艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~ (苺乙女)
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第1章〜”楽園”と呼ばれた基地〜
1話 片羽の雄鳥(1)


私はパイロット

今迄、色んな空を見て来た

そう、空が居場所

そんな私が、地に足を降ろした

「階級は大佐でしたね⁇」

「…」

「不満…ですか⁇」

「あぁ…」

そう、私は…

いや、私達は、危機に面していた

深海棲艦…

奴等はいきなり攻めて来た

突如海に現れてはタンカーやイージス艦を叩きのめし、日本に来るはずの資源が滞った

それに対し、自衛隊とアメリカ軍の連合軍が深海棲艦に対し、第一次攻撃を敢行

結果は惨敗

自衛隊は壊滅、アメリカ軍はほんの少しの艦船と戦闘機を残し撤退

その攻撃隊の中に、私は居た

歴戦の知識が全て覆り

味方や同じ隊の仲間が次々と墜落していった

その後、私はとある事情でしばらく空を飛べなくなり、海軍に就くこととなった


「ある程度の設備は整っていますし、1日3回の定時報告の際に安全を確保したルートで資源を補給します」

 

「分かった」

 

「あぁ、流石に一人では寂しいかと思いますので、3日だけ、貴方に付き添う人を用意しました。中で待機していますよ」

 

「ありがとう。後はマニュアルで何とかする」

 

「では、私はこれで…」

 

「…」

 

一人取り残された離島

 

ある程度の設備は整っているとは言ったが、長い間使っていないのか、至る所にサビが目立つ

 

とりあえず、中に行こう

 

手近にあったドアに手を掛けると、そんなに古い気はしなかった

 

数日前に、誰かが掃除したような…

 

そんな感じがした

 

「貴方が提督⁇」

 

ドアを開けると、開口一番に言われた

 

「あ、あぁ」

 

長い金髪で、手には連装砲を持った、まだ年端もいかない少女だった

 

「私は駆逐艦島風︎よろしくね︎」

 

「お前か、3日居るって言ったのは︎」

 

「うんっ︎あのね、提督が来るって言ったから、島風ちゃんとお掃除したよ︎」

 

乱暴に手を引かれ、重要な施設を見て回った

 

「ここは資源庫。1日3回補給が来るんだって︎つぎつぎ︎」

 

「ここは建造ドック。新しい娘を造ったり、武器を開発出来るの︎」

 

「待て」

 

「ん︎」

 

「娘ってなんだ⁇それにお前、駆逐艦って言ったよな⁇」

 

「うん、島風は駆逐艦だよ⁇」

 

「お前みたいな女の子がか⁇」

 

「そうだよ。艦娘って言うの︎」

 

「お前が戦うのか︎」

 

「島風は強いんだよ︎」

 

島風はエッヘンと胸を張り、自分は強いんだと誇張する

 

「じゃあ何だ。ここで出来たのは、みんなその艦娘ってのになるのか⁇」

 

「そうだよ︎三日のうちに一回は回せだって︎」

 

「分かったよ…」

 

「つぎつぎ〜︎」

 

次に回ったのは、入渠ドック

 

島風曰く、おっきいお風呂らしい

 

提督も入れるよ︎、だと

 

「最後はここ︎提督のお部屋︎」

 

「ここが…」

 

一言で言うなら書斎

 

掛け軸が戦闘機だったり、ちょっとモダンな物入れが置いてあるのみで、後は何もない

 

あ、布団が隅に置いてあるな

 

「今日はもう寝よう。長旅で疲れた…」

 

大きな欠伸をした後、地べたに布団を引き、パンツ一丁で床についた

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督、起きて︎」

 

「何だ…」

 

島風に叩き起こされると、昨日送ってくれた男性もいた

 

「定時報告です、大佐」

 

「あ…すまん」

 

急いで着替えていると、窓の外に巨大なタンカーが見えた

 

資材庫に次から次へと物が入って行く

 

「各資源が3000、開発資材が20、建造材が10です」

 

「ありがとう」

 

「これで大型建造が一回出来るでしょう」

 

「これは毎回なのか⁇」

 

「いえ、初回のみです。次回からは各資源500ずつのみ配給します」

 

「そっか」

 

「提督、建造しないの〜⁇」

 

「まだだ。明日でいい」

 

「そっか…」

 

「では、また定時報告の時に…あ、そうだ。これ」

 

「ん⁇」

 

手渡されたのは、長方形の白い箱3つ

 

「これで1カ月分と言われました」

 

「⁇」

 

「では」

 

タンカーが基地を去る

 

昔はあれより、もっと大きくて沢山のタンカーを護衛したな

 

その時はまだ人を相手にしてたけど…



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1話 片羽の雄鳥(2)

「提督、それなぁに⁇」

 

「部屋で開ける」

 

「島風が持つね︎」

 

島風に箱を二つ持たせ、一つだけ脇に抱えて部屋に戻った

 

「わ〜︎何これ〜︎」

 

「なるほど…これで1カ月分って言ってたのはこれか」

 

箱の中身は煙草だった

 

全部で30箱

 

多そうに見えて、私は暇さえあればコレを吸う

 

空以外では、ずっと咥えてた気がする

 

「島風も吸える︎」

 

「ダメだ、お前はこっち」

 

口に煙草を咥えながら、島風に棒付きの飴を渡した

 

「わ〜︎ありがとう︎」

 

さて、何をしようか⁇

 

「ん〜…膨らまないな〜」

 

「何してるんだ⁇」

 

「浮輪貰ったの︎」

 

「貸してみろ」

 

島風の体に丁度フィットする感じの、白と赤の浮輪

 

栓に口を付け、どんどん膨らまして行く

 

「ほら」

 

「凄い凄い︎ありがとう、提督︎」

 

「基地の周りだけなら、遊んで来ても良いぞ」

 

「ホント︎行ってきま〜す︎」

 

浮輪片手に嬉しそうに外に出て行った

 

そうだ、風呂に入ろう

 

あの入渠ドックってのに入るのか

 

煙草の火を消し、タオルと着替えを持って入渠ドックに向かった

 

「おぉ」

 

中は意外にも露天風呂

 

こいつはいい

 

疲れが取れそうだ

 

体を洗い、湯船に体を浸けてみた

 

「ふぅ…」

 

丁度いい温かさだ…

 

大きなため息を吐いた後、肩までお湯に浸けた

 

「とりあえず、建造だな」

 

コレをしない限り、基地や鎮守府ってのは機能しないらしい

 

運がいい所は、強い艦隊を沢山迎え入れているらしい

 

私はとりあえず一回様子を…

 

「な、なんだ︎」

 

頭上に現れた巨大なクレーン

 

先っちょには、オイルが繋いである

 

「やめ、あばっ︎」

 

顔面にオイル直撃

 

「誰だ︎」

 

”ニゲロー︎”

 

何か声が…

 

「捕まえた︎」

 

手の平で暴れているのは、小さな人間だった

 

「な、な、な︎」

 

驚かない方が可笑しいだろう

 

手の平サイズの人間が目の前でいるのだから

 

「なんだ貴様は︎」

 

”離せ〜︎”

 

「あっ︎」

 

手の平サイズの人間は、そのままどこかに消えていった

 

「何だっんだ…」

 

少し恐怖を覚え、入渠ドックから出た

 

「島風は…いないか」

 

提督室に、人影はない

 

よし、建造ってのをしてみるか

 

建造ドックに行くと、資源を入力する装置が4つあった

 

「燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイト、そして開発資材の量を決めましょう、か」

 

そういえば、大型建造が出来ると言ってたな

 

こっちを試してみるか…

 

各資材6000か…

 

半分位で試してみるか

 

開発資材は20

 

燃料、弾薬、鋼材を3000…と

 

ボーキサイトは…

 

「ど〜ん︎」

 

島風がぶつかってきた

 

「あ︎」

 

拍子にボタンを押してしまった︎

 

ボーキサイト6000

 

建造開始

 

「あわわわ…」

 

「後は待つだけだよ︎」

 

「お…おま…」

 

「どしたの、提督⁇あーっ︎」

 

私が指差す方向には、ボーキサイト6000と書かれた電光板が無残にも建造開始の合図を出していた

 

「ボーキサイト全部入れちゃったの︎」

 

「あぁ…」

 

「ごめんなさい」

 

「済んだ事だからいい。それより、遊んで来たのか⁇」

 

「うんっ︎あのね︎」

 

島風の話はとても楽しそうだった

 

海は綺麗で、ドロップ見たいなキラキラの石がいっぱい

 

小さな森に入れば、色鮮やかな虫や木の実が沢山なっていた



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1話 片羽の雄鳥(3)

「また遊びに来てもいい︎??」

 

「あぁ、いつでも来い」

 

これが、二人って奴か

 

空ではずっと一人の空間だったからな

 

何だか不思議な気分だ

 

それになんだ

 

ここは1日の流れが早いな

 

遅く起きたためか、もう夕方だ

 

建造の結果は、明日見ても大丈夫だろう

 

「お腹すいたな」

 

「提督、お魚取れた︎」

 

グッドタイミングで、魚を担いだ島風が帰って来た

 

「そいつを夕飯にする」

 

「やったね︎」

 

島風が取って来たのは、大きめのカツオ

 

私はこう見えて料理が得意だ

 

島風が嬉しそうに料理の風景を見ている中、私はカツオを捌き、ご飯を炊いた

 

「提督特製、カツオのたたき丼だ︎」

 

「いただきま〜す︎」

 

美味しそうにカツオのたたき丼を口に運んで行く

 

「あんなの何処で取った⁇」

 

「浮輪で泳いでたら、こっちに来たから連装砲ちゃんで驚かしたの︎」

 

「なるほど…」

 

「ごちそうさま︎」

 

「もう食べたのか︎」

 

「うんっ︎美味しかったよ︎また行って来るね︎」

 

「あぁ、行っておいで」

 

普段余程遊べないのか、ご飯以外は常に外にいる

 

私は残ったカツオの切れ端を集め、お茶碗にそれを入れ、上からお茶をかけた

 

昔の癖だな

 

いつでもすぐに空に出れるように、少しだけ胃に収める

 

そんな日々が続くと、いつの間にか胃が小さくなっていた

 

「ただいま」

 

「もう帰って来たのか⁇」

 

「もう暗くなって来た」

 

「そっか…お風呂でも入っておいで」

 

島風が入渠している間、私は思い出したかのように家具を整理し始めた

 

とは言え、鞄ひとつだからな…

 

服と…

 

衛生用品と…

 

後は手帳

 

これだけか

 

「お先に入ったよ︎」

 

「おかえり。今日はもう寝よう」

 

「うん…」

 

何故か島風は嫌そうに布団に入るのを拒んだ

 

「どうした⁇眠たくないか⁇」

 

島風の下で体を屈めると、彼女はポロポロと泣き始めた

 

「帰りたくないよ…」

 

「…」

 

「ひっぐ…えぐ…」

 

「辛いよな…気持ちは分かる」

 

「だだがいだぐない…ごごにいだい︎」

 

「…」

 

ほんの少し息を吐いた後、島風を抱き寄せた

 

「おっ…」

 

「案外小さいんだな…こんな小さな身体で、良く頑張った」

 

「島風…頑張った…⁇」

 

「あぁ、お前は俺よりず〜っと立派だ」

 

「ホント⁇」

 

「空軍は嘘をつかない」

 

「提督、海軍でしょ⁇」

 

「あぁ、そうだったか︎はは、長年の癖だ︎」

 

「あはは」

 

「お前はそうやって笑ってろ。そっちの方が良く似合う」

 

「また来てもいい⁇」

 

「いつでも来い。何だったら、鎮守府を抜け出してでも来い」

 

「分かった。もうちょっと頑張ってみる︎」

 

「ん、よろしい。じゃあ寝なさい」

 

「うん…」

 

島風を布団に入れると、服の裾を掴んできた

 

「今日はここにいて⁇」

 

「大丈夫。机に行くだけだ」

 

「ん…」

 

遊び疲れたのと、泣き疲れたのが一緒に来たのか、島風はすぐに目を閉じた

 

「…」

 

煙草に火を点け、窓の外を眺める

 

星が綺麗だ…

 

遠くの方では、サーチライトが光っている

 

誰かが夜戦をしているのか、もしくは偵察機の道標か…

 

どちらにせよ、ここは平和だ

 

火を消した後、緑茶を一口飲み、布団に入った

 

 

 

 

 

 

 

「大佐、大佐、起きて下さい」

 

「敵か…⁇」

 

「違います。定時報告です」

 

「あぁ…そんな時間か…」

 

「島風は…」

 

「あんまり無理させるなよ⁇」

 

「と、言いますと⁇」

 

「定時報告して貰ってる以上、余りキツくも言えないし、俺はこの戦争に興味は無い。だがな、あんな少女をこき使うようになったたら、海軍…いや、この国もいよいよ終わりだ」

 

「それは…」

 

「いいか⁇肝に命じておけ」

 

彼の胸に人差し指を当て、目を見つめた

 

「彼女達は、俺達に出来ない事をしてる。俺達に出来ない事だ」

 

「は、はい…」

 

「死なすんじゃねぇぞ。五体満足で平和な世に返してやれ」

 

「り、了解…」

 

「じゃ、話は終わり。定時報告ありがとう」

 

「はっ︎では午後に︎」

 

「島風」

 

「ん⁇」

 

「これをやろう」

 

ポケットから取り出した、錨型のペンダントを、島風の首に付けた

 

「わ〜︎くれるの︎」

 

「平和になったら、もっといいの買うんだぞ」

 

「ありがとう︎大事にする︎」

 

定時報告の要員がタンカーに乗った後、最後に島風が乗り込んだ

 

「バイバ〜イ︎」

 

右手を大きく振り、皆を送る

 

 

 

 

「ただいま、提督︎」

 

「あ…あぁ…おかえり…」

 

島風の提督は震えていた

 

「どうしたの⁇提督⁇」

 

「大佐の目を見たんでしょう」

 

「大佐⁇あの提督さんの事⁇」

 

「そうだよ。大佐の眼力は半端なかったからね。同期の人間は、誰も大佐に頭が上がらなかったよ」

 

「ふ〜ん…」

 

興味無さそうに返事を返す島風だが、顔には笑顔が浮かんでいた

 

 

 

提督が鎮守府に着任しました︎!!

 

これより、艦隊の指揮をとります!!




パパ提督…ヘビースモーカーの若年寄りの主人公

パイロットだったが左脚を失い、地に降りた異色の提督

”楽園”と呼ばれる基地の提督で、時々心に病を負った他鎮守府の艦娘達を一定期間迎え入れている

提督活動を殆どせず、資源や資材を大量に持て余しているため、他鎮守府に無担保で貸す事もある

一応白い軍服を着てはいるが、パイロットスーツが提督室に常に掛けてある



性格…パイロット時代は明るく豪快な性格で周りから信頼されていた

”楽園”に降りてからは口数が減り、艦娘の好きな様に行動させている

とある艦娘と出逢い、その心境が少しずつ変化してゆく…


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2話 鷹は舞い降りる(1)

さて、1話が終わりました

面白かったですか??

島風と出逢い、提督の心にほんの少し変化が現れます

そして、このお話で自分の“艦娘”を手に入れます


「さて…」

 

寂しいもんだな…急に1人になると

 

そうだ、建造の様子でもみるか

 

建造ドックに向かうと、昨日の手の平サイズの人間が一塊になっていた

 

今度はビビらないぞ

 

「ん⁇」

 

足元で数人の手の平サイズの人間が、私の靴を引っ張っていた

 

私は屈んでそれを掴み、手の平に乗せた

 

「お前達、名前は⁇」

 

”妖精や”

 

「それで⁇何の様だ⁇」

 

”ドックがヤバいねん︎”

 

”早よ来て︎”

 

「ドックがヤバいだと︎」

 

彼等と建造ドックに向かうと、人型の何かが出来上がりかけていた

 

「これは…⁇」

 

”多分空母やねんけど…”

 

”ボーキ入れすぎたな”

 

”爆発すんで”

 

”ニゲロー︎”

 

「え︎ちょっ、お前ら︎」

 

振り返った瞬間、案の定爆発が起きた

 

だが、音の割には火力がショボい

 

「蓋取れただけじゃねぇか…」

 

ただたんに、溶鉱炉の蓋が取れただけだった

 

”大丈夫なんか⁇”

 

”大丈夫や、提督生きてるやん”

 

”せやせや、大丈夫や”

 

「お前らなぁ…」

 

”でけたで、初艦娘やな”

 

「この娘…が…」

 

勇ましく出て来たと思えば、すぐにその場に寝そべった、私の初艦娘

 

「よいしょ…」

 

その娘を起こし、目元を擦ってみた

 

「名前は⁇」

 

「たいほう…」

 

「そうか…たいほうか…俺はこの基地の提督だ」

 

「おやすみ…」

 

「あ…」

 

私の腕の中で再び眠りについた、小さな艦娘

 

幸先が、物凄く不安になった

 

「はぁ…」

 

”提督︎昔、航空機乗ってたんか︎”

 

話しかけて来たのは、ゴーグルとメットを装着した妖精

 

「乗ってたぞ」

 

”他には何が得意や⁇”

 

「そうだな…旧式のライフルで鷹を撃ち落とせるな」

 

”これやるわ、深海凄艦にはあんまり効かんけど、ちょっと位なら戦える様になるで”

 

「どれ…⁇」

 

大勢で運んで来たのは、旧日本軍のライフルだった

 

「中々の代物だ。こんなモンまで作れるのか⁇」

 

”作れるわさ。こちとら、戦艦の主砲も作れるんやで⁇”

 

「案外凄いんだな…見くびってたよ」

 

”ホンマや、もっと頼り︎”

 

”その代わり、戦闘機の乗り方おへて”

 

「あぁ、勿論。お前らが音を上げるまで鍛えてやる」

 

”この大鳳は任しとき。改装の余地ありや”

 

数人がかりで、たいほうを持って行ってしまった

 

”ほなおへて”

 

近くにあったホワイトボードとマジック、そして少しのマグネットを手に取り、講義は始まった

 

「艦載機に乗る妖精は、何人位だ⁇」

 

”とりあえず30人や”

 

「分かった。じゃあ始めよう」

 

普段我々が机と呼ぶ物の上で、思い思いの体勢で話を聞いていた

 

嬉しさと楽しさが交差する…

 

こんな私の戦略でも、まだ必要としてくれている…

 

「ここに敵機が付いたら、君達ならどうする⁇」

 

”スピード上げて逃げるわ”

 

「成る程…そう言う手もあるな。だが、俺ならこうだ」

 

マグネットを移動させ、説明を続ける

 

「ジェット機なら出来ないが、零戦特有の”左捻り込み”と言う技がある」

 

その後も模型を使ったり、実際の機体の解説等を行った

 

”何でそない知ってるんや⁇”

 

「一度、実物のレシプロに乗った事がある」

 

”二一型か⁇五二型か⁇”

 

「…コルセアだ」

 

”コルセアか〜”

 

「良い機体だった…あれでゼロに挑もうとしていたのがよく分かる」

 

一同が驚いていた

 

このご時世、コルセア自体、残っているのが珍しい




妖精…何故か関西弁が多い妖精集団

工廠…艦載機からジュースサーバーまで何でも御座れのプロフェッショナル妖精がいっぱいいる

パパ提督が時折頼む兵器や、兵器とはまるで無関係な家具の類も、いとも簡単に作れる

ただ、艦娘を造る際、高確率で爆発を起こしてしまう



艦載機…パパ提督に仕込まれているため、全員が相当の腕前

マジックヒューズをビュンビュン避け、強化魚雷を撃つ

しかし、一番得意なのはドックファイト



入渠…とりあえず、マヌケが多い


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2話 鷹は舞い降りる(2)

「さ、今日はお開きにしよう」

 

”また頼むわな”

 

「いつでも」

 

そう言って、彼らは散り散りになった

 

妖精達が去った後、ふと孤独を感じた

 

思い出したのは、空軍時代の部下達

 

嬉しそうに笑う声

 

真剣に講義をまとめる者

 

色んな部下がいた

 

だけど…彼奴らは…

 

”提督”

 

「ん⁇」

 

”たいほうの改装が終わったで”

 

「行こう」

 

開発ドックに行くと、しっかり目を覚ましたたいほうがいた

 

「おはよう」

 

「おはよ…たいちょう」

 

「えっと…大鳳…だったかな⁇」

 

「そう、あたしがたいほう」

 

”あのな、提督”

 

「ん⁇」

 

妖精に連れられ、物陰に隠れた

 

”あの娘な、大鳳ちゃうねん”

 

「じゃあなんだ⁇違う空母か⁇」

 

”ちゃうちゃう。大鳳は大鳳やねんけど、”たいほう”やねん”

 

「正直に言ってくれ…失敗したな…⁇」

 

”せ、せや…”

 

「…まぁ、これも何かの縁だ。あの娘と…」

 

あの娘と、暮らしてみよう

 

もしかしたら、何かが変わるかもしれない

 

「ま、とりあえず装備でも見てみるか」

 

「はい、これがあたしのそうび」

 

れっぷう

 

てんざん

 

ごーにーがた

 

すいせい

 

「な、何でひらがな表示なんだ⁇」

 

”ゆうたやろ。たいほうやって”

 

「しかもなんだ⁇」

 

たいほうの持っているカートリッジを取ると”こう”と書いてあり、中にはクッキーが詰まっていた

 

「こうって、攻撃の攻だよな⁇」

 

”ちゃう。香ばしいの香や”

 

「…やってしまったな」

 

”やってしもたな”

 

「たいちょう、たいほうはなんでもできるよ︎」

 

ガッツポーズを決めるたいほうだが、鼻水を垂らしながら言っているので、迫力が無い

 

「はいはい。鼻水ふけ」

 

ハンカチをたいほうの鼻に当てると、自分で鼻水を拭いた

 

「ありがとう」

 

「ふっ」

 

たいほうを見ていると、戦う気が無くなってしまった

 

さっきまでは、ほんの少しはあったんだがな…

 

「よし、今日からお前は俺の”家族”だ︎」

 

「かぞく⁇」

 

「そうだ。家族だ」

 

「パパ⁇」

 

「パ、パパだ︎」

 

「パパ︎」

 

「うっ」

 

抱き付いて来たたいほうを抱えた時、本当にこのままで良いと思った

 

この娘といれば、俺は…本当に…

 

「たいほうは今日から俺の艦隊に所属する。でも、戦いはしない」

 

「なにするの︎」

 

「海岸の散策、木の実拾い、後は俺と一緒の時だけ海に入ってよし︎」

 

「いってきます︎」

 

ビシッと敬礼するたいほうの手を取り、腰骨の辺りに置いた

 

「いってきますだけでいい」

 

「いってきます︎」

 

「ん、行ってらっしゃい」

 

たいほうを見送った後、私はしばらく本を読んでいた

 

”提督、なにしてんねん”

 

机に乗ってきたのは、工廠の妖精だった

 

「ん⁇あぁ。空軍にいた時はあまり読めなかったからな。今なら読めるかなって」

 

”エロ本か⁇”

 

「違う違う。ほら」

 

”軍用機の乗り方か…本間に空軍に戻りたいんやな…”

 

「まぁな」

 

”…よっしゃ︎提督のために、ちょっと骨折ったろ︎”



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2話 鷹は舞い降りる(3)

”せや”

 

決意に満ち溢れた妖精の目を見た時、こいつは出来ると感じた

 

「作れるのか⁇」

 

”言うたやろ、何でも作ったるって。その代わり、メッチャ時間かかるで⁇”

 

「構わんよ」

 

”期待しときや︎ほな︎”

 

妖精は何故か壁に向かって走り、そして壁に消えて行った

 

「チクショウ、部屋に穴開けてやがる︎」

 

”せや”

 

「うっ︎」

 

妖精が穴の向こう側から急に顔を出した

 

”たいほうのお目付け役に何人か回しとるからな”

 

「あ、ありがとう…」

 

ようやく落ち着いて本が読める

 

と、その前に…

 

窓の向こう側を見ると、遠くの方で草の上に座って、何かをしているたいほうが見えた

 

「さて、と」

 

煙草に火を点けて、再び本を読み始めた

 

「これは…なるほどな…」

 

独り言を交えながら、何度も読み返しては、頭の中でそれを想像する

 

「大佐」

 

「…」

 

「大佐」

 

「…」

 

「大佐︎」

 

「はっ︎すまんすまん、ははは…」

 

定時報告のタンカーが来ているのも気付かない位、のめり込んでいたのか…

 

「珍しいですね、貴方が読書とは」

 

「なんだよ、文句あっか︎」

 

「いえ、空に帰りたいのが、見て分かります」

 

「…しばらく考えるよ」

 

「それはそうと…あの大鳳は大佐の娘で⁇」

 

「見たのか⁇」

 

「えぇ。あれだけ我々に興味深々なら」

 

窓の外に停泊しているタンカーの近くで、降ろされて行く荷物を嬉しそうに眺めているたいほうがいた

 

「我が鎮守府にも大鳳は在籍していますが、大佐の大鳳は何処か幼い」

 

「失敗したんだとよ。艦載機のカートリッジもこのザマだ」

 

たいほうから預かったボウガンとカートリッジを、彼に見せた

 

「これは…」

 

「中身もビスケットとクッキーが詰まってる」

 

「戦わない艦娘か…大佐らしい…」

 

「それでいいんだよ、それで」

 

「では、次の定時報告で」

 

「あぁ」

 

彼は部屋を出てたいほうに何かを渡し、タンカーに乗り込んだ

 

「パパ〜︎」

 

「おかえり」

 

たいほうは手に封筒を持っていた

 

「パパにわたしてって︎」

 

「どれ…」

 

封筒の中にはそれなりの給料が入っていた

 

それと、一言付け加えられた手紙が一枚

 

「週に一度、行商船が其方に伺います。その時にお金を使って下さい」

 

「なにかうの︎」

 

「ん〜⁇分かんないなぁ。何を積んでるかも分かんないし…」

 

「たいほうはビスケットがいい︎」

 

「よしよし、買ってやろうな」

 

「うんっ︎」

 

「さっ︎お風呂に行っといで︎」

 

「いってきます︎」

 

小さく手を振り、たいほうを見送った

 

”提督、今日の報告や”

 

「どれ」

 

本日の遠征結果

・基地周辺を散歩

獲得資源…

燃料…3

弾…5

鉄…6000

ボーキ…4

 

獲得資材…

なし

 

 

 

「ちょっと待て、この鉄6000ってのは何だ︎」

 

”砂浜で何でか知らんけど宝石を拾たんや”

 

 

 

数時間前…

 

たいほうは砂浜で山を作っていた

 

「ふ〜じ〜は、に〜っぽ〜んい〜ち〜の〜やま〜」

 

砂を掴んでは、ペタペタと山に盛り付けて行く

 

「あれ⁇」

 

途中で手の平に光る物を見付けた

 

「わ〜…きれい…」

 

”持っとき。いい石かも知れんで”

 

「うんっ」

 

たいほうはポケットにそれを入れ、またしばらく砂山を作っていた

 

「おふねだ︎」

 

定時報告のタンカーが停泊するのを見て、それに駆け寄った

 

「おっきいね…」

 

”これはタンカーや。いっぱい資源を積んでるんや”

 

「タンカーすごいね︎」

 

「おや⁇君は⁇」

 

私と同じ白い軍服を着た、私より若い男性がたいほうの頭を撫でながら話しかけた

 

「大佐はいい娘に巡り逢えたようですね」

 

「あたしたいほう︎」

 

「私は横須賀の提督だよ。横須賀さんって、みんなは呼んでる」

 

「よこすかさんは、タンカーにのってきたの︎」

 

「そう。資源を積んでね。大鳳ちゃんは遠征の帰りかい⁇」

 

「うんっ︎」

 

「何か見付けたかい⁇」

 

「これみつけたよ。キラキラしててきれいだから、もってかえってきたの」

 

「どれ…」

 

たいほうの手からキラキラの石を取ると、横須賀の提督は目を細めた

 

「ちょっと借りるよ。明石、これは…」

 

横須賀さんの横にいたピンクの髪の毛の女性が石を手に取り、まじまじと見つめていた

 

「ルビーですね。本物です。この大きさなら、かなりの値段が付きますね」

 

「大鳳ちゃん、これは資源と交換出来るよ⁇どうする⁇」

 

「なにがもらえるの⁇」

 

「そうだなぁ…とりあえず鉄をいっぱいあげよう。今は無いけど、次にそれなりのお金とお菓子をあげよう」

 

「こうかんする︎パパもよろこぶね︎」

 

「分かった。鉄は倉庫に入れとくね」

 

「うんっ︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今に至る

 

「宝石が落ちてただと⁇」

 

”せや。探せばもうちょっとあるかもやで⁇”

 

「ま、要調査だな。ありがとう」

 

”じゃあな〜”

 

妖精はいつも通り、穴の中に消えていった

 

「宝石ね…」

 

机に書類を置き、煙草に火を点けた

 

 

 

遠征に”宝石の謎を解け︎”が、追加されました︎!!




たいほう…人懐っこい甘えんぼガール

パパ提督が最初に所持した艦娘。

通称鼻水大鳳

パパ提督によく懐いている

よく鼻水を垂らしたり、虫取りをしたり、艦載機の代わりにビスケットを持っていたりと、かなり子供っぽい

他の大鳳と違い、体は一回り小さく、考える事や喋る事に幼さが残っている

特殊な艦載機を積載可能であり、パパ提督が極秘中の極秘で開発を進めている


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3話 鷲の瞳を見つめて(1)

さて、2話が終わりました

提督の決断は、

戦わない

誰も傷付かない

幸せな基地を作る事



今回のお話では、そんな基地に、一機の航空機が飛来します


「…」

 

「らんらんらん♪♪」

 

「…」

 

「やんやんやん♪♪」

 

たいほうが私の足元で、ビー玉とおはじきで遊んでいる

 

私は煙草を咥えながら、書類に目を通していた

 

「あ〜もう無理︎俺に書類仕事は似合わん︎」

 

「パパつかれた⁇」

 

「ん〜⁇ちょっとだけな」

 

「たいほうとあそぼ⁇」

 

「ん、いいぞ」

 

たいほうの手にはクレヨンが握られていた

 

「パパ、おえかきして⁇」

 

「ん」

 

書類仕事は嫌いだが、絵を描くのは好きだ

 

「ここをこうやって…」

 

「…」

 

頭を抱えながら、無意識に描いて行く

 

「ほら」

 

「うぁ〜︎すごい︎これはせんとうき⁇」

 

「そうだ。パパが昔乗ってた機体だ」

 

我ながら力作である

 

私の愛機であった、灰色の鷲…

 

今となっては懐かしい…

 

”提督には、意外なスキルがあったんやな”

 

「昔はよく風景を描きに出掛けたもんだ」

 

”懐かしいか⁇”

 

「そうだな…平和な世に戻したいもんだね…」

 

たいほうを眺めていると、書類に目を通し続けた疲れからなのか、急に眠気が来た

 

「ちょっと…横になるよ…」

 

 

 

 

 

あれからどれだけ時間が経っただろうか…

 

私は少し前に目を覚まし、窓の近くにいた

 

空は平穏のまま、静かに夜を迎えようとしていた

 

少しだけ赤い空…

 

ほんのちょっとだけ顔を見せたお月さま…

 

黒い機体のエンジン音…

 

「なんだ…あれは…︎」

 

黒い物体がフラフラと飛んでいる

 

鳥ではないのは確かだ

 

「たいほうは︎」

 

「ん〜⁇」

 

腹ばいになり、妖精が出入りする穴を、ほじくっていた

 

「そこにいるんだぞ」

 

「うんっ」

 

上着を着て、外に出た

 

不規則に動いてはいるが、確実に此方に近付いている

 

”これ、使うか⁇”

 

妖精が持って来たのは、あのライフル

 

叩き落とす自信はある

 

だが…

 

「いや、大丈夫。なんとなく、あいつは何もして来ない気がするんだ」

 

それは、長年の勘から来るものだった

 

変則的な飛び方

 

此方を伺うかのように、何度も機首を此方に向ける行動

 

あれは…

 

「不時着したいんだ…︎」

 

それに気付いた直後、倉庫に走った

 

”何で分かるんや︎”

 

「勘︎」

 

”勘って…”

 

「どこだどこだ…あった︎」

 

探していたのは照明弾と発煙筒

 

これ等と広い場所があれば…

 

”海岸やったら広いし長いで︎”

 

「よし、行こう︎」

 

倉庫から出て、発煙筒に火を点けた

 

「お〜い︎こっちだ〜︎」

 

黒い機体に向かって語りかけるが、反応が無い

 

「コックピットをやられたか…けど、光は見えてるな…」

 

これには確信が持てた

 

基地の灯りは消してある

 

光と言えば、私の僅かな煙草の火しか無い

 

それに、あの機体は何度か私の方を向いていた

 

照明弾に弾を入れ、海岸上空に横一直線に並ぶように打ち上げた

 

「よし、反応した︎後は…」

 

発煙筒に火を点け、砂浜に何本か並べた

 

”頭賢いな〜ちっちゃいけど、確かにそう見えるわ”

 

私が作り出したのは、簡易の離着陸場

 

光と一定の距離、広さがあれば簡単だが作る事は不可能では無い

 

「来た︎」

 

着陸する寸前、機体から黒煙を上げて砂浜に不時着した

 

「これは…」

 

”えらいこっちゃで…誰か呼んで来るわ︎”

 

落ちて来た黒い機体

 

見覚えがあった

 

こいつは…

 

こいつは…

 

私の部下を撃墜した機体じゃないか…



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3話 鷲の瞳を見つめて(2)

「っ︎」

 

怒りがこみ上げる

 

蹴り飛ばしてやろうと、一瞬頭をよぎった

 

「…」

 

だが、こいつを痛めつけても変わりはない

 

それに、手負いの奴を痛めつけるのは、私の掟に反する

 

今はこいつを…

 

”連れて来たで︎消し炭にしたる︎”

 

「…入渠させろ」

 

”へ⁇”

 

「効果があるかは分からんが、この機体を入渠させろ。これは命令だ」

 

”鹵獲せぇってか…”

 

「痛手の奴をどうこうする趣味は無い」

 

”分かった︎提督に従う︎”

 

妖精からロープを貰い、黒い機体に巻き付けた

 

「せーの︎」

 

ゆっくりだが、基地に向かって運び始めた

 

空が白み始めた頃、ようやく入渠ドッグに放り込めた

 

「よし…後は…任せろ…」

 

”だ、大丈夫か⁇”

 

「あぁ…迷惑…かけたな…」

 

”ワシらは大丈夫や。ちょっと休むんやで⁇”

 

「あぁ…」

 

妖精が去った後、私は浴場で横たわった

 

久し振りだな、動いて汗を流したのは…

 

さて、ドッグに入れたのはいいが、後俺に出来る事は…

 

しっかし、よくまぁこんなにやられたもんだ

 

予想した通り、コックピットは割れている

 

機体の至る所に銃弾の傷がある

 

この機体が生物なのかは分からないが、時々どこからか空気の通る音がしている

 

「仕方無い…」

 

私は一旦浴場を出た

 

 

 

 

 

浴場に金属音が響き渡る

 

時折金属音が止めば、しばらくは強い発光が浴場を眩く照らす

 

「…」

 

やられた部位をバーナーで炙りながら、それを塞いで行く

 

「ふぅ…」

 

一旦バーナーを切った時、機体が少し動いた

 

「目が覚めたか⁇」

 

《…》

 

「じっとしてろ」

 

そう言って、再びバーナーで傷口を塞いで行く

 

《…ワタシハ…テキ…》

 

「喋れるのか⁇」

 

《…》

 

「気にするな。ここは敵も味方も無い。みんな平等だ」

 

《モウイイ…》

 

そう言って、機体を少し傾けた

 

私はそれを止め、元の位置に戻した

 

「ダメだ。コックピットも直さないと」

 

《ワタシハ…テキ…アナタノナカマ…オトシタ》

 

やっぱりこいつが…

 

私は一瞬だけ下唇を噛み締めた

 

「…知ってるよ。君は随分と熟練されたパイロットだな」

 

《ユルサレナイ…タイセツナヒト…コロシタ》

 

「俺の教えが足りなかった…それだけだ」

 

《…》

 

「ま、君が話の分かる奴で良かったよ」

 

《…ゴメンナサイ》

 

「謝る元気があるなら、じっとしてろ」

 

《…ウン》

 

しばらくした後、機体の傷は塞ぐ事は出来た

 

後はコックピットだな…

 

《スゴイ…カラダガカルイ…》

 

「当たり前だ。私が整備したんだからな。後はコックピットだな…」

 

《ダイジョウブ…アトハニュウキョデナオル》

 

「そう…ゆっくりしろよ」

 

《ナマエ…オシエテ⁇》

 

「みんなからはパパと呼ばれてる」

 

《パパ…⁇》

 

「そうだ」

 

《パパ…アリガトウ》

 

「どう致しまして。ちょっと煙草吸ってくるな」

 

《ウン》

 

浴場を出て、ようやく一息つけた

 

 

身体中油とススで塗れてるな

 

私も入渠が必要かな⁇

 

しかし驚いた

 

話の分かる奴が居るなんて…

 

しかし、謎は多いな…

 

”どや⁇”

 

「あぁ、目は覚ました。後は入渠で治るらしい」

 

”提督は大丈夫かいな”

 

「私か⁇私は大丈夫さ」

 

”ほな一安心やな。後はこれ食べさしたり。提督はこっちや”

 

数人の妖精が持って来たのは、ボーキサイトと、笹の葉に置かれた、数貫のお寿司

 

確かに戦闘機はジュラルミンだが…

 

「分かった。ほんと、君達は良く出来るな」

 

”せやで。もっと褒め”

 

「また後でな」

 

再び浴場に戻ると、意識もしっかり回復して来たのか、瞳のような物が此方を向いた

 

「飯食うか」

 

お寿司を頬張りながら、黒い機体の口にボーキサイトを放り込んだ

 

《アリガトウ…ソレハ…オスシ⁇》

 

「知ってるのか⁇」

 

《ウン…ズイブンムカシニタベタヨ⁇》

 

「え…」

 

お寿司を食べる手が止まった

 

「何…だって…⁇」

 

《コノカラダニナルマエ二、タベタコトアル》

 

「お前まさか…はは、でもそんなハズ…」

 

そして、彼はとんでもない事を言った

 

《ボクハモトモト、パイロットダッタンダ》

 

「…」

 

なんて事だ…

 

元パイロットだと⁇

 

《ナイショニシテネ⁇》

 

「あ、あぁ。もちろんだ。そうだお前、名前はあるのか⁇」

 

《ボクノナマエハ”フィリップ”》

 

「フィリップか…良い名だ」

 

 

 

艦載戦闘機”フィリップ”が、艦隊の指揮下に入ります︎

 




フィリップ…楽園に不時着した正義心を持った深海凄艦の艦載機

何処かの艦娘に撃たれて不時着した深海凄艦の艦載機

不時着した所をパパ提督に助けられて以降、たいほうの艦載機として彼女や基地の周辺の警備にあたってくれている

装備は照明弾とロケット弾2発とパパ提督と連絡が取れる無線機


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4話 海鷲からの救難信号(1)

短めですが、3話が終わりました

敵性勢力であった艦載機を保護し、説得に成功した彼は“フィリップ”と名乗りました



このお話では、そんな彼が、パパのために一肌脱ぎます


「どうだ、周辺の海域に異常は無いか⁇」

 

《イマノトコロハナイヨ》

 

「了解した。引き続き基地周辺の哨戒に当たってくれ。異常があったらすぐに知らせるんだぞ⁇」

 

《ラジャー》

 

無線を切り、空を見つめる

 

あれからフィリップは、驚くべき回復力を見せた

 

話を聞くと、フィリップは母艦が撃沈され帰る場所を失い、不時着しようと場所を探し、ここに辿り着いたらしい

 

直った後、彼を空に帰そうとした

 

が、いかんせん帰る場所がない

 

それからと言うもの、フィリップは自主的に基地の周辺の警備をしてくれている

 

「パパ、あのひこうきは⁇」

 

「パパのお友達だ。仲良くするんだよ⁇」

 

「ふぃりっぷ︎」

 

《タイホウチャンカイ⁇オルスバンオネガイネ⁇》

 

「うんっ︎ふぃりっぷもきをつけてね︎」

 

《ラジャー》

 

ああ見えて、フィリップは面倒見が良い

 

たいほうが基地周辺の散策をしている時も、ちゃんと周囲を警戒してくれている

 

”提督、ちょっと来てくれへんか⁇えぇもんでけてん”

 

「分かった。たいほう、行くぞ」

 

無線機を内ポケットに入れ、たいほうと手を繋いで部屋を出た

 

”これや︎”

 

「おぉ…」

 

建造ドックに置かれていたのは、真っ白なジェットスキーと、レバーアクションのライフル

 

”何かあった時にすぐ様子見出来る様に造ったんや。バックパックには、応急処理程度やけど手当が出来るキット、後は防水加工のライフルとそれ入れる肩がけの入れもんや”

 

「仕事早いな…素晴らしい」

 

”敵味方関係無く助ける提督に惚れて造ったんや。戦闘機もちょっとずつやけど進行しとるで⁇”

 

「ありがとうな。これは絶対使う時が来る」

 

”たいほうにはこれや”

 

妖精が取り出したのは、”F”と書かれたカートリッジ

 

”これにフィリップを格納出来るんや”

 

「スゲェな…」

 

「たいほうにくれるの⁇」

 

”せや。それで毎日フィリップ発艦さしたり。フィリップは艦載機やさかい、そっちからの方が綺麗に飛べる”

 

「たいほうがんばるね」

 

「ん、いい子だ」

 

カートリッジを大事そうに抱え、彼女の頭に置いた私の手を嬉しそうに堪能する

 

「さっ︎そろそろフィリップが帰って来る。準備しよう」

 

「ようせいさん、ありがとう︎」

 

”用心し〜や〜”

 

私達は建造ドックを出た

 

 

 

 

 

「どうだフィリップ。そろそろ哨戒を解こう。疲れたろ」

 

《ラジャー》

 

「よし、今日からたいほうが母艦の代わりになる。着艦体制が取れ次第連絡してくれ」

 

《ラジ…チョットマッテ》

 

「どうした⁇」

 

《シンカイセイカンダ…》

 

「何…」

 

平和だった基地に、緊張が走る

 

《シンカイセイカンイッセキカクニン︎》

 

「様子を見れるか︎」

 

《ラジャー》

 

その言葉を最後に、しばらく連絡が無かった

 

「帰るべき場所に帰っ…」



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4話 海鷲からの救難信号(2)

《キゼツシテ、プカプカウイテルヨ⁇キズガイッパイアルヨ⁇》

 

「よし、フィリップ良くやった︎今から其方に向かうから、照明弾を発射してくれ︎」

 

《ラジャー、ショウメイダンハッシャ︎》

 

空が大きく光る

 

大分遠くの方に、フィリップが見えた

 

「早速出番か…フィリップ、その場で待機してくれ︎」

 

《ラジャー》

 

建造ドックに向かい、ジェットスキーに跨った

 

「緊急医療キット良し、耐水ライフルよし」

 

”ジェットスキーの運転分かるんか︎”

 

「昔乗ってたからな。ちょっと行って来る」

 

アクセルを入れると、一気に加速した

 

初期加速に難ありだな…

 

しばらくすると、ホバリングしているフィリップが見えた

 

《パパ︎ココココ︎》

 

「よし、頑張ったな、フィリップ」

 

《ア…アリガトウ》

 

「こいつは…よっと」

 

海の中に入り、深海凄艦の体の様子を見た

 

白っぽい髪

 

限りなく人間に近い顔立ち

 

張りのある胸

 

まるで人間の女の子だ…

 

《ボクガイウノモナンダケド…タスケテアゲテホシイ…》

 

「当たり前だ。そのつもりで来た」

 

《アリガトウ…パパ》

 

「とりあえずはこれで良し」

 

深海凄艦をジェットスキーに乗せ、私が乗った後背中に抱え、首に手を回させた

 

これで何とか基地まで

 

「スピードが出ないな…」

 

《ボクニマカセテ︎》

 

ジェットスキーに備えられたワイヤーを噛み、フィリップはゆっくり加速した

 

「やるじゃねぇか︎」

 

《パパニオンガエシ、ダネ》

 

「ふっ…」

 

フィリップの顔を見て、微笑みを返した

 

 

 

 

 

 

 

基地に着くと、すぐに深海凄艦を入渠ドックにほりこんだ

 

”次は深海凄艦かいな…”

 

「今回も話が通じればいいが…」

 

”流石に怖いわ…”

 

「任しとけ。連れて帰ったのは私だ」

 

”任せるで︎”

 

妖精が去った後、フィリップから無線が入った

 

《パパ…ゴメンネ…ボクノワガママデ…》

 

「気にするな。助けられる奴は助ける。私のモットーだ。それよりどうだ、たいほうのカートリッジの中は︎」

 

《ウン、カイテキダヨ。アリガトウ》

 

「こちらこそ」

 

無線を切り、入渠ドックの深海凄艦を見つめる

 

「さて…どうした事やら…」

 

しばらく様子を見た後、煙草を吸いに外に出ようとした時だった

 

「ん⁇」

 

深海凄艦が動いた気がして、ふと後ろを振り返った

 

《ウァァァァア︎︎︎》

 

「何っ︎」

 

私にいきなり襲いかかり、馬乗り状態になった

 

「大丈夫だ…君を助けようとしたんだ…」

 

《ニンゲンニタスケテモラウヒツヨウナドナイ︎》

 

首を絞められ、息が出来無くなった

 

「うっ…苦し…」

 

《イマイマシイニンゲンメ…》

 

「大丈夫…大丈夫だ…」

 

《ウゥゥゥウ…︎ダマレダマレダマレェ︎》

 

仕方ない…

 

こうなったら…

 

最後の力を振り絞り、深海凄艦の背中に手を回した



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4話 海鷲からの救難信号(3)

「心配するな…私は…味方だ…」

 

《ハナセ、ケガラワシイ︎》

 

私の腕を払おうとした瞬間、首の手が緩み、手を振り払った

 

そして、深海凄艦を思い切り抱き締めた

 

《ウッ…》

 

「心配するな…何もしないさ」

 

《ハナセ…》

 

「ドックに入ってくれ…頼む…」

 

《…シンジテイイノカ》

 

「信じてくれ、今だけでも…」

 

《…ワカッタ》

 

「良かった…」

 

手を離すと、深海凄艦はちゃんと入渠ドックに入った

 

《ナオッタラ、キサマヲヤツザキニシテウミニ…》

 

「はいはい、ちゃんと治せ。話はそれからだ」

 

《デテイケ︎コノヘンタイ︎》

 

歯を剥き出しにしながら、此方にお湯をかけてきた

 

「分かった分かった︎」

 

入渠ドックを出た後すぐに気付いた

 

あいつ、裸だったな…

 

ま、どちらにせよ、入渠が終わるまで落ち着いていてくれそうだ…

 

ようやく一服つけそうだ…

 

 

 

「パパ、あのひとだいじょうぶ⁇」

 

部屋に戻ると、たいほうが駆け寄って来た

 

「大丈夫だよ。ちょっと怪我してただけだ」

 

「よかった」

 

本来敵である深海凄艦に対し、心配をしている彼女を見て、私も少し落ち着いた

 

「もう夜か…もう寝なさい」

 

「うん…」

 

心配そうに私の顔を見た後、部屋の隅に敷かれた布団に入った

 

「パパ、どこにもいかない⁇」

 

「行かないよ。ここにいる」

 

「よかった…」

 

目を閉じた彼女の頭を撫で、椅子に座って煙草に火を点けた

 

「長かったな…」

 

流石に今日は疲れた…

 

深海凄艦…か…

 

フィリップみたいに、話が通じれば、何か見つかるかも知れない…

 

ダメだ…ちょっと眠ろう…

 

煙草の火を消し、椅子に座ったまま目を閉じた

 

 

 

 

 

「…はっ︎」

 

朝日が直で顔面に当たり、目が覚めた

 

「…フィリップ」

 

太陽の下、フィリップが元気そうに基地の上空を飛んでいる

 

「どれ…」

 

窓の外を見ると、たいほうがフィリップを目で追っていた

 

「…」

 

残る心配は…

 

緑茶を飲み、入渠ドックに向かった

 

「おはよう。あれ⁇」

 

ドックにいたはずの奴がいない

 

海に帰ったのか…よかっ

 

「いて︎」

 

振り向いた瞬間、柔らかい物に当たった

 

「もう大丈夫か⁇」

 

そこにいたのは、タオルを頭に置いた昨日の深海凄艦だった

 

《…ダイジョウブ》

 

「海に帰ってもいいんだぞ⁇」

 

《カエッタラ、ニンゲンニタスケテモラッタウラギリモノダトイワレル》

 

不安そうにしているのが、一目で分かった

 

「嫌じゃなきゃここにいろ。戦いもなけりゃ、裏切り者と言われる心配も無い」

 

《イイノカ⁇ワタシハシンカイセイカン…オマエタチノテキダ。コノキチヲハカイシタリ、ホカノレンチュウ二バショヲオシエルカモ…》

 

「したいならすればいい。その時は何度でも止めてやるさ」

 

《…イイダロウ︎キサマニカリヲツクルノモシャクダ、ココニイスワッテヤロウ︎》

 

「ようこそ、私の基地へ。それと、私の名前は…」

 

《シッテル、パパダ》

 

「君は⁇」

 

《ナイ︎パパガツケテクレ》

 

名前か…

 

そう言えば、顔立ちが結構美人なためか、頭に置いたタオルのせいで教会のシスターに見えなくもない

 

「なら”マリア”だ」

 

《マリアカ…イイダロウ》

 

「あ…そうだ。マリアの武装なんだけど、見つけた時には何も無かったんだ…」

 

《ゼンブステタカラナ》

 

「そっか…」

 

《デハ、ワタシハパパノカンムスノメンドウデモミヨウ》

 

「頼んだよ」

 

そう言った私に対して、マリアは笑った

 

《ホントウニイイノカ⁇アノコヲクッテシマウカモシレナイゾ⁇》

 

「その時はマリアが毎日私の布団の中で湯たんぽ代わりになって貰う」

 

《ソレハコマッタナ…デハクワナイデオコウ》

 

顎に手を置いて、再びこちらに笑みを見せた

 

「そうやってちょっとずつ笑え」

 

《ソウスル。デハパパ、イッテクルゾ》

 

「敬礼は無しだ。行って来るぞだけでいい」

 

《フッ…》

 

 

 

 

深海凄艦タ級”マリア”が艦隊の指揮下に入ります!!




戦艦タ級”マリア”…食いしん坊のグラマラスガール

パパが保護した深海凄艦

よく食べるわ、パパの手は噛むわで気性の荒い女の子だが、たいほうの面倒をよく見てくれたり、意外な所で気遣いが上手


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5話 籠の中の雛鳥(1)

さて、4話が終わりました

仮の状態ではありますが、一時的に深海凄艦を味方に引き込んだパパは、彼女等と生活を共にします

マリアと名付けられたタ級は、少しずつ人の優しさに触れ、自分を取り戻して行きます



そろそろパパの所に来る男性の名前を書こうと思います



横須賀君…パパ提督の二番機だった最強の艦隊保持者

横須賀から毎日各所の基地に資源や物資を届けている、海軍の重要人物であり、パパ提督の良き理解者

パパ提督より一つ階級が上だが、パパ提督に逆らえないし、逆らうつもりも無い

パパ提督以外にはあまり口を開かず、必要最低限しか話さないが、決して他人が嫌いな訳では無く、口ベタなだけ

艦娘だけではなく深海凄艦の生態調査にも積極的

名前は頑なに明かそうとしない


マリアが基地に来てから一週間後…

 

「大佐…彼女は…」

 

いつもの定時報告に来た彼は驚いていた

 

「ん⁇あぁ、戦艦タ級のマリアだ」

 

《マリアダ》

 

「まりあだ〜︎」

 

マリアの横でたいほうがはしゃぎ、マリアはそれを嬉しそうに眺めている

 

「な…懐いていますね…攻撃しないのですか⁇」

 

《ナニ、カイヌシノテクライハカムゾ⁇キノウモシデカシタゾ︎》

 

「自分で言うな」

 

《デハ、ワタシタチハ”エンセー”ニイクカラナ》

 

「気をつけろよ⁇」

 

《デハ、イッテクルゾ》

 

「いってきます︎」

 

「んっ、気をつけてな︎」

 

マリアとたいほうが部屋を去る

 

横須賀君は開いた口が塞がらない

 

「し…深海凄艦に遠征を行わせてるんですか︎」

 

「そうだよ。一本吸うか⁇」

 

「お言葉に甘えて…」

 

横須賀君は、箱から一本抜き取り、火を点けた

 

「は〜…」

 

彼は一服目は必ず肺に紫煙を溜め、それをゆっくり吐き出す

 

昔からこの癖は変わらないな

 

「また貴方とこうして、煙草を吸える日が来るとは…」

 

「嫌だったか⁇」

 

「いえ…懐かしいな…と」

 

「あれから何年だ⁇」

 

「5年です」

 

横須賀君とは、昔軍で一緒だった

 

私はその時も変わらず空軍

 

彼は当時私の二番機だった

 

優れた指揮能力…

 

統率された編成…

 

誰一人として犠牲にしない、素晴らしい位に良く出来た奴だったのは、今でも覚えてる

 

が、彼は艦載機パイロットとして、

海軍に移籍し、それから逢わなくなった

 

それがまた、こういった形で再会するとは…

 

「時代は…変わってしまいました」

 

「あぁ…」

 

二人して窓の外を見る

 

フィリップが基地周辺の哨戒を続けている

 

「深海凄艦…か」

 

「大佐⁇」

 

「お前は、マリアが敵に見えたか⁇」

 

「いえ…」

 

「そう。見た目は普通の女の子だ。悪いが私は撃てない」

 

「貴方の掟…ですか」

 

「まだ覚えてるか⁇」

 

「手負いの機体は追わない、どんな事情があり、いかなる命令であろうとも子供や未成年を撃たない…でしたよね⁇」

 

「花マルだな」

 

横目で彼を見ると、珍しく微笑んでいた

 

「こんな噂を聞いた事はありませんか⁇」

 

「ん⁇」

 

「深海凄艦が、艦娘になった噂です」

 

「ま、あながち嘘じゃあないだろうな」

 

「私達はそれを見る事は出来ません。ですが、私達の艦娘達がそれを目の当たりにしています…」

 

「マリアも艦娘になるってのか⁇」

 

「0ではないでしょう。ただ、未だに条件は分かっていません。倒された者、自身の記憶を蘇らせた者…多種多様です。ですから…」

 

「マリアで試したいってのか」

 

「えぇ。内密に致します」

 

「手荒な真似はするなよ。マリアは私の”艦娘”だ」

 

「勿論です」

 

「ふっ…まぁ、お前の事だ。拷問やら尋問のやり方も知らんだろうに」

 

「え、えぇ…」

 

「ほら、明石が呼んでるぞ」

 

「あぁ…もうこんな時間か。では、また次回に」

 

「ん、気をつけろよ」

 

「失礼しました」

 

横須賀君が去った後、急に部屋が静かになった



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5話 籠の中の雛鳥(2)

《パパ、ギョウショウセンガイッセキキテルケド、イレテモダイジョウブカナ⁇》

 

「ん⁇行商船⁇」

 

あぁ、横須賀君が言ってたあの事か

 

「構わん、入れてくれ」

 

《ハイッテイイヨ》

 

外に出ると、小型船が停泊していた

 

「いらっしゃい、どうぞごゆっくり」

 

中に入ると、所狭しと物資が置いてあった

 

「お菓子はあるか⁇」

 

「奥にありますよ」

 

あったあった

 

これとこれとこれと…

 

後は雑誌だな

 

あ、外国の煙草もあらあ

 

こいつも

 

「全部で幾らだ⁇」

 

「5000円です」

 

結構買ったのに、この値段か…

 

「定価で売って大丈夫なのか⁇」

 

「国からの仕事ですからね、定価以上取ったら嫌味を言われますよ」

 

「ふっ…ありがとう」

 

「ではでは」

 

大きな袋を抱え、船から出た

 

これでたいほうも喜ぶだろう

 

《パパ》

 

「どうした⁇」

 

《キョウハモウ、タンカーキタヨネ⁇》

 

「あぁ、来たよ⁇」

 

《モウイッセキ、タンカーキタヨ⁇》

 

「方向は⁇」

 

《ニシノホウカラ。ココニツクナラ、ヨルニナルヨ⁇》

 

「分かった。一旦帰って来い。補給と休憩だ」

 

《ラジャー》

 

「ただいま︎」

 

《タダイマカエッタゾ》

 

「ん、おかえり。何か見つかったか⁇」

 

《ドウクツヲミツケタ。ナニカアリソウダゾ⁇》

 

「洞窟か…次の遠征の時に調べてくれるか⁇」

 

《ソノツモリダ》

 

「さて…」

 

残るはそのタンカーか…

 

望遠鏡でタンカーを眺めていると、無線が入った

 

《タン…カ………認︎……命……を》

 

「何だ⁇混線か⁇フィリップ︎」

 

《キコエタヨ。タンカーノチカクカラダ》

 

「今どこにいる⁇」

 

《カートリッジノナカダヨ⁇》

 

「そのまま待機しててくれ」

 

《ラジャー》

 

《サテ、カラダノヨゴレヲオトシテクルゾ⁇》

 

「たいほうも︎」

 

「あぁ、行っておいで」

 

二人が入渠するのを見送った後、私は再び窓の外に目を向けた

 

「夜が近い…」

 

《ヨルニハココニツクヨ⁇》

 

「着かない事を祈るね…嫌な予感がする…」

 

まさか、その予感が的中するとは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜に紛れ、一機の大型ホバークラフトがタンカーから出る

 

パパ提督にもフィリップにも気付かれず、基地に近付いて行く…

 

「エンジン音だ…戦闘機じゃないな」

 

《ナンダロウ…ネンピワルソウ》

 

「分からん…」

 

 

 

基地の死角から、数人が上陸する

 

黒いボディースーツに、手には自動小銃を携えた彼等は、とある場所を目指していた

 

 

 

「足音だ…まさか︎」

 

心配になり、入渠ドッグに走った

 

「たいほう︎マリア︎」

 

「パパ〜︎」

 

泣きながらたいほうが私に抱き着いた

 

「どうした︎何があった︎」

 

「まりあがつれていかれた︎」

 

「ん…分かった。妖精さんの所に居なさい」

 

たいほうを離した時、服のすそを掴む彼女がいた

 

「パパ、いかないで︎」

 

「マリアを助けてくる。たいほうは妖精さん達とお留守番だ」

 

「まりあもパパもかえってくる⁇」

 

「空軍は嘘をつかないよ」



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5話 籠の中の雛鳥(3)

「わかった…たいほう、おるすばんする」

 

「机にビスケットがあるから、食べていいぞ」

 

「うん…」

 

”たいほうは任せ︎頼むで提督︎”

 

「ジェットスキーを出せ」

 

”おっしゃ︎”

 

「私を怒らせたな…」

 

脱衣場にあった、たいほうのボウガンを手に取り、カートリッジを挿した

 

「フィリップ、聞こえるか⁇」

 

《ゴメンネ…ボクノセイダ》

 

「一緒に行ってくれるか⁇」

 

《タスケテクレルノ︎》

 

「戦争は嫌いだが、戦う理由が見つかった」

 

《パパニツイテイクヨ》

 

「頼むぞ」

 

《ウンッ︎》

 

 

 

 

「よし、出せ」

 

《ウゥゥゥウ︎》

 

口を封じられ、檻に入れられたマリアがホバークラフトに乗せられ、タンカーに向かっていた

 

「こいつは高く売れるぞ︎」

 

チクショウ…

 

ワタシヲウルキカ…

 

ヤハリニンゲンハ、シンヨウナランナ…

 

 

 

 

「まさかもう一度握る事になるとはな…」

 

”ライフルの撃ち方は分かるな⁇”

 

「大丈夫だ。特にこいつは」

 

レバーアクションのライフルは撃ち慣れている

 

それに、ジェットスキーの上ならポンプ式よりこっちの方が有利だ

 

《イコウ︎》

 

「よし、出る︎」

 

初期加速はやはり難ありだが、今回ばかりはそれでいい

 

「ホバークラフトは…もう格納されたか」

 

《タンカーダ︎ヤッパリジェットスキーハハヤイネ》

 

「行くぞ︎」

 

《ラジャー︎》

 

いつもより活気に溢れたフィリップの相槌を合図に、ボウガンからフィリップを発艦した

 

「ロケット弾の発射を許可する。私の合図でタンカーに食らわせてやれ︎」

 

《ラジャー︎》

 

フィリップが発艦した後、無線である場所に連絡をした

 

「おい、聞こえるか︎おい︎」

 

「大佐ですか⁇」

 

「横須賀君か︎基地の付近に不審なタンカーが現れてマリアが連れて行かれた︎」

 

「分かりました、付近で遠征を行っている艦隊を回します。私もすぐ伺います︎」

 

「頼むぞ︎」

 

 

 

タンカーの上では、マリアの入った檻が下されていた

 

「こんな奴が人類の恐怖だとはな…」

 

「よくもやってくれた…な︎」

 

《ウゥッ︎》

 

蹴られたり殴られたりされているマリアの頭には、ふと一人の人間が過った

 

パパハ…ヤサシカッタな

 

ワタシタチニモ、ワケヘダテなく、アイシテくれた…

 

カエリたい…

 

ソウだ、かえろう

 

パパの所…に…

 

「何だ⁇」

 

タンカーの下で、ジェットスキーが並行している

 

タンカーに乗った人は、背中のライフルを構え、弾を装填している

 

「何をする気だ…」

 

 

 

 

「徹甲弾か…」

 

ま、脱臼は覚悟だろう

 

弾を装填し、タンカーの腹に一発当てた

 

大きな銃声が聞こえた後、タンカーに人一人入れる穴が空いた

 

「相変わらずいい加減な威力の武器だな」

 

まぁ、これで入れる

 

タンカーの中に入ると、フィリップの通信が入った

 

《マリアヲミツケタヨ︎カンパンニイル︎》

 

「ありがとう。ロケット弾の安全装置を解除したまま、その場で待機しててくれ」

 

《ラジャー》

 

しばらくタンカーの中を歩いていると、誰かの声がした

 

「あんたは…」

 

「捕まってしまいました…」

 

昼間来た行商船の男性だった



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5話 籠の中の雛鳥(4)

今回のお話で、とある艦娘がパパの艦隊に着任します

誰なのかは、見てからのお楽しみで


「はい」

 

縛られていた縄を解き、彼を自由にした

 

「申し訳ありません…この恩は必ず」

 

「そこでしばらく捕まったフリしててくれ。もう一人助けてから戻ってくる」

 

「分かりました」

 

「あぁ、あの時の混線は貴方か」

 

「えぇ…いきなり拿捕されて、気が付いたらここにいました」

 

「仇は討ってやる」

 

彼は申し訳なさそうに一礼した

 

「さて…」

 

ライフルに弾を装填しながら、甲板に上がった

 

「誰だ︎」

 

答える前に、銃声が響いた

 

続け様に、一発、二発

 

目の前にいたタンカーの乗組員が一瞬でその場に倒れた

 

「大丈夫か⁇」

 

マリアの口紐と手に巻かれた縄を解き、手を差し出した

 

《ドウして来タ…ホウってオケバヨカったノニ》

 

「マリアは私の”艦娘”だ。見捨てたりしない」

 

《…コワかった》

 

私の顔を見て安堵したのか、マリアは大粒の涙を流し始めた

 

「帰ろう、たいほうが待ってる」

 

《…うんっ》

 

マリアを立ち上がらせた時、ふと顔にヒビがあるのに気が付いた

 

「美人が台無しだ。帰って入渠だな」

 

《パパは優しいナ…ウッ︎》

 

ヒビがある場所をおさえ、マリアはよろめいた

 

「ほら、もう少しだ」

 

《コレが…愛、か》

 

「知らないなら、教えてやる」

 

《なら…ナガい付き合イになるな…》

 

「ふっ…グッ︎」

 

背中に激痛が走る

 

投げナイフか…

 

「逃がすかよ…せっかくの大金掴むチャンスだ」

 

仕留めが甘かったか…

 

《ウソだ…シヌな︎》

 

「来い︎一人ぐらい逃げる時間を稼いでやる︎」

 

《あ…》

 

マリアの目から、涙が流れる

 

今度は辛い涙ではなく

 

嬉しい涙だった

 

顔のヒビが割れ、中から本来の顔が見えた

 

「しねぇぇぇぇぇえぇぇえぇ︎」

 

彼は撃たれた足を庇いながら、此方にライフルを構え、引き金を引いた

 

ここまでか…

 

まぁいいさ…

 

今まで山ほど人を殺して来た

 

因果応報か…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ…??」

 

当たるハズの銃弾が無い

 

痛くもない

 

「提督よ…死なれては困る」

 

「あ…」

 

褐色の肌にサラシを巻いた女性が、腕で銃弾を防いでいた

 

「少し眠って貰うぞ︎」

 

彼女は一瞬で黒いボディースーツの男に近付き、一撃で気絶させた

 

「マリア…なのか⁇」

 

「”元”マリアだな。私は戦艦武蔵。提督の愛、確かに受け取った」

 

彼女はとても勇ましく見えた

 

先程まで、飼い主の手を噛むと自分で言っていたが、今度は噛まれたらオシャカになりそうだな…

 

「横須賀さんが来たな。私達は基地に帰ろう」

 

「あ…武蔵…」

 

「何だ⁇長居は無用だ」

 

「抱えてくれたら…嬉しい」

 

「おっと、そうだったな。よいしょ。提督は軽いな︎ちゃんと食ってるのか︎」

 

「ちゃんと食べるから…助けて」

 

武蔵の抱え方は少し変だ

 

私の顔を胸に寄せ、斜めに持ったまま海に飛び込もうとしていた

 

「目を閉じろ。ほんの少し海に潜るかもしれん」

 

「…いいぞ」

 

彼女に言われるがまま、目を閉じた

 

「では…」

 

「⁇」

 

唇に柔らかい物が当たったと気付いた時には、冷たい海の中だった

 

「ぷは…大丈夫か、提督よ︎」

 

「大丈夫…」

 

「今のは御礼だ」

 

「御礼⁇」

 

「そうだ。分け隔てなく愛してくれて、ありがとうの御礼だ」

 

「ふっ…」

 

意識が遠のく…

 

海に入った時に、血が出過ぎたのか…

 

「提督︎!!提督よ︎!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後…

 

「へ〜、彼奴ら犯罪集団だったのか〜」

 

「お手柄ですよ、大佐」

 

見舞いに来た横須賀君が、新聞やら勲章やら、色々持って来た

 

「それに何より…」

 

「何だ」

 

横須賀君が武蔵を見ると、鋭い眼光で睨み返す

 

「愛…ですか」

 

「愛はいいぞ⁇」

 

「実は私、ケッコンを致しまして…」

 

武蔵と同じタイミングでお茶を吹いた

 

「「はぁ︎!?」」

 

確かに横須賀君の薬指には指環が煌めいていた

 

「それはその…艦娘と、なのか⁇」

 

「えぇ、明石とです」

 

「私も頑張れば、提督と出来るのか︎!?」

 

「凄く時間はかかるけど、絶対不可能じゃありません」

 

「毎日遠征に行って、お手伝いをしたらなれるか︎!?」

 

「そ…そうだね」

 

「よし、こうしてはおられん︎!!たいほうと花嫁修行だ︎!!」

 

「はいはい、行ってらっしゃい」

 

武蔵はキラキラしたまま、部屋を出て行った

 

思い立ったが吉日を絵に描いたようだな、武蔵は…

 

「島風は元気か⁇」

 

「えぇ、勿論。これからは遠征に行かせるようにしています」

 

「良かった…」

 

「では、しっかりと療養して下さい」

 

「すまないな、忙しいのに」

 

「貴方のためですから」

 

横須賀君は微笑みながら部屋を後にした

 

 

 

 

深海凄艦タ級”マリア”が艦隊の指揮から抜けました

 

戦艦”武蔵”が艦隊の指揮下に入ります︎!!




武蔵…面倒見の良いみんなの母親役

マリアの本当の姿

たいほうをよく抱っこしていたり、提督の精神的なケアも上手

提督の傍にいるため、花嫁修業真っ最中




予想どうりでしたか??

それとも、少し違いましたか??

ではでは、次のお話へ


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6話 雄鶏の涙

さて、5話が終わりました

自分の中では、5話は少し長く書きたかったので、6話はパパのちょっとした過去のお話です


今日も基地に夜の帳が下りる…

 

「りんご、ばなな、おれんじ」

 

「これは何だ⁇」

 

「あおいんこ︎!!」

 

「惜しいな、青”りんご”だ」

 

ベッドに横になりながら私は、たいほうに絵本を読んでいた

 

「うさぎ、ぱんだ、ねこ」

 

「これは何だ⁇」

 

「りす︎!!」

 

「惜しいな、これはネズミだ。でも、形は似てるな」

 

「提督よ。貴方は本当に子煩悩だな」

 

「そうかな⁇」

 

「たいほうよ、これは何だ⁇」

 

武蔵の持っていたお盆の上には、うさぎのりんごが何個か載っていた

 

「うさぎのりんご︎!!」

 

「良く出来た︎偉いぞ︎」

 

たいほうを褒めた後、彼女の口にうさぎのりんごを放り込んだ

 

「さ、もうおやすみ…」

 

たいほうに布団を被せると、武蔵と私の手を取った

 

「パパもむさしも、ここにいる⁇」

 

「あぁ、たいほうの近くにいるよ」

 

「私が寝てやろう」

 

武蔵がたいほうの横に入り、私は部屋の電気を消した

 

私も眠ろう…

 

ここ最近は平和だな

 

武蔵もいるし、万が一も万全だ…

 

 

 

 

 

 

「隊長…貴方と一緒に飛べて、光栄でした︎」

 

「チクショー︎ここまで…か…」

 

「空が狭い…なぁ、隊長…」

 

「逝くな︎お前ら︎」

 

目の前で、仲間が火を吹いて落ちて行く…

 

残弾無し、燃料無し

 

だが、弾なら…

 

弾なら、まだ一発残っていた

 

多分、これが最後の燃料だ

 

「うわぁぁぁぁあ︎」

 

そう、特攻

 

敵の深海凄艦に当たる直前、私は目を閉じた

 

「空に…還るのか…私に、一番近い場所に…還るのか」

 

 

 

 

 

「提督︎提督よ︎大丈夫か︎」

 

「はぁ…はぁ…」

 

夢か…

 

にしては、随分恐ろしい夢だったな…

 

「かなりうなされていたぞ」

 

「あ…あぁ…昔の夢を見たんだ」

 

「仕方無い…」

 

武蔵は私を思い切り抱き寄せた

 

柔らかい胸に顔が埋まり、息がしにくい

 

あ。そういう意味か

 

窒息させて、気絶されるつもりだな…

 

と、思いきや、急に胸から外れた

 

「今日は一緒に寝てやろう。たいほうの代わりの湯たんぽだな」

 

「うん…」

 

その晩、私は武蔵に抱かれたまま眠りについた

 

人肌に触れながら眠るのは、とても幸せだと気が付いた

 

 

 

「パパ、むさし︎」

 

「たいほうか…おはよう」

 

「むさしとねたの⁇」

 

「うん…武蔵と一緒に寝るとすぐ寝れるな」

 

「むさしはやさしいね」

 

「ふっ」

 

静かに寝息を立てている武蔵の頭を撫で、そっと布団を被せた

 

「もうちょっと寝かせてあげよう。きっと疲れてるんだ」

 

「うん。たいほうはえんせいにいってくるね︎」

 

「あんまり遠くに行くんじゃないぞ︎」

 

「いってきます︎」

 

最近のたいほうは元気だ

 

それも、彼女のおかげかな⁇

 

「おはよう、提督。もう大丈夫か⁇」

 

「おはよう。ありがとうな」

 

「その…激しいのだな、男と言うのは」

 

「やっぱ…何かしちゃったか⁇」

 

「ずっと泣いていたと思えば、私の胸を何度か揉んだ後、すぐに寝息を立てたぞ」

 

「ご、ごめんな…」

 

「かまわん。減るもんじゃない」

 

「お詫びに、少し話をしてやろう。あまり楽しい話じゃないけどね…」

 

「む…聞いてみよう」

 

「私がまだパイロットだった時の話だ…」

 

それからしばらく、昔の話をした

 

幾度の空中戦…

 

唯一の自慢だった僚機の損失無しのレコード…

 

大陸を跨いだ戦争…

 

全てが覆されたあの日の…

 

「ほぅ…そんな過去が…」

 

「今となっては、未練と思い出しか残らないけどね」

 

「それでも、空に帰りたいのか⁇」

 

「そう願うね。だが、今となってはもう遅い」

 

「今からでも遅くないはずだ」

 

「無理だ」

 

「提督よ…」

 

「武蔵」

 

武蔵の手を取り、私の左足に当てた

 

「これが分かるか︎」

 

「足だ」

 

「めくってみろ」

 

何の抵抗も無く、武蔵は私の左足のズボンをあげた

 

「分かったか⁇」

 

「隠していたのか、今の今まで」

 

「なるべく知って欲しく無かったんだ。これを知ってるのは、私と武蔵だけだ」

 

武蔵が沈黙する

 

普段は全く気にしないのに、この時ばかりは、波がうるさく聞こえた…

 

「こんな体で、私を助けに来てくれたのか⁇」

 

「まぁな」

 

「やはり、貴方に付いて間違いは無かったようだ」

 

「そうか⁇」

 

「あぁ。私の提督は自慢の提督だ」

 

そう言って、武蔵は何度か私の頬を撫でた

 

「大佐、定時報告です」

 

「ん、あぁ」

 

急いで左脚を隠し、扉を開けた

 

「あ…申し訳ありません。入るべきでは…」

 

何かを察し、横須賀君は部屋を出ようとした

 

「いいんだ。で、今日はどうした⁇」

 

「貴方に、休暇の命令が下りました」




6話はこれでおしまいです

次のお話は、パパの長い休暇のお話です

個人的に気に入ってるお話なので、早めに貼ります


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7話 恋する雄鶏(1)

さて、6話が終わりました

今回のお話ですが、かなり賛否両論があると思います

そこはすぐに分かるかと思います

ですが現段階では、私自身、一番のお気に入りの回になっています

理由は、今回のお話で登場する艦娘に、祖父が実際に搭乗していたからです

感想&要望等、お待ちしております


「…」

 

目の前を、地下鉄が通り過ぎて行く

 

昨日、私に休暇が下りた

 

「二週間の休暇です。その間、基地には立ち入りを禁止…ですって」

 

「武蔵やたいほう、それにフィリップはどうするんだ⁇」

 

「武蔵とたいほうは、私の基地で預かります」

 

「…」

 

「に、睨まないで下さい。出撃も遠征もさせませんから…ね⁇」

 

気付かないうちに、彼を睨んでいた

 

「絶対だぞ︎」

 

「了解です︎」

 

”フィリップは任しとき”

 

「分かった。じゃあ頼んだぞ」

 

「心配じゃないですか⁇」

 

「お前の所だ。何にも心配してないよ」

 

 

 

とは言ったが、心底心配だ

 

武蔵はまだしも、特にたいほうが心配だ

 

ちゃんとご飯は食べているか…

 

どっかですっ転んで怪我でもしていないか…

 

鼻水は垂らしてないか…

 

電車に揺られ、景色を眺めている間、ずっとその事を考えていた

 

地元の駅に着き、煙草に火を点けた

 

「なるべく帰って来たくなかったんだがな…」

 

「大佐⁇大佐だ︎」

 

「おかえりなさい︎」

 

「大佐〜︎」

 

「あ…あぁ…」

 

「ママ〜、あの人だれ〜⁇」

 

「こらっ。あの人なんて言っちゃダメ︎あのお方、この街の誇りよ」

 

帰ればいつもこうだ

 

部下も家族も失って、何が英雄だ…

 

何がこの街の誇りだ…

 

「たいさ︎おかえりなさい︎」

 

「あぁ、ただいま」

 

だが、子供の夢を壊す訳にはいかなかった

 

たいほうと同じ位の身長の女の子の頭を撫で、そのまま街をふらついた

 

「はぁ…」

 

二週間か…長いな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃横須賀の鎮守府では…

 

「な、なんだこれは︎」

 

「これは最新の主砲さ」

 

目の前で造られて行く、白黒が入り混じった迷彩柄の主砲を目の当たりにし、武蔵は驚いていた

 

「こっちはなに⁇」

 

「これは改修工廠です︎たいほうちゃんも修理しますか⁇」

 

「たいほうはけがしてないよ⁇」

 

「あんまり、兵装は見た事無いかな⁇」

 

「ない。必要無いからな」

 

「ふぃりっぷがいるよ︎」

 

「そっか…」

 

 

 

 

 

二人が工廠を見学している時、私は街をぶらついていた

 

「大佐、揚げたてだよ︎持って行ってくんな︎」

 

「あぁ、ありがとう」

 

コロッケを貰い、それを食べながらまた歩く

 

「大佐、キンキンだよ︎」

 

「おぉ、ありがとう」

 

今度はラムネを貰い、木陰のベンチで一息ついた

 

「ふぅ…」

 

心配で心配で仕方がない

 

「よいしょっと」

 

考え事をしていると、隣に女性が腰掛けていた

 

「ごめんね、おじさん。ちょっと休憩させて⁇」

 

「おじさん…」

 

開口一番におじさんだと︎

 

失礼な女だ…

 

「あんた、この街の人か⁇」

 

「そうよ、おじさんは⁇」

 

「私もこの街の産まれだ」

 

「そう」

 

「この街は平和だな…」

 

「そう⁇」

 

「あぁ…」

 

ベンチの上を見上げると、木漏れ日が差し込み、蝉が鳴いている

 

「平和だ…戦時中とは思えない」

 

「おじさんは、お仕事何してるの⁇」

 

「あ…えっと…その…パイロット、だ」

 

この街では、提督と言うのは控えた方がいい

 

先程の様な事になってしまうからだ

 

「そっかぁ、パイロットかぁ…」

 

「そう言う君は…学生かい⁇」

 

「うん、そう。青春を取り戻してるのよ⁇」

 

彼女は一瞬悲しそうな顔をした後、先程と同じ顔を見せた

 

「へぇ…」



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7話 恋する雄鶏(2)

「あ、ねぇ、おじさん暇︎??」

 

「まぁな…二週間休暇だとよ」

 

「ふふふ…じゃ、行こっか︎??」

 

「ど、どこに︎」

 

「いいから︎ほら立って︎」

 

彼女に無理矢理手を引かれ、繁華街に連れて行かれた

 

「これこれ︎一人じゃやり辛いのよ」

 

「プリクラか」

 

「いや⁇」

 

「ううん。撮ろう」

 

青春を取り戻してるのよ…

 

彼女と過ごしている間、ずっとその言葉が頭の中を渦巻いていた

 

プリクラ撮って

 

クレープ食べて

 

またベンチで話す

 

本当に、他愛の無い時間…

 

「パイロットさん」

 

ようやく呼び方が変わった

 

「ん⁇」

 

「明日も逢おう⁇ね⁇」

 

「うん」

 

「じゃあ、今日はこれで。楽しかったよ︎」

 

待ち合わせ場所も、時間の指定も無い

 

だけど、なんとなく分かっていた

 

それから数日間、夕方の4時になると彼女は最初に出逢ったベンチに現れた

 

彼女の名前は”みほ”と言った

 

名前を聞くのも忘れる程、私は心底楽しんでいた

 

彼女といれば、何もかも忘れられた

 

パイロットの事も…

 

提督の事も…

 

何の変哲も無い時間が、二人の間に流れて行った

 

「じゃあね、また明日」

 

「あ…その、み、みほ︎」

 

「…初めて名前呼んでくれたね」

 

「明日、祭があるんだ。良かったら一緒に…」

 

「うん、分かった」

 

そして、また一人になる

 

彼女と逢えるまでの時間が、物凄く長く感じた

 

あぁ、そうか…

 

これが、恋…

 

私も、青春を取り戻してるのか…

 

ホテルの布団の中で、彼女の事ばかり考えていた

 

 

 

 

 

 

次の日、夕方4時

 

「パイロットさんっ」

 

「あ…」

 

うたた寝していたのか、彼女の顔がアップで映り、目が覚めた

 

「待った⁇」

 

「いや…待ってない。浴衣着て来たのか」

 

「うん、雰囲気から入らないとね」

 

「行こう」

 

「あ、ちょっと…」

 

彼女の腕が、私の腕と絡む

 

「行きましょ⁇」

 

 

 

数十年前、何度も行ったはずのお祭りの風景は、相変わらず似たような物だった

 

だが、まさか隣に異性がいるとは思いもしなかった

 

「何食べる⁇」

 

「焼きそばと…なんだこれ⁇」

 

「いらっしゃい、いらっしゃい︎出し巻き卵美味しいよ〜︎」

 

目の前で売られていたのは、出し巻き卵の屋台だった

 

しかもちっさい女の子が焼いている

 

「美味しそうね、一つ買う⁇」

 

「そうだな、じゃあ一つください」

 

「私、隣で焼きそば買ってくる」

 

「うん」

 

「おじさん、ちょっとだけ、たべりゅ⁇」

 

「どれ…」

 

あ、なるほど…

 

酒のつまみになりそうな、いやしかしおかずにもなるな…

 

味もしっかりしていて美味しい

 

「万能な味だな」

 

「あ〜︎瑞鳳ちゃんだ〜︎!!」

 

「へっ︎な、なにっ︎!?」

 

「はいっ、ど〜ぞっ︎!!」

 

瑞鳳と呼ばれた女の子は、何のためらいも無く、風船を持った少女に出し巻き卵を食べさせていた



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7話 恋する雄鶏(3)

「瑞鳳⁇」

 

「はいっ、瑞鳳です」

 

「軽空母の瑞鳳⁇」

 

「はいっ」

 

「うふふっ、驚いた⁇」

 

「みほ」

 

焼きそばと、何故か綿あめを持ったみほが後ろにいた

 

「周りのお店を見て」

 

言われるがまま、辺りの出店を見渡す

 

「いらっしゃ〜い︎」

 

「お面売ってるよ〜︎」

 

「射的一回300円だよ〜︎」

 

みんな女の子だ…

 

「ここは…私の知ってる街なのか…⁇」

 

「貴方が居なくなってしばらくして、この街は急に栄えたの」

 

「嫌味か⁇」

 

「ち、違うわよ︎」

 

「廃艦の受け入れです…」

 

口を開いたのは瑞鳳だった

 

「この街は、数年前から廃艦になった艦娘を受け入れ始めたんです」

 

「廃艦⁇」

 

「旧式になったり、戦えなくなった艦娘は、いきなり社会に放り出されるの」

 

「そんな馬鹿な…」

 

「でも、この街は私達を受け入れてくれた。私達を弾いたら、この街の英雄が許さないから…って」

 

「貴方の事です、提督さん」

 

「まぁ、確かに許さなかっただろうな…しかし…」

 

こんな事になっていたとは…

 

「みほ、君も艦娘だったのか⁇」

 

「後で教えてあげる」

 

「みほ⁇」

 

「瑞鳳ちゃん」

 

みほは何かアイコンタクトを送っていた

 

「あ︎花火が始まりますよ︎ほら、急いで︎」

 

瑞鳳に背中を押され、その場を後にした

 

「恋かぁ…私もしてたなぁ…」

 

二人が居なくなった屋台で、独り言を言う瑞鳳が、寂しそうに出し巻き卵を焼いていた

 

 

 

 

 

 

 

「ここからならよく見える」

 

「あらあら、ほんと」

 

高台に登ると、街が見渡せた

 

「綺麗だな」

 

「貴方の街ね…」

 

幾度と無く、これに似た街を空から見て来た

 

護り切れない街もあった

 

爆撃機の絨毯爆撃で、業火に見舞われる街もあった

 

だけど、何度か護り切れた街があった

 

その中で今でも覚えているのが、私達が小さな街の上空で制空権を確保している最中、街の灯火管制が一斉に解除された時だ

 

私達の為に、市民が発起した瞬間だった

 

私は、この街だけは護らなければ…と、コックピットの中でうっすら涙を流したのを今も忘れもしない

 

美しかった…

 

街の灯りの一つ一つが、命のある場所だと実感させられた

 

「︎!!」

 

離れた場所で、花火が打ち上げられた

 

眼前に、何発もの花火が上がる

 

「これが花火…」

 

「見た事無いか⁇」

 

「爆発は嫌いなの」

 

「…」

 

「でも、花火は好きよ⁇」

 

「良かった」

 

しばらく二人で花火を眺めていた

 

知らず知らずのうち、私はみほの手を握っていた

 

「あのね…パイロットさん」

 

「ん⁇」

 

「私、貴方の事知ってた」

 

「そう…」

 

「ここに来た時、街の人に教えて貰ったの」

 

「…」

 

「私、艦娘なの。戦艦陸奥」



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7話 恋する雄鶏(4)

「知ってる」

 

「そう…」

 

最初から、何となく気付いていた

 

「青春を取り戻してるの」

 

まだあの言葉が頭に残っている

 

「海に居る時は、あれはあれで良かった…何も考えないで済んだもの。だけど、この街に来て変わった。私達は、何のために戦って、何のために捨てられたのか…分かった気がするの」

 

「…」

 

「それで…」

 

「チクショウ︎!!」

 

「んっ︎」

 

彼女を引き寄せ、頭を抑えて、唇を合わせた

 

「…」

 

「…」

 

唇を離した後、二人に気不味い空気が流れた

 

「これで…ちょっとは青春を取り戻したか⁇」

 

「う、うん…いきなり過ぎてびっくりしたけど」

 

「も、もうしないからな」

 

「ダメ」

 

「えっ︎!?」

 

「ちゃんと私の目を見て。それから…」

 

「…分かった」

 

彼女の肩に手を当て、目を見詰めた

 

「ん…」

 

みほが目を閉じた

 

呼吸が乱れる…

 

こんな気分、久し振りだ…

 

最後の花火が上がる…

 

その瞬間、私達はもう一度唇を重ねた

 

花火の音が聞こえなくなるまでの数秒間だが、私は長く感じた

 

そして、再び感じた

 

これが…恋

 

「ありがと…嬉しい」

 

「いい思い出になったよ」

 

私達はしばらくその場所で、私達の街を眺めた後、高台を降りた

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、私は駅のホームにいた

 

昨日の感触が、まだ残っている

 

「いってらっしゃ〜い︎!!」

 

「大佐〜︎ありがとう︎!!」

 

皆に見送られてしばらくした後、駅から電車が見えて来た

 

「ほら、離れて」

 

子供達を離し、立ち位置に着いた時だった

 

「大佐︎!!」

 

聞き覚えのある、女性の声がした

 

「大佐︎!!」

 

「みほ⁇みほ︎」

 

荷物を置き、走って来たみほを抱き留めた

 

「ありがとう、大佐…」

 

「みほ…」

 

「好きよ…ずっと。忘れないわ…」

 

「うん…」

 

「絶対、帰って来てね⁇」

 

「うん…うん…」

 

「あ〜︎むっちゃん泣いてる〜︎!!」

 

子供の声で、お互いの目が覚めた

 

「じゃあな。この街を頼む」

 

「いってらっしゃい︎」

 

電車に足を入れ、扉が閉まった

 

窓の向こうでは、まだ皆が手を振っている

 

ありがとう、みほ

 

君のお陰で嫌いだった街が、大好きな街に変わったよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付けば、私は電車の座席の一角で眠りについていた

 

目を覚ますと、あれは夢だったのかと、頭を過ぎった

 

だが、それはそれでいい夢だったと思う…

 

電車に揺られ、船に揺られ、横須賀君の鎮守府に着いた

 

「ありがとう」

 

「おとなしい子でしたよ、二人共」

 

「パパ〜︎たいほういいこにしてた︎」

 

たいほうが抱き着いた時、現実に引き戻された

 

私は戦場にいるのだ、と

 

「ず〜っと、提督の話だったんだぞ⁇」

 

「武蔵…ちょっと凛々しくなったか⁇」

 

「私が凛々しいのはいつもだ」

 

「じゃあ、私達は帰るよ」

 

「またいつでも」

 

二人を引き取った後、またしばらく船に揺られ、ようやく基地に着いた

 

「まっくら〜︎」

 

「今日はもう寝なさい。武蔵、たいほうをお願いするよ。ほら、行きなさい」

 

たいほうを抱き上げた後、武蔵はこちらを見詰めた

 

「提督よ…」

 

「ん⁇」

 

「何かあったか⁇」

 

「どうしてだ⁇」

 

「言葉に覇気がない」

 

「大丈夫さ。ただの平和ボケだ。すぐに治る」

 

「はっはっは︎なら心配要らないな︎では、おやすみ」

 

「おやすみ」

 

二人を見送った後、私は埠頭に一人、感傷に浸っていた

 

ふと煙草を吸おうと胸ポケットを探ると、紙が出て来た

 

「あ…」

 

みほと撮った、プリクラの片割れだった

 

夢じゃなかったのか…

 

小さく笑った後、紫煙を吐き出しながら、私はそれを胸ポケットにしまった

 

 

 

 

工廠の妖精が以下の造り方を習得しました︎

 

・わたあめ製造機

・鉄板焼きセット

・金魚すくいセット

・射的セット

・くじ引きセット




みほ…珍しくパパが惚れた高校生っぽい女の子

パパのいた街で出逢った女の子

初対面のパパを連れ回したりする所を見ると、結構気が強い

パパがお祭りに行こうと誘った際、浴衣を着てくる等、女子力は高め

学生である事を「青春を取り戻す」と言ってる所を見ると、普通の高校生の年代では無い

みほの名前では分かりにくいが、漢字にすると、誰か分かりやすいかも


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8話 ”希望”と言う名の蒼い鳥(1)

さて、7話が終わりました

今回のお話では、パパが“一度乗った事がある”と、言った機体が登場します

ヒントを出すとすれば…

“零と対なす機体”

と、でも言っておきましょうか

このお話以前にも、一度だけ会話に登場しています


”でけたで︎えらい待たせたな︎!!”

 

「ん⁇何がだ⁇」

 

それは、唐突だった

 

”はよ来てみぃ︎”

 

「仕方無い…」

 

妖精に着いて行くと、工廠に辿り着いた

 

中央にカバーを被せた、大きな何かが置いてある

 

”これや︎”

 

カバーが外され、中の物が露わになった

 

「おぉぉぉぉ︎!!」

 

”好きやろ、これ!?”

 

目の前に現れたのは、私がこの世で一番好きな、憧れの機体

 

あの時一度だけ乗った、蒼い鳥…

 

「コルセアだ︎!!」

 

”提督専用やさかいな。艦娘には発着でけへんけど、空母にも滑走路にも着地できるで︎!!武装も今風にはしたけど、十二分に深海凄艦と戦えるで︎!!”

 

「よし、これで…」

 

これで、ようやく…

 

ようやく、空に還れる

 

「テストフライトをしたい」

 

”ヘルメットと無線はこれや”

 

ゴーグル付きのヘルメットを渡され、私はコルセアに乗り込んだ

 

操縦席に座り、スロットルレバーに手を掛けた時、一度深呼吸をした

 

新品の機体だが、どこか嗅ぎ慣れた機械の匂いが、肺を満たして行く

 

あの日の感覚が、ゆっくりと甦って行く…

 

”TACネームは何にするんや⁇”

 

「イカロスだ。昔のネームをそのまま使う」

 

”よっしゃイカロス︎!!離陸を許可する︎”

 

格納庫から、ゆっくりと蒼い鳥が出てくる

 

滑走路に着き、計器を確認する

 

異常は…無いな

 

「イカロス機、出る︎」

 

蒼い鳥は、一直線に空へ還った

 

まるで、傷を癒し終えたかのように…

 

「いいね…やっぱり」

 

私にはこれが似合う

 

ここが居場所だ

 

”凄い挙動や…やっぱり凄いな”

 

「お、おい︎何だあの戦闘機は︎!!」

 

「あおいせんとうき︎!!」

 

武蔵はたいほうを抱えたまま、焦った様子で格納庫に入って来た

 

”あれは提督や”

 

「提督⁇」

 

”せや。凄い動きやな…”

 

「パパすご〜い︎!!」

 

 

 

「いーやっはー︎!!」

 

何度も宙返りや急加速を繰り返し、懐かしい感覚を取り戻していた

 

ジェット機では無いが、これでも十二分に楽しめた

 

「フィリップ︎俺が見えるか︎??」

 

”パパ⁇パパナノ︎!?”

 

「そうだ︎どうだ⁇編隊飛行でもするか⁇」

 

”ウンッ︎!!”

 

蒼い鳥の左側に、黒い機体が着き、同じ動きをする

 

下では、妖精達が二機の様子を眺めていた

 

ある妖精はメモを取り

 

ある妖精は双眼鏡で眺め

 

またある妖精は着陸後の整備の準備をしていた

 

「フィリップも見事なものだな」

 

”楽しそうやな、提督”

 

「あっはっはっは︎あのまま帰って来ないのではないか⁇」

 

「かえってきた︎!!」

 

二機が仲良く着陸する

 

フィリップはたいほうに仕舞われ、コルセアは滑走路の途中で止まった

 

「提督〜︎」

 

着陸した直後に、武蔵が駆け寄って来た

 

「どうだった⁇俺の飛行は⁇」

 

「素晴らしいの一言だな…流石だ」

 

「機体の調子も良い。エンジンの吹きが良かったんだ」

 

その時だった

 

”て、敵襲ー︎!!え、えらいこっちゃ︎単冠湾の基地がやられた︎!!”

 

「な、何︎!?」



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8話 ”希望”と言う名の蒼い鳥(2)

「行こう、提督︎」

 

「敵は︎」

 

”空母4に戦艦2や︎提督、今回ばっかりは話にならんで︎”

 

「単冠湾か…分かった」

 

”ちゃうで、提督︎単冠湾はもうあかんのや︎”

 

単冠湾が落ちた…だと⁇

 

「こっちに…来るってか⁇」

 

”せや…迎撃の準備や︎”

 

「コルセアに燃料と弾薬を積んでくれ︎」

 

「私はどうすればいい︎」

 

「とにかくたいほうを降ろしてやれ」

 

「あ…あぁ」

 

ずっと武蔵の腕の中にいたたいほうは、どうすれば良いのか分からず、口を尖らし、私を見たり武蔵を見たりと右往左往していた

 

ようやく武蔵の腕から離れたたいほうは、すかさずフィリップを出した

 

「ふぃりっぷ、パパをたすけて︎??」

 

《ワカッタ。ガンバッテクルネ》

 

「フィリップ…ゴメンな。俺に付き合わせて」

 

フィリップの体を撫でると、彼の瞳が此方を向いた

 

《パパノタメニシヌナラ、ボクハホンモウダヨ⁇》

 

「バカ言うな。俺からの命令は一つだ。生き残れ。この命令を放棄する事は許さない。分かった⁇」

 

《ワカッタ》

 

「おい、そこの妖精」

 

”なんや⁇燃料と弾薬は入れたで⁇”

 

「…フィリップの武装、あるか⁇」

 

”ある事はある…コルセアと一緒に造ってたさかいな”

 

「付けてやれ」

 

”えぇんか⁇ホンマに”

 

「俺の命令だ。構わん」

 

”よっしゃ︎時間もあらへんから、総動員や︎”

 

ものの数分で、フィリップに装備が付けられた

 

機銃

 

ロケット弾

 

とてもシンプルだが、それでいい

 

「行こう」

 

《ウンッ︎!!》

 

二度と僚機は失わない…

 

あんな思いは、もうウンザリだ

 

「イカロス、出る︎!!」

 

《フィリップ、デル︎!!》

 

二機が上がって行く…

 

戦う意思は無いが、万が一、だ

 

しかも、単冠湾が落ちたと来た

 

人も、艦娘も、大勢犠牲になってるハズだ

 

「聞こえるか、フィリップ。前方に敵機を確認した」

 

《ナンニモミエナイヨ⁇》

 

「10秒後に接敵だ…10、9、8…」

 

前方に、うっすら発光が見えた

 

「3、2、1…エンゲージ︎!!」

 

高速で我々を横切って行った、五機の黒い機体

 

「よし、後方に着くぞ︎!!」

 

何も言わずに、フィリップは私の左側に着いた

 

「こちらイカロス。所属不明機につぐ。交戦の意思が無いなら、スピードを落として反転してくれ」

 

だが、黒い機体からの反応は無い

 

「繰り返す。こち…」

 

《ウラギリモノガ︎》

 

「おやおや…」

 

機銃の音が響き、二機は回避行動を取った

 

反転したはいいが、いきなり攻撃とは…

 

「仕方無い。フィリップ…鉄拳制裁だ︎!!」

 

《ラジャー︎!!》

 

「速さは向こうが上だ︎!!だが、俺達にはいい武装がある︎!!」

 

話をしていると、フィリップの付近で爆発が二回起きた

 

《ニキゲキツイ︎!!》

 

「やるな︎!!じゃ、俺も︎!!」

 

前方にいた一機を落とし

 

後ろに着いた一機を反転した直後に落とし

 

最後に残った一機の後方に着き、もう一度無線を入れた

 

「どうした⁇お終いか⁇」

 

《オワリダ、ニンゲン》

 

「何っ︎!?」

 

《ヤクメハオワッタ。アトハホンジンニマカセル…》

 

「なっ、おい︎!!」

 

黒い機体は、その言葉を言い残すと自爆してしまった

 

「急ごう」

 

《ウンッ︎タイホウチャンガアブナイ︎》

 

フルスロットルで基地に帰った

 

今度は意地でも止めてやる︎

 

「武蔵、聞こえるか︎」

 

《なんだ、提督︎今忙しいんだ︎!!》

 

無線の先から、銃撃の音が聞こえる

 

「すぐ帰る︎待ってろ︎」

 

《あぁ…なるべく早く、な︎!!》

 

「間に合え…」

 

前方に基地が見えて来た…

 

武蔵が機銃で必死に応戦しているのが見えた

 

「あれだ︎敵の本陣確認︎!!」

 

《ロケットダン、ロックカイジョ》

 

「よし、俺は空母を狙うフィリップは戦艦を頼む」

 

《パパ》

 

「どうした」

 

《ボクノコト、キニカケテクレテルンダネ》

 

「大丈夫、お前なら出来るさ」

 

《パパニツイテヨカッタ》

 

「さぁ、行くぞ」

 

右前方に、空母型が二隻見えた

 

「よし…射程に入った」

 

《イツデモオーケー︎!!》

 

「イカロス、フォックス2︎!!」



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8話 ”希望”と言う名の蒼い鳥(3)

《ハッシャ︎!!》

 

綺麗な直線を描き、二つのロケット弾が敵に近付く

 

「着弾︎着弾だ︎空母一隻撃沈︎」

 

《センカンイッセキタイハ︎!!》

 

「次弾装填︎!!」

 

《オット。テキサンガイッパイダ》

 

「よし、散開行動に移れ。敵機は任せた︎」

 

《ラジャー︎テッケンセイサイダ︎!!》

 

「お前の相手はこっちだ︎!!」

 

まずは、フィリップが大破させた戦艦型に機銃攻撃を仕掛け、轟沈に追い込んだ

 

これで、脅威が一つ減った

 

「武蔵︎!!敵機はフィリップに任せろ︎!!戦艦型を頼む︎コルセアの火力じゃ無理だ︎!!」

 

《了解した︎!!同時に空母も沈めてやろう︎ゆくぞ︎!!》

 

無線の先から二回、砲撃音がした

 

数秒後、戦艦型に命中

 

また数秒後、空母に直撃弾

 

両者を轟沈に追い込んだ

 

「命中確認︎!!良くやった︎!!」

 

《弾は後一発だ。空母もついでに沈めてやろうじゃない、か︎!!》

 

再び砲撃音がした

 

数秒後に、空母型に命中

 

大破まで追い込んだ

 

「良くやった。お前はたいほうと妖精達と地下へ逃げろ」

 

《生きろよ、提督》

 

「了解した」

 

無線が切れた後、最後の一発のロケット弾を装填した

 

《テッキゼンメーツ︎》

 

「ロケット弾はあるか⁇」

 

《アトイッパツダケダヨ⁇》

 

「目標、前方空母型。ロック︎」

 

《ロック︎》

 

《「発射︎!!」》

 

機体から離れた二発のロケット弾は、横並びしたまま、空母型に着弾した

 

「撃沈…確認︎守りきったぞ…」

 

《ヤッタネ︎》

 

「まだ油断するなよ⁇帰るまでがお仕事だ」

 

辺りに敵影は…特に無いな

 

「こちらイカロス。任務完了、RTB」

 

《よっしゃ︎!!流石提督や︎》

 

《パパ、カッコイイネ》

 

「ふふ…ありがとう」

 

二機が着陸し、ようやく落ち着く事が出来た

 

「たった二機で撃退まで追い込むとは…流石は元パイロットだな」

 

「まぁな。しかし、単冠湾が心配だ…」

 

「その心配はありませんよ、大佐」

 

「遅い登場だな」

 

たいほうを抱えて出て来たのは、横須賀君だった

 

「パパ〜︎!!」

 

「よいしょ」

 

たいほうを抱き上げ、横須賀君の方を見た

 

「単冠湾は大丈夫なのか⁇」

 

「既に復旧作業が開始されています。各地の鎮守府や基地から派遣された工作隊が行動を開始しています」

 

それを聞いて、私は安堵の息を吐いた

 

「ちょっと俺に付き合え」

 

「は、はい…」

 

 

 

 

 

「い〜〜〜やっふぅぅぅうぅぅぅ︎︎︎!!!!!」

 

「やっふぅぅぅう︎︎!!!!!」

 

「ねぇ…あの二人、何してるの⁇」

 

「あ…あぁ…一応”哨戒”らしい」

 

基地で明石と武蔵が立ち話をしていた

 

自分達の提督が、普段見せない表情でジェットスキーを乗りこなしている

 

明石も武蔵も参ったような表情をしている

 

「むさし〜︎」

 

「たいほうよ、どうした」

 

「これみつけた︎きらきらのいし︎!!」

 

「どれ」



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8話 ”希望”と言う名の蒼い鳥(4)

武蔵はたいほうの手から石を取った

 

その石は、吸い込まれそうな位深い青色をし、太陽の光を受けて煌めいていた

 

「ち、ちょっと貸して下さい︎!!」

 

明石に石を渡すと、それをルーペでくまなく調べ始めた

 

「サファイア…ですね」

 

「このまえは、るびーだったよ⁇」

 

「今日はタンカーじゃないから、これは返すね」

 

たいほうは大事そうに腰のポケットにサファイアをしまった

 

「明石〜帰るよ〜︎」

 

「いつの間に︎じゃあね、お二人さん」

 

「気を付けて帰るんだぞ」

 

「ばいば〜い︎」

 

今回は高速で移動できる、クルーザーで来ていたみたいだ

 

二人を見送った後、ようやく基地に平和が戻った

 

「ただいま」

 

「大仕事だったな」

 

「まぁな。でも、昔の感覚がまだ生きていたのが救いだ」

 

「ゆっくり休むといい」

 

そう私に言う武蔵だが、彼女自身もボロボロだった

 

「今日は…三人で寝ようか」

 

「お、おぅ…」

 

「やった〜︎!!」

 

顔を赤らめている武蔵の足元では、たいほうが嬉しそうにしている

 

三人で御飯を食べ

 

かわりばんこで風呂に入り

 

アイスを食べて

 

布団に入る

 

何だか、普通の事が幸せに感じる…

 

「提督よ…」

 

「ん⁇」

 

真ん中にたいほうを寝かせたまま、武蔵が話し掛けて来た

 

「今みたいな感じが、幸せというのか⁇」

 

「そうだな。感じ方は人それぞれだが、居心地が良かったり、気持ちが良かったら、幸せな証拠だ…」

 

「なら、私はここに来た時から幸せなのだな」

 

「どういう事だ⁇」

 

「たいほうを抱っこしたり、提督の傍にいる時、私はいつも居心地が良い。だから、私は幸せだ」

 

「そっか…ありがとう、武蔵」

 

「こちらこそ…ふぁ…」

 

それからすぐに、武蔵は寝息を立て始めた

 

私も言ってる間にまぶたが落ちて来た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、良い匂いがした

 

「あれ⁇」

 

武蔵もたいほうもいない

 

厨房にいるのだろうか⁇

 

部屋を出て厨房を目指すと、匂いが強くなって来た

 

「おいしい︎!!」

 

「ふむ、中々の料理だな」

 

二人が作っている訳では無いようだ

 

「おはよう」

 

「おはよう︎!!」

 

「おはよう提督。座るといい」

 

「ん、ちょっとコーヒーで…」

 

誰かが私の定位置の場所に何かを置いた

 

匂いの元はこれか

 

「朝はグラタンか。いただきます」

 

一口頬張ると二人の言った通り、本当に美味しかった

 

「うん、美味しいな」

 

グラタンを頬張り続けていると、コーヒーが置かれた

 

「ん、ありがとう」

 

「…」

 

私はコーヒーを盛大に吹いた

 

「だ、誰︎!?」

 

 

 

基地周辺の防衛及び、制空権確保に尽力を尽くした貴官に対し、勲章を授与します︎!!




F4U コルセア…パパが昔、一度だけ乗ったレシプロ機

工廠の妖精が、長い時間を掛けて造り上げた蒼い機体

上を向いた逆ガルウィングが特徴

各両翼に機銃が3門ずつ

主翼下にロケット弾を3発ずつ、装備している

戦闘機としても攻撃機としても運用可能だが、艦船の攻撃に比べると、そこまでの攻撃力は無い



対空+12

索敵+3


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9話 理想の番い

さて、8話が終わりました

前回のラストでグラタンを作っていた人物の正体が、今回のお話で明らかになります

個人的に、料理が上手そうな艦娘にしました



この艦娘は、私自身初めて“掘り”を経験した娘でもあり、私自身の艦隊のエースでもあります



「で、この娘は何処から来たか分からない…と」

 

「工廠の連中に内部点検と武装、後レントゲンも撮らせたんだが、敵性勢力の可能性は0%らしい」

 

数分前に定時報告で来た横須賀君に、彼女を見せていた

 

朝起きたらグラタンを作っていたと言ったら、横須賀君は鼻で笑った

 

「サイズ的には駆逐…」

 

「︎!!」

 

横須賀君が彼女に触ろうとした瞬間、それを払いのけて私の後ろに隠れた

 

「随分と怯えてますね」

 

「あの二人は大丈夫みたいなんだがな…」

 

「大丈夫、もう触らないから。君は何処から来たのかな⁇」

 

「…」

 

私の服の裾を掴んだまま、彼女は下を向いている

 

「大丈夫さ。彼は何にもしない」

 

「…」

 

「まぁ、今日の所はいいでしょう。艦娘である事には間違いないです」

 

「すまんな、手間掛けて」

 

「ちゃんと勲章保管して下さいよ⁇では」

 

横須賀君が去った後、私は彼女の頭を撫でた

 

不安なのが目に見えた

 

「今日のグラタン、美味しかったよ⁇」

 

「…」

 

言葉は発しないが、ちょっと嬉しそうにしている

 

「また作ってくれるかい⁇」

 

少しぎこちない笑顔で彼女は首を縦に振った

 

しかし、彼女は一体何処から…

 

とりあえず、工廠で結果をもう一度聞こう

 

”駆逐艦である事は間違いあらへん。せやけど、体はもとのデータより小型やし、もしかしたら声帯がイカれてるかもな”

 

「しかし…」

 

”言いたい事は…まぁ分かるわ”

 

胸がデカい

 

最初にグラタンとかを持って来た時でさえ、二度見した位だ

 

 

髪の毛が銀に近い白で、黒いタイツを履いている

 

が、やはり目立つ

 

「…」

 

「どうした⁇爆雷が気になるか⁇」

 

彼女は頷いた

 

「そうだなぁ…いつか潜水艦が攻めて来た時には、頼りになるかもな」

 

「これ…」

 

「喋れるのか⁇」

 

「うん…」

 

私は膝を折って、彼女の目線に合わせた

 

「名前は⁇」

 

「はまかぜ」

 

「はまかぜか。はまかぜは何処から来たんだ⁇」

 

はまかぜは驚くべき答えを口にした

 

「きのう、あなたにたおされた、しんかいせいかん…」

 

「おっと…そう来たか」

 

「でも、めがさめて、ひかりがみえて、ここについた」

 

「大丈夫。ここは敵も味方も関係ない」

 

「みんなをみてたらわかった。せんじょうなのにたのしそう」

 

「ここはな、戦場から一番遠い基地なんだ。昨日みたいな事が無けりゃ…だけどな⁇」

 

「ここにいていい⁇グラタンとか、またつくるから」

 

「あぁ、もちろん」

 

「よろしくね、え〜と…」

 

「みんなパパって呼んでる」

 

「よろしくね、パパ」

 

”提督、これがはまかぜの装備や︎”

 

 

 

ふらいぱん

 

おたま

 

なべつかみ

 

 

 

 

「またひらがな表示か︎!!」

 

”まぁ、戦いには向かんで”

 

「だろうな…ふらいぱんにおたまだもんな」

 

「パパ〜!!」

 

たいほうの声がし、背中が重くなる

 

「このこは⁇」

 

「この娘はたいほう。私の艦娘だ。後、あのメガネの人は武蔵」

 

「よろしくおねがいします」

 

「この娘ははまかぜだ。武蔵、食べるなよ⁇」

 

「食わん︎いつから私は大食いキャラになった︎」

 

「ははは…」

 

 

 

駆逐艦”浜風”が艦隊の指揮下に入ります︎!!




はまかぜ…ロリ巨乳のグラタンガール

パパが撃沈した深海凄艦から産まれた、体が一回り小さい浜風

たいほうと同じ位の身長だが、胸の成長具合は圧巻

料理がとても美味しい


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10話 眠れる梟(1)

さて、9話が終わりました

艦隊に“はまかぜ”を迎え、段々とパパの周りも騒がしくなって来ました

今回のお話はちょっとした“if”の敵艦のお話です

もし、こんな敵艦がいたら??

艦娘達のセリフに注目です


「ここは⁇」

 

目が覚めると、いつもの提督の椅子にいた

 

だが、何処か違う

 

「…」

 

それに何故だ

 

何故私はここにいる⁇

 

「これ…」

 

机の下にあった、小さな食器

 

ここに誰かいたのか⁇

 

ダメだ、何も思い出せない…

 

とにかく部屋から出よう

 

部屋から出て、しばらく歩くと湯気が立っている場所があった

 

 

 

ここは…お風呂か

 

大きいな

 

「…」

 

ここで、俺は誰かと…

 

何も思い出せないまま、私は外に出た

 

凄い霧だな…

 

前がほとんど見えない

 

しばらく歩くと、大きな建物が見えた

 

ここは…工廠なのか⁇

 

 

 

油の匂いがするハズの工廠

 

「誰かいないのか︎」

 

叫んでも、言葉がこだまするだけ…

 

「うっ︎」

 

突然頭痛が起こった

 

俺は…俺は確かここで…

 

「戦闘機…部下…」

 

あぁ、あの時の記憶か

 

最悪の出撃をする数時間前、私はホワイトボードの前で最後の教鞭を叩いていた

 

みんな…ゴメンな…

 

「何やってるんですか、大佐⁇」

 

「はっ︎」

 

「工廠は結構冷えますよ、さ、行きましょう」

 

「お前達…」

 

目の前に現れたのは、当時の部下達だった

 

「はっ、冥府から帰って来たんだぜ︎今度は暴れさせてくれよ⁇」

 

一番軽口のこいつの最後の無線が、ふと頭をよぎった

 

「ヒュー…今日は空が狭いな、隊長」

 

「お前等、もう何処にも行くんじゃねぇぞ」

 

「はっ︎!!何泣いてんだか︎隊長らしくもねぇ︎!!」

 

「隊長、見えますか⁇」

 

一人が霧の向こうを指差した

 

「誰だ⁇」

 

「パパ〜︎!!」

 

「お前…」

 

走って来たのは、小さな女の子だった

 

私はそれを抱きとめ、しばらく胸に寄せていた

 

何故か懐かしい…

 

しかし、誰かに似ている…

 

「隊長…悪いな」

 

「貴方はまだ来るべきではありません」

 

「何だ、お前等…おい︎」

 

二人の隊員に両脇を持たれ、娘から引き剥がされた

 

「この國を…未来を頼んだぜ︎」

 

「私達に出来なかった事、貴方なら成し遂げられるでしょう⁇」

 

濃霧の中に置いて行かれ、意識が遠のく…

 

 

 

 

 

 

 

 

「パパ〜︎パパ︎!!」

 

「起きろ︎!!提督よ︎!!」

 

「パパ、起きて︎」

 

「はっ︎!!」

 

目が覚めると、三人が目の前にいた

 

「大丈夫か︎!?」

 

「う…う〜ん…ここは⁇」

 

「提督の部屋だ。もう大丈夫だからな」

 

「敵は私達が倒しました」

 

「敵⁇」

 

「あぁ、攻撃はしない艦隊だ。もう居ないと思っていたのだがな…」

 

「何だ…それ⁇」

 

「精神攻撃です。提督がいきなり倒れたので心配になって…」

 

「ま、防御自体は脆弱だからな。たいほうよ、よく頑張ったな︎」

 

「えへへ…」

 

武蔵がたいほうの頭を撫でている

 

戻って来たんだな、ここへ

 

しかし、不思議な感覚だったな…

 

昔の仲間にあった気がする

 

「提督よ。今夜は相手をしてやろう。抱き枕にでもすると良い」

 

はまかぜが布団を敷くと、私はすぐに横になった

 

「おやすみ…」

 

「朝ご飯、作るからね⁇」

 

「うん…」

 

電気が消されると、すぐに温かい感触に当たった

 

「こうすれば、よく眠れるだろう⁇」

 

武蔵が私を抱いていた

 

今日はもう…

 

無理…だ…



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10話 眠れる梟(2)

「ぶ〜ん、ぶ〜ん」

 

たいほうの声がする…

 

朝ご飯だろうか⁇

 

いい匂いもする

 

「起きたか、提督よ」

 

「おはよう」

 

「ちゃっか〜ん︎」

 

戦闘機のおもちゃが、武蔵の頭に置かれた

 

「うぉ︎」

 

よく見ると、私の上にも武蔵の上にも大量に戦闘機のおもちゃが置いてあった

 

「俺達は空母か何かみたいだ」

 

「ん…たいほうのおもちゃに”も”なるのも悪くない」

 

”も”が気になった

 

「”も”ってなんだ⁇」

 

「言っただろ⁇提督は激しいと」

 

「やらかしたか⁇俺」

 

「さ、朝だ」

 

どうやら、やらかしたらしい

 

武蔵は布団から出て、食堂に向かってしまった

 

「早起きだな、たいほう」

 

大事そうに戦闘機のおもちゃを胸に抱き、私の手を堪能しているたいほうが、何故早く起きたのか、すぐに分かった

 

「むさしがね、よるからひめいあげてたの。あー︎とか︎」

 

「うっ…」

 

「ただのイビキです。それに、あー︎!!ではなくて、がー︎!!です」

 

現れたのは、はまかぜだった

 

「台所で照れています。激しいのはパパじゃなくて、私のイビキだったと」

 

「ははは…」

 

とりあえずは一安心だな

 

「ご飯が出来ました」

 

相変わらずの、平和

 

四人で囲む、食事

 

「こんにちは…」

 

「客か?珍しい。開いてるぞ〜」

 

ドアが開く

 

武蔵だけは何故か臨戦体制でいる

 

「おはようございます!!提督殿!!私は…」

 

「固い固い。武蔵、大丈夫だ」

 

「うむ…」

 

武蔵は彼に向けていた砲塔を逸らした

 

おやおや、懐かしい訪問者だな

 

「手は降ろす。敬礼は無しだ」

 

「あ、あぁ…”そうでした”お久し振りです、大佐」

 

「ん」

 

「そうでしたって…知り合いか?」

 

武蔵は不思議そうにしている

 

そりゃそうだ

 

「昔の俺の機体の整備兵だ。提督になってたのか」

 

昔の癖で、彼の頭を撫でた

 

「はい。今は単冠湾の方で…」

 

その一言で、部屋の空気が変わった

 

「そっか…分かった。何も言うな。1万程あれば、運営は出来そうか?」

 

「はい…」

 

「心配するな。バケツと開発資材も付けてやる」

 

「あ…ありがとうございます!!」

 

「早く良くなって、次は遊びに来い」

 

「はいっ!」

 

「横須賀君に連絡して、俺の基地経由で運ばせる。1日待てるか?」

 

「はい」

 

「…お前、今も戦闘機は好きか?」

 

「はいっ!!」

 

「来い。いいモノを見せてやろう」

 

私達は格納庫に向かった

 

その途中、単冠湾君が足を見ていた

 

「あの…足、やっぱり…」

 

「これが人類の結果だ。言っとくが、お前の所為じゃないぞ⁇現代の兵器は効かなかったんだ」

 

「そうですか…」

 

「さ、ここだ」

 

格納庫に着くと、蒼い鳥が君臨していた

 

「うわぁ〜︎コルセアだぁ〜︎現物は初めて見ました︎」

 

「多分、生身の人間が載って有効打を与えられる最初の機体だろう。現に敵の艦載機と敵艦数隻をこいつで沈めた」

 

「凄いや︎!!やっぱり隊長だ︎!!」

 

「おやおや、懐かしい顔触れですね」

 

「横須賀さん︎!!お久し振りです︎!!」

 

横須賀君には流石に敬礼をする

 

ま、今じゃ俺より階級は上だからな



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10話 眠れる梟(3)

「ふふふ。単冠湾君、今度はコルセアの整備かい⁇」

 

「今見せて貰っていた所なんです︎」

 

「しかしまぁ…ホントに出来るとは思いませんでした」

 

「妖精が”プロフェッショナル”だからな」

 

”なんや、嫌味か⁇”

 

「褒めてんだよ」

 

「大佐、今度の大規模演習には参加されるんですか⁇」

 

「この基地では、自衛以外の攻撃はしない。敵であろうが、攻撃さえしなければ俺は受け入れる」

 

「なる程…それもまた基地の一種、ですね」

 

「大佐は最初からそのつもりでここに来たんですよ。ですが大佐…」

 

急に横須賀君が俺の肩を掴んだ

 

「会議には出席して頂きます」

 

笑顔で突き付けられた、数枚の書類

 

”海軍大規模演習時の注意事項”

 

と書かれていた

 

「分かった分かった…」

 

「単冠湾君、コルセアの事は三人の秘密だよ⁇」

 

「はい」

 

「では、私はこれで。ちゃんと書類に目を通して下さいよ⁇」

 

「分かった」

 

「では、私もこれで」

 

「いつでも来い」

 

二人が去り、私は一人、工廠で先程の書類に目を通していた

 

「大規模演習…ね」

 

出るつもりは、勿論無い

 

現に今だって、少しでも彼女達を戦わせてしまった事を後悔している

 

ここに居る間は、敵であろうが味方であろうが、戦いを忘れて欲しい

 

例え、その期間が短くても…

 

”何してんねや⁇”

 

机の上に、ゴーグルメットの妖精が一人

 

「考え事だよ」

 

”男の悩みやったら聞いたる”

 

「お前達は気にしないでいい」

 

書類を机に置いたまま、私は工廠を出た

 

「うぅ〜ん…」

 

太陽の陽を浴びて、大きく背伸びをしてみた

 

「う〜ん…」

 

足元では、いつの間にか居たたいほうも背伸びをしている

 

「パパ、きょうはみんなでえんせいにいこ⁇」

 

「俺もか⁇」

 

「うんっ︎!!」

 

「…仕方ない」

 

しかし、この前の一件で上がった洞窟が気になる

 

「たいほう、パパを洞窟に連れてってくれるか⁇」

 

「うんっ︎!!むさしもよんでくるね︎!!むさし〜︎!!」

 

たいほうは武蔵を呼びに、私ははまかぜを呼びに、食堂に向かう

 

「なんですか、提督⁇」

 

「お前も遠征来るか⁇」

 

はまかぜは少し考えた後、おたまを取り出した

 

「私はここで、ご飯の準備と掃除をしてます」

 

「そっか…任せたよ⁇」

 

「はい、提督」

 

「提督よ︎、準備出来たぞ︎!!」

 

「よし、じゃあ行こ…」

 

武蔵の高らかな声に振り返り、彼女を見た瞬間、吹きそうになった

 

「なんだ。なぜ笑う⁇」

 

「何だよ、その装備は︎!!はっはっは︎!!」

 

武蔵は腰に浮き輪を付け、顔にはシュノーケルをしていた

 

それも、艤装を全て外してまで

 

”提督、これが武蔵の今の装備や”

 

武蔵

 

 

 

うきわ

 

しゅのーける

 

特殊装甲ビキニ

 

 

 

「本当に…それで…はっ…行くのか⁇」

 

ダメだ

 

笑いが止まらない

 

「持って行かなければ後悔するぞ︎!!ほ、本当だからな︎!!なぁ、たいほうよ︎!!」

 

「うん。むさしのいうとおりだよ」

 

たいほうまで、武蔵と同じ格好をしている

 

「ま、でも、二人とも可愛げがあってイイよ」

 

「悪くないだろう⁇」

 

「れっつごー︎!!」

 

「行ってくるな」

 

「晩御飯までには帰って来て下さいね」

 

 

 

 

横須賀君、単冠湾君と、固い絆を結びました︎!!



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11話 手負いの雷鳥(1)

さて、10話が終わりました

今回のお話は、前のお話の中で少し出て来た“洞窟”のお話です

洞窟の中には、一体何があるのか??

そこで、パパは“あるもの”を見付けます


「ここが…」

 

「わーーーーーっ︎!!」

 

急にたいほうが、洞窟の奥に向かって叫んだ

 

わーーーっ…

 

わーーっ…

 

わーっ…

 

「深いな…」

 

「実は、まだ奥まで踏破していない」

 

「丁度いい機会だ。行こう」

 

洞窟に足を踏み入れる

 

ヒンヤリした空気が、三人の間を通り抜ける

 

「おくにね、ひろいところがあるの︎!!このまえ、そこでむさしとごはんたべた︎!!」

 

「うむ。採った魚も油が乗って美味かったな」

 

「誰かが造ったんだな、ここ」

 

「ん⁇何故分かる⁇」

 

「壁画がある。ほら」

 

ライターで石の壁を照らすと、人の形をした絵と、何やら宝の様な物が書かれていた

 

「これを見る限り、確かに人が造った物だろうな…」

 

「とにかく、奥まで行こう」

 

薄暗い洞窟を、更に進んで行く

 

「おっ…」

 

どこからか入って来た陽の光を浴び、所々の石が緑色に輝いている

 

まるで、プラネタリウムの中にいるみたいだ…

 

「あった︎!!ここできゅうけい︎!!」

 

前回来た時に焚いたであろう、焚き火の跡を目印に、一旦休憩を取った

 

そこは何故か太陽が少しだけ差し込み、薄暗さは変わらないが、多少は明るい

 

「よいしょ…」

 

腰を落とし、タバコに火を点けようとした時、目の前に武蔵の腕が見えた

 

「火を点ける。提督よ、その”カチカチ”を貸してくれ」

 

どう考えても一つしか無い

 

「カチカチ…あ、ライターか。はい」

 

武蔵に”カチカチ”を手渡すと、不思議そうな顔をした

 

「む…これは”カチカチ”ではないのか⁇」

 

「ライターだ。前来た時は何で点けた⁇」

 

「マッチだ」

 

「そっか」

 

「借りたはいいが、どうやって使う⁇」

 

「こうだ」

 

武蔵の手を取り、ライターの火を点けた

 

「便利だな、これは」

 

「タバコ吸う分にはな」

 

最初は小さかった火も、しばらくすると大きくなり、三人を暖かくした

 

「魚採ったって⁇」

 

「あぁ。だが、今は引潮だ。ここは干からびる。魚もいない」

 

「なるほど…」

 

二人で火を見つめていると、たいほうが何やら食べているのに気が付いた

 

「何食べてるんだ⁇」

 

「おいものすてぃっくだって。やいてたべるの︎!!」

 

よく見ると、いつの間にか火の周りに細長く切られたサツマイモが並べられていた

 

近くの袋には”たいほうのおやつ”と書かれている

 

「パパもむさしもたべよ⁇おいしいよ⁇」

 

「ん、いただきます」

 

「どれ…」

 

表面が薄く砂糖でコーティングされていて、疲れが取れるな

 

ちょっとしたおやつには、ホントに丁度いい

 

「引潮の先には行った事は無いのか⁇」

 

「その先が一番奥だ。行こう」

 

焚き火を消し、海水が溜まっていたであろう場所へ移動すると、確かに奥に空洞が見えた

 

「行くぞ」

 

天井の岩肌からは、水滴が垂れている

 

先程まで水があった証拠だな

 

しばらく歩くと、行き止まりに突き当たった

 

「上か…」

 

明らかに上に何かある

 

「行くぞ、提督よ︎!!」

 

「よし︎!!」

 

武蔵に肩車をして貰い、先に上に登り、次にたいほうが来た

 

「上げられるか⁇私は重いぞ⁇」

 

「んな事言ってないで、早く来い」

 

苦笑いしている武蔵に手を伸ばすと、彼女はしっかりと握り返した

 

「ふっ…よいしょ︎」

 

武蔵が上がって来た後、私と武蔵は辺りを見渡した

 

「うわぁ〜︎!!」



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11話 手負いの雷鳥(2)

たいほうがはしゃいでいる

 

はしゃぐのも無理は無い

 

目の前には、金銀財宝の山だ︎!!

 

「凄い…これがちょくちょくたいほうが見つけていた宝石の一部なのか…」

 

「莫大な資源に変えられるな」

 

「きらきらがいっぱ〜い︎」

 

「みんな。一つだけ、持って帰ろう」

 

「なっ︎!!」

 

「えっ︎!!」

 

武蔵もたいほうも驚いている

 

無理もない

 

全て資源に変えれば、ほぼほぼ一生遊んで暮らせる

 

「これはもしかしたら、先人の遺産なのかもしれない」

 

「なるほどな…むやみやたらに取ってはいけない…と、いう事か」

 

「そう。でも、一つ位は大丈夫だ。俺はコレにする」

 

私は足元にあった緑色の宝石にした

 

「私はコレだ。色が気に入った︎!!」

 

武蔵の手には黒い宝石が

 

「はまかぜのも、もってかえっていい⁇」

 

「それ位ならいいよ」

 

「じゃあ、これとこれにする︎!!」

 

たいほうの手には、金の延べ棒が二本握られている

 

「これならけんかしないね︎!!」

 

「ふっ…よし、帰ろう」

 

私達は財宝がある場所を後にした

 

「ん⁇」

 

先程休憩した場所に着いた時、ふと風を感じた

 

「待て」

 

「どうした⁇」

 

「風だ…こっち…」

 

財宝がある場所の反対側に、大きな岩があり、そこの隙間から、微量だが風が吹いている

 

「武蔵、壊せるか⁇」

 

「待ってたぜ︎!!おりゃあ︎!!」

 

たった一発の武蔵の拳で、岩がバラバラになった

 

「流石だ」

 

「むさしすご〜い︎」

 

「ふっ、いつでも」

 

岩の向こうは、小さな砂浜になっていた

 

「ふむ、綺麗だな」

 

「︎!!」

 

「どうした⁇」

 

「…」

 

砂浜の角にあった物を見て、声が出なくなった

 

心臓の音がどんどん高まる

 

「お、おい︎!!提督よ︎!!」

 

無言のまま、私はそれに近付いた

 

「これは…戦闘機の残骸か⁇」

 

長い間埋もれていたのだろう

 

私は、足元にある残骸の上に積もった砂を取り払ってみると、黄色い鳥のエンブレムが出て来た

 

「さんだぁ…ばぁど⁇」

 

「う…」

 

「提督⁇」

 

「うわぁぁぁぁあ︎!!」

 

そのエンブレムを見て、私はうずくまり…

 

泣いた

 

武蔵とたいほうが居たが、気にはならなかった

 

「ごめんな…痛かったよな︎!!」

 

「提督よ︎!!しっかりしろ︎!!」

 

「パパ、しっかりして︎!!」

 

「うぅぅ…」

 

出て来たエンブレム…

 

それは、私が指揮していた飛行中隊のエンブレムだった

 

サンダーバード中隊…

 

このエンブレムは、隊の名前の後に”3”と書かれていたので、三番機だ

 

「こんな所にいたのか…辛かったろう…」

 

「提督よ…」

 

「パパ…」

 

その後、私はしばらく泣いた

 

「…たいほうよ。しばらく砂浜で遊んでいてくれないか⁇」

 

「わかった︎!!」

 

「あまり遠くに行くなよ︎!?」

 

「わかった〜︎!!」

 

事態を察した武蔵が、自身の胸に抱き留め、私の頭を撫でてくれた

 

「辛いな…耐えられないな…ん⁇」

 

「うん…」

 

「このエンブレムは、提督の飛行隊のものか⁇」

 

「うん…」

 

「提督よ…私は、温かいか⁇」

 

「うん…」

 

「何故か分かるか⁇」

 

「生きてるから、か⁇」

 

「そうでもあるが、少し違う」

 

「⁇」

 

「この戦闘機からも、温かさを感じる。提督よ…人が温かいのは、愛されてる証拠なんだ」

 

「愛されてる証拠⁇」

 

「そうだ。愛されてるからこそ、人は温かくなれる」

 

「こいつは…愛されてるのを分かってくれてるのか⁇」

 

「そうだ。提督の愛は、しっかり伝わっている。だからだろうな。この戦闘機は、後悔や嫉妬が無い」

 

「分かるのか⁇」

 

武蔵は、自身の犬の耳のような髪の部分を指差し、少し動かして見せた

 

「機械の声がな、聴こえるんだ…隊長、生きてるか⁇だと」

 

「あぁ…生きてるぞ」

 

とても不思議な時間だった

 

まるで、死んだ人間と話しているような…そんな感覚

 

しばらく話した後”彼”は話さなくなった

 

武蔵曰く、また話せるらしい

 

「ありがとう、武蔵」

 

「相変わらず提督は激しいな」

 

「ふっ…」

 

「それ、持って帰るのか⁇」

 

私の胸には、エンブレムの一部が残った、機体のカケラが抱かれていた

 

「うん。次はちゃんと傍に置いてやりたい」

 

「…帰ろう、な⁇」

 

「パパ〜︎おさかないっぱいいる〜︎」

 

砂浜では、たいほうがはしゃいでいる

 

「今を生きよう、提督」

 

「…あぁ︎」

 

涙を拭い、立ち上がった

 

「たいほうよ︎お家に帰るぞ︎」

 

「むさし〜︎」

 

両手に魚を抱えたたいほうが、武蔵の方へ走って来た

 

武蔵はそれを抱き留め、いつものように抱え上げた

 

「おっきいおさかなとれた」

 

武蔵の腕の中で、たいほうは、まだ跳ねている魚を私達に見せた

 

「はっはっは︎そうかそうか︎なら、今日はお刺身だな︎提督よ︎」

 

「カンパチか。美味そうだな」

 

三人で話しながら、私達は洞窟を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砂浜の片隅で、青年が一人佇む…

 

 

 

生きろよ、隊長

 

振り返るんじゃねえぞ、隊長

 

達者でな…

 

 

 

 

 

 

 

 

サンダーバード中隊三番機”サンダーバード3”の死亡が確認されました



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12話 鴉は眠らない(1)

さて、11話が終わりました

過去の仲間の機体が見付かり、さすがのパパでも精神的に参ってしまいます

今回のお話では、

そんなパパを気遣う武蔵

それを見た、たいほうの取った行動に注目です



「…」

 

私は提督机の上で、深い眠りについていた

 

「大佐…」

 

横須賀君が来た事も気付かず、武蔵が相手をしていた

 

「しばらく放って置いてやってくれ…」

 

「…まさか、そんな事があったとは…」

 

武蔵は横須賀君に、事の一部を話した

 

見た事もない機体が、砂浜に墜落していた事

 

それから、パパの調子が悪い事も

 

「サンダーバード中隊…か。懐かしい」

 

「何だ⁇貴様も居たのか⁇」

 

「えぇ。私は、大佐の二番機。つまり、サンダーバード2でしたから」

 

「この、サンダーバード中隊と言うのは、何人居たのだ⁇」

 

「大佐、私、今回見つかった彼、そして、あともう一人の四人編成でした」

 

「あと一人は見付かって居ないのか⁇」

 

武蔵がそう言うと、横須賀君は下を向き、話さなくなった

 

「そうか…」

 

何となく察したのか、武蔵はため息を一つ吐いた

 

「…見付かってます」

 

「そうか︎!!」

 

「深海凄艦として…ね」

 

「なに︎!?」

 

「大佐には内緒にして下さいね。これは、私しか知らない事項ですから」

 

横須賀君は、少しだけ武蔵にその事を話した

 

この基地から離れた海域に”姫”と呼ばれる深海凄艦がいるらしい

 

その中の一人”飛行場”と名付けられた姫が、パパの飛行中隊の最後の一人らしい

 

「証拠か何か無いのか⁇」

 

「胸のエンブレムです。サンダーバード中隊で唯一女性だった彼女は、胸にエンブレムを付けていましたからね」

 

「…なんとかしてやりたいな」

 

「我々でさえ、彼女の猛攻に耐えられない。今の所、彼女からの攻撃は無い。だから、様子を見る事しか、今は出来ない」

 

「そうか…だが、何れは…」

 

「ふふ…大佐は本当に良い娘を持ったようですね…今日は引き上げます。くれぐれも、大佐には内密に、ね⁇」

 

「あぁ。気を付けて帰るのだぞ」

 

横須賀君が帰った後、武蔵はパパに上着を掛け直し、しばらく海を眺めていた

 

「なるほど…道理で提督は戦いを嫌うはずだ…」

 

 

 

 

 

 

「ん…」

 

深夜に目が覚めた

 

時間は…2時か

 

何か腹に入れよう

 

食堂に向かう道中、武蔵が窓際の椅子で眠っているのが見えた

 

「ごめんな…心配掛けて」

 

武蔵に毛布を被せ、額にキスした後、再び食堂を目指した

 

「初めてだな…提督よ」

 

実は起きていた武蔵が、独り言を呟いた

 

 

 

食堂に着くと、テレビが付いていた

 

《撃ちます︎!!ファイヤー︎!!》

 

「ふぁいやー」

 

テレビの向こうでは、英語訛りの女の子が、砲撃を披露していた

 

《バーニング、ラーーーブ︎!!》

 

「ら〜〜〜ぶ」

 

女の子の後に、誰かが掛け声をマネしている

 

《テートクゥ︎!!》

 

「パパだ」

 

女の子が提督に抱き付いているシーンで、その子はパパと呟いた

 

電気のスイッチを入れ、食堂を明るくした

 

「誰だぁ〜⁇夜更かしする悪い子は〜⁇」

 

テレビの近くで、チョコンと正座していたのは、たいほうだった

 

「ごめんなさい…」

 

「どれ…」

 

たいほうが見ていたのは、多分武蔵が録画してくれたであろうアニメ

 

子供にも分かりやすく艦娘を広げるために作ったものだろう

 

「たいほうも、このこみたいになれるかな⁇」

 

指をさしたのは、先程の英語訛りの女の子だった

 

「そうだな。パパや武蔵の言う事を聞いてれば、きっとなれるぞ」

 

「パパ」

 

「どうした⁇」

 

「パパは、たいほうも、むさしも、はまかぜも、すき⁇」

 

「当たり前だ」

 

「ふぃりっぷも⁇」

 

「そうだ」

 

「あのね…」

 

「ん⁇」

 

たいほうの近くに顔を寄せると、何を思ったのか、彼女は私の頭を抱き寄せた

 

「たいほうもね、これしてみたかったの」

 

「むさしのマネか⁇」

 

「うん。でも、むさしはおむねがあるから、もっとやわらかい⁇」

 

「あったかいのは一緒だよ」

 

「ふふふ。よかった」

 

最近、たいほうにあまりかまってやれなかったかな⁇

 

考えてみれば、すぐ分かる

 

深夜に一人でアニメを見ていたのも

 

アニメの中で提督が出て来た時に”パパだ”と呟いたのも

 

英語訛りの女の子になりたいって言ってたのも

 

私に甘えたかったからじゃないか…

 

少し考えれば、すぐ分かる事なのに…

 

私はきっと、無意識の内に、母性のある武蔵に甘えていたのだろう

 

現に昨日の一件だって、甘えっきりだった

 

もっと、甘えさせてやらなければ…

 

もっと、楽しませてやらなければ…

 

私は弱いな…

 

「たいほう、もうねるね⁇」

 

「俺と一緒に観ないか⁇」

 

「いいの︎!?」

 

「今日だけだぞ⁇」

 

「やった〜︎!!」

 

たいほうを膝の上に乗せ、彼女が眠るまで、アニメを流していた



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番外編 鉄底の花嫁

本編が執筆中の為、お詫びに過去に書いた艦これのSSを貼っておきます

このお話は、本編とは関係ありません

ですが、感想&ご要望はいつでも受け付けております

このキャラでSSを書いて欲しい等々…

時間は掛かりますが、書いてここに貼りますので、感想等と合わせてどうぞ



作者は楽しみにしています


「て…く…提…く︎!!」

 

夢の中で、女性の声が響く。

 

「提督︎起きろってば、提督︎!!」

 

「あ…てんりぅ…」

 

「何がてんりぅだ︎!!早く起きろって︎!!」

 

叩き起こされたはいいが…

 

ここは何処だ…⁇

 

天龍の足元に、サンドイッチが入ったバスケットがある

 

1つ2つ食べたのか、齧った跡がある

 

「基地の近くまで、二人でピクニックに来たんだろ⁇大丈夫かよ⁇」

 

 

「あぁ…良い天気だから、ちょっと眠くなった」

 

大きな欠伸をした後、私は再び木の下で横になった。

 

「ここからなら、俺達の基地が良く見えるな」

 

「どれ。あ︎!!龍田が入渠中だ︎!!」

 

「ったく…提督は本当に馬鹿だなぁ」

 

龍田が入渠中なのは本当だったが、私が見ていたのは娯楽室だった。

 

駆逐艦の子達だろうか⁇

 

ラッパやピアノの音が、私の耳に反響する

 

美しい音色だ…ずっと聞いていたい…

 

「提督…」

 

「ん⁇」

 

振り返ると、天龍の顔がほんのり赤く染まり、少し胸がはだけていた。

 

「す、すまねぇな、再開がこんな形だなんて」

 

「轟沈したのか」

 

「あぁ…提督もな」

 

「やっぱり…」

 

あたかも知っていたかの様な溜息を吐いた後、彼女は私を抱き締めた。

 

 

彼女が出撃する時、二人でこっそりしていたのを覚えてる。

 

最初はイタズラのつもりだったが、互いに気持ちが変化し、想い合う様になった。

 

「温かいな、提督は…」

 

「お前もな」

 

ほんの少し間が空いた後、私を抱き締めたまま、天龍は口を開いた。

 

「悪いな…俺が一生の相手で」

 

「その言葉、丸々返してやる」

 

「嬉しかったぞ。助けに来てくれて…」

 

「元居た場所に還っただけだ」

 

その言葉を聞いた途端、彼女の腕が一層と腰に締まった。

 

耳元では、啜り泣く声が聞こえる。

 

「もう離すなよ、提督」

 

「分かった…天龍」

 

 

 

 

 

 

 

 

六月某日

 

岩川基地提督ガ、新型戦闘機二搭乗シ第一艦隊(旗艦天龍)ガ交戦中ノ海域二進入。

 

同日、天龍ノ艤装及ビ提督ガ搭乗シテイタ戦闘機ノ残骸ヲ、同海域ニテ発見、回収。

 

天龍及ビ提督ノ遺体ハ、発見サレズ。

 

翌年同月、捜索中止。

 

真相ハ定カニサレズ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

提督…元戦闘機パイロットの提督

 

若年寄な性格のため、駆逐艦娘に絶大な人気を誇る。

 

天龍は初めて出逢った艦娘であり、最後を共にした艦娘でもある

 

 

 

天龍…最初から最後まで提督の傍にいた艦娘

 

誰一人として轟沈を出さなかった鎮守府だが、皮肉にも最初に産まれた艦娘が最初で最後の轟沈艦となってしまった

 

今現在も両者の遺体は上がっておらず、もしかすると、何処かの国で仲睦まじく暮らしているかも知れない



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番外編 喉元の刃(1)

こちらも番外編です

こっちは、本編の元になったお話です

最初は金剛=サンがメインヒロインでした

お気付きの方もいらっしゃるかと思いますが、ほんの少しだけ元ネタがエースコンバットのシーンがあります

本編にも、ほんの少しだけあるのかな??

興味のある方は探してみて下さい


人里離れた海の上

 

そんな海に浮かぶ、小さな島にその基地はあった

 

 

「テイトクゥ〜︎!!」

 

「お茶の相手ならしないぞ」

 

「んもぅ、つれないデスね〜」

 

金剛の誘いを気にもせず、机の上の本を見ていた。

 

「テイトク〜」

 

「後でな」

 

「テイトクゥ〜」

 

私の服を引っ張り、催促を続ける彼女

 

まるで駆逐艦の娘が私に褒めて欲しがる時の様に振り向くまで延々と続けるつもりだろう

 

「金剛」

 

「ハイっ︎!!」

 

「大鳳を呼んで来てくれ」

 

「うぅ〜」

 

イヤイヤ部屋を出て行った彼女

 

申し訳ないとは思っている

 

すまない、コレが終われば、幾らでも付き合ってやるからな…

 

「お呼びでしょうか⁇」

 

「コレを見てくれ」

 

大鳳に手渡したのは、先程の資料

 

「最新鋭の艦載機だ。どうだ⁇載せられるか⁇」

 

「こんな機体、載せた事は…」

 

「焦らなくていい。念頭に入れてくれれば、それでいい」

 

「分かりました。少し考えてみます」

 

一礼した後、大鳳は部屋を出て行った

 

「ん〜〜〜︎!!」

 

「そこに居るのは分かってるぞ、金剛」

 

「浮気デスか︎!?」

 

「じきに分かるさ。さて、喉が渇いたな」

 

そういうと、彼女の顔が一気に明るくなった

 

「ティータイムにするデース︎!!」

 

最近買ったばかりのティーセットの周りが、一気に騒がしくなって行く

 

そんな彼女の姿を私は、いつも眺める

 

この時間が、好きなのかも知れない

 

「こっちはテイトク、こっちはタイホー、で、コレがワタシデース︎!!」

 

楽しそうにお茶菓子を並べている彼女を余所目に、タバコに火を点け、ふと空を見た

 

「金剛」

 

「なんデスか⁇」

 

「ティータイムは少し待て」

 

「え〜なん…」

 

金剛が拗ねかけた時、数発の砲撃音が聴こえた

 

「ワァーオ︎!!一体なんデス︎!!」

 

「敵機2、特攻する気か︎」

 

「み、見えるデスか︎!?」

 

「空は第二の故郷みたいなもんだからな」

 

「い、行ってくるデス︎!!」

 

「待て、待機しろ」

 

「なっ︎!!ナゼデスか︎!?」

 

「大鳳、艦載戦闘機を発艦させろ。方位120」

 

《了解、戦闘機発艦︎!!》

 

数機の戦闘機が、敵機に向かって行き、何回か機銃の音が聴こえた後、艦載機は帰還に入った

 

《隊長、敵機破壊を確認しました》

 

「はぐれか⁇」

 

《えぇ、どうやら帰る場所をなくして、辿り着いたのがここみたいでした》

 

「分かった。とりあえずお茶にしよう」

 

《分かったわ》

 

「待たせたな、金剛」

 

「てっきり無下にされてたのかと」

 

「んな訳無いだろ」

 

「大鳳、帰還しました」

 

「座れ座れ」

 

「さ︎!!ティータイムにするデース︎!!」

 

三人だけの、おごそかなお茶会が始まった

 

「あ、美味しい」

 

「ま、金剛が淹れたからな。俺は精一杯やって湯を沸かすのがいっぱいいっぱいだ」

 

「こうして3時にティータイムするのが日課ネ」

 

「…淋しくないか⁇」

 

「え⁇」

 

「ワッツ⁇」

 

「いや、独り言だ」

 

そう、お茶会はいつも三人

 

どんな時でも、何があろうとも、三人なんだ

 

第一艦隊の金剛

 

第二艦隊の大鳳

 

第三、第四艦隊はいつも空いている

 

建造や開発が出来ない位、資源が無い訳じゃない

 

むしろ開発資材や高速建造材も持て余してるくらいだ

 

でも、これで良いんだ

 

戦う必要なんて、俺達には無いはずだ

 

戦闘もしない

 

演習もない

 

遠征も行かせない

 

なら、俺は何故こんな所にいるか⁇と、疑問が湧く

 

答えは一つだ

 

俺のやり方に文句があるなら、空へ帰らせろ

 

頭の中で独り言を言っていると、扉を叩く音がした



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番外編 喉元の刃(2)

「テイトク、お客さんダヨ︎!!」

 

「どうぞ、開いてますよ」

 

「失礼します」

 

白装束の軍服か

 

何処かの提督だな

 

「今日はどちらから⁇」

 

「はっ︎!!単冠湾から参りました︎!!」

 

「要件は⁇」

 

「はっ︎!!こちらで資源と資材をお借り出来ると聞きまして︎!!」

 

「いかほどかな⁇」

 

「各資源を25000、資材300、建造材50です︎!!」

 

「良いだろう」

 

「本当ですか︎!?ありがとうございます︎!!」

 

「そこに座れ。俺は今ティータイム中だ」

 

「も、申し訳ありませんでした」

 

「提督、嬉しそう」

 

「そうネ〜…ナンデ資源とかを貸す時、楽しそうにするんダロ⁇」

 

「単冠湾の提督さん」

 

「は、はい︎!!」

 

「あの資源の量だ。大方、何かを建造するんだろ⁇」

 

「あ…その…大鳳を…」

 

「そうか…道は長いぞ⁇」

 

「だ、大丈夫…です」

 

私の前では、大鳳がキョトンとしている

 

「君がいっぱいいるって事だ」

 

「私が…いっぱい…」

 

そう

 

私は戦う事を自分からやめた

 

今はこうして時々やって来るはぐれの深海凄艦を倒しつつ、不必要な位に溜まった資源達を他の鎮守府や泊地、はたまた基地に無担保で貸している

 

空ではいつも喉元に突き付けていた刃を

 

今度は私が突き付けられる番だ

 

 

 

最初の頃は建造位はしたさ

 

建造で始めて出たのが金剛

 

そして大型建造で始めて出たのが大鳳

 

 

運が良いと言う奴が大勢いるが、ご所望なら開発ドックも修復ドックいつも空いている

 

たまに自分のドックがいっぱいになって、修復ドックを借りに来る提督がいるが、開発ドックも使って貰って構わない

 

妖精達が暇をこいてるからな

 

 

 

「金剛も大鳳も、凄く熟練されてますね」

 

「ここには俺を含めて三人しか居ないからな」

 

「か、艦娘二人ですか︎!?」

 

「ここには必要無い。時折やって来るはぐれを倒せば、仕事は終わり」

 

「何か特別な事情が⁇艦娘を失いたくない…とか」

 

「戦争に飽きた…が、一番近いかな⁇」

 

「貴方…もしかして…」

 

「大体合ってるかな⁇君の想像は」

 

「やっぱりだ︎!!こんな所でお逢い出来るとは︎!!」

 

「提督、有名人なのですか⁇」

 

彼の目は輝いていた

 

こんなに若々しい目は、久しく見た

 

「そりゃあもう︎!!空軍のエース中のエースパイロットですよ︎!!」

 

「あぁ、それであの”艦載機”を…」

 

「言わなかったか⁇」

 

「少しだけなら。時々空に帰りたいって言ってましたし」

 

「何故空軍に復隊しないのですか⁇」

 

「戦争に飽きた。それだけだ」

 

「ふふふっ」

 

大鳳が不敵に笑う

 

「可笑しいか⁇」

 

「いえ…貴方らしいな…って」

 

「ま、とにかくだ。君は資源と資材を借りる。お前達は…そうだな」

 

こういう時に、二人をどうしていいか分からない

 

ただただ後頭部を掻くだけ



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番外編 喉元の刃(3)

「か、開発ドックでも見て来てくれ」

 

「はい、了解しました」

 

二人を離した後、単冠湾の提督と二人になった

 

「あいつらが居ないと、こんなに静かなんだな…基地ってのは」

 

「あはは…うちは騒がしいですよ。私が帰れば、真っ先に駆逐艦の娘達が出迎えに来ますし」

 

「騒がしいのは良い事だ。無数のエンジン音…修理工の鉄のぶつかる音…」

 

「相当帰りたいみたいですね…」

 

「あいつらには、戦争に飽きたと言い通しているが、理由はもう一つある」

 

「⁇」

 

「何故ずっと椅子に座っているか、君には分からないか⁇」

 

「提督だから…ですか⁇」

 

「答えはこうだ」

 

私は彼の目の前で右脚のズボンを捲り上げた

 

「あ…」

 

「これが理由だ」

 

私は右脚が無い

 

パイロットに戻れないのも、このせいだ

 

それを隠すかの様に海軍に入り、提督になった

 

当初は右も左も分からなかった

 

だが、空軍の知識故、船舶のメリットデメリットを熟知していたため、当時導入されていた艦娘計画をより良いものにする為、提督になった

 

「彼女達には、言わないでくれよ⁇」

 

「言いません︎!!絶対︎!!」

 

「黙ってくれる代わりに、良い事を教えてやろう。今日は急ぎかな⁇」

 

「いえ、特には…」

 

「なら、開発ドックに来い。良い物を見せてやろう」

 

私は杖を付きながら、開発ドックに向かった

 

「艦載機に興味は⁇」

 

「あります︎」

 

「そうか。なら、今から見るのも興味有り、だな」

 

ドックに入ると、妖精達が慌ただしく動いていた

 

「これは…︎」

 

「零戦と対なす機体…と、言っておこうか⁇」

 

「極秘開発ですか⁇」

 

「あぁ、極秘中の極秘だ」

 

「提督〜︎!」

 

頭上で大鳳が手を振っている

 

「どうだ、大鳳。艦載出来そうか⁇」

 

「まだ分かりません。こんなの初めてです」

 

「きっと大丈夫だ︎!!」

 

「凄い…」

 

目の前で造られて行く、蒼い鳥

 

その鳥は異形だった

 

主翼が上向きに、少し曲がっているのだ

 

「出よう」

 

本件である資材置き場に向かう途中、単冠湾の提督が口を開いた

 

「つかぬ事を伺いますが…」

 

「ん⁇」

 

「貴方が最後に乗っていたあの機体…」

 

「F-35か」

 

「えぇ。あの機体、この戦争を伝える為に、博物館で展示される事になりました」

 

「下手に乗り換えるものでは無いな…」

 

「空では最強だった貴方が何故⁇と言う疑問が絶えません」

 

「軽かったんだ」

 

「軽い⁇」

 

「俺が元々乗っていたのは、F-15/MTD…F-15の派生型の大型機だ。F-35は艦載機だ。だから、軽かった」

 

「…」

 

「はは。言い訳すると、あれが初めてだったんだ。深海棲艦は、突然攻めて来た。それに、近代兵器はまるで役に立たないと来た」

 

あんな光景を見たら、戦争が嫌になる

 

最新鋭の機体、最新鋭の武装、そして最新鋭の電子機器

 

こちらに不備は無かったはず

 

なのに…

 

「さ、好きなだけ持って行け」

 

「うわぁ…」

 

目の前には、膨大な量の資源、資材が備蓄してあった

 

「返済期限や取り立ては無い。自分が少し余裕が出来た時に、ゆっくり返してくれればいい」

 

「ありがとうございます︎!!」

 

「提督︎!!」

 

天井にぶら下がって再び顔を見せた大鳳

 

「びっくりした⁇」

 

「あ〜んしろ、あ〜ん」

 

「あ〜ん…」

 

大鳳の口に、ボーキサイトを放り込んだ

 

「美味しいか⁇」

 

「うん︎っ!!ありがとう、提督︎!!」

 

「まるでお父さんと娘みたいですね」

 

「ふふふ…俺の理想だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、私はこれで」

 

「あぁ、気を付けてな」

 

タンカーに乗り、単冠湾の提督は帰って行った

 

「ふぅ…」

 

ようやく落ち着き、吸い逃したタバコに火を点けた

 

レコードもつけよう

 

「〜♪」

 

「懐かしい…」

 

この時間だけ、昔に戻れそうな気がする

 

タバコを消した後、私は椅子にもたれ、少しだけ眼を閉じた

 

 

 

 

 

「ん…」

 

気が付けば、外は夕暮れ

 

少し歩くか…

 

「テイトク〜︎」

 

厨房から出て来たのは、髪を纏めた金剛だった

 

「今日は中華デス」

 

「分かった。大鳳でも探してくるよ」

 

 

基地はそんなに広くない

 

一時間もあれば、余裕で一周出来る

 

今の季節、昼間は大体虫を追いかけ

 

夜は大体海蛍を眺めている

 

「大鳳」

 

「提督」

 

コンクリートの上で腹ばいになり、海面近くの青い光を眺めていた

 

「キレイだね」

 

「大鳳は、蛍を見た事はあるか⁇」

 

「ん〜ん、ないよ」

 

「今度、見に行こうか」

 

「ホント︎??この海蛍みたいにキレイ⁇」

 

「あぁ」

 

「ふふふ、楽しみ」

 

こうして、私達の1日が終わっていく…

 

いつか、この娘達と、本当の平和な世に帰る事を願って…



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12話 鴉は眠らない(2)

次の日の朝…

 

「ふわぁ…」

 

朝食の最中、私のアクビが響く

 

「深夜までご苦労だな、提督よ」

 

「うん…」

 

「朝は鮭定食です」

 

「いただきます」

 

全員の前に、焼き鮭やらごはんやらが並び、それぞれ口にする

 

「うん、美味い」

 

「昼までの活力になるな」

 

「おさかなおいしい‼︎」

 

「ふふっ…ありがとうございます」

 

朝ごはんを食べ終えた後、私は眠くならないよう、コルセアとフィリップの整備を始めた

 

工廠なら、常に音があるからな

 

「どうだ、フィリップ。新型のパイロンは⁇」

 

《コレナラ、ロケットヲイッパイツメルネ》

 

「痛くないか⁇」

 

《ゼンゼンダイジョウブ‼︎アリガトウ、パパ‼︎》

 

ずっと前から、フィリップの整備をしてみたかった

 

今回はパイロンだけだが、ゆくゆくは尾翼とかも整備してみたい

 

「立派なものですね…」

 

「お前か」

 

いつの間にか隣に居たのは、横須賀君だった

 

「一つ、聞いても宜しいですか⁇」

 

「なんだ⁇」

 

「簡潔に言います…」

 

「…」

 

横須賀君の目が、どんどん凍て付いて行く…

 

「貴方は、サンダーバード隊を…もう一度作る腹積もりで⁇」

 

「そうだ」

 

「敵の艦載機で⁇」

 

「そうだ」

 

「片脚だけでですか‼︎」

 

横須賀君は、息を荒げた

 

「何が言いたい」

 

「これから先、貴方ではどうにもならない敵が出て来ます。その時、貴方はこの新生された部隊で”彼女”を陥せますか⁇」

 

「攻める為の部隊じゃない。守る為の部隊だ」

 

「そう…ですか…」

 

横須賀君は、肩で息をしていた

 

一体、何をムキになってるのか…

 

「これから大佐は、選択を迫られます」

 

「おい‼︎どういう事だ‼︎」

 

「その時は、私も大佐の直掩として出ます。では」

 

そのまま横須賀君は工廠から出て行った

 

「パパ⁇」

 

いつの間にか足元には、カートリッジを抱えたたいほうがいた

 

「おこってる⁇」

 

「大丈夫だ。どうした⁇」

 

「あのね、おそらになにかとんでるの」

 

「どれ…」

 

外に出て空を見上げると、いた

 

「高い所を飛んでるな…」

 

「言ったしりからですか…」

 

タンカーの近くで足を止めた横須賀君がいた

 

「あれをどう見る⁇」

 

「明石」

 

横須賀君は明石から双眼鏡を貰い、空高く舞う機体に目を向けた

 

「…」

 

「どうだ⁇」

 

「あの高度…あの速さ…私達が知っている一番近い機体で言うなら”SR-71 ブラックバード”ですかね」

 

「偵察か⁇」

 

「流石にここからでは何とも言えません」

 

「てきなの⁇」

 

「分からん。だが、偵察機である事には変わりない」

 

《…テキダ》

 

口を開いたのは、フィリップだった

 

「わかるのか?」

 

《デザインガチガウ》

 

あぁ、そうか

 

フィリップは元々パイロットだったな…

 

だからブラックバードを知っているのか

 

「だが、敵にしよあの機体は艦載機じゃないハズだ」

 

「近くに”姫”がいるのか…もしくは本当にただの偵察なのか…いずれにせよ、あの高度まで上がれる機体や兵装はありません」

 

「放って置くしかない…か」

 

「警戒はしていて下さい。大佐を殺られると、国も軍も大変不味いですから…では」

 

横須賀君がタンカーで去った後、空にはあの偵察機が残った

 

何かを見透かされているような…

 

そんな気がして仕方ない

 

それに、姫とは…⁇

 

どうしようもない事態とは…⁇

 

気になる事が多過ぎる

 

しかしそれは、すぐに分かる事になるとは、思いもしなかった

 

 

 

サンダーバード隊(緊急編成)が、装備に加わりました!!




サンダーバード隊(緊急編成)…パパの乗るコルセアとフィリップの二機による、基地周辺の制空権奪還の為の緊急編成

緊急編成の為、まだまだ力は弱いが、中規模の制空権を取るなら充分な装備



対空+15
雷装+8
索敵+8


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13話 黒いコウノトリ(1)

さて、12話が終わりました

基地上空に突如出現した、黒い機体”SR-71 ブラックバード”の様な機体

知らない方も多いかとおもいます

手短に言うと、艦これで言う彩雲がとてつもなく進化した機体です

今回のお話では、とある深海棲艦が出て来ます


次の日の朝…

 

「…まだ飛んでやがる」

 

あくる日の朝も、基地の真上をグルグルと回遊するように、あの偵察機は空に鎮座していた

 

「全く…奴のエンジンはどうなってやがる…」

 

何度も双眼鏡を向け、様子を伺う

 

「ん⁉︎」

 

機首をこちらに向けた瞬間、偵察機の腹部から発光が見えた

 

「タ…ス…ケ…テ………キ…ユ…ウ…エ…ン…モ…ト…ム。助けて救援求ムだと⁉︎」

 

間違いが無ければ、あれは救難信号だ

 

妖精を叩き起こし、手短かなライトを貰い、こちらからも発光信号を送った

 

「ド…ウ…シ…タ。っと」

 

答えはすぐに返って来た

 

《キカンタイハ。コウコウフノウ。シュウリモトム》

 

これで確信が持てた

 

あの機体は敵ではない

 

「リ…ヨ…ウ…カ…イ。ア…ン…ナ…イ…モ…ト…ム」

 

《リヨウカイ》

 

「ジェットスキーのパックに修復機材を詰めろ‼︎」

 

”なんや分からんけど、分かった‼︎”

 

ジェットスキーに詰めるだけの修復機材を詰め込み、すぐにエンジンをかけた

 

「待ってろ。すぐ帰って来る」

 

”頑張れ〜‼︎”

 

妖精達に見送られ、基地から離れた

 

基地から出ると、偵察機が近寄って来た

 

近くで見ると、やはりブラックバードに良く似ている

 

「心配するな。すぐ助けてやる」

 

《キカン、スグソコ》

 

「見えた‼︎」

 

見えて来たのは、見た事の無い深海棲艦だった

 

マリアと同じで、髪は白い

 

だが、違いは一目で分かる

 

ツノみたいなのが生えてるし、腰周りには、滑走路の様な物がある

 

「大丈夫か⁇」

 

近くに寄り、声をかけると、彼女はうっすらと目を開けた

 

「アリガト…ワタシ、タスカル⁇」

 

「大丈夫だ。どこ撃たれた⁇」

 

「ココ…」

 

彼女が手を離した場所には、銃弾で撃たれたであろう傷が出て来た

 

とりあえず、触れない事には分からない

 

「ンア‼︎」

 

「痛むか⁇」

 

「ン…ダイジョウブ」

 

血は大量に出てはいるが、応急処置位はどうにかなりそうだ

 

「とりあえず、動けるまでには処置してやる。後は私の基地でドックに入れ。良い整備員がいる」

 

「ン…アリガト…」

 

「気にするな。おっ…」

 

雨、か

 

運が悪いな…

 

「ン…トリアエズ、タテル」

 

「案内してやるから、後ろを着いて来い。応急処置だから、くれぐれもゆっくりな」

 

彼女はコクンと頷いた

 

「ブラックバード、お前も来い‼︎」

 

《イツカ、カナラズカエス》

 

ブラックバードは、先に基地を目指して飛んで行った

 

雨の所為で視界が悪いな…

 

「見えた‼︎」

 

うっすらだが、基地の誘導灯が見える

 

「イタイイタイ‼︎モウイイ‼︎」

 

後ろを一生懸命着いて来た彼女が、ここへ来てとうとう弱音を吐いた

 

《パパ〜‼︎》



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13話 黒いコウノトリ(2)

フィリップが迎えに来た

 

《マタヒッパルネ》

 

「毎度毎度悪いな。だが、彼女が…」

 

「立てるか⁇もう少しだ」

 

「ン…」

 

気が付けば、武蔵が彼女を支えていた

 

「後ちょっとだ‼︎全員踏ん張れ‼︎」

 

雨も風も強くなって来た

 

早く入渠させないと…

 

「こちらは任せろ。提督は、あの黒い機体を着陸させてやってくれ」

 

「分かった‼︎頼んだぞ‼︎」

 

再びライトを手にし、黒い機体を誘導する

 

「こっちだ〜‼︎」

 

黒い機体でも、流石に悪天候の中長距離は辛かったようだ

 

ほぼほぼ胴体着陸で地に着いた

 

「工廠に回せ‼︎良く頑張ったな‼︎」

 

私がそう言うと、黒い機体のライトが弱々しく光った

 

《アリガトウ。スクワレタ》

 

「気にするな。ゆっくり休めよ」

 

黒い機体を二回優しく叩くと、妖精達が工廠に運んで行った

 

「さて…」

 

「提督‼︎こっちです‼︎」

 

基地の中から、はまかぜが呼んでいる

 

彼女の手招きに誘われ、基地の中に入った

 

「もう大丈夫です。提督、貴方もお風呂に入って下さい」

 

「…あぁ」

 

「疲れましたか⁇」

 

「…風呂行って来る。あったかい…そうだな、ラーメンでも食べたい気分だ」

 

「わかりました」

 

雨に打たれたからだろうか

 

急に疲労が来た

 

「パパ〜‼︎」

 

「こらこら。ビショビショだぞ⁇」

 

「よこすかさんがね、きょうはおくれるって。”たいふー”がきたって」

 

「なるほどな…道理で…ハックシュ‼︎」

 

流石に体を温めないと

 

今はあの深海棲艦が入ってるし、とりあえずは外付けのシャワーで済まそう

 

「ふぅ…」

 

深海棲艦も気になるが、もっと気になるのは、あの黒い機体だ

 

艦載機の造りでは無い、確実に

 

なら、何故彼女を助けた⁇

 

疑問が頭の中を渦巻く…

 

シャワーを出た後、提督室に行くと、相変わらずたいほうが一人で遊んでいた

 

「うぁ〜やられた〜。ちゅど〜ん」

 

「今日はどっちが優勢だ⁇」

 

「きょうはね、むさしの”かんそくき”と、たいほうの”れっぷー”がたたかってるの‼︎」

 

「武蔵の観測機は強いか⁇」

 

「つよいよ‼︎はっはっはー‼︎そのていどではしずまんぞ‼︎もっとうってこいー‼︎」

 

たいほうの手元では、観測機が烈風以上の戦いを見せている

 

いくら遊びとは言えど、中々面白い

 

「うっ‼︎」

 

風が強くなって来たな…

 

こんな天候じゃ、横須賀君も来れないはずだ

 

「かぜすごいね」

 

「うん。その前に帰って来て良かった」

 

「パパ、たいほうとあそぼ⁇」

 

「ん、いいぞ」

 

たいほうとおままごとを始めて、しばらくした時、武蔵が部屋に入って来た

 

「とりあえず、喋られる位まで回復はした」

 

「ありがとう。ちょっと見に行くよ」

 



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13話 黒いコウノトリ(3)

腰を上げて、武蔵に観測機を渡した

 

「なんだコレは」

 

「”最強”の観測機だ」

 

「ばばばばば‼︎」

 

「なるほど…」

 

後は武蔵に託しても大丈夫だろう

 

さて、ドックを見に行くか

 

「傷はどうだ⁇」

 

ドックののれんをめくると、まだ湯船に浸かっている彼女の前で屈んでみた

 

「オシャベリ、デキルヨ⁇」

 

お湯で遊んでいるのか、手でお湯をすくってまた湯船に落としたり、近くにいた妖精に水鉄砲を当てていた

 

「んっ。大分回復したな」

 

「オニイサン、アリガトウ」

 

「ゆっくり休めばいい」

 

「ワタシノコト、キカナイ⁇」

 

「話たくなったら話せばいい。今は休め。いいな⁇」

 

「ン…」

 

彼女の頭を撫でた後、工廠に入った

 

「どうだ⁇」

 

《ほんま、見るたんびにえぇ機体やと思うわ》

 

「だろうな」

 

工廠の中で、美しいまでに佇む黒い鳥…

 

何度見ても目を奪われる…

 

《これやろ。この機体が何考えてるか、画面に出るんや》

 

妖精に手渡されたタブレットを持ち、話しかけてみた

 

「名前は何て言うんだ⁇」

 

《スペンサー》

 

「良い名だ…」

 

《アナタハ⁇》

 

「みんなパパと呼んでる」

 

《パパハ、ミカタ⁇》

 

「味方だ」

 

《”ヒメ”ハ、ダイジョウブ⁇》

 

「大丈夫だ。今はお風呂に入ってる」

 

《ヒメハ、カンムスニヤラレタ。ツヨカッタ》

 

「それで、助けを求めてたのか⁇」

 

《ソウ。ワタシタチハニンゲンノテキ。イミキラワレルソンザイ》

 

「そんな事無いぞ⁇俺はお前を美しいと思う」

 

《ア…アリガトウ…》

 

少し照れているのか、スペンサーは言葉に詰まっていた

 

《ワタシタチハ、ミンナカラステラレタ。イバショガナイ》

 

「ならここにいろ。その代わり、みんなを護ってやってくれ」

 

《イイノ⁉︎》

 

「ここは敵も味方も無い。みんな仲間だ」

 

《…ワカッタ。パパニツク。イッパイセイビシテネ⁇》

 

「任せろ‼︎」

 

スペンサーはコックピットであろう部分を何度か光らせた

 

《あの光は…嬉しい、やな》

 

「勉強しなきゃな」

 

《深海棲艦の修理が終わったで‼︎》

 

妖精に連れられてリビングに行くと、エプロンを付けたはまかぜがキッチンにいた

 

その前では、艤装を全て取り除いた彼女がホットミルクを飲んでいる

 

「あったかかったか⁇」

 

「ウン。オフロヒサシブリ」

 

「スペンサーはこの基地にいてくれるみたいだ」

 

「ワ、ワタシモイタイ‼︎イタイノイヤ‼︎」

 

泣きそうな顔になった彼女は、私に抱き着き、顔を埋めた

 

「辛かったな…もう大丈夫だ」

 

頭を撫でると、より一層強く抱き着いて来た

 

「名前は⁇」

 

「ナイ…」

 

「そうだな…う〜ん…」

 

悩んでいると、はまかぜが口を開いた

 

「チェルシー…なんて、どうですか⁇」

 

「チェルシー…チェルシーカ‼︎」

 

「ん、良い名前だな。よし、今日から君はチェルシーだ。よろしくな」

 

「ウン‼︎」

 

 

 

 

陸上偵察機”スペンサー”

謎の深海棲艦”チェルシー”

が、艦隊の指揮下に入ります‼︎

 




スペンサー…とってもスマートな高高度偵察機型深海棲艦

楽園に救助を求めにやって来た、黒い偵察機

攻撃力は持たないが、高速かつ高高度からの偵察が出来る

チェルシーとパパが好き

モデルはSR-71ブラックバード



チェルシー…引っ込み思案で怖がりな深海棲艦

何処かの艦隊にやられて、ボロボロになった所をパパに保護された、白い髪と角が特徴の深海棲艦

負けてしまったからなのか、パパ以外の人間や艦娘をとても怖がるが、どうもはまかぜは大丈夫な模様

安心した相手には抱き着く癖がある


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14話 孔雀の誘い(1)

さて、13話がおわりました

チェルシーとスペンサーが仲間に加わり、基地にも活気が溢れて来ました

今回のお話は、横須賀君の鎮守府で開催された、パーティーとお祭りのお話です

どこかに見た事がある艦娘がいるかも知れません

是非探してみて下さい


チェルシーが基地に来てから、数週間後…

 

椅子の上で煙草を吹かしながら、横須賀君と二人を眺めていた

 

「相変わらず…ですね」

 

「まぁな…」

 

たいほうが座っているのは、一人の女性の膝の上

 

「お前の言った事は本当だったな」

 

 

 

数週間前…

 

「ヤ、ヤダヤダ‼︎チェルシーコレデイク‼︎」

 

武蔵の目の前で、何やらチェルシーが拗ねている

 

「駄目だ。ちゃんとしないと提督に食べられるぞ‼︎」

 

「オ、オドリグイ…⁇チェルシータベラレル⁇」

 

「そうだ。頭からガブリだ」

 

「ガブリハイヤダ‼︎」

 

「ならちゃんと着ろ」

 

「ン…」

 

武蔵の前で、チェルシーがどんどん着替えて行く

 

当の武蔵は既に着替え終わっている

 

「ほら、出来たぞ」

 

鏡の中に、桃色の浴衣を着たチェルシーが映し出される

 

それを見て彼女は、クルリと一回転した

 

「コレ…」

 

「浴衣だ。ほら、たいほうもはまかぜも着ている」

 

たいほうは紫色

 

はまかぜは紺色

 

武蔵は黒色の浴衣に、それぞれ着替えていた

 

「チェルシーハ、ピンクイロ」

 

「どうだ⁇可愛いだろう⁇」

 

「ウン。チェルシー、ピンクスキ」

 

「よし、行こうか」

 

 

 

 

 

「夏祭りとは、これまた大掛かりな…」

 

みんなが着付けをしている最中、私は横須賀君と二人で、彼の提督室で煙草を吹かしていた

 

「戦争は、好戦派の軍人に任せて今日は楽しんで下さい」

 

「しかし…」

 

「チェルシーの心配ですか⁇」

 

「あぁ…」

 

悩んでいる私の顔を見て、横須賀君は鼻で笑った

 

「彼女に手を出したスケベな連中は、後日私が更迭します」

 

私も鼻で笑い返した

 

「それを聞いて安心した」

 

そんな話をしていると、扉を叩く音がした

 

「開いてますよ」

 

「こんにちは‼︎」

 

現れたのは単冠湾君だった

 

「聞きましたよ、大佐‼︎ブラックバードを鹵獲したそうで‼︎」

 

「今度見に来い。色々整備してやってくれ」

 

「はい、大佐‼︎」

 

話の切れ目に横須賀君が手を叩いた

 

「はい、仕事の話はおしまいにして、行きますよ‼︎」

 

「おぅ‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

外に出ると、既に人だかりが出来ていた

 

提督

 

艦娘

 

提督

 

提督

 

艦娘

 

艦娘

 

艦娘

 

…目が回る

 

「ラストはBBQです」

 

「大佐、射的しましょう‼︎」

 

「待て待て」

 

俺と単冠湾君が人混みに消えていった後、それを見た横須賀君は真剣な顔をしていた

 

「大佐…あの娘ですよ。サンダーバード隊の、最後の隊員は…」

 

 

 

「うはは‼︎いっぱい取れましたね‼︎」

 

単冠湾君の腕には、大量のお菓子でいっぱいになっている

 

先程、射的で山ほど取り、それを全部彼にあげたからだ

 

「あいつ、ほとんど持っていったぞ‼︎」

 

二人が去った後の射的の出店で、眼帯をした巨乳の女の子が文句をたれていた

 

「まぁまぁ天龍ちゃん。出し巻き卵、食べりゅ⁇」

 

「ん…いただきます」

 

天龍と呼ばれた女の子の口に、出し巻き卵が放り込まれた

 

「んっ。相変わらず美味いな」

 

「えへへ、ありがとう」

 

「”あいつ”は、今日はいるのか⁇」

 

「うんっ。確か、ビール売ってたハズだよ⁇」

 

「そっか…」

 

 

 

 

 

「ヘーイ、テイトクゥ‼︎」

 

「あ‼︎金剛‼︎榛名‼︎こっちこっち‼︎」

 

向こうから走って来る艦娘を、私は何処かで見た記憶がある…

 

「お菓子がいっぱいです‼︎」

 

「帰りの船に乗せておくデース‼︎」

 

「むむむ…」

 

「どうしました、大佐⁇」

 

「どうしたデスか⁇」

 

「君を見た覚えがあるんだが…一体何処で見たか…ん〜…」

 

「金剛お姉様」

 

「なんデス、榛名⁇」

 

「きっと、金剛お姉様の”ぷろもぉしょんびでお”を見たかと」

 

「あ‼︎それだ‼︎」

 

「私の活躍見てくれたの⁉︎」

 

「見た‼︎会って欲しい奴がいるんだ‼︎会ってやってくれないか⁉︎」

 

「私のファンデスね‼︎行きマショウ‼︎榛名‼︎お菓子をお願いしマース‼︎」

 

「すまん‼︎ちょっと借りるぞ‼︎こっちだ‼︎」

 

私達は、とある艦娘のいる場所を目指した

 

「ぬふふ…ショタのテイトクもいいデスが、若年寄のテイトクもイイ感じデスね」

 

「ちっさい男の子が好きなのか⁇」

 

「ショタはいいデス‼︎ちっちゃいは正義デース‼︎」

 

「今から会う子は、ショタじゃないが、まだ小さいんだ」

 

「ロリも最高デース‼︎」

 

「あ‼︎武蔵‼︎」

 

「浮気か」

 

武蔵に蔑んだ目で見られる…

 

視線が痛い…



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14話 孔雀の誘い(2)

「違わい‼︎たいほうは⁇」

 

「ここにいるぞ」

 

武蔵の足元に、隠れて見え無かったたいほうがいた

 

「ワーオ‼︎ちっちゃいデース‼︎」

 

「こんごうちゃんだ‼︎」

 

金剛はたいほうを抱き上げ、そのまま抱きかかえた

 

「タイホーちゃんは、私のファンデスか⁉︎」

 

「いえーす‼︎」

 

「ベリーベリーキュートネー‼︎テートクゥ、タイホーちゃんを私に下サイ‼︎」

 

「ダメだ‼︎たいほうは私の子だ‼︎」

 

言い放ったのは武蔵だった

 

「まぁまぁ、今日位はいいじゃないか」

 

「ちゃんと返すのだぞ‼︎」

 

「オッケーデース‼︎タイホーちゃん‼︎行きますヨ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

金剛とたいほうは、人混みの中に消えていった

 

「あれ⁇はまかぜとチェルシーは⁇」

 

「二人で出かけたぞ」

 

「そっか…はまかぜなら任せても大丈夫だろ。行こう」

 

「私とか⁇」

 

「当たり前だ。ほら」

 

私が手を差し伸べると、武蔵は恐る恐る手を絡めて来た

 

「何食べたい⁇」

 

「こ、こ、この…フラフラフランクフルトを食べたい…」

 

挙動不振になっている武蔵の指差す先には、金髪の女性がフランクフルトを焼いている出店があった

 

香ばしくて美味しそうな良い匂いが食欲をそそる

 

「本場ドイツのウィンナーよ‼︎美味しさと品質は保証するわ‼︎」

 

「おおおお美味しそうだな」

 

随分緊張しているな…

 

「いつもと変わらないだろ⁇」

 

「あ、いや…その、ほら…あの…」

 

アタフタする武蔵を見るのは初めてで、どこか初々しい

 

いつもの凛々しさは、一体何処へやら…

 

「はい」

 

「ありがとう…」

 

武蔵は美味しそうにフランクフルトを口にした

 

「ん、美味いな」

 

「もっと食えよ。今日は仕事を忘れろ」

 

「…うんっ‼︎」

 

今日の武蔵はいつもと違い、少し幼く見える

 

「この…”はんばぁがぁ”は、美味しいのか⁇」

 

「美味しいわよ。これはドイツじゃなくて”あめりか”の食べ物よ」

 

「それ二つ」

 

二人の手元に、はんばぁがぁが置かれた

 

「トマト、レタス。そしてこの肉。パンと相性が良いな」

 

武蔵は食べカスは口周りにいっぱい付けて、はんばぁがぁを美味しそうに胃に落としていく

 

「さ、行こう」

 

「ちょっと待て。これはなんだ」

 

「一回お願いします」

 

「五回投げるっぽい」

 

手渡された輪を、とりあえず一つ投げてみた

 

輪は小さなぬいぐるみに入った

 

「ぜかましぬいぐるみをあげるっぽい」

 

「これは、景品に入れば貰えるのか⁇」

 

「そう。”わなげ”って言うんだ」

 

残りの輪を全て武蔵に渡し、横で眺める事にした

 

「せいっ‼︎」

 

第一射‼︎

 

多分、狙っているのは銃弾のペンダント

 

だが、無情にも輪は弾かれ、別の景品に入った

 

「ぜかましぬいぐるみをあげるっぽい」

 

「せいっ‼︎」

 

第二射‼︎

 

今度は上手く行きそうだ

 

だが、まっすぐペンダントに向かっていた輪は、無情にも突然の風で軌道が変わり、別の景品に入った

 

「ぜかましぬいぐるみをあげるっぽい」

 

「ぐぬぬ…次だ‼︎」

 

第三射‼︎

 

これは貰っただろう

 

綺麗にペンダントに輪が収まった…かに見えた

 

回転力が強かった輪は、一度入ったにも関わらず、横にあった景品に軌道が変わり、そのまま入った

 

「ぜかましぬいぐるみをあげるっぽい」

 

「…提督よ、頼む。徹甲弾のペンダントが欲しい」

 

武蔵は四体のぜかましぬいぐるみ抱え、輪を私に託した

 

「それっ」

 

弱々しく飛んだ輪は、ペンダントに向かって飛んで行き、しっかりと輪の中に収まった

 

「徹甲弾のペンダントをあげるっぽい。一番の目玉商品っぽい」

 

「ほら」

 

「…ありがとう‼︎大事にする‼︎」

 

嬉しそうに徹甲弾のペンダントを付けた

 

武蔵は本当に楽しそうだ

 

きっと、今までたいほうが甘えていた分が、急に爆発したのだろう

 

景品を抱えて、とても御満悦な顔をしている

 

「今日はありがとう、提督」

 

「楽しいか⁇」

 

「…いつか、こんな日が続く未来が来るといいな」

 

「そうだな…」

 

「私はこのぜかましぬいぐるみを置いて、少し休んで来る。本当にありがとう」



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14話 孔雀の誘い(3)

武蔵を見送った後、私は一人で歩き始めた

 

「ん⁇」

 

何処かで見覚えのある後ろ姿が、ビールの売り子をしている

 

次に私の口から出た言葉は決まっていた

 

「みほ‼︎」

 

「…大佐っ‼︎」

 

抱き付いて来たみほの目には、涙が浮かんでいた

 

「逢いたかったのよ⁇ずっと…ここに来れば逢えると思って…」

 

「俺もだ…」

 

「ご、ゴホン…」

 

「はっ…」

 

後ろに居たのは横須賀君だった

 

「愛情表現は大いに結構。ですが、多勢の前ですので…その…」

 

「ははは…すまんすまん」

 

「そろそろBBQの準備を始めます。みほさん、お願いするよ」

 

「はいっ、元帥」

 

みほは私達にウインクした後、BBQ会場に消えていった

 

「元帥だったのな」

 

「貴方に頭は上がりませんがね。ここまで私を育ててくれたのは、貴方である事をお忘れ無く」

 

「ちゃっかりしちゃって…」

 

帽子を直し、横須賀君も会場に消えていった

 

「パパ〜‼︎」

 

水風船やら綿菓子の袋やら沢山持ったたいほうが走って来た

 

「いっぱいあそんだよ‼︎ちぇるしーがね、これとってくれたの‼︎」

 

たいほうの手にぶら下がった袋の中には、おもちゃが詰まっていた

 

「ありがとう、チェルシー」

 

「チェルシー、ゲームトクイ」

 

そう言うチェルシーの頭にも、お面が付けられている

 

「二人共、もうすぐそこでBBQが始まる。行っておいで」

 

「うんっ‼︎」

 

「オナカスイタ」

 

二人共、嬉しそうに走って行った

 

「提督は行かないんですか⁇」

 

いつの間にか、横にはまかぜがいた

 

「楽しいか⁇」

 

「えぇ、とっても。綿菓子とたこ焼きを食べた後、ストラックアウトをしました」

 

よく見れば、はまかぜの髪飾りが純金になっている‼︎

 

「どうしたんだ、これ。高かっただろ⁇」

 

「これがストラックアウトの景品です。予想外に豪華でした」

 

「ははは‼︎俺はもう少し後で会場行くよ」

 

「武蔵さんはもう行きましたよ。私もそろそろ行きます」

 

「あぁ、行っといで」

 

はまかぜも会場に向かった

 

いつの間にか、辺りは暗くなっていた

 

気がつかなかったな…

 

余程楽しめたんだな

 

よく見ると、所々出店が閉まっている

 

出し巻き卵売りの瑞鳳…

 

射的屋の天龍…

 

輪投げ屋の夕立…

 

綿菓子売りの日向…

 

それと…

 

最後に目をやった出店が閉まっている事を確認した

 

さて…行くか

 

 

 

 

 

 

BBQ会場から少し離れた海辺近くの階段に、一人の女性が座っている

 

「うんっ、美味しい‼︎やっぱりドイツは最高ね‼︎」

 

独り言を言いながら、一本のフランクフルトを頬張る

 

ブロンドの美しい髪が、海風に靡いている

 

「あ…」

 

ふと、誰かに頭を撫でられた

 

懐かしい撫で方…

 

振り返ると、見覚えのある優しい顔が…

 

「こんな所に居たのか」

 

「隊長さん…」

 

「…ビスマルク」

 

私は、この人を知っている

 

いいえ、忘れる事なんて…出来なかった…

 



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15話 雀と雄鳥(1)

さて、14話が一旦終わりました

ここからの話は、パパとビスマルクのちょっとした過去のお話です

ビスマルクがパパと出逢い、ちょっとずつ成長していくお話です


3年前…

 

〜横須賀鎮守府の地下研究室〜

 

「これは…」

 

深海棲艦の攻撃から2年が経ち、まだ療養中だった私は、リハビリがてら横須賀君に誘われ、基地の見回りをしていた

 

「艦娘ですよ。耳に入ってませんか⁇」

 

「いや…」

 

連れて来られた地下研究室の中では、溶液に満たされた巨大な試験管の様なものの中で、一人の女性が眠りについていた

 

「我々生身の人間では、奴等にはかないません。ですから、最初で最後の対策として、ドイツから試作の艦娘のサンプルを貰い、今作り上げてる所です」

 

「名前は⁇」

 

「ビスマルク…ドイツではそう呼ばれています」

 

「ビスマルク、ね…」

 

これが、私と彼女の初めての出会いだった

 

 

 

数日後…

 

病院のベッドで横になっていた私の所に、息を切らした横須賀君がやって来た

 

「大佐‼︎出来ましたよ‼︎」

 

「昼飯か⁉︎」

 

「違いますよ‼︎ビスマルクです‼︎」

 

「是非見たいね」

 

「行きましょう‼︎さ‼︎」

 

まだ義足にあまり慣れていなかった為、地下研究室まで大分時間がかかった

 

「いいですよ、大佐。ゆっくりで」

 

「すまんな…」

 

横須賀君に支えられながら、ようやく地下研究室に着いた

 

「ばうむくぅへん‼︎」

 

「そうだ‼︎偉いぞ‼︎」

 

数人の研究員が、ビスマルクと呼ばれる女性の周りで何かを教えていた

 

「この子が…」

 

「おはよう、ビスマルク」

 

「おはよう、よこすかくん‼︎」

 

上からも下からも、大体彼は横須賀君と呼ばれている

 

が、女性にまで呼ばれるとは…

 

「この人は隊長さん。今日から君の面倒を見てくれる」

 

「たいちょうさん、よろしくね‼︎」

 

「あ、あぁ…」

 

「取り敢えず、散歩してみてはいかがでしょう⁇」

 

「おさんぽ⁇」

 

「そう。隊長と手を繋いで…」

 

ビスマルクは私の手を取った

 

私はそれを握り返す

 

「そう。じゃあ、ちゃんと隊長の言う事聞くんだよ⁉︎」

 

「わかった‼︎」

 

事態が読めぬまま、外に出された

 

「うわぁ〜‼︎ひろ〜い‼︎」

 

さて、何から教えようか…

 

「たいちょうさん、あれなに⁇」

 

ビスマルクが指差す方向には、編隊飛行をしている戦闘機が飛んでいた

 

「あれは戦闘機だ。名前はイーグル」

 

「いーぐる⁇」

 

「そう。私達を護ってくれる」

 

「いーぐるすごい‼︎」

 

はしゃぐビスマルクを見て、自分の足が憎くなった

 

こいつが無けりゃ、「乗せてやろう」とか、粋な言葉が言えたのに…

 

「飛行機、好きか⁇」

 

「ひこうきすき‼︎」

 

「よし、じゃあ見に行こうか‼︎」

 

「やった〜‼︎」

 

ビスマルクを連れ、飛行場に向かった

 

「隊長⁉︎隊長だ‼︎」

 

一人の青年が私に気付き、駆け寄って来た

 

こいつはいつも私に懐いてくれるので、可愛がりがある

 

「元気にしてたか⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

「この娘に戦闘機を見せてやりたい」

 

「いいですよ。色々教えてあげて下さい‼︎」

 

立っていたその一瞬の時でさえも、スクランブルで数機が飛び立って行く…

 

「速いな…」

 

「新しく配備された機体ですよ…あれでも通用するかどうか…」

 

「ぴかぴかのひこうき‼︎」

 

さっき飛んで行った機体と同じ型だ

 

「ビスマルクちゃん…でしたっけ⁇ビスマルクちゃんがドイツから輸入されたのなら、こちらはロシアから輸入したんです」

 

「名前は⁇」

 

「T-50です。じき、隊長も乗るかも、ですよ⁇」

 

「たいちょうさんは、ひこうきのれるの⁉︎」

 

「昔はな…今はちょっとお休みだ」

 

「いいこにしてたら、びすまるくものれる⁇」

 

「そうだなっ…俺がいつか乗せてやる」

 

ビスマルクの頭を撫でると、彼女は小指を出した

 

「にっぽんのひと、こゆびでやくそくする‼︎」




チビスコ…ドイツからやって来た、プロトタイプビスマルク

深海棲艦に対抗する為、急遽ドイツから輸入した試作型のビスマルク

スピードは尋常じゃない速度だが、人と同じ様に体と感情が成長していく

パパや整備兵、研究員のみんなから大切に扱われている


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特別編 Battle・Of・Knights(1)

リクエストを頂きましたので、少し書いてみました

リクエストして頂いたシーンは、もうちょっと先になりますが、今回は前哨戦です



いつも通りの日常を送るパパ達の基地に突然やって来たのは、得体の知れない新型機でした…


〜どこかの鎮守府〜

 

「〜♪」

 

どこからともなく、鼻歌が聞こえる

 

パソコンを弄る音

 

お菓子を啄む音

 

そして、合間合間に聞こえる鼻歌

 

「…み〜っけ」

 

何を見つけたのかは分からないが、鼻歌の主は嬉しそうにしている

 

「提督。お楽しみね」

 

そこに一人の少女が介入する

 

背は小さいが、どうやら空母の様だ

 

「艦載機を全部艦戦に変えて」

 

「仕方無いなぁ…」

 

空母らしき少女は、鼻歌の主の命に従う為、部屋を出た

 

「やっと見つけた…叩きのめしてあげるっ」

 

 

 

 

 

「トーロピカルー♪♪トロピカルー♪♪夢のトロピカル、ジュース‼︎」

 

工廠の一角で、私は妖精の造った機械をいじくっていた

 

「何だその歌は⁇」

 

艤装の整備をしていた武蔵は、不思議そうな顔をしている

 

「トロピカルジュースの歌」

 

「で、それは何だ⁇」

 

「聞いて驚け‼︎こいつは魔法の機械”ジュースサーバー”だ‼︎」

 

「じゅうすさぁばぁ⁇」

 

「説明しよう‼︎ジュースサーバーとは、とにかく色んなジュースが出てくる機械なのだ‼︎」

 

「ほう…」

 

こちらに向かって来た武蔵の目を見た時、嫌な予感がした

 

「よし、牛乳を頂こう」

 

すると、ジュースサーバーの中にコップが置かれ、牛乳が注がれた

 

「音声認識システム付きだ‼︎」

 

「素晴らしい‼︎」

 

牛乳を一気飲みした後、武蔵は再び艤装の整備を始めた

 

「喉乾いたら飲めよ⁇」

 

「うぬ。ありがとう、提督」

 

「さて…」

 

今日も平和だ…

 

海は穏やか

 

基地も異常無し

 

空も澄みわた…

 

”提督‼︎入電や‼︎”

 

「誰からだ⁇」

 

”スペンサーからや‼︎何か焦っとる‼︎”

 

「こちらイカロス。どうした、スペンサー」

 

《テッキカクニン。コウソクデホンキチニセッキンチュウ。カズ、60イジョウ》

 

「スクランブルだ‼︎フィリップ、出撃だ‼︎」

 

《リョウカイ‼︎》

 

時間が無い‼︎

 

ヘルメットだけでいい‼︎

 

「上がってから各機材のチェックをする‼︎イカロス機、出る‼︎」

 

《フィリップ、デル‼︎》

 

高速で二機が上がって行く

 

「スペンサー、状況は⁇」

 

《テッキニバクソウ、オヨビライソウヲカクニンデキズ。テッキハスベテ、セントウキトオモワレル》

 

「試してるのか…⁇」

 

《レーダーニカン‼︎スゴイカズダ‼︎》

 

機影が見えた

 

物凄い数だ

 

しかしこれは…

 

「味方機だ‼︎攻撃ちゅ…」

 

攻撃の中止を命令する前に、敵の機銃掃射が来た

 

「ダメだ‼︎攻撃再開‼︎全部敵だ、撃ち落とせ‼︎」

 

これをたった二機で追い返せというのか…⁇

 

「こうなったらフィリップ‼︎避けて避けて避けまくれ‼︎一瞬の隙を突いて反撃するぞ‼︎」

 

《ラジャー》

 

「イカロス、エンゲージ‼︎」

 

《フィリップ、エンゲージ‼︎》

 

60…いや、もっといるか⁇

 

それに何だ⁇

 

先陣を切っているあの機体、プロペラが背後に付いている

 

「フィリップ、気を付けろ。特殊な戦闘機がいる」

 

《プロペラガ、ウシロニツイテルヤツダネ》

 

「何をして来るか分からん。俺が引き付けてやるから、他のを頼む」

 

《コチラスペンサー。デンシシエンカイシ》

 

「電子支援…⁇」

 

《提督‼︎聞こえるか‼︎提督‼︎》

 

無線の先から聞こえてきたのは、武蔵の声だ

 

《スペンサーは電子支援を行なえる。提督とフィリップの機銃に自動標準器を付けた。それと同期して、敵機を捉えやすくした》

 

「そんな物どっから…」

 

《敵機に集中しろ‼︎大丈夫、提督なら出来る‼︎》

 

「捉えた‼︎」

 

トリガーを引き、タタタタタと機銃の音がした後、特殊な戦闘機を撃墜した

 

《ワッ‼︎ウワッ‼︎》

 

攻撃を避けつつ、一瞬の隙を突いて、フィリップは何度も機銃攻撃を行っている



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特別編 Battle・Of・Knights(2)

「大丈夫か⁇」

 

《ナントカ…。マダ10キシカゲキツイデキテナイ》

 

「充分だ。そら‼︎捉えたぞ‼︎死にたくなけりゃ避けてみせろ‼︎」

 

これで二機

 

しかし、とてつもなく速い機体だな…

 

見た限り、前方に4門の銃口が見える

 

二機目を撃墜した後すぐに、敵機の軍勢は、一斉に回頭を始めた

 

「敵が撤退していく」

 

《コレダケヤレバ、モウダイジョウブカナ⁇》

 

「あぁ…追わないでおこう。帰るぞ」

 

《フィリップ、RTB》

 

「イカロス、RTB」

 

 

 

「お帰り、提督」

 

「ただいま」

 

コルセアから降りた後、武蔵が話し掛けて来た

 

「相当な手練れを相手したな」

 

「ま、無人機だったのが唯一の救いだったな。気兼ね無く落とせた」

 

「人が乗って無かったのか⁇」

 

「大方、リモコン操作か何かから外れたんだろう」

 

「違うわ。新しい戦闘機よ」

 

「誰だ⁉︎たいほう⁇」

 

そこにいたのは、見覚えのある女の子だった

 

しかし、身長も違えば、話し方も違う

 

「パパ〜‼︎ようせいがいっぱい‼︎」

 

私の知っているたいほうは、見知らぬ妖精と一緒に遊んでいる

 

「君は⁇」

 

「私は大鳳。舞鶴から交流に来ました‼︎」

 

大鳳は敬礼する

 

あまりにも久し振りの敬礼の為、私も武蔵も少し間を置いてから敬礼した

 

「大鳳よ。貴様の提督は何処にいる⁇」

 

「あ…あの…それが…」

 

大鳳の顔色が変わる…

 

 

 

 

「〜♪♪」

 

鼻歌まじりで、パパの部屋を弄る少女が一人

 

「おじ様、ホントに身持ち固い。全然面白くな〜い‼︎」

 

パパの部屋をガサゴソ弄くるが、何一つやましい物が出て来ない

 

不正書類や犯罪臭のある物なんか当然無いし、ましてやエッチい本の類いも出て来ない

 

「貴様だな。舞鶴の提督は。ここで何をしている⁇」

 

部屋を弄っていた少女の後頭部に、ライフルの銃口が突き付けられた

 

「うわぁ〜‼︎武蔵だ‼︎おじ様凄〜い‼︎」

 

「おじ様⁇あっ…」

 

「むふふ…やっぱりおっきい」

 

少女は武蔵の胸部装甲を持ち上げ、そのまま揉み始めた

 

「き…きしゃま…」

 

「ここ弱いんだ…それっ‼︎」

 

「あっ…‼︎」

 

「離してやれ…」

 

「おじ様〜‼︎」

 

少女が私に抱き着く

 

「こらこら」

 

「おじさま⁇」

 

たいほうが不思議そうな顔をしている

 

「この子は姪っ子の舞ちゃんだ」

 

「舞鶴の提督ですっ‼︎よろしくね‼︎」

 

「提督、お土産を渡さないと」

 

大鳳が何かの袋を彼女に渡した

 

「あぁ、そうだった‼︎はい、おじ様‼︎」

 

「これは⁇」

 

中には長方形の箱が二つ入っている

 

「間宮の羊羹‼︎美味しかったよ‼︎」

 

「…」

 

確か、ここから舞鶴は結構な距離があったはず…

 

横須賀だって、タンカーで数時間かかるのに…

 

「大丈夫ですよ。私達は二式大艇で来ましたから。腐ってません」

 

「お〜い、はまかぜ〜‼︎」

 

「はい」

 

「食事が終わったら、人数分に切ってくれ」

 

「はい」

 

はまかぜに羊羹を渡した後、本題に入った




舞ちゃん…舞鶴から交流に来た、パパの姪っ子

強力な新型艦載機と共に、二式大艇でやって来た舞鶴の提督

パパに強い憧れを抱いており、急に行方不明になったパパをずっと探していた

提督になる前は、長い間引き篭もりの時間が長かった為、パソコン等を弄るのが得意

パソコンを弄る時や、何かをする時に鼻歌を歌う癖があるが、決して”マッピーメドレー”ではない


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特別編 Battle・Of・Knights(3)

「お前だな⁇無人の艦載機を飛ばしたの⁇」

 

「ごめんなさい…どうしても、おじ様の力を見たかったの…」

 

「まぁいい。死なない程度には可愛がってやるさ」

 

彼女の頭を撫でると、嬉しそうな顔をした

 

彼女がまだ小さい頃に何度も会った事があるが、相変わらず撫でられると喜ぶ癖は治ってないみたいだ

 

「俺はちょっと風呂に入ってくる。たいほう、大人しくしてるんだそ」

 

「ようかんたべていい⁉︎」

 

「その前にご飯だ。みんなで食堂に行きなさい」

 

「行くぞ、たいほう」

 

「うんっ‼︎」

 

「私も〜‼︎」

 

ドアが閉められ、私と大鳳が残った

 

「…良い艦載機だ」

 

「震電改です。貴方の機体も、僚機も、良く熟練されています」

 

「そう、ありがとう」

 

「提督から、よく話を聞きます。私のおじ様はパイロットで、とても強いのだと」

 

「もう何年も前の話だ…」

 

煙草に火を点け、窓際に寄った

 

「海は…綺麗だな」

 

「えぇ、とても」

 

「空も綺麗なんだ。青くて、何も無い」

 

「海も同じです。青くて、遥か彼方まで水平線です」

 

「…いつか、海が狭くなる」

 

「海が、ですか⁉︎」

 

大鳳は驚いた顔をする

 

そりゃそうだ

 

海も空も果てし無く広い

 

それをいきなり、狭いだなんて言われたら…

 

「撃墜された時、空が狭かった…気を付けろよ。敵に攻撃するのは止めない。俺はしないだけだからな」

 

「…」

 

「ま‼︎そう深く考えなくても、嫌でもその内分かるさ。」

 

「は、はぁ…」

 

「さぁ、行こう‼︎今日は妖精達とはまかぜがお寿司を握ってくれてる」

 

「お寿司‼︎」

 

どうやら大鳳はお寿司が好きな様だ

 

食堂に入ると、武蔵の横でたいほうがお寿司を食べており、その前で舞ちゃんが食べていた

 

「たいほうちゃん、これは⁇」

 

舞ちゃんがお寿司を指差す

 

「おすし‼︎」

 

「これは⁇」

 

次は武蔵を指差す

 

「むさし‼︎」

 

「これは⁇」

 

再びお寿司を指差す

 

「おすし‼︎」

 

「これは⁇」

 

再び武蔵を指差す

 

「むさし‼︎」

 

「これは⁇」

 

3度目のお寿司‼︎

 

「むさし‼︎」

 

「これは⁇」

 

3度目の武蔵‼︎

 

「おすし‼︎」

 

「たいほうで遊ぶな」

 

「ははは」

 

「パパ、おすしおいしいよ‼︎」

 

「たいほうはどれが好きだ⁇」

 

「えびさんと、たまご‼︎」

 

「大鳳はどれが好きだ⁇」

 

「あ、えっと…ハマチとイカを…」

 

小皿に二つを乗せ、大鳳に渡した

 

「ありがとうございます。頂きます」

 

「大鳳、あ〜ん」

 

舞ちゃんはマグロを取り、大鳳の口元に持って行っている

 

が、大鳳は頑なに口を開けない

 

「や、やだ。恥ずかしいわ…」

 

「パパ、あ〜ん‼︎」

 

彼女を真似してか、たいほうは玉子を取り、私の口元に持って来た

 

「あ〜ん‼︎」

 

「おいしいね‼︎」

 

「美味しいな‼︎」

 

「フッフッフッ…私の提督はいつもこんな感じだ。あ〜んなど、何も恥ずかしくない‼︎」

 

「…あ〜ん」

 

大鳳は顔を真っ赤にしながら、舞ちゃんの取ったマグロを口にした

 

 



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15話 雀と雄鳥(2)

「はいっ」

 

二人は小指を絡め、指切りげんまんをした

 

「やくそくだよ⁉︎」

 

「分かった」

 

「あら、隊長」

 

「お疲れ様」

 

現れたのは、女性のパイロット

 

どうやら戦闘機から降りて来たみたいだ

 

「足はどうです⁇」

 

「リハビリがてら出て来ただけだ。まだ完全じゃない」

 

「この娘は⁇」

 

「びすまるく‼︎」

 

「あぁ…研究室で造っていた」

 

「まだ生まれたての赤ちゃんみたいなもんだ」

 

彼女は膝を曲げ、ビスマルクに話しかけた

 

「ビスマルクちゃんは何が好き⁇」

 

ビスマルクと彼女が話している最中、机の隅に置いてある物に気が付いた

 

「ひこうきとばうむくぅへん‼︎」

 

「そう‼︎飛行機が好きなのね‼︎」

 

「ひこうきはね、おそらとんで、びすまるくをまもってくれるの‼︎」

 

「隊長」

 

「ん⁇」

 

「この娘、私に下さい‼︎」

 

「ダメ」

 

「ぐぬぬ…」

 

「ビスマルク」

 

「ん⁉︎」

 

「これをやる。使いさしだが、まだ充分使える」

 

渡したのは、クレヨンとスケッチブック

 

スケッチブックの中には、過去に私が趣味で書いた戦闘機の絵が沢山ある

 

「おえかきする‼︎」

 

「お部屋に帰ってからな」

 

「うんっ‼︎」

 

スケッチブックとクレヨンを大事そうに抱いているビスマルクと共に、ようやく研究室に着いた

 

ちょっと歩いただけなのに、もう足が限界だ

 

「今日はお別れだ」

 

「またあしたもあえる⁇」

 

「体調が良かったらな」

 

「おやすみ、たいちょう」

 

「おやすみ」

 

彼女を見送った後、私は病室に戻った

 

「どうでしたか⁇」

 

そこには横須賀君が待っていた

 

「いいリハビリになりそうだ」

 

「彼女はすぐに成長します。明日になったら、言語も身体機能も発達して…」

 

「楽しみだな…」

 

「今日の彼女は産まれたての状態ですからね。もう数日すれば、実戦に参加出来ます」

 

「実戦って…海にほっぽり出すのか⁉︎」

 

「えぇ…上層部が決めた事ですから」

 

「そっか…」

 

「さぁ、今日はもうおやすみになって下さい」

 

「ん…」

 

横須賀君は私の布団を掛け直した後、部屋を出て行った

 

「実戦参加、か…」

 

航空戦力でさえ叶わなかったのに、あんな柔そうな少女に一体何が出来るのだろう…

 

「隊長さん、起きなさい」

 

「ん…」

 

ちょっと命令口調気味の女性の声で目が覚めた

 

「昨日貰ったスケッチブックに絵を描いてみたわ。ほら」

 

寝ぼけ眼でスケッチブックの中身を見た

 

昨日格納庫にあった機体が、綺麗に描かれている

 

T-50…だったかな⁇

 

「この機体は美しいフォルムをしているわ。気に入った」

 

「誰だ‼︎」

 

ようやく気が付いた

 

容姿は確かにビスマルクに似てはいるが、口調とかが全く違う

 

「寝る子は育つのよ、隊長さん」

 

「本当にビスマルクなのか⁇」

 

「昨日、隊長さんと初めて見た飛行機はF-15、イーグルだったわ。その後、T-50を見たわ」

 

どうやら本物らしい

 

「疑って悪かったな」

 

「今日は海に行きましょう。私が連れて行ってあげるわ‼︎」

 

ビスマルクに支えられ、ゆっくりだが何とか立ち上がった



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15話 雀と雄鳥(3)

「杖を取ってくれ」

 

「はい」

 

「悪いな」

 

これじゃあまるで、介護されているみたいだ

 

空は遠いな…

 

「ゆっくりでいいわ」

 

「大丈夫。じきに慣れる」

 

朝が一番辛い

 

体が中々覚えてくれないのか、しばらくは真っ直ぐ歩けない

 

「着いたわ。いいリハビリになったかしら⁇」

 

病院から海は目と鼻の先にある

 

それでも埠頭まで30分程かかった

 

「あぁ…ちょっと疲れた」

 

「今日は座っても楽しめる物を持って来たわ‼︎これよ‼︎」

 

ビスマルクの背負っていたリュックサックから、釣竿が出て来た

 

「なるほど…これなら楽しめるな」

 

「じゃあ、私はここで絵を描いてるわ。しばらくしたら、レストランでお昼にしましょ」

 

釣り糸を垂らし、ボーッとウキを眺める

 

後ろでは、ビスマルクが何かを書いている

 

「早く釣りなさい」

 

「言われて釣れるもんじゃない」

 

またしばらくの沈黙が続く…

 

ビスマルクは黙々とペンを走らせ、私は時たま揺れるウキに何度も反応していた

 

「ねぇ…」

 

ビスマルクが急に口を開いた

 

「ん⁇」

 

「私は、戦う為に産まれたの⁇」

 

「…」

 

ビスマルクの急な質問に、息が詰まりそうになった

 

「隊長さん⁇」

 

「ビスマルクは、戦いたいか⁇」

 

「そうね…戦いはした事無いけど、私はお絵かきしてる方が幸せかな⁇」

 

私はウキを見ながら、あの日の事を思い出していた

 

「俺は…もうゴメンだ」

 

「そんなに辛かったの⁇」

 

「…昨日、一緒に笑って、一緒にビールを飲んだ仲間が、次の日にはもう居ないんだ。二度と相見える事もない。戦いってのは、そんな事が日常で起きる。ビスマルクは、明日俺に会えなくなったら、どう思う⁇」

 

「困るわ‼︎誰が私に色んな事を教えるのよ‼︎」

 

「それがビスマルクの答えだ。戦いは、好きな奴にやらせればいい」

 

「そう…」

 

「来た‼︎」

 

ようやくウキが沈み、竿を引き上げた

 

「お…」

 

「あら、小さい」

 

釣り上げたのは、小さな小さなイワシみたいな魚だった

 

「行け」

 

針を外し、そのまま海へ返した

 

「ご飯にしましょう‼︎横須賀君から、ちょっとだけお金を貰って来たわ‼︎」

 

「それくらい出してやる。よいしょ…」

 

釣竿を片付け、ビスマルクに返すと、スケッチブックを渡して来た

 

「上手かしら⁇」

 

ビスマルクが描いていた絵は、釣りをしている私の後ろ姿だ

 

「これは…」

 

「もちろん隊長さんよ‼︎男前に描きすぎたかしら⁇」

 

「これ位が丁度良い」

 

「さ、行きましょ」

 

病院の近くに建てられたレストランに向かう道中、またしてもスクランブルの機体が上がって行く…

 

「あの機体は⁇」

 

「あれはF-22。名前はラプターだ」

 

「T-50と形が似ているわ」

 

「T-50はロシア、F-22はアメリカの戦闘機だ。どっちもステルス性能が極めて高い」

 

「ステルスってのは、レーダーに映らないのよね⁇」

 

「勤勉だな」

 

「さ、着いたわ」

 

店内は空調が効いていて、とても涼しい

 

「私はハンバーグ。隊長さんは⁇」

 

「俺はスパゲッティ」

 

店員が去ると、ビスマルクは何かを取り出した

 

「これは何て機体⁇」

 

「これはMig-29。名前はファルクラム。量産機だ」

 

ビスマルクが出したのは、小さな戦闘機のおもちゃだった

 

「これは⁇」

 

「これはF-16。名前はファイティングファルコン。マルチロール機だ」

 

「ホントに詳しいのね‼︎」

 

「俺は…」

 

Mig-29のおもちゃを手に取り、ビスマルクの前に出した

 

「こんな機体を、何十何百と相手して来た。嫌でもその内分かった…」

 

「…」

 

ビスマルクはため息を一つ吐くと、おもちゃを仕舞い始めた

 

「ご飯が来たわ‼︎」

 

「あぁ…」

 

その時私は何故か分からないが、Mig-29のおもちゃをポケットに入れてしまった

 

「美味しいわね‼︎」

 

「俺のも食べるか⁇」

 

「いいわ。食べて強くなりなさい」

 

「それは俺のセリフだ」

 

「ご飯を食べたら、私は帰るわ」

 

「そっか…」

 

私はゆっくり食べた

 

何度もドリンクバーに行き、時間を費やす

 

昨日の横須賀君の言葉が、どうしても気にかかったからだ



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15話 雀と雄鳥(4)

「ビスマ…」

 

急に視界がおかしくなる

 

世界が真っ赤に染まる…

 

「隊長さん⁉︎隊長さん‼︎」

 

ビスマルクが呼ぶ方に手を伸ばす

 

「大佐‼︎」

 

横須賀君が来た瞬間、完全に視界が真っ暗になった

 

 

 

 

 

「はっ‼︎」

 

「目が覚めましたか⁇」

 

目が覚めると、横には横須賀君がいた

 

「どれ位眠ってた」

 

「丸3日ですよ。まだ体が慣れていない証拠ですね」

 

「ビスマルクは⁇」

 

「…」

 

私の問いに、横須賀君は下を向いたまま黙っていた

 

「どうした⁇」

 

「貴方が眠った次の日、遠征に出したのですが、それから連絡がありません」

 

「捜索隊は出したか⁇」

 

「えぇ。連日連夜出しています」

 

「海だけか⁇」

 

「いえ。上空からも捜索していますが…あまり遠くには行けません」

 

「…」

 

予感は的中した

 

何故だろうな

 

昔から、悪い予感だけは必ず当たる

 

あの日だって、一瞬頭によぎった不安が現実になってしまった

 

「T-50を一機、俺にくれないか⁇」

 

「ダメです。大佐は足が…」

 

「根性で何とかなる」

 

「とにかくダメです。T-50は高価ですから。さ…」

 

横須賀君は私に布団を被せた

 

私はそれを振り払い、横須賀君の胸倉を掴んだ

 

「俺の操縦に不満があるのか」

 

「落としでもしたら、今度は本当に死にます‼︎」

 

「俺が落とすと思うか」

 

「それは…」

 

「T-50は確かに高価だ。良い機体だ。一目で分かる。だがな、戦闘機は代えが効く。ビスマルクは一人だ。あいつだけだ‼︎」

 

「…」

 

「頼む‼︎」

 

「…2時間です。2時間だけT-50を一機、試験飛行に移します。それに乗って、捜索して下さい」

 

「すまん」

 

「全く…」

 

横須賀君は私の手を解き、服を正した

 

「貴方の腕と、その戦術的勘は、私には持てなかったですからね…」

 

横須賀君が去った後、私は常に用意していたパイロットスーツに着替え、格納庫に向かった

 

「機体は⁇」

 

「これです」

 

黒いボディに、滑らかな曲線美

 

エンブレムは無印だが、この際構わない

 

「上空でのコールサインは、私は”クラーケン”大佐は…」

 

「イカロスでいい」

 

「…ではイカロス。スタンバイ‼︎」

 

機体に乗り込み、操作法を確認する

 

何とかなりそうだな…よし‼︎

 

「イカロス機、出る‼︎」

 

《格納庫から、T-50、イカロス機が発進します。各員、持ち場を離れて下さい》

 

格納庫から出た瞬間、思い切りアフターバーナーを焚き、空に帰った

 

「あぁもう全く‼︎昔の癖が抜け切ってないっ‼︎」

 

大佐は昔からいきなりアフターバーナーをふかす癖があった

 

確かに離陸しやすくはなるが、辺り一面に書類が舞っている

 

「今のは隊長さん⁉︎」

 

「そうだよ‼︎あぁもう‼︎各員、書類を片付けろ‼︎」

 

「T-50があんな機動するなんて‼︎」

 

書類を集めていた隊員達が、空を見上げた

 

大佐の乗ったT-50は、美しいまでに円を描き、数回宙返りをした後、一瞬で空の彼方へ消えて行ってしまった

 

「やっぱり大佐だ…」

 

「綺麗…」

 

 

 

 

 

「さて…」

 

機体の中で、私はレーダーに目をやっていた

 

流石は高性能だな

 

漁船の位置やら、遠方の駆逐艦の位置まで丸分かりだ

 

「………る⁇だ……お」

 

「ビスマルク⁇」

 

敵のジャミングなのか、無線の先からかすれた声が聞こえて来た

 

「こちらイカロス、応答せよ。繰り返す、こちらイカロス」

 

「………たわ‼︎…………ダ……な…の」

 

「何だ…ここは…」

 

レーダーには全く映らないが、一つ島がポカンと浮かんでいた

 

「何だこの島は…レーダーが効かない‼︎」

 

「……ん‼︎…こよ‼︎」

 

島に近付くにつれ、無線の声も強くなって来た

 

「隊長さん‼︎ここよ‼︎」

 

「ビスマルク‼︎」



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15話 雀と雄鳥(5)

「近くに滑走路があったわ」

 

ビスマルクが指差す方向に向かうと、ほぼほぼ原っぱの滑走路があり、そこに機体を降ろした

 

「どこほっつき歩いてた⁉︎」

 

「ごめんなさい…レーダーが効かなくなって…」

 

「心配掛けさせるな‼︎」

 

「ごめんなさい…」

 

「…しかし、いい風が吹いてるな」

 

「見せたい物があるの。来て」

 

機体から降りた瞬間、ビスマルクに手を引かれ、洞窟に連れて行かれた

 

「ゆっくりでいいわ」

 

「大丈夫…」

 

ビスマルクの手は、私の腕をしっかり握っていた

 

まだ数日前の事なのに、小かった時が懐かしく感じる…

 

「ほら、これよ‼︎」

 

「おぉ…」

 

洞窟の内部には、至る所にレアメタルがあった

 

どうりでレーダーが効かないはずだ…

 

こいつが邪魔してたんだ…

 

「多分、私のレーダーもこれでダメになったみたい」

 

「だろうな…HUDもイカれてらぁ」

 

手に持ったHUDも、辛うじて私達を映し出してはいるが、後はメチャクチャだ

 

「一応、座標を書いておいたわ‼︎ほらっ‼︎」

 

リュックサックの中から出て来たスケッチブックには、ここまでの地図が描かれていた

 

「ここが基地でしょう。ここがこの島」

 

うつむいた顔は、まだ小かった時の面影があるな

 

相変わらず下を見ると、口が尖って見える

 

「新しい遠征先になるな」

 

「さ、帰りましょう‼︎」

 

「上から案内してやる。見失うなよ⁇」

 

「大丈夫よ」

 

再び機体に乗り、ビスマルクが海上に浮かんでいるのを確認した後、空に戻った

 

「あ〜ぁ〜メチャクチャだ…しっかり動け〜‼︎」

 

二度レーダーを叩く

 

「精密機…よ。乱暴にし……ダ…よ」

 

「ったく…目視で基地が見えなかったら終わりだな…」

 

《イカ……機。…答せよ‼︎》

 

イカれた無線の先は、恐らく横須賀君だ

 

「こちらイカロス。ビスマルクを発見した。事情により、レーダーが効きにくい。クリアなるまでもうしばらく待ってくれ」

 

《………た。護衛……した‼︎》

 

「しっかりしてくれ…ったく」

 

「だんだ…リア…くわ‼︎」

 

「おっ」

 

徐々にレーダーが治って来た

 

「レーダークリア‼︎隊長さん、ありがとう‼︎」

 

「お家に帰るまでがお仕事だぞ」

 

「そうね。ちゃんと案内してちょうだい」

 

「後2kmだ」

 

《クラーケンよりイカロス機。護衛機がそちらに向かっている。合流して、後方の警戒は彼等に任せろ》

 

「了解した」

 

数十秒後に、三機のF-35とすれ違った

 

これで安心して帰れるな…

 

「今の機体は⁇」

 

「F-35 ライトニングⅡだ。簡単に言えば、F-22の艦載機バージョンさ」

 

「アメリカの艦載機、ね」

 

「そう。じゃあ、後で会おう」

 

「えぇ」

 

無線の周波数を管制塔に切り替えた

 

「お帰りなさい、隊長」

 

「降りるぞ。何番が空いてる⁇」

 

「三番滑走路が空いています」

 

「了解した。フラップ…ギア‼︎」

 

機体によって着陸法が違ってくるが、先程も着陸したので、何とかなりそうだ

 

「着陸確認。お疲れ様です」

 

「ふぅ…」



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15話 雀と雄鳥(6)

一息ついて機体から降りると、横須賀君がいた

 

「ぴったり二時間です」

 

「申し分ない機体だな」

 

「さぁ、今度こそベットに…」

 

「ビスマルクに飯食わしてやれ」

 

「え⁇」

 

「ビスマルクに飯食わしてやれって言ったんだ。数日食ってないだろ⁇」

 

「ふっ…」

 

横須賀君は、私を見て鼻で笑った

 

「鼻で笑いやがったな⁉︎」

 

「あ‼︎いや‼︎」

 

「早く行ってやれ」

 

「了解‼︎」

 

横須賀君は走ってビスマルクの元に向かって行った

 

「さて、俺は…」

 

 

 

 

 

テンポの良い曲が部屋に流れ、手元には熱いコーヒー

 

「うん。これでこそ生きてるって奴だ」

 

久し振りに自室に戻った私は、窓際でタバコを吸いながら、コーヒーを飲んでいた

 

空から帰った直後は、何故か飲みたくなる

 

「隊長さん」

 

相変わらずリュックサックを背負ったビスマルクが入って来た

 

私は机に置いてあるブルーベリーケーキを2つ切り、椅子に座った

 

「まぁ食べろ」

 

「いただきます」

 

食べ方も変わってないな

 

まるで、成長した自分の娘を見てるみたいだ

 

「ありがとう、隊長さん」

 

「あんまり心配かけるなよ⁇」

 

「うん…」

 

しばらく無言が続く

 

時間にして数分が経った時、ビスマルクが口を開いた

 

「帰りに見た機体、あれは…」

 

「ステルス機さ。レーダーに引っかからない」

 

「最近の主流はステルスなのね」

 

「そう。何でも見えないのが当たり前の時代なんだよ…」

 

コーヒーを飲み、ビスマルクの顔を見ると、何だか悲しそうな顔をしていた

 

「私、艦娘に向いてないのかなぁ…」

 

「…」

 

「実はね…」

 

ビスマルクは話し始めた

 

砲撃が致命的に下手な事

 

難しい計算が出来ない事

 

料理の方が好きな事

 

「人には向き不向きってのがある。無理する必要は無いよ」

 

「でも、私は…」

 

座ったビスマルクの前にかがみ、彼女の手を取った

 

「お前は…人だ。兵器なんかじゃ無い。もし艦娘に向いていなかったら、違う道を選べばいい」

 

「はは…何言ってるの⁇私は兵器よ⁇あっ…」

 

私は彼女の頭を撫でた

 

「こんな美しい子が、兵器であってたまるか。犠牲になるのは、俺達だけでいい」

 

「私、してみたい事があるの」

 

「何だ⁇」

 

「言わない。でも、いつか教えてあげる」

 

「そっか…」

 

「隊長さん」

 

「ん⁇」

 

ビスマルクが急に唇を合わせて来た

 

「さっきのお礼よ」

 

「…サンキュ」

 

「さっ‼︎私は戻るわ‼︎じゃあね‼︎」

 

扉が閉まる

 

また一人に戻る

 

 

 

 

「さようなら、隊長さん…」

 

隊長さんとのキスは、タバコの味がしたわ…

 

忘れないわ…私

 

ビスマルクのリュックサックの中に、封筒が一つ

 

中には、上層部が書いた除隊の書類が入っていた

 

 

 

次の日の朝…

 

「どういう事だ‼︎ビスマルクを何処へやった‼︎」

 

「えっ‼︎隊長⁉︎」

 

朝から基地に怒号が響いた

 

私は格納庫付近で機体のチェックの指示をしていたが、隊長の声は良く聞こえた

 

「後は任せた」

 

近くに居た士官に書類を渡し、司令室に駆け足で向かった

 

「使えぬ”物”を置いておく程、余裕は無いのでね」

 

時既に遅し

 

隊長はビスマルクに対して除隊を命令した上官の胸倉を掴んでいた

 

「テメェ…」

 

隊長が腰のピストルを抜いた‼︎

 

マズイ、本当に殺る気だ‼︎

 

「隊長‼︎やめて下さい‼︎」

 

「えぇぃ‼︎」

 

二人を無理矢理引き剥がした

 

だが、まだ隊長の手にはピストルが握られている

 

「ビスマルクは物じゃねぇぞ‼︎」

 

「使えぬ奴は物と同じだ‼︎”あれ”はドイツから来た兵器だ‼︎」

 

「兵器なら尚更世の中に放り出した‼︎」

 

「くっ…」

 

「痛い目見ねぇと分からねぇみたいだな…」

 

隊長は再びピストルを構えた

 

私は咄嗟にピストル掴み、隊長の前に立った

 

「隊長。私から説明しましょう」

 

「何だ」

 

「ビスマルクは、自分から社会に出たのです。自分は兵器だが、兵器に向いていない。だから、一度社会に出てみたい、と」

 

「帰って来るのか⁇」

 

私は首を横に振った

 

「恐らくは…もう」

 

「チクショウ‼︎」

 

それからしばらくして隊長は、艦娘を学ぶ為、一から勉強をやり直し始めた

 

私はその間、新しい艦娘を任され、いつの間にか最強の艦隊になっていた…



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16話 籠の中の雛鳥Ⅱ(1)

さて、15話が終わりました

ビスマルクの話、少し長かったですかね⁇

ここからはしばらく戦闘シーンに入ります

誰が戦うのか、お楽しみにわ


「返しそびれたな…」

 

私はポケットから戦闘機のおもちゃを取り出した

 

あの時ファミレスでポケットに入れてしまった物だ

 

「あら、ファルクラムじゃない。失くしたと思ったら、隊長さんが持ってたのね」

 

「何か食うか⁇」

 

「待って」

 

彼女は咄嗟に私の服の裾を掴んだ

 

まだ彼女が小さかった時の記憶が、一気に甦る…

 

「一人にしないで」

 

「全く…」

 

私を横に座らせて、本人は再びフランクフルトを頬張り始めた

 

あの日、私が釣りをしていた時の様に、海は静かだ

 

「今は何してるんだ⁇」

 

「聞きたい⁇」

 

「そろそろいいだろ⁇」

 

フランクフルトを飲み込み、リュックサックからスケッチブックを出した

 

「見て」

 

スケッチブックの中身は、風景や建物、そして所々に戦闘機の絵が描いてある

 

「しばらくは絵を売りながら世界を旅してたの。それが結構好調で、しばらくは暮らせるまで稼げたの」

 

「凄いじゃないか‼︎」

 

「それでね、この間とある街に行った時、廃艦の受け入れをしている街があったの。今はそこで暮らしてるわ」

 

その街には心当たりがあった

 

「なら、みほや瑞鳳とも知り合いか⁇」

 

「あら、知り合い⁇」

 

「…故郷だからな」

 

「いい街よ、あそこは‼︎色々な文化や時間が行き交ってるわ‼︎」

 

「そっか。まぁ、お前が幸せなら、それでいい」

 

「戦争が終わったら帰るのでしょう⁇」

 

「どうかな…」

 

「戦争が終わったら、私と一緒に暮らしましょう⁇今度はどこにも行かないわ」

 

「ん…」

 

「ね…れいろ…」

 

「ビスマルク‼︎」

 

急に彼女の呂律が回らなくなり、その場に倒れた

 

「何だ…」

 

辺りが騒がしい

 

ビスマルクをお姫様抱っこし、BBQの会場に戻った

 

「何だ…これは…」

 

ある提督は悲鳴を上げ

 

ある提督はパニックになり

 

ある提督は艦娘に呼び掛けている

 

「どうなってる‼︎」

 

一つだけ分かるのは、大半の艦娘の機能が停止している事だけ

 

…一人を除いて

 

「提督よ‼︎一体どうなっている‼︎」

 

現れたのは、たいほうを抱えた武蔵

 

「分からん」

 

「何故私は停止しない」

 

「それも分からん」

 

「大佐‼︎」

 

紙切れを持ち、息を切らした横須賀君が此方に向かって走って来た

 

「これを」

 

”テキ ジャミング カンムス ネムル”

 

「誰からだ⁇」

 

「スペンサーと言う者からです」

 

「武蔵、ライトは持ってるか⁇」

 

「う、うぬ。これだ」

 

武蔵の手からライトを取り、発光信号を出した

 

「頼むスペンサー…分かってくれ」

 

何度も同じ信号を送っていると、突然空が光った

 

「来た‼︎」

 

「テキ リトウ ムサシ ジャミング ムコウ」

 

「何故だ⁇」

 

「ムサシ シンカイセイカン プラス イヌミミデンタン」

 

「イヌ耳…」

 

横須賀君と揃って、武蔵の顔を見た

 

「イヌ耳電探…ね」

 

「意外に高性能なんだぞ」

 

「むっ…」

 

私の手からライトを取り、武蔵は上空に信号を出した

 

「後で殺す。謝るなら今」

 

「ゴメン」

 

「ほら、貸して」

 

「いらぬ事を聞くなよ⁇」

 

何度も発光信号の会話を繰り返している内に、事態が分かって来た

 

スペンサーが傍受した敵のジャミングには”建造”で造られた艦娘に影響を及ぼす

 

それは艦娘によって様々だ

 

ある者は眠り

 

ある者は意識を失い

 

ある者はのたうち回り

 

ある者は泡を吹いている

 

だが、どうやら深海棲艦には影響しないようだ

 

現にチェルシーが会場の隅でビクビクしている

 

それに武蔵は元深海の影響か、ジャミングが効かない。本当にイヌ耳電探が中和しているのかも知れない

 

「とりあえず動けるのは…」

 

武蔵

 

チェル…は無理か

 

「何ですか⁉︎敵の襲撃ですか⁉︎」

 

おぉ、はまかぜもいた

 

「お前の所はどうだ⁇」

 

横須賀君は首を横に振った

 

「全滅です…」

 

 



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16話 籠の中の雛鳥Ⅱ(2)

「よし、私がその”じゃみんぐ”を叩いて来てやろう‼︎」

 

「アンナイ スル スコシ トオイ」

 

「武蔵お前…」

 

「提督よ。心配するな。武器だってほら‼︎」

 

武蔵が勇ましく携えていたのは、主砲では無く手持ち式の大砲

 

迫撃砲やガトリング、後は高威力の速射砲が撃てる代物だ

 

後、背中に何か携えている

 

「そんなもんで大丈夫か⁇」

 

「艤装の予備ならありますよ⁇」

 

「前の空爆の時もこいつを使ったんだ。愛着もある」

 

「…分かった。何かあったらすぐに連絡するんだぞ⁉︎」

 

武蔵の頭を撫でると、イヌ耳電探がピクピクと動いた

 

「では、行ってくるぞ‼︎」

 

勇ましく大海原に出た武蔵

 

「私は倒れた人の介護に参ります」

 

はまかぜは持っていた救急箱を持ち、会場に消えて行った

 

「さて…俺達は、と…」

 

「艦娘達の介護は彼等に任せましょう。大佐、貴方にお話があります」

 

横須賀君の提督室に行くと、大きな海図を机の上に広げ、近くに無線機を置いた

 

「レーダーを利用してスペンサーの位置を、大まかですが把握出来ます」

 

「奴に無線を持たせていない」

 

「それなら大丈夫です。武蔵のレーダーが強力です。自動で私の無線に繋いでありますからね。後、何故か武蔵から強力なジャミングが発生しています」

 

「ジャミングか…あまり聞きたく無いな」

 

「ごもっともです…我々の弱点でしたからね」

 

我々空軍にとって、ジャミングは強力な敵だ

 

レーダーはイカれるわ、ロックオンはできないわ、とにかく電子機器が狂ってしまう

 

嫌な思い出だ…

 

しばらく二人して黙っていると、無線に反応が出た

 

《武蔵だ。島らしき場所が見える》

 

「ジャミングレベルを調べてくれ」

 

《高いな。おそらくここで間違い無いだろう。すぺんさー、パパの所に帰るんだ》

 

無線の先でエンジン音が微かに聞こえた

 

スペンサーは音速を超えられる

 

ここまであっという間だろう

 

「了解した。護衛と迎えを向かわせる」

 

《それまでには終わらせるさ‼︎》

 

そう言い残し、無線が切れた

 

「座標は…B…こっちが…ここです‼︎大佐、ギリギリ海図に載っている小島です‼︎」

 

海図には、確かに小さな小島が載っている

 

横須賀君は再び無線を取り、何処かに繋いだ

 

「大型レーダー起動。立体化して出してくれ」

 

《了解しました‼︎海図を退かして下さい》

 

明石の声がした後、海図を退かせると机の上にその小島が出てきた

 

「凄いな…」

 

「これが最新技術のレーダー同期システムですよ」

 

立体化された小島や海に触れると、手にそれが写る

 

最新技術は凄いな…

 

「いた、武蔵です」



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16話 籠の中の雛鳥Ⅱ(3)

「立体でも歩き方怖いな…」

 

「貫禄がありますね」

 

立体武蔵を見ていると、ふと武蔵が耳に手を当て、横須賀君の無線が付いた

 

《今から内部に進入する。それと、私の歩き方に貫禄などない。普通だ》

 

「筒抜けだぞ‼︎」

 

「わ、悪かった‼︎こちらでは現在、内部のデータを取っている。状況が分かり次第、追って知らせる。まずは脅威レベルの低下を優先してくれ」

 

《了解した。でーたをりんくする》

 

「了解した。行くぞ‼︎データリンク‼︎」

 

横須賀君の合図と共に、小島に何やら表示が現れた

 

どうやら脅威となる兵器の細かな位置が立体表示されたみたいだ

 

「反応…unknown、か…武蔵、片っ端から潰せ‼︎責任は私が取る‼︎暴れまくれ‼︎」

 

《待ってたぜ‼︎行けぇ‼︎》

 

砲撃音がした後、立体映像からunknown表示が二つ消えた

 

「迫撃砲、対空機銃を破壊。脅威レベル低下。その調子だ‼︎」

 

《人が来たぞ》

 

武蔵は壁に隠れ、何やら背中を弄っている

 

「unknownが動き回ってるぞ」

 

「これは…⁉︎」

 

《武装した男が二人だ。どうする⁇》

 

「捕まえて尋問出来ないか⁇」

 

《止まれ‼︎》

 

武蔵は手持ちの大砲を向けた

 

無線の先から”敵襲”と言う言葉が聞こえた

 

「武蔵、武蔵〜‼︎」

 

《クソっ‼︎敵が逃げた‼︎》

 

「仕方無い…足だ‼︎足を狙え‼︎」

 

《了解した‼︎》

 

何十発もの銃声の後、鈍器で殴る音が二回聞こえた

 

《じゃみんぐはどこだ‼︎へし折るぞ‼︎》

 

《む、向こうです‼︎》

 

《いい子だ。おやすみ‼︎》

 

また二回鈍器で殴る音がした

 

「大佐」

 

横須賀君が珍しくジト目で見てくる

 

「あれじゃあ尋問じゃなくて拷問です」

 

「け、結果オーライだろ⁇」

 

「とにかく、作戦を続けます」

 

《あんのうんは、後どれ位ある⁇》

 

「後8個だ。なるべく交戦を避けながら、奥を目指してくれ」

 

《了解した》

 

「しばらくは武蔵に任せましょう。私達はレーダーで内部状況を把握しましょう」

 

流石の最新レーダーでも、内部状況となるとしばらく時間がかかるみたいだな

 

緊迫しなければいけない状況なのに、何故か私達は落ち着いていた

 

「吸うか⁇」

 

「すみません…」

 

タバコに火を点け、互いに紫煙を吐く

 

「出撃の前はいつもこうして、タバコを吸ってから出てましたね…」

 

「願掛けと魔除けだ。悪魔は煙を嫌う」

 

「なるほど…」

 

《ちくしょう…大量にいるな。おい、横須賀君よ‼︎どうする⁉︎》

 

「反応の数は⁉︎」

 

《二十はいるな。設置式の機銃を持って来ている。設置するぞ》

 

無線の向こうで、何やらカチャカチャ音がする

 

背中に携えていたのは、どうやらセントリーガンみたいだ



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16話 籠の中の雛鳥Ⅱ(4)

《来た‼︎隠れる‼︎》

 

「武蔵‼︎」

 

間髪入れずに爆発音が聞こえた

 

「武蔵‼︎おい、武蔵‼︎」

 

《機銃が破壊された。攻撃に移る‼︎》

 

「解析が完了した‼︎武蔵、奴等はテロリストだ‼︎武装もしている」

 

《てろりすとは、危ない連中だったな》

 

「そうだ‼︎やり返せ‼︎」

 

《うぉぉぉぉぉお‼︎》

 

銃声が聞こえたと思えば、立体映像からどんどん反応が消えて行く

 

「敵勢力40%まで低下‼︎いいぞ、そのまま行け‼︎」

 

《ぐぁっ‼︎》

 

「武蔵‼︎大丈夫か⁉︎」

 

《あぁ…ろけっとで撃たれただけだ》

 

「まだいけるか⁇」

 

《大丈夫だ。まだかすり傷だ‼︎》

 

「頼んだよ、武蔵。あと少しなんだ‼︎」

 

《横須賀君よ。私はあの、はんばぁがあをたらふく食べるまでは死ねんのだ》

 

「分かった。沢山用意しよう」

 

《ふっ…ではまたな》

 

無線が切れる

 

「武蔵…」

 

「やはり単身で送り出したのは間違いでした…」

 

「あいつは出来る”女”だ。必ず帰って来る」

 

「今は信じて待ちましょう」

 

 

 

 

 

謎の小島・中央制御室

 

「進入者だ‼︎強力な武装を装備している‼︎」

 

「くらえっ‼︎」

 

「ぐぁっ‼︎」

 

兵士が三人、軽々と壁に叩き付けられる

 

「どうした⁇もっと撃って来い‼︎」

 

「ちくしょう‼︎あいつは一体何だ‼︎銃弾が全く効かん‼︎」

 

「艦娘だからな‼︎そらっ‼︎」

 

今度は二人殴り飛ばされる

 

後ろから銃弾を飛ばしても、武蔵の身体に当たっては地面に落ち、反撃を喰らう

 

兵士達は蜘蛛の子を散らすように逃げ回り始めた

 

「こ、これでもくらえ‼︎」

 

「うっ‼︎」

 

一人の兵士が携帯式のロケット砲を撃って来た

 

くそっ…

 

この、ろけっと攻撃は嫌いだ

 

「有効弾だ‼︎全員、ロケット弾に切り換えろ‼︎」

 

「殺られる前に殺るだけだ‼︎」

 

兵士が全員ロケット弾に切り換えている最中、武蔵は大砲で機銃掃射をし始めた

 

「発射‼︎」

 

「ぐっ…」

 

一発命中した後、立て続けで数発のロケット弾が武蔵を襲う

 

煙が立ち込め、武蔵の姿は見えない

 

「はっはっはっは‼︎」

 

急に武蔵が笑い始めた

 

自慢の大砲はボロボロで、もう使い物にならない

 

電探眼鏡に至っては、レンズが吹っ飛んで何処かに行ってしまっている

 

帰ったら、パパがまた造ってくれ…

 

いや、帰れるのか…⁇

 

まぁいい

 

これでパパを護れるのなら…

 

「艤装は…もつ手間が省けたな」

 

ボロボロになり、ひん曲がった大砲を床に落とした

 

電探眼鏡も、もう要らないな

 

「さぁ、殺し合おう…か‼︎」

 

手近にいた一人に拳を当てると、防いだ腕を吹き飛ばした

 

「うわぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎」

 

「な…こいつ…”安定装置”も効かないし…どうなってんだ‼︎」

 

「深海あがりを舐めるなぁ‼︎」

 

「撤退‼︎撤退だ‼︎」

 

 

 

 

「これか」

 

奥まで行くと、パパに言われた”すいっち”があった

 

今は”おふ”になっているが”おん”に変えるとみんな動くらしい

 

「おりゃ‼︎」

 

スイッチを押す…

 

変わった、か⁇



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16話 籠の中の雛鳥Ⅱ(5)

《武蔵‼︎》

 

辛うじて無線は生きてるか…

 

「提督よ。もう大丈夫だ」

 

《すぐに迎えに行くからな‼︎待ってろ‼︎》

 

「うん…」

 

無線が聞こえなくなると、誰かの足音がした

 

「よくまぁこんなに…」

 

「横須賀…君…」

 

彼を見て安心したのか、武蔵はその場に倒れそうになった

 

「よっ」

 

横須賀君はそれを受け止め、壁際に武蔵を移動させた

 

「ざっと20人位…か⁇」

 

「お腹が…」

 

「やられたか⁉︎」

 

「空いた…」

 

横須賀君は安堵の溜息を吐いた

 

「外でチーズバーガーを準備してある」

 

「ちぃずばぁがぁ⁇」

 

「前に食べたいって言ってただろ⁇」

 

「よし、もう少し頑張ろう」

 

横須賀君に支えられ、ようやく外に出た

 

「明るいな…」

 

「ほら、あそこに」

 

横須賀君が指差す先に、何やら紙袋を二つ持った人がいる

 

「お疲れ様です‼︎こちらを‼︎」

 

紙袋を受け取り、中を開けると、包み紙で包まれた何かが沢山出て来た

 

「思ってたのと違うな…いただきます」

 

武蔵は包み紙ごとチーズバーガーを口にしようとした

 

「違います違います‼︎これはこうやって剥いて…」

 

「剥いて…おぉっ‼︎」

 

包み紙を取ると、武蔵が知っている”はんばぁがぁ”が出て来た

 

「いただきます‼︎」

 

美味しそうにチーズバーガーを一口食べた

 

「うんっ‼︎美味い‼︎」

 

二口三口でチーズバーガーをペロリと平らげた

 

「もう少し貰っていいか⁉︎」

 

「残りは船の中で。さぁ、行きましょう」

 

「うむっ‼︎」

 

チーズバーガーを頬張りながら、揚陸艦に乗り込んだ

 

これでようやく帰れる

 

久し振りに暴れられたし

 

ちぃずばぁがぁも美味しいし

 

後はパパに報告するだけだ

 

「ん⁇ん⁇」

 

いつの間にか、紙袋の中身が二つ共無くなっていた

 

「食べた‼︎」

 

近場にいた男性に紙袋を突き出した

 

「ぜ、全部ですか‼︎」

 

「全部」

 

「50個以上準備したはずなのに…」

 

「武蔵、こっちこっち」

 

横須賀君が手招きする方へ向かってみた

 

「これは何だ⁉︎ぷるぷるしている‼︎」

 

目の前には、山のように盛られた緑色のぷるぷると、茶色の液体が乗った黄色のぷるぷるがあった

 

「ゼリーとプリンさ。後一時間位で着くから、これを食べてゆっくりしてて」

 

スプーンを渡し、横須賀君は何処かへ消えていった

 

「いただきます」

 

まず、この緑色の”ぜりー”を頂こう

 

「うん‼︎この味は確か”めろん”だったな‼︎」

 

次はこの黄色のぷるぷるだ

 

「この茶色の液体はなんだ⁇…甘い匂いがするな…」

 

《武蔵》

 

「なんだ⁇」

 

横須賀君から無線が入った

 

ここに来ればいいのに

 

《悪いね。この二式大艇を動かさなきゃいけない》

 

「横須賀君は、ぱいろっとなのか⁇」

 

《そう。君達のパパの二番機だった。パパは立派な人だ。あの人が居なきゃ、私はこんな位に登り詰めていない》

 

「パパは立派だ。私にも分かる」

 

パパを褒められると、私も嬉しい

 

パパはみんなが好きだからな

 

《それよりどうだい。デザートの味は⁇》

 

「うぬ。どちらのぷるぷるも美味しいぞ‼︎」

 

話ながらも、ぜりーを口に運んで行く

 

そろそろぜりーが無くなりそうだ…

 

《そりゃ良かった。間宮もやられたからね。急ごしらえで、はまかぜにレシピを聞きながら男衆が作ったんだ。分量が多いのはそのせいさ》

 

「間宮…あぁ、そうだ横須賀君よ」

 

《なんだい⁇》

 

「何故明石は動けた」

 

《聞きたいかい⁇》

 

無線の先から時折聞こえた、”明石”と言う名

 

確か、横須賀君と結婚した艦娘だったはず

 

「それは聞きたい。あの金髪娘も倒れたからな」

 

《分かった。教えてあげよう。明石は艦娘じゃないんだ》

 

「なら、人間の女子とでも言うのか⁇」

 

《そうだ。明石は建造で産まれていない。元々…私の恋人だったのさ》

 

「そんな奴、他に居るのか⁉︎」

 

《あと一人、私の知っている限りでは存在するね》



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17話 黒い少女と青いカモメ(1)

さて、16話が終わりました

パパと横須賀君は、これからとある場所に向かいます

そこは、過去に行った事のある所でした…



P.S
更新が遅れてすみません


「人から艦娘か…」

 

《私の知ってる限り、だよ⁇もっといるかも知れないよ⁇》

 

「そうか…奥が深いな…」

 

《さぁ、基地が見えて来た》

 

下でみんなが手を振っている

 

何故か、少し懐かしい気がする…

 

二式大艇が着陸すると、横須賀君がようやく話しかけて来た

 

「武蔵。とにかく入渠してくれ」

 

「あぁ。そうさせて貰う」

 

「後…しばらくパパを借りるよ」

 

「たいほうとはまかぜを任せた…か⁇」

 

「単冠湾の提督を一時的にここの司令にした。大丈夫。彼は長年の付き合いだ」

 

「ふ…注文の多い男だ…」

 

二式大艇から武蔵が降りると、辺りは歓声に包まれた

 

武蔵は一目散にたいほうのもとに駆け寄り、抱き上げて頬擦りをしている

 

「さぁ、大佐。行きましょう」

 

「あぁ…よいしょ」

 

武蔵の代わりに乗って来た大佐を乗せ、再び機体を出した

 

「ふぅ…」

 

「どうだった⁇久し振りの空は⁇」

 

《発進するかも‼︎》

 

「えぇ…流石にこたえましたよ。私達が乗っていた戦闘機ではな…」

 

《離陸したかも‼︎》

 

「ゴホン。戦闘機ではなく、大型機ですからね。慣れないものです」

 

「今度はこっちでゆっくり、だな」

 

「えぇ。目的地までは、しばら…」

 

《目的地までだいぶかかるから、寝てていいかも》

 

横須賀君は無線機を取って、どこかに繋いだ

 

「…秋津洲」

 

《なぁに⁇》

 

「大佐とお話中だ」

 

《大佐⁉︎提督がいっつも話してる大佐‼︎戦闘機のパイロットかも⁉︎ね、ね、二式大艇の乗り心地はどう⁉︎戦闘機よりいいかも⁉︎》

 

「あぁ。たまには人の操縦する機体に乗るのも悪くない」

 

《あはっ‼︎嬉しいかも‼︎》

 

秋津洲と呼ばれた声の主は、とても嬉しそうな声を上げている

 

「すみません…二式大艇に詳しいのが彼女しかいなくて…」

 

「ははは。暇しなくてすむな」

 

《じゃあ行くかも‼︎》

 

 

 

 

 

 

 

「着いたな…」

 

「えぇ…」

 

二式大艇から降りれば、美しい風景が広がっている

 

石造りの街並み…

 

エメラルドグリーンに輝く美しい海…

 

食欲を誘う料理の香り…

 

ここは、パスタの国と呼ばれる国の街の一つ

 

通称”水の都”

 

これ程まで美しい街だが、横須賀君も私も、この風景に見覚えがあった

 

「あれ以来…か」

 

「懐かしいですね。ちっとも変わってない」

 

「とっとと会議済ませて、観光と洒落込もう」

 

「えぇ‼︎」

 

「秋津洲はどうすればいいかも⁉︎」

 

「この街にも鎮守府がある。手配はしてあるから、そこで待機していてくれ。お土産は特別な物にする」

 

「分かったかも‼︎」

 

秋津洲を見送った後、横須賀君の後を着いて行った

 

「ここは…護れましたね」

 

「痕跡は残ってるがな…」

 

街の見えない所に、ちょくちょく銃弾の跡がある

 

私はそれを一つ、また一つと見付けて行く

 

…護れなかった証拠だ

 

「さ、ここです」

 

案内されたのは、巨大な建物の入り口

 

恐らく基地の一部だろう

 

扉の前に立ち、横須賀君が声を上げた

 

「帝国海軍横須賀基地2名、参りました‼︎」

 

「入れ」

 

「横須賀基地⁇」

 

前を向いたまま、横須賀君に小声で聞いた

 

「あそこはまだ公表してません」

 

「あぁ…」

 

扉を開けて中に入ると、偉そうに座った老人がいた

 

「掛けろ」

 

「失礼します」

 

「ワインと軽食を用意しろ」

 

「はっ」

 

近くにいた黒いスーツの男性が部屋を出ると、老人は葉巻に火を点けた

 

「タバコは嫌いか⁇」

 

「好きな方であります」

 

「ふふっ…美人が丹精込めて巻いた一品だ」

 

横須賀君と私に一本ずつ投げられ、互いに火を点けた

 

珍しい、甘い香りのする葉巻だ

 

「む…君達は…」

 

老人は二人をマジマジと見詰め始めた

 

「そうか…先の戦争で祖国を救ってくれた傭兵か…」

 

「私達をご存知で⁇」

 

「私の所の艦娘がよく話している。とても立派なお方だと。その言葉に、間違いは無い様だな」



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17話 黒い少女と青いカモメ(2)

「ははは…」

 

「それで…要件を話そうか」

 

今まで相槌程度に老人と会話していた横須賀君の目が変わった

 

「艦隊の異動の件についてです。こちらからは、研修に戦艦長門を。贈与に伊401を」

 

「では、こちらからは…リットリオ‼︎」

 

「はい」

 

オレンジ色の髪の毛で、左側にロールがある女の子が部屋に来た

 

この子は…

 

「戦艦リットリオ。我が国で造られた戦艦だ。この子を研修に」

 

「リットリオ…」

 

「後一人居るのだが、いかんせん戦いが嫌いでなぁ…何処にいるのかは検討もつかん」

 

「探して連れて行け、って事ですかね⁇」

 

「…すまぬ」

 

「ははは。畏まりました。数日間はこの国に居ますので、その間に探します」

 

「手間をかけるな…」

 

「…」

 

「大佐。行きましょう」

 

「宜しく頼むぞ」

 

結局、葉巻を吸っただけで出て来た

 

「ご飯にしましょう」

 

ちょっとキレ気味の横須賀君と共に、オープンカフェに着いた

 

「このパスタを二つ」

 

「まぁそう怒るな」

 

「怒ってませんよ。あのリットリオって娘、見覚えあったでしょう⁉︎」

 

「…」

 

「彼女は軍の看護婦だったはずです…」

 

「時代が変わったんだよ…」

 

「これを食べたら、私は少しこの街の鎮守府に挨拶に行きます。大佐はどうされますか⁇」

 

「その辺ブラブラしてるよ」

 

横須賀君は無言でパスタを食べ続け、代金を払って鎮守府に向かった

 

相当怒ってるみたいだ…

 

さて、どこに向かおうか

 

あぁ、前回は行けなかった”あそこ”に行こうか

 

あそこと言うのは、街の中心にある巨大な資料館

 

そこは資料館の傍らで、美術展をしている時もあると聞いた

 

しかし、いざ着いてみると何をすればいいか分からない

 

「あっ…」

 

館内に眩しい光が射し込む

 

見上げると、ステンドグラスに穴が開いていた

 

「先の戦争で、戦闘機の流れ弾が当たった後です」

 

「君は⁇」

 

顔を下げると、眼鏡をかけたボブの女の子がいた

 

「この資料館の司書です」

 

「そっか…来たはいいが、何をすればいいか分からない。君のオススメは⁇」

 

「…」

 

彼女は眼鏡を掛け直し、私の顔をまじまじと見ていた

 

「どうした⁇」

 

「いえ…もう少ししたら仕事が終わりますので、私で良ければ案内します」

 

「いいのか⁇」

 

「えぇ。それまでそこの歴史コーナーにいて下さい」

 

彼女が去り、歴史コーナーに取り残された

 

そのコーナーには大昔の絵画が並び、新しくなるにつれ写真へと変わって行く

 

そして、最後辺りの数枚の写真に目が行った

 

「懐かしい…」

 

写真に手を触れ、数回なぞる

 

…昔の私の写真だ

 

この頃は良かった

 

戦場に赴くほど、戦果を挙げていた全盛期だ

 

「美しい機体…この写真は、この国を救ってくれた部隊”ブラック・アリス”の隊長さんと、その機体、Su-37…」

 

「ブラック・アリス…か。そんな名の時期もあったな…」

 

「ご存知で⁇」

 

「まぁな。世話になった連中がいるんだ」

 

「…」

 

彼女は不思議そうな顔をしていた

 

何せこのブラック・アリス隊、写真はあるものの、殆ど世に公開されていない

 

隊長は愚か、部下の名前さえ明らかになっていない

 

まして、世界を渡り歩く傭兵

 

攻撃が済めば、潔くその地を去ってしまう

 

だが、彼女は知っていた

 

「行きましょ」

 

彼女と共に外に出ると、自転車が置いてあった

 

「…今日は押して帰ります」

 

「いや、漕ごう。久し振りにここの坂を下りたくなった」

 

「ん」

 

彼女を後ろに乗せ、坂を下る

 

「久し振りです。誰かに自転車を漕いで貰うの…」

 

「前にもあるのか⁇」

 

「えぇ…生きていれば、貴方位の歳じゃないかしら⁇」



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17話 黒い少女と青いカモメ(3)

「…甘い物でも食べるか⁇」

 

「貴方のおごりね」

 

「仕方無い」

 

坂道を逸れ、開けた場所に出る

 

その一角にジェラートが売りの美味しい出店があった

 

覚えている限り、バニラとストロベリーのやつが美味しかったハズ

 

「「バニラとストロベリーのやつ、二つだ」」

 

私が注文すると同時に、彼女も注文同じ注文を入れた

 

「よく知ってるな」

 

「…ここの隠しメニューです。知ってるのは…」

 

「はい、お待ちど」

 

彼女がジェラートを持ち、私は自転車を押し、近くの噴水に腰を下ろした

 

「はい」

 

彼女からジェラートを受け取り、一口二口食べた

 

懐かしい味だな

 

「貴方、本当にソックリ」

 

「誰にだ⁇」

 

「あんまりこういう事言うの失礼だとは思うけど、その…私の好きなパイロットの人に」

 

「あの写真の隊長さん⁇」

 

照れてはいるが、ツンケンした顔の彼女の笑顔がようやく見れた

 

「そ、そうです。仕事の合間を縫って、まだ看護婦だった私をデートに連れて行ってくれました。あのジェラートだってそう」

 

「そっか…」

 

「ねぇ、出逢ったばかりで申し訳ないんだけど…もう少し傍にいさせて⁇」

 

「いいよ」

 

彼女と話していると、まるで昔に戻った気分になる

 

まだ戦える

 

まだ守れる

 

まだ…死ねない

 

私の闘気を再び震わせかける

 

そんな時、ふとたいほうを思い出す

 

私の使命は、再び国を守る事ではない

 

たいほう達を五体満足で平和な世に返してやる事

 

攻める戦いではなく、守る戦い

 

剣は捨てたが、盾はまだ持ってる

 

私に出来るのは…守る事だけ…

 

「さぁ、行こう。暗くなって来た」

 

「えぇ」

 

また自転車を漕ぐ

 

潮風が冷たい

 

夕焼けが眩しい

 

ここの景色を見る度、生きていて良かったと思う

 

「ここ。私の暮らしてる場所」

 

「海軍基地…ね」

 

「大佐‼︎やっと見つけました‼︎」

 

中から横須賀君が来た

 

「例の彼女は見つかりましたか⁇」

 

「…いや」

 

横須賀君は少しだけ微笑み、ため息を吐くと「晩御飯にしましょう」と言い、中に入って行った

 

「貴方何者⁇」

 

「自転車は何処に置いとくんだ⁇」

 

「あ、その角に」

 

自転車を置き、彼女と共に中に入る

 

「あ〜‼︎隊長さん見つけたかも‼︎」

 

二式大艇を操縦していた艦娘がいた

 

「秋津洲。私の部屋に、この子と私の御飯を持って来てくれるか⁇」

 

「分かったかも‼︎」

 

嬉しそうにぴょんぴょん跳ねながら、秋津洲は横須賀君の所へ向かった

 

「行こう」

 

「…」

 

無言のまま、背後から彼女が着いてくる

 

部屋に着いても、それは変わらなかった

 

「さて、と」

 

「あら、タバコ吸うのね」

 

「魔除けだ。君の好きな人も吸ってたろ⁇」

 

「…貴方、何者⁇私の事知ってるの⁇」

 

「まぁな」

 

彼女と目を合わさないまま、紫煙を吐く

 

「答えて」

 

「持って来たかも‼︎あれ⁇」

 

相変わらず空気を読まない秋津洲

 

「あぁ、ありがとう。これをやろう」

 

鞄からお菓子の袋を出し、秋津洲に握らせた

 

「わぁ‼︎何これ⁉︎美味しそうかも‼︎」

 

「カンノーロってお菓子らしい。また買ってやる」

 

「ありがとう‼︎嬉しいかも‼︎」

 

お菓子を嬉しそうに持ったまま、秋津洲は何処かに消えた

 

「さ、食べよう」

 

「ピザとパスタね」

 

「いただきます」

 

「…いただきます」

 

彼女は眉をしかめてパスタを巻き、口に運ぶ

 

そして、口まわりを汚しているのに気が付かずに食べ続ける

 

「こっち向いて」

 

「ん、何⁇触らないで…」

 

ペーパーで口を拭かれるのを、嫌そうに首を振る

 

「相変わらず食い方汚いな…ローマ」

 

「‼︎」



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17話 黒い少女と青いカモメ(4)'

ようやく気付いたみたいだ

 

彼女の名はローマ

 

当時看護婦だった彼女に、まだ傭兵だった私は身も心も世話になった

 

だから、癖とかも良く覚えている

 

「貴方、本当にブラック・アリス隊の…」

 

「信じられないか⁇ちょっと老けたからな…」

 

「あの頃と違って、落ち着いてるわ。貴方、もっと破天荒だったもの」

 

「あの頃は、な」

 

そうだった…ローマは私の過去を知る数少ない人物

 

「別に疑ってはないわ。でも、本当に…」

 

「お前、左胸の上辺りにホクロがあったろ」

 

「なっ‼︎」

 

彼女は顔を赤らめ、胸を隠す

 

「い、いいわ。認めてあげる。でも、あの事は内緒にして」

 

「恥ずかしいか⁇」

 

「恥ずかしいに決まってるでしょ‼︎…バカ」

 

「ふっ…」

 

タバコを捨てて、彼女の頭を撫でる

 

「さ…触らないで…もぅ」

 

嫌そうに睨み付けるが、内心嬉しそうだ

 

「満更でもない癖に」

 

「キス位したらどうかしら⁇いつもみたいに」

 

「はいはい」

 

まるでいつもしているかの様に、ごぐごく自然に唇を交わす

 

「…変わってないわ」

 

「そう。良かった」

 

「あ…あ…」

 

何か変な声が聞こえる

 

「た、隊長さん…」

 

扉の前にはピンク髪

 

「明石、か⁇いつの間に⁉︎」

 

「え、えと…二式大艇が出た後、高速艇で…」

 

「いつからいた」

 

 

 

「お前、左胸の上辺りにホクロがあったろ」

 

「…どうにかしなさいよ」

 

「あ、あはは。あたし黙ってますよ。ほんと…」

 

「そ、そか…良かった」

 

「ちょ〜っと、値は張りますがね‼︎」

 

明石の目が怖い

 

この目、商売人の目だ‼︎

 

「い、幾らだ‼︎」

 

「そうですねぇ…じゃあ、それ下さい」

 

明石が指差したのは、鞄の中から頭を出した、先程のカンノーロの残り

 

「これでいいなら…はい」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

カンノーロを手に取ると、何事も無かったかの様に明石は去って行った

 

私は誰もいないのを確認し、扉を閉じた

 

「騒がしいわね。日本はみんなあんな感じ⁇」

 

「まぁな。でも、みんないい奴だ」

 

「ま、暇はなさそうね」

 

「確かに」

 

ようやく食事にありつき、しばらくそれに勤しんだ

 

「ごちそうさま」

 

「美味しかったな」

 

「さぁ、貴方はお風呂に入って。私はこれから、さっきの人に用があるの」

 

「付き添わなくて大丈夫か⁇」

 

「大丈夫よ」

 

私は大浴場に向かい、彼女は横須賀君の所に向かった

 

 

 

 

「は〜っ…」

 

基地の風呂より、少しデカいな

 

しかし…

 

”パスタ茹でるで‼︎”

 

”おっしゃ‼︎”

 

「…」

 

目の前に、見慣れた関西弁をしゃべる”奴等”がいる

 

しかも湯船でパスタを茹でようとしている

 

”なんやこのオッサン。こいつも茹でてまえ”

 

”えぇ体しとるな。ムキムキや‼︎えぇダシでるで‼︎”



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17話 黒い少女と青いカモメ(5)

1人は右肩に、もう1人は左肩に乗り、肩をペチペチ叩いている

 

「…おい」

 

”うわ喋った‼︎”

 

「なんでテメェらがここにいるんだよ‼︎」

 

目の前には、見覚えのある妖精が二人いた

 

”ん⁇何や⁇オッサンの体からローマの匂いがする”

 

”さてはおっさん、ローマを抱いたな‼︎”

 

「お前ら…」

 

”キレるんですか〜⁇図星ですか〜⁇”

 

”パスタ以下やな”

 

「ぶっ殺してやる‼︎」

 

罵声なぞどうでもいい

 

こいつらのドヤ顔がムカつく‼︎

 

しかし辺り一面叩きまくったが、手応えが無い

 

”ほれほれこっちや‼︎”

 

”おしりペンペン”

 

「クソッタレ‼︎」

 

「ほらほら。イタズラはいけませんよ」

 

誰かが二人の妖精をヒョイと掬いあげ、肩に置いた

 

”あのオッサン怖い〜”

 

”いじめてくるねん〜助けて〜な〜”

 

「あんたは…」

 

「あら、貴方はお昼の…」

 

リットリオ、だったか⁇

 

ローマと違っておっとりしてるな

 

「あ、すまない。出るよ」

 

「いいんですよ。ここは混浴です」

 

そう言って、リットリオも湯船に浸かる

 

「はぁ…いいお湯…」

 

”あ、せや‼︎あんな、リットリオ。このオッサンな、ローマの匂いすんねん”

 

「オッサンなんて言っちゃダメです。この人は、国を救ってくれた人ですよ⁇」

 

”ホンマか〜⁇”

 

”ムキムキやけど、多分嘘や”

 

「好きに言ってくれ…」

 

”ほんならオッサン。クイズ出したろ”

 

「なんだ⁇」

 

”ブラック・アリス隊は名前を変えた。その次の名前は⁇”

 

「サンダーバード中隊だ」

 

”ブラック・アリスの弱点はなんや”

 

「海上護衛が苦手だ。空母艦載機に乗るのが不得意な連中が多かった」

 

”じゃあ得意分野は”

 

「…もういいだろ⁇」

 

”あかんな。まだ信じられへん”

 

「なら、信じて貰わなくて結構だ」

 

湯船から上がり、脱衣所に向かった

 

”待ってや‼︎”

 

一人の妖精が引きとめに来た

 

「踏み潰すぞ」

 

”悪かった‼︎聞いたらアカン事なんは分かってる”

 

「…邪魔だ」

 

”あ‼︎ちょっと‼︎”

 

脱衣所に戻り、服の中を探る

 

ポケットの中から出て来た物を取り出し、妖精に投げた

 

「おい」

 

”なんや”

 

「これで信じてくれ」

 

”おっ、あっ、よっ‼︎”

 

「後で返しに来い」

 

”げっ‼︎これは…”

 

 

 

 

 

「…」

 

部屋に戻り、すぐにタバコに火を点けた

 

「あら、何かお疲れね」

 

いつの間にか戻っていたローマがお茶とお菓子を準備している

 

「お前が癒してくれるか⁇」

 

「殴るわよ⁇」

 

「ふっ」

 

しばらくタバコを吸っていると、扉を叩く音がした

 

「誰だ⁇」

 

「リットリオです」

 

申し訳なさそうにリットリオが部屋に入る

 

手には先程私が妖精に投げた”物”がある

 

「先程は、妖精達が失礼を…」

 

「気にしてないさ。信じてくれたか⁇」

 

「それは…これを見せられたらもう…お返しします」

 

リットリオの手にはバッチが握られていた

 

「まさか、貴方が国連隊だとは…」

 

「みんなそう言う。それを見せたら驚く」

 

「ほら、謝りなさい」

 

”すまんかった‼︎”

 

”申し訳ない‼︎”

 

「知ってるか⁇国連隊の連中は怒らせると怖いんだぞ⁇」

 

”ひぃ〜…”

 

少し驚かすつもりが、かなり怯えている

 

こんなに驚かれたのは久し振りだ

 

「早く行け。リットリオの言う事聞くんだぞ‼︎」

 



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17話 黒い少女と青いカモメ(6)

”分かりました‼︎”

 

「失礼します」

 

今日は騒がしいな…まったく

 

「貴方、国連隊だったの⁇」

 

「お前までか…」

 

私が頭を抑えていると、ローマは一人でお茶菓子を食べ始めた

 

「食べましょ」

 

「う、うん…」

 

席に座ると、再び聞かれる

 

皆が恐れる国連隊って何⁇

 

どんな人がいたの⁇

 

私はローマにだけ、全てを話した

 

彼女に教えた理由は、ただ一つ

 

彼女は私の事を良く知ってる

 

それに、彼女には教えても大丈夫と確信していた

 

「国連隊ってのはな…簡単に言うと、国家間のイザコザを収めたり、指令を受けて現地へ飛ぶ奴等の事を言うんだ。まぁ、あの反攻作戦の時にほとんど居なくなったがな…」

 

「日本では、横須賀さんと貴方だけ⁇」

 

「そうだな…空は二人だけだろうな…海はもう数人いるだろうけど、デスクワークだからな…前線を経験したのは、俺とあいつだけだ。国連隊の連中自体少ないし、俺達空の連中は海の連中と仲が悪かったからな…」

 

「なら、何故海に⁇」

 

「怪我したのもあるけど、あいつが誘ったのが事の始まりだな」

 

「そう…今日はもう聞かないでおくわ」

 

「何で⁇」

 

「貴方、あんまり質問したら怒るでしょ⁇」

 

私の何もかもを見透かした様な目で見つめて来る

 

「いいさ。お前の前だ」

 

「いいの。その代わり、また話して頂戴」

 

「分かった」

 

「さ、もう寝ましょう。明日は演習でしょう⁇」

 

「忘れてた‼︎」

 

歯を磨いてベッドに入る

 

明日は早いからな…

 

「消すわよ」

 

「一緒に寝るのか⁉︎」

 

「今更何言ってるのよ」

 

灯りを消した途端、隣にローマが入って来た

 

「久し振りね…」

 

「俺の顔見えるか⁇」

 

「見えないわ…どこ⁇」

 

目の前でローマの手が右往左往する

 

私は夜間飛行で慣れてはいるが、ローマは夜中になると極端に視力が落ちる

 

あの眼鏡は本来夜中にする為の物なのだが、今ではずっと付けている

 

「ちょっと…ホントにどこ⁇」

 

「ここだ」

 

彼女の両手を握り、顔を近付けた

 

「私が寝るまで、こうしておいて⁇」

 

「分かった分かった」

 

しばらくすると、彼女が寝息を立て始めた

 

昔もそうだったな…

 

手を握ると安心するのかすぐに眠りにつく

 

…いつもこうなら助かるのにな

 

今も昔も、人に対して食って掛かる癖がある

 

さぁ、私も寝よう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

朝起きると布団の中に嫌に甘い匂いが溜まっている

 

恐る恐るめくると、まだ眠っているローマがいる

 

ちょっとしんどそうだ…

 

「これは、武蔵に怒られるな…」

 

「ん…おはよう…」

 

「もう少し寝てろ。まだ5時だ」

 

「起きるわ。私も演習に行く」

 

眼鏡を掛けて台所に立つと、すぐに美味しそうな匂いが漂って来た

 

「俺、昨日お前に何かしたか⁇」

 

「いつもの事でしょ⁇私が嫌って言ってもするのが貴方でしょ⁇」

 

「す、すまん…」

 

「いいわ。私もご無沙汰だったし。さ、食べましょ」

 

どうやら相当な事をしたみたいだ…

 

この食事が終われば、演習が始まる

 

ドイツ

 

日本

 

そして、このパスタの国

 

当時の同盟国ばかりだ

 

「大佐」

 

扉の向こうから横須賀君の声がした

 

「入れ」

 

「おはようございます」

 

「なんだよ朝っぱらから」

 

「大佐、貴方にも演習に参加して頂きます」

 

「演習つったって、俺は今艦隊を持って無い」

 

「じき到着します。では」

 

仕事に戻ったあいつは、相変わらず愛想が無いな…

 

「頑張りなさいよ」

 

「うん。じゃあ行ってくる」

 

「待ちなさい」

 

ローマに顔を持たれ、行ってらっしゃいのキスをされた

 

「タバコと私のキスは、勝利の御守りでしょう⁇」

 

「今日は勝てそうだ」

 

「行ってらっしゃい」

 

「行って来ます」

 

まるで新婚の夫婦の様な会話をした後、横須賀君の待つ埠頭に向かう

 

「待ったか⁇」

 

「いえ…大佐、貴方もですか」

 

「え⁉︎あ、いや…お前もか⁇」

 

「パスタの国の女性は激しいです」

 

「まぁな…」



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18話 怒りの雛鳥(1)

今回は演習のお話です

パパと横須賀君が相手をするのは、精鋭ドイツ艦隊

パパの艦隊は、ドイツ艦隊所属の二隻を相手する事になります

※少々残酷な描写があります

不愉快に思う方もいるかと思いますが、ストーリー上の演出ですので、御了承をお願いします


《演習を始めます。各国代表の方は、会場に向かって下さい》

 

「始まりましたね」

 

「俺の艦隊はどうする⁉︎」

 

「…さ、最悪秋津洲を…」

 

「おい…」

 

「とにかく、会場に向かいましょう」

 

二人して渋々会場に向かうと、ローマとリットリオ、それに、ツインテールの小さな女の子が一人いた

 

「この子は⁇」

 

「リベッチオ‼︎」

 

元気良く挨拶した女の子は、リベッチオと名乗った

 

「リベッチオ、ね」

 

「パスタの国からは、この子が出るわ」

 

「ほぅ…」

 

「島風が相手だよ‼︎」

 

「ほう、お前がか」

 

抱き着いて来た島風の頭を撫でると、相変わらず嬉しそうな顔をしてくれる

 

「提督、島風頑張って来るね‼︎」

 

「あぁ、行っておいで」

 

島風とリベッチオが海上に立った

 

「始めっ‼︎」

 

合図と共に、砲弾や魚雷が行き交う

 

島風は練度が高く、リベッチオの攻撃をひょいひょいと避けているが、リベッチオはちょくちょく当たっている

 

「大佐、どちらが勝つと⁇」

 

「…」

 

「大佐⁇」

 

「あれは何だ⁇」

 

二人が戦っている最中、遠くに大型の機影が見えた

 

「来たきた‼︎」

 

《三人をパラシュートで落とすかも‼︎》

 

「三人⁉︎誰だ⁇」

 

《おい何をするやめうわぁぁぁぁぁあ‼︎》

 

無線から悲鳴が聞こえた後、三つの落下傘が開き、私の前に降りて来た

 

「提督よ。演習位は暴れても良いだろう⁇」

 

「パパ〜‼︎」

 

「は、はらひれはらひれ…」

 

見慣れた三人がいる

 

一番小さな女の子を抱き上げると、聞き慣れた声

 

その子を撫でる、触り慣れた手

 

後ろで目を回している、見慣れた髪色

 

私の艦隊の艦娘達だ

 

「大丈夫か⁇」

 

「高い所は嫌いです…」

 

「たいほういいこにしてた‼︎」

 

「よしよし、後でスパゲッティ食べような」

 

「やったぁ‼︎」

 

「さぁ、提督よ。島風の演習が終わった様だ‼︎」

 

「勝ったぁぁぁぁあ‼︎」

 

ほとんど傷が無い島風が横須賀君の所に帰って来た

 

《二戦目。ドイツ艦隊、日本艦隊による合同演習を行います。本演習は、二隊に別れて演習を行います》

 

「足りるか⁇」

 

「提督よ」

 

肩を叩かれ振り返ると、自慢気な武蔵が顔を見せた

 

「私がいる‼︎」

 

「私もいます」

 

「たいほうは⁇」

 

「たいほうはパパとお留守番だ」

 

「よし、では行くぞはまかぜ‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

「…ん⁇」

 

武蔵は鼻を小さく動かした後、此方に寄り、何度か匂いを嗅いだ

 

「…別の女と寝たか⁇」

 

「いや‼︎その‼︎そ、そんな事するはず無いだろう‼︎」

 

「まぁいい。相手をしなかった私が悪い。だが、演習に勝ったら相手をして貰おう‼︎いいな⁉︎」



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18話 怒りの雛鳥(2)

「わ、分かった‼︎」

 

「がんばれむさし‼︎」

 

「ふっ…抜錨だ‼︎」

 

《二戦目、ドイツ艦隊対日本艦隊を始めます》

 

「はまかぜよ」

 

「爆雷とソナーは持ちました」

 

「今更言うのもなんだが…」

 

「どうしました⁉︎」

 

「…艤装を忘れた」

 

「ち、ちょっと‼︎どうするんですか‼︎」

 

「相手は重巡洋艦と潜水艦だ。はまかぜよ、とにかく潜水艦を頼むぞ」

 

「了解です」

 

「始め‼︎」

 

「えい」

 

開幕した直後に、潜水艦から魚雷が発射される

 

「回避‼︎」

 

「くっ…」

 

はまかぜに向けられ発射された魚雷は、持ち前の機動力で回避出来た

 

「深度…確認。炸裂深度…セットよし‼︎沈みなさいっ‼︎」

 

腰に巻き付けたカートリッジ式の爆雷発射装置が数発爆雷を吐き、海面を叩いた

 

「5…4…3…2…炸裂、今‼︎」

 

海面で巨大な水柱が上がる

 

数秒すると、白い肌にスパッツが特徴的な少女が浮かんで来た

 

「ちょっと…良くないです」

 

「U-511、戦闘不能‼︎」

 

これで残りは重巡洋艦だけだ

 

「潜水艦撃沈‼︎武蔵、今向かいます‼︎」

 

《どうした‼︎お前の力はそんなものか‼︎》

 

無線の向こうで武蔵が喋る合間合間に、何か鈍い音が聞こえる

 

「随分離れた…機関、全速前進‼︎」

 

嫌な予感がはまかぜの胸を過る

 

吹かしたエンジンが、何度も吠える

 

 

 

 

「どうした重巡洋艦‼︎もっとやれ‼︎ほら‼︎」

 

「も、もう…やめてくらさひ…」

 

「オラァ‼︎」

 

武蔵が誰かの頭を掴み、何度も殴打する

 

はまかぜが聞いていた鈍い音はこの音だ

 

「うぇぇえん‼︎あろみら〜るさぁ〜ん‼︎いらいよこあいよ‼︎うわぁぁあん‼︎」

 

「まだだ‼︎」

 

「武蔵‼︎」

 

「はまかぜか。潜水艦は⁇」

 

「撃沈判定が出ました。もう終わりましょう」

 

「ダメだ。こいつは許せぬ」

 

「何があったんです⁉︎」

 

 

 

 

数分前…

 

はまかぜが潜水艦を追い掛け回している最中、武蔵は重巡洋艦の前に立った

 

「名前は⁇」

 

「プリンツ・オイゲン。艤装はどうしたの⁇ムサシ」

 

「要らぬ」

 

「基地がビンボーなの⁇」

 

「重巡洋艦レベルの相手なら、艤装を省いた方が機動がいいからな」

 

「そう言うの、マンシンって言うんだよね⁉︎そんなのだからアドミラルが取られちゃうんだよ⁇」

 

プリンツが言い終わった瞬間には、武蔵の姿は無かった

 

「あれ…⁇」

 

「オリャア‼︎」

 

「ひっ‼︎」

 

突然後方に現れた武蔵の右フックで、プリンツの右舷兵装がへし折れた

 

「な、何⁉︎」

 

「どりゃあっ‼︎」

 

「キャァァァァア‼︎」

 

すぐさま左側に移動し、右脚で左舷の艤装を吹き飛ばす

 

「な…」

 

プリンツは息つく間も無く、主となる艤装を殆ど失った

 

残っているのは、腰の両脇に巻かれた魚雷発射管のみ

 

「魚雷なら…ファイ…‼︎」

 

「没収だ」

 

6発はあった魚雷が全て抜かれ、海に沈んで行く

 

「あ…あ…」

 

「…」

 

無言の武蔵の手には、先程抜き取った魚雷の内の一本が握られている

 

「ぎ、ギブア…」

 

恐らくギブアップと言おうとしたのだろうが、それを言う間も無く、代わりに鈍い音が響く

 

「がっ…‼︎」

 

鈍い音の正体は、武蔵が魚雷でプリンツの頭を叩き降ろした音だ

 

「立て」

 

「ひ…」

 

プリンツの胸倉を掴み、何度も殴打を繰り返す

 

「ご、ごめんなさ…ゴボッ…」

 

「私の事を馬鹿にした所で留めておくべきだったな」

 

開幕直後のプリンツの台詞に余程腹が立ったのか、はまかぜが来るまで殴打を繰り返した

 

 

 

 

「武蔵‼︎もうやめましょう‼︎歯も抜けてます‼︎」

 

「歯の二、三本では許さぬ」

 

「提督‼︎提督、応答して下さい‼︎」

 

《武蔵、もういい。作戦完了だ》

 

「ふん‼︎」

 

海面にプリンツが落ちる

 

「二度とその口を叩くな」

 

「は…はひ…」

 

「帰るぞ」

 

プリンツを置き去りにし、武蔵達は基地に帰投した

 

《ドイツ艦隊対日本艦隊演習が終了しました。勝利は日本艦隊です。演習はこれにて閉幕です》

 

「おかえり。武蔵、はまかぜ」

 

「ただいまです」

 

「…」

 

提督の前でもまだ武蔵は膨れている

 

「武蔵」

 

「ちょっと…やり過ぎた」

 

「スッキリしたか⁇」

 

「あ、あぁ…」

 

「そっか。なら良かった」

 

「怒らないのか⁇」

 

すると、提督は笑顔で答えた

 

「何で武蔵を止め無かったと思う⁇」

 

「何故だ⁇」

 

「戦いで必要なのは打撃力、そして状況判断だ。武蔵は艤装を忘れた状況で無傷で勝利を収めた。これに叱る所があるか⁇」

 

「いやしかし…」

 

「演習は安全を確保された上で行なわれる。現に見ろ。プリンツはピンピンしている」

 

「べ〜‼︎だ‼︎」

 

向こうの方でピンピンしたプリンツが赤い舌を見せている

 

「いけ好かない野郎だ‼︎もう一発…‼︎」

 

「ほらほら‼︎演習は終わりだ。ご飯にしよう‼︎な⁇」

 

「う…うぬ…」

 

「すぱげっちぃだよ‼︎」

 

「ふっ…分かった‼︎よし‼︎鱈腹食わせて頂こう‼︎」



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19話 アドミラルとアドミラル(1)

さて、波乱の演習が終わりました

武蔵がブチ切れるも、プリンツには反省の色が無い

今回は少しだけですが、提督同士のお話もあります


「でだ」

 

「すぱげっち」

 

「ミートソースのレシピを入手しました」

 

「このミンチとトマトが何とも…」

 

「おい」

 

「ムサシのバーカ‼︎いただき〜‼︎」

 

「このっ‼︎」

 

プリンツの顔面に武蔵のメタルクローが炸裂する

 

「いでででで‼︎離せ〜‼︎この色黒ワンコ‼︎」

 

「貴様いつまで付き纏う‼︎」

 

食堂ではそれぞれが別行動している

 

はまかぜとローマは放っておいて大丈夫だが、武蔵とプリンツに至っては未だに喧嘩している

 

私はたいほうの横に座り、彼女の食べる様子を見ながら自分もスパゲッティを食べていた

 

「美味しいか⁇」

 

「おいしい‼︎」

 

「そうか‼︎ジュースもあるぞ‼︎」

 

前掛けをし、口元を汚すたいほうを見ていると、何だか子供を持った気分になる

 

「可愛いわね、その子」

 

たいほうを挟んだ向こう側にローマが座っている

 

「たいほうって言うんだ」

 

「そう…私はローマよ」

 

「ろーま‼︎」

 

「そう、ローマ」

 

するとたいほうはローマの匂いを嗅ぎ始めた

 

「パパ、ろーまとおなじにおいする‼︎」

 

「‼︎」

 

武蔵が、持っていたフォークを落とした

 

「と〜られた、と〜られた〜‼︎」

 

「くっ‼︎」

 

「ぐわっ‼︎」

 

「うわぁぁぁぁあん‼︎」

 

爆笑しながら手拍子を叩くプリンツをグーパンで殴り飛ばした後、武蔵は急に泣き始めた

 

「むさし⁇」

 

「ヤダヤダぁ‼︎提督は私のものだぁ‼︎私以外は触ってはならん‼︎」

 

こんなに駄々をこねる武蔵を見たのは初めてだ

 

「ち、ちょっと…」

 

ローマもたいほうも心配そうに見つめる

 

「うわぁぁぁぁあん‼︎」

 

ついには机に伏せて大泣きし始めた

 

「武蔵、貴方勘違いしてない⁇」

 

「うるさい‼︎このバカ眼鏡‼︎」

 

「もぅ…」

 

「武蔵…」

 

「なんら提督…」

 

「俺、ローマと何もしてないぞ⁇」

 

「だってぷりんつが‼︎」

 

「私、手を繋いだまま寝て貰っただけよ⁇私、夜になると視力が極端に落ちるの。隊長さんは、手を繋いだままずっと一緒に寝てくれたの」

 

「本当か⁇」

 

ようやく武蔵が泣き止んだ

 

「本当だ」

 

「信じるぞ。提督も、ローマも」

 

「たいほうもしんじる‼︎」

 

「分かった。もういい。私が悪かった…だが‼︎」

 

「ヒヒヒ‼︎信じてやがる‼︎ククク…」

 

武蔵とローマの視線がプリンツに向く

 

「元凶はあの子ね⁇」

 

「そうだ。手伝え」

 

「分かったわ…」

 

武蔵とローマ、二人揃って眼鏡を投げ、腕を鳴らす

 

「ヒヒ…ヒ…あ、あれ〜…⁇」

 

「よくもやってくれたな…」

 

「私ならまだしも、隊長さんを巻き込んだのは不味かったわね…」

 

「あ、アドミラルさ〜ん…」

 

プリンツはドイツ艦隊の提督に泣き付いた



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19話 アドミラルとアドミラル(2)

「日本の提督さん、私はドイツ艦隊提督、ミハイルと申します」

 

「ど、どうも…」

 

「我が艦隊の者が迷惑を掛けて、大変申し訳御座いません…」

 

ドイツの提督が頭を下げた

 

プリンツは後ろで苦虫を噛み潰した様な顔をしている

 

「あ、いや、私は別に…」

 

「日本の提督さん‼︎迷惑を承知の上でお願いがあります‼︎」

 

「聞ける範囲ならば…」

 

「このプリンツ・オイゲンは日頃から他人の事を酷く言い、仲違いをさせる悪い癖がございます。どうか、説教をして頂けませんか⁉︎後の始末は私が持ちますので…」

 

「…ならあの二人にお願いしましょう‼︎武蔵‼︎ローマ‼︎」

 

「さ〜ぁぷりんつよ‼︎貴様のだ〜い好きな海に行こうな〜‼︎」

 

「ヒッ‼︎」

 

武蔵が右腕を持ち

 

「調子に乗り過ぎたわね…」

 

「ウッ‼︎」

 

ローマが左腕を持った

 

「ヒィ〜〜〜‼︎ヤダァァァア‼︎助けて〜‼︎」

 

「…修復材は用意します」

 

「いえ‼︎構いません‼︎」

 

「申し訳無い。武蔵も結構鬱憤が溜まってるんだ」

 

「と、言いますと⁇」

 

私はドイツの提督に基地の事を話した

 

戦わない、守るだけの基地の話を聞き、彼は驚いた

 

戦わないから、武蔵のストレスが溜まっている事も彼は理解してくれた

 

「隊長殿。もう一つお願いが」

 

「ん⁇」

 

「これから先、プリンツがまた同じ様な事を繰り返した際、貴方の元にプリンツを送ります。武蔵や隊長殿がまた折檻してやって欲しいのです。あぁ‼︎勿論御礼はその都度用意します‼︎」

 

「いいだろう」

 

二人の利害が一致した瞬間である

 

「もうするなよ‼︎次はそのオシャレなお下げ髪を引き千切るからな‼︎」

 

武蔵が帰って来た

 

プリンツにある程度折檻された跡があるが、艦娘特有の回復力で余り痛そうでは無い

 

「わ、分かりました‼︎おねぇ様方‼︎」

 

「大佐。そろそろ帰りましょう」

 

「そうだな…」

 

「二式大艇のエンジンは吹かしてあるかも‼︎」

 

「お二人さん」

 

引き止めたのは、昨日会ったこの国の提督だった

 

「”二人”を宜しく頼みます」

 

「えぇ。では、次回の演習で」

 

「あぁそうだった‼︎まだもう一人を探して無い‼︎」

 

「ふふ…もう見つけましたよ」

 

「二式大艇に乗ってるかも‼︎」

 

「あ…じゃあローマにお別れを…」

 

「時間がありません。行きますよ」

 

「お、おい…」

 

「また逢えますよ、絶対」

 

「…分かった。世話になりました」

 

三国の提督や艦娘に見送られ、二式大艇に足を入れた

 

「じゃあな。プリンツ‼︎提督の言う事聞くんだぞ⁉︎」

 

手を振りながら、何か言っている

 

「浮気しないで下さいね〜‼︎」

 

「放っておけ。奴は反省しない」

 

扉を閉めた後、武蔵は大きくため息を吐いた

 

「発進するかも‼︎」

 

秋津洲の掛け声と共に、二式大艇が動き始めた

 

「ドイツの提督が言ってたぞ。今度プリンツが同じ様な事をしたら、また折檻を頼みたい、って」

 

「もうコリゴリだ‼︎」

 

「ふっ…」

 

武蔵の反応を鼻で笑った後、窓の外を眺めた

 

相変わらず美しい…

 

建物の被害はあったが、護れて、良かった…

 

こんなに綺麗な街だ。また来よう

 

「日本には、こんな街並みはある⁇」

 

「そうだな…俺の住んでいた街と少し似ているかな⁇」

 

「そこは、貴方の故郷⁇」

 

「そう。沢山の人が俺の帰りを待ってくれている」

 

「いつか、私も一緒に行けるかしら⁇」

 

「行けるさ…え…⁇」

 

窓から目を離し、隣に目をやった

 

そこには、水の都で育った、美しい女性が座っていた

 

「ローマ…⁇」

 

「そう。”戦艦”ローマ。隠しててごめんなさい」

 

「提督よ、浮気するなよ⁇」

 

「さ、行きましょう。貴方の国へ」

 

 

 

戦艦”ローマ”が艦隊の指揮下に入ります‼︎



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20話 羽を休める場所(1)

さて、19話が終わりました

今回は平和なお話です

そして、横須賀君の素性が少し分かります


20話 羽を休める場所

 

「まて〜‼︎きれいなちょうちょ〜‼︎」

 

外では虫取り網を持ったたいほうがちょうちょを追い掛け回して遊んでいる

 

「サンドイッチが出来たわ」

 

「さんどいっち⁇はんばぁがあとは違うな…」

 

「水筒にはスープを入れてあります」

 

「オカシデキタ」

 

最近デザートの作り方を覚えたチェルシーがマフィンを作ってくれた

 

「よし、行こう」

 

みんなで色んな物を持ち、たいほうの所に向かう

 

「とれたか⁇」

 

「おっきいちょうちょとれた」

 

「ごはんにしよう」

 

適当な所にマットを敷き、そこにサンドイッチの入ったカゴやらスープやらお菓子やら色々置かれた

 

それを思い思いに取り、口に運んで行く

 

みんなで団欒

 

私が求めていた平和に一番近い光景だと思う

 

「大佐‼︎こんな所に居ましたか」

 

向こうから横須賀君が来た

 

「お前も食え」

 

「いただきます」

 

横須賀君はサンドイッチを取り、私の横に座った

 

「今日は平和ですね。悪い報告も無いと来た」

 

「平和が一番だろ⁇俺達はその為に居るんだ」

 

「ふふっ…まぁ、それもそうですね。あ、はまかぜ、そのスープも」

 

「お前が一番楽しんでるじゃないか…」

 

今日はコルセアもフィリップもスペンサーもお休み

 

空は静かで、海は穏やか

 

「あぁ…食った食った」

 

横須賀君と二人して原っぱに寝転がり、みんなを見た

 

「いつまでも続くといいですね…」

 

「あぁ…」

 

「大佐、もし戦争が終わったら、何したいですか⁇」

 

「そうだな…とりあえずは街に戻る」

 

「それで⁇」

 

「久し振りにパチンコして冷たいビール飲んで…まぁ、番いが居れば、美味しい飯が食べたいな」

 

「なるほど…」

 

「仕事は…そうだな。出来なかった小説を書いてみたいな⁇」

 

「お嫁さんはあの中から選ぶのですか⁇」

 

「まだ分からん…」

 

「私はどうです⁇」

 

「え''っ⁉︎」

 

つい声が裏返った

 

「ご飯も作れますし、貴方を一番知ってます。負けない自信はあります」

 

「…考えておく」

 

「ふふっ…すぐにとはいいませんよ」

 

 

 

 

 

「むっ…」

 

「どうしたの⁇」

 

「今ライバルが増えた気がした」

 

「隊長の横に居るのは横須賀さんよ⁇大丈夫よ」

 

「奴は女だ‼︎」

 

「…」

 

はまかぜがボールを落とし

 

ローマの首が二人の方に向いた

 

たいほうとチェルシーは気にせず遊んでいる

 

「…無いわ」

 

「いや、時々すれ違う時に女特有の匂いがした。胸だって無いように見えるが、サラシで隠してるだけだ‼︎」

 

「何でそれを…」

 

「この間二式大艇で、私の横に座っていただろう⁇」

 

「えぇ」

 

「その時、ふと背中を見た時、うっすら服のシワが見えた」

 

「それだけじゃ確信ないじゃない」

 

「確かめるぞ」



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20話 羽を休める場所(2)

「…」

 

話す事が無い

 

私は横須賀君の反対側に顔を向けた

 

横須賀君が女の子なのは、元から知っていた

 

空にいた時からずっと知っていたが、皆と同じ接し方をしていた為、ここまであまり声にしないでいたが、ここまで露骨に女アピールされると、少し意識してしまう

 

「大佐…」

 

そんな甘え声で来るな〜…

 

「あたし…」

 

あたしなんて言うな〜…お前はキリッと私だろうが〜‼︎

 

横須賀君が近寄って来た瞬間、振り返って止めようとした

 

「うぎゅぎゅぎゅ‼︎」

 

武蔵が背後から横須賀君の頭を掴んでいる

 

「ろーまよ‼︎これだ‼︎」

 

「あら…ホントだわ」

 

「お、女で悪いか‼︎」

 

「開き直ったぞ」

 

「開き直ったわね」

 

「離してやれ」

 

武蔵の手がようやく離れ、横須賀君は呼吸を整えた

 

「はぁ…はぁ…んっ…」

 

先程あんな話を聞いたせいか、横須賀君が変に色っぽく見える

 

「エロいな」

 

「エロいわね」

 

「しかも結構巨乳だぞ」

 

「巨乳ね」

 

「ライバルは少ない方がいいな」

 

「そうね」

 

「待て待て待て‼︎」

 

何やら不吉な会話が聞こえたので止めに入る

 

「大佐…」

 

「俺は空ではさっさと決めてしまうが、いかんせん女の戦闘は優柔不断でな‼︎」

 

「大佐らしいです」

 

「ほら、港まで送ってやろう」

 

「う、うん…」

 

手を繋いで、二人が港に向かう

 

「提督はライバルが多すぎる‼︎」

 

「仕方無いわ…隊長は優しくて、強くて、子供が好きだわ。それに、みんなに分け隔て無く接してくれるでしょ⁇」

 

「そうだったな…」

 

思い出す…

 

自分がまだ深海棲艦だった時の事を…

 

提督は、私を二度も救ってくれた

 

そして、私は艦娘として再び生を受けた

 

そうか

 

私は、提督に恩を返す為に生まれたのか…

 

そしてその恩は、私達が生き続ける事で返す事が出来る

 

私達が提督を好きでいる事に間違いは無い

 

ここにいるみんな、提督の事が好きだ

 

なら、それで良いではないか

 

一番は提督がその内決めてくれるだろう

 

私はそれまで、生きる事で恩を返し続けるとしよう

 

「もう少し、考えなくては…だな」

 

「えぇ…」

 

 

 

 

その頃港では

 

「えと…その…今日はごめんなさい…」

 

「いいさ。久し振りにお前の女を見れて良かったよ」

 

「大佐だけですからね。私がこうなるのは」

 

「分かった分かった‼︎早く次の所に行け‼︎遅れるぞ‼︎」

 

横須賀君をタンカーに押し込んだ

 

”彼女”を待っていたかのように、タンカーが出港する

 

「さて…」

 

「提督よ」

 

この声は武蔵だな

 

「どうした⁇」

 

「こちらに振り向かぬのか⁇何かやましい事を考えていたな⁇」

 

「い、いやぁ〜…ははは…」

 

雰囲気だけで分かる、武蔵の殺気

 

「殺しはしない。だから振り返れ」

 

恐る恐る振り返ると、案外普通の武蔵がいた

 

「提督にはこの力を使いたく無かったのだがな。私だけ出遅れた気がしてずっと…その…」

 

「遅れてなんか無いさ」

 

「じゃ、じゃあ、”ろーまにしたあれ”をして欲しい…」

 

「おいで」

 

ローマに続き、武蔵とも口付けを交わす

 

最近多い

 

優柔不断だ、人の思いを踏みにじる

 

そう言われても可笑しく無いさ

 

だけど、もし、これが私が出来る、彼女達が出来る精一杯の愛情表現なら

 

私は受けようと思う

 

「は、恥ずかしいものだな…」

 

「そうか⁇」

 

「そろそろ帰ろう。たいほうも待ってる」

 

「そうだな」

 

食堂に戻り、みんなで御飯を食べ、みんなが風呂に入っている間は、はまかぜの作ってくれたアイスを食べ、風呂に入って、眠る

 

今日は本当に幸せな1日だったな…



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21話 代償の街(1)

さて、20話が終わりました

題名でお気付きの方も多いと思いますが、シリアスなお話になります


翌朝、高速艇が迎えに来た

 

「じゃ、行って来る」

 

「気をつけてな」

 

みんながまだ眠っている中、武蔵だけ見送りに来てくれた

 

高速艇に乗ってしばらくした後、運転手が話し掛けて来た

 

「聞きましたよ。嫁探しの最中だって」

 

「ふふ…まぁな」

 

「私は、初めて出逢った子と結婚しましたよ」

 

「初めて…」

 

たいほうが頭に過る

 

「ウチの子にはまだ早いな」

 

「ははは‼︎さぁ、着きましたよ‼︎」

 

横須賀鎮守府と大きく書かれ、その偉大さがよく分かる

 

「あの日以来か…」

 

「大佐‼︎」

 

迎えに来たのは単冠湾君だ

 

「今日は会議なんて珍しいですね」

 

「あいつの考える事はよく分からん…」

 

「いた‼︎早く来い‼︎」

 

建物の上から横須賀君が見えた

 

「なんだよ…全く」

 

部屋に入ると、何故か厳重に鍵が締められた

 

「今から言うのは、重大すぎて二人にしか報告出来ない。他言無用で頼みたい」

 

「それは自分の艦隊にもか⁇」

 

「いや、艦隊の子達には伝えてくれ。極秘作戦で行く。内容を伝える」

 

二人の背筋が凍り付く

 

思っていた以上に重大な任務だ

 

「単刀直入に言う。敵性勢力の巣が発見された」

 

「深海棲艦の、か⁇」

 

「そうです。私達は暗号を傍受し、奴等の次の作戦を捉えた。その前に叩く」

 

「奴等の目標は⁇」

 

「…大佐、貴方の街です」

 

「…‼︎」

 

持っていたペンを机に叩き付けた

 

怒りより、焦りの方が勝っている

 

「あの街は、廃艦の受け入れ先です。実質、まだ戦える艦娘の子が大勢いる。奴等はそれを脅威、もしくは味方に引き込めると取ったのでしょう」

 

「止めなければ…作戦開始はいつだ⁇」

 

「3日後です。大佐。貴方にお願いするのは一つだけです」

 

「なんだ⁇」

 

「…空に帰って頂きたい‼︎そして、航空部隊の指揮を執って頂きたい‼︎」

 

私はその言葉を聞き、立ち上がった

 

「…単冠湾君」

 

「は、はいっ‼︎」

 

「俺の機体の手配と整備、また頼めるか⁇」

 

「勿論です‼︎飛び切りのを用意します‼︎」

 

「すまん…お前にしか頼めん」

 

いつもの癖で、単冠湾君の頭を撫でる

 

「少し、一人にしてくれ…」

 

「大佐、今日位街に帰ったらどうだ⁇」

 

「…そうさせて貰うよ」

 

ここから一時間程車を飛ばした所に、私の住んでいた街がある

 

「車を借りたい」

 

「はっ‼︎隊長殿‼︎お好きなのをお選び下さい‼︎」

 

「…じゃあアレ」

 

「はっ‼︎こちらがキーになります‼︎」

 

キーを受け取り、エンジンを掛けた

 

 

 

 

「なんだ⁉︎エンジン音がするな…」

 

鎮守府に爆音が響く

 

それは先程の会議室にも聞こえた

 

「バイク…⁇あっ‼︎」

 

下に大佐が見えた

 

が、気付いた瞬間大佐は居なくなっていた

 

「相変わらず機械系は飛ばしますね…」

 

「はぁ…まぁ、今回は怒らないでおこう」

 

「あの、横須賀さん」

 

「なんだ⁇」

 

「格納庫を一つ、お借り出来ませんか⁇」

 

「使って無いのが幾つかあるが…」

 

「では、私も行動に移りますね‼︎」

 

単冠湾君も部屋から出て行き、私一人が残った

 

「流石は大佐の教え子ですね、何処までも真っ直ぐ…」

 

机にうなだれて、一人悶々と考える

 

ホントは、作戦の為に兵装や人員を準備をしなければいけない

 

なのに…

 

「大佐…」

 

どうしても、大佐の事が頭に過ぎってしまう…

 

大佐の持っていたペンを持ち、また悶々と考える

 

「…んっ」

 

 

 

 

 

 

相変わらずの街、私の故郷…

 

絵に描いたような平和が、ここにある

 

適当な所でバイクを止め、辺りをフラつく

 

適当な奴に逢えると思った

 

みほと出逢った場所

 

祭りの跡地

 

花火の見える高台

 

思い出の場所を巡る

 

誰一人、艦娘に逢わない

 

だが、諦める訳には行かなかった

 

誰か一人、一人だけでいい

 

そこから皆を集めればいい

 

そしたら…

 

そしたら…

 

気が付けば、艦娘の誰とも逢わず、夕方になっていた



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21話 代償の街(2)

途方に暮れた私は、街の外れの埠頭で立ち竦んでいた

 

「隊長さん⁇」

 

「‼︎」

 

聞き覚えのある声‼︎

 

「こんな所で何してるの⁇来るなら教えてくれたら良かったのに」

 

ビスマルクだ

 

「ビスマルク…」

 

「⁇」

 

私の様子がおかしいと気が付いた彼女は、すぐに駆け寄って来た

 

「どうしたの⁇」

 

「みんなを集めて、この街から離れろ」

 

「…来るのね」

 

「お願いだ」

 

「分かったわ。私は物分かりがいいのよ⁇」

 

「…いい子だ」

 

私はビスマルクの頭を撫でようとした

 

空中で高速で何かが飛び去ったと気付いた時には、もう遅かった

 

街の中心部に何かが落ちた

 

「嘘だろ…」

 

「行きましょ‼︎」

 

中心部に近付けば近付く程、慌てふためく人々が増えた

 

幾つかの建物が燃えている

 

「なんだよ…これ…」

 

昔の記憶がフラッシュバックされる…

 

護り切れなかった、炎上する街…

 

あの記憶だ

 

「…いちょ…隊長さん‼︎」

 

「はっ‼︎」

 

「みんなを避難させるわよ‼︎早く‼︎」

 

ビスマルクと二人で街の人を避難させ始めた

 

「隊長、高台なら大丈夫そうよ‼︎そこに仮設の避難所を作るわ‼︎」

 

「俺はこの辺りで誘導をする‼︎先に行っててくれ‼︎」

 

「分かったわ‼︎」

 

ビスマルクと分かれ、私は避難誘導を始めた

 

「高台に避難しろ‼︎」

 

「あぁ…大佐…どうすれば…」

 

子供を抱えた母親が話し掛けて来た

 

「心配するな。高台で俺の味方が護ってくれる‼︎行け‼︎」

 

「はい‼︎」

 

「ふぅ…あれで最後みたいだな」

 

「大佐」

 

ふと肩を掴まれた

 

「まだいたのか⁉︎早く高台に…」

 

「私は”元”艦娘、日向だ。住民の避難は終わった。貴方も早く」

 

「よし」

 

日向と共に高台に移動を始めた

 

高台に行く為の階段を登っている時、ふと海を見た

 

「…日向」

 

「どうした⁇」

 

「刀を貸してくれないか⁇」

 

「これか⁇ほら」

 

刀を受け取って階段を下り、降り切った所で日向に声をかけた

 

「向こうも気付いてるとは思うが、横須賀鎮守府に救助と増援を要請してくれ‼︎」

 

「貴方はどうする⁇」

 

「…ここで死ぬなら、本望だ‼︎」

 

そう言い残し、海に走った

 

「おい‼︎大佐‼︎くそっ…」

 

 

 

 

「はっ…はっ…」

 

階段から海を見た時、陸に上がる”奴等”が見えた

 

恐らく、刀では無理だ。倒せない

 

だが、時間稼ぎ位にはなるだろう‼︎

 

段々と近付いて来る…

 

角の向こうには、三体の深海棲艦がいる

 

刀を構え、深海棲艦達に向かって行く

 

「⁉︎」

 

「邪魔だぁ‼︎」

 

「‼︎」

 

一体を串刺しにし、持っていた装備の一つを剥ぎ取り、近くにいた一体に向けて撃ち、残り一体となった

 

怯えているのか、奴はジリジリと後退している

 

「オラァ‼︎」

 

刺さった刀を抜き、最後の一体に投げ、脳天を貫いた

 

「ハァ…ハァ…」

 

自分でも驚く位、頭の中は冴え渡っていた

 

刀を抜き、逆の手に剥ぎ取った砲の様な物を持ち、再び海を目指す

 

「嘘…だろ…」

 

海岸線は恐ろしい光景だった

 

 

 

 

 

至る所に黒が目立つ

 

マリアやチェルシーを見ていて気付いてはいたが、やっぱり陸に適応しているのか…

 

「こうなりゃ…殺られるまで殺るだけだ‼︎来い野郎共‼︎この俺が相手だぁ‼︎」

 

私の叫び声で、黒い人影が一斉に此方を向いた

 

「ホゥ…メズラシイ…」

 

海から一人、周りとは明らかに違う個体が近付いて来る

 

頭に二本の角があり、ネグリジェの様な物を着ている、巨大な砲の様な兵器を携えた個体だ

 

「誰だ‼︎うっ…」

 

顎を持たれ、顔を近付かせてきた

 

「アナタハテキジャナイワ…アナタハ…コッチヨ…」

 

「な、何を言ってる…⁇」

 

「カワイソウ…キオクガナイノネ…オモイダサセテアゲル…」

 

「ゔっ‼︎」

 

いきなり口付けをされ、呼吸が止まる

 

仕方無い…

 

「グッ‼︎アナタハコッチ…アナタハミカタ…ヨ…」



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21話 代償の街(3)

「ハァ…ハァ…」

 

刀で鳩尾を貫き、何とか振り解けた

 

「分かった…分かったよ…ははは…」

 

辺りが静まる…

 

「来い‼︎テメェら‼︎まトメて片付けてヤル‼︎」

 

 

 

 

高台では、ようやく救助ヘリが住民の救助を始めた

 

「増援はまだか‼︎」

 

日向が救助ヘリの要員に吠えた

 

余りにも増援が遅い

 

これでは大佐が…

 

「現在、別海域でも戦闘が開始されていて、別動隊が急行中です‼︎もうしばらくお待ち下さい‼︎貴方も早く‼︎」

 

「私は残る‼︎この街の英雄を置いては行けない‼︎」

 

「日向」

 

「何だビスマル…あっ‼︎」

 

ビスマルクは日向を押して、無理矢理ヘリに乗せた

 

「貴方も早く‼︎」

 

「行きなさい‼︎私は気にしないで‼︎」

 

「ビスマルク…お前…」

 

日向が何か言おうとしたが、ヘリは飛び立った

 

「隊長…私が待ってるのよ⁇約束したでしょう⁇貴方が私に色々教えるって…」

 

 

 

 

「早く早く‼︎」

 

「分かっている‼︎」

 

現場に急行する島風と長門

 

別海域では大規模海戦が行われており、それを食い止めるに多数の人員を割いてしまい、海戦の最中、二人だけ抜けて来たのだ

 

「うわ…」

 

島風が少し早く着いた

 

が、周りには深海棲艦の死骸だらけ

 

「何が…あっ‼︎」

 

深海棲艦の艦載機らしき小型の機体が、島風の目の前を通り過ぎ、大きな風が巻き起こる

 

「マダワイテクルカ‼︎」

 

叫び声が聞こえた後、砲撃音が二回響いたと思えば、深海棲艦が吹き飛ばされて来た

 

「何だ⁉︎増援がいるのか⁉︎」

 

追い付いた長門が、吹き飛ばされた深海棲艦に驚いた

 

「分かんないよ…」

 

「ダレダ‼︎」

 

「構えろ‼︎」

 

「ま、待って‼︎嘘でしょ…」

 

深海棲艦の砲を構えていた軍服の人の近くに、先程の小型の艦載機が浮遊している

 

島風は、その深海棲艦に見覚えがあった

 

「た…大佐…何で…」

 

島風が見た深海棲艦は、誰にでも優しい、あの大佐だった

 

「シマ…か…ぜ…」

 

「あ、ちょ、大佐‼︎」

 

大佐が倒れると同時に小型の艦載機も落ち、バラバラになった

 

大佐を起き上がらせ、何度も呼び掛けるが、大佐は起きない

 

「島風、増援が来た。ここは任せよう。大佐を運ぶぞ‼︎」

 

「わ、分かった‼︎」

 

 

 

 

 

 

それから一週間…

 

島風と長門の奮闘もあり、何とか大佐を運び出せた…

 

が、恐れていた事態が、一気に現実になった

 

一つは、深海棲艦の一斉攻撃

 

ほとぼりは収まり、今は戦艦や空母の艦娘の子達が、残りカスを掃除している

 

そして、もう一つ…

 

今ベッドに寝ている大佐の事だ

 

軍の諜報部も知らない、私だけが知っている彼の秘密がある。いや、あった

 

それは…大佐が…

 

 

 

 

 

深海棲艦だという事

 

 

 

 

 

最初は信じられなかった

 

だけどあの日、大佐がタ級を鹵獲した時、確信に変わってしまった

 

そして、大佐がチェルシーと呼ぶ深海棲艦”飛行場姫”

 

他の深海棲艦を指揮する彼女を鹵獲した時、終わりだと思った

 

私が知っている資料にはこう書かれている

 

奴等に雄型は存在しない

 

雌型ばかりだ、と

 

だけど私の書いた資料には”深海棲艦雄型”と書かれている

 

だが、型が分からない

 

重巡なのか、戦艦なのか、空母なのか…

 

砲を使っていたとの報告もあるが、小型の艦載機も総ていたとの報告もある



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22話 雄鶏の弱点(1)

21話が終わりました

急激に書いたので、もう少しだけ進めます

パパはこれから入院生活に入ります


「ん…」

 

「大佐⁉︎」

 

「…ここは⁇」

 

「横須賀の病院です。もう大丈夫ですからね」

 

「そっか…俺は何で倒れた⁇」

 

「覚えてない、ですか⁇」

 

「バイクで転けたか⁇」

 

「そ、そうですよ‼︎そのまま海に落ちて、バイクはオシャカです‼︎」

 

咄嗟に嘘をついた…

 

大佐に嘘をつくのは初めてだ

 

「どれ位寝てた⁇」

 

「一週間です」

 

「たいほうは⁇」

 

「私の所でみんな預かってますよ。たいほうも、武蔵も、はまかぜも、ローマも、チェルシーも」

 

「良かった…タバコが吸いたい」

 

「だ、駄目です‼︎今は安静です‼︎」

 

大佐を無理矢理ベッドに戻した

 

「あっ…」

 

「おっ…」

 

足が絡んで、大佐の上に落ちてしまった

 

「ご、ごめんなさい‼︎痛くないですか⁉︎」

 

「横須賀」

 

「は、はい」

 

「しばらくこうしててくれ。夢の中で、ずっと一人ぼっちでな…」

 

「も、もう…」

 

しばらく大佐に抱き着いたまま、時間が流れた

 

また、武蔵に怒られるかな…⁇

 

でも、今は…いいよね

 

たまには甘えても…

 

「大佐…」

 

「ん⁇」

 

「…私の事、キライですか⁇」

 

「キライ」

 

「ふふっ…ヒドイ人…」

 

より一層強く抱き締め、長い時間を過ごした

 

 

 

 

服を着直し、荷物を持って帰る準備をする

 

そろそろ帰らないと、本当に怒られる

 

「しばらくリハビリ生活をしたら、またあの基地に赴任ですよ」

 

「よろしく頼むぞ」

 

横須賀君が出たのを見計らって、部屋から脱走を試みた

 

「まだ歩ける範囲だな…よし…」

 

そ〜っと病室の扉を開け、表に出た

 

「しゃ‼︎脱走完了‼︎」

 

適当に散策を始め、一つの施設に目が行った

 

「なんだこれ…」

 

恐る恐る中に入ってみると、単冠湾君がいた

 

「た、たい…‼︎」

 

恐らく大佐‼︎と言おうとした口を瞬時に塞いだ

 

「俺は今、脱走の身だ。横須賀辺りにバレたらマズイ」

 

「は、はひ…」

 

分かった様なので、手を離して此方を向かせた

 

「これは…」

 

「懐かしいですか⁇」

 

単冠湾君が一人で整備していた機体に、私は心躍らせた

 

それは黒い機体で、尾翼に少女のエンブレムが描かれていた

 

スペンサーとはまた違った曲線美

 

フィリップとも違う、凛とした立ち姿

 

「Su-37じゃないか‼︎」

 

「当時の機体を限りなく再現しました。よっと」

 

単冠湾君はコックピットに乗り、中を見せてくれた

 

「さ、大佐。前に載ってみて下さい」

 

「タンデムか…よいしょ」

 

「目の前のレーダーが…」

 

こいつと話していると、本当に時間が短い

 

話が合うためか、お互いに質問を繰り返したり、機体に登って塗装を語り合ったりもした

 

最後はコーヒーを飲みながら、机の上の設計図を眺めながら話に没頭した

 

「塗装材に、少しですがレーダーに掛かりにくくするコーティングを施してあります」

 

「相変わらず凄いな…」

 

「まぁ、コーティングだけでは過信しないで下さい…完全に弾く訳ではありませんので…」

 

「後は腕で…か⁇」

 

「えぇ。また御要望があれば伺います」

 

「いや、完璧だ…言う事がない」

 

「ありがとうございます‼︎あ…」

 

「ん⁇なんだ⁇」

 

単冠湾君が怯えている

 

「大佐…やっと見つけましたよ…」

 

「げっ…」

 

100%横須賀の声だ…

 

「安静って言いましたよね〜、私…」

 

「さ、散歩だ。散歩」

 

「帰りますよ〜」



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22話 雄鶏の弱点(2)

「あっ‼︎あだだだだだ‼︎」

 

首根っこを掴まれ、そのままズリズリと運ばれて行く

 

「待て‼︎俺は怪我人だぞ‼︎」

 

「脱走してコーヒー飲む怪我人なんていません‼︎」

 

再び病室のベッドに戻され、また寝かされる

 

「こんなに元気なら、明日から毎日一時間座学でもして貰います」

 

「ヤダ」

 

「ダメです‼︎目を離したら脱走ばっかりするんですから‼︎一時間だけでも縛っておきますっ‼︎じゃあ‼︎」

 

怒ったまま、横須賀は出て行った

 

それにしても暇だ…

 

もう一回脱走を…

 

「隊長さん‼︎」

 

「いや‼︎抜け出そうなんてそんな…ははは」

 

「私よ」

 

「ビスマルクか…ビックリした」

 

「起きたって聞いたのよ。漫画とタバコを持って来たわ‼︎ちょっとは暇潰しになるでしょ⁇はい‼︎」

 

紙袋を渡され中を見ると、タバコと数冊の漫画、後お菓子も入っていた

 

「あぁ…サンキュー」

 

「しっかり養生するのよ⁉︎じゃあね‼︎」

 

脱走する気も無くなり、ベッドで漫画を読み、いつの間にか眠ってしまった

 

 

 

「大佐は…説明は要りませんね⁇」

 

「えぇ。もう一度全うに戻します」

 

「…いた」

 

翌朝、座学の先生を連れて大佐の病室を訪れたが、また脱走を企てているみたいだ

 

「大佐‼︎」

 

「ひぅ…」

 

「今日からは逃げられませんからね‼︎病室で座学をして貰います‼︎」

 

「の、ノーだ…」

 

「大佐⁇」

 

単冠湾君だ

 

丁度良い脱走の言い訳になる

 

「単冠湾からも言ってくれ」

 

「一緒にやりましょう⁇」

 

「う…」

 

単冠湾君まで手篭めにしたのか…

 

クソッ‼︎横須賀のドヤ顔がムカつく‼︎

 

「わ、分かった分かった‼︎部屋で待ってるからなっ‼︎」

 

大佐は、ふてくされたまま病室に戻って行った

 

「じゃあ、呼んで来るよ」

 

「横須賀さんがするんじゃないんですか⁉︎」

 

「私じゃない。残念だな」

 

「⁇」

 

病室に入り、ブツブツ文句を言いながら、単冠湾君と共に待っていると、扉が開いた

 

「遅いぞ〜‼︎帰れ帰れ〜‼︎」

 

「あら、随分汚い言葉を使う様になってしまったのね…これは、厳しい躾が必要ですね」

 

「ひっ‼︎ヒギィィィィィイ‼︎」

 

「あ…あ…」

 

入って来た人を見るなり、私は布団にくるまり

 

単冠湾君は怯えて体を震わせている

 

「さぁ大佐、単冠湾君。今日からは私がもう一度、二人を指導します」

 

「た、た、単冠湾‼︎お前逃げろ‼︎」

 

「か、体が…動かないです…」

 

布団にくるまりながら、何とか脱出方法を考えたが、多分無理だ

 

二人がここまで怯える人物は、香取先生だ

 

スタイル抜群の女教師で、生徒達から色んな意味で人気が高い

 

私がパイロットになる時に、艦船の弱点わ教えてくれた人だが、途轍もなく怖い

 

現に今でさえ変な鞭を持っている

 

「おやおや…怯えているのですか⁇起きなければ、授業は始まりませんよ⁇」

 

し、仕方無い‼︎

 

奥の手を使う‼︎

 

「か、かとりてんて〜…ぼ、ぼくおなかいたい…」

 

「あ、ぼ、ぼくも…」

 

二人同時に腹痛が訪れる

 

「おやおや、可哀想に…ちゃんと出来たら、今日はご褒美をあげようかと思ったのだけれど…仕方ありませんね…」

 

「ご褒美ですって…」

 

「バカやろう‼︎先生のご褒美は宿題しかないんだ‼︎」

 

「先生とあんな事やこんな事…させてあげようと思ったのに…」

 

「やります。やらせて下さい」

 

「えぇぇぇぇぇえ⁉︎」

 

その言葉を聞いた瞬間、布団から出た

 

香取先生は押しに弱い

 

これをネタに後で痛い目を見て頂こう

 

「はいっ、よろしい。ではこのプリントの問題を解いて下さいね」

 

香取先生が教鞭を叩いている最中、私と単冠湾君は違う所に目が行っていた

 

「…オッパイデカイな」

 

「…何カップですかね⁇」

 

「貴方達⁇」

 

「はひ‼︎」

 

「先生の胸はいいの。早く解きなさい」

 

「はいっ‼︎」

 

真面目にしたかと思うと、再び先生に目が行く

 

「…あのストッキングの下、ありゃエロスの塊だぜ⁇」

 

「…指、埋まりますかね⁇」



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22話 雄鶏の弱点(3)

「そろそろ…厳しい指導が必要ですか⁇」

 

「単冠湾‼︎真面目にやれ‼︎死ぬぞ‼︎」

 

「は、はいっ‼︎」

 

そうして、一時間が過ぎた

 

「はいっ、よく出来ましたね。今日はおしまいですよ」

 

「てんて〜ご褒美下さい‼︎」

 

思い出したかのように、大佐が手を挙げた

 

「はいっ。二人共よく頑張りましたね‼︎」

 

先生は私達二人を抱き締めた

 

左右の胸に、一人ずつ埋まる

 

「今日はず〜っと、先生の胸を見てたでしょう⁇では、明日も頑張りましょうね」

 

「頑張れる…かも」

 

「昔と随分違いますね…」

 

「”地獄の香取講習”なんて言われてたんだぞ⁉︎」

 

「思い出すだけで怖い…」

 

「さぁ、そろそろお前も行け」

 

「では、また明日‼︎」

 

単冠湾君が去った後、また手持ち無沙汰になり、脱走と言う言葉が頭をよぎった

 

「あらあら、忘れ物しちゃったわ」

 

「先生‼︎」

 

プリントを忘れたのか、先生が戻って来た

 

「…今は大佐なのね」

 

「…あぁ」

 

二人の表情と話し方が一気に変わる

 

「じゃあ、もう私は先生じゃないわね」

 

「いや、先生だ」

 

「あっ…」

 

先生を無理矢理引き寄せ、膝の上に座らせた

 

「こ、こら…」

 

「俺に”恋”を教えてくれた、永遠の先生だ」

 

「…懐かしいわね。貴方とこうするのも、貴方が空軍に行って以来…」

 

「そうだったか⁉︎横浜で一度逢ったろ⁇」

 

「ちゃんぽん食べた時⁇」

 

「そう…俺にとっての、初めてのデート」

 

「嬉しいわ。私も初めてだったのよ⁇」

 

「そう⁇もっと行ってるかと」

 

「ずっと断ってたの。みんな私を変な目で見るでしょう⁇絶対そんな行為になるって思って…その…」

 

「なら、何故俺はオッケーした⁇」

 

「あれは、その…折角帰って来たのに、私を誘ってくれたから…その…」

 

「その⁇」

 

「い、言わせないで頂戴‼︎もう…」

 

急に照れ始めた先生を、より一層強く抱く

 

「あっ…」

 

「俺を眼鏡フェチにした癖に」

 

「貴方眼鏡フェチなの⁉︎だから艦隊に…」

 

「俺の艦娘に逢ったのか⁇」

 

「えぇ。たいほうちゃん、はまかぜちゃん、武蔵さんにローマさん。後、チェルシーって子も居たわ⁇」

 

「そっか…」

 

「もう結婚相手は決めたの⁇」

 

「みんな同じ質問なんだな…」

 

「ホントは決まってるんでしょ⁇」

 

「…うん」

 

「なら、これをあげるわ」

 

先生はポケットから小さな箱を取り出した

 

「これは、仮だけどケッコンする為の物よ」

 

「何でこんなのを⁉︎」

 

「さっき横須賀君から、渡せって言われたのよ」

 

「貰えないよ、こんなの」

 

「ダメよ。これは先生の最後の授業よ」

 

手に握った箱を無理矢理握らされ、先生はそのまま立った

 

「先生は結婚してるのか⁉︎」

 

「さっき貴方の横に居たでしょう⁇」

 

そう言って、左手に付けた指輪を見せた

 

「た、単冠湾とか⁉︎」

 

「えぇ‼︎今は練習巡洋艦”香取”として、単冠湾の基地にいます。後は貴方だけですよ⁇大佐っ」

 

微笑みながら先生は出て行った

 

「単冠湾の野郎、やるな…」

 

しかし、ケッコンか…

 

仮とはいえ、やはり緊張感する

 

渡す相手は決まっている、が…

 

 

 

 

 

数日後、何とか退院は出来たが、幾つか検査はしなくてはいけないらしい

 

「大佐‼︎おかえりなさい‼︎」

 

真っ先に出迎えてくれたのは、やはり単冠湾君だった



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23話 ケッコン(1)

22話が終わりました

一悶着の後は、安息が必要です

今回のお話では、ついにパパが誰かに指環を渡します

一体誰なのか⁇

お楽しみに‼︎


「ただいま。長い間ありがとうな」

 

「とんでもないです」

 

「それとお前‼︎」

 

単冠湾君の首に腕を回し、耳に口を近付けた

 

「ケッコンしてるなら何で言わなかった‼︎」

 

「ご、ごめんなさい‼︎てっきり言うタイミングを逃してしまって‼︎」

 

「全く…先生が艦娘だったのにもビックリだけど、お前がケッコンしてる方がビックリだわ‼︎」

 

「ずっとお世話になってましたからね。御礼も兼ねて、ですよ」

 

「お前らしいな」

 

腕を解き、高速艇に乗せられる

 

しばらく帰って無かったなぁ…

 

みんなは元気かな⁇

 

「大佐。一週間に一回は本土で検査するらしいですよ⁇」

 

「そうだなぁ。何か精神チェックやら武器とかのチェックもするらしい」

 

「何かあれば、連絡を下さい。必要な物をまとめて、お伺いします」

 

「すまんな、何から何まで」

 

「いえいえ。さ、着きましたよ」

 

高速艇から降り、単冠湾君を見送る

 

ある程度彼が離れた所で、振り返る

 

久し振りだな…

 

しかし、出迎えは無しか…

 

「帰ったぞ〜‼︎」

 

しかし、反応は無い

 

「あれ⁇」

 

《パパ、オカエリ》

 

一番最初に気付いたのはフィリップだ

 

「フィリップか。ただいま。みんなは⁇」

 

《ドウクツニイッタヨ》

 

「どうりで居ないのか…」

 

フィリップと話していると、横に駐屯していたスペンサーのライトが光った

 

《ポケット テツ ハンノウ》

 

「あぁ、これか⁇ケッコンしろって言われて渡されたんだ」

 

そう言った途端、スペンサーが激しくライトを点滅させ、フィリップまで同じ様にやり始めた

 

《ダレトスルノ⁉︎》

 

《ムサシ ローマ タイホウ ハマカゼ チェルシー タクサン》

 

「じきに分かるさ…」

 

「あ‼︎パパ〜‼︎」

 

《カエッテキタ‼︎》

 

たいほうを抱き上げ、ほっとする

 

「いっぱいおさかなとった‼︎」

 

「そっか‼︎」

 

「ろーまはね、たこさんがきらいなの‼︎」

 

ローマ、か…

 

《シンパクスウ ゾウカ フェロモンレベル ゾウカ パパ ハツジョウ》

 

「スペンサー‼︎」

 

《パパ、キニナルナラ、ミンナノトコロニイッテミテキタラ⁇》

 

「それもそうだな‼︎よし、コルセアだ‼︎」

 

”コルセアや〜‼︎”

 

コルセアに乗り、彼女達には内緒で、もう一度横須賀を目指す

 

《パパ、キコエル⁇》

 

「フィリップか⁉︎どうした⁇」

 

《ヨウセイタチガネ、コガタノムセンキヲツクッテクレタンダ。ソコニオイテアルカラ、ミミ二ツケテ》

 

「ん」

 

《ソレデナカニハイッテ。ボクハネツカンチノレーダーガアルカラ、ヒトノイチガワカル》

 

「面白そうだな。了解した」

 

そうこうしている内に、横須賀の鎮守府が近付いて来た

 

 

 

 

その頃横須賀の鎮守府では…

 

「提督、所属不明機が一機、本基地に近付いてます」

 

「ん〜⁇」

 

レーダーには”コルセア”と書かれた光点が一つある

 

「大佐でしょ⁇そんな事より明石〜…」

 

「あっ‼︎ちょっと提督‼︎」

 

「いいじゃん。久しくしてないんだし…」

 

 

 

 

「着陸完了」

 

「大佐殿‼︎機体のチェックと補給をしておきます‼︎」

 

「すまんな」

 

《パパ、ハヤク‼︎イマスゴクオモシロイカモ‼︎》



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23話 ケッコン(2)

「ど、どこだ⁉︎」

 

フィリップから言われた通りに進むと、横須賀君の部屋の前に来た

 

《ユックリアケテ》

 

恐る恐る扉を開ける

 

「あん…提督、そこは…」

 

「明石はここが弱いのね⁇」

 

事の一部始終を見てしまい、すぐさま角に隠れた

 

《レ、レズダッタトハ…》

 

「ケッコンってのは、あんな感じなのか⁉︎」

 

《チガウトオモウ…》

 

「誰だ‼︎そこに居るのは‼︎」

 

「バレた‼︎撤退するぞ‼︎」

 

すぐに部屋を出て、コルセアに向かう

 

「いた‼︎あそこだ‼︎撃て‼︎」

 

「う、撃て⁉︎」

 

まさかとは思い、振り返った瞬間、銃弾が足元に飛んで来た

 

「おいマジだぞ‼︎」

 

《ヤバイ‼︎テキセイハンノウタスウ‼︎》

 

「とにかく」

 

「”あれ”を見られて返す訳には行かない。対空射撃用意‼︎」

 

「出るぞ出るぞ出るぞ‼︎」

 

「目標コルセア‼︎対空射撃開始‼︎」

 

俺の基地に配備された自動対空システムとはシャレにならない位の対空火器が俺の機体を襲う

 

しかも威嚇射撃のレベルじゃない、本気の奴だ‼︎

 

「このまま単冠湾に向かうぞ‼︎」

 

《リョウカイ。サイタンルートヲダスネ》

 

 

 

「チッ…逃した…対空システム、全停止」

 

「そんなに本気にならなくても…」

 

「もういい。良く考えたら大佐だし…」

 

「本当に好きなんですねぇ…」

 

「…バカ、行くよ」

 

 

 

大佐、ケッコンレポート

 

・横須賀はレズだった

 

 

コルセアのガンカメラにパパが写る

 

「さぁ気を取り直して‼︎今日は単冠湾にやって参りました‼︎この基地には、優秀な元整備士がいます‼︎今日は隠密行動で行きたいと思いま〜す‼︎」

 

《パパ、ナンカテンションタカイネ》

 

「当たり前だ。気を取り直して行くぞ‼︎」

 

《オンミツデイクノ⁇》

 

「は‼︎そうだった‼︎あいつは何処だ⁇」

 

《ムカイノシセツニ、テイトクノシツムシツガアルヨ》

 

「よし、行くぞ」

 

《マッテ。ハルナガツウカスル》

 

言われた通りに榛名がやって来た

 

私は建物の陰に隠れ、榛名をやり過ごし、中に入った

 

「あぁっ‼︎先生‼︎」

 

「だから貴方はダメなのよ‼︎ホラホラホラぁ‼︎」

 

「あぁっ‼︎」

 

ドアノブを握る前に嫌な声が聞こえた

 

「フィリップ…嫌な予感がするのは俺だけか⁇」

 

《ネツゲンハンノウガカサナッテル》

 

「まぁ…ケッコンがどんな感じなのかを見るために来たからな…」

 

《マタソ〜ットアケテ⁇》

 

少しだけドアを開けて、中を覗いてみた

 

「‼︎」

 

向こうで椅子に座った単冠湾君が、机に座った香取に何かされている

 

「ほ〜ら、ワンコ君⁇これはなぁに⁇」

 

ポケットから出したのは、ボーキサイト

 

「ボ、ボーキサイト…」

 

「じゃあ、これは何て機体⁇」

 

単冠湾君の目の前にあった資料を、鞭で指す

 

「れ、れっぴゅ〜…」



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23話 ケッコン(3)

その瞬間、香取の鞭が机を叩いた

 

「烈風‼︎はいっ‼︎」

 

「烈風‼︎」

 

「はいっ、よく出来ましたっ‼︎ん〜…」

 

「むぐっ…‼︎」

 

目の前で繰り広げられる、濃厚なキス

 

み、見てられない‼︎

 

《パパ》

 

「ん⁇」

 

《ローマトアレ、シタ⁇》

 

「した」

 

《フーン…》

 

「いらっしゃい、大佐」

 

「あ、先生…」

 

「た、大佐‼︎み、見ました…か⁇」

 

「見た。DVDで焼き増しして売…‼︎」

 

香取の鞭が、顎の下に当たる

 

殺られる、マズい‼︎

 

「何か言いたい事は〜⁇」

 

「て、てんて〜の授業が受けたい…」

 

「丁度いいです。では、少し学びましょうね」

 

また単冠湾の横に座らされる

 

「お前、ワンコって呼ばれてるのか⁇」

 

「えぇ。大佐も良ければ。自分もそちらの方が良いです。名前長いですし…」

 

「次から使うよ」

 

「では、最初に一つ大佐に学んで貰いましょう」

 

香取が黒板に文字を書き始めた

 

「これは、何と読みますか⁇」

 

単冠湾

 

「ふっ…愚問だ‼︎”たんかんわん”だっ‼︎」

 

「え」

 

自信満々に答えたが、どうも二人の反応が可笑しい

 

「え⁇」

 

「大佐…本気ですか⁇」

 

香取の目も怖い…

 

「”ひとかっぷわん”ここはそう読みます」

 

「嘘だ‼︎じゃあ今までこいつを”たんかんわん”って呼んでたのは間違いだったのか⁉︎」

 

「大佐〜⁇」

 

「うひ…」

 

再び顎の下に鞭が当てられる

 

的確にここに鞭を置く鞭さばきは、凄いと思う

 

「そう言えば貴方、昔から色々変な読み方してたわね⁇漣を”よだれ”って読んだり、不知火を”ふしんび”って読んだり…」

 

「ひ、ひとかっぷわん‼︎」

 

「もう一度‼︎」

 

「ひとかっぷわん‼︎」

 

「はいっ、よく出来ましたっ‼︎」

 

相変わらず怖い…

 

殺気と言うか、何て言うか…

 

「では、次はコレを学びましょう」

 

香取は、何か紙芝居みたいな物を出し、二人に見せた

 

「艦娘とケッコン‼︎パチパチパチ〜‼︎」

 

「パチパチ〜」

 

「パチパチ〜」

 

香取は紙芝居を読み始めた

 

それは、艦娘とケッコンする提督に対し、分かりやすく書かれていた

 

最初の絵は、榛名が描かれている

 

後、ハートが沢山

 

「艦娘は、貴方の事が大好きです。でも、貴方は選択を迫られます」

 

二枚目は、提督が中心に書かれており、周りに沢山の艦娘が書かれている

 

榛名は何だか寂しそうに書かれている

 

「貴方は、沢山いる中から一人を選びます。でも、あまり悩まないで下さい。決定するのは貴方です」

 

「…」

 

結構可愛らしい絵だが、私は黙って聞いていた

 

今まさに自分が置かれている状況だからだ

 

「お世話になった子だから、最初の子だから、あまりない事例だけど、昔から知ってるから。理由は様々です」

 

三枚目は、榛名と提督の指に指環がはめられていて、手を繋いでる絵だ

 

何だかホッとした

 

「こうしてケッコンした艦娘は、提督に一番近い存在になります。ですが、他の子のケアも必要です」

 

四枚目は、榛名以外の艦娘にペンダントや、指環とは違う装飾品をあげてる絵だ

 

「指環をあげなかった子には、別の物をあげるのが最適でしょう。暴れる子もいるかとは思いますが、必ず貴方を分かってくれます。おしまい」

 

「…分かった」

 

「とうとう決まりましたか⁇」

 

「いや、元から決まってる。誰かの背中押しが欲しかっただけだ」

 

ワンコの顔に笑顔が宿る

 

こいつはいつも笑っている印象があるが、ちゃんと他人の心配も出来る、いい奴だ

 

「あ、そうだ大佐‼︎行商船がもうすぐ来ます。良ければ、他の子に渡す物を選びますか⁉︎」

 

「そうする」



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23話 ケッコン(4)

しばらくすると、港に行商船が来た

 

何かパワーアップしてる気がするが、気にしないでおこう

 

二人で行商船に入り、早速物を選び始める

 

「ワンコ、お前何かいるか⁇ついでに買ってやる」

 

「じゃあ、これいいですか⁇」

 

持って来たのは、ココアの粉末

 

「乗せろ乗せろ〜‼︎」

 

カゴをその辺に置き、みんなに渡す物を選び始めた

 

「あの…」

 

話し掛けて来たのは、ワンコではなく、行商船の船長だ

 

あの時はあんまり見なかったが、俺より一回り上なんだな…

 

「傷は癒えたか⁇」

 

「やっぱり‼︎その節はお世話になりました‼︎」

 

「礼なら武蔵に言ってくれ」

 

「いえ、大佐。貴方にも…少々お待ちを」

 

船長が奥に消えた内に、たいほうとはまかぜに渡す物をカゴに入れた

 

たいほうは積み木と戦闘機のオモチャ

 

はまかぜはお菓子作りのセット

 

後は…

 

「大佐、これを」

 

「これは⁇」

 

船長が持って来たのは、指環の箱とよく似た小さな箱

 

中には、ケッコンする為の指環とは少し違って指環が入っていた

 

「この指環は、ケッコンする事は出来ませんが、艦娘に自動修復機能が追加される指環です」

 

「うわぁ〜‼︎まだ残ってたんですね‼︎」

 

ワンコが物珍しそうに指環を見ている

 

「もう無いのか⁇」

 

「えぇ…海軍が造ろうとしましたが、結局造れなかった逸品です。…これを造れる人はもう居ません」

 

「…いいのか⁇こんな大事な物」

 

「えぇ‼︎勿論‼︎私は艦娘を持っていませんから、この指環も使われた方が喜ぶでしょう」

 

「良かったですね、大佐‼︎これを付けたら絶対轟沈しないんですよ⁉︎」

 

「マジかよ‼︎」

 

「だから海軍が必死に造ろうとしてるんです」

 

「なるほど…どこで手に入れた⁇」

 

「それを造れる最後の人間だからです。今はこの通り…」

 

船長は左腕を見せた

 

人工のアームになっている…

 

「昔事故に遭いましてね…それで」

 

「すまん。有難く頂戴する」

 

「えぇ‼︎」

 

「後はチェルシーだ」

 

「これはどうです⁇」

 

ワンコが手に取ったのは”はじめてのボーキサイト”と書かれた、自分で創作する子供向けのオモチャだ

 

「さて、これで何を造るかな⁇」

 

全員のプレゼントを決まった上で、レジを済ませて行商船を出た

 

「ほら」

 

忘れる前に、ワンコにココアの粉末を渡した

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「じゃあな、世話になった」

 

コルセアに無理矢理荷物を詰め、コックピットに乗る

 

「また来るよ‼︎」

 

「えぇ‼︎いつでもいらして下さい‼︎」

 

敬礼をした後、基地を後にした

 

《イッパイカッタネ》

 

「フィリップとスペンサーは、今度上等な武装を付けてやるからな」

 

《ヤッタネ‼︎》



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23話 ケッコン(5)

「みんな帰ってるか⁇」

 

《ウン。ハマカゼガゴハンツクッテル》

 

「なら、全速力で帰るよ」

 

《キヲツケテネ》

 

いつもより飛ばし気味で、帰路に着く

 

流石だな、不備が一切無い

 

エンジンもご機嫌に吹いてる

 

敵も出ず、日が暮れる前に基地に着いた

 

「ただいま‼︎」

 

「おかえり‼︎」

 

「おかえりなさい。ごはんが出来ました」

 

「武蔵とローマは⁇」

 

「そこで将棋をしてます」

 

テレビの前で、二人が将棋を指している

 

その横で、チェルシーが不思議そうに盤を眺めている

 

「さ、出来ましたよ」

 

いつもの様にたいほうの横に座り、みんなで食卓を囲む

 

「いただきます‼︎」

 

「大佐、おかえりなさい‼︎」

 

「やはり提督が居ぬと、何処か寂しかったぞ」

 

「すまんな。心配掛けた。あ、そうだ。後でみんなにお土産があるから、一人づつ来て欲しい」

 

「おぉ〜‼︎」

 

「たいほうもある⁉︎」

 

「あぁ、あるぞ‼︎」

 

「やったぁ‼︎」

 

ごはんを食べ終わるに連れ、心拍数が上がる…

 

「ごちそうさま。さ、俺はちょっと準備するから、数分したらはまかぜ、君から入って来て」

 

「わ、分かりました」

 

執務室に入り、タバコに火を点ける

 

緊張の為か、足が震える

 

とりあえず、はまかぜだな

 

「大佐、はまかぜです」

 

「入れ」

 

最初ははまかぜ

 

「はまかぜにはこれ」

 

お菓子作りのセットを渡すと、嬉しそうに受け取ってくれた

 

「それ一つで、色んなお菓子が造れるそうだ」

 

「これでたいほうのオヤツに困りません」

 

「ふふ。たいほうを呼んで来てくれないか⁇」

 

「あ、はい。ありがとうございました」

 

彼女は少し感情が読みにくい

 

喜んでくれたらいいんだけどな…

 

「パパ〜‼︎」

 

来た来た

 

「たいほうにはこれ‼︎じゃ〜ん‼︎」

 

「ひこうき‼︎」

 

そっちに目が行ったか…

 

「みんなと仲良く遊ぶんだぞ⁇」

 

「うんっ‼︎ありがとう‼︎」

 

「じゃあたいほう、チェルシーを呼んで来てくれないか⁇」

 

「わかった‼︎」

 

たいほうはすぐ分かるな

 

嬉しいとすぐ表情に出る

 

「パパ、キタヨ」

 

「チェルシーにはこれ。はいっ」

 

「ハジメテノボーキサイト」

 

「色んな飛行機を造れるんだと。たいほうと一緒に遊んでやってくれ」

 

「ン、ワカッタ。オモシロソウ」

 

「…」

 

次に何方を呼ぶか迷う

 

ここに来て迷いが出た

 

「パパ、オミヤゲアリガトウ‼︎」

 

「あ、あぁ…また買って来てやるからな」

 

「ツギハローマ⁇ムサシ⁇」

 

「…」

 

「パパ⁇」

 

「…武蔵を呼んでくれ」

 

「ワカッタ」

 

チェルシーが部屋から出た後、2つある箱を机に置いた

 

それを見つめて、何度も迷う

 

武蔵が来るまで、物凄く長く感じた

 

「提督よ‼︎土産は何だ⁉︎」

 

豪快に登場した武蔵

 

余計に心拍数が上がる

 

「む、武蔵…」

 

片方の箱を隠し、残った方を手に取った

 

「武蔵、君にはこれを…」



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23話 ケッコン(6)

「これは⁇」

 

「…」

 

「…」

 

二人の間に、沈黙が続く

 

どちらも何も言い出せず、ただただ黙るだけ

 

「…開ける前に、一つだけ約束して欲しい」

 

意を決した私は、ようやく口を開いた

 

「何だ⁇」

 

「俺が誰に着いても、誰と繋がっても、文句は言わないで欲しい」

 

「ふ…私も運の尽きだな…これは、私への罪滅ぼしか⁉︎」

 

武蔵は少し怒りながら、箱を上下した

 

「…そうだ」

 

「…そっか。まぁ、提督に着いた事に後悔はしていない。それに、前考えたんだ」

 

「何だ⁇」

 

「提督に恩を返すには、生き続けて、提督の傍にいて、恩を返す…違うか⁇」

 

「それを開けても、まだ同じ事言えたら、もう一度言ってくれ」

 

「…因みにろーまには何を渡す⁇」

 

無言で隠していた箱を取り出した

 

「これだ」

 

「ろーまと同じ所で開けたら駄目か⁇」

 

「駄目だ」

 

「…開けるぞ⁇」

 

「後悔するなら開けるな」

 

武蔵は微笑んだ

 

その顔は、半ば諦めた様な顔だった

 

「後悔は無い。提督の決めた事だ…」

 

とうとう箱を開けた

 

中には、美しく煌めく指環が一つ

 

「これは指環か⁇私に宝飾品は似合わん…」

 

「気に入らないか⁇」

 

「こういった物を貰うのは初めてだ…」

 

武蔵は不思議そうに電気に当てたりして、光沢を眺めていた

 

