の声ということと、彼女たちが軽く見られてるということだ。

 

ドォンッ!!

 

海上で巡視船が燃え上がり、沈んでいく。

 

『来たぞっ! 全機出撃!!』

 

『了解!』

 

A-01部隊。伊隅(いすみ)戦乙女隊(ヴァルキリーズ)は声を揃えて出撃していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

「唯依姫。データ転送確認を頼んだ」

 

『転送確認。感度良好です。お気をつけて中佐』

 

近くの基地管制塔から唯依姫は返答する。ここでの戦闘データ。兵装の効果は全てデータバックアップされる。つまり、俺のやることは、戦うだけである。

 

「了解。目標は6割かな」

 

俺の言う6割とは、テストの成果とかではなく、BETAを相手する……殺す数のことだ。帝国軍にA-01部隊。夕呼先生の声で動く以上、いずれもエリート集団だ。その中で、俺は6割を喰らい尽くそうとしていた。

 

鈍重に見える不知火が戦場に躍り出ると視界にはBETAの群れがいた。これほどとは正直思っていなかったが、俺は冷静だった。レーダーに補足できる数を確実に振り切っている。目の前に広がるBETAの海だ。

 

「まずはコイツから」

 

俺は砲身の長いライフルを構えた。しかし、これは普通のライフルではない。背負っているエネルギータンクからエネルギーが供給され放てるビームライフルだ。俺は冷却装置が正常稼動していることを確認しつつトリガーを引いた。

 

光の道が出来る。十戒のように、ライフルの射線上に道が出来上がった。BETAは融解するようにその体を死体へと変えていく。そのままの体勢でライフルを右に向けていくと道は更に広がっていく。一発あたり約5秒間斉射出来る効果は十分のようだ。事実、 BETAの中で最大の防御力を誇ると言われる突撃 (デストロイヤー)級の硬い装甲殻すらも余裕で溶けているほどだ。

 

『何アレ!?』 

『……電磁投射砲、いや、レーザーなのか?』 

『BETAが……溶けてる?』

『凄い』 

『……アレなら機動力も必要ないか』

 

シュゥゥゥゥゥゥ……。

砲身からは冷却による煙が上がる。これは使える。後はエネルギー効率の見直し、小型化を進めれば良いだけだ。

 

空いた道にBETAの群れは雪崩込み侵攻を続ける。俺は次に両肩、両脚のユニットを開いた。唯依姫とXM3のテストに使用した物と同じ、マイクロミサイルだ。今回は当然 実弾の上に破壊力はお墨付きだ。放たれた数百発のマイクロミサイルは容赦なく要撃(グラップラー)級。戦車(タンク)級の死骸を重ねていく。しかし、突撃級の装甲殻に当たったものに関しては、イマイチの印象を受けた。

 

「改良の余地ありっと、お次は……」

 

俺は両肩と、両脚部の装備をパージして重りを外す、迫ってくるBETAをビームライフルで再度薙ぎ払いながら、左手の筒状のモノにエネルギーを蓄えると背中のエネルギータンクを外した。ビームライフルもエネルギータンクを外してから3発は撃てるようになっている。

 

『何故タンクを外す? 燃料切れか?』

 

通信はA-01部隊の隊長である、伊隅みちる大尉からだった。

通信とともに、伊隅大尉の乗る不知火が俺に隣接してきた。

 

「テストだからね~。エネルギータンクを外してもデータ通りに撃てるのかの確認」

 

『貴重な兵器をテストだからと言って外すのか!?』

 

「『期待できそうにない』んでしょ? こっちは気にせずどーぞー」

 

『っ! 全機兵装自由!! 喰らい尽くせ!!』

 

『了解!』

 

よしよし、俺は左手の筒を一度 腰に取り付けて、ライフルの砲身を左手で換えた。

そして、BETAの上を飛び、撃ち放った。ソレは先ほどまで一直線に放たれる光ではなく、円を描くように散る様に放たれた。砲身を換装し、切り替えのスイッチを入れるとショットガンタイプになる仕組みだ。

 

「うん、やっぱりこっちの方が好きかな~」

 

『中佐、好みで武装を選ばないでください』

 

唯依姫にそう言われるが、個人的にはビームショットライフルの方が好きだ。

ビームライフルも悪くはないけど……あ、ビーム砲もば良いな。 ゼロ距離で撃ったりとか。 あぁやりたくなってきた。 造りてぇなぁ、でもXG-70があるしな……いや、別にあれにこだわる必要もないのか。今は両天秤で考えるとして……

 

「(また良からぬ事考えてるニャ)」

「(ほっときニャさいって)」

 

光線(レーザー)級確認! 中佐!』

 

「来たっ!」

 

光線級は俊敏だが防御力は大したことはない。有効射程距離は30㎞。決して味方誤射はしない特性を持っている。照射インターバルは約12秒。主にレーザー属種と呼ばれる。コイツと更に強力な重光線級により、制空権はBETAに握られていると言っていい。サイバスターなら余裕だが、戦術機だと空を飛べば速攻であの世行きだ。

 

俺はレーザー照射のラインに残り、照射を受けた。

 

『レーザー属種がいるのに何で射線から退かないのよ!』

『所詮は口だけだったか……まだ若かったろうに』

 

OPEN回線でそんな声が聞こえてくるが、俺は死んでないし、不知火も無事だ。これがXM3に換装した結果出来るようになった自動防御プログラム。左手の甲にあるオプティカルシールドだ。一時的にビームシールドを張って、レーザーを弾く効果がある。欠点は、そこまで高い防御力ではないため、真正面からだとほぼ無意味なこと。必ず斜めなどから受ける必要がある。これは使えるな。

 

 

『なっ!? レーザーが……!?』 『嘘、生きてるの!?』

 

バシュッン!

左手の甲の光が消えた。レーザーを弾き切ったのである。同時にライフルモードで光線級を薙ぎ払った。

 

「唯依姫。残敵は?」

 

『現状、BETAの数は残り100を切っています。先ほど仰っていた6割も達成しています』

 

俺は最後のライフルを撃ち放ちライフルとタンクをまとめて置いた。

 

「じゃあ、最後にA-01の面倒を見るかな」

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『残りのBETAの数は100を切ったそうだ。最後まで気を抜くな!』

 

『了解!』

 

『言ってるそばから高原突っ込みすぎだ!』

『あのバカ!』

 

『あ……』

 

高原の横から装甲殻をもつ突撃級が突っ込んできていた。

 

ブォンッ!

一振りの光の剣によりBETAの血が舞い散る。

その一振りは装甲殻をバターのように切り開いた。

 

『データ取り終わったから助けにきたぜ?』

 

その不知火は戦闘開始前には重装備だった不知火だった。だが今はもう違う、その姿は高機動をよしとする装備内容だった。

 

『あ、ありがとうございます!』

 

『礼はいらん。手伝ってやるって言っただろ? さて、夕呼先生の直属部隊の力、見せてもらおうか?』

 

『全機、聞こえたな? テストパイロットに7割近くも手柄を取られているんだ。押し戻すぞ!』

 

『了解!』

 

『無茶すんな……よっと!』

 

『なんて機動性能だ……』

『本当に同じ不知火なの?』

『もしかして副指令が言っていた最新OSの実験機?』

 

そう、彼女たちには常に最新情報が入るようになっている。まだOSの内容は聞いていないが、その内にでも最新OSが優先的に導入されること。かなりの腕を持つ者が指導にあたってくれること。まだ『これの事かもしれない』という確信まで届かないモノが目の前にあった。アクロバティックな機動。正確な射撃、斬撃。どれ一つを取っても超一級品の腕前だ。普通、アレだけの動きをしようものなら操縦者の体はすぐに疲弊してボロボロになってしまうだろう。しかし、その動きは最初から最後まで崩れることはなかった。彼女たちが9人でBETAを相手にし、10体撃破すると、あの機体は20体を軽く撃破している。

 

『化け物か……』

 

 

 

『周囲にBETAの反応なし。状況終了とし、以後は帝国軍に引き継ぐものとする』

 

『了解。じゃあな~』

 

『待て!』

 

伊隅の静止も聞かずに、その不知火は行ってしまった。

 

 

◇ ◇ ◇ 

 

 

「帰ったらまた紹介する人がいるんだってさ」

 

「また? またとは?」

 

「あぁ、唯依姫の時も同じように言われたんだ。夕呼先生に」

 

マサキはトレーラーの中で唯依と話しこんでいた。

香月夕呼に横浜基地から送り出される前に言われた一言についてだ。

 

「でも補佐官ならもう唯依姫がいるしね?」

 

「は、はい。そうですよね……///」

 

マサキはシロとクロと遊んでいて見逃しているが、篁の目は嬉々としてマサキを見つめていた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「クリスカ、あれ?」

 

「そう見えてきたね。あれが横浜基地」

 

車の後部座席で国連軍のジャケットを着た2人は、社霞と同じ色の髪をした少女と女性だ。少女の名前はイーニャ・シェスチナ。イーニャは熊のぬいぐるみを大事そうに抱えている。女性はクリスカ・ビャーチェノワ。二人とも階級は少尉だ。名前からして、ソ連軍、ロシア軍あたりから来たと推察できる。

 

知る人は彼女たちの事をこう呼ぶ。

 

紅の姉妹(スカーレット・ツイン)

 

 

 

 

 

そして、その数十分前。

 

 

 

「ここが日本の横浜基地かぁ」

 

褐色の肌をした少女が車から降りて、基地を見渡した。

更に後ろから車から出てきた女性は色白で綺麗なブロンドを輝かせている。

 

「なぁステラ、ここでテストパイロットって必要なのか? 別に世界各地の戦術機が集まってるわけじゃないしよ」

 

口が悪いのは褐色肌のタリサ・マナンダル少尉。それを何も言わずに基地に目を向けるのは、ブロンドのステラ・ブレーメル少尉だ。彼女たちが横浜基地に来た理由。それはタリサが零したとおり、テストパイロットとしての着任であった。

 

 

 

横浜基地にまた新たな風が吹き込もうとしていた。

 

 

 

 

 




感想などは随時受付中です。


この作品は過去に投稿していたモノをある程度修正して投稿していますが、どれぐらい前に書いたんだろうと、ふとワードの更新日時を見ると「あの頃私は若かった」なんて本が書けそうな年月だった。人生は長いですね。


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06

前回より更に長い、11000文字以上です。



Side マサキ

 

 ……ゴクリッ

 

 そこにいる全ての者が唾を飲み込み、目を輝かせて一台のパソコンの画面を見つめている。そこにいる者は全員が技術開発チームと整備チームだった。自分たちも携わったモノの結果だ。気になっても不思議ではない。しかし、携わったというよりも、『手伝えた』ということが大きい。誇りある仕事というよりも、誇りを持たせてもらえた仕事だったからだ。

 

 出撃すれば大破して帰ってくる機体。テストすれば残骸となって帰ってくる鉄屑。帰ってこない事だってある。そんなものが日常茶飯事だ。それが当たり前で、「BETAに負けない機体を」「BETAを殺せる兵器を」と考えていた初めてこの所属になった最初の頃の姿はどこにもなかった。しかし、そんな彼らの目の前には新品に泥が少しついた程度にしか見えない戦術機に、本当に使ったのか疑いたくなる兵器が格納されていた。

 

 映されている映像は数時間前の新潟でのテストデータと動画だ。整備兵達にとって何故BETAが突如新潟に現れたかは不明であり不干渉ではあるが、BETAが次から次へと死体に変わるその映像は忘れてかけていた心を昂ぶらせるものがあった。

 

「交換が必要なパーツは……これだけ?」 

「なんて機動だ。これだけ動いて……」

「XM3。本物だ……」 

「ビームもすげぇっすよ! BETA共が溶けてやがる」

 

「さて、諸君。今度はこれを小型化。更にエネルギー効率性の向上。そして、破壊力も上げていくぞ……出来ないと思う者はいるか? 正直に言ってくれ」

 

 俺の言葉に手を上げる者は一人もいなかった。皆一様に、出来るとは言わないが、出来るという顔をしている。

 

「よろしい。では問題点の列挙から始めてくれ、次に改善案。俺は副指令のところに行ってくるからな」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

 頼もしい声が敬礼と共に一斉に上がる。

 

「大成功ですね中佐」

 

「BETAを全て消し去るまで大成功とは言えないよ。……さて唯依姫」

 

「はい?」

 

「……案内して?」

 

「……はい」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「というわけで、横浜基地としての被害はゼロに等しいです」

 

「電磁投射砲とは違った兵器……ね。まぁいいわ」

 

「そういえば、帰ってきたら紹介する人がいるようなこと言ってましたよね?」

 

「えぇ、今頃演習場にいるわよ。あんたと篁じゃあ大変でしょうからね。腕利きのテストパイロットを寄越してもらったのよ」

 

 テストパイロットか……確かに俺以外でテスト出来る奴がいるならありがたい。基本的に自分の腕で確かめたい気持ちもあるが、作業に追われることもあるからな。

 

「資料いる?」

 

 俺は資料を渡されるが、見ても知らない人だろうから実際に戦術機を動かしている姿を見ないと腕とか分からないだろうな。と思っていた。しかし、顔写真がその考えを吹き飛ばし、違う考えを頭に巡らせた。

 

「タリサ・マナンダル少尉にステラ・ブレーメル少尉ですか……腕前はどの程度なのですか?」

 

「え!?」

 

「ん? 何で驚いてるのよ海堂」

「中佐?」

 

 俺は唯依姫の発言に大きく動揺した。

 

(何で唯依姫が知らないんだ? 同じ『XFJ計画』で……あれ?)

 

「……篁、少し外してくれる?」

 

「は、はい」

 

 夕呼先生が唯依姫を部屋から出し、話を切り出した。

 

「海堂、この二人を知ってるのね?」

 

「あ、はい一応。でも、唯依姫が知らないのは変だなって思って……」

 

「聞かせなさい」

 

 俺は記憶している限りのことをぼかして伝えた。まず、『XFJ計画』。これはこの世界の数ヶ月前に不知火などが、これ以上の改修は無理。と行き詰った結果、アメリカなどの技術・装備などを組み込んで、改修不可という限界を破ろうとしたものだ。トータル・イクリプスの世界だと、タリサとステラはこの計画のテストパイロット。唯依姫は日本側の開発主任という立場で、彼女たちとも当然ながら面識があり、知らないはずがないのだ。

 

「なるほど、サイバスターのラプラス・コンピュータだとそういう可能性的なものを予言しているということね。なら、これで一つ勉強になったじゃない」

 

「は? どういうことです?」

 

「魔法の予言でも外れるってことよ。それに頼っているようじゃ大怪我するってね」

 

 それは違う。違うけど……ここでは否定できない。ラプラス・コンピュータのおかげでこの世界のことが分かるという風に説明しているのだから、これ以上は深く言えない。

 

「それと、一応言っておくけど明日から1週間ぐらい私いないから」

 

「明日から1週間ぐらい? あ、タケル達の総合戦闘技術評価演習ですか」

 

「そう、クリア出来るといいわね」

 

 するさ、タケルなら。

 しかし今はそれよりも、唯依姫が何故タリサ達を知らないかが疑問で仕方がない。

 俺は部屋を後にして演習場に向かった。

 

 

 

 2機の戦術機が演習場を駆け巡っていた。2機とも俺がXM3開発前に改良した吹雪だ。日本の戦術機と海外の戦術機の機動特性はまるで別物だ。しかし、目の前の2機を見る限り、まだところどころにぎこちなさは残っているが、かなり自由に動かせているように見える。

 

「中々、見所がありますね」

 

 唯依姫は客観的にその機動を見てつぶやく。

 しばらくして、訓練を終わらせたのか、機体を降りて二人はこちらに歩いてきた。

 

「あん? 何だよお前。ガキがこんなとこまで入っちゃ不味いだろ? 誰かお偉いさんの子供か? ってかなり美形(イイツラ)だな……何食ったらこんな風になるんだ?」

 

 タリサは俺に対してそう言い放つ。隣から殺気染みたものを感じてそちらを見ると、唯依姫が冷たい目でタリサを見つめていた。

 

「……貴様、資料にあったタリサ・マナンダル少尉だな?」

 

「っ! 失礼しました中尉! タリサ!」

 

「あ、失礼しました!」

 

 ステラは唯依姫の階級章に気づいて、タリサに訂正するように伝える。そしてタリサはばつが悪そうに敬礼をした。

 

「私のことはいい。この方はお前らの上官だ!」

 

「「は?」」

 

「海堂正樹だ。階級は中佐。よろしく」

 

 本当に知らない者同士なんだなと、俺は考え込んでいた。

 しかし、目の前で驚きの声を上げるタリサのおかげで、また現実に戻される。

 

「失礼しました……お若いんですね」

 

「ステラも美人だな。タリサもカワイイし」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 隣から先ほどとは比較にならないほどの殺気が溢れている。俺はもうその方向を見れない。めちゃ怖い……殺気だけでBETA殺せんじゃね?

 

 褐色の肌でも分かるほどに赤くなるタリサが口を開く。

 風邪か? 体調管理もしっかりしろよ? テストパイロットなんだから。などと鈍感に構えてみる。基本的にこれはあの女神の所為なわけだから、俺に好意を持ってくれるのはありがたいけど、どこか第三者視点から見てしまう。

 

「……ほ、本当に中佐があの吹雪を弄ったのか……ですか?」

 

「ん? あぁ、そうだな。更に性能向上している機体もあるから、乗り回してやって問題点をバンバン出してほしい。それと、コチラの唯依姫が少しうるさいかも知れんが、好きに呼んでもらって構わない」

 

「じゃあマサキちゃ……///」

 

「それは駄目だ」

 

 ステラの発言を止め、俺は話を続けた。だーれがマサキちゃんだ。

 

「明日、この基地のエリート集団に対してミーティングを開くことになっているんだ。タリサにステラも参加してもらえれば、新型OSについて説明の手間が省ける」

 

「「了解!」」

 

「ちなみに海堂中佐は……」

 

「好きに呼んでいいって、呼びにくいなら構わないけど」

 

「あ、じゃあマサキは、資料で読んだ通りって事か……ですか? 中佐で、凄腕衛士で、技術開発顧問で、新型OS開発者で、えっと……男?」

 

「まぁ、そうだな。周りに他の人がいないなら敬語もいらんよ。基地にいるほとんどが俺より年上だ」

 

「マサキちゃ……マサキは何歳なの?」

 

 なんて言いそうになったコラ。

 

「18だ」

 

「……中佐? そろそろ行きますよ?」

 

「ん? 何かあったっ……け!?」

 

 そこには怒りを全て内に秘めた天使がいた。悪魔のような天使の笑顔だ。みっどないとしゃっふるだ。さっきから何を怒っているんだ唯依姫は! まさか嫉妬とかもあるのか女神さんよ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 夜、寝付けずにいた。疑問が晴れずに引っかかっているからだ。

 

「なーんで知らないんだ~?」

 

 そもそもこの時系列に唯依姫もタリサもステラも横浜基地にいるはずがない。いや、基地にはいる可能性もあるけど、関わる事など無いはずだ。

 

『説明しよう~♪』

 

 聞いたことがある声が頭の中に響いた。タバコ好きな不良女神、フレイヤ(仮)さんだ。(仮)っていうのは俺の勘違いなら良いんだけど、初めて名前聞いた時に名前を考えたかのような間があったからだ。人間に言っていいのか? ま、いっか。程度での間なのか、偽名なのかは分からない。まぁ通じれば良いだろう。

 

「久しぶりだな。今の現状を説明してくれるのか?」

 

『まぁ簡単にね。マサキをこの世界に送る前に『戦術機の知識や乗り方』の能力をあげたんだけど、無償でってわけじゃないのよ。 この世界の他の人の知識を少しずつ貰って、マサキに入れたってワケ』

 

「この世界の住人の知識、戦術機の操縦方法とかを少しずつ……。ん~まぁそれは分かった。じゃあ、唯依姫にタリサにステラがこの基地にいるのは何でだ? 『XFJ計画』ってやつでアラスカだったかな? そこで面識があるはずなのに」

 

『えぇと…(パラ)…。あ、これね。『XFJ計画』って言うのが実施されてない世界みたいね。だから面識もないみたい。この世界の過去の人からも知識をもらっているから当然ね、XFJ計画を立案しようって考える知識も薄れてしまえば計画が始まることなんてないんだから。かと言って、パイロットの腕が落ちてて話にならないとか、軍事力が落ちてるとかまでの話ではないからその辺は気にしないで大丈夫』

 

「……ここはオルタネイティブの世界で間違いはないんだよな?」

 

『えぇ、そこは間違いないわ。その代わり、それに派生した世界。『トータル・イクリプス』の登場人物が出ないとは限らない。ある意味、『オルタネイティブの世界』と『トータル・イクリプスのパラレル世界』のクロスみたいなものね』

 

「なるほど、分かった」

 

 そして、フレイヤの声は聞こえなくなり、俺はその日は久しぶりにしっかりと寝ることにした。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side A-01部隊

 

 伊隅みちるは香月夕呼を待っていた。いや、正確に言えばこの部屋にいる誰もが待っている。昨日の今日で、自分たちの乗る不知火に新型OSの搭載。更に開発担当者からの説明との事で、彼女たちは色めき立っていた。

 

「大尉~まだですか~」

 

 速瀬水月(はやせみつき)中尉は待ちくたびれたようだ。この部屋に来てすでに20分が経過している。確かにここまで遅れているとシミュレーターにでも乗っていたほうが有意義な気もする。彼女の性格がピッタリのポジションは突撃前衛長(ストーム・バンガード・ワン)だ。

 

「でも速瀬中尉は焦らされると濡れるんですよね?」

「む~な~か~た~?」

 

 宗像美冴(むなかたみさえ)中尉はいつものように突拍子もない言動で速瀬中尉をからかっている。

 

「全く、美冴さんったら……もう来ますよ」

 

 冷静に一歩引いてそれを見守るのは風間祷子(かざまとうこ)少尉だ。個性の強い速瀬中尉と宗像中尉の間を取り持つ役割を果たせるのは彼女しかいないだろう。

 

「水月も落ち着きなよ~」

 

 速瀬中尉を止めるのは戦域管制を担当する涼宮遥(すずみやはるか)中尉だ。総合戦闘技術評価演習中に事故に合い、戦術機乗りは断念するが、全くそれを感じさせない強い心を持っている。

 

「ねぇ晴子、新型OSって昨日の新潟のやつかな?」

 

 そんな上官たちに慣れてしまっていて、目もくれずに同期の柏木晴子(かしわぎはるこ)少尉に話を振るのは涼宮茜(すずみやあかね)少尉だ。名前から分かる通り、涼宮中尉の妹である。

 

「あれは確かに凄かったね~」

 

 そんな茜の軽い疑問に暢気に答えるのは柏木少尉だ。冷静で割り切った考えの持ち主だが、明るく暢気なため、周囲とのトラブルになることはない。

 

「でも子供の声じゃなかった? もしそうなら萌える展開だよね!」

 

 腐女子的発言が垣間見えるのは築地多恵(つきじたえ)少尉だ。興奮したりすると話し方に訛りが出てくるが、部隊のみんなは気にしていない。

 

「燃える? 多恵の言ってることはたまに分からなくなるな」

 

 軽く困惑の表情を浮かべながら? 麻倉(あさくら)少尉は隣の高原(たかはら)少尉に投げる。

 

「本当にね~。声から察するに、幼女だよ幼女。そんな年端もいかない子供が戦術機に乗れるわけないじゃん?」

 

 彼女たちがA-01部隊。伊隅戦乙女隊(いすみヴァルキリーズ)の9人である。

 

 

 

 ガチャ。

 扉が開き、同時に静寂が訪れた。敬礼はしない。入ってきた人が敬礼というものを煩わしく思うからだ。

 

「揃ってるわね? 私はこの後出かけなくちゃならないから、早速説明を始めさせるわね」

 

 香月副指令はバインダーを片手に入ってきた。

 説明させるということは、開発者も来たということだろう。

 

「入りなさい」

 

「はいは~い。初めましてA-01部隊の皆さん。海堂正樹といいます。よろしくお願いしますね」

 

 そこには整備兵のツナギを着ている銀色の美しい長い髪を持った美少女がいた。頭の上にはクロ猫が乗っており、腕にはシロ猫が抱かれている。なんとも愛くるしい構図だった。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

 俺は軽く機体の整備をしてからミーティングをする部屋へと向かっていた。シロとクロも当然ついてくる。この場に唯依姫はいないが唯依姫特製の地図がある。迷うはずもなくスイスイ進んで行き、そして俺は……。

 

「……迷った」

 

「ミーティングが始まるニャ?」

「急がないと怒られるニャ」

 

 行けると思ったんだ! 今日こそ迷わずに行けると! 地図だってあるんだし! あぁこれじゃまた唯依姫に怒られるよ~。だが幸いなことに唯依姫はタリサとステラのところへ行っているから問題はないだろう。……いや! まさに今が問題だ! 迷ってるじゃん俺! アホ女神この方向音痴を直すような能力も付け加えろ!

 

『(はいはい手遅れ手遅れ)』

 

 ちくしょーっ!

 

「中佐? こんなところで何をしているんですか? この時間は副司令と一緒にいるはずでは―――」

 

「ぴ、ピアティフさ~ん!」

 

 ひしっ!

 俺は感動のあまり、ピアティフ中尉にしがみ付き、ワケを話した。

 

「と、とにかく離れましょう中佐! コホンッ ご案内いたします」

 

 俺はピアティフさんについていくと、途中で夕呼先生の姿が見えた。

 

「ピアティフ? 何でこんなところ……海堂? 遅いと思ったら、またなの?」

 

 えぇ、またです。また迷子です。もう開き直ってやるさね! って唯依姫もいるしぃっ!!

 

「あ、海堂中佐? 30分ほど前に部屋で別れましたよね? 部屋までの地図も用意しましたよね?」

 

「お、男は地図には縛られたらいけないのさ……」

 

「迷子が何言ってるのよ見せて御覧なさいよ……アンタこの地図でどうやったらこっちの通路からこれるのよ? 右だと言われて一度右を確認してから左に進むようなものよ?」

 

 地図を取り上げられ俺はアワアワとする。

 

「中佐って方向音痴なんですね。可愛らしい」

「いや、方向音痴で可愛らしいってなんだよ? そりゃ可愛いけどさ」

 

 後ろに続いて来てたステラとタリサは俺を見ながら何か言ってる。

 唯依姫は額に手を置いて苦悩している。大丈夫? 疲れがたまっているのかな?

 

「「(誰の所為ニャ、誰の)」」

 

「ほら、ついたわよ。(ガチャ)揃ってるわね? 私はこの後出かけなくちゃならないから、早速説明を始めさせるわね。入りなさい」

 

「はいは~い。初めましてA-01部隊の皆さん。海堂正樹といいます。よろしくお願いしますね」

 

 あれ、固まってらっしゃる? 明るく元気にしたつもりなんだけど……。

 

「補佐官の篁唯依中尉です。あと、主にテストパイロットを務めてもらう、ステラ・ブレーメル少尉に、タリサ・マナンダル少尉です」

 

 ステラとタリサは声は発せずに敬礼をした。

 

「じゃあ、時間も無さそうなんでコチラをご覧ください。あ、ステラもタリサも座ってね」

 

 俺は唯依姫からノートパソコンを受け取り、プロジェクターに繋いで説明を始めた。

 

 

 

「えー、今回説明させていただくのがこちらの新型OSです。正式名称は【XM3(エクセムスリー)】簡単に何が変わるかというと、行動制限の解除と衛士の癖などをより多く覚えこませることが出来るようになってます」

 

 『吹雪丸』と『ラプ蔵』を表示して説明は続いていく。

 転びそうになる吹雪丸はオートモードが働き機体は自動制御される。その間にラプ蔵が突撃砲を撃ってくる。吹雪丸はペイントまみれになり『大破!』と表示される。

 

 場面が最初に戻ってXM3を搭載してまた転びそうになる吹雪丸。しかし、そのまま突撃砲を構えラプ蔵に追撃をさせない。むしろ逆に転ばせてペイント弾の嵐を浴びせ大破させた。

 

「さて、気になる性能向上率はおおよそ30%です。もはや別物の機体として乗っていただくと良いかも知れません。さて次に―――」

 

「し、失礼ですが。馬鹿にしていますか?」

 

 伊隅大尉は手を上げて映像の内容について聞いてくる。

 

「なっ大真面目です! じゃあ、これ見せましょうか!? 最新データです!」

 

 それは昨日の新潟でのXM3の最終テストの映像だった。不恰好な不知火に7割近くのBETAが喰われて行く。A-01部隊はそれを見て釘付けになる。というか、最初からこっち見せればよかったみたいな反応だなおい。何のために吹雪丸とラプ蔵を造り上げたと思ってるんだよまったく。

 

「この不知火にはXM3が搭載されていました。あ、背中のタンクをパージしましたね。ここからが本領発揮ですかね。……あ、でも この動きでもまだ余裕がありますね」

 

 ざわっ!

 一瞬、『この動きでもまだ余裕がありますね』の一言に室内の空気が変わった。彼女達の不知火で精一杯動かしてアレで、その上を軽く行き、更に余裕もある。それは信じられないことであったようだ。

 

 しかし俺は気にせず説明を続けていく。

 

「このようにアクロバティックな3次元機動を可能としておりますが、機体の損耗率は変わりませんので、その辺が制御できない方は出来るようにするか諦めてください。整備兵が大変ですから。ちなみにA-01部隊で一番効率よく推進剤の使用を抑えていたのは伊隅大尉ですね。そして、こちらがXM3搭載型不知火です」

 

 俺は画面を切り替え、ブーストに必要な推進剤の使用率のデータをタイムライン別で比較するように表示した。

 

「ほとんど変わらないですよね? あれだけ重そうな装備をしていて、なおかつ伊隅大尉以上に飛び回っています。ちなみに推進剤の量は弄ってませんでした。さて、この差は何でしょう? えぇと、最後ピンチになってこの不知火に助けられた高原少尉、分かりますか?」

 

「わ、私? え、えぇとXM3の効果でしょうか?」

 

「話の流れからしてOSの効果かと思った方も他にいるかもしれませんが、少し正解、ほとんど違います。単純に衛士の腕です。推進剤のほかに明確に分かるデータがあります。(カタカタカタ……)コチラです。これは基地に戻ってきた後の解析した結果です。この不知火の交換部品はこれです。そして、ん~一番損耗率が激しいのは……やっぱりポジションから言っても速瀬中尉ですかね?」

 

「アタシ?」

 

 おぉ~。

 と、画面を見ての声が上がる。

 

「今回の戦闘で速瀬中尉の機体はこれだけの部品換装が必要です。まぁ他の方も似たり寄ったりですが、XM3の効果はあくまでも機体制御面のマニュアル化が大きな変更点です。その分操作が多くなるところもありますが、機体はより速く動けます。その反面、部品の損耗率は大幅に上がります。では、この差は何故でしょうか? 涼宮茜少尉」

 

「これもOSの効果はほとんどなく、衛士の腕ってことですか?」

 

「その通りです。早くXM3に慣れると共に、機体を壊さない、長く使うようにする癖をつけましょう。そうすれば結果的に人類の勝利はより身近なものになります。あ、もちろんこのA-01部隊がこの横浜基地のトップガンと知った上での発言です。それでも未熟な点は多いので磨いていきましょうね」

 

「す、すっげ~ぜマサキ!」

 

 タリサが興奮を抑えられないように声を上げる。

 

「ふふふ、じゃあ私は行くわね。あ、このデータは貰っていくわよ? 海堂あとはよろしく」

 

 そう言って夕呼先生はパソコンを取り、部屋を後にしようとする。

 

「あと? 他にも何かあるんですか?」

 

「んふふふふ~♪」

 

「いや教えてから行って下さいよ」

 

「アンタに紹介するやつってのはあそこのテストパイロットだけじゃないって事よ。その内にでも会えるでしょうから。じゃね~♪」

 

 またか。また増えるのか。今度は誰だ。日本嫌いならブリッジスだっけ? 彼は来ないはず。後は誰だ。流石に女性はもう来ないよな。いや、今時だと男の方が少ないのか? 男女比までは知らないからなぁ。まぁ、いっかなるようにしかならないだろう。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 伊隅みちる

 

 目の前の少女の声には聞き覚えがあった。しかし、似ているだけという可能性のほうが高い。この華奢な体であれほどの機動が出来るはずがない。恐らくこのマサキという少女はXM3の開発者とは ある程度近しい者なのだろう。子供でも天才というものはいるから不思議ではない。しかし、開発担当者本人から直接聞きたかったが、それでも十分理解は出来たからよしとしよう。

 

 動かしてみての感想は驚愕だった。不知火であって不知火でない機体。今まであった遊びなどの面が大幅にカットされている。操縦桿を少し倒せばその通りに動く、これは慣れるのに苦労しそうだ。ましてや、『あの不知火の動き』になるまでもどれほどの訓練が必要なのか。速瀬あたりは好きそうな感覚かも知れんがな。

 

 テストパイロットの2人はそれなりに動かしている。XM3とは知らずに傍から見ればまだまだの動きではあるが、私達に比べれば2歩3歩先を行っている。

 

 ズシャンッ!

 

『麻倉少尉。こけると整備兵から怒られるので気をつけてくださ~い』

 

 先ほどの少女の声が回線に入ってくる。先ほどの直接耳にした声と違い少し曇った感じの声色に、あの時の声と似ている気がしてしまう。

 

『は、はい!』

 

 

 しかし、トライアルコースを進むのがこれほど難しいと感じたのは初めてかもしれない。最初の結果は散々だった。これなら旧OSの方がまだ良いタイムを出せるだろう。しかし、1周2周と周るごとにタイムは縮み、成績は伸びていく。

 

『速瀬中尉は今のカーブのところで減速せずに曲がるようにすれば面白い機動を取れますよ~』

 

『減速なし!? 無茶言うわね』

 

 なるほど、遊びがなくなり即応性が上がっているなら機体もそれなりのモノに換装しているということか、ならば……。

 

 ギュオンッ!!