「し、しかし‼︎こんな高価な物を貰う訳にはいかない‼︎」

 

「そっか…」

 

「あぁ…すまないな」

 

指環を箱に戻し、私の前に突き出した

 

「…俺とお揃いでもか⁇」

 

「え…」

 

武蔵が固まった

 

まさかケッコン指環とは思わなかっただろう

 

「だ、だって、さっきコレは罪滅ぼしだって‼︎」

 

「こんな俺で申し訳ない…」

 

私は武蔵に頭を下げた

 

「うっ…」

 

「こんな俺だが、もし‼︎もし文句が無ければ…一緒に居て欲しい…」

 

「あ…て、提督…」

 

「…」

 

私はずっと頭を下げたまま、武蔵の出方を見ていた

 

「わ、私でいいのか…⁇料理もまだ覚えたてだし、それに、色々ズボラだ…」

 

「俺は色々見て来た」

 

私は頭を上げ、武蔵の手を取った

 

「俺は色々見て来た。料理だって、凄く頑張ってくれてる。それに、たいほうの面倒を一番よく見てくれてる」

 

「それは…」

 

「みんなの中で、一番俺を心配してくれてるのも武蔵だろ⁇」

 

「あ、当たり前だ‼︎その…だ、だ…」

 

「受け取ってくれるか⁇」

 

「う、受け取ってやる‼︎大事にしてくれ‼︎」

 

全身全霊を込めた武蔵の口付けを受け止める

 

武蔵は嫁になった

 

「残るはローマだ‼︎呼んで来てやる。これも妻の役割だ‼︎」

 

「頼んだよ」

 

幸せそうに、武蔵が部屋を出た

 

本当は直前まで、ローマに渡すか武蔵に渡すかで迷っていた

 

武蔵に決めた理由は、手を見たからだ

 

ヤケドやマメが沢山あった

 

あれは、私の所為で出来た傷

 

みんなを護る為に出来た傷

 

料理でも戦いでも、武蔵に護られた

 

それが決定打となった

 

「なぁに⁇武蔵が随分嬉しそうだったけど」

 

「お前にはこれだ」

 

「あら、指環ね」

 

「それを付けたら、絶対轟沈しないそうだ」

 

「あ、ありがと…で、何であんなに武蔵は喜んでたの⁇」

 

「…ケッコンした」

 

「そう…ま、いいわ。私はこれで充分気持ちは伝わった。でも忘れないで⁇」

 

そう言って、ローマは私に顔を近付けた

 

「貴方の事を、好きでいる子も居るって事…」

 

「…わかった」

 

「あ、心配しないで。嫌味な事とかしないから」

 

「うん」

 

「じゃあ、ありがと」

 

ローマが部屋から出た

 

複雑な気持ちだが、これでいい…

 

これで、私も人の旦那となった訳か…

 

長かったな…

 

 

 

 

 

 

戦艦”武蔵”と、固い絆を結びました‼︎



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24話 二つのタマゴ(1)

さて、23話が終わりました

パパは武蔵を選びました

その後、基地にはまた平和が訪れます

今回は、とある駆逐艦が遊びに来ます


武蔵とケッコンして数日後…

 

彼女は飛躍的に伸びた

 

料理も格段に美味しくなったし

 

私の補助にも良く回ってくれる様になった

 

「はい。はい。畏まりました‼︎ははは‼︎構いませんよ‼︎では」

 

電話を置き、一呼吸置いた

 

「誰からだ⁇」

 

「喜べ。プリンツが来る」

 

その瞬間、武蔵は持っていた書類を全部落とした

 

「ぷ…ぷ…ぷりんつ…だと…⁇」

 

「向こうで駆逐艦を虐めているらしいから、コッチ送りだと」

 

「わ、私は横須賀ではんばぁがあを食べてくる‼︎」

 

「武蔵」

 

「ん〜‼︎嫌だ嫌だ‼︎ぷりんつは嫌だ‼︎」

 

武蔵の肩を掴んで引き止めようとしたが、肩を振って嫌がっている

 

「プリンツは嫌いか⁇」

 

「嫌いだ‼︎物凄く嫌いだ‼︎深海棲艦の方がよっぽど可愛い‼︎」

 

「まぁ、これを見てくれ」

 

送られてきた封筒の中に、写真が何枚か入っていたので、武蔵に見せた

 

「この子は⁇」

 

「この駆逐艦の子が、Z1のれーべ。こっちがZ3のまっくすだ」

 

「れーべもまっくすも可愛いな」

 

「この子達がこうなっている」

 

一枚目の写真は、れーべのオヤツを総取りする写真

 

「何故れーべの目に痣がある」

 

「プリンツに殴られたんだと」

 

「許せぬ…」

 

「で、二枚目がこれ」

 

恐らくまっくすがお絵描きした絵を、プリンツがグチャグチャにしてる写真だ

 

「これは…」

 

「武蔵は、たいほうにこんな事出来るか⁇」

 

「出来る訳無い‼︎たいほうは子供だぞ⁉︎」

 

「れーべとまっくすを護ってやろうとは思わないか⁇」

 

「思う‼︎」

 

「なら大丈夫だ」

 

「パパ‼︎おっきいおふねきた‼︎」

 

窓際で外を見ていたたいほうが興奮している

 

「ほら、早速来た」

 

「迎えに行くぞ。たいほうよ、机のびすけっとを食べて待っていてくれ」

 

「わかった‼︎」

 

外に出ると、巨大な船が港に停泊していた

 

「横須賀君の船並みにデカいな…」

 

「大佐‼︎お久し振りです‼︎」

 

「やぁ、ミハイル」

 

提督同士、熱い握手を交わす

 

「いやぁ、申し訳ない。こっちには私しか提督が居なくてね…また貴方に頼ります」

 

「いえいえ。いつでも…それで、彼女は⁇」

 

「ここに」

 

ミハイルの足に何かしがみ付いている

 

「さぁ来いぷりんつよ‼︎もう一度叩きのめしてやる‼︎」

 

自身の掌と拳を何度も合わせ、プリンツを待つ

 

「この子”達”を、しばらくお願いします。さ、行っておいで」

 

ミハイルの足に付いていた子が、私の足に付く

 

「分かりました。彼女達も休息は必要です」

 

「御礼は倉庫に置いておきます。ちょっとした資源と…後はこの設計図を」

 

ミハイルの手から、何かの設計図を受け取る

 

「妖精に渡してみて下さい。きっと気に入りますよ」

 

「ありがとう」

 

「では、私はこれで‼︎いい子にしてるんだよ‼︎」

 

ミハイルが船内に入り、出航する

 

「ん⁇ぷりんつは何処だ⁉︎」

 

「武蔵‼︎」

 

「提督‼︎その足に付いてるのは何だ‼︎」

 

「さ、俺達に自己紹介してくれるか⁇」

 

不安なのか、二人共私から離れようとはしないが、口は開いてくれた

 

「ど、ドイツ駆逐艦、れーべ…」

 

「ドイツ駆逐艦、まっくす…」

 

「か、可愛い…」

 

武蔵が抱き上げようとすると、二人は私の背後に隠れて震えている

 

「私は戦艦武蔵。大丈夫だ、怖くないぞ」

 

「…噛まない⁇」

 

れーべが不安そうにこちらを見ている

 

「噛まないさ。俺の嫁だ」

 

「…」

 

れーべがゆっくり手を伸ばすと、武蔵は優しく手を握った

 

「ようこそ、私達の基地へ‼︎」

 

「まっくす、噛まないよ⁇」

 

「ん…」

 

「それっ‼︎」

 

「わ〜‼︎」

 

武蔵は二人を肩に乗せ、基地の中に入って行った

 

 

 

 

ドイツ駆逐艦Z1”れーべ”

 

ドイツ駆逐艦Z3”まっくす”

 

が、一時的に艦隊の指揮下に入ります‼︎




ドイツ駆逐艦Z1”れーべ”

ドイツで産まれたばかりの小さな駆逐艦

その力量は計り知れないが、プリンツに虐められていたため、パパの基地に来た

怖がりだが、とても甘えん坊



ドイツ駆逐艦Z3”まっくす”
…れーべと同時期に産まれた駆逐艦の子

れーべより若干身長が高く、身体的には彼女の方が進んでいるが、他はれーべと大差が無い

この子もプリンツに虐められていた為、パパの基地に来た

れーべより口数は少ないが、少なくともパパやパパの基地の人には行為を抱いている


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24話 二つのタマゴ(2)

「今日からしばらくここにいる、ドイツの駆逐艦、れーべとまっくすだ」

 

「たいほう‼︎」

 

「はまかぜです」

 

「ローマよ」

 

「武蔵だ」

 

「チェルシー‼︎」

 

全員が元気良く返事をする

 

 

「敵がいる‼︎」

 

「深海棲艦だ‼︎」

 

「ヒッ…」

 

チェルシーの方ががビビっている

 

「大丈夫。ここでは敵も味方も関係無い。だかられーべもまっくすも、みんなと仲良くして欲しい」

 

「…叩かない⁇」

 

「叩かないよ」

 

「オイデ」

 

恐る恐るまっくすがチェルシーに触れる

 

が、チェルシーの方がビビって手が震えている

 

「れーべ‼︎たいほうとあそぼ‼︎」

 

「う、うん…」

 

ようやく二人共私の手から離れ、たいほうの所で遊び始めた

 

「さて、ローマ、武蔵。俺はちょっと工廠に行くから、みんなの面倒を見ててくれ」

 

「分かったわ」

 

「了解した‼︎」

 

さっき貰った設計図を持ち、工廠に向かう

 

”提督、何やそれ”

 

いつもフィリップやコルセアの整備をしている妖精が、設計図にいち早く目を付けた

 

「ドイツの提督がくれた設計図なんだ。造れそうか⁇」

 

”どれ、貸してみ”

 

設計図を手渡すと、そこら中からワラワラと妖精が集まって来た

 

”ほうほう…これは…”

 

「何の設計図だ⁇」

 

”飛行機や。造ったるわ‼︎”

 

「種類は何だ⁇」

 

”ん〜…戦闘機やろうな。提督が気に入りそうな”

 

「期待してるぞ」

 

”任しとき‼︎”

 

後は妖精達に任せても大丈夫だろう

 

さて、そろそろ戻るか

 

中に戻ると、武蔵とローマとはまかぜがコーヒーを飲んでいた

 

「お帰りなさい。コーヒー淹れますね」

 

「ありがとう」

 

テレビの近くの少し開けた場所では、たいほうとれーべがお絵描きをし、まっくすはチェルシーの膝の上で本を読んでいる

 

「良かった…ちょっとは落ち着いたかな⁇」

 

「だいぶと、暴力に怯えているがな」

 

「…」

 

「心配要らないわ」

 

コーヒーを飲みながら、自信満々に答えたローマ

 

「貴方の考えの事だもの。俺の下で居る限りは、護ってやる…でしょ⁇」

 

「あぁ‼︎」

 

「ふふっ。それでこそ貴方。そんな貴方だから、私達は着いて行けるの」

 

「そうか。そんな事を…流石は私の夫だ‼︎」

 

私は自慢気に眉を上げた

 

「ほらチビ共‼︎お風呂に行くぞ‼︎」

 

「おふろ‼︎」

 

「お風呂‼︎」

 

「お風呂⁉︎」

 

「行っておいで。武蔵にピカピカにして貰うんだ」

 

「…うんっ‼︎」

 

「行って来る」

 

嬉しそうな顔をした三人を連れて、武蔵は入渠ドックに向かった

 

「提督」

 

「ん⁇」

 

武蔵が居なくなった瞬間、ローマが口を開いた

 

「今回、あの子達を引き取って正解だわ」

 

「まぁ、しばらくはプリンツから離れられるだろ…」

 

「そうね…」

 

ローマは急に深刻そうな顔をした

 

「あの二人、精神状態がボロボロなのよ」

 

「だろうな…あれだけ怯えていたら一目で分かる」

 

「恐らく、人格やら性格を頭から否定されたり、暴力を受けていたのね…」

 

「だから今回預けたんだろ⁇」

 

「そうね…向こうの提督さんも、貴方と同じで優しいみたいだけど、問題はやっぱりあの子ね」



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24話 二つのタマゴ(3)

「…」

 

「提督」

 

キッチンにいたはまかぜが、机に何かを置いた

 

「これは”シュトーレン”と呼ばれるお菓子らしいです。ちょっと食べて下さい」

 

「いただきます」

 

その場にいた全員がシュトーレンを口に入れた

 

「美味しいですか⁇」

 

「うん、フルーツケーキみたいで中々」

 

「甘くて美味しいわ。これは初めての食感かも」

 

「ン〜…シットリ⁇フワフワ⁇フシギナショッカン…」

 

「これをあの二人に振る舞います」

 

「ナイスなアイデアだな‼︎」

 

「これなら、あの二人も安心して食べると思います。後は晩御飯のお楽しみです」

 

「楽しみにしてるよ」

 

タバコに火を点け、何気無しにテレビをつけた

 

《…在、この機体の情報を集めています》

 

「おいおいおいおい‼︎」

 

「あら、懐かしいわね」

 

偶然テレビに映ったのは、黒い戦闘機

 

「⁇」

 

はまかぜとチェルシーは不思議そうな顔をしているが、私とローマはテレビに映った機体を知っていた

 

《繰り返しお伝えします。本日未明、所属不明の戦闘機の残骸が砂漠で発見されました。この戦闘機の残骸は、損傷から見て数年前の…》

 

「ったく…人の過去をニュースにするなっての‼︎」

 

「まぁ、聞きなさいな」

 

《この機体は数年前、国連軍最強と言われた空戦部隊”サンダーバード隊”の機体と思われ、現在その行方を追っています》

 

「残念だな。そりゃブラック・アリス隊の時のエンブレムと機体だ‼︎」

 

テレビのニュースに突っ込みながらも、気になってしまう

 

《サンダーバード隊の隊員は、深海棲艦反攻作戦の時に全員消息を絶ち、現在も行方を捜索中との事です》

 

「…嫌味な奴だ」

 

みんな死んで、横須賀と俺しか残ってないってのに…今更何を

 

《では、次のニュースです…》

 

その後のニュースは至って普通のニュースだった

 

政治がどうとか

 

法律がどうとか

 

ま、政治家が国を牛耳ってる内は平和だろうに

 

国がヤバくなったら、真っ先に逃げるのはこいつらなのに…

 

気付かぬ間に、拳に力がこもる

 

「政治は嫌い⁇」

 

「…あぁ」

 

「昔、何かあったの⁇」

 

「よく分かったな」

 

「目を見れば分かるわ。怒ってる」

 

「ま…いつかは話す時が来るから、今言っておくよ」

 

「なぁに⁇」

 

「…昔、政治家の乗ったヘリを叩き落とした。それも三機」

 

「あら」

 

 

 

そう、あの時だ

 

自分の故郷と良く似たあの街だ

 

今からまさに護ろうとしていた街から、五機のヘリが飛び立った

 

地上では、まだ市民が逃げ回る中、政治家達はいの一番でヘリで街から離脱しようとしていた

 

私はその時、無性に腹が立った

 

そして、気付いた時には部下にヘリの撃墜を命令していた

 

無論、搭乗者は全員死亡

 

軍からは滅多打ちに怒られたし、他の隊からの反感も凄かった

 

だけど部下のみんなや、当時まだ整備士だった単冠湾君はこう言ってくれた

 

”隊長の言った事に間違いなんか無い”

 

あれからだろうな

 

国から出動要請が来なくなったのは

 

現に提督業も横須賀君から言われてしている



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24話 二つのタマゴ(4)

「他にもした事無いの⁇」

 

「…敵の国の国会議事堂に爆弾を落とした」

 

「やるわね」

 

「あ、あれはちょっと反省してるかな〜⁇」

 

「ふふっ。貴方らしいわ」

 

ローマが楽しそうに笑う

 

他人から見たら最悪の行為をしても、私のどんな思い出話をしても、ローマはいつも聞いてくれる

 

そして、最後は笑ってくれる

 

「あがった〜‼︎」

 

「暖かかった‼︎」

 

「ポカポカする」

 

「さぁ、ろーまよ‼︎ばとんたっちだ‼︎」

 

湯気が出ている四人が帰って来た

 

「パパ‼︎頭拭いて‼︎」

 

「ん、よしよし」

 

れーべからタオルを受け取り、頭を拭く

 

たいほうの髪と違い、白くて綺麗な髪だ

 

それにフワフワしている

 

「提督はパパだって、たいほうが言ってた‼︎」

 

「後、武蔵は嫁だって」

 

「ん。全部間違ってない‼︎私はパパだ‼︎」

 

「パパ‼︎」

 

「パパ」

 

二人して私に抱き着いて来た

 

「どうやら、懐いてくれたみたいだな」

 

「良かった…どうなるかと」

 

「武蔵から聞いた。パパは叩かないって」

 

「君達を叩いてどうする⁇」

 

「プリンツは気持ち良いって…」

 

そう言うとれーべはシュンとしてしまった

 

「よし‼︎君達はここに居る時は、プリンツの事を忘れる‼︎俺は忘れる位に最高の思い出を作ってやろう‼︎」

 

「思い出⁇」

 

「そうだ。でも、今日はごはんを食べておやすみだ」

 

「今日は日本とドイツの合同料理です」

 

はまかぜが机の上にどんどん料理を置いて行く

 

「やったぁ〜‼︎」

 

「さ、食べよう」

 

「いただきます‼︎」

 

れーべとまっくすは、やはり慣れ親しんだソーセージから行くか

 

たいほうは…ソーセージか

 

「提督、食べないのか⁇」

 

「ん⁇みんなで食べればいい。俺はこれだけでいい」

 

「今から飛ぶのね」

 

「そっ」

 

夜飛ぶのは好きだ

 

何にもない

 

青から黒に変わり、太陽の代わりに月と星が出る

 

しばらくするとれーべとまっくすが食べ終わり、すぐに眠ってしまった

 

「チビ達は私が寝かせておく」

 

「行ってくる」

 

格納庫に向かうと、数人の妖精が酒を飲んでいた

 

”うわ、なんやこれ‼︎すごい泡や‼︎”

 

「ビールって言うんだ」

 

”提督や‼︎提督のビールはそこにあるで‼︎”

 

「今日はいい」

 

”美味しいのにな‼︎飲んでまうで⁉︎”

 

「…好きにしろ。ちょっと出るからな」

 

”なんや調整か⁇”

 

「まぁな。明日、あの駆逐の子達を乗せてやりたいんだ。じゃあな‼︎」

 

”いってら〜‼︎整備は起こしといたろ‼︎”

 

親指を立て、基地から離陸する

 

基地から離れ、しばらくは旋回したり、エンジンの調子等、機体の具合を見た

 

「レーダー…エンジン…良好だな。こちらイカロス、応答せよ」

 

間髪入れずに妖精の声が聞こえた

 

《なんや‼︎》

 

「無線も良好だな。ありがとう」

 

《どうや。星は綺麗か⁇》

 

「まぁな…回転率を下げる」

 

少しだけ、プロペラの回転が弱まり、機体のスピードが落ちる

 

私は機体のハッチを開け、上半身を外に出した

 

《何してるんや⁇》

 

「…ふぅ」

 

尚且つ、ゴーグルも外す

 

《機体から出たら死ぬで⁉︎》

 

「だから回転率を下げたんだよ」

 

《あんなんしてる人、初めて見たわ…》

 

《ほんまに死神やん》

 

妖精達には、私が死神に見えるらしい

 

まぁ、常人では無理だろうな

 

「これが星か…」

 

いつも見てはいるが、空中で、しかも生で見るのは初めてだ

 

いつもは空中でも、ガラス越しだったからな…

 

さぁ、帰ろう

 

足で操縦するのはしんどい

 

操縦席に座り、ハッチを閉め、ゴーグルを掛ける

 

「イカロス、帰投する」

 

基地に帰ると、ローマが起きていた



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24話 二つのタマゴ(5)

最初にお詫びですが、しばらくお話では、れーべとまっくすが出てきません

またすぐに出しますが、ここいらでとある人物の事を明かしても良いんじゃないかと思いましたので、書きたいと思います

お話は繋がっているので、そのままお読み下さいね


基地に帰ると、ローマが起きていた

 

「みんな寝たか⁇」

 

「えぇ」

 

「寝ないのか⁇」

 

「えぇ」

 

「テレビでも付けるか」

 

「えぇ」

 

「…」

 

ローマの口から”えぇ”しか出ないと言う事は、何か言いたいんだろうな

 

ソファーに座り、適当にチャンネルを変えると、コメディ映画がやっていた

 

「ローマ、お前の好きなコメディ映画してるぞ‼︎」

 

「えぇ」

 

「こっちくるか⁇」

 

「えぇ」

 

私の横に座ると、しばらくはジーッと映画を見ていた

 

「何かあったのか⁇」

 

「…戦争が終わっても、武蔵といるの⁇」

 

「そうだな」

 

「他の子はどうするの⁇」

 

「好きな所に行けばいい。そこまでは面倒みるつもりさ。俺の所に来たければ来ればいいし、したい事があるならすればいい。過去にも一人、したい事がある奴を見送った」

 

「そう…なら、私は貴方の所にいるわ…」

 

そう言って、私の肩に寄り添った

 

「俺はもう…」

 

「武蔵に言われたわ。提督は私の旦那だけど、別に今まで通りでいいって…」

 

「そっか…」

 

「私の事、まだ好き⁇」

 

「当たり前だ」

 

「そう…良かっ…た…」

 

安心したのか、そのまま眠ってしまった

 

私はそのままローマに布団を被せ、もう一度工廠に向かった

 

《パパ⁇》

 

私の足音に気付き、フィリップが目を覚ました

 

「起こしたか⁇」

 

《ンーン。ドウシタノ、コンナジカンニ》

 

「寝れなくてな…」

 

《ナラ、ボクノナカニハイッテミル⁇》

 

「入れるのか⁉︎」

 

そう言えば、入った事が無かった、フィリップの内部

 

「入ってみたいな」

 

《ドウゾ‼︎》

 

そう言うと、フィリップの上部が開いた

 

「入るぞ⁉︎」

 

《ウンッ‼︎》

 

恐る恐る中に入る…

 

「おぉ〜‼︎凄いな‼︎」

 

フィリップの内部は意外に広く、コックピットも窮屈感が無い

 

操縦席の周りには、操縦桿が二本あり、周りは電子器機に囲まれている

 

正面から見ると視界が悪そうだが、ちゃんと180度見渡せる

 

「虫の複眼みたいだな…」

 

《ソコニスワッテ⁇》

 

「よいしょ」

 

操縦席に座ると、前に付いた電子器機が動いた

 

《ウシロミテ⁇》

 

「おぉっ‼︎凄いな‼︎」

 

なんと180度だった視界が360度見渡せる様になっている‼︎

 

《アトハテレビモツクシ》

 

前方の画面に先程やっていたコメディ映画が映し出された

 

「おぉっ‼︎」

 

《ゲームモデキル》

 

戦闘機を操縦するフライトシュミレーションのゲームスタート画面が出て来た

 

「おぉぉぉぉお‼︎」

 

360度のゲーム画面なんて初めてだ‼︎

 

「コントローラーは⁇」

 

《アシモトノダッシュボード二アルヨ》

 

「ちょっとやってもいいか⁉︎」

 

《ウンッ‼︎パパノウデヲミタイ‼︎》

 

「よし、スタート‼︎」

 

私は時間を忘れ、フィリップの中でゲームをした

 

かなり時間が経った後、今度はフィリップと二人でプレイしていた



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24話 二つのタマゴ(6)

《ボスダ‼︎》

 

主翼の先が黄色い機体が5機、破壊した巨大兵器の周りを飛んでいる

 

「よし、後方に警戒してくれ‼︎」

 

《ワカッタ‼︎》

 

すると、フィリップの機体は迷わず左後方に着いた

 

「来た‼︎一機後方に回った‼︎」

 

《マカセテ‼︎》

 

フィリップの機体は宙返りし、すぐさま後方の機体を追い掛け始めた

 

《ゲキツイ‼︎》

 

「よし、散開‼︎」

 

《リョウカイ‼︎》

 

そのままフィリップの機体を横目で眺める

 

あの飛び方…

 

あの癖…

 

「っと」

 

右前方から機銃が飛んで来た

 

「フィリップ‼︎そっちは任せた‼︎」

 

《アイヨ‼︎タイチョウ‼︎》

 

フィリップから返って来た応答に、私は驚いた

 

追い掛け回した末、敵を撃墜した後、すぐにフィリップの応援に向かう

 

「後何機だ⁉︎」

 

《コレデサイゴダヨ》

 

「よし、分かった」

 

私は、どうしても確かめたかった

 

フィリップの空戦の癖は、とある人物に酷似していたからだ

 

もし今から私が起こす行動がもしフィリップに伝わったら…

 

「よし来い‼︎」

 

敵を誘導し、此方に注意を向ける

 

すると、敵は私の後方に着いた

 

恐らく次にフィリップが起こす行動は、短距離だが高性能の誘導ミサイルを使うはずだ…

 

《タンキョリユウドウミサイル、ハッシャ‼︎》

 

「…」

 

思った通りだ…

 

ミサイルは見事敵を撃墜し、ゲームはクリア

 

だが、後一つだけ確かめたい

 

「中々だったな”スティングレイ”」

 

《マァネ‼︎タイチョウトボクノナカダ‼︎》

 

何の躊躇いも無く、フィリップは反応した

 

「…フィリップ」

 

《ナァニ⁇》

 

「今からお前に変な事聞くけど、いいか⁇」

 

《ウン》

 

「何で…スティングレイで疑問を持たなかった⁇」

 

《‼︎》

 

驚いているみたいだ

 

スティングレイと言うのは、サンダーバード3…あの砂浜で見付かった残骸に乗っていたパイロットのTACネームだ

 

「空戦の癖は中々抜けない。無線の応答の仕方もだ」

 

《…タイチョウ》

 

「…パパって言ってくれないのか⁇」

 

《ダッテ、ボクノ…イヤ、オレノタイチョウダカラ》

 

フィリップの正体はサンダーバード3だった

 

「何で早く言わなかった⁉︎」

 

《コンナスガタ二ナッタラ、タイチョウ、イヤニナルダロ⁇》

 

「嫌なもんか‼︎」

 

次から次へと涙が出て来た

 

《タスケテモラッタチョットマエ、ナンカイカ、セントウキヲオトシタ。

ソレニ、オレノスガタハ、オレタチヲオトシタキタイ二ウリフタツダ》

 

「ならお前、何でたいほうを護ってくれた⁇」

 

《コドモハコウゲキシナイ。タイチョウノクチグセダロ⁇ソレニ、タスケテモラッタオレイダヨ》

 

「お前…」

 

《タイチョウ》

 

「何だ⁇」

 

《マタ、ヨコヲトバサセテクレ》

 

「当たり前だ‼︎もう体当たり何かしたら許さないからな‼︎」

 

《シネェヨ‼︎》

 

「ははは…」

 

《フン‼︎》

 

口が悪いのも、情に熱いのも相変わらずだ…

 

「いい感じに眠たくなって来た…」

 

《キチニカエル⁇》

 

「そうだな…チビ達の横で寝るよ」

 

《オヤスミ、タイチョウ》

 

「お休み」

 

フィリップから出て基地に戻り、たいほう達の傍で横になった

 

 

 

 

《タイチョウ…アリガトウナ》

 

《オレは…俺は…》




どうでしたか⁇

予想通りでしたか⁇

ここからまたれーべとまっくす達のお話に戻ります

作者の気分により、唐突に申し訳ございませんでした

スティングレイの事が気になる方は、是非手負いの雷鳥を読んでみて下さい‼︎

少しだけ、彼の事が出てきます

感想等もお待ちしてます‼︎


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24話 二つのタマゴ(7)

「ふわぁ〜‼︎」

 

昨日の晩はいい夢を見た気がする

 

「おはよう、提督‼︎いい朝だ‼︎」

 

武蔵が起こしに来た

 

「うん…おはよう。今日は飛ぶんだ」

 

「そうか。なら、朝は少しだけの方がいいな」

 

「うん。先に工廠に行ってくる」

 

「分かった‼︎」

 

寝起きで工廠に向かうと、妖精達が騒いでいる

 

「何だよ朝から…おい‼︎何やってんだ‼︎」

 

”こ、これ何や⁉︎フィリップの形がスマートになってる‼︎”

 

「これは…」

 

姿形はあまり変わらないが、鋭さと光沢が以前とは違う

 

「うるさいな〜…何の騒ぎだ⁉︎」

 

奥で一人の男が目を覚ました

 

”何やこいつ”

 

”黒いな”

 

”敵か⁉︎”

 

「敵⁇何言ってんだ⁇うわなにをするやめ‼︎」

 

妖精達は彼を捕まえて持ち上げ、私の所に持って来た

 

”不審人物を捕まえたで‼︎”

 

「随分と小さくなったな」

 

「隊長‼︎助けてくれよ‼︎」

 

「ほら」

 

彼を掌に乗せると、不思議そうな顔をした

 

「何だこの体は」

 

「お前は妖精になったんだ」

 

「この豆みたいな奴等と同じかよ‼︎」

 

「あの機体はお前のか⁇」

 

「そっ。俺が出たから、フィリップは解放されたんだよ。あれが本来の姿さ」

 

「これからもあれに乗って⁇」

 

「当たり前だ‼︎まだまだ暴れ足りないからな‼︎」

 

「ありがとう…みんなの所に連れて行ってやろう」

 

「お、おぅ…」

 

彼を肩に乗せ、朝ごはんを食べに向かった

 

「提督よ‼︎それは何だ⁉︎」

 

「紹介するよ。俺の部下のスティングレイだ」

 

「や、やぁ…」

 

「す、すてぃんぐれい⁇」

 

武蔵は不思議そうな顔をしている

 

まぁ、突然部下と言われたら驚くだろう

 

「よっ‼︎」

 

私の掌から降り、たいほうの所に向かう

 

「すてぃんぐれい⁉︎」

 

「そっ。カートリッジの中は快適だったぞ‼︎」

 

するとたいほうは前触れもなく、スティングレイをお箸で掴んだ

 

「パパ、すてぃんぐれいおいしい⁇」

 

たいほうは普段プラスチックのスプーンやフォークで食べているので、お箸の持つ手が震えている

 

下には熱々のスープもある

 

「わわわ‼︎食うな食うな‼︎俺ぁ食いもんじゃない‼︎」

 

「スティングレイはフィリップのパイロットだ」

 

「そ、そうだ‼︎俺ぁたいほうの味方だ‼︎」

 

「わかった‼︎」

 

ようやくスティングレイを降ろし、彼の前に小さく切ったウインナーを置いた

 

「ういんなーおいしいよ‼︎」

 

「お、おぅ…いただきます‼︎」

 

「たいほう」

 

「ん⁇」

 

「スティングレイが要らない事したら、食べていいからな」

 

「おい‼︎」

 

「わかった‼︎」

 

「わかったじゃね〜よ‼︎」

 

「ふふ…」

 

また、賑やかになったな…

 

 

 

サンダーバード3こと、スティングレイが隊列に加わります‼︎



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25話 タマゴの悩み(1)

さて、24話が終わりました

フィリップの正体は予想通りでしたか⁇

今回のお話では、パパは多方面から悩みを聞く事になります

一体、誰からどんな悩みを聞くのか…

どんな対応をするのか…

それと、横須賀君の本名がポロッと出てきたりもします


「さぁ、大空へただいまだ‼︎」

 

「ただいまだ〜‼︎」

 

先にれーべを乗せ、基地から飛び立つ

 

「空から海を見た事あるか⁉︎」

 

「ない‼︎凄いね‼︎」

 

「空から見るのもいいもんだ…」

 

基地の周りをグルリと一周した後、しばらく何もない海上で簡単なアクロバットを繰り返した

 

「どうだ⁇大丈夫か⁇」

 

「うんっ‼︎飛行機は凄いね‼︎」

 

「ふふっ…さぁ、次はまっくすだ」

 

「パパ…あのね⁇」

 

「ん⁇」

 

「ボクは、もっと強くなりたい」

 

「なれるさ。俺だってなれたんだ。お前にもなれる」

 

「そっか…そうだよね‼︎うんっ‼︎」

 

基地に着いて、れーべが付けていたゴーグルをまっくすに渡した

 

その時ふと見えたれーべの表情は、少し強くなっていた気がした

 

「乗ったか⁇」

 

「乗った」

 

「イカロス機、出る」

 

再び基地から飛び立つ

 

回るコースは、大体れーべと同じ

 

本当なら、二人同時に乗せてやりたい所だが、このコルセアは乗れて二人だ

 

「まっくす」

 

「ん」

 

相変わらず感情をあまり出さないな…

 

「ドイツはどうだ⁇」

 

「楽しくない」

 

「どうして⁇」

 

「プリンツがいじめてくる」

 

「そっか…まぁ、プリンツの件は俺から話を付けてやる」

 

「ほんと⁇」

 

「あぁ。プリンツは嫌な奴でも、提督は良い人だろ⁇」

 

提督と名前を出した瞬間、まっくすの表情が少し明るくなった

 

「パパに良く似てるわ。お菓子くれたり、一緒に遊んでくれたり…あ、遠征に失敗しても怒らないわ」

 

「そうか‼︎」

 

「でも、お菓子はプリンツに取られるし、一緒に遊んでてもすぐに提督を連れて行くし、遠征に失敗したら叩かれるの…」

 

プリンツの話題になると、顔が暗くなる

 

れーべとまっくすの話を聞けて良かった

 

 

 

「ご、極悪だな…」

 

「プリンツなんか、いなければいいのに…」

 

「ま、そんな事されてたらそう思うのが普通だ」

 

「私達、ずっとここにいちゃだめ⁇」

 

「いたいか⁇」

 

「えぇ」

 

「提督はどうする⁇お前達の帰りを待ってるぞ⁇」

 

「プリンツの所に帰れって言うの⁇」

 

「時期が来たらな」

 

「じゃあ、ここで私を降ろして」

 

まっくすは急に怒り始めた

 

キャノピーを自力で開けようとするが、ロックを掛けてあるため、開くはずがない

 

「死にたいか⁇」

 

「えぇ」

 

「なら、一緒に死ぬか‼︎」

 

「え⁉︎」

 

機体を上昇させ、基地がかなり小さくしか見えない所で、警告音がなった

 

《警告。安全圏から離れています》

 

「ま、遺言は残せないけど、仕方ないな…」

 

「…」

 

若干怯えてるまっくすを横目に、操縦桿から手を離し、一気にブレーキを掛けた

 

こんな事をすると、勿論機体は頭を下にして落下する

 

しかもかなりのスピードで

 

だが、海面まで時間はある

 

「落ちてる」

 

「俺もな、こんな世界はウンザリだ。丁度良かったよ…」

 

「…」

 

「ま、向こうに行けば何も考えなくていい」

 

海面まで後少し…

 

早く言ってくれ…

 

「と、止めて‼︎」

 

「もう無理だな」

 

「や、ヤダヤダ‼︎」

 

「生きたいか⁇」

 

「生きたい‼︎」

 

「よく言った」

 

最初から分かっていたかの様に、機体を立て直して、海面スレスレで通常飛行に戻った

 

「怖かったか⁇」

 

「えぇ…」

 

「あれが俺達、空の連中の”死”だ。案外怖いもんだろ⁇」



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25話 タマゴの悩み(2)

まっくすは息もきれぎれになっていたが、何とか意識を保っていた

 

中々、タフな奴じゃないか

 

「お前の自慢は、その肝のすわった根性だな。普通の人間なら、今ので失神だ」

 

「パパは…いつもこんな事を⁇」

 

「そう。提督になる前はね」

 

「私達の提督は、昔から海軍だったわ」

 

「俺はまた特別な事情さ…」

 

 

 

その頃基地では…

 

「あ〜ぁ、やられてやがんの」

 

「あれじゃ死ぬわ」

 

ローマの肩に乗ったスティングレイが、彼女と二人で空を眺めていた

 

「隊長は昔っからアクロバット飛行が得意なんだ。あんなもん、急降下爆撃で慣れたもんさ」

 

「そうだったわね…」

 

「ま、何であれ、隊長に任せときゃ大丈夫さ…」

 

「そうね…あの人なら」

 

 

 

「戻るぞ」

 

「えぇ」

 

再び基地にコルセアが戻る

 

「ありがとう。また乗せてくれる⁇」

 

「勿論。まっくすがちゃんと生き続けたら、な⁇」

 

「分かったわ」

 

まっくすが降り、私も機体から降りた

 

「子供相手に無茶し過ぎよ」

 

肩にスティングレイを乗せたローマが来た

 

「ははは…ま、いい説得材料にはなったみたいだ」

 

れーべとまっくすの瞳は、ここに来た時より少し、輝きを取り戻したみたいだ

 

れーべもまっくすも、強くなりたい気持ちは充分伝わった

 

後は、彼女達次第だ

 

「ローマ、隊長の肩に乗せてくれ」

 

「はい」

 

「サンキュー」

 

「じゃ、私は中に戻るわ」

 

「あぁ」

 

スティングレイと二人、格納庫に取り残された

 

「隊長」

 

「ん⁇」

 

「ケッコンしたらしいな」

 

「あぁ、武蔵とな」

 

「あ〜ぁ、俺が元の体だったら、ローマを貰うのにな〜」

 

そう言って、私の首にもたれかかった

 

「ローマも武蔵もいい子だ」

 

「ちげぇよ‼︎余ってんなら欲しかった‼︎って話だよ。あんな美人、中々居ないぞ⁉︎」

 

「俺も迷ったよ…」

 

「ま、どっちも悪くはないけどな…」

 

あの時と変わらず、二人で色んな話をする

 

姿形は変わってしまったが、仲の良さは変わらない

 

この軽口が無くなれば、スティングレイはスティングレイで無くなる

 

現に戦場で、こいつが言った事の方が正しかった事も多々あった

 

「あ、そうだ。他の二人はどうした⁇特に”ジェミニ”」

 

「あいつは元気だ。今は横須賀で提督をしてる」

 

「帰らないのか⁇本国に」

 

「本国に帰っても誰も知り合いがいないから、日本の方が良いんだとよ…」

 

「なるほどな…」

 

スティングレイが言った、ジェミニと言ったのは、横須賀の事

 

元々アメリカの田舎うまれらしいが、地元に家族や知り合いはもういないらしい

 

私の部隊に配属する少し前に、攻撃を受けて、皆散り散りになってしまったらしい

 

「昔は可愛かったよな…三つ編みでよ、胸もデカくてよ」

 

「昔は可愛かったな…今じゃ見る影も…」

 

「おい」

 

「髪型もポニーテールだし…」

 

「おいって‼︎」

 

「なんだよ‼︎」

 

振り返ると、後ろに横須賀がいた

 

「大佐…」

 

下を向きながら、ゆっくりこちらに近付いて来る

 

「か、彼女は、び、美人だよな⁉︎」

 

「あ、あぁ‼︎抱きたい女ナンバーワンだぜ‼︎」

 

「ポニーテールもな‼︎に、似合ってるよな⁉︎」

 

「す、スゲェぜ‼︎相変わらずの絶対領域は魅力的だよな⁉︎」

 

「何ですか…この口の悪い妖精は‼︎」

 

「ぐぇっ‼︎」

 

スティングレイを鷲掴みにし、力を込めて握っている‼︎

 

「や、やめて…ウインナーでちゃう…」

 

「口の悪い妖精さんは潰しましょうか⁉︎」

 

「や、やめろジェミニ‼︎」

 

「ジェミニ⁉︎何でその名前を⁉︎」

 

横須賀の力が一瞬弱まった瞬間、スティングレイは手から離れて地べたに落ちた

 

「ぐぇっ‼︎この怪力女‼︎相変わらず可愛げねぇなぁ‼︎」

 

「な、何ですって⁉︎」

 

「スティングレイだよ」

 

「あ…え⁉︎貴方死んだはずじゃ…」

 

「生きてます〜残念でした〜‼︎」

 

スティングレイは足元で舌を出している

 

全く迫力が無い…

 

「すてぃんぐれい‼︎」

 

「うわ‼︎」

 

小さな手が、スティングレイを再び鷲掴みにする‼︎

 

「パパのところにいたの⁇」

 

「た、たいほうか…ビックリした…」

 

「はなれちゃだめでしょ⁇」

 

「あぁ…スマねぇ」

 

たいほうはスティングレイを頭の上に乗せ、そのまま何処かに行ってしまった

 

「全く…どっちが子守りですか…」

 

「いいコンビだとは思うがな…」

 

「…ドイツの子を預かってるそうで」

 

「あぁ。れーべとまっくすだ」

 

「大事にしてあげて下さいね」

 

「⁇あぁ」

 

そう言って、横須賀もその場から去った

 

急に一人になると、やっぱり寂しいな…

 

あ、そうだ‼︎

 

昨日渡したあの設計図の機体はどうなっただろうか⁇

 

ちょっと見に行こう



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25話 タマゴの悩み(3)

隣の格納庫では、既に型が出来上がっていた機体があった

 

「これは…」

 

”喜べ提督‼︎ジェットエンジンの機体や‼︎”

 

「おぉ‼︎」

 

私はまだ型だけの機体に心奪われた

 

”…”

 

この時、数人の妖精は不安を抱いていた

 

最近、提督が空に出る回数が多い

 

不安は大きく分けて二つ

 

撃墜されてしまうのではないか…

 

これは、戦闘機乗りとしていつも隣り合わせにある

 

もう一つの方が大きかった

 

それは、空軍に帰ってしまうのではないか…

 

自分達を見捨てて、また空に還るのでは…

 

妖精達は、そんな不安でいっぱいだった

 

ましてや、今回出来る機体はジェットエンジン

 

提督が元々乗っていた機体に限りなく近い

 

”提督、空軍に行ってまうんやろか…”

 

”こら‼︎”

 

つい、一人の妖精が音を漏らした

 

「戻らないよ」

 

”ホンマか⁉︎”

 

「海軍にも機体はある。俺はそれで十分さ。”空に還る”って目標は、これで果たせてるからな」

 

”よかった…”

 

そこにいた妖精達が安堵の息を漏らした

 

「それにな…俺は空軍に戻るつもりはない」

 

”なんでや⁇空は好きやろ⁇”

 

「空は好きさ。だけど、国の命令で飛ぶ空はウンザリだ。奴等、椅子を擦り減らすだけで動かないからな」

 

”何か聞いたな、そんな話”

 

「いつでも潰してやるさ…この国に護る価値は…もうない」

 

提督が司令室がある方へ顔を向け、そっちの方に歩き始めた時、ふと顔が見えた

 

見た事がない、怒りに満ち溢れた顔…

 

初めて見る表情だった…

 

 

 

 

「さぁ‼︎風呂に入ろう‼︎」

 

「たいほうも‼︎」

 

「ボクも‼︎」

 

「私も」

 

「チビ達は任せたぞ‼︎」

 

「さぁ、行くぞ」

 

たいほう達と風呂に入り、体を洗っていると、れーべとまっくすの背中に目が行った

 

二人の背中には、たくさんのアザがあった

 

「背中、凄い⁇」

 

「柔らかい背中だな」

 

「そうかな⁇」

 

「あったかくて、スベスベしてるぞ⁇」

 

「そ、そうかな…」

 

「まっくすもあったかいな…こっちはプニプニだ」

 

「スケベ」

 

「ははは‼︎すまんすまん‼︎」

 

「パパ‼︎あたまあらって‼︎」

 

「はいよ」

 

たいほうの頭にシャンプーを付け、髪を洗う

 

「ね、れーべ」

 

「なに⁇」

 

「パパは良い人ね」

 

「うん…アザの事、言わなかったね」

 

「空で何を話したの⁇」

 

「強くなりたいって言ったよ。ボクになら出来るって」

 

「そう…」

 

「まっくすはなんて⁇」

 

「死にたいって言ったわ」

 

「え⁉︎」

 

れーべの驚いた声は浴室全体に響いた

 

「そしたら、あの急降下よ」

 

「あ…あはは。パパ、運転上手だよね」

 

「それはありがとう」

 

「パパ‼︎」

 

「さ、露天風呂に行こう」

 

露天風呂に行くと、既にたいほうが湯船に入っていた

 

「がーがーさん、がーがーさん」

 

アヒルのおもちゃを二つ浮かべ、一人で遊んでいる

 

「ガーガーサン⁇」

 

「がーがーさん‼︎たいほうのおともだち‼︎」



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番外短編 二本の吸殻

たまには休憩しようと思います

恐らく、こんな文を書くからR-15になっちゃうんだと思います、えぇ

すぐに分かるとは思いますが、一人の艦娘のお話です


月に一度、月の最後の日

 

此処に帰れる日が来る

 

暖簾を捲り、一番右の角のカウンター席に腰を下ろし、煙草に火を点ける

 

薄暗い店内では、只々紫煙が踊るだけ

 

「あら、帰っていらっしゃったのね…」

 

厨房の奥から、髪を背後で捲った女中が現れる

 

紫煙の匂いに誘われたのだろうか、頬を淡く紅に染めた女中は妙に艶かしいく、男の眠った本能を掻き立てる

 

いつもの、と、置かれた熱燗

 

無言で置かれた、味の濃い出し巻き卵

 

熱燗を一口呑み、卵を咀嚼する

 

煙草を灰皿の窪みに置き、夢中でそれらを貪る

 

香の代わりとなった紫煙が、女中の前を踊る

 

霞んで見える…

 

女中を見ていると、肢体が火照る

 

それを燗の所為にし、その柔肌を抱き締める

 

「あら…今日は如何されました⁇」

 

朝に鳴く小鳥の囀りの様な、甘い甘い女の声が、より一層欲望を走らせる

 

「ん…」

 

何度か目の口付けを交わす

 

それはまだ浅はかな経験すら無い様な、純情無垢

 

その上下に付いた赤い果実を、汚す

 

無骨な手が、橙色の花弁を少し、また少しと毟っていく

 

女中はゆっくり女の瞳になる

 

その月を映した瞳を見て、もう一度紫煙を炊く

 

背徳的な光景の中、女は自身を汚した腕を抱き留める

 

煙草を灰皿に潰し、暖簾に手をかける

 

「また、いらっしゃって⁇」

 

振り返る首が、暫く止まる

 

拠所に戻った女中を見て、暖簾を捲る

 

薄暗い店内に残されたのは、空の熱燗、そして皿

 

「また…」

 

そして残る、二本の吸殻

 

女中は愛おしそうに吸殻に触れ、一粒の泪を落とした

 

 

 

 

 

ここは、空の勇士の拠所

 

ここは、空の勇士の道標

 

ここは、空の勇士の墓場

 

 

 

女中の名は”鳳翔”

 

猛々しく、儚い空の勇士の母の胸

 

居酒屋”鳳翔”は、今日も一人の銀翼が、空に還るのを見届ける…

 

 

 

 

 

 

鳳翔…居酒屋”鳳翔”の女中

 

女将じゃなくて女中

 

閉店した後も店を開け、空で散ったパイロットが最後に一杯呑みに来るのを待っている

 

時々手を出されるが、みんな何故か寸前で止めるので、ちょっと欲求不満気味

 

大体の人に出すのが、店で人気の品である熱燗と出し巻き卵。

 

鳳翔が心配で時々同じ人が還って来るが、皆鳳翔とは話せない

 

 

 

パイロット…彷徨い人

 

空で散った人。最後には大体の人が居酒屋”鳳翔”に訪れる

 

彼女の世話になったパイロットは多く、最後の別れと礼を兼ねて熱燗を呑みに来る

 

彼女に惚れたパイロットは、色んな意味で撃墜された

 

 

 

熱燗…普通の熱燗だが、何故か下戸でも呑める。酒類の注文で一番人気

 

 

 

出し巻き卵…出汁の良く効いた、熱燗にとても合う。ツマミ代わりに注文する人が多い



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26話 ワタリドリ(1)

さて、25話が終わりました

れーべとまっくすの面倒を見る事となったパパの所に、一本の電話が入り、事態が一変します


「提督」

 

はまかぜが服のまま浴室に入って来た

 

「横須賀さんから入電です」

 

「私が変わろう」

 

武蔵が代わりにチビ達の面倒を見てくれる事になり、私は着替えて電話を取った

 

「何だ⁇」

 

「とりあえずテレビ点けて下さい‼︎」

 

開口一番に怒号が鼓膜に響く

 

「はいはい…」

 

「テレビ点けながら聞いて下さい‼︎」

 

リモコンの電源ボタンを押して、テレビを点けたが、点くまで少しだけタイムラグがある

 

その間に、電話の向こうから何か音楽が聞こえて来た

 

「嘘だろ…」

 

電話を落としたと同時に、テレビで臨時ニュースが流れた

 

《国家非常事態宣言が発令されました。ただいま、警報を流しています。繰り返します。国家非常事態宣言が発令されました》

 

「大佐、大佐‼︎」

 

嫌な音だ…

 

止めてくれ…

 

「あっ…」

 

外を見ると、物凄い数の戦闘機が遠くを飛んでいるのが見えた

 

「パパ、ドウスルノ⁉︎コワイコワイ…」

 

「大丈夫だ…大丈夫…」

 

怯えきったチェルシーを抱き締め、何とか落ち着かせる

 

「あれは本体じゃなかったのか…」

 

ニュースでは、深海棲艦が街を焼き尽くしていた

 

一般市民にも勿論被害が出ている

 

「は…電話…」

 

再び電話を取り、耳に当てた

 

「こっちでも確認した。どうすればいい⁉︎」

 

「今、高速艇と護衛艦隊を向かわせました。それに乗って、艦娘を避難させて下さい」

 

「俺は残って戦えばいいか⁉︎」

 

「いえ。こちらに特別な戦闘機を用意しました。それに乗って、指揮を執って下さい‼︎私からの命令です‼︎」

 

「…分かった‼︎」

 

「ふ〜…上がった上がっ…何の音だ⁉︎」

 

お風呂から上がった武蔵は驚いていた

 

「お前ら、何も言わずにアレに乗って横須賀に向かえ」

 

「わ、分かった‼︎よし、皆行くぞ‼︎」

 

「パパは⁇」

 

最後に向かおうとしていたたいほうが此方に振り返った

 

「大丈夫。すぐ追いつくよ。ちょっとスティングレイを借りるよ⁇」

 

「うん…」

 

スティングレイを掌に乗せ、たいほうの頭を撫でた

 

「たいほうよ、行くぞ」

 

「あっちであおうね⁇」

 

「ん、分かった」

 

走って行くたいほうの後ろ姿を見た時、何だかこれが最後の気がした

 

「…スティングレイ」

 

「分かってらぁ」

 

「体当たりだけは絶対するな。いいな⁇」

 

「最後まで抗ってやらぁ‼︎」

 

格納庫に向かい、まずはスティングレイから乗り込んだ

 

「スティングレイ」

 

「何だ⁉︎」

 

「もしかしたら、これで最後の空になるかも知れないから、言っておく」

 

「…」

 

「ここまで、こんな俺に着いて来てくれて、ありがとう」

 

「けっ‼︎泣かせんじゃねぇよ‼︎」

 

いつもの様に軽口を叩き、彼は機体の中に消えた

 

私もコルセアに乗り、エンジンを掛けた

 

《ドウシタライイ⁇》

 

ふとスペンサーが話し掛けて来た

 

「高高度から電子支援をしてくれ。それである程度は抗える」

 

《リョウカイ パパ アリガトウ》

 

「こちらこそ…」

 

三機がいよいよ滑走路に向かう

 

「スティングレイ、発進‼︎」

 

「イカロス機、出る‼︎」

 

《スペンサー デンシシエン カイシ》

 

青い鳥を筆頭に、三機が空へ上がる

 

一機が編隊から離れ、更に大空へと向かう

 

「敵機捕捉。凄い数だ…」

 

「今までの最高記録だな…」

 

敵機の数は、恐らく200機は超える

 

それをたった二機で返り討ちにするには無理がある

 

だが、下にはまだたいほうや武蔵達が乗った高速艇がいる

 

「ま、足止め位にゃなるだろ‼︎行くぜ‼︎スティングレイ、交戦‼︎」

 

「イカロス交戦‼︎」

 

空ではこいつとタッグを組む回数が多かったな…

 

お互いの得意な攻撃方法は、すれ違いざまの銃撃

 

これを繰り返せば、ある程度は叩き落とせるはずだ

 

「おっしゃあ‼︎2機撃墜だぁ‼︎」

 

「イカロス、2機撃墜」

 

「隊長、援護する‼︎いつでも命令を‼︎」

 

「よし。叩き落とせるだけ叩き落とすぞ‼︎」

 

何百機の敵機の中、二機の機影が踊る

 

幾度と無く旋回を繰り返し

 

幾度と無く機銃を発砲し

 

幾度と無く急降下を繰り返す

 

電子支援の影響もあってか、それとも元からの彼等の腕と運がもたらす事なのか…

 

無傷のまま、彼等は戦闘を続けた

 

「い…今ので多分30機位だ…」

 

「イカロス、42機目撃墜」

 

「隊長…やるな‼︎俺も負けられん‼︎」

 

《大佐‼︎》

 

「横須賀か‼︎たいほう達は着いたか⁉︎」

 

《着きました‼︎今、そちらに援護を回しました‼︎彼等と交代して下さい‼︎》

 

「よし…全員聞いたな⁉︎バトンタッチの時間だ‼︎」

 

三機にとっての勝利が確定した

 

「ま、今日は稼がせて貰ったな」

 

「残りは本土だ…」

 

基地に二機が降り立つ

 

無傷とはいえ、何処か疲弊して見えた二機は、すぐにハンガー行きになった

 

「おいおいおい‼︎なんだなんだなんだ‼︎」

 

スティングレイが降りた瞬間、そこにいた兵士が一斉に銃を向けた

 

「待て‼︎味方だ‼︎」

 

「そうだ‼︎そうじゃないと隊長の援護なんかしねぇよ‼︎」

 

「全員銃を降ろして‼︎彼は味方よ‼︎」

 

やっと横須賀が来た

 

スティングレイが味方だと認められ、補給をさせて貰う事になった

 

「お、おい。フィリップはどうするんだ⁉︎」

 

「暫くはハンガー行きだと…」

 

「バッキャロ‼︎俺はアレしか乗れねぇんだよ‼︎」

 

「あ…」

 

考えてみればそうだ

 

用意された機体には乗れるが、操縦が出来ない

 

勿論身長の所為だ



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26話 ワタリドリ(2)

「心配しないでいい。ちょっと改装するだけさ」

 

「ん…」

 

横須賀に不安を抱きつつも、とりあえず用意された機体を見に行く

 

「歩きながらで申し訳無いですが、簡潔に作戦を説明します」

 

横須賀に一枚の資料を渡された

 

「大佐、貴方には二機、護衛を回します。空域や攻撃指定目標はこちらの基地から命令します。命令が無い場合は、とにかく航空戦力を叩いて下さい‼︎」

 

「護衛は誰だ⁇」

 

スティングレイはまだしも、あと一人が分からなかった

 

「私です。私とスティングレイ位でしょう⁇大佐に着いて行けるのは」

 

「またテメェのケツ守んのかよ‼︎」

 

「何とでも言いなさい。さ、これが大佐の機体です」

 

重いハンガーの扉が開けられる

 

「…」

 

白い迷彩の機体が鎮座している

 

美しい機体だ

 

「また…お前の世話になるんだな…」

 

「一番慣れてるでしょう⁇」

 

「あぁ…」

 

用意された機体は、フル装備のF-15S/MTD

 

Su-37の次に乗り慣れた機体であり、一番世話になった機体でもあった

 

「深海の奴等に効くのか⁇」

 

「効きます。装備は妖精が乗る機体の武装をベースにしてます。あぁ、安心して下さい。性能はそのままです」

 

「分かった…」

 

「我々はこの作戦中、アドミラル隊と名乗ります」

 

「提督隊…ね」

 

「では、機体に乗って下さい」

 

機体に乗り、昔の様に全てのスイッチをONにする

 

《こんにちは、大佐》

 

「あぁ、おはよう”マザー”」

 

そうだった

 

対話型インターフェイスも付いていたな

 

名前はマザー

 

このインターフェイスの言う事を聞いていれば、大体の事は出来る

 

《敵の戦闘機は、おおよそ100機です。今回ばかりは死にます》

 

「何処撃てばいいか、どっち避ければいいか教えてくれ。マザーの言う通りにする。それと、上空に俺の味方の電子支援機がいる。そいつとデータをリンクしてくれ」

 

《分かりました。御武運を》

 

《大佐、離陸しました‼︎》

 

「こちらイカロス。了解した」

 

無線から聞こえたのは、横須賀の声だ

 

「イカロス機、出る‼︎」

 

《パパ ハッケン シエンカイシ》

 

空に上がると同時に、スペンサーの電子支援が始まった

 

「イカロス、交戦‼︎」

 

「アドミラル2、エンゲージ‼︎」

 

「スティングレイ、交戦‼︎」

 

三機同時に交戦に入る

 

「全機、散開行動に移れ。敵にケツをとられたら俺に言え」

 

「「了解‼︎」」

 

二機が離れる

 

他にも味方部隊はいるが、どうも劣勢だ…

 

《こちら瑞鳳先発部隊‼︎やられ…》

 

《翔鶴第二部隊‼︎壊滅‼︎後が無い‼︎》

 

《飛龍爆撃隊、残り二機‼︎》

 

多方面から壊滅寸前状態の無線が入る

 

「こちらイカロス。二機目を撃墜」

 

《誰でもいい‼︎こちらはあきつ丸‼︎誰か発艦を援護してくれ‼︎》

 

無線の先から、勇ましい女性の声が聞こえた

 

「こちらアドミラル隊隊長イカロス。了解した。あきつ丸、援護する」

 

《すまない‼︎勇気ある彼等を護ってくれ‼︎》

 

「…気に入った」

 

眼下に、黒い帽子を被った艦娘が見えた

 

あれか…

 

敵機に囲まれている

 

「長距離ミサイルセット。イカロス、フォックス1‼︎」

 

四発のミサイルが敵に向かって行く

 

「今だあきつ丸‼︎発艦させろ‼︎」

 

《了解した‼︎発艦‼︎》

 

あきつ丸から数機が打ち出され、私は彼等の横に着いた

 

《ターゲット四機、撃墜。上手くなりましたね》

 

「あきつ丸の周囲に敵影は⁇」

 

《後二機。どうやら、雷装を捨てた機体です》

 

「最後まで面倒みてやろう。来い‼︎」

 

あきつ丸の戦闘機部隊から抜け、一機をすれ違い様に撃墜

 

「チョロいもんだぜ‼︎」

 

《残り一機も撃墜したみたいです》

 

「よし。あきつ丸、後は任せた。幸運を」

 

《ありがたい。何と御礼をすればいいやら…》

 

「御礼なら、敵さんを追っ払ってから考えてくれ。じゃあな‼︎」

 

白い機体が去って行く

 

海上で発艦を終えたあきつ丸は、その嵐の様な機体に目を奪われていた

 

「次はどいつ…」

 

目の前で輸送ヘリが海域を離脱して行く

 

「一般市民の避難はもう終わったのか⁉︎」

 

《まだ完全とは限りなく程遠いです》

 

「あのヘリに乗ってるのは…」

 

《国のお偉い様方ですね。リストに上がっています》

 

「アドミラル隊全機、俺の直掩に付け」

 

《了解した‼︎》

 

《了解しました‼︎》

 

あっと言う間に二機が両翼に付いた

 

「目標、前方輸送ヘリ」

 

《…へっ。了解‼︎》

 

《左は任せて下さい》

 

何も言わずとも、二人は分かっていた

 

《護衛機が来たぞ‼︎これで大丈夫だ…》

 

お偉い様の神々しい声が聞こえる

 

頼りないのな…お偉い様ってのは

 

「あんた、大臣か何かか⁉︎」

 

《あぁ。今から安全な場所に避難する。着いて来てくれるとありがたい》

 

「一般市民はどうした⁇」

 

《我々が居なければ国は動かん‼︎》

 

この瞬間、この大臣は一般市民を捨てた

 

そして、他の二機がそれぞれに当てられたヘリの背後に着く



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26話 ワタリドリ(3)

「…全機、聞こえたな⁉︎我々の代表は我々を捨てた」

 

《な、何を…》

 

「一番安全な場所に連れて行って進ぜます。やれ」

 

《じゃあな‼︎》

 

《失望しました》

 

《貴様ら、う、うわぁぁぁぁあ‼︎》

 

輸送ヘリが火を吹いて、全機撃墜される

 

こう言う悪人に限って、第二第三の代わりが出てくるんだな…

 

「戻るぞ。援護が必要な奴はまだいる」

 

《了解。私は飛龍隊の支援に参加します》

 

横須賀の機体が隊列を離れる

 

《了解。俺はあのナイチチの援護に向かうよ》

 

《誰がナイチチや‼︎助けてくれ〜‼︎死ぬ〜》

 

下で軽空母”龍驤”が吠えている

 

《あいつ、気に入ったぜ‼︎待ってろ‼︎今行ってやる‼︎》

 

《はよ助けろ黒いの‼︎持ってかれるわ‼︎》

 

「さて、俺は…うわっ‼︎」

 

左翼に被弾か…

 

だが、まだ飛べる‼︎

 

「来い‼︎始末してやる‼︎」

 

反転して迎撃しようとしたが、レーダーから反応が消えた

 

《大佐‼︎大丈夫ですか⁇》

 

現れたのはワンコだ

 

Su-37に乗っている

 

「お前か‼︎」

 

《すみません。大佐の愛機をお借りしました》

 

「構わん。お前にやる。援護してくれ」

 

《了解です‼︎》

 

Su-37に乗ったワンコは、何処か凛々しく見えた

 

飛び方も、中々筋が良い

 

《大佐。ちょっと試したい武装があるんです。いいですか⁇》

 

「俺を巻き込むなよ‼︎」

 

《大丈夫です‼︎起動‼︎》

 

ワンコが何やらスイッチを入れた

 

すると、数機の黒い機体が反旗を翻し、ワンコの両翼、そして背後に着いた

 

《三機…今の出力じゃこんなものか…》

 

「何をしたんだ⁉︎」

 

《ハッキングですよ。彼等の機体は、無人の場合が多いですから、作ってみたんです》

 

「やるな‼︎」

 

《大佐、我々は貴方に着きます。御命令を》

 

「よし。このままたたみ掛ける‼︎アドミラル隊全機、敵空母に目標を切り替えろ‼︎」

 

《了解‼︎》

 

《分かった。前方の軽空母群に集中砲火する。ナイチチの連中、ちゃんと着いて来いよ‼︎》

 

《あいつ後でしばいたるからな‼︎艦載機のみんな‼︎しゃあない、あいつを援護したれ‼︎》

 

「イカロス、フォックス2‼︎」

 

《敵航空母艦、撃沈‼︎随伴艦も沈んでいきます‼︎》

 

「よし‼︎あらかた片付いたな。後は戦艦らに任せ…」

 

《大佐‼︎》

 

何やらワンコが焦っている

 

《潜水艦発射ミサイルです‼︎どんどん上昇してます‼︎》

 

「まずい‼︎全艦に告ぐ‼︎戦闘中止、鎮守府方面へ退避しろ‼︎航空部隊は高度を上げろ‼︎」

 

下では緊急退避が始まった

 

航空部隊は言われた通り、上昇を始めている

 

残っているのは敵艦のみになり、自分達の部隊も安定した高度まで上がれた

 

《大佐、いきなりどうしたんですか‼︎》

 

「潜水艦から発射されたミサイルは、恐らく時限式の炸裂弾だ。航空部隊は高度を上げれば、艦隊は海域を離れれば避けられ…」

 

話している最中、真下でミサイルが炸裂した



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26話 ワタリドリ(4)

思っていた通り、時限式の炸裂弾だ

 

幾ら強固な装甲を持った艦娘でも、恐らく一撃で屠られる

 

現に海域に残っていた数隻の敵艦は虫の息だ

 

「…スペンサー、アレを使え。試作品だからあまり回数はこなせない。しっかり狙え」

 

《ジョウホウ タリナイ》

 

「ちっ…」

 

《大佐、潜水部隊から打電が…》

 

「何て言っている⁇」

 

《イクを標的にするの。そしたら当てられるの。大丈夫、イクは絶対避けるの。です》

 

「だが…」

 

《信じましょう》

 

「…仕方ない。スペンサー、対飛来物破壊レーザー起動。潜水艦、伊19に標準固定」

 

《リョウカイ イ ジュウキュウ ロック》

 

「照射‼︎」

 

スペンサーから放たれたレーザーが海面に落ちる

 

《水中で破壊音‼︎敵潜水艦浮上‼︎》

 

「よし‼︎全艦、一気に叩け‼︎今を逃せば次は無い‼︎」

 

《大きい…》

 

《おいおいおいおい‼︎こいつ、南国で撃沈した潜水空母じゃねえのか⁉︎》

 

横須賀は敵ながら大きさに惹かれ

 

スティングレイは過去に撃沈した敵と目の前に現れた敵を照らし合わせていた

 

《敵航空勢力、20%まで低下。大佐、行けます》

 

「あと一歩だ‼︎気を引き締めて行こう‼︎」

 

《これで艦載機が出りゃ、あいつなのになぁ…》

 

《敵潜水空母、艦載機を射出‼︎》

 

マザーの言葉を聞いた瞬間、スティングレイの思いは確信へと変わった

 

《大佐‼︎あいつは…あいつは、鹵獲されたんだ‼︎》

 

「もう一度沈めるだけだ‼︎」

 

奇声を上げながら、潜水空母は艦載機射出と砲撃を繰り返していた

 

海中と言う大防御を無くした今、彼女が出来るのは、付け合わせられた機銃で出来る最後の悪足掻き

 

戦艦の大火力の砲撃

 

重巡洋艦の連撃

 

駆逐艦の飽和雷撃

 

あっと言う間に、彼女は撃沈された

 

《眠れ…今度はゆっくりと…》

 

「お前…」

 

《愛されなきゃいけなかったんだよ…あいつも…》

 

《敵残存部隊、撤退して行きます大佐、我々の勝利です》

 

「…帰ろう‼︎美味い飯を食いたい」

 

《…あぁ‼︎》

 

作戦を終え、帰投する航空部隊が空を埋め尽くす

 

大半は自身の空母に戻って行ったが、私達の様な陸戦機は横須賀の基地に戻る他なかった

 

 

 

 

皆が居なくなった海域…

 

先程、潜水空母が撃沈された場所で、何かの反応がある

 

「行かなきゃ…あの人の所へ…」

 

 

 

「うまうま‼︎」

 

「んめぇ‼︎」

 

「おかわり‼︎」

 

男三人集まり、間宮で御飯を食べていた

 

「まさかワンコにあれだけの技術があったとはなぁ…」

 

「あはは…皆さんの飛び方を、いつも見てたんです。それで…」

 

「あれだけ出来りゃ上出来だよ。おかわり‼︎」

 

小さいながら、スティングレイは大量に食事を腹に収めていく

 

今まで食べられなかった分を取り返す勢いだ

 

ま、それもこの美味さなら分かる

 

「あの〜…」

 

一人の少女がひょっこり現れた

 

「うほっ、日焼け少女だぜ隊長‼︎」

 

「白と小麦のコントラストだ」

 

「スク水が良いですね」

 

三人全員変態発言しかしない為、少し苦笑い気味の少女は、スク水の上にオレンジと白の服を着ており、他には何も持っていなかった

 

「ちょっとお聞きしたい事が〜」

 

「んっ。俺達で良ければ」

 

スク水の少女は嬉しそうに顔を綻ばせた

 

「昨日、潜水空母を撃沈した時、心配していた人がいたんですけど…誰か分からなくて…」

 

「あいつは…」

 

スティングレイが口を開いた

 

「あいつは…本来国を護る為に造られた、潜水状態からの弾道ミサイルの発射、浮上すれば射出式の無人艦載機発艦…開発者の夢の塊だ」

 

「ほぇ〜」

 

不思議そうな顔をする少女の周りでは、更に不思議そうな顔をした私とワンコがいる

 

 

敵巨大潜水空母を撃沈しました‼︎

 

多大なる成果を上げた貴官に対し、勲章を授与します‼︎



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27話 小麦色の恋(1)

さて、26話が終わりました

この話では、前回の最後でちょろっと出て来た女の子の正体が分かります

え⁇もう分かってるって⁇

違うかも知れませんよ‼︎


「うんうん‼︎この人だね‼︎」

 

「で、何の様だスク水少女」

 

「私、貴方につきます‼︎」

 

「ははは‼︎やめとけやめとけ‼︎お前みたいな奴を連れて空には行けねぇ」

 

「パイロットじゃありませんよ‼︎艦娘ですよ」

 

「冗談はさておき…隊長…」

 

「聞いて下さいよ〜、ね〜」

 

少女は何故か私の服を引っ張って来る

 

ま、無下にする訳にも行かないな…

 

「ま、これでも飲め。よいしょ」

 

スティングレイは小さな体で必死にラムネを運び、少女はそれにストローを挿し、それを一口飲んだ

 

「ぷは…力になりたいんです‼︎」

 

「駄目だな。まず俺は提督じゃねぇし、俺は違う艦娘の所属だ」

 

「そんな〜…」

 

「すてぃんぐれい‼︎」

 

机で顔が半分くらいしか見えていないたいほうが、相変わらずいきなりスティングレイを鷲掴みにする

 

「ぐえっ‼︎またか‼︎」

 

「たいほうとあそぼ⁇」

 

「わかったわかった‼︎頭に乗せてくれ‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

たいほうの頭にチョコンと乗ったスティングレイと彼女は、段々絵になって来た

 

「じゃあな〜スク水ちゃん」

 

「あ…ん〜っ…」

 

残された少女は半泣きの状態で指を咥えている

 

「スティングレイが気に入ったか⁇」

 

「心配するのは優しい証拠です」

 

「なら、俺の基地に来るか⁇そこなら、スティングレイもいる」

 

「本当ですか⁉︎」

 

少女の目が輝いた

 

「じゃ、とりあえず、さっきの子を探して来てくれ」

 

「分かりました‼︎」

 

少女はそのまま間宮から出て行った

 

「潜水の艦娘ですかね⁇」

 

「そうらしいな」

 

「もし潜水艦娘だったとしたら、どの子にも当てはまりませんね…19、8、58、168…」

 

「後はドイツのU-511…か」

 

「確認されていないのがいるとしたら…」

 

「横須賀が一隻造り上げた伊401…」

 

考えられるのはそれ位しかなかった

 

しかし、何処の所属の艦娘だ…⁇

 

「でも、あれは艦娘ではなく本物の船舶だったはず…しかもパスタの国に贈与したはず…」

 

「…聞いてみよう。色々気になる」

 

「えぇ」

 

間宮を出て、スク水の少女を探し始めた

 

たいほうのいる所に、彼女もいるはずだ

 

「いた。スク水の方だ」

 

「あぁ、すみません…まだ見付かってないんです…」

 

「一緒に探そう。え〜と…」

 

「あ、伊401です‼︎しおいって呼んで下さい」

 

「伊401だと⁉︎」

 

「はいっ‼︎晴嵐さんはまだないですけど…他にも色々出来ますよ‼︎」

 

「何処から来たんだ⁇」

 

「あ…その…あんまり覚えてないんですけど…最後に無線が聞こえて、その人の所に居たのか〜と思って…」



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27話 小麦色の恋(2)

「あ…」

 

大体の事は察した

 

この子は十中八九、昨日撃沈した、あの大型の敵潜水艦の成れの果てだ

 

はまかぜと同じく撃沈された後、何処に行って良いのか分からず、ここに来たのだろう

 

「でもでも‼︎一生懸命頑張ります‼︎」

 

「そっか…宜しくな、しおい」

 

「はいっ‼︎」

 

「で、本題だ。たいほうは何処だ…」

 

「これすごいね‼︎」

 

「いた」

 

建物の間からたいほうの声が聞こえた

 

影から彼女を見ると、壁に何かを投げて遊んでいる

 

スティングレイも同じ様な事をしている

 

「こんな所に居たのか」

 

「パパ‼︎」

 

膝を折って彼女を抱き止めると、手には壁に投げていた物を持っていた

 

「何してたんだ⁇」

 

「すーぱーぼーるだって‼︎これすごいよ‼︎」

 

手に持った赤い玉を壁に投げると、ピョンピョン跳ねて手元に戻って来た

 

「俺も貰ったぜ‼︎」

 

「誰に貰ったんだ⁇」

 

「はりねずみのおねぇちゃん‼︎」

 

「ハリネズミのおねぇちゃん⁉︎」

 

「うんっ。あたまにとげとげがいっぱいついてるの‼︎」

 

「頭にトゲトゲ…おねぇちゃん…」

 

表に出てそれらしき人を探すが、見当たらない

 

「気になる…」

 

「あ、いた‼︎あのおねぇちゃん‼︎」

 

ちょっと離れた所で、ベンチに座って何かしている

 

近寄って見ると、確かに頭にトゲトゲがいっぱい付いている

 

「君か。たいほう達にスーパーボールくれたのは」

 

「あぁ、いいぜ。どうせ売れ残りだ」

 

「君、名前は⁇」

 

「あたしは摩耶‼︎今は艦娘をやめて、こうして何でも屋をしている」

 

「何でも屋…か」

 

摩耶の足元には風呂敷が広げられ、色んな物が売っている

 

既にたいほうが風呂敷の端の方に置かれたオモチャを見ている

 

「何か買って行くか⁇」

 

「そうだな…」

 

雑に置かれてはいるが、質は良さそうだ

 

「これは⁇」

 

一つの品に目が行く

 

それは筒の様な物で、中には何も無い

 

「これは何だ⁇」

 

「ん〜…水筒みたいなんだけど、何か違うんだよなぁ…」

 

しかし、何故かこれが気になる

 

「不思議なもんだな…何故か惹かれる…」

 

「100円でいいぜ。もし使えたら値打ちもんだろ」

 

「たいほうはどれにするんだ⁇」

 

「これ‼︎」

 

たいほうが持っていたのは、無人戦闘機のオモチャだ

 

「それも100円でいいぜ。200円だな」

 

ポケットから百円を二枚出し、摩耶に渡した

 

「サンキュー。また来るよ」

 

「ありがとな。時々ここでこうして広げてるから、また覗いてくれ」

 

摩耶と別れ、たいほうは嬉しそうにオモチャを持っている

 

しかし、何だこれ

 

見ればみるほど気になる開けても何も無く、中には空洞があるだけ

 

「パパ‼︎」

 

「パパ」

 

「れーべ‼︎まっくす‼︎」

 

走って来た二人を抱き上げ、背中をさすった

 

「パパ凄いね‼︎いっぱい落ちてた‼︎」

 

「私たちはチョコマカ逃げてた」

 

「ふふ…それでいい…」

 

「あ、これ」

 

れーべが先程の筒に触れた

 

不思議そうにそれを見つめた後、私の手から取り、弄り始めた

 

すると、ものの数秒もしない内に筒から”ポンッ”と音がした

 

「あいた‼︎はい‼︎」

 

「そうやって開けるのか⁉︎」

 

筒は何と二重になっており、中から紙切れが出て来た



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27話 小麦粉の恋(3)

「これは…」

 

どうやら設計図のようだ

 

それも、かなり強力な

 

「未完成のまま、開発を終えた弾頭みたいだな…」

 

「見せて〜‼︎ね〜‼︎」

 

しおいが服を引っ張る

 

この子は何か引っ張る癖があるみたいだ

 

「ほら」

 

「…」

 

設計図を見せると、急に黙り込んでしまった

 

「分からんだろ⁇ほら、返して」

 

「はい」

 

ふと手にヒンヤリとした物が置かれた

 

「うわ‼︎なんだよこれ⁉︎」

 

置かれたのはミサイルだ‼︎

 

下手に放して地面に落として起爆したら、抱えているれーべてまっくすも危ない‼︎

 

「その設計図に書かれたのが完成した物です。散弾ミサイルの設計図ですね。ほら、先端が…」

 

「いいから早く取ってくれ‼︎」

 

「あ、はいはい」

 

ミサイルを手に取ると、背負っていた機械の中に戻した

 

「パパ、みさいるってなに⁉︎」

 

物珍しそうにたいほうがしおいの機械を見ている

 

「あ、危ない兵器だ。たいほうは知らなくていいよ」

 

「パパ、お家に帰ろう⁉︎」

 

「ん、そうだな。帰ろう」

 

 

 

新しく迎えた伊401ことしおいを引き連れ、基地に戻る事にした

 

高速艇に乗る時、二人が見送りに来た

 

「大佐、ありがとうございました。御礼はまた倉庫に入れておきます」

 

「横須賀」

 

「はい」

 

「たまには、空戦もいいもんだな…」

 

「…」

 

「二度と戻るまいと思ってたが、俺もとうとう護る人が出来た。だから、今度は…」

 

「お金ではなく、あの子達の為…ですね⁇」

 

三人が私の艦娘の方に目をやる

 

「そうだ。今度は未来…さ」

 

「おかえりなさい…大佐」

 

「ふっ…」

 

「大佐、またスペンサーの整備をしに伺います‼︎」

 

「いつでも来い。いい機体を仕入れておくよ」

 

二人に敬礼され、高速艇は基地に向かった

 

 

 

「横須賀さん」

 

「ん⁇」

 

「大佐は昔、お金の為に戦ってたんですか⁇」

 

横須賀は大笑いした後、ワンコの頭を撫でた

 

「そうさ。始まりは傭兵だったからね。今じゃあんなに丸くなって…」

 

数日後…

 

「に''〜‼︎」

 

「たいほうの‼︎」

 

「何どがじでぐで‼︎」

 

執務室の中では、しおいとたいほうがスティングレイを引っ張り合っていた

 

「私に取っては提督さん何ですっ‼︎」

 

「すてぃんぐれいはたいほうのだもん‼︎」

 

「あだだだだだだ‼︎だ、だいぢょう、だずげでぐで‼︎」

 

「普段の行いが悪いからそうなるんだ」

 

「ざっげんな‼︎あだだだだだだ‼︎」

 

「たいほう」

 

「パパ‼︎」

 

私に呼ばれると、たいほうはスティングレイを放した

 

「パパとスティングレイ、どっちが好きだ⁇」

 

「パパ‼︎」

 

「なん…だと…」

 

「これをあげるから、今日はしおいにスティングレイを貸してあげなさい」

 

引き出しの中から烈風の模型を出し、たいほうに渡した

 

「わかった‼︎おそといくね‼︎」

 

「あんまり遠くに行くんじゃないぞ‼︎」

 

そのままたいほうは外に出て行った

 

「やったぁ‼︎やっと来てくれた‼︎」

 

「嫌だぞ。俺ぁお前の艦載機パイロットにはならんぞ‼︎」

 

「違いますよ〜。私と一緒に遊んで下さい」

 

「隊長、何とか言ってくれ‼︎」

 

「あ‼︎そうだ‼︎工廠でローマが待ってるんだった‼︎バイバーイ‼︎」

 

「あ‼︎キッタネェ‼︎」

 

私が去った部屋には、勿論スティングレイとしおいだけ

 

「嫌だぞ。俺は動かんぞ」

 

隊長の机の上で踏ん反り返ってそっぽ向いた

 

すると、俺の周りに何やらオモチャの野菜が積まれていく

 

タマネギ

 

ニンジン

 

キャベツ

 

そして魚

 

「今日は野菜炒めですよ〜」

 

「…」

 

「新婚さんなのに、旦那はそっぽ向いたままだって、近所では噂ですよ〜」

 

「くっ…」

 

「あ〜あ‼︎これが倦怠期か‼︎ありです‼︎」

 

「ありな訳ね〜だろ‼︎仕方ねぇ‼︎おままごとに付き合ってやらぁ‼︎その代わりなぁ‼︎一つ約束しろ‼︎」

 

「ん⁇」

 

「次からはたいほうとも一緒に遊んでくれ。それが出来るなら、時々二人で遊ぶ。いいか⁇」

 

「うんうん‼︎」

 

「よ、よし‼︎ただいま〜っと」

 

執務室でおままごとが始まった時、たいほうはいつもの砂浜で先程のオモチャで遊んでいた

 

伊401が、艦隊の指揮下に入ります‼︎



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28話 鷲と小鳩

さて、27話が終わりました

今回のお話では、たいほうに新しいお友達が出来ます

皆さん知ってるあの子です




「うわ〜さじんだ〜まえがみえないぞ〜」

 

たいほうは一人でもたいほうなりの世界があるみたいだ

 

「ばばばば…あ」

 

砂浜の近くにある木陰から、誰かが此方を見ている

 

たいほうはその子に近寄り、観測機のオモチャを渡した

 

「たいほうとあそぼ⁇」

 

「…ウン‼︎」

 

たいほうはその子と共に飛行機のオモチャで遊び始めた

 

「あたしたいほう‼︎おなまえは⁇」

 

「ホッポ」

 

「ほっぽちゃん‼︎ほっぽちゃんはひこうきすき⁉︎」

 

「ヒコウキスキ‼︎レップウスキ‼︎」

 

「じゃあたいほうのかしてあげる‼︎」

 

ほっぽと呼ばれる白い少女は、嬉しそうに観測機と烈風を高々に掲げた

 

飛行機ごっこをしたり、砂山を作ったり、綺麗な貝殻を探したり…

 

一通り遊んだ後、段々と日が暮れて来た

 

「ホッポ、オウチカエル」

 

「またきてね⁇」

 

「コレ、アリガト」

 

烈風と観測機をたいほうに返そうとしたが、たいほうはそのままほっぽにそれを持たせた

 

「あげる。またたいほうとあそんでね⁉︎」

 

「ウン‼︎」

 

二つのオモチャを大事そうに持ち、ほっぽは水平線に消えていった

 

「たいほう」

 

「パパ‼︎」

 

「烈風はどうした⁇」

 

「あ…おともだちにあげたの」

 

「そっか。友達が出来たのか‼︎また作ってやるからな」

 

「うんっ‼︎」

 

楽しそうなたいほうを抱え、皆の待つ場所へと戻った

 

 

 

翌日…

 

突然、執務室の扉が叩かれた

 

「どうぞ」

 

「アノ…」

 

「いらっしゃい」

 

私より頭一つ分大きい、ツノの生えた女性が訪ねて来た

 

「キノウハ、ホッポガオセワニナリマシタ」

 

「ほっぽ…あぁ、たいほうが言ってたお友達か‼︎」

 

「ドウカコレカラモ、ヨロシクオネガイシマス」

 

「こちらこそ」

 

互いに種族は違えど、一礼を交わす

 

「コレ、レップウ‼︎」

 

足元にいた小さな少女が、烈風のオモチャを持ってはしゃいでいる

 

「君が持っててくれるなら、その子も幸せだな」

 

「コッチモレップウ‼︎」

 

両手に烈風のオモチャを掲げ、ほっぽは鼻高々だ

 

「二つもあるのか⁇」

 

「チガウ。コッチハタイホウノ」

 

「コレ、タイホウチャンノカートリッジニハイルヨ⁇」

 

「作ってくれたのか⁉︎」

 

「レップウ、オイテク」

 

「マタキマス」

 

二人が去り、手元にはカートリッジに変わった烈風が残るだけ

 

変わったお友達もいるものだな…

 

そう言えば、たいほうは不思議な艦載機しか積載出来ない

 

現にフィリップがそうだ

 

スペンサーは陸戦機故、積載は不可能だが、初めての時もカートリッジにはクッキーやらビスケットしか入って無かった

 

ま、戦うのは私達だから良いのだが…

 

「パパ‼︎ほっぽちゃんがパパにぷれぜんとわたしたって‼︎」

 

「ん⁇あぁ、これだ。試しに付けてみろ」

 

クロスボウの上にカートリッジを乗せ、窓の外に打ち出してみた

 

「わぁ‼︎れっぷうだ‼︎」

 

三機の烈風が、空高く舞い上がる

 

しばらくした後、ちゃんとたいほうのカートリッジに戻って来た

 

「良かったな‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

 

 

たいほうの新装備に”れっぷう”が加わりました‼︎




れっぷう…対空+8、火力+3、回避+2

本来の烈風には対空で少し劣るが、ほかの機能が少しプラスされている機体

たいほうしか積載出来ない


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29話 雄鶏の弱点(1)

さて、28話が終わりました

ちょっと短かったですか⁇

今回のお話は、平和な日々の中でパパの体の秘密と、ちょっとした弱点が明かされます




あれから数日…

 

たいほうは相変わらず訪れて来るほっぽと遊んでいる

 

最近、れーべとまっくすも輪に入る事が多くなった

 

武蔵とローマははまかぜから料理の勉強

 

チェルシーは時々身体検査に訪れる横須賀の相手をしている

 

しおいはようやくスティングレイと接する機会が多くなり、彼もそれに満更では無い様子だが、やはりたいほうの艦載機パイロットという思いは捨てていない

 

そんな平和な毎日

 

私は執務室で一人書類を整理し、ようやく片付き、一服しようとしていた

 

「ふぅ…グッ‼︎」

 

急に体が締め付けられる様な激痛が走った

 

何とか灰皿にタバコを置き、床をのたうち回る

 

「グアア…な、何だ…だ、ダレか…」

 

まただ

 

目の前が赤く染まって行く…

 

「タスけ…」

 

そこで意識が無くなった

 

 

 

気が付けば、医務室のベッドで横になっていた

 

「オキタ⁇」

 

「チェルシーか…」

 

ベッドの横にはチェルシーがポツンと座っている

 

「大佐‼︎大丈夫ですか⁉︎」

 

「大丈夫だ…俺は一体どうしたんだ…」

 

「…」

 

横須賀は口を閉ざした

 

「ダイジョウブ。コノマエノカロウ」

 

上手くチェルシーが誤魔化してくれた

 

「今、お粥を作って来ますから、もう少し寝てて下さい」

 

横須賀が部屋から出ると、チェルシーが額に手を当てて来た

 

「シンドイ⁇」

 

「大丈夫だ」

 

チェルシーの真っ赤な瞳の奥に、自分の姿が薄っすら映る

 

…真っ赤⁇

 

「チェルシー」

 

「ン⁇」

 

「チェルシーは、俺が何色に見える⁇」

 

「ン〜…チェルシー、ミンナマッカ二ミエル」

 

「あ…す、すまん…」

 

「デモ、パパハミエルヨ⁇」

 

「ふっ、そっか…」

 

チェルシーの頭を撫で、横須賀が来るまで無言の時間が続いた

 

「大佐、出来ましたよ‼︎」

 

「すまんな…」

 

「チェルシー、ミンナノトコロニイク」

 

「あ…」

 

そのままチェルシーは何処かに行ってしまった

 

「さ、口開けて…」

 

「あ」

 

熱々のお粥が口に入る

 

いい感じに味も付いていて、中々美味しい

 

「武蔵が作ったんですよ⁇」

 

「横須賀」

 

「はい」

 

少し呼吸の荒い横須賀を見つめ、聞いてみた

 

「率直に言う。俺は深海棲艦なのか⁇」

 

「…」

 

やはり黙ってしまう

 

「時折あぁなって、視界が真っ赤になる。ビスマルクとレストランに行った時もそうだった」

 

「ち、違いますよ‼︎大佐はちょっと血圧が高いだけです」

 

「…ちょっと来てくれ」

 

「あっ‼︎ちょっと‼︎」

 

ベッドから立ち上がり、上着を着て工廠に向かった

 

”何や珍しい。デートかいな”

 

寝そべりながら冗談を放つ妖精に顔を近付けた

 

「”アレ”を出して、簡易の試射場を作ってくれ」

 

”お、おっしゃ‼︎分かった‼︎”

 

妖精達が総動員で簡単な試射場を作り、工廠の扉が全て閉められた上で、別の妖精が”アレ”を持って来た

 

「これは…」

 

妖精が持って来たのは、禍々しい形をした、手で持てる砲の様な物

 

私は数発弾を込め、何も言わずにそれを横須賀に持たせ、私の眉間に向け、無理矢理引金を引かせた

 

「いやっ‼︎」

 

カチン‼︎と音がしたが、弾は出ない

 

「あっ…」

 

放心状態の横須賀からそれを取り、付けられた的に向かって数発放った

 

大きな音が工廠に響き渡り、的はバラバラに撃ち抜かれた

 

「これは、深海棲艦の持っていた武器だ」

 

「それを何処で…」

 

「たいほうが遠征の時に拾って来た。武蔵もローマも、たいほうも撃てなかった。ワンコも無理だった。だが、チェルシーには撃てた。俺も撃てる」

 

「…」

 

私は砲を横須賀に向けた

 

「何か隠してるなら言ってくれ」

 

「…驚きませんか⁇」

 

「驚く様な経験は山程して来た」

 

「なら、話します」

 

横須賀は深呼吸をした後、震える体に鞭を打って口を開いた



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29話 雄鶏の弱点(2)

「大佐は…日本、いや、世界で初めて確認された、雄型の深海棲艦なんです。それも、こちら側の…」

 

「やっぱりな…」

 

砲を下ろし、床に落とした

 

「恐らく、あの時撃墜されて深海化したのでしょう。その後、何らかの事情で逃走を図り、横須賀の基地に辿り着いた…」

 

「…」

 

「時折視界が赤くなるのは、深海化する前兆です。薬はありますが、多様するのは余り…」

 

「俺は程の良い実験体って訳か…」

 

「違います‼︎それは絶対‼︎だから私がこうしてここの基地に‼︎」

 

「深海棲艦の奴等とやたら仲良くなれたのも、そのせいか…」

 

「お願い…分かって…」

 

「横須賀」

 

「はい…」

 

「俺は…この二つの種族の架け橋になれそうか⁇」

 

「‼︎」

 

横須賀にとって、予想外の答えが返って来たのだろう

 

「なれます‼︎絶対になれます‼︎」

 

「なら、俺が深海棲艦と仲良くしている間に、治す薬でも開発してくれ」

 

「はいっ‼︎必ず‼︎」

 

「おい‼︎片付けてくれ‼︎」

 

”あいあいさ〜‼︎”

 

「今はお前を信じてやる」

 

「えぇ」

 

「皆には黙ってろ」

 

「勿論です」

 

「行こう。腹減ったろ」

 

食堂に戻ると、既にみんなカレーを口にしていた

 

まえかけをしたたいほうの横に座り、口の周りを拭く

 

「美味しいか⁇」

 

「おいしい‼︎」

 

「ぽっぽも美味しいか⁇」

 

「オイシイ‼︎カレーオイシイ‼︎」

 

れーべもまっくすも美味しそうに食べている

 

少し安心した…

 

「提督さん‼︎食べたら泳ぎましょ〜よ〜‼︎」

 

しおいの一言で、私の思考が凍り付いた

 

「え…や、やだ…」

 

「まだ、海は危ないからな」

 

武蔵の一言で救われた…ふぅ…

 

「入渠ドックの奥にプールがあるわ」

 

ローマの一言で再び凍り付く

 

「プールにしましょう‼︎先に行ってますね‼︎ごちそうさま〜‼︎」

 

「あ…あ…」

 

しおいが去った後、冷や汗を流す

 

マズい…

 

大変マズい…

 

”これ”を知られる訳にはいかない…

 

「よ…横須賀にハンバーガーでも食べに行こうか…な⁇」

 

チラッと横須賀を見ると、うっすらと笑みを浮かべている

 

「丁度いい機会ですね、た・い・さ‼︎」

 

「…‼︎」

 

こうなりゃ工廠に向かってダッシュだ‼︎

 

んで、コルセアで単冠湾まで逃げよう‼︎うん‼︎そうしよう‼︎

 

「ダッシ‼︎」

 

「捕まえました」

 

一瞬ではまかぜに捕まり、横須賀の元に戻された

 

「さ、行きましょうか‼︎」

 

「うっ…」

 

 

 

プールに着くと、しおいが潜水の練習をしていた

 

「たいほうもはいる‼︎どぼ〜ん‼︎」

 

「どぼ〜ん‼︎」

 

「どぼん」

 

「どぼんです」

 

「ドボン‼︎」

 

チビ達がいとも簡単にプールに入って行く

 

「さぁ、我々も入ろう」

 

「えぇ」

 

色気MAXの水着を来た武蔵とローマまで入る

 

「さ、大佐。行きましょう」

 

パツパツのスク水に着替えた横須賀を見た時点で無理と気付いた

 

「か、帰る…」

 

「ダメです。はい、ドボ〜ン‼︎」

 

「う、うわぁぁぁぁあ‼︎」

 

横須賀に体当たりされ、プールに突き落とされた

 

「…」

 

「…」

 

「浮いてこないぞ…」

 

「もう‼︎相変わらず治ってないっ‼︎」

 

「浮いて来たわ」

 

横須賀は背を向けて浮いて来た私を抱え、背中を叩いて水を吐かせた

 

「あ…生きてる…柔らかいな…」

 

「相変わらずカナヅチですか…」

 

「溺れる助け」

 

放って置くと、すぐに沈んで行く

 

「あぁもう‼︎」

 

またすぐに救い上げ、まずは息継ぎの練習をさせる

 

「はい、イッチニーイッチニー」

 

「あ、あばばばば…」

 

「あぁもう‼︎」

 

息継ぎも出来ないなんて‼︎

 

「大佐‼︎今まで良く生きてられましたね⁉︎」

 

「一つぐらい欠点があってもいいだろ⁉︎あ、離すな‼︎」

 

大佐が私の腕にしがみ付く

 

ま、まぁ…満更でも無いけど…

 

「はい‼︎ちゃんと掴まって‼︎武蔵とローマもいますから、大丈夫です」

 

「たいほうもいるよ‼︎」

 

「う…」

 

「チェルシーモ、ドボンスル」

 

「うわなにをするやめ‼︎」

 

私達目掛けて、チェルシーが飛び込んで来た‼︎

 

「大佐‼︎」

 

水飛沫のせいで、つい大佐の手を離してしまった

 

大佐が沈んでる‼︎

 

「大佐‼︎」

 

「ン⁇ン⁇」

 

チェルシーは訳が分からず、ボーッとしながら浮いている

 

「ぷは‼︎大佐‼︎しっかり‼︎」

 

「そろそろ人口呼吸をだな…」

 

「…バカ‼︎」

 

「パパ、ダイジョウブ⁇」

 

チェルシーが此方に泳いで来た

 

しおいは潜水は上手だが、泳ぎはチェルシーが上手そうだ



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29話 雄鶏の弱点(3)

「パパ、チェルシーノテ、ツカマッテ⁇」

 

「ん…」

 

大佐は恐る恐るチェルシーの手を掴んだ

 

「イッチデ、カオヲミズニツケル。二ッデカオヲダス」

 

「いっち、に」

 

「イッチ、ニ」

 

案外上手に行っている

 

「チョットキュウケイ。チェルシー二ツカマッテ⁇」

 

「ん…」

 

まだ水に不安はあるようだ

 

「ダイジョウブ。チェルシーガツイテル」

 

「頼んだよ」

 

「オテテツナイデルカラ、プールヲイッシュウスルヨ⁇」

 

「ゆ、ゆっくりだぞ⁉︎」

 

「ン…」

 

チェルシーに引かれて、大佐はプールを一周し始めた

 

その間私は戦艦達と共にチビ達の面倒を見る事にした

 

「ン…ジョウズニナッテキタ」

 

ダレカニオシエルノ、ヒサシブリ…

 

ナンダカ、ナツカシイ…

 

オシエル…

 

キョウドウ…

 

キョウドウ…⁇

 

タイサ⁇タイチョウ⁇

 

ワタしは…コのヒトの…

 

「息ハイテ。モウちょっとダヨ」

 

「お…おぅ…」

 

「チェルシー⁉︎貴方もしかして…」

 

もうすぐで一周出来る所まで来た二人だが、チェルシーに異変が出ている

 

腕や顔の至る所にひび割れが出来ている‼︎

 

「あとジュウメートルくらい」

 

「…」

 

「あ…」

 

私は彼女の顔に見覚えがあった

 

忘れる事なんて、出来なかった

 

「さ、後一歩」

 

「お⁉︎おぉ…」

 

「ぐ…」

 

思い切って、彼女の名前を呼んでみた

 

「グラーフ‼︎」

 

「はっ」

 

その瞬間、チェルシーのひび割れが弾け、本来の姿が垣間見えた

 

「グラーフ⁉︎」

 

「た…隊長…私…」

 

大佐はかなり驚いていた

 

そりゃそうだ

 

数秒前まで、色白で角が二本生えた女の子が手を引いていたのだから

 

「そっか…私はグラーフだったな」

 

「お前だったのか…」

 

「ただいま、隊長」

 

「おかえ」

 

急に手を離したものだから、大佐が沈んで行く

 

「おっと」

 

沈む寸前でグラーフが掴み、そのままプールから上がらせた

 

「あ‼︎大佐‼︎分かりました‼︎何故泳げないか‼︎」

 

「何だ」

 

「ちょっと来て下さい‼︎」

 

横須賀に手を引かれ、脱衣所まで連れて行かれた

 

「これです」

 

「あ、あぁ…それもそうか。鉄製だったな」

 

これと言うのは、義足の事

 

鉄製の為、付けていては沈んでしまう

 

「明石に頼んで、水に浮く素材で造って貰いましょう」

 

「…頼む」

 

「では、近々持って来ますね」

 

その日はそのまま、水泳教習はお開きになった

 

 

 

「ぐらーふ‼︎」

 

「そう。私がグラーフ」

 

「あたしたいほう‼︎」

 

「うん。知ってる。いつも遊んでくれてありがとう」

 

「あ〜…まぁ、紹介する。俺の部下の…」

 

「航空母艦、グラーフツェッペリン。です」

 

”提督、毎度の事やけど、装備や”

 

手渡された電子板を見ると、いつも通り顔写真と全体像、そして装備の一覧が表示されていた

 

なし

 

なし

 

なし

 

 

 

「これでいい」

 

”ま、言ってもしゃ〜ないわな”

 

「そう…私には装備がない。だけど…」

 

「だけど…⁇」

 

全員が生唾を飲んだ

 

「航空機には乗れる」

 

「お…おぉ…」

 

「見て。紋章も、ほら」

 

「おっ、懐かしいな」

 

「そうでしょ」

 

彼女の紋章はドイツの紋章ではなく、サンダーバード隊のエンブレムが描かれていた

 

「これで全員揃ったな」

 

「ふっふっふ…ま、俺が変わらず二番機だがな‼︎」

 

腕を組んで自慢気に話しているスティングレイに迫力は無い

 

ましてたいほうの頭の上だ

 

「そう。スティングレイが二番機。凄い凄い」

 

「お…おぅ…」

 

否定されるどころかグラーフに肯定され、満更でもなさそうな顔をしている

 

「すてぃんぐれい、どきどきしてる⁇」

 

「あ…いや、してねぇよ‼︎」

 

「あたまのうえが、どっくんどっくんしてるよ⁇」

 

「してないっ‼︎」

 

そう言うスティングレイの顔は真っ赤になっていた

 

「ふっ…」

 

私は彼が真っ赤になっている理由を知っていた

 

恥ずかしい訳では無い

 

あれは、嬉しいんだ

 

長年付き合って来たから、大体は分かるし、昔からスティングレイは何故かグラーフだけには逆らわなかった

 

「な、なぁ、たいほう。ちょっとだけ、グラーフと二人にしてくれないか⁇」

 

「うん、いいよ。はい」

 

スティングレイをグラーフのポケットにこっそり入れ、そのまま何処かに行ってしまった

 

「いいのか⁇二人きりにして」

 

「いいさ”たまには年頃の二人”にしてやれ」

 

「とし…あぁ、そう言う事か」

 

武蔵もローマも気付いたみたいだが、子供にはまだ早かったみたいだ

 

「ま、スティングレイの一方通行とは思うがな…」

 

「パパ、年頃の二人ってなに⁉︎」

 

れーべとまっくすが目を輝かせている

 

たいほうは一人で積み木で遊び始めている

 

「あ〜…えっと…も、もう少ししたら分かる…かな⁇」

 

恋に多感な年頃だな…

 

「むさしはおうさまね‼︎」

 

ニコニコした顔で武蔵の足元に積み木を並べて行くたいほう

 

「なんだこれは。お城か⁇」

 

「そう‼︎むさしはつよいおうさま。たいほうはおひめさま‼︎」

 

こうして側から二人を見ていると、本当の母と娘に見えてくる

 

そんな二人を見ながら、私はしばらくコーヒーを啜っていた




航空母艦⁇”グラーフ・ツェッペリン”が、艦隊の指揮下に入ります‼︎


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30話 海鷲から雷鳥へ…(1)

さて、29話が終わりました

パイオツェ…グラーフが出てきました。

が、後書きでも書いた様に、航空母艦⁇です

もしかしたら形はグラーフでも、普通のグラーフじゃないかも⁇

今回はスティングレイとグラーフの、ちょっとしたお話です


その頃グラーフは、部屋の中で本を読み始めていた

 

「…」

 

「相変わらず勤勉だな」

 

「あ…スティングレイ」

 

「眠たいのか⁇」

 

「違う。そんな顔なだけ」

 

「久し振りだな」

 

「スティングレイ、ちっちゃくなったね」

 

そう言って、人差し指でスティングレイの頬を撫でた

 

「まぁな。でも、満更じゃあない。たいほうの頭の上は心地いいぞ⁇」

 

「私のポケットはどうだった⁇」

 

「あったかかったぞ。昔みたいに」

 

「そう…ちょっと嬉しい」

 

見て分かる様にこのグラーフ、ちょっと気弱な感じが漂っている

 

若干、チェルシーだった時のビビり癖もほんのりと残っている

 

だが、何故サンダーバード隊に入れたのか

 

それは、しばらくして彼女の本来の自分を出せる場所までお預けになる

 

 

 

「あ…スティングレイ、これ、覚えてる⁇」

 

「ん⁇あぁ、懐かしい機体だな」

 

本の1ページに出て来た、軍用機の数々

 

その中には、友軍としていた機体、そして勿論落とした機体もあった

 

「懐かしいね」

 

「グラーフはどれが好きだ⁇」

 

「これ」

 

グラーフが指差したのは、可変翼爆撃機

 

「ブラックジャックか」

 

「爆撃機、いいよね」

 

そうだ

 

そういえばグラーフは、俺達が戦闘機に乗っている最中、一人マルチロール機に乗っている事が多かった

 

未だに理由が分からない

 

今は俺が隊長の二番機になったが、昔はジェ…横須賀だった

 

俺は三番機

 

俺自身、隊長になって命令するのは苦手だったから、あの地位には安心感を抱いていたが、彼女はいつも変わらず四番機だった

 

…いつか、理由が聞けたらいいな

 

 

 

「もう少ししたら、たいほうの所に…」

 

「すぅ…」

 

寝ちまったか…

 

仕方ない奴だな、全く…

 

昔と変わらず彼女の頬にキスをし

 

彼女に毛布を掛け、部屋を出た

 

「どうだった⁇彼女…‼︎」

 

「寝ちまったよ。全く…相変わらず変わらねぇなぁ」

 

ん⁇何だ⁇

 

全員驚いた顔をしている

 

隊長に至っては椅子からひっくり返っている

 

「わぁ‼︎すてぃんぐれい‼︎」

 

足元にたいほうがいる

 

足元⁇

 

「あ⁇」

 

窓に映った自分の顔を見た

 

あの日、あのままの姿の自分が窓に映る

 

「戻ったのか…俺…」

 

「すてぃんぐれいおっきい‼︎」

 

「カッコいいね‼︎まっくす‼︎」

 

「イケメン」

 

すぐにチビ達が俺に群がって来た

 

「よいしょ…っと」

 

「わぁ‼︎」

 

真っ先にたいほうを抱き上げ、高い高いをした

 

「ずっとこうする夢を見てたんだ…」

 

「すてぃんぐれい、もうたいほうのひこうきうんてんしてくれないの⁇」

 

「俺はずっとお前の艦載機さ…」

 

「やったね‼︎」

 

「ボクも高い高いして‼︎」

 

「ずるい」

 

「ほらほら、順番だ」

 

チビ達の相手をしているスティングレイを見て、懐かしい気分になった

 

「子供に好かれるのは相変わらずだな」

 

「…」

 

「ローマ⁇」

 

「ん」

 

ローマは両手を広げて、私に何かしてほしそうにしている

 

「まさか…」

 

「私を高い高いをするの。さ、早く」

 

「…くっ‼︎」

 

 

 

 

「ぐわぁぁぁぁぁあ‼︎‼︎‼︎」

 

「もうちょっとだ‼︎気合を出すのだ‼︎」

 

あの後、仰向けの状態でギリギリローマを高い高い出来たが、後の方が強敵だった

 

「私もお願いしよう‼︎」

 

「ま、待て‼︎ぐわぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

武蔵がのしかかり、彼女にも高い高いをする羽目になった

 

「はぁ…はぁ…」

 

「はっはっは‼︎中々良いものだな‼︎」

 

「も、もう無理…」

 

息を切らしながら寝転がっていると、指を咥えたほっぽがこちらを見ていた

 

「おいで」

 

「イイノ⁉︎」

 

「君位なら大丈夫さ」

 

「ヨイショ」

 

私の体を登り、お腹の上で座った所で脇の下に手を入れ、彼女を持ち上げた

 

「ワァ‼︎タカイ‼︎」

 

「そうか、楽しいか⁉︎」

 

「タノシイ‼︎」

 

しばらくほっぽを高い高いした後、床に降ろした

 

「アリガトウゴザイマシタ」

 

「タノシカッタ‼︎」

 



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30話 海鷲から雷鳥へ…(2)

二人を海まで見送り、また部屋に戻って来た

 

「あれ⁇スティングレイは⁇」

 

「工廠に行くと言っていたぞ」

 

「ちょっと見てくる」

 

工廠に行くと、目玉が飛び出そうになった

 

《パ、パパ‼︎》

 

「お、お前…スペンサーか⁉︎」

 

《そ、そう。何だか新しい気持ちだよ》

 

黒いボディと、発光信号で会話出来る所は変わらない

 

会話に至っては、直接会話出来る様になっている

 

だが、それ以外は全てが変わっていた

 

ブラックバードの様な容姿を捨て、F-15の様な容姿に変わっていた

 

「どうしたんだ…」

 

《チェルシーに何かあったの⁇》

 

「あぁ、生まれ変わったんだよ。スペンサーみたいに。グラーフって言う」

 

《そっか…あ、この機体の名前は、”F-15SE”通称、サイレントイーグルって言うの。電子支援もちゃんと出来るし、スペンサーだけの装備もあるよ⁇》

 

「どれ…」

 

スペンサーは自身の腹部ハッチを開くと、中からミサイルが何発も出て来た

 

《自分で操れる対艦ミサイル。グラーフなら出来るはず》

 

「また、強力な仲間が増えたな…」

 

「おわぁぁあ‼︎なんじゃこりゃあ‼︎」

 

「スティングレイだ」

 

《スティングレイ、デカくなったね》

 

「あいつも生まれ変わったのさ。また、彼女を護ってやってくれ」

 

《勿論‼︎パパも護ってみせるよ‼︎》

 

「ありがとう」

 

スペンサーの格納庫を後にし、スティングレイの所に向かう

 

「大丈夫か⁇」

 

スティングレイは尻餅をつき、目の前の機体に驚いていた

 

「俺のフィリップを返せ‼︎」

 

《ボクがフィリップだっ‼︎》

 

「嘘つけ‼︎」

 

《スティングレイさん、おめでとう‼︎元に戻れたんだね⁉︎》

 

「隊長、本当にフィリップなのか⁇」

 

「そう。お前の機体だ」

 

《初めましては違うかな⁇》

 

「どうみてもF-35じゃねぇか…どういう事だ…」

 

「生まれ変わったんだよ。フィリップも」

 

「…もうゲーム出来ないのか⁇」

 

《出来るよ。後方にカメラもあるし、全体を見渡せるよ》

 

「変わらないのか⁇」

 

《さっき調べたけど、普通のライトニングⅡより、ちょっと違うみたい。二人共来て》

 

フィリップのコックピットが開き、中の電子機器を見せてくれた

 

《ゲームは勿論、武装と電子機器の性能。そしてこれ‼︎》

 

電子機器の一つにフィリップの全体像が映し出され、何かを起動した直後、フィリップの姿が消えた

 

「な、何だこれ…スゲェ…」

 

《凄いでしょ⁉︎光学迷彩システムだって‼︎》

 

「時代の最先端だっ‼︎」

 

「良かったな、スティングレイ」

 

「まっ、あれだ。死ぬまで俺の片腕だしな、強くなくっちゃ困るって所だ」

 

「あ、いた‼︎スティングレイさん‼︎」

 

「来た‼︎」

 

しおいは、何かを抱えながらこちらに来た

 

「あ、艦載機ですねぇ」

 

「お前にゃ積めんぞ⁇」

 

「またたいほうちゃんの艦載機になるんですか⁉︎」

 

「まぁな。あいつは妖精の時に世話になった」

 

「しおいの艦載機にはならないですか⁇」

 

しおいは肩からぶら下げた射出装置をポンポンしている

 

「時が来たらな。あ、そうだ…よいしょ」

 

スティングレイはハシゴから飛び降り、内ポケットから紙切れを取り出した

 

「何ですか、これ」

 

「代わりにこいつをお前にプレゼントしてやる」

 

「うわぁ〜‼︎」

 

しおいは目を輝かせていた

 

「試製だからな、乱暴に使ったらぶっ壊れるぞ⁇それでもいいか⁇」

 

「うんうん‼︎大切にする‼︎」

 

「よし‼︎じゃあこれ持って工廠に行って来い。ちゃんと装備したら、俺に見せてくれ」

 

「ありがと‼︎」

 

しおいは小走りでその場を後にした

 

「お前、何で…」

 

「隊長に拾われるまで俺ぁ工作員だった…忘れたか⁇」

 

スティングレイは、元スパイだった

 

私がまだ国に所属していた頃、スティングレイは整備士として在籍していた

 

表向きは…

 

裏では色々な武器や兵器のデータを集め、それを自国に引き渡すのが彼の任務

 

まだグラーフはいなかったが、私と横須賀がそれに気付き、彼を問いただした

 

すると、彼は天涯孤独

 

生きて行くには、スパイでもしなければならない…と

 

それならば、私達と一緒に飛べと言った

 

幸いにも彼は戦闘機の教育を受け、それを修了していた

 

私達に追い付くのは、一瞬だった

 

他の部隊にも居た事もあったが、言う事を聞かない事が多々あり、外される事が少なくなかった

 

私は彼に一つ命令をした

 

”俺の隊に入って、背中を護ってくれ”

 

あの時のスティングレイの輝いた瞳を、今も忘れない

 

それから彼は隊の三番機になり、それ以来ずっとだ

 

「俺ぁ、間違った道を歩いてしまう所だった…だから、しおいには間違った道を歩いて欲しくない」

 

「しおいと一緒に居たら、彼女が過ちを犯してしまう…か⁇」

 

「そう…だからもう少したいほうの所でいて、全うな人間になったら、あいつの艦載機になってやる。ま、妖精で無くなった今じゃあ、陸から飛んで、護るのが精一杯だ」

 

「もう少し、たいほうを頼んだぞ」

 

「任しとけ‼︎」

 

「あ、そうだ。パパさん」

 

しおいが戻って来た

 

肩には何も下げていない

 

「どうした⁇」

 

「これをパパさんに渡してって、横須賀さんが」

 

手渡された書類を見ると、明日の日付で、横須賀で航空演習をするとの御達しが書いてあった

 

「来るか⁇」

 

「あぁ‼︎勿論‼︎」

 

スティングレイの満面の笑みを見て、私は安堵のため息を吐いた



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31話 旅行鳩は雷鳥に恋をする(1)

さて、30話が終わりました

今回のお話では、もちろんパパも出てきますが、メインはスティングレイ寄りです

航空演習のお話ですが、航空演習そっちのけで、スティングレイがとある事柄に巻き込まれます


翌日、横須賀鎮守府

 

各基地から訪れた精鋭の飛行部隊と、艦娘達で広場は埋め尽くされた

 

「おっ、ナイチチがいるぜ」

 

「誰がナイチチや‼︎てか、あんたデカかってんなぁ…ほんでそこそこイケメンやないの」

 

「そう褒めるなよ」

 

「始まるよ」

 

横須賀が壇上に立って話し始めた

 

「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。本日から二日間かけて行われる、この合同航空演習では、トーナメント方式で戦闘機同士で戦い、互いの技術を向上するのが目的です」

 

「今回は士気を上げるため、上位入賞者には賞品を贈与します。お楽しみに。では一回戦‼︎」

 

戦いの火蓋は切って降ろされた

 

数試合見ていると、大体の暗黙のルールが分かって来た

 

1.その艦隊で一番強い艦娘一人が出場

 

2.空母の艦娘から発艦するのは、精鋭部隊三機

 

3.制空権争いのみで、雷撃や爆撃は気にしなくていい

 

4.弾はペイント弾。何処かに被弾すれば、アラートが鳴って、その機は離脱

 

「勝てそうか⁇」

 

「案外ナイチチが厄介そうだ…」

 

龍驤は相手が改装済みの正規空母であろうと、引けは取らない

 

今回は制空権争いのみだし、その点では軽空母でも勝ち目はありそうだ

 

「おっ、あきつ丸だ」

 

「相手は装甲空母の瑞鶴か」

 

中々良い試合をしている

 

が、やはり相手は正規空母

 

微妙な練度の差が、段々とあきつ丸の部隊を追い詰め…

 

「試合終了‼︎勝者、瑞鶴‼︎」

 

「負けたか…」

 

「よし、そろそろ行こう。俺達の番だ」

 

「うん」

 

「たいほうもいく‼︎」

 

「お前がいなきゃダメだ。よいしょ」

 

スティングレイがたいほうを抱え、滑走路まで四人で向かう

 

「スティングレイ」

 

「あ⁇」

 

「私が付いてる」

 

「あ、あぁ」

 

ポーッとした様子のグラーフだが、私とスティングレイは内心彼女に安心感を抱いていた

 

「隊長」

 

「勝つぞ、絶対」

 

「分かってる。二人共、空に上がったら、散開行動に移れ。誰かが追われたら、別の奴が仕留めに掛かる。いいな⁇」

 

「オッケー‼︎了解した‼︎」

 

「了解」

 

スティングレイはたいほうを降ろし、機体に乗り込んだ

 

私は他の連中と同じレシプロ機だが、二人はジェットエンジン

 

スピードには、やはり劣る

 

「第六試合、たいほう対飛龍‼︎試合開始‼︎」

 

「敵さんだ行くぞ‼︎」

 

《正面は任せた。俺ぁ左の奴を叩く》

 

《右は頂く‼︎行くぞ‼︎》

 

グラーフの機体が、一機に目を付ける

 

《あいつ一人で勝てんじゃねぇか⁉︎》

 

「ははは‼︎まぁ、今回は三機だからな。さ、行くぞ‼︎」

 

《了解‼︎》

 

 

 

下では、提督や艦娘がちょっとした騒ぎを起こしていた

 

「あのエンブレム、サンダーバード隊じゃ…」

 

「聞いてないぞ‼︎」

 

「卑怯だ‼︎」

 

皆が口々に言っている中、横須賀は愛おしそうに空を見上げていた

 

「大佐…」

 

 

 

《貰った‼︎》

 

《スティングレイ、援護に行くわ》

 

《いや…その必要はない》

 

《え⁇》

 

「こちらイカロス。一機離脱させた。そっちはどうだ⁇」

 

《終わったぜ。全員、一機ずつ頂いた》

 

「長居は無用だ。降りるぞ」

 

《了解》

 

《了解》

 

三機が地上に降りて来た

 

今日はもう、試合はない

 

みんなで間宮で何か飲もう

 

「お疲れさん」

 

「中々だったな。やっぱ正規空母だ」

 

「…強かった」

 

「パパ〜‼︎」

 

向こうからたいほうが来た

 

「お疲れ様。何か飲もうか」

 

「うんっ‼︎」

 

「…私、武蔵とたいほう連れて間宮に行ってる」

 

「うん、頼む」

 

たいほうとグラーフは武蔵を探しに人混みに消えた



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31話 旅行鳩は雷鳥に恋をする(2)

「やっぱあいつ、空に上がるとおっかねぇなぁ…」

 

「トリガーハッピーみたいなもんだろ⁇」

 

「まぁ…」

 

しばらく話した後、ようやく足を動かした時だった

 

「お二人さん‼︎」

 

「何だ⁇サインならお断りだ…」

 

振り返ったスティングレイが固まっている

 

「ん⁇」

 

私も振り返ってみると、そこにはちょっとギャルっぽい銀髪の女の子がいた

 

「いいか、1、2の3で、間宮まで一気に走れ」

 

「よ、よし…」

 

「⁇」

 

銀髪の女の子は不思議そうな顔をしている

 

「1、2、3‼︎」

 

二人して一気に駆ける

 

「何で”あの人”がいんだよ‼︎」

 

「俺に聞くな‼︎」

 

猛ダッシュで間宮に着き、たいほう達を探す

 

「いたいた。よいしょホットコーヒーと…お前は⁇」

 

「ハチミツミルク一つ」

 

たいほうの横に座ると、彼女は頬に何かクリームみたいなのを付けていたが、気にしなかった

 

「どうにかなったな…」

 

「あのギャルに掴まったら、何される事やら…」

 

「美味しいですか⁇」

 

「うんっ‼︎まみやのぱふぇすき‼︎」

 

「うふふっ‼︎可愛いわねっ‼︎」

 

「「だあぁぁぁぁっっっ‼︎‼︎‼︎」」

 

二人の悲鳴が間宮に響く

 

まいたハズの銀髪の女の子が、たいほうの横に座ってパフェを食べさせている

 

「に、逃げるぞ…」

 

「あぁ」

 

「お・ふ・た・り・さんっ‼︎」

 

二人して肩を掴まれ、背筋が凍る

 

「は…はひ…」

 

「な、何でしか…”鹿島教官”…」

 

「いい飛びっぷりでしたね‼︎はなまるですっ‼︎」

 

「あはは…ど、どうも…」

 

「でも…」

 

「「あ」」

 

スティングレイの肩に置かれた手に力がこもる

 

「ギャルは無いですよね〜」

 

「あ…あべし‼︎」

 

「鹿島…⁇」

 

「お…おねぇさま‼︎」

 

「はいっ、宜しい‼︎」

 

ようやく手を離され、呼吸を整えた

 

彼女の名は鹿島

 

私達の元飛行教官だ

 

「あら、スティングレイ。ちょっと男前になりましたか⁇」

 

スティングレイの顎を持ち、顔を近付けた

 

自分の部下だから言うのも何だが、スティングレイは黙っていれば本当にイケメンだ

 

子供にも優しいし、パイロットとしての腕もピカイチ

 

傭兵時代に至っては士気を高めるために、志願兵を募るポスターになった事もある

 

「よく見るとタイプね…うふふっ、食べちゃおうかしら⁇」

 

鹿島は舌をペロッと出し、スティングレイをその気にさせようとしている

 

「ん〜…ダメ」

 

「おっ…」

 

ふと現れたグラーフが二人を引き剥がした

 

「スティングレイ…私の」

 

「おほっ…」

 

「たいほうの‼︎」

 

「‼︎」

 

突然キレたたいほうに一同驚いた

 

「ああああ‼︎分かった分かった‼︎俺ぁたいほうの専属パイロットだっ‼︎」

 

スティングレイはたいほうを膝の上に座らし、一緒にパフェを食べ始めた

 

「ふぅん…グラーフさん、でしたね⁇」

 

鹿島の目の色が変わった

 

「そう」

 

「私に彼を下さい」

 

「ヤダ…」

 

「そう…なら、貴女はライバルね」

 

「…」

 

「ま、いいわ。私は彼が必要なの。恋もそうだし、何せ、彼の腕が必要なの」

 

「あげない」

 

「今日の夜、お邪魔するわね⁇ダーリンっ」

 

グラーフに散々喧嘩を売り、鹿島は間宮から出て行った

 

「くっ…」

 

「…」

 

グラーフは鹿島が出て行ってしばらくは出口を見つめ、完全に去ったのを確信した後、スティングレイに寄った

 

「怒って…んむっ‼︎」

 

「おっ」

 

何を思ったのか、グラーフはスティングレイの顔を掴み、思いっきりキスをした

 

「鹿島に食べられる前に…私が食べとく…じゃあね」

 

「…」

 

グラーフが去った後も、スティングレイはしばらく放心状態

 

膝の上でたいほうは何が起こったのか分からず、パフェを食べ続けていた

 

「はっ‼︎」

 

ようやく気が付いた

 

「良かったな」

 

「あ…お、おぅ‼︎やっとだぜ‼︎」

 

「すてぃんぐれい…たいほうのぱいろっとやめるの⁇」

 

たいほうの目が潤んでいる

 

今にも泣き出しそうだ

 

「大丈夫、心配すんな。俺ぁずっと、たいほうの専属さ」

 

「よかった‼︎」

 

笑顔を見せた後、残りのパフェを掻き込み、そのままたいほうも去った

 

「俺達もそろそろ出よう」

 

「ん」

 

間宮を出てしばらく歩くと、工廠に武蔵がいた



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31話 旅行鳩は雷鳥に恋をする(3)

「何見てるんだ⁇」

 

「これは何だ⁇」

 

目の前にはベルトコンベアがあり、パイナップルの缶詰が流れている

 

「ぱいなっぷるとは一体…」

 

「食べてみるか⁇」

 

「食べられるのか⁉︎」

 

中にいた妖精に話すと、これはどうやら洋上で食べる簡易の食料の一部らしい

 

缶詰を二つ貰い、その場で開けて、まずは私が食べてみた

 

武蔵は不思議そうに私の食べるパイナップルを見ている

 

「甘酸っぱくて美味しいぞ⁇」

 

「いただきます」

 

輪切りにされたパイナップルが一つ、武蔵の口に運ばれた

 

「うん‼︎美味い‼︎」

 

気に入ったらしく、すぐに平らげてしまった

 

「ごちそうさま」

 

「美味しかったぞ」

 

”明日も頑張りや〜”

 

工廠を出ると、これに良く似た製造場がまだ幾つかあるみたいだ

 

「提督といると、知らない事が沢山だ‼︎」

 

「世界は広いぞ⁇美味しいものだって、山ほどある」

 

「いつか、提督に安息の日が来たなら、その時はもっと広い世界を見てみたいな…」

 

「希望が出来たな」

 

「そうか、これが希望か‼︎やはり知らない事ばかりだ‼︎」

 

私も、武蔵といると希望が出来る

 

こいつと一緒にいれたら

 

こいつが傍にいたら

 

武蔵と繋がれて、良かった…

 

「さ、提督よ。そろそろ宿舎に戻ろう」

 

「そうだな。みんな待たせてる」

 

宿舎に戻ると、みんなちゃんと自分達の席で待っていた

 

もうすぐ晩御飯だ

 

「…うっ」

 

「…」

 

「うふふっ‼︎」

 

スティングレイは気まずそうに座っている

 

左にはグラーフ

 

右には鹿島

 

完全に板挟みだ

 

たいほうは前掛けをして、スプーンを持って嬉しそうにしている

 

しばらくすると、食事が運ばれて来た

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

たいほうの様子を見ながら、ちょくちょくスティングレイの方も見る

 

…案外普通だな

 

「スティングレイ⁇私のプリンをあげます」

 

「あ、ありがとう…」

 

「私はこの唐揚げ…」

 

「お、おぅ…」

 

やっぱり気まずそうだ…

 

「あ‼︎おった黒いの‼︎」

 

「龍驤‼︎そっちに行く‼︎」

 

「来い来い‼︎」

 

タイミング良く、軽空母達の宴会に誘われ、そっちに流れて行った

 

「むぅぅう…」

 

「…」

 

鹿島はむくれているが、グラーフはそうでもなさそうだ

 

「すてぃんぐれい、もてもてだね」

 

「そうだな…ははは」

 

グラーフはスティングレイの性格を熟知しているので、放っておいても戻って来るのを知っている

 

一方鹿島は、教官と生徒だった時の記憶しか無いため、自分の元を去ると不安になる

 

「中々面白い展開になって来たな」

 

武蔵も楽しそうに眺めている

 

結局スティングレイが二人の所に帰る訳もなく、全員が泊まる部屋に戻って行った

 

 

 

しばらくした後、スティングレイの宿舎…

 

「あ〜…食った食った‼︎」

 

スティングレイが部屋に戻って来た

 

「お帰りなさい‼︎」

 

ドアを開けると、鹿島が一人

 

「…」

 

スティングレイは無言でドアを閉めた

 

数秒した後、再びドアが開けられた

 

「やっぱ俺の部屋じゃねぇか‼︎」

 

「相部屋…嫌ですか⁇」

 

「嫌だ‼︎幾ら教官でも嫌だ‼︎ほら、出た出た‼︎」

 

「じゃあ命令にします」

 

「汚ねぇ‼︎」

 

渋々部屋の真ん中に座り、スティングレイは煙草に火を点け、貧乏ゆすりをし始めた

 

「な、何か用かよ…」

 

「貴方を見てたいのっ」

 

鹿島は机の上に両手で頬杖をつき、スティングレイを見つめる

 

「うっ…」

 

実はスティングレイ、こういうのに弱い

 

空では果敢でも、恋愛には奥手なのだ

 

「相当な腕になったんですね…あの頃とは全然違う」

 

「俺もそれだけ成長したってこった。後ろ盾が出来た」

 

「うふふっ」

 

「何が可笑しい‼︎」

 

「あの頃とは大違いね…」

 

「なぁ、本当の目的は何だ⁇」

 

「貴方が好きなの。貴方が生徒の時から…」

 

「はっはっは‼︎ないない…」

 

「本当ですっ‼︎」

 

「何か隠してる」

 

「うっ…」

 

「とりあえず、隠してる事を言ってくれ」

 

「分かりました。話します。実は…」



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31話 旅行鳩は雷鳥に恋をする(4)

「はぁぁぁぁぁあ⁉︎行く所が無いだと⁉︎」

 

「えぇ…それで貴方なら傍に置いてくれるかと…」

 

話をまとめると、鹿島は練習巡洋艦となった

 

だが、ほとんどが単冠湾の香取の講習で賄ってしまい、空戦教習は横須賀がする為、出番が無い

 

そして運良く俺を見つけ、引っ付いた

 

ま、そんな感じだ

 

「何で早く言わ無かった‼︎って、隊長なら言ってただろうな」

 

「…」

 

「悪いな。俺ぁたいほうの専属なんだ」

 

「…ちょっと調べさせて貰いました」

 

「ん⁇」

 

机の上に書類を広げると、内容を読み始めた

 

「元スパイ。新型戦闘機のデータを本国に持ち帰る任務に就く」

 

「…」

 

「任務失敗後、大佐の部隊に所属。以降の記録は不明」

 

「…何が言いたい」

 

「私を傍に置いて下さい」

 

「ヤダ‼︎俺の過去を知ってるなら尚更ヤダ‼︎命令とか言われても、俺ぁ聞かねえからな‼︎何なら、お前がスパイなんじゃねぇのか⁇」

 

「酷い…」

 

鹿島は泣き出してしまった

 

「あ…悪い。言い過ぎた…」

 

スティングレイが一瞬油断を見せたのが、運の尽きだった

 

「えいっ‼︎」

 

慰めようと鹿島に寄った時、押し倒された

 

「嘘泣きかよ…」

 

「本当に泣いてます‼︎鹿島がスパイですって⁉︎」

 

「違うのかよ…」

 

「違います‼︎私の目的は本当にそれだけです‼︎」

 

「あ〜ぁ…分かった分かった‼︎その代わり、俺に襲われても文句言うなよ⁉︎」

 

「今襲えばいいじゃないですか」

 

「アホ‼︎グラーフだっているし、この状態じゃ無理だ‼︎」

 

「あっ」

 

ようやくスティングレイの体から降り、横に座った

 

「いてもいいけど、グラーフと喧嘩するなよ⁉︎」

 

「しないしない‼︎うふふっ‼︎」

 

「風呂入るけど、何も弄るなよ‼︎」

 

スティングレイはそのまま浴室に向かった

 

「ふふっ…」

 

部屋の中で、鹿島が不敵に笑う

 

 

 

 

「あ〜ぁ…メチャクチャだよ…」

 

ブツブツ言いながら、体を洗って行く

 

「何であんなギャルなんか…」

 

ふと、首に腕が回る

 

「あ⁉︎」

 

気付いた時には、ちょっと締まっている

 

「誰がギャルですって⁉︎」

 

「どこまで入って来て…」

 

スティングレイも負けじと鹿島の顔を掴む

 

「うふふっ。お背中洗いますねっ」

 

「おっ…おぉ…」

 

負けると分かったのか、鹿島は腕を離し、スティングレイの背中を流し始めた

 

「あ…あの…鹿島教官」

 

「鹿島でいいですよっ‼︎」

 

「鹿島、本当に俺でいいのか⁇」

 

「貴方がいいんです」

 

「…俺さ、あの…」

 

「知ってますよっ。私が初恋の相手でしょう⁇」

 

「それも調べた⁇」

 

「諜報は戦争の基本ですっ。いいですか⁉︎」

 

「あんたの口癖だったな」

 

スティングレイが鼻で笑うと、鹿島もつられて微笑む

 

「凄い背中ね…」

 

「良い言い方をすりゃ、歴戦の跡。悪い言い方をすりゃ、弱い証だ…」

 

「沢山戦って来た証拠ですよ」

 

「ありがと、もう大丈夫」

 

シャワーで体を流した後、湯船に入った

 

「よいしょ…」

 

「何で入るかねぇ…」

 

何のためらいもなく、鹿島も入って来た

 

スティングレイはその行為を見て、一人の女性を思い出していた

 

グラーフではなく、たいほう

 

まだ幼い故、彼女にもあまり恥じらいは無い

 

俺自身も普通にたいほうを風呂に入れる事だって多々あるし、これからもあるだろう

 

「まぁ…何だ。俺みたいな奴が好きな物好きも居るんだな」

 

「私は好きですよ。グラーフよりうんと」

 

「グラーフ、か…」

 

こいつと居ると、ちょっとだけグラーフを忘れる

 

やっぱり、まだ好いている証拠なんだな…

 

グラーフとは、確かに長い間共にいた

 

だが、果たして俺を好きなのか不安になる

 

俺にキスしたのも、手元にあったものを取り戻す為だけなのではないか⁇

 

それに、あいつの口から”好き”という言葉を聞いた事がない

 

出るのは”私の(もの)”

 

鹿島が欲しいと言った時も”あげない”

 

あいつは俺を”物”としてしか見ていない

 

だったら…俺は…

 

「どうしまし…‼︎」

 

鹿島の頭を無理矢理掴み、物凄く長い口付けをした

 

鹿島が何度か咳き込んだ所で、ようやく口を離した

 

「謝らないぞ‼︎その気にさせたのはお前だ‼︎」

 

「うふふっ…私のファーストキスは高いですよ⁇」

 

「マジかよ」

 

「えぇ。ぜ〜んぶ新品ですよっ‼︎

 

「で、出る‼︎」

 

着替えてすぐベッドに頭を埋め、やってしまった事を反省した

 

何で無理矢理したんだ…

 

言えばしてくれたかも知れないのに…

 

あ、そうだ

 

こんな時はコーヒーでも飲もう

 

「はいっ」

 

パジャマに着替えた鹿島が、コーヒーを机に置いた

 

「ありがと。よく分かったな」

 

「何となく、ですよ」

 

煙草を吸いながら、鹿島のコーヒーを飲む

 

コーヒー独特の香りでは無く、香ばしい香りがするコーヒーは、とても美味しかった

 

「どうでしたか⁇鹿島特製のナッツ入りコーヒーは」

 

「美味しかった。また淹れてくれ」

 

「えぇ‼︎」

 

「明日、ちゃんと見ていてくれ」

 

「勿論ですよ。あっ…」

 

再び過ちを犯す

 

布団を掛けに来た鹿島を引きずり込み、思い切り抱き締める

 

「何するか分からんから、こうしてる」

 

「うふふっ…貴方のお好きにっ…」

 

その後、何か話すという事も無く、鹿島を抱いたまま、一晩が過ぎた



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31話 旅行鳩は雷鳥に恋をする(5)

次の日…

 

機体に乗り込む寸前、グラーフが言い放った

 

「昨夜は…お楽しみ…」

 

「グラーフ‼︎」

 

渋々機体を上げ、2日目の試合が開始される

 

相変わらず隊長とグラーフは良い腕だ

 

ここまで来たら、俺は後手で充分だ

 

数試合が終わり、次で最終試合となった時、隊長が横須賀と何か話し、グラーフは誰かに呼ばれて居ない

 

戻って来た隊長は、何故か機体を乗り換えた

 

それも、フルチューンのSu-37だ

 

「おっ。隊長もいよいよ本気か⁇」

 

「横須賀が乗れだと。向こうもジェットエンジンの機体らしい」

 

「ほ〜う。楽しみだな」

 

「最終試合‼︎サンダーバード隊VSアグレッサー機の試合を開始します」

 

「行くぞ」

 

三機が上がるが、相手の機体が見当たらない

 

「アグレッサー隊だと⁇どこだ⁇」

 

《レーダーに反応…一機のみだ》

 

「舐められたものだな…」

 

《うふふっ…》

 

「鹿島⁉︎」

 

《二人共、ごめん‼︎》

 

「グラーフ機の反応が違う‼︎グラーフ機も相手の機体だ‼︎」

 

《ちっ…しゃあない‼︎隊長、鹿島を頼む‼︎グラーフは俺に任せろ‼︎》

 

「了解した」

 

無線を切った後、私はふと気付いた

 

「あいつ、鹿島って呼び捨てにしてたな…」

 

 

 

隊長が鹿島を相手している最中、スティングレイとグラーフも激戦を繰り広げていた

 

《スティングレイ、覚悟なさい‼︎》

 

「ったく…」

 

背後に付かれては付き返す

 

スピードを上げれば同じく上げる

 

そして、何度目かの時にグラーフが口を開いた

 

《昨日鹿島と何をしたの⁉︎》

 

「寝たよ‼︎一緒に‼︎」

 

《ちょっとは隠しなさい、よっ‼︎》

 

グラーフが背後に付いた

 

「隠したら何か変わるか⁇何にも変わんねぇだろっ‼︎えぇい‼︎」

 

機銃をかわしつつ、再びグラーフの背後に付く

 

《あんたは私のもの‼︎私の掌からこぼれちゃいけないの‼︎》

 

「お前はいっつもそうだ‼︎俺はものじゃねぇ‼︎鹿島はそれを教えてくれた‼︎」

 

《私の事はもう嫌い⁇》

 

「嫌いじゃねぇさ‼︎嫌いじゃねぇけど、お前の口から”好き”って言葉を聞いた事がない‼︎」

 

《好きに決まってるでしょう‼︎この鈍感野郎‼︎》

 

「うわっ‼︎」

 

ギリギリで機銃を回避し、再度背後に付く

 

《あっ…》

 

「最後に聞くが、鹿島に何か言われたか⁇」

 

《私がスティングレイを落としたら、私は諦めるって…》

 

「ちっ…だがな、俺は負けねぇ‼︎恋も‼︎試合も‼︎ここで負けたら、何にも護れねぇんだよ‼︎」

 

グラーフの機体に、ペイント弾が付いた

 

《やっぱり強いな…スティングレイは…》

 

「ったりめぇだ‼︎俺はこのまま隊長の援護に向かう」

 

《駄目だ。鹿島さんから、終わったら帰投の命令を受けた。帰ろう》

 

ふと、隊長と鹿島が交戦している区域を見た

 

「…分かった。隊長なら大丈夫だろう」

 

《えぇ》

 

 

 

二機が着陸し、ちょっとした歓声に包まれた後、俺達含めたギャラリーが空を見上げた

 

そこでは隊長と鹿島が、俺達より数倍激しい空戦を繰り広げていた

 

「な…何だあの機動⁉︎」

 

「隊長…珍しく本気」

 

隊長と鹿島の機体は、ほぼほぼでんぐり返りの様な反転を繰り返していた

 

背後に付かれたら、数秒後には反転

 

時には一旦離脱し、上空から再度仕掛ける…

 

と、おおよそ人間とはかけ離れた技の出し合いをしている

 

「俺達が敵わないはずだ…」

 

「凄い…」



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31話 旅行鳩は雷鳥に恋をする(6)

上空では激しい機動の中、二人が無線で会話する

 

「やるな。元とは言え、流石は教官だ」

 

《貴方も強くなりましたねぇ。香取ねぇが惚れるハズです‼︎》

 

「先生は、自分の道を選んだ‼︎鹿島はどうだ‼︎」

 

《私も自分で選んでるつもりです‼︎中々、振り向いてくれませんがね‼︎》

 

この短い会話の最中、2、3回は反転を繰り返している

 

「スティングレイか⁉︎」

 

《…》

 

「教官時代からアプローチかけてたんだ。上手くいくさ。もし落とせたら、俺の基地に来い。面倒を見て欲しい奴らが沢山いる‼︎」

 

《それを聞いて安心しました‼︎はっ‼︎》

 

隊長の機体が急ブレーキをかけ、鹿島の機体が前方に出た

 

「貰った‼︎」

 

《あうっ‼︎》

 

 

 

 

「流石は隊長だ…癖が無い」

 

「鹿島も中々…」

 

ギャラリーで大歓声が起きる

 

ま、そりゃそうだ

 

映画さながらの空戦を目の当たりにし、勉強にも目の保養にもなっただろうに

 

仲良く二機が着陸し、隊長も鹿島も機体から降りて来た

 

「ただいま」

 

「おかえり。流石は隊長だな‼︎」

 

「久し振りにハラハラしたよ」

 

「ただいま〜‼︎ダーリンっ‼︎」

 

スティングレイを見つけるや否や、彼に抱き着く鹿島

 

「うっ‼︎」

 

「私もやる…だーりん…」

 

「ううっ…」

 

グラーフまで抱き着き、スティングレイは圧死寸前だ

 

「結果発表を行います‼︎」

 

「あわわわ‼︎横須賀がキレてる‼︎行くぞ‼︎」

 

慌てて四人は会場に向かい、結果発表を待つ

 

「結果発表‼︎第一位‼︎サンダーバード隊隊長‼︎」

 

ギャラリーが歓声を送る

 

「隊長さんには、こちら‼︎新型機の設計図を差し上げます‼︎では、第二位‼︎サンダーバード隊、スティングレイ」

 

「へっ」

 

「スティングレイには、練習巡洋艦”鹿島”と1日デート券が授与されます‼︎」

 

「待て待て待てーい‼︎」

 

スティングレイが壇上に上がり、横須賀に噛み付いている

 

「何よ」

 

「1日デート券って何だ‼︎新型の何かじゃねぇのか‼︎」

 

「あんたみたいな男、鹿島とデートするだけでも感謝しなさい‼︎」

 

「デート券じゃなくて、鹿島をくれ‼︎」

 

「え」

 

「え」

 

「え」

 

「あらっ」

 

ギャラリーが静まり返った

 

「あんた、鹿島が好きなの⁇」

 

「好きだ‼︎だから傍に置きてぇ‼︎いいな⁉︎」

 

再びギャラリーで大歓声が起き、何人かが帽子を投げている

 

「ご、ゴホン‼︎け、結構‼︎では、スティングレイ、貴方には練習巡洋艦”鹿島”を授与します‼︎」

 

「オッケー‼︎満足満足‼︎」

 

スティングレイが帰って来た

 

「これが俺の答えだ」

 

「大満足ですっ‼︎ありがとっ‼︎」

 

「まっ、取り越し苦労で良かったな、グラ…あれ⁇」

 

グラーフが居ない‼︎

 

まさか、スティングレイが向こうに行ったから⁉︎

 

「久し振り…ワンコ」

 

「ぐ、ぐらぐら、グラーフさん‼︎」

 

「次はこっちかよ…」

 

「ワンコ…偉いさんになった⁇」

 

「は、はいっ‼︎おかげさまで‼︎」

 

「いい子いい子…」

 

「は、はひっ…」

 

何気無しにワンコの頭を撫でるグラーフだが、ワンコは元からグラーフが好きだ

 

香取とケッコンしたのも、彼女が死亡したと明確に言われてからだ

 

そこに、言い方は悪いが香取が現れ、彼を慰めた彼女が傍に付いた…って訳だ

 

「ワンコ…ケッコンしてる」

 

「はい。香取さんと、です」

 

「香取さん、いい人」

 

「あ…グラーフさんは⁇」

 

「私はまだ。そのうち見つけるか…取り返す」

 

グラーフはスティングレイの方を睨んだ

 

「あ、あはは…」

 

「隊長は武蔵。スティングレイは鹿島。ワンコは香取…ぐぬぬ」

 

「大佐、おめでとう‼︎」

 

ミハイルが現れ、いつも通りに握手を交わす

 

「ミハイル‼︎ありがとう‼︎」

 

「お…」

 

グラーフの体に電撃が走る‼︎

 

「隊長、彼の名前は⁇」

 

「あぁ、逢った事無かったな。彼はミハイル。ドイツの提督さんさ」

 

「グラーフです…」

 

「ミハイルだ。宜しくね」

 

「はっ‼︎」

 

いつも通りにミハイルが手を差し伸べ、グラーフと握手を交わす

 

「ふっ…」

 

惚れたな、グラーフ

 

「二人共元気ですよ。ちょっと太ったかな⁇」

 

「はっはっは‼︎良く食べてる証拠です‼︎」

 

「もう少し預からせて欲しい」

 

「貴方さえ良ければ」

 

「ミハイルさんは…何が好き⁇」

 

「そうだな…君みたいな、お淑やかな子かな⁇」

 

「はっ‼︎」

 

顔が真っ赤だぞ、グラーフ

 

「では、また御礼を持って伺います‼︎では‼︎」

 

「あぁ。ありがとう」

 

「ミハイルさん…いい…」

 

「モールス信号で愛を囁くか⁇」

 

「隊長、私頑張る」

 

「応援してるよ」

 

「パパ〜‼︎」

 

「たいほう‼︎」

 

「パパすごかった‼︎ぐるんぐるんしてた‼︎」

 

たいほうの目がキラキラしている

 

背中に背負ったリュックの中には、お菓子が沢山入っている

 

「おかしもらった」

 

「たいほうが一番だもんな」

 

「れーべとまっくすといっしょにたべるの」

 

「いい子だ」

 

「提督よ‼︎私は満足した‼︎帰ろう‼︎」

 

「⁇そうか」

 

「べーだ‼︎アホアホ眼鏡巨人‼︎」

 

だいぶ後ろの方でプリンツが舌を出している

 

近付くと武蔵にやられるからだろう

 

「ほっとけ。奴は治らん」

 

「ははは」

 

各々、乗って来た戦闘機に乗り、たいほうと武蔵、それに鹿島は高速艇で基地まで帰って来た

 

「ただいま〜っと」

 

「パパ〜‼︎」

 

「パパ」

 

相変わらずチビ達が最初に迎えてくれる

 

私は彼女達を抱き上げ、基地の中に入った

 

 

 

練習巡洋艦”鹿島”が、スティングレイの傘下に入りました‼︎



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32話 鷹の宝石(1)

さて、31話が終わりました

鹿島も加わり、一層賑やかになるパパの基地

今回のお話では、また少し、基地の秘密が分かります


「〜♪」

 

口笛を吹きながら、スティングレイがフィリップの整備をしている

 

黒いタンクトップ一丁の彼は、中々かっこいい

 

「やんやんやん♪♪」

 

格納庫の端っこでは、たいほうが一人で何かして遊んでいる

 

《暑くない⁇》

 

「大丈夫だ。もうちょい待ってろよ。こいつぁいい武装だ」

 

《どんな武装なの⁉︎》

 

「覚えてるか⁇ほら、潜水艦から出た炸裂弾。あれを改良して、短距離だが、戦闘機から撃てるようにしたんだ」

 

《スティングレイは凄いね‼︎何でも出来る》

 

「へっへっへ。物作りは得意だからな‼︎よっしゃ、出来た‼︎」

 

《ありがとう‼︎》

 

「ハッチの開閉テストをする。閉めて」

 

新調されたミサイルを詰め込んだハッチが閉まる

 

「開けて」

 

ハッチが開くと、順序よく並べらたミサイルが出て来た

 

「閉めて」

 

再びハッチが閉まる

 

「よし、完璧だ‼︎後は使わない事を祈ろう‼︎」

 

《だね》

 

「たいほう。何か食べるか⁇」

 

いつもなら元気良く返ってくる返事が無い

 

「たいほう⁇」

 

さっきまでそこにいたのに、おもちゃごと居なくなっている

 

「どうした⁇」

 

タイミング良く隊長が来た

 

「隊長。たいほう見なかったか⁇」

 

「居ないのか⁇」

 

「あぁ。さっきまでそこでおもちゃで遊んでたんだが…」

 

「全く…」

 

 

 

数分前…

 

「ぶるんぶるんぶる〜ん‼︎」

 

地面に戦闘機のおもちゃを這わせ、離陸する遊びをしているたいほう

 

「わぁ。なにこれ⁉︎」

 

目の前にビー玉が転がって来た

 

それを拾うと、道なりにビー玉が落ちて居る事に気が付き、どんどん拾っていく

 

数個拾った所で建物の隙間に入り、みんなから見えなくなった

 

「わぁ〜‼︎」

 

たいほうの掌はビー玉で埋め尽くされ、目が輝く

 

「もっとビー玉欲しい⁇」

 

「‼︎」

 

薄暗い建物の間から現れた人影に、たいほうは連れて行かれた

 

 

 

「たいほ〜う‼︎」

 

「たいほ〜‼︎」

 

大人二人が探すが、中々見つからない

 

「居たらすぐ分かるのにな…」

 

「口鳴らしてるからな」

 

たいほうは一人で遊んでいる時、独り言を言っているか、口を鳴らしてる

 

なので、居たら大体分かる

 

今回はそれも聞こえない

 

「ちょっと早いが、最終手段を使おう‼︎フィリップ‼︎」

 

《ちょっと待ってね…スペンサーの格納庫の裏だ》

 

「サンキュ、フィリップ」

 

《いつでも》

 

「よく考えりゃ、最初からこうすりゃ良かったんだ‼︎」

 

スペンサーの格納庫の裏に行くと、小さな砂浜があり、格納庫の真裏に備え付けられたベンチにしおいがいた

 

膝の上には、たいほうがいる

 

「びーだまいっぱい」

 

「キラキラですねぇ」

 

「いた‼︎たいほう‼︎」

 

「すてぃんぐれい‼︎ごめんなさい…」

 

「よ、よろしい…」

 

先に謝られ、言う言葉を無くす

 

スティングレイは膝を曲げ、たいほうに目線を合わせた

 

「何してたんだ⁇」

 

「しおいがね、びーだまくれたの‼︎」

 

「ほぅ…」

 

スティングレイがたいほうの手からビー玉を一つ取り、まじまじと見つめる

 

「ん⁇」

 

たいほうが持っているビー玉と言い張る物は、幾つか色が違っているのがある

 

「こりゃビー玉じゃねぇぞ⁉︎」

 

青、赤、黄、そして白

 

「何処で見付けた⁇」

 

「しおいがくれたのと…あとはそこのすなのなか‼︎」

 

「ほぅ…」

 

「ビー玉じゃないのか⁇」

 

「隊長。こりゃあ、宝石だ」

 

スティングレイは青い玉を取り、太陽に透かせた

 

「ビー玉なら、重さで分かる」

 

「またしげんいっぱいもらえる⁉︎」

 

「そうだなぁ…もう働かなくていいんじゃないか⁇」

 

「やったね」

 

「ちゃんとしまっとけよ。たいほうとしおいのだ」

 

「はい‼︎しおい‼︎」

 

たいほうは持っていた玉の半分以上をしおいに渡した

 

「いいんですか⁉︎」

 

「うん‼︎れーべとまっくすにもあげるの‼︎あとほっぽちゃんにも‼︎」

 

「良く出来たこと…俺なら総取りだぜ」

 

「お前とは違うんだよ」

 

「まぁな‼︎」

 

基地に帰ると、たいほうは早速れーべとまっくすに宝石をあげていた

 

「どっちがい〜い⁇」

 

二人に見せたのは、赤色と青色の玉

 

「な、何これ⁉︎宝石じゃないか‼︎」

 

「こんな高価なの貰えないわ」

 

二人には分かる様で、高価な物は貰えないと言い張る

 

「たいほうがみつけたんだよ‼︎」

 

「貰ってやってくれ」

 

「でも…」

 

「たいほうは独り占めしたくないんだ」

 

「じ…じゃあ、青い方を貰おうかな⁇」

 

「私は赤い方」

 

二人はドキドキしながら宝石を受け取り、三人で楽しそうに話をしていた

 

”提督”

 

机の上にいた妖精が話し掛けてきた

 

「どうした⁇」

 

”頼まれてたの、でけたで”

 

「…分かった。すぐ行く」



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32話 鷹の宝石(2)

工廠に向かい、妖精達に扉を開けて貰うと、中には煌めく艤装があった

 

妖精に造らせていた、出来る限りの技術が詰め込まれた、特注の艤装だ

 

「これで勝てそうか⁇」

 

”まぁな。艤装自体も充分やけど、あの子自体も大分強なっとるさかいな。テストさすか⁇”

 

「いや、明日の朝にしよう。疲れただろう。とりあえず、みんなで食べてくれ」

 

内ポケットからチョコレートを取り出し、妖精に渡した後、基地に戻った

 

”あれ”が出来たという事は、別れが近い…

 

執務室に入り、とある場所に電話をかけた

 

「えぇ。えぇ。明日の朝⁇はい、畏まりました。では」

 

電話を置き、深いため息をつく

 

「ほらチビ共‼︎お布団の時間だぞ‼︎」

 

「きゃ〜‼︎」

 

執務室から出ると、チビ達三人が武蔵に掴まれてはしゃいでいる

 

「武蔵、今日は俺が見よう」

 

「む、頼んだぞ‼︎」

 

「パパ〜‼︎」

 

三人を布団に入れ、絵本を取り出した

 

「今日は絵本を読んでやろう」

 

「やった」

 

三人の枕元で絵本を読んでいると、あっと言う間に眠ってしまった

 

………

 

もう少し、時間を取ってやれば良かったな…

 

不甲斐ない俺を、許してくれ…

 

全員の頭を撫でた後部屋を出て、自身も部屋で眠りについた

 

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「今日はプレゼントがある。ご飯食べたら、工廠においで」

 

一足先に朝ご飯を食べ終え、工廠に向かう

 

”おはよう提督”

 

「おはよう。言ってる間に来る」

 

「パパ〜‼︎」

 

「来た」

 

先に来たのはれーべだ

 

少し遅れてまっくすも来た

 

「わ、何これ⁉︎ピカピカだぁ…」

 

「強そう」

 

目の前に置かれた艤装に興味深々の二人

 

「これは、君達の改装に必要な装備だ。今の君達になら、付けられるハズだ」

 

「よ、よし‼︎」

 

「えい」

 

二人とも、威勢良く艤装を付けた

 

「ん。良く似合ってるぞ」

 

「そ…そうかな…」

 

「軽い」

 

照れ臭さそうにしている二人を見ていると、汽笛が鳴った

 

「さっ、お迎えだ」

 

「え…」

 

「…」

 

外に出ると、ミハイルがいた

 

「やぁ、大佐‼︎」

 

「ミハイル」

 

握手を交わした後、しばらく他愛無い話が続き、本題に入る

 

「れーべとまっくすは如何してます⁇」

 

「あぁ…返す前に、一つ頼みが…」

 

「いたー‼︎れーべとまっくす‼︎」

 

「あ」

 

時既に遅し

 

プリンツが二人の所に走って向かっている

 

「いっちょまえに艤装なんか付けて‼︎戦えないのに付けても一緒だよ⁉︎」

 

開口一番キツイな…

 

「うるさい‼︎」

 

「‼︎」

 

「おやおや…」

 

いきなりれーべがキレた

 

普段温厚なれーべがキレたのは初めて見た

 

「この艤装は、大切な人から貰った装備だ‼︎誰であろうと、バカにするのは許さない‼︎」

 

「むっ…」

 

「な、何よ二人共‼︎生意気な口聞くんじゃ無いわよ‼︎駆逐の癖に‼︎」

 

プリンツがれーべに手を上げようとした時だった

 

「やぁ‼︎」

 

「フォイヤ‼︎」

 

二人のアッパーがプリンツにクリーンヒットする

 

「わぁ…凄いや‼︎」

 

「力が漲る」

 

「ど、どうしたんだ‼︎二人共‼︎」

 

慌てたミハイルが二人に駆け寄る

 

「パ…大佐から艤装を頂いたんだ」

 

「大佐は良い人。私達、強くなった」

 

「そうか…大佐、ありがとうございます」

 

「これで安心して本国に帰れるな⁇」

 

「う…うん…」

 

「そうね…」

 

本国に帰れるというのに、二人は何処か寂しそうだ

 

「大佐」

 

「ん⁇」

 

「二人を…貴方に託します」

 

「宜しいのですか⁇」

 

「えぇ…本国はまだ、深海の影響を受けておりません。彼女達はどうやら、ここに居た方が幸せそうだ」

 

「…」

 

「大佐、貴方に未来を託します」

 

「二人共、いいか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「やったね」

 

最初とは随分違った、決意溢れる瞳で、私達を見詰めた

 

「それに、貴方になら安心して託せる。まさか、こんな短期間で改装までさせるとは…」

 

「彼女達の訓練の賜物です」

 

「ふふっ…では‼︎時々顔を見せに来ます‼︎」

 

「今度は横須賀で飯でも食おう」

 

「えぇ‼︎ほらプリンツ、行くぞ‼︎」

 

「は〜い」

 

二人に舌を出した後、ミハイル達を乗せた船は基地を去った

 

「パパ、これからもよろしくね⁉︎」

 

「お願いします」

 

「こちらこそ」

 

 

 

駆逐艦レーベレヒト・マースこと”れーべ・つゔぁい”

 

駆逐艦マックス・シュルツこと”まっくす・つゔぁい”

 

が、艦隊の指揮下に入ります‼︎




れーべ…ドイツから来た、駆逐艦の女の子

よく「男の娘⁇」と言われるが、れっきとした女の子

芯が強いが、まだまだ甘えたい盛り


まっくす…ドイツから来た、駆逐艦の女の子

口数が少なく、最初の頃は死にたがっていたが、今はれーべと共に強くないたいと願う

れーべと同じ、まだまだ甘えたい盛りだが、口数が少ないため、分かりにくい


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32話 鷹の宝石+1

32話のちょっとした追加ストーリーです

砂浜でビー玉探しをしていたたいほうが見付けた物のお話です


「運河〜‼︎」

 

「うんが〜‼︎」

 

朝からたいほうとしおいが騒いでいる

 

「大佐、おはようございます」

 

「おはよう」

 

横須賀の定時報告を聞いている最中、スティングレイがれーべとまっくすを腕にぶら下がらせ、外に出た

 

「大佐、伊401を少し貸して頂けませんか⁇」

 

「あはは、悪いな。しおいは俺の艦隊の所属じゃ無いんだ」

 

「まさか…スティングレイの娘ですか⁉︎」

 

「そう。強いて言うなら鹿島も」

 

「ぐぬぬ…スティングレイは貸してくれそうにない…」

 

「ま、聞いてみるこったな」

 

外に出ると、楽しそうに遊んでいるチビ達の中に、スティングレイと伊401はいた

 

「スティングレイ」

 

「あ⁇」

 

「伊401を貸して欲しい」

 

「ったく…絶対傷付けんなよ⁉︎しおい〜‼︎」

 

「は〜い‼︎」

 

すぐにしおいが来て、横須賀にしばらく着く様に言う

 

「あら、素直ね」

 

「こう見えても信用してんだよ」

 

「三時間程で返すわ。無傷で」

 

「一時間1000円な」

 

「…分かったわ」

 

冗談で言ったつもりが、嫌に素直だった為、背筋に悪寒が走る

 

「うわっ、ジェミニが素直だ…」

 

「ジェミニ⁇」

 

「スティングレイ⁇」

 

「はひ…」

 

「次言ったらブッ殺すわよ⁉︎」

 

「わ、わぁったわぁった‼︎早く行け‼︎」

 

「フン‼︎」

 

「いいか、お前達。将来あんな堅物な女になってはいけんぞ⁇女の子はお淑やかで、あだっ‼︎」

 

小石を投げられ、眉間に直撃する

 

「黙ってられないの⁉︎」

 

「ジェミニ怖い‼︎」

 

「ジェミニ怖い」

 

「子供を怖がらせるな‼︎」

 

「…じゃあね‼︎」

 

ようやく横須賀が行った後、残されたチビ達は、とある場所に行きたいと言った

 

「引き潮になったら、砂浜の向こうに何かある、だと⁇」

 

それを言い出したのは、たいほうだった

 

この前しおいとビー玉を探していた最中、それを見つけたらしい

 

しおいとたいほうでは重たくて持ち上がらないが、スティングレイなら持てるかもしれない…との事

 

「行ってみるか」

 

鹿島を呼び、砂浜で三人を見てもらい、俺はたいほうに言われた場所に行ってみた

 

砂浜では四人、ビー玉探しが始まっている

 

「これか…」

 

引き潮になり、砂浜が広がった先に、だだっ広い新しい砂浜が生まれ、そこの丁度中央に何か埋まっている

 

足で掘ったり、手で砂を掻き分けると、その全貌が明らかになって来た

 

「箱…か⁇」

 

出て来たのは、長方形の箱

 

かなりどころか、持ち上がらない程重い

 

「たいほう‼︎」

 

「は〜い‼︎」

 

「武蔵とローマを呼んでくれ‼︎」

 

「むさし〜‼︎」

 

しばらくすると、戦艦二人がやって来た

 

「どうした、すてぃんぐれいよ」

 

「これ、何だと思う⁇」

 

足元では、まだ少し埋まった箱がある

 

「どれ…」

 

武蔵が引っ張るが、少し動いただけで、中々出て来ない

 

「ちょっと離れて」

 

「嘘だろ⁉︎」

 

「よいしょ」

 

武蔵に抱えられた後、彼女はローマに背を向けた

 

万が一の備えで持って来ていたのか、ローマは副砲を構え、足元に向けて一発放った

 

「出たわ」

 

「ほぅ…これは…」

 

出て来たのは、時代劇とかで時折見かける頑丈な箱だ

 

「よし、工廠で調べて貰おう」

 

流石は戦艦

 

俺ではビクともしなかった箱を、二人掛かりで持ち上げ、工廠に運んだ

 

「では頼んだぞ」

 

”まかしとき‼︎すぐ開けたるわ‼︎”

 

箱が開くまで、俺はチビ達の所に戻りビー玉探しをし始めた

 

数十分後…

 

工廠に、基地内の全員が集められた

 

”えらいもん入っとったわ”

 

「まぁ、何にせよ開けてみようぜ」

 

スティングレイが重たい箱を開けた

 

「お…おぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

「ぴかぴかいっぱい‼︎」

 

中に入っていたのは、金塊やら大判小判

 

文字通り、千両箱だ

 

「た、隊長‼︎新しい装備買おうぜ‼︎」

 

「びすけっともかえるね‼︎」

 

珍しくたいほうが喜んでいる

 

「ま、何にせよ、今しばらくは金の工面には困らなそうだな…な、隊長‼︎」

 

「見つけたのはお前達だ。お前達で使え」

 

「はい‼︎」

 

たいほうは数枚の小判を持ち、私の手に握らせた

 

「いいのか⁇」

 

「いいに決まってんだろ‼︎」

 

「たいほうはね、これでおかしかうの」

 

「もっと美味しいの食べられるぞ⁇スパゲッティとか、から揚げも」

 

「ほんと⁉︎すぱげっちたべたい‼︎」

 

そんな二人のやりとりを見ていて、スティングレイがふと呟いた

 

「段々隊長に似て来たな…」

 

「まるで親子みたいですね」

 

「じゃあ、今度みんなで横須賀でお買い物しような⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

おそらくたいほうの頭の中には”みんなとご飯が食べられる”事しか頭にない

 

「ただいま〜‼︎スティングレイさ〜ん‼︎」

 

「おかえり。ほら」

 

帰って来たしおいにも金塊と小判を渡す

 

「わぁ‼︎何ですか、これ⁉︎」

 

「昨日の箱の中身だ」

 

「い、いいんですか⁉︎」

 

「山分けだからいいんだよ」

 

「ありがとうございます‼︎あ、そうだ‼︎新しい装備を貰いましたよ⁉︎」

 

「ほぅ。どんなだ⁇」

 

「えっと、何か、ドカーンってなる爆弾です‼︎」

 

しおいはジェスチャーも混じえて一生懸命説明するが、中々伝わらない

 

「爆弾は全部ドカーンだろ‼︎」

 

「えとえと、ビューン‼︎って飛んでって、バラバラー‼︎ってなって、ドカーン‼︎って爆発するやつです‼︎」

 

「ダメだ‼︎全く分からん‼︎」

 

「散弾ミサイルですよ。威力と精度は段違いですけどね」

 

「げっ‼︎横須賀‼︎」

 

「げっ‼︎とは何よ‼︎」

 

お互いに歯を見せ合いながら、睨み合いをする二人

 

「凄かったですよ‼︎島が一つ無くなりました‼︎」

 

「なんと…」

 

「心配しなくても、安全の確保された無人島ですよ」

 

しかし、誰も知る由もなかっただろう

 

しおいが一撃で破壊した、無人島と言い張る場所は、実は深海棲艦の基地だったとは…



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33話 霧の街(1)

さて、32話が終わりました

今回のお話で、ストーリーが急展開します

個人的に、艦娘のイメージを大きく崩しかねないので、閲覧は自己判断でお願いします


数日後…

 

「よこすか」

 

「着いたな」

 

みんなと共に、横須賀に来た

 

「提督よ‼︎私は本場のはんばぁがあが食べたい‼︎」

 

「すぱげっち‼︎」

 

皆、口々に食べたい物を口走る

 

「さ〜て、俺は…」

 

「行きましょ、ダーリン‼︎」

 

スティングレイは鹿島に連れられ、繁華街に消えた

 

「武蔵、ローマ。しばらくチビ達を任せてもいいか⁇」

 

「横須賀の所に行くのか⁇」

 

「…まぁそんな所だ」

 

「分かった‼︎では任されよう‼︎」

 

「すまん。後でハンバーガー奢ってやるからな」

 

みんなと別れ、私は繁華街から離れた

 

 

 

繁華街を離れ

 

横須賀の鎮守府も通り越し

 

漁村の端まで来た

 

「あれから、随分経ったな…」

 

私は、岬に建てられた石碑の前にいた

 

「やっぱりここに居ましたか」

 

「横須賀か⁇」

 

振り返らずとも、声で分かった

 

「今日は”あの日”でしたか」

 

「あれから何年経った⁇」

 

「少なくとも、8年は経ってます」

 

「そっか…」

 

私は石碑に手を掛けた

 

石碑には”慰霊碑”とだけ書かれている

 

「あの事件のおかげで、国は俺を敵に回した」

 

「…」

 

「たいほうやれーべ達を見ていて、時々思うんだ…俺にも、これ位の子供がいただろう、って」

 

「居れば、その位でしょうね」

 

「もういいだろ⁇話してくれても」

 

「…」

 

「ジェミニ」

 

「…分かりました。お話しましょう」

 

 

 

 

 

「あ。ヤッベェ…」

 

「美味しくないですか⁇」

 

「あ、いや、そうじゃない。スッゲェ美味いよ⁉︎」

 

繁華街で中華を食べていたスティングレイも気付く

 

「今日は”あの日”だ…」

 

「あの日⁇」

 

「知らない事がいい事もある。埋め合わせはするから、今日は離れる」

 

「分かった。ちょっと待って」

 

鹿島はスティングレイの口を拭き、頬にキスをした

 

「行ってらっしゃい‼︎」

 

「…すまねぇ」

 

スティングレイも繁華街を離れた

 

 

 

 

「どこからお話しましょう」

 

「最初からだ」

 

慰霊碑の前に座り、二人で話し始めた

 

「あの日、私達が本国へ帰還命令を受けたのは、世界で初めて”艦娘”を産み出す技術の披露会への招待を受けたからだったんです…」

 

 

 

数年前のあの日、私達の部隊は本国への帰還命令を受けた

 

軍部の限られた人間のみが見学可能だった、世界で初めて産まれる”艦娘”を産み出す披露会

 

私達の部隊は、恐らくこれから護り護られの関係になるだろうと、特別に招待された

 

実験の内容は、簡単に言うと

 

艦隊の装備を簡略化し、人間の体に装備させ、新しい記憶で生まれ変わると言う物

 

成功すれば、人類にとって多大な戦力になる

 

だが、実験体がマズかった

 

実験体となるのは、勿論生身の人間

 

その中には、隊長の…

 

…当時の、隊長の恋人もいた

 

実験は失敗

 

実験体となった人間は、その場で死んだか、行方不明となった

 

当時その実験施設があった場所を一望出来るのが、ここの岬

 

そこに慰霊碑は建てられた

 

「あの日の記憶が曖昧なんだ…恋人の名前も思い出せない…」

 

「それでいいと思います…」

 

「だけど、ここに来なきゃいけないのは分かる」

 

「いた‼︎お〜い‼︎」

 

息を切らしたスティングレイが来た

 

「探したぜ…全く…」

 

「すまんな、心配かけて」

 

「まぁよ…隊長…今は武蔵もいるし、いいんじゃねぇか⁇」

 

「そうだな」

 

「帰ろう。みんな待ってる」

 

「横須賀、お前も来い」

 

「はいっ」

 

こうして、三人は慰霊碑の前を後にした

 

 

 

繁華街では、武蔵とたいほうがハンバーガーを食べていた

 

ローマにれーべとまっくすを任せ、はまかぜとグラーフはその辺を歩いていた



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クリスマス特別版 空飛ぶサンタクロース

メリークリスマス‼︎

今日はクリスマスイヴという事で、番外編を書きました

このお話では、パ…サンタクロースが艦娘の所にプレゼントを配りにやって来ます

※途中、知ってる歌の歌詞が流れるとは思いますが、お金は貰っていないので、セーフでお願いします

感想、コメント、お待ちしております


「何⁉︎提督がいないだと⁉︎」

 

それは、武蔵の一言で始まった

 

12月24日午前、パパが行方不明になる

 

コルセアも無い

 

「どこ探してもいないのよ」

 

「横須賀と単冠湾はどうだ⁉︎」

 

「ちょっと連絡してみるわ」

 

戦艦二人が焦る中、スティングレイは落ち着いていた

 

「横須賀さんですか⁇うちの者が訪ねていませんか⁇はい、そうですか。分かりました」

 

ローマが電話を切ると、即座に武蔵が反応した

 

「どうだって⁇」

 

「機体は横須賀にあるみたいよ。でも、当の本人が行方不明だから、向こうもパニックになってるみたい」

 

「何をしているのだ‼︎提督よ‼︎」

 

 

 

その頃、横須賀鎮守府では…

 

「大佐も忙しい人です…」

 

「口止めされてますからねぇ」

 

電話を切った後、横須賀と明石が愚痴っていた

 

理由は、数時間前に遡る

 

「あれ⁇大佐⁉︎」

 

横須賀鎮守府に、コルセアが着陸する

 

連絡無しに訪れるのは珍しい

 

降りて来た大佐に近寄ると、燃料を満タンにして欲しいと言い、俺が来た事は口外するなと言った

 

そして基地のジープを勝手にパクり、何処かに行ってしまった

 

様子が可笑しいとは思ったが、部屋に戻ってカレンダーを見て、事態を飲み込んだ

 

「夢を壊さない人…ホント」

 

 

 

「あ、それも‼︎これも追加だ‼︎」

 

皆が必死に私を探し回っている最中、私は一人、大型デパートにいた

 

「これとこれとこれ‼︎キャッシュだ‼︎」

 

側から見れば、今話題の爆買いだろう

 

「あ〜…それはそっちの袋だ‼︎そう‼︎」

 

パンパンになった袋が三つと、小さな袋が一つ出来上がった

 

「やっと終わっ…はっ‼︎」

 

ふと何かを思い出し、もう一度デパートを駆け巡る

 

「あれとそれとこれ‼︎これもそれも‼︎そうだ、それは箱で全部だ‼︎」

 

あっと言う間に袋がもう一つ出来上がった

 

「ま、これで充分だろ」

 

カート2台分を引き、フードコートに向かう

 

「アイスコーヒー二つ」

 

広めの席を取り、コーヒーを飲みながらそこで何かを書き始め、買った物一つ一つに付け始めた

 

………

 

……

 

 

「ま、こんな感じかな⁇」

 

全ての物に書いた物を付けたのを確認した後、私はようやくデパートを出た

 

ジープの荷台にそれら全てを乗せ、まず走らせたのは、自分の生まれた街

 

「あ‼︎大佐だ‼︎」

 

「やっぴ〜‼︎」

 

すれ違う人達に挨拶をし、最初に着いたのは、引退した艦娘住んでいる区域

 

「大佐⁇何してるの⁇」

 

最初はビスマルクか…

 

「えっと…ビスマルクのは…あった」

 

「⁇」

 

「いい女になるんだ。メリークリスマス‼︎」

 

ビスマルクにプレゼント箱を渡し、次に向かう

 

「え⁉︎あ、ちょっと‼︎」

 

次は瑞鳳だ

 

「あれ⁉︎提督さん⁉︎」

 

「これで、美味しい卵焼きを作るんだ。メリークリスマス‼︎」

 

何が起こったか分からないまま、瑞鳳の手元には、柄の部分リボンが付いた、焦げ付かないと有名なフライパンが残る

 

「…え⁇」

 

次はみほだ

 

おっ、丁度いい

 

伊勢も日向一緒だ

 

「あら、大佐‼︎」

 

「みほ、君にはこれだ。君には感謝仕切れない…メリークリスマス‼︎」

 

みほに小さな箱を渡した

 

「あらあら‼︎ありがとう‼︎」

 

「日向‼︎伊勢‼︎君らにはこれだ‼︎」

 

二人には、箱では無くリボンの着いた紙袋を渡した

 

「いいのか⁇」

 

「わぁ‼︎ありがとう‼︎」

 

「よし、この辺りはおしまいだ‼︎じゃあな‼︎」

 

私はそのままその区域を出た

 

街に戻り、街の中心部でジープを停め、箱で買ったお菓子を開いた

 

「メリークリスマス‼︎」

 

行く子供行く子供にお菓子を配る

 

「わぁ‼︎大佐だ‼︎メリークリスマス‼︎」

 

「よしよし」

 

子供達の頭を撫で、しばらくそこでお菓子を配り続けた

 

「じゃあな‼︎」

 

「ばいば〜い‼︎」

 

「ありがと〜‼︎」

 

ようやく横須賀に戻って来た

 

「帰って来ましたよ‼︎」

 

「やっとか…」

 

帰って来た大佐は、コルセアの近くにジープを停め、機体の爆弾倉に何か詰めている

 

「大佐‼︎何してたんですか‼︎」

 

「買い物。今流行りの爆買いだ、爆買い」

 

「早く帰ってあげて下さい。みんな心配してますよ」

 

「もう帰る。あぁ、今日の夜中、滑走路を空けといてくれ。ワンコにもそれを伝えといてくれ」

 

「…了解です」

 

「じゃあな‼︎ありがとう‼︎」

 

大佐はそのまま帰って行った

 

「全く…感謝するのはこっちです」

 

 

 

「ただいま‼︎」

 

「提督よ‼︎何処に行っていた⁉︎」

 

「あれだ。爆買いだ」

 

「心配かけさせるな‼︎」

 

「…ごめんなさい」

 

「さぁ‼︎今日は豪勢な食事だ‼︎外国では”くりすます”と言うらしい‼︎」

 

「食べよう‼︎」

 

少し早めの夕食だが、返って良かった

 

深夜には、また飛ばねばならない

 

たいほうは嬉しそうにチキンを食べ

 

れーべとまっくすが作ったシュトーレンを、はまかぜとグラーフがかじっている

 

武蔵とローマは、巨大な七面鳥に食らいついている

 

ほっぽとコウワン=サンも、楽しそうだ

 

「コレ、ミンナニプレゼント‼︎」

 

ほっぽがみんなに金平糖みたいな物が入った袋を配っている

 

「コンペイトウジャナイヨ。ホウセキノカケラダヨ」

 

「きらきらだね‼︎」

 

「オイシカッタ‼︎」

 

「アリガトウ、パパ」

 

「外まで送るよ。みんなは食べてて」

 

二人が海に立った時、私は買って来たプレゼントを出した

 

「はい‼︎」

 

「イイノ⁉︎」

 

「はい、貴方も」

 

「…ウレシイ」

 

「気にいるかどうか分からないけど…メリークリスマス‼︎」

 

「メリークリスマス‼︎」

 

「メリークリスマス‼︎」

 

プレゼント箱を大切そうに抱いたまま、二人は海に帰って行った

 

その後、武蔵とローマが酔っ払い、私が布団まで持って行き、チビ達がようやく寝息を立てたのを見計らい、格納庫に足を運んだ

 

「片方だけでも行こうか⁇」

 

壁にもたれていたのは、スティングレイだ

 

「お前が居るから、安心して離れられるんだ」

 

「ふっ…任せろ‼︎」

 

「メリークリスマス‼︎」

 

スティングレイにもプレゼントの袋を渡した

 

「い、いいのか⁇」

 

「恐らく欲しがってた奴だ」

 

袋を開けると、革ジャンが出て来た

 

「新調しようとしてたんだ‼︎ありがとう‼︎」

 

「じゃあな。しばらくみんなを頼む‼︎」

 

「任された‼︎」

 

よし、まずは単冠湾だ

 

「ワンコ、聞こえるか‼︎サンタクロースだよっ‼︎」

 

「たい…サンタクロースさん‼︎お聞きしております‼︎二番滑走路をお使い下さい‼︎」

 

言われた通り、二番滑走路に機体を停めた

 

”単冠湾”と書かれた袋を持ち、一気にワンコの部屋に走った

 

「はぁ…はぁ…サンタクロースだっ‼︎」

 

「サンタクロースさん⁇」

 

中ではワンコと香取が居た

 

「えと、えと…さ、サンタクロースさん‼︎とりあえず一服して下さい‼︎」

 

「ん」

 

単冠湾と共に、タバコに火を点けた

 

「これ、みんなにプレゼントだ」

 

「いいんですか⁉︎」

 

「子供の夢を壊す訳にはいかん。これをみんなの枕元に置いてやってくれ。大きい連中にバレたら、お前が買って来た事にしろ」

 

「それでは大佐の面子が…」

 

「大佐⁇私はサンタクロースだ。サンタクロースは面子を気にしない。じゃあな‼︎」

 

タバコの火を消し、再びコルセアに乗る

 

「星空にダイブだ‼︎はっはっはー‼︎」

 

「行ってしまった…」

 

「嵐の様な人ね…」

 

「とりあえず、開けてみようか」

 

香取と二人で、袋を開けてみた

 

艦隊全員のプレゼントがあり、香取の分もあった

 

「あっ…」

 

そして勿論、ワンコの分も

 

「わぁ‼︎欲しかったアンティークライターだ‼︎」

 

「私はイヤリングね…分かってるわ、サンタクロースさんは」

 

単冠湾にも、聖なる夜が訪れた

 

 

 

「ラジオでも聴くか」

 

 

 

 

 

「クリスマスの日私に〜」

 

一昔前に流行った、クリスマスソングが流れて来た

 

どうやら特集の様だ

 

「ラースクリスマス…」

 

《大佐…久々の美声ですね》

 

横須賀だ

 

「クリスマスソング特集だっ‼︎」

 

《午前中、街にいる艦娘達にプレゼントを配っていたそうで》

 

「まぁな。クリスマスは平等に幸せになる権利がある」

 

《ふふふっ…貴方らしい。一番滑走路をお使い下さい》

 

「サンキュー」

 

機体を停め、再び走る

 

「サンタクロースだっ‼︎」

 

「私しか起きてません」

 

「うっ…」

 

「一緒に配って頂けませんか⁇」

 

「分かった」

 

時間をかけ、みんなの所にプレゼントを置いて行く

 

島風には、あったかい腹巻き

 

長門には、連装砲シリーズのぬいぐるみ

 

明石には、多機能レンチ

 

他にも沢山いるが、ほとんど横須賀が配ってくれた

 

「終わったな…」

 

「サンタクロースさん、ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

「じゃあ、サンタクロースさんにもプレゼントをあげます。目を閉じて下さい」

 

「うほっ」

 

期待して待っていると、頬に柔らかい物が当たった

 

「サンタクロースさんは、私の好きな人に瓜二つです。だから、普段彼に出来ない事を…」

 

「あ、ありがとう。もう行く」

 

「ありがとう、サンタクロースさん。また来年ね⁇」

 

「おぅ」

 

ようやく横須賀の基地を去る

 

後は自分の基地だけだ

 

 

 

 

基地に帰ると、みんな寝静まっていた

 

「よしよし…」

 

工廠の妖精達のプレゼントは、ポップコーン製造機と、その種だ

 

まず最初はチビ達の所だ

 

れーべとまっくす、たいほうには、ケンカしないように新しいリュックをそれぞれ置いた

 

はまかぜとしおいには、化粧品のセットを置いた

 

次は大人達だ

 

グラーフには、ネックレス

 

ローマには、新しいメガネのフレーム

 

武蔵には、高級なセーターを置いた

 

鹿島は、スティングレイにプレゼントを渡して置いた

 

彼から渡した方がいいだろう

 

「おやすみ〜…」

 

みんなのいる部屋の扉を閉めた

 

 

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「わぁ‼︎プレゼントだ‼︎」

 

「プレゼントだ」

 

「おそろいのりゅっくさっくだね‼︎」

 

「私はメイク道具です」

 

「しおいもです‼︎」

 

「グラーフは、ネックレス」

 

「頑丈なフレームね…これは良いフレームよ」

 

「温かいセーターだな‼︎さんたくろーすとやらに感謝せねば‼︎」

 

こうして、パパのクリスマスは幕を閉じる

 

 

 

 

 

単冠湾と横須賀では、こんな噂が立った

 

最近のサンタクロースは、戦闘機でプレゼントを配るのだ…と



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33話 霧の街(2)

「なんだ…不思議な感じだ…」

 

ハンバーガーを頬張っていた武蔵の手が止まる

 

「むさし⁇」

 

「ん…大丈夫だ」

 

「なんでないてるの⁇」

 

「泣いてる⁇私がか⁇」

 

手の平で目を擦ると、濡れて返って来た

 

「分からない…何故こんなに悲しい…」

 

「どっかいたい⁇」

 

「胸の奥が痛い…何故だ⁉︎」

 

「待たせたな。武蔵⁇」

 

「提督…」

 

私を見るなり、武蔵は抱き付いて来た

 

「どうしたんだ⁉︎」

 

「分からない‼︎分からないが、しばらくこうさせてくれ‼︎」

 

「むさし、あまえんぼしてるね」

 

おかしい…

 

普段の武蔵とは、全く違う

 

少し調べる必要がありそうだ…

 

「大佐、今日は横須賀に泊まって下さい」

 

「そうさせて貰うよ…俺も含めて、様子が変だ」

 

横須賀の鎮守府に向かい、全員が入渠になった

 

「もう大丈夫か⁇」

 

「大丈夫だ。一時的なものとはいえ、恥ずかしいな…」

 

「いいんだ。夫婦だろ⁇」

 

「ん…そうだったな‼︎」

 

武蔵が入渠したのを見届け、私は外に出た

 

向かった先は、私が生まれたあの街

 

もしかしたら、何か手掛かりがあるかも知れない

 

横須賀のバイクを借り、着いた先は自分の家

 

何十年かぶりに鍵を開け、早速当時の事が分かる物を探し始めた

 

 

 

当時の雑誌

 

当時の新聞

 

当時の資料

 

探せば少しは出て来たが、あまり確信が無い

 

「チクショウ…ん⁇」

 

机の上に置かれていた写真立てに目が行った

 

「これは…」

 

写真立ての中身を見た瞬間、私は中の写真を抜き取り、内ポケットに仕舞って家を出た

 

「嘘だろ…」

 

すぐさま鎮守府に戻り、横須賀に問い質した

 

「大佐。何か食べますか⁇」

 

「これはどういう訳だ」

 

机の上に写真を叩きつけた

 

「…」

 

横須賀は写真を見るなり黙ったままだが、冷や汗が出ている

 

「横須賀…この子は一体誰だ⁇」

 

「…知りません」

 

「ちょっとは知ってるだろ⁉︎それを教えてくれ‼︎」

 

「本当に知りません。ですが、この写真の人は、昔の大佐の恋人です」

 

「…そうか」

 

「あの日、実験されていた艦娘は三人。一人は大佐の恋人、一人は射殺、もう一人は行方不明です」

 

「その、俺の恋人ってのはどうなった⁇」

 

「行方不明です」

 

私はため息をついた

 

過去のしがらみが、私に取り付いて離れない

 

何も終わってなかった…

 

「パパ〜‼︎」

 

「たいほう。きちゃ駄目だろ⁇」

 

「あのね‼︎かいがんでへんなところみつけたの‼︎」

 

「変な所⁇」

 

 

 

それは、数十分前に遡る

 

早めに入渠を終えたたいほうは、みんなを待っている間、外を眺めていた

 

自分達の基地では、想像も出来ないネオンが見れるからだ

 

「ん⁇」

 

ふと、砂浜の端っこで誰かがいるのに気が付いた

 

たいほうは基地に備え付けられた双眼鏡でそこを見た

 

すると、岩場に扉があり、そこに人が消えていった

 

不安に感じたたいほうは、いち早くパパに報告をしに来た

 

 

 

「海岸線の端は、過去に艦娘の製造施設があった場所です」

 

「たいほう、場所分かるか⁇」

 

「うん。きて」

 

たいほうに連れられ、双眼鏡の前に立ち、たいほうは双眼鏡を覗いた

 

「あった‼︎」

 

たいほうの手で固定された双眼鏡を覗くと、特に変わりの無い岩場が見えた

 

「あっ‼︎」

 

岩場の隅から、白衣を着た人間が出て来た

 

「何かありそうだな…」

 

「行きますか⁇」

 

「そうだな。何か分かるかも知れない」

 

「では、一応装備を…明石‼︎」

 

「こちらをどうぞ」

 

明石が持って来たのは

 

軍刀一本

 

拳銃1丁

 

替えの弾倉が三つ

 

後は防弾チョッキだ

 

「じゃあ、行ってくる。みんなを頼むぞ」

 

「えぇ」



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33話 霧の街(3)

鎮守府を出て、岩場を目指す

 

言う程距離は無いので、歩いて行く

 

岩場に着くと、見え難いが確かに扉がある

 

引いても押しても開かないので、誰かが出てくるまで身を潜めた

 

数十分すると、先程と同じ白衣を着た人が出て来た

 

開いた瞬間を見計らって、中に入り込めた

 

「なんだ…ここは…」

 

物陰でも分かる位、中には立派な設備があった

 

中央には、巨大なカプセルがあり、中に何か入っている

 

「再実験はまだか⁇」

 

「じき可能になります」

 

「実験…⁇」

 

腰の拳銃に手が行く

 

「誰だ‼︎」

 

「‼︎」

 

研究員の一人にバレた

 

仕方ない‼︎

 

拳銃を抜き、研究員に向けた

 

「許可を得た研究か⁇」

 

「い…いや…」

 

「ここで何をしている」

 

「か…艦娘の研究さ‼︎」

 

「許可を得ずにか」

 

「く、くそっ‼︎」

 

研究員が逃げた

 

施設内で赤いランプが点灯し始めた

 

どうやら、警告を出されたみたいだ

 

「おとなしくしろ‼︎」

 

拳銃を構えたまま、カプセルの付近にいた研究員を二人、人質に取った

 

「出ても一緒だ」

 

「あんたは…」

 

一人の研究員が不思議そうな顔をしている

 

「俺を知ってるのか⁇」

 

「いや…人違いだ」

 

「あんたはここの主任か」

 

「そうだ」

 

「過去にここで造られた三人、今は何処にいる⁇」

 

「三人⁇」

 

また不思議そうな顔をする

 

私は、彼が何か知っていると踏んだ

 

「…一人はその場で射殺。もう一人は行方不明。最後の一人が、このカプセルの中身だ」

 

「この子が…」

 

拳銃を向けたまま、カプセルの中身を見た

 

白い髪の女の子が、中に入っている

 

「説明してやるから、銃を降ろしてくれ。おい‼︎警報を切れ‼︎」

 

後ろにいた研究員が警報を切り、赤いランプと警報音が消えた

 

「分かった…」

 

拳銃を降ろすと彼は立ち上がり、説明を始めた

 

「確かにこの研究所では、過去に三人実験体がいた。一人は通称”加古”彼女は暴走した為、その場で射殺するしかなかった…」

 

「もう一人は⁇」

 

「もう一人は通称”武蔵”彼女だけ、研究所から逃げ出した…今も居場所は分からない」

 

「やっぱり…」

 

あの写真に写っていた、私ともう一人の女性

 

その人は、武蔵の様な髪色に、褐色の肌で、眼鏡を掛けていた

 

違うとすれば、髪の毛を降ろしていた位だ

 

「武蔵は、あんたの恋人だったんだよ」

 

「…」

 

「覚えてないか⁇」

 

「どういう意味だ⁇」

 

主任はとんでもない事を言った

 

「あんたはあの日、恋人が艦娘化をする寸前に中止を申し出た。だが、途中で中止する事など出来ず、あんたは機械のショートした電流に巻き込まれたんだ」

 

「覚えてない…」

 

「覚えていなくていい。我々はもう…武蔵には逢えない…」

 

「…」

 

「グアッ‼︎」

 

「‼︎」

 

銃声が数発響いたと思った時には遅かった

 

目の前にいた研究員二人が倒れ、再び赤いランプが光り、警報音が鳴り響く

 

「誰だ‼︎」

 

「ここも…こいつらも…みんな嫌いだ‼︎」

 

「武蔵‼︎」

 

そこに居たのは武蔵だった

 

「ここは何だ⁉︎ここに来てから破壊衝動が収まらない」

 

何も言えなかった…

 

知ってしまった以上、言わなければならないのだが…

 

言った所で、何かが始まる訳でも無い

 

「武蔵、この子を助けたい。出来るか⁉︎」

 

「殺せばいい」

 

「ダメだ‼︎」

 

「そこを退け‼︎生き恥を晒すより、ここで散った方が彼女の為だ‼︎」

 

主砲をカプセルに向けた武蔵に対し、私は初めて手を挙げた

 

「なっ…」

 

乾いた音が、警報音に混じる

 

「助けなきゃいけないのは、みんな同じだ」

 

「提督…そうだったな‼︎よし、私に任せろ‼︎」

 

武蔵は腕を鳴らした後、カプセルに拳を振るった

 

「おりゃあ‼︎」

 

カプセルが割れて溶液が出た後、出て来た彼女を受け止めた

 

「ありがとう。武蔵」

 

「構わん。さぁ、ここから出るぞ‼︎」

 

再び主砲を構えた武蔵は、装置を破壊しながら後退していく

 

私は武蔵より先に施設から出た

 

「や〜‼︎壊した壊した‼︎」

 

満足気な武蔵が出て来た

 

「横須賀、これをやろう。煮るなり焼くなり、好きにするがいい」

 

「すまない…彼等は軍法会議にかけられるだろう…」

 

「そうだ。横須賀、この子を頼む」

 

「畏まりました。お二人は入渠ドックに向かって下さい‼︎明石、提督を案内して。武蔵は私と一緒ね」

 

「ん」

 

彼女を横須賀に預け、私は明石に案内された露天風呂に入った

 

 

 

 

「は〜っ…」

 

湯船で一息ついていると、端の方から何かやって来た

 

”灰皿や‼︎”

 

”葉巻や‼︎”

 

”酒や‼︎”

 

”つまみや‼︎”

 

お盆の上に乗ってやって来たのは、妖精達だ

 

「な、何だ何だ⁉︎」

 

”まま、一服どうぞっ”

 

葉巻を咥えさせられ、火を点けられた

 

”どや”

 

「中々美味いよ。ありがとう」

 

”酒もあるで‼︎ビールや‼︎”

 

”チーズや‼︎”

 

コップにビールが注がれ、爪楊枝にチーズが刺せられた

 

「どれ…」

 

ビールを一口飲み、チーズをつまむ

 

「美味いな‼︎ビールはキンキンだし、チーズもコクがあって上出来だ‼︎」

 

”全部ドイツから輸入したんや”

 

”ウチの提督が、おもてなしせぇって言ったさかいな”

 

「ありがとう。癒されるよ」

 

その後、しばらく他愛のない話を妖精達とした後、露天風呂を出た



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33話 霧の街(4)

着替えて表に出ると、スティングレイがカラオケを歌っていた

 

どうやら宴会会場もあるみたいだ…

 

しかし…

 

「相変わらずあんた歌上手ね」

 

「♪♪」

 

横須賀を感服させる程、スティングレイは歌が上手い

 

特に恋愛もののバラードなんか、感情がこもっている

 

「スティングレイ、これ歌える⁇」

 

ローマが入れた曲は、古いミュージカル映画の中で、男性が一人で歌っている、失恋の歌

 

スティングレイの後ろでは映画の映像が流れており、男性がブランコに乗って歌っている

 

スティングレイは無言の承諾をした後、曲が始まる

 

「♪♪」

 

歌詞どころか、台詞部分もパーフェクトだ

 

「…」

 

それをボーッと見詰める、武蔵と私

 

覚えてるか、武蔵

 

お前、俺と二人でこの映画見に行ったの…

 

俺は途中で泣いてしまって、お前は笑ってたよな…

 

今となっては懐かしい…

 

「すてぃんぐれいじょうず‼︎」

 

前の方で、たいほうが両手にマラカスを持って座っている

 

「あ、大佐‼︎」

 

「相変わらず上手いな。基地にもカラオケ付けるか⁇」

 

「そ、そう褒めないでくれよ…」

 

「大佐も何か一曲どうですか⁇」

 

「俺は…」

 

「なんなら…一緒に歌うか⁉︎」

 

「頼む」

 

スティングレイと歌うのは何年振りだろう

 

最後に歌ったのは、どこかの国のバーが最後だったと思う

 

「や〜‼︎ありがとう‼︎久々だったな‼︎」

 

「また行こうぜ‼︎」

 

「提督」

 

明石が入って来た直後、横須賀が立ち上がった

 

「分かった。大佐、スティングレイ、来て」

 

宴会会場を出ると、私達は工廠に案内された

 

「これは…」

 

工廠の中には先程と同じ様なカプセルが幾つかあり、内一つに先程の子が入っている

 

「艦娘は、こうして建造されるんですよ…」

 

「さ、もう出てきますよ…」

 

溶液が抜かれ、カプセルが開いた

 

「おはよう…」

 

「おはよう”龍雲”」

 

置かれていた札を、そのまま左から読むと、横須賀に肩を叩かれた

 

「…大佐、逆です」

 

「あ、”雲龍”って言うのか‼︎」

 

「また香取先生に指導…ですね」

 

「あ…ま、まぁ…雲龍。とりあえず服を着ようか」

 

「…うん」

 

横須賀に連れられ、工廠の奥に消えた

 

その後ろを、服を持った妖精達が走って行き、しばらくすると再び私達の前に現れた

 

「いいな…」

 

「いいな」

 

雲龍は胸元がザックリ開いた服を着て来た

 

「航空母艦、雲龍です」

 

「スティングレイだ」

 

「この人は大佐。みんなからパパって呼ばれてる」

 

「よろしくな」

 

「…よろしくな⁇」

 

「まだ覚えたてなんです。ほら、たいほうのような…」

 

「なるほどな」

 

「雲龍、君はどの人に着きたい⁇」

 

眠たそうな目で、三人を一通り見る

 

「…この人。この人がいいな。助けてくれたし…」

 

指差したのは私だった

 

「分かった。改めてよろしくな」

 

「…うんっ」

 

「さ‼︎今日はもう休みましょう‼︎」

 

「そうだな…ふわ…」

 

スティングレイも疲れてるみたいだ

 

雲龍は最終チェックの為、もう一晩工廠に預けられた

 

私は寝る前に行かねばならない所があった

 

宿舎に戻り、一つの部屋の扉を叩いた

 

「いるか⁇」

 

「提督か⁇」

 

出て来たのは武蔵だ

 

「入ってくれ」

 

「うん…」

 

私は先に座布団に座り、武蔵は温かいお茶を机に置いた後、席に着いた

 

「今日はありがとう」

 

「いや…提督の為だ」

 

「…すまない。叩いてしまって」

 

「気にしてるのか⁉︎」

 

「そりゃあな…」

 

すると、武蔵は私の手を取り、自身の頬に置いた




スティングレイが宴会会場で歌ってた曲が分かる人、本当にコメント下さい


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33話 霧の街(5)

今回の話はちょっぴりエッチです


「温かいな…私が叩かれた理由が分かる」

 

「武蔵…」

 

「提督は、絶対人を見捨て無かったな…忘れていたよ…」

 

「そうだ…」

 

「もっと、私に触れてくれ…」

 

頬から手を離し、すぐにイヌミミと言われていた部分に触れた

 

「あっ…そっ、そこは敏感なんだ…」

 

「やっぱりくっ付いてるのか⁇」

 

指先で摘んだりするが、抜けたり歪んだりしない

 

それどころか、武蔵が震え始めた

 

「ほ…他の所にして欲しい」

 

言われるがまま、腕や足に触れる

 

「その…柔らかいな…」

 

「ふふっ…こう見えても、私は女だ」

 

「あ、そうだ提督。ここも触れてくれ」

 

「…その」

 

恥ずかしさのあまり、自身の頬を掻く

 

武蔵が指定した場所は、胸だ

 

若い頃、一度だけ流れに任せて、半ば無理矢理ローマを抱いた事があった

 

流石に後悔している…

 

私は彼女の初めてを奪い、あまつさえ他人とケッコンしている

 

だが、ローマはそれを誰に言う訳でも無く、私を責める訳でも無く、未だに黙ってくれている

 

「ろーまにはしたのだろう⁇」

 

「…何で知ってる」

 

「私にはお見通しだ」

 

そう言って、イヌミミの電探を指差した

 

「い、いくぞ‼︎」

 

「んっ…」

 

抱かれて埋まった事はあるが、直は初めてだ

 

「いいぞ。好きな人に触れられるのが、こんなに気持ちがいい事とは…思わなかった」

 

「くそっ‼︎」

 

「うっ‼︎」

 

私は、二度目の過ちを犯した

 

ケッコンしてるとはいえ、また強引だ…

 

 

 

「やってしまった…」

 

朝起きて、横で眠っている武蔵を見て最初にそう思った

 

とにかく、着替えてみんなの所に行こう

 

「おはよう、提督」

 

「おはよう…ごめんなさいでは、許してくれないよ、な⁇」

 

「何故謝る⁇私は妻だ。抱かれて当然だ‼︎」

 

「いや、その…無理矢理に…」

 

「構わん。多少強引な提督の方が、私は好みだ」

 

「そっか…じゃあ、ありがとう、だな⁇」

 

「そうだ」

 

「…また、お願いしてもいいか⁇」

 

「チビ達が眠った後なら、な⁇」

 

「朝ご飯食べる前に、先に工廠に行って来る」

 

「あぁ‼︎行って来い‼︎」

 

玄関まで見送りに来てくれた武蔵に、行って来ますのキスをした後、工廠に向かった

 

「パパ〜‼︎」

 

たいほうが来た

 

「…」

 

私に抱き着いた後、何やら匂いを嗅いでいる

 

「におうか⁇」

 

「むさしのにおいがする」

 

「うっ…」

 

たいほうの鼻は誤魔化せないな…

 

「いっしょにねんねした⁇」

 

「そ、そうだ。たいほうもパパと一緒にねんねするだろ⁇武蔵だけにしないのは可笑しいだろ⁇」

 

「うんっ‼︎むさしはあったかいしね‼︎」

 

ふぅ…

 

たいほうが無垢で良かった…

 

「一緒に行くか。お友達が出来たんだ」

 

「やったね‼︎」

 

たいほうを抱っこしたまま、工廠に入る

 

「おはよう…パパ」

 

調整を終えた雲龍がいた

 

「おはよう。どうだ、体の具合は」

 

「うん…昨日、横須賀さんに最終チェックをして貰ったの…」

 

「わぁ〜…」

 

たいほうの口が開いたまま塞がらない

 

「どうした⁇」

 

「むさしのおむねとおんなじくらいかな⁇」

 

「おいで」

 

たいほうを降ろすと、雲龍に抱き着いた

 

「ぷにゅぷにゅだね‼︎」

 

雲龍の胸に顔を置き、すりすりしている

 

「…かわいい」

 

「あたしたいほう‼︎」

 

「私は雲龍…よろしくね」

 

「さぁ、雲龍。まずは街に行こうか」

 

「うん」

 

みんなを集め、昨日回れなかった繁華街を回る事にした



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33話 霧の街(6)

「さっ、行きましょ‼︎」

 

スティングレイが鹿島に連れられ、また繁華街に消えて行く

 

「グラーフ、行きましょうか」

 

「うん。作り方を覚える」

 

はまかぜとグラーフも離れた

 

「さて、あの二人は放っておこう。雲龍、何が食べた…」

 

「これは…⁇」

 

「小籠包だよ‼︎一つ食べて行きな‼︎」

 

「ありがと」

 

小籠包屋の前で小籠包を一つ貰い、それを食べている

 

「…おいしい」

 

「そうかい‼︎楽しんで来な‼︎」

 

「…うんっ」

 

良かった。楽しそうだ

 

「杏仁豆腐⁇甘い匂いがする」

 

「たいほうそれすき‼︎」

 

「これで買って来なさい」

 

「やったね‼︎ふたつください‼︎」

 

持って帰って来た容器には、てんこ盛りに盛られた杏仁豆腐が‼︎

 

「れーべとまっくすとたべるの」

 

「偉いなっ」

 

残りは戦艦二人

 

「何食べたい⁇」

 

「あれだ‼︎」

 

「あれしかないわ」

 

二人の目線の先には、中華の食べ放題がある

 

「これで食べて来なさい」

 

「すまないな」

 

「ありがと」

 

ま、この二人は放っておいて大丈夫だろう

 

さて…

 

「たべた‼︎」

 

「美味しかった‼︎」

 

「甘かった」

 

「次は何したい⁇」

 

「パパについてく‼︎」

 

「そうだなぁ…」

 

「…お腹いっぱい」

 

先程より、ちょっとお腹が膨れた雲龍がベンチにいる

 

「ちょっと休憩しよっ…」

 

雲龍の横に座ろうとした瞬間、二軒程離れた店のガラスが壮大に割れ、人が飛び出て来た

 

「立て」

 

「ち、ちくしょう…」

 

中から出て来たのはスティングレイだ

 

「ここから離れるなよ」

 

「小さい子は見てる」

 

「すまんな」

 

倒れた人の胸倉を掴んでいるスティングレイの肩を掴み、静止させた

 

「もう虫の息だ」

 

「強盗だよ、こいつ」

 

「自業自得だな…警官が来たぞ」

 

「何かありましたか⁉︎」

 

「強盗だ。ほらっ」

 

スティングレイは強盗犯を渡し、警官は手錠を掛けた

 

「ご協力、感謝します‼︎では‼︎」

 

警官が行った後、スティングレイは店に戻って頭を下げている

 

店員は何度も頭を下げ返し、手で何かを断わっている

 

しばらくすると、鹿島と共に出て来た

 

「弁償しなくていいどころか、飯代浮いた‼︎」

 

「お前らしいなぁ…」

 

「相変わらず強い…惚れ直しましたっ‼︎」

 

スティングレイの腕にしがみ付く鹿島

 

ずっとくっ付いている鹿島を、満更でもない顔のスティングレイがいる

 

段々絵になって来たな

 

「隊長、そろそろ帰ろう。便が無くなっちまう」

 

「あ、そうだな。みんな、帰るぞ‼︎」

 

全員を集め、埠頭に向かう

 

はまかぜとグラーフは、道中ずっと何かを食べている

 

雲龍は雲龍で、小籠包が気に入ったのか、持ち帰りで幾つか手に下げている

 

「さ、帰ろう」

 

全員を乗せた高速艇が、基地に向かう

 

 

 

 

 

 

 

大佐が去ったその日の夜、繁華街に夜霧が立ち込めた

 

シャッター街に成り変わった街の中心で、誰かが一人立ち竦む

 

「…生きていたのか」

 

 

 

航空母艦”雲龍”が艦隊の指揮下に入ります‼︎



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34話 三羽の凶鳥(1)

さて、33話が終わりました

雲龍も仲間に加わり、再び訪れた平和

そんな中、基地に訪問者がやって来ます


「雲龍隊、発艦」

 

「たいほうたい、はっかん‼︎」

 

基地の周りで、空母の二人が発艦の練習をしている

 

「よし…目標前方」

 

前方には、格納庫の前に座って焼きそばにむしゃぶりつくスティングレイが‼︎

 

「爆弾倉、開け」

 

雲龍の航空隊が爆弾倉を開き、下腹部から爆弾が出て来た

 

「投下」

 

焼きそばに向かって、機体が急降下していく

 

スティングレイは振り向きもせず、先頭にいた機体を箸で掴み、機体を裏返して爆弾を取った

 

”はなせ〜‼︎”

 

「サンキュー」

 

機体を離し、空に返す

 

スティングレイは爆弾の先端部分を取り、中身を焼きそばに振りかけた

 

機体に付けられていたのは、塩胡椒だった

 

「うまい‼︎流石ははまかぜだ‼︎ん⁇」

 

埠頭に一隻の船が来た

 

「連絡に無いぞ…フィリップ」

 

《武装してる‼︎スティングレイ、隠れて‼︎》

 

「ちっ…」

 

格納庫の隅に隠れ、息を潜める

 

《パパのライフルがそこにあるよ》

 

「よし」

 

ライフルを手に取り、なるべく音を立てない様に弾を詰める

 

「隊長、聞こえるか⁇」

 

《どうした⁇》

 

「武装した連中が接岸した。どうする⁇」

 

《私が出る》

 

無線を切ってしばらくすると、隊長が出て来た

 

「フィリップ、いつでも誘導弾を撃てる様にしておけ」

 

《了解。誘導弾セット》

 

「マズイ事になったな…」

 

 

 

埠頭に向かうと、スティングレイの言った通り、武装集団が待機していた

 

「何か御用で⁇」

 

「サンダーバード隊隊長は貴方か」

 

「そうだ」

 

「首相がお呼びです」

 

「断る。国には従事しない」

 

「では、強制的に連行します。やれ‼︎」

 

「そうかい…なら、反抗するだけだ‼︎」

 

数人がかりで隊長を拘束しにかかるが、隊長は全員押し返している

 

「船に人はいるか⁇」

 

《いない。あの偉いさんが運転してるみたいだ》

 

「よしフィリップ、船だ‼︎船に一発かましてやれ‼︎」

 

《了解‼︎誘導弾発射‼︎》

 

発射した後、強烈なカーブを描き、船に誘導弾が着弾、炎上する

 

「なにっ⁉︎」

 

「動くなよ」

 

偉いさんの後頭部にライフルを突き付けた

 

余程彼が殺されるのがマズイのか、隊長の周りにいた連中も両手を挙げた

 

その後、隊長と共に逆に拘束して尋問を始めた

 

「なんだこいつら」

 

「…督戦隊が何の用だ」

 

「今は違う」

 

「督戦…あっ‼︎お前ら”ストーカー”の連中か‼︎バーカバーカ‼︎」

 

「クソ野郎‼︎」

 

スティングレイは一人の連中をけしかけ、けしかけられた奴はキレ返していた

 

「今は首相お抱えの雑用係さ」

 

「落ちぶれたもんだな…やってる事は昔と変わらんか…」

 

「馬鹿にするな。我々にも理念がなる」

 

「んで⁇その首相とやらは俺に何の用だ⁇」

 

「分からん。ただ、連れて来いと」

 

「自分から来いってんだ…全く」

 

「まぁいい。お前らを連れて本土に向かう。スティングレイ、武蔵に子守りを頼んだ後、機体で追い掛けて来てくれ」

 

「了解した」

 

この基地に”一応”用意されたボロい船に乗り、本土を目指す

 

「変わらんな…お前は」

 

「ふっ…」

 

船の中で、一人だけ自由になった人がいた

 

フィリップが”偉いさん”と言っていた人だ



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34話 三羽の凶鳥(2)

「いいのか⁇俺を自由にして」

 

「ほら」

 

船に備え付けられた防水ライフルを彼に渡した

 

「これで俺を殺すチャンスが出来た。拘束も出来るぞ⁇」

 

「しないさ」

 

「ふっ…」

 

私の隣にいる奴は、過去に督戦隊だった人間だ

 

だが、戦場では互いに世話になった

 

彼の部隊は、自他共に認めるエース部隊”SS隊”通称”スカイストーカー”だ

 

エスケープキラーの分際で、何処かに優しさがあるのか、脱走兵を匿ったりしていた

 

人相の割には、人情に溢れている

 

「着いた。降りるぞ」

 

「全員降りろ」

 

「ちょっと待て」

 

拘束していた二人の紐を解いた

 

「いいのか⁇本当に」

 

「これで貸し一つな」

 

SS隊の連中は不思議そうな顔をしている

 

隊長からの命令も無く、ただただ大佐の前を歩いて、首相官邸に案内するだけ

 

彼等が不思議に思っているのも束の間、首相の前に着いた

 

「首相が何の用だ」

 

「君か。大臣の乗ったヘリを落としたのは」

 

「あんたらは市民を見殺しにした。だから俺もそれ相応の対応を取らせて貰った…それだけだ」

 

「君を拘束する」

 

「断る」

 

「SS隊。彼を連行しろ。犬どもが…」

 

「…いいな⁇」

 

「イエス、キャプテン」

 

「イエス、キャプテン」

 

SS隊の隊長が二人に指示をし、ドックタグとIDカードを首相に投げ返した

 

「な、なんだ⁉︎」

 

「申し訳ありません、首相。我々は、貴方の犬ではありません」

 

「お前ら…」

 

「大佐。私達は、スティングレイと口喧嘩してる日常の方が気に入ってるんですよ」

 

SS隊の二人が銃を構えた

 

「首相を拘束しろ」

 

「はっ」

 

あっと言う間に首相は拘束され、四人の足元に跪いた

 

「なんの真似だ‼︎」

 

「首相…”艦隊計画”はご存知で⁇」

 

「…」

 

沈黙を貫く首相に対し、足元に一発銃弾が飛んだ

 

「脅しではありません。未来の為の犠牲になりたいですか⁇」

 

「艦隊計画か…確かにあった。人間に艤装を装着し、戦力強化を図る…そんな計画だな」

 

「結果、どうなりました⁇」

 

「…」

 

今度はつま先を貫いた

 

「ぐわぁぁあ‼︎な、何をする‼︎」

 

「頭を貫かれる前に答えたらどうです」

 

「計画は失敗した‼︎多くがお前達の知る”深海棲艦”と呼ばれる者になった‼︎」

 

「何…⁉︎」

 

「大佐、これで分かったでしょう。国が‼︎老人達が‼︎我々を変えてしまった‼︎」

 

「…」

 

開いた口が塞がらなかった

 

「しかも艤装は何故か女性にしか反応しなかった‼︎何人かは男にも適応したが、そいつらも行方不明だ‼︎」

 

「その一人が私か…」

 

「そうだ‼︎あんたの恋人は残念だったなぁ‼︎国の犠牲になって‼︎」

 

その場にいた全員が呆れかえっていた

 

「…バッカス」

 

SS隊の隊長は、部下の一人の肩を叩いた

 

彼は頷いた後、首相の頭を撃ち抜いた

 

「大佐。もう一仕事、お付き合い願えませんか⁇」

 

「なんだ⁇」

 

「まずはここから出ましょう」

 

首相官邸から出ると、SPの連中に囲まれた

 

「止まれ‼︎」

 

四人全員が両手を挙げた

 

万事休すか…⁉︎

 

潔く目を閉じた後、爆発音が数回響いた

 

《イィ〜ヤッハァァァア‼︎‼︎‼︎ざまぁねぇぜ‼︎》

 

耳に付けたイヤホンから、聞きなれた軽口が聞こえる

 

目を開けると、SPが大勢横たわっていた

 

「はっ‼︎」

 

《大丈夫か⁉︎》

 

上空を見上げると、黒い機体が飛んでいる

 

「スティングレイ‼︎」

 

《間に合って良かったぜ》

 

「スティングレイ」

 

SS隊の隊長が上空を見上げた

 

《話は聞いた。致し方なく援護してやる》

 

「すまない…私達はこれから、軍の研究所に向かう。上空から支援を頼む」

 

《了解した。100m先にジープが一台ある。それで向かってくれ》

 

「いい部下だな」

 

「お互い様だろ。行くぞ‼︎」

 

四人はジープに乗り、研究所を目指す

 

「大佐。研究所では、計画が未だに続いています」

 

「破壊しなくては」

 

「その前に、中にいる”レディ”を助けたい」

 

「はっ‼︎本当に変わってねぇな‼︎いいだろう‼︎スティングレイ、正門をぶっ飛ばしてくれ‼︎」

 

《よっしゃ‼︎任せろ‼︎フィリップ、貫通弾装填‼︎》

 

《貫通弾、装填良し‼︎》

 

《前方の装甲扉、ロック‼︎発射‼︎》

 

《発射‼︎》

 

フィリップからミサイルが発射され

、正門は見事破壊された

 

「ナイスキル‼︎」

 

《後は任せた‼︎俺ぁ上空で待機している。中は任せた‼︎》

 

 

破壊された扉をそのままジープで突っ切り、何度か扉を体当たりで破って行く

 

「大佐、ここだ‼︎」

 

「よし」



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34話 三羽の凶鳥(3)

巨大な扉の前にジープを止め、中に入った

 

「おぉ…」

 

「なんだ…これは…」

 

部屋の中には雲龍が入っていたカプセルが幾つもあったが、中は空っぽだ

 

「キャプテン、こっちです」

 

「あった…」

 

中身のあるカプセルが三つ

 

”ゴタア”

 

”トマヤ”

 

”キツカア”

 

キツカアと書かれたカプセルに至っては、年端の行かない女の子が入っている

 

「バッカス、ギュゲス。カプセルを解放出来るか⁉︎」

 

「や、やってみます」

 

二人が必死でカプセルを開けている間、私と隊長は武装した警備員や研究員の相手をしていた

 

「解放‼︎」

 

べチャッと音がし、床に三人が落ちた

 

「よし‼︎撤退だ‼︎一人ずつ担げ‼︎」

 

「よいしょ…」

 

「うんしょ〜‼︎重い…‼︎」

 

トマヤを持っているのは”ギュゲス”と呼ばれている部下の方だ

 

「しっかり‼︎」

 

「す…すみません…」

 

ギュゲスと二人掛かりでトマヤを持ち、ジープに乗せる

 

隊長はキツカアを乗せ、バッカスがゴタアを乗せたのを確認した後、全速力でジープを走らせた

 

「スティングレイ‼︎聞こえるかスティングレイ‼︎」

 

《聞こえる‼︎どうした⁉︎》

 

「上空から、この施設を空爆出来るか⁉︎」

 

《任せな‼︎フィリップ、炸裂弾装填‼︎》

 

《炸裂弾、装填良し‼︎》

 

《前方、あ〜…研究所‼︎ロック‼︎発射‼︎》

 

《発射‼︎》

 

《隊長、炸裂弾は地上に対して攻撃した時、着弾してから10秒だけ猶予がある‼︎脱出してくれ‼︎》

 

「了解した‼︎」

 

《着弾を確認‼︎カウントダウン、8…7…》

 

「いけいけいけ‼︎」

 

「掴まれー‼︎」

 

正門を出た瞬間、研究所で大爆発が起きた

 

「間に合った…」

 

「ふぅ…」

 

《間に合ったな‼︎横須賀で待ってるぜ‼︎》

 

「すまん、助かった‼︎」

 

《ストーカーの連中‼︎今回は貸しにしといてやる‼︎》

 

「すまないな、スティングレイ」

 

隊長は上空を見上げ、素直に礼をした

 

《けっ‼︎おいバッカス‼︎お前も生きてっか⁉︎》

 

「生きてるよ‼︎」

 

《…巻き込むべきだったな》

 

「恐ろしい事言うな‼︎」

 

《はっはっは‼︎ま、横須賀に着いたら、一杯やろうや‼︎》

 

「致し方なく、だぞ‼︎」

 

《けっ‼︎》

 

どうやら、バッカスとスティングレイは仲が良いみたいだ

 

「レイ…あ、スティングレイとは、昔からの腐れ縁なんです。スティングレイは貴方に。私は隊長に着いたんです」

 

「口は悪いが、根は良い奴だ。これからもよろしく頼む‼︎」

 

「こちらこそ‼︎大佐‼︎」

 

揺れるジープの上で、バッカスとギュゲスは敬礼をした

 

横須賀に着くと、三人はすぐさま入渠ドックに入れられ、SS隊の三人と私は横須賀の所に呼ばれた

 

「まずはありがとうございます。あそこは国が稼働させている、違法な研究所でした」

 

「やっぱり…」

 

「それで…貴方達、行き場所は⁇」

 

「ありません。先程失業しました」

 

「ふふっ…では、我々の傘下に入りませんか⁇」

 

「宜しいので⁇」

 

「えぇ。実は、新しい基地が建設予定です。そこに数機の機体と共に、赴任して頂こうかと」

 

「…よろしく頼みます‼︎」

 

隊長の背後で、バッカスとギュゲスが抱き合って喜んでいる

 

「ただし‼︎エスケープキラーなんて真似、私の元では許しません‼︎」

 

「勿論‼︎」

 

「では、明日から三人にはカリキュラムを受けて貰います。何、簡易ですよ」

 

「はっ‼︎」

 

三人が横須賀に敬礼をする

 

「良かったな」

 

「ありがとう、大佐。最初から貴方に着いておけば良かった…」

 

「お〜い、バッカス君‼︎君の好きな”メチルアルコール”を手に入れたぜ〜‼︎」

 

酒を大量に抱えたスティングレイが、豪快に入って来た

 

「バカ‼︎んなもん飲ますな‼︎」

 

「よし、今日は飲んで下さい‼︎」

 

その夜、私の基地の連中も横須賀に呼び、深夜まで宴会を開いた

 

 

 

 

 

それから数週間後…

 

SS隊の隊長は、黒のトレンチコートを脱ぎ、提督達が着る白い軍服に着替えていた

 

横須賀と私が見守る中、SS隊の三人の赴任先が決まった

 

「貴方がたを”ラバウル基地”に赴任します」

 

「はっ‼︎」

 

「あ、月に何度かは本土に来て良いですからね。”ラバウルさん”」

 

SS隊の隊長は、名前を変えた

 

幾ら艦娘を助けたとしても、やはり過去は消えない

 

彼は名前を変えて生まれ変わるにした

 

「結構自由なんですね」

 

「あまり肩肘張ってると、大佐に怒られますからね…あ、そうそう。貴方がたの強力な味方が…」

 

「隊長〜‼︎」

 

ラバウルさんにくっ付いたのは、キツカアだ

 

「戦艦”大和”入ります‼︎」

 

「ぱんぱ〜か‼︎”愛宕”です‼︎」

 

「あたご…やまと…」

 

「大佐…また読み間違えましたね⁇」

 

「あ‼︎いや⁉︎俺がそんな間違いする訳ないだろ‼︎」

 

「じゃ〜あ、この子‼︎なんて言います⁉︎」

 

「じゃ〜ん‼︎」

 

キツカアと思われる女の子が両手を挙げてニコニコしている

 

「…」

 

「早く」

 

横須賀に急かされ、半ば諦めた状態で口を開いた

 

「キツカ…」

 

「暁です。言うと思いました」

 

全部言う前に答えを言われた

 

「では、我々はこれで」

 

「お願いしますね」

 

外に出ると、スティングレイが仁王立ちしていた

 

「行くのか」

 

「あぁ」

 

「これ、お前にやる」

 

スティングレイは、バッカスに何かの箱を渡した

 

「なんだよ…ありがと」

 

「開けてみろよ」

 

「うん…うわ‼︎」

 

スティングレイが渡したのは、ビックリ箱だった

 

「はっはっはっは‼︎あ〜おもろ。じゃな〜‼︎」

 

「このクソ野郎が‼︎」

 

若い頃に戻った様な二人を、しばらくラバウルさんと眺めていた

 

 

 

 

ラバウル基地に、新しい仲間が赴任しました‼︎

 

緊急時、ラバウル基地から援護機を送る事が可能になりました‼︎




ラバウルさん…エスケープキラーをする程の腕を持つエースパイロット

黒いトレンチコートを常に着ており、国から要請があれば何でもする

パパとは昔からの知り合いで、そんなに仲も悪くはないし、案外年も近い

現在、三人の艦娘と二人の部下と共にラバウルに赴任

暁によく懐かれている



バッカス…SS隊の部下その1

スティングレイと同じ出身国であり、互いに唯一の知り合い

何だかんだで冗談が通じるタイプ

愛宕みたいな、包容力のある女性がタイプらしい



ギュゲス…SS隊の部下その2

ラバウルさんの横に常にいる、寡黙な男性

過去にラバウルさんに助けられた経歴があり、以降ずっと傍にいる

時々、バッカスととんでも無くはしゃぐ時がある

大和の様な、お淑やかで芯の強い大和撫子がタイプ


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35話 激戦‼︎忍び寄る侵略者‼︎(1)

さて、34話が終わりました

今回のお話では、たいほうの好きな生き物が分かると同時に、とある侵略者が訪れます

注※平和なお話です


基地に雨が降る

 

朝方から降り始めたが、昼前になっても止む気配は無い

 

「かたつむり」

 

窓枠にいたかたつむりをのんびり見ているたいほう

 

その近くで私は、久し振りに書類仕事をする

 

「パパ、かたつむりはのろのろだね」

 

「そうだな。のろのろだな」

 

「あ、そうだパパ。かしまがね、よなかに”あんあん”とか”もっともっと”っていってた」

 

書類を書く手が一瞬止まる

 

「…放っておきなさい。大人の関係だ」

 

「おとなのかんけい⁇」

 

「そっ。たいほうにはまだはやい」

 

「のろのろでもいい⁇」

 

「のろのろでいい」

 

そしてまた、たいほうはかたつむりを見だす

 

「ん〜…」

 

しばらくすると、たいほうは目を擦り始めた

 

「眠たくなって来たか⁇」

 

「かたつむり…」

 

カクンカクンしているたいほうを抱き上げ、膝に乗せると、数分後には寝息を立て始めた

 

こうしていると、最初の頃を思い出すな…

 

平和になったら、色んな所で、色んな物を見ような

 

そうこうしている内に書類も書き終わり、椅子を倒して私も眠りについた

 

 

 

「失礼します」

 

遅れ気味に来た横須賀に気付く事も無く、二人は眠り続けている

 

「全く…世話のかかる人です」

 

特に報告も無かった横須賀は、二人に毛布を掛けて基地を後にした

 

 

 

「…はっ」

 

目が覚めると、足下で何か音がする

 

抱いていたたいほうがいない

 

「おきた⁇」

 

足下で女の子座りをしたたいほうの手には、何か握られている

 

「起きた。何してるんだ⁇」

 

「ほんみてるの」

 

「どんな本だ⁇」

 

「これ」

 

たいほうから渡された本は”いきもの”と書かれた、幼児向けの本だ

 

「パパは”なめくじ”みたことある⁇」

 

たいほうは、かたつむりの隣に書かれているなめくじを指差した

 

「あるよ。なめくじものろのろだ」

 

「たいほうなめくじすき‼︎あのね、ふぃりっぷのそうこのはしっこにいっぱいいるよ‼︎」

 

「ホントか⁉︎」

 

「うん。いっぱいいるよ‼︎みにいこ‼︎」

 

たいほうに引かれ、フィリップの倉庫に来た

 

「うわぁ…」

 

確かになめくじがいる

 

それもいっぱい

 

「すてぃんぐれいがね、おててでさわっちゃだめだっていったから、これでさわるの」

 

たいほうが取り出したのは、砂浜とかで落ちていたであろう、木の棒

 

それで壁にへばり付いたなめくじを落としていく

 

「つっつくとちっちゃくなるんだよ‼︎」

 

なめくじをツンツンすると、突かれたなめくじは小さくなった

 

「ちょっと待ってろ」

 

キッチンに行くと、はまかぜが摘み食いしていた

 

「す、すみません…」

 

「何食べてるんだ⁇」

 

「”焼きとうもころし”です一つ食べますか⁇」

 

「たいほうと後で食べるから、二本焼いといてくれ。塩をちょっと貰うぞ」

 

「はい」

 

…私の読み間違える癖が移ったか⁇

 

とうもころし、だと⁉︎

 

はまかぜもまだ子供だな

 

たいほうの所に戻ると、まだなめくじを棒で落としていた

 

それほど大量にいる

 

「見とけよ〜」

 

地べたに落ちたなめくじに塩を振ると、棒で突くより小さくなった

 

「わぁ〜‼︎すごいね‼︎たいほうもやりたい‼︎」

 

「ほら」



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35話 激戦‼︎忍び寄る侵略者‼︎(2)

たいほうに塩を渡すと、それを振り撒き始めた

 

「うぁ〜‼︎ちっちゃ〜い‼︎」

 

小さくなったなめくじを再び棒で突き始めるたいほう

 

「さ、ここに入れよう」

 

木の棒をお箸の様に使い、なめくじを瓶に詰めて行く

 

「おかずにするの⁇」

 

「しないしない‼︎森に返してやるんだ」

 

「おいしいかもしれないよ⁉︎しいたけみたいだよ⁉︎」

 

「ダメだ。しいたけの方が美味しいぞ」

 

「そうだね」

 

あらかた詰め終わった所で、森に行こうとした

 

「パパ、なめくじもっといるよ⁉︎」

 

「なん…だと⁇」

 

「つぎはすぺんさーのところ‼︎」

 

スペンサーの格納庫の周りにも、なめくじが発生していた

 

「なんなんだよ‼︎」

 

「おりゃー‼︎」

 

二人でなめくじを小さくした後、瓶に詰める作業を繰り返して行く

 

「つぎはこるせあ‼︎」

 

頭が痛くなって来た…

 

コルセアの格納庫のなめくじ処理が終わった所で、既に三つの瓶がパンパンになっていた

 

「さいごはここ‼︎」

 

「ゔっ…」

 

着いたのは、資材や資源を置いてある倉庫

 

「てんじょー」

 

「ゔっ」

 

「かべ」

 

「ゔゔっ」

 

「パパのあたま」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎‼︎‼︎」

 

なんなんだこの基地は‼︎

 

「よし、たいほう。パパが肩車してやるから、天井のなめくじを叩き落とせ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

たいほうを肩車して、天井のなめくじ処理を始める

 

木の棒で天井のなめくじを落とし終えた所で、数十匹はいる

 

「次は壁だ‼︎」

 

「しお‼︎」

 

「やってしま、あぁぁぁぁあ‼︎‼︎‼︎」

 

背中になめくじが入って来た‼︎

 

「たたたたたたいほう‼︎取ってくれ‼︎」

 

「すとっぷすとっぷ」

 

背中の中に木の棒が入り、なめくじを取って来る

 

「パパなめくじきらい⁇」

 

「ヌルヌルが嫌いなんだ」

 

「ぬるぬるの、のろのろだね」

 

「ヌルヌルは嫌だ」

 

「かしまのおへやにあった、じゅーすもぬるぬるだよ‼︎」

 

「…飲んでないな⁇」

 

「のんじゃだめだっていわれて、みかんのじゅーすくれたよ‼︎」

 

「良かった…」

 

話が少しずれたが、倉庫のなめくじも何とか瓶に詰め終えた

 

「おっ…」

 

ようやく雨が上がった

 

「さ、森に返しに行こうか」

 

「うんっ‼︎」

 

なめくじの瓶は全部で六つ

 

最初の頃に小さくしたなめくじは、段々元の大きさを取り戻しているのか、ミチミチになっている

 

「さっ、おかえり」

 

基地の近くの木が生い茂った場所に、なめくじ達を放した

 

「なめくじばいば〜い‼︎」

 

「ばいば〜い」

 

基地に帰り、早速入渠

 

多少雨に濡れたが、まだ体がヌルヌルする気がする

 

「あがった〜‼︎」

 

「はい」

 

はまかぜからとうもろこしを受け取り、机の上で食べ始めた

 

「おいしいね‼︎」

 

「美味しいな。たまにはこれも良いな」

 

とうもろこしを食べ終えた後、疲れたのか、たいほうはソファで寝てしまった

 

「全く…よっこら」

 

たいほうを部屋に寝かせ、また食堂に戻って来た

 

「たいほうとなめくじ取ってたんですか⁇」

 

「そっ。もう散々だよ」

 

ソファに横になり、リモコンでテレビをつけた

 

「なめくじは料理できません」

 

「はは…だろうな…」

 

「あ、そうだ…提督」

 

はまかぜは急にキョロキョロしだし、辺りに誰も居ないのを確認すると、急にこちらに寄って来た

 

「どうした⁇」

 

「…だっこ」

 

「よっと」

 

はまかぜを腹の上に抱き、テレビを見続ける

 

「本当にしてくれるんだ…」

 

「忙しくなきゃな」

 

「…嬉しい」

 

「そうか⁇」

 

そう言った後には、もうはまかぜは眠っていた

 

お前も疲れてるんだな…

 

いつも美味しいご飯をありがとう

 

彼女もまた、部屋に運ぼうとした

 

たいほうとそんなに身長は変わらないのに、ちょっと重たい

 

やっぱり胸の差なのか⁇

 

少しやましい考えをしつつも、はまかぜを布団に寝かせた

 

 

 

 

 

その夜…

 

たいほう

 

れーべ

 

まっくす

 

三人仲良く眠っている所に、小さな侵入者達が忍び寄る

 

小さな侵入者はたいほうの枕元に何かを置き、去って行った

 

 

 

「おはよう。なにこれ⁉︎」

 

たいほうの枕元には、瓶が一つ

 

「パパ〜‼︎なにこれ‼︎」

 

起きて来たたいほうから瓶を貰い、中の液体の匂いをかいでみた

 

「なんだコレ。甘い匂いがするな…工廠で調べて貰うか」

 

 

 

 

”ハチミツっぽいな。成分がほとんど一緒や”

 

「たべてもだいじょうぶ⁉︎」

 

”大丈夫や。パンに塗って食べや”

 

「分かった‼︎」

 

食堂に帰り、たいほうは瓶の中身をパンに塗って食べ始めた

 

「わぁ‼︎おいしいよ‼︎」

 

「おっ、どれどれ…」

 

言葉に甘えて、私も塗って食べてみた

 

「うん‼︎中々イケるぞ‼︎」

 

「パパつやつや」

 

食べている途中、まっくすがポロッと言った

 

「ん⁇」

 

「たいほうもつやつや」

 

「わぁ」

 

瓶の中身を食べた二人の肌ツヤが良くなっている

 

「どれ」

 

それを見た他の連中が、瓶の中身をパンに塗って食べ始め、その内に無くなってしまった

 

疑問に残るのは一つ

 

一体誰が持って来たんだ…⁇

 

 

 

”美味しいハチミツ”が、ジュースサーバーから出るようになりました‼︎



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36話 旅行鳩の惚れ薬(1)

さて、35話が終わりました

今回のお話は、二人の人物が造った薬によって、基地がパニックに陥ります

※平和なお話です


基地の一角で、二人の会話が聞こえる…

 

「うふふっ…これで完成っ‼︎」

 

「これで本当に行けるのですか⁇」

 

「ええっ‼︎勿論です‼︎後はこれを何かに混ぜて飲ませれば…」

 

 

 

「かなぶん」

 

日の当たる場所で、たいほうは地べたにいるカナブンを木の棒で突いている

 

「かぶとむし」

 

左手に持っているのは、最近基地で見かけるカブトムシ

 

たいほうはカナブンの前にカブトムシを置き、真ん中にハチミツを塗る

 

「いけ‼︎かなぶんがんばれ‼︎」

 

どうやらカナブンとカブトムシを戦わせているみたいだが、カナブンがカブトムシに勝てる訳が無い

 

あっという間にカナブンはひっくり返された

 

「何してるんだ⁇」

 

一部始終を見ていた私は、たいほうの横で膝を曲げた

 

「パパ、かなぶんはよわいね」

 

「そうだな…たいほうはカナブン好きか⁇」

 

「うん。かなぶんはかたいんだよ⁇」

 

「カブトムシも固いぞ⁇」

 

たいほうはカブトムシを手に取り、私に見せた

 

「かぶとむしはずるいよ。つのあるんだよ⁇」

 

「カブトムシに勝てる虫でも探しに行くか⁇」

 

「行く‼︎」

 

たいほうは虫取り網と虫かごを持ち、私の手を取った

 

「さいきんね、カブトムシみたいなむしがいっぱいいるの」

 

「夏だからなぁ…」

 

私とたいほうは森に向かった

 

 

 

私達が森に行ってからしばらくした基地では…

 

「スティングレイ、お茶が入りましたよ‼︎」

 

「もうそんな時間か⁇よいしょ…」

 

フィリップの機体から降りて来たスティングレイは、鹿島の持って来たお茶を何のためらいも無く飲んだ

 

「美味しいですか⁇」

 

「何か変わった味だな…」

 

「うふふ…新しい茶葉ですよっ」

 

「ごちそうさま。もう少ししたら、そっちに戻るからな」

 

「えぇ。頑張って下さいねっ。うふふっ…」

 

 

 

 

「…」

 

ちょっと冷や汗をかきながら、はまかぜも鹿島と同じお茶を淹れた

 

「はまかぜ。ちょっと来て」

 

「あ、はい」

 

グラーフに呼ばれ、一瞬お茶から目を離した

 

「大佐」

 

そこに、運悪く定時報告に来た横須賀君

 

「ご丁寧にお茶淹れて…いただきます」

 

はまかぜの淹れたお茶を一気に飲み干す

 

「変わった味…なんだろ⁇」

 

「あ、横須賀さん。もう定時報告ですか⁇」

 

帰って来たはまかぜは、いつも通りの会話をする

 

「大佐はまた脱走⁇」

 

「いえ…たいほうと一緒に森に行きました」

 

「分かった。ちょっと見てくる」

 

「行ってらっしゃい」

 

横須賀が去った後、はまかぜは先程お茶を淹れたコップを取った

 

「…ヤバい」

 

横須賀が飲んだ為、勿論中身は無い

 

「提督が危ない‼︎」

 

はまかぜも森に走る

 

 

 

「とれた‼︎」

 

私とたいほうは森で昆虫を取っては、それらを戦わせていた

 

「くわがた」

 

「クワガタは強いぞ〜‼︎」

 

「いけ‼︎クワガタ‼︎」

 

思いが通じたのか、クワガタはカブトムシをハサミで持ち上げた

 

「かった‼︎」

 

「いた。大佐‼︎」

 

「横須賀か⁇もうそんなじか…」

 

たいほうも居るのに、横須賀は急に私に抱き着いた

 

「横須賀⁇」

 

「体が熱くて…ね、大佐…もっとキツく抱いて下さい…」

 

「やめろ。たいほうもいる…」

 

「たいほうもだっこ‼︎」

 

「あ〜もぅ‼︎おいで‼︎」

 

二人をしばらく抱き締める

 

確かに横須賀の体温が高い

 

病気では無さそうだが、心臓の鼓動も早い

 

「何があったんだ⁇」



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36話 旅行鳩の惚れ薬(2)

「さっき、基地にあったお茶を飲んでからずっとこんな感じで…」

 

「提督」

 

「はまかぜ。珍しいな」

 

息を切らしたはまかぜは、横須賀を引き剥がした

 

「やはり強力ですね」

 

「はまかぜ…貴方、相変わらずおっきいわね」

 

「な、何を…ひゃっ‼︎」

 

横須賀は、急にはまかぜの胸を揉み始めた

 

「や…やら…ちょっと…」

 

「これがあれば、大佐もイチコロなのに〜勿体無いなぁ〜」

 

「提督‼︎たいほうを連れて逃げて‼︎」

 

「たいほう、目を閉じとけ‼︎」

 

「んっ」

 

たいほうを抱え、はまかぜの襟を掴んで一気に基地まで走った

 

「待って〜‼︎」

 

「きた‼︎」

 

「何であんなに速いんだよ‼︎」

 

基地に入り、たいほうとはまかぜを武蔵の部屋に置いた

 

「なんだ‼︎」

 

「二人とも良く聞け。横須賀は未知のウィルスにやられた。パパが対処するから、ここでジッとしてるんだ」

 

「わかった‼︎」

 

「うぃるす⁇横須賀がか⁉︎」

 

「武蔵、二人を頼む」

 

「分かった‼︎」

 

二人を預けた後、スティングレイの所に向かった

 

「助けてくれ‼︎」

 

「隊長⁉︎どうした⁉︎」

 

私の異変に気付いたスティングレイは、すぐに駆け寄って来た

 

「横須賀がウィルスにやられた」

 

「ひっ捕らえるか⁉︎」

 

「あぁ」

 

すぐに縄を用意し、横須賀を迎え撃つ

 

「大佐〜何処ですか〜」

 

「いた。何か煽ててくれ」

 

「や〜いジェミニ‼︎デカイのは態度とおっぱいだけですか〜⁉︎」

 

「なんだと⁉︎」

 

スティングレイに向かって走って来る横須賀

 

「今だ‼︎」

 

「取ったぁ‼︎」

 

一瞬で横須賀はグルグル巻きにされた

 

「ホントだ。顔赤いな」

 

「とりあえず寝かせよう」

 

「離せー‼︎」

 

「はいはい」

 

スティングレイが横須賀を担ぐと、横須賀はスティングレイに胸を押し当てていた

 

「俺に色仕掛けは無意味だ」

 

「あんたが触ってるんでしょ‼︎」

 

「はいはい」

 

スティングレイは聞く耳を持っていない

 

そのまま縛ったまま、横須賀をソファに寝かせた

 

「ちょっと‼︎解きなさいよ‼︎」

 

「駄目だ。ローマ‼︎」

 

「準備は出来てるわ」

 

元看護婦だったローマは、ある程度の医学に詳しい

 

縛られた横須賀の体を触ったり、口の中を見たりしている

 

「体温上昇、血圧、心拍数増加…顔も赤いわ」

 

「何かの病気か⁇」

 

「ま、病気は病気ね。恋の病…って所かしら⁇」

 

「恋の…」

 

「はっ‼︎ジェミニがか⁉︎お笑いだな‼︎」

 

「うるさいうるさい‼︎レイに何か分かってたまるか‼︎」

 

「ははは。一生そうしてるんだな」

 

「この症状、何かの薬の一種を飲んだはず」

 

「ここに来た時、お茶を飲んだわ」

 

横須賀がそう言うと、はまかぜがビクッと動いた

 

私はそれを見逃さなかった

 

「はまかぜ」

 

「ひっ‼︎」

 

「何か知ってるな⁇」

 

「うっ…ごめんなさいっ‼︎」

 

はまかぜは全てを話してくれた

 

横須賀の飲んだお茶の中に、惚れ薬を入れた

 

その造り方を教えたのは…

 

「ば、バレましたか…」

 

「鹿島‼︎」

 

「捕らえたぞ」

 

奥からグルグル巻きにされた鹿島が出てきた

 

「確かに、横須賀さんが飲んだのは惚れ薬です。造った人を好きになるんです。大丈夫、じきに治りますよ」

 

「まぁ…それなら…もう造るなよ。武蔵、解いてやれ」

 

「うぬ」

 

鹿島の縄が解かれる

 

「…それだけ⁉︎もっと怒らないんですか⁉︎」

 

「横須賀の面白い姿が見れたからチャラにしてやる」

 

「ねんねしてるよ⁇」

 

「寝かせておけ。疲れてるんだ」

 

 

 

「ん…」

 

目が覚めると、大佐の顔が見えた

 

「…大佐⁇」

 

「起きたか⁇」

 

どうやら大佐の膝の上みたいだ

 

あったかいな…

 

たいほう達が、よくくっ付いてるのが分かる

 

「惚れ薬…だったんですね⁇」

 

「まぁな。明石が来てるぞ」

 

「すみません…何から何まで」

 

「体をいとえよ」

 

「えぇ…では」

 

明石に連れられ、横須賀は帰って行った

 

二人を見送る為に外に出ると、足元では、相変わらずたいほうが遊んでいる

 

「かに」

 

「次は蟹とカブトムシか⁇」

 

「かにはおいしいし、はさみでかぶとむしもつの」

 

「かにも固いな」

 

「たべられるかな⁇」

 

たいほうは蟹を持ち、ジーッと見ている

 

「まだ小さいな…帰してあげよう」

 

「うん」

 

たいほうは蟹を離し、カブトムシも離した

 

「またあそんでくれるかな⁇」

 

「たいほうがいい子にしてれば、また会いに来てくれるさ」

 

「うんっ‼︎」

 

「入ろう。ご飯の時間だ」

 

「きょうははんばーぐだね」

 

たいほうを抱え、中に入った

 

 

 

鹿島とスティングレイは、二人して食堂にいた

 

テレビを見て笑うスティングレイの横で、鹿島は彼を見ていた

 

「嬉しいです、私」

 

「ははは‼︎え⁇何が⁇」

 

「何でもないですっ‼︎ふふっ‼︎」

 

そう言って、スティングレイの腕を取った

 

「…変な奴」

 

 

 

後から聞いた話によると、あの惚れ薬、効かないパターンが二つある

 

一つは、同性に飲ませる

 

はまかぜが造ったのは横須賀が飲んだ為、若干ではあるが、はまかぜに対象が移った

 

俺に抱き着いたのは、体が火照ってどうしていいか分からなかっただけだった

 

もう一つは、造った人を元々好きな異性には、全く効果が無い

 

鹿島はスティングレイに薬を飲ませた

 

が、スティングレイに効果は出なかった…

 

ま、この先は察してやるか



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37話 ラバウルの淑女(1)

さて、36話が終わりました

遅れましたが、あけましておめでとうございます‼︎

最近、作者の体調があまり良くなく、執筆が遅れて申し訳ありません

今回のお話は、たいほうと暁がメインです

そして、また少し、パパの過去が明らかになります


今日はたいほうを連れて、ラバウルの連中の所に遊びに来た

 

ラバウルに来るなりたいほうは、暁と二人で岩場にある露天風呂に入っていた

 

「たまご」

 

たいほうの前に、ネットに入ったたまごが流れて来た

 

「これは温泉たまごよ‼︎温泉たまごはレディの食べ物よ‼︎」

 

「あかつきはれでぃ⁇」

 

「そうよ‼︎淑女とも言うわ‼︎」

 

「たまご」

 

暁がレディだと言う事より、たいほうは温泉たまごの方が気になって仕方がない

 

「食べさせてあげるわ‼︎」

 

暁はネットからたまごを二つ取り、一つ殻を割ってたいほうに渡した

 

もう一つを自身が持ち、殻を割って中身を食べる

 

「おいしいね‼︎」

 

「あんまり食べ過ぎると、お兄ちゃんの分が無くなっちゃうわ」

 

「ぷるぷるたまご」

 

温泉たまごを見て、たいほうは武蔵を思い出した

 

武蔵はぷるぷるした物が好きだ

 

たいほうもよく、武蔵からゼリーやらプリンやらを貰っている

 

「たいほうちゃんの所には、お母さんは居るの⁇」

 

「おかあさん⁇」

 

「そう。私の所には大和さんが居るわ」

 

「おかあさん…」

 

また武蔵を思い出す

 

武蔵はあったかくて、とても柔らかい

 

美味しいご飯もくれるし、抱っこもしてくれる

 

「むさしがいるよ‼︎」

 

「むさしさんはどんな人⁇」

 

「むさしはね、おっきくてあったかいの‼︎パパのおよめさんなんだよ‼︎」

 

パパの事を話すたいほうは、いつも嬉しそうだ

 

「ケッコンしてるのね⁉︎」

 

「うん。むさしはパパのこと”だんな”っていったり、じぶんのこと”つま”とか”よめ”っていってる」

 

「アツアツね…」

 

「あとね、すてぃんぐれいと、かしまってひともいるよ‼︎」

 

「スティングレイ⁉︎」

 

スティングレイの話をする時も、たいほうは嬉しそうな顔をする

 

「すてぃんぐれいはね、たいほうのぱいろっとなんだよ‼︎カッコいいんだよ‼︎」

 

「はぇ〜…」

 

暁にとって、専属のパイロットは夢のまた夢

 

暁は自分なりの”専属パイロット”の予想図を頭に描く

 

「かしまはね、すてぃんぐれいといると、へんなうごきしたり、よなかにうるさいの」

 

「どんな感じに⁇」

 

「くねくね〜ってうごいてるの。よなかになると、すてぃんぐれいのへやで”きて”とか”いく〜‼︎”とかいってるの」

 

「ほ、本物…」

 

「あかつきはどんなおかあさん⁇」

 

「大和さんは…そうね。優しい人よ‼︎本物のレディ…そう、大和撫子よ‼︎…お兄ちゃんより、バッカスの方が好きみたいだけど」

 

「ふくざつ⁇」

 

「そうでもないわ‼︎お兄ちゃんには暁がいるもの‼︎」

 

「あかつきすごい‼︎」

 

「伊達に改二じゃないわよ⁉︎」

 

暁は立ち上がり、自慢気にポーズを取った

 

 

 

「大佐、いいレコードが手に入ったんだ」

 

「どれ…」

 

ラバウルさんは、昔からレコードを集めるのが趣味だ

 

当時もそうだったが、執務室には相変わらず各国のレコードが揃っている

 

「ドイツのレコードでしてね。かなり古いですが、ようやく入手出来ました」

 

「ドイツ…ね」

 

ドイツと聞くと、れーべとまっくすが頭に浮かび、口角が上がる

 

「では…」

 

針が置かれ、曲が流れる

 

「懐かしいな…」

 

「ふふふ…今幾つですか⁇」

 

ラバウルさんとコーヒーを飲みながら、曲を聴き流す

 

私達はドイツに飛んだ事もあった

 

その時、ドイツの将兵が聞いていた曲がこれだ

 

太平洋戦争の時に、ドイツ兵の間で流行った曲らしい

 

聞いた話によると、男女二人が戦争によって引き裂かれる悲しい歌らしい

 

「戦闘機の無線から流れて来た事もありました」

 

「不思議と、聞くと勝てるんだよな…」

 

「女神が宿っているのかも知れませんね…」

 

 

 

 

男二人がレコードを聴いている中、たいほうと暁は、露天風呂から上がり、基地の中で遊んでいた

 

「気持ち良かった⁇」

 

「うん‼︎たまごもぷるぷるでおいしかった‼︎ありがと‼︎」

 

「喜んで貰えて良かったわ‼︎」

 

たいほうと暁はぬり絵をしながら、またお話をする

 

「たいほうちゃんの所には、駆逐艦はいるの⁇」

 

「いるよ‼︎れーべとまっくす‼︎」



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番外編 夜に鳴く二羽の鳥

お久し振りです

苺乙女です。

毎日寒い日が続き、作者は寝込む一方です

続きが書けず、本当に申し訳ありません

せめてもの償いで、一話だけ番外編を書いて置きます

たいほうがちょくちょく言っていた、鹿島とスティングレイの夜のお話しです


「ん〜…」

 

子供部屋で一人、たいほうが目を覚ます

 

横では、れーべとまっくすが眠っているが、気付く気配は無い

 

時間は深夜の一時

 

こんな時は、いつも決まって台所に行く

 

大体武蔵かローマが起きているので、どちらかにもう一度眠らせて貰う

 

「ん‼︎…ぐ…い‼︎…っと‼︎」

 

スティングレイの部屋から、何やら物音がする

 

たいほうはそ〜っと、ドアを開けた

 

「スティングレイ、鹿島でもっと練習して下さいねっ‼︎」

 

「あ…あぁ…」

 

スティングレイの上に鹿島が乗って、上下している

 

「あ…」

 

目の前でとんでもない事が行われているのに目もくれず、たいほうは近くにあった苺のマークが書いてある入れ物が気になった

 

二人は入って来たたいほうに気付かない

 

入れ物を手に取り、床に座って蓋を開けた

 

「わぁ」

 

苺のいい匂いが、たいほうの鼻を突く

 

たいほうは中に入っていた液体を、とりあえず手に出した

 

「ぬるぬる」

 

「うわぁ‼︎たいほう⁉︎いつからいた⁉︎」

 

ようやくスティングレイがたいほうの存在に気付く

 

「ぬるぬる」

 

手に付いたローションをスティングレイに見せる

 

「飲むならこっちにしましょう⁇ねっ⁇」

 

鹿島は冷蔵庫から、オレンジジュースの瓶を出し、たいほうに渡した

 

「ありがとう」

 

床に座ったまま、たいほうはオレンジジュースを飲む

 

「美味いか⁇」

 

「おいしい‼︎」

 

「こっちにおいで‼︎」

 

鹿島の言うがまま、たいほうは彼女の膝の上に座った

 

「私達に娘が居たら、これ位ですかね⁇」

 

「娘ねぇ…」

 

スティングレイは、一人の女の子の事を思い出す

 

「かしま」

 

「ん⁇」

 

「なんでかしまは、すてぃんぐれいのうえでうごいてたの⁇」

 

「え⁉︎いや⁉︎その…」

 

「すてぃんぐれいきらい⁇」

 

たいほうから見ると、鹿島はスティングレイをいじめている様に見えた

 

「嫌いじゃないですよ。大好きです。好きだからするんです」

 

「たいほうもする」

 

好奇心旺盛なたいほうの言葉を聞いて、二人が焦る

 

「たいほうにはまだ早いな‼︎」

 

「そ、そうですよ‼︎さっ、たいほうちゃん。飲んだらお布団に…」

 

たいほうの手の瓶の中身は既に空

 

やっぱり眠たかったのか、鹿島の膝の上で眠ってしまっていた

 

「ちょっと寝かせて来ますね」

 

「すまんな…」

 

とは言え、部屋は隣の隣なので、鹿島はすぐに帰って来た

 

「うふふっ…バレちゃいましたね」

 

「いいんじゃないか⁇隊長も知ってるし…」

 

「…スティングレイは、子供…欲しくないですか⁇」

 

「…」

 

それを聞かれると、スティングレイはやはり黙り込む

 

「まさか、隠し子でも居るんじゃないですか⁇うふふっ‼︎」

 

「いいいい居る訳ななないだろ‼︎」

 

余りにも焦るスティングレイを、鹿島はジト目で見る

 

「本当⁇」

 

「…」

 

「答えて下さい‼︎鹿島も怒りますよ⁉︎」

 

「分かった分かった‼︎…仕方ない」

 

問い詰められ、致し方無くスティングレイは口を開いた

 

「隠し子っていうか、俺が造ったんだよ。一人」

 

「ほぉ…」

 

「そいつは無人の潜水艦でな。艦載機も載せる事が出来た。水中ならともかく、万が一に備えて、水上での戦闘も考慮した、最強の潜水艦だった。ましてや、犠牲者も出ない」

 

「あぁ‼︎そう言えばスティングレイはスパ…」

 

咄嗟に鹿島の口を塞いだ

 

「次の”イ”の文字を言ったら叩くぞ」

 

「あはは…それで⁉︎」

 

「敵に鹵獲されて、自分の手で撃沈した…」

 

「…」

 

「んで、深海棲艦になって帰って来た」

 

「ごめんなさい私、辛い話を…」

 

「じゃあ、俺からの問題だ。今の話を聞いて、一人、心当たりのある艦娘がいないか⁇」

 

「潜水艦…艦載機…しおいちゃんですか⁇」

 

「そう。俺の無人潜水艦は、形を変えて、俺の元に帰って来た」

 

「なるほど…それで”子供”って単語に反応したんですね…」

 

「そう言う事。俺にとっちゃ、あいつが娘さ」

 

「もっと、しおいちゃんも可愛がらないと、ですね」

 

「たいほうも他の奴等も同じ様にな」

 

「えぇ‼︎」

 

その後、しばらくして二人は目を閉じた

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「パパ〜」

 

執務室で煙草を吸っていた隊長の膝の上に、たいほうがいた

 

「どうした⁇」

 

「きのうね、かしまがすきなひとにすることおしえてくれたよ‼︎」

 

「どんな事だ⁇」

 

「よこになって⁇」

 

隊長は、言われるがまま椅子を倒して横になった

 

たいほうは隊長の下腹部辺りに座っている

 

「いくよ」

 

「お、おぅ…」

 

たいほうは隊長の上で上下運動を始めた‼︎

 

「待て待て待て‼︎」

 

「いや⁇」

 

「嫌じゃない‼︎まだ早い‼︎」

 

「かしまはすてぃんぐれいにしてたよ⁇すきだからするんだって」

 

「もう少し、大きくなってからだな」

 

「あかつきみたいに、れでぃになってから⁇」

 

「そうだ。そうしたらもっと沢山、人の愛し方も分かってくる」

 

「あ‼︎てんとうむし‼︎」

 

窓にくっ付いていたてんとう虫を見つけ、たいほうは窓越しに突き始めた

 

窓の外では、スティングレイと鹿島が歩いている

 

何故かとても嬉しそうだ

 

二人とも、互いの間に出来た空間に首を下げて話している

 

「あ…」

 

真ん中に居たのはしおいだ

 

二人に挟まれ、しおいも嬉しそうだ

 

「すてぃんぐれい、おとうさんみたいだね」

 

「鹿島はお母さんか⁇」

 

「うん」

 

たいほうは、足らない身長で必死に窓の外を眺めている

 

「たいほうは、お母さんが欲しいか⁇」

 

「むさしがいるよ‼︎」

 

「あぁ…はっはっは‼︎そうか、そうだったな‼︎」

 

「提督よ。失礼するぞ」

 

「どうぞ〜」

 

入って来たのは武蔵だ

 

「ぷりんを作ったのだが、たいほうが見当たらなくてな」

 

「たいほういるよ」

 

「ふふふ。ここだと思った。さっ、食べろ‼︎」

 

「ぷりん」

 

私と武蔵とたいほう、三人でプリンを突く

 

もしかしたら、これが私の目指してる”家族”なのだろうか⁇

 

妻がいて

 

娘がいて

 

私がいる

 

武蔵と再び出逢って、しばらくした時にふと言ったあの言葉

 

”私は提督やたいほうの傍にいる時、とても優しい気持ちになれる”

 

「パパたべないの⁇」

 

「美味くないか…⁇」

 

「パパ⁇」

 

「ん⁉︎あ、あぁ‼︎美味いよ‼︎」

 

「全く…」

 

私には幸せになる権利など、もう無いのかも知れない

 

だけどもう一度、もう一度だけチャンスをくれるなら…

 

結末はこんな形が理想的だな…

 

二人を見て、私はそんな事を考えていた

 

 

 

おしまい



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番外編 艦娘達の健康診断(1)

番外編と書いてありますが、メインに関わって来ます



年に一回の健康診断診断

スティングレイの弱点が分かり、隊長の隠していた謎の一つが明らかになります

分かる人には分かるかも知れませんが、横須賀にかかる疑惑…



今日は健康診断だ

 

明石、横須賀、そしてローマが各検診に当たっている

 

「あ‼︎あ‼︎あ‼︎あだだだだだだだだ‼︎」

 

「大人でしょ⁉︎我慢なさい‼︎」

 

「アッーーーーー‼︎‼︎‼︎」

 

採血の担当をしている横須賀の前にいるのは、スティングレイだ

 

斬られようが、撃たれようが、殴られようが、悲鳴を上げないスティングレイは、注射が唯一の苦手

 

私で言えば、泳げないのとおなじだ

 

「ちょっとは黙りなさいよ‼︎」

 

「うっせぇ‼︎鬼‼︎ドS‼︎巨乳‼︎」

 

「もっと奥まで入れましょうか⁉︎」

 

「やだぁぁぁぁぁあ‼︎ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい‼︎」

 

「鹿島。ちょっと黙らせて」

 

「スティングレイ⁇」

 

「痛い痛い‼︎ヤダヤダ‼︎鹿島助けて‼︎」

 

「それっ‼︎」

 

鹿島は自身の胸にスティングレイの顔を埋めさせた

 

「はい、終わり」

 

「ジェミニのアホ‼︎ヘタクソ‼︎」

 

「スティングレイ。あんた、そんだけ元気ならもうちょっと貰えるかしら⁇」

 

「ヤダ‼︎」

 

「世界には血が足りないのよ。あんたの血を、世界中の子供が待ってるわ」

 

「分かった‼︎」

 

子供と言う言葉を聞いた瞬間、スティングレイはベッドに仰向けになった

 

「え〜…」

 

急に協力的になったスティングレイに悪寒が走った

 

「その代わり…誰か手を繋いでて…欲しい」

 

「ダッサ…」

 

口ではそう言うが、内心は嬉しかった

 

本当に変わってないんだ…

 

「私が繋いでますよっ」

 

鹿島はスティングレイの手を握り、椅子に座る

 

「すまんな」

 

「じゃ、行くわ」

 

「あ°っ‼︎」

 

ゆっくり針を刺したつもりだが、スティングレイの口から変な声が漏れた

 

「分かった‼︎ジェミニは俺が好きなんだ‼︎だから痛い事するんだ‼︎」

 

「愛情の裏返し、ですねっ」

 

「好きよ。隊長と同じ位にね」

 

「あっそ。俺は嫌いだね‼︎無理矢理注射するし‼︎メシマズだし‼︎ドSだし‼︎女好きだし‼︎取り柄なんか胸だけ、あ°っ‼︎」

 

横須賀は献血をしていたスティングレイの逆の腕に、別の注射を刺した

 

数秒前まであれ程うるさかったのに、もう眠りに落ちている

 

「ただの睡眠剤よ。献血が終わる頃には起きるわ。鹿島、もう少しお願いね」

 

「えぇ」

 

「たいほうもちゅうしゃした」

 

鹿島の元にたいほうが来た

 

「あらたいほう‼︎泣かなかったのね‼︎」

 

「くわがたにはさまれるほうがいたいよ」

 

「ローマさんと明石さんの検査も終わった⁇」

 

「おわった‼︎ろーまはちょっとながかったけど、あかしはすぐおわったよ‼︎」

 

ローマは視力検査や聴力検査など、簡単に出来る検査を担当

 

明石は個人の髪の毛と頬の内側の組織を綿棒で取っていた

 

恐らく、DNAの検査だろう

 

「スティングレイ、終わったわよ」

 

「あ〜…お前、また獣用の麻酔打ったろ」

 

「あんた、それ位しか効かないでしょ⁇」

 

「ったく…」

 

「まっ、ありがと」

 

「ちゃんと役立ててくれよ」

 

これで全員が終わった

 

その日、明石は横須賀に帰ってDNAの検査を始めた

 

「どう、明石⁇」

 

「そうですねぇ…やはり、人間と艦娘のDNAには違いがあります。見て下さい」

 

元々人間である、

 

隊長

 

スティングレイ

 

武蔵

 

グラーフ

 

ローマ

 

鹿島

 

そして、雲龍のDNAは人間のDNAと同じ

 

そして驚きだったのが、れーべとまっくすも人間のDNAと同じだった事

 

「そして、これが他の子のDNAですね」

 

たいほう

 

はまかぜ

 

しおい

 

この三人は、人間のDNAと波長が合わない

 

「やはり、もう少し調査する必要があるな…」

 

「あ〜…それとですねぇ…あ〜、でも、これは報告しない方が…」

 

「そこまで言ったら言いなさい」

 

「まだ、簡単な検査しかしていないので、確定‼︎とまでは行きませんが…これを見て下さい」

 

明石が見せたのは、とある人物のDNA

 

「そして、皆さんのDNAを並べます」

 

ズラッと並んだ、艦隊の子達のDNA表

 

「これらのDNAと照らし合わせると…」

 

一人の艦娘と照らし合わせた時、画面に”DNA一致”と表示される

 

「これは…間違いないの⁇」



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番外編 艦娘達の健康診断(2)

「恐らくは。ですが、まだ何方が姉で何方が兄かまでは…」

 

「まぁ、年は離れてなさそうだし、親子って事はなさそうだな…」

 

「しばらく検査を続けます」

 

「頼んだ」

 

 

 

数日後…

 

「みなさん、検査結果が出ました」

 

「たいほうもある⁉︎」

 

「あるよ。はい。とっても健康‼︎」

 

たいほうには、分かりやすくひらがなで書いた結果表が渡された

 

「スティングレイ」

 

「超健康だろ⁉︎え⁉︎」

 

横須賀は無言でスティングレイに結果表を突き付けた

 

「健康も健康。血液サラサラ、内臓も最強…まっ、頭以外は…ね」

 

「な…なんだと⁉︎」

 

「あぁ、後、献血ありがと。健康過ぎて、半分は研究に回したわ」

 

「まっ、未来に役立てるんだな」

 

その後、しばらく結果表が配られた

 

残っているのは、私とローマだけ

 

「隊長。執務室を貸していただけませんか⁇」

 

「ん⁇あぁ…」

 

「じゃあ、まずは隊長から。ローマは次に来て」

 

「分かったわ」

 

横須賀に連れられ、執務室に来た

 

後から明石も来たが、二人とも顔が深刻そうだ…

 

「何か悪い所でもあったか⁇」

 

「明石、渡して」

 

明石から書類を渡され、書かれた内容を見た

 

「どっこも悪くないじゃないか」

 

「検査自体に異常はありません。健康体です。強いて言うなら、煙草は一日一箱にして下さい」

 

「んで、何でここに呼んだんだ⁇」

 

「お話ししたい事があります。人前では言えませんので、お呼びしました」

 

「ま、まぁ座ろう」

 

最近買ったばかりのソファに座り、明石が出した封筒を手に取った

 

「まだ見ないで下さい」

 

「なんだよ…」

 

「私達は今から、信じられない事を言います。それを聞いてから、その封筒を開けて下さい」

 

生唾を飲んだ

 

今まで以上の気迫だ

 

「い、言ってくれ。聞かない事には分からない」

 

「…貴方の艦隊に、血の繋がった兄妹が居ます」

 

「はぁ〜⁉︎兄妹⁉︎」

 

「えぇ。姉か妹かは検査でも分かりませんでしたが…ですが、兄妹である事は間違いありません」

 

「誰だ…」

 

「開けて下さい」

 

封筒を開けると、数枚の書類が出て来た

 

書類には、私ともう一人の艦娘のDNAが一致しているとの報告が書いてあった

 

「嘘だろ…」

 

「今思えば、ちょっと似てますねぇ」

 

私を落ち込ませまいと明石が冗談を言うが、耳に入らない

 

「もう、彼女には伝えたか⁇」

 

「まだです」

 

「はぁ…妹だよ…」

 

「妹…ですか⁇」

 

「あぁ…話には聞いてたんだ。妹が二人いるって。パスタの国で生き別れになったって」

 

隊長の妹とは、ローマの事

 

「何故早く言わないんですか‼︎」

 

「確証が無かったんだ‼︎」

 

話を要約するとこうだ

 

隊長が若い時、パスタの国に住んでいた

 

その時戦争が起こり、父と母がバラバラになってしまった

 

母と二人の妹は、パスタの国に残り

 

父と隊長は日本に帰って来た…

 

こんな感じだ

 

「でも大佐、日本語ペラペラですよねぇ‼︎あ、あはは…」

 

「ハーフだからな。どっちも知ってる。何でか知らないが、パスタの国の顔にはならなかった…そんな所さ」

 

「どうしますか⁇伝えます⁇」

 

「…少し時間をくれ。一服するだけだ」

 

窓際で煙草に火を点けた

 

ローマが妹…

 

って事は、リットリオも妹か…

 

知らずとは言え、俺は妹を抱いたって事か…

 

情け無いな…

 

「ローマを呼んでくれ」

 

「分かりました」

 

しばらくすると、明石と共にローマが来た

 

私はいつも通り、提督椅子に座って平然を装う

 

「どこか悪いのかしら…」

 

「ここに来なさい」

 

「なに⁇」

 

相変わらず不機嫌だ

 

「戦艦ローマ…君を除隊する」

 

「‼︎」

 

「‼︎」

 

そこにいた全員が驚いた

 

「なにそれ…私は邪魔なの⁉︎」

 

「俺の故郷に廃艦の受け入れがある。そこは戦争の無い平和な場所だ。そこなら…」

 

部屋に乾いた音が響く

 

「私は廃艦じゃないわ‼︎邪魔なら邪魔って言えばいいのよ‼︎」

 

「邪魔なんかじゃないさ‼︎」

 

「じゃあ何よ‼︎」

 

「二人から聞いてくれ」

 

「ローマ。隠してもしょうがないから言うわ。貴方、隊長の妹なの」

 

「知ってるわよ、そんな事‼︎」

 

「知ってたのか⁉︎」

 

「あっ」

 

口が滑ったみたいだ

 

ローマは昔から、カッとなると失言をしてしまう

 

逆に今度はローマが問い質される

 

「いつから知ってたの⁇」

 

「…言わない」

 

「これは命令よ」

 

「命令だったら何⁉︎はっ…貴方の部下になった覚えはないわ」

 

女同士の戦いは怖い

 

お互いの性格を理解しているから言えるが、こうなった場合…

 

「…いいだろう。例え誰であろうと容赦はしない」

 

横須賀がポニーテールを解く

 

「いいわ…相手してあげる」

 

ローマが眼鏡を捨てる

 

「あはは…止めますか⁇」

 

「ストップ‼︎もういい‼︎」

 

「隊長は黙ってて下さい‼︎」

 

「これは私と彼女の問題なの‼︎」

 

「ダメだ。提督の権限で許さない」

 

「くっ…」

 

「横須賀。お前もお前だ。互いに譲り合え」

 

いつもは長官である横須賀だが、やはりまだ私の部下だった記憶が残っているのか、ちゃんと手を引いてくれた

 

「とにかく。私は言いたくないわ」

 

「分かった…後は兄妹の問題だから、貴方がたに任せるわ。じゃあね」

 

怒ったまま、横須賀は部屋を出て行った

 

「すみません、うちのものが…」

 

「あいつは昔からあんなんだ。気にする事じゃないよ」

 

「では、私もこれで‼︎」

 

「気を付けてな」

 

明石が去った後、執務室にはローマと私が残った

 

「で、どうするんだ⁇」

 

「まだいけるわ。だから、廃艦なんて言わないでちょうだい」

 

「そっかぁ…兄として、戦争の無い所に連れて行ってやろうと思ったんだがな…」

 

「だったら尚更、傍に置いて。応急処置とか、簡単な治療なら出来るから」

 

「分かった…でっ、いつ知った⁇」

 

「…抱かれた後よ」

 

「はぁ…」

 

知らなかったとは言え、ダブルでマズい事をしたな…

 

「だから隠してって言ったのよ」

 

「リットリオも知ってるのか⁇」

 

「知ってるわ。あの日、何の躊躇いも無くお風呂に入ったでしょう⁇」

 

「あぁ…そうだったな」

 

「大佐」

 

「ん⁇」

 

いつものように、ローマが私の頬を撫でる

 

ローマといると落ち着いたのは、妹だったからか

 

「姉さんも私も、貴方が好きよ。でも、姉さんの好きは”お兄ちゃん”だから…私は違うわ」

 

「お前…」

 

「言ったでしょう⁇私は貴方が好き。でもそれは、兄さんだからじゃないわ」

 

「でもそれは…」

 

「ま、これは宿題にしておくわ。でも、永遠に解けなくても…許してあげる」

 

「…」

 

「みんなの所に戻るわ」

 

ローマが部屋から出るまで、言葉が出なかった

 

これから、接し方を変えなければな…

 

「提督よ」

 

「武蔵か⁇開いてるぞ」

 

「大丈夫か⁇」

 

「何がだ⁇」

 

「すまない…耳に入ってしまった」

 

シュンとする武蔵は可愛い

 

イヌ耳電探までうなだれる

 

「あぁ…大丈夫だよ‼︎俺も知らなかったんだよ。武蔵には言わなきゃいけないし、丁度良かったよ」

 

「わ、私は誰にも言わない‼︎態度も変えない‼︎」

 

「俺は良い妻を持ったな」

 

「そ、そうか⁇そう言って貰えるなら…嬉しい」

 

「でも今晩、ローマの部屋に行っていいか⁇」

 

「構わないぞ。私はローマと約束した。独り占めはしないと。ローマとなら、浮気したっていい。抱きたくなったら抱けばいい」

 

「しかし…」

 

「それ程、私も提督を愛しているんだ」

 

「ありがとう」

 

武蔵は強い

 

力ではなく、心が

 

過去にも夜中にローマの部屋に行った事があったが、武蔵は「行って来い」と言うだけだ

 

「だが…その…た、たまには…だな…」

 

「ん⁇」

 

「チビ達の相手もいいが、私も…な⁇」

 

「…明日の夜じゃ、嫌か⁇」

 

「良いぞ‼︎約束だからな‼︎」



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番外編 試作機と雷鳥(1)

番外編ばっかで申し訳ありません

その内本編も更新します



横須賀からの要請で、試作機のテストフライトを頼まれたスティングレイ

だが、補給ミスがあり、途中民間の補給基地に着陸する事になる

そこで、彼に憧れる女性と出会う


《燃料が残り少ないです》

 

「おい‼︎」

 

 

 

今日は横須賀で試作の新型戦闘機のテストフライトがあり、俺がパイロットに選ばれた

 

「とあるゲームの機体をモデルに造った機体です。可変前進翼が目玉で、空母に艦載もできます」

 

試作段階の為、地上からの離陸

 

そして、高機動の無人UAV二機との戦闘

 

横須賀から離れた場所で行われ、いざいざ帰投しようとした時にこのアラートだ

 

「参ったな…」

 

横須賀に文句の一つ言ってやろうと思った時、別の通信が入った

 

《近くに民間の簡易空港があるよ》

 

それは、近場の空域で哨戒に当たっているフィリップからの通信だった

 

「距離は」

 

《進路そのまま。20km前進》

 

「それ位なら持つ」

 

《僕も行くよ‼︎》

 

「待ってるぞ」

 

最小限のエンジンを吹かし、言われた場所を目指す

 

「あれか」

 

眼下に滑走路が見えた

 

「こちら、横須賀基地飛行部隊。燃料不足の為、緊急着陸を求む」

 

所属が分からないので、適当に基地の名前を言った

 

《了解です‼︎滑走路はガラ空きですよ‼︎》

 

間の抜けたと言うか、気が締まって無いと言うか…

 

とにかく元気な女性の声が聞こえた

 

「あぁ…くそっ…うるさいアラートだな‼︎」

 

着陸寸前にけたたましく鳴るアラート

 

それを無視し、何とか着陸する

 

「え〜ぇ…着陸に難ありだな」

 

《スティングレイ‼︎あんた何してんのよ‼︎》

 

着陸した途端に横須賀から無線が入った

 

「こっちのセリフだクソ野郎‼︎何で燃料半分しか入ってねぇんだよ‼︎俺は特攻隊か‼︎」

 

《…》

 

ちょっと言い過ぎたか⁇

 

《今確認したわ…ごめんなさい…リッターを間違えてた》

 

「このド低脳が‼︎」

 

「すみませ〜ん‼︎」

 

キャノピーをコンコンと叩く、眼鏡を掛けた女性が一人

 

キャノピーを開け、事情を話す

 

「すまん。試験飛行中に燃料がからっケツになった」

 

「補給しますね」

 

《スティングレイ。燃料は”ハイオク満タン”って頼むのよ》

 

「砂糖水でも入れてやろうか‼︎」

 

《殺すわよ‼︎高いのよその機体‼︎あんたが一生かか…》

 

うるさいので無線を切った

 

「ハイオク満タンで。後もう一機、護衛機が来る」

 

「畏まりました。中で待ってて下さい‼︎」

 

言われた通り、建物の中に入った

 

中には自販機が一個あり、何故かランプが点灯している

 

外を見ると、あの女性と妖精が数人、機体をハンガーに運んでいる

 

視線を自販機に戻し、コーラのボタンを押してみた

 

「おっ」

 

コップが出てきて、中にコーラが注がれた

 

《スティングレイ》

 

耳に掛けた無線に通信が入った

 

「フィリップか⁉︎今着陸してコーラ飲んでる」

 

《美味しい⁇》

 

「炭酸が強いが、まぁまぁいけるな」

 

《僕も着陸するね》

 

数分後、フィリップも着陸した

 

フィリップのコックピットを見た妖精が、何人か滑り落ちている

 

あ、そうか。今日はあいつ無人か‼︎

 

…もう少しビビらせるか

 

妖精が数人、ビクビクしながら再びフィリップのコックピットを開けた

 

「わっ‼︎」

 

ボトボトと妖精が地べたに落ちて行く

 

「ははは‼︎」

 

《スティングレイ‼︎》

 

「ははは‼︎すまんすまん‼︎」

 

椅子に座り、コーラを喉に流していると、受付の様な場所の壁に数枚、ポスターが貼ってあるのに気が付いた

 

「おぉ〜」

 

俺は、傭兵時代に広告塔になった

 

その時、数枚のポスターが印刷され、色んな場所に貼られた

 

その内の数枚が壁に貼られていた

 

「今補給してますから、もう少しお待ち下さいね」

 

「すまんね」

 

コーラを飲みながら、視線をポスターから彼女に移す

 

モジャモジャの黒髪に眼鏡

 

タンクトップの様なブラジャー一枚…しかも巨乳

 

下はGパン

 

「なぁ、このポスター…」

 

「これですか⁉︎」

 

ポスターの話をした途端、彼女の目が輝いた

 

「凄い人なんですよ‼︎世界を股にかけたパイロットなんですよ‼︎」

 

「名前はなんて言うんだ⁇」

 

「マーカス・スティングレイです‼︎一度会ってみたいな〜‼︎」

 

「そんなに凄いのか⁇」

 

「えぇ‼︎敵をバッサバッサと落として、基地に戻って来る‼︎それにイケメンですしね‼︎」

 

「へ〜…凄い奴もいるもんだな…」

 

知らないフリをし、彼女の様子を伺う

 

《スティングレイ‼︎》

 

「どうした」

 

《敵機だ‼︎大分遠いけど、高速でこっちに向かってる‼︎》

 

「数は」

 

《3‼︎》

 

「了解した。補給が終わり次第離陸する」

 

”終わったで〜”

 

「終わった直後で悪いが、妖精はフィリップ、あんたは俺の機体に乗れ‼︎」

 

「い、いきなりなんですか⁉︎」

 

「話は後だ‼︎」

 

「ちょ、ちょっと‼︎」

 

彼女の手を引き、機体に向かう

 

「妖精は何匹いる⁇」

 

「えと…五人です‼︎」

 

「フィリップ、五人乗せたか⁉︎」

 

《オッケー‼︎五人乗ってる‼︎》

 

「離陸だ‼︎急げ‼︎」

 

フィリップが緊急発進する

 

「よし、俺達も出るぞ‼︎」

 

「あ…ポスターが…」

 

「諦めろ‼︎」

 

「嫌です‼︎あの人は…恩人なんです‼︎」

 

「んなもん後でくれてやる‼︎」

 

無理矢理機体を発進させる

 

「生きたきゃ…しっかり掴まってろ‼︎」

 

「わっ‼︎」

 

初期加速に難ありと言おうとしたが、コンセプトは艦載機だったな

 

「敵機確認、迎撃に移行」

 

「あれは⁉︎」

 

「深海側の艦載機だ」

 

《遅れて爆撃機が来るよ‼︎》

 

「ったく…フィリップ、爆撃機を頼んだ‼︎」

 

《オッケー‼︎》

 

フィリップが掠めて行く

 

微かに見える爆撃機に向かって、エンジンを吹かす

 

「死にたくなけりゃ、しっかり掴まってろ‼︎」

 

「は、はいっ‼︎」

 

《おい‼︎横須賀‼︎こいつの武装はどう使う‼︎》

 

《最大4機まで多重ロックが可能な高性能近接信管の…》

 

「三行で言え‼︎」

 

《ロックオン‼︎撃つ‼︎当たる‼︎分かった⁉︎》

 

「大体な‼︎ロックオン‼︎」

 

「わ〜…」

 

無線越しに喧嘩しながら武装の解説をする、女性のオペレーター

 

そして、適当な説明で理解する適応力を持つ彼

 

後部座席に乗った彼女は、ますます彼に興味を持った

 

「よっしゃ‼︎敵戦闘機全滅‼︎」

 

《こっちもオッケーだよ‼︎》

 

「よし…」

 

《こちら、ラバウル航空戦隊。横須賀の航空機、護衛につく》

 

タイミング良く、ラバウルさん達の部隊が迎えに来た

 

《補給基地は放棄せよとのお達しを貰った。あそこは一般人には危険過ぎる》

 

一度ため息を吐き、後部座席に通信を繋げた

 

「モジャモジャ。すまんが、基地は諦めてくれ」

 

「モジャモジャって、私ですか⁉︎」

 

「そうだ。あそこは放棄せよとのお達しだ」

 

「…ポスター」

 

「約束は守るさ」

 

「約束ですからね‼︎」

 

「あぁ」

 

重い雰囲気の彼女を乗せたまま、俺達は横須賀に着いた

 

「隊長に宜しくな」

 

「ありがとう」

 

ラバウルさん達の部隊は、その足で自身の基地に帰って行った

 

「わ〜、色んな設備がある…」

 

「とにかく、司令を一発殴りに行こう」

 

横須賀のいる部屋のドアを破壊する勢いで蹴り飛ばす

 

「どういうつもりかな〜⁉︎」

 

「すまない…謝るしかない」

 

「けっ‼︎乳もデカけりゃ、態度もデカイな‼︎」

 

「す、好きにすればいい‼︎こんな私の体で良ければ好きにすればいい‼︎」

 

「うわ…」

 

床に寝転がって大の字になる横須賀を見て、悪寒が走った

 

「ま、まぁ、今日は突く位で勘弁してやる」

 

横須賀の頬を人差し指で突く

 

「いだだだだだだだ‼︎」

 

か、噛まれただと⁉︎

 

「調子に乗ってんじゃないわよ‼︎」

 

「噛むこたぁねぇだろ‼︎」

 

「ゴメンなさいね、こんなアホパイロットのお供で」

 

「あ…助けて頂いて、ありがとうございます」

 

「ま、とにかくあんたも彼女も検査に回って。話はそれから」

 

「じゃあね〜」

 

逃げようとする俺に対し、横須賀は無言で銃を撃った

 

「あ°っ‼︎」

 

「心配しないで、麻酔銃よ。これでちょっとは静かになるわ」

 

「何か最近、撃たれる回数ふえ…て…」

 

一瞬で眠気が来る

 

「ゴメンなさいね。彼、いつもこうなの」

 

「タフなんですね…あはは」

 

「後は私に任せて、検査を受けて下さい。その後食事にしましょう」

 

「はい」

 

彼女が出た後、横須賀は床に転がっているスティングレイの服を脱がせた

 

やましい事をする訳ではない

 

れっきとした検査だ

 

「ん〜…」

 

 

 

 

「んが…はっ‼︎」

 

「起きた⁇」

 

目が覚めると、横須賀の膝の上だった

 

「て、テメェ‼︎また麻酔銃撃ったろ‼︎」

 

「今日はありがと」

 

「え⁉︎あ…おぅ…」

 

時々見せる、横須賀のデレ顔

 

ホント、いつもこうだったら楽なのになぁ…

 

「あの子、艦娘だったわ」

 

「あ、そう」

 

「驚かないの⁇」

 

「そんな事より、俺のポスター残ってるか⁇」

 

「えぇ、あるわ」

 

「ワンセットくれ。今日はそれでチャラだ」

 

「分かったわ」

 

膝枕から立ち上がり、横須賀の元に寄る

 

「ねぇ、レイ」

 

「んあ⁇」

 

「私、隊長が好き」

 

「知ってるよ、んな事」

 

「でも何だろ…あんたといたら、素直になれる」

 

「あっそ」

 

「レイは…ホントに鹿島が好き⁇」

 

「うん」

 

素っ気ない態度で返す

 

こういった場合、大体後に来るのはパンチだ

 

「もっと…早く素直になれば良かったなぁ…」

 

「お前は今のままでいい。ビシッと締まった、カッコイイ提督でいろ」

 

「何か、あんたに正論言われると腹立つわね…」

 

「俺は元々正論しか言わん」

 

「もぅ…はい、これ」

 

手渡された3つの巻物

 

あの基地に飾ってあったポスターだ

 

「あ、そうだ。あの娘、あんたの部隊に配属したからね」

 

「隊長には言ったか⁇」

 

「えぇ、二つ返事だったわ」

 

「ならいい。じゃあな」

 

「うん」

 

スティングレイが部屋から出た

 

急に素っ気無くなる

 

この高鳴りは何⁇

 

鹿島が彼に着いてから、二人を見るといつもこう

 

「はぁ…」

 

 

 

「いた‼︎おい、モジャモ…」

 

「提督‼︎探したんですよ⁉︎」

 

「お…おぅ…」

 

モジャモジャの髪は綺麗に整えられ、巫女服に着替えていた

 

「戦艦”霧島”です。隠しててゴメンなさい…」

 

「いいさ。ほら、これ」

 

彼女にポスターを手渡した

 

「わぁ‼︎本当に残ってたんですね‼︎」

 

「そんなにそいつが好きか⁇」

 

「えぇ‼︎住んでた街を解放してくれたパイロットさんなんですよ‼︎」

 

「そっか…立派だな、そいつは」

 

「いた〜‼︎」

 

鹿島の声だ

 

「もう、途中でロストするから心配しましたよ」

 

「横須賀に言ってくれ」

 

「あ、聞きましたよ‼︎新しい子が配属されるって」

 

「この子だ。戦艦霧島」

 

「私は練習巡洋艦の鹿島です」

 

「霧島です。あ、そう言えば、貴方の名前をまだ…」

 

「そこに書いてあるだろ⁇」

 

俺はポスターを指差した

 

「え⁉︎も、もしかして‼︎」

 

「マーカス・スティングレイだ。宜しく、霧島」

 

「嘘…凄いわ‼︎」

 

 

 

 

 

「てな訳で、艦隊に新しい子が加わりました」

 

「きーしま」

 

「そうだ。たいほうは物覚えが早いな。偉いぞ」

 

「むさし、ろーま、きーしま。みんなめがね」



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質問コーナー

色んな所で結構質問が集まったので、ここいらで答えようと思います


Q.パパや他のパイロットの年はいくつ?

 

A.パパとラバウルさんは大体30代位です

 

スティングレイとバッカス、横須賀が20代後半

 

ギュゲスとグラーフが20代前半です

 

 

 

 

Q.作者の書く武蔵は何歳くらいの設定?

 

A.作中の武蔵は大体20代位です

 

たいほうは5歳位です

 

 

 

 

Q.今現在作中に出てる艦娘以外にも好きな艦娘はいますか?逆に嫌いな艦娘はいますか?

 

A.初春が好きです

 

最近、文月に手を出しました

 

嫌いな艦娘?多分、作中で分かるんじゃない…かな…?

 

 

 

 

Q.ずっと気になってたけど“小麦色の恋”の最終話が“小麦粉の恋”になってるけど、仕様ですか?

 

A.し、仕様です

 

 

 

 

Q.どうしていつもプリンツがボコボコにされてるんですか?作者はプリンツが嫌いですか?

 

A.いいか、プリンツはなかった。

 

いいね?

 

 

 

 

Q.たいほうちゃんハァハァ

 

A.安心して下さい!!作者もハァハァしてますよ!!

 

 

 

 

 

Q.よく、とあるフライトシューティングのネタが出てくるけど作者はどれをプレイしたの?

 

A.04、5、0、6、3D

 

1、2、3、インフィニティは少し齧りました

 

リムファクシ、カッコいいよね

 

 

 

 

Q.スティングレイが乗ってた機体、結局あれ何?

 

A.X-02と言う機体をモデルにした機体です

 

とあるフライトシューティングの04では、艦載機です

 

 

 

 

Q.作者の顔はクラッシュバンディクーに似てるって聞いたけど本当ですか?

 

A.誰だ!!そんな事言う奴は!!

 

でもよく“鎧の巨人”に酷似していると言われます

 

 

 

 

Q.ぶっちゃけロリコンですか?

 

A.文月に手を出した時点で察して頂け…ロリコンだよ!!

 

 

 

 

Q.作者の好きな兵装や武器はなんですか?

 

A.サイコガ…

 

戦闘機やミサイルが好きです

 

作中にもチョット出てきましたが、武蔵の持っている手持ち式の大砲みたいなのも好きです

 

 

 

 

Q.何フェチですか?

 

A.ブルマフェチです

 

巨乳も好きです

 

ブラゲでは、浜風とケッコンしました

 

 

 

 

Q.香取と鹿島、どっちが好きですか?

 

A.鹿島です

 

香取は昔の数学の先生に似ているので…

 

香取も好きですが、僅差で鹿島です

 

 

 

 

Q.作者に彼氏or彼女はいるんでるか?ね~、ね~っ!!

 

A.大分前に亡くなりました

 

顔は阿賀野に近くて、性格は陸奥みたいな人でした

 

綺麗な声の人でしたよ

 

 

 

 

Q.一番好きな艦艇はなんですか?

 

A.日本の艦艇なら、陸奥、摩耶、伊400です

 

陸奥は曾祖父が乗っていた艦艇

 

摩耶は初めて知った重巡

 

伊400は言わずもがな夢の艦艇です

 

潜水艦から飛行機が出せると誰が考えた!?と、よく考えます

 

 

 

 

他国なら、艦これには未実装ですが

 

空母バンカーヒル

 

空母タイコンデロガ

 

が、好きです

 

 

 

 

 

寄せられた質問はこれ位です

 

どんな些細な事でも構いません

 

いつでも質問をお待ちしておりますので、聞いてみて下さい

 

ではでは

 

 



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37話 ラバウルの淑女(2)

ラバウルの執務室では、ラバウルさん、私、そして武蔵の三人がレコードを聴いていた

 

”私を許さないで 憎んでも 覚えてて”

 

「…」

 

「これも懐かしい、ですか⁇」

 

「前よりかは新作だろ⁇」

 

「ははは、まぁ」

 

「…」

 

「武蔵…⁇」

 

ラバウルさんがかけたレコードを聴いてから、武蔵はだんまりしている

 

「今では痛みだけが、青春の…」

 

「…武蔵⁇」

 

流れてくる歌の歌詞を口ずさむ武蔵

 

 

 

知っていても可笑しくは無かった

 

「ラバウルさん…この人の他の曲はないか⁇」

 

「ありますよ」

 

レコードを変え、同じ人の別の曲がかかる

 

”何も言わなくていい 力を下さい”

 

「距離に負けぬよう…」

 

知っていても、何ら可笑しく無かった

 

この歌手は私が好きな歌手だ

 

昔は良く聞いていた

 

彼女と恋仲だった時は、よくドライブ中に聞いていた

 

だが、基地ではせいぜいテレビがある位で、音楽を再生する機材など他には無い

 

「テレビで流れてたのか⁇」

 

「いや…違う…誰かが聞いていたんだ。その人は車に乗ったら、いつもこの歌手の”かせっとてーぷ”を聞いていた」

 

「これはまた古いアイテムが…」

 

レコードの方がよっぽど古く、価値のある品だとはこの際言わないでおこう

 

「懐かしいか⁇」

 

「あぁ…不思議な気分だ。何か大切な物を失った気分になる」

 

「無理に思い出さなくていいさ」

 

「ん…」

 

武蔵は時折、こうして急にだんまりする事がある

 

その時は必ずと言っていい程、昔の事を思い出している

 

「た、たいほうはどうした⁉︎たいほうよ‼︎」

 

「たいほうは暁とお風呂だ」

 

「あ…そ、そうか」

 

「提督、お茶が入りました」

 

「ありがとう」

 

大和がお茶を持って来た

 

武蔵は変わらず心ここに在らずと言う様子だが、お茶は手にした

 

「あ、そうだ。あの機体は⁇」

 

岩だらけの島に不自然とも思われる様な建て方をした格納庫群

 

格納庫は3つあり、中には赤に黒いを混ぜた様なカラーの機体が駐屯してある

 

「T-50です。ようやく改良が終わり、試験的にですが、三機ここに配備されました」

 

「前の機体は⁇」

 

前の機体と言うのは、Su-47

 

前進翼が特徴的な機体だ

 

「横須賀で無人機化する様です。ブラックボックスにフライトデータでも入れてあったのでしょう、それを元にするみたいです」

 

「無人機…か」

 

窓の外の機体を見ながら、ため息を吐く

 

「無人機はお嫌いですか⁇」

 

「好きさ。なんせ死人が出ない。だけど…」

 

「⁇」

 

「いつか、人工知能に墜とされる日が来ると思うと…な」

 

「なるほど…戦争は人間の業、ですか」

 

「戦争ってのは、生きた力と生きた力のぶつかり合いだ。無人化出来る様になったら、もう人間は必要じゃなくなる」

 

「起こさない事が一番ですがね…」

 

「それが出来ないのも人さ…」

 

「ただいま‼︎」

 

暁とたいほうが帰って来た

 

いの一番に武蔵がたいほうに寄る

 

「あったかかったか⁇」

 

「うん‼︎たまごもぷるぷるだったよ‼︎」

 

「そうか‼︎」

 

今日、ラバウルに来たのは作戦会議の為だ

 

だがこの二人、互いに意見が合う為か、会議は一時間もしない内に終わってしまった

 

そして、今に至る

 

「さっ、暗くならない内に帰ろうか」

 

「うん」

 

「じゃあ、我々はこれで」

 

「いつでもお越し下さい」

 

三人は高速艇に乗り、ラバウルを後にした

 

基地に着くと、たいほうは何故か入渠ドックに行った

 

「武蔵」

 

「ん⁇」

 

「もう大丈夫か⁇」

 

「大丈夫だ。夕食まで、少し横にならせてくれ」

 

「分かった」

 

武蔵が部屋に入ると、私は手持ち無沙汰になった

 

とはいえ、まだ夕暮れ

 

何かしようと思った時、海から何かが上がった

 

「な、何だ…」

 

「水中発射可能な短距離ミサイルさ」

 

いつの間にかスティングレイが横にいた

 

「どんどん改良されていくな」

 

「艦載機も晴嵐だけじゃなくて、その内戦闘機も出せればと思ってるけど…まだまだ先は長そうだ…」

 

「レイ〜‼︎上手くいったよ〜‼︎」

 

少し離れた海面からしおいが顔を出し、手を振っている

 

「よ〜し‼︎今日はおしまいだ‼︎ご飯にしよう‼︎」

 

「は〜い‼︎」

 

スティングレイがしおいを迎えに行ったのを見届け、中に戻った

 

「パパおかえり‼︎」

 

「おかえり」

 

れーべとまっくす、ほっぽちゃんが抱きついて来た

 

たいほうもそうだが、この二人を抱くとホッとする

 

「パパ、横須賀さんがお願いがあるって‼︎」

 

「お願い⁉︎」

 

「おそらく任務」

 

「ゔっ…」

 

「はい‼︎」

 

れーべから指令書を受け取った

 

「どれ…」

 

”性格矯正をお願いしたい艦娘がいます”

 

「何書いてあるの⁇」

 

「ん〜⁇明日来て欲しいんだって」

 

「お弁当いる⁉︎」

 

「向こうで横須賀に奢って貰うよ。お土産買ってくるからな」

 

「やったぁ‼︎」

 

「じゃあ、ちょっと武蔵の所に行ってくるからな」

 

食堂を後にし、武蔵の部屋のドアを叩いた

 

「俺だ」

 

「開いてるぞ」

 

部屋の中に入ると、お茶を飲んでる武蔵がいた

 

「眠たくないか⁇」

 

「大丈夫だ。考え事をしただけだ」

 

落ち着いた武蔵の顔を見た後、彼女の後ろに座って抱き寄せた

 

「はっはっは‼︎提督は甘えん坊だな‼︎まるでたいほうだ‼︎」

 

「…何も思い出さないか⁇」

 

「…分かってるんだ」

 

首に回した手を、武蔵が掴んだ

 

「私の記憶にいる人…あれは提督だろう⁇」

 

「…」

 

「不思議なものだ。そう思ったら、体が楽になった」

 

「…私を許さないで」

 

低い声で歌う

 

私の歌に続いて、武蔵が歌う

 

「憎んでも、覚えてて…」

 

しばらく歌った後、なんのためらいもなく、口付けを交わす

 

「もう夕飯だ」

 

「んっ…」

 

二人で食堂に戻ると、いつもの武蔵に戻った

 

「隊長、明日俺も行っていいか⁇」

 

「武蔵、ローマ。留守を頼めるか⁇」

 

「フッ、任せておけ‼︎」

 

「任されたわ」

 

「グラーフは子供達を頼む」

 

「分かった」

 

「へっへっへ、決まりだな‼︎ごちそうさん‼︎」

 

正直スティングレイが一緒に来てくれて助かる

 

どんな奴だろうな…



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38話 気付かない求愛(1)

さて、37話が終わりました

今回のお話は、ちょっとグロい表現があります

横須賀からお願いされ、とある艦娘の面倒を見る事となったパパとスティングレイ

その艦娘を巡り、事件に巻き込まれます


次の日、横須賀基地内部

 

「この子の面倒を見て欲しいんです」

 

横須賀の執務室で二人が並び、艦娘を紹介された

 

「霞よ」

 

「スティングレイだ」

 

「彼はパパと呼ばれてるわ」

 

「知ってるわよ‼︎ちゃんと書類に目を通したわよ‼︎」

 

横須賀の紹介にさえキレる

 

彼女の名前は霞

 

横須賀から他の鎮守府に転属になったのは良いが、性格に難ありとの事で、私達が呼ばれた

 

「レイ、霞と先に出て」

 

「へいへ〜い」

 

二人が出た後、横須賀はため息を吐いた

 

「まぁ…あんな訳です」

 

横須賀が頭を抱えて悩むから相当だ…

 

「手強そうだな…」

 

「性格矯正と書きましたが、第一は思い出を作ってあげて下さい。でも、戦闘機には乗せないで下さい。数日後には転属ですので、怪我したら大変です」

 

「分かった」

 

「では、お願いします」

 

執務室を後にすると、すぐに声が聞こえてきた

 

「はぁ⁉︎それで逆ギレ⁉︎だらし無いったら‼︎」

 

「んだとこのチビ‼︎」

 

「バーカ‼︎」

 

「チビチビチビ‼︎」

 

「…んも〜っ‼︎」

 

スティングレイに煽られて泣きそうになる霞

 

「はいはい、行くぞ〜」

 

「大佐だったかしら⁉︎私こいつと行くなんて嫌‼︎」

 

「ダメだ。よいしょ」

 

霞を抱き上げると、頭をポカポカ殴られた

 

「離しなさいよ‼︎変態‼︎クズ‼︎」

 

「チビの癖に一丁前に言うね〜」

 

「ちょっとあんた‼︎助けなさいよ‼︎」

 

「ヤダね〜」

 

横須賀の基地の内部は美味しい甘味処がある

 

そう、間宮

 

先陣を切ってスティングレイが暖簾を分けた

 

「とりあえず生‼︎」

 

「レイ、居酒屋じゃねぇぞ‼︎」

 

「はい」

 

「やったね‼︎」

 

座った途端に、スティングレイの前に生クリームのケーキが置かれた

 

「出るんだ…」

 

「俺のオススメだぜ‼︎いただきます‼︎」

 

「ご注文は何にしましょう⁉︎」

 

「じ…じゃあ、生で。お前は⁇」

 

「はっ‼︎チョコレートケーキに決まってるでしょ‼︎降ろしなさいよ‼︎」

 

「ちゃんと食べるか」

 

「た、食べるわよ‼︎」

 

霞を降ろすと、案外大人しく私の隣に座った

 

「お待ちどうさまです」

 

「美味そうだな」

 

「生菓子だから、たいほう達の土産にするのは無理だな…別のにしよう」

 

「そうだな。霞、美味いか⁇」

 

「お…美味しい…」

 

右手のフォークでチョコレートケーキを食べているが、左手では私の服の裾を掴んでいる

 

まだ子供だ…

 

「ほらよ」

 

霞のチョコレートケーキの上に苺が二つ乗る

 

「な、何よ」

 

「苺は苦手なんだよ」

 

とは言うがスティングレイ、果物が大好きだ

 

とくに苺

 

不器用だが、彼なりの優しさだ

 

「…いいの⁇」

 

「早く食え‼︎」

 

「言われなくても食べるわよ‼︎…ありがと」

 

「素直じゃないね〜」

 

小さな口で苺を食べる霞の顔は、少し綻んだ様に見える



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38話 気付かない求愛(2)

「んじゃ、行くか」

 

「横須賀の自信作とやらを見に行きますか‼︎ごちそうさん‼︎」

 

「またお越し下さい‼︎」

 

間宮を出ると、霞が手を出して来た

 

「て、手を繋ぎなさい…」

 

「ほい」

 

スティングレイが手を取る

 

「あんたじゃないわよ‼︎」

 

「はいは〜い、レッツゴー‼︎」

 

文句言いながらも、満更でも無い霞

 

スティングレイは楽しそうだ

 

工廠に着くと、新型の戦闘機が格納庫に鎮座していた

 

「か〜っ‼︎相変わらず横須賀の軍事力は凄ぇな〜‼︎」

 

「おい、ラプターがあるぞ‼︎」

 

「おぉ〜‼︎」

 

霞ほったらかしで興奮する二人

 

「何よ…結局一人じゃない…」

 

霞は口が悪い為か、一人になる事が多い

 

だが本人はかなりの寂しがり屋だ

 

現に間宮の時だって、私の服の裾を掴んで離さない様にしていた

 

「よいしょ…霞、見えるか⁇」

 

「へっ⁉︎ちょ、高い‼︎」

 

考え事をしていたら、いつの間にかスティングレイにハシゴ車に乗せられていた

 

「コックピットが見えるか⁇」

 

「見えるわ。戦闘機は複雑な操作よね…」

 

「そこが俺達の仕事場だ」

 

「パイロットなの⁇」

 

「そうさ。俺は提督じゃない」

 

「ふ〜ん…」

 

スティングレイは霞の頭を撫でながら言った

 

「お前達を守る為に、パイロットになった」

 

「ふ〜ん…」

 

「ま、現実は護られっぱなしだがな‼︎はっはっは‼︎」

 

「…バカ」

 

霞は顔を真っ赤にして俯いた

 

そんなドストレートな事、言われた事が無かったからだ

 

「あ〜‼︎またバカって言った〜‼︎そろそろ泣くよ⁉︎泣いちゃうよ⁉︎」

 

「泣きなさいよ。ほら…ほら‼︎」

 

霞にはSの気があるのか、スティングレイが泣くぞと言うと、嬉しそうな顔をした

 

「隊長‼︎霞がいじめる‼︎」

 

「はっはっは‼︎遊戯場に行こうか」

 

「うん…」

 

次は私が手を繋ぐ

 

段々霞が大人しくなって来た

 

本当はこの子、こうして誰かと居たいだけなんじゃないのか⁇

 

遊戯場でスマートボールをしたり、射撃をしていても案外楽しそうにしているし、スティングレイとも打ち解けて来た様に見える

 

「楽しかった〜‼︎霞、ほらこれ」

 

スティングレイが出したのは、クマのキーホルダー

 

「…くれるの⁇」

 

「あぁ。お守代わりだ。お前が別の場所に行っても、上手くやって行けるお守だ」

 

「ありがと…」

 

「私からはこれだ」

 

私が出したのは、ウサギのキーホルダー

 

「何かあったら、いつでも助けに行ってやる。約束だ」

 

「本当に助けてくれるんでしょうね…」

 

「あったり前だ‼︎俺達を誰と思ってるんだよ‼︎」

 

「私、頑張ってみる…‼︎」

 

ようやく笑顔を見せてくれた

 

「いい笑顔だ。その調子だ」

 

「さ、横須賀の所に行こう」

 

執務室に戻り、多少はマシになった霞を横須賀に返した

 

「じゃな〜」

 

「また来る」

 

「ありがとう、お二人さん」

 

 

 

 

 

 

 

事件が起きたのは、それから一週間後だった



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38話 気付かない求愛(3)

その日の昼食の後、食堂でスティングレイと煙草を吸っていた時、彼は何気無しに言った

 

「霞は上手くやってるかな…」

 

「どうだろうな…ちょっくら様子を聞いてみるか」

 

私は電話を取り、霞のいる基地に繋いだ

 

「どうも、横須賀航空隊です」

 

しばらく会話をしていると、隊長の顔が険しくなった

 

「後ろにいるのは誰だ…おい‼︎」

 

一方的に切られたみたいだ

 

「どうした⁉︎」

 

「霞が危ない」

 

「場所は」

 

「パラオ泊地だ」

 

「ちっ…手間のかかるアホだ‼︎」

 

口ではそう言うが、いの一番にスティングレイが格納庫に走って行った

 

「提督」

 

「雲龍か。どうした⁇」

 

「パラオは飛行部隊が強い。私が護衛を…」

 

「戦いじゃないよ」

 

戦闘の準備をしている雲龍の頭を撫でた

 

「え⁇」

 

「人を迎えに行くだけだ。雲龍はお風呂を沸かしておいてくれ。恐らく必要になる」

 

「分かった。気を付けてね」

 

表に出ると、フィリップが滑走路に出ていた

 

コックピットが開き、中からライフルを持ったスティングレイが顔を見せた

 

「隊長、一応念の為に持っててくれ‼︎」

 

ライフルを投げられ、それを受け止める

 

「あとこれも」

 

次は袋を投げる

 

「ライフルはフルチューンしてある。袋の中身は銃弾だ。赤いのが散弾、通常弾は金、それと、硬質のゴム弾が青だ‼︎」

 

「助かる‼︎」

 

「先に上がるぞ‼︎」

 

スティングレイから少し遅れて、私も上がった

 

《隊長、やっぱ霞になんかあったのか⁇》

 

「電話の後ろで泣き声が聞こえた」

 

《ったく…手間のかかる奴ほど可愛いって、こういう事だろうな…》

 

「ははは‼︎全部お前に返してやるよ‼︎」

 

《言われなくても分かってらぁ‼︎》

 

しばらくスティングレイと話していると、パラオ泊地が見えて来た

 

「こちら、横須賀航空隊。着陸許可を求む」

 

《拒否する》

 

《だと。やるか⁇》

 

「こちら横須賀航空隊。着陸を許可しない場合は、滑走路破壊の後、格納庫群を爆撃する」

 

《わ〜お…》

 

予想外の答えが返って来たのか、スティングレイは驚いている

 

《…》

 

パラオ泊地からの返信は無い

 

仕方ない…こちらも本気と言う事を見せてやろう

 

「スティングレイ、爆弾倉を開け」

 

《了解》

 

《着陸を許可する》

 

フィリップの爆弾倉が開いたのを確認し、こちらが本気だと伝わったのか、ようやく許可が下りた

 

「降りるぞ」

 

《はっはっは‼︎やるねぇ〜‼︎》

 

着陸して機体を降りると、中々スティングレイが降りて来ない

 

「スティングレイ、どうした⁇」

 

《横須賀直々の命令だ。霞を助けろ、だと。二式大艇を寄越してくれるらしい》

 

「もっと前に言えって返信しとけ」

 

《分かった‼︎》

 

スティングレイも降り、いよいよ基地に入る

 

「なんかよ…異様じゃねぇか⁇」

 

「あぁ…」

 

あちらこちらに艦娘がいるが、常に臨戦態勢であり、殺気立っている

 

「いつも通りだ」

 

「お、おぅ…」

 

執務室のドアの前に着いた

 

異様な雰囲気を前にし、スティングレイが腰のピストルに手を置いた

 

「隊長、殺られる前に殺るだけだ」

 

「行くぞ」

 

互いに武器を構え、勢い良くドアを開けた



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38話 気付かない求愛(4)

一瞬スティングレイが怯む

 

凄い臭いだ

 

鼻を塞ぎ、執務室の奥を見ると何人かが固まって座っていた

 

「隊長、こりゃあ”アヘン”だ」

 

「麻薬かよ‼︎」

 

「早くしないとこっちがまずい‼︎とにかく換気だ‼︎」

 

窓に向かい、開けようとするが、鍵が掛かっているのか中々開かない

 

「構わん‼︎撃て‼︎」

 

窓ガラスに向かって、スティングレイが数発銃弾を放った

 

確か、赤が散弾だったな

 

ライフルに赤い弾を入れ、少し距離を置いて窓に放った

 

「ま、こんなモンだろ」

 

「おい、大丈夫か⁉︎」

 

固まっていた数人の内1人の頬を叩く

 

「隊長…」

 

別の人の首に手を置いたスティングレイが、首を横に降る

 

「ここの提督を叩く…手伝ってくれるか⁇」

 

「分かった…今俺も同じ事考えてた所だ…」

 

二人の呼吸が荒くなる

 

アヘンの影響ではなく、心の底から湧き上がる怒りの所為だ

 

「あの…」

 

一人が目を覚ました

 

「大丈夫か⁉︎」

 

「ここの地下に…何人か閉じ込められ…助け…」

 

「分かった。君の名前は⁇」

 

「飛鷹…です」

 

そう言い残し、彼女は息を引き取った

 

彼女の目を伏せ、二人して手を合わせた後、地下を目指した

 

「スティングレイ、ナイフあるか⁇」

 

「無い‼︎」

 

「ここから拝借しよう」

 

調理室で使えそうな近接武器を探す

 

「お前、何でアヘンと分かった⁇」

 

「麻薬の実験をした事があるんだ。その時に…おっ、こいつがいい‼︎」

 

スティングレイが手にしたのは、鉈の様な包丁

 

「隊長、もう一本あるからここに置いとくぜ」

 

「分かった。俺もそれにする」

 

「行こう。もう少しだ」

 

調理室を出て階段を下ると、風景が一風変わり、軍事っぽくなった

 

「ま、あれだ。アヘンやら麻薬はやるもんじゃねぇ。あんなもんやる位なら、俺は焼肉の方が良い」

 

「今度奢ってやる」

 

「やったぜ‼︎」

 

アホ丸出しで会話しているが、これも作戦

 

「やきにく…⁇」

 

二人が狙っていたのはコレだ

 

二人の会話に反応した人物を探し出し、救出

 

生存の可能性が高い奴から救出するには、これが手っ取り早かった

 

出来るなら全員救いたいが、牢の鍵が硬く、ピストルで開けるにも弾に限りがあり、中々開けられない

 

「おい、大丈夫か⁉︎今開けてやる‼︎」

 

ピストルで鍵を撃ち抜き、中の人を牢の外に出した

 

「名前は⁇」

 

「ふみちゅき…」

 

「ちょっくら失礼…」

 

スティングレイはふみちゅきの腕を見た

 

「最近、駆逐の女の子が来なかったか⁉︎」

 

「きたよ。いま、おくにいるの」

 

「隊長…」

 

スティングレイは首を横に振った

 

首を横に振ったという事は、生存の確率が低い



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38話 気付かない求愛(5)

注※霞が何をされていたか分かるシーンがちょっとグロいです


「ここで待ってるんだ。もうじき迎えが来る」

 

「あたし、たすかる⁉︎」

 

「助けてやるさ。約束だ」

 

「わかった。まってる」

 

とにかく情報は得られた

 

その後、しばらく牢の探索を続けたが、殆どが中毒症状を起こしていたり、既に冷たくなっている者もいた

 

互いに怒り心頭している状態で扉の前に立った

 

「隊長…この扉を開ける前に一つだけ…」

 

「なんだ⁇」

 

「恐らく、生存の確率があるのは、ふみちゅきと、この扉の先にいる霞だけだ…他は…もう…」

 

珍しくスティングレイが涙を見せた

 

「スティングレイ…」

 

「なんのために今までやって来たか…少し分からなくなった」

 

「大丈夫だ。横須賀がいる。何とかなるさ」

 

「でもよ…一つだけ言えるよ」

 

「ん⁇」

 

「隊長に着いて、本当に良かったってなぁ‼︎」

 

スティングレイは勇ましく扉を蹴破った

 

「霞‼︎」

 

銃と包丁を構えながら、中を探索する

 

「ひっく…」

 

「霞⁉︎」

 

部屋の隅で小さくなって泣いている少女が1人

 

そこには、ボロボロになった霞がいた

 

「霞‼︎大丈夫か⁉︎助けに…」

 

スティングレイが手を伸ばすが、それを弾く

 

「イヤァァァ‼︎来ないで下さい‼︎来ないで下さい‼︎」

 

異様なまでに怯える霞

 

あの日の威勢は、既に無かった

 

「霞…俺だ。スティングレイだ」

 

「へ…⁇」

 

霞が恐る恐る目を開けると、視線の先にはスティングレイがいた

 

「来い。助けてやる」

 

スティングレイが再び手を伸ばすと、霞は安心したのか、大泣きして彼に抱き着いた

 

「うわぁぁぁぁあん‼︎」

 

「怖かったな…よしよし…」

 

余程怖い思いをしたのか、スティングレイの腕の中で震えている

 

「遅いわよ‼︎バカ‼︎」

 

「すまん…」

 

「スティングレイ…霞とふみちゅきを連れて行け」

 

「隊長⁇」

 

「もう一つ、仕事が残ってた」

 

「分かった。死ぬなよ」

 

スティングレイが部屋を出た後、ライフルの撃鉄を落とした

 

「…パラオの提督を何処にやった」

 

「殺したよ」

 

私の背後から、1人の男が忍び寄る

 

「ここで何してた」

 

「麻薬の製造…そして投薬実験さ」

 

手に力が篭る

 

カタカタとライフルが音を立て、包丁の刃が小刻みに震える

 

「あんな小さな子を使ってか」

 

「そうさ。大方中毒症状を起こして死んだがね。私に使って貰えるだけありがたく…」

 

銃声が響いた

 

 

 

「隊長‼︎」

 

二人を抱えて外まで来ていたスティングレイが銃声に反応した

 

「ちょっと…何よコレ…」

 

「やだやだ、こわいこわい‼︎」

 

二人がスティングレイの腕を強く握る

 

三人の前には、恐らく中毒症状のまま放置された艦娘達が此方に向かって来ていた

 

銃声に反応して、地下に向かおうとしている

 

「テメェら‼︎助かりたけりゃ俺の前に来い‼︎」

 

「…」

 

聞こえていないのか、全く足を止めずに此方に向かって来る

 

「提督は偉大なり」

 

「提督は偉大なり」

 

「提督は偉大なり」

 

全員同じ言葉を繰り返している

 

「あっ‼︎やだやだ‼︎たすけて〜‼︎」

 

とうとうふみちゅきの服に手を掛けた

 

「…しかたねぇ。お前達、俺がいいって言うまで目を閉じてろ」

 

「わ、分かったわ」

 

「と、とじた〜‼︎」

 

「…」

 

スティングレイは目を閉じた

 

「仕方無い…イクゾ‼︎」

 

再び目を開けた時、スティングレイの目は赤く輝いていた…

 

 

 

地下では、隊長の足元に先程の男が転がっていた

 

「因果応報だ…」

 

転がっているのは、偽の提督

 

麻薬の製造や違法な実験を繰り返し、多くの犠牲を出した

 

唯一助かった事と言えば、霞はボロボロだったが、腕に注射痕が無かった事

 

とにかく、後は横須賀に任せよう

 

施設を出て外に出ると、出口付近で霞とふみちゅきがいた

 

「二人共、スティングレイはどうした⁇」

 

「いいっていうまで、めをあけちゃだめっていわれたの」

 

その時、壁に誰かが叩き付けられ大きな音がした

 

「ハァ…ハァ…」

 

「スティング…レイ⁇」

 

赤く光る眼は、いつもの彼とは明らかに違う雰囲気を醸し出していた

 

「今のでラストだ…」

 

「お前…」

 

今の今まで忘れていたが、スティングレイは一度深海棲艦になっている

 

深海化しても、何らおかしくはない

 

「体力メッチャ消耗するから嫌なんだよ、コレ‼︎」

 

しかも私のように寝込まなくても済むときた

 

「スティングレイ‼︎隊長‼︎」

 

ようやく二式大艇が来た

 

機体のドアを開けて、横須賀がメガホンを握っているのが見えた

 

「お前達、もう大丈夫だ」

 

「ん…」

 

「わぁ〜‼︎」

 

二式大艇を見て、目を輝かせる二人

 

「医療班、二人を保護して‼︎」

 

「おっせぇんだよ…ったく…」

 

「よっと」

 

余程力を使ったのか、よろついたスティングレイを抱えた

 

私を安心させる為なのか、スティングレイは笑顔で此方に親指を立てた

 

「麻薬の密造、違法実験…最悪ね…」

 

「まだ、生存者が中にいる…助けてやってくれ…」

 

「偽の提督も、地下の一番奥で気絶してる」

 

「分かったわ。二人共お疲れ様。横須賀にみんなを集めてあるから、みんなで何か食べて下さい」

 

「おい、横須賀…」

 

「何⁇」

 

「あの子達を…救ってやってくれ…」

 

「えぇ、助けるわ。レイ、貴方知らないから言っておくけどね、艦娘は麻薬位で死なないわ。冷たくなっているのは、遭難した時とかに無駄に動かないよう、自己防衛の為に体温を下げてるだけ。貴方の心配する事は無いわ」

 

「ヨッシャア‼︎」

 

私を振り解き、雄叫びをあげるスティングレイ

 

「お、おい…」

 

「隊長‼︎帰って焼肉食おうぜ‼︎」

 

全員助かると分かった瞬間、一気にスティングレイの活気が戻った

 

ま、今回は奢ってやるか…

 

 

 

 

 

数時間後、横須賀鎮守府の医務室

 

「ふみちゅきの様子はどう⁇」

 

「もう大丈夫です‼︎後は栄養を補給していれば、数日で健康体になります‼︎」

 

ローマと明石が二人の処置をしている

 

他の艦娘達は、数時間の入渠と少しの薬の投与で顔に血色が戻った

 

ふみちゅきも何とかなりそうだ

 

問題は霞だった

 

「外部裂傷多数…内蔵損傷…散々ね…」

 

「あ…後、体内から別の人間の体液を検出しました」

 

「はぁ…PTSDになるのも納得だわ…」

 

霞だけ麻薬を打たれていなかった為か、ハッキリする意識の中で度重なる暴行を受けていた

 

トラウマにならない方がおかしい



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38話 気付かない求愛(6)

「後は話をして、何かヒントを得るわ」

 

 

 

 

 

霞は一人、部屋の隅っこでうずくまっていた

 

年端の行かない少女には、余りにも壮絶な体験

 

地獄絵図の中を冒険したかのようだった

 

「入ってもいいかしら」

 

「…どうぞ」

 

白い箱とジュースを持ったローマが、霞の部屋に入る

 

「差し入れよ」

 

「…いらないわ」

 

「あっそ」

 

いつも通りの素っ気なさのローマ

 

箱とジュースを適当に机の上に置いた

 

「ま、いいわ。とにかく、よく耐えたわね」

 

「そんな事言うために来たなら、帰ってくんない⁇」

 

「今日は話をしに来たの」

 

「…一人にしてよ」

 

「ダメ。私と話しなさい」

 

「嫌って言ってんでしょ⁉︎」

 

ローマは見抜いていた

 

霞はしつこくするとキレる

 

そして折れる

 

自分がそうだから分かっていた

 

「ふふ…ちょっとは威勢が戻ったようね」

 

「…分かったわよ。話せばいいんでしょ‼︎話せば‼︎」

 

それからローマは案外普通の事を聞き始めた

 

好きな食べ物は何か

 

趣味は何か

 

好きな色…使いやすい艤装…

 

後、好きな人も聞いた

 

「好きって訳じゃ無いけど…あのバカパイロットは気に入ったわ」

 

「スティングレイ⁇」

 

バカ=スティングレイが、段々定着してきている

 

今、スティングレイは横須賀の基地にいるが、恐らくくしゃみをしているだろ

 

「…うん」

 

霞の顔が赤い

 

好きな証拠だ

 

「そのバカパイロットからの差し入れでも食べないのかしら⁇」

 

霞は急いで箱を開けた

 

「あっ‼︎」

 

中には間宮のチョコレートケーキが二つ入っていた

 

「食べていいの⁉︎」

 

「えぇ」

 

霞はチョコレートケーキを食べ始めた

 

口の周りにいっぱいチョコクリームを付けながら、あっという間に一つ平らげた

 

「もう一個も食べて良いわよ」

 

「ありがと‼︎」

 

嬉しそうに食べる霞を見て、ローマの顔が綻ぶ

 

口は悪いが、まだまだ子供だ

 

「貴方の心配ばかりよ、スティングレイは」

 

「…」

 

「愛されてるのね…霞は」

 

「…ホント⁇」

 

「彼も分かりにくいのよ。愛情表現がメチャクチャヘタクソ。でも…」

 

「でも⁇」

 

「陰でいつも、みんなを助けてくれるの。それを貴方は分かってあげられるかしら⁇」

 

「…」

 

「明石〜‼︎風邪薬くれ‼︎」

 

表でスティングレイの声がする

 

「言ってたら来たわ。ちょっと待ってて」

 

表に出ると、明石とスティングレイがいた

 

「バカは風邪引かないんじゃないんですか〜⁇」

 

おちょくる様な目でスティングレイを見る明石

 

「これで俺が天才だと証明されたっ‼︎」

 

自慢気に仁王立ちするスティングレイ

 

「はいはい。じゃあ、これ飲んで下さい」

 

袋を開け、一気に喉に薬を流し込む

 

「オエ〜…マジィ〜…」

 

「良薬は口に苦し、ですよ‼︎」

 

「マジィ〜…二ゲェ〜…あ‼︎鼻詰まり治った‼︎サンキュー‼︎」

 

明石と話し終わった所で、スティングレイを捕まえた

 

「捕まえたわ」

 

「え⁉︎嘘⁉︎これってラッキースケベって奴⁉︎」

 

褒美代わりと思い、ローマはスティングレイに胸を押し付けた

 

「よ…要求は何だ…」

 

急に真面目になるスティングレイ

 

「霞と話して頂戴」

 

「わ…分かった…」

 

スティングレイを霞の部屋に入れ、しばらく二人にした

 

小窓からちょっとだけ出歯亀してみると、照れ臭そうにした霞と、楽しそうに話すスティングレイが見えた

 

「これで安心ね…」

 

霞をフルで扱えるのは、スティングレイの様な、底抜けのバカに見えて、実は物凄く気配り上手な人だ

 

「ローマ。霞はどう⁇」

 

現れた横須賀に、首で小窓を指す

 

「ホンット、バカなのに人一倍心配症なのよね…レイは…」

 

「あれがモテる要因なのね…ちょっと分かった」

 

「隊長には一応言ったけど、霞をスティングレイに任せようと思うの」

 

「名案ね。彼なら、喧嘩しながらでも彼女を見捨てないわ」

 

扉の向こうで、ローマと横須賀が微笑む

 

 

 

数日後、再び霞の部屋の扉が開いた

 

「俺と来い。俺がお前を護ってやる」

 

霞は迷わず、差し出された手を取った

 

腰には、ウサギとクマのキーホルダーが揺れていた

 

 

スティングレイの艦隊に、駆逐艦”霞改”が配属されました‼︎



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39話 雷鳥と雄鳥の子供(1)

38話が終わりました

霞に色々ありましたが、スティングレイの元に来ました

最近

”スティングレイの方が主人公じゃね〜か‼︎このクラッシュバンディクーが‼︎ニトロ箱投げんぞ‼︎”

とのご感想を頂きました

作者も薄々気付いていました

スティングレイは、キャラとしてとても書きやすいです

今回のお話では、もちろんパパもスティングレイも出て来ます

まっくすの好きなものに注目


「どしゅ〜ん‼︎」

 

「ばばばばば‼︎」

 

「隊長」

 

「ん〜⁇」

 

「霞…あんなだったか⁇」

 

私は読んでいた雑誌を置き、霞の方を見た

 

視線の先にはなんと、たいほうと霞が戦闘機のオモチャで遊んでいる

 

「い、意外だな…」

 

「だろ⁉︎ツンはどこ行ったってレベルでデレしかないぜ⁉︎」

 

「遊び足り無かったんだよ、きっと。最初からここに配属させてやったら良かったんだ…」

 

「パパ〜‼︎」

 

れーべとまっくすが私の所に来た

 

「これ読んで‼︎」

 

「どれ…」

 

ソファーに座ると、二人が両サイドに座った

 

「たくさんのむし」

 

どうやらたいほうの本のようだ

 

何故かは知らないが、たいほうはやたらと虫を捕まえて戦わせる癖がある

 

しかし、毒があったり攻撃的な生き物には近付かない

 

例えば、蛇やカラス

 

スズメやカモメには触るが、カラスには絶対触らない

 

横須賀にいた時にカラスがいたが”からすはあぶない”と言って近付きもしなかった

 

蛇は種類を選んで捕まえている

 

基地の森には、極々稀にマムシが出るらしいが、絶対に触ろうとせず、私やスティングレイに始末して貰う

 

アオダイショウは時々捕まえて振り回しているのを目撃する

 

「二人は何の虫が好きだ⁇」

 

「ボクは蛍‼︎」

 

「ハチこそ至高」

 

「は、ハチ⁉︎」

 

「ハチは強い。しかも早い」

 

「ハチ見かけても触っちゃだめだぞ⁇」

 

「うん」

 

しばらく本を読んでいると、たいほうと霞が急に大人しくなっているのに気が付いた

 

テレビから少し離れた所で、床に座って国営放送の子供向け番組を見ている

 

《この生き物は”うさぎ”と言います》

 

「うさぎ…」

 

たいほうより霞の方が食い付いた

 

《うさぎは、ニンジンや野菜を好んで食べます》

 

「たいほうもやさいたべるよ‼︎」

 

たいほうがテレビを見ている時、テレビの内容を見るよりたいほうを見る方が面白い

 

どうもたいほうは、テレビの中に人が入っていると思っているらしく、よくテレビに話し掛けている

 

《うさぎは、ペットとしても人気です》

 

「ぺっと」

 

ほんの一瞬、買ってやろうと頭をよぎったが、たいほうはクワガタと戦わせるとみた

 

「パパ、うさぎってつよい⁉︎」

 

ほら…

 

テレビが終わった途端にコレだ

 

「うさぎは弱いぞ。クワガタに挟まれたら逃げちゃうぞ⁇」

 

「クワガタつよいね」

 

「クワガタより強いの探してるのか⁇」

 

「うん‼︎でもだいたいたたかったよ」

 

「ハチこそ至高」

 

話を聞いていたまっくすが来た

 

「ハチはあぶないよ。どくもあるし、さされたらいたいよ」

 

「ハチミツは美味しい」

 

「はちみつ…」

 

おそらく、あの小瓶に入っていた蜜を思い出しているのだろう

 

たいほうは涎を垂らしている

 

「で、でも、ハチはあぶないよ‼︎まっくすもさわったらだめだよ⁉︎」

 

「大丈夫」

 

「さっ、たまにはお昼寝だ。れーべが寝ちゃった」

 

「かすみ、いっしょにいこ⁇」

 

たいほうが霞に手を出した

 

「うん」

 

霞はそれを掴み、部屋に向かう

 

「まっくすもお昼寝するか⁇」

 

「うん。れーべをお願い」

 

「連れて行くよ」

 

れーべを抱え、子供部屋に向かう

 

部屋に入ると、遊び疲れたのか、たいほうと霞は既に寝息を立てていた

 

たいほうもそうだが、霞の顔を見てホッとした

 

れーべを横にした後、まっくすもその横で毛布を被った



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特別編 ドイツの魔女(1)

プリンツ入手した記念に書きまする

ドイツでアウトロー艦娘として名を挙げた、伝説の不良艦娘”プリンツ”

見るに見かねたミハイルはプリンツを更生させる為、パパの所に預ける事に

彼女を更生させる為、伝説の不良パイロットが立ち向かう‼︎


「プリンツゥゥゥゥゥゥ‼︎」

 

目の前で金髪のおさげ髪の女の子が歯を見せている

 

「…」

 

俺は煙草を吸い込み、彼女に紫煙を吹きかけた

 

「ぶわっ‼︎アドミラールさん、この人怖い‼︎」

 

「自業自得です‼︎普段の行いを、この人に正して貰いますっ‼︎スティングレイさん、頼みましたよ‼︎」

 

「承りました」

 

港までミハイルを見送る

 

「ヤダヤダ〜‼︎ドイツに帰る〜‼︎」

 

「行くぞ」

 

「ヤダ〜‼︎怖い〜‼︎」

 

プリンツの襟首を掴み、基地の中へと連れて行く

 

「ようこそ‼︎プリンツオイゲンさん‼︎」

 

中へ入るなり、数本のクラッカーが鳴った

 

「へ⁇」

 

「ぷりんつ」

 

「うわぁ‼︎ちっちゃい‼︎」

 

たいほうが無防備にプリンツへと近付いた

 

「ヘボヘボ空母なの⁇」

 

「後で分かるさ」

 

「ぷりんつのおっぱいぷるぷる」

 

たいほうはしゃがみ込んだプリンツの胸を突いた

 

「わっ‼︎」

 

「ん⁇」

 

驚かそうとしたプリンツだが、普段たいほうは突然出て来る虫や小動物で慣れているので驚かなかった

 

「げっ‼︎貴様はぷりんつ‼︎」

 

「でた‼︎色黒ワンコ‼︎」

 

「たいほうよ‼︎そいつから離れろ‼︎ぷりんつは危険だ‼︎」

 

「だいじょうぶだよ。かまないよ⁇」

 

ここに来て、プリンツは動物扱い

 

「たいほうとあそぼ⁇」

 

「ヤダね‼︎ヘボヘボ空母とは遊ばないよ〜だ‼︎」

 

「へぼへぼくうぼだって‼︎」

 

バカにされているのに、自分の事を言われてたいほうは嬉しそうにしている

 

「はっはっは‼︎たいほう、久し振りに演習でもするか⁇」

 

「えんしゅーする」

 

表に出て、たいほうは俺の所に来た

 

「そーびして‼︎」

 

「よっしゃ。万歳だ」

 

「ばんざーい‼︎」

 

脇腹に装甲板を付け、艦載機のカートリッジを何個か付けた

 

頭には、ハチマキの様な電探を装着

 

「甲板は持てるか⁇」

 

「かんぱんもった」

 

「ボウガンは⁇」

 

「ぼーがんもった」

 

たいほうは、たいほう専用に小さく造った、特製のクロスボウを見せた

 

「最初は何入れるんだった⁇」

 

「れっぷー‼︎」

 

「次は⁇」

 

「ぎょらいのひこーきと、ばくだんのひこーき‼︎」

 

「よし‼︎行って来い‼︎」

 

「ばつびょー‼︎」

 

たいほうが海原に出た

 

周辺海域では、海上を隊長と武蔵が

 

海中ではしおいが警戒網を敷き、安全は確保されている

 

「準備オーケーか⁉︎」

 

ジエットスキーの上でメガホンを持った、隊長の声が聞こえた

 

「パーペキよ‼︎」

 

「よし、演習開始‼︎」

 

「はっかん‼︎」

 

先制はたいほうが取った

 

上空では、三機のれっぷうが制空権を確保している

 

「いけ‼︎」

 

クロスボウから打ち出された、流星改とユンカース

 

雷撃と急降下爆撃がプリンツを襲う‼︎

 

「あだだだだ‼︎」

 

「はっかん‼︎」

 

たいほうの連続攻撃は止まない

 

「フォイヤー‼︎」

 

「えい」

 

プリンツの砲撃音が聞こえた次の瞬間、たいほうは一時的にクロスボウを背中のケースに仕舞い、甲板を前に出した

 

そこに、プリンツの砲撃が当たった

 

「ちょっと‼︎それは盾じゃないよ⁉︎」

 

「はっかん‼︎」

 

一瞬の隙を突いて、たいほうは三度目の発艦を行った

 

「ぐわ‼︎やられる…最後の手段…これなら‼︎」

 

プリンツから二本の魚雷が打ち出された

 

向かって来る魚雷

 

下を見つめるたいほう

 

危険極まりない攻撃だが、たいほうは下を向いたまま動かない

 

いざいざ当たると、誰もが思った瞬間…

 

たいほうは無言で魚雷を手に取った

 

「おさかなとれた」

 

「えぇぇぇぇぇぇ⁉︎嘘でしょ⁉︎」

 

「てつのおさかなは、ぽいする」

 

まだスクリューが回っている魚雷を、プリンツの方向目掛けて投げ返した‼︎

 

「うわぁ〜‼︎」

 

雷撃は命中、プリンツは完全に航行不能となった

 

「そこまで‼︎たいほうの勝ち‼︎」

 

「かった‼︎」

 

たいほうは海上でぴょんぴょん跳ねている

 

「ん…」

 

「ぷりんつ」

 

艤装から黒煙を吹き出すプリンツが目を開けると、たいほうの顔がドアップで映った

 

「たいほうのかち」

 

「強いね、タイホーは」

 

「ぷりんつ、たいほうのおともだち⁇」

 

「へ⁇」

 

「友達になってやりなさい‼︎これは命令ですよ、ヘボヘボプリンツさん‼︎」

 

「ぐっ…」

 

岸ではメガホンを持った俺がプリンツを煽る

 

「なれる…かな」

 

「だいじょうぶだよ。いっしょにごはんたべて、ねんねしたらおともだちだよ‼︎」

 

たいほうは手を差し伸べた

 

プリンツは少し悩んだ後、たいほうの手を取った

 

「…なるよ、たいほうのお友達に‼︎」

 

「やったね‼︎おうちかえろ⁇たいほうおなかすいた」

 

「うんっ‼︎」

 

どうやら、仲良くなれたみたいだ

 

 

 

「ういんなー」

 

たいほうの前に、焼き立ての太いウインナーが置かれた

 

「ドイツの名物です‼︎」

 

「うふふっ‼︎スティングレイのよりふっと…‼︎」

 

何かを言おうとした鹿島の口を、ローマが咄嗟に塞いだ

 

「それ以上言ったら、ドックに放り込むわよ」

 

「す、すみません…」

 

「いただきます」

 

たいほうのウインナーは、隊長が小さく切っている

 

「そうだ‼︎たいほうちゃん、魚雷どうやって取ったの⁇痛くないの⁇」

 

「いたくないよ。すてぃんぐれいがね、てつのおさかなは、おなかをつかむか、よけるっていってた」

 

「そうなのか⁇」

 

興味を示したのは隊長だ

 

「魚雷は信管が先っちょに付いてる。当たる前に掴めば、投げ返すなんざ造作もないさ」

 

「たいほうもよく見えたな」

 

「たいほうつよい⁇」

 

「あぁ‼︎強いぞ‼︎」

 

「ごちそうさん。ちょっと工廠にいる。何かあったら言ってくれ」

 

「分かった」

 

工廠に入り、先程の二人の艤装を出した

 

「しかしまぁ…派手にやってくれたもんだ…」

 

たいほうの甲板は凹み

 

プリンツの艤装に至っては、至る所に攻撃の激しさが見えた

 

”プリンツも大分強いな”

 

黄色いメットを被った妖精が肩に乗って来た

 

「まぁなぁ…あの一発で、装甲空母の甲板をここまでするとは…」

 

”あれや。ドイツの科学は何とやら…や‼︎”

 

「ふっ…たいほうの甲板を頼めるか⁇」

 

”任しとき‼︎朝飯前や‼︎”

 

妖精達と共に、艤装の修理に取り掛かる

 

ま、何とか直せそうだな

 

「こいつは塗り直すか…迷彩の塗料あるか⁉︎」

 

”これや‼︎”

 

「サンキュー」

 

口やかましく行動する妖精達の横で、俺は黙々と作業を続けた

 

 

 

その頃、たいほうとプリンツは入渠ドックにいた

 

幾ら演習とはいえ、細かな傷はある

 

それを取り除く為、少しだけ入る事になった

 

「あわ‼︎」

 

たいほうの前にはカエルの洗面器の中に、キャラクター物の弱酸性のシャンプーが入っている

 

プリンツが気になったのはシャンプーの横にあった、ゴム製の黄色い物体

 

「これは⁇」

 

「がーがーさん‼︎」

 

「ガーガー…サン⁇」

 

ドイツの子は、何故か皆コレに興味を示す

 

れーべもまっくすも、これに興味を示していた

 

「がーがーさんはね、おふろのなかにいれるの」

 

「ほぉ」

 

体の泡を流し、二人で湯船に浸かる

 

「ガーガー=サンは⁇」

 

「じゃん」

 

入る時に沈めたのか、水面からアヒルが出てきた

 

「ぴゅー」

 

アヒルのお腹を押すと、口から水を吐いた

 

「ゲロ吐いた‼︎」

 

「ぷりんつもして⁇」

 

何処からともなく、2匹目のアヒルを取り出し、プリンツに渡した

 

「こうやって…こう‼︎」

 

「こうやって…おぉっ‼︎」

 

気に入ったのか、その辺に水を出しまくる

 

「がーがーさん、ぷりんつにあげる」

 

「いいの⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

プリンツがしばらくアヒルで遊んでいると、たいほうがプリンツにくっ付いた

 

「むさしもやわらかいんだよ⁇」

 

プリンツの胸を揉むたいほう

 

たいほうだから許される行為だ

 

「柔らかいですか⁇」

 

「うんっ。むさしのつぎくらいにすき」

 

「そろそろ上がる⁇」

 

「うん」



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自己紹介(スティングレイとオマケ)

そう言えば書いてなかった、スティングレイの紹介文を書いておきます

鹿島

しおい

雲龍

後はオマケです。でも、その設定はそんな感じです

「そう言えば紹介文を書いてない、聞きたい」などのキャラクターがあれば教えて下さい


スティングレイ…スパイで科学者でで傭兵でパイロットという異色の経歴を持つパパの片腕

 

周りからバカでマヌケと言われるが、子供の面倒見が良く、駆逐艦の子に人気がある

 

パイロットとしても凄腕であり、空母の子達が彼を欲しがっているが、パパの所から離れる気は更々無い

 

が、最近”飛龍”と呼ばれる空母から猛烈なアプローチがあり、期間的に雇われるのもいいと思っていたりもする。でもやっぱり鹿島を娶りたいと考えている

 

彼としおいは父と娘の関係であり、顔や性格も若干似ている

 

実は横須賀と関係を持った事がある

 

好きなもの…巨乳、炭酸

 

嫌いなもの…毒ガス、バッタ

 

 

 

鹿島…元航空教官の練習巡洋艦

 

教官時代からスティングレイが好きで、その時から彼にアプローチをかけていたが、逆に疑われてしまい、ことごとく失敗に終わる

 

しかし、再び彼と出逢い再燃。猛烈なアプローチを仕掛ける

 

相変わらず彼は疑いを持ったが、純粋に自分を好いてくれる鹿島に段々と好意を持つ

 

当初スパイ疑惑が掛けられていたが、本当に潔白。しかも処女

 

変な薬を作るのが趣味

 

好きなもの…ショタ、ドラクエ、薬の調合

 

嫌いなもの…自意識過剰なイケメン、クラゲ

 

 

 

しおい…硬くて強いスーパーな潜水艦

 

潜水艦型の深海棲艦を倒した後に出会った、天真爛漫な潜水艦娘

 

スティングレイが造った無人潜水空母”ロンギヌス”が元であり、従来の伊401とは外見は似ているが、武装などはしおいの方が遥かに強力

 

人を引っ張る癖があり、人を引き止める際に服や手をよく引っ張る

 

最近スティングレイを自分のパパと認識し始めた

 

好きなもの…ナマコ、ミサイル

 

嫌いなもの…重油、イモガイ

 

 

 

雲龍…超弩級おっぱいな空母

 

パパが研究所から助け出した艦娘。

 

かなり抜けている性格で、艦攻や艦爆に違う武装を付けるのが趣味

 

武蔵とローマの次に包容力があり、たいほうがよく甘えている

 

最近出番が少ないから拗ねている

 

好きなもの…ウスターソース

 

嫌いなもの…人が入れるカプセル

 

 

 

深海化について…

 

パパとスティングレイが時々起こす”深海化”

 

まだまだ謎が多いが、以下の事が解明されている

 

深海化は艦娘とは違い、強度、火力、速力の全てを凌駕する反面、一時的にしか使えず、体力を非常に消耗する

 

 

 

 

実はパパとスティングレイは過去に艦隊化計画を受けており、失敗に終わっている

 

だが、艦隊化の土台は出来上がっており、その状態で一度敵の捕虜となる

 

スティングレイは艦載機のパイロットに

 

パパは途中で脱走。その際になんらかの事情で左脚を失う

 

互いに深海化が可能な状態になるが、パパは途中で脱走した為、不完全な状態でしか深海化出来ない

 

その為に、深海化した後に気絶したり昏睡状態になる

 

 

 

 

横須賀が付けたこの形態は

 

”Death Marine Mode(死の海軍化)”

 

 

 

 

パパ…深海化後、数日に渡り昏睡状態に陥り、記憶障害が起こる代わりに、駆逐艦並の砲で高火力を叩き出したり、自然治癒力が飛躍的に上がる

 

上記二つでも充分強いのだが、深海側の艦載機を数機操る事が出来る

 

 

 

スティングレイ…パパと違い、完全に深海化が可能。だが、体力は激しく消耗する

 

パパと同じく高火力の砲を撃ったり、自然治癒力が高まるが、彼の場合は打撃戦に特化している為、大概の場合は砲は使わない

 

艦載機を操る事は出来ない



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特別編 ドイツの魔女(2)

工廠では、スティングレイと妖精達が作業を進めていた

 

「こっちはオッケーだ」

 

”でけたで”

 

「ちょっと一服だ。疲れた…」

 

工廠の隅に置かれた机の上にあるタバコの箱を取り、火を点けた

 

離れてはいるが、修理と改装が施された二つの艤装が見える

 

”一本くれ”

 

「取れよ」

 

箱の中からタバコを一本取り出し、先をバーナーで炙って順番に吸い始めた

 

「…美味いか⁇」

 

”美味いで‼︎タバコはみんなで吸うから美味いんや‼︎ありがとうな‼︎”

 

「まぁ、いいけど…」

 

タバコを咥え、ジュースサーバーのボタンを押す

 

コップが現れ、コーラが注がれる

 

”またコーラか⁉︎”

 

「飲むか⁇」

 

”ちょうだい‼︎”

 

小さな紙コップにコーラを入れて渡すと、またみんなで飲み始めた

 

「電探…ありゃあ、新調しなきゃ無理だな…」

 

”せやなぁ…だいぶ古かったからなぁ…”

 

「…やるか⁇」

 

”やろうや‼︎”

 

俺は妖精達と目を合わせ、無言で頷いた

 

タバコの火を全部消し、再び艤装の修理に取り掛かる

 

「上手く行きゃあいいんだが…」

 

 

 

数時間後…

 

「…おい」

 

”やってしもたな…”

 

目の前には新型の電探が置かれている

 

「…これ、確かまだ開発不可能だったよな⁇」

 

”せ…せや…”

 

妖精の言葉から、しばらく互いに無言が続く

 

数時間前、俺達は調子に乗って一番難易度が高い設計図のレーダーを造り始めた

 

それは横須賀でさえ造れなかった代物であり、一応ここにも設計図だけはあった

 

途中で手を加え、多少の追加効果がある程度の別の電探が出来上がる予定だった

 

が、思ったより作業は好調

 

まさかの起動実験まで通り、電探としては最高傑作の出来だった

 

「か、隠すか⁉︎」

 

”ど、どないしょ…えらいこっちゃで‼︎”

 

「レイ、調子はどう⁇」

 

定時報告にでも来たのか、前触れも無く横須賀が入って来た

 

「布を被せ妖精共‼︎」

 

”ラジャー‼︎”

 

咄嗟に指を指し、妖精達に命令した

 

「何隠したのよ」

 

「あ、新しい便器とウォシュレットだよ‼︎な、なぁ⁉︎」

 

”せや。トイレが壊れたんや”

 

上手く口裏を合わせた妖精

 

ナイスだ

 

「見せなさいよ」

 

「便器見て何が面白いんだよ‼︎」

 

「あんた作のウォシュレットの性能を見たいの」

 

ジリジリと此方に近付いて来る横須賀

 

「…絶対外部に漏らさないか⁇」

 

「約束するわ」

 

アイコンタクトを妖精に送り、布が外された

 

「嘘でしょ…Fumoレーダー造ったの⁉︎」

 

「プリンツの電探が古かったから、新しいのを造ってやろうとしたらこれだよ…」

 

「譲っ…」

 

「や〜だね〜‼︎」

 

横須賀が言う前に返した

 

「もう、造れないの⁇」

 

「造る気もないし、造りたくもない‼︎」

 

横須賀はため息を吐いた

 

余程効果が高い電探らしい

 

「ま、良いわ。アウトローと呼ばれたあんたも、多少は良い所あるわね」

 

「アウトロー…だと⁇絶対やらねぇ‼︎金輪際、7.7mm機銃でもお前にやらん‼︎」

 

「ふふふ…」

 

横須賀は胸元をはだけさせ、こっちに寄って来た

 

「俺に色仕掛けは効かん‼︎」

 

横須賀は俺の顔を掴み、色っぽい声で囁いた

 

「色仕掛け⁇違うわ。既成事実を造るのよ。んで、あんたを追い込んでやるの…これを鹿島に言ったらどうなるかな〜…うっふっふっふ…」

 

悪女だ…

 

悪女がいるよ…

 

中途半端にスタイルも良いし、抱き心地も良さ…

 

仕方無い、折れるか…

 

「…一個だけだぞ」

 

「やったぁ‼︎スティングレイ大好き‼︎チュッチュッ‼︎」

 

首に手を回し、二、三回頬にキスを貰う

 

「やめんか‼︎はい、出た出た‼︎こっから先は企業秘密だ‼︎」

 

横須賀を外に出し、シャッターを閉めた

 

「め…面倒くせぇ野郎だ…」

 

”やるか⁇”

 

「仕方無い…上手く出来るといいが…」

 

 

 

一時間後…

 

「何でだよ‼︎」

 

”何でや‼︎”

 

妖精達と共に、コンクリートの床を叩く

 

目の前には、二つのFumoレーダーが

 

二つ共、完璧な仕上がりだ

 

これはマズイ

 

横須賀に二つ共持って行かれる…

 

「…約束は一つだけだったよな」

 

”一個だけや”

 

「どう⁇出来た⁇」

 

横須賀が来た

 

毎度毎度タイミングがいい

 

「持ってけ」

 

出来上がった電探を親指で指し、タバコに火を点けた

 

「うわぁ〜‼︎凄いじゃない‼︎あんた、本当は天才なの⁇」

 

「”なの”じゃない。天才なんだよ

 

「貰ってもいいの⁉︎」

 

「一個な‼︎一つは試験用に取っておく」

 

「ケチ‼︎」

 

「気が変わった。そこの妖精、こいつの相場は幾らだ⁇」

 

”せやな…”

 

「分かった‼︎分かったわよ‼︎お礼は何がいい⁇」

 

「要らねぇよ‼︎それ持ってさっさと行け‼︎」

 

「でも…」

 

「あ〜…」

 

タバコを持った逆の手で後頭部を掻いた

 

「なら…か、艦娘とケッコン出来る指輪を…だな…」

 

「そんなのでいいの⁉︎」

 

「ありゃあ、アレだろ⁇提督しか手にする事が許されてないんだろ⁇」

 

「まぁ…そうだけど…」

 

「特別に認めてくれるなら、二つ共持って行っていい」

 

「契約完了ね‼︎はいコレ‼︎妖精さん、これをタンカーに運んで〜‼︎」

 

突然渡されたのは、紛れもなくケッコン指輪

 

数秒思考が止まる

 

「は⁉︎え⁉︎何で持ってんだよ‼︎」

 

「いやぁ〜あんたそろそろ言い出す頃かなって思って、ずっと持ってたのよ」

 

「あっそ…ま…サンキュー」

 

「安い買い物よ。で‼︎誰に渡すの⁉︎やっぱり鹿島⁉︎」

 

「さぁな」

 

「教えなさいよ〜」

 

「言わん‼︎さっさとどっか行け‼︎」

 

「ケチ〜‼︎」

 

「はいはい」

 

とにかく、指輪を手に入れた

 

とりあえず、一旦戻ろう

 

タバコ三本とコーラを置き、工廠を出た

 

”やっぱり置いてくれてある”

 

”パパもスティングレイも、よー似とるな”

 

妖精達がタバコとコーラの元にワラワラと集まり、それぞれが楽しみ始めた

 

 

 

基地に戻ると、子供達が積み木で遊んでいた

 

相変わらず武蔵は怪獣役の様だ

 

「お…」

 

プリンツが大人しく何かを読んでいる

 

膝の上には、たいほうとしおいが乗っている

 

「たいほうに負けて、逆らえなくなったみたいだ」

 

隊長は隊長でローマと共にコーヒーを飲んでいる

 

「一応、修理は終わった。俺もコーヒー飲んでいいか⁇」

 

「横須賀がくれた美味いのがあるぞ‼︎」

 

「淹れます」

 

「やったね‼︎」

 

はまかぜにコーヒーを淹れて貰っている間、プリンツのデータを見る事にした

 

 

 

・駆逐艦に対しての暴行、暴言

 

・基地内でギャンブル。男性から金を巻き上げる

 

・味方輸送船に誤射

 

・一般市民を恐喝

 

・基地内の売店で万引き

 

・日本にいた経験…あり

 

 

 

他の項目については、まぁやっているだろうな、程度だったが、最後がどうも気になった

 

「プリンツ」

 

「はい」

 

プリンツを横に座らせ、一つ聞いた

 

「お前、日本にいた事あるのか⁇」

 

「う…うん…」

 

どうも気まずそうだ

 

「お前が非行に走り始めたのは、日本から帰って来てからだ。こりゃ何でだ⁇」

 

「…聞いてくれる⁇」

 

「もちろんだ。先に言っておくが、責めてる訳じゃない。俺達はお前をもっと知りたいんだ」

 

「分かった…」

 

プリンツの話はこうだ

 

前に日本に来た時、凄く嫌な提督だった

 

体も触られたし、襲われそうにもなった

 

そして改装後の私の装備だけ取ったら”用済み”と言われ、装備だけ取られたまま、本国へ強制送還された

 

と、言う訳だ

 

「見た所、あの装備は改装されてないみたいだな…」

 

「うん…本国に戻った時にもう一度造って貰ったんだ…」

 

「そっか…辛かったな…」

 

プリンツの頭を撫でると、大粒の涙を流し始めた

 

「アドミラルにも、言えなかった…だから…一人で考えるしか…」

 

「もう大丈夫だ」

 

泣き喚くプリンツを抱き締めた

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

「もう、イタズラはしないか⁇」

 

「うん…」

 

それ以降、プリンツは大人しくなった

 

れーべとまっくすは、最初は怯えていたが、段々と懐き始めた

 

れーべとまっくす曰く、日本に行く前は今の様に優しかったらしい

 

 

 

そして三日後、ミハイルがやって来た

 

「大佐、プリンツはどうですか⁇」

 

「見ての通りです。いい子ですよ」

 

「ほぉ…あの子が子供の面倒を見るとは…」

 

「私の力ではありません。彼です」

 

隊長は、格納庫で作業をしていたスティングレイの方を見た

 

「彼が…」

 

「口は悪いですが、人一倍他人に気配りが出来る自慢の部下です」

 

「彼を呼んで頂けませんか⁇」

 

無線を付け、スティングレイを呼んだ

 

「オヤツの時間だぞ」

 

《やったね‼︎》

 

無線を切り、ものの数秒でスティングレイが来た

 

「ミハイルさん‼︎お久し振りです‼︎」

 

「スティングレイ、プリンツをありがとう」

 

「いい子でしたよ」

 

「ふむ…」

 

ミハイルは不思議そうな目で、俺を見つめた

 

「彼女は何故か此処に馴染んでますね…前の時は、あんなに楽しそうではありませんでした…」

 

「聞きましたよ。装備だけ取られて本国へ突き返されたって」

 

「耳に入ってましたか…彼女、帰って来た時は泣きじゃくっていましたからね…」

 

「み、ミハイルさん‼︎頼みがあります‼︎」

 

「はい⁇」

 

「プリンツを…俺に下さい‼︎」

 

俺は頭を下げて頼み込んだ

 

その場が静まり返る

 

「スティングレイ、顔を上げて下さい」

 

「はい」

 

「我々の国は、同盟国である貴方がたの国を補助する為に、艦娘を造っています。ですが、前回のプリンツの一件から、前もって研修期間や調査をし、その人が適正かどうか判断をしなければいけません。ですから…」

 

ミハイルは話しながら、一枚の書類を俺に渡した

 

「此方からお願いしたい。重巡洋艦プリンツ・オイゲンを、貴方に引き取って頂きたい」

 

書類には”移送手続承諾書”と書いてあり、プリンツの名前が書いてある下に、空欄があった

 

「勿論です‼︎」

 

俺は二つ返事で名前を書いた

 

「これで完了です。あぁ、勿論お金とかは要りませんので‼︎」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「プリンツ、ちゃんと言う事を聞くんだよ⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

「ではまた‼︎」

 

ミハイルは帰って行った

 

後から聞くと、実は隊長は最初から知っていた

 

もしかしたら隊長ではなく、俺にならプリンツの性格を治せる…と

 

その暁には、安心して俺の為に役立って貰える…と

 

前の提督の狙いが、あのレーダーである事も分かった

 

「知ってたか⁇ミハイルは日本各地を渡って、どの基地が適切か判断する凄い奴なんだ」

 

「ヤバイですね…」

 

「もう敬語はいい‼︎」

 

「あぁ…や、ヤバイな‼︎」

 

「でだ。今度、各基地を招いて、横須賀で演習がある。一基地から出れるのは六隻。どうだ⁇出るか⁇」

 

「出る‼︎それまでに万全に仕上げてやるよ‼︎」

 

「ふっ…その意気だ」

 

 

 

俺の所持している艦隊で、戦えるのは二隻

 

しおい

 

そしてプリンツ

 

「プリンツ。どうだ⁇出てみるか⁇」

 

「うん‼︎出たい‼︎」

 

「しおいは⁇」

 

「やってみたい‼︎」

 

「分かった。プリンツ、装備の改装が終わった。工廠までおいで」

 

先に工廠に行き、プリンツを待つ

 

「俺にしちゃ…上出来だな」

 

”しかしまぁ…よ〜こんなん造ったで”

 

「来ました‼︎」

 

しばらくすると、プリンツが来た

 

「お前の装備を全部取っ替えた。まずはこれ」

 

最初に見せたのは、二対の主砲

 

「火力と安定性を底上げしている。問題は命中率だ。そこで目となるのがこれだ」

 

次は水上機を見せた

 

「こいつが目となって、命中率は安定する。それに、軽い爆弾を載せたり、小規模の制空戦なら参加出来る」

 

「ほぇ〜…」

 

「んで…仕上げはこいつだ」

 

最後にあのレーダーを見せた

 

「これは…‼︎」

 

プリンツの目に輝きが戻った

 

「このレーダーで敵感知能力、命中率、その他諸々を底上げ出来る」

 

「これ…ずっと欲しかったんだ…私が付けて良いの⁉︎」

 

「お前の為に造ったんだ。是非使ってやってくれ。あぁ、俺は前の提督みたいに装備取ったりしねぇから、心配すんな。俺は造る方が好きなんだ」

 

「す、凄い…」

 

「あ、そうそう。塗装は軽く迷彩にしてある。まぁ、海上で役に立つか分からんが…」

 

「ありがとう…スティングレイ…嬉しいよ」

 

プリンツは他国の人間から初めて愛された

 

ミハイルは勿論優しかったが、国は同じ

 

ここの人は、皆温かかった

 

「ったく…お前と言い、鹿島と言い、何で艦娘って奴はこんなに涙が似合わないかな⁉︎」

 

「だって…こんなの初めてで…」

 

「ほら笑え。俺が何でこんなに気合入れたか分かるか⁇」

 

「何で⁇」

 

プリンツの肩を掴み、力を込めた

 

「演習で見返してやるんだ‼︎”貴方が見捨てた私は、こんなにも強いんだ‼︎”って。俺は、その入口まで連れて行ってやる」

 



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特別編 ドイツの魔女(3)

「見返す…私に出来るかな⁇」

 

「お前なら出来る‼︎俺が鍛えてやる‼︎」

 

「…うん‼︎分かった‼︎やってみるよ‼︎」

 

それから数日、俺とプリンツの特訓が始まった

 

鹿島としおいも特訓に加わり、プリンツはみるみる内に成長して行った

 

「ぷはぁ‼︎鹿島上手いね‼︎」

 

水中からしおいが出て来た

 

「レイの造ったソナーと爆雷、とっても高性能なの‼︎」

 

「ナマコとかウニ取れたよ」

 

岸にペチャペチャと音を立てて、海産物が投げられていく

 

「ファイヤァ‼︎」

 

しおいの後ろから聞こえて来た砲撃音が、二人の耳を突く

 

「どれどれ…」

 

鹿島が双眼鏡を覗くと、的を四つ同時に撃ち抜くプリンツの姿があった

 

「見せて〜‼︎ね〜‼︎」

 

いつの間にか海から上がり、鹿島の服を引っ張るしおい

 

「はいっ」

 

鹿島から双眼鏡を受け取り、二人を見る

 

「プリンツも凄いけど、パ…スティングレイも凄いね‼︎」

 

「パ⁇」

 

「何でもないよぅ‼︎はい、ありがと‼︎」

 

双眼鏡を返したしおいは、先ほど上げた海産物をネットに入れ、そのまま基地に帰って行った

 

「でもまぁ…」

 

再び二人を見る

 

「あの二人なら、どうにかなるのかしら…ね⁇」

 

 

 

数日後…横須賀で演習が開かれた

 

ワンコ、ラバウル、そして、柱島基地が残った

 

俺達が当たるのは、柱島基地だ

 

「あの…」

 

「あいつだな」

 

プリンツが元いたのは、柱島基地

 

「やるだけの事はやって来い。武蔵としおい、たいほうやローマだっている。フォローは万全だ」

 

「ん…分かった‼︎頑張るよ、私‼︎」

 

意気揚々とプリンツが海原に出た

 

「ふっ…捨て駒に何が出来る」

 

俺の横に居たのは、柱島の提督だ

 

「ま、せいぜい足掻いて…」

 

柱島の提督が何か言おうとした瞬間、砲撃音が四回連続で響いた

 

プリンツの連撃だ

 

プリンツは性能のバランスが良く、クセの少ない重巡洋艦だ

 

そんな彼女に、あえて魚雷を装備させず”連撃”と呼ばれる二回攻撃を短期間で叩き込んだ

 

当たり所が良ければ、戦艦や正規空母も撃沈する事が可能だ

 

「戦艦比叡、撃沈判定‼︎」

 

「捨て犬が何を…」

 

柱島の提督は歯を食い縛っていた

 

柱島の艦隊が、みるみる内に少なくなる

 

6隻居たのに、もう一隻しかいない

 

武蔵が二隻

 

たいほうも二隻

 

そして、プリンツが一隻

 

しおいとローマは敵の足止めをし、それぞれが花道の準備を施していた

 

残っているのは、敵の旗艦”加古改二”のみ

 

「ふっふっふ、プリンツ、強くなったねぇ…」

 

「良いアドミラルさんに当たったの。私は生まれ変わった‼︎」

 

「これ、何だか分かる⁇」

 

加古の体には、Fumoレーダーが装備されている

 

「いらない。私のアドミラルさんは、もっと良いのを造ってくれる」

 

「その減らず口がいつまで続くか…なぁ‼︎」

 

加古が砲弾を放つ

 

プリンツはギリギリまで引きつけ、着弾寸前に後退、砲撃を回避した

 

「ファイヤァ‼︎」

 

彼女は一瞬の隙を見逃さなかった

 

プリンツの連撃が唸り、火柱が上がった

 

「そこまで‼︎勝者、旗艦武蔵隊‼︎」

 

「やった…やったよ‼︎」

 

 

 

「よしっ‼︎」

 

観戦していた手に力がこもる

 

援護はあれど、同等戦力に対し、この戦果は十二分だ

 

「何故だ…何故負けた…」

 

柱島の提督が膝から落ちた

 

「プリンツの力を見極められなかったのが、お前の敗因だ」

 

「スティングレイさんっ‼︎」

 

横からプリンツが抱き着いて来た

 

余程嬉しかったみたいだ

 

「よしよし‼︎よく頑張ったな‼︎間宮でケーキ食べような‼︎」

 

「やった‼︎」

 

プリンツとしおいは決勝には出ない

 

代わりに、雲龍とはまかぜが出る事になっている

 

俺達はこれで充分だった

 

「パ…スティングレイ‼︎私も活躍した⁉︎」

 

相変わらず何か言いたそうなしおいが、俺の服の裾を軽く握っていた

 

「当たり前だ‼︎お前も来い。ケーキ食べよう」

 

「やったね‼︎」

 

「スティングレイ、後は任せろ。二人共、よく頑張ったな‼︎」

 

「ケーキ食べるんです‼︎」

 

「私、栗のケーキ食べてみたい‼︎」

 

「ゆっくりしておいで‼︎」

 

二人を連れ、間宮に向かう

 

「パ…」

 

「ん⁇」

 

「な、何でもない…」

 

最近、しおいが”パ”と言う事が多い

 

「スティングレイさんは、しおいのパパ⁇」

 

「そうだ。俺が造っ…そう言う事かよ‼︎」

 

あれ程鹿島に言われていたのに、プリンツに言われてようやく気付いた

 

「あ〜…でも、パパが二人居たら、どっちか迷うね」



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特別編 ドイツの魔女(4)

「やっぱりレイでいいや‼︎うんっ‼︎レイにする‼︎でも…」

 

「ん⁇」

 

「たまには、呼んでも…いい⁇」

 

「いいぞ」

 

「私は何と呼べば…」

 

「レイでいいよ。俺も短い方がいい」

 

「分かった」

 

間宮の暖簾を分け、俺としおいはいきなり注文をする

 

「生で‼︎」

 

「栗で‼︎」

 

「なんだろ…何か卑猥…」

 

席に座り、プリンツにメニューを渡した

 

「プリンツはどれにする⁇」

 

「え〜と…このオレンジ色のケーキで‼︎」

 

「ニンジンケーキ一つ‼︎」

 

「かしこまりました〜」

 

霞が居ないと、何だか物足りない

 

「ちょっとだけ待ってて。すぐ帰る」

 

席を離れ、間宮の所に行く

 

「チョコケーキ、追加しといてくれ」

 

「かしこまりました〜」

 

間宮を出て、人混みに戻る

 

海上に艦娘の姿は無い

 

どうやら準備時間らしい

 

そんな中、準備している艦娘の中に霞がいた

 

「霞」

 

「スティングレイ⁉︎どうしたの⁇」

 

「来い」

 

「あ‼︎ちょっと‼︎」

 

霞の手を引き、間宮に戻る

 

「座れ座れ‼︎」

 

全員の前にそれぞれのケーキが置かれ、霞の前にチョコケーキが置かれた

 

「私、今日何もしてないわ⁇」

 

「いいか。鹿島には内緒だぞ⁇」

 

「分かった‼︎」

 

「言わない‼︎」

 

「言わないわ」

 

「よし、食おう‼︎頂きます‼︎」

 

それぞれがケーキを口に運ぶ

 

俺は俺で中々忙しかった

 

しおいの口を拭いたり、霞の口を拭いたり…

 

まるで父親がやる様な事を、両サイドに座った少女に施す

 

「美味しいか⁇」

 

「美味しいわ‼︎やっぱり間宮ね‼︎」

 

「美味しい‼︎」

 

「んぅ〜っ‼︎ここのプリンはすっごく甘いです‼︎」

 

「あぁ、プリンもオススメだったな…はっ‼︎」

 

プリンツの横で、いつの間にか鹿島がプリンアラモードを突いていた

 

「い、いつの間に⁉︎」

 

「今です」

 

「あ…あはは…」

 

「何を怯えてるんです⁇」

 

子供達にお菓子を食わせていた事がバレた

 

逃げるか…⁇

 

いや、こいつらを置いて行く訳にはいかない

 

「一回や二回で怒りませんっ。でも、食べ過ぎはいけませんよ⁇」

 

「分かった‼︎」

 

しおいが潔く返事をした

 

たいほうと同じで、しおいにも若干幼さが残っている

 

普段過ごしていて、案外出来そうで出来ない事がある

 

簡単な事…何かを持って来て欲しいだとか、誰かの傍に居ろだとか…そんな事は聞ける

 

だが、少し難しい事…普段使っている魚雷の説明だとか、難しい漢字が読めなかったりする

 

それに、服を引っ張る癖…

 

あれは、子供が誰かに甘える仕草だ

 

ま、それでこそ可愛げがあるんだがな…

 

「ごちそうさま‼︎」

 

「ふっふっふ…いいストレス解消になった‼︎」

 

武蔵達が帰って来た

 

演習も終わったみたいだ

 

「たいほうよ。何がたべたい⁇」

 

「おもちとあずきのすーぷ‼︎」

 

「では、それを二つだ‼︎」

 

武蔵はお汁粉を二つ頼み、俺達の横に座った

 

「さ、出よう。間宮‼︎」

 

「お会計は此方になります」

 

「あの二人の汁粉の分も追加で頼む」

 

「あ…かしこまりました‼︎」

 

結局、鹿島の分も払った

 

「じゃあな、お二人さん。良く頑張ったな」

 

「うぬ‼︎私とたいほうのこんびは最強だ‼︎」

 

「さいきょう⁉︎」

 

口の周りに小豆の汁をいっぱい付けたたいほうが此方を向いた

 

「ふっ…ごちそうさま」

 

「またのご来店を‼︎」

 

間宮から出ると、しおいと霞は鹿島と共に、工廠の見学に向かった

 

「プリンツはどうする⁇俺と来るか⁇」

 

「うん」

 

プリンツと共に、横須賀の基地内を歩く

 

「あれが噂の…」

 

「元傭兵だって…」

 

「あんな奴が…」

 

周りからヒソヒソと話し声が聞こえてくる

 

「あ…あの…」

 

「気にすんな。今に始まった事じゃない。それに、元傭兵ってのは事実だ」

 

周りに聞こえる位の声で言ったためか、声が一瞬止んだ

 

「あの海外の重巡洋艦…」

 

「やはり、規格外の設計…」

 

「先程の連撃は…」

 

「…」

 

俺はこう言った噂話しは気にしないが、プリンツは慣れていない

 

少し泣きそうになっているのが、俯いていても分かった

 

「ほら」

 

プリンツに手を差し出した

 

「お前に負けた奴らの遠吠えなんて聞くな。所詮は俺達に勝てないヘボヘボ提督達の戯言だ」

 

「辛いよ…私。こんな風に思われてたなんて…」

 

「そらっ‼︎」

 

プリンツの手を握り、その場から駆け足で離れた

 

「はっはっは‼︎愛の逃避行みたいでいいな‼︎」

 

「…うんっ‼︎」

 

提督の群れから随分離れた所で手を離し、足を止めた

 

目の前には海岸に続く階段があり、

二人共そこに腰を下ろした

 

「嬉しかった…です」

 

「そうか⁇」

 

「私、こんな事されたの初めてで…どう言ったらいいか…」

 

「ダンケシェーン、だ」

 

「え⁇」

 

「日本語で”ありがとう”って意味だろ⁇」

 

「そうだけど…」

 

「少しは知ってるんだぞ⁉︎俺も馬鹿じゃない‼︎このマーカス・スティングレイ、実は天才なのだ‼︎はっはっは‼︎」

 

立ち上がって拳を突き上げる俺の横で、プリンツは顔を赤らめて一言呟いた

 

「イッヒリーベ…スティングレイ」

 

「⁇」

 

「あはは。分からなくていいですよ」

 

「”愛してる”か…鹿島から言われて、どう答えを返していいか迷うんだ…」

 

「な、何で…」

 

「プリンツはドイツの出身だったな⁇よいしょ」

 

再びプリンツの横に座った

 

「は、はい」

 

「ドイツには、随分世話になった人がいるんだ…」

 

 

 

数年前…ドイツ郊外にて

 

隊長と俺は、二人で哨戒任務に当たっていたが、悪天候の為、民間の滑走路に降りた

 

猛吹雪の中じゃ、戦闘機は何も出来なかった

 

しかも俺は軽い凍傷に見舞われていた

 

俺は小さな病院に運ばれ、しばらく入院する事となった

 

満足に看護婦もいない病院…

 

粗末な治療…

 

正直、嫌気がさした

 

そんな時、一人の娘街が看病をしてくれた

 

俺達が降りるのを見て、パイロットを一目見たかっただけだったのが、怪我をしていたので看病しない訳にはいかないと思ってくれたらしい

 

帰る前に、娘と約束をした

 

「また、会いに来てくれますよね⁉︎」

 

「そうだな…平和になったら、今度は君から会いに来てくれ。日本はとてもいい所だ‼︎」

 

「行きます‼︎絶対‼︎」

 

 

 

「と、まぁ、その時にドイツ語は少し学んだ」

 

「はぇ〜…」

 

プリンツは少し驚いた顔をしている

 

「ま‼︎約束は果たされたけどな‼︎」

 

「可愛い子ですか⁇」

 

「可愛いさ‼︎ま、ちょっと素直じゃない所もあるが、そこがまたいいもんだ‼︎」

 

「好きですか⁇その子の事」

 

「好きさ。勿論」

 

プリンツはため息を吐いた

 

「鹿島さんはどうするんです⁇」

 

「それを言われると敵わないな…どっちも好きなんだ…」

 

「早く選ばないと、他の人が取っちゃいますよ⁇」

 

「そうだなぁ…でも、こればっかりは焦ったらダメだとも思う」

 

「私は…その中に入ってますか⁇」

 

勇気のいる質問だと思う

 

だが、俺の答えは決まっていた

 

「入ってるよ、勿論。鹿島を選ぶか…その子にするか…う〜ん…」

 

プリンツに背を向け、悩む振りをする

 

だが、心の中ではこう思っていた

 

”早く気付け”

 

俺を看病したのはお前だ‼︎

 

正直、声を大にして言いたかった



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特別編 ドイツの魔女(5)

「ちょっと、背中見せて下さい」

 

「んっ」

 

革ジャンとタンクトップをまくり、背中を見せた

 

背中には、若干だが凍傷の痕が残っていた

 

「あ〜‼︎やっぱり‼︎スティングレイだったんですね‼︎」

 

「気付けバカ‼︎」

 

「じゃあ、その女の子って…」

 

「あ…あんまり恥ずかしい事言わすな。行くぞ」

 

先に歩き始め、若干間が空いた後、プリンツが横に来た

 

「嬉しいです、私‼︎」

 

「俺もさ。ありがとうな」

 

「ふふっ…」

 

「えいっ‼︎」

 

左腕が掴まれた

 

あれ⁇プリンツは右側に居たんじゃ…

 

「浮気ですか〜⁇」

 

掴んで来たのは鹿島だ‼︎

 

一応でも何でも無い‼︎これは完全な浮気だ‼︎

 

「違います‼︎」

 

意外にも反発したのはプリンツだった

 

「私、今日の事の御礼をしてたんです‼︎」

 

「本当〜⁉︎」

 

何もかも見透かされた様な目で、俺達を見詰める

 

「ぐぬぬ…」

 

プリンツが後退し始めた

 

そして、とんでもない事を言った

 

「私、スティングレイが好きです‼︎」

 

あまりにも恥ずかしかったのか、そのまま駆け足で場を後にした

 

「レイ⁇」

 

「はひ‼︎」

 

鹿島に握られた腕に力がこもる

 

だが、痛くは無い

 

「嫉妬はしてません。レイは悪くないです」

 

「悪かった…」

 

「謝る必要は無いです。でも…少しだけ、こうさせて下さい」

 

「あ…あぁ…」

 

正直、プリンツが来るまでは鹿島に指輪を渡そうと思っていた

 

現に、今も内ポケットに入っている

 

だが、今になって揺らぎ始めた

 

俺は一体何をしてるんだ…

 

最初は、グラーフに恋をした

 

だが、あまりにも素っ気ない態度の繰り返しの為、脈が無いとかなり前に分かった

 

実は向こうも満更では無かった様だったが…

 

その隙間を埋めるようにジェミニに付き合って貰って、プリンツと出会って…

 

そして、鹿島に愛して貰っている

 

鹿島に関しては疑いを持つ程、俺に愛を向けてくれている

 

最低な男だ…俺は…

 

隊長みたいに、あっさり決められたらなぁ…

 

「お前は、プリンツをどう思う⁇」

 

「いい子と思いますよ。ライバルですけどね…」

 

「あはは…」

 

鹿島は思っていた

 

私はきっと、レイのこういう所が好きなんだと

 

側から見れば、優柔不断の浮気者

 

だけどそれは、皆を均等に愛したいという表れでもある

 

私は、そんな彼を尊敬してる

 

だから…好き…

 

「帰ろう。俺達の家へ」

 

「えぇ」

 

 

 

 

演習から一週間が経った

 

プリンツはあの演習で自信を取り戻し、元の優しく明るい性格に戻っていた

 

鹿島はと言うと…

 

「レイ⁇ご飯が出来ましたよ⁇」

 

「すぐ行くよ」

 

「レイ⁇おやつの時間ですよ⁇」

 

「分かった」

 

「レイ⁇背中を流します」

 

「…うん」

 

「レイ…来て下さい…」

 

「…待て」

 

そう。ベッタリだ

 

恐らくプリンツに取られたく無いんだろう

 

常に傍に置かれてる気がする

 

「嫌…ですか⁇」

 

「嫌じゃない‼︎すっごく嬉しい‼︎」

 

「ならいいじゃないですかっ‼︎」

 

鹿島に押し倒され、ベッドにイン

 

「今日は本気ですよ…うふふっ」

 

赤みがかった彼女の顔から目を逸らす

 

しかも今日に限ってたいほうも来ない

 

「あ〜。これが交尾かぁ〜…ありです‼︎」

 

ベッドの下から聞き慣れた声がする

 

「しおい‼︎」

 

ベッドの下からしおいが出て来た‼︎

 

「鹿島、今日はしおいがレイと寝るんだよ⁉︎」

 

「あらっ‼︎そうだったわ‼︎」

 

「でもでも‼︎鹿島も一緒に寝よ⁇」

 

「いいですよ」

 

しおいを真ん中に寝かせ、俺達はサイドに横になった

 

「えへへ〜。これが川の字ですねぇ」

 

「そうですよっ。お父さんとお母さん、そして子供が一緒に寝るんですっ」

 

「じゃあ、レイがお父さんで、鹿島がお母さん⁇」

 

「そうだ」

 

「お母さん…」

 

鹿島がボーっとしている

 

「お母さん、お歌歌って⁇」

 

「おいで」

 

しおいは鹿島に抱き着き、子守唄を歌って貰う

 

俺はだんだん静かになるしおいの頭を撫で、更に眠気を誘う

 

そして、十分もしない内に、しおいは完璧に眠った

 

鹿島は優しくしおいに布団を掛け、自身も入る

 

「レイの本当の娘なんですよね…しおいは…」

 

「そう。時々、俺の事を”パパ”と言いかけてる」

 

「羨ましいなぁ…」

 

しおいの愛おしそうに撫でる鹿島

 

彼女なら…俺は…俺は…

 

「私もなりたいなぁ…レイの家族に」

 

その言葉を聞き、頭の中で踏ん切りがついた

 

「鹿島。話がある。食堂に来い」

 

「あ、はい」

 

 

 

食堂の椅子に座って、鹿島を待つ

 

物凄く長く感じる

 

内ポケットに入ったケッコン指輪を入れた箱が、とても重く感じる

 

熱いコーヒーを二つ淹れようとするが手までも震え、コーヒーカップがカタカタ鳴っている

 

「話って何です⁇」

 

ようやく鹿島が来た

 

「ま、飲めよ」

 

鹿島が座り、コーヒーを置いた

 

「マッジいなぁ…」

 

「ちょっと苦いですね…」

 

思っていたより苦い

 

と言うか、苦味しかない

 

「淹れ直してくれないか⁇飲めない…」

 

「うふふっ、私はこれでいいです。コーヒーは苦い物ですっ」

 

「俺のは頼む。カフェオレがいい」

 

「わかりましたっ」

 

カップを持って行き、キッチンでカフェオレを淹れている鹿島を、俺はしばらく見詰めていた

 

「もうすぐ出来ます…レイ⁇」

 

顔を上げた鹿島は、俺が居ない事に気付く

 

「レイ⁇あっ…」

 

背後から鹿島を抱き締めた

 

「俺は…死に損ないで、どうしようもない死にたがりだ。そんな奴でも良いのか⁇」

 

鹿島は、俺が回した腕に手を置いた

 

「レイはレイです。代わりは居ません」

 

「これを受け取ったら、さっき、お前が言った願いを叶えてやる」

 

台所にケッコン指輪の箱を置き、開けた

 

中には銀の美しい指輪が入っている

 

「レイ…愛してるわ…」

 

鹿島が指輪を受け取った後、彼女の後頭部に手を回し、長い口づけを交わす

 

「「「おめでと〜‼︎」」」

 

いきなり数本のクラッカーが弾け、ラッパの音が耳を突いた

 

「な、なに⁇」

 

現れたのは、基地にいる全員だ

 

「スティングレイもケッコンかぁ…長かった…」

 

数分前…

 

二人が部屋を出た後、しおいは目を開けた

 

何となく、スティングレイがプロポーズすると思い、まずパパの所に向かった

 

執務室では、武蔵とパパが書類の整理をしていた

 

「パパ〜、レイがプロポーズするよ〜」

 

「何っ⁉︎あいつもついにか‼︎」

 

パパにとっては、書類は二の次だった

 

「相手は誰だ、しおいよ‼︎」

 

「行ったら分かるよ」

 

それからしおいはみんなを起こしに回り、各人が出歯亀を開始

 

そして今に至る



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特別編 ドイツの魔女(6)

「やっぱりかしまなんだね‼︎」

 

「う…」

 

悪気の無いたいほうの視線が痛い

 

「スティングレイ、私、二人を応援しますよ‼︎」

 

そう言ったのはプリンツ

 

プリンツだけには、鹿島とケッコンすると事前に話していた

 

プリンツは二つ返事で承諾してくれた

 

ここまでして貰ったのに、ケッコンまでワガママ言ったらマズい

 

そう言う見解だった

 

そして何故か、横須賀にも話が行き渡り、次の日には横須賀に呼ばれた

 

 

 

「お…おい…」

 

「早く早く‼︎」

 

しおいが背中を押す

 

横須賀は形だけでもと、身内だけのケッコン式を行ってくれた

 

「お…」

 

「行きましょ‼︎」

 

ウエディングドレスに着替えた鹿島の手を取り、バージンロードを歩く

 

「では、誓いのキスを」

 

神父役は何故か横須賀だったが、この際もういい

 

「往生際が悪いぞ‼︎レイ‼︎」

 

「だ、だぁってろ‼︎」

 

ほんの少しキスを躊躇っただけで、バッカスに茶化された

 

「もう一回聞くけど…俺でいいのか⁇」

 

「レイじゃなきゃ嫌ですよっ‼︎」

 

鹿島の方からキスを貰う

 

会場は拍手喝采

 

俺達が終わると、次はワンコ

 

香取先生の恥じらい顏を見るのは初めてだ

 

「…提督よ。あれが”おねしょた”と言うのか⁇」

 

誓いのキスをする二人を見て、武蔵がボソッと言った

 

「そんな所だ…しかしまぁ、よく落としたもんだ」

 

「確かにな…」

 

ワンコも段々と男らしくなってはいるが、やはり香取先生の貫禄には勝てない

 

香取先生も同じく、彼女の方からキスをした

 

これでワンコの式も終わった

 

「いやぁ〜…いつ見てもいいもんだなぁ〜」

 

二組の式を見て御満悦の隊長

 

それもそうだ

 

ワンコは元とはいえ、二人共自身の部下だからだ

 

「隊長⁇何帰ろうとしてんだよ⁇」

 

「式は終わっただろ⁇」

 

「私はたいほうとぱふぇを食べる」

 

「隊長、もう一組忘れてませんか⁇」

 

隊長と武蔵の思考が止まる

 

そして、出した答えは同じ

 

「「…ラバウル、さん⁇」」

 

「隊長に決まってんだろ‼︎」

 

「明石‼︎連れて行って‼︎」

 

「は〜い」

 

二人して明石に連れられ、服を着替えた

 

「に…似合ってる…か⁇」

 

髪を下ろし、眼鏡を外して、ウエディングドレスに着替えた武蔵が出て来た

 

いつもより可愛い

 

「行こう、武蔵」

 

「…あぁ‼︎」

 

皆と同じく、バージンロードを歩く

 

「誓いのキスを」

 

「て、提督よ…恥ずかしいから、提督からしてくれ…」

 

「ふっ…分かった」

 

たまにしているのに、やはり大勢の前だと恥じらいが出る

 

皆と違い、私からキスをした

 

再び拍手喝采が起こる

 

「提督につけて、私は幸せだ…」

 

「こちらこそ…ありがとう」

 

こうして、式は幕を閉じた

 

一番心配していたスティングレイの相手も決まり、隊長の基地は幸せに包まれた…




重巡洋艦”プリンツ・オイゲン”が、スティングレイの艦隊に加わります‼︎


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40話 鷹のおさんぽ(1)

さ、特別編が終わりました

特別編とはいえ、この後のストーリーにもプリンツはスティングレイの艦隊に居ます

今回のお話は、リクエストが多かった”たいほうがメインのお話”です

横須賀で行なわれる観艦式に参加する為に横須賀鎮守府に訪れた、隊長、武蔵、たいほう

隊長と武蔵が観艦式を見ている中、たいほうは一人、横須賀鎮守府に散歩に向かいます


横須賀から召集がかかった

 

最近多い気がする

 

”旗艦と随伴艦とで、三人で来て下さい”

 

留守番をスティングレイに任せ、基地から出た

 

高速艇に乗っているのは、私とたいほう。そして武蔵

 

後は操縦者だ

 

「観艦式らしいですよ。外国艦のね」

 

「どこの国だ⁇」

 

「書類によると…イタリアですね」

 

「イタリアか…」

 

イタリアと聞くと、若干不安になる

 

「パパ、いたりあって、すぱげっちのくに⁇」

 

武蔵の膝の上で折り紙をしていたたいほうが興味を持った

 

「そうだ。ローマの産まれた国だ」

 

「ろーまのすぱげっちはおいしいね‼︎」

 

たいほうの頭を撫で、窓の外を眺める

 

余程の式なのか、窓の外には長門がいる

 

反対側には島風

 

「提督よ。あれはなんだ⁇ふぃりっぷとは違うな…」

 

武蔵の目線の先には、F-35が編隊飛行をしている

 

「F-35ライトニングⅡ。新型のステルス艦載機だ」

 

「すてるすとはなんだ⁇」

 

「簡単に言えば、レーダーに映らない戦闘機さ。最近の主流は、みんなあれさ…」

 

「パパはのったことある⁇」

 

「あるよ。でも、出来ればあれは載りたくないかな…」

 

「なんで⁇」

 

まさか墜ちたとは言えまい

 

そんな時、武蔵がフォローに入ってくれた

 

「あ…た、たいほうよ‼︎向こうに着いたら、何が食べたい⁇」

 

「かに」

 

「蟹かぁ…繁華街に行けばあるか⁇」

 

「かにはつよいよ。はさみでちょんぎるんだよ‼︎」

 

そう言うたいほうの手には、かにの折り紙がある

 

「おおっ‼︎ついに折れる様になったのか‼︎偉いぞ‼︎」

 

最近、たいほうに折り紙の本を買ってやった

 

確かその本の中でも”かに”は難易度が高い折り方だったと思う

 

「ちょっきんちょっきんちょっきんな〜」

 

私の膝の上に蟹の折り紙を置き、遊び始める

 

「蟹とクワガタはどっちが強いんだ⁇」

 

「くわがた‼︎」

 

腰のポシェットから折り紙をもう一枚取り出し、何かを折り始めた

 

私と武蔵はたいほうの手元を見た

 

下を向き、口を尖らせて折り紙を折るたいほうは、見ていて飽きなかった

 

しばらくすると、蟹を持った逆の手に違う折り紙が現れた

 

「おぉっ…」

 

かなり精巧なクワガタの折り紙がそこにあった

 

「くわがたはね、かにをもちあげてぽいするの」

 

そして私の膝の上に置く

 

薄眼で見ると、結構リアルで怖い

 

「着きましたよ」

 

「ありがとう」

 

二つの折り紙をポケットに仕舞い、高速艇から降りた

 

「ばいば〜い」

 

武蔵の肩車の上で、たいほうが手を振る

 

高速艇は再び、別の基地へと迎えに行く

 

「たいほう、これ忘れたぞ」

 

「ありがと‼︎よこすかさんにあげるの‼︎」

 

折り紙をたいほうに返すと、それをポシェットに仕舞った

 

既に周りには提督が集まっていた

 

横須賀はテントの下で書類を書いていた

 

「隊長‼︎御足労ありがとうございます‼︎」

 

久方ぶりの敬礼を交わす

 

「観艦式だって⁇」

 

「えぇ。イタリアの艦娘です」

 

「お披露目って訳か…」

 

「こちらの名簿の自分の欄に丸を」

 

名簿を渡され、自分の名前に丸を付ける

 

「よこすかさん、これあげる‼︎」

 

たいほうは先程の折り紙を横須賀に渡した

 

「これは…蟹とクワガタね⁇」

 

「たいほうがおったんだよ‼︎うまい⁉︎」

 

「御世辞抜きで上手いわ…部屋に飾ってもいい⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

たいほうは嬉しそうだ

 

「まぁ、まだまだ時間はあります。昼食を済ませて下さい」

 

「分かった」

 

「あ。レイのケッコン、おめでとうございます」

 

「…本人に言ってやってくれ」

 

 

 

繁華街に着くと、早速蟹料理の看板が見えて来た

 

「パパ‼︎かにだよかに‼︎」

 

「蟹食べるか⁇」

 

「かにたべる‼︎」

 

「武蔵も…」

 

視線を武蔵に下げると、既に涎を垂らしていた

 

「武蔵」

 

「はっ‼︎か、蟹がいいな‼︎うぬ‼︎」

 

余程お腹が空いていたみたいだ

 

たいほうを降ろし、店に入る

 

「いらっしゃい。蟹料理”瑞雲”へよく来た」

 

「ぬ…」

 

武蔵の顔付きがちょっと変わった

 

「こちらの席になる」

 

結構賑やかな店内に案内され、席に座ると、メニューを手渡された

 

「この店のメニューは一つだ。蟹鍋だけだ」

 

「これ一つで何人前だよ…」

 

「18人前だ」

 

ドヤ顔の店員が渡したメニューには、どエライ量の蟹鍋の写真が一枚だけ掲載されている

 

「これを一つだ」

 

「うけたまわった」

 

武蔵が注文し、鍋が来るまで待つ

 

たいほうは蟹の水槽の所に行った

 

「奴は元艦娘だ」

 

武蔵が顔付きを変えたのは、自分と同じ戦艦だったからだ

 

「日向だな…あいつ、ここで働いてたのか…」

 

「しかし”蟹料理”瑞雲””という、ねーみんぐせんすはどうだ…」

 

「仕方無い…あいつは瑞雲マニアらしいからな…」

 

「待たせたな」

 

「お…」

 

「きた⁇」

 

たいほうも帰って来て、三人の前に受け皿が置かれ、メインの鍋が置かれた

 

「で…デカいな…」

 

「うぬ‼︎これでこそ戦艦の作る料理だ‼︎」

 

「かに」

 

既に最初の蟹が食べ頃を迎えた鍋が目の前に来た

 

「さぁ‼︎食ってくれ‼︎」

 

「「「いただきます‼︎」」」

 

朝ごはんを抜いてきた三人は鍋を突き始めた

 

だが、私と武蔵はやる事が同じ

 

「ほい」

 

「いっぱい食うんだぞ‼︎」

 

互いにたいほうの受け皿に、剥いた蟹を置いて行く

 

「おいしい‼︎」

 

「そうか‼︎良かったな‼︎」

 

「いっぱい食って、大きくなるんだぞ‼︎」

 

こう見えて、たいほうはかなり食べる

 

そして、それ以上に武蔵も食べる

 

二人が食べ終わった後に残る量でも、私は充分だ…

 

とは思ったが、予想以上に減るのが早い‼︎

 

私も一つ位は食っておかなければ‼︎

 

半時間もしない内に、鍋や追加の蟹も全部無くなってしまった

 

「な…何とか食えた…」

 

こんな高速で無くなるとは…

 

だが私も充分過ぎる程、蟹を堪能出来た

 

「おなかいっぱいになった‼︎」

 

「うぬ‼︎たいほうが満足ならそれでいい‼︎」

 

たいほうも武蔵も満足そうだ

 

「お会計お願い‼︎」

 

店員を呼ぶと、再び日向が出て来た

 

「幾ら⁇」

 

「いらぬ」

 

「え⁉︎」

 

「ここは横須賀鎮守府直営の店だ。提督や艦娘には、全員無料で提供している」

 

「あいつやるな…」

 

「逆に金銭を貰うと困る。だから、その食いっぷりを金銭とする‼︎」

 

「ふっ…いいだろう‼︎ご馳走様だ‼︎」

 

「また来い。今度は全員連れてな」

 

「ごちそうさま‼︎かにはおいしいね‼︎」

 

いつの間に貰ったのか、お土産の蟹のぬいぐるみを抱いて、再び武蔵の肩に乗る

 

「いつでも来い。お腹いっぱい食わせてやる」

 

「うんっ‼︎」

 

「日向、あの刀は…だな…」

 

「構わん。どうせいつかは捨てなければならなかったんだ。それより私は、包丁を握っている方が幸せだ」

 

「そう言って貰うと助かる」

 

「そろそろ観艦式だ。行って来い」

 

「また来る」

 

 

 

繁華街を後にし、観艦式の会場に戻った



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40話 鷹のおさんぽ(2)

数発の花火が上がり、観艦式が始まる

 

「始まった‼︎」

 

「ようこそ‼︎横須賀鎮守府観艦式へ‼︎今日は一人の艦娘の歓迎会も兼ねて行います‼︎」

 

会場では、野郎共の歓声が上がる

 

待ちに待った海外艦の邂逅だ

 

一体、どんな子なのか…

 

会場の幕には”ようこそ zara‼︎”と書かれている

 

「ざらと読むのか⁇」

 

「ざらざらのざら」

 

武蔵の頭の上で、たいほうが駄洒落を言っている

 

「では早速来て頂きましょう‼︎重巡洋艦ザラです‼︎」

 

「こんにちは‼︎ザラ級重巡洋艦、ザラです‼︎」

 

また歓声が上がる

 

ザラは金髪にベビーフェイスの割に、そこそこ巨乳だ

 

プリンツとドッコイドッコイの可愛さだ

 

「ざら…か。人の良さそうな子だな」

 

「おりる」

 

「よいしょ…」

 

たいほうは武蔵の肩車から降りた

 

「おさんぽしてくるね」

 

「あまり遠くへ行くなよ‼︎」

 

「わかった‼︎」

 

たいほうにとって、ザラはあまり興味無かった

 

基地に帰れば、同じイタリア産まれのローマが居る

 

どうせすぐ会えなくなる彼女より、いつでも自分を大切にしてくれるローマの方がよっぽど好きだった

 

蟹のぬいぐるみを抱き締め、繁華街に戻ると、瑞鳳がいた

 

「ずいほ〜」

 

瑞鳳の出店から、たいほうの目だけが瑞鳳に見えていた

 

「あら⁉︎たいほうちゃん⁇観艦式は行かないの⁇」

 

「もうみたよ。ざらざらのざら」

 

「たいほうちゃん、プリンたべりゅ⁇」

 

「たべりゅ‼︎」

 

出店の裏に座り、瑞鳳からプリンを貰う

 

「プリンも卵なのよ⁇はいっ」

 

「いただきます」

 

ぬいぐるみを抱いたまま、瑞鳳のプリンを口に運ぶ

 

「おいしい‼︎」

 

「しばらくお散歩するの⁇」

 

「うん。ざらのかんかんしきがおわるまでする」

 

「そっか…なら、横須賀の色んな所を回るといいよ⁇」

 

「こーしょーにいくの‼︎あたらしいひこーきみる‼︎」

 

「いいかもね‼︎」

 

「ごちそうさま‼︎」

 

「気を付けてね〜」

 

瑞鳳の出店を後にし、工廠を目指す

 

「と〜れと〜れぴっちぴち、かにずいう〜ん」

 

先程、日向の店で流れていたテーマソングを口ずさみながら、工廠の扉の前に着いた

 

「わぁ」

 

工廠の中では、新しい戦闘機が造られていた

 

空母のたいほうにとって、綺麗な機体は夢の様な存在

 

「おや…君は何処の子かな⁇」

 

たいほうの前に、中年の男性が現れた

 

「君は大鳳だね⁇提督の名前は⁇」

 

中年の男性は膝を折って、目線をたいほうに合わせる

 

彼は優しく接しているつもりだが、たいほうは少し後退りした

 

「瑞雲に行って来たのかい⁇」

 

たいほうが大事そうに抱いているぬいぐるみを見て、彼はにこやかに言った

 

「蟹は美味しかったかい⁇」

 

「…おいしかった。ぬいぐるみもくれたよ」

 

たいほうは彼にぬいぐるみを突き出した

 

「ははは‼︎それで、提督は何処に行ったんだい⁇」

 

「たいほうおさんぽしてるの。パパはかんかんしきで、ざらみてるよ⁇」

 

「ザラか…いい事を聞いたよ‼︎パパの所には行かないのかい⁇」

 

「いかない」

 

「じゃあ、ちょっとだけ中を見るかい⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

男性に連れられ、間近で機体を見る

 

珍客が現れ、たいほうの周りにはゾロゾロと人が集まって来た

 

「わぁ〜…おっきなきたい…」

 

「これはT-50って言うんだ。この基地の主力戦闘機さ」

 

「パパもね、せんとうきにのるの‼︎」

 

「ほぅ…これは珍しい提督だね」

 

「パパはね”さんだーばーどたい”にいたんだっていってた‼︎たいちょうさんだったんだって‼︎」

 

にこやかに話すたいほうの言葉を聞き、工廠の中が急に静まり返った

 

そして、中に居た全員がたいほうに敬礼をした

 

「失礼しました‼︎」

 

「だ、だめだよ‼︎パパがけーれいはしちゃだめだって‼︎」

 

見慣れない光景に、たいほうは焦った

 

「やはり大佐の娘だ…敬礼を嫌う」

 

「パパしってる⁇」

 

「ここの工廠で知らない人は居ないよ。とても立派なお方だ」

 

「パパのことすき⁇」

 

「勿論さ‼︎言葉で言い表せない程、私達はとても世話になった‼︎」

 

「たいほうもパパすき‼︎いっしょだね‼︎」

 

工廠が一気に和やかになった

 

普段、時々艦娘が訪れる位で、尚且つ頼み事ばかり

 

そんな場所に、自分達の造った物に興味を持つ小さな女の子が現れたのだ

 

癒しになる事は間違いない

 

「たいほうもういくね」

 

「またいつでもおいで」

 

「ばいば〜い‼︎」

 

男衆に見送られ、次は海岸に向かった

 

波打ち際で綺麗な貝を探したり、小さなガラクタを探していた

 

「なにこれ‼︎」

 

たいほうが見つけたのは、とてもいい匂いがする流木

 

ポシェットに入る位の小さい物で、たいほうは海水で少し洗った後、水を切ってハンカチで包んでポシェットに入れた

 

「はぁ」

 

歩き回って疲れたのか、砂浜の近くにある階段で腰を下ろした

 

「かにずいう〜ん」

 

蟹のぬいぐるみを弄りながら、またテーマソングを歌う

 

「たいほうよ。ここにいたか‼︎」

 

「むさし‼︎」

 

武蔵と隊長が来た

 

観艦式が終わったみたいだ

 

「お散歩は終わったか⁇」

 

「うん‼︎ずいほ〜のぷりんたべて、こーしょーにいったよ‼︎」

 

武蔵に抱き上げられ、胸の中で楽しそうに小さな冒険の話をする

 

「…何の匂いだ⁇」

 

たいほうに顔を近付けた武蔵は、たいほうからいい匂いがするのに気が付いた

 

「これのにおいかな⁇」

 

ポシェットから先程の流木を出し、武蔵の鼻に近付けた

 

「これはなんだ⁇」

 

「なんだろ…でもいいにおいするね‼︎」

 

「横須賀に見せに行くか⁇」

 

「いく‼︎」

 

三人で会場に戻ると、横須賀は先程のテントに居た

 

「隊長、ゆっくり楽しんで行って下さいよ⁇」

 

「楽しんでるさ。たいほうが何か拾ったんだ。見てくれるか⁇」

 

「これ‼︎」

 

たいほうは横須賀に流木を渡した

 

匂いを嗅いだ途端、横須賀の顔付きが変わった

 

「こ、これは…明石‼︎」

 

「は〜い‼︎」

 

流木は明石の手に渡り、再び匂いを嗅ぐ

 

「これは珍しい‼︎竜涎香です‼︎」

 

「いいにおいするね」



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40話 鷹のおさんぽ(3)

「物凄く高いお香になりますよ‼︎」

 

「あかしできる⁇」

 

「出来ますよ‼︎出来上がり次第、お届けしますよ⁇」

 

「おねがいします‼︎」

 

「分かりました‼︎」

 

明石は竜涎香を持ち、そのままどこかに行った

 

「ザラと話しましたか⁇」

 

「いや、まだだ。話せるのか⁇」

 

「今、各所を回っているはずですよ」

 

「ん〜…」

 

「どうした、たいほうよ」

 

武蔵の肩の上で、たいほうがムズムズしている

 

「ざらこわい」

 

「怖くないさ‼︎ザラはいい子だぞ⁇」

 

「たいほう、ろーまがいい」

 

「でもたいほう。挨拶はしないとな⁇」

 

「うん…」

 

どうもたいほうはザラを怖がっている

 

理由は何故かは分からないが、武蔵からくっついて離れない

 

そんなたいほうを尻目に、ザラに近付く

 

間近で見ると、良い所育ちのお嬢様っぽく見え、小柄な割に気品が漂う

 

「御機嫌よう‼︎大佐‼︎」

 

「おっと…」

 

何故か私の事を知っているザラ

 

「向こうで貴方の話を聞きました‼︎ヴェネチアを護って頂き、ありがとうございました‼︎」

 

ザラは金髪を揺らし、私に頭を下げた

 

「いや…俺は…」

 

イタリアの地名を言われると、やはり気が引ける

 

自身の産まれた国だと言う事もあるし、ローマの一件もある

 

…目元とかリットリオにソックリだ…

 

「この子は大佐の子ですか⁇」

 

「そう。たいほう⁇こんにちはは⁇」

 

「…こんにちは」

 

ザラと目を合わすが、すぐに武蔵に抱き着く

 

「さっきからずっとこんな調子なんだ…」

 

「けずられる」

 

「けずられ…あぁ‼︎たいほうちゃん、私の髪の毛、触ってみて⁇」

 

再びザラの方を向いたたいほうは、彼女の髪に触れた

 

「わぁ‼︎さらさら‼︎」

 

たいほうに笑顔が戻った

 

「でしょう⁉︎大丈夫よ‼︎」

 

「…皆目分からぬ」

 

「私、名前が名前で、子供達によく言われるんです”触り心地もザラザラなのか”って」

 

「ちょっと分かった」

 

つまりはこう言う事

 

子供達はザラと名前を聞き、触り心地もザラザラだと思い、近寄らないし、触りもしない

 

その誤解を無くすため、彼女は髪を触らせた

 

たいほうが”けずられる”と言ったのも、その為だ

 

「ざらのかみ、いいにおいするね」

 

「そう⁇」

 

「隊長、そろそろ帰りの船が…」

 

「もうそんな時間か…」

 

横須賀から言われ、時計を見るともうすぐ日暮れになる時間だった

 

「大佐。私は横須賀に配属になりました。いつでもお声掛けを‼︎」

 

「分かった。ありがとう、ザラ」

 

「こちらこそ‼︎」

 

ザラと別れ、船に乗る

 

船の中では、相変わらずたいほうは蟹のぬいぐるみで遊んでいた

 

「楽しかったか⁇」

 

「たのしかった‼︎またいこうね‼︎」

 

三人、船に揺られ、基地に戻る

 



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41話 母の気持ち(1)

さて、40話が終わりました

たいほう回が終わり、再び基地での生活が始まります

パパが見ていた新聞の一面記事に書かれていた事から、基地の空気が一変します


「ほ〜」

 

横須賀が毎朝持って来る新聞に”敵母港空襲成功‼︎”との記事が書かれていた

 

「敵の母港空襲だと」

 

「複雑だよな…今の俺達は…」

 

スティングレイもあまり嬉しくなさそうだ

 

「敵とはいえ、一時的に向こう側に居たんだ。素直に喜べな…」

 

「ほっぽちゃん⁉︎ほっぽちゃん‼︎」

 

表でたいほうが騒いでいる

 

「たいほう⁉︎」

 

異変に気付いた私達は、たいほうの所に駆け寄る

 

「あっ‼︎」

 

「なんだよ…これ…」

 

空襲された母港からだろう

 

大量の深海棲艦が横たわったまま、この基地に流れ着いていた

 

中にはほっぽちゃんとコウワン=サンもいる

 

「ローマを呼べ‼︎医療班‼︎」

 

工廠の奥から、妖精達がゾロゾロと集まって来た

 

”なんやなんや‼︎”

 

”一大事か⁉︎”

 

「見ろ」

 

妖精達が一斉に海を見る

 

全員が息を飲む

 

「助けられる奴から応急処置。助けられない奴でも基地に上げろ‼︎」

 

”おっしゃ分かった‼︎”

 

”久々の仕事や‼︎”

 

妖精達は小さなボートに医療キットを詰め込み、救助に向かった

 

「ちょっと何よコレ‼︎」

 

遅れてローマも来た

 

「恐らく、一昨日の敵母港空襲から流れて来たんだろう」

 

海を眺めていた私を、ローマは鼻で笑う

 

「どうせ助けるんでしょう⁇」

 

「出来る範囲でいい。頼む」

 

「分かったわ。陸に上げたら、後は私が何とかする。入渠ドックに居るから、そこに運んで」

 

「ありがとう。頼んだよ」

 

ローマが入渠ドックに行った後、間髪入れずにスティングレイのジェットスキーが出る

 

背中にリュックを背負い、後ろのパックにも医療キットをギュウギュウ詰めにしている

 

「パパ…ほっぽちゃんが…」

 

泣きそうな顔で、たいほうが私の所に来た

 

「大丈夫。パパが助けるから。なっ⁉︎」

 

「うん…」

 

ほっぽちゃんを担ぎ、入渠ドックに向かう

 

「提督よ‼︎こうわん=さんも入渠か⁉︎」

 

武蔵はコウワン=サンを担いでいる

 

「そうだ‼︎入ったら高速修復のバケツを使え‼︎倉庫に腐る程ある‼︎」

 

急いで入渠ドックに向かい、意識の無い二人を入渠させる

 

「頼むぞ…目を覚ませ…」

 

ほっぽちゃんの頭を撫でた後、再び外に出る

 

基地一帯は地獄絵図だった

 

青い水平線には黒い点が続き、亡骸なのか生きているのか分からない

 

普段たいほう達が遊んでいる砂浜やコンクリートの港は応急処置の仮施設となっている

 

”戦艦ル級、高速で接近‼︎手負いや‼︎”

 

海上で処置を続ける妖精から無線が入る

 

「手を出すな‼︎無視しろ‼︎」

 

”そっち行ったで‼︎頼むで‼︎”

 

言ったしりから、此方に向かって来る深海棲艦が見えた

 

私が立っていた砂浜の前で止まり、鋭い眼光で此方を睨んでいる

 

ル級の手には産まれたてであろう、イ級が抱かれていた

 

「よく頑張った…」

 

ル級は私の言葉を聞き、少しだけ微笑んだ後、震えた手で私にイ級を託し、膝を落とした

 

「武蔵‼︎」

 

「なんだ‼︎」

 

私の声に気付いた武蔵が、此方に寄って来た

 

「手暑く頼む…」

 

「この子は…分かった、任せろ‼︎」

 

私と武蔵の目には、うっすら涙が流れていた

 

互いにイ級の姿に、たいほうを写したのだ

 

「生きろよ…絶対…」

 

イ級を入渠ドックに入れ、続いてル級が放り込まれる

 

「救ってやらねば…」

 

「あぁ…」

 

「もう少しだ。海上は妖精とすてぃんぐれい達が頑張ってくれている」

 

「あぁ…」

 

「提督よ…」

 

私はドックに横たわるル級を眺めていた

 

変わらない…

 

何も変わらないじゃないか…

 

子供を愛する気持ちは…何も…

 

「提督よ‼︎しっかりしろ‼︎」

 

「…」

 

「あらかた終わった…ぜ…」

 

スティングレイが報告に来たのにも気付かず、私はル級を眺め続けていた

 

「これが”戦争”さ…親子の愛でさえ、簡単に引き裂いてしまう…」

 

「提督よ…」

 

「生きた力と生きた力の衝突なんだ…戦争は…だが見ろ‼︎これが現実だ‼︎」

 

「分かっている…分かって…」

 

「だから嫌いなんだ…だから降りたんだ‼︎必要最低限しか、敵を倒さずにここまで来た。全て水の泡だ…」

 

「隊長」

 

ようやくスティングレイに気付き、彼の方を向いた

 

「そんな隊長だったから、俺達は着いて行ってるんだ。戦争なんかよ、老人共が机の上でやってりゃいいんだ」

 

「スティングレイ…」

 

「忘れてる様だから、もう一回言っとくぜ」

 

スティングレイは私の左肩に手を置いた

 

「隊長のした事に、間違いなんてない。俺達は、それを胸張って言える」

 

「ありがとう…二人共…」

 

「その証拠に、外を見てくれ」

 

入渠ドックを出て、外を眺める

 

「あ…」



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41話 母の気持ち(2)

目線の左には、バケツを沢山持って大和

 

右には、駆逐艦を従えた香取先生

 

そして正面には、U-511が見えた

 

「みんな、隊長を信じてる。ワンコもラバウルさんも、ミハイルさんも…みんな隊長を信じて来てくれた‼︎」

 

「ありがとう…みんな…」

 

目の前の光景に、涙が止まらなくなった

 

そっか…私には仲間が居たんだ…

 

心の底から信頼出来る、仲間が…

 

「じき処置も終わる。それと…みんなから電文が来てる」

 

スティングレイから渡された電文が三枚

 

 

 

バケツを持たせて、すぐに救援を送ります‼︎

 

単冠湾

 

 

 

少しばかりの資材と資源を持たせて艦隊を向かわせます。

 

それまでどうか、持ち堪えて下さい

 

ラバウル航空戦隊

 

 

 

近くに停泊しているので、U-511を救援に向かわせます。

 

海中から彼等の救難信号をキャッチし、そちらの基地に運ばせます

 

P.S.

 

バケツと応急修理要員を少しだけ持たせました

 

お使い下さい

 

ドイツ海軍 ミハイル

 

 

 

「良い仲間を持ったな…私は…」

 

「隊長の人柄さ。さ‼︎もう一踏ん張りだ‼︎」

 

私は涙を払った

 

「あぁ‼︎」

 

 

 

 

数時間後…

 

「終わった…」

 

「何とかなったな…」

 

息も切れ切れに、コンクリートの上に横たわる二人

 

大半は何とかなった

 

まだ深刻な状態の奴はいたが、後は妖精に任せて大丈夫そうだ

 

「空は広いな…隊長…」

 

「そうだなぁ…」

 

少し日が暮れ始めた空を、二人で眺める

 

「懐かしいよな…隊長とこうするの、久し振りだ…」

 

スティングレイは空に手を伸ばし、何かを掴む仕草をする

 

「吸うか⁇」

 

「サンキュー」

 

煙草を吸いながら、ボーッとする

 

「スティングレイは…何故俺に尽くしてくれる⁇」

 

「隊長がそうしてくれたから、そうしてるだけさ…それに、隊長と居たら、毎日が楽しいしな。捨て駒と知ってこき使われてたあの時と違って、隊長は俺を信じてくれる。俺はそれだけで充分さ」

 

「良い部下を持った…本当に…」

 

「だろ⁉︎俺は天才で最強だからな‼︎」

 

「ふっ…」

 

「はっはっは‼︎」

 

二人して笑う

 

普段と違わない二人が、そこに居た

 

「パパァ‼︎」

 

「ほっぽちゃん‼︎」

 

ほっぽちゃんが腹の上に乗って来た

 

二人共何とかなったみたいだ

 

「アリガトウゴザイマシタ…」

 

コウワン=サンが頭を下げる

 

「行き場所はあるのか⁇」

 

「アルヨ‼︎ラバウルデオセワニナル‼︎」

 

「そっか‼︎なら良かった‼︎」

 

「大佐。お疲れ様です」

 

ラバウルさんが来た

 

横では、バッカスがスティングレイに手を差し伸べている

 

「助かったよ…」

 

「これが架け橋になれば良いのですがね…」

 

「そうだな…二人を頼みましたよ⁇」

 

「えぇ‼︎今度は我々も、大佐のお手伝いをさせていただきますよ‼︎」

 

「本当にありが…」

 

「アアアアアアァァァァァ‼︎‼︎‼︎」

 

入渠ドックから悲鳴が聞こえて来た

 

ラバウルさんに礼を言った後、皆を置いて入渠ドックに向かう

 

「ローマ‼︎」

 

「提督…」

 

ローマは、イ級が入っていたドックに目をやった

 

既に処置を終えたル級が、イ級を抱いている

 

「あ…」

 

肩を震わせるル級の腕の中にイ級がいた

 

小さな命は…助けられなかった…

 

「すまない…これも人間の業だ…」

 

泣き叫ぶル級の肩に手を置き、その場にしゃがむ

 

ル級は無言のまま、私の腕にイ級の亡骸を乗せた

 

「〜♪」

 

イ級の体を撫でながら、ル級は何かの歌を歌う

 

私はその歌を知っていた

 

「サンター…ルーチーアー」

 

「サンタ、ルチアー」

 

ル級に続いて口ずさむ

 

「コノコノコモリウタ…トテモイイウタ…」

 

愛おしそうに何度も何度もイ級を撫でるル級

 

その姿は紛れもなく、母親の姿だった

 



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41話 母の気持ち(3)

「アリガトウ…テイトク…」

 

「俺は…」

 

「コノコヲミオクッテクレタ…ソレダケデイイ…」

 

返す言葉が無かった

 

自分を情けなく思う

 

こんな時に、優しい言葉も掛けてやれないのか…と

 

「イイニンゲンモイルンダ…」

 

「嫌な奴ばかりじゃないさ。嫌な奴もいれば、良い奴もいる」

 

「…ウミニカエル」

 

「君が良ければ、ここに居ても…」

 

ル級は首を横に振った

 

「ココニイレバ、コノコヲオモイダス」

 

「そっか…ならせめて、墓は建てて行ってくれ」

 

「イイノカ…⁇」

 

「森の先に海が見渡せる場所がある。そこに建てよう」

 

「アリガトウ…」

 

「行こう」

 

ドックを出て、三人でその場所を目指す

 

着くと同時に、私はスコップで土を掘った

 

その後ろでル級は、最後の別れを惜しんでいた

 

しばらくすると穴が掘れた

 

「…どれだけ掛かってもいい。待ってるから」

 

ル級は何度か頬擦りをした

 

何度か目に頬擦りをし、最後に頭を撫でた後、優しく穴の中に置いた

 

「もういいか⁇これで最後だぞ⁇」

 

「ン…」

 

イ級に土を被せ始めた

 

土を被せる度、ル級の目からポロポロ涙が落ちる

 

土を被せ終え、小さな石碑を建てた時、ル級は崩れ落ちた

 

「アァ…」

 

「ル級‼︎」

 

すぐに彼女に駆け寄る

 

「アノコハ…シアワセダッタダロウカ…」

 

「君の子だったのか⁇」

 

「ソウ…マダニカゲツダッタ…」

 

抱き締めるしか無かった

 

「アタタカイナ…テイトクハ…」

 

「生きている証だ…」

 

「イキル…カ…」

 

「悲しいのも、痛いのも…生きている証拠だ」

 

「イマハ…ナイテイイカ⁇」

 

「いいぞ」

 

その後、しばらくル級は泣き続けた

 

日も暮れ始めた頃私達二人は、基地に帰って来た

 

基地内では、未だに慌ただしく動いている連中も居たが、たいほう達は深海のみんなとご飯を食べていた

 

互いに良い顔をしている

 

「コレガ、テイトクノメザス、シアワセカ⁇」

 

「そんな感じさ。状況はどうであれ、互いが分かり合えるのが一番さ」

 

「ナルホド…」

 

「パパ〜‼︎ごはんできたよ〜‼︎」

 

名前は分からないが、人型の深海棲艦の輪の中にたいほう達がいた

 

「すぐ行くよ‼︎さ‼︎行こう‼︎」

 

ル級より一足先にたいほう達の所に行く

 

その後ろで、ル級が呟く

 

「ナルホド…ココハ”ラクエン”ナンダナ…」

 

ル級はみんなのいる場所に向かって歩き始めた

 

 

 

次の日、深海棲艦は海に帰って行った

 

勿論、感謝しない奴も中にはいた

 

それでいいと思う

 

今はまだ、互いに敵同士だ

 

最後に残ったのは、あのル級だった

 

「行くのか⁇」

 

「ウン」

 

「気を付けろよ」

 

「…マタ、キテモイイカ⁇」

 

「勿論さ‼︎いつでも来い‼︎墓参りでも、腹減ってでもいい。いつでも寄ってくれ」

 

「セワニナッタ。トリアエズノオレイハ、コウショウニオイテアル」

 

「有り難く頂戴するよ」

 

「デハナ」

 

ル級は海に帰って行った

 

「隊長」

 

ル級を見送った直後、横須賀が来た

 

「見送っていいので⁇」

 

「いい。俺は信じてる」

 

「まっ、隊長のする事に間違いはないですけど‼︎」

 

横須賀の言葉を聞いて、私は振り返ると同時に鼻で笑う

 

「スティングレイと同じ事言うのな」

 

「あいつと一緒にしないで下さい‼︎バカが移ります‼︎」

 

「聞こえてるぞ〜‼︎一人で寝れないアンポンタンは早く帰りなさい‼︎」

 

メガホンを手にしたスティングレイが、工廠の前にいる

 

「なっ‼︎何ですって⁉︎」

 

横須賀は頭に来たのか、顔を真っ赤にしながらスティングレイの所に駆け寄る

 

遠目で彼等を見つめていると、二人は何か話しながら工廠に入る

 

あぁ見えて、あの二人は仲が良い

 

実は私は、スティングレイと横須賀が繋がると思っていた

 

現に二人は付き合っていた事がある

 

後から知ったが、付き合った別れたではなく、横須賀がスティングレイを慰める為に常に傍にいただけだと知った

 

こうしていると、まるで親になった気分になる

 

子供達が巣立って行くのを、ただただ見守る…

 

”親鳥”ってのは、もしかしたらこんな気持ちなのかも知れないな…

 

 

 

戦艦ル級(未亡人)を筆頭とする味方精鋭深海棲艦部隊が、基地周辺に派遣基地を建てました‼︎

 

平和の架け橋になる様、互いの交流を開始して下さい‼︎




戦艦ル級(未亡人)…帰る家も家族も失った、ちょっと色気のある戦艦ル級

パパの仲間を見て、自分がしたい本当の事を思い出し、周りの深海棲艦に対して武装の解除を試みる

武装解除をした者達と共に、パパの基地から少し離れた場所に非武装地帯を開設する


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42話 青い楽園(1)

さて、41話が終わりました

互いの平和の為に尽力を尽くした、パパとスティングレイ

そんな二人を深海棲艦達は、自分達が開設した非武装地帯に招待します


基地からひとっ飛びした所に、新しい基地が出来た

 

「セントウキ、チャクリク‼︎」

 

見張り台に立った深海棲艦が鐘を鳴らす

 

ここは非武装地帯

 

通称、スカイラグーン

 

別に空に浮いている訳ではなく、パイロット達がよくここで羽休めをする為、この名が付いた

 

ここにいる間は、全員が平等

 

人間であれ、深海棲艦であれ、艦娘であれ、誰もが武装を降ろし、一休みする

 

「オツカレサマ‼︎」

 

「ここがスカイラグーン…」

 

「ノミモノハナニガイイ⁇コーラ、ミルク、アルテイドハアル」

 

「ジンジャーエールはあるかい⁇」

 

「アル。スグハコブ。ソコニスワッテマッテテクレ‼︎」

 

受け付けのル級に案内されたのは、ラバウル航空戦隊の三人

 

哨戒任務を終え、隊長にここを紹介されてここに来た

 

「座りましょうかね…」

 

ラバウルさんに続き、二人も腰を下ろす

 

「オニイサァン、タマッテナァイ⁇」

 

「あ、いや…私は別に…」

 

「ウフフッ、ソウ」

 

スティングレイとどっこいどっこいのイケメンであるバッカスは、その容姿とは裏腹に、身持ちは固かった

 

「ココハヨコスカチョクエイダカラ、ミンナタダ。ホキュウモオショクジモ…ネ⁇」

 

バッカスの顎を撫でながら、離島棲姫はここの説明を始める

 

「み、見返りは無いのか⁇」

 

「アルワ。サンショクヒルネツキ、タガイニコウゲキシナイ。ソレダケ。モクテキノナイハカイヨリ、ワタシタチハコッチノホウガイイノ」

 

「なるほどな…」

 

「アナタ、スティングレイハゴゾンジ⁇」

 

「知ってるも何も、あいつは親友だ…あっ…」

 

離島棲姫の擦り具合に、段々落ち始めたバッカス

 

「スティングレイモイケメンダケド、アナタタチモイケメン…」

 

「離島さん…」

 

「ウフフッ…」

 

離島棲姫はバッカスが気に入ったみたいだ

 

「ジンジャーエールダ」

 

「ありがとう」

 

「バッカス。落ちるなよ⁇」

 

「はっ‼︎」

 

ギュゲスの言葉で目が醒める

 

その頃、奥の入渠施設では…

 

 

 

「あっ…あぁ…」

 

「はぁぁぁぁぁ…」

 

私とスティングレイは露天風呂に入っていた

 

「これが流行りのインフィニティ温泉か…」

 

「最高…」

 

「イイユカゲンカ⁇」

 

「あぁ、最高だよ‼︎」

 

「ユックリシテイクトイイ」

 

戦艦棲姫がオレンジジュースを持って来た

 

「ワタシモハイル」

 

「来い来い‼︎」

 

「入れ入れ‼︎」

 

なんのためらいも無く、彼女を向かい入れる

 

「あ…」

 

バスタオルを取った彼女の腹部を見て、私は罪悪感を感じた

 

「ン⁇」

 

「その傷…」

 

「アァ、テイトクガツケタナ」

 

既に足を入れていた彼女は、身体全体を入れて此方に来た

 

「謝っても許されないよな…」

 

「コレハ、ヘイワノタメノキズ。ココニハ、ヘイワヲネガウヒトバカリ。ワタシモテイトクヲウラマナイ。テカ、スキ」

 

私の腕を掴む戦艦棲姫

 

「ソレニ、カンシャシナクテハイケナイ。ワタシタチニ、フタタビイキルカチヲクレタ」

 

「それは俺達も一緒さ‼︎な、隊長⁉︎」

 

「そうだ。みんなを受け入れてくれて、ありがとう」

 

「スキスキ」

 

「隊長〜、モテる男は困るなぁ⁉︎」

 

「自分に言ってんのか〜⁇」

 

「へっ‼︎」

 

「ふっ」

 

戦艦棲姫を腕に付けたまま、大海原を眺める

 

正直…平和だ

 

「アッタカイ…シアワセ…」

 

「ここがインフィニティ温泉ですか〜‼︎」

 

「明石、これは横須賀に造れる⁇」

 

「どうでしょうね〜…」

 

水飛沫を立て、スティングレイと共に振り返る

 

「横須賀だ…」

 

「明石もいるぜ…」

 

「あら、二人共ここにいたの⁇」

 

「出ました、出ましたよ、天下御免の横須賀さん。オネショは治りましたか〜⁇」

 

スティングレイの言葉で、横須賀の眉間にシワが寄る

 

そして見せる笑顔

 

「沈めて欲しいのね⁇分かったわ‼︎」

 

「ダメだぞ。ここにいる間はイザコザは無しだ」

 

「知ってるわよ。入るわよ⁇」

 

「勝手にどうぞ〜」

 

「はぁぁぁぁぁ〜幸せ〜」

 

トロンとした顔の横須賀を見たスティングレイは、私に耳打ちした

 

「いつもあんな感じなら良いのになぁ…」

 

「ちょっと肩肘張りすぎだよな」

 

「いいお湯ですねぇ〜…あっ…」

 

明石がイッた

 

側から見ていて、二人の姿は面白い

 

「隊長、ここのお風呂はしっかり入って下さいね」

 

「お、おぅ…」

 

「ここにいるみんなは知ってるから言うけど、隊長の深海化を安定させる成分が、ここには含まれてるの」

 

「ちょっと待て‼︎それは俺もか⁇」

 

「そうね。あんたのマヌケは治らないけど、治癒力を飛躍的に高めるわ」

 

「なるほど…」

 

「しかし不思議ね…」

 

横須賀は一番海を見渡せる場所に行き、再び腰を降ろす

 

「ここだけ、中立なのよね…」

 

「そう。敵味方関係ない、唯一の場所さ」

 

「いつか、全部がそうなるかしら…」

 

「なるさ。絶対」

 

「ソウネガウ」

 

「…隊長を見てたら、出来る気がします」

 

「もう上がるよ。のぼせる」

 

「ビールと洒落込むか‼︎」

 

「今日は二本までだぞ⁉︎」

 

「へへっ、了解了解‼︎」

 

隊長とスティングレイが上がり、残されたのは女衆三人

 

「隊長…否定しないんだ…」

 

「何がです⁇」

 

「レイがビール飲むとか言ってたの」

 

「隊長さんがあんな感じだから、みんな伸びるんじゃないんですかねぇ⁇」

 

「テイトクハ、トテモリッパ。ミンナテイトクスキ」



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42話 青い楽園(2)

「かぁ〜っ‼︎」

 

「くぁ〜っ‼︎」

 

飲食する広場に戻り、二人はビールを喉に流す

 

「ウマイカ⁇」

 

「最高‼︎」

 

「たまらん‼︎」

 

ル級がしているカウンターバーに二人は座り、彼女の前でおつまみとビールを飲む

 

ル級は嬉しそうだ

 

「時々、彼女が分からなくなります…」

 

「ダイジョウブヨ。アナタナラシンジテモラエルワ…」

 

二人の後ろで、何やら意味深な台詞が聞こえた

 

先に振り返ったのはスティングレイ

 

そして、振り返ると同時に爆笑する

 

「アヒャヒャヒャヒャ‼︎バッカスだぜ‼︎ハハハハハ‼︎」

 

「え⁉︎」

 

振り返ると、そこには普段真面目なバッカスが離島棲姫に骨抜きにされていた

 

「色仕掛けされてやんの〜‼︎ハッハッハッハッハ‼︎」

 

指を指して大爆笑するスティングレイにつられて、周りの連中も笑い出す

 

「もう笑えよ‼︎どうせ俺は情けないさ‼︎」

 

「よく言った‼︎流石はバッカスだ‼︎」

 

バッカスは開き直り、離島棲姫に甘える

 

「イッパイアマエテ⁇ワタシタチ、ヒトハダコイシイノ…」

 

「可愛すぎる…」

 

「落ちてる落ちてる‼︎あ〜、可笑しい‼︎」

 

スティングレイの笑いは止まる事を知らず、カウンターに向き直してもまだ笑っていた

 

「イラッシャイマセ‼︎オツカレサマ‼︎」

 

笑い続けるスティングレイを横目にビールを飲んでいると、誰か入って来た

 

「わ、私は…」

 

「スワッテスワッテ‼︎」

 

「あっ‼︎あんたは‼︎」

 

「に、任務ご苦労です‼︎」

 

私とラバウルさんに敬礼をしたのは、トラック泊地の提督だ

 

「心配ご無用ですよ。ここは非武装地帯。貴方も此処では、一人のお客様です」

 

「は…はぁ…」

 

ラバウルさんに説得され、ようやく落ち着きを見せたトラック泊地の提督

 

「ノミモノハナニニスル⁇」

 

「で、では…サイダーを…」

 

「チョットマッテテ‼︎」

 

トラック泊地の提督を相手するのは、名札に”レ級”と書かれた、小柄な少女だ

 

しばらくすると、照れ臭そうにサイダーを持って来た

 

コップは二つある

 

「レ級…⁇」

 

「レキュウ‼︎ヨロシクネ‼︎」

 

「…一緒に飲むかい⁇」

 

「ヤッタ‼︎」

 

レ級は両手でコップを持って、注がれていくサイダーを見ている

 

二つのコップにサイダーが注がれ、乾杯をした後、少しずつサイダーを飲みながら、意外にも楽しそうに話し始めた

 

「トラックさんも落ちました、っと」

 

「あの堅気な人がねぇ…」

 

再びカウンターに体を戻すと、スティングレイの横に誰か座った

 

「ハイビスカスのやつ、くださいって‼︎」

 

「カシコマリマシタ」

 

ル級の手元で、ノンアルコールのカクテルが作られていく

 

因みに、私達が飲んでいるビールもノンアルコールだ

 

「レイ〜⁇浮気か〜⁇」

 

テンションが可笑しくなったバッカスがスティングレイの肩を持った

 

「ばっ‼︎ちげぇよ‼︎」

 

「ハイビスカスノカクテルダ」

 

「ありがとうございマス‼︎」

 

スティングレイの横に座った女性は、パレオを着ていて、肌も小麦色で健康的だ

 

「花食ってるよ…」

 

「美味しいデスよ⁇」

 

振り向いた彼女の顔を見て、スティングレイとバッカスが息を飲む

 

「可愛いな…」

 

「お…おぅ…」

 

「カノジョハ”パラオチャン”ダ。ヨコスカサンカラ、ココノケイエイヲマカサレテイル」

 

「パラオちゃんデス‼︎はいっ‼︎一回死にかけましたって‼︎」

 

「あ‼︎」

 

スティングレイが何かを思い出した

 

「パラオの提督か‼︎」

 

「あたりですって‼︎スティングレイさんは鋭いです‼︎」

 

「パラオチャンハ、ヨコスカサンニホゴサレテイタ。チョットマヌケダケド、トテモカワイイオンナノコダ」

 

「マヌケじゃないですって‼︎」

 

「だから花食うのか…」

 

「お花、美味しいデス‼︎はいっ‼︎」

 

「あっ…」

 

屈託の無い笑顔に、私を含めた三人が惚れそうになる

 

「オハナハタベラレル。リンゴノカワダカラナ」

 

「だとしたら相当手の込んだ作業だな…凄いよ」

 

「スティングレイハ、オセジガウマイナ…」

 

「俺は本当の事しか言わん‼︎」

 

「今度までに、パラオちゃんも頑張って覚えますって‼︎」

 

「楽しみにしてるからな‼︎」

 

「頑張りますって‼︎」

 

スティングレイの横で、美味しそうにノンアルコールカクテルを飲んだ後、リンゴのハイビスカスを食べ、席を立った

 

「では皆さん‼︎お楽しみ下さいって‼︎」

 

「「「は〜い‼︎」」」

 

パラオちゃんが一礼すると、その場にいた全員が返事をし、笑顔を見せた後、奥に行った

 

「いいなぁ…パラオちゃん…」

 

「パラオチャンハ、フリーダ」

 

「フッフッフ…何とこのスティングレイ、ケッコンしているのだぁ〜‼︎」

 

立ち上がって自慢気に指輪を見せるスティングレイ

 

「シッテル」

 

「…マジ⁇」

 

「マジ」

 

「そんな〜‼︎」

 

ル級に鼻で笑われ、渋々席に座る

 

「スティングレイハヤサシイカラ、イテモオカシクナイヨ」

 

「へへっ、サンキュー‼︎」

 

「スティングレイ、そろそろ帰ろうか」

 

「おっ、そうだな。もう晩飯だ」

 

「ホントウニソンケイスルヨ…ゴハンハカゾクトタベルノダナ」

 

「今度、みんなを連れて来ていいか⁇”家族とご飯”を食べたい」

 

「ア…アァ‼︎モチロンダ‼︎タノシミニシテイル‼︎」

 

「なら、私達もみんなで来ましょうか⁇」

 

「では、この私も‼︎」

 

三提督の意見が合う

 

トラックさんはあぁ見えて、案外物分かりの良い人だと分かった

 

「じゃあ、ごちそうさま‼︎」

 

「キヲツケテナ‼︎」

 

「バッカス‼︎浮気は此処だけにしろよ‼︎」

 

「分かってらぁ‼︎」

 

最後の最後まで、バッカスに突っ込む

 

「じゃあな、ル級さん‼︎ありがとう‼︎」

 

「マタコイヨ〜‼︎」




トラックさん…軍人気質なメタボ提督

当初は好戦派の提督だったが、偶然自身の船の補給の為に立ち寄ったスカイラグーンで平和の意味を知り、パパ達の傘下に入る

艦娘からは意外にも人気があり、実はチョコがけポテトを提案したのは彼だったりする



パラオちゃん…スカイラグーンの提督

元パラオ泊地の提督で、違う提督にパラオ泊地を乗っ取られ、島流しにされた所を横須賀が偶然保護

神経衰弱や軽い栄養失調が見られたが、命に別状は無く、ほとぼりが冷めるまで横須賀の離れで生活していた

元々そんなに明るく無く、賢明な女性だったが、ここに来るまでの生活で、何処かネジが一本抜けた性格になった

どこかの国の潜水艦の女の子がデカくなった訳ではないが、容姿は似ている

常にパレオを着ているが、別にパラオだけに〜という訳では無く、着心地が良いだけ

現在、彼女の提督時代の艦娘達は、戦争の無い場所で普通の女の子として生活している


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42話 青い楽園(3)

「国会はスカイラグーン反対…はぁ…」

 

「だから言ったろ⁇老人は頭が硬いって」

 

目の前では、スティングレイが呑気にタバコを吸っている

 

「こう言う時はだなぁ…」

 

 

 

数時間後…

 

「総理大臣…召し取ったりぃぃぃぃい‼︎」

 

スティングレイが総理大臣を連れて、スカイラグーンにやって来た

 

「オォォォオ‼︎」

 

スカイラグーンで歓声が上がる

 

「き、貴様‼︎何のつもりだ‼︎」

 

「ル級さん、お願いしま〜す‼︎」

 

「ナニニスル⁇」

 

「いらぬ‼︎早く元の場所へ返せ‼︎」

 

「ま、片意地張らずに楽しむこったな‼︎」

 

完全能天気なスティングレイ

 

「レイ…やる事はやるんだな…」

 

「百聞は一見に如かず、だ」

 

武装は勿論ない

 

だが、私を含め、ラバウル航空戦隊三人、トラックさんは常に臨戦態勢

 

理由はただ一つ

 

ようやく出来た、友好関係を壊す訳には行かないからだ

 

「じゃあ…キャラメルマキアートを…」

 

「カシコマッタ」

 

ル級さんが作っている最中、バッカスが総理大臣にタバコを差し出した

 

「愛煙家の様で…」

 

「…すまない」

 

「礼なら彼女に」

 

バッカスの背後には、名札に”ヲ級”と書かれた女の子がいる

 

しかし、頭の装備や武装諸々は、勿論全て外してある

 

「ソウリ、タバコスキッテシッテタ」

 

「そ…そうか…」

 

「キャラメルマキアートダ」

 

相変わらずコップは二つ

 

「ありがとう」

 

「カンパイ」

 

「…ふん」

 

嫌々乾杯をするが、ちょっと満更でも無くなって来たみたいだ

 

ヲ級が話す言葉にしばらく相槌を打ち、互いに飲み物を飲み干すと、それを見ていたスティングレイは総理大臣の背中を押し、温泉へと連れて行った

 

「これは…」

 

「流行りのインフィニティ温泉だ。癒されるぞ〜⁇」

 

絶景に言葉を失う総理大臣より先に、スティングレイが入る

 

「心配すんなよ。良い成分だぜ、ここは」

 

「う…うむ…」

 

総理大臣は恐る恐る足を入れ、肩まで浸かる

 

「おぉ…」

 

「どうよ⁇」

 

「良いな…」

 

互いに無言のまま、数分が流れる

 

沈黙を破ったのは、スティングレイだった

 

「ときに総理大臣」

 

「ん⁇」

 

「ここをどう思われます⁇」

 

「本当に非武装地帯なのか⁇」

 

「えぇ。ここにいる間は、私であれ、総理であれ、客の一人に変わりありません」

 

「法外な金を取ったりは…」

 

「ここは料金を取りません。ここのコンセプトは”補給基地”…ですが、人間の心の補給も出来ます」

 

「なるほどな…」

 

「この場所は我々…いや、私の隊長達が、ようやく手に入れた互いの友好関係の証です。安易に…」

 

「それとこれとは話が別だ」

 

「そうですか…」

 

「もう上がる」

 

一人温泉に取り残されたスティングレイは、優しい顔をしていた

 

スティングレイも上がり、みんなのいる所に戻って来た

 

「来たな。では、私の結論を出す」

 

全員が息を飲む

 

「我々が敵対関係である事に変わりは無い」

 

全員からため息が漏れる

 

「だが、その…なんだ。温泉やら飲み物は…気に入った。」

 

「総理‼︎」

 

「あ…あぁ‼︎気に入った‼︎気に入ったよ‼︎本当に楽しかったし、癒された‼︎その…何だ。また来て…良いか⁇」

 

「モチロンダ‼︎ワタシタチハイツデモオーケーダ‼︎」

 

そこにいた全員から歓声が上がった

 

「あぁ、それとな。皆勘違いしている様だが、私は反対していた訳では無い。賛成も反対もしていないだけだ。だが、今回の内部調査で、賛成に加担させて貰う」

 

「流石総理大臣だぜ‼︎」

 

「あ‼︎後君‼︎スティングレイだったか⁉︎君は敬語を使うな。君とは対等に話せそうだ」

 

「有難き幸せ…さ、サンキュー‼︎」

 

「そう。それでいい」

 

「じゃ、帰るか‼︎」

 

「んっ‼︎また来るからな‼︎」

 

「イッテラッシャイ‼︎」

 

ドアを開け、外に出ようとした時、総理大臣が振り返った

 

「あぁ、そうだ。一つ言い忘れた。サンダーバード隊の各員、元ラバウル航空戦隊の方々。艦隊計画の心配は、もうしなくていい。私が白紙撤回した」

 

「貴方になら着いてもいいと、今思いましたよ」

 

「国家や国は嫌いだが…あんたは気に入ったよ」

 

総理大臣は、笑顔のままスカイラグーンを出た

 

「でだ、スティングレイ」

 

「ん⁇」

 

「どうやって連れて来た⁇」

 

「あ…いや‼︎その…‼︎」

 

「ん⁇別に怒ってないぞ⁇」

 

「や…闇討ち⁇あ、あはは…」

 

スティングレイの得意分野だ

 

「まぁ、総理大臣は味方だって良く分かったよ」

 

 

 

そして、数日後の朝刊で…

 

「総理、スカイラグーン賛成‼︎”友好関係の架け橋として、一度は訪れたい場所”」

 

「いい総理だな。珍しい」

 

「今までが最悪だったんだよ。俺は気に入った‼︎」

 

スティングレイが他人を信用するのは珍しい

 

私も信じていい…今はそう思う



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第ニ章〜雷鳥伝説編〜
43話 プロゲーマー鹿島(1)


さて、42話が終わりました

総理大臣公認のスカイラグーン

新しい仲間、トラックさんとパラオちゃん

パラオちゃんが誰かに似てる⁇

作者の二番目に好きな潜水艦だね‼︎

作者はロリコンなんだよ‼︎

そんな訳で今回のお話は、みんな大好き鹿島さんと、たいほうのお話です


「わぁ」

 

「この敵には、斧で攻撃しないと‼︎」

 

鹿島がゲームをやっている膝の上で、たいほうが画面を眺めている

 

「とげとげのおじさんつよいね」

 

「彼は一撃がいいんですよ」

 

「あかいふくのおにいちゃんは⁉︎」

 

「このキャラは万能です。ほらっ‼︎」

 

テレビの画面の中では、その赤い服のお兄ちゃんが素早い攻撃をしている

 

「闘技場に行きますよ」

 

「とうぎじょう」

 

”ユーのモンスターを選ぶのだ‼︎”

 

鹿島はたいほうにコントローラーを渡し、モンスターを選ばせた

 

「三匹です」

 

渡されたコントローラーを操りながら、たいほうはモンスターの形を見て決めている

 

「あおいぷるぷる」

 

「おのもったわに」

 

「ぶつぶつのとら」

 

たいほうが決めたモンスターは、とても個性的だ

 

しかし、あおいぷるぷると呼ばれたモンスター以外はそこそこ強そうだ

 

”レディー‼︎ファイト‼︎”

 

「がんばれ‼︎」

 

膝の上ではしゃぐたいほうを見て、鹿島は思った

 

弱小モンスターが勝てる訳ない、と

 

「かった‼︎」

 

「え、えぇ⁉︎」

 

試合は全部で三回戦

 

あおいぷるぷるはまだ生きている

 

”レディー‼︎ファイト‼︎”

 

「にかいせん」

 

「ま…まぁ…マグレですよね、ははは…」

 

”疾風の様な攻撃だ‼︎”

 

「ぶつぶつのとらつよいね」

 

「先制攻撃できますからねぇ」

 

「かったね」

 

「お…おぉ〜…」

 

あおいぷるぷるはまだ生きているが、瀕死の状態だ

 

流石にもう無理だろう…

 

”さぁ‼︎最終戦‼︎”

 

ムービーが流れている間、たいほうに聞いてみた

 

「あのあおいぷるぷるは、何で選んだの⁉︎」

 

「あおいぷるぷるのかおすき」

 

「あ、あはは…そっか…」

 

少し考えれば、すぐ分かる事だった

 

”レディー‼︎ファイト‼︎”

 

「おのもったわにもつよいね」

 

「火炎攻撃が強力ですねぇ」

 

「うわ‼︎やられる‼︎」

 

おのもったわにと、ぶつぶつのとらが倒れた‼︎

 

「あおいぷるぷるだけ‼︎がんばれ‼︎」

 

一生懸命応援するたいほうをみて、鹿島は思った

 

あおいぷるぷるだけで勝てる訳ない、と

 

”これは…最終奥義の発動だぁぁぁぁぁあ‼︎”

 

「わぁ‼︎かしま‼︎すごいよ‼︎あおいぷるぷる‼︎」

 

鹿島は開いた口が塞がらない

 

そうだ、忘れていた

 

あおいぷるぷるは、追い込まれると凄い技を放つと…

 

”素晴らしい戦いだった‼︎私は感動している‼︎”

 

画面で赤と緑の服のおじさんが褒めてくれている

 

「かった‼︎」

 

「セーブして、違うゲームしましょうか‼︎」

 

「これは⁇」

 

たいほうの手には、同じシリーズのゲームが握られている

 

「誰と結婚するか迷って、止めてあるんですよね…」

 

「やろう‼︎」

 

ゲームがセットされ、しばらくすると本当に結婚相手を選ぶ場面に来た

 

相手は三人

 

「むちのおねえちゃん」

 

「のんびりのおねえちゃん」

 

「ぎゃるのおねえちゃん」

 

「誰にしましょうか…う〜ん⁇」

 

「あのひと、かしまににてるね」

 

たいほうが指差しているのは、ぎゃるのおねえちゃんと言ったキャラだ

 

「に…似てますかね…」

 

「おめめがにてる」

 

三人を並べて、選り取り見取り状態の鹿島は思った

 

確かに、ちょっと似ている

 

特に釣り目の所が…

 

「彼女にしましょうか‼︎」

 

思い切って、ぎゃるのおねえちゃんに決めた

 

「おなまえきめる」

 

「かしまちゃん…っと」

 

因みに主人公の名前は”かしまさま”だ

 

「これで終わりましょう。ここから先はゆっくり楽しむのです」

 

「つぎこれする」

 

たいほうの手元には、スポーツのゲームが握られている



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43話 プロゲーマー鹿島(2)

「やりましょう‼︎負けませんよ⁇」

 

ゲームがセットされ、まずは卓球を楽しむ

 

「えい‼︎」

 

「とおっ‼︎」

 

しばらくラリーが続き、たいほうがスマッシュを決めた

 

「たいほうのかち‼︎」

 

息を切らしながら、鹿島は思った

 

ダメだ…強い…

 

その後も色々な種目をするが、鹿島は一度も勝てなかった

 

最初は勿論手を抜いて居たが、最終的には本気になっていた

 

「た…たいほうちゃん‼︎これをしましょうか⁉︎」

 

「かくげー」

 

”路上格闘者”と書かれた格ゲーは、鹿島の得意分野であった

 

「本気で行きますよ⁉︎」

 

「これにする」

 

鹿島は赤い服を着た男のキャラ

 

たいほうはピチピチのハイレグを着た女キャラに決めた

 

”ファイッ‼︎”

 

互いに無言のまま、ボタン操作の音だけが響く

 

”K.O‼︎”

 

「ああああああああ」

 

「たいほうのかち‼︎」

 

鹿島は色々なコマンドや技を出していたが、たいほうは弱いパンチで画面端に追いやり、連続で当てていた

 

連戦連敗の鹿島は思った

 

こうなれば、本気で行くしかない‼︎

 

子供が相手でも、もう容赦しない‼︎

 

「次で決めますよ‼︎」

 

鹿島が選んだのは隠しキャラ

 

たいほうは同じキャラ

 

”ファイッ‼︎”

 

また無言が続く

 

ボタン操作の音とBGMと効果音だけが聞こえる

 

”K.O‼︎”

 

鹿島はコントローラーを後ろに投げた

 

「フーッ‼︎フーッ‼︎」

 

「たいほうのかち‼︎」

 

弱いパンチだけでは無く、チマチマと下蹴りを食らわせられ、隠しキャラは撃沈した

 

「何で勝てないのです‼︎」

 

「はやいぱんちつよい」

 

「ぐ…ぐぬぬ…」

 

何かたいほうを負かすゲームは無いのか…

 

はっ‼︎そうだ‼︎

 

これは無理だろう‼︎

 

鹿島はゲーム機を片付け、パソコンの前に座った

 

遅れてたいほうが膝の上に座る

 

「このゲームは勝ち負けはありません‼︎ふふふふふ…」

 

「おんなのこいっぱい」

 

たいほうに勝てない事が分かったのか、鹿島は最終手段に出た

 

ギャルゲーだ‼︎

 

”鹿島さん…貴方が好きです”

 

「たいほうはきらい」

 

「あら」

 

基本肯定的だったたいほうが、珍しく否定し始めた

 

「だめだよ、かしま。このこはきらい」

 

「え…えぇ」

 

鹿島はその女の子からの告白を断った

 

「たいほうはどの子が良いですか⁇」

 

「このこ」

 

たいほうが指差したのは、明らかにワルそうな女の子

 

外見は金髪のコギャルで、好きな物はお金と書いてある

 

恐らく、どんなプレイヤーでも初見は嫌いであろう

 

「ほかのこはだめだよ。たいほうこのこがいい」

 

「じゃあ、やってみますか‼︎」

 

嫌々やり始めた女の子の攻略をしながら、鹿島は思った

 

たいほうはもしかして褐色フェチなのでは、と

 

幾度目かの選択肢を選んだ後、告白のシーンが来た

 

”あのさ…あたし、鹿島の事が…その、好き…”

 

「おぉぉぉぉお‼︎」

 

「ほら‼︎」

 

目の前には色白になり、髪の毛も黒色に戻した、如何にもヒロインという様なキャラがいた

 

”お金は少しでいい。その分、あたしのそばにいてくれれば…いい”

 

「可愛いですねぇ…」

 

「このこがいちばんかわいかった‼︎」

 

そして迎える、超が付くほどのハッピーエンド

 

「おもしろかったね‼︎」

 

「そ、そうですね‼︎」

 

鹿島は困惑していた

 

実はこのゲーム、ハッピーエンドは一人しか居ない

 

それを探すのを楽しむゲームなのだ

 

鹿島は一人やってみたが、超が付くほどのバッドエンド

 

浮気されて、借金まみれにされた

 

たいほうはそれを一発で見抜いた

 

「ただいま〜」

 

「パパだ‼︎かしま、またやろうね‼︎」

 

「えぇ‼︎いつでも‼︎」

 

たいほうは帰って来た隊長の所に行った

 

久し振りにゲームをした

 

そして、まさかたいほうがあれだけ強いと思っていなかった…



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44話 ジェントルマンの集い(1)

さて、43話が終わりました

鹿島はドラクエが好きです

因みに選んでいたモンスターは

スライム

バトルレックス

キラーパンサー

です。お嫁さんはデボラです、はい

今回のお話では、横須賀の次に強いと謳われる鎮守府の提督が出てきます


「じゃあ、ちょっと出掛けて来るからな」

 

「いってらっしゃ〜い‼︎」

 

たいほうに見送られ”V-22 オスプレイ”に乗り込む

 

「へりこぷたー」

 

「そうでありますよ。これは、要人を運ぶヘリコプターであります」

 

たいほうに説明をしているのは、あきつ丸

 

このヘリの運転手でもある

 

「ジェントルマンがこんなに揃うと…壮観だな‼︎」

 

スティングレイが言うのも無理もない

 

オスプレイに乗っていたのは

 

 

スティングレイ

 

ワンコ

 

トラックさん

 

あきつ丸を含めると五人だ

 

もう一機には、ラバウル航空戦隊の連中と、パラオちゃんが乗っているらしい

 

今日、横須賀の基地で全提督の会議があり、総理大臣が主催だ

 

「我々の思想とは逆で、どうやら戦況は泥沼化しているようです」

 

トラックさんが言ったのは本当の事だ

 

スカイラグーンが出来た頃から、深海棲艦の反抗がやや激しくなった

 

ラバウル航空戦隊や、私達が制空権争いに駆り出される事もしばしばある

 

「なぁなぁ‼︎辛気臭い話はやめてよ‼︎あのチョコのポテト、どうやって発想したんだ⁉︎ありゃあ、たまに食いたくなるんだ」

 

「気に入って貰えて光栄だよ‼︎私は、提督になる前はパティシエをしていたんだ」

 

「人は見掛けによらないな」

 

「ははは。それで、色々考案して、あれが出来たんですよ」

 

「新しいスイーツが出来たら、味見させてくれよ‼︎な⁉︎」

 

「勿論さ‼︎」

 

「さぁ、着いたであります‼︎」

 

二人が話している間に、横須賀に着いた

 

「よっ、と」

 

「乗り心地はどうでありましたか⁇」

 

「たまにはいいもんだな、二式大艇といい、オスプレイといい」

 

「帰りも頼むぞ‼︎」

 

「揺れが無いですな‼︎」

 

三人それぞれ感想を言い、あきつ丸は満足そうだ

 

「さて…」

 

横須賀の警備兵に案内され、会議室に入る

 

”横須賀分遣基地・P”

 

”横須賀分遣基地・S”

 

と書かれた席が私とスティングレイの席と言われ、そこに腰を下ろす

 

しばらくすると会議が始まり、ものの見事に好戦派と反対派に分かれた

 

反対派は

 

横須賀

 

私とスティングレイ

 

ワンコ

 

ラバウル航空戦隊

 

トラックさん

 

ミハイル

 

パラオちゃん

 

後は全員好戦派だ

 

やれ敵を追いやれだとか

 

やれ敵を殺せだとか

 

好戦派の話は単調でつまらなかった

 

だが、一つ問題があった

 

呉鎮守府の提督だ

 

頬の傷が印象的な彼は実績もあり、敵基地を幾つも破壊、奪還している

 

腕を組んで両者の話を聞く姿は、かなりの気迫があり、空の連中にもそれは充分に伝わっていた

 

そんな彼は勿論好戦派

 

だが、これまで一切口を開いていない

 

そしてそれは、反対派の連中も同じだった

 

そんな彼と、偶然目が合い、互いに睨みを効かせる

 

「あんた」

 

「私か⁇」

 

ようやく呉の提督が口を開き、会議室が静まる

 

「あんたが事の発端か」

 

「そうだ」

 

「総理。二人で話がしたい。構いませんか⁇」

 

「あぁ」

 

「来い」

 

呉の提督に連れられ、会議室の外に出た

 

「自己紹介が遅れたな。話は常々聞いている、大佐。私は呉鎮守府の提督だ」

 

手を差し出され、互いに握手を交わす

 

「すまないな。弱い奴程よく吠える…」

 

「いや…そんな事は…」

 

「見た所、好戦派と反対派に分かれているな⁇」

 

「えぇ…」

 

私は、好戦派と反対派のメンバーの説明を始めた

 

意外にも呉の提督は話を聞く人間であり、此方の思想も、前もって理解していてくれていた

 

「なるほど…なら、我々のしていた事は間違っていたのか」

 

「そこまで言うつもりはない。ただ…向こうにも和平を望む連中もいる。少なからずは…」

 

「なるほど…今の所、私はどちらに着こうとも思っていない。だが、どちらの意見も分かる」

 

「スカイラグーンに行った事は⁇」

 

「それなんだ。まだ行った事が無い。私は、両方の意見を聞いた上で、どちらかに着きたい」

 

「なら、招待します‼︎」

 

「宜しく頼む」

 

呉の提督と会議室に戻り、再び一方的な意見を聞き続ける

 

相変わらず私と呉の提督は黙って聞いていた

 

会議が終わり、また呉の提督と話す

 

「今から行きますか⁇」

 

「行けるなら行きたい。このまま会議の延長線で、艦娘に言い訳が出来る」

 

「では行きましょう‼︎」

 

先程のメンバーに呉の提督を加えたオスプレイが、横須賀を飛び立った

 

オスプレイの中で呉の提督は腕を組んだまま、窓の外を眺めていた

 

「空は良いものか⁇」

 

「飛んだ事はありませんか⁇」

 

「ここに属してから、ずっと海軍だ。精々、空母から艦載機を見送るだけだ」

 

「空は良いですよ」

 

「一人は怖くないか⁇」

 

「まぁ…怖くないと言えば嘘になる」

 

「「「えっ⁉︎」」」

 

三人同時に驚く

 

「大佐殿も…やはり恐怖はあるでありますか」

 

あきつ丸も驚いている

 

「やっぱり、一人で死ぬと思うと怖いさ…でも、死ぬ時は一人と思うと、そんな事どうでもよくなる」

 

「ま、そんな感じさ」

 

スティングレイも話に加わり、フォローに入ってくれた

 

「最初は良い。常に死と隣り合わせだから、神経が研ぎ澄まされる。だけどな、ある日を境にそれに慣れてくる。その後に来る”恐怖”が一番怖いんだ…」

 

「君は大佐の…」

 

「マーカス・スティングレイだ。宜しく、呉さん」

 

「もう少し、話してくれないか⁇」

 

他の連中も聞きたそうだ

 

私とスティングレイは、空の恐怖を話した

 

敵に追われ続けられる

 

操縦桿を持つ手が汗だらけになり、震え始める

 

呼吸が荒くなる

 

平衡感覚、自我が保てなくなる

 

「なるほど…艦載機の見方を変えねばならないな…」

 

呉さんは口元に手を当て、下を向く

 

「あ‼︎でも悪い事ばっかじゃない」

 

「それは⁇」

 

「みんなさ、花火ってどこから見る⁉︎」

 

「下からです」

 

「下ですねぇ…」

 

「まぁ地上だな」

 

「俺達空の連中は、空の上。花火を上から見降ろせる‼︎」

 

自信満々に話すスティングレイを見ていて思い出した

 

どこかの国の首都が解放された時、市民総出でカーニバル状態になった

 

私達は展示飛行を依頼され、サンダーバード隊は首都の上空を飛んだ

 

その時花火が何発も上がり、私達はそれを上から見降ろしていた

 

「では、我々も良い所を‼︎」

 

呉さん

 

トラックさん

 

ワンコの順で、海の良い所を話し始めた

 

あきつ丸は運転席で、楽しそうに話を聞いていた

 

「さぁ‼︎着いたであります‼︎」

 

「ここが…」

 

「非武装地帯、スカイラグーンさ。行こう」

 

中に入ると、相変わらずル級が出迎えてくれた

 

最近、みんなのウェルカムドリンクを覚え始めた為、呉さん以外はそれぞれの飲み物が目の前に届いた

 

「ハジメテノオキャクサン‼︎」

 

呉さんの所に付いたのはニコニコした”南方棲姫”と呼ばれる女の子だ



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44話 ジェントルマンの集い(2)

「ノミモノハナニニスル⁇」

 

「じゃあ…グレープジュースを」

 

「ワカッタ‼︎マッテテクレ‼︎」

 

しばらくすると、いつも通りコップが二つ置かれ、グレープジュースが注がれる

 

「カンパイシマショ⁇」

 

「ん。乾杯」

 

「カンパイ」

 

さて、後は彼がどう思うかだ…

 

「スティングレイさん‼︎今日はパラオちゃんが御一緒しますって‼︎」

 

「お、おぅ…」

 

もう何度もここに訪れているが、未だにパラオちゃんのテンションに慣れないスティングレイ

 

パラオちゃんが誰かに付くのはかなりレアだ

 

スティングレイは大体離島棲姫の話し相手になっている事が多いが、時々パラオちゃんが相手になる事がある

 

パラオちゃんはスティングレイがお気に入りみたいだ

 

「やだよ〜‼︎俺だって戦争したくないよ〜‼︎上層部が命令するから致し方無くやってるけどさ〜‼︎正直大砲の音とか超☆怖いし、でも冷徹な提督で居ないと艦娘に顔向け出来ないし〜‼︎」

 

「ま…マジかよ…」

 

南方棲姫の膝枕の上で駄々をこねているのは、呉さんだ

 

ビックリする位、性格が180度変わっている

 

しかし、南方棲姫はとっても嬉しそうな顔をしていた

 

「この傷だって、演習中に艦娘が溺れた時に助けに行ったら、相手の流れ弾に当たったし〜、戦争なんて大反対だよ‼︎」

 

だが、話を聞く以上は漢である事は間違いない

 

「イツデモココニキテ⁇イッパイワタシニアマエテイイヨ。ナイショニシテオクカラ」

 

呉さんの頭を撫でながら、南方棲姫は優しい言葉を振り掛ける

 

「ホント⁉︎また来て良いの⁉︎」

 

「ワタシタチ、イツデモマッテル」

 

「じゃあ付く‼︎反対派に付く‼︎」

 

「アリガトウ‼︎」

 

「また落ちたな…」

 

ノンアルコールのビール片手に、肩を震わせているスティングレイの方を見た

 

「ここは母性に満ち溢れてるんだよ。相当な堅物以外は誰かって落ちるさ」

 

また笑ってる

 

まぁ…今回は笑わざるを得ない、か

 

「ごちそうさま」

 

「チョット、イキヌキデキタ⁇」

 

「あぁ」

 

凄いな…

 

一気に顔が変わった

 

甘える時はとことん甘え、仕事に戻る時は一気に戻る

 

「では、私は一足先に帰ります」

 

「温泉もあるぜ⁉︎」

 

「次の楽しみに取っておくよ、スティングレイ。では」

 

呉さんは既に暗くなった空の向こうに帰って行った

 

「隊長はどうされます⁇」

 

「俺達も帰ろうか」

 

「だな。じゃあな、ワンコ。今度、俺の実験データを見に来い」

 

「は、はい‼︎」

 

後のみんなは残しておいても大丈夫

 

じき、迎えの船が来る

 

私達の基地へ送ってくれる船に乗り、基地に帰ると、武蔵が無線の前で座っていた

 

「提督よ‼︎帰ってすぐ悪いが、横須賀から緊急の電文だ‼︎」

 

「なんだ⁉︎」

 

武蔵から渡された書類を見て、手が震えた

 

横から顔を覗かせたスティングレイの顔にも怒りが見える

 

「これは本当なのか」

 

「あぁ…少々まずい」

 

「スティングレイ…飛べるか⁇」

 

「あぁ…」

 

互いに話す事無く、格納庫に向かい、それぞれの機体に載る

 

《久方ぶりの夜戦が、こんな形になるとはなぁ》

 

「仕方無いさ。行こう」

 

フィリップが飛び、続いて私が飛ぶ

 

空に上がると、スティングレイの無線が入った

 

《グラーフは⁉︎》

 

「オヤスミ中だ。起こすなよ⁇」

 

《呑気な野郎だぜ…しかしよ…》

 

「…」

 

電文には”総理大臣搭乗機、奇襲サレシ、護衛モトム”と打たれていた

 

しかも、相手は深海棲艦ではないと来た

 

「見えた‼︎」

 

私達が飛んでいる上に大型の旅客機が見えた

 

《総理‼︎聞こえるか‼︎》

 

《君は…スティングレイか⁉︎》

 

《そうだ‼︎助けに来た‼︎》

 

《すまない…私のせいだ…》

 

《怪我してねぇか⁉︎》

 

《大丈夫だ。ただ、機体のエンジンがイカれた》

 

《護衛に着く。着陸までピッタリ着いてるから、心配しないでくれ》

 

《すまない、頼んだ‼︎》

 

「来た。あれは…‼︎」

 

3時の方向から、敵の編隊が来た

 

《国籍は日本だ》

 

「こちら、総理護衛機。接近中の部隊、回頭を求む」

 

《…》

 

反応は無い

 

《IFF作動せず。やるか⁉︎》

 

「やろう」

 

フィリップが真っ先に”敵”編隊に向かって行く

 

《F-15が五機…か。ちったぁ楽しめそうだな‼︎》

 

フィリップは編隊とすれ違い様に、当たり前の様に一機墜とす

 

《無理はするなよ、スティングレイ…》

 

旅客機から、心配そうな総理の声が聞こえる

 

「スティングレイ、ハエ叩きは任せて良いか⁇」

 

《ウィルコ。隊長は総理を頼む》

 

「分かった」

 

《こんな時に何だが…君の部隊は、部下が命令する事もあるのかい⁇》

 

「えぇ。彼の言った事が正しい事が多々あります。それに、彼になら安心して背中を任せられる」

 

《良い上司を持ったな…彼は》

 

「それだけ話が出来れば大丈夫です。横須賀に着陸しましょう」

 

《大佐、緊急着陸の準備は整っています‼︎いつでもどうぞ‼︎》

 

《うらぁ‼︎いっちょ上がり‼︎すぐそっちに行く》

 

後方では火の玉が幾つも墜ちていく

 

フィリップが全機叩き落とした跡だ

 

「早いな」

 

《夜目に慣れてねぇのに、無茶して飛ぶからこうなる》

 

「夜間迎撃繰り返して良かったな」

 

《まぁな》

 

「総理、次は貴方の番だ」

 

《ありがとう。横須賀に降りたら、何かお礼がしたい》

 

《ならっ、ビールでも奢って貰おうかなぁ‼︎》

 

緊迫した事態なのに、スティングレイの言葉で重い空気が少しだけ軽くなる

 

総理の乗った旅客機が着陸したのを見届け、私達も空いた滑走路に着陸した

 

「大佐‼︎スティングレイ‼︎」

 

降りた瞬間、横須賀に呼ばれた

 

「怪我はないですか⁇」

 

「大丈夫」

 

「ピンピンだぜ‼︎」

 

「明石‼︎」

 

明石は手に持った機械を私達にかざし、全身を調べ始めた

 

「大丈夫ですね」

 

「総理はどうした⁇」

 

「今治療を受けてるわ。若干疲れた様子はあるけど、命に別状はないわ。詳しい話は奥でしましょう」

 

会議室に連れて行かれ、コーヒーとシュークリームが置かれた

 

「…」

 

「…おい」

 

横須賀がシュークリームを出すのは”とりあえず落ち着いて欲しい”との意味だ

 

「食べながら話すわ。総理は、深海側に和平を求める為にあの後すぐ飛び立ったの。ま、結果はあんまりだったみたいだけど、向こうからの攻撃は無かった」

 

「て事はよ…エンジンがやられたのって…」

 

「えぇ…人間側の攻撃よ。それも、好戦派グループの」

 

「ったく…内輪揉めしてる場合じゃねぇだろ‼︎」

 

スティングレイがキレるのも分かる

 

今は内輪揉めをしている場合ではない

 

それなのに、それが分からない連中が和平を望む総理の乗った旅客機を攻撃した…

 

許し難い事だ

 

「しかしよ…このシュークリームはウメェな」

 

「間宮の新作よ」

 

そうだ。今はシュークリームを食べよう

 

せっかく出されたのに勿体無い

 

三人がシュークリームを食べていると、横須賀に無線が入った

 

「こちら横須賀。どうしたの⁇」

 

《呉鎮守府の提督が、お会いしたいと》

 

「いいわ。会議室に通して」

 

無線を切ると、スティングレイが反応した

 

「呉さんが来るのか⁇」

 

「えぇ。何故か急に反対派に入るって、さっき電文が来て…」

 

話している途中で、会議室がノックされた

 

「どうぞ」

 

「失礼します、総督」

 

現れたのは、呉さんと女の子

 

呉さんの腕には、二人の男性が掴まっている

 

「こいつ等だ。総理大臣の機体を攻撃したのは」

 

床に投げられた二人は、相当怯えていた

 

「ちゃんと話すまで、私はここにいるからな。総督、煙草は宜しくて⁇」

 

「構わないわよ。禁煙にしても、どうせこの二人が破るから」

 

「「ゔっ…」」

 

ようやく見せた微笑みが怖い

 

「では、お言葉に甘えて…」

 

呉さんは煙草に火を点けた

 

火を点ける動作も、何処か恐怖に思える

 

「何処で捕まえたんです⁇」

 

「スカイラグーンの帰り際、オスプレイを横切る機体が居た。報告にない機体だ。それで、うちの艦娘の艦載機に撃墜を命じた」

 

「隼鷹で〜す‼︎」

 

いつかスティングレイと呑んでいた艦娘の一人だ

 

「私の数少ない”理解者”だ」

 

そう言って、私達二人を見た

 

呉さんはすぐに目を逸らしたが、私達はすぐに理解した

 

「何の話よ⁉︎ねぇ⁉︎」

 

「男の秘密だ…いやマジで…」

 

「まぁいいわ。後でレイを尋問して聞くから。それで…」

 

「さらっと怖い事言うな‼︎」

 

「誰に命じられた」

 

場が凍り付く

 

数秒前まで軽口を叩いていたスティングレイの足が震えているのが見えた

 

横須賀の顔が変わり、鬼神にでも睨まれたかの様に二人は震えている

 

そして、ついでに呉さんもそのままの顔で震えている

 

「我々は内輪で争っている暇は無い。人間同士で殺し合う余力等、今の我々には無い。だから…」

 

横須賀は膝を曲げ、二人の頬を撫でた

 

「私は”なるべく”穏便に済ませたいと考えている…分かるな⁇」

 

「は、はいぃぃぃ‼︎」

 

二人は恐怖から逃れられないまま、別の場に移動させられた

 

「はぁ…」

 

「こわ〜…」

 

隼鷹でさえも、ビビってすくんでいる

 

「提督‼︎もう大丈夫さ‼︎」

 

隼鷹は呉さんの背中をバシッと叩いた

 

「う⁇あ、あぁ」

 

「私そんなに怖い⁇」

 

「怖いな」

 

「鬼神だ鬼神」

 

「真面目に言ったつもりなんだけど…」

 

「まぁよ、お前はそれでいいと思うぜ⁉︎」

 

そう言って、スティングレイは横須賀の頭を撫でた

 

横須賀はスティングレイの目を見て、ちょっと嬉しそうにしている

 

「デキてるのか〜ん〜⁇」

 

隼鷹がおちょくる

 

「”昔”はね、隼鷹⁇」

 

「ひっ‼︎」

 



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44話 ジェントルマンの集い(3)

私達は、しばらく会議室で待たされる事になった

 

「暗い‼︎何か話しようぜ‼︎」

 

「そうね…アンタ、ケッコン生活はどうなのよ」

 

「とっても幸せ‼︎所帯を持ったら、やっぱ世界が違うね‼︎」

 

「あっそ。大佐は⁇」

 

「そうだな…武蔵は良く尽くしてくれる。最近、料理がとても上手くなったんだ…」

 

「ははは‼︎お前とは大違いだなぁ‼︎」

 

指差して笑うスティングレイに対し、横須賀は腰に手を回した

 

「オーケーオーケー‼︎もう言わない‼︎」

 

「呉さんは⁇」

 

「私⁇私は迷惑を掛けっぱなしですよ。この際ですし、知らないのは総督だけなので言いますが、私は本当はヘタレです。雷だって怖いし、夜は一人で眠れない。そんな時、いつだって彼女が居てくれた…」

 

呉さんは、隼鷹の肩をそっと抱いた

 

「マジか」

 

「こう見えてスタイルは良いんだぜ、私‼︎」

 

隼鷹は自分なりに色っぽいポーズを見せている

 

「確かにスタイルいいな」

 

「そういや、レイの嫁さんは⁇」

 

「あぁ、言わなかったな。ほら、ここの飛行教官だった鹿島さ」

 

「お…おおお鬼の鹿島と呼ばれた彼女を落とすとは…」

 

隼鷹が震えている

 

「総督、分かりました‼︎」

 

小さな紙切れを持った憲兵が来た

 

「何処の所属だ⁉︎」

 

「…舞鶴です」

 

「はぁ…」

 

舞鶴の鎮守府と言えば、海空バランスの取れた編成がウリの鎮守府だ

 

それ故、敵に回ったとなれば少々手こずる相手になる

 

「しかし、何で舞鶴が今頃…あそこは結構古参なハズだ」

 

「古参”だから”マズいんです。我々の弱点を理解して…」

 

話の途中、外で砲撃音がした

 

「長門だ」

 

「長門、どうしたの⁉︎」

 

《高速の飛来物が来た‼︎撃ち落としてはいるが…》

 

「始まったか…」

 

三人が窓の外を見ている間に、横須賀は机の上にあのレーダーを展開した

 

「囲まれた…飽和攻撃だ…」

 

展開された立体レーダーには、基地の周りに大量に飛来するミサイルが表示されていた

 

「提督、ミサイルの飛来方向は舞鶴の方向です‼︎」

 

明石と横須賀が切羽詰まる中、私と呉さんと隼鷹は急いで部屋を出た

 

「安心しろ、横須賀。お前は運が良い」

 

「こんな時に軽口叩かないでくれる⁉︎」

 

ただ一人窓際に残ったスティングレイは、ポケットに手を入れたまま外を眺めて、とても真剣な目をしていた

 

「昔言ったろ。神を信じる前に、俺を信じろ…って」

 

「じゃあどうやってこの状態を打開するのよ‼︎死ぬのよ⁉︎私達…」

 

「どうせ死ぬなら、何か言い残す事はあるか⁇正直に言わないまま、お前は死ぬのか⁇」

 

スティングレイと横須賀が会話している最中にも、ミサイルは接近している

 

「残り30秒‼︎」

 

明石の声に力がこもる

 

横須賀は言葉に詰まり、ただただ机の上に拳を置くだけ

 

「10秒‼︎提督‼︎」

 

「ジェミニ‼︎」

 

「あ…あんたが好き‼︎死ぬ程好き‼︎何で鹿島となんかケッコンしたのよ‼︎バカバカバカぁぁぁ〜〜〜‼︎」

 

「よく言った」

 

スティングレイが横須賀の方に振り向いた瞬間、鎮守府の周りで大規模な爆発が起き、基地が揺れた

 

「な…何が起こって…」

 

《地対地ミサイル迎撃成功‼︎やったね‼︎》

 

スティングレイの無線の先から聞こえて来たのはフィリップの声だ

 

「よくやった‼︎フィリップは天才だな‼︎」

 

《素直に受け取っておくね‼︎ありがとう‼︎》

 

「フィリップ…⁇」

 

「だから言ったろ。俺を信じろって」

 

「ありがと…」

 

「フィリップには、ミサイルを自爆させる装置を載せてある。まっ、まだ試作だから安定はしないが、成功して良かったよ」

 

「賭けだったの⁉︎」

 

「そうだ」

 

「ホンットバカ‼︎」

 

「けっ‼︎素直に言えよ‼︎”スティングレイ様が大好きです‼︎私を抱いて‼︎”って‼︎」

 

「…事が終われば、抱いてもいいわ…」

 

《レイ⁇殺しますよ⁉︎相手は誰です⁉︎》

 

無線の先で鹿島がブチギレている

 

「あぁ、いやいや‼︎マジでしないって‼︎」

 

《もし違う女の子を抱いたら匂いで分かりますからね‼︎分かりましたか⁉︎》

 

「はいっ‼︎」

 

《気を付けて帰って来て下さいね⁇朝ごはんはシンプルにします‼︎》

 

「楽しみにしてるよ」

 

「いいお嫁さんね…」

 

「最高の妻だ。裏切れないよ。さてっ‼︎」

 

スティングレイは両手をパンっと合わせた

 

「此方からも”お返し”と行こう‼︎」

 

横須賀はその言葉を聞き、ハッとした

 

「えぇ‼︎互いに送り合うのが礼儀よね‼︎」

 

「そのレーダー貸せ」

 

「どうぞ」

 

スティングレイはレーダーの前に座り、無線を起動した

 

「鹿島」

 

《はいはい。何ですか⁉︎》

 

「しおいは起きてるか⁇」

 

《起きてますよ‼︎代わりますね‼︎》

 

無線の向こうで”レイです”と聞こえた後、しおいの声が聞こえて来た

 

《レイ〜今何処にいるの〜⁇》

 

「いいかしおい。今から言うポイントに”散弾ミサイル”を三発発射してくれ」

 

《分かった‼︎何処⁉︎》

 

「今地図を送る…」

 

《来た‼︎》

 

「ポイントB-45。そこのC-39に落としてくれ」

 

《分かった‼︎》

 

しおいは無線を置いて外に出たのか、しばらくすると無線の先から”いっけ〜‼︎”と聞こえ、また戻って来た

 

《撃ったよ‼︎後五分で着弾する‼︎》

 

「お土産に双眼鏡買ってやるからな」

 

《やったね‼︎》

 

「いい子にしてるんだそ」

 

《分かった‼︎》

 

無線を切ると、レーダーにミサイルが表示された

 

「発射位置を特定されず、感知もされないまま敵を殲滅出来るステルス機能付きだ」

 

「何でここに表示されるのよ」

 

「俺が造ったレーダーシステムだ。弄り方位分からぁ‼︎肉眼観測出来る奴はいるか⁉︎」

 

《いる》

 

無線の先の声はグラーフだ

 

事態に気付き、付近を飛んでいるみたいだが、まだレーダーの観測外だ

 

「目標は舞鶴の鎮守府だ‼︎肉眼で弾着観測をお願いしたい。出来るか⁉︎」

 

《私を誰だと思っている‼︎任せろ‼︎》

 

しばらくすると、スペンサーがレーダーに表示された

 

《第一弾…炸裂‼︎》

 

レーダーを見る眼と、無線を聞く耳に神経を研ぎ澄ませる

 

《基地の大半を破壊‼︎艦娘が海へ逃げている‼︎》

 

「よし良いぞ‼︎第二弾飛来‼︎」

 

《炸裂‼︎着弾‼︎》

 

レーダーが荒れる

 

相当な威力だ

 

《舞鶴は壊滅状態だ‼︎ははは‼︎痛快だな‼︎》

 

「最後の一発だ‼︎」

 

《着弾‼︎》

 

本来なら二発程で充分だが、先程殺されかけた事もあり、追い打ちで三発目を出させた

 

《舞鶴はしばらく再起不能だな》

 

「殺されかけたんだ。これ位しないと」

 

《ふっ…まぁ良い。任務完了、RTB》

 

「ありがとう」

 

「凄いわね…」

 

「さ‼︎後は他の連中に任せるんだな。俺は寝る‼︎おやすみ‼︎」

 

レーダーの前で本当に眠ってしまったスティングレイの横で、横須賀がチョコンと座った

 

横須賀はしばらくスティングレイの寝顔を見続けた…

 

 

 

 

次の日、横須賀に数人の男性が送られて来た

 

横須賀は朝から彼等の処分に忙しかった

 

「おはよ、レイ」

 

「おはよう。隊長達は無事か⁇」

 

「うん。昨日の晩、ミサイルが飛んで来た時、隊長と呉さんは子供達をシェルターに避難させた後、自身達はミサイル迎撃の為、各所に設置された銃座に着いてたの。今は帰りの準備をしてるわ」

 

「事は収まったか⁇」

 

「えぇ。舞鶴の艦娘は海へ退避。人間は自分達がミサイルを撃ち出した後、シェルターに逃げて全員無事よ。死者がでなかったのが幸いね」

 

「で、彼奴らはどうなる」

 

「反逆罪で軍法会議ね…まっ、舞鶴の鎮守府は再建可能だし、新しい提督を派遣しようと思う」

 

「無理すんなよ」

 

「貴方もね、レイ…」

 

横須賀は今の様に時々しおらしくなり、無性に護ってやりたくなる

 

「じゃ‼︎俺は帰るぞ‼︎」

 

「あ‼︎そうだ‼︎大佐に双眼鏡渡して置いたから、しおいちゃんにあげて⁇」

 

「サンキュー」

 

こうして、最悪の夜は終わりを迎えた




反逆者をいち早く発見し、破壊、奪還の為に尽力を尽くした貴官等に対し、勲章を授与します‼︎

舞鶴鎮守府が反逆者の手から解放されました‼︎

反対派メンバーの一人、呉さんが舞鶴鎮守府の提督を兼任しました‼︎


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45話 甘えん坊の黒猫(1)

さて、44話が終わりました

パラオに続き、好戦派の基地を奪還したパパ達

舞鶴を奪還した後、またしばらく平穏な日々を過ごします

今回のお話は、作者が最近ようやく手に入れた艦娘のお話です

作者がその艦娘にして欲しい願望が書かれています

この小説の中でも、結構お気に入りのキャラに仕上がってます


「じゃあ、ちょっと行ってくる」

 

「行ってらっしゃい‼︎」

 

一人の艦娘が抜錨する

 

長い黒髪が潮風を受けて、踊る

 

彼女が目指すのは…

 

 

 

 

「づがれだ〜…」

 

「イラッシャイ。オツカレダネ」

 

離島棲姫に出迎えられ、席に着くスティングレイ

 

彼は夜間哨戒を終え、とりあえずスカイラグーンに来た

 

「ヨクガンバッタネ」

 

「へへ、サンキュー」

 

スティングレイの前に、今日はミルクティーが置かれた

 

スティングレイと離島棲姫が楽しく飲んでいると、入り口が開いた

 

長い黒髪を揺らしながら、カウンター席に座った

 

「…何処の奴だ⁇」

 

外見は艦娘だが、見た事が無かった

 

「アタラシイオキャクサンダネ。ノミモノハナニニスル⁇」

 

「麦茶だ」

 

「カシコマリマシタ」

 

注文を終えた後、黒髪の少女は此方を向いた

 

「貴様がスティングレイだな⁇」

 

「あぁ」

 

「貴様を一目見たくてな…此処に足を運んだんだ」

 

「お…おぉ…」

 

黒髪の少女は此方に擦り寄って来て、ソファに四つん這いになりながら更に顔を近付けて来た

 

黒髪は下ろしているのかと思えば、両脇の髪を赤い紐で結っている

 

それと、何処と無く見透かされた感じの瞳

 

身長の割にはかなり大きめの胸

 

長さの違う靴下

 

だが、かなり綺麗な顔立ちをしている

 

黒髪の少女は俺の匂いをかいだり、頬をペロッと舐めたりして来た

 

「な…なんだ…艤装の開発依頼か⁇やめろ…」

 

「貴様が気に入ったのだ。此処にいる時は、私は貴様の物だ」

 

そう言って、人の膝の上で横になる

 

何故だ…何故否定出来ない…‼︎

 

「私に触れろ、スティングレイ」

 

「おい…」

 

腕を握られ、仕方無く彼女の長い髪を撫でた

 

彼女は嬉しそうに膝の上でゴロゴロしている

 

何なんだ…こいつ…

 

「スティングレイ、マタオアイテシテネ⁇」

 

「すまんな…」

 

離島棲姫が空気を読んで席を離れた

 

「幸せだ…貴様に触れられると癒される…」

 

「…」

 

顎の下に手を置いて擦ると、彼女は一瞬ビクッとした後、またゴロゴロし始める

 

………可愛いな

 

いやいや‼︎俺には鹿島がいる‼︎

 

「ムギチャダ」

 

「う、うむ‼︎ありがとう‼︎」

 

机に置かれた麦茶を一瞬で飲み干し、彼女は俺の膝から離れた

 

「またゴロゴロさせてくれ」

 

「お、おぅ…」

 

彼女はそのままスカイラグーンから出て行った

 

「シリアイ⁇」

 

「さぁ…」

 

 

 

三日後…

 

スカイラグーンで、今度は隊長と共にオヤツを食べていた時、彼女はまた来た

 

「またゴロゴロしてもいいか⁇」

 

「へ〜へ〜。どうぞ〜」

 

「ふふっ‼︎」

 

彼女はまた膝の上に寝転がると俺の腕を掴み、頬擦りをし始めた

 

「誰だ⁇」

 

「さぁ…ただ懐いてる…」

 

隊長と話しながらでも手を動かしている

 

髪、顎の下、頬

 

その部分をたっぷりと撫でる

 

しばらくすると立ち上がり、満足気にスカイラグーンを後にする

 

俺はどんどん彼女が気になっていた

 

 

 

そして、また数日後のスカイラグーン…

 

今度は温泉に入っていた時に彼女はやって来た

 

「ナデナデしてくれ」



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45話 甘えん坊の黒猫(2)

「…こいよ」

 

湯船に入って来た彼女は、俺の前に背を向けて浸かり、俺の胸に背中を置いた

 

いつも通りに髪を撫でたり、顎を擦ったりする

 

「せめて名前位聞かせろよ」

 

「言って無かったか⁇これは失礼した。駆逐艦”磯風”だ」

 

「何で俺を知ってたんだ⁇」

 

「貴様は有名人だからな。みんな知っている」

 

「何処の基地の所属だ⁇」

 

「き、今日はもう満足した。また頼む」

 

磯風は何やら急いで温泉から出て行った

 

胸辺りには、まだ磯風の感触が残っている

 

そしてまた、悶々とした日々を送る

 

 

 

「どうレイ⁇釣れる⁇」

 

「あんまだなぁ…」

 

定時報告に来た横須賀が、釣りをしている俺の所に来た

 

「あ、そうだ。お前の所にさ、磯風って名前の駆逐艦いるか⁇」

 

「いないわ。どうして⁇」

 

「何でもねぇよ。忘れてくれ」

 

「そっ。じゃあね」

 

「うぬ」

 

ルアーを投げ直したスティングレイに背を向け、横須賀は高速艇に乗る

 

「提督。調子はどうなんですか⁇」

 

「まぁまぁね…」

 

横須賀はバインダーを胸に抱き、とても嬉しそうな顔をした

 

 

 

次の日…

 

夜間偵察任務を終えた俺は、軽く食事を済ませた後、仮眠室で横になっていた

 

流石に眠たくなり、すぐに目を閉じた

 

しばらくすると、毛布の中に何かが入っているのに気が付いた

 

恐る恐る捲ると、見慣れた少女が居た

 

「あたたかいか⁇」

 

「あぁ…磯風か…」

 

「ナデナデして貰おうと思ったのだが…今日は疲れている様だな」

 

「そうだな…またしてやるよ」

 

「ありがとう…”レイ”」

 

「あぁ…あ⁉︎」

 

一気に目が覚めた

 

俺の事を”レイ”と言う奴は数少ない

 

「き、今日は帰る‼︎この磯風、よ、用事を思い出した‼︎」

 

「ま、待て‼︎」

 

磯風は意外にもすばしっこく、仮眠室から出た時には外に出ていた

 

 

 

 

「ああああぁぁぁ‼︎バレたバレたバレたぁぁぁあ‼︎」

 

急いでスカイラグーンを後にする磯風は、海上で焦っていた

 

そう、彼女はパチモンの磯風

 

パチ風だ

 

正体は横須賀

 

明石に艤装諸々を造って貰い、自分なりに合法でスティングレイに近付いたのだ

 

彼女はある日、艦娘であれば彼に甘えらると考えた

 

そこで一番自分に近い艦娘を選び出し、その娘に扮してスティングレイに近付いた

 

そんな訳だ

 

それがバレた

 

だがパチ風はそのまま諦める訳もいかなかった

 

次の日も横須賀はパチ風に扮し、スカイラグーンに向かう

 

「スティングレイは何処だ⁉︎」

 

「アソコダ」

 

ソファに偉そうに座って煙草を吸っているスティングレイが居た

 

「き、昨日は逃げてすまなかった…」

 

「んっ」

 

スティングレイは自身の膝の上を指差した

 

「い…良いのか⁇」

 

「んっ‼︎」

 

段々と怒り始めたので、ゆっくりと膝の上に頭を置いた

 

スティングレイは煙草を消し、ノンアルコールのビールを一口飲み、撫で始めた

 

「此処に居る時だけだからな…鹿島には黙ってろよ⁇」

 

「貴様は本当に優しいな…提督が惚れたのも分かる」

 

「はいはい」

 

「…やっぱりあんたと居ると落ち着くわ…」

 

「けっ‼︎最初から素直に言えってんだ‼︎」

 

「早く撫でなさいよ‼︎ホラ‼︎」

 

「あ〜も〜分かったよ‼︎でも、一つだけ約束しろ‼︎」

 

「何⁇」

 

「ここにその格好で来る時は、磯風に徹しろ。その時、俺はお前を横須賀じゃなくて、磯風として扱う。これでどうだ⁇」

 

「う…うむ‼︎それがいい‼︎やはり貴様は優しいな‼︎この磯風、さらに貴様に惚れたぞ‼︎」

 

「そそ、そういう感じだな」

 

結構似合っていた、チョット上から目線の磯風モード

 

俺も嫌いでは無かったので、みんなには内緒で続ける事になった

 

 

 

 

…膝の上でゴロゴロする横…磯風は可愛いしな、うん




磯風(パチモン)…スティングレイに甘えたい横須賀が磯風に扮した状態

通称、パチ風

横須賀曰く”艦娘になれば合法的に甘えられるから”との事

だが、容姿は本当に似ており、横に並べられると本当に見分けが付かない

料理もヘタ

好きな人にすぐ噛み付く

上から目線等、本当に似ている

唯一違うのは、横須賀の方が若干巨乳だと言う事位


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46話 魔女は何でもお見通し

さて、45話が終わりました

お陰様で付き添い有りきなら、何とか外出出来る様になり、この間、大阪日本橋に行って来ました

同人誌売り場に鹿島棚があるのは本当だったよ

それと、ストリートフェスタにも巻き込まれた

さて、私事はこれ位にして

今回のお話は単発です

題通り、プリンツが少しだけ活躍します


「クンクン」

 

「クンクン…」

 

「くんくん」

 

「な…なんだよ…」

 

朝刊を読んでいたスティングレイの所に、鹿島、プリンツ、たいほうが匂いを嗅ぎに来た

 

「煙草の匂いです‼︎」

 

「男の匂いがします…」

 

「てつのにおい‼︎」

 

「なんだよ。浮気したとでも思ったのか⁇」

 

「えぇ」

 

「私は別に‼︎」

 

鹿島は笑顔で本心を言い、プリンツは手振り付きで否定

 

「たいほうはにおいかぐだけ‼︎」

 

たいほうだけが純粋だった

 

「そうか‼︎たいほうは偉いな‼︎」

 

「たいほうえらい⁇」

 

「偉いぞ〜たいほうは天才だ‼︎」

 

スティングレイはたいほうを抱き上げ、外に出た

 

「たいほうちゃんに取られましたね」

 

「レイ、怒ってるわ…」

 

「えっ⁇」

 

何となく、鹿島には分かった

 

自分の旦那なのに、疑ってしまった

 

レイは私の事を信じていてくれるのに…

 

「心配するな。男に浮気は付き物だ」

 

腕を組んで座っていたのは武蔵

 

「そんな事を全部ひっくるめて、我々は番いになったはずだ」

 

「レイに謝らないと…」

 

 

 

 

「なにつくるの⁉︎」

 

「これか⁇新しい装備さ」

 

スティングレイの手元には、小さな機銃があった

 

「これは肩に乗せて使うんだ。ちょっと付けてみるか⁇」

 

「うん‼︎」

 

たいほうの両肩に、小さな機銃が乗る

 

「重いか⁇」

 

「おもたくない‼︎かるいね‼︎」

 

「これは、近接攻撃兼アクティブ防御の為の機銃だ」

 

「あくてぃぶぼーぎょ」

 

「自分で考えて、自分で撃って、たいほうを護ってくれる凄い機銃だ」

 

「たいほうにくれるの⁉︎」

 

「いいぞ。じゃあ、そこの的を狙ってみようか」

 

たいほうを的の前に立たせる

 

「頭で考えるんだ。的を撃て‼︎って」

 

「まと…」

 

たいほうが的を見て指を咥えた瞬間、両肩の機銃が静かに火を吹いた

 

「わぁ‼︎」

 

「サイレンサーも付いてる。気に入ったか⁉︎」

 

「うんっ‼︎すてぃんぐれいはすごいね‼︎」

 

「ふっ…」

 

たいほうの艤装取りながら、スティングレイはパパと同じ顔をする

 

優しい、父親の顔だ

 

「あの…レイ⁉︎」

 

モジモジしながら鹿島が入って来た

 

「鹿島か⁇どうした⁇オヤツか⁇」

 

「さっきはごめんなさい…」

 

シュンとして下を向く鹿島

 

「何で謝る⁇」

 

「だって…レイ怒っちゃったから…」

 

「鹿島…お前って、結構バカだよな⁇」

 

「なっ‼︎」

 

シュンとした顔が一気に赤くなる

 

「俺が怒ると思ったか‼︎ざんぬぇ〜ん‼︎」

 

「バカ‼︎」

 

「今に始まった事じゃね〜だろ‼︎」

 

「レイ〜‼︎」

 

「ぷりんつだ‼︎」

 

プリンツの所に走り寄ったたいほうが彼女に抱かれたのを見て、スティングレイは鹿島を抱き寄せた

 

「ほら、もう泣くな。俺は浮気なんてしてないよ。こんな最高の妻、誰が手放すもんか」

 

「…レイっ‼︎」

 

「まっ‼︎反省してるなら、今晩あたり相手する事だな‼︎はっはっは‼︎」

 

冗談交じりで工廠に戻るスティングレイに対し、今度は殺意が湧いて来た

 

「レイ〜⁇」

 

「は、はひ…」

 

鹿島の殺気に気付いたのかスティングレイの体が震え始めた

 

「分かりましたっ‼︎待ってますからね‼︎」

 

「お…おぅ‼︎」

 

「こうび⁇」

 

「たいほう。覚えなくていいからな⁇」

 

「私と遊びましょう‼︎何しましょうか⁉︎」

 

「あらたしいところいくの」

 

プリンツがウインクして、たいほうを連れて行ってくれた

 

一時の性格は何処へやら…

 

安堵のため息を吐き、工廠に戻る

 

 

 

 

たいほうとプリンツは林に行き、そこで遊び始めた

 

「あれは何です⁇」

 

「りす‼︎たいほうがはじめておぼえたいきもの‼︎」

 

二人の目線の先には、一匹のりすがいた

 

「これたべれるよ」

 

たいほうは木の実を取り、プリンツに渡す

 

渋っているプリンツを横目に、たいほうはそれを口にした

 

それを見て安心したのか、プリンツも口に入れてみた

 

「んっ⁉︎これは中々…‼︎」

 

「きいちご」

 

たいほうは海はあまり詳しくは無いが、やたらと木々や昆虫に詳しい

 

基地の敷地面積は限られており、尚且つ隔離されている

 

それに応じて、遊び方も少なくなる

 

たいほうはその限られた”遊び場”の中で、自分なりの遊び方を見つけた結果、こう言う事に詳しくなった

 

普段パパが買い与えている本の類も、あまり経験しない事が書かれている内容の本が多いのもある

 

二人は手を繋いで林の深い場所を目指した

 

「おはなさいてるね」

 

小さな花が沢山咲いている場所に着き、二人はそこに腰を降ろした

 

「ちょっと待って下さいね…」

 

プリンツが何やらしている手元を、たいほうは女の子座りをして見つめる

 

「はいっ‼︎」

 

「わぁ‼︎」

 

たいほうの頭に、花で作った冠が乗せられた

 

「ありがと‼︎」

 

「いーえー」

 

たいほうはしばらくプリンツの膝でゴロゴロした後、二、三本花を摘んだ

 

「きて、ぷりんつ」

 

「何処行くんです⁉︎」

 

たいほうに着いて行くと、海が見渡せる場所に着いた

 

その先の所に、小さな石碑があった

 

「おはか」

 

先程摘んだ花を石碑の下に置き、しばらくジーッと見つめる

 

「かいぞくのおはかかな⁇」

 

「そうかも知れませんね…」

 

プリンツが手を合わすのを見て、たいほうも手を合わせる

 

「これ、あげていい⁇」

 

「えぇ」

 

頭に乗った花の冠を石碑にかけた

 

「…帰りましょうか‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

 

 

 

「…」

 

数時間後、その石碑の前に黒い影が…

 

「コレハ…」

 

備えられた花を見て、その女性は微笑んだ

 

「ヤット…アイサレタンダナ…ママモ、イマヨウヤクアイサレタンダヨ⁇」

 

ル級は石碑を見て、優しく微笑んだ



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番外編 ダズル娘と純情ワンコ(アウトローマシマシ)(1)

榛名回を書いて欲しいとの要望があったので、番外編ですが、榛名回を書きます

相変わらずハンマーを振り回す榛名

そんな基地に運悪く、空軍のアウトローが降り立つ

しかし、アウトローは何とか榛名を治そうと努力をする

結果は如何に…‼︎


ここは、単冠湾の基地

 

一人の青年が提督を務めており、戦争反対派メンバーの一員であり、パパの集まりの主要メンバーでもある

 

そんな彼は、少し前に練習巡洋艦”香取”とケッコンカッコカリを果たした

 

しかし、そんな彼の秘書艦は今も昔も変わらずただ一人…

 

「おい提督‼︎」

 

「は、榛名‼︎」

 

そう、金剛型戦艦”榛名”

 

彼が初めて手に入れた艦娘でもある

 

「この”消費資源節約調書”とはなんダズルか⁇榛名はもう必要無いとでも言いたいダズルか⁇」

 

この語尾に”ダズル”と付くのが、単冠湾の提督、通称ワンコのその秘書艦、榛名だ

 

榛名は建造された時、ネジが一本足らず、性格が180度違った状態で産まれて来た

 

「今日は超強力なハンマーを用意したダズル。榛名は大丈夫じゃないダズル。辛抱ならんダズルよ⁇」

 

榛名の手には、トゲトゲの付いた痛そうなハンマーが握られていた

 

榛名はハンマーが好きで、主砲を持たずに出撃をしているのだが、必ずと言っていい程戦果を上げてくるので、無理に否定も出来ない

 

「そ…その先端の赤い液体は⁇」

 

ハンマーの先には、今しがた付いた様な赤い液体が滴り落ちていた

 

「さっき外にいた、いけ好かない野郎をブッ飛ばしたダズル。提督も一発行くダズルか⁇」

 

ハンマーを持ったまま、ジワリジワリとワンコに近寄る榛名

 

同じ時、基地で一人の男が目を覚ました

 

 

 

「い…イテェ…」

 

彼が榛名がブッ飛ばした野郎だ

 

 

 

数分前…

 

単冠湾の基地に、一機の黒い機体が着陸した

 

「いいね〜単冠湾いいね〜」

 

新しい兵装のデータを手に、スティングレイが機体から降りて来た

 

「いらっしゃいませ‼︎高速戦艦、榛名です‼︎」

 

この至って普通の榛名こそ、あの榛名である

 

客人には礼儀正しい

 

「おっ、この基地の秘書艦様か⁇」

 

「えぇ‼︎榛名がご案内致します‼︎」

 

榛名に案内され、提督室に向かっていた時だった

 

「香取先生はどうした⁇」

 

この一言が、榛名を怒らせた

 

「香取⁇そんな奴はいないダズルよ…ふふふ」

 

「え''っ」

 

榛名の手には、先程のハンマーが握られている

 

普段はポケットに入る位小さく収納出来るよう、工廠の妖精を脅して造ったのだ

 

「もう一度言うダズル。香取は⁇」

 

「い、いません‼︎」

 

「よし、許してやるダズル。二度とその名を言うな。分かったダズルか⁇」

 

「お、オーケー…ハンマー仕舞おうか⁇」

 

手を上げて参ったの態勢を取ったその時、運悪く内ポケットから鹿島の写真が落ちた

 

「げっ‼︎」

 

榛名はそれを取り、ハンマーを持った手をプルプル震わせ始めた

 

「ふっざけんなダズル‼︎あんたも提督もやってる事一緒ダズル‼︎」

 

榛名の渾身のフルスイングが、スティングレイの鳩尾にクリーンヒットし、スティングレイは星になった

 

「ぐわぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

「星と共に滅びるがいいダズル‼︎」



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番外編 ダズル娘と純情ワンコ(アウトローマシマシ)(2)

榛名の喋る言葉に注目

どれが誰か分かるかな〜⁇

ヒント

・別艦4種

・英語みたいな文の意味が分かった人には、スティングレイから拍手が貰えます


「あはははは‼︎楽しいダズルなぁ〜‼︎榛名を娶らなかった提督が悪いダズル」

 

提督室でハンマーを振り回す榛名に怯えながら、ワンコは部屋の隅っこで震えていた

 

「た、助けて‼︎」

 

「無駄な足掻きダズル‼︎」

 

榛名がハンマーを振り上げた時、誰かが手を止めた

 

「ったく…何だこの榛名は‼︎」

 

「す、スティングレイさん‼︎」

 

「貴様、まだ生きてたダズルか‼︎だが、貴様の墓場はここダズル‼︎」

 

「くらえ‼︎」

 

スティングレイは手に持っていた球を榛名に向かって投げた

 

「うわ‼︎何ダズルか‼︎ははは‼︎そんな攻撃、ビクともしない…ダズ…ル…」

 

急に眠気が来た榛名は、ハンマーを手から離し、床に倒れた

 

「ただの催眠弾だ。間一髪だったな」

 

「スティングレイさんは大丈夫なんですか⁉︎」

 

「俺か⁉︎ほれ、この通り」

 

タンクトップをめくると、見事な腹筋が出て来た

 

「あ、バケツ貰った」

 

「あぁ‼︎バケツですか‼︎…バケツで治ったんですか⁉︎」

 

「あれ、人間にも効くんだぞ〜。さてと…」

 

榛名を抱えて椅子に座らせ、電探カチューシャを取った

 

「こいつが原因だな…どれ」

 

スティングレイが色々弄っている間、ワンコはそれをマジマジと見つめていた

 

「こいつでどうだ‼︎」

 

榛名の頭にカチューシャを戻すと、目を開けて一言

 

「ブリザード、ファーッ…」

 

「ダメだ」

 

再びカチューシャを取り、榛名は気絶する

 

「それが本体なんですか⁉︎」

 

「違う。こいつが変な電波を出してるから榛名が狂ってるんだ」

 

両脇に付いた出っ張りの様な物をキリキリと回し、幾度となく取ったり付けたりを繰り返す

 

「どうだ‼︎」

 

「サイレンサー破壊‼︎一本‼︎二本‼︎」

 

「これで‼︎」

 

「闘魂‼︎抽出‼︎帰ります‼︎」

 

「そ〜っと…」

 

「おや、おやおや…プールの監視員は体験するものよ⁇」

 

「…」

 

「used ubuojiad ah anurah」

 

「参ったな…」

 

若干どこかで聞いた事のある様な内容な台詞を何度も繰り返した挙句、謎の英語を話し始めた

 

「これでどうだ…」

 

そ〜っと榛名の頭にカチューシャを乗せ、手を離した

 

「ん〜…ここどこ〜⁇おいたんだぁれ〜⁇」

 

「おっ…」

 

指を咥えた榛名が、辺りを見渡す

 

かなり幼女化してしまったが当初の事を思えばうんとましだ

 

「あ‼︎ていとくらぁ‼︎だっこだっこ〜‼︎はるな、ていとくだいしゅき〜‼︎」

 

「…どうする⁇このままにするか⁇」

 

「か、体と性格がアンバランスです…ムギュウ…」

 

榛名はワンコにベッタリくっ付いて離れない

 

勿体ないが、ワンコの為だ

 

仕方なくカチューシャを取った

 

「さて…とりあえず一服だ」

 

窓を開け、タバコに火を点ける

 

「スティングレイさん」

 

「ん⁇」

 

「榛名は…治らないんですかね…」

 

「心配すんな。治してやるよ。さてっ‼︎」

 

何時も通り、フィルターの少し手前まで吸い、吸い殻の火を消し、カチューシャに手を付けた

 

「まぁよ、榛名が好きなのは分かった。だけど、もう少し構ってやるべきだな」

 

「ちゃんと謝らないと…」

 

「ほら、起きろ」

 

カチューシャを被せ、頭を軽く二、三回叩く



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番外編 ダズル娘と純情ワンコ(アウトローマシマシ)(3)

「起きませんね…」

 

「シンデレラってのはどうやって起きるんだ⁇」

 

「でも…」

 

「ワンコがケッコンしてても、この子はこの先ずっとお前に愛情を向け続ける。それを受け止めるべきではないのか⁇」

 

「…」

 

「因みに言うと、俺は鹿島とケッコンしてからプリンツとキスした。大人のキスだ」

 

「…えい‼︎」

 

ワンコは目を閉じ、榛名の口にキスをした

 

「ふっ…それでこそ男だ」

 

目を覚ました榛名は、ワンコを抱き締め、更に深いキスを求めて来た

 

長いキスが終わると、ワンコはトロンとした顔をしていた

 

「提督っ‼︎榛名、嬉しいですっ‼︎」

 

「良かった…元に戻ったんだね‼︎」

 

抱き合う二人を横目に、スティングレイは部屋を出ようとした

 

後は二人の世界だ

 

「スティングレイさん‼︎ありがとうございます‼︎」

 

スティングレイは右手を軽く上げ、部屋を後にした

 

兵装のデータは机の上に置いて来た

 

ディスクなので、すぐ分かると思う

 

《レイ⁇今何処です⁇》

 

鹿島から無線が入った

 

「単冠湾の基地だ。もうすぐ帰る」

 

《プリンツとキスしたって本当ですか⁉︎》

 

「したよ。それが礼儀だ」

 

《うふふっ、貴方らしいですっ‼︎》

 

この前の一件から、鹿島は寛容になった気がするが、やはり鹿島以外とは一線を越えてはいけないと言う意識はある

 

「心配すんな。それ以上は絶対行かない」

 

《はいはいっ。貴方を信じてますよっ。今日の晩御飯はしゃぶしゃぶですよ‼︎良いお肉です‼︎》

 

「すぐ帰るよ」

 

無線を切り、フィリップに乗り、単冠湾を後にした

 

 

 

「提督…貴方には香取さんがいらっしゃいます。ですから…」

 

「僕は…榛名も好きなんだ。ずっと迷ってたんだけど、スティングレイさんの言葉で目が覚めたよ」

 

「…榛名、嬉しいですっ‼︎」

 

二人は見つめ合い、互いの息が顔にかかる位置まで近付いていた

 

そんな良い雰囲気の中、ワンコの顔を掴んだ榛名

 

「しっかし、人が寝ている時にキスするとか最悪ダズルな。無理矢理も良い所ダズル」

 

「な、治ってない‼︎」

 

「さぁ、今日は一緒に寝るダズル。榛名も愛してくれると約束したダズル」

 

軽々とワンコを肩に抱え、提督室から出る榛名

 

「今日は提督のハンマーで榛名を泣かすダズル。ははは」

 

「ヤダぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

榛名は自室にワンコを連れ去り、ドアを閉めた

 

「おぉ…提督のハンマーも中々ダズルな…」

 

「ひっ…」

 

「これで今まで香取を何回泣かせで来たダズル⁇えぇ⁉︎霧島にも世話になったらしいダズルなぁ⁉︎」

 

「ご、ごめんなさい‼︎」

 

「ははは。謝る必要は無いダズル。さぁ、榛名とアバンチュールダズル‼︎」

 

「うわぁぁぁぁあ‼︎」

 

 

 

…単冠湾は、今日も何とか平和である‼︎




ハンマー榛名…単冠湾の最強艦娘

ワンコが一番最初に手に入れた艦娘

撃沈数ナンバーワンの最強艦娘だが、性格と素行に大問題を抱えている

ワンコが香取とケッコンしてから更にハンマーを振り回す様になり、艦娘深海共々から恐れられているので、ワンコもスカイラグーンに連れて行けない

普通の榛名と違い爆乳

普通の榛名も大概巨乳だが、ハンマー榛名は更にデカい

ハンマーを振り回す度に上下左右に揺れる為、ワンコもスティングレイも満更でも無い様子

事ある毎にワンコに色仕掛けを仕掛けるが、ワンコからするとメチャクチャ嫌がる


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47話 愛の巣(1)

さて、46話、そして番外編が終わりました

今回のお話は、パパに久々の休暇が降ります

特に行く所の無い彼は、いつも通り自分の街へと帰ります


再びやって来た休暇期間

 

嫌で仕方無い

 

横須賀に言い渡され、「今度は一週間です」と言い捨てられた

 

毎日が休みみたいなものなのに、ましてや二週間は一切基地に近付くなと言われた

 

今回はスティングレイが居るから安心出来るが…

 

またしても何処へ行くか悩んだが、とりあえず横須賀鎮守府に向かう事にした

 

「大佐⁇休暇中じゃ⁇」

 

入ってすぐ、横須賀に見つかった

 

「車借りに来たんだよ」

 

「何処に行かれるんです⁇」

 

「まずは自分の街だ。その後は風まかせ…だな」

 

「気をつけてくださいね」

 

「ん」

 

車を借りようとしたが、現在軍用のジープしか無いらしく、再びバイクを借りる事にした

 

バイクに乗り、しばらく考え事をしながら走る

 

平和になったら一度、スティングレイとツーリングに出掛けてみたい

 

スティングレイとは傭兵時代、空いた時間を共に過ごす事が多かったが、本当の意味で遊んだ事は無かった

 

だから、一度二人で出掛けてみたい

 

そうこうしている内に、自分の街に着いた

 

「大佐⁉︎」

 

エンジンを止めた瞬間、パンパンのリュックサックを背負った瑞鳳と出会した

 

「買い物か⁇」

 

「うん。新しい料理に挑戦しようと思って‼︎」

 

「みんなは元気か⁇」

 

「うんっ‼︎ビスマルクが大佐に会いたがってたよ⁉︎」

 

「…乗るか⁇ビスマルクに会いに行くからついでだ」

 

「やった‼︎ありがとうございます‼︎」

 

瑞鳳がピッタリと背中に付き、バイクを彼女達の居住区まで走らせ、”びすまるく”と書かれた家の前に停めインターホンを鳴らした

 

「お客さんだよ〜‼︎」

 

《今出るわ‼︎待ってって言っといて‼︎》

 

中からドタドタと音がし、息を切らしたビスマルクが出て来た

 

「や、ヤダ‼︎大佐‼︎こんな格好で…」

 

ヘアバンドにメガネ

 

そしてジャージ

 

完全にリラックススタイルだ

 

だが、そこは流石のビスマルク

 

何を着ても似合う

 

「とりあえず入って。瑞鳳、貴方もよ」

 

「お邪魔しまーす‼︎」

 

部屋の中は綺麗に整理整頓してある

 

…書斎以外は

 

机の上にはパソコンが置かれ、周りには沢山の書類がある

 

「小説を書いてるのよ。戦えなくなった今、私に出来る事は文字で人を平和にする事よ」

 

「絵とよく似てるな」

 

「貴方のお陰よ」

 

「ビスマルク〜、台所借りるよ〜」

 

「どうぞ」

 

瑞鳳が台所に立ち、私達二人はリビングでコーヒーを飲み始めた

 

「今日は子供達と一緒じゃないの⁇」

 

「休暇だと。基地を追い出された」

 

「たまには子育てから離れるのもいいんじゃない⁇新しい事が見えてくるかも⁇」

 

「だと良いがな…」

 

「出来ましたよ〜‼︎簡単ですけど、おつまみです‼︎」

 

10分もしない内に出来上がったのは、油揚げを簡単に焼き、中にチーズを入れた物だ

 

「アルコールの薄いお酒もありますよ⁇」

 

机の上に置かれた、三本のチューハイ

 

「今日はここに泊まりなさい。いいわね⁇」

 

「ありがとう。助かるよ」

 

「じゃ、かんぱ〜い‼︎」

 

3つの缶が重なり、コツンと音が出た

 

「大佐、基地はどうなんです⁇」

 

「楽しいよ。今は相方に任せてある」

 

「指輪してるわね。結婚したの⁇」

 

「ケッコンした。武蔵を覚えてるか⁇」

 

「戦艦の人ですよね⁇大佐の子供を抱っこしてた」

 

「そう、あの子だ」

 

「戦争が終わっても、一緒に居るの⁇」

 

「そうだな…今はまだ分からない。何せ”カッコカリ”らしいからな」

 

「なら、私にもまだチャンスはあるのね⁇」

 

「やめろよ…全く…」

 

三人の笑い声が響く



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47話 愛の巣(2)

その頃、街の港付近では…

 

「よいしょ…ついた‼︎」

 

一人の女の子が、ボートから降りて来た

 

「いい⁇ちゃんと”艦娘居住区まで行きたい”って言うのよ⁇」

 

「わかった‼︎」

 

ボートに乗った横須賀を見送り、女の子は街に繰り出した

 

「わぁ〜‼︎」

 

彼女にとって、見た事の無いものばかりが目に入る

 

洋服

 

おもちゃ

 

その他色々な雑貨

 

「あらあら、何処から来たの⁇」

 

学校を終えたみほが少女の前に屈んだ

 

「みほちゃんだ‼︎」

 

「あらあら‼︎」

 

少女はみほに抱き着き、そのまま抱え上げて貰う

 

「かんむすきょじゅうくにいきたいの」

 

「いいわよ。私も丁度帰るの。一緒に行きましょ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

少女を抱えたみほは異様な光景だった

 

女子高生が子供を抱っこして街を練り歩いているのだ

 

少女は街の色々な旗や看板を見て、名前を言っている

 

「ようがし、さーばんと」

 

洋菓子、サーバント

 

エクレアが安くて美味しい店だ

 

「ぱんしょっぷ、ぱんや」

 

パンショップ、パン屋

 

至って普通のパン屋だが、スーパーと同じ値段で焼き立てのパンが食べられる店だ

 

「じゃすこ」

 

「あれはイオンよ⁇」

 

「ぱぱ、じゃすこっていってた」

 

「昔の名前ね…」

 

そして、少女の目に一つののぼりが入った

 

「ころっけ」

 

「食べたい⁇」

 

「たべたい‼︎」

 

少女を抱えたまま、みほはコロッケの露店に立ち寄った

 

「二つ下さい」

 

「はいよ〜‼︎あらみほちゃん‼︎子供居たの⁉︎」

 

露店のおばさんはビックリしていた

 

みほレベルなら、いてもおかしくは無いが、何だかんだでみほは身持ちが固い

 

「知り合いの子供なんです。居住区に行きたいみたいで、連れて行くんです」

 

「そっか〜‼︎ビックリしたわ〜‼︎ちょっとサービスしとくね‼︎」

 

「あらっ、ありがとう」

 

沢山のコロッケを持ち、少女と共に艦娘居住区に着くと、ビスマルクの家から笑い声がした

 

しかも、家の前には”横須賀鎮守府備品”とシールが貼ってあるバイクが停めてある

 

チャイムを鳴らすと、中からビスマルクの声で「開いてるわ‼︎」と、言われ、少女を抱っこしたまま中に入った

 

「あらあら、みんな集まってたのね‼︎」

 

「パパ〜‼︎」

 

「た、たいほう⁉︎どうしてここに居るんだ⁉︎」

 

みほはたいほうを降ろし、大佐の所へ走らせた

 

「たいほうもおやすみ」

 

「そ、そっか」

 

たいほうを膝に乗せた大佐は、本当に父親に見えた

 

「こうなったら、みんな呼びましょうよ‼︎ね⁉︎広場で何かしましょう‼︎」

 

「いいな、それ‼︎」

 

せっかくの休暇だ

 

楽しまなければ損だと考えた

 

ビスマルクは居住区のみんなを広場に呼び、中心にバーベキュー台を幾つか立てた

 

「じゃあ、買い出しに行くわ。二時間後に集合ね‼︎」

 

「おかいもの⁉︎」

 

「私と行きましょうか」

 

みほ、たいほう、私の三人で、買い出しに行く事になった

 

店内に入る随分前に、たいほうを中心にし、それぞれがたいほうと手を

繋ぐ

 

側から見ればまるで、子供が出来て間もない家族の様に見える



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47話 愛の巣(3)

「じゃすこ‼︎」

 

「そうか。たいほうは初めてか‼︎」

 

「じゃすこひろいね‼︎」

 

店内に入るなり、たいほうは広さに驚いていた

 

《イオンモールへようこそ‼︎》

 

「‼︎」

 

店内放送が流れ、たいほうはそれに反応した

 

「たいほうおかいものにきたの‼︎」

 

《本日は火曜特売の日です。お値打ちな商品が沢山あります‼︎》

 

「たまねぎとおにくはありますか⁉︎」

 

《お肉は2割引、野菜はたまねぎ、ジャガイモ等がお安くなっています‼︎》

 

店内放送と上手く話が噛み合い、見ている二人もクスッとなってしまった

 

たいほうをカートの子供シートに乗せ、買い物を始める

 

「たまねぎ」

 

「待って。これと…これね」

 

みほが目利きでたまねぎを選び、カゴに放り込む

 

「おにく」

 

「焼肉だからこれね」

 

「ういんなーたべたい‼︎」

 

「じゃあ、これも入れましょう」

 

たいほうはどんどんカゴに入れられる商品を目で追っている

 

「お菓子はどうする⁇」

 

「おかしいらない。おにくたべるの」

 

「ふっ…ならジュースにしよう」

 

ジュースコーナーに行くと、たいほうは何かを取ろうとしている

 

「りんごのじゅーす」

 

「これか⁇」

 

「それのみたい‼︎」

 

ニコニコマークが書かれたりんごのジュースをカゴに入れ、その場を後にする

 

その後、お酒を少し買って、レジを済ませた

 

「だいぶ時間余ったな…」

 

「私、荷物持って帰るから、もう少し居る⁇」

 

「いいのか⁇」

 

「いいわよ。親子二人で楽しみなさい⁇」

 

ウインクを残し、みほは軽々と荷物を持ち、店内を出た

 

「だっこ〜」

 

カートの子供シートは狭い様で、たいほうは手を上下して抱っこをせびって来た

 

「よいしょ」

 

たいほうを抱き上げ、二階へと向かう

 

「何か欲しいか⁇」

 

「えほんかうの」

 

本屋に向かうと、普段横須賀の売店では売っていない本が沢山あった

 

「好きなの持っておいで」

 

「これ‼︎」

 

降ろしてすぐに持って来た本は、小さな虫の図鑑と生き物の図鑑、絵本の計三冊

 

「みんなとよむの‼︎」

 

「よしよし、買ってやる」

 

「たいほうおかねあるよ‼︎」

 

武蔵辺りに持たせて貰ったのか、首から下げたカエルのポーチのジッパーを開けると、中には小銭が入っていた

 

全部集めても2千円行くか行かないか位しか無い

 

ポーチを見て口を尖らせているたいほうの頭を撫で「パパが買ってやる」と言うと、たいほうはニコッとした後、ジッパーを閉じた

 

「さ、そろそろ行こうか」

 

「ありがと‼︎」

 

ジャスコを出ると、たいほうは店に振り返り「じゃすこばいば〜い」と言い、私の手を握った

 

 

 

 

居住区に帰ると、美味しそうな匂いが漂って来た

 

居住区は円形になっており、中心に広場があり、その中心でバーベキューをしている

 

居住区の全員が集まっており、広場は賑やかになっていた

 

「大佐‼︎もうすぐ焼けるわよ‼︎」

 

「すぐ行くよ‼︎ビスマルクの所に行っといで」

 

「わかった‼︎」

 

バイクのケースに本を入れ、広場に向かう

 

「わぁ〜‼︎」

 

たいほうが肉を見て目を輝かせている

 

たいほうは、あぁ見えて結構食べる

 

蟹鍋の時もそれなりに食べていた

 

「じゃ‼︎頂きましょう‼︎」

 

ビスマルクが天高く缶ビールを掲げ、その場にいた全員が「頂きます‼︎」と叫び、頃合いに焼けた肉をそれぞれ手にし始めた

 

たいほうはビスマルクの所で一緒に食べているので安心だ

 

私は…

 

「よっ‼︎大佐‼︎」

 

「摩耶⁉︎」

 

いつかの何でも屋の摩耶だ

 

ベンチに座り、二人で話し始めた

 

「へへへ、ビックリしたか⁇最近ここに住み始めたんだ‼︎」

 

「住み心地はどうだ⁇」

 

「良い感じだよ。戦争から離れた場所には、こんな場所もあったんだなぁ…」

 

「ふっ…そりゃ良かった。何でも屋は引退か⁇」

 

「そうだな。今は駄菓子の卸問屋をしている」

 

「またマイナーな…」

 

「駄菓子は良いぜ⁉︎何せ子供が寄って来る‼︎」

 

摩耶も子供好きの様だ

 

そう言えばこの居住区が出来てから、急激に犯罪数が減ったらしい

 

朝の通学路では保護者に代わり、ここにいる子達が横断歩道で旗を振ったりして安全を確認

 

夕方はまた通学路の安全確認

 

夜は代わりばんこで巡回

 

これが今の彼女達の本職だ

 

朝からお昼までは自由時間だが、摩耶の様に短時間のアルバイトをする子達もいる

 

「大佐には感謝してもしきれねぇな」



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47話 愛の巣(4)

「ここは良い街だ。ここだけは、何としても護りたい…そう思わせるまでの街だ」

 

「落ち着いたら帰って来るよな⁉︎」

 

「家は空いてるのか⁉︎」

 

「まだ沢山あるぜ。だけど、一軒だけ絶対入れない家がある。ほら、あそこ」

 

摩耶が指差す先には、周りの一軒家と同じ風貌の家があった

 

「あそこは大佐の家だ。お金の心配は一切ない。ここにいるみんなからのプレゼントさ‼︎」

 

「俺の家…」

 

少しボーッとする

 

武蔵がいて

 

たいほうがいて

 

平和な家庭が頭によぎった

 

だが…

 

「あ、今他の連中の心配したろ⁉︎それも心配無用だ‼︎」

 

摩耶には全て見抜かれていた

 

「この一帯、全部居住区なんだよ‼︎勿論一般市民も住んでるけど、みんな快く私達を迎えてくれた。だから、大佐の所の子達も、落ち着いたらここに住めばいい‼︎」

 

「それを聞いて安心した…休暇中、あそこで過ごしていいか⁉︎」

 

「いいぜ‼︎ある程度の家具は揃ってるから、すぐに暮らせる。鍵は…伊勢‼︎」

 

「はいは〜い‼︎」

 

バーベキューに付きっ切りだった為、汗だくになった伊勢が来た

 

「大佐の家の鍵持ってるか⁉︎」

 

摩耶がそう言うと、笑顔だった伊勢の顔が更に笑顔になった

 

「これです‼︎はいっ‼︎」

 

振り袖から鍵が出て来た

 

「ほらよ‼︎ベッドもフカフカだぜ‼︎」

 

「ありがとう‼︎」

 

明日、前の家を引き払おう

 

大した荷物も無いので、荷物出しはすぐ終わる

 

そしたら、武蔵を…

 

いや、今から呼ぼう‼︎

 

携帯を出し、スティングレイに電話を掛けた

 

《もしも〜し、隊長か⁉︎たいほうはいるか⁇》

 

「いるよ。たいほうも休暇だってな。そっちはどうだ⁉︎」

 

《今夕飯食べ終えた所さ‼︎グラーフのアホがアホ程シチュー作りやがって大変だったよ‼︎横須賀も呼んで、何とか消化したよ‼︎》

 

「ははは‼︎武蔵はいるか⁇」

 

《ほら。隊長だ》

 

《提督よ‼︎楽しんでいるか⁉︎》

 

「おかげさまでね。突然だけど、明日艦娘居住区に来れるか⁉︎」

 

《明日か‼︎横須賀よ‼︎構わぬか⁉︎》

 

電話の向こうから横須賀の声で「大佐と同じ休暇ね⁉︎分かった‼︎」と聞こえて来た

 

《了解した‼︎明日、横須賀経由で其方に向かう‼︎》

 

「頼んだよ」

 

電話を切り、ようやく肉を口にした

 

みんなで食べる肉は、本当に美味しかった

 

たいほうも満足気だ

 

辺りが暗くなって来た頃、バーベキューはお開きになり、私とたいほうは家に入った

 

家は二階建てで、家具等も本当にあった

 

テレビもある

 

早速風呂を溜め、テレビを付けた

 

単調なつまらない政治の話が数分続いた後、バラエティー番組に変わった

 

たいほうを膝に置き、大笑いする

 

基地でも笑いが絶えない毎日だったが、久々に見たバラエティー番組は面白かった

 

その後、たいほうとお風呂に入り、二階のベッドで横になった

 

 

 

 

次の日の朝、みほにたいほうを預け、元住んでいた家に向かった

 

本当に大した物は無かった

 

当時の資料

 

航空関係の書物

 

勲章の数々

 

それと…

 

「…」

 

二人写った、一枚の写真

 

私と、艦娘になる前の武蔵だ

 

少しだけ口角を上げた後、それを鞄に入れた

 

未練は無かった

 

あまり良い思い出も無かった

 

傭兵時代にほんの少ししか過ごさなかったからだ

 

「ありがとう…じゃあな」

 

家に別れを告げ、新しい家に向かう

 

居住区に戻ると、武蔵がオロオロしていた

 

「提督よ‼︎来たぞ‼︎」

 

「来たか‼︎さ、入ろう‼︎」

 

「お、おぅ‼︎」

 

武蔵の手を引いて、家の中に入った

 

「ここは…」

 

「俺の家さ。休暇中、ここで過ごそうと思ってな」

 

「綺麗な家だな…」

 

「少し慣らしておこうと思ってな。それで呼んだんだ」

 

「憧れの夫婦生活か‼︎」

 

「そうだ‼︎」

 

「たいほうもいるのだな⁉︎よし‼︎」

 

武蔵はエプロンを掛け、台所に立った

 

私は書斎で荷物を整理し始めた

 

書物や資料を棚に入れ、壁に勲章を飾る

 

最後に机の上にあの写真を置く

 

武蔵は、いつ思い出すかな…

 

私といた記憶を、いつか思い出すといいな…

 

 

 

 

休暇中は、本当に幸せだった

 

三人で公園に出かけたり、街に買い物にも行った

 

家に帰れば、武蔵の美味しいご飯があり、夜になれば三人で川の字で眠る…

 

当初の基地の日々こうだったなと思い出しながら、私は本当に家族を持った気分になった

 

あっと言う間に休暇が終わり、基地に帰る日が来た

 

当日、居住区の一同が見送りに来てくれた

 

「また帰って来なさい。貴方の家はここよ」

 

ビスマルクの言葉で、自分の帰る場所が出来たと実感出来た

 

「また戻る。絶対に‼︎」

 

みんなに見送られ、私達の休暇は終わりを迎えた

 

「ありがとう、パパ。私はとても楽しかったぞ‼︎」

 

この数日で、武蔵は私をパパと呼ぶようになった

 

「基地に戻れば、また提督だな」

 

「いいよ、パパでも」

 

「ふっ…なら、たまには呼ばせて貰おう」

 

「たのしかったね‼︎」

 

「ははは‼︎良かった良かった‼︎」

 

こうして、幸せな家族は街を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰も居なくなった、大佐の家…

 

書斎の机の上には二人で写った写真の他に、三人で写った、未来の家族写真が置かれていた



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48話 欲しい物(1)

さて、47話が終わりました

さぁ、霞回を書きたいと思います

子供達が活躍しますよ‼︎

もちろんたいほうも‼︎


私は霞

 

私は今、恋をしている

 

それは、提督じゃない

 

勿論提督も好き

 

だけど、私が好きなのは、彼…

 

色んな経歴を持ってるみたいだけど、今はここで私達の面倒を見てくれる、提督の部下の人だ

 

彼は最近”鹿島”とケッコンを果たした

 

だから、私が出る幕は無い

 

そう思っていた…

 

「霞〜‼︎」

 

工廠から、彼の呼ぶ声が聞こえた

 

「何⁇」

 

彼は私の思いとは裏腹に、ウザいと思う位かまってくれる

 

本当はとっても嬉しいのだけど、どう表して良いか分からない

 

「そらっ‼︎」

 

「きゃっ‼︎」

 

こっちに向かって、巨大なシャボン玉を作って来た

 

…いい歳こいてシャボン玉をしている

 

「おもしろいね‼︎」

 

かと思えば、足元にはたいほうとドイツの子二人がいる

 

「中々崩れないスーパーなシャボン玉だっ‼︎」

 

「ったく…工廠で何してんのよ⁉︎」

 

「シャボン玉‼︎」

 

「ほんっとバカね」

 

本当は、もっと良い言い方があるのに、いつも罵声が出てしまう

 

だけど彼はいつも笑顔を返して、それを受け止めてくれる

 

「ほら、お前の分だ‼︎」

 

紙コップとストローを渡され、中に液体が注がれた

 

「あ、飲んでも大丈夫な様に作ってあるから、心配すんなよ」

 

「あ、うん…」

 

彼はタバコを持って、裏の海岸に向かった

 

液を付けたストローをフゥッと吹くと、まぁまぁ大きいシャボン玉が出来た

 

シャボン玉は宙に舞い、私の顔を映した

 

「わぁ…」

 

「たいほうもおっきいのつくる」

 

地べたに座ったたいほうは、自分なりに大きいシャボン玉を作る

 

「できた‼︎」

 

「ふ〜ん、中々やるじゃない」

 

ニコニコしたたいほうを見ていると、こんな感じになりたいと多々思う

 

もう少し子供っぽく接すれば、彼は振り向いてくれるのだろうか…と

 

「霞ってさ」

 

横にいたれーべが話し掛けて来た

 

「スティングレイの事、好きだよね⁇」

 

「なっ‼︎好きとかそう言うのじゃ…‼︎」

 

図星を突かれ、つい焦ってしまう

 

「そっか。違うならいいや」

 

れーべに続き、まっくすも此方を見てくる

 

「素直じゃない」

 

「はぁ⁉︎あんたねぇ‼︎」

 

「レイは素直じゃない。霞と一緒」

 

「どうゆう意味よ」

 

「私にいい考えがある」

 

 

 

場所を変えて子供部屋…

 

「レイは甘い物が好き。だからプレゼントする」

 

まっくすが手にしているのは、フルーツミックスの缶詰

 

「これを霞にあげる。食後のデザートを霞が作るんだ」

 

「やってみるわ‼︎」

 

そして食後…

 

「え〜…食った食った‼︎」

 

お昼は炒飯と餃子

 

はまかぜは時々何をしたいのか分からなくなる

 

私はレイの為に、まっくすから貰った缶詰をお皿に開け、真ん中にプリンを置いた

 

「れ、レイ…デザ」

 

「はいっ、どうぞっ‼︎」

 

タイミング悪く、鹿島が同じ様なデザートを置いた

 

私のより見栄えが良くて、量もある

 

「サンキュー‼︎」

 

「あ…」

 

やっぱり、鹿島がいいんだ…

 

そうよね…

 

お嫁さんだもの。そっちを選ぶわよね…

 

「はい」

 

「でざーと⁉︎たいほうにくれるの⁉︎」

 

「あげるわ」

 

私はたいほうの前にそれを置き、部屋に戻った



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48話 欲しい物(2)

「タイミングが悪い」

 

「…」

 

まっくすの言っている事がちょっと当たってるだけに腹が立つ

 

「じゃあじゃあ、次はボクの作戦ね‼︎」

 

次の作戦はれーべが立てた

 

れーべが手渡したのは、体を洗うタオルだ

 

「これでレイの体を洗ってあげるんだ。ゴシゴシって‼︎」

 

「…やってみるわ」

 

昼間の作戦を失敗してから、霞は何だか乗り気では無い

 

 

 

「風呂風呂〜っと」

 

レイがお風呂に入ったのを見計らって、私もこっそり入渠する

 

提督が入ろうがレイが入ろうが、みんな気にしない

 

提督に至っては、たいほう達を入れている位だ

 

「♪〜」

 

口笛を吹きながら髪を洗うレイの背後にそ〜っと近付き、いざタオルを出そうとした時だった

 

「レイ〜‼︎背中流しますね〜‼︎」

 

今度はプリンツの邪魔が入る

 

「っ…」

 

タオルを握る手に、力がこもる

 

入渠だけ済ませて、私はドックを出た

 

 

 

「タイミングが悪い」

 

まっくすが同じ事を言う

 

「もういい…レイは振り向かない…」

 

「たいほうもさくせんつくった‼︎」

 

一番子供のたいほうが作戦を立てていた

 

正直不安だ

 

「あのね、すてぃんぐれいはひとりでねんねするのがきらいなの。きょうはかすみがねんねしてあげるの‼︎」

 

「本当に上手く行くかしら…」

 

「だいじょうぶだよ‼︎たいほうもいっしょにねんねしたことあるよ‼︎」

 

「…分かったわ」

 

 

 

今日は夜間哨戒も無い

 

やるならチャンスだ

 

レイは既に自室に入った

 

鹿島は食堂でテレビを見ている

 

今しかない‼︎

 

「…」

 

部屋のドアを開けようとした時、手が止まった

 

本当に上手く行くだろうか…

 

…やめとこうかな

 

そんな感情が頭を過ぎったが、ここで諦めてはダメだ

 

そう思い、ドアを開けた

 

「zzz…」

 

時間は深夜0時

 

既にレイは寝息を立てていた

 

寝返りを打ったのか、布団が剥がれており、それを掛け直そうとした

 

「あっ…」

 

レイの背中には、しおいがくっ付いていた

 

そっか…

 

二人は親子だったわね…

 

この絆には勝てないや…

 

布団を掛け直した後、涙が溢れてきた

 

「バカね…私。こんな叶わない恋なんて、するんじゃなかった…」

 

自分が情けなくなり、急いで部屋を出た

 

 

 

「かえってきたよ⁇」

 

「え⁉︎」

 

れーべとたいほうがまだ起きていた

 

まっくすは既に眠っている

 

「ひっく…えぐ…」

 

「だめだったの⁇」

 

「………うんっ」

 

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」

 

頭一つ分小さいたいほうは、私の頭を撫でようとしているのだか、届かずに頬を撫でて来た

 

「私…もう分からない‼︎」

 

「たいほうといっしょにねんねしよ⁇ね⁇」

 

「…うん」

 

すすり泣きながら布団に入ると、たいほうがようやく頭を撫でて来た

 

「パパいっつもいってるの。だいじょうぶ、だいじょうぶって。かすみもだいじょうぶだよ」

 

「あんた…大人なのね…」

 

「たいほうおとな⁇」

 

「…何でもないわ」

 

「消すよ⁇」

 

れーべが電気を消す

 

部屋が真っ暗になり、不安がより一層強くなる

 

たいほうは一瞬で眠り、起きているのは私だけになった

 

 

 

明日、どんな顔して会えばいいだろうか…

 

たいほうに抱かれながら、そんな事を考えていた



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48話 欲しい物(3)

次の日の朝…

 

れーべとまっくすがパパに連れられ、スカイラグーンに向かった

 

二人が居なくなり、少し不安になる

 

「ぶるるるる〜」

 

食堂の地べたでは、たいほうがオモチャで遊んでいる

 

私は日課の様に、レイのいる工廠に向かった

 

「…」

 

工廠の角から中を覗くと、沢山の妖精達が艤装を造っていた

 

「ひゃっ‼︎」

 

右頬に冷たい物を当てられ、背筋が跳ね上がった

 

「何見てんだ⁇」

 

振り返ると、そこに居たのはラムネを持ったレイだった

 

「へへへ、くすねて来た。飲むか⁇」

 

今日だけは…

 

今日だけは、この笑顔に腹が立った

 

「このクズ‼︎あんたなんか大っ嫌い‼︎」

 

「あっ‼︎」

 

跳ね除けたラムネの瓶が割れ、コンクリートの上に染みていく

 

「あんたの艦隊になんか、入らなきゃ良かった‼︎あんたに助けて貰わなきゃ…良かった」

 

最初は怒鳴っていたが、途中から涙声になってしまった

 

「だったら、あんたなんか…好きにならずに、済んだのに…」

 

下を向いて泣き出してしまった

 

もっと正直になれ‼︎

 

何度も何度もそう思ったが、やっぱりこんな拙い言葉しか出て来なかった

 

「レイなんか大っ嫌い‼︎」

 

挙句の果てに走り出してしまう

 

私は困った女だ…全く

 

僻みに八つ当たり

 

それに暴力

 

こんなの、嫌われたに決まってる

 

 

 

「すん…」

 

格納庫の裏側ですすり泣いていると、壁越しにフィリップが話し掛けてきた

 

《霞は正直じゃないね》

 

「はぁ⁉︎ウッサイわね‼︎戦闘機の分際で何よ‼︎あんたまで私をバカにするつもり⁉︎」

 

フィリップの言葉に腹が立ち、つい立ち上がって怒鳴ってしまう

 

《そうそう。霞はそうじゃなきゃ。霞に涙は似合わないよ》

 

フィリップはわざと私を怒らせていた

 

「あんた…レイに似てるのね」

 

《そりゃあ、僕の大切なパイロットだからね。でもそれは、霞も一緒じゃないの⁇》

 

「そうね…彼は大切な人よ。大切な…」

 

《霞は、レイと良く似てる》

 

「えっ⁉︎」

 

《レイも正直じゃないんだ。だから鹿島とケッコンするのに時間がかかった》

 

「私…まだ間に合うかしら⁇前の基地で、とても酷い目にあって…誰も信用出来なくなって…それで…」

 

フィリップは間髪入れずに言った

 

《大丈夫‼︎レイはそんな奴じゃない‼︎僕が保証する‼︎》

 

「本当かしら⁇」

 

《この基地の人達の中で、パパの次に付き合いが長い僕が言うんだ。大丈夫。だから、もう一度勇気を振り絞って‼︎》

 

まさか戦闘機に説教される時が来るとは思わなかった

 

だけど、フィリップの背中押しのお陰で、もう一度だけチャンスがある様に思えた

 

「ありがと、フィリップ。戦闘機の分際ってのは、取り消すわ」

 

《やったね‼︎》

 

「ふふふっ…」

 

壁越しの会話が終わった途端、急に誰かに抱えられた

 

「ち、ちょっと‼︎」

 

「来い」

 

レイだ

 

目が怒ってる

 

そりゃそうか

 

彼に暴力を振るってしまった

 

絶対怒られる…

 

抱えられたまま、工廠に戻って来た

 

工廠の端っこに降ろされ、レイは怒ると思いきや、タバコを吸い始めた



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48話 欲しい物(4)

「ちょっとそこに立ってろ‼︎良いな‼︎」

 

「う、うん」

 

工廠の中央には、布に包まれた何かがあり、レイはそれに手を掛けた

 

そして、無言でそれを剥ぎ取った

 

「わぁ〜…」

 

開いた口が塞がらない

 

私の改二装備が目の前にある‼︎

 

目を輝かせる私の元にレイが寄って来た

 

「な…なによ…あっ」

 

正直、ビンタ位されると思った

 

だが、手が当たった場所は頭の上だった

 

「プリン、美味かったぞ」

 

「えっ…」

 

プリンって…

 

食べててくれたんだ‼︎

 

「今日は一緒に風呂入ってくれ。これ造ったら背中に汗かいた‼︎」

 

「…うん‼︎」

 

レイは笑顔でもう一度頭を撫でてくれた後、出口に向かって歩いた

 

「んで、さっき叩かれた罰だけどな…」

 

それを言われ、にやけ顔が止まる

 

ついでにレイの足も止まる

 

「今日一緒に寝ろ。そいつでチャラだ」

 

「…分かったわ‼︎」

 

嬉しかった

 

本当に嬉しかった

 

私の知らない所で、レイは全てを見抜いていた

 

 

 

 

プリンの時、霞が去った後、レイはスプーンを持って手を止めた

 

「たいほう、俺のと変えてくれないか⁇」

 

「たいほうのと⁇いいよ‼︎」

 

レイは霞の見えない所で、こっそり鹿島と霞のプリンを変えていた

 

「うんっ‼︎美味いな‼︎」

 

「おいしいね‼︎」

 

嬉しそうなたいほうを見て、レイと鹿島が笑顔になった

 

 

 

お風呂の時だって、プリンツが背中を流している時、レイは霞の姿を鏡で確認していた

 

だが、プリンツの好意を無下にする訳にも行かず、霞はそそくさと出て行ってしまったので、話し掛けられずにいた

 

 

 

一緒に寝ようとした次の日の朝、起きて布団が掛けられている事に気付いた

 

プリンとお風呂の件もあり、何となく霞が掛けてくれたと気付いた

 

そして、霞の考えも分かった

 

 

 

 

 

 

お風呂に入り、レイの背中を流す

 

大きくて、立派な背中だ

 

「気持ちいいなぁ…」

 

「そう⁇なら良かったわ」

 

しばらく背中を洗った後、シャワーで流して、二人で湯船に浸かった

 

「また頼もうかな。昨日プリンツがスポンジの痛い方で洗ってくれてな…まだヒリヒリするよ」

 

レイの顔を見て、微笑みが出た

 

「ふふっ。プリンツは痛かったのね⁇」

 

「スッゲー謝ってたよ‼︎ま、ちゃんと洗ってくれたからチャラだけどな。今度は前を頼んでやろうかな⁇」

 

「その時は、私は背中を流すわ」

 

「頼んだぞ‼︎」

 

お風呂から上がり、夕飯を食べる

 

今日は唐揚げがテーブルの中心に置かれたお皿に、てんこ盛りに盛られている

 

「いただきます‼︎」

 

全員が食べ始め、ついさっき帰って来たばかりのれーべとまっくすが霞を見た

 

「良かった。上手く行ったみたいだ」

 

「霞はツンデレ」

 

夕飯が終わると、霞は再びあのプリンを持って来た

 

「デザートよ。食べなさい」

 

「サンキュー」

 

美味しそうにプリンを食べるレイを見て、霞と鹿島が微笑む

 

「何かあったのか⁇」

 

パパが台所の鹿島と話している

 

「乙女には色々あるんですっ‼︎はいっ、これ‼︎」

 

鹿島はパパにプリンを差し出した

 

霞のプリンより、余程立派で美味しそうだ

 

「ありがと」

 

パパはそれを美味しそうに食べ始めた

 

「いつか、あんなの作ってみせるわ」

 

「楽しみにしてるぞ」

 

 

 

そして、最後の約束

 

同じ布団に入り、レイは霞を抱っこした

 

「…rainbow〜」

 

霞の背中を優しく叩きながら、レイは子守歌を歌い始めた

 

「何⁇その歌…」

 

「俺の祖国の歌だ」

 

rainbowは…虹、だったかしら⁇

 

レイの声は、眠気を誘う声だ

 

ひと段落付いた時に、此方から話を振ってみた

 

「どんな国⁇」

 

「その国はな、俺の本当の祖国じゃないんだ。本当の祖国は…もう忘れた。裏切られたからなぁ…」

 

「とんだ国ね…」

 

「俺がまだ傭兵だった時、アメリカって国に行ってな…その国の援護をした後、離れる事になったんだ」

 

レイの昔話は面白い

 

私の知らない歴史を、彼は知っているからだ

 

「それで⁇」

 

「その時、基地の偉いさんが俺の経歴を見て言ったんだ”君の祖国はここだ。君が戦争に嫌気がさしたら、帰って来い”って。でも、俺は隊長の傍を離れる気は無い。隊長が俺を突き放しても、俺は必ず隊長を助けに行く。そう誓ったんだ…」

 

「義理堅い…のね…」

 

「…さ、もう少し歌ってやろう」

 

泣き疲れたのかな…

 

急に眠気が来た

 

レイの胸の中で、私は眠りについた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「心配すんな。俺がお前を放す訳ね〜だろ…バカ」

 

レイは一粒涙を零し、霞を強く抱き締めた後、眠りについた



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49話 リンゴジュースの呪い(1)

さて、48話が終わりました

霞はあんな感じだと可愛いですね

いや、元から可愛いですよ⁉︎

今回のお話は、鹿島がまた変な薬を作って、基地内がパニックになります

たいほうがポロッと零した台詞に超☆注意


注意‼︎

 

今回のお話では、霞がかなり可愛く書かれている反面、この作品のアイドル”たいほう”が豹変するシーンがございます

 

今までのロリたいほうを愛してやまない紳士なお兄ちゃん、淑女なお姉ちゃんの方々は、次の方法をお試し下さい

 

①見ない。今回の話は飛ばすぜ‼︎

 

②いや、別のたいほうも見てみたいものだ…

 

③霞が可愛くなった所で、フェニックスの如くUターン

 

④霞しか興味ないから見る

 

⑤腹をくくる。そして見る

 

⑥作者にコメントを送り”たいほうちゃん被害者の会”を作る

 

以上の方法をお試し下さい

 

でも、豹変したたいほうのセリフの中にレイの過去が分かるセリフがあるかも⁉︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「胸が痛い…」

 

「揉んでやろうか⁇」

 

グラーフがボソッと言った言葉に反応し、グラーフのアッパーで吹っ飛んだ

 

「ぐわぁぁぁあ…」

 

その距離、10メートル

 

「う〜わ〜…飛びましたねぇ〜」

 

プリンツが半笑いでレイの方を見ている

 

「揉まれる位なら、自分で揉む」

 

「乳首が性感帯ですか〜⁇グラーフさ〜ん⁇」

 

そして、再び飛ぶ

 

「うわぁぁぁあ…」

 

その距離、12メートル

 

「変態」

 

「本当の事なんだろ‼︎」

 

「アホアホスティングレイ」

 

地上ではボーッとしているグラーフが怒っても、そんなに怖くない

 

「乳魔人‼︎」

 

「…」

 

グラーフは俺を睨んだ後、全速力で追い掛けて来た

 

「おいおいおい、嘘だろ⁉︎」

 

副砲を此方に向けて連射し、格納庫の角に追いやり、のし掛かってきた

 

「オーケー‼︎ギブギブ‼︎」

 

「ここなら…鹿島から見えない」

 

「は⁉︎」

 

気付いた時には既に遅し

 

グラーフは上半身下着姿になっていた

 

「白のレースとか…結構な趣味なこった…分かったいでで‼︎」

 

グラーフは更に体重を掛け、俺を苦しめる

 

「早く」

 

「ぐ、ぐぞ〜‼︎ん⁇」

 

ふと、グラーフの目を見つめた時、いつもの目の奥に違うものを感じた

 

「なるほど…なっ‼︎」

 

「むぎゅ」

 

今度は逆にグラーフを押し倒す

 

間近で見ると、やっぱり可愛いんだな…

 

「お前、鹿島に何飲まされた⁇」

 

「私を犯す気…⁇」

 

「違わい‼︎朝何飲んだ⁉︎」

 

「リンゴのジュース」

 

「リンゴジュースじゃなくて、リンゴの味がするお薬。分かった⁇」

 

「ん…お薬、グラーフ…お薬飲んだ⁇」

 

「そうだ」

 

「何でブラジャー⁇」

 

どうやら薬の効果が切れたみたいだ

 

グラーフはデカいそれを隠し、表情を変えずに、顔だけ赤くした

 

「変態」

 

「見られて減るもんじゃね〜だろ⁉︎」

 

「ん…レイなら、見られてもいい…かな⁇」

 

「とにかく服着ろ。目のやり場に困る」

 

「オッパイ、好き⁇触ってみる⁇」

 

グラーフはブラジャーごと胸を持ち上げ、悪戯に微笑む

 

「どうせ鹿島に言うんだろ⁇」

 

「うん」

 

「はいはい。先に行ってるぞ」

 

「ん…待って」

 

服を着直したグラーフと共に基地に戻ると、まっくすがいた

 

「まっくす、鹿島はどこ行った⁇」

 

「ニャー」

 

「ニャーじゃなくて、鹿島」

 

「ニャー」

 

こいつ…猫になってやがる

 

まっくすの相手をしていると、れーべが来た

 

…四つん這いで

 

「れーべ⁇」

 

「ミャー」

 

「れーべ…お前もか…」

 

「ニャー」

 

「ミャー」

 

二人は俺の足を伝い、胸の所まで登って来た

 

「ニャー♪♪」

 

「ミャー♪♪」

 

両頬ひ頬擦りをしたり、挙句の果てにはペロペロしだした

 

「ぐわっ…こら…やめろって…」

 

「にゃんこ」

 

「仕方無い…このまま連れて行くか…」

 

自室にいると思い、鹿島の部屋の扉を叩いた

 

「鹿島〜いるか〜⁇」

 

「は〜い」

 

扉が開くと、しおいが出て来た

 

「鹿島は⁇」

 

「いないよ。部屋で待っててって言われたからいるけど…」

 

「ニャ」

 

「ミャ」

 

「猫になってる‼︎おいで‼︎」

 

れーべとまっくすはしおいの所に行き、ようやく手が空いた

 

「しおいは朝リンゴジュース飲んでないか⁇」

 

「私、レイと牛乳飲んだじゃん」

 

「あ、そっか」

 

「さ〜おいで〜お菓子食べようね〜」

 

「ニャー‼︎」

 

「ミャー‼︎」

 

二人は嬉しそうに中に入って行った

 

「猫の二人、可愛かったね」

 

「そうだな」

 

問題を元に戻そう

 

鹿島は何処だ

 

一旦食堂に戻ろう



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49話 リンゴジュースの呪い(2)

「こいつだ」

 

冷蔵庫の中に、その薬はあった

 

「リンゴのジュース⁇」

 

「これが薬だ」

 

キャップを開け、匂いを嗅いだだけで分かる

 

これは…とにかく薬だ

 

「たいほうも飲んでた」

 

「…早く行こう」

 

子供部屋に向かい、たいほうを探す

 

「たいほう‼︎」

 

「たいほ〜う」

 

子供部屋に居ないって事は外か⁉︎

 

いや、とにかく内部だ

 

至る所を探し始めた

 

途中、ローマと雲龍、はまかぜに会ったが異常は無かった

 

プリンツはドイツから送られたリンゴジュースを飲んでいた為、セーフだった

 

そして、霞に会った

 

珍しく表を掃いている

 

「霞‼︎」

 

「レイ様⁇どうされましたか⁇」

 

すっ転びそうになった

 

「飲んでる…飲んでるよ…」

 

頭を抱えるのも無理は無い

 

「レイ様は頑張り屋さんですもの。少しお疲れになられたのでは⁇」

 

「頼むよ霞〜‼︎元のお前に戻れ〜‼︎ほら、バカパイロットって言ってみ⁉︎」

 

霞の肩を掴んで、軽く揺さぶる

 

もしかしたら戻るかもしれない‼︎

 

「バカパイロット⁇そんなお下品な言葉使いませんわよ⁉︎貴方は国を護る素晴らしいお方ですわ‼︎」

 

「うわ〜ん‼︎」

 

こんなの霞じゃない‼︎

 

霞は俺の事をバカとかマヌケとかクズとか言ってナンボなんだよ‼︎

 

「うん、分かった。俺が疲れてるんだな。ははは…」

 

「本当に大丈夫でして⁇連日の哨戒任務で精神を擦り減らしたのですわ。少し横になってくださいまし」

 

「霞は良い子だな、うん」

 

霞の頭を撫でると、普段は見せないそれはそれは素晴らしい笑顔を見せてくれた

 

「うふふっ‼︎頭を撫でられるのは幸せですわ‼︎」

 

「ははは…」

 

「うふふっ‼︎」

 

この時点で、俺はストレスで毛根が禿げそうになっていた

 

「たいほう見なかったか⁇」

 

「たいほう様でしたら、先程書斎の方に入って行くのを見ましたわ」

 

「たいほう様…たいほうさまぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

俺は書斎に向かって走った

 

もう嫌だ‼︎

 

あんな霞見たくない‼︎

 

正直、超理想だ‼︎

 

だが、霞はやはり罵声ありきの霞だ‼︎

 

「レイ、壊れた」

 

「後で何か疲れが取れる物でもお作り致しますわ」

 

「お願いするね…」

 

グラーフも霞の頭を撫で、その場を後にした

 

書斎の前に着き、深呼吸をする

 

「嫌な予感しかしない‼︎」

 

「霞…可愛かった」

 

「行くぞ‼︎」

 

思い切って、書斎の扉を開けた

 

「た、たいほ〜…」

 

「たいほ〜」

 

シンとした室内の奥に、チョコンと座っているたいほうを見つけた

 

「たいほう⁇ジャン‼︎」

 

ポケットの中から、たいほうがいつも食べている飴玉を取り出した

 

「たいほう〜、飴玉あげるから、こっちおいで〜」

 

「スティングレイ」

 

「ゔっ…」

 

たいほうは本を閉じ、此方に振り向いた

 

「艦載機が空母から射出するのに必要な装置の名前は⁇」

 

俺は飴玉を落とした

 

たいほうじゃ…ない

 

俺の知ってるたいほうは、もっともっと甘えん坊だ

 

飴玉にすぐ釣られて…

 

すぐ抱っこをせびる…

 

とっても甘えん坊な女の子なんだ…

 

「か、カタパルトだ…」



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49話 リンゴジュースの呪い(3)

「じゃあ、現在使用禁止になった、小型の爆弾の名前は⁇」

 

「ううっ…クラスター爆弾…」

 

泣きながら質問に答えた

 

「パイロットの肩書きは伊達じゃないのね」

 

「たいほう…俺の事分かるか⁇」

 

「マーカス・スティングレイ。年齢不明、出身国不明だが、国籍登録はアメリカ。元スパイだったが、何らかの事情で放棄。その後ヨルダン軍パイロットとして戦果を上げ、後に大佐と共に国連軍パイロットとして世界に名を馳せる。所持免許が多く、パイロット免許の各種、医師免許、薬剤師、保育士等多方面に取得。趣味は旅行。好きな場所は大阪新世界。好物は果物とジャンクフード。あと…」

 

俺はたいほうの口を塞いだ

 

「お、オーケー。全部正解だ」

 

「全部知ってる…凄い」

 

「むぐむぐ…」

 

「もう言わないか⁇」

 

口を塞がれたたいほうは、頷くしかなかった

 

手を外し、自由になったたいほうはまた話し始めた

 

「ゴホン…他に好きな事は⁇」

 

「巨乳が好きだ」

 

「それは私への当て付けですか⁇」

 

「イエス」

 

直後にビンタが飛んで来た

 

たいほうはそんな事しない‼︎

 

てか、今日はよく殴られるな‼︎

 

「紳士の風上にも置けませんね‼︎最低です‼︎」

 

たいほうはそのまま何処かに行ってしまった

 

「もう嫌…ホント嫌…」

 

ついには床にへたり込んだ

 

たいほうのダメージが一番デカい

 

霞もデカかったが、たいほうは効き過ぎた

 

床に頬を置いてボーッとする俺の頭を、グラーフが優しく撫でてくれた

 

「…ありがと」

 

「鹿島を探そう⁇そしたら、解毒剤作ってくれるかも」

 

「そうだ、鹿島だ‼︎」

 

後調べていない所は…格納庫だ‼︎

 

「グラーフ、格納庫に行くぞ‼︎」

 

「分かった。レイに着いて行く」

 

 

 

 

 

「たたた大変な事に…」

 

格納庫の隅で鹿島はカタカタ震えていた

 

「まさか薬があんなに効くなんて…」

 

分かっていると思うが、犯人は鹿島だ

 

飲んだ人の性格を全く別の物する薬を作ったのだが、まさかあんなに効くとは思っていなかった

 

「いたーーー‼︎鹿島ぁぁぁ‼︎」

 

「ひっ‼︎」

 

ようやく見つけた鹿島に近付き、事の事情を聞いた

 

「犯人はお前か‼︎」

 

「は…はい…すみませんっ‼︎」

 

鹿島は頭を下げて謝った

 

「あれの効果時間は⁉︎」

 

「何かを食べれば治ります‼︎ホントです‼︎」

 

「飴玉はいけるか⁉︎」

 

「ダメです。本当のご飯です。朝昼晩の‼︎」

 

「グラーフ、はまかぜと協力してカレー作ってくれ。俺はみんなを集める‼︎」

 

「分かった。レイ、頑張って」

 

グラーフが去った後、鹿島の視線に気付いた

 

「今回俺に何かあっても、全部薬のせいだからな⁉︎」

 

「えぇ…ごめんなさい…」

 

「ま、何も無いけどな‼︎俺はたいほうを探してくる。子供達を食堂に集めといてくれ‼︎」

 

「は、はいっ‼︎」

 

とりあえず、たいほうを探さなければ‼︎



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49話 リンゴジュースの呪い(4)

格納庫を出て、たいほうの遊び場を探す

 

格納庫裏の砂浜…いない

 

港の先…いない

 

基地近くの砂浜…いない

 

残るは林の中だ

 

「たいほ〜う」

 

「スティングレイ、何をしに⁇」

 

だだっ広い場所にたいほうがいた

 

手には分厚い本を持っている

 

「何見てるんだ⁇」

 

「先程の航空機関連の書物です」

 

「飯だ。帰るぞ」

 

「先に行って下さい。私は貴方の後を行きます」

 

たいほうはジーッと此方に警戒の視線を送る

 

「分かった…ちゃんと来いよ」

 

先に歩き始めると、ちゃんと後を着いてくる足音が聞こえた

 

「たいほうは…俺の事嫌いか⁇」

 

「人を貧乳扱いする人は嫌いです」

 

「ははは…キツイな」

 

「一つ、聞かせて下さい」

 

「ん⁇」

 

足を止めて後ろを振り返ると、三歩程距離を置いてたいほうは話し始めた

 

「貴方は何故、スパイを辞めたのですか⁇」

 

「正義に目覚めたからさ。それだけだ」

 

「大佐が優しくしてくれたから…ですか⁇」

 

「そんな所だ」

 

そう言うと、ようやくたいほうが笑ってくれた

 

「私と同じですね。大佐はとても優しいお方です」

 

「フッ…行くぞ」

 

「でも、貴方は嫌いです」

 

たいほうの”嫌い”刺さるな…

 

早く何とかしないと、俺が持たん

 

「カレーできた」

 

「ちょっと辛めです」

 

「いただきます‼︎」

 

とりあえず子供達に食べさせる

 

「ほら、まっくす。あ〜んだ‼︎」

 

「ニャー」

 

「ニャーじゃないの‼︎あ〜ん‼︎」

 

俺が口を開けると、まっくすも口を開けた

 

「辛い」

 

「まっくす…俺の名前は⁇」

 

「スティングレイ」

 

「よっしゃ‼︎まっくす確保‼︎次、れーべ、あ〜ん」

 

「ミャー」

 

「ミャーじゃないの‼︎あ〜ん‼︎」

 

口を開けた隙に、ゆっくりスプーンを入れる

 

「うわっ、辛いよ‼︎」

 

「れーべ、俺とケッコンした人の名前は⁇」

 

「え⁇鹿島じゃないの⁇」

 

「れーべ‼︎まっくす‼︎」

 

つい二人を抱っこしてしまう

 

「ど、どうしたの⁇」

 

「あつい」

 

「良かった〜‼︎」

 

残るは霞とたいほうだ

 

「霞〜…美味しいか〜」

 

「美味しいわよ」

 

口の周りにいっぱいカレーを付けた霞が此方を向いた

 

「こっち向け、ホレ」

 

霞の口をティッシュで拭う

 

「ん…触らないでよ‼︎バカ‼︎」

 

「よしよし、霞は良い子だな」

 

「はぁ⁉︎どうしたのよ⁇頭でも打った⁇」

 

「うんうん‼︎お前はそうでなきゃな‼︎」

 

「何よ…怖いんだけど…」

 

この蔑みの目…

 

これでこそ霞だ‼︎

 

残るは…

 

「からくておいしい‼︎」

 

「そう、良かった」

 

グラーフと話しているたいほうがいた

 

「たいほう⁇」

 

「すてぃんぐれい‼︎」

 

「たいほうは…俺の事嫌いか⁇」

 

「たいほうすてぃんぐれいすきだよ⁇おふろいっしょにはいってくれるし、いっしょにねんねしてくれるもん‼︎すてぃんぐれいはたいほうすき⁇」

 

「勿論だよ〜‼︎良かった〜‼︎」

 

俺はたいほうに頬擦りした

 

終わった後、カレーが沢山付いた

 

本当に良かった‼︎

 

ストレスで死ぬかと思った‼︎

 

「ねぇ、レイ」

 

「ん⁇」

 

グラーフが思い出したかの様に言った

 

「武蔵は⁇」

 

「あ''っ‼︎」

 

 

 

 

その頃、執務室では…

 

「ん〜っ‼︎ていとくぅ、もっともっと武蔵をなでなでしてぇ‼︎」

 

「ぐっ…」

 

隊長の制止虚しく、武蔵は隊長の膝の上でゴロゴロを繰り返す

 

「ていとくぅ、武蔵とチューしよ〜‼︎」

 

「分かった‼︎分かった‼︎ゆっく…」

 

「チューっ‼︎」

 

隊長の頭を掴んで、無理矢理キスをする

 

「ぷは…ていとくとチューするの、武蔵だ〜いすき‼︎ね、武蔵の事、もっともっと触って〜‼︎」

 

「頭打ったのか⁇」

 

「打ってな〜い‼︎失礼ね〜‼︎もう触らせてあ〜げない‼︎武蔵泣くからねっ‼︎」

 

「わ、悪かったよ…」

 

「ふふっ、ていとく、ベッドの上で武蔵を泣かせて⁇」

 

「こ、こら‼︎うわっ‼︎」

 

武蔵は軽々と隊長を持ち上げ、抵抗する隊長を抑えつけ、寝室に消えていった…



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50話 ブロンド少女と凶鳥と(1)

さて、49話が終わりました

かれこれ50話ですか

ここまでお付き合い頂いた方々、そして、こらからお付き合い頂ける方々、この50話の節目にて改めて御礼申し上げます

さて、今回のお話は、ラバウル航空戦隊の内の一人のお話です


ラバウル基地

 

凄腕のイケメンパイロットばかりが揃う、通称SS隊が指揮を執るこの基地で、一人の男が悩んでいた

 

「遂にあいつもケッコンかぁ〜」

 

雑誌を机に放り、ソファーに寝転がったバッカス

 

スティングレイがケッコンしたのもあり、彼は少し焦っていた

 

「あら〜⁇バッカスもお悩み⁇」

 

雑誌を拾い、パラパラと捲ったのは愛宕だ

 

彼が片思いしているお相手でもある

 

「ちょっと焦らないとなぁ…」

 

とは言いつつ、リモコンでテレビを点ける

 

愛宕は雑誌を持ったまま、バッカスの横に座った

 

「今日はお休み⁇」

 

「非番さ。飛んでばっかじゃ、その内墜ちる」

 

「ね、お散歩しない⁉︎」

 

「散歩ったって…」

 

「早く早く‼︎」

 

愛宕は彼の腕を引っ張り、立ち上がらせる

 

バッカスは渋々外に出て歩き始める

 

「お散歩嫌⁇」

 

「嫌じゃないさ。たまには歩かないとな」

 

「そうそう‼︎歩かないとね〜‼︎うふふっ‼︎」

 

一歩前を歩き、くるくる回る愛宕を見て、バッカスはポケットに入れた手を握り締めた

 

バッカスのポケットには、数日前支給された指輪がある

 

 

 

数日前、突然隊長が買って来た

 

「これを二人にあげます」

 

そう言って渡されたのが、ケッコン指輪だった

 

隊長は大分前に暁とケッコンしている

 

ロリコンとは薄々感付いていたが、まさかここまでとは思っていなかった

 

が、信頼している事に変わりはない

 

だが、私はそうは行かなかった

 

ギュゲスも同じだ

 

 

 

「アレン」

 

「…はっ」

 

ボーッとしていると、愛宕が顔を掴んで来た

 

「どうしたの⁇怖い顔してる」

 

「何でもないよ」

 

愛宕は二人きりになると、この名前で私を呼ぶ

 

「お花が綺麗ね〜‼︎」

 

「ドクダミだ」

 

「あら、お花に詳しいの⁇」

 

「昔、レイと薬の研究をしていたんだ。その時に、な」

 

「下手にお花飾れないわね…」

 

「気にする事はないよ。そんなに詳しい訳じゃない」

 

「じゃあ、アレンの部屋にドクダミをい〜っぱい飾ってあげる‼︎」

 

手を広げて、とにかく沢山飾ってやるとアピールする

 

「止めろ‼︎」

 

「うふふっ‼︎やっと元気になった‼︎」

 

「え⁉︎」

 

「アレンったら、最近ずーっと浮かない顔してるんだもの」

 

「重症だな…」

 

「ほらほら‼︎ぱんぱ〜か‼︎」

 

「ぱ、ぱんぱ〜か」

 

暁と隊長は良くやっているのだが、正直何が面白いのか分からない

 

だが、今はコレのおかげで元気が出た

 

「あ、そうだ‼︎お風呂入りましょう⁉︎ねっ⁉︎」

 

「い、嫌だ…恥ずかしいよ…」

 

「だ〜い丈夫‼︎あたしに逞しい体を見せて〜‼︎」

 

バッカスは押しに弱く、結局風呂に向かう事になった

 

「はぁ〜…良いお湯〜‼︎」

 

「風呂だけは最高なんだよな…」

 

「あら、基地にご不満⁇」

 

「不満って訳じゃないさ。どっちかと言うと気に入ってる」

 

「じゃあ何が不満なの⁇」

 

「不満って言うか…その…何と戦ってるのかな、って、時々思う」

 

「深海棲艦じゃないの⁇」

 

愛宕の真っ直ぐな視線を見て、負けを決意した

 

「それを言われちゃ敵わないな…」

 

「そうね〜。確かに、そんな風に思っちゃうのも無理ないよね…」

 

「戦う意味が見出せないんだ…スカイラグーンに行ってから」

 

「…あ‼︎」

 

急に愛宕が手を叩いた

 

「じゃあじゃあ、あたしの為に戦って⁇それなら理由になるでしょ⁇」

 

「それは好きな人に言う台詞だろ⁇」

 

「も〜…分かってよ…」

 

「…愛宕⁇」

 

愛宕の顔が赤い

 

温泉の所為なのか、照れている為なのか分からない

 

でも、嬉しかった

 

「分かった。愛宕の為に飛ぶよ、俺」

 

「そう⁇良かった〜‼︎辞めるとか言い出したらどうしようかと思っちゃった‼︎」

 

「それは無いな」

 

「うふふっ‼︎あたし、やっぱりアレンが好きっ‼︎」

 

水しぶきを立てながら、愛宕は俺に抱き着いた

 

私は、愛宕のこういう所が好きなんだな…

 

「お熱いですね、お二方」

 

「大和‼︎」

 

「あら〜」

 

いつの間にか大和が入っていた

 

「で、出るよ‼︎」

 

「出なくていいです。少々お聞きしたい事が…」

 

大和に腕を掴まれ、湯船に留まる

 

流石は大和

 

力が強い

 

「スティングレイ様が御ケッコンなされたようで…」

 

「そうらしいな…」

 

「それで、私も…」

 

目を閉じて照れる大和を前に、愛宕と顔を合わせる

 

「ギュゲスと…か⁇」



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50話 ブロンド少女と凶鳥と(2)

「えぇ。彼はとても優しいです。お茶の作法を教えてくれたり、色んな料理を教えてくれたり…あ、デザートの作り方は凄く勉強になります‼︎」

 

「あいつ、昔喫茶店か何かで働いてたらしいからな…」

 

「あんまりお話はしないのですが…そこがまた良くって」

 

「なるほどな…ま、ギュゲスは心配しなくても大丈夫だ」

 

私は、ギュゲスに関しては確信していた

 

「それは何故ですか⁇」

 

「あいつが女性に対してお熱になるのは初めてだからさ」

 

「身持ちが固いんですね」

 

「誰に対してもホドホドだったからなぁ…そこまでするのは初めてだよ」

 

「では、期待しても⁉︎」

 

「大丈夫だと思うよ。そのままで」

 

「あはっ‼︎」

 

大和の顔がパアッと明るくなった

 

「もう上がるよ。のぼせて来た」

 

「すみません、引き止めてしまって…」

 

「次はあいつでも誘ってやるんだな」

 

風呂から出て、少し扇風機を回した

 

ちょっとのぼせたな…色んな意味で

 

服を着て、愛宕を待つ

 

「…ウッ」

 

左目が痛む

 

この症状は時々あり、左側だけ白黒に見える

 

何度か病院に行ったが、治らなかった

 

命に別状は無いのと、まだ見えるのが救いだが、空にいた時に起きるとマズい

 

これまでも何度かあったが、何とか耐えて来た

 

「お待たせ〜‼︎アレン⁇」

 

「あぁ…もういいのか⁇」

 

愛宕には分からない様にしないと…

 

また心配を…

 

あれ⁇

 

「ア〜レ〜ン〜‼︎」

 

愛宕の声が聞こえる度に、色が戻って行く…

 

「アレン‼︎アレンってば‼︎」

 

「ん⁇」

 

「またボーッとしてたわよ⁉︎大丈夫⁇」

 

「大丈夫だよ」

 

不思議だな…

 

愛宕の傍に居ると、この症状が緩くなる

 

「目が痛いの⁇」

 

愛宕の顔が、息がかかる程に近付く

 

湯上がりの匂いと、甘い吐息のせいで心臓の鼓動が速くなる

 

「大丈夫だ。ホントだって‼︎」

 

「そう⁇痛くなったらちゃんと言ってね⁇」

 

「…」

 

ふと、彼女には心配を掛けたくないと思った

 

「帰ろう」

 

「えぇ」

 

基地に続く、砂利で舗装された道を歩く

 

「…えいっ‼︎」

 

愛宕が腕を組んできた

 

「全く…」

 

「否定しないんだ〜‼︎やっぱり私の事好きなんでしょ〜‼︎」

 

「…好きだよ」

 

「えっ⁇」

 

「何でもない‼︎機体の整備をしてる。何かあったら呼んでくれ」

 

「あらあら〜」

 

これ以上傍に居たら、変な気持ちになる

 

急いで格納庫に入った

 

まだ乗り慣れていないT-50の説明書を手に取り、機体に乗った

 

「え〜と、トレーニングモード起動」

 

《音声認識に入ります》

 

「あいうえお」

 

《音声認識完了。前方のカメラに向かって、ここ一番の笑顔を見せて下さい》

 

「に〜っ」

 

この認識システムを造った奴、いつかぶっ飛ばしてやる

 

 

 

 

「ウェックショイ‼︎」

 

「あらあらレイ、風邪ですか⁇風邪薬、作りましょうか⁇」

 

「大丈夫だ。バッカス辺りが噂してんだろ⁇」

 

 

 

 

《認識完了。こんにちは、アレン大尉。トレーニングモードを起動します》



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50話 ブロンド少女と凶鳥と(3)

コックピットが真っ暗になり、数秒後にパッと明るくなり、映像が映し出された

 

映像は滑走路にいる状態で、本当にそこに居るかの様な臨場感だ

 

《敵機を撃墜して下さい》

 

離陸をし、画面に映った敵機を撃墜していく

 

《次は、地上ターゲットを破壊して下さい》

 

画面が市街地に切り替わる

 

「…」

 

黙々と敵施設を破壊し、結果発表

 

《戦闘評価…A。戦闘力はピカイチですが、もう少し、この機体の性能を理解しましょう》

 

因みこの評価、SSまであるらしい

 

隊長とレイの上官は涼しい顔してSSを取っていた

 

流石は隊長の二人…と言った所か…

 

レイもそうらしいが、どうやっても隊長には勝てない

 

やはりそこは隊長と部下の違いか…

 

「アレン〜‼︎」

 

《お呼びの様ですね。開けます》

 

コックピットが開くと、バスケットを持った愛宕がいた

 

「あ、いたいた‼︎お昼にしましょ〜‼︎」

 

機体を降り、格納庫を出た

 

「たまにはお外で食べましょ⁇」

 

愛宕に連れて行かれたのは、基地を見渡せる小高い丘

 

そこにマットを広げ、その上に座る

 

「じゃ〜ん‼︎」

 

バスケットの中には、綺麗に並べられたサンドイッチとジュースが入っていた

 

「アレンの嫌いなレタスは無いわ」

 

「すまんな、気を使わせて」

 

私はレタスがどうも苦手

 

他の物は食べられるのだが…

 

「うんっ、美味い‼︎」

 

「うふふっ、良かった。好きなだけ食べて‼︎」

 

愛宕にそう言われ、次から次へとサンドイッチを放り込む

 

当の愛宕は最後に残った一つを口に入れ、美味しそうに頬張る

 

「お腹いっぱいになった⁇」

 

「うん。美味しかった…ふぁ」

 

お腹に物を入れたら、急に眠気が来た

 

「すまん…ちょっとだけ横になる」

 

「おやすみなさい」

 

 

 

あれから何分経ったか分からない

 

「ん…」

 

「あら⁇起きた⁇」

 

目を開けると、愛宕の顔がどアップで映った

 

しかも、後頭部に柔らかい物が当たっている

 

「膝枕してくれてたのか⁇」

 

「ちょっとは寝やすいでしょ⁇」

 

そう言って微笑む愛宕

 

私は再びポケットに手を入れた

 

「…愛宕はさ」

 

「ん〜⁇」

 

「いいお嫁さんになるな」

 

「そうかしらね〜⁇」

 

「もし…もし、だ。愛宕が良かったら…」

 

もう言ってしまおう

 

これ以上引っ張っていても仕方無い

 

「俺と…」

 

いざいざプロポーズしようとした時、総員集合のサイレンが鳴った

 

膝枕から立ち上がり、上着を着る

 

「行くの⁇」

 

「あぁ」

 

「…頑張ってね⁇」

 

「帰って来たら渡したい物がある。だから、待っててくれ」

 

「分かった‼︎待ってる‼︎」

 

 

 

 

どうやら緊急任務らしく、司令は空で受ける事になった

 

《はぁ…はぁ…》

 

無線の先から、隊長の荒い息遣いが聞こえてくる

 

「隊長⁇年ですか⁇」

 

《ははは。そうですね…そろそろ、体を考えなければいけませんね…》

 

《大佐と年近いのに、年って…ははは》

 

この基地に来てから、ギュゲスが変わった気がする

 

よく笑う様になり、戦果も以前よりあげている

 

「隊長、作戦は⁇」

 

《あ…それなんだけど…》



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50話 ブロンド少女と凶鳥と(4)

「おおいのトイレ間違えて開けて、追いかけ回されてた⁇」

 

私達は隊長に言われるがまま、スカイラグーンに来ていた

 

「すまん‼︎本当にすまん‼︎」

 

隊長は土下座までして謝っている

 

 

 

「しかも、総員集合のサイレンは、暁が鳴らした…と」

 

「すまん‼︎この通りだ‼︎」

 

二人は呆れた視線を送っていた

 

「ま、まぁ…あれです。生きて帰れますしね…うん」

 

「バッカスがそんな事言うとか、珍しい」

 

しまった、口が滑った‼︎

 

「分かった。愛宕にプロポーズするんだ」

 

ギュゲスには見透かされてるみたいだ

 

「あぁもう‼︎そうだよ‼︎」

 

後頭部を掻きながら渋々答えた

 

「今日帰ったら、渡そうかなって…」

 

呆れた視線を、今度は送られる

 

「バッカス…君はすぐ死亡フラグを立てますね…」

 

「今まで何回立てて来たやら…」

 

「⁇」

 

「気付かないのもまた凄い…」

 

「俗にいうフラグブレイカー、か…」

 

「二人共何言ってるんだ⁇」

 

「ま、まぁ‼︎帰りましょう‼︎ねっ⁉︎」

 

「は、はい…」

 

スカイラグーンを発ち、基地に戻って来た

 

「頑張って下さいね‼︎」

 

「ファイトだ」

 

二人に見送られ、愛宕の部屋に向かう

 

「愛宕〜帰ったぞ〜」

 

「…」

 

部屋に入ると、机の上に頭を置いている愛宕が居た

 

どうやら眠っている様だ

 

「ん⁇」

 

机の上には、何枚かの資料が乱雑に置いてあった

 

その一枚を手に取り、内容を見た

 

「空中艦隊計画…」

 

随分昔に、レイと立てた計画だ

 

艦載機を大型の機体に載せ、交戦空域の近場で発艦する母艦とその護衛艦の建造計画だ

 

効率は中々良かったハズだが、燃費が悪く、機体の開発費もバカにならなかった為、破棄されたのを覚えている

 

後にレイが開発した無人潜水艦”ロンギヌス”は、効率も燃費も良かった

 

当初はレイに嫉妬したが、レイは何故か報酬を半分私にもくれた

 

何故かと聞くと”射出式の無人戦闘機、あれはお前の計画からパクった‼︎だから、二人の結果だ‼︎”と、言われた

 

レイらしいと言えばレイらしい

 

思い起こせば、マヌケでどうしようもない思い出の方が多いが、その倍、レイは優しかった

 

「アレン⁉︎帰ったのなら言ってよ〜‼︎」

 

いつの間にか愛宕が目を覚ましていた

 

「今帰った所さ。これ…」

 

資料を見せると、愛宕はアタフタし始めた

 

「あ、あの、その、あれよ‼︎何かな〜⁇なんて…あはは」

 

「空中艦隊計画…これは、旗艦の重巡航管制機の設計図さ」

 

椅子に座っている愛宕の背後から手を通し、資料の説明始める

 

「私と一緒⁇」

 

「そうだな…此奴の主な目的は艦載機の発着艦なんだ」

 

「空母なの⁇」

 

「空母に近いかな⁇でも、攻撃だって出来るんだ。近接防衛の対空兵器がいっぱいあって、長距離ミサイルも撃てる」

 

「他にはあるの⁇」

 

「あるよ。次はこれ」

 

三枚ある一枚を取り、説明を再開

 

「これは、航空火力プラットフォーム。この重巡航管制機を護るために、常に傍を飛ぶ」

 

「私とアレンみたいね‼︎」

 

「そんな感じだ。重巡航管制機が高火力を出せない分、こいつが援護してくれる」

 

「次は⁇」

 

「これは、電子支援プラットフォーム。こいつが艦隊の頭脳だ」

 

「あら〜⁇兵装が…」

 

「そう。こいつには兵装が無い。その代わり、高性能な電探や便利なシステムが沢山乗ってるんだ」

 

「アレンは凄い物を造ろうとしていたのね‼︎」

 

「ま、計画は頓挫したんだけどな…未完成の兵器さ…」

 

「もっとあたしにお話して⁇ねっ⁇」

 

「分かった」

 

愛宕は時々こうして子供に戻る

 

普段はのんびり屋で何処か抜けている

 

それでも、頼れるお姉さんの様な存在だった

 

そんな彼女が、興味深々で私の話に食い付く

 

「あっ‼︎アレンって、特技ある⁇」

 

「あるちゃあるけど…言わない」

 

「どうして〜⁇教えてよ〜‼︎」

 

駄々をこねる愛宕を見て、どうせ長い付き合いになるんだと思い、言う事にした

 

「…後悔しない⁇」

 

「え…なに⁇そんなにブラックな趣味⁇」



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50話 ブロンド少女と凶鳥と(5)

「ちょっと待ってて」

 

部屋の隅に置かれた棚の一つを開け、中を探る

 

その中から一つ取り出し、愛宕の元へ戻って来た

 

「ちょっとだけ、目を閉じて」

 

愛宕は言われた通りに目を閉じた

 

愛宕の背後に回り、先程取り出した物を愛宕の首に掛けた

 

「はい、開けて良いよ」

 

目を開けた愛宕は驚いた

 

「綺麗なネックレス‼︎」

 

「あげるよ」

 

「アクセサリー作るの趣味なの⁇」

 

「そう。もしスパイにならなかったら、自分の店を持ちたかった」

 

「今からでも遅くないわ」

 

「そう…かな⁇この戦争が終わったら、小さいけど、出してみようかな…⁇」

 

「じゃあじゃあ‼︎私がモデルさんになって、みんなに広めてあげる‼︎二人で一緒にやるの‼︎」

 

愛宕は笑顔で手を広げ、とにかく沢山‼︎とアピールする

 

「そうだな…でも、その前に」

 

ようやくポケットに手を入れた

 

「二人で一緒に店開くなら、必要だろ⁇」

 

意を決して、ケッコン指輪を出した

 

「アレン、私…」

 

「嫌か⁇」

 

「ううん‼︎嬉しい‼︎私で良いのね⁉︎」

 

「じゃなきゃ渡してないよ」

 

「うふふっ‼︎」

 

愛宕が抱きついて来た

 

私も遂にケッコンか…

 

後は早めに戦いが終わる事を祈るだけだ

 

 

 

数日後…

 

パパ達の基地にて

 

「おいおいおい、バッカスがケッコンだと⁉︎」

 

「バッカスって、レイのお友達の⁉︎」

 

レイはしおいと共に、提督だけに配布される情報誌を見ていた

 

因みに、バッカスが最初に読んでいたのもコレである

 

「そそ。俺の唯一の友達さ」

 

「パパはお友達じゃないの⁉︎」

 

しおいの質問に、レイは少したじろいだ

 

「隊長は特別さ。俺の父親の代わりでもあるし、最高の友人でもある」

 

「パパは凄い人だね‼︎」

 

「そうだぞ〜‼︎世界を股にかけた人だからな‼︎」

 

 

 

再びラバウル基地

 

ここにはもう一人、パイロットがいる

 

いつも寡黙で、みんなより一歩後ろを行く、控えめな男性

 

ギュゲスこと、柏木健吾だ

 

いつからか知らないが、彼は人と接するのを最小限に留める様になった

 

「柏木様、お茶が入りましたよ」

 

「あぁ」

 

いつも彼に付いているのは”戦艦大和”

 

暁、愛宕と共に、あの研究所から助け出した内の一人だ

 

彼女は最近、食後のデザートの作り方や、お抹茶の淹れ方を覚えた

 

「美味しいですか⁇」

 

「あぁ」

 

柏木が素っ気なく返すその態度でも、大和は幸せだった

 

「何を見ているのです⁇」

 

大和が顔を覗かせると、柏木は読んでいた本を閉じた

 

「大したものじゃない」

 

柏木はお茶を飲み干し、本を置いて部屋を出てしまった

 

「あ…」

 

幸せだけど、やはり時々は構って欲しくなる

 

「あら」

 

机の上には”ボードゲームの勝ち方”との題名の本がある

 

…余程悔しかったみたいだ

 

また読むだろうと思い、そのままにしておいた

 

「献身的だな」

 

「アレン様…」

 

後ろの壁にもたれ掛かっていたのはアレンだ

 

いつの間に居たのか分からなかった

 

流石は元スパイと言った所か…

 

「大和にご用ですか⁇」

 

「お茶の淹れ方を覚えたんだって⁇」

 

「はい。少しですが、柏木様に教えて頂きました」

 

「もし手すきなら、淹れて貰えるか⁇」

 

「畏まりました」

 

アレンは椅子に座り、大和は厨房でお茶を淹れ始めた

 

しばらくすると、大和はお茶を持って来た

 

「ありがとう」

 

「いえ」

 

柏木の前以外では、少しだけ素っ気なくなるのは、大和の悪い癖だ

 

「あいつと上手く行ってないのか⁇」

 

「え…いや、その…時々構って欲しくなる時が…」

 

何もかも見透かした様なアレンの目に、少し腹が立った

 

「あいつを責めてやるな。あぁなってもおかしく無いんだ」

 

「昔、何かあったのですか⁇」

 

「あいつには内緒だよ⁇」

 

柏木は恐らく言わないだろうと思ったのか、アレンは彼の過去を少しだけ話してくれた

 

彼は元々国属のエリートパイロット

 

ある日、エスケープキラーに追われ、見捨てられた

 

此処まではこの基地の人間なら知っている

 

問題はこの先だ

 

柏木に囮を命じたのは、当時の隊長

 

この隊長、柏木の思い人でもあったのだ

 

その隊長から”必要ない”と言われ、誰も信じなくなり、アレンや今の隊長にも深く入らない

 



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51話 凶鳥の愛し方(1)

さて、50話が終わりました

バッカスが終わり、次はギュゲスの番です

ギュゲスこと柏木健吾は、昔に負った心の傷を、未だ癒せずにいました

ですが、この基地に来てから、少しずつ笑うようになり、徐々に明るさを取り戻しています

そんな彼が思いを寄せるのは、戦艦”大和”

彼女は付きっ切りで、柏木の傍にいます

今回は献身的な大和と、少しクールな柏木が見せる恋物語です


「それであんなに淡白なんですね…」

 

「私達には、あいつの心まで分からない。だけど、戻してやろうと努力する事は出来る。現に、ここに来て笑う事が多くなった」

 

「あ。さっきもボードゲームの本読んでました‼︎」

 

「余程悔しかったんだな…ははは」

 

アレンは苦笑いをするが、何処と無く嬉しそうだ

 

「その裏切った隊長機は、大佐が墜としたんだけど…今もまだ生きてるんだろうな…」

 

「私、もう少し彼と話してみます」

 

「頼んだよ。大和は珍しく、あいつが惚れ込んだ女性なんだ」

 

「は…はい…」

 

この基地の男性三人は、大和達を女性扱いしてくれる

 

当初、私達は”兵器の端くれだ”と言っていたが、隊長達に”鏡を見ろ。これが兵器の顔か⁉︎”と言われ、少しずつ女性らしい生活を取り戻している

 

大和が食堂を出た後、柏木がアレンの横に座った

 

「いらない事吹き込むな」

 

どうやら少し見られていたみたいだ

 

「なら、もうちょい構ってやるんだな」

 

アレンが半笑いで席を立とうとした時、柏木がアレンの腕を掴んだ

 

「大和と似てるな、その癖」

 

「アレンは…どうやって愛宕を落とした」

 

「どうって…」

 

冗談だと思い、柏木の顔を見ると、本気の目をしていた

 

「大和とどうやって接したらいい⁇」

 

「女性とどう接したらいいか分からないのか⁉︎」

 

柏木は数秒置いた後、無言で頷いた

 

「それでか…じゃあさ」

 

食堂で男二人が話している時、大和は彼の部屋の掃除をしていた

 

軽く掃除機をかけるだけ

 

そのつもりだった

 

いつもは鍵のかかった引き出しが、半分開いているのに気が付いた

 

悪いとは思いつつ、中を見てみた

 

中には数枚の書類と、写真が入っていた

 

大和はそれらを手に取った

 

”ヘルハウンド隊消息について”

 

どうやら柏木が昔いた部隊の様だ

 

柏木健吾…行方不明

 

と、書いてある

 

彼は行方不明扱いになっている様だ

 

このヘルハウンド隊、柏木を入れて四人いた様だ

 

名前はかすれて見えないが、隊長と書かれている横に”離脱”と書かれているので、どうも生きている様だ

 

他の二人は戦死している

 

写真には、パイロットスーツを来た女性と、柏木が写っている

 

先程聞いた思い人だろうか⁇

 

「盗み見とは良い趣味だな」

 

「か、柏木様‼︎」

 

いつの間にか背後に柏木がいた

 

この基地にはアサシンが多いみたいだ

 

「ごめんなさい、私…」

 

「いいよ。アレンから聞いたんだろ⁇どうせいつか知られるんだ。それがちょっと早かったと思えばいい」

 

「あ…」

 

口ではそう言うが、呆れた目をしている

 

「お風呂行って来る。程々でいいからね。あ、ちゃんと元に戻しといてね」

 

「柏木様‼︎」

 

大和が吠え、柏木は足を止めた

 

「怒ってます…よね⁇」

 

「怒ってない」

 

「嘘です‼︎」

 

再び大和が吠え、柏木の肩が上がる

 

「いけない事をしたのです‼︎叱責なり、罰を与えるなりして下さい‼︎」

 

「えっと…」

 

確かに鍵は閉めていたが、おいおい大和には話すつもりでいたので、どう怒っていいか分からない

 

「じゃ、じゃあ、背中流してくれないかな…」

 

「そんな事でいいんですか⁉︎」

 

「本当に怒ってないし、罰が欲しいならそれしか思い付かなくて…」

 

「畏まりました。では、お受けします」

 

露天風呂に向かう最中、二人は無言だった

 

大和は懲罰中だと思い、無駄口を叩かず

 

柏木は恥ずかしくて話せないでいた

 

幾ら罰とは言えど、流石に言い過ぎた…そう思っていた

 

「あ…あの、大和」

 

「はい」

 

「脱衣所は…その…」

 

「恥ずかしい、ですか⁇」

 

「うん」

 

「ご立派な単装砲なのに…勿体無い」

 

いつの間にか大和に見られていた‼︎

 

「…泣いていい⁇」

 

「ダメです。さ、入りましょう」

 

背中を流して貰っていると、柏木の方から口を開いた

 

「立派な単装砲とか言ってたけど、他に見た事あるのか⁇」

 

「昔、介護の仕事をしてましたから」

 

「思い出したのか⁉︎」

 

「えぇ。少しだけ、ですが」

 

「凄いじゃないか‼︎それで洗い方も上手なのか‼︎」

 

「え…」

 

柏木はあまり感情を露にしないので、大和は驚いていた

 

「やはり、恨んでますか⁇」

 

「…前の隊長の事⁇」

 

一瞬で柏木の顔色が変わる

 

「恨んじゃいないさ」

 

「そうですか…」

 

大和はホッとした

 

自分の好きな人が、誰かを色濃く恨む姿など見たくなかったからだ

 

「でも、次会ったら叩き落す」

 

「…いけません」

 

腕を洗っていた大和の手に力がこもる

 

「誰かを恨む貴方を、大和は見たくありません」

 

「大和」

 

「はい」

 

「海にもルールがあるだろ⁇暗黙の了解みたいな」

 

「はい」

 

「俺達にもあるんだ、空のルールってのが。その範疇でやるのさ。誰も文句は言えまい」

 

「それでもいけません」

 

「どうしたんだ⁇」

 

「流します」

 

泡を流され、湯船に浸かる

 

大和も浸かり、また無言の時間が続く

 

「柏木様」

 

「ん⁇」

 

大和は後ろから柏木に抱き着いた

 

「大和では…いけませんか⁇」

 

「…」

 

「人を恨むより、大和を愛して下さい」

 

「大和…」

 

「大和が…埋めて差し上げます。だから…」

 

「…本当だね⁇」

 

柏木の反応は意外だった

 

いつもの感じならそのまま出るか、少しだけ反発位すると思っていた

 

「俺は女の人の愛し方を知らない。大和が教えてくれるなら、努力してみる」

 

「あはっ‼︎ありがとうございます‼︎」

 

「ここに来てから、少し変わった気がする。アレンや隊長にも言われたよ。笑うようになったって」

 

「大和は、笑ってる貴方が好きです」

 

そう言うと、柏木はぎこちなく笑顔を見せた

 

「大和がお傍に居ます…ずっと…」

 

柏木の背にもたれ、幸せそうな大和

 

全てが嬉しかった

 

彼に救って貰い

 

彼に愛して貰い

 

彼を愛せる自分が居て…

 

大和は幸せだった

 

「あ、そうだ」

 

柏木はふと何かを思い出した

 

「今日、部屋でご飯食べたいな。二人で」

 

「あ、はい。何がいいですか⁇」

 

「カレーがいいな。大和のカレー」

 

柏木がこうしてワガママを言うのは初めてだった

 

「構いませんけど…もう少し豪華なものでもいいですよ⁇」

 

「カレーがいい。好きなんだ、大和のカレー。昔、隊長に連れて行って貰った場所のカレーの味と本当によく似てる」

 

「何処ですか⁇」

 

「帝國”ホテル”聞いた事無い⁇」

 

「ホテルのカレーですって⁉︎」

 

「そう。凄く美味しかったのを覚えてる。本当にそれがカレーなのかと思った位だった」

 

「大和のカレーは、ホテルのカレーではありません‼︎」

 

「や、大和⁇」

 

唐突にキレた大和に、柏木は動揺している

 

「はっ、私はなにを…」




あ、そうそう

アレンと愛宕の恋物語も、とある曲をモデルにしました

大瀧詠一の君は天然色

です

え⁉︎気付いてた⁉︎

アレンの目が時々白黒にしか見えないから⁇



今回も何かの曲をモデルにしてます

是非、当ててみて下さい

ヒント

作者は一世代前の曲が好きです


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51話 凶鳥の愛し方(2)

「部屋で待ってるからね」

 

先に柏木が出て、大和だけがお風呂に残る

 

しばらく湯船で考えた後、大和も出た

 

 

 

 

 

大和がようやく厨房に立った時、柏木は鍵の付いた引き出しの中身を全部出していた

 

「…よし‼︎」

 

いつも物を焼いているドラム缶が工廠の裏にある

 

柏木はそこの前に立ち、ライターでドラム缶の中の木材に着火

 

そして、その中に一枚、また一枚と資料を放り込んで行く

 

終始無言のまま…だが、何処と無く嬉しそうな表情をしている

 

そして、最後に残った写真…

 

しばらく見つめた後、数秒愛おしそうに胸に抱いた

 

「さよなら…」

 

そう言い、柏木は過去と決別した

 

「ギュゲス‼︎よくやったな‼︎」

 

「偉いぞ‼︎」

 

隊長とアレンが抱き着いて来た

 

「大和にプロポーズしようと思ったんだ‼︎だから、過去とはお別れだ‼︎」

 

満面の笑みで、彼は笑う

 

二人は初めて彼の明るい笑顔を見た

 

「明るい…明るいよ‼︎」

 

待ちに待った、ギュゲスの明るい表情と言葉

 

二人は嬉しくてたまらなかった

 

一番年下なのに、一番壮絶な経験をした彼を、二人はいつも心配していた

 

二人にとって、彼は弟のような存在だった

 

「今日は大和とご飯食べるんだ‼︎」

 

「そうかそうか‼︎」

 

「遅れないようにね‼︎」

 

「あ、そうだ隊長」

 

「ん⁇」

 

「帝國ホテルのカレー、また連れて行って下さい‼︎また食べたい‼︎」

 

「え…えぇ…」

 

ラバウルさんの目から涙が零れた

 

「アレン‼︎またゲーム教えてね‼︎」

 

「お…おぅ…」

 

アレンも涙する

 

二人共まさか、あんなに子供っぽかったとは思っていなかった

 

隊長に至っては、帝國ホテルの一件をまだ覚えていたのかと感動していた

 

基地に走っていく柏木を、二人はしばらく見つめていた

 

「子供らしさが爆発しましたね」

 

「良かった…大和にプロポーズですってね‼︎」

 

「そっか…プロポーズですか…」

 

数秒置いた後、二人は事の重大さに気付く

 

「「プロポーズだと⁉︎」」

 

 

 

 

 

部屋に戻り、大和を待つ

 

「出来ましたよ」

 

「ありがとう。食べよっか⁇」

 

「⁇」

 

何と無く明るくなったとは思ったが、大和はまだ確信を持てなかった

 

「やっぱり美味しいな、大和のカレーは」

 

「何かありましたか⁇」

 

「無いよ、何にも」

 

だが、柏木の笑顔は止む事を知らない

 

「そう、ですか」

 

「…大和」

 

「はい」

 

互いにカレーを食べる手が止まる

 

「俺、家族とかって、あんまりよく知らないんだ」

 

「はぁ…」

 

「家庭の味とか、全然分からなくって…でも、これがそうなんだろうな」

 

「…」

 

唐突に始まった家族の話に、大和は着いて行けないでいた

 

「本当はね、あの写真の人と結婚しようかなって、思ってた。でも、彼女は俺を捨てた」

 

「大和は捨てませんよ‼︎絶対‼︎」

 

大和はスプーンを置き、また柏木の後ろから抱き着いた

 

「置いて行ったりしません…絶対」

 

「…大和。俺はそれを形にしたい」

 

「えっ⁉︎」

 

いつの間に取り出したやら、指輪の入った箱が机の上に置かれている

 

「大和が良いなら、俺とケッコンして欲しい」

 

他の連中と違い、柏木は結構アッサリとプロポーズをした

 

「喜んで‼︎ありがとうございます、柏木様‼︎」

 

「イヤッフゥゥゥゥゥウ‼︎‼︎‼︎」

 

「やりましたね‼︎」

 

テンションの可笑しくなった二人がいきなり入って来た

 

暁と愛宕とおおいは、ドンドンパフパフと音の鳴る楽器を鳴らしていた

 

「見てた⁇」

 

「一部始終はな」

 

「ギュゲスもついにケッコンですか…」

 

柏木の横で、大和は幸せそうな表情をしている

 

この日、ラバウル基地は色んな意味で幸せな1日を迎えた

 

 

 

 

 

「おいおいおい‼︎ラバウル基地がケッコンラッシュだぞ‼︎」

 

2日後に各基地に届いた情報誌を、またレイが見ている

 

「残ってるのは…ちょっとショタ気味の子、でしたっけ⁇」

 

鹿島は覚えていた

 

幼そうな顔立ちなのに、周りの人と全く違う異様な雰囲気を漂わせていた子だ

 

鹿島から見ても、まだ若い様だ

 

「ショタって言っても、20そこそこだったはずだ。ホレ」

 

柏木健吾(21)

 

大和(5)

 

「…」

 

「…」

 

「…5歳」

 

「ロリコン⁇」

 

「ロリってのは、たいほうみたいな事を言うんだ」

 

「ろり⁇」

 

テレビの前で遊んでいたたいほうが反応する

 

「ロリってのは、小さい女の子の事を言うんだ」

 

「あかつきもろり⁇」

 

「う、うん。あの人は…まぁ仕方ない」

 

「あかつきなんさい⁇」

 

言われてみれば気になり、何ヶ月か前の情報誌を引っ張り出した

 

「おぉ、あったあった」

 

”ラバウル基地隊長兼提督のエドガー大佐、ケッコン‼︎お相手は駆逐艦”暁”‼︎”

 

エドガー・ラバウル(35)

 

ラバウルさんは名前を変えた際、苗字を”ラバウル”に変えた

 

下の名前はそのままらしい

 

そして問題の暁は…

 

「…」

 

「…」

 

「わぁ…」

 

「「「うわぁぉぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎」」」

 

情報誌を元に戻し、三人とも見なかった事にした

 

後にたいほうはこう語る

 

 

 

「あかつきって…すごいね…」

 



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52話 大切な人(1)

さて、51話が終わりました

今回のお話は、リクエストがあった

”誰か囚われようぜ‼︎”

に、答えたいと思います

主人公は誰だろうね⁇

案外予想外なキャラかも⁇


昼過ぎから、工廠がやたら五月蝿い

 

大砲の射撃音の様な音が、何度も響く

 

流石に気になって、覗く事にした

 

「レイ⁇どうしたんだ⁇」

 

しかし、工廠にレイの姿は無い

 

”裏におるで。新型の主砲の試射しとる”

 

「新型の主砲⁇」

 

”せや。ものごっつ威力高いねん”

 

「何造ってるんだよ…」

 

工廠の裏に行くと、また射撃音が聞こえた

 

かなり遠くの方に的があり、それを撃ち抜いている

 

「レイ」

 

耳当てをしているので、呼んでいる声が聞こえない

 

「レイ‼︎」

 

「はっ‼︎隊長‼︎」

 

ようやく気付き、耳当てを外す

 

「何造ったんだ⁇」

 

「これか⁇バーレットの改良版さ。今日は鹿島が新人の演習に付き合ってるから、口煩く言われない」

 

レイが手にしていたのは、形からして対戦車ライフルには違いないみたいだ

 

「とりあえず持ってみてくれ‼︎」

 

「お、おい…」

 

かなり重いかと思えば、其れ程でも無かった

 

片手で持てる程軽い‼︎

 

「重さ、反動、その他デメリットを何とかしたんだ。いい所はそのままさ」

 

「どれ…」

 

一つだけ残っていた的に狙いを定め、引き金を引く

 

「命中‼︎ド真ん中だ‼︎」

 

ハイタッチを交わし、レイにライフルを返す

 

「凄いな‼︎」

 

「後は音が問題なんだよな…」

 

「パパ〜‼︎」

 

たいほうが来た

 

手には紙切れを持っている

 

「むさしがね、ふたりによんでって。いそげっていってた‼︎」

 

「急ぎか…」

 

たいほうが持っていたのは電文だ

 

”カシマ ロカク

 

サセボチンヂジュフホウメン

 

ヨコスカ”

 

「は⁉︎」

 

「ろかくってなぁに⁇」

 

あまりに唐突すぎて、何が何だか分からずにいた

 

「鹿島…」

 

私より怒っているのはレイだ

 

それはそうだ

 

彼は鹿島の旦那だ

 

「隊長。俺、佐世保に行く」

 

「待て。早まるな」

 

下を向いて工廠に入ろうとしたレイの肩を掴んだ

 

しかし、レイは私の腕を払った

 

「鹿島は…」

 

「あ…」

 

レイの目が釣り上がっている

 

この目を見たのは久し振りだ

 

「鹿島は俺の嫁だ…見逃してくれ」

 

「レイ…」

 

私には止められなかった

 

「レイ‼︎」

 

慌てた様子で横須賀が来た

 

「レイ…待って」

 

「止めるなら落とすんだな」

 

私達を無視し、タラップを上がって行く

 

「夜まで待って‼︎お願い‼︎」

 

「待つ理由が無い」

 

「奇襲をかけるの。だから…」

 

「…一人で充分だ。行くぞ」

 

フィリップのエンジンを入れ、滑走路へと向かう

 

「止めないと‼︎」

 

「手隙の連中を応援に回せ‼︎」

 

「り、了解‼︎」

 

横須賀は無線機の前に座り、各基地に繋げる

 

「こちら横須賀分遣基地、応答せよ‼︎こちら横須賀分遣基地‼︎」

 

《単冠湾基地です。どうされましたか⁉︎》

 

《トラック泊地です。如何なされましたか⁉︎》

 

《こちら呉鎮守府。どうされました⁇》

 

《ラバウル航空戦隊です。支援要請ですか⁇》

 

反対派の所属する基地全部から、すぐさま応答が来た

 



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52話 大切な人(2)

「鹿島が鹵獲されました‼︎犯人の潜伏場所は佐世保鎮守府‼︎現在、フィリップが先行中‼︎」

 

《隼鷹‼︎空母の連中と共に佐世保に向かえ‼︎》

 

《SS隊、緊急発進‼︎スティングレイ機を護衛するぞ‼︎》

 

《飛龍、蒼龍‼︎高速艇で佐世保に向かって下さい‼︎》

 

《榛名、霧島‼︎高速艇を出す‼︎スティングレイさんの応援に向かって‼︎》

 

《仕方ね〜ダズルな。世話のかかる野郎ダズル》

 

《分かったマイク‼︎》

 

各所それぞれが主力の艦娘を佐世保に向かわせる

 

本当に良い仲間を持ったと思う

 

「ありがとうございます。艦載機はレイの援護に向かって」

 

《了解。今出撃しました》

 

《飛龍の艦載機を護衛に付けます‼︎蒼龍は爆撃機を満載ですよ‼︎》

 

「鹿島の奪還が主の任務です。鹿島は…彼に任せましょう」

 

 

 

 

「ん…」

 

皆が佐世保に向かっている頃、鹿島は何処かの部屋で目を覚ました

 

「ここは⁇」

 

後ろ手で縛られ、脚を開いた状態でベッドに括り付けられていた

 

「ヤダ…」

 

服は着ているが、こんな状態

 

何をされるか分からない

 

「お目覚めかい⁇僕の鹿島…」

 

「貴方は‼︎」

 

鹿島は覚えていた

 

昔、飛行教官時代に面倒を見た一人だ

 

当時、何度も言い寄って来ていたが、当時からレイの事が好きだった為、鹿島はずっといなしていた

 

どうやら今は提督をしているみたいだ

 

「ケッコンしたのか…誰とだ⁇」

 

「貴方には関係ないでしょ‼︎解きなさい‼︎」

 

「関係あるさ。君は僕の物だ」

 

「何を言って…」

 

彼は鹿島の手に着いた指輪を取り、枕元に置いた

 

「これは新しい指輪だ。僕とケッコンしよう、鹿島」

 

「嫌‼︎誰が貴方何かと‼︎」

 

鹿島が否定すると、彼は鹿島の頬を拳で思い切り殴った

 

「痛い‼︎やめて…」

 

「僕に逆らうと、もっと酷くなるよ

⁇」

 

ヤダ…

 

レイ、助けて‼︎

 

 

 

 

 

 

 

佐世保鎮守府近海上空…

 

フィリップのレーダーには、鹿島の居場所が示されている

 

鹿島の指輪には、緊急時居場所が分かる様に発信機が仕込まれている

 

「フィリップ」

 

《どうしたの⁇》

 

「…すまないな。付き合わせて」

 

《鹿島はレイのお嫁さんでしょ⁇なら、僕は助ける義務がある》

 

「お前は立派だな…俺と違って」

 

《悲観的になるのも分かる。でも大丈夫‼︎見て、周りを‼︎》

 

レーダーを切り替えると、艦隊と航空機が多数接近していた

 

「感づかれたか⁉︎」

 

《IFFを見て》

 

IFFには”unknown”と表示されている

 

「アンノウン…」

 

《待て待て待て〜い‼︎助けに来たぜ〜⁇ヒャッハー‼︎》

 

「隼鷹⁉︎」

 

《そうだよ。横須賀さんが応援を出してくれたんだ‼︎感づかれると奇襲の意味が無いから、限界ギリギリまでアンノウン表示で行くよ‼︎》

 

「お前達…すまない‼︎」

 

《やっと声に覇気が戻りましたね‼︎》

 

「飛龍か⁉︎」

 

《しっかりするんダズル。貴様はマヌケでナンボダズル》

 

「ハンマー振り回す榛名だな⁇」

 

《そんじゃ‼︎行きますか‼︎スティングレイ‼︎私達の艦載機が援護したる‼︎後は好きにしてくれ‼︎》

 

隼鷹の掛け声と共に、その場にいた全空母から艦載機が発艦する

 

「壮観だな…」

 

《夕陽が綺麗だね…僕達を見届けてるみたいだ》



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52話 大切な人(3)

「…フィリップ。俺を適当な場所で降ろしたら、すぐに上空へ逃げろ。いいな⁇」

 

《分かった。ちゃんと鹿島を連れて帰って来てね⁇》

 

「分かってらぁ‼︎」

 

《それでこそレイだ‼︎お出ましだ‼︎行くよ‼︎》

 

前方にポツポツと敵表示が現れた

 

「”ワイバーン”交戦‼︎」

 

レイは珍しく自分のTACネームを名乗った

 

これも本気の証だ

 

「陸戦機だ‼︎気を付けろ、艦載機と違って重武装だ‼︎」

 

陸上から飛ぶ航空機は、艦載機と違い重武装な事が多い

 

艦載機は空母と言う限られた敷地から飛ぶ為、軽装な事が多い

 

だが、陸上は空母に比べ、制限があまりない

 

制限が少ない分、武装も沢山付けられる

 

今ここにいる陸戦機はフィリップだけだ

 

「フィリップ、出来る限りで良い。後はパラシュートで降りる。空は任せた」

 

《何か作戦あっての事だね⁇分かった‼︎カウントゼロでレイを弾き出す、いいね⁇》

 

「オーケー。聞き分けのいい子は大好きだ」

 

フィリップは奇跡とも言える機動で敵戦闘機を掻い潜り、佐世保鎮守府を低空飛行し始めた

 

《行くよ…3、2、1…行って‼︎》

 

「サンキュー‼︎」

 

ほんの一瞬キャノピーを開け、ほんの一瞬だけパラシュートを開ける

 

降りるまでに、先程試射していたライフルの弾を装填

 

地に足を着けた瞬間、手近にいた艦娘に一発放つ

 

だが、数秒後には立ち上がってしまう

 

「チッ、足留めが精一杯か…フィリップ‼︎」

 

《はいはい》

 

「鹿島の場所まで最短のルートは⁉︎」

 

《工廠の地下に鹿島がいる。150m先にある建物がそうだよ》

 

「オーケー。恐らく、俺とは通信不能になる」

 

《レイ…》

 

「俺に何かあっても、鹿島だけは連れて帰れ。いいな⁇」

 

《…分かった。レイ、最後になるかも知れないから、言っておくよ⁇》

 

「手短にな‼︎」

 

《レイがパイロットで…本当に良かったよ‼︎ありがとう‼︎》

 

「こちらこそ。最高の相棒でいてくれて、ありがとう‼︎」

 

《じゃあね‼︎》

 

フィリップとの通信が切れた

 

これじゃあどっかのアホと同じじゃあないか

 

ま、こんだけ死亡フラグ立てりゃ、逆に生き残れる…か

 

「仕方ない…本気を出スカナ」

 

ライフルを背中に背負い、ナイフを構える

 

レイの目の色が、みるみる内に赤く染まって行く…

 

「サァ、ホンキデイクゾ‼︎コイ‼︎」

 

 

 

 

 

佐世保鎮守府上空では、隼鷹を筆頭に、フィリップ達が制空権を確保する為、右往左往していた

 

《多いなぁ…この基地の機体が全部飛んだのかな⁇》

 

普通の人工知能より遥かに物分りが良く、融通の利き何処かまだ幼さが抜けないフィリップ

 

そんな彼が産まれて初めて悩んでいた

 

本当は、レイの傍に居たかった

 

本当は、レイを乗せたままで居たかった

 

もしかしたら、降ろしたのは間違いではなかったのか…

 

そんな事を考える暇なく、戦闘機は襲い掛かる

 

《レイ…僕、疲れちゃった…考えるって、こんなに辛いんだね…》



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52話 大切な人(4)

《フィリップ‼︎》

 

《はっ‼︎》

 

無線の先はアレンだ

 

《よく頑張った‼︎バトンタッチだ‼︎》

 

《基地には攻撃しないで‼︎レイと鹿島がいるんだ‼︎》

 

《分かった‼︎俺達のフォーメーションに入れ‼︎カバーしてやる‼︎》

 

《分かった‼︎》

 

運良く現れたSS隊のフォーメーションに入り、少し戦況も落ち着いてきた

 

フィリップはまた考える

 

《レイ…僕、人間になりたいよ…》

 

 

 

 

 

地上では、レイが善戦していた

 

一歩、また一歩と工廠へ歩みを進める

 

「チクショウ‼︎ロケット弾装填‼︎」

 

これまでナイフ一本で戦っていたレイは、ようやくライフルを手にした

 

「放て‼︎」

 

高速で飛来するロケット弾

 

レイは左手を着弾点に置き、それを弾く

 

そしてすかさず、右手で持ったライフルを撃ち返した

 

ロケット弾を放っていた兵士が後方に吹き飛ぶ

 

「や…奴は化け物か…」

 

「モウイチド、ショウメンカラダ‼︎」

 

「次弾装填‼︎はな…」

 

ロケット弾より速く、レイのライフルの弾が当たる

 

気が付かない間に、ロケット弾を撃っていた兵士の腕が吹き飛んでいた

 

「マダイキテルカ⁇」

 

先程から指令を飛ばしていた男性の胸倉を掴み、宙に上げる

 

「や、やめろ…」

 

「カシマハドコダ‼︎」

 

「工廠の地下に…‼︎」

 

男性が鹿島の居場所を吐くと、レイは手を離した

 

「ムエキナセッショウハコノマン。セイゼイ、イキテルコトヲクヤムンダナ…」

 

レイが工廠に足を向けた瞬間、背中に弾丸が当たる

 

「死ね‼︎化け物が‼︎」

 

拳銃の弾が何発も当たり、レイの背中から血が飛び出る

 

だが、数秒後には治っていた

 

レイはため息を吐いた後、後ろを見ないでライフルを一発放った

 

 

 

「ココガチカカ」

 

再びナイフに切り替え、鹿島を探す

 

「…すけて‼︎い…‼︎」

 

「イタ」

 

何処らから鹿島の声がする

 

「レイ‼︎助けて‼︎イヤァァァァ‼︎痛い‼︎痛いぃぃぃい‼︎」

 

「カシマ‼︎」

 

ようやく鹿島のいる部屋を見つけ、扉を蹴破る

 

「な、何だ⁇し、深海棲艦⁉︎」

 

「テメェ…カシマニナニシタ…」

 

「鹿島は僕の嫁だ‼︎君の様な化け物の物ではない‼︎」

 

「カシま…」

 

「レイ…もう大丈夫ですよ…」

 

鹿島の顔を見た途端、レイの目の色が元に戻った

 

「横須賀、鹿島を見つけた。佐世保鎮守府の提督も…」

 

「レイ‼︎」

 

横須賀に無線を繋いでいた最中、鳩尾に激痛が走った

 

「なっ…」

 

「誰にも渡さないぞ‼︎鹿島は僕の嫁だ‼︎僕の子を産んで、僕の為に生きる決まりなんだ‼︎」

 

「イヤァァァァァァァァァア‼︎レイ‼︎レイぃぃぃぃぃい‼︎」

 

 

 

 

 

《レイが危ない‼︎》

 

《フィリップ‼︎危険だ‼︎対空砲火に巻き込まれるぞ‼︎》

 

フィリップはずっと考えていた

 

やっぱり、僕はレイが好きだ‼︎

 

僕はどうなったっていい‼︎

 

レイ…君さえ助かれば‼︎

 

僕はそれでいい‼︎

 

だから‼︎

 

《ウワァァァァァァ‼︎》



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52話 大切な人(5)

※微グロシーンがあります

嫌いな人はターンするか、一瞬だけ耐えて下さい


………

 

……

 

 

対空砲火に巻き込まれたのかな…

 

僕は…

 

レイを助けられなかったのかな⁇

 

右目があんまり見えないや…

 

でも何だろ…

 

不思議な感じがする…

 

フィリップは何度も”手”を動かす

 

「僕は…一体…」

 

空がとても広い

 

「はっ‼︎レイを助けなきゃ‼︎」

 

フィリップはレイの所に走った

 

初めてのはずなのに、何故か足が動いた

 

地を踏み締める感触…

 

戦闘機の時には無かった感触だ

 

「この先に二人が…イテテ」

 

被弾したのか、右目がどうも痛む

 

それでも、二人のいる場所は何と無く分かった

 

「んっ…むぐっ…んんっ…」

 

目の前で鹿島が口に布を入れられ、のたうち回っている

 

「誰だ‼︎」

 

床にはレイが血を流して倒れている

 

「貴様か。二人を嬲ったのは」

 

「だったらなんだ‼︎」

 

「許さない…」

 

「はっ‼︎お前みたいな奴に何が…」

 

もう、こいつが喋っているのも嫌だった

 

いつの間にあったか分からない、腰に備えられた軍刀で彼の首を落とした

 

「んむむぐ‼︎」

 

「待って‼︎今取ってあげる‼︎」

 

鹿島の口に入れられた布を取ると、開口一番に言われた

 

「貴方は⁉︎」

 

「話は後だ。今はここから出る‼︎」

 

鹿島の手枷や足に付いた鎖を解くと、鹿島はすぐにレイに歩み寄った

 

「お願いします‼︎彼を助けてあげて下さい‼︎」

 

「いだだだ…やられたぜ…」

 

「起きたみたいだ」

 

「レイ‼︎」

 

「簡単には死なねぇさ。ちったぁ気絶してたみたいだかな…お前は大丈夫か⁇」

 

「えぇ、奇跡的に体は何も…多少殴られた位です。この子が助けてくれたんですよ⁇」

 

二人して僕の方を見る

 

「ありがとう…名前は⁇」

 

そう言われて、何故か勝手に口が動いた

 

「き…”きそ”…」

 

「そっか…外の連中は大丈夫なのか⁇」

 

「大丈夫だ。じきここを焼き払う。早く出よう」

 

そう言って、僕は手を差し伸べた

 

レイはそれを取り、立ち上がった

 

僕はレイに笑顔を送った

 

レイは僕に笑顔を返した

 

鹿島がレイを抱え、外に出ようとした時、枕元に何か置いてあるのに気が付いた

 

それを手に取った時、レイに呼ばれ、咄嗟にポケットにしまった

 

 

 

「レイ‼︎鹿島‼︎」

 

地上に出ると、横須賀さんが迎えに来てくれていた

 

佐世保鎮守府は壊滅

 

見るも無残にボロボロになっていた

 

話を遠巻きに聞くと、工廠やらドックも全部爆撃するみたいだ

 

残った物は全部叩きのめすらしい

 

二人の安全を確認した後、僕は建物の影に入り、腰を降ろした

 

「疲れたなぁ…ふぅ…」

 

急に疲れが来て、そのまま目を閉じた…

 

 

 

 

 

 

 

「……リップ‼︎フィ……プ‼︎フィリップ‼︎」

 

《はっ‼︎》

 

気が付けば、レイを乗せていた

 

右目も痛くない

 

「ありがとな、迎えに来てくれて」

 

《え⁉︎あ…う、うん‼︎》

 

「まさか工廠の裏にいるとはなぁ…」

 

《鹿島は⁇》

 

「横須賀で治療を受けてるよ。大丈夫、何にもされてない」

 

《そっか…良かった…》

 

「きそって奴に助けられたんだ。しかし、何処のデータベースにも無いとは…何処のどいつだったんだろうな…」

 

《あ、そうだ。着陸した時、僕に何か預けて行った子がいたよ》

 

「ホントか⁉︎」

 

《うん。ダッシュボードに何か置いて行った》

 

「どれ」

 

レイがダッシュボードを開けると、中から鹿島が付けていた指輪が出て来た

 

「外されてたのか…」

 

《持ち主に返してやって欲しいって言って、何処かに行っちゃった…》

 

「ますます礼を言わなきゃな…何か残ってるか⁇」

 

《ごめん、誰だか分からないんだ…》

 

「そっか…」

 

《横須賀に行こう。僕お腹空いたよ》

 

「そうだな。俺も何か食うとするか‼︎」

 

 

 

 

横須賀に着くと、レイは僕に上質の燃料を入れてくれた

 

いつもの通常燃料もいいけど、たまにはこっちがいい

 

「んじゃ、ちょっくら鹿島に返してきますかね」

 

《もう一度プロポーズ、だね》

 

「洒落た事言う様になったな」

 

《ほら、レディを待たせちゃダメだ》

 

「はいはい。ありがとな、フィリップ‼︎」

 

《うんっ‼︎》

 

レイが横須賀の基地に入って行くのを見送り、レーダーを起動する

 

これでレイが何処にいるか、どんな話をしているか、手に取るように分かる

 

ちゃんと鹿島に渡してるみたいだ

 

照れ臭そうにしてると思えば、鹿島をしっかり抱いている

 

やっぱり夫婦だ

 

鹿島に大した傷は無く、数時間後には基地に帰還出来ると言われた

 

流石は艦娘

 

回復が早い

 

「フィリップ、帰るぞ‼︎」

 

《お帰り。鹿島、もう大丈夫なの⁇》

 

「えぇ‼︎お陰様で‼︎」

 

《じゃ、帰ろっか‼︎》

 

「あぁ‼︎」

 

「えぇ‼︎」

 

二人を乗せ、僕は飛んだ

 

こんな日に言うのもなんだけど、僕は今、とても幸せだ

 

僕の大好きなパイロットと、その奥さんが乗っている

 

こんなに幸せな事は無かった

 

こんな平和な空を、毎日飛べたらいいな…

 

そう思いながら、みんなの待つ基地に着いた

 

「ゆっくり休めよ」

 

《レイこそね。ちゃんと入渠してよ‼︎》

 

「へ〜へ〜」

 

レイが先に降り、鹿島が残る

 

《鹿島》

 

「どうしました⁇」

 

《いい夫婦だね》

 

「ありがとうございます‼︎ふふっ‼︎」

 

《また明日ね‼︎》

 

「はいっ‼︎」

 

二人が基地に入るまで見送った後、僕は格納庫で目を閉じた

 

長い1日だったな…

 

明日は、平和だといいな…

 

おやすみなさい‼︎




きそ(フィリップ)…

フィリップの小さな願いが奇跡的に叶い、一時的だが艦娘になれた状態

外見は艦娘”木曾”の改二状態のそれと酷似しているが、性格がちょっと違う

お尻も胸も小ぶりで、案外身長が低く、見た目の割にはキュート



そして何より、フィリップが女の子だったという衝撃の事実。しかも僕っ娘

だが、フィリップは自分がきそだという事を隠している


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53話 ボーイッシュな海賊(1)

さて、52話が終わりました

今回のお話は、子供達が見たと言う”おばけ”のお話です

夜中の決まった時間なるとに現れる、海賊の姿をした幽霊が林で出ると子供達がパパとレイに言い、確認と巡回の為に、肝試しが開かれます


鹿島鹵獲事件から数日後の基地…

 

19時になった

 

最近、この基地に海賊の幽霊が出るとの噂を子供達から聞いた

 

「てな訳で」

 

「肝試しをしたいと思います‼︎」

 

「おばけこわい」

 

たいほうは武蔵にベッタリくっ付き、離れない

 

「心配するな‼︎おばけなど、私が叩きのめしてやろう‼︎」

 

「よ〜し、スティングレイチーム、出発〜‼︎」

 

「出発〜…」

 

レイのチームは

 

しおい

 

プリンツ

 

 

ローマ

 

 

 

 

パパのチームは

 

たいほう

 

武蔵

 

れーべ

 

まっくす

 

はまかぜ

 

の、メンバーになっている

 

他の連中はお留守場だ

 

グラーフに至っては、ビビリにビビリ過ぎて泣きそうになっていた

 

「レイ、あんたまさか怖いんじゃないでしょうね⁉︎」

 

「ここここ怖い訳なななないじゃないかかか」

 

懐中電灯を持つ手がカタカタ震える

 

正直、おばけとか超☆怖い

 

今すぐ帰りたいが、日中子供達に何かあったら大変だ

 

そんな時、林から物音がした

 

「ウヒャオ‼︎」

 

慌ててローマにしがみ付く

 

「…何やってんのよ。鹿島に言うわよ⁇」

 

「なんだ、いつものリスじゃん‼︎」

 

しゃがんだしおいの目線の先には、小さなリスがいた

 

たいほうがよく遊んでいるあのリスだ

 

「ちょっと。暑いんだけど⁇」

 

「先行って、マジで」

 

「はぁ…しょうがないわね…」

 

肝試しのコースは、イ級のお墓が折り返し地点兼確認箇所だ

 

「着いたって、もう帰ろって」

 

「またお花が添えてあります‼︎」

 

プリンツの一言でブルッと来た

 

「オシッコ‼︎」

 

「うるさいわね‼︎そこの茂みでしなさいよ‼︎」

 

とうとうローマに怒られる

 

「うぅっ…」

 

茂みで用を足し、元に戻ると誰もいなかった

 

「え…嘘…はぐれた⁉︎」

 

レイにとって、一番恐れていた最悪の事態

 

はぐれる

 

「助けてくれー‼︎」

 

 

 

 

 

レイの声は、数分遅れて出発していたパパのチームにも聞こえていた

 

「こわい」

 

武蔵にしがみ付いていたたいほうが、更にしがみ付く

 

「すてぃんぐれいの声だ。心配するな」

 

「すてぃんぐれいたべられた⁇」

 

「いや、彼はそこまで弱くない」

 

「あ‼︎りす‼︎」

 

先程のリスだ

 

どうやら何処かに案内したいらしい

 

「着いて行こうか」

 

パパの一行は、リスに着いて行く事にした

 

 

 

 

 

「ちょっと…マジで嫌なんですけど…」

 

来た道を帰ろうとするが、こういう時に限って茂みがよく動く

 

「あ、あはは…」

 

レイは自害したくなった

 

地面に膝を落とし、ポロポロと涙を流す

 

「怖いって〜‼︎助けろって〜‼︎」

 

「誰だ⁇」

 

「へっ⁉︎」

 

月の光と共に現れた人影を、レイは見覚えがあった

 

「き、きそ⁇」

 

「こんな所でなにしてるの⁇」



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53話 ボーイッシュな海賊(2)

「肝試し‼︎置いて行かれたのっ‼︎」

 

「来て。海岸まで連れて行ってあげる」

 

きそに着いて行くと、海岸まで出れた

 

「歩くって、こんなに良いんだね」

 

「何だよ。今まで歩いた事無かったのか⁇」

 

レイはタバコに火を点け、ようやく呼吸を整えた

 

「レイはいつもこんな感じなんだね」

 

砂浜をピョンピョン跳ねながら、その辺をウロチョロするきそ

 

「面白い奴だな…」

 

「楽しいね‼︎足跡がいっぱい付いてる‼︎」

 

「その…なんだ。ありがとな」

 

「この前の事⁇」

 

「そう。本当に助かった。指輪もフィリップに預けてくれたんだってな」

 

「そんなの…」

 

「お前、何処の艦娘なんだ⁇」

 

「僕⁇僕はいつもここにいるよ⁇」

 

話しながらも、相変わらずピョンピョン跳ねている

 

レイの周りは、既に足跡でいっぱいになっている

 

「何か欲しい物とかあるか⁇」

 

「あるよ」

 

「言うだけ言ってみろ」

 

「いいよ。もう叶ってるし」

 

「あれか。俺の傍に居たいとかそんなんだろ⁇」

 

「まぁね」

 

「他だ他‼︎」

 

「じゃあ…ん〜…そこで動かないで」

 

言われた通り、レイは動かずにいた

 

すると、きそはレイの背中からゆっくりと抱き着いた

 

「あったかいなぁ…」

 

レイから見れば、きそはまだまだ子供だった

 

一丁前な格好をしてはいるが、身長はれーべ達と同じ位だ

 

「鹿島には内緒だよ⁇」

 

「分かったよ」

 

その後、砂浜に腰を下ろし、きそはレイのお腹にもたれかかった

 

「へへへっ、いいね。小柄で良かったよ」

 

「本当、変わってるよな…」

 

「こうするのを夢見てたんだ…」

 

「提督は嫌な奴なのか⁇」

 

「とってもいい人だよ⁉︎優しくて、寛容な人だよ⁇」

 

「そっか…」

 

「レイはパイロットだよね⁇」

 

「そう。こう見えて、昔は世界を股に名を馳せてたんだぞ⁇」

 

「どんな機体に乗ってるの⁇」

 

「今は”フィリップ”って機体だ。本当に俺に良く仕えてくれる、最高の相棒さ」

 

「そ、そっか…へへへ」

 

こう褒められると、きそも嬉しそうだ

 

そんなきそを見て、レイは不思議そうな顔をする

 

「レイ〜‼︎何処ですか〜‼︎」

 

「鹿島だ」

 

「きそ、俺と来いよ。楽しいぞ⁉︎」

 

「ううん、僕はいいんだ。レイをここから見てる」

 

「寂しくなったらいつでも来いよ⁇」

 

「うん‼︎次は基地に行きたい‼︎」

 

きそが離れ、二人は立ち上がる

 

「ありがとう、レイ」

 

「おぅ‼︎またな‼︎」

 

レイがきその頭を撫でる

 

きそはそれだけでも幸せだった

 

フィリップの時だって、レイは時々撫でてくれたが、今回は違う

 

レイの体温…

 

髪が乱れる音…

 

柔らかい手…

 

きその小柄な体が、少し震える

 

これが、気持ちいいって感じなんだね

 

機械の体じゃ分からなかった感情だ

 

好きな人に触れられると、嬉しくて気持ちいいんだね…

 

鹿島に連れられ、レイは基地に戻った

 

途中でレイは鹿島に頭を叩かれていた

 

奥さんが強い夫婦って、長持ちするんだよね、確か

 

レイはあぁ見えて、他人の意見を尊重する人間だ

 

パパの良い所をしっかりと受け継いでいる

 

「…時間だ」

 

誰かにバレない内に、格納庫に戻らないと…



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53話 ボーイッシュな海賊(3)

「おはよう、フィリップ」

 

昼前に格納庫の扉が開き、レイが現れる

 

《おはよう、レイ。今日は何するの⁉︎》

 

「ライター探し」

 

《ら、ライター⁉︎》

 

「そっ。昨日どっかに落としちまってなぁ…たいほう辺りが遊んで火傷したら大変だ」

 

《あの高そうなアメリカのライター⁇》

 

「そう。買ったばっかなんだ…てか、よく知ってるな」

 

《僕のダッシュボードを見て》

 

「んな所に置いてない」

 

《一応見てよ‼︎ね⁇》

 

「…お、おぅ」

 

渋々フィリップのダッシュボードを開けると、ポツンとライターが置いてあった

 

「何でこんな所に…」

 

《昨日、きそと会った⁇》

 

「あぁ。一緒に海岸に居た」

 

《届けてくれたんだ。もう落とすなって言われたよ》

 

「そ、そっか。また借りが出来たな」

 

《きそはレイの前ではどんな子なの⁇》

 

「いい子だ。外見と違って、猫みたいな甘えん坊さ」

 

《可愛い⁇》

 

「可愛いな。たいほうとかの可愛さとまた違う」

 

《そっか…へへへ》

 

「何でお前が照れるんだよ‼︎」

 

《いやぁ、レイの口から可愛いなんて言葉が出るとはね》

 

「こう見えて教養はあるんだぞ⁇俺を見くびったなフィリップ君‼︎」

 

モニターににやけ顏を見せるレイ

 

フィリップは嬉しかった

 

きそである自分

 

フィリップである自分

 

そのどちらも、彼は愛してくれる…

 

「そうそう。今日はミハイルが来るんだ」

 

《ドイツの子達の様子を見に⁇》

 

「らしいな。まっ、とにかく挨拶して来るよ」

 

《行ってらっしゃい‼︎》

 

フィリップは後で気付いた

 

レイが何気無しに、ミハイルさんの事を呼び捨てにしていたのを…

 

 

 

 

基地に帰ると、プリンツがソワソワしていた

 

「あわわわ…怒られちゃうのかなぁ…」

 

「怒られる様な事したのか⁇」

 

「してないよ‼︎」

 

「なら、胸張って待ってろ」

 

「分かった‼︎」

 

プリンツから目を外すと、グラーフはグラーフでアタフタしている

 

「おめかししちゃって…」

 

「おめかしした方が良いでしょ⁇」

 

「まぁな」

 

こう、ちょっと大人しい感じを保ってくれりゃ、本当可愛いのにな…

 

椅子に座ってお菓子を口に入れた時、汽笛が鳴った

 

「来たか」

 

数分すると、船からミハイルと女の子が降りて来た

 

隊長は今風呂に入っているので、俺が出迎える事になった

 

「皆様、ご無沙汰です‼︎」

 

「お疲れ様です、ミハイルさん」

 

「ほら、挨拶しなさい」

 

「こ…こんにちは…」

 

その少女は、ミハイルの足元にしがみ付きながら、俺の目を見つめる

 

「この前はありがとうな、Uちゃん‼︎」

 

「うん…U、お役に立てた⁇」

 

「立ったとも‼︎Uちゃんが居なきゃ、みんなを助けられなかったんだぞ⁇」

 

「…嬉しい」

 

「スティングレイ、三人は元気ですか⁇」

 

「えぇ、奥に居ます。どうぞ」

 

ミハイルとUちゃんを食堂へと案内する

 

ミハイルは脇に封筒を挟み

 

Uちゃんはジュラルミンケースを持って、ミハイルの横を歩いている



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53話 ボーイッシュな海賊(4)

「持とうか⁇」

 

「いい…これ、大切なの」

 

「そっか」

 

Uちゃんはジュラルミンケースに触れられるのを嫌がった

 

それは後々分かるとして、食堂には三人が座っていた

 

今から軽い面談をするみたいだ

 

左から

 

プリンツ

 

れーべ

 

まっくす

 

が座っている

 

れーべとまっくすからほんのり湯の香りがする

 

直前に隊長が入渠させていたみたいだ

 

「では、私は工廠におりますので」

 

「後で行くよ。ありがとう」

 

俺が工廠に向かった後、面談が始まった

 

グラーフがそれぞれに冷たいお茶とお菓子を置き、まずはれーべからスタート

 

「れーべ、調子はどう⁇」

 

「うん、みんな良い人だよ‼︎優しいし、色んな艤装を造ってくれるんだ‼︎」

 

「そっか‼︎れーべは気に入ったんだね⁇」

 

「うん‼︎」

 

「じゃあ、まっくすはどう⁇何処か調子が悪いとか無いかな⁇」

 

「無い。健康そのもの。グラーフとはまかぜが作るご飯も美味しい」

 

「うん、健康で何よりだ‼︎最後はプリンツ‼︎」

 

「は、はひ‼︎」

 

気の抜けた返事をするプリンツ

 

あれから特に悪い事はしていないのだが、何故か緊張している

 

「体調はどうかな⁇」

 

「だ、ダイジョブデス、ハイ‼︎」

 

「ははは‼︎何にも怒らないよ‼︎あ、そうだ、プリンツに渡す物があるんだ。Uちゃん⁇」

 

「はい」

 

Uちゃんはジュラルミンケースを開け、中から勲章を取り出した

 

「おめでとう‼︎」

 

「何の勲章ですか⁇」

 

「君は世界で初めて”4連撃”を達成した艦娘なんだ。それを讃え、勲章を授与します‼︎」

 

「あ…れ、レイにあげて下さい‼︎」

 

「いいのかい⁇」

 

「はい‼︎レイが居なきゃ、その4連撃は達成出来ていません‼︎」

 

「…ん、分かった。これはレイに渡そう‼︎」

 

プリンツは嬉しそうな顏をした

 

ようやくレイに感謝の気持ちを形にして渡せるからだ

 

「じゃあ…最後にグラーフ」

 

「はい………何で⁇」

 

「君の事をもっと知りたくてね」

 

「あ…」

 

グラーフにとって、またと無いチャンス

 

この基地に居る男性は二人共ケッコンしているので、グラーフ自身も少し焦っていた

 

そんな中、タイミング良くミハイルが現れ、一目惚れした

 

「みんな、席を外してくれるかな⁇」

 

「分かった‼︎」

 

「仕方無い」

 

「分かりました‼︎」

 

「Uは⁇」

 

「Uちゃんもだ。れーべ達と遊んでおいで」

 

「分かった」

 

Uちゃんはジュラルミンケースを大事そうに持ち、れーべ達と共に子供部屋に入った

 

そこには隊長もおり、たいほう達が騒がない様に面倒を見ている

 

「さて、グラーフ」

 

「はい」

 

「そ、その…ビールは好きか⁇」

 

「たまに飲む」

 

「今度、その…一緒に飲みに行かないか⁇スカイラグーン辺りに…」

 

「グラーフと⁇」

 

「そう…」

 

「うん、いいよ」

 

「よしっ‼︎」

 

ミハイルがガッツポーズをする

 

何と両思いだった

 

グラーフは澄ました顏をしているが、内心凄く嬉しかった

 

「次コッチに回って来た時、スカイラグーンで待ち合わせをしよう‼︎」

 

「うん、おめかしして行く」

 

「やった‼︎」

 

ミハイルは性格に裏表が無く、誠実を絵に描いたような人物だ

 

グラーフは初対面の時、何と無くそれに気付いていた

 

「さ、私は工廠に顏を出すよ‼︎」

 

「場所分かる⁇」

 

「えぇ、一度行った事がありますから」

 

「じゃあ、私は子供部屋に行く。楽しみにしてるね」

 

「こっちもですよ‼︎」

 

ミハイルが工廠に向かい、グラーフは子供部屋に入る

 

子供部屋では、たいほう達がぬり絵をして遊んでいた

 

その中心で、隊長がみんなの輪に混ざってぬり絵をしている

 

レイと同じく、隊長も時々子供に戻る

 

「おっ、グラーフ。どうだった⁇」

 

隊長がグラーフに気付き、顔を上げた

 

「うん…デートの約束した」

 

「そっか‼︎良かったな‼︎」

 

グラーフは隊長の前に座り、霞の絵を見た

 

「上手だね」

 

「…ありがと」

 

霞の頭を撫でながら、隊長と話す

 

「隊長、気付いてた⁇」

 

「まぁな。あの演習の時、何と無くそうかなって」

 

「隊長は何でもお見通し⁇」

 

「ある程度はな。まっ、未だに乙女心は分からん仕舞いだ…」

 

「ミハイルは良い人」

 

グラーフが発した言葉に、れーべとまっくすが反応した



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53話 ボーイッシュな海賊(5)

「そうだよ‼︎ミハイルは僕達の事を本当の子供みたいに接してくれるんだ‼︎」

 

「お菓子もくれる」

 

「そんな人なら、尚更大事にしないと…」

 

「ぐらーふもかいて‼︎」

 

「ん」

 

たいほうからぬり絵を渡され、グラーフもやり始める

 

グラーフの横には、左に霞、右にUちゃんがいた

 

ジュラルミンケースが開けられており、中にはぬり絵や色鉛筆、後、小さなぬいぐるみが入っている

 

どうやらUちゃんが出したぬり絵の様だ

 

「このジュラルミンケース、ミハイルさんがくれたの。ミハイルさんのおさがりなんだよ⁇」

 

「宝物なんだね」

 

「うん。Uの宝物。ぬり絵とか、おままごとのセットを入れてるの」

 

「大切にね」

 

「うん」

 

しかし、Uちゃんは色鉛筆を変な持ち方をしている

 

色鉛筆を右手の握り拳に刺し、それを拳ごと動かして色を塗っているが、中々綺麗だ

 

見た所、まだ幼いのでこれでいいのかも知れない

 

上手だし、大丈夫だ

 

 

 

 

 

 

俺は工廠で、とある艤装の最終仕上げをしていた

 

「スティングレイ‼︎」

 

「来ましたか‼︎どうでしたか⁇」

 

手を止めて、ミハイルの所に寄る

 

「心配ご無用ですよ。本当に感謝します」

 

「それは良かった‼︎」

 

ミハイルの目線が、俺の造っている艤装に目が行く

 

「これは⁇」

 

「新しい魚雷です。威力と命中精度を高めた新型の艦首魚雷です」

 

「マーカス」

 

ミハイルの顔付きが急に変わり、俺の胸に封筒と勲章の入った箱を置いた

 

「頼まれてたものだ。それと、勲章だ」

 

「…すまんな」

 

ミハイルの顔を見て、俺は口調を変えた

 

俺は封筒を開け、中に入っていた書類を確認した

 

「…それでいいか⁇」

 

「あぁ、本当に助かる。”お前”に頼んで良かったよ」

 

「ふっ…お互い様だろ⁇」

 

「注文の品はこれだ。5本用意出来た」

 

俺は先程の魚雷を指差した

 

魚雷が5本、床に並んでいる

 

「注文したのは3本だ」

 

「2本はオマケだ。お互い様なんだろ⁇」

 

「全く…有難く頂戴するよ」

 

「そっちはどうなんだ⁇上手くやってんのか⁇」

 

「まぁまぁさ。今はU-511と二人暮らしで、仕事もそこそこ忙しい」

 

「あの子は秘書艦か⁇」

 

「そんな感じだな。レイは鹿島だろ⁇」

 

「良い嫁だよ、あいつは」

 

「レイは所帯を持つのが夢だったからな‼︎」

 

そう言って、ミハイルは高笑いする

 

俺は冗談交じりでミハイルに拳を向ける

 

「うるせぇ‼︎鹿島に言うなよ⁉︎あいつ怒らせたらとんでもねぇんだよ‼︎」

 

「分かった分かった‼︎あ、そうだ‼︎今度グラーフとデートするんだ‼︎」

 

「頼むぞ、あいつの事」

 

「任せろ‼︎」

 

そう言って、俺とミハイルは拳を合わせた

 

「じゃ、もう行くよ」

 

「気を付けて下さいね」

 

一瞬で口調が変える

 

二人を見送った後、俺はいの一番にフィリップに乗り、パワーウィンドウを上げた

 

《ど、どうしたの⁉︎》

 

「俺とミハイルの会話、聞いてたろ⁇」

 

《ま、まぁ…》

 

「今から話すのは、ミハイルが隠せって言ってるから、誰にも言うなよ⁇」

 

《う、うん》

 

俺は封筒を開け、中の書類を出した

 

書類は合計8枚

 

内半分以上はドイツから取り寄せた設計図だ

 

「読むぞ。一瞬だからよく聞けよ⁇」

 

《うん》



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53話 ボーイッシュな海賊(6)

《え…》

 

「今まで黙ってて済まない。規律で口に出せ無かったんだ」

 

《レイ…ベルリン生まれなの⁉︎》

 

「そう。壁が崩壊した時、ミハイルとアレンと一緒に国外追放になった」

 

《ベルリンのスパイだったの⁉︎》

 

「そう」

 

《まずミハイルと知り合いだったのがビックリなんだけど‼︎》

 

「俺とアレンは国外に出て、傭兵稼業に勤しんだ。ミハイルはドイツ軍に引き抜かれて、そのまま高級将校まで登り詰めた。全てが終わるまで、俺達二人はミハイルを”第二の上官”として扱う事になったんだ」

 

《でももう、元の三人に戻れるんでしょ⁉︎》

 

「そう‼︎本物の俺達の第二の人生が今日始まったんだ‼︎…まぁ、変わらないけどな⁇」

 

《一回ベルリンに帰るの⁇》

 

「んな訳あるか‼︎俺の祖国は日本とアメリカだ‼︎」

 

《そっか…きそにも言うの⁉︎》

 

「まぁな。それとなく喜びを伝える」

 

《レイ、ありがとう。僕に話してくれて》

 

「お前にはバレてると思ったからな」

 

《パパに伝えないと‼︎》

 

「おぅ、そうだな‼︎」

 

俺はフィリップから降り、一目散に隊長の所に向かった

 

《きそも喜ぶよ、きっと》

 

 

 

隊長に書類を見せると、俺をきつく抱き締め、涙を流した

 

「良かった…ようやく自由になったんだな…」

 

「俺は今と変わらない日々を望むね。隊長さえ良ければだけど」

 

「当たり前だ‼︎ここに居ろよ⁉︎」

 

「心配しなくても、帰る事は無いさ」

 

「じゃあ、二人で飲むか‼︎」

 

「よっしゃ‼︎」

 

隊長は棚からウィスキーを取り出し、二つのグラスに注いだ

 

それを互いに持ち、目線に合わせる

 

「自由に‼︎」

 

「乾杯‼︎」

 

グラスが鳴り、ウィスキーを飲む

 

「かぁ〜‼︎美味いなぁ‼︎」

 

「ラバウルから送られた一品だ」

 

「アレンだな⁇あいつは酒にうるさい」

 

「アレン⁇」

 

「アレン・マクレガー。バッカスの事さ。あいつは酒好きだから、バッカスってTACネームなんだ」

 

「レイは”ワイバーン”だったな」

 

「俺のはアレだ…かっこいいからそれにしたんだ」

 

「なるほど。レイらしいな」

 

それから、夜になるまで隊長と語り合った

 

今まで言えなかった事が爆発した

 

そして、もう一度改めて、スパイだった事を謝った

 

隊長は許すどころか、今までずっと俺の心中を心配してくれていた

 

改めて、この人に着いて良かったと、心から思った

 

「もうこんな時間か」

 

「俺、先に伝えなきゃ行けない奴が居るんだ」

 

「鹿島か⁇」

 

「きそだよ。二人の恩人だからな。行って来る‼︎」

 

「遅くなるなよ」

 

基地を出て、砂浜を走る

 

砂浜の端まで行くと、きそがいた

 

海に石を投げて遊んでいる

 

「きそ‼︎」

 

俺に気付き、きそは手を止めた

 

「レイ⁇どうしたのさ⁇」

 

「俺…ようやく自由になったんだ‼︎お前に伝えなきゃと思って‼︎」

 

「そっか‼︎よく分からないけど、とにかくおめでとう‼︎」

 

きそは喜んでいた

 

俺は自分の過去を打ち明け、全てを話した

 

「よく頑張ったね。レイは凄いや‼︎」



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53話 ボーイッシュな海賊(7)

「へへへ…」

 

「じゃあ…僕も秘密を話すね⁇」

 

「きそもあるのか⁇」

 

「…僕ね」

 

きそは急に俺から目線を離した

 

「…レイが自由になったの、知ってた」

 

「…へ⁇」

 

「指輪とライター…何でフィリップのダッシュボードに置いてあったか、不思議に思わない⁇」

 

「いやいや…まさか…」

 

「僕は…」

 

俺は息を飲んだ

 

次にきそから出る言葉が分かってしまった

 

「僕はフィリップなんだ‼︎」

 

「どうやって…」

 

「機体はあるよ。僕の知能だけ、艦娘として零れ落ちたんだ。あの日、レイを助けたくて…原理は分からないけど、出たい時にフィリップから出られる様になったんだ。きそとしてね」

 

「良かった…」

 

「え⁉︎」

 

俺はきその頭を撫でた

 

きそは小さい顔を上に向け、頬を赤く染めている

 

「こうして、ようやくお前に触れられる」

 

俺は膝を曲げ、きそと目線を合わせ、頬を撫でた

 

「あっ…」

 

「これからも宜しくな。きそ」

 

「…うん‼︎僕、レイを守るよ‼︎」

 

小さなきその体を抱き締める

 

こんな、小さな柔らかい…もうちょい力を入れたら骨が折れそうな体で、俺達二人を助けに来てくれたのか…

 

「フィリップの時は、フィリップで良いからね⁇」

 

「分かった」

 

「ね、レイ。僕、基地のみんなに挨拶したい‼︎」

 

「行こう‼︎」

 

きそと共に、基地に戻る

 

「あら‼︎きそちゃん‼︎」

 

「きそ⁇」

 

運良くみんな起きていた

 

「さ、きそ…」

 

「うん‼︎」

 

きそは深呼吸した後、自己紹介をした

 

「僕はきそ‼︎フィリップの知能から産まれました‼︎」

 

「ふぃりっぷ⁇きそ⁇」

 

たいほうが混乱している

 

隊長は隊長で、キョトンとしたまま、咥えたタバコの灰が落ちている

 

「たいほうちゃん、ありがとうね。僕を飛ばしてくれて」

 

「ふぃりっぷは⁇」

 

たいほうはフィリップが居なくなったと思い、少し泣きかけている

 

「大丈夫、ちゃんとフィリップはいるよ。僕、たいほうちゃんと遊ぶのが楽しみだったんだ‼︎」

 

「たいほうとあそんでくれるの⁉︎」

 

たいほうの目が一気に輝いた

 

「今日は遅いから、また明日な⁇」

 

「うんっ‼︎たのしみにしてる‼︎」

 

たいほうは椅子から立ち上がり、子供部屋に戻った

 

一瞬であまり分からなかったが、きそはたいほうの身長より、少し高い位だ

 

きそはこちらを向いて、満面の笑みを浮かべる

 

可愛い少女だ…

 

初めて見た時は、ショートカットな事もあり、男の子だと思っていたが、髪を撫でたり、先程みたいに抱き締めたら、ほんの少し胸があり、女の子だとよく分かった

 

妹、もしくは娘みたいな存在だ

 

そんな少女の嬉しそうな姿を見て、俺は再び、生きる希望を見出した




重雷装巡洋艦”きそ”が、艦隊の指揮下に加わります‼︎


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54話 二人のヒロイン〜鹿島の性教育編〜(1)

さて、53話がおわりました

きそは色々な事に興味深々

それは勿論、男女の関係だって

そして、きそはレイにある質問をしたお話です




「行ってくる」

 

「行って来い‼︎ミハイル落として来いよ‼︎」

 

「落とす」

 

意気揚々と、グラーフがスカイラグーンに向かった

 

「レイ‼︎」

 

きそは最近、昼間でもきそで居る事が多くなった

 

だが、出撃やら哨戒の時はちゃんとフィリップの中に入る

 

未だに原理は分からないが、きそが良いならそれでいい

 

昼間は遊んだり、時々勉強をしている

 

俺は見てくれはバカだし、横須賀曰く、空の連中達から”空飛ぶアウトロー”と言われているらしいが、こう見えて教養はある

 

それは前にフィリップ、もといきそに言った

 

だから、ちょっとした事なら教えられる

 

「どうした⁇」

 

「赤ちゃんってどうしたら出来るの⁉︎」

 

「ゔっ…」

 

地上最強に面倒くさい質問だ…

 

「あかちゃんてなに⁉︎」

 

たいほうも食い付いた‼︎

 

「僕も気になる‼︎」

 

「私も」

 

子供達がゾロゾロ食い付く中、落ちついている人物が一人

 

「ふっ…バカね、貴方達‼︎」

 

タイミング良く切り出してくれたのは霞だ

 

「赤ちゃんはね‼︎好きな人とケッコンしたらコウノトリが持って来るのよ‼︎」

 

オーケー‼︎

 

ナイスだ霞‼︎

 

「こうのとり⁇」

 

「そう、コウノトリだ。英語で言うと”ストーク”だな」

 

「鳥が持って来るの⁉︎」

 

「非現実的」

 

まっくすはあくまでまっくすだ

 

「レイ、教えて‼︎」

 

キラキラした瞳のきそに嘘を吐きたくない…

 

だが、まだ早い気がする

 

「くっ…」

 

ここは逃げるべきなのか⁉︎

 

いや、ここで逃げたら男の名が廃る‼︎

 

しかし、変に教えたら逆効果…

 

教えるべきなのか…

 

くそ…

 

「お困りですか⁇」

 

にやけ顔の鹿島が現れた‼︎

 

「そうだ‼︎鹿島は先生だからよく知ってる‼︎さ‼︎鹿島に聞くが良いわ‼︎」

 

「赤ちゃんって、どうしたら出来るの⁉︎」

 

「皆さん多感な年頃ですものね‼︎では、あちらで授業をしましょう‼︎レイ、付き合って下さい」

 

「さっ‼︎たまには釣りでもしよ〜っと‼︎」

 

基地を飛び出した瞬間、鹿島に襟を掴まれた

 

「ぐえっ‼︎」

 

「手伝ってくれますね⁇」

 

鹿島の顔が怖い

 

「お…オーケー…」

 

普段使われていない和室を教室の代わりにし、畳の上に子供達が座り、鹿島はホワイトボードと椅子を引っ張って来た

 

「ではレイ、こちらに座って下さい」

 

椅子に座り、子供達と目を合わせる

 

「では、授業を始めます‼︎」

 

鹿島はホワイトボードに何か書いている

 

「赤ちゃんは、お母さんのお腹から出て来ます。お母さんのお腹の中に赤ちゃんがいる事を”妊娠”と言います」

 

鹿島の授業は分かりやすい

 

小難しい事を言わず、子供達に分かりやすい言葉のみで事柄を説明して行く

 

「妊娠するにはどうしたらいいの⁇」

 

相変わらず、きその目はキラキラしている



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54話 二人のヒロイン〜鹿島の性教育編〜(2)

「妊娠をするには、男性が必要です。赤ちゃんを妊娠する為に、まずは私達が男性を沢山の愛で包んであげなければいけません」

 

「えっと…恋愛、だっけ⁇」

 

「そうです。きそは良く知っていますね‼︎」

 

「うん‼︎恋愛はいっぱい調べたんだ‼︎」

 

「うふふっ‼︎話を続けましょう。恋愛の次は”性交”と呼ばれる行為に入ります」

 

ここからが重要だ

 

子供達がどう取るかだ

 

「まずは男性の下腹部を…」

 

「次はこの液体の説明を…」

 

「そして、大体10ヶ月後に、赤ちゃんはめでたく産まれて来ます」

 

つい聞き入ってしまった

 

元とはいえ、流石は教官だ

 

まとめかたも素晴らしい出来だ

 

「鹿島よ。性交の時、どうしたら男を喜ばせられるのか教えてくれ」

 

「それは人によりますが、ここのポイントを…」

 

「鹿島」

 

「はい」

 

「授業をするのは大変結構。てかありがとう」

 

「ちゃんと教えないと、間違った方向に行きますからね」

 

「俺から二つだけ言わせてくれ」

 

「どうぞ」

 

「ちょくちょくそれで突くのやめてくんない⁉︎」

 

鹿島は授業中、手に持った教鞭でちょくちょく俺を突いたり撫で回したりしていた

 

「感じましたか⁇」

 

「…それとな‼︎何で武蔵がいるんだ‼︎」

 

指を差した方向には、武蔵が体操座りんしていた

 

「授業はみんなが受ける権利があるだろう‼︎」

 

「そうだな‼︎すまん‼︎」

 

武蔵に正論を言われ、すぐに折れた

 

「ここはどうです⁇」

 

「はひゃ…」

 

急に太ももをさすられ、力が抜ける

 

勿論鹿島の仕業だ

 

「こうして互いに触れ合い、気持ちの良い場所を探すのも大切な行為です」

 

反撃してやろうと思ったが、反撃した場合、子供達にとってはとんでもない場所をつねる事になるのでやめにした

 

「では、今日はこれ位でお開きにしましょう。ちゃんと授業を聞いたご褒美に、先程説明した”ゴム”を差し上げます‼︎これで遊んではいけませんよ⁉︎」

 

どこからとも無く持って来た段ボールの中から、一箱ずつ箱を取り出し、子供達に配る

 

最後に武蔵が受け取り、生徒が全員部屋を出た

 

残った鹿島と俺は後片付けを始めた

 

「何でそんなに持ってるんだよ…」

 

「いつかこんな日が来ると思ったんです」

 

「なるほどな…あ、そうだ、鹿島」

 

「はい⁇」

 

「男性の下腹部の器官って、何て言うんだ⁇」

 

イタズラ半分に聞いてみた

 

鹿島はホワイトボードを隅に置き、此方に寄って来た

 

目が怖い

 

「前立腺の事ですか⁇前立腺を弄ると強制的に…」

 

「アッ…アッ…アッーーーーー‼︎」

 

数分後、萎びた俺が畳に倒れていた

 

「私にセクハラなんて、10年早いです‼︎」

 

「燃え尽きたぜ…色んな意味で、真っ白にな…」

 

 

 

 

 

鹿島の授業が始まる少し前

 

グラーフはスカイラグーンに着いていた



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54話 二人のヒロイン〜グラーフのデート編〜(1)

「メズラシイナ、ヒトリデクルトハ」

 

「今日はデートなの」

 

「グラーフ‼︎こっちこっち‼︎」

 

ミハイルはカウンターでノンアルコールのカクテルを飲んでいた

 

グラーフの顔が明るくなる

 

「デハ、ビップルームヲヨウイシヨウ。スキナノミモノヲ、イクツカエランデクレ。マトメテモッテイク」

 

「ありがとう」

 

ル級は気を利かせ、個室を準備してくれた

 

個室に行く時に、呉さんが南方棲姫の膝の上でゴロゴロしていたけど、気にしないでおこう

 

個室に入り、ソファーに腰をかける

 

「ふかふか」

 

「え…えと…今日はありがとう…」

 

「うん。グラーフも嬉しいよ⁇」

 

「ジンジャーエールト、カルピスト、リンゴジュースダ」

 

コップが二つ置かれ、真ん中にそれぞれの飲み物が入ったボトルが置かれた

 

「ショクジモアル。ゴユックリ」

 

「ありがとう」

 

ミハイルはジンジャーエールのボトルを取り、コップの一つに注いだ

 

「グラーフにも淹れて⁇」

 

グラーフはもう片方のコップをミハイルの前に出した

 

双方のコップに、ジンジャーエールが注がれていく

 

「ん、どうぞ」

 

「いただきます」

 

互いに緊張しているのか、一気に飲み干す

 

「グラーフ…私は…」

 

「ん⁇」

 

「私は、ようやく平穏を手に入れた…あ、いや、戦況はまだまだ分からないが…その…」

 

グラーフは、ミハイルが言いたい事が分かっていた

 

「レイの事、ありがとうございます」

 

「あ…聞いてたのか」

 

「うん。同じ隊だし、隊長もありがとうって言ってた」

 

「そ、それでだ。私は、その…恋愛をしてみたいんだ…」

 

「それは告白⁇」

 

「あ、いや、その…言い方を変えた方が…」

 

いつもピシッと決まっているミハイルが挙動不振になるのは、正直見ていて面白い

 

「こ、恋人に‼︎なって欲しい…」

 

「グラーフでいい⁇」

 

「勿論さ‼︎グラーフが恋人なら最高だ‼︎」

 

「裏切ったら、簀巻きにしてお出汁とるからね」

 

「大丈夫‼︎こう見えて私は童貞だ‼︎付き合うのはグラーフが初めてだ‼︎」

 

「童貞…」

 

グラーフは馬鹿にするつもりは更々無かった

 

それより、色んな事を二人で学べばいい…

 

そう思っていた

 

「でも、どうしてグラーフ⁇」

 

「初めて会った時、君に一目惚れしたんだ。それに、毎回基地にお邪魔した時、美味しい料理を出してくれるだろ⁇」

 

「…男の胃袋を掴めって、本に書いてあったの」

 

「また作って欲しい」

 

「うん、分かった。ドイツ料理がいい⁇」

 

「君に任せるよ」

 

身持ちがガチガチで硬いミハイル

 

ポーッとしているが、しっかり者のグラーフ

 

いいカップルかも知れない

 

「食事、食べよう⁇お腹空いちゃった」

 

「そうだな。すいません‼︎」

 

数秒すると、レ級が来た

 

「ミートパスタ二つと、ビールを二本」

 

「カシコマリマシタ‼︎」



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54話 二人のヒロイン〜グラーフのデート編〜(2)

トラックさんと出逢ってから、レ級は更に明るくなった

 

トラックさんは時々、自身の基地の精鋭空母の二人、蒼龍と飛龍を連れて此処に来るが、その時もレ級を同席させ、三人別け隔てなく接している

 

「オマタセシマシタ‼︎」

 

ミートパスタとビールがそれぞれに置かれ、二人は口にする

 

「美味しい…」

 

「中々イケるな」

 

ミートパスタを食べるミハイルを見て、グラーフは手を止めた

 

「ミハイル」

 

「ん⁇」

 

「このパスタも美味しいけど、ミハイルの為なら、もっと美味しいパスタ、グラーフ作る」

 

「嬉しいよ‼︎ありがとう‼︎」

 

緊張が完全に取れていなかったミハイルの顔に、自然な笑顔が現れた

 

グラーフはミハイルの食べる姿を見るだけで幸せな気分になる

 

それは基地にいる時だってそう

 

子供達が食べる姿を見るのが、グラーフの生き甲斐だ

 

「ごちそうさま」

 

そして、本人もよく食べる

 

しかし、グラーフはあまり太らない

 

恐らく、全部胸に行っている

 

…ここで気付いて欲しい

 

愉快な三人の若い勇士達を

 

スティングレイ

 

アレン

 

そしてミハイル

 

全員、巨乳好きである

 

類は類を呼ぶとは、この事だろうか…

 

「また付き合ってくれる⁇」

 

「うん。次は本土に行こう⁇」

 

「うん‼︎」

 

個室を出ると、両手で頬杖をついたル級が、カウンター越しにニヤついていた

 

「ウマクイッタ⁇」

 

「うん。ホントにありがとう」

 

「オレイハ、コンドキタトキ、レンアイバナシヲキカセテ⁇ココノミンナ、レンアイバナシガダイスキ‼︎」

 

「分かった。楽しみにしてて⁇」

 

ル級は笑顔で手をヒラヒラし、二人を見送る

 

「Uを迎えに行くから、基地に寄るよ」

 

「うん」

 

先にミハイルがスカイラグーンから出た

 

その後すぐ、グラーフも飛び立つ

 

 

 

ミハイルより先に基地に着いたグラーフは、Uちゃんを呼んできた

 

「ごめんね、Uちゃん。寂しかった⁇」

 

「ううん、みんないるから、U、寂しくなかった」

 

「もう来るからね」

 

そう言っている間に、ミハイルが来た

 

「ごめんよU‼︎さ、帰ろっか‼︎」

 

「うん。みんな、今日はありがとう」

 

「ゆーちゃん、またあそぼうね⁇」

 

たいほうが手を振ると、照れてはいるが、嬉しそうにUちゃんは微笑んだ

 

「うん、ばいばい、たいほうちゃん」

 

船着場までグラーフが見送る

 

その様子を、レイと隊長が執務室から見ていた

 

「甘酸っぱいねぇ〜‼︎」

 

「恋愛っていいなぁ‼︎」

 

やはりこの二人、ガキである

 

そうなるのも、グラーフとミハイルが顔を赤くして会話しているのを見ているからである

 

ミハイルが基地を後にすると、二人は瞬時にチェスに戻る

 

「ただいま」

 

「おかえり。どうだった⁉︎」

 

顔を見れば分かるが、ここで敢えて聞くのがこの二人だ

 

「今度、本土に行く約束した」

 

「ミハイルが落ちたか…」

 

「グラーフは魅力的だからな」

 

「レイ、隊長」

 

「ん⁇」

 

「ん⁇」

 

「チェス、ホントにしてた⁇」

 

よく見れば、チェスの盤面はメチャクチャ

 

二人の額に冷や汗が流れ、手が止まる

 

「し…してましたよ、グラーフさん」

 

「レイが勝ってるんだ…な⁇」

 

「お、おぅ…」

 

「見てた⁇」

 

「み、見てないさ‼︎ホントだって‼︎」

 

「正直に言わないと、晩御飯抜…」

 

「「見た‼︎」」

 

晩御飯を抜かれてはマズいとの意見が、二人で合致した

 

「見たんなら…応援してね⁇」

 

そう言い残し、照れくさそうにグラーフは執務室を出た

 

「邪魔する訳ね〜だろ」

 

「二人共ケッコンしてるしな」

 

チェスを諦めた二人は、タバコに火を点け、しばらくくつろいでいた

 

 

 

 

 

 

「U。基地はどうだった⁇楽しかったか⁇」

 

「うん。コレ貰ったよ」

 

Uちゃんはジュラルミンケースから、小さな箱を取り出した

 

「0.03…うすうす…」

 

「赤ちゃんの作り方のお勉強したの。コレ、好きな人と使うって、みんなでお勉強したよ…」

 

「…大切に取っておきなさい。とても大事な事を習ったんだ」

 

「うん」

 

ミハイルは内心助かっていた

 

実はUちゃんも、きそと同じ質問をミハイルにした事があった

 

その時、ミハイルは焦ってしまい、うやむやにしてしまった

 

鹿島がした授業は、意外な場所で感謝されていた



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みほの高校生日記

単発の番外編のドキュメンタリー風になります

みほに一日密着するよ‼︎


彼女の名前は、みほ

 

元艦娘の女の子だ

 

今は艦娘を辞め、青春を取り戻す為、高校に通っている

 

今日はそんな彼女に一日密着してみよう

 

「行ってらっしゃ〜い‼︎」

 

「いってきま〜す‼︎」

 

彼女の一日は、幼稚園や小学生の通学路の横断歩道の旗上げから始まる

 

元々面倒見が良く、子供好きの彼女は、進んでコレをしている

 

「みほちゃんおはよう‼︎」

 

「あら、おはよう‼︎」

 

彼女は年頃の小学生男子に人気が高い

 

だが、小学生にしてはチョット濃い気もする

 

旗上げが終わると、彼女は学校に向かう

 

高校の名前は、プライバシー保護の為伏せておくが、女子が多めの私立高校である

 

「み〜ほ〜‼︎」

 

「あら”まり”。おはよう‼︎」

 

みほの横に、髪の長い女子が着いた

 

「おはよう‼︎今日も朝から子供にモテモテじゃん⁇」

 

「またからかって…行くわよ‼︎」

 

「チョット待ってよ〜‼︎」

 

”まり”と呼ばれた女子は、何処と無くギャルっぽいが、彼女もまた元艦娘である

 

教室に入ると、みほはもう一人加えた輪で話し始めた

 

「ごきげんよう、お二方」

 

先程の二人に、お嬢様の様な出で立ちで、行儀の良い女子が加わる

 

「おはよう”りさ”。バイトはどう⁇」

 

「素晴らしいですわ‼︎家事を一から学べますもの‼︎」

 

この”りさ”と呼ばれる女子、最近家政婦のアルバイトを始めたらしい

 

彼女もまた、元艦娘であるが、今はお金持ちの所の養女になり、少しだけでも家にお返しをしている

 

「はいは〜い‼︎授業を始めますよ‼︎」

 

「ウゲッ‼︎朝から数学じゃ〜ん…テンション下がるわ〜…」

 

「…分かるわ」

 

「このく…りさ‼︎数字だけは得意でしてよ⁉︎」

 

「自慢になってないし〜‼︎」

 

ブツブツ言いつつも、三人は席に着く

 

数学の授業が終わり、次は体育の授業だ

 

三人共発育が良い為、色んな所が目立つ

 

しかも、この学校の女子の指定の体育の服装はブルマだ

 

「スースーしますわ…」

 

「うわっ‼︎みほパツパツじゃん‼︎」

 

「また胸が苦しくなって来たの」

 

「いいじゃん‼︎巨乳はモテるぞ〜‼︎それっ‼︎」

 

「ひゃっ‼︎チョットまり‼︎」

 

イタズラにみほの胸を、背後から持ち上げるまり

 

「破廉恥ですわ‼︎行きますわよ‼︎もぅ…」

 

 

 

 

体育館で、バレーボールが行なわれる

 

「とぉぉぉぉう‼︎」

 

「うりゃあ‼︎」

 

まりとりさ、流石は元艦娘

 

瞬発力が良い

 

二人に圧倒され、みほは手も足も出なかった

 

「流石は二人ね。全然追い付けないわ」

 

「にひひ‼︎ブイっ‼︎」

 

勝ち誇った顔で、まりがVサインを作る

 

「男子〜‼︎負けたんだから片付け頼んだよ〜‼︎」

 

実は男子から人気が高いまり

 

大体は一喝して、彼等を纏めている

 

 

二時間に及ぶ体育が終わり、お昼の時間になった

 

「いただきま〜す‼︎」

 

「いただきます」

 

「いただきますわ」

 

昼食でも、一人だけテンションが高いまりを、二人は軽々といなす

 

みほのお弁当は、野菜や肉がバランス良く入っている

 

りさはパンを三つ

 

まりはおにぎり五つだ

 

「あ、次は調理実習か…」

 

「どうする⁇ナニする⁇」

 

「マフィンでも作りませんか⁇手軽ですし、沢山出来ますわよ⁇」

 

「いいわね。そうしましょう‼︎」

 

昼食を済ませ、三人は調理室に入る

 

チラチラ男子が見ているが、三人はそんな彼等に味見をさせる

 

「食べてみてよ、ほら‼︎」

 

まりは出来立てのマフィンをフーフーし、小さく千切って男子達の口に入れた

 

男子にとっては、夢の様な行為だ

 

「美味しい⁇」

 

「美味しいです‼︎」

 

「あら、まりだけではなくってよ⁇」

 

続いてりさも行う

 

りさのマフィンには、チョコチップが入っている

 

「お味は宜しくて⁇」

 

「は、はい‼︎」

 

「じゃあ私も。アーンして、アーン⁇」

 

みほの作ったマフィンは、抹茶味

 

「ふふふ。美味しい⁇」

 

「あ…」

 

男子にとって、みほの色気は強すぎた

 

鼻血を垂らしている男子もいる

 

「さぁ‼︎後片付けだ‼︎」

 

まりがパンと手を鳴らすと、男子達が”俺がやる‼︎俺がやる‼︎”と押し掛け、三人は任せる事にした

 

授業も終わり、三人揃って途中まで下校

 

「では、わたくしはここで」

 

「じゃ〜ね〜‼︎また明日〜‼︎」

 

「気を付けて帰るのよ‼︎」

 

りさが輪から抜け、二人が残る

 

「今度さ、三人でサーバント行かない⁉︎新作出たんだって‼︎」

 

サーバント…

 

この街の商店街にある、洋菓子店の名前である

 

「良いわね‼︎シュークリームも食べようかしら⁉︎」

 

「よ〜し、決定‼︎じゃ、私はここでオサラバだ‼︎じゃ〜ね〜‼︎」

 

まりはまりで、本屋でアルバイトしているみたいだ

 

そんな二人を見送った後、みほは再び横断歩道の旗上げをする

 

ある程度の子供の流れが終わった後、みほは保育園に入り、エプロンを着けた

 

みほはここで、夕方から夜までアルバイトをしている

 

「みほちゃんだ〜‼︎」

 

「あらあら。良い子にしてた⁇」

 

ここでも彼女の人気は高い

 

夕方過ぎまで預かる子供達の面倒を見ながら夕飯を食べたり、一緒にお遊戯をする

 

「みほちゃんかんむす⁉︎」

 

「そうよ〜。昔は強かったのよ⁇」

 

「かんむすみんなつよい⁉︎」

 

「強いわよ〜。敵さんなんか、一撃でやっつけるのよ⁇」

 

「すご〜い…」

 

みほの話を興味津々で聞く子供達

 

最後の一人のお迎えが来るまで、みほは変わらず相手をした

 

この保育園の人達は、みほが来てから随分仕事が楽になったらしい

 

「お疲れ様で〜す‼︎」

 

保育園を出て、ようやく家に帰る

 

既に暗くなった家路を、みほはイヤホンをしながら歩く

 

家に入り、制服を脱ぎ、お風呂に入る

 

夕飯は食べているので、お風呂から上がれば、後はテレビを見る位だ

 

二時間程テレビを見た後、みほはリモコンでテレビを消し、寝室に入った

 

 

 

 

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

「…ねぇ」

 

「…」

 

「寝顔まで撮るの⁇」

 

「ドキュメンタリーだからな。何なら、布団の中のアングルも…」

 

その瞬間、カメラマンにみほのパンチが飛んだ‼︎

 

「いでぁ‼︎冗談に決まってんだろ‼︎」

 

「ドキュメンタリーはおしまい‼︎はい、出てって‼︎」

 

無理矢理叩き出されたカメラマン

 

「ったく…ま、ありがとな。これを編集して、引退した艦娘達に見せるよ」

 

カメラマンがそう言うと、みほの部屋が少し開いた

 

「…ちゃんと使ってよ⁇まりとかりさも映ってるんだから…」

 

「心配すんな。やましい事はしないよ」

 

「…ホント、あの人ソックリね」

 

「隊長も俺みたいな感じだったのか⁇」

 

「まぁね。じゃ、おやすみ。ソファで寝て、明日の朝帰りなさい」

 

「そうするよ」

 

カメラマンのレイは、ソファで横になり、次の日の朝、街を後にした

 

 

 

 

 

 

とある基地でも、このドキュメンタリーを見せている提督がいた

 

だが、見ているのは引退する艦娘ではない

 

「いい⁉︎言う事聞かなきゃ、学校に行かせるよ⁉︎」

 

「それはいかんダズルな」

 

「じゃあ、もうちょっと言う事聞いて。分かった⁉︎」

 

「学校は嫌ダズル‼︎提督の言う事聞くのも嫌ダズル‼︎榛名はしばられるのが嫌ダズル‼︎」

 

「学校行く⁇」

 

「榛名を入学させたら、全校生徒全滅ダズルな。ふふふ」

 

「くっ…」

 

こうして、みほのドキュメンタリーは幕を閉じる

 

後日話を聞くと、引退した艦娘達には好評だったらしい

 

…躾には向かなかったがな



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ハンマー榛名、遠征に行く

今回も単発短編です

ハンマー榛名が遠征に行くよ‼︎


「よし。行って来るダズル。いい子にしてるダズルよ⁇」

 

「こっちのセリフだ‼︎」

 

この日、榛名は遠征に向かった

 

燃料を貰って来る遠征らしいけど、榛名一隻で大丈夫だろうか…

 

 

 

 

 

「貴様は何ダズル」

 

「奇天烈な女がいるぞ‼︎撃て‼︎」

 

榛名は道中、海賊船に囲まれた

 

「RPG-7か。そんなもん、榛名にはきかんダズル。ほれ、もっと撃つダズル」

 

「何なのだあいつは‼︎」

 

「ほれ。榛名はここダズル。それで当てれなかったら、一隻頂くダズル」

 

「う、撃て‼︎」

 

三隻いる内の一隻から、RPG-7が飛んで来た

 

榛名はそれを簡単に弾いた

 

「残念ダズルな。オラ‼︎」

 

手近にいた一隻の船尾をハンマーの一撃で砕き、沈没まで追い込む

 

「ば、化け物だ‼︎面舵一杯‼︎」

 

「海賊船も中々味があるダズルな」

 

「うわぁぁぁあ‼︎いつの間に⁉︎」

 

「どうしたダズル。ほら、榛名はここにいるダズル。チャンスダズルよ⁇」

 

「参りました‼︎」

 

榛名の前に、海賊達が土下座をする

 

「許してやるダズル。まずは救助ダズル。いいな⁇」

 

「野郎共‼︎救助艇を出せ‼︎」

 

10分程で、沈没船にいた海賊の救助は終わった

 

「死人が出なかっただけ感謝するダズル。ほら、舵を持つダズル」

 

「は、はい‼︎船長‼︎」

 

榛名は舵の前に備えられた椅子に踏ん反り返り”元”船長に舵をとらせた

 

「船長」

 

「喋らないで舵をとるダズル‼︎」

 

「はい‼︎」

 

「…まぁいい。聴いてやるダズル。なんだ⁇」

 

「はい…言われた場所には、燃料の備蓄は無かったハズです…」

 

「何⁇提督は榛名に嘘を吐いたダズルか⁇」

 

「行って見なければ分かりませんが…恐らくは。数日前、深海棲艦の襲撃を受け、占拠されています」

 

「何と哀れな連中ダズル…」

 

榛名がブツブツ文句を言いながらも、船は目的地に着いた

 

「焼け野原ダズル」

 

「我々はここで待ちます」

 

「逃げたら地の果てまで追いかけるダズルからな」

 

榛名が海賊船から降りると、すぐに横たわった男性が見えた

 

だが、様子が違う

 

横たわってはいるが、まだ息はある

 

榛名は彼に駆け寄り、抱き上げた

 

「何があったダズル」

 

「やられた…奥に、親玉がいる…」

 

「奥ダズルな」

 

「…」

 

榛名が返事をした時には、既に事切れていた

 

「面倒な事になったダズルな…」

 

奥に向かうと、巨大な施設がそびえ立っていた

 

「出て来い親玉‼︎榛名が相手ダズル‼︎」

 

「ワンワン‼︎」

 

榛名の声に反応したのか、門付近にいた駆逐艦が二体遅い掛かって来た

 

「うるさいダズル‼︎」

 

「ギャン‼︎」

 

「向こうに行くダズル‼︎」

 

「ギャオ‼︎」

 

二体に蹴りをかますが、変わらず敵意を向けている

 

「…駄犬にはオシオキが必要ダズルな…ふふふ」

 

「キャインキャイン‼︎」

 

ハンマーを手にした榛名の気迫に恐れたのか、二体は一瞬で逃げて行った

 

「はっ‼︎ヘボダズルな‼︎」

 

榛名は二体に対して中指を立てる

 

「さて」

 

固く閉ざされた門に対し、榛名はハンマーを振り上げた

 

「おりゃあ‼︎」

 

凄まじい破壊音と共に、門が壊れた

 

「お邪魔するダズル」

 

ハンマー片手に、奥へと進む

 

「ここは何ダズル‼︎」

 

だだっ広い場所に出たと思えば、退路が塞がれた

 

それと同時に、奥から大量の深海棲艦が出て来た

 

「姑息な手段ダズルな…」

 

榛名はハンマーを床に置き、深呼吸した後、奴等を見た

 

「纏めて掛かって来るダズル‼︎」

 

 

 

三分後…

 

「はっ‼︎骨の無い奴等ダズル‼︎」

 

およそ50体はいた深海棲艦が一瞬でフルボッコになっていた

 

「いらん事するから、バチが当たったダズル」

 

再び奥に向かうと、最奥であろう場所に着いた

 

「開けろ‼︎」

 

大声を出すが、開く気配は無い

 

「仕方無いダズル」

 

再びハンマーを振り上げ、一撃

 

「おぉ…硬いダズルな…」

 

更に一撃

 

そして三発目で扉が開いた

 

中は燃料の詰まったドラム缶や、弾薬の箱等が所狭しと並べられていた

 

「貴様が親玉ダズルな‼︎」

 

「ノックモナシカ」

 

「三発もしたダズル。あの音で聞こえんとか、お前の耳はツンボダズルな」

 

「キサマ…‼︎」

 

「貴様じゃない‼︎榛名ダズル‼︎」

 

「ナンデモイイ。モウカエレヨォ‼︎」

 

「有り金全部寄越したら、素直に帰ってやるダズル」

 

「キサマ…イイカゲ」

 

親玉の深海棲艦が話している最中に、榛名のハンマーが眉間に飛んで来た

 

集積地棲姫、一撃轟沈である

 

「話が長いダズル‼︎」

 

 

 

 

 

 

「船長」

 

「何だ」

 

「彼女は、戻って来るでしょうか⁇」

 

「まぁ…待ってやろうじゃないか」

 

「逃げるチャンスですぜ⁉︎」

 

「馬鹿野郎‼︎地の果てまで追いかけるって言われただろ‼︎彼女は本当にやりかねんぞ‼︎」

 

《おい》

 

無線から聞こえて来たのは、榛名の声だ

 

「大丈夫か⁉︎中はどうだ⁇」

 

《占領したダズルよ。軍に連絡して欲しいダズル》

 

「よし、分かった‼︎帰って来い‼︎」

 

《馬鹿言うなダズル‼︎ここの資源、全部頂くダズル‼︎》

 

「野郎共‼︎船長の応援に向かうぞ‼︎」

 

「応‼︎」

 

榛名の応援に向かう準備をしていた最中、何隻かの艦船が見えた

 

「最寄りの艦隊だな。よし、早く彼女を回収するぞ‼︎」

 

基地に海賊達が入ると、榛名は台車に資源を満パンに乗せていた

 

「とりあえずこれだけでも行くダズル‼︎」

 

「待て‼︎」

 

ようやく海軍が応援に来た

 

「遅いダズル‼︎もう片付けたダズル‼︎」

 

「榛名…なのか⁇」

 

「金剛型の榛名ダズル。何だ。お淑やかな榛名を想像したダズルか⁇残念ダズルな‼︎ハッハッハ‼︎じゃあな」

 

「…」

 

そこにいた海軍全員がキョトンとする

 

奪還したのは勲章ものだが、後の行動が、深海棲艦とやっている事が一緒である

 

「…まぁ、基地は奪還出来たし」

 

「再建も可能…か⁇」

 

破壊された門やシャッターを見て、海軍達は冷や汗を流す

 

「おい‼︎手すきなら手伝うダズル‼︎突っ立ってるなら、貴様等にも一発お見舞いするダズル‼︎いいな」

 

「は、はい‼︎了解しました‼︎」

 

海軍達をも巻き込み、海賊船に資源を積み込む

 

「よ〜し、満杯ダズルな。帰るぞ」

 

「アイアイサー‼︎」

 

「おい、そこの海軍‼︎」

 

「はっ」

 

「…そこに倒れてる兵士、手厚く葬ってやるダズルよ⁇貴様等が不甲斐ないから、こうなったダズル。いいな」

 

「はっ‼︎仰せのままに‼︎」

 

榛名を乗せ…榛名の船は、単冠湾へと戻って行った

 

 

 

 

 

 

 

「提督‼︎海賊船が近寄って来てるマイク‼︎」

 

「か、海賊船⁉︎」

 

ワンコが外を見ると、海賊船が二隻、単冠湾に着けていた

 

「野郎共‼︎荷下ろしの時間ダズル‼︎手っ取り早く行くダズル‼︎いいな‼︎」

 

「アイアイサー‼︎」

 

「おい船長」

 

「はっ‼︎」

 

榛名は船長の肩を掴み、耳打ちをした

 

「船長が榛名を助けた事にするダズル。そしたら、提督は謝礼と仕事をくれるダズル。だから、船長達はこれから真っ当な生き方するダズル。いいな」

 

「は…はい‼︎」

 

「今戻ったダズル‼︎」

 

紆余曲折があったが、榛名は途中、海賊船に助けられ、基地から資源を”貰って来た”と説明した

 

「ありがとうございました‼︎」

 

「あ、いえいえ…」

 

「あの…良ければここで一緒に働きませんか⁉︎」

 

「良いんですか⁇」

 

「えぇ‼︎近海の護衛をお願いしたいんです‼︎謝礼も勿論‼︎」

 

「野郎共‼︎いいな‼︎」

 

海賊達から大歓声が起きる

 

海軍に付いていれば、安泰である

 

「海賊達は榛名が仕切るダズル。いいな」

 

「任せたよ、榛名」

 

「お…おぅ…任せるダズル」

 

こうして、榛名の遠征は大成功⁇で終わった

 

 

 

 

 

後日、海軍から二つの通達が来た

 

・貴官が所有する戦艦”榛名”の行動に対し、勲章を授与する

 

・”元”海賊を特別に正規雇用。イージス艦及び補給艦を貸与する




海賊(船長)…元海軍のお偉いさん

深海棲艦が進行して来た際、部下と共に置き去りにされ、深海棲艦と人間に恨みを持つ

だが、根は良い人で、部下からの信頼は大変厚い

榛名の恐怖政治の被害を受けていたが、後に榛名の優しさに触れ、どうせ一度死んだ身だと、単冠湾に着く

現在はイージス艦の艦長を務め、単冠湾近海の警備と補給を行っている




海賊(部下)…船長の愉快な仲間達

船長と共に行動する、沢山の部下達

個性的な連中が多いが、皆決まって明るく朗らか

置き去りにされた後、軍港でボロい船を奪取してから、みんなで海賊を始める

現在も船長と行動を共にしている


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パパの夢

単発短編三回目

今回のお話は、子供達が見ていたDVDからお話が始まります

すぐに何の映画か分かると思いますっ‼︎

そして、パパのモデルがようやく分かります


基地に雨が降る

 

パパもレイも、今日はお休み

 

食堂でビールを飲みながら、チェスをしている

 

今日は珍しく子供達が静かだ

 

その理由は、武蔵がかけたビデオのおかげだ

 

「きょーりゅー」

 

「そうだ。あれは”ラプトル”だ」

 

博士と女の人が恐竜のいる施設を探検する映画だ

 

「あのひと、パパににてるね‼︎」

 

たいほうが言っているのは、主人公の博士の事だ

 

「…確かに似てるな」

 

武蔵まで言い出した

 

「…そんなに似てるか⁇」

 

「うん」

 

「お前まで言うか⁉︎」

 

「今まで黙ってたけど、マジで似てる。特に性格」

 

この博士、最初は子供嫌いだが、後半になるに連れ、子供に好かれて行き、最後は子供好きと見られる一面を見せる

 

隊長は元々子供好きだが、ここに来てから更に拍車がかかった気がする

 

「…」

 

ローマが隊長をジーッと見ている

 

「兄さん、戦争が無かったら考古学者になりたかったんでしょ⁇」

 

「まぁな」

 

「俺で言う保育士みたいなものか⁇」

 

「そんな所だ」

 

「おわった‼︎おもしろかった‼︎」

 

大体こういうのを見た後、たいほうが言うのは一つ

 

「くわがたはらぷとるにはかてないね」

 

「そうだな。クワガタはパクッと食べらるぞ⁇」

 

「らぷとるそんなにつよい⁇」

 

「ラプトルはな、レイみたいな奴だ。頭が賢くて、常に最良の行動をするんだ」

 

隊長がそう言った瞬間、レイがチェスの駒を動かした

 

「チェックメイトっと‼︎」

 

「な⁇」

 

「すてぃんぐれいはらぷとる⁇」

 

「そうだぞ〜‼︎うりゃっ‼︎」

 

「きゃ〜‼︎」

 

レイはたいほうを抱き上げ、窓際に立った

 

「ホント、顔に似合わない性格ね」

 

「自分の事言ってんのか⁇」

 

「褒めたつもりなんだけど⁇」

 

「ありがたく受け取っておくよ」

 

チェスを片付け、執務室に戻る

 

たいほうがあんな事を言うから、チョット図鑑を見たくなった

 

棚から図鑑を出し、再び食堂に戻り、椅子に座って読む事にした

 

少し色褪せてはいるが、まだまだ読める

 

そして、自分が一番好きなページを開ける

 

「パパ‼︎すてぃんぐれいがおもちゃくれた‼︎」

 

たいほうの腕には、恐竜のオモチャが抱えられていた

 

たいほうは床に座って、それで遊び始める

 

「がうがう‼︎」

 

たいほうの手元で戦っているのは、大人しい草食恐竜の二匹

 

「たいほう。その二匹は戦わないぞ⁇戦うのはコッチだ」

 

私はオモチャの山から、肉食恐竜のオモチャを二匹取り出した

 

レイとローマがニヤついているが、ここは無視しよう

 

「なんで⁉︎つのすごいよ⁉︎」

 

たいほうの手に握られているのは、トリケラトプスだ

 

「それは子供を守る為に付いてるんだ」

 

「パパみたいなきょーりゅー⁇」

 

「そうだ。トリケラトプスは、怒らせたら怖いんだぞ⁇」

 

「パパはとりけらとぷすで…むさしはこれだね‼︎」

 

取り出したのは、ティラノサウルスのオモチャ

 

合っているだけに、反論が出来ない

 

「これはなんてなまえ⁇」

 

「ティラノサウルスだ。大きくて、とっても強いんだ‼︎」

 

「むさしもおっきくてつよいね‼︎」

 

「武蔵はティラノサウルスだな」

 

その後しばらく、アレはコレの問答が続いた

 

「たいほうはどれが好きだ⁇」

 

「たいほうこれすき」

 

取り出したのは、プテラノドンのオモチャだ

 

たいほうからそれを受け取り、手元でひっくり返したりする

 

「きょーりゅーなのにとりさん」

 

「プテラノドンは翼竜だ。空から獲物を取るんだ。こんな風に…パクッと‼︎」

 

たいほうの頭にプテラノドンのオモチャを乗せる

 

「つよそう‼︎パパぷてらのどんにかてる⁉︎」

 

「む…無理かな⁇プテラノドンは速いしな…」

 

「ぷてらのどん、みさいるうつ⁉︎」

 

「ミサイルは撃たないな⁉︎ほら、みんなと遊んでおいで」

 

「うん‼︎」

 

たいほうは他の子供達の所にオモチャを持って行き、楽しそうに遊び始めた

 

「隊長…」

 

「ん⁇」

 

「教え方が完全に映画の博士だ」

 

レイは必死に笑いを堪えている

 

「そこまで言うなら、横須賀に頼んで、シリーズ持って来て貰う。えと…3までだったか⁇」

 

「いや、去年4が封切りになった」

 

「よし」

 

そのまま横須賀に電話を繋げる

 

《はい、大佐。どうされましたか⁇》

 

「この前くれた恐竜のDVD、あれ、シリーズ全部寄越してくれないか⁇」

 

《畏まりました。久し振りに見て興奮しましたか⁇》

 

「いや…主人公の博士が俺ソックリだってみんな言ってな。確認の為に見ようかと」

 

そう言うと、電話の向こうで横須賀がクスクス笑い始めた

 

「お前まで思ってたのか‼︎」

 

《失礼しました‼︎確かに似てます。ハハハ‼︎》

 

「全く…頼んだぞ‼︎」

 

怒ってはいないが、取り敢えず電話を切った

 

「横須賀も一緒の事言ってたろ⁇」

 

「まぁな…とにかく、全部見てから判断する‼︎」

 

 

 

 

数時間後…

 

「大佐。言われた品です」

 

横須賀から、DVD三枚を貰う

 

「もう入手したのか⁉︎」

 

「えぇ。基地にありましたからね」

 

急いで執務室に入り、鍵を閉めてDVDをつけた

 

 

 

 

 

 

結局、一晩テレビの前で体育座りをしながら見てしまった…

 

3にその博士はもう一度出て来た

 

…確かに、少し自分に似ていた

 



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榛名のサブウェポン造り‼︎

おそらく最後の単発短編

次から本編に戻ります

今回のお話では、榛名が新しい武器に目覚めます‼︎


単冠湾の工廠

 

榛名が一枚の設計図を妖精に渡した

 

「注文通り造るダズル。いいな」

 

”で…出来まへん…”

 

「やりもしないのに出来まへんとか言うなダズル‼︎いいか⁉︎ハンマーで叩き潰されるか、注文通り造るかの二択しか無いダズル‼︎いいな⁉︎」

 

榛名はハンマーを床に叩き付け、妖精達を脅す

 

”ひぃ‼︎て、てやんでぃ‼︎やるだけやってやるぜ‼︎”

 

「チョットでも不良が見付かっても叩き潰すダズル。いいな」

 

”畏まりました‼︎”

 

榛名が工廠を出ると、ワンコがいた

 

「榛名‼︎」

 

「何ダズル」

 

「珍しいね。工廠に行くなんて‼︎」

 

「はっ‼︎たまには顔を見せてやっただけダズル‼︎」

 

この時、ワンコはあまり気にしなかった

 

数日後、止めておけば良かったと気付いた時には、既に遅かった…

 

 

 

 

数日後…

 

「出来たダズルか⁉︎」

 

”おう‼︎飛び切りの力作だぜ‼︎”

 

妖精達が幕を上げると、中から注文された武器⁇が出て来た

 

「おぉ…注文通りダズルな。褒めてやるダズル」

 

”使い方を説明するぜ‼︎まずはこのスイッチを入れて…”

 

妖精の一人が説明する最中、榛名はしっかりと説明通りにそれを動かした

 

謎のエンジン音が、工廠に響く

 

”こいつの”刃”は、特別に頑丈な合金を使ってる。まぁ、折れたり欠けたりはしやんで”

 

「良い仕事するダズル‼︎さぁ‼︎提督で試すダズル‼︎」

 

珍しく嬉しそうに、榛名は工廠を出ようとした

 

”おいおいおい‼︎ハンマーでも大概シャレにならんが、そいつは更にシャレにならんで‼︎”

 

「妖精の分際で榛名に指図するダズルか…⁇」

 

ゆっくりと榛名が振り返る

 

”お、お好きにどうぞ‼︎”

 

「素直は大事ダズル。あ、そうだ。コレをやるダズル。ホレ」

 

榛名は振り袖から、謎の石を投げた

 

「深海の野郎が大切そうに持ってたから、没収したダズル」

 

”これ…ホンマにえぇんか⁇”

 

「不満ならコレを貴様で試すダズル」

 

榛名は手に持ったそれを妖精に向けた

 

”いやいや‼︎ありがたく頂戴します‼︎はい‼︎”

 