 

『今の伊隅大尉の動き良いですね。速瀬中尉、データ送るんで試してみてください』

 

 なるほど、私の場合は思うとおりに動かせると考えたほうが早いかも知れんな。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

 この分なら早く慣れそうだな。俺は唯依姫と格納庫に来ていた。

 

「初めて戦術機に乗るってことなら問題ないだろうけど……」

 

「旧OSに慣れてますからね。新型に慣れるのは時間が必要ですね。アレは私もキツイです」

 

 他愛もない話をしながら格納庫まで戻ってきた。そこに格納庫では見かけることはまずない存在がいた。

 

「あれ? 霞?」

 

 呼んでみるが反応がない。そういえばウサ耳がなく、髪もツインテールに結っていない。国連軍のジャケットを着ている霞がいた。

 

 あれ? 今思えばウサ耳無しはタケルと寝るときだけだったよーな? 髪もツインテールじゃない……。しかもジャケットを着るなんて事は一度も見た事が……はっ!!

 

「な、何でここに……?」

「中佐?」

 

『その内にでも会えるでしょうから』

 

 あの時の夕呼先生の声が脳内に響く。

 

 ってことは……『イーニァ』か!?

 

 ピクンッ

 イーニァと思わしき人物が俺たちに気がついて振り向いてくる。俺は固まる。あぁ、間違いなくイーニァだ。自然と俺は少し後ずさる、イーニァも連動しているかのように一歩近づく。何だこの感じ。

 

 初対面のはずだが、何故かイーニァは目を輝かせて俺から目を離さない。

 

 俺も不思議な気持ちになる。何というか……獲物になってる気分?

 

 クロとシロは何かを感じ取ったのか、唯依姫の方へと移動する。

 

 ジリ……ジリ……

 

「中佐、どうしたんですか?」

 

 バッ!!

 

 

 唯依姫の俺を呼ぶ声が引き金となり、俺とイーニァの追いかけっこが始まった。

 

「どうして逃げるの!?」

「何で追ってくるんだ!?」

 

 

 

 第4コーナーを曲がって格納庫を抜ける。

 

「あ、マサ……キ?」

 

 一瞬タリサとステラが見えた気がするがとりあえず後回しだ。

 

「後ろの子は誰かしら?」

「さぁ? しかし、足はえーな」

 

 

 

「イーニァ!?」

 

 チラッと『クリスカ』も見えた気がする。そりゃ、後ろのがイーニァだとすればクリスカもいるだろうとは思うけど、マジか。マジなのか!?

 

「誰か後ろの子を止めてーっ!」

「誰かマサキを止めてーっ!」

 

 俺の名前も知ってる? ワケが分からん!!

 それになんて体力だ。全力じゃないにしても息をそれほど切らしてない。

 

 

 

 ロングストレートに入り、PXへ俺は駆け入った。

 

「マサキちゃんじゃないか、どうしたんだい急いで? まだ夕御飯には早いよ?」

 

「おばちゃん匿って!」

 

 俺は調理場の方へ入り、息を潜めた。

 

「おや、さっきぶりだねぇイーニァちゃんじゃないかい。夕御飯には早いよ?」

 

「シズエ、マサキ来なかった?」

 

 志津江(シズエ)とは京塚のおばちゃんの下の名前だ。そこまでの仲になっていたか。

 

「何かあったのかい?」

 

 おぉう、おばちゃんが俺の味方をしてくれている。

 

「マサキが逃げるの。イーニァ、何もしてないのに」

 

「何で追いかけてたんだい?」

 

 そうだそうだ。何で追いかけられにゃあいかんのだ?

 

「……何でだろう?」

 

 ガンッ

 

「?」

 

 俺は勢いよく頭を冷蔵庫にぶつけた。

 

「いやーデカイ猫が紛れ込んでてね。困ったもんだよ。……それで、イーニァちゃんはマサキと仲良くしたいんだね?」

 

「うん! うんうん!」

 

 何度も頷いてるのか、イーニァの声が届いてくる。

 

「だってさ猫さん。出てきな」

 

 俺は後ろの襟首を掴まれカウンター越しに顔を晒した。

 ぬわぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

「マサキ! ……追いかけてごめんね? 許してくれる?」

 

「え、あ、あぁ逃げてごめんな。びっくりしたからさ……」

 

 理由も分からず追いかけられるなんて初めてだからビビった。

 

「イーニァ! ……良かったここにいたのか」

 

「クリスカ! マサキと会えたよ!」

 

「クリスカ・ビャーチェノワ少尉だ。よろしく頼む中佐」

 

「え、な、何で俺の事知ってるんだ? 特にクリスカなんてイーニァに近づくやつは誰であろうと毛嫌いするんじゃないか? 紅の姉妹(スカーレット・ツイン)がこの基地にいることも不思議だ」

 

 俺が知る限り、クリスカ・ビャーチェノワ少尉という人間はイーニァ・シェスチナ少尉以外の人間を嫌う節がある。恐らく国で色々あったのだろうが、イーニァが一番大切という印象がある。

 

「どうして中佐がそういったことを知っているかが私には不思議ですが、私とイーニァは香月副司令に呼ばれてこの横浜基地にきた。そして海堂中佐のことは香月副司令に、そこにいる京塚志津江曹長、他にも色々と話を聞いた」

 

「聞いたの! 私より少し小さい身長で、長い髪、見た目に反して偉いって!」

 

 エヘンッと言わんばかりにイーニァは俺をカウンター越しに撫で始めた。

 

「ど、どういうことだ?」

 

「中佐のひととなりは分かったということだ。あなたほどこの基地で慕われている人物はいないだろうと。だから中佐のことは信頼する。そ、そうでなくても信頼できそうだからな」

 

 何故、最後で顔が赤くなる? 噛みそうになったのか? それが恥ずかしかったのか? これも女神の効果か。解除してくれないかなこれ。いや、でも解除した瞬間にいきなり嫌われるのも嫌だな。諦めるか。

 

「中佐! ここでしたか、いきなり走り出してまた迷子になったらどうするんですか!?」

 

「はっはっはっ! 唯依ちゃんも苦労が耐えないねぇ?」

 

 おばちゃんは唯依姫を労っている。何かGPSを付けるべきかどうかぶつぶつ言っているが、放っておこう。

 

「「ニャーン!」」

 

 カウンターに頭を乗っけている俺の頭にクロとシロが乗ってくる。

 

「あ~腹減った~。あ、マサキ腹減ってたのか? すげぇ速さで走っていくからびっくりしたぜ?」

「今日は何がいいかしらね? ……サバ味噌? マサキは何にするの?」

 

 タリサにステラもPXにやってくる。

 続くようにA-01部隊もやってきた。

 

「おっとまだ誰も食べてないか、早すぎたか~?」

「速瀬中尉は相手が早いと満足できませんもんね?」

 

「む~な~か~た~?」

「って麻倉少尉が言ってました~!」

「わ、私言ってません~!」

「全く静かに出来んのか貴様らは……」

 

「あ、海堂さん丁度よかったOSの質問なんですけど……」

「涼宮明日にしなさい明日に~」

「海堂さんのことマサキちゃんって呼んでいいかな?」

 

「却下します……慕われて、ねぇ?」

 

「はいはい、ご飯もう大丈夫だよー!! 並びなー!!」

 

 俺は騒がしくなり始めたPX内でやっとカウンターから抜け出し、飯を貰って席についた。クリスカは俺の前に座り口を開いた。

 

「……言いたい事は分かりましたか? 中佐殿」

 

「あぁ、よろしく頼むよクリスカ」

 

「私も! 私も名前呼んで!」

 

「あぁ、イーニァもよろしく」

 

「うん!」

 

「それから、クリスカ。俺のことは階級で呼ぶな。『ちゃん』付けでも呼ぶな」

 

「ま、マサキと呼べばいいのか? 変わった上官だ」

 

「あぁそれでいい」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

「中佐? 随分と仲良くなったんですね?」

 

 え? めでたしめでたしって感じだったじゃん! 何で唯依姫は怒ってるの!?

 あ~そんなに醤油かけたら体に悪……はい何でもありません。

 

Side out

 

 

 

 




感想は随時受付中です。



この作品を初めて書いた頃は

「はいはいTEのアニメとかゲームなんて10年以上先でしょ~」

って考えてましたw

結局今はアニメ見てないしゲームもやってない。年齢を重ねると自然と手を出さなくなってきたな~って感じです。本当に気になる物とかは手を出すんだけど、どうしても純粋に楽しめない。悲しいっす。漫画は相変わらず読むんだけど何でだろう?


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07

お気に入り100件突破ぁ~ありがとうございます。

また、以前投稿していた時にご迷惑をおかけしていた方、改めて申し訳ありません。





Side タケル

 

 11月11日。

 基地全体に非常召集の警報が鳴り響く。

 

 来た!

 俺が夕呼先生に伝えておいたBETAが佐渡島から新潟へ侵攻してきた内容だ。

 俺達207小隊は休日だったが非常招集によりまりもちゃんの所へ集まる。

 

「全員集合しました!」

 

「よし、状況を説明する」

 

 そう言ってまりもちゃんは説明を始めた。新潟に上陸して来たBETAは帝国軍が迎え撃つ形で今も戦闘は続いているらしい。更に援軍も合流し、戦況は優勢。前回はこの時点で更に侵攻してきたんだよな。

 

「上陸したBETAの進路を統計的に分析した結果、ヤツらの最終目標地点が本横浜基地である可能性が高いことが判明した」

 

「えっ!?」

 

 そう、前回もほとんどまっすぐにこの基地にBETAは向かってきた。変わらない、ここに何かがあるのか。それとも目的の進路にすぎないのか。

 

「そのため、現時刻からBETA全滅が確認されるまで、当基地は防衛基準体制2へ移行する」

 

「は、はい……」

 

「その間、訓練兵である貴様達は待機とする。速やかに自室に戻り情勢の変化に対応できるように待機せよ。以上だ」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

 

 

 俺は自室にて待機していた。前回の世界ではBETAが基地目前まで来て気絶したっけ。今思えば情けない話だ。その後も色々な事があった。もう負けないぞ。

 でも今回と前回は違うはずだ。これでBETAが全滅すれば、前回から歴史は大きく変わるだろう。言った通りの場所にBETAが来たわけだから俺の記憶の信憑性も高まっただろう。俺だけじゃない、たくさんの人たちの歴史も変わるはずなんだ。変えないといけない。オルタネイティヴ5なんて阻止してやる。

 

『総員に通達。防衛基準体勢2は解除されました。繰り返します……』

 

 その放送を聞いて俺は真っ先に飛び出して、夕呼先生の執務室へ飛び込んだ。

 

「先生っ!」

 

「騒がないの、聞こえてるわ」

 

「いろいろ……ありがとうございました」

 

「あなたがお礼を言う必要はないわ。あたしの興味でアイツを試したかったんだから」

 

「アイツ?」

 

「アンタと1ヶ月前にここに来た海堂正樹よ。アイツは化け物ね。送られてきたデータだとあそこに現れたBETAの数は8千強。その内の6割以上を一人で相手にしたらしいわ」

 

「6割!? それだけのBETAを一人でですか!?」

 

「試したい新兵器があったらしいけど、帰ってきてからその報告もあるでしょうね……。他のBETAは帝国軍がうまく連携して止めたらしいけど、まぁいいわ。今日はもう戻りなさい。人が来るのよ」

 

「あ、はい。すみません」

 

 コンコンッ

 

「もう来たのね。入って」

 

「香月副指令。予定通りテストパイロット2名着任しました」

 

 ピアティフ中尉だ。後ろには褐色の肌の少女に金髪の女性がいる。2人とも服装は国連軍のジャケットを着ている。テストパイロットか……。俺も早く訓練兵を卒業しないと。

 

 俺は敬礼して部屋を後にし、自室へと戻った。

 

 

 

「―――イーニァ、何処に行ったの?」

 

「誰かお探しですか?」

 

 見たことがない人だったが、霞と同じ髪の色をした女性だったのが印象的だった。困惑の表情を浮かべて誰かを探している国連軍の人を見かけた。俺が話しかけると困惑の表情は怪訝そうな顔を一瞬浮かべて、一気に怒りの表情に変わった。

 

「貴様には関係ない!」

 

 えぇ~? 何で初対面で怒られてるんだ。俺は謝罪して敬礼して自室へと戻った。

 

 これも歴史が変わっているからなのだろうか? でもマサキだ。あいつが変えてるんだ。俺が前回の世界の知識を夕呼先生に伝えて、それをマサキが実行してくれてる。俺が進みやすいようにしてくれてる。

 

 ……アイツ、何なんだろう。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

≪ 総合戦闘技術評価演習 ≫

 

「本作戦は、戦闘中、戦術機を破棄せざるを得なくなり、強化外骨格も使用不能という状況下で、いかにして戦闘区域から脱出するかを想定した物である。従って脱出が第一目的だ。また行動中、地図中に記した目標の破壊……後方撹乱を第二優先とする」

 

 南の島でバカンスを楽しむ夕呼先生を尻目に、俺達の訓練生の集大成とも言える【総合戦闘技術評価演習】が始まろうとしていた。

 

「各自時計合わせ…………57、58、59―――作戦開始!」

 

「了解!」

 

 俺は美琴と、彩峰はたまと、冥夜は委員長と組んで、3手に分かれて演習を進めていく。一日でも早くクリアできれば、一日でも早く衛士になれる。一日でも早く戦術機に乗れれば、一人でも多くの命を救うことが出来る。俺は演習を確実に進めていった。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

「唯依姫~。南の島に行かない?」

 

「何を言ってるんですか。まだデータのまとめが終わってないじゃないですか。現実逃避はまだ先にしてください」

 

 データ入力をしながら唯依姫は声を上げる。

 

「タリサにステラは?」

 

「行きたいな。そん時は1週間ぐらい休み貰いてぇな」

 

「良いですね。水着も確か持ってきてるし」

 

 タリサとステラはテストパイロットとしてやることがないため、シロとクロを撫で回して暇を潰している。二人は丸っと。

 

「悪いけど遊べるのは2~3日だけなんだよね~。クリスカは?」

 

「そ、それは命令か? (命令でなくとも行きたいが……)」

 

 書類に目を通しながら赤くなるクリスカは答える。俺はクリスカの欄にも丸を付ける。

 

「命令なら行く……と」

 

「イーニァは? 聞かないの?」

 

 少し頬を膨れさせるかのように、イーニァは自ら聞いてくる。

 

「何だ断るつもりだったのか? クリスカが行くなら強制的に連れて行くから安心しろ」

 

 その返答に膨れっ面は一瞬でパァッとなり、明るいイーニァに戻った。

 

「中佐、先ほどから何を書いてるんですか?」

 

 データ入力に一区切り付いたのか、唯依姫は俺のところにやってくる。

 

「唯依姫、今一度聞こう。南の島に行かないか?」

 

 俺は再度説得にかかった。

 

「最近働きづめじゃん? 新潟の一件もあるし、自分にご褒美的な? そんな何かが欲しくてな。ほら、根詰めすぎても辛いだけで良い結果は出ないよ。そんなわけで、みんなとの親睦も含めて南の島に行くことに……したんだ」

 

 俺は書類を唯依姫に見せ付けるように掲げた。

 

「『したんだ』って決定事項じゃないですか!?」

 

 俺から書類を奪い取り、内容を読み唯依姫は驚愕の声を上げる。

 

 そう、決定事項なのだ。

 

 【演習】という名目で提出された書類は、承認の判子を押されて返ってきている。参加者は大多数にならない限り、俺のさじ加減で決めていいとの事なので、この場にいる面子で行こうと考えていた。もちろんタケル達のいる島へだ。

 

「水着に自信がないんですか篁中尉?」

「いや、マサキに見られるのが恥ずかしいんだろう?」

「篁中尉。行かないならマサキを失う覚悟を持つんだな」

「南の島でマサキが貰えるの!?」

 

「意味不明だお前ら。さて、どうする唯依ひ……め!?」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

「貴様ら……水着だの、中佐に見られるのが恥ずかしいだの、中佐が貰えるだの好き勝手言って……」

 

 マジギレか、マジで噴火する5秒前……良い人生だった……か? いやいや短すぎるだろ。いくらBETAがいる世界だからってBETAにやられたわけでもないのに死ぬとか。

 俺は天を仰ぐように目を閉じた。恐らく悪魔の翼を生やした唯依姫が極大魔法を使用し、この基地全てが地獄の業火に焼かれ全てが融解するのだろう。え? そういう話じゃないって? まぁそんぐらい怖いって事さ。

 

 しかし、唯依姫の次の言葉は俺の意に反するものだった。

 

「中佐は私のだ!!」

 

「「「「なっ!?」」」」

「ん? そうなの?」

 

 俺以外の4人は愕然としている。俺は飲み込めずに首をかしげた。

 

「中尉! マサキは私のことカワイイって言ってるんだぞ!?」

 

 タリサは俺の腕を抱きしめるように唯依姫に向き直った。

 

「何だ何だ? そりゃ可愛いけどさ」

 

 

「あらあら、じゃあ私も。私のことはキレイって言ってくれてますよ」

 

 逆サイドからはシロを放ってステラが腕を取ってくる。

 

 

「おわっシロが投げられた! ……おぉ流石ネコ」

 

「ニャー(びっくりするニャ!)」

 

 

「中尉はマサキの事を名前ですら呼ばないではないか!」

 

 後ろからはクリスカが真っ赤になって腕を回してくる。

 

「キャラじゃない事するから真っ赤になるんだよ。無理すんなよ」

 

「マサキは私のだよ!」

 

 イーニァは前からしがみ付き、唯依姫のほうに顔だけ向けている。

 

「もはや身動きも取れん。何だコレは?」

 

「貴様ら羨ましいことをするなーっ!!」

 

 

「えーと、何だかよく分からんが唯依姫も行くって事でいいのか?」

 

「中佐の貞操の為に行きます!」

 

 俺は再度首を傾げて、唯依姫の欄に最後の丸を付けた。

 貞操のためって、誰にも手ー出さないし、出されないよ。いくら女神効果があるとはいえ、そんな出会って数日でベッドインなんて有り得ないわ。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side タケル

 

【3日目・夜】

 

「千鶴さんと冥夜さんが来たよ」

 

 美琴は周辺の警戒をしながらそれを見つけたようだ。

 

「お、ついに来たか……」

 

 前回は4日目のギリギリの時間に着いたってのに……今回は2日目の夜に到着だ。体力がそのままで行軍速度が速いこと、トラップの位置が大体分かることなどが非常に大きい。

 

「タケル、少し灯が漏れているぞ……30m先からでも丸見えだった」

 

「え? ああ、やべえやべえ」

 

 冥夜の指摘に俺は焚いている火を若干散らしていく。少し気が緩んだかな。

 

「しかし……そなた達、さすがだな」

 

「ホント。ふたりはいつ着いたの?」

 

「ボクたちは昨日の夜に、ここに着いたんだよ」

 

「……!?」

 

「それは本当なのか……?」

 

 ガサガサッ

 

「あれ~、もしかして、すでに揃ってる?」

 

「おう。おまえ達が最後だ」

 

 たまと彩峰も合流した。これで第一目標はクリアだ。

 俺達は各自、取得できたものの確認。施設破壊などを説明していった。

 

 前回の世界と同様に、たま達は脱出地点が書かれた地図。弾が一発だけの対物体狙撃銃(アンチマテリアルライフル)を一挺を手に入れていた。ライフルはかなりでかい。まぁ2分割して持ち運べるから良いだろう。そして、冥夜達はラペリングロープ。俺達はシートだけだ。

 

「……OK、じゃあ、班ごとにローテーションを組んで、交代と休憩と食事を取りましょう」

 

「そうか、委員長達まだ食ってなかったのか」

 

「合流地点が近かったのはわかっていたからな。早く到着したかったのだ」

 

 そう言って、俺達は食料調達に足を運んだ。

 

「わっ、この実食べられるかな~」

 

 たまが見たこともない木の実を拾い上げる。

 それに対して間髪いれずにサバイバル特化した美琴が否定の声を上げる。

 

「パンギノキには強い毒があるよ」

 

「……これは?」

 

「マチンは猛毒だね~」

 

「……なるほど」

 

 彩峰は美琴に確認しながら委員長を見た。

 

「……。なんで私を見るわけ?」

 

「……え?」

「え? じゃないわよ!」

 

「……見てない」

「見たでしょうが!」

 

「あげる」

「いらないわよ!! 毒でしょうが!!」

 

「おまえら……」

 

 ……前倒しに集合できても、いい感じに不安が残るのは何故だ?

 

 委員長と彩峰の仲は悪い。実際は同じ方向性を持っているから話し合えれば大丈夫なはずだけどな……。

 

 俺達はその後も順調に進み回収ポイントまでやってきた。

 コレって確か、発煙筒を焚くと砲撃されるんだよな……。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

「番号!」

 

「1!」 「2」 「3」 「よーん!」 「……5(完全に遊びに行く準備だけだコイツら……)」

 

 唯依姫だけ元気がない。よっぽど疲れてるんだな。

 この南国行きでリフレッシュしてもらえればいいのだが。

 

「では帰るまでが演習だ。気を抜かずに全力で取り組むように!」

 

「「「「了解!」」」」 「……了解」

 

 俺達はヘリに乗り込み、出発した。

 そこまで時間もかからずに着くには着いたのだが……。

 

「見えてきたぜ海~!」

 

「キレイなところね」

 

「貴様ら遊びに来たんじゃないんだぞ!?」

 

「唯依違うよ? 遊びに来たんだよ?」

 

「イーニァの言うとおりだ。篁中尉、これは【演習(あそび)】だ」

 

 そんな会話が飛び交う中、発煙筒が焚かれているらしく、少し離れたヘリポートに赤い煙が地上から昇ってくる。

 

「あれは?」

 

「あぁ、言うの忘れてた。訓練生が演習中なんだ。ほら、あっちのヘリポート見えるだろ」

 

 タリサは双眼鏡を構えてその方向を見て「あーいるな。総合演習かー懐かしいな」とニヤけている。

 

「だとすると、彼らはこれから帰るということですか」

 

「ん、まぁ普通ならそうなんだけど」

 

 ―――普通じゃないからなぁ。

 

 ガガガガガガガガガガガッ

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

 その訓練生達がいる着陸地点のヘリポートが離れたところに設置されている砲台によりボロボロにされていく。

 

「あの発煙筒を焚いていた訓令兵は!?」

 

「……ものすごい速さで逃げてったぜ」

 

 よしよし、タケルは無事だな。

 

 ヘリポートから逃げるようにタケル達を乗せるはずだったヘリは去っていく。

 

「あれじゃあ降りれないもんな。どーするんだアイツら? つーか総合演習ってあそこまで厳しかったか?」

 

「『総合戦闘技術評価演習』ね。私がやった時もあんな感じでクリアだったかと思うけど、砲台で狙われるなんてなかったかな。中々厳しいのね」

 

 

 

 

 

 

 

「で、何しに来たのあんた達?」

 

 夕呼先生はビキニ姿で完全にバカンスしてる。しかし、備え付けられたテーブルにはパソコンがあり、砲台を操作したと思われる画面のほかにXM3などのデータや00ユニットの関連データがある事から、バカンスだけではない事が分かる。いや~流石に00ユニットは分からんわ。脊髄付きの脳味噌から、すんごい重要な役割を持った人間なんて造れないっす。流石本物の天才は違いますな~センセ。

 もちろんだが、00ユニット関連のデータは俺でもよく分からないが、見た事あるかも程度のモノだけな為、他の人間が見ても問題にはならないだろう。00ユニットに関する詳細なデータは本当なら見た事もないようなデータばかりだと思われる。

 

「息抜きの遊びとお祝いに来ました~」

 

「そ、あいつ等なら今頃……」

 

「さっき砲撃したところ見てました。別の脱出ポイント設定したんですよね?」

 

「えぇ、まぁ明後日ぐらいまでかかるでしょうね。……アンタ何してんの?」

 

 俺はバッグから道具を次々に出していく。釣具だ。

 

「メシの調達をと考えましてね。あ、いい日本酒も用意してますよセンセ」

 

 俺は更に酒、調味料や米も取り出した。

 

「そこまで用意してるってことは期待していいんでしょうね? 任せたわよ。レーションばかりってのも味気なくてうんざりしてたのよ」

 

 らじゃ~。

 

 女性陣は着替えに行った。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 女性陣

 

「少尉……何を見ている」

 

「やっぱ中尉のはでかいな……」

 

「あら、タリサは根強い人気がありそうなステータスがありそうじゃない」

 

「そしたらアレには勝てないだろ……」

 

 視線の先にはたった今着替え終わったイーニァの姿があった。女性からしたら子供として映るが、男性からしたら熱狂的なファンが出来そうな感じだ。そんなイーニァの胸元には「いーにぁ」と書かれた名札があった。スクール水着というソレは似合うとかそういうレベルを遥かに超えている気がする。

 

「そんな事よりも……」

 

 地味な柄のビキニを着こなすクリスカは全体に聞くように声を上げる。水着の柄は地味かもしれないが、プロポーションが全てを語っていた。「この人は強敵です」と。

 

「そんな事って何だデカパイ!!」

 

「なっ!? 好きで大きいわけではない!」

 

「はいはい、落ち着いて。何を言いかけたの?」

 

 顔を少し赤らめたクリスカは落ち着いて再度口を開いた。

 

「マサキは……どんな水着なんだろうか? やっぱりハーフパンツとかの下だけの水着なのか?」

 

「下だけって……当たり前じゃねぇか。上半身裸に決まって……あれ?」

 

「それはそれで拙いんじゃない? 何か、そう、色々と拙い気がするわ」

 

 何故か彼女達の脳内では胸元を腕で隠すマサキの姿しか浮かんでこない。

 

「じゃ、じゃあ……アタシ達の水着みたいに上も着けてるとか?」

 

ビキニの上だけを着けてるマサキの姿を想像して4人は鼻血を噴出す。

 

「ブッ……それは犯罪だ。確実に捕まる。何も着けてないより破壊力が……」

 

「ちゅ、中佐でヤラしい想像をするな貴様ら!」

 

「鼻血出して言うセリフじゃないですよ中尉」

 

「着替え、まだ終わらないの~?」

 

 いつの間にか先に行っていたイーニァが戻ってきて、4人は冷静さを取り戻し、砂浜に戻った。

 

「遅かったな?」

 

 そこにはハーフパンツにパーカー姿の海堂正樹、階級は中佐。性別は男。見た目は女の子。知り合いからしたら男の娘がいた。

 

「「「「そう来たかっ!!」」」」 「?」

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

 何か不思議な視線を向けられているが……。

 

「じゃあ各員全力で任務(あそび)を遂行せよ!」

 

「ちょっ! 『各員』って待てよマサキ! 泳がないのかよ!?」

「泳がないのでしたら水着の意味も薄れてしまいますね」

 

 タリサはスポーティーなセパレートタイプの水着に着替えていた。

 ステラとクリスカはビキニタイプ。

 唯依姫は競泳タイプの水着。

 イーニァはというとお約束なスク水だ。スクール水着だ。

 あえて略称から直して説明した意味は特にない。言わなきゃいけない気がしただけだ。ついでに言っておくと白ではなく紺だ。

 

「マサキ、海に来て遊ぶといったら、コレじゃないのか!?」

「マサキが海に入らないなら、イーニァも入らない!」

「ど、どういうことですか中佐?」

 

 みんな俺の行動に疑問を持っているようだ。

 説明しよう! 俺は泳げないのだ!! 海? 見るものだよソレは。 泳ぐ? HAHAHA船で渡ればいいじゃないか。運動能力が上がっているから泳げるかもしれないが、それはそれこれはこれ。海に叩き落されるわけでもなければ、俺は泳がない! 試したくもない!

 

「というわけで、俺は別に泳ぐとか一言も言ってないぞ?」

 

「「「「どういうわけだ(ですか)!!」」」」 「えーっ!」

 

 俺は非難の声を聞き流し、大き目の麦ワラ帽子をかぶり、予定していた釣り場へと向かった。

 

「こうなったらビーチバレーで勝負だ!!」

「私は止めておこう」

 

「中尉、逃げるんですか?」

「いや、逃げるとかではなく……」

 

「負けるのが怖いと?」

「いや、だから……」

 

「それじゃあマサキは私のだよ?」

「いつの間にそういう勝負になったんだっ!」

 

 うん。何の話をしてるかは分からないが、仲は良さそうだ。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 今回は一本道だったから流石に迷うことはなかった。

 

「やっほ~まりもちゃん」

 

 俺はヒラヒラと手を振り、そこにジッと佇むまりもちゃんに軽い挨拶をした。

 

「海堂中佐!? ご苦労様です!」

 

「あ~敬礼いらないですよ? 休暇みたいなものですから。まぁ休暇以外でもいらないですけどね」

 

「は、はぁ。このようなところへ、わざわざ?」

 

「まぁタケルとかどうなのかなって思いましてね。まぁ問題ないでしょうけど」

 

 俺は釣具を組み立て、質問に答える。

 

「えぇ見る限り、大きな問題はありません。昼間に基地襲撃を行うなど、セオリーとは違った行動をとることもありますが、行軍速度は速いですね」

 

「アイツはね、少し生き急いでるんですよ」

 

「生き急いでいる? 白銀が、でありますか?」

 

 俺は釣り針に餌をつけて海へ投げ入れる。

 俺の頭の上にはクロがいる。膝の上にはシロがノビノビとしている。

 

「そう、人類がどうなるのか理解しているかのように、そしてそれを変えようと必死でもがいてるんです。まぁ、誰も彼も……全人類を救いたいんですよ。タケルって全てにおいて普通以上にこなすでしょう?」

 

「え、えぇ驚かされることばかりです。白銀が衛士になればと、先を考えるのが楽しいほどに」

 

「もしそうなったら、まりもちゃんは階級が下になっちゃうんですよね……」

 

 衛士になれば階級は少尉。まりもちゃんは、そこまで育て上げる軍曹。少尉より下だ。

 

「えぇ、送り出してやることしか出来ませんし、私から学ぶことはないかもしれませんがね……」

 

「ん~、タケルはそんな事考えてないですよ。最高の恩師として考えているはずです」

 

「そ、そうでしょうか? 彼ほどの者の教官を務められているのかが日々疑問ですよ」

 

 まりもちゃんは苦笑しながら照れたようだ。

 

「おっと……餌だけ取られたか……。魚はいるんだよな~」

 

 俺は餌をつけ直して、また海に投げ入れる。

 

「海堂中佐、不躾で申し訳ありませんが、香月副司令から少しは話を聞いています。中佐の衛士としての腕前は横浜基地、いえ世界トップクラス。開発顧問もされているそうで、そんな中佐は白銀とはどういった関係なのでしょうか?」

 

「どういった関係って……男同士ですからねぇ、そんな関係は当然ありませんが」

 

「男同士? 誰と誰がですか?」

 

「あれ、聞いてません? 俺は男ですよ。だから色恋関係は遠慮というか、拒否したいですね」

 

「男だったんですか!?」

 

「えぇ、よく言われます(あの女神の所為で……)」

 

「……ってそうじゃありません! 白銀と何故知り合いなのかを……!」

 

「かかった!! お、デカイな……まりもちゃん網用意して!」

 

「は、はい!」

 

 釣れたのは見事な鯛だった。

 

「よっしゃ~! 今晩、コイツの刺身とお吸い物でも差し入れ持ってきますね」

 

「あ、いや、あの……白銀のことは」

 

 俺は唇に人差し指を当ててウインクして言った。

 

「―――Need to know.」

 

 Need to know.

 つまり、『情報は知る必要のある人のみに伝え、知る必要のない人には伝えない』ということだ。

 まぁ、いつか話すことがあるかもしれないな。

 

「っ 失礼しました!(この仕草……やっぱり女の子じゃないかしら?)」

 

「敬礼はいりませんよ。じゃあまたあとで」

 

 俺はクーラーボックスに〆た鯛を入れて、ポイントを変えるために片付け始めた。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「というわけで、鯛の刺身とお吸い物。それに鯛めし。焼き魚が10本ほどございます」

 

「「「「「おお~っ!」」」」」

「やるじゃない海堂」

 

「あ、夕呼先生。演習は明日で終わりだと思います」

 

「あら、結構早かったのね。じゃあ明後日で基地に戻るわけね」

 

「ん? 何で明日戻らないんだ……ですか?」

 

 タリサが、副司令だったと思い出して口調を直しつつ聞いた。俺がそれに答える。

 

「訓練生だからな。ご褒美だよ。南の島の海でバカンスなんて普通出来ないんだぜ? 演習に合格して衛士になって『おめでと~』ってな。次は戦術機だぞってな」

 

「へへっそうか、これから肩並べて戦うことになるんだな……」

 

 しみじみとタリサが夕日に染まる海を眺めている。総合戦闘技術評価演習も訓練生時代も懐かしがってたし、良い先輩衛士となるだろう。

 

「お、今の表情良いね。カワイイ」

「っ!///」

 

「「「「っ!?」」」」

 

「「「「これから肩並べて戦うことになるんだな……」」」」

 

 何を思ったのか、クリスカ・イーニァ・ステラ・唯依姫がハモってタリサの言葉を海に向かって復唱していた。

 

「何? あんた等って芸人だったの?」

 

「何をしているんだお前らは……」

 

「ぐっ! 失礼しました」 

「慣れない事はするものじゃないですね」

「……何が悪かったんだ?」 

「ちゃんと言えたよ? カワイイ?」

 

「あ、夕呼先生。基地に戻ったらでいいんで、少しの間基地を離れることを許可いただきたい」

 

「あら、何日ぐらい?」

 

「ん~1週間もいらないかな……。1日で……2日で……2~3日ってところですかね」

 

「分かったわ。後でもいいから報告しなさいよ?」

 

「らじゃ~」

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side タケル

 

「回収ポイント確保! 散開して全方位警戒!」

 

「回収機は!?」

 

「目標範囲内に機影なし!」

 

 俺達は5日目にして 総合戦闘技術評価演習をクリアーしようとしていた。

 

「状況終了! 207分隊集合!」

 

 あ…れ……? ヘリは? まりもちゃん、どこから?

 

「只今を以って、総合戦闘技術評価演習を終了する。ご苦労だった」

 

 終わったのか。……疲れた。

 

「評価訓練の結果を伝える」

 

 ―――えっ?

 ここに来れば合格じゃないのか!?

 

「敵施設の破壊とその方法、鹵獲物資の有効活用……何れも及第点といえる」

 

 ―――よしっ!

 

「最後の難関である砲台を、最小の労力と時間で無力化したことは、特筆に価する」

 

 ―――きたきた!!