「じゃあな‼︎」

 

走り去る榛名を遠目に、妖精達の元には、謎の石が残る

 

”これ…レアメタルやんけ…えぇハンマー造ったるさかいな”

 

 

その頃、執務室では…

 

「霧島」

 

「どうしたマイク⁇」

 

「榛名、工廠で何頼んだのかな⁇」

 

「新しいハンマーマイクか⁇」

 

「提督〜‼︎」

 

バタバタと足音が聞こえ、ドアが勢い良く開く

 

そして、謎のエンジン音が聞こえる

 

「工廠で新しい武器を造ったダズル‼︎ホレ‼︎」

 

ワンコは手元の書類を落とした

 

「最近ゾンビ映画を見たダズル‼︎ハンマーのサブウェポンでコレを使うダズル‼︎」

 

先程から聞こえる謎のエンジン音の正体は、チェインソーだった

 

「提督、試し斬りさせるダズル‼︎腕の一本で良いダズル‼︎な⁉︎」

 

「やめろ、榛名‼︎正気に戻れ‼︎」

 

「榛名は正気ダズル。さ、おててを出すダズル‼︎」

 

「うわぁぁぁあ‼︎」

 

 

 

一時間後…

 

医務室には、ワンコと榛名が居た

 

「ほんっと怖かった‼︎」

 

「マジで一本持っていくとは思わなかったダズルか⁇」

 

「バケツで繋がったから良かったものを…榛名‼︎」

 

「あ⁉︎」

 

「次やったら、学校だからね⁉︎分かった⁇」

 

「もうチェインソー”は”しないダズル。充分強いと分かったダズル」

 

「なら良いけど…」

 

「…悪かったダズル。榛名は、提督の泣き顏を見るのが好きなだけダズル…」

 

「もう良いよ…次からはしないでね⁇」

 

「チェインソー”は”しないダズル」

 

この時、ちゃんと”他もダメ‼︎”と、言っておくべきだった…

 

 

数日後…

 

「提督‼︎新しいハンマーが出来たダズル‼︎試し打ちさせるダズル‼︎」

 

「もうしないって言っただろ‼︎」

 

「チェインソー”は”しないと言ったダズル。これはハンマーダズル。提督の目は節穴ダズルか⁇それともチェインソーが良いダズルか⁉︎ここにあるダズルよ⁇」

 

そう言って、榛名はチェインソーのスイッチを押し、起動させる

 

「逃げるマイク‼︎マジで死ぬマイク‼︎」

 

「後は任せた‼︎」

 

「おい‼︎待つダズル‼︎痛くないダズル‼︎」

 

 

 

単冠湾は、今日もなんやかんやで平和である‼︎

 



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55話 因縁の相手(1)

さて、54話も終わり、短編の嵐も終わりました

またその内、短編も書こうと思います

今回のお話は、横須賀で開かれた演習で、なんやかんやで解決していなかった因縁の対決が繰り広げられます


最近、やたらと演習が多い

 

それもそのはず

 

好戦派の軍人が、反対派を抑え付ける動きがやたら激しい

 

ここの所、深海側の攻撃は少し緩やかになって来た

 

スカイラグーンの影響がデカい様だ

 

まだ一件だけだが、遭難した漁船を、深海棲艦がスカイラグーンに運んだとの記録がある

 

彼等はまた自分の居場所に帰って行った様だが、これは大きな進歩だ

 

それでも、深海棲艦が敵である認識は人間からは離れない

 

好戦派、そして変わらず深海棲艦に対抗する為、自艦隊を強化する

 

その為の演習だ

 

だが、今回は各基地から珠玉の一隻のみが出場する

 

私の基地からは二隻

 

レイは”一応”提督らしき行動をしている為、毎回特別に許可される

 

私の基地からは

 

武蔵

 

そしてプリンツが出場する

 

横須賀の埠頭で、プリンツが最終整備にあたる

 

「よし、コレで大丈夫だ‼︎」

 

艤装に弾を装填し終わり、レイは眼鏡を外した

 

「絶対勝ちます‼︎」

 

「精一杯やって来い‼︎」

 

プリンツが張り切るのも無理は無い

 

今回の賞品が豪華だからだ

 

上位三基地が賞品を貰えるのだが、相変わらず数が多い

 

しかし、そこは流石の”4連撃の魔女”

 

戦艦にも引けを取らない圧倒的な高火力で、他基地をどんどん負かして行く

 

「やった‼︎レイ、勝ったよ‼︎」

 

「よし‼︎次は呉さんの所だ‼︎」

 

「相手はジュン=ヨーか…」

 

「熟練のパイロットが多い。厄介なのは間違いない」

 

「私、対空があんまり…」

 

「…よし。隼鷹戦の時だけ、主砲を一機取り除いて、代わりの対空兵装を付ける」

 

隼鷹戦まで、まだ時間がある

 

その前に、武蔵の試合がある

 

「さて、私の出番だな‼︎」

 

「待て、武蔵」

 

「どうした⁇臆したのか⁇」

 

「相手の艦を見ろ‼︎」

 

武蔵は書かれた表を見た

 

大奏警備府

 

旗艦…伊58

 

「潜水艦は無理だ」

 

「提督よ…諦めるのは終わってからだ‼︎」

 

武蔵は全ての艤装を外し、指を鳴らし始めた

 

「無理と思ったら、すぐに棄権するんだぞ⁉︎」

 

「心配するな」

 

《大奏警備府、旗艦伊58。横須賀分遣基地、旗艦武蔵。演習開始‼︎》

 

正直、武蔵に勝ち目はない

 

ましてや艤装を外している

 

ここに来て初めて、武蔵の気持ちが分からなくなった

 

試合が始まった直後、伊58の姿が海中に消えた

 

「潜水艦相手に戦艦とは…」

 

「提督は一体何を考えて…」

 

「やはり、空の連中に海は…」

 

周りが罵声で喚いている

 

何故武蔵は敢えて恥を晒す様な事をしたんだ…⁇

 

その答えはすぐに出た

 

武蔵は海上で足と腕を広げ、髪を少し逆立てて下をジッと見詰めていた

 

あの体勢自体は、攻撃を受け止める体勢だ

 

だが、髪を逆立てているという事は、電探で何かを探っているに違いない

 

そう考えていた時、開幕雷撃が武蔵に飛んで来た

 

「むっ…」

 

かすりはしたが、武蔵はまだ動けそうだ

 

だが、変わらず体勢を崩さない

 

そして、少しした後、武蔵は勢い良く海中に右腕を突き入れた

 

すると、手には伊58の頭が掴まれていた

 

会場がどよめく

 

「いだだだだ‼︎離すでち‼︎」

 

「降参か⁇」

 

「こーさんするでち‼︎いでででで‼︎」

 

伊58から白旗が上がる

 

《演習終了‼︎勝者、武蔵‼︎》

 

私は帰って来た武蔵を思い切り抱き締めた

 

「て‼︎提督よ‼︎」

 

「良くやった‼︎凄いぞ‼︎」

 

「ふっ…やりもしないで諦めるのは嫌いでな」

 

「凄いです‼︎でもどうやって⁇」

 

プリンツも驚いている

 

「たいほうがな、よく魚を獲っているだろ⁇あれを見ていたら、自分も出来る気がしてな」

 

「あれは…まぁ…」

 

たいほうの魚獲りと、潜水艦を海中から引き摺り出すのは訳が違うと言おうと思ったが、出来た事に違いは無い為、言うのをやめた

 

「次はぷりんつか。張り切って行くのだぞ‼︎」

 

「うん‼︎頑張って来る‼︎」

 

「おいおいおい‼︎ワンコが相手だぞ‼︎」

 

単冠湾泊地

 

旗艦…榛名

 

「…いいかプリンツ」

 

「は、はい‼︎」

 

レイは深刻な顔でプリンツの肩を掴んだ

 

「あいつはヤバい…負けると思った瞬間、俺はすぐに止めさせる。いいな⁇」

 

「やるだけの事はやります‼︎」

 

《単冠湾泊地、旗艦榛名。横須賀分遣基地、旗艦プリンツ・オイゲン。演習開始‼︎》

 

この試合を勝った方が、武蔵と決勝戦を行う

 

武蔵はどちらとも戦いたそうだ

 

「貴様が4連撃の魔女ダズルな‼︎」

 

榛名はハンマーをプリンツに向けた

 

「そ、そうです‼︎負けませんよ‼︎」

 

「はっ‼︎その減らず口がいつまで続くか楽しみダズル‼︎”アホパイロット”の艦娘なんて一撃ダズル‼︎」

 

「…」



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55話 因縁の相手(2)

榛名がハンマーで殴り掛かり

 

プリンツが至近距離で主砲を連発

 

互いに直撃するが、あまりダメージが無い

 

「くそ〜‼︎いつものハンマーより威力が無いダズル‼︎」

 

榛名は海上で地団駄を踏んでいた

 

互いに威力を落とした武装では、中々決着が付かない

 

榛名が駄々をこねている隙に、プリンツが脇腹に連撃を当てる

 

「いだっ‼︎何をするダズル‼︎」

 

「駄々こねてるなら攻撃すれば⁇随分弱っちいのね、ハルナ=サン」

 

「げっ…」

 

レイはプリンツの目が変わっているのに気が付いた

 

まるで、一昔前の性格の悪い時の顔だ

 

あの顔を見せると言う事は、恐らくブチ切れている

 

「な、何だダズルか‼︎人を侮辱するダズルか⁉︎」

 

「侮辱⁇先に侮辱したのはそっちでしょ⁇ホラホラ‼︎」

 

喋りながらでも、プリンツは主砲を撃ち続ける

 

「口動かす前に手を動かす‼︎」

 

「ぐわっ‼︎」

 

艦娘最強と謳われたハンマー榛名が押されている

 

体勢を崩した榛名に、プリンツは一気に距離を詰めた

 

「どうしたの⁇減らず口をへし折るんじゃないの⁇」

 

「ぐっ…」

 

「貴女の負けよ」

 

「これでも食らうダズル‼︎」

 

榛名はチェインソーをプリンツに突き出した‼︎

 

しかし、プリンツは両手でソレを止めた

 

「ぐっ…」

 

「形勢逆転ダズル‼︎所詮は重巡洋艦ダズルな‼︎はははははは‼︎」

 

ジリジリとチェインソーを近付ける榛名

 

プリンツは焦った顔をしていたが、突然微笑んだ

 

そして、榛名の顔面に主砲が命中した

 

「ぐぁ‼︎負けた…ダズル…ぐは」

 

榛名は海上に倒れた

 

《演習終了‼︎勝者、プリンツ・オイゲン‼︎》

 

「やったぁ‼︎勝った‼︎勝ったよレイ‼︎」

 

レイは言葉にならなかった

 

あの榛名を打ち負かしたのだ

 

「負けました…流石はスティングレイさんです」

 

「威力抑えてたとはいえ、流石は榛名だな。近接であそこまで追い込まれるとは…」

 

「決勝は武蔵さんですか。気を付けて下さいね」

 

「心配すんな」

 

いつも通りワンコの頭を撫で、プリンツのチェックに入る

 

「武蔵は万能だ。遠近両方イケる口だ」

 

「もう一度、連撃をします‼︎」

 

「近接に回られたら勝ち目は無い。武蔵は艤装を崩すのに長けている」

 

艤装を壊すとはいえ、演習が終われば妖精達がたちまち直してしまう

 

「ここまで来たら本気で楽しんで来い‼︎いいな⁉︎」

 

「はいっ‼︎行って来ます‼︎」

 

プリンツは威勢良く海に出た

 

既に武蔵が海上で待機している

 

「来たな、ぷりんつよ」

 

「手加減はしませんよ⁉︎」

 

「あの時の決着を付けようか」

 

「えぇ‼︎」

 

武蔵が初めてプリンツと演習をした時、プリンツは再開発されたばかりの慣れていない艤装を使っていた

 

今は違う

 

万全の艤装と、万全のメンテナンスがあり、使い慣れた艤装だ

 

プリンツにも充分勝ち目はある

 

《武蔵対プリンツ・オイゲン‼︎演習開始‼︎》



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55話 因縁の相手(3)

「行くぞ‼︎」

 

大火力の武蔵の主砲が先制

 

「うわうわうわぁ‼︎」

 

至近弾を初撃で叩き込むのは、相当な熟練がいる

 

プリンツは持ち前の回避力で、何とか小破未満で済んだが、これ以上続くとマズイ

 

「行きます‼︎ファイヤァ‼︎」

 

流石に武蔵の主砲の威力には及ばないが、4連撃ともなると、それに匹敵する威力を見せる

 

「ぐっ…やるな‼︎」

 

互いに小破未満で済んだ

 

「武蔵…やっぱり、武蔵とは撃ち合いはヤダよ」

 

「そうだなぁ…どうやら、主砲の威力は互角の様だ」

 

互いに艤装を捨て、腕と首を鳴らす

 

海に落ちた艤装は、妖精達が回収している

 

「行くよ‼︎」

 

「来い‼︎」

 

海の上で、壮絶な殴り合いが始まった

 

 

 

「あ〜ぁ、やっちゃってるねぇ」

 

双眼鏡で二人の様子を見ていたレイは、私に双眼鏡を渡して来た

 

「どれ…」

 

双眼鏡を覗くと、武蔵がプリンツに右フックを当てていた

 

しかしプリンツは怯む事無く、武蔵の鳩尾に右ストレートをかます

 

「互角だな…」

 

「いや、プリンツが若干押されてる」

 

よく見ると、プリンツに若干の息切れが見えた

 

「何か分からないけど、決着付けるとか言ってるし、付き合ってやってくれないか⁇」

 

「俺は別に構わんよ。武蔵も楽しそうだしな」

 

武蔵はしっかりしたフォームでプリンツを少しずつ追い込む

 

対するプリンツは、持ち前のタフネスと、一昔前”アウトロー”や”ヤンキー”と言われた時代に培った、粘り強い格闘を見せていた

 

「やるな…ぷりんつよ‼︎」

 

「武蔵も…変わらず強いね‼︎」

 

互いに息を切らし、神経スレスレの戦いを見せていた

 

そんな時、プリンツの右フックが武蔵の頬に当たった

 

「…あっ」

 

大したダメージは無いはず

 

なのに、頬を叩かれた時、武蔵の胸が痛んだ

 

 

 

またこの感覚だ…

 

昔、同じ事をされた気が…

 

誰だ…

 

誰に…

 

「くっ‼︎」

 

痛む胸を隠し、プリンツに反撃する

 

「うわ‼︎」

 

「どうした。その程度か⁇」

 

「…まだまだ‼︎」

 

 

 

 

「武蔵がおかしい」

 

私は武蔵の異変に気付いていた

 

武蔵自体は特に異常なさそうな感じをしているが、いつもより瞬きが遅い

 

「やめさせるか⁉︎」

 

「何か…思い出してるのか⁇」

 

「…恋人、だったっけ⁇武蔵は」

 

「そうだ。今は”武蔵”として生きている」

 

「いいのか⁇このままで」

 

「むやみやたらに記憶を蘇らせるなって、横須賀に言われた。頭がイカれるらしい。だから、俺はその手解きをするだけだ」

 

「じゃ‼︎しょうがないか‼︎」

 

「演習だしな‼︎」

 

そう言って、二人は呑気に瓶のコーラを飲む

 

 

 

 

一旦プリンツから距離を取り、立ち止まる

 

流石の武蔵も、ここまで粘られるとスタミナが切れて来た

 



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55話 因縁の相手(4)

プリンツに至っては、とうの昔に切れているハズだ

 

重巡のボディで、ここまで戦艦に立ち向かった彼女を賞賛しなければならない

 

武蔵は無線をプリンツに繋いだ

 

「ぷりんつよ…よくぞここまで頑張った‼︎」

 

《武蔵は強いね…当たってる気がしないよ‼︎》

 

「次で終わりにしよう」

 

《オッケー。一撃で決める‼︎》

 

長い距離を互いに向かって、海上を滑る

 

そんな時、再び武蔵の胸が痛む

 

思い出した…‼︎

 

私が何かの手術を受ける前の日だ‼︎

 

あの日、私は男に頬を打たれた

 

その男は泣いていた

 

思い出した‼︎

 

その男の名前は…

 

 

 

 

決着が着きそうな二人を、再び双眼鏡で見る

 

「ん⁉︎」

 

ほんの一瞬、武蔵が此方を向いて、何かを呟いた

 

「なに…言って…」

 

そう思った次の瞬間、プリンツの頭突きが武蔵に当たった

 

武蔵は一瞬の隙を見逃さず、プリンツにアッパーを当てる

 

「うわぁぁあ‼︎」

 

プリンツは少し飛んだ後、海上に倒れた

 

「勝った…‼︎」

 

武蔵も海上に膝を落とす

 

《演習終了‼︎勝者、武蔵‼︎》

 

「帰ろう、ぷりんつ」

 

「うんっ‼︎」

 

武蔵の差し出した手を掴み、プリンツが起き上がり、二人で各々の場所に帰る

 

「武蔵〜‼︎」

 

提督の声で我に返る

 

「良く頑張ったな‼︎」

 

提督に頭を撫でられ、少し照れ臭くなる

 

「ぷらずまてれびは貰ったな‼︎子供達が喜ぶぞ‼︎」

 

「私達は空気清浄機だって‼︎」

 

「良かったわね、貴女達‼︎」

 

横須賀が景品を持って来た

 

「これで二人の煙草臭さから脱出よ‼︎」

 

「煙草の匂いは提督の匂いだ‼︎」

 

「レイもそうです‼︎」

 

二人にそう言われて、横須賀は何と無く”それもそうか”と思った

 

二人は子供達の前であまり煙草を吸わないし、二人に近寄ると、煙草の匂いで安心するのも確かだ

 

「じゃあ、倉庫に置いておきなさい。あそこナメクジ凄いでしょ⁇」

 

「うぬ‼︎そうさせて貰おう‼︎」

 

景品を貰い、二人は御満悦だ

 

 

 

 

帰りの船の中で、プリンツとレイは肩を寄せ合って眠っていた

 

こういう時しか、プリンツはレイに甘えられない

 

「鹿島もいいが、この二人もお似合いだな」

 

「そうだな。レイは誰が横に居ても似合う」

 

「ふふっ…」

 

「そうだ。あの時、俺になんて言ったんだ⁇」

 

私の質問に、武蔵は上を向いて悩み始めた

 

「それが…途中まで覚えていたんだが…気が抜けた瞬間に飛んでしまってな…」

 

「…そっか‼︎」

 

「すまない…だが、必ず思い出す‼︎」

 

「ゆっくりでいいんだ。ちょっとずつ、思い出せばいい」

 

「分かった…ふぁ…」

 

武蔵も疲れた様で、私の肩にもたれて眠ってしまった

 

私は武蔵の肩を抱き、基地に着くまで外を眺めていた



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56話 きそを護り隊(1)

さて、55話が終わりました

今回のお話は、きそのお話です

レイが造った、無人戦闘機”Flak 1”

それは、きそ、もといフィリップを護る為に造り上げた機体でした


「よし‼︎」

 

工廠で、小さな機体が生まれた

 

「なぁに、これ⁇」

 

きそが工廠の隅で遊んでいたので、すぐに寄って来た

 

「無人艦載機さ。まっ、まだ飛ぶかどうかも分からんがな…」

 

外見はミサイルに羽を付けた様な形をしているが、背中に機銃が付いているのが特徴だ

 

「アレンに見せてやりてぇな」

 

レイが嬉しそうに微笑む

 

レイはどうしても、アレンの夢を形にしてやりたかった

 

大型の重巡航管制機や火力、電子プラットフォームは無理だが、無人機位は何とか造れた

 

「ね‼︎飛ばしてみようよ‼︎」

 

「オーケー‼︎やってみようぜ‼︎」

 

無人機を表に出し、滑走路まで引っ張る

 

「よーし、準備完了‼︎離陸しろ、”Flak 1”‼︎」

 

レイの掛け声と共に、無人機が飛び立つ

 

「わぁ〜…」

 

「独立して動ける様に設定はしてあるが、今はリモコンで操作出来る。ホレ、やってみろ」

 

きそにリモコンを渡し、簡単に説明をする

 

「そうそう、上手いぞ‼︎」

 

”Flak 1”と名付けらた白い機体は、きその操縦で、華麗に空を舞う

 

「よし、機動力はピカイチだな‼︎次は標的を撃ってみろ」

 

「難しいよ…」

 

「このヘッドギアを付けろ」

 

きその頭にヘッドギアを被せる

 

中途半端に似合っているから困る

 

「うわ‼︎ゲーム画面みたいだ‼︎」

 

「リモコンのトリガーボタンで機銃を撃てる。やってみろ」

 

「うん‼︎」

 

カラス除け用のバルーンを上空に数個浮かべてある

 

無人機は背中の機銃で、それらを落として行く

 

「よ〜し、オーケーだ‼︎着陸だ、Flak 1‼︎」

 

Flak 1が着陸態勢に入る

 

「凄いね‼︎」

 

と、言うきそだが、俺と逆の方向を向いている

 

「ほら、こっち向け」

 

「どこ〜⁇」

 

手を前に出し、俺を探す

 

…正直、もう少し見ていたい

 

「わ‼︎」

 

お腹の部分に、きそが当たる

 

「見付けたか⁇」

 

きそは俺の腰に手を回し、匂いを嗅いだ

 

「うん‼︎レイの匂いだ‼︎」

 

ヘッドギアをしながらでも、此方を見る

 

くそ、一々可愛いな…

 

「こういう時はな…」

 

「あっ‼︎」

 

きそからヘッドギアを取り外す

 

「取り外しゃ良いんだ」

 

「はっ‼︎そっか‼︎」

 

「バカだなぁ、ったく」

 

「へへへ…この体になってから、分からない事が沢山で楽しいよ‼︎Flak 1もカッコイイしね‼︎」

 

「気に入ったか⁇」

 

「うん‼︎またやらせて⁇」

 

「分かった。工廠に戻るぞ。ちょっと手伝ってくれ」

 

「うんっ‼︎あ、はいっ‼︎リモコン‼︎」

 

「サンキュー」

 

きそからリモコンを貰い、いつも通りに手を繋いで工廠に入った

 

 

 

 

 

 

「急に静かになりましたね…」

 

はまかぜが外の沈黙に気付く

 

数分前までは、飛行機のエンジン音がしていたのに、急に静かになると不安になる

 

「休憩してるんじゃないのか⁇」

 

私はソファに横になって、雑誌を読んでいた

 

「だと良いですけど…」

 

「ま、レイはどっか行ったりしないよ。あいつはどっか行く時、必ず場所を知らせる」

 

「そうですか。ならいいです」

 

「おいで」

 

「…」

 

皿洗いを終えたはまかぜが、私の腹の上に寝転がる

 

はまかぜは相変わらずこうして、誰にもバレずに私に甘えている

 

「提督」

 

「ん⁇」

 

「私、ちょっと悩みがあります」

 

「なんだ⁇」

 

雑誌を閉じ、はまかぜに目を合わせる

 

が、はまかぜは顔を真っ赤にしている

 

「その…胸が大きくて、他人の目が…その…」

 

「なるほど」

 

現在進行形で、私の鳩尾辺りに当たっている、はまかぜの胸

 

最初の時も思ったが、身長は小学校高学年位なのに、胸は年相応以上に豊満だ

 

「このままではロリ巨乳です」

 

「巨乳は嫌か⁇」

 

「嫌です。肩は凝りますし、ちゃんと拭かないと蒸れます」

 

「俺は好きだぞ、巨乳。レイも好きだ」

 

「…そう言われると、満更でもありません」

 

「武蔵か鹿島辺りに相談しといてやろうか⁇」

 

「お願いします」

 

「まったく…お前もウブだなぁ」

 

「すみません…こればかりは、どう話していいか分からなくて」

 

「でも、ありがとうな。俺に話すのは勇気いっただろ⁇」

 

「えぇ」

 

はまかぜの頭を撫でていると、誰かの足音がした

 

「鹿島さんです。ありがとうございました」

 

はまかぜは咄嗟に起き上がり、厨房に戻った

 

「オヤツオヤツ〜っと‼︎」

 

はまかぜが厨房に戻った途端、鹿島が入って来た

 

「ちょっと失礼〜」

 

はまかぜの背後を通り、冷蔵庫の中からゼリーを取り出した

 

「はまかぜさんっ、はいっ‼︎」

 

「いつもありがとうございます」

 

はまかぜは毎日、鹿島のオヤツを一番最初に食べる

 

はまかぜの料理の腕は最高だ

 

誰が何を食べても、必ず満腹になれる

 

だが、鹿島のオヤツも中々だ

 

栄養が計算されたオヤツは、中途半端に腹が膨れ、夕飯時の絶妙なタイミングで腹が鳴る様作られている

 

味が濃い目のオヤツがあれば、薄味のオヤツもある

 

はまかぜはその日のオヤツで、夕飯のメニューを決める

 

「ごちそう様でした」

 

「美味しかったですか⁇」

 

「えぇ。少しシャーベット状になっていた部分も中々でした」

 

「では、ちょっと行って来ます」

 

「行ってらっしゃい」

 

鹿島はお盆に二つゼリーを乗せ、工廠に向かった

 

 

 

 

 

「レイ〜、きそ〜。オヤツですよ〜」

 

どうも二人は奥に居る様だ

 

衣擦れの音がする

 

「レイ〜」

 

奥に向かうと、二人の会話が聞こえて来た

 

「あっ…もっと深くだよ。そう…」

 

「こんなもんか⁇」

 

「うん、上手に入ってる…」

 

「えっ…」

 

物陰から様子を伺っていた鹿島は、口から声を出さずにいるのが精一杯だった

 

「繋ぎ目が見えるか⁇」

 

「うん。根元まで入ってるよ、ちゃんと…」

 

「ちょっと動かすぞ。イチ、ニ、サン‼︎」

 

「んっ…」

 

「えぇぇぇぇ…」

 

きその声が色っぽい

 

鹿島はレイの浮気に動揺を隠せない

 

「んっ‼︎」

 

「ふぅ…」

 

「よく頑張ったな」

 

「初めてだね…レイとこういう事するの…」

 

鹿島は堪忍袋の緒が切れた

 

「レイーーーーー‼︎何やってんですかぁぁぁぁあ‼︎」

 

「うわぁ‼︎鹿島⁉︎」



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56話 きそを護り隊(2)

「あ、あら⁇」

 

よく見ると、フィリップの下腹部に何かを取り付けているだけだった

 

「あ、あはは…勘違いでした…驚かしてすみません‼︎」

 

「ビックリした…あはは‼︎」

 

きそは驚いていたが、何処か楽しそうだ

 

「オヤツですよっ‼︎」

 

「サンキュー」

 

「いただきます‼︎」

 

鹿島の前でも、きそは変わらず俺の膝に座ってオヤツを食べる

 

鹿島はそれを許容してくれている

 

ただ、今みたいな如何わしい言動や行動を少しでもすると、鹿島は飛んでくる

 

オヤツを食べた後、今日は工廠を出た

 

きそと遊ぶ約束をしたからだ

 

ここにいれば、時間は嫌と言う程ある

 

無人機の量産だって、急いでやる必要もない

 

現在の時刻は、昼の3時を少し過ぎた所

 

日が暮れるまでなら、基地の周辺で泳げる

 

「着替えた‼︎」

 

きそはスクール水着に着替えて来た

 

胸の所に”きそ”と書かれている

 

横須賀指定のスクール水着だ

 

たいほうや子供達のスクール水着を見ているが、みんな真っ平らだ

 

だが、きそはほんのりと隆起がある

 

軽く準備運動を済ませ、きその前でも屈んだ

 

「ほら、背中に乗れ」

 

きそに背を向けると、背中に乗って来た

 

「…」

 

二つの隆起が背中に当たる

 

とても柔らかい

 

左側から、トクン、トクンと鼓動が聞こえて来る

 

生きている証拠だ

 

「よいしょ…オッケー、乗った‼︎」

 

「よし、絶対俺から離れるなよ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

いざ、海に浸かる

 

きそは必死に俺の首に回した手に力を込める

 

「大丈夫だ。ゆっくり行くからな」

 

「うん‼︎」

 

ある程度まで行くと、ギリギリ足が届かなくなった

 

「きそ、抱っこしてやる」

 

きそを胸に抱くと、変わらずに首に手を回してくる

 

「ちょっと潜ってみるか⁇」

 

「怖くない⁇」

 

「ちょっとだけだ」

 

「うんっ、分かった‼︎」

 

「じゃあ、目をつむって。俺が肩を叩いたら目を開けるんだ」

 

きそは頷き、目を閉じた

 

「息吸って…止めて‼︎」

 

きそを抱いたまま、海に潜る

 

潜ってから数秒後、きその肩を叩いた

 

きそが目を開けると、色とりどりの魚がいた

 

右手は俺の首に手を回したまま、左手で魚を取ろうとする

 

数十秒した後、海面に出た

 

「ぷは〜‼︎」

 

「ぷは〜‼︎」

 

互いに頭を震わせる

 

「綺麗なもんだろ⁉︎」

 

「うん‼︎全部がキラキラしてた‼︎」

 

「今日はこんなもんだな。また教えてやるよ」

 

「うん‼︎」

 

再びきそを背負い、基地に戻って来た

 

二人共シャワーを浴びて、きそは子供達と共に遊び、俺は執務室で隊長にあの無人機の話をしていた

 

「今は機銃しか付けてないが、自動標準機能で命中率を格段に上げてる。それに、背後にも撃てる」

 

「ついに無人機に落とされる時代が来たか…」

 

「そう悲観的にならないでくれ。Flak 1は、三人と一人の言う事しか聞かない」

 

「それは⁇」

 

「Flak 1はハッキング出来ない音声認識システムだ。隊長、俺、フィリップ、んで鹿島の言う事しか聞かない」

 

「俺が命令したら、その通りに動くのか⁇」

 

「そっ。んで、鹿島は”帰投命令”だけ出来る」

 

「試させてくれないか⁇どんな機動をするか見てみたい」

 

「分かった。明日、もう一度テストフライトをする。その時にでも」

 

 

 

 

 

次の日、朝から隊長の機体に音声認識システムを取り付けた

 

取り付けるだけなら超☆簡単‼︎だった

 

何せ、モニターにこのシステムをインストールするだけだ

 

「終わり‼︎Flak 1‼︎調子はどうだ⁉︎」

 

《良好です。マーカス様》

 

「よ〜し、隊長に代わるからちゃんと言う事きくんだぞ⁇」

 

《ウィルコ》

 

「隊長、後は任せる。ある程度の機動を確認したら、もう一度攻撃実験を行う」

 

「了解した。行くぞ、Flak 1」

 

《ウィルコ》

 

コルセアとFlak 1が飛び立つ

 

 

 

「よし、Flak 1。君の機動を見せてくれ」

 

《ウィルコ》

 

Flak 1は編隊から離れ、コルセアの周りを高速で飛び始めた

 

《隊長、Flak 1は空中で緊急停止が出来る。試してみてくれ》

 

「了解。Flak 1、緊急停止だ‼︎」

 

すると、Flak 1は空中でプカプカ浮かび始めた

 

「おぉ…凄いな‼︎どうやってしたんだ⁇」

 

《逆噴射装置とか、内部ローターとかその他諸々だ。人間がすると死ぬ‼︎やるなよ‼︎》

 

「…やらないさ‼︎」

 

正直、やってみようと思ったが死ぬと言われてはやる気を無くす

 

《…まぁいいさ。攻撃実験に移行する。バルーンを3個浮かべた。Flak 1に命令して破壊してくれ》

 

「了解した」

 

バルーンの色は、赤、青、黒の3つ

 

「Flak 1、黒、赤、青の順でバルーンを落とせ」

 

《ウィルコ》

 

Flak 1は言った通り、黒、赤、青の順でバルーンを落としていった

 

「流石だな、Flak 1‼︎」

 

《…ありがとうございます》

 

「何だ、照れてるのか⁇」

 

《…いえ‼︎そんな訳では‼︎》



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56話 きそを護り隊(3)

「よし、着陸するぞ」

 

《ウィルコ》

 

全く逆らう事なく、Flak 1と私は着陸した

 

「良い機体だ‼︎」

 

「へへへ。だろ⁉︎量産したら、アレンにやろうと思ってる」

 

「設計したのはアレンなのか⁇」

 

「そっ。俺はもっぱら潜水艦なんだ。アレンは、空中艦隊計画を立てていたんだ」

 

「その計画の一つ、だな⁇」

 

「そんな感じさ」

 

「…執務室に居るよ。何かあったら呼んでくれ」

 

「了解した‼︎」

 

 

 

執務室に入り、一度だけ体を震わせた

 

レイには隠していたが、操縦桿を握る手も震えていた

 

これは恐怖だ

 

椅子に座り、引き出しから写真を出し、落ち着く為に、煙草に火を点けた

 

「とうとう無人機に落とされる時代が来たか…なぁ、”貴子”…」

 

「パパ〜‼︎」

 

たいほうの声がした途端、何故か呼吸が落ち着き、心臓の鼓動も元に戻った

 

「どうした⁇よいしょ…」

 

たいほうを抱き上げ、窓際に立つ

 

「ごーるでんうぃーくってなに⁇」

 

「ゴールデンウィークは、みんなでお出掛けする日だ。たいほうも行きたいか⁇」

 

「うん‼︎いきたい‼︎」

 

「どこ行きたい⁇」

 

「すてぃんぐれいいってた。おおさかがいいって‼︎」

 

「大阪か…」

 

たいほうを膝に乗せて椅子に座り、机に置かれたボロいデスクトップ型のパソコンを起動し、”大阪 観光地”と調べる

 

「どうぶつえん⁇」

 

「そうか、行った事ないか」

 

とりあえず、一ヶ所目は動物園だ

 

「これなに⁇」

 

たいほうが指差したのは、大阪のシンボルタワーだ

 

「展望台さ。行ってみるか⁇」

 

「いく‼︎」

 

二ヶ所目、決定

 

後はレイにも行きたい場所を聞いてみよう

 

たいほうは動物園だけで満足そうだしな

 

「たいほう、レイを呼んできてくれないか⁇」

 

「わかった‼︎」

 

たいほうは膝から降り、執務室から出た

 

「あだっ‼︎」

 

たいほうが部屋から出た瞬間にレイの悲鳴が聞こえて来た

 

「すてぃんぐれい⁉︎ごめんなさい…」

 

「すまんな…見えなかったんだ」

 

「あ‼︎パパがよんでた‼︎」

 

「お、分かった」

 

そして、股間を抑えたレイが入って来た

 

「…大丈夫か⁉︎」

 

「いつもの事だ‼︎」

 

レイが立つと、たいほうの頭が丁度股の高さにあるので、レイはちょくちょく痛い場所にたいほうの頭突きを喰らっていた

 

「ゴールデンウィークなんだがな、数日、横須賀と呉さんがここの基地の面倒を見てくれるから、みんなで本土にでも行こうと思ってな。たいほうと決めて、場所は大阪にした」

 

「やった‼︎久し振りに新世界に行きてぇ‼︎」

 

数日後、横須賀と呉さんに基地を任せ、基地の全員で大阪に向かう事になった



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57話 ゴールデンウィーク特別企画① きその初体験(1)

さて、56話が終わりました

今回からしばらくゴールデンウィーク特別企画になります

ゴールデンウィークを過ぎてもまだやってる可能性がありますが、ご了承下さい

※全編戦いはございません。平和回です



最初の企画は、きそとレイのお話です

きそが行きたい場所とは何処なのか…‼︎

お楽しみに‼︎


「ここがオタロードって所だ‼︎」

 

「おぉぉぉお‼︎」

 

少し薄暗くなった歩行者天国を見て、きその目が輝いた

 

俺ときそはオタロードに来ていた

 

一足先に来た俺達は伊丹空港にフィリップを着陸させ、荷物をホテルに置き、大阪を散策し始めた

 

きそがどうしても行きたい場所があるらしく、それに付き合う事になった

 

それがここ日本橋、オタロード

 

マニア御用達の店が多い地区だ

 

「わぁ〜‼︎何か凄いね‼︎」

 

「ここはアニメグッズが沢山売ってる地区だ。んで、行きたい場所ってどこだ⁇」

 

「あそこ‼︎」

 

きそが指差したのは、メイド喫茶

 

「ガイドブック見たんだ‼︎安くて美味しいんだって‼︎」

 

「ん、分かった。行こう‼︎」

 

きそとはぐれない様に手を繋ぎ、中に入った

 

「おかえりなさいませ‼︎ご主人様、お嬢様‼︎」

 

「二人だ」

 

「此方の席へどうぞ〜‼︎」

 

席に座り、きそにメニューを渡す

 

「どれにしようかな〜」

 

きそは床に足が届かず、足をプラプラさせながらメニューを選ぶ

 

しかも、メニューで完璧に顔が見えない

 

「にゃんにゃんホットケーキだって‼︎」

 

「好きなの食えよ⁇」

 

タバコに火を点け、辺りを見回す

 

…色の濃いマニアが多いな

 

「ご注文はお決まりでしょうか⁇」

 

オーダーを聞きに来たメイドに注文をする為、メニューを少し降ろし、ようやくきその顔が見えた

 

「えと…にゃんにゃんホットケーキ二つと、アゲアゲサイダー下さい‼︎」

 

「アイスコーヒーもな」

 

「畏まりました〜‼︎」

 

メイドが厨房に戻ると、きそがニヤニヤしている

 

「そんな楽しいか⁇」

 

「うん‼︎レイと二人きりだもん‼︎」

 

そう言って、きそは笑った

 

鹿島、すまない

 

俺は過ちを犯してしまうかも知れない…

 

「メイドさん、語尾に”にゃん”って言わないね」

 

「普通のメイドは言わないぞ⁉︎」

 

「そっか…ざんね…」

 

「お待たせしました‼︎お先にアゲアゲサイダーと、アイスコーヒーだ”にゃん”‼︎」

 

二人の前にそれぞれの飲み物が置かれた

 

「ありがとう‼︎」

 

「彼女さんですか⁇」

 

「そう。出来たてホヤホヤだ」

 

「ふふっ、ごゆっくりどうぞ〜‼︎」

 

メイドが去った瞬間に、きそが少し乗り出して来た

 

「言ったね‼︎」

 

「言ったな…時代は”にゃん”なのか⁉︎」

 

「にゃんだよ‼︎にゃん‼︎」

 

にゃんにゃん言うきそを、チョットいじりたくなった

 

「語尾に”にゃん”付けて自己紹介してみろ」

 

「きそだにゃん‼︎サイダー美味しいにゃん‼︎」

 

鹿島…俺は悪くない

 

きそが可愛すぎるんだ…

 

「お待たせしました‼︎にゃんにゃんホットケーキですにゃん‼︎」

 

「わぁ。ネコの顔になってる‼︎」

 

ネコの形に焼かれた、分厚いホットケーキに、チョコで描かれた顔があり、周りにイチゴジャムがある

 

タバコを消し、アイスコーヒーを飲み、ホットケーキを頬張る

 

「他に行きたい場所は⁇」

 

「え〜と…アニメショップ、見てみたい‼︎」

 

「分かった」

 

さっきも言ったが、この地区はアニメショップが多い

 

流行りのアニメを知っていれば、一日いても飽きない位だ

 

「ごちそうさま‼︎」

 

「美味しかったか⁇」

 

「うん‼︎」

 

きその口元には、大量のイチゴジャムが付いている

 

それを紙ナプキンで拭いて、会計を済ませる

 

「1200円で〜す‼︎」

 

「ほい」

 

「ありがとうございました‼︎行ってらっしゃいませ、ご主人様、お嬢様‼︎」

 

「行ってきま〜す‼︎」

 

きそがメイド達に手を振ると、メイドの数人が手を振り返してくれた

 

「美味しかったね‼︎」

 

「中々だったな。メイドもレベルが高い」

 

店を出てすぐ、きそは足を止めた

 

「これ何⁇」

 

きその目線の先には、ガチャガチャの機械がある

 

出て来るのは、二足歩行の白いロボットが主流のマスコットだ

 

「やってみるか⁇」

 

「やってみる‼︎」

 

きそに100円玉を渡し、やり方を教える

 

「ここに100円玉を入れて…レバーを回す」

 

ガチャガチャと音がし、カプセルが出て来た

 

「おぉ…」

 

きそは不思議そうにカプセルの中身を見つめる

 

「これだね」

 

機械に描かれたラインナップの一つに、カプセルの中身があった

 

「色んなガチャガチャがある。探しながら歩こう」

 

「うん‼︎ガチャガチャ面白い‼︎」



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57話 ゴールデンウィーク特別企画① きその初体験(2)

投稿が遅れ、申し訳ありません



先日、作者が倒れました

本家の艦これをやっている最中、普段口煩い位話している作者ですが、急に静かになったと思ったら、倒れていました

頚椎をやられてから、度々こういった事があります



作者の意向により、友人代表が続きを貼ります

作者はベッドに居ますので、感想等は返せるかと思います

ベッドで一生懸命続きを書いていますが、少しペースが落ちるかと思います

作者はツイッターとか見て過ごしてますので、是非励ましてあげて下さい


きそと共に歩行者天国を歩くと、ゲームセンターが目に入った

 

「おっ…」

 

一つの筐体に、店員が数人張り付いている

 

「修理してるのかな⁇」

 

「いや、困ってるみたいだ。きそ、此処で待ってろ。おい‼︎手伝ってやるよ‼︎」

 

「あ、いえ。お客様にお手数おかけする訳には」

 

「良いから任せろ。ドライバーとペンチあるか⁉︎」

 

俺は仰向けになり、筐体の中に入った

 

 

 

 

数分後…

 

「よし、スイッチ入れてくれ‼︎」

 

店員は、言われた通りにスイッチを入れた

 

すると、筐体の中のアームが動き始めた

 

「おぉ〜‼︎」

 

店員達から歓声が上がる

 

「よ〜し、あらかたオッケーだな。後はあんたら次第だな。台パンする輩がいたら叩きのめせ⁇彼女はデリケートだ」

 

店員に工具を返し、その場を後にしようとした

 

「あの‼︎コレ、お礼と言っては何ですが…」

 

店員の一人が、新台に入るハズの美少女フィギュアが入ったビニール袋を渡してくれた

 

大きい箱が一つと、小さい箱が四つ程入っている

 

「…んなつもりでやったんじゃねぇよ」

 

「貰って下さい。入荷してすぐにこの調子で…我々もお手上げだったんです」

 

「あ〜…なら、この子にあげてくれ。ここに初めて来るんだ」

 

「はいっ」

 

店員は笑顔できそに袋を渡した

 

「ありがとう‼︎」

 

袋の中身を見て、きそは御満悦だ

 

「うわ‼︎やったぁ‼︎”美少女剣士”のフィギュアだ‼︎」

 

「意外だな…」

 

”美少女剣士”と呼ばれる、小さなフィギュアだが、数色いる

 

そう言えば、フィリップはモニター画面で数色の玉を合わせて消すゲームをしていた

 

美少女剣士はそのゲームのキャラクターだ

 

「机に飾ってい〜い⁇」

 

「あんまり散らかすなよ⁇」

 

「へへへ…」

 

聞いちゃいない…

 

まっ、楽しめてる証拠だから、それでいいけどな

 

「あれは何⁉︎」

 

きそが指差す方向には、緑色の看板があり、真ん中に女の子のキャラクターが描かれている

 

「あそこは入っちゃダメだ。エッチな本屋だ」

 

「レイは入らなくていいの⁇」

 

「俺は大丈夫さ。でも、下の店ならいいぞ」

 

「やったね‼︎」

 

緑色の看板の店の下には、青い看板の店があった

 

そこは全年齢向けのアニメグッズや漫画が置いてある

 

きそが入っても大丈夫だ

 

「この階なら好きに動いていいぞ」

 

「やったね‼︎」

 

きその手を離し、自由に行動させる

 

「おっ」

 

時々夜中にやってるアニメのコーナーがある

 

赤い蛇の女の子や、水色の髪の鳥の女の子がいるアニメだ

 

確か、鳥の女の子の声がプリンツに瓜二つだった気がする

 

だが、俺が好きなキャラはその子じゃない

 

「あったあった‼︎」

 

手に取ったのは、蜘蛛の女の子のキャラクターのキーホルダーだ



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57話 ゴールデンウィーク特別企画① きその初体験(3)

何⁇ゴールデンウィークが終わった⁉︎

申し訳ありません‼︎




「グヘヘ…限定の同人誌手に入れたわ…これはレア物よ…」

 

上の階から、結構濃いめの腐女子が降りて来た

 

黒髪で、巨乳で、眼鏡を掛けている

 

ん⁇どっかで見た様な…

 

「げっ‼︎」

 

此方を向いて、気不味そうな顔をした後、彼女は紙袋で顔を隠して出口に向かった

 

「待て」

 

咄嗟に彼女の手を掴んだ

 

「は、離して‼︎」

 

「何で俺の顔見て逃げた‼︎万引きしたなら今出せ。一緒に謝ってやる‼︎」

 

「離しなさいよ‼︎このマヌケ‼︎」

 

「あっ‼︎」

 

彼女が俺の腕を弾いた瞬間、紙袋の中身が飛び出た

 

「ギャ‼︎」

 

「わ〜…」

 

中から出て来たのは、それはそれは素晴らしい女の子達がイチャイチャしている表紙の同人誌だ

 

彼女はそれらを拾いながら、此方に眼光を向ける

 

腐女子の正体は横須賀だ

 

変装してまで買いに来ている

 

「あ…あんたには分からないでしょうね‼︎百合の世界は素晴らしいわよ⁉︎」

 

「まぁ…その、何だ。すまない」

 

「何であんたが此処にいんのよ‼︎」

 

「ゴールデンウィークだっ‼︎」

 

「あ、そっか」

 

「レイ‼︎決まった‼︎コレにする‼︎」

 

タイミング悪く、きそがクリアファイルを持って来た

 

えげつない位、美麗なドラゴンのクリアファイルを持って来た

 

「他にも買って良いぞ⁉︎」

 

「ホント⁉︎もうちょっと選んで来る‼︎」

 

きそを上手く引き剥がし、横須賀を立たせる

 

「私が此処に居たのは、絶対内緒よ⁉︎」

 

「心配すんな。趣味は人それぞれだからな」

 

「絶対内緒だからね⁉︎」

 

「分かった分かった‼︎早く行け‼︎」

 

横須賀の背中を押し、外に出した

 

外に出してもまだ口煩く言っている

 

「隊長にも言っちゃダメよ⁉︎」

 

「へいへい」

 

「たいほうちゃんにもよ⁉︎」

 

「へ〜へ〜」

 

「…あんたと私の、秘密だからね⁇」

 

再び紙袋で顔を隠し、顔を真っ赤にする

 

「その煩い口を閉じるにはどうすればいい⁇」

 

「…キスでもしてみたら⁇」

 

「は〜…」

 

後頭部を掻きながら、致し方無く、横須賀の唇を人差し指で抑えた

 

「なっ‼︎」

 

「一応関節キスだ。今しがた、しゃぶりまくってやったからなぁ‼︎」

 

「…」

 

横須賀は口元をプルプルさせてはいるが、そんなに怒ってはいなさそうだ

 

「…ちょっとは否定しろよ」

 

「…別にいい。じゃあね」

 

横須賀は駆け足で去って行った

 

「ったく…素直じゃねぇ女だ」

 

店に戻ると、変わらずクリアファイルを持っているきそがいた

 

「決まったか⁇」

 

「うん。コレと…コレにする‼︎」

 

持って来たのは、先程のクリアファイルと、美少女剣士のキーホルダーだ

 

「よし。コレを持って、レジに行くんだ。お勉強だぞ⁇」

 

「メイド喫茶にあったあの機械⁇」

 

「そうだ」

 

きそにお金を渡し、レジに行かせる

 

大きいお友達の中で、小さなきそが並んでいるのは中々面白い

 

「いらっしゃいませ‼︎お預かりします‼︎」

 

レジは高く、きその身長では届かない

 

たいほうが食堂の机に届かないのと同じだ

 

目より上しか見えない

 

「600円になります‼︎」

 

「1000円あるよ」

 

「じゃあ、それを貰えるかな⁇」

 

「はい‼︎」

 

「1000円お預かりします‼︎400円のお返しです‼︎」

 

きそは小銭と商品を貰い、こっちに来た



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57話 ゴールデンウィーク特別企画① きその初体験(4)

パ○ドラのキャラが出て来た⁇

そりゃあ目の錯覚ダズルな‼︎


「買って来たか⁇」

 

「うん‼︎はい、おつり‼︎」

 

レシートで包んだお金を手渡して来たが、きそにそれを持たせた

 

「それでガチャガチャしていいぞ」

 

「やった‼︎ありがとう‼︎」

 

外に出ると、出入り口付近にガチャガチャが置いてあった

 

「どれにしようかな〜」

 

「ムッキー‼︎また持ってる奴ダズル‼︎」

 

きそがガチャガチャを選んでいる横で、ヒステリックな女が地団駄を踏んでいた

 

「落ち着くマイク‼︎まだチャンスはあるマイク‼︎」

 

「さ、行こうか…」

 

きその背中を、そ〜っと押した瞬間、地団駄を踏んでいた女にバレた

 

「おい‼︎アホパイロット‼︎」

 

ワンコの所の榛名だ

 

霧島もいる

 

「ささ、ホテルでココア飲もうな‼︎」

 

「待つダズル‼︎」

 

「ぐえっ‼︎」

 

何故こうもみんな、俺の首元を掴むのか…

 

「な、何の様だ‼︎」

 

「このガチャガチャはクソダズル。何とかするダズル」

 

「お前の運が無いだけだろ‼︎」

 

「ふっざけんなダズル‼︎もういい‼︎逆らう奴は皆破壊ダズル‼︎」

 

俺をアスファルトに落とし、ポケットに仕舞ってあったハンマーを取り出し、ガチャガチャに向かって振りかざした

 

「わぁ‼︎なにコレ‼︎」

 

きそは榛名が回していたガチャガチャをしていた

 

カプセルの中身は、謎のキャラクターが入っている

 

「おぉ‼︎それダズル‼︎榛名の狙っていたのはそれダズル‼︎」

 

「ひっ…」

 

振り返ったきそはカプセルを口元で両手で持ち、カタカタ震えている

 

「ほ…欲しい⁇」

 

「欲しい欲しくないじゃないダズル。寄越すダズル‼︎」

 

「はい…」

 

きそは震えた手で榛名にカプセルを渡した

 

榛名はそれを勢い良く取り、中身を出した

 

「ナイスなガキダズル。ホレ、コレで後二回回すダズル」

 

榛名は100円玉を二枚、きそに渡した

 

「いいの⁉︎」

 

「良いと言ってるダズル。別に他の奴を回しても良いダズル」

 

「ありがとう‼︎」

 

「じゃあな」

 

きそは100円玉を取ると、再び同じガチャガチャを回した

 

「あ‼︎」

 

出て来たカプセルを取り、榛名の元に駆け寄った

 

「何ダズル」

 

「へへへ…お揃いだね‼︎」

 

きそが持っているカプセルの中には、榛名が欲しがっていた景品と同じ物が入っていた

 

「何ダズルか…この可愛い生物は…」

 

「僕はきそ‼︎」

 

「おい、アホパイロット‼︎このきそを貰うダズル‼︎榛名が育てるダズル‼︎」

 

「どぅあめどぅぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

決死の覚悟で、榛名の手からきそを取り戻した

 

「はんっ‼︎精々その子とアバンチュールするダズル‼︎鹿島にあられもない事をチクッてやるダズル‼︎」

 

「すみませんでしたっ‼︎」

 

人目もはばからず、高速で土下座をした

 

「榛名は可愛い女の子の味方ダズル。きそよ、アホパイロットにいらん事されたら、榛名に言うダズルよ⁇香取経由で鹿島に報告するダズル」

 

「分かった‼︎」

 

「アホパイロットも分かったダズルな⁉︎」

 

「あたぁ‼︎」

 

「ぐほぁ‼︎」

 

その時、霧島が吠えた

 

榛名の鳩尾に掌底を当てたのだ

 

「お世話になってる人に何て口聞くマイクか‼︎」

 

「わ…分かったダズル…すまんな、スティングレイ」

 

「もう帰るマイク‼︎お騒がせしたマイク‼︎」

 

霧島は榛名を抱え、歓楽街へと消えて行った

 

「今日はよく知り合いと会うな…」

 

「みんなおやすみなんだよ‼︎」

 

「んで…そのカプセルの中身何だ⁇」

 

「んとね…」

 

きそはカプセルを開け、ラインナップが書かれた紙を取り出す

 

「”脳筋少女”だって‼︎」

 

ボールチェーンが付けられたそのキャラクターは、非常にビミョーなキャラクターだ

 

可愛いのかカッコイイのか分からない

 

「まだするか⁇」

 

「ん〜…あ、コレだけしたい‼︎」

 

「それしたら帰ろうか。もうみんな着いてる頃だ」

 

「うん‼︎」

 

きそは最後に”魔法少女・マジカ☆ホンマカ”のガチャガチャを回した

 

剣を持った、青色の女の子が出て来た

 

「それ、何て名前だ⁇」

 

「さえかちゃん‼︎僕の剣術は、この子のマネしてるんだよ⁉︎」

 

「アニメか⁇」

 

「そう。フィリップの中で見てたの」

 

意外だった

 

きそはそこそこの剣術の持ち主だが、ルーツがアニメキャラだったとは…

 

ホテルに近付くにつれ、きその手に力が篭った

 

「また、デートしてくれる⁇」

 

「また連休の時にな」

 

「約束だからね⁇」

 

「レイ〜‼︎お疲れ様です〜‼︎」

 

ホテルの玄関で、鹿島が手を振っている

 

こうして、俺ときその短いデートは

終わった

 

 

 

…きそがアニオタだと言う事が良く分かった



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58話 ゴールデンウィーク特別企画② パパと武蔵を繋ぐ物(1)

さて、57話が終わりました

まさか、私自身が倒れるとは思いもしませんでした

ご迷惑をお掛けして、申し訳ありません

特に感想やツイッターに励ましのコメントを書いて頂いた方々、本当にありがとうございます

ゴールデンウィーク特別企画はもう少し続きます

ご了承下さい



さて、今回のお話は、パパ達一行が大阪に着き、動物園に向かいます

パパと武蔵がメインのお話で、二人の関係が少し明らかになるかも⁉︎



リクエスト頂いた二件、お気付きになるでしょうか⁇

・一人は会話の中で出て来ます

・一人は受付嬢をしています

是非、誰なのか当ててみて下さい


「おおさか」

 

武蔵の肩に乗ったたいほうが辺りを見回す

 

たいほうにとっては、異国の地

 

ビルが建ち並び、車が行き交う

 

「ぶいんぶい〜ん‼︎」

 

どうも車が気に入った様だ

 

普段、高速艇やら二式大艇には乗っているが、車の類にはあまり乗った事が無い

 

「よ〜し、みんな揃ってるか⁉︎」

 

「揃ってます‼︎」

 

鹿島がたいほう以外の子供達をまとめてくれている

 

流石は元教官だ

 

「よ〜し、出発だ‼︎」

 

阿倍野橋のホテルを出て、天王寺動物園の裏を歩く

 

都会の中心なのに、この道には草木が生い茂っている

 

「どんぐり‼︎」

 

武蔵に肩車して貰っているたいほうは、手を伸ばせば丁度どんぐりがなる木に手が届いた

 

「ぽ〜いぽいぽい‼︎」

 

「いでっ‼︎」

 

「どんぐりっ、ぽいっ‼︎」

 

「あだっ‼︎」

 

最近テレビで何かと話題の、語尾に”っぽい”が付くドーナッツアイドルの歌を口ずさみながら、ちょくちょくレイの頭にどんぐりを投げる

 

「たいほうよ。やるならバレない様にするのだ」

 

「ばれてないばれてない…ふふふ」

 

「イタズラなリスがいるみたいだな〜⁇」

 

レイはたいほうのイタズラに気付き、たいほうの方を向いた

 

「すてぃんぐれいのところにいく」

 

「よし。任せたぞ、すてぃんぐれい‼︎」

 

「よっしゃ‼︎」

 

武蔵に代わり、レイがたいほうを肩車する

 

「いたかった⁇」

 

「ごめんなさいは⁇」

 

「ごめんなさい…」

 

「よ〜し、俺は寛容だからな‼︎許してやろう‼︎」

 

「やったね‼︎」

 

レイを見ていると、本当に子供好きなんだと理解させられる

 

顔と本来の性格が全く一致しない

 

百聞は一見に如かず、か

 

 

 

「どうぶつえん」

 

第一目的地、天王寺動物園

 

これまた都会の真ん中にある

 

振り返れば新世界と呼ばれる観光地がある

 

レイがちょっと前にこの辺りに住んでいたらしい

 

「天王寺動物園へようこそ‼︎」

 

「むっ…」

 

武蔵の顔がしかめる

 

「横須賀分遣隊御一行様ですね⁇料金は横須賀様から頂いております‼︎楽しんで行って下さいね‼︎」

 

「後で礼しなきゃな…」

 

「くまみ」

 

レイの頭の上で、たいほうが受付のお姉さんの名札を読んでいた

 

「くまりんこっ♪♪」

 

「くまりんこ‼︎」

 

「提督よ」

 

たいほうが楽しそうにしている前で、武蔵は私の腕を掴んだ

 

「あの”くまりんこ”…奴は艦娘だ」

 

「マジかよ…」

 

「提督よ…」

 

武蔵はいつもの目と違う視線で、こちらをジッと見つめてくる

 

「もし、だな…たいほうはすてぃんぐれいに少し任せて、でぇと…してみないか⁇」

 

「ん、いいよ。ちょっと言って来るよ」

 

「うぬ‼︎」

 

レイの所に行き、事の事情を説明すると、レイや鹿島は賛成してくれた

 

たまには二人きりの時間も大切だ、と

 

「さ、行こうか‼︎」

 

「提督よ‼︎でぇとは手を繋ぐと聞いた‼︎」

 

「ん。分かった。ほらっ‼︎」

 

私達は、久方ぶりに手を繋いで歩き始めた



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58話 ゴールデンウィーク特別企画② パパと武蔵を繋ぐ物(2)

「これは猿の一種か⁇」

 

「そっ、チンパンジーだ」

 

ガラスの向こうで、数頭のチンパンジーがいる

 

「たいほうのオモチャの奴か⁇」

 

「そう。シンバル持ってる奴な」

 

朝方、私達があまりにも起きないと、たいほうは私達の枕元に座り、チンパンジーのオモチャの電源を入れ、頭の近くに置いて来る

 

これが中々うるさい

 

 

 

「ははは‼︎中々面白いな‼︎」

 

武蔵はチンパンジーが気に入ったみたいで、仕草を見ては笑っている

 

「猛獣見に行くか⁇」

 

「猛獣⁇」

 

「ま、行ったら分かるさ」

 

ライオンやトラが飼育されているエリアに行くと、武蔵は興奮し始めた

 

「これだ‼︎私が見たかった動物は、こういう強い連中だ‼︎」

 

「怖い…」

 

「はははっ‼︎天下御免の提督様がビビってんじゃね〜よ‼︎」

 

少し離れた場所で、アベックがいた

 

彼氏の方は猛獣にビビり、彼女の方は缶ビール片手に、彼氏の行動を見て笑っている

 

「呉さん⁉︎」

 

「はっ‼︎」

 

相変わらず呉さんは恐怖を気迫でねじ伏せ、ピシッとした状態に直る

 

「おっ‼︎隊長さんじゃん‼︎デートかい⁇」

 

「そう。ゴールデンウィークでみんなで来てるんだ」

 

「申し訳ないね〜。ウチの旦那はこんな調子だよ…」

 

隼鷹が呉さんの目の前で手をヒラヒラさせる

 

「気絶してるのか⁉︎」

 

呉さんは目を開けたまま、直立不動で気絶している‼︎

 

「ホラッ‼︎」

 

隼鷹が呉さんの背中を叩くと、呉さんは戻って来た

 

「はっ‼︎すまない…」

 

「全く…頼むよ⁉︎」

 

「ご、ゴホン‼︎ライオンなんざ怖くない‼︎睨みだけでひれ伏せ…」

 

その時、運悪く一匹のライオンが吠えた

 

呉さんは一瞬で隼鷹の背後に隠れ、ガタガタ震えている

 

「大丈夫だよ‼︎檻に入ってるって‼︎」

 

「出て来るかも知れないだろ⁉︎」

 

「出ないよ⁉︎え⁉︎出ると思ってんの⁉︎」

 

「…本当に出ない⁇」

 

「出ない‼︎絶対大丈夫‼︎」

 

「じゃあ…せめて手、繋いで欲しい…」

 

「分かった分かった‼︎ほらっ‼︎」

 

ようやく落ち着いた呉さんと隼鷹を横目に、私達はその場を後にした

 

「男は皆、夜は猛獣なのにな」

 

「うっ…」

 

武蔵の高笑いが響く

 

しかしまぁ、呉さんのビビりはグラーフ以上かも知れない

 

だが、恐怖を気迫でねじ伏せるのは見習わなければならない

 

「これは何だ⁇」

 

「アシカだ。海に住んでる」

 

「魚が売っているぞ‼︎」

 

「アシカにあげる餌だ。やってみるか⁇」

 

「うぬ」

 

百円玉を台に置き、四匹程魚が盛られた皿を手に取った

 

「アシカに投げるんだ。上手にな⁇」

 

「む…」

 

武蔵は魚を一匹掴み、アシカに向かって投げた

 

…野球の投球法で

 

魚は見事にアシカに”当たった”

 

アシカは一瞬何が起こったか分からず、左右を見回した後、プールに落ちた魚に気付き、口に入れた

 

「当たったぞ‼︎」

 

「違う違う‼︎アシカに食べさせるんだ‼︎こうやって…」

 

丁度泳いで来たアシカの前に魚を投げた

 

「ほら‼︎」

 



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58話 ゴールデンウィーク特別企画② パパと武蔵を繋ぐ物(3)

「なるほど…食わせるのか」

 

「そっ」

 

「よし、もう一回やらせてくれ‼︎」

 

武蔵は再び魚を掴み、構える

 

目線の先にはアザラシがいる

 

「あのブツブツの生物を”狙う”行け‼︎」

 

「待て待て待て‼︎あ〜…」

 

魚が直線で飛んで行く

 

また直撃か⁉︎

 

そう思っていたが、猛スピードで飛んで来た魚を、アザラシは上手にキャッチし、口に入れた

 

「流石は”ゴマちゃん”だ‼︎ははは‼︎」

 

「武蔵…今、なんて…⁇」

 

「ん⁇あれはゴマちゃんだ。私が一番好きな生き物だ‼︎」

 

「…」

 

武蔵がまだ私の彼女だった時、実は何度かここに来た事がある

 

その時彼女は、ゴマフアザラシの事をゴマちゃんと言っていた

 

数秒前には、ブツブツの生物とか言っていたのに…

 

私は、一縷の望みを託し、武蔵に聞いた

 

「武蔵…俺の名前は⁇」

 

「ん⁇提督は提督だろ⁇」

 

「ん、そうだ」

 

やはり、記憶は戻っていなかった

 

「さぁ、次は何処へ行こう⁉︎」

 

一瞬思い出しては、消えて行く…

 

武蔵の記憶は、ずっとそんな感じだった

 

「ちょっと休憩…ふぅ…」

 

備え付けられたベンチに座り、一息つく

 

「あいすくりーむだと」

 

目の前の店の看板を見て、武蔵は食べたそうにしている

 

「食べるか⁇」

 

「うぬ」

 

ポケットから小銭を出し、武蔵に渡す

 

「提督は何がいい⁇」

 

「イチゴのミックスだ‼︎」

 

「うぬ‼︎」

 

しばらくすると、アイスクリームを二つ持った武蔵が帰って来た

 

「ちべたくて美味いぞ‼︎」

 

帰って来た武蔵は、既に自分の分を口にしていた

 

「ちゃんと手洗ったか⁇」

 

「そこに水道があった‼︎」

 

「俺も洗って来るよ」

 

水道で手を洗い、魚の生臭さを落とす

 

ハンカチで手を拭きながら戻ると、武蔵が目を逸らした

 

「ただいま〜っと」

 

「お…おかえり…」

 

「アイスちょうだい」

 

「は…はい…」

 

返って来たアイスは、半分無かった

 

明らかに食べた跡がある

 

「食べたか⁇」

 

「は…鳩が持って行ったのだ‼︎」

 

武蔵は必死に抵抗する

 

こういう武蔵は見ていて面白い

 

「口にいっぱい付けて…」

 

「なっ‼︎」

 

武蔵は何も付いていない頬と口周りを拭いた

 

「ははは‼︎引っかかったな‼︎」

 

「すまない…美味そうだったから、つい…」

 

「いいよ」

 

再びベンチに腰を下ろし、アイスを食べる

 

しばらく食べていると、武蔵が口を開いた

 

「提督よ」

 

「ん〜⁇」

 

「私は過去に、ここに来た事がある」

 

「え…」

 

武蔵の目線は私ではなく、小さな花壇に向けられていた

 

真ん中には、おそらく白雪姫であろう人形が建てられている

 

「大切な人に連れて来られたんだ…だから、うっすら覚えてる」

 

「どの辺で思い出した⁇」

 

武蔵は指で数えながら思い出す

 

「ゴマちゃんだろ…あいすくりーむだろ…そして、ここだ」

 

「ここで何したか、覚えてるか⁉︎」

 

武蔵はすぐさま答えた

 

「写真を撮った。その人は、珍しくここで写真を撮った」

 

「…」

 

私の机の中に仕舞ってある写真…

 

そして、居住区の家の書斎に置いた写真…

 

両方、ここで撮った物だ

 

「その人はいつも笑っていた…私とは、中々逢えないから…だから、私は彼の傍に居たいと…そう願った…」

 

「武蔵…」

 

心の中で思う

 

もう少し…

 

後一歩…

 

もう目の前まで来ている

 

後は、その”彼”を思い出すだけ…

 

「彼の名は…」

 

生唾を呑む

 

恐らく、出て来るのは私の名前だろう

 

その為に、今日この日まで名前を隠していた

 

「………ダメだ。もうそこまで来てるのに…すまない」

 

 

落胆する武蔵の背中に手を置き、ゆっくりさする

 

「いいんだ。少しずつ思い出せばいい…」

 

「色んな事を思い出す時があるんだ…ぷりんつと戦ってた時だって、今だって…なのに、何故名前が出て来ないのだ…」

 

「いいんだ…もう。パンクしちまうぞ⁉︎」

 

「提督よ…貴方はいつも優しいな」

 

「バカ。提督と艦娘の関係以上に、私達は夫婦だろ⁉︎」

 

「夫婦…か。そうだな‼︎」

 

武蔵の目に、少し輝きが戻る

 

「だが、一つだけ覚えておきたい」

 

武蔵は立ち上がり、花壇の前に立った

 

「ここは、私とその人を繋ぐ場所だ」

 

「武蔵」

 

振り返った武蔵を一枚、写真に収める

 

「おいおい‼︎ちゃんと体制立てさせてくれ‼︎」

 

「もう一枚撮るぞ」

 

レンズの向こうで、武蔵が微笑む

 

あの時と変わらない笑顔で…

 

シャッターを下ろしながら、私は涙を一粒だけ流した

 

「撮れたか⁉︎」

 

「撮れた撮れた‼︎出来たら見せてやるよ‼︎」

 

「うぬ‼︎では、皆の所に戻ろう‼︎」

 

「もういいのか⁇」

 

「あまり提督を独り占めしたら駄目だ。たいほうも、レイも、基地の皆が、貴方を待ってる」

 

「…分かった‼︎」

 

私達は皆のいる場所へと戻った

 

今はこれでいい…

 

焦らなくてもいい…

 

その思いが、余計私を悲しくさせていた…



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59話 ゴールデンウィーク特別企画③ 新世界より愛を込めて(1)

さて、58話が終わりました

今回のお話は、大阪新世界で、色んな艦娘が色んな事をしでかします

ゲスト艦娘も出てくるかも⁇

探してみて下さい‼︎


天王寺動物園を出たら、お昼の時間帯になっていた

 

俺達はすぐそこの新世界に行き、何か食べる事にした

 

「や〜‼︎久々の故郷だぜ‼︎」

 

新世界に来てから、気持ちが穏やかだ

 

それもそのはずだ

 

隊長の傘下に入った後、何年かこの街で暮らしていた

 

なので、周辺の街の事情にも詳しい

 

「ちょっと…」

 

ふと、霞が服の裾を握って来た

 

「どうした⁇」

 

「昨日はきそと一緒にいたでしょ⁇今日は私達と一緒に居なさい⁇」

 

「ごはん食べたらな⁉︎」

 

「分かったわ‼︎」

 

しばらく歩くと、一件の串カツ屋に着いた

 

大通りからほんの少しだけ路地裏に入った場所に、昔良く行っていた店があった

 

「あったあった‼︎ここは安くて美味いんだ‼︎」

 

当時と少し外見は変わったが、やってる事は同じみたいだ

 

「くしかつ⁇」

 

相変わらず武蔵の肩車の上にいるたいほうが看板を見て、不思議そうな顔をしていた

 

「そっ。一個一個は小さいけど、その分安いんだ」

 

「くしかつおいしい⁇」

 

「あぁ‼︎俺のお墨付きだ‼︎」

 

皆で店に入り、席に着いた

 

この時、俺は間違いを犯した

 

たいほう含め、戦艦組の連中の存在を忘れていたのだ

 

店に入って数十分後…

 

「くしかつおいしいね‼︎」

 

「あ…あぁ…」

 

口の周りに衣をいっぱい付け、手に串カツを持ったたいほうが、武蔵の膝の上で嬉しそうにしている

 

「次だ次‼︎」

 

「中々美味しい…」

 

「美味です」

 

「ここからここまで、一通り追加ね」

 

完全に俺の判断は間違いだった

 

戦艦二人が大食いなのは分かる

 

現に、注文した品が置かれた瞬間消えている

 

グラーフもあのボディなら大食いなのは理解出来る、てか知ってる

 

問題ははまかぜとたいほうだ

 

はまかぜがヤバい

 

戦艦並に平らげている‼︎

 

「はっ…」

 

そう言えば聞いた事がある…

 

たいほうは横須賀の繁華街にある”蟹料理”瑞雲””で出された、18人前の蟹鍋をほぼ一人で食べたらしい

 

「ヤバい‼︎隊長‼︎食えなくなるぞ‼︎」

 

「お、おぅ‼︎ちょっとヤバいな‼︎」

 

当初は和やかに皆が食べるのを見ていたが、注文した品がどんどん消えて行くのを見て、隊長と顔を見合わせ、俺達も急いで食べる事にした

 

が、時既に遅し…

 

「あの…」

 

奥で揚げ物をしている女の子が俺達の所に来た

 

声が可愛く、白いカチューシャをしていて、結構小柄な体型だが、出る所は出てる

 

「はい‼︎」

 

「すみません‼︎提供する品が…無くなりました‼︎」

 

「何だと⁉︎」

 

カチューシャの子は必死に頭を下げ、謝っている

 

武蔵とローマはここぞとばかりに串カツを頬張っている

 

「あのあの…お勘定は少し割引しますので…その…もう出せません‼︎」

 

「仕方無い…食い納めにしよう」

 

「そうね。この街は結構美味しい物が揃ってそうだし」

 

ようやく戦艦の二人が手を置いた

 

「本当すみません‼︎」



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59話 ゴールデンウィーク特別企画③ 新世界より愛を込めて(2)

「いいよいいよ‼︎あ、勘定は俺が払うよ‼︎」

 

カチューシャの子は申し訳無さそうに代金を受け取り、外まで見送ってくれた

 

「店長は君なのか⁇」

 

「は、はい‼︎私です‼︎」

 

カチューシャの子は張り切って答えた

 

昔来た時は、パッと見タチの悪そうなオッサンが店長だったが、時代が変わったみたいだ

 

「また来るよ。その…すまんな」

 

「いえいえ‼︎こちらが悪いんです‼︎あ‼︎そうだ‼︎夜は軽食とお酒を出してるんです‼︎来て頂けたら、何かサービスします‼︎」

 

「隊長、夜に来よう」

 

「そうだな。詫びも込めてお邪魔するよ」

 

「私、夜の方が得意なんです‼︎」

 

「俄然来る気が湧いた‼︎じゃ、夜にな⁇」

 

「お待ちしてます‼︎」

 

カチューシャの子は、店の札を”仕込み中”に変えた

 

「あ、そうだ。名前は⁇」

 

「串カツ”なとり”です‼︎」

 

「違う違う‼︎君の名前だよ‼︎」

 

「あ、名取です。この店と同じ名前です‼︎」

 

「そっか。じゃ、夜にな。名取」

 

「お待ちしてます‼︎」

 

名取は俺達が見えなくなるまで頭を下げていた

 

 

 

 

「さて」

 

「約束は守りなさいよ⁇」

 

大通りに戻った途端、霞に捕まった

 

約束は破るつもりは無い

 

連れて行く場所も決まってる

 

「よし、みんなを呼んで来てくれ」

 

「分かったわ‼︎」

 

霞は子供達を呼んで来た

 

隊長の子達はまだ食い足りないそうで、もう少し食べるみたいだ

 

集まったのは…

 

しおい

 

プリンツ

 

きそ

 

鹿島

 

そして霞

 

一応、俺の艦娘達だ

 

「よ〜し、行こうか‼︎」

 

「どこ行くの⁉︎」

 

「ここだ‼︎」

 

大通りの一角にある店

 

子供も大人も楽しめる

 

「スマートボールだっ‼︎」

 

「スマートボール⁇」

 

一同不思議そうな顔をしているが、何故か自信有り気な笑みを浮かべる奴が一人、此方を向いている

 

鹿島だ‼︎

 

「私が教えて差し上げます‼︎さっ、入りましょうか‼︎」

 

鹿島は子供達を連れ、中に入った

 

「ヤッベェ…またチョイスミスだ…」

 

 

 

 

「では皆さん‼︎まずはお手本をします‼︎」

 

鹿島は何かしらの目利きで台を選び、100円を入れ、スマートボールスタート

 

「穴に入れば、得点が上がります」

 

鹿島は一度もミスする事無く、得点が入る穴に球を入れて行く

 

「うわ〜凄い上手〜‼︎」

 

「はいっ‼︎ゲーム終了‼︎この得点なら、そこそこの景品が貰えます‼︎」

 

鹿島は小さなプラモデルを貰った

 

きその目が輝いている‼︎

 

 

 

「そうそう‼︎上手ですよ〜‼︎高得点を狙わず、小さな点で確実に入れるのが、スマートボールのコツです‼︎」

 

子供達の背後で、鹿島がレクチャーを始めた

 

子供達は鹿島に任せて大丈夫そうだ

 

どれ。俺も久し振りにやってみるかな…



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59話 ゴールデンウィーク特別企画③ 新世界より愛を込めて(3)

タバコに火を点け、適当な台に座る

 

「…」

 

しばらく無言のまま、球を打ち続ける

 

「くそっ‼︎何故だ‼︎」

 

隣の男は俺と同い年位だが、メチャクチャ下手だ

 

打つ加減が強過ぎて、全部右端に向かっている

 

そんな時、俺の台がボーナスタイムに入った

 

《パンパカパーン‼︎ボーナスタイム‼︎》

 

「ぱんぱ〜か‼︎」

 

一瞬どこかで聞き覚えがある声がしたが、今はボーナスタイムに集中しよう

 

「隣の人上手ね〜‼︎アレンももうチョット上手になろうね〜」

 

背筋に悪寒が走る

 

アレン…だと⁇

 

それにさっきの”ぱんぱ〜か”あれは…

 

「おま‼︎何でここにいる‼︎」

 

「レイ⁉︎」

 

やっぱりアレンだ‼︎

 

「旅行だよ‼︎レイは⁉︎」

 

「俺も旅行さ。今は子供達連れて来てるだけだ」

 

「うはは‼︎やったやったぁ‼︎」

 

後ろできそが何やら喜んでいる

 

「お前の娘がいっぱいプラモデル抱えてるぞ⁇」

 

アレンに言われて振り返ると、きそは嬉しそうに小さなプラモデルの箱を沢山抱えていた

 

「きそはアニヲタなんだ」

 

「ははは‼︎可愛いじゃないか‼︎」

 

「レイ‼︎いっぱい取れたよ‼︎」

 

目を輝かせたきそが此方に来た

 

「やるな‼︎もう一つ取れたから、好きな奴と替えて良いぞ」

 

「わぁ‼︎レイありがとう‼︎」

 

「いい父親してるじゃないか」

 

「初めましてじゃないね、アレンさん‼︎」

 

「俺の事知ってるのか⁇」

 

アレンはきその頭を撫でた

 

「知ってる‼︎レイと鹿島を助けに行った時、フォーメーションに入れてくれたもん‼︎」

 

「ははは。フィリップみたいな子だな」

 

「フィリップだよ」

 

「ははは。嘘言え‼︎」

 

「あのなぁ…俺が嘘と隠し事しないの知ってるだろ⁉︎」

 

アレンは少し考えて、きそを見た

 

「…マジか」

 

「マジだ」

 

きそは箱の一つを見ている

 

戦闘機のプラモデルだ

 

「これ凄いんだよ‼︎歌歌うとパワーアップするんだ‼︎」

 

「歌…そうだ‼︎カラオケ行こう‼︎アレン、お前も来い‼︎」

 

「いいのか⁇」

 

「当たり前だ‼︎よし‼︎決定‼︎」

 

このチョイスは我ながら良い感じだ

 

数十分すると、子供達はそれぞれ景品を手にしていた

 

食いっぱぐれは無いようだ

 

「へへへ…しばらくはコレ組み立てて遊べるね‼︎」

 

「ちゃんと最後までやるんだぞ⁉︎」

 

スマートボールの店を出て数分歩くと、カラオケ店が見えた

 

もう一度全員いるか確認した後、中に入った

 

「カラオケって何⁉︎」

 

「歌歌う所だ。まずは俺とアレンを見てろ‼︎アレン、行くぞ‼︎」

 

「えぇい仕方無い‼︎」

 

「「俺の歌を…聴けーーーい‼︎」」

 

「おぉぉぉお‼︎」

 

きそが先程持っていたプラモデルのアニメの歌を、男二人が本気で歌う

 

二人汗だくになり、二、三曲歌い、カラオケの楽しみ方を理解した上で、順番に歌う事になった

 

「アーホアーホ‼︎アーホアーホ‼︎」

 

「アホって言う方がアホなのよ‼︎」

 

しおいと霞が楽しそうに歌っている

 

…なんちゅう歌だ…全く

 

次は鹿島だ

 

ちょっと昔の歌だが、俺は知っている

 

昔、隊長の車でこの歌手の歌が入ったカセットテープがよく流れていたからだ

 

「はいっ、愛宕さんっ‼︎」

 

「え〜と…どうしようかな〜」

 

愛宕はしばらく曲を選んだ後、ソファーから立ち上がった

 

「セ○ントセイヤァ‼︎」

 

アレンと共に、グレープソーダを吹いた

 

「え〜…」

 

「時々愛宕は壊れるんだ…」

 

アレンが頭を抱えている

 

愛宕の曲が終わり、霞の番になった

 

正直、どんな曲を歌うのか楽しみだ

 

「みんなで逢えたら〜」

 

一昔前のアニメの主題歌だ

 

確か、女の子がサーカスに入って色々するアニメだったと思う

 

歌が終わった後、霞の横に座って聞いてみた

 

「懐かしいの知ってるな」

 

「うん。たいほうが好きなの。武蔵が時々DVDをかけてくれるの」

 

「そっか」

 

「レイも何処であの歌覚えたの⁇」

 

「アニメであれ、戦闘機の挙動は勉強になるからな」

 

「なるほどね」

 

残りはきそだ

 

箔がつく程アニヲタのきそがチョイスする歌は一体…

 

その場にいた全員が息をのんだ



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59話 ゴールデンウィーク特別企画③ 新世界より愛を込めて(4)

さて、ゴールデンウィーク特別企画もこれでおしまいです

さぁ、きそは何を歌うのか‼︎

分かった人は凄い‼︎



そして、ハイスピード感が否めないのはご愛嬌

ゴールデンウィークは既に終わっていたんだね‼︎

知らなかったよ‼︎


最初は明るそうな曲調で始まる

 

「おっ…」

 

「会う日まで〜」

 

アニソンだと思っていた俺達の意表を突く選曲だった

 

まさかのバラードで来るとは…

 

しかも中々上手い

 

この曲も、昔隊長が聞いてた歌だ

 

ラバウルさんがレコードを持っていたはず

 

「ドアを閉〜め〜て〜‼︎」

 

その場に居る全員が聞き入るレベルだ

 

子供達に至っては、知らない方が普通のレベルだ

 

俺が知ってるのも不思議なレベルだ

 

「おしまい」

 

「おぉ〜‼︎」

 

拍手喝采で、きその番は終わった

 

「きそ。そのまま俺に付き合え」

 

「うん」

 

俺が入れたのは、最近きそが見ていたロボットアニメの主題歌だ

 

「くたばれオモチャ野郎‼︎のアニメだ‼︎」

 

「行くぞ」

 

「うん‼︎」

 

 

 

曲が終わっても、きその熱はまだ冷めていなかった

 

「あぁ〜…チェンバーかっこいいよぉ〜」

 

「ホラ、時間だ。行くぞ」

 

カラオケ店を出ると、外は少し暗くなっていた

 

「レイ‼︎アレン‼︎風呂行くぞ‼︎」

 

大通りで隊長が待っていた

 

「おう‼︎アレン、行くぞ‼︎」

 

「お、おぅ‼︎」

 

新世界の中心線の端に、デカい入浴施設がある

 

「じゃあな〜」

 

「またここで集合な」

 

女と男に分かれ、風呂に入る

 

男風呂の入浴シーンは、誰も見たくないので、割愛させて頂く

 

が、中は色々な入浴施設があり、充分楽しめた…と、だけ言っておく

 

 

 

 

一時間程すると、全員エントランスに戻って来た

 

「んじゃ、帰りますか」

 

アレン達と別れ、阿倍野橋のホテルまで再び歩く

 

既に薄暗くなっており、たいほうは武蔵の肩で

 

しおいと霞も、ローマの腕で眠っていた

 

「疲れたのだな」

 

「そうね。散々はしゃいだもの」

 

「レイ。今日はありがとう‼︎」

 

きそは先程、武蔵がたいほうにしている”肩車”をして欲しいと言って来たので、今俺の肩の上にいる

 

「ちゃんと寝るんだぞ⁇」

 

「パパとレイはもう少しお出掛け⁇」

 

「そっ。昼間の御礼さ。さっ、着いたぞ」

 

ホテルの入口に着き、きそを降ろした

 

「提督、レイ。子供達は任せろ‼︎」

 

「兄さんも息抜きして来て⁇」

 

「じゃ、任せたぞ」

 

子供達を二人に任せ、隊長と共に再び新世界に向かう

 

 

 

「やってるか⁇」

 

暖簾を分けると、割烹着を着た名取がいた

 

…何処と無く、犯罪臭がする

 

「いらっしゃいませ‼︎お好きな席にどうぞ‼︎」

 

隊長とカウンター席に座り、まずは昼間の謝罪をした

 

「昼間はすまなかったな…」

 

「本当にすみませんでした…まさか品物を切らすなんて…」

 

「とりあえずビール‼︎隊長は⁇」

 

「私もそれで」

 

「かしこまりました‼︎」

 

名取が作業している間、店内を見回す

 

小さなテレビ

 

有名人のサイン色紙、数枚

 

キープされているであろう酒瓶、大量

 

店内は満席とまでは行かないが、ポツポツ人が座っており、繁盛している部類に入る

 

そして、隅っこの席に座る緑とオレンジのTシャツを着た女性が二人と、中年の男性

 

「美味しいですねぇ〜‼︎」

 

「蒼龍⁉︎また食べ過ぎたらダメよ⁉︎」

 

「お腹空いてたら、飛龍を食べるんで控えめにします。あ、物理的にですよ⁇」

 

「蒼龍。満足するまで食べ歩きましょう‼︎」

 

「流石提督‼︎太っ腹ぁ‼︎」

 

「トラックさん⁉︎」

 

「お疲れ様です‼︎」

 

互いに存在に気付いた

 

「お待たせしました‼︎」

 

俺達の前に、ビールと出汁巻き卵が置かれた

 

「出汁巻きはサービスです」

 

「そっか。サンキュー」

 

とりあえず頂く事にした

 

出汁巻きを一口食べ、ビールを飲む

 

「う〜ん‼︎凄く美味しい‼︎」

 

キンキンに冷えたビールは、疲れを一気に吹き飛ばしてくれた

 

「レイさん…」

 

飛龍がポーッとした顔で、俺の方を見ている

 

「どうしたんだ飛龍⁇」

 

「レイさん…いいパイロットですよね…」

 

「美味しそうな肉付きですねぇ‼︎」

 

「…違うと思うぞ」

 

「レイさん‼︎」

 

「んあ⁇」

 

意を決した飛龍は、俺の所に来た

 

「番がいるのは分かっています。私にも提督が居ます」

 

「お…おぅ…」

 

「わ…私の艦載機になって下さい‼︎」

 

飛龍は頭を下げた

 

「ヘッドハンティングだぞ、レイ」

 

隊長が肩を叩いて来た

 

「や、やめてくれ‼︎俺ぁ艦載機に乗るのは苦手なんだ」

 

「そんな…」

 

「そんな男は物理的に食べた方がい…」

 

トラックさんは蒼龍の口に唐揚げを放り込んだ

 

「その代わり、要請があれば何時でも駆け付ける」

 

「ホントですか⁉︎」

 

「空軍は嘘をつかないっ‼︎」

 

「やった‼︎」

 

「じゃあ毎日支援要請出して、疲労した所を頂きましょう‼︎」

 

「これ、蒼龍‼︎」

 

蒼龍は俺の事をどうしても物理的に食べたいらしい

 

笑いが絶えなくなった店内で、夜は更けて行った

 

 

 

 

俺達のゴールデンウィークは、こうして終わりを迎えた

 

少しばかりの休暇だったが、中々良い思い出になったと思う

 

…ほとんど日常と変わらない気もしたけどな



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60話 二人の死神(1)

さて、ゴールデンウィーク特別企画がようやく終わりました

長々と申し訳ありませんでした

今回のお話は、とある駆逐艦が登場します

駆逐艦が足りねぇぞクラッシュバンディクー‼︎

との意見が多方面からありましたので、今回は出します


ゴールデンウィークの旅行が終わって数日後…

 

「はぁ⁉︎隊長が墜ちた⁉︎」

 

突然無線で告げられた、隊長撃墜の報告

 

無線の先の横須賀は焦っている様子は無い

 

《でも心配しないで。落下傘も出たし、今隣に居るわ》

 

「代わってくれ‼︎」

 

《レイか⁉︎》

 

「大丈夫なのかよ‼︎誰にやられた‼︎」

 

《心配すんな。身体は全く無傷だし、機体があればまた飛べる…だが…》

 

元気そうな声をしているのを聞いて少しは安心したが、どうやらコルセアの事がネックの様だ

 

「換えの機体位、俺が何とかしてやらぁ‼︎コルセアに愛着があるのは分かるが、そろそろ替え時だったと思ってくれ」

 

《そうだな。ま、随分前から機体を造ってるが、まだ完成しなくてな…》

 

「俺が何とかしてやらぁ‼︎だから、早く帰って来いよ‼︎」

 

《それなんだがな、レイ。横須賀に迎えに来てくれないか⁇》

 

「オーケー。了解した‼︎すぐ行く‼︎」

 

《基地は武蔵とローマに任せて大丈夫だろう》

 

無線を切り、武蔵とローマに子供達を任せてフィリップに乗った

 

《珍しいね。レイの呼吸が荒れてる》

 

「隊長が撃墜された」

 

《え…》

 

「心配すんな。隊長自体は大丈夫だ。やられたのはコルセアだけだ」

 

《そっか…とにかく行こう‼︎》

 

「フルスロットルで行くぞ‼︎」

 

フィリップを飛ばし、横須賀に急ぐ

 

あっという間に横須賀に着いた

 

直線距離で本気を出せば、こんなもんだ

 

《レイ、緊急滑走路を使って》

 

「ウィルコ」

 

着陸した後すぐにフィリップはいつもの専用格納庫で補給を受ける事になった

 

俺は横須賀の執務室に走った

 

いつも通り、執務室の扉を蹴り飛ばす

 

「隊長‼︎」

 

「ん⁇」

 

横須賀の横でタバコを吸いながらコーヒーを飲み、パイを食べている隊長がいた

 

撃墜されて落ち込んでる所か、出撃前よりピンピンしている

 

「良かった…はは…」

 

安心した途端に力が抜けた

 

「大丈夫だって言ったろ⁇」

 

「ったく…心配掛けさせんな‼︎」

 

「ははは‼︎誰かは分からんが、敵機と見間違えられたんだ。あっという間に主翼に一発喰らって、急いで落下傘を出した」

 

「誰だ‼︎誤射したクソマヌケは‼︎」

 

「ごめんなさい…」

 

「あ…」

 

背後から声がした瞬間、何故か背筋が凍り付き、動けなくなる

 

まるで、死神にでも睨まれた様だ

 

体から血の気が引き、四肢が震える

 

「な…なん…」

 

何とかして、首を背後に振り向かせる

 

そこに居たのは文字が書かれた黒いハチマキをした少女だった

 

「秋月が撃ったんです…」

 

「あき…づき…⁇」

 

何なんだ、この子は…

 

隊長もまた、体を硬直させている

 

この子の力なのか⁇

 

いや、そんな艦娘は居なかったハズ…



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60話 二人の死神(2)

「紹介するわ。防空駆逐艦”秋月”よ」

 

「防空駆逐艦…成る程な…」

 

「二人が動けないのは、その子がパイロットの天敵だからよ」

 

本能が寄せ付けないのか…

 

成る程…

 

「秋月は良い子よ⁇」

 

「顔見たら分かる…体が動かんだけだ」

 

「頭触って見たら⁇」

 

言われた通りに、秋月に手を伸ばすが、やはり体が受け付けず、途中で止めてしまった

 

「秋月の事…嫌いですか⁇」

 

「嫌いじゃない‼︎本当だ‼︎信じてくれ‼︎」

 

「秋月。艤装を降ろしなさい」

 

「あ‼︎忘れてました‼︎」

 

床にドカッと艤装が置かれ、妖精達が何処かに運んで行った

 

それと同時に、俺と隊長の血の気も戻った

 

「改めて…申し訳ありませんでした‼︎」

 

「テメェか‼︎隊長のコルセア叩き落としたのは‼︎」

 

「敵機だと思って…」

 

「レイ、秋月は産まれ立てなの」

 

「産まれ立てって…」

 

「数日前建造されたばかりの子よ。後もう一人居るんだけど…」

 

その時、隊長の眉間にシワが寄った

 

「レイ」

 

「あぁ…」

 

何処からか、視線と殺気を感じる

 

秋月のから感じた殺気と同じだが、二人共順応が早い為、体を動かせる

 

「照月。出て来なさい」

 

「…」

 

島風の連装砲ちゃんみたいな子を抱えて、部屋の隅から出て来たのは、浜風とドッコイドッコイのロリ巨乳の女の子だ

 

「防空駆逐艦”照月”よ。秋月の妹なんだけど、経験はこの子の方が上よ」

 

「ま、よろしくな、照月」

 

レイがいつもの様に差し出した手を、照月は弾いた

 

「触らないで‼︎」

 

「こら照月‼︎ちゃんと挨拶しなさい‼︎」

 

秋月が声を荒げた

 

「秋月。照月を連れて、ちょっとだけ廊下に居てくれる⁇」

 

「はい、分かりました」

 

秋月は照月を連れ、執務室から出て行った

 

「は〜…」

 

横須賀は頭を抱えている

 

「とりあえず、色々申し訳ありません…秋月はコルセアを潰した上に、照月は失礼な態度を…」

 

「秋月はまだしも、照月は訳ありか⁇」

 

「そうね…」

 

横須賀は何故か俺から目を逸らした

 

「女の悩みか⁇」

 

「そうね…それも重大な…ね」

 

「恋してるって…感じじゃなかったな」

 

そう言ったのは隊長だ

 

「私達に異常な殺意を向けていた。あれは本気の殺意だ」

 

「俺の言い方がキツかったか⁇」

 

「あんたはマヌケだから大丈夫よ…」

 

「なんだと⁉︎」

 

「襲われたのよ。入渠直後に、ね」

 

その場に居た全員が黙る

 

そこまで重たい内容だとは思っていなかった

 

「隊長、レイ。ここまで無礼な事をして頼めるタチじゃないけど…照月の面倒をしばらく見て頂けませんか⁇」

 

「俺達の艦隊に入れるのか⁉︎」

 

「違う。今日一日で良いの」



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60話 二人の死神(3)

「レイ。これも何かの縁だ」

 

「仕方無い」

 

「隊長は秋月。レイは照月をお願い」

 

「殺されたら承知しねぇからな‼︎」

 

「香典はあげるわ」

 

「くたばれ‼︎」

 

文句を言いながら、俺達は部屋を出た

 

二人が部屋を出た後、横須賀は再び確信していた

 

あの二人なら、どんな子だって、立ち直らせられる、と

 

 

 

「隊長様‼︎今日は宜しくお願いします‼︎」

 

「…」

 

秋月は敬礼をしているが、照月は目を逸らしたままだ

 

「敬礼は無しだ。それに、隊長でいい」

 

「俺はレイ様でいいぞ‼︎」

 

勇ましく親指を立ててウインク

 

「…提督からレイでいいと…」

 

「くっ…」

 

「さ、行くぞ」

 

俺達は格納庫に向かった

 

「大佐‼︎お疲れ様です‼︎」

 

いつかたいほうの相手をしていた男性が隊長に駆け寄る

 

「修理は無理そうか⁇」

 

「えぇ…全体が大破しています。乗り換えた方が早いでしょう」

 

「あ…」

 

四人の前に、青い鳥が横たわっている

 

痛々しいまでに大破しているが、威厳は失っていなかった

 

「秋月」

 

「はっ」

 

隊長はポケットに手を入れ、秋月の方を見ず、ずっとコルセアの方を見ていた

 

「これには人が乗ってる。それを叩き落とすのがお前達”防空駆逐艦”の任務だ」

 

「…」

 

秋月達防空駆逐艦の主な任務は、敵航空機を撃墜する事

 

秋月達は装備された機銃達の力で上空に厚い弾幕を張り、敵航空機を味方艦隊に寄せ付けない様にする

 

「だがな。お前達を沈めるのも、俺達の任務なんだ」

 

「私は…」

 

隊長は秋月の頭を撫でた

 

「戦争ってのは、そんなものだ。殺られる奴がいるなら、殺る奴がいる。誰もが被害者になって、誰もが加害者になる」

 

「隊長…ごめんなさい…」

 

「ありがとうと言ってやってくれ」

 

「え⁉︎」

 

「俺が提督になってから、ずっと付き合ってくれた機体だ。最後位、俺以外の奴に感謝されても良いだろ⁇」

 

「…ありがとう‼︎」

 

秋月はコルセアに頭を下げた

 

隊長はコルセアに手を置いた後、頭を当てた

 

「ありがとう…またな」

 

コルセアを軽く二回叩き、隊長は下を向いたまま、格納庫を出た

 

秋月は憎んでいなかった

 

事故とはいえ、撃墜された事も憎んでいない

 

ただ、愛機であるコルセアと別れる事が、一番辛かった

 

 

 

 

その頃、フィリップの格納庫では…

 

「これが俺の機体だ」

 

《ども〜》

 

目の前でフィリップが補給を受けている

 

「深海の…」

 

「そっ。フィリップって言うんだ」

 

「レイは敵ですか⁇」

 

「敵だったら来る時に落とされてるよ‼︎」

 

「…触ってもいいですか⁇」

 

「いいぞ」

 

恐る恐る照月はフィリップに触れた

 

「…生きてるの⁇」

 

フィリップは時々何処からか空気を抜く

 

その時、機体に触れていれば分かるが、僅かに機体が震える

 

「そっ。みんな生きてる。俺も、フィリップも、照月も」

 

「…私達、航空機を落とすのが任務です」

 

「それに特化された艦娘だからな」

 

俺は照月の後ろで棒付きの飴を咥えた

 

「生きてるんだ…航空機も」

 

「そう。生きてるからこそ、痛みだって感じる。だから不調があったりするんだ」

 

「私達と一緒⁇」

 

「一緒だ。触られて嬉しいと感じるのも、例えば…」

 

俺は照月の腕を取り、フィリップの左翼に触れさせた

 

照月は嫌がらなかった

 

「お前はどう感じる⁇」

 

「しなやかです…硬くて、鋭い…」

 

「そう感じるのも、生きている証拠だ」

 

照月から手を離しても、彼女はまだフィリップに触れていた

 

《君の撫で方は優しいね》

 

「そうですか⁇」

 

《レイも優しいんだよ⁇いつも僕を心配してくれてるんだ》

 

「そっか…いい人に巡り会えたんですね」

 

《君はそうじゃないみたいだね》

 

「…」

 

照月は連装砲ちゃんの様な子を強く抱き締めた

 

「フィリップ。出られるか⁇」

 

《いつでも》

 

「よしっ‼︎じゃあちょっと飛んでみるか‼︎」

 

フィリップの左翼に登り、照月に手を伸ばした

 

「私はいいです」

 

「自分の相手が見ている景色を見るのも経験の内だ‼︎」

 

「…怖くないですか⁇」

 

「大丈夫だ‼︎」

 

意を決して、照月は手を掴んだ

 

「わ〜」

 

連装砲ちゃんみたいな子を抱いたまま、照月はフィリップの内部を不思議そうに見回す

 

フィリップの内部は意外にだだっ広く、色々な電子機器が作動している

 

「シートベルト締めたか⁇」

 

「よいしょ…はい」



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60話 二人の死神(4)

注意‼︎

チョットだけエロ描写があります‼︎


「よ〜し、フィリップ。離陸して、まずは基地上空を一周しよう」

 

《オーケー‼︎》

 

フィリップが離陸して行く

 

その姿は、隊長と秋月にも見えていた

 

「あれは‼︎」

 

「フィリップか。興味あるのか⁇」

 

「敵戦闘機です‼︎司令に伝達を‼︎」

 

だが、整備兵や妖精はビクとも動かず、数人の妖精は鼻クソをほじっている

 

”あれは味方や。ちったぁ学べ‼︎”

 

一人の妖精が秋月に説明をし始めた

 

「味方…⁇」

 

”せや。さっき大佐の隣に若い男がおったやろ⁇あいつの機体や。落としたらシャレにならんで”

 

「秋月」

 

「はっ‼︎」

 

「お前も乗ってみるか⁇」

 

「いいんですか⁉︎ですが機体は…」

 

「なぁに。ここには腐る程ある‼︎」

 

 

 

 

上空では、フィリップが巡回飛行をしている

 

《快適な空だね‼︎》

 

「絶好のフライト日和だ‼︎」

 

「高い…」

 

照月は驚いていた

 

今までハエを叩くかの様に落としていた連中の目線を眺めているのだ

 

「戦いは好きか⁇」

 

「好きな人なんていませんよ」

 

「ははは‼︎ごもっともだ‼︎」

 

「…貴方は好きですか⁇」

 

「好きじゃないなぁ。だけど、嫌いでもない」

 

照月は質問を質問で返して来た

 

話している間、照月は連装砲ちゃんの様な子を常に抱き締めていた

 

「変わってますね…」

 

「じゃあ、空は好きか⁇」

 

「あんまり好きじゃないです」

 

話が続かない…

 

「その子は何て名前だ⁇」

 

「長10cm砲ちゃんです」

 

「長10cm砲…」

 

「可愛いんですよ…いつもチョコチョコ着いて来て。あの時だって、護ってくれました」

 

どうやらこの質問は、俺が求めていた反応を引き出してくれたみたいだ

 

「フィリップ。オートパイロットにした後、無線封鎖だ」

 

《オートパイロット切替。無線封鎖完了‼︎》

 

無線封鎖を確認し、オートパイロットに切り替えた

 

「さて、と…」

 

俺は体を後ろに向け、照月と向かいあった

 

「な…何ですか…」

 

照月は長10cm砲ちゃんで顔を隠した

 

男性恐怖症は、全く治っていない

 

「取って食おうなんて真似はしない。ましてや手も出さない。だけど、俺が今から言う質問に答えなきゃ、照月は俺と一緒に心中する事になる」

 

「それで空に…」

 

「荒治療とは思うが、今の君にはこれがベストだと思ってね…ここなら誰も見てないし、聞いてない。俺は誰にも言わない」

 

《僕も言わないよ》

 

「ホントですか…⁇」

 

「あぁ」

 

《言わないよ》

 

「…」

 

震えながら照月は長10cm砲ちゃんを顔から離した

 

「あの日…」

 

 

 

その日、照月は出撃を終え、入渠ドックに直行した

 

目立った傷は無いが、念の為入渠する事になった

 

入渠ドックは全部空で、脱衣所にも誰も居なかった

 

照月は服を脱ぎ、入渠を始めた

 

数十分後、脱衣所に戻り、妖精達が用意した服を持った時、違和感に気付いた

 

所々、湿っている

 

照月は乾燥しきっていないんだな位で、それを着始めようとした

 

その時、脱衣所の陰に隠れていた男性数人が照月に襲い掛かった

 

照月一瞬で口と手をタオルで縛られ、なす術も無くなった

 

泣いても暴れても、どうにもならなかった…

 

衣類は全部奪われ、脱衣所から出る訳もいかず、照月は一人残され泣いていた

 

数十分後、入渠が長いと気付いた秋月に発見され、事が発覚

 

そして、現在に至る…

 

 

 

「よく話してくれた…怖かったな」

 

「…」

 

話し終わった後、照月は黙り込んでしまった



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60話 二人の死神(5)

「あと一つだけ聞かせてくれ」

 

「何です」

 

「何人いた⁇」

 

照月は震えた手で指を三本立てた

 

「オーケー。後は任せろ‼︎フィリップ‼︎オートパイロット解除‼︎」

 

《マニュアルに切り替えるよ‼︎》

 

先程まで自動で動いていた操縦桿が初期位置で固定された

 

「フィリップ。照月の皮膚組織を検索してくれ」

 

《オーケー。モニターに出すよ》

 

フィリップのモニターに、照月の情報が表示された

 

「いつの間に…」

 

「さっきフィリップに触っただろ⁇よし、そこから匂いの分析だ」

 

《分析中…チョット待ってね…出た‼︎》

 

モニターに、照月の体臭に一番近い匂いが表示された

 

「よし、基地一帯をスキャニングしてくれ」

 

《スキャニング中…完了‼︎》

 

「照月の体臭と一致する箇所をレーダーに表示してくれ」

 

《反応多数。あ、待って‼︎三ヶ所に分散してる‼︎》

 

「よ〜しビンゴだ‼︎俺のタブレットにレーダーマップを転送しといてくれ」

 

《了解‼︎着く頃にはタブレットで表示出来るよ‼︎》

 

「凄い…」

 

照月は再び驚いていた

 

目の前で、一目見ただけでは分からない機械の類を、彼は一人で全部操っているのだ

 

それも、戦闘機を操縦しながらだ

 

そうこうしている内に、フィリップは着陸態勢に入った

 

「照月」

 

「はい」

 

「提督の所に戻ってろ」

 

「…はい」

 

照月がフィリップから降りると、俺はもう一度モニターをいじった

 

「さ〜てとっ‼︎一仕事しますか‼︎」

 

 

 

 

「フィリップが降りて来たな」

 

「お〜い、隊長〜‼︎」

 

向こうからレイが走って来た

 

「何やってんだ⁇」

 

「秋月を戦闘機に乗せてやろうと思ったんだけど…良いのが見つからなくてな…」

 

「あ〜、じゃあフィリップに乗ってみるか⁇」

 

そう言えば、フィリップに乗った事が無かった

 

「いいのか⁉︎」

 

「ついでに秋月にフィリップは敵じゃねぇって、教えてやってくれ」

 

「なるほど…了解した。しばらく借りるよ」

 

「擦んなよ〜⁉︎」

 

そう言うと、レイは何処かに行ってしまった

 

「じゃあ…乗ろうか‼︎」

 

「はい‼︎隊長‼︎」

 

フィリップに入ると、自動的に全てのシステムが起動した

 

《ありゃ⁇パパ⁉︎》

 

「操縦するのは初めてだな」

 

「せせせ戦闘機が喋ってますよ⁉︎」

 

「彼女の名前はフィリップ。私達の味方さ」

 

《初めまして、秋月ちゃん。僕はフィリップ‼︎》

 

「あ…秋月です‼︎」

 

《さぁ‼︎行こうか‼︎》

 

フィリップは、本日二回目の巡回飛行に向かう

 

 

 

 

地上では、レイがタブレットのレーダーマップを見ていた

 

「アホパイロットがいるダズル」

 

目の前にワンコの所の榛名がいる

 

どうやら遠征の帰りに立ち寄ったみたいだ



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60話 二人の死神(6)

「榛名か⁉︎丁度いい。お前のハンマーをバカにした奴がいてな…」

 

「解せぬダズル。ハンマーは最強ダズル‼︎」

 

「今から退治しに行くんだが、お前も来るか⁇」

 

「行くダズル‼︎今回の遠征はクソだったダズル。ストレス解消にはうってつけダズル‼︎」

 

「よし、行こうか」

 

いつもなら、とりあえず無条件でハンマーの一撃が来るのだが、今日は妙に大人しい

 

その真相は、後に明らかになる

 

 

 

「さて、まずは一人目だ」

 

レーダーマップの表示する位置には、扉の向こうに一人目がいる

 

「とっ捕まえるダズルか⁇それとも叩きのめしていいダズルか⁉︎」

 

「あ〜…いや、とっ捕まえてくれ‼︎纏めて聞いた方がいい」

 

「何かよく分からんが、分かったダズル‼︎」

 

そして、榛名のハンマーの一撃で扉が破壊される

 

大人しいと、一瞬でも感じた俺がバカだった…

 

「捕まえたダズル‼︎」

 

榛名の腕には、気絶した男が抱えられていた

 

「よし‼︎次だ‼︎」

 

同じ棟の三階に二人目の部屋があった

 

「これで破壊ダズル‼︎」

 

変わらずハンマーで扉を一撃粉砕

 

「レイ‼︎行くダズル‼︎榛名はここにいるダズル‼︎」

 

「サンキュー。初めて名前呼んでくれたな」

 

「早く行くダズル‼︎」

 

中に入ると、男が一人、慌てふためいていた

 

「ぬん‼︎」

 

俺は問答無用で彼の顎に右フックを当て、気絶させ、引き摺りながら部屋を出た

 

「二人目確保〜‼︎」

 

「よ〜し、次で最後ダズル‼︎」

 

「あ、チョット待て…」

 

「貴様等…基地を破壊しに来たのか⁉︎」

 

長門だ

 

横須賀の旗艦が明石ならば、長門は千人隊長だ

 

この基地の主力を担っているだけあって、貫禄は凄い

 

「その男は何だ」

 

「長門。ちょっと…」

 

耳打ちをすると、長門は眉間にしわを寄せた

 

「もう一人いるのか⁇」

 

「あぁ。横須賀の所に、こいつら運んでくれないか⁇」

 

「畏まった‼︎いつも何から何まですまないな…」

 

「お互い様だろ⁇頼んだぜ⁉︎」

 

「フッ…任せろ‼︎」

 

長門は軽々と二人を抱え、執務室に向かった

 

「長門さんを手懐けるとは…どうやったダズル⁉︎」

 

「後で分かるよ。さっ、榛名‼︎一発かましてくれ‼︎」

 

「オーケーダズル‼︎」

 

ハンマーが振り下ろされ、扉が破壊

 

最後の一人は諦めた様な表示をしており、簡単に捕まった

 

「ささ。執務室に行くダズル」

 

「サンキューな、榛名」

 

「お安いご用ダズル‼︎」

 

執務室に入ると、二人が縄でグルグル巻きにされていた

 

「あ、レイ‼︎榛名ちゃん‼︎」

 

「こいつがラストダズル‼︎」

 

「さぁ、吐いて貰おうか⁉︎」

 

横須賀達が犯人三人を睨み付ける中、俺はこっそり部屋を出ようとした

 

「レイ」

 

横須賀に感づかれた

 

「俺の出番は終わりだ。後は女のお前の方が良く分かるだろ⁇間宮にいるから、何かあった連絡してくれ」

 

そう言って、扉を閉めた

 

「…カッコイイと思ってしまったダズル」

 

 

 

 

外に出ると、丁度フィリップが帰って来た

 

「レイさん」

 

出入り口付近の段差で、照月が座っていた

 

「もう大丈夫か⁇」

 

「うん…提督が、これでレイさんと間宮に行けって…」

 

「ゔっ…」

 

出ましたよ

 

間宮のタダ券の”束”

 

あいつはバカなのか⁉︎

 

いっつも思うが、何故毎回この券何だ⁉︎

 

食い切れねぇっての‼︎

 

「秋月と隊長も誘っていいか⁇」

 

「うん」

 

しばらくすると、隊長と秋月が降りて来た

 

「凄いです‼︎戦闘機は最高でした‼︎ありがとうございます、隊長‼︎」

 

「私もいい経験になった。フィリップ、ありがとうな」

 

《隊長ならいつでも‼︎》

 

「レイ、ありがとうな‼︎」

 

「いつでも言ってくれ‼︎さ、間宮に行こう。横須賀がタダ券くれたんだ」

 

フィリップから降りて来た秋月は、既に隊長を慕い始めていた

 

隊長の横からピッタリ着いて離れない

 

隊長も隊長で、秋月とのツーショットが中々様になっている

 

照月は俺の横に居るが、ずっと長10cm砲ちゃんを抱いたまま歩いている

 

「照月は何食べたい⁇」

 

「えっと…チョコレートケーキ」

 

「霞と一緒か‼︎そんなに美味いのか⁉︎」

 

「うん…甘いし、他のより大きいの」



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60話 二人の死神(7)

「じゃあ、チョコレートケーキと…」

 

「ふふっ…生、ですか⁇」

 

「バレてたか…それでっ‼︎」

 

 

時折間宮に顔を見せた時、毎回”生クリームケーキ”を頼んでいたので、そろそろバレ始めていた

 

「大佐はどうされます⁇」

 

「お汁粉と…秋月は⁇」

 

「わ、私もそれを‼︎」

 

「少々お待ち下さい」

 

間宮が厨房に戻って数秒後、無線が鳴った

 

「ちょっと失礼…」

 

間宮を出て、無線を入れた

 

「どうした⁇」

 

《照月から間宮の券は受け取った⁇》

 

「貰ったよ。まだ基地に束で残ってる」

 

《それ、今回の報酬ね⁇》

 

「気にしなくていいのに…まっ、有り難く頂戴しておくよ。でっ、三人はどうなった⁇」

 

《さっきから聞こえないの⁇》

 

横須賀は無線を口元から離したみたいだ

 

《さぁ、コッチに来るダズル‼︎》

 

《うわぁぁぁあ‼︎》

 

《助けて下さい‼︎》

 

《ハンマーを侮辱した上、照月に手を出すとは…あの子はまだ小学生レベルの年齢ダズル‼︎》

 

ハンマーの打撃音と、何かが砕かれる、鈍い破壊音が無線の先から聞こえる

 

てか照月、そんな歳だったのか…

 

《まぁ…コッチは大丈夫よ⁇》

 

「なら任せた」

 

《お呼びですかぁ〜⁉︎美味しそうな肉付きですねぇ〜‼︎》

 

「ゔっ…蒼龍…」

 

《トラックさんの所で、一旦面倒見てくれる事になったのよ。…無事に帰れるかは分からないけど…》

 

「マジで任せる…俺も蒼龍は怖い」

 

《スティングレイさんですかぁ〜⁉︎今からそっちに行きますからねぇ〜》

 

無線の向こうで不吉な事を言っている‼︎

 

「横須賀‼︎止めろ‼︎マジで‼︎」

 

《分かったわ‼︎じゃ、後で‼︎蒼龍⁇今日はこの位で…》

 

無線を切り、ため息を吐く

 

蒼龍だけはシャレにならない

 

目を合わせた瞬間、俺に物理的な意味で食いかかって来るからな…

 

間宮に戻ると、丁度ケーキが届いた

 

「いただきま〜す」

 

「いただきます」

 

それぞれが注文した品に手を付け始めた

 

「横須賀か⁇」

 

「そうそう。内部で反乱者が居てよ、隊長達が飛んでる間、ワンコの所の榛名と一緒に引っ捕らえたんだ」

 

隊長と話しながら、ケーキの苺を照月の皿に乗せた

 

「嫌いか⁇」

 

「いいんですか⁇」

 

「フルーツは苦手でな。俺達といる時は、もうちょいフランクで良いぞ⁇」

 

「は…うん」

 

照月は”はい”と言いかけたが”うん”と言い直した

 

「犯人は蒼龍送りだとよ」

 

「…終わったな」

 

「終わったな…」

 

隊長も蒼龍と聞くと引いている

 

トラックさんは本当に尊敬に値すると思う

 

人食いの癖がある蒼龍を、あそこまで抑えて手懐けているんだからな…

 

「さてっ‼︎食ったら横須賀の所に戻るか‼︎」

 

「そうだな。もう時間だしな」

 

「あ…」

 

秋月は寂しそうな顔をしている

 

そんな秋月を見た後、照月に顔を向けると、此方を向いていたが、すぐに顔を下げた

 

「バカ。寂しそうな顔すんな。いつでも会えるさ。なっ⁇」

 

そう言って、照月の頭をそっと撫でた

 

「…うんっ」

 

照月は嫌がらずに、それを受け入れた

 

会計をタダ券で済ませた後、横須賀の執務室に戻って来た

 

所々に血痕が付いている‼︎

 

「奴等は蒼龍送りになったダズル。だが、念仏は唱えてやらないダズル」

 

壁にもたれて腕を組んでいる榛名は、血痕の付いたハンマーを近くに置いていた

 

「榛名。今日はありがとうな」

 

「ふんっ‼︎今日だけダズル‼︎」

 

本当に今日は大人しいな…

 

「二人共、今日は本当にありがとうございました。照月、レイと榛名ちゃんに御礼を言いなさい。犯人を捕まえて、制裁を加えてくれたのよ⁇」

 

「本当ですか⁇」

 

「あぁ。少しずつでいいから、これからは笑える様になろうな⁇」

 

「…うんっ‼︎」

 

少しだけ、明るい照月が見れた

 

「榛名は乙女の味方ダズル。じゃ、これで帰るダズル‼︎」

 

「あ、榛名ちゃん‼︎御礼の資源と資材は明日届けるから‼︎」

 

「期待してるダズルよ」

 

振り返る事なく、榛名は執務室を出て、横須賀基地を後にした

 

「あ、そうだ横須賀‼︎二人はここに着任すんのか⁇」



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60話 二人の死神(8)

「そうね…彼女達の返答次第だけどね」

 

そう言って、横須賀は俺達にウインクをした

 

「なるほど…」

 

「秋月、そして照月。貴女達二人に選択を与えるわ。横須賀鎮守府に着任して、私に仕えるか…それとも、横須賀分遣隊の二人と共に行くか…二つに一つよ⁇」

 

二人の答えはすぐに出た

 

「秋月、横須賀分遣隊所属を希望します‼︎」

 

「照月は…」

 

照月は少し迷っていた

 

そんな彼女を見て、横須賀は切り出した

 

「じゃ、次。大佐、そしてレイ。貴方達二人に、どちらか一人を着任させる権利を与えるわ。選んで⁇」

 

二人がこちらに振り返った

 

「私と共に来るか⁇」

 

「はい‼︎隊長‼︎」

 

秋月は潔く隊長の差し出した手を取った

 

隊長、かっこいいな…

 

惚れ直したよ…

 

今度は俺の番か

 

俺は照月と目線を合わす為、膝を曲げた

 

「辛い経験をしたな…」

 

「…」

 

相変わらず照月は長10cm砲ちゃんで口元を隠していたが、目線はこちらを見つめている

 

「もし楽園があるなら、行ってみたくないか⁇そこには沢山の仲間が待ってる」

 

「レイさん…」

 

「来い。俺が楽園に連れて行ってやる‼︎」

 

「…はいっ‼︎」

 

長10cm砲ちゃんを抱いたまま、照月が抱き着く体勢に入った

 

その0.5秒後、顔面に長10cm砲ちゃんが直撃したが、何とか照月を抱き留めた

 

感動のシーンは、何とか保たれた様だ

 

「ヤバ…何か今日レイが凄いカッコよく見える」

 

「いつもカッコいいだろうが‼︎」

 

「照月⁇レイはマヌケでバカな男だけど、貴方を命懸けで護ってくれるわ。私が保証する」

 

「はい‼︎横須賀さん‼︎私”お兄ちゃん”に着いて行きます‼︎」

 

「お兄…ちゃん⁇」

 

「お兄ちゃん、ですっ‼︎さっきフランクでいいって言ったじゃないですか‼︎」

 

「…こうだ」

 

「へっ⁇」

 

「…最高だ‼︎お兄ちゃん…何ていい響きだ‼︎照月‼︎もう一回言ってくれ‼︎」

 

「えっと…お兄ちゃんっ‼︎」

 

「横須賀様。照月は必ず護り通します‼︎」

 

「まずは鼻血拭きなさい。ホラっ‼︎」

 

長10cm砲ちゃんが顔面に直撃した為、両の鼻の穴から血が出ていた

 

横須賀から渡されたハンカチで鼻をかみ、そのまま返した

 

「要らないわよ‼︎あんたにあげる‼︎」

 

「じゃ、洗濯して額に飾っておくよ」

 

「やっぱ返して」

 

ポケットに仕舞おうとしたハンカチを奪い取られた

 

「とりあえず、大佐は二式大艇で送らせて頂きます。レイは大丈夫ね⁇」

 

「照月とフィリップで帰るよ」

 

「大佐。換えの機体はすぐに準備します。新型機がありますので、そちらを輸送しますね」

 

「頼んだ。機体無しでは何も出来ない」

 

話が終わり、五人は執務室を出た

 

俺は照月と共にフィリップに乗り、隊長は秋津洲の操縦する二式大艇で基地に送って貰う

 

《お疲れ様、レイ》

 

「ただいま。帰りは三人だぞ⁇」

 

《よろしくね‼︎照月ちゃん‼︎僕とはすぐに会えるよ‼︎》

 

「フィリップさんとはもう会ってますよ⁉︎」

 

「すぐ分かるさ。行くぞ‼︎」

 

こうして、俺達は横須賀基地を後にした

 

 

 

 

「お帰りなさい‼︎ご飯出来てますよ‼︎」

 

鹿島が出迎えてくれた

 

「サンキュー‼︎腹減ったぁ〜‼︎」

 

「貴女が照月ちゃんですね⁇私は鹿島です‼︎」

 

「照月です」

 

互いに頭を下げた

 

「行くぞ〜。お腹が限界だ‼︎」

 

「ここが…お兄ちゃん達の基地」

 

食堂に入る寸前で照月は足を止め、基地を見回した

 

「そっ‼︎僕達の基地‼︎」

 

「貴方は⁇」

 

照月の背後にきそが立っている

 

「僕の乗り心地はどうだった⁉︎」

 

「え⁉︎え⁉︎」

 

「僕はきそって言うんだ‼︎フィリップの本体なんだ‼︎」

 

「すぐ分かるって言ったろ⁇さっ、みんなに自己紹介しよう‼︎」

 

数分後に二式大艇も到着し、これで全員が揃った

 

全員が食卓に着いた後、隊長が切り出した

 

「食べる前に、新しい子が基地に来たから、紹介しよう‼︎秋月と照月だ‼︎」

 

「防空駆逐艦、秋月です‼︎」

 

「防空駆逐艦、照月です‼︎」

 

「ぼーくーくちくかん⁉︎」

 

たいほうがビクッと反応した

 

そうか‼︎

 

たいほうは空母だから、俺達みたいに初見は怖いかも知れな…

 

「大丈夫だたいほうよ。彼女達は私達の味方だ‼︎」

 

武蔵がたいほうに説明をする

 

「たいほうのおともだち⁇」

 

「そうだぞたいほう‼︎みんな仲間だ‼︎」

 

「あきづきもてるづきも、たいほうとあそんでくれる⁇」

 

「勿論です‼︎」

 

「照月とも遊ぼうね⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

たいほうは嬉しそうな顔をした後、スプーンを持った

 

「じゃ、食おう。頂きます‼︎」

 

「「「いただきます‼︎」」」

 

 

 

 

 

 

防空駆逐艦、秋月が艦隊の指揮下に入ります‼︎

 

防空駆逐艦、照月が艦隊の指揮下に入ります‼︎




秋月…真面目系駆逐艦

パパのコルセアを誤射して撃墜してしまった為、パパには頭が上がらない

産まれ立ての為、普通の秋月より少し小さい

基地に来てから出撃を待ち侘びているが、緊急時以外は出撃しないのが鉄則なのを知り、少し落胆したが、徐々に慣れて来ている

簡素な料理は作る事ができ、最近はたいほうと共に食べられる野草を探すのが趣味になっている




照月…妹系駆逐艦

はまかぜとドッコイドッコイのプロポーションを持つ、秋月の妹

きそと同じ位の身長だが、出る所は出ている

襲われた事により男性恐怖症になっていたが、レイのお陰で、レイとパパには好意を向ける様になる

基地に来てから本を読むのが趣味になり、たいほう達に読み聞かせをしたりしている

襲われた後、傷やその他の処置は明石がしっかり行った為、これ以上の心配は無い

照月が持っている長10cm砲ちゃんは自立起動可能


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61話 素直になれない姫君

さて、60話が終わりました

今回のお話は、みんな大好きハンマー榛名のお話です

前回のお話で、何故か大人しかった理由が明らかになります


スティングレイと横須賀基地で暴れる数日前の単冠湾基地…

 

「提督」

 

「ん⁇」

 

「榛名は提督の所に生まれて幸せダズルよ」

 

「榛名⁇」

 

「それだけは忘れないで欲しいダズル」

 

「榛名‼︎」

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

夢か…

 

「うるさいダズル」

 

どうやら執務中に寝てしまったみたいだ

 

「あぁ…ごめんごめん…」

 

「執務中に寝るとは、良い身分ダズルな」

 

「…」

 

変な夢を見た所為で、榛名に逆らえない

 

いつもなら、少し強気で言い返してる所なのに…

 

僕は棚に書類を整理している、後ろ姿の榛名を見つめた

 

「何ダズル。榛名を見つめて」

 

後ろ姿でも気配を察知された‼︎

 

「榛名はさ…僕の所に生まれて幸せか⁇」

 

「幸せダズルよ⁇」

 

答えは一瞬で返って来た

 

「…何か理由でもあるの⁇」

 

「好きな人の傍に居れるのは幸せダズル」

 

榛名は平然とした顔で言い張る

 

どうも夢では無い

 

「好きな人って、僕の事⁇」

 

「他に誰がいるダズル」

 

どうやら本気の様だ

 

この間も、榛名は此方に振り向かずに書類を整理している

 

「何で僕に惚れたの⁇」

 

「あれだけ普段からハンマー振り回しても、提督はいつも最後まで付き合ってくれるダズル。提督は榛名を見捨てた事が無いダズル」

 

「まぁ…初めての艦娘だからね」

 

「それにな。提督の背中を見てると、いつも申し訳無い気分になるダズル」

 

「あぁ…気にしないでいいよ」

 

 

 

僕の背中には、大きな傷がある

 

まだ提督になりかけの頃、この基地は建設の最終段階だった

 

その時運悪く落ちて来た鉄骨から榛名を庇った時に付いたのだ

 

 

 

 

「榛名がハンマー振り回さなかったら、ケッコンしてくれてたダズルか⁇」

 

「いや、しない」

 

「言う事は言うダズルな」

 

「榛名とはケッコン”カッコカリ”なんてしない」

 

「そこまで言われると一発やりたくなるダズルな」

 

僕は机を叩いて立ち上がった

 

「榛名と”カッコカリ”なんて嫌だって言ったんだ‼︎」

 

「そんなに怒らなくてもいいダズル。若いのに血圧上がるダズル」

 

「榛名‼︎」

 

「何ダズル⁇」

 

この事は最後まで言わないつもりだったが、ここまで来たら言ってしまおう

 

「僕は香取先生とケッコンした。だけどあれは”カッコカリ”だ‼︎」

 

「提督は戦争が終わっても香取と仲良く暮らすダズル」

 

「…僕が何で香取先生とケッコンしたか分かるか⁇」

 

「そりゃあ決まってるダズル。相思相愛だからダズル」

 

「香取先生は…僕に気は無い」

 

「…それは初耳ダズル」

 

「香取先生は年上が好みだ。年下の僕は眼中に無い。未だに生徒扱いだ」

 

「じゃあ何でケッコンしたダズル」

 

「榛名がハンマーばっか振り回すからだよ‼︎チョットは反省するかと思ったら逆効果だったんだよ‼︎」

 

「そりゃあ好きな人を取られたらそうなるダズル」

 

「それで香取先生と相談して、ケッコンする事にしたんだ。ホントに”カリ”だけどな‼︎」

 

「キスしてたダズル」

 

「榛名‼︎」

 

終始後ろ姿だった榛名の肩を掴み、振り向かせた

 

「榛名…」

 

榛名は泣いていた

 

だからずっと後ろ姿しか見せなかったのか…

 

「僕が初めてキスしたのは榛名なんだ‼︎それ以外はいないよ‼︎」

 

「嘘嘘‼︎嘘ダズル‼︎執務室でたまにしてたダズル‼︎」

 

「顔近付けてただけだ‼︎香取先生の悪い癖だ‼︎」

 

「じゃあケッコン式はどう説明するダズル‼︎」

 

「…よし、分かった」

 

僕はスクリーンを降ろし、映写機を出した

 

”三基地合同ケッコン式”と書かれたフィルムを取り出し、セットする

 

「嫌味ったらしく見せるつもりダズルか⁇」

 

「黙って見てなさい」

 

僕達の番が来た

 

「おい。香取のケープを何故どかさないダズル」

 

「してないからだよ‼︎」

 

映写機を止めると、榛名は何故かハンマーを握っていた

 

どうやら映写機を叩き割ろうとしていた様だ

 

「榛名が間違っていたダズルか…」

 

「今、榛名は全部を知って、それでも僕をハンマーで叩くなら叩くといい」

 

「そんな事しないダズル」

 

榛名はハンマーを床に落とした

 

「あらあら。ほほぅ⁇これは…」

 

「香取先生…」

 

いつの間にか香取先生が居た

 

「ワンちゃん⁇ついに返す時が来ましたね⁇」

 

「はい。香取先生」

 

「いいですか、榛名さん」

 

「何ダズル」

 

「これから先、ワンちゃんに暴力を振るってはいけませんよ⁇」

 

「余程の事が無い限りしないダズル」

 

「では…これはお返しします」

 

香取先生は手袋を取り、指輪を外した

 

「ワンちゃん⁇先生、結構楽しかったですよ⁇」

 

香取先生から指輪を受け取り、握り締める

 

「でも、年下には興味無し、ですよね⁇」

 

「どうしても生徒としか見れないの…ごめんなさいね⁇」

 

現に”ワンちゃん”と呼ばれている位だ

 

生徒、もしくは子供にしか見られていない

 

別に香取先生が嫌いになった訳ではない

 

だけど、榛名はずっと僕に愛を向けてくれていてくれた

 

何だかんだで、三食美味しい料理を作ってくれたり…

 

さっきみたいに整理整頓も上手だ

 

資源に困った時は、内緒で横須賀さんや大佐から貰って来たり…

 

眠れない夜は、ずっと横に居てくれる…

 

ハンマーで叩かれる時もあるが、他の行為でチャラになっていた

 

ハンマーで叩かれても、バケツで治る事も分かった今、半殺しまでなら耐えられる自信がある

 

殴られ続けて、体力が付いたみたいだからね

 

「榛名」

 

「う…」

 

「今更嫌とは言わせないよ⁇」

 

「香取。貴様はいいダズルか⁉︎提督はいい奴ダズル。榛名みたいな奴でも、全部受け止めてくれる最高の男ダズル‼︎」

 

「そんな貴女だからこそ、彼と番になって欲しいのですよ。貴女はそこまで彼を愛せる女性なのですから‼︎」

 

榛名は涙を拭き、勢いよく指輪を取った

 

「提督。覚悟するダズル。戦争が終わっても、榛名は提督の傍に居てやるダズルからな‼︎」

 

「こちらこそ、宜しくね‼︎」

 

「し…知らんダズルからな‼︎」

 

榛名は指輪を嵌めた

 

カッコカリのケッコンではなく、本物の結婚をした提督と艦娘が、ひっそりと誕生した

 

この事実が全体に知れ渡るのは、かなり先の話になる

 

だが、香取とケッコンしていないのは、パパ達反対派メンバーは全員知っていた

 

事実上は、香取とケッコンしたまま、榛名とワンコはひっそりと結ばれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどな…それでやたらと大人しかったのか‼︎」

 

横須賀の事件から数日後、新しく出来た艤装を持って来たレイは、いち早く榛名の指輪に気が付いていた

 

「もう基地内でハンマーは振り回さないダズル」

 

ワンコの横にチョコンと座っている榛名は、ハンマーを持っていない

 

何か新鮮だ

 

「艤装は正規品を装備するのか⁇するなら造ってやるぞ⁇」

 

「戦闘に飛び道具は卑怯ダズル。これからも戦闘はハンマーで行くダズル」

 

榛名自身の騎士道精神の一つだ

 

無下に否定する訳にもいかない

 

結婚してからも、戦果は相変わらずらしいからな

 

「そっか…まっ、お前がそれならそれでいいだろう‼︎」

 

「だがな…」

 

榛名の目付きが変わった

 

「げっ…」

 

「貴様は例外ダズル‼︎さぁ、新型ハンマー”れいもんど”の餌食になるダズル‼︎」

 

「レイさん‼︎逃げて‼︎」

 

ハンマーを構えた榛名を見て、扉に向かって走った

 

「ははははは‼︎結婚した榛名は打撃力3倍‼︎スピードは4倍‼︎耐久力に至っては5倍ダズル‼︎」

 

「ちょちょちょ嘘だろ⁉︎」

 

「逃げ道は無いダズル‼︎」

 

「変わってねぇじゃねぇか‼︎ワンコのバカヤロー‼︎うわぁぁぁあ‼︎」

 

榛名のハンマーがクリーンヒット‼︎

 

俺は遥か彼方に飛んで行った

 

「ホームランダズル‼︎」

 

「榛名‼︎」

 

「ひっ…」

 

「相変わらずレイさんを見ると叩く癖は直って無いなぁ…ほら、コレ持って謝って来なさい‼︎」

 

「う〜…分かったダズル。旦那の言う事は最優先ダズル」

 

ワンコから嫌々バケツを受け取り、榛名は港まで飛んで行ったレイの所に向かって行った

 

素直になった榛名を見て、ワンコはうっすらと笑みを浮かべた後、レイに対して物凄く申し訳ない気分になった

 

 

 

 

 

ワンコが榛名と結婚しました‼︎

 

香取が単冠湾基地所属、新入生担当艦になりました‼︎



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62話 妹達への贈り物(1)

さて、61話が終わりました

今回のお話は、照月秋月の艤装のお話です

ちょろっときそも出てきます


照月と秋月が基地に来た

 

俺の艦隊に入ったのは照月だ

 

新艦の子には、その子専用の艤装をプレゼントするのが俺の流儀だ

 

今回は照月の生活に密着して、何かヒントを得よう

 

 

 

朝…

 

食堂にみんなが集まる

 

たいほうに前掛けをかけながら、チラチラ照月の方を見る

 

「いただきま〜す‼︎」

 

照月は目玉焼きを箸で掴み、そのまま切らずに口にした

 

しかも、箸の持ち方がおかしい

 

Uちゃんが色鉛筆を持つ時と同じ持ち方だ

 

もしかして…

 

「照月。こっちの方がいいか⁇」

 

「うんっ‼︎そっちの方がいい‼︎」

 

たいほうがいつも使っている、プラスチックのスプーンとフォークを手渡すと、ちゃんと食べ始めた

 

箸が持てない訳ではないが、こっちの方が食べやすそうだ

 

「なるべく簡素な物…と」

 

 

 

朝食を食べ終えると、昼食まで自由時間だ

 

まっ、この基地は食事以外は自由時間みたいなものだけどな

 

照月は食堂を出て、長10cm砲ちゃんと工廠の裏に向かった

 

俺は工廠に入り、適当に置いてあった設計図で顔を隠しながら、裏にいる照月を見ていた

 

特に何かする訳でもなく、防波堤に足を降ろしてプラプラしている

 

「レイ、見て‼︎」

 

きそに呼ばれてフィリップに乗ると、モニターに照月が映し出されていた

 

「照月の様子を見てるんでしょ⁇フィリップのモニターに映せる様に設定しておいたから、気になったらコレを見て⁇」

 

「参ったな…お前にゃバレバレか」

 

「レイの考えはお見通しだよっ‼︎」

 

にひひ、と、きそが笑う

 

きその頭を撫でながら、モニターを見る

 

モニターの向こうで、照月が口を開けて、嬉しそうに空を眺めている

 

横には長10cm砲ちゃんがいる

 

「上を向いたら、口が開く…と」

 

 

 

昼…

 

鹿島が持って来たサンドイッチを食べながら、きそと共に工廠の屋根の上のレーダーの調整をしていた

 

きそは機械に詳しく、助手の様な感じで、最近は整備に付き合ってくれる

 

「よしっ。あらかたオーケーだな‼︎」

 

「お兄ちゃ〜ん‼︎」

 

下で照月が呼んでいる

 

「上だ上‼︎どうした⁉︎」

 

照月は口を開けながら上を向いた

 

「ラムネ貰って来ました‼︎」

 

「よし、降りるよ‼︎」

 

ハシゴに手をかけようとした時、きそが話しかけて来た

 

「ホントに口開くね‼︎」

 

「ま、可愛いからいいんじゃないか⁇」

 

「レイ、最近お父さんみたいだね」

 

「元々貫禄あるだろ⁇」

 

「まぁね‼︎」

 

下に降りると、照月はラムネを三本持っていた

 

「はい、どうぞ〜‼︎」

 

「サンキュー」

 

ビー玉を落とし、ラムネを口にすると、二人が歯を食いしばりながらラムネと格闘していた

 

「んぎぎぎ‼︎」

 

「んぐぐぐ‼︎」

 

「…何やってんだ⁇」

 

「開かないんだ…」

 

「固い…」

 

二人はラムネの口を、ペットボトルのキャップを外す様な動作で開けようとしていた

 

「違う違う‼︎コレを使うんだ‼︎」

 

ビー玉を落とす為のプラスチックを手渡し、レクチャーして見せた

 

「ぐぬぬぬ…」

 

「ん〜〜〜っ‼︎」

 

どう足掻いても、二人のラムネは開かない

 

「ほれ、貸してみ⁇」

 

二人のラムネを受け取り、いとも簡単にビー玉を落とした

 

「凄い‼︎」

 

「ありがとう‼︎」



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62話 妹達への贈り物(2)

工廠の裏に向かい、そこに二人を座らせて、ラムネを飲ませた

 

二人共、手が小さいので両手でラムネを持って飲んでいる

 

「力の要らない、小型の艤装…っと」

 

ラムネを飲みながら、メモを書き進めて行く

 

「そういや、最近宝石見付かってねぇな…」

 

「宝石⁇」

 

興味を示した照月に、きそが説明する

 

「ちょくちょくあるんだ。この前もたいほうちゃんと砂浜で遊んでたら、ビー玉みたいなルビーが出てきたんだ‼︎ホラっ‼︎」

 

きそはポケットからルビーを出して、照月に見せた

 

「ほへ〜…」

 

「照月にあげる‼︎」

 

「いいんですか⁉︎」

 

「うんっ‼︎ラバウルにいるアレンって人にお願いすれば、アクセサリーにしてくれるよ‼︎」

 

照月は口を開けて喜んでいる

 

嬉しくても口が開くのか‼︎

 

「じゃあ、僕は食堂にいるよ。何かあったら呼んでね‼︎」

 

「おう」

 

きそが去り、照月と二人きりにされた

 

「まぁ…あれだ。きそと仲良くやってやってくれ」

 

「きそちゃん、いい子ですよね‼︎」

 

「あいつは、ここの基地じゃ照月と秋月の次に新参なんだ。まだ不慣れな事も多い」

 

「大丈夫‼︎照月に任せて‼︎」

 

ガッツポーズをする照月を見て、少しホッとした

 

小柄なのに、ガッツはあるみたいだ

 

「さてっ‼︎俺はしばらく工廠にこもるよ。企業秘密だから、誰も入れるなよ⁉︎」

 

「うんっ‼︎分かった‼︎」

 

工廠に入っても、窓から照月の姿は見えた

 

しばらくラムネを飲んだ後、照月は基地の中に入って行った

 

「さてっ…」

 

適当に書いたメモを、机の上に放り、椅子に座る

 

・簡単に使える

 

・上を向くと口が開く

 

・小型軽量化

 

尚且つ高性能…と、なると、かなり難しくなるが、一つだけ思い当たる節があった

 

「…やってみるか」

 

眼鏡を掛け、作業に取り掛かった

 

 

 

 

夕方…

 

「まっ、こんなもんだろ」

 

工廠のド真ん中には、2つの艤装が置かれており、その後ろには、専用の弾と弾薬パックが置かれている

 

片方は照月

 

もう片方は秋月の為の物だ

 

”えらいちっさいな”

 

「駆逐艦が使うんだ。これ位が丁度いい」

 

”長10cm砲ちゃんのもあるんか⁇”

 

「あるぞ。二人を呼んで来てくれ」

 

”アイアイサー‼︎”

 

数分後、数人の妖精が二人を連れて戻って来た

 

入って来た途端に、俺は開口一番にこう言った

 

「長10cm砲ちゃんを貸してくれ」

 

「はい‼︎」

 

「どうぞ‼︎」

 

案外潔く長10cm砲ちゃんを貸してくれた

 

各々の長10cm砲ちゃんを受け取り、内部を開ける

 

「新しいシステムに切り替える」

 

「はぇ〜…こうなってるんだ〜…」

 

口を開けて驚いているのは…秋月だ‼︎

 

…姉妹って似るんだな

 

「よし、出来た‼︎じゃ、二人に艤装をあげよう‼︎」

 

「艤装⁉︎」

 

「君達二人の弱点は火力の無さだ。それを補う為、対空性能を生かしたまま、火力を底上げ出来る専用装備だ」

 

「これ、ですか⁉︎」

 

「右手、出して」

 

まずは照月の右手に艤装を付けた

 

俺が造ったのは、手の甲に巻き付けるタイプの小型主砲だ

 

「軽いです‼︎」

 

「あ、秋月にもお願いします‼︎」

 

「よしよし」

 

秋月の右手にも、艤装を付ける



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62話 妹達への贈り物(3)

「手元の引き金を引けば、弾が出る」

 

そう言われ、照月は引き金に指を掛けた

 

「待て待て‼︎試射は後だ‼︎そんで、コレを腰に巻く」

 

二人の腰に、弾薬パックを巻いて行く

 

二人共腰がくびれてはいるが、ベルトを巻きながらでも柔らかさは伝わって来た

 

「この弾薬パックがあれば、しばらく弾切れの心配は無い」

 

「これも軽いです‼︎」

 

照月がピョンピョン跳ねても、全くズレずにいる

 

強度は良いみたいだ

 

「仕上げは…こいつだ」

 

二人の元に、長10cm砲ちゃんを返した

 

「長10cm砲ちゃん⁇」

 

「長10cm砲ちゃんには、敵味方識別システムと、敵追尾システムを組み込んだ。コレで誤射は一切無くなるし、主砲が格段に当てやすくなる」

 

「お兄ちゃん凄いね‼︎」

 

「えぇ…ですが、こんな上等な艤装、頂いても良いので⁇」

 

「二人にしか使えない。まっ、試射してから色々言ってくれ。フィリップ‼︎」

 

《はいはい》

 

いつの間にかきそはフィリップに入っていた

 

「的を出してくれ」

 

《オーケー。じゃ、みんな外に出て‼︎》

 

三人外に出ると、海上に的が出されていた

 

「あの的を撃ち抜いてくれ」

 

「はいっ‼︎」

 

まずは照月

 

この艤装は音が小さく、反動も少ない

 

だが、威力は高くしてある

 

「わぁ‼︎」

 

照月の撃った弾は、的を粉々にした

 

「秋月」

 

「はっ‼︎」

 

秋月の撃った弾も、的を粉々にする

 

「凄い威力…」

 

「信管を特殊な物にしてある。ある程度距離が離れていても、相手にダメージを与えられる。それとな…」

 

照月の手を取り、俺に銃口を向けさせた

 

「お、お兄ちゃん⁉︎危な…‼︎」

 

照月が反発する前に、俺は無理矢理引き金を引いた

 

だが、弾は出ない

 

「味方には撃てない」

 

「も…もう‼︎ビックリさせないでよ‼︎」

 

照月がポカポカと叩いて来た

 

「まっ。どう使うかは君達次第だ」

 

「ありがとう‼︎お兄ちゃん‼︎」

 

「ありがとうございます‼︎レイさん‼︎」

 

「秋月も”お兄ちゃん”でいいぞ⁇」

 

と、冗談で言ってみた

 

「…兄さん‼︎」

 

「フッ…それでいい」

 

カッコつけて言うが、鼻に違和感を感じた

 

「お兄ちゃん‼︎鼻血鼻血‼︎」

 

「おっ⁉︎」

 

どうやら、俺は”お兄ちゃん系”で呼ばれるのが嬉しいみたいだ

 

その後、照月にハンカチで抑えて貰い、何とか事無きを得た

 

 

 

 

 

 

艤装を貰って、レイが去った後、照月はまた防波堤で口を開けて空を見ていた

 

「長10cm砲ちゃん。お兄ちゃんは凄いね⁉︎」

 

長10cm砲ちゃんは、照月を見て頷く

 

照月は長10cm砲ちゃんを撫で、抱き上げる

 

「お兄ちゃん…」

 

照月は夕日と同じ様に頬を染めていた



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63話 ラスト・ヒロイン(1)

さて、62話が終わりました

今回のお話は、リクエストを頂いたとある艦娘のお話です

それと、色々暴露もあります


「隊長、行って来ます」

 

「行ってらっしゃい‼︎ミハイルに宜しくな⁇」

 

「いざとなったら、色気で落として来い‼︎俺と違って、色仕掛けは効果抜群だ‼︎」

 

「色仕掛けする」

 

毎回毎回要らない事を言うレイを軽くいなし、意気揚々とグラーフが乗ったスペンサーが飛び立つ

 

グラーフは、以前ミハイルと約束した本土でデートをする

 

基地では、相変わらずガキの二人が心配半分、面白半分で、執務室から空を眺めていた

 

「グラーフは抱き心地良いからな…そろそろミハイルも煩悩に負けんじゃねぇか⁇」

 

「抜けてる様に見えて、母性本能に溢れてるからな」

 

《聞こえてるぞ‼︎》

 

思いっきり会話内容がバレていた‼︎

 

「カッコいいよな‼︎グラーフって‼︎」

 

「機体に乗ると一層凛々しくなるな‼︎」

 

《フッ…宜しい。ここから先は私一人で大丈夫だ》

 

「邪魔はしないよ」

 

「じゃあな〜」

 

無線を切り、二人でため息を吐く

 

「何でグラーフは戦闘機に乗ると性格キツくなるんだ⁉︎」

 

「気圧でやられてるのか⁉︎」

 

二人のグラーフに対する疑問は絶えない…

 

 

 

 

「着いた」

 

スペンサーが横須賀基地に着いた

 

《今日は一層美しく見えます》

 

「そう⁇綺麗⁇」

 

グラーフはスペンサーの前で、クルッと一回転する

 

いつもの服ではなく、今日はグレーのワンピースを着ている

 

《貴女はいつも美しいです》

 

「スペンサー、白雪姫の魔女みたい」

 

《毒リンゴはあげませんよ》

 

「お留守番、お願いね⁇」

 

《畏まりました》

 

フィリップが子供っぽく、天真爛漫な性格をしているのとは間逆で、スペンサーはいつも紳士的な対応をする

 

待ち合わせ場所は、横須賀基地の工廠前

 

そこは広場になっており、時々艦娘達が遊んでいる

 

「ん〜…」

 

グラーフは二時間も前に待ち合わせ場所に着いていた

 

暇なので、少しだけその辺を探索する事にした

 

「あ」

 

施設の中から、スーツでピシッと決まった、厳つい初老の男性が出て来た

 

「ご機嫌よう、総理さん」

 

出て来たのは、いつかの総理大臣だった

 

「おや…君は大佐の所の…グラーフだったかな⁇」

 

「そうです。視察ですか⁇」

 

「そう。色んな人とのコミュニケーションは大切だ。今日は一人か⁇」

 

「デートです。息抜きします」

 

「君達はもっと息抜きしなさい。いつも国を護ってくれているのだから」

 

話せば話す程、パパとレイがこの人に着いたのが分かる気がする

 

ふと目線を下に落とすと、総理大臣の手には、小さな手が握られている

 

「こんにちは、ぐらーふさん‼︎」

 

「あら、小さい」

 

グラーフは膝を折り、総理に付いている女の子に目線を合わせた

 

「お名前は⁇」

 

「ふみつきっていうの‼︎おとーさんのようじょなんだよ‼︎」

 

グラーフが一瞬だけ総理に顔を戻すと、デレデレの顔をしていた

 

「幼女の養女…ふふふ」

 

グラーフは案外オヤジギャクに弱い

 

「息子も少し前にケッコンしてね…老いぼれの最後の楽しみさ…よいしょ」

 

総理はふみつきを抱き上げ、頬にキスをする

 

ふみつきは嬉しそうだ

 

「レイに礼を言っておいてくれ。彼女を救ってくれて、ありがとう、と」

 

「畏まりました」

 

頭を下げるグラーフだが、笑いが込み上げて来ている

 

(レイに礼…ふふふ)

 

だが、頭を上げるといつものグラーフ

 

精神力でねじ伏せているが、次来たらヤバい

 

「あら、グラーフ‼︎」

 

「ジェミニ」

 

横須賀は、グラーフだけはジェミニと呼ぶのを許している

 

理由は分からないが、恐らく互いが女同士の同僚だからだろう



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63話 ラスト・ヒロイン(2)

「では、私達はこれで。横須賀君、任せたよ。グラーフ、デート頑張ってね⁇さぁ‼︎文月‼︎お父さんとご飯食べに行こっか‼︎」

 

「やったぁ‼︎」

 

総理は去り際、超☆子煩悩っぷりを見せた

 

「まさか総理が文月を引き取るとはね…」

 

「総理、息子いるの⁇」

 

「えぇ。総理の息子なのに、コネや裏口を全く使わず、自分の力で入隊した、とても立派な軍人よ⁇総理と良く似てるわ。顔も性格も。裏表も無いし、人の話を聞いて、意見を出す所とか特に」

 

「最近、ケッコンしたって言ってた」

 

「そう言えばしてたわね…」

 

「横須賀さん」

 

話していたら、横須賀の背後に誰か現れた

 

「これ、頼まれてた軍規違反の処分の結果書です」

 

呉さんだ

 

相変わらず強面だ

 

「いつも悪いわね…」

 

すると、呉さんは気まずそうな顔をした

 

「全員、トラック送りです…」

 

「あぁ…まぁ、仕方ないわね…」

 

「生きては帰れませんよ。では、隼鷹と繁華街で待ち合わせがあるので」

 

「ごめんなさいね、忙しいのに」

 

呉さんは自身の帽子のつばを触り、その場を後にした

 

「噂の彼よ…」

 

「呉さんが⁇」

 

流石のグラーフも驚きを隠せない

 

まさか、総理と呉さんが親子だったなんて…

 

でも、言われてみれば似ている気がする

 

「グラーフ‼︎」

 

「ミハイル‼︎」

 

グラーフの顔が、パァッと明るくなる

 

恋する乙女の顔だ

 

「ジェミニ、行ってくる」

 

「行ってらっしゃい‼︎」

 

 

 

 

二人は繁華街に来た

 

「何食べたい⁇」

 

そう切り出したのはグラーフの方だ

 

「そうだなぁ…あれなんてどうかな⁇」

 

ミハイルが指差す先には、串に刺した肉が売っている

 

「食べ歩きにする⁇」

 

「それもいいね‼︎そうしよう‼︎」

 

出店の前に立ち、グラーフが注文する

 

「二本下さい」

 

「了解‼︎ちょっと待ってね‼︎」

 

店員は、いつの間にか恋人繋ぎをしていた二人の手を見た

 

「いいカップルじゃない‼︎」

 

「ホント⁇ありがとう」

 

「ありがとうございます」

 

「私も欲しいな〜…いい相手居ないかしら…」

 

不信に思ったグラーフは、看板の名前を見てみた

 

”神戸牛串・足柄屋”

 

「はい‼︎出来上がり‼︎熱いから冷まして食べてね‼︎」

 

「ありがとう」

 

互いに一本ずつ受け取り、近くのベンチに座り、少し冷ましてから口に入れた

 

「美味しい…」

 

「うまいな…」

 

店員に対して不信感は否めなかったが、肉は絶品だった

 

「甘いの食べたい」

 

美味しかったが、味の濃い物を食べた後は、甘い物が食べたくなるのはグラーフの癖だ

 

毎食後、軽いデザートをいつも食べているが太らない

 

…何処に行ってるかは、もう言わない

 

「この前ここに来た時、凄い美味しいプリンを売ってる子がいたんだ‼︎」

 

「プリン食べたい」

 

「行こっか‼︎」

 

「うん」

 

しばらく歩くと、瑞鳳がいた

 

「プリン美味しいですよ〜‼︎卵焼き焼き過ぎて最近飽きて、プリン売ってますよ〜‼︎卵焼きも焼きますよ〜‼︎」

 

だが、ちゃんとコンロとフライパンはある

 

「瑞鳳」

 

「あ‼︎グラーフさん‼︎デートですか⁉︎」

 

「そう。ドイツ海軍のミハイルさん」



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63話 ラスト・ヒロイン(3)

「こんにちは、ミハイルさん‼︎」

 

「こんにちは。プリン二つ貰えるかい⁇」

 

「はいっ、どうぞ〜‼︎」

 

瑞鳳が売っている、このプリンの商品名は”50円プリン”

 

最近、横須賀繁華街で有名なスイーツだ

 

手の平サイズの小さな容器にプリンが入っており、二口三口で食べられる手軽さと、その安さが売りだ

 

栄養豊富で、赤ちゃんのデザートにも向いている

 

「Uちゃんが好きそう」

 

「生菓子だから、ここでしか食べられないのが難点だね…」

 

「ごちそうさま」

 

「美味しかったよ」

 

「また来て下さいね⁉︎」

 

瑞鳳と別れ、しばらく食べ歩きをした後、繁華街を離れた

 

海の見える階段で二人は腰を下ろし、胃を休める

 

「ミハイル」

 

「ん⁇」

 

「戦争が終わったら、Uちゃんと暮らすの⁇」

 

「そうだなぁ…私が居なくなったら、Uはひとりぼっちだからな…」

 

「ミハイルとケッコンしたら、グラーフ、Uちゃんのお母さんになれる⁇」

 

「なれるさ‼︎私もそう願ってる‼︎」

 

「絶対、グラーフを裏切らない⁇」

 

「絶対しない」

 

「約束する⁇」

 

「約束する」

 

ミハイルの言動と目の本気さを見て、グラーフはポケットから何かを取り出した

 

「戦争が終わったら、これをグラーフに渡して欲しい」

 

取り出したのは、ケッコン指輪だ

 

プロポーズはグラーフからした

 

「男のメンツ、潰した⁇」

 

「ううん。こういうのもありだね‼︎分かった‼︎じゃあ、私からはこれを」

 

ミハイルは鞄から箱を取り出した

 

「開けてみて⁇」

 

言われるがまま箱を開けると、中には新しいウエストポーチが入っていた

 

「向こうで流行っててね。使い勝手がいいらしいんだ」

 

「ありがとう…嬉しい‼︎」

 

ミハイルと居ると、グラーフはどんどん女になる

 

「私はこれからしばらく、各基地を渡らなきゃいけない」

 

「今度はグラーフが逢いに行く」

 

「分かった。楽しみにしてるよ…」

 

二人は自然とキスをする

 

しばらくして離れ、軽く口付けをし、ミハイルは横須賀を去った

 

少し寂しくなったグラーフは、繁華街に戻って来た

 

和菓子屋の外で、文月と総理が楽しそうに団子を食べている

 

そんな二人を見て、ふと自分とUちゃんを重ね合わせた

 

グラーフはほんの少しだけ、微笑んだ後、基地に戻る為にスペンサーに乗った

 

《楽しかった様で》

 

「プロポーズしたよ」

 

《女性から…ですか。まぁ、それも斬新で良いでしょう》

 

「帰ろう」

 

《了解しました》

 

 

 

 

 

基地に帰ると、レイがソワソワしていた

 

「ただいま」

 

「おめでとう‼︎」

 

相変わらずのドンドンパフパフ状態

 

「さっきミハイルから電話があった‼︎プロポーズしたんだって⁉︎」

 

「うんっ…グラーフからしたの」

 

グラーフは照れ臭さそうにしている

 

普段、二人には見せない表情だ

 

「斬新で宜しい‼︎はぁ〜‼︎これでツレは全員ケッコンかぁ〜‼︎」

 

「良かったな、レイ‼︎」

 

「おぅ‼︎今日は宴だぜ‼︎」

 

グラーフがヒロインの時間は終わり、今度は嫁として生まれ変わった日を記念して、基地は一晩中騒がしいムードに包まれた

 

 

 

 

 

グラーフとミハイルがコン約しました‼︎



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64話 ラスト・ヒロイン番外編 家族団欒(1)

さて、63話が終わりました

今回のお話は、前回の番外編になります

繋がってなさそうで繋がってます

呉さんの下の名前も分かります


グラーフ達と別れた後、総理と文月は繁華街に向かい、二人は瑞雲に入って行った

 

奥の隅っこの席に予約を入れている様で、そこに文月と共に座る

 

座ると同時に、総理は文月の手を握った

 

「文月〜⁇もうすぐ”清政お兄ちゃん”が来るから、お父さんとぉ、椅子に座ってじっとしてような〜⁇」

 

側から見ても、どう見ても、おじいちゃんと孫の会話風景である

 

「うんっ‼︎おとーさんとおそとでごはん、ひさしぶりだね‼︎」

 

「ここの蟹は美味しいぞ〜⁇」

 

「父さん‼︎」

 

「来た来た‼︎」

 

総理は手を離し、デレデレの顔を戻し、入って来た二人を睨んだ

 

「座れ」

 

「失礼します」

 

「し…失礼します…」

 

キレのある動きで椅子に座るのは、清政こと呉さんだ

 

ガチガチの動きで椅子に座るのは隼鷹だ

 

いつもの服では無く、今日は綺麗な服を着こなしている

 

「すまんな。中々時間が取れなくて」

 

「いえ。ありがとうございます」

 

「でた、清政。横の女性が妻か⁇」

 

「そうです。隼鷹と言います」

 

「隼鷹です。いつも御子息様にお世話になっております」

 

隼鷹がいつもと違う

 

まるで、何処かのお姫様の様な対応をしている

 

人はここまで変わるのか…

 

「此方こそ、ボンクラを貰って頂き、誠にありがとうございます」

 

隼鷹と総理が、互いに頭を下げる

 

文月も同時に頭を下げている

 

「父さん‼︎」

 

「清政。私は、昔からお前が言う事を聞かないのを知っている。そんなお前の面倒を見てくれるんだ…隼鷹さん、これからこいつは、貴方には苦労を掛けます…」

 

「大丈夫です、お父様。この隼鷹、死するまで彼のお供を致します」

 

”だらしない”を絵に描いたような隼鷹だが、今日ばかりは輝いて見える

 

「とにかく、私は結婚には大賛成だ‼︎」

 

「ありがとう、父さん‼︎」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「でだ。文月の事は言わずもがな…かな⁇」

 

「えぇ。勿論‼︎」

 

「お前の妹だぞ、清政」

 

「きよまさおにーちゃん‼︎」

 

「父さんの事、頼むぞ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「さっ‼︎食おうか‼︎」

 

頃合いに出来た蟹鍋を、新しい家族が突いて行く

 

「ほ〜ら文月‼︎蟹さんだそ〜‼︎」

 

「かにさんぷりぷりだね‼︎」

 

微笑ましい光景が目の前で行われている

 

しばらくすると、蟹鍋は空になった

 

「おとーさん、たばこは⁇」

 

「文月の前では吸わないよ〜」

 

「父さん。表で吸いましょう」

 

「そうだな。隼鷹さん、少しだけ文月を頼みます」

 

「畏まりました」

 

二人は表に出て、煙草に火を点けた

 

「良い妻じゃないか」

 

「父さんもな」

 

二人きりになると、ようやく元の親子の会話に戻る

 

「どうだ、海軍は」

 

「順風満帆だ。彼等に付いて良かったよ」

 

「私は彼等に何度も助けられている。彼等に何かあったら、護ってやってくれ。精々、私に出来る恩返しは、円卓で彼等の背中押しをする位しか出来ん。現場では、お前が返してくれ」

 

「勿論さ。俺も助けられてる。父さんはどうなんだ⁇文月との生活は」

 

呉さんがそう言うと、総理は”待ってました”と言わんばかりにスマホを取り出した

 

待ち受けの時点で文月とのツーショットだ

 

「見ろ‼︎これはこの前の伊勢志摩サミットの時の帰りに行った水族館で一緒に撮った写真だ‼︎これは広島の…」

 

この溺愛っぷりである

 

最近行われたサミットにも、連れて行った様だ

 

「今回、他の国の首相も子供同伴OKにしてな。そしたらこれが好評でなぁ‼︎文月も楽しかったみたいだ‼︎」

 

「ははは…」

 

返す言葉が無い

 

呉さんは思った

 

人の事を言えないが、顔に似合わない事をするな…と

 

「さぁ、戻ろう。これから文月と繁華街を回った後、遊園地に行くんだ‼︎」

 

「好きにしてくれ…休みなんだろ⁇」

 

「たまには休みも必要さ。ま、もしかしたら週刊誌に載るかもな‼︎ははは‼︎」

 

「はぁ…」

 

元々破天荒な人だとは思っていたが、ここまで溺愛すると、逆に何も言えない

 

それなりの躾はしっかりしている様だし、父さんはいつもガツンと怒らない

 

”失敗を叱っては、人間は絶対伸びない。次の行動が大切なんだ。何度失敗したっていい、前回よりはウンと良い”

 

父さんがいつも言っていた言葉を思い返し、ようやく意味が分かった気がした呉さんだった



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64話 ラスト・ヒロイン番外編 家族団欒(2)

「では、私達はこれで」

 

「表まで送ります」

 

「ダメだ‼︎これから文月とデートだ‼︎ここから先は何人たりとも踏み込んではならん‼︎」

 

「うっ…分かりました」

 

「さ〜文月‼︎お父さんと甘い物食べような〜‼︎」

 

「おだんごおいしそ〜だよ‼︎」

 

「おだんごにしよっか‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

総理が店から出て、ようやく二人が肩を降ろした

 

「ダメだ…早く何とかしないと…」

 

「提督…私、お父様が総理なんて聞いてないぞ⁉︎」

 

「言ったら負けな気がしたんだ。海軍だって、自分の力で入った」

 

「提督といるとさ…少しずつ、色んな事を知れるから楽しいよ」

 

「…今日は飲もうか‼︎」

 

「おっ‼︎良いね‼︎」

 

二人は瑞雲でこれでもかと飲み始めた

 

隼鷹は酒に強いが、呉さんはそれ程でもない

 

だが、今日は飲みに飲んでいた

 

先程の隼鷹の言葉が、余程嬉しかったらしい

 

 

 

一方その頃…

 

「たか〜い‼︎」

 

「お家は見えるかな〜⁇」

 

総理と文月は観覧車の中にいた‼︎

 

「おとーさんは、たかいところすき⁇」

 

「好きだよ〜‼︎普段見れない所も見えるからなぁ〜‼︎」

 

「ふみつきもすき‼︎」

 

「そっかぁ〜‼︎」

 

文月と居ると、日頃の疲れが癒される

 

私の家庭には、娘が居ない

 

清政と言う息子が一人だけだ

 

親が言うのも何だが、清政は良い男として育ってくれた

 

政治家や他人の力を借りず、ただひたすら自分の力だけで、あそこまで登り詰めたのだ

 

そして今、他人の力を借りる事の大切さを学び直している

 

 

 

妻は随分初期の頃に艦隊化計画の実験体となって、行方不明になった

 

いつも私に尽くしてくれた、最高の妻だった

 

家事をする時、いつも橙色の着物を着て、髪を後ろで結っていたのを、今でも覚えている

 

「おとーさん。おかーさんはどんなひとだったの⁇」

 

「ん〜⁇そうだなぁ…文月に少し似てるかなぁ⁇顔も、ちょっとした癖も…髪型も…似てるな…」

 

窓の外を眺める文月を見ると、妻を思い出した

 

自分で言ったはずなのに、確かに似ている

 

髪型は、完全に私の所為だ

 

文月と出逢った頃、毎朝髪を結ってあげていた

 

それが今では、自分で結える様になっている

 

「文月は…お母さん、欲しいか⁇」

 

「ううん‼︎おとーさんがいるからいい‼︎」

 

「文月ぃ〜‼︎」

 

総理は文月を抱き締め、彼女のお腹に顔を埋めた

 

「お父さん、頑張るからなぁ〜‼︎」

 

「ふみつきもがんばる‼︎」

 

「あの〜…」

 

いつの間にか、観覧車が下まで降りており、係員が白い眼で見ている

 

側から見れば、変態である

 

「あ…ゴホン。失礼する」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「バイバ〜イ‼︎」

 

文月は総理と繋いだ手と反対側の手を係員に振った

 

「次は何乗ろっか⁉︎」

 

「おうまさんのりたい‼︎」

 

「よ〜し‼︎」

 

その日、遊園地では年甲斐も無く騒ぐ一人の男性が居ると噂になった

 

 

 

 

 

 

翌日の週刊誌…

 

”激撮‼︎

 

総理大臣が遊園地で幼女と戯れる‼︎”

 

「撮られてんじゃねーか‼︎」

 

そう言って、週刊誌を床に叩き付けた

 

滅多に見せない、呉さん激昂瞬間である

 

「青葉ぁ‼︎」

 

天井のどこからか、カメラを持った女の子が、呉さんの足元に降りて来た

 

「ここに‼︎」

 

「お前か‼︎」

 

週刊誌を指差し、テンションが高まったまま、呉さんは会話を続ける

 

「そうです‼︎」

 

「んんんんん〜‼︎」

 

呉さんはそのまま卒倒した

 

「もう…普段怒らないから、急に怒るとこうなるんですよ…よいしょ」

 

青葉と呼ばれた女の子は、呉さんを起こし、水筒の水を飲ませた

 

「ぷは…青葉のバカ」

 

「悪い事は書いてませんって〜‼︎ホラ‼︎」

 

青葉は週刊誌を拾い、先程のページを開けた

 

「ほら。こんな子供思いの総理大臣になら、国を任せても大丈夫‼︎ってね‼︎」

 

「何だ…良かった…」

 

「でもビックリしました‼︎提督が総理の御子息なんて‼︎」

 

「隠してた訳じゃ無い…」

 

「じゃ、青葉は取材があるので‼︎」

 

青葉はそのまま執務室を出て行った

 

「はぁ…」

 

呉さんはため息を吐いた後、椅子に座って煙草に火を点けた

 

 

 

これはこれで、幸せな鎮守府である



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番外編 男衆争奪戦杯

少し前に、病院でフラフラの状態で書いた、番外編を貼っておきます

フラフラの状態で書いたので、ハイスピードかつ、意味不明な部分があるとは思いますが、番外編なので、本編のストーリーとはあまり関係ありません‼︎

サクッと読んで、本編に期待して下さい。お願いします

でも、久し振りに、とある艦娘が出てくるかも⁉︎




「パパは⁇」

 

「レイもいません‼︎」

 

朝早く、二人が消えた

 

基地内は軽いパニックに陥っていた

 

そんな中、いつも通りの艦娘が一人…

 

「セッツブーン‼︎セッツブーン、ですよ‼︎」

 

プリンツだ

 

プリンツは手に沢山の銃を抱えて現れた

 

「せっつぶーん⁇」

 

たいほうが興味を示した

 

「はいっ、たいほうちゃんはコレね‼︎」

 

プリンツはたいほうにサブマシンガンが手渡した

 

「ぴすとる」

 

「そう‼︎お豆が入ってるの‼︎」

 

プリンツは喋りながらみんなに銃を配る

 

「どうやって造ったのよ…」

 

ローマにはアサルトライフルが渡された

 

「えと…みんなに渡してくれって、レイが言ってたの。あ、そうそう‼︎みんな銃を持ったら、工廠の前に来てくれって‼︎」

 

「全く…レイも兄さんも何始めるつもりよ…」

 

全員銃を持ち、工廠前へと向かう

 

 

 

 

「誰も居ませんねぇ…」

 

「ふはははは‼︎とうっ‼︎」

 

「はっ‼︎」

 

工廠の屋根から高笑いが聞こえ、誰かが降りて来た

 

片方の人は腕を組みながら

 

もう片方の人はウンコ座りで此方を睨んで来た

 

腕を組んでいる人は、赤鬼のお面をし

 

ウンコ座りの人は、青鬼のお面をしている

 

「我は赤鬼‼︎」

 

「我は青鬼‼︎」

 

「パ…」

 

「しっ」

 

たいほうがパパと言いかけたが、プリンツが口を塞いだ

 

「現時刻を持って、豆撒き大会を始める‼︎」

 

「ルールは簡単‼︎2時間以内に逃げ回る我々に豆を100発当てれば退治成功だ‼︎」

 

「我々には”豆カウンター”が付いているから、後何発当てればいいかは、フィリップの下にあるモニターで逐一確認出来るぞ‼︎」

 

「赤鬼、青鬼、それぞれに一番多く豆を当てた人物には、パパとレイ、どちらかに使える、この”一日言う事聞いてやる‼︎券”をプレゼントだ‼︎」

 

「では開始‼︎とうっ‼︎」

 

赤鬼が煙幕を使うと、一瞬でいなくなった

 

「よし‼︎私は赤鬼を追う‼︎」

 

意外にもノッて来たのは武蔵だった

 

「じゃあ私は青鬼‼︎」

 

「しおいは赤鬼い〜こぉっと‼︎」

 

それぞれが分担され、各自鬼を追う

 

 

 

「俺の相手は武蔵かいっ‼︎」

 

「こっちにはローマがいる‼︎」

 

建物の陰から、二人が様子を伺っていた

 

戦艦二人が見事に分担され、子供達を統率している

 

「よし、俺達も分かれよう‼︎俺は一旦屋根に登る‼︎」

 

「よし‼︎私は地上でかく乱しておく‼︎」

 

赤鬼は工廠の屋根に向かい、青鬼は地上で走り回ってかく乱する作戦だ

 

「へへへ…いい眺めだぜ…」

 

屋根の上からは、みんなの様子がよく見えた

 

隊長は建物の間の細い道を走り回り、それぞれを散らばらせている

 

「高みの見物とは、こう言うことだ。なぁ、長10cm砲ちゃ…」

 

照月の長10cm砲ちゃんが、ニヤリと笑った

 

よく見ると、屋根の上には長10cm砲ちゃんが4機配備されていた

 

「やられる前にやるだけだ‼︎」

 

長10cm砲ちゃんから撃ち出される豆をかわしながら、助走を付け、隣の屋根にジャンプした‼︎

 

「ジャン・ピン‼︎」

 

「いた‼︎赤鬼だ‼︎」

 

一瞬でバレ、武蔵の目にとまる

 

「すごいや‼︎白い服着て、手にブレード付けたゲームの主人公みたい‼︎」

 

そして、そのまま二回目のジャンプ‼︎

 

その先の屋根なら、長10cm砲ちゃんがいない

 

ジャンプ寸前、ふと下を見た

 

ニヤリと笑う、三つ編みの少女が、マシンガンを構えている

 

気付いた時には、既に遅し

 

「あ°っ‼︎」

 

100発とは行かないが、数十発の豆が当たる

 

「いたたた…流石は防空駆逐艦だな‼︎」

 

逃げればいいのに、俺は何を思ったのか、屋根の上から仁王立ちで照月を見降ろした

 

「だがな‼︎そんな事では私は倒れっ‼︎」

 

照月のトドメの一撃が、額に当たる

 

「当たった‼︎」

 

だが、まだ100発は行っていないので、赤鬼は倒せていない

 

赤鬼は逃げ出した‼︎

 

 

 

 

「わぁ…ふえてるね」

 

赤鬼討伐班は、一度モニターを見に来ていた

 

最初は100だったカウンターが、ちょっと減っている

 

青鬼…97

 

赤鬼…58

 

「赤鬼が大分撃たれてるな…誰が…」

 

赤鬼に豆を当てたのは、照月の様だ

 

だが、この状態ではまだ褒美は貰えない

 

「よし、私達も行くぞ‼︎」

 

 

 

一方その頃青鬼は…

 

「隠れてたら分からんだろ…」

 

倉庫の隅で体を丸めて隠れていた

 

しばらく隠れていると、倉庫の扉が開き、人が中に入って来た

 

人影は棚を漁り、何かを探している

 

そして、それを食べ始めた‼︎

 

「誰だ‼︎摘み食いしてるのは⁉︎」

 

咄嗟に出てしまった‼︎

 

そして、青鬼は撃たれた‼︎

 

「…勝った‼︎」

 

 

 

 

「青鬼がやられてるわ‼︎」

 

「嘘でしょ⁉︎誰が…」

 

ローマ、霞、れーべ、まっくすが驚いている

 

「とにかく、後は赤鬼だ‼︎」

 

基地の艦娘全員が、赤鬼を捜索し始める

 

 

 

 

「隊長がやられたか…」

 

再び地上に降り、建物の陰に隠れる

 

問題は秋月照月コンビだ

 

命中精度がズバ抜けている

 

ケツを掻きながら、様子を伺う

 

さっきからケツに何かコンコン当たってくすぐったい

 

「豆撒き終了〜‼︎フィリップの前に集まれ〜‼︎」

 

プリンツの声が聞こえた

 

「は⁉︎え⁉︎」

 

「たいほうのかち‼︎」

 

ケツに当たっていたのは、たいほうの豆だった‼︎

 

「たいほうは強いなぁ…よいしょ」

 

たいほうを抱き上げ、工廠の前に戻って来た

 

「では、結果発表を行う‼︎」

 

たいほうを降ろし、まずは銃の回収を行う

 

「我を倒した、優秀なる少女は…たいほう‼︎照月‼︎そなたら二人だ‼︎たいほうには、レイが一日言う事を聞く券をあげよう‼︎」

 

「やったね‼︎」

 

「偉いぞ‼︎たいほう‼︎」

 

武蔵に撫でられ、たいほうは嬉しそうだ

 

「そして、果敢賞として、照月にはこの、レイのデスクに余っていた間宮の券を1束あげよう‼︎レイには内緒だぞ⁇」

 

「わぁ〜‼︎ありがとう、お兄ちゃん‼︎」

 

「し〜っ‼︎」

 

既に全員にバレていて、時既に遅しだが、ここは貫く

 

「次は青鬼‼︎何と90発以上を当てた、果敢な少女は…雲龍‼︎」

 

「いただき」

 

雲龍は眠たそうな表情のまま、隊長が一日言う事を聞く券を貰った

 

「早速使ってみるかい⁉︎」

 

「じゃあ…一晩抱き枕になって貰おうかな」

 

「え⁉︎嘘‼︎ちょっと‼︎誰か‼︎」

 

隊長はお面を付けたまま、基地に引き摺られて行った

 

「…彼は尊い犠牲になったのだ」

 

「まぁ…青鬼はみんなのもの、だからな‼︎」

 

そういう武蔵の顔は、少し綻んでいた

 

普通は怒る所なのに、武蔵はこう言う時、いつも笑う

 

隊長が皆から愛されているから…だろうか⁇

 

 

 

 

 

豆撒きが終わり、一人工廠にいると、たいほうが入って来た

 

「たいほうもつかう‼︎」

 

たいほうは券を俺に渡し、ニコニコしている

 

「お…おぉ…何がしたい⁇」

 

「だっこ‼︎」

 

「へ⁉︎」

 

「だっこして‼︎」

 

「よ、よっしゃ‼︎」

 

たいほうを抱き上げ、窓際に行く

 

「だっこ何かでいいのか⁇」

 

「うん。みんないるから、すてぃんぐれい、さいきんたいほうたかいたかいしてくれないもん」

 

「よし‼︎たかいたかい‼︎」

 

「わ〜‼︎」

 

たいほうは嬉しそうにしている

 

そう言えば、最近たいほうを長時間抱き上げた覚えが無い

 

俺は、初めてたいほうをたかいたかいした時の様に、何度もたいほうの体を高く上げた

 

「他は何がいい⁇」

 

「ん〜…あ‼︎じゃあ、いっしょにねんねして⁇たいほうとだけ‼︎」

 

「よし、分かった‼︎」

 

 

 

その日の夜、たいほうは俺の部屋に来た

 

鹿島もしおいも霞もプリンツも、今日は別の部屋で寝る

 

布団に入ったたいほうの横で、俺はたいほうのお腹を軽く叩き、眠気を促す

 

「隊長じゃなくて良かったのか⁇」

 

「うん…たいほう、すてぃんぐれいがいい…」

 

「どうしてだ⁇」

 

「あのね…パパいそがしいの。たいほう、わがままいえないの。それでね、あのけんつかったら、すてぃんぐれい、いっしょにねんねしてくれるかなって…」

 

「そっか…偉いな、たいほうは…」

 

俺達は、たいほうにこんな事を思わせてたのか…

 

もう少し、行動を変えないとな…

 

しばらくすると、たいほうは眠った

 

俺は約束通り、たいほうの横で一晩過ごした

 

 

 

 

翌日の朝…

 

「隊長が萎びてる…」

 

「絞られた…死ぬ…」

 

「うんりゅうつやつや‼︎」

 

たいほうが指差す先には、肌がツヤツヤの雲龍がいた

 

「久し振りに激しい夜だった。逃げ回る隊長、可愛かった」

 

「提督よ…」

 

「レイ、たいほうありがとうな…」

 

「お…おぉ…寂しがってたぞ⁇」

 

「たまには、一緒にいてやらないとな…」

 

「まぁ…そんな萎びてる体じゃ無理だ‼︎」

 

「もう一絞り、行く⁇」

 

雲龍がニヤリと笑う

 

雲龍は日頃、夜間に偵察機を飛ばす事が多く、夜型人間になっている為、夜戦にも強い

 

「む…無理…」

 

結局その日一日、隊長は干からびたままだった…



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65話 家族のカケラ(1)

さて、64話が終わりました

番外編、如何でしたか⁇

今回のお話は、スカイラグーンから始まります


「お前ら、飯行くぞ」

 

哨戒任務から帰って来た私は、近場で救援任務をして、帰って来た秋月と照月と共にスカイラグーンに向かった

 

「イラッシャイ。ハジメテノコ、ダネ⁇」

 

「あ、秋月と申します‼︎」

 

「照月ですっ‼︎」

 

ル級さんに紹介が終わり、二人は席に着いた

 

「長10cm砲ちゃんが反応しない…味方なのですね⁉︎」

 

「そっ。此処に居る間は、全員が平等になる。深海の子だろうと、人間だろうと、艦娘だろうと、此処ではみんなお客さんだ」

 

「パパ‼︎ソノコハコレデイイカ⁉︎」

 

困った顔でル級さんが持って来たのは、少し大きめの皿に盛られた銃弾の様なお菓子だ

 

「私も食べられるか⁇」

 

「…ヤメタホウガイイカモ」

 

そんな二人をよそに、2匹の長10cm砲ちゃんは、ル級さんの手から皿を取り、美味しそうに食べ始めた

 

「コラッ‼︎ありがとうは⁉︎」

 

照月がそう言うと、長10cm砲ちゃん達は食べる手を止め、ル級さん頭を下げた

 

「キニイッタミタイダナ」

 

「すまんな、気を使わせて」

 

「パパハナニニスル⁇アキヅキチャンモ、テルヅキチャンモ、スキナノエランデネ⁇」

 

「は、はいっ‼︎」

 

「どれにしようかな〜‼︎」

 

レイが言っていた

 

”照月は嬉しい事があると、口が開く”

 

どうやら本当の様だ

 

「たぬきそばにします‼︎」

 

「きつねうどんで‼︎」

 

「私はわらび餅ときな粉で」

 

「カシコマリマシタ‼︎」

 

ル級が厨房に戻ると、陰でレ級がソワソワしていた

 

「どうした⁇」

 

「パパ、ナンポウチャンガネ、サイキンチョウシヨクナイノ」

 

「ほう…あの子が…ちょっと様子を見せてくれるか⁇」

 

「ウン。コッチ」

 

「ル級さん、二人をお願いします‼︎」

 

「マカセテ‼︎」

 

レ級に案内され、個人部屋に来た

 

”南方棲姫”と書かれた部屋をノックし、レ級が扉を開けた

 

中では南方棲姫がベッドで横になっていた

 

「ア…パパ‼︎」

 

私の顔を見た途端張り切る様子を見せる

 

「大丈夫か⁇」

 

「ウン…サイ近、チョット、ドキドキガ止まらナクて…」

 

額に手を当てるが、熱では無さそうだ

 

「ちゃ、わんっ、むし〜‼︎ちゃ、わんっ、むし〜‼︎茶碗蒸し出来てる⁉︎」

 

表で間の抜けた声がする

 

レイだ

 

どうやら昼御飯を食べに来たらしい

 

そうだ‼︎レイなら医療に詳しい‼︎

 

「レ級ちゃん。レイを連れて来てくれないか⁇」

 

「ワカッタ‼︎」

 

レ級が部屋を出てすぐ、南方棲姫が話し掛けて来た

 

「アノね、パパ」

 

「ん⁇」

 

「呉サン、知っテル⁇」

 

「知ってるよ。素晴らしい人だ」

 

「”アノ子”いつも私ニ甘えてクレるの…ソノ時、イツモドキドキする…」

 

「恋か⁇」

 

「違ウ…恋ジャ無いの…」

 

「呼んだか⁉︎」

 

レ級は、口元に茶碗蒸しが付いたレイを連れて来た

 

「ちょっと診てくれないか⁇」

 

「オーケー…」

 

レイは一通り南方棲姫を診た後、此方に振り向いた

 

「グラーフと一緒だ。人間に戻るぞ‼︎」

 

「レイさん…ホント⁇」

 

「ホントだ。呉さん呼んでやるから、しっかり気張れよ⁉︎もう少しだ‼︎」

 

「ウンッ…‼︎」

 

「隊長、此処にスカイラグーン全員呼べるか⁇良い機会だ‼︎」

 

「任せろ‼︎」

 

二人して部屋を出て、私はスカイラグーンに居た、秋月照月含めた全員を、南方棲姫の部屋に集めた

 

「急がずに来てくれ。頼んだ‼︎隊長‼︎呉さんがこっちに来る‼︎」

 

「ありがとう‼︎」

 

「”あの子”ガ…‼︎」

 

「折角だから逢いたいだろ⁇」

 

「はいッ‼︎」

 

南方棲姫の顔が笑顔になった瞬間、顔にヒビが入った

 

深海の子達も、秋月照月も驚いている

 

私とレイは数回目なので、落ち着いて見ていた

 

「ミナさん…ありがとうございます‼︎」

 

 

 

 

 

「南方棲姫さん‼︎」

 

数十分後、呉さんが来た頃には南方棲姫の姿はそこには無かった

 

「どうして…」

 

呉さんは膝を落とした

 

「ははは…」

 

涙が床に落ちて行く

 

「私には母親が居ない…だから、南方棲姫さんは、母親見たいな人だったのに…」

 

「清政…」

 

「はっ…」

 

呉さんの名を呼ぶ、小柄な女性が、彼の背後にいた

 

その顔を見て、呉さんは大粒の涙を流した

 

「か…母さん‼︎」

 

「嘘だろ⁉︎」

 

呉さんは子供の様に、その女性に抱き着いた

 

「ごめんなさいね…お母さん、ちょっと道に迷ってたみたい」

 

「迷いすぎた…父さんがどれだけ心配していたか‼︎」

 

呉さんの身長は、彼女を大きく上回り、若干犯罪臭が漂うレベルだ

 

「清政。母さん、今は”鳳翔”と言う名なの」

 

「そっか…しばらくここにいるのか⁇」

 

「えぇ‼︎散々お世話になりましたからね‼︎」

 

「皆さん…どうか、母を宜しくお願いします‼︎」



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65話 家族のカケラ(2)

呉さんは皆に土下座をした

 

「アァ…アタマヲアゲテクダサイ‼︎」

 

「ホウショウサン、ワショクツクルノジョウズ‼︎」

 

「パラオちゃんも和食好きですって‼︎」

 

楽しそうに話の輪に入る鳳翔さんの後ろで、呉さんはとある場所に連絡を入れていた

 

「とにかく、逢いに来たら分かるって‼︎」

 

《分かった。文月も連れて行って良いか⁉︎》

 

「勿論さ‼︎」

 

 

 

 

一時間後…

 

私達はエントランスでお祝いをしていた

 

珍しく、アルコールの類が出ている

 

「ふふっ。清政、いつの間にかお酒飲める様になってたのね⁇」

 

鳳翔はずっと呉さんに付きっ切り

 

「俺も母さんに注いで貰うと思って無かったよ」

 

「それも、結構強いのね⁇」

 

「嫁が酒豪なんだよ…頭抱えてるんだ…」

 

「来たぞ‼︎清政‼︎」

 

「父さん‼︎」

 

「嘘だろ⁉︎」

 

口に含んだビールを激しく吹き出し、俺は本日二回目の”嘘だろ⁉︎”を飛ばした

 

「ちょちょちょ、ちょ〜っと待ってくれ‼︎お父さん⁉︎」

 

「言って無かったか⁉︎私は呉鎮守府提督の父だ」

 

「あなた…」

 

「しょ…”翔子”…翔子なのか⁉︎」

 

「今は鳳翔と言う名です…」

 

総理と鳳翔は互いに抱き合うが、やはり犯罪臭は否めない

 

呉さんより総理の方が身長が高く、先程呉さんに抱き着いた時は鳩尾辺りに鳳翔の頭が来ていたが、今度はヘソ辺りに頭が来ている

 

「一晩だけ鳳翔を借りたい。良いか⁇」

 

「ホウショウサンニマカセル‼︎」

 

ル級さんは笑顔で二人を見ている

 

「私はここの皆さんにお世話になりました。今度は、私が返す番です」

 

「一晩だけだ」

 

「…分かりました。あなたに任せます」

 

鳳翔の顔が赤い

 

照れているのだろうか⁇

 

「ホウショウサン、ダンナサンノトコロニイナキャ…」

 

「でも…」

 

「家族も増えた。清政も結婚した。お前にも紹介しないとな‼︎」

 

「家族…」

 

「ホウショウサン、オウチニカエル」

 

ヲ級や総理の言葉で、鳳翔の決意が少し揺らいだ

 

「では、時々ここでお手伝いさせて下さい‼︎それなら構いませんか⁉︎」

 

「ウン‼︎ソレナラダイジョブ‼︎」

 

 

 

皆の背中押しもあり、鳳翔はスカイラグーンを離れる事になった

 

それからまたしばらく祝いの席が続き、ようやくお開きになった

 

「レイ、大佐…君達には何と礼をすれば…」

 

「礼なんて良いさ。家族を大切にな」

 

「下まで送りますよ」

 

呉さんを高速艇

 

総理と文月、そして鳳翔をジェット機まで送り、俺達二人が残った

 

「家族…か」

 

「レイもいつか子供持てるといいな」

 

「へっ…顔は鹿島に似て欲しいな‼︎」

 

「性格がお前に似たら大変そうだ…」

 

「けっ‼︎」

 

 

 

 

次の日…総理官邸

 

「おにーちゃん…」

 

私は久し振りに自宅に帰り、自室で眠っていた

 

朝、文月が部屋に来て、目の前で眠たそうにしている

 

「どうした、文月⁇寝れなかったのか⁉︎」

 

「うん…おとーさんも”おかーさん”もうるさかった…」

 

文月は鳳翔の事をおかーさんと呼んでいた

 

本当は欲しかったのだろう…

 

「全く…」

 

「あのね、おとーさん、おかーさんのおしりたたいてた」

 

「…」

 

「それでね、おかーさん、おとーさんのうえにのって”あなた‼︎あなた‼︎”っていってた」

 

「…父さんは⁇」

 

「おとーさんはね、しばらくしたらおかーさんをうしろからだっこして”ほーしょー‼︎ほーしょー‼︎”っていってた。わんちゃんみたいだった‼︎」

 

「何やってんだよ…」

 

そんな話をしていたら、文月のお腹が鳴った

 

「お腹空いたか⁇」

 

「うん。おかーさんがつくってくれたよ‼︎おにーちゃんよんでこいって‼︎」

 

文月と共にリビングに行くと、既に父さんが食べていた

 

「清政‼︎文月‼︎早く来い‼︎無くなるぞ‼︎」

 

父さんに呼ばれ、二人は席に着いた

 

 

 

ようやくありつけた、本当の家族団欒

 

次は隼鷹も呼んで、こうして食卓を囲みたいと思う呉さんであった



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66話 人をダメにする椅子が欲しい乙女達(1)

さて、65話が終わりました

今回のお話は題名の通り、人をダメにする椅子のお話です

きその行動に注目


「レイ、なぁにこれ⁇」

 

横須賀が工廠に来た

 

目の前にあるのは、相も変わらず布が掛かった何か

 

「”したい”か⁇」

 

「…えぇ。したいわ」

 

「んじゃ、座れよ」

 

布を外すと、マッサージチェアーが現れた

 

「座ればいいの⁇」

 

「そうだ」

 

横須賀が椅子に座ると、備えられたモニターを横須賀の前に移動させ、起動する

 

「何よ。自分がくつろぐ為に造ったの⁉︎」

 

「きそ。このスイッチだな⁇」

 

「そそ。オッケー」

 

後ろで作業をしていたきその言う通りにスイッチを押すと、モニターに何か映し出された

 

「映画ね。あら、私の好きな映画じゃない‼︎」

 

「じゃ、ごゆっくり…」

 

「え⁉︎なに⁉︎あらららら…」

 

マッサージチェアーは、的確にツボを刺激し、使用者を極楽へと誘う

 

しかも、手元からジュースが自動で出てくる

 

振動が緩やかになった時に音声で知らせ、ジュースを飲み、映画を見ながら、マッサージを堪能出来る

 

「あああああ…」

 

「今だきそ‼︎ロック‼︎」

 

「ロック‼︎」

 

「あら⁉︎ちょっと‼︎」

 

手首と足をロックし、きそと共にビデオカメラを起動しながら後ろから出撃した

 

「うへへへ…タプンタプン揺れてますなぁ…」

 

「良い絵が撮れるねぇ…へっへっへ…」

 

「ち…ちょっとととと‼︎何のつももりりり‼︎」

 

横須賀は連続で肩のツボを押され、上手く声が出せない

 

「普段の仕返しだよ‼︎その上下左右に揺れるオッパイをビデオに収めて、如何わしいDVD屋に置いてやるのさ、ウヒヒ‼︎」

 

「巨乳が裏目に出たね‼︎」

 

「く…くそそそそ‼︎」

 

怒りが込み上げるが、快楽に勝てない

 

「はぁ…もう諦めた…」

 

「後は絶頂してくれれば、良い絵が撮れる‼︎」

 

「このっ…」

 

横須賀は暴れるが、余程頑丈に造られているのか、全く外れる気配は無い

 

「きそ。パワーアップだ」

 

「オッケー‼︎」

 

きそはリモコンで、マッサージチェアーのパワーを上げた

 

「あっ…あっ‼︎アァー‼︎イッ…」

 

 

 

 

数分後…

 

「はぁ…はぁ…」

 

絶頂に至り、至福の横須賀がいた

 

「ま…マジすんません…」

 

「ごめんなさい…」

 

マッサージチェアーでも絶頂したのだが、本当に絶頂したのは、その数秒後の出来事だった

 

マッサージが終わり、息も絶え絶えで拘束が外された横須賀は、体をビクつかせていた

 

「ウヘヘへへ…良い絵が撮れましたなぁ‼︎」

 

「マッサージチェアーのデータも取れたねぇ‼︎」

 

「…この」

 

「イッた気分はどうですか〜⁉︎普段やられてる気分が少しは分かりましたか〜⁇」

 

「この…マヌケ親子が‼︎」

 

「ぶべらっ‼︎」

 

「あだっ‼︎」

 

俺は宙を舞い、きそは頭にゲンコツが飛んで来た‼︎



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66話 人をダメにする椅子が欲しい乙女達(2)

「これが乙女にする仕返し⁉︎」

 

そして、先程に戻る

 

「でもな‼︎ぶっ飛ばすこたぁねぇだろ‼︎」

 

「アンタはぶっ飛ばさないと分からないでしょ‼︎」

 

「ぐぬぬ…」

 

「ん〜っ‼︎」

 

相変わらず喧嘩をする二人

 

そんな様子を見ているきそは、こんな事を思っていた

 

喧嘩する男女って、ホントは仲が良いって言うけど、レイと横須賀さんも、仲良さそうだなぁ…と

 

「ふんっ‼︎まっ、良いわ‼︎気持ち良かったし…買ってあげる‼︎」

 

結局欲しいのかよ…

 

だが、売る訳にはいかなかった

 

このマッサージチェアー、人をダメにする

 

ジュースは出るわ、映画は見れるわ、マッサージしてくれるわ、快適空間この上ない

 

だが、やり過ぎると、こり返しが酷い難点があった

 

「ダメだ。まだ調整が済んでない」

 

「量産体制も出来てないんだ…」

 

「売れないなら頂戴⁇」

 

「いいか、きそ。お前はあんな傲慢な女になってはいかんぞ⁇見ろ‼︎オッパイしかな…うわなにをするやめ‼︎」

 

「わぁ…」

 

横須賀は急に俺に抱き着き、俺の鳩尾辺りに胸を押し付けて来た

 

でた…色仕掛けだ…

 

こうなりゃ、横須賀がやる事は一つ…

 

「きそちゃん⁇アメリカ製のお菓子あげるから、鹿島呼んで来てくれる⁉︎」

 

「分かった‼︎」

 

「オイコラ待てきそ‼︎オーケー分かった‼︎お前にやる‼︎」

 

「やったね‼︎チュッチュッ‼︎」

 

横須賀のキスを、頬に何度も食らう

 

「ぐわっ‼︎きそ‼︎頼むから行くな‼︎助けろ‼︎ヘルプ‼︎おい‼︎」

 

きそは出入り口の隅で半分だけ顔を出し、此方を見てニヤついている

 

「おぉ…凄い絵面になってるダズルな…」

 

突然現れたのは、ワンコの所の榛名だった

 

「丁度いい‼︎榛名‼︎ぐわっ、離せ‼︎こいつを剥がしてくれ‼︎」

 

「横須賀さん。レイを離すダズル‼︎」

 

榛名は横須賀の頭を掴み、無理矢理引き剥がした

 

「レイが悪いのよ⁉︎マッサージチェアーで私を…」

 

「マッサージチェアー、ダズルか⁇」

 

榛名は不思議そうな顔をしている

 

「そう。榛名もしてみるか⁇」

 

「したいダズル‼︎」

 

「じゃ、そこに座ってくれ」

 

「あ、その前に…これ、提督からダズル」

 

榛名は持っていた封筒を、俺に渡した

 

「おっ、頼んでた艤装のデータだな⁇サンキュー‼︎」

 

「よし、座ったダズル‼︎」

 

「きそ‼︎モニターだ‼︎」

 

「オッケー‼︎」

 

再びモニターのスイッチを入れると、何やらグロテスクな映画が流れ始めた

 

榛名は人差し指で、モニターをコツコツ突いた

 

榛名の癖だ

 

榛名は何かを指差す時、何度かその方向に振る

 

「これは榛名が好きなモンスター映画の続編ダズル」



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66話 人をダメにする椅子が欲しい乙女達(3)

宇宙から来た謎の生命体が暴れ回り、それを食い止める別の宇宙人とのバトル映画だ

 

榛名は大人しく座り、映画を見始めた

 

「レイ、これって、座った人が見たいもの見れるの⁇」

 

「そっ。お前が座った時は恋愛映画だったな」

 

「凄いわね…ますます欲しくなったわ…」

 

「良い気持ちダズルルルル…」

 

榛名は気持ち良さそうだ

 

モニターに映されている映画と、榛名の表情が全く合っていない

 

「ねぇ…」

 

「ん⁇」

 

横須賀の手には、先程のビデオカメラが握られている

 

「榛名ちゃんは撮らないの⁇」

 

「お前…俺を殺す気か⁇」

 

「だって見なさいよ‼︎私よりプルンプルンよ⁉︎」

 

「あぁ〜気持ちいいダズルルルルルルル…」

 

確かに、横須賀より遥かに揺れ動いていた

 

だが、撮ったら恐らく殺される

 

その前に、ワンコの嫁だ

 

「きそ〜。こっちに来るダズルルル‼︎」

 

「は〜い‼︎」

 

「抱っこさせるダズルル」

 

「うんっ‼︎」

 

きそは何のためらいも無く、榛名のお腹に乗り、横になった

 

「やっぱり、面倒見はいいのね」

 

「元々子供好きだからな。じゃなきゃ、照月の一件だって、助けてくれなかっただろ⁇」

 

「それもそうね…」

 

きそも満更でも無さそうな表情をしている

 

「あれは何⁉︎」

 

「プリズムキャノンダズル」

 

映画のキャラクターが攻撃する武器を見て、きそは目を輝かせている

 

きそはこういったSFな武器が好きだ

 

この前も、週末ロードショーで出て来た光る剣を欲しがっていた

 

「きそはグロ映画好きダズルか⁇」

 

「血が出るのは嫌いだけど、武器はカッコイイと思うよ⁇」

 

「あいつは腕から剣も出るし、手裏剣も投げるダズル」

 

「おぉ〜‼︎」

 

「こいつが主体の映画もあるダズル。確か、1と2があるダズル」

 

「榛名さんは詳しいね‼︎」

 

「モンスター映画は良いダズル。榛名も一回、こいつと戦いたいダズル」

 

「死んじゃうかもしれないよ⁇」

 

「…まぁ、きそがそう言うなら、やめとくダズル」

 

本当に大人しくなったな…

 

しばらくして、榛名がマッサージチェアーから離れた

 

「いやぁ〜‼︎スッキリキリンダズル‼︎」

 

肩をグルグル回しながら、俺達の所に来た

 

「レイ、ありがとうダズル‼︎またしたいダズル‼︎」

 

「これは横須賀にあげるんだ」

 

「そうか…殺してでも奪い取るダズル‼︎」

 

榛名は横須賀に襲い掛かった‼︎

 

「させないわよ‼︎」

 

マッサージチェアー越しに、引っ張り合いが始まった

 

「榛名のマッサージチェアーダズル‼︎」

 

「私が先に見つけたの‼︎」

 

「そんなの関係無いダズル‼︎榛名が欲しいと思えば、榛名のもんダズル‼︎」

 

「提督命令よ‼︎離しなさい‼︎」

 

「命令なんか元々聞かんダズル‼︎」

 

両者共、言ってる事がメチャクチャだ…

 

「あ〜も〜‼︎分かった‼︎榛名、お前にも造ってやるから、今日は横須賀にあげなさい‼︎」

 

「これじゃなきゃ嫌ダズル‼︎」

 

「私もよ‼︎」

 

「あ〜ぁ…ダメだな、こりゃ」

 

呆れてものも言えなくなった

 

「あ、でもレイ⁉︎後にした方が、追加機能も付くんだよね⁇」

 

きそがそう言った瞬間、二人は手を離した

 

「致し方無く、今回はやるダズル」

 

「いえいえ、貴女がどうぞ〜」



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66話 人をダメにする椅子が欲しい乙女達(4)

「お前らなぁ…」

 

二人共、もう造って貰うつもりでいる

 

「とりあえず横須賀‼︎これはお前にやる‼︎」

 

「嫌よ‼︎」

 

全力で否定された‼︎

 

「欲しいんじゃないのかよ‼︎」

 

「こんな”ポンコツ”じゃなくて、新作が欲しいのよ‼︎」

 

「それは言い過ぎダズル‼︎このマッサージチェアーは素晴らしいダズル‼︎」

 

二人の言葉を聞き、チラッときそを見た

 

全員から目を逸らし、悲しそうな顔をしている

 

「…もういい‼︎横須賀にはやらん‼︎」

 

榛名と横須賀がビクッとする

 

俺が本気でキレるのは久し振りだ

 

普段は冗談で済ますが、今回は許せなかった

 

「横須賀…これは俺が造ったんじゃ無いんだ‼︎」

 

「え⁇じゃあ誰が…⁉︎」

 

「きそだ‼︎毎回毎回人が造ったモンにケチばっか付けやがって‼︎俺の造ったモンならまだしも、今回ばっかは許さねぇぞ‼︎」

 

二人の目線がきそに行く

 

「いいんだ…どうせ僕はポンコツしか造れない…」

 

きそは物凄く落ち込んだ顔をしている

 

「あわわわ…」

 

慌てふためく横須賀を見るのは久し振りだが、今回は可愛くない

 

「きそ。榛名はポンコツだなんで思って無いダズル」

 

榛名はきその前で膝を曲げた

 

「いいんだ、榛名さん…」

 

「…よし、榛名があのマッサージチェアーを買うダズル‼︎」

 

「いいよ…無理しなくて…どうせポンコツだ…」

 

「ホレ‼︎」

 

榛名は振袖から何かを出した

 

「きそが前に欲しがってた鉱石ダズル」

 

「これは…‼︎」

 

「深海の奴等の基地に保管されていたダズル。きその所に居た方が、有効に活用されるダズルな」

 

「…いいの⁉︎」

 

「その代わり、あのマッサージチェアーは貰うダズル。いいな」

 

「でも…ポンコツだよ⁇」

 

「ゔっ…」

 

横須賀が気まずそうな顔をしている

 

「今回はお前が悪い。あ、今回も、か」

 

「ホントにごめんなさい…」

 

二人に目線を戻すと、榛名はきその頭を撫でた後、ギュッと抱き締めた

 

「わっ‼︎」

 

「榛名は、きそが造ったモノが欲しいダズル。勿論、レイの造ったのも素晴らしいダズル。でも、榛名はきそが造ってくれた方が、愛着が湧くダズル」

 

「榛名さん…」

 

きそは泣きそうな顔をしていた

 

榛名はきその背中をポンポンと叩き、手を離して立ち上がった

 

「よ〜し、野郎共‼︎コレを積むダズル‼︎ちゃんと積んだら、みんなから使っていいダズル‼︎」

 

「アイアイサー‼︎」

 

「おわっ‼︎」

 

「えっ⁉︎」

 

何処からとも無く出て来た、多数の男衆

 

オーラは海賊そのものだが、身なりがキチンと整っている

 

軍服は着ているが、絵に描いたような紳士が揃っている

 

「ゆっくり運べ‼︎姐さんの”貴重品”だ‼︎」

 

「貴重品…」

 

先程まで泣いていたきその目に、輝きが戻った

 

発明家にとって、自分の造ったモノが貴重品と言われるのは、この上ない褒め言葉だ

 

「じゃあ、榛名は帰るダズル‼︎感想は言うダズル‼︎じゃあな‼︎」

 

「榛名さん‼︎ありがとう‼︎」

 

「安い買い物ダズル‼︎」

 

榛名はイージス艦に乗り、帰って行った

 

「イージス艦だ‼︎」

 

「あいつマジで何やったんだ⁉︎」

 

「あ…あの…きそちゃん…」

 

「ん⁇」

 

「ホントにごめんなさい‼︎」

 

横須賀が頭を下げるのは、見ていて気持ちいい

 

心が晴れ晴れする‼︎

 

「僕もやり過ぎちゃった…ごめんなさい…」

 

「それはもういいの‼︎お詫びに好きなモノ何でもあげるわ‼︎」

 

「ホント⁉︎ん〜…」

 

「何でもいいわよ⁇」

 

「ん〜…」

 

きそは人差し指を口元に当て、考える

 

「さっ‼︎俺はさっきのビデオ焼き増しし〜よぉっと‼︎」

 

横須賀が反応する前に、一気に工廠まで走った‼︎

 

工廠まで後一歩‼︎

 

「あ°っ‼︎」

 

振り向きもせず、横須賀は腰のピストルを俺に向けて放った

 

「今日は撃たないであげようかと思ってたけど、ビデオは堪忍ならないわね‼︎」

 

「それ‼︎それ欲しい‼︎」

 

「えっ⁉︎これ⁉︎」

 

きそが欲しがったのは、横須賀が特注で明石に頼んで造った、非殺傷のピストルだった

 

モーゼルと呼ばれるピストルをモデルにしており、初心者でも簡単に扱え、弾も麻酔や、今撃った粉まみれにする弾等、色々と入れ替えられる

 

「こ、こんなのでいいの⁉︎」

 

「うんっ‼︎モーゼル欲しいんだ‼︎」

 

「じゃあ…はい‼︎」

 

「ウエッ‼︎鼻に入った‼︎ブェックショイ‼︎」

 

真っ白になったレイが、クシャミをしながら起き上がった

 

「レイ‼︎ピストル”没収”したよ‼︎」

 

「えっ」

 

きそはいつの間にかレイの横におり、横須賀に向けてピストルを構えていた

 

「よっしゃ‼︎コレで横須賀なんか怖くないっ‼︎」

 

「横須賀さんは、ここでお留守番だぁ‼︎」

 

きそは引き金を引いた‼︎

 

「きゃっ‼︎」

 

横須賀の周りに、白い煙幕が立ち込める

 

「うはは‼︎凄い凄い‼︎」

 

「き、きそ〜⁉︎」

 

「僕ね…自分の造ったモノをバカにされる以前に、レイの造ったモノにケチばっか付けて、挙句の果てにタダで持って行く人、許せないんだ〜」

 

「わ、分かったわ‼︎次からはちゃんとするから‼︎ねっ⁇」

 

「ホント⁇」

 

「ホントホント‼︎」

 

「じゃあ、次から僕もお手伝いする‼︎」

 

「あら」

 

きそは正直者だ

 

だが、その魂胆は後から知る事になる…

 

 

 

 

単冠湾の基地では、男衆の番が終わり、再び榛名がマッサージチェアーに座っていた

 

「快適ダズル…あああああ…」

 

「榛名、それどうしたの⁇」

 

「きそから買ったダズル。提督にも後で貸してやるダズルルルルルルル…」

 

マッサージされながらジュースを飲み、映画を見ている榛名

 

「ジュースどっから持って来たんだ⁇」

 

「こっから出るダズルルルル」

 

声と胸が震える榛名を見て、ワンコは微妙な気分になった

 

色んな意味でやりたい…

 

「粗末な主砲おっ立ててる暇があるなら、早く書類を片付けるダズル‼︎」

 

「お、おぉ…」

 

「榛名にはお見通しダズル‼︎」

 

こうして、きそが造ったマッサージチェアーは大切に扱われ、単冠湾の人達の癒しとなっていった



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67話 酒とチョコと野郎と艦娘(1)

さて、66話が終わりました

今回のお話は、豪雨に晒され、二人の艦娘が雨宿りをしにやって来ます

一波乱起きそうな奴等かも⁇

新キャラも出て来ます


「お〜っ。テルテルボー、ですねぇ」

 

「てるてるぼー」

 

「たいほうちゃん、チョコレート食べますか〜⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「これは美味しいで〜すよ〜」

 

初めて見る艦娘が、たいほうにチョコレートを与えている

 

「すまないねぇ…急に降られちゃってさ〜」

 

呉さんの所の隼鷹と、もう一人の子が雨宿りに来ていた

 

近くの海域に遠征に来ていたらしく、急な雨の為に寄ったらしい

 

しばらくすると、呉さんから無線が入った

 

《申し訳ありません、大佐。遠征部隊がそちらにお邪魔しているとお聞きして…》

 

「こちらは豪雨ですからね。心配ありませんよ。しばらくこちらでお預かりします」

 

《申し訳ありません…あ、そうだ。外国の艦娘が居ますか⁇新しく配属された子なんです‼︎》

 

「居ますよ。たいほうと”テルテルボー”見てます」

 

《その子です‼︎》

 

どうやら、今の言い方で伝わったみたいだ

 

《大佐、酒類を隠して下さい‼︎》

 

「さ、酒⁉︎」

 

《放っておくと基地の酒が無くなります‼︎》

 

「なっ…」

 

「提督〜ポーラそんな事しませんよ〜。自分のお酒しか飲みませんて‼︎」

 

いつの間にかポーラが横におり、無線の先の呉さんに話し掛けている

 

《いいかポーラ。大佐に失礼の無い様な行動をするんだ‼︎いいな⁉︎》

 

「大丈夫ですって〜‼︎ポーラ今日は3本しか持ってませんて‼︎」

 

《それがマズいんだ‼︎》

 

「不味くないですよ〜。パスタの国からお取り寄せした、素晴らしい逸品で〜すよ〜」

 

ポーラと呼ばれる子は、どこかズレていた

 

どことなくのほほんとした風貌ではあったが、どうやら内面もそうみたいだ

 

《…大佐、後々お詫びしますので…その…》

 

「ははは‼︎言いたい事は分かりました。了解です‼︎」

 

《頼みます…はぁ…》

 

呉さんはため息を吐きながら無線を切った

 

「パパさんも食べますか⁇美味しいですよ〜⁇」

 

ポーラはどこからか、包み紙に包まれたチョコレートを取り出した

 

「ありがとう」

 

「ポーラこれ好きなんですよね〜ふふふぅ〜」

 

ポーラに一抹の不安を抱きながら、チョコレートを口に入れた

 

「おまっ…これお酒入ってる奴じゃないか‼︎」

 

「お酒なんですかねぇ⁇」

 

「た、たいほう‼︎」

 

窓際にいたたいほうは、急に服を脱ぎ始めた‼︎

 

「こらこらこら‼︎たいほう‼︎お洋服着なさい‼︎」

 

「あつい〜」

 

たいほうは酔っ払っていた

 

大人なら”美味しい”で済むが、子供にはキツかったみたいだ

 

「パパらっこ〜」

 

呂律が回っていないが、だっこして欲しいのは伝わって来た

 

「仕方無いな…よいしょ」

 

「ぬっふっふっふ…ばつびょん‼︎」

 

目がトロンとしたたいほうは腕を高く上げている

 

ここが何処か分かっていないみたいだ

 

「ここは海じゃないぞ⁇」

 

「うみ⁉︎うみいきゅ‼︎むしゃし‼︎いっしょにいこ〜⁇」

 

「ダメだぞたいほう。今は雨が降ってる。今日は私もたいほうもお休みだ」

 

「ん〜…むさひ、たいほうきあい⁇」

 

「嫌いな訳ないだろう‼︎」

 

「じゃあらっこして⁇パパ、らいほ〜、むさひのとこいきゅ」

 

たいほうは私の腕で、もがき始めた

 

武蔵にたいほうを渡すと、すぐに眠り始めた

 

「全く…騒がしい子だ」

 

たいほうを寝かせる為、武蔵は子供部屋に向かった

 

「ポーラ⁇」

 

「は…はは…」

 

怒られると思ったのか、ポーラから冷や汗が出ている

 

「子供にあげちゃダメだぞ⁇」

 

「はい…すみません…」

 

椅子に座り、飲みさしのコーヒーを飲む

 

ポーラもコーヒーを飲み、息を吐く

 

「ま、済んだ事はいいさ。そういえば、呉さんの所にはいつからいるんだ⁇」

 

一番の疑問はそこだった

 

彼女は初めて見る子だった

 

「伊勢志摩サミットが終わった後ですね〜。ポーラ、祖国から酒樽と一緒に来ました‼︎」

 

「ポーラ、ね。宜しく」

 

「もう一人男性がいるとお聞きしたのですが〜…」

 

ポーラがキョロキョロしても、もう一人の男性は見当たらない

 

「あれ⁇そういえば見当たらないな…まぁ、その内出て来るだろ。今の内にお風呂に入っておいで。あぁ、今日は露天はダメだよ⁇この雨だから」

 

「分かりました〜‼︎行ってきます〜‼︎」

 

「大佐、覗いちゃダメだぞ〜⁇」

 

「心配するな」

 

ポーラと隼鷹が食堂を去り、ひと段落ついた

 

 

 

 

 

 

「ビチョビチョだよ‼︎全く‼︎」

 

工廠にいたレイは、基地に帰るまでに集中豪雨に打たれ、お風呂に入っていた

 

「きそのレインコート借りりゃ良かった…え〜ぇ…」

 

きそは雨が降ると、俺のレインコートを着る

 

きそにとっては、ブカブカのレインコートだ

 

これが中々可愛い

 

相当な用事が無ければ雨の日は工廠は休止だが、たまたま書類を工廠に忘れ、それを取りに行っていた

 

「はぁ〜…」

 

湯船に浸かり、ため息を吐いていると、目の前にアヒルのオモチャが浮いているのに気が付いた

 

手に取ってひっくり返すと”おいげん”と平仮名で書いてあった

 

そういえばたいほうに貰ってたな…

 

「うわ〜‼︎デッカいお風呂ですね〜‼︎」

 

「ウチの鎮守府とドッコイドッコイだな‼︎」

 

「誰だ…」

 

一人は隼鷹だとすぐ分かった

 

だが、もう一人が分からない

 

陰からそ〜っと覗くと、ウェーブがかかった髪が見えた

 

「誰〜⁇」

 

一瞬気付かれたと思ったが、大丈夫そうだ

 

「はは〜ん。レイだな⁉︎」

 

「うっ…ち、違う‼︎私はお風呂の妖精だ‼︎」

 

「レイだ…」

 

隼鷹には気付かれた

 

「お風呂の妖精ですか⁉︎ポーラ、妖精見たいです⁉︎」

 

もう一人の子は、無邪気に反応している

 

「こ、こっちに来てはいけません‼︎男性がいます‼︎」

 

「あ、ホントだ‼︎たいへ〜ん‼︎」

 

「うわぁ‼︎」

 

ポーラは体を洗う場所から、体を乗り出してこちらを見ていた

 

「隼鷹さん。変態さんですかね〜」



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67話 酒とチョコと野郎と艦娘(2)

「放っておいて大丈夫だ。レイは何にもしないよ。私が保証する。な⁉︎レイ‼︎」

 

「そうだぞ‼︎俺はケッコンもしてる‼︎」

 

「おぉ‼︎後ろにいる彼女ですか⁉︎」

 

ポーラの目線は、明らかに俺から外れていた

 

恐る恐る振り向くと、デッキブラシを携えた鹿島がいた

 

「レイ⁇覗きは重罪ですよ⁇」

 

「俺が先に入ってたんだい‼︎」

 

「問答無用‼︎」

 

「ぐえっ‼︎」

 

鹿島は俺を押し倒し、デッキブラシを背中に当てがった

 

「嘘だろ⁉︎」

 

「ごめんなさいは⁇」

 

「ごめんなさい‼︎ちょっ、隼鷹‼︎ポーラ‼︎助けて‼︎」

 

「哀れだ…雷鳥伝説が、ここに終わった…」

 

「…ポーラ、髪の毛あ〜らお‼︎」

 

「おい‼︎ちょっと待て‼︎デッキブラ死はシャレにならんて‼︎」

 

「さっ、レイ⁇お部屋できそちゃん達とボードゲームの相手をお願いします‼︎」

 

「ぐわっ‼︎いでで‼︎ちょっと‼︎鹿島‼︎」

 

俺はタイルの上をズリズリ引き摺られ、脱衣所に放り出された

 

「いでっ‼︎」

 

「何やってるんですか‼︎いい歳して覗きなんて‼︎」

 

「俺が先に入ってたの‼︎」

 

「問答無用です‼︎いいですか⁇裸を見ていいのは、鹿島だけなんですからね⁉︎」

 

「オーケー、分かった。じゃあ見せろ‼︎」

 

間髪入れずにパンチが飛ぶ

 

「本当に雷鳥伝説を終わらせますよ⁇」

 

「マジすんません…」

 

「着替えたら、きそちゃん達と遊んであげて下さい」

 

「はいはい。出てった出てった‼︎」

 

鹿島の背中を押し、脱衣所から出した

 

全く…

 

何処に居ても気が休まらないな…

 

着替えて脱衣所から出て食堂に戻ると、たいほうが居ない事に気が付いた

 

「たいほうは⁇」

 

「ポーラのチョコレートで酔っ払って、武蔵が寝かせに行った…」

 

隊長は頭を抱えていた

 

「ったく…ちょっと様子見てくる。子供部屋に居るから、何かあったら言ってくれ」

 

「頼んだ」

 

食堂にあったオヤツを取り、子供部屋に行くと、たいほうが寝っ転がっていた

 

あっちへコロコロ

 

こっちへコロコロしている

 

「たいほう、オヤツ食べるか⁇」

 

「たべる‼︎」

 

「たいほうは少し落ち着いたみたいだ。後は頼んだ」

 

「ほいよ。コーヒーでも飲んで来い」

 

「すまん、助かる」

 

たいほうを膝に乗せ、グミの袋を開けた

 

「かいじゅうぐみ‼︎」

 

「たいほう好きだろ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

たいほうは赤いグミが好きだ

 

味がチョット濃いのか、いつもそればかり食べる

 

「すてぃんぐれいはたべないの⁇」

 

「ん。一個くれるか⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

たいほうの手の中で、グミが形を変えている

 

たいほうはプニプニした物や、柔らかい物を好む

 

武蔵に懐くのは、何となく分かる

 

隊長曰く、筋肉質に見えて、意外にプニッてるらしい

 

そうこうしている内に、たいほうはグミを平らげていく

 

「たいほうは誰が一番好きだ⁇」

 

何気無しに聞いてみた

 

「パパ‼︎」

 

即答で答えた



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67話 酒とチョコと野郎と艦娘(3)

「でも、すてぃんぐれいもすきだよ⁇にばんめはむさし、そのつぎにすてぃんぐれい‼︎」

 

「相手が悪かったな…ははは」

 

「すてぃんぐれいはかしま⁇」

 

「そうだな…鹿島が一番好きだ。鹿島の次は無い」

 

「たいほうは⁇」

 

たいほうは悲しそうな顔をした

 

「みんな一緒さ。みんな好きだ。ただ、鹿島は俺のお嫁さんだろ⁇だからさ」

 

「たいほうにばんめ⁇」

 

「そっ。みんな二番目だ。隊長も同じ事言うと思うぞ⁇」

 

「きいてくる‼︎」

 

グミの袋を渡され、たいほうは食堂に走って行った

 

酔いは覚めたみたいだ

 

「パパ〜‼︎」

 

隊長に抱き着き、慣れた手つきで膝の上に乗る

 

俺はそんな二人を、コーヒーを飲みながら見ていた

 

「たいほう‼︎もう大丈夫か⁉︎」

 

「うんっ‼︎パパはだれがいちばんすき⁇」

 

「一番か…そうだな。武蔵かな⁇」

 

「およめさんだから⁇」

 

「そう。武蔵の次は無いよ⁇」

 

「なんで⁇」

 

「みんな一緒だ。み〜んな好きさ。でも、武蔵はお嫁さんだろ⁇」

 

「すてぃんぐれいといっしょ。すてぃんぐれい、かしまっていってた」

 

「ははは‼︎そっかそっか‼︎」

 

隊長はたいほうを膝に乗せたまま、新聞を読み始めた

 

「おっ、晴れてきたな」

 

どうやら通り雨だったみたいだ

 

「パパさん、ポーラ先に帰りますね〜」

 

まだ髪が濡れたポーラが、艤装を装着して外に出ようとしていた

 

「もういいのか⁇」

 

「ものすごくものすご〜く怒られました。提督に」

 

表情では中々分かりにくいが、どうやら落ち込んでるみたいだ

 

「はっはっは‼︎でもっ、ちょっと待って」

 

「おっ…」

 

隊長はポーラの頭にタオルを置いて、思いっきり拭いた

 

「レイ、髪とかしてやってくれないか⁇」

 

「よっしゃ‼︎」

 

適当に髪をとき、軽く艤装のチェックを済ませた

 

「よしっ。もう大丈夫だ。気を付けて帰るんだぞ⁇」

 

「は〜い‼︎また来てもいいですか〜⁇」

 

「次はいい酒を用意しておくよ」

 

「えへへっ‼︎」

 

ポーラの顔が明るくなった

 

飲まなきゃ結構可愛いのにな…

 

ポーラを見送って基地に戻り、子供部屋でようやくボードゲームをし始めた

 

しばらくすると、頭角を見せ始めた一人の少女

 

「MAXPOWER」

 

「んげっ‼︎」

 

「レイに攻撃」

 

「ちょっと」

 

「レイに攻撃」

 

「おい」

 

「レイに攻撃」

 

「まっくすさん⁉︎」

 

「強い奴は先に潰す。私の戦法」

 

まっくすにコテンパンにされ、あえなく敗北

 

ボードゲームが片付けられ、敗北感だけが残った

 

「燃え尽きた…」

 

「レイ、久し振りに釣りしない⁉︎雨も上がったし、釣れやすいとおもうよ⁉︎」

 

「よし‼︎行くぞ‼︎」

 

俺は子供達と共に外に出た

 

 

 

 

防波堤に着き、それぞれに釣竿を渡し、釣りスタート

 

「よ〜し、釣りスタート‼︎」



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68話 海上騎兵隊(1)

さて、67話が終わりました

67話の続きですが、話数と題名が変わり、内容が変化します

ちょっとだけバトルシーンがあるかも⁇


30分後…

 

「ぐぬぬ…」

 

「うはは‼︎釣れる釣れる‼︎」

 

子供達が爆釣状態に入っている中、一人だけノーヒットの状態が続いていた

 

「こういう時こそ集中しゅう…ん⁉︎」

 

目の前の水面に多量の泡が浮かび上がって来た

 

「な、何コレ‼︎」

 

「きそ、離れろ‼︎」

 

隣にいたきそを背後に回したのも束の間

 

水面から三隻のイ級が現れ、基地に響き渡る程の咆哮をした

 

まっくすと霞が敵意剥き出しで睨み付けている

 

「待て‼︎手を出すな‼︎」

 

「レイ‼︎パパに知らせなきゃ‼︎」

 

「頼む‼︎お前ら、基地に戻れ‼︎」

 

れーべが隊長の所に向かい、他の子供達は釣竿を捨て、基地に戻って行った

 

「…」

 

イ級達は咆哮しているが、どうやら敵意は無いみたいだ

 

「俺に用があるなら言え」

 

とは言うが、咆哮するばかりで何を言っているか分からない

 

「…そうだ‼︎僕フィリップに乗るよ‼︎」

 

「そうか‼︎フィリップなら言葉が解る‼︎頼んだ‼︎」

 

きそがフィリップを機動したのを見計らい、もう一度彼等に話し掛けてみた

 

「何か用があるなら言え」

 

《カンムス、オソワレテル‼︎》

 

《タスケテホシイ‼︎》

 

「敵は深海か⁉︎」

 

《チガウ‼︎ニンゲンノカンタイ‼︎》

 

「人間…」

 

パッと思い付くのは、好戦派の連中達だ

 

《ボクタチ、アナタガタニカリガアル》

 

《アノヒ、ミンナヲタスケテクレタ》

 

「あ…」

 

深海の連中が、基地に大量に流れ着いたあの日の事だ

 

よく見ると、見覚えのある傷がある奴がいる

 

《ソコマデアンナイスル‼︎イッショニキテ‼︎》

 

「分かった‼︎きそ‼︎小型のカメラを持って来てくれ‼︎」

 

「分かった‼︎」

 

しばらくすると、きそは4つの小型カメラを持って来た

 

「いい証拠になる。付けてもいいか⁇」

 

《ツケテツケテ‼︎》

 

《カメラカメラ‼︎》

 

《ニンゲンノブキ‼︎》

 

「ははは。武器じゃないぞ⁇でも、君達が人間の味方をしたって記録が残る‼︎」

 

それぞれの頭の上に、カメラを取り付ける

 

話を聞いていると、過去に漁船を救助し、スカイラグーンに運んだのは彼等の様だ

 

「隊長、そっちからモニターできるか⁇」

 

《しっかりモニターしてるぞ。一人で大丈夫か⁇》

 

「まっ、死にそうになったら救援を頼む」

 

《頼んだぞ。それと、基地の周辺には、まだ雨雲がある。天候に注意してくれ》

 

「ウィルコ‼︎」

 

「レイ‼︎持って来たよ‼︎」

 

ジェットスキーに乗って来たきそは、背中にショットガンを背負っていた

 

「はい‼︎」

 

「サンキュー。お留守番頼むぞ⁇」

 

「気を付けてね⁇」

 

「よし、行こう‼︎」

 

レイはイ級達に案内され、現場に向かった

 

執務室のモニターでは、レイ達の様子が映されていた

 

イ級達は時たまレイの方を見ているのか、レイが映る時がある

 

「まさかこんな日が来るとはな…」

 

「きょーりゅーのえいがみたい‼︎」

 

椅子に座ったたいほうもモニターを見ている

 

「しかし、すてぃんぐれい一人で大丈夫なのか⁇」

 

「レイは昔から一人の方が強い時がある。だが、いざとなれば救援頼むぞ⁇」

 

「うぬ‼︎」



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68話 海上騎兵隊(2)

《アソコアソコ‼︎》

 

《オンナノコ‼︎》

 

現場付近に着き、双眼鏡を覗くと、重巡洋艦二隻と空母一隻が、一人の艦娘を囲んでいるのが見えた

 

「ありゃあ…ポーラか⁉︎」

 

しかも重巡洋艦は砲撃している‼︎

 

「よし、ありがとう。後は俺に任せ…」

 

《タテグライニハナルヨ‼︎》

 

「お前、何言って…」

 

《アソコマデ、サンニンデカコンデイク‼︎》

 

《ソノアイダニ、アノコヲタスケテ‼︎》

 

「バカ野郎‼︎全員で生きて帰る‼︎俺はお前等の上官じゃねぇが、これは命令だ‼︎その後、補給でも修理でも何でもしてやらぁ‼︎」

 

《ワカッタ‼︎》

 

《イキル‼︎》

 

《イコウ‼︎》

 

こいつらの無邪気さに、腹が立つ

 

今から死ぬかもしれないなんて、まるで分かっていない

 

「よし…行くぞ‼︎」

 

《シュッパーツ‼︎》

 

イ級達に囲まれながら、艦娘の所に向かう

 

「痛い痛い痛い痛〜い〜‼︎や〜だぁ〜‼︎」

 

撃たれている、間の抜けた声の艦娘は、何とか耐えている印象だった

 

砲撃の最中、イ級達と共に割って入った

 

「テメェ等何やってんだ‼︎ポーラ‼︎しっかりしろ‼︎」

 

「あえ⁇お兄さんだえ〜⁇」

 

ポーラはワインの瓶を持ち、海上をフラフラしている

 

「ダメだこりゃ…」

 

「深海棲艦だ‼︎」

 

重巡洋艦に乗っていた一人が俺達を指差した

 

イ級達は砲撃はしないが、咆哮して威嚇している

 

「撃つな‼︎此方からも撃たなければならない‼︎」

 

そう言うと、白い軍服の男性が話し掛けて来た

 

「貴様‼︎何処の回し者だ‼︎所属を名乗れ‼︎」

 

「横須賀分遣隊所属‼︎マーカス・スティングレイだ‼︎俺は終わったぞ‼︎次はあんただ‼︎」

 

「大湊警備府、水上打撃部隊だ‼︎そこを退け‼︎深海共を吹き飛ばす‼︎」

 

その言葉に、不信感を覚えた

 

「ちょちょ、ちょ〜っと待ってくれ‼︎この子が深海棲艦だと⁉︎」

 

「そうだ‼︎我々に敵対する深海棲艦の端くれだ‼︎」

 

「バカ野郎‼︎艦娘だぞ‼︎」

 

「…なんだと⁉︎」

 

 

 

 

 

 

〜大湊警備府の空母の中〜

 

「大変申し訳ありませんでした‼︎」

 

艦長含め、そこに居た全員が頭を下げた

 

「ポーラ‼︎お前もお前だ‼︎酒飲んで素っ裸でフラフラしてっから撃たれるんだ‼︎」

 

髪の毛が前に垂れ下がり、これだけフラフラしていれば、確かに深海棲艦に見えなくもない

 

「あはははは〜い〜」

 

助けたは良いが、酔っ払っていて話にならない

 

さっきからずっとフラフラしていて、革ジャンを羽織らせてもすぐに脱ぎたがる

 

「真面目にしないと、本気で沈めっぞ‼︎」

 

「それはいけませ〜んね〜‼︎あ〜あははははは♪♪」

 

怒鳴っても揺さぶっても抱き締めても酔いは覚めず、挙げ句の果てには床で眠り始めた

 

「基地までお送りします」

 

「ありがとう。それと、外の駆逐艦達は撃たないでくれ。あいつらは正義の心を持ってる」

 

「了解しました‼︎」

 

それから、空母の中を散策する事にした

 

やはり見たいのは格納スペースだ

 

「ライトニングⅡだ‼︎」

 

格納されていた機体を見て、自然と格納スペースに足が向いた

 

「立ち入り禁止です」

 

入口にいた兵に止められ、廊下に戻された

 

「な…何だと…」

 

腕を組み、しばらく考えた後、一つ思い付いた

 

「必殺‼︎顔パス‼︎」

 

「立ち入り禁止です」

 

「な…何だと…顔パスが効かないだと⁉︎」

 

「…何処の飛行隊だ⁇ん⁇」

 

半笑いで言って来た兵に対し、腹が立った

 

「サンダーバード隊所属‼︎マーカス・スティングレイであります‼︎」

 

「も、申し訳ありません‼︎ど、どうぞ‼︎」

 

兵の顔は青ざめていた

 

「俺も有名になったもんだなぁ」

 

「貴方がたには、我々も助けられています‼︎」

 

「次は助けてやらねぇからな〜」

 

手をヒラヒラさせながら、機体に近付く

 

「ステルスか…時代は最先端を行くねぇ〜」



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68話 海上騎兵隊(3)

「最新鋭ですよ。陸戦はT-50、艦載機はコレです」

 

バインダーを持って男性が話し掛けて来た

 

「露天駐機にホーネットが居た。あれは何だ⁇」

 

「ECM搭載機です。まぁ、深海の艦載機に効くかどうかは分かりませんが…」

 

「戦争も考えもんだな…てか、大湊に艦娘は居ないのか⁇」

 

「えぇ。我々の所に艦娘は配備されていません。こういった艦だけで戦っています」

 

「なるほど…まっ、誤射しない事が今後の課題だな‼︎」

 

「言う通りです…情けない」

 

しばらく話をしていると、アナウンスが入った

 

《基地に着きました。下船の方は、お急ぎ下さい》

 

「じゃあな‼︎」

 

空母から降りると、ジェットスキーが工廠の裏に運ばれているのが目に入った

 

「お前達、ありがとうな」

 

《タノシカッタ‼︎》

 

《カイジョーゴエー‼︎》

 

《マタネ‼︎》

 

「あぁ、待て待て‼︎補給と整備位して行ったらどうだ⁉︎」

 

《スカイラグーンデスル‼︎》

 

「そっか…分かった‼︎気を付けてな‼︎」

 

《バイバ〜イ‼︎》

 

イ級達を見送った後食堂に戻ると、再び居た飲んだくれの女

 

「ポーラ大変だったんですよ〜⁇お船から撃たれて〜、ボカーン‼︎って飛んで行ったんです」

 

たいほうの前に寝転びながら一生懸命説明しているが、たいほうはキョトンとしている

 

「お…おま…何でいるんだ⁉︎」

 

「あぁ‼︎このお兄さんが助けてくれた気がします〜カッコ良かったですよ〜」

 

「いいこいいこ」

 

たいほうに頭を撫でられて、大層御満悦なポーラ

 

どちらが大人なのか分からない

 

「ぬっふっふっふ〜。ポーラ、やる時はやりますからね〜」

 

「レイ、ちょっと…」

 

頭を抱えていると、隼鷹に手招きされた

 

「ポーラにはな、この言葉が効くんだ…」

 

隼鷹に耳打ちされた言葉を、何気無い素振りで言ってみた

 

「あっ‼︎そうだ‼︎ザラに用事があったんだった‼︎電話しなくちゃな〜」

 

「ざ…ザラねぇさま⁇」

 

「ついでにポーラが飲みまくってる事も報告しなきゃな‼︎」

 

「レイさん、それはいけませんて。ポーラ、真面目にしますから。ザラねぇさま行きだけはホント…ね⁇」

 

ポーラは俺の腕にしがみ付き、電話の方に行かせない様にする

 

しかもかなり強い力で‼︎

 

「ホントだ…」

 

「なっ⁇」

 

「ポーラ、痛いって…」

 

「ザラねぇさまに言いませんか⁇ホントに言いませんか⁇」

 

ポーラは更に力を入れた

 

「い、言わない言わない‼︎」

 

「ん…」

 

余程ザラに言われるのが嫌なのか、猛反発してくる

 

「ん〜…どうすればザラねぇさまに言いませんか⁇」

 

「もう言わないから心配するな」

 

「ざらざらのざら」

 

何気無しに言った、たいほうの言葉にポーラは肩を上げた

 

「うわぁ〜‼︎たいほうちゃん‼︎その名前はいけませんて‼︎」

 

「たいほう、ざらのおしゃしんもってるよ⁇」

 

たいほうのポシェットから、ザラのブロマイドが出てきた

 

「ゔ…」

 

「ぽーらににてるね‼︎」

 

「似てませんて。ポーラ、ザラねぇさまみたいに荒くれ者じゃありませんて」

 

その瞬間、辺りが静まり返る

 

「…ポーラ⁇」

 

「えっ⁉︎あっ、あはは〜」

 

恐る恐るポーラが振り返ると、そこには何故かザラが仁王立ちしていた

 

「ざ、ザラねぇさま〜⁇何でここに⁇」

 

「たまたまスカイラグーンで昼食を取っていたら、イ級さん達が教えてくれたんです‼︎さ‼︎帰りますよ‼︎貴方の基地の船が近くまで来てくれているんです‼︎ほら、来なさい‼︎」

 

逃げるポーラをザラが引っ捕らえ、出入り口の方に引っ張って行く

 

「ん〜っ、やだやだやぁ〜だぁ〜‼︎絶対怒られるぅ〜」

 

「怒られる様な事をしたのは貴方でしょう‼︎」

 

一進一退の攻防は続く

 

見ていて飽きないが、ここいらで決着を着けさせよう

 

「あ‼︎港に酒樽がある‼︎」

 

「ウソウソ⁉︎どこどこ⁉︎」

 

「今だザラ‼︎」

 

ザラはポーラを一気に担ぎ、ダッシュで海上に出た

 

「ありがとうございます‼︎では‼︎」

 

「レイさんの裏切りもの〜‼︎隼鷹〜助けて〜‼︎」

 

叫ぶポーラを見て、隼鷹は笑い転げていた

 

「ははははは‼︎じゃっ、私も帰るよ。お礼はまた後日でいいか⁇」

 

「気にするな。また来いよ⁇」

 

「おぅ‼︎」

 

隼鷹も帰り、ようやく基地に平穏が訪れた

 

 

 

 

 

2時間後…

 

呉鎮守府

 

「隼鷹‼︎ポーラぁ‼︎」

 

帰って来たポーラに、呉さんの怒号が飛んだ

 

「ひぅっ‼︎」

 

ビビるポーラに対し、呉さんは落ち着いた表情をしていた

 

「…おかえり」

 

「…ただいまです」

 

呉さんはポーラの頭を撫で、帰還を労った

 

「ポーラ⁉︎ちゃんと提督の言う事聞きなさいよ⁉︎」

 

「わ、分かってますって〜ザラねぇさま〜ははは…」

 

「提督さん。ポーラが迷惑かけたら、いつでも横須賀にご連絡下さい。駆け付けますから‼︎」

 

「分かった。ありがとう‼︎」

 

ザラが帰り、ポーラはこっ酷く叱られると思っていた

 

「ポーラ、大佐の所はどうだった⁇」

 

「え⁉︎あ、はい‼︎凄く良い所でしたよ〜⁇たいほうちゃんも、大人しくて可愛かったです〜‼︎」

 

「そっか。入渠してごはん食べたら、今日はもう休みなさい」

 

「あ…はい」

 

叱られると思っていたポーラは、全く叱る素振りを見せない呉さんを不思議に思った

 

「提督。ポーラを怒らないんですか⁇」

 

「怒ってどうなる」

 

「あ、はい…」

 

呉さんが返したのはそれだけ

 

呉さんは怒りそうな外見をしているが、今までブチ切れたのは青葉が呉さんと隼鷹のスキャンダルを撮った時以外無い

 

「そうだポーラ。二日後に横須賀で全基地をまとめた運動会がある。ポーラも出てくれるか⁇」

 

「出ます出ます〜‼︎うへへへへ〜」

 

「言っとくけど、酒は出ないからな」

 

「ポーラが持ち込めばいいんですよ‼︎」

 

「バカ‼︎子供もいるんだ‼︎」

 

「じゃあ仕方ないですねぇ…」

 

呉さんの後ろをトボトボ歩きながら、ポーラは基地の中に入って行った

 

 

 

 

そう、二日後には、大運動会が始まるのだ…



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69話 艦娘大運動会(1)

さて、68話が終わりました

今回のお話は、題名の通り大運動会です

紺ブルマに着替えた艦娘達が大活躍します

※紺ブルマは作者の趣味です


横須賀の広大なグラウンドの上空に、数発の花火が打ち上げられた

 

「ただいまより、横須賀鎮守府合同運動会を始めます‼︎出場チーム入場‼︎」

 

壇上に上がった横須賀が、テンション高めで開会式をしている

 

そんな俺は、何故か実況席にいる

 

「レイ、後はお願いね‼︎そこに書いてある旗艦ともう一人を紹介していって⁇」

 

「へ〜へ〜」

 

とは言うが、本当に名前しか書いていない

 

「仕方無い…」

 

まずは横須賀チーム

 

「最初に入場するのは横須賀チーム‼︎徒競走なら誰にも負けませんと豪語する島風‼︎そして、パワーは艦隊一‼︎日本の長門がこのチームに存在している‼︎」

 

次はトラックチーム

 

「続いて入場するのはトラックチーム‼︎今日も多聞丸は味方するのか⁉︎飛龍‼︎そしてこのチームには食いしん坊で有名な蒼龍が存在‼︎負けたら食われてしまうのか⁉︎全チーム、気を付けろよ‼︎」

 

次は単冠湾だ

 

「単冠湾チームが入場だぁ‼︎このチームは何と言っても、撃破数一位を誇る榛名が存在‼︎そしてその横にはデータ分析はお手の物‼︎霧島が榛名と共に進む‼︎」

 

次…も、単冠湾か

 

「そして‼︎野郎達だけで編成されたチームの入場だぁ‼︎あぁっと‼︎野郎達は応援団の様だ‼︎熱い声援が単冠湾チームに降り注ぐ‼︎」

 

次は呉さんのチームだ

 

「おおっと、呉鎮守府チームの入場だぁ‼︎普段は飲んだくれだが、いざという時ガッツを見せる隼鷹‼︎その横には普段から飲んだくれのポーラがいる‼︎どうやら二人共シラフの様だ‼︎ますます戦いの行方が分からなくなって来たぁ‼︎」

 

次はラバウルチーム

 

「さぁ‼︎ここからはエース部隊の妻達の登場だぁ‼︎悩殺ボディは競技にも発揮出来るのか⁉︎愛宕‼︎大和撫子を絵に描いた様な身なり‼︎姿勢‼︎作法‼︎世界に誇れる大和だぁ‼︎ついでに暁もいるぞ‼︎」

 

「適当に説明しないでよね‼︎」

 

大分遠くの方で、暁が吠えているのが見えた

 

「さぁ‼︎レディの叫びが聞こえた所で〜…横須賀分遣隊チームの登場だぁ‼︎先頭にいるのは武蔵‼︎最近料理上手になったと何かと評判の彼女‼︎果たして競技にも影響してくるのか⁉︎そして‼︎この実況席にいるマーカス・スティングの艦娘であるプリンツ・オイゲンの入場だぁ‼︎彼女は四連撃の魔女の異名を持っている‼︎彼女の存在は大きいはずだぁ‼︎」

 

「あんた実況上手いわね〜…意外だわ」

 

横に居た横須賀がビックリしている

 

しかし、もっと驚くのは、横須賀含め全員紺色のブルマな事

 

いい趣味してるぜ‼︎

 

「伊達に昔DJやってねぇよ。さぁ‼︎全チーム揃った所で第一競技を始めよう‼︎第一競技は〜…た・ま・い・れ・だぁ〜‼︎」



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69話 艦娘大運動会(2)

グラウンドの中央に、先にカゴが付いた棒が数本立てられた

 

俺は実況席から立ち、マイクを持ってグラウンドの隅を歩き始めた

 

「さぁ、ルールは喧嘩をしない事のみ‼︎実質ほぼルール無用だぁ‼︎どのチームが多く入れられるのか‼︎玉入れ〜スタート‼︎」

 

合図と共に、各基地の艦娘達がそれぞれのカゴに玉を入れ始めた

 

「あぁっと‼︎空母達が艦載機を発艦‼︎どうやら爆撃機の様だ‼︎」

 

トラックチームの空母達

 

呉チームの隼鷹

 

その他屈強な艦娘達が艦載機を発艦

 

爆弾を抱える代わりに、玉を装着している

 

「空母達が反則スレスレの行動をする中、小さな勇者、駆逐艦達が一生懸命、一つ一つ玉を入れいます‼︎観客席の皆様、今一度、駆逐艦達に大きな拍手をお願いします‼︎」

 

会場で大きな拍手が起きる

 

霞やれーべ、暁達が一生懸命玉を入れているのを見て、空母の連中の怠け具合を見ていると、情けなくなって来た

 

「さぁ‼︎残り時間はあと少し‼︎ここでペースを上げて来たのは単冠湾チームだぁ‼︎」

 

「右に2度マイク‼︎」

 

「オーケーダズル‼︎」

 

霧島が計測をし、榛名が投げている

 

コンビネーションが素晴らしい

 

「さ〜ぁ‼︎いよいよ行方が分からなくなって来た所で終了〜‼︎妖精達‼︎カマーン‼︎」

 

玉を数える為の妖精達が、カゴの中に入り、一つ一つ出していく

 

「準備は整ったかな⁉︎じゃあ行くぞ‼︎い〜ち‼︎」

 

会場とグラウンドでカウントが始まる

 

二桁に突入し、まだまだ入っている玉を数えていく

 

「よんじゅうさ〜ん‼︎」

 

43個目で、最後のチームのカゴが空になった

 

「43個‼︎勝ったチームはトラックチームだぁ‼︎大きな拍手をお願いします‼︎」

 

「あそこにスティングレイがいます‼︎」

 

「コラ‼︎」

 

俺に向かって駆け出した蒼龍を、飛龍が襟首を掴んで止めている

 

「さぁ‼︎玉入れが終わった所でっ‼︎観客席のみんな‼︎小さな勇姿が見たいかぁ‼︎」

 

観客席から大声援が上がる

 

「オーケー‼︎その期待に応えよう‼︎小さな子が大活躍‼︎あ・ひ・る・お・い、だぁ〜‼︎」

 

グラウンドの中央に簡単だが、それなりの広さの柵が設けられ、その真ん中にアヒルが3羽放り込まれた

 

「ルールを説明しよう‼︎今回のアヒル追いは勝敗に関係はない‼︎だが‼︎アヒルを捕まえた子には賞品が出る‼︎いでよ‼︎豪華賞品達よ‼︎」

 

横須賀が喋っていた壇上に景品が置かれていく

 

アヒルのぬいぐるみ

 

お菓子

 

間宮の無料券二枚

 

どれも子供が好きそうな物ばかりだ

 

「最初にアヒルを捕まえた子から、賞品を決められる‼︎さぁ‼︎小さな勇者達の入場だぁ‼︎」

 

 

たいほう

 

きそ

 

 

れーべ

 

まっくす

 

Uちゃん

 

文月

 

秋月

 

照月

 

以下割愛

 

とにかく沢山集まった



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69話 艦娘大運動会(3)

「ここでニューカマーを紹介しよう‼︎ドイツで生まれたみんなの妹‼︎UボートのUちゃんの登場だぁ‼︎さ、Uちゃん、みんなに一言‼︎」

 

Uちゃんは向けられたマイクに息を吹きかけた

 

可愛すぎてこの場で抱き締めたいが、ここは我慢しよう

 

男衆から歓声が上がっているが、ここはあえて無視しよう

 

「さ〜ぁ‼︎お待たせしました‼︎それでは始めましょう‼︎アヒル追い〜…スタート‼︎」

 

実況しながら提督達が居る付近に足を近付けると、手にジュースを持ったアレンが近づいて来た

 

「お前実況上手いなぁ‼︎」

 

アレンに気付き、マイクを一瞬切った

 

「ミハイルは⁇」

 

「いるぞ‼︎」

 

アレンの横からミハイルが顔を見せた

 

「今日はたまには三人で飯食おう‼︎じゃあな‼︎さぁ‼︎アヒルが逃げ回る‼︎」

 

実況に戻ったレイを見て、二人は応援を続けた

 

 

 

 

「とれた‼︎」

 

「おっと‼︎たいほうがアヒルを捕まえたぁ‼︎果敢に挑んだ彼女に拍手を‼︎」

 

拍手に包まれながら、たいほうが柵から出て来た

 

「横須賀さんの所で待ってるんだぞ⁇」

 

「わかった‼︎」

 

アヒルを抱えたたいほうは、横須賀の所に走って行った

 

「さぁ‼︎残りのアヒルは後2羽‼︎賞品を手にするのは一体誰だ‼︎」

 

「とれた」

 

「とったぁ‼︎」

 

「おっとぉ‼︎残りの2羽が同時に捕まったぁ‼︎幸運を掴んだ二人の名は〜…Uちゃん‼︎そして〜文月だぁー‼︎」

 

俺は二人を肩に乗せ、みんなに見せた

 

「さぁ、横須賀さんの所で待っててね」

 

二人が横須賀さんの所に向かったのを見送り、再び実況に戻る

 

「アヒル追いは終わったが‼︎小さな勇者達には果敢に挑戦した事を讃え、出口でグラーフ・ツェッペリンからお菓子の袋が貰えるぞ‼︎」

 

「頑張ったね」

 

カゴを持ったグラーフから、子供達がお菓子を受け取っている

 

「さぁ‼︎三人の勇者を讃えよう‼︎まずはたいほう‼︎」

 

「がーがーさん」

 

たいほうはまだアヒルを抱えていた

 

「たいほう、がーがーさんを横須賀に渡そうか‼︎」

 

「はい‼︎」

 

「いいこね〜‼︎よしよし‼︎」

 

横須賀がたいほうの頭を撫でている

 

「さぁたいほう‼︎好きな賞品を選ぼうか‼︎」

 

「これ‼︎」

 

ためらいも無く手にしたのは、アヒルのぬいぐるみだ

 

「U、これにする」

 

Uちゃんが手にしたのは、間宮の無料券だ

 

「文月はこれな⁇」

 

最後に余ったお菓子の詰め合わせを文月に渡した

 

 

「わぁ‼︎何ですか何ですか⁉︎」

 

「お菓子の詰め合わせだ。お父さんと一緒に食べるんだよ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「さぁ‼︎小さな勇姿が見れた所で、次に行こう‼︎何と‼︎この競技は観客席のみんなも参加出来るぞ〜‼︎借り物競走だぁ〜‼︎」

 

競技用トラックの上に机が置かれ、裏向きにされた紙が幾つも置かれた

 

「観客席のみんな‼︎大中小の艦娘達に協力してあげて欲しい‼︎では‼︎参加者の紹介だぁ‼︎第一コーナーを走るのは、疾き事島風で有名の彼女‼︎島風だぁ‼︎」

 

「応っ‼︎」

 

島風にイヤに気合いが入っている

 

「第二コーナー‼︎おっとこの方もニューカマーだぁ‼︎男なら誰でも夢見る良妻賢母‼︎鳳翔さんの登場だぁ‼︎鳳翔さん、このレースの意気込みを‼︎」

 

「皆様、どうかこの鳳翔にお力添えを下さい‼︎」

 

「ありがとうございます‼︎続いて第三コーナー‼︎恋の雷撃は貴方にロックオン‼︎おおいだぁ‼︎」

 

「隊長さん、見てくれてるかしら…⁇」

 

「おおいの想い人が分かった所で第四コーナー‼︎最近パスタとピザの食い過ぎで体重が増えたと豪語するローマの登場だぁ‼︎あだっ‼︎」

 

ローマのゲンコツがつむじに落ちた

 

「オーケー…冗談はこれ位にして、最後のランナーを紹介しよう‼︎高速戦艦随一の速さを誇る、榛名の登場だぁ‼︎彼女の速さは尋常じゃない‼︎」

 

「観客席の野郎共‼︎榛名に貸さなきゃ、ハンマーで一撃ダズル‼︎いいな‼︎」

 

「榛名の宣戦布告が終わった所で借り物競走〜…スタート‼︎」

 

横須賀が空砲を撃ち、借り物競走がスタートされた

 

なるほど、ここに島風を配置すれば、速さだけじゃ勝てないって訳か‼︎

 

そうこうしている内に、島風が机が置かれた場所に着き、少し遅れて四人が着いた

 

「さぁ‼︎全員が借り物が書かれた紙を取る‼︎最初は島風‼︎中身は何だ‼︎」

 

「プロレス消しゴム‼︎誰か持ってませんか⁉︎」

 

「何とプロレス消しゴム‼︎これは難易度が高い‼︎今の時代、持っている方が貴重だぁ‼︎さぁ‼︎誰が一番早く着くか分からなくなって来たぁ‼︎」



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69話 艦娘大運動会(4)

「誰か水風船無い⁉︎」

 

ローマが水風船

 

「揚げパンダズル‼︎」

 

榛名が揚げパン

 

「ヘアゴム‼︎ヘアゴム貸して下さい‼︎」

 

おおいがヘアゴム

 

「スーパーボールですか…誰かお持ちではありませんか⁉︎」

 

鳳翔がスーパーボール

 

全員、まだ比較的に簡単だ

 

観客席の裏手では縁日をやっており、皆そこで買った物を食べているからだ

 

「応…」

 

どうやら島風はハズレを引いたみたいだ

 

「あの、島風ちゃん。これでいいかな⁇」

 

「きそちゃん⁉︎」

 

落ち込む島風を呼んだのはきそだ

 

「僕、ガチャガチャ好きなんだ‼︎だから色々集めてるんだけど、コレじゃだめかな⁇」

 

きその手には、プロレス消しゴムがあった

 

「借りていいの⁉︎」

 

「うんっ。ダブッたから、そのまま島風ちゃんにあげる。使ってあげて⁇」

 

「応っ‼︎」

 

島風はきその手からプロレス消しゴムを受け取り、そのままゴールを目指した

 

「何と‼︎ここで島風が追い上げて来たぁ‼︎榛名と並び、そのままゴール‼︎プロレス消しゴムは高難易度だったはず‼︎果たして持っているのかぁ⁉︎横須賀が確認している‼︎」

 

「オッケー‼︎」

 

「島風がゴール‼︎榛名もゴール‼︎そして遅れてローマもゴール‼︎」

 

「ちっくしょう‼︎水風船結構キツいわ…何で屋台まで走らなきゃいけないのゃ‼︎」

 

「榛名はすぐ貰えたダズル」

 

榛名は借りたハズの揚げパンを食べていた

 

「あんた…ソレ返さなくていいの⁇」

 

「ハグしたら、もうあげるって言われたダズル」

 

しかし、一番で着いたのは榛名ではない

 

「さぁ、順位の発表だぁ‼︎一位は何と‼︎鳳翔さん‼︎子供達からスーパーボールを借りた様です‼︎」

 

駆逐艦の子達と大差ない身長の鳳翔さん

 

何故だ‼︎何故こんなにこの人の体操着姿に煽られる‼︎

 

「に…二位はおおいだ‼︎借りやすい物が引けたのも運の内か⁉︎」

 

「後で返さないと…」

 

「三位は島風‼︎無理難題を押し付けた運営を跳ね除け、よくぞここまで這い上がった‼︎」

 

「応っ‼︎島風、きそちゃんに借りました‼︎」

 

「きそはガチャガチャが趣味だ‼︎これまた運が良い‼︎四位は榛名‼︎案外揚げパンは無かったか⁉︎」

 

「これは中々美味いダズル‼︎」

 

「何と借り物を食べている‼︎榛名に揚げパンを貸した方、代金をお支払い致しますので、後程運営にお越し下さい‼︎」

 

「食べていいって言ってたダズル‼︎」

 

榛名は口周りに砂糖を沢山付けながら反論した

 

「まぁいいでしょう‼︎五位はローマ‼︎何とローマは裏手の方まで行き、屋台から水風船を調達した様だ‼︎」

 

「もっとマトモなの入れなさいよ‼︎」

 

マイクの横でローマが吠えている

 

だが、あの紙を書いたのは横須賀鎮守府の連中だ‼︎

 

とは言えず、実況を続ける

 

「さ…さぁ‼︎借り物競走が終わった所でお昼休憩に入ろう‼︎今回は特別ゲストを用意したぁ‼︎」

 

俺は会場を抜け、出入り口の少し先に設けられたテントに近付いた

 

「みんな見えるか⁉︎出入り口の向こうにテントがある‼︎本日は特別にスカイラグーンから差し入れを頂いた‼︎彼女達が作る料理はどれも美味しく仕上がっている‼︎観客席のみんなも是非頂いて欲しい‼︎では、しばしな休憩をお楽しみ下さい‼︎」

 

差し入れとは言え、ル級さんを筆頭に、大体の人が来てくれている

 

少しだけ居ないのは、スカイラグーンに誰か居ないと補給要員が居なくなるからだ

 

俺は約束通りラバウルの連中とミハイルとUちゃんを引き入れてお昼を食べ始めた

 

「あ、いたいた‼︎レイ‼︎」

 

「お前も来い‼︎」

 

横須賀も招き入れ、昔の部隊の連中が揃った

 

「後の競技は⁇」

 

「綱引きとお楽しみ競技が一つ。後は全基地対抗リレーね」

 

「おしっ‼︎もういっちょ気合入れるか‼︎」

 

あっと言う間に昼休憩が終わり、俺は実況席に着こうとした

 

「あっ、あんたは準備して。霧島、実況お願い‼︎」

 

「準備って…」

 

「私達も出るのよ。次は」

 

横須賀に連れられ、更衣室に向かう

 

どうやら出るのは綱引きでは無さそうだ

 

グラウンドでは、既に綱引きが始まっている

 

「さぁ‼︎両者拮抗状態マイク‼︎西側は武蔵‼︎東側に長門がいるマイク‼︎」

 

どうやら駆逐艦はおらず、今まで出場していない艦娘が参加している

 

ハーフパンツに履き替え、外に出ると横須賀が待っていた

 

「さっ、行くわよ」

 

「うわきつ…」

 

横須賀もブルマを履いているが、色んな所がパツパツで大変な事になっている

 

「提督指定の体操着よ⁉︎」

 

ドヤァと胸を張る横須賀

 

昔から胸だけは自慢の様だ

 

「まぁ、悩殺出来るだけの大きさはあるな…」

 

「決着がついたマイク‼︎西側の勝利マイク‼︎戦艦は両者同じ数だったが、重巡の多さが決着をつけたマイク‼︎」

 

「んで、何すんだよ」

 

「障害物競走よ」

 

「その体で…ふ〜ん…」

 

「さぁ‼︎次は提督一同が集結‼︎障害物競走マイク‼︎まずは第一レース‼︎」

 

隊長

 

ラバウルさん

 

トラックさん

 

呉さん

 

最恐最悪の四人が腕を鳴らしている

 

「や、ヤベェ…オーラが違う…」

 

「景品が豪華なのよ」

 

一位…お楽しみ設計図×3

 

二位…お楽しみ設計図×2

 

三位…お楽しみ設計図×1

 

四位…新作タブレット

 

「どれに転んでも当たりか…」

 

「まぁ、そんな所よ。お楽しみ設計図はみんな世に出てない特別な設計図。中には艦載機の設計図もあるわ」

 

「スタートマイク‼︎」

 

まずは第一関門、網くぐり

 

全員速い‼︎

 

匍匐前進慣れしている‼︎

 

「全員難なくクリアーマイク‼︎次は平均台‼︎これも速い‼︎一瞬マイク‼︎」



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69話 艦娘大運動会(5)

第二関門の平均台も難なくクリア

 

「さぁ‼︎最後の関門‼︎子供を抱っこしてゴールに向かうマイク‼︎」

 

「パパ〜‼︎」

 

「おいで‼︎」

 

隊長がたいほうを抱っこする

 

日常風景過ぎて変わりなく見える

 

「暁‼︎」

 

「司令官‼︎」

 

ラバウルさんが暁を抱き上げる

 

隊長と同じく、親子にしか見えないが、敢えて言っておこう

 

彼等は夫婦だ‼︎

 

「さぁ、おいで‼︎」

 

「きよまさおに〜ちゃん‼︎」

 

しかし何故か呉さんと文月は兄妹に見える

 

何故だ

 

何が違うのだ‼︎

 

「…」

 

「…」

 

そしてトラックさん

 

「な、なぁ…」

 

「提督、最近美味しそうになりましたねぇ〜」

 

トラックさんの前に立つ蒼龍

 

既にヨダレが垂れている

 

「悪いっ‼︎」

 

何とトラックさんは蒼龍を脇に抱え、ゴールに向かって行った‼︎

 

「提督、蒼龍は食べられませんよ⁉︎」

 

「食べないよ‼︎」

 

「でも提督、今日はカッコよくみえます‼︎」

 

蒼龍の言葉を聞いて、トラックさんも満更では無さそうだ

 

「順位を発表マイク‼︎一位‼︎ラバウルさん‼︎やはり元傭兵は色々と強い‼︎」

 

「ふふん♪♪レディを抱っこしてるもの‼︎勝って当然よ‼︎」

 

暁が胸を張っているが、暁は運ばれただけである

 

「二位はパパマイク‼︎彼も元傭兵マイク‼︎」

 

「おたのしみせっけいず」

 

たいほうはお楽しみ設計図を貰い、嬉しそうにしている

 

「三位は呉さんマイク‼︎」

 

「くっ…タブレットが良かった…」

 

何故か呉さんは膝から落ちた

 

「四位はトラックさんマイク‼︎蒼龍を抱えて良く頑張ったマイク‼︎折角なので、コメントをどうぞ‼︎」

 

「駆逐艦…引き受けてれば良かったぁぁぁあああ‼︎」

 

最近、トラックさんも呉さんもギャグキャラ要員になりかけているから怖い

 

「さぁ‼︎第二レースマイク‼︎」

 

 

横須賀

 

ワンコ

 

アレン

 

健吾

 

今回はレーンが一つ多い

 

「さぁ‼︎景品はこれマイク‼︎今回は着いた順から選べるマイク‼︎」

 

 

 

一…提督指定の体操着

 

二…提督指定の水着

 

三…あきつ丸の服

 

四…提督指定のセーラー服

 

五…提督指定のナース服

 

 

 

「…どれもいらねぇ」

 

「セーラー服だな」

 

アレンの言葉を聞き、血の気が引く

 

「ナース服がいい」

 

健吾、君はそんな趣味だったのか

 

「あきつ丸の服ね」

 

お前は見る限りそうだろうな

 

「水着、榛名は着れるかな⁇」

 

オーケー。全員変態だったな‼︎

 

「じゃあ体操着を貰う‼︎」

 

「変態」

 

「変態」

 

「変態」

 

「いいんじゃないですか⁉︎」

 

「テメェら…」

 

「スタートマイク‼︎」

 

もうヤケクソだった

 

隊長の時は、あんな良い景品だったのに‼︎

 

「おっと‼︎やはり元傭兵三人衆マイク‼︎第二関門まで難なくクリア‼︎問題は第三関門マイク‼︎」

 

「ちょ、ヤダ〜‼︎」

 

やはり横須賀は網くぐりで詰まっている

 

胸と尻が引っかかっている

 

周りには物凄いカメラのシャッター音が響いている

 

「若い男衆が多いので、今回は抱えて貰うのを変更したマイク‼︎」

 

「アレン、行ける⁇」

 

「だ、大丈夫…」

 

アレンは愛宕

 

「ぬぁぁあああ‼︎」

 

「ホレ、もう一踏ん張りダズル‼︎」

 

ワンコは榛名

 

「ぐぬぅぅううう‼︎」

 

健吾は大和

 

どう考えても無茶だろ…

 

「レイは私ですよっ‼︎」

 

鹿島だ

 

軽そうなので良かった…

 

「よし、行くぞ‼︎」

 

普段から抱いているので、鹿島の抱き方は大体分かっていた

 

「一位でゴールだ‼︎」

 

その時、小さな影が俺達を抜いて行った

 

「横須賀さんが一位でゴールマイク‼︎」

 

「はぁぁぁぁあああ⁉︎」

 

「何よ」

 

「おま…最後の関門は⁉︎」

 

「これよ⁇」

 

横須賀の手には、たまに工廠で出るペンギンのぬいぐるみが抱かれている

 

「き…汚ない…」

 

「私がルールブックよ⁉︎おーっほっほっほっほ‼︎」

 

「ムカつく〜‼︎」

 

「まぁまぁレイ。今晩これ着てあげますから、ねっ⁇」

 

鹿島の手には提督指定の体操着がある

 

「オーケー。チャラだ」

 

「あ、レイ。そのままこっち来て」

 

「お、おぅ」

 

横須賀に言われるがまま、会場を後にした

 

会場では、既にリレーが始まっている

 

 

 

 

言われるがまま横須賀に着いて行くと、格納庫に着いた

 

「来て…」

 

何故か分からないが、俺は今淡い期待を抱いていた

 

格納庫に入ると、一機の機体が駐屯してあり、隊長が機体に触れていた

 

「覚えてるかしら、このF-15S/MTD…」

 

「覚えてる。隊長が乗れば、最強の機体だ」

 

「マザーシステムはそのまんま。ステルスコーティングを施してあるわ」

 

「また、お前の力を借りる時が来た…頼んだよ、マザー…」

 

そう言って隊長は機体に頭を置いた

 

「これはね、みんなからの贈り物。ステルスコーティングはワンコ。ステルス戦闘システムはラバウル航空戦隊のみんなから。高解像ガンカメラはトラックさんから。味方管制システムは呉さんから。武器管制システムはレイから。エンジンは隊長の基地の妖精達から…そして私は金よ‼︎」

 

「何かムカつくな…」

 

横須賀は俺を無視して話を続けた

 

「この機体は生まれ変わったわ。名前も今はないわ。隊長、付けてあげて下さい」

 

「そうだな…」

 

隊長はしばらく考えた後、答えを出した

 

「F-15 SQ…だな」

 

「SQ…⁇」

 

「Snow Queen…雪の女王さ。白いボディに皆を統べる能力。そしてマザー…」

 

「なるほど…じゃ、今日からはマザーじゃなくてクイーンだな⁉︎」

 

《畏まりました。マーカス様》

 

「相変わらず聞き分け良いなぁ」

 

「隊長、この機体は現時刻を持って貴方の機体になります」

 

「有難く頂戴する」

 

これで隊長の機体が戻って来た

 

一安心、だな

 

「横須賀。お前そろそろ着替えろ」

 

「何でよ。動きやすいのよね、これ」

 

「襲われるぞ⁉︎」

 

「変態‼︎」

 

 

 

 

こうして、運動会は幕を降ろした

 

え⁇何処の基地が勝ったって⁇

 

ラバウルチームなんだな、これが

 

彼等の妻達も相当な腕前だった…と、だけ言っておく




お楽しみ設計図…何が出来るか分からない不思議な設計図

時たま出て来る謎の設計図

パパが一度入手した設計図にはジェットエンジンの設計図が入っていたり、他にも強力な艤装や機体の設計図が入っている事が多い

でもたまにはドラム缶レベルが出るけどご愛嬌

出所は横須賀曰く内緒らしいが、色んな所にある




提督指定の体操着…紺ブルマと体操着のセット

レイの好きなコスプレ

大人が着るとエロい

鹿島が着るとパツンパツンになる




提督指定の水着…スクール水着

ワンコが好きなコスプレ

榛名が着ると破れそうな位ムチムチになる




提督指定のセーラー服…普通のセーラー服

アレンの好きなコスプレ

アレンは愛宕と制服プレイがしたいらしい



提督指定のナース服…ピンク色で胸の所に余裕がある

健吾の好きなコスプレ

大和に恋の病を治して貰うらしい




提督指定のメイド服…白黒フリルのメイド服

作中には出ていないが、パパの好きなコスプレ

一度でいいから武蔵とご主人様プレイがしたいらしい




提督指定のスモック…水色オンリー

これも作中には出ていないが、ラバウルさんの好きなコスプレ

プレイではなく、見るのが好きらしい




提督指定の和服…橙色の和服

これまた作中には出ていないが、呉さんの好きなコスプレ

実は呉さんは鳳翔さんが好きだった

お母さんなのにおかしいね‼︎




提督指定の学ラン…あきつ丸の服に似てる

これも作中に出てないが、トラックさんの好きなコスプレ

飛龍に着せて、強気攻めプレイが好きらしい。ホモではなく、女の子が男装するのが好きらしい






F-15 SQ ”Snow Queen”…パパの愛機

F-15S/MTDが大幅改装され、みんなから色んなデータや装備を受け取った機体

ステルスコーティング…ワンコ

ステルス戦闘システム…ラバウル航空戦隊

高解像ガンカメラ…トラックさん

味方管制システム…呉さん

武器管制システム…レイ

エンジン…隊長の基地の妖精達

横須賀…金

架空機だが、実質最強の機体

ステルス機能を生かしつつ、無人機も管制しながら戦える

武器管制システムも素晴らしい出来で、敵に見合った武器をいち早く検索し、素早い攻撃が可能となる


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70話 雪の女王(1)

さて、69話が終わりました

今回のお話の前に報告が一つ

少し前にリクエストがあった新キャラが、今回のお話で出て来ます

リクエストして頂いた方、名前は伏せますが”奴”が出ます‼︎

今回のお話は、その新キャラとレイの過去がまた少し分かります

そして題名通りの方が活躍します


「とりあえずこんな所かな⁇この機銃には、AP弾を加工した物を装填できる。火力、制空力共に上がるはずだ」

 

隊長ときそと共に、今日は呉に来ている

 

以前照月と秋月に造った主砲が思ったより好評で、反対派に配備される事になった

 

「とりあえず、今回は二つ持って来た。試験用と実戦用で使ってみて欲しい」

 

「すみません…ウチは駆逐艦の火力不足が目立ってましてね…」

 

「雷装はどうだ⁇魚雷が入用なら、今度設計図を持って来る」

 

「お願いしても宜しいですか⁇」

 

「任せてくれ。よしっ‼︎会議はこれでオシマイだ‼︎腹減った‼︎」

 

書類を纏め部屋を出ると、呉さんが話し掛けて来た

 

「レイ、カツレツは好きか⁇」

 

「好き‼︎カツレツあるのか⁉︎」

 

「ある。最近、コックが新作として出して採用したんだ。是非食べてくれ」

 

呉さんと別れ食堂に入り、食券を購入

 

俺達の基地の食堂とは随分違うな…

 

ここの基地含め、大抵の基地は絵に描いた様な食堂だ

 

俺達の基地はキッチンがあり、カウンターと長机が近く、いつもカウンターからはまかぜやグラーフが料理を渡してくれる

 

後はテレビがあったり、ソファがある

 

あ、出入り口もある

 

子供達は良くそこから出入りしているし、たいほうは出入り口付近で虫を捕まえて遊んでいる

 

ここより遥かに狭いが、生活感に溢れている

 

「カツレツ3つ‼︎」

 

「了解」

 

愛想無さそうな男性が食券を取り、中に消えた

 

「カツレツってなぁに⁇」

 

「トンカツみたいなもんだ」

 

「と、トンカツ⁉︎」

 

「はまかぜ、もうちょい油もん作ってくれよ…」

 

しばらくすると、コックが料理を持って来た

 

「カツレツ3つだ」

 

「サンキュー」

 

「…」

 

コックは此方をジーッと見ている

 

「な、何だよ…」

 

「レイも提督か…世も末だな」

 

「んだと⁉︎」

 

「お前は空が似合う。何故降りた」

 

「降りてねぇ‼︎パイロット兼仮提督兼開発者兼医者なだけだ‼︎」

 

「相変わらず多いなぁ…」

 

カツレツを口にしながら、きそがボヤく

 

「レイ、後で模擬戦に付き合え。勝った方が正しい…俺達のルールだろ⁇」

 

「ケッ‼︎食ったらな‼︎」

 

俺はカツレツを食べながら、コックが誰か考えた

 

おそらく、鹿島教室にいた時の同期生だ

 

誰だ…

 

まぁいい、模擬戦で分かる

 

 

 

 

食後一時間…

 

俺はフィリップの中に居た

 

「よし、フィリップ。相手は所属不明機だ。心して掛かるぞ」

 

《オーケー‼︎でも、何の情報も無いんだね…》

 

フィリップのモニターには”unknown”と表示されている

 

機体もパイロットも分からないが、あの気迫、手練である事は間違いない

 

「スティングレイ、出る‼︎」

 

短めの滑走路から上がり、辺りを索敵する

 

「レーダーに感…」

 

《レシプロ機だ…機体はP-40…》

 

レーダーに真っ直ぐ向かって来る機体が一つ表示される

 

「馬上槍試合がお好みの様だ。付き合ってやれ‼︎」

 

《オーケー‼︎》

 

頭合わせで互いが向かって行く

 

「回避行動無し…マジかよ‼︎えぇい‼︎」

 

正面衝突しそうな位まで来た時、操縦桿を左に傾けた

 

「‼︎」

 

すれ違った時、P-40の側面に書かれたエンブレムが見えた

 

「”虹色蝶(パピヨン)”のエンブレム…サンダルフォン隊か⁉︎生き残りがいたのか⁉︎」

 

《やっと分かっか、レイ》

 

「お前ター坊か⁉︎」

 

《そうだ》

 

ター坊と呼ばれたP-40のパイロット

 

彼の名は高山凛太郎

 

鹿島教室の時の同期生だ

 

当時、鹿島に撃沈されたのを覚えている

 

彼は鹿島教室を卒業した後、サンダルフォン隊と呼ばれる部隊に所属した

 

あの日の反抗作戦でアメリカ側の空母から飛び立った以降の記録は無い



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70話 雪の女王(2)

《皮肉なもんだな。記録から一度抹消された物同士が、再び相見えるとは》

 

「こっちのセリフ…だっ‼︎」

 

《右翼にヒット‼︎》

 

P-40に撃墜判定が降りた

 

《負けたか…だが、これで終わりじゃないぞ》

 

「へ〜へ〜。降りっぞ‼︎」

 

基地に戻ると、いの一番にP-40に駆け寄った

 

既に彼は降りている

 

「ター坊‼︎ははっ‼︎」

 

高山の後ろから抱き着いた

 

「レイ‼︎」

 

「お前誰が降りただって〜⁇」

 

「悪い悪い‼︎てっきり提督してるかと思っただけだ‼︎」

 

「全部続けてるわい‼︎」

 

 

 

 

二人が話しているのを、私は少し離れた所で見ていた

 

「あらあら、大佐。お久し振りです」

 

「香取先生⁇ご無沙汰です」

 

香取先生は私の機体を見て、左手で触れた

 

「綺麗な機体ね。F-15かしら⁇少し違う⁇」

 

「F-15 SQ。仲間の皆からのプレゼントさ」

 

《香取…先生⁇》

 

クイーンは不思議そうにしている

 

元々女性型の学習AIを持つクイーンは、この機体になってもしっかり残っていた

 

「クイーンは知らなかったな。私の教師だった人だ」

 

「あら、お話出来るの⁇」

 

《対話型IFが付いています。貴方も見えます》

 

「ホント、貴方は昔から機体や人に恵まれるわね」

 

「間違いないです」

 

《恵まれる…その内に、私も入りますか⁇》

 

突然の質問に、私達は少し驚いた

 

「当たり前だ‼︎クイーンが居なきゃ、今までの戦争だって、乗り越えられなかった」

 

《そう…ですか‼︎よかった…》

 

「これからも頼むぞ⁇」

 

《えぇ‼︎このクイーン、貴方がたをお護りします‼︎》

 

名はクイーンだが、時々幼く見える時がある

 

物語とかに出て来る、若くて優しいお姫様みたいな感じだ

 

少し抜けてはいるが、根はしっかりしている

 

「凛ちゃんにはもう会った⁇」

 

「凛…あぁ‼︎コックの‼︎」

 

「貴方も問題児だったけど、あの子は更に問題児だったわ⁇ふふふっ‼︎」

 

「あいつがか⁉︎」

 

香取の言い分は面白かった

 

俺が問題児なのは、今まで私の様な生徒が居なかった事らしい

 

先生の言う事を聞かずとも、的確な判断で行動していたらしい

 

彼が問題児なのは、先生の言う事に対して反論する事

 

彼は空に対して自論を持っているらしく、先生の言う事に対して、あぁではない、こうではないと言い、レイを相手に置いて、よく模擬戦をしていたらしい

 

「それに貴方、凛ちゃんをサンダーバード隊に誘った事があるんでしょ⁉︎」

 

「断られましたけどね…」

 

「申し訳無いって言ってたわ。純粋に空を目指す人に対して、成り行きで空軍に入った俺が、入る訳には行かないって」

 

「気にしなくていいのに…」

 

「でもいいんじゃないかしら⁇呉の提督さんに腕を買われてここに所属して、今は恋だってしてる」

 

「相手は⁇」

 

「加賀さんよ。演歌歌手の」

 

「なんですか」

 

「うわぁ‼︎」

 

話していた相手が急に現れた

 

「良い機体ね」

 

加賀はテレビで何度か見た事がある

 

年末の歌番組でトリをしていた気がする

 

「あ、あぁ…ありがとう」

 

「陸戦機かしら。武装が沢山付いてる」

 

加賀はクイーンを物珍しそうに見ている

 

《対空兵装は長距離対空ミサイル4本、短距離対空ミサイル2本。そして…》

 

クイーンは下腹部のハッチを開いた

 

普通のF-15には付いていないが、クイーンは少しだけなら爆弾を積める様に設計されている

 

《対地兵装は軽投下爆弾が2個、中規模散弾ミサイルが1本です》

 

「マルチロールなのね。”昔の”私の艦載機とは比べ物にならない」

 

《戦闘機だって流行は気にします‼︎》

 

「昔のって、もう艦娘じゃないのか⁇」

 

「えぇ。最近居住区に住み始めたわ。ビスマルクとも知り合いよ」

 

無表情を貫く彼女だが、居住区の話をした時、少し顔が綻んだ

 

「感謝するわ。貴方が居たから、引退した私達は幸せに暮らせる」

 

「お相手も居るみたいだしな⁇」

 

「あまりに行動を起こさないので、こちらから行こうかと」

 

空母の子は、どうも積極的だ

 

グラーフも彼女から告白したみたいだし、お淑やかに見えて肉食が多い

 

「隊長‼︎ター坊連れてスカイラグーン行こうぜ‼︎行った事無いんだってよ‼︎」

 

格納庫の端からレイの声がした

 

「呉さんには言ったか⁉︎」

 

「是非連れてってくれ、だと‼︎」

 

「よし‼︎なら行こうか‼︎」

 

「じゃあ、私はこれで。皆さんに宜しくお伝え下さい」

 

「ありがとう、先生」

 

「私もこれで。高山さんに着替えを持って来ただけですから」

 

「気をつけてな。みんなに宜しくな‼︎」

 

「えぇ」

 

二人と別れた後、既に離陸していた二人を追って、空に上がった



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特別版 魔剣士とパパ

言っていた特別版を貼ります

ストーリーと全く関わらないし、駄文だし、作者の遊びだし、見なくてもストーリー分かります 笑

今回のお話では、作者の別作品の世界から三人が登場します




登場人物…

 

毛利…作者の他の作品からゲスト出演して来た、黒いトレンチコートを着た男性。オリジナルキャラ。作者の本名か

も知れない

 

作者の他の作品”おはなしの館”からゲスト出演して来た、左腕に障害がある男性。イカロスとリグレットを連れて、色んな本の世界を冒険しているらしい

 

第一印象は暗い感じがするが、性格は明るく、人と話すのが好きらしい。

 

童話や絵本が世間から風化した時に、本の中に産まれる”神話”と呼ばれる者を倒しながら、主人公や物語の行く末を正して行き、結末まで見届ける事をしているらしく、色んな物語の”結末の先”を知っている

 

武器は剣。威力が高く、手数も多い

 

イカロスからはお兄ちゃん

 

リグレットからは黒騎士さんと呼ばれている

 

もう出ない

 

 

 

 

イカロス…作者の他の作品からゲスト出演して来た、低身長巨乳の白髪の女の子。オリジナルキャラ

 

摩耶から買った本の中に迷い込んだパパが出会った女の子の一人

 

毛利が一番最初に入った絵本”みにくいアヒルの子”の中で出会ったらしく、見る物や食べる物全てに好奇心を向ける

 

容姿は浜風に似ているが、性格が明るく、好奇心旺盛。そして食いしん坊

 

黒い鎧を着ているが動きが速く、右腰にレイピアを挿している所から見て左利き。白鳥なので空を飛べる

 

”イーちゃん”、もしくは”イカロス”と呼ばれている

 

もう出ない

 

 

 

リグレット…作者の他の作品からゲスト出演して来た、赤髪の女の子。この子もオリジナルキャラ

 

毛利とイカロスと共に、絵本の世界を冒険している、メイド服を着た女の子

 

艦これには似ているキャラがいない

 

三つ編みがトレードマークで、イカロスと同じ位の身長。胸は普通

 

物語や出処は不明だが、暴飲暴食のイカロスと違い、粗食で物分かりが良く、真面目そうに見えて冗談が通じる

 

装備はレンチ。機械系の敵を相手するのが得意

 

何故こんな名前になったかは言わないが、二人からは”リグ”と呼ばれている

 

もう出ない

 

 

本文に行きます

 

 

 

 

 

 

 

ある日横須賀に行くと、摩耶の店が開いていた

 

摩耶が店を開くのは珍しく、何処で開くかも日も知らされないので、中々貴重だ

 

「摩耶っ」

 

抱っこしていたたいほうを降ろすと、店の前に座って色々見始めた

 

「おっ‼︎大佐‼︎今日は横須賀に用事かい⁉︎」

 

「定期的に開かれる資源についての話し合いさ。今日は何売ってるんだ⁇」

 

「色々あるぜ‼︎」

 

「がーがーさん」

 

たいほうが持っているのは、ゼンマイ式のアヒルのオモチャだ

 

「たいほう。それ多分ガーガーさんじゃなくて、白鳥だと思うぞ⁇」

 

「お風呂に浮かべられるオモチャだな」

 

「はくちょう⁇」

 

「それ欲しいか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「じゃあそれと…」

 

目に止まった、一冊の分厚い本

 

題名が無く、赤い表紙で分厚い本だが、何となく気になった

 

「これは⁇」

 

「これか⁇よく分からないんだ…何か潰れた図書館の奥底から見付かったらしいんだけど、私にもよく分からない‼︎安くしといてやるよ‼︎もし良い情報が書いてあったら儲けもんだぜ⁉︎」

 

「…分かった。たまには読書も必要だしな」

 

「二つで200円で良いぜ」

 

摩耶に200円を渡し、白鳥のオモチャと本を買った

 

「はい。相変わらず安いな」

 

「へへへ、毎度あり〜‼︎今度はちゃんとしたモン仕入れとくよ‼︎」

 

「ありがとう。その内、あの家に帰るからな」

 

「土産話でも期待しとくよっ‼︎」

 

摩耶と別れ、高速艇に乗り込む

 

たいほうが膝の上で白鳥のオモチャを弄っている

 

「パパ、はくちょうって、えほんにでてきたとりさん⁇」

 

「そっ。帰ったら読んであげる」

 

「やったぁ‼︎」

 

言っている間に基地に着いた

 

既に夕暮れになっており、とりあえず夕飯を食べて、風呂に入った

 

風呂から上がり、食堂で先程の本を開けてみた

 

「おっ」

 

みにくいアヒルの子…

 

シンデレラ…

 

マッチ売りの少女…

 

幸せな王子様…

 

本には沢山の童話が載っていた

 

漢字が多く子供向けでは無いが、絵付きでとても分かりやすい

 

どうやら本当に儲け物だった様だ

 

「随分ボロい本だな⁇摩耶の店からか⁇」

 

コーヒーを飲んでいるレイが興味を示した

 

「そっ、中々良いぞ⁇童話がいっぱい載ってる」

 

「これで夜に読む本迷わなくて済むな⁇」

 

「まぁな」

 

「パパ〜、どんなほん⁉︎」

 

武蔵と共に風呂から帰って来たたいほうは、いの一番に本を気にした

 

「絵本がいっぱい書いてある。読んであげるから、お布団行こっか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「提督よ。摩耶から買ったのか⁇」

 

武蔵にまで見抜かれていた

 

「みんな見抜いているのか…」

 

「横須賀にある図書は、全て管理されていて美品ばかりだからな」

 

「なるほど…」

 

「まぁ、提督の顔を見る限り、当たりだったみたいだな⁇」

 

「まぁな」

 

「たいほうよ。ちゃんと眠るのだぞ⁇」

 

「うんっ。おやすみ、むさし」

 

「ふふっ、おやすみ」

 

武蔵がたいほうの頭を撫で、私達は子供部屋に入った

 

たいほうが布団に入り、私は横で本を開いた

 

「みにくいアヒルの子」

 

「がーがーさん」

 

武蔵辺りが教えたのだろうか⁇

 

たいほうはアヒルをがーがーさんと言う

 

しばらく読んでいると、いつの間にかたいほうは寝息を立てていた

 

たいほうに布団を被せた時、私も眠気が来て、そのままそこで横になった

 

 

 

 

 

 

 

「…やぁっ‼︎」

 

「…っ‼︎」

 

暗闇の向こうで、誰かの声が聞こえる…

 

鉄がぶつかる音もする…

 

それに、腹の上が重い…

 

「ん…はっ‼︎」

 

目を開けると、深海棲艦に囲まれていた‼︎

 

どうやら対話出来る様子では無い様子だ

 

「おい、あんた‼︎」

 

剣を持った黒いトレンチコートを着た男が視界に入った

 

「目が覚めたか⁉︎」

 

「貴方は…⁇」

 

「話は後だ‼︎その子抱えて後ろで待ってろ‼︎」

 

そう言われて腹の上を見ると、たいほうが居た

 

完全に目が覚め、辺りを見渡してみた

 

どうやら基地に居る様だ

 

もたれているのは格納庫の外壁だ

 

「ん〜…」

 

たいほうの目が覚めた

 

「わぁ‼︎しんかいせいかんいっぱい‼︎」

 

「たいほう、艦載機出せるか⁇」

 

「だせるよ‼︎ゆんかーすごーごー‼︎」

 

たいほうは背中から折り畳み式のボウガンを取り出し、何発か撃ち出した

 

撃ち出した矢は爆撃機に変わり、深海棲艦を消し飛ばして行った

 

「何だ…魔法でも使ったのか⁇」

 

男が驚いている

 

もしかして、艦娘を知らないのか⁇

 

「よいしょっと‼︎空は終わったよ‼︎」

 

空から白髪の女の子が降りて来た

 

はまかぜと似ているが、何処と無く違う

 

「こっちも終わりましたよ‼︎」

 

今度は赤髪のメイド服の女の子が現れた

 

「”あんたの物語”は厄介そうだ…」

 

「物語…⁇」

 

「そっ。俺は毛利。修復師をやってる」

 

「修復師…⁇」

 

「簡単に言えば、絵本や物語を元のお話に戻す仕事さ」

 

「大変そうだな…よっこら」

 

ようやく立ち上がり、二人の女の子と目を合わせた

 

まずは白髪の女の子から自己紹介を始めてくれた

 

「僕はイカロス‼︎白鳥なんだよ‼︎」

 

「天使じゃないのか⁇」

 

羽を広げているイカロスは、絵本に出て来る天使と瓜二つだった

 

「あはは。みんなからそう言われるんだけど、僕は根っからの白鳥だよ⁇」

 

「世界は広いな…」

 

そして、赤髪の女の子に目を合わせた

 

「リグレットです。機械の扱いや分解はお任せ下さい‼︎」

 

二人共元気があって良い

 

特にリグレットはレイと気が合いそうだ

 

「それで、あんたの名前は⁇」

 

「私は…みんなからパパか大佐と呼ばれてる」

 

「じゃあパパだね‼︎お兄ちゃん‼︎」

 

「そうだな」

 

イカロスは毛利をお兄ちゃんと呼んだ

 

「兄妹なのか⁇」

 

「…内緒だ。その女の子は⁇」

 

「あたしたいほう‼︎」

 

たいほうは元気良く答えた

 

私がまだ彼に警戒心が取れないのに対し、たいほうは全く不安を感じていないみたいだ

 

「そうか〜。君は召喚師か何かか⁇」

 

「たいほうそーこーくうぼ」

 

「装甲空母…⁇大佐の世界では空母は人間の形をしてるのか⁉︎」

 

どうやら毛利は本当に艦娘を知らない様だ

 

「ま、まぁ良いさ‼︎俺達はとにかく、大佐の物語を修復しに来たんだ」

 

「物語…わ、私の⁇」

 

「そっ。人間誰しもが持ってるだろ⁇”人生”って名の物語を。大佐は何処かで綻びが生じてる。だから俺達を呼んだんだろ⁇」

 

「呼んだ…⁇」

 

「まっ、話すより見た方が早いだろ。行こう‼︎」

 

毛利に連れられ、食堂に向かった

 

「おぉ、あるある‼︎」

 

「これは⁇」

 

食堂には、幾つかの光った物があった

 

「これは誰かの心にある記憶の欠片さ。触れてみな」

 

言われるがまま、一つに触れてみた

 

光の中に、ぼんやりとだが誰かが映った

 

”パパはいつもお菓子くれるんだ‼︎”

 

”パパこそ至高”

 

どうやられーべとまっくすの記憶みたいだ

 

「ほうほう。姉妹で好きな人が違うのか‼︎」

 

横で毛利が面白そうに見ている

 

「今のは…⁇」

 

「どうやら大佐の人生の綻びは”恋愛”にあるみたいだな」

 

「行くぞ〜‼︎」

 

「しゅっぱ〜つ‼︎」

 

外でイカロスとたいほうが遊んでいる

 

イカロスはたいほうを抱え、少しだけ浮かび上がってその辺を飛び始めた

 

「じゃっ、次の奴行こうか」

 

「あ、あぁ」

 

次の光に触れる前に、毛利は少しだけ説明をしてくれた

 

「この光は”記憶の断片”って言うんだ。大佐場合、誰がどう思ってるか分かる。問題は、大佐を一番気に掛けてる子を探す事だ」

 

一発でピンと来た

 

「まっ、今は順番に見て行った方がいいな」

 

光に触れると、今度ははまかぜとグラーフが現れた

 

”大佐はいい人です。いつも私を助けてくれます”

 

”隊長は凄い人。何があっても、絶対助けてくれる”

 

「随分好かれてるな」

 

「子供みたいなものさ。みんな…」

 

「ここのエリアはこれだけみたいだ。他の所に行こう」

 

子供部屋に行くと、また一つあった

 

”パパですか⁉︎パパは良い人ですよ〜‼︎しおいを助けてくれましたからね‼︎”

 

”パパ⁉︎まぁ、レイより出来た男性だと思うわ。だけど、私はレイみたいなマヌケが好きなの‼︎”

 

しおいと霞だ

 

やっぱり霞はレイが好きなんだな

 

「もう一人いるみたいだな」

 

「レイって男がいるんだ。君に少し似てるかな⁇」

 

「そいつの記憶を楽しみにしとくよ」

 

子供部屋を出て、自分の部屋に入った

 

やはり一つあった

 

誰が見えるか予想はつく

 

「ちょっと待って下さ〜い‼︎とうっ‼︎」

 

いきなり現れ、私の手を取ったのはリグレットだ

 

「この記憶の断片は、大佐さんが一番好きな人です」

 

「分かってる。悩みの種は、恐らくここにある」

 

「もし、違った答えを聞いても、後悔しませんか⁇」

 

「しない。行くぞ」

 

躊躇いもせず、光に触れた

 

”提督は私の自慢の旦那だ‼︎ケッコンして、何の後悔もない。ただ…私がもっと思い出せれば良いのだが…”

 

やはり武蔵が映った

 

だが、何となく悩みの種ではない気がする

 

「訳ありみたいだな…」

 

「昔の記憶を思い出せないんだ…」

 

「まっ、これ以上余計な詮索はしないでおくよ…しかし…」

 

「何も起きませんね…」

 

二人が辺りを見回す

 

「どうやら、大佐の綻びは彼女じゃ無かったみたいだ」

 

「他の所に行こう」

 

自分の部屋から出て、レイの部屋に入ってみた

 

「あった」

 

ベッドの上に光がある

 

レイの部屋にある位だ

 

恐らく私よりレイだろう

 

”大佐ですか⁇レイをあそこまで手懐けるなんて、立派も立派です‼︎後進の育成にはうってつけのお方です‼︎”

 

”レイも好きだけど、提督さんも好きですよ⁉︎ここに来てから、知らない事がいっぱいです‼︎”

 

鹿島とプリンツだ

 

大方レイの事だった

 

「この子達は大佐の子じゃないな」

 

「そう。レイの子だ」

 

「次行こう」

 

レイの部屋を出た後、ローマの部屋に入ってみた

 

机の所に光がある

 

「大佐さん。その方も訳ありです」

 

「私の妹だよ」

 

リグレットの忠告を、もう少し聞いておくべきだったと、数十秒後に後悔する

 

”大佐⁇たまに誘拐して抱き枕にしてるわ”

 

”兄さん⁇兄さんは出来た人だと思うわ。まっ、私を妹だと知らなくて抱かれた事もあるけど…優しかったわよ⁇”

 

雲龍とローマだ

 

だがそこでは無い

 

言った事がマズイ

 

「妹はマズイな」

 

「大佐さんの性生活が明らかになりましたね‼︎」

 

毛利はほんの少し目を細め、リグレットは何故かテンションが上がっている

 

「…次行こう」

 

恥ずかしい気持ちのまま、ローマの部屋を後にした

 

残されているのは、工廠施設の周りしかない

 

まずは格納庫から当たろう

 

「おぉ‼︎」

 

「黒騎士さん‼︎戦闘機ですよ、戦闘機‼︎」

 

格納庫にはクイーンが居た

 

リグレットのテンションがやたらと高い

 

「リグ、読めるか⁇」

 

「お任せ下さい‼︎」

 

リグレットはクイーンにシールが付いた紐の様な物を点け、手元の機械を弄り始めた

 

「リグは機械弄りが得意でな。あぁして、機械の意思を読み取れるんだ」

 

「この機体はAIが付いてるぞ⁇」

 

「本心さ。この機体が大佐をどう思ってる…か」

 

「え〜と…とても大切な人だと言っています。もし同じ人間だったなら、貴方に恋をしてみたかった…ですって‼︎」

 

「戦闘機まで恋に堕ちるとはな…」

 

「クイーン…」

 

「この機体からは安心感が感じ取れる。大佐がいると落ち着くみたいだな」

 

「ありがとう、クイーン」

 

「大佐、私武器を見てみたいです‼︎」

 

クイーンを見てからテンションが上がりっぱなしのリグレットを連れて工廠に入った

 

「おおおおぉ〜‼︎」

 

主砲や機銃

 

大型のライフルや造りかけの魚雷が沢山ある

 

「た、大佐さん‼︎黒騎士さん‼︎ちょっと調べてもいいですか⁉︎」

 

「好きにしていいよ」

 

「失礼の無いようにな⁉︎ありがとう、大佐」

 

「興味津々な子は好きだ。あったぞ‼︎」

 

レイがいつも座っている椅子の上に光があった

 

「今回は大丈夫そうだ。まっ、ちょっと多めに入ってるけどな」

 

毛利の言葉を聞き、光に触れた

 

”隊長⁇俺の兄貴であり、父でもある人だ。身寄りの無い俺に、色んな事を教えてくれたり、色んな場所に連れて行ってくれた。今も昔も、隊長を尊敬する気持ちは変わらないな”

 

”パパ⁇僕を助けてくれた人だよ‼︎パパがいなかったら、僕はみんなと出逢ってないよ‼︎”

 

”隊長は素晴らしい人徳の持ち主です‼︎ここに来て、遊ぶ事を教えて頂きました‼︎”

 

”隊長さん⁇凄く頼りになる人ですよ⁇いつも私達を気に掛けてくれます‼︎”

 

レイ、きそ、そして秋月照月姉妹だ

 

レイの言葉に一番安心した

 

正直、内心はどう思っているのか分からなかったからだ

 

「いい奴だな。確かに俺に似てる」

 

「ふっ…」

 

「黒騎士さん、どうやら今ので最後です…」

 

「八方ふさがりだな…一旦休憩しよう」

 

外に出て、港で三人で一息ついた

 

私が煙草に火を点けたの見て、毛利も煙草に火を点けた

 

「ねぇな…大佐の綻びは…」

 

「自分でも分からなくなって来た…はぁ」

 

「答えは案外近くにあったりしてな…」

 

「パパ〜‼︎たかいよ〜‼︎すごいよ〜‼︎」

 

頭上でたいほうを抱えたイカロスが飛んでいる

 

「お兄ちゃ〜ん‼︎お腹空いた〜‼︎」

 

「降りて来い‼︎パンがあるぞ‼︎」

 

「分かった〜‼︎」

 

イカロスとたいほうが降りて来て、それぞれに抱き着く

 

「たかかった‼︎いかろすはすごいね‼︎」

 

「ふふ〜ん、僕は白鳥だからね‼︎」

 

イカロスはドンと胸を張り、リグレットからパンを受け取った

 

毛利の膝の上で美味しそうにパンを食べるイカロスを見て、たいほうもパンを口にした

 

「おいしいね‼︎」

 

膝の上のたいほうは嬉しそうにしている

 

私にとってのたいほうは、毛利にとってのイカロスなんだろうな…

 

「んで、お兄ちゃん。見付かった⁇」

 

「まだだ。記憶の断片はもう無い」

 

「ん〜…大佐さん、まだ見てない所は⁇」

 

「無いな…あらかた見回った」

 

「…いや、一つだけ見てない」

 

「ん⁇」

 

毛利の目線は、私の膝の上に向かっている

 

「たいほう⁇」

 

「ん⁇」

 

「たいほうちゃん、ちょっとごめんね…」

 

イカロスはたいほうの胸に手を置き、何か呟いた後、たいほうから何か出て来た

 

「わぁ、ぴかぴか‼︎」

 

「あったあった‼︎これだね‼︎」

 

「イカロス。たいほうと向こうで遊んでいてくれないか⁇」

 

「分かった‼︎たいほうちゃん、あっちで僕の手品見せてあげる‼︎」

 

「てじなみたい‼︎」

 

イカロスがたいほうを連れ、食堂に入って行った

 

「リグ、構えろ」

 

何故か臨戦態勢に入った二人を横目に、光に手を伸ばした

 

「大佐、触れてみてくれ」

 

「分かった」

 

恐る恐る光に触れた

 

”パパはね、とってもいそがしいの。たいほうはおるすばんして、パパをまつのがおしごとなの。たいほう、わがままいわないよ⁇でも、たいほうパパとあそびたいの…”

 

光の中のたいほうが消えた

 

「たいほう…」

 

「大佐、そこから離れろ‼︎」

 

言われるがまま、光から離れた

 

その瞬間、光の中から深海棲艦が出て来た

 

「神話だ‼︎大佐、神話は修復師の俺達しか倒せない‼︎イカロスとチェンジだ‼︎たいほうを護れ‼︎」

 

「分かった‼︎」

 

食堂に走り、イカロスを見つけた

 

「神話が出たの⁇」

 

「らしいな。代わってくれと頼まれた‼︎」

 

「たいほうちゃん、お別れみたいだ」

 

「いかろすいっちゃうの⁇」

 

悲しそうにするたいほうを見て、イカロスはたいほうを抱き締めた

 

「大丈夫。僕達はいつだって本の中にいる。いつだって逢えるよ⁇」

 

「ほんと⁇」

 

「ホントだよ。大佐さんに色んな本を読んで貰うんだ。僕はそこにいる」

 

「…わかった。ばいばい」

 

「ん…バイバイ」

 

子供っぽく見えて、イカロスはしっかりしていた

 

母性本能が強いのかも知れない

 

「大佐さん。ありがとう。後は僕達に任せて‼︎」

 

「すまない」

 

そう言い残し、イカロスは飛んで行った

 

「サン……ク‼︎」

 

「………弍式‼︎」

 

「え…っ‼︎」

 

港で三人が戦っているのが見えた

 

善戦しているみたいだ

 

「いかろす」

 

窓際でイカロスを心配そうに見つめるたいほう

 

「たいほう…」

 

数分後、爆発が起きた

 

どうやら片付いたみたいだ

 

「いかろす‼︎」

 

たいほうが外に出ようとするが、何故か開かない

 

窓際に三人が来て、イカロスが窓に口を付けてたいほうを笑わせている

 

窓の向こうで毛利の口が開いた

 

「じゃあな…後はあんたに任せた‼︎」

 

三人が光に包まれる…

 

 

 

 

 

 

 

「隊長さんっ‼︎朝ですよっ‼︎」

 

鹿島の声が聞こえる…

 

横ではたいほうが目を覚まし、座って目をこすっている

 

どうやら夢だったみたいだ

 

「朝ごはん出来てますよっ‼︎」

 

「あぁ…すぐ行く…」

 

鹿島が部屋から出た途端に、たいほうが抱き着いて来た

 

「すごいゆめみた‼︎あのね‼︎おそらとんだの‼︎」

 

「パパはいたか⁇」

 

「いたよ‼︎くろいひとと、あかいかみのおんなのことなんかさがしてた‼︎」

 

「そっかそっか‼︎」

 

たいほうを抱えて立ち上がった時、枕元の本が目に入った

 

この本の物語の一部だったのだろうか…

 

三人には感謝しなくちゃな…

 

食堂に入り、たいほうをいつもの椅子に座らせた

 

「たいほう、お前鳩と遊んで来たのか⁇」

 

「はと⁇」

 

たいほうの背後を通りがかったレイはたいほうの背中に何か付いているのに気が付いた

 

「ホレ」

 

「わぁ〜‼︎」

 

レイの手には、白い羽根があった

 

「ちょうだい‼︎」

 

「ほらよっ」

 

羽根を貰い、たいほうは嬉しそうにしている

 

「パパ、これ、てんしのはねなんだよ‼︎」

 

「大事にしろよ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

私は、無邪気に笑うたいほうの頭を撫でた




おはなしの館では、毛利達はもっと戦いますし、魔法とかも出てきます

その内ハーメルンに貼るかも知れません 笑


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70話 雪の女王(3)

レイが鹿島とケッコンした理由が明らかに‼︎

サラッとしか言わないよ‼︎


「ここがスカイラグーン…」

 

「そっ。深海の子もいるけど、ここにいる間は皆、客になる」

 

滑走路付近には深海の戦闘機や人間の戦闘機が並べられている

 

高山にとっては、不思議で仕方ない光景だ

 

「行くぞ〜」

 

三人が中に入って行く

 

外では給油されているクイーンとフィリップがいる

 

《ここは不思議ですね…》

 

フィリップのモニターに”Snow Queen”と表示された

 

クイーンから通信が来ている証だ

 

《あっ、そっか‼︎クイーンは初めてか‼︎》

 

《えぇ。それに、皆さん楽しそうです。何故ですか⁇》

 

《ここは非武装地帯なんだ。ここにいる間はみんな仲間で、いがみ合いは無し》

 

《なるほど…それで皆さんのIFFが味方表示になっているのですね》

 

《そんな感じかな。あ、そうそう‼︎隊長やレイ達が楽しんでる間、僕達も楽しめるんだよ⁉︎今出すね‼︎》

 

今度はクイーンのモニターに”Friend Line”と表示された

 

《ここはね、僕達みたいな無人機が集まってお話出来る所なんだ‼︎あ、ここでもケンカは無しだよ⁇》

 

《畏まりました、フィリップさん》

 

二人が会話を楽しんでる最中、上の喫茶ルームでは三人がカウンターに座っていた

 

「まっ、飲めよ」

 

「ありがとう」

 

レイは高山にビールを注ぐ

 

そして私にも注いでくれた

 

「乾杯‼︎」

 

「乾杯‼︎」

 

「乾杯‼︎」

 

三人の乾杯を見て、ル級も嬉しそうだ

 

「パパ、キタイカエタ⁇」

 

「あぁ、言って無かったな。落ちたんだ」

 

喫茶ルームが静まり返る

 

「パパガオチタ⁉︎」

 

「パパオチルノ⁉︎」

 

深海の子達がビビっている

 

「単なる誤射だったけど、コルセアは大破して、もう乗れなくなった…あの機体は、みんなからのプレゼントさ」

 

「ジャア、ワタシタチカラモプレゼントヲ…」

 

ル級は奥に行き、何かを持って帰って来た

 

「コレハ、ワタシタチノコトバガワカルソウチ。フィリップニハサイショカラツイテル」

 

「おぉ〜‼︎隊長‼︎滅多に入らない代物だぜ⁉︎」

 

「貰っていいのか⁇」

 

「ヘイワニリヨウシテクレルト、シンジテル」

 

「分かった。ありがたく頂戴するよ。レイ、付けられるか⁇」

 

「任せてくれ‼︎」

 

レイに装置を渡し、再びビールを口にする

 

「あら⁇レイ。ここに居たんですか⁉︎」

 

「鹿島か⁉︎」

 

いつの間にか後ろの席に鹿島がいた

 

「鹿島教官‼︎」

 

高山は席を立ち、敬礼をした

 

「あらっ⁇高山君もいるのね⁉︎ふふふっ、何だか嬉しい‼︎」

 

「鹿島は何してるんだ⁇」

 

「香取姉に頼まれて、今日は基地近海を演習航海した帰りです」

 

「もう攫われんなよ⁇」

 

レイがそう言うと、鹿島はレイの首に手を回し、顔を近づけた

 

「攫われたら、またレイが助けてくれますよね⁇」

 

「うっ…」

 

幾ら夫婦と言えど、レイはこう言うのに少し弱い

 

だが、絶対に落ちない

 

「仲良いな」

 

「ケッコンしてるからな」

 

「ケッコンしてますからねぇ」

 

「そっか…ま、レイならそうするか…」

 

レイの顔が一瞬しかめる

 

「あ‼︎そうだ‼︎ター坊‼︎たまには鹿島と話せよ‼︎俺は隊長とちょっと外で話してくるからさ‼︎な⁉︎」

 

「おい、レイ‼︎」

 

「仕方無い」

 

レイの言うまま、そのまま外に連れ出された

 

外に出て、海が見渡せる場所に来た

 

海が見渡せる場所とは言うが、四方八方海なので、ここだけが見渡せるとは言い難いが、他よりは高台で景色が良い

 

「はぁ…」

 

煙草を吸いながら、レイはため息を吐いた

 

「どうした⁇お前らしくもない」

 

「隊長は知ってるよな。俺が何で鹿島とケッコンしたか」

 

「あぁ…」

 

「空戦だったとはいえ、俺は鹿島の想い人を殺してしまった…」

 

「…」

 

当時から鹿島はレイの事を好いていたのは、何となく知っている

 

だが、鹿島には許嫁がいた

 

だからレイは鹿島を突き放していたのは覚えている

 

鹿島教室を卒業した後、レイは私の部隊に入った

 

それからしばらくして、敵国のエース級の部隊と対峙した

 

何て事は無い

 

エース級とは言え、私達は簡単に勝てた

 

レイに至っては、初めて一番機を落としたレコードとして記録されている

 

だが、その落とした一番機がマズかった

 

その一番機のパイロットが、鹿島の許嫁だったのだ

 

 

 

 

「俺が言うのも何だが、鹿島は結構美人だ。敵国に許嫁が居る時点で、何となく察しが付いた」

 

「政略結婚だろうな」

 

「それでも後悔したよ。敵だとは言え、自分がほんの少しでも気を向けた人の許嫁だったなら…尚更さ。だから俺は、鹿島を護る事に決めた」

 

「あの時、横須賀にブン殴られてたもんな」

 

「あいつはいっつもあんなんだ‼︎人の話を聞かずにすぐ手が出る‼︎正直横須賀も好きだったけど、毎日あんな暴力による支配が続いたら、流石の俺でも持たん‼︎」

 

いつも通りのレイに戻っている

 

私は落ち込んだレイを見るより、ハイテンションで、何処か抜けているレイの方が好きだ

 

「レイ」

 

「ん⁇」

 

「未来は生きてる私達が決める。それで良いんじゃないか⁇」

 

「そうだな…そうだよな‼︎」

 

「それでいい。レイはそれが似合う」

 

「へへへ…サンキュー、隊長」

 

「さっ、帰るぞ」

 

「おぅ‼︎」

 

レイと共に中に戻ると、鹿島と高山がまだ話していた



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70話 雪の女王(4)

「じゃあ、今はP-40に⁇」

 

「あれが呉の工廠の限界らしいです。あれで充分満足してますよ」

 

「あらっ。謙虚になりましたねっ‼︎ふふふっ‼︎」

 

「鹿島、帰るぞ」

 

「はいっ‼︎」

 

レイはいつも見ていて分からないみたいだが、鹿島はレイを見ると顔が変わる

 

物凄く嬉しそうな顔になる

 

「ター坊、帰り道は分かるな⁇」

 

「あぁ見えてレーダーは付いてる。心配ありがとう」

 

「ふっ…じゃ、帰るとするか‼︎ル級さん、ありがとうな‼︎」

 

「マタキテネ‼︎」

 

喫茶ルームを後にし、フィリップ達の所に向かった

 

《おかえり、レイ‼︎鹿島も一緒だね‼︎》

 

「一緒に帰るぞ。てか、お前何も食わなくていいのか⁉︎」

 

《一応燃料は補給したよ⁇》

 

「…ならいいけど」

 

「フィリップちゃん、きそちゃんに言ってるんですよ⁇」

 

鹿島が言いたい事を代弁してくれた

 

《ありがとう。でも大丈夫‼︎鹿島がご飯作ってくれるでしょ⁉︎》

 

「ふふふっ。誰かと一緒ね‼︎」

 

「バカ言ってないでフィリップに乗ってろ‼︎ちょっと隊長の所に行って来るから、ジッとしてろよ‼︎」

 

レイはル級さんから貰った装置を手に、私とクイーンの所に来た

 

「隊長、これはインストール式のデータだ」

 

「AIに組み込むのか⁇」

 

「そっ。フィリップにも同じ物が入ってる。心配は無い」

 

「任せた。機械は弱くてな」

 

「任せな‼︎」

 

レイは操縦席に座り、インカムを付けた

 

私はその横で様子を見ていた

 

「ご機嫌よう、クイーン」

 

《ご機嫌よう、マーカスさん》

 

クイーンはレイの声に反応し、スリープモードになっていたモニターを起動した

 

「深海のみんなと会話出来るデータが手に入ったんだ。インストールして良いか⁇」

 

《お願いします‼︎》

 

専用のプラグを挿すと、画面に”Download Now 0%”と表示され、進行具合が分かるバーが出た

 

「よし、後はちょっと待つだけだ」

 

「レイは凄いな。さっぱり分からん‼︎」

 

「趣味の延長線でこうなった‼︎」

 

此方を見ながら口を動かしていても、レイは手を休めない

 

いつ見ても、レイ技術は凄いと思う

 

《マーカスさん、パパさん》

 

みんなが言っているから移ったのだろうか

 

クイーンは初めて私をパパと呼んだ

 

「どうした⁇不安か⁇」

 

《私にも、平和の意味を知る時が来るのでしょうか…》

 

驚きの質問だった

 

AIとは言え、平和の意味を考えるとは…

 

「賢いなぁ、クイーンは」

 

レイも驚いている

 

《私は知りたいです。何が平和で、何が自由なのかを…この戦いが終われば分かるでしょうか⁇》

 

「隊長といれば分かる。絶対に」

 

《パパさんは素晴らしい方です》

 

「そうだ。もし横須賀みたいな銭ゲバがパイロットだったらどうする⁇」

 

《嫌です‼︎パパさんが良いです‼︎》

 

「そう思うのも、平和の一つさ。さっ‼︎インストールが終わった‼︎どうだ⁉︎みんなの言葉が分かるか⁉︎」

 

《えと…どうお話すれば…》

 

クイーンは意外にシャイだ

 

初対面の相手には、警戒心をたてる

 

「じゃあ、前にいる黒い戦闘機に挨拶してみようか⁇」

 

クイーンは恐る恐る話し掛けてみた

 

《は、はろ〜…》

 

《ハロー‼︎お名前は⁉︎》

 

男性の声ですぐに返答が来た

 

音声もクリアで聞き取りやすい

 

《く、クイーンです‼︎F-15 SQのスノークイーンと言います‼︎》

 

《私はイェーガー‼︎よろしく、クイーン‼︎》

 

《あ、貴方は味方ですか⁉︎》

 

「「おい‼︎」」

 

突拍子も無く、とんでもない質問をしたクイーンに対し、二人でツッコミを入れてしまった

 

《私は戦争に疲れた…だから、今はここで昼寝をしてるんだ》

 

明らかに深海側の航空機のイェーガーは、どうやら味方の様だ

 

《な、なら、クイーンがここに来た時、お話して頂けますか⁉︎》

 

《勿論さ‼︎此方こそ宜しくね‼︎》

 

「良かったな、友達が出来て」

 

《はいっ‼︎ありがとうございます‼︎》

 

《…そこのお二方》

 

「んあ⁇どうした⁇」

 

《このなりで依頼をするのは忍びないですが、貴方がたにしかお願い出来ません》

 

「言うだけ言ってみな。それから決める」

 

《ありがとうございます。実は最近、深海側から暗号化されたデータをキャッチしたのですが…送ります》

 

イェーガーからデータが送られて来た

 

「これは…」

 

クイーンのモニターには、大型の機体が映されていた

 

《新型の長距離爆撃機の様です。もし、この爆撃機が本土へ向かえば、恐らく都市部は一瞬で火の海です》

 

「俺達に破壊しろ、と⁇」

 

《これは平和利用出来ません。クイーンが確かめたい平和とは程遠い結果しかもたらしません》

 

「完成してるのか⁇」

 

《分かりません。データのみなので…ですが、発見次第破壊して下さい‼︎》

 

「分かった‼︎有力な情報をありがとう‼︎」

 

《これで、少しは恩を返せましたか⁇》

 

「恩を返す⁇借りを作ったのはこっちだぞ⁇」

 

《ここを造ったのは貴方がたです。私には、これ位しか…》

 

「充分すぎるよ。それに、何も恩を感じる事は無い。私達は戦争が嫌いなだけだ」

 

《ありがとうございます》

 

「じゃあ、私達は帰るよ」

 

《お気をつけて》

 

レイはクイーンから降り、フィリップに乗り込み、空に上がった

 

「さっ、帰ろう。クイーン」

 

クイーンも上がり、私達は帰路に着いた



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71話 鷹のオヤツ

さて、70話が終わりました

今回は一話だけしかありませんが、たいほうがメインです


ソファーに座っていると、足元でたいほうが本を読んでいるのに気が付いた

 

「ぱくぱくだんごのつくりかた」

 

「こなをねります。おもしろいね」

 

「こむぎこまぜまぜ。ぐらーふがすきなこな」

 

鹿島辺りからパクった雑誌だろうか、料理のページを見ながら独り言を言っている

 

「何見てるんだ⁇」

 

「おやつのぺーじ」

 

雑誌には団子の写真が載っており、たいほうは食べたそうに見ている

 

「パパはおかしすき⁇」

 

「好きだよ。たいほうは好きか⁇」

 

「たいほう、かしまとはまかぜとぐらーふのおかしすき‼︎」

 

「美味しいもんな」

 

「うんっ‼︎」

 

たいほうは再び雑誌に目を戻し、オヤツの特集ページをめくっていく

 

「さくさくびすけっとのつくりかた」

 

「おーぶんとーすたー、たいほうのおうちにもあるよ」

 

「あつあつのびすけっと。あついのはたいほうきらい」

 

独り言を言いながら、その辺をコロコロして雑誌をめくる

 

「もちもちくさもちのつくりかた」

 

「あんこをいれます。たいほうはこしあんはだね」

 

「たいほうおだんごがいい」

 

たいほうの独り言を聞いているのは面白い

 

テレビや雑誌相手に話し掛けるからだ

 

「あら⁇ここにあった雑誌知りませんか⁇」

 

鹿島が雑誌を探している

 

明らかにたいほうが読んでる雑誌だ

 

「はい‼︎」

 

「あらっ、ありがとう‼︎」

 

たいほうから雑誌を受け取り、鹿島は厨房に立った

 

「たいほうちゃん、お団子食べたいですか⁇」

 

「たべたい‼︎」

 

「ふふふっ。一緒に作りましょうか‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

たいほうが厨房に立った‼︎

 

不安しかない‼︎

 

「ではたいほうちゃん、これをお団子の形にコネてくれますか⁇」

 

「わかった‼︎」

 

遠目で二人を見ていると、鹿島はたいほうに団子を丸めて貰っているみたいだ

 

たいほうがいる時は火は使わず、鹿島は傍で同じ様に団子を丸めている

 

「はいっ、よく出来ましたね‼︎後はちょっとだけ焼いておしまいです‼︎」

 

「おいしそうだね‼︎」

 

椅子に座ってコーラを飲んでいたレイが、何故か肩を上げた

 

「悪寒が走った」

 

何となく察しが着いた

 

 

 

一方その頃何処かの基地では…

 

「美味しそうですねぇ〜‼︎どこ産ですかぁ〜⁇」

 

「蒼龍‼︎どこ出身ですかって聞きなさい‼︎」

 

「どこ出身ですかぁ〜⁇まぁ、食べるのは変わりませんか‼︎頂きま〜す‼︎」

 

こうしてトラック泊地では、犯罪者が処理されて行くのであった…

 

 

 

 

「さぁ‼︎出来ましたよ‼︎」

 

子供達が集まり、別の皿に分けられた団子を、まずは男衆が毒味

 

鹿島が作ったものは、男衆が毒味をするとの暗黙の了解があった

 

「うん‼︎美味い‼︎」

 

「イケるな‼︎」

 

私達の食べる姿を見て、子供達も食べ始めた

 

「たいほう、おてつだいした‼︎」

 

「上手ね、たいほう‼︎」

 

珍しく霞が褒めている

 

「レイ〜⁇お手っ‼︎」

 

鹿島は突然レイの前に手を出した

 

そしてレイは鹿島の手の平に自身の手を置いた

 

「え⁉︎何で⁉︎」

 

「きびだんごですよ、これ」

 

「テンメェなんてモン食わせ…」

 

「おすわりっ‼︎」

 

レイは床にあぐらをかいた

 

「嘘だろ⁉︎」

 

鹿島とレイの主従関係が妙に絵になっているのが面白い

 

「はっはっは‼︎提督よ、すてぃんぐれいと鹿島は、アレが普通かも知れないな‼︎」

 

「あれでいいんだよ」

 

「くそ〜‼︎隊長も味わってみろ‼︎武蔵‼︎何か言ってやれ‼︎」

 

武蔵が此方に向いた

 

「提督よ…お手だ‼︎」

 

武蔵の手が差し出された

 

私は武蔵の手の平に自身の手を置いた

 

「おい‼︎何で効いてるんだ⁉︎」

 

「これは面白い…提督よ、私を抱き締めろ‼︎」

 

武蔵は腕を大きく広げた

 

意に反して、私は武蔵を抱き締めた

 

「ヤバい、きびだんごヤバい‼︎」

 

 

 

 

私達二人は、効果が切れる一時間後まで、きびだんごの効力を知る事となった



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72話 巨竜を屠る(1)

さて、71話が終わりました

今回のお話は、レイが哨戒任務中に発見した兵器から話が始まります

え⁇色々パクってないかって⁇

そんな事ないです


「何だ…ありゃあ…」

 

哨戒中に偶然発見した離島

 

滑走路付近に駐機してある巨大な機体を前に、俺はゴーグルを外した

 

「横須賀基地、応答せよ‼︎」

 

《レイ⁉︎どうしたの⁇》

 

「ガンカメラの映像を送る」

 

数秒後に横須賀基地に写真が届いた

 

《何よコレ…データに無いわ‼︎》

 

「形状からして、イェーガーから貰った情報の爆撃機だ」

 

《レイ、攻撃出来る⁇》

 

「了解した」

 

いざ攻撃態勢に入ろうとした時、巨大な機体から砲火が飛んで来た

 

その砲火は火薬の色なのか、緑色に光りながら飛んで来た

 

「緑の変なモン撃ってくんな‼︎」

 

回避行動をした後、爆弾の標準を合わせて投下した

 

しかし、爆弾は直前で何故か破壊された

 

「シールドか⁉︎フィリップ、解析してくれ‼︎」

 

《解析完了‼︎電磁防御装置みたいだ‼︎》

 

「電磁防御だと⁉︎」

 

電磁防御装置は聞き覚えがあった

 

アレンの空中艦隊計画時に同時運用されようとしていた防御兵器だ

 

《大型機から艦載機発艦‼︎攻撃来るよ‼︎》

 

「こうなりゃ艦載機だけでも墜としてやらぁ‼︎」

 

敵機の一つに標準を合わせ、短距離ミサイルを放った

 

が、命中したと思いきや、黒煙の中から出て来たのは無傷の機体だった

 

「こいつらにもシールドがある‼︎」

 

《レイ、撤退しなさい‼︎横須賀まで来て‼︎》

 

《撤退しよう‼︎かなう相手じゃない‼︎》

 

「オーケー、横須賀まで全速力だ‼︎横須賀、アレンと隊長を召集しといてくれ‼︎」

 

《分かったわ‼︎》

 

 

 

横須賀につくや否や、俺は会議室に通された

 

「爆撃機かしら…」

 

隣にきそを置いて、スクリーンに映し出された爆撃機と艦載機を見た

 

「恐らくな。このデカさで戦闘機は有り得ない」

 

「こんなのがもし本土に来たら…」

 

「本土どころか制空権争いでもマズイ。至る所、機銃だらけだ」

 

「先手を取りましょう‼︎攻撃隊を結成するわ‼︎」

 

「待て」

 

焦る横須賀を制止する

 

「今の俺達の火力じゃ無理だ‼︎あまつさえ電磁防御装置がある‼︎」

 

「何かの映画みたいに、コンピューターウィルスを流して…」

 

「お呼びですか⁉︎」

 

「緊急召集とは何事だ⁉︎」

 

アレンと隊長が来た

 

「これを見て」

 

二人の目線がスクリーンに向く

 

「これは…」

 

やはりアレンは何か知っている

 

「アレン、分かる⁇」

 

「交戦したパイロットの話を聞きたい」

 

「俺だ」

 

「僕もいたよ」

 

俺達二人が手を挙げた

 

「レイか。こいつにはシールドみたいな物が無かったか⁇」

 

「あった。艦載機にも付いてた」

 

「やっぱり…形状やデザインは違うが、この機体は重巡航管制機だ」

 

「空中艦隊計画の旗艦だな」

 

隊長が口を開いた

 

「えぇ…ご存知ですか⁇」

 

「知ってるもなにも、私達はこの機体の艦載機パイロットになる予定だったからな。目は通してあった」

 

「何故完成しなかったか、ご存知ですか⁇」

 

「燃費が悪かったんじゃないのか⁉︎」

 

アレンは首を横に振り、重巡航管制機の映し出されたスクリーンを軽く叩いた

 

「誰も電磁防御装置を破れないからですよ。外部からの攻撃には無敵です…勿論、敵からの攻撃は完璧に防御してくれます。ですが、私の考えていた電磁防御装置では、味方のレーダーを狂わせてしまうんです」

 

「それで頓挫したのか…」

 

「燃費は正直如何にでもなった。レイから太陽発電の仕組みを教えて貰ってましたし、原子力に頼る手もありました」

 

「それでっ、シールドは破れるのか⁇」

 

俺は本題に戻した

 

重巡航管制機が強いのは充分分かった

 

後は壊せるかどうかだ

 

「一つだけ方法が…だけど、これは高度な技術者、そして熟練パイロットがいる」



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72話 巨竜を屠る(2)

「言うだけならタダだ‼︎」

 

「分かった…」

 

アレンはスクリーンを切り替え、説明を始めた

 

「シールドを破る方法は二つ。この電磁防御装置は、周波数が同じ機体には反応しない。つまり、同じシールドを造ってやればいい」

 

「やっぱり電子管理なんだね‼︎」

 

「きそは凄いな…だが、映画の様にコンピューターウィルスは効かない。ファイヤウォールを破れないからな。もう一つは、地上部隊が内部から破壊する事。電磁防御装置は、地上から搬入される物資や人員には反応しない。そこを狙う」

 

「地上から攻撃出来る部隊…か」

 

「この後が問題だ。シールドは破れても、こいつを破壊するには生半可な火力じゃ無理だ。そこで、航空機で内部に突入して、高火力の爆弾で一気に叩く」

 

「もしそうなったら、俺が行ってやらぁ」

 

「その時は私も行く。二機なら高火力を出せるハズだ」

 

「…分かりました。では、もう少し説明を続けます」

 

アレンは武装の説明を始めた

 

対空機銃…これは先程俺に向かって放った物らしい

 

対空ミサイル…追尾式ではなく、投射式。適当な場所に放って、周囲を巻き込む

 

対地兵器…投下式の爆弾が大量。それも威力は半端ないと来た。たった一発で、街一個が半壊する程の威力だ

 

艦載機…これだけは不明だ。だが、放っておくとマズい事にはなる

 

 

 

「後は中和装置か…」

 

「幸い、電磁防御装置の設計図はある。問題は周波数を合わせる事だ」

 

「オーケー。ならっ、一仕事しますか‼︎隊長、しばらく横須賀にこもるから、子供達を宜しく頼む」

 

「分かった。装置は頼んだぞ‼︎」

 

「全員の分を造ってやらぁ‼︎」

 

隊長は会議室を後にした

 

「横須賀、工廠借りるぞ⁇」

 

「えぇ」

 

「アレン、行こう。きそ、それ飲んでからでいいからな」

 

「分かった‼︎」

 

俺はアレンと共に工廠に向かった

 

会議室に残されたきそは、横須賀の顔をジーッとガン見しながらジュースを飲んでいた

 

「が、ガン見しないでよ…」

 

「…」

 

「な、何よ‼︎」

 

「もうチョットレイに優しくしたら〜⁇」

 

きそはにやけ顔で横須賀をおちょくる

 

横須賀は前の一件があるので、きそにあまりキツい事を言えない

 

現に提督室の隅には、あのマッサージチェアーがある

 

「くっ…れ、レイはアレでいいのよ‼︎」

 

「レイは優しい人が好きなんだよ⁇」

 

「知ってるわよ。貴方以上に彼と付き合ってるのよ、私」

 

「ふ〜ん…」

 

それでもきそはにやけ顔を止めない

 

「貴方、レイが好き⁇」

 

「ん〜…この感情は好きって言うのかな…レイの傍に居ると、何だかポカポカするんだ‼︎」

 

「どっかで聞いたわね…」

 

「レイだけに、だよ‼︎」

 

「ふふふっ。さっ、そろそろ行きなさい。後でジュース持って行ってあげるから‼︎」

 

「は〜い‼︎ごちそうさま⁉︎」

 

きそがしっかり御礼を言う所を見ると、こう言った教育はちゃんとしてるみたいだ

 

「でけた‼︎」

 

きそが出ようとした瞬間、会議室の扉が勢い良く開いた

 

扉の向こうでは、レイとアレンが息を切らしている

 

「は⁉︎え⁉︎」

 

「仕組みは簡単だったんだ‼︎まぁ、企業秘密だが、戦闘機位の大きさなら、充分量産出来るぞ‼︎」

 

レイの手には、小さな機械があった

 

「テストするから来てくれ‼︎」

 

二人共嬉しそうだ

 

 

 

 

言われるがまま格納庫に行き、レイとアレンは整備に入っていたT-50に装置を付けた

 

「アレン、そこのコーラ取ってくれ‼︎」

 

「ホラよっ‼︎」

 

「サンキュー‼︎」

 

「あ‼︎そっか‼︎二人共エンジニアなんだ‼︎」

 

ようやく気付いたきそ

 

元々巨人兵器を造ろうとしていた彼等に取って、電磁防御装置一つ造る事など簡単だった

 

ましてや、アレンが元々完成間近まで造り上げていた

 

そこにレイの技術が加わり、妖精達の物量とスピードが加われば、この時間は分かる

 

「オーケー、設置完了‼︎そっちはどうだ⁉︎」

 

「大丈夫だ‼︎やろう‼︎」

 

レイはT-50の上に仁王立ちし、此方を向いた

 

「横須賀、腰のピストルで俺を撃て」

 

「え…頭狂ったの⁇」

 

「それは元々だっ‼︎」

 

「それは元からだよ‼︎」

 

間髪入れずに、きそとアレンが横須賀に突っ込む

 

「テメェら…」

 

「失敗したらどうすんのよ‼︎」

 

「いつも言ってるだろ‼︎神を…」

 

「神を信じる前に、俺を信じろ…か。分かったわ」

 

私はレイにピストルを向けた

 

「来いっ‼︎」

 

意を決して、銃弾を放った

 

「おぉ…」

 

明らかに眉間を狙っていた銃弾は、レイの一メートル程前で止まり、数秒後に床に落ちた

 

「凄いよ‼︎」

 

「てか横須賀‼︎お前何眉間狙ってんだ‼︎普通腹とかだろ‼︎」

 

「あんたみたいなバカは一回死ななきゃ直んないのよ‼︎か弱い乙女にこんな事させんじゃないわよ‼︎」

 

「ぷぷぷ、か弱い乙女だって〜‼︎」

 

「ぐぬぬ…これでも喰らえ‼︎」

 

T-50の上からバカにしてくるレイに腹が立ち、もう三発銃弾を放った

 

勿論レイには届かない

 

「ぬはははは‼︎無敵‼︎最強‼︎」



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72話 巨竜を屠る(3)

「でも、これでシールドは中和出来るね‼︎」

 

「後は火力だ…よっと‼︎」

 

T-50の上から飛び降り、こちらに来たレイに対して、シールドが発生しない

 

「地上部隊に任せるか、航空機で大火力を出すか…二択だな」

 

「レイ‼︎アレン‼︎」

 

「ミハイル⁉︎」

 

振り返るとミハイルがいた

 

基地の巡回で横須賀に来ていたらしい

 

「丁度良かった‼︎お前、高火力出せる武器無いか⁉︎」

 

「珍しいな、レイが兵器の注文だなんて…」

 

レイはミハイルに事の事情を説明した

 

「なるほど…なら、貫通力も備えた物が必要だな…分かった、すぐに空輸で運ばせよう‼︎」

 

「頼んだぞ。未来はお前に掛かってる‼︎」

 

爆弾の確保は出来た

 

後はパイロットだ

 

「Uちゃん⁇」

 

ミハイルの横にUちゃんがいた

 

私は膝を曲げ、Uちゃんに目線を合わせた

 

「私とお絵描きしよっか⁇」

 

「ミハイルさん、大切なお話⁇」

 

「そうよ〜‼︎USBちゃんは偉いわね〜‼︎」

 

横須賀はそのままUちゃんを連れて行った

 

「さて、パイロットの召集だ。俺、隊長、アレンは決定。あ、ター坊もついでに入れよう」

 

「俺も隊長に連絡してみるよ‼︎」

 

 

 

 

数時間後…

 

良い感じに日没が近くなって来た

 

「レイ‼︎爆弾が来たぞ‼︎」

 

「よし‼︎妖精共‼︎急いで俺の機体に装備しろ‼︎」

 

”よっしゃ‼︎”

 

”やるでやるで‼︎”

 

「レイ、ラバウル航空隊が援護に来てくれる‼︎スカイラグーンで補給をした後、攻撃に向かう‼︎」

 

「レイ、アレン、高山さん。私はこの輸送機に乗って後を追います。爆弾の説明は皆が揃った時にお伝えします」

 

「よし、了解した‼︎出発すっぞ‼︎」

 

「オーケー‼︎」

 

「行こう‼︎」

 

 

 

 

 

窓の外で、三機の戦闘機と輸送機が離陸して行く…

 

「あ…」

 

私はまた、ここから彼等を見ているだけだ…

 

 

 

 

 

「レイ、一杯だけ飲んで行こう」

 

「喉カラカラのままじゃ、墜落するぞ⁇」

 

スカイラグーンに着き、機体から降りるや否や、二人に喫茶ルームに誘われた

 

「すぐ行くから待っててくれ‼︎」

 

「早く来いよ‼︎」

 

二人が行ったのを見計らい、俺はとある機体に歩み寄り、妖精と共に下腹部ハッチにミサイルを入れた

 

ミサイルを積み終わり、俺はその機体の先端に手を置いた

 

「俺の平和の形を教えてやる…その気になったら、後ろから着いて来い」

 

機体を軽く二回叩き、俺は喫茶ルームに向かった

 

 

 

 

喫茶ルームに入ると

 

隊長

 

ラバウルさん

 

健吾

 

アレン

 

ミハイル

 

ター坊

 

そして愛宕とグラーフがいた

 

「全員揃ったな」

 

「よし、簡単に作戦を説明する」

 

アレンが地図を取り出し、作戦概要を説明し始めた

 

「この作戦は少数精鋭で行う。電磁防御装置の中和については、ほぼほぼ可能であると見ていい。大佐、レイの二機が隙を見て後部射出口から進入、中枢部に爆弾を投下した後、二機の脱出をもって作戦を成功とする‼︎」

 

続いて、ミハイルの爆弾についての説明があった

 

「大佐、レイ、この爆弾は小型だが、火薬を最大限詰め込んである。高度が低すぎると自分まで被弾してしまう可能性がある。だから、10秒だけ猶予を持たせてある。その間に逃げ出してくれ‼︎」

 

「了解した‼︎」

 

「任せな‼︎」

 

「では、成功を祈って‼︎」

 

小さなグラスに注がれた日本酒を静かに乾杯し、各自それぞれ飲み干す

 

「出撃‼︎」

 

隊長の掛け声で、男衆が動き始めた

 

「アレン⁇」

 

「どうした⁉︎」

 

アレンを引き止めたのは愛宕だ

 

「あのね、帰って来たら話したい事があるの…」

 

「今じゃダメなのか⁇」

 

「今言ったら、貴方の重荷になる…あ、心配しないで‼︎悪い話じゃないから‼︎」

 

「分かった。必ず帰って来る‼︎」

 

「待ってるわ…いってらっしゃい‼︎」

 

アレンは喫茶ルームを出て、機体に乗り込んだ

 

「さぁ、行こう‼︎」

 

六機が空に上がって行く…

 

彼等を見送り、女達は席に着いた

 

「愛宕、アレンに話って⁇」

 

「ん…あのね…」



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72話 巨竜を屠る(4)

「目標に接近。対空砲火に注意しろ‼︎」

 

言ったしりから、緑色に発光する砲火が飛んで来た

 

だが、そこは熟練パイロット

 

全機散り散りになり、そのまま攻撃態勢に入った

 

「ワイバーン、fox2‼︎」

 

《バッカス、fox2‼︎》

 

《イカロス、fox3‼︎》

 

電磁防御装置が中和された今、爆撃機はただの大きな的に変わっていた

 

《艦載機の射出を確認‼︎迎撃に移行する‼︎》

 

健吾の声が聞こえ、すぐさまラバウルさんが健吾の援護に入った

 

《ワイバーン、まだ生きてるか⁇》

 

今度は隊長だ

 

「そろそろブチかましに行くか⁉︎」

 

《行こう‼︎艦載機の射出が止んだ今がチャンスだ‼︎》

 

「よし、行くぞ‼︎」

 

隊長の後ろにピッタリと着き、射出口に入る

 

隊長の機体を見ると、下腹部のハッチが開いていた

 

俺もハッチを開け、いつでも爆弾を投下出来る態勢に入った

 

ものの数秒もしない内に、前方に眩しい位の光を放つ場所が見えた

 

中枢部だ

 

《1、2の3で投下しろ。行くぞ、1…2の…3‼︎投下‼︎》

 

「投下‼︎」

 

床に爆弾が刺さり、中枢部を回避しつつそのまま真っ直ぐ飛ぶ

 

「3…2…1、炸裂‼︎」

 

中枢部で大きな爆発が起きた

 

爆風はどんどん迫っている

 

だが、もう抜けられる

 

《イカロス機の離脱を確認‼︎続いてワイバーン機も離脱‼︎》

 

「間一髪だぜ…ふぅ…」

 

《良くやった‼︎ワイバーン‼︎》

 

無線の先々で歓声が沸き起こるが、艦載機をまだ片付けていない

 

「よ〜し、隊長、お片付けの時間だな⁇」

 

「ボーナスタイムだ‼︎」

 

隊長と共に、撃墜数を稼いでいく

 

そんな中、ター坊のP-40が見えた

 

「パピヨン‼︎手助けはいるか⁇」

 

《大丈夫だ‼︎もう少しは持つ‼︎》

 

そんな時、爆撃機の対空砲が動いた

 

「パピヨン‼︎狙われてるぞ‼︎」

 

「えっ⁉︎」

 

撃ち出された砲火を、ター坊は避けきれなかった

 

落ちて行くP-40…

 

スローモーションの様に落ち行くター坊と落下傘…

 

そして、ミサイルで破壊された対空砲…

 

ミサイル⁉︎

 

一体誰が⁉︎

 

「はっ‼︎」

 

ター坊の落ちて行く場所に、黒い機体がキャノピーを開けて待っていた

 

そして、彼を拾い、キャノピーを閉めた

 

《貴方がたの平和の形…しかと見届けました‼︎》

 

「イェーガー‼︎」

 

間違いなくイェーガーだ‼︎

 

飛ぶ寸前、俺がミサイルを積んだのはイェーガーだった

 

《パピヨンさん、大丈夫ですか⁉︎》

 

《あ…あぁ…大丈夫だ‼︎》

 

イェーガーから送られたター坊の様子が、フィリップやクイーンにもモニターされている

 

《私はイェーガー‼︎本時刻をもって、貴方の機体になります‼︎》

 

《すまない、助かる‼︎機体を無くした所なんだ‼︎》

 

新しい主人を乗せたイェーガーは、意気揚々とエンジンを吹かした

 

《行きましょう‼︎あと少しです‼︎》

 

「イェーガー、パピヨンに操縦方法を教えてやってくれ」

 

《了解しました。左のレバーが速度を操るレバーです。前に倒すと加速、手前に引くと減速。右のレバーが…》

 

《もしかして、普通の戦闘機と同じか⁇》

 

《話が早いですね。後は体で覚えて下さい。私は貴方のフォローをします》

 

《了解した、行くぞ‼︎イェーガー‼︎》

 

《了解‼︎》

 

ター坊の乗るイェーガーは、みるみる内に敵機を落として行った

 

《凄い…何なんだあの機体は…》

 

《相性が良いのかも知れないな…》

 

隊長とラバウルさんでさえ驚いている

 

元々、ター坊の空戦技術はピカイチだ

 

当時から鹿島に楯突いていた位だ

 

それに、俺も模擬戦で撃墜判定を何度も喰らってる

 

それに、隊長がサンダーバード隊に誘う位だ…こんな軌道を見せられりゃ、尚更それが分かる

 

《敵性反応消失‼︎目標完全破壊‼︎僕達の勝利だ‼︎》

 

フィリップの言葉で、戦いの幕が降りた

 

《よっしゃあ‼︎最高のチームワークだぜ‼︎》

 

《みんな‼︎スカイラグーンでお祝いしようよ‼︎》

 

そう言ったのは健吾だった

 

健吾は大和とケッコンしてから、随分明るくなった気がする

 

《バッカス⁇また死亡フラグを折りましたね⁇》

 

《キャ、キャプテン‼︎》

 

無線の声で皆が笑う中、ター坊だけが後ろを振り返り、敬礼をしていた

 

《パピヨン‼︎俺達は勝ったんだ‼︎》

 

《ワイバーン…》

 

《そうです‼︎機体は残念ですが、貴方には最高の相棒が出来たんですよ‼︎》

 

俺とクイーンの言葉に絆されたのか、ター坊は息を整えて、言った

 

《お‼︎俺もお祝い行って良いか⁉︎》

 

《当たり前だ馬鹿野郎‼︎今日のMVPはお前だ‼︎》

 

《やりましたね、パピヨン‼︎》

 

《イェーガー…ありがとうな‼︎》

 

誰がどうみても、二人は良いコンビだ

 

六機はスカイラグーンに帰り、小さいながら祝勝会を上げる事になった

 

 

 

 

皆が楽しく食事をし、好きな物を飲み、そして笑う

 

あの爆撃機はスカイラグーンも充分爆撃出来る距離にいたらしく、ここにいる皆からも感謝された

 

皆が楽しく話している中、アレンと愛宕が皆の輪から少し離れた場所に座っていた

 

「話ってなんだ⁇」

 

「驚かない⁇」

 

「焦らさないでくれよ…」

 

すると愛宕はアレンの手を取り、自身のお腹に当てた

 

「聞こえる⁇」

 

「まさか…‼︎」

 

「デキたみたい‼︎」

 

「マジかよ‼︎」

 

驚いたのは俺だった

 

「おい‼︎今日はめでた過ぎるぞ‼︎爆撃機は破壊‼︎アレンと愛宕には赤ん坊だぁ‼︎」

 

今日一番の歓声が沸き起こる‼︎

 

「あのね、アレン…私、艦娘でしょ⁇だから産まれて来るのも早いんだって‼︎」

 

「あぁ…名前は何にしよう‼︎」

 

「気が早えぇよ‼︎ほら‼︎お前も飲め‼︎」

 

あたふたするアレンの肩に手を回し、ノンアルコールの酒を飲む

 

こうして、エース部隊が集結した戦いは大勝利に終わり、またしばらく平和が戻った

 

 

 

 

高山凛太郎及び深海棲艦航空機”イェーガー”が、呉鎮守府から支援要請可能になりました‼︎

 

有事の際に召集をする事が出来ます‼︎




イェーガー…一度戦いを辞めた、元深海側の無人戦闘機

帰る場所を失い、スカイラグーンにやって来た無人戦闘機

深海側の航空機は無人な事が多く、機体自体が意識を持っている事がほとんど

パイロットの存在があるとシステムが向上したり、機動性が良くなるなど、性能のレベルが上がる

フィリップやクイーンと違い、礼儀正しい青年の声をしており、クイーンに対しても最初から友好的だった

深海の暗号化されたデータを解読する事が可能で、今回の爆撃機のデータは彼が居なければ、存在自体が分からないままだった

平和な世界を取り戻そうとする、パパやレイ達パイロットを見て、もう一度戦う事を決意

高山が撃墜された所を救い上げ、そのまま彼の機体となる

呉では駆逐艦の子とお話したり、ポーラが隠れてお酒を飲む絶好の隠れ場所として人気がある


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73話 いたずら姫(1)

さて、72話が終わりました

今回のお話は、アレンと愛宕の子供のお話です




巨竜事件から一週間後…

 

ラバウル基地から連絡があった

 

「産まれたのか⁉︎」

 

《三日前に産まれたんだ‼︎うわっち‼︎》

 

どうやらアレンの子供が産まれたらしい

 

「その、何だ…後ろから聞こえる破壊音は…」

 

《子供が暴れてるんだよ‼︎いだだだ‼︎噛むな‼︎》

 

《アハハハハ‼︎》

 

聞いた事の無い笑い声が聞こえて来た

 

「たまには仕事抜きで行くよ‼︎あれから暇で暇で‼︎」

 

《頼む‼︎それと、子供をあやすのが上手い子を頼む‼︎》

 

アレンの声は明るいが、終始、破壊音は治らなかった

 

無線を切り、隊長の方に振り返った

 

「隊長‼︎ラバウルに行こうぜ‼︎子供が産まれたらしい‼︎」

 

「よし、行こう‼︎」

 

「子供をあやすのが上手い子を連れて来て欲しいらしい」

 

「子供をあやすのが上手い子か…武蔵と…」

 

「アレンに子供が出来たんですって⁉︎」

 

タイミング良く横須賀が来た

 

「丁度いいや、横須賀‼︎ラバウルに行こうぜ‼︎」

 

「当たり前よ‼︎隊長、行きましょう‼︎」

 

「ろ、ローマ‼︎基地を任せたぞ‼︎」

 

「分かったわ」

 

「武蔵‼︎着いて来てくれるか⁉︎」

 

「了解した‼︎」

 

「鹿島‼︎お前も行くぞ‼︎」

 

「はいっ、レイ‼︎」

 

「さ、行きましょ‼︎」

 

俺達四人は高速艇に乗り、ラバウルに向かった

 

「今日はタンカーじゃないのな」

 

「大湊に任せてあるの。何だかんだで、呉の一件を反省してるらしいわ」

 

「ははは…ポーラは仕方ないさ。あれでっ、案外可愛い所がある」

 

「それで話を戻すけど、アレンと愛宕の間に産まれた子は事実上、人間と艦娘の間に産まれた初めての子になるの」

 

「言われてみればそうだな」

 

確かに聞いた事が無い

 

武蔵も俺も、やる事はやっているが、ちゃんとゴムを使っている

 

何故か基地にはゴムが大量にあるので、それには困らない

 

しばらくすると、ラバウル基地が見えて来た

 

「相変わらず立派な滑走路だこと」

 

滑走路の横には格納庫が4つ並んでおり、三人の機体と、もう一つは非常、もしくは予備の倉庫だ

 

恐らく予備の倉庫は、アレンが工廠代わりに使っている

 

ラバウル基地に接岸すると、暁とおおいが港まで迎えに来てくれた

 

「大佐‼︎大変なんです‼︎早く‼︎」

 

「お、おぉ⁉︎」

 

隊長がおおいに手を引かれ、船から降りた

 

「レイさんも来て‼︎」

 

「ちょちょ‼︎ちょい待て‼︎」

 

俺も暁に手を引かれ、船から降りた

 

「おおい、暁。何を焦っている⁇」

 

「急ぐ気持ちは分かりますよっ‼︎」

 

武蔵と鹿島、そして荷物を抱えた横須賀も船から降りる

 

「焦るに決まってるでしょ‼︎」

 

暁の反論の仕方に違和感を感じた

 

いつもの暁なら、レディになりたくて焦らずに流暢に喋るはずだ

 

「そ…そんなにヤバいのかよ…」

 

「見て頂く方が早いかと‼︎さ、こちらです‼︎」

 

おおいと暁に案内され、五人はラバウル基地に入った

 

 

 

 

「うわぉ…」

 

破れたカーペット…

 

「ははは…」

 

壊されたオモチャ…

 

「何だこの惨状は…」

 

割れた食器…

 

五人の目に入ったのは、悲惨な状況だった

 

「産まれてまだ三日なのに、既に走り回ってます…」

 

「ヤバいぞ。想像以上に厄介な相手だ…」

 

「アハハハハ‼︎」

 

二階から笑い声が聞こえた

 

「ま、待って‼︎そっちは階段があるから危ないよ‼︎」

 

健吾の声も聞こえた

 

どうやら健吾は、誰かを追い掛け回しているみたいだ

 

「JAMP‼︎」

 

「ああああぁぁぁ‼︎‼︎‼︎」

 

健吾の悲鳴が聞こえた時点で、俺と隊長は顔を見合わせて無言で頷き、階段を駆け上がった

 

「健吾‼︎」

 

「れ…れ''いざん…」

 

開けっ放しの部屋に、健吾がへたり込んでいた

 

健吾は俺に抱き着き、胸に顔を埋めた

 

「どうした⁉︎何があった⁉︎」

 

「アレンの子供は…アレンも…隊長も、俺にも手に負えないんです…後は貴方達だけが頼りで…す…」

 

そのまま健吾は気絶してしまった

 

部屋にあったベッドに健吾を寝かせ、部屋を出た

 

「提督よ、何が起こっている⁉︎」

 

「分からん…」

 

「BAN‼︎BAN‼︎」

 

「や、やめるんだ‼︎」

 

今度は下から声がする

 

ラバウルさんの声だ

 

「レイ‼︎」

 

「行こう‼︎」



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73話 いたずら姫(2)

階段を駆け下り、数秒でラバウルさんの所に着くが、既にラバウルさんしか居ない

 

「BB弾は…結構、効きまし…た…」

 

ラバウルさんもノックダウンした

 

「らばうるさんまでもか…」

 

「武蔵、鹿島と一緒に医務室に運んでやってくれ。おおい、暁、場所を教えてやってくれ。横須賀、お前も一緒に行って、傍に居てやってくれ」

 

「はっ‼︎隊長‼︎」

 

「了解です‼︎」

 

「分かったわ‼︎」

 

四人がラバウルさんを医務室に運んで行った

 

「ヤバいぜ隊長。相当な手練だ」

 

「ラバウルさんを倒すとは…これは本気で強いな…」

 

「デュア‼︎」

 

再び二階で声がした

 

今度はアレンだ

 

「今日は降りたり登ったりだな‼︎」

 

「こんなの繰り返してたら疲れる…隊長はタフだなぁ…」

 

「ははは‼︎まだっ、レイには負けんさっ‼︎」

 

階段を登り切り、アレンの声がした部屋に入った

 

「アレン‼︎」

 

部屋にはアレンしかおらず、しかも倒れていた

 

「アレン‼︎大丈夫か⁉︎」

 

何度かアレンを揺さぶると、何とか意識を取り戻した

 

「ん…レイ…大佐…」

 

「誰にやられた⁉︎」

 

「俺の…娘だ。名前は…」

 

アレンはそこで気絶した

 

俺は彼をベッドに寝かせた

 

「良い奴だったよ…」

 

「可哀想に…」

 

「生きてます‼︎」

 

反論しなければいけないと思ったのか、アレンは目を開けた

 

「俺達が捕まえて来てやる‼︎」

 

「頼んだ…」

 

アレンは再び目を閉じた

 

犯人はどうやらアレンの娘の様だ

 

「英語が何でか流暢だったな」

 

「聞こえた声も、まだ幼かったな…」

 

「とりあえず一服だな」

 

「そうしよう」

 

下の階に戻り、調理場の冷蔵庫から勝手にコーラを取り出し、二人で飲み始めた

 

「は〜…」

 

「たまには炭酸もいいな」

 

「頭に響く感じが良いんだ」

 

コーラを飲みながら、二人で考える

 

ここまで来りゃ、もう捕獲に切り替えるしかない

 

「COKE飲みたい」

 

「そこに入ってるぞ」

 

「THANK YOU〜♪♪」

 

「あ‼︎そうだ‼︎愛宕に聞けばいい‼︎」

 

「愛宕は何処だ⁇」

 

「BED ROOLMです」

 

「そっか、サンキュー。隊長、行こうぜ」

 

「そうだな」

 

「BYE-BYE‼︎」

 

アレンのベッドルームに行くと、愛宕が気持ち良さそうに寝ていた

 

体調も悪くは無さそうだ

 

「愛宕」

 

「ん〜⁇あら、レイさんと大佐⁇どうされたんですか⁇」

 

「愛宕の子供の件で呼ばれたんだ」

 

「アイちゃんね〜。あの子暴れん坊さんでね、昨日も夜まで散々遊んで、ここに…あれ⁉︎」

 

どうやらそのアイちゃんは、愛宕の横で寝ていたみたいだ

 

「アレンは⁉︎」

 

「男衆は全滅…残ってるのは、艦娘だけだ」

 

「あの子、大和の料理が好きだからそこに居るかも‼︎私も行くわ‼︎」

 

「大丈夫なのか⁉︎」

 

「案外大丈夫なのよ⁇今は普通に睡眠取ってだだけよ⁇よいしょっ‼︎」

 

話せば話す程、いつもの愛宕に戻って行く

 

「さっ、レッツゴー‼︎」

 

もう一度調理場に戻ると大和が居た

 

「あら‼︎愛宕‼︎もう大丈夫⁇」

 

「うんっ‼︎大丈夫‼︎ごめんなさいね、アイちゃん任せて…」

 

「ふふふっ、こういう時こそ、皆が協力しないと‼︎私もいつもお世話になってますからね‼︎此方はお任せ下さい‼︎」

 

「じゃあ、ちょっとコーラを」

 

愛宕はコーラを手に取り、缶に紐を巻いた

 

「あの子はかくれんぼが好きなの。これで誘き寄せるわ‼︎」

 

リビングルームの中心にコーラを設置

 

本当にこれで来るのだろうか…

 

リビングルームが見える位置で、食堂で隠れて待つ事数十秒…

 

「COKE‼︎」

 

来た‼︎

 

愛宕は紐を引っ張り、食堂へと引き寄せた



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73話 いたずら姫(3)

「STOP‼︎」

 

コーラを追い掛けて来た女の子を、愛宕は一瞬で捕まえた

 

「捕まえたっ‼︎」

 

「MAMA⁇あれ⁉︎COKEは⁇」

 

「デデン‼︎」

 

コーラは俺の手にある

 

「飲みたいか⁇」

 

「PLEASE‼︎COKE、PLEASE‼︎」

 

アイちゃんは手を伸ばしてコーラを取ろうとする

 

しかし、流暢に英語喋るな…

 

「もう暴れないか⁇」

 

「しないしない‼︎」

 

「ちゃんと座って飲むか⁇」

 

「うん」

 

急に素直になった

 

ちゃんと椅子に座り、コーラを飲み始めた

 

「愛宕」

 

「はい」

 

「あの子はすぐに大きくなる。私の経験上、艦娘はそうだ」

 

「そうかも知れませんね…まだ産まれて数日なのに、走り回ってコーラ飲んでますし…あれっ⁉︎」

 

アイちゃんはもう居なくなっていた

 

「は、速い…」

 

「PAPA‼︎」

 

アレンが帰って来た

 

アイちゃんはアレンを見るなり抱き着いた

 

甘えん坊なのは確かだ

 

それと、母である愛宕の言う事は聞くみたいだ

 

「よいしょっと。アイちゃん、コーラ飲んだのか⁇」

 

アレンはアイちゃんを抱き上げ、ほっぺにキスをした

 

「飲んだ‼︎DELICIOUS、DELICIOUS‼︎」

 

「よしっ、ご飯食べよっか‼︎」

 

「やったね‼︎PAPAとご飯‼︎」

 

「みんな、迷惑掛けたな…」

 

「元気があって良いじゃないか」

 

「俺も子供欲しくなった‼︎」

 

「PAPA、この人は⁇」

 

「この方達は、パパのお友達だよ。こっちの人が大佐さん。こっちの人がレイさん」

 

「大佐さんはADMIRALなの⁇」

 

「そっ。君達の隊長さんと同じ提督さ」

 

「GRANDPAと一緒⁇」

 

「そ、そうだよ‼︎」

 

「あのね‼︎”IOWA”のPAPAはPILOTなの‼︎GRANDPAもPILOTなんだよ‼︎」

 

「アイ…⁇」

 

名前の発音も良過ぎた為、俺でさえ聞き取れない

 

「I・O・W・A、アイオワ‼︎」

 

「あ〜‼︎それでアイちゃんって呼ばれてたのか‼︎」

 

「あ〜…あ‼︎アイちゃん‼︎」

 

「やはり父親といると落ち着くんですね‼︎」

 

ラバウルさんと健吾も来た

 

「事は収まったのか⁇」

 

「そうみたいですねぇ…あらっ‼︎可愛らしい子‼︎」

 

「HELLO‼︎MEはIOWA‼︎」

 

武蔵と鹿島も来た

 

鹿島に至っては、アイちゃんを抱っこさせて貰っている

 

「お腹空いたな…」

 

「もうすぐ出来ますよ‼︎皆さんで食べましょう‼︎」

 

アレンの言葉に大和が反応した

 

美味しそうな匂いが漂っている

 

「あ、ならアイちゃん⁇ちょっと検査しましょうか⁉︎」

 

「けんさ⁉︎YOUは誰⁇」

 

「私は横須賀。痛くしないから、ねっ⁇」

 

「お、OK…」

 

横須賀の痛くしないは、正直不安だ

 

「心配だな…」

 

横須賀とアイちゃんは部屋を変え、そこで検査する事になった

 

そして、部屋を変えてすぐ…

 

「NOOOOOOO‼︎FU○KING横須賀‼︎」

 

「あ〜も〜‼︎言わんこっちゃない‼︎ちょっと行って来るわ」

 

「悪いな、レイ」

 

「気にすんな」

 

食堂を出て、横須賀達がいる部屋に入った

 

「NO‼︎痛いのヤダ‼︎」

 

「黙ってればすぐ終わるわよ‼︎」

 

横須賀の手には注射器があり、無理矢理アイちゃんの腕を握り、注射針を刺そうとしていた

 

俺だって針を顔面に近付けられたら怖い

 

「バッカじゃねぇの⁉︎貸せ‼︎」

 

「あっ‼︎」

 

横須賀から注射器を取り上げると、アイちゃんは思いっきり泣いていた

 

「よしよし、怖かったな」

 

「FU○KING横須賀…」

 

余程横須賀が怖かったのか、まだ震えている

 

俺に抱っこされて、ようやく落ち着いて来た所で、こっそり注射をアイちゃんに刺す

 

「アイちゃんはコーラ好きか⁇」

 

「COKE⁇COKE好き‼︎MILKも好き‼︎」

 

「そっか〜。よしっ‼︎泣かなかったな‼︎」

 

話しながらアイちゃんから血を抜いた

 

「痛くなかった‼︎」

 

「もう終わったの⁉︎」

 

「下手くそなんだよ、お前の注射は‼︎後やっといてやるから、リストか何かかないのか⁇」

 

「机の上にあるわ。じゃ、任せるわ‼︎」

 

本当に横須賀は出て行った



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73話 いたずら姫(4)

「薄情な奴め…」

 

「レイはDOCTORなの⁇」

 

「色々してるよ。パイロットもだし、ドクターもしてる‼︎」

 

「凄いね‼︎IOWAもレイみたいになりたい‼︎」

 

「気に入った…よし、もうちょっとだからな〜‼︎」

 

「OK‼︎レイなら大丈夫‼︎」

 

 

 

 

数十分後…

 

「はいっ、お終い。よく頑張ったな‼︎」

 

「ご飯食べてもいい⁇」

 

「いいよ。ありがとうな」

 

「DOCTORがレイなら、IOWAも頑張れる‼︎」

 

小さい割に、中々タフな様だ

 

アイちゃんを連れて食堂に戻ると、何の申し訳も無さそうに横須賀が食事をしていた

 

「FU○K…」

 

アイちゃんは俺の足元に隠れ、横須賀から見えない様にしている

 

「終わった⁇」

 

「終わったよ。ホラっ‼︎」

 

書類を横須賀に返すと、パラパラとめくりながら中身を見始めた

 

「何がお望み⁇」

 

「もう少し注射を上手くなって欲しい‼︎」

 

「ぐっ…」

 

「IOWAのご飯‼︎」

 

アイちゃんの前に、フライドチキンが沢山置かれた

 

よく見ると俺の前にもある

 

「アイちゃんの主食はフライドチキンなのか⁇」

 

「今日は特別さ。レイも好きだろ⁇」

 

「まぁ…」

 

フライドチキンをみんなで食べていた時、ふとアメリカに居た時を思い出した

 

どっかで食べたフライドチキン、物凄く美味かったな…

 

白い服着た爺さんが居た、普通の店だったけど、味は一級品だった

 

「あ‼︎」

 

アメリカの事を思い出していたら、もう一つ思い出した

 

「IOWAって、お前の本籍地か‼︎」

 

「今更かよ…」

 

「良い名を貰ったな、アイちゃん」

 

「IOWAはBEAUTIFUL NAMEよ‼︎」

 

フライドチキンの衣をいっぱい付けたアイちゃんは、俺の方を見てニコニコしている

 

「おっ‼︎レイに懐いたな‼︎」

 

「レイはSUPER DOCTORよ⁉︎」

 

「アイちゃんだけだな、俺を分かってくれるの」

 

「心配するな。私も分かってる‼︎」

 

「そうだぞ、レイ」

 

横須賀以外の人員が頷いた

 

「マヌケなあんたの方が、私は好きよ⁇」

 

「アイちゃん、こんな捻くれた女になってはいかんぞ⁇」

 

「IOWA、横須賀ものすご〜くキライ‼︎」

 

横須賀以外が爆笑する

 

ここまで嫌われた奴、見た事ない

 

「ざまぁねえな‼︎」

 

「私が悪うございましたよ‼︎」

 

「でもな、アイちゃん。横須賀はアイちゃんの事をもっと知りたいんだ」

 

「ホント⁇」

 

「ホントだ。横須賀はホントは良い奴だよ⁇アホなだけで」

 

「あ、アイちゃん⁇レイみたいなマヌケになっちゃダメよ〜⁇」

 

横須賀が顔を近付けると、アイちゃんは後ろに引いた

 

「GO AWAY‼︎」

 

「お、オーケーオーケー‼︎」

 

「アイちゃん⁇ちょ〜っとお口悪いわよ⁇お母さん、怒るよ⁇」

 

「う…OK…」

 

愛宕の顔が何と無く怖い

 

やはり母は強し、何だろうな…

 

「さてっ‼︎片付けだけでもして帰るか‼︎野郎共‼︎集合ー‼︎」

 

”なんやなんや‼︎”

 

”何したらええんや⁉︎”

 

何処からとも無く、妖精がゾロゾロ湧いてきた

 

「お片付けの時間だ‼︎アイちゃんと一緒に片付けして、終わった奴からチキン食って良し‼︎」

 

”行くで行くで”

 

”雑巾持って行かな‼︎”

 

妖精達は一目散に散って行き、片付けを始めた

 

「凄いな…」

 

「ウチもあんな感じだからな‼︎」

 

食事を終えた後、俺達も片付けに加わり、ある程度終わった所で帰る事になった

 

「今度はコッチから行くよ」

 

「いつでも来いよ〜⁇」

 

高速艇に乗り、またしばらく揺られる

 

「レイ⁇」

 

「ん⁇」

 

鹿島が何故かモジモジしている

 

「レイも赤ちゃん…欲しいですか⁇」

 

「もう少し落ち着いたらな…鹿島は⁇」

 

「わ、私はレイが欲しいなら…」

 

「提督よ。赤ん坊はいるか⁇」

 

「欲しいな。自分の子供を見てみたい」

 

「では今晩仕込もう‼︎いいな⁇」

 

「あ、はい」

 

武蔵の眼力が余りにも強く、隊長は終始逆らえないでいた

 

ま、結局隊長が上手くやったお陰で、今回は回避出来たみたいだけどな‼︎




IOWA…アレンと愛宕の娘。アイちゃん

人間と艦娘の間に出来たハイブリッド艦娘

金髪の女の子で、超が付く程天真爛漫であり、生後数日で基地内全員を叩きのめしたり、走り回っている

コーラやフライドチキンが好きで、愛宕のお乳は飲まないが、どうもミルク系は好きらしい

パパ曰く、艦娘は成長がとてつもなく早いらしい

事実上初めてのハイブリッド艦娘で、横須賀が物凄い興味を持っている

流暢な英語を話すが、日本語もちゃんと話せる

レイがお気に入りで、横須賀が大嫌い

まだ戦いには出ていないが、そもそも装備出来るかどうかも分からない、謎多き艦娘


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74話 魔性の女(1)

さて、73話が終わりました

今回のお話は、呉さんのお話です

ラバウルで子供が産まれた報告を聞き、呉さんが隠していた感情が明らかになります

注意
※このお話では、見る人によってはちょっと過激シーンがあります


呉鎮守府でも、アレンと愛宕の子供の結婚報告が来た

 

「ケッコンの次は出産か…」

 

「あら、清政も欲しいの⁇」

 

熱いお茶を呉さんの横に置いたのは鳳翔だ

 

「母さん⁉︎ありがとう」

 

今日は鳳翔さんが秘書艦代わりだ

 

普段は大体隼鷹か、致し方無く青葉だが、今日は鳳翔さんが来ているので彼女になっていた

 

「ふふふっ。急がなくても大丈夫よ」

 

「まっ、少しは焦らないとな…」

 

「ふふふっ」

 

鳳翔はそのまま部屋の隅のソファに座り、呉さんの顔をジーッと見ている

 

呉さんは先程から動悸が止まらず、どうしていいか分からなくなっていた

 

「じゅ、隼鷹はどうした⁇」

 

「今日は遠征でしょ⁇」

 

「あ…」

 

呉さんにとって、この状況は大変マズかった

 

実は呉さん、鳳翔さんに若干恋愛感情を抱いている

 

自分では気付いていないが、隼鷹や青葉は気付いていた

 

鳳翔さんは気付いていない

 

「今日はもう片付いた。ちょっとその辺を歩いてくる。執務室を頼みます」

 

「はい」

 

執務室を出た瞬間、呉さんは動悸から解放された

 

「提督‼︎どうしたんですか⁉︎」

 

「青葉か…何でもないよ…」

 

「はは〜ん…」

 

青葉は何かを見透かした様な目で呉さんを見つめた

 

「な…なんだよ…」

 

「何でもないですよ‼︎」

 

青葉はそのまま場を立ち去ろうとした

 

が、途中で振り返り、呉さんに一言だけ言った

 

「手を出すなら、せめて私にして下さいね⁇」

 

「青葉⁉︎」

 

呉さんは青葉の言った意味が分からなかった

 

食堂に行き、辺りを見回してから棚を開けた

 

中にはウイスキーのボトルがあった

 

呉さんはそれを水割りにし、食堂の隅っこの方の席に座って、煙草に火を点けた後、それを飲み始めた

 

動悸の意味も、青葉が言った意味も、呉さんには分からなかった

 

呉さんは軽く酔って忘れようと考えたのだ

 

「ポーラにもウイスキー下さい」

 

「あぁ」

 

いつの間にかいたポーラは、自前のグラスに氷を入れて、ニコニコしながら呉さんを見ている

 

呉さんは驚きもせず、ポーラのグラスにウイスキーを注いだ

 

「美味しいですねぇ‼︎提督が見付けたんですか⁇」

 

「まぁな。昔からこれ位しか飲まない」

 

「今度、ポーラが美味しいお酒、提督にプレゼントしますて‼︎」

 

「楽しみにしてるよ」

 

しばらく二人で飲んでいるが、呉さんは中々言葉を発しなかった

 

「提督、元気無いですね…ポーラ、別の所で飲みましょうか⁇」

 

「いや、居てくれ。お前と飲みたい」

 

「そうですか‼︎なら、ポーラここ

居ますて‼︎」

 

ポーラが居てくれるだけで良かった

 

一人より、何と無く落ち着いた

 

「ポーラ」

 

「はい⁇」

 

「俺な、鳳翔さんを見ると動悸がするんだ」

 

「恋じゃないですか⁇」

 

「あ、相手は母さんだぞ⁉︎」

 

立ち上がって、声を荒げてしまった

 

「ローマもお兄さんに抱かれたって言ってましたし、あるんじゃないですか⁇」

 

「大佐…」

 

「まぁ、大佐とローマの場合は、お互い離れ離れになって、見知らぬ人と恋に落ちた〜って感じですかねぇ。あ、提督もそうか‼︎」

 

「ポーラ…俺は真剣に…」

 

「真剣ですて‼︎ポーラ、嘘だけはつきませんて‼︎一回言ったらいいんですよ‼︎鳳翔が好きだって‼︎」

 

「言えるか‼︎もし言ったとしても、はいそうですか…で、終わるぞ‼︎」

 

「それでスッキリするかどうか試すんですよ‼︎」

 

「あ、なるほど…」

 

呉さんとポーラは時々こうして口論になるが、大体ポーラの方が正論を言うので、途中で折れる

 

「何で隼鷹さんには言えたのに、鳳翔さんには言えないんですか⁉︎」



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74話 魔性の女(2)

「言われてみれば…」

 

「じゃあ提督、ポーラは好きですか⁇」

 

「好き…だよ⁇」

 

「何でポーラに言えて鳳翔に言えないんですか⁉︎」

 

「分かった‼︎言えばいいんだろ⁉︎それでスッキリするなら言うよ‼︎」

 

呉さんは席を立ち、食堂から去ろうとした

 

「行ってらっしゃ〜い。ポーラ、ここで見てますて」

 

「あ、それお前にやるよ。聞いてくれた礼だ」

 

「ありがと〜‼︎」

 

食堂を出て、執務室に戻って来た

 

今日は正直、もう用は無い

 

書類も片付けた

 

物資の搬入も来た

 

後は…

 

「母さん、起きて」

 

ソファで寝ていた鳳翔を揺する

 

「ん…」

 

声を出すが、起きる気配は無い

 

「仕方無い…」

 

呉さんは鳳翔を抱え、布団がある部屋に向かう

 

鳳翔を抱いていると、隼鷹や青葉とは違う、女性独特の甘い匂いがした

 

その匂いを嗅いだ時、動悸が余計酷くなった

 

今だから言うが、鳳翔の着物で、大っぴらには言えない事もした事がある

 

いくら母親とはいえ、駆逐艦の子より少し背が高い位で、小柄も小柄で、体も軽い

 

強いて言うなら、体格の割にお尻が大きい

 

本当に私が何処から産まれて来たのか分からない

 

鳳翔を布団に寝かせ、髪の毛を上げる

 

正直、このまま唇を合わせれば、この気持ちが分かる気がした

 

「あら、清政…私寝ちゃったの⁇」

 

鳳翔は目を覚まし、呉さんを見た

 

「疲れたんだよ。今日はありがとう」

 

「…清政、お母さんに何か言う事ない⁇」

 

鳳翔に頬を撫でられながら、呉さんは口を開いた

 

「好きなんだ…母さんの事」

 

「やっぱりね…何と無くそんな気がしてたわ…あの人と一緒なのね⁇」

 

クスクスと笑う鳳翔を見て、呉さんは全てを見透かされた気分になり、少しスッキリしていた

 

やはり、この人は母だ

 

好きになってはいけない

 

「親子で似るのね、異性のタイプって」

 

「…」

 

「でもまぁ…これ位ならしてあげるわ⁇」

 

鳳翔は呉さんをギュッと抱き締めた

 

その時、呉さんは分かった

 

自分が欲しかったのは、鳳翔じゃなくて、愛情だって事を

 

「ふふふっ。時々ならしてあげるっ。でも、あんまりすると、隼鷹さん達がヤキモチ妬くかもね⁇」

 

「ふ…ありがとう、母さん」

 

「い〜え‼︎」

 

鳳翔を残し、部屋を出ると、居てはいけない人物がいた

 

「激写ですねぇ‼︎禁断の親子関係‼︎頂きました‼︎あはははは…あばっ‼︎」

 

いきなり青葉が吹っ飛んだ

 

呉さんはじめ、パパの反対派一味は艦娘に手は出すが、手を上げない

 

「提督はちゃんと本気で言いましたて」

 

殴り飛ばしたのはポーラだった

 

ポーラはカメラを拾い、中のフィルムを日光に当てた

 

「ちょっとポーラさん‼︎それはいけません‼︎」

 

「本気の恋に間違いなんかないですて‼︎」

 

「ポーラ…」

 

「提督‼︎ポーラと飲み直しましょうて‼︎」

 

「お、おぉ…」

 

ポーラはカメラを捨て、呉さんの手を取り、食堂に入った

 

そこには、遠征から帰って来た隼鷹がいた

 

「提督‼︎すまねぇ‼︎あたしがずっと放ったらかしにしてたから悪いんだ‼︎」

 

隼鷹は両手を合わせて謝っていた

 

「今晩相手すっから、それで勘弁してくれ‼︎頼む‼︎」

 

「提督、ポーラ、それでいいと思いますて‼︎」

 

少しポーラを見直した

 

飲んだくれとばかり思っていたが、ちゃんと皆の仲介役をしてくれている

 

もう少し、飲みに付き合ってやらないとな…

 

「分かった‼︎お願いする‼︎青葉‼︎」

 

「何ですか⁉︎」

 

既に換えのカメラを手にした青葉が、床下から現れた

 

「反省したか‼︎」

 

「してます‼︎もう変な写真は撮りません‼︎」

 

「よし…全員、棚から好きな物食え‼︎」

 

「やった‼︎提督太っ腹ぁ‼︎」

 

棚には、呉さんが普段食べたり飲んだりしているお菓子やらお酒がある

 

各自好きな物を取り、その日の夜、呉鎮守府では、小さなパーティが開かれた

 

 

 

夜に何があったかは、もう言わなくても大丈夫だろう…



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75話 きそ、ゲーヲタ疑惑

さて、74話が終わりました

今回のお話では、きそにある疑惑が掛かり、とある秘密も判明します

単発ダズルよ‼︎


「ここはこうして…」

 

哨戒任務無し

 

出撃命令無し

 

工廠は…たまには休みだ

 

隊長に至っては、外でサーフィンしている

 

呑気な基地だぜ、全く

 

そう言う俺も、自室で寝転びながら漫画を読んでいた

 

腹の上にはきそが居て、あれはなんだ、これはなんだと聞いて来る

 

読んでる漫画は、黒い鎧を着た主人公が冒険をする話だ

 

長年続いているが、未だに終わりが見えない

 

まっ、それが面白味の一つでもあるけどな…

 

「回復は…これか」

 

さっきから鹿島がボヤいている

 

「何やってんだ⁇」

 

「人斬りサイボーグのゲームです。中々難しくて…」

 

「どれ…」

 

鹿島は四足歩行の機械と戦っている

 

中々面白そうだ

 

「回復が難しいんですよね…あ、やられた」

 

「僕にもやらして‼︎」

 

「はいっ」

 

きそはコントローラーを受け取り、まずは説明書を見た

 

「接近されたらこう…敵が怯んだらこう…よし、分かった‼︎」

 

説明書を戻し、コンテニューする

 

「オッケー、大体動きは読めた」

 

きその操るサイボーグは、画面上でバッサバッサと敵を斬って行く

 

鹿島があれ程苦戦していた四足歩行の機械も、なんか時間が緩やかにする能力で簡単に倒した

 

「ぬっふっふっふ…」

 

「きそちゃん、貴方ゲーマーの素質がありますよ⁉︎」

 

「僕はアクションよりパズルの方が好きかな⁇」

 

「そういや、きそのタブレットに入ってるパズルのゲーム、レベルカンストしてたな⁇」

 

「うんっ‼︎フィリップの中に入る時も時々してたんだ‼︎」

 

みんなは覚えているだろうか

 

きそは美少女剣士が好きなのを

 

あのフィギュアだって、新しく出来たきその部屋に綺麗に飾ってある

 

美少女剣士で気付いたが、きそは何故か艤装より剣が好きだ

 

中々筋も通っている

 

隊長が剣道、ラバウルさんがフェンシングの達人だが、きそは何度も負かしている

 

体格差もあるが、きそは剣を振るのが速く、パワーもある

 

意外にも二人は力押しで負けている

 

唯一負けたのがプリンツだ

 

プリンツは喧嘩殺法なので、中々手が読めないらしい

 

「あ、そうそう‼︎レイ、これが届いてましたよ⁇」

 

鹿島から封筒を受け取り、中を開けてみた

 

「あぁ、アイちゃんの身体検査の時に、ついでに受けた奴だ」

 

診断結果表と、相変わらずDNAの検査表が入っている

 

「え〜と、何々…診断結果、良好。再検査、必要無し‼︎心臓に毛が生えてます、だと」

 

最後の横須賀の一言が腹立つ

 

次はDNA検査だ

 

毎回コレをやる意味が分からない

 

内容は、元は人間か、純粋な艦娘かを調べると言うもの

 

簡単に言うと…

 

武蔵は元は人間

 

たいほうは純粋な艦娘

 

ま、分かりにくいがこんな感じだ

 

「どれ…」

 

表を見ると、俺の艦娘の名前が並んでいた

 

 

 

 

鹿島のDNA配列…人間

 

プリンツのDNA配列…人間

 

霞のDNA配列…艦娘

 

照月のDNA配列…人間

 

しおいのDNA配列…一致

 

きそのDNA配列…一致

 

 

 

「一致て何だ‼︎」

 

「ここに書いてあるよ」

 

きそが指差す所には、結果内容の詳細が書いてあった

 

 

 

人間…元は人間の艦娘

 

艦娘…建造から産まれた艦娘

 

一致…提督及び保護者にDNA配列が一致、もしくは酷似しています

 

 

 

「マジかよ…」

 

しおいは何と無く分かる

 

自分が生みの親だからだ

 

問題はきそだ

 

何故DNA配列が一致しているのか分からない

 

「ちょっと電話してくるわ」

 

「行ってらっしゃい」

 

「僕、ここに居ていい⁉︎」

 

「あぁ、いいぞ」

 

鹿島にきそを預け、食堂の無線を取った

 

「おい‼︎ジェミニ‼︎」

 

《何よ‼︎》

 

互いに大声から始まる

 

「お前、DNA配列が一致ってどういう意味だ⁉︎」

 

《そのままよ。しおいちゃんはあんたが生みの親だから、まぁ分かるでしょ⁇》

 

「まぁ…俺の手から産まれりゃそうなるのかな…そうじゃなくてきそだよ‼︎」

 

《きそちゃん⁇あ〜…ずっとあんたの傍に居たからじゃないの⁇》

 

「本当にそうだったらどうするんだ⁉︎」

 

《でも、あんたと性格とか癖ソックリよ⁇》

 

「確かにそうだが…まぁ良い、ちょっと聞いてみる」

 

《そうしてちょうだい。明石も真相は分からなかったみたい》

 

「分かった。ありがとな」

 

無線を切り、すぐにきその所に向かった

 

「きそ‼︎」

 

「うぇ⁉︎どしたの⁇」

 

いきなり扉を開けたから、きそはビビっていた

 

「お前、俺と血が繋がってんのか⁉︎」

 

「うん」

 

きそはアッサリと答えた

 

「何で⁉︎」

 

「え〜と…簡単に言うと、この体になる時、どうもレイの体をベースにしたみたいなんだ。それで…」

 

「妹か‼︎娘か‼︎どっちだ‼︎肝心なのはそこだ‼︎」

 

「えええぇぇぇぇぇぇ⁉︎」

 

鹿島が驚く中、俺はきそを揺さぶった

 

「いいいい妹の方が近いかな⁉︎」

 

「よし‼︎これからはお兄ちゃんと呼べ‼︎」

 

俺は手を離し、ガッツポーズを取りながらきそを見た

 

だが…

 

「レイ」

 

きそはニヤつきながら、完全にお兄ちゃんとは言わないつもりだ

 

「お兄ちゃん‼︎」

 

「レイ」

 

「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん‼︎」

 

「レイレイレイ‼︎」

 

「くっ…」

 

俺は膝を落とした

 

「人生妹プロジェクトから一歩遠退いてしまった…」

 

「残念だったね‼︎レイ‼︎」

 

最後の最後まで、レイを仕留めにかかるきそ

 

「鹿島ぁ…きそがいじめる…」

 

「レイ⁇哀れです‼︎」

 

「うわぁ…」

 

二人の冷たい視線が痛い‼︎

 

特に鹿島の微笑む様な視線が痛い‼︎

 

「分かった‼︎俺が悪かった‼︎」

 

「僕、ちょっと工廠にいるよ。したい事があるんだ」

 

「気を付けろよ⁇怪我したらすぐ言えよ⁉︎」

 

「うんっ‼︎行ってくるね、お兄ちゃん‼︎」

 

「っしゃあ‼︎」

 

散々追い込んで満足したのから、きそは去り際にお兄ちゃんと言った

 

「良かったですね‼︎」

 

「お兄ちゃんって言葉を産んだ奴に勲章をやりたいぜ‼︎」

 

 

 

 

 

数時間後…

 

「ここにカードキーが…あった‼︎」

 

鹿島は相変わらずサイボーグのゲームをしている

 

「出来た出来た‼︎あはは‼︎」

 

頬にススが付いたきそが帰って来た

 

「艤装造ってたのか⁇」

 

「ううん、僕専用の武器‼︎来て‼︎」

 

「鹿島、セーブしたら来いよ‼︎」

 

「す、すぐ行きます‼︎」

 

きそに連れられ、工廠に行くと一本の刀があった

 

「鹿島のしてたゲームの武器をモデルに造ってみたんだ‼︎」

 

「スゲェな…」

 

ほぼほぼゲームと同じ様な刀だ

 

「ゲームみたいに時間を緩やかにしたりは出来ないけど、軽くて丈夫な素材を使ってるんだ。ホラ、前に榛名さんから貰った金属で‼︎」

 

「そんな良い金属なのか⁇」

 

「刃こぼれを自動で修復出来るんだ‼︎」

 

きそはサラッととんでもない事を言った

 

「売り飛ばしたらとんでもない額になるぞ…」

 

「売らないよ。僕が使うんだ。よいしょ…」

 

きそは専用の鞘に刀を収め、腰に装着した

 

中々様になっている

 

「僕でも振りやすいんだよ⁇」

 

「お前が武器造るの初めてだな」

 

「あ〜…そうだね。初めてはマッサージチェアーだったし…」

 

「やっぱ、俺に似てるのな」

 

きその頭を撫でる

 

「へへへ…榛名さんがハンマーなら、僕は刀だね」

 

「あらっ⁉︎その刀は‼︎」

 

「僕が造ったんだよ‼︎」

 

きそは嬉しそうに鹿島に刀を自慢している

 

そんな姿を見て、昔の自分を思い出した

 

今も変わらないが、隊長は何を造っても必ず褒めてくれる

 

隊長が褒めてくれたのが移って、今度は俺がきそを褒めている

 

教育の仕方ってのは、伝わって行くんだな…

 

「レイ、ご飯だって‼︎」

 

「ん、行こう」

 

仲睦まじい三人の姿は食堂に消えて行き、中からは楽しそうな笑い声が聞こえて来た

 

 

 

 

 

きその装備に”63cm自己修復機能付刀剣”が、追加されました‼︎



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76話 雷鳥の過去(1)

さて、75話が終わりました

結構要望が多かった、レイとパパはどうして出逢ったの⁉︎に、答えたいと思います

物凄いハイスピードて行くので悪しからず…


いつも仲の良いレイと鹿島

 

私はレイの過去を知っているので、仲睦まじい事は素晴らしい事だと思う

 

「ねぇ、パパ⁇」

 

横には両手でコップを持ったきそがいた

 

「ん⁇どうした、きそ」

 

「レイとパパって、どうやって知りあったの⁇」

 

「あぁ…言ってなかった‼︎レイ、ちょっと話すぞ⁉︎」

 

「どうぞ〜」

 

読者の皆も知りたがっていた様だから、簡潔だが、私の口から話す事にしよう

 

「あれは、私が25歳位の時だったかな…」

 

 

 

 

 

 

 

十数年前…

 

当時、私の部隊はブラック・アリスと言う名だった

 

私と横須賀、そして入りたてのグラーフの三人だけだった

 

実はこう見えて、レイは四人の中で一番年下だ

 

当時ベルリンは西と東に分かれており、壁一枚で争っていたのを今でも覚えている

 

そんな中、私達は片側の方に就いていた

 

何方かは忘れた

 

雇われた位だったから、囲まれていない方だったんだろう

 

国連軍は国連軍だったが、本質は傭兵

 

私達が戦い、事が収まり、金が貰えればそれで良かった

 

 

 

 

〜ベルリン空軍基地〜

 

基地に降り、その日の出撃は終わった

 

軽く飯を食い、就寝…

 

明日も出撃がある

 

 

 

深夜、偶然目が覚めて煙草を吸っていると、格納庫に人影が入って行くのが見えた

 

気になって後を追うと、私の機体の影で機材を弄っている青年がいた

 

「何してるんだ⁇」

 

背後から声を掛けると、青年は驚き、機材を隠した

 

「スパイか何かか⁇」

 

「…」

 

此方を睨んだまま、青年はピクリとも動かない

 

「誰に言われた⁇ん⁇」

 

「…」

 

「言わねぇと食っちまうぞ‼︎」

 

少し声を張り、彼をビビらせてみた

 

「軍のお偉いさんだ‼︎機体のデータを渡せば、高値で買い取ってくれる‼︎」

 

「そっか。じゃあ取れ‼︎」

 

彼を残し、その場から立ち去ろうとした

 

「オッサンバカか⁉︎機体のデータを売られたら、すぐ対抗策を出されるぞ⁉︎」

 

スパイの癖に私の心配をする所を見ると、良心はあるみたいだ

 

「その対抗策より強くなればいい。それだけの話だ。違うか⁇」

 

「…まぁ」

 

「まっ、見た所お前はまだガキだ。目先の金しか見えてない」

 

「…だったら何だってんだ」

 

「来い。俺の金の稼ぎ方を教えてやる」

 

彼の手を掴み、無理矢理機体に乗せようとした

 

「イヤだ‼︎離せ‼︎」

 

「黙ってろ‼︎じゃないとスパイの事言うぞ‼︎」

 

そう言うと彼は黙った

 

後部座席に彼を押し込み、機体を出した

 

「うわぁ…」

 

どうも彼は戦闘機に乗った事が無いみたいだ

 

「飛ぶぞ⁇」

 

「お、おぅ‼︎」

 

夜間によく似合う、黒いSu-37が離陸して行く

 

「スゲェ…」

 

幾ら戦争中とは言え上空から見る夜景は、地上から見るそれとは一味違った

 

「オッサンはいつもこんな風景を見てんのか⁉︎」

 

「そうだ。これが仕事だ。そんで…」

 

レーダーに敵性反応が出た

 

「ボウズ、前方に二つの反応が見えるか⁇」

 

「あぁ、見えるよ⁇」

 

「そいつから目を離すな。逐一場所を報告しろ。いいな⁉︎」

 

「分かった」

 

「ふ…いい返事、だっ‼︎」

 

いきなり機銃掃射をかまして来た敵機に対し、操縦桿を右に倒す

 

「うわっ‼︎一機背後に回り込んだ‼︎」

 

「よし、良い子だ」

 

手元のボタンを押し、後ろ向きにミサイルを発射、見事命中

 

当時はこの機体にしか出来なかった芸当だった

 

「撃墜した‼︎三時の方向だ‼︎」

 

「了解‼︎」

 

しかし、相手のパイロットは腕の立つパイロットの様だ

 

あっと言う間に背後に着かれた

 

背後に回り込まれたと同時に、鳴り響くミサイルアラート

 

「オッサン‼︎フレアだ‼︎フレアをばら撒け‼︎」

 

「オーケー‼︎」

 

言われた通りにフレアをばら撒き、攻撃を回避

 

「奴は小型機だ。危険だけど、一旦オーバーシュートさせて、前方に出さないと難しい」

 

「へっ…ボウズの癖に分かってんじゃないの」

 

「あっ…」

 

言われる前に、既に火を吹いていた敵機

 

「帰ろう」

 

「う、うん…」

 

基地に戻り、二人共降りた後、彼はまだ機体を眺めていた

 

「名前は⁇」

 

「無い。産まれた時には孤児院に居た。でも、みんなは”マーカス”って呼んでる」

 

「国に忠誠を誓ったのか⁇」

 

「…忠誠なんか誓うか。生きる為にしてるだけだ。捨てられて、利用されて…それだけさ」

 

マーカスは随分と悲しそうな顔をしていた

 

「…明日、作戦が終われば俺達は本国に帰還する」

 

「そっか…」

 

「一緒に来い。お前はパイロットの素質がある」

 

「…いいのか⁇」

 

「ま、お前が良ければ…だけどな⁇明日の夕方、また此処に来い。じゃあな」

 

流石に眠気が来て、宿舎に戻ろうとした

 

「オッサン‼︎」

 

「オッサンじゃない。せめて隊長って呼べ」

 

「隊長‼︎こんな身分で言えた立場じゃないけど…もう一人、連れて行って欲しいんだ」

 

「分かった。そいつの名前は⁇」

 

「…アレン。アレン・マクレガー」

 

「別働隊に頼んでやるよ」

 

「…じゃあな‼︎」

 

「あぁ」

 

マーカスが去り、ようやく眠りにつけた

 

 

 

 

次の日、作戦を終えた俺達は二人の青年の姿を格納庫で見た

 

「隊長、ホントに良いのか⁉︎」

 

「空軍は嘘をつかない。君がアレンか⁇」

 

「はっ‼︎」

 

アレンはピシッと敬礼をした

 

「マーカスと大違いだな‼︎」

 

「くっ…」

 

「隊長。この子は⁇」

 

今も若いが、まだ少女っ気が抜けていないグラーフだ

 

この頃から巨乳でクーデレだ

 

「マーカスとアレンだ。マーカスは俺達の隊に入れる予定だ。アレン、君は向こうにいるオジンの所に行くんだ」

 

「誰がオジンだって〜⁇」

 

背後から軽く首を締めてきたのは、若き日のラバウルさんだ

 

この頃から、ラバウルさんとは仲が良い

 

「分かった分かった‼︎エドガー‼︎ギブギブ‼︎」

 

「よ〜し、許してやろうじゃないか‼︎」

 

ラバウルさんは手を離し、アレンの前に屈んだ

 

「よ〜し、アレン。今から大佐達と共に、ニッポンに行くぞ‼︎」

 

「ニッポン…」

 

「ニッポンの基地で、マーカスと一緒に空軍の教室に入るんだ。大丈夫、私も受けた事あるけど、美人で優しい先生だ」

 

「行きます‼︎キャプテン‼︎」

 

「キャプテン…良い響きだ…」

 

ラバウルさんはアレンを連れ、自身の機体の後部座席に乗せた

 

「不安か、マーカス」

 

「本当に、現実は変わるんだろうか…」

 

「お前次第で幾らでも変わるさ。世界は広いぞ⁇壁に囲まれた生活より、世界を股に掛けた空を見たくないか⁇」

 

「…うんっ‼︎」

 

「良い顔だ。さっ、行こう‼︎」

 

俺達も機体に乗り、日本を目指して飛んだ

 

 

 

 

 

途中、補給や仮眠を済ませ、ようやく辿り着いた日本

 

〜横須賀基地〜

 

「いやぁ〜、着いたな〜‼︎」

 

降りてすぐに背伸びをする

 

「お帰りなさい。今回は随分長旅だった様ですね⁇」

 

「香取先生」

 

香取先生は昔から美人でプロポーションもいい

 

そこに男共は騙されるんだよな…

 

「あら、お客さんがいるのね⁇」

 

「そっ。俺の部隊に入れるから、鍛えてやってくれ」

 

「貴方の頼みなら仕方ありませんね…お名前は⁇」

 

「…マーカス」

 

「マーカス⁇私の授業は厳しいですよ⁇着いてこれますか⁇」

 

「大丈夫」

 

「さっ、行って来い」

 

「隊長、ありがとう」

 

「感謝してくれるなら、いつの日か俺を護る様になってくれ」

 

「任せろ‼︎」

 

護られる方が多くなってしまった今では、このセリフに少し後悔を覚えている



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76話 雷鳥の過去(2)

「こっからは俺が鹿島と出逢った話だ。簡潔に行くが、少し長くなるかもな⁇」

 

 

 

 

香取の空軍アカデミーでも、マーカスとアレンはズバ抜けて成績が良かった

 

そんな中、香取先生の授業の代わりに別講師が教える事になった

 

「今日から貴方達に戦い方を教える”鹿島”と言います。皆さん、よろしくお願いしますねっ⁇」

 

「…」

 

「…マーカス⁇」

 

俺、無事一目惚れをする

 

鹿島の授業は楽しかった

 

隊長を護れる

 

それに、鹿島に教えて貰える

 

結構満足していた

 

ある事を除いては…

 

「先生、そいつは違うな」

 

「あら、どうしてです⁇」

 

「後方に回った方が早い」

 

今日も鹿島に食って掛かる、高山と言う男

 

正直、授業の邪魔をして欲しく無かった

 

人の楽しみの時間を奪いやがって‼︎

 

「よし、高山。俺と模擬戦だ‼︎俺は鹿島の教え、高山は我流で来い」

 

「いいだろう」

 

「ちょ、ちょっと‼︎」

 

「一つ約束してくれ」

 

「何だ⁇」

 

「もし俺が負けたら、俺がお前に頭を下げる。だから、先生に頭を下げさせるな。いいか⁇」

 

「…いいだろう」

 

「マーカス君…」

 

高山との模擬戦は、何回もやる事があった

 

俺が勝つ事も勿論あったし、高山が勝つ事もあった

 

鹿島に食って掛かる高山は嫌いだったが、戦っている高山は好きだった

 

それは向こうも同じだったと思う

 

そんな模擬戦が何回か繰り返されたある日、俺は普通に帰って来た

 

「マーカス君」

 

格納庫に戻って来ると、鹿島が待っていた

 

「へっ、負けちまったぜ…」

 

「何でいつも私を庇ってくれるんです⁇」

 

「好きだからさ」

 

「えっ⁉︎その…」

 

「隊長に教えて貰ったんだ。空は広いって。俺は隊長から貰った空が好きだ」

 

「あ…」

 

「悪かったな、負けちまって」

 

「あ…いえ…」

 

その時、格納庫の陰から噂話が聞こえた

 

「鹿島教官も罪な人だよな…許嫁がいるのに、生徒を堕として…」

 

その話を聞き、鹿島の方を振り返ると、途轍もなく悲しそうな顔をした鹿島がいた

 

「テメェら‼︎噂話してんなら仕事しやがれ‼︎」

 

「あ⁇テメェ階級なんだよ、あ⁉︎」

 

「大尉です。マーカス大尉」

 

「え⁉︎」

 

そう言ったのは鹿島だった

 

「し、失礼しました‼︎」

 

噂話をしていた整備兵は職務に戻って行った

 

「教官、大尉ってどういう…」

 

「マーカス君はこれからブラック・アリス隊に入るんです。高級階級の人間ばかりの中、その階級なら恥ずかしくないでしょ⁇」

 

「にしても、大尉は…」

 

「じゃあこうしましょう‼︎教官である私を庇ってくれた…何回かニ階級特進した、そう言う事にしましょう⁇ねっ⁇」

 

「まぁ…教官が良いなら…」

 

「それに貴方なら、私を救ってくれる気がします」

 

「何だって⁇」

 

「何でもないです‼︎行きましょう‼︎」

 

俺はその日から、少し鹿島を避ける様になった

 

許嫁がいるなら、俺の入る隙は無いと感じたからだ

 

だが、陰でフォローするのは変わらずにやっていた

 

そして、卒業の日

 

「おめでとう、マーカス君‼︎」

 

「ありがとうございます」

 

香取先生から卒業証書を各人貰い、パーティーが開かれた

 

「おめでとう、マーカス‼︎」

 

「隊長‼︎ありがとうございます‼︎」

 

「バカ‼︎敬語何か使うな‼︎お前はフランクが一番だ‼︎」

 

「へへへ…ありがとう」

 

「隊長さんっ、彼、少しお借りしてもいいですか⁇」

 

「どうぞどうぞ‼︎」

 

鹿島に連れられ、パーティー会場を出た

 

「マーカス君、おめでとう‼︎」

 

「あ、ありがとう…」

 

「これ、私からのプレゼント」

 

手渡された紙袋を開けると、黒い革ジャンが出て来た

 

俺が未だに来てる、チョットボロってきたアレだ

 

「ありがとう。大事にするよ。教官も、許嫁と元気でな」

 

「その許嫁の人もパイロットなの。いつかマーカス君と会うかもね⁇」

 

「味方である事を祈るよ」

 

照れ隠しの為、この頃始めたタバコを咥えると、鹿島は火を点けてくれた

 

「す、すまん…」

 

「私、下の名前”まゆ”って言うの。マーカス君は⁇」

 

「マーカスが名前だ。苗字は無い」

 

「なら”スティングレイ”はどうですか⁉︎」

 

「スティングレイ〜⁉︎」

 

「マーカス君、いつもチョットだけ尖ってるでしょ⁇」

 

スティングレイと言う名は、鹿島が付けたのだ

 

俺は今でもこの名前に誇りを持っている

 

「でも、いつだって私を護ってくれる…」

 

鹿島は俺の肩に頭を置いた

 

「絶対、帰って来てね⁇」

 

「…分かった」

 

 

 

 

数日後、俺達は出撃になった

 

敵航空部隊の迎撃

 

隊長等歴戦の猛者ならば、簡単な任務だった

 

俺も爆撃機やボロい戦闘機を撃ち落とし、隊長をビビらせたのを今でも覚えてる

 

空域の敵勢力排除の通信を受け、いざいざ帰ろうとした時、エース部隊が現れた

 

相手は五機編成のMig-31

 

機動力の高いSu-37なら、何とか勝てる相手だ

 

隊長達はあっと言う間に四機を撃墜

 

俺は一機にモタモタしていた

 

それも仕方無いと言えば仕方無かった

 

隊長機だったからな

 

「よしっ‼︎撃墜した‼︎」

 

隊長と一緒に乗った時、背後にミサイルを撃てるのを思い出し、事無きを得た

 

《良くやった‼︎これでエースの仲間入りだな‼︎》

 

「へへへ…やったね」

 

横須賀の基地に帰ると、俺達を讃える人がワンサカといた

 

完璧な攻撃

 

完璧な作戦

 

そして無傷

 

素晴らしい結果だった

 

ただ、一つだけマズかった

 

「鹿島教官は⁇」

 

とにかく、エースの仲間入りを果たした事を鹿島に報告しようとした

 

「それが…」

 

 

 

 

「嘘だろ…」

 

俺が墜とした機体に乗っていたパイロット

 

鹿島の許嫁だったらしい

 

「ちょっと行って来る」

 

小走りで鹿島の部屋に向かい、部屋をノックする

 

「…開いてます」

 

「鹿島」

 

「あ…マーカス君。お帰りなさい…今、お茶でも淹れますね⁇」

 

鹿島の目は真っ赤だった

 

お茶を淹れようとした鹿島はフラついており、何とか受け止めた

 

「鹿島、もういい」

 

「マーカス君…あたし…」

 

「すまない…知らないとはいえ、マズかったな…」

 

「うわぁぁぁぁん‼︎」

 

鹿島を抱き締め、しばらく泣かせた

 

これ位しか出来ない自分が情けない

 

「俺が護ってやる。でも、好きにはなるな」

 

「どうしてです⁇」

 

「俺は鹿島の許嫁を殺した。あんたの憎むべき相手だ」

 

「貴方も…私から離れて行くのね⁇」

 

「これからも、陰から護っているよ」

 

「バカ‼︎バカバカバカ‼︎」

 

「もっと良い男見付けろよ⁇」

 

鹿島の額にキスをし、そのまま部屋を出た

 

それから、鹿島と会う事も無かった

 

数年後に、俺は反抗作戦で撃墜され、公式では死亡している

 

その時、鹿島は許嫁が死んだ時より大泣きしたらしい

 

それを後々聞いて、俺はケッコンを決意した

 

こいつを護ってやれるのは、俺しかいない、と

 

 

 

 

 

 

「と、まぁこんな感じだな。簡潔にしか説明しなかったが、大体分かったろ⁇」

 

「うんっ。昔からレイは口悪いね‼︎」

 

「なんと‼︎」

 

紆余曲折のある人生だが、今は幸せだ

 

子供達が居て…

 

好きな人の傍にいれて…

 

大切な部下が居て…

 

今は、それでいいと思う…



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77話 あの日の鳥(1)

さて、76話が終わりました

今回のお話では、とある人物の過去に関わった人物が出て来ます


変わらない日常が、基地に流れて行く

 

レイは砂浜で子供達の面倒を見ている

 

私は執務室で報告書を見ていた

 

”所属不明機、攻撃過激化”

 

目を引く記事だ

 

「提督よ、物騒な世の中だな」

 

「あぁ。タンカーやら漁船が何隻もやられてる」

 

タンカー…二隻

 

民間船舶…三隻

 

客船…一隻

 

「み、民間人に被害が出てるのか⁉︎」

 

「そうらしいな…早い所止めなければ…」

 

「ただいまーっと‼︎」

 

日焼けした子供達とレイが帰って来た

 

「隊長、今日の報告書見たか⁇」

 

「今見た。マズイな…」

 

「写真だけ見れば、そいつは…」

 

レイが何か言おうとした時、警報がなった

 

《スカイラグーン付近に所属不明機襲来‼︎横須賀分遣隊、ラバウル航空戦隊、出動を願います‼︎》

 

「オーケー、出番だな‼︎」

 

「行こう‼︎」

 

互いの機体に乗り、一気に空に上がる

 

《所属不明機を確認しました。解析を開始しますね》

 

「頼んだ。絶対レーダーから逃がすな」

 

《かしこまりました。ラバウル航空戦隊が合流します‼︎》

 

《レイ、遅れたか⁉︎》

 

《お前は大遅刻だ‼︎》

 

レイとアレンが軽口を飛ばし合う中、珍しく健吾が黙っている

 

いつもならアレンにツッコミを入れるのに…

 

「ギュゲス、どうした⁇」

 

《キャプテン、大佐…今回の機体、俺に任せて頂けませんか⁇》

 

健吾の声に張りが無い

 

いつもと明らかに様子が違う

 

「訳ありみたいだな…よし、分かった‼︎私達は後方に回る‼︎頼んだよ‼︎」

 

《ありがとうございます》

 

健吾は大きく深呼吸した後、所属不明機に向かってエンジンを吹かせた

 

《バッカス、彼の様子に異変はありましたか⁇》

 

《報告書を見てからずっとあんな感じでした》

 

《まさか…昔の隊長なんじゃ…》

 

「クイーン、所属不明機の解析は済んだか⁇」

 

《佐世保鎮守府所属機、ヘルハウンド隊隊長機です‼︎》

 

《キャプテン、ビンゴです‼︎》

 

《行かせてあげましょう。過去と完全に決別するには、必要な行為です》

 

「ヘルハウンド隊…」

 

数年前、健吾を見捨てた後、私が墜とした部隊名だ

 

《先の戦争で、パパさんが撃墜してます。隊長だけは生き残り、基地を転々としていた様です》

「機体は⁇」

 

《ラバウル航空戦隊と同じT-50です。ただ、ぶら下げている兵装が特殊な弾頭です》

 

《核じゃねぇだろうな⁉︎》

 

《あ、いえ、違います。貫通性を高め、内部まで食い込んだ後に爆発する投下型爆弾の様です》

 

 

 

 

 

四人が話している最中、健吾は必死に所属不明機を追い掛け回していた

 

「隊長、何故俺を見捨てた‼︎」

 

《あら、生きてたんだ。へぇ〜…》

 

「それに、ぶら下げた爆弾は何だ⁉︎」

 

《ま〜あれよ。見たら分かるって奴⁇》

 

「ふざけるな‼︎」

 

健吾が叫んだ瞬間、背後に回って機銃を放った

 

しっかりとエンジンだけを狙い、爆弾には当たらない様にしている

 

《うわぁ‼︎》

 

「撃墜完了。救助班を要請…」

 

《…》

 

帰って来た健吾は、やはりどこか浮かない声をしていた

 

 

 

 

スカイラグーンに降りると、深海の子達が慌ただしく動いていた

 

こんなに慌ただしくなるのは珍しい

 

「何かあるのか⁇」

 

「ケンゴガゲキツイシタ、パイロットガクル」

 

「君達が観るのか⁉︎」

 

驚いた

 

医療に詳しい連中が居るのは、薄々気が付いていたが、まさか観てくれるとは…

 

「…借りにも自分達の家を破壊しようとした奴だぞ⁇」

 

「パパナラ、コウスルデショ⁇」

 

そう言い残し、深海の子は運ばれて来たパイロットを診察しに行った

 

「良い仲間ですね…」

 

「あぁ…」

 

私はラバウルさんと二人で、慌ただしく動く彼女達をしばらく眺めていた

 

数時間後…

 

「オワッタ‼︎」

 

「ナオッタ‼︎」

 

喫茶ルームで待っていた私達は一斉に立ち上がった

 

健吾に至っては、少し焦っている

 

「いや〜…あたし何してたんだっけ〜⁇」

 

「隊長…」

 

奥から来た女性を見るや否や、健吾はゆっくりと歩みを進めた

 

そして、顔面にグーパンチを当てた

 

「いだっ‼︎」

 

止めようかと迷ったが、全員健吾の過去を知っているので見て見ぬフリだった

 

「まぁ…仕方無いよな⁇」

 

「逆によくここまで耐えた‼︎」

 

「健吾、一発にしておきなさい⁇」

 

「ホラっ、美味いモンでも食って‼︎なっ⁉︎」

 

「…はいっ‼︎」

 

ホント、最近健吾は明るくなったよな…

 

ちゃんと自身の隊長であるラバウルさんの言う事聞いてるし、レイやアレンと話す事も多くなった

 

やはり、大和の影響なんだろうな…

 

「まぁ、自己紹介位したらどうだ⁉︎」

 

「あ〜、そうだね。あたしは北上。健吾の隊長だったんだけど…色々あってね…」

 

健吾は終始、北上と話さなかった

 

話を聞くと、北上は佐世保から来たらしく、新型の爆弾をスカイラグーンに落とす任務を遂行していた途中らしい

 

「列強の基地が皆好戦派ですか…」

 

「潰すか…」

 

「その必要は無いわ‼︎」

 

ドアを勢い良く開けて現れたのは、横須賀だ

 

「佐世保鎮守府には説明を付けたわ。佐世保の艦娘もここで補給を受けているし、破壊する意味が分からないって。それに、新型の爆弾は何処に行った⁇ですって」

 

「う…」

 

雲行きが怪しくなって来た

 

「それに、何故民間の船を撃って撃墜数に上げているのか、説明を求めてるそうよ⁇」

 

「あ…あれは敵だと思って…」

 

全員が呆れかえって沈黙する

 

「あれ⁉︎スティングレイが居ますよ⁉︎」

 

何処からとも無く、嫌な声が聞こえた

 

緑色がピョンピョン跳ねながら此方に向かって来る

 

「いただきま〜す‼︎」

 

飛び掛かって来た蒼龍に対し、隣に居た男を前に出した

 

「アレンガード‼︎」

 

「嘘だろ⁉︎」

 

そうは言いつつ、アレンはしっかり蒼龍を受け止めた

 

「あれ、この人から二人の女の匂いがしますねぇ…子持ちですかぁ⁇」

 

「そ、そうだ。女の子がいる」

 

アレンはポケットからアイちゃんの写真を出した

 

「わぁ‼︎可愛い子ですねぇ‼︎」

 

「そう⁇ありがとう‼︎」

 

「あ‼︎そうだ蒼龍‼︎あいつ、お前の基地で面倒見てくれないか⁇」

 

そう言って、北上の方を見た

 

「え〜…私、女趣味は無いですよぉ〜⁇」

 

メチャクチャ嫌そうな顔をしている



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77話 あの日の鳥(2)

事態は急展開へ


「間宮のタダ券をやろう」

 

「提督のデザートの方が美味しいのでいいです」

 

言われてみればそうだ

 

「じゃあ…」

 

「スティングレイが来てくれればそれでいいです‼︎」

 

「嫌だ‼︎」

 

蒼龍の要望を全否定する

 

もし蒼龍の所に行けば、俺はどうなるか分からない

 

「じゃあ北上さんも引き受けないですねぇ」

 

「オーケー…分かった。今度バーベキューに誘ってやろうと思ったが、無かった事にしよう」

 

「バーベキュー⁉︎提督の焼くお肉の方が絶対美味しいんでいいです‼︎」

 

後が無くなった…

 

「う…」

 

みんなの視線が痛い…

 

「あ〜も〜仕方無い‼︎俺が行きゃ良いんだろ⁉︎」

 

「奥さんいるのに私の所に来るんですかぁ⁇」

 

「テメェが来いって言ったんだろうが‼︎」

 

「ホントに来てくれるんですかぁ⁉︎」

 

「行くよ。その代わり、北上を頼むぞ⁇」

 

「心配ありません‼︎二人共美味しく食べます‼︎」

 

蒼龍の口からジュルリと涎が垂れた

 

「レイ…頑張れよ⁇」

 

アレンの視線が辛い

 

「じゃ、行きましょうか‼︎」

 

いつの間にか紐でグルグル巻きにされている‼︎

 

「え⁉︎嘘‼︎ちょっと‼︎」

 

「良い奴だったよ…」

 

「残念です…」

 

隊長とラバウルさんでさえ、手に負えない蒼龍

 

彼女に掴まってしまえば最後だ

 

 

 

 

1日後…

 

「た…たらいま…」

 

「かえってきた‼︎」

 

たいほうがレイの帰還に気付き、迎えに行った

 

遅れて私、鹿島が出迎える

 

「大丈夫だったか⁇」

 

「ほぼ丸一日、空戦のレクチャーと飯の世話だった…もう行かない。二度とだ‼︎」

 

ヘトヘトに見えるレイだが、至る所に咬み傷やキスマークがある

 

…満更でも無かった様だ

 

「あ、レイ⁇そう言えば送られた犯罪者の方々はどうなってるんです⁉︎」

 

「やめろ‼︎聞くんじゃない‼︎ションベンチビって気絶すっぞ‼︎」

 

鹿島が言った言葉に、レイは激しく反応した

 

執務室に入り、トラック泊地の様子を聞いてみる事にした

 

「蒼龍の部屋の至る所、骨だらけだった…ありゃ食われてるな…」

 

「まぁ、死刑囚ばかりだからな…」

 

「普通食うか⁉︎あいつはヤバい‼︎マジでイカれてる‼︎てか、トラックさんも食おうとしてた‼︎」

 

「あの人なら大丈夫さ。ちゃんと蒼龍を手懐けてる」

 

「まぁ…飯は最高に美味かったな…あ、後コレ」

 

レイから電報みたいな物を預かり、封を開けた

 

”犯罪者達は許可を得て、公平な裁判の末、蒼龍が独断と偏見で執行しています

 

またいつでもいらして下さい

 

新作のスイーツもあります

 

 

 

P.S.

 

お子さんが怖がるかと思われますので、その際は蒼龍は奥へ引っ込んで貰います”

 

 

 

「新作スイーツ食ったか⁇」

 

「食った‼︎激ウマだった‼︎しかも入ってる物を事前に説明してくれて、嫌いな物は抜いてくれるシステムなんだ‼︎」

 

「根っからのパティシエだな…」

 

 

 

現在のトラック泊地は、刑が執行されていると噂されている中で、知る人ぞ知る激ウマスイーツがある場所でもある

 

訪れる艦娘達に快くスイーツを出すトラックさんは、今では反対派の艦娘達の人気者になった

 

当の本人も現在の立ち位置を気に入っているらしい…

 

え⁇北上⁇

 

食われてないから心配しないで欲しい

 

 

 

 

 

ラバウル基地…

 

自室で一人落ち込む健吾

 

そんな彼の前に、一枚の紙切れを置いた大和

 

「これは⁇」

 

「貴方がヘルハウンド隊から離れる直前の、北上隊長のブラックボックスの音声データです」

 

「…」

 

嫌々ながら、健吾はそれを見た

 

大和なりに見易く仕上げている

 

”健吾、あんたいらないわ”

 

”じゃあね〜”

 

ここから先の文章に、健吾は目を疑った

 

”エドガー、あんたに健吾を任せるよ。あの子はここにいちゃ駄目だ”

 

”愛してるよ、健吾…”

 

 

 

「キャプテン⁇」

 

「これはお返しします…」

 

大和はケッコン指輪を健吾に返した

 

「大和、俺はホントに君を愛してる。それだけは間違いない‼︎」

 

「いいえ。貴方の心はあの方に…」

 

「いい加減にしろ‼︎」

 

産まれて初めて、健吾は怒鳴った

 

「お前だけは味方だろ⁇違うのか⁇」

 

「大和は…」

 

「少し頭を冷やせ」

 

「はい…」

 

命令したのも、産まれて初めて

 

大和を部屋に残し、向かったのはキャプテンの執務室

 

「キャプテン、健吾です」

 

「どうぞ〜」

 

煙草を吸いながら、書類仕事をしていたラバウルさんに、先程の書類を見せた

 

「とうとうこの日が来ましたか…」

 

「何故もっと早く言ってくれなかったんです‼︎」

 

「いつか君が彼女を恨まなくなる日が来たら言おうと思っていましたが…大和が先でしたか」

 

「キャプテン。真実を話して下さい」

 

「分かった。頃合いでしょう」

 

 

 

 

あの日、健吾は確かにヘルハウンド隊から切り離された

 

ヘルハウンド隊はその時、核を搭載した爆撃機の護衛任務に就いていた

 

北上はそれを早々に駄目な事だと気付いてはいたが、表沙汰では逆らえなかった

 

そして北上は当時、仲が悪かったSS隊の隊長…ラバウルさんに頭を下げ、健吾を任せる事にし、表沙汰では健吾は撃墜され死亡している事にした

 

本人は反旗を翻し、爆撃機を撃墜。近くの国に亡命し、最近まで行方不明になっていた

 

 

 

「そんなバカな…じゃあ、俺が今迄隊長を恨んでいたのは何だったんだ…」

 

「これを聞いて、北上と私を恨みますか⁇」

 

「…」

 

健吾は下を向き、少し黙った後、顔を上げて一粒だけ涙を流した

 

「感謝しかありません‼︎」

 

ラバウルさんは、それを見て微笑んだ

 

「じゃあ、北上を好きになる事をもう一つ教えてあげよう‼︎私も調べたんだ‼︎」

 

ラバウルさんは引き出しから書類を出した

 

そこには、北上が攻撃した船舶のデータがあった

 

…全部、横流しされた違法の武器を積載している

 

「隊長はどうなるんです⁇」

 

「ふふふ…助けに行きますか⁇」

 

「これを見て今、自分が生きてる意味が分かりました」

 

「助ける方法は簡単です。電話すればいい」

 

ラバウルさんはトラック泊地に電話をかけた

 

「北上の処分を此方で請け負います。はい、お願いします。はい、おしまい‼︎」

 

「キャプテン、最後に一つだけ聞かせて下さい」

 

「何かな⁇」

 

「俺を隊に入れて、後悔してませんか⁇」

 

健吾がそう言うと、ラバウルさんは高笑いした

 

「ははははは‼︎後悔⁉︎感謝しかしてませんよ‼︎私に着いて来てくれて、本当にありがとう、って‼︎」

 

「キャプテン…」

 

「早く大和の所に行きなさい‼︎これは流石に命令です‼︎」

 

「はっ‼︎」

 

健吾は執務室を去った

 

「北上がここに来ますか…今度は、味方同士、ですね」

 

 

 

 

「大和‼︎」

 

「健吾さん」

 

「北上がラバウルに来る」

 

「そうですか…良かったですね」

 

大和の顔は浮かばれない

 

だけど、大和はそれで良かった

 

自分の好きな人の為に、少しでも役に立つ事が出来たのだから…

 

「大和」

 

椅子に座っている大和の前に、健吾が屈んだ

 

大和の左手を取り、指輪をはめる

 

「ここまで来れたのは、君のお陰だ。俺は別れるつもりなんてない。いいね⁇」

 

「本当に私で良いので⁇」

 

「な、何回も言わせるな…は、恥ずかしいんだぞ⁇」

 

恥ずかしがる健吾の顔を見て、大和はホッとした

 

あぁ、自分が着いて行くのは、やはりこの人なんだと

 

「もう言いません。貴方に着いて行きます‼︎」

 

「頼んだよ」

 

「はいっ‼︎」

 

こうして、所属不明機の一件は幕を閉じた

 

 

 

トラック泊地からラバウル基地に、北上が移送されて来ます‼︎




北上…三つ編み女パイロット

元ヘルハウンド隊隊長であり、健吾の昔の思い人

健吾を切り離した真相を彼に伝えずにいたが、ついにバレ、ラバウル基地で面倒を見てもらう事になった

一見、口では軽そうに見えるが子供好きで、愛宕以外で唯一アイちゃんを手懐けている

本作品では、もう裏切る様な真似はしない

いい女を目指すらしい


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78話 記憶

さて、77話が終わりました

今回のお話ですが、かなり重要なお話です

最後に重大な伏線回収があります



今回のお話は、クイーンの何気無い一言で始まります

何度も言いますが、重大な伏線回収があります

一話しかありませんが、少し心してお読み下さい


《パパさん》

 

「なんだ⁇」

 

クイーンの中でモニターの操作を覚える為に色々弄っていると、彼女が話し掛けて来た

 

《パパさんは武蔵さんと夫婦なのですか⁇》

 

「そうだよ」

 

《昔恋仲だったと皆さん噂しています》

 

「そうだ。武蔵って名前でも無かった」

 

《少しお聞かせ願えませんか⁇》

 

クイーンがそう言い、手が止まる

 

逃げる様にクイーンから出ようとしたが、シートベルトを締められ、キャノピーが締められた

 

「何のつもりだ」

 

《言うまでここから出しません》

 

「くっ…」

 

《私だって知りたい事もあります》

 

「はぁ…」

 

どうやら話すしか無さそうだ…

 

「どこまで知ってる⁇」

 

《武蔵さんが”シャボン玉”が嫌いな所までです》

 

「はぁ…仕方無い。じゃあ、お前も話すんだぞ⁇」

 

《畏まりました》

 

「じゃあ、まずは私から…何で武蔵がシャボン玉が嫌いか知ってるんだ⁇」

 

《子供達がシャボン玉をしている時、悲しみの感情が強く感じ取られました》

 

「なるほど…それが全てを語ってるんだけどな…」

 

《話して下さい》

 

「…仕方無い。あれは、武蔵がまだ艦娘になる前の話だ」

 

 

 

 

 

 

 

10年位前だったかな

 

私はしばらくの間、日本に帰って来ていた

 

あぁ、そうだ

 

レイが新世界に住み始めた頃だ

 

私は今の艦娘居住区から少し離れた場所にあったアパートで暮らしていた

 

そう、あのアパートだ

 

チャイムを鳴らすと、中から女性が出て来た

 

「お帰りなさい。ご飯出来てるよ」

 

彼女は当時、髪を下ろしていた

 

それに、眼鏡もしていなかったし、性格も今より遥かに大人しかった

 

だが、体型はそのままだ

 

私達はそこで二人で暮らしていた

 

結婚はしていないが、彼女は天涯孤独の身だった為、私のアパートで日々を過ごしていた

 

私は傭兵でそこそこの戦果を上げていたので、そこそこの生活は出来るはずだが、あの時はこれで十分幸せだった

 

雪の降る、寒い夜

 

二人で突く鍋は美味しかった

 

「貴子」

 

「ん〜⁇」

 

言い忘れたが、武蔵の本当の名は”貴子”だ

 

小さい時から顔見知りで、今ではこうして恋仲になっている

 

「次で最後にするよ、傭兵」

 

「ほんと⁇」

 

「あぁ。傭兵やめたら、どっか旅行に行こう。そんで籍入れて、俺は何か平和な仕事をするよ。セスナのインストラクターの依頼が来たんだ」

 

「うんうん‼︎」

 

幸せな時間だった

 

今思い返せば、あの時が一番幸せだったのかも知れない

 

 

 

 

一ヶ月後…

 

私は傭兵を辞めた

 

レイを引き連れて、セスナのインストラクターをするつもりだった

 

横須賀は司令官に

 

グラーフは香取の空軍アカデミーでアグレッサーをする事になっていた

 

そんな中、もう一ついいニュースがあった

 

「お腹にね、赤ちゃんいるの」

 

「ホントか⁉︎」

 

「聞いて…」

 

貴子のお腹に耳を当てると、小さな鼓動が聞こえた

 

命がある証だ

 

「名前は何にするんだ⁇」

 

「そうね…貴方が決めて⁇」

 

「んっ、考えとくよ‼︎」

 

だが運命と言うのは残酷だ

 

貴子の体が、艦隊化計画のベースに適任だとの封書が来た

 

勿論断るつもりだったが、国はそんな事を言ってられなかった

 

私達の意見は無視され、貴子は艦隊化計画の手術を受けざるを得なかった

 

私は国に何度も抗議した

 

”お腹に子供がいる”

 

”貴子がやるなら、私が変わる”

 

全て跳ね除けられた

 

”お腹の子は諦めろ”

 

”お前がベースになっても仕方が無い”

 

地獄だった

 

アパートに帰れば、落ち込んだ貴子がいる

 

「たか…」

 

「シャ〜ボンだ〜ま〜」

 

貴子はお腹をさすりながら、歌を歌っていた

 

「貴子…」

 

「ん…お帰りなさい」

 

私には無理矢理でも笑顔を見せてくれた

 

「赤ちゃん、女の子だって」

 

「…貴子」

 

見るからに弱っていた

 

所詮、日本はこの程度の国か…

 

赤ちゃんや母親の命の保護なんざしてくれない…

 

護られるのは、老人や富裕層の人間ばかりだ

 

この頃から逆恨みの様に老人が嫌いになったのを覚えている

 

「名前、決まった⁇」

 

「あ…あぁ‼︎決まったぞ‼︎」

 

「教えて⁇」

 

この頃から、貴子はストレスからか文字があまり読めなくなっていた

 

私は貴子の手を取り、チラシの裏に平仮名で名前を書いた

 

「た…い…ほ…う…たいほうだ」

 

「たいほう⁇」

 

「そうだ。希望の鳥の名前だ。産まれて来る子には、希望を持って欲しい。戦いの、争いの無い世界を…」

 

「いい名前‼︎良いパパの所に産まれて来たわね〜…」

 

そう言って、またお腹をさする

 

「貴子、逃げよう。昔世話になった国が俺達を引き受けてくれるんだ‼︎」

 

忘れもしない、あの街

 

そう、夜間戦闘中に灯火管制が一斉に解除になったあの街だ

 

あの国の大使館が連絡を受け、私達を受け入れてくれる事になったのだ

 

「赤ちゃんも一緒に⁇」

 

「そうだ。そこで一から始めよう‼︎」

 

「それは出来ないな」

 

「‼︎」

 

突然土足で入って来た男性に、怯えた貴子が私にしがみ付いた

 

何度か抗議に行っていた人物だから覚えている

 

頭頂部の禿げた、いけ好かない顔をした男だ

 

「土足とは良い度胸だな」

 

「”被験体を回収”しろ‼︎」

 

「待てよ…」

 

男の言葉に怒りが爆発した

 

「人の嫁を無理矢理連れて行くわ、物扱いだわ…はは、勘弁してくれよ…」

 

「通知は渡したはずだ。拒否権は無いんだよ。勿論、君達が亡命する権利もね」

 

「ふざける…な…」

 

後頭部を殴られ、気を失った

 

気を失う直前、レイが暴れているのが目に入った

 

すまない、貴子…レイ…

 

私は…

 

 

 

 

 

気が付けば、研究所にいた

 

内部は既にボロボロ

 

後からレイに聞いた話によれば、多少私も破壊したらしいが、記憶がスッポリ抜けている

 

「ん…何があった」

 

「隊長、大丈夫か⁉︎」

 

レイに起こされ、何とか立ち上がる

 

「た…貴子は⁇」

 

「…逃げた。ここを破壊してな」

 

「貴子がか⁉︎」

 

「隊長、落ち着いて聞いてくれ。貴子さんはもう貴子さんじゃない」

 

「レイ…流石に怒るぞ⁇」

 

「ホントさ…国が、法律が…俺達を変えちまったんだよ…」

 

それを聞いて、ようやく涙が出て来た

 

「隊長、今は泣いていいぜ…痛い位分かるからさ…」

 

貴子に隠していた全ての涙が、レイの胸で出た

 

数十分泣き続け、ようやく落ち着いた所でレイに話し掛けた

 

「レイ…俺はもう、国には従わん」

 

「あぁ…俺は隊長に着いて行くよ」

 

「ありがとう…」

 

ここから、私は国に従わなくなった

 

だが、今の総理は別だ

 

いい人だ

 

互いに助け助けられで、理想の総理だと思う

 

 

 

 

「まぁ、こんな感じだ」

 

《なるほど…色んな事があったんですね…》

 

「他の奴に話すなよ⁇」

 

《畏まりました。情報をロックします》

 

ようやくキャノピーが開き、外に出る

 

「それとな、クイーン」

 

《はい》

 

「私は今、幸せだぞ⁇」

 

《ふふっ、そう言うと思ってました‼︎それでこそ貴方です‼︎》

 

こうして、二人の内緒の会話は終わりを迎えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実は、この話には続きがある

 

研究所から出たその日の深夜…

 

「よいしょ…っと」

 

レイは、とある基地に内緒で建造装置を造っていた

 

それは違法に造られた物で、初っ端から”大型建造”が出来る様に仕組まれた物だ

 

レイはそこの中心に液体で浸したカプセルを置き、腕に抱えていた何かを中に入れた

 

カプセルの小窓から見えたのは、女の子の赤ちゃんだった

 

レイはその子を愛おしそうに見つめ、機械を弄り始めた

 

実は、貴子のお腹にいた赤ちゃんはまだ生きていたのだ

 

強制的に産まれて来た赤ちゃんは、勿論未熟なまま、この世に生を受けた

 

レイはその子をなんとか保護し、人目のつかない場所に連れて来たのだ

 

本当なら、隊長と貴子さんに一目見せてやりたかった…

 

だが、放っておけば研究員に殺されるか、そのまま衰弱するしかなかったのだ

 

ならばせめて、人目のつかない場所で保護してやるしかなかった

 

ここならば安全だし、ゆっくりとだが、成長もする

 

俺が今隊長に返せる恩と言えば、これ位しかなかった

 

「心配すんな…この中にいれば、誰かが起こすまでゆっくり眠れる…争いの無い世界でな…」

 

聞こえるはずの無い声を、カプセルの中の赤ちゃんにあてる

 

「記録から抹消されようが、俺だけは覚えておいてやる‼︎だから‼︎だから…ゆっくり夢を見な…」

 

最後に愛おしそうにカプセルの中を見て、レイは機械の中心にカプセルを仕舞った

 

そして、レイは機械にロックを掛けた

 

3000/3000/3000/6000/20

 

この数字を並べれば、赤ちゃんは”艦娘”として、新しい人生を歩む事になる

 

そして、レイは何度も振り返りながら、名も無き基地を後にした…

 

誰も居なくなった、基地の中で眠る赤ちゃん

 

そのカプセルの外のプレートには、

名前が彫られてある

 

その名前は隊長の家の机の上に置いてあった、平仮名4文字から作られた名前だった…

 

 

 

”大鳳”

 

 

 

 




これまでのお話の中で、色々伏線が張ってあったのをお気付きでしょうか⁇

パパの建造は勿論…

レイが妖精から戻り、たいほうを抱き上げた時のセリフ…

まだアウトローのプリンツと戦わせる時、何故あれ程の艦載機や艤装を知っていたのか…

何故たいほうだけにアクティブ防御機銃を真っ先に装備させたのか…

鹿島の薬を飲んだたいほうがレイに冷たくした時、彼は何故あれ程落ち込んでいたのか…

たいほうとレイが関わるシーンは、ここでは言えない程沢山あります

レイはずっとこの事を隠しています

パパの口癖である

”空軍は嘘をつかない”

に、反する事は、彼も重々承知の上です

ただ、これを明かしてしまうと、今の武蔵がどうなるか分からないので黙っているだけです




作者的には、今回のお話を見た後

”海鷲から雷鳥へ…”

のお話で、レイがたいほうを抱き上げた時のセリフが一番胸に来ました

自分で書いておきながら、若干ウルッと来ました 笑

と、まぁ、パパのちょっとした過去をサラッと紹介し、短文ながらあまりにも重大な伏線回収の回でした




ちなみに、たいほうとレイの関係を書く際、ベースにした曲は

サイレンスがいっぱい/杉山清貴

レイがたいほうに送る感情のベース曲にしました


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79話 旅行鳩はショタが好き(1)

さて、78話が終わりました

急な伏線回収申し訳ありませんでした

そろそろ一度、核心に触れておこうかと思いましてね

今回のお話は、みんな大好き鹿島のお薬回です

さぁ‼︎今回の被害者は誰かな⁉︎


こんにちは。霞よ

 

今日は面白い事があったから、きそから借りたビデオで録画してるわ

 

あれは数時間前の事…

 

 

 

 

「ぬふふふ…出来ましたよ。素晴らしい新薬が…」

 

新設された研究室の中で、鹿島がニヤついている

 

「また変な薬じゃないだろうね⁇」

 

手伝いに来ていたきそは、机から顔を覗かせた

 

きそは身長が足らず、鼻から上しか顔が見えない

 

「いい薬ですよ、これは…ふふふっ」

 

鹿島は小瓶に薬を入れ、ポケットにしまった

 

二人で食堂に戻ると、お昼ご飯が机に並んでいた

 

「レイのご飯は…」

 

鹿島はレイのチャーハンに薬を一滴垂らした

 

数分後、レイがチャーハンを口にする

 

「…」

 

レイの口の動きが緩やかになる

 

ついでに目つきも悪くなる

 

まぁ、元々悪いけど…

 

「どうされました⁇」

 

「お前また変な薬入れてねぇだろうな⁉︎」

 

「入れてませんよ⁇」

 

「そっか。ならいい」

 

レイは薬品の類に過敏だ

 

ほんの一滴の薬品だって、すぐ様気付く

 

お昼ご飯を終えて、大体一時間が経った

 

鹿島は工廠の陰からレイの様子を眺めていた

 

「何してんのよ」

 

「あら、霞ちゃん⁉︎レイは働き者だな〜って」

 

「ふ〜ん…怪しいわね…」

 

二人でレイを眺めていると、何故か段々小さくなっていった

 

「ちょ、ちょっとレイ⁉︎」

 

「レイがショタ化した‼︎」

 

霞ときそが驚く中、鹿島だけが落ち着いていた

 

「お、お姉ちゃん達…誰⁇」

 

「僕はきそだよ‼︎」

 

「私は霞よ‼︎覚えてないの⁉︎」

 

本人は恐らくそんなつもりはないだろうが、霞は凄い剣幕でレイを怒鳴っていた

 

「びえええぇぇ〜‼︎」

 

ショタ化したレイは、普段では絶対見れない大泣きをし始めた

 

「泣いちゃった‼︎」

 

「泣いてんじゃないわよ‼︎ガキじゃあるまいし‼︎」

 

「霞‼︎今のレイは子供だよ‼︎もうちょっと優しくしようよ。ね⁇」

 

そう言いながら、きそはレイを抱き締めた

 

「大丈夫だよ〜。みんな仲間だよ‼︎」

 

「…ほんと⁇」

 

「ホントだよ⁇ほら、あの大きいお姉ちゃんがおいで〜って」

 

きそが手を離すと、レイは鹿島に近付いて行った

 

「可愛い〜‼︎レイ君、あっちでお姉さんと絵本読みましょうか‼︎二人もおいで‼︎」

 

レイを抱き上げ、鹿島は基地に戻った

 

 

 

 

そろそろ冒頭に戻るわ

 

カメラの先では、鹿島の膝の上で絵本を読んで貰っているレイがいる

 

「だ…誰⁉︎」

 

パパがようやく気付き、レイは鹿島にしがみ付く

 

中々シュールね…ふふふっ

 

「レイですよっ。ちょっと小さくしてみたんです。小一時間したら効果は切れますので…」

 

「へぇ〜、可愛いもんだな‼︎」

 

パパはレイの頬を撫で、いつも通りに頭を撫でた

 

「お…おじさん、だれ⁉︎」

 

「君の友達さ」

 

「ほぉ〜」

 

驚いた…

 

上官か隊長でくると思っていたのに、仲間だとは…

 

「鹿島デレデレだね‼︎」

 

「ショタコンなのかしら⁇」

 

陰からコソコソしているのは、勿論きそと私

 

「なにしてるの⁇」

 

背後から急にたいほうが現れた

 

私達も大概低身長だが、たいほうはそこから頭一つ分小さい

 

だからバレずに尾行したり、かくれんぼが神がかり的に上手い

 

「シーッ‼︎たいほうちゃん。見て、あれ誰だと思う⁇」

 

「ん〜⁇」

 

たいほうは隙間からレイ達をそ〜っと見た

 

「かしまと…パパと…ちっちゃいすてぃんぐれい…」

 

「やっぱり分かるんだね」

 

「たいほうは凄いわね」

 

「たいほうのぱいろっとなんだよ⁇」

 

自慢気に語るたいほうは、とても嬉しそうだった

 

そんな時、来ては行けない人物が来た

 

「レイ‼︎レイ〜⁇あれ、おかしいわね…大体工廠かここにいるのに…」

 

「だ…誰⁇」

 

「あらっ、鹿島の子供⁇」

 

「え…えぇ…まぁ…」

 

「レイそっくりねぇ‼︎」

 

「みたことないひとだけど…なんかいやだ…」

 

レイは鹿島にしがみ付いて離れようとしない

 

「きひひひっ‼︎横須賀さんの顔‼︎」

 

「あははははは‼︎やっぱり本能で分かるのね‼︎」

 

「すてぃんぐれい、かわいいね‼︎」

 

きそもたいほうも笑う

 

釣られて私も笑う

 

だがビデオは止めない‼︎

 

「レイはどこ⁇依頼があるのよ‼︎」

 

「今は急用で席を外してますので、明日また…」

 

「いや、待つわ」

 

鹿島の横に座り、ボーッと考え事を始めた

 

「…」

 

「おねえちゃん、やっぱりこのひとこわい…」

 

「なんですって⁉︎」

 

「ヒィーーーッ‼︎」

 

私の数倍怖い剣幕で、横須賀さんはレイを怒鳴り睨み付ける

 

レイは鹿島に埋もれる

 

恐怖心からか、体がプルプル震えている

 

「横須賀さんっ⁇相手は子供ですよ⁇」

 

「あぁ…ごめんなさい…」

 

「たいほうちゃん、レイを連れて来れる⁇」

 

「わかった」

 

完全に怯えてしまったレイを見て、たいほうは部屋に入った

 

「たいほうとあそぼ⁇」

 

「…うん」

 

たいほうは涙目になったレイを連れて来た

 

「おやつたべるの」

 

たいほうはキッチンの床下収納からグミを取り出し、レイと一緒に食べ始めた

 

「いつもと逆ね」

 

「おいしい⁇」

 

口を尖らせているたいほうは、レイの手元を見ながら自分もグミを食べる

 

いつもレイやパパが聞いている言葉を、今日はたいほうが言っている



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79話 旅行鳩はショタが好き(2)

霞が壊れるよ‼︎


「おいしい…」

 

「たいほうのあげる‼︎」

 

「ありがと…」

 

たいほうはレイにグミを渡し、一瞬その場を離れた後、手にオモチャを持って戻って来た

 

「たいほうのれっぷう」

 

パパに新しく作って貰った、艶出しされた烈風の模型が右手に握られている

 

「れっぷう⁇」

 

「こっちはパパのすほーい」

 

左手には、黒いボディの戦闘機が握られている

 

私はあまり戦闘機には詳しくないが、一度、戦闘機の図鑑で見た機体に似ている

 

「すほーい⁇」

 

「ろしあのせんとうきなんだよ⁇」

 

「ぼくはとむきゃっとがすき‼︎」

 

「ねこさん」

 

たいほうとレイは楽しそうに話し始めた

 

「楽しそうだね」

 

「まぁ、良いんじゃないかしら⁇」

 

数十分後、レイはようやく元の姿に戻った

 

「たいほうはどの航空機が好きだ⁇」

 

「これ‼︎」

 

今度はレイがたいほうを膝に乗せ、航空機図鑑を眺めている

 

いつもの二人に戻っていた

 

きそと私はビデオをしまい、そ〜っと元の位置に戻した

 

そして、その日の夜…

 

「いただきまーす‼︎」

 

晩御飯の時、レイがチラチラ鹿島の方を見ていた

 

きそと私は何と無く気が付いた

 

「霞…」

 

「えぇ…」

 

数分後…

 

「うぇぇ…ここどこ〜⁇」

 

「ふっふっふ…この時を待ったぜ‼︎」

 

今度は鹿島がロリ化した‼︎

 

「さぁ‼︎ペイバックタイムだ‼︎」

 

「ビャァァァァァ‼︎」

 

「ウマィィィィィ‼︎」

 

レイから逃げるロリ鹿島は叫び声を上げながら何処かに連れ去られ、その叫び声にきそが反応した

 

「…きそ、あんた最近読者から何て言われてるか知ってる⁇」

 

「天才科学者かな⁇ふふふっ…」

 

「読者の方々からお便りが来てるわよ。読むわね。第四の壁、破壊よ‼︎」

 

ホントは使いたくなかったけど、鹿島のリンゴジュースの回で既にキャラ崩壊してるので、この際構わないわ‼︎

 

”きそちゃんハァハァ”

 

”きそちゃんペロペロ”

 

”ポンコツでマヌケなきそちゃんが大好きです‼︎”

 

”最近きそちゃん、ギャグキャラ要員になって来てるので好きです‼︎”

 

”ゲーヲタ、アニヲタのきそちゃんが大好きです‼︎”

 

「その他諸々、ここでは言えない下ネタを含め、20件弱のお便りが届いてるわ」

 

「やったね‼︎人気キャラだ‼︎」

 

「人気キャラ一位は現状、榛名さんよ⁇二位がたいほう、三位がレイ、四位がきそよ」

 

「五本の指に入ってたら満足だよ‼︎」

 

「因みに、榛名さんに至っては100件以上のファンレターがあるわ」

 

「流石だね‼︎」

 

「まっ、きそも頑張んなさい。それと読者‼︎私が照月に負けるってどういう事よ‼︎作者が内緒で集計していた感想やファンレターの結果では、私は照月の下よ⁉︎」

 

「か、霞⁇」

 

「私の人気が無いのは作者が出番を寄越さないからよ‼︎いい⁉︎これを見た読者の人は私についての褒め言葉でも送って頂戴‼︎分かった⁉︎」

 

「霞ってば」

 

「ま、まぁ…この作品を見てくれて感謝はしてるわ。これからも、その…宜しくね⁇」

 

「霞‼︎」

 

「何よ‼︎」

 

「むやみやたらに第四の壁破壊なんかしたら、作者に陳情書が届くし、霞の票が入らないよ‼︎それに今、ストーリーガン無視だよ‼︎」

 

「どうせ後は意味深な夜戦して朝チュンよ‼︎」

 

「それがR-15のギリギリラインなんだよぉ‼︎」

 

「まぁいいわ。でも、これだけは言っておくわ。今後私の回の後半は大体第四の壁を破壊するわ‼︎いいわね⁉︎」

 

「このストーリーぶち壊しだよぉ‼︎」

 

「質問とか、お便りの返信を答えるのよ‼︎あんたも手伝うのよ‼︎」

 

「絶対ストーリー壊さない⁉︎」

 

「私が読者と喋ってる時点で壊れてるわよ‼︎」

 

「うぅ…僕はどうすればいいんだ…」

 

「はんっ‼︎黙って私に従うしか無いわね‼︎」

 

「うぅ…分かったよ…」

 

「まっ、読者のみんなは安心していいわ。次回は普通のお話で、北上さんの話よ‼︎楽しみにしてなさい‼︎」

 

「壮大なネタバレだよぉ‼︎」

 

「たまには次回予告してもいいでしょ‼︎」

 

「それでこの作品の人気が減ったらどうするのさ‼︎」

 

「うっ…」

 

「あっ、そうか。これこそ読者のみんなに聞けばいいんだ‼︎」

 

「そうよ‼︎あんたやっぱ賢いわね‼︎」

 

「まぁ、そんな訳で、感想やお便り待ってます‼︎」

 

「私についての感想でもいいわよ‼︎」




後半、こんな事になってしまい、申し訳ありません

たまにはこういう回もいいかなと思い、後半は第四の壁破壊で仕上げました

霞の壁破壊も、読者様のお便りから生まれました

恐らく最近公開された映画の影響と思いますが、正直書いてて新鮮で楽しかったです 笑

霞の言った通り、鹿島とレイはこの後朝チュンです 笑

次回は普通のお話に戻り、本当に北上さんのお話です


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80話 愛のオセロゲーム(1)

さて、79話が終わりました

前回でも言った通り、今回は北上さんのお話です


「健吾〜、健吾ってば。起きろ〜」

 

ベッドで眠っている健吾を揺する

 

「ん…スクランブルですか⁉︎」

 

健吾はいつもの癖で飛び起きた

 

「いやぁ、違う違う。遊びに来ただけだよ」

 

「そ、そうですか…」

 

再び横になり、枕に突っ伏す

 

「相変わらず整理整頓されてるねぇ〜偉い偉い」

 

「好きな本あるなら見てもいいですよ…ふぁ…新型機の資料もありま…す…」

 

「寝ちゃった…昨日の夜あんだけアイちゃんに振り回されりゃこうなるか…」

 

私は健吾の頭を撫で、彼がいつも腰掛けている椅子に座り、机の上に置かれた資料を手に取った

 

「ほうほう…よくまとめられてる」

 

健吾はヘルハウンド隊に居た頃から書類仕事やデータ管理は得意だった

 

見易く、そして分かりやすく書かれていて、上層部にも好評だった

 

「変わらないねぇ〜」

 

北上は椅子から立ち、健吾の寝顔を見て、再び頭を撫でた

 

彼が私に好意を寄せていたのは知っている

 

私自身も彼が好きだ

 

恋仲以上の関係にもなっていた

 

悔やまれるのは、あの日彼を切り離してしまった事

 

好きだから…

 

愛していたからこそ…

 

彼には生きていて欲しかった

 

だから、エドガーに任せた

 

どうやら、それだけは正解だったみたいだ

 

こんなに生き生きする彼を見たのは初めてかも知れない

 

まぁ、それも、左手の指輪を見れば何と無く分かった

 

「健吾…君はよく私に仕えてくれたね…」

 

ヘルハウンド隊に居た時から、彼はエースだった

 

上でも下でも私の傍に居てくれて

 

挙げ句の果てには、敵に体当たりしてまで私を庇ってくれた

 

ソ〜っと彼の服の右袖を捲ると、一直線に伸びた大きな縫い傷が出て来た

 

体当たりをかました時に、機体の破片が刺さった

 

直前に機体から脱出した為、奇跡的に一命は取り留めたが、しばらくは出撃も出来ない体になってしまった

 

「私、ここに来て良かったよ。また君に出逢えたし…今度は私が君の傍に…」

 

ふと、大和の顔が浮かんだ

 

あぁ、そうか…

 

この恋は、もう叶わないのか…

 

「隊長…」

 

「起きたかい⁇」

 

健吾は私の顔を見るなり手を取った

 

「お…」

 

「ここに居て下さい…」

 

「ふふ…はいはい」

 

寂しがりは治ってないね

 

全く…君を寝かせるのは今も昔も大変だ…

 

「浮気したら大和に怒られるよ⁇」

 

「浮気じゃない…隊長は今はただの抱き枕です」

 

「言ってくれるじゃないの〜」

 

そうとは言いつつ、私は健吾の手を握った

 

変わらない、まだおぼこい手

 

「よいしょ…っと」

 

健吾の隣に寝転び、彼の寝顔を見つめる

 

大和にバレたらブチコロものだ

 

「健吾」

 

「はい…」

 

彼は薄っすら目を開けた



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80話 愛のオセロゲーム(2)

「まだ私の事好きかい⁇」

 

「えぇ…」

 

「罪な男だねぇ」

 

「…聞かないで下さい」

 

健吾は背を向けてしまった

 

「でもまぁ…」

 

そんな彼を背中から抱き締める

 

何故かは分からないが、私から抱き締める事が多い

 

健吾に抱き締められたのは一回だけ

 

…恥ずかしくて思い出したくない

 

「大和が居ない時なら、私に甘えていいから。ね⁇」

 

「隊長⁇」

 

「せめてもの罪滅ぼしだよ。でも絶対、大和には内緒だよ⁇その代わり、キスでも何でもしていいから」

 

「…」

 

口を閉ざしてしまった健吾を振り向かせ、頭を寄せた

 

あんまし、自分からキスするの好きじゃないんだけどな…

 

まぁ、久し振りにした大人のキスは気持ちいいね

 

「さ。そろそろ大和が帰って来る。私はアイちゃんの相手でもしてるよ」

 

「隊長」

 

「ん〜⁇」

 

「…何でも無い」

 

「そう⁇じゃあね〜」

 

健吾の部屋を後にし、私は執務室に向かった

 

健吾は一人悶々と部屋で悩んでいた…

 

 

 

 

「エドガーいる〜⁇」

 

「開いてますよ」

 

執務室に入ると、エドガーは書類と格闘していた

 

「まぁ、その、何て〜の⁇色々ありがとう」

 

「健吾には事実を伝えました。もう恨んではいませんよ⁇」

 

「ははは、そっかそっか。それでさ〜、エドガー」

 

「健吾を私にくれ、ですか⁇」

 

「おぉ…よく分かったね」

 

「後は健吾自身です。でも、これだけは言わせて下さい」

 

「ん〜⁇」

 

「もし、君の部隊に戻ったとしても、これから先も健吾と仲良くさせてくれ」

 

「当たり前じゃん‼︎何心配してんのさ」

 

「それとっ…部隊の名前を変えて下さい。登録を変えて、呉さんと横須賀さんに報告します」

 

「ん〜…」

 

「もしくは、我々の傘下に入りますか⁇」

 

「あ〜…うん、そうする。エドガーにま借りはあるしね。今度は私も護ったげる。でも、ちょくちょく健吾を貸してもらうよ⁇」

 

「いいでしょう。彼も恐らくそれが一番いいかと思います」

 

ラバウルさんは厳重そうなバインダーを開き、中から紙を出した

 

紙にはSS隊各員の名前が書かれている

 

エドガー・ラバウル

 

アレン・マクレガー

 

柏木健吾

 

そしてその下に

 

”北上あみ”と書き記した

 

「これで完了です」

 

「簡単だね〜」

 

「ははは。健吾に任せたらもっと早いですよ」

 

「GRANDPA‼︎IOWAと遊ぼ‼︎」

 

勢いよく扉が開けられ、少し大きくなったアイちゃんが入って来た

 

「アイちゃん⁉︎パパはどうしたの⁇」

 

「DOWNした‼︎」

 

「あ…あはは…」

 

「いいよエドガー。私が相手するから」

 

「すみません…」

 

「さ〜、アイちゃん。お姉さんと遊びましょうね〜」

 

「うんっ‼︎」

 

こう見えて北上は面倒見がいい

 

当時だって、子供からよく好かれていた

 

「まっ、一波乱無いといいですがね…」

 

ラバウルさんは煙草を咥え、深く息を吐いた…



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81話 色々気になるお姫様(1)

さて80話が終わりました

今回のお話は何気無い日常回です

クイーンが気になる物とは⁉︎


いつもの様に、工廠の隅でたいほうがマットを広げて遊んでいる

 

最近コンクリが熱いのか、なるべく影際で遊ぶ様になっている

 

今日はどうやらきそとプラモデルを作っているみたいだ

 

少し前にスマートボールで取ったアレだ

 

接着剤も道具も要らず、きそが教えればたいほうでも作れる

 

二人共、アニメに出て来る戦闘機を作ってるみたいだ

 

「ばるきりー」

 

「色々あるんだよ⁇たいほうちゃんのは隊長さんの機体だよ」

 

たいほうの手元では、黒い戦闘機が出来上がって行く

 

「パパのむかしのせんとうきもくろいね」

 

「黒い迷彩だと、夜の奇襲に強いんだ」

 

「くいーんはまっしろけだよ⁇」

 

「クイーンは別だよ。隊長は元アグレッサーだしね」

 

「あぐれっさー」

 

隊長、ラバウルさん、そして鹿島

 

この三人は元アグレッサーである

 

隊長と鹿島は、クイーンに乗った事がある

 

ここだけの話、クイーンだけなら鹿島の方が年季が長い

 

「できた‼︎」

 

「できた⁇じゃあレイに艶出しして貰おうか‼︎」

 

きそが俺の所に二機のプラモデルを持って来た

 

「艶出し出来る⁇」

 

「つやだし」

 

「ほいほい」

 

プラモデルを置くと、たいほうときそは俺の足元にマットを敷いて座って話始めた

 

パソコンや電子機器があるので、夏は扇風機を回しているため、俺の足元は涼しい

 

たいほうと話しているきそを見て、少しホッとする

 

俺はパソコンを弄りながら、クイーンのアップデートを続ける

 

イヤホンをしているので、足元の二人には独り言に聞こえる

 

《マーカスさん、たこ焼きとはいかなるもので⁉︎》

 

最近のクイーンは好奇心旺盛だ

 

ネットでも沢山調べているらしいが、こうして俺や隊長に聞く時もある

 

「丸くて、中にタコの足が入ってるB級グルメだ。何だ、食いたいのか⁇」

 

《美味しいですか⁇》

 

「よし、作ってやるから待ってろ‼︎」

 

十分程食堂に戻り、粉や具材を持って来た

 

「え〜と…確かここに…あった‼︎」

 

この前きそが造った、一度にたくさん焼けるたこ焼き器‼︎

 

「レイ、たこ焼き作るの⁉︎」

 

「クイーンが見てみたいんだって。粉と具材は冷蔵庫に入れといてくれ‼︎」

 

「どこいくの⁇」

 

「現地調達‼︎」

 

「レイ〜‼︎行くよ〜‼︎」

 

工廠の外でしおいが呼んでいる

 

「きそ‼︎たいほうを頼むぞ‼︎」

 

「分かった‼︎」

 

俺は服を脱ぎ、防波堤で海パン姿になった

 

「目標タコ‼︎ゆくぞしおいよ‼︎」

 

「早く〜‼︎」

 

しおいは既に海に入っていた

 

「早いって‼︎」

 

海に飛び込み、潜って行く

 

海の中にはしおいがいつの間にか置いた壺が幾つかあり、その中にタコはいた

 

ハンドサインを送り、デカくて美味そうな一匹をしおいに厳選して貰った

 

「ぷは‼︎オッケーレイ‼︎良いたこ焼きが作れるよ‼︎」

 

「よし‼︎俺はもうちょっと潜ってる‼︎銛貸してくれ‼︎」

 

しおいは、背負っていた銛を俺に渡した

 

「しばらくしたら帰るから、はまかぜ辺りにタコ洗って捌いて貰ってくれ‼︎」

 

「分かった‼︎」

 

しおいはタコを背負い、基地に消えていった

 

さて、久し振りに銛漁だ‼︎

 

………

 

……

 

 

数十分後、心配したしおいが防波堤に戻って来た

 

「じおい〜…」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎レイ‼︎何それ‼︎」

 

「サメ」

 

俺の肩には二匹のサメが乗っていた

 

数十分前…

 

〜しおいと別れて数分後の海中〜

 

(サメじゃねぇか‼︎)

 

ケンカ中だった様で、数秒後には敵意がこちらに向いていた

 

(ヤベェ‼︎小型だが噛まれたら大怪我だ‼︎)

 

致し方無く、銛で一匹を突いたらもう一匹が反撃して来たので、銛の先のサメを外してもう一撃をかました

 

せっかくなので持って帰って来た

 

「武蔵呼んできて。頼む」

 

「わ、分かった‼︎」

 

すぐに武蔵が飛んで来た

 

ナイフを持って

 

「すてぃんぐれいよ‼︎サメを血抜きする‼︎」

 

「頼んだ。限界だ…少し休む」

 

防波堤に寝転び、暑い陽射しを手で遮る

 

「暑い‼︎風呂入って工廠でカキ氷作る‼︎」

 

部屋で準備して、いざ風呂へ

 

「ガーガー=サン」

 

声が聞こえ、急いで体を隠す

 

ガーガーさんとか言ってるし、これがたいほうなら良いが、万が一の確率でプリンツの可能性もある

 

声のした方向をソーッと覗き込む

 

0.3秒後、俺は気付く

 

そう言えばさっき、食堂でタコを眺めてるたいほうときそを見たような…

 

「あ‼︎レイ‼︎」

 

やはりプリンツだった

 

「何で隠れてるんです⁇堂々と見たらいいんですよ‼︎」

 

「ぷりんつ」

 

「洗って‼︎」

 

「うわぁ‼︎どしたんだお前ら‼︎」

 

顔面真っ黒な二人が現れた

 

たいほうもきそもうっすら笑っていて、逆に怖い

 

「たこにすみかけられた」

 

「ブシューって‼︎」



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81話 色々気になるお姫様(2)

「たいほうちゃんは私が洗います‼︎」

 

「レイ、お願いするね。ほとんど前が見えないんだ」

 

「じっとしてろよ。目、閉じてろ」

 

きその顔にシャワーを当てる

 

段々きその顔が出て来た

 

「鹿島の部屋にあった、ポンプで落書き消すゲームみたいだね」

 

「またあいつは…」

 

鹿島は時々横須賀に行っては、新しいゲームを買って来る

 

まぁ、自分の給料だから全然良いんだがな

 

「ありがとう‼︎」

 

綺麗になったきそは、早速頭を洗い始めた

 

きその後ろの席に座り、俺も体を洗い始めた

 

きそは鹿島達と違い、華奢な体格をしている

 

夜中寝ていると、きそが腹の上に寝に来る時がある

 

その時に抱っこするのだが、年頃の少女の様にプニプニしてて、中々良い匂いがして心地がいい

 

これは内緒だが、鹿島はイビキがうるさい

 

時々ソーッとベッドを抜け出して、食堂のソファできそを抱っこして寝る事がある

 

これが中々寝やすい

 

中途半端にチョビ〜っと胸も出ているし、何せお尻が柔らかい

 

 

 

「誰かが呼んでる気がする」

 

「あら、清政。第六感かしら⁇」

 

 

 

 

 

体を洗い終わり、きそと一緒に湯船に入った

 

ちょっと離れた所で、たいほうとプリンツがアヒルのオモチャで遊んでいる

 

きそはそっちの方を見て、欲しそうにしている

 

「きそも欲しいか⁇」

 

「二人がガーガーさんなら、僕は違うのがいいな」

 

「考えといてやるよ」

 

きそを膝に置いたまま、しばらく湯船に浸かる

 

数分入った後、脱衣所でタオルを渡された

 

「拭いて〜」

 

きそからタオルを受け取り、髪を拭く

 

隣ではプリンツが似た事をしている

 

たいほうとプリンツは仲が良く、最近は二人でいる事も多い

 

「さっ、たこ焼き焼いてやっから、食堂で待ってな‼︎」

 

「やったね‼︎」

 

きそとたいほうが食堂に行き、ようやく俺も服を着始めた

 

「レイ、たこ焼き作るんですか⁉︎」

 

衣擦れの音の向こうから、プリンツの声がした

 

「食べた事あるか⁇」

 

「大阪で多分…」

 

「クイーンが見てみたいんだってさ。隊長も作るの上手いから、その辺は大丈夫さ‼︎」

 

プリンツと食堂に戻ると、はまかぜと武蔵がタコを切ってくれていた

 

「んじゃ、工廠で準備してるから、持って来てくれるか⁇」

 

「たまには外で食べるのもいいですね」

 

「すぐに持っていく‼︎サメの唐揚げも、もうすぐできるからな‼︎」

 

サメの唐揚げ…だと⁇

 

武蔵はたまにトンデモ料理を作るが、これが中々美味しい

 

ただ、何が怖いって、今の所全部”唐揚げ”だからだ

 

ウツボの唐揚げ…

 

マンボウの唐揚げ…

 

エイの唐揚げ…

 

そして、サメの唐揚げ…

 

とにかく武蔵は唐揚げが好きだ

 

「持って来たぞ‼︎」

 

大量のタコの足の切れ端が運ばれて来た

 

「行くぞ、クイーン‼︎これがたこ焼きの作り方だ‼︎」

 

《おぉ〜‼︎》

 

子供達やクイーンの前で、たこ焼きが出来上がっていく

 

ある程度子供達に配り終え、一回目のタネが無くなった時点で、俺もたこ焼きを口に入れようとした

 

《あっ‼︎マーカスさん‼︎そこのヘッドギアを付けて食べて頂けませんか⁇》

 

「これか⁇」

 

クイーンに言われるがまま、ヘッドギアを付けてたこ焼きを食べ始めた

 

《これがソースの味…外側はカリッと中はフワフワ…あ、このブニュブニュしたのがタコですね⁇》

 

「なんだ、味が分かるのか⁇」

 

《マーカスさんの脳の情報から、どんな味か読み取っています…美味しそうとは、この事ですね…》

 

「美味しい物はこの世に溢れてる。たこ焼きだけじゃないぞ⁇」

 

《いつか”ラーメン”を食べてみたいです‼︎》

 

「夢が出来たな」

 

子供達も満足そうだし、どうやら成功みたいだな‼︎

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、きそはクイーンの中にいた

 

「僕もこうやってボディーが出来たんだ。後々分かったけど、僕の場合はレイのDNAをベースに、いつの間にか体が出来ていたんだ。だからね‼︎今度は僕がクイーンのボディを造ってあげる‼︎時間は掛かるけど、約束するよ‼︎」

 

《本当ですか⁉︎私、パパさんやマーカスさんに本当の意味で触れてみたいです‼︎》

 

「叶えてあげるよ‼︎」

 

クイーンがボディを手に入れるのは、もう少し先の話になる



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質問コーナー

久し振りの質問コーナーです

結構溜まって来たので、そろそろ吐こうと思います

約束通り、進行は二人に任せます‼︎


作者「じゃあ、俺はリハビリに行くから、進行頼んだよ‼︎答えはその紙に書いてあるからね‼︎」

 

霞「分かったわ。頑張りなさいよ⁇」

 

きそ「行ってらっしゃ〜い‼︎じゃ、始めよ〜う‼︎1個目、ドンッ‼︎」

 

 

 

Q.作者さんは霞や照月が嫌いなんですか⁉︎何でブチ犯すんですか⁉︎

 

霞「好き過ぎて拗らせたのよ…作者はバカなのよ」

 

きそ「なははは…」

 

霞「プリンツの時もそうだったでしょう⁉︎好き過ぎて拗らせんのよ、作者は‼︎照月も私もそんな感じなんじゃないの⁇」

 

きそ「でも照月って確か、作者さんの昔の彼女にソックリだよね⁇」

 

霞「作者が小説を書き始めた大きな理由になった人ね」

 

きそ「ブチ犯す以外のアレンジは確かそのままだよね⁇」

 

霞「お箸持つのがヘタクソだったり、上向いたら口開く所…後、照月は長10cm砲ちゃんで口元隠してるケド、その人は本で隠してたのよ」

 

きそ「アンサーはこうだね」

 

A.好き過ぎて拗らせた。

 

霞も照月も好き

 

 

 

 

霞「次行くわ。二個目‼︎」

 

Q.パパとレイ、どっちがたいほうのパパ⁉︎最近よく分かりません‼︎

 

きそ「これ疑問だよね」

 

霞「血縁関係があるのはパパ。だけど、パパ以上にたいほうの事にムキになるのがレイよ」

 

きそ「まぁ、どっちも優しいよね」

 

霞「両方父親みたいなもんよ」

 

きそ「アンサーはこうだね」

 

A.たいほうからしたら、どっちもパパ

 

 

 

 

 

 

きそ「三個目〜‼︎ドンッ‼︎」

 

Q.きそちゃんがプニプニとの表現がありましたが、どんな感じ何ですか⁇

 

それと、きそちゃんの下着はどんな感じですか⁉︎

 

 

 

 

きそ「ピンクレターだね‼︎」

 

霞「どれどれ…」

 

きそ「あひゃ‼︎」

 

霞「お尻は、食パンの中心部の様な柔らかさね。指が埋まるわ」

 

きそ「んっ…」

 

霞「胸は多少あるわ。そうね、シュークリームの中にカスタードパンパンに入れて、皮ごと手の平に置いた時の感触が一番近いかしら⁇」

 

きそ「分かりにくいよぉ…」

 

霞「肌の感触は、干したてのタオルみたいにサラサラフワフワ…良い匂いがするわ」

 

きそ「触り方がヤラシイよぉ…」

 

霞「ま、こんな感じね」

 

きそ「下着か…白のパンツとスポーツブラが多いかな⁇」

 

霞「時々レイが買ってくれるのよね」

 

きそ「そうそう‼︎行商船とか、本土に行った時だよね‼︎」

 

霞「アンサーはこうね」

 

A.とにかく柔らかくて良い匂い

 

白のパンツとスポーツブラを着用しています

 

霞「ちなみに、カップ数はBって書いてあったわ」

 

 

 

 

 

 

きそ「まだまだ行こう‼︎四個目‼︎ドンッ‼︎」

 

Q.ダズルやマイクはいるのに、金剛やヒエーはいないんですか⁇

 

 

 

きそ「金剛さんは居たよね、序盤のお祭りに」

 

霞「提督が嫌いな金剛さんでしょ⁇何でも海外遠征に行ったまま帰って来ないんだとか…」

 

きそ「期間はどれ位なの⁇」

 

霞「え〜っと…42年間ね」

 

きそ「ほぼ永住じゃん‼︎」

 

霞「そういえば、比叡は見た事無いわね…」

 

きそ「ヤク中の人でしょ⁇だいぶ前に霧島さんがどっかに連れて行ってたよ⁇」

 

霞「比叡さんも遠征に行ってる見たいね。36年間」

 

きそ「帰って来たら二人共BBAだよ⁉︎」

 

霞「良いのよ。単冠湾の提督は、榛名さんや霧島さんがいれば」

 

きそ「それもそうだね。アンサーに行くよ」

 

A.金剛は序盤に登場

 

比叡は登場していないが、二人共超☆長期遠征に行って、帰って来ない

 

 

 

 

 

 

 

 

霞「もう一気に行くわ‼︎」

 

Q.きそちゃんって本当に処女⁇

 

Q.レイと居る時、”これ、入ってるよね⁉︎”みたいな表現がいっぱいあるけど、本当に入ってないよね⁉︎ね⁉︎

 

Q.きそちゃんとエッチしたい‼︎

 

 

 

霞「大体一緒よ‼︎提督は変態が多いのは本当ね‼︎」

 

きそ「これ、僕が処女じゃなかったら、みんなどういう反応するんだろ⁇ふふふ…」

 

きそ「まぁ、処女だけどね」

 

霞「まぁ、確かにレイは”これ、入ってるよね⁉︎”みたいな表現が多いわね…」

 

きそ「当たってる時は当たってるんだけどね、アレ」

 

霞「まぁ、レイのフニャチンじゃ、私やきそを抱くのは無理ね‼︎」

 

きそ「折角オブラートに包んだのに台無しだよぉ‼︎」

 

霞「んで、アンタを抱きたい人は少なくないわよ。ここまでで3通来てるわ」

 

きそ「人気キャラは辛いね‼︎」

 

霞「…」

 

きそ「エッチはヤダけど、抱っこならいいよ⁇」

 

A.処女です‼︎絶対処女です‼︎

 

A.入ってないけど、硬い時はあります‼︎

 

A.ダメです‼︎

 

 

 

 

きそ「後二つ‼︎」

 

Q.鹿島が姉さん女房って本当⁉︎レイとどれ位離れてるの⁇

 

 

 

きそ「まぁね…ビックリしたよね。鹿島が姉さん女房だって事」

 

霞「離れてるって言っても、一つか二つでしょ⁇」

 

きそ「もっともっと」

 

霞「え…5つか6つ⁇」

 

きそ「もうチョイ‼︎」

 

霞「7‼︎」

 

きそ「もう一声‼︎」

 

霞「8‼︎」

 

きそ「ま、そんな感じかな。アンサーはこうだね‼︎」

 

A.鹿島はレイより8歳位⁇年上

 

 

 

 

 

霞「最後のお便りよ‼︎」

 

Q.北上さんをオカズにしていると聞きましたが、本当ですか⁉︎

 

 

 

きそ「ホントだよ。抱き心地良さそうなのがいいんだって‼︎」

 

霞「中途半端に出る所出てるからね…」

 

きそ「後、作者さんは巨乳好きだし、下着系も好きなんだよ‼︎気持ち悪いね‼︎」

 

霞「お願いだから、二次元で見るだけにして‼︎」

 

きそ「アンサーはこうだね」

 

A.本当です。北上さんみたいな姉が欲しかった…

 

 

 

 

霞「ま、こんなもんね」

 

きそ「楽しかったね‼︎」

 

霞「これからも質問やお便り、感想を待ってるわ‼︎」

 

きそ「ピンクレターでもいいんだよ‼︎」



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82話 広島弁の女の子(1)

さて、81話が終わりました

今回のお話は、広島弁の女の子が出て来ます

なに⁉︎最近粉もんばっかじゃねぇか‼︎このクラッシュバンディクーだと⁉︎

こうするしかなかったんだ‼︎


「パパ、おふねきたよ」

 

「船⁇」

 

窓の外を見ると、ボロそうな船が見えた

 

時刻表を見ても、そんな船は無い

 

って事は、救助か補給を受けに来たかだ

 

あの船で攻撃は無いだろう

 

外を眺めていると無線が入った

 

「はい、よこすかぶんけんたいです」

 

たいほうが無線を取った

 

私達が言っているのを覚えたのか、ちゃんと応答している

 

「おこのみやき⁇」

 

謎の応答を始めるたいほう

 

「たいほうたこやきもすきだよ」

 

「ほんと⁇」

 

「きそもぷりんつもかすみもみんなつれていくよ⁇」

 

「うんっ、いく‼︎」

 

たいほうは無線を置き、こちらを向いた

 

「おこのみやきのおふねだって‼︎パパもきてって‼︎」

 

「お、おぉ…」

 

船着場を見ると、船は既に着岸しており、髪にドーナッツみたいなのを付けた女の子が船着場の周りに鉄板とかを広げていた

 

「な、なんだなんだ⁉︎」

 

流石のレイも異変に気付いたみたいだ

 

「お好み焼きらしい…」

 

「晩御飯はコレでいいですね⁇」

 

「はまかぜ‼︎」

 

「全部レイの支払いにすればいい。食べよう」

 

「あ‼︎ちょ、おい‼︎」

 

グラーフははまかぜを連れて船着場に向かった

 

「ウチは”浦風”っちゅうんじゃ‼︎」

 

「広島弁だぜ…」

 

「お代は心配せんでえぇ。横須賀さんとこの事業じゃて。た〜んとおあがり」

 

横須賀が管轄する事業は沢山ある

 

蟹料理”瑞雲”や、瑞鳳の卵料理の一部がそうだ

 

厳しい品質検査をクリアした上で、横須賀鎮守府から補助金が降りる

 

しかも、提督や艦娘は無料でそれらを食べられる

 

それでも彼女達は赤字にならないらしい

 

食だけは楽しむ為にあってもいいだろうとの計らいだ

 

そんな事だから、出される料理はどれも質が高くて美味い

 

 

 

浦風が焼き上げて行くお好み焼きは、間に焼きそばが挟んである

 

「お好み焼き…なのか⁇」

 

「広島焼きじゃ。やけど、お好み焼きも焼けるよ⁇」

 

「たいほうにもちょうだい‼︎」

 

「ちょっち待って〜な〜⁇ほいっ‼︎」

 

たいほうの紙皿に広島焼きが置かれる

 

マヨネーズやソースが程良くかけられてて、ホカホカしてて美味しそうだ

 

「ほかほか‼︎」

 

「さぁ‼︎あんやんらもおあがり‼︎」

 

私達は渡された広島焼きを恐る恐る口に入れた

 

「美味い‼︎」

 

「イケるな‼︎」

 

焼きそばもカリカリしてて美味しい

 

「美味い‼︎もう一枚くれ‼︎」

 

「大阪で食べたのと違うわね…」

 

武蔵とローマが食べている

 

渡されたら1分もしない内に胃に落ちている

 

そして…

 

「なるほど…タネに完全に火が通らない程度に焼くのがコツですね」

 

「また小麦粉いるね」

 

はまかぜとグラーフも同じ位のスピードで平らげて行く

 

「おいしいね‼︎」

 

「僕もうお腹いっぱいだよ…」

 

最初は笑顔だった浦風は、段々と青ざめて行く…

 

数十分もしない内に、浦風はヒーヒー言いながら鉄板に向かっていた

 

「もう堪忍して〜や‼︎ウチもう無理じゃて‼︎」

 

「泣き言を言うな‼︎ほら‼︎来たのならもっと焼かんか‼︎」

 

「早くして‼︎私達はまだお腹いっぱいじゃないわ‼︎」

 

武蔵とローマが怒っている

 

「た、たいほうはもういいのか⁇」

 

「おなかいっぱい‼︎うらかぜ、ごちそうさまでした‼︎」

 

「うぅ…君はえぇ子じゃて…」

 

「ここに‼︎広島焼きを‼︎入れるのだ‼︎」

 

「早くしなさいよ‼︎」

 

紙皿を箸で叩きながらせびる二人

 

「そがぁな事言ぅても、もう材料なぃんじゃ‼︎堪忍してつかぁさい‼︎」

 

「そうか。なら体で払って貰おう」

 

「そうね。それがいいわ」

 

「うわー‼︎そこのあんやん‼︎助けて‼︎ウチ、何されるか分からん‼︎」

 

武蔵とローマは浦風を担ぎ上げ、基地に向かって行った

 

 

 

 

 

 

広島焼き娘、浦風を鹵獲しました

 

 

 

 

 

 

 

 



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82話 広島弁の女の子(2)

「でだ。浦風よ」

 

グルグル巻きになった浦風が、食堂のテレビの前で座っている

 

「ここにグラーフが買って来た小麦粉が大量にある。早く焼くのだ‼︎」

 

武蔵は段ボールを浦風の前に置いた

 

中には、上質な小麦粉が大量に入っている

 

「そんなん…すぐには無理じゃて…」

 

「武蔵、もうその辺に…」

 

「ローマも。もうやめとけ。広島の人は怒らせると怖えぞ⁇」

 

「腹が減ってるんだ‼︎」

 

「まだ満腹じゃないわ‼︎」

 

「「ゔっ…」」

 

凄い眼力で語る二人に、逆らう事は出来ない…

 

「すまない、浦風…」

 

「俺達は…ここまでみたいだ…」

 

私達は膝を落とした

 

幾ら何でも、戦艦には敵わない…

 

「う、嘘じゃろ⁉︎」

 

「さ。焼いて貰おうか…ふはははは‼︎」

 

30分後、再び鉄板の前に”立たされた”浦風

 

「広島焼き‼︎広島焼き‼︎広島焼き‼︎」

 

「早く‼︎早く‼︎早く‼︎」

 

「うぅっ…」

 

半泣きで広島焼きを焼いて行く

 

 

 

 

俺達は二人に逆らわない様に、工廠閉じ込められていた

 

出入り口には、長10cm砲ちゃんを携えた秋月と照月が監視しながら巡回している為、下手に出たらゴム弾で撃たれる

 

「軟禁された‼︎」

 

「すまん、レイ。女の食欲を甘く見た…」

 

地べたにあぐらをかいて座り、珍しく子供の前でタバコに火を点けた

 

「ぶろっく」

 

「何作るの⁇」

 

「たいほうのおうちつくるの」

 

たいほうの相手をしているきそは、何だか眠たそうだ

 

「あそこに通気口がある」

 

「相手は防空駆逐艦だ。上には敵無しだぞ」

 

現に豆撒きの際に超神秘的新秘技、スクリプト☆ジャンプをしたら滅多打ちにされた

 

「くっ…チェックメイトか…」

 

二人で悩んでいると、きそが俺のズボンを握っていた

 

「どうした⁇眠たいのか⁇」

 

「うん…」

 

きそはズボンを握っている逆の手で目を擦っていた

 

「ハンモック行くか⁇」

 

「うん…」

 

工廠の端っこに架けられたハンモックに、きそを寝かせた

 

「たいほうもねんねする…」

 

「おいで。僕とネンネしよう⁇」

 

たいほうもハンモックに入れ、上から鹿島が使っている膝掛けを被せた

 

大人一人が充分寝れるハンモックなので、子供二人が寝ても大丈夫だ

 

きそはたいほうを抱っこしたまま、目を閉じた

 

こうなれば、放っておいてもたいほうは寝る

 

「最近きそがたいほうの面倒見てくれるから助かるよ」

 

「きそからしたら、たいほうは初めての友達だからな…」

 

「でだ。脱出方法だな」

 

「よし、俺が何とかする‼︎」

 

作戦その1、缶詰を投げる

 

「ここに非常用のレーションがある」

 

「よし。秋月は任せろ」

 

「作戦開始だ‼︎」

 

レーションの缶詰を持ち、秋月と照月の後ろから転がした

 

「秋月ねぇ‼︎缶詰だよ⁉︎」

 

「取って取って‼︎」

 

やはり缶詰に釣られた‼︎

 

「今だ‼︎突破ぁ‼︎」

 

「うぉぉぉぉお‼︎」

 

時間にして、約0.3秒

 

出入り口に足を踏み出した瞬間、四基の長10cm砲ちゃんが此方を向き、一斉にゴム弾を掃射して来た

 

「いででででで‼︎」

 

「あだだだだだ‼︎」

 

しまった‼︎コイツ等の存在を忘れてた‼︎

 

「「はっ‼︎」」

 

倒れた俺達を発見した二人は、俺達をズリズリ引き摺りながら工廠に戻した

 

「隊長、もう少しの辛抱です。お願いですから静かにしてて下さい」

 

「お兄ちゃん⁇もうチョットそこから出たらダメだよ⁇」

 

「いててて…大ダメージだぜ…」

 

「あの二人の守りは最強だな…」

 

「よし、次だ‼︎」

 

作戦その2、裏に出れる足元の通気口から出る

 

「もそもそ作戦開始だ‼︎」

 

匍匐前進の体勢をしながら、通気口の蓋を外す

 

「パカッと」

 

「よし、レイから先に行くんだ」

 

「どれ、チョックラ外の様子を…」

 

首を出した瞬間、誰かの足が見えた

 

「うびゃ‼︎」

 

「レイさん⁇ここで何してるんです⁇踏みますよ⁇」

 

目線を上げると、秋月が腕を組んでいた

 

「は…発見された‼︎撤退‼︎」

 

急いで工廠に戻る

 

「ハァ…ハァ…」

 

「守りが固すぎる…」

 

「こうなりゃ最終手段だ‼︎」

 

作戦その3、地下道から入渠ドックに出る

 

「工廠の下には、入渠ドックに繋がる配管がある。そこは普段鍵が締められてるんだが、この際仕方ない。そこから進入して、入渠ドックに出た後、浦風を救出する。OK⁇」

 

「よし、やろう」

 

工廠の隅に行き、机を退けると床に四角い蓋が出て来た

 

鍵を開け、蓋を外す

 

「もっともそもそ作戦、スタートだ‼︎」

 

俺達は配管を辿り、入渠ドックに出て来た

 

「出た‼︎隊長‼︎当たりだ‼︎入渠ドックだ‼︎」

 

「よし、行こう‼︎」

 

入渠ドックを駆け抜け、最後の難関、食堂に来た

 

椅子には鹿島としおいが座っている

 

「よし、俺の部屋の窓から出よう」

 

「安全策だな」

 

再び匍匐前進しながら、俺の部屋を目指す

 

「隊長⁇何してるの⁇」

 

「訓練⁇」

 

「し〜っ‼︎」

 

れーべとまっくすだ

 

「武蔵とローマを止めるの⁇」

 

「そうだ。浦風はもう肩で息してる」

 

「僕達が出してあげる。来て‼︎」

 

匍匐前進したまま二人に着いて行くと、れーべは俺の部屋のドアを

 

まっくすは見張りをして助けてくれた

 

「新しいオモチャ作ってやるからな‼︎」

 

「今度好きなお菓子買ってやる‼︎」

 

「ありがとう‼︎さ、早く行って‼︎」

 

「外国の高いお菓子買う」

 

窓から出て、ようやく外に出れられた‼︎

 

もっともそもそ作戦成功だ‼︎

 

「武蔵‼︎」

 

「ローマ‼︎」

 

「ん⁇」

 

「何⁇」

 

「あんやん…‼︎」

 

「もうその辺にしておくんだ‼︎」

 

「浦風を解放するんだ‼︎」

 

「そうか…幾ら提督とはいえ、私達は浦風を手放す訳には行かぬ‼︎」

 

「行くわよ、武蔵‼︎」

 

「あぁ‼︎」

 

二人は手を鳴らしながら此方に近づいて来た

 

「「申し訳ございませんでした‼︎」」

 

俺達は瞬殺で土下座した‼︎

 

「ど、どうぞごゆるりと‼︎」

 

「提督よ。食い物の恨みは恐ろしいのだぞ⁇」

 

「ご、ごもっともです‼︎」

 

「レイ。貴方も食べたでしょ⁇」

 

「は、はい‼︎」

 

「「そこで黙って見てなさい‼︎」」

 

「「はい‼︎仰る通りに‼︎」」

 

俺達は正座して、美味そうに広島焼きを食べる二人を眺めていた

 

「隊長…」

 

「ん⁇」

 

「男って…弱いよな」

 

「あぁ…非力なもんだ…特に嫁には頭が上がらない」

 

その後、辺りが暗くなるまで二人は食べ続けた

 

「も…もう…無理じゃて…ホンマに…」

 

「そうだなぁ。そろそろ解放してやろうか⁇」

 

「後生じゃ‼︎解放してぇな‼︎」

 

浦風は手をスリスリしながら二人に懇願している

 

「まぁいいわ。お腹もそろそろいっぱいだし、いいわよ。解放してあげる」

 

「や、やったぁ‼︎」

 

腹の膨れた二人に反し、浦風はガリガリになっていた

 

夕方前に来たとはいえ、季節は夏

 

そんな中、浦風は飲まず食わずで鉄板に向かっていたのだ

 

「片付けはしておく。せめてもの礼だ。浦風よ、良く頑張った‼︎」

 

「美味しかったわ」

 

「ありがとう…チョット救われた」

 

「まっ、入渠でもしなさい。汗ダクじゃない」

 

「そ、そうさせて貰おかな…」

 

「提督よ。浦風を頼んだぞ⁇」

 

「はい‼︎」

 

「あんやん…ごめんなぁ…」

 

「気にするな。ありがとうな」

 

「一生分焼いたわぁ…」

 

浦風は俺達に抱えられ、入渠ドックに放り込まれた

 

こんな時に言うのも何だが、浦風はスタイルが良い

 

出る所は全部出ていて、汗の匂いと女の子の匂いが混じって、独特の匂いがした

 

〜浦風〜

入渠時間15:00:00

 

 

 

 

次の日、浦風は一目散に基地を後にした

 

満腹になった二人が起きない内に、何とか逃す事が出来た

 

「ありがとうなぁ〜‼︎今度は横須賀で会おうに‼︎」

 

「楽しみにしてるぞ‼︎」

 

「さ‼︎早く行け‼︎」

 

浦風は水平線の向こうに消えて行った…

 

 

 

 

数日後…

 

「提督よ‼︎浦風が店を出したぞ‼︎」

 

武蔵が嬉しそうにチラシを持って来た

 

 

 

”横須賀繁華街エリアに浦風の広島焼きのお店”おんどりゃあ”が開店‼︎”

 

”たい焼きもあるよ‼︎”

 

”美少女の店員がいつでも在中‼︎”

 

「提督よ‼︎たい焼きとは何だ⁉︎」

 

「き…休暇あげるから、ローマと行ったら分かるさ…」

 

「よし‼︎ろーまよ‼︎横須賀に行くぞ‼︎」

 

「分かったわ‼︎」

 

意気揚々と二人は基地を出た

 

 

 

 

次の日、おんどりゃあは一日閉店になった



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番外編 榛名、ポケモンをする

リクエストがかなり来たので書きます

榛名が今有名なゲームをするよ‼︎


「お邪魔するダズル‼︎」

 

「榛名さんだ‼︎」

 

たまに基地に来る榛名は、何故かきそと仲が良い

 

きそがよく榛名に懐いているからなのか⁇

 

「基地の駆逐艦共がスマホに釘付けダズル。何故だ」

 

「新しく配信されたスマホのアプリじゃないかな⁇」

 

「アプリとは何ダズル⁇」

 

「じゃん‼︎」

 

きそはウェストポーチからスマホを取り出した

 

「これじゃないかな⁇」

 

きそのスマホには”ポケモンgo”と表示されている

 

「ポケモンとは何ダズル⁇」

 

「昔から続くゲームだよ。待ってて、すぐ”造って”来るから‼︎」

 

「「ブッ‼︎」」

 

きそは駆け足で食堂を出た

 

ミルクティーを飲んでいた俺と隊長は、それを吹いた

 

「今あいつ何て言った⁉︎」

 

「スマホ造るって言ってなかったか⁉︎」

 

「きそになら出来るダズル」

 

三十分後…

 

「はいっ‼︎カバーも付けたよ‼︎」

 

きその手には、出来立てホヤホヤのスマホが握られている

 

カバーは榛名に合わせてダズル迷彩にしてある所が凝っている

 

「言ってたポケモンgoも入れてあるから、ちょっとやってみようよ‼︎」

 

「どうやって動かすダズル⁉︎」

 

榛名はスマホを上下に振っている

 

何度も何かが起動する音がするが、また閉じての繰り返しをしている

 

「指で動かすんだよ。こうやって…」

 

きその手元を見る榛名は随分大人しい

 

その内に榛名はきそを膝の上に乗せ、一緒にスマホのアプリをし始めた

 

「充電は熱充電にしてあるから、持ってるだけで充電出来るよ」

 

「これで駆逐艦共とお話出来るダズルか⁇」

 

「うんっ‼︎榛名さんならすぐ強くなれるよ‼︎」

 

「きそは立派な科学者ダズルな‼︎」

 

「へへへ…」

 

きそは照れると頭を掻く

 

「今度お礼を持って来るダズル」

 

「気にしないで。僕、造るの好きなんだ‼︎」

 

「よしよし…さぁ、そろそろ帰るダズル‼︎」

 

「気を付けてね‼︎」

 

榛名はきその頭を撫で、単冠湾に戻って行った

 

 

 

 

 

 

「おい‼︎提督‼︎」

 

帰って早々、榛名はワンコにスマホを自慢しに行った

 

「榛名もスマホを手に入れたダズル‼︎ポケモンgoも入ってるダズル‼︎」

 

「カツアゲしたんじゃないだろうね⁉︎」

 

「きそに造って貰ったダズル‼︎ホレ、帰り道の休憩所でいっぱい捕まえたダズル‼︎」

 

画面には、赤い魚みたいなモンスターが沢山表示されている

 

「”こいキング”ダズル‼︎」

 

「これ、確か弱いんじゃ…」

 

「キングって自称する位だから、多分最強ダズル‼︎」

 

ワンコ世代にとって、ポケモンは一大ブームを巻き起こしたゲームでもある

 

当時ワンコもやっていたので、少し位なら分かっていた

 

「きそが言っていたダズル。スマホはお座りした時以外はしちゃダメダズルって」

 

「そっ。駆逐艦の子達にも教えてあげて⁇」

 

「分かったダズル‼︎」

 

 

 

その日から榛名は駆逐艦の子達にスマホの使い方を教えて回った

 

歩きスマホをしている子がいれば、榛名は叱ってベンチや椅子に座らせてやらせ、マナーや使い方の指導も行っていた

 

「いいダズルか⁇スマホもポケモンgoも、みんなが楽しく遊んだり会話する為にあるダズル。誰かが怪我したり、痛い思いをする為にあるモンじゃないダズル。いいな」

 

「「「は〜い‼︎」」」

 

単冠湾のスマホマナーはどんどん向上して行った

 

スマホをする時はちゃんと座り

 

誰かと話している時は、ポケットにしまって相手の目を見て話す

 

榛名は誰でも守れる簡単なルールを設け、数日後には小さな事故も無くなった

 

 

 

 

「榛名は凄いな‼︎駆逐艦の子をちゃんとまとめて‼︎」

 

「榛名を誰だと思っているダズルルルルル…」

 

きそに造って貰ったマッサージチェアーに座り、御満悦の榛名

 

「ポケモンしないの⁇」

 

「していいダズルかかか⁇」

 

「いいよ。任務も何にもないしね…」

 

「じゃあちょっとするダズルルルルル…」

 

榛名がスマホを手に入れてから、駆逐艦の子達が遠征を成功させる確率が増え、資源も安定して溜まっている

 

ここ数日でしばらくは余裕で暮らせる資源が手に入った位だ

 

「おい‼︎こいキングがいないダズル‼︎」

 

「どれ…」

 

ワンコがスマホを見ると、画面には青い龍の様なモンスターがいた

 

「”ギャラどす”なんて捕まえてないダズル」

 

「ギャラどすはこいキングの進化だよ。強くなったんだよ」

 

「はねるとたいあたり以外に何か覚えてるダズルな…」

 

「そこから強くなって行くよ」

 

「よし、これで頑張れるダズルな‼︎」

 

 

 

 

また数日後…

 

「榛名は”リザーどん”と”ギャラどす”ダズル」

 

「霧島は”ピカちゅー”マイク‼︎」

 

「提督の主力は何ダズルか⁇”きゃたピー”ダズルか⁉︎」

 

相変わらずワンコをおちょくるのは治っていない

 

「これ」

 

ワンコのスマホには、太ったポケモンがいた

 

「”カビごん”ダズル‼︎」

 

「レアなポケモンマイク‼︎」

 

「そ、そうなの⁇」

 

「よし…」

 

この時、ニヤつく榛名に不信感を覚えた

 

止めておけば良かった…

 

 

 

 

次の日、東京急行の遠征を見送る為に埠頭に出た

 

「榛名は行かないだろ⁇」

 

「何と無く心配だから、途中まで着いて行くダズル。いいな」

 

「あ、はい」

 

「よし、抜錨ダズル‼︎」

 

何と無く不安になった…

 

 

 

東京湾…

 

駆逐艦の子達が資源を纏めている最中、榛名は街中に消えて行った

 

「榛名さん、何処行くの⁉︎」

 

「ちょっとそこまでダズル」

 

榛名が向かったのは大きなビルだ

 

「ここダズルな。ニンテンドゥ」

 

「御用件をお伺いします‼︎」

 

「これを作った奴に会いたいダズル」

 

榛名は谷間からスマホを取り出し、ポケモンgoを起動した

 

「約束等はございますか⁇」

 

「ないダズル」

 

「う〜ん…」

 

「会わせないつもりダズルか」

 

「そうですね…」

 

「いいか⁇今から貴様の言う一言で、この会社の命運が決まるダズル‼︎」

 

榛名は背中からハンマーを取り出した

 

「もう一度聞く。このゲームを作った奴に会いたいダズル」

 

「は、はい‼︎早急に‼︎」

 

「素直な奴は好きダズル」

 

3分後、榛名は開発室に案内された

 

「貴様達が開発者ダズルか」

 

そこにいた全員がビビる

 

何せ、片手にハンマー、片手にスマホを持った女性が現れた

 

「ここに榛名のスマホがあるダズル。ポケモン全部入れるダズル」

 

「それはちょっと…」

 

「いいか⁉︎基盤と会社を破壊されるか、榛名のスマホにポケモン入れるか選ぶダズル‼︎」

 

 

 

数時間後…

 

「いやぁ、流石は天下御免の会社ダズルな、ははははは‼︎」

 

榛名のスマホには、全部のポケモンが入っていた

 

入れなければ、本気で会社と基盤を破壊されそうと踏んだ社員達は、総出で榛名のスマホにポケモンを入れた

 

単冠湾に帰って来た榛名はホクホク

 

榛名はポケモンgoでも負け知らずとなった…

 




みんなの手持ち

榛名…ギャラどす、リザーどん、さんダース

霧島…ピカちゅー、カメッくす、カイりゅー

ワンコ…カビごん、バタふりー、エレぶー




こうしてたまに別作品を交えて大々的にやるのも面白かったです

いつもは大体エ○コンや極稀にアサ○ンを混ぜる位で…

え⁇前にガル○ンがあったって⁇

そんなはずはない‼︎


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83話 ドSな黒い姫(1)

さて、82話が終わりました

今回のお話は、新しい戦闘機と新しい艦娘⁇が、出て来ます

戦闘機はまだしも、艦娘は誰か分かるかな⁇


朝早くから、横須賀で一機の機体が白煙を吹いている

 

「横須賀‼︎お前バカか⁉︎」

 

《丸々返してあげるわ‼︎》

 

「確かに面倒見るとは言ったがなぁ…」

 

俺の周りには

 

零戦

 

零戦

 

零戦

 

零戦零戦零戦‼︎

 

ぜーんぶ零戦‼︎

 

大規模空襲でも、こんな規模は無い‼︎

 

横須賀から空戦訓練の要請があったのはいいが、まさかこんな規模だとは…

 

「何で一人でこんだけ見れると思ったかなぁ…」

 

《アンタ一人じゃないわ。隊長は対艦訓練、鹿島は護衛訓練をしてるわ》

 

「んで、俺は対空戦かい」

 

《私語は終わりよ‼︎全機、レイに撃墜判定を出しなさい‼︎出した部隊には間宮の券をあげるわ‼︎》

 

「でたぁ‼︎間宮の無料券‼︎」

 

《よっしゃあ‼︎行くで‼︎》

 

《覚悟し‼︎》

 

「はぁ…仕方無い。フィリップ、敵は何機いる⁇」

 

《スキャンデータだけでも50機はいるね》

 

「行くぞ…‼︎」

 

急ブレーキを掛け、零戦の群れから離脱する

 

「さぁ来い‼︎蹴散らしてやる‼︎」

 

 

 

 

二十分後…

 

横須賀は執務室で呑気にオレンジジュースを飲んでいた

 

流石のレイも50機相手は無理だろうと踏んでいた

 

《…横須賀》

 

「あら、撃墜されちゃった⁇」

 

《終わったぞ…計72機、全機撃墜だ》

 

「はぁ⁉︎嘘でしょ⁉︎」

 

モニターを見ると、発進した機体全てに撃墜判定が出ていた

 

「アンタ化け物なの⁇」

 

《アホ‼︎テメェがやれって言ったからやってやったんだろうが‼︎》

 

横須賀は数個間違いを犯していた

 

一つ目は、フィリップには光学ステルス機能がある事

 

二つ目は、レイを甘く見た事

 

そして三つ目は、その二人を敵役に回した事

 

「良いデータが取れたわ‼︎帰って来て‼︎」

 

《間宮の無料券以外の褒美用意しとけよ》

 

「あ〜…きそちゃんの前でキスしてあげる」

 

《よ〜し、いっちょう新型ミサイルの威力を横須賀で試すか‼︎》

 

「わ、わ〜かったわよ‼︎ちゃんと用意しとくから、ねっ⁇機嫌直して、レイくんっ‼︎」

 

《…ちっ》

 

横須賀との無線を終えてすぐ、フィリップが話し掛けて来た

 

《レイくん、だって》

 

「あいつにそう呼ばれると、何でか反発出来ないんだよな…」

 

 

 

 

しばらくし、陸戦機も艦載機も元いた場所に戻る

 

「お帰りなさい」

 

格納庫に戻ると、横須賀があきつ丸の服を着て待っていた

 

「爆裂似合わんな‼︎」

 

「うっさいわね‼︎タンクトップ一丁で乗ってる誰かさんよりマシよ‼︎」

 

「けっ‼︎」

 

《やっぱり仲良いね‼︎》

 

「良い訳ないだろ‼︎」

 

「良い訳ないでしょ⁉︎」

 

二人してフィリップにツッコむ

 

《レイ、これから繁華街に行くの⁇》

 

「そうだなぁ…腹減ったし、たまには行くか。こいつの執務室にいるから、準備出来たら来いよ⁇」

 

《分かった‼︎》

 

横須賀の執務室に行き、戦闘データの入ったディスクを渡した

 

「ホラよ」

 

「いつも悪いわね…」

 

「んで‼︎報酬は何だ⁉︎たまには期待していいだろ⁉︎」

 

「そうね…」

 

 

 

 

 

 

「う〜ん‼︎」

 

フィリップから出たきそは背伸びをした

 

最近日常の光景になりつつある、フィリップからの分離

 

格納庫に居た人間はほとんど驚かなくなっていた

 

「きそちゃん、これから繁華街に行くのかい⁇」

 

いつもの中年の男性が、きその前で膝を曲げた

 

「うん‼︎何か甘い物食べたいなぁ〜」

 

「ちょっと見て欲しい物があるんだ」

 

「あ、うん」

 

中年の男性に連れられて来た場所には、強化ガラスで厳重に保護された何かの鉱石があった

 

「これ、榛名さんから貰った鉱石だ‼︎僕、これで刀造ったんだよ‼︎」

 

「か、刀⁉︎」

 

「そう‼︎この鉱石はね、一回溶かして違う形にすると、その形を覚えて自分で修復する凄い物なんだよ‼︎」

 

「そっか…これにはそういう効果が…」

 

「これ何処で手に入れたの⁇」

 

「私達も榛名さんからだよ。研究するんダズル‼︎とか言って置いて行ってくれたんだけど、用途が分からなくてね…」

 

「それで、何で僕に⁇」

 

「きそちゃんは結構有名だからね。色んな石や鉱石について詳しいって」

 

「へへへ…」

 

きそは頭を掻きながら、照れ隠しの様に笑っている

 

「僕は刀にしたけど、おじさん達は別のにした方がいいよ」

 

「どうしてだい⁇」

 

「僕はこの鉱石より少ないから刀にしただけなんだ。これ位なら、もう少しいい物が造れるよ⁇」

 

「そうかなぁ…」

 

「あ‼︎盾とかは⁉︎自己修復機能があるから壊れないよ⁇」

 

「盾…か‼︎名案だな‼︎」

 

「じゃあ…」

 

 

 

 

 

 

「きそちゃん遅いわね⁇」

 

「あぁ…」

 

きそが来るのを待って、執務室に俺は椅子に座って下を向いていた

 

「いつまで落ち込んでんのよ‼︎」

 

「色仕掛けに負けた自分が辛い…あぁ、ヤダヤダ‼︎」

 

「動画撮っておけば良かったわね」

 

「やめろ‼︎」

 

あきつ丸の服…

 

横須賀…

 

そしてこの俺の落ち込み具合…

 

何があったかは、想像にお任せする

 

 

 

数十分後、ようやくきそが来た

 

「レイ‼︎横須賀さん‼︎凄いの出来たよ‼︎」

 

「何か造ってたのか⁇」

 

「うんっ‼︎来て‼︎ホントに凄いんだ‼︎」

 

俺達はきそに手を引かれ、工廠に入った

 

「あれ‼︎」

 

男衆や妖精が動いている中心に、銀色の盾が見えた

 

見た目はジュラルミンの盾と相変わら無いが、きそが関わってるなら、何かしらの効果があるかも知れない

 

「見てて‼︎」

 

きその手には、いつの間に取ったのか、横須賀のピストルが握られていた

 

「え⁉︎いつの間に⁉︎」

 

きそは盾に向かって三発銃弾を放った

 

盾は銃弾をしっかりと防ぎ、勢いを無くした銃弾は床に落ちた

 

「おぉ…」

 

「頑丈なのね…」

 

「盾見てよ‼︎」

 

盾を見ると、不思議な事に気が付いた

 

銃弾の跡が一つも残ってない‼︎

 

「え⁉︎何この盾‼︎」

 

「名付けて”Pシールド”‼︎」

 

自慢気に語るきそだが、俺は何と無く”P”の意味が分かった気がする

 

「凄いわ…」

 

「横須賀さんにあげる‼︎じゃあ、僕はレイと繁華街に行くね‼︎行こっ、レイ‼︎」

 

「おう‼︎」

 

小走りで工廠を出たのも、何と無く分かる

 

「ごめんね、レイ。待ったでしょ⁇」

 

「横須賀の相手は大変なんだぞ⁇」

 

「なははは…甘い物食べようよ」

 

「だな」

 

前に雲龍が出店で食べていた杏仁豆腐の店を、今日は本店に行ってみる事にした

 

「いらっしゃいませ‼︎飲茶”丹陽”にようこそ‼︎」

 

甲高い声の主は身長が小さく、口が開くと前歯が見える女の子だった

 

「た…たんやん⁇」

 

「はいっ‼︎丹陽”れ”す‼︎ゆき…丹陽は中国人”れ”す‼︎」

 

何か言いかけたが、ここは二人共気にしない事にした

 

「え〜と…僕はゴマ団子二つと、杏仁豆腐の小さいの。レイは⁇」

 

「杏仁豆腐の普通で」

 

「”お”マ”ら”ん”お”二つと、杏仁”ろ”うふの小さいのと普通”れ”すね‼︎かしこまりました‼︎」

 

丹陽は注文票を持って、奥に行った

 

「濁点弱そうだね」

 

「おまらんおと、杏仁ろうふだと」

 

「ギリギリ分かるね」

 

しばらくすると、丹陽がゴマ団子と杏仁豆腐を持って来た

 

「貴方、レイさんれすか⁉︎」

 

「そうだ。何で名前知ってるんだ⁇」

 

「あの人”あ”よんれました‼︎」

 

丹陽が口を開けて指差す方には、ミハイルとUちゃんがいた

 

「ちょっと待ってろ‼︎」

 

ゴマ団子と杏仁豆腐を持ち、ミハイルの席に向かう

 

「よっ」

 

「来てんなら言えよ、水臭えなぁ‼︎」

 

「ははは、すぐここを発つ。アメリカから一機、この基地に輸送されて来た機体があるから、レイに伝えておこうと思ってな」

 

「アメリカから⁇」

 

「グレイゴースト…聞いた事無いか⁇」

 

聞いた事がある

 

YF-23 グレイゴースト…

 

一般的にはブラックウィドゥの名で知れ渡っている機体だ

 

ラプターやライトニングの基盤になった機体だ

 

だが、それが何故今更⁇

 

「無人化に成功したんだけど、性格に問題ありでなぁ…」




性格に難有りのYF-23、どっかで見た事あるって⁉︎

誰だその子は‼︎

言ってみなさい‼︎


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照月の口を閉じろ‼︎ 第一部

何だかんだでリクエストがあった

”照月の口をどうにかして欲しい”

これを定期的に治していきます

今回は第一部として、たいほうが治してみます


秋月、照月、たいほうと三人テレビの前に座っている

 

たいほうはテレビを見ていると言うより、一人でぬいぐるみとおままごとをしている

 

秋月は正座して見ている

 

そして照月

 

口を半開きにして見ている

 

「…隊長。照月の口、また開いてるな」

 

「閉めて来い…ソ〜っとな」

 

「了解…」

 

四つん這いになりながら、照月に近付き、ソ〜っと照月の顎に人差し指と中指を置き、口を閉じた

 

テレビに夢中になっている照月は、口を閉められた事も、俺が来た事も気付いていない

 

そして数秒後には再び口が開く

 

「開いた口が塞がらないとはこう言う事だ‼︎」

 

「すてぃんぐれいは、らぷとる」

 

いつの間にか、たいほうが足元に来ていた

 

たいほうは恐竜のオモチャを持っている

 

「これとこれはたたかう⁇」

 

「戦うぞ。二匹ともラプトルだ」

 

「がうがう‼︎」

 

たいほうの恐竜の鳴き声のマネは面白い

 

ラプトルであろうが、T-REXであろうが、トリケラトプスであろうが、全部”がうがう”だ

 

その間にも、照月は口を開けてテレビを見ている

 

「…たいほう。照月の口、閉められるか⁇」

 

「しめられるよ」

 

「乾燥したらダメだからな。閉めて来てくれ」

 

「わかった‼︎」

 

たいほうは恐竜のオモチャを持ち、照月の元に向かった

 

そして、たいほうは手の平を使って、照月の口を閉めた

 

「てるづき。おくちあけたら、らぷとるいれるよ」

 

「…」

 

照月はたいほうに見向きもせず、テレビを見続ける

 

そして開く口

 

「いれるからね」

 

たいほうは本当にラプトルのオモチャを照月の口に突っ込んだ

 

それでも照月は気付かない

 

「いっぱいしーるはるの」

 

たいほうはどこからともなく出したスマイルマークのシールを、照月の至る所に貼り始めた

 

「おっぱいにもはるよ」

 

照月の胸の中心にシールが貼られる

 

おデコにも、太ももにも、とにかくシールを貼り付けた

 

それでも照月は気付かず、ラプトルを加え続けている

 

「きづかないよ⁉︎」

 

「照月は集中すると周りが見えなくなるのか…」

 

ラプトルを咥えさせられ、身体中にシールを貼られても気付かない照月

 

ここまで来ると逆にアッパレだ

 

「おはっはへ‼︎」

 

「照月‼︎何咥えてるの⁉︎それに身体中シールまみれ‼︎」

 

秋月は照月が咥えたラプトルのオモチャを取った

 

「うわ‼︎嘘‼︎」

 

照月は身体中に付いたシールを剥がし始めた

 

「てるづき、しゅうちゅうしたらおくちあくの」

 

「開いてる⁉︎」

 

「開いてるな」

 

「開いてるぞ」

 

「嘘‼︎」

 

「乾燥するぞ⁉︎」

 

「うぅ…そんなつもりは…」

 

「矯正が必要だな…」

 

 

 

第二部に続く



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83話 ドSな黒い姫(2)

「グレイゴーストか…そう言えば実物は見た事無いな…」

 

「ラプター以上に激レアな機体さ。まぁ、不遇とも言えるな…産まれた後、前線に出た記録が無い。それで捻くれてるのかも…」

 

「ま、会ってみなきゃ分からんな」

 

「もうすぐフィリップの横の格納庫に入る。レイ、あの子に何かあったら、手助けしてやってくれ」

 

「分かった」

 

「じゃあな」

 

「ばいばい」

 

「ばいば〜い」

 

ミハイルとUちゃんと別れ、ようやくゴマ団子と杏仁豆腐を食べ始めた

 

「やっぱ結構イケるね」

 

「おぉ。アンコもミチミチに入って美味い」

 

「ごちそうさま‼︎」

 

「うむ、美味であった‼︎」

 

きそは頬にゴマを付けた所を見ると御満悦だった様だ

 

「ありあとうろあいあした‼︎」

 

丹陽と別れ、店を出る

 

俺達二人があまり食べ無かったのは、もう一件行かなければならないからである

 

「こんにちは〜‼︎」

 

「あら‼︎いらっしゃい‼︎」

 

浦風の店だ

 

少し覗いてみたかったんだ

 

いざ席に座ろうとした時、無線が鳴った

 

「あ⁉︎んだよ‼︎」

 

無線の先は横須賀だ

 

《格納庫の所に来て‼︎至急よ‼︎》

 

無線は切れた

 

「きそ。俺はグレイゴーストを見てくる。どうも任務らしい…」

 

「後でその子にパック持たせるけぇ、ゆっくり食べて‼︎」

 

「すまん、助かる」

 

「いってらっしゃ〜い」

 

浦風の店を出て、グレイゴーストの所に急ぐ

 

フィリップの格納庫の横って言ってたな…

 

「うわ‼︎」

 

「ぐわ‼︎」

 

「え''」

 

フィリップの格納庫に近付いた瞬間、人が二人飛んで来た

 

「どうした⁉︎敵か⁉︎」

 

「アレです、イテテ…」

 

飛ばされた二人は、パイロットスーツを着ていた

 

どうやらグレイゴーストに乗ろうとしたらしいが、弾き出された様だ

 

「あ‼︎きたきた‼︎レイ、こっちよ‼︎」

 

格納庫の前で横須賀が手招きしている

 

「この機体がYF-23 グレイゴーストよ」

 

目の前には、濃い灰色をした機体が鎮座している

 

「話によるとして無人機だって⁇」

 

「そうなんだけど…ちょっと性格に難有りでね…」

 

《私に乗るなんて10年早いわ‼︎》

 

幼さが残る高い声で、乗るパイロット全てを弾き出し、あまつさえ自分でファイアコントロールを外している

 

「で。俺に何しろと」

 

「性格治して頂戴。アンタ得意でしょ、機械弄り」

 

「断る」

 

「命令よ‼︎」

 

「あの子は生きてる。弄らなくてもいい。俺のやり方で行く。文句あるなら、俺は降りる。どうする⁇」

 

「…任せる」

 

こう言う時に限って弱気になりやがって…

 

「そこにいろ。前に出るなよ」

 

横須賀を陰に隠し、グレイゴーストの前に立った

 

「とんだじゃじゃ馬だな、グレイゴースト」

 

《失礼な男ね。初対面の女性にイキナリじゃじゃ馬は無いと思うわ⁇》

 

「人を護る奴が人を傷付けるとは、感心しないな⁇」

 

《私は私のやり方でやるの。ゴミ以下のパイロットを乗せる訳には行かないわ》

 

「なるほど…プライドは立派だな」

 

《貴方、名前は⁇》

 

「マーカス・スティングレイ。エンジニア兼パイロットだ。お前は何か別の名前はあるのか⁇」

 

《そんなの無いわ。今までの科学者やエンジニアは、私の身体を触るだけ触って、用済みになったらポイしたからね。じゃ、アンタ今から犬ね》

 

「言ってくれるじゃないの」

 

《犬、燃料入れなさい》

 

「はいはい…」

 

こう言う扱いは横須賀で慣れている

 

グレイゴーストにホースを繋ぎ、燃料を入れる

 

《犬。私に乗ろうなんて、考えちゃダメよ⁇》

 

「考えてねぇよ。俺は素直でマヌケで甘えんぼな無人機のパイロットなんでね」

 

《…あら、犬も無人機に乗る時代になったのね⁉︎あはははは‼︎》

 

「言ってろ」

 

グレイゴーストの罵声はしばらく続いた

 

夕飯頃、ようやくきその持って来たパックに入った広島焼きを食べられた

 

「お嬢様みたいだね」

 

「ま、性格は人それぞれさっ。お前みたいな奴もいれば、クイーンみたいな奴もいるし、こいつだってそうさ」

 

《犬。それは何⁇》

 

「広島焼きさ。中々美味いぞ⁇」

 

《犬の子分。他の連中が居ないか、外を見て来て》

 

「う…嫌だけど仕方ないね…」

 

きそは渋々外に出た

 

「何だ⁇二人っきりになりたかったのか⁇」

 

《そうよ。悪い⁇》

 

「悪かないな。レディと二人っきりになれるとは光栄だね」

 

《犬の癖に煽てるのは上手ね》

 

「まぁな。ここの司令官にウンザリする程相手させられてるからな」

 

パックをゴミ箱に捨て、椅子にもたれかかる

 

《…グレイゴーストって、呼びにくいでしょ⁇》

 

「いや。いい名前だと思うな」

 

《私は嫌い。所詮は科学者共が付けた名前だもの》

 

「なるほど…」

 

《…犬。私に名前を付けなさい》

 

「普通逆じゃねぇのか⁇主人が犬に名前を…」

 

《犬の分際で主人に逆らうつもり⁇》

 

「よし、ちょっとだけ考える。待ってくれ‼︎」

 

俺は一瞬だけ考えた

 

すぐに答えを言わないと、お嬢はすぐに冠に来る

 

《まだ⁇》

 

5秒もしない内にコレだ

 

「”ヘラ”…ヘラにしよう」

 

《ヘラ…》

 

「気になるなら自分で調べるこったな」

 

《犬》

 

「ん⁇」

 

《気に入っわ。二人の時は、その名前で呼んで。いいわね》

 

「…おぅっ‼︎」

 

こうして、俺は少しずつ彼女と会話し、少しずつ打ち解けて行く事にした




YF-23 グレイゴースト ”ヘラ”…超の付くドSお嬢様AIの無人機

アメリカからやって来た、性格に難有りの無人機

搭乗するパイロットを弾き出したり、自身のファイアコントロールを弄る事が出来る為、危険因子として処分寸前の所を、横須賀が超☆格安で購入

申し分無い性能を持っているが、他人の命令は絶対に聞かず、自身の思った事が一番正しいと認識して行動する

彼女に無許可で無理矢理乗ったり、乱暴な扱いをすると更に怒る

話し相手になってくれるレイを犬と呼んだり、結構お嬢様気質が目立つが…⁇


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83話 ドSな黒い姫(3)

俺は数日間、横須賀に滞在する事になった

 

理由は明白だ

 

《犬。何をしてるの⁇》

 

「プリン食ってんだよ。オヤツだオヤツ」

 

《犬は草で充分でしょ⁇》

 

「たまには甘いもんも食いたくなるんだよ」

 

ヘラは俺を引き剥がそうとする連中全てに火器を向けていた

 

見兼ねた横須賀は俺を引き止め、必要最低限の生活用品は誰かに運んで貰っている

 

《犬。機関砲が何か変よ。見て》

 

「開けるぞ⁇」

 

《…》

 

ヘラは無言で機銃部分を開けた

 

《モゾモゾするわ…》

 

「カナブンが入ってた。ほれ」

 

《外に放してやって》

 

「へぇ〜…」

 

ニヤつきながら、カナブンを外に放つ

 

《無益な殺生は好まないわ》

 

「優しいんだな、ヘラは」

 

《当たり前でしょう⁇》

 

「ほら、閉じるぞ」

 

機銃部分を閉じ、俺はパソコンに向かう

 

キーボードを叩き、設計図を書き上げて行く…

 

《犬はエンジニアだったわね》

 

「そう」

 

《どうしてパイロットになったの⁇》

 

「空は俺の帰る場所だ。それだけさ」

 

《私と一緒ね…》

 

「何だ⁇飛びたいのか⁇」

 

《…》

 

急に黙り込むヘラ

 

空を飛びたいのは本心で間違い無いようだ

 

「どうした⁇」

 

《…一緒に来て》

 

ヘラはキャノピーを開け、電子機器を起動した

 

「乗って良いのか⁇」

 

《黙って主人の言う事聞きなさい》

 

「へいへい…」

 

ヘラに乗ると、彼女はエンジンを吹かした

 

《乱暴な乗り方したら、途中で弾き出すわ》

 

「心配すんな。女はみんなデリケートに扱う」

 

《…行くわ‼︎》

 

格納庫からヘラが出る

 

もう無理矢理だった

 

格納庫でエンジンを吹かし、辺り一面に書類が舞う

 

「良いねぇ。これでこそ戦闘機だ‼︎」

 

ゆっくりと滑走路に近付くと、横須賀から無線が入った

 

《グレイゴーストに乗ってるの⁉︎》

 

「そうだ。ようやく姫の許可が下りた」

 

《ちゃんと面倒見てあげて‼︎彼女、飛ぶのは…》

 

突然無線が切れた

 

「ヘラ、お前か⁇」

 

《これ以上話す事があるの⁇》

 

「ふっ…そうだな。行こう‼︎」

 

運転はマニュアルになっている

 

再びエンジンを吹かし、離陸した後、高度5000まで上がる

 

「誰もいない…フリーダム‼︎」

 

両手を操縦桿から離し、思い切り上げた

 

《うるさいわね。ちゃんと操縦桿を握りなさい》

 

「よし、操縦を渡すぞ」

 

《嫌よ。今回は犬の散歩。犬が操縦して、飽きたら犬の操縦で帰りなさい》

 

「ヘラ。お前の空戦起動を見たい」

 

ヘラはしばらく悩んだ後、操縦をオートマチックに切り替えた

 

《…一回だけよ。失神したり、へばったりしたら承知しないわ。いいわね⁇》

 

「あぁ」

 

《しょうが無い…行くわ‼︎》

 

ヘラはスピードを上げ、旋回したり宙返りを繰り返し見せてくれた

 

「ほぅ…中々やるじゃないの」

 

《気絶しないのね。タフさは気に入ったわ》

 

「よし、仕上げは高起動ドローンを撃墜しよう。相手は二機出来るか⁇」

 

《私を誰だと思ってるの⁇》

 

フィリップでもまぁまぁ苦戦

 

隊長や俺達みたいな有人機でも苦戦必至の高起動ドローンだ

 

多少は苦戦するだろうな、とは思っていた

 

だが、ヘラはミサイルを使わず、機銃だけで二機をあっと言う間に撃墜した

 

「射撃の腕はピカイチだな‼︎」

 

《目が良いのは自慢よ》

 

そう言うヘラは何だか嬉しそうだ

 

彼女にとっては、初めての戦闘だったからだ

 

自分の力が、これでようやく示されたのだ

 

「帰ろう。みんな待ってる」

 

下を見ると、基地の連中が大勢手を振っていた

 

《ゴミに待たれても嬉しくないわ。機銃でも撃ちましょうか⁇》

 

「そう言ってやるな。着陸するぞ」

 

《えぇ》

 

着陸すると拍手で出迎えられた

 

あの高起動ドローンを歴代最速で叩き落としたのだ

 

しかも初戦でだ

 

《ゴミ達は何を喜んでいるの⁇》

 

「お前が凄く速くてカッコいいからだよ」

 

《レディに向かってカッコいいは無いわね。もう少し扱い方を学んだら⁇》

 

「じゃ、俺が言ってやろう。ヘラは凄く速くて可愛い、淑女な戦闘機だ‼︎」

 

《犬に言われても嬉しくないわ⁇》

 

「くっ…」

 

 

 

 

ヘラは再び格納庫に入り、俺は彼女から降りようとした

 

が、キャノピーが開かない

 

「あれっ…あらっ⁉︎」

 

《誰が出ていいって言ったの⁇》

 

これが隊長の言ってた”女王の反逆”か…

 

「よ〜しヘラ。お話しようか」

 

こうなった場合、満足するまで出してくれないらしい

 

《貴方、家族はいるの⁇》

 

「いるよ。ホラ」

 

内ポケットから鹿島の写真を出し、カメラの部分に向ける

 

《まぁまぁ綺麗なお嫁さんね…子供は⁇》

 

「居ないな…戦争が終わりゃ、一人二人欲しいな」

 

《犬に似たら最悪ね》

 

「嫁に似て欲しいよ…ほんと」

 

《明日も来てくれる⁇》

 

「来るよ、絶対。きそも呼んでいいか⁇」

 

《えぇ。あの子も犬を取られて退屈してるでしょうからね》



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83話 ドSな黒い姫(4)

きそが横須賀にする態度に注目


次の日、きそを連れてヘラの所にやって来た

 

「うぅ〜っ…」

 

きそは格納庫の隅からヘラを睨み付けている

 

《犬の妹の様ね。血の繋がりが見えるわ》

 

「うっ…」

 

「そうだぞヘラ。俺の大事な妹だ」

 

《あら、私は大事じゃないのね》

 

「お前も大事さ」

 

「レイ‼︎ヘラの配属先が決まったわよ‼︎」

 

横須賀が紙切れを持って来た

 

《ところで、何であの雌牛は犬を見ると交尾を望む様になるの⁇それに雌牛。アンタにその名を呼ばれる筋合いは無いわ》

 

「な…何ですって⁉︎アンタを買って保護したのは私よ‼︎」

 

《頼んでないわ。私は誰の言う事も聞かない。私は私の思った様に行動する。それだけよ》

 

「…いいわ。それだけ主人に物言うなら、私にも手はあるわ…レイ‼︎」

 

「断る‼︎」

 

「じゃあきそちゃん‼︎」

 

「ポンコツの僕には出来ないね」

 

ニヤつきながら両手をヒラヒラして横須賀を見るきそは、勝ち誇った顔をしていた

 

「くっ…じゃあ良いわ‼︎貴方を売るわ‼︎金よ‼︎人生金が物を言うのよ‼︎オホホホホ‼︎」

 

《クズね》

 

俺は機材を置いて、横須賀に歩み寄った

 

「幾らで売り飛ばす」

 

「え…」

 

急に歩み寄って来た俺に対し、横須賀は少し後退りした

 

「幾らで売り飛ばすって言ってるんだ」

 

「な…7億ね‼︎チョット高い気もするけど、AI付きならそんなもんでしょ‼︎」

 

《…》

 

ヘラは考えていた

 

やはり、彼もそんな人間だったのだと…

 

ほんの少し、彼を信用した私がバカだった…

 

「7億か…ボッタくるなぁ〜…ったく」

 

レイは格納庫の奥に戻り、鞄から財布を取り出した

 

再び戻って来ると、財布の中から何かのカードを取り出した

 

「俺の全財産だ。確か7億位はあるはずだ。釣りは取っとけ」

 

無理矢理カードを受け取らされた横須賀は、しばらく思考が停止する

 

「え…チョット‼︎アンタバカなの⁉︎」

 

「こう見えて無人潜水艦を造ったんだ。その時稼がせて貰った」

 

「じゃなくて‼︎こんな”ポンコツ”に7億よ⁉︎」

 

「次ポンコツって言ったら、たいほうに頼んで口にラプトルのオモチャ突っ込ますからな。人生金なんだろ⁇7億もありゃ、老後は幸せだ」

 

「う…」

 

7億なんて俺に出せるとは思わなかったのだろう

 

やはりパニクる横須賀を見るのは面白い

 

《…犬の老後はどうなるのよ》

 

ようやくヘラが口を開いた

 

「俺か⁇俺は今が楽しけりゃそれでいい」

 

《私に7億なんて…バカ丸出しね》

 

ヘラの言っている事はごもっともだった

 

「使わない死金を使っただけだ。金は天下の回りもの、その内返って来るさ」

 

《…バカね。ほんと。私はそんな安い女じゃないわ》

 

「ふっ…言ってろ」

 

「ホントに貰うわよ⁉︎」

 

「老後は楽しくな。代わりにヘラを貰う。文句無いだろ⁉︎」

 

「う…うん…」

 

「たまにはカッチョいいね‼︎」

 

「たまにはは余計だ。四六時中カッチョいいだろ⁉︎え⁉︎」

 

「うわ‼︎あはははは‼︎」

 

俺はきそを抱き上げ、その辺をクルクル回った

 

「やっぱり返す」

 

横須賀はカードを返して来た

 

「取っとけよ。どうせ使わん」

 

「いい。どうせ隊長の基地に配属するし…アンタがいれば、その子も安泰でしょ⁇」

 

「じゃあ没収‼︎」

 

横須賀の手からカードを取ったのはきそだった

 

「きそちゃん‼︎代わりにPシールドは貰うわよ⁉︎」

 

「いいよ。あれでトントンにしよう」

 

こうして、ヘラは俺達の基地に配属になった

 

基地に帰る時、俺はヘラに乗っていた

 

「フィリップ。PシールドのPって何だ⁇」

 

《ポンコツだよ。でも、みんなはパトリオットって言ってる。それだけの防御力はあるからね》

 

「ははは、お前もやるなぁ…」

 

《…犬。少しだけ無線を切りなさい》

 

「お、おぅ」

 

お嬢には逆らえない

 

「フィリップ、ちょい無線切るぞ」

 

《オッケー》

 

無線が切れたのを確認すると、ヘラが口を開いた

 

《一度しか言わないから、耳の穴かっぽじってよく聞きなさい》

 

「うぬ」

 

ヘラは深呼吸をしている様な間を開けた

 

電子機器のモニターには彼女の感情が逐一チェックされており”緊張”と表示されている

 

《あの…その…》

 

「緊張するな。大丈夫だ」

 

《あ、あ…ありがとう。その…す、好きよ》

 

「ほほぅ⁇ヘラみたいなお嬢でもデレるんだなぁ」

 

《前言撤回よ。やっぱり犬ね。駄犬》

 

「ま、サンキューな」

 

《感謝なさい。私にここまで言わせたのは、犬が初めてよ》

 

「犬は治らないんだな…」

 

《あら、豚が良かった⁇》

 

「犬で結構だ‼︎」

 

 

 

 

YF-23 グレイゴースト”ヘラ”が仲間に加わりました‼︎




YF-23 グレイゴースト”ヘラ”(追記)…

ヘラは無人機故、勿論パイロットを必要としない

だが、レイを乗せるのは勿論、助けてくれた恩を彼女なりに返したいのか、鹿島を乗せて飛ぶ事が多くなった

最近の趣味は、模擬戦でフィリップやスペンサー、クイーンをコテンパンにする事らしい

案外鹿島もSな気質があるので、お似合いな気もする…



ヘラが呼ぶ皆の呼び方

レイ…犬

きそ&フィリップ…犬の子分or子分

横須賀…雌牛

横須賀パイロットのみんな…ゴミ

パパ…男

鹿島…雌犬



なんやかんやで、レイが一番マシな気がする…


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照月の口を閉じろ‼︎ 第二部

マジカルきそちゃん‼︎


「…」

 

食堂でコーヒーを飲みながら雑誌を見ていると、向かい側に照月が座り、アニメの雑誌を読み始めた

 

最近子供達が、日曜の朝にやっている新しいアニメを見始めた

 

それの特集本だ

 

フリフリの服を着た女の子が表紙に載っているのですぐ分かった

 

「わぁ〜」

 

わぁ〜‼︎と言う、わとぁの間位から口が開き始めて戻らなくなった

 

「お代わりいりますか⁇」

 

「プリンツ」

 

コーヒーのお代わりを持って来たプリンツを呼び、照月に目線をやった

 

「…閉めろ、と⁇」

 

「…バイ菌入ったり乾燥するからな…」

 

「…オッケー」

 

プリンツは照月に近付き、後ろから口元にクッキーを近付けた

 

照月はサクサクと音を立て、クッキーを食べて行く

 

そして食べ終わると開く口

 

「まだまだ‼︎」

 

もう一度やるも、食べ終わる度に口は開く

 

「くるみ割り人形みたいだ…」

 

プリンツがお手上げ状態になった‼︎

 

「くっ…難攻不落とはこの事か…」

 

「マジカルきそちゃん‼︎」

 

「まじかるたいほう‼︎」

 

テレビの前で、たいほうときそがフリフリの服を着て遊んでいる

 

「作ってみたの」

 

「グラーフ⁉︎ありがとうな」

 

二人の服を作ったのはグラーフみたいだ

 

「レイは年がら年中タンクトップでいいね。安くつく」

 

「冬んなったら革ジャン着てるだろ⁉︎」

 

「もうタンクトップ一丁で出撃しないでね。危ない」

 

「あぁ…ごめん」

 

そう言ってグラーフはポケットからクッキーを取り出し、照月の口に入れて席を離れた

 

「…」

 

「すてぃんぐれいよ‼︎たいほうは何処だ⁇」

 

「そこにいるだろ⁇きそと踊ってる」

 

「うぬ。そうか。たいほうと共に風呂に行ってくるから、提督に伝えておいてくれ」

 

「分かった」

 

武蔵は谷間からクッキーが入った包み紙を取り出し、それを剥いて照月の口に入れ、たいほうの所に向かった

 

「…」

 

照月は口の周りに粉をいっぱい付け、口をモゴモゴしながら雑誌を読み続けている

 

「レイ、兄さんがコレを」

 

「ん」

 

ローマから受け取った書類には”任務完了”との報告があった

 

「何だったの⁇」

 

「ここ一週間の夜間哨戒任務の結果さ。ラバウルとここで代り番…で…」

 

ローマら何処からか取り出したクッキーを照月の口に入れていた

 

「な…何なんだ⁉︎みんな照月の口に何か入れてくぞ⁉︎」

 

「こうしたら閉じるでしょう⁇ホラ」

 

照月を覗き込むと、確かに口を閉じていた

 

「はまかぜとグラーフが作って、カロリーも低くて美味しいのよ⁇しかもトラックさん監修」

 

「俺にも頂戴‼︎」

 

「はい」

 

ローマからビスケットを受け取り、包み紙を剥がして口に入れた

 

しばらく噛んでいると、後からほんのり甘さが来た

 

「…美味い‼︎」

 

「これなら照月に食べさせても安心よ」

 

「まぁ、これなら大丈夫だろうけど…」

 

問題は夕飯が入るかどうかだ

 

「酢豚と餃子です」

 

でた‼︎週一のはまかぜ中華‼︎

 

待ってました‼︎

 

完全に脂っこい物を食べられるのは、この中華の日しかない

 

幾つか餃子を食べ、適当に酢豚を取った後、ふと照月を見た

 

…バクバク食ってる

 

あれだけクッキーとか食ってたのに、まだ入るか

 

「ま、モリモリ食べるのは健康な証拠さ」

 

「ま、まぁな…」

 

隊長は逆に安心しているみたいだ

 

言われてみれば秋月もここに来てからバクバク食べている

 

大食漢が二人増え、はまかぜとグラーフは更に仕事が増えたが、まぁ、そこそこに楽しそうだ

 

「ごちそうさま〜‼︎」

 

そうなると気になる事が一つ

 

照月の体のどこに食いもんが消えてるかだ

 

結構な量を毎日食べているが、太る気配は一向に無い

 

考えてはいたが、やはり食後に横になるのはやめられない

 

ソファに寝転がり、子供達の後頭部とテレビを見る

 

「よいしょ…」

 

「なんだ⁇眠たいのか⁇」

 

「うん…」

 

腹の上に乗って来たのは照月だ

 

「歯は磨いたか⁇」

 

「うん…後は寝るだけ…」

 

「そう…寝たらお布団に連れて行ってやるから寝てもいいぞ」

 

「うん…ありがとう、お兄ちゃん…」

 

照月は俺の上でうつ伏せで寝始めた

 

そして、何と無く食べ物が何処に消えているか分かった

 

…胸だ

 

あれからまたデカくなってる

 

そんで、口も開いてる

 

「はぁ…」

 

照月を抱き上げ、子供部屋に寝かせる

 

「ぐが〜‼︎」

 

「うっ…」

 

鹿島と同じく、照月もイビキがうるさい

 

おそらく口が開いてるからイビキも増大されてる

 

俺はそ〜っと口を閉めた

 

「ん…ムニュ…」

 

「ぐっ…」

 

今度は歯ぎしりだ

 

こういう時は、確かこうだったな…

 

俺は照月の布団に入り、彼女を抱き寄せて背中をゆっくり叩いた

 

こうする事で呼吸が通りやすくなり、安心して眠れるらしい

 

「柔らかいな、照月は…」

 

「お兄ちゃんが落ちる…ガッ‼︎」

 

「寝言が最悪だな…」

 

俺は一晩、照月の感触を楽しみながら眠りについた…

 

 

 

 

作戦失敗…

 

第三部へ続く



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84話 トータルきそ ヘラリコール

さて、83話が終わりました

今回のお話は、題名に少しだけヒントが隠されてます

短編だよ


《犬。何をパニクってるの⁇》

 

「か、かか、か、か…」

 

《言語まで忘れたのかしら⁇駄犬ね》

 

「こ、こここ、こ、ここ」

 

《言ってみなさい。笑わないであげるから》

 

「子供が出来た‼︎」

 

それは数分前に遡る

 

朝食を取り終え、いざ工廠に行こうとした時、いきなり鹿島が言い放った

 

「レイっ。私、赤ちゃん出来ました‼︎」

 

「待て。誰の子だ」

 

そりゃあ俺は鹿島と体を重ねた事は何度もあるが、ちゃんとゴムはしていたはずだ

 

「うふふっ、レイの子供ですよっ、正真正銘の‼︎」

 

「あ…あああ…ああ…」

 

 

 

 

そして、現在に至る

 

《あら、おめでとう》

 

「違う‼︎俺はやってない‼︎言っただろ⁉︎戦争が終わってからにするって‼︎」

 

《じゃあ寝取られね。一気に哀れになったわ》

 

「レイ〜‼︎赤ちゃん出来たってホント⁉︎」

 

きそが来た

 

「赤ちゃんの名前決めた⁉︎」

 

「き、決めてない…」

 

「決めようよ‼︎」

 

「いや、しかしな…」

 

「レイの”本当”の赤ちゃんなんだよ⁉︎」

 

「…何で知ってるんだ⁇」

 

「あ」

 

「こらっ‼︎待てっ‼︎」

 

逃げ出そうとしたきそを捕まえ、事情を聞いた

 

 

 

鹿島は数週間前、夜間哨戒任務で疲れてベッドに直行した俺を襲ったらしい

 

きそはいつも通りの事だと思い、放っておいた

 

俺の上で鹿島が悲鳴を上げるのは日常茶飯事みたいだ

 

 

 

「もうすぐ産まれるから、横須賀に行くんだって‼︎」

 

「はぁ…起こってしまった事は仕方無い…」

 

頭を抱える俺をよそに鹿島は二式大艇に乗せられ、設備の整った横須賀で出産する事になった

 

「ばいば〜い」

 

きそが笑顔で二式大艇を見送る横で、俺は涙目になっていた

 

「…うぅ」

 

「艦娘と人間の間に出来た子は、ホントに成長早いね」

 

「心の準備も出来てねぇっての…」

 

 

 

2日後…

 

《レイ‼︎産まれたわ‼︎超☆元気な女の子よ‼︎》

 

「す、すぐ行く‼︎」

 

《それとね、レイ。正真正銘アンタの子よ。明石がちゃんとDNA検査してくれたから‼︎》

 

「う…うんうん‼︎」

 

何故か分からないが、急に涙が溢れて来た

 

「レイ‼︎迎えに行こう‼︎」

 

「隊長、行って来ます‼︎」

 

「あぁ‼︎」

 

フィリップに乗り、一直線に横須賀を目指す

 

《名前決めた⁉︎》

 

「まだ迷ってる。お前の妹だからなぁ…」

 

《そんな風に考えてくれてたんだ…嬉しいよ‼︎》

 

「見てから決める事にするかな」

 

横須賀に着くと、基地の整備士達が慌ただしく俺達を迎えに来てくれた

 

「さ、レイさん、きそちゃん。フィリップは任せて執務室へ‼︎」

 

「あ、あぁ」

 

「うんっ‼︎」

 

横須賀の執務室の前に着き、一度呼吸を整える

 

「ふぅ…」

 

「緊張してる⁇」

 

「まぁな…ちょっとしてる。あぁ‼︎俺に似てたらどうしよう‼︎」

 

「見ないと分からないよ‼︎行こう‼︎」

 

あぁ、決断力のあるきそを連れて来て良かった…

 

きそは俺と同じで、横須賀の執務室だけ蹴り飛ばして開ける

 

悪い所が似てしまった…

 

「レイ‼︎ほらっ、お父さんですよ〜‼︎」

 

鹿島の足元に、毛先の白い女の子が立っている

 

アイちゃんを見ているので、立っている事であまり驚きはしなかった

 

「お父さん⁇」

 

しかももう喋っている

 

「そう。君のお父さんだ」

 

「マーカス・スティングレイって言うのよ⁇」

 

「お父さん⁇」

 

「僕はきそ‼︎」

 

「きそ⁇」

 

覚える事が多いみたいで、少し混乱している

 

「レイ⁇名前は決まりましたか⁇」

 

「そうだな…”時津風”…時津風にしよう‼︎」

 

何と無くそんな気がする…

 

「いい名前じゃない⁇」

 

「時津風‼︎」

 

「何か悩んでたけど、もう片方の方は⁇」

 

「天津風かな…とにかく、名前に風を付けたかったんだ」

 

「なるほどね」

 

「まっ、母子共に健康で良かったわ。もう基地に帰っても大丈夫よ」

 

「横須賀」

 

「ん⁇」

 

「この子は戦いに出さんぞ。いいな」

 

「えぇ。いいわ」

 

今日は何処にも寄らず、そのままフィリップに乗った

 

「フィリップ」

 

《どうしたの⁇》

 

「俺は上手く育てられるだろうか…」

 

《あの霞を手懐けたんだ。きっと大丈夫だよ‼︎それに僕だっている‼︎》

 

「ん…」

 

 

 

 

 

 

 

《犬。起きなさい、犬‼︎終わったわよ‼︎犬‼︎》

 

「んが…」

 

《どうだったかしら⁇いい”夢”見れたかしら⁇》

 

「あ…あぁ…現実味に溢れすぎて、まぁ境目が分からん。時津風は⁇」

 

《それが夢の方よ》

 

「そっか…ははは、まぁ、そうだよな‼︎何か俺、消極的だったし⁉︎」

 

《犬は強気の方が似合ってるわ⁇》

 

「はは、だよな⁉︎」

 

実はこれまで見て来たのは、全部夢である

 

きそが開発したこのプログラムのテストの相手に俺が選ばれたのだ

 

プログラムはヘラに直結しており、ヘラに乗った時に自動で取り付けられるヘルメットから特殊な催眠ガスを出し、記憶から色々操作して、なるべく希望に沿った夢が見られると言う、本当に夢のプログラムだ

 

因みに俺が見たかった夢は”自分の子供”だ

 

よくよく考えれば、幾ら艦娘でもあんなスピード出産する訳が無い

 

が、子供は確かに俺と鹿島に似ていた

 

「しばらくは封印だね。この前見た映画みたいには行かないや。火星に行かなかったでしょ⁇」

 

ヘラのモニターを見ると、この場に居た三人が一つずつ出した”見たい夢”が書かれていた

 

俺は自分の子供

 

ヘラは性格逆転

 

きそは火星

 

この前深夜にやっていた、昔の映画の影響だと思う

 

こんな装置あったしな

 

「でもまぁっ…中々のモンだったぞ⁇きそがお姉ちゃんになってた」

 

「僕がお姉ちゃんかぁ…楽しみだね‼︎」

 

《奥さんに似ると良いわね。犬は良い所無いし》

 

「ヘラ、いいか⁇…俺はイケメンだろうが‼︎」

 

《言ってなさい》

 

三人の笑い声はしばらく工廠から止まなかった



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85話 動物を覚えよう‼︎(1)

さて、短編でしたが84話が終わりました

今回のお話は、子供達が読んでいる本からお話は始まります




ソファの下で、たいほうと照月が、床に図鑑を置いて見ている

 

この組み合わせは珍しい

 

最近のたいほうは大体決まって、きそかプリンツ、そして高確率で武蔵といる事が多い

 

霞達共いる事があるが、大体は上記の組み合わせだ

 

「いぬ。このいぬ、えいがにでてた”ぶーまー”だね‼︎」

 

「わぁ〜‼︎”ふれんだぁ”もいる‼︎」

 

「何つ〜覚え方をしてるんだ…」

 

「ふっふっふ」

 

たいほうも照月も動物の名前を映画やアニメのキャラクターで覚えていた

 

俺は頭を抱え、隊長は笑っている

 

「すてぃんぐれい、これよんで‼︎」

 

「どれっ…」

 

照月の口を閉め、二人を膝に乗せ、動物図鑑を読み始める

 

「たいほうのきらいなとりさん」

 

たいほうは白い鳥を指差した

 

「これはカモメ。たいほうはカモメ嫌いか⁇」

 

「いっぱいいるとり。おやつとってくるんだよ⁇」

 

「俺も前アイス食われた」

 

「たいほうもぱんとられた」

 

「ムカつくな」

 

「むかつくね」

 

鳥が好きなたいほうは、どうやらカモメが嫌いみたいだ

 

「これは⁇」

 

照月は熊のページで指をさした

 

「これはグリズリー。昔、隊長がピストルで一発で仕留めた熊だ」

 

「パパつよいね‼︎」

 

「一発で⁉︎」

 

「そっ。隊長、話してくれよ」

 

隊長はコーヒーを飲む手を止めて、グリズリーを仕留めた時の事を話し始めた

 

「アメリカに滞在してた時、暇潰しにレイと森に狩猟に行ったら出くわしてな…その時、私もレイもライフルは持ってたんだが、すぐに出せるのが腰のピストルしかなくてな…それで撃ったら眉間に当たって御陀仏さ」

 

「しかも懸賞金まで貰って、町から感謝状まで貰ったんだぞ⁇」

 

「隊長さんは陸に降りてもお強いんですね‼︎」

 

「ははは。運が良かっただけさ」

 

とは言いつつ、隊長は満更でもなさそうな顔をしている

 

「でこ」

 

図鑑に顔を戻すと、猫のページに来ていた

 

たいほうは猫の事を”でこ”と言う

 

多分、まだ舌ったらずなんだろう

 

稀にこう言う現象が見られる

 

「たいほう、でこはよこすかでみたよ‼︎ふわふわだったよ‼︎」

 

「二人はどの猫が好きだ⁇」

 

「照月はこれ‼︎」

 

照月は耳が前に垂れた猫を指差した

 

「たいほうはくろいでこ」

 

たいほうは目が鋭い黒猫を指差した

 

「すてぃんぐれいはどのでこがすき⁇」

 

「俺はコレだな」

 

俺はクロヒョウを指差した

 

「くろひょうはでこなの⁇」

 

「そっ。猫の仲間だ。暗闇から獲物を探して、一発で仕留める凄腕ハンターなんだぞ⁇」

 

「お兄ちゃんみたいだね‼︎」

 

「ぬっふっふ…」

 

ニヤついていると、どんどんページがめくられた

 

「これ何⁇照月、この動物好き‼︎」



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85話 動物を覚えよう‼︎(2)

「これは”ピンゲン”だ。寒い所に住んでるんだぞ〜⁇」

 

その時、食堂にいた隊長、武蔵、ローマが此方に振り向いた

 

「これは⁇」

 

「これは”コウテイピンゲン”だ。普通の”ピンゲン”よりおっきいんだぞ⁇」

 

「れ…レイ⁇」

 

「すてぃんぐれい⁇」

 

「…レイ、これは何⁇」

 

ローマが此方に来て、一つの動物を指差した

 

「フンボルト”ピンゲン”。ピンゲンの仲間だろ⁇」

 

「何か違うな…」

 

「ぴんげん…聞いた事が有りそうで無さそうな…」

 

隊長と武蔵は頭を抱え始めた

 

俺は何か間違えた事を言ったのか⁇

 

「れ、レイ。これは何⁇」

 

ローマは違う動物を指差した

 

「イワトビ”ピンゲン”。髪型見たいなのが特徴だな」

 

「ほ、本気で言ってるの⁇」

 

「ピンゲンはピンゲンだろ⁇歩き方が可愛いんだぞ⁇」

 

「ぴんげんみたい‼︎」

 

「ピンゲン可愛いね‼︎」

 

二人は既にピンゲンという名を覚え始めている

 

「子供達が変な覚え方するわ。ちゃんと教えてあげて‼︎」

 

「俺はちゃんと教えてる‼︎これはピンゲンだ‼︎」

 

「…ちょっと待ってなさい」

 

ローマは食堂を出て、しばらくすると、ノートパソコンを持って帰って来た

 

「これを見なさい」

 

ノートパソコンら動画投稿サイトにアクセスされており、再生された動画には氷山に乗った動物が映っている

 

《これはホッキョクグマです》

 

どうやら子供向けに作られた、動物紹介の動画みたいだ

 

しばらくすると、問題の動物が映った

 

《これは”ペンギン”です》

 

「ぺ…ペンギン…だと⁇」

 

「これをどうやったらピンゲン何て覚えるのよ…」

 

「俺が間違ってたのか⁉︎」

 

「そうよ。誰に教えて貰ったの⁉︎」

 

「それは…」

 

「いやぁ〜‼︎スッキリしました‼︎」

 

背伸びをしながら食堂に入って来たのは鹿島だ

 

新作のゲームを一通り終えたみたいだ

 

「鹿島‼︎お前これ何て言う⁉︎」

 

「え⁉︎あぁ”ピンゲン”ですね‼︎可愛いですよね‼︎」

 

「いたわ、原因が…」

 

「そら見ろ‼︎ピンゲンの方がポピュラーなんだよ‼︎ぬわっはっはっは‼︎」

 

俺が鹿島のアカデミーに居た頃、一般常識を教えて貰う為に鹿島に個人教室を何度か開いて貰った

 

その時に、動物を教えて貰う事もあった

 

ピンゲンはその時に覚えた

 

「鹿島。これはペンギンよ⁇」

 

「ぺ、ペンギン何ですか⁉︎ピンゲンじゃなくて⁉︎」

 

「はぁ…貴方達、ちょっとそこに座りなさい」

 

鹿島と共にソファに座らされた

 

たいほうと照月は隊長の横に座って、ノートパソコンで動画を見ている

 

「今から見せる動物の名を答えて頂戴。行くわよ。これは⁇」

 

ローマは白黒の動物を指差した

 

「「モーモーさん」」

 

鹿島コラム…お乳が取れるこの動物は、モーモーさんと言います

 

 

 

 

「もう違う…これは牛‼︎」

 

「「牛‼︎」」

 

「…次行くわ。これは⁇」

 

次は白い鳥を指差した

 

「「ガーガーさん」」

 

鹿島コラム…白い鳥を見て、名前が分からなければ大体ガーガーさんです

 

 

 

 

「これは鶴‼︎」

 

「「鶴‼︎」」

 

「ハァ…ハァ…これはっ⁉︎」

 

ローマは息を切らしながら、体毛に包まれた動物を指差した

 

「「めりーさん」」

 

鹿島コラム…体毛に包まれた動物は、大体めりーさんで通じます

 

 

 

「もう…めりーさんは人の名前‼︎これは羊‼︎」

 

「「羊‼︎」」

 

「ふぅ…まぁ、今日の所はこれ位にしてあげるわ…疲れた」

 

動物の名前を変に覚えている癖は、どうやら鹿島にある様だ

 

「ごめんなさいね…」

 

「いいよ、別に。今からでも遅くは無い。子供達と覚えよう‼︎そうしよう‼︎」

 

「えぇ‼︎私も覚えます‼︎」

 

「すてぃんぐれい、たいほうぱんだすき‼︎」

 

「照月はゾウが好きです‼︎」

 

「よし、おいで‼︎一緒に覚えよう‼︎」

 

隊長の所に居た二人が戻って来た

 

再び二人を膝の上に座らせ、照月の口を閉め、今度は鹿島も一緒に図鑑を見始めた

 

「提督よ。あれが家族の形なのだな」

 

武蔵と隊長が嬉しそうに此方を見ているのが、図鑑を見ていても分かった

 

「レイは理想の旦那さんだな」

 

「私達も、いつか子を持てると良いな…」

 

「あぁ。戦争が終わったら、一人二人位は作ろうな」

 

その言葉を聞き、誰にも分からない様に、俺はたいほうを抱いた手に少しだけ力を込めた…



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86話 きそ、発明をする(1)

さて、85話が終わりました

今回のお話は、きそがとある発明をします

そして、今まで明かされてなかった誰かの本名がサラッと明らかになります


「フンフンフ〜ン♪♪」

 

きその鼻歌が工廠に響く

 

前から言っていた、クイーンのボディを造る方法を見つけたのだ

 

パパが最初に使って、それ以来閉じられている”建造装置”だ

 

少し前に横須賀に行った時、偶然これと同じ物を見付け、自分の基地にあった事を思い出した

 

「え〜っと。これはこうして…」

 

きそは建造装置を弄り、一つ一つ起動して行く

 

「あれ⁇何これ⁇」

 

きそは人一人入れるカプセルの前で足を止めた

 

「何か書いてある…なになに⁇」

 

前屈みになり、書かれている文字を読む

 

「母…貴子。父…ウィリアム・ヴィットリオ。娘…大鳳。知らないや‼︎」

 

段差を飛び降り、装置の前に戻って来た

 

きそはモニターに集中し、数字を打ち込んで行く…

 

「出来た‼︎」

 

数分後には、既に装置は建造を開始し、装置の中心に備えられたカプセルの中には人の形が徐々に出来ている

 

「よいしょ…っと」

 

倉庫から一本持って来た高速建造材を手に持ち、専用の穴から装置の中に火を送る

 

「よし‼︎出来た‼︎よいしょ‼︎」

 

きそは装置に直結したケーブルを持ち、クイーンの所に走った

 

「よいしょ…クイーン‼︎出来たよ‼︎」

 

《きそちゃん⁇何が出来たんですか⁇》

 

「クイーンの…新しいボディだよ。うんしょ…」

 

ケーブルをズリズリ引っ張りながら、クイーンの所に寄る

 

「これをクイーンに付ければ、また繋ぐまでクイーンは人間のボディでいられるんだ…んしょ。繋げるね⁇」

 

《あの…怖くないですか⁇》

 

「怖くないし、痛くもないよ。ちゃんとテストもしてあるから、安全性は確かだよ⁇行くよ⁇」

 

《じゃ、じゃあお願いします‼︎》

 

ケーブルをクイーンに繋ぎ、きそは装置の所に戻り、スイッチを押した

 

数秒後にカプセルが開き、中から可憐な白い長髪の少女が出て来た

 

「クイーン‼︎どう⁉︎」

 

「これは…」

 

出て来た少女は両手を何度も握ったり開いたりしていた

 

「いい、クイーン⁇クイーンがこの体でいる時は”翔鶴”って名前。クイーンじゃないよ⁇」

 

「きそちゃん…」

 

「お…お、おろろろ⁇」

 

翔鶴はきその顔をペタペタと触り始めた

 

「あはっ‼︎これが”触る”って感じですね‼︎」

 

「そうだよ。ご飯も食べられるからね。これでたこ焼きの味もしっかり分かるよ‼︎」

 

「ありがとう‼︎きそちゃん‼︎うふふふっ‼︎」

 

翔鶴は余程嬉しいのか、工廠をクルクル回り始めた

 

「ビール、ビール、ビールっと〜♪♪」

 

レイが来た

 

いつもの机に座り、足元の小さな冷蔵庫からラムネサイズのビールを取り出して、妖精に蓋を開けさせ、小さなコップに注いでから、瓶に口を付けた

 

「レイさんっ‼︎うふふっ‼︎」

 

翔鶴はレイの背後から抱き着いた

 

レイはビールを少し吹き、背後にいる少女に顔を向けた

 

「おわっ‼︎何だ⁉︎何処から来た⁉︎何か依頼か⁉︎」

 

「レイさんは筋肉質なんですね‼︎」

 

「だ…誰…」

 

最初は驚いていたレイだが、段々恐怖心に変わって行くのが目に見えた

 

「レイさん⁇たこ焼き、また作って下さいますか⁇」

 

「たこや…クイーンか⁉︎」

 

ようやく気付いたみたいだ

 

「はいっ‼︎この姿では、翔鶴とお呼び下さいっ‼︎」

 

「お…おぉ…でもどうやって⁇」

 

「きそちゃんがボディを造ってくれたんですよ‼︎」

 

「…きそが⁇」

 

レイの目付きが変わった

 

ビールを置き、きそに歩み寄る

 

「あわわ…ご、ごめんなさ‼︎」

 

きそは無断でクイーンのボディを造った事を怒られると思っていた

 

「どうやった」

 

レイはきその肩を掴んだ

 

「えと…ここをこうして…」

 

「違う‼︎どうやってボディにクイーンの頭脳を入れたんだ‼︎」

 

「このケーブルだよ。このケーブルをクイーンのAI接続部に繋げて、あっちで装置を起動するんだ。そしたらAIがボディに行くんだ。ホントだって‼︎」

 

「はぁ…」

 

レイはきその肩を持ったまま下を向いた

 

「…怒ってる⁇」

 

「…才だ」

 

「え⁇」

 

「天才だよ‼︎解けなかったんだよ‼︎AIの移行手段が‼︎ネットワークからネットワークに移行するのは簡単だけど、AIから直結する方法が分からなかったんだ‼︎」

 

「あ…うん…」

 

実はきそ、このシステム自体は何度もテストをしたが、これを思い付いたのはただの閃きだった

 

「きそ‼︎お前が造ったシステムで何千何万の人間が救える‼︎分かるか⁉︎お前は世紀の発見をしたんだ‼︎」

 

「う、うん…」

 

きそは自分が凄い大発見をした事を、まだ実感していない

 

レイが言いたいのはこうだ

 

病気や障害で苦しむ人間の頭脳を新しいボディに送り、真っ新な体で第二の人生を送る事が可能になったのだ

 

勿論、まだまだテストは必要だが、ゆくゆくはそう言う事に平和利用が出来るようになったのだ

 

「あぁ…」

 

レイはその場に膝を落とした

 

「レイ、大丈夫⁇」

 

「報われた…これを造って良かったって、ようやく実感出来た…」

 

「え⁉︎これレイが造ったの⁉︎」

 

きそは建造装置を指差した

 

「あぁ。生身の人間にそのまま艤装を付けて無理矢理艦娘にする”艦隊化計画”に反発する為に造ったんだ」

 

「ほへぇ〜…」

 

「この装置はな、ある程度の資源を消費する代わりに、人間に近い生体を造り出す事が可能なんだ。人間と変わらぬ経口摂取、人間と変わらぬ生殖機能…人間と変わらない寿命…人間と変わらない生活が送れるんだ」

 

「あ。そうだ‼︎レイなら知ってるかなぁ⁇」

 

「ん⁇」

 

「来て‼︎」

 

きそは先程のカプセルの前にレイを連れて来た

 

「これ、誰か入ってたの⁇」

 

「…」

 

レイはそのカプセルの前に立つと、急に黙ってしまった

 

「聞いちゃダメな事⁇」

 

「いや、お前には話してもいいかな…」

 

レイはカプセルの事を話し始めた



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86話 きそ、発明をする(2)

「じゃあ、たいほうちゃんは…」

 

「隊長の本当の子だ。絶対言うなよ⁇特に隊長と”貴子さん”には」

 

「貴子さんって…何か呼び慣れてるね…」

 

「まぁ、隊長とは長い付き合いだし、貴子さんとも何度も会った事もある。翔鶴も言うなよ⁇三人の内緒だ。いいな⁇」

 

「うん。分かった‼︎」

 

「畏まりました‼︎」

 

レイはこの事に関してあまり触れず、三人で食堂に戻った

 

「あっ‼︎パパさんっ‼︎」

 

翔鶴は隊長を見るなりすぐに抱き着いた

 

「提督よ…私は大体の事は寛大にしてるつもりだが、目の前で堂々と浮気されると、何処ぞの艦娘の様に殴りたくなるだずる」

 

 

 

「ふふふ…生霊を飛ばしてやったダズル」

 

 

 

 

「ち、違う‼︎だ、誰だ⁉︎」

 

「レイと同じ反応だ…」

 

「うふふっ、私の乗り心地は如何ですか⁇」

 

「うっ…」

 

「提督よ…貴様…」

 

武蔵が手をバキバキ言わせている

 

武蔵は普段から隊長がちょっと位他の子と仲良くしてても許しているが、流石に怒ってるみたいだ

 

「武蔵武蔵武蔵‼︎ちょっと待って‼︎クイーンだよクイーン‼︎」

 

「なに⁉︎くいーんだと⁉︎」

 

「はいっ‼︎クイーン改め、この姿では翔鶴ですっ‼︎」

 

そう言いつつ、翔鶴は隊長の膝の上に座っている

 

「だが翔鶴よ。三秒以内にそこを退け。そこは私の席だ。3…」

 

腕を鳴らしながらカウントダウンを始める

 

「うわわっ‼︎すみません‼︎」

 

翔鶴は一瞬で隊長から離れた

 

「どうやってボディを…⁇」

 

「僕が造ったんだ」

 

きそは自分のシステムの事を話し始めた

 

新しいボディは、また造れる事

 

AIをボディに転送出来る事

 

その他細かい説明も含め、きそは皆に説明した

 

「凄いじゃないか‼︎」

 

「なははは…まだ実感は無いけどね…」

 

「そうだ‼︎」

 

隊長はパンッと手を叩いた

 

「翔鶴、実際のたこ焼き食べてみないか⁉︎」

 

「はいっ‼︎たこ焼き食べてみたいです‼︎」

 

「よしっ‼︎みんなで作ろう‼︎」

 

珍しく隊長が厨房に立った‼︎

 

「はいは〜い。レイはしおいとタコさん取りに行くよ〜」

 

「あ、お、おい‼︎」

 

しおいに背中を押され、外に出された

 

三十分後には、また活きの良いタコが取れた

 

「すてぃんぐれいよ。今回は鮫はいないのか⁇」

 

「鮫は無い‼︎だがニョロニョロが三匹取れた‼︎」

 

「うつぼ‼︎」

 

たいほうの話を聞くと、どうやらコレはうつぼと言うらしい

 

「素晴らしいな‼︎唐揚げにしよう‼︎」

 

「唐揚げ⁇パパさん、唐揚げとは⁇」

 

「食べてみれば分かるよ⁉︎」

 

その日、新しく翔鶴を迎えた基地は騒がしい夜を過ごした…

 

 

 

正規空母艦娘⁇の”翔鶴”が、艦隊の指揮下に加わります‼︎




翔鶴…クイーンの別の姿

F-15 Snow QueenのAIが、きその研究の成果により新しいボディを手に入れた姿

戦闘能力は今の時点では無いが、一応ボディは艦娘ベースなので、何かしらの方法はあるかも知れない

初めて見た物をペタペタ触る癖があり、特にきそがペタペタされている

勿論元の戦闘機のAIにも戻れる

その際はきそのスイッチ一つで行う。凄く簡単

たこ焼きが好きで、タコ丸々一匹平らげる位たこ焼きを食べる

次に食べたいのはラーメンらしい

翔鶴が新しいボディを手に入れた事により、別のAIも新しいボディを手に入れる事が可能になった

残り無人機…

スペンサー…???

イェーガー…???

ヘラ…○○○も



スペンサーとイェーガーは男性AIなので、チョット難しいかも知れないが、きそは秘密裏にヘラのボディも開発している



建造装置について…

一定数の資源を投入すれば、艦娘が産まれる凄い装置

実は世界でレイが初めて造り上げ、ドイツ、イタリア、アメリカ、そして日本の幅広い場所で使われている

この装置は世界的に高い評価を受けており、先進国では病気治療にも使われたり、自国で改良して臓器のみを造り上げたり出来る国もある

実はレイには、これを開発した人間に充てられる莫大な資産があるのは内緒。てか、本人は知らない。全部横須賀鎮守府が管理し、横須賀でも本人にも触れない場所に保管されている

この装置のモデルは二つあります

一つは、とある映画から。ここでは言えないけど、少し前に書いたお話の照月が言った犬の名前がヒント

もう一つは、現実世界で開発進行中のあの細胞から。頭文字はア


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87話 ローマの一般教養教室

さて、86話が終わりました

今回のお話は、レイと鹿島が一般教養を学びなおす為、ローマに教室を開いて貰います

単発だよ

何⁉︎不安しかない⁉︎

安心して下さい。作者も不安しかありません‼︎


「たいほうのくっきー」

 

最近、たいほうはオヤツ作りを手伝う事が多くなった

 

今日はクッキーの様だ

 

自分の分は個別に焼き、自分で食べている

 

「こら、余所見しない‼︎」

 

あの一件以来ローマが教師になり、色々教えてくれている

 

「次はこれ‼︎」

 

ローマが出したフリップには、緑色の野菜が描かれている

 

「ブッコロリだな」

 

「カリフラワーじゃないですか⁇」

 

「はぁ…」

 

ローマはため息を吐き、一瞬下を向いて此方に視線を戻した

 

「いい⁇ブロッコリー‼︎はい‼︎」

 

「「ブロッコリー‼︎」」

 

「じゃあ次」

 

「何してるの⁇」

 

れーべとまっくすが来た

 

俺達二人がやってる事は、子供達がやる教養問題みたいなものだとローマが口酸っぱく言っているが、俺達は本気で分からない

 

「貴方達も参加しなさい。じゃあこれは⁇」

 

次の絵は黄色くて丸い鳥だ

 

「「ピヨちゃん」」

 

「う…貴方達は⁇」

 

「キューケンだね」

 

「キューケンはドイツ語。日本語ではひよこ」

 

れーべとまっくすは俺達をジッと見つめる

 

「「ゔっ…」」

 

「これはひよこよ。次、行くわ。れーべとまっくすは、次から日本語でね⁇私、あんまり分からないから…」

 

「分かった‼︎」

 

「いいよ」

 

「じゃあこれ」

 

次はスープに浸かった、長い物を持ち上げてる絵だ

 

「チュルチュルだろ⁉︎これ位は知ってらぁ‼︎」

 

自信満々に答えるが、ローマの顔は明らかにドン引きしている

 

って事は違うらしい

 

「う〜ん…チュルチュルだったかしら…ズルズルの気も…」

 

鹿島が悩む横で、れーべとまっくすはあたかも普通の様に答えた

 

「ラーメンじゃないかな⁇」

 

「ラーメン。または汁そば」

 

「二人共正解よ。何よチュルチュルって‼︎」

 

「クイーンが食いたがってるのはこれか…」

 

「レイも鹿島も、何か擬音で覚えてない⁇」

 

ようやくれーべが気付いた

 

「ローマ、次出して見て⁇」

 

「分かったわ。これは⁇」

 

次は何故か写真だ

 

「1972年式のイタリア車だ。エンジンが特殊な車で、あんまり世に出回ってない」

 

「排気口も特殊で、ほとんど今と同じ様な機構で、燃費もいいんです」

 

「うっわ…こっわ…」

 

またローマがドン引きしている

 

「レイも鹿島も凄い」

 

「機械になるとコレなのよ…」

 

「専門知識が強すぎるんだよ。きっと」

 

「じゃあこれは⁇」

 

次のフリップは再び絵に戻った

 

緑色の生き物の絵だ

 

「ケロさんだな」

 

「違う‼︎」

 

「レイ、ケロケロですよ‼︎」

 

「違う違う‼︎」

 

「ゲロゲロか⁇」

 

「違う違う違う‼︎カエル‼︎はい‼︎」

 

「「カエル‼︎」」

 

「カエル‼︎」

 

「カエル」

 

ローマは肩を上げながら怒っている

 

「あぁ…次はサービス問題よ。これは⁇」

 

目を血走らせながら、次の問題のフリップが出た

 

白い車だ

 

「ピーポー車だ」

 

「ピーポー車は赤じゃありませんでした⁇」

 

「ピーポー車は日本の公務員の乗る車だろ⁇ならこれもピーポー車だ」

 

「じゃあピーポー車…」

 

「あぁもう‼︎」

 

ローマがフリップを机に叩きつけると、テレビの前にいたたいほうがビクッとし、その横にいた照月は、口を開きながら此方を向いた

 

「ピーポーピーポーうるさいわよ‼︎救急車よ‼︎はいっ‼︎」

 

「「救急車‼︎」」

 

「キューキュー車‼︎」

 

「救急車」

 

「はぁ…はぁ…」

 

ローマは息を切らして机に突っ伏した

 

「ろーまおこってる⁇」

 

ローマに寄ったたいほうは、彼女の頭を撫でた

 

「…ありがと。怒ってないわ。たいほうちゃん、これ知ってる⁇」

 

体勢を戻したローマは、たいほうに絵を見せた

 

「うんっ‼︎ひよこ‼︎たいほうひよこすき‼︎」

 

ローマの睨み付ける様な視線が痛い…

 

「たいほうちゃんでも知ってるのに、何でアンタ達大人が知らないのよ…」

 

「が…学校行ってないんだ…産まれた時からスパイ教育しか受けてない」

 

「私は軍の事ばかり教えられてたので…」

 

「…何と無く知ってた」

 

「たいほうもする‼︎」

 

たいほうは俺の膝の上に座り、ローマを見つめた

 

「じゃあ、これが最後の問題ね。これは⁇」

 

長い体をした動物だ

 

たいほうがたまに振り回して遊んでいるが、俺は本当の名前を知っている‼︎

 

「はっはっは。分かるぞこれ位‼︎ニョロニョロだ‼︎」

 

「ニョロニョロしかないです‼︎」

 

「うぅっ…哀れになって来た…」

 

「にょろにょろっていうの⁇」

 

たいほうの純真な瞳が何故か痛い

 

「ニョロニョロだと思う…」

 

「たいほうちゃんの知ってる、コレの名前を言ってみて⁇」

 

「へび‼︎たいほう、へびでわなげしたいの‼︎」

 

「れーべとまっくすは⁇」

 

「ヘビ‼︎」

 

「蛇ね」

 

「答えは蛇よ‼︎はい‼︎」

 

「「蛇‼︎」」

 

俺達の返事を聞いた後、ローマは机に顔を置いた

 

「限…界…」

 

「また…教えてくれますか⁇」

 

鹿島はウルウルした目でローマに頼む

 

チョイずるい気もする

 

「そんな目されちゃ、断れないわね…いいわ。また教えてあげる。今日教えた事を忘れずにね…」

 

「大丈夫‼︎予習復習は基本です‼︎」

 

 

 

ローマの苦悩は、まだまだ続く…

 

 

 

to be continued…

 

「これは分かるぜ‼︎”続く‼︎”って意味だ‼︎」




これまでのレイ&鹿島の間違え記録


前回分

・ペンギン…ピンゲン

・牛…モーモーさん

・アヒル…ガーガーさん

・羊…メリーさん



今回分

・ブロッコリー…

レイ…ブッコロリ

鹿島…カリフラワー



・ヒヨコ…ピヨちゃん

・ラーメン…チュルチュル

・カエル…ケロさん、ケロケロ、ゲロゲロ

・救急車…ピーポー車(しゃ)

・蛇…ニョロニョロ


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88話 うさぎ姫

さて、87話が終わりました

ここに来て、もう一人追加です

”クイーンはボディ貰って、ヘラは無いんかクラッシュバンディクー‼︎”

とのメールを大多数、多方面から頂きましたので、早急に書きました

本当に申し訳ありませんでした。はい…

ヘラを忘れていた訳ではありませんので、ここでお詫び申し上げます

(正直こんなに言われると思ってなかった…)

てな訳で、今回はヘラがボディを手に入れるよ‼︎


「今日は予習をするわ」

 

食堂では、最近の日課であるローマの授業は開かれている

 

相変わらずレイと鹿島は時々トンデモナイ答えを言うけど、ピーポー車は救急車と覚えたみたいだ

 

僕は食堂を出て、工廠でいつもレイが使ってるパソコンの前に座り、キーボードを叩き始めた

 

《最近忙しい様ね⁇》

 

整備の為に工廠の隣に入っていたヘラとは、あの一件から話す事が多くなった

 

この基地にいる四人のAIの話す事はこのパソコンでも分かる為、格納庫が離れていても、話す事は出来る

 

ただ、僕だけいつもオフラインになっている

 

ここにいるからだ

 

「まぁね。でも、もうすぐ終わるんだ‼︎」

 

《新しい兵装かしら⁇》

 

「内緒っ‼︎すぐ分かるさ‼︎さっ、ヘラ。これ付けて‼︎」

 

僕がケーブルを持つと、ヘラは接続部を開けてくれた

 

《犬がきそを信用しなさいって》

 

「んっ。大丈夫。絶対痛くしないから‼︎」

 

《えぇ》

 

ヘラから離れ、建造装置の前に立つ

 

「いくよ‼︎」

 

《早くしなさい》

 

ボタンを押すと、翔鶴の時と同じ様に、数秒後に装置の真ん中のカプセルが開き、中から女の子が出て来た

 

「あら。これは…」

 

出て来た女の子は、翔鶴と同じ様に手を握ったり開いたりしている

 

「これがヘラのボディさ‼︎いい⁇この姿でいる時は、”叢雲”って名前だ。いいね⁇」

 

「叢雲…ま、気に入ったわ」

 

そしてすぐに叢雲は行動に移った

 

翔鶴と違い、ボディを与えられた事にあまり驚かない様だ

 

「食堂に行ってみようか⁇」

 

「きそ。犬は何処にいるの⁇」

 

「多分食堂だよ⁇」

 

「場所を教えて頂戴」

 

「一緒に行こう‼︎」

 

きそは叢雲の手を引き、食堂の出入り口まで来た

 

食堂の出入り口は全部で4つ

 

一つ目は、お風呂からの出入り口

 

二つ目は、みんなの部屋がある長い廊下に繋がる出入り口

 

三つ目は、外に繋がる工廠側の出入り口

 

4つ目は、埠頭がよく見える出入り口

 

僕達は4つ目の出入り口から、中の様子を見ていた

 

「あの丸眼鏡いつもキレてるわね。退きなさい」

 

「な、何よアンタ‼︎」

 

「私にやらせて。アンタじゃすぐキレるから無理よ」

 

ローマを退かし、叢雲はレイ達の前に座った

 

「犬。三問連続で正解しなさい。そしたらご褒美あげる。鹿島は後ね」

 

「ヘラか⁉︎」

 

「私語は慎みなさい。ではこれ」

 

見た限り、今日は応用問題だ

 

「ヒヨコ‼︎」

 

「次」

 

「ラーメン‼︎」

 

「次」

 

「牛‼︎」

 

ちゃんと正解してる

 

やっぱ物覚えはいいんだ…

 

「やれば出来るじゃないの。その調子で覚えなさい。次、鹿島」

 

「は、はいっ‼︎」

 

「これ」

 

「羊‼︎」

 

「これ」

 

「救急車‼︎」

 

「これ」

 

「カエル‼︎」

 

鹿島もちゃんと正解してる

 

「なぁに⁇二人共やれば出来るじゃない。心配して損したわ」

 

「いやぁ、ははは」

 

「褒められる程では…」

 

照れる二人だけど、普通あの歳なら知ってるはずの問題ばかりだ

 

「叢雲…って言ったわね⁇アンタ、二人に教えられる⁇」

 

ローマは叢雲を見てニヤついた

 

考えは見え見えだ

 

全部押し付けるつもりだ‼︎

 

「えぇ。犬を躾けるのは主人の役目でしょ⁇」

 

「じゃ、これお願い‼︎」

 

叢雲の前に、大量のフリップが置かれ、ローマは背伸びした

 

「う〜んっ‼︎助かるわ‼︎私、人に教えるの苦手なのよね‼︎」

 

「…ま、いいわ。二人共、取り敢えずはご褒美よ」

 

そう言って、叢雲は二人の口にクッキーを投げ入れた

 

「じゃ、行くわ。これ。ヒントは山にいるわ」

 

「山…」

 

「う〜ん…」

 

「最初の文字は”さ”よ」

 

「分かりました‼︎お猿さんですね⁉︎」

 

「そっ、正解。犬。お嫁さんの方がデキるわよ⁇アンタも頑張んなさい」

 

「お、おぅ‼︎」

 

叢雲の教え方は上手だ

 

最初にヒントを出し、分かりにくい様子なら、もっと分かりやすいヒントを出す

 

そして、答えたら少し褒める

 

間違えても怒らずに、これは何々だと、キッチリ教えている

 

そして数十分後に、叢雲教室は終わった

 

「ま、今日は上出来ね。これからも精進しなさい」

 

「「ありがとうございました‼︎」」

 

「叢雲‼︎」

 

帰って来た叢雲を捕まえ、ソファに座らせた

 

「教え方上手だね‼︎」

 

「私だってこれ位は出来ないとね…それに、誰だって知らない事は沢山あるわ⁇」

 

そう言って、叢雲はレイの方を見た

 

「世の中、知らない事だらけだと教えたのは犬の方よ⁇だから私は、犬の知らない事を教えるの…それでいいでしょ⁇」

 

「フムフム…やっぱり叢雲はツンデレなんだね…」

 

「何とでも言ってなさい」

 

そう言って、叢雲は口角を歪ませた

 

 

 

 

駆逐艦⁇”叢雲”が、艦隊の指揮下に加わります‼︎




叢雲…ヘラの別の姿

翔鶴と同じく、きそにボディを造って貰った

ヘラの時はドSが目立ったが、叢雲の時は少しだけマイルドになり、若干ツンデレが入って来た

物事を教えるのが上手く、ローマに代わってレイと鹿島の一般教養の教師になった

叢雲になると、若干視力が落ちるらしいから、きそに眼鏡を発注して貰っている

きそ「眼鏡は目下建造中‼︎」

ペタペタ触るのが好きな翔鶴と違い、此方は触られるのが好き。もしかしたら隠れMかも知れない

グレイゴーストのAIの時に、きそに見せて貰った映画の影響で、色んな事に興味を持ち始める

因みに一番好きな映画は、すぐ上のきそのセリフがヒント。分かる人いるんかな⁇

たこ焼きも好きだが、最近コンビニのおにぎりやサンドイッチに興味を持ち始めた


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89話 お嬢とうさぎの宝物(1)

さて、88話が終わりました

今回のお話は、恒例の新人武器回です

ヘラも叢雲も、何を貰うのかな⁇


「叢雲‼︎出来たよ‼︎」

 

きその手には、赤縁の眼鏡が握られている

 

「掛けてみてよ」

 

叢雲はきその手から眼鏡を取って掛けてみた

 

「あら。見やすいわ。ありがと」

 

「何かね、お便りの中に”叢雲の眼鏡からビームは出ないの⁇”ってのがあったから、ビームじゃないけど、電気ショックが出る装置を付けてみたんだ‼︎」

 

「れ、レーザー⁇」

 

「レイ‼︎これ、前の教官代‼︎」

 

「いらねぇよ。お前が取っとけ」

 

「あ、そう。じゃ頂くわ‼︎」

 

横須賀は札束を胸の谷間に入れた

 

「薄情な奴め…一回位断われよ…」

 

「何よ。アンタがくれるって言ったんでしょ⁉︎欲しいなら取ってみなさいよ、ほら‼︎」

 

「丁度いい‼︎横須賀さんが来たから、チョット撃ってみようか‼︎」

 

何度も言うが、きそは横須賀が嫌いである

 

そして横須賀を実験台にする時、目がキラキラする

 

「私、あの人嫌いなのよね。でも、大丈夫かしら⁇」

 

叢雲も横須賀が嫌いである

 

助けてくれた事には一応感謝はしているが、ポンコツ呼ばわりされたり、後の行動が最悪だったからである

 

「大丈夫大丈夫‼︎横須賀さんなら当たっても死にゃしないよ‼︎ホラホラ‼︎」

 

そう言って、きそは叢雲の背中を押す

 

「アンタ、段々レイに似て来たわね…」

 

「へへへ…」

 

少し違うが、きそは俺と良く似た頭の掻き方をした

 

「眼鏡の左側にボタンがあるでしょ⁇」

 

「えぇ」

 

「撃ちたい方を決めたら、そのボタンを押すだけ。簡単でしょ⁇」

 

「撃つわよ」

 

「いっけー‼︎」

 

叢雲は横須賀の方を向き、眼鏡のボタンを押した‼︎

 

「あばばばばばばばばば‼︎‼︎‼︎」

 

「うおっ⁉︎」

 

俺の目の前で横須賀はヨダレを垂らし、直立不動のまま痺れている

 

「おぉ…」

 

「あひゃひゃひゃひゃ‼︎」

 

「な、何すんのよ‼︎きそちゃんね…」

 

横須賀は叢雲を横切って行く

 

まさか誰も眼鏡から電気ショックが出るとは思わまい

 

しかも叢雲の隣にいたきそは既に居ない

 

「きそwalk‼︎」

 

きそは後ろ向きのまま、床を滑らかに滑って行く

 

…何処で覚えたやら

 

「くそっ‼︎」

 

「ふふふ…僕を捕まえられるかなぁ⁇」

 

きそは不敵な笑みを浮かべながら後ろ歩きを繰り返す

 

そんなきそを、横須賀は中々捕まえられない

 

「ハァ…ハァ…クソッ‼︎覚えてなさいよっ‼︎」

 

「にししし…」

 

きそは横須賀をおちょくり、大変楽しそうである

 

「犬。やっぱりきそは良い科学者ね。よく見えるわ」

 

「とっくに俺を超えてるかもなぁ…」

 

「それで…アンタは何を造ってるの⁇」

 

「新しい兵装さ。しかも最、強‼︎」

 

俺は叢雲に親指を立てた

 

「誰に付けるのかしら⁇」

 

「ここに来たらそいつ専用の艤装やら兵装をプレゼントするのが俺の流儀なんだ。ヘラにはあげてなかったからな。次はヘラだ」

 

「ふぅん…私には無いのかしら⁇」

 

叢雲が流し目で此方を見ている

 

「この兵装が上手く使えれば、叢雲にも使える様になってる。きっと気にいるぞ⁉︎」

 

「まっ、その兵装とやらを見てからね」

 

「いい返事だ。今付けるから待ってろ」

 

新しく出来たヘラの兵装は小型で、台車を使えば俺一人でも運べた

 

その兵装を装着するのは、背中部分

 

つまり機体上部だ

 

「この兵装は、ヘラのステルス機能を活かしたまま使える特殊兵装だ」

 

「変わった形ね…妨害電波の発生装置か何かかしら⁇」

 

「百聞は一見に如かずだ。叢雲、ヘラに戻れるか⁇」

 

「そこで待ってなさい」

 

ヘラはカプセルに入り、数秒後にはヘラに戻った

 

相変わらずどういう原理か不明だが、とにかく自由に出入り出来るのは助かる

 

「乗ってもいいか⁇」

 

《早くなさい》

 

いつも通り、ヘラに許可を入れてから彼女に乗る

 

「工廠の裏側をモニター出来るか⁇」

 

《これね》

 

ヘラのモニターに、工廠の裏が映る

 

《たいほうちゃんもいないわ。他の人影も見当たらない》

 

「それでいい。ドラム缶があるのは見えるな⁇」

 

《えぇ》

 

海上にはドラム缶が一つ、プカプカ浮いている



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質問コーナー2

霞が第四の壁を破壊して以来、かなりのスピードでお便りが届きました

沢山のお便り、本当にありがとうございます

ではでは、艦娘達に任せたいと思います


きそ「来たね」

 

霞「まさかの第二回よ!!」

 

きそ「今回は僕達の他にも登場するかもしれないから、お楽しみに!!」

 

 

 

霞「じゃ、一枚目!!」

 

Q、この作品には不倫要素が結構ありますが、作者さん的にはどのカップルがオススメですか??

 

 

 

きそ「一発目から難しくない!?」

 

霞「まぁ、確かに不倫カップルは多いわね」

 

きそ「ここにリストがあるよ」

 

・パパ&みほ

 

・パパ&ローマ

 

・レイ&横須賀

 

・レイ&プリンツ

 

・ワンコ&香取

 

・健吾&北上

 

霞「多いわね…」

 

きそ「消滅したのもあるけどね」

 

霞「レイと横須賀さん、健吾と北上なんて真っ最中じゃないの!?」

 

きそ「レイと横須賀さんは未だにアツいからね…」

 

霞「健吾と北上も、何か分かる気もするわ…」

 

きそ「ここに作者さんからの置き手紙があるから、これがアンサーだね!!」

 

 

 

A、レイと横須賀の関係が好きです

 

互いに連れ合いがいるのに、好きあってると言う感じが良いです

 

 

 

 

 

きそ「次いこう!!ドンっ!!」

 

Q、きそちゃんの手からみそ汁が出るようにして下さい!!

 

 

 

 

きそ「み、みそ汁!?」

 

霞「世の中とんだ変態も居たものね…」

 

きそ「こう、ギュウ~ってしたら出るようにしたらいいかな…ぐぬぬ…」

 

霞「ちょっと!!ホントに何か出てるわよ!!」

 

きそ「コップ一杯分は出たね」

 

霞「…飲んでみなさいよ」

 

きそ「う…うん…」ゴクリ

 

霞「ど、どう??」

 

きそ「あんまり美味しくないね…」

 

霞「マニアには高く売れるかもよ??」

 

きそ「じゃあ、“きそ汁”としてここに置いておこう。先着一名様にして、欲しい人が居るか試してみよう!!」

 

霞「アンサーはこうね」

 

 

 

 

A、きその手からみそ汁は出ませんが、作中一回だけ“しおいの生搾り”と言うものを飲んだ人物が居ます 笑

 

きそ汁が欲しい人のお便り感想もお待ちしております 笑

 

 

 

 

霞「次はこれよ!!」

 

Q、たいほうちゃんのおっぱい星人レベルはどんなものですか??

 

 

 

 

たいほう「よんだ??」

 

きそ「うわぁ!!いつの間に!?」

 

霞「たいほうちゃん、どんなおっぱいが好き??」

 

たいほう「むさしのおっぱい!!」

 

きそ「どんな感じが良いの??」

 

たいほう「やわらかいところ!!あのね、ぷりんつもやわらかいんだよ??ふかふかでぷにぷになの」

 

霞「ふかふか…」

 

きそ「ぷにぷに…」

 

たいほう「横須賀さんのちょっと硬いのもいいね。柔らかいのは垂れやすいんだけど、硬いのは垂れにくくていつまでも揉み応えがあるの。武蔵とか雲龍は柔らかいけど、あれは垂れないね。クーパー靭帯がしっかりしてるから、まだまだ揉めるね。プリンツのおっぱいは万人受けする最高のおっぱいだね。形、触り心地、揉み心地、どれも平均的でいいおっぱいだよ。ローマのおっぱいは柔らかすぎるね。でも垂れない。良いおっぱいだよ。はまかぜと照月はあの歳であのおっぱいなら、将来が楽しみだね。まだまだ育つよ、アレ。グラーフは健康的でハリがあって良いお乳が出そうだね」

 

きそ「た、たいほうちゃん…??」

 

霞「え~…」

 

たいほう「そこの君ね。たいほうにおっぱいの事質問したのは。今からそっちに行くから、そっちでじっくり話しましょう??」ヨジヨジ

 

きそ「うわぁ!!たいほうちゃん!!小説の枠を超えないで!!」グイグイ

 

霞「そうよ!!第四の壁を破壊出来るのは私だけよ!!」グイグイ

 

たいほう「わかった!!」

 

きそ「ふぅ~…」

 

霞「はぁ~…」

 

たいほう「たいほう、パパとすてぃんぐれいとおやつたべてくるね!!」

 

きそ「う、うん!!後は僕達に任せて!!」

 

霞「私達はもう少しここにいるから!!」

 

たいほう「はやくかえってきてね??」

 

きそ「わ、分かった!!」

 

たいほう「ばいば~い!!」

 

霞「ふぅ~…」

 

きそ「たいほうちゃんはおっぱいの話になるとヤバイね」

 

霞「二度としないわ…こっちがヒヤヒヤする」

 

きそ「あ、アンサーはこうだね」

 

 

 

 

 

A、ご覧の通り、性格が変わるレベルです

 

おっぱいソムリエです、はい

 

 

 

 

 

 

きそ「次はまともそうだよ!!」

 

Q、裏話があれば教えて下さい!!

 

 

 

 

 

霞「やっと普通のが来たわ…」

 

きそ「リストがあるね。え~と…閲覧注意だって!!」

 

霞「まぁ、その内容なら閲覧注意でしょうね」

 

きそ「とりあえずリストを下に書くね」

 

 

 

 

 

 

 

 

裏話①レイとプリンツが何故ケッコンしなかったか

 

勿論鹿島との過去の話もあるが、実は二人は兄妹

 

それを知っているのはプリンツのみ

 

生き別れたのではなく、レイは産まれた時に捨てられ、その後にプリンツが産まれた

 

 

 

 

 

 

裏話②レイとプリンツの妹

 

レイとプリンツには妹がいる

 

Uちゃん

 

Uちゃんもレイが捨てられた後に産まれ、虚弱体質のため捨てられ、ミハイルが保護する

 

つまり、ミハイルとグラーフが結婚すると、グラーフはレイの義理の妹になる

 

 

 

 

 

裏話③パパのお父さん

 

実は既に作中に出て来ている

 

やたらとたいほうに優しくして、コルセアを必死に直そうとしてたあの人

 

最初からパパの部隊を知っていたのは、有名なのもあるが、実は父親だった為

 

 

 

 

 

裏話④パパとローマ

 

パパとローマは本当に兄妹

 

勿論リットリオも兄妹

 

となると出て来るのがリベッチオ

 

大変な暴露をするが、リベッチオはパパとローマの子供

 

過去に一回だけ兄妹と知らずに体を重ねた時に出来た

 

何の異常もなく産まれ、天真爛漫に育つ

 

 

 

 

 

 

きそ「いやいやいやいや!!ちょっとちょっとちょっとちょっと!!」

 

霞「大暴露じゃないの!!」

 

きそ「①~③はまだしも、④って…えぇ~!?」

 

霞「まままままぁ、こここれも愛の形じゃないの!?」

 

きそ「あああアンサーはこうなるのかな!?」

 

 

 

A、全部裏話です

 

ですが、この裏話が本当なら、これから語っていくかも知れません

 

 

 

 

 

 

霞「暴露すぎて参ったわ…これが最後ね。全部一人に宛てられたものよ」

 

Q、叢雲とヘラの出番をもっと増やして下さい!!

 

Q、叢雲に踏まれたい!!

 

Q、ヘラ様!!もっと罵って下さい!!

 

 

 

 

きそ「てな訳で、ゲストの叢雲さんをお呼びしました!!」パチパチ

 

霞「いらっしゃい!!」パチパチ

 

叢雲「どうも」

 

きそ「で、まぁこんなお便りが届いてるけど、どう思う??」

 

叢雲「嬉しい限りね。これで出番が増えると良いけど…」

 

霞「アンタ、叢雲になってから若干デレてない??」

 

叢雲「罵声を浴びせるだけがSの役目ではないわ。素直さも大事なのよ」

 

きそ「作中でもレイにデレてるよね」

 

叢雲「犬は特別よ。あれだけタフなパイロットは見た事無いわ」

 

霞「いい、叢雲。レイはみんなの物。独り占めしちゃダメよ??」

 

叢雲「犬を独り占め??主人は私よ??」

 

霞「そうだった…」

 

きそ「叢雲には勝てないよぉ…」

 

叢雲「犬は私のもの。だけどレイは貴方達の好きになさい」

 

霞「それってどういう…ムグッ!!」

 

きそ「オーケー!!そうさせてもらうよ!!」

 

きそ(ここで喧嘩しちゃダメだよ??)

 

霞(分かったわ)

 

叢雲「踏まれたい…罵って欲しい…アンタ達はそれしか考えないのね。ま、いいわ。この私にもファンが増えたって事なんでしょ??」

 

きそ「そう!!叢雲には早くもファンが付いてるんだ!!」

 

霞「アンタは四位よ」

 

きそ「現状の順位はこうだよ」

 

 

 

 

一位…きそ

 

二位…ハンマー榛名

 

三位…霞

 

四位…叢雲

 

 

 

 

 

きそ「やったぁ!!ついに榛名さんを抜いたぁ!!」

 

霞「私も上がってるわ!!」

 

叢雲「ふぅん…まぁまぁな順位じゃないの」

 

きそ「満足満足♪♪」

 

叢雲「アンサーはこうよ」

 

 

 

 

 

A、増やします。必ず

 

A、踏むシーンを増やしますから、それで一つ 笑

 

A、罵りシーンはこれからも沢山あります!!お楽しみに!!

 

 

 

 

 

 

きそ「今回も楽しかったね!!」

 

霞「暴露のインパクトが強すぎて、ほとんど頭に入ってないわ…」

 

叢雲「え??何??私に伝言??」

 

叢雲「叢雲を質問コーナーの準レギュラーにします…ですって!!」

 

きそ「やったね!!これからはもっと盛り上がるよ!!」

 

霞「忙しくなるわね…ふふっ!!」

 

叢雲「御便りや御感想、待ってるわよ!!」



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89話 お嬢とうさぎの宝物(2)

「特殊兵装欄の”MSW”を起動して、ドラム缶に標準を合わせてくれ。ビックリするぞ⁇」

 

《こうかしら》

 

時間にして約二秒

 

ドラム缶は内部爆発を起こした

 

「おしっ、完璧な出来だな‼︎」

 

《標準を合わせるだけなのかしら⁇》

 

「そっ。細かい動きは嫌いだろ⁇」

 

《よく分かってるじゃない》

 

Micro Shock Wave…通称、MSW

 

特殊な電磁波を物体に照射し、内部爆発を起こさせる兵装だ

 

「人間には当たらないし、味方にも当たらない様にしてある。安心して使えばいい」

 

《中々やるじゃない》

 

「ちゃんと俺達を護ってくれよ⁇」

 

《面倒の掛かる犬ね…全く》

 

ヘラはふふふと笑う

 

ここの基地に来てから、ヘラは笑う事が多くなった

 

…叢雲はどうか、まだ分からないが

 

「さ、今度は叢雲に戻って試してみよう」

 

 

 

叢雲に戻ったヘラは、俺が待つ工廠の中心に来た

 

「これだ」

 

俺の前には、ウサ耳の様なパーツが二つ置かれている

 

「これは後頭部に付ける。後ろ向いてみ」

 

後ろを向いた叢雲の後頭部に、そのパーツを付ける

 

「おっ。よく似合ってるぞ⁇」

 

「鏡を見たいわ」

 

鏡を見せると、叢雲は体を一周させた

 

「中々いいじゃない」

 

「じゃ、もっかいやってみようか。野郎共‼︎ドラム缶配備ぃ‼︎」

 

”よっしゃ分かった‼︎”

 

妖精達がドラム缶を洋上に浮かべる

 

「やり方は簡単。見詰めればいい」

 

「どれ…」

 

叢雲は流れて行くドラム缶を見詰めた

 

叢雲は気付いていないが、叢雲がドラム缶を見詰めている最中、ウサ耳が赤く発光している

 

此方はヘラより少し遅い約五秒後、ドラム缶は破裂した

 

「ちょっと反応が遅いわね…」

 

「戦闘機と”人間”じゃ、反応速度も違うさ。まっ…」

 

俺は叢雲の頭に手を置いた

 

「あっ…」

 

「上手く使えよ⁇俺の力作なんだぞ⁇」

 

「あ、うん…」

 

その時、叢雲は何と無く分かった

 

この人は、私達を”兵器”としてではなく、一人の”人間”として見てくれる…

 

みんな、彼やパパに着いて行く理由が、少し分かった気がした

 

「あれ⁇きそは⁇」

 

「捕まえ…られなかった…」

 

横須賀が工廠のど真ん中で仰向けになって倒れている

 

「ムカつく乳ね」

 

「乳だけが自慢なんだよ。許してやれ…」

 

「な、何ですって⁉︎」

 

横須賀が二人におちょくられている最中、きそは基地内の何処かに立ち、何かを見詰めていた

 

「待ってて。僕がお母さんに会わせてあげる…」

 

 

 

 

MSW…叢雲とヘラの兵装

 

Micro Shock Waveの略で、目に見えないマイクロ波を物体に照射する兵器

 

無機質な物にしか効かず、人間や生き物に向けても効果は無い

 

短時間照射するだけで、物体内部で爆発を起こし、一気に破壊するトンデモ兵器

 

ヘラ使用時のみ、一度に数個照射可能



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90話 つむぎびと(1)

さて、89話が終わりました

今回のお話は、前回のお話のラストできそが言っていたセリフの意味が明らかになります


朝早くから、麦わら帽子を被ったきそが、私の所に来た

 

「パパ、イ級のお墓掘ってもいい⁇」

 

あまりにも突然過ぎる許可入れ…

 

「墓はマズいなぁ…何かしたいなら、横須賀から…」

 

「違うんだ‼︎イ級にも新しいボティをあげるんだよ‼︎ヘラやクイーンだけじゃダメだ」

 

「そんな事まで出来るのか⁇」

 

「僕を信じて」

 

きその目は本気だった

 

嘘は無いと感じた

 

「…分かった。でも、もし出来なかったら、ちゃんと元通りにする事。いい⁇」

 

「分かった‼︎行ってきま〜す‼︎」

 

きそはスコップとデカイ瓶みたいなの台車に乗せて、イ級の墓に向かった

 

「ふぁ〜あ…おはよう〜」

 

レイが起きて来た

 

「きその声がした気がした。どこいった⁇」

 

「イ級の墓だと」

 

「墓参りとはっ…感心するねぇ。ありがと」

 

レイが椅子に座ると、いつも通りはまかぜがミルクを渡す

 

「イ級にもボティをやるんだと」

 

「今のきそならやりかねんな…」

 

しばらくそんな話をしていると、きそが帰って来たのが見えた

 

台車には土だらけになったスコップと、イ級の亡骸を入れる為の液体の入った瓶が乗っている

 

「どれっ‼︎ちょっくら覗きますか‼︎ごちそうさん‼︎」

 

レイはミルクを飲み干し、工廠に向かった

 

 

 

 

 

俺が工廠に着いた頃には、きそは建造装置の中心にイ級の亡骸を入れていた

 

「本当に出来るのか⁇」

 

「知能部分は機能停止してるね…」

 

イ級を見るきその目は本気だ

 

「でも、イ級ならまだ”機械”の体だ‼︎機械なら僕は直せる‼︎」

 

きそは建造装置を弄り、どんどんイ級の知能部分を解析して行く

 

そして数分後…

 

「よし‼︎ビンゴ‼︎」

 

俺が普段使っているパソコンのモニターに、何やら数式や文字列が表示された

 

「これがイ級の頭脳なんだね…」

 

きそが見惚れている文字列の中には、俺にも読めるものもあった

 

「オカー…シャン⁇」

 

「お母さんの事じゃないかな⁇ほら、スカイラグーンのル級さん‼︎」

 

「あぁ‼︎なるほど‼︎」

 

「これがあれば新しいボティに転送可能だ‼︎これを建造装置に送って…」

 

情報を送ると建造装置が動き始めた

 

後はスイッチを押すだけだ

 

「さ〜て、どんな感じかなぁ⁇」

 

きそはスイッチを押した

 

数十秒後、中から少女が出て来た

 

「ここは…」

 

「出た‼︎よいしょっと‼︎」

 

きそは数段の階段を飛び降り、出て来た少女に駆け寄った

 

「スゲェ…」

 

きその頭脳は、既に俺の理解を超えていた

 

流石の俺でも、死んだ奴を別のボティに入れ替えるのは無理だ…

 

「気分はどうかな⁇」

 

「あ…えと…」

 

少女はきそを見るなり、両手の人差し指を合わせてクルクルし始めた

 

恥ずかしがり屋の様だ

 

「僕はきそ‼︎こっちはレイ‼︎」

 

「あ、あの…私は…いきゅ…」

 

「君は生まれ変わったんだ。今から君の名前は”潮”。いいね⁇」

 

「潮…」

 

潮と呼ばれた少女は下を向いたが、嬉しそうな顔はしている

 

「あ、あの…おかーしゃんは…」

 



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90話 つむぎびと(2)

「会いに行く⁇」

 

「う…うん‼︎」

 

「よ〜し。まずはパパにご挨拶だな‼︎」

 

「パパ…」

 

「最後まで君を助けようとしてくれたんだぞ⁇」

 

潮を連れて、隊長の所に戻って来た

 

「おぉ‼︎どうした、新入りか⁉︎」

 

「ほらっ」

 

「あ、あの…う、潮です。イ級の時に助けようとしてくれて、ありがとうございました‼︎」

 

「…上手く行ったみたいだな‼︎」

 

「パパ、潮をル級さんの所に返してあげようと思うんだ」

 

「よし、私も行こう‼︎潮、君は私の機体に乗ってくれ」

 

「は、はい‼︎」

 

隊長に連れられ、潮はクイーンに乗り込んだ

 

「お母さんの所に帰れるんだね…良かった…」

 

潮を見るきその目は、嬉しい反面悲しそうな感じがした

 

「きそ」

 

「ん⁇」

 

「きそもやっぱ、お父さんやお母さん、欲しいか⁇」

 

そう言うと、きそは俺に抱き着いた

 

「レイがお父さんじゃないの⁇鹿島がお母さんで、レイがお父さん…」

 

「きそ…」

 

きその頭を撫でる

 

そっか、やっぱり俺をお父さんと思っていたのか…

 

俺はきその事をずっと妹だと思っていたが、きそは違ったんだな…

 

だから俺が”お兄ちゃん”と呼ばせようとした時、抵抗してたのか…

 

「しおいも僕も、レイの子供って事にしてよ」

 

「あ…当たり前だ‼︎ホラ、行くぞ‼︎」

 

フィリップに乗り、スカイラグーンを目指す

 

 

 

 

 

スカイラグーンに着くと、四人で喫茶ルームに入った

 

「あ‼︎」

 

ル級さんを見るなり、潮は反応を示した

 

「おかーしゃん‼︎」

 

たまたまロビーに出ていたル級に抱き着き、お腹に顔を埋める潮

 

「コノヨビカタ…マサカ‼︎」

 

「ル級さんの子供だよ。潮って名前で、生まれ変わったんだ‼︎」

 

「アァ…ウシお…」

 

「おかーしゃん‼︎」

 

ル級さんは潮をキツく抱き締めた

 

「ヤッぱり…アナタタちにツイて…良かった‼︎」

 

「来た‼︎」

 

「おぉ‼︎」

 

潮と会うなり、ル級さんが艦娘に変わる前兆が見られた

 

「え⁉︎え⁉︎な、なに⁉︎」

 

何が起こっているのか分からず、きそはアタフタしている

 

「そうか、きそは見るの初めてだな…感動的なシーンだ。滅多に見れないから、よく見とけ」

 

言っている間に、ル級さんは艦娘になっていた

 

「幸せだわ…もう一度、貴方を抱き締められるなんて…」

 

「もうル級さんって呼べないな」

 

「”扶桑”とお呼び下さい‼︎」

 

扶桑は潮を離さずに此方を向いた

 

うっすら涙を浮かべてはいるが、心底嬉しそうな顔をしている

 

「おかーしゃん、潮もここにいる‼︎」

 

「宜しいですか、御三方⁇」

 

「その為に連れて来たんだ。いい親子になってくれよ⁇」

 

「ありがとうございます‼︎ささ、皆さん、何かお上りになって下さいませ‼︎」

 

「ビール‼︎」

 

「ビール‼︎」

 

「ヨーグルトドリンク‼︎」

 

いつもと変わらない注文をし、カウンター席に座ると、深海の子達が集まって来た

 

「フソーサン‼︎」

 

「ワタシモイツカナレル⁉︎」

 

扶桑は俺達の飲み物を作りながら、深海の子達の受け答えをしている

 

「ビール二つ、ヨーグルトドリンクお待たせしました‼︎」

 

幸せな彼女の笑顔は、これ以降絶える事は無かった




潮…扶桑の娘

きそが一度死んでしまったイ級の亡骸から知能部分のデータを取り出し、新しい体になった姿

小柄な割に、胸が大きい

時々パパの基地に来ては、たいほう達と遊んでいる姿が目撃されている

男の人に変な事を言われたりされたりする時の返し言葉は

「貴様、潮に乱暴する気だな‼︎エロ同人みたいに‼︎イーーーーーッ‼︎」

時々、イ級の時の癖が抜けてない所が可愛い





扶桑…潮ママ

ル級さんが艦娘になった姿

妖艶な雰囲気で男衆を惑わせるが、本人にそんなつもりは無い

鳳翔さんと仲が良く、戦争が終われば、扶桑は小さなバーを開きたいらしい

どこかのゲームの扶桑と違い、夢や希望に満ち溢れており、とっても幸せ

悩んでいる男性がいれば、娘の潮の様に「エロ同人みたいに‼︎」とかは言わず、包容力のある体で抱き締めてくれる


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91話 強襲

さて、90話が終わりました

今回のお話は、次の話と繋がっていますが、題名が異なります

久し振りの戦闘だよ‼︎


俺と隊長は、今日は朝から哨戒任務にあたっていた

 

《敵影無し…そろそろ一服するか⁇燃料も無い》

 

「そうだな…暇でしょうがない」

 

《よし、スカイラグーンで一旦休憩…いや、待て‼︎何だこの数‼︎》

 

「何って…」

 

ギリギリまでレーダーに映らなかった敵機

 

しかも四方八方塞がれていて退路も無い

 

「光学ステルス機…フィリップを真似やがったか‼︎」

 

《レイ、やれるか⁉︎》

 

「やるだけやってやるさ‼︎メーデーメーデーメーデー‼︎此方横須賀分遣隊‼︎所属不明の光学ステルス機に囲まれた‼︎救援求む‼︎」

 

だが、ノイズ音が聞こえるだけで、誰の応答も無い

 

《レイ‼︎電子戦機がいるみたいだ。半径数キロ以内は私達の無線しか使えない‼︎》

 

「チクショウ‼︎二機だけでコレだけの数をやるのかよ‼︎」

 

その言葉通り、俺達は追い込まれて行く

 

高度を取ろうが追い付かれ…

 

スピードを上げても追い付かれ…

 

ロックオンすれば消える…

 

亡霊を相手にしている様だ

 

「チクショウ‼︎誰か居ないのか‼︎」

 

《貴様等は戦場と言う名の歴史に出過ぎた。ここで落ちろ》

 

混線だ

 

ここまで色濃く入ると言う事は、よっぽど多くの敵に囲まれている

 

《レイ‼︎ミサイルだ避けろ‼︎》

 

「チッ‼︎」

 

機体を光学迷彩で隠し、何とか回避する

 

が、依然状況は変わらない

 

「チクショウ‼︎誰か応答しろ‼︎」

 

《お困りの様ね》

 

聞き覚えのある上から目線の声が聞こえたと思えば、後方の敵機がいきなり爆発四散した

 

《主人が居なけりゃ、何にも出来ないのかしら⁇》

 

「ヘラ‼︎」

 

爆発の理由は、MSWの照射だ

 

「敵が見えるのか⁇」

 

《えぇ。私のレーダーなら、光学迷彩を起動されても分かるわ。スペンサー、各機にデータを転送して頂戴》

 

《了解、レディ》

 

「はっ‼︎」

 

上空を見上げると、遥か上にスペンサーが居た

 

あんな上空に居れば、戦闘機レベルじゃ迎撃も出来ない

 

《こちらラバウル航空戦隊。助けに来ましたよ、サンダーバード隊‼︎》

 

《こちらイェーガー。まずは彼等を護る》

 

《ヘルハウンド隊もいるよ〜》

 

「オールスターじゃねぇか‼︎どうして⁉︎」

 

《お嬢様に泣き付かれたらなぁ…》

 

「ケッ‼︎今回は素直に受け取ってやらぁ‼︎」

 

アレンの声だ

 

どうやらヘラが救援を要請してくれたらしい

 

…後でヘラに怒られるな、アレン

 

《レイ、お前も隅に置けないなぁ。妻がいるのに無人機を口説き落とすとは…》

 

「うるせぇ‼︎」

 

《アレン…と、仰いましたか⁇後で覚えてなさい》

 

「一応…謝っとけ。な⁇」

 

《お、おぅ…すまん‼︎》

 

《私が寛大な心を持っていた事に感謝なさい》

 

《お前が好きそうだな》

 

「俺はMじゃねぇぞ‼︎オラァ‼︎こいつで終いだ‼︎」

 

流石はエース級部隊が結集しただけある

 

喋りながら私語モリモリで敵機を落として行き、俺が落としたのが最後の一機だった

 

《レーダークリア。最後の最後が電子戦機だったな…レイ、大丈夫か⁇》

 

「俺は大丈夫だ。隊長は⁇」

 

《完☆璧‼︎》

 

隣に来たクイーンのコックピットから、隊長が親指を立てているのが見えた

 

《こちら横須賀鎮守府。サンダーバード隊、応答願います‼︎》

 

「ようやく繋がった…おい‼︎聞こえるか横須賀‼︎」

 

《聞こえるわ。タウイタウイの提督が此方に着くって連絡があったけど、アンタ達、何か知らない⁇》

 

大体予測は出来たが、一応念の為聞いてみた

 

「光学ステルス機を飛ばしたか⁇って、聞いてみてくれ」

 

《分かったわ。とにかく、全員横須賀で整備と補給を受けて。いいわね‼︎》

 

「はいはい」

 

オールスターキャスト一同は、横須賀に向かう事になった

 

その途中、再び横須賀から連絡が来た

 

《何人かのパイロットが、試作段階の機体で出撃して、アンタ達に攻撃したって言ってたわ》

 

「やっぱな…ようこそ戦争の無い世界へ、って言っとけ」

 

《分かったわ。で、長門がその部隊に攻撃を受けて、轟沈寸前で帰って来たの。今大変な状態だから、アンタときそちゃん、降りたら手伝ってくれる⁉︎》

 

「先に言え‼︎分かった‼︎俺も整備長に話があるんだ‼︎」

 

数分後、横須賀に降り、俺ときそは工廠に走った



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91話 老楽の恋

とある艦娘が除籍されます


8月15日…

 

横須賀はパニックに陥った

 

あの”長門”が轟沈寸前の状態で帰投したからだ

 

敵は好戦派の戦闘機部隊

 

艦娘なのに、最新鋭の戦闘機相手に、良くここまで頑張ったと言いたい

 

「急ぎ入渠ドックへ搬送‼︎」

 

「はっ‼︎」

 

とうとう、私にもヤキが回った様だ…

 

全く、今日で定年だと言うのに…

 

最後の最後で大仕事…か

 

長門が入渠ドックに放り込まれたが、傷が深く、もしかしたらの事態も有り得る

 

妖精や工兵をフルに使い、数時間が過ぎた

 

「サンダーバード隊帰還‼︎全機撃墜だってよ‼︎」

 

その名前を聞き、窓の外を眺める

 

白い機体に続き、黒、グレー、そして再び黒い機体が着陸する

 

私が目をやったのは、先頭の白い機体

 

その機体が帰って来たのを見届け、長門に目を戻す

 

「お前達‼︎長門は私に任せなさい‼︎サンダーバード隊及び後続機の修理補給に当たれ‼︎」

 

「はっ‼︎」

 

若い工兵達が、英雄の帰還を喜んだ

 

彼等にとって、サンダーバード隊やラバウル航空戦隊は憧れの存在

 

機体の整備一つでも、勉強になる

 

「整備長…」

 

「長門‼︎」

 

ようやく長門が意識を取り戻した

 

「ここは…横須賀か⁇」

 

「そうだ。もう大丈夫だからな‼︎」

 

「私は…負けたのか⁇」

 

「大丈夫。人間誰しも負ける事はある。仇はサンダーバード隊の皆が取ってくれた」

 

「すまないと伝えてくれ…もう少し、眠りたい」

 

「あぁ。おやすみ…」

 

特殊な液体に浸かっている長門の体は、これでもかと傷んでいた

 

今まで山程大破艦を見て来たが、ここまでの傷は初めてだ

 

そして、また一時間、二時間と過ぎて行く…

 

工廠に残っているのは、とうとう私だけになってしまった

 

「整備長…ずっとそこに居てくれたのか⁇」

 

「長門‼︎」

 

長門が目を覚ました

 

「艤装は…もう付けられないな」

 

「長門…すまない。私の腕ではここまでだ…」

 

「フッ…」

 

長門は私の顎を持ち、顔を近付けた

 

「ありがとう、整備長。貴方は私を最後の最後まで”人間”として接してくれた…」

 

「長門…」

 

自分の拙い腕を恨む

 

こんな私でも、長門は好いていてくれている

 

「さぁ、最後の治療をしよう。横になって」

 

「うぬ」

 

長門は横になり、もう一度体を液体に漬けた

 

だが、恐らくは…

 

「はぁ…」

 

もう半日以上はこうしている…

 

流石に私にも疲労が見え始めた

 

老体には堪えるな…

 

「お困りの様だね⁉︎」

 

声のする方を向くと、きそちゃんとスティングレイが立っていた

 

そうか、彼女はフィリップのAIだから、スティングレイと一緒に来たのか

 

「バトンタッチだ。後は任せて‼︎」

 

「…すまない。少し休ませて貰うよ」

 

「っと。その前にレイが何か話があるって‼︎」

 

レイは何か封筒を持っていた

 

「すまない。調べるのに少し時間が掛かった」

 

突き出された封筒を開けると、中には血縁関係を示す書類が入っていた

 

そこには、私の知っている人物の名が書かれていた

 

「子…ウィリアム・ヴィットリオ…」

 

「間違いは無い。貴方は隊長の父親だ」

 

「ふ…やっぱりな。薄々気は付いていたんだ」

 

その書類の”ウィリアム・ヴィットリオ”と書かれた上には”市原勇”と書かれていた

 

私の名だ

 

そして、ウィリアム・ヴィットリオとは、彼、マーカス・スティングレイの隊長に当たる人物

 

妻は貴子て書かれている

 

娘も居る

 

二人の名前の下に”たいほう”と書かれている

 

「隊長の娘だと知ってて、たいほうに優しくしてくれたのか⁇」

 

「…そんな所だ」

 

「整備長」

 

ゆっくりではあるが、きそに支えられながら長門が来た

 

「おじさん…長門はもう…」

 

「長門…」

 

「すまない…私はここまでみたいだ…」

 

私達ときそちゃんは最善を尽くしたが、長門は艤装を装着出来る機能を失っていた

 

残ったのは”長門”のボディだけ…

 

「整備長は今日で定年だったな」

 

「あ、あぁ…」

 

「ありがとう…最後の最後で、このザマですまないな…」

 

「ふ…」

 

長門とは長い付き合いだ

 

ここに来て、艦娘を知って、それからずっと知っている

 

ここだけの話だが、休暇の日に二人で繁華街に出掛けた事もある

 

軍神である彼女の事を尊敬していたが、それ以前に彼女は一人の女である事を忘れなかった

 

「長門。私はこれから艦娘居住区で暮らす事になるんだ」

 

「そうか‼︎整備長がいれば、艦娘達も何かあれば安心だな‼︎」

 

「長門も来るかい⁇家は一つだし、老楽の恋だけど…君が良ければ‼︎」

 

スティングレイときそちゃんの口が開いたまま塞がらない

 

そりゃそうか

 

いきなりのプロポーズだもんな

 

「…私で良いのか⁉︎私で良ければ、貴方に付き添おう‼︎」

 

「宜しく頼むよ」

 

「…レイ」

 

目をウルウルさせながら、きそは口を開いた

 

「恋って、幾つになってもいいね」

 

「そうだな…年老いても、恋は恋だ」

 

 

 

 

数日後、横須賀基地から二人が除名された

 

整備長…市原勇

 

艦娘…長門

 

「長門、ありがとうね…」

 

「提督、最後まで付き合えず、すまない」

 

「ううん…気にしなくていい。整備長と末長くお幸せにね⁇」

 

「…あぁ‼︎」

 

横須賀は長門にあれこれ言わず、彼女の第二の人生を快く送ってやる事にした

 

長門は最後の最後まで、その勇ましさを忘れずに横須賀基地を後にした

 

 

 

 

一週間後…

 

基地に一枚のハガキが届いた

 

「隊長、手紙だ」

 

「どれっ…」

 

ハガキの送り主は、艦娘居住区からだ

 

「市原勇…親父⁉︎」

 

隊長には、整備長に話す前に一応話した

 

隊長も何と無く気付いていたが、確信が得られず言い出せなかったらしい

 

そして、整備長と長門がこうなった今、再び親子関係を取り戻そうとしている

 

「長門は良き妻です。年老いて、もう一回恋したっていいよね‼︎だと」

 

「ははは…」

 

ハガキには、デレデレの長門と、ハイテンションな整備長が写っていた…

 

 

 

 

横須賀基地所属、長門が除籍されました




長門…横須賀鎮守府最強艦娘

ハンマー榛名と肩を並べる程、歴戦を潜り抜けた艦娘

下記の四人の戦艦は”四天王”と呼ばれ、恐れられている

単冠湾のハンマー榛名

サンダーバード隊隊長撃墜の武蔵

ラバウルの新妻大和

そして、横須賀の喧嘩番長長門

と、呼ばれる程に強かったが、タウイタウイ泊地のパイロット達が独断でクーデターを開始した際に攻撃を受け、再起不能に陥る

今はパパのパパと一緒に、第二の超☆甘々な生活を送っている

抜けた四天王に誰が入るかは内緒





市原勇…パパのパパ

たいほう達のパパのお父さん

整備長として横須賀で勤務していたが、定年を迎えるその日に長門の大破の修復を担当する

実は艦娘であった時から長門とはチョットした恋仲であり、本人は”老楽の恋”だと言っているが、長門は本気

現在は艦娘居住区で長門と超☆甘々な新婚生活を送りつつ、長門と一緒に世界各国を回るのが楽しみ




余談だが、彼が現れた事により、パパの苗字が”市原”だと言う事が判明した


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92話 お芋戦争(1)

さて、91話が終わりました

今回のお話は、下の話が多いです

嫌いな人はターンした方がいいかも⁇


最近、武蔵がオヤツの作り方を覚え始めた

 

フライドポテト

 

ポテトチップ

 

スイートポテト

 

芋系ばっかりだ‼︎

 

理由はただ一つ

 

タウイタウイの提督が、詫びとして大量にジャガイモやサツマイモを送ってくれたからだ

 

たいほうがやたらと気に入り、パクパク食べている

 

外で遊ぶ時も、何処かで食べているのか、きそに作って貰った、保冷保温機能が付いたリュックの中にスイートポテトを幾つか入れて出掛けて行く

 

武蔵もご満悦だ

 

確かに美味しいし、揚げ物系は武蔵の得意分野だ

 

だが、一つ問題が生まれる

 

芋には付き物の、あの現象…

 

 

 

ある日の朝、少し多めに睡眠を取っていると、急に息苦しくなった

 

腹の上に誰か乗っている

 

重さ的には子供の様だ

 

「ん〜っ‼︎」

 

声が聞こえた次の瞬間、爆発音の様な音が響いた後、呼吸が出来なくなった

 

「かっ…は…‼︎」

 

飛び起きて喉を抑えながら換気の為に窓を開けに向かうが、短距離の道中に呼吸困難に見舞われた

 

「だから…毒ガスは、嫌い…なん…だっ…」

 

どうやら、誰かが毒ガスを撒いた様だ…

 

俺はその場に倒れた

 

 

 

 

気が付くと、食堂のソファで横になっていた

 

「気が付いたかしら⁇」

 

横にはローマときそがいた

 

「ローマ…毒ガス⁉︎誰が散布したんだ⁉︎」

 

「毒ガスじゃないわ。たいほうのオナラよ」

 

「いや、ありゃ毒ガスだ。呼吸困難になった」

 

「たいほう⁇レイの顔にオナラしちゃダメでしょ⁇」

 

「ごめんなさい…」

 

テレビの前に座っていたたいほうはシュンとしている

 

「とにかく、たいほうのオナラよ」

 

「毒ガスじゃないだけウンとマシだな」

 

ローマの横で、きそは不気味に微笑んだ…

 

 

 

 

「たいほうちゃん‼︎」

 

「ん⁇」

 

工廠の中から、きそが手招きしている

 

たいほうはきそが招くがままに工廠に入ると、中には新しい装置があった

 

「芋自動調理機だよ。ここにお芋を入れてボタンを押すと、料理が出て来るんだ‼︎」

 

「さつまいも」

 

たいほうはリュックからサツマイモを取り出した

 

「どれにする⁇」

 

「やきいも‼︎」

 

「分かった。チョット待っててね⁇」

 

きそがボタンを押すと、たいほうは取り出し口の前にチョコンと座って、出て来るのを待っている

 

3分程すると、ホカホカの焼き芋が出て来た

 

「でてきた‼︎」

 

「レイの椅子に座って食べていいよ‼︎」

 

「いただきます‼︎」

 

いつもは俺が座っている椅子に座り、たいほうは焼き芋を食べ始めた

 

「おいしい‼︎」

 

「そっか、良かった良かった」

 

きその狙い目は、芋自動調理機の出来にもあったが、今回はそれだけではなかった

 

「ごちそうさま」

 

たいほうはゴミ箱に焼き芋の皮捨て、レイのパソコンから聞こえる三機のAIの音声との会話を楽しむ

 

そして、数分後…

 

その時は来た

 

「ん〜っ‼︎」

 

「来た‼︎」

 

たいほうが急に気張り始めた

 

きそが狙っていたのは、たいほうから出るガス

 

レイが気を失う程の威力なのだ

 

何かあるに違いないと感じたきそは、ガスマスクをしてまで完璧な防御措置を取り、工廠の影に隠れていた

 

椅子の裏側には袋が付いており、そこにガスは溜まる

 

たいほうが離れた隙に袋を取り、工廠に回す

 

そして、成分の解析を始める

 

「ほほぅ…気絶、失神、呼吸困難にさせるには充分だね…よし、量産だ‼︎」

 

数時間後…

 

きその手には、試作ガス兵器が握られていた

 

手榴弾の様に投げて、半径

 

「横須賀さん辺りで一発試そうかな…うっふっふっふっふ…」



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92話 お芋戦争(2)

きそはまず森に向かった

 

幾ら何でも、一発目から横須賀はマズイと感じたからだ

 

きその造ったこの催涙ガス弾の様な物は”T-爆発”と名付けられた

 

Tはご察しの通り、たいほうだ

 

一応、人体には無害だが呼吸困難にはなる

 

「あ」

 

森の中に人影が見えた

 

叢雲とローマだ

 

「来たわね、丸眼鏡」

 

「始めましょうか」

 

ローマは丸太を持ち、叢雲に向かって行った

 

叢雲は軽々と避け、肘鉄を食らわせる

 

が、そこは戦艦

 

ビクともせず、今度は丸太を振り回した

 

「やるわね」

 

「丸眼鏡もね‼︎」

 

どこかで見た光景だ…

 

これは止めなければいけない

 

きそは草むらに隠れたまま、爆弾のピンを抜き、二人の間に投げ込んだ

 

ガスは二人を包み、ローマがクルクル回り始め、叢雲はのたうち回り始めた

 

「あ、あ、あがっ…息…できな…」

 

「何よコレ…苦、し…」

 

「ヤバッ‼︎強過ぎた⁉︎」

 

数分するとガスが底を尽き、二人が見えて来た

 

ピクピクしながら倒れてる…

 

「も、もう少し威力を落とさないとね…あ、あはは…」

 

「きそ〜…」

 

「ビャァァァァァ‼︎」

 

いきなりローマに足を掴まれ飛び上がる

 

「なんて物造ったのよ…ゲホッ…」

 

「い、いやぁ〜…強そうかな〜って思って…それに、喧嘩してたから止めないといけないって思って…」

 

「バカね。喧嘩じゃないわ。回避訓練よ」

 

叢雲は既に立ち上がりピンピンしている

 

「で…でもでも‼︎丸太振り回すなんて危ないよぉ‼︎」

 

叢雲は溜息を吐いた

 

「アンタねぇ…私は眼鏡の反応速度を試したかったのよ。いきなり弾丸や砲弾は危ないから、ローマに打撃回避の訓練を頼んだの。分かった⁇」

 

「じゃあしょうがないね‼︎」

 

「じゃあきそ。貴方にはお仕置きが必要ね」

 

「ヒッ‼︎」

 

ローマにガッチリ持たれ、叢雲がジリジリ近づいて来る…

 

「ぼ、僕を叩いたら、もう一発試すからね‼︎」

 

きそがそう言うと、ローマと叢雲は無言で木の後ろに隠れた

 

「ふふふ…これが恐怖政治って奴だね…」

 

「…チョット丸眼鏡。何とかしなさいよ」

 

「…アンタがどうにかしなさい」

 

互いに性格が似てる為、きそに反撃するのを躊躇いあう

 

そんな時、運悪くタンカーが来た

 

「あ‼︎横須賀さんだ‼︎」

 

きそはタンカーを見るなり、港へ走って行った

 

 

 

 

港へ着くと、きそは隠れながら横須賀を探す

 

「いた…」

 

またレイに色仕掛けして、何か頼んでいる

 

コソコソ移動しながら、きそは横須賀が一人になるのを待った

 

そして、横須賀がタンカーに乗った瞬間、同時にT-爆弾を投げ込んだ

 

当の本人は、タンカーの甲板に避難し、様子を見ている

 

「ぷすすすす…」

 

《ガス警報‼︎船内に高濃度のガスを検知‼︎》

 

「うわぁ‼︎やり過ぎた‼︎」

 

ガスマスクを付け、横須賀の様子を見に行く

 

「あれ⁇」

 

船内にガスは充満していない

 

「きそちゃ〜ん…」

 

後ろから誰かに肩を持たれた

 

「よ、横須賀さん⁉︎あはは…」

 

どうやらガス警報は横須賀が流したデマの様だ

 

「ガス爆弾造ったの…きそちゃん⁇」

 

「う…」

 

「あれ、もう少し威力を弱めれない⁇そしたら大量に入荷してあげる」

 

「ホント⁉︎」

 

「えぇ。レイから設計図を見せて貰ったわ。離脱行動の補助に使えそうなの」

 

「分かった‼︎もう少し頑張ってみる‼︎じゃあね‼︎」

 

珍しくきそは横須賀の言う事を聞き、タンカーを飛び降りて基地に戻って行った

 

やはり、褒めて貰えると嬉しい様だ

 

「…」

 

横須賀は冷や汗が出ていた

 

実はきそが投げ込んだT-爆弾、奇跡的に横須賀の胸に当たり、起爆せずにキャッチされた

 

危険と察知した横須賀は、投げ込まれた逆方向の窓から爆弾を投げた

 

するとどうだろうか

 

魚がプカプカ浮き始めたのだ

 

あれをまともに喰らっていたら、どうなっていたのかと考えると、横須賀はしばらく冷や汗が止まらなかった…



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93話 イェーガー、アトラクションになる(1)

さて、92話が終わりました

今回のお話は、とにかくあの子が色々します 笑


呉鎮守府…

 

「ポーラがいない‼︎」

 

「脱走か⁇」

 

その日、ポーラが基地から消えた

 

いつもいる酒保…

 

バーカウンター…

 

自室…

 

鳳翔の部屋…

 

何処を探してもいない

 

「参ったな…今日はレイが来るのに…」

 

基地総動員で探すも、見つかる気配は無い

 

「仕方無い…彩雲を飛ばそう」

 

「よし‼︎任せな‼︎」

 

隼鷹が窓から彩雲を飛ばした

 

数秒後、彩雲から打電が来た

 

《”ヤタガラス”セッキン》

 

「レイか⁉︎」

 

ヤタガラスと言うのは、フィリップのコードネームだ

 

《こちらワイバーン。迎えの彩雲が来た。土産も積んであるぞ》

 

「了解した。滑走路を開ける」

 

レイに寄越した彩雲じゃないとは言えない…

 

十分後、レイがフィリップから降りて来た

 

「歩け‼︎くっ付くんじゃない‼︎」

 

「嫌ですて‼︎レイさん、先歩いて下さい‼︎」

 

レイの背後には、見慣れた女の子が付いている

 

「ポーラ‼︎」

 

「あ、提督⁇ポーラ、ちょ〜っとお散歩に行ってて〜…」

 

「心配掛けさせるな‼︎どこに居たんだ⁉︎」

 

「スカイラグーンです…あはは」

 

ポーラの背負ったリュックを見ると、スカイラグーンだけではなさそうだ

 

リュックの端から酒瓶が見えている

 

「スカイラグーン以外に何処に行ったのかなぁ〜⁉︎」

 

呉さんはポーラのこめかみに拳を当てた

 

「三秒で答えないとグリグリするぞ‼︎3‼︎2‼︎」

 

「横須賀のマミーヤですて‼︎」

 

「横須賀⁉︎」

 

「で、帰り際にレイさんが居たんで、載せて貰ったんです〜」

 

「そら救難信号拾えば誰だって飛んで行く」

 

「ポーラ‼︎」

 

呉さんはポーラにグリグリを決めた

 

「痛い痛い痛いいた〜い‼︎や〜だぁ〜‼︎」

 

「お礼は言ったのか⁉︎」

 

「レイさん、どうもです〜‼︎」

 

「いつでも呼んでいいが、救難信号だけはやめろ‼︎マジでビビる‼︎」

 

「今度は照明だ、痛い痛い痛い‼︎」

 

「反省の色が無い‼︎イェーガーに括り付けて飛んで貰う‼︎」

 

呉さんはポーラを引き摺り、無理矢理イェーガーに縛り付けた

 

「ヤダヤダヤダ〜‼︎ポーラ、飛行機は乗れませんて‼︎」

 

「イェーガー、基地を一周してポーラの酔いを覚まさせてやってくれ」

 

《了解です、提督。さ、行きますよポーラ》

 

「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

ポーラの意に反して、イェーガーはキャノピーを閉め、滑走路に向かって行った

 

「たまにはこうしないと、ポーラは反省しませんからね‼︎大変ご迷惑をお掛けしました…」

 

「タクシー位ならいつでもなってやるさ」

 

「もう…ホントすみません…」

 

呉さんの無線からポーラの悲鳴が聞こえる…

 

《ギャァァァァ‼︎提督助けて下さいて‼︎お、お、落ちるぅぅぅぅぅぅう‼︎》



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93話 イェーガー、アトラクションになる(2)

数分したら、ポーラは急に大人しくなった

 

「ポーラ、ポーラー」

 

《気絶してます》

 

「何ちゅう脆い奴だ…」

 

「どっかで聞いた事あるね…」

 

落胆する呉さんを見ながら、いつの間にかいたきそがツッコミを入れている

 

降りて来たイェーガーのコックピットを見ると、目を回したポーラが横たわっていた

 

「反省したか⁇」

 

「提督…やり過ぎですて…ポーラ、提督に吐きますよ⁇」

 

「総員退避‼︎」

 

イェーガーの中にいたポーラを取り残し、俺達含め、散り散りに退避した

 

「レイ、きそちゃん」

 

呉さんから水鉄砲を受け取った

 

「ポーラの目を覚まさせるには、水鉄砲で攻撃するしかない‼︎」

 

「提督〜どこ行きました〜⁇うぇへへへ〜…ウップ」

 

俺達は格納庫の陰に隠れているが、いつ表にいるポーラに見付かるか分からない

 

「ねぇ」

 

きそが何かに気付いた

 

「イェーガーって、ネットランチャーか何か付いてなかった⁇」

 

「あったな。アレを使うか…」

 

「イェーガー、聞こえるか⁇」

 

《聞こえます、提督。話は聞きました。一撃で仕留めます‼︎》

 

「よし、俺達がポーラを引き寄せる‼︎」

 

「頼んだ‼︎」

 

俺ときそは一旦フィリップに戻り”お土産”を持って来た

 

そしてそれをイェーガーの前に置き、陰に隠れてスタンバイ

 

「あっ‼︎」

 

ポーラがお土産に気付いた‼︎

 

「これは〜ポーラの好きな”ニホンシュー”ですねぇ…よいしょ」

 

「発射‼︎」

 

ポーラが日本酒を取った瞬間、イェーガーからネットランチャーが発射された‼︎

 

「うわぁ‼︎」

 

網を喰らい、ポーラはその場に倒れるが、酒瓶は大事に守っている

 

「イェーガー‼︎放水開始‼︎」

 

《了解‼︎》

 

イェーガーから水鉄砲が発射された‼︎

 

「何あれ‼︎不思議装備ばっかだよぉ‼︎」

 

「ちべたいちべたい‼︎…あれ⁇この味は…」

 

何を思ったのか、ポーラはイェーガーから放水された水を飲み始めた‼︎

 

「電解水を入れたのが間違いだったか…」

 

「ん〜、ウップ…お腹いっぱいですて」

 

網に掛かりながらも、ポーラはご満悦の表情をしている

 

そして何故か呉さんが冷や汗を流す

 

「ポーラはあの状態でも動き回れる。腹がタポタポしたら一番ヤバい‼︎」

 

「つまりそれって…」

 

「…今のポーラは無敵だ」

 

「あ〜、いたいた。提督〜。ポーラ、満腹ですて」

 

「うわぁ‼︎」

 

屋根の上から此方を見つめる、腹がタポタポしたポーラ

 

「行きますよぉ〜…ほーこ‼︎」

 

ポーラは何を思ったのか、俺達目掛けて飛び降りて来た‼︎

 

「危ない‼︎ポーラ‼︎」

 

「うぇへへへ…提督ぅ、ポーラからは逃げられませんよぉ…」

 

「うっ…」

 

ポーラはヨダレを垂らしながら、呉さんに一歩一歩近付いて行く…

 

「ポーラ‼︎」

 

「はひゃっ‼︎」

 

甲高い声でポーラは目が覚めた

 

ザラだ‼︎

 

 

「あ、ザラ姉様‼︎ポーラ、お酒は飲んでませんて」

 

「手に持っているのは何⁇」

 

「こっ‼︎これは”コンボー”ですて‼︎」

 

苦し紛れに言い訳をするが、余計ザラを怒らせる

 

「没収します‼︎」

 

「あっ‼︎あぁ…」

 

シュンとしたポーラ連れて、ザラはこちらに来た

 

「すみません…再三ご迷惑をお掛けして…」

 

「ポーラ悪い事はしてませんて‼︎」

 

「してなくても飲み過ぎ‼︎いい⁇お酒は一日一本まで‼︎一日何本飲んでるの⁇」

 

「え〜と…これ位⁇」

 

ポーラは両手の指を全部立てた

 

意外に小さくて可愛い指をしている

 

「このおてて、後何個追加⁇」

 

「二つですねぇ」

 

「二十本も開けてるのか⁉︎ど、どうやってその量…」

 

「う…」

 

ポーラの視線が、イェーガーの格納庫に向いた

 

「レイ、客人に頼むのは忍びないが…」

 

「探そう」

 

どうやらポーラは隠し場所の多いイェーガーの格納庫に酒を隠している様だ

 

小一時間決死の捜索を行った結果、ドラム缶が三本と、酒瓶が約200本程出て来た‼︎

 

「な…何だこの量は⁉︎」

 

「逆に称賛するぜ…」

 

「あぁ〜‼︎ポーラの秘蔵酒がぁ〜…」

 

まるで地獄にでも落ちた様な顔で酒を見つめるポーラ

 

「ポーラ、一日三本にしない⁇」

 

「…あ、はい‼︎ポーラ、一日三本にしますて‼︎」

 

「言っとくが”瓶”だぞ⁇」

 

「ポーラ飲まないと死にますて‼︎」

 

「ダメだ‼︎ポーラにはチョットお酒を節制して貰う。全く…よくこんだけ隠せたな。どうやって隠したんだ⁇」

 

「ポーラ、夜は得意ですて。夜にバーンて起きて、コソコソッと隠して、そんでまたベッドにボーンですて」

 

「はぁ…」

 

呉さんは頭を抑えた

 

「提督…ポーラの事、嫌いになりました⁇」

 

「嫌いじゃないよ。でもポーラ⁇飲み過ぎはよくないな⁇」

 

呉さんはポーラの小さな手を掴み、彼女の前で屈んだ

 

「ポーラ、飲み過ぎ⁇」

 

「そっ。だから明日からで良いから、お酒飲む時は誰かと飲む様にしような⁇」

 

「提督とか、隼鷹とか⁇」

 

「そっ。ポーラは物覚えは良い子だろ⁇ちゃんと覚えた⁇」

 

「…うんっ‼︎覚えましたて‼︎」

 

ポーラは黙っていたり、素直になると本当に可愛い

 

酒飲みが勿体無い位だ

 

「じゃあ、私はこれで帰ります。提督さん⁇またポーラが暴れたりしたらいつでも呼んで下さいね⁇」

 

「ありがとう、ザラ」

 

「いえいえ」

 

ザラは帰って行った

 

どうやら近くの海域で遠征をしていた途中だった様だ

 

「わーい‼︎」

 

気付けばイェーガーの前にはビニールプールが置かれていた

 

イェーガーはそこに水を入れ、子供達を遊ばせている

 

「人気者だな、イェーガーは」

 

「いつも子供達の面倒見てくれるから助かってるんだ」

 

どうやら最近のイェーガーはアトラクションになっているらしい

 

人を乗せればジェットコースターやフリーフォールになり

 

地上に降りれば即席のビニールプール位は作れる

 

そして、モニターでは映画を観れる

 

「あ、そうそう。忘れる所だった。これ、新しい艤装の設計図。どう使うかは呉さんに任せる」

 

「すまないな…助かる‼︎」

 

「じゃあ、俺達は帰るからな‼︎」

 

 

 

こうして、俺達は呉鎮守府を後にした



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94話 英国からの贈り物(1)

さて、93話が終わりました

今回のお話は、お便り数通、友人からの猛烈な懇願がありましたので、夏イベから一隻出したいと思います

注※作者自身もまだあまり彼女の素性が分かっていないので、多少狂った子になる可能性がありますが、ご了承下さい 笑


「横須賀で観艦式だとよ。ついでに演習もするらしい」

 

横須賀の基地から召集が来た

 

行けるのは提督一名につき、艦娘一人

 

しかも主力と書いてある

 

レイはいつも通り特別枠に入っている

 

「武蔵‼︎」

 

「プリンツ‼︎」

 

変わらない主力二人

 

隊長はローマに安心して任せられるし、レイは鹿島に任せる為、二人が留守にする時は、この二人が基地の面倒を見る事が多い

 

今回は迎えが無い為、各自の航空機で横須賀に向かう

 

その為、きそは例外的に参加可能になるが、悪さをせず大人しく、もしくは繁華街をブラブラしている事とレイと横須賀に口酸っぱく言われた

 

観艦式の最中に”あの爆弾”を放られてはひとたまりも無い

 

横須賀に近付くにつれ、段々賑やかになって来た

 

空には二式大艇や水上機がチラホラ集まっている

 

「二式大艇だ。一発かましてぇなぁ」

 

《後で横須賀にこっ酷く叱られるぞ⁇》

 

「やんねぇよ‼︎」

 

《お前がやるなら、私はあのT-50をやろうかな⁇》

 

《ウィリアム…久し振りにやるか⁇》

 

隊長が指定したのは、どうやらラバウルさんだ

 

《レイ。やるなら俺も付き合うぞ⁇》

 

今度はアレンだ‼︎

 

一気にラバウルの連中に囲まれた‼︎

 

「ギブ‼︎」

 

《やった〜‼︎レイに勝った〜‼︎》

 

「殺す」

 

アレンの言葉に腹が立ち、機体を追い掛け回し始めた

 

《大佐、どうします⁇》

 

《たまには放っておこう…いい展示飛行になってるみたいだしな》

 

下では歓声が上がっている

 

何せ、いきなり高レベルな展示飛行が始まったのだ

 

当の本人らには、そのつもりは全くないが…

 

とは言え、二人はすぐに落ち着きを取り戻し、横須賀に足を付けた

 

「さ〜てさてさてさて‼︎」

 

「観艦式って何です⁇」

 

二人降りた所で、プリンツが口を開いた

 

あれだけの運転をしたのに、アイちゃんもプリンツもピンピンしている

 

「観艦式ってのは、つまり、その…」

 

「NEWなお船を見れるの‼︎」

 

「おぉ‼︎楽しみです‼︎」

 

アイちゃんがフォローしてくれた

 

「アイちゃん‼︎チョット大きくなったか⁇」

 

「レイ‼︎」

 

抱き着いて来たアイちゃんを受け止め、頭を撫でる

 

前までは、俺の腰より低い位置に頭があったのに、もう鳩尾まで来ている

 

「レイ、僕は繁華街に行って来るね⁇」

 

「お小遣いは持ったか⁇」

 

「持った‼︎」

 

きそのポシェットの中には、お札が数枚と、そこそこの小銭が入っていた

 

繁華街は、俺達みたいな連中は無料の店が多いが、きそは何やらオモチャを買いたい様だ

 

「夕方になるか、暇になったら戻って来いよ⁇」

 

「分かった‼︎行って来ま〜す‼︎」

 

きそを見送り、俺達は観艦式会場に来た

 

「ビール‼︎」

 

「ローストビーフ‼︎」

 

「フライドチキン‼︎」

 

「ソーセージもあります‼︎」

 

俺とアレン、そしてプリンツとアイちゃんがオードブルに食らいつく

 

「またアンタは…」

 

「Guruuuuuuuuu…」

 

アイちゃんが俺の背後に隠れ、横須賀に吠える

 

「あ…アイちゃ〜ん⁇フライドチキン美味しい⁇」

 

「…普通」

 

「フライドチキンはアイちゃんの為に作ったのよ⁇好きなだけ食べて良いからね⁇あ、後コーラもあるわ‼︎」

 

「…お、おぉ」

 

流石横須賀

 

物や金で釣るのが上手い

 

「隊長、ラバウルさん。恐らく今日の観艦式はビックリするかと」

 

「私達がビックリするって…」

 

「何かありましたかね…」

 

「もう始まりますので、ゆっくり食べてて下さいね‼︎」

 

数分後、観艦式が始まった

 

横須賀の挨拶やら説明が終わり、ようやく艦娘御披露目だ

 

「さぁ‼︎私の下手な前説はこれで位にして、来て頂きましょう‼︎英国で産まれたお姫様‼︎”Warspite”の登場です‼︎」

 

垂れ幕が下がった瞬間、四人は同じ言葉を放った

 

「「「「何ぃ⁉︎」」」」

 

四人全員、現れた彼女に見覚えがあった

 

「ふふふっ‼︎やっぱりね‼︎貴方達、コレを付けて」

 

四人は横須賀から渡されたイヤホンを付けた

 

「きそちゃんが開発してくれたのよ。声が鼓膜に届く前に、日本語に解析してくれるの」

 

〜きそリンガル‼︎横須賀繁華街にて、定価680円(税込)で発売中‼︎〜

 

ここから先、Warspiteは日本語でお話します。ご了承下さい

 

「Warspite様‼︎」

 

「王国飛行隊、ウィリアム・ヴィットリオ、ここに帰還致しました‼︎」

 

隊長とレイがWarspiteに敬礼する

 

普段部下や同僚に敬礼をさせない隊長の敬礼は大変貴重だ

 

「ウィリアム、そしてマーカス。よく戻った。マーカス、今は自由の身ですか⁇」

 

「はっ‼︎姫の仰る通り、自由であります‼︎」

 

「ウィリアム、彼を素晴らしい人間に育てましたね‼︎」

 

「は…姫にお褒めの言葉を頂けるとは、有り難き幸せ」

 

「ふふっ。では、その自由の為に、今も空にいるのですか⁇」

 

「現在も現役にて活動中であります‼︎」

 

「二人共、人々の心の救いになる様、程々に活動をして下さいね⁇」

 

「仰る通りに」

 

「承りました」

 

超☆真面目なレイを見るのは面白い

 

隊長の出身はイタリア

 

だが、最初に所属したのはイギリスだったらしい

 

一番最初の隊の名前”ブラック・アリス”と名付けたのは、あのお方だ

 

隊長は彼女に何度もお言葉を頂き、心の救いになって来た

 

憶測でしかないが、隊長が面倒見が良いのは彼女の影響かも知れない




P.S

活動報告に、パパと武蔵の小話を少しだけ書きました

是非目を通して見て下さい


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94話 英国からの贈り物(2)

「さてっ‼︎今回の目玉である演習ですが、Warspiteと戦って頂きます‼︎」

 

横須賀の言葉で、全提督がザワつく

 

未知のパワーを持っている彼女を手に出来るのだ

 

なので、今回は主力しか呼ばれ無かったのだ

 

「さぁ‼︎最初の相手は…」

 

我先に演習を挑もうとする提督達

 

だが、俺と隊長は落ち着いていた

 

俺達二人は、彼女のとある事情を知っている為、迂闊に手を出せないでいた

 

それはラバウルの二人も一緒だった

 

「そういや健吾は⁇」

 

「留守番を任されてくれた。代わりに土産を買って来いだと」

 

「こけし買ってやれ、こけし」

 

「別の用途で使うからダメだ‼︎」

 

「じゃあ…」

 

冗談を言おうとした時、爆発音が響いた

 

「な…何だ⁉︎」

 

「姫のお怒りだ」

 

「さぁ、次はどなた⁉︎」

 

会場では、いつかの加古が吹き飛ばされていた

 

その後もどんどん挑んで行くが、全てなぎ倒されて行く

 

しかも、Warspiteは座ったまま

 

「もういないのかしら⁇」

 

「しゃてっ‼︎しょろしょろ出番かにゃ‼︎ぷいんつ‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

最後にフライドチキンを口に入れ、壇上に上がる

 

「私の所の子がお相手致します」

 

「Prinz Eugenね。話は聞いてるわ。いらっしゃい」

 

プリンツは一礼した後、間髪入れずに四連撃を放つ

 

「やはりぷりんつは、あぁでなくてはな‼︎」

 

「物凄い火力だ…」

 

離れていた隊長達にも、プリンツの四連撃は見えていた

 

相変わらずの精密さと高火力

 

そして不意打ち

 

だが、Warspiteは無傷だ

 

「流石は姫だ。その風格を汚さない戦い方をする」

 

「レイ、Warspiteが持ってるあの棒みたいな奴。アレが全部弾いてる」

 

「さぁ、マーカス。貴方がどれ程成長し、人を使う立場になったか…私に証明しなさい‼︎」

 

「プリンツ。接近は禁物だ。まずは…」

 

「うわ‼︎」

 

Warspiteは持っていた棒でプリンツを突き、弾き飛ばした

 

「プリンツ‼︎」

 

プリンツの元に行こうとした瞬間、喉元に振り回していた棒を置かれた

 

「う…」

 

「Give Up⁇マーカス」

 

「ギブアップ…」

 

やはり姫の前では弱くなるな…

 

「プリンツ、すまないな…」

 

「武蔵が言ってました。負けるのもまた正義だって」

 

「…ま、じっくり観戦しようじゃないの。それも戦い方の一つだ」

 

 

 

 

一方その頃きそは…

 

「ガチャガチャ…あった‼︎」

 

日本橋程では無いが、横須賀の繁華街にもガチャガチャはチラホラある

 

きそは気に入ったガチャガチャがあると、まず一回回してみる

 

「長門さんのフィギュアだ‼︎」

 

その内絶対プレミアが付く、今は引退した長門のミニチュアフィギュアだ

 

「あ‼︎」

 

道中、プリンを売っている女の子を見掛けた

 

「君が瑞鳳⁇」

 

「はいっ‼︎私が瑞鳳です‼︎」

 

「たいほうやパパから聞いてるよ。プリンが美味しいんだって⁇」

 

「そう言って貰えると嬉しいです‼︎食べますか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

きそは瑞鳳からプリンを貰い、少し休憩する事にした

 

 

 

 

会場では激戦が繰り広げられていた

 

Warspiteは相変わらず無傷

 

倒れて行くのは此方側の子ばかりだ

 

誰も傷一つ与えられないまま、残り二人となった

 

そんな不穏なムードを崩したのが…

 

「貴方がWarspite⁇私はIOWA‼︎宜しくね⁉︎」

 

「IOWAさんですか…さぁ、いらっしゃい」

 

「OK‼︎COME ON‼︎」

 

数秒後、アイちゃんは吹っ飛んで行った

 

「OH〜〜〜‼︎‼︎‼︎NO〜〜〜‼︎‼︎‼︎」

 

「攻撃の仕方が直線的過ぎです」

 

済ました顔で椅子に座り、全く足を動かさないWarspite

 

アイちゃんは海に吹っ飛んで行く

 

「さぁ、次は誰です⁇」

 

「よ〜し、榛名がぶっ飛ばしてやるダズル‼︎」

 

何故かボロボロになっている榛名が、腕を回しながら壇上に上がる

 

「榛名‼︎気を付けるんだよ‼︎」

 

「はっ‼︎椅子に座りっぱなしの女に負けるはずが無いダ〜〜〜ズ〜〜〜ルゥゥゥゥゥ‼︎」

 

榛名までもが吹っ飛ばされた

 

救助の為の妖精達が、小型ボートにバケツを乗せて海へ出る

 

「ワンコ‼︎何で榛名ボロボロだったんだ⁉︎」

 

「それが…彼女と大喧嘩して…」

 

「ははははは‼︎妹の分際で私に勝てる訳ないDeath‼︎」

 

ワンコの後ろで、高笑いしている女の子がいる

 

「ウチの金剛です…チョット口が悪くて…榛名と喧嘩したんです」

 

「はぁ⁇私は口悪くないDeath。提督が嫌いなだけDeath‼︎しかもWarspiteは私が連れて来たんDeath‼︎もっと感謝しろDeath‼︎」

 

確かに口が悪い

 

「何Death⁇文句あるDeathか⁇」

 

「金剛‼︎レイさんに悪口言うのは許さないよ‼︎」

 

「へっ、威勢の良い女は好きだぜ」

 

「気持ち悪いDeath‼︎」

 

そう言い残し、金剛は何処かに行ってしまった

 

「金剛は私の事が嫌いで仕方ないみたいです…」

 

「ほっとけ。お前には榛名がいるだろ⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

ワンコの目が輝く

 

やはり相思相愛は素晴らしい

 

「さぁ、最終試合だ」

 

最終試合は武蔵だ

 

武蔵が負けた場合は、強制的に横須賀所属となる



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94話 英国からの贈り物(3)

「貴方が武蔵ね」

 

「うぉーすぱいととか言ったな。手加減はせんぞ⁇」

 

「構いません。殺すつもりで来て下さい」

 

「行くぞ‼︎」

 

武蔵は一気に距離を詰め、Warspiteの振り回している棒を左手で止め、右手で首を掴んだ

 

「あっ…」

 

「さぁ、どうする⁇」

 

「ま…参りました…」

 

「潔いい女は好きだ。宜しくな、うぉーすぱいと」

 

「ふふっ、此方こそっ‼︎」

 

武蔵とWarspiteが固い握手を交わし、演習は終わった

 

「お疲れ様、武蔵」

 

隊長は帰って来た武蔵の頭を撫でている

 

武蔵は嬉しいのか、珍しく照れている

 

「う、うぬ…しかし提督よ」

 

「ん⁇」

 

「私の見間違いなら申し訳無いが、うぉーすぱいとは足が悪いのか⁇」

 

「よく分かったな」

 

やはり武蔵は見抜いていた

 

俺達は姫が歩けないのを知っていた

 

だが、プリンツにも知らせていないし、武蔵も知らなかった

 

それなのにあの強さなのだ

 

「武人たる者、如何なる時にでも手は抜かない。だが、今回はそれで良かったのだろうか…」

 

「いいさ。姫は差別しない人が好きなんだ」

 

「そうか‼︎なら良かった‼︎」

 

そう言う武蔵だが、子供達にはこれでもかと手を抜いている

 

それはそれで、良い女なんだけどな

 

 

 

演習が終わり、横須賀が閉幕の挨拶をする為、再び壇上に立つ

 

「演習はこれで終わりです‼︎Warspiteは大佐の基地に所属となります‼︎」

 

「ウィリアム⁇レイ⁇今度は宜しくお願いしますね⁇」

 

「はっ‼︎仰せのままに‼︎」

 

「かしこまりました‼︎」

 

「そして、ここで重大報告が一つあります‼︎」

 

会場がザワつく

 

最近、ある程度の進行は互いに止んでいる為、戦況報告ではなさそうだ

 

「本時刻を持って、ケッコン可能な艦娘を二人まで可能とします‼︎」

 

艦娘と一部提督から歓声が上がる

 

喜んでいない提督は、俺の様にどうしていいか分からないでいる

 

「真実の愛を貫くも良し、多数を愛するも良し。現在ケッコン済みの提督には、横須賀基地所属艦娘から指輪が配られますので、お手にして下さい‼︎以上、観艦式でした‼︎」

 

「レイさん、大佐、どうぞ‼︎」

 

「おぉ…」

 

「…ありがとう。おい‼︎何で俺だけ片っぽだけなんだよ‼︎」

 

そう叫ぶと、横須賀は自身の首元を見せた

 

首にはネックレスが掛けられており、先に指輪が付いている

 

「こっ…」

 

「はははははは‼︎」

 

三人から大爆笑され、俺は痙攣しながら地面に膝を落とした

 

「ふふふっ‼︎ラバウルさん、アレンさん、どうぞ‼︎これは柏木さんへ」

 

「ありがとう」

 

「サンキュ」

 

ワンコや呉さん、トラックさんも指輪を受け取る

 

どうやらこの三人は決まっている様だ

 

問題は三人

 

隊長、ラバウルさん、そしてアレン

 

「ただいまぁ〜‼︎」

 

きそが帰って来た

 

俺は何とか立ち上がり、きその頭を撫でた

 

「おかえり。随分パンパンだなぁ⁇」

 

「えへへ…いっぱいパーツとか買って来たんだ‼︎」

 

「ガチャガチャはしたか⁇」

 

「うんっ‼︎あのね⁉︎長門さんのフィギュアが当たったんだ‼︎」

 

楽しそうにするきそを見て、少し安心した

 

「きそ」

 

「ん⁇」

 

「プリンツと姫連れて、フィリップで待っててくれないか⁇」

 

「分かった‼︎早く帰って来てね‼︎さぁ、行こっ‼︎」

 

きそを見送り、俺は横須賀に残った

 

「さぁ‼︎行きましょ〜う‼︎」

 

姫はプリンツが車椅子を押してくれている

 

「ほんっと、良い子だよなぁ。誰かと違って」

 

「アレン」

 

「どうした⁇」

 

横にいたアレンに指輪の箱を突き付けた

 

「俺とか⁇やめといた方がいいぞ⁇」

 

「…今の言葉撤回してやっから、この指輪、ネックレス付きに加工出来るか⁇」

 

「あ…あぁ。工廠を借りれば一時間程で…」

 

「時間を割いているのを承知で頼む。アレンに任せたい」

 

「ったく…」

 

アレンは指輪を入れた箱を取った

 

「いつも言ってるだろ⁉︎これ位ならいつでも頼めって‼︎任せなっ‼︎チョイ待ってろ‼︎」

 

アレンはそのまま工廠に入って行った

 

「ラバウルさん、申し訳ない…」

 

「ふふふっ。構いませんよっ。アクセサリーを造る彼はいつも生き生きしていますからねぇ。私も、そんな彼を見るのが好きなんですよ‼︎」

 

「同感です」

 

 

 

 

一時間もすると夕暮れが沈み、夜になり始めた

 

既に会場は跡形も無く片付けられ、先程まで観艦式がやっていたとの印象はほとんど無い

 

「レイ‼︎出来たぞ‼︎」

 

アレンが帰って来た

 

「お揃いのネックレスだが、それでいいか⁇」

 

アレンさん手元には、箱に入ったネックレスがある

 

「相変わらずいい仕事してるな…よしっ」

 

俺はネックレスを付けてみた

 

「似合ってるか⁇」

 

「いい感じだ」

 

「礼は後日でいいか⁇今手持ちが…」

 

「礼はいい。早く帰る事だな」

 

「…ありがとう‼︎」

 

アレンには何となく感付かれた様だ

 

俺はフィリップの格納庫に戻ると、誰も乗って居なかった

 

「先に送って来たよ」

 

「きそ‼︎」

 

格納庫の端っこでコーラを飲んでいるきそがいた

 

「あ、それとね⁇Warspiteさん、だっけ⁇最終チェックがあるから、今日一日はここにいるんだって、横須賀さんが言ってた‼︎」

 

「まぁ、仕方ないな」

 

「帰ろっか‼︎」

 

「あぁ‼︎」

 

フィリップに乗り込み、基地に帰る

 

 

 

 

 

レイが横須賀に無理矢理ケッコンさせられました‼︎



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95話 シンデレラ奪還作戦(1)

さて、94話が終わりました

今回のお話は、久方振りにレイとパパが暴れます


基地の執務室では、朝から私の膝の上でたいほうが一生懸命名前を覚えている

 

「うぉーすぱいと」

 

「覚えたか⁇」

 

「しんでれらみたいだね」

 

たいほうの頭の中では、Warspite=お姫様の印象が付いた様だ

 

「もうすぐ来るからな⁇」

 

「こわい⁇」

 

「怖くないさ‼︎パパの昔の先生みたいな人さ」

 

「かとりてんてーみたい⁇」

 

香取=先生の印象も強い

 

《…ちら………か》

 

無線から雑音混じりに声が聞こえた

 

「そら来た‼︎そこでジッとしてるんだぞ⁉︎」

 

「わかった‼︎」

 

たいほうにみんなが写っている書類を渡し、無線の前に座る

 

「こちら横須賀分遣隊、どうぞ」

 

《隊長⁇助けて‼︎》

 

声の主は横須賀だ

 

だが、何故か焦っている

 

「横須賀⁉︎どうした‼︎」

 

《タンカー内でクーデターです…今は隠してある無線で通信してます》

 

「状況は⁉︎」

 

無線の先でジャラジャラと金属がぶつかる音がする

 

鎖か何かで縛られているのだろうか…

 

《タンカーは隊長の基地を通り過ぎ、スカイラグーンで補給を受けようとしています》

 

無線を聴きながら、横須賀からスカイラグーンまでの予測航路を書き出し、最短で邂逅出来るポイントを探る

 

「オーケー分かった。助けに行くから、しばらく耐えられるか⁇」

 

《私は大丈夫ですが…Warspiteが別の部屋に連れて行かれました…》

 

「心配するな。姫は強い。よしっ‼︎すぐ行くからな‼︎」

 

《ごめんなさい…迷惑掛けます》

 

無線を切り、食堂に走る

 

食堂に行くと、珍しくレイが厨房に立っていた

 

「上手く焼けてるか⁇」

 

「美味しいよ‼︎」

 

「上手ですねぇ‼︎」

 

どうやらスコーンを焼いているみたいだ

 

「レイ、出動だ。横須賀のタンカーが拿捕された」

 

「了解した‼︎横須賀は中に居るのか⁉︎」

 

「あぁ。姫も居る」

 

「ならジェットスキーが良いな。三分で準備する‼︎」

 

レイはエプロンを脱ぎ、工廠へ向かった

 

私も着替えて食堂の出入り口に立った

 

「ローマ、子供達を頼む。武蔵には無線で案内してくれと言ってくれ」

 

「分かったわ。兄さん、気を付けて‼︎」

 

「すぐ戻る‼︎」

 

 

 

 

工廠に行くと、レイは自分のジェットスキーをチェックし、きそが私のジェットスキーをチェックしてくれていた

 

レイは背中にあのライフルを背負っている

 

「パパ‼︎」

 

きそに手渡されたのは、久方振りに使う、あのレバーアクションのライフルだ

 

「二台共チェックしてあるから、多少乱暴な運転しても壊れないよ‼︎補助武器はバックパックの中、後、非常用の応急修復材が3つ入れてあるよ‼︎」

 

バックパックの中には、拳銃1丁と、T-爆弾2つ、それと大きめのナイフが入っている

 

後は牛乳パックみたいな三角の紙パックが入っている

 

「パパ、レイ、この非常用の応急修復材は、普通の物より半分位しか効き目が無いんだ。その代わり、経口摂取が出来るんだ‼︎身体に振りまいても効果はあるから、使い分けを大切にね⁉︎」

 

「了解した。だからストロー付いてるんだな‼︎」

 

「武蔵と一緒に、無線を任すよ⁉︎」

 

「分かった‼︎気を付けてね‼︎」

 

二台のジェットスキーが、基地から出た

 

 

 

 

「くっ…下衆が考える様な行為ね…」

 

二人がタンカーに急行している時、横須賀は個室に閉じ込められて尋問を受けていた

 

横須賀は天井から吊るされた鎖に繋がれ、両手が塞がっている

 

数人の男に囲まれ、荒い息遣いの中、横須賀は二人が来るのを待っていた



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95話 シンデレラ奪還作戦(2)

「見えた‼︎あれだ‼︎」

 

前方にタンカーが見えた

 

何かから逃げる様に速度を上げている所を見ると、アレで間違いない様だ

 

「さて、穴開けますかね」

 

レイは背中のライフルを取り、一発放った

 

が、穴は開かない

 

「無駄に硬く造りやがって‼︎」

 

「テキデタ⁉︎」

 

「レイコマッテル⁉︎」

 

「ウツベシウツベシ‼︎」

 

右、左、背後

 

いつかのイ級三人組だ‼︎

 

「中に大切な人が囚われてるんだ。手助けしてくれないか⁇」

 

「パパノイウコトキク‼︎」

 

「アナアケレバイイ⁉︎」

 

「タマイッパイモッテル‼︎」

 

三人組はやる気充分だ

 

「よし‼︎俺が傷付けた場所を一点集中だ‼︎」

 

レイはライフルを構え、先程と同じ場所に狙いを定め、引き金を引いた

 

「ドカーン‼︎」

 

「ウリャー‼︎」

 

「クラエー‼︎」

 

イ級三人組も砲撃をし、船尾に大穴が開いた

 

「よっしゃ‼︎サンキューな‼︎」

 

「ボクタチ、ココデマッテル‼︎」

 

「ジェットスキーマモル‼︎」

 

「タイセツナヒト、タスケル‼︎」

 

「ボクタチガウエニアゲテアゲルヨ‼︎」

 

「…すまん、任せた‼︎隊長、行こう‼︎」

 

「あぁ‼︎」

 

バックパックの中身を取り出し、イ級の頭に乗り、開けた穴の中に入れて貰った

 

「危険を感じたら逃げろ‼︎分かったか⁉︎」

 

「ワカッタ‼︎」

 

「ハヤクイク‼︎」

 

「ワカタ‼︎」

 

イ級達に見送られ、私達はタンカーに進入した

 

入ってすぐ、左右に道が分かれていた

 

「レイ、右を頼めるか⁉︎」

 

「よしっ、取り敢えずはこの階だ。二人がいたら知らせてくれ‼︎」

 

「よしっ‼︎行くぞ‼︎」

 

二手に分かれて、横須賀と姫を探し始めた

 

 

 

「ジェットスキーの付近で動きを止めているアンノウン反応が3つ…」

 

基地では、きそが管制とレーダー索敵、武蔵は各基地に呼び掛け、そして今、スペンサーとヘラが飛び立った

 

「スペンサーとヘラが出た‼︎もう少しレーダーが見やすくなるよ‼︎」

 

《きそ、武蔵、聞こえるか⁉︎レーダーをリンクする》

 

「オッケー。データリンク開始‼︎」

 

流石は戦闘機

 

ジェットスキーとは比べ物にならない速度で目的地に着いた

 

《ジェットスキー付近のレーダー反応はイ級の様だ。ジェットスキーを護ってる》

 

「ふぅ…良かった」

 

《後は信じてやろう》

 

「そうだね。スペンサーはそのまま高高度で待機、ヘラも周辺空域で待機。各機、パパとレイから支援要請があったら攻撃してあげて⁇」

 

《了解した‼︎任せろ‼︎》

 

《手間の掛かる犬ね…ホント。体が先に動くんだから》

 

口ではそう言うが、ヘラはやる気満々だ

 

 

 

 

「いない‼︎隊長の方は⁉︎」

 

「こっちもダメだ‼︎」

 

内部はグルっと円を描く様に一周しており、二人は途中で落ち合った

 

この階はもぬけの殻だった

 

「下か⁇」

 

「上か…」

 

「隊長、任せる。先に操舵室を占拠するなら上、何方かがいる可能性に掛けて行くなら下…」

 

「上だ。先にタンカーの動きを緩める」

 

「よしっ、じゃあ決まりだ‼︎行こう‼︎」

 

階段を上がり始めた時、ようやく誰か出て来た

 

「誰だ‼︎」

 

「遅い‼︎」

 

私より先にレイが拳銃を放ち、足を撃ち抜き、ライフルの銃底で殴り飛ばした

 

「Warspiteと横須賀は何処だ…」

 

倒れ込んだ男の首元にナイフを当てると、案外簡単に吐いてくれた



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95話 シンデレラ奪還作戦(3)

「ち、地下だ‼︎頼む、やめてくれ‼︎」

 

「足が痛いか」

 

「い…痛い…」

 

「死にはしない。やった事をそこで反省してるんだな」

 

場所を聞いた以上、上に行く必要性は少なくなった

 

それに、足音が多くなって来た

 

「レイ、無駄に死人を増やさないでおこう」

 

「よしっ、下だ‼︎」

 

階段を駆け下りながら、登って来る相手を撃つ

 

下に行くに連れ、人が増えて来た

 

「甘いわ‼︎」

 

レイは的確に相手の足を撃ち抜き、確実に動きを封じて行く

 

私はレイの後方で援護射撃位しか出来ない

 

それ程までレイは強い

 

「隊長‼︎レイっ‼︎」

 

「横須賀だ‼︎」

 

横須賀の声が聞こえた扉に近付いた瞬間、左側から数人纏めて重武装した連中が出て来た

 

「レイ‼︎伏せろ‼︎」

 

「邪魔‼︎」

 

今まで拳銃だけで来ていたレイが、ようやくライフルを放った

 

だが、相手の足元の床に撃った為、相当量だが、煙が出ただけだ

 

「今だ‼︎」

 

扉を開けると、吊るされた横須賀がいた

 

「レイっ‼︎」

 

「何やってんだマヌケ‼︎」

 

鎖を外し、へたり込んだ横須賀の背中をさすった時、異変に気付いた

 

相当怯えてる…

 

「もう大丈夫だからな」

 

「うん…ありがと。私、戦えるからWarspiteを‼︎」

 

「行くか」

 

「あぁ」

 

私の後ろでは、数人の男が倒れていた

 

「隊長もよっぽどの鬼神だぜ…」

 

「ふっ…撃って来たから叩いただけだ」

 

廊下には、クーデターを起こした男達が大量に倒れていた

 

それらを蹴り飛ばしながら部屋を確認して行くと、倒れていた男が一人目を覚ました

 

「姫は何処だ」

 

気付いたのは横須賀だ

 

「その部屋の中だ…」

 

「これは貰うわ」

 

男の腰からピストルを取り、撃鉄を落とした

 

「一気に行くぞ…相手に死人が突き進むんだ。いいな⁇」

 

「了解。空と一緒だな」

 

「了解です」

 

「行くぞ‼︎」

 

扉を蹴破ると、此方に気付いた敵が一斉に此方を向いた

 

「邪魔だ‼︎」

 

「どきなさい‼︎」

 

やはりこの二人は強い

 

一瞬で敵が片付いて行く…

 

部屋の奥に行くと、ベッドの周りに男が集まっていた

 

中央には、目隠しされたWarspiteが両腕を縛られた状態で寝かされていた

 

「誰だ貴様等‼︎」

 

「遅い‼︎」

 

三人いた男が一瞬で倒れる

 

「へへへ…ただのピストルじゃねぇぜ‼︎マシンピストルだっ‼︎」

 

「姫確保‼︎」

 

「その声…ウィリアムですか⁉︎」

 

「そうです‼︎マーカスとジェミニも居ます‼︎」

 

「私は良い部下を持ちましたね…」

 

「さぁ、出ま…」

 

横須賀と共に姫の体に触れた時、違和感を感じた

 

「ウィリアム、私、体の至る所に生温かい物が付いているのですが…」

 

横須賀と顔を見合わせ、互いの手に着いた物を見た

 

「…心配要りませんよ。お風呂に入りましょう‼︎」

 

「お風呂があるのですか⁇」

 

「あります。外は少し悲惨な状況なので目隠しはそのままにしておきますね⁇」

 

「えぇ」

 

横須賀と共に部屋を出ようとすると、レイが何かに気が付いた

 

「二人共、姫を連れて脱出してくれ。俺はチョットやりたい事がある‼︎スカイラグーンで落ち合おう‼︎」

 

「分かった‼︎早く来るんだぞ‼︎」

 

「横須賀、俺のジェットスキーを使え‼︎」

 

「分かったわ‼︎早く来るのよ‼︎」

 

レイは頷き、何処かに走って行った

 

 

 

 

「さ〜てっ‼︎おっ、あるあるぅ‼︎」

 

俺が来たのは、大量の資源を置いておく場所だ

 

格納する為のハッチを開くと、イ級達が見えた‼︎

 

「レイキタ‼︎」

 

「タスケタ⁉︎」

 

「ジェットスキーアルヨ‼︎」

 

「お前ら‼︎腹減ったか⁉︎」

 

「オナカスイタ‼︎」

 

「ネンリョウノミタイ‼︎」

 

「ダンヤクモタベタイ‼︎」

 

イ級達の言葉を聞き、ドラム缶を一つ構えた

 

「行くじょ‼︎」

 

「ヤッター‼︎」

 

「二段目‼︎」

 

「オイチイオイチイ‼︎」

 

「ラスト‼︎」

 

「ネンリョウスキスキ‼︎」

 

それぞれの口にドラム缶が入り、それを噛み砕いて中の燃料を飲んで行く

 

「弾薬はいるか⁉︎」

 

「ホシイ‼︎」

 

「タベタイ‼︎」

 

「チョウダイ‼︎」

 

「ホラッ…よっ‼︎」

 

眼下では弾薬を美味しそうに食べるイ級達がいる横で、隊長達がジェットスキーで脱出した

 

「誰か俺をスカイラグーンまで運んでくれないか⁉︎」

 

「イイヨ‼︎ボクニノッテ‼︎」

 

先頭にいたイ級に飛び乗ると、三人はスカイラグーンに進路を向けた

 

「オトモダチカラツウシンガキテルヨ‼︎」

 

「繋げてくれ」

 

《呉さんがそっちに遠征部隊を送ったわ。全員蒼龍送りでいいか、ですって》

 

「ヘラか。トラックさんはなんて⁇」

 

《蒼龍が腹を減らして暴れ回る前に是非‼︎って言ってるわ》

 

「じゃあお願いしよう。もう少し仕事がある。呉さんにありがとうって言っておいてくれ」

 

《分かったわ。早く帰って来なさいよ》

 

無線が切れ、ヘラが帰って行くのが見えた

 

 

 

スカイラグーンに着くと、ジェットスキーが二台停まっているのが見えた

 

「ツイタ‼︎」

 

「オツカレサマ‼︎」

 

「ゴハンタベル⁉︎」

 

「そうだなぁ…まずは風呂だ‼︎」

 

「ボクタチマタクル‼︎」

 

「コンドハアソンデネ‼︎」

 

「バイバーイ‼︎」

 

「おい‼︎たまには礼ぐらいさせろ…行ったか…」

 

イ級三人組はいつも通り、事が済んだら帰ってしまう

 

毎度毎度、礼が出来ない

 

ため息混じりで喫茶ルームに入ると、隊長、横須賀、そしてサッパリした姫がいた

 

「ただいま〜」

 

「おかえり、レイ」

 

「大丈夫か⁉︎」

 

「マーカス…」

 

入るなり四方八方から心配された

 

「大丈夫大丈夫。帰りはイ級達が送ってくれた」

 

「ありがとう…マーカス…」

 

「姫を助けるのは私達の任務です。礼には及びません」

 

「やっぱ不自然ね…」

 

折角助けてやったのに、横須賀はすぐコレだ…

 

「ウィリアム、マーカス、これから私は貴方がたの下に就くのです。もう敬語はいいですよ」

 

「あ、そう。なら改めて宜しく‼︎」

 

「切り替えはやっ‼︎」

 

「宜しく、Warspite‼︎」

 

「た、隊長も⁉︎」

 

「ふふっ‼︎宜しくお願いしますね‼︎」

 

 

 

大変な一日だったが、何とか救出は出来た

 

Warspiteは少し汚されたみたいだが、本人は至って気丈だし、貞操は護れて良かった

 

 

 

その日の夜、呉さんから来た報告書によると、大湊のタンカーを何者かが奪取、そして偽造された指令書で二人を連れ去り、事に至った様だ

 

話によると、佐世保の生き残りの連中らしい

 

大湊はタンカー潰されカンカン

 

横須賀も変態行為をされカンカン

 

そして呉さんに至っては、言う事の聞かない捕虜に腹を立て、捕虜をまとめた場所にT-爆弾を放り込み、自身も誤爆して更に怒っているらしい

 

威力を落として、最近試作品が配られたとは言っていたが、まだまだ改良の余地はありそうだ…

 

 

 

 

戦艦”Warspite”が、艦隊の指揮下に加わります‼︎




Warspite…お姫様戦艦

イギリスからやって来た、お姫様みたいな風貌の戦艦娘

隊長やパパが昔、大変お世話になった人で、色んな事を教えてくれた人

”空軍は嘘をつかない”

と言うのは彼女の教え

生まれつき足が悪く、車椅子に乗って移動している

こう見えてデスクワークが超☆得意

抱き着くと甘くて良い匂いがする


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96話 シンデレラと合鴨の行進曲(1)

さて、95話が終わりました

今回からまた日常回に戻ります

今回のお話は、Warspiteが出てきたり、子供達が出てきたりと、結構ほのぼの系のお話です


ようやくWarspiteが基地に来た

 

彼女も彼女で、みんなの名前を覚えている

 

大体の子供の名前を覚えた時点で、事件は起きた

 

「よいしょ…貴方のお名前は⁇」

 

「わぁ」

 

Warspiteがソファに座ると、足元にいたたいほうを抱き上げ、膝の上に置いた

 

たいほうはミニカーに夢中だったが、ちゃんと彼女の目を見ている

 

「あたしたいほう‼︎」

 

「まぁ‼︎貴方が”てぃーほう”なのね‼︎ウィリアムから聞いてましたよ‼︎」

 

「てぃーほう」

 

発音が良すぎる為、どうしても”てぃーほう”と聞こえてしまう

 

「てぃーほうは、どんなお菓子が好きですか⁇」

 

「たいほう、むさしのおいものおやつすきなの。おいしいんだよ⁇」

 

「ふっ…たいほうは気に入ってくれた様だ…良かった」

 

「武蔵は揚げ物上手だからな。はまかぜは煮物、グラーフと鹿島はオヤツ」

 

「うぉーすぱいとは、なにつくる⁇」

 

たいほうはWarspiteの膝の上でゴロゴロしている

 

もう彼女に懐いている

 

「私は…そうね”オムスビー”を向こうで作ったり、後はパンを練って焼けますよ⁇」

 

「おむすびー」

 

「てぃーほうはオムスビー好き⁇」

 

「うんっ‼︎こんぶと、きゃらぶきがすきなの‼︎」

 

「キャラー…ブキ⁇」

 

「山菜の一種だよ」

 

俺達も夜につまみとして食べる事があるので、冷蔵庫の中にきゃらぶきはあった

 

「ほらっ」

 

小皿にきゃらぶきを少し乗せ、Warspiteの前に出すと、彼女は口を開けた

 

よくよく考えれば、たいほうで手が埋まっている

 

「マーカス。手で良いですから…」

 

「んっ」

 

Warspiteの口にきゃらぶきを入れると、美味しそうに咀嚼し始めた

 

それにしても、少し当たっただけだが、柔らかい唇だ…

 

「見た目は微妙だけど、味は良いわ‼︎」

 

「たいほうもちょうだい‼︎」

 

「二人でわけわけして食え」

 

二人に小皿を渡し、俺は元の席に戻って来た

 

横では照月がタブレットで何か見ていた

 

「何見てるんだ⁇」

 

「合鴨の飼い方‼︎可愛いなぁ〜…」

 

照月は合鴨の動画に夢中だ

 

「合鴨位なら飼えるかもな」

 

「ホント⁇」

 

「隊長に聞いてきてやるよ。命の大切さを学ぶには大事な事だ」

 

 

 

 

10分後…

 

「許可が下りたので、農家に買いに走ります」

 

「今から⁉︎」

 

「行って参りまする」

 

照月に見送られ、俺はフィリップと共に基地を飛び立った

 

「田舎ならどこでも良いと思うんです、はい」

 

《何かレイ壊れてない⁇》

 

「いやな、ぶっちゃけ言ったしりから代金渡されると思って無くてな」

 

俺の内ポケットには、封筒に入った数枚の万札が入っている

 

隊長に合鴨を飼いたいと言うと、子供達に色々教えるから、今の内に買って来いと言われて、基地を飛び立ったのだ

 

《ははははは‼︎まぁ、事情は分かったよ。マップから合鴨農家を探すから、ちょっと待ってて⁇》

 

数秒後、フィリップのモニターに地図が出た

 

《三重県の農村地帯に合鴨農家があるね。行ってみる⁇》

 

「近くに空き地はあるのか⁇」

 

《大っきい空き地があるから多分大丈夫だよ‼︎》

 

「まっ、行くだけ行ってみるか…」

 

山を幾つも越え、あっと言う間に風景が田舎に変わった

 

《うわぁ〜…綺麗…》

 

「中々の絶景だな」

 

上空から見下ろす農村地帯は素晴らしい風景だ

 

これだからパイロットは辞められない

 

《あったあった。降りるよ〜》

 

空き地にフィリップを降ろし、俺が出る前には、きそが下で待っていた

 

「いい空気だね。はぁ〜」

 

「はぁ〜」

 

きそも俺も深呼吸をしてから、辺りを見回した

 

「な〜んもねぇな」

 

「上から見えたけど”わらびもち”って書いてある場所があったよ‼︎」

 

「わらび餅か。久しく食ってないな…合鴨買ったら食うか⁇」

 

「わらび餅って美味しい⁇」

 

「美味しいぞ、冷たくてプルプルしてるんだ」

 

「えへへ…楽しみだね‼︎」

 

きそと手を繋ぎ、合鴨農家を目指して少し歩く



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96話 シンデレラと合鴨の行進曲(2)

「ごめん下さ〜い‼︎」

 

合鴨直売所と書かれた建物の扉を開けると、合鴨の雛が山ほどピヨピヨ言っていた

 

「いらっしゃい。合鴨かな⁇」

 

奥からおじいさんが出てきた

 

「何羽か売って頂きたいんです。え〜と…出来れば10羽程」

 

「10羽だと4千円だね。一羽サービスしておくよ」

 

合鴨がプラスチックのケースに詰められていく

 

「レイ、これは⁇」

 

きそが一羽抱き上げ、俺に見せて来た

 

「ピ…合鴨だ…」

 

「ふふふ。ローマに怒られるよ⁇」

 

「じゃあ、これ代金。後、わらび餅食べたいから少し置いといてもいいですか⁇」

 

「じゃあ、また取りに来ます」

 

「ありがとうございます」

 

きそが手を振ると、おじいさんはにこやかに振り返してくれた

 

「買えたね‼︎」

 

「また照月の口が開くぞ⁇」

 

「照月は仕方ないよ。行こっ‼︎」

 

久し振りのきそとのデート

 

久し振りとは言うが、正直言うと、鹿島よりきその方が多いかも知れない

 

「わらび餅」

 

店に着くとメニューは少なく、看板メニューであるわらび餅と、ラムネしか置いていない

 

「わらび餅二つとラムネ二つ」

 

「はいよ。ちょっと待ってね。ラムネはそこから取ってね」

 

アンティーク感のある冷蔵庫からラムネを取り出し、きそに渡す

 

「開けて⁇」

 

忘れてた

 

きそと照月はラムネを開けられない

 

一度開け方を教えたが、きそは開ける時の音が嫌いなのか、未だに俺に開けさせる

 

「ほらっ」

 

「へへへ…ありがと‼︎」

 

両手でラムネを飲むきそを見て、目線を風景に切り替える

 

「な〜んもねぇな。ホント」

 

「レイはパイロット辞めたらどうするの⁇」

 

「そうだな…ちっさい町医者でも開業したい気も最近出てきたな」

 

「居住区は⁇」

 

「そうだなぁ…居住区で開業するのもいいな」

 

「はい、わらび餅二つ」

 

「わぁ‼︎ありがとう‼︎」

 

皿に盛られたわらび餅を見て、きそは目を輝かせる

 

「ぷるぷるだね‼︎」

 

「きな粉をこうやって付けるんだ」

 

フォークでわらび餅を刺し、きな粉に付けて、きその口に放り込んだ

 

「冷たくて美味しい‼︎」

 

「ゆっくり食えよ」

 

「うんっ‼︎」

 

きそを横目に、少し考える

 

確かにパイロットを辞めたら何をするか考えていなかった

 

町医者でもいいし、昔の様にセスナのインストラクターになるのもいい

 

…俺は空から離れられそうも無いな

 

「きそは何になりたい⁇」

 

「僕は開発者になりたいな。色んな家具とか、生活に役立つ物を作りたい」

 

あまり先の事を考えていない俺よりウンと立派だ

 

「ごちそうさま‼︎」

 

皿を見せたきその口元には、きな粉が大量に付いている

 

これだけ美味しく食べられたら、わらび餅もさぞ幸せだろう

 

「ちょっと待ってろ」

 

残ったわらび餅を食べ、ハンカチできその口元を拭いた

 

「きな粉付いてた⁇」

 

「口元コナコナだぞ⁇」

 

「ありがと。さぁ”ピヨちゃん”貰いに行こう‼︎」

 

「…」

 

ハンカチを仕舞い、代金を座っていた椅子に置き、一礼して店を去った

 

合鴨を取りに戻り、フィリップの所まで戻って来た

 

きそはフィリップに入り、モニターには合鴨達が映っている

 

《ハッチの中に入れた合鴨の様子はモニターで分かる様にしておくよ》

 

「分かった。んじゃ、帰るとするか‼︎」

 

全くと言っていい程場違いな黒い戦闘機が、美しい風景残る農村地帯から飛び立った

 

 

 

 

 

基地に帰ると、照月とたいほうが今か今かと俺達を待ちわびていた

 

「ただいま〜っと」

 

「おかえり‼︎どうだった⁉︎」

 

「ハッチオープン‼︎」

 

フィリップのハッチを開けると、プラスチックの容器が落ち、中から合鴨達が出て来た

 

「うわぁ〜‼︎可愛い〜‼︎」

 

「がーがーさん‼︎」

 

合鴨達はすぐに二人に懐き、丁度半々位に二人の足元に集まっている

 

「お散歩しよっか‼︎」

 

「がーがーさんとおさんぽ‼︎」

 

「お兄ちゃん、ありがとう‼︎」

 

「すてぃんぐれいありがとう‼︎」

 

「行っておいで」

 

照月とたいほうが合鴨達と散歩し始めた

 

「レイ、これ渡しとくね」

 

きそから渡された書類は、一気に現実に帰す物だった

 

「美味しい合鴨の食べ方…」

 

「合鴨農家の人は、最後はちゃんと食べて、立派な合鴨農家になれるんだって」

 

「…デカくなったら売り飛ばすさ。流石に残酷過ぎる」

 

「美味しいらしいよ、合鴨」

 

「う…」

 

「合鴨」

 

きその目が怖い

 

もしかしたら、きその目的は最初からコレだったのかも知れない…




小話…

ここで一つ小話をします

こんなお便りがありました

”戦艦四天王があるなら、他にも無いの⁇”

あります

”七大魔王提督”です

それぞれ知らない子から見たり聞いたりしただけの印象ですが、そう呼ばれています

以下は素性を知らない子達が言っている文を纏めた物


①パパ…山程航空機を落として来た”航空機バスター”。眼力だけで殺されそうとの意見多数

②レイ…見た目が怖い。よく分からない変態ドクター。バケモノみたいな戦闘機に乗ってるお兄さん。四連撃の魔女を産んだ張本人。逆らったら殺さry

③呉…色々いる中で、見た目が一番怖い。凄い強い基地だから着任したい子もいるが、外見の所為で躊躇っている子が多い。呉に艦娘が少ないのはこの所為

④トラック…最近子供達で噂になっている”人食い蒼龍”を手懐けている怖いおじさん。蒼龍の話の所為で寝られなくなった駆逐艦娘多数存在

⑤ワンコ…あのハンマー榛名を従えてるお兄さん。本人は好印象だが、榛名が怖い。演習でフルボッコにされた駆逐艦娘多数有り

⑥ラバウル…いつも敬語使う怖い人。ニコニコしてるけど怖い。とにかく怖いとの意見多数

⑦横須賀…上記六人を一喝出来る爆乳提督。最近少しでもいらない事を言うと、すぐ”蒼龍の所に送る”とか言ってくる。レイとか言う人とケッコンしてから、ちょっとだけ色っぽくなったとの噂





オマケ

パラオちゃん…提督達のマスコットキャラ

パラオ泊地の提督時は少しクールな印象だったが、逆にそれが良かったとの意見有り

スカイラグーンに赴任してから、社交的で明るくなった

迂闊にパラオちゃんに手を出すと、潮が「イーーーーーッ‼︎‼︎‼︎」とか言って来るので注意




これからも個性的な提督が出るかも知れません 笑


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97話 ダズル☆マン(1)

さて、96話が終わりました

題名見て嫌な予感しかしないそこの貴方‼︎

私は裏切らないよ‼︎

今回のお話は、横須賀鎮守府で夜更かしをする駆逐艦に喝を入れる為、顔面凶器の方々が奔放します




ピ…合鴨を飼い始めて数日後…

 

変わらず照月とたいほうが合鴨達の面倒を見ている

 

「良いものですね。平和な風景は」

 

朝、俺達が食堂で飲むコーヒータイムに一人増えた

 

「てぃーほうは草に詳しいのですね」

 

どうやら俺達が合鴨を飼いに行っている間、たいほうと共に食べられる野草を探しに行っていたらしい

 

「木苺でしょう、ヤシの実でしょう、それに…」

 

まぁとにかく結構食ったみたいだ

 

ウォースパイトと話していると、足元で何かコツコツ当たっているのに気が付いた

 

「なんだ⁇はぐれたのか⁇」

 

まだピヨピヨと鳴いている合鴨を抱き上げ、玄関付近で遊んでるたいほうと照月の近くに降ろし、また戻って来た

 

「あ‼︎そうですマーカス‼︎てぃーほうが言ってましたよ、マーカスは草に詳しいと‼︎」

 

「薬も毒も作ってたからな…」

 

また足を突かれる

 

「お前なぁ…」

 

もう一度表に降ろすが、降ろした瞬間此方に向かって来る

 

「懐かれた様ですね」

 

その後、何度戻そうが数分後には必ず俺の所に帰って来た

 

「う…」

 

「ピィ」

 

挙句の果てには、人の足元で寝る始末

 

呑気な野郎だ…

 

そ〜っと持ち上げ、たいほうに手渡し、ようやく一件落着

 

「ウィリアム、マーカス、横須賀から司令が来てます」

 

「どれっ」

 

 

 

 

”子供達が寝ないので助けに来て下さい

 

金ならあげます

 

横須賀”

 

 

 

「却下だ却下‼︎」

 

「提督命令と書いてますよ⁇」

 

「いいんだよ。偉そうに言ってる奴にはコレが一番効くんだよ‼︎」

 

「…私の言う事は聞いてくれたのに…横須賀の言う事は聞かないのですか⁇」

 

ウォースパイトは此方を見て目を潤ませる

 

鹿島以上の破壊力があり、やり方が汚いと思う

 

が、言ってる事は至極まともだ

 

「わ…分かったよ‼︎行く行く‼︎日時は⁉︎」

 

「今日の夜です」

 

「あいつは何を考えてんだ‼︎」

 

しばらくの間拗ねに拗ね、夕方まで俺と隊長はそんなに無い書類を片付けたり、お菓子を食べて時間を潰していた

 

そして夕方…

 

横須賀に到着

 

着くや否や会議室に案内され、いつもの椅子に掛ける

 

「揃った様ね」

 

「まぁまぁのメンツダズルな」

 

周りを見ると、呉さん、トラックさん、ラバウルさんが揃っていた

 

そして何故か単冠湾の榛名もいる

 

しかしまぁ、パッと見、顔の怖い提督ばかりだ

 

「諸君、よく集まってくれたわ。実は横須賀鎮守府の子供達は深刻な寝不足に苛まれてるの」

 

「原因は何だ⁇」

 

「蒼龍が怖くて眠れないんですって」

 

「はぁ…ったく、お前が絵本でも読んでやりゃ良いだろ⁉︎」

 

「…私が蒼龍の話を広めたのよ。だから無理」

 

「さっ、帰るか‼︎」

 

「チョット‼︎嫁の言う事聞いたって良いじゃない‼︎」

 

「知るか‼︎自業自得だ‼︎」

 

「榛名ちゃん‼︎」

 

「オーケーダズル‼︎」

 

「やめろ‼︎」

 

榛名に引き止められ、そのまま担がれつ会議室とは別の部屋に入れられた

 

三十分程すると、全員電池式のロウソク型ライトを両手に持たされ、パンツ一丁で、体にはダズル迷彩がほどこされており、歯も白黒感覚を開けて墨を塗られた

 

「だ…ダッセェ…てか怖えよ‼︎」

 

鏡を見るが、夜中にこんなバケモンが来たら、子供なら卒倒モンだ

 

「子供達をビビらせるにはこれ位が丁度いいの‼︎さぁ、ダズル☆マン達‼︎指定された場所に言って見回りして来なさい‼︎」

 

「「「了解‼︎」」」

 

全員が散り散りとなる

 

致し方無く、俺も第三駆逐艦寮に向かう

 

こんな事なら、たいほう達と合鴨の面倒見てるんだった…




え⁉︎ダズル☆マン、見た事ある⁉︎

関西系列のテレビで深夜にやってる優秀な探偵を派遣する番組で見た⁉︎

アレとは比べてはいけません。

段違いでアッチの方が怖いです 笑


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97話 ダズル☆マン”M”

ダズル☆マン、マーカス・スティングレイサイド‼︎

少し可哀想な表現があります


まずはえ〜と、漣と朧の部屋だな

 

煌々と電気が点いている

 

「これは素晴らしい造りですな」

 

「可愛いお家だよね」

 

ドア越しにでも聞こえる二人の会話

 

ドアを開け、忍び足で中に入った

 

備えられたちゃぶ台の上に、小さな動物の人形を置き、ミニチュアの家で遊んでいる

 

「寝ない駆逐は何処だぁ〜‼︎食っちまうぞ〜‼︎」

 

「ギャアアアアアア‼︎」

 

漣は俺を見るなり速攻で気絶した

 

「オボロロロロロロ‼︎エ〜〜〜ン‼︎」

 

黄色の髪の女の子は恐怖の為か、物凄く嘔吐してしまい、泣きじゃくってしまった

 

物凄く胸が打たれるが、ここは心を鬼にして任務だと割り切る

 

「エ〜〜〜ン‼︎怖いよぉ〜〜〜‼︎」

 

「貴様が朧か‼︎ちゃんと寝るか‼︎」

 

「ね、寝ます…‼︎寝ますから…」

 

ビクビクしながらゲロまみれの口で必死に懇願する

 

「よし、口をゆすいだらお布団に行くんだ‼︎」

 

「うぅ…」

 

余程怖いのか、朧は口をゆすぎながらも吐いている

 

気絶した漣を布団に寝かせ、朧も布団に入ったのを見て、電気を消す

 

灯りは不気味に光る電池式のロウソクだけ

 

「夜更かししたらすぐ来るからな‼︎分かったか‼︎」

 

「ヒィ…」

 

「分かったか‼︎」

 

「は、はい‼︎」

 

結局、朧一人ビビリまくってこの部屋は終わった

 

「はぁ〜〜〜…」

 

残ったのは罪悪感だけだ…

 

廊下に出ると、別の棟からも悲鳴が上がっている

 

アッチは呉さんの担当だな…可哀想に…

 

「さて」

 

次は電と雷の部屋か

 

もう夜の12時なのに、何処も彼処も灯りが点いている

 

扉を開けて中に入ると、髪を後ろで纏めた女の子”電”と、八重歯が可愛い女の子”雷”が着せ替え人形で遊んでいた

 

「コラァ‼︎誰だ夜更かししてるのは‼︎」

 

「キャァァァァァァァァア‼︎‼︎‼︎オバケなのですぅぅぅぅぅぅ‼︎‼︎‼︎」

 

電が後退りする

 

「お、お、オバケなんていないわ‼︎雷に任せなさい‼︎」

 

「雷〜…食ってしまうぞ‼︎」

 

「ビャァァァァァァァア‼︎‼︎‼︎」

 

二人を部屋の隅に追い込み、抱き合って震える二人の顎を持った

 

「あっちに行って欲しいのです‼︎」

 

「よ、要件は何⁉︎」

 

「布団に入るんだ」

 

「うぅ…」

 

よく見ると、電がビックリし過ぎて漏らしてしまっている

 

「ビックリさせないでよ‼︎電が漏らしちゃったじゃない‼︎」

 

「そうか。雷は反省しないか…なら、電は食ってしまおう」

 

俺は電を抱き上げ、脇に抱え、部屋を出るフリをした

 

「うわぁぁぁぁぁん‼︎雷ちゃん‼︎助けてなのです‼︎怖いのです‼︎」

 

「電を離しなさいよ‼︎」

 

涙ながらに俺を引っ張る雷の頃合いを見て、電を降ろした

 

「ちゃんと寝るか‼︎」

 

「ね、寝るわよ‼︎寝るから電を返して…」

 

「ちゃんと寝るのです…だから…もう、怖い事しないで欲しいのです…」

 

電の目からポロポロと涙が溢れて行く

 

「ようし、雷。電のパンツを履き替えさせたら布団に入るんだ。分かったか‼︎」

 

「分かったわ…」

 

「夜更かししたらまた来るからな」

 

そう言い残し、部屋を出た

 

「ふぅ〜〜〜………」

 

壁にもたれて腰を降ろし、頭を抱えながらタバコを咥える

 

心的ダメージがかなりデカイ

 

子供達にとってはトラウマ物だが、俺にとっても大ダメージだ

 

こうも子供達がビビリまくると気が引けてくる

 

だが、これは任務だと鞭を振るう

 

そして次が駆逐艦最後の部屋だ‼︎

 

最近着任したばかりだけど、夜更かしが酷いらしい

 

名前は…初月と言うらしい

 

「え〜と…この部屋だな」

 

やはり灯りが点いている

 

扉を開け、一気に中まで入ると、ちゃぶ台で勉強している女の子がいた

 

「夜更かしする悪い子はど…」

 

俺が台詞を言いながら近付こうとすると、初月は何かのスイッチを押した

 

すると初月は一瞬光り輝き、爆発した‼︎

 

「熱っ‼︎」

 

「うわぁぁぁあ‼︎」

 

初月はあたかもやられた‼︎みたいな感じになっているが、初月は自爆しただけである

 

「こっちに来るな化け物‼︎」

 

「お前、何で自動大破装置持ってるんだ⁉︎」

 

「そんなの…僕の勝手だ‼︎」

 

初月は再びスイッチを押した

 

「ぐわっ‼︎」

 

「うわぁぁぁあ‼︎」

 

再度言うが、初月自爆しただけである

 

「没収‼︎」

 

隙を見て、初月の手から自動大破装置のスイッチを取り上げた

 

「やめろ‼︎この鎮守府に自由はないのか‼︎」

 

「自動大破を自由にしたらそこら中で戦争だぞ‼︎」

 

「プライバシーの侵害だ‼︎化け物の癖に‼︎僕の自動大破装置を返せ‼︎」

 

「ダメだと言ったらダメだ‼︎早く寝ろ‼︎」

 

「変出者め。こうなったら提督に言い付けてやる‼︎」

 

初月は部屋に置かれた固定電話に飛び掛かり、横須賀に繋いだ

 

「提督‼︎第三駆逐艦寮に変出者が‼︎」

 

《早く寝ないから変出者なんか見るのよ⁇変出者に聞いてご覧なさい。寝たら帰るか⁇って》

 

初月は此方を向いて、俺を睨み付けた

 

「僕が布団に入ったら、本当に帰るのか⁇」

 

「帰るぞ⁇」

 

「くっ…分かった。寝よう」

 

諦めたのか初月は受話器を置き、布団に入った

 

「初月」

 

「何だ」

 

「勉強も良いが、暗くなったら寝る様にしような⁇」

 

「分かったから向こうに行け‼︎」

 

「はいはい」

 

初月の部屋を出て、俺の任務は終わった

 

風呂に行くと、他の三人も帰って来た

 

明るい所で見ると、大人が見ても本当に怖い

 

四人同じ湯船に入り、それぞれの結果を話し合い、笑い話は耐えなかった

 

 

 

隊長か⁇

 

隊長は俺達がビビらせちまった子達のフォローに行く役だったから、今回は居ないんだ

 

 

 

 

ダズル☆マン”M”が来た子のインタビュー

 

”気絶してて何も言えねぇ by 駆逐艦S”

 

”思い出しただけでも吐きそうです by 駆逐艦O”

 

”ビックリして漏らしちゃったのです…とっても怖かったのです… by 駆逐艦I(1)”

 

”ホントはすっごく怖かったけど、私がしっかりしなきゃいけないから、頑張ったわ‼︎ by 駆逐艦I(2)”

 

”怖かったぁ…あんな化け物が存在するなんて… by 駆逐艦H”




自動大破装置…初月の初期装備

いわゆる自沈装置

本物の初月に付いているかどうかは知らない

作者の初月があまりにも大破しまくる為、実は初月は自分で大破しているのでは⁇と、思い、出来た装置(実話)

この話で、初月はやっぱり自爆している事が判明

自動大破装置との名前だが、傷はすぐ治るから御心配なく



因みに作者の初月(75)の大破数は、苺乙女鎮守府大破率No. 1を誇り、数え始めてから100回中78回大破しているので、他にももっと大破している。





第三駆逐艦寮の愉快で可愛い駆逐艦達(大量に作者の偏見が入ってます)

漣…「何も言えねぇ」とか言いながら、すぐ気絶する子。深夜アニメと少年漫画が好き

朧…アダ名は人間ポンプ。お腹が空いた事を言わないのは、食べたら吐いちゃうから。作者が綾波型で一番好きな子

電…かわいい。ビックリすると漏らしちゃうのです。アニメでは一人だけ歯が生えてたの…お気付きですか⁇

雷…右手を捲って錨を持っているのは、実はとあるメジャーリーガーを意識してる。もっと頼って良いのよ⁉︎

初月…澄ました顔して実はM。漫画は爆発オチが至高だと思っている。作中では勉強していた様に見えたが、落書きして遊んでただけ


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97話 ダズル☆マン”K”

今回は誰かな⁇

ビビリのあの人だよ‼︎


レイが駆逐艦寮に行っている時、私、清政は軽空母及び着任したばかりの正規空母の寮に来ていた

 

毎晩一室で電気が点いているとの噂が立っているが、真相は果たして…

 

「こ、ここか…」

 

生唾を飲み、震える手でドアノブに手を掛けた

 

「アヒャヒャヒャヒャ‼︎」

 

「ヒウッ…‼︎」

 

中から聞こえて来た声に、肩を竦ませる

 

どうやら数人居るみたいだ

 

深呼吸して、思い切りドアを開けた

 

「誰だ‼︎夜更かしする奴ぁ‼︎」

 

「そっちこそ誰よ‼︎」

 

「ヒッ‼︎」

 

此方を睨み付ける、丸みを帯びた少女

 

資料によると、改装を終えた”千代田”と言うらしい

 

「ヒッ‼︎だって〜‼︎あはははは‼︎」

 

そこにいた全員に笑われるが、一人だけ反応が違った

 

「あえ⁇ポーラ、この人見た事ありますぅ〜」

 

見慣れた灰色の髪に、タレ目の少女…

 

「コラッ‼︎ポーラ‼︎お前また横須賀に来て‼︎」

 

「ポーラ遠征に来たんで〜すよ〜。今日はここでお休みです〜」

 

「ごめんなさい…私が御誘いしたんです…まぁ座って下さいな」

 

千代田の横に居る、清楚な女性

 

この子は”千歳”だったな

 

後は軽空母”祥鳳”

 

…この子は”半裸”と覚えろと言っていたな

 

後は龍驤だ

 

この子は時々レイと飲んでいるから知ってる

 

「何や〜⁇ポーラの提督さんか⁇」

 

「あえあえあえ…」

 

龍驤はグデングデンのポーラを軽く揺すり、何とか答えさせる

 

「違いますよ〜、ポーラの”好きな人”ですて〜」

 

「ポーラ…」

 

ポーラは酔うとたまに本音が出る

 

今までもちょくちょく聞いて来たから分かる

 

これは本気だ

 

「何や、ボーイフレンドかいな‼︎ポーラも隅に置けやんなぁ‼︎」

 

「ほらほら提督〜、ポーラのハンケッチで顔拭いて下さいて〜」

 

「あ、あぁ…」

 

酒臭い涎塗れのハンカチで顔を拭いている間、ポーラは私の自慢を続けていた

 

「提督は〜、顔はものすご〜く怖いんですけど〜、ポーラにいっぱいい〜っぱい、優しくしてくれますて‼︎一緒にお酒飲んでくれたり〜、ポーラにお休みのチューもおデコにしてくれますて‼︎」

 

ギャラリーから”おぉ〜”と声が上がる

 

「あ、でもポーラちゃん。提督さん、ケッコンして…」

 

祥鳳の一言で場が凍り付く

 

「…ポーラ、提督と出来たらで良いからケッコンしたかったですて…はぁ…」

 

「まだ間に合うかも知れないぞ。ありがと」

 

ハンカチを返すと、ポーラは一度匂いをかいでからポケットに入れた

 

「ホントだ‼︎コワモテだけど、結構イケメン‼︎」

 

千歳とポーラが盛り上がる中、祥鳳は少し反省気味で、千代田は千歳の膝で寝始めた

 

「ポーラ、こんなにお料理も出来るのに…」

 

「何作れるんだ⁇」

 

「このお料理、全部ポーラが作りましたて」

 

手を広げるポーラの先には、料理が沢山さる

 

「へぇ〜」

 

生春巻き、きんぴらごぼう、赤だしの味噌汁に、色とりどりのナッツ

 

「チンじゃありませんて。ポーラ、向こうの国に居た時、チョットだけ、ニッポンで言う”カテーカー”の先生してましたて。あ、流石にナッツは袋から出しただけですて」

 

「へぇ〜意外だな…」

 

よくよく見ると、結構凝っている

 

「ポーラ、こう見えても”ジョシーリョーク”は強いですて」

 

「食べていいか⁇」

 

「どぞどぞ〜」

 

「お酒、注ぎますね⁇」

 

「ありがとう」

 

本来の任務を忘れ、ポーラの手料理と千歳に注いで貰った酒を楽しむ

 

「どうですかぁ⁉︎」

 

「美味いじゃないか‼︎」

 

「えへへ〜、ポーラ、提督に褒められるのが一番嬉しいですて‼︎」

 

ポーラは私の横でニコニコ笑っている

 

酒さえ飲まなければ、ポーラは本当に女子力が高い

 

青葉の一件もそうだし、ポーラには精神的に何度も助けられている

 

感謝しなければな…

 

それに最近、ちゃんとお酒は一日三本に減らしている

 

これも褒めてやらねば

 

「提督〜、もうお家帰りますか〜⁇」

 

「いや、たまには飲んでいい。ただ、ここで飲むのは駆逐艦達の教育に悪い。もう消灯時間だろ⁇」

 

「あぁ…ごめんなさい…」

 

「さ、お片付けは私に任せて。もう少しだけ、みんなとお話してなさい」

 

「あ、は〜い」

 

とは言うものの、皿を数枚洗うだけだ

 

あっと言う間に終わってしまった

 

「さ、ポーラ。行くよ」

 

「提督〜、ポーラ、この草のマットで、ぐで〜っとしてるの好きですて」

 

ポーラは畳の上で寝っ転がり、今にも寝息を立てそうになっていた

 

「よいしょっ…と」

 

ポーラを背負い、玄関まで来た

 

「みんな、どうもありがとう。ポーラ、ありがとうは⁇」

 

「ありがと〜‼︎まったね〜‼︎」

 

「ばいば〜い‼︎」

 

「ほなな〜‼︎」

 

私達が部屋を出てしばらくすると、灯りはちゃんと消えた

 

一応、本来の任務は遂行した

 

「提督〜、ポーラの事好きですか〜⁇」

 

「好きだよ」

 

背負ったポーラは色々質問して来た

 

「ザラ姉様とポーラ、どっちが好きですか〜⁇」

 

「ポーラだな」

 

「ポーラと隼鷹、どっちが好きですか〜⁇」

 

「どっちも好きだよ」

 

「どっちもなんてダメですて‼︎二者択一ですて‼︎」

 

「ったく…何処でそんな言葉覚えた。ホラッ、ここでちゃんとネンネするんだぞ⁉︎」

 

ようやく着いた仮眠室にポーラを寝かせ、完全に取れてない汚れを取る為に風呂へ向かおうとした

 

「提督〜。ポーラからの宿題で〜すよ〜うへへへへ‼︎」

 

「分かったよ」

 

いつも通りにポーラの額にキスをし、部屋を出た

 

 

 

 

「…バカ」

 

 

 

 

 

さ〜てと、私もひとっ風呂浴びますか‼︎

 

「レイか⁉︎」

 

「呉さん‼︎早かったじゃないの‼︎」

 

そして、ドンドンと集まって来る男衆と共に、私達の話は進んで行くのだった



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97話 ダズル☆マン”E”

次は誰かな⁉︎

敬語を使うあの人だよ‼︎


呉さんやレイが頑張っている時、私は軽巡洋艦の第二寮に来ていました

 

あぁ、申し遅れました

 

私はエドガー

 

皆様には”ラバウル”の名の方が早く伝わるでしょうか⁇

 

他の方々と同じく、私の所にも灯りが点いている部屋が…三ヶ所ありますね

 

さてっ、手近な一部屋から参りましょうか

 

資料によると、この部屋は”球磨”そして”多摩”がいるようです

 

扉を開けると、ラバウルさんの目線の先には漫画を読む二人がいた

 

「誰です‼︎夜中に電気を使う不束者は‼︎」

 

「オバケにゃ‼︎」

 

「隠れるくま‼︎」

 

漫画を投げ捨て、二人は一斉に布団の中に隠れた

 

ラバウルさんは投げ捨てられた漫画を机の上に置き、蛍光灯から下がる紐に手を掛けた

 

「ほらほら。灯りを消しますよ⁇」

 

「消すくま…」

 

「おやすみにゃ…」

 

「ふふっ、お休みなさい…」

 

二人に布団を掛け、なるべく音を立てずに部屋を出た

 

「今の誰くま⁇」

 

「ラバウル航空戦隊の鬼神にゃ」

 

「寝てますか⁉︎」

 

二人が小さな声で話していると、ラバウルさんが戻って来た

 

しかし、玄関はすぐに締められた

 

そしてまた、小声での会話が始まる

 

「…何であんな迷彩してるくま‼︎」

 

「多摩達が夜更かしするから、きっと食べに来たんだにゃ…」

 

「早く寝るくま‼︎」

 

球磨と多摩は静かになった…

 

 

 

 

次は”長良”と”名取”ですか

 

真面目な二人との伝えがありますが…

 

ラバウルさんは二人の部屋の前に来た

 

だが、声はしない

 

「こんばんは〜…」

 

中に入ると、既に就寝済みの二人がいた

 

「点けたまま寝てしまったのですね…」

 

電気を消し、部屋から出ようとすると、再び電気が点いた

 

もう一度消しに行っても、また点けられる

 

点けてる子は名取だ

 

「ん…うわっ‼︎ラバウルさん‼︎なんて格好してるんですか‼︎」

 

長良が起きた

 

しかも気付かれてます

 

「夜間の巡回ですよ。この格好で巡回したら、ひっくり返って気絶する子も居るでしょう⁇」

 

「多分効くのは駆逐艦位かと…」

 

実はラバウルさん、パッと見はかなり強面だが、艦娘や部下には優しく、飛行教導も分かりやすく優しく教えてくれる為、パパやレイと共に人気が高い

 

トラックさんはトラックさんで、反対派に所属してから演習上手になっている

 

トラックさんの所に預けられた子は、基本から簡単に学べる高練度な技を必ず習得して帰り、艦隊に多大なる影響を与えてくれるとの噂が立っている

 

スイーツの事は次のトラックさんの時で…

 

 

 

 

「あ、そうだ‼︎名取が貴方のファンなんです‼︎名取、名取‼︎」

 

「ん…」

 

名取が目を覚ます

 

「あ、ら、ラバウルさん⁉︎」

 

何故こうも簡単にバレるのですか…

 

お初にお目にかかります‼︎な、なとりと…」

 

敬礼した名取の手を降ろさせ、頭を撫でる

 

「敬礼は無しですよ」

 

「は、はひっ…」

 

「では、ちゃんと寝て下さいね⁇」

 

「あ、あの‼︎」

 

振り返ると、名取の手には色紙とマジックが握られていた

 

「さ、サイン下さい‼︎」

 

「んっ。私で良ければ」

 

ラバウルさんはサラサラッとサインを書き、色紙を返して部屋を出た

 

「や、やったぁ‼︎」

 

「良かったね、名取‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

 

 

 

さて、最後は横須賀のアイドルと言われるあの子ですか…

 

そう言えば、この前大佐の基地に行った時、たいほうちゃんと照月ちゃんが、今から行く子のダンスを踊ってましたね…

 

中々可愛かったですよ

 

何せ、ウチのアイちゃんは相変わらずの暴れん坊で…ははは

 

アイちゃんはアイちゃんで、最近は医学とチアリーディングにハマっている様ですがね

 

それに、ここは防音設備が整った部屋で、この部屋のみ、巡回のみで良いらしいです

 

では、早速…

 

「Hey‼︎ドラムの”ZIN☆TWO‼︎”調子はどうだい‼︎」

 

「GO〜‼︎TO〜‼︎IRON‼︎死ぬ気でイクぜ‼︎」

 

「キャァァァァァァァァア‼︎」

 

「な…何ですか、ここは‼︎」

 

那珂ちゃん…あんな子でしたっけ⁇

 

しかもドラムは神通ではありませんか⁉︎

 

あんなゴテゴテな化粧して…

 

「さ〜ぁもう一人アウトローがいるぞ〜…ギターの”SEN☆DIE”だぁ〜‼︎」

 

「SEN☆DIEさ〜ん‼︎」

 

あの子は川内じゃないか…

 

三人揃って何をやってるんですか…全く

 

「YA☆YA☆YA‼︎」

 

「SEN☆SEN☆SEN‼︎」

 

「YA☆YA☆YA☆YA‼︎」

 

「SEN☆SEN☆SEN☆SEN‼︎」

 

ダメだ…着いていけない…

 

「おい待て。野郎共喜べ‼︎今日もう一人無法者がいるぞ‼︎エドガ〜〜〜‼︎ラバウルだぁ〜‼︎」

 

「うっ…」

 

スポットライトが浴びせられ、観客の注目が集まる

 

「奴はその昔、マーカス・スティングレイにDJの技術を教えた野郎だぁ‼︎しかも何だぁ⁉︎やる気のあるメイクもしている‼︎」

 

「うぐっ…」

 

「さ〜ぁ、エドガー・ラバウル‼︎宴の準備は出来たかぁ〜‼︎」

 

「い…いいでしょう‼︎」

 

こうなりゃ、やるしかないみたいです

 

「潔の良い野郎は好きだ‼︎ようし‼︎今夜も突っ走るぜ‼︎」

 

「YEEEEEEEEEEEEE‼︎‼︎‼︎」

 

「ラバウルさんっ」

 

ゴテゴテの化粧をした神通が耳元で話し掛けて来た

 

「ごめんなさい、那珂ちゃんに付き合って頂いて…」

 

「構いませんよ‼︎さぁ‼︎行きますよ‼︎」

 

結局、丸々二時間デスメタルとラップをやり続けた

 

 

 

 

ミニコンサートが終わり、楽屋裏…

 

「ラバウルさん、ありがとうございました‼︎」

 

「ホントすみません…」

 

「楽しかったぁ〜‼︎やっぱり夜間ライブはいいねぇ‼︎」

 

「なるほど…夜間に出撃に行く子の士気を上げる為にしていたのですね」

 

「お手伝いしてくれたラバウルさんには〜‼︎那珂ちゃんのタオル、あげちゃいま〜す‼︎」

 

「ありがとう。今からお風呂に入るので、早速使わせて頂きますよ」

 

那珂ちゃんから、ファンクラブ限定のタオルを貰い、楽屋から出たラバウルさん

 

向かう先は、集合場所になっている大浴場

 

既にレイと呉さんが着いていた

 

「ラバウルさんだ‼︎チキショウ‼︎」

 

「フルーツ牛乳な」

 

どうやら二人は、私とトラックさんが何方が早いか賭けていた様です

 

「君達。人で競馬みたいな事は行けませんよ⁇私が奢ってあげましょう‼︎」

 

「うしっ‼︎ありがとうラバウルさん‼︎」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

ラバウルさんは、何処か子供っ気が抜けない二人と、今しばらく楽しい時間を過ごす事にした



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97話 ダズル☆マン”T”

チョット短いけど、後日談もあるよ‼︎


三人が見回りを続けている時、私は軽巡洋艦第一寮に来ていた

 

灯りが点いているのは一箇所だけ

 

…もしかしたら楽かも知れない

 

最初で最後のドアを開け、中に入る

 

ここにいるのは軽巡”阿賀野型”四姉妹らしい

 

「寝てますか〜…」

 

広めのリビングに入ると、クラッカーが四発鳴った

 

「おめでと〜キラリン☆」

 

「おめでとうございます」

 

「へ⁇」

 

間の抜けた子”阿賀野”と、しっかりした趣の子”矢矧”にいきなりおめでとうと言われても、何が何だか分からない

 

「トラックさん、今日誕生日ですよね⁉︎」

 

亜麻色の髪の大きな三つ編みがトレードマークの子”能代”がそう言って、ようやく事に気が付いた

 

今日は私の誕生日だったか‼︎

 

「そうだけど…何処でそれを⁉︎」

 

「酒匂が調べて来てくれたの‼︎」

 

「ぴゃあ‼︎」

 

四姉妹の中で一番小さい子”酒匂”が、どうやら私の誕生日を偶然聞き入れた様だ

 

そして、夜、私がここに来る事も

 

「さぁ‼︎チョットだけ阿賀野達とお祝いしましょ⁇」

 

「…分かった。ありがとう」

 

阿賀野に案内され、席に座る

 

「ぴゃあ」

 

酒匂は私の隣でずっとぴゃあぴゃあ言いながらジュースを注いでくれている

 

「酒匂はね、ぴゃあしか言えないの」

 

ニコニコしながら言う阿賀野の目は、少し悲しそうだ

 

「癖か何かか⁇」

 

「ぴゃあ…」

 

「PTSDみたいな感じです。初出撃で運悪く敵戦艦に囲まれて…」

 

軽巡洋艦で戦艦に囲まれれば流石に太刀打ち出来ない

 

軽巡レベルで戦艦に勝てそうなのは、大佐の基地にいるきそちゃん位しかいない

 

あの子は不思議な武器で相手を追っ払うからな…

 

「そうだったのか…」

 

「ぴゃあ」

 

「トラックさんに会いたかったんだよね、酒匂⁇」

 

「ぴゃあ‼︎」

 

話を聞くと、それ以来遠征部隊に回されていた様で、トラックさんと入れ違いでスカイラグーンに何度か行った事があり、そこでトラックさんのスイーツを食べた事があるようだ

 

「美味しかったかい⁇」

 

「ぴゃあぴゃあ‼︎」

 

酒匂は凄く嬉しそうだ

 

ぴゃあしか言わないが、阿賀野達がしっかりしているので、心配はなさそうだ

 

そしてそこそこな時間、彼女達の部屋で彼女達が作った料理を楽しんだ

 

「じゃあ、私はコレで。ありがとう。楽しかったよ」

 

「また来てね〜‼︎」

 

「ぴゃあぴゃあぴゃあ‼︎」

 

「じゃあね、酒匂」

 

結局、酒匂は終始ぴゃあしか言わなかった

 

 

 

時間にして、二時間程度

 

私は結構長く彼女達の所に居たみたいだ

 

集合場所の風呂場に行くと、既に三人は湯船に浸かっていた

 

「おっ‼︎トラックさん‼︎お疲れ様‼︎」

 

「みんな早いな‼︎」

 

体のダズル迷彩を落とし、私も湯船に浸かる

 

話を聞くと、どうやらレイが最強の貧乏くじだったらしい

 

一番気落ちしているが、やはりそこは空の男

 

気丈に振る舞っている

 

こうして皆と集まると、あぁ、やはり私は彼等に着いて間違いはなかったのだなと、再び実感させられた

 

 

 

 

後日談…

 

あまりに気が引けた俺は、行った子供達が好きそうな物を持って、初対面の様に接した

 

最初に出会ったのは漣だ

 

「お前が漣か」

 

「綾波型駆逐艦の漣とは私の事です、スティングレイ様っ‼︎話は聞いてます‼︎」

 

「…コレ、やるよ」

 

渡したのは、ウサギをモチーフにしたミニチュアフィギュアの家だ

 

「わぁ‼︎ありがとうございます‼︎大事にしますね⁉︎」

 

「朧って子は何処だ⁇」

 

「あそこでカニ見てる子‼︎」

 

漣が指差す先には、プラスチックで出来た大きな容器の中身を見ている朧がいた

 

「呼んでくれるか⁇」

 

「朧〜‼︎」

 

「は〜い‼︎」

 

漣が呼ぶと、朧はすぐに気付き、此方に来た

 

「朧と言うのは君か⁇」

 

「あ、はい。綾波型駆逐艦の、朧です」

 

「買い物行ったら、今流行りのオモチャが当たったんだ。朧にあげる」

 

渡したのは、カニをモチーフにした、ミニチュアフィギュアの家だ

 

「あ…貰えませんよ‼︎高い物ですし‼︎」

 

「漣と一緒に遊んでくれ。漣にも似た物を渡したんだ」

 

「じゃあ…ありがたく‼︎あっ…」

 

朧がオモチャを手に取った瞬間、俺は朧と漣を抱き寄せた

 

正直、朧には一番トラウマを与えてしまったかも知れない

 

「化け物は退治してやったから、もう心配しなくていいぞ⁇」

 

「…ありがとうございます‼︎」

 

「パネェ…流石はスティングレイさんだ…」

 

二人を離し、次は雷電姉妹

 

「雷ちゃん、それは消費期限切れなのです‼︎」

 

「腐りかけが一番美味しいって言うでしょ⁉︎」

 

雷は完全に腐っていそうな、変色した牛乳パックの中身を飲もうとしていた

 

「…」

 

俺はすかさず腰のピストルで、雷の牛乳パックを撃ち抜いた

 

「あ、危ないじゃない‼︎」

 

「馬鹿野郎‼︎牛乳は新鮮な奴が一番美味い‼︎」

 

「うっさいわね‼︎アンタはいつも鹿島のおっぱい吸ってる癖に‼︎」

 

「申し訳ありませんでした‼︎」

 

すかさず土下座

 

広場にいた子達の視線が一斉に向く

 

「レイさんが鹿島教官のおっぱいを吸ってるのは有名なのです…ふふふ。提督に報告なのです…」

 

「それはいかん‼︎望みは何だ‼︎」

 

「そうね…新しい自転車が欲しいわ」

 

「電はコマ付きがいいのです」

 

「ふふふ…俺の後ろを見な‼︎」

 

俺はすぐに立ち上がり、背後を指差した

 

そこには、アニメキャラの絵が描かれたコマ付きの自転車があった

 

「貴様等にやろうじゃないか」

 

「わ〜い‼︎」

 

「ブランドじゃないけど嬉しいのです‼︎」

 

「こ…こいつ…」

 

「でも何で電達が自転車欲しいと分かったのですか⁇」

 

「リサーチは得意なんだよ」

 

「ストーカーなのです‼︎変態なのです‼︎」

 

「鹿島のおっぱい吸ってる位だから変態よ‼︎」

 

「くっ…」

 

事実なだけに、反論出来ない

 

「でも、ありがとう‼︎嬉しいわ‼︎」

 

「慣れたら次はマウンテンバイクがいいのです‼︎」

 

「…はいはい。じゃあな」

 

「「ばいば〜い‼︎」」

 

最後は初月だ

 

「初月」

 

「何だ。またお前か」

 

「これやる」

 

初月に渡したのは、120色のクレパスセット

 

「いいのか⁉︎高いものだろう⁇」

 

「自爆されて被害被るよか安い買い物だ」

 

「…分かった。ありがたく頂くよ」

 

「ゼッテェ自爆すんなよ‼︎」

 

「分かった。肝に銘じよう」

 

こう見たら初月は聞き分けの良いいい子なんだけどなぁ…

 

これで全員か…

 

「あら、レイ。どうしたの⁇」

 

最後の最後で横須賀に見付かった

 

「ナンパしてんじゃないでしょうね⁉︎」

 

「バカ。嫁の前ですっか‼︎ホラよ‼︎」

 

横須賀に四角い物を投げた

 

「何これ」

 

「”キュービックルーブ”だ。見りゃ分かんだろ‼︎クジ引きのハズレだ。お前にやるよ」

 

「はぁ〜⁉︎アンタ今なんて言った⁉︎キュービックルーブ⁉︎」

 

「キュービックルーブだろ⁇」

 

「ルービックキューブ‼︎」

 

「キュービックルーブだ‼︎」

 

二人の言い合いは、しばらく続いたと言う…



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98話 鷹

さて、97話が終わりました

今回のお話は、また基地での日常回に戻ります

組み合わせでどんな話になるか気付く方、いるかな…


「すてぃんぐれいおしごと??」

 

珍しくたいほうが工廠に顔を見せた

 

普段は誰かと一緒に居るか、食堂で絵本を読んでいるので、本当に珍しい

 

「大丈夫だぞ。どうした??」

 

「たいほうとおさんぽしよ??」

 

「よし、いいぞ。どこ行きたい??」

 

「うみ!!」

 

 

 

 

 

たいほうに連れて来られたのは、森に沿って続く長い砂浜

 

きそと再び出逢った場所だし、俺が初めてここに来た時、フィリップを不時着させたのもここらしい

 

思い入れのある場所だ

 

「ひとで!!」

 

「こっちはカニさんがいるぞ!!」

 

こうしてたいほうと二人きりで遊ぶのは久し振りだ

 

皆といたら、どうしても誰かを蔑ろにしてしまう

 

もっとたいほうと遊ばなきゃな

 

「すてぃんぐれい」

 

「ん~??」

 

砂の城を作り始めたたいほうから少し距離を置き、タバコを咥えて火を点けようとした時だった

 

「たいほうにかくしごとない??」

 

一瞬耳を疑い、咥えたタバコを落とした

 

たいほうはいつも通りに俺に聞いている様で、砂で遊ぶ手は止めていない

 

「ないよ。空軍は嘘をつか…」

 

「かぷせるにね、たいほうのおなまえかいてあったの」

 

たいほうの頭を撫でようとした手が止まる

 

「た…たいほうは賢いな。漢字読める様になったか!!」

 

「パパのおなまえもあっあよ??」

 

「…」

 

どうしても言えなかった

 

言ってしまえば楽だろうな…

 

だけど、ほんの一瞬、貴子さんの顔が浮かんだ

 

…馬鹿な男だな、俺は

 

子供に嘘を突き通すのか…

 

「きそいってた。けんぞーそーちは、すてぃんぐれいがつくったって」

 

「そう。あれは俺が造った。平和の為にな」

 

「たいほう、あそこからでたよ」

 

「そうらしいな。隊長から聞いたよ」

 

「たいほう、にんげんじゃないの??」

 

たいほうの無邪気な質問に、喉が詰まりそうになる

 

返答に困る…

 

「たいほう、どこからきたの??」

 

「たいほうはお星様が連れて来たんだ」

 

「おほしさま??」

 

「そっ。空からお星様が降って来てな、たいほうのお母さんの所に来て、たいほうをお腹に入れたんだ」

 

「たいほう、うちゅうじん??」

 

「みんなそうさ。俺だって、隊長だって、みんなお星様が連れて来たんだ」

 

「すてぃんぐれいも、うちゅうじん??」

 

「…そうなるな」

 

「たかこってだれ??」

 

とうとう核心を突かれた

 

心臓が跳ね上がり、呼吸がしにくくなる

 

「パパのおなまえのよこにね、たかこってかいてあったよ」

 

「貴子“さん”はな、たいほうのお母さんだな」

 

「たかこさん??」

 

しまった、口が滑った!!