 

「しかし……」

 

 ―――えっ!?

 

「白銀と鎧衣は基地襲撃を日中に行ったな……なぜ、セオリーである夜明け前を選ばなかった?」

 

「退路の確保ができていないジャングルでの夜間行動は危険だからです」

 

「……ふん。周囲の地形を確認してから、夜間に襲撃することもできたのではないか?」

 

 しまった……。焦りすぎたのか……!?

 

「敵施設を迂回することもできたな? これらの減点は決して小さくないぞ」

 

 それは……人間相手の場合だろう!?

 俺達の敵はBETAじゃないかッ!!

 

「―――まりもちゃん!」

 

「―――まりもちゃん……?」

 

―――しまった! こんな時に……つい……。

 

「まぁ……いい。白銀、今日の所は見逃してやろう……めでたい日だからな」

 

「「「「「―――えっ!!」」」」」

 

 ……どういう事だ?

 

「おめでとう……貴様らはこの評価演習をパスした!」

 

「……えっ……でも……それだけの重大なミスを……」

 

「榊、この演習の第一目的はなんだ?」

 

「脱出……です」

 

「実践に於いて、計画通りに事態が推移することは稀だ。それ故、タイミングや運といった要素も重要になる。それらを全て味方に付け、結果として目的を達成すれば『それが正しい判断だった』ということになるんだ」

 

 ……!!

 

「セオリーはセオリーでしかない。結果として、貴様等を狙える位置に追撃部隊は存在しなかったし、砲台のセンサーはひとつだけだった。そして貴様等は、全員無事に脱出に成功した……違うか?」

 

「……いえ……」

 

『おめでとうー!! 次は戦術機が待っているぞ!!』

 

「「「「「「「―――えっ!?」」」」」」」

 

 ここにいる全員が、突然の拡声器による声に反応した。

 

「マサキ!?」

 

「あの子は……」

 

「全く、あの人は……」

 

 まりもちゃんが額に手を当てて溜息をついている。

 

『と、まぁ堅苦しい事は一先ず置いといて、せっかくの南の島だ! 遊べ! 食え!』

 

「何でいるんだ?」

 

『祝いに来た! おめでとうタケル!!』

 

「あ、ありがとう……」

 

「確か、この前も仲良さそうにしてたよね?」

「マサキちゃんでしたっけ?」

「基地から南の島まで追いかけてくるほどの仲とはな……」

「みんな、体力は余ってるかしら?」

「……もち」

 

「ん?」

 

 俺は変な威圧感を感じて後ろを振り返ると気絶する羽目になった。気がつけばこの島、6日目で、みんなは楽しそうに海で遊んでいた。霞へのお土産になるような貝殻でも探すか。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

「あ~大丈夫かコイツ?」

 

 俺はボロ雑巾のようになっているタケルを棒で突いている。

 

「マサキさんでしたっけ?」

 

「んあ? 委員長か。何かな?」

 

「こんな島まで白銀を追ってきたんですか?」

 

「まぁ目的の半分はそうだな」

 

「たけるさんと、どういう関係なんですか!?」

 

 今度はたまか

 

「関係も何も。ただの……知り合い? 友達?」

 

「何故、疑問なのだ?」

 

 冥夜も参戦してくる。

 

「会って間もないし、違う配属になっちゃったしね~」

 

「それで……どういう関係?」

「ボクも気になる!」

 

 207全員集合だな。愛されてるね~タケル。

 あれ、待てよ?

 

「……もしかして、俺のことタケルから聞いてないのか?」

 

「聞いてない」 

「俺?」

 

「俺は海堂正樹。男だ」

 

「「「「「―――えぇっ!?」」」」」

 

「マサキー!」

 

 ドスッ

 俺の脇腹にイーニァが突撃してきた。地味に痛い。

 

「フぐっ……ぃ、イーニァ色々と危ないから急にタックルを仕掛けるのは止めような?」

 

「マサキ、こいつ等が訓練生か?」

 

 タリサが焼き魚をムシャムシャと食べながらやってくる。

 

「あら、カワイイお嬢さん達ね」

 

 ステラは俺の両肩に手を置いて言ってくる。

 

「ほう、良い面構えをしているな」

 

 クリスカは冥夜を見てそう呟く。

 流れからすると唯依姫も来るかと思ったが、夕呼先生とパソコンの画面を見て話し合っている。仕事熱心だ……何しに来たんだか。まぁ外すところは外してやってるのだろう。

 

「あぁ、先に紹介しておこうか。横浜基地でテストパイロットなどを務めている少尉たちだ」

 

「けっ 敬れ……!」

「あぁいらんいらん。演習はもう終わったんだし、俺達も休暇だ」

 

「じゃ、じゃあマサキさんも少尉なんでしょうか?」

 

 たまが恐る恐る聞いてくる。

 あぁ、今まで普通に話してたからな。「やっべぇ~」って思ったんだろう。

 

「いや、俺は少尉じゃないよ。まぁ、飯でも食えよ」

 

 俺は面倒だから階級の話を打ち切るかのようにはぐらかした。

 話す時は話すさ。

 

「あ、唯依姫~フルーツもあるよ~」

 

「あ、はい。いただきます」

 

 お、よしよし。唯依姫の元気も出てきたようだ。

 

「ふふふ、ういういしいわね~」

 

 そんな事を夕呼先生が言ってくる。はて、フルーツだよな? みずみずしいの間違いじゃないか?

 

Side out

 

 

 

 

 




感想は随時受付中です。



 タリサ可愛いよタリサ~。初めてTEの冒頭部分のゲーム(体験版?)やったのって何でやったんだっけ? オルタのクリア後にゲーム内に出てきた? いや、普通にダウンロードだった気がする。
 その頃は「ユウヤって誰?」「日本人が何で日本人嫌ってるの?」って感じだったけど、タリサがスカーレットツインに背後取られて悔しがるシーンはカッコいいなぁって思ったもんだ。

 でもヒロインにはなれな……おや、誰か来たようだ。


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08

……加筆しまくってた。15000文字近くです。
読むの疲れちゃうね……ごめんなさい。




 

 

 

 

Side マサキ

 

「よし……シロ、クロ。行くぞ」

 

「久しぶりに喋る気がするニャ」

「みんニャの前だと、はニャせニャイからね」

 

 すまんな。いつか説明できれば良いんだけどな。でも猫が喋りますとか、異世界から来ました。とか言ったら、頭おかしい扱いされるか、大事になりそうで面倒くさい。俺はシロとクロを撫でて部屋を後にしたが、すぐに引き返してくる。

 

「おっと忘れてた。これは置いて行かないと」

 

 念の為に書置きを一枚残しておく。これで大丈夫だ。

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな……相棒」

 

 そこには封印指定された俺のサイバスターが、封印指定された時のままの輝きで俺を出迎えてくれていた。俺はサイバスターに乗り込み、不可視・ジャミング機能を起動させて、エレベーターで外へ出た。

 

「さて……煌武院悠陽殿下の下へ馳せ参じますかね」

 

 俺はこの世界に来た教訓を活かし、MAP機能を起動させ、進路を帝都へと向けた。コレさえあれば迷いませんとも。えっへん。

 

 

 

 

 

 

 

 帝都付近の演習場に灯りがある。

 

「こんな時間に演習をしているのか……帝都守備連隊ってのは、熱心だな……」

 

 まぁ熱心すぎてクーデターなんか起こしてしまうのだろう。

 

(……軽く遊んでやるか。)

 

 俺はそう思って、不可視モードとジャミングを解除する。

 

 

『―――なっ 所属不明機だと!? いつの間にこんな距離まで接近を許した!?』

 

 今の今までだよ。

 俺は念を込めて【精神コマンド】の集中をかけ、ディスカッターで目の前に展開されている数十機の不知火や吹雪を薙ぎ払って行く。集中の効果か相手が遅く見える。相手によるライフルの弾道が見て取れる。もちろんサイバスターの機体性能で十分いける。しかし、それに輪をかけて遅く感じる。遅い遅い! 貧弱虚弱ぅーっ!

 

『グッ、早いっ!! 一発も当たらないなんて!』

『下がっていろ! どこの所属か知らんが……この先へは進ませんぞ!』

 

「お? その声は……沙霧大尉か?」

 

『子供!? 私の事を何故知っている! 名を名乗れ!!』

 

 これは大当たりを引いたな。クーデターの首謀者が目の前にいるとは……。

 

「クーデター起こすの止めるなら、名乗ってやろう」

 

『っ……何の話だ!』

 

 ふふふ、そうだよな、反応できないよな。反応しようものなら、OPEN回線で演習に参加している全軍に「私、クーデター起こそうとしてますから。はい」と言ってしまうようなものだ。

 

 しかし、通常のOSの不知火でよくここまで動けるものだ。軽く振り下ろしたとは言え、ディスカッターの一撃目を受けやがった。正直言って流石としか言いようがない。俺は少しだけスラスターの出力を上げて沙霧大尉の不知火を強引に押すように倒した。

 

「その程度で帝都守備第1戦術機甲連隊にいられるんだな……クーデターも諦めろ」

 

『貴様っ! 待てっ!!』

 

 待ちません。時間は有限であり、俺には成すべき事がある!

 俺は再びジャミングなどをONにして、ラプラス・コンピュータの指し示す方へ……悠陽の下へ向かった。ラプラス・コンピュータからは軽いタッチで描かれた建物に大きめの矢印が『悠陽、ココ』と指し示している。ちなみに後ろから飛んでくる弾丸なんぞ一発も当たらない。今の俺は風だ! 何人も風を捕らえることなど出来ん!!

 

「久しぶりにノってるニャ」

「開発も面白そうだけどニャ」

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 政威大将軍 煌武院(こうぶいん) 悠陽(ゆうひ)

 

 カタンッ

 

「あ」

 

「誰ですか!?」

 

 あの日の夜、私は少し眠れずにいた。

 そんなところに物音と漏れた声が静寂の部屋に響き渡った。窓からの侵入者だ。生まれて初めての経験。物取りや誘拐などが真っ先に頭に浮かぶが……。

 

「……子供?」

 

「あ、夜分遅くにすみませんね。海堂正樹と申します。悠陽様。少しお話をよろしいでしょうか?」

 

 一見とても害があるようには見えない。しかしながら、戸からではなく窓からの侵入者だ。私はとりあえず問題があれば説得を、駄目な場合で尚且つ手に負えない場合は真耶(まや)さんを呼ぼうと思った。

 

「……このような夜更けにお話ですか?」

 

「あ~すみません。あ、敬語も上手く使えないのでお許しください」

 

「構いません」

 

 私は微笑んでしまっただろう。自分でも分かる。なんと正直で可愛らしい女の子でしょう。

 

「俺は横浜基地所属の中佐です。あ、信じられないでしょうから、これ階級章です。あ、あと最近多いので先に言っておきますけど、男です」

 

 確かに目の前の少女(?)が着ているのは国連軍の上着だ。階級章も中佐のもの。この子は……。え? オトコ? 男?

 

 コンコン

「殿下、物音がしましたが、まだ起きていらっしゃるのですか?」

 

「っ! コチラへ」

「は? いや、それはちょっと……」

 

 私は掛け布団を開き、中に入るようにマサキに言うが、困惑の表情を浮かべている。私はその手を取って引き入れた。

 

「早く」

「ちょっ……」

 

 ガチャ

「殿下?」

 

「ごめんなさい真耶さん。少し眠れなかったので、本を読んでいました」

 

「左様でございますか、失礼いたしました。お休みなさいませ」

 

 パタン

 

「……苦しかったですか? いきなり布団の中へ引き込んでしまって」

 

 良い匂いが布団に微かに残る。香水などではない……気にならない程度の香りだが、気になれば引き込まれるような香りだ。

 

 

「あ、いや、大丈夫ですけど。っと、はぇ?」

 

 布団から出てしまいそうになるマサキを手で静止させ、私はそのまま話しをするように言った。不思議と離したくない方だったのです。

 

「はぁ、悠陽様が良いと言うなら良いですけど。あ、今更ですけど『殿下』って呼んだほうが良いんですかね?」

 

「構いません。名前で呼んでください」

 

 ……私は何を言っているのでしょうか。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

 悠陽は随分と物腰が柔らかい気がするが……とりあえず布団から出て話さないか? 話さないか。そうか。何故、二人で同じ布団に入って話さなければいかんのだ。悠陽は名前で呼ぶことも許し、俺は悠陽様で呼んでいくことにした。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて。まずは報告です。御剣冥夜が総合戦闘技術評価演習に合格したので、近日中に衛士になります」

 

「っ ……冥夜をご存知なのですか。あの者は元気でやっていますか?」

 

「えぇ、俺はそこまで接することはないですから遠巻きにしか見てませんけどね。えっと……ご心中お察しします」

 

「無理に敬語を使う必要はありません。私と冥夜の事をご存知なのですね」

 

 まぁ大体は知ってる。血の繋がった双子ではあるけど、古より煌武院家って家には、『双子は世を分ける忌児』と言う事で、悠陽は『煌武院』で政威大将軍。冥夜は『御剣』で国連軍の衛士になろうとする身だ。偉い人たちの家柄ってのは分からないものだ。姉妹仲良く暮らせないのだから。

 

「あ、そうそう。悠陽様にお願いが……」

 

「マサキ。『様』もいりません」

 

 何言ってんだこの政威大将軍。この国で一番偉い人を呼び捨てにしろと?

 

「えっと……悠陽?」

 

「ふふふ、はい」

 

 やっちまった。まぁその偉い人の要望だし? 聞けることは聞きますよ。

 

「話を戻します。お願いがありまして、近々、クーデターが起こるかと思われますので、首謀者を説得して欲しいのです」

 

「説得ですか。何故クーデターが起こるのですか?」

 

 俺は説明した。今の現状で言うと、目の前の悠陽には権力的なものは無いに等しい。この国の象徴だということで、国民からの信頼などは厚いが、国連軍を動かすような権力は無いのだ。

 そんな中、榊の親父さんがこの国の首相をやってるワケだが、クーデターの人間からすれば悠陽、つまり殿下の考えと、榊首相のやっていることが全く違うと怒っているわけだ。『殿下の御心を蔑ろにして!』と、さっきの沙霧大尉達は怒っているのだ。そこで……

 

「では、その者達が榊首相を暗殺し、私の政威大将軍としての全権限を戻そうというのですか」

 

「そうです。まぁ悠陽様……悠陽に権力が戻るのはそれはそれで良いと思うけど、やり方が強引過ぎるし、人類同士、日本人同士で殺し合うなんてアホじゃないかと思うわけですよ」

 

 俺は『様付け』にした瞬間、ジト目で見られた気がして、呼び捨てに訂正して話を続けた。本気だこの人。

 

「クーデターの首謀者をマサキは知っているのですね?」

 

「えぇ、帝都守備第1戦術機甲連隊の沙霧尚哉大尉です。止めていただけますか?」

 

「なるほど……そういった話が出てきても不思議ではないでしょう。ですがマサキ、逆に質問をします。あなたはどこでそういった情報を手に入れて来たというのですか?」

 

 悠陽は少し考えてから質問を返してきた。まぁ当然信じられない点が多いわな。見た目子供の国連軍中佐が単身、政威大将軍の寝室に夜中に侵入しこんな話をしても……夢にも見ないだろう。

 流石は政威大将軍と言ったところだろうか。見抜く力と言うのは半端なものじゃない。これがタリサとかイーニァなら俺の言葉を信じてすぐにクーデターを止めようとするのではないだろうか。

 

「ん~、じゃあここで種明かしです。シロ、クロ」

 

 俺はシロとクロを窓から呼び出す。シロとクロはピョンっと跳ねるように窓から室内へと入ってきた。

 

「ネコ……ですか? ルナとアルテミス……」

 

「違います。月のマークなんて無いでしょう。えっと、俺はこの世界の人間じゃありません。証拠として3点。まず1点目、先ほどここに来るまでに【帝都守備連隊】と軽く交戦しました。転ばす程度で倒してきましたけどね。後ほど確認してみてください。2点目にその時に使用したのは戦術機ではなく俺の世界に(ゲームで)存在した機体です。今も外にありますけど、見ます?」

 

 俺は不可視モードだけ解除してその姿を見せた。

 

「……っ。た、確かに戦術機とは異なるようですね」

 

 俺はまた不可視モードにしてサイバスターを見えなくした。

 

「そして、最後にこのシロとクロ、喋ります」

 

「は?」

 

「こんばんニャ」

「政威大将軍殿下こんばんニャ」

 

「まぁ、このような物が今では売っているのですね」

 

「違います。抱いてやってください」

 

「……温かい。生きているのですね……では本当に」

 

 俺の目をジッと見据えて悠陽は聞いてくる。

 

「えぇ。じゃあ、また来ますね。意味無いかもしれませんけど、コレを置いていきます」

 

 俺はドッグタグを首から外して悠陽に渡す。

 

「死ぬつもりですか?」

 

「まさか、また会う時に返してもらいますよ。じゃあ、行くぞクロ、シロ」

 

 俺は窓から飛び降りて、サイバスターに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 さて、こんなに早く終わるとは思ってなかった。

 

「マサキ、世界各地を周った方が良いニャ」

 

「何でだ?」

 

「サイバスターが日本のモノだと分かったら香月副司令が面倒ごとに巻き込まれるニャ」

 

 なるほど、世界各地で目撃情報が出ればどこの所属課全く分からない正体不明機で罷り通るか。強引だけど。よし、その案採用! 俺はとりあえず北アメリカと南アメリカとオーストラリアとアフリカ大陸をジャミングや不可視モードを解除しながら飛び回った。

 

「……ついでに近くでデータを取るか。絶対怒られるから手土産用意しないと」

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 唯依

 

 コンコン

 

 ノックをしても部屋の主からの返事がない。起きていて既に整備などをしているかと思えば、まだ今日は見ていないと整備兵たちは口を揃えて言う。

 

 では技術開発室かと思えば、そこでも同じ返答が帰ってくる。

 

「また迷子かしら」

 

 その結論は探し始めた段階で出ているのだが、日々進歩すると信じ、結論は毎回急がずにいる。そして、毎回同じ結論に至るワケだが。また、迷子ですか……。

 

 しかし、この日は見つからなかった。こんな事は初めてのことだ。

 

「中尉~。マサキ知らないか?」

 

 タリサ・マナンダル少尉は強化装備を身に着けて駆け寄ってくる。

 どうやらXM3の機動についての質問があるらしいのだが、中佐は目下見つかっていない。

 

「中尉、マサキを知りませんか?」

 

 ステラ・ブレーメル中尉も強化装備を身に着けている。どうやらマナンダル少尉と模擬戦闘訓練をしているらしい。知っていたら傍を離れないのだが……。

 

「タカムラ中尉。マサキを知らないか? 不知火の改良型を造るだとかで呼ばれていたのだが予定が変更されたらしく、いつにするのか聞いていないんだが」

 

 クリスカ・ビャーチェノワ少尉は国連軍のジャケットでノートパソコンを小脇に抱え中佐を探しているようだ。

 

「唯依! マサキをどこにやったの!?」

 

 イーニァ・シェスチナ少尉はいきなり言い掛かりを付けてきた。流石にそれはないだろう。

 

「ミサエが言ってた! 男は女の胸が好きだから、胸の大きな人に盗られるって!」

 

 美冴? 宗像美冴中尉のことだろうか。どういう経緯でそんな説明をこの子にしたのだろう。

 

「マサキを返して!」

 

「ちょっ、イーニァ! 離しなさい! んっ、駄目だってば!」

 

 イーニァは私の胸を鷲掴みにしている。私は何とか誤解を解いて中佐探しを続けた。宗像中尉には後でキツく言わないといけない。

 

「あら、篁中尉。どうしたのですか?」

 

 ピアティフ中尉は書類を抱えて途方に暮れ掛けていた私に声をかけてくれた。

 

「中佐ですか? 昨日の夜から基地を出ていると聞いていますが」

 

 え……私、何も聞いて……。

 

「私も香月副指令から聞いただけなのですが、3日ほどいないとの事で、置手紙をしていくとの事でしたが?」

 

 そんな物は今のところ見かけていない。

 さまよった挙句、中佐の部屋の前に戻る。鍵は掛かっておらず、部屋に入ると机の上に書置きがあった。

 

「何で私宛の手紙を自分の部屋に置いていくんですか……全く」

 

 

『唯依姫へ、日々の業務お疲れ様です。

 

昨日までの南の島は楽しかったかな?

 

さて、突然ですが少し遠くに出かけます。

 

2~3日で帰って来る予定ですが、その間のことはお願いします。

 

追伸:お土産買ってきます。何がいいかな?』

 

 

 手紙で聞いても答えられないじゃないですか……もう。

 

「私は中佐さえいれば、それだけで……」

「香月副司令? 誰が言いましたそんな事」

 

 いつの間にか香月副司令が室内に入ってきていた。

 

「いや~篁中尉が入るの見えたから、海堂のベッドの匂いでも嗅いでるのかな~なんて思って見守りに来たんだけどね。あ、なんなら今やってもらっても構わないわよ?」

 

「しません! 見守りにって悪趣味ですよ副司令」

 

 研究が行き詰っているのだろうか。それとも息抜き程度でやっているのだろうか。カラカラと笑う目の前の魔女と呼ばれる天才の思考や行動は読めない。

 

「でも、そろそろ中尉も階級じゃなくて名前で呼べば? 鈍感男も流石に誰かの物になっちゃうわよ?」

 

「何の話ですか!」

 

 決まっている。中佐のことだ。

 はぁ、階級が下だったら楽だったのかも知れない……無いもの強請りか。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

「行くぜ! コスモノヴァ!!」

 

 ズンッ! ドッゴォォォォォォンッ!!

 

 ハイヴの地上構造物であるモニュメントをコスモノヴァで消し去った。

 コスモノヴァの威力がどれほどのモノなのかの確認だったが、モニュメントを吹き飛ばす程度はそこまでの労力ではない事が分かった。まぁこれでも力はセーブして撃っているから本気(精神コマンド使用時)でかました時がどうなるかは大体想像がついた。これの本気を地上で使っちゃ拙い。

 

「マサキ! BETAが溢れ出して来るニャ!」

「気持ち悪いニャ」

 

「今日は色々とデータを取りに来たんだ。我慢しろ。数は?」

 

「反応3万。更に深部ではカウントオーバーしてるニャ」

 

 ドドドドドドドドドドドッ!!

 

 来た! 突撃級に要撃級、戦車級も大量にうじゃうじゃいやがる。

 俺はサイバスターをBETAに囲まれるようにど真ん中に移動して、ディスカッターを構えて必殺の広範囲型兵器を使用した。

 

「いっけぇー!! サイフラーッシュ!! どうだ!」

 

「一気に1万以上を消し飛ばしたニャ!」

 

 精神コマンド使わず1万か……。

 

「それにエネルギーも残弾数も回復していくニャ!」

 

 不良女神の言っていたアレか。BETAを倒すとポイントが溜まり、損傷箇所の回復・エネルギー回復に自動的に回るって言うやつか。マジで永久機関だな。

 

「しっかり記録取ってくれよ?」

 

 俺は【集中】を掛けて、重光線級の下からのレーザー雨を高速で回避していく。

 

「クロ! シロ!」

 

「ネコ使いが荒いニャ……」

 

 クロとシロのハイファミリアが無制限に敵BETA群を撃ち抜いていく。その間に俺はカロリックミサイルを乱発し、ディスカッターで要塞級を切り裂いて行く。倒しても倒しても湧き上がるように地中から姿を現すBETA群。しかし、こちらも兵器を使っても使っても回復するという仕組みだ。俺の体力に問題は全く無い。それでもBETAは突撃を繰り返す。目の前にいる異物(サイバスター)を壊すことしか命令は受けていないかのように。

 

 俺はもう一発かました。

 

「いっけぇっ!! サイフラーッシュ!!」

 

 広範囲に亘りBETAの死骸が地上を埋めていく。

 

「地上BETAの反応消えたニャ」

「マサキの言ってた通り、突撃級の装甲殻は一部使えそうな成分が含まれてるニャ」

 

 突撃級の装甲殻は非常に硬いということから、戦術機に使えないかと思ったわけだ。しかし、単純に流用しただけでは重過ぎて使うことは困難を極める。そこで、軽くて装甲が硬い部位は無いかとデータを取り始めたわけだ。他にもレーザー属種の目の様なレンズの部位。アレも興味深いので調査を進めて行きたいところだ。

 

 俺はそんな事を考えつつ、ハイヴ内へと進んでいった。データを取りながらとりあえずBETAに構わず端から端まで飛び回り、反応炉を

 

 しかし、集中が切れた瞬間だった。ふと襲ってきたその集中が切れた感覚に引っ張られる様に操縦ミスをした。ハイヴ内にいるBETAは地上にいる時と同じように空を飛ぶなんて事はない。しかし、上を見ればBETAがいる。空は飛べなくとも接地出来る場所があるならばそこを伝ってくる事は出来る。

 

 俺は降ってくるBETAへの対応に遅れ、戦車(タンク)級の雨に飲み込まれた。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪ 横浜基地 ≫

 

「はぁ!? ハイヴ攻めをしてる!? どこの国よ!?」

 

「それが……どこの国も、国連も出撃はしていないとの事で……」

 

 極東の魔女はそれを聞いてはっとした。すぐに90番格納庫のデータを手元のキーボードをたたき画面に映すが、そこに封印指定しているものが消えていた。何故気付かなかったのか。

 

「あの馬鹿……」

 

「副司令?」

 

「……今は良いわ。他に何か情報とか画像とかは無いの?」

 

「ハイヴの方は無いそうですが……。ほぼ同時刻にこれが、各国地域で目撃されているらしい戦術機です」

 

 画像は少し荒れてはいるが、香月夕呼はソレを見たことがあった。

 本来であれば現在も90番ハンガーにあるはずの機体。それはまさしくサイバスターだった。しかし、それはそうだとパソコン画面に映る90番ハンガーの空っぽの映像が裏付ける。

 

「どこの国の戦術機でしょうか……ハイヴ攻略と関係があるのでしょうか?」

 

「はぁ……戦術機1機でハイヴを落とせると思う?」

 

「え、いえ……1機なら8分持てば英雄ですね」

 

 そう、戦術機1機だけという話であれば、落とす以前の問題で生き残れるはずがないのだ。補給も無く、1機だけ? そんなもの【死の8分間】すらもどんな腕を持っていようとも乗り越えられないだろう。

 

 ハイヴを落とす? 全世界の軍を動かしても絶対に落とせるとは言えない。それほどまでにBETAの巣。ハイヴとは広く、深い。その上、BETAは数十、数百万といるだろう。

 

 それを画像に映されている戦術機。もとい、サイバスターは1機でハイヴ内を進んでいるわけだが、それを知らない香月夕呼は間違いなく海堂正樹の仕業と考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

 ―――1日経って俺は戻ってきた。

 

 コンコン

 

「ただいま戻りました~」

 

 俺は悠陽の部屋へと窓から侵入した。

 

 ヒュッ

 

「おっと……」

 

 頭一個分をお辞儀するように高速で蹴り出された足を回避した。

 

「何者だ貴様! ここをどこか知っての行いか!」

 

 悠陽専属のメイド……というのはオルタネイティブではなく、タケルの元々の世界での設定だ。まぁ今のタケルは知らないかもしれないけどな。

 

「真耶さん! いけません!」

 

「殿下! お下がりください! 子供の姿でここまで気づかれずに進入し、あまつさえ私めの蹴りも避けた者にございます!」

 

「下がりないさい真耶さん。これは上意です」

 

「……はっ」

 

 月詠 真耶さん。月詠中尉のお姉さんだ。見た目はメガネを掛けてるか掛けてないかの違い。月詠中尉が裸眼。目の前の悠陽様お付の真耶さんがメガネ。髪を下ろしたこの人は好きかな。

 

「マサキ、失礼しました」

 

「大丈夫、大丈夫。ドッグタグ返してもらいに来たよ」

 

「貴様! 殿下にそのような口の聞き方を……!!」

 

「真耶さん」

 

「くっ……失礼しました」

 

 おー、睨まれてるよ俺。

 俺は悠陽からドッグタグを受け取り、首から下げる。

 

「時にマサキ。誤報か否か確認中の情報ですが、先ほど【エキバストゥズハイヴ】が落ちたようです。いえ、そんな事は信じがたいのですが……それに各国で正体不明機も目撃されているようですが……タイミングが良すぎる気がしませんか?」

 

「あれ、やったら駄目でした?」

 

 俺の返答に二人は驚きの表情を隠せないようだ。それもそうか、見知らぬ機体でハイヴを1日で落としてきた……子供。

 

「色々データは取れたんで、戻ってまた缶詰ですよ」

 

「……貴様の目的は何だ?」

 

「あ、先にご挨拶しておきましょうか。初めまして、横浜基地所属、海堂正樹中佐です」

 

「子供で中佐だと?」

 

 俺は悠陽に説明したようにクロとシロを呼んで説明した。

 異世界人でサイバスターに乗っていて、階級とかは夕呼先生から貰ったこと。

 

「……」

 

 何か真耶さんの目が輝いてる。シロとクロから視線を外さない。

 

「真耶さん?」

 

「っ! こほんっ そういえば、海堂正樹という者……貴様のデータは突然出てきたな……もう一人も、確か白銀武」

 

「あぁ、やっぱり城内省のデータベースとかに出るんですね」

 

「理解しがたいが、確かに納得しなければならないのかもしれないな。しかし、その言葉遣いは何とかならぬのか? 近い将来、洗練された女性になりそうに見受けられる。今のうちに直しておいたほうがよいと思うが?」

 

「必要ないですよ。俺、男ですもん」

 

「何? データベースには女と記載があったが」

 

「夕呼先生がワザとやりました」

 

「証拠がないではないか」

 

「あぁ……ちょっと失礼」

 

 俺は真耶さんの手を取り、俺の胸に押し当てた。

 

「無いでしょ?」

 

「真耶さんズルイです! ……私もよろしいでしょうか?」

 

 何この政威大将軍。

 

「は、恥じらいというものは無いのか!?」

 

 真耶さんは真っ赤になって俺の胸から手を離す。恥じらいも何も……そっちの将軍にも言いなさいよ。

 

「男ですからねぇ。……流石に下は勘弁してもらいたいですけど」

 

「結構だ!!」

 

「マサキ。コレをお願いできますか?」

 

 渡されたのは書状。手紙とか簡単なものではなく、書状だ。難しいことが長々と書いてありそうなため読まないが、政威大将軍の印が押されている。

 

「昨日お話しいただいた件です。お願いできますか?」

 

「了解しました。少しの間だけ不知火をお借りできますか?」

 

「真耶さん」

 

「かしこまりました……また戻ってくるのだな?」

 

 そりゃあ、不知火返しに戻るけど……何で確認した?