 

「たかこさん、いまどこにいるの??」

 

「さぁな…調べといてやるよ」

 

そう言って、たいほうの後頭部を撫でた

 

「あ、パパ、たまにしゃしんみて“たかこ…”っていってるの。そのひと??」

 

「どうだろうな…俺もチョット見ただけだか…ら…」

 

唐突に突き出された、一枚の写真

 

どうやら写真の写真を撮った様だ

 

「たかこって、むさ…」

 

「言うな!!」

 

急に大声を出してしまった為、砂の城が崩れた

 

「あ…」

 

「むさしなの??」

 

「…知らなくていい。今はな」

 

「すてぃんぐれいのうそつき!!くーぐんはうそつかないんじゃないの!?」

 

これだけ怒るたいほうは初めて見た

 

でも、たいほうは強いな

 

俺に怒鳴られても、涙一つ流さない

 

ここに来て、少し折れた

 

「そうだな…すまん…」

 

「たいほう、うそつききらいだよ」

 

やっぱり、たいほうの“嫌い”は刺さるな…

 

「…貴子さんは、隊長の好きだった人だ」

 

「すてぃんぐれい、みたことある??」

 

「あるよ。綺麗な人だ」

 

「たいほうのおかあさん??」

 

「…そうだ」

 

「たいほうににてる??」

 

たいほうは写真と顔を並べた

 

「そうだな。目元とか似てるな」

 

「おかあさん、あってみたいな…」

 

「いつか逢えるさ。たいほうがいい子にしてたらな??」

 

「たいほう、おかあさんにあったら、ぱんちときっくするの」

 

「ほほぅ、そりゃまた何でだ??」

 

「だってたいほうのこと、ぽいしたんだよ!?」

 

「事情があったかもしれないぞ??理由も聞かずに人を叩くのは良い事か??」

 

「だめ!!」

 

「たいほうがお母さんに逢って、いきなりパンチとかキックしたら、隊長も俺も泣いちゃうかもな??」

 

「おかあさんにあったら、まずおはなしする!!」

 

「いい子だ」

 

「すてぃんぐれい、たいほうのこときらい??」

 

「好きさ。当たり前だろ??そろそろ帰るぞっ!!」

 

タイミング良く、基地から良い匂いが漂って来た

 

先に立ち上がって歩き始めると、たいほうは写真を見ながら後ろをチョコチョコ着いて来た

 

「すてぃんぐれい、たいほうのことわすれない??」

 

「どうした??なんか変な物でも食ったか??」

 

今日のたいほうはやたらと変な事ばかり聞いて来る

 

「あのね」

 

たいほうは右手に写真を握り、左手で俺の手を握って来た

 

「たいほう、ときどきゆめみるの」

 

「どんな夢だ??」

 

「あのね、おとこのひとがいて、たいほうにね“おれだけは、おまえのことわすれない”っていってるの」

 

基地に向かっていた足が止まる

 

体の震えが止まらなくなり、次から次へと涙が落ちる

 

「わ…わす…忘れる訳、ないだろ…」

 

「そのひと、すてぃんぐれいにそっくりなんだよ!!」

 

「たいほう…」

 

「わぁ」

 

その場に屈み、たいほうを抱き締めた

 

「ないてるの??」

 

「忘れる訳無いだろ…死んだって忘れるもんか!!」

 

「よしよし」

 

泣かせるよな…

 

まだまだ子供のたいほうに慰められるなんて…

 

でも、心の奥底で、俺は望んでいたのかも知れない

 

「おうちかえろ??かしまのかれーたべたい!!」

 

「…うんっ。そうだなっ!!」

 

たいほうを抱き上げ、基地へと帰る

 

 

 

 

 

その日、もう数時間しかなかったが、俺はどうやらたいほうに付きっ切りだったらしい

 

ご飯も隣

 

お風呂も一緒

 

たいほうが寝るまで絵本も読んだ

 

たいほうが寝息を立てたのを見計らい、本を閉じて額にキスをし、子供部屋を後にした

 

「すまんな、レイ。今日一日任せっきりで」

 

「気にしないでくれ。少し、一人にしてくれ…」

 

「おぉ…」

 

いつも夜に飲むコーヒーを飲まずに、工廠に入った

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

俺はあのカプセルの前で腰を下していた

 

何度もため息を吐き、ラムネの瓶には吸殻が詰まって行く

 

「ここに居たか」

 

武蔵が来た

 

本当は鹿島が来ると思っていたが、既に大イビキをかいているらしい

 

「何かあったのか??」

 

「俺だって感傷に浸りたい時もある」

 

「そうか…では、私は邪魔か??」

 

「いてくれ。頼む…」

 

武蔵は上げかけた腰を再び戻した

 

「すてぃんぐれいは凄いな。どんな物だって造り出せる」

 

「代償は大きいけどな…」

 

落ち込んだ俺を見てマズイと感じたのか、武蔵は話題を変えた

 

「すてぃんぐれいの革じゃんはいつも何処で買っているのだ??」

 

武蔵が指差した先には、二着の革ジャンがある

 

工廠の隅にハンガーで掛けてある二着を含め、今着てるのを入れて三着ある

 

「右は隊長から、左は鹿島から貰った」

 

「今着てるのは??」

 

「これは…」

 

革ジャンには、それぞれ思い出がある

 

鹿島から

 

隊長から

 

そして、今着てる革ジャンは一番最初に貰った物だ

 

「これは…」

 

「当ててやろう!!横須賀だな!?」

 

「違う」

 

「ぐらーふか??」

 

「違う」

 

「わからん!!」

 

「早いな!!」

 

「ふふっ。ようやく笑ったな」

 

「…」

 

俺は膝を抱え、武蔵から目線を離した

 

「訳ありなら聞かないでおこう」

 

「これは、大切な人の大切な人から貰った物だ」

 

「ほう…」

 

「凄く大切なんだ・この革ジャンだけは…」

 

「すてぃんぐれいも隅に置けないな!!今まで星の数の女を落として来たのだろう!!」

 

「ふっ…そんな所さ」

 

「では、私はそろそろ寝る。すてぃんぐれいも早く寝るのだぞ!?」

 

「あぁ」

 

武蔵の後ろ姿を見送り、しばらくして立ち上がった

 

「…よしっ!!考えてても仕方無い!!寝るっ!!」

 

俺は革ジャンをハンガーに掛け、ハンモックで横になって目を閉じた

 

 

 

 

 

 

 

ハンガーに掛けられた、三着の革ジャン

 

そのタグの部分には、何か名前が書かれていた

 

“鹿島”

 

“隊長”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“貴子さん”



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99話 赤青黄色の女の子

さて、98話が終わりました

今回のお話は、リクエストを頂いたので、イ級達のお話です

赤青黄色は一体誰かな⁇


僕は工廠の裏で釣りをしていた

 

最近作った、新作の”爆釣ルアー”の効果を試している

 

効果は絶大

 

秋刀魚が釣れる釣れる

 

二時間もしない内に、ポリバケツが満杯になる位釣れた

 

いざやめようとした時、海面に泡が立った

 

「キソチャン‼︎」

 

「オサカナトレタ⁉︎」

 

「ヤキサンマタベタイ‼︎」

 

イ級三銃士だ

 

時たま基地に来ては、しばらく回遊した後、また何処かに行ってしまう気紛れ者達だ

 

「あ‼︎みんな‼︎丁度良かった‼︎」

 

一旦釣竿や秋刀魚バケツを工廠の影に置き、また戻って来た

 

「人間の身体…欲しくない⁇」

 

 

 

 

俺と隊長、そしてwarspiteの三人は、食堂で将棋を楽しんでいる

 

「ウィリアム、王手です」

 

「くっ…」

 

「マーカス⁇そのままでは飛車を取りますよ⁇」

 

「一手戻らせて下さいお願いします」

 

「仕方無いですね…二手までですよ⁇」

 

「わ〜い‼︎」

 

表で聞き覚えの無い声が聞こえた

 

「誰だ⁇客か⁇」

 

「どれっ」

 

将棋から逃げる様に窓際に立つと、色取り取りの髪色の子がきその周りにいた

 

「えへへ、シャクシャクだね‼︎」

 

「美味しいピョン‼︎」

 

「ムシャムシャバクバク」

 

赤青黄色と、信号機みたいな子達だ

 

「きそ〜‼︎お客さんか〜⁉︎」

 

「イ級達だよぉ〜‼︎」

 

「何だと⁉︎」

 

きその傍に行くと、何と無く見覚えのある子達がそこにいた

 

「イ級1号改め、水無月だよ‼︎」

 

青髪の子は水無月

 

何処と無くきそに顔立ちが似ている

 

「イ級2号改め、卯月だピョン‼︎」

 

赤髪の子は卯月

 

一番活きが良い

 

「イ級3号改め、皐月だよ‼︎」

 

黄色の子は皐月

 

表情から今の気分が読み取りやすそうだ

 

「レイ、ちょっと分かった事があるんだ。来て」

 

きそに連れられ、建造装置の前に着いた

 

「レイ”適応能力”って知ってる⁇」

 

「まぁ…ある程度は」

 

「僕達にもあるんだ、適応能力。それが分かったんだ。見て」

 

きそはモニターに三人のデータと武蔵のデータを出した

 

「僕が調べ上げた上で、現状一番オールマイティに強いのが武蔵なんだ」

 

「榛名じゃないのか⁉︎」

 

「榛名さんは対潜攻撃が出来ないんだ。…引き摺り出しそうだけどね」

 

 

 

 

その頃、単冠湾の基地では…

 

「イッテェダズル‼︎出て来い卑怯者‼︎」

 

「に〜むにむにむ‼︎当たらないよ〜ん‼︎」

 

「ブッ倒すダズル‼︎」

 

見た事の無い潜水艦の子と、演習を繰り広げていた

 

「出て来るダズル‼︎ニムニム野郎‼︎」

 

「いっけ〜‼︎」

 

「アッチィダズル‼︎」

 

 

 

 

「それで、このデータを見て欲しいんだ」

 

きそはプリンツとたいほうのデータを出した

 

パッと見ただけでも、どのパラメーターも高水準を保っている

 

「プリンツもたいほうちゃんも高いでしょう⁇適応してるからなんだ」

 

「艦娘にも向き不向きがあるってのか⁇」

 

「そう言う事。それを踏まえて、この三人を見て」

 

水無月、卯月、皐月のデータに目をやる

 

流石に武蔵以上とは行かないが、どのパラメーターも基本の値が高い

 

「物凄くバランスが取れてるんだ」

 

言われてみれば、イ級の時から強かった

 

俺と同じ場所に砲撃を当てたり、移動速度も速い

 

それに何より、自分より大きな相手に威嚇する程のガッツがある

 

「まぁ、三人はこれからも自由に動き回るだろうけど…」

 

「きそ‼︎ありがとう‼︎」

 

「これからも護衛頑張るぴょん‼︎」

 

「お腹いっぱいだよ‼︎」

 

「ね⁇」

 

「これから、色んな基地に挨拶に行きたいんだ」

 

「うーちゃんも行くピョン‼︎」

 

「僕達に用があれば、いつでも呼んで⁇武蔵さんに無線の周波数を教えてあるから‼︎」

 

そう言い残し、彼女達は基地を後にした

 

「相変わらず台風みたいな奴等だな…」

 

「いいんじゃない⁇御礼も置いて行ってくれたし」

 

工廠の裏側には、何処から見つけたのか、財宝の入った宝箱が置かれていた…

 

 

 

 

 

 

「ぬぅんダズル‼︎」

 

「に〜むにむにむにむ‼︎」

 

「ウッゼェダズル‼︎」

 

単冠湾では、相変わらず榛名と謎の潜水艦が戦っていた

 

「榛名〜、もう諦めたら〜⁇」

 

「イヤダズル‼︎こいつだけは引き摺り出してでも叩くダズル‼︎」

 

ワンコの説得にも応じる気配は無く、榛名は潜水艦との戦いを続ける

 

「榛名だ‼︎」

 

「大きいピョン‼︎」

 

「ムシャムシャ」

 

三人組が単冠湾に来た

 

皐月は道中出会った行商船で買った、大きなどら焼きを食べている

 

「おい、こいつらは何ダズル‼︎」

 

「僕達はきそちゃんに体を造って貰ったイ級三人組だよ‼︎」

 

「うーちゃん達の力を見るピョン‼︎」

 

「パクパク」

 

水無月達は、海中の潜水艦に向かって新型の爆雷を放った

 

数秒後、潜水艦が目を回しながら浮いて来た

 

「よっしゃ‼︎榛名の勝ちダズル‼︎ありがとうダズル‼︎」

 

「じゃあね〜‼︎」

 

「バイバイピョン‼︎」

 

「モグモグ」

 

嵐の様に現れては、嵐の様に去って行く三人組

 

「な…何だったダズルか…」

 

「まぁ…とにかく榛名の勝ちだね。ははは…」

 

「にむぅ…」

 

「クソにむ‼︎目を覚ますんダズル‼︎」

 

榛名は潜水艦を掴み、激しく振る

 

「はっ‼︎ニムは負けたんですか⁉︎」

 

「ボロ負けダズル」

 

「くうぅぅぅ〜‼︎」

 

ニムと呼ばれた潜水艦娘は悔しそうにしている

 

彼女の名は”伊26”

 

愛称はニム

 

横須賀にいる伊19の妹らしく、プロポーションは彼女に負けてない

 

つまり、出る所は出ている

 

最近単冠湾に来て、榛名相手に演習をし、練度を上げている

 

「ご飯にしよっか⁇ゼリーもあるよ‼︎」

 

「グレープゼリーはあるダズルか⁉︎」

 

「ふっふっふ…オレンジとグレープがある」

 

「飯にするダズル‼︎」

 

 

 

駆逐艦”水無月”

 

駆逐艦”卯月”

 

駆逐艦”皐月”

 

に対し、緊急時支援要請を出せる様になりました‼︎

 

単冠湾に”伊26”が加わりました‼︎




駆逐艦”水無月”…駆逐三銃士リーダー

元イ級三人組の一人

子供っぽい所はまだあるが、三人の中で実力は一番高い

よく拾い食いをする皐月を怒っている

主武装は小型機銃と新型爆雷





駆逐艦”卯月”…駆逐三銃士の盛り上げ役

元イ級三人組の一人

重たい話や暗い話が嫌いで、語尾に”ピョン”が付く子

ウサギが好きで、事が落ち着いたら本物を見たいらしい




駆逐艦”皐月”…駆逐三銃士随一の食いしん坊

元イ級三人組の一人

初めて人と同じ物を食べた時に感動を覚え、色んな食べ物に興味を抱く

最近横須賀で納豆を食べ、トラック泊地でスイーツを食べて御満悦な様子





潜水艦”伊26”…巨乳潜水艦

最近単冠湾基地に配属になった、低身長巨乳の艦娘

横須賀の伊19の妹で、巨乳で可愛いが笑い方が独特

夜中にワンコを何度か襲ってから、榛名に目を付けられている


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100話 人喰い艦娘とパティシエと

さて、99話が終わりました

記念すべき100話ですね‼︎

ここまで着いて来て頂いたファンの方々、そして読書の方々、改めて御礼申し上げます

今回のお話は、とある提督のチョットした過去のお話です


「提督〜‼︎小指でいいから食べさせて下さいよぉ〜‼︎」

 

「ダメッ‼︎コラッ‼︎」

 

「ぐぎぎぎ…」

 

「ふぬぬぬ…」

 

蒼龍の頬の内側に指を突っ込んでまで、必死に抵抗するトラックさん

 

二人は相変わらず食うか食われるかの攻防が繰り広げている

 

その為か、最近トラックさんは痩せて筋肉質になって、かなりのイケメンになったともっぱらの噂だ

 

しかも、元パティシエともあり、女性の心を掴むには最高の経歴だ

 

「蒼龍…私の指より…ミルフィーユか、オレンジシャーベット…何方がいい⁇」

 

「んん〜〜〜‼︎指ぃぃぃぃぃ‼︎食わせろ‼︎早く‼︎」

 

蒼龍は血眼でトラックさんの指に喰らいつこうとする

 

「蒼龍‼︎提督に何してるの‼︎」

 

事態に気が付いた飛龍が、蒼龍を羽交い締めにしてトラックさんから外す

 

「ウガーーー‼︎喰わせろーーー‼︎」

 

「蒼龍⁇これ、な〜んだ⁉︎」

 

トラックさんは内ポケットからチョコレートバーを取り出した

 

「私にくれるんですかぁ⁉︎」

 

蒼龍の表情がパッと変わる

 

「指、諦めたらあげる」

 

「ん〜…」

 

蒼龍は右手の人差し指を咥え、数秒考える

 

「じゃあ指で‼︎」

 

再びトラックさんに襲い掛かる蒼龍

 

「分かった分かった‼︎あげるから‼︎二つだぞ、二つ‼︎」

 

「やりぃ‼︎」

 

どうやら諦めたらしく、両手にチョコレートバーを握り締め、スキップしながら執務室を出て行った

 

「ふぅ…」

 

ようやく落ち着いたトラックさんは、椅子の背もたれに体を沈めた

 

「すみません…蒼龍がご迷惑をおかけして…」

 

「いいさ。これも提督の性だろう⁇」

 

「そう言われればそれっきりですが…」

 

毎日こんな攻防を繰り広げているが、トラックさんは絶対に蒼龍を無碍にしない

 

最初に秘書艦になった子でもあるし、とある事情でトラックさんは蒼龍を絶対解体しない

 

「提督。たまには貴方の事を話して頂けませんか⁇」

 

「む…そうだな…何が聞きたい⁇」

 

「首から下げてるロケットの中身、教えて頂けませんか⁇」

 

飛龍がそう言うと、トラックさんはロケットを握り、黙り込んでしまった

 

「これはダメだ…」

 

「頑なに言わないと逆に気になります‼︎」

 

「じゃあいいです。衣笠にセクハラされまくられる提督を見るのもいいですねぇ‼︎衣笠〜‼︎」

 

飛龍は衣笠を呼ぶ為、執務室を出ようとした

 

「ストップ‼︎分かった‼︎話す‼︎」

 

「にしし、やっぱ衣笠苦手ですか⁇」

 

「苦手じゃないさ。ただ、触り方がヤバい‼︎」

 

「提督、最近グッとイケてますから、衣笠も気に入ってるんですよ‼︎だからヤラシイ触り方するんです」

 

「…ありがとう」

 

「じゃ、見せて下さい‼︎」

 

「少しだけだぞ⁇」

 

トラックさんは観念したかの様に、ロケットを開けて、中身を見せた

 

「わ、可愛い子‼︎」

 

ロケットの中に入っていた写真は、口を半開きにした、可愛い女の子の写真だ

 

「この子は私の娘なんだ」

 

「へぇ〜…って、結婚してたんですか⁉︎」

 

「いや…妻は居ない…先の反抗作戦の時、深海棲艦が本土の海岸線付近まで進行して来た時に…」

 

「あ…」

 

飛龍はマズいと感じながらも、後には引けなかった

 

「て、提督はその頃から提督だったんですか⁇」

 

「まぁね。反抗作戦が始まる少し前から提督になる人が増えたんだ。艦隊計画が実行されたお陰でねっ…」

 

 

 

 

 

忘れもしないあの日…

 

打つ手が無かった我々は、深海の連中に蹂躙されるしか無かった

 

先発で向かった反抗作戦の部隊が壊滅した報を受けた時は、絶望しか無かった

 

水平線に見えた黒い影が、私達のいた基地に来るまで数分と無かった

 

その時の深海棲艦は、まだ陸に適応しておらず、海上からの砲撃と、市街地に艦載機が来た位で済んだ

 

が…

 

あれだけいた同期の提督は、基地に数発落ちた砲撃で死に、幸か不幸か、私はそんな彼等の中に埋もれて助かった

 

建物の屋根では高射砲や対空機銃が空に吠えている

 

が、当たれど当たれど、一機も落ちる気配は無かった

 

地獄絵図だ

 

瞬きをすれば、その内に死体が転がって行き、此方の装備は箒でゴミを払うかの如く、蹴散らされて行った

 

私を含め、生き残った連中は街の様子を見る為、心許ない武器を持ち、ジープを走らせた

 

「くそっ…何なんだ、一体…」

 

心配なのは、街に置いて来た妻と娘

 

娘はまだ5歳で、食べ盛りの女の子だ

 

「あ…」

 

家に着いた途端、再び絶望する

 

家が無い…

 

妻も娘も居ない…

 

「おと…」

 

「はっ‼︎」

 

瓦礫の下から娘が出てきた

 

だが、その顔を見て、私は後退りしてしまった

 

顔の左半分が無かったのだ

 

ど…どうすればいい…

 

父親として、私は…

 

「…おいで」

 

私は最悪の決断を頭に描いてしまった

 

娘を腕に抱くと、必死に私の顔に触れようとする

 

そして、物凄く痛がる

 

恐らく、この傷ではもう助からない

 

だから…

 

 

 

 

私は痛がる娘にピストルを向け

 

引き金を引いてしまった

 

延々と苦しむなら、せめて私の手で屠ってやりたかった…

 

辺りに響くは、私の泣き声だけ…

 

 

 

 

 

数ヶ月後…

 

トラック泊地に赴任した私は目を疑った

 

建造装置の前に座り、出て来る艦娘を食べている小さな女の子を見て、私は何故か微笑んだ

 

娘とよく似ていた

 

後ろ姿、髪型、そして座り方も…

 

「…君が、蒼龍かい⁇」

 

「うん。あたしがそーりゅー」

 

蒼龍は私が話しかけても、出て来る艦娘をパクパク食べていた

 

「美味しいかい⁇」

 

「あんまりおいしくないね…」

 

「甘い物、好きかい⁇」

 

「うん」

 

「おいで。作ってあげよう」

 

「うん」

 

初めて出逢った時の蒼龍は、今のたいほうちゃんみたいな感じだったし、もっと素っ気なかった

 

そしてその後、飛龍が来たり、衣笠が来たりと、段々賑やかになった

 

私が反対派に入ったのは、実は蒼龍の存在が大きい

 

勿論、大佐達の考えも素晴らしいが、私は蒼龍を眺めているこの風景が一番好きなのかもしれない

 

私の平和は、案外近くにあった

 

妻も娘も家も何もかも失ったが、蒼龍を見てると、この子とならもう一度やれる気がしてくる

 

この子となら、戦争のない世界を造れる…そう感じている

 

 

 

 

「…提、督。ずびまぜん、わだじ、じらなぐで…」

 

グチャグチャの顔で飛龍が泣いている

 

「あんまり泣いたら、また蒼龍に笑われるぞ⁉︎」

 

「はい…」

 

「さぁっ‼︎みんな食堂でアイスケーキ食べよう‼︎」

 

「アイスケーキ⁉︎1BOXですかぁ⁉︎」

 

何処からか蒼龍が来た

 

「蒼龍は私と半分こだ」

 

「じゃあじゃあ、ティラミスにして下さい‼︎」

 

「分かった。蒼龍はティラミス好きだもんな」

 

「提督が作ったスイーツは、ぜーんぶ美味しいです‼︎」

 

蒼龍がたまに見せる、底抜けに明るいこの表情

 

トラックさんは、彼女に随分と癒されていた

 

周りは人喰いだとか解体しろとか言うが、絶対しない

 

二度と自身の手で解体だけはしない…

 

娘の二の舞だけは、絶対に踏まない…そう誓うトラックさんだった



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101話 横須賀鎮守府秋祭り ”秋月姉妹とりんご飴編”

さて、100話が終わりました

シリアスな話が続きましたが、今回は明るめのお話です

いっぱい艦娘が出てくるし、もう少し続くよ‼︎

照月「楽しんで行ってね‼︎」


「秋月ねぇ、秋祭りだよ‼︎」

 

横須賀で秋祭りが開かれた

 

一番喜んでいるのは照月だ

 

姉妹揃って浴衣に着替え、照月は着く前からず〜〜〜っと口が開いている

 

「隊長、行って来ても宜しいでしょうか⁉︎」

 

「行っておいで。お小遣いは持ったか⁉︎」

 

「持ちました‼︎」

 

「お兄ちゃんから貰ったよ‼︎」

 

秋月と照月はお揃いのカエルのガマ口財布を首から下げている

 

各々には、会場を一通り遊んでも余る位にはお小遣いを入れてある

 

「行っておいで。夕方には盆踊りがあるから、そこで集合だよ⁉︎」

 

「分かりました‼︎では行って来ます‼︎」

 

「行って来ま〜す‼︎」

 

秋月と照月が会場に向かい、私達も子供達を何人かに分配して回る事にした

 

「すてぃんぐれいは、たいほうとまわるの」

 

「そうだぞ。欲しいのあったら言うんだぞ⁇」

 

「あれたべたい」

 

俺の頭にくっ付いているたいほうは、早速屋台を指差した

 

「いらっしゃい‼︎焼き立て出来とるで‼︎」

 

「たいほうちゃん、ウチの広島焼き食べへんか⁉︎」

 

龍驤のたこ焼きと、浦風の広島焼きの出店

 

何故この配置にしたか分からないが、既に俺の頭にはヨダレが落ちているので、早めに食べさせた方が良さそうだ

 

「一パックずつくれるか⁉︎」

 

「はいよ‼︎」

 

「まかしとき‼︎」

 

二人は一瞬睨み合ってから作業に入った

 

「レイ、私アレしたいわ」

 

霞はクジ引き

 

「レイ、アレやりたい‼︎」

 

しおいは的当て

 

「犬。アレは何⁇」

 

叢雲はジャガバター

 

それぞれが違う方向から服の裾を引っ張り、色々とねだる

 

「霞。俺のポケットから財布出してくれ」

 

霞は言われるがまま、俺のポケットに手を入れた

 

「オウフ…違う、それは財布じゃない、ライターだ」

 

中途半端にくすぐったく、体をくねらせながら霞を引導する

 

「あったわ」

 

「とりあえずそれで好きなのして、終わったらそこの階段に来い。たいほうと食べてるから」

 

「「「分かった‼︎」」」

 

三人は各々の場所に向かい、俺は俺で焼き上がりを待っていた

 

「はいよ‼︎一個サービスや‼︎」

 

「たい焼き入れといたけぇ、あんやんとおあがり‼︎」

 

「ありがとう」

 

「ばいば〜い‼︎」

 

二人と別れ、待ち合わせ場所である階段でたいほうを降ろし、そこに座らせた

 

「どっちから食べるんだ⁇」

 

「たこやき‼︎」

 

まずはたこ焼きのパックを開け、割り箸をたいほうに渡す

 

「あぢっ」

 

パックの底は結構熱く、たいほうの膝に置いたら火傷してしまうかもしれない

 

「これをお膝に敷いて…」

 

革ジャンを脱ぎ、たいほうの膝に置く

 

そしてその上にたこ焼きのパックを乗せた

 

「熱くないか⁇」

 

「あつくないよ。ありがとう‼︎」

 

「よし、頂きます」

 

「いただきます‼︎」

 

俺はたい焼きを食べ、たいほうはたこ焼きを食べ始めた

 

「はい‼︎」

 

たいほうは二つほどたこ焼きを食べた後、割り箸でたこ焼きを掴み、俺の前に出した

 

「いいのか⁇」

 

「かしまがすてぃんぐれいにしてるの、たいほうもやりたい‼︎」

 

たいほうはみんなをちゃんと見て育っていると実感出来る瞬間である

 

「あ〜ん…」

 

「おいしい⁇」

 

「んっ、美味しいな‼︎」

 

たいほうにこうして貰うのは、俺の小さな夢だったりする

 

子供達といると、こうやって小さな夢がどんどん叶っていく

 

霞と手を繋いだり

 

しおいと素潜りしたり

 

叢雲に振り回されたり

 

幸せな家庭って、こんな感じだろうな…と、幾度も感じる

 

「秋月ねぇ、りんご飴だよ‼︎」

 

ちょうど目の前に秋月と照月の後ろ姿が見えた

 

「ほんとだ、一つ下さい‼︎」

 

「照月は〜…りんご飴二つと、三連のりんご飴一つ‼︎」

 

この時俺は、照月ならそれ位食うだろうと安易に考えていた

 

「綺麗だね〜…」

 

「そこに座って食べましょう⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

そう言う照月の手のりんご飴は、既にビニールを剥かれ、口に入っていた

 

「おいひ〜い‼︎」

 

「てるづき、ひとくちでたべたよ⁉︎」

 

「あ…あぁ…」

 

俺もたいほうも目が点になる

 

照月の両の手に握られていたりんご飴の片方が、一口で終了したのだ

 

「たいほう、たこやきもひとくちむりだよ」

 

「ま…真似しちゃいかんぞ⁉︎」

 

秋月と照月は俺達と少し離れたベンチに座り、照月は口をモゴモゴさせながら次のりんご飴のスタンバイに入っていた

 

「あ〜んっ‼︎」

 

俺もたいほうも照月の食いっぷりに魅入ってしまう

 

ニコニコしながら、照月はりんご飴を咀嚼して行く

 

「照月⁇もうちょっと味わって食べなさい⁇」

 

「失礼だなぁ秋月ねぇ。照月の味わい方は一口で食べる事にあるんだよ⁇」

 

「こうやって、少しずつ食べるの」

 

「照月は一発がいいなぁ〜」

 

相反する二人を見て、必死に笑いを堪える

 

「てるづきはいっぱつがいいなぁ〜、だって‼︎」

 

「や…やめろ…」

 

たまに照月はとんでもない事を言う

 

間の抜けてそうな顔と口の開き方をしているが、自分の考えがあるようだ

 

「やったわ‼︎ぬいぐるみが取れたわ‼︎」

 

「ゲームのソフト‼︎」

 

「まぁ…中々美味しいじゃない」

 

三人が帰って来た

 

それぞれ満足そうだ

 

「レイ、返すわ。ありがとう」

 

「おぅ」

 

霞から財布を返して貰い、忘れない内にポケットにしまう

 

「あ、そうだ犬。きそを見たわ。何かギャラリーが出来てたわよ⁇」

 

「また何かしでかしたんじゃねぇだろうな…」

 

「T-爆弾とかは使って無いわ。座って何かしてただけよ⁇」

 

「ちょっと見回りしてくる。たいほう頼んだ。これ渡しとくから、みんなで好きな所回って来い。全部使ってもいいぞ」

 

もう一度霞に財布を渡す

 

「ちょっと‼︎レイはお金あるの⁇」

 

「俺はこっち〜」

 

俺は長財布を霞に見せた

 

「スラれないようにチェーン付きだっ‼︎」

 

「わぁ…アレンさんの造ったチェーンね⁇」

 

「切れない錆びないスラれない、この三拍子が揃ってる‼︎じゃ、行って来る‼︎」

 

「行ってらっしゃ〜い‼︎」

 

大人が誰も居なくなったら、たいほうは霞に任せるのが一番良い

 

ほんとはきそや武蔵が良いんだが、当のきそがギャラリーを集めているのでは話にならない

 

しばらく歩くと、確かに異様にギャラリーが集まっている場所が見えた




照月「照月は一発がいいなぁ〜」


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101話 横須賀鎮守府秋祭り“しおいの金魚すくい編”

照月もいるよ!!


「はい‼︎出来たよ‼︎」

 

きその声が聞こえた

 

「寸分の狂いも無くやったよ」

 

「う…うん…」

 

どうやらきそは型抜きをしているみたいだ

 

「じ、じゃあ、これが賞金だ…」

 

「えへへ…じゃあ次アレ‼︎」

 

「わ、分かった‼︎」

 

ギャラリーをかいくぐり、きそが見える位置まで来た

 

屋台の番をしているのは呉さんだ

 

何か役が当たってるとか言ってたな…

 

「はいっ」

 

「ありがとう‼︎」

 

きそは型抜きを瞬時に形にくり抜き、にやけ顔で呉さんの所に来た

 

「500円だね」

 

「うっ…」

 

よく見ると、きそがいた机には小銭が大量に置いてある

 

「レイ‼︎助けてくれ‼︎」

 

「俺もやる」

 

「くぅ…」

 

呉さんは渋々俺の前に型抜きを置いた

 

「や…やれるモンならやってみろい‼︎」

 

置かれたのはメチャクチャ複雑な龍の型抜き

 

「最高難易度だ‼︎賞金は5000円‼︎やれるモンならや…」

 

「はい‼︎」

 

「ほい」

 

ものの見事にくり抜かれた二匹の龍

 

呉さんは何度も確認するが、寸分違わずくり抜かれている

 

「ま…負けました…」

 

「やったね‼︎18300円の儲けだ‼︎」

 

「俺は4900円だ‼︎」

 

「頼む‼︎この辺で手を引いて頂きたい‼︎」

 

きそ一人でも商売上がったりなのに、俺まで加われば破綻だ

 

「分かった分かった‼︎きそ、行くぞ‼︎」

 

「まだ出来るよ⁉︎」

 

「ダメだ‼︎呉さんが泡を吹く前に行くぞ‼︎」

 

「くっ…分かったよ…」

 

何とかきそを引き連れ、大通りに出て来た

 

「しかしまぁ、型抜きオンリーで一万も稼いだな」

 

「得意なんだ、型抜き‼︎龍なんか序の口だね‼︎」

 

「でだ。何か食べるか⁇」

 

「あれあれ‼︎あれ食べたいんだ‼︎」

 

きその目線の先には、チョコバナナの出店があった

 

「レイにも奢ってあげるよ‼︎」

 

「たまにはいいな」

 

チョコバナナの出店に向かう途中、照月と秋月にすれ違った

 

秋月は手に一本しか持っていなかったが、照月は片手に3本ずつ、計6本チョコバナナを持っていた

 

おいしいおいしいと言いながら、すれ違い様に2本のチョコバナナが消えた

 

「チョコバナナ下さい‼︎」

 

チョコバナナ、1本100円

 

結構安いな

 

「ごめんなさい‼︎売り切れました‼︎」

 

チョコバナナの店番をしていたツインテールの女の子は、俺達に深々と頭を下げた

 

「もう無いの⁇」

 

「えぇ…さっき”イーッ‼︎”とか言ってる女の子と、ず〜っと口開けてる女の子が全部買って行っちゃって…」

 

両方共思い当たる節がある

 

思い当たる節しか無い

 

「…照月かなぁ⁇」

 

「…だろうな」

 

「ホントにごめんなさい…貴方はマーカスさんときそちゃんですね⁇」

 

「そっ。よくご存知で」

 

「有名になったね‼︎」

 

「私は”瑞鶴”今度お店に来た時、飛び切りのネタ奢るから、それで勘弁して⁇ねっ⁇」

 

瑞鶴は両手を合わせてお願いしている

 

「瑞鶴は何してるの⁇」

 

「私、明日から繁華街で回転寿司をやるの‼︎私も握るから、味は保証するわ‼︎」

 

今度は舌を出して親指を立てている

 

「これ、チラシね‼︎」

 

”幸運を呼ぶ回転寿司”ずいずいずっころばし”明日オープン‼︎”

 

艦娘の開く店は、どれもネーミングセンスがぶっ飛んでてユニークだ

 

「おいしそ〜‼︎」

 

「今度連れてってやるよ。じゃあな、ずいずいずっころばし」

 

「ばいばいずい」

 

「あっ‼︎ちょっ‼︎」

 

俺は単なる冗談

 

きそはチョコバナナの腹いせを言い放って、その場を後にした

 

元の場所に戻る前に、子供達に出逢った

 

「上手よ、たいほう‼︎」

 

「でめきん」

 

子供達はたいほうを中心にして、金魚すくいをしていた

 

やっぱり霞が面倒を見ている

 

「何で金魚すくうのに紙ですくわなきゃいけないのよ」

 

叢雲は1匹もすくえず、一人でキレている

 

「そぉいそぉいそぉい‼︎」

 

しおいはしおいで、変な掛け声で金魚をすくい続ける

 

「やぶれた」

 

「おしまいね。袋に入れて貰いましょ⁇」

 

「そぉいそぉいそぉいそぉいそぉい‼︎」

 

霞とたいほうが帰って来た

 

「きんぎょとれた‼︎」

 

たいほうは、いの一番に俺に店に来た

 

「水槽作ってあげる‼︎」

 

きそとたいほうが話している間に、こっそり霞の頭を撫でる

 

「そぉいそぉいそぉいそぉい‼︎」

 

「あ…」

 

「サンキューな」

 

「う…うんっ‼︎」

 

最近霞は大分素直になって来た

 

やたらめったら噛みついていた頃に比べたら、かなり可愛くなった

 

まっ、気が強いのは変わらずだが…

 

「そぉ〜〜〜い‼︎」

 

「ふーせん」

 

たいほうは横のヨーヨーが気になるみたいだ

 

「やってみるか⁇」

 

「そぉいそぉいそぉい‼︎」

 

「すてぃんぐれいとする‼︎」

 

「よっしゃよっしゃ」

 

たいほうを前に立たせ、後ろからたいほうの手を掴んで取れそうなヨーヨーを幾つかすくう

 

「取れたな‼︎」

 

「びょんびょん‼︎」

 

たいほうはヨーヨーを気に入った様で、右手の中指に輪ゴムを付け、取った瞬間からビヨンビヨンしている

 

「たいほうヨーヨー好きか⁇」

 

「よーよーすき‼︎ありがとう‼︎」

 

「そぉいそぉいそぉいそぉいそぉいそぉいそぉいそぉいそぉい‼︎」

 

「しおい」

 

いい加減気になった

 

「そぉいそぉいそぉいそぉい‼︎」

 

「し〜お〜い〜‼︎」

 

「まだ行けますよぅ‼︎」

 

「おしまいだ‼︎もう三杯分ミチミチじゃないか‼︎」

 

しおいの前にあるブリキの器には、三杯分ミチミチに金魚が入っていた

 

既に紙部分は無いのに、しおいはプラスチックの部分で金魚をすくい続けていた

 

結局、一杯分の金魚を貰い、事無きを得た

 

《みなさんにお知らせします。広場にて、盆踊りを開催致します。少し遅いですが、是非納涼に訪れて下さい‼︎繰り返します…》

 

「さっ、隊長も来るから行こう。盆踊りが終わったら、もう少しだけ回ろうな⁇」

 

子供達を引き連れ、俺達は盆踊り会場に向かって歩き始めた



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101話 横須賀鎮守府秋祭り”れーべとまっくすのかちわり氷編”

「今日は一段と騒がしいなぁ。なぁ、提督」

 

「そうだな。年に何回かしかないお祭りだからな」

 

そう言う武蔵の頭には、れーべが乗っている

 

「…何か置いておかないと落ち着かないんだ」

 

「いつもたいほう乗ってるもんな」

 

武蔵と話していると、まっくすが服の裾を引っ張って来た

 

「私も」

 

「よしよし…よいしょ‼︎」

 

「高い」

 

と、なると残るははまかぜ

 

「私は手がいいです」

 

はまかぜと手を繋ぎ、祭りの散策を開始する

 

グラーフはミハイルとUちゃんの三人で散策

 

ローマと雲龍はまつり警護兼食べ歩き

 

鹿島は迷子センターにいる

 

後でレイと回るらしい

 

「提督よ。アレ、得意だったな」

 

「輪投げか。リベンジするか⁇」

 

「うぬ」

 

相変わらず金髪の女の子が店番をしている輪投げ屋の前に立ち、200円を渡す

 

「三回投げるっぽい」

 

輪を渡され、武蔵は狙いを定める

 

「うりゃあ‼︎」

 

武蔵は輪を3つ同時に投げ、それぞれ見事景品に入った

 

かなり命中精度が上がっている

 

「凄いっぽい‼︎アンティークの写真立てとジュリ扇と夕立のCDあげるっぽい‼︎」

 

「んっ。ありがとう」

 

景品を袋に入れて貰い、輪投げ屋を後にする

 

「提督よ。これは何だ⁇」

 

武蔵が持っているのは、先程取ったジュリ扇

 

どうやら武蔵は扇子と思って取ったらしい

 

「随分懐かしい物だな」

 

「バブルの時、お立ち台に立ってそれ持って踊る」

 

答えたのはまっくすだ

 

「知ってるのか⁇」

 

「教科書で見た。日本が最高に良かった時」

 

まっくすの知識は大体合っているが、どこか偏っている

 

「パパ、アレは何⁇」

 

れーべが反応を示したのは、かちわり氷の出店だ

 

「ジュースなの⁇」

 

「冷たくて美味いぞ。買ってみるか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「私も欲しい」

 

二人を降ろし、小銭を持たせて買いに行かせた

 

「はまかぜは⁇」

 

「私はアレがいいです」

 

二つほど離れた所にベビーカステラの出店があった

 

「買っておいで」

 

「ありがとうございます」

 

はまかぜにも小銭を持たせ買いに行かせる

 

「買って来た‼︎」

 

「味はメロン」

 

二人は再び私達の肩に乗り、互いにつむじ辺りにかちわり氷の袋が当たる

 

「冷たい⁇」

 

「うぬ。気持ちがいいな‼︎」

 

「パパ飲む⁇」

 

目の前にかちわり氷の袋がぶら下がる

 

「どれっ…」

 

言葉に甘えて、少し頂く

 

メロン味のシロップがキンキンに冷えてて美味しい

 

はまかぜを迎えに行く時、別行動していた照月と秋月に出逢った

 

照月の手には、大きな紙袋が片手に2つ、計4つ握られていた

 

「おいひ〜‼︎」

 

中身はベビーカステラの様で、袋を上向きにして、雪崩の様に掻き込んで行く

 

「うわ〜…凄い食べ方…」

 

「駄菓子でもあぁは行かない」

 

れーべとまっくすの開いた口が塞がらない

 

「照月、もう食べるの止めにしたら⁇」

 

「照月、まだお腹鳴ってるよ⁇次アレ食べる‼︎」

 

向かって行ったのは、たこ焼きの出店

 

二人から目を離した瞬間「8パック下さい‼︎」と、聞こえたが、聞かなかった事にしよう

 

「提督よ。射的は得意か⁇」

 

「まぁまぁかな⁇」

 

「では勝負だ‼︎二回頼む‼︎」

 

唐突に武蔵に射的用の銃を渡され、射的が始まる

 

「パパ、あのおままごとセット狙う」

 

「武蔵、カレーセット取って‼︎」

 

各人、言われた物を一撃で取る

 

「やるな、提督」

 

「武蔵もな」

 

二発目は動物のオモチャを取り、最後の一発

 

「最後は金券狙う」

 

「ゲームソフトだ‼︎」

 

頭に乗った二人は、結構無理難題を言って来た

 

「行くぞ提督‼︎」

 

「あぁ‼︎」

 

だが、結果はハズレ

 

一回100円で、1000円の金券やゲームソフトが落ちる訳が無かった

 

「引き分けだな…」

 

「最後はキツかったな…」

 

「これで遊べる」

 

「ありがとう、武蔵‼︎」

 

頭に乗った二人は嬉しそうにしている

 

「買って来ました」

 

ようやくはまかぜが帰って来た

 

既に口がモゴモゴしている

 

一旦広場に行き、椅子に座って買った物を食べる事にした

 

ある程度食べると、子供達は三人で祭りを回ると言い、それぞれにお小遣いを渡し、私と武蔵だけがそこに残った

 

しばらくすると、広場に設置されたスピーカーから爆音が流れ始めた

 

「さぁ‼︎盆踊りの前に私達と踊りましょ〜‼︎」

 

「鹿島だ‼︎」

 

その場にいた男共の視線が一斉に鹿島の方を向く

 

鹿島は何故かポールダンスが上手く、そこにいた男共を魅了して行く

 

「くねくねしてるな。さてはレイの上で鍛えたな⁇」

 

ポールダンスが終わると、鹿島は音楽に合わせて踊り始めた

 

「武蔵‼︎ジュリ扇投げろジュリ扇‼︎」

 

「お、おぅ‼︎」

 

武蔵は谷間に挿したジュリ扇を取り出し、会場にいる鹿島に向かって投げた

 

「これは…はあっ‼︎」

 

鹿島は綺麗にジュリ扇を広げ、激しいまでにダンスを踊る

 

「て…提督よ。盆踊りまで二人で回ろうか」

 

「ん。分かった」

 

ゴミ箱に食べ終わった容器を捨て、武蔵と祭りを回り始めた



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101話 横須賀鎮守府秋祭り”野郎だらけの盆踊り編”

盆踊りが始まった

 

出店は盆踊りが終わってもまだまだ出ているが、メインは盆踊りなので、ここにも人は集まって来ている

 

「パパは⁇」

 

「すてぃんぐれいもいないよ」

 

「盆踊りで踊るんだ。ほらっ」

 

武蔵はたいほうを頭に乗せ、会場の方を向いた

 

「さぁ‼︎盆踊りが始まるわ‼︎野郎共‼︎入場ー‼︎」

 

横須賀の言葉で、パパやレイ含め、見慣れた野郎達が櫓を囲む

 

「行くダズル‼︎オリャア‼︎」

 

櫓の上にいた榛名が、何故かドラを鳴らし、盆踊りが始まる

 

そして…

 

「あはははは‼︎」

 

「カッコイイぞ〜‼︎」

 

爆笑と歓声が上がる

 

「あはははは‼︎パパすごいね‼︎」

 

「ははははは‼︎あんな盆踊りがあるか‼︎」

 

パパ達はキレッキレの盆踊りを、一糸乱れず踊っている

 

普段真面目な高山や健吾、呉さんまでもが、ダンサー顔負けのキレの良い踊りを披露する

 

そして総理まで…

 

「おと〜さんすご〜い‼︎」

 

「あなた‼︎腰が入ってませんよ‼︎」

 

「よっしゃぁ‼︎」

 

鳳翔さんまで熱血になる位、この盆踊りは激しい

 

「オラオラ‼︎スピードを上げるダズル‼︎」

 

榛名が盆踊りのスピードを上げると、野郎達もスピードを上げ、更に爆笑が起きる

 

数十分後、ようやく野郎達の盆踊りが終わった

 

「おいスティングレイ‼︎へばってんじゃね〜ダズル‼︎」

 

櫓の上から榛名が罵声を飛ばす

 

「無茶言うな‼︎」

 

「さぁ‼︎野郎共の盆踊りが終わった所で、普通の盆踊りに入ります。皆さん、こぞってご参加下さい‼︎」

 

ここからは、平和な盆踊りになった

 

特に駆逐艦の子達の盆踊りが可愛い

 

レイとワンコが会場の端っこでへばっていた

 

「プログラムに”熱血‼︎野郎だらけの爆裂盆踊り‼︎”とか書いてあるから怪しいと思った…」

 

「疲れましたね…」

 

「お疲れ様。疲れたでしょう⁇」

 

シロップ入りのかちわり氷を二つ持って来てくれたのは香取先生だ

 

「ありがとうございます」

 

「ありがとう。先生も盆踊りか⁇」

 

「私はずっと巡回よ⁇鹿島はジュリ扇持って踊ってたらしいけど…」

 

「何やってんだよ‼︎」

 

香取先生と話していると、武蔵と隊長が手を繋いで出店がある通りに行くのが見えた

 

子供達は盆踊りに熱中している

 

「鹿島と代わってあげますから、レイ、二人で回っていらっしゃい⁇」

 

「ホントか⁇なら甘えようかな⁉︎」

 

「ふふっ、素直な子は好きですよっ‼︎」

 

香取先生は鹿島を呼びに行き、数十秒したら鹿島が飛んで来た

 

「レイ、行きましょう‼︎久し振りにデートです‼︎」

 

「じゃあ行くとすっかな‼︎じゃあな、ワンコ‼︎」

 

「楽しんで下さい‼︎」

 

ワンコ一人残されたが、間髪入れずに、彼は抱き上げさせられた

 

「うわっ‼︎」

 

「提督は榛名と回るんダズル。いいな」

 

「うんっ‼︎行こうか‼︎」

 

「ふっ…素直な奴は好きダズル」

 

 

 

こうして、無事全員が秋祭りを楽しむ事が出来た

 

………

 

……

 

 

「お兄ちゃんが言ってた。祭りは、終わりかけが一番貰えるって‼︎」

 

あれだけ食べていた照月は、盆踊りで再び腹を空かし一人で出店通りを歩いていた

 

「あ‼︎コレ下さい‼︎」

 

「二つしかない⁇じゃあ両方下さい‼︎」

 

「全部下さい‼︎」

 

「味が4つあるのかぁ…二つずつ下さい‼︎」

 

照月は食べ物の出店見ては入り、余り物を安く買っては、その場で食べて次へ向かう

 

「あっ‼︎照月これ好きなんだぁ〜‼︎」

 

「いらっしゃい‼︎まだ余ってるよ‼︎」

 

「何個余ってますか⁉︎」

 

「ひいふうみい…8個だね」

 

「全部下さい‼︎」

 

「威勢が良いねぇ‼︎半額にしといてやろう‼︎ホラッ‼︎」

 

「ありがと〜‼︎はいっ‼︎」

 

お金を払い、照月はたい焼きを一つ一つ手に取り、一口で食べていく

 

「美味しかったぁ〜‼︎」

 

照月はお腹をさすり、レイ達が待つ広場へと戻って行った

 

 

照月の一発食いは、引退して的屋をしている艦娘達の間で伝説となった…



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特別編 一軸さんの災難

本編とは全く関係の無いお話ですが、とあるニコ生でこの小説をご紹介して頂き、話の流れでこのお話を書きました

ド下のお話ですが、中々面白いかと思います 笑


どこかの基地…

 

そこに着任したのは、元イージス艦の艦長の一軸さん

 

彼は頭がキレ、仲間思いで、人として良く出来た人間だが、一つだけ弱点があった

 

それは…

 

「司令官様‼︎巻雲ぉ、今日も頑張ります‼︎」

 

「巻雲⁉︎も、もう少し小さい声で…」

 

最近着任した巻雲には、分からない事ばかり

 

「司令官様‼︎体調悪いんですかぁ⁉︎」

 

「あっ、あっ、あぁ〜〜〜〜〜っ‼︎」

 

一軸さんはお尻を抑え、何処かに行ってしまった

 

「あらら…」

 

「ダメだぞ巻雲。司令は大声に弱い」

 

執務室の壁にもたれていた菊月は、一軸さんの初期艦であり、一番彼を良く知っている

 

「司令官様は何処か悪いんですかぁ⁇」

 

「…司令はお尻が緩いんだ」

 

 

 

 

「うう…巻雲コワイ…あっ」

 

一軸さんは、最近改築されたウォシュレット付きの便座に座りながら、顔を抑えていた

 

一軸さんは、艦長時代からお腹が弱い

 

艦長時代、あまりにもトイレに篭るので、トイレにマイクが付いた位弱い

 

そして今でもトイレにマイクが付いている

 

「ふぅ…」

 

《提督。お客様だ。そのままでもいいらしい》

 

「分かった」

 

《これに話し掛けて欲しい》

 

トイレに付いたマイクから菊月の声が聞こえ、近隣基地から来た提督との会話が始まる

 

《一軸艦長、お久し振りです》

 

マイクの先から聞こえて来たのは、昔部下だった青年だ

 

今は呉で提督をしているらしい

 

「き…清政か⁇すまんな、こんな所から」

 

《構いませんよ。熊のぬいぐるみと会話するのも中々楽しいです》

 

どうやら執務室の机の上には、熊のぬいぐるみが置かれているらしい

 

《どうですか、提督生活は》

 

「あぁ…中々楽しいよ。この体質が無ければ、もう少し子供達の相手をしてやりたいのだが…」

 

《ははは。体質は仕方ありませんよ。一時間程したら、横須賀分遣基地から一人ここで補給を受けたいとの連絡を受けたので、顔を見るついでに足を運んだだけです。資料を机に置いておきますので、お目通しを》

 

「分かった。横須賀分遣基地だな⁇了解した」

 

《では、失礼します》

 

清政は最後まで穏やかに話してくれた

 

本当に助かる

 

彼は立場が逆転した今でも、こうして私を心配してくれる

 

「ふぅ、もう大丈夫だ」

 

トイレから出て、再び執務戻る

 

 

 

 

 

一時間後…

 

「お邪魔します」

 

資料にあった子が基地に来た

 

横須賀分遣基地から来たのは”雲龍”と言う子だ

 

「横須賀分遣基地から来ました雲龍です」

 

「よろしく、雲龍」

 

「邪魔するぜ‼︎」

 

「あ°っ‼︎」

 

もう一人入って来た瞬間、一軸さんの顔が歪んだ

 

「あ⁇人が挨拶してんのに何だその顔は〜…壁に手ェ付けな‼︎」

 

「ヒィッ…」

 

随分気性の荒い子だ

 

一軸さんはお尻を抑えながら、渋々壁に手を付けた

 

「あ⁇何か臭うな…屁ェこいたのか⁉︎」

 

「一軸さん。こっち来て」

 

何かに気付いた雲龍は、一軸さんの手を引いてトイレに向かった

 

「君。うちの司令はお尻が緩いんだ。もう少し声のトーンを下げてくれ」

 

「あぁ⁇そんなユルユルで提督が務まっか‼︎アタシが叩いて治してやんよ‼︎」

 

 

 

 

「ゴメンなさい。あの子、途中で出逢った子なの」

 

「い…いや…構わんよ…うっ‼︎」

 

雲龍をドアの向こうに待たせ、一軸さんは腹を下す

 

「呉さんから聞いた。一軸さん、お尻が緩いって」

 

「すまんな…うっ‼︎」

 

「…レイからのプレゼントがある」

 

「ふぅ…もう大丈夫だ」

 

「はい」

 

手を洗い、雲龍のプレゼントを貰う

 

「消臭剤入りのオムツと、緊急時に飲む腹痛止め。これを飲むと、小一時間は腹痛が止まる」

 

「おぉ‼︎これは助かる‼︎」

 

「これで任務は終了。ご飯、頂きます」

 

雲龍はそのまま食堂に行った

 

一軸さんはその場でルンルン気分でオムツを履き、トイレから出て来た

 

「お、いたいた‼︎ケツ緩いんだってなぁ⁉︎アタシが治してやんよ‼︎」

 

名を知らぬその子は、手に鉄パイプを握っていた

 

「ふふふ…今の私は無敵…あ°っ‼︎」

 

「ウラァ‼︎ケツ締めてろよ‼︎」

 

渾身の一撃が一軸さんのお尻に当たる

 

一軸さんは悲鳴を上げながら、必死にお尻に力を入れていた

 

 

 

 

「カレー下さい」

 

「ヒェー‼︎カレーは無いです‼︎」

 

単冠湾の比叡がいた

 

どうやらヤク中から立ち直り、ここに身を寄せているらしい

 

「カレー無いの⁇」

 

「この基地でカレー食べる子なんていません‼︎」

 

「あ」

 

雲龍は納得した

 

提督がアレじゃあ、誰もカレーなんか食べない

 

「じゃあ、肉じゃが定食下さい」

 

「ヒェー‼︎」

 

雲龍は頭の中で”この基地はイカれてる”と思いながら、肉じゃが定食を食べた

 

 

 

肉じゃが定食を食べ、雲龍は基地に帰る準備を始めた

 

「出る…出る出る出る‼︎」

 

「弱音吐いてんじゃね〜ぞ‼︎ウリャア‼︎」

 

「アッーーー‼︎」

 

一軸さんはこの日最大の悲鳴を上げた

 

「ギザギザ丸。帰るよ」

 

「おうっ‼︎ここの司令も少しは締まる様になったしな‼︎じゃあな‼︎」

 

「じゃ…じゃあね…」

 

あくまで一軸さんは優しい

 

床に突っ伏したまま、一軸さんは二人を見送った

 

「司令、漏らしたか⁇」

 

「分からん…だが、痛すぎて…おっ⁉︎」

 

一軸さんは気付いた

 

あまりにも痛すぎて、本当にお尻が締まったのか、腹痛が無くなっている‼︎

 

「治ったぁぁぁぁぁあ‼︎‼︎‼︎」

 

と、立ち上がり叫んだ瞬間、菊月が鼻を塞いだ

 

「…戦略的撤退だ」

 

「待って‼︎待ってくれ菊月‼︎」

 

「く、来るんじゃない‼︎撃つぞ‼︎」

 

菊月は逃げる様に執務室を出て行った

 

「見捨てないでくれーーーーー‼︎あ°っ‼︎」

 

 

 

 

一軸さんの災難は終わらない…




菊月…一軸さんの初期艦

腹下しが無けりゃ、ケッコンしてもいいと思っている




巻雲…最近着任したメガネ女子

一軸さんの扱い方をまだ分かっていない




雲龍…パパの所のアイツ

ようやく出番が来たと思ったら、ド下回だと拗ねている




ギザギザ丸…未だに作者が名前を知らない艦娘

最近法被を着て暴走気味

本編では物語の鍵を握るメンバーになるかも知れない




比叡…ヤク中から復活

せっかくなのでカレー繋がりで出した




一軸さん…ニコ生から生まれた異色の提督。私が一軸艦長だ

どこかのニコ生の主さんが”トイレで座りながら考えた”提督

本当に良く出来た提督だが、お尻の穴が緩い

呉さんの元上官であり、今は呉さんの部下という、チョットややこしい経歴



”菊”月

”まきぐ”も

”ウン”龍

と、何か臭う艦娘が登場した今回のお話だが、本編に関係無い特別編なのでご了承下さい


P.S

誰かギザギザ丸の名前を簡単に覚える方法を教えて下さい


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武器について

初期の頃から色々出てきましたが、一旦まとめておきます

だからお願いだ‼︎クラッシュ・バンディクーとか言わないでくれぇ‼︎


・耐水ライフル”シルバーチェスター”

 

…妖精達が造った耐水性能の高い、レバーアクション式のライフル

 

シルバーと名前が付いているが、素材は銀ではなく、謎の合金

 

パパが一番使い慣れているライフルでもあり、最初にフィリップが基地に飛んで来た時もこのライフルで”叩き落とす自信はある”と言っていた

 

トラブルが少なく、使い勝手が良いが、威力が高い弾を撃ち出すと反動がとてつもなく大きい難点がある

 

水上バイクで海上を走る際、パパとレイ共にスピンコックをやるが、今まで一度も壊れていない

 

銃弾にもよるが、基本的に深海棲艦にはあまり効果が無く、精々怯ませられる程度

 

現在、基地に二丁存在

 

 

 

 

 

・対深海用ピストル”ディープキラー”

 

…レイが造った、対深海用のピストル。マウザーに似ている

 

当初は駆逐艦でも敵深海棲艦に大ダメージを与えられる様に造ったピストルだが、普通のピストルよりコストが高く、個人使用に造った数丁のみで生産を終えた

 

レイは出撃する時、常にコレを腰に差している

 

霞を助けに行った際、二人が使っていたピストルはコレ

 

艦娘にも大ダメージを与えられる

 

現在、基地に四丁存在

 

 

 

 

・対深海用ライフル”ブルーマリーン”

 

…これまたレイが造った、対深海用のライフル。バーレットと呼ばれる対戦車ライフルをベースに出来上がった

 

かなり軽量化されており、片手で持ち歩けるレベル

 

コストが馬鹿にならず、一丁生産されただけで終了した

 

深海棲艦に当たれば粉砕

 

艦娘に当たっても大ダメージ

 

あまり連射出来ないのが難点だが、その他は完璧な仕上がりになっている

 

 

 

・観測用特殊双眼鏡

 

…これもレイが造った双眼鏡

 

俗に言う”観測射撃”が可能になり、命中率が跳ね上がる

 

ブルーマリーンと同期が可能で、コンピューター制御で弾を撃てる

 

ゴーグルとしても使える

 

 

 

・南部式手甲銃(壱式)

 

秋月の主武装

 

右手の甲に巻き付ける。砲口が二門あり、交互に弾を射出する

 

手を握る形にすると、引き金が引かれ、握っている間弾が出る

 

小型故の欠点(装弾数の少なさ、火力不足等)を長☆10cm砲ちゃんや、弾薬を加工して補っている

 

誤射しない様に、長☆10cm砲ちゃんの中に敵味方識別機能があり、味方に向けて撃っても弾が出ない安心設計

 

この艤装だけなら使い易いが、どうしても長☆10cm砲ちゃん等で重量がかさんでしまう

 

対空強化弾も射出する事が可能

 

 

 

 

・南部式手甲銃(弐式)

 

照月の主武装

 

秋月の南部式手甲銃と形は大差無いが、此方は少し貫通能力が上がる様に設計されている

 

壱式が対空なら、弐式は対艦能力が強化されている

 

この装備は、摩耶から買った古い書物の中に書かれていた仕込み銃をモデルにしており、南部という名前はその書物の著者から取った物

 

壱式弐式共々、火力の低い駆逐艦達に配備され、反対派に配られており、多少乱暴な扱いをしても壊れず、メンテナンスも少しで済む為人気が高い

 

 

 

 

・63cm自己修復機能付刀剣

 

きその主武装

 

最近のきその主武装と言えばT-爆弾に目が行くが、本来の主武装はコッチ

 

身長の小さいきそが持つと大剣の様に見えるが、普通の日本刀サイズ

 

この装備の強い点は斬れ味もあるが、なんと言っても刃こぼれを自己修復する機能

 

謎の金属で造られており、一度形が定まった後破損すると、元の形に戻る力が働く

 

時々レイが一人の時に、振り回して遊んでいる

 

きそは背中に背負い、レイは腰に挿している

 

 

 

 

・Pシールド

 

63cm自己修復機能付刀剣と同じ金属で造られた、実質最強の盾

 

銃弾はおろか、爆弾を投げられても傷一つ付かない

 

みんなはパトリオットシールドと呼んでいるが、ホントの名前はポンコツシールド

 

パトリオットシールドの方がカッコイイのでパトリオットになった

 

 

 

 

・MSW

 

叢雲とヘラの主武装

 

MSWはMicro Shock Waveの略

 

物体に特殊な電磁波を照射し、内部爆発を起こさせる

 

味方や人には当たらない安全設計にしてあるが、装備している本人がそういったロックを解除出来るので不安要素はある

 

実はかなり燃費が良く、ヘラの場合は飛んでいるエネルギーで、叢雲は歩いているエネルギーで充電可能

 

ただ、叢雲になると連射能力が若干落ちる

 

作中でも最強に近い攻撃力を誇る為、横須賀が量産させようとしているが、造った本人であるレイは”叢雲が自身を守る為の装備”と言って、頑なに造らない

 

 

 

 

・アクティブ防御機銃

 

たいほうのサブ兵装

 

たいほうが演習の際に両肩に付けている、全方位防御可能な機銃

 

たいほうが考えた方向に狙いを定め、たいほうに降りかかる火の粉から完璧に守る

 

駆逐艦の子達にも装備出来る程軽く、そして堅牢に造られている為、反対派の駆逐艦達の為に量産され、南部式手甲銃共々ベストセラーになっている

 

 

 

 

・T-爆弾

 

きそのサブ兵装

 

とある艦娘のオナラの成分を分析して出来上がったガス爆弾

 

ガスを吸い込んだ生物は呼吸困難や目眩を引き起こしたり、場合によっては失神したり気絶する程、足止め兵器としての効果がある

 

風の流れによっては、かなり広範囲に撒き散らせる

 

非殺傷兵器なので、今現在結構な場所に配られている

 

 

忘れてるのがあれば言って下さい



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102話 不思議な少女

さて、特別編やら色々終わりました

今回のお話は、とある艦娘が横須賀基地に現れ、レイ達を翻弄していきます


横須賀がきそを追い掛け回している

 

普段と変わらない日常だが、これでも大分落ち着いた位だ

 

「捕まえたわ‼︎」

 

「は☆な☆せ‼︎」

 

そんな二人を、姫が眺めている

 

「てぃーほう。抱っこされるのは良い物ですか⁇」

 

たいほうは姫の膝の上で折り紙をして遊んでいる

 

「すてぃんぐれいにおねがいしたらしてくれるよ」

 

「お願いしてみましょうか。よいしょ…」

 

たいほうを降ろし、俺の所に来た

 

「マーカス。抱っこして下さらない⁇」

 

「姫をか⁇」

 

「えぇ。武蔵がたいほうにしている様な抱っこがいいわ」

 

「うっ…」

 

姫はたまに抜けているのか、自分で言っているのが無理難題だと気付かない事がある

 

「あら、私が重たいとでも⁇」

 

姫の視線が痛い…

 

「い…行くぞ‼︎」

 

「さぁ、早く」

 

車椅子に座りながら手を伸ばす姫の脇に手を差し込み、一気に抱き上げる

 

「おっ…」

 

姫は意外に軽く、至る所が柔らかくて女の子独特の良い匂いがした

 

「…マーカス。今日は鹿島が教官として横須賀に行っていますよ⁇意味、分かりますね⁇」

 

「だ…ダメだ‼︎」

 

「私だって溜まるんですよ…ふふふ。てぃーほう‼︎」

 

「すてぃんぐれい、うぉーすぱいとは”よっきゅーふまん”なんだって。かしまいってた」

 

「た、隊長‼︎」

 

しかし、隊長は本日哨戒任務中である

 

「離しませんよ⁇さぁ、マーカス⁇ふふふふふ…」

 

 

 

数時間後…横須賀基地

 

「へぇ〜、変わってねぇなぁ‼︎」

 

レイがパニックになっている間、リュックを背負った女の子が横須賀に着いた

 

「あら⁇貴方は何処の子⁇」

 

横須賀が現れ、その子に話し掛ける

 

「おおっ‼︎若っけぇな‼︎」

 

「…何が望み⁇」

 

不思議な少女に対し、横須賀は手を腰に当て、ため息を吐いた

 

「ジェミニ・はアンタだな⁉︎コレを預かって来た‼︎」

 

少女はリュックから筒を出し、横須賀に渡して何処かに行った

 

「何で私の本名知ってるのよ…」

 

 

 

「さて、次は…おっ、いたいた‼︎」

 

「あらっ⁇貴方は誰ですか⁇」

 

「ほいよ。アンタにはコレだ‼︎」

 

少女はギザギザの歯を見せて、鹿島にハンカチを渡した

 

「アンタの旦那は泣き虫だからな。いつかこれで拭いてやるといいぜ‼︎じゃあな‼︎」

 

「あ‼︎ちょっと‼︎」

 

訳の分からないまま、鹿島の手元にはハンカチが残った

 

「よ〜し、あ‼︎あの人は‼︎」

 

「ふぅ…」

 

「よっ、隊長っ‼︎」

 

「おっ⁉︎新人か⁇」

 

「いんや、新人じゃない。隊長には…あったあった‼︎コレだ‼︎」

 

少女が手渡したのは何かの設計図

 

「一応横須賀⁇には別の設計図を渡してあるよ」

 

「俺は機械に弱くてな…マーカスって人に渡した方が…」

 

「いんや。隊長でいい。マーカスには別の設計図を渡すから…それに、マーカスなら必ず造ってくれるさ‼︎」

 

「…不思議な奴だな」

 

「じゃあ、私は隊長さんの基地に行くから、あっちでまた会おう‼︎じゃあな‼︎」

 

そう言い残し、少女は海上に立ち、猛スピードて水平線に消えて行った

 

「何だったんだ…」

 

 

 

 

「ふふふっ、久し振りに抱かれるのは良い気持ちですわね‼︎」

 

「すてぃんぐれいかぴかぴ」

 

食堂に戻ってすぐにソファで倒れた俺を、たいほうは人差し指で突く

 

「この基地には性豪がいすぎる‼︎」

 

「邪魔すんぜ‼︎」

 

「おっ、客だ客‼︎」

 

すぐに立ち上がり、客の元に向かう

 

「ほほっ‼︎変わらねぇなぁ‼︎」

 

「だ…誰だよ⁇」

 

「内緒だ。コレを届けに来た‼︎ホラよ‼︎」

 

ギザギザの歯を見せて、俺に設計図が入った筒を渡した

 

「これは…」

 

「アンタなら出来んだろ⁇」

 

「まぁ…出来ん事は無いが…こんなモン、どっから手に入れた⁇」

 

「アンタの部屋からさ‼︎おほっ‼︎武蔵さんもいる‼︎」

 

ギザギザの歯の少女は、基地に居た皆を見るなり驚くというより、見慣れた感じを醸し出していた

 

少女が皆を見て回る中、クイーンが帰って来た

 

「おかえり」

 

「鹿島も乗っけて来たぞ」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「隊長、早速で悪いけど、アイツ知ってる⁇」

 

俺の指差す方には、きそが作業している工廠を見て回るギザギザ歯の少女がいた

 

「さっき横須賀で会ったんだが…不思議な子でな、設計図をくれた」

 

「どれ…」

 

手渡された設計図を見ると、隊長の為の義足の設計図が出て来た

 

「オーケー。これは早急に必要だし、造れる。任せな‼︎」

 

「任せたぞ。で、あの子だ」

 

 

 

 

「ほへ〜…変わってないのな〜…」

 

少女は工廠を見て回り、時々何かに触れては感心している

 

「おい、ギザギザ丸‼︎」

 

「あ⁉︎失礼な奴だな‼︎誰がギザギザ丸だ‼︎」

 

「ギザギザしてっからギザギザ丸だっ‼︎お前何処から来た‼︎」

 

「いいのかなぁ〜⁇さっき姫を抱いちゃった事、鹿島に言っちゃうぞ〜⁇」

 

「おまっ、何でそれを‼︎」

 

「アタイは何でもお見通しなんだよ〜‼︎」

 

「くっ…とにかく、お前どっから来た⁇」

 

「え〜と…居住区⁇」

 

「居住区にこんな設計図書ける連中はいない」

 

俺は先程貰った設計図をギザギザ丸を見せた

 

その設計図には、現代では思い付かない兵装の設計工程が描かれていた

 

「しかも俺の部屋とか言ったなぁ⁇俺はあそこに住んでねぇぞ‼︎」

 

「う…」

 

「それに何だ⁇一丁前にドックタグなんか付けやがって…」

 

ドックタグを掴み、名前を見た瞬間、背筋が凍った

 

「…マーカス・スティングレイだと⁉︎」

 

「触るな‼︎こ、これは大事な奴なんだ‼︎」

 

「何でお前が…」

 

俺のドックタグを持っているという事は、パクッたとしか考えられない

 

 

だが首から下げているドックタグを見ると、同じ物がぶら下がっている

 

「お前…」

 

「…そうさ。未来から来たんだよ‼︎悪いか‼︎」

 

「どうやって…」

 

「それは内緒だ。まぁ⁇これは教えてやろう。アンタはアタイのお父さんだ‼︎」

 

「お前みたいなヤンチャが⁇ないない。俺の子なら母親に似てお淑やかなハズだ‼︎」

 

するとギザギザ丸は自分の頭を指差した

 

鹿島と同じ白髪だ…

 

「お母さんの血は継いでるんだよね〜‼︎残念だねぇ〜‼︎」

 

「くっ…」

 

確かに人のおちょくり方は似ているし、何せドックタグが良い証拠だ

 

未来の俺は引退して、御守り代わりにやったんだろう

 

ギザギザ丸はこれ以上話せないといい、最後に一つだけ聞いた

 

どうしても気になる事だ

 

見送る前に、二人は少しだけ港で腰を降ろした

 

「みんな、平和に暮らしてるのか⁇」

 

「暮らしてるぜ。み〜んな元気だ‼︎」

 

「そっかぁ…まっ、それなら安心だっ」

 

「でもな…あの子は知らない」

 

ギザギザ丸が指差したのは…

 

「未来でいないのか⁉︎」

 

「分からん。居住区に居ないだけかも知れない。他の奴等はみ〜んな平和だ‼︎」

 

「隊長は⁉︎」

 

「隊長さんも笑顔に溢れた生活を送ってる」

 

ますます分からなくなって来た

 

「じゃ、アタイは行くぜ。未来で逢おうな‼︎」

 

「おぅ。気を付け…消えた」

 

瞬きする間に、ギザギザ丸は消えてしまった

 

設計図と未来に”たいほう”が居ない謎だけが、俺に残った…




ギザギザ丸…未来のレイと鹿島の本当の子供

名前も教えてくれないので、レイが勝手に付けた名前

歯がギザギザしてて、レイに良く似ている

噴射式エンジンで移動したり、訳の分からない言動が多いが、未来から来たのはホント

この時代のみんなに設計図を届けに来ただけだが、真相が分かるのは何十年も先のお話

突然現れたのかも教えず、そのまま基地を去った

本人はもう出ないが、レイに持って来た設計図は物語の鍵を握る重要アイテム



因みに横須賀に渡した設計図の中身は惚れ薬。この場合はレシピ⁇

パパは義足の設計図


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コラボ回その1 雨降る街の片隅で

さて、コラボ依頼が届きましたので、私も書こうとおもいます

このお話は、”異色の提督、鎮守府に着任ス!”と言う、この物語の三次創作のストーリーと繋がっております

是非そちらの方もご覧下さい


今度は俺と隊長同時に休暇が出た

 

艦娘居住区で数日過ごせと言われた

 

理由は簡単

 

いつか自分達が暮らす家や土地を、今から少しずつ慣らしておく為らしい

 

ま、俺は何処にも行くつもりは無いけど…

 

それに、艦娘居住区と言われる場所をじっくり見てみたい

 

艦娘達は順を追って数人送られて来るらしい

 

武蔵、たいほう、きそ、霞は、既に向かっている

 

 

 

 

 

横須賀でジープをパクり、乗った瞬間、互いにタバコに火を点ける

 

そばにいた整備士達が手を振り、俺達は手を振り返した

 

「人気者もっ、たまには良いもんだなぁ⁇」

 

「嫁が追っ掛けて来てるぞ⁇」

 

サイドミラーを見ると、後ろから横須賀が追いかけて来た

 

「コラァー‼︎ちゃんと許可書書いたのー⁉︎」

 

「隊長、ダッシュ‼︎」

 

「掴まってろ‼︎」

 

隊長はニュートラルからドライブに切り替え、急発進でジープを出した

 

「もぅ…相変わらずあの二人はパクり癖があるんだから…」

 

 

 

 

しばらく揺られていると”艦娘居住区”と書かれた看板が出て来た

 

「ここが艦娘居住区かぁ…結構普通なのな」

 

「もっと近代的だと思ってたか⁇」

 

「いんや。もっと隔離されてる場所かと思ってた。一回だけ来た事あるけど、夜中だったしな…」

 

「中々良いもんだぞ、平和な街ってのも…」

 

「結構栄えてるじゃないの」

 

少し先には大型スーパーがあり、今通っている商店通りもまぁまぁ人通りがある

 

そこから数分すると、隊長の家に着いた

 

「ここが俺の家だ」

 

「一戸建て買ったのか⁉︎」

 

「艦娘からのプレゼントだってよ」

 

「いいねぇ…憧れの一戸建てだ」

 

「心配しなくていい。あぁ、伊勢‼︎」

 

隊長は車から降り、誰かと話し始めた

 

伊勢と呼ばれた女性は振袖から何かを取り出し、隊長に渡した

 

「ホラよっ‼︎」

 

車から降りた瞬間の俺に、隊長は何かの鍵を投げた

 

「お前の家の鍵だ」

 

「マジか⁉︎俺、ここに住んでいいのか⁉︎」

 

「当たり前だ。だから連れて来た」

 

「ささ、此方へ‼︎」

 

伊勢に案内され、自分の家の鍵を開けた

 

「まぁ…家具は最小限しか揃ってませんが、最低限の暮らしは可能ですよ⁉︎」

 

家は二階まであり、かなり広い

 

「本当にいいのか⁇」

 

「えぇ‼︎私達からのプレゼントです‼︎」

 

こんな上等な家を用意されたら何も言えなくなる

 

それに、この雰囲気も気に入った

 

初めて見たよ、円形になって並んでいる住宅って

 

中心は広場になってて、艦娘の何人かはそこで話したり遊んでいる

 

「…時々帰って来る」

 

「その鍵はお渡ししておきますね‼︎」

 

「でた。たいほう達だ」

 

な〜んか雲行きが怪しい

 

「隊長、たいほう探しに行こうぜ⁉︎」

 

「そうだな。雨降りそうだしな」

 

俺と隊長は商店街に戻り、たいほう達を探し始めた

 

 

 

 

「降って来たか…」

 

ポツポツと雨が降って来た

 

こんな通り雨の日は、あの日を思い出す

 

「ふっ…思い出すか⁇」

 

「やめてくれ…」

 

「ホラっ」

 

隊長は俺に傘を投げた

 

俺は過去に一度だけ、隊長に逆らった事があった

 

別に裏切るとかでは無い

 

若気の至りで、どうしても自分の腕を確かめたかった俺は、任務が終わり、制空権が確保された空で隊長に模擬戦を挑んだ

 

結果は勿論惨敗

 

この人には勝てないと実感させられた

 

その日も、こんな通り雨が降っていたのを、今でもハッキリ覚えてる

 

「おっ⁇いたいた‼︎」

 

シャッターが閉められた店の軒先に、何人か束になって雨宿りをしていた

 

たいほうに至っては、誰かに抱かれている

 

「すてぃんぐれい‼︎」

 

「遅いわよ‼︎」

 

俺を見掛けるなり、誰かに抱き付いていたたいほうと霞は、俺に抱き着いて来た

 

「あらあら。二人共甘えんぼさんね」

 

「アンタは…」

 

「みほ…すまんな、面倒見てくれて」

 

みほ…

 

聞いた事がある

 

彼女もまた引退した艦娘の一人

 

隊長と恋仲になっていたとの噂がある奴だ

 

「この人が二人を見つけてくれたのよ⁇」

 

「どうも」

 

パッと見て分かった

 

こいつ、タダ者じゃない…

 

相当数の修羅場を掻い潜って来ている目付き、風貌…

 

俺は彼を睨み返し、その場で一瞬臨戦態勢に陥る

 

「俺はマーカス・スティングレイ。よろしくな。アンタは提督か⁇」

 

「そんな感じだ。俺は真壁ユウだ」

 

「ま、ま、マーカス・スティングレイ⁉︎」

 

「マーカス・スティングレイですって⁉︎」

 

横にいた男と、貧乳の女の子が反応を示した

 

「わ、私、進藤と申します‼︎」

 

「軽巡洋艦”夕張”です‼︎」

 

「そっ。俺はマーカス・スティングレイ。パイロットが生業だ、提督じゃない」

 

「存じ上げております‼︎あ、あの‼︎サイン下さい‼︎」

 

「わ、私も‼︎」

 

「お…おぅ⁇」

 

訳が分からないまま、俺は二人の手帳にサインを書いた

 

「そ、その、後ろにいるお方はもしかして…ウィリアムさんですか⁉︎」

 

「そうだけど…」

 

「私、もう死んでもいい‼︎」

 

夕張は興奮しまくっていた

 

どうやら俺達は一部で有名人らしい

 

「君達、もしかして道に迷ったのか⁇」

 

「えぇ…お恥ずかしながら…」

 

進藤は後頭部を掻いて、照れ隠しをしている

 

「ならウチへ来い。風呂と軽い飯なら用意出来る」

 

「うはっ‼︎提督、お言葉に甘えましょうよ‼︎」

 

「そうだな。じゃあ、お願いします」

 

雨も少し上がり、何とか歩ける様にはなった

 

皆で歩いている道中、CDショップのポスターに目が行った

 

加賀がCDデビューした様で、そのポスターが貼られていた

 

「ター坊の思い人も出世したモンだなぁ…」

 

「ター坊って…マーカスさん、サンダルフォン隊とお知り合いなんですか⁉︎」

 

「同期の奴がいるんだよ。破天荒だが、根は良い奴だ」

 

「凄い…」

 

この夕張と言う艦娘、いちいち驚いて面白いな

 

「あれ⁇でも高山さんは香取さんと…」

 

「あぁ、たまに一人歩きするんだ。アイツは香取先生に突っかかってただけだ。それに、香取先生は年下は眼中に無い。年増の癖にロマンスグレーがタイプだ」

 

「そう言う貴方は、鹿島教官と御結婚を⁇」

 

「そっ。夕張はまだか⁇」

 

「私はまだです‼︎」

 

夕張は手を振って否定する

 

だが、目線は提督に行っている

 

「その内振り向くさ。鹿島曰く、根性論らしい。俺も鹿島が嫌いで避けてた時期があった」

 

ここでようやくユウが口を開いた

 

「落ちた後か⁇」

 

「そっ。痛い所突くな…」

 

再び互いに睨みを効かせる

 

そんな中、夕張が話を切り替えた

 

「マーカスさんや隊長さんは、今はどんな機体に⁇」

 

「俺も隊長も特殊な機体に乗ってる。俺は”XFA-000”だ」

 

二人はキョトンとするが、進藤が何か思い出した

 

「XFA…トリプルゼロ…あ‼︎資料にあった”フィリップ”ですか⁉︎」

 

「そっ。史上初、深海側の艦載機だ」

 

「今度データを…」

 

「横須賀にデータディスクが置いてある。悪用しないなら使っていいぞ⁇」

 

「やったぁ‼︎」

 

「隊長さんは何に⁇」

 

「私は”F-15 Snow Queen”対話型IF機能とAIが付いてる。無人戦闘機にもなる」

 

「ほへぇ〜…」

 

隊長の家に着くまで、二人の質問は尽きなかった



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103話 ♡パーテーニショータイ♡(1)

さて、102話が終わりました

今回のお話は、横須賀に届いた一通の招待状から始まります


「敵中枢から招待状が届いたわ」

 

「「ハァッ⁉︎」」

 

横須賀の突然の達に、俺達の目は一気に醒めた

 

「ほら、片仮名で書いてあるでしょう⁇」

 

横須賀に手渡された招待状をを見ると、片仮名でこう書かれていた

 

 

 

”シンアイナル ヨコスカブンケンタイヘ

 

アナタガタヲ パーテーニショータイシマス

 

ゼヒキテネ♡”

 

 

 

「いや、罠だろ」

 

「誰も行けとは言ってないわ。ただ、総理が行って、安全だったのは覚えてる」

 

「まぁ…」

 

「レイなら大丈夫よ‼︎」

 

「許可しない」

 

珍しく隊長が命令を拒否した

 

「レイを危険な目に遭わせる訳には行かない」

 

「隊長…そうですよね‼︎これは破棄しま…」

 

横須賀が招待状を破ろうとした時、隊長は手を止めた

 

「レイだけなら許可しないと言っただけだ」

 

「え⁇」

 

「私も行く。それなら許す」

 

「…畏まりました。すぐに空母を手配します」

 

 

 

 

数時間後…

 

大湊から寄越された艦隊が来た

 

イージス艦2隻

 

重巡洋艦2隻

 

そして、空母が1隻

 

「隊長とレイは空母に乗って下さい」

 

 

 

〜空母 タイコンデロガ・改 操舵室〜

 

入ってまず気付いた

 

人が随分明るい

 

これは、艦長の教育が良い証拠だ

 

「ようこそ大佐。そしてスティングレイ。艦長の棚町です」

 

「随分若いんだな…」

 

隊長が驚くのも無理はない

 

タイコンデロガ・改の艦長は随分若かった

 

パッと見ても、まだ30代前半だ

 

「ははは‼︎ただの叩き上げですよ。若くてもガッツだけは取り柄です‼︎貴方がたを、安全に中枢まで御運び致します‼︎」

 

「気に入ったぜ」

 

「では、出航致します。中枢付近までは自由時間に致しますので、艦内を見学してみて下さい。きっと気に入りますよ⁇」

 

「分かった」

 

 

 

〜空母 タイコンデロガ・改 甲板〜

 

「海は広いねぇ〜…」

 

「この先行きゃ、見目麗しいアメリカだ」

 

二人はタバコを咥えながら、甲板から立ちションをしていた

 

その様子は、操舵室からも見えていた

 

「も…ホントすみません…」

 

横須賀は平謝り

 

幾ら歴戦の猛者とも言えど、普段は二人共あんな感じなのだ

 

「え⁇立ちションですか⁉︎」

 

「えぇ…情けない…」

 

「この艦では普通ですよ⁇その代わり、絶対手は洗わせてますが…」

 

操舵室から二人を見ていると、一旦視界から消えた後、再び同じ場所に戻り、隣に追従していたイージス艦に手を振ったり、投げキッスをしていた

 

「手は洗ったみたいね…」

 

「パイロットがいっぱい寄って来てますね…」

 

二人は甲板で、艦載機パイロットに簡単に出来る空戦起動をレクチャーしたり、歴戦の話をしたりして、彼等を鼓舞していた

 

隊長とレイは、パーテーがあるなら飯も出ると言い、艦内で食事は取らなかった

 

そして…

 

「おいおいおい‼︎海の色がヤベェぞ‼︎」

 

「ついに来たか…」

 

《全員、艦内に戻って下さい‼︎》

 

「レイ、出るぞ」

 

「オーケー。フィリップ、ヘラ‼︎発艦だ‼︎」

 

《了解、乗って‼︎》

 

《乗りなさい‼︎》

 

ヘラは特殊機構を備えており、発着艦が可能な様に改造してある

 

クイーンはスカイラグーンで待機し、何かあったらすぐ飛べる様にはしてある

 

「スティングレイ、発進‼︎」

 

「イカロス、発進‼︎」

 

艦載機パイロットやタイコンデロガの操舵室、そして護衛艦の乗組員達が見守る中、二機は飛び立った



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103話 ♡パーテーニショータイ♡(2)

その頃、スカイラグーンでは…

 

「ウーシーオー…ですか⁇」

 

「なんだ貴様は‼︎」

 

呉さんと共に待機していたポーラが、潮と睨み合っている

 

だが、ポーラはボーッと潮を見ているだけ

 

「お口の悪い子は、こ〜です」

 

ポーラは潮を抱き締め、膝の上に固定した

 

「イやだ‼︎離せ‼︎イーッ‼︎イーッ‼︎」

 

 

 

 

 

《着陸許可を貰ったよ》

 

「よし、着陸だ」

 

禍々しい雰囲気の滑走路に降り、地に足を降ろす

 

「隊長…」

 

「うん…」

 

「イラッシャイ‼︎ヨクキタネ‼︎」

 

「マーカスマーカス‼︎」

 

「ウィリアム‼︎」

 

思っていたのとは裏腹に、水着に着替えた深海の子が三人出迎えてくれた

 

「マズハ”ヒメ”ニアイサツ‼︎」

 

麦わら帽子を被った白い肌の女の子に案内され、奥へと入る

 

「ここは…」

 

奥に行く途中、大きな試験管の様な物が幾つも並び、中には傷付いた深海の子達が入っている空間に辿り着いた

 

「ココハ、コワレタコヲハコンデクルバショ。イツモハワタシノタントウ」

 

「あ…」

 

見れば見る程、本物の女の子にしか見えない子が何人か入っていた

 

俺は彼女達に目が行った

 

「こんな子達が戦ってるのか…」

 

「ソウ…ドッチモオナジ。マーカスダッテワカイ」

 

言葉に詰まる

 

これ位の子なら、学校に行ってる年齢だ

 

「ココ。ココハイッタラ、ヒメイル」

 

重圧そうな扉の前に着いた

 

ここだけ雰囲気が違う

 

「ありがとな」

 

「アトデツメタイジュース、ヨウイシトクネ‼︎」

 

麦わら帽子の女の子と別れ、俺達は意を決して中に入った

 

「イラッシャイ。オマチシテオリマシタ」

 

出迎えてくれたのは、大きな縦ロール髪の女の子

 

目付きが鋭く、威圧感が凄い

 

「ドウゾ、オスワリニナッテ」

 

薄暗く、だだっ広い部屋の中心に大きな机があり、そこに案内され、席に座ると、目の前に豪華な食事が運ばれ、ワインが注がれた

 

「最後の、晩餐…か⁇」

 

俺は既にワインを口にし、チーズを摘んでいた

 

「フッ…」

 

「本当にパーテーだけか⁇」

 

「イヤ…チガウ…タダ、コレダケハシンジテクレ。コレハサイゴノバンサンデハナイ。ソレダケハイワセテクレ…」

 

「ならっ…早くボスを出すんだな」

 

「レイ⁇」

 

「雰囲気で分かる。縦ロールは、ここのボスじゃない」

 

「フフッ…ヤハリミヌカレテイタカ。ダマシタツモリハナイ。ミルメガアルカ、タメシタダケダ」

 

「それを騙したって言うんだよ‼︎」

 

「ア…」

 

俺がいつも通りにツッコミを入れると、縦ロールは何故か頬を赤らめた

 

「…ヒメガナゼヨンダカ、イマワカッタ」

 

「ほれほれ、俺達ゃ忙しくないが気は短いんだ‼︎早くしないと全部食っちまうぞ⁇」

 

「ワカッタ。ヨンデクル」

 

縦ロールはカーテンの奥に消えた

 

ボスが来るまでの間にも、俺は料理を口にした

 

「レイ、何であの子がボスじゃないと分かった⁇」

 

「んなもん目ェ見りゃ分かる。こう見えても、人を見る目はあるんだぞ⁇俺」

 

「ヨンデキタ」

 

食事の手を止め、ナプキンで口元を拭き、カーテンの奥を見る

 

縦ロールがカーテンの奥に消え、代わりに奥からモデルウォークで来た女性は、明らかに人を統べる風貌と顔付きをしていた

 

「イラッシャイ♡マッテタヨ♡」

 

カーテンを捲って此方を見るなり、満面の笑みで俺達を見た

 

「う…思ってたのと違う…」

 

もっと厳しい性格だと思っていたが、やたらテンションが高く、笑顔が良く似合うとの第一印象だった

 

「ゴハンオイシイ⁉︎ヒトノクチニアウヨウニツクッタノ‼︎」

 

「お、おぅ‼︎最高だぜ‼︎な⁉︎隊長‼︎」

 

「うん。中々イケるな」

 

「モ〜ットタベテネ♡」

 

やたらテンションの高い彼女に不安を抱きながらも、今しばらくは食事にありついた

 

しばらくして手を休めた時に、彼女は口を開いた

 

「ショウカイガオクレマシタ。ワタシハ”チュウスウセイキ”トイイマス」

 

「マーカス・スティングレイだ」

 

「ウィリアム・ヴィットリオです」

 

「シッテル。アナタガタヲソノカラダニシタノハ、ワタシデスカラ…」

 

ようやく隊長が気付く

 

そう、俺達は一度、此処に来た事がある

 

反抗作戦で撃墜された俺達は此処に運ばれ、深海化の手術を受けた

 

そして何故、彼女が俺達を助けてくれたのか、俺は薄々気付いていた

 

「率直に聞く。俺達を助けてくれたのは何方が目的だ⁇繁殖か、架け橋か⁇」

 

「リョウホウ…ト、イッタラオコル⁇」

 

「やっぱりな…」

 

「ワタシタチハ、ナゼウマレタカモワカラナイ。ノコサレ、タサイショデサイゴノアガキガ、コウゲキ…ソレヲクイトメルタメニ、フタリヲオクリコンダ…オコッテル⁇」

 

中枢棲姫は目をウルウルしながら此方を見て来た

 

「怒ってない。ある程度は無敵になったし⁇今となりゃ、スカイラグーンの温泉で回復出来るし、まっ、満足はしてるから大丈夫さ」

 

「ヨカッタァ…ソレデ、フタリノヨウスヲミルタメニフタリ、アナタガタノトコロニテイキテキニオクッタノ」

 

「コーワン=サンとほっぽちゃん、だな⁇」

 

隊長も隊長で鋭い

 

「ソウ。フタリカラホウコクヲキクト、ヒトニモドッタコガイルトキイタ」

 

「戻るぞ。彼女達は優しさに触れると、人の心を取り戻す」

 

「フ…ヤッパリフタリデセイカイダッタネ♡ソレデネ、オネガイガアルノ♡」

 

「まぁ…ある程度は聞く」

 

「コドモタチガサイキン”ガッコー”ニキョウミヲモッタノ」

 

要は、深海の子達を学校に通わせて欲しいとの事

 

出来なさそうで、案外簡単かもしれないし、これは和解の大チャンスだ

 

「横須賀に頼んでみる。恐らく断らないだろう」

 

「俺も賛成だ‼︎ただ、一つだけ約束してくれ」

 

「ナニナニ♡」

 

「スカイラグーンは知ってるな⁇」

 

「ウンッ♡ワタシモイツカイキタイ♡」

 

「学校に通わせている間は、互いに助け合う。それだけだ」

 

「スルスル♡ブキナンカポイヨポイ‼︎」

 

「ならオッケーだろ」

 

「ホント⁉︎タスカッタワァ♡ジャアタベテタベテ♡」

 

結局、パーテーは本当にそれだけだった

 

襲われたり捕虜にもならなかった

 

散々食べた後、席を立ち部屋から出た

 

「マタショータイスルネ♡」

 

「あぁ、待ってる」

 

「学校は任せな‼︎」

 

中枢棲姫に見送られ、俺達は彼女と別れた

 

「フゥ…」

 

俺達を見送った後、扉を閉めた中枢棲姫はため息を吐いた

 

「オツカレサマ、ヒメ」

 

「ネ⁉︎イケメンデショウ⁉︎」

 

縦ロールこと”運河棲姫”に駆け寄り、ハイテンションのまま会話を続ける

 

「ナカナカノジョウダマデシタ」

 

「サイショハネ‼︎ハンショクモクテキダッタンダケド‼︎イマカラオモエバセイカイダッダナァ♡ウフフッ♡」

 

「ハハハ…」

 

しばらく中枢棲姫の話は尽きる事は無かった…

 

 

 

 

「…」

 

隊長と二人で道を戻っていると、再びあの巨大な試験管が目に入った

 

「隊長、先に行っててくれないか⁇」

 

「治してやるのか⁇」

 

「あぁ。出来る気がする」

 

「分かった。伝えておくよ」

 

一人残った俺は、巨大な試験管の近くにあった機械を弄り始めた…

 

 

 

 

「ウフフッ…ヤッパリイケメン…」

 

「ロマンスグレーモキタイデキル…」

 

「サァ‼︎ワタシタチト”コービ”シマショウ‼︎」

 

「うわぁぁぁぁあ‼︎」

 

隊長に戦艦夏姫が襲い掛かる‼︎

 

俺が深海の子達を修復している間、隊長は別の意味でピンチを迎えていた

 

「よしっ‼︎野郎共‼︎隊長と戦艦夏姫を引き剥がせ‼︎」

 

「イーーーッ‼︎」

 

帰って来た俺は、多数の深海棲艦を引き連れて戻って来た

 

「マサカ…アノケガカラナオッタノ⁉︎」

 

「ウワ、ヤメロ‼︎タマニハワタシモシタイ‼︎」

 

「ツマミグイハダメ‼︎」

 

「パパカラハナレル‼︎」

 

駆逐艦や重巡まで、こうもズラァーっと並べば、流石の姫もタジタジである

 

「マーカス…アリガトウ…」

 

港湾夏姫が頭を下げる

 

実はあの巨大な試験管に入っていた子は、大破して修復不可能だったのだが、きそがやっていた建造装置からボディを構築する技術を思い出し、余ったパーツで破損箇所を補い、高速で癒着させれば何とかなった

 

「土産を持って来るの忘れたからな。その代わりだ。じゃ、またな‼︎」

 

三人に見送られ、俺達は中枢基地を後にした



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103話 ♡パーテーニショータイ♡(3)

「帰って来た‼︎」

 

中枢から戻って来た二機はタイコンデロガに着艦し、五体満足の二人が降りて来た

 

「おかえりなさい‼︎どうだった⁉︎」

 

「話がある」

 

「え⁉︎ちょっ…」

 

横須賀の後ろ首を掴み、会議室に放り込んだ

 

「学校を造って欲しいんだと」

 

「深海の子達専用の⁇」

 

「そっ。今回はマジで使え」

 

「何を⁇」

 

「俺の金だよ‼︎使わないよりウンとマシだろ‼︎なんなら、俺が先生になってもいい‼︎」

 

「それ位造ってあげるわ…て言うか、それだけ⁉︎」

 

「それだけだ」

 

「はぁ〜…」

 

横須賀はその場にへたり込んだ

 

だが、へたり込んだ場所が場所で、横須賀の頭部分が、丁度俺の股の部分に来た

 

「なんだ⁇シてくれるのか⁇ん⁇」

 

「…ッ‼︎このっ‼︎」

 

俺は横須賀に襲われた

 

 

 

 

 

 

横須賀に帰り、学校を造る会議が簡潔に行われ、急ピッチで学校を造る作業が始まった

 

流石の妖精でもスグに造る事は出来ず、その日は”この余った土地にしましょう”位で終わった

 

既に日が落ち、横須賀の基地では外灯が点き始めている

 

「なにつくるの⁇」

 

「学校さ。お勉強したり、給食食べたりするんだ」

 

紐が張られた土地の前で横須賀と隊長と話していると、たいほうが頭に登って来た

 

だいぶ前からだが、たいほうが誰かの頭に乗る時、当初は抱き上げられるか、俺達がしゃがむかしていたのだが、いつからか自分で登るようになっていた

 

「たいほうもがっこういく‼︎」

 

「好きな時に行ける様にするから、たいほうも行けるぞ」

 

「やったね‼︎」

 

たいほうは俺の頭の上で喜んでいる

 

たいほうはこう見えて勤勉だ

 

きっと気に入ってくれるだろう

 

「レイっ‼︎」

 

後ろから鹿島が抱き付いて、振り向いた瞬間にこれでもかとキスを食らう

 

「心配したんですよ⁉︎」

 

「心配するな。帰る場所があるから、俺は絶対帰って来るさ」

 

「あらっ⁇隊長の受け売り⁇」

 

「そっ。嫁を貰ってから、その意味が分かった」

 

「パパのとこいく」

 

たいほうは器用に隊長の頭に移り、俺は鹿島と手を繋いだ

 

「…あら⁇」

 

手を繋いだ瞬間、鹿島はある事に気付き、一瞬レイの横顔を見た

 

すぐに視線を皆に戻し、笑顔を送る

 

「レイ、今日は横須賀に泊まりなさい」

 

「そうさせて貰おうかな…ふぁ…」

 

ここに来て、ようやく疲れが来た

 

「腹もいっぱいだし、ひとっぷろ浴びて横になるかな…」

 

「私は基地に帰る。レイ、たまには二人でゆっくりとな⁇」

 

「んっ」

 

三人と別れ、鹿島と共に宿舎へと歩く

 

「レイ。今日は一緒に寝ましょうか‼︎」

 

「あぁ…」

 

帰って来てから、レイは少し様子がおかしかった

 

表向きにはいつもの破天荒な彼だが、鹿島が握っているその手は、汗で一杯だった…

 

レイは用意された部屋に入り、シャワーを浴びる

 

その間、鹿島は台所でコーヒーを淹れながら考えていた

 

レイはあぁ見えて、内心はとても怖がりな面がある

 

だが、いつもそれを気力と、子供達を護ろうとする本能でねじ伏せている

 

今日の事だって、内心は怖かったハズだ

 

「う〜ん、生き返った‼︎」

 

レイはいつも通りベッドの端に座り、リモコンでテレビのチャンネルを色々変える

 

鹿島は机にコーヒーを二つ置き、レイの横に座る

 

「レイ」

 

「ん〜⁇」

 

振り向いた瞬間に、鹿島はレイを思い切り抱き締めた

 

抱き返すレイの手は、少し震えていた

 

「怖かったでしょう…頑張りましたね…」

 

「ま…」

 

胸元に埋まるレイは目を閉じ、鹿島に甘える様に力を抜いた

 

「俺は無敵じゃない…死ぬ時だってある…」

 

「分かってますよ…」

 

「死にたがりとか言った分際で、いざ死にそうになると、やっぱり怖い…」

 

「大丈夫…私は分かってますよっ…」

 

レイは子供に戻った様に、鹿島に甘えている

 

鹿島はそんな彼を優しく撫で、あやすように背中を叩く

 

「まゆは強いな…」

 

「久し振りに呼んでくれましたね…」

 

もう随分呼ばれていないから、忘れられているかと思っていた

 

基地にいる時だって、身体を重ねる時だって、レイは鹿島の本名を呼ばなかったからだ

 

「マーカスくんっ⁇貴方は少し無理をする癖があります‼︎」

 

「へっ…昔みたいに言うのな…」

 

「うふふっ。さぁ、もう大丈夫ですね⁉︎」

 

「ありがとう」

 

鹿島から離れ、レイは照れ臭さそうにした

 

「さっ、コーヒー飲んだら、横にな…」

 

今度はレイからキスをされる

 

「んっ…」

 

意を決した様に、鹿島は目を閉じた

 

鹿島の口に、薄っすらとタバコの匂いが入る

 

鹿島はそれを逃さまいと、自分の中に受け入れた

 

 

 

 

「うへへへへ…レイさんはパネェなぁ…」

 

「漣ちゃん、何見てるの⁇」

 

レイと鹿島がイチャコラしている様子は、漣の部屋でリアルタイムモニターされていた

 

漣の部屋には漣本人と朧、そして雷電姉妹がいる

 

「あ。レイさんと鹿島さんがプロレスしてるの⁇」

 

「鹿島さんはレイさんを足でカニバサミして、離そうとしない…良い勝負だ‼︎」

 

「おっぱい吸ってるわ‼︎」

 

「チューもしてるのです‼︎」

 

モニターの先では、いつも主導権を握っている鹿島はシュンとし、逆にレイが攻め立てている

 

「凄い動きなのです‼︎」

 

「鹿島さん、何か言ってるわ‼︎」

 

「え〜と…”痛い痛い”…”やめて下さい‼︎”…”何でやめるんですか‼︎”…だって」

 

「大人の女性は訳が分からないのです」

 

「鹿島さんもレイさんも動かなくなったわ‼︎」

 

「あっ‼︎」

 

急にモニターがブラックアウトし、漣は必死に復旧を試みる

 

「おかしい…このPCの充電は、後6時間はイケるハズ…」

 

その時、部屋の照明が落ちた

 

「暗いのです‼︎」

 

「漣ちゃん、大丈夫⁇生きてる⁉︎」

 

「生きてるよ…停電かな…」

 

「誰だぁ〜…夜更かしして出歯亀する奴は〜…」

 

「ぴゃああああああああ‼︎」

 

懐中電灯を顔に当て、駆逐艦の子達をビビらせたのはレイだ

 

夜目には慣れているので、少ない明かりで朧と電を捕獲する

 

「ヴッ…」

 

「怖いのです‼︎食べられるのです‼︎」

 

「ライトオン‼︎」

 

「オン‼︎」

 

きそが部屋の明かりを点けた

 

フィリップが横須賀にいるので、勿論きそもいる

 

きそは横須賀に帰って来て、さっきまで繁華街でおんどりゃあで色々食べていたらしい

 

ずいずいずっころばしは俺と行きたいらしく、行ってないらしい

 

「レイ、これ売っていい⁉︎」

 

「やめろ‼︎データだけ抜き出せ‼︎」

 

「そんな言い方したら、横須賀さんに渡すよ⁇」

 

「データだけ抜き出して下さい‼︎」

 

「オッケー‼︎」

 

きそは漣のPCに機材を付け、データを抜き出した

 

「二度と悪さするなよ‼︎分かったな‼︎」

 

「ヒィ。分かりました‼︎」

 

漣の言葉を聞き、二人を降ろした

 

そのまま睨みを効かせながら部屋を出て、きそから機材を取り上げた

 

「にしし…あ''っ‼︎」

 

「これは没収だ‼︎」

 

「くそっ‼︎たまにはレイの上にたちたかったのに‼︎」

 

「まだまだだな‼︎」

 

「くそ〜〜〜っ‼︎」

 

地団駄を踏むきそを連れ、帰路に着いた

 

ベッドに横になり、鹿島との間にきそを置く

 

「えへへ…レイと寝るのって、結構珍しいよね⁇」

 

「早く寝ないとダズル☆マン呼ぶぞ⁉︎」

 

「分かった分かった‼︎おやすみ‼︎」

 

俺は二人の寝顔を見た後、ようやく目を閉じた…

 

 

 

 

 

学校の建設が開始されました‼︎



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104話 ズルい女

さて、103話が終わりました

先に言っておきます

今回のお話は、艦娘が一人しか出てきませんし、内容がかなり重いです

横須賀のお話です

とある曲がモデルですが、題名の曲ではありません


執務室でシュークリームを食べている私は、至福の時を過ごしていた

 

「提督、そう言えばレイさんの何処がすきなんですか⁉︎」

 

明石の唐突な質問の所為で、シュークリームの中身が変な位置に付いた

 

「き…嫌いよ。あんな奴…」

 

「じゃあ何でケッコンまでしたんですか⁇」

 

「な、何回か助けて貰ってるし⁉︎そのお礼⁇」

 

「その割には強引過ぎじゃなかったですか⁇」

 

「う…」

 

確かに強引だった気もする

 

だけど、アレが私の精一杯の愛情表現なのだ

 

私はいつもレイと喧嘩して啀み合ってるケド、好きなのはホント

 

鹿島を妬んでるのも嘘じゃない

 

現に執務室にはレイのサイン入りポスターも飾ってある

 

レイはいつもポスターを見て”俺も有名になったもんだなぁ⁉︎”と、自画自賛している

 

机の上には、大分前にたまたま撮ったツーショット写真も飾ってある

 

「良い所もあるのよ、レイは」

 

「聞かせて下さいよぉ」

 

「話しても楽しくないからダ〜メ‼︎」

 

「あ〜ぁ、残念だな〜…レイさんの隠し撮り写真あげようと思ったのに…」

 

それを聞いた瞬間、明石の服の裾を掴んだ

 

「待ちなさい。気が変わったわ」

 

「じゃ、先払いで‼︎」

 

明石から数枚の写真を受け取り、私は少しだけレイへの思いを話し始めた

 

「好きよ、レイの事。彼と出逢って、人生が反転したわ…」

 

 

 

彼と出逢ったのは、隊長が彼を保護したあの日

 

当時隊長は私とグラーフ、そして隊長の三人

 

時たま臨時でエドガー…今のラバウルさんが編隊に入っていた

 

隊長は元々ラバウルさんと同じ部隊だったの

 

その話は今はいいわ

 

最初はホント、いけ好かないガキだったわ

 

人の胸はつつくし、すぐ逃げるし…

 

でもね、彼は私をいつだって護ってくれる

 

空では囲まれた時、彼は自分の身を捨てる様な戦い方で私の退路を作ってくれた

 

理由は簡単だった…

 

”おまえみたいな巨乳が死ぬのはもったいない”

 

だって…

 

でも、今だってそれは変わらない

 

必ず私を助けてくれる

 

私にとっては、隊長と同じ位のヒーローなの

 

彼と出逢ってから、見る物が輝いて見えたわ

 

それと同時に、彼を見る目も変わって行った

 

でも、私は彼の愛し方を知らなかった

 

唯一出来たのは、彼に言い返す事

 

今みたいに叩きはしなかったが、彼との口喧嘩は昔から絶えなかった

 

それでも、いつも先に謝るのは彼の方だった…

 

 

 

「まぁ、提督チョットヒステリックの気がありますからね…」

 

「うるさいわね‼︎」

 

「ほら」

 

「…話を続けるわ」

 

 

 

レイが最初に好きになったのはグラーフだと知っている

 

でも、グラーフは素っ気ない態度を取るからレイは泣く泣く諦めた

 

その時、私はようやくレイに優しくする事が出来た

 

口論は相変わらず絶えなかった

 

それでも、私はレイの傍に居れる事が嬉しかった

 

一緒にご飯食べたり、休暇の日は基地から出掛けられる街にも出掛けた

 

側から見れば、付き合ってる様に見えたと思う

 

隊長は気付いていたらしい

 

でも、何も言わなかった

 

そして、鹿島の事を知った

 

飛び込んだ愛は、既に別の人の物だった…

 

だから私は、初めてレイを叩いた

 

鹿島を泣かした罰としてレイは受け止めてるらしいけど、あの時の私の

ビンタは鹿島への嫉妬だけだったと思う

 

空でも脇役

 

恋でも脇役

 

当たり所のない怒りと虚しさを彼にぶつけてしまった…

 

後悔してるわ…

 

私だけじゃないのよ⁇

 

レイが死んだ時、大泣きしたの

 

鹿島と同じ位泣いたわ

 

レイを思い出しては、色んな意味で枕を濡らしたわ

 

それでも、レイは帰って来た

 

嬉しかったわ

 

これでまた、レイとつまらない口喧嘩が出来る‼︎

 

そう思った時、体が熱くなった

 

そっか、私、やっぱりレイが好きなんだ…

 

ようやく本物の恋に気が付いた

 

でも、それも遅かった

 

レイは鹿島とケッコンした

 

指輪を渡した時、ほんの少しでも私にくれる事を期待したけど、無駄だった

 

レイは一度そうと決めると、隊長か私が滅多打ちに言う位しないと変えない

 

それからは、鹿島に対するヤキモチを隠して過ごすのが精一杯だった

 

でも良かった

 

私、レイをほんの少しでも愛せたから…

 

幸せだった…

 

だから、私は最後の反抗をした

 

それが、あのネックレス式の指輪

 

二人までケッコン可能にしたのは、ケッコンした艦娘は士気が上がり、戦闘結果にも著しく影響を及ぼすとの結果が明確になったからだ

 

これを理由にして、半ば無理矢理ケッコンさせれば、レイは少しでも振り向くと考えた

 

案の定、レイは振り向いた

 

誘拐された時だって助けに来てくれた

 

それでも、レイの心は鹿島にある…

 

今でも何だか悔しい…

 

 

 

 

「ホントに好きなんですねぇ…」

 

「口はホントに悪いけど、私は知ってる。私は、レイのそんな所を含めて好きなのよ」

 

「最初はお金目当てかと思いました。提督、お金に汚いし‼︎」

 

「それは無いわ。もし仮にレイが貧乏パイロットでも、私は好きになってた」

 

「へぇ〜…」

 

明石が頬杖を付いて私に向かってニヤニヤしている

 

「な、何よ…」

 

「普段は、人生金よ‼︎とか言ってるのに〜…んぶっ‼︎」

 

ムカついたので明石の口元を握った

 

「どこぞの映画みたいに口縫うわよ⁇」

 

「わ、わかりまひたわかりまひた‼︎ぷはぁ‼︎」

 

「横須賀ぁ‼︎」

 

勢い良くドアが蹴破られる

 

話の張本人だ

 

「おっと、お邪魔だったかな…」

 

どうやら私が明石の口元を握っているので、変に見られてる様だ

 

「い、いい‼︎いい‼︎どうしたの⁇」

 

「ん」

 

「何よ。お口は無いの⁇」

 

「見りゃ分かる」

 

内容を言わないまま、レイは私に書類を突き付けた

 

「そいつは強化型の散弾機銃だ。欲しけりゃやる」

 

「駆逐艦の子が使ってる奴の強化版ね。頂戴するわ‼︎」

 

「素直で宜しい」

 

レイはそのまま執務室を出ようとした

 

「あ、ちょっと⁇」

 

「んあ⁇」

 

「私の事…好き⁇」

 

「忙しくないけど忙しい。帰るぞ」

 

「答えなさいよ意気地無し‼︎ヘタレ‼︎イン◯テンツ‼︎」

 

「んだとテメェ…」

 

レイは此方に振り向き、怒りながら歩いて来た

 

「誰がイ◯ポテンツだ‼︎ビンビンしとるわ‼︎」

 

「怒るのそこですか⁉︎」

 

明石はレイの怒りのポイントに驚いた

 

普通の人ならどう考えても、その前の2つで怒るだろう

 

「でっ⁇私の事好き⁇」

 

「好きに決まってんだろ‼︎」

 

「えっ…」

 

余りにも予想外の答えが返って来たので、少し怯んでしまった

 

「当たり前だろ…こんだけ俺と口論して、まだ飽き足らずに食って掛かるのお前位だ」

 

「ならチューして頂戴」

 

「おい、お前仮にも嫁のま…」

 

面倒くさくなったので、レイの胸倉を掴んで無理矢理キスをした

 

たまには私からしたっていいはず

 

その内、レイの力が弱まり、力んでいた肩が落ちた

 

唇を離し、もう一度軽くキスをした

 

「私、幸せよ⁇貴方を好きになれて…」

 

「ズルい女だな…」

 

「私知ってるわ…貴方、鹿島の人生狂わせちゃったから、その代わりをしてるんでしょ⁇」

 

「…これだけは言っておく」

 

レイは私の肩を持ち、一呼吸置いた

 

「俺は鹿島が好きだ。間違いない。じゃないとケッコンなんてしない。だけど…本当に好きな人は誰かって聞かれたら、もしかしたらお前だと言うかも知れない…それ位、俺は横…ジェミニが好きだ」

 

「私もよ…」

 

「だけど、俺は鹿島の人生をたった一発の誘導弾で狂わせちまった…だから、俺は残りの人生を賭けて、あいつを護り通さなきゃならない…それだけは分かってくれ…」

 

「…いいわ。じゃあ、これも分かっておいて」

 

「なんだ⁇」

 

私はレイの頬を撫で、彼の目を見つめた

 

「そんな貴方を、心の底から本気で愛していたズルい女がいた事よ…」

 

「ジェミニ…」

 

「いつか私を迎えに来るのを夢見てるわ…いつだっていい。明日でも…数年後でも…それが来世であっても…私は貴方を待ってるわ…」

 

「…俺はそんないい男じゃねぇぞ⁇」

 

「万人が貴方を最低な男だと言っても、私だけは知ってるわ。貴方が最高の男だって事…」

 

「…ありがとう」

 

素直になったレイを見て、もう一度キスを交わす

 

あぁ、貴方を好きになれて良かった…

 

ずっとこうしていたいな…

 

そうしたら、鹿島の所に行かなくてすむのに…

 

「おっと‼︎今日はたいほうとオヤツを作るんだったぁ〜‼︎じゃあな‼︎」

 

レイはそう言い残すと、執務室から出て行った

 

「提督…そんなにレイさんを好きだとは…グスッ」

 

明石が泣いている

 

弁解が出来ない

 

嫁の前で大失態を犯したのだ

 

「惚れ薬、作ってきますね…」

 

明石は泣きながら執務室を出ようとした

 

「ちょちょちょ待ちなさいよ‼︎」

 

明石を止め、抱き締める

 

「貴方も勿論好きよ⁇ここまで、我儘な私に着いて来てくれてありがとう…」

 

「グスッ…いいおっぱい…」

 

「アンタも変態ね…」

 

私はしばらく彼女を抱き締めていた…

 

 

 

 

 

 

「ホント、ズルい女だよな…」

 

フィリップに乗った俺は小言を漏らした

 

《横須賀さんの事⁇ズルいらしいね。この前間宮でお釣りをチョロまかしたんだって‼︎》

 

フィリップは無邪気に答えている

 

「いつかお前にも…いや、分からない方がいい…」

 

《…泣いてるの⁇》

 

「泣いてない。俺が泣くのはウンコしてる時だけだ」

 

《帰るよ‼︎》

 

「あぁ」

 

涙を拭き、俺は基地へとエンジンを吹かせた…




何の曲か分かりましたか⁇

きそ「それと、横須賀さんのレイの呼び方、徐々に変わって行ってたのも気付いたかな⁉︎」


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105話 ブチギレたいほうとパクパク照月(1)

さて、104話が終わりました

今回のお話は、食べ物がメインのお話です


「おっ」

 

三時のオヤツの為に基地に戻って来た俺は、机の上に置いてあるモンブランに気付いた

 

タイミング良く誰もおらず、俺はモンブランを口に放り込んだ

 

「たいほうのおやつ」

 

たいほうが来た

 

子供部屋にいた様で、手にはカニのぬいぐるみが抱かれている

 

「とらっくさんがね、たいほうに”もんぶらん”つくってくれたの。くりのけーきなんだよ‼︎あれ⁇」

 

たいほうの前には、何も乗ってないお皿が置かれている

 

「…」

 

やってしまった‼︎

 

たいほうのオヤツだったのか‼︎

 

「あーーーーーっ‼︎」

 

俺の口が動いているのと、口周りに付いているクリームでバレた

 

「すまんたいほう‼︎お前のだとは知らずに‼︎」

 

「うわ〜〜〜〜〜ん‼︎」

 

珍しくたいほうが泣いてしまった

 

「すてぃんぐれいきらい‼︎ばかばかばか‼︎」

 

「ゔっ…」

 

俺はモンブラン一つで、たいほうの信頼を失ってしまうかも知れない

 

当のたいほうは、食堂の隅で泣いている

 

「た、たいほう‼︎俺が今からケーキバイキングに連れてってやる‼︎それでどうだ⁉︎」

 

「とらっくさんのがいい」

 

「ゔっ…」

 

余程楽しみに取ってあったのだろう…

 

そう言えば昨日、スカイラグーンから帰って来た時に、たいほうは白い箱を持っていた

 

アレの中身がモンブランだったのだろう

 

ちくしょう…どうしたら…

 

「どうしたたいほう⁇こんな所で」

 

隊長はたいほうを抱っこし、椅子に座った

 

「すてぃんぐれいがね、たいほうのもんぶらんたべたの」

 

「それはいかんな」

 

「たいほう…頼むからケーキバイキング行こうぜ〜」

 

「とらっくさんのがいい」

 

そこで隊長が気付いた

 

「たいほう⁇ケーキバイキングに行ったら、モンブランもあるぞ⁇」

 

「ほんと⁉︎」

 

どうやらたいほうはケーキバイキングにはモンブランは無いと思っていたらしい

 

「行くか⁇」

 

「いく‼︎」

 

「いいなぁ〜…照月も行きたいなぁ〜…」

 

「アンタ、間宮の券余ってんでしょ⁇私も連れて行きなさい」

 

いつの間にかヨダレを垂らしながら口を開ける照月と、その横に叢雲がいた

 

「その代わり、照月は私が乗せていくわ」

 

「安全に頼むぞ。隊長、ちょっと行って来るわ」

 

「任せたぞ」

 

 

 

 

〜横須賀・繁華街〜

 

「そんな小洒落た店あったぁ〜⁇風俗と間違えたんじゃ…」

 

きそも連れて歩き、繁華街を歩く

 

「ほら、ここだ‼︎」

 

「スイーツバイキング、伊勢…」

 

中に入ると、髪を後ろで括った女がいた

 

何処と無く、瑞雲の店長に似ている

 

「いらっしゃいませ‼︎」

 

「5名だ」

 

「お好きな席へどうぞ〜‼︎」

 

席へ着き、子供達は皆それぞれ散って行った

 

「もんぶらんあった‼︎」

 

たいほうは目当てであるモンブランを2つ

 

「チョコレートケーキ‼︎」

 

照月はチョコレートケーキのホール3つとミルクレープの切れ端を2つ

 

きそは大きめのチーズケーキを

 

「犬。アンタ何がいい⁇」

 

「フルーツケーキとティラミスがいい」

 

叢雲は最近気遣いが出来るようになってきた

 

そう言う時は、甘えるに限る

 

…相変わらず俺の呼び方は変わらないが

 

「美味しいか⁇」

 

「おいしい‼︎」

 

「ごめんな、たいほう。モンブラン食っちまって…」

 

「たいほうも、すてぃんぐれいきらいっていってごめんなさい…」

 

「うん…」

 

「おいひ〜♪♪」

 

照月は照月で美味そうに食うな…

 

ホールで持って来ていた3つのチョコレートケーキは、既に2つが照月の胃袋に落ち、最後の一個に取り掛かろうとしていた

 

「てるづき、いっぱいたべるね」

 

「そうだな。いっぱい食べる人は頑丈なんだぞ⁇」

 

「むさしもろーまもぷにぷにだよ⁇」

 

「ローマの方が脂肪は多いわね」

 

「武蔵さんは出てる所出て、他は引き締まってるからね」

 

子供達の頭の中で”いっぱい食べる人”は武蔵とローマらしい

 

「グラーフはどうなんだ⁇」

 

「グラーフも食べるけど、グラーフは味見とかつまむのが多いわね…レイがグラーフがデブだって言ってたって言っておくわ‼︎」

 

「やめろ‼︎」

 

「次はこれだね♪♪」

 

照月は次から次へとケーキをホールごと持って来ては、胃の中に消して行った…

 

結局、照月が18ホール食べた所で、伊勢からストップが入った

 

アタフタしながら土下座する伊勢は半泣き状態だ

 

「私、まだ3つしか食べてないんだけど⁇」

 

「たいほうよっつ‼︎」

 

「僕も4つ‼︎」

 

「照月は…えと、えと…18ホールと、36個だけです‼︎」

 

「「「食べ過ぎ‼︎」」」

 

「ヒイッ‼︎ごめんなさい…」

 

そう言う照月だが、下を向いた瞬間お腹が鳴った

 

「まだ食いたいのか⁉︎」

 

「…うん」

 

「まっ、後は三人で楽しみなさい。私はそのオネムな子を連れて帰るわ」

 

俺の横では、お腹いっぱいになったたいほうがうつらうつらしていた

 

「頼めるか⁇俺はもう少し二人に付き合うよ」

 

「仕方無いわねぇ。たいほう、来なさい。おぶってあげるわ」

 

「うん…」

 

「犬、ありがと。たまにはこういうのもいいわね」

 

たいほうと叢雲が帰り、照月ときそが残る

 

「しかしまぁ、綺麗に食べたもんだ…」

 

照月の前に置かれたお皿は、どれも綺麗になっている

 

「きそ、まだ入るか⁇」

 

「うん。その為にちょっとだけにしたんだ」

 

「うぅ…ごめんなさい…」

 

「気にするな。きそは次に行く方が楽しみなんだろ⁉︎」

 

「うんっ‼︎」

 



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特別版 雷鳥の知らないもの

突然思いついたので書きます

本編とも少し関係があります


どの基地に行っても、レイの人気は高い

 

艤装を造ってくれるし、駆逐艦の子を助けた記録も残ってるからだ

 

そんな彼が、唯一知らない事がある

 

それは…

 

 

 

 

「すてぃんぐれい」

 

「たいほうか??どした。きそと遊んでなかったのか??」

 

「きそねんねしたよ」

 

「ったく…」

 

後頭部を掻きつつ、たいほうを膝の上に乗せ、パソコンを弄る

 

たいほうにヘッドフォンを付け、ヘラとの会話を楽しませる

 

クイーンは翔鶴になり、食堂でご飯を食べているから、ここにはいない

 

「すてぃんぐれいは、へらのおとーさん??」

 

《違うわ。犬よ》

 

「すてぃんぐれいいぬなの??」

 

「ヘラ。いらん事を教えるな!!」

 

《犬は犬よ。あら、駄犬の方が良かったかしら??》

 

「くっ…」

 

「すてぃんぐれいのおとーさんはどんなひと??」

 

聞かれたくない質問が来た

 

俺は父親や母親を知らない

 

俺は産まれてすぐに捨てられ、俺はスパイとして日々を暮していた

 

だから正直な話、俺は子供とどう接して良いか分からない

 

たいほうや子供達とこうして接しているのは隊長の真似事に過ぎない

 

「俺はお父さんもお母さんも知らないんだ」

 

「すてぃんぐれい、やっぱりおほしさまなの??」

 

「ははは!!そうかもな。でもっ…」

 

たいほうの頭を撫で、少し強めに抱き締めた

 

「たいほうのパパは、俺にとってもパパなのかもしれないな…」

 

「パパがすてぃんぐれいのパパなら、おかーさんは??」

 

「そ、そうだな…かし…」

 

《鹿島は無しよ。鹿島は犬の嫁でしょ??》

 

「うっ…」

 

ヘラにそう言われ、言葉に詰まる

 

「あらレイ。ヘラとお話??」

 

「よこすかさん」

 

「横須賀か…」

 

隊長が父性をくれたなら、母性を教えてくれたのは此奴が一番最初かも知れない

 

何かあった時、傍に居てくれた女は此奴以外に居なかった…

 

「ヘラ」

 

《雌犬の下半身の体温が上がってるわ》

 

「スクラップにした方が良いんじゃないかしら??」

 

「俺にとっての母親は此奴かも知れない…」

 

「え…」

 

《ふぅん。まっ、妥当ね。雌犬には一応母性はあるわ》

 

「し…失礼ね…」

 

「此奴だけなんだ。良い事したら、素直に褒めてくれて、悪い事したらぶん殴る女って。だから、俺にとっては鹿島と同じ位大切な女だ」

 

《好きなのね。横須賀の事》

 

「あぁ」

 

「すてぃんぐれいうわき??」

 

「そうかもしれないな…」

 

《たいほう。人にはそれぞれ愛し方があるわ。だから、一概に二人を好きになるのが悪い事じゃないのよ》

 

ヘラがそう言ってくれて助かった

 

傍から見れば、俺は完全に浮気者だ

 

《それに、鹿島は知ってるわ。犬が雌犬を好きな事》

 

「やっぱな…」

 

《それでもいいみたいよ。犬が罪を感じてても、それでも私を娶ってくれたから…だから、雌犬の事は黙ってるだけ》

 

「たまにはっ、デートでも行くかなっ!?」

 

《犬の一番好きな所に連れて行ってあげなさい。鹿島は犬の行く所が好きになるわ》

 

「んっ。サンキュ」

 

「おなかすいた」

 

膝の上に居たたいほうのお腹が鳴り、膝の上から離れた

 

「ありがとう。またたいほうとあそんでね??」

 

「おぅ」

 

たいほうを見送り、三人が残る

 

「れ、レイ…その…」

 

「お前はまた今度な??それまでにどこ行きたいか決めとけ」

 

「あ…うんっ!!じゃあね!!」

 

横須賀も工廠から出た

 

《たまには女になるのね》

 

「アイツは良い女さ。俺が悩んでる時、随分頼りになった」

 

《まっ、犬も犬でたまには良い所もあるようね》

 

「へっ…サンキュ」

 

《そっ。主人には素直にしときなさい。それとね、犬は間違ってないわ》

 

「何がだ??」

 

《子供との接し方よ。犬は誰から見ても良い父親よ》

 

今日のヘラはやたらと優しい

 

最近、罵声は減って来た気はするが、まだ褒める事は少ない彼女が人を褒めるのはちょっとレアだ

 

「お前が褒めまくるとはな…明日は雨か??」

 

《たまには褒めないとね。それに、明日はピーカンよ》

 

「残念だ!!」

 

《…犬》

 

「なんだ??」

 

《私になら、いつでも相談して良いから。話した事はロックしておくわ。だから…》

 

「ホントどうしたんだ??」

 

ヘラは少し黙った後、口を開いた

 

《わ、私もアンタの事、好きって事よ!!じゃあねっ!!》

 

そのままヘラは通信を落とした

 

通信の落ちたモニターを撫で、呟いた

 

「ありがとう。俺にとっちゃ、お前も母親だ…」

 

パソコンを閉じ、俺も食堂へと向かった…



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特別編 最高の艦長と、銀杏の思い出

最近、特別編が多い??

色んな人との話の流れで書いてますので、ご了承を



今回のお話は、一軸さんととある艦娘のお話です


相変わらず、一軸さんはトイレに籠る時間が多い

 

最近、メッキリ出撃も少なくなり、菊月は執務室で暇を持て余していた

 

「提督、最近クマと話す事の方が多いんだが…」

 

《すまない菊月…ゔっ…》

 

クマのぬいぐるみに付いたスピーカーから、一軸さんの悲鳴が聞こえる

 

菊月はハァとため息を吐き、一軸さんが座っている椅子に腰を掛ける

 

彼女にとって、一軸さんの椅子は大きくて似合わないが、それでも一軸さんの気持ちが少しでも分かる気がした

 

「いつもここでこうして、私達を心配しながら待っているのか…」

 

菊月は少しだけ目を閉じ、提督と出逢った時を思い出していた…

 

 

 

第一印象は強面だったけど、とても優しい人で、時々会議に出かけてはお土産を買ってきてくれる

 

このくまのぬいぐるみだってそうだ

 

提督が本土に出かけた時に買ってきてくれた

 

そんな時、提督はいつも私の頭を撫で「私に娘がいたらこれ位だろう」と言って、にこやかにする

 

優しい、優しい私の提督…

 

 

 

「ふぅ…すっきりしたぁ!!」

 

「やっと帰って来たか…全く」

 

「薬飲んだからね。今しばらくは大丈夫さ!!」

 

「…今日も出撃は無いのか??」

 

「あるよ~…ほらっ!!」

 

提督は机の引き出しから何かの箱を取り出した

 

「今日は私と厨房に出撃します!!」

 

 

 

 

 

菊月と一軸さんはエプロンを着け、厨房に立った

 

「何を作るのだ??」

 

「ジャン!!」

 

一軸さんの手には、カレールーの箱が握られていた

 

「カレー…??」

 

「食べた事無いでしょ??一緒に作ろうか!!」

 

「う、うん…」

 

一軸さんは手を消毒し、ニンジンの皮を剥き始めた

 

菊月はジャガイモの皮を剥いたり、芽を取ったりし始める

 

《次のきょ…ぴ……の…》

 

比叡が付けっぱなしにして行ったラジオでは、懐かしい歌の特集をしているようだ

 

よく壊れるので、そろそろ買い直さないといけない

 

「さぁ、このルーを入れて、後は煮込むだけだ!!」

 

「美味しそうな匂いだな」

 

菊月は台の上に乗り、鍋の中を見る

 

美味しそうな香りが漂ってくる

 

「隠し味にチョコレートを入れるよ??」

 

「チョコレートを入れるのか??これは辛い料理なんじゃ…」

 

「辛すぎたら食べられないでしょ??」

 

「うっ…」

 

一軸さんが鍋にチョコレートを放り込み、菊月がおたまでかき混ぜる

 

《ング…た…ない》

 

「ん??」

 

「おっ」

 

ラジオから聞き覚えのある曲が流れ、菊月も一軸さんも耳を傾ける

 

だが、壊れている為、雑音が混じってしまう

 

《君……ピー…オー…》

 

二人は分かっていた

 

この曲は、二人が出逢いたての時に一軸さんが聞いていた曲だ

 

「懐かしいな…」

 

「私が若い時の歌だぞ??」

 

「いいじゃないか…」

 

菊月は一軸さんの鳩尾辺りに頭を置いた

 

「私も、提督との思い出が欲しい…」

 

「仕方ない子だな…」

 

菊月が珍しく一軸さんに甘えている最中でも、ラジオからは二人の思い出の曲が流れ続けていた

 

 

 

 

 

 

 

「美味しいな。何と言う料理だった??」

 

「カレーさ」

 

「ヒェー!!私の作るカレーより美味しいです!!」

 

比叡も気に入った様だ

 

たった三人の基地だが、菊月は幸せだった

 

最高に人想いな提督に出逢い…

 

最高に可愛がって貰い…

 

少し変だけど、友人も出来た…

 

この人の傍に居ると、どんどん知らない物や楽しい事を知れる…

 

このカレーだってそう

 

さっきのラジオの曲だって、私にとっては思い出の曲だ…

 

お腹下しの気は否めないが、私にとっては最高の提督である事に変わりない

 

「提督、また作ろうな」

 

「次は違うのにも挑戦しようか!?」

 

「う…うんっ!!」

 

この日、菊月は着任してから一番の笑顔を見せた



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105話 ブチギレたいほうとパクパク照月(2)

きそが行きたいと言っていたのは、ずいずいずっころばしの事

 

伊勢から数件離れた場所に、回転寿司の店があった

 

「中はそこそこ混んでるね」

 

「おすし〜♪♪」

 

既に照月はヨダレを垂らしている

 

早めに入った方が身の為だな

 

「いらっしゃ…マーカスさん⁉︎」

 

「僕もいるよ‼︎」

 

「あ、空いてる席にどうぞ‼︎」

 

店内では”マーカスだと⁉︎”と少しザワつき、瑞鶴が俺の名前を叫んだ時には、あがりを吹いてる奴もいた

 

俺は瑞鶴の真ん前のカウンター席に座り、左右にきそと照月を座らせた

 

店内にはテーブル席が少なく、瑞鶴が中心に立ち、その周りをお寿司が回っているシステムだ

 

勿論、瑞鶴に言えば握りたてを出してくれる

 

「この前はごめんなさいね…」

 

「わぁ〜‼︎お寿司がいっぱい〜‼︎」

 

瑞鶴を気にもせず、照月は流れて来るお寿司に目が行っている

 

「約束通り、一番いいのを出すわ‼︎マグロは好き⁉︎」

 

「マグロ好きだよ‼︎」

 

「マグロはお魚さんですよね…じゃあ好きです‼︎」

 

「俺も頼む…ちょい待て‼︎」

 

瑞鶴が握ろうとしていたのは、何処からどう見ても大トロの握りだった

 

「まずは普通のノーマルマグロを頼む」

 

「はっ‼︎そうね‼︎じゃあ赤身‼︎」

 

「お兄ちゃん、取ってもいい⁉︎照月待てないよ⁉︎」

 

「好きなだけ食え」

 

「やった‼︎まずはエビさん‼︎」

 

照月をレールの後側に座らせれば良かったと気付いたのは、それから数分後の事だ

 

「あ…あ、あ…」

 

瑞鶴の手が止まる

 

「いかさんでしょ〜⁇はまちさんでしょ〜⁇あっ、これはイクラだったかなぁ〜⁇」

 

「来ぬっ‼︎」

 

「寿司食わせるずい‼︎」

 

完璧に照月の所で流れが沈黙してしまった

 

俺は完全に諦めムードで腕を組み、きそは机を叩いてずいずい言っている

 

照月以降の席に座って”しまった”俺達含めた客は、照月の食べっぷりに開いた口が塞がらない

 

そんな中、照月は隣の客の皿に目をやる

 

「おねぇさん、どうしてご飯残すの⁇」

 

照月の隣にいた女性は、お寿司のシャリを全部残し、ネタだけ剥がして食べていた

 

「シャリ食べたら太るのっ」

 

「照月はちゃんと食べた方が良いと思うなぁ…」

 

「うっさいわね‼︎私は客よ⁉︎食おうが残そうが勝手でしょ⁉︎」

 

「おねぇさんガリガリだよ⁇もっと食べなきゃ‼︎」

 

「シャリが嫌でしたら、お刺身で出しますが、如何されますか⁇」

 

「…じゃあ、お刺身で」

 

瑞鶴は簡単に”シャリ残したガール”をいなし、簡単な舟盛りを彼女の前に出した

 

「おねぇさん、そのシャリもういらないの⁇」

 

「いらないわよ‼︎アンタバクバク食べてるなら、これも食べなさいよ‼︎」

 

「え⁉︎良いの⁉︎いただきま〜す‼︎」

 

照月は客の残したシャリを食べ始めた

 

「…レイっ、止めなくて良いの⁇」

 

「あいつが幸せならいいんじゃないか⁇止めるのは暴動が起きてからでいい。それよりっ…今の内に食え‼︎」

 

照月がシャリを食べている間、ようやくお寿司が来始めた

 

きそはたまごや鯛を取り、とにかく刺身系を攻めていた

 

「…」

 

レイがイクラを食べる度に、きその皿に何か置かれていく

 

「んまいんまい‼︎」

 

「…レイ」

 

「ん⁇」

 

「前から気になってたんだけどさ…レイってキュウリ嫌い⁇」

 

「嫌い」

 

俺はキュウリが嫌いだ

 

一度キュウリを食べた時に気管が詰まった事があり、それから見向きもしない

 

料理で出た時は、きそかたいほうか鹿島の皿に乗せ変える

 

「…僕も嫌いなんだけど」

 

「きそちゃん、キュウリいらないの⁇」

 

照月の手元は既にスッカラカンになっていた

 

「うん…あんまり好きじゃないんだ…」

 

「あ〜…」

 

照月は口を開け、キュウリを放り込む様に促す

 

「はいっ」

 

きそは照月の口にキュウリを放り込み事無きを得た

 

「ま、マーカスさん…」

 

「どうした⁇…お寿司が回って無い‼︎」

 

「…シャリが切れました‼︎」

 

「なんと…」

 

膝から崩れ落ちた

 

何食った…

 

まずはマグロだったな

 

で、イクラ食べて

 

数の子食って

 

白子軍艦食って

 

ラストにイクラ…

 

まだ…まだ5皿しか食ってねぇ‼︎

 

「こ…これが最後よ‼︎」

 

「ぐっ…お…」

 

ようやく置かれた大トロ握りを、震える手で口に運ぶ

 

「うは〜‼︎何コレ‼︎レイ、スッゴイ美味しいよ‼︎」

 

「ホントだぁ〜‼︎油が乗ってて、食感も凄くいい‼︎」

 

「美味い‼︎」

 

「今朝採れたてのマグロを捌いたの‼︎言ったでしょ⁉︎味は保証するって‼︎」

 

瑞鶴は親指を立てた

 

「…アンタ、ホントよく食べるわね」

 

「お寿司は美味しいよ⁇シャリ食べないのは勿体無いと思うなぁ〜…」

 

「…分かった。次来た時は、ちゃんとシャリも食べるわ。何か、アンタ見てたら元気出て来た‼︎」

 

「うんっ‼︎いっぱい食べる人は強いんだよ⁉︎」

 

「じゃあね⁇」

 

「バイバーイ‼︎」

 

シャリ残したガールは、代金を支払い、店から出た

 

結局、照月が食べた皿を計算するのに半時間程掛かった

 

 

 

〜照月が食べた皿の数〜

 

176枚

 

100円皿…93枚

 

200円皿…52枚

 

300円皿…31枚

 

照月のみの代金で29000円

 

瑞鶴は三人合わせて3万にまけてくれた…

 

どうやら、俺の財布はギリギリ助かった

 

「また来るよ」

 

「次は倍以上、シャリを用意して待ってます‼︎」

 

「ばいばいずい‼︎」

 

「ごちそうさまでした‼︎」

 

照月の食べっぷりを改めて驚愕した一日は、こうして幕を閉じた…



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106話 P

さて、106話が終わりました

今回のお話は、呉さんととある艦娘のお話です


「あえ⁇これは何ですか⁇」

 

最近のポーラは一生懸命だ

 

執務室を掃除したり、お料理したり、駆逐艦の子達に追い回されたり…

 

そこはかとないマヌケ臭は抜けないが、最近お酒は夜の晩酌のみになっていた

 

それも、八割方は提督と飲む

 

そんな良い女になって来たポーラは、執務室の掃除中に何かの箱を見つけた

 

「おぉ、指輪ですねぇ…」

 

「ポーラ、休憩にしようか」

 

タイミング良く呉さんが入って来た

 

呉さんはソファに座り、グラスにウィスキーを入れ始めた

 

「提督、コレ、誰にあげるですて」

 

「決まってないよ。二人まで許可されたから貰っただけだ。ホラッ」

 

ウィスキーのロックが机に置かれ、ポーラは呉さんの隣に座った

 

「キラキラですて‼︎」

 

「どれっ、ちょっと貸してみ」

 

ポーラから箱を受け取り、中の指輪を取り出す

 

「ポーラ、おててだして」

 

「はい」

 

呉さんはポーラの薬指に指輪ん嵌めた

 

「おっ、ピッタシだな」

 

「おぉ〜…」

 

指輪を嵌めたポーラは御満悦だ

 

「ポーラ、いつかコレが似合う女性になりますて‼︎」

 

「案外…もうなってるんじゃないのか⁇」

 

グラス片手に、呉さんはポーラをからかう

 

ポーラは呉さんを見て微笑み、指輪を取る仕草をした

 

「ん〜ふふふ。提督〜、これはお返ししますね〜」

 

「付けときな。ポーラにあげる」

 

「ホントですか⁉︎ポーラにくれるんですか⁉︎」

 

「あげる。最近、ちゃんとお酒少なくしてるご褒美だ」

 

「うぇへへへ〜…提督とケッコンケッコン〜」

 

喜んでいるのか、酔っ払っているのか分からない

 

「ポーラ、こんなに人を好きになったの、初めてですて‼︎」

 

「向こうでは案外モテたんじゃないのか⁇」

 

何度も言うが、ポーラはお酒さえ飲まなければホントに可愛い

 

なんだかんだで幼児体型だし、出る所は出ている

 

普段はポケポケだし、ふとした時に自然と甘え、知らない間に男心を掴んでいる事が多い

 

料理だって美味しい

 

だが、呉さんが惚れたのはそこではなかった

 

ポーラの懐の広さだ

 

鳳翔の一件の時、ポーラは最後まで肩を持ってくれた

 

過ちを犯しかけた呉さんを、ポーラは最後まで庇い続けたのだ。特に青葉から

 

青葉は青葉で良い子だが、ビビリの呉さんにとってはただの脅威でしかない

 

「ん〜…向こうでは、ニッポンで言う”ロリコーン”しか来なかったですて…」

 

何となく分かる気がする

 

「でも提督、安心するですて‼︎ポーラ、まだバージンですて‼︎」

 

ポーラは自身の胸をドーンと叩く

 

「はいはい…」

 

呉さんは呆れ顔ながらも、ポーラに相槌を送る

 

「あ、そうだ‼︎そう言う性の事なら、ザラ姉様はヤバイですて‼︎テクニックが‼︎」

 

「ザラがか⁇」

 

「ザラ姉様は”ローニャ・ク・ナンーニョ”問わず落とせる腕を持ってますて‼︎ポーラも何回か落とされましたて‼︎」

 

「それでザラが嫌いなのか⁇」

 

「それは違いますて。ザラ姉様はすぐにヒステリー起こしますて」

 

酒を飲まなくなったポーラは饒舌だ

 

元々人と話す事が好きなのか、会話のツールも豊富だ

 

料理やお酒、趣味や生活の話をしたり、今の様に性の話も引かずに付き合ってくれる

 

「ポーラは話が上手いな」

 

「ポーラ、お話好きですて。そうじゃないと家庭科の先生なんてしてませ〜んよ〜」

 

そう言って呉さんにもたれかかる

 

呉さんはグラスを置き、ポーラの頭を撫でる

 

「ありがとな、あの時護ってくれて」

 

「好きって思いに間違いは無いですて。それが家族であれ、他人であれ…好きは万国共通ですて」

 

「いい事言うじゃないか」

 

「ポーラが提督を好きなのも…間違いじゃないですて…」

 

「ん…」

 

急にしおらしくなったポーラを抱き寄せ、背中を叩く

 

ポーラは柔らかくて体温が高く、抱き心地が良い

 

駆逐艦の子をあやしているのを見掛ける事が何度かあった

 

「んぅ〜っ、提督、あったかくていい気持ちですて‼︎」

 

呉さんの鳩尾辺りや手に取った腕に頬擦りをし、呉さんを堪能する

 

その内、ポーラは寝てしまった

 

呉さんはポーラをソファに寝かせ、上着を被せた

 

「おやすみ、ポーラ」

 

呉さんはポーラの髪を上げ、いつもと変わらず額にキスをした…

 

 

 

 

呉さんとポーラがケッコンしました‼︎



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107話 艦娘調理法

さて、106話が終わりました

今回は題名の通り、若干グロシーンがあります

誰が出てくるって⁇

題名で察して下さい‼︎

(最近出して欲しいと要望が多かったから書いたんだよ)


「て・い・と・く‼︎」

 

トラック基地の執務室で、緑の着物が踊る

 

「提督は最近筋肉質になって、美味しそうになって来ましたねぇ‼︎」

 

「うっ…」

 

「あっ、そう言えば〜…昨日199人目を食べ終えた所なんです‼︎」

 

トラックさんはジリジリと後退りする

 

「提督⁇」

 

後ろには衣笠

 

「衣笠‼︎私の提督を取らないで下さい‼︎ようやくここまで来たんですから‼︎」

 

「蒼龍⁇貴方、提督を食べるつもりでしょう⁇」

 

「それ以外にあると思いますかぁ⁇」

 

「さぁ、提督‼︎逃げますよ‼︎」

 

「お、おぅ‼︎」

 

衣笠に手を引かれ、執務室を脱出、工廠裏まで逃げて来た

 

「はぁ…はぁ…」

 

「提督、体力落ちましたか⁇」

 

「ははは…最近、筋トレはしてたんだけどね…」

 

トラックさんは対蒼龍対策の為、少し前から筋トレを開始

 

シックスパックを手に入れ、握力も手でリンゴを潰せるまでになっていた

 

何とか蒼龍に対抗出来ているのはその為である

 

「そう言えば提督、ケッコンはされないんですか⁇」

 

「あ、うん…そうだな…」

 

トラックさんは数ある反対派の中で唯一ケッコンしていない

 

周りの皆は”蒼龍とお似合いだ”とか”飛龍とはどうなんだ⁇”と、からかうが…

 

一応、この基地にいる候補は

 

蒼龍

 

飛龍改二

 

衣笠改二

 

鳥海改二

 

の、四人

 

反対派に入ってから演習や護衛の為の出撃が増え、ほとんど怪我せず、練度だけメキメキ上がり、今では全員候補となっている

 

「私なんてどう⁉︎一人目じゃなくてもいいんだけどなぁ…」

 

「う〜ん…」

 

しばらく工廠裏で衣笠と話していると、工廠の扉が開いた

 

誰が来たのかと思い、小窓から中を覗くと蒼龍が見えた

 

蒼龍は工廠に入り、内側から鍵を閉めた

 

「建造装置弄ってますね…」

 

「何をするつもりだ…⁇」

 

蒼龍は建造装置を起動させ、新しい艦娘が出来るまでの間に、大きな鍋を準備し、中に色々入れて行く

 

数分後、建造装置の中から片方を三つ編みにした女の子が出て来た

 

「駆逐艦、浦な…おぶっ‼︎」

 

蒼龍は自己紹介を聞かず、女の子の腹を殴って気絶させ、鍋の中に放り込み、火を付けた

 

時間をズラし、また新しい艦娘が建造装置から出て来た

 

「駆逐艦、磯な…あぐっ‼︎」

 

今度は首根っこを小突いて気絶させ、また鍋に放り込む

 

建造装置が示している、残りの艦娘は後二人…

 

二人は小窓の外から息を飲んだ

 

数分後、1人が出て来た

 

「駆逐艦、大潮です‼︎小さな体に…え⁉︎」

 

蒼龍は人の話を聞かず、大潮の頭に付いた飯盒みたいな奴の蓋を開け、中身を摘まんで食べた

 

「うんっ、美味しい‼︎」

 

「飯盒だったの、コレ…」

 

「ゴチャゴチャ煩いなぁ…食べちゃおうか‼︎」

 

蒼龍は大潮から飯盒を取り上げ、本人は鍋とは別の装置に放り込まれた

 

「スイッチオーン‼︎」

 

「うわわわわわわわわわわわ‼︎‼︎‼︎」

 

大潮が遠心分離機みたいな様な物に入れられ、数秒後、取り出し口からメロンソーダの様な物が出て来た

 

蒼龍はそれをコップに入れ、その場で飲み干した

 

そして、最後の艦娘は…

 

「天津風よ…えっ⁉︎何するのよ‼︎」

 

天津風と呼ばれた女の子はいきなり抱えられ、再び遠心分離機みたいな物に入れられ、装置が起動する

 

「あわわわわわわわわわわわ‼︎‼︎‼︎」

 

数秒後、取り出し口からとろみのある液体が出て来たので、蒼龍はそれを器に入れていた

 

「う〜ん…」

 

「おおおおお…」

 

裏の排出口から、遠心分離機みたいな物に入れられた二人が出て来た

 

「だ、大丈夫か⁉︎」

 

「貴方が提督⁇」

 

天津風は回した目を開け、私を見た

 

「そうだ。来て早々すまないな…」

 

「う〜ん…グルグルだったぁ…」

 

大潮も目を覚ました

 

「はっ‼︎提督さんですね⁉︎駆逐艦、大潮です‼︎」

 

「うんっ、よろしくね」

 

「て、提督‼︎」

 

衣笠に呼ばれ、再び小窓から中を覗くと、蒼龍の前には美味しそうなあんかけご飯が出来上がっていた

 

そして、鍋に入れられた駆逐艦の子は、意識を取り戻してはいるが、既にグデングデン

 

「提督、助けましょう‼︎」

 

「鍵掛かって入れないぞ⁉︎」

 

「さ〜て‼︎後はお肉ですねぇ‼︎今日は記念すべき200人目だからぁ〜…そうだ‼︎一番活きが良い”あの人”にしよ〜っと‼︎」

 

蒼龍はスキップしながら工廠から出て行った

 

鍵を開けっぱなしにして行ったので、今なら中に入れる‼︎

 

「今だ‼︎チャンスです‼︎」

 

「行こう‼︎君達は待ってるんだ‼︎食べられたくないだろう⁉︎」

 

そう言うと、大潮と天津風は抱き合ってカタカタ震えながら頷いた

 

衣笠と共に中に入り、湯当たりした二人を鍋から取り出した

 

「いい匂いだ…」

 

「確かに…」

 

蒼龍が作っていたのは、どうやら芋焼酎の様だ

 

それと、あんかけご飯

 

二人を抱えて工廠から脱出

 

出て数秒後に蒼龍は工廠に戻って来た

 

「衣笠、四人を入渠に回してくれるか⁇」

 

「了解です‼︎提督は⁇」

 

「…私は、蒼龍を止めねばならない…」

 

「提督…」

 

衣笠は私の肩を掴んだ

 

「安心して下さい。提督が食べられたら、呉の青葉に頼んで週刊誌に載せますから‼︎」

 

「薄情な奴だな…」

 

衣笠と少しだけ笑い合い、別れた後、私は鉄パイプ片手に工廠の扉を開けた

 

「そそそそ蒼龍‼︎」

 

「た、助けてくれ‼︎」

 

入った瞬間、男が足に縋り付いて来た

 

「提督。その男は前に舞鶴鎮守府で提督してた大悪人です‼︎」

 

「た、食べる事は無いだろう⁉︎」

 

「へっ…」

 

「うっ…」

 

いつの間にか背後に回られ、首元にフォークを突き付けられた

 

恐らく、食事の時の物を隠していたのだろう

 

「そ…蒼龍…逃げなさい…」

 

「え〜…何でですかぁ⁉︎二人共食べられるチャンスなのに〜」

 

「おい、人食い‼︎提督を殺されたくなかったら、俺を見逃せ‼︎」

 

「え⁇嫌ですけど⁇」

 

「なら、提督には死んで貰う‼︎」

 

喉に突き付けられたフォークに力が入る

 

だが、蒼龍は微笑んでいる

 

「ふふっ、もう死んでる癖に…よくベラベラと話しますねぇ…」

 

「何だと⁇」

 

「そんな足で海に落ちたら痛いでしょうねぇ〜…」

 

元舞鶴の提督は自身の足を見た

 

「え…え…え⁉︎」

 

徐々に恐怖と痛みが混み上がって来たのか、フォークを落とし、涙が溢れていた

 

両足は既に骨だけになっていた

 

それを見た私も、恐怖で膝が砕け、床にへたり込んだ

 

「あぁ、そうそう‼︎何だか体、軽くないですかぁ⁉︎」

 

「ひっ…ひっ…」

 

息も絶え絶えに服を捲ると、腹に大穴が開いていた

 

「言いましたよねぇ…もう死んでるって」

 

「た…助け…」

 

「え〜⁇聞こえませんねぇ⁇」

 

おちょくる様に蒼龍は耳を傾けた

 

「助け…ぐぁっ…」

 

大声を出そうとするが、傷が更に開いて痛みが増す

 

「さぁ、もう一度‼︎大きな声で‼︎」

 

元舞鶴の提督は、最後の力を振り絞り声を出した

 

「た…た…助けて下さい‼︎」

 

「あはははは‼︎」

 

蒼龍は高笑いし、元舞鶴の提督の頭を掴んで、床を引き摺りながら鍋の前に持って来た

 

「悪人の声は聞こえませんねぇ‼︎」

 

「うわぁぁあ…」

 

「さぁ、もっと聞かせて下さいよぉ…悪人の断末魔は最っ高〜の調味料ですからねぇ‼︎」

 

蒼龍が肉切り包丁を振り上げた瞬間、私の意識は飛んだ…

 

 

 

 

 

「提督、提督ってば‼︎」

 

目を開けると、どアップで蒼龍が映った

 

「大丈夫ですかぁ⁉︎」

 

「だ…大丈夫…ありがとうな…」

 

「私、今日はお腹いっぱいですよ⁉︎何せ、記念すべき200人目ですからねぇ‼︎」

 

蒼龍はポーンと腹を叩く

 

「う…」

 

「提督も食べますかぁ⁇まだチョットだけなら、ローストしたのが…」

 

「い、いや‼︎いい‼︎蒼龍が食べなさい⁉︎」

 

「じゃ、いただきま〜す‼︎」

 

蒼龍が食べている間に、身体中を触る

 

どうやら、何処も食べられていない

 

五体満足だ…

 

「そうだ、何か御礼を…」

 

「その内、提督も美味しく頂くんでいいですよぉ〜⁇」

 

蒼龍は完全に狩人の目をしている

 

「…執務室で横になってるよ。ありがとうな⁇」

 

そう言い残し、今だ恐怖で膝が砕けている足を引き摺りながら執務室に向かった

 

 

 

 

「お父さんを助けるのはっ、当たり前ですよねぇ〜…うんっ、美味しい‼︎」

 

蒼龍は自身が作った料理を食べ、もう少しの間、舌鼓をうった…

 

 

 

 

 

 

駆逐艦”浦波”

 

駆逐艦”磯波”

 

駆逐艦”大潮”

 

駆逐艦”天津風”

 

が、トラック泊地に着任しました‼︎




駆逐艦”浦波”…田舎に居そうな可愛い女の子

体全体から何処と無く芋臭さを感じる艦娘

蒼龍曰く、茹でると芋焼酎が出来るらしい

トラックさんのスイーツの虜になり、トラック泊地に所属する

月に一回程、蒼龍に拉致され、磯波と共に茹でられる

最近熱湯に耐性が出来、茹でられるのは”良い熱さのお湯”程度にしか感じなくなって来た




駆逐艦”磯波”…田舎に居たらチョットモテそうな女の子

蒼龍曰く、浦波と一緒に茹でると芋焼酎が更にまろやかになるらしい

浦波と同じくトラックさんのスイーツの虜になり、そのまま所属

最近、蒼龍が料理上手と気付き興味を持ち始める





駆逐艦”大潮”…飯盒娘

頭に飯盒を付けて生まれて来た子

入れるお米によって、若干だが性格が変わるらしい

コシヒ◯リ…ノーマル大潮

あき◯こまち…お淑やか大潮

もち米…ネチっこい大潮

タイ米…色黒になる

飯盒は蒼龍に取られてしまったので、今は被っていない




駆逐艦”天津風”…あまつかぜ

作者みたいに”てんしんふう”と読むと蒼龍にチクられる

蒼龍が部屋にポイポイ捨てているあき缶や、提督が作ったスイーツの材料のあき缶を集めては業者に売り飛ばして小銭を稼ぐのが生き甲斐

下記の遠心分離装置に入れると、何故か美味しいあんかけが出来上がる





遠心分離装置…お仕置き様の装置

本来は悪さをした艦娘を放り込んで、高速回転させて反省させる装置

遠心分離装置には取り出し口と排出口があり、取り出し口からは何故か液体が払い出される

排出口からは、遠心分離装置に入った子が排出される

過去に一度だけしおいが間違えて入り、その際に出た液体は、スカイラグーンで”しおいの生しぼり”として、トラックさんの口に入ったので、安全ではあるらしい

…遠心分離装置は、俗に言う”解体”らしいが、この作品には解体の概念は無いのでこの装置が出た


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108話 70年の寝坊(1)

さて、107話が終わりました

今回のお話は名機が沢山出てきます

その中の一機に魅入ったレイは一体何を見ていたのか…

アイツも出てくるよ‼︎


哨戒飛行中、謎の小島を見付けた

 

何故か滑走路があり、気になった俺は降りて見る事にした

 

「横須賀基地、聞こえるか⁇」

 

《なぁに⁇敵でも出た⁇》

 

「いや、地図に載ってない小島を見付けた」

 

《どの辺り⁇》

 

「単冠湾の南西200kmの地点だ。座標をフィリップから送る」

 

数分後、横須賀から返答が来た

 

《オーケー、登録したわ》

 

「少し探索してみる」

 

《気を付けなさいよ。謎の原住民とかいるかも知れないわ》

 

《スキャンかけたけど、生体反応は動物ばっかりだよ⁉︎》

 

「だと」

 

《じゃあ、行ってらっしゃいな》

 

俺はきそと共に、島を探索し始めた

 

 

 

「凄いなぁ〜…草ボーボーだぁ…」

 

「ナイフがなきゃ…一苦労だぜっ‼︎」

 

滑走路付近には無かったが、建物の中は草が生い茂っていた

 

だが、人がいた痕跡は何処と無くあった

 

「何これ‼︎超☆古い無線とレーダーだ‼︎」

 

建物の中にはレーダーや無線が乱雑に置いてあり、どうも逃げて出た様な跡が目立つ

 

「触るなよ‼︎爆発するかも知れんぞ‼︎」

 

「ビリビリ来る⁇」

 

「分からん。通電してるかも知れない」

 

「んっ」

 

きそは素直に電子機器から離れた

 

電気が通ってるハズなんかないが、万が一の為だ

 

「これは⁇」

 

机の上に置かれてあった資料を見ると、レシプロ機の写真があった

 

「おいおい…ここは70年前の戦争の跡地だってのか…」

 

コルセア…

 

ヘルキャット…

 

ドーントレス…

 

ワイルドキャット…

 

当時の日本の敵であるアメリカの機体ばかりだ

 

資料は日本語で書かれてあるので、日本の資料で間違い無いようだ

 

周りをよく見ると、至る所に日本語が散らばっている

 

「陸軍の基地か…」

 

「レイ、ダイナモがあるよ‼︎」

 

「つけてくれ‼︎」

 

きそがダイナモを起動すると、施設に電気が通った

 

「わぁ‼︎無線付いたよ‼︎」

 

《レイ、きそちゃん、聞こえる⁉︎》

 

ボロボロの無線から聞こえて来たのは横須賀の声だ

 

きそは椅子に乗り、無線機に目線を合わせた

 

《そこは太平洋戦争時に何か特殊な兵器の秘密工場だった場所らしいわ》

 

「あぁ、それは何と無く分かった。アメリカのレシプロ機の資料があるからな」

 

《色々資料持って帰って欲しいんだけど…出来る⁇》

 

「オーケー。また後でな」

 

《気を付けて帰って来なさいよ⁉︎いいわね⁉︎》

 

「はいは〜い‼︎プチッと‼︎」

 

きそは無線を切り、小走りで施設から出た

 

「レイは資料集めてて〜‼︎僕はトンネル探検してくる〜‼︎」

 

「オーケー‼︎何かあったら無線で知らせろよ‼︎」

 

きそは滑走路と繋がっているトンネルの中に入り、俺は資料を探し始めた

 

烈風…

 

流星…

 

月光…

 

彗星…

 

秋水…

 

旧日本軍時代の色々な機体の資料が出て来る

 

そんな中、一つの資料に目が行った

 

「Me 262…火龍…」

 

太平洋戦争末期に何機か配備されたが、そのまま終戦を迎えた不遇のジェットエンジンの機体だ

 

その資料が何故こんな所に…

 

その疑問はすぐに解けた

 

一つの資料を手に取った時、ようやく気付いた…

 

「なるほど…そう言うこ…」

 

一人で感心していると、表でパタパタと足音が聞こえた

 

「レイ〜‼︎ちょちょ、ちょっと来て‼︎」

 

きそが慌てた様子で戻って来た

 

「どうした⁇蛇でも出たか⁇」

 

「蛇どころの騒ぎじゃないよぉ‼︎何か凄い機体を見つけたんだ‼︎」

 

「機体〜⁇」

 

きそに案内され、トンネルの中に入る

 

幾つも重圧そうな扉があり、鍵穴からギリギリ中が見えた

 

「ホラ、ここから見えるでしょ⁇」

 

「…雷撃機だ。ソードフィッシュが何で…」

 

「しかもボロボロだよ⁉︎」

 

鍵穴から見えた機体はボロボロだった

 

恐らく墜落か事故を起こした機体を鹵獲したんだろう

 

他の扉も鍵穴から覗くが、どれもボロボロの機体がそこで朽ちるのを待っているだけだった…

 

「名機ばかりだな…」

 

「どれか残ってると良いんだけど…」

 

「こいつが最後か。しかしまぁ…」

 

最後の扉は、異常なまでに頑丈に、厚く備えられていた

 

「じゃん‼︎」

 

きそはポーチから筒の様な物を出した

 

「こいつでドカンだよ‼︎ライター貸して‼︎」

 

きそにライターを貸すと、導火線に火を点け、扉の近くに置き、一気に離れた

 

物陰に隠れて数秒後、爆発音と共に溜まっていた埃やチリが舞う

 

「ドア開いたね‼︎」

 

「入ろう」

 

扉だけ綺麗に外れ、中に鎮座していた機体が、風化して落ちた屋根からの光を浴びていた

 

「嘘だろ…」

 

「この機体、プロペラが後ろに付いてるよ‼︎変な機体だね‼︎」

 

「まさか…生きてる内に見れるとは…」

 

まるで俺達を待っていたかの様に、その機体は悠々とした態度でそこにいた

 

他のレシプロ機と比べても異形のボディ…

 

プロペラが後ろに付き、それまで主翼にしか取り付けられなかった機銃を、機首に取り付ける事が可能になった…

 

当時の技術をふんだんに詰め込んだ、不遇の名機…

 

「し…震電だ…」

 

「レイ、知ってるの⁇」

 

「あぁ。世に出てれば最強の戦闘機だったからな」

 

「ほへぇ〜…」

 

きそは不思議そうに震電を魅入る

 

流石に埃とかは積もっていたが、70年経った今でも形を変えず、朽ちる事なくここで眠っていたのだ

 

「動くかなぁ…」

 

「動く。資料を手に入れたからな‼︎」

 

「ようし‼︎ならやるだけの事はやってみようよ‼︎」

 

「やろう‼︎」

 

きそと共に基地にある使えそうな機材を運び、修復作業が始まった

 

とは言え、ダメな部分は少ししかなかった

 

それ程完璧な状態で保管されていたのだ

 

「エンジンと燃料だけダメだ…ガソリンでエンジンコテコテだよぉ…」

 

「エンジン…そうだ‼︎」

 

ふと別の格納庫に目が行った

 

「きそ。この基地には確か火龍が眠ってたな」

 

「うん。ドアの所に”火龍”って書いてあったよ」

 

「火龍のエンジンを見よう。使えそうならパクる」

 

「オッケー‼︎あの状態ならもう飛べないもんね…」

 

きそが再びダイナマイトで火龍のある扉を吹き飛ばし、中に入った

 

「生きてるよ‼︎これなら使える‼︎」

 

「よしっ‼︎」

 

エンジンは確保出来た

 

エンジンを台車に乗せ、震電の所に戻って来た

 

問題は燃料だ

 

「サラダ油ならあるよ‼︎」

 

きそはポーチから小さなサラダ油の容器を出した

 

「何でんなモン持ってるんだよ‼︎」

 

「何かあった時用⁇」

 

「…バカッ。その量じゃどの道動かん。そうだな…」

 

「なら、フィリップの燃料半分使う⁇」

 

「う〜ん…途中で落ちたら嫌だしな…」

 

「なら近場の単冠湾まで飛んで、そこで補給してから横須賀に行く⁇それなら大丈夫だよ、きっと‼︎」

 

「…そうするか‼︎」

 

「じゃあ、ちょっと持って来るね‼︎」

 

きそがフィリップに向かうのを見て、何度も考えた事を再び考えた

 

恐らく動く事は動く

 

問題は燃費だ

 

馬鹿食いの機体ならヤバい

 

資料にも

 

”ム求良改。シ悪費燃干若”

 

とも書いてあった

 

「持って来たよ‼︎」

 

きそは震電に燃料を入れ、入れ終わると蓋を閉め、操縦席に座った

 

「レイ、操縦分からないでしょ⁇」

 

「資料の中に説明書みたいのがあった」

 

「操縦は大体一緒。日本語で書いてあるか英語かの違いだよ。ホラ」

 

速加

 

速減

 

昇上

 

降下

 

門火

 

大まかなのはこれ位だ

 

「じゃあ、僕はフィリップに乗って単冠湾まで案内するよ」

 

「レーダー付いてるから場所位分かるさ」

 

「付けたら分かるよ」

 

きそに言われ、レーダーを起動してみた

 

付かない

 

「ハリボテかよ‼︎」

 

「お金無かったんでしょ⁇じゃあレイ、上で待ってるからね‼︎」

 

「置いてくなよ‼︎」

 

きそを見送り、資料を紐でまとめた物を持ち、風防を閉めた

 

今のキャノピーと違い、ビスだけで留めてあるだけなので、若干不安要素が残る

 

《レイ、無線は使えるから、僕を見失っちゃったら連絡して⁇すぐ迎えに行く‼︎》

 

「オッケー。行くぞっ‼︎」

 

震電はご機嫌にエンジンを吹いた

 

初期加速も何ら問題無い

 

震電は一番居たかった場所へ、70年経った今、ようやく還って来た

 

「よーし良い子だ。問題無いぞ‼︎」

 

《じき単冠湾に着くから、もうちょい頑張ってね‼︎》

 

 

 

 

数十分後、単冠湾に着陸

 

野郎共が異形の戦闘機にガヤガヤしている

 

降りた瞬間、その辺に居た野郎共が一歩下がる

 

「な…何だレイさんか…」

 

「ビビらせないでくれよ〜」

 

「レイさん⁉︎この機体は⁉︎」

 

ワンコが来て、事情を説明する

 

「でだ。燃料が無いんだ。入れてくれないか⁇」

 

「えぇ‼︎勿論です‼︎」

 

「あれ、榛名さんは⁇」

 

いつもならハンマー片手にやって来る榛名が居ない

 

「ごめんねきそちゃん。榛名はさっき東京急行から帰って来たばかりで寝てるんだ」

 

「起きてるダズル」

 

「うわぁ‼︎」

 

ワンコの背後で腕を組んでいる榛名が居た

 

「榛名さん‼︎」

 

「きそ。よく来たダズルな‼︎」

 

きそは榛名に抱き着き、久し振りの再会を楽しむ

 

「きそはホントに榛名に懐いてるな…」

 

「きそちゃん位ですからね。対等に話してくれる艦娘は…」

 

そう言うワンコの目は、過去の目と違い、男の目になっていた

 

補給が終わるまで俺達はワンコの執務室にお邪魔する事にした

 

「んんんんんんんん〜〜〜〜〜………」

 

「気持ちいい⁇」

 

「気持ちいいダズルルルルル…」

 

榛名は相変わらずお気に入りのマッサージチェアーに座り、その隣できそは榛名を嬉しそうに眺めていた

 

「しかしまぁ、震電が現存していたとは…」

 

「ししし震電とは何ダズルルルルル」

 

マッサージチェアーの振動で震え声の榛名が話に入って来た

 

「昔の機体さ。背後にプロペラが付いてる特殊な戦闘機なんだ」

 

「ウチは航空戦はレイやラバウルに頼りっぱなしダズルルル。いつもすまんな」

 

「お前から感謝の言葉を聞けるとはなぁ…」

 

「何ダズル。罵声が良いダズルか⁉︎」

 

そう言いつつも、榛名は目を閉じてご満悦だ

 

「レイさん。補給完了しました‼︎」

 

「んっ。サンキュー。あ、そうだ。誰かパイロット経験者はいるか⁇」

 

「補給に当たった野郎共と妖精の数名が、元パイロットです」

 

窓の外を見ると、震電の周りに二、三人固まっているのが見えた

 

「分かった。ワンコ、そいつらリストに上げて、横須賀に渡せるか⁇」

 

「はい‼︎早急に‼︎」

 

「んじゃまたな‼︎」

 

「気を付けるダズルよ⁇」

 

「へ〜へ〜…」

 

「貴様に言ってないダズル‼︎きそに言ってるんダズル‼︎」

 

「くっ…」

 

「じゃあ行って来るね‼︎榛名さん‼︎」

 

「レイに何かされたらすぐに言うダズルよ〜‼︎」

 

ワンコと榛名に別れを告げ、俺達はそれぞれの機体に乗り込んだ

 

野郎達の見送りを受け、横須賀へと飛び立った



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108話 70年の寝坊(2)

「提督‼︎レーダーに反応が‼︎」

 

「どれどれ…」

 

横須賀と明石がレーダーを見る

 

レーダーには”Yata Garasu”と表示されている

 

フィリップの事だ

 

「これは…」

 

「unknown表示…」

 

二機はフィリップを先頭に、此方に向かっている

 

「フィリップに連絡を入れて‼︎」

 

「了解です‼︎」

 

明石はヘッドホンを付け、無線でフィリップに連絡を入れた

 

「こちら横須賀基地。フィリップ、応答せよ‼︎」

 

《はいはい》

 

「背後にunknown表示の機体がいる。注意して下さい‼︎」

 

《横須賀‼︎》

 

間髪入れずにレイの声が聞こえた

 

聞こえて来たのは、unknown表示の機体からだ

 

《撃ち落としたら承知しねぇぞ‼︎》

 

「レイ⁉︎」

 

《unknownは俺だ‼︎ちゃんと立体レーダー見たのか⁉︎》

 

「クラーケンを起動して‼︎」

 

明石が立体レーダーを起動すると、フィリップが映り、続いて謎の機体が映った

 

「何よこの機体…」

 

《着陸すっから滑走路開けろ〜》

 

「し、震電だ‼︎」

 

「スゲェ…」

 

外の工兵が軽いパニックを起こしていた

 

幻の名機が、時代を越えて横須賀に降りたのである

 

「え〜ぇ…お転婆な子だ事…」

 

震電は旧世代機の割には安定性が無く、機動性がかなり高い

 

熟練者でも無けりゃ、彼女を手懐けられない

 

「ちょっと‼︎」

 

横須賀が来た

 

「資料を持って帰って来てとは言ったけど、実物とは言ってないわよ⁉︎」

 

「実物あった方が量産も早いだろうが‼︎」

 

大衆が居る前で、二人は相変わらずの喧嘩をする

 

工兵やきそにとっては”なんだ、いつもの事か”ぐらいに認識されており、中には笑っている奴もいる

 

「レイ‼︎ダイナマイツ、もう一本あるよ‼︎」

 

「よ〜し…」

 

きその手からダイナマイトを取り、逆の手にライターを持った

 

「要らないなら震電はダイナマイツだな‼︎」

 

「勿体無いけど、この際仕方ないね‼︎」

 

「これで横須賀は大悪人だな。一機しかない震電爆破だぜ⁉︎」

 

「後世に語り継がれるね‼︎」

 

俺ときそは横須賀の方を振り返ってニヤついた

 

「わ…わ〜かったわよ‼︎ありがとう‼︎」

 

「素直な女は好きだ」

 

「最初から素直になればいいのに」

 

「でっ⁇量産するつもり⁇」

 

「あぁ。かなり改良点はあるが、妖精の手を借りりゃ出来そうだ。しばらく工廠借りっからな⁇」

 

そう言いつつ、足は工廠に向かっている

 

「えぇ。散らかさないでよ⁉︎」

 

「床にコーラ撒いといてやるよ」

 

「なっ‼︎ちょっ‼︎だ、誰か止めなさい‼︎」

 

「放っておいた方がいいよ〜⁇」

 

横須賀が視線を落とすと、きそがサイダーを飲んでいた

 

「レイは一回こう‼︎って言ったら、余程の事がない限り止めないでしょ⁇」

 

「…昔からそうよ。私がダメッ‼︎って言っても、絶対に来てくれたりするんだから…」

 

「よっぽど好きなんだね」

 

「…そうね」

 

「これあげる‼︎美味しいよ‼︎」

 

きそは横須賀に半分残ったサイダーの瓶を渡し、工廠に走って行った

 

「まったく…二人共よく似てるんだから…」

 

 

 

 

 

レイときそは毎日横須賀に足を運んだ

 

既に改良型の震電が一機出来上がりかけていた

 

「ふわぁ…」

 

きそがあくびをする

 

表は夜になっていた

 

「寝るか⁇」

 

「うん…」

 

俺はきそを抱き上げ、宿舎に向かった

 

「すまん、頼む」

 

「オッケー…よいしょ…」

 

軽空母”千代田”と”千歳”にきそを任せ、工廠に戻って来た

 

眼鏡を掛け、パソコンを弄る

 

デモ的には良い出来だ

 

エンジンはアレンの”改良型複合サイクルエンジン”を使用した

 

これにより、初期動作であるエンジンの点火だけガソリンに頼り、後はプロペラや風力で蓄えた電力で飛行が可能になる

 

流石はアレンだ。いい仕事をする

 

機首部の機銃の弾は照月や秋月の主武装に入っている銃弾を使用

 

敵の近くで炸裂するアレだ

 

これで多少パイロット経験が少なくても強さは保証出来る

 

後は両翼にパイロンを付けた

 

軽い爆弾やロケット砲みたいな物は積んで飛べる

 

そして、おもいきり変えたのは主翼だ

 

前進翼にした

 

これで安定性が増すはず…

 

それと、量産体制が整えば着艦フックも付けられる

 

…原型は保ったはず

 

「ふぅ…」

 

眼鏡を外して目を擦り、机に頬杖をつきながらミニチュアの震電を弄る

 

「最強の戦闘機ねぇ…」

 

独り言を言っていると、首元に手が回った

 

「…なんだ⁇一人で寝れないのか⁇」

 

「そうね…貴方の夢、見そうだから…」

 

鎖骨部分に当たる手の感触で横須賀と分かった

 

「空母の子に積載可能にしてやる。立派な主力戦闘機になるぞ⁇」

 

「モニターには爆弾付いてるけど⁇」

 

「爆弾も詰める。今で言うマルチロール機になるな」

 

「ありがと…」

 

横須賀の吐息が耳に当たる…

 

「明日、飛行実験をしたい。いいか⁇」

 

「えぇ」

 

「よし。今日は寝る…くぁ…」

 

ようやくあくびが来た

 

「私の部屋に来て。命令よ⁇」

 

「もう断る気力がない…」

 

そこまで眠たかった

 

その日、俺は横須賀の部屋で眠った

 

フカフカの布団が気持ち良かった記憶が最後だけど…

 

 

 

 

次の日、震電の飛行実験が行われた

 

現状、震電を操縦出来るのは俺一人

 

なので、パイロットも必然的に俺になる

 

「よ〜し、発進‼︎」

 

エンジンを入れ、滑走路を一気に駆け抜け、空へ飛ぶ

 

離陸良好、初期加速問題無し

 

少し機動力の試験をした後、機銃とパイロンのミサイルの射撃試験をしていた時、地上では工兵達が興奮する中、きそが横須賀の異変に気付いた

 

「良い機体ね〜‼︎レシプロとは思えないわ‼︎」

 

空を見上げて笑う横須賀の横で、サイダー片手にきそがニヤリと笑う

 

「レイの吸ってるタバコの匂いがする」

 

「ゔっ…」

 

「…さては一緒に寝たね⁇」

 

「…寝たわ」

 

「まぁ、でもケッコンしてるから普通か…」

 

「そうよ⁇仲の良い夫婦は一緒に寝るのよ。普段のレイと鹿島もそうでしょ⁇」

 

「まぁね〜」

 

幾らアホの横須賀でも、段々きその扱いを分かって来たようだ

 

「帰って来たわ‼︎」

 

俺が帰るや否や、横須賀ときそが駆け寄って来た

 

「オーケー‼︎俺にしちゃ上出来だ‼︎量産しても大丈夫そうだ‼︎」

 

「妖精と工兵に伝えるわ‼︎」

 

「やったね‼︎」

 

「よしっ‼︎飯食うぞ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

俺達はそのまま繁華街に向かい、前回あまり食べられなかったずいずいずっころばしに向かった

 

「いらっしゃ…マーカスさん⁉︎」

 

「来たずい」

 

瑞鶴は毎回同じ反応をしてくれるので面白い

 

きそもきそで瑞鶴をおちょくるので、自然と笑みが出た

 

今日は二人なので、ゆっくり食える

 

「マーカスさんって、魚卵系好きですよね⁇」

 

「美味いし、プチプチ感が好きなんだ」

 

「じゃあこれは⁇」

 

出されたのは、白子の軍艦巻き

 

「どれっ…」

 

ポン酢を数滴垂らし、口に入れる

 

「おぉ、中々クリーミーで良いじゃないか‼︎」

 

「僕も欲しいずい‼︎」

 

「オッケー‼︎」

 

きその前にも白子の軍艦巻きが置かれる

 

「イクラ二つ。キュウリ抜きな」

 

「オッケー‼︎」

 

キュウリ抜きのイクラの軍艦巻きが置かれた時点で、きそがある事に気付いた

 

「シャリ残したガール、今日はいないね」

 

「たまに来るわよ⁇最近はちゃ〜んとシャリも食べてるよ‼︎」

 

「シャリ美味しくなったもんね」

 

「ふっふっふ…シャリの酢を変えたのよ‼︎自然由来で…」

 

ずいずいずっころばしでは、話が尽きる事が無い

 

ここの繁華街は客同士の会話も弾み、仲良くなる事もある

 

「お腹いっぱいずい…ふぅ…」

 

「そろそろ出るか。ごちそうさま‼︎釣りは要らん」

 

「えっ、嘘っ、万札⁉︎」

 

「ごちそうさまずい〜‼︎」

 

「また来るよ」

 

俺達が店を出た後、瑞鶴はレジに万札を入れて呟いた

 

「…2300円足りない。まっ、いっか‼︎」

 

 

 

 

改良型震電二型が量産体制に入ります‼︎




改良型震電二型…震電の改良型機体

震電をベースに、マルチロール機に仕上げた機体

問題であった燃費の悪さを複合サイクルエンジンの電力で補い、主翼を前進翼にし、安定性が飛躍的に上昇

主武装である機首機関砲は近接信管の銃弾を装填する事で威力と命中率が上昇

パイロンも装備し、簡易な副武装も装備可能

量産後は着艦フックも備え、空母に積載も可能

対空…+18

爆装…+5

火力…+2

索敵…+3


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109話 舞鶴再建”その女、マヌケにつき”

さて、108話が終わりました

今回のお話は、舞鶴再建のお話です

新しい提督も出てくるよ‼︎


「舞鶴に新しい提督が来たわ‼︎」

 

毎朝うるさい位に声を出す横須賀だが、今日のは気になった

 

「呉さんはどうした⁇」

 

「呉さんはその子が来るまでの兼任だったの‼︎」

 

何故か分からないが、今日の横須賀はテンションが高い

 

「何と女性提督よ‼︎」

 

「勘弁してくれ‼︎”コレ”がもう一匹増えんのかよ‼︎」

 

「なっ…」

 

横須賀は頭を抑えた俺の胸倉を掴み、顔を近付けた

 

「なぁに⁇パラオちゃんだって元提督よ⁇それに色気はあるでしょうが‼︎」

 

「あぁ〜…こいつと正反対の奴を願う…美人で可愛くて素直でヒス起こさない子…」

 

「行くわよ‼︎」

 

手を合わせてスリスリしていると、横須賀に首根っこを掴まれた

 

「隊長、貴方も御一緒に」

 

「おぉ。武蔵、ローマ‼︎基地を頼んだ‼︎支援要請はラバウルに回してくれ‼︎」

 

「分かった。気を付けてな」

 

「レイを頼んだわ」

 

高速艇に乗せられ、まずは横須賀に向かう

 

「二式大艇だ」

 

「あれに乗って行くわ」

 

高速艇を降りると、二式大艇の側に誰か居る事に気付いた

 

「おほっ‼︎久し振りかも‼︎さ‼︎乗って乗って‼︎」

 

秋津洲が二式大艇の操縦席に座った

 

「た、隊長。俺、アレで行く…」

 

一気に不安になった俺は、近くにあったジャイロに乗ろうと駆け出した

 

「他人の運転も案外いいもんだぞ⁇」

 

「そうよ‼︎銃座もあるから、そこに座りなさいな‼︎」

 

二人に止められ、二式大艇に押し込められた

 

「おい‼︎」

 

「なぁに⁇私の膝が良かった⁇」

 

「銃座に座らせる約束だろ‼︎何で副操縦席なんだ‼︎」

 

銃座と言ったハズなのに、副操縦席に座らされた

 

しかもご丁寧にチェーンで縛りやがって…

 

「銃座より景色良いわよ⁇」

 

「もういい…副機長すりゃいいんだろ⁇」

 

「そうよ‼︎偉いわレイくんっ‼︎パチパチ〜‼︎」

 

「偉いぞレイ‼︎」

 

「くっ…」

 

まさか隊長までおちょくりに来るとは…

 

「まぁいい…秋津洲、だったか⁇」

 

「そう‼︎秋津洲かも‼︎」

 

「本名だ」

 

「秋津洲かも‼︎」

 

「レイ。秋津洲の”かも”は、どこぞのコロッケ好きのからくり人形の”ナリ”と同じよ⁇」

 

「なるほど」

 

「出発するかも‼︎」

 

二式大艇が出発

 

不安しか無い

 

「案外…揺れるな…」

 

二式大艇が揺れる度に、チェーンがチャリチャリうるさい

 

「ボッロイ機体だなぁ…」

 

「そのボッロイのが味出ていいかも‼︎」

 

これだけ揺れているのに、電子機器に異常は無い

 

「おい‼︎左翼のエンジンから煙出てるぞ‼︎」

 

「いつもの事かも‼︎」

 

「直せよ馬鹿野郎‼︎」

 

「降りるかも‼︎」

 

舞鶴鎮守府の港に二式大艇が着水

 

外から見れば綺麗かも知れないが、中はかなり揺れていた

 

「着水完了かも‼︎」

 

「ったく…墜落の間違いなんじゃねぇのか⁉︎」

 

「そんなワガママ言うなら、レイが二式大艇の代わり造るといいかも‼︎」

 

秋津洲がむくれる横で、俺はニヤついた

 

「秋津洲。レイにそんな事言ったら、ホントに造るわよ⁇」

 

「ワガママ言う人には造れないかも‼︎あの震電造った人に頼むかも‼︎」

 

俺は更にニヤつき、席から立ち上がった

 

「いい子ちゃんで待ってるんだぞ〜⁇」

 

「頭撫でないで欲しいかも‼︎」

 

「ちょっと‼︎貴方チェーンは⁉︎」

 

「んなもん離陸前に切ったわ‼︎」

 

切ったチェーンを横須賀に返し、一番最初に二式大艇を出た俺は体を伸ばした

 

 

 

 

「秋津洲」

 

「どうしたかも⁇」

 

「震電造ったのは、貴方の横に乗ってた人よ⁇」

 

「嘘かも‼︎あんな男に造れるハズないかも‼︎」

 

「帰る時、聞いてご覧なさい。それに秋津洲…」

 

「ひっ…」

 

横須賀は背後から秋津洲の肩を持ち、耳元に口を近付けた

 

「レイは私の旦那よ…あんまり逆らうと…うふふふふ…」

 

「ひっ…ひぃ‼︎帰って来たら謝るかも‼︎」

 

 

 

 

「ようこそ、舞鶴鎮守府へ」

 

「おっ」

 

出迎えてくれたのは清楚そうな女性

 

横須賀と同じ、黒く長い髪で、横須賀とはまた違う美貌だが、此方は大人しそうな外見をしている

 

「マーカス・スティングレイだ。レイでいい」

 

「ウィリアム・ヴィットリオだ」

 

「私は知ってるわよね⁇」

 

「えぇ。ジェミニ・コレット元帥」

 

「ふふふ…」

 

久し振りに本名を呼ばれて、横須賀は御満悦そうだ

 

「私は舞鶴鎮守府提督”ふち”と申します」

 

「ふち…か」

 

「ふちだって‼︎」

 

「ふち‼︎」

 

「そうだぞたいほう。ちゃんと覚え…何でいるんだ⁉︎」

 

あまりにもいつも通りすぎて少し会話してしまった

 

視線を落とすと、たいほうと照月がいた

 

「たいほう、あのおっきなひこーきの、まるいまどのよこにすわってたの」

 

「照月は爆弾倉‼︎」

 

「僕は燃料庫だったよ‼︎」

 

きそまでいる

 

話を聞くと、基地に二式大艇が着き、物珍しさで中を見て回っていると、いつの間にか発進してしまい、それぞれそこにいた場所で大人しく待っていた様だ

 

「大人しくしてるんだぞ⁇」

 

「わかった‼︎たいほうもまいづるみたい‼︎」

 

「ふふっ。では、中に案内しますね。どうぞ」

 

ふちに案内され、鎮守府の内部に入った

 

 

 

 

執務室に入ると、中はある程度の物が揃ってはいたが、まだどこか足りない感じがする

 

「すみません、まだ散らかってて…」

 

「私も最初はこんな感じだった。その内慣れるさ」

 

「艦娘はいないのか⁇」

 

「いますよ。え〜と…どこ行ったのかな…」

 

口元に指を当てて、周りをキョロキョロするふち

 

相当なマヌケと見た…

 

「秘書艦の名前は⁇」

 

「え〜と…”は”何とかです…」

 

「皆目分からんっ‼︎」

 

「あっ。あとは”ゆ”がいます」

 

「…分からんっ‼︎」

 

とりあえず分かったのは、”は”と”ゆ”が頭文字の子と言う事だけだ

 

「僕、探してくるよ⁇」

 

「照月も行く‼︎」

 

「たいほうもいく‼︎」

 

やる気満々の三人の前にかがみ、たいほうの頭を撫で、きそと手を繋がせた

 

「頼むぞ。たいほうはきそと照月から離れるんじゃないぞ⁇」

 

「わかった‼︎」

 

「照月。食料食べたらダメだぞ⁇お腹空いたらコレを口に放り込め」

 

「ガム‼︎」

 

ポケットに入っていたガムを渡し、三人は執務室から出た

 

「すみません…えへへ…」

 

ふちはだいぶ抜けてる…

 

しかし、何処かで見た雰囲気だ…

 

 

 

 

「凄いなぁ…」

 

舞鶴鎮守府の中には商店が幾つか並び、簡易な娯楽品や食料品なら買える様になっている

 

「わぁ〜‼︎ラーメンの屋台‼︎」

 

照月は口を開けてラーメンの屋台の前で足を止めた

 

「ポイッと‼︎」

 

きそは照月の口にガムを放り込み、ゆっくり手を引っ張った

 

「後でレイに奢って貰おうね」

 

「うんっ‼︎ラーメン楽しみだなぁ〜‼︎」

 

もう照月の頭にはラーメンしかない

 

一旦ミニ商店街を出て、トレーニングルームの前に来た

 

「ふんっ‼︎ふんっ‼︎ふんっ‼︎」

 

中では誰かバーベルを使ってトレーニングしている

 

三人は窓の外から頭と目を出し、中の様子を伺う

 

「きんにくむきむき」

 

「モグラッ‼︎モグラッ‼︎モグラァッ‼︎」

 

「うわぁ…」

 

トレーニングをしている人は、きそもドン引きする程、筋肉ムキムキだった

 

「あのジュース美味しそ〜‼︎」

 

筋肉ムキムキの人はバーベルを降ろし、飲み物の入った容器をしばらく振り、それを飲んだ

 

「そこにいるのは誰だ⁉︎」

 

「や、ヤバッ‼︎」

 

三人は体を隠し、きそはポシェットに入ったT-爆弾に手を掛けた

 

「小賢しい出歯亀モグラめ‼︎姿を現せ‼︎でないと此方から行くぞ‼︎」

 

「わ、分かった分かった‼︎」

 

三人は観念して筋肉ムキムキの人の前に立った

 

「なんだネズミか。それも三匹」

 

「ゆ」

 

筋肉ムキムキの人の着ている白い水着の様な物の胸元には、赤丸の中に”ゆ”と書いてあった

 

「貧弱なネズミ達よ。この”まるゆ”に何用だ⁇」

 

「て、提督が呼んでたよ⁇」

 

「ふち嬢が⁉︎それは行かねばならないな‼︎有難う、小さなネズミ達よ‼︎」

 

まるゆは地響きを起こしながら、トレーニングルームを去った

 

「何だろう…すっごく叩きたい気分…」

 

「たいほうねずみ⁇」

 

「向こうから見たらネズミだろうね…モグラなのに」

 

「おいひ〜‼︎」

 

「あっ‼︎コラッ‼︎」

 

照月はまるゆの飲んでいたイチゴ味のプロテインをガブ飲みしていた

 

「そ…そんなの飲んだら…」

 

「照月ッ‼︎ムキムキッ‼︎」

 

どうやら特殊に配合されたプロテインらしく、照月は一瞬でムキムキになった

 

「こなこな」

 

たいほうの前には、粉末プロテインの袋があった

 

「え〜と…このプロテインの効力は数分で切れます…良かっ…」

 

「元に戻った‼︎」

 

「はやっ‼︎」

 

「すてぃんぐれいのよんでたまんがにあった。”せかっこー”だね」

 

「アレしたら死んじゃうよぉ…」

 

トレーニングルームを出て、再びミニ商店街に戻って来た

 

「おっ、いたいた‼︎三人共‼︎そろそろおいで‼︎」

 

レイが迎えに来た

 

「秘書艦が来るから、みんなで挨拶しよう。終わったらラーメン食おうな⁉︎」

 

「やったぁ‼︎」

 

執務室に戻って来ると、まるゆが仁王立ちで待機していた

 

「ま、まるゆは艦種は何⁇」

 

「我か⁇我は陸軍出の潜水艦だ」

 

「…そんな筋骨隆々で潜れるの⁇」

 

「容易いぞ。何なら、地中にも潜って進ぜよう‼︎」

 

「こ…こいつがまるゆ⁉︎」

 

きそが話している横で、レイはまるゆに関しての資料を見た

 

資料ではナヨナヨッとした女の子だ

 

「おぉ…我の資料か。この頃の我は弱くてな。魚雷の一発でさえ撃てなんだ…」

 

まるゆは指先で資料をヒョイと摘むと、パラパラと捲り始めた

 

「特殊な光線浴びたんじゃねぇのか…⁇」

 

「お待たせしました‼︎」

 

ようやく秘書艦が来た



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109話舞鶴再建”照月、ラーメンを食べる”

「この子が秘書艦の、え〜と…」

 

ふちは上を向いて悩みだした

 

「重巡洋艦”羽黒”です」

 

お淑やかそうで、純潔を絵に描いた様な女性だ

 

どっかで見た様な…

 

「ふちさん。貯蔵庫を見せてくれる⁇」

 

「かしこまりました。どうぞ此方へ」

 

「隊長、レイ、ちょっと待っててね。すぐ帰るから‼︎」

 

横須賀とふちが執務室を出た

 

「はぁ…」

 

二人が去った瞬間、羽黒は提督の椅子にドカッと座った

 

「何しに来た訳⁉︎」

 

「おっと…」

 

羽黒はいきなり態度を変えて来た

 

「秘書艦してんのも楽じゃない訳。用が済んだらサッサと帰ってくんない⁇」

 

「羽黒よ。客人だぞ。丁重にもてなせ」

 

まるゆがごもっともな事を言った

 

「男とか面倒くさいのよ。チラチラコッチ見て来て、隙あらば誘って来るし。付き合ってられないの‼︎」

 

「すまぬな、御二方…羽黒はこういう奴なのだ…」

 

「こういうのは慣れてる。大丈夫さ」

 

「おねぇさん‼︎」

 

そんな険悪なムードの中、照月が羽黒の前に立った

 

「シャリ食べれる様になった⁉︎」

 

「あっ‼︎お前あん時の‼︎」

 

「シャリ残したガール‼︎」

 

照月の一言で疑問が解けた

 

少し前にずいずいずっころばしにいた、シャリ残してネタだけ食ってた女だ‼︎

 

「食べれる様になったわ。貴女のおかげでね⁇」

 

「次は照月とラーメン食べよう⁇」

 

「ラーメンはチョット…」

 

「ちゃんと食べないと、ガリガリになっちゃうよ⁇」

 

「う…」

 

どうやら羽黒は照月に弱い様だ

 

照月は基地の中で武蔵やローマをブッチぎって一番良く食べる

 

巷では”バキューム照月”と言われる位だ

 

だが照月はその分動くので太らない

 

最近は試作の艤装のテストに付き合ってくれたり、たいほうとなわとびもしているのを見掛ける

 

「さぁ‼︎ご飯にしましょう‼︎」

 

横須賀が帰って来た

 

「お前ら何食いたい⁇」

 

「「「ラーメン‼︎」」」

 

三人共決まっていたみたいだ

 

「羽黒。貴女も食べなさい」

 

「はいっ。かしこまりました」

 

ふちがそう言うと、羽黒は素直に立ち上がり、子供達と共に執務室を出た

 

「女は怖いな…レイ⁇」

 

「今に始まった事じゃない」

 

俺がそう言うと、横須賀がキッ‼︎と睨んで来た

 

「まぁいいわ。舞鶴の良い所は、好きな物を食べられる所よ。私達も視察がてら行きましょう⁇」

 

ミニ商店街に戻って来ると、ラーメンの屋台に四人がいた

 

照月の前には既にかなりの量の器が重ねられているが、今は好きにさせよう

 

俺達が入ったのは、喫茶店の様な店

 

雰囲気はそれだが、店員がいない

 

”なんや客か⁉︎”

 

「うおっ⁉︎妖精がしてるのか⁉︎」

 

カウンターに妖精が立った

 

”何にするんや⁇”

 

出されたメニューを見ると、普通の喫茶店の様なメニューがズラッと並んでいた

 

「アイスコーヒー5つと、俺はサンドイッチ」

 

「ピザも頼む」

 

「グラタンもお願いするわ」

 

「私、コーヒーをフロートにして⁇」

 

「我はシーザーサラダを頼む」

 

”任せとき‼︎”

 

注文を聞くと、妖精は厨房に向かった

 

「ここ一帯は横須賀の繁華街をモデルにしたのよ⁇結構イケてると思わない⁉︎」

 

「自由率が高そうだな」

 

「その内、横須賀みたいに一般公開する時間帯も設けようと思うの。二人はどう思う⁇」

 

「良いんじゃないか⁇学生の帰り際とか儲かりそうだ」

 

「人員も妖精で賄えるし、ふちさんが良いなら俺は賛成だ」

 

「私は良いと思う」

 

「じゃっ、決定ね。慣れて来たら一般公開させるわ。チョットまだ〜⁉︎」

 

”早いわ横須賀さん‼︎まだグラタンできてへんねん‼︎”

 

腹が減っているのか、横須賀は妖精達を急かした

 

「あ、そうだ。言うの忘れてた」

 

横須賀が妖精達と言いあっている横で、ふちが何かを思い出した

 

「いつも弟がお世話になってます」

 

「弟⁇」

 

「誰かいたか⁉︎」

 

俺も隊長も、頭の中で世話になっている男性を思い浮かべる

 

ラバウル航空戦隊は多国籍系なので多分違う

 

呉さんは一人っ子

 

トラックさんは年齢的に違う

 

パラオちゃんは女の子

 

「あ」

 

一人思い当たる節がいた

 

「弟は単冠湾の提督です」

 

「ワンコって姉がいたのか‼︎」

 

「初耳だ…」

 

「弟は私を怖がってましたからね」

 

どうやら小さい頃、ワンコを叩き過ぎてワンコから離れて行った様だ

 

ワンコは姉を怖がり、記憶から姉を消して生きているらしい

 

「ま…まぁ、あれだ。今は幸せな生活してるぞ⁉︎」

 

「それならいいです」

 

こんなマヌケそうなのに、やはり人は分からないモノだな…

 

”待たせたな‼︎”

 

ようやく目の前に軽食が運ばれて来た

 

それぞれアイスコーヒーを飲み、頼んだ軽食を口にする

 

「昔ながらの味だな。中々イケる」

 

「グラタンも端が沸騰しててイイわね」

 

「お前の頭と一緒だな」

 

「なっ…何ですって⁉︎」

 

ここでも二人は喧嘩する

 

そんな二人を横目に見る、隊長とふち

 

「二人はいつもこの様な感じですか⁇」

 

「こう見えて夫婦なんだ…」

 

「ほへぇ」

 

隊長から見ても、やはりふちは抜けていた

 

「時にウィリアム殿」

 

サラダを食べながら、まるゆは隊長に話し掛けた

 

「何処かの基地にハンマーを振り回す榛名が存在すると聞いた。その榛名はウィリアム殿の…」

 

「いや。君の弟の基地さ。あの榛名は強いぞ⁇」

 

「そうか…しかし、いつかは逢瀬してみたいものだ…」

 

このまるゆなら、あの榛名に勝てるかも知れない…

 

「食った‼︎子供達見てくる‼︎」

 

「頼んだぞ」

 

「ごちそうさん‼︎」

 

俺はとにかくあの輪から出たかった

 

まるゆの体格に耐えられなかったんだ…

 

あそこまで来たら、もう芸術だ…

 

外に出てラーメンの屋台に向かうと、たいほうときそがベンチに座ってシェイクを飲んでいた

 

「照月は⁇」

 

「らーめんたべてるよ」

 

「見てるだけでお腹いっぱいだよぉ…」

 

チビチビとシェイクを飲む二人と話していると、ラーメンの屋台の方から、麺を啜る音が聞こえて来た

 

屋台の周りにはベンチしか無く、照月はベンチにラーメンを置き、器用に食べている

 

「レイ、早く止めないと潰れるよ⁇」

 

「…止めてくる」

 

きそに見送られ、屋台の前の照月のラーメンを、そ〜っと取り上げた

 

「あっ‼︎」

 

「ったく…何杯目だ⁇」

 

「”まだ”83杯目だよ⁉︎」

 

照月の目は”まだ行ける‼︎”と、訴えかけている

 

「”まだ”じゃない‼︎”もう”だ‼︎潰れちゃうぞ⁉︎」

 

「うん…」

 

「それで最後だぞ⁉︎」

 

「分かった」

 

「羽黒は食ったか⁉︎」

 

「食べたわ。一杯だけだけど」

 

「普通はそうなんだよ」

 

そう言いながら、幸せそうな照月の頭を撫でる

 

「提督との話は終わったの⁇」

 

「終わった。後は建設中の工廠施設を見たら帰るよ」

 

「早くしてよね」

 

「お〜怖い怖い」

 

終始羽黒はそっぽ向いていたが、反面照月が幸せそうな顔をしていた

 

隊長達が迎えに来た後、まだ造りかけの工廠施設を見た

 

きそとたいほうはシェイクを飲みながら着いて来た

 

「おいしいね‼︎」

 

「たいほうちゃん、こっち向いて…」

 

きそは、シェイクでドロドロになったたいほうの口を拭いたり、これでもかとたいほうの面倒を見てくれている

 

照月⁇照月は食後のお昼寝中だ

 

「まぁ、まだ造りかけだからなんとも言えないわね…」

 

「野郎共‼︎集合〜‼︎」

 

俺の一言で、妖精がゾロゾロと集まって来た

 

「どこで言ってもそれで来るのか⁉︎」

 

「俺も元妖精だしな。此奴等も何と無くだろ⁇良いかお前ら。工廠が出来上がったら、ちゃんと提督に説明してやるんだぞ⁉︎分かったか⁉︎」

 

”しゃ〜ないな〜致し方無く、やで⁇”

 

”めんど〜い”

 

”いやや〜”

 

ダル〜ンとした妖精ばかりだ

 

「良いか⁇ちゃんとしたら、ジュースサーバー造ってやる。それでどうだ⁇」

 

”任しとき‼︎”

 

”提督の為や‼︎”

 

”何でも言うてや‼︎”

 

「現金な奴等め…まぁいい。頼んだぞ⁇」

 

妖精達は蜘蛛の子散らす様に去って行った

 

「ありがとう、レイさん」

 

「まっ。その内弟君と榛名には話をしといてやるよ」

 

「はいっ」

 

「頼んだぞ」

 

終始まるゆに対して笑いを堪えるのが必死だった…

 

 

 

 

二式大艇に乗り、全員確認した所で、秋津洲はエンジンを吹かした

 

俺は帰りはようやく普通の席に座り、膝の上では照月が寝息を立てていた

 

たいほうは隊長の膝の上で折り紙

 

きそは横須賀の横で二本目のシェイクを吸っていた

 

外ではふちとまるゆが手を振っている

 

「あのまるゆヤベェな…」

 

「人間、変わろうと思えば変わるモノよ⁇」

 

「あの〜…」

 

秋津洲が申し訳なさそうに話し掛けて来た

 

「さっきは申し訳なかったかも‼︎」

 

「素直な奴は好きだから許してやろうじゃないの‼︎」

 

「レイさんは提督なの⁇パイロットなの⁇エンジニアなの⁇どれかも⁉︎」

 

「全部だ全部‼︎」

 

「凄いかも…だから提督が欲しがるかも⁉︎」

 

「レイは良い所あるのよ⁇肩書きよりも…いっぱい…」

 

横須賀に褒められると、背中に悪寒が走る

 

「ま、まぁ⁉︎横須賀もたま〜〜〜に可愛い所あるし⁉︎」

 

俺は照れ隠しで窓の外を眺めているが、横須賀はずっとこちらを見ていた

 

「しかしまぁ…あのふちとか言う提督。相当マヌケ臭がするな…」

 

「それは思ったな…」

 

「あの人なら大丈夫よ。考えてもご覧なさい。あのまるゆを従えてるのよ⁉︎」

 

「言われてみれば…」

 

ワンコも榛名を従え、ふちさんはゴリゴリまるゆを従え…

 

やはり、兄妹は似るのだな…

 

二式大艇の中で話が尽きる事はなく、あっと言う間に基地に着いた

 

「じゃあな」

 

「気を付けて帰るんだぞ」

 

「また明日お邪魔しますね‼︎では‼︎」

 

「ばいばいかも〜‼︎」

 

二式大艇は再び空に向かった…

 

舞鶴鎮守府視察の一日は、こうして幕を閉じた…

 

 

 

 

 

舞鶴鎮守府が再稼働します‼︎




ふち…舞鶴鎮守府の提督

破壊された舞鶴鎮守府を再建し、そこに着任した女性提督

ワンコの姉であり、相当マヌケ

まるゆや羽黒の名前も覚えていない位マヌケ

ふち本人はワンコの事が好きだが、無意識の暴力を振るっていたらしく、ワンコの記憶からは抹消されている




羽黒…腹黒シャリ残したガール

少し前にずいずいずっころばしでシャリを残していた女性

バクバク食べる照月の押しに弱く、最近少しずつだが色々食べ始めた所、体が健康になって来た

男性に対してかなり冷たく当たる悪い癖がある




まるゆ…ゴリゴリまるゆ

プロテインの過剰摂取と、度重なるトレーニングの末、筋骨隆々になったまるゆ

着任する前までは資料にあるようなナヨナヨッとした普通のまるゆだったが、陸軍の新薬投与により、筋肉量が大幅に増加した

イチゴ味のプロテインを愛飲し、食事制限もしっかり行った結果、この様な事態になった

当時の面影は殆ど無く、口調もまるで違う為、最初は皆まるゆとは分からない

唯一残っている面影が、服の真ん中に赤で書かれた丸と”ゆ”の文字だけ





きそ「次回予告だよ‼︎」

一軸「所詮、我々に似合う花道は、血塗られた花道しかあるまい‼︎よいか‼︎この一軸死すとも花道は残す‼︎行くぞ‼︎」

一軸「狙いは敵の母艦だ‼︎雑魚を相手に構うな‼︎」

一軸「一軸死すとも未来は死せず‼︎やれるものならやってみやがれ‼︎」








きそ「上の次回予告はフィクションだよ‼︎」


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110話 貴子さん

さて、109話が終わりました

最近楽しい話ばっかりでしたよね

今回どっと落とし、あまりにも予想外の展開になると思います

今回のお話は、ギザギザ丸から貰った設計図の内容が完成します


「よし…」

 

工廠で出来上がった装置を前に、何度も頷く

 

ギザギザ丸から貰った設計図に書かれていた装置が出来上がったのだ

 

「ヘルメットみたいだね」

 

「設計図的にはこれでOKなんだが…」

 

設計図には”頭に被せて使用”と書いてある

 

「造ったからには俺が試そう…」

 

生唾を飲む…

 

この装置は”記憶復元装置”

 

元はVRで戦闘訓練させる物を改良した物だ

 

こいつの主な機能は二つ

 

一つは名前の通り、忘れた記憶を思い出す

 

もう一つは、被った時に頭の中で一番”忘れたい記憶”を一つ抜き取り可能な事

 

俺は後者を確かめる為に、記憶復元装置を被った

 

「オッケー⁇」

 

「きそ」

 

「ん⁇」

 

「俺は何忘れっかな⁇」

 

「賭ける⁇」

 

「いいぞ。俺は親への恨みだ」

 

「じゃあ僕は横須賀さん」

 

「オーケー。俄然やる気が出て来た‼︎」

 

「スイッチオン‼︎」

 

きそがそう言うと、記憶復元装置から音がした

 

「終わったよ」

 

「早いな…よいしょ」

 

装置を外すが、特に変わった様子は無い

 

「失敗したかな、こりゃ」

 

「レイ〜⁇」

 

そんな時、鹿島が顔を見せた

 

俺はすかさずきその後ろに身を隠した

 

「おい…何で鹿島”教官”がいるんだ⁉︎」

 

「なるほど…」

 

きそは納得した様だ

 

「レイ⁇どうかしましたか⁇」

 

「あぁ〜‼︎何でもない‼︎オ、オヤツ⁉︎」

 

「いえ、急に静かになったな〜と。何でもないならいいです」

 

きそが上手く会話し、鹿島を帰らせた

 

「もう大丈夫だよ」

 

「ふぅ…」

 

椅子に腰掛け、一息つく

 

「よいしょ…」

 

「何だ⁇まだするのか⁇」

 

「ちょっとだけ我慢してね」

 

きそは俺の頭に再び装置を付け、スイッチに手を掛けた

 

「ね、レイ。一つだけ教えて⁇」

 

「何だ⁇」

 

そう言うときそは俺の耳元に口を寄せた

 

「…鹿島教官と横須賀さん、どっちが好き⁇」

 

俺は迷う事なく答えた

 

「横須賀に決まってんだろ⁇変な事聞くなよ…」

 

「…そっか。じゃあ押すよ⁉︎」

 

「おぅ」

 

きそはスイッチを押した

 

数秒後に装置は停止し、外してきその顔を見た

 

「う〜ん…」

 

非常に微妙な気分だ

 

「レイ。鹿島教官と横須賀さん、どっちが好き⁇」

 

「鹿島に決まってるだろ‼︎横須賀はヒステリでかなわん‼︎」

 

「うんっ‼︎元に戻ってるね‼︎」

 

この装置は一度取り出した記憶を元に戻す事も出来る

 

だから復元装置なのだ

 

ただ、取り出した時に一つだけデメリットがあった

 

それは、嫌な事を忘れている際の記憶が無い事

 

だから俺は、何を取り出されたのか分からない

 

「完璧な仕上がりだね」

 

「俺は何を取り出されてた⁇」

 

「言わない。永遠の秘密にしておく。多分、レイは自分で分かってるから…」

 

「賭けはどうなる⁉︎」

 

「イーブンだね。どっちも不正解だったよ」

 

「…まぁいいさ。使えそうか⁇」

 

「使えるね。充分効力を発揮してる」

 

俺は下を向いて、深呼吸をした

 

これを造ったのは、”ある人”の為だ

 

だが、不安もある

 

本当に思い出させて良いのか…

 

その不安は、壁にかけてある革ジャンで振り切れた

 

「…呼んで来てくれ」

 

「隊長にも言う⁇」

 

「いや。俺から話そう」

 

「じゃあ、行ってくるね…」

 

終始重い空気の中、きそはその人を連れて来た

 

「こっちこっち‼︎」

 

「どうしたんだ⁇新しい艤装か⁇」

 

来たのは武蔵だ

 

「そんな所っ‼︎さっ、これ被って‼︎」

 

きそは躊躇いなく武蔵に装置を付けた

 

「武蔵さん。何にも心配しないで⁇」

 

「うぬ」

 

武蔵は何の心配もなさそうに椅子に座り、リラックスしていた

 

「えい‼︎」

 

きそは装置を起動した

 

数秒経った後、きそは装置を外した

 

「どう⁇」

 

「何も変わってないが…」

 

「武蔵。これは誰だ⁇」

 

俺は隊長の写真を武蔵に見せた

 

「私の旦那だ。名はウィリアム・ヴィッ…」

 

隊長の本名を途中まで言い、武蔵はハッとした

 

「思い出した…私は提督と恋仲だった‼︎」

 

武蔵は過去を思い出した

 

「武蔵。俺の名前は⁇」

 

「マーカス・スティングレイだ‼︎おぉ、まだ持っていてくれたのか‼︎」

 

武蔵はかけてある革ジャンに気付いた

 

あの革ジャンは、俺が隊長と共に海外に行く時に彼女からプレゼントされた物だ

 

「武蔵。これは俺から武蔵への最後の質問だ」

 

「うぬ」

 

「君の名前は⁇」

 

武蔵は俺ときそを見て、目を輝かせて自分の名を言った

 

「貴子だ‼︎」

 

俺ときそは互いに顔を見合わせ、頷いた

 

「おっ、武蔵がいるとは珍しいな⁇」

 

「提督…いや、ウィリアムさん‼︎」

 

「お⁇おぉ⁉︎」

 

武蔵は隊長に抱き着いた

 

武蔵は今まで甘えられなかった分、隊長に甘えている様に見えた

 

「武蔵…お前…」

 

「貴子っ‼︎」

 

「貴子…」

 

隊長も武蔵を抱き返した

 

初めて隊長の涙を見た

 

「レイ…ありがとう…ありがとう‼︎」

 

「思い出したわ。動物園の事も、一緒に居た事も、全部‼︎」

 

むさ…貴子さんの口調が変わっていた

 

元の彼女に戻っていた

 

「隊長」

 

「んっ⁇」

 

彼女の記憶が戻れば、どうしても言わなければいけない事があった

 

「来てくれ」

 

隊長と貴子さんを”アレ”の前に立たせた

 

「本当は死ぬまで隠そうと思ってた。だけど、ここまで来たら言わない訳にはいかない。だから…」

 

俺は、たいほうが入っていたカプセルをコツコツと叩いた

 

「知ってるぞっ」

 

「うんっ。ありがとう、マーカス君っ‼︎」

 

全てを見透かされていた様な、二人の瞳

 

その瞳は当時の二人のままだった

 

「へっ…俺は嘘付くの下手だなぁ…」

 

ようやく言えた…

 

心のつっかえが取れ、一気に力が抜け、涙腺が緩む

 

俺はその顔を隠す為、隊長達に背を向けた

 

「俺が出来るのはここまでだ…次は幸せになってくれよ⁇」

 

「分かったよ。お前もだぞ⁉︎」

 

「俺は心配しなくていい。道は見つけたんだ」

 

「ん…」

 

隊長の顔は、何処と無く寂しそうだ

 

「パパ〜‼︎」

 

「たいほう‼︎よいしょ…」

 

たいほうが加わり、一つの家族が完成した

 

「…あれ⁇」

 

幸せな家族を前にしたきそは何かに気付いた…



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110話 僕の好きな背中

題名は変わりますが、話は続いてますよ


隊長達が食堂に戻った後、レイは一人工廠の机で書類を眺めていた

 

そんなレイの後ろに、僕は立っていた

 

「レイ」

 

僕が呼ぶと、レイは机に書類を投げた

 

「はは…お前を察知出来ないとは。俺も落ちたもんだな」

 

レイはいつも通り、左手で後頭部を掻いた

 

「レイ、今日テンション低いね」

 

「たまにはセンチになってもいいだ…」

 

僕はすかさず後頭部を掻いた手を取った

 

「指輪、どうしたの⁇」

 

「あ…」

 

僕が気付いたのは、レイの左手薬指からケッコン指輪が消えていた事だ

 

「鹿島と喧嘩した⁇」

 

「してないさ。どう考えてもおしどり夫婦だろ⁉︎」

 

「じゃあ何で泣いてるのさ」

 

知らず知らずの内に、レイの頬から涙が落ちていた

 

その原因は、机の上の書類にあった

 

察した僕は書類を手に取り読み始めた

 

「これホントなの⁇」

 

「ホントじゃなかったらこうなってない」

 

「わぁ…」

 

「明日、大湊に向かう」

 

「待って」

 

食堂に向かおうとしたレイを、僕は書類を持った逆の手で俺の服の裾を掴んで止めた

 

「レイはホントにいいの⁇」

 

「俺が決める事じゃない」

 

「僕、連れて行かないよ⁇」

 

「好きにしろ。別機で行く」

 

レイは僕の制止を振り払い、食堂に向かった

 

「レイ…」

 

レイが僕にこんな態度をするのは初めてだった

 

それ程まで、彼は悩んでいた

 

食堂に戻ったら、レイは普通のレイに戻っていた

 

あくまで勘付かれない気でいる

 

「ほらたいほう、こっち向いてみ⁇」

 

たいほうの口を拭いたり、霞の食事を小さくしたりといつも通りだ

 

「レイ、私がしますよ⁇」

 

「んっ、頼んだ」

 

見ていて痛々しかった

 

あぁ、レイは全部を背負って、これからも生きて行くんだと思った

 

食事を終えると、レイはいつも通り港で座って一服し始めた

 

僕はその時を見計らい、もう一度レイに近付いた

 

「レイ」

 

「んっ」

 

やはり浮かない顔をしている

 

「全部…背負って生きるんだね…」

 

「仕方無いさ。これが宿命なんだろ⁇」

 

レイはずっと下を向いたまま、僕の方を見なかった

 

「…やっぱりレイは凄いや‼︎」

 

「…」

 

「僕はもう充分だと思うなぁ〜‼︎」

 

「きそ…」

 

「いいよ。明日連れてってあげる。ちょっと来て‼︎」

 

僕はレイの手を引いて、工廠の中に入った

 

シャッターも扉も全部閉め、念の為にフィリップの中に入った

 

「どうしたんだ⁇」

 

「これ」

 

僕はレイに手紙と便箋を渡した

 

レイは迷わずにそれを手にした

 

「何も言わなくて良いよ。僕だけは、レイの味方でいるから…」

 

「…すまん」

 

「んっ…」

 

僕はレイの頭を撫でた

 

ぎこちない笑顔だけど、レイは笑ってくれた

 

「今日はここで寝よっか⁉︎」

 

「…おぅっ‼︎たまにはいいな‼︎」

 

涙を拭いたレイは、少しだけいつものレイに戻った…



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110話 マーカス・スティングレイ

次の日の朝…

 

幸せな家族を横目で見ながら、一人の女性がコーヒーを飲んでいた

 

「鹿島‼︎」

 

「はいっ、どうされました⁇」

 

「たまにはデートすっぞ‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

鹿島は何のためらいもなく、フィリップに乗った

 

「よ〜し、行くか‼︎」

 

《オッケー‼︎》

 

「出発〜‼︎」

 

目指すは大湊基地

 

レイにとっては途轍もなく長く、そして途轍もなく短い時間に感じたと思う

 

ずっと心拍数が上がったり、血圧が上昇したりしていたからだ

 

「よ〜し着いた‼︎」

 

大湊の基地にフィリップが着陸し、レイと鹿島が先に降りた

 

「大湊ですか⁇」

 

「そっ。この前ここの艦長に世話んなったからな‼︎挨拶しようと思ってな‼︎」

 

「あらっ、律儀な所もあったんですねぇ⁇」

 

「けっ‼︎言ってろ‼︎これ、ちょっと持っててくれ」

 

レイは鹿島に書類を持たせ、基地の中に向かった

 

 

 

レイは基地の中を歩いている時、鹿島に一つだけ質問をした

 

「鹿島」

 

「はい⁇」

 

レイも鹿島も歩く足を止めず、レイは少し前を歩いていた

 

「…俺の事、好きか⁇」

 

「当たり前ですよ‼︎」

 

鹿島はすぐにそう答えた

 

「そうか。そうだよな‼︎すまんすまん‼︎ははは‼︎おっとここだ‼︎」

 

レイは執務室の前に来て足を止めた

 

「鹿島、ちょっとここで待っててくれ」

 

「分かりました」

 

鹿島を待たせ、レイだけ執務室に入った

 

「失礼しま〜す」

 

「おぉ〜スティングレイ‼︎ようこそ大湊へ‼︎」

 

空母 タイコンデロガ・改の艦長、棚町がここを纏めている

 

相変わらず若い

 

「今日は会わせたい人も連れて来たんだ。入れていいか⁇」

 

「どうぞどうぞ‼︎」

 

レイは扉から顔だけ出して、鹿島を呼んだ

 

「え…」

 

「まゆ…」

 

棚町は立ち上がり、鹿島に歩み寄った

 

「…お別れ、だっ‼︎」

 

「あっ‼︎レイっ‼︎」

 

鹿島の背中を押し、レイは執務室から出た

 

レイが走った跡には、キラキラした物が思い出と共に落ちて行った

 

「フィリップ‼︎発進準備‼︎」

 

《了解‼︎》

 

レイの震えた声を聞き、僕はフィリップを出した

 

すぐにレイは操縦席に乗り、猛スピードで滑走路から飛び立った

 

「ハァ…ハァ…」

 

《レイ》

 

「ハァ…ハァ…」

 

《レイってば‼︎》

 

「ハァ…」

 

レイは大きなため息を吐いた後、声無き声で大粒の涙を流した

 

 

 

 

「レイ…」

 

「まゆ…お前なのか⁉︎」

 

「棚町さん…」

 

鹿島は躊躇いなく棚町と口付けを交わした

 

「あ、コレ…」

 

持っていた封筒を見ると”鹿島へ”と書いてあり、一枚の手紙と指輪が出て来た

 

そこにはこう書かれていた

 

”愛する鹿島へ

 

長い間、俺を恨んでいただろう⁇

 

それも今日でオシマイだ

 

君の婚約者が生きていると分かった

 

この手紙を見ている頃には、君は既に彼の腕の中にいるだろう

 

だから、下手な言葉は言わない

 

俺を育ててくれてありがとう

 

感謝してもしきれない

 

これは、俺が最後に出来る恩返しだ

 

君は最愛の人と一緒にいるんだ

 

今までありがとう

 

棚町さん、こんな事を言えるたちじゃないが、鹿島を頼みます

 

末長くお幸せに

 

マーカス・スティングレイより”

 

 

 

「あぁっ…」

 

鹿島は小刻みに震えながら膝を落とした

 

「レイっ…ありがとう…」

 

 

 

 

 

 

あの書類には、鹿島の婚約者の情報が書かれていた

 

名は棚町

 

レイが墜としたと思っていた婚約者は生きており、日本に亡命して大湊に身を寄せている情報が書いてあった

 

レイは正直耐えられなかったと思う

 

どれだけ一緒にいようが、どれだけ体を重ねようが、鹿島は毎日こっそり彼の写真を愛おしそうに眺めていたからだ

 

記憶復元装置で鹿島を忘れたのが良い例だ

 

逆によくここまで耐えたと思う

 

 

 

 

《レイ、よく頑張ったね…》

 

「…俺は何一つ、あいつを護ってやれなかった…」

 

《あれだけやれば充分だよ。よく耐えたね…》

 

「これで良かったんだ…これで…」

 

《…そうだ。横須賀で何か食べよっか‼︎冷たいアイスでもどう⁉︎》

 

「んっ…そうだな…」

 

そうすぐには立ち直れないだろう

 

それだけ鹿島を愛していた証拠だ

 

《さぁ‼︎着いたよ‼︎》

 

「…」

 

横須賀に着き、レイの手を引っ張って繁華街に向かった

 

 

 

 

「あら⁇これは⁇」

 

横須賀の執務室では、一通の暗号化された電文が送られて来た

 

横須賀は飲んでいた牛乳を置き、電文を解読し始めた

 

「これ…‼︎」

 

 

 

 

「美味しい⁇」

 

「イケるな」

 

やはりレイの気分は優れない

 

それは間宮に行こうが、伊勢に行こうが、ずいずいずっころばしに行こうが変わらなかった

 

日が暮れるまで遊んでも、レイはずっと下を向いていた

 

「僕ちょっとトイレ〜‼︎」

 

「そこにあるから行って来い」

 

レイは海の見える階段に腰を下ろした

 

僕がトイレに入った時、一人の女性がレイのいる方へ歩いて行った

 

僕はトイレに入らず、陰から様子を見る事にした…

 

 

 

 

鹿島を失った喪失感は凄かった

 

だが、愛する人間の傍にいる人生の方が、誰だって良いだろう

 

俺に向けられた愛は、彼女にとっては殺意と紙一重だったのだろう…

 

だから、俺は…

 

ボーッと水平線を眺めていると、急に首元に柔らかい感触が当たった

 

「私がいるじゃない…」

 

横須賀だった

 

「横須賀俺は…」

 

「言わなくて良いわ…罪滅ぼしは終わったの…貴方は貴方の為に生きなさい⁇」

 

「…泣いちまうからやめてくれ」

 

「泣きなさい。私が全部受け止めてあげるわ…」

 

レイは一目もはばからず大泣きした

 

溜まっていた物が、一気に爆発した様だ

 

しばらく泣き通した後、レイはようやく落ち着いた

 

「泣き止んだ⁇」

 

「おぅ。やっぱオッパイデケェな」

 

「…まぁいいわ。コレ見て」

 

横須賀はポケットから一枚の紙を出した

 

「停戦よ停戦‼︎よく頑張ったわ‼︎」

 

「ホントか‼︎」

 

横須賀の一言で、レイに覇気が戻った

 

「やったーーー‼︎」

 

喜んだきそが飛び出て来た

 

「きそちゃん‼︎」

 

横須賀に飛びかかるきそを見て、俺はやはり此奴が好きなんだなと実感した

 

「とにかくっ‼︎今日は基地に帰りなさい。隊長には事情を話しておいたから、ねっ⁇」

 

「ありがとう、横須賀」

 

「感謝するなら、今度は笑顔でいらっしゃい‼︎」

 

横須賀と別れ、俺達は基地に帰って来た

 

「おかえり、レイ。疲れただろ⁉︎」

 

「隊長…」

 

隊長はニコやかに迎えてくれた

 

「さぁっ‼︎今日は豪勢よ‼︎二人共手を洗って‼︎」

 

「おほっ‼︎」

 

数年振りに食べる、貴子さんの手料理が机の上に並んでいる

 

既に照月がヨダレを垂らしているので、早く食べないと無くなってしまう

 

「いただきま〜す‼︎」

 

鹿島は居なくなった…

 

だが、温かい家族団欒に違いはなかった

 

 

 

 

その日の夜、俺は記憶復元装置の前に立っていた

 

理由は簡単だ

 

鹿島の記憶を消そうとしていた

 

だが、俺は消さないままにした

 

仮にだって、俺達は夫婦だった

 

その事に違いは無い

 

向こうは愛していなくても、俺は愛していた

 

人を愛するのに、間違いは無い

 

そして、この装置の役目も終わりだ

 

俺は手近にあった鉄骨で、記憶復元装置を破壊した

 

ありがとう、鹿島…

 

愛を、ありがとう…

 

 

 

 

 

 

武蔵が記憶を取り戻しました‼︎

 

レイと鹿島がリコンしました

 

鹿島が基地から去りました

 

深海棲艦との戦争が停戦しました‼︎



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111話 がっこー

さて、110話が終わりました

激動の110話でしたが、鹿島はこの後もちょくちょく出て来ます

今回のお話は、横須賀に学校ができ、たいほうが通い始めるお話です


学校が横須賀に出来た

 

「がっこー」

 

頭の上にいるたいほうは、リュックを背負い、今か今かと楽しみにしている

 

今日から毎週、金曜日の朝から昼の3時まで行われる

 

「そうだそ〜。給食もあるし、色んな人と出逢える」

 

「きゅーしょく⁇」

 

「お昼ごはんだなっ。よいしょ…」

 

たいほうを降ろし、軽く身嗜みを整えた

 

「よしっ‼︎行ってこい‼︎」

 

「いってきます‼︎」

 

たいほうを見送り、横須賀の執務室に向かった

 

「横須賀ぁ‼︎」

 

扉を蹴破ると、横須賀は漫画を読んでいた

 

「オメ〜仕事はどうしたっ‼︎」

 

「あっ‼︎」

 

漫画を取り上げると、にやけ顏の横須賀が一瞬見え、すぐにいつもの横須賀に戻った

 

「なぁに⁉︎私だってたまにはサボるわよ‼︎」

 

「飯行くぞ‼︎」

 

「ちょ、ちょっと待ってて‼︎」

 

横須賀が奥の部屋に入ったのを確認して、没収した漫画を読んで見た

 

たいほう並にロリッロリの女の子が沢山出て来ている

 

見てるだけで口が甘くなりそうだ…

 

「オッケー‼︎行くわよ‼︎」

 

「ホラよ」

 

「これは置いとくわ。明石‼︎何かあったら連絡頂戴‼︎」

 

「了解です‼︎」

 

「さっ‼︎行きましょ‼︎」

 

俺が誘ったのに、何故か横須賀が主導権を握っている

 

基地を出てすぐ、冷たい風が吹いた

 

「さぶっ‼︎」

 

「年がら年中タンクトップのアンタが寒がるとはねぇ…ほらっ」

 

横須賀が腕を組んで来た

 

数年振りだ

 

横須賀は体温が高く、いつも温かい

 

それに、いい匂いもする

 

「…サンキュー」

 

「はいはいっ」

 

繁華街に行き、間宮に入った

 

「ホットコーヒーと小倉トースト」

 

「私もそれ‼︎」

 

「かしこまりました。レイさん、今日は生はどうされますか⁇」

 

「今日はいいや」

 

「かしこまりました。少々お待ち下さいね」

 

間宮が厨房に向かうのを見て、タバコに火を点けた

 

「吸うか⁇」

 

「ううん。随分前にやめたの」

 

「そっ」

 

タバコをポケットに仕舞うと、離れた席から聴き覚えのある声が聞こえて来た

 

その声を聞き、咥えたタバコの灰が足に落ちた

 

「気になるなら出る⁇」

 

「いや、いい」

 

少し考えれば分かる事だ

 

学校が出来たし、生徒に教えに来たのだろう

 

だが、あの出来事からまだ数日

 

完全に踏ん切りがついていないと言えば、嘘になった

 

「ならコッチ見なさい‼︎アンタの嫁はコッチよ‼︎」

 

横須賀に顔を持たれ、無理矢理彼女の方に向けられた

 

「すまん」

 

「立ち直れなくて当たり前よ⁇逆にこんな短期間で立ち直ってたら、アンタの神経疑うわ⁇」

 

「お前は優しいな…」

 

「失礼ね。いつも優しいでしょうが」

 

二人は笑った

 

昔からそうだ

 

こいつが笑うと、色んな意味でホッとする

 

「私が埋めてあげるわ。いつか鹿島を越えられる様に…ねっ⁇」

 

「うん…」

 

「だったらホラっ‼︎ちょっとは元気出して食べなさい‼︎」

 

背中を叩かれた後、注文した小倉トーストを齧った

 

「たいほうちゃんは上手くやってるかしら⁇」

 

「まぁ、元は賢いからな…」

 

コーヒーを飲みながら、二人はたいほうの心配をした

 

確かにたいほうは元は賢いが、たまに抜けている所がある

 

貴子さんに似てるのか、時たま頑固な所がある

 

「れ…レイ⁇」

 

鹿島が気付いた

 

「幸せか⁇」

 

「え…えぇ…」

 

「なら良かった。学校にはたいほうがいる。よろしく頼むぞ⁇」

 

「レイ…その…」

 

「なんだ⁇」

 

「私、レイの事、最初は殺したい程憎んでた…」

 

「だろうな」

 

「でも、最後の方は本当に幸せでした…みんなに囲まれて…貴方がいて…それは本当です‼︎」

 

「…」

 

呼吸が重くなる

 

鹿島は俺が何もかも気付かないと思っていたのだろうか…

 

「…今の方が幸せだろう⁇本当に好きな人の所にいれて、誰も憎まなくていい」

 

「レイ…」

 

「今まで通り話してくれたっていい。鹿島が良ければ、だけどな⁇」

 

「…はいっ‼︎」

 

「ホラ行けっ。旦那が待ってるぞ‼︎」

 

俺といた時より遥かに幸せそうな鹿島を見て、ため息が出た

 

「レイ、無理しなくていいのよ⁇」

 

「してないさっ。いつも通りの俺だろ⁇優しくてイケメンで博識な‼︎」

 

「そうそう‼︎バカでマヌケでアホなアンタが一番よ‼︎」

 

「言いたい事言いやがって…」

 

「素直でいいでしょ⁇」

 

こいつといると、本当に時間が短い

 

素の俺でいられるし、なんせ全部受け止めて理解してくれる

 

間宮から出て時計を見ると、一時になっていた

 

「レイ、服買ってあげるわ‼︎」

 

「いらん。足りてる」

 

「ダ〜メッ‼︎アンタそろそろ風邪引くわ⁇」

 

服屋に連れて行かれ、横須賀はこれは似合う、これなんかどう⁇と悩み始める

 

「ありがとうございました〜」

 

「結局革ジャンなのね…」

 

「これが一番落ち着くんだよ‼︎」

 

「ん〜…まぁいいわ。そろそろたいほうちゃん迎えに行きましょ⁇」

 

学校の前に行くと、ゾロゾロと生徒が帰って来た

 

「ばいば〜い‼︎」

 

たいほうも出て来た

 

手には紙を握っている

 

「おかえり‼︎」

 

「たらいま‼︎」

 

俺を見るなり、すぐに抱き付いて頭に登る

 

「かしまいたよ‼︎」

 

「そっかぁ〜。何教えてた⁇」

 

「こくご‼︎これみて‼︎」

 

たいほうの持っていた紙は、簡単なテストの様だ

 

「どれどれ…」

 

問題を見ると、小学校で習う言葉を勉強していた様だ

 

ただ、たいほうのテストは罰印が多い

 

その答えはすぐに分かった

 

問題はこうだ

 

問題…はんたいのことばをこたえましょう

 

・あつい

 

・おもい

 

・あかるい

 

・すくない

 

・すき

 

たいほうの答え

 

・あつくない

 

・おもくない

 

・あかるくない

 

・おおい

 

・すきじゃない

 

 

 

解答を見て、笑いが止まらなくなった

 

「かしまケチなんだよ。たいほうあってるよね⁉︎」

 

「あってるわ…あってるけど…」

 

「くくくっ…」

 

確かにたいほうの解答は、ある意味正解だ

 

「たいほう、夏は暑いよな⁉︎」

 

「なつはあついよ⁇かきごおりがおいしいね‼︎」

 

「じゃあ冬はどうだ⁇」

 

「ふゆはさむいよ。たいほうゆきだるまつくりたいの」

 

「じゃあ、この答えは”さむい”だな⁇」

 

「わぁ。すてぃんぐれいかしこい‼︎」

 

たいほうは凄いと思う

 

何処に居ようが、子供がいたら…と言う気分を味わわせてくれる

 

恐らく横須賀も同じ気分だと思う

 

基地に入るまで俺達は三人でたいほうのテストの答案を考えながら歩いた

 

「じゃあね。今日は楽しかったわ‼︎」

 

「次の休みは、どっか行こうな⁇」

 

「ふふっ、ありがとっ。私も料理練習するわ」

 

横須賀を見送り、帰りの高速艇に乗り込んだ

 

「よこすかさん、すてぃんぐれいのおよめさん⁇」

 

「そうだぞ〜。たいほうは偉いな‼︎」

 

「かしまは⁇」

 

「鹿島はそうだな…友達だ‼︎」

 

「たいほうとすてぃんぐれいといっしょ⁇」

 

「そうだっ。俺もたいほうも友達だもんな‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

終始嬉しそうなたいほうを膝に乗せ、久し振りの船に揺られ、基地に帰った…



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112話 鶴は再び舞う〜それを潰す少女達〜

さて111話が終わりました

今回のお話は、再建された舞鶴でセレモニーが行われます‼︎

誰が出るって⁇見たら分かるよ、きっと


復旧作業が終了した舞鶴基地で、再建祝いが行われる

 

「おめかし‼︎」

 

「たいほうもきた‼︎」

 

「そうだぞ〜。今日は特別だからなっ‼︎」

 

たいほうと照月の服を、いつもよりピシッとした物を着させた

 

「秋月と霞も準備出来たか⁇」

 

「はいっ‼︎完了しました‼︎」

 

「出来たわ。似合う⁇」

 

着替えた霞は、隊長の前でクルッと一周した

 

「うんっ。よく似合ってる」

 

「じゃっ‼︎しゅっぱ〜つ‼︎」

 

貴子さんに留守を任せ、俺達は舞鶴に向かった

 

 

 

 

舞鶴に着くと、表は既に人で一杯になっていた

 

「あ、あれ⁉︎」

 

四人いたはずの子供達が秋月一人しかいない

 

「たいほうとかは⁉︎」

 

「あそこです。霞ちゃんが二人を見てますので大丈夫です‼︎」

 

秋月が指差す方向を見ると、たいほう達がミニ商店街に入って行くのが見えた

 

「ま…まぁいいさ」

 

「秋月も行っていいよ。どうせ前半は大人の会話だ。いてもつまらないよ⁇」

 

「あ…その、私は…」

 

隊長にそう言われ、秋月は少し戸惑う

 

真面目な彼女だ

 

勉強の為にここに居たいのも分かる

 

「横須賀の長くてありがた〜い説教聞くか、みんなと美味しいもん食べるか…どっちかだな」

 

「美味しいものにします‼︎」

 

秋月はみんなの所に行った

 

流石の秋月も説教はゴメンみたいだ

 

「さてっ、そのありがた〜い説教を聞くか」

 

「うぬっ」

 

壇上に上がった横須賀は、マイクを持った…

 

 

 

 

その頃、ミニ商店街では…

 

「とりさん」

 

「そこはレストランよ」

 

たいほうと手を繋いだ霞は、たいほうの質問に答えていた

 

たいほうは前来た時に気に入ったのか、相変わらずシェイクを片手に持っている

 

「すかい・なーぐー。パパのたばことおんなじだね」

 

「パパのタバコ⁇」

 

「うん」

 

ベンチに座ると、たいほうはリュックから何かを出した

 

「パパのたばこは”なーぐー”のろんぐのさんみり」

 

隊長が吸っているタバコの空箱だ

 

「よく知ってるわね…」

 

「すてぃんぐれいは”みるど・せぶん”のろんぐのいちみり」

 

次はレイのタバコ

 

「へ、へぇ〜…」

 

「くれさんはなんか”ぼーろ”みたいなみどりのたばこ」

 

最後は呉さんのタバコの空箱

 

「よく見てるわね⁇」

 

「たいほう、たばこのはこすき‼︎」

 

子供から見れば、色とりどりで綺麗な箱に見えるのだろう

 

「中になんか入ってるの⁇」

 

空箱と思っていたタバコの箱を持つと、中に何か入っていた

 

「パパのたばこのはこは、きゃらめるとあめちゃん」

 

空箱からキャラメルと飴玉が数個出て来た

 

「すてぃんぐれいのたばこのはこは、びーだまとばくちく」

 

ビー玉3つと、爆竹が一つ

 

きそが造った爆竹で、投げただけで爆発する危険アイテムだ

 

大したダメージは無いが、煙がメチャクチャ臭い

 

「くれさんのたばこのはこは、ろーそく」

 

緑色の箱には、ミチミチにローソクが詰まっている

 

たいほうはタバコの出る反対側をパシパシ叩き、ローソクを一本出した

 

「くれさん、こ〜やってだしてた」

 

これもきその造ったものだ

 

先端を何処かに擦るとすぐ火が点く

 

これだけの装備があれば、万が一はぐれてしまっても一日は生きられる

 

たいほうは嬉しそうにタバコの箱を見ながらリュックにしまった

 

「さっ、何か食べましょ⁇」

 

「てるづき、すてーきたべるっていってた」

 

「ステーキって…」

 

商店街を見回すと、”ステーキハウス・肉欲”と書かれた看板の下に人集りが出来ていた

 

「あ…あ、あ…」

 

照月は目を離すと店を潰すまで料理を平らげてしまう

 

だが、今回は姉の秋月がいた事を思い出した

 

秋月は照月ストッパーだ

 

彼女がいれば安し…

 

「いたいた。たいほうちゃん‼︎霞さん‼︎」

 

何も知らない‼︎と、顔に書いてある秋月が来た

 

「終わった…」

 

私は膝を落とした

 

「どうかされましたか⁇」

 

「いいい行くわよ‼︎店が潰れる前に‼︎」

 

「え⁉︎あ、はいっ‼︎」

 

秋月とたいほうの手を引き、肉欲に向かう

 

「ちょっ…どきなさい‼︎」

 

人混みを掻き分け、店内に入る…

 

そして私と秋月は膝を落とす

 

「おいひ〜‼︎あっ‼︎秋月姉‼︎ステーキ美味しいよ〜⁇」

 

膝を落とした二人の目の前で、照月はまるでうどんでも食べているかの様にステーキを平らげて行く…

 

「あんた…今何枚目⁇」

 

「あれを注文しました‼︎」

 

照月がフォークで指した方向には

 

”悶絶‼︎牛丸々一頭ステーキコース‼︎

 

やれるもんならやってみろ‼︎

 

全部食べたら料金無料‼︎

 

食べれなかったら19万7000円頂きます

 

注意‼︎一人専用です‼︎二人以上で食べた瞬間、代金が発生します‼︎”

 

「ちょ‼︎あんたなんてモン…‼︎」

 

”それで終いや…”

 

「え…」

 

照月が何食わぬ顔で咀嚼している肉が、最後の肉らしい

 

店員である妖精の顔は真っ青

 

店にとっては大打撃も良い所

 

「もうおしまい⁇照月、まだお腹空いてるよ⁇」

 

「あんた何枚食べたのよ⁉︎」

 

”これが記録や”

 

妖精に渡された伝票を見ると、そこには照月の食べた肉の量が書かれていた

 

500gステーキ…50枚

 

1kgステーキ…85枚

 

2kgステーキ…24枚

 

5kgステーキ…12枚

 

ここに書かれているだけでも、照月は軽く200kgは食べた計算になる

 

それでもまだお腹空いてるよと言い張る照月

 

これではバキュームと言われても可笑しく無い

 

「たいほうもすてーきたべる‼︎」

 

流石に照月とまでは行かないが、たいほうもこのボディでかなり食べる

 

「は…破産ね…」

 

霞は照月とたいほうの隣に座り、隊長とレイにどう説明するものか⁇と、悩んでいた…



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112話 鶴は再び舞う〜鬼神と3つの刃〜

その頃式場では…

 

「貴様が鬼神か。待っていたぞ」

 

「ドーピングしてるダズル‼︎」

 

逢ってはならない二人が出逢ってしまっていた

 

「あら、貴方達。演習でもする⁇」

 

「うぬ。我は鬼神と拳を交えるのを心待ちにしていた…」

 

「榛名は待ってないダズル‼︎」

 

あくまで榛名は戦いたくない様子だ

 

「流石の榛名でもあんなゴリゴリは無理ダズル‼︎」

 

「ワンコ」

 

「ひっ…」

 

ふちさんが来た途端、ワンコが榛名の背後に隠れた

 

「…提督⁇何ビビってるんダズル⁇」

 

「は、榛名。行こう…」

 

「お、おい‼︎イヤダズル‼︎」

 

ワンコは榛名の手を引こうとしたが、榛名はそれを拒んだ

 

「何だか知らんが、榛名の提督をビビらせるとは良い度胸ダズルな」

 

「あれ…⁇榛名は、ワンコの子⁇」

 

「そうダズル。いいダズルよ、ゴリゴリ。榛名とタイマン張るダズル‼︎」

 

榛名はハンマーを持ち、ワンコの頭を撫で、こっそり耳打ちした

 

「奴は潜水艦ダズル。恐らく榛名に勝ち目は無いダズル…」

 

「ならレイさんの所に行こうよ…」

 

「ここで逃げたら、榛名は提督の嫁失格ダズル。これが榛名の生き様ダズル。いいな」

 

「あ…」

 

榛名は勇ましく海上へと向かった

 

だが、海上に居たのは羽黒だった

 

「貴様が相手ダズルか⁉︎ゴリゴリは何処に行ったんダズル‼︎」

 

「さ〜ぁ⁇何処でしょう…ねっ‼︎」

 

開始合図待たずの、羽黒の先制砲撃

 

「がっ…」

 

だが、倒れたのは羽黒の方だった

 

「まぁ…卑怯とは言わんダズル」

 

黒煙の中から見えた榛名は、何かを放った体制で出て来た

 

「榛名の武装がハンマーだけと思ったのが、貴様の敗因ダズル」

 

「ぐっ…強い…」

 

羽黒の眉間からは血が流れていた

 

たった一発のトンカチ投擲で、羽黒は大破判定を受け、海上から離れた

 

「けったクソ悪い女ダズル。後はゴリゴリダズルな…さて」

 

ハンマーを構え、榛名は海面を見回す

 

榛名は対潜装備が無く、武蔵の様に素手で行くか、モグラ叩きの様に出て来た所に一撃を喰らわせるしか無い

 

「ぐわ‼︎」

 

いきなり足を掴まれ、榛名は海中に引き摺り込まれた

 

息が苦しくなる中、ゴリゴリまるゆの顔が見えた

 

榛名はゴリゴリまるゆの顔を蹴り飛ばし、何とか海上に戻って来た

 

「ぷはぁ‼︎よ〜し、いいダズル。榛名を怒らせたダズルな‼︎」

 

榛名は振袖から何かを取り出し、ピンを外して海に落とした

 

数秒後、魚がプカプカと浮き始め、その中にまるゆも浮いて来た

 

「おい‼︎起きるんダズル‼︎」

 

完全に気絶しているまるゆを掴み上げ、何度か頬を叩くと目を覚ました

 

「ぬ…」

 

「榛名の勝ちにするか、それとも口にコレを突っ込まれるか…二者択一ダズル」

 

榛名が手にしていたのはT-爆弾だ

 

海中に落としたのもT-爆弾で、まるゆや魚は酸素不足になり、海上へと浮いて来たのだ

 

「我の…負けだ…」

 

「榛名はタイマンと言ったダズル。それなのにゴリは二人で来たダズル。まっ、言い訳は聞いてやるダズル」

 

「いや…我の負けだ。鬼神よ、うぬと拳を交える事が出来て光栄だ」

 

「再戦はいつでも待ってるダズル」

 

榛名は懐が大きい

 

やはりワンコの影響が大きい様だ

 

「榛名‼︎」

 

「いやぁ〜、辛勝だったダズル。ははは」

 

頭を掻きながら榛名はワンコの所に帰って来た

 

そんな榛名を、ワンコは思い切り抱き締めた

 

「こ、コラ‼︎榛名はビチョビチョダズルよ⁉︎」

 

「あれが姉さんのやり方だ…」

 

ふちさんは顔に似合わず、姑息な手が上手い

 

悪い意味で言えば、卑怯で狡猾

 

良い意味で言えば、相手の裏をかく攻撃

 

だが、鬼神の前では意味が無かった

 

「羽黒はプリンツと比べるとガッツもスタミナも無かったダズル。ゴリは普通に強かったダズルな‼︎」

 

「ワンコ…」

 

申し訳無さそうなふちさんがワンコの所に来た

 

「羽黒を出したの、私なの…」

 

「知ってる。姉さんは昔から卑怯だ」

 

「でも、これだけは信じて⁇まるゆは一人で行くつもりだったの」

 

「榛名は卑怯と思って無いダズルよ⁇」

 

「榛名ちゃん」

 

「戦い方には色々やり方があるダズル。二対一位で、榛名は文句言わんダズル。あれもまた戦い方ダズル」

 

泣きそうになるワンコを抱き留めて頭を撫でながら、榛名はふちさんを諭していた

 

「流石は鬼神…懐も大きい」

 

「そう思うなら、次はゴリとタイマンさせるんダズル。いいな⁇」

 

「うんっ。分かった。お風呂、使ってね⁇」

 

ふちさんは軽く頭を下げ、まるゆの所に帰って行った…

 

「ホレ、もう大丈夫ダズル」

 

「ん…」

 

ワンコはオドオドしていた

 

余程のトラウマがあるのだろう

 

「提督…」

 

榛名はワンコの前に膝を落とし、彼の手を握った

 

「何も無理しなくて良いんダズル。榛名が全部護ってやるダズル。なっ⁇」

 

「うん…」

 

「だったらホレッ‼︎元気出すんダズル‼︎」

 

榛名に背中を叩かれ、ワンコは俺達の所へ来た

 

「にむ。そこにいるんダズル⁇」

 

榛名が呼ぶと、置かれていた物資の影からにむが出て来た

 

「上手くいったにむ⁇」

 

「普段散々にむの相手してなきゃ、倒せ無かったダズル」

 

「にむにむにむ…」

 

榛名はにむを提督から引き剥がす為に、日夜彼女と戦闘を続けている

 

海中でT-爆弾を起爆させて潜水艦を気絶させる方法もにむとの戦闘で覚えたのだ

 

にむは姿を消すのが上手く、もう姿は見え無かった

 

式場に戻ると、榛名は拍手で迎えられた

 

「拍手喝采ダズル」

 

あれだけゴリゴリのまるゆに勝ち、尚且つ二対一の状況で、無傷で二隻共大破判定を出したのだ

 

榛名は改めて最強になっていた

 

 

 

 

「に〜むにむにむ‼︎榛名は満足そうにむ‼︎」

 

にむは離れた所から榛名の様子を見ていた

 

「君」

 

「にむ⁇」

 

振り返ると、そこには三人の男性がいた

 

「この写真に載っている人物を御存知ないかね」

 

中心にいた男性が写真を見せた

 

「にむ知ってる。提督の上司みたいな人にむ」

 

「ほう…そうか。彼はここに⁇」

 

「どっかにいるはずだにむ」

 

「そうか。ありがとう」

 

三人は人だかりに向かって行った

 

「怪しいにむ…」

 

 

 

 

 

 

「さぁ‼︎そろそろお開きにしましょう‼︎舞鶴をこれからもよろしくお願いします‼︎」

 

横須賀の言葉で、再建祝いは幕を降ろした

 

皆が帰路に着く中、俺達は照月を引っ張っていた

 

「せ〜のっ‼︎」

 

「ぐっ‼︎」

 

照月のお腹に紐を回し、大人数人で店から引っ張り出す

 

「えいっ‼︎」

 

「ぐわっ‼︎」

 

照月はいとも簡単に紐を引き千切り、大人達がひっくり返る中、照月はおもむろにエクレアを口にする

 

「やっべぇ…」

 

「お兄ちゃん、何で照月引っ張るの⁇」

 

「お、おうちに帰ろう⁉︎良い子だから‼︎なっ⁉︎」

 

照月は体型は変わっていないが、かなり重くなっており、引っ張ろうにも大人数人でもビクともしない

 

「お店…シャッター閉まってる」

 

照月はミニ商店街にある食べ物関連の店をほとんど壊滅状態にしていた

 

洋菓子店…半壊

 

ラーメン屋…全壊

 

喫茶店…ほぼ全壊

 

ハンバーガーショップ…半壊

 

ステーキハウス…閉店

 

レストラン…半壊

 

そして駄菓子屋に至っては、中がスッカラカンになっている

 

「埋め合わせはすっから‼︎今は紐握れ‼︎」

 

「お兄ちゃん、抱っこ‼︎」

 

「抱っこ⁉︎ぐわっ‼︎」

 

照月がくっ付いた瞬間、背骨がバキバキッと鳴った

 

「おごごごご‼︎お、折れ…」

 

「さぁっ‼︎おうち帰ろう‼︎」

 

照月を二式大艇に乗せるが、二式大艇が沈み始めた為、照月だけ大型タンカーで輸送される事になった

 

「いててて…参ったなぁ…」

 

「さっき体重測ったら1t近くあったらしいぞ」

 

「ナンボ程食ってんだよ…」

 

「ウィリアム・ヴィットリオ…そしてマーカス・スティングレイ…ようやく見付けた」

 

俺達が振り返ると、後ろに男が三人立っていた

 

「誰だ⁇レイ、知り合いか⁇」

 

「知らん…」

 

「先に貴方方の基地に向かいます。そこでお話を」

 

そうとだけ言い残し、三人は去って行った

 

「なんだなんだ⁇軍刀なんか持って恐ろしい‼︎」

 

「人の事言えんだろ⁇」

 

隊長と顔を見合わせ、互いに鼻で笑う

 

「とにかくだ。基地に帰ろう」

 

「だなっ」

 

「早く乗るかも〜‼︎」

 

秋津洲が呼んでいる

 

二式大艇に乗り、俺達は基地に戻った…



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113話 悪の巣(1)

さて、112話が終わりました

今回のお話は、前回のラストで出て来た三人の人物が明らかになります


基地に帰ると、滑走路付近に三機の戦闘機が停まっていた

 

普通の戦闘機なら良かったが、あの戦闘機には見覚えがあった

 

「Su-33だ…」

 

「見た事のないエンブレムを付けてら…」

 

黒いボディにステルス塗料だろうか⁇若干の光沢が見えた

 

食堂に入ると、三人はコーヒーを飲んでいた

 

「お待ちしておりました」

 

相変わらず両脇にいた二人は話さず、中心にいた年配の男性が話を進めた

 

「あの機体はあんたらのか⁇」

 

「えぇ。非公式ですが、貴方方と同じです」

 

「それで⁇何故私達をお探しに⁇」

 

「これを」

 

彼が出したのは、3枚の書類と写真

 

・フィリップ

 

・スペンサー

 

・イェーガー

 

深海の艦載機から人間の味方になった機体ばかりだ

 

「お〜お〜、こんなモン何処で撮った⁉︎」

 

「それと…この二機も」

 

・F-15/MTD Snow Queen

 

・YF-23改 ヘラ

 

俺達の載ってる戦闘機ばかりだ

 

「この機体を何処で入手しました⁇」

 

隊長は書類を机に起き、タバコに火を点けた

 

「申し訳ありませんが、名も知らぬ人物に教える義務は御座いません。どうぞ、お引き取りを」

 

「これは失礼。私はこう言う者です」

 

名刺を受け取り、名前を見る

 

”日本海軍総司令

 

椎名 徹”

 

「ほぅ…横須賀より上、ですか」

 

「我々は提督と言う職業を利用して悪手する人物を探っていましてね。それで今回、ここに監査を入れる事にしたのです」

 

「もっと探る場所はあるんじゃないのか⁇」

 

俺の一言で、場の空気が変わった

 

「君はマーカス大尉だったね。着任して数年、一度も昇級も降級もしていない…何故だ」

 

「断ってるからだよ。高級将校は俺には似合わないんでね」

 

「大佐。貴方もだ。貴方は経歴と戦果を見る限り、二回は元帥になっても可笑しくない」

 

「同じです。デスクワークは嫌いでね」

 

「なるほど…まぁ、それもいいでしょう。本題に戻します。これらの機体を何処で入手しました⁇」

 

「答える義務は無い」

 

「ははははは‼︎」

 

椎名は隊長の淡白な対応に高笑いした

 

「やはり、貴方方には力で分からせるしか無いようですね。良いでしょう、表へ」

 

「断る」

 

「ほぅ…仮にも上官に対して逆らうのか⁇」

 

「貴方方の力量じゃ、我々に勝てない」

 

隊長は呑気にコーヒーを飲み、椎名をいなす

 

「貴様‼︎」

 

椎名が隊長の胸倉を掴んだ瞬間、隊長はニヤリと笑った

 

「本物の椎名は何処だ」

 

「なっ…」

 

隊長がそう言った瞬間、脇にいた二人がビクッと動いた

 

「動くな」

 

咄嗟に二人にピストルを向け、足止めをする

 

「あんたの服から麻薬の臭いがする。悪手してんのはアンタの方じゃないのか⁇」

 

「マーカスさん‼︎」

 

脇にいた二人の内の一人が軍刀を俺に投げた

 

咄嗟にそれを取り、椎名の首元に置いた

 

「動くなよ。ビックリする程すぐ引くからな」

 

「くっ…」

 

椎名は隊長を離し、手を上げた

 

隊長はすぐに椎名を紐でグルグル巻きにし、工廠の真ん中に置いた

 

俺は二人の話を聞く為、食堂に戻って来た

 

「申し訳ありませんでした‼︎」

 

二人は俺を見るなり土下座をし、床に頭を擦り付けた

 

「まぁまぁ、頭上げな。事情があるみたいだな」

 

「実は…」

 

 

 

二人の名は

 

右利きの男が真田

 

良い目をしている

 

左利きの男が椎名

 

日本海軍総司令の息子みたいだ

 

数日前、パラオに視察に行った時、稼働していないはずの施設が動いている事に気付き、中に入った途端に総司令が引っ捕らえられたらしい

 

それで二人は言う事を聞かざるを得なくなり、総司令を救える可能性がある俺達の所へ来た…と言う訳だ

 

「パラオか…どうもあそこは因縁があるな…」

 

「無礼を承知でお願いします。どうか、司令を…」

 

二人は再び頭を下げる

 

「あ〜も〜‼︎わ〜ったわ〜った‼︎」

 

「ただいま〜‼︎」

 

照月が帰って来た

 

「丁度いい。照月、隊長の所にいる男にのし掛かってくれないか⁉︎」

 

「のし掛かればいいの⁇分かった‼︎」

 

二つ返事で照月は隊長の所に向かった

 

俺と二人も準備の為、工廠へ向かう

 

「いいか照月。思い切りのし掛かるんだ」

 

「分かった‼︎えいっ‼︎」

 

工廠が揺れる

 

同時に骨が折れる音と悲鳴が聞こえた

 

偽物椎名は、少女一人にのし掛かられても大したダメージは無いと踏んでいたのだろう

 

だが、相手は1t照月

 

歯向かえるハズも無かった

 

「さぁっ‼︎次は足行こうね〜‼︎」

 

照月がのし掛かると、足は反対方向に曲がった

 

「こんな感じかなぁ⁇後は何処がいい⁇」

 

偽物椎名は既に虫の息だ

 

「答えろ。本当の総司令は何処だ」

 

「パ…ラオ、の地下、施設だ…」

 

「そっか…痛いか⁇」

 

「いたい…」

 

「助かりたいか⁇」

 

「助、かり…たい…」

 

「ダメだな。二度目は無い」

 

「どし〜ん‼︎」

 

「うぼっ…」

 

俺達だから耐えられるものの、普通の人間が1tも支えられるはずもない

 

「よし、照月。もう気絶してる」

 

「照月、まだどし〜ん出来るよ⁇」

 

「次どし〜んしたら死んじゃうからやめなさい‼︎」

 

「分かった‼︎」

 

そうは言うも、偽物椎名は虫の息

 

致し方なく、カプセルの中に放り込んだ

 

「ちったぁそこで反省してろ‼︎」

 

カプセルの中では、意識は無くても生きては行ける

 

それに、多少暴れてもカプセルは壊れない

 

「きそ、横須賀に連絡してくれ。俺達はパラオに向かう」

 

「オッケー。偽物はどうする⁇」

 

「大湊に頼んで、もっかい蒼龍送りだな」

 

「あ〜ぁ…照月のどし〜んで死んどきゃ良かったのに…」

 

「あの…私達は…」

 

「来るなら来い。きそ、自動操縦任せたぞ」

 

「レイはどうするのさ‼︎」

 

「久し振りに艦載機に乗る」

 

隊長ときそに冷や汗が出る

 

レイは艦載機に乗るのがド下手だ

 

現にタイコンデロガ・改から発艦した時、フィリップの補助が無ければ海に転落していた程だ

 

「れ、レイ。何ならクイーンに…」

 

「たまには乗ってみる」

 

それぞれの機体に乗り、パラオを目指す

 

「え〜と、これがこうで、あれがあぁで…まっ、飛べりゃあ良いか‼︎」

 

楽観的な考えでエンジンを吹かす

 

「速い速い速い‼︎ストップストップ‼︎」

 

《レイ、やっぱり代わろうか⁇》

 

「い、いやぁ、大丈夫さ‼︎」

 

無線の先の隊長に笑い半分で答えた時、肘で何かのスイッチを押してしまった

 

《ミサイル、発射》

 

「アカン‼︎」

 

左翼の下で何か動いている‼︎

 

《仕方ないわね…》

 

叢雲の声が聞こえた瞬間、ミサイルは落ち着いた

 

《犬。電子機器は任せなさい。犬は操縦に集中して。いいわね⁇》

 

「頼んだ。艦載機はからっきしだ‼︎」

 

《人間誰しも欠点はあるわ。気を付けて行ってらっしゃいな⁇》

 

「オーケー。愛してるぜ‼︎」

 

《はいはい》

 

五機が上がって行く

 

その伝達は、スカイラグーンにも伝わっていた

 

近海警備に当たっていたれーべとまっくすは、任務を遂行した後、スカイラグーンで一息ついていた

 

「おかーしゃん‼︎飛行機飛んで行った‼︎」

 

「あらあら、大佐と…」

 

そこにいた全員が異変に気付いていた

 

いつも二機編成の彼等が、今日は五機で飛んでいる

 

しかも最後尾の機体はフラフラ

 

「パパとレイ、何かあったのかな⁇」

 

「扶桑さん。高速艇、借ります」

 

「えぇ。気を付けてね⁉︎」

 

まっくすは何かに気付いたのか、停泊してある高速艇の一つに乗り込んだ

 

「無線を傍受した。パパ達はパラオに行く」

 

「よし。僕達も行こう‼︎」



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113話 悪の巣(2)

パラオに着くと、あの日以来触られていないのか、外見は全く変わっていなかった

 

「地下、だったな⁇」

 

「そうらしいな。もうアヘンは勘弁して欲しいな…」

 

「大丈夫だろ」

 

「我々が先導します。御命令があれば、我々に何なりと」

 

「頼もしいねぇ〜」

 

真田と椎名ジュニアの先導で、基地内部に突入

 

パッと見は色々直っている

 

再建するのは本当の話みたいだ

 

地下施設に入ると、鉄格子が並んでいる区画に着いた

 

《犬。聞こえる⁇》

 

「どうした⁇」

 

《二区画先に生体反応があるわ。見てご覧なさい》

 

「オーケー」

 

叢雲の指示通りに向かうと、頑丈な扉の小窓の向こうに人影が見えた

 

「あんたが総司令か⁇」

 

「いかにも。君は…マーカス大尉かね⁇」

 

「そうだ。アンタを助けに来た。扉を破壊するから、下がっててくれ」

 

「分かった」

 

「きそ。あるか⁇」

 

「あるよ‼︎ダイナマイツ‼︎って言ったら爆発するからね‼︎」

 

きそは背負っていたリュックの中を開け、三本程ダイナマイトに火を点けた

 

「下がって下がって‼︎ダイナマ」

 

「うぼあ‼︎」

 

既に全員逃げていたが、俺だけ遅れ、きそが”ダイナマイツ‼︎”と言う前に起爆した為、軽く巻き込まれた

 

「あぢぢぢぢぢ‼︎はぇえよ‼︎」

 

お尻に火が付き、総出で叩いて鎮火する

 

「ありがとう。借りが出来たな」

 

中から初老の男性が出て来た

 

「アンタが総司令か…」

 

「フフフ…やはり口の悪さは一級品だな、マーカス大尉」

 

「ちょっと見せてみな…」

 

軽く総司令の体調をチェック

 

少しばかり衰弱はあるが、他は大丈夫そうだ

 

「そうか。君は医者だったな」

 

「軽くなら見れる。とにかくここを出よう。話は後だ」

 

真田と椎名ジュニアを連れ、地下施設を出ようとした

 

「…待て。奥で何やら怪しい動きがある」

 

隊長が後ろを振り返った

 

どうやら以前麻薬を製造していた部屋から何やら音がする

 

「きそ、総司令は任せたぞ」

 

「うん。気を付けてね」

 

きそからダイナマイトを受け取り、三人を任せた

 

二人に総司令を抱えさせ、俺達はピストルを構え、扉を開けた

 

「おいおいおい…」

 

「これは…」

 

麻薬は造られてはいなかったが、見覚えのあるカプセルが置かれ、中には明らかに深海棲艦が入っていた

 

「人間が作った…のか⁇」

 

「元々深海棲艦は艦娘の成れの果てとは言われてる。武蔵やしおい達がそうだ。何ら不思議じゃない」

 

「レイ。判断は任せる。私一人じゃ決められない」

 

「パパ‼︎」

 

「来た」

 

二人で考えていると、艤装を構えたれーべとまっくすが応援に来た

 

「深海棲艦なのかな…」

 

「ボール」

 

「まぁいい。出して襲い掛かる様なら、最悪倒せばいい。行くぞ⁉︎」

 

装置を弄り、カプセルが開くと、まっくすが言った様に、ボールに触手を付けた様な深海棲艦が出て来た

 

そして全員が一応武器を向ける

 

「襲うなら撃つぞ‼︎」

 

が、その深海棲艦は襲うどころか部屋の隅に行き、ガタガタ震えている

 

「な…何だ⁇」

 

全員武器を降ろし、深海棲艦に向かってにじり寄る

 

「敵意は無いみたいだな…」

 

「一緒に来るか⁇」

 

俺が手を伸ばすと、その深海棲艦は震えながらも触手を伸ばし、俺の手に置いた

 

「変な奴だなお前…」

 

俺がそう言うと、深海棲艦はまっくすの胸にくっ付いた

 

「くすぐったい」

 

深海棲艦は居心地が良いのか、まっくすから離れようとしない

 

「まっ、敵意は無いみたいだし、連れて帰ってやろう」

 

「ボールみたい。名前はボーちゃん。分かった⁇」

 

ボーちゃんは触手で丸を作り、まっくすの頭に乗った

 

ボーちゃんは意外に軽く、まっくすの頭に乗っていても問題無い

 

俺はカプセルの横にあった机の上の資料を取り、俺達は基地を出た

 

外では二式大艇とイージス艦が停泊していた

 

どうやら、れーべとまっくすが横須賀に報告してくれたらしい

 

「レイー‼︎大佐ー‼︎」

 

二式大艇の中から横須賀が叫んでいる

 

「まっくすちゃん⁉︎頭に深海棲艦乗ってるわよ⁉︎」

 

「この子はボーちゃん。連れて帰る」

 

「俺達は戦闘機で帰る。れーべとまっくすをスカイラグーンまで送ってくれるか⁇」

 

「お安い御用よ。任せなさい‼︎それと、ありがとうね⁇」

 

「お安い御用さっ」

 

後ろ姿で手を振りながら、機体のある場所に向かった

 

Su-33の近くに行くと、二人がきそと話していた

 

「レイ‼︎おかえり‼︎」

 

きそが抱き付いて来たので、柔らかくサラサラの髪を撫でる

 

「ありがとうございました‼︎」

 

「このご恩は必ず…」

 

「お前、タバコ持ってるか⁉︎」

 

「あ…は、はい‼︎」

 

「寄越せ」

 

椎名からタバコを貰い、火を点けて貰った

 

「タバコ切らしててな…まっ、これでチャラにしてやる」

 

二人は開いた口が塞がらない様子だ

 

「…総司令の言った通りのお方だ」

 

「何だ⁇俺の悪口でも言ってたか⁇」

 

「いえ。貴方とウィリアム大佐が、この戦いを終わらせる鍵だ…と」

 

「けっ‼︎総司令に言っとけ‼︎歳なら黙って椅子に座って踏ん反り返ってりゃいいってな。横須賀を見習え‼︎アイツは普段椅子に座ってシュークリーム食ってばっかだ‼︎」

 

「ははは‼︎」

 

「そうやって笑ってろ。お前達二人は笑顔が似合う。じゃあな」

 

タバコをコンクリートの地面に捨て、足で火を消してSu-33に乗り込んだ

 

「あっ、レイさん‼︎」

 

「何だ⁇コイツはスカイラグーンに置いといてやるぞ⁇」

 

「その機体に乗っている間は、貴方は私達”グレンデル隊”の隊長です。私の事は”ダンテ2”と」

 

「んじゃ、真田はダンテ1か⁇」

 

「えぇ。空にいる時は、総司令は”グレンデル”とお呼び下さい」

 

「んじゃ、早く総司令の所に行ってやれ。命令だぞ‼︎」

 

「はっ‼︎」

 

二人は総司令の元に行く為、空へ帰って行った

 

「さぁレイ、帰ろう‼︎」

 

「オーケー‼︎スカイラグーンでひとっ風呂だ‼︎」

 

《喉乾いた‼︎》

 

俺達もスカイラグーンを目指し、空へ向かった

 

 

 

 

スカイラグーンに着くと、既にれーべとまっくすが着いていた

 

「コラ」

 

ボーちゃんはまっくすの胸元にくっ付き、スリスリしている

 

「いたいた。よっと…扶桑さん、ちょい奥借りるぞ⁇」

 

「お疲れ様です。どうぞ〜」

 

まっくすからボーちゃんを引き剥がし、奥へと連れて行った

 

スカイラグーンの一室を借り、机の上にボーちゃんを置いた

 

「お前機雷だったのな」

 

ボーちゃんは触手で丸を作った

 

「機雷のままだったら、まっくすの傍には置いておけないな」

 

ボーちゃんはシュンとした

 

余程まっくすが気に入ったみたいだ

 

「俺が信管取り除いてやるから、暴れるんじゃないぞ⁉︎」

 

ボーちゃんは触手で丸を作り、すぐに後ろを向いた

 

機雷の信管を抜くなんざ、俺にとっては艦載機を操るより簡単だ

 

信管と火薬を取り除き、頑丈な箱の中に入れ、ボーちゃんの蓋をガッチリ閉めた

 

「終わったぞ」

 

振り返ったボーちゃんは、触手を合わせてスリスリしている

 

「お礼してるのか⁇」

 

ボーちゃんは触手で丸を作る

 

「感情が分かりにくいな…よしっ‼︎」

 

 

 

 

「レイ遅い」

 

まっくすとれーべときそはジュースを飲みながら、俺の帰りを待っていた

 

「まっくす。ホラッ‼︎」

 

俺の手元にはボーちゃんがいた

 

「ボーちゃん」

 

”(≧∇≦)”

 

まっくすの胸元に飛び込んだボーちゃんは、喜びを表す顔文字が表示されていた

 

「顔文字出てる」

 

「感情が分かりやすいだろ⁇いいかボーちゃん…」

 

”(・_・)”

 

「まっくすに変な事したら解体だからな⁇」

 

”(T ^ T)”

 

「泣くんじゃない‼︎」

 

”(♯`∧´)”

 

「レイ。大丈夫。変な事したら、私が照月に食べさせる」

 

「それもそうだな‼︎」

 

”(・_・;?”