 

「月詠さんは中尉ですか? 妹さんいましたよね? そっちは中尉だったと思うんですが」

 

「む? あぁ、従妹だ。従妹の真那の階級は中尉だな。私は少し前に大尉になった」

 

 俺は「それは、おめでとうございます」と伝え、ふと、分かりやすいなと思った。

 

「あ、そうそう もう一つだけ。悠陽」

 

「はい」

 

「悠陽に政治的権限を戻すように出来るか?」

 

「私だけでは難しいでしょう。ですが……」

 

「榊首相に働きかけよう。現状から言って色よい返事は頂けるはずだ。元々、そういう話も出ていたからな。政治は政治家に続けてもらい、最終的権限は悠陽殿下にあられるようにな」

 

「それは好都合。じゃあまた行ってきますよ~」

 

 

 

 

 

 不知火の中で、俺は軽い吐き気に襲われていた。

 

 サイバスターとの乗り心地の違いで乗り物酔いなんて単純な理由じゃなかった。それで酔うと言うならXM3などのテスト段階で何回も吐いているはずだ。

 

 

 吐き気の原因はハイヴ内のBETAだ。あの時、俺は集中が切れた瞬間に戦車級にまとわりつかれた。一瞬焦ったが、サイフラッシュで吹き飛ばそうとした時に俺の目はソレを捉えて―――。

 

 サイバスターがわずかにダメージをもらっていた。喰われていたのだ。しかし、不幸中の幸いと言うべきか、サイバスターの改造はMAXだ。1匹に齧られてもダメージは1%以下だ。数百匹に齧られてやっと1%ぐらいだろうかという程度のダメージ。

 

 しかし、俺はモニターを覆い尽くす戦車級の姿に戦慄を覚えた。サイバスターの中が棺桶の中だと思った。もう一度齧ろうとする戦車級の口を見て、―――俺は笑った。

 

 ―――(こえ)ぇ……。

 

 表情はかたく、目から光は消え、口元だけに笑みを浮かべ、その内心は恐怖が支配していた。

 

 音が聞こえた。小さくカチカチカチカチ……と音が聞こえた。

 

 恐怖から自分で鳴らしている歯と歯が鳴らしている顎の震えだった。

 

 次にシロとクロが大声で俺を呼んでいるのが聞こえた。

 

「大丈夫ニャマサキ!!」

「落ち着いてマサキ!!」

 

 言われるがままにした。

 

 取りつかれても、齧られてもダメージなんてほとんどない大丈夫だと。

 

 目を閉じて深呼吸をしろと。

 

 サイフラッシュを使えと。

 

 込める魔力(プラーナ)も、敵の数も、範囲も、何も気にしないでサイフラッシュを呼吸をするように思い描くだけで良いと言われ、俺は項垂れたまま頭の中で(消えろ(サイフラッシュ)!!)と何度か唱える。

 

 もう大丈夫と、もう大丈夫だと何度か言われる。

 

 ハイライトが消えた眼を開くと、ハイヴ内とだけ分かる状態が映っていた。

 

 暗い暗いBETAの巣。それを薄らと緑色に照らすのは、サイバスターのスラスターから出る光の粒子だ。

 

 サイバスターは敵を倒した事により回復しきっていた。俺はBETAの反応が襲ってくるまでの間、膝を抱えて震えた。

 

 数分だったと思われる。BETAは再び群れをなして襲ってきた。正面からカウントオーバーの数が、地面からも近寄ってくるであろう震源が感知される。俺は精神コマンドの気迫を重ね掛け、マイナスになっていた気力を一気にMAXまで持って行く。

 

 ―――殺す。それしか頭に浮かばなかった。

 

 今度は触れさせる事もなく一匹残らず殺して進み、しばらくして反応炉を破壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ーィン、ガシャン。

 

 俺は借りてきた不知火から降りて敷地を歩く。

 

「マサキ歩かにゃいほうが良いニャ」

「オイラもそう思うニャ、近くの人に聞いた方が……」

 

「なんでだよ? 歩かないと見つけられないだろ?」

「「方向音痴だから」」

 

「ぐっ、この猫どもめ……し、しかしたまには貴様らの意見も聞いてやろうではないか。なぜなら俺は寛大な心を持っているからな」

「寛大ニャ心は知らニャいけど、方向音痴の感性も持ってるんだけどね」

 

 いつもの会話だ。それがありがたかった。おれは考えすぎないように歩みを進めた。

 

 

 

「……すまないが沙霧尚哉大尉はどちらかな?」

 

「は? ……失礼しました! こちらです!」

 

 階級章見てから反応するの止めてくれないかな……無理だよな。

 少し歩くと車があり、それに乗せてもらいここの基地の宿舎へと向かってもらった。

 

 

「国連軍の中佐殿が私に何用ですか?」

 

 沙霧は俺の姿を一瞥すると、怪訝そうな顔を浮かべながら質問してきた。

 

「昨日の件が堪えているのかな? 沙霧大尉?」

 

「その声は、昨日の!? 貴殿は一体どういうおつもりか!? あの戦術機は一体……!!」

 

「まぁ落ち着けや大尉。殿下からの手紙を預かってきた」

 

「殿下から!?」

 

 ―――数分後。

 

「確かに殿下からの書状だ。しかし……」

 

「クーデター止めろって書いてあんだろ? わざわざ書いて貰ったんだから言うとおりにしろよ」

 

「書いてもらった? 海堂殿は殿下とどのような関係なのだ!?」

 

 俺の名前は書状に書いてあったらしい。

 

「昨日会ったばかりで、名前で呼び捨てにする仲だ。んなことはどうでもいいから。どうすんだよ? クーデター起こすなら、俺は手加減なしで止めるぞ?」

 

「雪は降らねばならない……」

 

 そう、沙霧を代表とするクーデターグループは自分達を【雪】と称する。汚れきった大地に雪となり降り積もり、陽が昇れば溶けて汚れを洗い流す。つまり、榊首相などの政治権限により、悠陽の考え方を汚したものを暗殺し、権限を悠陽に戻す。そして、自分達は処罰されるというのだ。汚れは今の政治。雪は沙霧達。陽は悠陽殿下。というわけだ。

 

「随分身勝手な言い分だな。殿下のため~とか言って、結局のところ悠陽を困らせてるじゃねーか」

 

「しかし! そうでもせねばこの国は……!」

 

「それにな、お前のところにアメリカのやつも入ってるんだ。利用されてオシマイだ」

 

「なっ!? 嘘を申されるな! 我が同士は全て志を一つとし……!」

 

「他人の心なんて誰にも分からない。違うか?」

 

「……それでも。あの国賊共は消さねば……」

 

「頭の固い奴だな~。近いうちに悠陽に権限が戻る話になってるんだが?」

 

「それは本当なのですか!?」

 

「悠陽は政治に関わらないが、最終権限は持つ。今より良くなるはずだ。安心したか?」

 

「……しかし、それでも今までしてきた事に対する……」

 

「はぁ~、面倒くさいなお前。BETA滅ぼした後に考えろよ。今年中に地球から消す予定からさ~」

 

「何を言っているのですか?」

 

「聞いてないか? さっきカザフスタンにある【エキバストゥズハイヴ】が落ちたのを」

 

「聞いてはいますが、誤報の可能性が……」

 

「ねえよ。ちゃんと反応路を潰してきたんだから」

 

「……海堂中佐……あなたは一体」

 

「今は控えろ、その血は人類のために流せ。生き残ったら日本のために流せ。多分書状にもそう書いてあるだろう」

 

「……はい」

 

 ふぅ、説得って俺には向いてないんだな。よくわかったよ。

 

 

 

 

 

 

 コンコン

 

「ただいま戻りました~」

 

 俺は窓から3度目の侵入を成功させた。

 不知火を返して、じゃあまた会う時があれば、と分かれようとしたら……。

 

「斯衛に入らぬか?」

 

 真耶さん。どーしちゃったのよアンタいきなり。

 悠陽も何か言ってやんな!

 

「私も賛成です。マサキいかがですか? 私のそばで守っていただけないでしょうか?」

 

 あるぇ~。

 味方がいない。

 しかし、帝国軍からの引抜き(ヘッドハンティング)とは誰もが喰い付く内容だ。でもね―――。

 

「謹んで……お断りします!」

 

「何故だ!」

 

「横浜基地に仕事も残ってますので失礼しま~す」

 

 俺は窓から飛び降りてサイバスターで基地へと向かった。横浜基地でのんびりやるさ。……今は、今は落ち着く時間が欲しい。

 

 俺の手にはまた震えが来ていた。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 煌武院悠陽・月詠真耶

 

「行ってしまいましたね」

「えぇ……まさか断るとは……あ、消えた」

 

 窓際で不可視モードになったであろうサイバスターを二人は見送っていた。

 

「私に魅力がなかったからでしょうか?」

「それは有り得ません殿下」

 

「次に来たら……真耶さん」

「はい。鎖と手錠を用意しておきます」

 

 二人の表情は本気の笑顔だった。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

 さて、サイバスターの調子が微妙に悪いのは何でだろうか……?

 さっきからスラスターの調子がおかしく、出力が上がらない。

 クロとシロは口を揃えて分からないと言う。

 

『あ、それはね。あんたの調子が悪いからよ』

 

 突如、女神の説明コーナーが始まった。

 

『精神的にまいってるのよあんた』

「別にもう何でもない。……サイバスターはいつまでこの状態なんだ?」

 

『あんたが大丈夫になるまででしょうね。ちゃんと休みなさいね。それにサイバスターに乗る必要性は今は無いでしょう』

 

「まぁ……データの取り出しだけ出来ればしばらくは……」

 

 それだけ言ってフレイヤの声は消えた。

 

 俺は自分自身に対して溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪横浜基地≫

 

「マサキ! どこ行ってたんだよ! 模擬戦やろうぜ!」

「XM3の機動で質問がありまして」

「マサキ、不知火を改修する話をしたいのだが……」

「マサキ! どこの女のところ行ってたの!?」

 

「何だ何だ?」

 

「みんな中佐がいないから心配して待ってたんですよ」

 

「「「「心配してたのは中尉(唯依)だけ(でしょ?)(だろ?)」」」」

 

「海堂ぉ~? 私に話すことあるわよねぇ?」

 

 え? 夕呼先生に? 無いよ? 出かけるって事前に言ってあったじゃん。

 

「あ、いたっ、いだだだだだっ!!」

 

 俺は耳を引っ張られて執務室へ連行されていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ハイヴを落としたのはアンタね!?」

 

「Yeah~!」

 

 スパーンッ!

 

「サイバスターも持ち出したわよね!?」

 

「of course!」

 

 スパーンッ!

 

「ハァハァ……まぁいいわ。それなりのモノ持って帰ってきたんでしょうね?」

 

「落としたハイヴ内のデータ完全版と~。BETAの死骸を戦術機へ流用する案ですね」

 

「ハイヴ内の完全版!? 過去の『ヴォールク・データ』も目じゃないわ!!」

 

「隅々まで飛びましたからね~。フェイズ5までのハイヴ攻略の助けになるでしょうね」

 

「よくやったわ! で? BETAの死骸がどうのってのは?」

 

「レーザー属種のレンズと突撃級の殻の一部が使えるかな~って思いまして、少し切り取って持ち帰ってきました。最高の衛士には最高の機体に乗ってもらいたいですからね」

 

「白銀のこと? 買い被りじゃないの? 衛士としての腕はアンタの方が上でしょう?」

 

「ん~どうでしょうか。もしそうだとしても、俺の中ではタケルが世界最高の衛士ですから。まぁ完全にワンオフの機体でブラックボックス扱い予定ですね」

 

「まぁBETAまでも素材に使われちゃあね……」

 

 コンコン

 

「どうぞぉ」

 

「失礼します。資料をお持ちしました。海堂中佐お帰りなさい」

 

「や、ども~」

 

 俺は敬礼してくるピアティフさんに軽い敬礼を返してみせた。ピアティフさんニコリと笑みを浮かべて「では」と、それだけで去って行ってしまう。

 

「ふ~ん。海堂……こいつ等の事知ってる?」

 

 

 夕呼先生が見ていた資料は俺に渡される。俺が見せられた資料には、ソビエト連邦陸軍のフィカーツィア・ラトロワ中佐と、ナスターシャ・イヴァノワ大尉。統一中華戦線軍の(ツイ) 亦菲(イーフェイ)中尉の顔写真付きのモノだった。他にも技術者とかもいるみたいだけど、そっちは見た事も聞いた事もない人達だ。

 しかし、衛士に関しては知ってるも何もまたかよと思ってしまう。TEキャラ3人だ。まぁ、流石にこの基地に来るとかはないだろう。来てももうやる事がない。いや、あると言えばあるけど、今いる人材で何とかなるのだから、他の人材不足の国連軍基地に回した方が良いに来たっている。合同訓練とかなら分かるが、今度は何だと言うのか。

 

 

「一応、パイロットだけは分かりますね」

 

「この基地に配属されるわ。そろそろ来るわよ」

 

「何で!?」

 

「ソ連はシェスチナとビャーチェノワに機体を届けに来るみたいね。まぁそれは名目上の事で、実際は前のところで眼の上のたんこぶだったってことみたいね。どこの国もやる事は同じね」

 

 あぁ二人で乗る戦術機。複座型の戦術機ね。そして、人間社会だとどこの世界に行っても気に食わない人間だとかは眼の届かないところに追いやりたい気持ちは変わらないと言う事らしい。その人が正しくても、有用でも、気に食わなければ近くには置いておきたくないか……。人類の存亡が関わっていても変わらないのが人の感情か。仕方ないと言えば仕方ない事なのかもしれない。まぁ今回は優秀すぎる衛士なわけだし、こっちにしてもありがたい事だからいいが、第三者から見ればくだらないことだよな。

 

 ……だからって、何でこの基地なんだよ。女神の仕業かこれ。

 

「統一中華戦線の方はこの基地でテストパイロットをさせろ。とのことよXM3の成果ね」

 

「まぁこっちでは情報は漏れないようにしますよ。流してもいいようになったら言ってください」

 

「よろしく頼むわ……さて、で? 何があったの?」

 

「何があったって? さっき話したまんまですけど?」

 

 俺の言葉に夕呼先生は軽く溜息を吐くように呆れて見せた。

 

「(マサキ、話した方がいいニャ)」

 

 クロが俺にそう言った。俺は少し考えて、話すことにした。

 

 

「その……ハイヴ内で、BETAと戦った時に……怖くなりました」

 

 茶化すでもなく、夕呼先生は聞き続ける姿勢をとる。

 

「いやぁパニックでしたよ。前に海岸沿いでBETAと戦いましたけど、群れに覆われた事はなかったですからね」

 

 笑いながら話しても夕呼先生は笑わない。先生は立ちあがり、つまらなそうに口を開いた。

 

「私は科学者よ。慰めの言葉なんて持ち合わせてないわ」

 

 そりゃそうだ。そんな言葉は別に期待してない。何とかするのは結局俺だ。声に出して言った分は楽になったところもあるだろうからそこは感謝だ。そう思っていたら、夕呼先生は言葉を続けた。

 

「……ただ、科学者として副司令として言うとしたら、あんたは絶対必要な存在なのよ。……おかえりなさい」

 

 最後には笑みを浮かべる夕呼先生の姿に俺は小さく「ありがとうございます」とだけ答え俯いた。頭を下げたからだろう。心臓よりも下に来た頭は血が昇り、俺の顔をめちゃくちゃ熱くしていた。

 

「(よかったニャ、マサキ)」

「(うっせ……ありがとよ)」

 

 それから、取ってきたデータや、帝国軍に行ったことなどを包み隠さず話した。

 

 

 

 そして、細かな報告を続ける内に俺は気づく。

 

 ……あれ、何か忘れてないか俺。

 

「……あっ! 唯依姫へのお土産忘れた!」

 

「あら、それなら抱きつけば良いじゃない?」

 

 何を言ってるんだ。怒られるだけじゃないか。

 

Side out

 

 

 

 

 




感想などは随時受付中です。




◆暴れん坊将軍! 冥夜の姉の悠陽。タケルが冥夜持って行くなら、悠陽はマサキに付けておこう。先に会ったもん勝ちです。オマケで真耶さんも付けときます。


◆月詠 真耶(まや)さん。文字が似ていてアレだから真那(まな)さんと差別化を図るために、階級も差別化されてます。


◆ルナとアルテミス。黒い方がルナ。白い方がアルテミス。あっちは両方とも女の子だっけ? 両方とも額に三日月のマークがある。


◆サイバスター持ち出し事件! 結果として、マサキはBETAに対する恐怖を覚え、全力全壊で操縦する事が出来なくなりました。と言う設定です。気力MAXなら何とかなるけど、根本の恐怖心は消えてません。


◆唯依姫へのおみやげ。 結局なにも用意せず、夕呼先生の指示も無視です。何を貰えるんだろうという軽いウキウキワクワク感が唯依姫にはありますが、イーニァがマサキに「オミヤゲは?」と聞いた時に「あー……(スッ)突撃級の殻だぞぉ~……」と言って逃げるイーニァを追いかけ回し始めたのを見て、「あ、忘れたなコイツ」と、溜息を吐いて諦めた。という裏設定。長くなりすぎだと思い排除。

今回は割と無駄にシリアス入れてみた。無駄に入れてみた。




では、また。


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09

こちらでも、大変お待たせいたすぃました。

色々あるんですよ。生きてるとねw



 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

 基地に戻るとタケル達207小隊はシミュレーターに乗っていたようで、更に本日の早朝、吹雪が搬入されているとの事だ。これは弄らずにしておこう。原作通りにタケルがXM3の基本概念を思いつくまで放って置こう。いや、もう直接言いに行くか。

 

「やぁ、207小隊諸君。お待ちかねの吹雪はどうかな?」

 

 俺は人差し指と親指部分だけ指抜きとなったオリジナル軍手をグッパーグッパーと着けて委員長たちに軽く挨拶した。指先の感覚がモノを言うなんてことはないが、仕事がしやすくなるのは確かだ。真似してる奴らも結構いる。

 

「マサキ……整備(メカニック)だったの?」

 

「まぁね~しっかり整備してやるからな」

 

 俺は手を振って唯依姫と合流した。

 

「おは~唯依姫、来たね武御雷~」

「お、おはようございます。何故ここに将軍専用機が……?」

 

 あぁ、唯依姫は知らないのね。まぁ普通は冥夜の存在は知らないのかな。

 この武御雷は唯依姫が乗る武御雷とは格が違う。見た目は色が紫で性能は基本的に同じだ。

 

 元々、この武御雷は将軍家の人間、もしくはそれを直衛する人間が乗る機体であり「将軍家の人間は前線に立って模範となるべし」との思想から、 格闘戦能力(とくに長刀)を重視した設計で、他の機種と比べ機動力などがすばらしく秀でている。 その中で乗り手の偉い順でカラーリングが変わり、この紫であるType-00Rは将軍のみが搭乗を許される特別仕様機なのだ。

 

「唯依姫の山吹色の武御雷を並べてみようか」

「そんな恐れ多いこと出来ません!!」

 

「あれは特別仕様なのか」

「そうみたいね」

 

 タリサとステラはその色の意味を深く考えずに行ってしまった。あっちは今日も模擬戦の後に実機演習。そして、データをまとめた後にミーティングだ。忙しいのはどこも同じだ。

 

 

 

「冥夜様」

「月詠……いえ……月詠中尉……何でしょう?」

 

「ッ 冥夜様! 私どもにそのようなお言葉遣い―――おやめください!!」

「そうです! 斯衛の者はいかな階級にあっても―――」

「将軍家縁の方々にお仕えする身であります!!」

 

 月詠中尉と3バカ……神代(かみよ) (たつみ)(ともえ) 雪乃(ゆきの)(えびす) 美凪(みなぎ)は帝国斯衛軍の軍服に身を包み、冥夜に頭を下げる。―――うん、やってるね。

 

「冥夜様……武御雷をご用意いたしました。なにとぞ……」

 

「己の分はわきまえているつもりだ。一介の訓練兵には吹雪でも身に過ぎるというもの」

 

「おやめください! 冥夜様には―――」

 

「くどい! すぐに搬出いたせ! 他の者が何事かと思うであろうが!」

 

「―――この武御雷は冥夜様の御為にあるのです。冥夜様のお側に置くよう命ぜられております。どなたのお心遣いかは……冥夜様もご存知のはず。どうかそのお心遣いを無下になさいませぬよう……」

 

「……勝手にするがよい」

 

「ご承諾、感謝いたします。では我々はこれにて……」

 

 

 月詠中尉は去り際に、タケルを睨み付けるかのように一瞥していった。

 

 

 

 

 207小隊はタケル以外が戻っていく。午前の訓練の準備かな?

 

「御剣冥夜……殿下に似ておられる……」

 

「そりゃあ双子だからね」

 

「そうなんですか!? 双子だなんて……聞いたことが……」

 

「あ、拙かったっけか? 今の聞かなかった事にしといてね」

 

「……はぁ」

 

 唯依姫は『Need to know』と理解したのか気持ちを切り替えたようだ。

 

「おょ、タケル。ここにいると怖いお姉さんが来るぞ~」

「マサキ……どこまで知ってるんだか」

 

 基本的に全部さ。

 

「ここで何をしている」

 

 ほら来た。月詠さんだ。

 

「月詠さん……」

 

「名を呼ぶ許しを与えた覚えはないがな……白銀武。何をしていると聞いている」

 

「さっき中尉がオレに何か言いたそうでしたからね」

「死人が何故ここにいる?」

 

 そう、この世界の本当のタケルは既に死んでいる。並行世界(パラレルワールド)のタケルがこの世界に来てしまっただけだ。しかし、死んだ人がいるというのは意味が不明なわけで、冥夜に近づく不審人物として見られているわけだ。

 

 まぁそんなことはどうでも良いんだけどね。オレとしてはあの機体を改造したい。

 

「あの~取り込み中すみません月詠中尉? あの武御雷、改造していいですか?」

「貴様! 愚弄する気か!! ……ん? その声は……」

 

 

 半分本気ですが? そうだな……とりあえずはブースター付けて、その分だけGキャンセル強くして、ライフル強化もしたいなぁ。

 

 

「中佐駄目ですよ!」

「中佐? ……その出で立ち。もしや、海堂正樹中佐ですか?」

 

「なぜ敬語? そうですけど?」

「失礼しました。殿下よりコレを預かっております」

 

 おぉ、月詠さんが俺には怒らない。なるほど、悠陽とか月詠大尉の方が手を回してくれたんだな。そして、渡されたのは沙霧大尉に渡した時よりも少し分厚い書状。また長そうな文面で、加えて難しい文章でよく分からないよ。何々? 僕と契約してまほ……。

 

「是非とも斯衛軍に来て頂けないかと、殿下よりの書状です」

「え~、断ったのに?」

 

「「「「「なっ!!?」」」」」

「ん?」 「な、何だ?」

 

 この場にいたオレとタケル以外が騒然とする。

 

「主任が斯衛軍の誘いを断ったって!?」

「主任すげーっ!!」

「嘘でしょ!?」

「殿下の誘いを!?」

「殿下直々にか!?」

 

「こらー聞き耳立ててないで仕事しろーっ!」

「いやいや中佐! 何をしたか分かってるんですか!?」

 

 俺は軍手に包まれた鋼の拳をブンブンと振って檄を飛ばすが、突然 唯依姫がオレの肩を掴み前後に揺らす。なになに!? や~め~て~。

 

「だ、だって俺の居場所はここだけだろ? なら帝国軍に行ってもな~」

 

「「「「「主任……」」」」」

「中佐……」

 

 

「まぁ悠陽に『ごめん』って伝えといてよ」

「「「「「呼び捨て!!?」」」」」

 

「あぁそう呼んでくれって言われて……ってサボるなーっ!! 働けお前らーっ!」

「いやいや中佐! 何をしてるか分かってるんですか!?」

 

 また前後に揺らされる。や~め~て~。

 

「……だって呼び捨てにしないと睨むんだもん」

「だもんって……」

 

 

「殿下が下のお名前を呼び捨てで呼べと!?」

「主任すげーっ!!」

「頷ける点はあるがな……」

「あの分厚い書状の返事に3文字かよ!!」

「しかも手紙じゃなく伝言!!?」

 

「月詠中尉は俺のことは聞いているのにタケルの事聞いてないの?」

 

「いえ聞いておりませんが、海堂中佐はこの者をご存知なのですか?」

 

 あるぇ~? 俺ちゃんと説明したよな~? してなかったっけ? ……あ、してねーか。

 

「国連軍のデータベースを改竄してここに潜り込んだ目的は何だ!」

「城内省の管理情報まで手が回らなかったのか? まさか追求されないとでも思ったか!!」

 

 あ、ちょっと目を離したらまたタケルが攻められてる。

 いや~、しかし下から見上げると、この武御雷がグラン○ンに見えるんだよな~。スマートなグラ○ゾン。紫色だし……。グ○ンゾンにしちまうか? いや、流石に無理だな。うん無理。そんな技術情報は俺の脳内には無い。ブラックホールエンジンなんて知らんのよ。あ、でも違うエネルギーを利用すれば……例えば縮退路(しゅくたいろ)を形成して、いや、でも資材もないし無理だよな。よし、諦めよう。無理なモノは無理だ。しかし、出来る限りの性能アップはやってしまおう。

 

 

 

「冥夜様に近づいた目的は何だ! 返答次第によっては、今この場でもう一度死―――」

「―――何をしている!! 月詠! 神代、巴、戎! まだいたのか? ここで何をしていた!」

 

「冥夜」

 

「冥夜様をそのように呼ぶなどっ!」

「よい。私が許した」

 

「冥夜様は、この者がどのような男かご存じないのですか!?」

「知らぬ……だが、ここではそれでよい。もうよい、下がれ」

 

 おぉ、俺が武御雷に見惚れている間に話しが進んどる! グラン○ンは置いといてアッチに助太刀に行くか? いや、それもいっか。タケルの問題だからな。

 

「そんじゃ早速調整するぞ~。作業に取り掛かれーっ」

「「「「「はいっ!!」」」」」

 

「主任~。XM3はまだ搭載しないんですか?」

 

「あぁ少しだけ待ってくれ。唯依姫の武御雷には搭載していいけど」

 

「了解です……あの、許可貰ってますよね?」

 

 もちろん。そこまでなら許可貰っている。そこまでならな。

 

「チーフ。ソ連から戦術機が入ってきましたよ」

 

 あぁ、クリスカとイーニァ専用で複座型のやつだな。チェル何とかってやつ……っておい!

 

「1機だけじゃないのか?」

 

 振り向いた先の、少し離れた格納施設には3、4、……目の前にはまだ搬入されていく機体が見える。聞いてたのは複座型の搬入だけのはずだ。仮にラトロワさんやターシャが乗るとしたらこっちの不知火とかを乗りやすいように改良して乗せるだけだと思ってたんだが……ん、違うのが更にきた。後ろに続くアレはソ連の機体じゃない。

 

「部長~。統一中華戦線軍からの搬入もありま~す」

 

 あぁ、あの中国娘か。これが終わったら弄るか。

 

「中佐。私は一度受付に行かなければなりませんので、失礼します」

 

「あいあ~い」

 

「変なことしちゃ駄目ですよ?」

 

 何をするってんだ俺が。少しだけだよ! そう少~しだけ改良を加えて……そう! 改良だよ! 『より良く改める』と書いて改良だ。良くするんだから良いじゃない。今だって割とお手隙ですし、今なら緊急時のブースターもセットでお付けして……って、中華の搬入が終わったと思ったら、まだ来るぞ。

 

「なぁアレは?」

 

「ソ連の追加だそうですよ」

 

 ……ってことはラトロワさん達も機体持参確定で、更に予備機体まで持ってきたのか。太っ腹だな。技術力が欲しいってのは俺からしたらよく分からん感情だけど、その辺の裁量は夕呼先生に任せよう。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 横浜基地へ向かう車内

 

「中佐。横浜基地が見えてきました」

 

「そうか、ありがとうターシャ」

 

 資料を読んでいたフィカーツィア・ラトロワは顔を上げて窓の外を見た。

 極東防衛の要と言える基地。横浜基地。

 彼女の目から見る日本と言う国は、愚かな国家に見えていた。

 

「資料にある海堂正樹中佐は18歳らしいですね」

 

「親の七光りか何かだろう。若い者を祀り上げて国を維持しようとしているのか知らんが、若造に中佐などと言う重責を与える国が長く持つはずも無い」

 

 これがラトロワの目に映る愚かな国の答えだ。

 しかし、ラトロワの副官を務めるターシャと愛称で呼ばれる少女はナスターシャ・イヴァノワ。十代半ばの少女だが大尉だ。それだけ優秀であるといえる。ラトロワ自身、ターシャの事は認めているし信頼している。しかし、資料にある男だけは信用できなかった。内容がほとんど無いからである。

 

 以前はどこの軍にいたのか? どれほどの衛士なのか? どれほどの戦歴があるのか? 何れも答えは無いだろう。資料には顔写真も無く、新型OSの開発担当者としか書いていない。恐らくこれも大したOSではないだろうし、他人の手柄を貰ったのだろう。そのようにラトロワとナスターシャは考えていた。

 

 車内には技術屋なども数名乗っているが、皆一様に表情は落胆の色が薄っすらと見える。元いた場所でやっていた方が……と、考える者ばかりだった。しかし、彼らの考え方も表情も、その心臓の鼓動でさえも、数時間先に変貌を遂げることになる。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 横浜基地へ別ルートから向かう車内

 

「まだ着かないの~?」

 

 目に映るのは廃墟廃墟廃墟……何もない。それがBETAの侵攻と、それを食い止めるために戦った衛士たちの戦場の成れの果て……そうと知っても、それに対して敬う気持ちは少し欠ける。自国の事ではないからだ。BETAを殲滅するなら全世界が力を合わせて……これには当然賛成するが、そう簡単には行かないのが人間だ。

 

 少女は頬に手を当て、肘は窓ガラスの淵に置いて、頬杖をついている。彼女の名前は『(ツイ) 亦菲(イーフェイ)』階級は中尉だ。統一中華戦線軍では『暴風(バオフェン)試験小隊』の指揮官を務める彼女は、近接格闘戦の腕は一流だ。

 

「あ、見えてきました中尉殿」

 

 そう話すのはここだけの登場の名もなき運転手だ。高台にあるその基地を目視で確認すると後部座席にいる中尉にバックミラーで目配する。

 

「あ~あれね。……はぁ」

 

 イーフェイは溜息をついた。正直な話し、何故日本に来なければならなかったのだろうか。資料を読んでも『新型OS』のことと、名前ぐらいしか明かされていない『中佐殿』のことだ。彼女は階級・年齢・新型OSの開発者という限られた情報から人物像を想像する。

 

そこには太って汗を流しながらゴミだらけの部屋に引きこもり、パソコンに打ち込むだけの姿が浮かんだ。

 

「……キモ」

「え゛?」

 

 運転手は自分のことかと少し汗を浮かべる。

 

 もう一人の人物像も浮かんできた。そこには薬品で汚れまくった白衣に身を包み、ガリガリに痩せ細った手で異様な空気の中で研究を続けるメガネがいた。

 

「……ウザ」

「う゛?」

 

 運転手は少し胃が痛くなり始めた。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「横浜基地へようこそ中佐殿」

 

「うむ」

 

「横浜基地へようこそ中尉殿」

 

「はいはい」

 

「篁唯依中尉であります。何かございましたら私にご報告ください」

 

「タカムラ……? では貴殿が資料にあった海堂中佐の補佐官か。海堂中佐とはどのような人物だ? 資料では経歴も載っていないから情報が少なくてな」

 

「人物像……でありますか。掴みどころのない方です。会って頂いたほうが早いかと存じます」

 

「そうか、すまなかった。では明日からの正式参加と言う事でいいんだな?」

 

「はい。なので本日は自由に過ごして頂いて構いません。案内が必要であればご用命ください。ではこの者達に部屋まで案内させますので、よろしくお願いいたします」

 

 受付を通り、ソ連軍と統一中華の衛士、技術開発担当、整備担当の者たちは部屋に案内されようとしていた。篁中尉はそれを見送った。

 

 

 

「あ、アタシの殲撃(ジャンジ)届いてるみたいね」

 

 そう言ってツイ・イーフェイ中尉は窓から見えた格納庫に歩みを進める。

 

「我々も少し見ていくか。案内中にすまない、少し寄り道をするぞ」

 

 そう言ってラトロワ達も格納庫に足を向けた。

 

 

 

 

 

「あ、ねぇねぇそこのあなた。この基地にある新型のOSって凄いの?」

 

 話し掛けられたのは長い銀髪の少女だ。整備服と着て、その同色の帽子を被り、黒いネコと白いネコを連れてバインダーの資料と睨めっこしてニヤニヤしたり、悩んだり、何かを思いついたりとしているようだ。心なしか猫2匹は溜息でも吐きたそうに見えなくもなかった。

 

 そんな少女は声をかけられると顔を上げ、ツイ・イーフェイ。また後ろから少し遅れてやって来ているラトロワ達を見て少し驚きに見える表情をして返事をした。

 

「あ、あぁOSね。ん~、最初は使い辛いだろうけど、慣れれば凄いよ」

 

「チーフ。ココはどうするんですー!?」

 

「あ、ごめーん! 今日はA-01部隊の不知火の調整だけにしよう!! 戻してー!!」

 

 管制ユニットから整備兵の声が飛んできて、少女は両手を口に添えて大声で返答する。

 

「会長ーっ! ここにいましたか、篁中尉の武御雷なんですけど、ここが抜けてるんですけど……」

 

 

「あぁ、書き忘れてた ゴメンゴメン。じゃあここの設定を変更して、それで再起動かけてみてよ」

 

「30ですか?」

 

「ん~Dの28かな?」

 

「了解です試してみます。おーい! D-28に変更して再起動!!」

 

「店長~店長~!」

 

「はいは~い! あ、そこケーブル気をつけてね~。データ移行中だから、抜けると飛んじゃうからね~」

 

 少女は様々な呼ばれ方をしながら、臨機応変に質問に答えていく。

 

「ねぇねぇ、チーフとか店長とか会長って?」

 

「あぁ好きに呼ぶように言ってあるから、好きに呼んで来るんだよ」

 

「あはは」と軽く笑い、少女は照れたそぶりを見せる。

 

「ここの基地はこの様な子供まで整備として働かせているのか?」

 

 

 どの辺りから話を聞いていたのかは分からないが、遅れてやってきたのはラトロワ達だ。目の前の整備服姿の少女に向けて落胆の声をあげた。

 

「ははは、こう見えて結構力ありますから」

 

 と、敬語になった事にイーフェイは疑問を持つが、会話の中ですぐに忘れた。

 

「私よりも小さいのに凄いわね……」

 

 ナスターシャ大尉は少女を撫でながらそう言った。

 

「あ、私も撫でていい? 子供整備兵なんてカワイイんだけど」

 

「あはは、子供って……あ、新型のOSですけど、明日デモンストレーションの予定ですから楽しみにしててくださいね」

 

 

「うわっ! 予定まで把握してるの!? 偉いね~」

 

「バカにし過ぎだ中尉。悪気はないだろうがこの少女とて軍人だ。自分の所属する部門のスケジュールぐらい把握しているに決まっている」

 

「し、失礼しました! そっか、それもそうよね……にしてもこんな子供まで扱き使ってるような海堂中佐は絶対に変態ロ○コン野郎よね」

 

 

「あ、それは俺で……」

 

「あ、駄目だよ? 『俺』なんて言ったら。勿体ない」

 

 先ほどまで照れ笑いをしていた少女は苦笑いに変わっていた。

 瞬間、周囲の空気が冷たくなったように感じた。この基地の整備兵たちが作業を止めてラトロワ達を睨み付けるかのように視線を投げつけているからだ。先ほどまで活気のあった整備兵の声は静まり返り、機械の動作音だけが格納庫に響いていた。

 

「な、何よ?」

「どうしたんでしょうね?」

 

タタタタタタタタッ!

 

「マサキを馬鹿にすんなーっ!!」

 

 そこにやって来たのは強化装備を身に着けたタリサ・マナンダル少尉とステラ・ブレーメル少尉だ。模擬戦闘訓練が一段落したらしい。

 

「わっとと、タリサ落ち着いて」

 

「落ち着いてられないわね。マサキを馬鹿にされて冷静でいられるわけないでしょう?」

 

「ステラも。すみませんラトロワ中佐。意外と結構好かれてた様でして」

 

「「意外!?」」

 

 強化装備の二人は少女に驚きの声を向けながら制された。

 

「いや、我々もこの基地に着たばかりで勝手な評価をしてしまった。それだけ好かれているならばそれなりの人物なのだろう。しかし、上官を呼び捨てにするのは感心しないな。作業の邪魔をしてすまなかった」

 

「いえいえ」

 

 ラトロワ中佐はタリサとステラの返答も聞かずに踵を返して去っていった。他の派遣グループも後に続いた。

 

「はい作業にもどれーっ! 手を休めるのは休憩時間! 今は作業に集中!」

 

 格納庫は再び作業の音と声に包まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 格納庫を出ようとする頃、ラトロワは妙な引っ掛かりを感じていた。

 

「……大尉」

 

「何でしょう中佐」

 

「私はあの少女に名前を名乗ったか?」

 

「え? ……階級は会話に出ていたかも知れませんが……名前は、すみません記憶にないですが」

 

 ラトロワは「そうか」と整備服の少女に視線を向けた。銀髪の少女は受付にいたタカムラ中尉に怒られている様子だ。海堂中佐といるとストレスも溜まるのだろう。しかし、あんな娘に当たらなくてもいいだろうに。ラトロワはそう思った。

 そして、『掴みどころのない方です』と、受付時に聞いた補佐官からの評価を思い浮かべ、鼻を鳴らして部屋へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

「マサキ、『意外と』ってどういうことだ?」

 

「いや? 好かれてたんだな~って」

 

「当たり前でしょう!」

 

 おぉ、嫌じゃないけど、なんていうか照れる。アピールに気付いていたとしても嬉しくもあり照れも来るもんだな。

 

「中佐?」

「おわっ唯依姫! どしたの?」

 

 後ろからいきなり声をかけられビックリした。

 

「私の武御雷に何をしたんですか?」

「何って、許可貰ったでしょ? XM3搭載したよ」

 

「……後は?」

 

 す、するどい! 俺は更に背面ユニットに手を加えて、緊急用の試作ブースターを組み込んでいた。他にも武装をちょいちょいと。他にも……見えないところに匠の技が光るような何かが……。

 

「――――あ~シロ少し汚れちゃったかな? お風呂行こうか」

「誤魔化さないでください! 真っ白じゃないですか!」

 

 ん? 何か視線を……ラトロワ中佐か。苦手なんだよな~あの感じ。

 何で来たんだろう。お、行った行った。

 

「どこを見てるんですか!」

「あ、明日を見据える男。海堂正樹です」

 

 

「何を馬鹿なことやってるのよ。海堂、明日デモンストレーションするんですって?」

 

 夕呼先生。ついさっきの話なのにどこで聞いてたんですか? 耳が早すぎます。

 

「やりあうの? 見せるだけ?」

 

「見せるだけですよ。わざわざ持って来てくれた戦術機を壊すことはないでしょう」

 

「あら余裕ね。そんな事よりも聞きたいんだけど、後で執務室に来なさい」

 

「了解です」

「ご案内します」

 

 ふふ~ん♪ 俺が迷うとでも?

 

「「(絶対に案ニャいニャしだと迷うニャ)」」

 

 ……うるせいやい。

 

 

 

 執務室に向かう途中の廊下で月詠中尉を見かけた。

 

「あ、月詠さんじゃないですか。道に迷ったんですか?」

「いえ、中佐と一緒にしないほうが……」

 

 唯依姫が月詠さんにスミマセンと謝っているが。何かがナニカ? そんな唯依姫を手で制して月詠さんは俺に向き合い口を開いた。

 

「一つ質問がございます。殿下より失礼のないようにと厳命されておりますが、お許し願えますか?」

 

「むしろ俺が失礼ですから気にしないでください。何ですか?」

 

「ありがとうございます。では、―――10月22日に未確認戦術機が確認されました」

 

「未確認……戦術機?」

 

 唯依姫は記憶を探っているようで、月詠中尉は一度頷き続けた。

 

「そして海堂中佐は同月23日に、ここ横浜基地に配属となっています。その未確認のパイロットは子供の声でした……そう、中佐のような。そして、未確認戦術機は更に先日、帝国・海外にも確認され、殿下のいる帝都城にも現れたという報告があります。何かご存知でしょうか?」

 

「ご存じも何も、あの時はすみませんでした月詠さん」

 

「っ!? では! やはりあの時の戦術機は中佐の!?」

 

「えぇ、俺の機体です」

「あのデータにあった銀色の戦術機ですか……」

 

 

 唯依姫も知ってるんだね。そりゃそうか。

 

「では……タイミング的に考えて、カザフのハイブが落ちたのは……」

 

 

「月詠中尉そこまで……それ以上は秘密でお願いします。面倒なんで、あ、その未確認戦術機も秘密で」

 

 俺は月詠さんを制止させて、執務室前で唯依姫と別れた。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「篁中尉は知っていたのか?」

 

「いえ、この基地であの戦術機を見たことがありませんし……中佐の機体だと知ったのはたった今です」

 

「そうか……。私もどうこうしようと言うわけではないからな。失礼したことを詫びておいてくれないだろうか?」

 

「お伝えしておきます」

 

 篁唯依は敬礼して月詠真那を見送る。そして、自然と声がこぼれた。

 

「……中佐の事、知らないことだらけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

「海堂正樹中佐ただいま入室しました!」

 

「うっさい。色々言葉遣い間違ってるわよ」

 

 俺は敬礼を解いて歩み寄った。今回はなんざんしょ?

 

「不知火の改良機。弐型を造るんですって?」

 

「えぇ、まぁそっちは基本構想は出来てるんで後回しでも良いんですけどね」

 

「じゃあBETAの装甲殻とかレンズとかは他の機体に使うの?」

 

「そうですね。骨に使おうと思います」

 

「骨?」

 

「戦術機とは異なる戦術機を造ろうかと思いまして」

 

「は? 何それ?」

 

 戦術機は外骨格(モノコック)構造のロボットだ。安く造れて強度が高い利点はあるが、骨格が外側になるので、各関節稼動部の可動範囲や強度に制約が生まれてしまう。そこで人間と同じように骨があって、そこに筋肉や皮があるようにする内骨格(ムーバブルフレーム)にしようという考えだ。XM3で機動性が向上してるんだから更なる性能の向上があるのだ。デメリットで言うなら骨に装甲を取り付ける様になるので重くなるという点だが、そこで登場するのがBETAの突撃級がもつ装甲殻だ。この装甲殻は重くて硬い物質が多くを占めているのだが、軽くて強度は変化なしの物質が含まれているのである。サイフラッシュでBETAを殺した時に割と殻だけ残るように死んでいくので助かる。アレだ。『プ○ラヴォス』の殻だ。殻を攻撃すると大変なことになるやつだ。何? 知らない? 時代かな……。

 

「なるほど、それで骨に肉付けする様に、武装とかを着けるわけね。レンズは何に使うの?」

 

「ビーム兵器とかに流用しますよ。割と軽い物質で出来てるんで助かりますね。ところで呼び出したのは他のことでしょう?」

 

「あら、するどいわね。00ユニットのことよ。確かにXM3は研究を大幅に進められたわ。でもどうしても00ユニットに届かない。何か分かる?」

 

「それについては俺じゃあ話になりませんよ。でも、タケルならこの世界じゃない夕呼先生に会ってるんで会いに行けばどうにかなるかもしれませんよ? どの世界でも先生は天才ですからね」

 

「この世界じゃない私……白銀の『因果導体』」

 

「そうです。えぇと、俺がわかるのは……ホワイトボード借りますね。(キュキュキュ……)こういう図とか理論であります? 俺にはさっぱりなんですけど」

 

「!? よく知ってるわね。それよ行き詰ってるのは! どうしてもそこから先に行けないのよ!」

 

「これをタケルに見せればアイツも思い出しますよ。この世界じゃない、元々いた世界の夕呼先生の授業で見たってね。でもタケルは覚えてないから理論を取りに行かせれば良いんですよ」

 

「流石ね~、いや~助かるわ~。キスしてあげましょうか?」

 

「いりませんよ。それに守備範囲外でしょ?」

 

 俺は執務室を後にした。

 部屋を出ると、唯依姫は窓の外を寂しげに見つめていた。

 

「唯依姫、どしたの?」

 

「ち、中佐! 終わったんですか?」

 

「ん? あぁ、大丈夫? 元気無さそうだけど……」

 

 

「大丈夫です大丈夫です!」

 

「そう? 何かあったら言ってね。唯依姫がいないと俺大変なことになるんだから」

 

 主に迷子。基地内で大遭難。非常食は猫2匹。

 

「「(おいこらふざけんニャ)」」

 

 

「私がいないと……ですか?」

 

「うん。そう大変非常事態です」

 

 俺は笑って言った。

 

「そうですか……仕方ないですね。格納庫までお送りしますよ(別に知らなくても良い。中佐は中佐。中佐も、私も、私の考えも、私の気持ちも、何も変わらない)」

 

 唯依姫も自然な笑顔が浮かんでくる。

 

「(ガーン……呆れられた?)」

「(みたいだニャ)」

「(シロもマサキもおんニャ心が分かってニャいんだから)」

 

 

 

 格納庫で作業割り当てを見直した後、俺はシミュレーターデッキに来ていた。そろそろタケルがXM3を思いつく頃だろう。

 

 シミュレーターデッキに来ると207小隊メンバーはタケルの操縦テクのデータに注目して俺に気づいていない。少し離れたところにヘッドセットを付けて機材を弄っているまりもちゃんを発見した。

 

「まりもちゃ~ん。タケルはいる?」

 

「お疲れ様です海堂中佐。白銀なら丁度出てくるところですよ」

 

 敬礼はいらないっちゅうに。一応されたら返してはいるけど。

 

「少し借りていいですか?」

 

「えぇ構いません。どうぞ」

 

「神宮寺軍曹! すみません少し香月副司令の元へ行ってもよろしいですか!?」

「駄目だ」

 

 俺は今にも駆け出していきそうなタケルを足を引っ掛け、体捌きをしてデッキ内の通路に押し倒した。

 

「なっ! マサキ!?」

 

「えっ!? タケルが投げられた?」

「……嘘」 

「私達なんて二人掛かりでも組み伏せるなんて不可能じゃない?」

「でもマサキさんが押し倒してますよ」

「あのような体格差で信じられん」

 

 ようやくこちらに気づく小隊の面々。

 いかん、引きとめようと思ったら勢い余って倒してしまった。

 

「すまんすまん。少し付き合え、許可は貰った」

「いや、俺今すぐ夕呼先生のところに……」

 

 

「戦術機のことだろ? いいから来い。満足できなければその後に行け」

「いや、もう引きずって、あ、いって、ヤメ……」

 

 

 俺らの後ろではすでにまりもちゃんが残された隊員の指揮を取っていた。

 

「貴様等はこれから吹雪で実機訓練に移るぞ!」

 

「「「「「りょ、了解!」」」」」

 

 

 

 

 

 俺はヘッドセットを付けて管制塔で指示を出していく。

 

「さて、タケル。君が今乗っているのは何かな?」

『何って吹雪だろ?……一体何なんだよ?』

 

「実機訓練と行こうじゃないか。ステラ、模擬戦闘をお願いできるかな?」

『了解。でも良いの?……この前の訓練兵よね?』

 

「良いんだ。その代わり、少しだけ時間をくれ、ステラは10分後に起動してくれ」

『了解』

 

「タケル。ただの吹雪と思ったら大間違いだ。お前の願いの一端がそれに詰まっている。とりあえず動かしてみろ」

『俺の願い? 意味不明だ……よっブ!?』

 

 突然の覚えのない衝撃に肺から息を吐き漏らすタケル。少しレバーを倒したつもりの吹雪が高速機動で壁スレスレまで突っ込み、何とかレバーを戻す事が出来、それを急速回避する。

 

『な……なんだぁ!?』

「良い反応だ。では10分間の準備運動だ。早くなれないと訓練にならない結果に終わるぞ? せっかくの美人衛士の個人授業(マンツーマン)だ。早く果てると呆れられるぞ?」

『あら美人だなんて』

 

 

 

 時間はあっという間に過ぎていく。まぁバグ潰しとかは終わっているし、タケルの3次元機動のデータもほぼそのままにインストしてあるから慣れるのには時間は掛からないだろう。タケルのデータは戦術機の訓練の度にまりもちゃんから唯依姫を経由して貰っている。

 

『すげぇ、こんな早く動けるのか……バルジャーノン以上だ!』

「喜んでもらえたかな? お前が考えた新型OSの性能は」

 

『は? 俺が考えた? マサキが造ったんじゃないのか?』

「そう、造ったのは俺。でも、考えたのはお前。さぁ準備は良いか? 時間だし始めるぞ」

 

 俺は誤魔化しながらステラの方に合図を送る。

 

『マサキ、私が勝ったら何かご褒美はあるのかしら?』

「勝って当たり前だろう? まぁ5分以内に勝ったら何か考えるよ」

 

『そう、楽しみにしてるわ』

 

 5分で勝てるならな。しかし、テストパイロットに相手してもらえる訓練兵なんてどこの国探しても多分いないだろう。なんとも贅沢な演習だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「上出来だな」

 

 俺は一部分だけピカピカの吹雪を見上げて言った。

 

「そりゃ磨きまくったからな」

 

 ペイント弾で汚れた箇所をタケルは磨き上げたのだ。

 

 結果として、タケルは負けた。そりゃそうだ。XM3に乗ったばかりの奴が乗り続けてるステラに適うわけがない。ましてやテストパイロットと戦術機乗り始めたばかりという差は大き過ぎるだろう。主人公補正のおかげなのか5分以上はもったけどな。ステラは無表情になって部屋に戻っていった。訓練兵に5分以上も粘られてプライドとか傷ついたかな?

 

「(ご褒美ニャ)」

「(そうニャ)」

 

 え? なーに? 聞こえなーい。

 

「さてさて、乗っての感想は?」

 

「反応速度が凄ぇ。それに……何か俺に馴染んでた気がした」

 

「そりゃそうだ。お前用に調整しといたんだからな」

 

「……何で俺にそこまで力貸してくれるんだ?」

 

「……ん? あれ? さぁ? そういえば何でだろうな? 分かるか?」

 

「俺に聞き返すな!」

 

 さて、明日はXM3のデモンストレーションか……。

 度肝抜けると良いんだけどな。ラトロワ中佐とか「その程度のOSいらん」とか言わないだろうか? 大丈夫だと信じたい。使い辛いとは言われたとしても、性能は上がるんだ。その有用性を理解しない人なわけがない。

 

「なぁ、さっき言ってた俺が考えたOSって、どういう事だよ。それが何でもうあるんだよ」

 

「んー。全ての思考が読めるわけじゃないけど、ある特定の人物の未来予知ができるんだよ、サイバスターのコンピューターで」

 

「あ、あの機体って、本当に人間が作ったのか?」

 

「魔法や精霊の力がある世界の人間が作った機体だな。で、タケルの場合は今日XM3の、あーつまり、戦術機のコンボやキャンセルを導入してほしいと夕呼先生に伝えるつもりだった」

 

「!? お、おう……」

 

「俺は、それをお前と初めて会った日から知っていた」

 

 本当は更に前からだけど。

 

「何だそれ!?」

 

「だから未来予知みたいなもんだよ。で、お前が207小隊にいる間にXM3を作って、テストも重ねて、実用段階にまで持ってきた。今はまだ、さっきのテストパイロットのステラ以外に数名と、特殊部隊ぐらいしか使ってないモノだ。で、今日そのXM3を考え出したタケルが乗った」

 

「今日考えたものが前から作られてたってのが気持ち悪いけど……未来予知って、どこまで分かるんだ?」

 

「それは言えないな。夕呼先生にも言われたけど、確定した未来以外だと大変なことにもなりかねないし」

 

「大変なこと?」

 

「占いって信じるか? 良い事しか信じないってのが人間だ。後は分かるだろ?」

 

「で、でも当たるんだろ? さっきのOSだって―――」

 

「そう、それは良い事だ。仮に明日お前は委員長に刺されるって言ったら信じるのかよ?」

 

「何で刺されるんだよ!?」

 

「ほらな、嫌な事だから信じない」

 

「いや、今のは違う気がする……」

 

「まぁ、お前は自分が考えるままに動けばいいんだよ。がんばれ」

 

 タケルは納得しきったわけじゃないが、戻って行った。全部話してもいいかもしれないけど、夕呼先生の言うとおり何が起こるか分からない。それは確かだ。BETAがもしかすると一斉攻撃してくる可能性だってあるわけだ。可能性が低いだけで0じゃない。今の俺だとサイバスターもまともに動かせない上に、戦術機の改造も終わってない。来られたら数で喰い潰される。

 

 俺も、がんばらないとな……早くサイバスターに乗れるようにならないと。

 

Side out

 

 

 

 

 




感想などは随時受付中です。




まりもちゃんとピアティフさんのハーレム入りの要望を頂きました。
まったくもって除外してたw
というか今のままだと、掠るぐらいで被弾はしないw

ちょっと考えます。

まりもちゃんとピアティフさんかぁ……。


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10

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

 格納庫に吹雪が用意されていた。既に新型OSのXM3を搭載してあるものだ。他にもクリスカとイーニァの二人で乗る一つの機体Su-37UB(チェルミナートル)も用意されている。当然こちらにもXM3が搭載されている。

 そして、もう1機がシートを被される様に隠れている。足元すらも覆われておりシートの中の機体は窺い知れない。しかし、タケル達の207小隊の吹雪に挟まれるように配置されているため誰もが「あぁ、訓練兵が小破……いや大破させたか?」と思われるような感じに見える。だから隠されているのだろうと……誰だって思う唯依姫だって思ってる。

 

 それはさておき、今日はXM3の一部公開デモンストレーションの日だ。今のところXM3という新型OSの内容を知っているものは少ない。俺の周辺の人は整備したり、乗ってテストしたり、A-01部隊のような特務部隊は先に乗っているから当然知ってるけど、この基地の全ての人間で言えば8割ぐらいは内容を把握してない。「新型のOSがあるらしいよ」とか「今よりも操作大変なんだってさ」とか「桐島、部活やめるってよ」なんて感じの噂程度だろう。最後のは関係ないけどそんな感じだと思う。

 

 俺はシートの中の機体を最終チェックしてから、機体から降りてシートから出るとタイミングよくタリサ達がやってきた。このシートの中身のこと聞かれるかなぁ、いやだなぁ怖いなぁ怖いなぁと思いながら、ふっと笑顔を作り精一杯誤魔化そうとした。しかし、その意味もなさそうで、タリサ達は強化装備を着てやって来た。

 

「マサキ~。アタシ達も参加していいんだよな?」

 

「へ?……あぁ、うん。頑張ってね」

 

「任せてくれよ。マサキを馬鹿にしやがった奴等の顔を驚きで変形させてやるぜ」

 

 変形って……どうやるのよタリサ。

 

 演習場には既にA-01部隊が吹雪にて待機している。いつもの不知火ではなく吹雪だ。彼女達もデモンストレーションに参加してくれるようだ。夕呼先生の差し金だ。しかし……本当にやっていいのかな……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――あれはぁ、昨日の夜のぉ、ことじゃった~。

 

 

 

 

「海堂、明日のデモンストレーション。アンタ参加しなさいよ」

 

「え? 何でですか?」

 

「アンタA-01部隊にただの整備兵……OS担当者ぐらいにしか思われてないのよ。開発者とすら見られてないのよ? ちゃんと自己紹介してないでしょ?」

 

「あぁ、してませんね。でも俺も一緒にXM3動かすだけですか?」

 

「んなわけないでしょう? 派手にやりなさいね」

 

「はぁ……派手にですか? どういう風に?」

 

「いい? ―――――って感じよ」

 

「はぁ!? 怒られますよ!!」

 

「あのね~、テストパイロット達に好かれてるのは良いけど、アンタ整備しかしてないでしょう? そっちの腕も確かだと分からせておいた方が後々が楽よ? それに、怒られるも何もペイント弾でしょう? それに、ソビエトに中国、牽制しておきたいのよ。ちょっとの時間でもね」

 

「はぁ? 良く分からないですが……楽になるのかぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は昨日の夜の夕呼先生との会話を思い出しながら、シートに隠れた膨らみを見つめていた。

 

「最終チェックも完了で準備は万端。……でも本当にやっていいのかな~?」

 

「何がですか?」

 

「わぁ!? あ、おは~唯依姫」

 

「驚かせてしまいすみません。おはようございます中佐。今日はデモンストレーションに参加できないと聞きましたが?」

 

「え? あ、あぁ、うん。そうだね。残念だけどそういう事になってるね」

 

「は?」

 

「あ、ううん何でもない何でもない。予定通り、少しだけ近くの基地に出向してくるよ。すぐ戻ると思うけど、デモンストレーションでのXM3の説明とかよろしくね? ちゃんと挨拶できてないから申し訳ないんだけど……」

 

「えぇ、了解しました」

 

 俺は唯依姫にこの後のことを頼んで、出かけた。向かう先は第二演習場だ。そして、俺が消えるとほぼ同時に、シートに隠れていた戦術機も格納庫から姿を消していた。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 篁 唯依

 

 ヘッドセットを付けて、私は大型モニターに映る演習場を見る。吹雪が11機・チェルミナートルが1機の合計12機がその姿を晒していた。

 

 A-01部隊とタリサ、ステラ、クリスカ、イーニァの合計13人、12機の姿だ。

 

 私は振り返り、同じくモニターを見る軍人達に説明を始める。

 

『お集まり頂きありがとうございます。昨夜はよく眠れたでしょうか? では早速、新型OS【XM3】のデモンストレーションをご覧に入れましょう』

 

「待ってくれ、タカムラ中尉。カイドウ中佐は来られないのか?」

 

『はい、残念ながら急な出向により、このデモンストレーションには参加できなくなりました。中佐自身も残念がっておりましたが、ご不明点などは私の方からご説明させていただきます』

 

「引篭もりよ」

「やっぱりそうなんでしょうか?」

 

 少し不穏当な発言が聞こえるが、私はあえて触れずに説明を始めた。

 

『では、まず始めに旧型OSによるデータをご覧ください』

 

 画面の脇に演習場内でのタイムアタックなどのデータが羅列される。

 

『こちらのデータは既にご存知かと思われます。このデータと比較してデータ検証を行ってまいります。ではタイムアタックから参りましょう。画面脇に映されたデータと、これからそれを大きく上回る新型OSの性能差を確認して頂きたいと思います。伊隅大尉、始めてください』

『了解した。行くぞ早瀬』

『了解ぃ』

 

 伊隅大尉はいつも通り落ち着いているようだが、早瀬中尉が少しばかり感情が前に出ている。ストームバンガードとしては良い傾向だが……いや、指摘する必要もないか。副司令も今回は出せるならいつも以上の力を発揮するように言っていた。問題はないか。

 

 仮想的を撃ち落しながら、高速機動で2機の吹雪は演習場を駆け巡る。射撃・格闘戦・機動力。あらゆる点においてXM3は旧型OSの上を行く。その差は歴然だ。

 

「早いっ!」

「撃ち漏らしとか以前に、ほとんどがど真ん中(ピンポイント)!」

「……見直さなければならないか、新型OS」

 

 ざわめきの色は分かりやすい変化を見せていた。始まるまでの色とは明らかに違う。吹雪の機動性能はそれほどまでに見るものを変化させていた。

 

 私は機体の動きを画面で確認しながら説明を続ける。

 

『ご覧頂いている通り、新型OS【XM3】の性能は従来のものを遥かに凌ぐものとなっております。海堂中佐いわく、衛士の腕によって更に向上していくOS。とのことです。デメリットを挙げるとすれば、慣れるまでの調整です。モニタリングされているテストパイロットや横浜基地のエースパイロット達ですらしばらく時間が掛かりました』

 

「性能差から察するに30%ほど向上しているが、すぐには扱いきれないと?」

 

『XM3に換装した機体に乗っていただいて、別物の機体と考えていただいたとしても、慣れるまで時間を要するでしょう。―――タイムアタックが終了しましたね。では伊隅大尉、模擬戦闘に移って下さい』

『了解した』

 

『―――今回は6対6の市街地戦を想定し……』

 

<ビービ-ビ-!!>

 

 レッドアラート。

 突如、演習内容に無い警報が鳴り響く。

 

「何だ!?」

 

『確認します。伊隅大尉、何事ですか?』

『正体不明機だ! くぅっ! 早い!!』

 

 正体不明機? あの機体かと一瞬画像データの機体を思い浮かべる。しかし、中佐は今この基地にいない。モニターにやっとその機体が映し出される。

 

『……し、不知火?』

 

 その機体は確かに不知火……いや、不知火に見える。

 しかし、一回り大きい? 各部も微妙に違う。色は国連軍仕様の青でも、帝国軍仕様の黒でもない、赤と白を基本とし、少しばかり青も使ったトリコロールカラーという派手なカラーリングだ。隠密行動には全く向かず、良い的になりそうな派手さがある機体だ。

 

 しかし、おかしい。

 識別コードがUNKNOWNの機体がここまで基地に接近しておきながら、何故警報が今の今まで鳴らなかったか……。それは―――。

 

『こちら横浜基地A-01部隊 部隊長の伊隅大尉だ。所属不明機に問う、こちらは演習中だ。所属を明かし、停止行動を取れ。貴殿の機体は横浜基地のエリアに侵犯している』

 

 私が考える間もなく、伊隅大尉はマニュアル通りのコンタクトを試みる。しかし、所属不明機からの応答は無く、嘲笑うかのように突撃砲を伊隅大尉の吹雪に向け打ち放った。

 

『大尉!』

『当たっていない! 全機! 所属不明機を基地に寄せ付けるな! 格闘戦で仕留めろ!』

 

『『『『『了解!!』』』』』

 

 待機していた残りのA-01部隊も参戦する。弾は全て模擬弾のため、近接戦闘しか止める術がない。

 

 

『早いっ! 囲んでも捕まらないなんて!』

『新型OSを搭載しているんだぞ!? それよりも早く動けるなんて……』

 

 正体不明機は伊隅ヴァルキリーズの攻撃をかわしながら、少しずつこの基地に向かってきている。馬鹿な、どんな出力を持っているというんだ。

 

 

 

 

「ふむ……篁中尉、私達も出よう。行くぞターシャ」

「了解です中佐」

 

『お、お待ちください! ラトロワ中佐!』

 

「何の問題もない。今日から私達もこの基地の人間だ。そうだろう?」

 

「私も行くわね。近接戦闘なら分があるでしょうし」

 

『ツイ中尉まで! ……お願いします』

 

 仕方がない。デモンストレーション中のため、演習場にいる機体は模擬弾しか搭載されていない。私は敬礼をして、格納庫に向かうラトロワ中佐達を見送った。実弾のライフルも用意してあるが、渡すに渡せない距離だ。

 

「中佐がいないときに……」

 

 私はヘッドセットを外し、ラトロワ中佐達に続こうとしたが、余裕の笑みを浮かべた魔女を前に足を止めた。

 

「あら、派手にやってるかしら?」

 

「香月副司令!? あの機体を知っているのですか!?」

 

「まぁ見てなさい」

 

 副司令は机の上に置いた私のヘッドセットを渡してきた。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

「いい? 模擬弾の前に最初の数発だけ実弾にしときなさい。もちろん威嚇射撃よ? アンタの腕なら外せるでしょ? 後は回避行動を取り続けながらゆっくりと基地に向かってきなさい。そうすればお堅いソ連軍の中佐殿は参戦してくるわ。そこにペイント弾を浴びせて、全機フルボッコ。って感じよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 フルボッコって言葉は俺が前に教えたが……味方をフルボッコしてどうするんですか……。さて、仕方ないけど、コレ命令なのよね。

 

 俺は強化装備に身を包み、シートの中の機体に乗り込んでいた。

 

『もう予定ポイントに到着してるわよね? 準備は?』

 

 夕呼先生が秘匿回線を使ってきた。

 

「もうちょっとですよ~。前田~シート外して~」

「かしこまりました」

 

 少しおかしな整備兵の前田さん。常に敬語。好きに呼んでいいよって言った時も『お嬢様』と言ってきた変な人。今では呼び方は「おじょ……委員長。この資料にある―――」とワザとらしく言い間違いする。唯依姫の前では普通の整備兵さん。俺の前では変な整備兵さん。

 でも優秀。凄く優秀。この人、他の整備の人の3倍以上の働きをする分身してるようにも思えてしまう変な人。時には俺以上に寝てない時もあるらしい。でもいつも元気な変な人。

 今回も内緒の行動だから他の整備担当の人たちには内密に夕呼先生と合わせて3人で機体の搬送や、計画を練った。

 

 そんな前田がシートを外すと視界は良好。本日は晴天なり。

 

『あら、良いじゃない派手な色ね』

 

 俺は不知火弐型にまで改修されてない機体に乗っていた。一応デモンストレーションカラーという事にしておいて、赤と白のカラーリングとなっているが、個人的な好みで青も入れた。トリコロールカラーって良いよね。

 

「さて、準備完了。前田~戻って良いよ~」

「かしこまりました」

 

 これから前田は機体を運んできたトレーラーを運転し、少し遠回りで横浜基地へ向かう。もちろん仕事してた名目で近くの基地にお届け物もある。さらば前田。君の事は忘れない。とか言って爆発しないかなぁこのトレーラー。

 

「なにか?」

「いんや、さぁ行った行った」

 

 笑顔でこちらを見つめてくる前田。……勘の鋭い男だ。俺は動き出したトレーラを尻目に秘匿回線の通話を続けた。

 

「……さて、そっちはどうです?」

 

『こっちも始めたみたいね。私もそろそろタカムラのところに向かうわ』

 

 回線を切って俺は時計を確認する。

 

「デモスタートか。うん時間通り。さてのんびり行くか」

 

 とは言ってもハッキリ言ってコイツはまだ出来損ないの機体だ。推進剤の使用効率は悪いし、重量は重い。まぁそれでも今ある普通の不知火よりは早く動けるのだが、燃費が悪すぎる。コレは急いで改良していかないといけないな。

 

 一応、クリスカとかも手伝ってくれていた機体なので、バレない様に更に手を加えており、カラーリングも派手にした機体だ。見ただけでは「似てるけど違う」と言った認識に落ち着くだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『止まれーっ!!』

 

「おっと、みんなXM3に慣れてきてるんじゃないか?」

 

 OPEN回線で入ってくる声に苦笑いと高揚感を覚えつつ俺は攻撃を避け続ける。

 

『何なんだよお前はーっ!!』

 

 タリサの声を聞きながら俺はヒラヒラと避ける。たまに威嚇射撃をしながら当てないように、そして相手の攻撃に当たらないようにと、横浜基地へと向かっていく。

 

『止まりなさいってーのよっ! くっ! 馬鹿にしてるの!?』

 

 突撃前衛の速瀬中尉も怒って俺の機体を追い続ける。

 

「あ~やっぱり怒ってるよな~。はぁ~、許してくれるかな……」

 

<ピピッ>

 

 横浜基地のマーキングが出てくる。

 

「あ、もう横浜基地に着いちまうな……ラトロワ中佐達は本当に出てくるのかな? お?」

 

 

 

<ビービー!>

 

 MAPに横浜基地の識別コードの3機が表示される。

 

「ロックオンされた? ……チェルミナートルが2機。ラトロワ中佐にターシャか……後ろには殲撃もいるな。夕呼先生の言うとおりになったけど……。逃げて消えてしまいたい」

 

 ラトロワ中佐が乗るのは一人乗りのチェルミナートル。Su-37M2だ。型番違いでクリスカとイーニァが乗るチェルミナートルとの見た目による違いはほとんどない。

 

『所属を明かし、武装を解除せよ。それ以上近づけば撃ち落すぞ?』

 

 ロックオンは外れない。マジだよあの人。

 まぁ、こっちも止まる気は無いんですけどね~。

 

『それが答えか。撃て』

『了解! 識別信号味方機へ、射線上の方は乱数回避してください!』

 

 ドンッ!

 

 ターシャの砲撃が俺の機体の頭一個分ほど左側を通り過ぎていく。

 

『な、避けた!?』

 

『任せなさい! 接近戦なら負けたことがないわよ!!』

 

 イーフェイの乗る戦術機、殲撃(ジャンジ)がブーストで急速接近してくる。俺はそれをペイント弾で脚部を撃ち、腕を撃ち、背後に回り、背面ユニットを撃った。

 

『ちっ……これが、実弾だったらとでも言いたいのっ!? ……って何!? 動かない!? 何で!? ペイント弾でしょーっ!?』

 

 それは、【JIVES(ジャイブス)】の効果だ。

 

 JIVES:統合仮想情報演習システム。 戦術機の実機の各種センサーとデータリンクを利用した仮想訓練プログラム。砲弾消費による重量変化や着弾や破片による損害判定及び損害箇所など、あらゆる戦闘における物理現象をシミュレート可能。また、BETAの外見や行動パターンなども精緻に再現することができ、現在、衛士訓練プログラムとして最も有益なシステム。

 そのため、ペイント弾であっても致命的損傷と判定されれば、特殊なパスコードを入力しないと再起動はかけられないのだ。その辺の設定はこの演習に参加する機体、するであろう機体に組み込んでいたため問題は無い。

 

『背後がガラ空きだね!』

 

 後ろから宗像中尉は長刀で切りつけてくるが、俺は読んでいる。最小限の動きでかわし、ペイント弾を管制ユニットに浴びせる。

 

「……へへへ、少し楽しくなってきたかも」

「怒られるのはマサキだけだから気にしニャいでいいニャ」

 

 薄情猫め……まぁこうなったからには楽しむか。俺は操縦桿を握る手に少し力を込めて、機体を高速反転させてA-01部隊とタリサとステラ。クリスカ・イーニァのチェルミナートルを先にペイント弾の餌食にすることにした。

 

「どっちにしろ、これは試さないといけないからな」

 

 それは網膜によるロックオンだ。元々戦術機にもあるシステムだが、それをXM3によって更に反応を向上させたのと、新型ミサイルポッドとリンクするかの実験も兼ねているのだ。悲しいけどこれ、実験なのよね!

 

 俺は瞳を動かし戦術機を捕捉していく。その間に肩に装備されていたミサイルランチャーは蓋を開かせている。

 

『これはっ!? 各機散開!』

 

「流石は伊隅大尉、良い反応だ。でも機体動作がまだ遅い!」

 

 

 ドドドドドドドドドドッ!!

 

『キャアッ!!』

『うおっ!』

『避けきれない!!』

 

 ん? イーニァとクリスカのチェルミナートルが見当たらない、マーカーは生きてる。目の前にいるはずのマーカーだが、そこにはおらず、消去法で上かと見上げればモーターブレードで切りかかってきていた。俺は65式近接戦闘短刀を腕部から引き抜き、それを受け止めた。

 

「更に上行く良い反応だ!」

 

『うぅ~!』

『イーニァ大丈夫?』

 

 この二人は複座型だとやはり凄腕だ。

 もちろん他のみんなも凄腕だが、一歩先を行くような感じだ。

 

「でも、ここまでだな」

 

 俺は肩部から小型ミサイルを撃ち、ペイント塗れにする。ちなみにこのペイント弾は特殊な液体で出来ている。浴びると特殊な電磁波を流すため、戦術機の機能が停止までは行かないが、一時的に動作は困難になる。ちなみにパイロットには影響は無いのでご安心を。

 JIVESの管理下にあるフィールドだが、それ以外も試さなきゃいけないことは多い。悲しいけどこれも実験なのよね!