 

その後ボーちゃんは基地に着くまでまっくすの小さな隆起を楽しんだが、基地に着き、照月の姿をしばらく見た後、まっくすに変な事をするのをやめたという…

 

 

 

 

 

海軍総司令の救出に成功しました‼︎

 

深海忌雷”ボーちゃん”が、まっくすにくっ付きました‼︎




椎名 徹…海軍総司令官。グレンデル隊隊

横須賀より上の立場の人間

考えるより体が先に動いてしまうタイプで、何でも出来るタイプの人

戦闘機も乗る事ができ、他のエース部隊に見劣りはするが、統率が取れた部隊である

レイ達の行動を軽く監視はしていたが、今回の件で白紙になった




真田…総司令の側近その1

総司令に近付く者はすぐに斬り捨てるタイプの人

剣の腕は立つが、チョット融通が利かない悪い所がある

グレンデル隊2番機”ダンテ1”であり、数々の戦いを切り抜け、今はこの場所に落ち着いている





椎名ジュニア…総司令の側近その2

本名は椎名 あかり

総司令の息子の為、レイ達にさえ”ジュニア”と呼ばれている

女の子みたいな名前の為、ジュニアで良いらしい

実はワンコの同期であり、ワンコとも仲が良い

提督の資格は一応持っている為、いつか何処かの基地に配属されるかも知れない





ボーちゃん…深海忌雷

パラオ基地の地下で見つけた深海棲艦

ボールに似てるからボーちゃんらしい

敵意どころか人間にビビりまくり、呆れ果てたレイ達が連れて帰って来た

名前を付けてくれたまっくすに懐き、胸を触ったりと変態行為を繰り返す

作者は深海忌雷になりたい

顔文字で感情を出す事が可能で、触手を使い、たいほうとお絵かきするのが趣味

まっくすに変な事をすると、彼女に蹴り飛ばされて、暁の水平線に飛んで行く事がしばしばあるが、本人がドの付くMな様で、興奮しながら10分程で基地に帰って来る


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特別編 サンマ 美少女 恋い焦がれ(1)

秋刀魚祭りの特別編です

美少女とは一体誰なのか‼︎


スカイラグーンに、一隻のイージス艦が停泊した

 

男衆が降りて来て、氷と秋刀魚を大量に入れたプラスチックの箱を潮と扶桑の前に置いた

 

「おかーしゃん、お魚イっぱい‼︎」

 

「あらあら…沢山獲りましたね」

 

「美味しく召し上がって下さいませ‼︎」

 

「日頃の御礼でっせ‼︎」

 

イージス艦も男衆も此処で補給を受けている為、秋刀魚はその礼の様だ

 

「では、皆さん呼びましょう‼︎」

 

「おかーしゃん、潮、”けイほ潮”する‼︎」

 

 

 

 

 

 

「たべられるおさかな」

 

食堂では、たいほうが隊長の部屋からパクッて来た図鑑を見ていた

 

「さんま、さば、まぐろ」

 

「たいほうはお魚好きか⁇」

 

「ほねのないおさかなはすき‼︎」

 

たいほうやれーべ達子供は、焼き魚が出た時は大人に骨を取って貰わなければ食べられない

 

しかし、鮭フレークやツナ、刺身等は好きな様だ

 

《イーーーーーーーーーーーーーーッ‼︎‼︎‼︎全イん集合ーーーーー‼︎‼︎‼︎》

 

突然警報が鳴り、俺と隊長の目が吊り上がった

 

この警報はスカイラグーンで何かあった合図、通称”けいほ潮”だ

 

俺と隊長が無言のまま食堂を出ようとした時、扶桑の声が聞こえて来た

 

《皆さんすみません‼︎秋刀魚が大量に入ったので、これから秋刀魚を御賞味頂こうと思っています》

 

「ビビった…」

 

「ふぅ…」

 

二人共腰を落とし、ため息を吐く

 

「んじゃまっ、秋刀魚を頂きに行きますかっ‼︎」

 

高速艇に全員詰め、スカイラグーンに向かう

 

 

 

 

スカイラグーンに着くと、ラバウルの連中と呉さんが着いていた

 

「うえへへへ〜久し振りのお酒で〜すね〜」

 

既にポーラが酔っ払っている

 

「ウシオ〜、食べないと大きくなれませ〜んよ〜。はい」

 

「やめろ‼︎モガ…」

 

ポーラは潮の口に無理矢理焼き秋刀魚をねじ込んだ

 

ポーラは潮が気に入った様で、ここに居る間はずっと彼女のそばにいる

 

「うへへ…ウシオ、また大きくなりましたぁ〜⁇」

 

「離せ‼︎おっぱイ揉むな‼︎ポーラきらイーーーッ‼︎」

 

「レイ‼︎大佐‼︎」

 

アレンが此方に気付き、秋刀魚を持って来てくれた

 

「ラバウルさんは⁇」

 

「アソコで健吾と一緒に」

 

アレンの目線の先には、ラバウルさんと健吾が鉢巻をして秋刀魚を焼いている姿が見えた

 

「おイ。だイ根おろしはイらんか」

 

大根と、すりきを持った潮が来た

 

「おっ。くれるか⁇」

 

「タイミングイー所でストップってイう。分かったか」

 

「分かった」

 

秋刀魚の乗った皿を潮の前にやると、潮は大根を擦り始めた

 

少し山が出来た所でストップと言った

 

「男だからもうちょっと食え。分かったか」

 

「分かった」

 

予定より少し多めの大根おろしが乗った所で潮は手を止めた

 

「パパはイるか」

 

「んっ。少し貰おう」

 

潮は隊長の皿に大根を擦り終えた後、アレンにも少しだけ大根を擦り、何処かに行った

 

「あの子はコェ〜なぁ…」

 

「アレン。一回潮に逆らって見ろよ。スープにされるらしいぞ」

 

「蒼龍の次は潮かよ…」

 

相変わらずイーイーうるさい癖は抜けて無いが、大根おろしを多めに擦ってくれたりする所を見ると、根は良い子の様だ

 

「ウィリアム‼︎」

 

総司令まで秋刀魚祭りに参加している

 

「椎名さん。もう大丈夫で⁇」

 

「おかげさまでね。それで…ウチの坊主を見なかったか⁇」

 

どうやらはぐれたらしい

 

よく見れば一人いない

 

 

 

 

「はぐれた」

 

椎名ジュニアは、スカイラグーンの格納庫の隅で秋刀魚を食べていた

 

はぐれてしまったが、今日は総司令を護らなくても大丈夫だ

 

今ここには、反対派しかいない

 

椎名ジュニアは久方ぶりに一人の時間を楽しんでいた

 

「美味いにゃあ…」

 

「どこだ⁉︎」

 

「上だにゃ」

 

ジュニアが上を見上げると、黒いカーディガンを来た女の子が屋根に座っていた

 

「降りて来なさい‼︎危険ですよ‼︎」

 

「大丈夫大丈夫…に''ゃっ‼︎」

 

女の子は足を踏み外し、屋根の上から落ちた

 

「よっ、と」

 

ジュニアは彼女を受け止めた

 

ジュニア達二人は、総司令を護っている為、ひ弱そうに見えても腕力はある

 

「多摩、落ちたかにゃ⁇」

 

「だから言ったでしょう⁇危ないって⁇」

 

「すまんにゃ。お礼にこれ、あげるにゃ」

 

多摩はジュニアにサンマの骨を渡した

 

「いらないよ‼︎」

 

「じゃあ何が望みにゃ⁇」

 

「何にも要らないから、もう登ったらいけませんよ⁇」

 

「分かったにゃ。じゃ〜にゃ」

 

多摩が会場に戻って行く後ろで、ジュニアは彼女を見つめていた

 

「落ちたか」

 

足元にいた少女は大根と、それをすりおろす機材を持っていた

 

「えと…君は⁇」

 

「潮だ」

 

「彼女の名前は⁇」

 

「まずだイ根おろしがイるかどうかが先だ」

 

「あ、うん。頂戴するよ」

 

「タイミングイー所でストップってイう。分かったか」

 

「分かったよ」

 

潮が大根を擦る間、ジュニアは色々聞いた

 

「彼女、名前は何て言うの⁇」

 

「多摩」

 

「多摩…」

 

「さイ近、グッとかわイくなった」

 

「確かに可愛かったな…」

 

「まだか。もうイっぱイだぞ」

 

「うわわわ‼︎ストップストップ‼︎」

 

ジュニアの皿は、ほとんど大根おろしで埋め尽くされていた

 

「ストップイわなイ自分が悪イ。分かったか」

 

「ははは…ごめんごめん…」

 

「まぁイイ。ちゃんと食ったら、多摩とあイ席設けてやる。分かったか」

 

「分かった‼︎ちゃんと食べるよ‼︎」

 

「あっちで待ってるからな。ちゃんと食えよ」

 

潮は小走りで会場に戻って行った

 

「多摩…か」



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特別編 サンマ 美少女 恋い焦がれ(2)

「ボーちゃん、あ〜んして」

 

”(*^◯^*)”

 

まっくすとボーちゃんがサンマを食べている

 

まっくすが解したサンマを、ボーちゃんが横で食べている

 

「美味しい⁇」

 

”(≧∇≦)”

 

「そう。良かった」

 

「ぼーちゃん、たいほうのさんまたべる⁇」

 

”(*^◯^*)”

 

たいほうも隊長に解して貰ったサンマをボーちゃんにあげている

 

「おいしいね‼︎」

 

”( ^ω^ )”

 

「多摩…可愛かったな…」

 

独り言をブツブツ言いながら、二人の前をジュニアが通る

 

「いた‼︎おいジュニア‼︎」

 

俺が声をかけるが、ジュニアは上の空だ

 

「多摩…」

 

「ジュ…ダメだ。こりゃあ恋に落ちてら…」

 

「多摩⁇あの軽巡の子ですか⁇」

 

ジュニアの言葉に興味を示したのはラバウルさんだ

 

「知ってるのか⁇」

 

「えぇ。ほら、あのダズル☆マンの時に私が巡回した寮にいた子です」

 

「て事は軽巡の子か…」

 

「何にゃ。多摩を呼んだかにゃ⁇」

 

「うは…」

 

「こりゃまた随分と…」

 

ラバウルさんが見違える程、多摩は変わっていた

 

ラバウルさんが巡回した時は、語尾に”にゃ”が付く位にしか認識が無かったが、今は違っていた

 

かなり美少女になっており、立ち上がってようやく分かったが、スタイルが良い

 

胸も歳相応…いや、それ以上にある

 

「このお兄さん、さっき多摩を助けてくれたにゃ。お兄さん、多摩とジュース飲まないかにゃ⁇」

 

「い、行きます‼︎行かせて下さい‼︎」

 

「じゃあ行くにゃ。借りてくにゃ〜‼︎」

 

多摩とジュニアは、喫茶ルームに入って行った

 

「なんだあの美少女は…」

 

「変るものですね…驚きました」

 

「レイ‼︎見付かったか⁉︎」

 

ようやく総司令が来た

 

「喫茶ルームに行った。がっ‼︎今は行っちゃダメだ‼︎」

 

「行くならば、我々を倒してから、です‼︎」

 

「な…なんだ⁉︎」

 

「分かった。行かない。ただ、理由だけは教えてくれ」

 

「ジュニアはデート中だっ‼︎」

 

「人の恋路を邪魔する奴は…です‼︎」

 

「あかりが恋だぁ⁉︎あっははははは‼︎」

 

総司令はいきなり高笑いした

 

「ようやくかぁ‼︎うんっ‼︎素晴らしい事だなっ‼︎」

 

「え⁇」

 

ラバウルさんと顔を見合わせ、何度か瞬きをする

 

「いやぁ〜、息子は女の子と付き合うタイミングが無くて、最悪ホモかと思ってたんだかね‼︎そうかそうか‼︎これでようやく眠れる‼︎」

 

「総司令。私もそろそろ付き人が欲しいと…」

 

「真田。君には今度お見合いの席を設けてやろう‼︎番を持つのはいいぞぉ‼︎帰る場所が出来る‼︎」

 

総司令は真田の背中をバンバン叩きながら嬉しさを露わにした

 

「美人を期待しています」

 

「お〜お〜任せろ‼︎飛びっきり美人を連れて来てやる‼︎はっはっは‼︎」

 

「ラバウルさん。俺達はあっちでビールを…」

 

「そ…そうですね…」

 

ハイテンションな総司令を放って置き、俺達は会場の端っこでビールを飲み始めた

 

 

 

 

「お兄さん、そう言えば名前を聞いて無かったにゃ。何て名前にゃ⁇」

 

多摩はピッチャーで来たミルクセーキをコップに分け、ジュニアに渡した

 

「椎名あかり。女の子っぽい名前だろ⁇」

 

「あかりちゃんだにゃ。そう呼ぶにゃ」

 

「好きに呼んでくれたら、それでいいよ」

 

「多摩は軽巡の多摩。最近リメイクしたにゃ‼︎似合ってるかにゃ⁇」

 

多摩は黒いセーターの背中を見せたり、ジュニアに笑い顔を見せた

 

「うん。似合ってる」

 

「嬉しいにゃ…えへへっ」

 

「ゔっ…」

 

ジュニアの顔がどんどん赤くなる

 

「あかりちゃん、顔真っ赤にゃ」

 

所謂”萌え袖”のまま、多摩はジュニアの額に手を当てた

 

その時、多摩の胸元がチラッと見えた

 

「うっ…う〜ん…」

 

盛大に鼻血を吹き出し、ジュニアは倒れた

 

「はっ、鼻血ブーにゃ‼︎」

 

 

 

 

「う〜ん…」

 

「大丈夫か⁇」

 

「レイ…さん⁇」

 

ようやく気付いたジュニアは、自分の鼻にガーゼが詰められているのに気付いた

 

「しっかしお前もウブだなぁ。胸チラで鼻血ブーとか」

 

「女性に免疫が無くて…すみません」

 

「まっ、異性に対する免疫はそう早く着くもんじゃないさ。俺だって長い時間かかった」

 

「あれだけ元帥と仲良いのに、ですか⁉︎」

 

「考えてもみろ。あの横須賀だぞ⁉︎」

 

「我々といる時はとても優しいお方ですが…」

 

横須賀の事を褒める奴は久しぶりに見た

 

少し嬉しいな…

 

「まっ。その様子じゃ、ちったぁ免疫は付いた様だ。俺はオサラバすっかな〜…」

 

「レイさん⁇」

 

ドアの所まで来て、彼の方を振り返った

 

「誰の膝枕で横になってるか、よく見る事だな」

 

そう言い残し、喫茶ルームを出た

 

俺が出た後、ジュニアはすぐに上を見た

 

「にゃ」

 

「うわぁ‼︎た、多摩⁉︎」

 

「よくネンネしてたにゃ」

 

ジュニアはすぐに起き上がり、顔を真っ赤に染め直す

 

「あ…あの、その…」

 

「何でさっき多摩を受け止めた時は鼻血ブーしなかったのに、今は鼻血ブーにゃ⁇」

 

「それは…その、あれだよ…うん…」

 

「多摩の事、好きになったかにゃ⁇」

 

ストレートに聞かれ、ジュニアはまた焦る

 

「そ…そんな所だ…」

 

焦るジュニアを見て、多摩は素直に自分の事を言った

 

「多摩は横須賀にいるにゃ。時々会いに来てくれると嬉しいにゃ」

 

「い、行くさ‼︎行かせてくれ‼︎」

 

「約束だにゃ⁇分かったかにゃ⁇」

 

「もちろんさ‼︎」

 

「じゃああかりちゃん、多摩はもう帰るにゃ。またにゃ‼︎」

 

「またね…」

 

多摩も喫茶ルームを出て、ジュニアは一人取り残された

 

今まで味わった事の無い虚無感がジュニアを襲う

 

「可愛い…」

 

ジュニアは本気で恋に落ちていた

 

 

 

 

秋刀魚祭りはお開きになり、ポツポツとしか客は残っていない

 

さっきまで腹を下した中年の提督が、白髪の女の子にブツブツ文句を言われながら帰って行ったので、俺達と総司令の一味しか残っていなかった

 

そして、ようやくジュニアが帰って来た

 

「ありゃあ相当重症だな…」

 

ジュニアはボーッとしながら喫茶ルームを降りて来た

 

「ジュニア。お前そんなに多摩の事が好きになったのか⁉︎」

 

「そっくりなんですよね…昔見てたアニメのアンドロイドに…」

 

「…今日の外見見る限り、確かに似てるな」

 

「あぁっ‼︎次に会う時はどんな服装で行こう‼︎」

 

「連行します」

 

真田に引き摺られ、ジュニアは帰路につかされた

 

「さてっ‼︎全員揃っ…てないな」

 

一番の問題児がいない

 

「あっちにいたよ‼︎おっきなおさかなたべてた‼︎」

 

たいほうに言われ、悪寒が走る

 

教えて貰った場所に行くと、彼女はいた

 

マグロの骨が辺りに散らばっており、今からまさにもう一匹に入る所で止めに入った

 

「照月‼︎」

 

「あっ‼︎お兄ちゃん‼︎このお魚美味しいんだよ‼︎」

 

「今…何匹目だ⁇」

 

「えと…秋刀魚を13匹食べて、このおっきなお魚は5匹目だよ‼︎」

 

「もうおしまいだ。帰るぞ」

 

「分かった‼︎抱っこしてくれたら帰る‼︎」

 

「うぐっ…」

 

また突進かまされてアバラ持って行かれたら、そろそろ笑い話にさせられる…

 

照月を後ろから抱き、力を込める

 

が、勿論ビクともしない

 

腹の中にマグロ4匹が詰まっているからだ

 

俺が必死こいている間も、照月はマグロを頭からバクバク食べている

 

「ふぬっ‼︎」

 

思いっきり力を入れると、照月が動いた

 

「動くぞ…うわっ‼︎」

 

マグロを食べ終えた照月が急に立ち上がったため、俺はひっくり返った

 

「うんっ♪♪美味しかったぁ‼︎お兄ちゃん、帰ろう⁇」

 

「ハァ…ハァ…満足したか⁇」

 

「うんっ♪♪」

 

満足そうな照月を連れ、俺達も基地へと戻った…



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114話 金曜日の楽しみ〜照月、給食食べるよ‼︎〜

さて、113話と特別編が終わりました

多摩は上手く書けてたでしょうか⁇

是非感想をお聞かせ下さい



今回のお話は、毎週金曜日恒例の学校の日

週替わり⁇で、訪れる子供達

たいほうは給食がお気に入りの様です


金曜日恒例の学校の日

 

今日はたいほう、照月、霞を連れて来た

 

「いいか照月。給食はちょっとしか出ないけど、人の物食べちゃいかんぞ⁇」

 

「分かった‼︎行って来ま〜す‼︎」

 

「かかか霞‼︎頼んだぞ‼︎俺は夕方まで横須賀を離れるからな‼︎」

 

「任せなさい‼︎」

 

霞に二人を任せるしかない

 

三人を見送り、俺は一旦横須賀の執務室に入った

 

「横須賀」

 

「準備万端よ‼︎」

 

いつもと違い、私服に着替えた横須賀

 

…対して変わってない気もするが、一応は褒めておいた

 

「行こう」

 

バイクを借り、後ろに横須賀を乗せた

 

「振り落とされんなよ」

 

「無茶な運転しないでね⁉︎一応備品なんだから‼︎」

 

「行くぞっ‼︎」

 

アクセルを入れ、基地から出た

 

 

 

俺達は久し振りに、戦いから離れた場所へ行こうとしていた

 

着いた場所は、何の変哲も無い普通の街

 

「ふぅ…」

 

駐車場にバイクを置き、ヘルメットを脱ぐと、喧騒から離れた場所だと実感させられた

 

建物自体は沢山並んではいるが、高層ビルの様な高い建物は無く、平屋建てが並んでいる

 

そこにポツポツと店があり、人はその周辺に集まっていた

 

「何にもないわね…よいしょ」

 

「たまには誰も居ない場所もいいだろ⁇」

 

「そうね…たまにはいいかも」

 

横須賀が自然に腕を絡ませて来た

 

「お腹空いたわ」

 

「そうだな…何か食うか」

 

 

 

 

 

レイ達が昼ご飯で悩んでいる時、横須賀の学校では給食が配られていた

 

「あじごはん」

 

たいほうは給食が好きな様で、目の前に運ばれて来た味ご飯を食べたそうにしている

 

「おさかなのふらい‼︎」

 

「シチューもあるわ。結構しっかりしてるのね」

 

「照月のは無いの…⁇」

 

照月だけ給食が運ばれて来ず、軽く怒っている

 

「照月。こっちに来るんダズル」

 

午前中体育の授業をしていた榛名は、照月を呼び出し、隣の部屋に連れて来た

 

部屋の中心に置かれた机の上には、大量の給食が置いてあった

 

「ここに余ったシチューと味ご飯。それと魚のフライがあるダズル。好きなだけ食っていいダズルよ」

 

「いただきま〜す‼︎」

 

照月は給食にむしゃぶりつき、幸せそうに平らげて行く

 

「ふぅ…危なかったダズル…」

 

「榛名さん。すみませんね…」

 

窓際で腕を組みながら照月を見ていた榛名の横に鹿島が来た

 

「構わんダズルよ。照月は良く食べて良く動く子ダズル。徒競走も一位だったんダズル‼︎」

 

「でも、まさか榛名さんが給食作っていたなんて…」

 

この給食、全部榛名が昨日の晩から作っていた物だ

 

だからシチューがある

 

榛名のシチューは最高に美味い

 

野菜が苦手な子のために、細かく刻んで入れたり、味を濃く、そしてカルシウムをしっかりと補給させる為に牛乳を多く使っている

 

榛名はシチューとハンマーに関しては、努力を怠らない

 

「作り過ぎてどうしようかと思ってた所に照月が来たんダズル。いっぱい食べる子は好きダズル」

 

「ふふっ。榛名さん、何だか変わりましたねっ‼︎」

 

「榛名は元々良い子ちゃんダズル」

 

「ふふっ、そうでしたねっ‼︎」

 

榛名はケッコンしてから子供の面倒見がかなり良くなった

 

ケッコンする前は無闇矢鱈にハンマーを振り回して、提督に致命傷を与える事も少なくなかった

 

現にワンコは

 

頭蓋骨骨折…32回

 

左腕斬り落とし…2回

 

内臓破裂…391回

 

肋骨骨折…67回

 

打撲…測定不能

 

複雑骨折…測定不能

 

と、まぁとにかく大怪我を何度もしていた

 

だがワンコは強靭な精神を1%、そして高速修復剤の入ったバケツの力99%により、何度も復活

 

ついに榛名を射止めた

 

榛名は元からワンコにゾッコンであり、愛し合うのには時間は掛からなかった

 

料理もこうしてする様になり、今では”身長差夫婦”とまで言われている

 

因みに言っておくが、ワンコは皆が思っている程ショタではなく、単に榛名がデカいだけである



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114話 金曜日の楽しみ〜二人のシルエット〜

「美味しかったわね」

 

「中々だったな」

 

チェーン店ではあるが、丼物の店に入り、親子丼を食べた

 

「おまけのカードも可愛いわ…グヘヘ」

 

俺の隣で横須賀は、貰ったカードを見て顔をとろけさせていた

 

「まだ余裕あるな…」

 

時計を見ると、まだ昼の12時を過ぎた所

 

バイクで片道30分の街だから、まだ余裕はある

 

「ね、レイ。あれ何⁇」

 

横須賀が指をさしたのは、巨大なボウリングのピンの看板

 

「ボウリングだ。知らないか⁇」

 

「知らないわ…何する所⁇」

 

「行きゃ分かるさ」

 

ボウリングならいい感じに時間を潰せると思い、ボウリング場に入った

 

「二人だ」

 

バイトだろうか

 

霞位のちんちくりんな身長の子が受付をしている

 

しかも愛想が無い

 

「何ゲームしますか⁇」

 

「3ゲーム。それと靴を」

 

「畏まりました。靴のサイズは⁇」

 

「27.5と…お前は⁇」

 

「25」

 

「では此方を。三番レーンをお使い下さい」

 

ドカドカっと靴がカウンターに置かれた

 

「…怒ってるのか⁇」

 

「怒ってなんかないです」

 

「そ、そうか…」

 

愛想の無い受付嬢とは裏腹に、ボウリング場は混んでいた

 

「さっきの看板みたいのがいっぱいあるわ‼︎」

 

「あれを倒すのさ。まずは球選びからだ」

 

丁度良さそうな球を選んでいると、横須賀は一番重い球を両手で持って来た

 

「これで…行くわ…」

 

「お前はバカか⁉︎腕力に合う奴を選ぶんだ。そうだな…これと…か…」

 

「よい…しょ…よっこら‼︎」

 

えっちらおっちら歩きながら、横須賀はレーンに向かって行き、球をドーン‼︎と”落とした”

 

球は真っ直ぐ転がって行き、なんとそのままピンを全部倒してしまった

 

「やったわ‼︎」

 

「ストライクの景品。置いとく」

 

受付嬢が棒付きの飴を机の上に置いた

 

「どんどんストライク出して。飴玉も増えるよ」

 

「お…おぉ…」

 

受付嬢はおそらく、感情を露わにするのがヘタクソなのだろう

 

「なるほど…本来はスピードを出してぶつけてこかす遊びなのね⁇」

 

「そっ。見てろよ…」

 

俺は軽快なフォームを決め、ストライクを出す

 

「見たか‼︎」

 

俺がドヤ顔を決めている真ん前で受付嬢が飴玉を置いて行く

 

「私と勝負なさい。そうね…勝者は最終的に集まった飴玉でどう⁉︎」

 

「乗った‼︎」

 

2ゲーム先に取った方が勝ちとなるシンプルなルール

 

賭けもそんなに重くない

 

俺は勝ちを確信していた

 

あんな投げ…もとい落とし方で勝てる訳が無い‼︎

 

だが…

 

「ぬんっ‼︎」

 

横須賀の落とす球は不思議な力でもかけてあるかの様に真っ直ぐ転がり続け、ストライクを出しまくっていた

 

謎の女が謎の倒し方でストライクを出し続けている三番レーンは、あっと言う間にギャラリーでごった返した

 

「う〜…りゃっ‼︎」

 

これで3ゲーム全部ストライク

 

俺の負けはとおに確定している

 

横須賀はストライクを出す度に拍手が起こり、照れ臭そうにしている

 

そして俺がストライクを出すと、男性客からブーイングが起きていた

 

「なんっ…」

 

「お〜っほっほっほ‼︎ねぇねぇ、今どんな気持ち〜⁇初心者の適当投げに負けて〜どぉんな気持ち〜⁇ん〜っ⁇」

 

満面の笑みで嫌味を言う横須賀の顔がドアップで映った

 

「ぐっ…参り…ました…」

 

俺は膝から落ちた

 

隊長やらラバウルの連中にも負けた事が無かったこの俺が、こんな初心者の適当投げに負けるだと⁇

 

ならん

 

そんな事あってはならん

 

「ぼ、ボウリングは負けを認めよう‼︎だがな‼︎あれでは負けん‼︎」

 

指差すはビリヤード

 

「あれは基地にあるわ⁇」

 

「うぐっ…」

 

「まぁいいわ。今度は違うので勝負しましょう⁇」

 

「そっか、時間か‼︎」

 

「ふふっ。帰るわよ」

 

俺をコテンパンにしたのでご機嫌な横須賀は、スキップしながら受付を目指した

 

「十回ストライク出したから、そこの棚から好きなの持って行っていいよ」

 

棚にはぬいぐるみやボウリンググッズがある

 

「これにするわ‼︎弥生ちゃんぬいぐるみ‼︎」

 

横須賀が選んだのはやはりぬいぐるみ

 

「それは私をモデルにしたぬいぐるみ」

 

「気に入ったわ。これを見る度、アンタをコテンパンにしたの思い出そ〜っと‼︎うふふ〜‼︎」

 

受付の前で、横須賀はぬいぐるみを抱いてクルクル回る

 

「いい彼女」

 

「あれでも可愛い気はあるんだ…はぁ…」

 

愛想が無いと思っていたが、お世辞は言える様だ

 

横須賀がご満悦なまま、俺達はボウリング場を後にした

 

バイクのケースに飴玉とぬいぐるみを詰め、バイクに跨った

 

「ね、レイ」

 

「ん⁇」

 

サイドミラー越しに映る横須賀の顔を見る

 

「楽しかったわ‼︎ありがとう‼︎」

 

「次は違う所行こうな」

 

「うんっ‼︎」

 

ったく…

 

普段からこう素直だと、ホント可愛いのにな…

 

文句を飲み込んだ後、俺達は横須賀へと帰った

 

 

 

 

「着いたぞ」

 

「ふうっ…ありがとっ」

 

ヘルメットを外し、二人で学校の前へと向かう

 

「照月が給食バカ食いしてなきゃいいが…」

 

「心配⁇」

 

「まぁなっ…こうして子供達を待ってると、隊長の気持ちが少し分かる気がする」

 

「アンタも大人びた事言うのね」

 

「…そのワガママで暴君な口を塞ぐにはどうしたらいい⁇」

 

「キスでもしたらどうかしら⁇」

 

「ったく…」

 

少し日が落ちかかった横須賀基地のほぼほぼど真ん中で、俺達は口付けを交わした

 

それも長い奴だ

 

「ちょっと…」

 

誰かの声が聞こえ、互いに離れる

 

「うわっ‼︎霞⁉︎」

 

「何してんのよ…ホンットバカね‼︎学校の真ん前よ⁉︎」

 

「すてぃんぐれいちゅーしてる‼︎」

 

「あっ‼︎飴ちゃん‼︎」

 

三人に思いっきりバレたが、照月だけは横須賀の手元にある飴玉に夢中だ

 

「あ、あげるわ‼︎」

 

焦った横須賀は、照月に飴玉を全部渡した

 

「じゃあ、ね⁇」

 

「おう。またな」

 

最後の最後で、横須賀は飛び切り女の顔を見せた

 

「すてぃんぐれいのおよめさん」

 

「そうだぞたいほう。俺の大切な人だ」

 

いつの間にか俺の頭に登っていたたいほうは、俺の目の前に紙をチラつかせた

 

「きょうはあんまりまちがえてないよ‼︎」

 

「どれっ…」

 

今日はどうやら分野は沢山ある問題だ

 

 

 

 

・たぬきが1匹、きつねが2匹、犬が3匹

 

あわせて何匹いるでしょう⁇

 

 

 

 

・リンゴが5つあります。1つ食べたらいくつになるでしょう⁇

 

 

 

 

・ねこ、たぬき、いぬ、くわがた

 

仲間はずれはどれでしょう⁇

 

 

 

 

たいほうの答え

 

・6ぴき

 

・4つ

 

・みんなともだち

 

 

 

 

最後の問題に至っては、花まるを頂戴している

 

なんともたいほうらしい答えだ

 

「わたしのも見なさい」

 

霞は美術問題

 

・海をかきましょう

 

・好きな食べ物をかきましょう

 

たいほうと一緒に書いたのだろうか⁇

 

所々にたいほうが書いたらしき魚が描かれている

 

二枚目の絵には、プリンが描かれていた

 

「おっ…」

 

真ん中にプリンがあり、両サイドに霞と俺がいる

 

「あ…アンタと食べるのが一番好きなの…」

 

「嬉しい事言ってくれるじゃないか」

 

年相応の可愛らしい絵だが、今の俺にとってはどんな有名絵画より価値のある絵に変わっていた

 

隊長…

 

隊長は、ずっとこんな気持ちだったのか⁇

 

今、また少し分かったよ…

 

「照月はこれ‼︎」

 

照月は身体測定の様だ

 

 

 

身長…134.2cm

 

体重…168kg

 

握力…右・81kg

 

左・90kg

 

その他ズラーッと並び、一つ気になる事項があった

 

50m走…5.8秒

 

「足速いな…」

 

「照月、かけっこ好きなんだぁ〜‼︎」

 

体重がこれだけあるのに、足はこんなに速い

 

握力もこのボディでは破格の数値だ

 

「さぁ、帰ろう」

 

高速艇に乗り、俺達は帰路に着いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ…」

 

工廠の片隅の椅子に腰掛け、ふと笑みが漏れる

 

俺は、今まで子供達が描いた絵を眺めていた

 

たいほう、照月、れーべ、まっくす、しおい、きそ…

 

そして今日の霞の絵…

 

俺は一枚一枚の絵を見ながら紫煙を吐いていく

 

「へぇ〜っ。この頃から持ってるんだなぁ…」

 

聞き覚えのある声がした

 

「ギザギザ丸か‼︎」

 

「そうだ‼︎作者が出さないと言ってたけど、とある人が気に入ってくれたのと、未来の技術でまた来た‼︎」

 

「おまっ…霞みたいな言動を…」

 

「まっ、未来はちゃ〜んと訂正されたから心配すんな」

 

意味は全く分からないが、心配すんなと言われた以上は心配しないでおこう

 

「でだ。意味分からないとは思うけど、お父さんである事は変わりないし⁇逆に助かったし⁇何かご褒美をあげようと思って、今回来たんだ‼︎」

 

「何が出来るんだ⁇」

 

「設計図はこの前渡したしな〜…う〜ん…」

 

「未来の事、教えてくれないか⁇」

 

「それはダメだ。未来が狂う」

 

ギザギザ丸は頑なに未来の事を話そうとしない

 

「あっ‼︎そ〜だ‼︎過去に連れてってやんよ‼︎」

 

「過去〜⁉︎」

 

「そう。あっ、でも第二次世界大戦はダメだぞ⁇お父さんは歴史を覆しちまう可能性がある」

 

一撃で行きたい時代が潰された

 

「じゃあ…」

 

俺はとある場所と時代を言った

 

「オーケー。それなら大丈夫だ。さっ、壁に手ェ付きな‼︎」

 

言われるがまま壁に手を付くと、ギザギザ丸は背中に挿していた長い棒を構えた

 

「ちょっ、ちょっと待て‼︎過去に行くにはケツバットなのか⁉︎」

 

「ゴチャゴチャ言うな‼︎行くぜ〜…おりゃ‼︎」

 

ケツバットされる瞬間、俺は目を閉じた…



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ハロウィン特別企画 お菓子くれなきゃ⁇(1)

ハロウィン特別企画です

色んなキャラが出て来ます

少し長いですぞ



みんな、ハロウィンでお菓子貰う時、なんて言って貰う⁇

作者はハロウィンに少し苦い思い出があるのですが、この子が全て吹き飛ばしてくれる気がします


《今日はハロウィン‼︎子供達はお菓子を貰う為に必死です‼︎》

 

朝早くから、子供達がテレビの前に座っている

 

たいほうはまだ眠たいのか、霞の膝の上でヨダレを垂らして寝ている

 

「世間一般はハロウィンか。俺達ぁ、ハロウィンなんてものはねぇなぁ〜…」

 

椅子に座って後頭部の後ろで手を組みながらテレビを見ていると、隊長がニヤついているのに気が付いた

 

「レイ。トリックオアトリート」

 

「マジか」

 

「言ったもん勝ちだ。ホラ、お菓子をだすんだ」

 

「ったく…」

 

台所の床下収納からグミを出し、隊長と食べ始めた

 

「照月がいないな…」

 

「朝ごはん食べて、また寝てるんだろ⁇」

 

「ちょっと見てくる」

 

子供部屋に行くが、既に布団は片付けてあり、誰もいない

 

「おっかしいなぁ…」

 

 

 

 

 

「今日はお菓子が貰えるんだって‼︎長10cm砲ちゃん、まずは横須賀だね‼︎」

 

俺達が照月を探している時、当の本人は横須賀にいた

 

「着いたぁ‼︎」

 

照月は二人の長10cm砲ちゃんを連れ、まずは横須賀の執務室を目指した

 

「よっこすっか、さっん‼︎」

 

レイと同じく、照月も扉は蹴り飛ばして開ける

 

「あらっ‼︎照月ちゃん。おつかい⁇」

 

「トリックオアダイ」

 

「え…」

 

横須賀は冷や汗を流す

 

あまりにも突然に宣告された死…

 

横須賀は考えた

 

 

 

普通はあれよね、トリックオアトリートよね⁇

 

お菓子くれなきゃイタズラするぞ〜ってやつ

 

照月ちゃんは今何て言った⁇

 

トリックオアダイ⁉︎

 

お菓子くれなきゃ殺す⁉︎

 

死ぬのは嫌よ‼︎

 

まだレイとの子供だって…

 

いやいや、そうじゃなくて‼︎

 

確かにこの子は良く食べるけどそんな事する子じゃ…

 

 

 

「トリックオアダイだよぉ〜。横須賀さん。お菓子頂戴」

 

照月は笑いながら横須賀に詰め寄る

 

それが横須賀を更に精神的に追い詰めていた

 

照月はどんどん横須賀に近付き、とうとう部屋の端に追い詰めていた

 

「わわわ分かったわ‼︎お菓子ね⁉︎ほ、ほら、コレあげるわ‼︎」

 

横須賀は、後で食べようとしていたクッキーの箱を恐る恐るとり、照月に渡した

 

「わぁっ‼︎ありがとう‼︎照月からはコレ‼︎」

 

へたり込んでビクビクする横須賀の前に、照月は”きゃんでぃ”と書かれた袋を彼女の前に置いた

 

「じゃあね〜‼︎」

 

照月は部屋を出て行った

 

「ふぅ…最近はアレが主流なのかしら…」

 

 

 

 

「次はここだね‼︎」

 

照月が目を付けたのは、野郎達が集まる工廠施設

 

「こんにちは〜‼︎」

 

「おやおや、これは照月ちゃん」

 

前の整備長と代わって、中年の男性が出迎えてくれた

 

彼が新しい整備長だ

 

「長10cm砲ちゃんの修理かい⁇」

 

「トリックオアダイ」

 

「ぜ、全員食い物を出せ‼︎早く‼︎」

 

整備長の一言で、中にいた野郎達が慌ただしく動き始めた

 

あっと言う間に、照月の前に菓子パンやお菓子が集まった

 

「こ、これで全部です‼︎」

 

「わぁ〜‼︎いっぱい‼︎照月のキャンディー足りるかなぁ…」

 

「かかか構いません‼︎我々はお気持ちだけで充分です‼︎」

 

「でも、照月こんなにいっぱい貰ったよ⁇」

 

「照月ちゃんに美味しく食べられたら、我々は幸せです‼︎」

 

整備長は照月の頭を撫でようとしたが、照月の言動が言動なので、喰われ兼ねないと判断し、気持ちを抑えた

 

「じゃあ、照月お兄ちゃんに言っておくね‼︎おじさん達に、い〜っぱい‼︎お菓子貰ったって‼︎じゃあね〜‼︎」

 

照月が工廠を出てすぐ、野郎達は安堵のため息を吐いた

 

「逆らってしまったら…我々に明日は無いかも知れない…」

 

 

 

 

「みんなビックリしてたね〜。照月、そんなに怖いかなぁ…」

 

長10cm砲ちゃんは二人共、首を横に振った

 

「お腹空いたなぁ〜」

 

ベンチに腰掛け、口を開けて辺りを見回す

 

すると運良く二人のカップルが来た

 

「美味しいにゃ‼︎」

 

「次は何食べる⁇」

 

無事にカップル成立したジュニアと多摩だ

 

「お兄さん‼︎」

 

「おっ。君は確かレイさんの所の照月ちゃん。おつかいかい⁇」

 

「トリックオアダイ」

 

「だ…ダイ…」

 

「何かあげないとヤバいにゃ‼︎目が本気にゃ‼︎」

 

「わ、分かった‼︎だから落ち着け‼︎な⁉︎」

 

「トリックオアダイ」

 

照月はお菓子をくれるまでコレを言い続ける

 

「こ…これで好きなお菓子を買ってくれ…頼む‼︎」

 

ジュニアは財布から一万円札を出した

 

「照月が欲しいのは、お金じゃなくてお菓子だよぉ⁇」

 

「た…多摩はコレをあげるにゃ…」

 

「アイス‼︎」

 

照月は多摩の食いさしのアイスを取り、何とか事無きを得た

 

「お兄さん」

 

「ヒッ‼︎」

 

「ホントにコレでお菓子買っていいの⁇」

 

「う…うんうん‼︎好きなの買いなさい‼︎私は今お菓子持ってないんだ‼︎」

 

「そっかぁ〜…分かった‼︎ありがとう‼︎」

 

アイス片手に一万円札を受け取り、照月は横須賀の港を目指した

 

「大丈夫かにゃ⁉︎」

 

「う…うん」

 

「食べ直すにゃ。そうだ‼︎伊勢に行くにゃ‼︎」

 

多摩に手を引かれ、二人は伊勢でケーキを楽しむ事にした…

 

 

 

 

 

 

港には高速艇が幾つも待機していた

 

乗る場所によって、向かう場所が違う

 

「次は何処に行こっかなぁ〜」

 

「照月ちゃん‼︎もうお家帰るかい⁉︎」

 

基地に帰る高速艇の船長が照月に気付いた

 

「イカさん‼︎」

 

船長はいつもイカのマークが描かれている帽子を被っているので、子供達から”イカさん”と呼ばれている

 

「ん⁇どうした⁇」

 

「トリックオアダイ」

 

「え⁇」

 

聞き直したイカさんに歩み寄り、照月は再び同じ言葉を吐いた

 

「トリックオアダイ」

 

「わ、分かりました‼︎でもお菓子は無いんです‼︎その代わり、一日照月”さん”の好きな所に行きます‼︎何処に向かえば宜しいですか」

 

「えと…じゃあ呉まで‼︎」

 

「畏まりましたっ‼︎」

 

イカさんは逃げる様に操舵室に向かい、照月が乗ったのを確認して、猛スピードで高速艇を出した

 

少しでも遅ければ、死ぬかも知れない

 

もしかしたら、私は何処かで照月ちゃ…いや、照月さんを怒らせてしまったのかも知れない‼︎

 

イカさんは呉に着くまでヒヤヒヤしっぱなしだった

 

 

 

 

 

「着いたぁ〜‼︎船長さん、お菓子置いておいてもいい⁇」

 

「ど、どうぞどうぞ‼︎好きなだけ‼︎」

 

先程までズリズリ引き摺っていた袋を船内に残し、照月は呉さんの執務室を目指した

 

 

 

 

「コンコン‼︎照月です‼︎」

 

「照月ちゃん⁇開いてるよ‼︎」

 

照月が一人で呉に来るのは珍しい

 

しかもノックする効果音と同じ様に声を出すとは、なんと可愛いのだれう

 

しかし、呉さんの妄想は数秒後に打ち壊された

 

「久し振りだね。今日はどうしたの⁇」

 

「トリックオアダイ」

 

「ヒィッ‼︎たっ、助けてーーーーー‼︎」

 

それを聞いた呉さんは、後ろにあったカーテンに包まりながら悲鳴をあげた

 

「ツンツン」

 

「ヒギィ‼︎」

 

照月は呉さんの包まっているカーテンを人差し指で突いた

 

「どうした⁉︎」

 

「提督⁉︎」

 

騒ぎに気付いた嫁二人が執務室に来た

 

「あっ‼︎隼鷹さんとポーちゃん‼︎」

 

「よっ、照月ちゃん‼︎」

 

「ポーラですて」

 

「提督、どうしたんだい⁇ゴッキーでも見たかい⁇」

 

隼鷹はいつめの軽いノリで呉さんが包まっているカーテンを開け、中にいた呉さんを抱き締めた

 

「よしよし、怖かったなぁ〜。食堂でお水飲もうな。照月ちゃん、すぐ戻って来るからな‼︎」

 

隼鷹と呉さんが執務室から出て、残されたのはポーラ

 

「ポーちゃん‼︎」

 

「ポーラですて。どうしましたかぁ〜⁇」

 

「トリックオアダイ」

 

「ダイ…ダイ…おぉ、ポーラ死にますか。そうですか…それはいけませんて‼︎お菓子ですて‼︎」

 

ポーラは全速力で執務室から出て、すぐにお菓子を持って来た

 

「柿ピーとぉ、チーカマとぉ、スルメ、後クラッカーもありますて。だから、どうか命だけは…」

 

ポーラは照月に土下座して命乞いをした

 

ポーラは思った

 

 

 

人食いの蒼龍がいる位ですて

 

テルヅーキも人を食べても可笑しくは無いですて

 

お菓子で済むなら、安いもんですて

 

 

 

 

「照月、お菓子貰えたら、殺しはしないよ⁇」

 

「そ、それなら良いですて…ふぅ」

 

「照月からはコレ‼︎」

 

再び”きゃんでぃ”と書かれた袋を、ポーラの前に置き、呉さんと隼鷹のいる食堂を目指した

 

「食べ物の恨みは恐ろしいとは、ニッポンの人も上手い事言ったですて…」

 

 

 

 

「呉さん‼︎」

 

「て、照月ちゃん‼︎」

 

呉さんはゴホンと咳き込むと、目の前のお菓子に手を広げた

 

「好きなだけ持って行っていいよ」

 

「ホント⁉︎」

 

「だからみんなの命だけは‼︎」

 

「うんっ‼︎ポーちゃんにも言ったけど、照月、お菓子くれたら殺しはしないよ‼︎」

 

「よ…良かった…」

 

「助かったぁ…」

 

呉さんと隼鷹は胸を撫で下ろした

 

「照月からはコレ‼︎照月が作ったんだよぉ‼︎」

 

二人にも”きゃんでぃ”と書かれた袋を渡し、照月は外に出た

 

「良かったぁ…ポーラの隠したお菓子の場所知ってて」

 

「後で買ってあげなきゃな…」

 

 

 

 

 

外に出ると、遠くに高山さんがいた

 

高山を見るなり、照月は叫んだ

 

「トリックオアダーーーーーイ‼︎」

 

照月の声が聞こえた瞬間、高山は一瞬肩を上げ、格納庫に隠れた

 

「逃げた‼︎長10cm砲ちゃん、追い掛けるよ‼︎」

 

長10cm砲ちゃんが先陣を切り、高山を追い掛けて行こうとした時だった

 

「止まれ‼︎」

 

意を決したのか、高山が出て来た

 

手にはピストルを構えている

 

「俺はここで死ぬ訳にはいかん‼︎」

 

「長10cm砲ちゃん…」

 

照月が一人の長10cm砲ちゃんの頭を軽く叩くと、高山の持っていたピストルを撃ち抜いた

 

「うっ…」

 

「人にピストル向けたら危ないんだよぉ⁇」

 

「は…速い…」

 

「どうして照月にピストル向けたの⁇どし〜んするよ⁇」

 

「わ、分かった‼︎参った‼︎」

 

高山は両手を上げた

 

生身の人間である高山は、照月にどし〜んなんてされたら死んでしまう

 

「トリックオアダイ」

 

「俺のデスクに外国のお菓子がある‼︎」

 

「人にピストル向けた罰として、全部貰うよ⁇」

 

「か、構わん…」

 

「…でも、お礼はちゃんとしないとね‼︎はいっ‼︎」

 

照月は高山の足元にきゃんでぃの袋を置いた

 

照月は高山のお菓子を根こそぎ奪い、呉鎮守府を後にした

 

「恐ろしい子だ…」



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ハロウィン特別企画 お菓子くれなきゃ⁇(2)

遅れてしまいすみません

本当はハロウィン当日に貼ろうと思っていましたが、予期せぬ事態の為貼れませんでした

…は、ハロウィンの余興としてお楽しみ頂けたら幸いです


その頃、俺達は…

 

「とりっくおあとりーと‼︎」

 

「てぃーほう。今日はおめかししてるのね」

 

「たいほうまじょなんだよ‼︎」

 

グラーフが作ったコスプレを子供達が着て、小さいながらもハロウィンを満喫していた

 

「なんで俺達まで…」

 

「いいじゃないか。楽しまなきゃ損だぞ⁇」

 

「そう言われるとそれまでだけどな…」

 

俺達二人はドラキュラのコスプレを着させられ、子供達にお菓子を配っていた

 

「うはは‼︎レイ、ドラキュラの格好してる‼︎」

 

俺の格好を見て笑うきそは、狼のコスプレをしている

 

中途半端に可愛い

 

「ねぇレイ。狼ってどう鳴くの⁇やっぱりガォー、なのかな⁇」

 

「ガルルルーだ」

 

「オッケー。ガルル〜‼︎お菓子くれガル〜‼︎」

 

「ホラよ」

 

きその頭にチョコレートバーを置いた

 

「ありがと〜‼︎僕からはコレ‼︎」

 

きそは持っていたカゴからポン菓子を取り出した

 

「サンキュー」

 

「マーカス君、お嫁さんから電話よ」

 

貴子さんから電話を受け取ると、電話の向こうからすすり泣く声が聞こえて来た

 

「なんだ、またオネショしたのか⁇」

 

《違うわ。照月ちゃんが…》

 

 

 

 

 

「次はここだね‼︎」

 

照月は単冠湾に降り立った

 

「ここはハンマーの榛名さんがいるから、気を付けないと、だね」

 

「珍しいマイクな‼︎」

 

出迎えてくれたのは霧島だ

 

この基地では比較的良識派の人だ

 

「ワンコさんは〜⁇」

 

「提督なら工廠にいるマイクよ」

 

「ありがと〜」

 

照月は長10cm砲ちゃんを引き連れ、工廠に入った

 

「わぁ〜っ…‼︎」

 

工廠の中には、基地とは違い、色んなハンマーが置かれていた

 

最近榛名が気に入っているチェインソーもある

 

「お、珍しいね。どうしたの⁇」

 

前屈みになったワンコに対し、照月は言った

 

「トリックオアダイ」

 

「トリックオアダイ…えと、つまり、僕は死ぬのかな⁇」

 

「お菓子くれなきゃ、照月、どし〜ん‼︎するよ‼︎」

 

「そ、それは参ったなぁ…」

 

ワンコは頭をポリポリ掻くが、反応が薄い

 

彼は普段から致命傷のダメージを榛名から与えられ続けている為、反応が鈍っているのだ‼︎

 

「照月ダズル」

 

タイミングよく榛名が来た

 

「あっ‼︎榛名さん‼︎トリックオアダ」

 

「ホレ」

 

まるで分かっていたかの様に、榛名は照月にお菓子の詰め合わせを渡した

 

「今日は世間一般ではハロウィンダズル。照月もお菓子食べたいんダズルな⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「榛名はいっぱい食べる子好きダズル‼︎」

 

「照月もコレ、あげるね‼︎」

 

「ありがとう。美味しく頂くダズル」

 

「ばいば〜い‼︎」

 

単冠湾は早く終わった

 

「榛名、良く分かったね⁇」

 

「さっき横須賀から連絡があったんダズル。照月が”お菓子寄越さなきゃ、ぶっ殺す”と言い回ってると言ってたダズル」

 

「人は見掛けによらないなぁ…榛名と一緒だ」

 

「あ⁇もういっぺん言うダズル‼︎」

 

「い、いや‼︎悪かった‼︎悪かったから、チェインソーのスイッチ切って‼︎」

 

 

 

 

 

「後二箇所だよぉ〜。イカさん、次はここ‼︎」

 

照月は地図上の一箇所に指をさした

 

「お任せあれ」

 

イカさんは疲労を通り越し、既に肉体と精神を切り離した状態で運転をしていた

 

「さぁっ‼︎着いた‼︎あれ⁇貴方はだぁれ⁇」

 

一人の少女が出迎えてくれた

 

照月と良く似た、動く砲を傍らに置いている

 

「私は天津風。てんしんふうじゃないわ」

 

「照月、天津飯は好きだよ⁇」

 

「あまつよ。提督は今、厨房にいるわ」

 

「分かった‼︎ありがとう、あまつふうちゃん‼︎」

 

「あまつかぜよ‼︎」

 

天津風に言われた通り厨房に行くと、トラックさんが料理を作っていた

 

「提督〜、この紐解いてくれないんですかぁ〜⁇」

 

「ダメだ‼︎蒼龍には人以外の肉の味を覚えて貰う‼︎」

 

食堂では、ロープでグルグル巻きになった蒼龍が、床でゴロゴロしながらトラックさんの料理を待っていた

 

「おや照月ちゃん‼︎照月ちゃんも一緒に食べるかい⁇」

 

「トリックオアダイ」

 

「ようし分かった‼︎今美味しいの作ってあげるからね‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

火が上がる厨房を見ながら照月は、ゴロゴロする蒼龍の横でチョコンと座って待った

 

「照月ちゃん、これ解いてくれたら、も〜っと美味しいの食べさせてあげますよぉ〜⁇」

 

「もっと美味しいの⁇照月も食べたい‼︎」

 

「いかん‼︎照月ちゃん‼︎人に戻れなくなる‼︎ビフテキがもう出来る‼︎頼む‼︎もう少しだけ辛抱してくれ‼︎」

 

「うんっ、分かった‼︎照月、辛抱するよ⁇」

 

「いい子だっ‼︎」

 

3分後、トラックさんは何とか照月にビフテキを出す事が出来た

 

「提督〜。これじゃあ食べられませんよぉ〜⁇」

 

「蒼龍は私が食べさせる」

 

「美味しかったぁ〜‼︎」

 

照月は一口でビフテキを平らげ、付け合せのポテトやブロッコリーも、既に胃に落ちていた

 

「美味しかったかい⁇」

 

「うんっ‼︎照月分かるよ。神戸のお肉だよね。子牛のステーキ‼︎」

 

「素晴らしい…大正解だ‼︎」

 

「人間の…モガッ‼︎熱い熱い‼︎」

 

蒼龍が何か言いかけたが、トラックさんが熱々のビフテキを口に突っ込んだ為、それは封じられた

 

「どうだ蒼龍‼︎牛肉の方が美味いだろう‼︎」

 

「味はどっこいどっこいですねぇ…食感は人げ…アチアチアチ‼︎」

 

「これが終わったら、次は豚肉だ‼︎」

 

「わぁ〜…大変そう。照月、ドロンするね」

 

「すまないなぁ…今度、美味しいケーキ、みんなに作ってあげるから、それで許してくれ」

 

「うんっ‼︎楽しみにしてるね‼︎」

 

流石の照月にも状況を読めた様で、きゃんでぃの袋を机の上に置いて、トラック基地を後にした

 

 

 

 

 

 

照月がトラック基地から出る少し前…

 

スカイラグーンでは…

 

「多方面で照月による恐喝被害が確認された」

 

隊長と横須賀、そして俺のたった三人だが、一応は対策本部だ

 

「被害報告は横須賀、呉、単冠湾、トラック、そして一般人にも多少だが被害が出ている」

 

「タウイタウイでも被害報告だ。食料庫のサツマイモを強奪したそうだ」

 

「大湊では、空母の一ヶ月分の食料をほぼ壊滅に追い込んだと報告があったわ」

 

「ったく…」

 

「おイ。電報だ」

 

潮から受け取った電報には、最悪の事態が書かれていた

 

”マイヅル ショウテンガイ カイメツ

 

ゼンテンポ ヘイテン”

 

「おおおおごごご…」

 

被害報告を聞き、倒れそうになる

 

「2まイ目だ」

 

”テルヅキ トリックオアダイ コワイ

 

タスケテ ダレカ”

 

どうやら好戦派の基地にも出向き、食料を食い荒らしたり、強奪している様だ

 

「あ…後、被害が行ってないのは何処だ…」

 

「ラバウルだけだ」

 

「ラバウルか…」

 

照月がラバウルをラストに回すのには、何か理由がありそうだ

 

「ラバウルに防衛線、及び事情聴取を行う‼︎これ以上被害を出す訳にはいかん‼︎」

 

 

 

 

 

一方‼︎

 

その頃照月は‼︎

 

「空母だって‼︎凄いね‼︎」

 

空母の甲板の先に座り、照月は口を開けて水平線を眺めていた

 

数分前…

 

「あらっ、照月ちゃん‼︎」

 

「鹿島さんだ‼︎」

 

照月は大湊に来ていた

 

「鹿島、知り合いかい⁇」

 

「えぇ。レイの所の子です」

 

「照月も知ってる‼︎レイとリコンした人‼︎」

 

「あぐっ…」

 

冷や汗を流し、引きつった笑顔を見せる鹿島を横目に、照月は棚町さんに言った

 

「トリックオアダイ」

 

今回は長10cm砲ちゃんが銃口を向けている

 

「の…望みはなんだ…」

 

「お菓子ちょ〜だい‼︎」

 

「わ、分かった。頼むから銃口を降ろしてくれ…」

 

が、二人の長10cm砲ちゃんは銃口を降ろさず、何かジェスチャーで伝えていた

 

それに気付いた照月は二人の気持ちを翻訳した

 

「そっかぁ〜‼︎深海さんの所に行ってないね‼︎ハネっぽはダメだよね‼︎」

 

「わ、分かった…軽空母を出そう…それでいいか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

棚町さんはすぐに無線で連絡を入れた

 

「棚町だ。ガンビア・ベイⅡを深海中枢に向けて出す。深海中枢には私が伝える。至急、出港準備を」

 

「ガンビア・ベイⅡ⁇」

 

照月は不思議そうに外を眺めた

 

「昔の空母を元に造った空母です。タイコンデロ・改だってそうなんですよ⁇」

 

鹿島の説明を聞きつつ、執務室がある建物に一番近い海に停泊した、ガンビア・ベイⅡ

 

「棚町です。今から軽空母を其方に向かわせます。ははは、トリックオアトリート、ですよ」

 

どうやら向こうからも許可が降りた様だ

 

棚町さんと共に外に出て、照月は何の恐怖も感じない様な歩き方でガンビア・ベイⅡに乗ろうとした

 

「待ちなさい」

 

「ん⁇」

 

棚町さんは照月を引き止め、膝を曲げて照月と視線を合わせた

 

「照月ちゃん。頼んだよ。君は大切な任務を遂行する事になった…いや、なってしまった」

 

「大丈夫‼︎照月、トリックオアダイするだけだよ‼︎」

 

「うん。トリックオアダイして来てくれ‼︎」

 

棚町さんは照月の頭を撫で、照月をガンビア・ベイⅡへと乗せた

 

「船長さん、今の内に横須賀へお帰り下さい」

 

「あ…有り難き幸せ…」

 

鹿島の一言で、イカさんはようやく解放された

 

 

 

そして、現在に至る

 

「見えて来たね〜」

 

照月は呑気に構えているが、一応は敵の本丸だ

 

「よいしょっと‼︎こんにちはー‼︎」

 

「イラッシャイ♡」

 

迎えに来てくれた中枢棲姫に向かって、開口一番に照月は言った

 

「トリックオアダイ‼︎」

 

「トリックオアダイ‼︎」

 

中枢棲姫の掛け声と共に、戦艦棲姫と重巡棲姫、そして大量の駆逐艦やその他諸々が集まって来た

 

皆それぞれ、手にお菓子を手にしている

 

「照月もあるよ‼︎見て‼︎」

 

ガンビア・ベイⅡの中から、大量のお菓子がこれでもかと出て来た

 

「オォー‼︎」

 

深海側から歓声が上がる

 

実はコレ、照月が各地を回って集めて来たお菓子の数々である

 

照月はここで皆に配る為、必死にお菓子を集めていたのである

 

 

 

 

ハロウィンの数日前…学校に行った時、深海の子達はハロウィンやお祭り事を知らないと言っていたのを、照月は聞いていた

 

何よりも食べる事が好きな照月は、深海の子達にもハロウィンを楽しんで欲しかったのだ

 

大湊に行った時、長10cm砲ちゃんが棚町さん脅したのも計画の内だったりする…

 

 

 

「いっぱい食べてね‼︎」

 

「アリガトウ♡」

 

照月は深海の子達から大量のお菓子を貰い、そして大量のお菓子を皆に配った

 

中枢棲姫は後に語る

 

ホントウニ、イイナカマヲモッタ…ト

 

 

 

 

 

 

夕日が落ちて来た頃…

 

ラバウルでは、ラバウルさんとの練習を終えたきそも混ざり、四人が照月を待っていた

 

しかし何故かきそはソワソワしている

 

「Sorry…まさかこんな事になるなんて…」

 

事の発端はアイちゃんだった

 

照月ときそを連れて、アイちゃんの検診に行った時、きそはラバウルさんにフェンシングを習いに、照月は検診が終わったアイちゃんと話していた

 

その時照月はハロウィンの話と計画を話していた

 

「IOWA、Candyなら作れるよ⁇」

 

「照月にきゃんでぃの作り方教えて‼︎」

 

アイちゃんは照月にミルクキャンディーのレシピを渡し、照月はそれを基地でハロウィンの前日の夜から大量に作って、早朝には出掛けていたのだ

 

「照月は良い子だな…」

 

「俺達が決め付けてたんだよ…照月は食いしん坊だって」

 

「まぁいいじゃない。説明したらみんな一応は納得してくれたし、これでまた少し、深海の子達とも仲良くなれたわ⁇」

 

「お兄ちゃ〜〜〜ん‼︎」

 

ガンビア・ベイⅡの甲板から手を振る照月が見えた

 

数分後、照月はラバウルに降り立ち、いの一番に俺に抱き着いた

 

「あばらんちっ‼︎」

 

背骨の折れる音がした

 

「た…楽しかったか⁇」

 

「うんっ‼︎みんな喜んでたよ‼︎」

 

「照月、トリックオア⁇」

 

「ダイ‼︎」

 

「誰に聞いたんだ⁇」

 

「きそちゃん‼︎」

 

「き〜そ〜…」

 

「あ、あははは…」

 

「…まぁいい。照月⁇ハロウィンはトリックオア”トリート”だ。言ってごらん⁇」

 

「トリックオアトリート‼︎」

 

「そっ。来年からはそう言ってお菓子貰おうな⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

 

 

 

こうして、大パニックハロウィンは幕を閉じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「商店街…潰れちゃう…」

 

「台風みたいな乙女だったな…」

 

「ホンット、良く食べる子なんだから…」



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115話 救われた命のミライ(1)

さて、114話と特別企画が終わりました

今回のお話は、前回のお話のラストに引き続き、レイとギザギザ丸が過去に行きます

二人は一体どの時代に行き着いたのか…


※注…今回のお話では、実際にあった建造物をモデルに書いていますが、実際にあった事柄や建築内容とは大きく異なります。御了承下さい


「おい、着いたぞ」

 

目を開けると、そこに基地は無く、どこかの街中に立っていた

 

「スゲェ…」

 

道路が砂利だ

 

今も昔も高級品だが、昔は今よりもっと高級品だった車がチラホラ走っている

 

俺とギザギザ丸は、昭和初期の時代に来ていた

 

「でっ⁇欲しいモンってなんだ⁇」

 

「セルロイド人形さ。この時代に作られてから、もう作られてない奴があるんだ」

 

「人形趣味かよ…」

 

「俺じゃない」

 

「まっ。お父さんが変態なのは今も昔も変わらないな‼︎」

 

「未来も変態かぁ…」

 

ブツブツ言いながら、俺達は目当ての物を探し始めた

 

「案外ねぇもんだ…な…」

 

ふと、周りの視線が気になった

 

この時代の人は、まだ和服が多い

 

そんな中、タンクトップと革ジャン、そしてジーパンを履いている俺はかなり目立っていた

 

「まっ、この時代にその服装は変だわな」

 

「お前もスカジャン着てるだろ‼︎」

 

ギザギザ丸はスカジャンを着ており、背中に厳つい鷲が描かれており、傍らにはカタカナで”スカ”と書いてあった

 

多分、未来でも目立つ

 

「これは隊長さんから貰った大切なモンだ‼︎バカにすんな‼︎置いて帰るぞ‼︎」

 

「何てモンやってんだよ隊長は…」

 

「腹減った‼︎何か食おうぜ‼︎」

 

「ったく…おっ⁇」

 

目の前に百貨店が見えた

 

目当ての物もありそうだ

 

「そこで何か食わしてやるよ」

 

「やりぃ‼︎」

 

数時間後、俺達二人は、ここに入った事を後悔する事になる

 

 

 

「階段きつい〜‼︎喉乾いた〜‼︎」

 

「食堂行きゃあお茶がある」

 

「オレンジジュースがいい〜‼︎」

 

ギザギザ丸はグダグタ文句を言いながら、食堂のある階を目指す

 

この時代、エスカレーターやエレベーター等の洒落たモンは無い

 

そして俺は気付く

 

「なぁ」

 

「あんだよ…」

 

「…金がない」

 

「ハァァァン⁉︎」

 

少し考えればすぐ分かった

 

未来と過去では、硬貨や紙幣が全く違う

 

「この時代の金が無いんだよ‼︎」

 

「ポケット見てみろよ…」

 

「ポケットって…」

 

ポケットには財布とタバコ。そしてライター

 

「財布の中身見な」

 

「おぉ〜‼︎」

 

財布の中身が今の時代の紙幣や硬貨に変わっていた

 

「時代に合わせて変わるんだよ。仕組みは聞くな。だからっ…オレンジジュースな‼︎」

 

ギザギザ丸は舌をペロッと出して、親指を立てた

 

数秒前まで息切らしてた癖に…

 

喋ったり、動く姿を見る度に、こいつが本当に娘なんだと実感する

 

本当に俺に似ていて、現金な感じは横須賀譲りだ

 

「かけそばとオレンジジュースだ‼︎」

 

「親子丼を」

 

注文を終えると、長机の真ん中に置いてあるヤカンと湯呑みを手に取り、お茶を注いだ

 

ギザギザ丸の分も注いでやろうと思ったが、オレンジジュースが早くに来た為、注がなかった

 

「オレンジジュース好きか⁇」

 

「オレンジジュースは二番目だな。一番は何と言っても”クソ”だ‼︎」

 

「おまっ‼︎食堂だぞ⁉︎」

 

「クソなんてどこの喫茶店行っても大体あんだろ⁇」

 

ギザギザ丸はキョトンとしている

 

まるで俺が間違っているかの様にだ

 

「…クソってなんだ」

 

「クソも知らねぇのか⁇緑色のシュワシュワにアイスが乗ってる奴だ」

 

「クリームソーダって言えよ‼︎」

 

「お母さんがクソって教えたんだよ‼︎お母さんに言えよ‼︎」

 

「かけそばと親子丼、お待たせしました」

 

この時代には珍しい、洋服を着たウェイトレスが料理を持って来てくれた

 

「あ、すみません」

 

「お下品なお話をされる場合は、もう少し小さなお声でお願い致します」

 

「ゴメンゴメン‼︎お父さんが分かってくれなくてさぁ‼︎」

 

ウェイトレスは一礼して厨房に戻って行った

 

「それ食ったら目当てのモン探すからな⁇」

 

「へいへい」

 

ギザギザ丸はズルズルと音を立て、蕎麦を食べた



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115話 救われた命のミライ(2)

「いやぁ〜‼︎たまにはシンプルなんもいいねぇ‼︎」

 

「お前はジジイか‼︎」

 

「さっ⁇目当てのモン探すとすっか‼︎」

 

「四階にオモチャ売り場がある」

 

また階段を使って、今度は四階へと下る

 

「うへぁ〜…今じゃアンティークだぜ⁇」

 

木で作られたおままごとセットや、ぬり絵等、一昔前二昔前のオモチャが所狭しと並んでいる

 

「あいたっ‼︎」

 

目当ての物を探していると、オモチャをてんこ盛り持った女の子がぶつかって来た

 

その拍子に、持っていたオモチャが床に散乱してしまった

 

「すまんすまん‼︎前見てなかった‼︎」

 

「いえ‼︎私が見てなかったんです‼︎すみません‼︎」

 

互いにオモチャを拾う中、ギザギザ丸は俺の方を睨んでいた

 

「すみませんでした‼︎」

 

再び女の子がオモチャを持ってレジに向かうのを見届けた後、ギザギザ丸が服を引っ張って来た

 

「なんだ⁇欲しいモンあったか⁇」

 

「…あんまこの時代の人間と関わんな。未来が変わっちまう」

 

「今のは違うさ」

 

「お父さんは正義感が強い。だから未来も変えちまう。何でアタイが第二次世界大戦の最中に行かせなかったか…分かるだろ⁇」

 

「まさか…俺一人で未来が変わるとは思えんな」

 

「お父さんは変えちまうんだよ‼︎負けかけてた日本だって、簡単に救っちまう…それとな、この時代にアタイ達は存在しない。アタイはギザギザ丸で良いけど、お父さんは別の名前を使ってくれ」

 

「分かった分かった‼︎気を付け…」

 

途中で言葉が詰まる

 

「何だ⁇何か臭いぞ⁇」

 

ギザギザ丸も気付いた

 

「火事だ‼︎」

 

悲鳴を上げながら、店員が避難していくが、火の回りが速い

 

木製のオモチャや、セルロイドの人形に一気に燃え移り、四階オモチャ売り場は地獄絵図と化した

 

「未来へ帰るぞ‼︎早く‼︎」

 

「待て‼︎」

 

「この時代の人間に関わるなと言ったばっかだろ‼︎言う事聞いてくれよ‼︎」

 

ギザギザ丸が服を引っ張って止めようとするが、俺はそれを振り払った

 

「今助けなきゃ…俺は死ぬまで後悔する」

 

「誰か助けた時点で、アタイもお父さんも消えるかも知れないんだぞ⁉︎」

 

「俺の娘なら、それ位の覚悟は出来てるだろ」

 

「あ…」

 

ギザギザ丸は俺の目を見て、何かを悟ったらしい

 

「ったく…過去も未来も、お父さんは変わらないなぁ…あぁったよ‼︎助けりゃ良いんだろ‼︎やってやんよ‼︎」

 

「ギザギザ丸は避難誘導を頼む。ヤバくなったら、俺を置いて未来へ帰れ。分かったな⁉︎」

 

「…置いてかねぇよ。心配すんな」

 

ギザギザ丸はため息を吐き、避難誘導を始めた

 

「早く下へ行け‼︎くたばっちまうぞ‼︎」

 

ギザギザ丸を見届け、俺は遅れた人を探し始めた

 

「ゲホッ…誰か…」

 

「大丈夫か⁉︎」

 

さっきオモチャをてんこ盛り運んでいた女の子が、床にへたり込んでむせ込んでいた

 

「来い。出るぞ‼︎」

 

「貴方はさっきの…」

 

女の子を抱え、階段へと向かった

 

「お父さん‼︎階段はダメだ‼︎焼け落ちちまった‼︎」

 

「退路は無いってか…」

 

「死にますか…私…」

 

煙を吸ってガラガラ声になってしまった女の子は、片手にセルロイドの人形を大事そうに抱き締めながら、俺に抱き着いていた

 

「心配すんな。死ぬ時ゃ一緒だ」

 

「窓から出るしかなさそうだな…」

 

「窓って…四階だぞ⁉︎」

 

「行くだけ行ってみよう」

 

窓際に向かっていると、急に悲鳴が聞こえたと思った瞬間、上から人が落ちて来た

 

「おいおいおい‼︎」

 

「人が落ちた‼︎」

 

ギザギザ丸が下を見ようとした

 

「見るな」

 

「うわっ‼︎」

 

ギザギザ丸の目元に手を置き、そのまま後ろに引っ張った

 

「人の生き死には見るモンじゃない」

 

「分かったよ…ったく。でっ⁇どうすんだ⁇八方塞がりだぞ⁇」

 

「まっ…少し考えるさっ…」

 

窓際には火が回っておらず、女の子の呼吸も少し落ち着いて来た

 

「呑気にタバコ吸ってる場合かよ‼︎」

 

「こう言う時にこそ冷静さがいる」

 

「あの…」

 

「なんだ⁇」

 

「はしご車…はしご車が…」

 

窓の外を見ると、はしご車がギリギリ届いているのが見えた

 

「ようやくお出ましか…」

 

しかしはしご車までは距離があり、尚且つ乗れて後せいぜいギザギザ丸か、この女の子位だ

 

「君が行くんだ。俺が渡してやる」

 

「待って下さい‼︎貴方達は⁉︎」

 

「心配すん…なっ‼︎」

 

女の子を抱えたまま、窓の外にいる救助隊員に渡した

 

「しっかり持ったか‼︎」

 

「大丈夫だ‼︎すぐ助けに来る‼︎」

 

「待って‼︎名前を教えて下さい‼︎」

 

「マー…」

 

名前を言おうとした時、ギザギザ丸が足をつねって来た

 

そうか

 

俺達はこの時代に存在しないのか

 

「り、リヒターだ‼︎お嬢ちゃんは⁉︎」

 

「か……です‼︎」

 

「何だって⁉︎」

 

聞こえず仕舞いで、女の子ははしご車で地上へと向かって行った

 

「ギザギザ丸‼︎俺にくっ付け‼︎」

 

「こうか⁇」

 

ギザギザ丸は俺の服の裾をギュッと握った

 

…ムカつく位可愛い

 

「違う‼︎」

 

「おっ‼︎」

 

ギザギザ丸を抱きかかえ、しっかりとしがみ付いたのを確認した後、窓から飛び降りた

 

「嘘だろ⁉︎バカバカバカ‼︎」

 

「よっと」

 

外壁に沿って垂れていた紐の様な物に掴まり、地上までスルスルと降りた

 

「は〜…マジでビビった…てかお父さんはアホか⁉︎普通飛び降りるか⁉︎」

 

「普通は飛び降りないな‼︎ハッハッハ‼︎」

 

「リヒターさんっ‼︎」

 

「おっと…」

 

さっきの女の子が抱き着いて来た

 

「大丈夫か⁇」

 

「えぇ‼︎私は神風と言います‼︎お、お礼をさせて下さい‼︎」

 

「んなもんいい。これ着とけ」

 

神風は服が少し焦げていた

 

革ジャンを神風に着せ、野次馬の群れから出た

 

「とにかく病院行くんだ。俺達も行く」

 

「あ、はい」

 

救助隊の車に乗せられ、神風は運ばれて行った

 

「なぁ、お父さん」

 

「何だ⁇」

 

ギザギザ丸がニヤついている

 

「さっきの車、ありゃ何て車だ⁇」

 

「ピー…救急車だ」

 

「へっ、やっぱ治ってねぇなぁ‼︎」

 

「未来の俺はまだピーポー車って言ってるのか…」

 

「まぁいい。アタイ達も病院行こう」

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

神風が搬送された病院に着くと、神風は点滴を受けていた

 

「ちょっとはっ…良くなったか⁇」

 

神風の横に座り、彼女の髪の毛を掻き上げた

 

「えぇ。貴方達のおかげです」

 

「人形、好きなのか⁇」

 

「着せ替え人形なんですよ⁇良ければあげます」

 

神風は持っていたセルロイド人形を俺に渡した

 

「いいのか⁇」

 

「えぇ。お家にあるんですよ、今日はぬり絵とか、新しい着せ替えの服を買いに行ってたんです」

 

「じゃあ…ありがたく貰うよ。探してたんだ」

 

セルロイド人形を受け取り、神風の点滴が終わるのを待った

 

「綺麗な髪だな」

 

神風の髪の色は、赤みがかってツヤツヤしていた

 

「遺伝なんですって。みんな黒いのに、私はこんな髪色だから、みんなから好奇の目で見られて…」

 

「俺は綺麗だと思うぞ」

 

「綺麗…ですか⁇」

 

「俺の知り合いも、昔赤い髪だったんだ。そいつは自分の髪に誇りを持ってた」

 

「はぁ…」

 

「そいつは口煩くて、ケンカばっかしてたんだけどな、気付けば隣にいた。俺は多分、そいつの芯の強さに惚れたんだろうな…」

 

「私も、この髪に誇りを持っていいんですか⁇」

 

「そうだぞ。人と違うのは、自分にしか無いって事だ」

 

「ん…頑張ってみます」

 

「無理はするなよ」

 

点滴が終わるまで、話は絶えなかった

 

ギザギザ丸は待合室でジュースを飲んでいた

 

「今度はアップルジュースか⁇」

 

ギザギザ丸の横に座り、タバコに火を点けた

 

「病院だぞ⁉︎」

 

「この時代はいいんだよ。百貨店でも吸ってる奴居ただろ⁇」

 

「ったく…それでも医者かよ」

 

「俺は未来で医者なのか⁇」

 

「あ」

 

「ふっ…」

 

ギザギザ丸が「口が滑った‼︎」みたいな顔をしている所を見ると、俺は未来で医者をしているらしい

 

「それ位は教えてくれてもいいだろ⁇」

 

「…まぁ、それ位ならいいさ。確かにお父さんは、アタイ達が暮らしてる居住区で医者をしてる。簡単な手術もしてくれるから、人気モンだぜ⁇」

 

「それと、もう一つ…鹿島が嫁で無くなった以上、嫁は横須賀だな⁇」

 

「それは言えないな。だけど、この髪色は、お父さんの遺伝とだけ言っておくよ」

 

「…何と無く分かったよ」

 

「リヒターさん‼︎ギザギザさん‼︎ありがとうございました‼︎」

 

神風が帰って来た

 

「迎えはあるのか⁇」

 

「えぇ‼︎表に迎えが来ています‼︎」

 

「行こう」

 

病院から出ると、一台の車が停まっていた

 

「お父様、この方が私を助けて下さったの‼︎」

 

「これはこれは…」

 

俺は降りて来た人物に息が詰まりそうになった



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115話 救われた命のミライ(3)

「…隊長⁇」

 

「ソックリだな…」

 

車から降りて来た男性は、隊長にソックリだった

 

「娘を助けて頂き、ありがとうございます。私はこういう者です」

 

名刺を渡され、俺は理解した

 

 

 

”伊太利亜大使館

 

アラン・ヴィットリオ”

 

 

 

 

「リヒターです」

 

「アタイはギザギザ丸だ‼︎」

 

「お父様‼︎お屋敷にお誘いしても宜しくて⁇」

 

「そうだな。お二方共、どうぞお車へ」

 

アランさんに言われるがまま、俺達は車に乗った

 

 

 

 

「さぁ、着きましたわ‼︎」

 

「おぉ〜‼︎」

 

「スゲェな…」

 

案内された屋敷は立派な造りをしていた

 

この時代に車を所有、この家…

 

そしてあの職業…

 

どうやら相当な金持ちだ

 

「アタイは神風と遊んでっから、アランさんとゆっくりな‼︎」

 

「行きましょ‼︎」

 

ギザギザ丸と神風が別の部屋に行き、俺はアランさんと二人きりになった

 

「まま、飲んで下さい」

 

「ありがとう」

 

グラスにウィスキーが注がれ、二人は乾杯して、それを口にする

 

「この度は娘を救って頂き、本当にありがとうございます」

 

「いえいえ。お…私も必死だったモノで」

 

「ふふ…無理して敬語は使って頂かなくて結構ですよ」

 

「あ…分かった」

 

やはり、何処と無く隊長に似ている

 

「リヒターさん。貴方がたは珍しい服装をしていますね…外国のファッションですか⁇」

 

「あっ‼︎いや‼︎ま、まぁ、そんなモンだ‼︎あ、あはは‼︎」

 

「そうですか…⁇」

 

まさか未来から来たとは言えまい

 

「神風は貴方の…」

 

「あの子…神風は私の実の子ではないんですよ」

 

「何か事情がお有りで⁇」

 

「神風はアメリカの孤児施設で出逢った子でしてね。出生は不明ですが、日系のアメリカ人である事は確かです」

 

「それで赤髪だったのか…」

 

「テキサスの子ですよ。気が弱い所はありますが、ガッツはあります」

 

「確かに」

 

「お父さん」

 

ギザギザ丸が来た

 

「神風寝ちゃったぜ⁇」

 

「そっか…俺達も帰ろうか」

 

「あっ‼︎少々お待ちを‼︎」

 

アランさんは金庫を開け、桐の箱を持って来た

 

「これは私がアメリカに行った時、最新式の拳銃の試作品を頂戴した物です」

 

「いいモノだ…」

 

当時としては大変珍しい、オートマチック式の拳銃だ

 

グリップが木で出来ており、デザインにも凝っている

 

「どうぞお受け取り下さい」

 

「でもコレは…」

 

「娘の命には変えられません。それに、貴方は軍人とお見受けします」

 

人を見る目は、代々継がれるのな…

 

「分かった。有難く頂戴する」

 

桐の箱を受け取り、最後に子供部屋で神風の顔を見に行った

 

畳の床で、神風はスヤスヤ寝ていた

 

「…」

 

神風に革ジャンを被せ、たいほう達にしている様に髪を掻き上げ、寝顔を見た

 

「…未来で待ってるぞ」

 

神風の頭を撫で、俺達は部屋を出た

 

「…んじゃ行くぜ‼︎」

 

「あだっ‼︎」

 

部屋を出た瞬間、ギザギザ丸にケツを叩かれた

 

 

 

 

 

 

目を開けると、工廠の中に戻っていた

 

手元には、ちゃんとセルロイドの人形と桐の箱がある

 

「ったく…お父さんは凄いな」

 

ギザギザ丸もちゃんと帰って来ていた

 

「なんだ⁇未来が変わったか⁇」

 

「いんや。お父さんが助けたら未来はそのまま動き出した」

 

「ダメな方向にか⁇」

 

「自分の目で確かめるこったな。まっ、アタイが存在するって事は、大きくは変化してないから、心配すんな。じゃあな‼︎」

 

そう言い残すと、ギザギザ丸は帰った

 

「さてっ…」

 

 

 

 

 

 

表に出ると朝になっていた

 

「マーカス君‼︎ご飯よ‼︎」

 

貴子さんの作る朝食の匂いがする

 

「いただきます‼︎」

 

ササッと朝食を済ませ、グラーフに近付いた

 

「レイ。どうしたの。おっぱいなら横須賀さんの方がおっきいよ⁇」

 

「バカ。ほらよ」

 

グラーフにセルロイド人形を渡した

 

セルロイド人形を欲しがっていたのはグラーフだ

 

前々から着せ替え人形の服を作りたいと言っており、グラーフからしたらセルロイド人形の大きさがベストらしい

 

だから欲しかったんだ

 

「くれるの⁇グラーフに⁇」

 

「子供達の服作ってくれてる礼だ」

 

「ありがと…嬉しい」

 

相変わらず感情の起伏は小さいが、喜んではくれてるみたいだ

 

「隊長、俺ちょっと横須賀に用があるから行ってくるわ」

 

「気を付けてな」

 

一度工廠に戻り、机の上にあった新しい設計図を手に取った

 

そして、桐の箱の中にあったピストルを腰に挿し、フィリップに乗った

 

《レイ、そのピストルどうしたの⁇》

 

フィリップがすぐに気付いた

 

「貰いモンだ。綺麗だろ⁇」

 

《随分古いね》

 

「アンティークも良いモンさ」

 

 

 

 

 

横須賀に着き、執務室の扉を蹴破った

 

「頼まれてた設計図だ」

 

「ありがとっ。助かるわぁ〜」

 

横須賀はいつもと違い、上から何か羽織っている

 

「お前何で革ジャン着てんだ⁇珍しいな⁇」

 

「最近寒いでしょ⁇ちょっと羽織ったのよ」

 

「何処で買ったんだ⁇」

 

「これ⁉︎これは曾祖母の時代からずっとある物よ。凄く質が良いから何世代も着てるのよ」

 

「へぇ〜…」

 

しかし、何処かで見た革ジャンだ…

 

「その曾祖母ってよ、赤い髪の毛か⁇」

 

「そうね。テキサスの孤児だったらしいわ」

 

「…神風って名前か⁇」

 

「そうよ〜。何でアンタが知ってんのよ」

 

「さぁな〜。裏の刺繍見たら分かんじゃないのか」

 

分からぬ素振りを見せながら、俺は部屋を出た

 

 

 

 

俺が出た後、横須賀は革ジャンの刺繍を見てみた

 

金色の糸で縫われた文字は明らかに彼の名前だった

 

「もう…世代を超えても、好きな人は一緒なのね…」

 

横須賀は革ジャンを愛おしそうに頬擦りし、ハンガー掛け、しばらく見詰めていた…



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116話 PとT〜悲しみのP編〜

さて、115話が終わりました

今回のお話は、作者が大好きなあの子が、基地に”流れ着き”ます


たいほうは朝ごはんを食べたらリュックにオヤツや水筒を入れ、いつも通り砂浜へと遊びに向かった

 

「たいほう⁇今日はどこ行くの⁇」

 

「すなのおしろつくるの。おっきいのつくるよ‼︎」

 

「海に入っちゃダメよ⁇」

 

「わかった‼︎」

 

貴子さんはたいほうに靴を履かせ、たいほうを見送った

 

そんな二人を見て、俺は貴子さんを横須賀と照らし合わせていた

 

…アイツ、子供産まれたらちゃんと面倒見るだろうか

 

 

 

 

 

たいほうは砂浜に着くと、紙コップやスコップをリュックから出し、砂の城を作り始めた

 

「あっ」

 

砂浜の端を見ると、誰か倒れていた

 

たいほうはすぐに倒れている人に駆け寄り、傍らに座った

 

「ぽーら」

 

倒れていたのはポーラだった

 

たいほうはポーラを木の枝でツンツンつついてみた

 

「ん〜…」

 

「ぽーらおきて。こんなところでねてたらかぜひくよ⁇」

 

「あったかくて気持ちいいですて…」

 

少し肌寒くなって来たとはいえ、砂浜は太陽が照っていて温かい

 

「ぽーらながれてきた⁇」

 

「そうですて。ポーラ、提督と喧嘩して、ここに来たですて」

 

「くれさんとけんかしたの⁇」

 

「提督が悪いですて…」

 

ポーラはたいほうに事を話し始めた…

 

 

 

どうやら最近、呉さんは隼鷹に構ってばかりの様だ

 

それに嫉妬したポーラは、呉さんに甘えるが、呉さんは素っ気ない態度を示し、反抗してここに来たらしい

 

 

 

 

「ポーラ、ひとりぽっちは嫌いですて…」

 

「たいほうもひとりぽっちはきらいだよ」

 

「たいほうちゃん…分かってくれますか⁇」

 

「うん。たいほうもパパとあそびたいもん。でもパパ、いつもいそがしいの…」

 

「提督は忙しいですて」

 

たいほうはポーラに付いていたワカメや、刺さっていたウニを取りながらポーラの話を聞いていた

 

「ぽーらはじゅんようきらい⁇」

 

「ジュンヨーは嫌いじゃないですて。ジュンヨーは良い人ですて」

 

「たいほうはね、パパがいそがしいときは、ママとあそんだり、すてぃんぐれいとあそんだりするの」

 

「マーマ⁇」

 

「たかこさん‼︎」

 

たいほうは最近になって、貴子さんを”ママ”と言い始めた

 

少し前までは、ずっと”むさし”と言っていたが、隊長がママと教えた為、少しずつ呼ぶ様になって来ている

 

「ポーラ、ジュンヨーと遊ぶのはお酒飲む時だけですて」

 

「じゃあ、くれさんがあそんでくれないときは、たいほうとあそぼ⁇」

 

たいほうはニコニコしながら、ポーラの方を見た

 

「…たいほうちゃんは良い子ですて」

 

「ぽーら、たいほうとおふろはいろ⁇いっぱいわかめついてるよ⁇」

 

「お風呂入りますて」

 

たいほうはポーラを連れ、基地に戻って来た

 

「パパ、ぽーらとおふろはいってくる‼︎」

 

「おぉ。ポーラ来てたのか⁉︎」

 

隊長は新聞を読む手を止め、二人を見た

 

たいほうが少し取ったとは言え、ポーラの体には、まだ細かいワカメやゴミが付いている

 

「洗濯しておくから、着替えは私のシャツでも着てなさい」

 

「すみません…」

 

いつものポーラの元気が無い

 

ここは少し、たいほうに任せるのも良いかも知れない

 

 

 

お風呂に行くと、ポーラはその辺に服をポイポイ脱ぎ、先に浴場に入って行った

 

「ここにいれとく」

 

たいほうはポーラの脱ぎ捨てた服をまとめ、洗濯機の中に入れた

 

洗濯機は危ないので、たいほう達子供は近付く事は少ない

 

着替えた物を入れて、後は貴子さんやグラーフに任せている

 

「ぽーらきもちいい⁇」

 

「気持ちいいですて…ふぅ」

 

たいほうはポーラの横に座り、自身も軽く体を洗い始めた

 

「おふろはいったら、たいほうとびでおみよう⁇」

 

「砂のお城はどうしますて」

 

「おしろはまたこんどにする。きょうはぽーらといる」

 

「ありがと、たいほうちゃん…」

 

シャワーを終えた後、二人で湯船に浸かる

 

「あったかいですねぇ…」

 

「はい‼︎」

 

どこから持って来たのか、たいほうは小さな酒瓶を持っていた

 

「ポーラにくれるんですか⁉︎」

 

「ぽーらにあげる。たいほうはこっち‼︎」

 

たいほうはプラスチックの桶の中からグレープジュースを取り出し、それを飲み始めた



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116話 PとT〜反撃のT編〜

「はぁ…」

 

「おいしくない⁇」

 

「ポーラ、最近お酒飲んでないですて…」

 

「そのおさけ、すてぃんぐれいのおさけなの。ぼじょなんとかだって」

 

「おぉ…毎年味が変わるお酒ですて」

 

「…」

 

たいほうはグレープジュースを飲み干し、湯船から出た

 

「ぽーら‼︎たいほうとくれさんのところいこう⁇」

 

「たいほうちゃん…一緒に行ってくれるんですか⁇」

 

「いくよ‼︎たいほうといっしょなら、くれにかえれる⁇」

 

「…ありがとう」

 

この時、ポーラは気付いていなかった

 

たいほうがかなり怒っている事を…

 

 

 

 

脱衣所に戻って来ると”ポーラ”と書かれた紙の下に、着替えが置いてあった

 

「たいほう、ちょっとじゅんびしてくるね」

 

「ん」

 

たいほうを見送ると、ポーラは着替えを始めた

 

「ブカブカですて」

 

ポーラは意外に小さく、隊長の替えのシャツを着るとブカブカだった

 

食堂に戻ると、ソファに座っていたパパの横に座った

 

「似合ってるじゃないか」

 

「ニッポンの男子は”モエソ〜デ”が好きと聞きましたて」

 

「良く知ってるじゃないか」

 

ポーラはニコッと笑うと、テレビを見始めた

 

「よしっ‼︎ぽーら‼︎じゅんびできたよ‼︎」

 

何故かたいほうもブカブカの服を着ている

 

「たいほうちゃん。隊長さん、この服、借りてもいいですか⁇お洗濯して返しますて」

 

「ん。いいよ。もう帰るのか⁇」

 

「たいほうちゃんと帰りますて」

 

「そっか。たいほう、帰りは迎えに行ってあげるから、お電話するんだよ⁇」

 

「わかった‼︎」

 

たいほうとポーラは、呉に向かう為、基地を出た

 

 

 

「行っちまったな…」

 

「大丈夫かなぁ…」

 

俺ときそは、工廠から二人の様子を眺めていた

 

「大丈夫ですよ」

 

「姫⁇」

 

車椅子を自分で押しながら、裏口からWarspiteが来た

 

「てぃーほうには、特別な武器を渡してあります」

 

 

 

 

「…」

 

「何読んでるですて」

 

たいほうは海の上を走りながら、何かを見ていた

 

「ぽーら、これあげる‼︎」

 

たいほうはポシェットからキャラメルを出し、ポーラに渡した

 

「あまいものは、おちつくのにいいって、すてぃんぐれいいってた‼︎」

 

「ありがと…キャラメルは久し振りですて」

 

ポーラがキャラメルを口に放り込むのを見て、たいほうは微笑んだ

 

「みえてきたよ‼︎」

 

呉鎮守府が見えて来た

 

ポーラは不安を残したまま、執務室へと向かう

 

「あ…」

 

「ぽーら⁇」

 

不安に駆られたのか、ポーラは足を止め、その場にうずくまってしまった

 

「提督に冷たくされたら、ポーラ、耐えられないかも知れませんて…」

 

「だいじょうぶ。たいほう、さくせんがあるの」

 

「作戦ですか⁇」

 

「うんっ‼︎いこう‼︎」

 

たいほうはポーラの手を引き、執務室をノックした

 

「ただいま…」

 

「ポーラか。おかえり」

 

「て、提督‼︎ポーラ、一人で大佐の基地に行けましたて‼︎」

 

「そっか」

 

忙しいのか、呉さんはそっけない態度を取った

 

「くれさん」

 

ポーラの横にいたたいほうに気付き、呉さんは仕事を止め、たいほうの前に屈んだ

 

「たいほうちゃん⁉︎久し振りだね‼︎ポーラ連れて来てくれたのかい⁉︎」

 

「あのね。たいほう、くれさんにおはなしがあるの」

 

「なんだい⁇」

 

「あのね…んしょ」

 

たいほうはポシェットから何かを取り出した

 

「そ…それはなんだい…」

 

「これはうぉーすぱいとからもらった”せーなるばくだん”だよ」

 

「ばっ爆弾⁉︎」

 

それは、たいほうとポーラが基地を発つ少し前…

 

 

 

「きそ‼︎」

 

「たいほうちゃん⁇どっか行くの」

 

たいほうは工廠できそを引き止めた

 

「てぃーばくだんちょうだい‼︎」

 

「だっ、ダメだよ⁉︎アレは危ない爆弾なんだ‼︎」

 

「てぃーばくだんいるの」

 

「う…う〜ん…」

 

流石のきそでも、たいほうにT-爆弾を手渡すのは気が引けた

 

「何に使うんだ⁇」

 

そこにレイが来て、たいほうの前に屈んだ

 

「くれさんにぽいするの。ぽーら、くれさんがつめたいから、ないてるんだよ⁇」

 

「お〜お〜‼︎たいほうも一発かましたい年頃か⁇」

 

「いっぱつかます。たいほうおこってるの」

 

「けどなたいほう…たいほうが使うのにはまだ早いな。ホントに危ない爆弾なんだ」

 

「わかった…」

 

たいほうはトボトボと工廠を後にした

 

「てぃーほう」

 

工廠の裏でWarspiteが手招きしていた

 

「爆弾が欲しいのですか⁇」

 

Warspitの膝には宝箱が乗っている

 

たいほうは爆弾より、そっちの方が気になっていた

 

「ばくだんほしい。くれさんにぽいするの」

 

「では、これをあげましょう」

 

Warspiteはたいほうに上着を着せ、持っていた宝箱を開けた

 

「わぁ‼︎ばくだんいっぱい‼︎」

 

「これは”聖なる爆弾”です。説明書もあげましょう」

 

海上でたいほうが読んでいたのは、この聖なる爆弾の取り扱い説明書だ

 

「これ、ひとしなない⁇」

 

「死にませんよ。ビックリさせるだけです」

 

「ありがとう‼︎頑張ってくるね‼︎」

 

Warspiteはヒラヒラと手を振り、意気揚々と海原に出た二人を見送った

 

「ただの倦怠期とは思いますが…」

 

 

 

 

「たいほうのいうこときかないと、この”せーなるぴん”ぬくよ」

 

たいほうは聖なる爆弾に手をかけ、呉さんにジリジリと歩み寄った

 

「わ…分かった‼︎分かったから‼︎それっ‼︎」

 

呉さんは隙を見て、たいほうから聖なる爆弾を取り上げた

 

「こんなモノ持ってたら危な…」

 

たいほうは上着を広げ、呉さんを睨んでいる

 

上着の下にはなんと大量の聖なる爆弾が備えられていた

 

「ぜんぶばくはつしたら、たいほうもぽーらも、くれさんもしぬよ」

 

「ま、待て‼︎落ち着いてお話しよう⁉︎なっ⁉︎」

 

「たいほうおこってるんだよ⁇たいほう、おともだちなかせるひときらいなの」

 

「悪かった‼︎俺が悪いんだ‼︎」

 

「たいほうちゃん。もういいですて」

 

ポーラはたいほうの頭を撫で、少し寂しそうに微笑んだ

 

「提督。ケンタイ〜キなのは知っますて。でも、ポーラ寂しいですて」

 

「もうしないよ…ごめんな⁇」

 

「くれさん‼︎」

 

「はい‼︎」

 

「たまにはぽーらとおさけのんであげて。わかった⁉︎」

 

「分かりました‼︎」

 

「んっ‼︎よろしい‼︎」

 

ムフーと鼻息を立てた後、たいほうは部屋から出て行こうとした

 

「ぽーら」

 

「ありがとう、たいほうちゃん」

 

「こんどはたいほうとあそぼうね‼︎」

 

「うんっ‼︎ポーラ、い〜っぱいお菓子持って行きますて‼︎」

 

「ばいば〜い‼︎」

 

「ばいば〜い‼︎」

 

たいほうが去り、呉さんはようやく落ち着いた

 

「怖かったぁ…あんなに怒ってたとは…」

 

「提督…」

 

「ごめんな…もう一人にしないよ」

 

「ポーラ、一人ぽっちは嫌いですて…だから…」

 

相当嫌だったのか、ポーラは声を出して泣き始めた

 

呉さんはそんなポーラを抱き締め、今しばらく離さなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かならず”さん”でなげます。”ご”でなげるひとはろんがいです」

 

基地に帰って来たたいほうは、再び説明書を読んでいた

 

説明書を読んだ後、たいほうは聖なる爆弾を一つ手に取り、ピンを抜いた

 

「いち‼︎に〜‼︎ご〜‼︎」

 

 

 

たいほうはきそに発見されるまで、目を回して気絶していた…




聖なる爆弾…音だけする非殺傷兵器

Warspiteが持っていた手りゅう弾

中世をイメージした外見をしており、殺傷能力は無く、耳鳴り程度の音がするだけ

ただ、たいほうの様な子供が使うと気絶する

何かの映画をモデルにした爆弾かもしれない…


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117話 凶鳥達のアイドル〜凶鳥と雷鳥の集い〜(1)

さて、117話が終わりました

今回のお話は、ラバウルに訪問したレイときそ、そして照月のお話です

照月ときそは一体何をしているのか⁉︎


「HEY‼︎」

 

「へい‼︎」

 

アイちゃんの定期検診が終わり、俺はアレンと健吾と共に、執務室でコーラとポップコーンを食べていた

 

表ではアイちゃんと照月がチアダンスをしている

 

「アイちゃんはチアが似合うなぁ」

 

「最近ずっとあんな感じさ。まっ、士気は高まってる」

 

「上がるだろうなぁ。あの高クオリティなら」

 

アイちゃんは女の武器を理解している

 

チアの服装だって、見せる所は見せ、隠すべき所は隠している

 

素晴らしい具合に男心をくすぐる

 

定期検診をした時もそうだったが、年頃の女の子の匂いもする

 

…まぁ、若干アレンに似てなくもないのかな

 

横顔とか、何気無い癖とか

 

笑い方は確かにソックリだ

 

特に歯を見せて笑う所

 

ありゃあソックリだ

 

…イタズラする癖はまだまだ治ってないがな

 

この前も基地に遊びに来た時、ボーちゃんを投げ飛ばしたり、姫のティーカップにコーラをヒタヒタに入れたりと、体は成長しているが、脳は子供のままで止まっているらしい

 

たいほうは体の成長が遅く、脳の発達が最近早くなってきた

 

アイちゃんとたいほうは真逆の成長を見せている

 

横須賀が興味を見せるのも無理はない

 

「しっかし、急に成長したなぁ。前まで中学生位の身長だったのに、もう俺達に近い身長になってらぁ」

 

「アレンも大変でしょ⁇この前、アイちゃんに急に抱き着かれて階段から落ちたじゃん」

 

アレンも健吾も、相変わらず生傷が絶えない生活を送っている様だ…

 

「あれはチョット叱ったな…足捻挫したんだぞ‼︎」

 

「俺も照月に脊髄2回くらい持って行かれたな」

 

「照月ちゃん…」

 

健吾は表にいる照月を見て冷や汗を流した

 

「そう言えばキャプテンも崖から落ちてたな…」

 

「何それちょっと見たい」

 

「アイちゃんに追い掛け回されて落ちたんだ」

 

「よく生きてたな…」

 

「海にはまってたけどね」

 

「ただいまー‼︎」

 

きそとラバウルさんが帰って来た

 

きそは俺を見るなり抱き付いて、膝の上に乗って来た

 

「今日はどうだった⁇」

 

「新しい技教えて貰った‼︎ラバウルさん、ありがとう‼︎」

 

「いえいえ。私もっ、運動不足でねっ‼︎きそちゃんが来てくれると良い汗かけますよっ‼︎」

 

ラバウルさんは背伸びをしながら良い笑顔を見せた

 

「照月は⁇」

 

「外でチアダンスしてる。お風呂行ってくるか⁇」

 

「後にするよ。食べていい⁉︎」

 

「好きなだけ食べていいよ。アイちゃんが山程作ったんだ」

 

「いただきま〜す‼︎」

 

汗を流して塩分が足りないのか、きそはポップコーンをパクパク食べ始めた

 

「ジェミニさんとはどうですか⁇」

 

「ボチボチかな。金曜日は子供達を送った後デートしてる」

 

「それは良かった。私達はいつか二人が繋がると思ってましたからね‼︎」

 

「バレてたか…」

 

「終わったわ‼︎」

 

「チアダンスしたよ‼︎」

 

アイちゃんと照月も帰って来た

 

「キソ‼︎テ”ラ”ツキ‼︎BathにGoよ‼︎」

 

「てらつきも行く‼︎」

 

アイちゃんは何故か照月をテラツキと呼ぶ

 

照月もそれに合わせて、お風呂に向かって行った

 

「僕も入ってくる‼︎」

 

きそもお風呂に向かった

 

執務室には男衆だけが残り、全員一斉にタバコに火を点けた

 

「子供達の前では吸えませんからね…」

 

「健吾も吸ってたのか⁇」

 

「隊長が随分前に吸ってて、その…」

 

「傍にいたい、からか⁇」

 

「そんな感じです。当の本人やめてますけどね‼︎」

 

健吾以外の全員が笑う

 

「しかしまぁ、健吾も隅に置けませんねぇ。大和とケッコンして、二つ目の指輪はあみさんに渡すとは」

 

「愛した人には変わりありません。それに、隊長にも恩を返さないといけませんしね…」

 

「俺は誰に渡そうかな〜…」

 

タバコを咥えながら、アレンが天井を向く

 

「アレンはまだでしたか。そうですか…」

 

ラバウルさんが笑う

 

この言い方は、どうやら渡した様だ

 

「キャプテンは渡したんですか⁉︎」

 

「おおいに渡しましたよ」

 

「ヤベェ、重コンブームだ…」

 

実質、この場で重コンしていないのはアレンのみだ

 

俺は鹿島としていたので、一応経験はある

 

「ま、まぁアレン。間違ってもアイちゃんに渡すなよ⁇末代まで言われるぞ」

 

「それは無い‼︎娘だぞ⁉︎」

 

「単コンで良いんじゃないか⁇俺も現状は満足してる。隊長も貴子さん一人だしな」

 

「うん…そうだな」

 

重コンとは言え、本妻は一人だ

 

先にケッコンした方が本妻になる

 

少し前の俺が良い例だ

 

本妻は鹿島で、二人目が愛する人

 

愛人とゴッタにしてはいけない

 

二人共しっかりと愛している

 

ただ、やはり先にケッコンした方が愛されやすい

 

呉さんは隼鷹

 

ワンコは榛名

 

健吾は大和

 

ラバウルさんは…暁か

 

…もしかしたらラバウルさんの本妻はおおいかも知れない

 

おおいは北上にベッタリな時もあるが、基本はラバウルさんと一緒にいる

 

料理も上手いし、ちょっとした若妻感がある

 

…若妻⁇

 

ラバウルさん、そういう事か…

 

俺はラバウルさんの横顔を見ながら、コーラを喉に流し込んだ



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117話 凶鳥達のアイドル〜きその悩み〜(2)

「OK‼︎スッポンポンネ‼︎」

 

「てらつきもスッポンポン‼︎」

 

「僕もスッポンポ‼︎ん…⁇」

 

露天風呂では、三人の少女が”スッポンポン”になっていた

 

だが、きそだけは様子が違った

 

 

 

「どうしたのキソ⁇」

 

「きそちゃんも汗かいたでしょ⁇入ろうよ‼︎」

 

「う…うん‼︎」

 

僕は少し躊躇っていた

 

右を見ればボイン

 

左を見れば更にボイン

 

一人だけ小さい僕は、何だか取り残されている気がしていた

 

「ぐぬぬ…」

 

体を洗い始めても、目は二人のボインに行っていた

 

「MAMAが言ってた‼︎ここは汗が溜まりやすいから、ちゃんと洗えって‼︎」

 

「うおおおお…」

 

アイちゃんが洗う下乳に釘付けになる

 

「てらつきも洗うよ‼︎貴子さんも言ってた‼︎」

 

「うわわわわ…」

 

今度は照月の谷間に目が行く

 

「キソ⁇」

 

「さ、先に入ってる‼︎」

 

耐えられなくなった僕は、先に湯船に浸かる事にした

 

「たいほうちゃんが言ってたたまごってこれかぁ」

 

露天風呂の端っこの方にはネットがあり、その中に卵が入っていた

 

しかも大量にある

 

「アイちゃん。卵食べていい⁇」

 

「OK‼︎好きなだけ食べて‼︎」

 

コップの中に入っていたスプーンを手に取り卵を食べ始めた

 

「美味しい‼︎」

 

「てらつきも食べる‼︎」

 

「うひ…」

 

体を洗い終わった照月が、湯船をジャブジャブさせ、胸を振るわせながらコッチに向かって来た

 

恐怖を感じた僕は、コッソリもう二つだけ卵を取り、残りを照月に渡した

 

「いただきま〜す‼︎」

 

照月はネットを抱え、卵の殻を割っては、スプーンを使わずに口に入れる

 

「トロトロ〜‼︎」

 

照月は次から次へと卵を口に入れていく

 

「IOWAも食べる‼︎」

 

アイちゃんは丁度二人の中心に腰を降ろし、アイちゃんもネットを抱き締め、卵を食べ始めた

 

一気に卵が消えて行く

 

僕が一個食べる間に、二人は10個以上食べていた

 

やっぱり、いっぱい食べたら胸も大きくなるのかな⁇

 

貴子さんも大きいし、グラーフもパツンパツン

 

あ、姫も大きいな

 

やっぱりみんなよく食べてるや

 

「キソ、テラツキ‼︎コレ飲みましょ‼︎」

 

アイちゃんが持っていたのは、デカいペットボトルとコップ

 

中には得体の知れないジュースが入っている

 

「ササ、Drink、Drink‼︎」

 

アイちゃんがコップにジュースを入れて、僕達に渡してくれた

 

「甘っ‼︎」

 

「さくらんぼと、コーラの味がする‼︎」

 

「IOWAが作ったの。甘い⁇」

 

「でも美味しいよ⁉︎初めて飲む味かも‼︎」

 

確かに甘かったが、今まで飲んだ事の無い味だった

 

横須賀さんがよく飲んでる外国のサイダーに似てる感じもするけど、コッチの方が飲みやすくていいかも

 

「もう少し甘さを控えた方がいい⁇」

 

「そうだね…ちょっと甘過ぎるかな⁇」

 

「OK。もう少し抑えてみるわ‼︎」

 

「アイちゃん、もしかして自分で作ってるの⁇」

 

「YES‼︎IOWA、一度食べたお菓子やJuiceは全部作れるわ‼︎」

 

「凄いや…」

 

「てらつきと一緒にきゃんでぃも作ったよね‼︎」

 

「また作りましょ⁇今度はチュロス作るわ‼︎」

 

「テラツキ、チュロス好き‼︎すっごい長いの、一人で食べたいなぁ〜‼︎」

 

照月なら一人で食べるだろうなぁ…

 

時々、レイやパパが行商船で作ってるチュロスを買って食べてるけど、照月があんなので足りる訳がない…

 

お風呂から上がると、アイちゃんと照月は牛乳をパックごと飲んでいた

 

僕は瓶のフルーツ牛乳一本

 

何か凄ぉ〜く負けてる気がする

 

やっぱり全部胸に行ってるんだろうか…

 

「キソ」

 

「はいはい」

 

「いつかキソもBigなBustになるわ‼︎横須賀みたいにね‼︎」

 

「ホント⁉︎」

 

「ホントホント‼︎IOWAも急にBigになったわ‼︎」

 

そう言って、アイちゃんは自分の胸を持ち上げた

 

「アイちゃんはお母さんがナイスバデーじゃん。僕はレイがお父さんなだけなんだ…」

 

「No Poblem‼︎キソのMAMAは横須賀でしょ⁉︎横須賀はSuper Bustね‼︎」

 

「う、う〜ん…」

 

「キソ」

 

下を向く僕の顔を取り、アイちゃんは言った

 

「血の繋がりは無くても、横須賀はキソのMAMAよ⁇チョットFoolな所もあるけど、キソのMAMAである事に違いは無いわ。OK⁇」

 

「お、オーケー…」

 

「横須賀を見習えば、Bustも大きくなるわ‼︎テラツキ‼︎PAPAの所でポップコーン食べましょ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

アイちゃんと照月は先に脱衣所を後にした

 

「横須賀さんを見習え…か」

 

え〜と…ん〜と…

 

寝っ転がってお菓子食べて…

 

椅子思いっきり倒して漫画読んで…

 

レイにケチ付けて…

 

小さい子を怖がらせて…

 

お釣りチョロまかして…

 

 

 

いい所ないなぁ…

 

何でレイは横須賀さんを好きになったんだろ…

 

今度、レイに聞いてみようっと‼︎



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118話 魔性のお菓子

さて、117話が終わりました

今回のお話は、本来は11月11日に貼ろうと思っていたのですが、私自身が軽く入院してたので遅れてしまいました

申し訳ありません

叢雲が主役のお話です

余韻も含めてお楽しみ頂けたら幸いです


11月11日

 

この日、私はフィリップと二人で震電部隊の訓練に当たっていた

 

「私に楯突こうなんて…100年早いと思いなさい」

 

《うへぁ〜…疲れたぁ〜…でも流石はレイが造った機体だね‼︎スッゴイ強いや‼︎》

 

震電は強い

 

ヘラときそにはスピードで敵わないが、機敏に動く震電は二機を中途半端に惑わせていた

 

まさに眠れる獅子を叩き起こした…と言う言葉が似合う

 

訓練すれば、もっともっと強くなるだろう

 

「でもまぁ、無人機に教えられる時代が来るとは世も末ね」

 

《お嬢はレイさんと同じ位教えるのが上手いと思います‼︎》

 

《俺もそう思う‼︎》

 

《俺だって思ってるぞ‼︎》

 

震電部隊の連中から無線が入り、まだ若い男達が煩い位に私を持てはやす

 

「ヒヨッコに褒められても嬉しくないわ。私を護れる様になってから能書きたれなさい」

 

私がそう言うと、震電部隊から《イエス、マム》と口々に聞こえて来た

 

《ヘラは怖いなぁ〜》

 

「この位言った方が伸びるわ。犬や子分が優しすぎるのよ」

 

《ヘラが厳しくする分、僕達が優しくしないとね》

 

「飴と鞭ね。まっ、いいわ。私に着いて来れないレベルじゃ、実戦に出たら右往左往するだけよ」

 

《優しいねぇ〜ヘラは》

 

「何とでも言いなさい。私はこの指導法を変えるつもりは無いわ。さ、降りるわよ。ヒヨッコ共‼︎先に降りてご飯にしなさい‼︎」

 

震電部隊が先に降り、それに続いて私も降りた

 

《こういう所優しいんだよねぇ〜》

 

 

 

 

横須賀に降り、私達は格納庫に入った

 

「ふぅ…」

 

「よいしょ、っと」

 

私は叢雲に、フィリップはきそになり、用意されたシェイクを手に取った

 

「おかえりなさい。どうだった⁇」

 

外で様子を見ていた横須賀が来た

 

「まっ、雌犬よりは腕はあるわね」

 

「私、こう見えてもサンダーバード隊の一員なんですけど⁇」

 

「雌犬は飛ばない方がマシよ。じき犬の子供が出来るんでしょう⁇」

 

「え…えぇ…」

 

「なら大事になさい。雌犬がいなくなったら、犬が悲しむわ」

 

私はシェイクを飲みながら格納庫を出た

 

「レイの子供…」

 

「横須賀さん」

 

ボーッとする横須賀の服の裾を、きそはクイクイ引っ張った

 

「なぁに⁇」

 

「横須賀さんとレイの子供が出来たら、僕は捨てられる⁇」

 

きその疑問だった

 

今はレイの傍にいるが、レイと横須賀に子供が出来たら自分はどうなるの…かと

 

だが、横須賀の答えはアッサリと出た

 

「きそちゃんはお姉ちゃんになるわね⁇」

 

「お姉ちゃん⁉︎」

 

「そうよ〜⁇きそちゃんは面倒見が良いでしょ⁇私とレイも、きそちゃんが居たら助かるわ⁇きそちゃんが良ければ、ね⁇」

 

「う…うん‼︎ありがとう‼︎」

 

きそはホッとした

 

よく考えれば、レイは絶対に僕達を見捨てない

 

でもお姉ちゃんかぁ…

 

楽しみだなぁ

 

 

 

 

私は繁華街にある、あのケーキバイキングの店に行こうとしていた

 

「痛っ‼︎…もぉ、なぁに⁇」

 

風に乗って来たチラシが顔に張り付いた

 

「…ふ〜ん」

 

チラシはお菓子のフェアのお知らせだ

 

今日は長い棒状のビスケットに、チョコレートが塗ってあるお菓子の記念日らしい

 

「ちょっとアンタ。これはなぁに⁇」

 

たまたま通り過ぎようとした男性を引き止め、チラシを見せた

 

「君は…え〜と…」

 

「叢雲ちゃんだにゃ‼︎」

 

多摩と椎名は手にチラシに描かれていたお菓子を持っている

 

「猫。それはなんてお菓子⁇」

 

「これは”ポッキィ”にゃ。あっちでセールしてるにゃ‼︎」

 

「…美味しいの⁇」

 

「美味しいにゃ‼︎こうして食べるんだにゃ‼︎あかりちゃん、ほら、咥えるにゃ…」

 

目の前で多摩と椎名は一つのポッキィの端と端を咥え、互いに食べ始めた

 

「もっ‼︎もう無理‼︎」

 

椎名が途中でポッキィを離してしまった

 

「んふふ〜♪♪多摩の勝ちにゃ‼︎」

 

「頭おかしいのねぇ…そのポッキィは一人で食べるものでしょう⁇」

 

「美味しい物は好きな人と食べるともっと美味しくなるにゃ。叢雲ちゃんも誰かと食べると良いにゃ‼︎」

 

そう言って多摩は箱からもう一袋出して、私にくれようとした

 

「いいわ。自分のお金で買った方が向こうも喜ぶでしょう⁇」

 

「それもそうだにゃ。叢雲ちゃんも頑張ってにゃ〜‼︎」

 

多摩と椎名はラブラブカップルの様に去って行った

 

「今はあぁして公衆の面前でイチャコラするのが主流なのかしら⁇」

 

 

 

お菓子屋の前に来ると、カップルでごった返しになっていた

 

「なぁに⁇カップルしか食べられない物なの⁇」

 

「そんな事は無いわ‼︎一人でも美味しいわ‼︎」

 

少し行き遅れた感がする女性がお菓子を売っており、その中に目当ての物はあった

 

「頂戴するわ。幾ら⁇」

 

「一つ100円よ」

 

「はい」

 

100円を渡し、赤い箱を受け取る

 

去り際に子供達が店員に”BBA”と野次を入れていた

 

店員は泣きそうな顔になっていた

 

 

 

 

ケーキバイキングの店に入ると、きそと横須賀が待っていた

 

「おかえり。ポッキィ買ったの⁇」

 

「何かセールしてたわ」

 

「叢雲もポッキィゲームするの⁇」

 

「あんなバカ見たいな事しないわ。たまには一人で食べるのよ」

 

私はポッキィの箱を机の端に置き、ケーキを食べ始めた

 

「今日は照月ちゃんがいないから、潰れる心配はないわね」

 

「あの子は食べるのが好きなだけよ」

 

「僕で言ったら、物作りしたりするのと同じかな⁇」

 

「そう言えば叢雲ちゃんは好きな事ある⁇」

 

「あるわ。時々コンビニに行って、新しいお菓子とか食べたり、100円のコーヒー飲んだりするのが好きよ」

 

「体持てて良かった⁉︎」

 

きその言葉を聞き、飲んでいたコーヒーのカップを置いた

 

「そうね…チョットだけ、人を好きになれたわ」

 

 

 

私は人が嫌いだった

 

研究者は私の体を散々弄り回した挙句、二対いたもう片方を採用し、私は御役御免となった

 

ヤリ捨てられたのと一緒だった

 

それから犬と出逢って、私は空を飛ぶ喜びをようやく知った

 

犬に一度だけ言った

 

「汚れた体の私と飛んで楽しい⁇」と

 

犬は笑って答えた

 

「俺はお前を汚れた体と思った事は無い。だって、こんなに美しいボディなんだからな‼︎」

 

その時も私は、犬に対してキツい言葉を当てたと思う

 

でも、内心嬉しかった

 

犬だけは私を見てくれる

 

それだけで充分だった

 

 

 

「あらっ⁇私の旦那が好き⁇」

 

横須賀がイヤらしくニヤける

 

「好きじゃないわ。ただ…」

 

「ただ⁇」

 

好きかどうかと聞かれたら、体が熱くなった

 

あぁ、そうか

 

私、犬が好きなのか

 

「ただのパイロットよ。それ以上でも以下でもないわ」

 

「レイは自動的に女の子落とすよね」

 

「昔っからそうよ。傭兵を募るポスターのモデルになって、どれだけ女性パイロットが増えたか‼︎」

 

「犬は口だけじゃないわ。行動で示してくれるわ」

 

「ふふん♪♪」

 

「ふふふ♪♪」

 

きそと横須賀がニヤつく

 

「やっぱりレイが好きなんだ」

 

「う…」

 

「人を好きになるのは良い事よ⁇もっとさらけ出して良いと思うわ⁇」

 

「う…うん…」

 

恥ずかしくなって、今すぐにでもここから出たかった

 

 

 

 

「ばいばーい‼︎」

 

「じゃあね」

 

横須賀や震電部隊に別れを告げ、私達は基地に戻った

 

基地に着くと、格納庫の前で犬がソワソワしていた

 

格納庫に戻って来た二人を見て、犬は肩を降ろした

 

「待ては出来たかしら⁇」

 

「レイ〜‼︎」

 

カプセルから出て来た私を見るなり、犬は私達の頭を撫でた

 

「おかえり。心配したぞ⁉︎」

 

「待ては出来たかと聞いてるの」

 

「出来てる‼︎」

 

「あのね‼︎叢雲はレイが‼︎」

 

何か言いかけたきその口元に手を置いた

 

「言ったら承知しないわ」

 

「分かった分かった‼︎僕、お風呂入って来る‼︎」

 

きそが去り、工廠には私と犬の二人だけになった

 

「い…犬‼︎」

 

「どうした⁇」

 

「き…今日、横須賀でコレを買ったわ⁇」

 

私の手には、ポッキィの箱が握られている

 

「くれるのか⁇」

 

「そこに座んなさい」

 

犬を椅子に無理矢理座らせ、膝の上に乗って四つん這いになった

 

「叢雲⁇」

 

私はポッキィを一本咥え、犬の方に向けた

 

「ん」

 

「な…なんだよ…」

 

「はんらいがあからたえなさいよ‼︎」

 

「反対側から食えだぁ⁇」

 

「ほうよ。はあくしあさい」

 

「ん…」

 

犬は渋々、ポッキィを反対側から食べ始めた

 

サクサクと音がする度、犬の体温が近付いて来るのが分かった

 

「すろっふ‼︎」(ストップ‼︎)

 

「あによ⁇」(何よ⁇)

 

「ころあありゃうちゅーだ‼︎」(このままじゃブチューだ‼︎)

 

赤面する犬の顔を見て、私は犬の顔を抑えて一気にポッキィを食べた

 

「んぐっ…」

 

犬と舌を絡めた時、ほんのりとチョコレートの味がした

 

恐らく、私は未来永劫忘れないだろう

 

ネットの世界や情報では、ファーストキスはレモンの味と聞いたけど、それは間違いね

 

ファーストキスはチョコレートの味だったわ…

 

やっぱり、犬といたら知らない事をどんどん知れる…

 

唇を離し、もう一度軽くキスをした

 

「不満だったかしら⁇」

 

「レディからの誘いは断らないさ」

 

犬の膝から降り、ポッキィの箱を投げた

 

「今の私の唇と同じ味よ。味わって食べなさい」

 

「…サンキュ‼︎」

 

工廠から出た瞬間、動悸が凄くなった

 

「き…キスしちゃっ…た…」

 

産まれて初めてのキス

 

これだけ緊張して心臓が口から出そうな思いになる事を、雌犬は犬と平気でしてるのかと思うと、あぁ、私は雌犬には勝てないと感じた…

 

でもまぁ、これで犬も私が好きって事、少しは分かったでしょうに…

 

こうして、叢雲にとって特別な11月11日は終わりを告げた




ポッキィ…魔性のお菓子

カップルが購入すると、端と端を食べながら、先に離すと負けになるゲームが可能になる

成功するとブチューする事が出来る

現状、多摩が最強


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119話 シンデレラの愛鳥(1)

さて、118話が終わりました

今回のお話は、warspiteとレイのお話です

※チョットHかも


ある日の夜…

 

俺は部屋で時計を眺めながらタバコを吸っていた

 

「あっ…の…のぅ…」

 

「ゔっ…」

 

廊下から声がする

 

前にも言ったが、俺はオバケの類が物凄く嫌いだ

 

現代兵器が通用しないどころか、呪われたりするからだ

 

しかし、万が一子供達が苦しんでいる可能性もある

 

タバコの火を消して、ドアをソーッと開けた

 

隙間から見ると、壁伝いに歩いていた姫の姿が見えた

 

どうやら苦しんでいる様だ

 

「姫⁇」

 

「のっ、NO‼︎」

 

姫はお腹を押さえて震えている

 

床には何か水滴の様な物がポツポツと続いている

 

「よっ…と」

 

何も言わずに姫をお姫様抱っこし、浴場の横にあるトイレに向かった

 

「thank youマーカス…」

 

「気にするな。三分したら迎えに来る」

 

俺はトイレを出て、雑巾で廊下の水滴をパパッと拭いて戻って来た

 

「大丈夫か⁇」

 

「マーカス。その…」

 

「まだなら出るぞ⁇」

 

「お風呂…入っても良いかしら…⁇」

 

「分かった。行こう」

 

また姫をお姫様抱っこし、脱衣所に設置してある長椅子に姫を座らせた

 

「車椅子持って来るから、ちょっと待ってな」

 

「えぇ」

 

お風呂専用の車椅子と持って来る間、姫は着ている物を脱ぎ、胸元にタオルを巻いた

 

「よ〜し、準備完了‼︎さぁ行こう‼︎」

 

「ふふふっ。Sally go‼︎」

 

姫の”Sally go”は、いつ聞いても、さぁ行こうにしか聞こえない

 

シャワーの前に着き、車椅子をロックし、鏡越しに姫の顔を見た

 

「後は一人で出来るか⁇」

 

「洗って下さる⁇」

 

「…いいのか⁇」

 

「私もてぃーほうの様に洗って欲しいです。ワガママは承知の上です。お願い、マーカス…」

 

「分かった」

 

俺は姫の長い髪に手を掛けた

 

サラサラして、良い匂いがして、頭がクラクラする

 

「ん〜っ…てぃーほう達がマーカスの手を気にいるのが良く分かるわ‼︎」

 

気持ち良さそうにしている姫を鏡越しに見ながら、俺はシャンプー塗れになった手を動かし続けていた

 

「人を殺した手でもか⁇」

 

「そんな事言わないで。私は好きよ⁇」

 

「ふっ…相変わらず優しいなぁ、姫は…」

 

「マーカス⁇」

 

「何でもない。さぁ、前は自分で洗…え…」

 

姫は胸元に巻いていたタオルを取って、鏡越しに俺を見て微笑んだ

 

「嫁入り前の身体だ。そう簡単に触らせたらダメだ」

 

「マーカスだから良いのですよ⁇」

 

「…分かった」

 

時計をチラッと見た後、車椅子のロックを外し、姫を此方に向け、身体を洗い始めた

 

「気持ち良いか⁇」

 

「えぇ…とっても…」

 

いよいよ姫の胸に触れる

 

「やはっ…」

 

姫の身体が震えた

 

俺は手を離そうとしたが、姫は俺の腕を取り、自身の胸に当てさせた

 

「お…」

 

「マーカス…寂しいですか⁇」

 

「…」

 

今、俺の口から何か言えば、恐らくそれは全て嘘になる

 

俺は言いたくても、何も言えずにいた

 

「こっち見て、マーカス…」

 

「ん…」

 

姫に顔を持たれ、軽く口付けをする

 

「…やめてくれ」

 

「私では不満ですか⁇」

 

「違う。今日”だけ”はやめてくれ…お願いだ」

 

「ふふ…OK、分かったわ」

 

その後、俺は姫の身体を洗い、流石に下半身は姫に任せた

 

姫に背中を向け、姫にバレないように鏡越しに時計を見た

 

「OK。湯船に入って良いかしら⁇」

 

「行こう」

 

湯船の前で車椅子にロックをし、自分の手を湯船に入れ、まずは温度を確認

 

良い感じの温度だ

 

湯船のお湯をプラスチックの桶に入れ、姫に足を入れさせた

 

「熱くないか⁇」

 

「えぇ。良い温度ね」

 

姫は手を伸ばし、俺は姫を抱き上げて湯船に浸からせた

 

「thank youマーカス。ふぅ…」

 

「後は出来るか⁇」

 

「…マーカス。さっきから時計を見てるけど…何か用事⁇」

 

「あぁ」

 

「sorry…そうとは知らず私…」

 

「気にしないで良い。上がったら水分取るんだぞ〜」

 

「thank you」

 



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119話 シンデレラの愛鳥(2)

レイは一体何をしようとしているのか…

二人はどうなるのかな⁉︎


浴場を出た俺は工廠に向かった

 

棚にある大きなケースを取り、工廠の裏に来た

 

真っ暗だが、遠くの方でサーチライトが照らされているのが見え、月明かりが綺麗に海面を照らしていた

 

俺はケースを開け、サックスを取り出した

 

腕時計の時間を見る

 

「間に合った…」

 

秒針が12に差し掛かった瞬間、俺はサックスを吹き始めた…

 

 

 

 

「ん…」

 

俺のサックスの音で、貴子さんが目を覚ました

 

「子供達かしら⁇」

 

「貴子」

 

一緒に寝ていた隊長が武蔵を布団に入れた

 

「今日は許してやれ…俺達にとっては、今日は特別な日なんだ」

 

「…特別な日⁇」

 

「今日はな…」

 

 

 

 

サックスを吹き終え、次はハーモニカ

 

ハーモニカで奏でるのも、サックスで吹いた曲と同じだ

 

 

 

その頃、子供達もゾロゾロと起き始めていた

 

「すてぃんぐれいのはーもにか」

 

「綺麗な音…」

 

「なんだろ…何か悲しい音だね…」

 

 

 

 

ハーモニカを吹き終え、最後にギターを出した

 

「マーカス…」

 

お風呂に入ってサッパリした姫が、膝にいつも持っている箱を置きながら顔を見せた

 

「イギリスの曲が聞こえたわ⁇」

 

「夜風は身体に悪いぞ…」

 

「マーカスのジャンパーを借りたわ。温かいわね…」

 

「後で返してくれよ。大切な物だ」

 

ギターに手を掛けた時、姫は俺の横に来た

 

微笑む姫を見て、俺はギターを弾き始めた

 

しばらくギターを弾いていると、今まで大人しく聞いていた姫が口を開いた

 

「♪〜」

 

透き通る様な声で、姫はギターに合わせて歌った

 

いつまでも聞いていたい声ってのは、こんな声なんだろうな…

 

ギターを弾き終えると、姫はすぐに口を開いた

 

「”ありがとう”マーカス…」

 

「これで分かっただろう⁇俺の手は人を殺した手だって…」

 

「マーカス…」

 

今日は俺や隊長にとっては特別な日だ

 

一般市民を巻き込んだ、あの夜戦…

 

今でも忘れない、あの街の灯…

 

本当に美しかった…

 

この街の灯りの下には、一つ一つ…いや、それ以上の命があると良く分かった…

 

この街は護らなければ…

 

結果、俺達は街を護れた

 

だが、それは結果を見ればの話だ

 

市民が大勢犠牲になり、パイロットも大勢墜ちた

 

その中には勿論仲間だっていた

 

当時仲良くなった仲間も、その戦いで墜ちた

 

彼等は軍楽隊も兼ねたパイロットだった

 

俺はその仲間達が愛していた楽器を、それぞれが死んだ時間に合わせて、それぞれの楽器を演奏していた

 

それは彼等に宛てた曲でもあり、戦争の為に血を流した市民の為に宛てた曲でもあった

 

姫が礼を言った通り、あの夜戦はイギリスの街で起こった

 

姫も忘れる事が出来ないのだろう…

 

 

 

「この日が来る度、俺は人殺しだと分かる…仲間がどんどん死んで、俺は生き残った…そこに何か意味はあるんだろうか…」

 

「あるわマーカス。子供達と出逢えたじゃない‼︎」

 

「子供…か」

 

海面を見詰める俺を見て、姫は鼻でため息を吐いた

 

「…いいわマーカス。今日は特別な日にしてあげる」

 

姫は箱を開け、そこからまた小さな箱を取り出した

 

「私…車椅子に乗らなければ移動も出来ないわ…トイレだって、お風呂だって、誰かの力を借りなければ生きて行けないわ。でも、そんな時、マーカスはいつも嫌な顔せずに手を差し伸べてくれた…これはその御礼よ」

 

姫はその小さな箱を開けた

 

中にはネックレスが付いた指輪が入っていた

 

「あまり重たい意味で取らないで⁇これは、私から貴方に贈る尊敬を形にした物…それだけよ」

 

「姫…俺は‼︎」

 

姫は背伸びをして、俺の口を人差し指で止めた

 

「私が、その寂しさを埋めて差し上げます…貴方は背負いすぎです」

 

「…姫」

 

「無理にとは言いません」

 

「俺は…」

 

「マーカスっ‼︎」

 

姫は思い切り俺を抱き締めた

 

涙は出なかったが、物凄く安心した

 

あぁ、貴子さんが出撃の時に俺と隊長にしてくれるナデナデとハグと一緒の安心感だ

 

俺は、どこかで母性を求めていたのかも知れない…

 

「お願いマーカス…自分を責めないで…私も悲しくなります」

 

「分かった…」

 

「約束ですよ⁇」

 

「うんっ」

 

姫は俺を離し、俺は指輪を取った

 

「これからも変わらずに…ね⁇」

 

「ありがとう。似合うかな⁇」

 

鹿島と別れた後、左手の薬指には横須賀との指輪を付けているので、首には何も付けていない

 

俺は再び、指輪付きのネックレスを首から下げた

 

「ありがとう。大事にする」

 

「ふふっ。さぁ、帰りましょうか‼︎」

 

「さぁ、行こう‼︎」

 

「Sally go‼︎よ⁉︎」

 

姫の車椅子を押し、俺達は基地に戻った…




レイとwarspiteがコッソリケッコンしました‼︎


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120話 若妻達の白昼夢(1)

さて、119話が終わりました

今回のお話は、とある場所に大型ショッピングモールが開店します




ある日、全基地にチラシが配られた

 

 

 

”タウイタウイモール開店セール‼︎

 

食料品、家具、玩具等々…多種多様に揃えております‼︎”

 

 

 

 

「たういたういもーるだって」

 

「食料品だって‼︎照月も行きたいなぁ〜‼︎」

 

たいほうと照月は毎朝届く新聞と日報に挟まれたチラシを見るのが日課だ

 

中には本土にあるパチンコ屋のチラシもあり、子供達は裏にお絵かきをしたりしている

 

「パパ、たういたういもーるだって‼︎」

 

「行きたいのか⁇」

 

「じゃすこみたいなところ⁇」

 

「そんな感じかな⁇」

 

「たいほう、照月ちゃん⁇ママと一緒に行く⁇」

 

洗い物を終えた貴子さんが、タオルで手を拭きながら食堂に来た

 

「いく‼︎びすけっとかうの‼︎」

 

「照月も行く‼︎」

 

「じゃあ準備して来なさい⁇」

 

「「は〜い‼︎」」

 

たいほうと照月は子供部屋に戻り、タウイタウイモールに行く準備を始めた

 

「あなた。たまにはいいでしょ⁇」

 

「たまには羽伸ばして来い。二人を頼んだぞ⁇」

 

「ありがとっ。マーカス君、霞ちゃんも連れて行くわね⁇」

 

「二人のお目付役だな⁇」

 

「そっ‼︎」

 

貴子さんが連れて来た子供達に、隊長と俺はそれぞれお小遣いを持たせた

 

たいほうは3000円

 

照月も3000円

 

霞だけは5000円

 

たいほうと照月のお目付役代として、それぞれ1000円ずつ、合計5000円を、アヒルのがま口財布に入れた

 

「「「行ってきま〜す‼︎」」」

 

 

 

 

 

高速艇の中では、子供達が今日買う物の話をしていた

 

「たいほうはびすけっと‼︎」

 

「照月はお肉‼︎」

 

「私は…行ってから決めようかな⁇」

 

しばらくすると、照月が急に立ち、操舵室に向かって行った

 

「よいしょ‼︎」

 

「てっ、照月さん‼︎」

 

「イカさん‼︎この前はありがとう‼︎」

 

照月は礼儀を忘れない

 

この間、ハロウィンの時に多大なる迷惑を掛けた、高速艇の船長のイカさんにお礼を言いに来たのだ

 

「いえいえ。私も良い経験になりました」

 

「照月、イカさんのお陰でい〜っぱい‼︎お菓子貰えたんだぁ〜‼︎」

 

「それはようござんした‼︎船長冥利に尽きますなぁ‼︎ははは‼︎」

 

イカさんは照月が気に入っている様で、いつも照月が高速艇に乗った時はこうしてお話をしている

 

イカさんから見れば、照月は娘。照月にとっても、レイやパパ以外の話し易い男性位の認識だろう…

 

「さぁ、見えて来たよ」

 

タウイタウイの基地が見えて来た

 

「イカさん‼︎照月と行こう⁉︎」

 

「私はここで待ってるよ。照月ちゃんは楽しんでおいで⁇」

 

イカさんは思った…

 

一緒に行きたいが、多分体力や気力よりも先に財布が空になるだろう…と

 

タウイタウイに着き、子供達が降り、遅れて貴子さんも降りた

 

「みんないい⁇はぐれちゃダメよ⁇」

 

「かすみとおててつないだ‼︎」

 

「照月、カート持った‼︎」

 

「オッケーよ‼︎」

 

霞を中心に、左手にたいほう、右手に照月が着いた

 

三人はちゃんと貴子さんの後を、まるで基地にいる合鴨達の様に着いて行く

 

「オレンジジュースも買うんダズル」

 

「これマイクか⁇」

 

三人の前で、女性二人が話している

 

「お前は何も分かっとらんダズル‼︎榛名が取れと言ったら、ケースごと行くんダズル‼︎」

 

「お、オーケーマイク‼︎」

 

「照月もケースごと行く‼︎」

 

照月もジュースを箱ごと取り、カートの下に乗せた

 

「照月がいるダズル」

 

「今日はダイしないマイクか⁇」

 

榛名はカートを停め、霧島はダンボールを肩に担いだまま話している

 

「照月、もうダイしないよ⁇」

 

「そうか。それがいいダズル」

 

榛名が照月の頭を撫でている横で、霧島は貴子に目をやった

 

「どこかで見た事あるマイク…」

 

「いつも主人がお世話になっています」

 

貴子が頭を下げても、霧島は気付かない

 

啖呵を切らした貴子は霧島に言った

 

「この武蔵が相手になってやろう‼︎」

 

「あ〜っ‼︎おい榛名‼︎武蔵さんマイク‼︎」

 

霧島は驚いた様子を隠せないが、榛名は至って普通

 

「そんな事知ってるダズル。知らないのはお前だけダズル」

 

「見違える程綺麗になってるマイク‼︎」

 

「ふふ…ありがとう」

 

「じゃあ、榛名達も買い物するダズル。たまにはワンコに顔見せてやって欲しいダズル」

 

「バイバイマイク‼︎」

 

「バイバ〜イ‼︎」

 

照月が手を振り、二人を見送る

 

少し離れた所で、榛名と霧島は口喧嘩を始めながら、角に消えて行った

 

「たいほう、びすけっとほしい」

 

「じゃあ、お菓子の所行こっか⁇」

 

貴子は照月の手を”しっかり”握り、お菓子売り場に来た

 

「好きなの持っておいで⁇」

 

貴子がそう言うと、霞とたいほうが手を繋いだままお菓子売り場に行った

 

「照月もお菓子見たい‼︎」

 

照月は貴子の手を離そうとするが、貴子は手を離さない

 

「私と一緒にお菓子見るの嫌⁇」

 

「ううん。一緒にお菓子見る‼︎」

 

「んっ。良い子ね。はぐれちゃったら大変だから、ちゃんとおてて繋いでてね⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

そう言う貴子だが、本当は少し焦っていた

 

照月が誰かの手を離せば、それはタウイタウイモールの終わりである

 

そうなれば損害は計り知れない

 

絶対に離す訳には行かなかった

 

 

 

 

「あった‼︎たいほうのすきなびすけっと‼︎」

 

子供からすれば、お菓子売り場だけでも広大で、目移りする程のお菓子が沢山並んでいる

 

たいほうと霞は、数分かかってビスケットを見つける事が出来た

 

たいほうは棚からビスケットを取り、脇に抱えて、再び霞と手を繋いだ

 

「かすみはどれにするの⁇」

 

「これにしようかな⁇」

 

霞が取ったのは、硬めのコーラグミ

 

普段たいほうが食べているのを見て、急に食べたくなった

 

「アメリカのお菓子多いわね」

 

たいほうが抱えているビスケットもアメリカ製

 

霞のグミもアメリカ製

 

さっき照月がケース買いしたジュースもアメリカ製

 

タウイタウイモールは、どうやらアメリカと繋がっているみたいだ

 

貴子の所に戻って来ると、貴子は誰かと話していた



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120話 若妻達の白昼夢(2)

新規艦が一人出てくるよ‼︎


「やまと」

 

「あらたいほうちゃん。お菓子買いに来たの⁇」

 

「びすけっとかいにきたの」

 

たいほうは脇に抱えたビスケットの箱を大和に見せ、貴子の引くカートのカゴに入れた

 

「ヤマト‼︎IOWAこれにする‼︎」

 

アイちゃんは両手に抱えたお菓子を、大和の引くカートのカゴにドサァーっと入れた

 

「アメリカのお菓子いっぱい‼︎IOWA気に入ったわ‼︎あらタイホウ‼︎」

 

「あいちゃん‼︎」

 

少し前までたいほうとアイちゃんは良く似た身長だったのに、今ではアイちゃんがたいほうを抱っこするまでに、アイちゃんはデカくなった

 

「ぷるぷる」

 

「触ってもいいわよ⁇」

 

「やったね‼︎」

 

たいほうはアイちゃんの胸をつついたり、軽く揉んだりし始めた

 

この巨乳好きは一体誰に似たのか…

 

「てらつき、お腹空いたなぁ〜…」

 

「じゃあフードコートに行きましょうか‼︎」

 

「たいほうもいく‼︎」

 

「大和、そろそろ行くわね⁇」

 

「えぇ。旦那さんに宜しくとお伝え下さい」

 

「タイホウ、テラツキ。またIOWAとチアしようね‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

「たいほう、またぽんぽんしたい‼︎」

 

アイちゃんと大和と別れ、四人はレジに来た

 

「がむ」

 

たいほうはレジの横に置いてあったガムを二つ手に取り、貴子の後ろに並んだ

 

「一緒に入れる⁇」

 

「たいほうがかうの」

 

「そう⁇」

 

貴子の精算が終わり、たいほうはガムをレジのお姉さんに渡した

 

「200円です」

 

「はい‼︎」

 

たいほうは千円札をレジのお姉さんに渡し、お釣りの800円を受け取り、ガムとお釣りをポシェットに入れ、貴子の所に戻って来た

 

たいほうはカートの子供が乗る所に座り、霞はしっかりと照月の手を握り、照月はキョロキョロしながら、何とかフードコートに着いた

 

「何食べたい⁇」

 

「はんばーがー‼︎」

 

「私もハンバーガーがいいわ」

 

「照月、アレがいいなぁ〜」

 

照月の目線の先には”ステーキハウス・肉欲”のチェーン店があった

 

「霞ちゃん。たいほうお願いしてもいい⁇」

 

「分かったわ」

 

たいほうをカートから降ろし、霞と一緒に買いに行かせた

 

「照月も行く‼︎」

 

「照月ちゃんはお肉でしょ⁇私と行きましょ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

貴子は照月の手を”ガッチリ”握り、肉欲の前に来た

 

「タワーステーキください‼︎」

 

「私もそれを」

 

流石に牛一頭コースは無いが、厚切りのステーキが三枚も乗ったメニューがあったので、二人はそれに決めた

 

 

 

 

「ちーずばーがにこと、ぽてとのえむください‼︎」

 

「飲み物は何にしますか⁇」

 

「しろいしぇいく‼︎」

 

注文した品を紙袋に入れて貰い、たいほうはお金を渡して、紙袋を受け取った

 

「チキンバーガーとライスバーガー、ポテチのSとメロンソーダ下さい」

 

霞も紙袋を受け取り、近くの空いている席に座った

 

「ダ〜ンちゃん‼︎はい、あ〜ん‼︎」

 

「Il est délicieux‼︎」

 

隣でカップルが熱々のポテトを食べている

 

霞は見ていて胃に穴が開きそうになる位バカップルな二人を見ながら、たいほうとハンバーガーを食べ始めた

 

「がいじんさんだね」

 

「見ちゃダメよ」

 

「Bonjour‼︎Quel est votre nom⁇」

 

二人に気付いた外人さんがニコニコしながら話し掛けてきた

 

「しゃべった‼︎」

 

「Ne pas avoir peur。Mon nom est Commandant Teste」

 

「うぅ…」

 

「あっ‼︎たいほう、これもってる‼︎」

 

たいほうはポシェットから”きそリンガル”を取り出した

 

〜きそリンガル‼︎タウイタウイモールでも定価680円(税込)で発売中‼︎〜

 

「comment allez-vous?」

 

二人は急いできそリンガルを耳に付け、彼女の方を向いた

 

「あたしたいほう‼︎」

 

「霞よ」

 

「私はコマンダン・テスト‼︎宜しくね、たいほうちゃん、霞ちゃん‼︎」

 

日本語で聞こえたコマンダン・テストの声に、たいほうが反応した

 

「あっ‼︎たいほうしってる‼︎げんまかいさいこうのけんしでしょ⁉︎」

 

たいほうはハンバーガー片手に、両手を上げてポーズを取っている

 

「違うわよ‼︎それ別ゲーじゃない‼︎」

 

「だんてすじゃないの⁇」

 

「そっちじゃないわ。コマンダン・テストって言ってたでしょ⁇ゴーガンじゃないわ⁇」

 

「ざんねん…」

 

「ダンちゃ〜ん‼︎こっち向いてよぉ〜‼︎」

 

コマンダン・テストは男性の声の方に振り向いた

 

コマンダン・テストにデレッデレなのは、見覚えのある男性

 

「あら、総司令様。これはこれは…」

 

貴子と照月が、熱々のステーキを乗せた台を持って、二人の所に来た

 

「あ〜…えっと〜…たっ、貴子さん、だったかな〜⁇」

 

マズい所を見られたと、椎名は焦る

 

「奥様ですか⁇」

 

「き、今日は25回目の結婚記念日なんだ‼︎」

 

「はいっ、徹さん。あ〜んっ‼︎」

 

「あ〜んっ‼︎」

 

見ていてこっちが恥ずかしくなるレベルで、二人は激アツだ

 

「さぁっ、総司令様は後で呉の青葉ちゃんに言うとしてっ‼︎いただきます‼︎」

 

「いただきま〜す‼︎」

 

「俺達、青葉ちゃんに撮られても怖くないもんね〜⁇」

 

「大丈夫よね〜⁇」

 

「あ、もしもし。貴子です」

 

貴子は携帯を耳に当てるフリをした

 

「たっ、貴子さん‼︎お願いです、青葉行きだけは…」

 

「ふふふっ、冗談ですよっ‼︎」

 

貴子の横では、照月がナイフも使わずにステーキを食べていく…

 

反対派には、恐れる事が二つある

 

一つは蒼龍送り

 

これはストレートに死を意味する

 

そしてもう一つは、青葉送り

 

此方は社会的に死を意味する

 

総理と文月の様に上手く行けば好感度が上がるが、大概は社会的に死ぬ

 

今の所、青葉送りの実質的な被害は呉さんの精神のみだが、これから増えるかも知れない…

 

「さっ、今日はダンちゃんに鞄買うんだよね〜‼︎どれにする⁉︎」

 

「ダーリンが買ってくれるなら何でもいい‼︎」

 

「んも〜‼︎さっ、行こっ‼︎」

 

椎名はゴミを纏めたトレーを持ち、トレーを持った逆の手でコマンダン・テストと手を繋いで立ち上がった

 

「メルシー‼︎」

 

「ちぇるしー‼︎」

 

何故かメルシーだけフランス語のまま聞こえたが、気にしないでおこう

 

二人が去って数十分後…

 

「たべた‼︎」

 

「こっち向きなさい」

 

霞はハンカチで食べた物のカスだらけになったたいほうの口まわりを拭いた

 

「ありがと‼︎」

 

「んっ」

 

「照月も食べたよ‼︎」

 

とうの昔に、照月の前にある皿は綺麗になっていた

 

「美味しかった⁇」

 

「美味しかった‼︎照月、ステーキ大好きなんだぁ〜‼︎」

 

四人は御満悦の様だ

 

昼食を食べ終え、四人はおもちゃ売り場に来た

 

「Uちゃん、欲しい物あったら言ってね⁇」

 

「どれにしようかな…」

 

おもちゃ売り場には、見慣れた三人が居た

 

「ぐらーふ‼︎」

 

「たいほうちゃん。お買い物⁇」

 

グラーフを見たたいほうが彼女に抱き着く

 

「貴子さん⁉︎ご無沙汰です‼︎」

 

「いつもお世話になってます」

 

ミハイルと出逢うのは珍しい

 

普段はUちゃんと世界を飛び回る生活をしているので、レイでさえ逢うのは難しい

 

だが、今日はたまたま近くに寄ったので、グラーフを誘って、三人でここに遊びに来た様だ

 

「これがいい…な⁇」

 

Uちゃんが持って来たのは、塗り絵二冊

 

塗り絵は何処にいても静かに出来るので、大人しいUちゃんは気に入っている

 

「他は⁇」

 

「これでいい」

 

「じゃあ、食べたい物ない⁇」

 

「ん…ソフトクリーム、食べたいな」

 

「分かった。行こうね」

 

Uちゃんはグラーフに少し遠慮しているのか、安い塗り絵とソフトクリームしかねだらなかった

 

「照月、これがいいなぁ‼︎チョー☆ゴー☆キンロボ‼︎」

 

照月の腕には、高そうな超合金ロボの箱が抱かれている

 

「たいほうこれがいい‼︎きそとつくるの‼︎」

 

たいほうの両脇には、飛行機のプラモデルが二つ抱えらている

 

「私、これにするわ」

 

霞はブロックの入ったバケツを持って来た

 

それぞれ、思い思いのおもちゃを持ち、レジに並ぶ

 

たいほうは二つで1000円

 

霞は1200円

 

そして照月は…

 

「5600円です」

 

「はいっ‼︎」

 

照月は持っていないハズの万札を取り出し、レジに出した

 

「ありがとうございました〜」

 

超合金ロボを抱えた照月は嬉しそうに貴子の所に戻って来た

 

「てっ、照月ちゃん⁇あの一万円どうしたの⁇」

 

「ハロウィンの時に貰った‼︎」

 

「そ、そう…ビックリした…」

 

「照月、チョー☆ゴー☆キン、欲しかったんだぁ〜‼︎」

 

おもちゃをカートの下に乗せ、四人は船着き場に戻って来た

 

「フランクフルト‼︎」

 

船着き場の近くにフランクフルトのお店があり、照月はそれに気付き、繋いでいた貴子の手を振りほどいた‼︎

 

「て〜る〜づ〜き〜‼︎」

 

貴子の時間がスローになる

 

緩やかに流れる時間の中、貴子は思った

 

タウイタウイモールだけは、何とか回避出来て良かった…

 

「何本ありますかぁ⁇」

 

「何本⁉︎今あるのは、え〜と…25本だね」

 

「全部下さい‼︎」

 

「ぜっ、全部⁉︎」

 

「全部‼︎」

 

一時的ではあるが、やはりフランクフルトのお店は閉店に追い込まれた

 

両手に大量のフランクフルトを持ち、ホクホクの照月は、みんなの所に戻って来た

 

戻って来るこの短い道中で、既に4、5本減っている

 

「お腹空いてたの⁇」

 

「うんっ‼︎はいっ‼︎貴子さんにもあげる‼︎」

 

照月は全部一人で食べようとせず、三人にフランクフルトを配った

 

「照月聞いたんだぁ‼︎好きな物は、みんなで食べるともっと美味しいんだって‼︎」

 

「そう…あっ、ありがと…」

 

霞は恐る恐る照月からフランクフルトを受け取った

 

たいほうもフランクフルトを受け取り、霞の横で食べ始めた

 

「ん⁇」

 

ふと、歩いて行った女性に、たいほうだけが反応した

 

だが、みんなは気付いていない

 

たいほうは女性の赤い髪と、歩く度に揺れる胸、そして着た事も無い、風に棚引く白いワンピースに釘付けになっていた

 

「きれいなひと…」

 

たいほうはその女性が見えなくなるまで、ずっと魅入っていた…



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120話 若妻達の白昼夢(3)

貴子さん達がタウイタウイモールに行った次の日

 

今回はたいほうはおらず、きそとしおいが学校に行く為、横須賀まで送りに来た

 

「レイは横須賀さんとデート⁇」

 

「そうだ」

 

「たまには横須賀さんの言う事、全部聞いてみたら⁇多分面白いよ⁇」

 

「アイツの言う事ポンポン聞いてたら、3つ目位に”世界が欲しい”とか言い出しそうで怖いんだけどな…まっ、分かった」

 

「行ってきまーす‼︎」

 

「きそ‼︎フィリップ借りるぞ⁉︎」

 

「擦ったら直してね〜‼︎」

 

二人が校舎に入るまで、俺は校門の前に立っていた

 

「誰が世界が欲しいですって⁇」

 

「うひっ‼︎」

 

いつの間にか横須賀が背後に立っていた

 

今日はゆったりめの服を着ているが、やはり胸は主張をしている

 

「レイ、お願いがあるんだけど」

 

「世界以外だぞ⁇」

 

「違うわよバカ‼︎タウイタウイモールに行きたいんだけど…いい⁇」

 

「そのつもりでフィリップ借りた。行くぞ」

 

「やったね‼︎」

 

早速フィリップに乗り、インカムを付ける

 

「アイリス。出番だぞ」

 

マイクに向かってそう言うと、電子機器が起動した

 

《おはようございます。スティングレイ様》

 

「あらっ⁉︎きそちゃんは今日学校でしょ⁇」

 

横に座った横須賀が驚いている

 

いつもフィリップのAIを担当しているのはきそのハズ

 

なのに、知らないAIが俺と話しているからだろうな

 

「自己紹介しなきゃな⁇」

 

《初めまして、ジェミニ・コレット様。私は”IRIS”と申します。そのままアイリスとお呼び下さいませ》

 

「礼儀正しい子ね」

 

「アイリス、タウイタウイモールに行きたい。場所は分かるな⁇」

 

《畏まりました。現地へ向かいます》

 

自動操縦で、フィリップが横須賀から飛び立つ

 

空に上がっても、横須賀の頭には疑問が残る

 

「アイリスはきそちゃんじゃないの⁇」

 

「違う。アイリスはFlak 1に入っていたAIだ。アイリスはネットワークを行き来して無人機から無人機に出入り出来るAIなんだ」

 

「じゃあ、フィリップをハッキングした訳⁇」

 

《違います。普段、フィリップ様やヘラお嬢様、スペンサー様にはプロテクトがかけられており、入る事は許されていません。ですが、フィリップ様に限り、本日の様にきそ様として地に足を運ぶ際は、時折こうして入る許可を頂いております》

 

「はぇ〜…」

 

驚きっぱなしの横須賀を余所に、俺はリクライニングを倒し、後頭部の後ろに両手を回し、リラックスしながらアイリスに話し掛けた

 

「アイリス⁇横須賀は俺の何だった⁇」

 

《大切な人。若しくは妻と記憶しています》

 

「案外まともね…チョット貸して‼︎」

 

インカムを渡し、横須賀は更にアイリスと会話する

 

「レイの事好き⁇」

 

《父として認識しています。これが好き、と言う感情なら、私はスティングレイ様を好きなのだと思います》

 

「私の事はどう思う⁉︎」

 

《包容力と女子力が高そうとお見受けします。レイ様から料理が下手と教えられました》

 

「うぐっ…」

 

《スキャンデータによると、焼いたりする等、簡単な調理方法は可能になった様とお見受けします》

 

「そっ、そうよ‼︎火は便利よ‼︎」

 

「早く煮たり出来る様に頑張ろうな⁇」

 

《到着しました》

 

いつの間にかタウイタウイに着いた

 

《タウイタウイ管制室に連絡を入れておきました。提督がお待ちしております》

 

「了解。留守番頼むぞ」

 

《畏まりました》

 

フィリップから降りると、男衆が道を作り、その先に白い軍服を着た、如何にも提督な人物が立っていた

 

「何かしらね…」

 

「さぁな。照月が食い荒らした一件で、バッチバチに叱られりかも知れないな」

 

不安を抱きながら、その人物の元へと向かう

 

横須賀は、普段捻くれた事を言う割に、こう言う時はガッチリ腕を掴んで来ている

 

男衆は俺達が前を通る度にお辞儀をし、敬意を払う

 

どうやら、怒ってはいないみたいだ

 

「ようこそお越し下さいました‼︎」

 

「マーカス・スティングレイだ」

 

互いに握手を交わし、手を離した途端、彼は頭を下げた

 

「先日は部下が大変申し訳無い事を…」

 

「先日…」

 

「…新型機の事よ」

 

横須賀が言うまで忘れていた

 

「あぁ‼︎気にして無い。俺もデータが取れて良かったよ」

 

「これからは貴方がたの傘下に入ります。大した事は出来ませんが、御入用の際は何なりとお申し付け下さい」

 

「分かった。え〜と…」

 

「これは失礼しました。自己紹介がまだでしたね。私はストラットと申します」

 

「了解、ストラットさん」

 

ストラットは終始申し訳無さそうな顔をしていた

 

一応、あの一件からタウイタウイには監視の目が来ている

 

呉とトラックの二基地だ

 

何か不穏な動きがあればすぐに青葉と蒼龍が動く為、もうやる事は無いだろう…

 

 

 

 

ストラットと別れ、タウイタウイモールに来た

 

「もう大丈夫だろ⁇離してくれ」

 

タウイタウイモールに入っても、横須賀は腕を離さなかった

 

「嫌よ。はぐれたら大変じゃない」

 

言い返そうとしたが、今朝きそに言われた事を思い出した

 

「それもそうだな。しっかり握ってろ」

 

「あ…う、うんっ‼︎」

 

横須賀は満面の笑みを見せた

 

どうやら、きその言っている事も少しは当たっているみたいだ

 

「ゲームセンターが死ぬ程安くて、死ぬ程広いらしいわ‼︎」

 

「行ってみるか」

 

タウイタウイモールは屋上含め、四階建てになっている

 

一階は食料品売り場

 

二階はおもちゃや本等、諸々の雑貨売り場

 

三階は全部ゲームセンター

 

四階は屋上で、軽食と小さい屋外遊園地がある

 

俺達は三階のゲームセンターに来た

 

「ひっれ〜…」

 

階数丸々ゲームセンターともなると、その広さは圧巻だ

 

「あれしたいわ‼︎」

 

《金を寄越すDON‼︎》

 

横須賀が指差すのは、タイミング良く太鼓を叩いて音楽を奏でるゲームだ

 

「い、一回10円だと⁉︎」

 

「死ぬ程安いわね…これ最新機よ⁇」

 

横須賀がポンポン叩くその筐体は二台並んでおり、片方は女の子がやっていた

 

横須賀は10円を入れ、ゲームを始めた

 

「一番難しいので行くわ」

 

「無理すんなよ〜」

 

後ろにあったクレーンゲームでガムを取り、それを口に放り込みながら横須賀のゲームを眺める事にした

 

《難易度は”無慈悲”で行くDON‼︎》

 

「来なさい‼︎」

 

曲が始まり、横須賀は流れてくるマークに合わせて太鼓を叩く

 

見ている限り中々上手い

 

そんな中、ふと隣の女の子に目をやった

 

《難易度は”舐め腐り”で行くDON‼︎》

 

このゲームは”舐め腐り”が一番難易度が低く”無慈悲”が一番難しいらしい

 

女の子は曲を選ぶ画面で手を止め、横須賀の画面をジーッと見ていた

 

《パーフェクトだDON‼︎》

 

「やったわ‼︎」

 

俺は後ろでガムを膨らませながら、年甲斐も無くはしゃぐ横須賀を見ていた

 

「お嬢ちゃん⁇しないの⁇」

 

「あ…」

 

女の子は我に返った様に、自分の画面へと目を戻した

 

「お前が無茶苦茶するからやり難くなったんだよ‼︎」

 

「アンタもすれば⁇結構楽しいわよ⁇」

 

「どれっ…」

 

10円を入れ、スティックを握る

 

《男の癖に”舐め腐り”で行くDON⁇》

 

「なっ‼︎」

 

どうやらカメラがあり、プレイヤーの顔を認識出来る様だ

 

「舐め腐りでいい‼︎」

 

《彼女に良い所見せられないDON‼︎それでもいいDON⁇》

 

「叩き割るぞ」

 

《舐wwwめwwwくwwwさwwwりwwwで行くDON‼︎》

 

「こっ…こいつ…」

 

《とっとと曲を選ぶDON‼︎》

 

怒ってはダメだ

 

正直、握っているスティックで画面を叩き割ってやりたい

 

「構わないでいいよ…私、このゲーム好きだから」

 

女の子が口を開いたと同時に、ゲームが始まった

 

「そう言うな。連れが悪い事したな」

 

「…気にしてない。凄いね、あの人」

 

「あれでも妻なん…だっ‼︎」

 

難易度が一番低い癖に、やたらと難しい

 

《ずぁ〜んぬぇ〜ん‼︎下手くそすぎだDON‼︎》

 

「なんだと⁉︎もう一編言ってみろ‼︎」

 

《貴様はヘ‼︎ボ‼︎だDON‼︎》

 

その一言でカチンと来た

 

「よ〜し分かった。見てろよ…」

 

俺は筐体の鍵をピッキングで開け、基盤を取り出した

 

《何をするDON‼︎》

 

「俺に逆らった罰だ‼︎」

 

店員に気付かれる数分の間に口の悪いナビゲーションを変え、新しいシステムに切り替え、鍵を閉めた

 

「よし‼︎これでちったぁ反省すっだろ‼︎」

 

《次の曲を選んで頂きたいDON‼︎》

 

ナビゲーションの話し方は、完全に下から来ている

 

「はははは‼︎ざまぁねえな‼︎」

 

「うわぁ…スッゴイ丁寧」

 

スティックを握り、曲を選び、ゲーム再開

 

始まる寸前、チラッと女の子の方を見た

 

れーべとまっくすと同じ位の身長なのに、スティックを振る度、身長には不釣り合いに膨らんだ小ぶりの胸が振るえている

 

寡黙そうに見えて、一部分の発育は良いみたいだ

 

 

 

 

《素晴らしい結果だDON‼︎人間国宝並だDON‼︎》

 

ゲームが終わっても、ナビゲーションは、こちらが申し訳なくなる程低姿勢でいた

 

「よし、お前はこのままにしておこう‼︎」

 

この筐体、後に三階ゲームセンターで、一番人気の筐体となるのであった

 

「山風〜‼︎ご飯食べるよ〜‼︎」

 

「おかあさんだ」

 

ゲームを終えた女の子は、声のした方に振り向いた

 

山風と呼ばれた女の子を抱き留めた母親には見覚えがあった

 

「あれっ⁉︎隼鷹⁉︎」

 

「スティングレイか⁉︎久し振りだなぁ‼︎」

 

よく見れば、確かに山風と隼鷹は似ていた

 

特にあのクセの強いボリュームのある髪

 

色は違えど、間違いなく隼鷹の子供だ

 

「知り合い⁇」

 

「そう。お母さんもお父さんもお世話になってる人なんだ」

 

「山風ちゃ〜ん。抱っこさせて〜⁇いい子だから〜」

 

仲間内だと分かった途端、横須賀は山風に手を伸ばした

 

が、山風は隼鷹の背後に隠れ、少し怯えている

 

「何故よ…何故子供に嫌われるの⁉︎」

 

「おいでっ‼︎」

 

俺が手を伸ばすと、山風はすんなり寄って来てくれたので、彼女を抱き上げた

 

「何でアンタは子供に好かれまくるのよ‼︎」

 

「包容力の差じゃない⁉︎」

 

地団駄を踏む横須賀に隼鷹がツッコむ

 

確かに横須賀は、基地では駆逐艦の子達に邪険に扱われている

 

だが、それは完全に横須賀が悪い

 

子供に対して無闇矢鱈に蒼龍の話をしたり、大人でもチビる様な無茶苦茶怖い内容の本を夜中に読み聞かせをするからだ

 

決定力があったり、相手をリード出来る能力は素晴らしいが、子供の扱いと料理の腕はまだまだだ

 

「いつ産まれたんだ⁇」

 

「一か月前さ。旦那に夜中襲われてねぇ…」

 

「さぁ、山風。これをあげるから、今の話は忘れるんだ」

 

ガムを二つ渡すと、山風は素直に「うん」と言ってくれた

 

「今度、学校に連れて行くかも知れない。いいかな⁇」

 

「勿論‼︎たいほう達も待ってる‼︎」

 

「誰でも大歓迎よ‼︎」

 

「へへへ…ありがとう。山風⁇ありがとうは⁇」

 

「ありがとうございます」

 

「偉いなぁ山風は‼︎」

 

山風の頭を撫で、俺達は二人を見送った

 

「腹減ったな」

 

「上行って見ましょうよ‼︎」

 

横須賀に連れられ、屋上に向かう事にした



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120話 若妻達の白昼夢(4)

屋上では小さいながらも立派な観覧車があり、その周りに、これまた小さいながらも親子で楽しめる簡単な遊園地が出来上がっていた

 

「いらっしゃいまへ‼︎」

 

屋上に着くなり、プレハブで店を構えている女性から間の抜けた声が聞こえた

 

興味を示した横須賀はプレハブの前に行き、中に居た金髪の女性に話し掛けた

 

「これなぁに⁇」

 

「阿武隈ドーナツです‼︎試食ど〜ぞ‼︎」

 

つまようじの先に、小さく切ったドーナツが刺さっいるのを渡され、俺達はそれを食べてみた

 

「あら、結構美味しいわね…」

 

「甘さ控え目で中々だな」

 

「一個幾ら⁇」

 

「一個50円です‼︎」

 

「それ二つ。たまには奢ってあげるわ‼︎」

 

「サンキュ。向こうでコーヒー買ってくる。ホットでいいか⁇」

 

「うん。ブラックは嫌よ⁉︎」

 

「はいはい」

 

横須賀から少し離れた場所の自販機でコーヒーを買い、手元で軽く上に投げながら、また戻ろうとした時だった

 

「ん⁇」

 

すれ違った女性に何かを感じた

 

振り返ってその女性を見る

 

赤い髪…

 

風に踊るスカート…

 

此方を見る目…

 

向こうも振り返っているのを見ると、どうやら何かを感じたのは俺だけでは無いみたいだ

 

「綺麗な人だ…」

 

そう小声で言うのも無理なかった

 

初めて会ったはずなのに、何処かで会った気がする…

 

そう思ったのも束の間

 

女性は此方に向かって来た

 

「サラに御用ですか⁇」

 

「い…いや…」

 

「レイ〜‼︎コーヒーまだ〜⁉︎」

 

両手にドーナツを持った横須賀が来た

 

来た途端、横須賀は女性を見て食べている方のドーナツを手から落とした

 

「おっと‼︎」

 

何とかギリギリでドーナツをキャッチ出来た

 

「お…お母さん…」

 

「ジェミニ⁉︎」

 

「お母さぁん…」

 

数秒前までコーヒーでゴネていた横須賀の目からは、大粒の涙が溢れていた

 

二人は抱き合い、横須賀に至っては女性の胸で泣きじゃくっている

 

「死んじゃったかと思った‼︎」

 

「ごめんなさい…お母さん、ジェミニに心配かけたね…」

 

女性は横須賀の頭を撫で、落ち着かせ様としている

 

どうやら、女性の正体は横須賀の母親の様だ

 

数分後、まだしゃくり上げてはいるが、ようやく横須賀は少し落ち着き、女性の胸から離れた

 

「大丈夫よジェミニ。お母さん、ここにいるから。ねっ⁇」

 

「うんっ…」

 

横須賀の頭を撫で、女性は俺の方を向いた

 

「ジェミニ⁇この方は⁇」

 

「私の旦那…マヌケなの」

 

「変わった名前ね…」

 

「ちょいちょいちょい‼︎マヌケじゃない‼︎マーカスだ‼︎」

 

「マーカス…貴方、マーカス・スティングレイ⁉︎」

 

「そう」

 

「この度は基地の者が…」

 

そう言って女性は頭を下げた所を見ると、どうやらタウイタウイで勤務している様だ

 

阿武隈ドーナツの前に戻り、テーブルの周りにあった椅子に、三人は腰掛けた

 

「私はサラ・コレット。ジェミニの母です」

 

「お母さん‼︎むっ、娘さんと結婚させて下さい‼︎」

 

「ふふっ、面白いお方っ。此方こそ、娘を貰って頂き、ありがとうございますっ」

 

互いに頭を下げる

 

頭を下げた時、サラの首から下がったネームプレートと、横須賀に負けない谷間が見えた

 

「サラ…トガ⁇」

 

「えぇ、サラトガです。こう見えてサラは艦娘なんですよ⁇出撃しませんけどっ‼︎」

 

サラがガッツポーズを決める

 

性格は似てないが、こうして横に並べると確かに似ている

 

一昔前の横須賀にソックリだ、特に胸が

 

「お母さん、いつからここにいたの⁇」

 

「タウイタウイモールが出来る少し前からよ⁇お母さん、タウイタウイの秘書と、ここの店長してるの‼︎」

 

「もうずっとここにいる⁉︎セクハラ受けてない⁉︎」

 

「大丈夫よ」

 

「何かあったら言ってね⁇レイを使って迎えに行くから‼︎」

 

「本当ですよ。迎えに行きます」

 

普段周りの人間に敬語を使わない俺だが、サラには使わなければいけないのは分かる

 

「二人共ありがとう。そろそろ行かなきゃ‼︎ジェミニ⁇旦那は大切にしなさい⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

横須賀はこの日一番の笑顔を見せた

 

「マーカスさん。じゃじゃ馬ですが、娘を宜しくお願いしますね⁉︎」

 

「此方こそ、宜しくお願いします」

 

サラは忙しそうに下の階に向かった

 

「レイっ‼︎お母さん生きてた‼︎」

 

「良かったな…」

 

抱き付いて来た横須賀を抱き返し、サラと同じ様に頭を撫でた

 

 

 

お母さん…か

 

 

 

俺もいつか、本当の母親と出逢える日が来るのだろうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

「クシュン‼︎」

 

「かぜひいた⁇」

 

「大丈夫よてぃーほう」

 

 

 

 

 

 

 

 

昼過ぎ、子供を迎えに行く為、タウイタウイモールから飛び立った

 

相変わらず下では男衆が見送ってくれていた

 

「難儀な連中だぜ…」

 

「レイ。ありがと」

 

「なんだ急に」

 

「今幸せなの。幸せな内にお礼しておくわ」

 

「結婚してくれてありがとう」

 

「え⁉︎」

 

「アイリス。横須賀に帰ろう」

 

《畏まりました》

 

「ちょっと‼︎何て言ったのよ‼︎」

 

 

 

 

横須賀に着くと、学校からゾロゾロと子供達が帰って来ていた

 

「マーカスサン、サヨウナラ」

 

深海の駆逐艦の子が、俺に気付いて頭を下げた

 

「んっ、さようなら。寄り道すんなよ〜‼︎」

 

「レイー‼︎」

 

ドタドタ〜っと、きそが走って来たので、きそを受け止めた

 

「学校どうだった⁇」

 

「楽しかった‼︎」

 

「しおいも楽しかった‼︎」

 

しおいも帰って来た

 

「レイ‼︎あのね…」

 

どうやらきそもしおいも楽しめた様だ

 

「レイ…」

 

「どうした⁇」

 

夕日に照らされた横須賀は、いつもより綺麗に見えた

 

「また、連れて行ってね⁇」

 

「あぁ。楽しみにしてろよ⁇」

 

「…うんっ‼︎」

 

満足気な横須賀は、幸せなまま帰って行った

 

「上手く行った⁇」

 

「まぁな。いつもの倍は可愛かったな」

 

「良かった良かった‼︎えへへ」

 

 

 

 

帰りはきそがフィリップに入り、今日も1日、無事に終わった…




コマンダン・テスト…椎名さんの嫁

エクステの色が個性的なフランス人の元艦娘

海軍総司令官である椎名さんの嫁であり、椎名さんは彼女にデレッデレで、それは周りがドン引きする程

彼女も椎名さんにデレデレであり、未だに熱々のカップルの様な振る舞いをする

息子であるあかりが、中々恋が出来なかったのは、この濃い母親の所為でもある




山風…大人しフワフワ駆逐艦

呉さんと隼鷹の娘

性格は呉さん

外見は身長の割に胸がある事や、髪質で隼鷹に似ているとすぐ分かる

あまり他人に構って欲しくないらしく、ちょっとポーラが苦手

アーケードゲームより家庭用ゲームの方が得意であり、最近ようやくWi-Fiを手に入れた




サラトガ…横須賀のお母さん。未亡人空母艦娘

死んだと思っていた横須賀のお母さん

横須賀を隣に置くと一昔前の横須賀に本当に似ているが、横須賀は若干ツリ目である

少し抜けている気があり、人の言葉を鵜呑みにしやすいが、未だ誰も彼女を騙した事が無い

胸の大きさは完全に横須賀に遺伝している

今はタウイタウイモールの店長兼タウイタウイの秘書艦を兼任している





阿武隈…ドーナツ売りの子

タウイタウイモールの屋上のプレハブでドーナツを売っている金髪の女の子

”せ”が言えず”へ”になるのが癖

ドーナツは一級品で、生地にハチミツを練り込んでいるので、ヘルシーなのに甘くて美味しいと女性の間で評判になっている

10個買った時に”あぶくま”を漢字で正確に書くと1個追加して貰える


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121話 奇跡のモンブラン(1)

さて、120話が終わりました

今回のお話は、ず〜っと出そう出そうと迷っていた艦娘を出します

出さなかった理由⁇

とある人が入手するまで待ってたのです


「ぐわ〜‼︎さみぃ〜‼︎」

 

「あったかい物でも飲もう‼︎」

 

哨戒任務を終え、スカイラグーンに来たは良いが、降りた瞬間寒風に晒された

 

「さむさむさむ〜‼︎」

 

転がり込む様に喫茶ルームに入る

 

「おかえりなさい。寒かったでしょう⁇」

 

「寒いってモンじゃねぇぞ‼︎」

 

「こりゃあ、遠征部隊も一苦労だな‼︎」

 

二人して震えながらストーブに当たり、かじかむ手を温める

 

「おイ。温かイスープだ」

 

潮が両手にマグカップを二つ持って来た

 

「しんぱイするな。この前みたイに、ネコのスープじゃなイ。普通のコーンスープだ」

 

「サンキュー」

 

「ありがとう」

 

潮の作ったコーンスープは、粒が入っていて、味も濃くて美味しい

 

沸騰してなけりゃ、言う事無しだ

 

「任務ご苦労様です」

 

厨房にいたのはトラックさんだった

 

「冷蔵庫にモンブランを入れておきますね。体が温まったら、お召し上がり下さい」

 

「隊長食うか⁇俺は食う‼︎」

 

「三回ある一生の頼みを使っていいか⁇」

 

「一生の頼みは一回だけだ。分かったよ。取ってくる」

 

「すまん」

 

隊長はどうしてもストーブから離れたくないみたいだが、トラックさんのモンブランも食べたいらしい

 

「ほい」

 

「すまんな。トラックさん、頂きます」

 

「頂きます‼︎」

 

トラックさんはニコニコしながら、レ級の所にもモンブランを持って行っていた

 

スカイラグーンで束の間の休息が始まり、俺と隊長は足にストーブの温風を当てながらモンブランを口にした

 

「美味いな…疲れが取れる」

 

トラックさんのモンブランはお世辞抜きに本当に美味い

 

本人も作るのが得意なのか、艦娘達の人気も高い

 

艦娘人気が一番高い間宮のショートケーキに肩を並べる程、このモンブランは評価が高い

 

「隊長、俺も一生の頼みを使う」

 

「なんだ⁇」

 

「…たいほうには内緒にして欲しい」

 

「あぁ…ははは‼︎分かった分かった‼︎」

 

過去に一度、俺はたいほうがトラックさんに貰ったモンブランを食べてしまった事があるからだ

 

こんな事がバレたら、たいほうは照月に頼んで、どし〜んされても文句は言えない…

 

ようやく温まって来た体の力を抜きながらモンブランを食べる俺達から二席程離れた場所では、トラックさんとレ級がモンブランを食べていた

 

「美味しいかい⁇」

 

「オイシイ‼︎モンブランスキ‼︎」

 

「そうかそうか‼︎」

 

トラックさんはレ級の顔を見て、嬉しそうに微笑んでいる

 

基地では人食いの蒼龍に振り回されている為、もしかしたらトラックさんが癒される場所はここなのかも知れない…

 

「モンブランハ、クリノケーキ⁇」

 

「そう。レ級ちゃんは物知りだなぁ⁉︎」

 

「レキュウシッテルヨ‼︎クリノエイゴハ、まロんナンダヨね‼︎」

 

「正解‼︎」

 

「ん⁇」

 

楽しそうに話す二人を見て、何か違和感を感じた

 

「モンブラン、おいシいナァ〜」

 

「レ級ちゃん、ここどうしたの⁇」

 

トラックさんはレ級の顔に出来た傷に気が付いた

 

「ナンかデきてル⁇」

 

「ヒビ割れてるみたいになってる。何処かで打った⁇」

 

トラックさんが傷に触れた時、ヒビ割れの様な傷が更に伸びた

 

「スティングレイに診て貰おうか⁇」

 

「うン」

 

話が聞こえていたので、此方から出向いた

 

「どれっ。ちょっと見せてみな…」

 

見た限り、傷に対しての痛みは無い様だ

 

と言う事は、考えられる事は一つしか無い

 

「レ級ちゃんはさ、どんなお菓子が好きだ⁇」

 

「トラックサんのモンブラン‼︎あト、このマえタベた、まろングラッせ‼︎」

 

「トラックさんの事好きなんだな⁇」

 

「ウンッ‼︎トラックさんスき‼︎」

 

レ級の笑顔を見てホッとした

 

「傷は大丈夫だ。後はトラックさんといっぱいお話するんだ」

 

「分かっタ‼︎」

 

レ級の頭をポンポンと叩き、隊長の所に戻って来た

 

「時間の問題か⁇」

 

「あと一歩だ。よいしょ…愛ってのはっ、色んな形があって、面白いもんだ…」

 

ソファに腰掛け、タバコに火を点け、隊長と共に二人を眺める

 

「レ級も元の姿に戻るのか」

 

いつの間にか潮が隣に座っており、俺の横でモンブランをムシャムシャしながら二人を見ていた

 

「そうだ。お前のお母さんも戻っただろ⁇」

 

「スカイラグーンの人が減る。えらイこっちゃ」

 

どこで覚えたのか、潮は関西弁を喋っている

 

「トラックさん。レ級モ、トラックさンの所ニ行きタイ‼︎」

 

「いいよ。来るかい⁉︎最近、駆逐艦の子が増えたんだ。気にいると思うよ⁇」

 

「ホント⁉︎」

 

「君さえ良ければ‼︎」

 

「やったー‼︎」

 

と、レ級が両手を挙げた瞬間、ヒビ割れていた部分が崩れ落ちた

 

「来た‼︎」

 

「元に戻る‼︎」

 

「おぉ…」

 

まるでサナギから蝶に羽化するかの様に、ヒビ割れた後から赤髪の女の子が現れた

 

「やったぜ‼︎元に戻った‼︎」

 

「お…おおおおお…」

 

トラックさんは尻餅をついてまで驚き、声なき声を出しながらプルプルしている

 

「あんがとよ、トラックさん。あたしは”江風”‼︎これから宜しくな‼︎」

 

「よ…よろしく‼︎江風‼︎」

 

「おイ‼︎戻ったぞ‼︎すごイすごイ‼︎」

 

潮は嬉しそうに手を叩いているが、内心はここから人が減るので悲しいはずだ

 

「モンブラン、美味しかったぜ‼︎」

 

二人を繋ぎ止め、レ級を艦娘へと戻した、このモンブラン…

 

これから先、二人は忘れる事はないだろう…



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121話 奇跡のモンブラン(2)

数日後、トラック基地工廠…

 

「江風ちゃん‼︎遠心分離機に入ってくれますかぁ⁉︎」

 

「嫌だね‼︎またマロングラッセにされるのは勘弁だ‼︎」

 

「力づくでも入れますねぇ‼︎」

 

「うぉりゃ‼︎」

 

蒼龍は江風を抱えようとしたが、江風は反撃の構えを取り、逆に蒼龍を投げ飛ばして遠心分離機に放り込んだ

 

「出して下さいよぉ〜‼︎出さないと後で江風ちゃんを食べないといけなくなるんですよ〜⁇」

 

「知ったこっちゃないね‼︎いいか蒼龍の姉貴‼︎これから先、駆逐艦の子を食べないと誓うならこのボタンは押さない。どうする〜⁇」

 

江風はいやらしく蒼龍にボタンをチラつかせる

 

「じゃあ仕方ないですねぇ。どうぞ‼︎」

 

蒼龍は遠心分離機の中で正座をした

 

駆逐艦を食べられない様になるなら、多少グルグル回る気だ

 

「マジかよ…」

 

「早く押して下さいよぉ〜。」

 

「えぇい‼︎多少は反省しやがれ‼︎」

 

江風は遠心分離機のスイッチを押した

 

「ぐわわわわわわわわわ‼︎」

 

遠心分離機内で高速回転する蒼龍を見ながら、江風は出口にボウルを置き、遠心分離機から出て来たネリネリをそこに出した

 

いつも蒼龍がやっている様に、指にネリネリを付け、ちょっと舐めてみた

 

「んっ‼︎これは美味いな‼︎」

 

蒼龍を遠心分離機に入れると、甘い抹茶クリームが出て来た

 

「だだだだだだしてくだだだださい‼︎」

 

江風の目の前で高速で蒼龍が左から右への移動を繰り返す

 

「まぁ、そろそろいいか…」

 

スイッチを押し、蒼龍を排出口から出した

 

「おぶちっ‼︎」

 

アスファルトの上に放り出され、蒼龍は目を回す

 

「お腹すきましたねぇ…あ‼︎そうだ‼︎最近入ったあの筋肉質な人を頂きましょう‼︎」

 

 

 

 

工廠の中では、江風がボウルいっぱいに出た抹茶クリームを食べていた

 

「こりゃいけるぜ‼︎提督にも分けてやろう‼︎」

 

「早く来るんです‼︎じゃないと、今ここで足を切り落としますよぉ〜⁇」

 

「そ、蒼龍の姉貴…⁉︎」

 

蒼龍は両手足を縛った、筋肉質な男性を引っ張って来た

 

「江風ちゃんも食べますかぁ⁇筋肉質で美味しそうですよぉ⁇」

 

「い…いや…あたしは良いよ…」

 

「そうですかぁ⁇美味しいのになぁ…」

 

食べない江風の方が間違っている様な言い方をされながらも、江風は提督に報告する為、ジリジリと出口に向かい、外に出て来た

 

外に出てすぐ、執務室の方に走ろうとすると、誰かにぶつかった

 

「あだっ‼︎」

 

「どうしたんだ⁇そんなに焦って」

 

当たったのはトラックさんだ

 

隣には今日の秘書艦の飛龍がいる

 

「そっ、蒼龍の姉貴がまた人食ってる‼︎」

 

「またか‼︎」

 

「止めましょう‼︎」

 

急ぎ三人で工廠に向かうと、今まさに鉈を振りかざそうとしている蒼龍が見えた

 

「待てぇ〜い‼︎」

 

「江風ちゃん…気が変わりましたか⁇」

 

蒼龍は振りかざした鉈を降ろし、江風に向けた

 

「さっき食べるって言いましたよねぇ…江風ちゃんから頂いちゃおうかなぁ〜…」

 

「あたしを食べようなんざ十年早いぜ⁇」

 

「駆逐艦の分際で大した口聞きますねぇ‼︎」

 

「なんだと…幾ら姉貴でも堪忍袋の限界だ‼︎来な‼︎」

 

「小賢しい虫ケラが‼︎私の邪魔をするなぁ‼︎」

 

蒼龍は本気で江風を食べようと、鉈を振り回し始めた

 

江風は紙一重で蒼龍の鉈を回避しながら、隙が出る瞬間を待っていた

 

江風が戦っている間、トラックさんと飛龍は食べられそうになっていた男性を救出していた

 

「もう悪い事しまちぇん‼︎神にちかいましゅ‼︎」

 

「反省したなら宜しいでしょう」

 

男性は震えながらトラックさんにしがみ付き、トラックさんは彼を諭していた

 

「危ねぇモン振り回すな‼︎」

 

「なんの‼︎」

 

江風は蒼龍の持っていた鉈を蹴り飛ばし、それでも向かって来る蒼龍をそのまま後ろへ投げ飛ばした

 

「わあっ‼︎」

 

「ショルダースルー江風仕立てだっ‼︎」

 

「中々やりますねぇ…」

 

江風は立ち上がる蒼龍に近付き、そのまま担ぎ上げた

 

「どうする⁇負けを認めるか、このままアルゼンチンバックブリーカーをモロに喰らうか…選べ‼︎」

 

「アルゼンチンバックブリーカーで‼︎」

 

「ぬぅん‼︎」

 

「おぶっ‼︎」

 

江風は二倍ほど身長のある蒼龍にプロレス技を決め、ようやく決着が着いた

 

「言ったろ⁇あたしを食おうなんざ、十年早いって」

 

「よくやった江風‼︎」

 

この基地で唯一、力技で蒼龍を止められる人物が産まれた瞬間である

 

食べられそうになっていた男性は独房に戻し、江風と飛龍は担架で蒼龍を執務室のベッドまで運んで来た

 

「提督、怪我してないか⁇」

 

「大丈夫だ。江風は⁇」

 

「あたしは大丈夫さ。レ級の時の頑丈さが継がれてるみたいだな‼︎」

 

と、江風はガッツポーズを見せた

 

「う〜ん…ここは⁉︎」

 

蒼龍が目を覚ました

 

「おっ、蒼龍の姉貴‼︎起きたか⁇」

 

「江風ちゃん、強いですねぇ〜…」

 

「あんま人食うなよ⁇腹壊すぜ⁇提督のケーキの方がよっぽど美味しいっての‼︎」

 

江風の言葉を聞き、トラックさんは御満悦

 

「よしっ、みんなケーキ食べるか⁉︎」

 

「食べます‼︎ショートケーキが良いです‼︎」

 

「ミルクレープがいいですねぇ‼︎」

 

「ケーキ⁉︎」

 

四人の駆逐艦が雪崩れ込むように執務室に入って来た

 

「イチゴのケーキがいいわ‼︎」

 

「私も‼︎」

 

「浦波もそれがいい‼︎」

 

「磯波も食べたいです‼︎」

 

四人がてんやわんやする中、江風はトラックさんを見ていた

 

「江風は⁇」

 

江風は歯を見せて笑い、トラックさんに言った

 

「モンブラン‼︎」

 

トラックさんは江風の頭を撫で、皆で厨房へと向かって行った…

 

 

 

 

駆逐艦”江風”が、トラック基地に着任しました‼︎




江風…モンブラン艦娘

レ級から出て来た赤髪の女の子

トラックさんの作るモンブランが好きで、いっぱい動いたらご褒美として貰える

艦載機は積載出来なくなったが、レ級の頃の火力と雷装を受け継いでおり、逆らったら死ぬ

トラックさんに次ぐ蒼龍ストッパーであり、唯一力技で蒼龍を止める事が出来る為、トラックさんはようやく安眠を手にする事が出来た

飛龍が夜中見ているプロレス番組の影響でプロレス技をするのが得意

駆逐艦の子達からはボスと呼ばれているが、流石の江風でも、照月のどし〜ん‼︎には耐えられない




照月のどし〜ん‼︎とは…

照月がいっぱい食べた後にするボディプレスの事

流石のレイでも、これを喰らえばアバラが折れる

この技に耐えられる人物はいない


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122話 偽りの愛(1)

さて、121話が終わりました

今回のお話は、サラが横須賀にとあるお願いをした事から始まります


「ジェミニ」

 

横須賀の執務室が開けられた

 

入って来たのはサラだ

 

「お母さん⁉︎言えばこっちから行くのに‼︎」

 

長い時間離れていた為、横須賀はサラにすぐ抱き着く

 

「ジェミニ、あの…お願いがあるの」

 

 

 

 

 

一時間後…

 

「呼んだか⁇」

 

俺は横須賀に呼ばれ、横須賀の執務室に来ていた

 

理由は分からないが、至急と言われたので飛んで来た

 

いつもは明石がいるのに、今日は横須賀一人だ

 

「レイ。この写真見て」

 

横須賀の手元にある写真を取ろうとしたが、上に上げて取られない様にした為、余程大事な物らしい

 

「どれ…」

 

写真は、かなり年季の入った白黒写真

 

男性と女性が写っている、至って普通の写真だ

 

ただ、その男女に見覚えがあった

 

「俺達こんな写真撮ったか⁇」

 

「そう思うでしょう⁇この写真に写ってるの、私のお父さんとお母さんなの」

 

自分に見間違える位、男性は俺に瓜二つだった

 

そして、隣に写っている女性…サラもやはり横須賀とよく似ている

 

遺伝ってスゲェな…

 

「で…お願いがあるの」

 

「何だ⁇」

 

普通のお願いではなさそうなのは確かだが、何を頼まれるか全く分からない

 

「お…お母さんとデートして欲しいの‼︎」

 

 

 

 

 

一時間前…

 

「何これ‼︎私とレイじゃない‼︎合成写真⁉︎」

 

横須賀はサラからあの写真を見せられていた

 

「違うわ。この人は貴方のお父さんよ」

 

「うっわ〜…」

 

一昔前の赤みがかった髪の自分と、今とあまり変わらないレイがそこにいる様な写真に、横須賀は驚きを隠せない

 

写真の裏に書かれていた

 

マーク・コレット

 

サラ・コレット

 

の名を見て、ようやく自分達では無いと理解した位だ

 

「ボディラインも遺伝したら、タイプの異性も遺伝するのね…お母さん、マーカスさん見た時ビックリしちゃった‼︎で…相談なんだけど…」

 

「抱いたら承知しないからね」

 

「ジェミニは話が早いわね‼︎」

 

「電報入れたら、彼はすぐ飛んで来るわ」

 

「間宮で待ってるわ‼︎」

 

サラは意気揚々と執務室から出て行った

 

 

 

 

 

 

「って訳。お母さん、ちょっと抜けてるから、今日はアンタをお父さんと思って扱うと思うわ…」

 

「決定なんだな…」

 

「先払いでお礼しとくわ」

 

いつもは俺からするキスを、今日は横須賀からして貰った

 

多分、このキスは”ちゃんと私の元に帰って来い”と言う意味だろう

 

「これで断れないでしょ⁇」

 

「相変わらずズルいな…」

 

「大体私と同じ扱いで良いから。ねっ⁇」

 

「って言われてもなぁ…」

 

「お母さん、きっと寂しかったんだと思うわ…お願い」

 

横須賀は両手を合わせてスリスリしながら、涙目で此方を見詰めた

 

「そんな目で見られちゃ敵わないだろ…」

 

「ありがと‼︎助かるわ‼︎」

 

「ったく…失敗しても知らんからな‼︎」

 

「あっ、レイ。後コレあげるわ」

 

横須賀から受け取ったのは、俺が昔吸っていたアメリカのタバコだ

 

今は切り替えて日本のタバコにしているが、このタバコを吸うのは久し振りだ

 

「この前行商船で買ったの。アンタにあげるわ」

 

「サンキュ。切らしてたんだ」

 

タバコを受け取り、俺は間宮に向かった

 

 

 

 

 

「マーくんっ‼︎こっちこっち‼︎」

 

間宮に入ると、いつも俺達がだいたい座っている席にサラさ…サラが座っており、立ち上がって手招きしていた

 

マーくん…だと⁇

 

おちょくりも含め、レイ君とは呼ばれた事はあるが、マーくんは初めてだ

 

「待ったか⁇」

 

「ううん‼︎サラも今来た所よ‼︎」

 

「お待たせしました。ショートケーキとコーラです」

 

注文していないのに、俺が一人で来る時、いつも頼んでいるショートケーキとコーラが目の前に置かれた

 

「まだ頼んでないぞ⁇」

 

「サラが頼んだの。マーくん好きでしょ⁇」

 

「よく分かったな。頂きます」

 

「うふふっ。ど〜ぞ」

 

サラと横須賀は本当に良く似ている

 

ただ、気遣いはサラの方が上か…

 

「サラは食べないのか⁇」

 

「マーくんが食べるのを見るのが好きなの」

 

「…ほらっ」

 

俺はフォークに小さく切ったショートケーキを乗せ、サラの口元に置いた

 

サラはそれを口に入れ、唇でフォークに付いたクリームまで取る様にフォークを口から出した

 

「美味しいか⁇」

 

「うんっ…美味しいわ‼︎」

 

「ふっ…」

 

ショートケーキを飲み込み、サラは両手で頬杖をつきながら俺を見つめ始めた

 

「マーくん煙草は⁇」

 

「吸っていいか⁇」

 

内ポケットからタバコを出し、一本咥えると、サラはライターを手にしていた

 

「はいっ」

 

「すまん…ありがと」

 

「うふふっ。マーくん、いつもその煙草なのね」

 

サラがそう言い、横須賀がこのタバコをくれた意味がようやく分かった

 

「気に入ってるんだよ」

 

タバコを一本吸い、コーラを飲み干す

 

「ごちそうさん」

 

「い〜え」

 

財布を出そうとした時、間宮に止められた

 

「お代は頂いておりますよ」

 

「サラの奢りよ⁇」

 

いつも奢る立場に立っているので、久し振りに誰かにこうして食べさせて貰った気がする…

 

「ありがとう。どこ行きたい⁇好きな所言ってくれ」

 

「マーくんに着いて行くわ‼︎」

 

そう言って、サラは俺の腕に自身の腕を絡めた

 

横須賀より大きいバストを押し付けられるが、普段横須賀で慣れているので、あまり興奮はしなかった

 

間宮から出て、俺達は繁華街をブラブラし始めた

 

「レイさんなのです」

 

「浮気してるわ‼︎う〜わ〜き‼︎」

 

「なのです‼︎」

 

「う〜わ〜き‼︎」

 

「なのです‼︎」

 

雷と電は手拍子付きで俺をおちょくる

 

「浮気じゃない」

 

「嫁がいるのに他の女の人と歩いていたら浮気なのです‼︎」

 

「そうよそうよ‼︎」

 

「いいか、雷電姉妹よ…」

 

膝を曲げ、二人の肩を抱き寄せた

 

「触んなのです‼︎」

 

「変態‼︎悪魔‼︎」

 

「俺はこの人の旦那だ。騒ぐんじゃない」

 

そう言って二人を軽く睨んだ

 

「ひっ…」

 

「殺されるのです‼︎」

 

「分かったな」

 

「わ…分かったわ…」

 

「うぅ…」

 

「よしっ。良い子だ。正直な子には小遣いをやろう」

 

俺はポケットから1000円札を二枚取り出し、それぞれに渡した

 

「好きなもん買っていいぞ」

 

「あ…ありがと…」

 

「…シケてるのです」

 

「なっ何だと⁉︎」

 

金が足らないと思い、もう一度ポケットを弄った

 

「電は金がシケてるなんて言ってないのです‼︎シケてるのはレイさんの女たらしの性格なのです‼︎バイバイなのです‼︎」

 

「あ、ありがとう、レイさん‼︎」

 

「ちっ…あれじゃあタチの悪いカツアゲだぜ…」

 

「マーくん⁇」

 

「すまんすまん。行こうか」

 

「うんっ」

 

 

 

 

「レイさんお金くれたわ‼︎」

 

「ホントは良い奴かもなのです」

 

「君達」

 

「だっ、誰⁇」

 

「やめろなのです‼︎金ならやるのです‼︎」

 

雷電姉妹は何者かに頭を打たれ気絶した

 

「しまった…間に合わなかったか。しっかり護衛しなくては…」



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122話 偽りの愛(2)

繁華街の中にある雑貨屋に来た

 

店構えは小さいが、着る物やインテリア、後は棚卸しされたアニメグッズがあり、量は結構多い

 

「マーくん、何か欲しい物無い⁇サラが買ってあげる‼︎」

 

「そうだな…」

 

そう言えば、最近工廠で使うキーがどれがどれだか分からなくなって来た

 

キーは三つある

 

パソコンを起動するキー

 

試作段階の兵装を保管しておく部屋のキー

 

資料保管庫のキー

 

この三つだ

 

自分で作ったは良いが、どれも似ている為、たまに間違ったキーを挿しては一人でキレている

 

ここにあるマスコット付きの”コレ”を付ければ、どれがどれか分かるだろう

 

「これにしようかな⁇」

 

動物のマスコットが付いた”ソレ”を、サラに見せた

 

「可愛いの選ぶのね⁇」

 

「最近、キー間違いが多くてな…このストラッ”ピ”付けときゃ、どれがどのキーだか分かる」

 

「マーくんっ⁉︎」

 

「ん⁇」

 

サラは俺の目の前でストラッ”ピ”を見せた

 

「マーくん⁇今コレ何て言った⁇」

 

「ストラッピ」

 

「ストラッ⁇」

 

「ピ」

 

サラはクスクスと笑う

 

どうやら違っているらしい

 

「マーくん⁇これは”キーホルダー”よ⁇しかもストラッ”ピ”じゃなくてストラッ”プ”よ⁇」

 

「日本語は難しいな…」

 

「英語よ。え・い・ごっ‼︎」

 

この人をおちょくり、男心をくすぐる微妙な表情は完全に横須賀に遺伝しているな…

 

「マーくんはこれね⁇サラは…」

 

「コレなんかどうだ⁇」

 

近くにあったネックレスを取り、サラの首に付け、鏡の前に連れて来た

 

「似合ってるじゃないか」

 

サラの首に巻かれたのは、18金のネックレス

 

値段もそれ相応にする

 

「高いんじゃないの⁇」

 

「気にするな。黙って甘えてればいい」

 

「あっ…」

 

サラの頭をポンポンと叩き、ネックレスの代金を払う為、レジに来た

 

「あの子が付けてるネックレス、頂くよ」

 

「え〜と…三万円です。端数はオマケしておきますね⁇」

 

「これで」

 

代金を払い、サラの所に戻って来た

 

「いいのマーくん⁇サラにこんな高いの…」

 

「さっきの間宮とストラッピのお礼さ」

 

「サラもストラッ”ピ”買ってくるわ‼︎」

 

サラはレジに向かい、代金を支払いって戻って来た

 

「はいっ、マーくんっ」

 

「サンキュー」

 

ストラップの入った紙袋を受け取り、俺達は雑貨屋を出た

 

次に向かうは遊戯場

 

サラが”ビリヤードの腕前を見せてあげる”と言ったので、ここに来た

 

ここに来るのは霞の一件以来だ

 

「さぁ‼︎行くわよマーくん‼︎」

 

サラの目付きが変わった

 

サラはビリヤード台に胸を置きつつ、白球に狙いを定める

 

「いやぁ〜パネェなぁ、ボノさんは‼︎」

 

「ボノ言うな‼︎」

 

「あっ‼︎スティングレイさっ…」

 

後ろで聞き覚えのある声が聞こえた

 

が、振り向いた時には誰も居なかった…

 

「マーくん⁇ちゃんとこっち見て⁉︎」

 

「あ、あぁ。すまん…」

 

サラの谷間を見ながら、ビリヤードは進行していく…

 

 

 

 

「うぎゅぎゅぎゅ…誰⁉︎」

 

「彼等の邪魔はさせないぞ」

 

「はつっ…」

 

漣は何者かにCQCを喰らい、倒れた

 

「漣〜⁇ったく、どこ行ったのよ…」

 

「ボノか…あいつは心配ないだろう」

 

何者かはボノの顔を見て、倒れた漣を放置してその場を離れた

 

 

 

 

「マーくん上手ね〜⁉︎サラ、追い抜かれちゃった‼︎」

 

「昔からしてるからな。サラも上手だったぞ」

 

「またまた〜。サラはそんなお世辞聞きませんよ〜」

 

キューを持ちながら、サラはイタズラに笑う

 

片付けを済ませ、遊戯場から出ると、サラはまた腕を絡ませて来た

 

「暗くなって来たね…」

 

「すまん。俺の仕事が終わらなかったから…」

 

「ううん。マーくんが来てくれたからそれでいいの…」

 

そう言って、サラは俺に頭を寄せた

 

そんな彼女の頭をそっと抱き寄せ、額にキスをした

 

「…マーくん、お酒飲まない⁇」

 

「ん。いいよ」

 

俺達は最後に居酒屋に入った



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122話 偽りの愛(3)

「鳳翔さんの店か」

 

鳳翔の前のカウンター席に座る

 

サラは相変わらず俺の方を見ている

 

「ふふっ。貴方も大変ですね⁇」

 

「たまにはっ…いいもんさっ」

 

サラにタバコの火を点けて貰い、置いてある灰皿にタバコの灰を落としながら、会話を楽しむ

 

「マーくん、ビールでいい⁇」

 

「あぁ」

 

サラに言われ、ようやくメニューを開ける

 

居酒屋と言う割には、軽食やアルコールのメニューが多い

 

「生チュー二つと唐揚げをお願いします」

 

「はい。少々お待ちを」

 

やはりサラは俺の趣味を知っている

 

俺は趣味思考まで、サラの旦那に似ているのだろうか…

 

「サ…」

 

「あはははは‼︎男なんてシャボン玉よ〜‼︎」

 

後ろの座敷の席で、少し行き遅れた感のある女性が酔っ払って騒いでいた

 

どうやら合コンみたいな男女の集まりが終わり、取り残された様だ

 

「あんたも独り身〜私も独り身〜‼︎」

 

「黙って飲め‼︎」

 

隣で怒鳴っている男には見覚えがあった

 

「真田⁇」

 

「たっ、大尉‼︎任務ご苦労様です‼︎」

 

真田は俺に気付き、すぐに立ち上がった

 

「なぁに〜⁇この人イケメ〜ン‼︎」

 

「この方はマー…」

 

俺は急いで真田の口に手を置いた

 

「マーク・コレットだ」

 

「へぇ〜…マークさん、彼女いる〜⁇ん〜⁇」

 

「後ろにいる」

 

彼女は、俺の後ろで手をヒラヒラするサラの顔を見た

 

「へぇ〜…綺麗な人ね⁇」

 

「足柄。もう帰るぞ」

 

真田は足柄の手を引くが、足柄は諦めない

 

「い〜や〜よ〜‼︎何で私だけ行き遅れとか言われなきゃいけないのよ〜‼︎真田さんの相方だって、ピッチピチの豊満ギャルの彼女がいるのに〜‼︎」

 

足柄は机に伏せて泣き始めた

 

「マーカ…」

 

「マーク」

 

真田の顔を一瞬睨んで、ウインクをした

 

「あ…マークさん。申し訳ありません…ご迷惑をおかけして…」

 

俺は真田の肩を抱き寄せ、互いに後ろに振り返った

 

「お前自身はどうなんだ」

 

「…好きです」

 

思った通りだ

 

真田は足柄が好きらしい

 

じゃなきゃ、合コンみたいな集まりが終わっても一緒に居ない

 

「今が大チャンスとは思わんか⁇」

 

「ど…どうすれば…こういった事は苦手で…」

 

「いいか⁇こう言う時、女は誰かそばにいて欲しいんだ。あんま怒らず、付き添ってやれ。それだけでいい」

 

「了解です」

 

真田の肩をポンポンと叩いて、彼を送り出す

 

俺は席に戻り、横目でチラチラと二人の様子を眺める事にした

 

「どうせアンタもピッチピチの豊満ギャルが良いんでしょ〜⁇」

 

「そんな事は無い」

 

「じゃあキスしなさいよ‼︎キ〜ス〜‼︎」

 

足柄は真田に迫る

 

真田は何を思ったのか、足柄の後頭部に片手を回し、思いっきりキスをした

 

「んー‼︎」

 

足柄は、まさか本当にキスされると思っていなかったのだろう

 

目を見開いて、必死に真田を離そうとしている

 

「なっ…何すんのよ‼︎」

 

「これで分かっただろう」

 

「何がよ‼︎」

 

「私は足柄が好きだ。誰も貰わないなら、私が貰う。いいな」

 

「あっ…」

 

足柄の目は完全に女になっていた

 

「帰るぞ」

 

「…うん」

 

「大尉。我々はこれで。お邪魔しました」

 

「んっ。気を付けてな」

 

帰る時の真田は、いつもの様にシャキッとしていた

 

…ピッチピチの豊満ギャルって、多摩の事か

 

「マーくんの知り合い⁇」

 

「まぁな」

 

「お待たせしました」

 

ビールと唐揚げが置かれた

 

「此方は付け合わせです」

 

鳳翔はタコの酢和えを出してくれた

 

「うっ…」

 

タコは好きだが、酢和えにはキュウリが入っていた

 

だが、食べない訳には行かないと思い、割り箸を割った時、タコの酢和えが横スライドした

 

「ダメよマーくん。マーくん、瓜科のアレルギーでしょ⁇サラが食べるわ‼︎」

 

「あ…ありがと」

 

「し、失礼しました‼︎別の物を‼︎」

 

鳳翔は頭を下げ、代わりに枝豆を持って来てくれた

 

「申し訳ありません…」

 

「言わなかった俺が悪いんだ。気にしないでくれ」

 

申し訳なさそうにする鳳翔を尻目にタコの酢和えをパクパク食べるサラに、俺の疑問は更に深まった

 

「サラ」

 

「ん〜⁇なぁに⁇」

 

「…いや、何でもないよ」

 

今はサラの旦那に徹している事をふと思い出し、口を閉ざす事にした

 

「言ってよ〜」

 

「…俺の事、好きか⁇」

 

サラは笑顔を見せ、俺の肩に頭を置いた

 

「当たり前じゃない…愛してるわ…」

 

「そっか…」

 

「マーくん…」

 

サラは眠っていた

 

普段タウイタウイモールの店長と秘書艦を務めているサラにとって、こうして俺と逢うのは一時の幸せなのだろう

 

偽りの愛で、誰かの代わりの愛…

 

だが、サラにとってはかけがえの無い”旦那”とのデートなのだ

 

余程逢いたかったのだろうな…

 

じゃなきゃ、寝ながら涙は流さない

 

腕だって、離さないようにガッチリ掴まれている

 

こうして見ると、サラが愛おしく見えた…

 

「ご馳走さま」

 

「お代は結構ですよ」

 

「そんな訳には行かない」

 

「失礼な事をしたのです…それに、今回は事情が事情です」

 

「…分かった。次は大勢で来るからな‼︎」

 

「お待ちしております」

 

鳳翔は深々と頭を下げた

 

俺は何も言わずにサラを背負い、鳳翔の居酒屋を出た

 

外は既に真っ暗

 

人通りもほとんど無く、サラを背負ったまま、俺は横須賀の待つ執務室に足を向けた

 

「マーくん…」

 

道中、サラは寝言で俺の名を呼んだ

 

「ん⁇」

 

「行っちゃ嫌よ…」

 

その寝言を聞き、俺は背中にいるサラの顔を見た

 

「行かないさ。サラを置いては」

 

「…」

 

サラの返事は無い

 

寝言に返事をしてはいけないというが、返事をせざるを得なかった

 

執務室の前に着き、ドアを蹴って横須賀を呼ぶ

 

「おかえりなさい‼︎どっ…」

 

「しっ。寝てるんだ」

 

「あ…ごめんごめん…そこに寝かせて⁇」

 

いつも横須賀が横になってお菓子を食べているソファにサラを寝かせ、髪を上げる

 

「おやすみ、サラ…」

 

子供達にそうする様に、額にキスをする

 

「ありがと」

 

「楽しかったよ。今日は横須賀で寝るよ」

 

「私の寝室使っていいわ。浴場も使って⁇」

 

「サンキュ」

 

偽りの愛は、こうして幕を閉じた…

 

だが、俺にとって、胸を締め付けられる恋愛をしたのには間違いはなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マーくん⁇」

 

俺が去った執務室では、サラが目を覚ましていた

 

「お母さん」

 

「マーくんは⁇」

 

「…お父さんは帰ったよ」

 

「マーくん…どこ⁇」

 

サラは旦那の名を呼びながら、手て空を掴む

 

「お母さん…」

 

「マーくん…マーくん…サラを置いて行かないで…」

 

「や…やめてよ…」

 

「マーくんを返して‼︎ジェミニ‼︎マーくんを止めて‼︎」

 

「やめてよ‼︎」

 

サラの行動は段々と激しさを増し、横須賀はサラに対して声を荒げてしまった

 

「助けて‼︎マーくん‼︎サラ一人はもう嫌よ‼︎」

 

「…お母さん⁇」

 

虚ろな目で、叫ぶ様に旦那の名を呼び、横須賀は異変に気付き、サラを抱き締めた

 

「嫌ァッ‼︎イヤイヤイヤァァァッ‼︎サラのマーくんを返して‼︎返して返して返してぇぇぇ‼︎」

 

「お母さん⁉︎チョットお母さん⁉︎どうしちゃったのよ‼︎」

 

「サラ…また一人な…の…」

 

「…」

 

気絶したかの様に、サラは再び眠った

 

「お母さん…寂しかったのね…」

 

サラは本当にレイを旦那と勘違いしていた

 

本当に瓜二つだったのだ

 

何気ない仕草…

 

嫌いな物…

 

額へのキスの仕方…

 

抱き寄せ方…

 

旦那の癖と丸っきり一緒だったのだ

 

サラにとっては、死んだはずの旦那が、自分の所に戻って来たと勘違いしても無理はない

 

それ程、サラの旦那とレイは似ているのだ…

 

「提督‼︎叫び声が聞こえた‼︎」

 

「初月。今日はありがとう」

 

今日二人を護衛していたのは初月だ

 

「大した事はしていない。僕も久々の任務で楽しかったよ」

 

「ここは大丈夫よ。間宮でアイスクリーム食べて来なさい」

 

「んっ。ありがとう。頂くよ」

 

初月が去り、横須賀はサラの目尻に溜まった涙を払った

 

「また逢えるよ…」

 

「…」

 

パニックと軽い幼児退行を引き起こしてしまったが、サラの寝息は段々と落ち着きを見せた…

 

横須賀は胸を撫で下ろし、自身は椅子に座ってリクライニングを倒し、毛布を掛けて目を閉じた…

 

横須賀にとっても波乱の1日も、こうして幕を閉じた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…マーくん」



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123話 乙女達の内緒話(1)

さて、122話が終わりました

今回は多分明るいお話です 笑

最近、艦娘達の間で話題になっているものとは⁉︎


「あ〜っ…サブッ‼︎」

 

基地にも冬が来た

 

こんなに寒くちゃ、コーラを飲む手も止まる

 

俺のデスクの近くでは、たいほうときそが、床にマットを敷いて遊んでいる

 

「ん⁇」

 

パソコンにメールが来た

 

 

 

”美少女剣士きそちゃんへ

 

私と勝負して下さい‼︎

 

負けませんよ‼︎

 

ミントより”

 

 

 

「きそ。何か対戦依頼来てるぞ」

 

「ちょっと待っててね。どれどれ」

 

たいほうに待っている様に言い、きそは俺の横に来た

 

「ミントちゃんか。レイ、ちょっとやっていい⁇」

 

「たいほうと遊んでるから、終わったらシャットダウンしといてくれ」

 

「分かった‼︎」

 

たいほうの待つ所に行くと、たいほうは開口一番に言った

 

「といれいく」

 

「おっきいほうか⁇」

 

「うん」

 

「分かった。行こう」

 

基地のトイレは一応水洗だが、たいほう達子供が座ると嵌って大変な事になる為、大人がおまるを置かなければならない

 

「よっと」

 

たいほうをおまるの上に乗せる

 

「がーがーさん‼︎」

 

アヒルを模したおまるの頭をペチペチ叩くたいほうを見て、トイレの外に出た

 

「まりっ‼︎まりまりまり〜‼︎」

 

出す物を出しながら、たいほうは口で変な効果音を出す

 

「でた‼︎おちりふく‼︎」

 

トイレットペーパーを取る音が聞こえ、続いてカサカサと音がした

 

「おちり拭いたか⁇」

 

「おちりふいた‼︎」

 

中に入り、一応たいほうのお尻を確認する

 

ちゃんと拭いてある

 

パンツとスパッツを履かせ、抱えて手を洗わせた

 

「手洗ったか⁇」

 

「あらった‼︎」

 

たいほうを抱っこしたまま、また工廠に戻って来た

 

きそがパソコンに向かってニヤついている…

 

「よいしょ…」

 

たいほうを降ろし、きそに近付いた

 

「レイ、多分このミントちゃんと知り合いだよ」

 

「誰だ…」

 

「ちょっと話せば分かると思うよ」

 

きそはチャットを打った後、俺にゲームを代わった

 

画面では、きそそっくりなキャラと、黄緑色の髪の毛の女の子キャラが喫茶店で話している

 

 

 

 

美少女剣士きそ> こんにちは

 

ミント> こんにちは、レイさん

 

美少女剣士きそ> 俺の知り合いだって⁇

 

ミント> うん。お母さんの知り合い

 

ミント> お父さんもお世話になってるって

 

ミント> 言ってた

 

思い当たる人物は一人…

 

美少女剣士きそ> もしかして君の名前のイニシャルはY?

 

ミント> そう

 

美少女剣士きそ> なるほど。分かった。きそを宜しくな⁇

 

ミント> うん。きそちゃんはレイさんのお父さん⁇

 

美少女剣士きそ> お兄ちゃんだ

 

ミント> 私もお兄ちゃんって呼ぶね

 

 

 

 

「可愛い子でしょ⁇」

 

「スッゲェ可愛い子だ‼︎」

 

きそにゲームを代わり、たいほうの待つマットの上に戻って来た

 

「たいほうもあのげーむたまにする‼︎」

 

「誰かとお話しするのか⁇」

 

「うんっ‼︎たいほうもみんなとおはなしするの‼︎」

 

たいほうはポシェットから小さめのタブレットを取り出した

 

きそにでも造って貰ったのだろうか…⁇

 

「はい‼︎」

 

見せて貰ったタブレットの画面には”ファンタジー☆チャット”と表示されている

 

「ほんとはばんごはんたべたあとの、いちじかんしかしちゃだめなんだって、きそいってた」

 

「まぁな。目に悪いからな」

 

画面をタップすると、たいほうそっくりなキャラが出て来た

 

 

 

てぃーほう> てぃーほうきたよ

 

だずるがーる> 来たか。これをやるだずる

 

どこかで聞いた様な口調のキャラがハンマー片手に、たいほうのキャラに何か渡している

 

たいほうは姫から呼ばれる”てぃーほう”を名前にしたみたいだ

 

てぃーほう> やったね‼︎

 

てぃーほう> てぃーほうからはこれあげる‼︎

 

だずるがーる> すまんな

 

だずるがーる> 聖戦には先立つ準備が必要なんだずる

 

あいおあ> Heyだずるがーる‼︎あいおあからはこれあげる

 

横からアイちゃんソックリなキャラも来た

 

だずるがーる> すまん。本当にすまん

 

 

 

どうやらだずるがーるは何か企んでいる様だ

 

たいほう達が渡していたのは、何かの書類だ

 

「はるな、おりょうりのれしぴほしいんだって」

 

「たいほうも渡したのか⁇」

 

「たいほうはくっきーのつくりかた‼︎」

 

たいほうと話していると、タブレットから音が鳴った

 

 

 

だずるがーる> スティングレイ。そこに居るんだずるな

 

あいおあ> Dr.レイ⁉︎

 

だずるがーる> てぃーほうがいるなら、大佐かアイツが横にいるだずる

 

どうやらいるのはバレている

 

「はい‼︎」

 

たいほうからタブレットを受け取り、返信をする

 

てぃーほう> なんだ⁇

 

だずるがーる> 食い物のレシピを寄越すんだずる

 

だずるがーる> シチュー以外を作りたいんだずる

 

てぃーほう> 何作るんだ⁇

 

だずるがーる> ニムロッドが焼き魚が得意だずる。だずるがーるは他のがいいだずるよ

 

てぃーほう> ニムロッド⁇

 

だずるがーる> これを見るんだずる

 

だずるがーるから誰かのプロフィールが送られて来た

 

 

 

名前…ニムロッド

 

好きなもの…提督のtntn

 

嫌いなもの…ハンマー振り回す女

 

一言…26は勝利の数字にむ

 

 

 

大体の把握は出来た

 

だずるがーる> 魚料理以外がいいだずるな

 

てぃーほう> パスタとかどうだ⁇ソースも豊富で飽きないと思うぞ⁇

 

だずるがーる> レシピを寄越せ

 

あいおあ> てぃーほうが漢字話してるwww

 

てぃーほう> ほらよ

 

だずるがーる> 少し足りんが待ってやるだずる

 

てぃーほう> 何だと⁉︎

 

だずるがーる> またお礼はするだずる

 

だずる> じゃあな

 

だずるがーるさんがログアウトしました

 

 

 

 

「はるないたね」

 

「相変わらず口悪いな…」

 

「レイのも作ってあげるよ‼︎」

 

きそはパソコンで俺のキャラを作り始めた

 

「はい。後は決めてね」

 

「詳しいんだな⁇」

 

「このアプリ作ったの僕だからね」

 

「マジか」

 

「うん」

 

きそを膝の上に乗せ、ミニキャラの設定をする

 

 

 

名前…リヒター

 

好きなもの…コーラ

 

嫌いなもの…キュウリ

 

一言…体調悪い子だれだ‼︎

 

 

 

「レイらしいね‼︎」

 

「良いだろ⁇」

 

「後はカメラに顔見せて‼︎」

 

パソコンに内蔵されているカメラに顔を向けると、自分ソックリなキャラが画面に表示された

 

「おぉ‼︎」

 

「これで各基地の艦娘の子と会話出来るようになるよ」

 

「これで体調悪い子がいりゃすぐに行けるな」

 

「なるほどね」

 

すると早速誰かが来た

 

ミント> こんにちはリヒターさん

 

リヒター> やぁ

 

ミント> 始めたんだね

 

ミント> すぐ分かったよ

 

リヒター> 特徴的か⁇

 

ミント> うん

 

ミント> 男性のアバター一人だけだもん

 

リヒター> なるほどな

 

ミント> あのね

 

ミント> 最近、ポーラが体調悪いの

 

「早速仕事だね‼︎」

 

「顔見ないからこそ言いやすい事もあるかも知れんな」

 

リヒター> 症状は?

 

ミント> お酒飲んでないのに吐いてる

 

ミント> しかも最近太ったって一人で騒いでる

 

リヒター> 大体分かった

 

リヒター> すぐ行くから、ちょっと待っててくれるか⁇

 

ミント> うん

 

ミント> ありがと

 

ミントさんがログアウトしました

 

「まっ、考えられるのは一つだけどな…」

 

「たいほうもいく‼︎」

 

「きそ。たいほう乗っけて待っててくれるか⁇ちょっと準備して来る」

 

「分かった‼︎」

 

基地に戻り、執務室にいる隊長に報告をした

 

「呉に行ってくる。どうもポーラが妊娠してるらしい」

 

「そうか‼︎なら貴子を連れて行け。貴子‼︎」

 

隊長が貴子さんを呼ぶと、貴子さんは手を拭きながらすぐに執務室に来た

 

「はいはい。どうかした⁇」

 

「呉にいるポーラが妊娠してるらしい。頼めるか⁇」

 

「分かったわ。マーカス君。行きましょ⁇」

 

「貴子は元助産婦だ」

 

「そうだった。頼みます」

 

「うんっ」

 

貴子さんを連れ、フィリップに乗る

 

「たいほう⁇ママのお膝に乗る⁇」

 

「のる‼︎」

 

たいほうが貴子さんの膝の上に乗り、シートベルトを着けたのを確認し、フィリップのエンジンを吹かし、空へ飛ぶ



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123話 乙女達の内緒話(2)

《どんな子だろうね⁉︎》

 

「産まれてすぐワインボトルが抱き枕な子だったらどうするよ」

 

《ポーラの子だったら有り得そうだね…》

 

「マーカス君もウィリアムも、こんな風景を見ながら飛んでるのね…」

 

「戦闘機に乗るのは初めてか⁇」

 

「二式大艇はあるわ⁇」

 

「たいほうふぃりっぷのったこといっぱいある‼︎」

 

「たいほうは何回も乗ってるのね⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「マーカス君。いつもたいほうの事見ててくれてありがとう」

 

「俺にとっても娘みたいなもんだからな…」

 

《レイは子供作らないの⁇》

 

「これだけ出産ブームだから、ちょい焦ってはいるな…」

 

《たいほうちゃんでしょ⁇アイちゃんでしょ⁇山風ちゃんでしょ⁇そんで、ポーラの子でしょ⁇いっぱいだね‼︎》

 

「マーカス君の子は、きっと立派な子になるわ⁇」

 

「だと良いんだけどなぁ…」

 

話している内に、呉に着いた

 

貴子さんとたいほうを先に降ろし、執務室へ向かわせた

 

俺は簡単な医療機器をハッチから出し、一足遅れてきそと共に執務室に入った

 

「レイさん、御足労ありがとうございます‼︎」

 

呉さんから一礼を受け、事の発端を探す

 

「ポーラは⁇」

 

「隣の部屋に」

 

隣の部屋に入ると、ポーラはベッドの隅に座り、たいほうを抱っこしていた

 

「ん〜…あったかいですて…」

 

「ぽーらしんどい⁇」

 

「ポーラ、ちょっとデブってゲロ吐いてますて…」

 

「すてぃんぐれいにみてもらうの」

 

「大丈夫か⁇」

 

「おぉ、レイさん。ポーラ、ちゃんと禁酒してますて」

 

「んっ。良く頑張ってるな。ちょっと見せてみな」

 

ポーラの口の中や心音を見る限り、病気の類ではなさそうだ

 

「ちゃんと食ってるか⁇」

 

「最近、すっぱい飲み物が美味しく感じますて」

 

問題のぽっこりしたお腹に、特殊な聴診器を当てる…

 

ポーラの血流の音の奥に、もう一つ心音がある

 

予想通り、ポーラは妊娠していた

 

きそにアイコンタクトを送ると、持って来たタブレット出した

 

タブレットには、ポーラのお腹の内部が映し出された

 

耳に付けた聴診器を外し、ポーラのお腹にだけ聴診器を当てる

 

「見えるか⁇」

 

タブレットには赤ちゃんが映し出されている

 

「赤ちゃんがいますて‼︎」

 

「じき産まれるな。貴子さん、後はお願いします」

 

「分かったわ。さっ、ポーラ。横になりましょう⁇」

 

「貴子さん。そこにある程度の機器とお湯は入ってます」

 

「ありがと。流石ね」

 

「たいほうは俺と行こうな」

 

「わぁ」

 

たいほうを抱き上げ、貴子さんを残し、部屋から出た

 

ここは男の出る幕じゃない

 

「どうでしたか⁉︎」

 

「じき産まれる。貴子さんがいるから心配はない。しっかし…呉さんも元気だなぁ…」

 

「お父さん。きそちゃんが来たの⁇」

 

「あぁ。この子がきそちゃん。こっちの子がたいほうちゃん」

 

「初めましてかな⁇」

 

「あたしたいほう‼︎」

 

きそとたいほうは山風と遊びに行き、男二人が残された

 

「食堂で何か飲みませんか⁇」

 

「そうだな。頂くよ」

 

食堂で瓶のコーラを貰い、二人で飲む

 

「レイさん」

 

「ん⁇」

 

「ポーラのお腹の子は、私の子ではないかも知れません…」

 

「…どういう意味だ⁇」

 

「その…記憶が無いんです」

 

「ポーラとシたかどうかか⁇」

 

「えぇ…」

 

呉さんはかなり深刻に悩んでいた

 

ポーラと一緒に寝た事はあるが、事に発展した事は無いと言う

 

「心配ならDNA検査に出すが…どうする⁇」

 

「…幾らしますか⁇」

 

「金の心配はいい。するかしないかだ」

 

「…お願いします」

 

「オッケー。了解だ」

 

一時間後…

 

「オギャア」

 

「産まれた‼︎」

 

呉さんはいの一番にポーラのいる部屋へ向かった

 

確信が持てなくても、やはり産まれて来た子は可愛い事に違いなかった

 

「ポーラ‼︎」

 

「ほ〜らほ〜ら、お父さんですて」

 

出産直後の艦娘に立ち会うのは初めてだが、ポーラは既にピンピンしている

 

流石に赤ちゃんはポーラの腕の中にいるが、既に呉さんの目を見ている

 

「名前決めましたて‼︎」

 

「どんな名だ⁇」

 

「アサカゼにしますて」

 

「朝風⁇」

 

「この子、朝によくお腹を蹴ってましたて。それと、山風の名前を拝借しましたて」

 

「良い名だ」

 

「それに、提督襲ったのも朝ですて」

 

「え⁉︎」

 

「提督が悪いんですて‼︎ポーラが何回も何回も起こしたのに、起きない提督が悪いんですて‼︎」

 

「…あっ」

 

呉さんは思い当たりがあるのか、顔を真っ赤にして下を向き、俺達はクスクスと笑う

 

「良かった良かった‼︎」

 

「疑って済まなかった…」

 

「朝風を抱っこしたら許しますて」

 

ポーラから朝風を受け取り、呉さんは目に涙を浮かべていた

 

「あうあう♪♪」

 

朝風は父親に抱かれて嬉しいのか、呉さんの顔を触っている

 

俺は機器を片付けながら呉さんに話した

 

「数日後には言葉を理解して返答する様になるし、歩き回る様になる」

 

「山風がそうでした。大体一緒ですか⁇」

 

「大体一緒と思う。性格は違うかもな⁇」

 

「また、何かあったらご相談しても良いですか⁇」

 

「いつでも」

 

「さぁ、お母さんの所に行こうな」

 

呉さんは朝風をポーラに返し、気疲れしたのか、部屋を出た

 

「朝風は良い子ですねぇ〜」

 

ポーラは朝風を溺愛しそうだ…

 

そんな二人を見ていると、窓の外から声がした

 

「わーい‼︎」

 

表で子供三人が遊んでいるのが見えた

 

「ふっ…」

 

子供達を見て、ふと笑みが零れる

 

「マーカス君も子供欲しい⁇」

 

「まぁな…鹿島との間には出来なかったからな…」

 

「あら…どうして⁇」

 

「鹿島は俺を愛してなかった…それだけさ」

 

ため息混じりで窓の外を見ながら癖の様にタバコの箱に手を掛けたが、すぐにポーラと朝風に気付いて手を降ろした

 

「マーカス君…」

 

「艦娘ってのは特別なんだよ。好きな人に抱かれた時にだけ身籠るんだ」

 

「あら。詳しいのね⁇」

 

「伊達に建造装置造ってないさ…タバコ吸って来る。ポーラ、体を労われよ⁇」

 

「たまにはお酒飲んでも…」

 

「少しだぞ⁇朝風にやる母乳に影響が出るからな」

 

「んっ。分かりましたて‼︎」

 

ポーラの腕に抱かれる朝風の頭を指先で撫で、機器を入れたカバンを持ち、部屋を出た

 

フィリップにカバンを入れた後、着陸脚にもたれてタバコに火を点けた

 

二回紫煙を吐き、フィリップに話し掛けた

 

「アイリス」

 

《どうされましたか⁇》

 

やっぱりアイリスがいた

 

「俺に子供は似合うか⁇」

 

アイリスはすぐに答えた

 

《基地で子供達と過ごしている時、貴方はいつも隊長様と同じ顔をしています》

 

「そっか…」

 

《貴方にはジェミニ様が居ます》

 

「横須賀とは一人二人欲しいとは思う。だが、あいつは人間だ…本当に受け入れてくれるだろうか…」

 

《貴方が深海棲艦だから…ですか⁇》

 

「まぁな…」

 

《ジェミニ様がスティングレイ様に当てる愛は、嘘偽りの無い愛だと思います》

 

アイリスは珍しく根拠の無さそうな答えを出した

 

「ふっ…根拠あるのか⁇」

 

《ジェミニ様はスティングレイ様と一緒にいる時、いつも思考パターンが一つになります》

 

「それは⁇」

 

《貴方にどう愛されれば良いか…です》

 

「俺のAIも冗談が上手くなったな」

 

《本当です。そしていつも至る結論が何故か”暴力”や”暴言”になります》

 

「それがあいつの愛と⁇」

 

《貴方もたまには正直になる事も大切です》

 

「きそにも同じ事言われたよ…」

 

後頭部を掻いた後、一度灰を落としてから下を向いた

 

《スティングレイ様》

 

「なんだ⁇」

 

《鹿島様が貴方を愛していたのは嘘だと思いますか⁇》

 

「殺意と紙一重だったんだろ⁇」

 

《そんな感じです。鹿島様がスティングレイ様に向ける愛情の奥で、彼女はいつも貴方を恨んでいました》

 

「だから身篭らなかっ…た…か⁇」

 

《貴方に好意を向けている方は沢山います。きそ様、たいほうちゃん、霞ちゃん、照月ちゃん…》

 

「俺はロリコンじゃない」

 

 

 

「どこかで私の事を言われた気がしますね…」

 

「スティングレイじゃない⁇」

 

「スティングレイね‼︎レディの勘よ‼︎」

 

 

 

 

《ジェミニ様に次ぎ、War spite様も貴方に好意を向けていますが、War spite様の好意は、他の方々と少し違う様です》

 

「母性だろ⁇」

 

《えぇ》

 

「姫は特別さ…あの人は護らなきゃいけない。そんな気がするんだ」

 

《ジェミニ様と同じ様に…ですか⁇》

 

「う〜ん…何か違うんだよなぁ…」

 

「マーカス君‼︎」

 

「レイ〜‼︎」

 

みんな帰って来た

 

貴子さんがたいほうを抱っこする様に、俺はきそを抱っこする

 

「楽しかったか⁇」

 

「うんっ‼︎山風がありがとうって言ってた‼︎」

 

「そっか。貴子さん、助かったよ」

 

「また呼んでね⁇」

 

「さっ、帰ろうか‼︎」

 

フィリップに乗り、俺達は基地に戻った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜

 

俺は自室で休んでいたが、きそは工廠で電子機器を弄っていた

 

《きそ様》

 

「アイリス⁇どうしたの⁇」

 

アイリスの声に気付き、きそはフィリップに乗った

 

「あ''っ‼︎」

 

きそは”女王の反逆”を喰らった

 

これをするという事は、何か内緒の話をしたいと言うアイリスの主張だ

 

《このデータをご覧下さい》

 

「ん〜⁇」

 

きそはメガネを掛け、モニターを見る

 

そこにはレイともう一人の写真が映し出されており、写真と写真の間に文字が出ている

 

「これホント⁇」

 

《間違いは無いでしょう。お二方共、この事を存じ上げているのでしょうか⁇》

 

「レイは知らないと思う。けど、この人は分かってるんじゃないかなぁ…」

 

きそはモニターを指でコツコツ突いた

 

きそは最近、ちょっとした榛名の癖が移っている…

 

《何故隠す必要があるのです》

 

「きっと事情があったんだよ…」

 

《情報にロックを掛けますか⁇》

 

「うん…でも、いつかレイが知りたいって言った時は、見せてあげて⁇」

 

《畏まりました。では、情報をロックします》

 

アイリスは情報をロックし、きそ以外、その情報を見る事は出来なくなった…




機密文書”R&W”…レイと誰かの機密情報

アイリスの中に入っている機密文書

レイと誰かの関係が書かれているが、現在公開されていない


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124話 母性を求めて(1)

さて、123話が終わりました

今回のお話は、レイの小さな悩みのお話です


朝早く、グラーフがたいほうを連れて出掛けて行った

 

この組み合わせは非常に珍しい

 

知っての通り、たいほうは子供達と一緒にいるか、姫や武蔵の膝の上にいる

 

グラーフと二人で何処かに行くのは初めてかも知れない

 

「たいほうはトラックに行ったんだとよ」

 

「グラーフは⁇」

 

「グラーフは横須賀に行った。途中たいほうをトラックで降ろしてくれたんだ」

 

「なるほどな。工廠にいるよ。何かあったら呼んでくれ」

 

「分かった」

 

隊長は執務室

 

俺は工廠で作業を始めた

 

《アレン様からメールが入っています》

 

「出してくれ」

 

PCに入ったアイリスがメールを開く

 

いつもいるきそがいない

 

「きそは⁇」

 

《先程ハンモックで就寝されました》

 

徹夜で作業したのか、きそはハンモックで寝ている

 

ハンモックの上にいるきその毛布を掛け直している間、アイリスはメールを読んだ

 

《新しい航空部隊の進捗はどうだ⁇》

 

「暇があったら訓練に付き合えと返しておけ」

 

《畏まりました》

 

 

 

 

 

 

 

「グラーフが来れなかったら、誰かにお願いするの」

 

「わかった‼︎」

 

「グラーフ行くね」

 

「ばいば〜い‼︎」

 

たいほうがトラックに降り立った

 

「いらっしゃい、たいほうちゃん‼︎」

 

「とらっくさんだ‼︎」

 

トラックさんも、隊長やレイと同じくたいほうを抱き上げる

 

大人の男性にとって、たいほうは丁度いい抱き易さの重さと身長している

 

きそでは大きすぎ、照月では重すぎる

 

「とらっくさん。このまえのもんぶらん、すてぃんぐれいがたべちゃったの…」

 

「よしよし‼︎みんなで食べような‼︎」

 

トラックさんはたいほうを抱っこしたまま、厨房に来た

 

「ほらっ‼︎食べていいよ‼︎」

 

「わぁ〜‼︎」

 

食堂では既に駆逐艦の子がケーキを食べていた

 

たいほうは目当てのモンブランを見つけ、そこにいた江風の横に着いた

 

「江風。モンブラン残ってるか⁇」

 

「あるぜ‼︎山程作ってくれたからな‼︎たいほうちゃんだったっけか⁉︎おいで‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

たいほうは江風と一緒に、モンブランを食べ始めた

 

 

 

 

 

グラーフは蟹瑞雲の前に来ていた

 

”空母会様一同”

 

と書かれているので、ここで間違いは無い

 

本当はたいほうも連れて来たかったが、大人のグチばかりになるので、せっかくなのでトラックの子供達限定のパーティに置いて来たのだ

 

「グラーフ‼︎こっちこっち‼︎」

 

中でグラーフを手招きしていたのはサラだ

 

「いつも二人がお世話になってます」

 

と、グラーフが頭を下げると、サラは「マーくんは今日はいないの⁇」と、聞いて来た

 

「ちょっと呼んでみる」

 

グラーフはあのアプリを起動し、レイに連絡を入れてみた

 

 

 

なーぐーちゃん> サラがマーくんは来ないのかって

 

リヒター> たいほう迎えに行かなきゃならん

 

なーぐーちゃん> 来いよ。ジェミニに有りもしない事言うぞ

 

リヒター> 行きます。行かさせて下さい

 

なーぐーちゃん> はよ来いよ

 

グラーフはレイのアバターを何度か叩いてからログアウトした

 

 

 

 

「来るって」

 

「良かった」

 

サラはレイが来ると分かると嬉しそうにした

 

「そうだ。隊長に報告しとく」

 

グラーフはスマホを自撮りにし、何気無く一枚を撮り、隊長に送った

 

 

 

 

 

基地で隊長のスマホが鳴る

 

「おっ。グラーフだ」

 

グラーフから送られて来た写真を見た瞬間、隊長の顔が変わった

 

隊長はすぐにグラーフに返信を送り返す

 

そしてグラーフから返信が来た途端、隊長は机にスマホを放った

 

「貴子。ちょっと頼む」

 

「あら、任務⁇」

 

「帰ってから話す。急ぎだ」

 

「分かったわ。気を付けてね⁇」

 

返答する間も無く、隊長は空へと飛んだ

 

「お〜お〜何だ何だ⁉︎えらい急ぎでブッ飛んでったぞ⁉︎」

 

俺は横須賀に行く事を隊長に報告する為に食堂へと戻って来ていた

 

そのすれ違い様に、隊長は猛スピードで離陸するのが見えた

 

「急な用事らしいわ⁇マーカス君も行くの⁇」

 

「グラーフが呼んでるから行って来る」

 

「たいほうは誰かに拾わせるわ。気を付けてね⁇」

 

「迎えに行ける様なら連絡入れるよ」

 

貴子さんに言伝をし、工廠に戻るときそがタイミング良く起きていた

 

「何か戦闘機のエンジンの音がしたよ⁇」

 

寝起きの為、きそは目を擦りながら俺に抱き着く

 

「横須賀に行くけど、お留守番するか⁇」

 

「ううん。行く…ふぁ…」

 

きそがフィリップに入ったのを確認し、俺も空へ上がる

 

 

 

 

途中、かなりのスピードで横須賀方面に向かっているクイーンが見えた

 

「隊長も横須賀か⁇」

 

《急用だ》

 

隊長の声に焦りを感じた

 

こう言う場合は、隊長の傍に居た方が良い

 

「一緒に行くよ。多分、行き先一緒だしな」

 

《…すまん》

 

横須賀に着き、隊長は蟹瑞雲に向かうと言った

 

事情は違うとは思うが、やはり行き場所は一緒だった

 

「きそ‼︎」

 

「翔鶴‼︎」

 

「「留守番しててくれ‼︎大人しくな‼︎」」

 

《分かったよぉ‼︎二人して同じ事言わないでよ‼︎》

 

《了解です‼︎》

 

 

 

 

隊長と俺が基地を飛び立つ少し前…

 

グラーフの隣に座っていた女性が声を掛けて来た

 

「貴方、グラーフさん⁇」

 

「うん」

 

グラーフは人の話を聞かず、目の前の蟹を口に運ぶ

 

「今度横須賀に配属になった”アクィラ”と言います。宜しくね⁉︎」

 

「うん」

 

普段あまり蟹を口にしないので、グラーフはパクパク食べる

 

「あっ、そうそう‼︎いつもウィリアムがお世話になってま〜す」

 

「うん。うん⁇」

 

グラーフはようやく事の重大さに気付いた

 

「隊長の知り合い⁇」

 

「ん〜…知り合いと言うか…」

 

次にアクィラが放った言葉の所為で、グラーフは鍋の熱気で出る汗とは別の汗を垂らす

 

隊長に送った写真には、アクィラが写っていた

 

隊長はそれを見た瞬間、こっちに来ると言った

 

…嫌な予感しかしない



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124話 母性を求めて(2)

「隊長、ストップ」

 

「何だ⁉︎」

 

隊長は焦っていた

 

理由は聞かなかったが、こんなぬ寒い中、汗が流れているからだ

 

「深呼吸だ…吸って吐いてだ」

 

隊長が深呼吸するのと同時に、俺も深呼吸をする

 

二、三回深呼吸をした後、隊長は蟹瑞雲の暖簾を分けた

 

「よく来たな。好きな席へ…」

 

「待ち人がいる」

 

「お…おぉ…そ、そうか…」

 

久し振りに見た、隊長の殺人眼力

 

多分無意識に出ているのだろうが、流石の日向もたじろいでいる

 

日向に謝りつつ奥に行くと、グラーフ達空母会のメンバーが居た

 

その中には、見慣れない女性が一人居た

 

バブル景気からそのまま来ました‼︎見たいな風貌をしているその女性は、何処と無く隊長と似ている気がする

 

「あ〜っ‼︎サンダーバード隊の二人じゃん‼︎何やってんの⁉︎通りすがり⁇」

 

瑞鶴もいる

 

「よっ。今日は寿司じゃなくて鍋か⁇」

 

「空母の人集めて歓迎会してるのよ‼︎二人も座って座って‼︎」

 

「マーくんっ‼︎こっちこっち‼︎」

 

俺はサラの横に座ったが、隊長は立ったままだ

 

隊長は肩を落としながら、深いため息を吐いた

 

「…お袋っ‼︎」

 

「え''っ‼︎ウィリアム⁉︎」

 

アクィラの目と隊長の目が合った

 

「何やってんだよ、こんな所で…」

 

「こっちに配属になったのよ⁇お父さんもいるんでしょ⁇」

 

「いない。最近定年になって再婚した」

 

「あら…」

 

「良いじゃねぇか。もう離婚してんだろ⁇よいしょ…」

 

隊長はアクィラの横に座り、ポケットから煙草とライターを出した

 

「吸っていいか⁇」

 

「どうぞどうぞ‼︎お疲れ様‼︎」

 

「マーくんは⁇」

 

「んじゃあ、俺も…」

 

サラは相変わらず俺のタバコの火を点けてくれた

 

「まぁ…何十年も別れたままになっちゃったら、仕方ないよね⁇」

 

「国があんな状態だったんだ。親父を責めないでくれ」

 

「んっ。大丈夫よ‼︎それよりウィリアムは⁉︎結婚した⁉︎」

 

「した。子供も一人いる。こっち配属したなら、その内会うだろ」

 

隊長の母親であるアクィラは、結構能天気な話し口調でいた

 

隊長も隊長で、何十年も離れ離れだったのに泣きもしない

 

やはり、そこは上に立つ人間の気質なのだろうか…

 

いや、横須賀はボロ泣きしてたな…

 

「マーくんっ、はいっ、あ〜んっ‼︎」

 

「あ〜ん」

 

サラの手から、ほぐされた蟹を口に入れて貰う

 

「ウィリアムもしたい⁇」

 

「いいよ…」

 

「たいほうがしてあげる‼︎はい‼︎」

 

「んっ。んん⁉︎」

 

いつの間にかたいほうが来ており、隊長の横にチョコンと座っていた

 

「たいほう‼︎トラックさんの所に居たんじゃないのか⁉︎」

 

「うんっ‼︎もんぶらんおいしかったよ‼︎」

 

俺はこっそりアプリを開き、トラックにいる連中の一人にお礼を言った

 

 

 

リヒター> たいほうに食わせてくれてありがとう

 

そう打つと、すぐに赤髪のキャラの頭上に!マークが付き、反応を示した

 

まろん> いいって事よ‼︎たいほうちゃんは横須賀に着いたかい⁇

 

リヒター> 着いた。今横にいる

 

まろん> たまたま定時便がトラックに来たんだ。んで、大佐の基地に連絡を入れたら横須賀にいるってモンだから、横須賀に送ったんだ

 

リヒター> 助かったよ。今度、何かお礼をさせてくれよ⁇

 

まろん> 楽しみにしてっぜ‼︎んじゃな‼︎

 

まろんさんがログアウトしました

 

 

 

タブレットを仕舞い、蟹鍋をつつく

 

「たいほう。おばあちゃんだ」

 

「たいほうのおばあちゃん⁇」

 

「アクィラよ‼︎」

 

「あたしたいほう‼︎」

 

家族のやり取りを見ていて、ほんの一瞬箸が止まる

 

「マーくんにはサラがいるでしょ⁇」

 

「そうだな。すまん」

 

サラは何でもお見通しだ

 

横須賀と結婚したので、サラは義理の母に当たる

 

母である事に変わりは無い

 

甘えん坊な、普通の母だ

 

「たいほうのお母さんのお名前は⁇」

 

「たかこ‼︎」

 

「あら、日本の方と結婚したの⁇」

 

「そっ。話せば長くなる。貴子もその内会うさ」

 

「…マーくん。サラと出よっか⁇」

 

「いいよ。このままで」

 

「だ〜めっ‼︎このままじゃ、マーくん、サラとお話ししてくれないもの。みんなゴメンね〜‼︎マーくん借りま〜す‼︎」

 

「行ってらっしゃ〜い‼︎」

 

「また誘うからね‼︎」

 

無理矢理サラに手を引かれ、蟹瑞雲を出た

 

「いいのか⁇空母の集まりなんだろ⁇」

 

「…マーくん」

 

サラが此方に振り返る

 

その顔は、少し怒っている様に見えた

 

「空母の人達とは、いつでも逢えるわ⁇」

 

サラは俺の顔を掴み、額を合わせて来た

 

「だけど、それ以上にもっと大切なのは、パイロットのケアなの…」

 

「あ…」

 

この人も貴子さんと同じ感じがする…

 

これが…母性…

 

「サラがマーくんの好きなモノ作ってあげるわ‼︎来て‼︎」

 

サラに手を引かれ、横須賀の待つ執務室に来た

 

「あらレイ‼︎お母さんも‼︎」

 

「ジェミニ‼︎お母さんと来なさい‼︎」

 

「え⁉︎」

 

「マーくんっ。一時間したらここに来て⁇サラと約束よ⁇」

 

「分かった」

 

サラと横須賀は下にある厨房へと向かった

 

手持ち無沙汰になった俺は、久し振りに駆逐艦寮の前の広場に行く事にした

 

中心にある円型のベンチに横になり、タバコに火を点け、宙に向かって紫煙を吐く

 

周りがどんどん母親や父親と再会を果たして行く

 

たいほう…

 

横須賀…

 

そして隊長…

 

これだけ立て続けにそんな現場を見ていれば、自分も逢いたくなるのは必然かも知れない…

 

「やぁ」

 

初月の顔がアップで映った

 

「初月か。よっと」

 

ベンチに座り、初月を横に座らせた

 

「この前はありがとうな」

 

「何だ。知っていたのか」

 

「俺を誰だと思ってる⁇」

 

「マーカス・スティングレイ大尉。僕達の立派な上官だ」

 

「俺はお前達の上官じゃねぇぞ⁇」

 

「提督が言っていた。君の言う事は提督より正しいから、提督に何かあったら、君の所に行け、と」

 

「あいつ…」

 

「君は慕われてるんだな。あの聞かん坊な提督の信頼を勝ち取るのは相当な人だ」

 

確かに横須賀は我が強い

 

自分がこうと思えば必ず通す

 

金も好きだし、側から見ればかなりヤバい奴だ

 

だが、それでも俺に愛情を教えてくれたのはあいつに違いない

 

「あいつは良い奴だ。俺はあいつのダメな部分も含めて好きなんだ。じゃなきゃ、結婚なんかしねぇよ」

 

「なるほど…また何かあったら言ってくれ。提督と、君位は護ってみせる」

 

「ありがとう」

 

「じゃあな」

 

初月は立派になっていた

 

当初の自爆癖も治り、今では横須賀の基地では五本の指に入る程強くなった…

 

まだ待ち合わせの時刻には少し早いが戻ろう

 

執務室に戻ると、既に準備が進んでいた

 

「マーくん。もう出来るからね‼︎」

 

「待ってるよ」

 

横須賀がいつも座っているリクライニング付きの椅子に座り、貼ってあるポスターを眺めた

 

懐かしいな…

 

考えてみれば、あの頃から横須賀は俺を好いていてくれていたのか…

 

俺はあの時、グラーフが好きだったからな…

 

「さぁっ‼︎出来たわ‼︎」

 

サラの声で視線を前に戻すと、俺の好きなモノばかり用意されていた

 

フライドチキン

 

ポテト

 

コーラ

 

ピザ

 

ザ・アメリカの主食みたいな食べ物ばかりだが、俺が好きなモノばかりだ

 

「さぁさぁ、食べて食べて‼︎」

 

「いただきます‼︎」

 

早速フライドチキンを手に取り、口に運ぶ

 

「美味い‼︎」

 

「ふふっ。やっと笑ってくれた‼︎」

 

サラの料理は美味しかった

 

腹一杯食べさせてくれた

 

たいほうや照月が居たら喜ぶだろうな…

 

「マーくん、今子供達の事考えたでしょ⁇」

 

「何で分かった⁇」

 

「マーくんの考えてる事なんかお見通しよ⁇」

 

と、サラはウィンクをする

 

「レイはホント子煩悩ね…あ、そうだ‼︎明日学校誰来る⁇」

 

「たいほうだな」

 

「これ、たいほうちゃんに渡してくれない⁇」

 

横須賀は俺に原稿用紙を数枚渡した

 

「宿題か⁇」

 

「そっ。明日は授業参観でしょ⁇そこで作文を読むの。テーマは”貴方のお父さん、お母さん”よ」

 

「お父さんお母さん…か」

 

「ジェミニ‼︎」

 

「え⁉︎」

 

サラが吠えたのは、100%俺の為だ

 

「サラ、いい。俺も書きたい。もう少しくれないか⁇」

 

「あ、うん」

 

横須賀からもう少し原稿用紙を貰い、それを丸めて輪ゴムで縛った

 

「美味かったぁ〜‼︎また作ってくれ‼︎」

 

「うんっ‼︎サラ、マーくんの為ならいつでも作るわ‼︎」

 

サラの笑顔を見て、席を立った

 

「もう帰るの⁇」

 

「どうせまた明日会えるだろ⁇」

 

「ん…」

 

横須賀の額にキスをし、サラにウィンクを送り、執務室を出た

 

「ジェミニ⁇もう少し気を使ってあげなさい⁇」

 

「私、何か言っちゃった⁉︎」

 

「マーくん、お父さんとお母さんいないのよ⁇」

 

「…しまった」

 

時既に遅し

 

だが、本人は横須賀の言葉はあまり気にしていなかった

 

横須賀がレイに対して暴言を吐き続けた結果が、逆に功を奏したのであった…

 

 

 

 

数日前、たいほうはちゃんと作文を書いていたのを俺は覚えている

 

だから、この原稿用紙は俺一人で書こうと思う

 

先に基地に帰り、工廠の机で作文を書き始めた

 

「何書いてるの⁇」

 

パソコンに向かわず、黙々と紙に文字を書き続ける姿は、きそにとっては珍しく見えるらしい

 

いつもは両方動かしてるからな…

 

「作文だよ。明日学校で読む」

 

「出来たら見せて‼︎」

 

「笑わないって約束したらな⁇」

 

「多分笑わない」

 

「なら見せん‼︎」

 

「ケチー‼︎」

 

そう言い残し、きそは一人で食堂に戻って行った

 

結局、俺は作文を書くのに一晩掛かってしまった…



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124話 母性を求めて(3)

次の日、俺、隊長、貴子さん、たいほうは授業参観の為、横須賀に向かった

 

「やまかぜ‼︎おはよう‼︎」

 

「おはよう。よろしくね」

 

山風だ

 

この前も会ったが、ネットの印象とちょっと違う

 

山風はたいほうと共に先に学校へと入って行った

 

「レイ。おはよ」

 

「おはよう」

 

横須賀は俺を見るなり腕を絡めて来た

 

サラが俺の事をお見通しな様に、俺は大体こいつの考えている事が分かる

 

俺がサラと仲良くしているから、取られない様にしているのだろう

 

「コンニチハ♡」

 

「サンカンビトイキテ」

 

中枢棲姫と縦ロールが来た

 

最近、学校に駆逐艦の子や重巡の深海棲艦の子達も通っているので、この二人が来ても驚かなかった

 

「貴方達の事も言われると良いわね⁇」

 

「イワレルトイイナ♡」

 

「キタイシテマス」

 

「さっ、入りましょうか‼︎」

 

教室に入ると、あきつ丸が教壇に立っていた

 

「これはなんと読むでありますか⁇たいほうちゃん。チャレンジしてみるでありますか⁇」

 

「とーちゅーかそー‼︎」

 

「おぉ…偉いでありますなぁ‼︎正解であります‼︎」

 

たいほうは漢字は読めるが書けない

 

最近、ようやくカタカナが書ける様にはなって来た

 

「さぁ。そろそろ始めるであります。みんな、宿題は持って来たでありますか⁇」

 

「もってきた‼︎」

 

「山風も書いたよ」

 

「ジャン‼︎」

 

たいほう達は思い思いに書いた作文を出し、机の上に置いた

 

「では読んで行くであります。まずはイワン君‼︎」

 

イワンと呼ばれたイ級が立ち上がり、作文を読む

 

「ハイ‼︎ボクノオカアサンハ、コウワンナツキデス‼︎オッパイガオオキクテ、イツモクロイジュースヲクレマス‼︎」

 

イワンが終わり、しばらくイ級達の連鎖が続く

 

ただ、それぞれ母親は違う様だ

 

港湾夏姫と言う子がいれば、戦艦夏姫と言う子もいる

 

話を聞いている限り、中枢に行った時にいた、

 

港湾夏姫

 

戦艦夏姫

 

重巡夏姫

 

この三人はかなり面倒見が良い様だ

 

しかし、問題の縦ロールと中枢棲姫の名は上がって来ない

 

「では、次はリノン君」

 

重巡の子だ

 

「ワタシノオカアサンハ、チュウスウセイキサンデス」

 

「オホッ♡」

 

中枢棲姫は嬉しそうに顔を蕩けさせている

 

「イツモオイシイゴハンヲツクッテクレルノデ、ダイスキデス」

 

「ワタシモスキヨ〜♡」

 

「ヒメ、シズカニ」

 

縦ロールが中枢棲姫の口を押さえるが、中枢棲姫の嬉しさは止まらない

 

「よしっ。ではリネア君、行ってみるであります」

 

「ハイ。ワタシノオカアサンハ、ウンガセイキサンデス」

 

「ウヒッ♪♪」

 

散々中枢棲姫にうるさいと言っていた縦ロールも顔をニヤけさせる

 

「ウンガセイキサンハ、ヘイワニツイテイツモセッキョクテキデス。ワタシモイツカ、ウンガセイキサンノヨウニナリタイデス‼︎」

 

「イキテテヨカッタ♪♪」

 

「では〜…次はたいほうちゃん」

 

「はい‼︎」

 

たいほうの番が来た

 

「たいほうのおかあさんは、たかこといいます。おりょうりもじょうずで、いつもたいほうたちとあそんでくれたりします」

 

「あら。私の事を…」

 

「たいほうは、いつかおかあさんみたいに、おっきくて、やさしくて、ひとをだっこできるひとになりたいです」

 

周りが拍手するので、これで終わりかと思っていた

 

「たいほうにはおとうさんもいます。おとうさんはうぃりあむといいます。さんだーばーどたいのたいちょうです」

 

周りから”オォー”と声が上がる

 

「おとうさんはなんでもできます。みんなにそんけいされてて、おともだちもたくさんいます」

 

たいほうの読む作文を聞いていると、隊長の肩が揺れているのに気が付いた

 

顔を見ると半泣きになっていた

 

やはり子供の成長は嬉しい様だ

 

「それと…」

 

たいほうの作文はまだ続いていた

 

「たいほうには、もうひとりおとうさんがいます。それは…」

 

今まで前を向いて読んでいたたいほうが、俺の方に振り返った

 

「まーかす・すてぃんぐれいです‼︎」

 

それを聞いた途端、俺は持っていた作文の束を握り締め、溢れる涙を堪える体制に入った

 

「すてぃんぐれいは、いつもたいほうたちとあそんでくれたり、たいほうたちをまもるためのぶきをつくってくれます。たまにごはんもつくってくれます。たいほうにとっては、すてぃんぐれいもおとうさんです‼︎」

 

「た…たいほう…」

 

作文を持っていた逆の手で口元を押さえるが、すすり泣く声は抑えられなかった

 

拍手喝采で、たいほうの作文は終わった

 

「では、山風ちゃん‼︎」

 

「はいっ。山風のお母さんは、隼鷹と言います。お酒を凄い飲みます。よく、お父さんを襲ってます…」

 

隼鷹と呉さんの性生活がちょっと明らかになった

 

山風の作文が終わり、子供達全員の作文読みが終わった

 

「では、最後に特別枠でマーカス・スティングレイさんに作文を読んで頂くであります‼︎マーカス大尉、此方へ‼︎」

 

教壇に案内され、持っていた作文を広げ、読み始めた

 

「俺には、父も母もいません」

 

教室が軽く騒つく

 

「だけど、父と呼べる人も、母と呼べる人も俺にはいます。父と呼べる人は、俺の隊長。ウィリアム・ヴィットリオ大佐です。隊長は俺に沢山の事を教えてくれました。空…世界…医学…隊長が教えてくれた事は、俺の世界になりました」

 

「レイ…おまっ…」

 

たいほうの作文で大ダメージを受けていた隊長は、此処に来てとうとう崩れた

 

「母と呼べる人は、まずは貴子さん。貴子さんは、俺が知らない母親の愛を、一番最初に俺にくれた人です」

 

「嬉しい…」

 

貴子さんの涙腺も緩んでいる

 

「母と呼べる人は、もう一人います。それは…この鎮守府の提督である、ジェミニ・コレット元帥です」

 

「あらっ」

 

此処に来てようやく横須賀の名が呼ばれたので、当の本人は素直に嬉しそうだ

 

「ジェミニは、俺が知らなかった愛を教えてくれました。俺は今まで、異性を愛する方法を知りませんでした。彼女はそんな無知な俺を、いつも笑って、その愛で包んでくれました」

 

「…アイッテイイネ」

 

「…イイネ」

 

駆逐艦の子のヒソヒソ話が聞こえて来た

 

「この場を借りて、俺は彼女に言いたい事があります。それは、俺が彼女に言いそびれた言葉です…ジェミニ、こっちに来てくれ」

 

「はいはい」

 

横須賀は教壇の前に立ち、俺の目を見た

 

「一度しか言わない…よく聞いとけ」

 

横須賀は頷き「分かったわ」と言った

 

俺は深く息を吐き、原稿用紙を壇上に置き、口を開いた

 

「…俺と結婚してくれ」

 

「はいっ‼︎喜んで‼︎」

 

横須賀は、俺が差し出した手をすぐに取った

 

「ヤッター‼︎」

 

「ケッコンケッコン‼︎」

 

「コクハクコクハク‼︎」

 

深海の子達も祝ってくれている

 

「ヨカッタ♡ワタシモハヤクケッコンシタ〜イ〜♡」

 

中枢棲姫はクネクネしながら再告白した俺達を見ていた

 

「ヒメ。ソノウチイイヒトガキマスヨ」

 

「ジャアマッテヨ‼︎ハクバノオウジサま〜♡」

 

中枢棲姫がちょっと壊れ始めた

 

こうして、授業参観は幕を降ろした…

 

その日の夕飯、貴子さんは豪勢な料理を作ってくれた

 

俺とたいほうの好きなモノばかりだ

 

皆が美味しく食べ、照月がまた暴食をし、また家族の一日が終わる…

 

 

 

 

 

 

「♪〜」

 

「ねぇ、姫」

 

「ん⁇なぁに⁇」

 

「姫の鼻歌と、レイが吹く口笛のメロディ、一緒だね⁇」

 

「あら…ふふっ」

 

姫はレイと似てるとか、同じと言うと何故か喜ぶ

 

きそは、その事実を知っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…親子って、似るんだね」



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125話 凶鳥達の親鳥(1)

さて、124話が終わりました

今回のお話は、サラの艦載機と演習をするお話です

艦娘が出て来るのが少ないかも


「もうすぐクリスマスか」

 

「良かったな。今年は相手がいて」

 

「ケッ‼︎オメェは家族団欒でチキン食うんだろ⁇俺は横須賀のプレゼントで四苦八苦するのが関の山だ‼︎」

 

俺とアレンはスカイラグーンでコーヒーを飲んでいた

 

後ろでは、トラックさん、ラバウルさん、ワンコ等、提督一同がクリスマスの計画を練っている

 

「いやぁ〜、さぶ〜っ‼︎」

 

「身に染みるわ〜」

 

健吾と北上も来た

 

北上の薬指に指輪があるのを見ると、健吾とケッコンした様だ

 

「健吾もコーヒーでいい⁇」

 

「うん」

 

「扶桑さん。あったかいコーヒー二つね」

 

「はい。少々お待ちを‼︎」

 

「お疲れ様です」

 

「お疲れさん。すまなかったな…」

 

「気にしないで下さい。しかしまぁ、強かったですね…」

 

 

 

この日の朝、サラから連絡が入った

 

《マーくん。サラ引退したけど、今度艦載機を横須賀に引き渡すの》

 

「ほう。横須賀にいたぶられない様にな」

 

《それでねマーくん。調整をしたいから、演習をお願いしたいの。サラから発艦するのも最後だし…》

 

「了解した。すぐに向かうよ。タウイタウイか⁇」

 

《そう‼︎今ラバウルの人もいるから、マーくんの方の配備も完璧よ⁉︎じゃあね‼︎》

 

「隊長、ちょっと行って来る」

 

「いや。私も行こう。な〜んか嫌な予感がするんだ…」

 

「俺等の嫌な予感は当たるからなぁ…」

 

 

 

 

〜タウイタウイ演習空域〜

 

着いてすぐに補給をし、終えた直後、俺達はラバウルの連中と話す間も無く空域へと上げられた

 

演習内容は敵航空部隊の奇襲を想定したもので、俺達に事前情報は与えられなかった

 

与えられたのは、二部隊来ると言う事だけ

 

《レイの義理のお母さんの部隊か…強そうだな》

 

「お前が空に上がって口開くと全部死亡フラグになるからやめろ‼︎」

 

《レーダーに感‼︎来ました‼︎》

 

クイーンの言葉で、全機臨戦態勢に入る

 

《識別信号確認…来るよ‼︎》

 

太陽が出ている方角から、四機のレシプロ機が襲い掛かる

 

《ヘルキャットですか…SS隊、散開》

 

《散開しろ。奴等手練だ》

 

二人の隊長の言葉で、全機散開

 

二人共一切の焦りを見せず、場を的確に判断している…

 

《レイ。ウィングマンが必要だ》

 

「ウィルコ。アレン、生きろよ‼︎」

 

《お前もな‼︎》

 

《バッカスは私、ギュゲスはあみさんと‼︎二機で一機を仕留めましょう‼︎良いですね‼︎》

 

《オーケー。健吾。ちゃんと着いて来なよ〜》

 

それぞれに別れ、敵を追い掛ける

 

《くそっ。速いな…》

 

「うわっち‼︎」

 

体当たりでもするかの様に、敵航空機はフィリップを横切って行く

 

死を恐れていない…

 

俺達空軍にとって、これ程怖い相手はいない

 

そして、二度目のヘッドオン状態

 

「マジかこいつ‼︎」

 

完全に当たると確信していた機銃が当たらない

 

だが、向こうも同じ感情を抱いていた

 

そしてまたすれ違う

 

「このパイロット、普通じゃねぇな…はっ」

 

ヘルキャットのボディのエンブレムに気が付いた

 

「八重歯の天使のエンブレム…マズイ‼︎」

 

《どうした⁇》

 

「味方機に告ぐ‼︎敵は”ジブリール隊”‼︎繰り返す‼︎敵はジブリール隊‼︎」

 

《じっ、ジブリール隊だと⁉︎》

 

隊長が驚くのも無理は無い

 

随分前に話したとは思うが、反攻作戦の時、生き残った連中がいる

 

サンダーバード隊…

 

SS隊…

 

サンダルフォン隊の一部…

 

そしてこのジブリール隊

 

この部隊はアメリカ海軍航空部隊であり、俺達の教本にも模範飛行部隊として載っている程、昔から存在していて、かなりの手練だ

 

あの反攻作戦の時だって、全機無傷で帰投したとのデータもある

 

それが、まさかサラの艦載機だったとは…

 

「やれるのか…俺に…普通のレシプロ機じゃねぇ…」

 

気が付けば、操縦桿を握る手が汗でビッショリになり、震えていた

 

《僕達ならやれるよ》

 

「フィリップ…相手は強大すぎる。レシプロであの腕だ」

 

《レイは震電を操縦したでしょ⁇スッゴク速かったよね⁇》

 

「あぁ…」

 

《レイは、その震電を操縦するパイロットの教官になったよね⁇僕もやったよ‼︎》

 

「…何か策があるのか⁇」

 

《僕に考えがあるんだ》

 

 

 

 

 

「えぇいクソッ‼︎速すぎる…」

 

《バッカス。諦めてはいけませんよ》

 

ラバウル&アレンコンビも苦戦していた

 

それは健吾と北上のコンビも同じであった

 

「あ〜…速いね〜。面倒くさいね〜…健吾、生きてる⁇」

 

《大丈夫です》

 

だが、そこはやはり凶鳥と呼ばれた連中

 

相手の攻撃を回避しては、何とか背後に着く

 

が、ここで全員を悩ませる事態が発生する

 

「あ〜…」

 

気の抜けた声を出しながら、北上はヒラヒラと飛ぶヘルキャットを眺める

 

彼等を悩ませるのは、レシプロ機特有の機動性だ

 

特に旋回機動

 

レイが言った通り、普通のレシプロ機ならジェット機に勝てる訳が無い

 

遠方からミサイルで撃たれて御陀仏だ

 

だが、接近戦となれば少し違って来る

 

勿論、性能ではジェット機の方が遥かに上だ

 

だが、それは載っているパイロット次第であるのは言わずもがな

 

今はそれが逆転しているのだ

 

ヘルキャットに載っているパイロットの腕は、此処にいる全員の想像の遥か上を行っていたのだ…



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125話 凶鳥達の親鳥(2)

「うぉりゃぁぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

俺は急に狂った様にフィリップのエンジンを吹かせた

 

《何やってんだアイツは…》

 

アレンが驚く中、俺は無線をジブリール隊に繋げた

 

「や〜い‼︎ジブリール隊のバ〜カ‼︎俺一機も落とせないんですかぁ〜⁉︎」

 

《レイ。後は任せた。私はサイクロップスの援護に向かう》

 

「ウィルコ‼︎ジブリール隊‼︎こっちにお〜いで〜‼︎お尻ペンペ〜ン‼︎」

 

そんな挑発をしたら、向かない方がどうかしている

 

俺達を追っていた一機と、マークされていない一機が挑発に乗り、俺の方に来た

 

《逃げるからね‼︎》

 

「オーケー‼︎ぶっ飛ばせ‼︎」

 

フィリップを自動操縦に切り替え、空域を一気に駆け抜けた

 

《二機着いて来た‼︎》

 

「カウント0で反転‼︎反転後、隊長達の所へ戻る‼︎」

 

《オーケー‼︎》

 

「3…2…1…0‼︎」

 

フィリップは自動操縦のまま機体を反転させ、元いた空域に向かう

 

着いて来た二機は何が起こったか分からず、追従するかの様に反転して俺を追って来た

 

「チェックメイ、トッ…」

 

二機に撃墜判定が出た

 

《レイ、上手くやれたか⁇》

 

「完っ璧‼︎なっ⁇」

 

《人使いの荒い犬ね…これっきりよ⁇》

 

無線の声はヘラだ

 

フィリップの作戦はこうだった

 

俺が戸惑っている時に、フィリップは俺にレーダーを見せた

 

そこには、近くを飛んでいるヘラが映っていた

 

フィリップが言うには…

 

”向こうが奇襲掛けて来るなら、こっちだって奇襲してもいいハズ”

 

俺はヘラに無線を入れ、引き連れた二機に標準を合わせたまま此方に突っ込ませたのだ

 

「助かったよ。まだ行けるか⁇」

 

《後でシェイクでも奢りなさいよ⁇》

 

「お安い御用だ‼︎」

 

《ラバウルの連中、聞きなさい。敵機をロックオンし続けなさい。データリンクしたら、私が墜とす。良いわね⁇》

 

《イエス、マム》

 

《ウィルコ‼︎任せたぞお嬢‼︎》

 

ヘラが来て、一気に形勢が逆転した

 

あっと言う間に二機に撃墜判定が降りた

 

「瞬っ殺‼︎」

 

《第二部隊が来るよ‼︎》

 

《第二部隊⁇これの事かしら⁇》

 

ヘラからデータが送られて来た

 

サラトガ航空部隊第二部隊…

 

ペトローバ隊四機、全機撃墜判定

 

「ぺっ、ペトローバ隊を墜としたのか⁉︎一人で⁉︎」

 

《邪魔だったから墜としたわ。悪い⁇》

 

「い…いや…助かった…」

 

《ペトローバ隊だと⁉︎しかも邪魔だったから墜としただと⁉︎》

 

《あら。いけなかったかしら⁇》

 

《はぁ…もうヘラには逆らえないな…》

 

《あら。あんたも犬に成り下がるの⁇》

 

《ペトローバ隊は、俺にコルセアの操縦を教えてくれた部隊だ》

 

《…》

 

ヘラは急に黙り込んだ

 

ヘラの感情を表すモニターを見ると”申し訳ない”という感情表記が出ていた

 

ペトローバ隊は、簡単に言うと教官の教官に当たる

 

つまりは、隊長の教官である

 

隊長がコルセアをあれだけ乗りこなせていたのも、この部隊のお陰と言っても過言ではない

 

俺達の話は教科書や歴史でチラッと出て来るが、ペトローバ隊はほとんど記録に無い

 

それは、この部隊は前線に出て戦うのでは無く、教える事に尽力を尽くしていたからである

 

《ウィリアム、マーカス。君達かね》

 

無線から味のある男性の声が聞こえて来た

 

《はっ。リチャード中将》

 

《教え子が此処まで成長するとは…我々も鼻が高い》

 

《ありがとうございます。良い部下を持ちました》

 

《マーカス。強くなったな》

 

「ありがとうございます」

 

《知り合い⁇》

 

「そっ。俺にアメリカの国籍をくれた人だ」

 

《はぇ〜…》

 

《我々は今しばらく横須賀にいる。暇があれば顔を見せてくれたまえ》

 

《良い酒を…いや、中将。貴方をある場所に招待します》

 

《ほぅ》

 

《そこは…》

 

 

 

 

 

 

そして、今に至る

 

「ここか…」

 

リチャード中将が来た

 

僚機の連中はおらず、一人で来た様だ

 

「お久し振りです、中将」

 

「お久し振りです」

 

「んっ。敬礼はせんくなったな。偉い偉い‼︎ガッハッハ‼︎」

 

中将は高笑いする

 

これでこそ中将だ

 

中将は俺がまだ空軍に入りたての時だって、上下関係無く、いつもこうして笑い飛ばす

 

真面目な時は、さっきみたいに空にいる時だけだ

 

「君達がここを造ったのか…うん‼︎素晴らしい‼︎実にビューチホーだ‼︎コーラを頂けるかな⁉︎」

 

「はいっ‼︎少々お待ちを‼︎」

 

扶桑は中将が来てくれた事に少し焦りながらも、キンキンに冷えたコーラを冷蔵庫から取り出し、栓を開けて渡した

 

「ありがとう‼︎」

 

中将はコーラを半分飲み、一息ついた

 

「マーカスも強くなったな‼︎」

 

「ありがとうございます。へへ…」

 

「ウィリアム‼︎たまにはタバコ吸うか‼︎」

 

「了解です」

 

隊長は一旦会議を中断し、中将と共に外に出た

 

「相変わらず豪快な人だな…」

 

「珍しい人だ。誰に対してもあぁだ」

 

アレンと共にコーヒーを飲み、俺達もクリスマスの話に没頭した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ〜‼︎いい演習だった‼︎」

 

中将はタバコを咥えながら背伸びをした

 

「良い部下を持つ…貴方の口癖でしたね」

 

「そうだウィリアム」

 

「何でしょう⁇」

 

「妻は元気かね⁇」

 

「えぇ。よく子供達の面倒を見てくれています」

 

「そうか…妻には悪い事をした…戦争とはいえ、身籠った彼女を一方的に突き放してしまった…」

 

「お会いになられてはどうです⁇」

 

「今更会わす顔など無い…この事は内密にな。空軍は嘘をつかないと教えたが、これは別だ」

 

「えぇ」

 

「…マジでお願いしてるんだ。な⁇」

 

「大丈夫ですよ」

 

「うんっ‼︎流石はウィリアムだ‼︎いずれ横須賀で会おう‼︎ではな‼︎ハッハッハ〜‼︎」

 

中将はタバコを灰皿に捨て、スカイラグーンを去った…




リチャード・オルコット…パパやレイの教官

階級は中将

50代半ばの男性

パパやレイに飛び方を教えた人であり、レシプロ機に好んで乗り、めちゃくちゃ強い

随分前に言っていた、パパにコルセアの乗り方を教えたのはこの人

サラの元艦載機パイロットであり、前線には出ず、教官としての日々を送っている

サラが艦娘を引退する為、横須賀の飛行教官として身を置く

高笑いとコーラが好き


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クリスマス特別編 小さな逆サンタ(1)

クリスマス特別編です‼︎

後半は本編に関わる事も出て来ますが、まずは二人の可愛い逆サンタをお楽しみ下さい‼︎


12月24日

 

「しゃんしゃんしゃん♪♪」

 

「しゃんしゃんしゃん♪♪」

 

照月とたいほうが鈴を持って、横須賀を歩いていた

 

「さんたさんいるかなぁ⁇」

 

「いるよ‼︎照月聞いたもん‼︎この鈴振ってたら出てくるんだって‼︎」

 

何処から仕入れた情報なのか、照月は鈴を持って振っていれば、サンタクロースに出逢えると信じているらしい

 

「たいほう、さんたさんにびすけっともらうの。てるづき、いっしょにたべようね⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

たいほうと照月は楽しそうに鈴を振りながら横須賀を練り歩く

 

そんな二人を、俺と横須賀は執務室から眺めていた

 

「可愛いわね〜」

 

「まだまだ子供だな」

 

横須賀と軽くデート位しようと基地から出ようとした時、たいほうと照月も一緒に来たいと言ったので連れて来た

 

「サンタさんは大変ね」

 

「今日が正念場だ。今晩、滑走路開けとけよ⁇」

 

「分かったわ。で、私にプレゼントないの⁇サンタさん⁇」

 

「無いっ‼︎」

 

「現金でいいわよ⁇げ・ん・き・ん‼︎」

 

意味不明なセクシーポーズを決める横須賀に対し、苦笑いを送る

 

「今から一緒に選ぶ。分かったな⁇」

 

「やりぃ‼︎行きましょ‼︎」

 

横須賀と共に、繁華街へと向かう

 

 

 

 

「じんぐるべ〜る、じんぐるべ〜る♪♪」

 

たいほうと照月は相変わらず鈴を振りながら歩いていた

 

「たいほうちゃん、知ってる⁇」

 

「ん⁇」

 

「照月、魔法の呪文を教えて貰ったんだぁ〜‼︎あのね…」

 

照月はたいほうに耳打ちし、工廠へと来た

 

「いらっしゃい。今日はおさんぽかい⁇」

 

いつものおじさんが出迎えてくれた

 

照月はそんな気前の良い彼に対し、こう言った

 

「メリークルシミマス‼︎」

 

「くるしみます‼︎」

 

多分、たいほうも照月も意味を分かっていない‼︎

 

たいほうが無邪気に鈴を振っているが、逆にその行為が恐怖心を倍増させる‼︎

 

「う…ぐ…」

 

「あっ‼︎新しい戦闘機だぁ〜‼︎お兄ちゃんが好きそう‼︎」

 

何気無く照月が言った言葉でさえ、彼は冷や汗が止まらなくなる

 

「たいほう、さんたさんさがしてるの‼︎」

 

「照月も探してるの‼︎」

 

「サンタさんかぁ…君達は良い子にしてたから、きっと夜に来るよ⁇」

 

「夜じゃダメだよ。照月、サンタさん鹵獲して、袋の中身頂くの‼︎」

 

「きそがとらっぷはってた‼︎」

 

彼の頭に浮かんだ言葉は、恐らく”恐ろしい子だ…”若しくは”大佐とマーカスさんが…”だろう

 

「そうだ‼︎あれをあげよう‼︎」

 

おじさんは一旦奥に消え、手に何かを持って帰って来た

 

「よいしょ…」

 

たいほうと照月の頭に、持っていたそれを付けた

 

「つの」

 

二人が付けて貰ったのは、トナカイのツノを模したカチューシャだ

 

ツノ部分は柔らかく、万が一突進されても痛くない仕上がりだ

 

「トナカイさんのツノだよ⁇二人とも良く似合ってる‼︎」

 

「ありがとう‼︎」

 

トナカイのツノを貰い、二人は別の場所を目指す

 

 

 

 

 

その頃、隊長は一人タウイタウイモールで苦戦していた

 

自分の基地、スカイラグーン、そして居住区に配る為のプレゼントだ

 

去年はある程度の基地に配ったが、今年は基地ごとの提督が配る為、残りの拠点だけ配る

 

数日前に子供達から欲しい物を聞き、今それを買いに来ている

 

自分の基地の子供達の分を買うのは速かったが、居住区と潮が問題だった

 

隊長は欲しい物が書かれたメモを見て、買っていいのか迷う

 

潮…ネコ10匹

 

潮に生きたネコを渡すと、すぐスープにする

 

一度、物資の補給に来たタンカーの中にネコが紛れていた

 

潮はそのネコの首根っこを掴み「美味そうだ。おイ。お前をスープにしてやる。ありがたく思えよ」と、ネコに言い、厨房に消えた

 

その後、レイやアレンが知らずに食べて悶絶していたのを覚えている

 

「潮はこれにしよう」

 

潮に渡すのはぬいぐるみに決めた

 

ネコのぬいぐるみだ

 

これならスープ化する事は無い

 

買い物を終えた隊長は、荷物を小分けする為に休憩がてらフードコートに来た

 

「大佐ダズル」

 

「榛名か⁇」

 

隣でジュースを飲んでいたのは榛名だ

 

「プレゼントは貰ったか⁇」

 

「ワンコに本買って貰ったんダズル。榛名もお勉強ダズルな」

 

榛名は読んでいた本を見せてくれた

 

料理の本だ

 

簡単な物から、少し手間のいる料理まで書かれている

 

「シチューばっかじゃ子供達も飽きるダズル」

 

「ワンコには作ってやらないのか⁇」

 

「提督はシチューで充分ダズルな。文句言ったら一発叩いたら言う事聞くダズル」

 

レイの言った通りだ

 

少し良い奴だなと思えば、すぐに裏切られる

 

「さぁ、提督の荷物持ちでもしてやるダズル‼︎じゃあな‼︎」

 

「じゃあな。メリークリスマス」

 

「メリークリスマスダズル‼︎」

 

何だかんだで、ワンコと榛名は上手く行ってる様だ

 

隊長はしばらくプレゼントの小分けをした後、荷物を積んで横須賀へと飛んだ

 

 

 

 

 

「メリークルシミマス‼︎」

 

「こっ、これをお納め下さい‼︎」

 

「めりーくるしみます‼︎」

 

「これでどうか‼︎」

 

照月とたいほうは、半ば強盗の様な行為を続けていた

 

照月が持って来た白い袋は既にパンパンになり、二人共地面を擦りながら運んでいた

 

「何かいっぱいくれたね‼︎」

 

「おかしもくれたね‼︎」

 

「美味しそうですねぇ〜‼︎」

 

二人の前に現れたのは、緑色の服を着た女性

 

そして、照月が遭ってはならぬ人物でもあった

 

…蒼龍だ

 

しかも今日は歯止めが効く人物がいない

 

前回ハロウィンの時はトラックさんがぐるぐる巻きにしていた為、まだ歯止めが効いていたが、今日の蒼龍は最悪とも言える完璧なコンディションだ

 

「メリークルシミマス‼︎」

 

「くるしみます‼︎」

 

「二人共可愛いですねぇ〜。ちょっとつまんじゃお〜‼︎」

 

蒼龍は照月の頭を掴み、大きく口を開けた‼︎

 

「えいっ‼︎」

 

「あうち‼︎」

 

照月は咄嗟に頭突きで反撃

 

間一髪、グロシーンは免れた

 

「甘い良い匂いのする髪の毛ですねぇ〜。ますます食べたくなりましたよぉ〜⁇」

 

「人は食べちゃダメなんだよ⁉︎」

 

「あれ⁇知らないんですかぁ〜⁇人ってと〜っても美味しいんですよぉ〜⁇」

 

それを聞き、照月は少したじろいだ

 

「…人って食べれるの⁇照月、食べた事ない」

 

「知らないなら教えてあげます。さ、向こうに行きましょ〜⁇さ、たいほうちゃんも」

 

照月とたいほうは蒼龍に連れ去られた



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クリスマス特別編 二人の逆サンタ(2)

「美味しいわね‼︎」

 

「あんまり食うと太るぞ⁇」

 

「いいのよ。どうせ胸に行くんだし〜」

 

俺と横須賀はケーキバイキング伊勢に来ていた

 

今日はクリスマスとあって、店内は繁盛している

 

「レイ。今日はありがとう」

 

「こっちこそ」

 

最近、横須賀は二人きりになると素直になる時がある

 

ずっとこうなら助かるんだけどな…

 

「あら、照月とたいほうちゃん」

 

「げっ‼︎」

 

窓の外で照月とたいほうが袋を引き摺りながら歩いている

 

問題はそこじゃない

 

隣にいる奴だ

 

「トラックさんに連絡しろ‼︎俺は隊長に連絡する‼︎」

 

「分かったわ‼︎」

 

横須賀が固まる中、俺は隊長に無線を繋いだ

 

「隊長‼︎俺だ‼︎コードイルミネートドラゴン‼︎イルミネートドラゴンだ‼︎」

 

《了解した。場所は⁇》

 

「横須賀だ‼︎たいほうもいる‼︎」

 

《了解した。急行する》

 

 

 

コードイルミネートドラゴン…

 

簡単な話、照月と蒼龍が出くわしてしまった際の緊急ミッションコードである

 

早急に手を打ちたいが、相手は照月と蒼龍である

 

なので、万全な対処をしないと死人が出てしまうので、こうして召集を発令するコードである

 

 

 

 

20分後…

 

《横須賀に着いた。二人の現在位置は⁇》

 

「貯蔵庫に向かってる…現在隠密行動中」

 

「申し訳ありません…江風も連れて来ました」

 

「助かるよ‼︎」

 

トラックさんも隊長も着き、現場の指揮者は整った

 

「すまねぇ…蒼龍の姉貴が…」

 

「心配すんな。何とかする」

 

物の陰に隠れながら、五人はジリジリと距離を詰めて行く…

 

とにかく、まずはたいほうの奪還だ

 

「レイ。これを使え」

 

隊長から投げられたのは、長方形の箱だ

 

”オリバー印のミルクビスケット”

 

筋肉ムキムキのコックの絵が描かれた、たいほうの好きなビスケットだ

 

”これを食べれば強くなれる‼︎”と書いてある

 

「たいほう…たいほう…」

 

「ん⁇」

 

小声でたいほうを呼ぶと、すぐに反応した

 

「し〜…」

 

口元に人差し指を置き、手招きすると、たいほうは此方に寄って来た

 

「…たいほうにびすけっとくれるの⁇」

 

「これやるから静かにな…」

 

「…わかった」

 

たいほうは確保出来た

 

問題は照月だ

 

「レイ、たいほうと一緒に横須賀の執務室に避難するんだ」

 

「オーケー」

 

「横須賀、二人に着いて行け」

 

たいほうを抱え、コソコソと貯蔵庫から出た

 

「大佐。二人が移動したぜ…」

 

「どこ行くんだ…」

 

照月と蒼龍は貯蔵庫を出て、広場に向かった

 

広場には駆逐艦の子がいるが、どうやらその子達を襲う気配は無い

 

隊長は木の陰に隠れ、太い枝と枝の間から二人の様子を見た

 

「何を話してる…」

 

照月は白い袋を持ち、蒼龍に何か話している

 

蒼龍は照月の話に対し、首を傾げている

 

隊長は一瞬木の陰に体を隠し、再び顔を出した

 

「何してるの⁇」

 

「う…」

 

先程隊長が顔を見せていた枝と枝の間から、照月が顔を見せた

 

「あ、そうだ‼︎」

 

「な…何だ…」

 

「メリークルシミマス‼︎」

 

隊長は後退しながら、照月から距離を置こうとする

 

照月もそれに合わせて袋を引き摺りながら近付く

 

「美味しそうですねぇ〜」

 

「くっ…」

 

背後に蒼龍が来た

 

前方には照月

 

逃げ場が無くなった‼︎

 

その時、照月の前に何か投げ込まれた

 

「隊長‼︎耳塞いで‼︎」

 

誰かの声が聞こえた瞬間、隊長は耳を塞いだ

 

投げ込まれた何かが爆発する寸前、誰かに手を引かれ、少し離れた場所で地面に伏せさせられた

 

「今だよ江風‼︎」

 

「よっしゃあ‼︎」

 

江風が一瞬の隙を突いて蒼龍に投げ技を決めた

 

「ふぅ…良かった良かった」

 

「助かったよ。きそ」

 

「えへへ…」

 

隊長を助けたのはきそだ

 

コードイルミネートドラゴンはフィリップの耳にも入っていた

 

フィリップから出て来たきそは、一度横須賀の執務室に向かった

 

「たいほうちゃん⁇」

 

「ん⁇」

 

たいほうはレイの膝の上でビスケットを食べていた

 

「イルミネートドラゴンが発令されたって聞いたんだけど⁉︎」

 

「あぁ。今隊長達が応援に当たってる」

 

「蒼龍と照月が相手かぁ…足止めが必要だね」

 

「たいほうこれもってるよ‼︎」

 

たいほうは来ていた服の中から”せーなるばくだん”を出した

 

「それで今日胸膨らんでたのかぁ…」

 

今日のたいほうは巨乳だった

 

理由は服の下の胸の所にコレを入れていたからである

 

「よし、じゃあ行ってくるよ‼︎」

 

「頼むぞ。照月も危険だから気を付けろよ‼︎」

 

きそは照月達のいる広場に向かい、隊長達を見ると姿勢を低くした

 

建物の影に隠れ、きそは爆弾のピンに手を掛けた

 

「3で投げるんだよね…」

 

照月が隊長にジリジリと歩み寄るのを見て、きそはピンを抜き、1秒と2秒の間で二人の間と蒼龍の足元に爆弾を投げ、隊長の元へ走り、隊長を救出したと言う寸法だ

 

「蒼龍の姉貴確保ぉ‼︎」

 

江風が気絶した蒼龍を肩に担ぎながら雄叫びを上げている

 

「照月ちゃんも確保‼︎」

 

トラックさんも気絶した照月を脇に抱えて連れて来てくれた

 

「ふぅ…何とかなったな…」

 

「良かった…僕重かった⁇」

 

「大丈夫だ」

 

腹の上で安堵のため息を吐くきそを見て、レイがきそを可愛がる気持ちが少し分かった

 

きそは強い

 

だが、それ以上に面倒見が良く、そして甘えん坊だ

 

きそを見ていると、出会いたての時のレイを思い出す…

 

「本当に申し訳ありませんでした…」

 

「こっちも照月が申し訳無い事を…」

 

「よいしょ」

 

きそが腹の上から離れ、隊長はトラックさんから照月を受け取る

 

「お詫びに今夜、美味しいケーキと料理、用意して待ってます‼︎」

 

「やったね‼︎」

 

「子供達に食べさせてやってくれ。私は…ほら」

 

「あぁ〜…なるほど、了解です‼︎では、私はこれで」

 

トラックさんと江風が自身の基地に戻り、隊長は照月ときそを連れて横須賀の執務室に戻って来た

 

 

 

 

隊長が照月を横須賀お気に入りのソファに寝かせると、数分で照月は目を覚ました

 

「あれ⁇」

 

「サンタさんはいたか⁇」

 

「サンタさんいなかった…でも、照月いっぱいプレゼント貰ったよ‼︎」

 

「たいほうももらった‼︎」

 

気絶していても照月は持っていた袋を手放さなかった

 

照月もたいほうも袋を手に取り、中から貰った物を取り出し始めた

 

「まずはコレ‼︎ドローンだって‼︎」

 

「たいほうはらじこん‼︎」

 

初っ端から高価な物が出て来て、その場にいた大人三人は冷や汗を流す

 

「後はチョ☆ーゴー☆キン‼︎照月、コレも欲しかったんだぁ〜‼︎」

 

照月は何故か超合金のオモチャが好きで、タウイタウイモールに行った時も超合金を買っていた

 

「たいほうはぷらもでるもらった‼︎きそといっしょにするの‼︎」

 

「頑張って作ろうね‼︎結構デカイよ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

たいほうはたいほうでプラモデルが好きだ

 

きそに作って貰っているのかと思っていたが、かなり前から自分で作っているのに最近気が付いた

 

「くれた人にお礼は言ったか⁇」

 

「言ったけど、すぐ逃げちゃったよ⁇」

 

「たいほうもいった‼︎」

 

「よし。なら良い。じゃっ、一旦帰ろうか。夜はトラックさんの所に行くんだろ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

たいほうが隊長の頭に付いた

 

「照月もお家帰る‼︎」

 

俺は両手に照月ときそを付けた

 

「隊長もレイも気を付けてね⁇」

 

「任せなされ」

 

「また来るよ」

 

俺達は基地へと戻った…



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クリスマス特別編 隣の笑顔

クリスマス特別編後編

後編も二話用意します

今回のお話は、トラックさんクリスマスのお話です


基地に戻り、子供達は準備を始める

 

トラックさんが美味しい料理とデザートを作ってくれているので、皆そこへ向かう

 

「レイさん。ケーキには色々な種類があると聞きました」

 

「あんま食った事ないか⁇」

 

「秋月姉、ケーキ知らないの?」

 

「間宮で食べたのは知ってるけど…」

 

「照月が教えてあげる‼︎だから秋月姉も食べよう‼︎ケーキ美味しいよぉ〜‼︎」

 

「うんっ。では、行って参ります‼︎」

 

「ちゃんとお礼言うんだぞ〜‼︎プリンツ、お礼の品は持ったな⁇」

 

「任せて‼︎ちゃんと渡してくる‼︎」

 

子供達と引率の為のプリンツは高速艇に乗り、トラック基地へと向かって行った

 

「兄さんは準備ね⁇」

 

「そっ。レイ、子供達が帰って来たら、お風呂入れて寝かせてくれるか⁇」

 

隊長は居住区の子達の誘いを受けている為、今からプレゼント渡すついでに居住区に向かう

 

「オッケー。んじゃ、俺はお先に頂きますだな」

 

俺は一応、昼間横須賀とケーキを食べて軽くデートはしたので、夕方は手すきになっている

 

「兄さんの分はちょっと置いておくわね。帰って来たら貴子さんと食べてね⁇」

 

「グラーフはミハイルとご飯行くの。行って来ます」

 

グラーフはミハイルとの食事の為、スペンサーに乗り、スカイラグーンに向かった

 

「私も食べる」

 

珍しく雲龍が起きて来た

 

雲龍は普段夜に基地周りの哨戒飛行の為の航空機を飛ばしてくれている為、この時間帯に起きるのは珍しい

 

「んじゃ、頂きま〜す‼︎」

 

数分して気がつく

 

今日はたいほうが横にいない

 

照月の暴食を気にかける必要も無い

 

子供達が一斉に去ると、案外寂しいものだな…

 

 

 

 

 

トラック基地では、反対派の基地の子供達がこぞって集まり、クリスマスを満喫していた

 

「秋月姉、これがモンブランだよ‼︎」

 

「モン…ブラン⁇」

 

「栗のケーキなんだぜ⁉︎ま、話すより食ってみな‼︎」

 

「頂きます…」

 

秋月はフォークでモンブランを切り、口に入れた

 

「美味しい‼︎」

 

「だろ⁉︎提督のモンブランはスッゲェ美味しいんだぜ‼︎」

 

「照月はこれ食べる‼︎」

 

照月が持って来たのは、四角いバケツにミチミチに入ったティラミス

 

既に隅っこの方が消えている

 

「あんまり食べ過ぎちゃダメよ⁉︎分かった⁉︎」

 

「秋月姉も食べたら良いんだよ〜‼︎」

 

「たいほうはちきん‼︎」

 

「山風はフルーツのケーキ」

 

「IOWAもチキン‼︎」

 

みるみる内にケーキや食べ物が無くなって行く

 

「衣笠‼︎材料まだあるかい⁉︎」

 

「大丈夫‼︎もう何個かは作れるよ‼︎」

 

「飛龍‼︎チキンの在庫は⁉︎」

 

「もうちょっとしかありません‼︎」

 

厨房では、衣笠と飛龍とトラックさんがドタバタと動き回る

 

衣笠とトラックさんはケーキ

 

飛龍はチキン

 

蒼龍は子供達を食べる恐れがあるので、別室で同じ物を食べている

 

トラックさんは本当は蒼龍にも同じ場所で楽しんで欲しかったのだが、蒼龍は一人でゆっくり食べたいと言ったので、今回そうさせて貰ったのだ

 

「提督‼︎材料が切れました‼︎」

 

「チキンも終わりです‼︎」

 

「よし。我々も…」

 

「ごちそうさま‼︎」

 

「照月も食べた‼︎」

 

机の上にあれ程あったケーキやチキンが綺麗さっぱり無くなっている

 

「…無くなっちゃいましたね」

 

「あらら…」

 

残念そうな顔をする二人の横で、トラックさんは嬉しそうな顔をしている

 

「いや。パティシエ冥利に尽きるよ。これだけ綺麗に食べて、しかも美味しいと言われれば、私は充分だ‼︎よしっ‼︎今日はもうおしまいだけど、また作ってあげようね‼︎」

 

「やったね‼︎」

 

「照月も楽しみ〜‼︎」

 

「ケーキ、堪能しました」

 

子供達からお礼を言われ、更に笑顔になる

 

「トラックさん‼︎これ、レイとパパからのクリスマスプレゼントです‼︎」

 

「これはお父さんから」

 

「ラバウル一同からよ‼︎」

 

子供達がトラックさんにプレゼントを渡す

 

中にはそれぞれの基地からのプレゼントが入っている

 

パパとレイからは特殊に調合されたプロテイン

 

呉さんからは腰に巻いて振動するマシン

 

ラバウル一同からはバーベル

 

そして横須賀からは金

 

どうやら仲間内から、トラックさんは筋肉野郎と思われている様だ

 

トラックさんは嬉しかった

 

今までパティシエとして、この季節は人を喜ばせる立場にあったのが、今日は逆になっている

 

「ありがとう。大切にするよ」

 

「さぁっ、もう暗いから帰りましょう‼︎トラックさん、ありがとうございました‼︎」

 

子供達一同「ごちそうさまでした」と一礼し、トラックさん達は礼を返した

 

 

 

 

子供達が去り、トラックさんは片付けに入る

 

が、余りにも綺麗に食べられている為、少し皿洗いをする位しかなかった

 

「ちょっと執務室で一服してくる。良いかな⁇」

 

「私達も少し休憩します…ふぅ」

 

トラックさんは厨房を出て、執務室の椅子に座り、煙草に火を点けた

 

トラックさんには、一つだけ悩みがあった

 

それは、今手に持っている箱の中身だ

 

中を見ては閉め、箱の開閉音だけが執務室に響く

 

「はいっ」

 

一人悩んでいると、机の上にケーキが置かれた

 

「三人分取ってあったの。一緒に食べよ⁇」

 

「ありがとう。頂こうか」

 

持って来たのは、その悩みの種だった

 

実はトラックさん、彼女が好きなのだ

 

だが、自分がもし彼女と繋がる事になれば、私は再婚

 

そんな私を、彼女を許してくれるだろうか…

 

「子供達、楽しそうでしたね⁇」

 

「良かったよ。子供達のあの顔を見ると、私も生きていて良かったと思える」

 

「提督オジンみたい‼︎」

 

彼女は笑う

 

トラックさんも、そんな彼女を見てクスリと笑う

 

彼女のいる所に、いつも笑顔がある

 

「提督、私からのプレゼント‼︎」

 

彼女は脇に抱えていた紙袋をトラックさんに渡した

 

「開けていいかな⁇」

 

「うんっ‼︎似合うと思うよ‼︎」

 

紙袋を開けると、マフラーと帽子が出て来た

 

「これから寒くなるからね。まっ、提督は筋肉あるからいっか‼︎」

 

「…」

 

トラックさんはポケットに入っていた箱に手を掛けた

 

「私からもプレゼントがあるんだ」

 

「へぇ〜‼︎何々⁉︎」

 

トラックさんは無言でその箱を彼女に渡した

 

「あ…」

 

あれだけはしゃいでいた彼女の動きが止まる

 

「私は再婚になる。それでもいいなら、受け取って欲しい」

 

「提督…」

 

「嫌なら別のを…」

 

「ううん…お受けします‼︎」

 

トラックさんも、彼女も顔が明るくなる

 

「これ、私が一番最初⁇」

 

「そう」

 

「二個目は誰に⁉︎」

 

「う、う〜ん…」

 

いきなり答えにくい質問をされ、トラックさんはまた悩む

 

「嘘嘘‼︎冗談冗談‼︎私、誰に渡したって恨まないよ‼︎」

 

トラックさんが指輪を渡したのは衣笠だ

 

彼女は今まで飛龍と共に秘書艦を勤めてくれていた

 

最後の最後まで飛龍と彼女で悩んだが、トラックさんにとって、隣にいて欲しいのは衣笠だった

 

「提督…」

 

「んっ」

 

軽く口付けを交わし、二人は抱き合う…

 

その様子を、執務室のドアの隙間から誰かが見ていた…



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クリスマス特別編 愛を込めた銃口

題名は変わっていますが、前回のお話の続きです

注※ちょっとサスペンスに仕上がっています

ちょっとした伏線回収もあるよ‼︎


興奮冷めやらぬ衣笠が執務室から出てすぐ、入れ違いで誰かが入って来た

 

「て・い・と・く‼︎」

 

「蒼龍。今日は済まなかったな…」

 

蒼龍がニコニコしながら執務室に来た

 

「衣笠にプレゼント貰ったんですかぁ〜⁇」

 

「あぁ。蒼龍にもあるよ。え〜と…」

 

机の引き出しから蒼龍へのプレゼントを探し出し、目線を蒼龍に戻すと、眉間に冷たい物が当たった

 

「えへへ〜♪♪」

 

「蒼…龍…⁇」

 

トラックさんの眉間に当たっていたのは、回転式拳銃の銃口

 

「勿論弾は入ってますよぉ〜⁇」

 

「な…何が望みだ…」

 

「提督、拳銃欲しいでしょう⁇」

 

「要らないよ…拳銃退けてくれるかい⁇」

 

「あぁ、すみません」

 

蒼龍は拳銃を降ろしたが、手にはまだ拳銃が握られている

 

「要るはずですよぉ〜⁇だって、今から衣笠も撃つんですよねぇ〜⁇」

 

「撃たないよ。撃つ必要がないだろう⁇」

 

「そんなはず無いですよぉ〜。だって、人は人を好きになったら撃つんですよねぇ〜⁇」

 

「え…」

 

蒼龍は机を大回りに避け、トラックさんの前に来た

 

「提督…私が何で駆逐艦の子を食べるか、分かりますかぁ〜⁇」

 

トラックさんは体の震えが止まらなくなった

 

蒼龍の様子がおかしい

 

トラックさんが衣笠とケッコンしたから嫉妬しているのだろうか⁇

 

「お…美味しいからか⁇」

 

「み〜んな大好きだからですよぉ〜。だから食べるんです‼︎だから殺すんです‼︎」

 

「…どういう意味だ⁇」

 

「私、いつも言ってますよねぇ〜。提督を食べるって」

 

蒼龍はトラックさんの頬を拳銃でペチペチ叩きながら話を続けた

 

「好きだからこそ食べるんですよぉ。分かりませんかぁ〜⁇駆逐艦の子は〜、と〜っても美味しいんですよぉ〜⁇」

 

「好きなら、何故食べるんだ…」

 

「何故⁇面白い事を聞きますねぇ〜‼︎」

 

蒼龍は再びトラックさんの眉間に銃口を当てた

 

「提督が教えたんですよぉ〜⁇私はこんなに人を愛する努力をしてるのに、提督がしない訳には行けませんよねぇ〜⁇」

 

「…なんだと⁇私はそんな事を教えた覚えは‼︎」

 

「そうだ提督‼︎あのね‼︎」

 

タイミング悪く衣笠が入って来た

 

「来るな‼︎」

 

「え…」

 

「提督がしないなら、私がしてあげますよぉ〜」

 

「やめろ‼︎」

 

蒼龍はゆっくりと衣笠に銃口を向けた

 

一発の銃声が響く

 

「くっ…」

 

トラックさんは蒼龍の手首を取り、間一髪の所で銃口を逸らせ、衣笠に弾丸は当たらなかった

 

だが、跳弾でトラックさんのペンダントのネックレスが切れて、床に落ちてしまった

 

「蒼龍‼︎お前どうしたんだ‼︎」

 

「提督が教えたんじゃないですかぁ‼︎好きな人は撃つって‼︎」

 

蒼龍は拳銃を手から離そうとせず、トラックさんが外そうとしてもガッチリと持ったままだった

 

「提督‼︎今銃声が聞こえましたけど‼︎」

 

「提督‼︎大丈夫か⁉︎」

 

飛龍と江風が入って来たのにも構わず、トラックさんは蒼龍との会話を続けた

 

「私はそんな事を教えた覚えは無い‼︎」

 

「じゃあ何で”私”を撃ったんですかぁ‼︎」

 

「…え⁇」

 

トラックさんの手が止まる

 

「私が蒼龍を…撃った⁇」

 

トラックさんに、蒼龍を撃った記憶は無い

 

幾ら悪人や建造装置から出て来る駆逐艦の子を食べようが、トラックさんはそれだけはしなかった

 

「提督、私に言いましたよねぇ〜⁇私を撃つ前に”愛してる”って…好きな人は撃つんですよねぇ‼︎そうですよねぇ‼︎」

 

「蒼龍…お前まさか…」

 

「好きだから殺すんですよぉ…」

 

蒼龍はトラックさんの足元に落ちたペンダントを手に取り、トラックさんの腹に突き付けた

 

「好きな人は撃つ…」

 

次に蒼龍が言った言葉で、トラックさんは膝から落ちた

 

「そうでしょう…”お父さん”…」

 

「嘘だろ…」

 

膝を落としたトラックさんの眉間に、再三銃口が突き付けられる

 

「提督、愛してますよぉ〜。でもっ、サヨナラですねぇ〜‼︎」

 

引き金に掛けた蒼龍の指に力がこもるのを見て、トラックさんは目を閉じた

 

「待って待って待って‼︎」

 

腰を抜かしていた衣笠が立ち上がり、蒼龍の手を止めた

 

「待ってよ‼︎まずは提督の話を聞こうよ‼︎ねっ⁇」

 

「…貴方から先に撃ちますよぉ〜⁇」

 

衣笠に銃口が向いた瞬間、乾いた音が響いた

 

「痛っ…何するんですかぁ〜⁇」

 

音の正体は、飛龍が蒼龍の頬を叩いた音だった

 

「いい加減にしなさい‼︎」

 

「どうして…どうしてみんな私を止めるの⁇」

 

「蒼龍、よく聞きなさい…」

 

「…」

 

蒼龍は睨む様に飛龍を見ながら拳銃を握る手に力を込めるが、銃口は床を向いていた

 

「提督はね…貴方が苦しまない様に貴方を撃ったの…思い出しなさい。撃たれる前、とっても痛かったでしょう⁇」

 

「…うん」

 

「提督は貴方を救う為に、嫌々引き金を引いたの。大好きな娘を好きだからって理由だけで撃つ訳ないでしょう⁉︎」

 

「…本当ですかぁ⁇」

 

「本当だ」

 

「じゃあ、今まで私がしていたのは何だったんですかぁ‼︎」

 

蒼龍は大粒の涙を流しながら大声を出す

 

「すまない…もっと早く気が付くべきだった…」

 

「もう…戻れないんですよぉ〜…」

 

しゃくり上げながら、蒼龍はトラックさんに銃口を向けた

 

「分かった。なら撃て」

 

「提督⁉︎」

 

「提督止めろ‼︎蒼龍の姉貴‼︎提督撃ったら承知しねぇぞ‼︎」

 

「江風、ありがとう」

 

「は…はは…もう取り返しつかないんですよぉ〜…私、いっぱい人殺しちゃったんですよぉ〜…」

 

「まだ間に合うさ。引き金を引かなければの話だけどね」

 

「最後にっ…言い残す事は、ありませんかぁ〜⁇」

 

トラックさんは笑って言った

 

「ありがとう。また私の所に帰って来てくれて‼︎」

 

「う…」

 

蒼龍は拳銃を落として、目を抑えて泣き出した

 

「すまない…すまなかったな…」

 

「私の為に撃ったのなら、もっと早くに言ってよ‼︎」

 

トラックさんは蒼龍を抱き締め、必死に頭を撫でる

 

「もう大丈夫だ…」

 

「提督、ありがとう…」

 

「それを言うのは私の方だ。帰って来てくれたんだな⁇」

 

「…うんっ‼︎」

 

「さぁっ‼︎私達もクリスマスを楽しみましょう⁉︎ねっ⁉︎」

 

飛龍の切り替えにより、執務室に机が置かれ、小さいながら、トラックさん達はクリスマスを堪能する事にした

 

人を食べなくなった蒼龍は案外子供っぽく、ずっとトラックさんにベッタリしている

 

江風も飛龍も衣笠も、そんな蒼龍とトラックさんを見て微笑む

 

「鳥海はどうした⁇」

 

「鳥海は居住区の姉妹の所に行きました」

 

「そっか。鳥海の分もちょっと…」

 

「大丈夫ですよ。そう言うと思って、二つ程ケーキを取ってあります‼︎」

 

「そっか。ありがとう」

 

それからと言うもの、蒼龍はあまり人を食べなくなった

 

あまりと言うのは、まだ少し食べているからだ

 

だが、それは罪人のみにとどまり、駆逐艦の子を食べる事は完全に無くなった

 

トラックさんのクリスマスプレゼントは、ケッコンと、蒼龍のカニバリズムを最小限に抑え、娘が帰って来ると言う、最高のクリスマスで幕を降ろした

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「天津風」

 

「えっ⁉︎なっ、何…」

 

蒼龍は朝ごはんを食べる天津風の頬を撫でた

 

天津風は昨日の一件を知らない為、食われると勘違いしてガタガタ震えている

 

「ご飯粒、付いてましたよぉ〜」

 

蒼龍は天津風の頬に付いていたご飯粒を口に入れ、どこかへ行った

 

「あ…ありがと…」

 

 

 

 

「ふふっ。ホントだ。提督のごはんって美味しい‼︎」




トラックさんと衣笠がケッコンしました‼︎

蒼龍がちょっとカンニバルを控える様になりました‼︎


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126話 星を旅する鯨(1)

クリスマスも終わり、年末に入りました

皆さんはクリスマスはいかにお過ごしでしたか⁇

作者はリハビリに行ってグデングデンでした 笑

さて、今回のお話はアイリスのお話です


俺は久し振りに子供達と釣りをしていた

 

「おさかなとれた‼︎」

 

たいほう、れーべ、まっくすはイワシの様な小魚をタモで取ってバケツに入れている

 

”\(^田^)/”

 

ボーちゃんもまっくすの横で中位の魚を取っている

 

「うはは‼︎爆釣爆釣‼︎」

 

「ぐぬぬ…」

 

横できそがホイホイ釣り上げる中、俺は相変わらずボウズだった

 

相変わらずきそはあのルアーを貸してくれない

 

「照月‼︎釣ったすぐは食べちゃダメ‼︎」

 

「ハマチさんは生で食べるから美味しいんだよ⁇いただきま〜す‼︎」

 

秋月が照月を止めるが、照月の食欲に勝てる訳がない

 

「待ちなさい‼︎」

 

霞はきそが持って来たバーナーで、ハマチを一気に焼いた

 

数秒もしない内に香ばしい匂いが辺りに漂う

 

「よし、いいわ。食べなさい」

 

「いただきま〜す‼︎」

 

まるでお菓子でも食べるかの様に、照月はハマチを一瞬で平らげた

 

「美味しかったぁ〜‼︎次‼︎」

 

照月は口を開けながら、再び海に糸を垂らした

 

「ちょい休憩だ。きそ、竿見といてくれ」

 

「オッケー。来た来た‼︎」

 

今日の夕飯は刺身だらけだろうな…

 

工廠の冷蔵庫からコーラを出し、タバコを吸いながら一服していると、パソコンに反応があった

 

「アイリスか⁇どうした⁇」

 

《きそ様も釣りをしているのですか⁇》

 

「そっ。今日の夕飯は豪勢だぞ⁇」

 

《”しおい”はどうしていますか⁇》

 

「しおいか⁇しおいは海に潜ってウニとか取ってるぞ⁇」

 

《そうですか》

 

その時のアイリスは、何故か怒っている様にも思えた

 

散々釣ったのか、子供達は竿を片付け始めている

 

「レイ‼︎貴子さんの所に渡したら来るね‼︎」

 

「冷たいのとあったかい飲みモン、どっちがいい⁇」

 

「コーラがいい‼︎」

 

きそが走り去る

 

遅れてしおいが食堂に入って行った時、アイリスの感情パラメーターを見た

 

何故か”怒り”のパラメーターが上がっている

 

「しおいが嫌いか⁇」

 

《嫌いではありません》

 

本当なら、頭の一つでも撫でてやるべきなのだが…

 

《頭を撫でるより、もっとマーカス様とお話がしたいです》

 

「よく分かったな⁇」

 

《何年貴方の傍にいると思っているのですか》

 

「お〜怖い」

 

アイリスが冗談を言う

 

どうやらAIは俺の傍にいると冗談を言う様になり、隊長の傍にいるとお淑やかで、ちょい抜けた子になる様だ

 

《と、返してみろと叢雲様が仰っていました》

 

「叢雲は好きか⁇」

 

《叢雲様もヘラ様も私を慕って下さいます。何でも”アンタは私の先輩”だとか》

 

「なるほどな…」

 

「レイ‼︎今日はお刺身だって‼︎」

 

きそが帰って来た

 

魚料理は隊長も得意だ

 

厨房は任せて大丈夫だろう

 

《きそ様》

 

「はいはい。どうしたの⁇」

 

きそはいつもの様に俺の膝の上に座る

 

《きそ様は、体を持てて幸せ…と、感じた事はありますか⁇》

 

「あるよ。こうしてレイに触れられるし、みんなと遊ぶ事だって楽しいよ⁇」

 

《私は誰かに触れた事がありません。それに…何故かしおいが羨ましく感じる時があります》

 

「妹だから⁇」

 

《妹…私はしおいを妹だから羨ましく感じるのでしょうか⁇》

 

アイリスの悩みは思ったより深刻だった

 

周りのAIがボディをもつ中、自分だけ持っていないからだろう

 

それに、アイリスからすれば、しおいは妹だ

 

俺が造った無人潜水艦の試作機に乗っていたAIはアイリスだった

 

それから正式に造られる様になって乗ったAIが”ステラ”

 

簡単に言えば、今のしおいだ

 

ステラはアイリスの改良型であり、情報処理能力に長けていたが、今では長年俺の傍にいたアイリスの方が強くなっている

 

「それは嫉妬って言うのよ」

 

叢雲が来た

 

「アンタとよく似た立場だったから分かるわ。分かり易くするならそうね…犬の名前は⁇」

 

《マーカス・スティングレイ様》

 

「この子は⁇」

 

《きそ様。若しくはフィリップ様》

 

「私は⁇」

 

《叢雲様、若しくはヘラ様》

 

「じゃ、アンタの妹は⁇」

 

《しおい》

 

しおいと言った瞬間、また怒りのパラメーターが上がる

 

「アンタ、しおいだけ呼び捨てなの気付いてないの⁇」

 

《何故でしょう…何故かしおいには様を付けたく無いのです》

 

「それが嫉妬って言うのよ」

 

叢雲は今のアイリスの状況を自分の過去に当て嵌めていた

 

叢雲は今でもF-22を恨んでいると思う

 

だが、この間こう言われた

 

 

 

「恨んでいるのは本当よ。嘘じゃないわ。隠す必要も無いわ」

 

「だけど、私は今の私が一番幸せよ⁇」

 

「犬がいて、犬の子分がいて、雌犬がいて…」

 

「恨んでいるより、犬や犬の周りの人間と遊んだり、一緒にいる方が幸せ…」

 

「犬。アンタが教えた…いえ、教えてくれたのよ⁇」

 

 

 

もしかしたら最近のヘラには母性が目覚め始めているかも知れない

 

当初の尖りまくった性格とは随分と差がある

 

「でも、嫉妬するのは一概に悪いとは言えないわ⁇嫉妬するのは、その人をよく見てるから嫉妬するの」

 

叢雲はパソコンの前に頬杖をつきながら、感情が右往左往するアイリスのパラメーターを眺めながら彼女と会話していた

 

《この感情は嫌いです。あまり抱きたくありません》

 

「アンタはどうしたい⁇」

 

《しおいの様に歩き回り、誰かに触れてみたい…今はそう感じます》

 

「なんだ。早く言えば良いのに」

 

《きそ様⁇》

 

きそはあたかも簡単な様に言った

 

「お安いご用さ‼︎ちょっと時間は掛かるけど、造ってあげるよ」

 

「良かったわね」

 

《はい。この”嬉しい”と言う感情は好きです》

 

「なら、これからはもう少し素直になんなさい。アンタの父親は、アンタの願いを叶えるだけの力量はあるわよ」

 

「叢雲がマトモな事言ってる〜」

 

きそが叢雲をおちょくる

 

「私は常にマトモよ。まっ、後は任せるわ」

 

叢雲は食堂に戻って行った

 

「きっと叢雲はアイリスの気持ちが分かるんだよ」

 

《私と良く似た境遇…だからですか⁇》

 

「そんな所かな⁇叢雲は過去に人に散々な事をされて裏切られたんだ…でも、それでも叢雲は人を愛する事を覚えた。今のアイリスみたいにね⁇」

 

《私もマーカス様やきそ様達と居て、人を愛する事を覚えました》

 

「それに叢雲は母性に目覚め始めてる。ほら、最近教官役してるでしょ⁇アレの影響かなぁ⁇」

 

「お前もそう思うか⁇」

 

「うん。じゃなきゃ、たいほうちゃんオンブして連れて帰ったりしないよ⁇」

 

「なるほどな…」

 

《それはマーカス様の教えが良いからだと推測します》

 

「お褒めの言葉ありがとう」

 

「さてっ‼︎僕はアイリスのボディを造るよ‼︎」

 

きそは俺の膝の上から降り、建造装置の前に立ち、装置を弄り始めた

 

「さ〜て。お前のボディはどんなのかなぁ⁇」



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126話 星を旅する鯨(2)

《きっと、マーカス様の思い描く形に近いモノになります。もし、マーカス様の思い描く形でなくても、私を愛して頂けますか⁇》

 

アイリスの人間味溢れる心配事を聞き、俺は安心してアイリスの入っているパソコンをポンポンと叩いた

 

「心配するな。アイリス」

 

《了解です。私は、マーカス様の”心配するな”と言う言葉に安心を覚えます》

 

「その感情、忘れるなよ」

 

後はきそに任せよう

 

と言うか、この分野はもうきそに任せた方が良いかも知れない

 

俺は建造装置の土台は組み立てたが、扱うのはきその方が格段に上手い

 

俺は精々、誰かの延命策か臓器の生成位しか出来なかったが、きそは新しい生命を産み出した

 

だから、翔鶴と叢雲はきそに逆らえない

 

 

 

食堂に戻ると、たいほうと照月が絵本を読んでいた

 

「すてぃんぐれいよんで⁇」

 

「よしよし、おいで」

 

ソファに座り、二人を脇に置き、絵本を読み始めた…

 

 

 

 

《きそ様》

 

「ん⁇もう少しで出来るよ⁇」

 

工廠では、きそが慣れた手つきでアイリスのボディを建造していた

 

《私には夢があります》

 

「夢⁇」

 

《マーカス様は私を造った時、色んな本を読み聞かせて下さいました》

 

「本か…レイは本好きだよね」

 

《私は一度だけ、マーカス様に読んで頂いた本に出てくる生き物を見た事があります。それをもう一度見るのが夢です》

 

「どんなお話⁇」

 

《クジラのお話です。とても…大きなクジラです》

 

「どんなお話か覚えてる⁇」

 

《えぇ。覚えています》

 

「体を持ったら、そのお話聞かせてくれる⁇」

 

《勿論です》

 

「よしっ‼︎出来たよ‼︎」

 

きそはアイリスの入っているパソコンの前にケーブルを持って来た

 

「繋げていい⁇」

 

《お願いします》

 

きそはケーブルをパソコンに繋げた

 

「痛くないから心配しないで⁇」

 

《マーカス様と同じですね》

 

「アイリスもその内言われる様になるよ」

 

きそは装置を起動した

 

数秒後、カプセルの中から一人の少女が出て来た

 

「きそ様…私は一体…」

 

「おはよう。僕の事はきそちゃんで良いよ⁇」

 

「あ…えと…きそちゃん」

 

少女は躊躇いながらきその名を言った

 

「ふふっ…あっ、本も一緒だね‼︎」

 

少女はきそに本の表紙を見せた

 

「これには、今までマーカス様に読み聞かせて頂いた本の内容が書かれています。私の…大切な宝物です」

 

「じゃあ、みんなに挨拶に行こうか‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

 

 

 

 

「くじら‼︎」

 

絵本にはクジラの絵が描かれていた

 

「たいほうも照月も見た事あるか⁇」

 

「ない‼︎おっきい⁇」

 

「照月もない‼︎」

 

「と〜っても大っきいんだぞ⁉︎」

 

「ママよりおっきい⁉︎」

 

「あぁ。貴子さんより大きい」

 

たいほうの中で”デカい”や”大きい”イコール貴子さんの様だ

 

「まっ…マーカス様‼︎」

 

絵本を読む手が止まる

 

「ふっ…おはよう、アイリス‼︎」

 

「おはよう…ございます。マーカス様‼︎」

 

少女は俺の脇に座っている二人の間に飛び込み、俺に抱き着いた

 

「ずっと逢いたかった…」

 

「私もです、マーカス様…」

 

まるで何年も離れ離れになっていた恋人の様に、俺はボディを持ったアイリスを抱き締めた

 

「すてぃんぐれいのおともだち⁇」

 

「そっ。ほら、時々フィリップの中にいただろう⁇」

 

「すっごいオッパイだよ⁉︎」

 

「マーカス様の趣味嗜好を意識した結果、このボディになりました」

 

「ははは。そっかそっか‼︎」

 

ボディを持ったアイリスは、身長はきそ位なのにアンバランスな程胸が大きい

 

それに、ほんの少しツリ目で、赤いメガネを掛けている

 

髪は金髪で、おさげ髪っぽくしてある

 

「そうだレイ。名前がまだ無いんだ」

 

「出なかったのか⁇」

 

「うん…翔鶴と叢雲の時は出たんだけど、アイリスは候補が多過ぎて決まらなかったんだ…」

 

「そうだなぁ…」

 

俺はふと、彼女が持っていた本に目が行った

 

「その本好きか⁇」

 

「マーカス様に初めて読んで頂いた本です」

 

持っていた本の名は

 

”Star Journey Whale”

 

”星を旅する鯨”と言う本だ

 

ステラと言う名も、アイリスと言う名も、この本に登場するキャラクターから来ている

 

「無限の可能性がある世界を旅する物語だったな⁇」

 

「はい。私の名前も出てきます」

 

「無限の可能性…無限ねぇ…」

 

ほんの少し考える

 

そしてすぐに出て来た

 

「ハチ…ハチにしよう‼︎」

 

「ハチ…ですか⁇」

 

「そっ。ハチの名は無限の可能性を秘めてる名前だ。数字で書いてご覧⁇」

 

「はい‼︎」

 

たいほうが紙とクレヨンをハチに渡した

 

「はち…こうですか⁇」

 

ハチは紙に数字で8を書いた

 

「横にしてご覧」

 

「横に…インフィニティになりました。はっ‼︎」

 

ハチの手元の紙には、∞と書かれている

 

「はっちゃん⁇」

 

「はいっ。はっちゃんです‼︎」

 

すぐにたいほうがアダ名を付け、ハチは”はっちゃん”と呼ばれる事になった

 

「おっ。新しい子か⁇」

 

「はいっ。ハチと申します。はっちゃんとお呼び下さいね⁇ウィリアム様」

 

「ほほぅ⁇アイリスか⁇」

 

「…バレました」

 

はっちゃんは恥ずかしそうに本で顔を隠している

 

「隊長には敵わないさっ」

 

「これから宜しくな、はっちゃん」

 

「此方こそ宜しくお願いします」

 

はっちゃんは隊長に笑顔を送った…

 

 

 

 

 

 

潜水空母”伊8”が艦隊に加わります‼︎




伊8…スーパーはっちゃん

レイの造り出したAI”アイリス”がボディを持った姿

巨乳で低身長、ほんの少しだけツリ目なのは、自分の創造者であるレイの好みを意識している為

レイに初めて読んで貰った

”Star Journey Whale”

通称”星を旅する鯨”と言う本を常に脇に抱えているが、海に行く時はちゃんと置いていく

近くにある電子機器を触らずに動かせる能力と、電子機器を探し出す感知機能を持っている

電子機器を動かしている時はボーッとし、感知機能を発動している時はメガネが光っているので大体分かる





”Star Journey Whale”…はっちゃんの宝物

はっちゃんが常に脇に抱えている本

実は本では無く、本と同じ様に、まるで本物の本の様にめくれるタブレット

はっちゃんがアイリスの時の情報がコレに詰まっている

乱暴な扱いをしても壊れず、万が一はっちゃんがこの本を失くしたとしても、はっちゃんの感知機能ですぐに発見出来る


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お正月特別編 ギャルと野郎のお餅つき

あけましておめでとうございます、苺乙女です

今回はツイッターで行っていたアンケートで、集計で一番票が多かったお話です

今回のお話は本編へと続きます



先に少しだけ人物紹介をしておきます

結構知らない人がいるのでね、へへへ…

まり…鈴谷

りさ…熊野

みほ…陸奥



レイ…一応主人公

大佐…パパ

たいほう…たいほう


今日はお正月

 

俺達はスカイラグーンに集まり、新年の挨拶をしていた

 

「あけましておめでとうございます‼︎」

 

「おめでとう、はいっ」

 

ワンコがたいほうにお年玉を渡している

 

「これなぁに⁇」

 

「お年玉だよ⁇」

 

「榛名にはくれんかったダズル」

 

「榛名も欲しい⁇」

 

「榛名は横須賀みたいに金に意地汚く無いダズル」

 

そうは言うが、榛名の顔は怒っている

 

「さっ、レイ。お年玉ちょ〜だい‼︎」

 

横須賀が手を出す

 

「お前なぁ…」

 

「何よ。子供達にはあげて、私にはくれないって言うの〜⁇ん〜っ⁇」

 

「ぐっ…ならやる‼︎出せるもんなら出して見やがれ‼︎」

 

俺はパンパンになって角張ったお年玉袋を横須賀に渡した

 

「なっ…何これ…固い…」

 

横須賀に渡したのは、特殊なプレス機でお年玉袋に万札をミチミチに入れた物だ

 

150万位は入っているが、早々簡単には出せない

 

「俺と隊長は予定があるから、今日は離れる。みんな、あけましておめでとう‼︎」

 

「「「おめでとう‼︎」」」

 

挨拶を残し、俺達は外に出た

 

「さぁっ‼︎アレン‼︎健吾‼︎私達も始めましょうか‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

「了解です‼︎」

 

 

 

 

俺達は一旦横須賀に着き、いつも通りジープを借りた

 

俺達は今から居住区へ向かう

 

年末、軽く掃除も済ませ、みんなそれぞれで過ごしていた時、隊長と俺に連絡が入った

 

俺は横須賀

 

隊長はみほからだ

 

「居住区で餅つきの依頼だ」

 

「ワンコの所の榛名に任せりゃいいんじゃないか⁉︎餅つきのアレはハンマーみたいな…おっ⁇」

 

隊長と話しているとまた何か連絡が来た

 

《榛名は単冠湾でお餅つきするんダズル。それが終わったらスカイラグーンでお餅つきダズル。いいな》

 

「つつぬけだ‼︎」

 

「行こう‼︎行かせてください…と」

 

 

 

 

そして今に至る

 

「街は大忙しだなぁ⁇」

 

「じゃすこ‼︎」

 

「新春の売り出しだろうな。お年玉貰った子供目当てに、商店は店開けるんだ」

 

「さーばんと‼︎」

 

「ん⁇」

 

隊長は運転しながらバックミラーを見た

 

「たっ、たいほう⁉︎いつからいた⁉︎」

 

後部座席には、ちゃんとシートベルトを締めたたいほうがチョコンと座っていた

 

「たいほうずっとここにいるよ⁇たいほうもおもちたべたい‼︎」

 

「…まぁいい。居住区にはみほもいるから、餅つきしてる間は見てくれるだろう」

 

「みほちゃん‼︎」

 

たいほうはみほが好きだ

 

多分、いつも抱っこしてくれるからだろう

 

…胸も大きいし

 

「さっ、着いたぞ」

 

居住区に着くと、既に準備が整えられていた

 

「お帰りなさい。ごめんなさいね、急にお願いしちゃって…」

 

「いいよ。たいほうも居るんだ。餅つきの間頼んでいいか⁇」

 

「分かったわ。さっ、たいほうちゃん。お姉さん達と、パパがついたお餅を丸くしましょうね〜⁇」

 

「たいほうもおもちつくる⁇」

 

「そうよ〜。ほらっ、あそこにお姉さんが二人いるでしょ⁇」

 

「ち〜っす‼︎」

 

「ごきげんよう」

 

「びでおのおねえちゃんだ‼︎」

 

まりとりさがエプロンを着けて準備万端の状態で待っている

 

たいほうから見たら二人はビデオに出て来たお姉さんだ

 

「まり⁇たいほうちゃんは任せるわよ⁇」

 

「任せてちょ〜だい‼︎んじゃ、まずはこれ着よっか⁇」

 

たいほうはまりにエプロンを着せて貰い、まりの横に立っている

 

「大佐‼︎もち米が来ました‼︎」

 

瑞鳳が臼にもち米を入れた

 

「よし。レイ、どっちがいい⁇ハンマーの方か⁇」

 

「ハンマーで行こう」

 

男二人が餅をつき始める

 

「えいしゃあ‼︎」

 

「よいしょ‼︎」

 

「ぬぅん‼︎」

 

「よいしょ‼︎」

 

俺達は上着を脱いで餅をついていく

 

俺も隊長もタンクトップ一丁だ

 

「うはぁ〜…スッゴイ筋肉‼︎」

 

「肉体美ですわ‼︎」

 

「第一陣上がりっ‼︎伊勢‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

つきたてのお餅を伊勢が回収し、まり達四人の待つ台の前に運んで来た

 

「たいほうちゃんはまりと”ノーマルお餅”役ね⁇」

 

「のーまるおもち⁇」

 

「まりが作ったお餅に、こんな感じに粉付けてね⁇」

 

まりは塊になっているお餅をひとつまみし、丸めて粉を付けて見せた

 

「こなこな」

 

「そう‼︎こなこな‼︎ほいっ‼︎」

 

「こなこな〜」

 

「上手上手ぅ‼︎」

 

まりはたいほうを扱うのが上手い

 

たいほうはまりから渡されたお餅にキチンと粉を付け、横に並べて行っている

 

「りさ〜、そっちのチョコはどうよ‼︎」

 

「よろしくてよ‼︎」

 

「みほはどう⁇」

 

「大丈夫よ‼︎二人共良くついてくれてるわ‼︎」

 

「大佐‼︎第二陣です‼︎」

 

「来いっ‼︎」

 

一服する間も無く、臼に第二陣のもち米が放り込まれる

 

今度は隊長がハンマーを持つ

 

「よいしょ‼︎」

 

「うりゃあ‼︎」

 

「よいしょ‼︎」

 

「ほいやぁ‼︎」

 

勇ましく餅をつく二人を、りさは目をキラキラさせて見ていた

 

「殿方はやはりこうでないと‼︎」

 

「相変わらずりさは男臭さに弱いわね…」

 

「…」

 

りさの目線の先は大佐がいる

 

みほの目線も大佐だ

 

だが、まりだけは違っていた

 

まりはレイを見ていた

 

「まりちゃん、すてぃんぐれいすき⁇」

 

「うんっ‼︎カッコいいよね。横須賀さんが好きになるの分かるよ」

 

「たいほうもすてぃんぐれいすき‼︎」

 

「たいほうちゃんから見たら、レイさんはお兄ちゃんになるの⁇」

 

「すてぃんぐれいはたいほうのおともだちだよ⁇」

 

「そっか。お友達かぁ…友達、ね」

 

「第二陣上がり‼︎」

 

またドカドカッとお餅が置かれ、まりはお餅を丸めて行く

 

「終わりっ‼︎大佐、レイさん、ありがとうございました‼︎」

 

「つ…疲れたぁ…体力いるのな…」

 

「汗だくだ…」

 

 

 

「お疲れ様ですわ」

 

隊長の頭にタオルが被せられた

 

被せたのはりさだ

 

「ありがとう…ふぅ」

 

「貴方がたのお陰で、沢山お餅が出来上がりましてよ⁇」

 

「あったかいお雑煮食べてね⁇大佐の娘さんが丹精込めて作ってくれたのよ⁇」

 

みほにそう言われたいほうを探すと、大きな鍋にまりと共にお餅を入れている姿が見えた

 

「グツグツ〜っと煮込みますね〜」

 

「ぐつぐつ〜」

 

「グツグツ〜」

 

たいほうとまりは鍋の中身を見て、首をクルクル回している

 

「仲良さそうだな」

 

「まりは艦娘の時から面倒見が良くてよ」

 

りさは隊長の横に”さりげなく”座った

 

「元は鈴谷…だったか⁇」

 

「えぇ。因みに私もみほさんも元艦娘でしてよ⁇」

 

「三人共、同じ所属だったのか⁇」

 

「柱島…と言えば、貴方がたは分かって頂けますか⁇」

 

「大体分かった」

 

柱島はプリンツが元いた基地だ

 

必要が終われば切る、そんな基地だ

 

「私達の場合は違いましたわ…」

 

「無理に言わなくて良いぞ⁇」

 

「辛いなら口を閉ざすのも一つの道だ」

 

「いえ…私達がここに居られるのは紛れもなく貴方がたのお陰…話させて下さい」

 

りさは自分達の過去を話してくれた

 

りさは元は熊野と言う名の艦娘だ

 

りさ達は大きな反攻作戦に参加したが道中で大破してしまい、任務を失敗して帰って来た

 

その時、柱島の提督はその時大破して帰って来た、熊野、鈴谷、陸奥を有無を言わさず除籍処分とした

 

勿論、艤装だけは剥ぎ取って…

 

行き先も無く途方に暮れていた時、ここの居住区の事を聞き、安住の地を手に入れた…と言う訳だ

 

「なので、貴方がたには感謝してもしきれませんわ…」

 

「後はゆっくり暮らすといいさ。ここは平和だ」

 

「争い事は私達に任せればいい。早い内に何とか終わらせてみせるさ」

 

「お願い致しますわ」

 

「り〜さ〜‼︎出来たよ〜‼︎」

 

向こうでまりが呼んでいる

 

「さっ、私達も行きましょう。温かいものをお召し上がりになって下さいな」

 

りさの後に着いて行き、瑞鳳からお雑煮を受け取った

 

「はい‼︎」

 

「あらっ、ありがとう」

 

みほはたいほうからお雑煮を受け取り、長椅子に腰掛けた

 

「おもちおいしい‼︎」

 

「いっぱい伸びるわね⁇」

 

二人の口元には伸びたお餅が咥えられている

 

「おっきいおもち」

 

「切ってあげよっか⁇」

 

「うん」

 

みほはたいほうのお雑煮のお餅をお箸で小さく切った

 

「はいっ、どうぞ」

 

「ありがとう‼︎」

 

みほとたいほうが食べている時、俺と隊長は別れて食べていた

 

隊長はりさ

 

俺はまりだ

 

「レイさん、今日はありがとね‼︎」

 

「おぉ。まりもたいほうの面倒見てくれてありがとうな」

 

「レイさんってカッコいいよね‼︎まりは好きだよ‼︎」

 

急にまりから告白され、餅が詰まる

 

「ばっ…バカ‼︎そう言うのはなぁ…」

 

「あっれ〜⁉︎レイさんもまりの事好き〜⁇」

 

「そう言うのじゃない。それにな、俺は結婚してんだ‼︎」

 

「知ってるよ。横須賀さんでしょ⁇」

 

「知ってるなら言うな‼︎」

 

まりはおちょくる様に笑う

 

「まりには好きな人がいるのです‼︎」

 

「ほぅ…女子高生の恋バナ程面白い話はない‼︎聞かせろ‼︎」

 

「嫌だし〜‼︎」

 

まりは赤い舌をペロッと見せた

 

「まぁいいや。レイさんには特別に教えたげる」

 

「早く教えろ‼︎」

 

「まりの好きな人はね、学生時代に同級生だった人なのさ‼︎」

 

「そいつは今どこに居る⁇」

 

「さぁ」

 

「さぁっておい‼︎」

 

「だって学校卒業したらどっかの学校に行っちゃったんだもん‼︎まぁ、元々物を直したりするのは得意だったし⁇今はどっかで整備士にでもなってるんじゃない⁇」

 

「何で分かる⁇」

 

「乙女の勘っ‼︎」

 

「え〜と…結論を言うと、探せ、と⁇」

 

「いやいや‼︎そんな事は、まり頼みません‼︎」

 

「まぁ…ある程度は当たってみるが…期待はするなよ⁇」

 

「さっすがレイさん‼︎男だねぇ〜‼︎」

 

「ったく…」

 

しばらくまりと話したが、好きな人のヒントは得られなかった…

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした‼︎」

 

雑煮を食べ終わり、お土産のチョコ入りの餅と大福を貰った

 

「あっ、たいほうちゃん、ちょっとおいで‼︎」

 

まりに呼ばれ、たいほうは彼女の元に向かった

 

「これあげる‼︎」

 

まりが渡したのは、ハートの形の赤い石が付いたイヤリングだ

 

「わぁ、きらきら‼︎たいほうにくれるの⁉︎」

 

「うんっ‼︎今日は頑張ってくれたから、まりからのご褒美‼︎キーホルダーにしても使えるからね‼︎」

 

「ありがとう‼︎」

 

たいほうは嬉しそうにポシェットにそれを仕舞った

 

「ばいば〜い‼︎」

 

「ばいば〜い‼︎」

 

居住区の子達と別れ、俺達は帰路に着いた…

 

 

 

 

 

 

 

「柱島…か。何とかせんといかんな…」



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127話 断罪(1)

さて、126話が終わりました

最近、あまり体調が芳しくないです

寒さって嫌ですね…

今回のお話は、前回お話に出て来たとある基地へと向かいます


俺達はスカイラグーンに集まっていた

 

集まったのは

 

俺と隊長

 

ワンコ

 

トラックさん

 

呉さん

 

ラバウル三人衆

 

そして総司令と護衛の二人だ

 

「我々の所からよく演習の部隊を派遣するのですが、毎回相手をする艦娘が違います」

 

そう言ったのはトラックさんだ

 

「補給を断る場合もありましたね…」

 

「資源は有り余ってるハズなのにな…」

 

ワンコがそう言うと、呉さんが反応を示した

 

どうやら呉さんの艦隊も補給を断わられた様だ

 

「ウチにいるプリンツに話を聞いた事があってな。柱島は大破したり、役に立たないと見るとすぐに除籍するらしい」

 

「しかも艦娘に手を出してると来た」

 

隊長の言った言葉に間違いは無い

 

確かにプリンツは手を出されかけたと言っていた

 

「なるほど…柱島はそこまで…一度制裁が必要ですね…今日、ここに来る時、纏められるだけの資料は集めてみました。ご覧下さい」

 

椎名から渡された資料を見ると、おおよその資源の備蓄量、艤装や航空機の数、そして所属している艦娘の名簿があった

 

「備蓄量はウチと同じか…十分に譲り合える量はあるな」

 

「あぁ。にしても、艤装の数が多いな…ん⁇」

 

俺はふとある事に気が付いた

 

「南部式手甲銃…」

 

反対派でないこの基地の艤装一覧に”南部式手甲銃”がそれぞれ一丁ずつ配備されていた

 

俺が秋月と照月に造った艤装の量産型だ

 

だが、何故この基地に⁇

 

「南部式って…レイの造った艤装じゃないか⁉︎」

 

「反対派にしか配備されていないハズだ」

 

アレンと呉さんが驚いている

 

俺は驚くより、柱島への不信感が更に増した

 

「椎名さん…頼みがある」

 

「はっ。なんなりと」

 

「この艤装があると言う事は、反対派の基地の中で鹵獲された艦娘がいる可能性がある。反対派の面々に連絡を取って欲しい」

 

「了解です。あかり、真田。各基地に連絡を」

 

ジュニアと真田はすぐに連絡を入れ始めた

 

「総司令。佐世保鎮守府から一人行方不明が出ています」

 

「大湊からも一人‼︎数日前から行方不明の駆逐艦が‼︎」

 

「すぐに柱島に向かう。コード119‼︎」

 

「了解。コード119、発令」

 

コード119は救出指令だ

 

これを発令すると、大湊の機動部隊が動く

 

コード119はすぐにタイコンデロガ・改に届いた

 

どうやら近くを回遊している様で、艦隊はすぐにスカイラグーンに着いた

 

「棚町艦長。乗せて頂けるかな⁇」

 

「はっ。此方へ」

 

椎名達三人がタイコンデロガ・改に乗り、隊長とラバウル三人衆もタイコンデロガ・改に乗り込んだ

 

「私とトラックさん、ワンコ君はイージス艦に」

 

「はいっ‼︎」

 

「了解です‼︎」

 

三人がイージス艦に乗ったのを見て、俺もタイコンデロガ・改に乗った

 

操舵室に招かれ、俺は窓際に座った

 

《護衛空母、ガンビア・ベイⅡより空母タイコンデロガ・改へ。艦隊編成への介入を求む》

 

「此方、空母タイコンデロガ・改。了解、ガンビア・ベイⅡ」

 

《お兄ちゃんもいるの⁉︎》

 

「てっ、照月⁉︎」

 

ガンビア・ベイⅡからの無線から聞こえて来た声は間違いなく照月だ

 

「そこで何してるんだ⁇」

 

《照月、ガンビアさんに乗ってお餅食べに回ってたの‼︎榛名さんのお餅、美味しかったなぁ〜‼︎》

 

《貴様と違って照月は褒めてくれるダズルな》

 

「榛名もいるのか⁉︎」

 

《緊急指令ダズル。榛名も役に立つハズダズルよ⁇》

 

「すまん。手伝ってくれ」

 

榛名が居れば百人力だ

 

これ以上無い助っ人だ

 

「さぁ、柱島へ向かいましょう‼︎」

 

旗艦タイコンデロガ・改艦隊は柱島へと向かい始めた

 

 

 

 

 

タイコンデロガ・改に乗るのはあの日以来だ

 

相変わらずこの艦に乗ると気が引き締まる

 

気が引き締まると小便がしたくなるのが俺の性だ

 

「今日は横須賀がいないから静かでいい」

 

「嫁は嫌いか⁇」

 

「うるさいのは嫌いだな」

 

「基地で好き好き言ってるのにな⁇」

 

「隊長‼︎」

 

アレンと隊長と甲板から立ちションをしながら他愛の無い話をする

 

俺達はいつだってそうだ

 

空に飛ぶ前や、難しい任務の前は決まって明るい話をする

 

そうすれば、また帰って来れる

 

それが俺達のジンクスだからだ

 

《あ〜っ‼︎お兄ちゃんオシッコしてる〜‼︎》

 

《下品ダズル‼︎》

 

「うるせぇ‼︎ブッ掛けんぞ‼︎」

 

《そんなお粗末なモノで横須賀を泣かせてるんダズルな》

 

「うるせぇ‼︎」

 

…まだヤってないとは言えない

 

そろそろ、一度位抱いても良いのだろうか…

 

手を洗っていると右から声がした

 

「これが終わったら一度抱いたらどう⁇」

 

「アレン。お前また死亡フラグを…」

 

「なんだ⁇」

 

アレンは左にいる

 

「うるさくて悪かったわね〜⁇レイ君っ⁇」

 

「ぐっ…」

 

横に居たのは横須賀だ

 

「この空母を動かす権限持ってるのは私。分かる⁇わ・た・し‼︎」

 

わ・た・しと一文字言う度に顔を近付けて来る

 

「柱島に近付いて来た。本艦は柱島基地沖にて待機。艦載機は準備が整い次第、順次発艦‼︎」

 

「んじゃ、行ってくる」

 

「ちょっと」

 

「なんだよ‼︎」

 

「アンタはそっちじゃないわ」

 

嫌だと言おうとしたが、今日はフィリップじゃない

 

スカイラグーンには高速艇で来た

 

もし乗るとなったら、複座式のライトニングⅡだ

 

だが、横須賀はライトニングⅡの反対方向に引っ張って来た

 

横須賀に腕を引かれ、艦内に入り、どんどん下へと向かっていく

 

「艦載機に乗るか、ホバークラフトか…どっちがいい⁇」

 

艦内には数隻のホバークラフトがあった

 

高速艇程では無いがスピードがあり、申し訳程度の小型ロケットランチャーが付いている

 

「ほっ…ホバークラフトで」

 

「だと言うと思った。ホラ、行くわよ‼︎」

 

横須賀を後ろに乗せ、艦尾から出た

 

「アンタ艦載機の運転ヘタだもんね」

 

「だっ…黙って乗ってろ。舌噛むぞ」

 

「はいはい」

 

一足早く柱島に着き、他の連中が到着するのを待つ

 

「時計ブッ壊れたのか⁇」

 

横須賀は俺の隣で腕時計に耳を当てていた

 

「ん」

 

横須賀は背伸びして、その腕時計を俺の耳に当てた

 

何かの信号音が聞こえる…

 

「なるほど。生体反応か」

 

「万が一にいるでしょ⁇きそちゃんがくれたの」

 

「着いたぁ‼︎」

 

「よ〜し。一発かますダズル‼︎」

 

照月と榛名がガンビア・ベイⅡから降りて来た

 

榛名は降りるが否や腕を回し、ハンマーを手に取った

 

「待て待て待て‼︎」

 

「提督から基地をブッ壊す任務だと聞いたんダズル‼︎」

 

「照月は貯蔵庫のゴハンぜ〜んぶ食べていいって聞いたよ‼︎」

 

「まずは話し合いからだ。いいな⁇」

 

「先手必勝と言う言葉もあるダズル」

 

「ダメだ。勘違いだったら大変だ。多分、勘違いじゃないだろうがな…」

 

「なら行くダズル。まずはあの格納庫からダズル‼︎」

 

榛名は格納庫が並ぶエリアへと向かった

 

「あっ‼︎ちょっ‼︎」

 

「放っておきなさい。榛名ちゃんは口ではあぁいう子だけど、根は優しい子よ」

 

「知らねぇからな。後から泣くなよ⁉︎」

 

「照月は…その…」

 

「まずはお話、だな⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

そうこうしている内に全員が着いた

 

「さぁ、行きましょう」

 

椎名が先頭で、連中が後を続く

 

執務室に入る少し前、俺はどうしても気になる事を聞こうとしていた

 

「レイ」

 

「ん⁇」

 

「私に何か聞きたい事があるね⁇」

 

「いやぁ。何であんなリストが手元にあるんだろうなぁ〜と…」

 

「ふふっ。すぐに分かるさ」

 

椎名はそう言って、執務室の扉を開けた

 

「失礼」

 

「何の用すか⁇」

 

執務室の提督が座る椅子には、太った男がピザを食べながらパソコンを弄っていた

 

「まず君に言う事がある…ちったぁ片付けろ‼︎」

 

その場にいた仲間内全員の頭に

 

”レイだ”

 

と、過る

 

「何なんすか⁇」

 

「君の基地を強制捜査する」

 

「はぁ⁉︎テメェ何処の権限で…」

 

柱島の提督が立ち上がろうとした瞬間、ジュニアと真田が日本刀に手を掛けた

 

「これは海軍総司令の権限で行う」

 

「だったらその総司令様を連れて来いよ‼︎」

 

「あぁ、すまない。私はいつも自己紹介が遅れてね。こう言う者だ」

 

椎名が差し出した名刺を見て、柱島の提督の顔が青ざめた

 

「二、三聞きたい事がある。君には此処に居てくれ。レイ、捜索はお願いします」

 

「了解っ。さっ、俺はちょっくらその辺見てくる」

 

「照月も行く‼︎」

 

男衆がバラバラに散り、俺と横須賀と照月は地下施設を見回る事にした

 

薄暗い地下施設に降りると、照月の長☆10cm砲ちゃんの頭部ライトが点いた

 

「よ…よし。何も出ない事を祈ろう‼︎」

 

生唾を飲み、照月の背後に隠れながら奥へと進む

 

「お兄ちゃん、オバケ怖い⁇」

 

「オバケなんかいない」

 

「照月、オバケ見た事あるよ」

 

「やめろ‼︎」

 

最近中途半端に照月が俺の脅し方を覚えたから怖い

 

「真っ暗だね…」

 

「ぐるっと一周したらマジ出るからな」

 

「あっ‼︎そうだ‼︎この前きそちゃんに貰ったこれで…」

 

照月が何かゴソゴソしている

 

「爆弾じゃないでしょうね⁇」

 

「爆弾じゃないよ⁇照月フラッシュ‼︎」

 

「眩しっ‼︎」

 

照月の前が煌々と照らされている

 

「照月のフラッシュさんなんだよ‼︎」

 

そう言う照月の手には、デカイ目の懐中電灯が握られている

 

「レイ。信号音をキャッチしたわ」

 

「嘘だろ⁇」

 

「生体反応ありよ。それも二つ…近いわ」

 

「そこにおるのは誰じゃ‼︎」

 

「でででで出たぁ‼︎」

 

一室から声がした

 

「内側からでは開けられん構造になっておる。そっち側から開けておくれ」

 

「レイ。開けて。生体反応はそこよ」

 

「大丈夫だよ‼︎お兄ちゃんに襲い掛かって来たら、照月がどし〜ん‼︎してあげる‼︎」

 

「う…い、行くぞ‼︎」

 

意を決して扉に手を掛けた

 

「すまぬ。助かった」

 

「やっと出れる…」

 

部屋の中には女の子が二人いた

 

恐らく、行方不明になっていた駆逐艦の子に間違いないだろう

 

「我が名は初春じゃ」

 

「私は長波」

 

「所属は⁇」

 

「妾は佐世保じゃ」

 

「大湊だ」

 

やはり行方不明になっていた二人だ

 

「提督は心配しとるかや⁇」

 

「当たり前だ。さっさと出るぞ」

 

「やべ…立てねぇわ…先行ってくんねぇか⁇」

 

長波はしばらく此処に居た為か、足が鈍ってしまい、立つのに時間がかかりそうだ

 

「ほらっ」

 

「へへ…悪いな…」

 

長波を背負い、また照月を先頭に置いて地下施設から出た

 

「長波様の胸はどうだ⁇柔っこいだろ⁇」

 

「…そうだな」

 

長波は俺の背中に敢えて胸を押し付けて来た

 

着痩せするタイプなのか…

 

結構デカイな…

 

「助けてくれた御礼だ。多めに押し付けといてやんよ」

 

「ありがたいこった…」

 

明るい場所に出て長波を降ろし、軽く二人の身体検査をする

 

「ここ数日、何か腹に入れたか⁇」

 

「いや…ここに拉致されてからは、妾は何も口にしておらぬ」

 

「私もだ。腹減ったぁ〜」

 

二人共頬骨がこけていた

 

「トラックさんに何か作って貰おうな」

 

「照月は貯蔵庫がいいなぁ〜」

 

「よし照月。貯蔵庫に行って、好きなモン食え‼︎」

 

「いいの⁉︎」

 

「俺が許す。行っておいで」

 

「行って来ま〜す‼︎」

 

照月は待ってましたと言わんばかりに一目散に貯蔵庫へと向かった

 

「凄い速さね…」

 

「照月は良く食べて良く動くからな」

 

二人を連れて執務室に帰ると、椎名さんが柱島の提督と話していた

 

「行方不明の子は確保したぜ⁇」

 

「我々も違法品を見付けた」

 

「私もだ」

 

「これです」

 

隊長、トラックさん、呉さん、それぞれの手から艤装が降ろされる

 

「南部式手甲銃…Fumoレーダー…散弾機銃…言い逃れはっ、出来ませんな」

 

椎名の目が艤装から柱島の提督に戻った

 

「で⁇」

 

柱島の提督が放った一文字で場が凍り付く

 

「で⁇コレを出したからなんですか⁇」

 

柱島の提督はあくまで白を切る

 

「君は違法なルート…つまり、艦娘を拉致したり、強奪をしてこれらの艤装を手に入れた…どう言う事か、分かるな⁇」

 

「さぁ⁇」

 

「あくまで白を切るのか⁇」

 

「知らない事をやったとか言われてもねぇ…」

 

「提督。お茶が入ったぜ…ふぁ」

 

この基地に唯一残っている艦娘”加古”がお茶を持って来た

 

欠伸をしている所を見ると、随分眠たそうだ

 

「加古。後頼むわ。コイツらにやってない事やったとか言われてさぁ」

 

「あいよ〜」

 

柱島の提督は加古に全てを任せ、俺達が一瞬目を離した隙に窓から逃げ出した

 

とは言っても一階なので落ちて死ぬ事は無い

 

「レイ、追うぞ‼︎」

 

「あ、トラックさん‼︎二人に何か栄養のあるモノをお願い‼︎」

 

「了解です。さっ、食堂に行こうね」

 

トラックさんは食堂に向かい、俺と隊長は柱島の提督を追いかけた



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127話 断罪(2)

少し前

 

照月は貯蔵庫に辿り着き、早速めぼしい食べ物に手を伸ばした

 

「うへっ‼︎何これ〜‼︎」

 

照月は口に入れたモノを吐いた

 

「腐ってる。照月、腐ったのは食べないよ‼︎」

 

緑色のカビが生え、カチカチになったパンを床に投げ、別のモノを探す

 

「向こうにあった燃料も酸化してるし、この炭酸のジュースは炭酸抜けてる…」

 

照月は不信感を抱いていた

 

食べる物や、補給するもののお粗末さに

 

「あっ‼︎レーション‼︎」

 

ようやくダンボールに入っていたレーションを見付け、まずは日にちを確認する

 

「うんっ‼︎これなら大丈夫‼︎いただきま〜す‼︎」

 

照月はレーションを一つ、また一つと開け、10分もしない間にダンボールの中に入っていたレーションをペロリと平らげた

 

だがしかし、そんな量で足りるハズがない照月

 

ウン十万のカロリーを取ろうが、照月は腹に入ってしまえば関係ない

 

美味しくて、量が多いモノが照月を喜ばせるのだ

 

「あっ‼︎缶詰‼︎」

 

棚一面に缶詰のダンボールが置いてある

 

カニ

 

おでん

 

パイン

 

ミカン

 

「わぁ〜っ‼︎」

 

色とりどりの缶詰を目の前にして、照月は目を輝かせた

 

照月は缶詰を手に取り、再び日にちを見てから大丈夫だと確認

 

「えいっ‼︎」

 

缶詰のフチを親指の爪で穴を開け、ぐるっと一周して中身を飲む様に食べ始めた

 

「おミカンおいひ〜‼︎」

 

ミカンの缶詰の空き缶が積まれて行く

 

「次っ‼︎照月の好きなおでんっ‼︎」

 

おでんの缶詰を三つ程食べた時、貯蔵庫に誰か入って来た

 

「誰⁇」

 

「私は照月‼︎」

 

「あっそ。何でも良いけどさ、出てって…」

 

柱島の提督は、照月の後ろを見て驚愕する

 

あれだけあった貯蔵庫の食物が、ほとんど無くなっているからだ

 

「何で食べたの⁇」

 

「照月だからっ‼︎あげないよ‼︎」

 

照月は周りにあった缶詰を抱えるだけ抱えて、柱島の提督を睨んでいる

 

「人のモノ取ったら泥棒だろうがぁ‼︎」

 

「おじさんだって駆逐艦の子とか、プリンツさんの艤装取ったりしてるじゃん‼︎照月は”いいよ”って言われたから食べてるの‼︎」

 

「こいつっ‼︎」

 

柱島の提督は照月に殴り掛かろうとしたが、ほんの一瞬、照月の身体つきに目が行った

 

小学生位の体格なのに、出る所は出ている

 

柱島の提督は照月でムラムラし始めた

 

「最近ご無沙汰だし…最後位いいよな」

 

柱島の提督はベルトを外しながら照月に近付く

 

「照月、今からおじさんが何するか知ってるよ」

 

「ほぅ⁇なんだい⁇」

 

「照月のお尻にソレ、挿れるんでしょ⁇」

 

「良く知ってるねぇ。まっ、飯代分位は返して貰うね」

 

「そんなちっちゃいので照月が満足すると思う⁇」

 

もう照月に性的な攻撃は効かなかった

 

「いいよ、おじさん。照月にソレ挿れたら気持ちいいんでしょ⁇」

 

「そうだね」

 

「でもその代わり、それが終わったら、照月はおじさんを殺すよ⁇それでもいい⁇」

 

「やれるならねっ‼︎」

 

柱島の提督は照月を押し倒そうとする

 

が、照月は何故か倒れない

 

照月はコンクリの床に座ったまま、缶詰を食べ続けている

 

「な…なんで⁉︎」

 

今の照月はレーションやら缶詰を食べまくった後である

 

体重は計り知れない

 

多少太った男性が押し倒そうとしてもビクともするハズがない

 

「おじさん、知ってる⁇」

 

「な…なんだ…」

 

「女の人のお尻にソレ挿れるのって、好きな人とやるんだよね⁇」

 

「さぁ⁇」

 

「照月、おじさん嫌いだよ⁇」

 

「あっそ」

 

柱島の提督は子供相手にも白を切る

 

そしてまた襲い掛かる

 

「あっ…」

 

押し倒され、ようやく照月は仰向けになった

 

「照月に痛い事したら、ちゃんとお兄ちゃんの所に行ってね⁇」

 

「はいはい」

 

「その必要はないダズル‼︎」

 

「がっ…」

 

急に柱島の提督が倒れた

 

「榛名さん‼︎」

 

「ったく…監禁とか横領とか云々の前に婦女暴行で逮捕ダズル‼︎」

 

「榛名さん、ありがとう‼︎」

 

「大丈夫ダズルか⁇」

 

「うんっ‼︎照月、大丈夫‼︎」

 

榛名は照月の背後に沢山積んであるレーションや缶詰の空き缶を見て、少し微笑んだ

 

「さ、此奴をみんなの所に連れて行くダズル」

 

「うんっ‼︎」

 

榛名は柱島の提督を紐でぐるぐる巻きにし、照月と片足ずつ持ち、俺達のいる所に戻って来た

 

「確保したダズル‼︎」

 

「照月、お尻にコレ挿れられそうになった‼︎」

 

照月は柱島の提督の股間部分を指差した

 

「なんだと…」

 

椎名は肩を震わせて怒っている

 

「おい。顔上げろ…」

 

椎名は柱島の提督の顎を持ち、ピストルの銃口を口に入れた

 

「質問に答えろ。いいな」

 

柱島の提督はうなづいた

 

だが、目はまだ諦めていない目をしている

 

「今、重要参考人を呼んでいる。すぐに来るから、そのまま待機しろ」

 

 

 

 

 

その頃、ラバウルの三人とワンコは戦闘機の格納庫に居た

 

「健一君。コレが何か…分かるかい⁇」

 

「えぇ…良く整備させて貰った機体ですからね」

 

黒いボディ…

 

雷鳥のエンブレム…

 

此処に居る四人は、忘れるハズも無かった

 

サンダーバード隊の戦闘機だ

 

しかもこれはグラーフの機体だ

 

「ワンコ‼︎コイツも分かるか⁉︎」

 

アレンの前には、大型のエンジンが置いてある

 

「この機体のエンジンですね」

 

「直せそうか⁇」

 

アレンの言葉を聞いて、ワンコは気付いた

 

「とっ…飛ばすんですか⁉︎」

 

「昔惚れた女が、どんな風景を見ていたか…見てみたいんだ」

 

ワンコは突然のアレンの告白に驚きはしたが、エンジンに目線を戻した

 

「レイさんに言ってもいいですか⁇」

 

「そっ、それだけはやめろ‼︎」

 

「冗談ですよ。心に仕舞って置きます」

 

「しかし、何でまたこの基地にこの機体が…」

 

「キャプテン‼︎分かりました‼︎」

 

健吾とラバウルさんが離れた場所で話しているので、ワンコとアレンも向かう事にした

 

「何が分かったんだ⁇」

 

「グラーフはあの日、この基地に不時着したんです」

 

「反抗作戦の時か⁇」

 

「はい。それで、その時から此処の提督をしていた彼は、グラーフにも手を出したそうです」

 

「何て事を…」

 

「まぁ、グラーフさんは反撃して結局何にも無かった様ですけど…」

 

「でも、何でグラーフは深海になった⁇」

 

「捨てられた…と、とある艦娘が証言しています」

 

「加古か⁇」

 

「あ…いえ」

 

「私です‼︎」

 

四人は現れた少女を見て納得し、五人は執務室に向かう

 

 

 

 

「ウィリアム」

 

「エドガー。そっちはどうだった⁇」

 

「懐かしい機体がありましたよ…それとっ」

 

ラバウルさんは少女の背中を押し、部屋の中に入れた

 

「プリンツ⁉︎」

 

「そう。貴方に捨てられたプリンツです」

 

「どうしてここに⁇」

 

「私がプリンツに話したの。そしたら来てくれるって言ってくれたの」

 

プリンツは柱島の提督を睨み付ける

 

「加古‼︎今のお前ならプリンツをやれる‼︎殺れ‼︎」

 

こいつの諦めていない目は加古の事か…

 

確かに加古は強い

 

ちゃんと集中すれば、プリンツと互角の強さだ

 

「え〜⁇何で〜⁇」

 

「命令だ‼︎言う事を聞け‼︎」

 

「あぁ、はいはい。命令ね。ずっと聞いてるよ」

 

「何で動かん‼︎」

 

「だって…ねぇ⁇」

 

何故か加古はグズる

 

そんな加古を見て、椎名が口を開いた

 

「加古。行方不明の二人の名前は⁇」



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127話 断罪(3)

「はっ。長波と初春です」

 

「奪われた艤装は⁇」

 

「南部式手甲銃二丁、散弾機銃三丁、Fumoレーダー一つです」

 

「これでお分かりかな⁇」

 

加古はスパイだった

 

「ぐっ…」

 

「君を誘拐、窃盗、横領で逮捕する」

 

「婦女暴行もダズル‼︎」

 

「あぁ…婦女暴行もだ‼︎」

 

「あっ、照月も一つ言いたい‼︎」

 

「なんだい⁇」

 

照月は柱島の提督の前で膝を曲げた

 

「おじさん。腐ったモノはポイしようね⁇」

 

「…」

 

柱島の提督はそっぽ向いた

 

後で調べて分かったが、照月の言った通り、この提督は腐ったりカビが生えているモノを艦娘に食べさせ、自分は高級なモノを食べていた

 

柱島の提督は連行され、一足先に椎名と側近の二人と共に、イージス艦で基地を後にした

 

「レイさん。お手伝い願えますか⁇」

 

「お⁇おぉ…」

 

ワンコに連れられ、アレンと共に格納庫に来た

 

「グラーフの機体か…懐かしいな」

 

「全く構造が分からないんです…」

 

「グラーフの機体は電子戦に特化してるんだ…確かここに…」

 

機体の腹部を小突くと、何か出て来た

 

「HUDジャマー発生装置か。しかも初期型だ」

 

「直せますか⁇」

 

「直せるもなにも、ここをこうして…これでおしまいだ」

 

HUDジャマーを少し弄り、機体へ戻した

 

「後は味方機のレーダー強化パッチがあったハズだ」

 

今度は機体の上に登り、背中部分を小突く

 

「おっ、あったあった」

 

これも少し弄り、また機体へ戻す

 

「特殊兵装はこんなモンだ。後は…野郎共‼︎集合〜‼︎」

 

と、声を上げるが、いつもならゾロゾロ出て来る妖精が来ない

 

「あれっ⁇野郎共‼︎集合〜‼︎」

 

「来ませんね…」

 

「ここの提督が変な扱い方するから来ないんじゃないか⁇」

 

「ワンコ。隊長と呉さん呼んで来てくれ」

 

「分かりました‼︎」

 

ワンコが隊長達を呼びに行った後、アレンと二人きりで少し話す事にした

 

「乗って帰るのか⁇」

 

「どのみちこの機体は博物館の展示品になる。最後位空を飛ばせてやりたい」

 

「…しっかしまぁ、グラーフはよくこんな小難しい機体をAI無しで操縦出来るな」

 

「きそちゃん位じゃないか⁇後はお嬢」

 

「お前もお嬢って呼ぶのな…」

 

「呼んで来ました‼︎」

 

「どうした⁇おぉ…」

 

隊長は入って来た瞬間開いた口が塞がらなくなった

 

「いい機体だよな」

 

「あぁ…こんな所に居たのか…」

 

「エンジンを載せたいけど、妖精がいないんだ」

 

「榛名も手伝うダズル‼︎」

 

「照月も‼︎」

 

この二人が居ればもう大丈夫な気がする…

 

「榛名、照月。エンジンをここに付けたい。持ち上げられるか⁇」

 

「オーケーダズル‼︎照月、そっち持つダズル‼︎」

 

「持ったよ‼︎せーのっ‼︎」

 

「どっこいせぃダズル‼︎」

 

「よいしょ‼︎」

 

大の男が数人がかりでようやく持てる戦闘機のエンジンを、二人は軽々と持った

 

「そこに置いてくれ。投げるなよ」

 

「そんな事言ったら貴様の顔面に投げるダズル」

 

榛名はブツブツ言いながら照月と共にエンジンを所定の位置に置いた

 

「アレン‼︎」

 

「ホラよ‼︎」

 

器具とバーナーを渡され、ワンコとアレンの三人がかりで機体にエンジンを取り付けた

 

「よ〜し‼︎これで飛ぶだろう‼︎アレン‼︎ちゃんと飛ばせよ‼︎」

 

「任せろ‼︎」

 

アレンは意気揚々と機体に乗り込み、エンジンを吹かせた

 

「オーケー‼︎機体は横須賀に停めて来い‼︎帰りはヘラが迎えに行ってくれるから、乗って帰って来い‼︎」

 

「分かった‼︎またな‼︎」

 

「あぁ‼︎」

 

アレンは飛び立った

 

グラーフの機体、最後のフライトである

 

「行きましたね」

 

「あんだけ飛ばしゃあ、問題無いな」

 

アレンの乗る機体が見えなくなるまで、そこにいた皆が大空を仰ぎ見ていた

 

「さっ、帰ろう。スカイラグーンで佐世保の提督が待ってる」

 

隊長の言葉で、ようやく柱島の一件が終結した…

 

 

 

 

 

 

 

スカイラグーンに着くと、佐世保の提督が待っていた

 

「初春‼︎」

 

「提督‼︎」

 

老体の男性が初春を抱き締める

 

「すまん…本当にすまんかった‼︎」

 

「妾がおらんで、寂しかったろう⁇」

 

「当たり前だ…」

 

二人は感動の再会を果たしている

 

「が…ガンビアの連中はどうした⁇」

 

「あっひにいうお‼︎」

 

照月が口をモグモグさせながら指差した

 

喫茶ルームの隅では、ガンビア・ベイⅡの連中がへばっていた

 

ガンビア・ベイⅡは照月を乗せてここまで来てくれたのだが、沈没しかけていたのだ

 

理由は照月の体重

 

相変わらず照月はガンビア・ベイⅡに乗ると、中にあるモノをほとんど食い荒らす

 

照月は一定量食べると爆発的に体重が増える

 

なので、のしかかりや突進が物凄い威力になるのだ

 

ガンビア・ベイⅡは舵は取れない、船体は沈みかけるわ、意味が分からないままダメコンを駆使し、本当にギリギリの状態でここに着いた

 

「照月、今ガンビアさんのみんなに抱きついたらダメなんだって…」

 

「ダメだぞ‼︎絶対ダメだ‼︎死んでしまう‼︎」

 

「…えいっ‼︎」

 

照月は何を思ったのか、俺に抱きついた‼︎

 

「あばばばばばば‼︎」

 

色んな骨が折れる音がした

 

「お兄ちゃんは照月とお風呂行こうね‼︎」

 

「…」

 

アバラ、脊髄…とりあえず、ありとあらゆる骨は複雑骨折及び粉砕骨折し、俺は気を失い、照月に担がれた

 

「お服脱ごうね〜‼︎」

 

脱衣所で服を脱がされ、風呂に放り込まれた

 

「ギャア‼︎レイ⁉︎」

 

露天風呂には横須賀が居た

 

「ち、ちょっとレイ⁉︎」

 

「ブハァ‼︎…生き返った…」

 

意識を取り戻すと、目の前にスッポンポンの照月と横須賀がいた

 

「えへへ、お兄ちゃんとお風呂〜♪♪」

 

照月は俺と対面して温泉に浸かった

 

横須賀も俺の横に来た

 

「照月、今日お尻にコレ挿れられそうになったよ」

 

照月は俺の下半身を見ている

 

「柱島の提督に⁇」

 

「うん。男の人は、それを照月に挿れると気持ちいいって言ってたよ」

 

「でも照月は痛いだけだろ⁇」

 

「うん」

 

「今度からそんな事する奴はどし〜ん‼︎していいわよ。私が許してあげる」

 

「分かった‼︎いっぱい食べて、どし〜ん‼︎するね‼︎」

 

「本当に好きな人が出来たら、どし〜ん‼︎したらダメよ⁇」

 

「うんっ‼︎照月、お兄ちゃんにはどし〜ん‼︎しないよ‼︎」

 

遠回しに照月は俺を”好き”と言ったが、照月はそれに気付いていない

 

照月から見たら、俺は確かにいせいだが、呼び方通り”お兄ちゃん”である事に間違い無いようだ

 

「お兄ちゃんは横須賀さんが好きだから…横須賀さんのお尻にコレ挿れるの⁇」

 

「ま…まぁな…」

 

「…そうね」

 

した事無いとは言えない…

 

アレンや隊長に言われた様に、そろそろコイツを一度位抱いてもいいのだろうか…

 

ぶん殴られそうで怖いな…

 

「早くしないと照月、お兄ちゃんの事取るよ⁇」

 

「わ、分かった‼︎分かったわよ‼︎ねっ、レイ⁉︎」

 

「そうだな…照月は俺達に赤ちゃんが出来たら、一緒に面倒見てくれるか⁇」

 

「うんっ‼︎照月、赤ちゃん好き‼︎」

 

きそと同じく、その言葉を聞いてまた少し安心する

 

「まっ、あれだ。またデートしよう。二人きりでな」

 

横須賀の頭を撫で、風呂から出た

 

「あっ…う、うんっ‼︎待ってるわ‼︎」

 

「照月もデートしたい‼︎」

 

「照月もその内な‼︎」

 

「横須賀さんばっかりズルい〜‼︎ん〜っ‼︎」

 

こうして、柱島事変は終わりを告げた…

 

 

 

 

柱島泊地跡に、新しい施設の建設がスタートしました‼︎

 

”置き照月”を使用可能になりました‼︎




初春…ロリババァ

佐世保鎮守府の駆逐艦

柱島に補給に来た時に拉致監禁され、艤装を強奪された

口調がおババだが、身体つきは子供

こう見えてケッコン済み




長波…ピンクエクステ

大湊の駆逐艦

遠征中に鹵獲され、初春と同じ扱いを受けた

最近になってようやく艦娘の配備が始まったが、まだ実艦の方が数が多い

鹿島を除くと、初めて大湊に配属された艦娘になる

隠れ巨乳であり、その大らかで当たり障りのない性格で大湊の皆からはマスコットの様な扱いを受けている





柱島の提督…いつわりのてんさい

デブで動かないし、性欲旺盛な提督

太っている提督は少し前までトラックさんポジだったが、最近トラックさんは筋肉質になり、太っているというより筋肉の所為で服がピチピチになっている

トラックさんは”ピチT提督”や”コック提督”と愛称を付けられ、かなり人気があるが、この提督は人気が無い

他の基地の艦娘を拉致監禁したり、艤装を強奪したり、腐ったモノを食べさせたり、艦娘に手を出したりとメチャクチャな事をする

大破したらすぐに解体するし、言う事を聞かないとすぐに除籍処分になるので、怖がっている艦娘も多い

そんな事をする彼だが、加古をあそこまで強く出来るので、一応才能はある

因みに、居住区にいる

摩耶

みほ(陸奥)

まり(鈴谷)

りさ(熊野)

瑞鳳

は、この基地出身


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128話 Agape(1)

さて、波乱の127話が終わりました

今回のお話は、散々伏線を貼って来た一件を回収しようと思います

毎週金曜恒例の子供達の学校の日

子供達に信頼されるレイを見て、とある人物が動きます


今日は毎週恒例の子供達の学校の日

 

今日は珍しくたいほうはお休みで、基地で隊長達とお留守番だ

 

はまかぜ、霞、秋月が学校に向かう

 

学校に行かないと分かっているたいほうは、照月と一緒に教育番組を見ている

 

「よしっ。んじゃ行くか‼︎」

 

「はい」

 

根が真面目な三人を連れて行くのは楽だ

 

だが、真面目過ぎるのも逆に静かで何だか怖い

 

照月やたいほうの様に、少し騒がしい子の方が俺は好きなのかも知れない

 

 

 

「お兄ちゃん、今日横須賀さん抱くって言ってた‼︎」

 

「だく⁇だっこのこと⁇」

 

「てぃーほうはまだ覚えなくていいわ」

 

「わぁ」

 

まるで猫でも抱き上げるかの様に、私はてぃーほうを膝の上に置いた

 

「照月も‼︎」

 

「照月は次ね」

 

私はここに来てから、子供達の母親代わりとなっている

 

貴子さんが手が離せない時は、私がこうして子供達を相手する

 

特にまだ甘えたい盛りのてぃーほうと照月は良く私の周りにいる

 

「ひめはすてぃんぐれいのおかあさん⁇」

 

「あら。知ってたの⁇」

 

「だって、たいほうのおかあさんがたいほうにしてくれること、ひめはすてぃんぐれいにしてるもん」

 

「例えば⁇」

 

「すてぃんぐれいがねんねするとき、あたまなでなでするのとか、すてぃんぐれいがいってきますするとき、ひめはすてぃんぐれいだっこするの」

 

「てぃーほうもおかあさんにして貰うの⁇」

 

「たいほうはおかあさんと、パパと、すてぃんぐれいにしてもらうの‼︎」

 

「ふふっ。てぃーほうはみんなの事を良く見てるのね⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

 

 

 

 

「よしっ。じゃあまた夕方な」

 

三人を学校まで送る

 

はまかぜと秋月は「はい」と返事をして中に入るが、霞だけは立ち止まって振り返った

 

「優しくするのよ⁇」

 

「うん」

 

「後悔ないようにね‼︎」

 

「へ〜へ〜」

 

散々霞に箔を押されながら、執務室で待つ横須賀の元に来た

 

「今日は私が運転するわ‼︎」

 

「お前の運転は不安だ。俺がす…」

 

横須賀がチャラチャラ音を立てて見せびらかすキーを取ろうとするが、背後に回されたので取れなくなった

 

「…事故するなよ⁇」

 

「こう見えて運転免許位持ってます〜‼︎」

 

嫌々横須賀の運転する車の助手席に乗り、窓枠に付いた取っ手を左手で”しっかり”握る

 

「よし、出すんだ」

 

「レッツゴー‼︎」

 

不安を残したまま、横須賀の運転する車は走り出した…

 

 

 

 

 

「おひるごはん」

 

基地では、お昼ごはんが机の上に置かれて行く

 

てぃーほうと照月に前掛けを着けて、食べる準備は整った

 

私は直前まで食堂の机で書類整理をしていたので、メガネを掛けたままてぃーほうの横…つまり、いつもはマーカスのいる場所に座っている

 

「さっ、出来たよ〜」

 

「チャーハンだ‼︎」

 

きそは貴子さんのチャーハンが好きだ

 

「ギョーザもあるよ」

 

「ぎょーざ‼︎」

 

てぃーほうはグラーフのギョーザが好きだ

 

「いただきます‼︎」

 

私は早速てぃーほうのギョーザを小さく切ろうとするが、横に貴子さんがいる事に気付き、手を引いた

 

「おいひ〜‼︎」

 

反対側では、照月がバクバク食べている

 

「姫。たまには何にも考えずに食べてみたら⁇」

 

対面した席に座っていたきそに言われ、ようやく箸を手に取った

 

「そうね。頂くわ」

 

濃いめの味付けの貴子さんのごはんはいつも美味しい

 

はまかぜの料理も勿論美味しいのだが、バランスが取れ過ぎている気がする

 

私も一応ごはんは作れるのだが、どちらかと言えばオヤツを作る方が得意だ

 

私は終始ボーッっとチャーハンやギョーザを口に運ぶ

 

マーカスの言っていた”急に手持ち無沙汰になる”と言うのはこの状況なのだろう

 

「あっ」

 

私の前に緑色のゼリーが置かれた

 

「消化を良くするゼリーよ。私、洗い物するから子供達をお願いしますね⁇」

 

「オーケー、貴子」

 

ようやく出番が来た‼︎

 

とは思ったが…

 

流石にゼリーはてぃーほうでも自分で食べられるか…

 

両隣の二人の顔を見て、静かにため息を吐き、私もゼリーを口に入れた

 

二、三口食べると、横から赤色のゼリーを乗せたスプーンが小刻みに動いているのに気が付いた

 

「ひめ、あ〜ん‼︎」

 

てぃーほうは私にゼリーを食べさせようとしている

 

マーカスがいつもしているので、それを覚えたのだろう…

 

「あ〜…んっ‼︎」

 

てぃーほうのスプーンを口に入れ、ゼリーを食べる

 

てぃーほうの好きなイチゴの味がして美味しい

 

「おいしい⁇」

 

「…うんっ、おいしいわ‼︎私もあげる‼︎」

 

「あ〜…」

 

口を開けて待つてぃーほうの口に、私の分のゼリーをスプーンで掬い、ゼリーを食べさせる

 

「おいしいね‼︎」

 

「ふふっ」

 

てぃーほうが笑うのを見て、私も微笑む

 

マーカスが言っていたのは、満更嘘でも無いようね…

 

てぃーほうの傍にいると、少しだけでも親の気分を味わえる…

 

 

 

 

デザートを食べ終えると、子供達は外で遊び始めた

 

ウィリアムが外でボールで遊びながら子供達の面倒を見ている

 

食堂に残っている子供はきそと照月だけ

 

きそは机でコーラを飲みながら何かの設計図を書いている

 

照月は口を開けて天井を見ながら大の字で仰向けになっている

 

「照月、カモン」

 

「やった‼︎」

 

約束通り、照月も膝に置いて抱き締める

 

…ちょっと重いわね

 

「お兄ちゃんに抱っこして貰う時と一緒だぁ…」

 

「照月、きそ」

 

「ん⁇」

 

「はい」

 

「マーカスの事、好き⁇」

 

照月もきそも即答した

 

「うんっ‼︎お兄ちゃんが一番好き‼︎」

 

「うんっ‼︎レイはカッコいいし、優しいから好き‼︎」

 

二人共、嘘偽りの無い目をしている

 

…好かれているのね、マーカス

 

「姫さんはどうしてお兄ちゃんに、自分がお母さんだ〜‼︎って言わないの⁇」

 

「あら。照月も知ってるのね⁇」

 

「何と無く分かるよ。照月、お兄ちゃんの好きな人も好きだもん‼︎」

 

「ふふっ…そうね。少しだけ話しましょうか」

 

「僕も聞いていい⁇」

 

「えぇ。きそもいらっしゃい」

 

きそが設計図を片付けている間に照月を右の脇の下に座らせ、片付け終えたきそを左の脇の下に座らせた

 

「あれは…」

 

私は少しだけ話した

 

内戦に巻き込まれ、二人の赤ん坊と旦那を置いて行かなければならなかった…

 

私だけが助かった…

 

赤ん坊を置いて、母親だけ助かるなんて、母親あるまじき行為だ

 

私は今更、子供に合わせる顔が無い

 

旦那にも…

 

だから、私にマーカスが向ける、子供達と同じ様な愛…

 

私は憎い

 

どうして私は愛してあげられなかったのに、マーカスは私を愛してくれるのだろう…

 

二人に話すと、すぐに答えは出た

 

「お兄ちゃんはみんなに優しいんだよ⁇」

 

「レイが怖いのは空だけだよ⁇」

 

マーカスの事を悪く言う人を見た事が無い

 

マーカスのお嫁さん…ジェミニは時々マーカスの事を言っているけど、彼女はどうも悪口に聞こえない

 

だから、あの子は例外ね

 

「きっとレイは怒らないよ」

 

「だと良いのだけど…」

 

「たいほうちゃんの事、姫に話したっけ⁇」

 

「いえ…」

 

「たいほうちゃんはね、ずっとお母さん…つまり貴子さんに捨てられたと思ってたんだ」

 

「てぃーほうが⁉︎」

 

「それでね、たいほうちゃんはレイに相談したんだ。自分のお母さんに会ったら、叩いたり蹴ったりしていいか、って。それ程、たいほうちゃんは怒ってんだ」

 

「マーカスはなんと⁇」

 

「叩いたり蹴ったりしたらダメだって。まずは話し合いからだ、って」

 

「マーカス…」

 

「そう言えば、隊長さんもお兄ちゃんも、人を叩いたりしてる所見た事無いね」

 

「それ教えたの、姫なんでしょ⁇」

 

「えぇ…」

 

「なら大丈夫だよ‼︎」

 

二人の顔を見て安心する

 

決心が付いた

 

マーカスが帰って来たら、言う事にしよう…

 

 

 

 

その頃、事が終わった俺はホテルのベッドの端に座り、タバコに火を点けた

 

「…痛かったか⁇」

 

「うん…」

 

「まさか初めてだったとはなぁ…」

 

横須賀は処女だった

 

顔立ちも良く、胸もデカいので、最低でも一人二人位は経験があると思っていた

 

「アンタだって経験少ないでしょ⁉︎」

 

「まぁな…」

 

「んで、コレよ」

 

横須賀を抱くのが俺の今日の目的だったが、横須賀は違ったらしい

 

「なんだ⁇」

 

「みんなの前じゃ渡せないから、今ここで読んで」

 

横須賀の手には、大きめの封筒が握られている

 

「機密文書か⁇」

 

横須賀は何も言わず、俺にもう一度書類の入った封筒を突き付けた

 

「…分かったよ」

 

封筒を受け取り、中を見る

 

中に入っていた書類には、大分前に見たDNA検査と良く似た図が書かれていた…



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質問コーナー3

今回はパーソナリティーを増やしてラジオっぽく仕上げてあるつもりです 笑

是非楽しんで行って下さいね


きそ「さぁ、始まったよ‼︎」

 

霞「何か久々ね‼︎」

 

8「はっちゃんは初めてです」

 

姫「私が来る前からしてるの⁇」

 

きそ「そうだよ。ここでは第4の壁を粉砕して、読者からのお便りを読んだり、質問に答えるんだ」

 

作者「ここにお便りがある。後は頼んだよ」ドサドサッ

 

きそ「オッケー‼︎じゃあ行こう‼︎一枚目‼︎」

 

 

 

Q1.最近照月が食べてばっかりです。彼女はお色気要員じゃないのですか⁇

 

きそ「って意見が”多数”あるよ」

 

霞「現時点で7通来てるわ(実話)」

 

姫「日本人は変態が多いと聞いたけど…本当みたいね」

 

きそ「でもちょくちょくブチ犯されかけてるよね⁇」

 

霞「あれだけ低身長で出る所出れば誰だって理性狂うわよ」

 

8「あ、それに関する質問も来てます」

 

 

 

 

Q2.たいほうや照月の身長はどれ位ですか⁇

 

きそ「おぉ‼︎珍しくマトモだ‼︎」

 

8「マーカス様が身長180cmです」

 

きそ「え〜と…僕の身長が、レイのみぞおち部分に頭が来る位でしょ⁇」

 

霞「私と照月は大体同じ位よ。レイで言うならそうね…おへそ辺りに頭が来るかしら⁇」

 

姫「てぃーほうはもっと小さいわね」

 

きそ「レイの太もも位の身長があれば良い方じゃないかな⁇」

 

8「アンサーはこうです」

 

A1.照月の身体付きは男の理性を狂わす魅惑のボディーなので、時折溜まった男性がブチ犯そうとします

 

A2.直立したレイの身長が180cm

 

きそはレイのみぞおち辺りに頭が

 

霞と照月はおへそ辺りに頭が来るくらいです

 

たいほうはそんなレイの太もも辺りに頭が来れば良い方と言われる位小さいです

 

 

 

 

姫「Next‼︎」

 

Q3.横須賀のバストサイズを教えて下さい

 