 

 

『12機が全滅だと!? 貴様……何者だ!!』

 

 通りすがりの仮面ラ……なんて通じるわけ無いか。うん。

 っていうか、13機だよ。イーフェイをカウント外にしないであげてください。ラトロワ中佐の機体が飛んでくる。ターシャも追随するように突撃砲を構えて接近してくる。

 

「試したい武装はもうないよな……じゃあ、後はブースターの確認だけだな」

 

 俺は出力を最大まで上げて、接近してくる機体よりも倍以上速い速度で接近した。フルブーストによる加速度。掛かるGが強化装備だけじゃ心許無い……身体壊れるな。これは機体側でGキャンセラーを大幅補正するしかないな。

 

『ラトロワ中佐!』

 

 ほう、こちらもいい反応だ。流石は10代半ばで大尉になるナスターシャだ。支援砲撃が巧い。この腕ならまず外す事は無いだろう。俺以外が相手ならの話だけど。

 

 俺はラトロワ中佐のモータブレードをかわして、関節部にペイント弾を一発放ち、すぐさま突撃砲を構えるナスターシャを止める事にした。

 

『くっ!! うぁっ!!』

 

 五体大満足に突撃砲によるペイント弾を浴びたチェルミナートルはその場に膝を着くようにバランスを崩した。

 

『ターシャ!』

 

『―――――もっと派手にやりなさいって言ったはずよ?』

 

 夕呼先生の声がスピーカーから流れてくる。

 え~、一人で全機落としてる時点で派手でしょうが……。

 

『今のは誰だ!!』

 

 ラトロワ中佐の怒りの矛先が夕呼先生に向くが、戦術機のデュアルアイは俺を見放さないままだ。

 

「マサキあれをやれば?」

「あれニャら派手だニャ。知らニャいけどね」

 

「お前らまで……えぇいっ もうどうにでもなれっ!」

 

 俺は残った一機、ラトロワ中佐へ急接近し、急停止し、即座に上空を取る。そして全ての弾薬によるロックオンをした。かわせない。動けない。動いても無駄。ここからなら半径100メートルが俺の攻撃の届く距離。

 

「これ~から~撃ちまくりますので~怒らないでください~♪ なんちって」

「聞こえてニャいのに」

「行けるニャ! マサキ!」

 

 クロはまだしもシロは今更ながらノッて来たようだ。ニャんニャーずハイってやつか。

 

「聞いたことニャいわ……」

 

 シロに呆れられた。

 

 

 

『なにっ!!』

 

 

 

 さ~て兵装は俺の大好きなマイクロミサイルだ。開かれた肩と脚部から赤い弾頭がギッシリと覗いていた。更にはバックパックが開かれ腰辺りから前に伸びてきたガトリング2門。両手にはマシンガン。全てがペイント弾とは言えド派手に染まるぜ?

 

「全弾発射ーーーー!!」

 

 

 

 

 

 

『今の武装は中佐の好きな……じゃあまさか……中佐!?』

 

 あ、バレた。その通りです。

 

『はい、そこまで~。アンタ達、恥ずかしくないの? 相手はたった1機よ?』

 

 夕呼先生のOPEN回線が全機に行き渡る。

 いやいや、アンタがフルボッコにしろって言ったんじゃん。

 

『博士はご存知なのですか!?』

『誰なんですか!?』

『あの機体は!?』

『うぇ~ん! 動けませ~ん!』

 

『負け犬がうるさいわね~。JIVES解除するから再起動して、とりあえず基地に戻りなさい』

 

 全機、JIVES管制から解除され、通常機動し、基地へと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 俺が最後に基地に着くと、俺の機体は囲まれていた。

 

 完璧怒られるだろ、コレ。

 俺は渋々、機体から降りて強化装備を身に着けた姿を晒した。

 

「「「「マサキ!?」」」」

 

「え? マサキって、OS説明してくれてた子!?」

「中佐ーっ!?」

「……祷子、私の頬を抓ってくれない?」

「自分でやって下さい美冴さん」

 

「紹介が遅れたかな。俺は横浜基地所属の海堂正樹中佐だ。いきなりの演習参戦で混乱させてしまったかと思う、すまない」

 

 A-01部隊・ラトロワ中佐・ナスターシャ大尉・イーフェイ中尉の機体に向かって頭を下げた。

 

「昨日の整備士の娘じゃないのよ! 海堂正樹……中佐は男でしょ!?」

 

「見た目がどうであれ、生物学上ソイツは男よ。間違いなくね」

 

 戸籍上は女にしたくせに。

 

「嘘だと言ってーっ!!」

「どうしたの多恵!?」

 

「どうしたもこうしたも、興奮して眠れなくなるでしょっ!!」

「……」

 

「放っておけ涼宮」

「了解」

 

 少しノイズ混じりに声が聞こえた気がするが、とりあえず無視だ。

 

「海堂中佐!」

 

 イーフェイが突然声を上げる。

 

「何かな中尉?」

 

「昨日はスミマセンでした! 勝手な想像で中佐を見下してしまい……」

 

「気にしなくていい。それから『マサキ』って呼んでもらえると助かる。A-01部隊の皆さんもね」

 

「りょ、了解! じゃ、じゃあ!」

 

「ん?」

 

「マサキの嫁にしてもらえる!?」

 

「「「「駄目だ!!」」」」 「ダメーッ!!」

 

「うおっ!」

 

 俺じゃない人たちが答えた。

 

「私からも良いか? その機体は何だ?」

 

「あぁ、これは不知火の改修機ですよ。まだ出来損ないですけどね」

 

「それで出来損ないか……昨日の非礼を詫びさせてくれ、これからよろしく頼む」

 

 お、認めてもらえたようだ。

 俺はラトロワ中佐と握手を交わして、唯依姫にデータを渡した。

 

「先ほどの機体のデータですか?」

「うん、そう。推進剤の消費が激しいからかなりの改修が必要だね」

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ラトロワ

 

「私より少し年上のはずなのに中佐。しかもあの衛士としての腕前に技術力」

 

 ターシャの声に私は頷いて答える。

 

「横浜基地は極東の魔女だけではなかったな」

 

 XM3の機動性能は良く分かった。さらにそれを軽く超える腕前の開発者。

 

「ふっ……愚かだったのは私だったか? まったく恐ろしい国だな」

 

 マサキは整備服に着替えてきて早速チェルミナートルと殲撃にXM3を搭載している。その周りには整備兵だけではなく、白と黒の猫。先ほどのテストパイロット達も参加している。人望が厚い……というよりもアレは……。

 

「タカムラ中尉」

 

「はっ、何でしょうラトロワ中佐」

 

「彼のことは名前で呼んだほうが良いのではないか? 周りの猫共に盗られてしまうぞ?」

 

「……お、お心遣い感謝します中佐殿」

 

 やはり軍人一筋か、恋愛には弱いな。

 彼とこの中尉なら良い関係になるかと思うんだがな。

 私はマサキと握手した感触を確かめながら着替えに戻った。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side A-01部隊

 

「海堂中佐! これまでの非礼を何とお詫びしたら……」

 

「あぁ、別に階級なんて良いですよ。都合のいい時だけに利用しますから。それ以外ならフレンドリーに行きましょう? そんな事よりも伊隅大尉、ここの兵装なんですけど……」

 

「あ、はい」

 

 伊隅大尉が謝罪をしているその光景を遠目に見守る部隊員たちがいる。怒られた場合を想定して一応隠れて待機している。

 

「許された?」

「みたいですね……というよりも気にしてない様ですけど」

「マサキ……呼び捨てって言うのもむず痒いわね」

「でも、『マサキちゃん』って呼ぼうとすると、怒られるから気をつけてね、みんな」

 

「同い年で中佐で凄腕で天才かぁ~」

「あはは、あれには驚いたね~」

「今でも信じられないわよ。あれ? 多恵は?」

「あれ、さっきまでいたのに……あっ! あそこ!」

「あの子の行動力には驚かされてばかりね……」

「本人は考えてやってないでしょうけどね」

 

「えへへへへ~。シロちゃんとクロちゃんって言うんですか~」

「あぁ、マサキの飼い猫なんだ」

 

 タリサ・マナンダル少尉と一緒になって白猫と黒猫を可愛がる築地多恵がそこにいた。和みながら会話を弾ませる姿に部隊員達は隠れているのが馬鹿らしくなり溜息をついた。

 

「和んでるし馴染んでるんですけど……」

「わ、私も撫でさせてもらおうかな……」

「あ、私も行くよ!」

 

 こうして、A-01部隊とテストパイロットたちも親睦を深めて行った。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

「さて、外装パーツの取り付けだけだな」

 

 コツコツコツ……

 

「もう出来たの? ホネ」

 

 夕呼先生がやってくる。

 ここは90番格納庫だ。流石にこの機体だけは表立って造ることは出来ないので、秘密裏に進めている。

 

「ホネは出来ましたよ。あとは肉付けだけですね」

 

「なんか美術品みたいね~」

 

 美術品か……まぁコイツが完成すれば人類の勝利は目前だろう。

 

「あ、そうそう。シュールな面白いニュースがあるんだけど聞く?」

 

「シュール? 何ですか?」

 

「この前ハイヴ落としたわよね? あれ、専門家の間だとBETA同士の潰し合いの可能性も考えてるらしいわよ」

 

「はぁ? BETAって潰しあうんですか?」

 

「まさか」

 

 夕呼先生は鼻で笑いながら答えた。

 

「でも、それだけ信じられない出来事だったのよ。どこの国も軍を動かしてないのに落とされたハイヴ。未確認の空飛ぶ銀色の戦術機。でも戦術機1機でハイヴを落とせるか? 答えはNOよ」

 

「まぁアイツはしばらく使えませんから」

 

 俺は少し離れた場所に静止しているサイバスターを見ながら言う。いや、違うな。サイバスターじゃなく俺が駄目なんだ。精神不安定。今日もデモンストレーションに強襲する形で参加したけど、気分転換にはなったし、楽しかった。夕呼先生に感謝である。

 

「あら、トラブル?」

 

「―――ん、まぁそんなとこです。本当の切り札になっちゃいました」

 

「その様子ならアレが使えなくても問題なさそうね」

 

 サイバスターが使えない俺でも俺には利用価値があるからこそ柔らかい口調なのだろう。それでも何とかしないとな。

 

「そういえば、このホネはワンオフの機体なの? 製造ラインの話を聞いてないんだけど?」

 

「えぇ、ワンオフです。この世界で最高の衛士に乗ってもらいますよ」

 

「あら、自分専用ってことね」

 

 ―――違いますよ。

 俺はそう声に出すことなく否定せずに作業を続けた。

 夕呼先生は踵を返して帰ろうとするが、思い出したように立ち止まり口を開いた。

 

「あ、もう一つ聞くの忘れてたわ。明後日、珠瀬事務次官がこの基地に来るんだけど、HSSTが落ちてくるって白銀がうるさいのよ。アレって本当?」

 

「あー、忘れてた。本当ですよ。落ちてきます、この基地目掛けて……あ~それ、止めないで貰えます?」

 

「あら? 白銀には止めるように釘を刺されてるんだけど?」

 

「釘を刺されて止まるような人でしたっけ?」

 

「ふふふ、言うようになったじゃない。でも何、不発に終わるの? それともまた何かの試験でもするのかしら?」

 

「えぇ、利用させてもらいますよ。確実に防ぐんで無視していただいて構いません」

 

 そうか明後日か、明日までにレンズを利用して……。

 

「じゃあ私は行くわね……って聞こえてないわね」

 

「こうニャると徹夜確定ニャ」

「止まらニャいわね」

 

「あら、あなた達の声、久しぶりに聞いたわね」

 

「「博士お疲れ様ニャ」」

 

「猫から労いの言葉を貰うなんてね~。じゃあ行くわね」

 

 

 

 そして、俺は地上の格納庫に上がり、格納庫の一角だけ照明は消えずに作業は続けられていった。

 

「お嬢様、紅茶でございます」

 

 ……前田が現れた。お嬢様じゃねーっつーの。

 

「それから、こちら階級を暴露した時の皆様の表情でございます」

 

「おぉ~よく撮れてるねぇ…ふふ、ラトロワさんってこんな顔するんだ。へぇ驚いた顔って面白いんだなぁ………あれ?」

 

 ……コイツ、遠回りして横浜基地に帰ってきたよな? 誰が撮ったのこの写真。このアングルの豊富さ……。

 

 まぁ悪い奴じゃない。

 

 ……でも変な人。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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11

BETAがいる大混乱の世界の中に小さな平和を築きあげる横浜基地。

そんなある日、僕らの基地に大量爆薬搭載型のHSSTが降ってくる!

まぁ落ち着け諸君。のんびり撃ち落とそうじゃないか。


ゆる~く連載再開!

……そんな事はない。気分次第だ。




Side マサキ

 

「くへへへ……スゥ…スゥ…」

 

「だらしニャい顔で寝てるニャ」

「まぁ昨日の今日で、ほとんど完成させてる時点でおかしいニャ」

 

コツコツコツ……。

 

「あら、シロちゃんにクロちゃん?」

 

「「にゃ~」」

 

「どうして格納庫に……あっ、まったく中佐は……起きてください。風邪をひきますよ?」

 

「んん~。朝ごパン~?」

 

「朝食はもう少し先ですが、今日はパンじゃないですよ」

 

「(ポリポリ)……唯依姫?」

 

 起きると頭はボーっとしていて視界もボヤケており、傍らのパソコンはスリープモードになっている。確か、HSST撃墜用に不知火を改良していて……。あ、ちなみに、なぜ不知火で改良しているかというと、性能という点もあるが、大きく占めているのはフォルムだ。ヘッドパーツを改良するのに一番楽だったのが不知火だからだ。

 

「おはようございます。こんな所で寝ないで部屋で寝てください。あぁクマも出来て……しっかり寝ないと……」

 

「あぁ、眠い(コテン)」

 

「ここで寝ないでくださいってば」

 

 唯依姫は再び倒れ眠ろうとする俺を自然と抱きとめた。

 

「にゃあ(急接近だニャ)」 

「にゃにゃ(いい感じニャ)」

 

「ん~、温か~い、良い匂~い……スゥ」

 

「ちょっ 中佐っ!?」

 

「く~……zzz」

 

「(あ、駄目ニャ。寝不足ニャ)」 

「(マサキ、空気ちゃんと読まニャきゃ)」

 

「まったく……本当に困りますよ」

 

「(……大丈夫みたいだニャ)」

「(困ってニャい顔してるニャ)」

 

 

 起きるとそこはPXで、俺の目の前には湯気が立ち、いい香りを立ち昇らせる朝食があった。

 

「寝起きで食べられ……」

「残すんじゃないよ?」

 

 おばちゃん……分りました。今日もがんばります。今日も一日がんばるぞい。ですが、そろそろ特盛りを大盛りぐらいに変えては頂けないでしょうか? あ、そうですか。すみません。

 

「中佐、お身体に障りますから、無理な徹夜は避けてください。私も手伝いますから」

「あ、唯依姫おは~」

 

「……聞いてます?」

 

 他の整備兵とかクリスカとかに指示出すのは問題ないが、唯依姫には指示出しするのが……何ていうか、難しい? ように感じる。何でだろうな?

 

 しかし、眠い。何かスキッとする事でも無いものか……。

 

「ん? アレは……」

 

 俺は二人組の立って視線を投げつけている衛士を見つけた。投げられている視線の先はタケル達がいる席だ。タケルもいたんだな。つーか、このイベントってまだ終わってなかったのか。どうも記憶が曖昧だが。

 

「まぁいいか。憂さ晴らしして目を覚まそう」

「中佐?」

 

「あぁ少しトイレに行ってくる」

 

 あ、先に動いちゃったよタケルの奴。俺はフォローするために席を立った。

 

「あ、マサキ。隣の席いいか?」

 

「あぁ、好きにしてくれ。今は少し外すがな」

 

「あ、主任。格納庫にある不知火の改修機なんですけど……」

「あ、店長~OSの設定で質問があるんですけど~」

 

 お前ら今はどけ。イベントに遅れてしまう。俺はもう眠気が覚めた事も忘れてイベント会場に足を運んだ。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side タケル

 

「ねぇ、あの正規兵の人たち、さっきからこっち見てない?」

 

 美琴が目で訴える先には二人組の正規兵がいる。

 

(あぁ、前回の世界でも武御雷のことで冥夜に絡んできた奴か)

 

「見てるだけだろ……ほっとけよ」

「でも……ほら、なんか目つきが」

 

 たまも頷いて不信感を抱いているようだ。

 

(ほっといたら、同じことの繰り返しか……)

 

「悪ぃちょっと便所行ってくる」

 

 俺が立ち上がり、正規兵の近くに行くと呼びとめられた。やっぱりだ。興味本位と俺たち207小隊が優遇処置されていることに嫉妬してるくだらない奴らだ。人類はそんなことしている場合じゃないのに。

 

「―――お前らの隊はあそこにいるので全部か?」

 

「はい総員で6名であります少尉殿」

 

「だったらハンガーにある特別機……帝国斯衛軍の新型は誰のだ? お前らの誰か用だと聞いたが?」

 

「―――少尉私の機体です」

 

 冥夜の声が後ろから聞こえてくる。

 

「あ! お前いつの間に!(あーもう、これがイヤだから席を立ったのによ……)」

「少尉。あの機体が何かご迷惑を?」

 

「お前の名は?」

 

「……御剣冥夜訓練兵です」

 

「ん? ……あれ……お前の顔どこかで……?」

「あぁ……どうなってる? なんで武御雷(あんなモン)がここにあるんだ?」

 

「……」

 

 冥夜は視線を伏せて答えられずにいる。

 

「黙ってちゃわかんねェだろう? 訓練兵」

 

「恐れながら少尉殿」

 

「何だ?」

 

「それは少尉殿の個人的な興味からの質問でしょうか?」

 

「……あ?」

「あれのためにハンガー一つ占拠されてるんだ。整備兵もあの特別機の点検を行っている。その事情を知る権利があたしたちにないとでも?」

 

「聞けばお前らずいぶんとワケありの特別待遇らしいじゃねぇか。そこんところもきっちり説明してもらいらいたいもんだな?」

 

 こいつら……!

 俺は自然と握り拳を作っていた。こんな奴らがいるから人類は……。

 

「それは武御雷やその搭乗衛士のことを調べろ……という任務を受けているということですか?」

 

「お前がそれを気にする必要があるのか? いいから訓練兵は聞かれたことを答えてりゃいいんだよ」

 

「……少尉殿にはもっとほかにやるべきことがあるかと考えますが?」

「よせタケル!」

 

「……なんだと?」

 

「少なくとも訓練兵相手にイキがることよりも優先すべきことが……」

 

 バキィ!

 

「タケル!?」

 

 突然の騒ぎに他の207小隊の面々も立ち上がる。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

「あ、もう殴られた。殴る前に止めたかったんだけどな~」

 

 俺は独り言を愚痴りながら整備兵たちの会話から解放されて、タケルのもとへやってきた。もう一発殴られようとする瞬間。俺は少尉の足を引っ掛けて転ばせた。

 

「マサキ?」

 

「よ、タケルおは~、で? 転がってる少尉殿は何をしているのかな?」

 

「何だお前は! 整備兵が口を出すな!」

 

 あぁそういえば整備服でしたな。まぁ基本的にこれしか着てないけど。まぁ今はそんなことよりも。

 

「(パシーンッ!)この軟弱者!」

 

 こいつの顔見てたらやりたくなる。ついやっちゃったんだ。

 俺は立ち上がった少尉を平手で撃ち抜いた。

 

「貴様! 少尉に手を挙げたな!」

 

 そう言いながら少尉(軟弱者)は俺に殴りかかってくる。

 それを俺は絡め捕り、そのまま自然な力の流れで組み伏せた。

 

 ガキィッ!!

 

「あだだだだだだだっ!!!」

 

「マサキ! 拙いわよ! 正規兵に手を出すなんて!」

 

 俺は委員長に言われながらも関節技を外さない。

 

「―――騒々しいな」

 

 やってきたのは月詠さんと3バカ。

 

「て、帝国斯衛軍!?」

 

「マサキ? 何遊んでんだ?」

「店長?」 「主任?」 「会長?」

「何をしてるんですか? トイレに行くのではなかったのですか?」

「昨日の今日で楽しませてくれるな、マサキ」

「少尉如きが私の未来の旦那様に何羨ましいことさせてるのよ!」

 

 更に唯依姫やタリサ達もやってくる。オールスターだな。

 

「篁中尉!? ツイ中尉!? ラトロワ中佐も!?」

 

「ほう、唯依姫もイーフェイもラトロワ中佐も知ってるのか軟弱者」

 

「何なんだよ! お前は!」

 

「少尉、中佐を『お前』呼ばわりか?」

 

 その場にいるほとんどの者が冷たい視線を軟弱者コンビに浴びせている。マサキって呼ぶのは許しているから問題ないが、何も知らない奴が好き勝手に呼んでいい人物ではない。そう断じているかのような視線だ。

 

「「「「「……中佐?」」」」」

 

 207小隊の面々と、軟弱者コンビは呆けている。

 

「さて、少尉。武御雷を『あんなモノ』と愚弄し、その搭乗者を探すとは、誰に頼まれた? ……月詠中尉、帝国軍では武御雷を愚弄した者はどのように処分する?」

 

 俺は初めて使ったであろう軍人らしい口調で月詠さんに聞いた。

 

「武御雷の愚弄は我ら斯衛軍を愚弄するも同義。ひいては将軍殿下を冒涜する行為であります。更に今回の件に関しては武御雷の機体情報の漏洩の可能性もありえます故、全てを洗い出した上で処刑になるかと思われます」

 

「だそうだ。少尉、誰に頼まれた?」

 

「お、俺たちは……」

 

 お、抵抗する力が抜けてきたかな。ここいらで勘弁してやるか。

 

「興味を持つのはいいがな、苛立ちを覚えて八つ当たりするのは違うぞ少尉? こんなことで無駄な力を使うな。その力はBETA相手に奮ってほしいものだな。……さて、月詠中尉もういいでしょうか?」

 

「ありがとうございます海堂中佐。国連軍とはいえ日本人だろう。今後は国連軍の名を落とすようなことは避けるべきだな少尉」

 

「「す、すみませんでした!」」

 

 軟弱者コンビは腰が抜けて逃げるようにヘコヘコと去っていく。

 

「け、敬れ……!」

 

 委員長が敬礼をしようとするが俺は止める。

 

「敬礼はいらんよ。邪魔したな」

 

「で、ですが。私たちは今まで散々呼び捨てにしてしまって……」

「中佐だったなんて知らずに……」

「整備まで……」

「今の吹雪すっごく乗りやすいです」

「なんとお礼、お詫びを申し上げればいいのか……」

 

「おう、大事に乗ってやってくれ。今まで通りにマサキって気軽に呼んでくれ」

 

「よくやったよマサキ。これも食べな!」

 

「いや、アレだけでじゅうぶ……いただきます」

 

 京塚のおばちゃんから更に大盛りのオカズが手渡され、断ることもできず俺はがんばって食べることになった。どうしてこうなった。

 

「マサキ、食べさせてあげるわ。はい、アーン」

「っ! これも美味しいぞマサキ。アーン」

「合成宇治茶もありますよ!」

「イーニァのもーっ!」

 

「イーフェイとかいったな、後から来て図々しいんだよ」

「上官に向かってそんな口聞いていいと思ってるの?」

「食事中だぞ貴様ら。マサキこれも食べるといい」

「「ずるいです中佐!」」

 

「……食べるのを手伝ってくれ」

 

 そんなありふれた空気に包まれたPXでのひと時。素敵やん?

 

 

 

 

 

「うっぷ……ふぅ。さて、仕上げるか」

「何をすればいいんですか?」

 

 唯依姫は散らばった書類を整えながら聞いてくる。シロとクロも手伝うように紙を咥えては所定の位置へと運んで行く。この猫の動きは不思議に思われないのだろうか?

 

「ん~じゃあ、テストするからデータ取りお願いできるかな?」

「了解しました」

 

 最終調整をして、問題なければそれで完成だ。まぁ、兵装は見直さなければならないが、今回はこれだけでいいだろう。

 

 とは言っても、持っているライフルは随分と砲身が太い。これは、夕呼先生から試作1200㎜超水平線砲の資料を見せてもらい、コンパクト化して持ち運び可能なものとして、更に改良を加えたものだ。

 

通常の超水平線砲だと、極超長距離からハイヴを直接砲撃するという概念で試作された対BETA兵器だ。通常圧力で激発された砲弾の通過に伴って、砲身内に多数配列された薬室が順次点火し砲弾を極超音速まで加速させる。発射後は、砲弾内の砲弾のコンピューターが入力データに伴い、砲弾側面の火薬パレットを制御爆発させ、2度の弾道補正によって遥か彼方の目標を狙撃する。タケルの1回目のこの世界だと、これでHSST(再突入型駆逐艦)を衛星データリンク間接照準(TYPE 94 SBS SYSTEM)によって撃破した。

 これもハイヴ攻略に向けてかなり有効な兵器といえる。ぬふふふふ……っと。いかんいかん。

 しかし、装弾数は5発だが3発以降は砲身がもたないため、前線運用が疑問視されお蔵入りとなったライフルだ。しかし、この面も俺の改良により強化されている。距離は少し短くなったがそれでも10発以上撃っても砲身はもつようになったし、10発の連装弾薬にしたし後方支援としてかなり有効だろう。

 

「随分と軽装ですね。ライフル以外は盾もなく……頭部パーツが変わっているようですが」

「まぁ今回はスナイパー性能の実験テストだから。一応、内部のOSとかを射撃に特化したような感じにはしたんだけどね。更に遠くまで見えるように『強化型モノアイ』にしてあるんだ」

 

「なるほど」

 

 俺は強化装備を着て、不知火に乗り込む。JIVESにリンクさせ、演習場に出る。

 

『ではデータリンク開始。状況開始します―――。ってこれ何ですか!?』

 

 唯依姫は驚きの声を上げる。

 

「どうかした?」

 

『想定されている状況が……。HSSTが落ちてくるって、どういうことですか?』

 

「まぁまぁ、それぐらいシビアにしといた方がいいデータ取れると思ってね。まぁ状況としては、夕呼先生や、明日来る予定の珠瀬事務次官が邪魔と感じる某国の陰謀により、横浜基地一体を吹き飛ばす爆弾が積まれたHSSTを落とされる……ってところだ」

 

『唐突な設定にしては随分と具体的ですね。……はぁ、わかりました。では落下始まります』

 

 落下のデータが送られてくる。実際に想定して見てみると遠いな、でかいな、早いな。これをたまは撃ち落としたんだよな。流石射撃の名手。まぁ出来ないとも思わないけどな。

 

 俺は構えて射撃をする。

 

 キュゴンッ!

 あら、外したか。

 

『……目標健在。中佐、ビームにより砲身が過熱しないように気を付けてください』

 

 冷却装置は正常に動作。もう少し冷却を高めに設定するか。

 

「こんなもんでいいかな……。うし、2発目行くぞ」

 

『どうぞ』

 

 キュゴンッ!

 

『……目標に着弾。砲身は大丈夫です』

 

「了解。もう一機落としてくれるか? 試したいものがある」

 

『了解しました。……落下スタート』

 

 俺は砲身に、一見蓋のように見えるパーツを組み込む。

 

 俺は再度構えてトリガーを引く。

 

 キュィィィ……ン。バシューーーンッ!!

 

『……も、目標着弾。中佐、今のは?』

 

「名付けて『八岐大蛇(ヤマタノオロチ)』だ。射撃に自信のない奴でもほぼ確実に当たるぞ」

 

 実際の空にはそんなビームなんて放たれていない。そのため、そのライフルの性能、特性を確認したのはJIVESを操作している唯依姫だけであった。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side タケル

 

「『珠瀬1日限定分隊長』計画を発動せよ!」

 

 何て言ったのが昨日のこと。そして、今俺たちの目の前にはたまの親父さん。珠瀬事務次官がいる。

 

 

「ではここから先は、珠瀬訓練兵がご案内差し上げます。珠瀬訓練兵!」

 

「あ! は、はいっ! どうぞこちらへ!」

 

 まりもちゃんはたまの1日分隊長の事を蔭ながら了承してくれたようだ。ありがとう。

 

 たまは少し緊張で硬そうだが、親父さんを事務次官として見つめている。たまの親父さんも事務次官らしい顔してそれを受けているように見えるが、それも一瞬だけだった。顔は緩み切り、親バカな顔で対応を受ける。

 

「うんうん、頼もしいなあ……でもパパは甘えてもらえないの、ちょぉっと寂しいぞぉ……」

 

 パパ相変わらずかよ。

 

「ででででは、こ、こちらへ!」

 

「うむ……パパ、今日はたまの小隊長っぷり、いっぱい見せてもらうぞぉ」

 

 パパ、分隊長です。

 

 

「こ、こちらが兵舎です! け、敬礼!」

 

「「お待ちしておりましたっ!」」

 

 委員長と彩峰は敬礼をして事務次官を迎える。彩峰……やめろよ? フリとかじゃなくてやるなよ? 本当にやるな―――。

 

「……あんたもたま……」

 

 ―――バカ! 言いやがった……!

 

「たまパパ……ひげ……」

 

 まだ言うか!

 

「し、私語を慎め~~~っ!」

 

「その凛とした姿。いいじゃないか、たま~~~」

 

 この親父は……。

 

「ん? 君はさっきまで一緒にいた……」

「榊千鶴訓練兵です! 分隊長には毎日、ご迷惑をおかけしております」

 

「うんうん、知っているよ。父上に似て、物分かりが悪くて融通が利かないらしいねぇ」

「……」

 

 元はと言えば、たまが親父さんに出している手紙が原因なんだよな~。親父さんも手紙の内容を大袈裟に言っているんだろうけど。やっぱりこうなるのか。

 

「ん? 君は……」

「はい! 鎧衣美琴訓練兵です!」

 

「ほほぉ……君か、たまより(胸が)平坦な鎧衣君とは」

「……ボクは……ボクは……ひどいよ~、気にしてるのに~~~~っ!」

 

 美琴は猛ダッシュでその場から逃げだした。かける言葉が見つからない。

 

「ん? 君は……」

「御剣冥夜訓練兵です!」

 

「そうですか、あなたが……」

「……? 私には何もないのですか?」

 

「……死活問題ですので」

「……そうですか」

 

 そりゃそうだ。相手は将軍家縁の者だもんなぁ……。たまは脅えきっている。どれほど手紙で書かれたのかと、小隊メンバーはたまに視線を集中させている。だが、安心しろたま。ここでみんなの怒りは俺に向く。

 

「……白銀武君だね。先ほどから見ていたが、うむ、なかなかの好青年だ。顔も悪くない。性格もいいと聞いている。おまけに座学、兵科共に成績優秀、冷静で頼りがいがあるという。今のご時世で、君ほどの男はそうそう居まい」

 

 なんか褒めちぎってねぇか? 前の世界よりエスカレートしていると思うのは……気のせい?

 

「君ならば……うむ、よかろう。たまをよろしく頼むよ。傍で支えてやって欲しい。今までも、そしてこれからもね。いやはや楽しみだ……わははははは。いや、そろそろわしも、孫の顔が見たいかな、ま、ご、の、か、お、が、な! わははははは……」

 

「「「「(―――孫!?)」」」」

 

 おいおい! 一気に飛躍してるじゃねーか!

 

 ガシッ!!

「―――お?」

 

「……ちょっと、いい?」

「いやッ、後にしてくれ」

 

 ガシッ!!

「んお?」

 

「タケル、そなたに話がある。なに、時間はとらせん……よいな?」

 

「き、君たち! 事務次官の前であるぞッ!?」

 

 その怒りで震えた手を離せ!!

 ひょいっ!

「え?」

「もう、離さない」

 

「よし彩峰、そのまま連れ出すのだ」

 

 おぉぉっ!? 担がれてる!?

 

「おお、歓迎のパフォーマンスかね?」

 

 どの目で見て、どの口が言うんだそれを!

 

「全速力!!」

 

 ちょ、おい……!

 

 ―――俺は死んだ。スイーツ。教えてもらったけど、スイーツって何だマサキ?

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

 俺は少し離れたの演習場にある高台に待機していた。

 

『海堂、聞こえる?』

 

「感度良好。オーバー」

 

『警報はギリギリまで鳴らさないでおいてあげるわ。確実に落しなさい』

 

「ラジャー」

 

 俺は念には念を入れて砲身を【大蛇(オロチ)】から【八岐大蛇(ヤマタノオロチ)】に変更していた。命中率は飛躍的に上がる。まぁ……単純に精神コマンド使えばいいんだけどさ。精神コマンド使ったら他の人が使う時のデータとのズレが出過ぎるだろうからそれはやめておく。

 

 大蛇は主砲の1発だけの超長距離ビームライフルだ。それに対してヤマタノオロチはその主砲の砲身に蓋のような特殊なアタッチメントを取り付けて、少し威力の落ちた主砲とその周りを八角形を描くように並走して放射される合計9発からなるビームライフルだ。

 

 そして、真っ直ぐ放射されるのは主砲のみで、他の8発は幾何学的な動きで放射される雷のような砲撃だ。真っ直ぐ移動しない8匹の蛇。正にヤマタノオロチ。冷却やエネルギー供給などが正常に行われるのであれば最大連続放射時間は20秒。前線にこの機体がいればかなり楽に戦域を維持できるだろう。まぁ、BETAの素材が使われているから製造ラインに乗ることはない。この機体だけでも造れたのが不思議なくらいだ。

 

『来たわよ。データ送ったわ』

 

 それを聞いて俺は不知火のヘッドパーツを稼働させ、デュアルアイは目隠しされるようにモノアイになる。

 

「受け取りました~。リンク完了。冷却装置正常。エネルギー問題なし。目標、HSST……確認。あ、夕呼先生~」

 

『何? まさかトラブル!?』

 

「あ、いえいえ。放射してる時の写真を記録して後でください。こっちでも勿論撮るんですけど、別アングルからも―――」

 

 絶対カッコいいはずだ!

 

『まじめにやりなさい!』

 

 ……怒られた。

 

 俺は引き金を引き、ビームライフルを撃ち放つ。ビームは主砲を胴体とするかのように8発の不規則な大蛇が並走していく。一瞬、空が真っ赤に染まった。HSSTに当たったのだろう。その衝撃は少し遅れて響き渡った。

 

『……目標消滅。御苦労さま。興味が湧く兵器だったわ。後で報告書の提出ね』

 

「……写真は?」

 

『まったく……用意させておくわ』

 

「ひゃっほーい!!」

 

 戻ると唯依姫が怒って待っていた。別のスケジュールを入れていたはずなのに何故ここにいる?

 

「本当にHSSTが落ちてくるなら言ってください!」

「ちょ、何で知ってるの!?」

 

「香月博士から聞きました!」

「……何で話すかな~?」

 

「あんた達は隠し事ない方がいいんじゃないの? 先のことだろうけど、今から隠し事してるようじゃ、将来うまくいかないでしょう?」

「博士! もうっ!」

 

 夕呼先生はカラカラと笑って、唯依姫は赤くなって夕呼先生に言い寄っている。俺たちは? 将来? どういうことだろう?

 

「にゃー(鈍感にゃ)」

「にゃにゃ(オイラでも分かるニャ)」

 

「どういうことだよ?」

 

「にゃ~(自分で考えろニャ)」

「にゃ~(そうニャ)」

 

 その日の空での出来事は、BETAの光線級に何かが撃墜されたとか、そんな話で持ちきりになった。そんな他の大部分の人とは違うベクトルで、俺の疑問は晴れずにいた。しかし……。

 

「あ、そうそうピアティフ」

「はい、海堂中佐。ご要望の写真です」

 

「キターーーー! ありがとうピアティフさん!」

 

 俺はピアティフさんに抱きついて封筒に入った様々な角度から撮られた様々なサイズの写真を机に広げる。その写真の効果により、疑問は吹っ飛んで、俺は写真に興奮していた。

 

「カックィーッ!! 見ろよシロ、クロ! このモノアイとか! このビームの放射の流れとか! く~たまらん! 夜だともっときれいだろうなこれ! あ、この角度もイイ!」

 

「「(……駄目ニャこいつ、早くニャんとかしニャきゃ)」」

 

 その部屋には頭を抱える白衣の副司令。そして顔を赤らめる中尉が2人、呆れた顔を浮かべる白と黒の2匹の猫がいたようだ。

 

Side out

 

 

 

 

 

 ―――その者達は恐怖に襲われていた。

 

 カザフスタンのハイヴにも一枚噛んでいるどころか、全て魔女の仕業なのではないかと思えるほどの恐怖がその者達を襲っていた。

 魔女は今まで知識だけでやり合っていたのだと。攻撃の手段を得た魔女がどう動くと言うのか。言うなれば、じゃんけんでグーは絶対に出せなかった者に勝つのは容易かった。それが、グーを出せるだけでなく、馬鹿らしいとも言える禁じ手『ピストル』まで使えるようになったとしたらどうだ? 笑えない。遊びではないのだ。ここから先勝者が得るのは勝利というモノだけではない。奪われるのは命だけではないのだ。そして、ここから先、勝つことは非常に難しく、最終手段を使うしかなくなった。

 

 そして、HSSTを撃ち落とされた事に対してこう溢した。

 

『―――魔女はいつの間にか最強の杖を手に入れている……ならば』と。

 

 その国で革命を起こさせるのに失敗した。しかし、まだ種火は残っている。ならばそこに火薬を放り込むしかない。全て爆散させれば何とか最後の勝ちは見える。最後に勝てばそれが彼らの勝利だった。どうせ人類はBETAに勝てないのだ。ならば出来る限り自分の命を可愛がる事だけに集中する。

 

 そうすることで自分達の首に縄を掛けている事にも気付かないほどに盲目となる。BETAに勝てないならば眼の前の人間に勝てばいい。その人間が魔女であっても、最強の杖を手に入れていたとしてもそれに勝てば終わりだ。最後のそれに勝てばそれでいい。

 

 ―――勝てれば。

 

 ―――それで終わりだ。

 

 沈んでいた表情から汗が吹き出し、最後には狂笑が深く浮かんでは沈んで行った。

 

 

 

 



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12

Side マサキ

 

 ベトナムで鳴らした俺達特攻部隊は、濡れ衣を着せられ当局に逮捕されたが、刑務所を脱出し、地下にもぐった。しかし、地下でくすぶっているような俺達じゃあない。筋さえ通れば金次第でなんでもやってのける命知らず、不可能を可能にし巨大な悪を粉砕する、俺達、特攻野郎Aチーム!

 

 俺は海堂マサキ。通称 開発部の天才主任。

 メカの天才だ。大統領でもブン殴ってみせらぁ。でもBETAに撃ち落とされるから飛行機だけはかんべんな。

 

 俺達は、道理の通らぬ世の中にあえて挑戦する。頼りになる神出鬼没の、特攻野郎 Aチーム! 助けを借りたいときは、いつでも言ってくれ。

 

 パチッ

 不意に部屋は明るくなる。うおっまぶし!

 

「何やってるんですか中佐」

「……じ、自己紹介の練習?」

 

「誰に自己紹介するんですか……まったく、今日は休んでしっかり寝てくださいって言いましたよね?」

「すみません」

 

 オマージュとかインスパイアとかちゃちなもんじゃねぇ。完全にパクリだ。

 

 さてさて、俺は最近働き詰めで休んでないと指摘され、休みを言い渡された。基地副司令の夕呼先生とか更に上のアナゴ司令からではなく、部下に当たる唯依姫からの指摘だ。楽しく開発してるんだからよくね?

 まぁこうなったからには仕方ない。眠くもないから機械いじり以外の趣味のアレを仕上げるか。俺はベッドの下から色々と取りだして作業を始めた。

 

「あとは縫い合わせるだけか……よし、もうすぐ仕上がるぞ」

 

「まったく休む気配がニャいニャ」

「しかも絶対没収されるニャ」

 

 バレなきゃいいんだよ。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side A-01部隊

 

 ―――今日も訓練に励む私達、特攻野郎Aチームとは私達の事よ!

 

「あだっ!」

「ぼーっとするな築地! 私達はA-01部隊だ! 隙を見せるな!」

 

「博士から聞いたんだけど、事務次官が来たときHSST落ちてきてたんだって」

「あぁ聞きましたよ。地震も来ましたしね。あれ海堂中佐ですよね。撃ち落としたの」

「その機体見ましたよアタシ!」

「どんなのだった?」

 

「不知火の全ての兵装を取っ払って、大きめのライフルと、頭部に変わったパーツを付けてるぐらいの印象しかなかったですね」

「スナイパー特化タイプかぁ……いつ準備したんだか」

「凄いですよね~中佐。ちっちゃいのに」

「貴様ら! お喋りなら降りてからにしろ!」

 

 戦術機でXM3に慣れてきている彼女達は、XM3の開発者であり、凄腕衛士であるマサキの行動は気になっているようで、香月博士から出来る限りの情報を得ている。

 

「ってか早いわよ! ビャーチェノワ! シェスチナ! く~っ止めなさいよあんた達もテストパイロットでしょう!?」

「うるさいであります速瀬中尉殿!」

 

 タリサはテキトーに敬いながら得意とする機動を繰り返して詰めていくが、すぐに引き離される。クリスカとイーニァのチェルミナートルはそれほどまでに早い機動をしていた。

 

「タリサ、捕まえられないなら一度離れて、支援砲撃が出来ない」

「なめんなー!! ……げっ!!」

 

 いつしかタリサは後ろを取られて大破扱いされ演習場内から外れた。

 

「くっそーっ!! 撃ち落とせステラ!!」

 

「アタシに任せなさい! うわっ! 危ないじゃない!」

「危ないも何も私こっち部隊の設定ですから、ね!」

 

 イーフェイの殲撃が襲いかかるが、柏木の正確な支援砲撃に阻まれる。

 

 

 

『―――状況終了。御苦労さま、あんた達にプレゼントがあるわよ』

 

「プレゼント!?」

「プレゼントぉ?」

 

 明らかに2手に分かれ違う色を見せる反応を前に、夕呼は特に何も感じさせず、データをリンクさせた。

 

『さぁ、兵装自由でやりなさい』

 

「なーんか長いロードですねぇ……え? 表示範囲100%って……ハイヴの完全版データ!?」

「この前落ちたっていうカザフスタンのハイヴですか!?」

「ふふふふふ……ビビってるの? アンタ達ぃ、こっちはXM3搭載してるのよ? 冷静にやれば行けるわよ」

 

 速瀬は口元を歪めながら兵装を前衛仕様にして準備を進めていた。

 

「新型OSを過信するのとは違うが、確かにデータにビビる事はないぞ」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

 戦乙女たちはBETAを滅ぼすために剣を取り、BETAの巣へと進んでいくのであった。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side タケル

 

 HSSTは落ちて来なかったし、市街地戦での新型OS【XM3】の搭載した吹雪は調子良かったし、最近は好調に進んでいる気がする。すげぇよなマサキ。XM3か……あれがあれば人類はBETAなんかに負けない! っと、今はそれよりも。

 

「夕呼先生ありがとうございました!」

「あら、何かしたかしら?」

 

「何って、昨日の件ですよ。HSSTの件」

「あぁ、私は何もしてないわよ」

 

「え、でも実際落ちてきてないですよね? ……っ! まさか未来が変わった!?」

「落ち着きなさい。……昨日、地震があったわよね」

 

「え? あ、はい。軽いやつがありましたね」

「前の世界でもあったかしら?」

 

 いや、それはどうだろう。正直HSSTが落ちてきているのだから、地震とか気にしてる場合じゃなかったし……。話題にもならなかった。というか何でそんな話を……。

 

「アンタも結構鈍感ね。昨日落ちてきたわよ。アンタの言うとおりに」

「え? 何がですか?」

 

「何って、アンタが言い出したんでしょう? 爆薬盛り沢山のHSSTよ」

「……は? いや、だって警報も鳴らなかったじゃないですか。落ちてきたってそんな―――」

 

「警報はカットしておいたわ。HSSTは海堂が撃ち落としたわ。軽い地震はその時の物よ。あんた達は外が見える場所にいなかったでしょうから、一瞬赤く染まった空を見てないのね」

「マサキが……?超水平線砲を使ってですか?」

 

「いいえ、新兵器をまたテストしたいとかでね」

「テストでって……命がけでですか、俺達の命まで勝手に賭けて……マサキは?」

 

「ふふふ、今日は休むようにキツ~く言われてたわ。将来尻に敷かれるのかしらね。幸せになりそうではあるけど」

「はあ?」

 

 俺は良く分からず、とりあえず相槌をうった。

 

「それよりも、コレを見なさい」

「レポート? 俺なんかが見ても内容なんて……」

 

「良いから見なさい! 図だけでもいいから。何か気がつくこと有るかしら?」

「図だけって……(ペラ)……(ペラ)……あ、これ……うん確か夕呼先生の授業で」

 

「確定ね。白銀、アンタこれから社と同棲しなさい」

「はぁ!?」

 

 何言ってるんだこの人!?

 

「なに? 疾しいこと考えてる? アンタが社に手を出すなら犯罪よ?」

「いやいやいや! それを助長する行為を何故!?」

 

「白銀、これはアンタが元の世界に戻れる実験でもあるのよ。その先駆けとして私の論文をアンタの元々いた平和な世界とやらのアタシに渡して、論文を完成させてきなさい」

「そんなこと出来るんですか!? というかそれと霞にどんな関係が!?」

 

「準備はしておくわ!」

 

 俺はわけもわからず追い出されて隊に戻った。

 夜、枕を持って霞が部屋に来た時は、驚きと様々な考えが頭を駆け巡り、その日は眠れなかった。しかし、最近、昔の夢を見ることが多くなっている気がする。

 

 

 

 翌朝のPX

 

 俺はまた昔の夢を見た。幼馴染の純夏が俺のポテトを犬っころにあげるという夢だ。懐かしい夢だ。純夏はこの世界にいないのに……。

 

 霞は俺がぼーっとしてる間に俺と自分の分の2食分を持ってきてくれていた。

 

「あぁ、すまん霞! 次からはこんなことしなくていいからな!」

 

「何だか今日の社の様子は少し違うな」

「そうね」

「普通だろ?」

 

 霞は食事を見つめて箸を手に取る。そして魚に箸を付けたかと思うと……

 

「……どうぞ」

 

「「「「「っ!!?」」」」」

 

 俺の口めがけて、箸で掴んだ一口小程の魚を差し出してきた。まさに「口を開けてください」というか、「あーん」をしてきたのだ。

 

「い、いや、それは霞のだから食べていいんだぞ?」

 

「……何か違ったのかな?」

 

 霞は何かを考え直したのか、再び同じ行動をとった。

 

「……どうぞ」

 

「普通……ねぇ?」

「楽しいお食事中に恐縮だが……詳しく事情を説明してもらいたいな」

「あ~んってしてる……あ~んって……」

「いろいろあった……」

 

「な、何もねーよ!」

 

「……どうぞ……嫌ですか?」

 

「いや、嫌ってわけじゃ……」

 

「……何か間違っていましたか?」

 

「ま、間違いってわけじゃ……」

 

「「「「「……」」」」」

 

「……どうぞ」

 

「ぐっ……(ぱくっ)」

 

「「「「「っ!!」」」」」

 

「まだあります」

 

 この精神攻撃は食事が終わるまで続いた。

 あ、味がしない。

 

 

 

 食後、戦術機の整備訓練中。

 

「委員長~、トルクレンチ取ってくれるか~」

 

 俺は無言で飛来したトルクレンチを額で受け止める形になった。何故だ。

 

「何しやがる!」

「あらごめんなさい。でもトルクレンチもまともに受け取れないなんて、先が思いやられるわねぇ」

 

 今は戦術機の整備の方法を勉強中で、トルクレンチの受け取り方を学んでるんじゃねー!!

 

「タケル……私はソケットレンチを取ってやろうか?」

「い、いや! 遠慮しておく!」

 

「ラチェット……いる?」

「ドライバーは? プライヤーは?」

「どれも要らん!!」

「あわわ……」

 

 珠だけは攻撃的ではないが、庇ってくれる事もなく如何したものかとあわあわしている。

 

「白銀、ここで何をしている? 博士のところに呼び出されているのではないのか?」

「いえ、聞いてませんが?」

 

「おかしいな……直接伝令が行くと聞いていたんだが……まぁいい。直ちに博士の元へ向かえ。……ところでその額はどうした?」

 

「白銀が工具の扱いをミスしたのです。以後、気を付けさせます」

「なにぃぃぃっ!?」

 

「まぁ、おおむね間違いではない」

「大間違いだ!!」

 

「戦術機の操縦ばっかりうまくてもダメ……」

「よくわからんが、お前がトラブルの原因である事は間違いなさそうだな」

「まりもちゃんまでそんな事を!」

 

「まりもちゃん……だと?」

「あの……その……つい」

 

「白銀、何度も言わせるな……私は貴様のお友達でも仲良しお姉さんでもない。上官を侮辱した者がどうなるか……分かっているな!?」

「し、失礼しました!」

 

「本来なら一喝入れてやるところだが……早く行け!」

「りょ、了解!」

 

 俺が全て悪いのか~!?

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

「中佐これでいいですか?」

 

「あぁ、ありがとうターシャ」

 

「いえ、でも『掛布団を用意してくれ』なんて、これ何に使うんです?」

 

「イケナイ事さ。確実に怒られるね」

 

「わ、分かってて それをやるんですか?」

 

「バレない限りは! あ、秘密だからね?」

 

「守秘義務ならば守るだけですよ。では」

 

 微笑むターシャは掛布団を置いて、俺の部屋を後にした。

 

 しばらく作業を進めて……

 ピキーンッ!

 

「来る!」

「ニャにが?」

「ん? 確かにここに向かってくる人がいるニャ」

 

 コンコン ガチャ

 

「中佐? ……掛布団を2枚も……」

「あ、唯依姫? いや、少し寒くてね……」

 

「そうですか……一応、遊んでないでちゃんと寝てるかの確認だったのですが、風邪には気を付けてくださいね。シロちゃんとクロちゃんも中佐をよろしくね」

 

「「にゃ~」」

 

 パタン

 

「ふぅ~危ない危ない」

 

「アタシ達が気付く前に察知したわよね? ニャんで?」

「だんだん人間ばニャれしていくニャ」

 

 なぁに、こういう時だけは勘が働くんだぜ。

 

「でも、こういうのって技術力の無駄使いって言うんじゃニャい?」

「技術力ニャのか……これ何枚作ったのかニャ?」

 

「えっと、ステラ、タリサ、クリスカ、イーニァ、唯依姫、イーフェイ、おまけでまりもちゃんとピアティフさんの8枚だな」

 

「ラトロワ中佐は作らニャいのかニャ?」

「それはバレた時が怖いニャ」

 

 そう、怖い。消されかねない。戦って死ぬなら仕方ないけど、味方のはずの人類から死を貰うのはちょっといただけない。

 

「出~来た!」

 

 俺は掛布団を加工し詰め込み『ポンッ』と叩いた。唯依姫だ。抱き枕だ。俺は他の抱き枕カバーをベッドの下に隠し、抱きついて眠ることにした。

 

「抱き心地抜群~。……く~」

 

「そんニャに早く寝れるニャら枕いらニャいんじゃ……」

「あ、誰かまた来たニャ」

 

コンコン ガチャ

 

「中佐、京塚曹長に頼んで風邪に効く飲み物貰ってきましたよ……眠っているのですか……あら? 掛布団が減って……誰!? ……人じゃない?」

 

「「(あ~、確実に怒られるニャ)」」

 

「私の顔……!?」

 

「くへ~……すぴ~……唯依ひめ~……く~く~」

 

「……もうっ中佐ったら /////」

 

「「(怒らニャいの!?)」」

 

「でも、没収です!」

 

「「(ですよネ~)」」

 

 俺は抱き枕を引っ張られて起きる。とりあえず引っ張られるなら離さないだけだ。

 

「うう~。……何だ?」

「起きましたか? 離してください中佐」

 

「唯依姫!? 夜這い!?」

「なっ!? 違います! 夜でもありません! とにかくコレは没収します!」

 

「やだ~やだ~。せっかくさっき完成させたのに~」

「やっぱり休んでなかったんですね!? 休んでくださいって言ってるのに! きゃっ!」

 

 唯依姫はバランスを崩してそのまま倒れてしまう……。

 しかし、その先には……

 

「シロ!?」

「ミギャ! アイタタタ……あ」

 

「……」

「……さて、オヤスミナサイ」

 

「「にゃ、ニャ~……」」

 

「……」

 

「いやいやいやいやいやいやいや!! 今シロちゃんとクロちゃん話しましたよね!? 中佐!? 」

「唯依姫も疲れてるんだね? よし、上官命令だ部屋に戻って寝なさい!」

 

「誤魔化されませんよ!」

「ぬぅ……仕方ないか。シロ、クロ」

 

「良いのかニャ?」

「オイラ達がバレるとまずいんじゃ?」

「タケルと夕呼先生は知ってるだろ? もう良いさ、唯依姫には近いうちバレてただろうさ」

「……本当に喋った」

 

「唯依姫。ここから先はその内に話そうと思っていた事だけど、まだ他の人に言っちゃ駄目だからね」

「は、はい。ネコ型の偵察機とかだったんでしょうか?」

 

「生きてるよ。会話もできる。俺はね、この世界の人間じゃないんだ」

「何を仰っているか……どういうことでしょうか?」

 

「90番格納庫に行こうか。俺の機体も見せるよ」

「……中佐の機体」

 

 

 

 格納庫内は誰一人おらず、静けさを保っていた。照明を付け、サイバスターを見せる。

 

「画像データにあった機体……」

「これが俺の機体【AGX-05】正式名称【サイバスター】」

 

「サイバスター……これほど綺麗な戦術機は……」

 

 唯依姫はサイバスターに見惚れている。

 

「これ戦術機じゃないんだ。シロとクロはこのサイバスターの兵装の一つでもある。俺の使い魔でもある」

「戦術機じゃない? 使い魔?」

 

「ちょっと待ってて」

 

 俺はサイバスターに乗り込んで夕呼先生に説明した時のようにディスカッターを異次元から取り出す。更にシロとクロもハイファミリアとして射出する。俺はシロとクロがコクピット内にいない事を見せながら説明する。

 

「こういう風に兵器は取りだすんだ。そこで飛んでるヤツにはシロとクロが憑依してる」

「……憑依?……信じられないことですが……」

 

 俺は再び降りて、サイバスターの脚部に唯依姫と寄りかかって説明を始めた。

 

「シロとクロは使い魔だから話せるんだ。機体も魔法と科学の融合したような機体だから戦術機としての考え方は全く通用しない。信じた?」

「これだけ見せられてしまうと……信じざるをえませんが……」

 

「信じてもらえたニャ」

「これで少し動きやすくニャったわね」

 

「……俺、元いた世界で死んでね、もう生きる気はなかったんだけど、他の世界で生きろって神様みたいなのに言われてね。まぁそれでも生きる気は最初なかったんだけど、なんか楽しくなってきちゃってさ死ぬ気も今ではないのよこれが。……そんで、この世界に来たら戦術機の知識とかはあったから、夕呼先生が中佐としてこの基地に置いてくれてね。あ、中佐はやりすぎだって言ったんだよ?」

「……中佐は、どうしてこの基地に? 中佐の腕なら資源の豊富なアメリカとかでも高待遇でしたでしょうに。アメリカなら食料自給率は100% それに比べて日本を含め他の国では合成食料がほとんどですし、国としての力でさえも……」

 

「そりゃあ……俺が日本人だからだろうな」

「……日本人」

 

「そ、日本人だから。飯が旨かろうが、自分の国じゃないなら願い下げだな。国の力が低いって言うなら上げればいい。それに飯なら京塚のおばちゃんの飯は旨いしね」

「中佐……(やっぱり変わらない。中佐は中佐だ。私は私だ。自分の気持ちに変わりはない。中佐だから私は……)」

 

「唯依姫?」

「ふふふ、大丈夫です。信じました。でも……神様はないと思いますよ?」

 

「いや、いるんだって神様。タバコ吸ってラフな格好してて不良な感じの赤い髪の女の人」

「もう良いですって。戻りましょう、ここは冷えますから」

 

「信じてないでしょ!? いるんだって」

「はいはい。風邪ひかないでくださいね……マサキ」

 

 ん?

「今、名前で呼んだ?」

「呼んでないですよ」

 

「いや、呼んだよね」

「聞こえません」

 

「じゃあ抱き枕は使うね」

「それは駄目です!」

 

「聞こえてるじゃん。じゃあ唯依姫が生抱き枕になってよ」

「な、なま!? だ、駄目です!!」

 

「ねぇクロ、あれでもマサキは気付いてニャいでしょ……」

「そうね、抱き枕を取り返そうと必死にニャってるだけニャ……」

 

「「はぁ、バカップル……」」

 

 結局俺は抱き枕を取り上げられ、落ち着きを見せた。

 

 しかしまだベッドの下に7枚あるのさ……。くくくくく。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。

 

「中佐~?」

 

 ……取り上げられた。ぐすん。

 

Side out

 

 

 

 

 

 ちなみに取り上げられた抱き枕の行先はゴミ箱などではなく、横浜基地副司令・香月夕呼の下に提出される流れがあったのだが、夕呼は面白がってそれぞれの下へと届けるのだった。

 

 商品名・抱き枕カバー(○○○.ver)

 

 そんな小包みが各自室に届けられるとそれぞれが怪訝な顔で「抱き枕カバーとは何か?」という疑問と共に開封するのだが、自分がプリントされたそれに驚き、使い方まで書かれた紆余曲折ありながらも、各々でカバーに詰めるサイズの掛け布団を用意し、抱き枕として機能させ、最終的な疑問と答えに行きつく。

 

「自分を抱きしめ寝るのは気持ち悪い……しかし良く出来てる……」

 

 最終的に、真っ赤になって海堂マサキに「……つ、使ってください」とソレを渡すのだった。

 

「なんか今日は色んな人から物を貰うなぁ……何で部屋に戻ってから開ける指示があるのか分からんけど」

 

 マサキが自室に戻り頂き物を開封すると……。

 

「あれ!? 取り上げられたブツが返ってきた!!?」

 

 

 

 そして、そんな一連の行動を見て楽しみ、魔女は各人に質問する。

 

「枕カバーとはいえ、自分をプレゼントするってどんな気持か教えてもらえるかしら?」

 

 凄く深い笑みを浮かべながら。

 

 極東の魔女此処に在り。

 

 

 

 




抱き枕が手に入るとしたら誰のが良いですかね?

うーん今ならタリサかなぁ、たまに気になるんだよねぇぺちゃぱ……ん? こんな時間に誰だろ?


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13

ケイオスドラゴンっていうアニメを見ました。
あれだね。善悪相殺って感じの村正思い出しちゃうね。村正以上に感動する事は無いだろうなと思ってしまうのは私だけだろうか。


Side マサキ

 

 ここは90番格納庫の割と奥にあたる格納スペース。

 サイバスターは割と手前に置いてあるのだが、タケル専用機はこの奥にて制作中だ。

 俺達整備チームは制作したパーツ・武装を取り付けて行く作業中だ。

 

「主任、本当にこれだけの重量であってますか?」

「あぁ、間違ってない。それで強度は十分なんだ」

 

「随分軽いですねBETAの一部と聞きましたが……分かりました。ここは……?」

「背面ユニットは外部パーツを外した時にしか使わない。外部パーツ自体が武装であり、ブースターでもあるから大丈夫だ」

 

「了解しました」

 

 目の前の機体はブラックボックスのオンパレードだ。骨格はBETAの素材を混入させ、武装のビーム兵器も光線級のレンズを必要としたし、内部のエンジン部分なんて誰に聞かれても答えられないような代物だ。使ってます。

 

「あ、おい! 何で複座型の管制ユニット持ってきてるんだ!」

「あぁ、良いんだ。これは複座型で良いんだ。というかアレは3人乗りだ」

 

「は? 3人……ですか?」

 

 疑問も当然だ。複座型ですら珍しいのに、3人乗りなんて聞いた事がない。しかし、それほどまでに複雑な機構を持つ兵装がある。普通に戦うなら1人乗りでも大丈夫だが。BETAと全開で戦うなら3人だ。少し窮屈そうに見えるが、基本的に操縦するのは1人だから問題はない。俺としては全てのBETAを消すつもりでいるからいらないのだが、夕呼先生の風当たりとかも考えればBETAの思考を読み取る必要があるわけだ。大人の事情って面倒くさいものだ。

 

「海堂中佐はいらっしゃいますか?」

「ここにいるぞーっ!」

 

 俺は手のひらを広げ、高らかに突き上げて、呼んだ奴の目の前に現れた。

 

「ってピアティフ中尉じゃないですか。どうかしました?」

「お久しぶりですね中佐。香月副司令がお呼びです」

 

 何用でっしゃろ?

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 夕呼

 

 通信が入る。ここに直接という事はよほどの事だろう。

 

『香月副司令。帝国斯衛軍が、海堂中佐を呼び出しに応じさせるようにと……』

 

 これは海堂には伝えていないことだが、何度か断ってきた事だ。

 突如現れた18歳の中佐、同時期に目撃された所属不明機(サイバスター)、少ししてからまた各国で目撃され、同じ時間帯でBETAの巣であるハイヴが一つ落ちた。海堂と関係はありませんと言えるのも限界かもしれない。

 

「また月詠大尉かしら?」

 

 月詠大尉とはいっても、恐らくは殿下直々の呼び出し。まったく、海堂が余計な事をしなければ……。

 

『えぇ、しかし今回は大将も絡んでいるようでして』

「は?」

 

 ―――帝国斯衛軍の大将?

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

 俺はピアティフ中尉に案内してもらい夕呼先生の執務室に来ていた。ピアティフ中尉は部屋を後にして、今この部屋は二人と二匹だけになっていた。

 

「海堂、今アンタが作っているモノについても聞かなきゃいけないんだけど?」

 

 今作っているモノ? タケル専用機だろうか?

 

「えっと……あったあった。コレをどうぞ」

「これは?」

 

 俺は何枚か持ってきていた資料を選別して渡し、読めばわかると促す。

 

「サイバスターみたいに永久に飛びはしないのね……(ペラ)……なるほど……これは、この前の新潟の奴ね?」

「えぇ、それの改良型です」

 

「そう……この外部パーツは使い捨てなのね?」

「そうですね。撃ち終わったらただの重りなので、パージすればOKです」

 

「ビームライフルね~。これだけでも戦局は有利になるわね」

「ライフルは結構な数作るんで、それで楽になるでしょうね。装備する戦術機はタンク積まなきゃならないでしょうけど」

 

「ふーん、じゃあなんでこの機体はタンクなしなの? 内骨格だからと言ってエネルギーの供給は同じようなもんでしょう? これも使い捨て?」

「別のエネルギー供給のラインがあるんですよ。これはまだ試作段階なのでお伝えできませんけどね」

 

「ふ~ん……」

 

 この反応はかなりえぐい割合でバレてるな。見て見ぬふりしてくれるという反応に違いはないが、目は合わせられない。泳げ! 俺のスイミングアイ!

 

「そ、まぁ良いわ。それよりもアンタ何をしたの?」

「は?」

 

 夕呼先生は目を細めて俺を見やる。

 どれがバレた!? あれか!? それともアレか!?

 

「帝国の大将からのお呼び出しだそうよ?」

「は? 大将?」

 

 何それ? 聞いたことないイベントなんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

「では、中佐よろしいですか?」

「唯依姫も行くんだね」

『よろしいですか?』

 

「あぁ、出してくれ」

 

 俺は運転席からのスピーカーに答えて車両を出してもらった。運転手? 前田だ。間違いなく、前田だ。

 

 俺は不知火・弐型改をトレーラーに積んでもらい、帝国軍へと向かう事になった。

 内容は、悠陽が斯衛軍のトップである紅蓮大将・神野中将というお偉い方々に口添えをして、俺との模擬戦をするとのことだ。俺が勝ったら出来る限りのバックアップ。俺が負けたら俺の身柄は国連軍横浜基地から帝国斯衛軍、殿下直属部隊への配属となるらしい……。

 

「って、アホか」

「どうかしました?」

 

 俺は唯依姫に軽く内容を話した。

 

「は? 紅蓮大将と神野中将と月詠大尉と沙霧大尉を相手にするんですか!? 何でですか!?」

「最初は一人ずつって話だったんだけどね、模擬戦は疲れるだろうって、2~3日掛けて1対1でやるとか言い出したからね。そんな時間ねーっつーの。了解は貰ってないけど、まとめて相手して、すぐに帰るよ」

 

「……負けたら中佐は帝国斯衛軍なんですよね?」

「そうだけど、負けるかな?」

 

 唯依姫は口元に手を当て、「中佐なら……でも紅蓮大将に神野中将って……他の二人でさえも日本を誇る腕前の衛士だし……」とか言ってる。でも、XM3もまだ流してないし多分大丈夫だと思うんだけどな……。XM3+ブーストパーツこれだけでも動きで勝てるし。

 

 まぁ折角用意してきた機体だ。この世界の現在トップクラスの衛士がどれほど持つのかも見ものか。俺はトレーラーに乗っかっている不知火・弐型改を想像しながら頬杖をついていた。忙しい時に呼び出しやがって。……あぁイライラする。

 

 

 

 

 

 指定された厚木基地に到着する。

 俺は早速 強化装備に着替えて、不知火のシステムチェックに入った。トレーラーから不知火を切り離し、兵装の最終確認をする。

 

『お待ちしておりました海堂中佐』

 

 すでに帝国軍(インペリアル)仕様(カラー)の不知火。武御雷。瑞鶴2機。―――が俺を待ち受けていた。不知火はメガネ沙霧。武御雷は月詠さん。瑞鶴には件の大将と中将が乗っているのだろう。武御雷が配備されているのに瑞鶴に乗るとは、性能よりも個人的な乗りやすさ重視といったところなのだろうか。基本的には最新型に乗りたくなるのが衛士だと思うのだが。

 

「お久しぶりです月詠大尉」

 

『本当に子供だとはな、衛士として沙霧が負けたと聞いたが?』

『紅蓮大将、嘘偽りではございません。私は海堂中佐に大敗しました』

『さて、こちらは準備が整っているが、どうかなお若いの?』

 

『中佐、管制はお任せください』

「あぁ、頼んだ。さて、いっちょ行きますかぁ」

 

 俺は唯依姫に返事をして、目の前に広がる4機を見つめて言った。

 

「始める前に確認させてほしいんですけど、俺が勝ったらバックアップをしてくれる……」

『はい。その代わり、中佐が負けた場合は、その腕を帝国軍にいただきたく思います。どうか殿下のお傍に……』

 

「負けた場合はそれでも構いません。ですが、条件が一つ―――」

『何でしょう?』

 

 俺はデータから装備などを見比べ、問題なさそうだと判断した。なので、俺の予定通りの対応を取らせようとした。相手の都合は知ったことではない。俺だってそんなに暇ではないのだ。

 

「―――全員まとめて相手します。この条件が飲めないなら帰ります」

『かっかっかっ!……何を言っているのか、分かっているのか?』

『恐れながら中将殿、ありがたい進言かと存じます』

『私も同意見です。私や沙霧大尉では結果は見えております』

『ほほう、不知火1機に4機がかりで『ありがたい』と……』

 

「先に言わせてもらいましょうか紅蓮大将、神野中将……でしたっけ? あ~、ちょっと言葉崩させてもらいますが……あんたらの実力は知らないが、俺が乗っている機体が不知火でよかったな」

『中佐!?』

 

『……くかかかかかかっ!! 面白い!!』

『ワシらにその様な口を聴く者がおるとはな、殿下からも真剣におぬしを捕らえるようにとキツく言われておるからな、手加減はせぬぞ』

 

 それでいい。

 

『……そ、それでは、JIVESによるデータリンクを開始します。準備はよろしいですか?』

 

『応っ!!』

『問題ない』

『……参ります』

『行きます』

 

 JIVESが設定したフィールドがモニターに反映される。全機に掛るコマンドポスト役の声に目の前の4機はすぐさま応答した。

 

「海堂マサキ。行くぞ」

『……中佐、御武運を』

 

『では、状況開始!』

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 篁 唯依

 

 JIVESの設定が進みフィールドが出来上がっていく中、今回の演習―――中佐の身柄を拘束する圧力。そう言えなくもない演習―――が始まろうとしていた。フィールドが設定完了次第、各機のモニターに反映され、この演習は始まるだろう

 

『先に言わせてもらいましょうか紅蓮大将、神野中将……でしたっけ? あ~、ちょっと言葉崩させてもらいますが……あんたらの実力は知らないが、俺が乗っている機体が不知火でよかったな』

「中佐!?」

 

 私は中佐の乗る真っ白な不知火の背を見つめ、何て事を言うのだと思った。紅蓮大将と神野中将と言えば、日本帝国軍の双璧とも言うべき存在。その衛士としての腕前は……あ、でも中佐も化け物か。

 

『……くかかかかかかっ!! 面白い!!』

『ワシらにその様な口を聴く者がおるとはな、殿下からも真剣におぬしを捕らえるようにとキツく言われておるからな、手加減はせぬぞ』

 

 どうやら本気の勝負になったようだ。1対1で進むはずだった話はいつの間にか1対4へ。負ければ中佐は帝国軍に行ってしまう。だが、何故かそうはならない気がした。中佐が負けるところを想像できない自分がいた。

 

「それでは、JIVESによるデータリンクを開始します。準備はよろしいですか? ―――――。では、状況開始!」

 

 もしかすると、中佐と一緒に仕事ができなくなるかもしれないのに、私の心は撃ち震えていた。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

 この不知火は、不知火の改修機で【不知火・弐型】だ。更に武装も改良を加えて、俺好みにしてあるので【改】としている。紅蓮大将や神野中将には悪いが、試したい動き、兵装があるので良い機会だ。極上の実験台になってもらおう。

 

 さて、自分より多く敵がいる場合の対処法はいくつかある。一人ずつしか戦えないような狭いエリアに誘導して戦う。素早い動きで撹乱し出来る限り早く各個撃破する。隙が出来るのを耐えて待つ。等など。しかし、

 

「(そんなの性に合わないから、やっぱりコレなんだけどね……まぁすぐに終わってもつまらないからな……だから)避けろ!!」

 

 俺はいつものようにマイクロミサイルを肩と脚から放出していく。今までランチャーが、装填出来るのが1層だったのが、3重装填まで可能となったため、ミサイルはこのパーツ内に脚に25発×3層で計75発が左右合わせて4ヶ所。脚部だけで合計300発のマイクロミサイルを搭載している。肩も同じように25発を3層と、胸部にも20発を2層搭載しているため、それぞれ左右合わせて、230発。上下合わせて530発ものマイクロミサイルを搭載している。脚部のランチャーに関しては、発射口の調節も180度稼働できるため、後ろへも撃つ事が出来る。

 

 さて、気になるのは重量だが、ランチャーもブースターが付いているため問題はない。通常の不知火と比較すると多少遅くなるわけだが、そこはXM3もあるので気にしないでほしい。

 

「「(誰に解説してるのかニャ)」」

 

『ぬっ! いきなり全弾発射とは!』

『これさえ凌げば近接戦闘しかないだろうに……衛士の腕前を見誤ったのではないか? 月詠、沙霧』

 

 全弾? んなわけないだろう。全弾発射したとしたら、それはそれで面白い事になるがな。

 

『くっ! 何て数だ避けきれない!』

 

『沙霧大尉、左脚部に被弾。続行可能』

『月詠大尉、左腕部に被弾。続行可能』

 

 紅蓮大将と神野中将は長刀と薙刀でミサイルを切り払い、ビルの残骸などを利用して巧く回避していく。流石は大将と中将といったところだろうか。

 

「なら、これはどうかな?」

 

 俺は長刀を装備し、一気に距離を詰める。

 

『かかかっ! ワシに接近戦を挑むか! 若造!!」

 

 神野中将の薙刀と俺の長刀がぶつかり合う。しかし、それも一瞬の事だった。

 

『何!? くっ!』

 

 神野中将は距離を逆噴射で取る。薙刀だった物は、ただの棒になっていた。

 

『神野の薙刀が……どういう事だ?』

「演習中だけど説明しましょう。俺のこの長刀は高周波ブレードとなっています。その程度の物なら簡単に切れますよ。刃こぼれもしないで基本的には延々と切刻む事が出来ます。それが突撃級の殻でもね」

 

 俺は言葉と同時に拳をグーのまま神野中将の瑞鶴に向ける。

 

『更に挑発とはな……』

「いいえ、これで終わりです」

 

 拳の甲の部分が開き、ガトリングガンが現れる。神野中将の驚きの声とともに銃声を鳴らすガトリングは管制ユニットを的確に捉えていた。

 

『神野中将、管制ユニットに被弾。致命的損傷、大破』

 

 俺はまだ残弾数も残っているアーマーパーツをパージした。更に長刀も地上に突き刺して、短刀のみを装備する。これは標準的なダガーのため、高周波などの機能はない。

 

『馬鹿にしておるのか?』

『流石にそれは無謀といえるのではないですか?』

「試してみればわかる。新型OSとこの機体なら余裕だ。行くぜ、【オーバーブースト】」

 

 俺の乗る不知火・弐型改の背中が開かれる。そこにはブースターが取り付けられているが、随分と小型なものだ。しかし、その出力は通常のブースターの数倍の出力を持って突進する。

 

『なんと!?』

 

 驚きながらもとっさの判断で突撃砲を俺に向けて放ってくる。突撃砲の雨が前から降ってくる。しかし、それは俺がいた場所に降っていく。撃った瞬間に俺はすでに相手の懐だ。

 

「遅い!」

 

 俺は短刀で紅蓮大将を落とす。

 月詠大尉とメガネ沙霧も後回しにしたが、危なげなく落とした。

 

 距離を取ろうとしても、詰めようとしても結果は同じ、このスピードについてこれるとしたらサイバスターと……。

 

 

 

『……参った。まさかこれほどの腕前に開発力とは……正直予想以上であった』

 

 何て、大破扱いされた紅蓮大将が言ってくる。

 

 

 

 唯依姫は「車を回してくる」と言って、前田と一緒に不知火を積んだり、カバー掛けたりしている。基本的にすべて前田がやっているが。俺はというと着替え終わって、帰る準備万端な状態。さ、帰って問題点を改修して、量産計画の報告書を作らないと。って感じだ。

 

「もう帰られるのですか?」

 

 メガネ沙霧が車両待ちの俺をなんとなしに声をかけてきた。っと、その奥から大将殿に中将殿。更に月詠大尉がやってきた。……嫌な予感がする。もうトレーラーの中で待ってよう。

 

「こんなに小さい衛士だったとは……」

「負けはしたが、なかなかどうして、帝国に欲しいな」

 

「ははは、諦めてください大将殿。じゃあ悠陽によろしく」

「いえ中佐殿、自分でお伝えください」

 

 ゾクッ!

 俺は月詠大尉の声を聞いた瞬間に背後の気配を感じ、振り向くと悠陽が箱を手に待ち構えていた。

 

「マサキ、お久しぶりですね」

「あ、うん。ひ、久しぶり……なんか変なオーラ出てない?」

 

 何とも形容しがたい笑顔だ。笑顔だけどなんか……黒い?

 

「これを受け取っていただきたくお持ちしました」

「何これ?」

 

 夕陽は箱を開ける。その中には【カギ付きの首輪】が入っていた。

 

「……じゃあお疲れっした~」

 

 ガシッ

 

「受け取っていただけますね?」

「受け取れるか! 何で首輪だ! んなもん貰って喜ぶとしたらあそこのメガネぐらいだろう!」

 

 俺は沙霧を指さして怒鳴る。アイツなら殿下~殿下~って喜ぶだろうよ!

 

「では仕方ありません。真耶さん!」

「はっ!」

 

 ジャラッ!

 どこから出したその鎖と手錠は!?

 俺は無言でトレーラーにダッシュし、

 

「逃げるよ唯依姫!!」

「は、はい! 中佐お手を!」

 

「前田出して!!」

「かしこまりました」

 

「……っ! 逃がしてはなりません! これは上意です!」

「「「「はっ!」」」」

 

 何で全員で追ってくる!? もっとスピード出せ!!

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 煌武院 悠陽

 

「申し訳ありません。逃しました」

「……構いません。冗談はさておき真耶さん、マサキがいれば我が国にも光は見えるでしょうか?」

 

「恐らくは」

 

 私はその答えが返ってくるだろうと、分かっていながらも心を満たしていた。

 

 紅蓮大将・神野中将を手玉にとり、4対1であっさりと勝ち逃げされてしまった。マサキ、あなたがいれば、我が国……この世界は救われるのでしょうか。

 

「殿下、海堂マサキを国連軍から引き抜きますか?」

「ふふふ、紅蓮大将。人の恋路は邪魔してはなりません」

 

「は?」

「殿下、アレは篁の家の者でございます」

「そうでしたか……正妻でなくとも私は構わないのですが」

 

 しかし、トレーラーに飛び乗る際のあの二人の姿には何故か見惚れてしまいました。

 

「ところで、沙霧大尉のソレは外せないのですか?」

「申し訳ありません。直ちに」

 

 真耶さんは鎖と手錠で縛られた沙霧大尉の拘束を解いていった。どうやら捕え間違えたらしい。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 揺れるトレーラーの中にはマサキと唯依と猫2匹しかいない。前田は運転席だ。

 

「先ほどの不知火は全軍に配備されるのでしょうか?」

「ははは、無理無理。結構好き勝手やっちゃってるからね~予算がないだろうね、A-01部隊に回せればいいなってぐらいにしか考えてないよ。武装ぐらいならどうとでもなりそうだけどね」

 

「さっきのアーマードパーツはかニャり有効ニャ武器だニャ」

砲撃支援(インパクト・ガード)にはビームライフルだニャ」

 

「いや、でも数的にも厳しいかな……クリスカとイーニァが乗るチェルミナートルでしょ、タリサにステラ、イーフェイ、ラトロワ中佐にターシャか……A-01部隊はそのままでも良いか」

「独立部隊を申請すると?」

 

 独立部隊か、それも良いかもしれないな。マサキはそんな妄想ともいえるべき事を考えながらシロとクロを撫でていた。

 

 

 ―――突如鳴り響く警報。

 

「何があった!?」

「ロックオンされていますね。退避を」

 

 前田は冷静にそう言い放つ。

 

「すぐにトレーラーを止めて降りるぞ!」

「あ、当たりますね」

「は?」

 

 ドゴンッ!!

 トレーラーは縦に激しく揺れた。

 

 唯依と共にドアを開けて外に飛び出す。マサキは唯依の頭を抱えるように道路脇の土に塗れながら転がった。地面が柔らかくて助かった。マサキは起き上がり状況を確認する。

 

 前田は恐らく即死だったのだろう。トレーラーの全面はペシャンコに押し潰されている。トレーラーに乗っている不知火・弐型改は炎に包まれている。いつ爆発してもおかしくはないかもしれない。早くこの場から離れなければいけない。

 

 ブーストジャンプの音が鳴り響いている。空には目で追う限り、黒い不知火がブーストで跳躍していた。黒い不知火には烈士のマーキングが施されていた。あれは、帝都守備連隊。

 

「クーデター……!? バカな! 沙霧大尉はいないだろ……!」

「中佐! ご無事ですか!? 今はここから離れなくては……!」

 

 マサキは混乱しながらも唯依に手を引かれるようにトレーラーから一歩でも遠くへと離れていく。

 

 ドガァンッ!!

 

 ドッ!

 

「ガっ!」

「「マサキ!?」」 

「中佐!? ……血が……。止まらない……どうしたら……中佐、中佐ーッ!」

 

 マサキは後頭部に爆発の勢いで飛来してきた岩みたいなものを受けて、倒れた。

 

「落ち着いてください」

 

 ―――前田。

 海堂マサキのことをたまに『お嬢様』とか呼んじゃう整備兵の前田だ。即死かと思いきや生きていたようだ。

 

「さぁ、徒歩になってしまいましたが。なんとか帰りましょう横浜基地へ。まずは水と救急キットを探しましょう。私は水を―――」

 

 前田はマサキを担ぎ、どこからか引っ張りだしてきたシートの上に寝かせ、近くにあるであろう川の流れる音を頼りに歩き出した。

 冷静になればマサキは気を失ってるだけで無事に見えたので、仕方なく唯依も救急キットを探し始めた。

 

 



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14

お気に入り300件ありがとうございます!!



 ―――12月5日。

 

『防衛基準態勢2発令。全戦闘部隊は完全武装にて待機せよ。繰り返す、防衛基準態勢2発令。全戦闘部隊は……』

 

 基地全体に鳴り響くアナウンスと警報。ここ、横浜基地に所属する全衛士に緊張が走った。訓練兵といえども同じだ。

 

 

 

【格納庫】

 

 直属の上官とも呼べる海堂マサキと篁唯依は帝国軍へと足を運んでいた。そんな中、落ち着いて行動していられるのは彼女達の軍人としての心構えというモノが出来ているからである。そして、何よりも海堂マサキと同じ階級の者がいるからでもある。

 

「全員揃っているな? 海堂中佐と篁中尉が不在のため、この場の指揮は私が取ることになる。指示があるまで待機。各自、戦術機の機体、システムチェックを怠るな。いつでも出られるようにしておけ」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 フィカーツィア・ラトロワ中佐は簡潔に指示をして自分の愛機、チェルミナートルに向かった。他の者も同様だ。全員強化装備に身を包み各々の機体に足を向ける。

 

「一体なんだ? BETAじゃなさそうだけど」

「そうね、情報が全く降りて来ないわ」

「マサキがいないのと関係……ないわよね?」

「それは流石に無いんじゃないですか? でもBETAじゃないとしたら……」

 

 彼女達の疑問は晴れない。先ほどの警報がBETA侵攻の警報ではない事はほぼ間違いがない。BETAであれば情報が降りてくるのが当たり前だからである。では一体何のための防衛基準態勢2なのか? BETAじゃないのであれば導かれる答えもある。

 

「ったく、どこの馬鹿だよ……」

「……人同士で戦うなんてね」

 

 

 

 

【中央作戦司令室】

 

「ラダビノッド司令……それは、どういうことですかな?」

「これは日本帝国の内部の問題です。我々国連が帝国政府の要請も無しに干渉する事では……」

 

「最早一刻の猶予もすでに許されないはずです。この機を逃しては、後悔する事になりますぞ」

「まるで米国みたいなやり方ですのね……国連はそんなにアジア圏での米国の発言力を回復させたいのかしら?」

 

 そこには横浜基地の司令であるパウル・ラダビノッド、副司令である香月 夕呼、そして、国連事務次官の珠瀬 玄丞斎が熱を込めて話していた。

 

 この事態を早急に収束させようと、米国軍に手を貸してもらおうと進言する珠瀬事務次官。日本帝国内部の問題ですぐに収束すると話すラダビノッド司令と香月副司令。米国の手を借りるとするならば確かに早急に自体は収まるだろう。しかし、その後に米国が発言力を高めて混乱させられては困る。話は平行線を辿る。

 

「では事務次官、展開中の第7艦隊にお引き取り願って頂けないかしら……大変目障りですので」

「私にそのような権限などありません。それは、承知のはずだと思ってましたが?」

 

「あら……失礼」

 

 手を貸してください。そう言う前に、既に貸せるように近くに展開している米国軍の艦隊。脅しも含むように話は進んでいるようにみえるが、実際には進んでいない。自国を汚さんとする米国のやり方に香月夕呼は常々怒りを覚えていた。もちろん顔に出さないところは流石、極東の魔女といったところである。

 

 

 

 話が終わり、事務次官は司令室を後にする。ラダビノッド司令も発令室に戻っていく。その場に残ったのは……。

 

「い、いや俺、すっかりオルタネイティヴ5だと思って……慌ててここに」

「安心しなさい。日本国内で、ちょっとした面倒が起きてるだけよ」

「……流石ですな。帝国軍が必死に情報操作を行っている最中だというのに……どこまでご存じなんです?」

 

 記憶にない警報に驚き、オルタネイティヴ5だと思った白銀武と、鎧衣美琴の父親である帝国情報省外務二課 課長というに職に就く鎧衣左近であった。

 

 鎧衣課長の話しによると、クーデター部隊は帝都守備連隊を中核とし、首相官邸、帝国議事堂などの政府主要機関を制圧をし、新聞社や放送局などの占拠もしているようで、帝都機能のほとんどを掌握されている。

 

「主要な浄水施設と発電所も幾つか確保しているようで……しかし、制圧といっても完全ではないようで、政府側も抵抗を見せているようですが……いやはや、それでも大した手際だ」

「そのようね。で、将軍は無事なの?」

 

「帝都城は斯衛軍の精鋭が固めていますが、帝都守備部隊のほとんどを向こうに回しては……戦闘が始まったら、それこそ時間の問題でしょう。この脚本を用意したのは恐らく、国連上層部のオルタネイティヴ5推進派と米国諜報機関でしょう」

 

 そう、白銀武が初めてこの世界を体験した時に、オルタネイティヴ5と、G弾によるBETA殲滅作戦が一対になって発動したのはこの所為である。

 

「先ほど、珠瀬事務次官に随分と勇ましい事を言っておられましたね……ここに来て順調、というわけですか? オルタネイティヴ計画は……この白銀武……それと今、帝都に行っている海堂マサキのおかげ……といったところですか?」

「……便利な駒が他人の都合で無くなるのは困るけど、自分の都合で無くなるのは……割と納得できるモノよ?」

 

「おお怖い……つれないですなあ、私は博士のために粉骨砕身しているというのに」

 

 鎧衣課長は大袈裟にハンドリアクションを取り、おどけて見せた。

 

 

 

 

 

Side 煌武院 悠陽

 

マサキと別れ、帝都城に戻った途端にそれは起きた。

 

「何事ですか?」

「殿下クーデターです。御召し物をこちらに着替え、万が一の時は地下よりお逃げください」

 

 クーデター。以前マサキが沙霧の事を話してくれましたが……。これはつまり、沙霧大尉が抜けても躍起した者たちがいるということ。沙霧大尉と話をした限り、クーデターの参加者は今の政府のやり方に異議を唱えんと立ち上がろうとしていた。沙霧大尉がいなくなったぐらいで止まらないという事? いえ、それだけではなく恐らくは米国の……。

 

 私は服を着替え、状況を見守ることにした。

 

 状況は悪くなる一方だ。紅蓮大将や神野中将がいると言っても数が違う、撃墜の報告は聞いていないが、恐らくそれぞれ一人で数機を同時に相手にしている事でしょう。

 

 

 

「殿下……」

「……行きます」

 

 結局、私は数時間後に帝都城を後にすることになった。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

Side 篁 唯依

 

 あの時、私は中佐の手を引いてトレーラーから一歩でも離れようとした。しかし、逃げる暇もほとんどなくトレーラーは爆発。爆風による飛来物がコース的に中佐の頭だったようで中佐は倒れてしまった。

 

 最初、中佐から流れる血は止まらなかったのだが、静かな呼吸が聞こえてきたので、前田は中佐を私とシロちゃんとクロちゃんに任せて、急ぎ水などを探しに離れていた。救急キットなどは飛来物の中に含まれていたようで、茂みの中で見つける事が出来た。幸運としか言いようがない。だが……

 

「中佐……」

 

 私は中佐のいる場所に戻ると、体を起こしている中佐がシロちゃんとクロちゃんと話しているのを見た。私は駆けだした。

 

「中佐! 目が覚めたんですね!」

「唯依姫は無事だった?」

 

 血だらけの中佐から出た第一声は私を心配する声だった。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

「「マサキ……マサキ……」」

 

 何だ? 明るい……というか赤い? 確か紅蓮大将とかに呼び出されて、演習して、勝って……それから……帰りにトレーラーがロックオンされて……。

 

 ガバッ!

 

「シロ、クロ! あっ…っつ~…」

「「目が覚めたニャ!」」

 

「……ここは? つーか見えるモノが全て赤いな……シロが赤に……」

「血だらけニャ!」

「篁さんがもうじき戻ってくるニャ」

 

 俺はズキズキする頭を触らぬように状況を確認した。トレーラーは燃えている。不知火も鉄屑になってしまっている。シロとクロが言うには横浜基地までもう少しといえばもう少しなのだが、移動手段が潰れたため歩いて行くのも大変な距離らしい。

 

「中佐! 目が覚めたんですね!」

「唯依姫は無事だった?」

 

「わ、私の事なんかより中佐の事です!」

「ぉ、ぉぅ。あ~いてぇ。とにかく急いで基地に戻るか」

「お嬢様お眼覚めですか。こちら水質も確認した川から汲んで来た前田汁でございます」

 

 それはただの水だツッコむだけ無駄だ。俺は前田から水を受け取り頭から流し掛けていく。傷口には染みたが、視界もクリアになる。俺は唯依姫に消毒液染み込ませたガーゼとその上から包帯を巻いてもらい立ち上がり基地に向けて歩き出した。

 

「中佐!」

「お嬢様……」

「何だよ? 怪我ならとりあえず心配ないから急ぐぞ」

 

「「基地はこっちです」」

「……あ、そう」

「「にゃー」」

 

 俺は基地だと思っていた方向から踵を返した。

 

「だ、大丈夫なのですか?」

「大丈夫大丈夫、急いで戻ってクーデター止めなきゃね。誰だよ全く忙しいってのに」

 

 いやぁしかし、まずったな……沙霧大尉を抑えたからクーデターは起こらないものだとばかり考えていた。納得がいかない衛士とそれを助長する米国が動いたのかもしれない。

 

 

 数時間後、俺は横浜基地の医務室にいた。麻酔を打たれ、7針だか頭を縫われたようだ。俺の頭には包帯が巻かれている。傷口が開かぬように絶対安静だそうだ。

 

「さてと……治った!」

「治ってません!」

「まさかクーデターに巻き込まれてるとはね……しかも生きてるし」

 

「夕呼先生状況は?」

「207小隊、A-01部隊、それからラトロワ中佐に指揮を任せたテストパイロット部隊が出撃しているわ。聞いたわよ。不知火の改修機が鉄屑になったってね。アンタみたいな化け物でも流石に戦術機に乗ってないと勝てないのね―――」

 

 そりゃあ当たり前だろ。どうやって人が戦術機に勝てるって言うんだ。しかし、不知火は勿体なかったな……まぁいい。昼間の演習で帝国軍のバックアップが確立されたしな。

 

「―――冗談よ。分かってると思うけど、サイバスターは駄目よ」

「副司令!? 中佐を出撃させる気ですか!?」

 

「別に私は出撃してくれなくても構わないわよ。ただコイツはどうなのかしらね?」

「……中佐?」

「もう一機、造ってあるからな(俺のじゃないけど)……行ってくるよ」

 

 俺は立ち上がって医務室を出ようとするが、唯依姫が立ちはだかる。

 

「世界有数のトップクラスの衛士が出撃してます。中佐がいかなくても大丈夫です。先ほど聞いた限りですと首相官邸などを抑えられてはいますが死者は出ていないそうですし……怪我してるじゃないですか! 行く必要なんてないじゃないですか!」

「唯依姫……怪我って言っても、もう傷は縫ってあるし、何より……仲間が死なないとも限らない。別に全員救いたいとか綺麗事をいうわけじゃない。俺の知り合いが俺の知らないところで死ぬのが寝覚め悪いだけだ。アメリカの介入もさせたくなかった……」

「海堂、あの機体なら90番格納庫から出してあるわ、いつでも出られるわよ」

 

「ありがとうございます夕呼先生」

「7針縫っているんですよ!? 絶対安静なんですよ!?」

 

「大丈夫、戦術機に乗った俺は死なないよ」

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

Side 唯依

 

 結局、私は中佐の背中を見送ることしかできなかった。

 

「大丈夫、戦術機に乗った俺は死なないよ」

 

 知ってますよそんな事……あれほどの腕をもった衛士を私は見た事がない。初めてこの基地に来た時に模擬戦で手合わせをして、新型OSのテストの時も手を合わせた。新潟での時も大半のBETAを相手にしたのは中佐だ。今日だってこの国の大将と中将を軽くあしらって……。

 

「信じて待つだけってのも辛いんじゃない?」

「……副司令」

 

「信じていても不安なんでしょう? アイツって、どこから来たかわからない奴だから、またどこかに行ってしまうかもしれないものね。まぁ怪我して帰ってくるなんて私も思ってみなかったけど……鈍感な奴を相手にするとしたら大変よ?」

「…… ……」

 

「鈍感な奴を好きになった時、一番楽な解決方法を教えてあげるわ―――」

「今は、そんな事……」

 

「篁中尉の武御雷もいつでも出られるようにスタンバイさせてあるわ」

「は?」

 

「―――行ってきなさい。不安なんて振り払えばいいのよ。それぐらい強気でいけば鈍感でも気付くわ。とにかく押して押して、引かれるぐらい押してから不安になりなさい」

「こ、香月副司令……ですが、私は……」

 

「アイツに中佐って階級あげたけどまだまだガキなのよ。戦術機に関しては天才かもしれないけど……アイツの補佐官でしょ?」

 

 補佐官だから何とかしろと?

 私は……。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

「さて、毎回テストが初出撃になっている気がするが……大丈夫だよな?」

「いつものマサキらしくニャいニャ」

「まぁ、確かに怪物マシンではあるけどニャ」

 

 恐らくまだ改良の余地はあるこの機体こそタケルの専用機として開発をしたモノ。武装は間に合わないものが多かったが、今回のように急ぐ電撃作戦(ブリッツクリーク)ではそれなりの武装とは言えよう。

 

「じゃあ急ぐとするか」

 

キィィィィィィィン……ドッォォォォォォォンッ!!

 

 爆撃されたかのようなその轟音とともに第2の所属不明機は夜空へと同化していった。常時飛べはしない機体だが、オーバーブーストの超高出力で操縦桿を少し引くと機体は軽々と空へと上がる。戦術機で言うところの通常のブーストジャンプと変わりはない。ただ、出力が違い、使用エネルギーも異なるため、周囲には飛んでいると錯覚させるのかもしれない。飛べるように改良してしまった方が早いか……うん帰ったらそうしよう。

 

「大丈夫かシロ、クロ」

「Gキャンセラーも上手く働いてるニャ」

「問題ニャいニャ」

 

 機体の名前はまだ無い。まぁこの世界に倣うなら武御雷や不知火を超える【第4世代】の戦術機ということになるのだろう。機体には一応国連軍のマーキングだけは施してある。

 

 

 

 - 首相官邸 -

 

 戦術機に囲まれている官邸。俺は官邸に被害が出ないように短刀で機能停止にさせる。

 

『何者だ!!』

「あ、このやろー動くんじゃねーよ!」

『早いっ!!』

 

 相手が一歩動けば俺は既に懐にいる。相手が撃とうとすれば俺は既に倒している。その繰り返しだ。沙霧大尉ほどではないけど良い腕をしたのが乗っている。今のタケルより少し上ぐらいの腕かな。

 

「マサキ、首相と見られる人がセンサーに反応したニャ!」

「無事……というより、官邸ニャい部で侵入した部隊の人間は取り押さえられたみたいだニャ」

「へぇ、やるじゃねーか……沙霧がいないと士気にも関わるのかね」

 

『所属不明機に問う。貴殿は国連軍か?』

「あぁ、特務みたいなもんだ。榊首相は無事か?」

 

『首相は無事だ。感謝する』

「首相と話してもいいか?」

 

『何? ……お会いになるそうだ』

 

 会う? 殊勝な心がけの首相……うん。心の中に秘めておこう。

 俺は近くで戦術機を降りた。

 

「君は何者なんだ?」

「横浜基地の戦術機とかの開発担当者です。首相って榊千鶴の親父さんでしょ?」

 

「娘を知っているのか、千鶴は……いや、いい」

「いや聞けばいいじゃん。親でしょ? 心配でしょ? 肩書でも邪魔するんですか?」

 

「千鶴の選んだ道だ。心配ではあるが訃報は聞いていない……」

「娘さんに似て頭の固い親父様だこと……まぁいい。クーデターを止めてくるんで、その後の処理を頼みます。それと煌武院悠陽殿下に政権を戻して欲しいっす。それで混乱も収まるだろうし、政府が殿下を支えるようにしてくださいな」

 

「ふ、簡単に言う。しかし、そういった話も受けている。近いうちに何とかしよう……ところで君は」

「海堂マサキだ」

 

「あなたが!? 殿下よりの全幅の信頼を得ているというあの……」

「知らんがな。じゃあ俺は急ぐんで、娘に手紙ぐらい書いてあげましょうね? ところで……そこのアンタはボディーガード?」

「そうだが?」

 

「名前は?」

朝霧雅樹(あさぎりまさき)

 

 なるほど……この世界にもいるんだなこういう人。この人がいたから首相は無事だったのかもしれないな。

 

「彼だよ。侵入してきたクーデター部隊を一人残らず捕えたのは」

「でしょうね……では、お邪魔しました」

 

 まぁ今後の関わりはないだろう。

 

 さて、誰も死ぬなよ?

 おっと、少しフラフラするな……。

 血が足りねえな。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

Side クーデター部隊

 

 通信が飛び交う。どこの部隊がやられた。あの場所は制圧したと目まぐるしく回線はパンク寸前だ。

 

「増援はそちらに送った! 何をしている!」

『こちら小田原西インターチェンジ跡に展開している国連軍と接敵。第一陣は全滅……全滅です!』

 

「ちっ! 時間がかかりすぎている」

「沙霧大尉が抜けたんだ……仕方ない」

「だからと言って止めるわけにもいかないぞ?」

「分かっています駒木大尉」

 

「私は厚木基地に向かう。後のことは任せる」

「「「「「了解!」」」」」

 

 そして、クーデター部隊は、計画の最終段階まで進もうとしていた。

 アメリカからも支援をもらっているのだ。失敗は許されない。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

Side A-01部隊

 

『上出来だ……全員生きているな』

『新型OSが無かったら何回死んでいる事か……』

『でも初の実戦が人間相手になるなんて……』

『今は任務に集中しろ少尉……第2陣が来たぞ』

 

 モニターに現れるのは10個に満たない赤い点。識別は帝国軍守備連隊―――敵だ。BETAではなく人を敵と識別するモニター。新任少尉以外は冷静さを持っているようだが、ほとんどが敵が『人』という事に戸惑いを感じている。

 

『全員聞け。ヴァルキリーズ(われわれ)は人類を守護する剣の切っ先……いかなる任務であれそれを完遂する。―――その妨げとなるならBETAであれ人であれ排除するのみだ』

 

 部隊長である伊隅の声に頷く衛士達。殺したいわけでもない。殺されるわけにもいかない。彼女達は第4計画の直属部隊。相手は帝都守備連隊の精鋭……日本を守護する最強の楯。しかし、この場を制してこそ……いや、制さなければ存在意義など無いも同然。人類の未来を切り開く駒。それが彼女達―――『伊隅戦早乙女中隊(イスミ・ヴァルキリーズ)』―――なのだから。

 

 目視で確認される戦術機……黒い不知火だ。

 

『ヴァルキリー1よりHQ(ヘッドクォーター)! 帝国軍を下がらせろ! ここで消耗させる必要はない! 奴等の相手は我々がする!』

 

 電子音と共にモニターに更に奥より青い点が現れる。識別は味方……機体情報が統一化されていない。混成部隊にしてはアメリカ軍機に、ソ連軍の機体、日本の機体と混ぜこぜである。

 

『これは……!』

 

『逃がすな! サイドから潰していけ!』

『了解ッ!!』

 

 黒い不知火が火を吹いて潰れていく。

 

『加勢しに来た。こちらはフィカーツィア・ラトロワ中佐だ』

『助かります中佐。こちらはA-01部隊【伊隅ヴァルキリーズ】です』

 

『イーフェイ! これでアタシは4機目だ!』

『うるさいわね! どうせヘボしか撃ってないんでしょ! 階級はアタシが上よ!』

『まったく騒がしい連中だ……』

 

『ヴァルキリーマムよりヴァルキリー1、並びにラトロワ中佐、聞こえますか?』

『こちらヴァルキリー1』

『ラトロワだ』

 

 回線は秘匿回線へと切り替わる。

 

『海堂中佐が本日、横浜基地に帰還する際にクーデターに巻き込まれ負傷した模様。命に別状はありませんが……え、嘘』

『どうした涼宮!』

『マサキがどうした!』

 

『あ、すみません。続けます! 頭部に7針を縫う怪我を負っていますが、出撃し、首相官邸に向かったそうです。……え、もうですか!?』

『7針!?』

『今度はどうした!?』

 

『首相官邸は解放された模様。すごい速さでそちらに向かっています』

『……本当に怪我をしているのか?』

『全く、馬鹿モノが』

 

 秘匿回線は解除され、伊隅はA-01部隊に、ラトロワ中佐は混成部隊に指定回線で説明をした。

 

『7針って無事なんですか!?』

『しかも出撃してるって!?』

『私のために……』

『いや待てよ! どういう思考回路してんだよ!』

 

 ピッ!

 青い点がモニターの端に現れる。その点は流星のように一瞬にして真ん中に到達する。

 

『無事か!?』

『『『『『マサキ!?』』』』』

『『『『『中佐!?』』』』』

 

『良かった……全員無事だな』

『マサキ! 頭大丈夫!?』

『その聞き方はまずいぞシェスチナ少尉』

『その包帯は……7針縫ったって……』

 

『何だ詳しいな。まぁ急ぐからまた横浜基地でな』

 

 キィィィィィィ……ドォォォォンッ!!

 その機体はまた低空とはいえ、空を飛んで行った。その速さはその場にいたどの戦術機にも出せる速さではなかった。

 

『ラトロワ中佐。海堂中佐はクーデターに巻き込まれたんですよね?』

『あぁ』

 

 その場に残った者たちは冷静になっていった。そこには人類と戦うという戸惑いから吹っ切れた、歴戦の勇士のような鬼が誕生していた。

 

 ピ、ピピピピピ!

 

『来たぞ……全機、兵装自由! 一匹も逃すな! 生きている事を後悔させろ!』

『『『『『了解!!』』』』』

 

Side out

 

 

 

 






朝霧雅樹:知ってる人は知ってるであろう人物。年齢的な事も考えて息子ではなく親父を使ってみた。薬物使っても、刃物で複数回刺されても生きてるような化け物の父親。当然、この親も親で強い。あるキャラがハゲなのに髪掴まれる描写があるゲームですねw 今後出番なし。


ラトロワ部隊:基本的にTEキャラのオールスターチーム。テストパイロットとして着任しているので部隊名がなく、連携も上手くは無いが、経験などから遅れを取る事は無い。タリサとイーフェイの所為か支援が薄く、突撃制圧が主だった簡易作戦。


前田:そろそろ出番ないと思われる。執事の前田復活させるかな。


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