きそ「そうだねぇ…とりあえず、胸が大きい人をあげてみようか。はっちゃん」

 

8「下に書きます」

 

・武蔵(貴子さん)

 

・照月

 

・ウォースパイト(姫)

 

・ハンマー榛名

 

・アイちゃん

 

・はまかぜ

 

etc…

 

8「結構いっぱいいます。はっちゃんも下の方に入ってます」

 

きそ「ありがと。現状、この物語で一番胸が大きいのは間違いなく横須賀さんだ」

 

霞「憎たらしいわよね、あの胸」

 

きそ「…確かに。じゃなくてっ‼︎次点は確実に榛名さんだ」

 

姫「榛名も大きいわよね」

 

きそ「んで、その次点で貴子さんだね」

 

霞「貴子さんは形も大きさも綺麗よね‼︎」

 

姫「…あっ‼︎そうだわ‼︎詳しい子が一人いるわ‼︎てぃーほう‼︎」

 

たいほう「よんだ⁇」

 

姫「てぃーほうは誰のオッパイが一番好き⁇」

 

たいほう「たいほうはおかあさんと、あいちゃんのおっぱいがすき‼︎」

 

きそ「横須賀さんは⁇」

 

たいほう「よこすかさんもすき‼︎よこすかさんのおっぱい、いいにおいするの‼︎」

 

きそ「読者の皆さん聞いてますか⁇」

 

霞「横須賀さんの見方が少し変わるかもしれないわよ」

 

A3.身長低い癖に巨乳です

 

レイに色仕掛けする位の大きさはあります

 

 

 

 

霞「次行くわよ‼︎」

 

Q4.登場人物のモデルはいますか⁇

 

きそ「んっ‼︎良い質問だ‼︎」

 

霞「時々作中でも言ってる時あるわ」

 

姫「ここに作者から預かった資料があります。下に書いてみましょうか」

 

 

 

・パパ…ジュラシックパークの主人公の博士

 

・レイ…色々ごった煮

 

・横須賀…作者の元カノ

 

・ハンマー榛名…親戚の女性

 

・アレン…作者本人(性格部分のみ)

 

・ラバウルさん…昔の上司

 

・健吾…友人

 

・総理…作者の父親

 

・柱島の提督…友人

 

・イカさん…ニコ生の主の人

 

 

 

きそ「作者さんがお世話になってる人が多いね」

 

霞「レイは誰をモデルにしたのかしら…」

 

姫「ここに補足があるわ」

 

・レイは性格、技能、外見まで完璧を目指した、作者の理想の主人公の完成体

 

・絡みやすい性格は、とあるジュネスの御曹司から

 

・技能は、とあるモンスターを捕まえるゲームの博士から

 

・見てくれは”ブリキ野郎‼︎”のアニメに出てくる、とあるキャラに近いが黒髪

 

・空戦の強さは、とあるフライトシューティングの片羽さんから

 

 

 

きそ「イイトコどりなんだね」

 

姫「ふふっ…‼︎」

 

霞「姫が嬉しそうよ…」

 

8「はっちゃんにもモデルがいます」

 

きそ「アイリスの時⁇」

 

8「はい。はっちゃんがアイリスの時のモデルは、アメリカのドラマに出て来る黒い車って作者様が言ってました」

 

姫「Knight Ri…んむっ⁉︎」

 

きそ「ダメだよ‼︎発音が良いからすぐ分かる‼︎」

 

姫「ぷはっ…オーケーオーケー‼︎」

 

A4.色々います

 

 

 

 

姫「さぁ‼︎まだまだ行くわ‼︎」

 

Q5.作者さんはゲイって本当ですか⁇

 

8「同一の質問が後3件来てます(実話)」

 

きそ「これだけ照月やらグラーフの事ペロペロとか言ってる人もまぁ珍しいと思うよ⁇」

 

姫「この間夜中に目が覚めたら、作者の部屋から”プリンツ…プリンツ‼︎ウッ‼︎ハァ…ハァ…”と聞こえて来ました」

 

きそ「ゲイとかそう言うの通り越して気持ち悪いよぉ…」

 

霞「アンサーはこうね」

 

A5.ノンケです

 

プリンツペロペロ

 

 

 

 

霞「次よ次‼︎」

 

Q6.ギザギザ丸の正体って⁉︎

 

きそ「これに関してはモノスンゴイ量のお便りが来たね」

 

8「今現在、43件来てます(2017年1月14日調べ)」

 

きそ「うへぁ〜…」

 

姫「Gizagiza…あぁ‼︎マーカスに良く似た子ね‼︎」

 

きそ「そうそう。未来から来た子で、歯がスンゴイギザギザなんだ」

 

8「ピラニアみたいです」

 

霞「噛まれたら痛そうね…」

 

姫「もう少し…後もう少しだけ物語が進めば、ギザギザ丸は出て来るわ。それまで楽しみにしておいて⁇War spiteとの約束よ⁇」

 

A6.お分かりの方もいるかと思いますが、後もう少しだけ物語が進めばギザギザ丸の正体が明らかになります

 

 

 

 

 

きそ「これも行こうか」

 

Q7.ピッチピチの豊満ギャルこと多摩ですが、ジュニアが言っていた「昔好きだったアニメのアンドロイドに似ている」って誰の事⁇

 

霞「そのアニメは結構前にやってたアニメよ」

 

きそ「二次元ブームの火付け役と言っても過言じゃないね」

 

8「その本ならマーカス様が読んでいました。憂鬱になったり、消失したりと大変ですよね」

 

きそ「あぁっとぉ‼︎大ヒントが出たぁ‼︎そしてレイの意外な趣味も明らかになったぁ‼︎」

 

姫「同じ名前の戦艦の方が確か、ウィリアムのお父様の後妻だったハズ…」

 

きそ「ここまで言ったら分かるよね‼︎」

 

A7.メガネ属性っていいよね

 

 

 

8「さぁ、ラストが見えて来ましたよ‼︎」

 

Q8.作者さん自身、この物語で一番好きなキャラは誰ですか⁇

 

きそ「これはいい質問だぁ‼︎」

 

霞「こう言うのを待ってたのよ‼︎」

 

姫「結果を書いた紙を預かっています。開けますよ」

 

きそ(ドキドキ…)

 

霞(ドキドキ…)

 

8(シュトーレン食べたい…)

 

 

 

 

姫「まずは3位から‼︎」

 

 

 

3位…たいほう

 

・作者の理想の子供像

 

・こましゃくれておらず、子供らしい姿で、誰に対しても甘えん坊な子が好み

 

・色々と重荷を背負わせている描写は幾つかあるが、たいほうはいつだってそれを跳ね除ける強さを持ってる

 

 

 

 

姫「確かにてぃーほうは可愛いわね‼︎」

 

きそ「甘えん坊だもんね‼︎」

 

霞「2位は⁉︎」

 

姫「2位の発表よ‼︎」

 

 

 

2位…照月

 

・お色気役、食いしん坊役、そしてハンマー榛名や人食い蒼龍に次ぐ異名艦娘になりかけてる子

 

・とにかくこの子がパクパク食べる描写が好き

 

・案外思考がたいほうと同じ位で、動く物や、食べられそうな物は、とりあえず口に入れてみると言うなんとも言えない可愛さが好き

 

 

 

 

きそ「確かに照月は食べる描写が多いね」

 

霞「食べてる描写以外あったかしら…」

 

8「どし〜ん‼︎の描写が時たまあります」

 

姫「さぁ、堂々の第1位に行きましょう‼︎」

 

 

 

1位…マーカス・スティングレイ

 

・第2部主人公で、作者自身凄く書きやすく動かしやすいキャラ

 

・ほぼ完璧人間なのに、作中では何もかもを背負って生きてるかなりの苦労人。だけど、それを隠して子供達に優しく接する姿は、書いててたまに辛い時がある

 

・主人公であり、一番思い入れの強いキャラ

 

 

 

 

きそ「ま、納得だね」

 

8「はっちゃん達のパパでもあります」

 

霞「他は⁇」

 

姫「他はみんな4位よ。強いて言うならこの三人と書いてあるわ」

 

霞「なるほど…」

 

 

 

 

きそ「今回はこれでおしまい‼︎」

 

霞「楽しかったわね‼︎」

 

8「はっちゃんもこういうの好きです」

 

姫「次回もまた質問が溜まったら行うわ。それまではまた本編をお楽しみ下さいね⁇」

 

きそ「今回のパーソナリティーは僕、きそと‼︎」

 

霞「霞よ‼︎」

 

8「はっちゃんです‼︎」

 

姫「War spiteでした‼︎See you next time‼︎」




感想や質問お待ちしております

キャラに聞きたい場合は、キャラの名前を書くとキャラが答えてくれるかも⁉︎


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128話 Agape(2)

「これは本当なんだな⁇」

 

「嘘ついてどうすんのよ」

 

「…分かった。ありがとな」

 

「一人で帰れる⁇」

 

「来てくれると助かる」

 

「んっ。正直で宜しい」

 

とにかく、今は子供達を迎えに行くのが先だ

 

時間も丁度良いので、俺達はホテルを出た

 

 

 

 

学校に着くと、既に子供達がゾロゾロと出て来ていた

 

「来た‼︎レイさん‼︎」

 

秋月が真っ先に俺に気付いた

 

「おかえり。どうだった⁇」

 

「調理実習をしました‼︎オムライス、美味しかったです‼︎」

 

「んっ。楽しめたなら良かった。帰ろうか」

 

高速艇に全員詰め込み、基地へと戻る

 

基地に着き、まず子供達を降ろす

 

貴子さんとグラーフに子供達を風呂に入れて貰い、俺と横須賀は食堂の席に着いた

 

「姫、コーヒー飲むか⁇」

 

「えぇ。頂くわ」

 

「ほぅ。レイのコーヒーか。私にも淹れてくれるか⁇」

 

「オーケー」

 

丁度いい。隊長が居てくれればちょっとは安心だ

 

コーヒーを淹れている間、手の震えが止まらなかった

 

俺がコーヒーを淹れると、いつも良からぬ事があるな…

 

前回は鹿島に求婚した時だったかな…

 

ふっ…懐かしいな…

 

今となっては良い思い出だ…

 

「さっ、入ったぞ」

 

「ありがとう、頂くわ」

 

それぞれの前にコーヒーを置き、俺は横須賀の横に座った

 

「姫。少し話があるの。これを」

 

話を切り出したのは横須賀だ

 

姫は先程俺が見ていた書類が入った封筒を見て固まっている

 

「隊長、貴方も見て下さい」

 

「…頼まれたんだ」

 

「隊長⁇」

 

隊長も中身を分かっていた

 

「とうとうこの日が来たか…」

 

隊長はコーヒーの入ったカップを置き、話始めた

 

「私がベルリンに行く時に言われたんだ。マーカスと言う男を連れ帰ってくれ、と」

 

「姫にか⁇」

 

「姫ともう一人…」

 

「リチャード中将よ」

 

そう言ったのは姫だ

 

「リチャードと私は夫婦…そして、マーカスは私達の子供…」

 

「もう一人、いるよな…子供…」

 

「…えぇ」

 

姫の顔が蒼白している

 

「…オイゲンよ」

 

薄々は気付いていたが、プリンツは俺の妹だった

 

バラバラになっていたパズルのピースが、今、一つに纏まっていく…

 

「ったく…何で早く言わなかった‼︎」

 

「どうしていいか分からなくて…」

 

「…もういい、分かった」

 

俺はコーヒーを飲み干し、席を立った

 

「レイ、何処に行く‼︎」

 

「横須賀を送るんだよ‼︎分かったよ。姫は母さんで、プリンツが妹…俺ぁ何ら変わらん態度を取るさ」

 

「マーカス…」

 

「別に姫を恨んじゃいない。言いたくないなら言わなくていい。だがな…男にはケジメってモンがある。ついでにそれをつけにいく」

 

窓の縁に手を当てながら、背中で語る

 

姫は黙ったままだが、止めようとしない所を見ると、今からやる事は分かっている様だ

 

「…分かった。私は止めない。だがなレイ。これだけは覚えておけ」

 

隊長は俺の肩を掴み、言った

 

「お前の家はここだ。必ず帰って来い」

 

「了解した」

 

横須賀を連れ、基地を発つ

 

 

 

 

「ウィリアム、私…」

 

「息子を信じてあげましょう”いつも通り”に」

 

「…えぇ‼︎」

 

 

 

 

フィリップの中では、横須賀が黙ったまま乗っていた

 

「…レイ」

 

「何だ〜⁇」

 

「何でそんなに平気なのよ‼︎」

 

俺はリクライニングを倒し、横になっていた

 

「自分の両親に会ったのよ⁉︎嬉しくないの⁉︎」

 

「嬉しいよ。嬉しいさ。だけどな…俺は子供として一発殴らなきゃならん相手がいる」

 

「アンタ、たいほうちゃんに教えた事を無碍にする気⁉︎」

 

「俺は俺のやり方でケジメをつける」

 

「…アンタを信じるわよ⁇」

 

「心配するな」

 

《横須賀さん、心配しなくていいよ。レイ、今恐ろしい位に冴えてるから》

 

「そう…なら良いけど…」

 

横須賀が不安を抱いたまま、横須賀に着いた

 

「フィリップ、すぐに出撃するから準備しておくんだぞ」

 

《オーケー。レイ、なるべく穏便にね⁉︎》

 

「分かってるよ」

 

フィリップと話し終わると、横須賀が腕にベッタリ着いているのに気が付いた

 

「殴りそうだから、直前までこうしてるわ」

 

「ったく…」

 

致し方なく横須賀を着けたまま、高官の宿舎に来た

 

目的の人物はすぐに見付かった

 

エントランスで同じ部隊の連中と楽しそうに話している

 

「マーカス⁇どうしたんだ珍しい」

 

リチャードはすぐに俺に気付いて顔を此方に向けた

 

「話がある。表に出な」

 

「レイ‼︎言い方ってものがあるでしょ⁉︎」

 

「ほぅ…」

 

笑顔だったリチャードの顔は一変した

 

決して怒っている訳では無く、事の重大さに気付いた様だ

 

宿舎を出て、寒空の下、互いに間隔を開け目を見る

 

無言のまま横須賀を離し、離れた所へ置く

 

「どうしたんだレイ。いつものお前らしくないぞ⁉︎」

 

「俺の事はいい。母さんに顔を見せてやってくれ」

 

「断る」

 

「今更見せる顔は無い…か⁇」

 

「そうだ。お前には分からんさ」

 

「なら…叩きのめしてでも連れて行く。俺達が相手を理解させたいならやる事は一つ…分かってるよな」

 

「分かった。30分後に来い」

 

リチャードは一度宿舎に入って行った

 

「れ、レイ‼︎どうすんのよ‼︎」

 

「言っただろ。叩きのめして、母さんの所へ連れて行く。それだけだ」

 

「気を付けるのよ⁉︎相手は…」

 

「父親の壁は越えられ無い…か⁇」

 

「そ…そうじゃなくて‼︎まぁいいわ。頑張ってよ⁇もう貴方一人の体じゃないんだから‼︎」

 

「それは俺が言うセリフだろうが‼︎」

 

空に上がる最後の瞬間まで、俺達は口喧嘩をしていた

 

《相手はリチャード中将か…パパの教官だよね⁇》

 

「フィリップ」

 

《はいはい》

 

「勝つ事以外考えるな。必ず勝つ。いいな」

 

《了解。さっ、行くよ‼︎》

 

 

 

 

地上では、夕飯時にも関わらず大勢のギャラリーが集まっている

 

俺にしちゃただの親子ゲンカなのだが、後で考えたら相手はあのジブリール隊の隊長だ

 

模擬戦と言えど、戦う姿は滅多に見れない

 

《マーカス…遂に私に楯突く様になったか》

 

「これは一軍人としてじゃない。俺と”親父”の個人的なケンカだ‼︎」

 

《その意気や良し‼︎来い‼︎》

 

「あぁ‼︎」

 

互いに得意なヘッドオンの状態で機体が交差する

 

地上にいる人間はヒヤヒヤしながらも歓声を上げている

 

「何何⁉︎何が起きてんの⁉︎」

 

「空が騒がしいな…」

 

「あかりちゃん‼︎スッゴイ空戦にゃ‼︎」

 

店にいた人がゾロゾロと外に出て空を見上げる

 

空ではヘルキャットがフィリップを追い掛け回すという異様な光景が繰り広げられている

 

その様子は各基地にも伝えられ、中継された映像がテレビに流れた

 

《レイ、強くなったな》

 

「大佐の下に居たから強くなれたんだ。だから、一応言っておく。俺を大佐に拾わせてくれて…ありがとう‼︎」

 

《ウィリアムに任せたのは間違いなかったみたいだな…よし、私の最後の授業だ。墜としてみせろ‼︎》

 

ヘルキャットは散々フィリップを追い掛け回し、既に燃料が底を尽きかけていた

 

恐らく、次のヘッドオンが最後

 

それでもリチャードは諦めなかった

 

諦めが悪い所は、何処と無く自分に似ている気がする…

 

最後の交差…

 

地上で、ほんの数秒時間が止まる

 

《んっ‼︎楽しかった‼︎》

 

ヘルキャットに撃墜判定が出た

 

「…は〜っ」

 

戦っている最中は気が張っていたが、終わった瞬間気が抜けた

 

《マーカス。気を抜くなよ⁇お家に帰るまでがピクニックだ》

 

「了解。ワイバーン、RTB」

 

地上に降り、すぐにリチャードが俺を抱き締めた

 

「マーカス‼︎よくやったぞ‼︎」

 

「親父…」

 

やっぱり、この人は俺の父親なんだな

 

何となく分かる

 

「うはは‼︎楽しかった‼︎」

 

きそがスキップしながらクルクル回っている

 

きそは強敵と戦うのが好きらしい

 

理由は頭が冴えるから、だと

 

「きそちゃんは強いなぁ〜‼︎」

 

リチャードはそう言ってきその頭を撫でる

 

きそは嬉しそうな顔をしたまま、リチャードに言った

 

「へへへ…レイと一緒の撫で方だぁ‼︎」

 

「一応親父の娘だぞ、きそは」

 

「ほぅ⁇」

 

「詳細は省くが、きそは俺のDNAから産まれた子だ」

 

「んっ‼︎何だっていいさ‼︎私の娘に変わりはない‼︎」

 

リチャードはきそを抱き上げ、俺と一緒に横須賀の待つ所へ向かった

 

「お疲れ様。各基地から電報が来てるわ」

 

「どれっ」

 

”スバラシイ クウセン デシタ”

 

”タマニハ オレノ アイテモ シロ”

 

”モウ レイニハ サカラエ マセンネ”

 

ワンコ、呉、ラバウルからの電報だ

 

「さぁ、親父は俺の言う事を聞いて貰おうか‼︎」

 

「おっと‼︎急用を思い出した‼︎」

 

「中継流れてっぞ〜」

 

俺はそこにあったテレビを見せた

 

リチャードの焦った顔が映っている

 

「ゔっ…」

 

逃げ場が無くなったリチャードは観念した

 

「まっ、犬にしちゃ上出来ね」

 

横須賀で様子を見ていた叢雲が来た

 

「叢雲、丁度良い。親父が逃げない様に見張っておいてくれるか⁇」

 

「いいわ。アンタの後ろを飛ぶから、逃げたら数秒でボンよ。分かった⁇」

 

「ゔっ…分かった…」

 

「さぁ、帰ろう」

 

今度は三機並んで飛ぶ

 

戦いが終わった空は静けさを取り戻し、美しい夕日が輝いていた…

 

 

 

 

「おかえり‼︎」

 

基地に戻ると真っ先にたいほうが来てくれた

 

「ただいま〜っと。ホラっ…」

 

「す…スパイトしゃん…」

 

いつものリチャードの威厳は消えていた

 

「リチャード…」

 

互いに駆け寄り、見つめ合い、感動の再会…

 

そして姫は満面の笑みを見せ…

 

リチャードの頬に思いっきり、渾身のビンタを披露した‼︎

 

「何処ふらつき歩いていたの‼︎戦争が落ち着いたら戻って来いと言ったでしょう‼︎しかも子供二人を教会に預けて自分は教官⁉︎ふざけないで頂戴‼︎」

 

「ちょ、あの…」

 

「反論しますか‼︎そうですか‼︎分かりました‼︎」

 

「え〜…」

 

姫は物凄い早口でリチャードをまくし立てる

 

反論のはの字も無い

 

「リチャード‼︎」

 

「はっ、はい‼︎」

 

「今晩はお仕置きですね」

 

姫は物凄く嬉しそうな顔をしている

 

「ちょ、嘘」

 

姫はリチャードの腰に紐を回し、車椅子に付けた

 

「さぁリチャード‼︎此方へいらっしゃい‼︎バッチバチにしますから覚悟なさい‼︎良いわね⁉︎分かったら返事‼︎」

 

「はいっ‼︎じゃない‼︎マーカス‼︎見てないで助けろ‼︎」

 

リチャードがズリズリ連れ去られて行く

 

「餞別だ」

 

「おっ⁇」

 

リチャードの腹の上に箱を投げた

 

「0.03…うすうす…ゴムじゃないか‼︎いらん‼︎た・す・け・ろ‼︎」

 

「夫婦仲良くな」

 

「ぢぐじょ〜‼︎これがお前等のやりか…」

 

全部言う前に扉が締められた

 

「ん⁇」

 

扉が締められてすぐ、姫から通信が来た

 

姫> 貴方を愛しているわ

 

姫> だから

 

姫> 不甲斐ない母を許して下さい

 

時々、姫は母らしからぬ可愛さを見せる

 

そんな表情を見せられた時、俺は護ってやらねばと思ってしまう

 

リヒター> 分かってる

 

リヒター> 大丈夫さ

 

リヒター> だから…今は二人で宜しくやってくれ。母さん

 

姫> うんっ

 

姫> あっ、マーカス⁇

 

リヒター> 何だ⁇

 

姫> リチャードと逢わせてくれて、ありがとう

 

リヒター> 最初の親孝行、だな

 

姫> ♡

 

タブレットを仕舞い、ようやく夕ご飯を口にした

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜…

 

「レイ〜…起きてる〜…⁇」

 

「…起きてる」

 

「寝れないよぅ…ふぁ…」

 

姫の部屋から悲鳴が聞こえる為、きそは眠れず、枕を持って俺の布団に入って来た

 

「よいしょ…」

 

「みんな寝たか⁇」

 

「たいほうちゃんと照月が紙コップ持ってグラーフの部屋にいるよ」

 

「盗み聞きしてるな⁇」

 

「凄いんだよ⁇”ありがとうございます”とか”もっと下さい”とか…」

 

「数十年振りに逢ったんだ。放っておいてやれ」

 

俺はきそを抱き、そのまま目を閉じた…

 

 

 

 

 

翌朝…

 

「マーカス、また横須賀で逢おうな‼︎じゃ‼︎」

 

リチャードは朝早く逃げる様に基地を去ろうとした

 

「リチャード‼︎」

 

「うがっ‼︎」

 

車椅子の車輪が回る音が聞こえたと思えば、姫は既にリチャードの懐にいた

 

「愛してるわ…」

 

「スパイト…」

 

「また、顔を見せて頂戴。約束よ⁇」

 

「んっ…分かったよ」

 

リチャードは姫を離し、熱い口づけをする

 

姫は車椅子に座っているので、自ずと上目遣いになる

 

これも、男が墜ちるポイントなんだろうな…

 

「じゃあな」

 

「えぇ…」

 

リチャードが横須賀へと帰る

 

姫はそれをしばらく窓際で眺め、俺達はそんな姫をコーヒーを飲みながら眺めていた

 

「隊長」

 

「ん⁇」

 

「姫ってさ、案外子供っぽいよな」

 

「逆ロリババァかもな」

 

「体は大人でも考えは子供ってか⁇」

 

「じゃなきゃリチャード中将は墜とせん」

 

「なるほどな…」

 

隊長の話を聞き、案外、そんな母も満更じゃないと思った…



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129話 双子丸(1)

さて、128話が終わりました

今回のお話は、横須賀の執務室から始まります

ここ数日で、デブになって腹痛を訴える横須賀に一体何が‼︎


この日も横須賀は執務室でゴロゴロしながら漫画を読んでいた

 

「明石〜‼︎明石ってば〜‼︎」

 

「はいはい。聞こえてますよ‼︎」

 

「ちょっと酒保行って、イカの酢漬けと炭酸のレモン買って来て」

 

「そんなにゴロゴロしてちゃ太りますよ⁇」

 

「明石も牛丼の食べ過ぎでポチャってたじゃない‼︎」

 

「って言うか、最近酸っぱい物よく食べますねぇ⁇」

 

「何か食べたいのよねぇ…よいしょ。お腹出て来たし…ヤダ、私もデブった⁉︎」

 

「提督…そのお腹、まさか⁇」

 

「ダイエットしようかしら…アイタッ‼︎」

 

横須賀のお腹の内側から痛みが走る

 

「最近多いのよね…痛いっての‼︎」

 

話している最中にも痛みが走る

 

「提督‼︎それ太ったんじゃないですよ‼︎」

 

「え⁇」

 

 

 

 

 

その頃、俺は哨戒任務に当たっていた

 

「よ〜し、敵影無し。ヘラ、そっちはどうだ⁇」

 

《大丈夫よ。付近一帯にステルス機の反応無しね》

 

「よ〜し、横須賀でシェイクでも飲むか⁇」

 

《私はチョコレートの奴ね》

 

《僕はイチゴ‼︎》

 

「ふふ。じゃあ俺はバニ…」

 

シェイクの話をしていると、モニターが赤く点滅した

 

緊急通信だ

 

相手は横須賀基地だ

 

「此方ワイバーン。横須賀基地、どうした」

 

《レイさん⁉︎大変です‼︎提督が‼︎》

 

無線の相手は明石だ

 

「落ち着け」

 

《すみません》

 

「んで⁇敵か⁇」

 

《事によっちゃあ敵より重大です‼︎提督、妊娠してます‼︎》

 

「ホントか⁉︎」

 

《ホントですよ‼︎嘘ついてどうするんですか‼︎今、たまたま横須賀にいたアレンさんに基地に連絡を入れて貰っています。そのまま此方へ‼︎》

 

「すっ、すぐ行く‼︎」

 

俺達は慌てて横須賀に向かう

 

《結局、夢も現実も代り映えしないわね…ふふっ、まっ、それで良いけど》

 

 

 

 

 

横須賀に着くと、明石を始め、艦娘の子達がソワソワしていた

 

「レイ‼︎」

 

「アレン、すまんな」

 

アレンは分娩室の前で座って待っていた

 

俺はアレンの前に立ち、きそと叢雲は分娩室の扉からどうにかして中を見ようとウロウロしている

 

「分娩室って…この間抱いたばっかだぞ⁉︎」

 

「アイちゃんの時もそうだっただろ⁇早いんだよ”艦娘”が産まれて来るのは」

 

「あ…」

 

やはり産まれて来る子は艦娘か…

 

「バケモノ傭兵コンビなのです‼︎」

 

「良かったわね‼︎」

 

雷電コンビだ

 

電の言葉は相変わらずトゲがあるが、雷はちょっと角が取れた気がする

 

「さっ、レイさん、ここからは女の仕事です‼︎」

 

「大丈夫。元気な子を取り上げて見せるわ‼︎」

 

千代田と千歳が分娩室に入って行く

 

「レイ、少し休め。タバコでも吸ってこい。こっから長丁場だ」

 

「し、しかしなぁ…」

 

「ソワソワしてても仕方ない。きそちゃんとお嬢は任された」

 

「う…うん…」

 

アレンの言う通りだ

 

こっから先、男は無力

 

横須賀はこれから俺には一生分からない痛みを経験をする

 

傍にいてやろうにも、分娩室は固く閉ざされている

 

「あっ、レイさん‼︎提督から伝言です‼︎」

 

タバコを吸いに行こうとした時、明石から紙を渡された

 

”子供の名前、考えておいて”

 

「分かった。しばらく考えるよ」

 

外に出て、タバコに火を点ける

 

「雪だ…」

 

火を点けた時、パラパラと降り始めた雪

 

よく見ると水溜りの端が凍っている

 

こんな寒い日に産まれて来るのか…

 

「よっ‼︎」

 

ギザギザ丸が来た

 

「ギザギザ丸か。すまんな、今日は構ってやれる余裕は無い」

 

「いいさ。分かってる。今日はお別れに来たんだ」

 

「お別れ⁇」

 

「あぁ」

 

ギザギザ丸は俺が立っていた階段に座り、空を見上げた



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129話 双子丸(2)

「言っただろ⁇アタイはお父さんの娘だって」

 

「言ってたな」

 

「だから、アタイが産まれたら、このアタイはもうお父さんと逢えなくなる。歴史が変わっちまうからな…あ、でも気にすんな‼︎アタイとはすぐ逢える‼︎」

 

「変な話だな…」

 

「最後に色々話しておこうと思ってな」

 

「俺は…産まれて来るお前を、ちゃんと面倒見れるだろうか⁇」

 

「見れるさ‼︎現にアタイは此処に居るんだぜ⁉︎見れてる証拠さ‼︎」

 

「そっか…」

 

「な〜にヘタレてんだよ‼︎」

 

ギザギザ丸は立ち上がり、俺の背中をバシッと叩く

 

「お父さんのやる気がなきゃ、アタイまで変になるだろ‼︎いいか⁉︎今からのお父さんの行動で未来は幾らだって変えられる‼︎」

 

「例えば⁇」

 

「例えば、そうだな…あっ、ホラ‼︎アタイとたいほうちゃんをなるべく遊ばせるとか‼︎」

 

「そんなので変わるのか⁇」

 

「変わるさ‼︎んじゃ、最後だから特別に教えてやろう‼︎たいほうちゃんは未来で学校の先生になって、横須賀に住んでるんだ。容姿もメッチャ綺麗になってる‼︎だから最初、アタイは分からなかったんだ」

 

「なるほど。なら、ギザギザ丸とたいほうをなるべく一緒に居させれば良いんだな⁇」

 

「そうさ‼︎」

 

ギザギザ丸と話せば話す程、自分の子供だという事を嫌と思う程理解させられた

 

話す時に顎の下を掻く癖

 

笑った時に、少し後ろに仰け反る癖

 

口が悪いのか面倒見が良いのか分からない、横須賀譲りの口調

 

横須賀譲りの目付き

 

完璧に俺の子だな…

 

「おっ。時間だ…お別れだな」

 

ギザギザ丸は立ち上がり、身嗜みを軽く整える

 

「もう行くのか⁇」

 

「あぁ。未来のお父さんに伝える事はあっか⁇今なら伝えてやんよ‼︎」

 

「そうだな…じゃあ、こいつを渡してくれるか⁇」

 

俺は、あの日御礼の品として貰ったオートマチック式の拳銃をギザギザ丸に渡した

 

「今の未来の俺はこいつを持って無い。ギザギザ丸、お前が俺の未来を変えてやってくれ」

 

「分かった。ちゃんとわた…」

 

ギザギザ丸が拳銃を受け取り、腰に付けた直後、俺はギザギザ丸をギュッと抱き締めた

 

「心配すんな。アタイは未来のお父さんにもこうして貰ってる…いいお父さんだぞ…今も、昔もな」

 

「すぐ会おうな…」

 

「あぁ…分かったよ」

 

ギザギザ丸は俺から離れ、雪の中を歩いて行った

 

「あっ‼︎そうだ‼︎」

 

途中、何かに気が付き、此方に振り返った

 

「アタイの名前は心配すんな。もうすぐお父さんが付ける‼︎アタイはこの名前、スッゴク気に入ってるぞ‼︎”もう一人”はお母さんが決めてるから心配すんな‼︎じゃな‼︎」

 

「ちょっと待て‼︎もう一人ってなんだ‼︎」

 

そう言うが、既にギザギザ丸は消えていた

 

「ったく…結局ヒントは無し、か…」

 

ギザギザ丸が居なくなって、少し考え、また分娩室の前に戻って来た

 

そして、ギザギザ丸が言っていた”もう一人”の意味が分かった

 

「レイ‼︎もうすぐ産まれるぞ‼︎双子だぞ双子‼︎」

 

「双子だぁ⁉︎」

 

そう言った時、分娩室から産声が聞こえた

 

「産まれた‼︎」

 

「元気の良い声ね‼︎」

 

散々ウロウロしていたきそと叢雲が戻って来た

 

俺の心臓の鼓動はは異常なまでに速くなっていた

 

そうこうしていると、分娩室から明石が出て来た

 

「レイさん‼︎産まれましたよ‼︎此方へ‼︎」

 

「行って来い」

 

アレンに背中を押され、マスクやら白い服を着て分娩室の中に入った

 

「産まれたわよ…ふぅ…」

 

横須賀は憔悴しきっていた

 

「よく頑張ったな。ありがとう」

 

横須賀の髪を上げ、ついでに頭を撫でる

 

「うんっ。ホラ、赤ちゃん抱っこしてあげて⁇」

 

「どうぞ‼︎」

 

「ありがとう」

 

明石から赤ちゃんを受け取る

 

「はじめまして、だな」

 

目は開いてはいないが、何と無く俺の声がする方を見ている気がする

 

命の重さ…

 

こんなにも重いのか…

 

「レイはその子の名前、私はこの子の名前ね⁇」

 

「もう決めた」

 

「聞かせて⁇」

 

「”朝霜”だ」

 

「朝霜⁇」

 

「そっ」

 

「なら、この子は”磯風”にしようかしら⁇」

 

「良い名だ…おっ」

 

朝霜と名付けられた赤ちゃんは、俺の服の裾をギュッと握り締めていた

 

「もう懐かれてるの⁉︎」

 

「ははは。朝霜…」

 

「…まぁいいわ。ホラ、磯風も抱っこしてあげて⁇」

 

「おっ…」

 

横須賀と赤ちゃんを交換し、今度は磯風を抱く

 

「いでででで‼︎」

 

磯風は磯風で俺の腕の肉をつねる

 

しかも横須賀の腕の中にいた時の倍以上泣かれる

 

産まれながらに懐く親が決まっている様だ

 

「あら⁇見て‼︎」

 

横須賀が朝霜の口を開けている

 

「もう歯が生えてる…」

 

「ギザギザだな」

 

朝霜は少しだが既に歯が生えていた

 

何処かで見た、ギザギザの歯だ

 

「レイさん。この子達は自力で歩行出来る様になるまで横須賀で預かろうと思うんです」

 

「そうだな。今しばらくは母親の愛情が必要だしな」

 

明石の言う通りだ

 

流石の俺も産まれたての赤ちゃんに与える愛情は横須賀に勝てない

 

それに、いつでも逢いに来れる

 

「ちゃんと歩ける様になったら、一週間おきに基地に送りますよ」

 

「そうしてくれ。朝霜、磯風、元気に育てよ…」

 

そう言って朝霜と磯風を撫でる

 

朝霜はスヤスヤ眠っているが、磯風は俺の手を嫌そうにしている

 

「お前に似たのか⁇」

 

「見たいね…ふふっ。大丈夫よ、その内レイの事も好きになるわ⁇」

 

「だと良いんだが…」

 

その日の夜、各基地から訪れたメンバーと共に、瑞雲でアレンと俺の出産祝いが行われた

 

最近、瑞雲で集まる事が多い気がする…

 

「レイ。その内歩きだすぞ⁇」

 

「生傷が絶えない生活もっ、案外悪くないものですよ⁇」

 

「レイさんなら大丈夫ですよ」

 

アレン、健吾、ラバウルさんは子育て経験者

 

アイちゃんで今しばらくケガだらけの生活を送っていた

 

「基地の子達も大騒ぎよ⁇」

 

「心配するな。きそがお姉ちゃんなら大丈夫さ」

 

隊長、貴子さん、この二人も子育て経験者

 

俺の周りには、なんやかんやで助けが多い

 

「マーカス大尉。瑞鳳が離乳食なら任せろと言っていたぞ」

 

日向の言伝を聞き、少し安心する

 

「とにかく食え‼︎今日はめでたい‼︎」

 

「そうだな‼︎」

 

隊長の言葉で、ようやく箸を手にする

 

信頼するメンバーに囲まれ、俺は幸せな1日を送った…

 

 

 

 

 

朝霜と磯風が産まれました‼︎




朝霜…レイと横須賀の子供その1

レイと横須賀の間に産まれた、双子の長女

産まれてすぐにギザギザの歯が生えてる

レイやきそに良く懐き、一週間で磯風と交代で基地に遊びに来る

性格がレイに良く似ており、何に対しても恐れずに立ち向かう勇気があり、まずは話し合いの精神をキチンと受け継いでいる

名付けたのはレイで”朝方に見る霜の様に美しく育って欲しい”との意味を込めて付けた

愛称は次回分かる




磯風…レイと横須賀の子供その2

レイと横須賀の間に産まれた双子の次女

産まれながらにレイに懐かず、横須賀にベッタリ

嫌いな人にはすぐに噛み付く

全てが横須賀に酷似しており、親子だと一発で分かる

横須賀と同じく、口は強い割に案外ヘタレ

レイ以外には暴力を振るわないが、レイが触るとフルボッコにする

名付けたのは横須賀で、父親であるレイがいつも”磯の風”に乗って逢いに来てくれるので、いつしかこの風が好きになり、この名を付けた

一時期パチモンの磯風をしていたからこの名前を付けた訳じゃないらしい

愛称は次回分かる


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130話 襲撃‼︎黒いウズラ‼︎(1)

さて、129話が終わりました

今回のお話は、レイと横須賀の間に産まれた双子の子供の片方が基地にやって来ます

果たしてレイは自分の娘に懐いて貰えるのか⁉︎


俺と横須賀の子供が産まれてから一週間

 

二人の成長は本当に早かった

 

2日目位で乳離れをし、離乳食開始

 

3日目には歩き回り、離乳食卒業

 

4日目には走り回り、5日目には会話が可能に

 

ただ、知能的にも身長的にもたいほうと照月と同じ位に留まっている

 

そして今日、初めてどちらかが基地に来る

 

「来た来た‼︎」

 

高速艇が来た

 

「あっ‼︎イカさんだぁ‼︎お〜い‼︎」

 

照月がイカさんに手を振ると、イカさんも手を振り返す

 

高速艇が停泊すると、明石が長い黒髪の子を抱いて降りて来た

 

来たのは磯風の方だ

 

「さっ、磯風ちゃん。着いたよ〜」

 

「いやら‼︎」

 

磯風を降ろすが、磯風はすぐに明石の足に抱き着く

 

磯風はまだ舌ったらずな喋り方だが、もう自分の意思はしっかりと持っている様に見えた

 

「おいで‼︎」

 

「ほらほら、お父さんが抱っこさせて〜って‼︎」

 

明石が軽く背中を押すが、磯風は一向に来ず、明石の足にベッタリ着いている

 

「いーちゃんオトンきあい‼︎」

 

「がっ…‼︎」

 

産まれた時と同じく全否定

 

俺は白眼をむいて、口を開けて固まる

 

「いーちゃん、あのおじちゃんがいい‼︎」

 

磯風が指差す先には隊長がいる

 

「よしよし。おいで」

 

隊長に抱っこされ、磯風は中に入って行った

 

「レイさ〜ん。駄目だ。固まってる」

 

明石が目の前で手を振るが、俺はショックで固まっている

 

「レイ‼︎レイってば‼︎」

 

「オトンは嫌い…だと…俺は…磯風にメチャ嫌われてる…どうすれば…‼︎」

 

「その為の一週間じゃん。大丈夫だよ」

 

きそにそう言われ、少し目が覚めた

 

「では、私は横須賀に戻ります‼︎ちゃんと仲良くなって下さいよ⁉︎」

 

「あ、はい」

 

明石が横須賀に戻り、すぐに考える

 

とりあえず、俺は磯風にメチャクチャ嫌われている

 

どうすれば好かれるだろうか…

 

 

 

 

「てな訳で、作戦会議をします」

 

「さくせんかいぎ‼︎」

 

たいほう達の子供部屋に一時的に避難して来た

 

食堂にいると磯風が邪険に扱って来るので、とにかく味方が多いここに来た

 

磯風はとりあえず隊長と貴子さんに預けてある

 

「たいほう、いいものあるよ‼︎じゃん‼︎」

 

たいほうが取り出したのは、たいほうがいつも食べているビスケット

 

「すてぃんぐれいがね、いーちゃんにびすけっとあげるの。そしたら、いーちゃんは”すてぃんぐれいだいすき‼︎”ってなるよ⁇」

 

「よし、やってみよう‼︎」

 

 

 

第1作戦…ビスケット作戦

 

食堂に戻って来た

 

「い…磯風‼︎」

 

「なんら」

 

「お、お父さん、良い物持ってるんだ〜…じゃん‼︎」

 

後ろ手に持っていたビスケットを、磯風の前に出した

 

磯風は俺の手から一瞬でビスケットを取り、口に放り込んだ

 

「美味しいか⁇」

 

磯風の頭を撫でようとした瞬間、手に思いっきり噛み付かれた‼︎

 

「いででででで‼︎悪かった‼︎」

 

「さわるにゃ‼︎むこういけ‼︎」

 

「コラコラ。ちゃんとお父さんにありがとうは⁇」

 

「やらっ‼︎」

 

 

 

第1作戦…失敗

 

負傷箇所…右手の平(咬み傷)

 

 

 

 

「第2作戦‼︎」

 

「はっちゃんの絵本を貸してあげます」

 

はっちゃんから絵本を受け取り、中を見てみる

 

「たいほうちゃんと照月ちゃんを使って、テレビの前に座って読んでみて下さい」

 

「なるほど。直接行くからダメなのか」

 

 

 

 

第2作戦…オペレーション絵本

 

「さぁ、今日は何を読んで欲しい⁇」

 

「がーがーさんのやつ‼︎」

 

「照月もガーガーさんがいいなぁ‼︎」

 

テレビの前に座り、たいほうと照月を脇に置く

 

はっちゃんから貸して貰った絵本を開くと、みにくいアヒルの子が映し出された

 

普段はっちゃんが持っているこの本は、実は本に見えて本じゃない

 

はっちゃんがアイリスの時に知り得た知識が入っている電子機器だ

 

「アヒルの子は、みんなから嫌われたって気にしません」

 

「がーがーさん…」

 

「かわいそう…」

 

たいほうと照月が絵本に魅入っている最中、背後からジリジリと近寄る人影が…

 

「磯風も一緒に見…どぼぁ‼︎」

 

振り返った瞬間、磯風は下唇を噛み締めながら、無言で渾身の右ストレートが鼻に入り、俺は開いていた窓の向こうへ吹っ飛んだ

 

「いーちゃんによこしぇ‼︎」

 

「あっ‼︎」

 

磯風ははっちゃんの絵本を奪い、食堂から逃げ去った

 

「だっ、大丈夫か⁉︎」

 

「何つ〜パワーだ…いてて…」

 

隊長に手を貸して貰い、何とか立ち上がる

 

「磯風は⁇」

 

「子供部屋に向かった」

 

 

 

第2作戦…失敗

 

負傷箇所…鼻骨折及び全身打撲

 

 

 

 

「これはいーちゃんのしゅきなぱんら」

 

子供部屋では、案外大人しくはっちゃんの絵本を見ている磯風がいた

 

「これはカレーパン。いーちゃんはカレーパン好き⁇」

 

きその膝の上に乗り、色んなパンの種類を見ている

 

「うん。きのういしぇでたえた」

 

ケーキバイキング伊勢の事だろう

 

あそこはパンも食べられる

 

俺はそんな二人の様子を、ドアの隙間からコッソリ見ていた

 

「いーちゃんはお父さん嫌い⁇」

 

「きあい。でも、おじしゃんとおばしゃんと”きしょ”はしゅき」

 

「あれ。僕の名前知ってるの⁇」

 

教えていないハズなのに、磯風はきその名前を知っていた

 

「おかあしゃんいってた。きしょはおねえたんだって」

 

「へへへ…そっかぁ〜」

 

きそは嬉しそうな顔をしている

 

横須賀はちゃんと約束を守ってくれていた

 

以前、きそは俺達の間に子供が産まれたら、自分は何処かに追いやられるのかと不安を抱いていた

 

横須賀はその時の約束を忘れず、磯風に教えてくれていた

 

「でも、オトンはきあい」

 

「レイは良いお父さんだよ⁇」

 

「らって、いっちゅもいーちゃんのところにいにゃいもん」

 

「あ…」

 

「いーちゃん、おかあしゃんがしゅき。おかあしゃん、いっぱいいっぱい、いーちゃんほめてくれるにょ」

 

「レイもいっぱい褒めてくれるよ⁇」

 

「オトンはいーちゃんのこときあいらもん。らから、いーちゃんと”あーちゃん”をおかあしゃんのところにおいて、ここにいるんら」

 

「あーちゃん⁇」

 

「あーちゃん‼︎あーちゃんはいーちゃんのおねえたんなんら‼︎」

 

…朝霜の事だろう

 

「いーちゃん。お父さんとお話ししてみない⁇」

 

「やら」

 

即否定

 

本当に俺の事が嫌いな様だ…

 

自分の娘にここまで否定されるとかなり傷付くな…

 

「分かった。でもいーちゃん⁇叩いたりしちゃダメだよ⁇」

 

「なんれ⁇」

 

「いーちゃんも叩かれたら痛いでしょう⁇レイも同じなんだ。叩かれたら痛いんだよ⁇」

 

「…あかった。こえ、かえす」

 

磯風はきそにはっちゃんの絵本を返し、子供部屋を出た

 

「レイ。もう大丈夫だよ」

 

きそにはバレていた様だ

 

「磯風はレイが普段一緒に居てくれないのを不満に思ってるんだ」

 

「こればっかはなぁ…」

 

「無理に近付こうとしても、ダメな時はダメだよ。こっちから行ってダメなら、向こうから来るのを待ってみたら⁇」

 

「それが一番かもな」

 

俺は磯風と少しだけ距離を置く事にした

 

とりあえず工廠にこもり、いつも通りパソコンの前に座り、顔を抑えながら軽く後ろにもたれる

 

《お困りのようね⁇》



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130話 襲撃‼︎黒いウズラ‼︎(2)

「ヘラか」

 

《犬も挫折するのねぇ》

 

「今回ばっかは流石にヘコむさ…」

 

心配してくれてるのかと思い、ヘラの感情メーターを見てみた

 

”愉悦”

 

「ん⁇」

 

目を擦り、もう一度見る

 

”愉悦”

 

何度見てもヘラの感情は愉悦だ

 

《犬が挫折するの見るの、私好きなの》

 

ヘラの感情メーターの”愉悦”が更に上がる

 

「ぐっ…お…もっ、もういい‼︎俺は拗ねる‼︎年甲斐も無く拗ねてやるからな‼︎見てろ‼︎」

 

《はいはい。言ってなさい》

 

俺は試作段階だったFlakシリーズの改良型の設計図を書き始めた

 

書き始めて数秒後…

 

《ねぇ》

 

ヘラは待てない子だ

 

ずっと話していると、それはすぐに分かる

 

「なんだ⁇」

 

《犬は何があっても私達の話を聞いてくれるわね》

 

「無視して何が面白いってんだ。何でも話し合いからスタートだよ」

 

《犬》

 

「ん⁇」

 

《犬は良い所は沢山あるわ。私は知ってる。心配は要らないわ。今にあの子は、犬を好いてくれる…私には分かるわ》

 

「からかいやがって‼︎どうせまたメーターは愉悦だろ⁉︎」

 

そう言ってパソコンでヘラの感情メーターをもう一度見る

 

”母性”

 

《犬》

 

「…なんだ」

 

《私が犬の心配をしない時があると思ってるの⁇》

 

「…ありがとう」

 

《言ってたら来たわよ》

 

ゆっくり振り返えると、真後ろに磯風が立っていた

 

「どうした⁇」

 

「たらいてあるかった」

 

「もう叩いちゃダメだぞ⁇」

 

「さわるにゃ‼︎」

 

頭を撫でようとするが、物凄い眼力で俺を睨まれた為、手を引っ込めた

 

「オトンのしごろはこえか」

 

「そっ。新しい武器とかを造ったり実験したりするんだ」

 

「おかあしゃんは、オトンは”ぱいろっろ”といってら」

 

「そっ。お父さんはパイロットだ」

 

「あえがオトンのせんろうきか」

 

「そうだぞ。ちょっと乗って見るか⁇」

 

「らっこ」

 

磯風は手を広げて待っている

 

「噛まないか⁇」

 

「かまにゃい。きしょとやくしょくした」

 

「んっ。分かった…よっと」

 

どうやら俺から触れるのはダメだが、磯風が頼めば良いらしい

 

磯風を抱き上げ、タラップを登り、フィリップの中に入った

 

「ピカピカしてりゅぞ」

 

「生きてるんだ。戦闘機もな…」

 

磯風を膝の上に座らせ、操縦席に座る

 

「おかあしゃんのにおいがしゅる…」

 

「お母さんも乗った事あるんだぞ⁇」

 

「おかあしゃんもぱいろっろ⁇」

 

磯風は横須賀の話をすると嬉しそうにする

 

「そっ。お父さんはお母さんの部下だったんだ」

 

「おかあしゃん、オトンとあのおじしゃんと”ぐらふー”とぱいろっろしてらっていってら」

 

「そっ。世界を回ったんだ…懐かしいな…」

 

少しだけ目を閉じ、傭兵だった頃を思い出す

 

「せんしょうがにゃつかしぃらと⁉︎」

 

「嫌な思い出もあるさ。でも、良い思い出もある」

 

「らからいまれもぶきちゅくってりゅにょか」

 

「そうかもな…戦争を無くす兵器を、いつかは造りたい」

 

「オトンは”かくへいき”のほゆうしゃろいっしょらな」

 

「そんな言葉何処で覚えたんだ⁇」

 

「いーちゃんはしんぶんみるのしゅきら。オトンはへいきがあれあ、せんしょうがにゃくにゃるとおもっれる」

 

「そこまで言うなら見せてやろう」

 

電子機器を弄り、全方位モニターを映し出す

 

「わぁ〜…」

 

「まずはこの空にしようか」

 

これまでに何度かあった、大規模な空戦の中の一つを映像で流す

 

巨龍事件の空戦だ

 

「ひこうきら‼︎」

 

「お父さんがどうするか見てろ」

 

磯風と俺の目の前で、映像は猛スピードを出しながら敵航空機を墜としていく

 

「おちう‼︎」

 

急降下した瞬間、磯風は目を閉じた

 

その時に、俺は映像を変えた

 

「大丈夫。目開けてみな」

 

「ん…おぉ〜‼︎」

 

映し出したのは、横須賀で演習中の平和な空だ

 

「きえい…」

 

磯風は太陽に照らされた海面を眺めてウットリしている

 

「磯風はどっちが好きだ⁇人がい〜っぱい死ぬ空か、今みたいな平和な空か…」

 

「いーちゃんはこっちがいいにゃ…」

 

「お父さんは、こんな風な平和な空をいつか取り戻したいんだ。だから、今は戦う。せめて、磯風と朝霜が大きくなる前にこうなる様に…なっ⁇」

 

「オトンはいーちゃんのころがきあいれおかあしゃんのとこりょりおいてありゅわけじゃにゃいにょか⁇」

 

「それは絶対に違う。好きだからこそ、お父さんは今戦うんだ」

 

「じゃあ…オトンはいーちゃんもあーちゃんもしゅきか⁇」

 

「当たり前だ‼︎何処の誰が自分の娘を嫌うか‼︎」

 

「…しょっか」

 

キリの良い所で映像が終わった

 

「心配するな。お父さんは、いつだって磯風と朝霜の事を思ってる。だから、磯風も忘れるな⁇」

 

「あぁった。いーちゃんおぼえた」

 

「さっ、帰るぞ。もうご飯の時間だ」

 

フィリップから降りた時には、磯風は俺にベッタリとくっ付いていた

 

「あらっ。ちゃんと懐いてくれたのね⁇」

 

「心配して損したよぉ〜」

 

貴子さんときその声に反応し、磯風は俺の手から離れた

 

「きしょねぇ‼︎いーちゃんもごあんたえる‼︎」

 

「んっ。僕と食べよう‼︎」

 

磯風はきその横に座り、俺はいつもの定位置のたいほうの横に座る

 

「すてぃんぐれい、もういたくない⁇」

 

「大丈夫だ。ありがとな⁇」

 

「うんっ‼︎たいほう、いーちゃんすきだよ‼︎」

 

たいほうの無邪気な笑みを見て、胸を撫で下ろす

 

「マーカス。貴方に良く似てるわ」

 

反対側では母さんが笑う

 

「磯風。お前のお婆ちゃんだぞ⁇」

 

「しゅぱいろおばあしゃん⁇」

 

やはり知っていた

 

こう見ると、横須賀はしっかり教育しているみたいだ

 

「そうだ。もう一人のお婆ちゃんには会ったか⁇」

 

「しゃらとがおばあしゃん‼︎」

 

「そうだ‼︎偉いぞ‼︎」

 

「オトンのころ”まーきゅん”っていってら」

 

「ははは…」

 

「さぁっ、出来たわ‼︎」

 

貴子さんとはまかぜが皆の前にカレーライスを置く

 

「うわ〜…」

 

磯風の隣に座っている照月のカレーライスの量を見て、磯風はたじろぐ

 

「照月、これでも少ない方なんだよ⁇」

 

「いーちゃんもがんあれあ”てるしゃん”みたいにになえるきゃ⁉︎」

 

それに答えたのは隊長だった

 

「なれるさ。いーちゃんは出来る子だろう⁇」

 

「うんっ‼︎いたあきます‼︎」

 

磯風はたいほうと同じ位の量のカレーライスを食べ始めた

 

そして、たいほうと同じ様に口の周りにカレーやご飯粒をいっぱい付ける

 

ご飯を食べ終わると、子供達はお風呂に入る

 

「いーちゃんもいきゅのきゃ⁇」

 

「そっ。貴子さんとグラーフと入っておいで」

 

「ぐらふーがいりゅのきゃ。ん。いってくりゅじょ」

 

磯風も子供達に混ざり、お風呂に向かう

 

「磯風はグラーフの言い方面白いな」

 

「俺も言ってみっかな…」

 

30分位すると、一斉に上がって来た

 

隊長も俺もそれぞれ子供達の頭を拭き、温かい牛乳を飲ませる

 

「オトン。いーちゃんもあがっらろ‼︎」

 

「んっ。ちゃんとフキフキしような」

 

磯風からタオルを受け取り、頭を拭く

 

「ぐらふーがいっれらろ。オトンはつおいぱいろっろらって」

 

「そうだぞいーちゃん。いーちゃんのお父さんは凄く強いパイロットだ‼︎」

 

「んふ〜‼︎いーちゃんのオトンはつおいぱいろっろか‼︎」

 

磯風は自慢気に鼻息を吐いた

 

”グラフー”の癖が移っている

 

「上がった」

 

「磯風も大人しく入ってたもんね」

 

「うんっ‼︎いーちゃんおふりょしゅき‼︎」

 

「ありがとう貴子さん、グラフー」

 

「レイまで言うのか」

 

「グラフーも温かい牛乳飲め」

 

「グラフー。ちょっとだけど、お茶菓子もあるわ」

 

「なんと」

 

隊長も母さんも”グラフー”とおちょくる

 

「オトンもねりゅにょか⁇」

 

「お父さんはもうちょっとしたら寝るよ。磯風は先に寝なさい」

 

「オトンもはよねりょよ‼︎わかたか‼︎」

 

「分かった分かった‼︎」

 

磯風はそう言い残し、子供部屋に向かった

 

「ったく…な〜んかグラーフに似てるな…」

 

「子供は話やすい人の真似するんだよ」

 

「んなモンかねぇ…」

 

後頭部を掻きながら椅子に座った瞬間、グラーフに両頬を伸ばされた

 

「いれれれれ‼︎にゃにうぉしゅりゅ‼︎」

 

「八つ当たり」

 

「やるあらりらろ⁉︎くっ…」

 

グラーフの手を振り解くと、グラーフは頬を膨らませていた

 

「グラフー違う。グラーフ」

 

「…怒ってるのか⁇」

 

「何でもない。おやすみ、オトン」

 

「なっ…」

 

グラーフは飲んだコップを流しに置き、部屋に戻って行った

 

「何なんだよ‼︎」

 

「マーカス⁇」

 

「うん⁇」

 

「乙女と言うのは複雑なの。急に欲しくなったり、冷たくしたり…」

 

「あ…」

 

グラーフは普段、恋人であるミハイルとは滅多に逢えない

 

俺は正直に言えば、今からだって逢いに行ける

 

だから、少し俺に嫉妬しているのかも知れない

 

「仕方ない。子供達の様子を見た後、グラーフの様子もみっかな…」

 

「任せていいか⁇」

 

「あぁ。まだ寝れそうに無いしな。んじゃ、行ってくっか‼︎母さん、流しに置いといてくれ」

 

「オーケー」

 

俺は食堂から出て、子供部屋に向かった



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130話 襲撃‼︎黒いウズラ‼︎(3)

「ふふっ…母さん、ですか」

 

マーカスはあれから、私を”母さん”と呼んでくれる

 

私はそれが嬉しくてたまらない

 

「レイ君は嬉しいのよ。お母さんと呼べる人が出来て」

 

「貴子は私が居ない間、マーカスの母親代わりをしていてくれたのでしょう⁇」

 

「私じゃ無理よ…」

 

貴子は私の手を取った

 

「私がレイ君に向ける愛情は、貴方には勝てない。私はどうしてもウィリアムを優先してしまうから…」

 

「そんな事無いわ。マーカスは作文で貴方を母親と言っていたとてぃーほうが」

 

貴子は首を横に振った

 

「レイ君は女性に対しての甘え方を知らないの。レイ君がどれだけ私を母親と言ってくれても、それは教えてあげられ無かった…その代わり、レイ君は甘えられる立場になったの。たいほうや照月ちゃんを見ていて分かるでしょ⁇」

 

言われてみればそうだ

 

マーカスは甘えられる方が多い

 

てぃーほう始め、照月やきそもそうだ

 

「…今からでも間に合うかしら」

 

「えぇ‼︎勿論‼︎」

 

「ふふっ…頑張って見るわ‼︎」

 

微笑ましい二人の会話を、隊長が嬉しそうに見ている

 

その背後で、誰にも気付かれずに会話を聞いていた少女が小さくため息を吐いた

 

「…仕方の無い子ね」

 

少女は誰にも気付かれぬまま、食堂から出た

 

 

 

 

「寝なさい‼︎いでっ‼︎」

 

子供部屋ではいつもと同じく、子供達がワチャワチャと動いている

 

「よ〜し。寝ない子はダズル☆マンの所に連れて行こう‼︎」

 

「ダズル☆マンはレイだ‼︎」

 

「怖くない‼︎」

 

「うおっ‼︎」

 

れーべとまっくすが俺の背中にのしかかる

 

「よし分かった‼︎れーべとまっくすは蒼龍にパックンしてもらおう‼︎」

 

そう言うと子供達はゾロゾロと布団に入って行く

 

「ヤダー‼︎」

 

「パックンは嫌‼︎」

 

れーべとまっくすはちゃんと布団に入った

 

「きそ。ちゃんと寝てるか⁇」

 

「うん。後は任せて‼︎」

 

「磯風は⁇」

 

「きしょねぇにょよこにいりゅ‼︎」

 

「たいほう‼︎…は、寝てるか」

 

「マーカスさん、おやすみなさい」

 

足元ではっちゃんが此方を見ている

 

「あぁ、おやすみ」

 

電気を消し、今日ははっちゃんの額にキスをし、子供部屋を出た

 

次はグラーフだ

 

グラーフの部屋に入る前に、少しだけタブレットを弄る

 

「グラーフ、俺だ」

 

「入れ」

 

グラーフの部屋に入ると、グラーフは布団に包まっていた

 

「エロ同人みたいな事するのか」

 

「んなこたぁしねぇよ。ホラッ」

 

グラーフにタブレットを渡す

 

《グラーフ。寝れないのかい⁇》

 

「ミハイル‼︎」

 

怒っていた顔がパァッと明るくなる

 

テレビ電話の先にはミハイルがいる

 

「あのね。レイがグラーフ叩くの。酷いよね」

 

「よしっ、没収だ」

 

「ウソウソ。ミハイル、嘘だよ」

 

《ははは‼︎レイ‼︎人の女に手を出すなよ⁉︎》

 

「分かってらい‼︎俺じゃなくてグラーフと話せ‼︎グラーフ、返すの明日の朝でいいから、ゆっくり話せ」

 

「うんっ‼︎ありがとう、オトン‼︎」

 

「…そいつでイーブンだからな」

 

人の恋路を邪魔しちゃいけない

 

俺はグラーフの部屋を出た

 

後は工廠の戸締りの確認だけしたら、俺もベッドに飛び込もう…

 

工廠に入り、懐中電灯で一帯を照らす

 

しっかし、この照月の”フラッシュさん”は眩しい位光るな…

 

パソコン良し

 

危険物良し

 

フィリップの格納庫良し

 

クイーンの格納庫良し

 

スペンサーも良し

 

後はヘラだ

 

「ん⁇」

 

ヘラの格納庫に明りが灯っている

 

「誰かいるのか⁇おっと‼︎」

 

ヘラの格納庫の中に入った瞬間、いきなりシャッターが閉められた

 

「なるほど…」

 

一発で分かった

 

女王の反逆だ

 

「こっちへ来なさい」

 

シャッターに向けられていた視線を、格納庫の奥にいた少女に向ける

 

格納庫の奥には、脚立の上で両手で頬杖をついた叢雲がいた

 

フラッシュさんを切り、叢雲の所に向かう

 

「そこに座りなさい」

 

いつも俺かきそがAIの確認作業を行う時に座っている椅子があり、そこに座る

 

「どうしたんだ⁇」

 

叢雲の鼻息が荒い

 

「黙ってなさい。良いわね」

 

「分かったよ…」

 

叢雲は俺の顔を胸に置き、頭を抱え、撫で始めた

 

「いい子ね…」

 

「…」

 

一瞬、またいつも通りからかっているのかと思ったが、心音を聞く限りどうやら違う

 

かなり速い心音だ

 

「貴方は立派よ…”マーカス”」

 

「…初めて名前呼んでくれたな」

 

「犬の方が良かったかしら⁇」

 

「叢雲とヘラだけだぞ。俺を犬と呼んで良いのは」

 

「マーカス。貴方は甘える事を知らない。誰だって良いわ。姫だって、貴方の妻だっていい。甘える人を一人だけでも作りなさい」

 

「俺は子供を持った。強くなくちゃいけない…」

 

そう言うと、叢雲は少しだけ腕の締めを強くした

 

「そんなのダメ。いつか壊れるわ」

 

「…叢雲。俺の話を聞いてくれるか」

 

「んっ。聞いたげる」

 

俺は思いの丈を叢雲に話した

 

母である姫に、どうやって甘えればいいか分からない事

 

横須賀に甘えたいが、同じく甘え方が分からない事

 

そして、俺でも甘えていいのか…と、いう事

 

叢雲は笑って答えた

 

「分からないなら私に甘えなさい。私はいつだって受け止めたげる」

 

「優しいのな、叢雲は」

 

「誰が教えてくれたのよ…」

 

「…」

 

ほんの数分だけ、俺は叢雲に甘える事にした…

 

「ありがとう」

 

「んっ…」

 

「さっ、もう寝ないとな」

 

「もう少しここにいるわ。先に寝なさい」

 

「分かった」

 

 

 

 

ヘラの格納庫から出て、ようやくベッドにダイブしようとした

 

…が、子供部屋をもう一度確認しておこう

 

大体は寝てると思うがな…

 

子供部屋の扉をソーッと開けると、全員寝息を立てていた

 

寝相の悪い照月とはまかぜは布団を蹴り飛ばしている

 

二人に布団を掛け直し、たいほうの顔を見る

 

丸くなって、霞にくっ付いて寝ている

 

霞はそんなたいほうを軽く抱いたまま眠っていた

 

最後に磯風の所を見る

 

「は〜っ…」

 

磯風は布団を蹴り飛ばしているどころか、敷き布団からはみ出し、左にいたはっちゃんの顔をグーで殴った状態、右にいたきその顔面を蹴り飛ばしている状態でイビキをかいていた

 

はっちゃんときそは眠ってはいるが、かなり苦悶の表情をしている

 

「変な所だけ母親似だな…」

 

磯風を抱き上げると、首がカクンと傾き、ヨダレを垂らしながら、またイビキをかく

 

…横須賀ソックリだ

 

「おやすみ、磯風」

 

磯風を布団に入れ、子供部屋を出た

 

俺もそろそろ寝よう…

 

自室に戻り、有無を言わさずベッドに入った

 

明日も騒がしい…だろう…な…

 

明かりを消し、俺も眠りについた…



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特別編 想い人、想われ人(1)

さて、130話が終わりました

今回のお話は、誰かの過去のお話です

見慣れた人ばかりが出て来ます

そして、後半はまた少し物語の真相が明らかになります


「提督」

 

「どうした⁇」

 

榛名と共に書類仕事をしていたワンコは、終わった途端に頭上にハンマーを置かれた

 

「そういえば提督の過去を聞いた事ね〜ダズル。言え‼︎」

 

「え〜…」

 

榛名の脅しはケッコンしてからも健在だ

 

逆らえばハンマーで殴る、これ鉄則

 

「聞いても楽しくないよ⁇」

 

「早く言うんダズル‼︎」

 

「仕方ないなぁ…ハンマー降ろしてくれたらね⁇」

 

榛名はハンマーを降ろし、机にもたれさせる様に置き、ワンコと対面出来る様に椅子を置き、そこに座った

 

「さっ、提督のしょ〜もない恋バナを聞かせるんダズル」

 

「そうだね…じゃあ、一番思い出の多い高校の話をしよっかな」

 

ワンコは話し始めた…

 

 

 

 

何年前…

 

深海棲艦の進行や、反抗作戦とかがとやかく言われるもう少し前だ

 

私”犬養健一”は高校に通っていた

 

因みに言うと、みんなが私の事を”ワンコ”と言うのはこの名前の為である

 

”単冠湾”の”ワン”ではない

 

それは置いといて…

 

私は今まで生きて来て、高校生の時が一番思い入れが深い

 

それは…

 

 

 

 

「オッスワンコ‼︎」

 

「健吾。おはよう」

 

朝一から肩を組んで来て、私の見ている本を少しだけ一緒に読む

 

彼の名は柏木健吾

 

後に、あのラバウルの凶鳥と呼ばれている一人だ

 

 

「ちーーーっす‼︎ちっすちっすちーーーっす‼︎」

 

「ご機嫌ようですわぁぁぁぁぁ‼︎」

 

「来た来た…」

 

朝からやたらとテンションの高い二人組

 

最初に挨拶した奴はいつもうるさい

 

最初に挨拶した、ちっすちっす言いまくってる女子がまり

 

ご機嫌ようですわぁぁぁぁぁ‼︎と言っていたのがりさ

 

…どっちもうるさい

 

「お菓子食〜べよ‼︎」

 

「健吾さんもワンコも食べます⁇」

 

まりとりさがそれぞれ苺大福を私達に差し出す

 

「あ…ありがと…」

 

昼ご飯の後に食べようと鞄の中に入れようとした時、まりが言った

 

「食べてるとこ見せて‼︎」

 

「うっ…」

 

正直、朝から苺大福はキツい‼︎

 

だが好意を無碍にする訳にはいかない‼︎

 

そう思い、包み紙を開け、苺大福を口に入れた

 

「美味しい⁉︎」

 

「うん。美味しい。ありがと」

 

「もう一個あげる‼︎」

 

「もがっ‼︎」

 

そう言って、まりは手に持っていた食べかけの苺大福を私の口に詰め込んだ

 

「にしし〜‼︎ワンコイジるの面白いわ‼︎」

 

「お…おはよ…」

 

「お‼︎”はる”‼︎ちーっす‼︎」

 

「ち、ちーっす…苺大福食べてるの⁇」

 

「うんっ‼︎はるにもあげる‼︎はい‼︎」

 

「ありがと」

 

はると呼ばれた女子は、少し控えめな性格だ

 

前髪で顔が隠れているので、表情も読み難い

 

「さっ、授業ですわよ‼︎」

 

授業が始まり、俺はまりの前で授業を受ける

 

「にしし…」

 

後ろでまりが何やらニヤついている

 

「いでっ‼︎」

 

「〜♪」

 

何かが当たり後ろを振り向くが、まりは鼻と上唇の間にシャーペンを乗せ、そっぽ向いて口笛を吹いている

 

勘違いと思い、また前を向いて授業を受ける

 

「いてっ‼︎」

 

「にっししし…」

 

「…まり」

 

前を向いたまま、まりに話し掛ける

 

「まりは何にもしてないで〜す‼︎」

 

「次やったら、もう宿題教えないからな」

 

「くっ…姑息すぎやしませんか⁇」

 

「シャーペンの芯をチマチマ当てて来るよりはマシだろ」

 

「分かったよ…」

 

その授業の時間、シャーペンの芯が飛んで来る事は無かった

 

しかし、次の授業…

 

「うりゃ」

 

「いでっ‼︎」

 

相変わらずまりから何か飛んで来る

 

次は消しゴムのカケラだ

 

「まり、シャーペンの芯”は”飛ばしてません」

 

シャーペンの芯じゃなきゃ良い

 

それがまりの考え

 

まりは考えが単調だ、すぐ分かる

 

ここは今しばらく付き合う事にしよう…

 

しばらくまりから消しゴムのカケラが飛び、俺の席の周りには結構な消しゴムが散らばって来た

 

まりは観念したのか、消しゴムを投げるのをやめ、何かゴソゴソし始めた

 

これっぽっちも授業を受ける気は無い

 

ゴソゴソするのが終わったかと思えば、ピンポイントで机の中心に何か飛んで来た

 

ノートを一枚千切り、中に何か包んで投げた様だ

 

中を開けると、小さなチョコレートが二つ出て来た

 

包んであった紙に何か書いてある

 

”これで機嫌直して”

 

まりは可愛い所がある

 

だからこそ、彼女の事を好きな男子も多い

 

…私もその一人だったりする

 

 

 

 

授業が終わり、昼休み

 

りさがあっと言う間に私の席を占領

 

俺は健吾と一緒に中庭で昼食を取る

 

「まりがシャーペンの芯飛ばしてきてさぁ」

 

「りさなんか後ろから耳に息吹きかけてくるぞ」

 

毎日こうして愚痴を言い合うが、互いの口から、彼女達の悪口は出る事は無い

 

そして、いつも結論はこうだ

 

「可愛いから良いか‼︎」

 

「だな‼︎」

 

「おっ‼︎いたいた‼︎ワンコ‼︎」

 

「健吾さん‼︎」

 

「「ゴミ捨てといて‼︎」」

 

まりとりさが顔を見せたと思えば、二階からゴミを入れたビニール袋と、空き缶が飛ぶ

 

「おっ、うわっ‼︎」

 

「ちょっ‼︎」

 

「ナイスキャッチ‼︎」

 

「お二人にこれを差し上げますわ‼︎」

 

板ガムが二枚、宙をヒラヒラ舞う

 

ヒジョ〜に取りにくい

 

二人共右往左往し、私は何とかキャッチ

 

健吾はギリギリで落としてしまい、りさに吠える

 

「りさ‼︎もうちょい真面目に投げろ‼︎」

 

「すみませんわ…りさ、今手持ちにそれしかなくて…」

 

「苺大福はどうした苺大福は‼︎」

 

「まりの食べ掛けならあるよ‼︎欲しいか‼︎」

 

「いらん‼︎」

 

健吾が二人に吠えた後、自販機の横に付けられたゴミ箱にゴミと缶を捨て、教室に戻る

 

「次は体育だ‼︎さっ、男子‼︎出た出た‼︎」

 

入った瞬間、まりに回れ右され背中を押される

 

「ちょっ‼︎着替え取らせてよ‼︎」

 

「りさ‼︎はる‼︎」

 

「お着替えでしてよ」

 

「はい、ワンコ」

 

健吾はりさ

 

私ははるから体操服を受け取り、別室で着替えを済ます

 

体育の授業はドッチボール

 

男子VS女子

 

「ぐあっ‼︎」

 

「うがっ‼︎」

 

あっと言う間に男子の人数が減る

 

「はっはっは〜‼︎女子を甘く見たな‼︎」

 

「わ、ワンコ‼︎こうなりゃまりを狙え‼︎まりさえ突破したらぶはっ‼︎」

 

健吾の顔面にボールがクリーンヒット

 

「余所見しない‼︎」

 

まりは運動神経が良い

 

勉強はそんなに出来ないのにな…

 

だが、それが裏目に出る事になるとは、私は知る由もなかった…

 

 

 

 

学校が終わり、帰り道

 

「明日は社会見学か」

 

「遊園地だってさ」

 

「なぁワンコ」

 

健吾に肩を組まれ、耳打ちされる

 

「…明日、俺、りさに告白しようと思う」

 

健吾がりさの事を好きなのは薄々気付いていた

 

「…マジか」

 

「でさ、お前はどうなんだよ」

 

「どうって…」

 

「まりの事だよ、ま〜り」

 

「う…」

 

「俺一人告白すんのは不安だ」

 

「…まりに告れってか⁇」

 

「そうだ」

 

「タイミングがあればな」

 

「よし‼︎それでこそワンコだ‼︎じゃあな‼︎」

 

健吾と別れ、一人悶々と考える

 

「わ、ワンコ」

 

「はる」

 

曲がり角ではるが待っていた

 

はるとは家が近く、こうして一緒に帰る事がある

 

「明日、遊園地だってね。ワンコは一緒に回る人決まった⁇」

 

「多分健吾やらまり達と回るだろうな。はるも来いよ⁇」

 

「うんっ。行く。じゃあね」

 

はるとも別れ、私は家に帰る

 

…その晩、私は眠る事が出来なかった

 

 

 

 

 

 

「提督モテモテダズル」

 

「運が良かったと言うか、何と言うか…」

 

「その、はるとか言う女は提督が好きなんダズルか⁇」

 

「さぁね…未だに答えを聞いてない」

 

「…まぁいいダズル。次ダズル」



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特別編 想い人、想われ人(2)

次の日、私達は遊園地に来た

 

五人は行動自体は一緒だったが、健吾とりさはずっと一緒に居た

 

ジェットコースターに乗る時も隣

 

昼ご飯の時も対面

 

おばけ屋敷に入る時もベッタリ

 

とにかく、やたら二人は隣に居た

 

「最後にあれ乗ろうよ‼︎」

 

まりが指差す先には観覧車がある

 

「じゃあ、私は健吾さんと一緒にっ。いいですわね⁇」

 

「んっ、行こう」

 

乗る前に健吾に耳打ちされた

 

”出て来た時に手を繋いでたら告白成功な”

 

そう言い残し、りさと健吾は観覧車に乗った

 

二人の乗った数台後のゴンドラに私達三人も観覧車に乗る

 

「うはぁ〜‼︎人ちっちゃあ〜‼︎」

 

「高い…」

 

まりとはるはずっと下を眺めて興奮している

 

私は数台先のゴンドラが気になり、それ所ではなかった

 

「ワンコ。健吾とりさ付き合うかなぁ⁇」

 

「どうだろうなぁ…」

 

「付き合うといいね」

 

「もしさ…もし、健吾とりさが付き合ったら…私達も付き合っちゃう⁉︎」

 

まりからの突然の告白

 

まりの隣に居たはるは目を見開いて驚いている

 

私は余りにも突然の出来事だった為、思考が固まっていた

 

「勿論、まりじゃなくってもいいよ⁇はるだっているし‼︎」

 

そう言って、まりははるの肩を抱いた

 

「ちょっ…まりちゃん…」

 

はるの表情を見る限り、満更嫌でもなさそうだ

 

「さぁ、どうする〜⁇」

 

ここで決めろと言うのか⁉︎

 

でも、ここで何方かを選んでしまうと、片方を傷付けてしまう事になる…

 

…どうすれば

 

「まぁ、その内まりかはるに告白してよ‼︎まりはいつだってOKだよ‼︎」

 

「わ、私もだよ…ワンコ‼︎」

 

危機は脱したみたいだ…

 

この時、素直に”まりが好きだ”と言っておけば良かったな…

 

観覧車を降りると、りさと健吾が手を繋いで降りて来た

 

告白は成功したらしい

 

「りさ‼︎良かったね‼︎」

 

「えぇ‼︎これで私”りあじゅう”でしてよ‼︎」

 

「さぁ‼︎お土産を選ぼう‼︎」

 

出入り口付近に設けられたお土産コーナーで、五人はお土産を選ぶ

 

「お馬さん」

 

「欲しい⁇」

 

「ワンコとお揃いのにする」

 

はるの手には、メリーゴーランドで一匹だけいたシマウマのキーホルダーが握られていた

 

「はい」

 

はるからシマウマのキーホルダーを貰う

 

はるはピンクの紐

 

私は黄緑色の紐のキーホルダーだ

 

このキーホルダー、今でも私の財布に付いている大切な物だ

 

 

 

 

 

「そう言う事ダズルか。んで、キーホルダーはどこいったんダズル」

 

「それがさぁ…さっきどっかに落としちゃって…」

 

「…紐がボロかったんダズル」

 

「それで、この後なんだ…」

 

 

 

 

遊園地の日から数日後…

 

りさが学校に来なくなった

 

そして数日後、まりも来なくなった

 

「静かだね」

 

「何か怪しいな…」

 

りさが学校に来なくなってから、健吾の口数が少ない

 

…何か知っているな

 

「健吾」

 

「…」

 

「健吾‼︎」

 

「あぁ…ワンコか。どうした⁇」

 

健吾はボーッとしていて、しばらく私の声が耳に入っていなかった

 

「りさもまりも何かあったのか⁇」

 

「…」

 

健吾は頭を抑えている

 

どうやら本当に何か知っているみたいだ

 

「健吾、今日は学校休もう。帰ろう」

 

「あぁ」

 

「はるも帰ろう⁇」

 

「うん」

 

健吾の様子を見る限り、ただ事では無い

 

私達は学校から出て、繁華街の喫茶店に来た

 

「健吾。話してくれ」

 

健吾はようやく口を開いてくれた

 

「艦隊化計画を知ってるか⁇」

 

「まぁ…」

 

艦隊化計画…

 

後々、大佐達が死ぬ思いで食い止めた国家計画だ

 

人体に特殊な改造を施し、兵器として扱う計画だ

 

「…りさとまりはその実験体に選ばれた」

 

「な、何だと⁉︎」

 

その実験体に選ばれたと言う事は死を意味する

 

まりとりさはまだ高校生だ

 

そんな彼女達がこれから先、戦場に身を寄せるのだ

 

「助けようよ」

 

そう言い出したのははるだ

 

「相手は国家だぞ⁉︎」

 

「…一つだけ方法がある」

 

「方法⁇」

 

健吾は言った

 

「今、横須賀の港に空母が停泊してるだろ⁇あの中で、艦隊化計画が進んでいるらしい」

 

「やるのか⁇」

 

「…やるしかない。俺達も手術を受けよう。そしたら、りさもまりも助け出せる」

 

「あ。私、明日そこに呼ばれてる」

 

まさかのはるまで呼ばれていた

 

「ワンコ。もうダメだ。このまま放置していたら犠牲者が増えるだけだ。行こう」

 

「い、今からか⁉︎」

 

「当たり前だ‼︎行くぞ‼︎はる、一人で帰れるか⁉︎」

 

「はるも行く」

 

「…怪我すんなよ」

 

三人、案外腰は軽かった

 

 

 

 

 

〜横須賀軍港〜

 

「見えっか⁇」

 

「見えた。人がワンサカいる」

 

双眼鏡で停泊している空母の周りを見渡す

 

軍服を着ている人物は男性が多いが、私服の人は皆女性だった

 

「あの空母の中に入る。入れそうな場所はあるか⁇」

 

「う〜ん…無さげだな」

 

「こうなりゃ正面突破で行こう」

 

「こんにちは、侵入者さん‼︎」

 

聞き覚えの無い声に振り向くと、一人の女性がいた

 

「お友達を見に来たのかなぁ⁇んっ⁇」

 

「そっ…そうです」

 

「それとも…艦隊化計画を止めるため⁇」

 

そう言った瞬間、女性の目が変わった

 

「迎えに来たんです。彼女を」

 

健吾が上手く返す

 

「そっ。なら、お姉さんと一緒にいらっしゃい。中を見せてあげます」

 

これはチャンスだ

 

私達は怪しいとは思いつつ、この女性に着いて行き、空母の中へと案内された

 

「スゲェ…」

 

空母の中は最新機器が整備され、慌ただしく乗組員が動いていた

 

「さっ、ここよ」

 

案内された部屋に入り、三人はたじろいでしまう

 

巨大な試験管の様な装置

 

人を寝かせる台

 

白衣を着た、何人ものスタッフ

 

「おかえり。いたか⁇」

 

一番偉そうな男性が此方に来た

 

「いたわ‼︎はいっ‼︎」

 

連れて来て貰った女性に背中を押され、私達は何故かその男性にボディチェックをされた

 

目にライトを当てられたり、聴診器で身体中の音を聞かれた

 

「なるほど…特に君達二人は逸材の様だな」

 

「まりとりさは何処ですか」

 

「まり⁇りさ⁇あぁ、後で逢わせてやる。その前にっ…この子の治療をしないとな」

 

「私⁇」

 

「そっ」

 

「私、どっこも悪くない」

 

「オーケー。なら、私の目は何色だ⁇」

 

「う…」

 

はるは何故か答えられなかった

 

「君は”ホワイトアウト症”にかかってる。今の君の目には、白と黒しか映っていないハズだ。違うか⁇」

 

「…うん」

 

ホワイトアウト症候群…

 

目の色彩感覚がモノクロに映る病気だ

 

他人に伝染したり、この病気だからと言って死ぬ訳では無いが、日常生活に支障をきたす

 

…特にパイロットの様な人物には致命症だ

 

艦隊化計画の一環で、目の手術もする

 

はるは目を治して貰う事になり、男性に奥へと案内された

 

「さてっ‼︎」

 

女性が手をパンと叩く

 

「君達は恋人に逢わせて欲しいんだったね⁇」

 

「えぇ」

 

「行きましょうか。君達の恋人の所に」

 

また女性に案内され、研究室の奥の扉の中へと入る

 

「なんだよ…これ…」

 

「うわ…」

 

二人して息を飲む

 

先程の部屋にあった巨大な試験管の中に液体が満たされ、人が入っている

 

それも幾つもだ

 

「君達の恋人はいる⁇」

 

「アンタら…何て事を‼︎」

 

健吾が女性に殴り掛かる

 

女性はいとも簡単に健吾の腕を取り、宙に上げて顔を近付けた

 

「私達も好きでしてるんじゃないの。分かって⁇」

 

「…離せ‼︎」

 

健吾が女性の腕を離した時、私は見付けてしまった

 

「け…健吾…これ…」

 

 

 

Heavy Cruiser ”Suzuya”

 

Heavy Cruiser ”Kumano”

 

 

 

 

鈴谷と書かれた試験管の中にはまりが

 

熊野と書かれた試験管にはりさが入っていた

 

「嘘だろ…りさ‼︎りさ‼︎」

 

健吾はりさの入った試験管を何度も殴り、叩き割ろうとするが、早々割れるものでもない

 

「りさ‼︎り、うっ…」

 

「健…吾…」

 

背後から何かを撃ち込まれ、二人共急な眠気の所為で、二人共その場に倒れてしまう

 

「ごめんなさい。貴方達二人は必要なの」

 

女性は私達を連れ、部屋から出た…



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特別編 想い人、想われ人(3)

「…た方は成…うした」

 

「こっ…子…ど…かしら」

 

「んて……るな。だ…ぶだ」

 

目が覚めると、女性と男性の声がした

 

「ここは…」

 

「あらっ、目を覚ました⁇」

 

先程の女性の顔がドアップで映る

 

「何を…したんですか…」

 

「君に不死身の体を与えたのよ」

 

「えっ…」

 

寝かされていた台から立ち上がり、体を見る

 

…が、特に変わった所は無い

 

それどころか、ここに来た時より体が軽い位だ

 

「君達二人は”深海化”に成功した被験者だ」

 

またあの白衣の男が現れた

 

「すまない。君達の恋人を救うにはこうするしかなかったんだ。許してくれ」

 

「意味が良く…」

 

「君達五人は売られたんだよ、学校の先生にな」

 

「なん…だと…」

 

健吾も目を覚ました

 

「りさを…売っただと…‼︎ふざけルナ‼︎」

 

健吾の目に青い光が灯る

 

それを見て、男性も女性も制止に入る

 

「落ち付きなさい‼︎」

 

「鎮静剤だ‼︎」

 

「ハナセ‼︎ブッコロシテヤル‼︎」

 

健吾は制止を振り切り、部屋から出て行ってしまった

 

男性はすぐさま無線機を取り、外に待機している人員に伝える

 

「各員に告ぐ‼︎”DM=Mark.Knight”が脱走した‼︎Knightは学校を目指している模様、各員、総動員でKnightを停めろ‼︎以上‼︎」

 

無線の先からは多方面から「了解」と聞こえて来た

 

「君は健一君だったね」

 

「は、はい」

 

「彼は怒りを力に変える。君はそれを止められる」

 

「行け、と⁇」

 

「君にしか止められない」

 

「…分かりました。健吾を止められるなら行きます」

 

「頼んだ‼︎」

 

男性に言われ、私も部屋を出た

 

「ふふっ…良いの”マーくん”。二人に任せて」

 

「構わんさ。こんな馬鹿げた計画、誰かが止めねばならん。まっ…大丈夫だろ」

 

男性は椅子に座り、咥えたタバコに火を点けた

 

「何か策があるのね⁇」

 

「あぁ。異国に飛んでいた、同僚の元部下を召集した。彼等なら大丈夫だ」

 

 

 

 

学校に着くと、健吾が元凶である先生を探し回っていた

 

生徒達は怯え、先生の面々は生徒を護る為、怒り狂った健吾に立ち向かおうとする

 

「アイツハドコダ‼︎ダセ‼︎」

 

屈強な男の先生がいとも簡単に弾き飛ばされ、健吾は再び目的の先生を探し始め、職員室でとうとう見付けてしまった

 

「柏木なの…か⁇」

 

「テメェカ‼︎リサタチヲウッタノハ‼︎」

 

健吾は一瞬で先生に近付き、首を掴んで宙に上げた

 

「ち…違うんだ、柏木‼︎先生は、ただ、適合者の…」

 

「健吾‼︎」

 

「…ワンコカ⁇」

 

ようやく健吾に追い付いた

 

「帰ろう。怒ったって仕方ないよ」

 

「フザケルナ‼︎コイツノセイデ…リサハ‼︎」

 

互いに睨みを効かせ合う

 

健吾とこうしてケンカをするのは初めてだ

 

正直、友人には手を上げたくない

 

でも、私がやらなければ…

 

「はいはいはいはい、終了終了‼︎」

 

「ダレダ‼︎」

 

男性が二人、一人は手を叩かながら職員室に入って来た

 

「君が健一君だね⁇」

 

私より二回り程年上の男性が、私の肩に手を置いた

 

「あ…はい」

 

「君を迎えに来た。色々知ってしまっては、居場所も無いだろう⁇」

 

「えぇ…」

 

「ここは彼に任せよう。君は見ない方がいい。さっ、行こう」

 

男性に背中を押され、職員室から出た

 

「スティングレイ‼︎」

 

男性は健吾の側にいた若い男性の名を呼び、小さく頷いた

 

スティングレイと呼ばれた男性も小さく頷き、私達はそこで完全に健吾が視界から消えた

 

 

 

「お前、本当にコイツを殺すのか⁇」

 

「コロシテヤルサ‼︎イマスグニナ‼︎」

 

「やめとけって。一生胸に残るぞ⁇」

 

「ホカニナニモナインダ‼︎」

 

「あるさ」

 

レイはタバコを咥えながら健吾の腕を掴み、目を見詰めた

 

「お前はまだ若い。心の奥底で、まだ良心が残ってる。だったら…」

 

レイは目にも見えない速さで先生の顎の下にピストルを置き、何の躊躇いも無く引き金を引いた

 

「誰かに頼ればいい」

 

「あ…」

 

倒れていく先生に、ついでの様に健吾の体がレイにもたれかかる

 

「心配すんな…俺達はお前の味方さ…」

 

レイは健吾を担ぎ、学校から出た

 

 

 

 

私達は居場所が無くなった

 

私達は彼等に着いて行く事にした

 

彼等は国家に属さず、世界各国を傭兵として渡り歩いていた

 

バランスの取れたサンダーバード隊…

 

夜戦が得意なSS隊…

 

私はサンダーバード隊の整備士

 

健吾はSS隊の分遣隊である、ヘルハウンド隊の見習いパイロットになった

 

最後に見た健吾は目が死んでいたが、あのほんわかした隊長の元なら、なんだって一からやり直せそうだ…

 

私達は結局、りさもまりも、挙句の果てにははるの行方も分からぬまま今に至っている…

 

 

 

 

「提督はまたまりに逢いたいダズルか⁇」

 

「そうだね…また五人であってみたいな…」

 

「はるには逢いたいダズルか⁇」

 

「当たり前だろ。大事な友達だ」

 

「友達、ダズルか…ほ〜ん」

 

「な…なんだよ…」

 

「何もねぇダズル。さっ、榛名はちょっとラバウルに行くダズル」

 

「あぁ、そっか。何か言ってたね。気を付けて行くんだよ⁇」

 

「おいクソニム‼︎お前も来るんダズル‼︎」

 

榛名はたまたま歩いて来たニムの首根っこを掴み、そのままズルズル引きずって行った

 

「ニムは嫌ニム‼︎ふざけんなクソダズル‼︎」

 

「それ以上暴れたら一発かますダズル‼︎」

 

「…仕方ねぇニム」

 

「よし。最初からそうするんダズル。あ、そうだ提督」

 

「なんだ⁇」

 

「代わりにコイツをやるダズル」

 

「いでっ‼︎」

 

榛名は振袖から何かを高速で投げて来た

 

顔面に綺麗に当たりはしたが、ちゃんと手元で受け止めた

 

「そいつで我慢するんダズル。いいな」

 

「もう少し丁寧…に…」

 

投げられた物を見て、私は行きが詰まりそうになる

 

ピンク色の紐

 

シマウマのキーホルダー

 

忘れもしない…

 

「は、榛名‼︎」

 

だが、榛名は既に居ない

 

私は階段を駆け下り、榛名達が艤装を装着しているであろう場所へ急いだ

 

「待って‼︎榛名‼︎」

 

「何ダズル⁇」

 

「ごめん…いや、ごめんですまないけど…」

 

「別にいいダズル。提督…いや、ワンコはちゃんとまりとはるの約束を守ったんダズル」

 

「”はる”、私は…」

 

私が何か言おうとした時、榛名は私の口を塞ぐかの様に言った

 

「言ったハズダズル。榛名は幸せだって。好きな人の傍に居れて、好きな人の為に動いて。だから、二度と謝るんじゃないダズル。榛名はこれで…これが良いんダズル」

 

「そんな死亡フラグみたいな…」

 

「まっ、反省する余地があるなら、二度と榛名を離さん事ダズル。離したらブッ殺すダズル。いいな‼︎」

 

「わ、分かった分かった‼︎」

 

「んじゃ、行って来るダズル‼︎待ってろ健吾‼︎」

 

「おい‼︎担ぐんじゃ無いニム‼︎ウワァァァァァ‼︎提督助けるニ〜〜〜〜〜ム…」

 

榛名はニムを担いだまま、高速でラバウルへと向かって行った



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特別編 想い人、想われ人(4)

「降ろすニム‼︎」

 

「おいクソニム‼︎」

 

「何ニム‼︎」

 

「テメェは降ろした途端に潜っちまうダズル。だからこうして担いで連れて行くダズル。いいな」

 

「…チッ」

 

結局、ニムはラバウルに着くまでずっと担がれたままでいた

 

 

 

「さ、着いたダズル」

 

榛名はニムを降ろし、ラバウルさんの居る執務室に向かわせた

 

そして榛名は健吾の居る格納庫を目指した

 

「居たダズル…」

 

健吾と北上が楽しそうに話している後ろで、榛名はコソコソ動きながら、健吾が一人になるのを待った

 

「じゃあ健吾。私は晩御飯の準備するから、また後でね〜」

 

「はい、隊長」

 

北上が格納庫から出た瞬間、榛名は行動に出た

 

「おい」

 

榛名は健吾の後ろから掴みかかり、喉元にトンカチの釘抜き部分を置いた

 

「ゲッ‼︎榛名‼︎」

 

「榛名の言う事を聞くんダズル。いいな」

 

「お…オーケー…分かった…」

 

「戦闘機に乗るんダズル‼︎早く‼︎」

 

「わ、分かった分かった‼︎」

 

健吾は手を上げたまま、T-50に乗り込んだ

 

榛名は後ろに乗るが、喉元に突き付けたトンカチは離さない

 

「横須賀に向かうんダズル」

 

「…何故だ⁇」

 

「つべこべ言わずに出すんダズル‼︎貴様の嫁がどうなっても良いんダズルか⁉︎」

 

「わわわわ分かった分かった‼︎」

 

健吾は嫌々T-50を出し、横須賀に向かった

 

「ん⁇健吾の機体が飛びましたね…」

 

《キ、キャプテン。ち、ちょっとお散歩に行って来ましゅ…》

 

《黙って運転するんダズル‼︎死にてぇのか‼︎》

 

「ホンットすまんニム…」

 

「あ…あはは…榛名さん⁇」

 

《心配すんな。殺しはしないダズル。逆らわなければな》

 

「健吾。榛名さんの言う事を聞くんだよ⁉︎」

 

《り、了解です》

 

健吾は無線を切り、横須賀へとエンジンを吹かせた

 

 

 

 

「よし、着いたダズル」

 

「俺はどうすればいいんだ⁇」

 

「あのジープをパクるダズル」

 

「ちょっと待っててくれ」

 

「いや、密告されたら困るダズル。榛名も行くダズル」

 

榛名は健吾にピッタリくっつきながら、ジープの借用申請所に向かう

 

「も、もう少し離れてくれないか⁇その…胸が…」

 

「サービスダズル。気持ちいいハズダズル」

 

「くっ…」

 

健吾は満更でも無くなって来ていた

 

恐怖と快楽が入り混じると、人は従い易くなるのを榛名は知っていた

 

「じ、ジープを借りたい」

 

「もう夕方ですよ⁇」

 

「は⁇んなモン関係ねぇダズル。一台位貸せ‼︎」

 

「ちょっ、榛名‼︎」

 

「…ま、良いですけど。バンパー以外を擦ったら、返却の際、修理に回して下さい」

 

「よし、最初から素直に貸すんダズル」

 

ジープのキーを健吾に取らせ、榛名

は助手席に乗った

 

「ジープの運転も俺がするのか⁇」

 

「榛名はジープの運転知らんダズル。事故っても良いならするダズル」

 

「…分かった。んで、何処に向かえばいい」

 

「居住区に行くダズル」

 

「分かった」

 

健吾はジープを横須賀から出した

 

二人を見届けた借用申請所に居た係員は、すぐに横須賀に連絡を入れた

 

「提督、柏木中尉が単冠湾の榛名に拉致されました」

 

《あの榛名は何してんのよ、もぅ…何処に向かったの⁇》

 

「居住区かと思われます」

 

《分かったわ。でもまぁ、何か事情があるかも知れないから、ジープの返却時間まで待って。いいわね⁇》

 

「了解しました」

 

 

 

 

ジープを運転する健吾は、軽く震える手でタバコを吸いながら居住区に向かう為の高速道路を飛ばしていた

 

「おい健吾‼︎」

 

「な、何だ‼︎急に大声出すなよ…」

 

「提督と知り合いらしいダズルな」

 

「まぁな…色々あって、今は別々だけど、親友なのに代わりは無い」

 

「そうか」

 

「ワンコに聞いたのか⁇」

 

「そんなとこダズル」

 

「ワンコは何て言ってた⁇」

 

「話は終わりダズル‼︎黙ってハンドル握るんダズル‼︎」

 

「オーケーオーケー‼︎」

 

健吾はトンカチに怯えながら、居住区へとアクセルを踏む

 

居住区に着き、榛名はジープのスピードを緩めさせる

 

「おい、停めろ。ここダズル」

 

一軒家の前に車を停めさせ、健吾一人を車から降りさせる

 

「いいか。ピンポンを押したら”ラバウルの者だ”と言って、出て来るのを待つダズル。いいな」

 

「分かった。行って来る」

 

健吾は何が何だか分からないまま、一軒家のピンポンを押した

 

《はい》

 

「ラバウルの者だが、少し良いか⁇」

 

《少々お待ちを》

 

「これで良い…」

 

健吾が振り返ると、ジープには榛名が乗っていなかった

 

「榛名⁇」

 

「お待たせしましたわ」

 

一軒家から出て来た女性の声を聞き、健吾は目を閉じ、大きく息を吐き、左目から一粒だけ涙を流した

 

「ありがとう…榛名…」

 

「何か御用でして⁇」

 

「いや…顔、見に来ただけだ」

 

「そう⁇変わった人ねぇ…」

 

「変わらないのな、その口調」

 

「私を知っていて⁇」

 

「まぁな…」

 

「此方を向いて頂けませんこと⁇私、貴方が誰だか分からなくて…」

 

女性は健吾の前に回り、下を向いた彼の顔を見た

 

「健吾さん…健吾さんなの⁇」

 

「りさ…」

 

りさは健吾の顔を見るなり、すぐに彼の胸に抱き着いた

 

「もう…何処に行ってましたの⁇」

 

「すまん…随分遅くなった」

 

「とにかく、私の家に入って下さいまし。ゆっくりお話ししましょう⁇ねっ⁇」

 

「あっ…あぁ‼︎」

 

健吾とりさは、家の中に入って行った

 

「さて、問題は榛名ダズルな…」

 

榛名は健吾達を見届けた後、一件の家のピンポンを押した

 

「おい‼︎出て来い‼︎」

 

「誰よ‼︎近所迷惑な‼︎」

 

「おいビス子‼︎榛名を家に入れるんダズル‼︎」

 

ビスマルクは、そっと玄関のドアを閉じた

 

「そういう態度を取るんダズルな…よ〜く分かったダズル。ならば破壊ダズル‼︎」

 

榛名はジープの荷台に置いていたハンマーを手に取り、ビスマルクの家の玄関前で振り上げた

 

「分かった‼︎分〜かったわよ‼︎今日だけよ⁉︎」

 

「ん。すまんな」

 

榛名はビスマルクの家に乱入し、ソファにドカッと座った

 

「迎えは⁇一人⁇」

 

「健吾と来たダズル。健吾はりさのお家でアバンチュールダズル」

 

ビスマルクに出されたビールを飲みながら、榛名は受け答えしていた

 

「ったく…一応横須賀に連絡入れておくわよ。いいわね⁇」

 

「…そうダズルな。健吾はしばらく二人にした方がいいダズル」

 

ビスマルクは一旦リビングから消え、数分後、自分の分のビールを持って戻って来た

 

「でっ。提督とはどうなの⁇」

 

「上手い事行ってるダズルよ」

 

「大佐やレイとは逢ってるの⁇」

 

「そこそこに逢ってるダズル。ぱぱもレイも元気ダズルよ」

 

ビスマルクの家に来ると、何故か皆饒舌になる

 

その日の晩、ビスマルクも榛名も話が尽きる事は無かった

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「んじゃあ、榛名はバイバイするダズル」

 

「今度はハンマー無しでいらっしゃい」

 

「うぬ」

 

榛名は居住区に健吾を残し、迎えに来た横須賀の人間に連れられて帰って行った

 

昼下がり、榛名はようやく単冠湾に帰って来た

 

「ただいまダズル‼︎」

 

「おかえり。ご飯食べたか⁇」

 

「ハラペコダズル。おぉ、美味そうな苺大福ダズル‼︎寄越せ‼︎」

 

私の手から苺大福を奪い、榛名は一口で食べてしまった

 

「早く食わん提督が悪いんダズル。あ〜美味しいダズルなぁ‼︎」

 

「ぐっ…」

 

こんな関係になってしまった二人ではあるが、榛名は今、嘘偽り無く、本当に幸せであった

 

数年越しに叶った恋…

 

その事実を知ったワンコは、これ以降、今以上に榛名を大事にする様になった…

 

 

 

 

「気を付けて下さいまし」

 

「ありがとう。行って来ます」

 

りさも健吾も、こうして数年越しの恋愛をやり直していた

 

傍から見ると普通の夫婦に見える二人のやりとりは、少しの間、居住区で噂となった…



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131話 新兵器”保護”(1)

さて、130話が終わりました

今回のお話は、とある艦娘が初登場します

震電が眠っていた基地を再建する為に再び訪れたレイ達は、島の裏側で座礁していた艦船を発見します


「まっ、ちょま・る・ゆ〜」

 

「てってって〜」

 

照月とたいほうは、何処からともなく手に入れて来た、舞鶴にいるゴリゴリまるゆのエクササイズのDVDを朝ご飯の後、テレビで流しながら実践している

 

「あんなモンどっから手に入れた…」

 

「効果あるのか⁇」

 

俺も隊長も不安と疑問が絶えない

 

テレビの画面では、ゴリゴリまるゆが筋骨隆々のボディビルダーの男性数人と共にエクササイズをしているが、痩せると言うよりムキムキになる方が正しい気がする…

 

ただ、流れている曲を口ずさむ二人は子供らしくて可愛い

 

「あっ、そうだはっちゃん‼︎僕、新しい艤装を造ってみたんだ‼︎」

 

「はっちゃんの艤装ですか⁇」

 

「そう‼︎来て‼︎」

 

はっちゃんときそは工廠に向かい、きそが造った艤装を見に行った

 

「ジャン‼︎」

 

きその前には、恐らく腰に装着するタイプの、小さな艤装が置いてある

 

「これは何です⁇」

 

「見てて‼︎」

 

きそは自分で艤装を装着し、いつもの様に的を出した

 

「行くよ‼︎」

 

きその掛け声と共に、電気の弾が高速で的に当たった

 

「おぉ〜‼︎」

 

はっちゃんはきその後ろで拍手している

 

「これは”プラズマ機関砲”。殺傷力は無いけど、相手を痺れさせる事が出来るんだよ‼︎」

 

「はっちゃんにくれるのですか⁇」

 

「うんっ‼︎はっちゃんにあげる‼︎」

 

きそははっちゃんの腰にプラズマ機関砲を装着する

 

腰の両脇に装着された小さな砲は中々様になっている

 

「これは良いものですね‼︎とっても軽いです‼︎きそちゃん、ありがと‼︎」

 

「へへへ…」

 

レイが殺傷力の高い兵器を造り出すのなら、きそは非殺傷兵器を造り出すのを得意としている

 

このプラズマ機関砲だって、きそが言った様に殺傷力は皆無だ

 

だが、暴れている相手には効果が高い

 

「これで照月ちゃんが食べ過ぎたら止められますね」

 

「あ、照月ちゃんには効かないよ。照月ちゃん、色々抵抗力があるんだ」

 

最近気付いたが、照月は色々な抵抗力がある

 

まずはバイ菌

 

照月は好き好んで飲もうとしないが、数週間消費期限が切れた牛乳を三本飲んでも腹を壊さない

 

次に外傷

 

照月は随分前に単冠湾で死ぬ程食料を平らげてしまい、最終手段として気絶させようとした榛名のハンマーがつむじに直撃したが、ハンマーが曲がってしまい、尚且つ照月は無傷だったと言う過去がある

 

ピストルやライフルで撃たれてもピンピンしているし、大の大人が激痛でのたうち回る攻撃を喰らっても、照月はそのままご飯を食べ続けられる

 

これの為、照月は外的から受けるダメージはほぼ0、もしくは一瞬で回復してしまう

 

そして、最近照月は色仕掛けにもかなりの抵抗力が付いてきた

 

たいほうが胸を触ろうが、男が性的行為に及ぼうとしようが照月はキョトンとしている

 

なので、このプラズマ機関砲は照月には効果が無い

 

「はっちゃん、ちょっと試して来ますね」

 

「いい⁇サメとかエイが出たらそれで撃つんだよ⁉︎」

 

「やってみます」

 

「待て待て」

 

はっちゃんが工廠から出ようとした時、レイが来た

 

「マーカス様‼︎」

 

はっちゃんはレイが来るととても嬉しそうな表情をする

 

「ちょっとお出掛けしようか⁇」

 

「お出掛けですか⁉︎はっちゃんと⁇」

 

「そっ。そこでコレを試そう。きそ、行くぞ」

 

「オッケー‼︎んで、何処行くの⁇」

 

「この前行った離島だ。再建するらしいから、その前の視察さ」

 

 

 

 

 

《とうちゃ〜く‼︎》

 

「よしっ‼︎」

 

「草ボーボーです」

 

「いいかきそ、はっちゃん。絶対俺に近付くんじゃねぇぞ⁇」

 

「分かった‼︎ちょっと海ではっちゃんの艤装を試して来るね‼︎行こっ‼︎」

 

「行って参ります」

 

きそとはっちゃんを見送り、ハッチから火炎放射器と防護服を出した

 

再建するにせよ、ある程度の整備は必要だ

 

使えそうな設備は

 

滑走路

 

格納庫

 

司令部施設

 

この3つだ

 

格納庫も司令部施設も植物のツタだらけになっており、何かしらで除草しなければならない…

 

が、先ずは滑走路だ

 

滑走路は二本ある

 

今フィリップが降りて来た滑走路は、まだ辛うじて使える

 

問題はもう一本の方だ

 

コンクリの周りに生い茂る雑草のせいで滑走路として機能していない

 

これじゃあただの田舎の道だ

 

俺は火炎放射器で草を焼き払い始めた

 

 

 

 

その頃、きそとはっちゃんは…

 

”ヨイソウビ ホオジロザメガイチゲキデス”

 

はっちゃんは海中からモールス信号を送り、浜辺にいたきそと疎通していた

 

”チョット オサンポ シテキマス”

 

「了解、気を付けてね」

 

はっちゃんは海中に居るので話せないが、きそは地上に居るので、はっちゃんの耳に付けている防水性に優れた無線機で会話出来る

 

今は特に危険性が無い為、この意思疎通法が可能だが、万が一戦闘に赴く場合は無線機は持たない

 

砂浜に居たきそはモールス信号を置き、綺麗な貝殻を探し始めた

 

「うはは‼︎ホラ貝だ‼︎」

 

長年、誰も手入れしていなかったこの砂浜には、色々な物が流れ着い付いており、きそは今しばらくそんな漂流物で遊んでいた

 

 

 

 

はっちゃんは辺り一帯を散策した後、ソナーを使って遊び始めた

 

たまに跳ね返って来るソナーを受けては、その場に行って驚かすと言う迷惑極まりない遊びを、はっちゃんは気に入っていた

 

「ん⁇」

 

ソナーに反応があった

 

はっちゃんの現在位置はレイ達のいる基地の真裏側

 

きそもレイも踏み入れていない…踏み入れられない場所にいた

 

沿岸付近に何かの反応がある

 

はっちゃんはいつも通り、ギリギリまで海中に身を隠しながら接近

 

そして、いきなり顔を出す

 

「わ‼︎あ…」

 

驚かされたのははっちゃんの方だった



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131話 新兵器”保護”(2)

「よ〜し、あらかたオッケーだ‼︎イェーガー、聞こえるか‼︎上空から水撒いてくれ‼︎」

 

《了解。そこから離れて下さい》

 

イェーガーに言われ、俺は一旦格納庫に入った

 

最近のイェーガーは戦闘に赴く事は少なく、農家から依頼され、水や農薬の散布で小銭を稼いでいる事が多くなっている

 

呉さんやター坊は、イェーガーがやりたいならそれで良いと言いつつ、そうやってイェーガーが稼いで来た小銭をピンハネしているとの噂もある

 

…当のイェーガーはそれで良いらしい

 

《鎮火完了。このまま農薬の散布に移ります》

 

「ダイオキシンは入ってないだろうな⁇」

 

《ただの除草剤ですよ。御心配なさらず。では‼︎》

 

「サンキュー。代金は口座に振り込んどく」

 

イェーガーが去って行くのを見届け、俺はきそに無線を繋いだ

 

「きそ、聞こえるか⁇」

 

《うはは‼︎うにょうにょしてる‼︎えいっ‼︎えいっ‼︎》

 

何かの生物を突いているのか、無線の先からきその楽しそうな声が聞こえて来た

 

「きそ〜。き〜そ〜」

 

《うはは‼︎はっ‼︎》

 

ようやく無線に気付いた

 

《はいはい‼︎ごめんね‼︎》

 

「滑走路の掃除は終わった。はっちゃんは⁇」

 

《ん〜と…島の裏側に居るね》

 

「了解っと。一度連絡を取る。帰って来い」

 

《レイ、何かうにょうにょした奴居るよ‼︎》

 

「ポイしなさいポイ‼︎」

 

《分かった‼︎ポーイ‼︎》

 

きそとの無線を切り、はっちゃんに繋げる

 

「はっちゃん、そろそろ帰ろうか⁇」

 

《マーカス様‼︎大変です‼︎》

 

「どうした⁇サメでも出たか⁇」

 

《難破船です‼︎》

 

「なんだと⁉︎」

 

「ただいま‼︎」

 

「すぐに行く。そこで待ってろ」

 

無線を切ると、目線の下にきそが居た

 

「何か見付かったのかな⁇」

 

「難破船らしい。足はあるか⁇」

 

「うんっ、あるよ‼︎来て‼︎」

 

行くとは言ったが、フィリップで海上に着水すると墜落してしまう

 

何か代わりの足があれば良いのだが…

 

きそに手を引かれ、砂浜の横にある港に来た

 

「これ‼︎」

 

港には、一機の水上機が停めてあった

 

「動く…のか⁇」

 

真新しそうな機体ではある

 

どうやら最近ここに来たみたいだ

 

「秋津洲が造ったらしいからきっと動くよ。煙吹くだろうけど」

 

「横須賀から持って来たのか⁇」

 

「らしいね。装備が全部近代化されてるもん。よいしょ」

 

先にきそが乗り、俺も操縦席に座る

 

「一人乗りだ」

 

「ここに座れ」

 

きそを膝の上に座らせ、機体のエンジンを入れる

 

プロペラが回り、ご機嫌に白煙を吐く

 

「ぶはあっ‼︎」

 

「くっ、クッセェ‼︎」

 

操縦席にも白煙が立ち込める

 

「これだから秋津洲謹製は困るんだ‼︎」

 

「れっ、レイ‼︎とっ、とにかくレッツらゴーだ‼︎」

 

速度を出し、水上を走る形ではっちゃんの居る場所を目指す

 

白煙立ち込めるまま、はっちゃんの居る場所に着き、機体から降りた

 

「マーカス様⁇きそちゃん⁇」

 

「ウェ〜‼︎ゲホゲホ‼︎」

 

「爆発すんじゃねぇのか⁉︎」

 

「大丈夫ですか⁇」

 

「大丈夫だ…んで、その難破船ってのはどいつだ⁇」

 

「あれです‼︎」

 

はっちゃんに案内された先には、船体が軽く斜めを向いてしまった状態で難破してしまったイージス艦がいた

 

「急降下爆撃が致命弾になったみたいだな…」

 

「レイ、探検しようよ‼︎」

 

「ん〜…まぁ良いだろ。大分年月は経ってそうだし、そんな危険はないだろうからな」

 

俺達はイージス艦の穴から中に入り、探検する事にした

 

「へぇ〜、イージス艦の中ってこうなってるんだ〜」

 

「はっちゃんはあっちに行きます」

 

「じゃあ僕こっち〜」

 

きそもはっちゃんも入ってすぐバラバラの場所に行った

 

俺は何かの証拠が残っているかと思い、操舵室へ入った

 

「え〜と…あったあった‼︎」

 

目当ての物はすぐに見付かった

 

探していたのはブラックボックスだ

 

見付かったは良いが、中身を見る為の機材が今は無い

 

「仕方無い。持って帰るか…」

 

「レイ‼︎こっち来て‼︎凄いの見つけたよ‼︎」

 

「マーカス様大変です‼︎」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ‼︎よいしょ…」

 

ブラックボックスを分かる所に置き、一旦二人の呼ぶ場所へ向かう

 

「こっちこっち‼︎」

 

二人に連れられ、恐らくだが貨物室に来た

 

「これ‼︎」

 

「これです‼︎」

 

「おいおいおい…」

 

二人の指差す先には見慣れたカプセルがあり、しかもまだ中に誰か入っていた

 

それも二本だ

 

「生命反応はありますね…どうされますか⁇」

 

「保護しよう。でもどうやって持って帰る…」

 

《…ちゃん‼︎も…だよ‼︎》

 

どこからか無線が入って来た

 

恐らく近場を巡回している艦船だろう

 

「混線ですねぇ。繋げます」

 

はっちゃんが耳に付けていた無線を弄ると、段々クリアになって来た

 

《艦長‼︎食料庫が被害甚大‼︎》

 

《なっ、何だと⁉︎向こう数カ月分の食料はあったハズだぞ‼︎》

 

「…は〜」

 

大体犯人が分かった

 

《照月、まだお腹空いてるよ⁇》

 

《うわぁ‼︎艦が傾斜してる⁉︎ダメコン急げ‼︎》

 

「…ガンビアに繋げろ」

 

「こちら横須賀分遣隊マーカス。ガンビア・ベイⅡ、応答せよ」

 

《こっ、此方ガンビア・ベイⅡ通信室‼︎現在、船体傾斜中の為、緊急ダメコンを作動中‼︎》

 

「こちらの位置が分かりますか⁇照月ちゃんを引き取ります」

 

《了解した‼︎操舵室‼︎今から言う方向に舵を取れ‼︎》

 

はっちゃんが無線を切って数十分後、ガンビア・ベイⅡは傾斜しながら俺達の居る場所に着いた

 

フラフラの艦長が降りて来た

 

「ほんっとすみません…」

 

「いえっ‼︎これも我々の職務の内であります‼︎」

 

流石は大湊の兵士だ

 

良く教育されている



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131話 新兵器”保護”(3)

「でだ。こんな迷惑をかけて言える立場じゃないが、運んで欲しい物があるんだ…」

 

「はっ‼︎マーカス大尉の仰る事ならば‼︎」

 

「来てくれ」

 

艦長と共に、先程の場所に戻る

 

「コレだ」

 

「これは…艦娘、ですか⁇」

 

「恐らくはそうだろうな…生命反応があるから、ウチで保護したい」

 

「了解しました。迅速に対応します」

 

「頼んだ」

 

ガンビアの乗組員は二つのカプセルを運び、貨物室にそれを置いた

 

「マーカス大尉、貴方はどうされますか⁇」

 

「俺はブラックボックスの解析をしたいから、もう少し此処に残るよ」

 

「かしこまりました。カプセルは基地に運搬しておきます」

 

艦長がガンビアに戻ろうとした時、はっちゃんが俺の服の裾を握り、無言で頷いた

 

「あぁ、ちょい待ってくれ‼︎照月のお目付け役にこいつを」

 

それを聞いた艦長は、ピンと張っていた肩の力を抜いた

 

「助かります。実は、もう食料庫が…」

 

「…横須賀から補給艦を出させる」

 

「ではマーカス様、はっちゃんは行きますね」

 

「はっちゃん。次はちゃんとデートしような⁇」

 

「…はいっ‼︎マーカス様‼︎」

 

はっちゃんは笑顔で俺を見た

 

ガンビアははっちゃんを乗せた後、基地に向かった

 

「さてと…」

 

問題はあと一つだ

 

「レイ、フィリップで見てみる⁇」

 

「そうだな。ちょっとでも良いから、解析して帰りたい」

 

俺達は重いブラックボックスを持ち、フィリップの所に戻って来た

 

「よいしょ…」

 

きそに機材を繋いで貰い、軽くではあるが、解析を進め始めた

 

「ん〜…全然分かんないね…」

 

「いや、一個だけ分かる。コレだ」

 

文字や数字の配列の中に航路を示す数値と日にちが打たれていた

 

「あのイージス艦は反攻作戦に参加していた船だ」

 

「これだけじゃ分かんないよぉ…」

 

「やっぱ持って帰るか」

 

「そうだね。帰ったら機材もあるしね‼︎」

 

ブラックボックスをフィリップに乗せ、基地に帰る事にした

 

 

 

 

帰るや否や、俺ときそは早速ブラックボックスの解析を進め始めた

 

解析している最中ガンビアが基地に着き、二本のカプセルと照月、そしてはっちゃんが帰って来た

 

夕ご飯を食べたり、休憩を挟んだりしながら、ブラックボックスの解析は進んで行く

 

「よし来た‼︎」

 

タバコを咥えながら解析結果を見る

 

「やっぱりな…」

 

思った通り、あのイージス艦は反攻作戦に参加している

 

反攻作戦中に敵艦載機から急降下爆撃を受け、それが致命弾になり、艦を捨てて避難したのも間違い無い様だ

 

残る問題は、あのカプセルの中の二人…

 

その答えは、ブラックボックスにもキチンと残っていた

 

それは、音声データに残っていた

 

《此方イージス艦”きくづき”‼︎敵艦載機の爆撃命中により航行不能‼︎》

 

《総員退艦‼︎”新兵器”は放棄‼︎》

 

「新兵器だと…」

 

振り返り、カプセルを見る

 

下手すればたいほうより小さい少女が、カプセルの中で眠っている

 

俺は悩んだ

 

また、たいほうと同じ過ちを繰り返してしまうのでは無いのか…と

 

それに、ブラックボックスにも残されていた様に、二人は得体の知れない新兵器だ

 

万が一の事もある

 

…どうすればいい

 

「小さい子ね」

 

「叢雲⁉︎いつからいた‼︎」

 

いつの間にか背後に叢雲がいた

 

「なぁに⁇珍しく悩んでる訳⁇」

 

「どうすればいいか分からないんだ…もしかすると、手に負えない子かも知れない」

 

「私やたいほうちゃんは助けて、あの赤ん坊を助けないのは犬の理に反するのじゃないの⁇」

 

叢雲は俺の背中押しをしてくれるが、決心は変わらず鈍る

 

「…分かったわ。ならこうしましょうか」

 

叢雲がMSWを起動させる

 

標的はカプセルの中だ

 

カプセルごと破壊する気だ‼︎

 

「ファイアコントロール外す事位、犬をからかうより楽よ⁇」

 

「やめろ‼︎命に変わりはない‼︎」

 

俺は咄嗟に叢雲とカプセルの間に割って入った

 

「犬が悩む位なら…私が破壊してあげるわ‼︎」

 

「分かった‼︎分かったよ…」

 

「きそ‼︎」

 

「オーケー‼︎」

 

きそはカプセルに繋げていた装置を弄り始めたと同時に、叢雲はMSWの電源を落とした

 

どうやらきそと叢雲は手を組んで、俺を説得させたかった様だ

 

「心配無いわ。もしその二人が本当に危険な兵器だったなら…私が責任を持って始末してあげる」

 

「そこまで言うなら大丈夫だろ」

 

そうこうしている内に、カプセルから二人の赤ん坊が出て来た

 

「あ〜…」

 

「う〜…」

 

ハイハイをしながら、赤ん坊は辺りをウロウロしている

 

「よいしょ…」

 

「う〜」

 

片方を抱き上げると、しっかりと俺の目を見つめて来た

 

こうして見ると本当に赤ん坊の様だ

 

あ〜とかう〜しか話さない

 

「うはは‼︎コロコロしてるね‼︎」

 

もう片方の子はきそが抱き上げて、頬を人差し指でツンツンしている

 

「私にも抱かせなさい」

 

「はいっ」

 

きそから赤ん坊を受け取り、叢雲はぎこちない笑顔を見せる

 

「中々可愛いじゃないの」

 

「よし。お前の名前は”ひとみ”だ」

 

「ひとみ〜⁇何かババ臭くない⁇」

 

「ファーファー言ってるババアみたいな名前ねぇ」

 

「この名前でいいんだ。こいつ、ずっと俺の目を見てる」

 

腕に抱かれたひとみと名付けられた赤ん坊は、抱かれてから以降、ずっと俺の目を見ていた

 

吸い込まれそうな綺麗な目をしている

 

「じゃあこの子は”いよ”にしよう‼︎」

 

「いよ⁇」

 

「うんっ‼︎伊予柑みたいにコロコロしてるから‼︎」

 

「…まぁ良いだろ」

 

その内、この子達も名前の良さにも気付いてくれるだろう

 

ひとみといよを抱きながら、食堂に戻って来た

 

「レイも盛んだな」

 

「たっ、隊長‼︎」

 

俺の手元を見るなり、隊長が冗談を言う

 

「抱かせてくれるか⁇」

 

「あぁ。よいしょ…」

 

隊長にひとみを抱かせると、ひとみは変わらず抱いた人の目をジッと見つめる

 

「可愛いな」

 

「私にも抱かせて」

 

ひとみは隊長から貴子さんの手に移る

 

「きそ、私にも抱っこさせて下さい」

 

「はい‼︎」

 

母さんはいよを抱っこする

 

貴子さんと言い、母さんと言い、赤ん坊を抱き慣れている

 

子育てには不安は無さそうだ…

 

俺は一抹の不安を抱きながら、この二人を受け入れる事を決意した…

 

 

 

 

 

伊13”ひとみ”、伊14”いよ”を保護しました‼︎




伊13”ひとみ”…謎の艦娘

座礁したイージス艦”きくづき”の中で眠っていた新兵器

どんな効力があるかは謎だが、強力な効果があるとブラックボックスに残されていた

赤ちゃんなので言葉は話せないが、”う〜”と言っているのはこっちの方

抱いた人の目を見つめるのでこの名前が付いた

別にこの名前だからって、ファーファー言う訳ではない




伊14”いよ”…謎の艦娘

ひとみと同じく、イージス艦”きくづき”の中で眠っていた新兵器

ひとみが”う〜”と言葉を出せるなら、”あ〜”と言ってるのはこっちの方

コロコロしているので、きそが伊予柑みたいだと言い、この名前が付いた



二人共、次回にも登場する


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132話 小さな潜水艦と白いウズラ(1)

さて、131話が終わりました

今回のお話は、いよとひとみが出て来ます

そして、レイの子供である双子ちゃんの姉の方が出て来ます


「これはりんご。たいほうのすきなくだもの」

 

「あ〜」

 

「う〜」

 

食堂の床で、たいほうとひとみ達がいる

 

たいほうが寝そべりながらクレヨンでお絵描きしているのを、ひとみ達が見ている

 

上から見ると、三人共口を尖らせているのが面白い

 

「まさかたいほうがあぁなるとはな…」

 

「たいほうも立派なお姉さんだな」

 

今まで一番子供扱いされていたたいほうが、一番二人の面倒を見ている事に驚きを隠せない

 

「ふっ…今日は騒がしくなりそうだな」

 

「朝霜も来るからな」

 

三人を眺めながら朝霜を待っていると、いつもの高速艇ではなく別の艦が見えた

 

「ガンビアだ。こんな時間にどうしたんだ⁇」

 

「照月の件でヤキ入れに来たんじゃねぇのか⁉︎」

 

俺達はハハハと笑った後、数秒謎の間を空けて椅子から飛び上がった

 

「あり得る話だ‼︎」

 

「考えてみれば、何度もガンビアを沈めかけてる‼︎そろそろ殺られてもおかしくないっ‼︎」

 

俺達二人は港に立ち、シャツで急造した白旗を振った

 

今回は全部俺達に非がある‼︎

 

謝って済む話では無い‼︎

 

「降参だーっ‼︎」

 

「私達が悪かったーっ‼︎」

 

 

 

 

その頃、ガンビア・ベイⅡ艦内…

 

「艦長‼︎あれは⁉︎」

 

「大佐とレイさんだ…ん⁇」

 

艦長は二人が意味不明に振っているシャツと叫び声に違和感を覚えた

 

「何故シャツを振ってるんだ⁇」

 

「我々は…何か過ちを犯してしまったのですか⁇」

 

「もしそうだとすれば大湊に大打撃だ‼︎私が事を聞いてくる‼︎」

 

二人の振っていた白旗に気付かず、ガンビアは港に停泊した

 

 

 

 

「ヤベェ…一気に来るぞ…」

 

「いいかレイ…こうなりゃ土下座スタイルだ。私達は丸腰、向こうは重武装…敵う相手じゃない」

 

「オーケー…」

 

生唾を飲むと、艦長が降りて来た

 

「大佐、レイさん。お疲れさ…」

 

「「申し訳ありませんでした‼︎」」

 

俺達はコンクリの上に頭を付ける

 

「は…え⁉︎」

 

「照月はよ〜く叱っておきます‼︎」

 

「だから子供達だけは‼︎」

 

「いや…その…」

 

「そそそそそうだ‼︎艦長の好きなお菓子があるんです‼︎」

 

「なっ、中で御一服を‼︎」

 

「あっ…はっ、はぁ…」

 

俺達は艦長を食堂に入れ、何とか話し合いの席に持って行こうとしていた

 

 

 

 

 

 

「あっはっはっは‼︎」

 

事の事情を聞いた艦長は、ビスケットを食べながら大きく笑う

 

「違いますよ‼︎我々は普段から貴方がたの世話になっている身です。攻め込む必要は微塵も御座いません‼︎」

 

「だってホラ‼︎普段から照月がとんでもない事を‼︎」

 

「それに関しては心配なさらず。この間、照月ちゃん専用の食料庫を造りましたので、安心してお越し下さい」

 

「それに、毎回毎回ダメコン駆使は大変だろ⁉︎」

 

「訓練と思っております。現に見て下さい。新人でさえダメコンの使い方を理解しているので、最近は滅多に航行不能に陥っていません」

 

「は〜っ…」

 

「取り越し苦労で良かった…」

 

「あ〜」

 

いよがたいほうの元から離れ、此方にハイハイして来た

 

「どうした⁇お腹空いたのか⁇よいしょ…」

 

「あぅあぅ」

 

いよを抱き、ガンビアの艦長に目を戻すと、何故か顔が尋常ではない程青ざめていた

 

「マーカス大尉…その子を何処で…」

 

「座礁してたイージス艦の中で眠ってたのを保護したんだ。いよ⁇ご挨拶は⁇」

 

「あ〜♪♪」

 

いよは何が面白いのか、艦長と俺の顔を見てケラケラ笑っている

 

「そのイージス艦…まさか、きくづきでは⁇」

 

「知ってるのか⁇」

 

「えぇ…同僚が艦長を務めていた艦です」

 

情報に限界があるブラックボックスに頼るより、彼に聞いた方が良さそうだ

 

二人が何故新兵器と呼ばれていたのか、分かるかも知れない

 

「私は聞いただけではありますが、この二人は二身一体…簡単に言うと、二人で一つの力を使います」

 

「…と、言うと⁇」

 

「簡単に言うと、敵に察知されない超音波で的確に位置を把握出来ます」

 

「あ〜」

 

ケラケラ笑ういよに笑顔を送り、頭を撫でる

 

「片方が位置を特定し、もう片方は敵艦の破壊…と言うのがこの子達の役目だったんです」

 

「ソナーか何かでか⁇」

 

「自分の声を反響させてるんです。数キロ先まで敵艦の的確な位置が分かります」

 

「あ〜」

 

無邪気に笑うが、この笑顔に少しだけ恐怖を抱いていた

 

「まっ、貴方がたなら大丈夫でしょう。私ももっと恐ろしい兵器と思っていましたが…こんな小さな子に、罪はありませんからね」

 

「あ〜♪♪」

 

頬を人差し指で撫でられ、いよは嬉しそうだ

 

「おっとそうだ‼︎娘さんを乗せて来ましたよ。アソコに…ホラ‼︎」

 

港付近で何かを降ろしている朝霜がいた

 

「何降ろしてるんだ⁇」

 

「帰りは”アレ”で帰るみたいです」

 

いよをたいほうの傍に降ろし、隊長と艦長と共に外に出た

 

「あっ‼︎お父さん‼︎」

 

朝霜が此方に気付き、走って来た

 

「逢いたかったぜ‼︎」

 

「朝霜かぁ‼︎デカくなったなぁ‼︎」

 

朝霜を抱き上げ、久々の再会を果たす

 

磯風が来るまで期間が空いていた為か、朝霜はかなり饒舌に話せる様になっている

 

「聞いてくれよ‼︎アタイ、お父さんみたいに飛行機乗れるんだ‼︎」

 

「どれだ⁇」

 

「アレさ‼︎」

 

ガンビアから一機の機体が降ろされる

 

「”ブリストル”じゃないか‼︎何処で手に入れた⁉︎」

 

降りて来たのは、時代を感じる複葉機”ブリストル”だ

 

「私が買ったのですよ、マーカス」

 

「おばあちゃん‼︎」

 

朝霜は母さんに気付き、突進するかの様に抱き着く

 

母さんはそれを平気で受け止め、朝霜を抱き締める

 

「おばあちゃん、ありがとうな‼︎」

 

「いいのよ。でも、ちゃんとお父さんの言う事聞いて、絶対落ちちゃダメよ⁇」

 

「うんっ‼︎大事にする‼︎」

 

そんな二人を横目に、俺と隊長はブリストルに釘付けになっていた

 

「後部銃座があらぁ…」

 

「この時代の戦闘機は案外強いんだぞ。何せ攻め方がシンプルだからな」

 

「娘には負けたくねぇな…」

 

「そうなればっ…私達は引退だよ」

 

ブリストルはスペンサーの格納庫の横に格納され、朝霜がいる間はそこに置く事になった

 

「では、我々はこれで」

 

「艦長、連れて来ました‼︎」

 

「お腹いっぱい‼︎」

 

「いつの間に…」

 

口周りに食べカスをいっぱい付けた照月がガンビアから降りて来た

 

「ちゃんとお礼言ったか⁇」

 

「うんっ‼︎ガンビアさん、ごちそうさまでした‼︎」

 

「んっ。また遊びにおいで」

 

艦長は照月の頭を撫でた後、ガンビアに乗り、基地から出航した

 

「照月。そんなにガンビアのご飯は美味いのか⁇」

 

話をしながら、照月の口周りを拭く

 

「うんっ‼︎缶詰とか、お肉がいっぱいあるんだぁ〜‼︎」

 

「そっか。トラックさんのご飯とどっちが美味しい⁇」

 

「う〜ん…トラックさんのご飯はとっても美味しいよ⁇でも、ガンビアさんのご飯も同じ位美味しいんだぁ〜‼︎」

 

「んっ‼︎照月は偉いなぁ‼︎」

 

照月は誰も傷付かない答えを出した

 

食堂に帰って来ると、照月は早速巨大なプリンを食べ始めた

 

「照月の姉貴…まだ食うのか⁇」

 

朝霜の前に置いてある普通のプリンがメチャ小さく見えるサイズのプリンを、照月は目にも止まらぬ速さで平らげて行く

 

「出来たわ。食べなさい」

 

「おっ、サンキュー」

 

霞の作ったフルーツの乗ったプリンを貰い、スプーンで食べようとした

 

「う〜」

 

いつの間にかひとみが足元におり、プリンをくれと言わんばかりにズボンを引っ張っている

 

いよはいよで、たいほうの足元にいる

 

「すてぃんぐれい、いよ、ぷりんたべる⁇」

 

「まだ早いかな…歯生えてたら良いんだが…よいしょ」

 

「う〜」

 

「いよちゃんはこっちよ〜」

 

「あ〜」

 

俺はひとみ、貴子さんはいよを抱き上げ、膝の上に乗せる

 

「ひとみ、い〜っ」

 

「う⁇」

 

歯を見せて行動を促すが、ひとみにはまだ早かった様だ

 

俺はプラスチックの小さなスプーンで少しだけひとみの口を開けて見た

 

「まだ生えてないな…」

 

「いよちゃんもまだね…」

 

ひとみもいよもまだ歯は生えていなかった

 

「ゔぅ〜」

 

「悪い悪い‼︎」

 

ひとみが唸り始めたので、スプーンを口から抜いた

 

「たいほうは歯は生えてるか⁇い〜っってしてご覧⁇」

 

「い〜っ‼︎」

 

たいほうは綺麗な歯を見せてくれた

 

「んっ‼︎いっぱい生えてるな‼︎朝霜は⁇」

 

「あ〜…」

 

朝霜は口を開けて歯を見せた

 

「朝霜は綺麗なギザギザの歯だな」

 

「お母さんもギザギザなんだ‼︎」

 

ギザギザの歯は母親譲りか…

 

確かに横須賀に噛まれると痛い

 

「レイ、これなら飲めるかしら⁇」

 

霞の手には、プリンを液状にした物が入った哺乳瓶が握られていた

 

霞から哺乳瓶を受け取り、ひとみの口に近付けてみる

 

「おっ‼︎」

 

ひとみは哺乳瓶を持つかの様に手を上げ、中身を飲み始めた

 

「おぉ‼︎飲んだ飲んだ‼︎美味しいか⁉︎」

 

ひとみはお腹が空いていたのか、哺乳瓶の中を全部飲み干した

 

「さっ、レイ君。ゲップが出るまで、背中ポンポンしてあげて」

 

貴子さんの見よう見まねで、ひとみの背中を軽く叩き続ける

 

「げふ」

 

「おっ、出た出た」

 

「けふっ」

 

「よしよし、良い子ね」

 

ひとみもいよも、ちゃんとゲップが出た

 

満足したのか、二人とも手を離れ、いつもたいほうと照月がいるテレビの前でコロコロし始めた

 

「ごちそうさま‼︎」

 

朝霜はちゃんと食べた後の器を流しに置き、ひとみといよがコロコロしている近くに座った

 

「たいほうもたべた‼︎」

 

「美味しかったか⁇」

 

「うんっ‼︎たいほうぷりんすき‼︎」

 

たいほうもテレビの前に座る

 

最後に照月もテレビの前に座る

 

これだけテレビの前に座ると言う事は、何か番組が始まるのか⁇

 

《ゴー、ゴー、橘花マーン‼︎ゴーゴー橘花マーン‼︎》

 

「きっかま〜ん‼︎」

 

「あぉ〜」

 

「うぁ〜」

 

子供向けのヒーロー番組の様だ

 

ひとみといよもテレビの向こうのヒーローに反応している

 

《橘花マンブレード‼︎》

 

「あ〜…」

 

《橘花マンショット‼︎》

 

「う〜…」

 

たいほうや照月、朝霜以上に二人はテレビに魅入っている

 

刺激が多くて、見てくれもカッコイイから、赤ん坊でも惹かれるのだろうか⁇



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132話 小さな潜水艦と白いウズラ(2)

《今週日曜日、橘花マンがタウイタウイモールに来るぞ‼︎みんな待ってろよ‼︎》

 

橘花マンが終わり、たいほうと照月は日課である合鴨の散歩に向かう

 

「うぁう〜」

 

「あぅ〜」

 

遊んでくれる人が去り、ひとみもいよもその辺をハイハイし始め、すぐに朝霜に頭突きする

 

「よっと」

 

朝霜は二人の前に座り、言葉の練習をし始めた

 

「あ・さ・し・も。言ってごらん⁇」

 

「あぅあ〜」

 

「うぁ〜」

 

二人共、朝霜の目は見ているが、言葉は理解していない

 

そんな三人の様子を見て、ローマが言った

 

「兄さん。アレ使えるんじゃない⁇」

 

「アレ⁇」

 

「ほら、レイと鹿島の日本語の練習したフリップよ」

 

「まだ残ってるか⁇」

 

「あるわ。ちょっと待ってなさい」

 

話を聞いていた叢雲はヘラの格納庫に向かい、あの日使っていたフリップを持って戻って来た

 

「いつか犬をおちょくってやろうと思って持ってたのが正解だったわ‼︎」

 

「誰に教えて貰うと分かりやすいかな…」

 

「私は嫌よ。犬に教えれても、赤ん坊はムリよ」

 

「私もムリね。レイで教師は向かないって分かったから」

 

叢雲とローマは開口一番に教師役を拒否した

 

「マーカスは変な事教えそうだわ…」

 

「母さん‼︎」

 

「ただいま‼︎」

 

俺が母さんに吠えていると、たいほうと照月が帰って来た

 

合鴨の散歩と言っても、合鴨専用の限られた敷地をグルッと何周かするだけなので、帰って来るのも早い

 

「そうだ‼︎たいほうにさせてみたらどうだ⁉︎」

 

隊長の言葉で、食堂の机周りにいた人の目線がたいほうに行く

 

「たいほうがせんせいするの⁇」

 

「やってみるか⁇」

 

「うんっ‼︎ぱぱとすてぃんぐれいもきて‼︎」

 

たいほうは叢雲から受け取ったフリップを脇に挟み、俺達を手招きした

 

「たいほうは犬に良く懐いてるわね」

 

「レイ君は子供に好かれやすいからね」

 

「こうして横で眺めるのも悪くないわ」

 

「ふふっ、子供がいっぱいね」

 

四人の目線の先には、いよを膝の上に乗せた隊長、朝霜とひとみを膝の上に乗せた俺、そして、たいほう先生がいる

 

「これはなぁに⁇」

 

たいほうの手元には白い鳥の絵がある

 

「がーがーさんだな」

 

「あぅあぅあん」

 

「おっ‼︎そうだそうだ‼︎偉いぞ‼︎」

 

しばらくすると、いよが急に話せる様になり始めた

 

「つぎいくよ。これは⁇」

 

たいほうの手には、赤い果物の絵がある

 

「あんあ」

 

「おぉっ‼︎凄い凄い‼︎」

 

ひとみもそうこうしている間に話せる様になり始めた

 

後で貴子さんと母さんに聞いた所、どうやら、絵を見せられた後に何か言うと俺達が頭を撫でるので、それが心地良いらしい

 

「これでさいご‼︎じゃん‼︎」

 

最後の絵は飛行機の絵だ

 

「あさしもはわかる⁇」

 

「飛行機だな‼︎」

 

「せいかい‼︎ぱぱとすてぃんぐれいがのってるんだよ⁇」

 

「ぱ〜ぱ…」

 

「そうだそうだ‼︎凄いぞいよ‼︎」

 

隊長がいよを撫でると、いよはニコニコし始めた

 

「う〜」

 

俺の名前が長いのか、ひとみは中々言ってくれない

 

「ひとみ。このひとはれいだよ、れ〜い」

 

「えい」

 

「そうそう‼︎俺はレイだ‼︎もう一回言ってくれ‼︎」

 

「ひとみ、レイだぞ〜。れ〜い〜」

 

朝霜も同じ様に教える

 

そして、何度目かに言った時…

 

「え〜い〜」

 

「そうだそうだ‼︎う〜ん‼︎ひとみは偉いなぁ‼︎」

 

俺は嬉しさのあまり、ひとみを抱き締めた

 

「えい‼︎」

 

「犬の事日本語で呼んでるわね」

 

叢雲の言った事は案外間違っていない気がする…

 

その後も、たいほうの授業は続き、ひとみもいよも段々と言葉を覚えていった…

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「えいしゃ〜ん‼︎おきろぉ〜‼︎」

 

「おっきろぉ〜‼︎」

 

「ぐはっ‼︎おぶっ‼︎」

 

朝っぱらから布団の上で誰かがダムダムと踏み付けてくる

 

が、体が小さい為、思ったよりダメージは無い

 

「えいしゃんおつかれ⁇」

 

「えいしゃんしんだ⁉︎」

 

急に踏み付けが止まり、二人は恐る恐る俺の顔を覗き込んで来た

 

「だ〜れ〜だ〜‼︎悪さする子はぁ‼︎うりゃあ‼︎」

 

「うわーっ‼︎」

 

「つなみー‼︎」

 

飛び起きて二人を布団で包む

 

「えいしゃんおきた⁇」

 

「ひとみたちとあそぼ⁇」

 

「その前にっ、まずは朝ごはんだ‼︎貴子さんに朝ごはんは何か聞いて来てくれ」

 

「あかった‼︎いよがきいてくる‼︎」

 

「ひとみもいく‼︎」

 

二人はパタパタと部屋から出て行った

 

「おはよう、マーカス」

 

「うわ‼︎」

 

全く気配が無かった

 

ベッドの脇に母さんがいた

 

「二人共もう歩いてるわ。流石はマーカスの見込んだ子ね⁇」

 

「俺もビックリしてるよ…」

 

母さんと少し話していると、またパタパタと足音が聞こえ、二人が帰って来た

 

「むぎごはん‼︎」

 

「おみそしりゅ‼︎」

 

「あと、あかいおさかにゃ‼︎」

 

「オーケー、ありがと。さっ、行こうか」

 

「だっこ‼︎」

 

「だっこして‼︎」

 

二人を両脇に抱え、母さんを前に行かせて食堂へと向かう

 

「あさごはーん‼︎」

 

「ひとみのごはんあった‼︎」

 

「いよはこっち‼︎」

 

中身は霞が作ってくれたであろう、哺乳瓶が机の上に置いてある

 

二人は昨日与えられた哺乳瓶をしっかり覚えている

 

…俺は正直、どっちがどっちか分からない

 

「いよちゃん⁇歯見せて⁇」

 

「はーみせる…あっ‼︎いーっ‼︎」

 

いよは貴子さんに歯を見せた

 

「あらっ、可愛い歯ね‼︎」

 

「えいしゃん、ひとみのはもみて‼︎」

 

ひとみは俺に歯を見せてくれた

 

「おっ‼︎ちゃんと生えてるな‼︎」

 

たいほうや朝霜達子供と同じ様な乳歯がうっすらと生えている

 

「えいしゃんごはんたべる⁉︎」

 

「んっ、そうだ。ひとみも食べるんだぞ⁇」

 

「おはよ〜…ふぁ〜」

 

朝霜がアクビしながら食堂に来た

 

「あーしゃん‼︎」

 

「あーしゃん‼︎」

 

「どぁっ‼︎なっ、何だ⁉︎」

 

朝霜を見るなり、二人掛かりで抱き着く

 

朝霜は二人を受け止めつつ、後ろに倒れる

 

「もう歩いてるのか⁉︎元気な奴だなぁ‼︎」

 

「あーしゃんのは、みせて‼︎」

 

いよは朝霜に自分の歯を見せ、朝霜に歯を見せる事を促す

 

「いっ、いーっ…」

 

「ぎざぎざだ‼︎」

 

「あーしゃんぎざぎざ‼︎」

 

「言う事聞かないと噛むぞ‼︎ホラ行け‼︎」

 

「かまれる‼︎」

 

「あーしゃんこあーい‼︎」

 

どうやらこの二人は随分とイタズラ好きみたいだ

 

そんな二人が苦手とする人が一人だけいた…

 

「朝から騒がしいわね…」

 

「う…めがね…」

 

「めがねこわい…」

 

「何ですって〜⁉︎」

 

ローマを見て、二人はたじろぐ

 

すかさずローマは二人の襟首を掴んで持ち上げる

 

「うわー‼︎はなせー‼︎」

 

「えいしゃんたすけて‼︎」

 

ひとみもいよも手足をバタつかせて、何とかローマの手から離れようとする

 

「アンタはここ‼︎」

 

「わ」

 

「アンタはこっち‼︎」

 

「わぉ」

 

子供用の椅子に座らされ、ようやく二人は落ち着いた

 

「いい⁇ちゃんと言う事聞かないと、海へポイするわよ⁇」

 

「うみ⁇」

 

「うみってなぁに⁇」

 

「あそこよ‼︎」

 

ローマが指差す方には、青い海

 

「うみいく‼︎」

 

「ぽいして‼︎」

 

「はぁ…」

 

いよもひとみも海に興味があるみたいだ

 

「とりあえずごはん食べるぞ‼︎頂きます‼︎」

 

「いたあきます‼︎」

 

「いたあきまーす‼︎」

 

二人は俺達の真似をして、キチンと手を合わせた後、哺乳瓶の中身を飲み始めた

 

「あれっ、はっちゃんとしおいは⁇」

 

潜水艦の二人が見当たらない

 

「大湊に行ったわ。何か用事があるんだって」

 

「そっか」

 

「えいしゃんごはんたべた⁉︎」

 

「ひとみもうたべた‼︎」

 

「ちょっと待ってろよ」

 

「それまではアタイと積み木して遊ぶか⁇」

 

「あーしゃんとつみきする‼︎ごちそーさま‼︎」

 

「ひとみもあーしゃんとあそぶ‼︎ごちそーさま‼︎」

 

二人は哺乳瓶を俺の前に置き、朝霜の所へ向かった

 

今まで以上に騒がしくなりそうだ…




えいしゃん…ひとみといよが言うレイの名前

まだ少し舌ったらずな喋り方をする二人だが、この呼び方は案外間違ってはいない

スティングレイは日本語にすると、魚のエイ

なので、二人がレイの事を”えい”と言うのは、ちょっとした意味がある


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133話 辿り着いた先(1)

さて、132話が終わりました

話数と題名は変わりますが、前回の続きです

はっちゃんとしおいは、双子の潜水艦の情報を得る為、とある場所を訪れます


「しおい。ちゃんと着いて来てますか⁇」

 

「はっちゃん速い〜‼︎待って〜‼︎」

 

基地の人が暴れん坊に苦戦している間、はっちゃん達は大湊を目指していた

 

はっちゃん達はレイに頼まれ、あの二人の情報を秘密裏に得ようとしていた

 

「むっ。アレは…」

 

航路の途中、不審な船を見かけた

 

はっちゃんは大湊に無線を入れる

 

「こちら”エイト・ガール”大湊、応答して下さい」

 

《此方大湊棚町。エイト・ガール、どうかしましたか⁇》

 

「現時刻、この海域に船舶の航行許可は私達以外にありますか⁇」

 

《ちょっと待って下さい…いや、無いです。船舶が見当たりますか⁇》

 

「黒い船がいま…」

 

はっちゃんは目の前の船が獲っていたものを見て、無線を付けたまま不審な船舶へと向かって行った

 

《エイト・ガール⁇エイト・ガール、応答せよ‼︎》

 

「あの船…鯨を獲ってます‼︎」

 

《拿捕出来ますか⁇》

 

「しおい。無線を渡します。大湊から沿岸警備隊を寄越す様に言って下さい。ユーハブ」

 

「あ、あいはぶ‼︎」

 

はっちゃんはたまにレイ達が使っている用語を口にする

 

はっちゃんもしおいも、そんな彼等の傍に居るので理解出来る

 

無線をしおいに渡した後、はっちゃんは一度海上に顔を出した

 

「鯨を獲ってはいけません‼︎」

 

不審船の乗組員は皆銃を持っており、はっちゃんを見ると訳の分からない外国語を話し始めた

 

「はっちゃんには丸聞こえです。鯨を獲るのはいけない事です。放しなさい」

 

はっちゃんは説得するが、乗組員ははっちゃんに銃口を向け、引き金を引いた

 

「そうですか…なるほど。それが答えですか…残念です」

 

はっちゃんは海に潜り、飛んで来た銃弾を全て避け、魚雷を一本取り出し、スクリューに噛ませた

 

不審船は動かなくなり、はっちゃんはその隙に船体の下腹部に潜り、適当な場所を掴んだ

 

「これでも喰らえ‼︎」

 

はっちゃんは船体を思い切り揺さぶり始めた

 

乗組員がボトボトと海上に落ちて行く

 

そして、捕らわれていた鯨も海上に落ちた

 

「はっちゃん‼︎沿岸警備隊が来たよ‼︎」

 

「よしっ。そろそろ許してあげます」

 

はっちゃんは船体から手を離し、海上に上がった

 

「ぷはー‼︎沿岸警備隊さん、後はお願いしますね」

 

「了解しました‼︎御協力、感謝致します‼︎」

 

「さっ、鯨さん。海へおかえり」

 

はっちゃんとしおいはしばらく鯨と一緒に泳いだ後、再び大湊へと向かい始めた

 

 

 

 

「さぁ、着きましたね」

 

「疲れた〜」

 

「はっちゃん、しおいちゃん、お疲れ様‼︎お手柄だったね‼︎」

 

棚町さんが迎えに来てくれた

 

「この事は海上保安庁に報告しておくよ」

 

「違法な船は何処の国であっても、はっちゃんが沈めます」

 

はっちゃんの目は本気だ

 

「ふふっ。さっ、お腹空いたろ⁇シュトーレンもあるよ」

 

「はっちゃんシュトーレン好きです‼︎」

 

「しおいも行く‼︎」

 

棚町さんに案内され、二人は食堂に来た

 

「うんっ‼︎とっても美味しいです‼︎」

 

「あっま〜い‼︎」

 

シュトーレンを堪能しながら、はっちゃんは本題に入った

 

「はっちゃん、棚町さんに聞きたい事があります」

 

「あの双子の事だね…」

 

「えぇ。大湊のガンビア・ベイⅡの艦長さんが二人を知っていました」

 

「私も少ししか知らないんだけど…それで力になるなら喜んで教えるよ」

 

「お願いします」

 

「フルーツ入ってる‼︎美味し〜い‼︎」

 

はっちゃんが真面目に話を聞く横で、しおいはシュトーレンの魅力に取り憑かれていた

 

「あの二人を乗せて、反攻作戦に向かったイージス艦は知ってるね⁇」

 

「きくづきと書いてありました」

 

「そのきくづきの艦長…実は提督をしているんだ」

 

「提督さんですか⁇」

 

「確か、呉の提督の上官だったハズ…名前は一軸さんだ」

 

「基地の場所は⁇」

 

「座標のデータを送った方が早いだろう。送るよ。一軸さんは戦争に反対してる人だ。これからもこの座標は必要になるからね」

 

「お願いします」

 

「あなた。先程の不審船の乗組員が来ましたよ」

 

食堂に入って来た一人の女性に対し、はっちゃんは睨みを効かせる

 

「はっちゃん⁇」

 

「貴方はマーカス様の元お嫁さんですね⁇」

 

「えっ⁇えぇ、そうですけど…」

 

「そうですか…なるほど…」

 

はっちゃんはそう言って鹿島から棚町さんに視線を戻した

 

「よしっ‼︎座標を送ったよ。どうする⁇もしこれから行くなら送って行くけど…」

 

「いえ、これ以上手を煩わせる訳に…」

 

いざいざ話が終わろうとした時、先程の不審船の乗組員が鹿島を後ろから羽交い締めにし、人質に取った

 

「貴様、何のつもりだ」

 

棚町さんが言った言葉に、その男性ははっちゃん以外には分からない外国語を言い放った

 

「お前らも人質だ。この女の命が惜しけりゃ手を挙げろ、ですって」

 

「…」

 

棚町さんはゆっくりと手を挙げた

 

しおいもシュトーレンを食べていた手を挙げるが、口はモゴモゴしている

 

そしてはっちゃんは一度手を背中にやってから手を挙げた

 

 

 

 

「はっちゃんおそいー」

 

「そおいもおそいー」

 

基地では、俺の膝の上でひとみといよが二人の帰りを待っていた

 

《エイト・ガールから救難信号を受信しました。位置を確認します》

 

「はぁっ⁉︎マジかよ‼︎」

 

「レイ、行くよ‼︎」

 

きそが先に工廠に向かう

 

「あ…あぁ。隊長、二人を頼む‼︎」

 

「よし。何かあったらすぐに応援に行く‼︎」

 

ひとみといよを隊長に預け、工廠で準備をする

 

「レイ早く‼︎」

 

「すぐ行く‼︎」

 

ピストルとライフルを持ち、フィリップに乗る

 

「ワイバーン、発進‼︎」

 

とりあえず空に上がる

 

座標データを待っている暇はなかった

 

《座標データ確認。大湊だ‼︎》

 

「大湊へ急げ。近付いて来たら基地一体をスキャンしろ」

 

《了解‼︎》

 

フルスロットルで大湊へ飛ぶ

 

《レイ。こんな時に言うのも何だけど、鹿島と会う事になるよ⁇》

 

「ホンット、こんな時に言うのも何だけどだな。命には変えられんさ」

 

《レイらしいね》

 

「スキャンは出来たか⁇」

 

《アンノウン反応が多数あるね。大湊の兵が向かってるけど、棚町さん達が人質になってるから、みんな手出し出来ない状態になってる》

 

「裏口は⁇」

 

《う〜ん…あっ、物資の搬入口なら何とかなりそう》

 

「オーケー、そこから行こう」

 

フィリップを着陸させ、きそと共に身を屈めながら移動する

 

「レイ。なるべく銃火器は使わずに、はっちゃん達のいる場所に行こう。発砲は最終手段だ」

 

「オーケ…」

 

オーケーと言おうとした時、二階に銃を携えた男が見えた

 

「うわ‼︎」

 

何を思ったのか、きそはその男に対して発砲した

 

「おまっ‼︎」

 

かなり大きな音が鳴り、俺はきその口を抑えて物影に隠れた

 

「…何やってんだ‼︎」

 

「…ごめん」

 

きそが手にしているマウザーは麻酔弾が入っているので、殺さずに済んだが、音が鳴った事に違いはない

 

「いいか⁇レーダーの反応は二階にある。なるべく打撃で潰す。分かったか⁇」

 

「分かった」

 

コソコソと動きながら、搬入口から大湊の基地へと入る



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133話 辿り着いた先(2)

「きそ、階段はどうだ」

 

きそはペリスコープの様な物を取り出し、物陰から階段を覗いた

 

「ん〜…そこに一人いる。上は分かんないね」

 

「よし…」

 

階段の下にいる男に近付き、物言われる前に首を曲げて気絶させる

 

「いいぞ」

 

「初月にCQC教えたのって…レイ⁇」

 

「まぁな。俺のはシンプルで使い易いらしい」

 

きその緊張感の無い話し方は逆に助かった

 

二階に上がり、一旦壁に隠れ、きそはまたペリスコープを取り出し、廊下の様子を伺う

 

「うは〜…いっぱいいる」

 

「てかそれなんだ⁇」

 

「これ⁇きそスコープ。僕が造ったんだよ」

 

「で、何人いる⁇」

 

「5人は居るね…」

 

「はっちゃん達がいるのはその先か⁇」

 

「うん。執務室だね」

 

「…世話のかかる野郎だ」

 

俺は壁に隠れるのを止め、男達に向かって行く

 

一人を殴って気絶させた後盾にし、近場に居た一人は顎を蹴り飛ばしてダウン

 

残り三人は遠距離の為、腰にいつも付けている対艦用のピストルで足を撃ち抜く

 

「ちょっとでも反撃したらブッ殺すからな」

 

「うは〜…こわ〜…」

 

「もういいぞ。そいつらの武器集めとけ」

 

「おっ、オッケー‼︎」

 

きそは倒れた連中の武器を集め、両手に大量の武器を抱えて俺の所に戻って来た

 

「一人起きたから叩いちゃった…」

 

「今更一人殴った所で変わらん。行くぞ」

 

「うんっ‼︎」

 

恐らくはっちゃん達が居るであろう部屋の前に来た

 

「ここか…」

 

「いい、レイ。捕まえるんだよ⁇ブッコロはダメだからね‼︎」

 

俺はきその忠告を無視し、ライフル片手に扉を蹴り飛ばした

 

扉が開き、中にいた男性が此方に振り向き何かを言った

 

「誰だって⁇当ててみろよ。ビキニ環礁に招待するぜっ‼︎」

 

男性が持っていた銃を俺に向けた瞬間、俺はライフルの引き金を引き、持っていた銃を弾いた

 

「何故言葉が分かる…」

 

「日本語話せんのか⁇なら最初から話せ‼︎」

 

「お前は誰だ‼︎」

 

「俺⁇俺は”娘”を助けに来ただけのただの父親さ」

 

「マーカス様…」

 

「レイ‼︎」

 

「くそっ‼︎」

 

「あっ‼︎」

 

男ははっちゃんを掴み、喉元にナイフを突き付けた

 

「テメェ…」

 

「この女がどうなってもいいのか」

 

「マーカス様。はっちゃんは大丈夫です」

 

「お前も所詮は子供に弱い出来損ないだな」

 

そう言って、男はおもむろにはっちゃんの胸を揉みながら頬を舐める

 

「お嬢ちゃんもつくづく運が無いな。助かったと思ったら、助けに来たマーカス様まで人質になるとはねぇ」

 

「…今、何と言いましたか⁇」

 

「あん⁇ぐぁっ…」

 

目の色が変わったはっちゃんは、男の首を持ち、腕の拘束から逃れた

 

「今、マーカス様をバカにしましたねぇ」

 

「なんっ…」

 

「はっちゃん、マーカス様をバカにする人…許せないんです」

 

はっちゃんが腕を捻ると、男ははっちゃんの顔に血を吐いた

 

よほど怒っているのか、膝から落ちた男に追い討ちで顔面に右フックをかます

 

「これでトドメです。さようなら」

 

はっちゃんは足元に落ちていた銃を拾い、そのまま男の胴に銃弾を浴びせる

 

「はぁ…」

 

弾倉が空になると、はっちゃんは銃を床に捨て、此方に戻って来た

 

「マーカス様、お怪我はありませんか⁇」

 

「あ…あぁ…」

 

ニコッと笑うはっちゃんの顔には、返り血が付いており、その無邪気な笑顔がとても怖い

 

「とつにゅーーー‼︎」

 

きその掛け声と共に、屈強な兵が雪崩れ込んで来た

 

「犯人を確保‼︎重傷者一名‼︎軽傷者多数‼︎」

 

鹿島や棚町さんの拘束も一瞬で解かれた

 

「ふぅ…」

 

「硬質ゴムの弾で命拾いしましたねぇ」

 

「ありがとう、はっちゃん」

 

「はっちゃん、マーカス様に降り掛かる火の粉は…」

 

はっちゃんが話している途中で頭に手を置き、そっと撫でる

 

「あんまり人は殺すんじゃないぞ⁇味を占めたら…クセになっちまう」

 

「はい…分かりました」

 

「謝る必要は無い‼︎現に俺達は助かった‼︎だから謝るんじゃない。いいな⁇」

 

「はいっ、マーカス様‼︎」

 

はっちゃんは素直で良い子だ

 

だが、素直過ぎる故、俺の言う事は何でも遂行しようとしてくれる

 

今回だってそうだ

 

俺が「いつでもいいから、あの二人の情報が手に入れば教えて欲しい」

と言った次の日にこうして事件に巻き込まれた

 

ちゃんとした意思疎通をしなければ、もし俺が万に一つ誰かを「殺したい」とでも言ってしまえば、はっちゃんは素直だから、そいつを殺しに行くだろう…

 

「さっ、お家に帰るぞ」

 

「あっ、レイさん‼︎せめてお風呂と食事位は‼︎」

 

そう言われ、はっちゃんの顔を見る

 

「ん…そっ、そうだな‼︎このまま帰ったら心配されるな‼︎よしお前ら、風呂行って来い‼︎」

 

俺がそう言うと三人は「分かった‼︎」と言い、パタパタと走って行った

 

残ったのは気不味い三人…

 

「まぁ…その、なんだ。済まなかったな、ウチの娘が」

 

「いえ、助かったのは此方です‼︎テロリストも確保出来ましたし、不審船の拿捕も出来ました」

 

「そっか。んじゃっ‼︎俺はお言葉に甘えて食事でもしますかねっ‼︎」

 

ライフルを背中に仕舞い、背伸びをしながら執務室を出ようとした

 

「あっ…あのっ‼︎レイ‼︎」

 

此処に来てから、俺は鹿島を視線に入れなかった

 

今も鹿島に背中を向けている

 

「…なんだ⁇心配するのは俺じゃなくて、そっちにいる奴だろ⁇」

 

「来てくれてありがとう…」

 

「俺は娘を迎えに来たんだ」

 

「あ…」

 

鹿島と棚町は黙っている

 

俺は一呼吸開け、言いたくなかった事を言った

 

「…一度惚れた女だ。惚れた女は守る。それだけだ。じゃあな」

 

「あ…」

 

あまりあの二人の傍に居たくなかった

 

棚町は好きだ

 

鹿島も好きだ

 

だが、それは”人として”だ

 

棚町も鹿島も、俺を恨んでいるだろう

 

「ふぅ…」

 

「マーカス様」

 

執務室を出ると、はっちゃんが立っていた

 

「出歯亀は良い趣味とは言えんぞ⁇」

 

「ごめんなさい…あの…」

 

「どうした⁇」

 

「はっちゃんの顔、洗って頂けませんか⁇」

 

はっちゃんは返り血の所為であまり前が見えていなかった

 

多分、今の俺の顔もぼんやりと見えているだけだろう

 

「よしよし。行こう」

 

はっちゃんと手を繋ぎ、浴場に向かう

 

 

 

 

 

浴場に着くと、中からきそとしおいが騒いでいる声が聞こえた

 

「マーカス様は立派な体をされていますね」

 

「たま〜に言われるよ」

 

そうは言うが、言われたのはりさ一回のみである

 

服を脱いで浴場の扉を開けると、きそとしおいが浴槽に飛び込んで遊んでいた

 

「お湯全部出すなよ‼︎」

 

「うはは〜‼︎分かった〜‼︎」

 

きそもしおいも、俺が入って来る事に何のためらいも無い

 

普段一緒に入る事が多いからか、子供達は普通の事だと思っているみたいだ

 

「よ〜し、シャワー出すぞ〜」

 

「お願いします」

 

はっちゃんの顔にシャワーを当てると、ドンドン血が落ちて行った

 

柔らかい顔を手の平で拭うと、いつものはっちゃんの顔が出てきた

 

ある程度血が落ちると、はっちゃんは顔を振るわせ、水滴を落とした

 

「俺の顔が見えるか⁇」

 

「はいっ。見えます」

 

「後は出来るか⁇」

 

「はい。お手数おかけしました…」

 

「気にするな。血塗れじゃ、可愛い顔が台無しだからなっ」

 

はっちゃんの横に座り、俺も体を洗い始める

 

「マーカス様、はっちゃんが背中を流します」

 

「おっ‼︎頼めるか⁉︎」

 

「はいっ‼︎」

 

一応はっちゃんの手にしている物を見る

 

…普通のゴシゴシタオルだ

 

プリンツの一件から、背中を流して貰う時、チョットビビっている

 

あの鉄タワシは痛かった…



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133話 辿り着いた先(3)

はっちゃんの小さな手が背中に当たる

 

時々たいほうが背中を洗ってくれるのとはまた違う気持ち良さがある

 

「気持ち良いですか⁇」

 

「あぁ…気持ち良いな…」

 

誰かに背中を洗って貰うと眠たくなる

 

子供が背中を叩くと寝る気持ちがチョット分かる気がする

 

そうこうしている内に、はっちゃんは俺の背中をシャワーで流した

 

「はいっ、キレイキレイになりました」

 

「んっ。ありがとう」

 

はっちゃんと一緒に、きそとしおいがはしゃぐ湯船に入る

 

「はぁ〜っ…気持ち良いです…」

 

「ふぅ〜っ…」

 

俺とはっちゃんは湯船に浸かり、ため息を吐く

 

「レイ〜なんか〜茹でしおいになって来た〜」

 

「僕も〜。茹できそだ〜」

 

「のぼせてんじゃねぇか‼︎」

 

二人を抱え、脱衣所まで持って来た

 

「俺のポケットから財布出して牛乳飲んでいいぞ。ちゃんと直しとけよ⁇」

 

「うぃ〜」

 

「あんがと〜」

 

本当に茹できそと茹でしおいになっていた

 

湯船に戻ると、はっちゃんが絵本型のタブレットを弄っていた

 

「本読んでるのか⁇」

 

「いえ。いよちゃんとひとみちゃんが、マーカス様の帰りを待っている様です」

 

はっちゃんに本を見せて貰う

 

《えいしゃんまだか〜》

 

《えいしゃんおそいぞ〜》

 

画面いっぱいにひとみといよの顔が映る

 

「スパイト様の携帯端末からのテレビ電話です」

 

「俺の声も聞こえるのか⁇」

 

「えぇ。二人にもマーカス様の顔が見えています」

 

《えいしゃんおふろか〜⁇》

 

《はっちゃんもいる‼︎》

 

「いよもひとみもお風呂入ったか⁇」

 

《はいった‼︎》

 

《ひとみもはいった‼︎》

 

交互に顔がドアップで映る

 

いよに至っては、顔を近付けすぎて垂れ目になっている

 

《かすみちゃんがぷりんくれた‼︎》

 

《おいしかった‼︎》

 

「もうネンネするのか⁇」

 

《えいしゃんかえってきてから‼︎》

 

《ひとみもえいしゃんまつ‼︎》

 

「もうすぐ帰るからな⁇」

 

《はよかえってこいお〜》

 

《またね〜》

 

最後の最後まで二人は顔のドアップは止めなかった

 

通信が終わり、はっちゃんは浴槽の縁に絵本を置いた

 

そして、俺の膝の上に対面状態で座る

 

「嫌…ですか⁇」

 

「いつでも構わんさ」

 

はっちゃんの柔らかい身体を抱き締める

 

「マーカス様。一つお願いがあります」

 

「世界征服以外だぞ⁇」

 

「はっちゃんは横須賀様の様な事は言いません」

 

「んでっ⁇お願いってなんだ⁇」

 

「今日ははっちゃんと一緒に寝て頂けませんか⁇」

 

「いいよ。今日の御礼だ」

 

そう言うとはっちゃんはニコッと微笑んだ

 

先程の血塗られたブラッディなはっちゃんと比べると見違える様に可愛い

 

「さぁっ。はっちゃん全快しました」

 

俺の膝から立ち上がり、見た目の割には大きい胸が目の前に来る

 

「もう大丈夫か⁇」

 

「えぇ。ひとみちゃんといよちゃんも待ってるので、そろそろお暇しましょう」

 

はっちゃんは先に脱衣所に向かった

 

俺もすぐに浴槽から出て、脱衣所で着替え始めた

 

「美味し〜い‼︎」

 

「フルーツ牛乳もある‼︎」

 

きそもしおいも全快している様だ

 

「お〜い、レイさん」

 

着替えていると長波が入って来た

 

「しばらくぶりだな。もう大丈夫か⁇」

 

「あぁ‼︎レイさん達のお陰だぜ‼︎外にお迎えが来てるぞ」

 

「お迎え⁇」

 

着替えて外に出ると、滑走路にブリストルが停まっていた

 

「迎えに来たぜ‼︎」

 

「朝霜‼︎」

 

一人をブリストルの後方銃座に乗せれば、フィリップを定員オーバーせずに帰れる

 

「しおいこっち乗りたい‼︎」

 

「あぁ、いいぜ‼︎」

 

しおいがブリストルの後方銃座に乗る

 

「先に帰ってっからな〜」

 

「ありがとうな‼︎」

 

「お安いご用って事よ‼︎お父さんも早く帰って来いよ。飯と赤ん坊が待ってるぞ‼︎」

 

飛び立つブリストルを見ながら、朝霜は俺の娘だと実感した

 

明日は朝霜と遊んでやろう

 

「俺達も帰ろうか」

 

「メッチャ疲れたね」

 

「はっちゃんも疲れました」

 

ゾロゾロとフィリップに乗っていた時、鹿島が基地から走って来た

 

「レイ‼︎ご飯は⁉︎」

 

《旦那さんに食べさせてあげて。じゃあね〜》

 

鹿島の顔を見る事無く、俺達は大湊を去った

 

「行ってしまったか…」

 

「えぇ…」

 

急いで出て来た棚町は空を見上げた後、鹿島の肩をそっと抱く

 

「帰ろう。お腹空いたろ⁇」

 

「うんっ」

 

 

 

 

 

俺達が基地に着く少し前…

 

”一応心配”になってはいた横須賀が基地に来ていた

 

「増えてる…」

 

横須賀の目線の先には、窓際で座って俺の帰りを待っているひとみといよがいる

 

いよは時折空を指差すと、ひとみも顔を上げ、何か言っている

 

「可愛い…」

 

二人の仕草は本当に子供らしい仕草で母性本能をくすぐる

 

横須賀はコーヒーを飲む手を止め、二人に近寄ってみた

 

「誰を待ってるの⁇」

 

「えいしゃん」

 

「えいしゃん⁇」

 

「ひとみたちのおとうさん」

 

ひとみといよは俺の事をお父さんと認識している様だ

 

「えいしゃんかえってきた‼︎」

 

「きた‼︎」

 

「何にも見えないけど…」

 

「あっち‼︎」

 

「あーしゃんのひこうき‼︎」

 

二人が指差す方を見るが、星があるだけで何も見えない

 

「フィリップが見えるのか⁇」

 

不思議に思った隊長も窓際に来た

 

「えいしゃんのひこうき」

 

「あーしゃんのひこうき」

 

夜目に慣れている隊長の目でさえ、フィリップとブリストルは見えない

 

全員が見守る中、答えは数分後に出た

 

ようやくフィリップのジェット音と、ブリストルのプロペラ音が聴こえて来た

 

ここで隊長が両機に気付く

 

先程二人が指差していた方角からやって来た両機は、着陸脚を出しているのが見えた

 

「凄いな‼︎よく見えたな‼︎」

 

「いよすごい⁇」

 

「ひとみすごい⁇」

 

「凄い凄い‼︎私でさえ見えなかった‼︎」

 

「どうやって分かったの⁇」

 

「いよ、えいしゃんのことすきだからわかるの‼︎」

 

「ひとみもいっしょ‼︎」

 

隊長はガンビアの艦長の言葉を思い出す

 

”数キロ先の敵影を的確に探知する”

 

二人は自分自身の力を分かっていないが、特化された能力が目覚め始めているのかもしれない…

 

 

 

「ただいま〜っと」

 

「えいしゃんおかえり‼︎」

 

「おなかすいた⁉︎」

 

いつも真っ先に迎えてくれるたいほうに代わり、今日はひとみといよが出迎えてくれた

 

「いい子ちゃんにしてたか⁇」

 

「してた‼︎たいほうちゃんとあそんだ‼︎」

 

「たいほうは⁇」

 

「ねんねした‼︎」

 

「そっか…ひとみもいよもネンネしないとな」

 

「や〜だ〜、えいしゃんとあそぶ〜」

 

「あそぶ〜」

 

二人は俺の腕の中でぐずり始める

 

「よ〜し、早く寝た子には、明日オモチャを買ってやろう‼︎」

 

「ねるっ‼︎」

 

「ねる‼︎」

 

二人はすぐに腕から降り、子供部屋に向かう

 

「えいしゃんおやすみ‼︎」

 

「おやすみ‼︎」

 

「おやすみ」

 

二人が去り、隊長と話をしようとしたが、ソファで固まって眠ってしまった朝霜ときそとしおいが見えた

 

はっちゃんは食堂の椅子に座ってホットミルクを飲んでいる

 

俺はきそをおぶり、朝霜としおいを両脇に抱え、子供部屋に入った

 

まずはしおい

 

「レイ…⁇」

 

「今日はありがとうな⁇」

 

「うんっ…おやすみ…」

 

余程疲れていたのか、しおいはまたすぐに寝息を立て始めた

 

次は朝霜

 

「…お父さんか⁇」

 

「明日、みんなでタウイタウイモール行こうか」

 

「本当か⁇」

 

「あぁ。好きなモン買ってやる」

 

「へへっ…高っケェソフト買ってもら…」

 

こんな小さな体でブリストルを動かしているのだ

 

相当疲れているに違いない

 

最後にきそ

 

「ん…レイ。今日はゴメンね⁇」

 

「気にするな。失敗じゃないから謝る必要も無い」

 

「レイは優しいね…」

 

「お前も明日、好きなモン買ってやるからな」

 

「うんっ…高いの選ぶよ」

 

現金な奴が多い

 

朝霜は完全に横須賀から現金さを受け継いでいる

 

きそは恐らく冗談だ

 

全員寝ているのを見て、最後にたいほうの頭を撫で、子供部屋を出て、食堂に戻って来た



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133話 辿り着いた先(4)

「お疲れさん」

 

「腹減った〜」

 

「今日は私が作ったんだ」

 

「マジか‼︎」

 

「駆逐艦三銃士がハマチをくれたんだ。丼にするか⁇それとも刺身にするか⁇」

 

「丼で‼︎」

 

隊長は厨房に立ち、今しばらくハマチを捌く

 

「今日の事の後処理は私達に任せてちょうだい」

 

「任せたぞ」

 

「さっ、出来たぞ」

 

隊長の作る魚料理はいつもどれも美味そうだ

 

目の前に置かれたハマチの海鮮丼も、他の魚も乗ってて美味そうだ

 

「いただきます‼︎」

 

「はっちゃんもな」

 

「美味しそうです。いただきます」

 

はっちゃんもお腹が空いていたのか、海鮮丼にがっつく

 

「あっ、そうそう‼︎レイ。明日、タウイタウイモールでヒーローショーがあるんだけど…知ってる⁇」

 

「橘花マンだったか⁇」

 

「そうそう」

 

「明日、子供達連れて行くんだ。丁度いいな‼︎見せてやろう‼︎」

 

いや、よく考えろ…

 

横須賀が子供向けのヒーローショーの話をする訳がない‼︎

 

こいつは…金絡みだ‼︎

 

そう一瞬思って1秒もしない内に、横須賀は机の上に書類を置いた

 

「…お前、まさか」

 

「橘花マン、やってくれない⁇いや、やって⁇やりなさい‼︎」

 

「一晩で覚えろってか⁉︎」

 

「大丈夫よ‼︎今の所、橘花マンブレードと橘花マンショットしか必殺技無いから‼︎」

 

「そういう問題じゃねぇ‼︎」

 

「そう…やってくれないの…磯風が楽しみにしてるのに…残念」

 

「うっ…」

 

こいつ…自分の子供を盾にする気か‼︎

 

「マーカス様。後ではっちゃんと少しだけ練習しましょう」

 

「分かった…」

 

「さっすがレイ‼︎じゃっ、私は帰るわ‼︎明日、タウイタウイモールでね‼︎じゃあね〜」

 

横須賀はスキップしながら基地を後にした

 

「アレが妻とかもう…」

 

「頼んだぞ橘花マン‼︎たいほうも見てるぞ‼︎」

 

「はっちゃんも見てます。ジーッって」

 

アホみたいにプレッシャーがかかる

 

下手すりゃその辺の楽な作戦より緊張している

 

「さぁ、マーカス様。はっちゃんと練習しましょう」

 

「んっ。ごちそうさま」

 

「ごちそうさまです」

 

「頑張れよ」

 

俺とはっちゃんは部屋に戻り、少しだけ橘花マンのポージングや必殺技の練習をする

 

まずは登場シーン

 

右の拳をガッツポーズの様にし、左手は腰に当てる

 

「俺は音速の申し子‼︎橘花マン‼︎子供を連れていくとは…ゆ''る''さ''ん''‼︎この橘花マンが相手だ‼︎」

 

次は戦闘シーン

 

最初は打撃だ

 

「フハハハハ‼︎この橘花マンの前に立ち塞がる野蛮な輩は死‼︎あるのみ‼︎」

 

ここからが重要

 

必殺技だ

 

「喰らぇい‼︎この橘花マンブレードを‼︎」

 

「天に滅せい‼︎橘花マンショットォ‼︎」

 

「上出来です‼︎」

 

「これ本当にヒーローか⁉︎言ってる事ほぼ悪者だぞ⁉︎」

 

この橘花マン、主人公のセリフが悪役じみている

 

だが、動画を見ている限り、必殺技はカッコいい

 

「悪者っぽいヒーローも世の中には居ます。ホラ、叢雲様だって、口と行動が丸っきり逆です」

 

「言われてみれば…」

 

「これ位出来れば上出来です。はっちゃん、楽しみにしてますね⁇」

 

「任せろ‼︎」

 

電気を消し、ベッドに入る

 

約束通り、今日ははっちゃんと一緒に寝る

 

「…マーカス様」

 

「ん⁇」

 

「今日、はっちゃんおっぱいを揉まれました」

 

「嫌だったろ⁇済まなかったな…」

 

「とても嫌な気分になりました。マーカス様も、はっちゃんの事、エッチぃ目で見てますか⁇」

 

はっちゃんは上目遣いで俺を見詰めている

 

「大丈夫だ。俺には横須賀がいる」

 

「そうですか…はっちゃんのこのボディは、マーカス様の好みに合わせて造って頂いたのですが…」

 

「じゃあ見てる‼︎はっちゃんはエロいなぁ‼︎」

 

「マーカス様は変態ですね」

 

はっちゃんは俺の手を掴み、発育の良い胸に置いた

 

「聞こえますか…はっちゃん、マーカス様といるといつもこうです」

 

「生きてる音だな」

 

「はっちゃんがアイリスだった時も、こんな感じになっていました」

 

「これは”ドキドキ”だ」

 

「ドキ、ドキ⁇」

 

はっちゃんは物知りに見えて、まだ自分の感情を完璧に理解しきれていない

 

今日の一件だってそうだ

 

はっちゃんは自分の怒りを理解出来ず、一歩間違えれば人を殺めていた

 

これは癖になると危ない

 

「そう。人は好きな人といる時、ドキドキするんだ」

 

「なら、はっちゃんはちゃんとマーカス様が好きなのですね⁇」

 

「そうじゃ無きゃ困る」

 

「ふふっ、はっちゃん、嬉しいです。ちゃんとマーカス様を好きになれて」

 

「さっ、もうネンネしよう。明日は橘花マンだぞ⁇」

 

「はいっ、マーカス様っ」

 

はっちゃんを腹の上に乗せ、ようやく1日が終わった…



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134話 滅殺‼︎変態怪人掃討作戦‼︎(1)

さて、133話が終わりました

今回のお話は、予告していた通り、橘花マンのお話です

好きな人には分かるセリフがあるかも⁇


「よ〜し、全員乗ったな⁉︎」

 

二式大艇の中から、口々に「のった‼︎」と、子供達が言う

 

「コイツに乗るのもっ、久し振りだな」

 

「パパといっしょ‼︎」

 

たいほうは久々に隊長と一緒になれる時間なので、ベッタリとくっ付いている

 

「隊長、俺も後から行くよ」

 

「んっ。待ってるぞ」

 

俺ときそは二式大艇には乗らず、フィリップであの再建中の基地を目指す

 

 

 

 

〜再建中秘匿泊地〜

 

過去の機体が眠っていたり、イージス艦が座礁したりしているこの基地

 

仮称”バーズ・シャングリラ”…

 

鳥達の楽園だ

 

恐らくこの名が通称になるだろう

 

「来た来た‼︎こっちよ‼︎」

 

人と妖精が慌ただしく動く中、フィリップが着陸する

 

「機体はあっちにあるわ‼︎」

 

「”アレ”はどうした⁇」

 

「ちゃんと準備してあるわ。来て」

 

「ちょい待ち。マーカス隊の野郎共、集合ー‼︎」

 

掛け声を叫ぶと、フィリップのハッチからゾロゾロと妖精が出て来た

 

その数、約100人強

 

「いいか⁇ちゃんと場所を聞いて行くんだぞ⁇」

 

”任しとき‼︎”

 

”しっかり治したる‼︎”

 

「では此方に乗って下さい‼︎」

 

明石が持って来た荷車に妖精達が乗り込む

 

これでもかとミチミチに乗った所で、荷車は再建されている基地とは別の場所に向かう

 

「さっ、レイ。アンタはこっちよ」

 

きそと共に基地の中に入る…

 

 

 

 

 

「ついた‼︎」

 

レイ達がバーズ・シャングリラたいほうが真っ先にタウイタウイに降り立つ

 

「えいしゃんいない」

 

「どこいった」

 

貴子さんの両肩に乗ったひとみといよはレイを探す

 

「二人共ホントにレイ君が好きなのね⁇」

 

「えいしゃんすき‼︎」

 

「えいしゃんすき‼︎」

 

いつもタウイタウイモールは人で溢れかえっているが、今日は親子連れが多い

 

目当ては勿論橘花マン

 

「ご無沙汰しております、大佐」

 

サラが挨拶に来た

 

「ごめんなさいね…マー君と”彼女”をお借りして」

 

「確かにレイは主人公に似てるからな。それに”あの子”も…」

 

サラと話しながら、全員タウイタウイモールに入る

 

その時、遠くの方を指差すいよとひとみに、誰も気付かなかった…

 

 

 

 

《乗り心地はどう⁇》

 

「まぁまぁだな。こいつで戦おうとしてたのが良く分かる」

 

《メット位脱いでもいいわよ⁇フィリップみたいな高起動出来ない様にリミッター掛けてあるから大丈夫よ》

 

「子供の夢は壊せんだろ。俺は橘花マンだ‼︎」

 

《カッコつけちゃって…ちゃんと運転しなさいよ‼︎》

 

俺は橘花に乗って、タウイタウイモールを目指していた

 

基地の中に入った時は驚いた

 

中はほとんど修復が終わり、ニ、三機程だが、T-50が配備されていた

 

そんな中にこいつは居た

 

ソードフィッシュを筆頭に修復不能な機体は、ボディだけ再現され博物館行きになったが、震電含め三機が再稼働可能と分かった

 

その内の一機がこの橘花だ

 

試験運転を含めた飛行でタウイタウイを目指すが、これがまた中々の乗り心地だ

 

震電の様に機体をベースに新規機体として造っていないこの機体は、70年前の機体のエンジンを主に、中の装備を飛べる範疇に変えただけで、戦えない様、リミッターが掛けられている

 

が、最高速度もそれなりに悪くなく、先程も言った様に、これで戦おうとしてたのが良く分かる

 

再稼働可能な後の一機も今日のショーに関係があるらしく、先に向かっているらしい

 

《しっかしまぁ、アンタは橘花マンに背格好似てるわね〜》

 

俺は橘花マンのスーツを着たままこの機体に乗っている

 

明石が造ってくれたこの橘花マンスーツ

 

中々フィットしていて、着心地が良い

 

着ぐるみ系列の問題点である暑さを

、中に小型のクーラーと通気孔で解決されている

 

そしてフィリップには横須賀が乗っている

 

横須賀がフィリップに乗るのは非常に珍しい

 

乗る事自体は何度かあったが、操縦するのは恐らく初めてだ

 

きそは飛び立つ前、横須賀に運転させるのを少し嫌がっていた

 

どこかに擦るかも知れないからだと…

 

一応横須賀はあぁ見えてサンダーバード隊の一員だ

 

一応腕は立つ

 

だが信頼感が無い

 

それは普段の言動が悪い

 

「さぁ、もう着くぞ。擦るなよ⁉︎」

 

《分かってるわよ‼︎》

 

持って来たタブレットには、フィリップの感情パラメーターが表示されている

 

感情パラメーターは大きく分けて3つ表示されている

 

一本目は”不安”

 

二本目は”憤怒”

 

そして一番高いパラメーターは”拒絶”

 

どうもきその時は横須賀に懐いてはいるが、フィリップになると大変嫌いな様だ

 

…あいつには黙っておこう

 

タウイタウイに着くと、早速きそが抱き着いて来た

 

「もうやめてね…」

 

「ははは‼︎横須賀はそんなに下手クソか⁉︎」

 

「レイの方が良いよぉ…」

 

よっぽど嫌だったのか、きそは少し震えている

 

俺の様に猛スピードで宙返りや反転はしてはいなかったが、それでも横須賀は嫌らしい

 

「はぁ…きそちゃんと大人と老人と子供とAIには好かれないわね…」

 

「全部じゃねえか‼︎」

 

「私、アイリスにも小馬鹿にされてたしね…」

 

言われてみればそうだ

 

アイリスもといはっちゃんは、横須賀の事を”メシマズ女”と覚えていた

 

今でもそうだ

 

だが、俺は教えた覚えは無い

 

言ったとすれば、横須賀は火が使えないと教えただけだ

 

「まっ、いいわ。アンタが好いてくれるし」

 

「おい…」

 

急にしおらしくなる横須賀を見て、いつもズルいと思う

 

「さっ、行きましょ‼︎子供達のお待ちかねよ‼︎」

 

「あぁ‼︎」

 

横須賀を先頭に、橘花マンがタウイタウイモールに向かう

 

「お、おい‼︎ちょい待ち‼︎」

 

「何よ」

 

「うは〜…」

 

三人の目の前には、一機のジェット機が停まっていた

 

「こっ、こいつもあったのか⁉︎」

 

「そうよ。言ったでしょ⁇もう一機来るって」

 

「こいつとは聞いてないぞ…」

 

目の前に鎮座していたのは”景雲”だ

 

橘花と並び、ジェット爆撃機として活躍するハズだった機体だ

 

「こいつにもリミッターがあるのか⁉︎」

 

「えぇ。橘花も景雲も、ここでまたお昼寝するのよ。リミッター無しが欲しかったらアンタが造りなさい⁇造れるものならね⁇…ハッ‼︎」

 

そう言った0.5秒後…

 

”レイなら造れる”

 

と、頭をよぎった

 

そして案の定…

 

「設計図はあったな…後は簡単なデータ集めて…横須賀‼︎今度工廠貸してくれ‼︎」

 

「やっぱり…」

 

「とにかく橘花マンはこっち〜」

 

きそに押され、ようやくタウイタウイモールに入る

 

エレベーターで屋上に向かっていると、子供達と出くわした

 

「橘花マンだ‼︎」

 

「本物だぁ‼︎」

 

「私が橘花マンだっ‼︎」

 

片方は見た事がある

 

山風だ

 

だが、もう片方は見た事が無い

 

まっ、それも当然か…

 

ここには山程子供達がいる

 

知っている子に出くわす方が珍しいのかもな

 

「さぁ‼︎橘花マンショーが始まるぞ‼︎応援してくれよ⁉︎」

 

「うんっ‼︎橘花マン、頑張ってね‼︎」

 

「応援してるから‼︎」

 

橘花マンの人気は本物だ

 

昨日まではただただデザインだけはカッコイイとは思っていた一キャラクターだったが、屋上に着いて、それは吹き飛んだ

 

「橘花マーーーン‼︎」

 

「キャーーー‼︎キッカマーーーン‼︎」

 

屋上にはワンサカと子供が集まっていた

 

その中には磯風もいる

 

それに混じって、何故か子供達に混じって大きいお友達もチラホラいる

 

この理由は、後々明らかになる



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134話 滅殺‼︎変態怪人掃討作戦‼︎(2)

「さっ、橘花マン。後は指示通りにね⁇」

 

「…MCは誰だ」

 

「…お母さんよ。私はきそちゃんと大佐の所に行くから。じゃあね」

 

横須賀ときそが去り、壇上に立っていたサラがマイクを持つ

 

俺はコソコソと移動し、会場から少し高い場所に登り着いた

 

だが、会場からは見えていない絶妙な位置だ

 

高台からは会場の様子が見える…

 

「グハハハハ‼︎お姉さん、中々の美人じゃないかぁ‼︎吾輩のお嫁さんにしてやる〜‼︎」

 

「大変‼︎怪人”オタクネコ”よ‼︎みんな‼︎橘花マンを呼びましょう‼︎せ〜のっ‼︎」

 

「「「橘花マーーーン‼︎」」」

 

「とうっ‼︎」

 

高台から飛び、一回転して会場の中心に着地する

 

「橘花マーーーン‼︎」

 

子供達の声援を受け、親指を立てる

 

「橘花マンだぁ〜‼︎美味しそぉ〜‼︎」

 

(なん…だと…)

 

不吉な声の主は、ローマに肩車して貰っている照月だ

 

人の肩に乗りながらでも、何かを頬張っている

 

「エ‼︎橘花マン⁉︎橘花マンナンデ⁉︎」

 

オタクネコは橘花マンにビビっている様子だ

 

「貴様‼︎お姉さんを離せ‼︎」

 

「グハハハハ‼︎離せと言って離す馬鹿が何処にいる‼︎」

 

「そうか。なら慈悲は無い‼︎喰らえぃ‼︎この橘花マンブレードを‼︎イヤー‼︎」

 

サラとオタクネコに当てない程度に素振りをする

 

「グワー‼︎今日朝早かったのに…」

 

子供達が爆笑している

 

こんな事を言うオタクネコの中に入っている奴が気になる…

 

「ありがとう、橘花マン…」

 

「悪に慈悲は無い‼︎」

 

「く、くそ〜‼︎誰か助けてくれぃ‼︎」

 

「何やられてんだヌルwww」

 

新しい怪人が現れ、オタクネコに手を貸し、立ち上がらせる

 

「おぉ、すまねぇな”ニートイカ=サン”」

 

敵が二人になった

 

ニートイカと呼ばれた怪人は名前の通り触手があり、卑猥展開がプンプンする

 

「デュフフフフwwwこのお姉さんは頂いていくヌル」

 

「いやぁ〜‼︎」

 

ニートイカはサラの腹部分を触手で掴んだ‼︎

 

横須賀に遺伝したサラの豊満な胸が強調されている‼︎

 

「デュフフ‼︎お父さん方にサービスするヌル‼︎」

 

「や、止めろニートイカ‼︎」

 

正直もう少し見ていたいが、話を進める為、橘花マンブレードを振り上げるがニートイカはサラを盾にする

 

「そんな物騒な物振り回したらお姉さんに当たっちまうヌルwww」

 

「くっ…どうすれば…」

 

「えいしゃんぴんち⁉︎」

 

「えいしゃんがんばえ〜‼︎」

 

(バレとる…)

 

遠くの方で貴子さんの両肩に乗ったひとみといよが俺の名前を言っている

 

「あっ、アレはマーカス様ではありません。北 光太郎さんです」

 

「こうたろしゃ〜ん‼︎がんばえ〜‼︎」

 

「きっかまんがんばえ〜‼︎」

 

「ふぅ…」

 

ナイスだはっちゃん

 

「そこまでよ怪人共‼︎」

 

急に女性の声が聞こえたと思えば、ニートイカの胴体部分が軽く爆破される

 

「エ⁉︎爆発⁉︎爆発ナンデ⁉︎」

 

爆発と同時にサラが離れる

 

(聞いてないぞ…⁉︎)

 

予定に無いニートイカの爆発に戸惑う会場

 

一番テンパッているのは、多分俺だ

 

「橘花マンのピンチは私が救います‼︎とうっ‼︎」

 

俺と良く似た登場をしたのは、艶のある白く長い髪をした女性だ

 

…見た事があるぞ

 

「”景雲レディ”だ‼︎」

 

「さっ、橘花マン‼︎これを‼︎」

 

景雲レディと呼ばれた女性から”橘花マンショット”を受け取る

 

「さぁ、行くわよ‼︎変、身‼︎」

 

景雲レディは子供達の方を向き、少し前屈みになり、両手を顔の高さで、如何にも”がるる〜”なポーズをした

 

すると、口元にマスクが展開され、背中から橘花マンと良く似た羽が生えた

 

俺から見てもメチャクチャカッコイイ

 

しかも結構ボインだ

 

…あぁ、なるほど‼︎

 

だから大きいお友達がいるのか

 

確かに景雲レディはカッコイイ

 

しかもボディラインも男受けすると来た

 

子供達は橘花マン

 

大きいお友達は景雲レディ

 

客層の好みをしっかり掴んでいる

 

大きいお友達は景雲レディに対してシャッターを切り続けている

 

「橘花マン‼︎オタクネコは私に任せて‼︎ニートイカをお願い‼︎」

 

「了解した‼︎行くぞニートイカ‼︎」

 

「デュフフフフフwww何度でも掛かって来るがいい‼︎」

 

「滅するがいい‼︎橘花マンショット‼︎」

 

「グワーッ‼︎飛び道具とは卑怯なり〜‼︎サヨナラ〜‼︎」

 

ニートイカはクルクル回りながら、会場からフェードアウトして行った

 

「やったー‼︎橘花マンつよ〜い‼︎」

 

「凄いぞ橘花マン‼︎」

 

子供達が大喜びする横でシャッター音が響く

 

「やぁっ‼︎」

 

「グワー‼︎なんでやね〜ん‼︎」

 

シャッター音が響いている理由はすぐ分かった

 

景雲レディが持っていたブレードを振ると、ついでの様に胸が大きく揺れる

 

その時を狙って、シャッターを切っていたのだ

 

「やったわね、橘花マン‼︎」

 

「あぁ‼︎悪は滅する‼︎それが我々の仕事だ‼︎」

 

最後は華麗に決めポーズをし、ショーは終わりを迎えた

 

会場横に建てられたテントに入り、出入り口を閉める

 

「つ…疲れた…」



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134話 子供達の選ぶモノ

題名は変わりますが、前回の続きです


メットを脱ぎ、椅子に座る

 

「レイさん。お疲れ様でした」

 

「やっぱお前か」

 

俺にお茶を差し出したのは、景雲レディもとい翔鶴だった

 

「最近出掛けるのが多いと思ってたら、こんな事してたのか」

 

「パパさんは私が居なくても立派に操縦を出来るお方です。私、ちょっと手持ち無沙汰になっちゃって…それで、パパさんに許可を得て、こうして社会でお仕事をしています」

 

「アルバイトじゃあんま稼げんだろ⁇」

 

「あぁ、いえ。お給金はそこそこ頂いています。今度も撮影と握手会がありますので」

 

「撮影って…」

 

「ふふふっ、私っ、本物の景雲レディですよっ‼︎」

 

「マジかよ‼︎」

 

今思えば、景雲レディだけやたら備品が立派だと思った

 

最近出掛けるのは多いとは思ってはいたが、まさか女優になっていたとは…

 

「翔子ちゃ〜ん‼︎」

 

「顔見せて〜‼︎」

 

外から大きいお友達が、翔鶴らしき名前を呼んでいる

 

「何か呼ばれてるぞ⁇」

 

「ふふっ。行ってきますね」

 

翔鶴がテントから出てすぐ、俺はスーツを脱ぎ始めた

 

怪人役の二人もスーツを脱ぎ始め、中の人が明らかになる

 

「アレン‼︎健吾‼︎」

 

出て来たのはラバウルの二人だった

 

オタクネコからはアレン

 

ニートイカからは健吾が出て来た

 

「レイの嫁に頼まれてな。子供の夢は壊せない」

 

「爆破するとは聞いてましたが…結構熱かったです」

 

「ホンットすまん…」

 

「気にすんな。結構楽しかったぞ⁇」

 

「機会があればまたやりましょうよ‼︎」

 

「PAPA‼︎健吾‼︎」

 

「うわっ‼︎アイちゃん‼︎」

 

いきなりテントに入って来たアイちゃんに、二人は背後から首元に手を回された

 

「IOWA、橘花マン大好き‼︎」

 

アイちゃんは体は大きくなったが、知能は相変わらずだ

 

甘えん坊な所とか、イタズラ好きな所は未だに治っていない

 

「えいしゃん‼︎」

 

「えいしゃんいた‼︎」

 

ひとみといよも来た

 

グラーフに繕って貰ったのか、お揃いの灰色のワンピースを着ている

 

二人はたいほう並に器用に俺に登り、指定席である両肩に乗る

 

「えいしゃんきっかまん⁉︎」

 

「きっかまんえいしゃん⁉︎」

 

この二人は勘が鋭い

 

顔や頭をペチペチされるが、小さいのでダメージが無いどころか心地良い位だ

 

「橘花マンはもうお家に帰ったぞ⁇」

 

「ざんねん‼︎」

 

「ざんねん‼︎」

 

二人も橘花マンが好きな様だ

 

「隊長は何処にいる⁇」

 

「おそとにいる‼︎」

 

「すぐそこ‼︎」

 

二人はテントの外を指差している

 

「Oh‼︎ソックリなDouble Babyね‼︎」

 

アイちゃんが二人に気付く

 

「だぁれ⁇」

 

「がいじんさん⁇」

 

「この人はIOWA。アイちゃんって呼ばれてる」

 

「よろしくね‼︎」

 

「いよ‼︎」

 

「ひとみ‼︎」

 

二人共一言で自己紹介を終わらせる

 

「あっちの金髪の人はアレンさん。こっちの人は健吾さんだ」

 

「あいしゃん」

 

「あれんしゃん」

 

「けんごしゃん」

 

「えいしゃん」

 

「覚えるのが一杯だなっ。さっ、お買い物行こうか‼︎みんな、今日はありがとうな‼︎」

 

「あぁ‼︎また飲もうな‼︎」

 

「またスカイラグーンで‼︎」

 

「Bye-Bye‼︎」

 

三人に別れを告げ、テントから出た

 

「お疲れさん」

 

「すてぃんぐれいどこにいたの⁇」

 

頭にたいほうを乗せた隊長と子供達が待ってくれていた

 

「すまんすまん。お仕事だったんだ。良い子ちゃんにしてたか⁇」

 

「うん…」

 

何故かたいほうの元気が無い

 

「レイと見たかったんだと」

 

「そっかそっか‼︎次は一緒に見ような⁇」

 

「うん…」

 

何となくたいほうの元気が無い理由が分かった

 

ひとみといよが来てからたいほうは遠慮しているのか、特等席である俺の頭に中々乗らないでいた

 

ホントは今日も乗りたかったのだろう

 

「えいしゃん、いよ、ぱぱのところいく‼︎」

 

「ひとみもいく‼︎」

 

二人はまた器用に肩から降り、隊長の足元にくっ付いた

 

「たいほう、レイの所に行くか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「そらっ‼︎」

 

隊長からたいほうを受け取り、いつも通りの特等席に座る

 

「たいほうのとくとうせき」

 

「そうだぞ。そこはたいほうだけの席だ‼︎」

 

たいほうはニコニコしている

 

「あっ‼︎橘花マンのスーツだぁ〜‼︎美味しそぉ〜‼︎」

 

いつの間にか照月が足元におり、俺のズボンを掴みながら橘花マンのスーツを見ている

 

「照月‼︎ステーキ食べるか⁉︎」

 

「うんっ‼︎ステーキ食べる‼︎」

 

照月の空腹は、放っておくと壁を削って食べてしまうレベルだ

 

橘花マンのスーツも、あっと言う間に胃の中だろう

 

しっかりと照月の手を握り、下の階に降りた…

 

 

 

 

「ふふっ…マーカス君、随分成長したのねぇ⁇」

 

「アレン君も立派な父親になっています」

 

誰にも気が付かれない、会場の端っこで、二人の女性が望遠鏡越しに微笑んでいた…

 

 

 

 

 

「じゃあ貴子さん、照月を頼みます」

 

「分かったわ。照月ちゃん、私とステーキ食べようね⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

照月を貴子さんに任せ、おもちゃ売り場に来た

 

「さぁっ‼︎好きなモン選べよ‼︎」

 

おもちゃ売り場に着くなり、蜘蛛の子散らす様に、それぞれ思い思いの場所に向かう

 

俺は片手にカゴを持ち、たいほうと一緒におもちゃ売り場をまわり始めた

 

「たいほうは何にする⁇」

 

「あれ‼︎」

 

たいほうが指差す先には、ケースに所狭しと詰められた恐竜のオモチャがあった

 

「これでいいのか⁇もうちょい高いモンでもいいぞ⁇」

 

「いっぱいはいってるのがいい」

 

基地にも恐竜のオモチャはあるのだが、たいほうからすれば少し大きいのかもしれない

 

今手に持っているケースに詰められた恐竜達は、一つ一つが小さく、その分数が多い

 

「よしっ‼︎じゃあたいほうはこれな⁉︎」

 

「うんっ‼︎すてぃんぐれいありがとう‼︎」

 

ケース詰め恐竜ミニフィギュアセット…500円

 

「えいしゃん、いよこれにする‼︎」

 

「ひとみはこれ‼︎」

 

ひとみといよは、塗り絵と色鉛筆のセットをカゴに入れる

 

塗り絵、色鉛筆セット×2…300円×2

 

「僕はこれにしようかな⁇」

 

「私はこれ」

 

れーべとまっくすは、何かの知育玩具を入れた

 

はじめてのシュネッケン…3000円

 

ひとりでつくるミニレープクーヘン…3000円

 

「レイ。私オモチャじゃなくてもいい⁇」

 

そう言ったのは霞だ

 

「あぁ。本とかにするか⁇」

 

「これにするわ」

 

霞は包丁やコテをはじめ、調理に必要な道具のセットを入れた

 

子供用調理器具セット…2500円

 

「しおいこれにする‼︎」

 

「入れろ入れろ‼︎」

 

水棲生物飼育キット(小)…1500円

 

「お父さん。磯風にも買ってくれるのか⁇」

 

饒舌になった磯風が、後ろ手に何かを隠しながら此方に来た

 

「おぅ。好きなん持って来い‼︎」

 

「これにするぞ‼︎」

 

「よし、いいだろう‼︎これは横須賀に運んで貰おうな⁇」

 

「うぬ‼︎」

 

限定一品‼︎大パノラマ‼︎どうぶつファミリー巨大セット…150000円

 

「レイさん。私はこれを」

 

「私もこれを‼︎」

 

はまかぜと秋月もカゴに何かを入れた

 

コーンフレークメーカー…2000円

 

たのしい吹き矢…500円

 

大体の子供がオモチャを持って来る中、四人が持って来ない

 

「きそはどうした⁇たいほう、見えるか⁇」

 

俺より目線が高い位置にいるたいほうに三人を探して貰う

 

「ん〜と…あっ‼︎あっち‼︎あさしももいる‼︎」

 

「よし、ちょい様子を見に行こう」

 

おもちゃ売り場を出て、電子機器売り場に来た

 

「ん〜…このケーブルはいるでしょ〜…あっ、コネクターもいるね」

 

「CPUの解析スピードをあげるアタッチメント造るのは〜…おっ‼︎これだこれだ‼︎」

 

俺にしか分からない専門用語を話しながら、二人は小さなカゴにパーツを入れる

 

「決まったか⁇」

 

「あっ、うん‼︎決まった‼︎これにする‼︎」

 

「アタイはこれだな‼︎」

 

きそは数本のケーブル

 

朝霜はアタッチメントをメインに、後は細かいパーツを小さなカゴに入れている

 

「それ持ってレジ行くぞ」

 

「え…全部買ってくれんのか⁉︎」

 

「言っただろ。今日は何でも買ってやるって」

 

「でも…このアタッチメント高いぜ⁇」

 

「空軍は嘘をつかん。行くぞ」

 

「あ…」

 

「行こう‼︎レイの言ってる事はホントだよ‼︎」

 

「あ…あぁ‼︎」

 

朝霜は母である横須賀から教わっていた

 

空軍は嘘をつかないから、朝霜も磯風もレイの子だから嘘ついちゃダメだ、と

 

…お母さんは頻繁に嘘ついたり、すぐ物忘れするのになぁ

 

CPU直列式AI移動ケーブル…5000円

 

CPU読取加速アタッチメント…10000円

 

次ははっちゃんだ

 

「マーカス様。はっちゃんはこれが欲しいです」

 

はっちゃんの手には、叩き売りされたであろう数冊纏められ、紐で縛られた本達が抱えられていた

 

10冊まとめ叩き売り本…1000円

 

「叢雲。お前はどうする⁇」

 

「私は…そうね。これにするわ」

 

叢雲は近くにあったウサギのマスコットを手に取り、カゴに入れた

 

「それでいいのか⁉︎」

 

「いいわ。犬も大変そうだしね」

 

ウサギ文鎮…200円

 

だが、俺は忘れていた…

 

大ボスの存在を…

 

レジに行き、オモチャやパーツが沢山入ったカゴを置く

 

「お兄ちゃん‼︎照月これにする‼︎」

 

照月はカゴの横に何かの箱を置いた

 

「これでいいのか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

照月が置いたのは超合金ロボだ

 

照月はお小遣いで自分で買ったり、こうして人に買って貰った超合金ロボは、並べて大切に保存している

 

大切にしてくれるからこそ、買い甲斐がある

 

超合金ケッタマン…5000円

 

さぁ、いざ会計だと思っていた時、誰かがソ〜っとカゴに何かを入れようとするのが見えた

 

レジの女性が”それ”のバーコードを読み取る

 

20万円⁉︎

 

金額を見て、後ろを振り返る

 

「何よ」

 

「お前なぁ…」

 

カゴに何かを入れたのは横須賀だ

 

「買ってくれなきゃ、ここで寝転んで駄々こねるわよ⁇」

 

「…まぁいい。今日だけだぞ」

 

「やったわ‼︎」

 

ホームシアター引き換え券…200000円

 

これを買う事によって、横須賀の怠惰に加速がかかる気がする…

 

買った物をカートに乗せ、おもちゃ売り場を後にする

 

「さっ、帰ろうか」

 

帰りは橘花ではなく、二式大艇に乗る

 

「あっ‼︎レイさんかも‼︎」

 

「チェンジ‼︎」

 

「了解かも‼︎」

 

操縦席にいた秋津洲を副操縦席に移動させ、全員が乗り込むまでエンジンを温める

 

「ごめんなさい‼︎遅れました‼︎」

 

最後に乗ったのは翔鶴だ

 

翔鶴は迷わず隊長の横に座る

 

「サイン会でもしてたのか⁇」

 

「はい、パパさん。ご名答ですっ‼︎」

 

左には、満腹で眠っているが、腕はガッチリホールドした貴子さん

 

貴子さんの膝の上には、口を開けて寝ている照月がいる

 

右には腕を抱いた翔鶴

 

隊長…隊長もモテてるじゃねぇか

 

「発進するから掴まってろよ‼︎」

 

「宙返りはするなよ‼︎」

 

「分かってらい‼︎」

 

乗っていた人間のほとんどから笑い声が上がり、二式大艇は基地へと飛び立った…




橘花マン…子供向け特撮ヒーロー

土曜の朝から放送している特撮の主人公

シンプルな攻撃、シンプルなストーリーなため、子供達にも分かりやすい

主人公は善人だが、言ってる事が悪人じみているのが玉に傷

北 光太郎というのは、橘花マンの中の人で、実はもう出て来ているが、本人は隠している




景雲レディ…橘花マンの相棒

白髪の女性が変身する、橘花マンのサポート役

橘花マンの武器を造っているのは彼女

抜群なプロポーションなため、やられ役と思えば、橘花マン以上に怪人を滅多打ちにする

今回のショーには、本人役である”景浦翔子”が特別ゲストとして、本物のスーツを着て現れた

大きいお友達のオカズになる事が多い




景浦翔子…翔鶴の芸名

もっと外の世界を見たかった翔子が選んだ職業

本当はアルバイトでもしたかったのだが、橘花マンの中の人が紹介してくれたため、今の仕事をしている

因みに彼女に手を出すと、誰であろうと督戦隊にオシッコチビる位追い掛け回される


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135話 双子の記憶(1)

さて、134話が終わりました

今回のお話は、潜水艦のお話です

あのイージス艦も出てくるよ‼︎


「よ〜し出来た‼︎」

 

橘花マンのショーが終わって数日間

 

俺ときそは新しい艤装の開発を進めていた

 

最新鋭の技術が詰め込まれたこの艤装なら、誰であろうがしっかりと護ってくれる

 

「モニターも鮮明に映ってるよ‼︎」

 

「小型無人機射出装置は⁇」

 

「問題ないよ。現状、積めるのは簡単な偵察機…いや、偵察”虫”みたいな機体しか出せないけど…」

 

「なら大丈夫だ。二人を呼んで来てくれ」

 

「オッケー‼︎」

 

きそは基地の中に二人を呼びに行った

 

「さ〜て…こいつはどう出るかなぁ⁇」

 

椅子にもたれながら、工廠の中心に置かれた二対の小型艤装を見る

 

「えいしゃん‼︎」

 

「きたよ‼︎」

 

「おっ‼︎来たな⁉︎俺からプレゼントがあるんだ‼︎じっとしてろよ…⁇」

 

二対ある艤装の片方を手に取り、ひとみの頭に付ける

 

「お〜」

 

きそはもう一つの艤装をいよの頭に付けた

 

「うぉ〜」

 

「耳にはこれな」

 

大きめの片耳イヤホンをひとみに付ける

 

「これで遠く離れた人の声が聞こえる様になる」

 

「えいしゃんのこえもきこえる⁇」

 

「聞こえるぞ」

 

「仕上げはこれ‼︎」

 

最後にあの小型無人機射出装置を、ひとみには右腕、いよには左腕に取り付ける

 

「こうやって腕を伸ばして、発艦‼︎って言ってご覧」

 

「はっかん‼︎」

 

「はっかん‼︎」

 

きそに言われ、二人は腕を伸ばして発艦の合図を出した

 

すると、腕に付けた装置から虫の様な機体が飛び出し、二人の前で浮遊し始めた

 

「これは小型の偵察機だ。偵察機の映像はこれで見…」

 

説明をしているとパァンパァンと、二回手を叩く音が聞こえた

 

「とれた‼︎」

 

「むしとった‼︎」

 

「おおおおお…」

 

ひとみといよの手には、無残にも破壊された小型無人機が‼︎

 

「しまった…それを忘れてた…」

 

「うはは‼︎バラバラだぁ‼︎」

 

ひとみといよは目の前を飛んでいた虫を捕まえて御満悦

 

「いいか⁇パァンはダメだ。分かったか⁇」

 

「わかた‼︎」

 

「ぱぁんしない‼︎」

 

小型無人機を補充し、テイク2

 

無人機が発射されてすぐ、ひとみといよの頭に付けた艤装を顔の前に降ろす

 

「うぉ〜‼︎」

 

「そらとんでる‼︎」

 

「海に行く時は常にこれを降ろしておくんだ。知らない事を教えてくれるぞ⁇」

 

「えいしゃんすごい‼︎」

 

「これほしい‼︎」

 

「お前達にやるよ。その為に造ったんだ」

 

「えいしゃんありがと‼︎」

 

「ありがと‼︎」

 

「後は使い方次第だぞ」

 

「マーカス様。はっちゃんとしおいと一緒に二人を連れて、近海をお散歩しても宜しいですか⁇」

 

「近海だけだぞ。潜水艦とはいえ、まだ海に慣れてない」

 

「かしこまりました。では行ってみましょう‼︎」

 

はっちゃんとしおいという、ベテランの引率がいる

 

尚且つ近海だけなら心配は無いだろう…

 

 

 

 

「めがね‼︎いよぽいして‼︎」

 

「ひとみもして‼︎」

 

「くっ…」

 

港でローマが二人に取り付かれて、服やら腕を引っ張られている

 

どうやらはっちゃんとしおいの”どぼ〜ん‼︎”を見たらしく、二人はローマに海に投げて欲しい様だ

 

「ちょっ…レイ‼︎兄さん‼︎助けなさいよ‼︎」

 

ローマは窓際で様子を見ていた俺達に助けを求める

 

「ポイしてやれ〜。やるまでずっと言われるぞ〜⁇」

 

「心配するな〜。それ如きの衝撃で外れたり壊れたりしない〜」

 

「…後悔しないでよ‼︎」

 

ローマはまずいよの首根っこを掴んだ

 

「いい、いよ。艤装を付けて海に行く時は”抜錨‼︎”って言うのよ⁇」

 

「わかた‼︎いよ、ばつびょ〜〜〜〜〜ん‼︎」

 

いよが抜錨と言っている途中で、ローマはいよを暁の水平線目掛けて放り投げた

 

かなり離れた海面で水柱が上がる

 

「次っ‼︎」

 

「きた‼︎ひとみ、ばつびょお〜〜〜〜〜〜〜‼︎」

 

ひとみも放り投げ、いよよりもう少し向こうで水柱が上がる

 

「大丈夫〜⁉︎」

 

「だいじょぶ〜‼︎」

 

「めがねありがと〜‼︎」

 

すぐにはっちゃんとしおいが二人に着き、潜行する

 

「はぁ…子供は慣れないわね」

 

「ローマ‼︎帰って来い‼︎」

 

隊長がローマを呼び、食堂に戻って来た

 

「さてっ。モニタリングでもしますか‼︎」

 

「持って来たよ‼︎」

 

きそはタブレットを二つ持って来た

 

「これは⁇」

 

「二人が見ている風景を見れる様に同期してあるんだ。まぁ見てくれよ」

 

タブレットを起動すると、海中の様子が映し出された

 

「こっちがいよ、こっちがひとみの見てる風景だよ」

 

きそはいよが見ている方を隊長に渡し、ひとみが見ている方を俺の前に立たせ、俺の膝の上に座った

 

「ちゃんと機能してるね‼︎」

 

「あぁ。識別装置の様子はどうだ⁇」

 

「大丈夫そうだよ」

 

「識別装置って…この文字の事か⁇」

 

隊長がタブレットを指差す

 

いよが見てる風景がモニターされている途中、何度も何らかの文字が表示される

 

 

 

 

/ ̄ ̄ ̄おしゃかな

 

/ ̄ ̄ ̄かい

 

\___そおい

 

/ ̄ ̄ ̄はっしゃん

 

\___でかいおしゃかな

 

 

 

この文字は二人が目で見て考えている事が、文字として出ているのだ

 

「可愛いもんだな。まだ舌ったらずだ」

 

「これで何処にいるかが分かる。それに、会話も出来る。ひとみ〜」

 

《えいしゃんか〜⁇》

 

「初めての海はどうだ⁇」

 

《おしゃかないっぱいいる‼︎》

 

「いよ、そっちはどうだ⁇」

 

隊長もいよに話し掛ける

 

《ぱぱしゃんか〜⁇》

 

いよはすぐに反応した

 

「気持ちいいか⁇」

 

《うんっ‼︎いよ、うみしゅき‼︎》

 

「そっかそっか‼︎」

 

「よし、海面に出て小型無人機の射出テストをしておしまいにしようか」

 

《わかた‼︎》

 

《かいめんでる‼︎》

 

薄暗かった画面が明るくなり、海面に出たとすぐに分かった

 

《はっかん‼︎》

 

《はっかん‼︎》

 

二人共ちゃんと覚えている様で、射出装置を付けた側の腕を上げて、無人機を射出した

 

「画面右下に無人機の映像が出るんだ」

 

「これか」

 

タブレットの画面右下の映像では、四人が無人機を見上げている映像が映っている

 

無人機の映像にも、先程の様に文字が表示される

 

 

 

/ ̄ ̄ ̄とりしゃん

 

\___おうち

 

/ ̄ ̄ ̄おふね?

 

 

 

 

「ん⁉︎」

 

モニターの向こうでは、突然現れた船舶に視線を集中させた四人が無人機見えた

 

「はっちゃん、識別信号は解るか⁇」

 

《識別信号受信、イージス艦、きくづきです》

 

「きくづきって…」

 

モニターそっち除けで、俺達は望遠鏡で窓の外を覗く

 

「あれか⁇レイが言っていた”修復可能な艦”ってのは」

 

「そ、そうだけど…持って帰れとは言ってない‼︎」

 

言っている間に、きくづきは基地に近付いてくる

 

「きそ‼︎四人に帰投しろと伝えてくれ‼︎」

 

「分かった‼︎みんな、おうちに帰って来て‼︎」

 

《わかた‼︎おうちかえるお‼︎》

 

《たのしかった‼︎》

 

四人に帰投命令を出してすぐ、きくづきは港に停泊した

 

「識別信号があるって事は、誰かが乗ってる証拠だな…」

 

「だろうな…一応武装して行こう。きそ、帰って来る四人を頼んだぞ」

 

「分かった。気を付けてね」

 

互いにピストルを構え、きくづきに近付く

 

出入り口の左右に付き、互いにうなづいた後、俺は扉をノックしてみた

 

「ぷげら‼︎」



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135話 双子の記憶(2)

急に扉が開き、船体に叩きつけられた

 

”いや〜‼︎やっと着いたで〜‼︎”

 

”愛し懐かしおうちやな‼︎”

 

扉が開いた瞬間、まるで群れを成したフナムシの様にワサワサゾロゾロと妖精達が降りて来た

 

”なんや大佐。ピストルなんか構えて”

 

「あ…いや…」

 

”あれ⁇レイさんは何処行ったんや⁇”

 

「テメェら…」

 

”なにしてんねん”

 

”ぷげら‼︎って聞こえたんはレイさんやったんか”

 

”すまんすまん”

 

「まぁいい…点呼‼︎」

 

俺の一声で、妖精達がズラッと整列する

 

「全員いるか⁇」

 

”おるわアホ‼︎”

 

”おらんと思ったかマヌケ‼︎”

 

「ぐっ…おっ…」

 

現状、俺しか妖精を束ねる事が出来ないらしいのだが、その俺がこういう扱いである

 

悪く言えば舐められている

 

良く言えば仲が良い

 

「たらいま‼︎」

 

「たらいま‼︎」

 

四人が帰って来た

 

「おかえり。楽しかったか⁇」

 

「…」

 

「…」

 

ひとみといよは、きくづきを見るなり黙り込んでしまい、ずーっときくづきを見詰めている

 

「どうした⁇」

 

「いちじくしゃん…」

 

「いちじくかんちょー…」

 

「…覚えてるのか⁇」

 

「いよ、これにのってた‼︎」

 

「ひとみものってた‼︎」

 

「マーカス様。やはりこの艦は主人の所へ返すべきです」

 

はっちゃんが本を弄ると、何かの地図が表示された

 

「一軸様が提督をされている基地がここにあります」

 

はっちゃんが指差す位置には、小さな島がある

 

「それに、一軸様なら二人の謎も分かるかと」

 

「よし分かった。行こう‼︎」

 

「少し準備をしますね。貴方達、はっちゃんに着いて来て下さい」

 

はっちゃんは妖精を引き連れ、工廠へと入って行った

 

「レイ。イージス艦なんか運転した事あるのか⁇」

 

「無いっ‼︎」

 

「言うと思ったよ…」

 

隊長は上着を脱ぎ、肩に掛けてきくづきに入って行く

 

「隊長⁇」

 

「子供達の面倒を頼むぞ」

 

「あ…あぁ‼︎」

 

そうだ‼︎

 

隊長は船の運転が出来るんだ‼︎

 

大分前にラバウルの連中をグルグル巻きにして、ボッロイ船に乗せて横須賀に行ってた‼︎

 

貴子さんとローマに留守を頼み、たいほうとはっちゃんとしおい、そして、きそとひとみといよを乗せた

 

「全員乗ったか⁇」

 

「オーケー‼︎詰め込んだ‼︎」

 

「出るからな。しっかり掴まってろよ」

 

きくづきが基地から出る

 

「たいほうちゃんは僕と遊ぼうね⁇」

 

「うんっ‼︎おりがみしよ‼︎」

 

きそとたいほうは貨物室の様な場所で一緒に折り紙をやり始めた

 

「さぁ、はっちゃんが本を読んであげます」

 

「はっしゃんのほんよむ‼︎」

 

「おしゃかなのおはなし‼︎」

 

「しおいも‼︎」

 

子供達はきそとはっちゃんに任せて大丈夫そうだ

 

俺は二人に任せ、操舵室に来た

 

「ありがとう、隊長」

 

「レイに負けてられんからな。座標を設定したから、後は目を閉じていても着く」

 

隊長は時々俺と張り合おうとする

 

隊長、俺は越える気は無いぜ

 

「しっかしまぁ…良い装備が揃ってるな。流石はイージス艦だ」

 

「”アレ”も乗ってるのか⁇」

 

「あるぞ。ホラ」

 

隊長が操作している電子機器の一つに”しーすぱろー”と書かれていた

 

妖精が書いたのか、何故か平仮名で書かれている

 

「サジタリウスの矢だな…こいつは」

 

「ふっ…絶対当たるってか⁇」

 

このミサイルは大変面倒くさい

 

一度発射されると、目標が死ぬまで追い掛け回してくる

 

「敵に回すとメチャクチャ面倒くさい奴だよ…まさか乗る事になるとはな」

 

「山程撃沈して来たのに…か⁇」

 

「まぁな…」

 

「レイ。こう考えよう。敵を知るのも戦いの一つ、ってな⁇」

 

「いい勉強になるよ」

 

皮肉も含めて隊長に言葉を返す

 

火気厳禁の癖に、俺達はタバコに火を点けた

 

「ブラックボックスの中身、ようやく開示出来たよ」

 

「どうだった⁇」

 

「艦長は良く出来た人間みたいだ。統制が取れていた艦だったって、よく分かった」

 

「なるほどな…」

 

隊長と話し込んでいると、無線に通信が入った

 

《此方、呉分遣基地。所属不明艦へ》

 

「ヤッベェ…俺達は今、ただの不審人物だ‼︎」

 

隊長が無線を取り、何かを言おうとした時、別の通信が入った

 

《その艦は我々の旗艦だ》

 

「誰だ‼︎」

 

きくづきの両サイドの海面から、何かが浮上してきた‼︎

 

「潜水艦だ‼︎」

 

《遅れたようだな。すまない》

 

「呉さん‼︎」

 

現れた二隻の内、片方の潜水艦に呉さんが乗っているらしい

 

《”艦長”、基地で補給を受けたい。良いですか⁇》

 

《清政か⁉︎お〜来い来い‼︎そのイージス艦もな‼︎あっ‼︎》

 

何故か呉分遣基地の無線は急に切れた

 

「呉さん、ありがとう」

 

《なぁに。懐かしい艦を見かけたのでね》

 

「乗ってたのか⁉︎きくづきに⁉︎」

 

《えぇ。貴方の隣にいる潜水艦の艦長もですよ》

 

《いつもお世話になっています》

 

「誰だ…」

 

《ご、ゴホン‼︎今日は照月ちゃんは⁇》

 

「「イカさん‼︎」」

 

もう片方に乗っていたのは、高速艇を運転している、あのイカさんだった

 

《さぁ、着きますよ‼︎》

 

呉分遣基地が見えて来た

 

二隻の潜水艦は、きくづきを護る様にして、呉分遣基地の港に停泊した

 

子供達を降ろす前に、俺達は先に呉分遣基地に降りた

 

「ご無沙汰です」

 

「ありがとう。助かったよ」

 

隊長は呉さんと

 

「助かったよ。それに、いつも照月が…」

 

「気にしないで下さい。我々は、いつだって貴方がたの味方ですよ」

 

俺はイカさんと握手を交わす

 

「しかしまぁ…よくきくづきを修復出来ましたね…」

 

「礼なら、レイの妖精達に言ってくれ」

 

「レイだけに、ですか⁇」

 

「そう言う事」

 

隊長と呉さんは、イカさんに頭を下げる俺を見た

 

「それで、本題ですが…貴方がたがここに来たのは、きくづきの件だけでは無いハズです」

 

「あぁ…それなんだけどな…」

 

隊長が頭を掻いていると、きくづきから子供達が降りて来た

 

「うっはぁ〜‼︎リゾート地みたいだね‼︎」

 

「海が綺麗です‼︎」

 

きそとはっちゃんが、小さい子を連れて降りて来た

 

そして、呉さんとイカさんは目を疑う

 

「えいしゃんいた‼︎」

 

「だっこ‼︎」

 

ひとみといよは俺に抱っこをせびり、いつも通り両肩に乗って来る

 

「”セイレーン・システム”…だと⁇」



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135話 双子の記憶(3)

「何故あの双子が…」

 

「セイレーン・システム⁇」

 

「「あっ‼︎」」

 

二人の声に気付き、ひとみといよは俺の肩から飛び降りた

 

「きよましゃ‼︎」

 

「いっき‼︎」

 

どうやら二人は、呉さんとイカさんの事を覚えている様子で、飛び付こうと助走をつける

 

が、当の二人はジリジリと後退している

 

「そ、それ以上寄るんじゃない”セイレーン”‼︎頼むから言う事を聞いてくれ‼︎」

 

「”シレーヌ”‼︎来るんじゃない‼︎」

 

「き〜よ〜ま〜しゃ〜‼︎」

 

「い〜っ〜き〜‼︎」

 

ひとみといよが二人に飛び掛かる

 

呉さんとイカさんの時間がスローモーションになる

 

「う〜わ〜‼︎」

 

「や〜め〜ろ〜‼︎」

 

「えいっ‼︎」

 

「え〜い‼︎」

 

二人は無事、呉さんとイカさんにくっ付いた

 

「や、やめろ‼︎オシッコチビるから‼︎」

 

「シレーヌ‼︎離れな…ん⁇」

 

何かに気付いたイカさんは、お腹にくっ付いたひとみを抱き上げてみた

 

「…シレーヌ。君は本当にシレーヌなのか⁇」

 

「ひとみ」

 

「今はひとみと言うのか⁇」

 

「ひとみ」

 

ひとみは先程から、自分を”シレーヌ”と言うイカさんに、少し怒っている

 

「ひ〜」

 

「きよましゃ、やっぱりへたれ‼︎」

 

「やめてくれぇ〜」

 

頭を抱えてうずくまる呉さんを見て、いよは煽る様に背中に乗ってベッタリする

 

「二人を知ってるのか⁇」

 

「えぇ。詳しい事は中で話した方が良さそうです…」

 

「セイレーン‼︎頼むから離れてくれ‼︎」

 

「いや〜っ‼︎きよましゃへたれだもん‼︎」

 

「うぅっ…」

 

いよは呉さんのビビる姿が面白いのか、ずっと彼の傍に居る

 

「いよ、ごはん食べるか⁇」

 

「たべる‼︎」

 

俺が哺乳瓶をチラつかせると、いよはすぐに食らいつき、呉さんの背中から離れた

 

「んっ、ひとみもたべる〜」

 

「あ…あぁ…」

 

イカさんの手元で、ひとみが哺乳瓶を欲しそうに手を伸ばしている

 

「ほらっ」

 

ひとみはイカさんに抱かれた状態のまま哺乳瓶を持ち、中身を飲み始めた

 

「セイレーン・システムを手懐けたのか⁇」

 

声のする方を見ると、美しい銀髪を後頭部で大きなリボンで括った少女がいた

 

手には大きめの熊のぬいぐるみを抱いている

 

「来い。おと…提督が呼んでいる」

 

銀髪の少女に着いて行き、俺達は誰も居ない執務室に来た

 

「そこに掛けてくれ」

 

言われるがまま、四人はソファに腰掛けた

 

「客人は執務室に案内しておいた。今日は熊で話さない方が良い客人だ」

 

銀髪の少女が熊のぬいぐるみに話し掛けると、熊のぬいぐるみに付けられたリボンから声がした

 

《分かった。すぐに行くよ》

 

「腹痛が収まってからでいい。おと…提督の知り合いもいる」

 

《分かった。すぐに…あ°っ‼︎》

 

「はぁ…」

 

銀髪の少女はため息を吐き、ここの提督が座るであろう、高級な椅子に腰掛けた

 

「君がウィリアム大佐、彼はマーカス大尉だな。私は菊月だ」

 

「よろしくな」

 

「よく知ってるな⁇」

 

「横須賀の学校で教わった。それに、君達二人の勇姿はこの目で見た事がある」

 

「出撃の時にでも見たか⁇」

 

「いや…おと…提督は、私を出撃させた事は無い。私が見た事があるのは、反抗作戦の時だ」

 

俺と隊長が固まる

 

菊月は俺達を見た事があると言ったが、俺達は見た事は無い

 

「まっ、あの時と今では姿形が全く違うからな」

 

「…どう言う意味だ⁇」

 

隊長は気付いていないみたいだが、何となく分かった

 

「聞きたい事が二つある」

 

「なんだ⁇」

 

俺は太ももにヒジをつき、菊月の方を見た

 

「当時の乗組員が言っている、セイレーンとシレーヌのシステムについて教えてくれ」

 

「それは”お父さん”が来てからの方がわかるだろう」

 

(今さりげなくお父さんって言った‼︎)

 

(キツめの子だと思っていたが、見間違いだった様だな…)

 

(提督をお父さんと呼ぶのか…)

 

(照月ちゃんに呼ばれたい…)

 

それぞれが少し違う事を思う中、俺はもう一つの質問をした



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135話 双子の記憶(4)

「じゃあ、もう一つの質問だ。どうやって分離した」

 

「勘の良い男は嫌いだ…」

 

菊月は椅子を回転させ、窓の方に向いてしまった

 

「…セイレーン、シレーヌ。私が誰か分かるな⁇」

 

「きくづき‼︎」

 

「きくづき‼︎」

 

やはりひとみといよは、当時のきくづきの乗組員を覚えている

 

「私はあの艦…きくづきのAIだったんだ」

 

菊月は過去の話を少しだけしてくれた

 

菊月がまだきくづきだった頃…

 

彼女は戦闘補助のAIであり、今のひとみといよの監視AIでもあった

 

きくづきが爆撃を受け、乗組員が退艦していく中、艦長は敵に情報を奪われない様にする為、きくづきのAIを抜き取り、きくづきから脱出した

 

だが、当の二人はどうしても助け出す事が出来ず、二人を置いて逃げるしかなかったのだ

 

きくづきのAIは軍部に渡り、いつの日か忘れ去られるまで封印される事となった

 

そして数年後、きくづきは再び陽の目を見る事になる

 

今度は別の体、別の人生で…

 

「私が語れるのはここまでだな」

 

「なるほどな…」

 

「…」

 

一瞬きそと目が合ったが、何故かすぐに目を逸らした

 

「きそ⁇」

 

「まさかこんな所にいるとはね…」

 

「私は彼女…研究者のきそに、ボディを頂いた」

 

一同の視線がきそに行く

 

「黙ってるつもりは無かったんだよぉ‼︎」

 

「いや…全然怒っちゃいねぇけど…」

 

「褒められるべき事です」

 

「…きくづきは、僕が一番最初にAI分離を試したAIなんだ」

 

「お陰で体を得られた。感謝している」

 

「いやぁ〜、すまんすまん‼︎腹痛が収まらなくてな‼︎」

 

「お父さん‼︎」

 

執務室に入って来た小太りの提督に、菊月が抱き着き、たいほうが俺にそうする様に、菊月もまた一軸さんの肩に乗り、頭に掴まる

 

「おおっと‼︎ははは‼︎」

 

「いちじくしゃんら‼︎」

 

「いちじくしゃん‼︎」

 

どうやら彼がここの提督、一軸さんの様だ

 

「ほぅ⁉︎ほぅほぅほぅ‼︎私は夢でも見てるのかな⁉︎」

 

「お久し振りです”艦長”」

 

「清政。私はもう艦長じゃない、提督だよ提督」

 

「あぁ…はいっ、お久し振りです、一軸提督」

 

「ご無沙汰です、中将」

 

どう考えても呉さんの方が年下なのだが…

 

「「いちじくしゃん‼︎」」

 

「おぉ〜セイレーン‼︎シレーヌ‼︎」

 

いよは一軸さんの左足

 

ひとみは右足に乗る

 

「いよ‼︎」

 

「ひとみ‼︎」

 

「いよ⁇ひとみ⁇それが今の名前か⁇」

 

「そう‼︎」

 

「そう‼︎」

 

「貴方がウィリアム大佐、そしてマーカス大尉ですね⁇私は一軸と申します」

 

「よろしくな」

 

「よろしく。早速で悪いが、この二人の事について聞きたい。あぁ、タダとは言わないぜ⁇外のアレ、あんたにやるよ」

 

俺が親指で指した先にはきくづきが停泊している

 

「あれは…内部設備は生きているのか⁇」

 

一軸さんは驚いた目をしている

 

「ある程度は修復出来た。先に見るか⁇」

 

「あぁ。その方が説明も早い」

 

全員腰を上げ、きくづきへと向かう

 

 

 

 

きくづきに入ると、一軸さんはすぐに操舵室に入った

 

「懐かしいな…」

 

艦長を務めていた時にも触れたであろう場所に触れ、深く息を吐き、本題に切り替えた

 

「セイレーン・システムは、反攻作戦の際に使用された、プロトタイプの兵器だ」

 

「そこまでは何となく知ってる。片方が索敵、片方が攻撃だろ⁇」

 

「そう。セイレーン…今はいよ、だったかな⁇彼女が攻撃役、シレーヌ…今のひとみが索敵役だった」

 

「当時、此方側の兵器がほとんど無力化される中、セイレーン・システムを積んだこの艦だけ、敵に有効打を与えられたんだ」

 

「なるほどな…」

 

少し前に解析していたブラックボックスの中にもそれらしき音声は残っていたが、確信にはならなかった

 

「シレーヌが敵の弱点を見つけた後、セイレーンがそこに攻撃を当て、防御に穴を開ける。との寸法だったのだがなぁ…」

 

「艦長は嫌だったのですよね⁇年端のいかない少女を戦わせるのは」

 

「提督だよ。樹」

 

「はっ、提督」

 

先程のひとみといよ、そして一軸さんの話を聞いていると、イカさんの名前は”いつき”らしい

 

「提督は言っていましたね。あの二人を戦場に出した時点で、我々は何の為に戦っているのか分からなくなる…と」

 

「まぁな…特に二人は赤ん坊だったからな。それに、この子は頑張り屋だった。何隻かは航行不能に出来たんだが…」

 

一軸さんは窓の外を眺め、船の先っちょに座っているひとみといよを見た

 

相変わらずいよが突然何処かを指差しては、ひとみが反応し、何か話している

 

「心残りがあるとすれば、あの子達を置いて行ってしまった事だ」

 

「そんだけ後悔してりゃ、あの二人も許してくれるさ」

 

「嫌いなら三人の名前も覚えていないハズさ」

 

「だと良いのだが…」

 

一軸さんは下を向きながら帽子を直している

 

「まっ、あれだ。あの二人にはまたその内どっかで逢えるさ。その時、しっかり接してやりゃあそれでいいと思う」

 

「そこまで二人を大切に…樹、清政、いいな⁇」

 

「はっ、彼等なら任せて大丈夫かと」

 

「同感です」

 

一軸さんは二人の反応を見た後、脇に抱えていた一冊の手記を俺に渡した

 

「話すより見る方が早い。そこに全てが書いてある。会話記録から、戦闘方法までな」

 

「えいしゃんたらいま‼︎」

 

「かえってきた‼︎」

 

「んっ、おかえり」

 

タイミング良くひとみといよが帰って来た

 

「いよちゃん、ひとみちゃん」

 

一軸さんが膝を曲げて声を掛けると、ひとみもいよも一軸さんの方を見た

 

「二人はマーカスさんの事、好きかい⁇」

 

「すき‼︎」

 

「ひとみたちのぱぱ‼︎」

 

二人の答えを聞き、一軸さんはフッと笑う

 

「そっか、分かった。イタズラしちゃダメだぞ⁇」

 

「わかった‼︎」

 

「しない‼︎」

 

一軸さんは二人の頭を撫でた後、艦長が座るであろう椅子に腰掛けた

 

「もう少しここに居ていいか⁇久しぶりに感覚を取り戻したい」

 

「あぁ、約束だからな。きくづきは返すよ」

 

「ありがとう。二人を頼んだ」

 

「此方こそ」

 

ひとみといよを肩に乗せ、部屋から出ようとした

 

「いちじくしゃんばいばい‼︎」

 

「ばいばい‼︎またね‼︎」

 

いよは一軸さんにバイバイを

 

「いっきばいばい‼︎」

 

「ばいばい‼︎」

 

ひとみはイカさんにバイバイする

 

そして最後は…

 

「「じゃあな、きよましゃ‼︎」」

 

「うぐっ…ばっ、ばいばい‼︎」

 

どうも呉さんだけ舐められている

 

だが、何だかんだで好かれてはいる様だ

 

元クルーを残し、俺達はきくづきを出た



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135話 双子の記憶(5)

「なぁ…隊長…」

 

「皆まで言うな…」

 

二人共、頭の中に考えているのは一緒だ

 

「「帰りの足が無い‼︎」」

 

「言うと思ったわ‼︎」

 

声のした方を振り返ると、何故か腕を組んだ横須賀がいた

 

「お前、何でここに⁉︎」

 

「お嬢に頼まれたのよ。あの二人は海に疎いから、帰りの足まで考えて無いって。やっぱりじゃない‼︎」

 

「すまん…」

 

「言う通りだ…海には疎い」

 

「…何かいっぱい突っ込みたいけど…まぁいいわ。帰りましょう」

 

きくづきが停泊していた真裏側の港に着水していた二式大艇に乗り込み、俺達は帰路に着いた

 

俺は相変わらず操縦席に座る

 

だが、今日は副操縦席には横須賀がいる

 

しばらくコイツに運転を任せよう

 

「ちょっと任したぞ」

 

「なぁにそれ」

 

「これか⁇アンポンタンのお前には分からん代物さ」

 

「何よその言い方‼︎振り落とすわよ⁇」

 

俺はシートベルトを外し、横須賀の後ろに立った

 

「はいはい、前見て。お口閉じて。右手は操縦桿、左手は添える」

 

「アンタ教官⁇」

 

「ちゃんと運転しなきゃこいつはすぐに煙吹くんだよ‼︎」

 

忘れちゃいけない秋津洲謹製

 

「舌噛むぞ。お口は閉じて、ちゃんと前だけ見てろ」

 

「わ、分かってるわよ‼︎アンタに言われなく…」

 

横須賀が小煩い時はキスして口を閉ざすに限る

 

「任せたからな」

 

「あ…うん…」

 

顔が真っ赤になった横須賀を見て、再び操縦席に座る

 

横須賀は基地に着くまで終始黙ったまま、上手に二式大艇を操縦していた…

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどな…」

 

基地に着き、工廠にこもって手記を読んでいた

 

ひとみといよが三人の名前を覚えていたのは、当時カプセルの中に入っていた二人にかなりの頻度で話しかけていたからだ

 

そして、二人の特性も理解出来た

 

セイレーン・システム…

 

これは艦娘を戦場に出して使うのでは無く、きくづきの様なイージス艦に乗せ、同期して使うのが主な方法だ

 

ひとみは音響反射による索敵

 

何キロも先の敵の弱点が手に取る様に分かると書いてある

 

ひとみの特性により、きくづきの様なプレーンなイージス艦でもダメージを与えられたのだ

 

そしていよ

 

いよはひとみと同期し、一番打撃を与えられる武器を選択し、攻撃する

 

この手記によれば、いよは速射砲を好んで使っていた様だ

 

それとあと一つ

 

あのいよの行動だ

 

急に指をさすあの行動

 

あれはひとみと同期した位置データの方角を合わせていたのだ

 

指差しをする条件は二つ

 

・敵のいる方角を指差す

 

これは一度報告をしに来るらしい

 

・味方の接近

 

報告しない場合もあるが、報告の無い場合は緊急では無いので放置してよし

 

そう書いてある

 

ちゃんとコミュニケーションを取れば、危険では無いとようやく確証が得られた

 

取り越し苦労で良かった…

 

俺は手記を厳重な箱に入れ、タバコに火を点けた…

 

 

 

 

 

「マーカス君はどんどん成長していますね」

 

「えぇ、シスター…」



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136話 Twin Sister's(1)

さて、135話が終わりました

今回のお話は、数話前からちょくちょく出て来ていた謎の二人組が明らかになります

ひとみといよの挨拶の為、スカイラグーンに訪れたレイ、きそ、そしてひとみといよ

そこで待っていたのは、レイの知っている人物だった…


朝ごはんを食べ終えた後、大人グループがコーヒーを飲む時間が来る

 

たいほうと照月は食後の運動も兼ねてアイガモとおさんぽしている以外、他の子供達がテレビの前で遊び始めた

 

だが、ひとみといよだけは窓際に座り、外を眺め始めた

 

いつもなら子供達に混じって遊ぶハズなのに…

 

そしていつもの様に、急にいよが指を差す

 

だが、今日は違っていた

 

空ではなく水平線を指差している

 

が、報告して来ない所を見ると敵ではなさそうだ

 

「そう言えば、ひとみといよはスカイラグーンに行った事あったか⁇」

 

隊長の一言でふと気が付く

 

「まだないな…挨拶代わりに連れて行くか⁇」

 

「すかいらぐーん⁇」

 

「すかいらぐーんてなに⁉︎」

 

二人が反応を示した

 

「ごはん食べられる所さ。行きたいか⁇」

 

「いく‼︎」

 

「ひとみもいく‼︎」

 

「よしっ‼︎じゃあグラーフに言って、お着替えしておいで‼︎」

 

「わかた‼︎ぐらーふはよ‼︎」

 

「おきがえする‼︎」

 

二人は早く着替えようと、グラーフの至る所を引っ張る

 

「イタズラ娘はこうだ」

 

「うわー‼︎」

 

「うわー‼︎」

 

グラーフは両脇に二人を抱え、子供部屋に向かった

 

数分後…

 

「きがえたお‼︎」

 

「きがえた‼︎」

 

お気に入りの灰色のワンピースに着替えた二人が帰って来た

 

完全に見分けがつかない

 

「いいかオトン。左もみあげがひとみ。右もみあげがいよ」

 

グラーフは二人の長い方のもみあげを持ち上げる

 

「オトン言うな‼︎」

 

「レイはどう見てもオトン。分かったか」

 

「…はいはい。んじゃ行くぞ。きそ、行くぞ」

 

「オッケー」

 

ため息交じりで相槌を打った後、フィリップの格納庫に向かう

 

「えいしゃんのひこうき」

 

「ぐらーふのひこうき」

 

「そうだぞ〜。よいしょ…」

 

二人共色々覚え始めているな…

 

きそがフィリップに入った後、キャノピーが開き、タラップを登る

 

二人共俺の肩に乗ったまま器用にバランスを取り、俺の頭に掴まっている

 

いつもは横須賀や俺以外の人間が座る場所に二人を座らせ、シートベルトを巻く

 

ホントは危ないのだが、小さい子供二人だと丁度良い気もする

 

読者の皆は真似すんなよ⁇

 

「いいか⁇フィリップに乗ってる間は暴れちゃダメだぞ⁇悪い子はお空にポイしちゃうからな⁇」

 

「わかた‼︎」

 

「じっとする‼︎」

 

「んっ、良い子だ。ゆっくり運転するけど、安全の為にコレは付けとこうな」

 

二人のヘルメットを顔面に降ろす

 

こうなってしまうと、もみあげが無ければ本当にどちらか分からない

 

「さぁ、行こう‼︎」

 

「ばつびょ〜ん‼︎」

 

「ばつびょ〜‼︎」

 

二人が手を挙げたのをキャノピーの反射で見た後、フィリップはスカイラグーンに向けて飛んだ

 

「お〜」

 

「うみひろい〜」

 

ひとみもいよも空を飛ぶのが不思議な様で、水平線を眺めたり、飛んでいる海鳥に目を向けたりとキョロキョロしている

 

「えいしゃんのおしごろ」

 

「えいしゃんはぱいろっろ」

 

「そうだぞ。隊長もグラーフもパイロットなんだぞ〜」

 

「すごい‼︎」

 

「すごいすごい‼︎」

 

ヘルメットで表情は分からないが、声を聞いている限り嬉しそうだ

 

《レイも大変だね〜。今じゃ子沢山のオトンだ‼︎》

 

「お前まで言うか‼︎」

 

《しかも双子ちゃんが二組と来た》

 

「お前含めて、俺の子供である事に違いはないよ」

 

《へへへ…ありがと》

 

「きそしゃんら‼︎」

 

「きそしゃんどこ⁇」

 

《いよちゃんもひとみちゃんも僕からは良く見えるよ〜⁇》

 

「こあい〜‼︎」

 

「きそしゃんこあい〜‼︎」

 

《ふふふ…》

 

フィリップもといきそも、子供の扱いが上手い

 

俺が見ている限り、きそはたいほうの面倒を見てくれていたり、二人が来てからも何だかんだで見張ってくれている

 

ただ、この二人はどうやら霞に懐いている様だ

 

多分、ごはんを作ってくれるからだろう

 

しばらく操縦を続けていると、二人は何かに気付いた

 

「えいしゃんのにおいじゃないお⁇」

 

二人は座っている椅子を、座ったままクンクン匂い始めた

 

「あ〜しゃんのにおい⁇」

 

「あ〜しゃんのにおいちがう。でもにてる」

 

「きっとあ〜ちゃんのお母さんの匂いだな」

 

「あ〜しゃんのおかあしゃん⁇」

 

「そっ。あ〜ちゃんとい〜ちゃんのお母さんだな」

 

二人は何故か「おぉ〜」と言う

 

「あ〜しゃんのおとうしゃんはだえ⁇」

 

「俺だよ」

 

「えいしゃんころもいっぱい‼︎」

 

俺はふと気になった

 

一軸さんの一件から聞いていない事だ

 

《ひとみちゃんといよちゃんのお父さんはだ〜れだ‼︎》

 

フィリップが言ってくれた

 

「えいしゃん‼︎」

 

「えいしゃん‼︎」

 

俺は心の中で安堵の息を漏らした

 

「一軸さんとか、呉さんイカさんは⁇」

 

「いちじくしゃんはかんちょ〜。おとうしゃんちがう」

 

「いっきはおともらち」

 

「呉さんは⁇」

 

二人は同時に答えた

 

「「 きよましゃはへたれ‼︎」」



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136話 Twin Sister's(2)

《あはは…あの人も大変だね…》

 

二人の呉さんの認識はヘタレな様だ

 

 

 

 

スカイラグーンに着き、二人のヘルメットを上げる

 

「えいしゃんすごいお‼︎」

 

「えいしゃんはやいお‼︎」

 

キャッキャキャッキャ騒ぐ二人を肩に乗せ、またタラップを降りる

 

「ホントにオトンみたいだね」

 

「お前は帰りな⁇」

 

「へへへ、やったね‼︎」

 

三人を引き連れ、喫茶ルームの扉を開く

 

ドアに付けられたベルがカランコロンと鳴り、ひとみといよはそれに目が行く

 

「からん」

 

「ころん」

 

「カランコロンだな」

 

「変な事教えたら、またローマに怒られるよ⁇」

 

「そん時は俺が怒られればいいさっ。コーラ下さい」

 

「僕はヨーグルトドリンク‼︎」

 

「はいっ。少々お待ちを‼︎」

 

扶桑さんにコーラを注文し、今日は定位置であるカウンター席に座らず、ソファの席に座り、俺ときそでひとみといよを挟む

 

潮が此方に来た

 

「それはなんだ」

 

「ほらっ、自己紹介は⁇」

 

「ひとみ‼︎」

 

「いよ‼︎」

 

「レイも盛んだな。しかもまた双子ちゃんだ」

 

「違っ」

 

「ふふっ、マーカスさんもお盛んですねぇ。はいっ」

 

コーラを渡され、三分の一程を飲む

 

「ったく。隊長にも言われたよ…」

 

「いよにもちょうらい‼︎」

 

「ひとみものむ‼︎」

 

ひとみは俺のコーラ

 

いよはきそのヨーグルトドリンクに手を伸ばす

 

「ちょっと待ってね。何飲みたい⁇」

 

きそは二人の前にメニューを広げた

 

「りんごじゅーす‼︎」

 

「おえんじじゅーす‼︎」

 

「じゃあそれを。あぁ、コレに淹れてくれ」

 

俺は潮に哺乳瓶を二つ渡す

 

潮はそれを手に取り、厨房に戻って行った

 

コーラを飲みながら二人の飲み物を待っていると、いよは急に指を差した

 

俺もきそもひとみも、その方向に目が行く

 

そこには修道服を来た女性が二人、コーヒーを飲んでいた

 

「…いよ。あの人は悪い奴か」

 

「わかんない…さっき、うみのうえにいた」

 

基地を出る前、いよは水平線を指差していた

 

どうやらあの二人組が居た様だ

 

「出来たぞ。果汁100パーセントだ」

 

「いたあきます‼︎」

 

「いたあきます‼︎」

 

二人は美味しそうに哺乳瓶の中を飲み始めた

 

「きそ、ちょっと一服して来るから、二人を頼むぞ」

 

「うん、分かった」

 

席を離れ、歩きながら内ポケットからタバコとライターを出す

 

歩きながら、何の気なしに二人組を見た

 

顔は修道服で隠れているが、俺の顔を見るなり何か言っている

 

俺は不信感を抱きながら、喫煙スペースがある外に出た

 

タバコに火を点け、下にある滑走路を見渡す

 

「あまりここで騒ぎを起こしたくないんだがな…」

 

タバコを咥えたまま、腰に挿したピストルに手を掛ける

 

「動くな」

 

振り返ったと同時にピストルを抜き、先程の修道服の二人組に向けた

 

「勘付かないとでも思ったか⁇」

 

足音を合わせてまで、何故か着いて来た二人に更に不信感は強まる

 

「私達、貴方に用があって来たのです」

 

「ならコソコソ動くのは止めるんだな。依頼なら面と向かって話せば、ある程度は聞いてやる」

 

「分かりました…」

 

二人組は頭に被っていた布を取る

 

顔が露わになると、俺はピストルを腰に戻した

 

「やっぱアンタか…」

 

「大きくなりましたね、マーカス君」

 

「シスター…」

 

俺は二人を知っていた

 

ベルリンの孤児院にいた時、世話をしてくれたシスターだ

 

そして、俺をスパイに育て上げた人達でもある

 

緑髮に、口元のホクロが色っぽいシスターが、シスター・グリーン

 

ピンク色の髪の毛で、口が半開きなのが、シスター・ヌードル

 

この二人が来たという事は、余程俺に用があるみたいだ

 

「要件はなんだ⁇」

 

「まずは再会を祝福すべきではなくて⁇」

 

「久しぶりだな。んで、要件は⁇」

 

「シスター・グリーン。早めに要件を言った方が良さそうです」

 

シスター・ヌードルがそう言うと、シスター・グリーンは俺の目を見つめた

 

「マーカス君。ベルリンに戻って頂けませんか⁇」

 

「断る。俺は今のままでいい」

 

「ほほぅ…なら、コレを広められても良いのですね⁇」

 

シスター・グリーンは胸元から丸めた紙を出し、それを広げた

 

「なんだそれ」

 

「え〜と、どれから言おうかしら…」

 

「シスター・グリーンの項目からで良いかと」

 

「ふふっ、そうね。シスター・グリーン12回」

 

「12回⁇」

 

「グラーフ・ツェッペリン58回」

 

「ほらほらマーカス君。このままではシスター・グリーンを止められませんよ⁇」

 

「ジェミニ・コレット146回」

 

「待て、何の回数だ⁇」

 

「マーカス君が夜中に自慰行為をした回数でし」

 

「オーケー…殺してでも奪い取る‼︎」

 

俺はシスター二人に襲い掛かった‼︎



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136話 Twin Sister's(3)

15分後…

 

「ったく…いい年なんだから暴れんなよ…」

 

「まだよ‼︎奪えるなら奪ってみなさい‼︎」

 

「ちっ」

 

俺はシスター・グリーンの胸元に手を突っ込み、書類を抜き出した

 

「変態‼︎」

 

「次言ってみろ。本気で弾くからな⁉︎」

 

「まぁまぁ、喧嘩はその辺にして…マーカス君、ベルリンに帰る気は本当にありませんか⁇」

 

「無いって言ってんだろ‼︎今幸せなんだよ‼︎」

 

「…じゃあ、子供達がどうなっても良いのですね⁇」

 

「…もう一度言ってみろ」

 

シスター・グリーンの言葉に怒りを覚えた

 

育ててくれた事には、とても感謝している

 

だが、俺をスパイに仕立て上げ、利用したのも彼女だ

 

「確かに貴方は幸せそう。それは分かるわ。ここ最近を監視させて貰ったからね」

 

「…」

 

「でも、私達は貴方が必要なの」

 

「断ると言ってる」

 

「マーカス君、冷たくなったわね」

 

「子供達に手を出す奴の言う事に耳を貸すつもりは無い。帰ってくれ‼︎」

 

「貴方そんな子じゃなかっ…‼︎」

 

俺はシスター・グリーンの首を掴み、口にピストルにをねじ込んだ

 

「…俺とアレンを利用したのは誰だ‼︎」

 

「ご…ごえんなはい…」

 

「顔を見せたら子供達に手を出すだ⁉︎ふざけんじゃねぇ‼︎俺の娘に手ェ出して見ろ。アンタら八つ裂きどころじゃ済まねぇぞ⁉︎」

 

「マーカス君、何か勘違いしてませんか⁉︎」

 

「お前も一緒だ‼︎」

 

シスター・ヌードルに顔を向け、睨み付ける

 

「マーカス君、とにかく離してくだし。話ましから」

 

「…チッ」

 

シスター・グリーンを離し、床に倒す

 

「マーカス君…利用したのは謝るわ…」

 

シスター・グリーンは咳き込みながら、手をスリスリする

 

「アンタらを見る度、俺は世に神は居ないと実感するよ…」

 

ピストルを仕舞い、壁にもたれて

もう一度タバコに火を点けた

 

「仕方ねぇ。答えは一緒だろうが、一応聞いてやるよ」

 

「ありがとう、マーカス君。さっ、シスター・グリーン」

 

「えぇ…実は、孤児院がいっぱいになって、先生が必要になったの」

 

「それで俺が⁇」

 

「えぇ。マーカス君なら、学校の先生の免許持ってるし、尚且つ医師免許も持ってるからうってつけなの」

 

「…孤児院の子供は何人いる」

 

「何十人といるわ。親がいない子、捨てられた子…理由は様々よ」

 

「子供達を引き取れば問題無いか⁇」

 

俺がそう言うと、二人の目が輝いた

 

「マーカス君…」

 

「ただし、条件がある」

 

「聞くわ」

 

「条件は三つ。一つは、コレは根本的な解決じゃないから、向こうには新しいお目付役を雇って、向こうは向こうで孤児院を続けろ」

 

「それって…」

 

「まぁ聞け。んで、二つ目。アンタら二人は、二度と子供達を利用しないと誓え」

 

「えぇ、神に誓うわ」

 

「神じゃなくて、俺に誓え‼︎」

 

「ち、誓うでし‼︎」

 

「まぁ…その神への信仰は続けろ。俺は信じてないが、神でも信じなきゃ、生きてけない連中が山程居る。そいつらを救ってやってくれ」

 

「分かったわ。私達がこっちに来ればいいのね⁇」

 

「そうだ。俺が横須賀に頼んでやる。教会と、住む所位はすぐに出来んだろ」

 

「マーカス君…」

 

「ありがとうございます…」

 

二人は膝をつき、俺に手を合わせる

 

「祈るな。祈る前に俺を見ろ」

 

「はい…」

 

「はい…」

 

「ったく…今から横須賀に飛ぶから、喫茶ルームに居る子供達の面倒、頼むぞ」

 

「気をつけてね」

 

「気をつけてくだし」

 

喫茶ルームに戻ると、きそにひとみといよがくっ付いていた

 

「えいしゃんきたお‼︎」

 

「えいしゃんきた‼︎」

 

「ちょっときそとお出掛けして来るから、この美人なお姉さんと遊んでてくれるか⁇」

 

「わかた‼︎」

 

「はよかえってこいお‼︎」

 

「分かった分かった。じゃ、頼んだぞ」

 

俺はシスター二人の肩を掴み、耳打ちした

 

「…いらん事教えんなよ。吹っ飛ばすからな」

 

「え…えぇ、勿論よ」

 

「だ、大丈夫でし…」

 

「扶桑さん、子供達を頼みます」

 

「畏まりました。お気をつけて‼︎」

 

「イってこイ」

 

きそと一緒に、喫茶ルームを出る

 

「レイ、どこ行く…うわぁ‼︎」

 

喫茶ルームを出た瞬間、きその腰を掴み、肩に乗せた

 

「うはは‼︎肩車だ‼︎」

 

「約束だろ⁇横須賀に飛ぶ。あのシスター二人が、教会を造って欲しいんだと」

 

「レイは神様信じてないんでしょ⁇」

 

「まぁな。祈るなら見えない連中より、俺は目先の信頼出来る人間に祈るね」

 

「レイらしいね」

 

きそがフィリップに入り、俺もフィリップに乗る

 

《レイ、ありがとうね。楽しかったよ‼︎》

 

「またしてやるからな」

 

フィリップは横須賀を目指して、スカイラグーンを飛び立った



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136話 Twin Sister's(4)

横須賀に着き、早速横須賀が居る執務室を目指す

 

今日は真面目な相談なので、ノックをする

 

「俺だ」

 

「開いてるわよ」

 

執務室に入ると、横須賀はホームシアターで恋愛映画を見ていた

 

「またふっるい映画を…」

 

横須賀が見ていたのは、隊長達が若い時にやっていた映画だ

 

横須賀はホームシアターを切り、体勢を立て直した

 

「珍しいわね。アンタが蹴りで扉を開けないなんて」

 

「横須賀に空き地はあるか⁇」

 

「あるわ。学校の横と、広場の近くに一区画あるわ」

 

「教会を建ててくれないか⁇」

 

「ん〜…そうね。確かに信仰も必要よね。良いわよ。て言うか、神様信じないアンタが教会⁇」

 

「どうしても救わなきゃならない人が居るんだ…」

 

俺は横須賀に話した

 

横須賀は俺の上司だし、こう見えて夫婦なので、ある程度の事は知っていた

 

「えぇ、良いわよ。教会も、孤児も引き取ってあげる」

 

「すまん。助かる」

 

俺は”珍しく”横須賀に頭を下げた

 

「な、何よ…頭下げないでよ…気持ち悪いわね…」

 

「今度、飯奢ってやるからな」

 

「メッチャ高いのじゃなきゃダメよ⁉︎そうね…照月ちゃんと回らないお寿司とか⁉︎」

 

「ふっざけんな‼︎」

 

「そっ。アンタはそれでいいの」

 

横須賀は俺に顔を近付けた

 

「アンタはそうやって、私にいっぱい当たってくれればいいの。私はそんなアンタに答えてあげるわ…」

 

横須賀に言い寄られ、あぁ、やはり自分の妻になる人間はコイツしか居ないと実感する

 

「それとそのシスターだっけ⁇しばらくは此処で暮らす様に言っておいて。行く所無いんでしょ⁇」

 

「あぁ…」

 

「施設が出来るまで、部屋を貸してあげるわ」

 

「…すまん」

 

「次ヘタれた顔したら引っ叩くわよ⁇」

 

「分かったよバーカ‼︎」

 

「このマヌケ‼︎分かったらサッサと帰りなさい‼︎」

 

「じゃあな‼︎」

 

「じゃあなっ‼︎」

 

普段離れ離れで暮らしている為か、逢えるとなると、二人共嬉しい

 

だからこそ、いつまでも仲の良いままでいられるのかも知れない…

 

横須賀を発ち、俺達はスカイラグーンへと戻る

 

 

 

喫茶ルームに戻って来ると、シスター二人の膝の上に、ひとみといよがいた

 

「あっ‼︎えいしゃんおかえり‼︎」

 

「おかえり‼︎」

 

ひとみといよが跳ねるかの様に俺の所に来た

 

俺はそれを抱き上げ、定位置である肩に乗せる

 

「二人共横須賀に向かえ。話はつけた。後は横須賀に聞け」

 

「マーカス君っ…ありがとうございますっ‼︎」

 

「助かりまし‼︎」

 

シスター二人の抱き着き攻撃も受ける

 

「えいしゃんすごいお‼︎」

 

「えいしゃんもてもて‼︎」

 

「あ…」

 

きそはレイの余す所無く抱き着かれているのを見て、一歩引いた…

 

「扶桑さん、お世話かけました」

 

「いえいえ‼︎とても大人しかったですよ⁇流石はマーカスさんの娘さんですね⁉︎」

 

「またこイよ」

 

「あぁ。じゃあな」

 

挨拶とお礼を済ませ、喫茶ルームを出た

 

シスター二人を高速艇に詰めた後、俺はひとみといよを行きと同じく助手席に座らせ、シートベルトを締め、ヘルメットを降ろした

 

「おうちかえる」

 

「おなかすいた」

 

「そうだな。貴子さんのごはん食べような⁇」

 

「うん‼︎ばつびょ〜ん‼︎」

 

「ばつびょお〜‼︎」

 

スカイラグーンを後にし、俺達は帰路に着いた

 

 

 

 

基地に着くと、ひとみといよは貴子さんに抱かれて、先にごはんを食べる事になった

 

俺は一服する為、パソコンの前に座った

 

「お疲れ様、レイ」

 

きそが来た

 

俺はきそを見るなり立ち上がり、きそを抱き寄せた

 

「な、何⁉︎どうしたのさ⁇」

 

「さっき忘れたからな…」

 

「あっ…」

 

きそは俺の背中に回した手で、俺の服を握り締めた

 

「ありがと、レイ」

 

「すまんな…」

 

「大丈夫だよ‼︎僕は子供達に囲まれてる方が好きなんだ‼︎」

 

「そっか…お前が相棒で良かったよ」

 

「ダメだよ‼︎アレンさんみたいにレイは死亡フラグブレイカーじゃないんだから‼︎レイが死んだら読者の皆が悲しむよ‼︎」

 

「…だよなっ‼︎」

 

「そうだよぉ‼︎レイは笑ってなきゃ‼︎」

 

きそは俺が思っている以上に気丈だ

 

俺はシスター二人にベルリンに戻れと言われた時、子供を盾にされたと勘違いし、心の奥底で”戻ろう”と思ってしまっていた

 

食堂に戻り、いつも通りごはんを食べ、またいつもの時間が流れる…

 

やっぱ、俺はこっちの方が幸せだな…

 

なら、今日はもう少し実感しようか…

 

子供達が貴子さんとグラーフと風呂に入り、部屋に残されたのはローマと隊長と俺。そして母さんだけになった

 

母さんはソファに座ってテレビを見ている

 

俺はそんな母さんの膝の上に頭を降ろしてみた

 

「マーカス⁇」

 

「しばらくこうさせてくれ…」

 

「ふふっ…」

 

母さんが柔らかく俺の頭を撫でる

 

母さんの太ももは温かくて柔らかくて、とても寝やすい

 

横須賀の太い足とはまた違う柔らかさだ

 

「珍しいわね…レイが甘えるなんて」

 

「男は皆そうさ。元来甘えん坊なんだよ」

 

隊長とローマが俺の話をしている中、俺は母さんに撫でられながら、まどろみの誘惑に負けた…

 

「おやすみなさい、マーカス。よく頑張ったわね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「えいしゃん‼︎あたまふいて‼︎」

 

「あたまふいて‼︎」

 

「しー…」

 

私はマーカスを膝の上に寝かせながら、お風呂から上がって来た双子の髪の毛をタオルで拭いた

 

「…えいしゃんねんね⁇」

 

「…えいしゃんつかえた⁇」

 

「そうよ…マーカスもお疲れなの」

 

「あ〜っ‼︎お兄ちゃん甘えん坊さんしてる〜‼︎」

 

一番ウルサイのが来た

 

だけど、マーカスはそんな事も気にせず、幸せそうに寝息を立てている

 

「テルツキ。貴方はレイにして貰った事ある⁇」

 

「ある‼︎お兄ちゃん、照月達にいっつもしてくれるんだぁ‼︎」

 

「マーカスもして欲しかったのよ…」

 

「うわぁ〜。メッチャ珍しい…」

 

キソも来た

 

マーカス、貴方が居る所に皆集まって来るのね

 

貴方がどれだけの愛を与えてるのか、この子達を見ていると良く分かるわ…

 

ごめんなさい、マーカス…

 

貴方に愛を与えられなくて…

 

お母さん、もう何処にも行かないからね⁇

 

「やっぱ行かなくて良かったよ…」

 

「マーカス⁇」

 

マーカスはいつの間にか目を覚ましていた

 

「今日、俺を育ててくれた人に会った」

 

「そう…」

 

「ベルリンに戻れと言われた」

 

「…行くの⁇」

 

「行く訳無いだろ⁉︎こんな泣き虫な母さん置いて行けるか‼︎」

 

「マーカスっ‼︎」

 

「さっ‼︎俺も風呂入ろっと‼︎母さん、また頼む」

 

「え、えぇ‼︎勿論よ‼︎いつでもいらっしゃい‼︎」

 

マーカスは笑顔のまま、お風呂へ向かって行った

 

私はそんなマーカスを見て、より一層愛おしく感じる様になった…

 




シスター・グリーン…色気ムンムンシスター

ベルリンの孤児院で、レイとアレンの面倒を見ていた二人のシスターの内の一人

緑色の髪を三つ編みに纏め、口元のホクロがセクシー。だが身長が小さく、レイにいとも簡単に抱き上げられてしまう

でもレイより一回り年上

レイにスパイ技術を教えたのは彼女

因みにレイは彼女の事を何度かオカズにしている





シスター・ヌードル…ポケポケシスター

シスター・グリーンの横にいる、ピンク髪のシスター

語尾に”でし”が多い

何故かいつも取っ手が付いた缶を持っているし、何故かいつも服の何処かにチョコレートが付いている

ボーッとしている事が多く、常に口は半開きになっている


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137話 地獄の業火(1)

さて、136話が終わりました

え〜…

今回のお話ですが…

とても言いにくいのですが…

何かと何かが壊れます




バーズ・シャングリラが再建され、ようやく使える様になった

 

今日は開幕式があり、俺はきそ、隊長はたいほうを連れ、式にやって来た

 

「綺麗な基地になったこと」

 

「ここは補給基地になるらしい。より遠方に支援に向かえる様になる。忙しくなるぞ」

 

「俺達に仕事がある内はっ…平和にはならんさ」

 

隊長の話を聞きながら、たいほうと一緒に足元にいたアリの行列を木の枝で妨害して遊ぶ

 

「オトンは一体何をしてるんだ…」

 

「アタイもする‼︎」

 

磯風と朝霜も来た

 

朝霜は俺達と共にアリの妨害工作をし始めるが、磯風は隊長の所にいる

 

「おじ様、新配備された機体の所へご案内します」

 

「んっ。助かる」

 

「レイ、僕も行って来るね⁇」

 

「頼んだぞ〜。揉めてたら言え〜」

 

俺はあまり乗り気ではなかった

 

理由は、今まさに横須賀があいてしている人間共だ

 

「何故あれを世に出した⁉︎」

 

「我々に必要だったからです」

 

俺は老人が大の苦手だ

 

自己中心的だし、自分達がこんな世界にした事に気付いていない

 

老人共は良いよな

 

国の行く末をひっちゃかめっちゃか掻き乱してこんな世にしたのに、自分達は高みの見物…

 

良いご身分だ

 

「あれはただ人を殺す為のクズ鉄だぞ‼︎」

 

「それは…」

 

「たいほう、ちょっとここで待ってるんだぞ⁇朝霜もな⁇」

 

「わかった‼︎」

 

「行ってら〜」

 

二人はアリで遊ばせ、俺は横須賀のいる場所に向かう

 

「聞き捨てならん言葉を聞いたな」

 

「レイ…」

 

横須賀は見るからにシュンとしている

 

老人はザッと見積もって5人程

 

元気そうな奴もいれば、車椅子に乗ったヨボヨボの奴もいる

 

「まず聞きたいんだが、あれとは震電の事か」

 

「そうだ。何故今更あれを世に出したかと聞いている‼︎」

 

「何故出しちゃいけない⁇そんな事誰が決めた⁇」

 

「あれは人を殺す為のクズ鉄だぞ‼︎」

 

「震電がか⁇」

 

「そうだ」

 

その言葉を聴いて、今すぐぶん殴ってやろうと思い、左腕を上げようとした

 

だが、上げようとした寸前で横須賀が腕を絡めて来たので、それは防がれた

 

「アンタラの時代は確かにそうだっただろうな。だがな、あの子は違う。お前等クズを護る為に産まれて来たんだよ」

 

「なんだと…」

 

「感謝しろよ。お前等クズが使い熟せなかったあの子を、俺達がもう一度育ててるんだ。それとな…」

 

俺は一番噛み付いて来た老人の肩を叩いた後、そこに手を置き、耳に口を近付けた

 

「次俺の”娘”にクズ鉄とか言ってみろ。俺ぁ気が短いぜ…」

 

もう一度老人の肩を叩き、その場を離れた

 

「ちょ、ちょっとレイ‼︎」

 

老人共を掻き分け、横須賀が駆け寄って来た

 

「…何であんなモン呼んだ⁇」

 

「仕方無いじゃない。元ここの基地所属だったらしいのよ…」

 

話しながら震電が格納されている場所へ来た

 

「震電は良い機体だ。造り直した俺が言う。アイツ等のオリジナルとは格が違う」

 

「分かってる…分かってるわ…」

 

「それに、この子達に乗るのは若い連中だ。老人ホームで日に三食のうのうと食ってる奴じゃない」

 

「レイってさ、航空機の事機械扱いしないよね⁇」

 

いつの間にか隊長と一緒に居たきそがいた

 

「レイはそれほど、戦闘機に愛情を注いでるんだよ」

 

「オトンはそこだけは良い奴だな」

 

隊長と磯風も来た

 

「俺の人生を大きく変えてくれたんだ。その感謝の意だよ」

 

その時その場に居た全員が、哀愁漂う背中で、自分が生まれ変わらせた震電を愛おしそうに撫でるレイを忘れる事は無いと語る…

 

 

 

 

「あっ‼︎そうだレイ、教会と宿泊施設が完成したわ‼︎」

 

「孤児の子達を頼んだぞ…」

 

俺は横須賀の言葉を流し、下を向いて震電の場所から離れた

 

「あっちゃあ〜…メッチャ怒ってるぅ〜」

 

きそは後頭部を掻きながら、震電を離れて行くレイを見る

 

「…さっき、老人をなぐろうとしたの」

 

「まぁ…怒る様な事言ったんでしょ⁇」

 

「その時、レイが深海化しかけたのよ…」

 

「え…それって…」

 

その場に居た横須賀以外の血の気が引く

 

レイが深海化して暴れ始めたら歯止めが効かない

 

今まで子供達や横須賀が居たから、何とか最小限に抑えられて来たのだ

 

そんな事を考えていたその時、最悪の事故が起きた

 

「うわっ‼︎何⁉︎」

 

「滑走路の方よ‼︎」

 

滑走路の方で大きな爆発が起きた

 

「え…」

 

「嘘だろ…」

 

爆発していたのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィリップだった



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137話 地獄の業火(2)

「こんな物があるから‼︎世界は平和にはならんのだ‼︎ははははは‼︎」

 

「何て事を…」

 

先程レイに噛み付いていた老人が、基地内の爆薬を使い、フィリップを破壊してしまった

 

「レイ‼︎」

 

「ダメだよ‼︎今行ったら危ない‼︎」

 

きそはレイの所に行こうとした横須賀を引き留める

 

余程爆薬が多かったのか、火の手はたいほう達の所にも広がる

 

「うぇ〜〜〜〜〜ん‼︎すてぃんぐれい‼︎パパ〜‼︎たすけて〜〜〜‼︎」

 

「うわ〜〜〜〜〜ん‼︎お父さ〜〜〜ん‼︎」

 

火の中からたいほうと朝霜の声が聞こえた

 

「あっついよーーーーー‼︎」

 

「お父さーーーーーん‼︎」

 

「たいほう‼︎朝霜‼︎待ってろ‼︎」

 

二人の泣き声が聞こえてすぐ、隊長が火へと向かう

 

「あぁっ‼︎」

 

「うわぁ‼︎」

 

その悲鳴を最後に、二人の泣き声が止んだ

 

「たい…ほう…」

 

隊長はその場に膝を落とした

 

目の前で娘が、老人の身勝手で二人も死んでしまったのだ

 

「うぅっ…すまない‼︎」

 

「パパ‼︎」

 

「たいほう⁉︎」

 

何故か目の前にたいほうが居る

 

隊長はたいほうを見るなり抱き締めた

 

俺はそんな二人を見て、抱えていた朝霜を降ろし、背中を押した

 

「…イクンダ」

 

「…お父さん⁇」

 

「レイ、お前…」

 

「タイチョウ。オレガイマカラスルコト、コドモタチニミセナイデクレ」

 

「分かった。行こう」

 

俺はフィリップを破壊された怒りと、子供達に被害が及んだ怒りにより、深海化してしまっていた

 

お陰でたいほうと朝霜を助ける事は出来た

 

隊長達が安全な場所に避難して行く所に、老人共は固まって存在していた

 

俺はゆっくりと老人共が固まっている場所へと歩んで行く

 

「オマエラ…カクゴハデキテルンダロウナ」

 

「このバケモンが‼︎さっさとこの世から消えろ‼︎」

 

老人の一人が石を投げて来た

 

俺はその石を掴み、瞬時に石を投げた老人に投げ返した

 

老人の動きが一瞬止まり、ガクンと首が落ちる

 

石は老人の眉間を貫通し、完全に死に至らしめていた

 

「ば…バケモン‼︎」

 

残った四人の老人は、蜘蛛の子散らす様に逃げ出し始めた

 

老人はこれだから嫌いだ

 

見ろよ、ついさっきまで車椅子に乗ってた老人が必死こいて両足で走り回ってる

 

俺は一人を掴み、首を180°捻り、断末魔を叫ぶ暇すら無く、地べたに落とす

 

次に捕まえた老人は、喉元に噛み付き、一撃で仕留め、地べたに落とす

 

残り二人

 

「く、来るんじゃない‼︎」

 

「見ろ‼︎君達‼︎バケモノだぞ‼︎」

 

「ひぃぃ…」

 

残った二人の内一人が、逃げ遅れた子供を盾にし始めた

 

老人共に盾にされたのは山風だ

 

「クズドモガ…」

 

「マーカスさん…助けてぇ…」

 

あまりにもビックリしたのか、山風は漏らしてしまっていた

 

俺は一瞬で山風に近付き、老人の手から連れ戻した

 

「コノコハカエシテモラウ」

 

「マーカスさん…ありがと…ありがとう…」

 

「モウダイジョウブダ…」

 

山風を隅にやり、俺は再び老人共に目をやる

 

「マズハオマエダ…」

 

山風を人質に取っていた老人の首を掴み、力を入れて握る

 

白目を向いて息をしなくなるまで、それ程かからなかった

 

「サイゴハオマエダ。カンタンニシネルトオモウナヨ…」

 

「助けてくれぃ‼︎頼む‼︎後生じゃ‼︎」

 

最後の老人の頭を掴み、一度持ち上げる

 

「ソノコトバ…オレァナンゼンナンマントサケンダケド…オマエラハタスケテクレナカッタヨ…ナッ‼︎」

 

一気に床に顔面を叩きつけ、老人は悲鳴を上げる

 

「ぐぎゃあ‼︎」

 

「イタイカ⁇イタイダロウナッ‼︎」

 

老人の腕を折り、何度も何度もコンクリートの床に顔面を叩きつける

 

「アァッ‼︎イテェカ⁉︎コドモタチハモットイテェンダゾ‼︎」

 

数十回叩きつけ、老人は既に事切れていた

 

だが、それでも止めない

 

「ハハハハハハ‼︎シネ‼︎シネシネシネ‼︎クタバレクタバレクタバレ‼︎」

 

 

 

 

 

「横須賀さん‼︎レイはもう限界だよぉ‼︎」

 

「分かったわ…」

 

横須賀は腰に挿していたピストルに一発、弾を込めた

 

そして、レイ目掛けて引き金を引いた

 

「グァッ…」

 

レイの後頭部に当たり、レイはその場に倒れた

 

「うわっ‼︎しまった‼︎」

 

「どこ狙ってるのさ‼︎ヘッドショットじゃんか‼︎」

 

「麻酔弾だから大丈夫よ‼︎レイをスカイラグーンに搬送するわ‼︎担架用意して‼︎」

 

レイはスカイラグーンに搬送され、露天風呂に浸けられた

 

「私が付き添うわ」

 

横須賀さんは服を脱ぎ、レイが溺れない様に抱き寄せながら露天風呂に浸かる

 

皆が心配する中、数時間後、レイは目を覚ました

 

「もう大丈夫よ…」

 

横須賀さんはレイの顔を掴んで顔を近付ける

 

「あ…あぁ…」

 

レイは湯船から立ち上がり、脱衣所に向かった

 

横須賀さんも湯船から上がり、レイの背後を着いて行く

 

「ホラッ、ちゃんと着替えてっ‼︎みんな待ってるわよ」

 

横須賀さんはレイに服を渡し、レイはそれに着替える

 

「みん、な…⁇」

 

「そうよ。みんな心配してるわ」

 

「あっ‼︎起きた‼︎」

 

僕はようやく起きたレイに抱き着いた

 

「…離せ」

 

「心配したよぉ〜‼︎」

 

「離せと言ってる」

 

「え…」

 

ふとレイの顔を見ると、本気の目をしているのに気が付いた

 

「れ…レイ⁇」

 

レイが何だか他人の様な気がする

 

「ちょっとレイ…」

 

レイは僕を引き剥がした後、脱衣所から出て行ってしまった

 

僕は横須賀さんと顔を見合わせ、首を傾げた後、レイを追って脱衣所を出た

 

喫茶ルームに戻ると、みんなから安堵の息が漏れた

 

「レイ‼︎心配したぞ‼︎」

 

「すてぃんぐれい、もうだいじょうぶ⁇」

 

「あ…あぁ…」

 

やっぱりレイの様子がおかしい

 

いつもの様にたいほうちゃんが足元にくっ付いても、抱き上げようとしない

 

「離してくれるか」

 

「だっこして⁇」

 

「あの人にして貰え」

 

「すてぃんぐれいがいいの‼︎」

 

「レイ…⁇」

 

レイの復活を歓喜していた一同が、一気に不安に駆られる

 

「ちょっと…レイ⁇アンタさっきから何言ってるの⁇」

 

「頼む。この子駄々こねるんだ。ホラ、このお姉ちゃんにして貰え」

 

「ヤダ‼︎すてぃんぐれいがいい‼︎」

 

「ワガママ言うな‼︎」

 

「ひっ…」

 

レイがたいほうちゃんに吠える事なんて、今までなかった

 

これは明らかに様子がおかしい

 

「さっきからなんだ。俺に何か用か⁇」

 

「レイ、横須賀さんがずっと付き添ってくれてたんだよ⁇御礼位言ったらどうなのさ」

 

「いいわよきそちゃん…」

 

「横須賀⁇そんな奴知らん。きそ…とか言ったか⁇お前も俺に何か用か⁇」

 

「…いい加減にしなさいよ⁇」

 

「横須賀、待て。レイ、私は分かるか⁇」

 

パパがレイに歩み寄る

 

「知らん。アンタは誰だ⁇」

 

「お前…記憶が…」

 

レイは普段パパにタメ口は利くが、アンタなんて絶対に言わない

 

「とにかく、これ以上俺に関わらないでくれ」

 

レイはそう言い残し、喫茶ルームから出て行ってしまった

 

「嘘でしょ…」

 

横須賀さんはその場にへたり込んでしまった

 

「私の所為だ…当たり所が悪かったのよ…」

 

「自分を責めるな。大丈夫だ」

 

パパは顔面蒼白の横須賀さんの背中をさする

 

すると、レイが戻って来た

 

「ここは何処だ…」

 

「レイ、スカイラグーンだ。お前が取り戻した平和の象徴だよ」

 

「俺が…取り戻した⁇」

 

「そうだ」

 

「アンタらは…俺を知ってるのか⁇」

 

レイが見回した先には、沢山の友人がいる

 

「勿論さ‼︎ここにいるみんな、お前の友達だよ‼︎」

 

「思い出せん…この女が誰だったのかも、アンタ達が友人だった事も…」

 

「大丈夫。大丈夫さ。きっと思い出す」

 

「隊長、しばらくレイを預からせて下さい」

 

「…頼んだ。私は医学は分からない。明石辺りに診て貰ってくれ」

 

「…畏まりました」

 

「レイ。すぐ逢いに行くからな⁇」

 

「あぁ…」

 

「レイ、行くわよ」

 

私はレイの手を引き、横須賀行きの高速艇へと乗り込んだ…

 

 

 

 

 

 

レイが記憶喪失になりました



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138話 貴方にもう一度惚れた日(1)

さて、137話が終わりました

レイは記憶喪失になり、横須賀の所で暮らし始めます

レイと暮らし始めて、横須賀の抱いた感情とは…⁇


「ん〜…」

 

レイは明石の検査を受けていた

 

だが、何処にも異常は見当たらない

 

「とりあえず分かったのは、提督のド下手な射撃の所為で記憶喪失になったんじゃないって事です」

 

「それは良かったわ…」

 

ボーッとベッドの上で横になっているレイを見て、少しホッとする

 

「他に要因があるとすれば…余程ショックな事があったとか…」

 

「…あったわ。フィリップが身勝手な理由で爆破されたの」

 

「うぇ⁉︎フィリップがですか⁉︎」

 

「えぇ…多分それじゃないかしら…」

 

「もういいか⁇」

 

レイがベッドの上から此方を見つめている

 

「え…えぇ…構いませんよ」

 

レイはベッドから起き上がり、靴を履いて医務室から出ようとした

 

「あ、レイ。待って。私とお散歩しましょう⁇」

 

「アンタとか⁇」

 

「そうよ。好きな物食べていいわよ⁇」

 

「…なら、行こうかな⁇」

 

「うんっ、行きましょ」

 

私はレイの腕に自身の腕を絡ませ、繁華街に向かう事にした

 

外に出てしばらくすると、レイが話し掛けてきた

 

「アンタ、ホントに横須賀って名前か⁇」

 

「違うわ。ジェミニ・コレット。覚えておいて⁇」

 

私が名前を言うと、レイはクスリと笑った

 

「可愛い名だな」

 

「ふふっ、そうでしょ⁇」

 

「ジェミニさん…と、でも呼べばいいか⁇」

 

「ジェミニでいいわ⁇」

 

レイが笑う

 

まるで別人の様になってしまったレイを見て、私はもう一度、彼に恋をした…

 

 

 

 

繁華街に着くと、食べ物関連の店が沢山あった

 

「レイは何食べたい⁇」

 

「コレは何だ⁇」

 

レイの目線の先には、ずいずいずっころばしがある

 

「お寿司屋さんよ⁇レイは食べた事ない⁇」

 

「美味いのか⁇」

 

「美味しいわよ。入りましょ‼︎」

 

レイと腕を組んだまま、ずいずいずっころばしに入る

 

「いらっしゃいませ〜…って、提督⁉︎マーカスさん⁉︎」

 

「知り合いか⁇」

 

「ここいら一帯は私が管理してるのよ⁇」

 

「へぇ〜。ジェミニも大変なんだな…」

 

レイの口から労いの言葉が出るとは…

 

「レイさん、今日は照月ちゃんは⁇」

 

「てる…つき⁇」

 

「あああああ‼︎ずずず瑞鶴チョット‼︎」

 

私は瑞鶴を一旦奥へと向かわせた

 

数十秒後、私達は戻って来た

 

「れ、レイさん‼︎私は瑞鶴と言います‼︎」

 

「レイだ。宜しく」

 

「お任せコースでお願い。あ、きゅうりは抜きね⁇」

 

「畏まりました‼︎」

 

瑞鶴がカウンターの向こうでお寿司を握り始める

 

私はレイの顔から目を離さず、お寿司が来ても、食べ始めても、ずっと眺めていた…

 

 

 

 

「ごちそうさま」

 

「美味しかったでしょ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

レイは素直になり、少し子供っぽくなっているのに気が付いた

 

私はレイを連れて、食後の運動の為、海岸沿いを歩く事にした

 

「あの…明石って女だったか⁇」

 

「そうよ。なぁに⁇好きになった⁇」

 

「いや、指環をしてた。結婚してるのか⁇」

 

「そうよ〜」

 

「俺もよく似た物を持ってるんだ」

 

レイは私に首元を見せた

 

私が無理矢理レイに押し付けた指環が、ネックレスに繋がれている

 

「好きな人が居たの⁇」

 

「分からない…でも、きっと素敵な人だと思う」

 

「どうしてそう思うの⁇」

 

「何となく分かるんだ。俺は記憶を無くしても、コレだけは持ってた。だから、よっぽど魅力的な人だ」

 

「逢えるといいわね…その人に」

 

「うんっ‼︎」

 

レイは嬉しそうに指環を握り締める

 

私は幸せそうな彼の笑顔を見て、そっと左手を隠した…

 

 

 

 

 

「さぁっ、そろそろお家に帰りましょ⁇娘が待ってるわ‼︎」

 

「結婚してるのか⁉︎」

 

「そうよ〜。娘が二人いるの。双子ちゃんよ⁇」

 

「俺、ジェミニの家に行っていいのか⁇」

 

「いいわよ。って言っても、ココだけどね⁇」

 

ドアを開けると、オモチャが散乱した部屋が出て来た

 

「こりゃあ〜‼︎お片付けしなさい‼︎」

 

「あっ‼︎オトンだ‼︎」

 

「おかえりお父さん‼︎」

 

磯風と朝霜にとってレイは勿論お父さん

 

レイを見るなり、二人はすぐにレイにくっ付く

 

正直な所、子供達のお陰で記憶が戻る事を期待している

 

「ジェ、ジェミニ‼︎」

 

「コラコラ。先にお片付けでしょ〜⁇」

 

磯風も朝霜もブーブー言いながらも片付けを始めた

 

「仲、良さそうだな」

 

「お転婆も良い所よ。もぅ…」

 

「違う」

 

レイを見ると、顎で何かを差している

 

その先には、レイと撮った写真が飾られている

 

「俺とソックリだ」

 

「そうね…」

 

…思い出さないのね

 

「片付けたぞ‼︎」

 

「ごはんは食べた⁇」

 

「うんっ‼︎おばあちゃんが作ってくれたぜ‼︎」

 

「お風呂は⁇」

 

「お風呂も入ったぞ‼︎」

 

「ならもうネンネしなさい。お母さんはもうちょっとお仕事するから」

 

「お父さんもするのか⁇」

 

二人はジーッとレイを見つめる

 

「そうよ。大事なお話があるの。今日はおばあちゃんの所でネンネしなさい⁇」

 

「分かった。オトン、また今度いーちゃんとネンネしような」

 

「おやすみ〜」

 

子供達二人が出て行くと、私はため息を吐いた

 

「俺の事を父親と勘違いしてる…」

 

「子供は嫌い⁇」

 

「嫌いじゃない‼︎…苦手なだけだ」

 

「なら、勘違いついでにあの子達で慣れてみる⁇きっと楽しいわよ⁇」

 

「出来る…かな⁇」

 

「貴方ならきっと出来るわ‼︎」

 

「なら、頑張ってみる」

 

「そうこなくっちゃ‼︎ふぁ…」

 

ため息の次はアクビが出る

 

「今日は寝ましょうか」

 

「俺は何処で寝ればいい⁇」

 

「来て」

 

私は隣の自室に案内し、そこにレイを寝かせた

 

「ジェミニは仕事があるのか⁇」

 

「ううん。今日はもうおしまい」

 

「…どっか行くのか⁇」

 

レイが寂しそうな目で見てくる

 

元々一緒に寝るつもりだったが、その目を見て決心は固まった

 

「一緒に寝ましょう⁇私を抱っこしてもいいわよ⁇」

 

「そうするよ」

 

電気を消し、レイの隣で横になる

 

「…ホントにいいのか⁇」

 

「しないなら私がするわよ⁇」

 

「ん…」

 

レイは私を抱き寄せ、胸板に頭を置いた

 

抱き寄せ方は変わらないのね…

 

「ジェミニ…その…胸が…」

 

「当ててるのよ」

 

「そ、そっか…」

 

胸が当たる位で照れるレイを見るのは初めてだ

 

「ジェミニ」

 

「ん…」

 

「旦那はどんな人なんだ⁇」

 

「そうね…バカでマヌケでどうしようもないアホよ」

 

「はは。散々な言われ様だな」

 

「でも、いつも私を助けてくれる、とっても優しい人よ…」

 

「良い奴じゃないか。じゃあ、一緒に寝ちゃダメだな…」

 

レイは私と寝る事がイケない事と思ったのか、布団から出ようとした

 

「いいの‼︎」

 

「でも…」

 

「貴方が嫌でも、私は傍にいるわ…」

 

「分かった」

 

レイは素直に布団に戻って来た

 

私はレイを抱き締め、顔を胸板に埋める

 

「…しばらくこうさせて⁇」

 

「あぁ…いいよ…」

 

そう言ってレイは私の頭を撫でて来た

 

撫で方も変わらないのね…



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138話 貴方にもう一度惚れた日(2)

次の日の朝…

 

ガッシュガッシュ‼︎

 

シャコシャコ

 

子供二人が歯磨きをしている

 

朝霜は歯がギザギザなので、すぐ歯ブラシがダメになる

 

レイはそんな二人の横で、手渡した歯磨きセットで歯を磨き始めた

 

「オトン。いーちゃんの仕上げをしてくれ」

 

「仕上げ⁇」

 

「奥歯から前歯に行くのだ」

 

レイが磯風から歯ブラシを受け取る

 

磯風は口を開けて待機している

 

レイは言われた通り、磯風の奥歯から歯ブラシで磨き始めた

 

「こうか⁇」

 

「ほうら」

 

「お父さん、次はアタイな‼︎」

 

磯風の歯磨きの仕上げが終わり、次は朝霜の番

 

朝霜の歯ブラシはハの字に湾曲しており、レイは苦戦しながら朝霜の歯を磨く

 

「ほらっ」

 

「ありがとな‼︎」

 

レイは案外嬉しそうにしている

 

どうやら子供好きは残っている様だ

 

レイの歯磨きが終わり、朝ごはんを食べる

 

レイの隣では、朝霜が巨大なハムを食べにくそうにしている

 

「あ…えと…」

 

「レイ。朝霜よ」

 

「あ、朝霜。切ってやるよ」

 

「おぉ〜ありがたい‼︎」

 

レイはハムを切り、朝霜に返す

 

体が覚えてるのね…

 

「よし、では行って来るぞ」

 

「お父さん‼︎今日は一緒に寝ような‼︎」

 

「あぁ、分かった」

 

子供二人を学校に送り、私達は見えなくなるまで二人を見ていた

 

「レイ。今日は行きたい所があるの」

 

「明石の所か⁇」

 

「ん〜ん。明石の所はもういいの。今日はね、貴方が好きそうな物を見せたげる‼︎来て‼︎」

 

「あっ、おい‼︎」

 

私は今を楽しもうとしていた

 

笑い合う二人だが、私は最低な考えをしていた

 

…このまま

 

…レイがこのまま

 

…記憶喪失のまま

 

…私の所に居てくれたらいいのに

 

よく考えてみれば、レイが記憶喪失になったから、今朝初めての家族団欒が出来た

 

最低な女だ、私は…

 

 

 

 

「ここよ」

 

私はレイを開発中の戦闘機の格納庫に連れて来た

 

「へぇ〜…戦闘機かぁ…」

 

レイの目が変わる

 

やっぱり戦闘機を見ると嬉しそうだ

 

「ジェミニは戦闘機も管理してるのか⁇」

 

「そうよ〜。こう見えて、元パイロットなのよ⁇」

 

「ジェミニは多彩だな」

 

「ふふん♪♪」

 

やっぱりレイに褒められると嬉しい

 

「これは⁇」

 

レイの前には、量産型であるFlak 1のボディが鎮座していた

 

「これは無人機よ。見方を護る為に産まれたのよ⁇」

 

「無人機…」

 

レイはFlak 1のボディに触れた

 

「綺麗でしょう⁇」

 

「綺麗だ…」

 

貴方が造ったのよ、この子…

 

「無人機…か…」

 

「何か思い出した⁇」

 

「何と無く…口煩いイメージがあるんだ…何でだろうな⁇」

 

「きっとそう言う時代も来るのよ。無人機がお喋りする時代が…ねっ⁇」

 

レイは今しばらく、不思議そうにジーッとFlak 1を見つめていた…

 

 

 

 

 

夕方になると、朝霜も磯風も帰って来た

 

「お父さんだ‼︎」

 

「オカンだ‼︎」

 

「おっと‼︎」

 

レイは走って来た朝霜を抱き留めた

 

朝霜は嬉しそうにギザギザの歯を見せる

 

「レイ…レイ‼︎」

 

霞ちゃんがレイに気付いた

 

霞ちゃんもレイに駆け寄る

 

「おっと…」

 

朝霜はスッとレイから離れた

 

霞ちゃんはレイの前で止まり、一旦涙を拭いて、満面の笑みで、屈んでいたレイに抱き着いた

 

「おわっ‼︎」

 

「このクズ‼︎心配したのよ⁉︎」

 

「君も俺の事を知ってるのか⁇」

 

「知ってるわよ‼︎私は霞。私は貴方に助けられたの。貴方が忘れたって、私が忘れる訳ないじゃない‼︎」

 

「…そっか。俺は君を…」

 

「すてぃんぐれい…」

 

今度はたいほうちゃんだ

 

レイが吠えてしまったからか、たいほうちゃんはレイを見るなり一歩退いた

 

レイはたいほうちゃんにも気付き、互いに目を見合う

 

たいほうちゃんはもう一歩退く

 

また怒られると思っているのだろうか…

 

レイはそんなたいほうちゃんを見て、霞の背中を叩き横に置き、腕を広げた

 

「おいでっ」

 

「…うんっ‼︎」

 

たいほうちゃんは迷いなくレイに抱き着いた

 

「怒ってゴメンな…」

 

「いいの。たいほうがわるいの…」

 

「そっか。君はたいほうと言うのか」

 

「あたしたいほう‼︎」

 

レイはたいほうちゃんの頭を撫で、記憶を失ってから一番の笑みを浮かべた

 

そして最後は…

 

「レイ…」

 

「君はきそちゃん、だったか⁇」

 

「うん…」

 

別人の様になってしまったレイでも、やはりきそちゃんはレイの事を好きな様だ

 

ただ、それは男女間の関係の好きでは無く、尊敬、信頼、その全てにおいての”好き”なのであった

 

「君も俺を知ってるんだな⁇」

 

「…るもんか」

 

「ん⁇」

 

「死んだって忘れるもんか‼︎」

 

「きそちゃん…⁇」

 

「僕はレイのパートナーだったんだ‼︎一緒にいっぱい辛い事も乗り越えて来た‼︎いっぱいいっぱい、楽しい事もした‼︎」

 

一言一言言う度に、きそちゃんの目から涙が零れ落ちる

 

「だから…僕の事、いつか思い出してよ‼︎また一緒に色んな事…しようよぉ…」

 

「きそちゃん…」

 

「すてぃんぐれい。たいほう、パパとみんなとまってるからね」

 

「私も待ってるわ‼︎」

 

「僕だって待ってる‼︎」

 

「お前達…」

 

だが、レイは何も思い出せないでいた…

 

三人が帰ると、レイは朝霜と手を繋ぎ、家である執務室に四人で帰った

 

あまりにも幸せ過ぎる光景だ

 

私が求めていた生活はコレだ

 

子供達が居て、貴方が居て…

 

でも、さっきの基地の子供達を見ていると、やはりあの子達にマーカス・スティングレイと言う存在は必要不可欠なのだ…



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138話 貴方にもう一度惚れた日(3)

幸せな家族のまま、一週間が流れた

 

レイと子供達二人はすっかり打ち解け、お昼寝も一緒にする位になった

 

レイの元には、沢山の友人が足を運んでくれた

 

足繁く通ってくれたのは、やはり隊長だ

 

レイも何と無くだが、隊長を友人だとの認識も生まれた様だ

 

刻一刻と、レイの記憶が戻る時が近付く…

 

私は複雑な気分になっていた

 

正直このまま、レイを私の手元に置いて、家族団欒の生活を続けたい…

 

だけどそれは、抱いてはイケない感情だった…

 

 

 

 

 

一週間前と同じく、学校の前で二人の帰りを待つ

 

「ただいま帰ったぞ‼︎」

 

「おかえり‼︎」

 

「すてぃんぐれいただいま‼︎」

 

「おぉっ‼︎たいほうちゃんもおかえり‼︎」

 

たいほうちゃんは当然かの如くレイに抱き着く

 

「すてぃんぐれい、あたまのっていい⁇」

 

「おっ。乗ってみるか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

記憶を失う前、毎日の様にしていた、たいほうちゃんの肩車

 

この光景を見ない日は無かった

 

たいほうちゃんは相変わらず器用にレイに登り、定位置に着く

 

「たいほうのとくとうせき‼︎」

 

「ふっ…」

 

「あのね、すてぃんぐれい…」

 

「どうした⁇」

 

「たいほうがちっちゃいときにね、すてぃんぐれいはたいほうをたすけてくれたの」

 

「そっか…」

 

「だからね…こんどはたいほうがたすけてあげる‼︎きおくそーしつなんて、たいほうがぱんちしてあげる‼︎」

 

「あ…」

 

レイの目からポロポロと涙が落ちる

 

「…たいほう」

 

「ん⁇たいほうおもい⁇」

 

「…いやっ、違うさ。今日はビスケット持って無いのか⁇」

 

「あるよ‼︎すてぃんぐれいにもあげる‼︎はい‼︎」

 

たいほうちゃんは器用にビスケットをレイの口に放り込む

 

「しょっぺぇな…」

 

「おいしくない⁇」

 

「美味しいさ‼︎たいほう、がーがーさんは元気か⁇」

 

「がーがーさんげんき‼︎あのね、このまえてるつき、がーがーさんたべようとしたんだよ⁇」

 

「は…ははは…そっか。照月は食いしん坊だか…ら…」

 

「思い出した⁇」

 

「横須賀。ありがとう…全部思い出した‼︎」

 

「そう…」

 

ホントは嬉しいのに、やっぱり心の何処かで素直にそれを受け止められないでいた

 

レイはたいほうちゃんを降ろし、迎えが来ている所まで見送った

 

「すてぃんぐれい、おうちかえってくる⁇」

 

「あぁ‼︎もう少ししたら帰るからな‼︎」

 

「みんなまってるよ‼︎」

 

たいほうは基地へと帰って行った…

 

「横須賀、磯風、朝霜…本当にありがとう‼︎」

 

「やったな‼︎」

 

「やはりオトンは凄いな‼︎」

 

祝福をくれる二人と違い、私は未だ複雑な気分でいた

 

「良かったわね…」

 

「何だよ〜。もうちょい喜んでくれよ〜」

 

「うるさいわね‼︎喜んでるわよ‼︎」

 

「じゃあなんで泣いてる」

 

「泣いてなんかない‼︎帰るわよ‼︎」

 

私は素直になれず、子供達を連れ、執務室に帰って来た

 

その日の晩、私は執務室でごった煮になった頭を冷やしていた

 

ホンット、ズルい女だ

 

だけどここ一週間…とても幸せだったな…

 

「横須賀」

 

「ん…」

 

「先に寝るからな⁇後で来いよ⁇」

 

「うん…ちょっと一本だけ電話したら行くわ」

 

レイを自室に向かわせ、私は電話を取った

 

「横須賀です。”例のモノ”は完成した⁇」

 

《明日の朝には完成しますよ‼︎》

 

「少しだけ急いで。フィリップの代わりになるのはその機体だけなの。それと明日、きそちゃんを召集して」

 

電話を切り、私は約束通りレイの待つ自室に来た

 

「横須賀」

 

「なぁに⁇」

 

「好きだぞ」

 

「知ってるわよそんな事。あっ…」

 

髪留めを外していると、レイは私をベッドに引き摺り込んで来た

 

「レイ…」

 

「黙って抱かれてろ」

 

「…うんっ」

 

あぁ、やっぱり私はチョット強引なレイの方が好きだ

 

大人しくて子供っぽいレイも大好きだった

 

だけど、こっちのレイはもっと好き

 

「…あら⁇」

 

抱かれると思ったのに、本当に抱き締められただけだ

 

「抱くって言ったろ⁇」

 

「え…えぇ…」

 

「お前の匂い、好きなんだよな…」

 

レイは私の頭に鼻をつけ、深く息をする

 

「ありがとう、ジェミニ…」

 

「いいの。幸せだったわ…家族団欒が出来たもの…」

 

「いつか毎日出来る様になるさ…」

 

「んっ…」

 

私は上を向き、レイと唇を合わせた…

 

待ちに待った、長い長いキス

 

レイ…

 

貴方が私しかいないと言うなら

 

私は貴方しかいないの…

 

だからもう…

 

私の傍から離れないで頂戴…

 

私は記憶の戻ったレイと共に、永い一夜を過ごした…



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138話 貴方にもう一度惚れた日(4)

次の日の朝…

 

また、しばらくレイと逢えなくなる

 

そう思うと、完成した”アレ”の所に連れて行くのはイヤになった

 

「横須賀さん」

 

きそちゃんが格納庫の前で待っていた

 

「きそちゃん…」

 

「僕に用事があるって聞いたけど⁇」

 

きそちゃんは何となく冷たかった

 

いや、落ち込んでいるのだろうか⁇

 

多分、それを変えられるのは一人しかいない

 

「そうね…貴方にプレゼントがあるの」

 

「プレゼント⁇」

 

「そうよ」

 

格納庫のシャッターが開き、私達は中に入った

 

「うはぁ〜」

 

格納庫の中には、見た事のない形状をした新型戦闘機が、新しいパイロットをそこで待っていた

 

「スッゴイ綺麗だね」

 

「XFA-001。コードネーム、グリフォンよ」

 

黒いボディで、主翼は前進翼、その滑らかな形状からも分かる様に、大型のステルス機である

 

「グリフォンはフィリップをベースに造られた新型の戦闘機なのよ⁇」

 

「ほへぇ〜」

 

「特殊兵装があるわ。チョット待ってて」

 

私は手近にいた工兵に特殊兵装の一覧を貰い、きそちゃんの所に戻って来た

 

「コックピットの両脇にMSWを取り付けてあるの。これはヘラと同じ扱いだから、すぐ慣れるわ」

 

「凄いや‼︎MSWがあるなんて‼︎」

 

ようやくきそちゃんの目に輝きが戻った

 

私はそんなきそちゃんを見て、すこしだけ微笑む

 

「それと、機銃は二種類。散弾機銃と、標準可能な速射機銃の二種類よ⁇」

 

「うはぁ〜‼︎凄い凄い‼︎僕にくれるの⁉︎」

 

はしゃぐきそちゃんを見て、私は言ってみたい事を言ってみた

 

「そうよ。お母さんからのプレゼント‼︎」

 

「えへへ…お母さんかぁ…」

 

良かった。満更でも無さそうだ

 

「あっ、そうそう。きそちゃんだけでも勿論飛ばせるけど、パイロットが必要でしょ⁇」

 

「あっ…うん…」

 

その事を言うと、きそちゃんの顔はまた暗くなってしまった

 

「ったく…お前はメソメソする子じゃねぇだろ⁇」

 

「へっ⁉︎」

 

きそちゃんが振り返ると、壁にもたれたレイがいた

 

「れっ…レイ…⁇」

 

「心配かけたなっ」

 

「…レイっ‼︎」

 

きそちゃんはレイに駆け寄り、ジャンプして抱き着く

 

「レイ…レイレイレイっ‼︎」

 

「待たせてすまん…」

 

きそちゃんはレイにスリスリしながら、満面の笑みを浮かべる

 

「心配しないで。次は僕が護ってあげるから‼︎」

 

「任せたぞ⁉︎俺にはこの子の扱いは皆目分からん」

 

「大丈夫。心配しないで‼︎」

 

きそちゃんはホント、レイに似て来たわね…

 

きそちゃんは相変わらず理解不能な原理でグリフォンのAIへと早変わりし、レイはグリフォンへと乗り込んだ

 

「何か運転出来そうな気がするな…」

 

《フィリップをベースにしてるから、内部も似てるんだよ》

 

「お前のAIの声を聴くのも久しぶりだな…」

 

《僕の声も、グリフォンの操縦もすぐ慣れるよっ‼︎さっ、帰ろう‼︎》

 

「…あぁ‼︎」

 

グリフォンは意気揚々とエンジンを吹かし、滑走路へと向かう

 

《お母さんが見てるよ》

 

「母さんが来てるのか⁉︎」

 

《違うよぉ‼︎ホラッ、左っ‼︎》

 

左を見ると、此方を見つめて小さく手を振っている横須賀が見えた

 

そんな横須賀を見て、急に愛おしくなった

 

「フィリ…」

 

《グリフォン‼︎》

 

「ぐ、グリフォン。チョットエンジン止めてくれ」

 

《何するの⁇》

 

グリフォンのエンジンを止めてキャノピーを開けると、自動でタラップが降りた

 

…便利だな

 

それは置いといて、俺はグリフォンから飛び降り、横須賀の元に走った

 

「なぁに⁇忘れ物⁇」

 

「あぁ。忘れ物だっ‼︎」

 

俺は横須賀を思い切り抱いた

 

「必ず帰って来る」

 

「んっ…行ってらっしゃい‼︎」

 

軽くキスをした後、俺はまたグリフォンに乗る

 

「すまん。待たせた‼︎」

 

《いいねぇ〜‼︎愛だねぇ〜‼︎》

 

いざ滑走路へと入った時、もう一度横須賀を見た

 

今度は大きく手を振っている

 

《アレなら心配ないね》

 

「ふっ…俺の愛した女だ。心配はない」

 

《ふふっ。じゃあ、帰ろうか‼︎》

 

「ワイバーン、発進‼︎」

 

グリフォンは綺麗に滑走路から空へと上がって行く

 

 

 

 

「行った行ったぁ‼︎」

 

「ヤッタヤッタァ‼︎」

 

表で工兵と深海の子が騒いでいる横で横須賀は、空へと飲まれて行くグリフォンが見えなくなるまで見つめていた

 

実はあのグリフォン、深海の子達の情報提供もあり、紆余曲折あってようやく完成させられた戦闘機なのだ

 

「ふぅっ‼︎行ったわね‼︎」

 

「寂しくないですか⁇」

 

いつの間にか居た明石は、心配半面、喜び半面で横須賀に話し掛けた

 

「何にも心配してないわ‼︎私の旦那よ⁉︎」

 

「あ、あはは‼︎そうですよね‼︎天下御免のマーカスさんですものね‼︎」

 

「ふふっ‼︎」

 

横須賀は微笑みながら執務室へと戻って行った…

 

 

 

 

 

 

「グリフォン」

 

《なぁに⁇》

 

「お前、いつから横須賀をお母さんと言い始めた⁇」

 

《えと…さっき⁇》

 

「そっか…」

 

グリフォンには感情パラメーターも装備されている

 

”照れ”

 

”喜び”

 

この二つが突出している

 

《レイ。みんな待ってるよ。特に姫が》

 

「引っ叩かれそうだな…」

 

基地に帰って来た

 

一週間チョット空けていただけなのに、随分昔に来た様な感じがする…

 

フィリップが格納されていた場所にグリフォンを停める

 

「帰って来たんだな…」

 

《改めておかえり、レイっ‼︎》

 

「ふっ…さっ、降りよう」

 

《うんっ‼︎》

 

自動で展開されるタラップを降りると、叢雲が迎えに来てくれた

 

「久しいわね」

 

「心配かけたな」

 

「犬の分際で主人に心配かけさせるとは…良い度胸ねぇ⁇」

 

「すまんすまん」

 

口ではそう言う叢雲だが、目に涙が浮かんでいる

 

「まっ、いいわ。それより双子の相手の方が大変だったわよ⁇」

 

「ありがとうな」

 

「感謝するなら、早く逢いに行ってあげなさい」

 

叢雲に言われた通りに、俺は皆が待っているであろう食堂へと足を向けた

 

「ホントは嬉しいんでしょ⁇」

 

「嬉しいに決まってるでしょ⁇主人は私よ⁇心配もするわ」

 

叢雲はホントはレイに逢いに行きたかったのだ

 

だが叢雲はレイに代わり、ここ最近ずっと哨戒任務を遂行していてくれたのだ

 

「行こう。僕お腹空いちゃったぁ‼︎」

 

「そうね」

 

きそは叢雲と共に、一足先に食堂に向かったレイに追い付いた

 

 

 

 

俺はいつも通りに食堂に入った

 

「ただいま〜」

 

「おかえりなさい‼︎お腹空いたでしょう⁇」

 

貴子さんが笑顔で迎えてくれる

 

「すてぃんぐれいおかえり‼︎」

 

たいほうが足に抱き着く

 

たいほうを抱き上げようとした瞬間、俺は誰かに抱き締められた

 

「おかえり、レイ…」

 

「ただいま…隊長…」

 

隊長だった

 

「あっ‼︎えいしゃん‼︎」

 

「えいしゃんら‼︎」

 

ひとみといよも来た

 

隊長は俺を離し、俺は双子とたいほうにくっ付かれる

 

双子は肩

 

そしてたいほうは勿論肩車

 

「オトンの好きな物用意したぞ」

 

グラーフが机の上に料理を置いて行く

 

…グラーフの中で俺はオトンで決まった様だ

 

「さぁ、食べよう‼︎」

 

「いただきます‼︎」

 

いつもの日常が帰って来た

 

横にはたいほう

 

反対を向けば照月

 

横須賀達との家族団欒も騒がしくて楽しかった

 

だが、俺はこの家族団欒も好きだ

 

この家族団欒は飽きる事はない…

 

俺は幸せ物だな…

 

再び帰って来た基地での家族団欒の中、俺は嫌と言う程の幸せを実感させられていた…

 

 

 

 

 

レイが記憶を取り戻しました‼︎




XFA-001 グリフォン…レイときその新しい機体

この作品では珍しい、完全架空機

フィリップの機能はそのままで、新しく産まれ変わった機体

深海の技術と人間の技術がふんだんに使われたハイブリッドな機体

そして何より、スカイラグーンや学校に続く深海との共同作業の結果でもある

ヘラと叢雲の専用装備であったMSWを二基装備し、機銃も用途に合わせ二対装備されている

重武装版のフィリップと考えれば早い

一番変わった所は、ボディをPシールドと同じ素材で造り上げている事

外見は随分変わってしまったが、堅牢な造りと高火力を持っている


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139話 戦艦になりたい理由(1)

さて、138話が終わりました

今回のお話では、リクエストが多かった艦娘を出そうとおもいます

形的には準レギュラーになるのかな⁇

私自身もこの子を書いて見たかったので、私自身も楽しみです 笑


俺が基地に帰って来て数日後の朝、一本の電話が鳴る

 

いつもなら誰か必ず食堂にいるのに、この瞬間だけ誰もそこに居なかった

 

それに気付いた少女が二人…

 

「いよちゃんとって」

 

「うんしょ…」

 

少し高い位置にあった受話器を、背伸びをしながら腕を上げ、目の前に降ろす

 

「あい‼︎よこすかぶんけんたいだお‼︎」

 

いよは何処で覚えたのか、この基地の名前をちゃんと言えていた

 

《あれっ⁉︎いよちゃん⁇レイは⁇》

 

「えいしゃんねてる‼︎」

 

《起こせるかしら⁇》

 

「わかた‼︎おこしてくるお‼︎」

 

二人は受話器を垂れ下げたまま、俺の部屋に向かう

 

いよとひとみは器用に俺の部屋のドアを開け、中に入って来た

 

「えいしゃんおきろぉ〜‼︎」

 

「およめからでんわぁ〜‼︎」

 

相変わらず二人は俺をダムダム踏み付ける凶暴な起こし方をする

 

「こんな朝っぱらからか⁇」

 

二人に手を引かれ、目を擦りながら受話器の前に案内される

 

「いまかわるお‼︎あい‼︎」

 

ひとみから受話器を受け取る

 

「何だ⁇」

 

《赤ちゃんが産まれたわ‼︎》

 

「ハァァァァァァァン⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

横須賀に来た

 

「レイも盛んだねぇ」

 

「うるせぇっ‼︎」

 

きそにおちょくられながら、俺は執務室に入った

 

「ぐわっ‼︎」

 

「いたいな…」

 

「へ⁉︎」

 

入ってすぐ、朝霜と磯風が飛んで来て、壁に叩きつけられた

 

「ははははは‼︎”きーちゃん”は強いのだ‼︎」

 

横須賀の机の上で、少女が仁王立ちしている

 

呼んだ癖に、当の本人が居ない

 

「いっててて…」

 

「いーちゃんとあーちゃん、二人掛かりで敵わんとは…」

 

「何があった⁉︎」

 

「オトンか⁉︎助かったぁ…後は任せた‼︎アタイは逃げんぜ‼︎じゃな‼︎」

 

「いーちゃんも撤退だ」

 

「お、おい‼︎」

 

「「ひぃ〜〜〜っ‼︎」」

 

二人は悲鳴を上げながら執務室から走って逃げて行った

 

「れ、レイ…」

 

きそに服を引っ張られ、机の上に仁王立ちしている少女を見る

 

目を見開き、ニコニコしながら此方を見ている

 

俺は得体の知れない恐怖を感じた

 

「貴方はだぁれ⁇きーちゃんを楽しませてくれるの⁇」

 

「レイ、来てくれたのね」

 

横須賀が執務室に入って来た

 

そしてすぐ、机の上に立つ少女に目線をやる

 

「コラ”清霜”‼︎またお母さんの机の上に立って‼︎」

 

「お母さん、この人だぁれ⁇殺してい〜い⁉︎」

 

清霜と呼ばれた少女は、サラッと物騒な事を言う

 

「ダメッ‼︎この人は清霜のお父さんよ⁇」

 

「お父様⁉︎よっ、と…」

 

清霜は机の上から飛び降り、此方に寄って来た

 

「うりゃ‼︎」

 

「ほぁっ⁉︎」

 

清霜がいきなり右ストレートを当てて来た‼︎

 

俺は咄嗟に両手で防ぎ、少し後ろにズリ下がる

 

「なっ…なんちゅう威力だ…」

 

「うわぁ‼︎頑丈だね‼︎きーちゃん、お父様気に入った‼︎」

 

清霜はニコニコしながら此方を見ている…

 

その後ろで、横須賀が申し訳なさそうに頬を掻いている

 

「えと…何処から説明すればいい⁇」

 

「全部だ全部」

 

「次はこの人にしようっと‼︎」

 

「うわぁ‼︎レイ、お母さん‼︎助けて‼︎」

 

「「清霜‼︎止めなさい‼︎」」

 

俺と横須賀が吠えると、清霜はきその顔面を殴ろうとした拳を間一髪で止めた

 

「清霜⁇その人は清霜のお姉ちゃんよ⁇」

 

「お姉ちゃん⁇きーちゃんの⁇」

 

「そうよ。朝霜お姉ちゃんと、磯風お姉ちゃんのお姉ちゃんよ⁇」

 

「へぇ〜。弱そうだね‼︎」

 

「うっ…」

 

清霜はニコニコしながら毒を吐く

 

きそはドヨ〜ンと顔が暗くなった

 

「レイ…僕弱いって…」

 

「お前には剣があるだろ剣が」

 

「よしっ‼︎立ち直った‼︎」

 

きその切り替わりは早い

 

俺達は一旦食堂に場を移し、横須賀の話を聞く事にした

 

清霜が横須賀の膝の上に座ったのを見て、俺はきそを膝の上に乗せた

 

「えと…とりあえず、清霜は私とレイの子よ」

 

「まぁ…何と無くは分かる」

 

先程からずっと話を聞いていたので、それは分かった

 

「今回産まれて来るの早くない⁇」

 

毎回きそは聞きたい事を聞いてくれる

 

「昨日、急にお腹の中ドンドン蹴られてね…明石に検査して貰ってる最中にポロッと…ね⁇」

 

多分、横須賀も突然過ぎて事を理解出来ていない

 

「清霜」

 

「ん⁇」

 

こうしていると大人しくて可愛い

 

「お父さんとお散歩するか⁇」

 

「うんっ‼︎お菓子買って‼︎」

 

「ぼ、僕はお母さんといるよ…」

 

きそは清霜に脅えている様だ

 

「とうっ‼︎」

 

「ひいっ‼︎」

 

清霜が横須賀の膝の上から飛び、空中で一回転した後、俺の横に立った

 

きそは清霜が飛び上がった瞬間、机の下を通じて横須賀の所へ行った

 

「行こう‼︎」

 

「ぐわっ‼︎なっ、なんちゅうパワーだ‼︎き、清霜‼︎待ってくれ‼︎いでででで‼︎」

 

俺は清霜に手を思いっきり引っ張られ、食堂から強制退出させられた

 

「きそちゃん。朝霜と磯風呼んでケーキ食べよっか⁉︎」

 

「うんっ‼︎」

 

きそは横須賀に連れられ、伊勢に向かった

 

 

 

 

 

俺はようやく清霜の引っ張りになれ、やっとの事で親子に見える感じの手を繋ぐ形にはなった

 

繁華街に向かう途中、清霜に話し掛けてみた

 

「清霜は何が好きだ⁇」

 

「戦艦‼︎」

 

「戦艦かぁ。何でだ⁇」

 

「戦艦になったらいっぱい殺して、いっぱい血を浴びれるから‼︎」

 

可愛い顔して恐ろしい事を言う

 

「清霜は血が好きか⁇」

 

「うんっ‼︎大好き‼︎」

 

「じゃあ、清霜には夢はあるか⁇」

 

「老人をこの世から消す事‼︎」

 

「そ、そっか…」

 

コイツは100%俺の子だな…



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139話 戦艦になりたい理由(2)

読者の皆は覚えてるだろうか

 

少し前のお話で、俺がはっちゃんに言った言葉を

 

”人を殺したらクセになる”

 

今の清霜は、一昔前の俺を見ているかの様だ

 

俺は今日に至るまで、山程人を殺して来た

 

一時期、人を殺す事に快感を覚える程にまで悪化していた

 

あの頃のクセがまだ抜け切っていないから、俺は今でも人に向けた銃口をアッサリと弾く事が出来る

 

はっちゃんや子供には、そうなって欲しくないからこそ、今までそう言った事になるべく巻き込まれない様にしていた

 

だが清霜は違う

 

俺の一番最悪なクセを綺麗に受け継いでいる

 

 

 

 

 

「清霜は老人嫌いか⁇」

 

「うんっ嫌い。のうのうと悠々自適に生きて文句ばっかり言うんだもん。きーちゃん大っ嫌い‼︎お父様も嫌い⁇」

 

「…清霜」

 

「ん⁇」

 

俺は足を止め、清霜の前に屈み、清霜の肩に手を置いた

 

「老人はな、その内くたばるから放っておけ」

 

「でも、老人達は国のお金で生きてるんだよ⁇お金の無駄遣いだよ」

 

清霜の目を見ると、黒目が大きくなっていた

 

人の目の色が本当に変わる瞬間を久し振りに見た…

 

「…それは否定しない。だけどな清霜。なにもお前一人が殺さなくても良いじゃないか⁇」

 

「どうして⁇」

 

「お前がやらなくても、みんな同じ考えをしてる。だから、大丈夫だ。それより、お父さんが居ない間、お母さんとお姉ちゃん達を護ってやってくれないか⁇」

 

「…清霜に出来る⁇」

 

急にシュンとなった清霜の手を握り、目を見つめる

 

「大丈夫。それだけの力と考えがあれば出来るさ。清霜は強い子だろう⁇」

 

「うんっ‼︎清霜強い子っ‼︎」

 

「よしよし‼︎」

 

清霜の頭を撫でながら立ち上がると、清霜は少女の顔に戻り、ニコニコしながら俺を見上げる

 

どうやら聞き分けは良い子の様だ

 

後は接し方だな…

 

ようやく繁華街に入り、清霜がはしゃぎ始める

 

「お父様‼︎人がいっぱい‼︎」

 

「…殺しちゃダメだぞ⁇」

 

「何で⁉︎」

 

「暴力は人を護る時に使うんだ。戦艦になりたいんだろ⁇」

 

「うんっ‼︎ならやめとく‼︎」

 

「よしっ。ちゃんと言う事を聞く子にはジュースを買ってやろう」

 

自販機の前に立ち、100円を入れる

 

「どれ飲みたい⁇」

 

「自分で押したい‼︎」

 

「よっと‼︎」

 

清霜を抱き上げ、スイッチを押させる

 

買ったのは瓶の乳酸菌飲料だ

 

「お父様は何にするの⁉︎」

 

「そうだなぁ…一番上の紅茶かな⁇」

 

「きーちゃんが押してあげる‼︎」

 

俺はもう一度清霜を抱き上げ、コーヒーのボタンを押させる

 

「ちがっ‼︎」

 

清霜は紅茶の隣のボタンを押した‼︎

 

「違う⁇」

 

「いや、大丈夫だ。コーヒーの気分になった。ありがとう」

 

「フフッ‼︎どう致しまして‼︎」

 

こうしていると、本当に普通の可愛い娘だ

 

俺達はベンチに座り、ジュースを飲み始めた

 

「お父様のコーヒー、ポスって書いてあるね」

 

「英語の勉強か⁇」

 

「戦艦になる前に、英語の勉強もしないと‼︎」

 

子供っぽくて可愛らしいな…

 

「なぁ、チョット付き合えよ…」

 

「止めてって言ってるでしょ⁉︎」

 

目の前で男二人が女の子にナンパしている

 

それに気付いた清霜は、ジュースを飲みながらナンパしている男達に近付く

 

「清霜‼︎」

 

時既に遅し

 

清霜に気付いた男達は、清霜に目線をやる

 

「なんだオメェ」

 

「お嬢ちゃんは向こう行ってな」

 

「お姉ちゃん嫌がってるよ⁇」

 

「黙ってろよクソガキが‼︎」

 

男の一人が清霜に怒鳴った瞬間、清霜は飲んでいたジュースの中身を飲み干し、そのまま握って割って見せた

 

「止めないとこうなるよ⁇」

 

「いい度胸じゃねぇか…」

 

「清霜‼︎もういい‼︎」

 

清霜に近付こうとした瞬間、清霜は振り返って微笑んだ

 

俺はこの時、無理矢理にでも止めておけば良かった…

 

 

 

 

「もう止めて下さい‼︎」

 

悲鳴虚しく、拳の殴打が続く

 

「俺達が悪かったから‼︎」

 

「きーちゃんにもっと血を見せて‼︎ホラホラ‼︎」

 

清霜は大の大人二人相手にマウントを取り、これでもかと言う位ボコボコにしていた

 

「清霜。もういい‼︎」

 

「ご…ごめんなしゃい…」

 

「すみませんでしたぁ〜‼︎」

 

男二人は一目散に逃げて行った

 

「きよし…」

 

「お怪我はありませんか⁉︎」

 

「あ…うんっ。ありがとうね、勇敢なお嬢ちゃん」

 

助けられた女性は、清霜の頭を撫でた

 

…見覚えのある顔だな

 

「ゲッ‼︎羽黒‼︎」

 

「うっ…レイかよ…」

 

「お父様の知り合い⁇」

 

「そうだよ。羽黒さんって言うんだぞ」

 

「初めまして‼︎清霜です‼︎」

 

「初めまして。ありがとうね⁇」

 

「うんっ‼︎清霜、血が大好きなの‼︎」

 

「レイの子⁇」

 

「うんっ‼︎きーちゃん、お父様の娘‼︎」

 

「そう…今日はもう帰るけど、今度逢ったらお礼をあげるわ」

 

「ホント⁉︎お菓子がいい‼︎」

 

「分かったわ。じゃあね」

 

羽黒は帰って行った

 

「清霜」

 

「ん⁇」

 

世間一般の親なら、ここで一発殴ってるだろう

 

だが、俺はそんな事しない

 

「怪我してないか⁇」

 

「うんっ‼︎大丈夫‼︎きーちゃん頑丈なの‼︎」

 

「おてて見せてみ⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

清霜は両手を差し出した

 

瓶を握り潰した方の手を見る

 

傷一つ無い

 

傷一つ無いどころか、綺麗な手をしている

 

「お父様の言ってた、護るってこう言う事⁇」

 

「そうだな。でも、チョットやり過ぎかな⁇」

 

「どうすればいい⁇」

 

「相手がごめんなさいって言ったら、もう止めてあげなさい」

 

「分かった‼︎」

 

「でもな清霜。その人がごめんなさいって言った後に清霜を殴ったり、同じ事をした時は、そいつは清霜の気が済むまで殴っていいぞ」

 

「ホント⁉︎」

 

「ホントだ。ちゃんと覚えたか⁇」

 

「うんっ‼︎人を護る時は殴っていいのと、ごめんなさいしたら殴るの止める。それと、その後同じ事したら、きーちゃんは殺していい‼︎」

 

「よしっ‼︎ちゃんと覚えたな‼︎偉いぞ‼︎」

 

「ニシシ‼︎褒めて褒めて‼︎」

 

清霜の頭を撫でた後、俺達はお菓子屋の前に来た



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139話 戦艦になりたい理由(3)

「好きなの持っておいで」

 

しばらくすると、清霜は小さな箱のお菓子を両手に一つずつ持ち、それを振りながら持って来た

 

「これにする‼︎」

 

「じゃあお勉強の時間だ。これ持って、あの人にお金払っておいで」

 

清霜にお金を渡し、足柄に代金を払わせる

 

「ありがとうございました〜‼︎」

 

「”おばさん”ありがとう‼︎」

 

「なっ…」

 

足柄の顔が引きつる

 

「ただいま‼︎お父様、ありがとう‼︎」

 

「一つはお姉ちゃん達と食べるのか⁇」

 

「はい‼︎」

 

清霜は持っていたお菓子の箱の一つを俺に渡して来た

 

「お父様と食べる‼︎」

 

「そっか。ありがとう」

 

清霜からお菓子の箱を受け取り、手を繋いで執務室に戻る

 

帰るまで清霜は嬉しそうに箱を振りながら歩いていた

 

どこかで見た事ある風景だと思ったら、たいほうか…

 

たいほうも物を持ったら振るクセがあるからな…

 

子供らしくてホントに可愛い

 

「お母様‼︎きーちゃん戻りました‼︎」

 

「お帰りなさい。お菓子買って貰った⁇」

 

「うんっ‼︎きーちゃんコレ食べかったの‼︎オマケ付きなんだよ‼︎」

 

執務室に着き、清霜は早速箱を開け、中のお菓子を手に取った

 

箱の中身は一つ一つ包み紙に包まれたソフトキャンディで、清霜みたいに小さくても口の中で舐めて食べられる

 

「美味しいか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

清霜は幸せそうにソフトキャンディを口にする

 

朝霜と磯風きそはまだ清霜に恐怖しているのか、だいぶ離れた所でグミを食べている

 

「大人しくしてたらホント良い子なのに…」

 

「もう大丈夫だ。なっ、清霜」

 

「うんっ‼︎きーちゃん、お父様と約束した‼︎」

 

「あら。どうりで大人しいのね」

 

「清霜⁇お父さんはもう帰るけど、約束、ちゃんと守ってくれるよな⁇」

 

「うんっ‼︎大丈夫‼︎きーちゃん約束破らない‼︎」

 

「オトン、もう帰るのか⁇」

 

「次はアタイ達共遊んでくれよ⁉︎」

 

「レイ。今日はご飯食べて帰らない⁇」

 

それはきその提案だった

 

「基地のみんなも家族だよ⁇だけど、僕達だって家族じゃない。たまにはいいでしょ⁇」

 

きその言う通りだ

 

「んっ。そうだな。んじゃ、何か食いに行くか‼︎」

 

「やったぜ‼︎アタイ瑞雲がいいな‼︎」

 

「オトンは蟹剥きだ」

 

「清霜もカニでいいか⁇」

 

「カニってなぁに⁇」

 

「美味しい奴だ。お父さんと一緒に食べるか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「きそもそれでいいか⁇」

 

「うんっ‼︎久し振りだね‼︎」

 

「じゃあ行きましょうか‼︎」

 

俺達家族は、初めての一家団欒の晩御飯を囲む事になった

 

俺は清霜を肩車し、両手は朝霜と磯風の手を繋ぐ

 

きそは横須賀と手を繋いでいる

 

当初あれだけ嫌われていたのに、ここ数日で一気に距離を縮めた様だ

 

やはり、きそには本当の母親が必要だったのだろう

 

瑞雲に着くと、蟹鍋が勝手に出て来た

 

…まぁ、仕方ないな

 

メニューはコレしかないし

 

「お父様‼︎この赤いのはなぁに⁉︎」

 

「コレがカニさ。食べてみるか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

清霜はピープー鳴る椅子に座らされ、目の前のカニを見て椅子をピープーピープー鳴らせる

 

カニを剥き、まずは清霜に食べさせる

 

「美味しいか⁇」

 

「うんっ‼︎お父様と食べるのは何でも美味しい‼︎」

 

「オトンは本当に子供に好かれるな…いーちゃんもそこだけは見習わなければ」

 

「お父さん‼︎アタイのも剥いて‼︎」

 

朝霜と磯風のカニも剥き、カニ鍋はドンドン無くなっていく

 

「きそちゃんも食べなさい。無くなるわよ⁇」

 

「もうメッチャ食べてるよぉ…」

 

「あら…」

 

きその前にも、大量のカニの殻がある

 

「レイ。私のも剥いて⁇」

 

横須賀から、身の入ってそうなカニの脚を数本貰う

 

「ホラよ」

 

「ありがとっ‼︎」

 

「お父様は食べないの⁇」

 

「お父さんは清霜達が食べてるのを見てるのが好きなんだ」

 

「きーちゃんのあげる‼︎はい‼︎」

 

「あ〜ん…」

 

清霜の手にはカニの脚が持たれている

 

俺は清霜の手からカニを食べた

 

「美味しいなっ‼︎」

 

「うんっ‼︎きーちゃん、カニ好きになった‼︎」

 

清霜も朝霜も磯風も、終始幸せそうだった

 

きそと横須賀はそれとは別に幸せそうだ

 

俺も初めて全員を集めた家族団欒に、新しい幸せを感じていた…



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140話 百年の恋

さて、139話が終わりました

今回のお話は、また少し物語の謎に触れます

一話しかありませんが、勘の鋭い人はスグに分かるかと思います


ラバウルの執務室では、執務を終えたラバウルさんが作曲に勤しんでいた

 

「フフフフ〜ン、フフフフ〜ン…ここはこうですかね…」

 

「作曲ですか⁇」

 

「おおいか⁇」

 

お茶を持って来たおおいは、平和そのもののラバウルさんを見て微笑む

 

停戦協定が結ばれてから出撃の数が減り、ラバウルさんはこうして作曲に勤しんだり、時々やって来るきそちゃんとフェンシングを楽しむ事が多くなった

 

実はラバウルさん、あまり知られていないが、世にそこそこのヒット作を送り出している

 

今手元で作詞作曲しているのも、後に動物のアニメの主題歌となる

 

「あまり根を詰めてはいけませんよ⁇」

 

「フフフ。大丈夫ですよ。好きでやってますからね」

 

「そうですか。なら良いです」

 

おおいは、そんなラバウルさんを見るのが好きだ

 

空に上がれば勇猛果敢に戦い、凶鳥とまでの通り名が付く彼の大人しい姿を見るのが好きで好きでたまらない

 

誰にも邪魔されない、二人だけの空間…

 

おおいが戦っていた頃には無かった幸せだ

 

「エドガー。入るよ〜」

 

「あみさんか⁇どうぞ」

 

横に健吾を付けた北上さんが来た

 

「エドガー聞いた⁇大佐の基地に凄い機体が配備されたって」

 

ラバウルさんは手を止め、北上さんの顔を見る

 

「えぇ。グリフォン…でしたかね⁇写真でしか見た事無いですが、良い機体ですよ。一目で分かります」

 

「今さ、スカイラグーンに居るみたいだから、昼ご飯ついでに見て来ていい⁇」

 

「えぇ、勿論‼︎どんな機体か、しっかり見て来て下さい」

 

「んじゃ、健吾。行くよ〜」

 

「はい、隊長。キャプテン、行って参ります」

 

「気を付けて下さいね⁇」

 

二人が部屋から出ると、私は肩の力を抜いた

 

「緊張しなくても大丈夫ですよ」

 

「ですが…」

 

「過去は過去。終わった話は、私達は掘り返しません。それはあみさんも同じの筈です」

 

そう言った後、ラバウルさんはまた作曲を続ける

 

「貴方は…私を恨んではいませんか⁇」

 

「恨んでいるのなら、妻にはしていませんよ」

 

何の気なしにラバウルさんは作曲を続けるが、実は少し上手く行っていない

 

ラバウルさんは決して口にしないが、おおいと居る事で緊張しているのだ

 

「おおいは、あみさんが嫌いですか⁇」

 

「いえ…好きですよ。人として、ですけど」

 

「”昔から”貴方は思い込む癖があります。貴方が思ってる以上に、あみさんは寛容ですよっ」

 

「だと良いのですが…」

 

「元彼が言うのだから信用して下さい」

 

作曲をしながら、ラバウルさんはとんでもないカミングアウトをした

 

「え⁉︎北上さんとお付き合いしてたんですか⁉︎」

 

「えぇ。おそらくおおいに話すのが最初でしょうね…アレンや健吾にも隠れて付き合って居ましたからね」

 

「…空軍は嘘や隠し事しないんじゃないんですか⁇」

 

私はラバウルさんを睨む

 

睨むと言っても本気では無く、冗談交じりの睨み方だ

 

「うっ…それを言われると痛いですね…」

 

「な〜んて、冗談です‼︎み〜んな知ってましたよ‼︎」

 

「やっぱりですか…」

 

ラバウルさんは、随分前に北上さんと付き合っていた

 

大佐達のジンクスである、”還る場所がある奴は強い”を模してみたらしい

 

だが、北上さんは元から若干のショタコンの気があり、年齢以上にオジンに見えるラバウルさんには、友達以上恋人未満の壁をどうしても超えられなかった

 

北上さんはラバウルさんと別れてしばらくした後、健吾を部隊に入れ、そして恋に堕ちた

 

私は”当時から”そんな北上さんを見ていたので知っている

 

「でも、私は嬉しいです。またこうして、みんなが集まって行くのを眺めているのが好きです」

 

「そうですか。なら、私と同じですね⁇」

 

ラバウルさんもおおいと同じ考えを持っていた

 

今、当時の仲間達が、数を増やしてまた集まっている

 

これ程幸せな事は無い

 

いつだって、どの時代だって、仲間は大切だ…

 

「貴方は…”もう一度”私に空に上がって欲しいですか⁇」

 

「空が恋しいですか⁇」

 

「…こりごりかも知れません」

 

私がそう言うと、ラバウルさんはクスリと笑う

 

「構いませんよ。空は私達に任せて。おおいは私達に美味しいご飯を作って下さい」

 

「分かりました。今晩も楽しみにしていて下さいね⁇」

 

「えぇ。お願いしますよ」

 

私は執務室から出て、厨房に足を向けた

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

一人執務室に残された私は、引き出しの奥から一枚の写真を取り出した

 

そこに写っていたのは、三人の女性と、一人の青年

 

青年を前方に座らせ、女性三人は後ろに横一列で並んでいる

 

中心にいるのはあみさん

 

正面から見て右側にいるのはおおいだ

 

おおいはヘルハウンド隊の一員だったのだ

 

何の因果か分からないが、こうして私達の元に帰って来たのだ

 

そして、今まで一切明かされていなかった謎が、この写真には写っていた…

 

それは、正面から見て左にいる女性

 

彼女の事は良く覚えている

 

クールな外見に似合わない面倒見の良さで、周りからも好かれていた彼女は、初めて自分を力で負かす人物に出逢った

 

レイだ

 

彼女はレイの事が気になって気になって仕方無かったのだが、本人が緊張してしまったのと、彼には当時からジェミニさんが着いていたので、ほとんど声を掛けられ無いまま、彼女は行方不明となった…

 

今思えば、壁から半分顔を出して見る癖はあの頃から治っていない

 

まっ…何となく、今何処にいるかは分かりますがね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぇっくしょ〜〜〜い‼︎うわっ‼︎メッチャ鼻水出た‼︎レイ〜‼︎鼻水拭いて〜‼︎」

 

「ったく…こっち向け」

 

「誰か噂してるのかなぁ⁇」

 

「横須賀辺りがお前を褒めてるんじゃないのか⁇」

 

「お母さんが⁉︎」

 

「ふっ…ホラッ、拭いたぞ」

 

「ありがと‼︎待って〜‼︎」

 

何処かの基地で幸せな誰かが、昔叶えられなかった恋を、自身は気付かないまま、形は違えど、時を超えて果たしていた…



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141話 神様なんていない(1)

さて、140話が終わりました

今回のお話は、レイが”嫌々”横須賀に出来た教会へと足を運びます

またほんの少し、物語の謎も明らかになるのかな⁉︎


バーズ・シャングリラの一件からすっかり忘れていたが、教会が造られた

 

俺はきそに連れられ、嫌々見学に行く事になった

 

「ほら〜っ‼︎早く来てってばぁ〜‼︎」

 

「い〜や〜だ‼︎絶対何か企んでるってぇのぉ〜‼︎」

 

俺は広場からきそに地面をズリズリ擦られながら教会に向かっていた

 

「アホがいるのです‼︎」

 

「レイさん何してるの⁇」

 

広場でたまたま話をしていた雷電姉妹が来た

 

「レイが教会に行きたくないって言うんだ」

 

「嫌だ‼︎絶対絶対ぜ〜ったい、シスターは何か企んでるってのっ‼︎」

 

「なら死ぬといいのです‼︎神を信じない者は死んで償うのです‼︎」

 

「サラッと怖い事言うな‼︎」

 

「サラと言えば、レイさん。この前サラって人と歩いてたわね…不倫⁇」

 

「しかも義母となのです‼︎」

 

「レイ〜。早く行かないとありもしない事言い振り回されるよぉ〜⁇」

 

きその脅しも入る

 

「うっ…ぐ…分かったよ‼︎行きゃ良いんだろ行きゃあ‼︎お前ら‼︎絶対言うなよ‼︎」

 

「そんなもん知らんのです‼︎電の勝手なのです‼︎」

 

「電には私から言っておくから、レイさんもきそちゃんも行ってらっしゃい‼︎」

 

「くたばるといいのです〜‼︎」

 

電は逢う度に口が悪くなっている気がする…

 

ホント嫌々教会の前に着くと、まずきそを前に出した

 

「頼むから先行ってくれ‼︎」

 

「わ、分かったよぉ…仕方ないなぁ…」

 

きそは教会の入り口のドアノブに手を掛けた…

 

「うわぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

ドアノブに触れた瞬間、きそは声を上げて痙攣し始めた

 

「やっぱりだ‼︎きそ‼︎」

 

「な〜んてね‼︎」

 

きそは痺れたフリをしただけだった

 

「悪い奴だな…ふぅ…」

 

「きっと何にもないよ。僕もいるし大丈夫だよ」

 

きそは普通に扉を開けた

 

 

 

中に入るとステンドグラスが各窓にあり、椅子や教壇等そこそこ立派な内装が目に入った

 

そして子供達が聖歌を歌っている

 

俺ときそは聖歌を歌っている子供達から一番離れた長椅子の端に座り、それを聴く事にした

 

「…レイ。こう言うの興味無いんじゃないの⁇」

 

きそが小声で聞いて来た

 

「神も天使も信じないけどな、コレだけは別さ」

 

「ふぅ〜ん…」

 

きそはつまらなさそうに反応した後、何気無しに手を繋いで来た

 

あまりにもいつも過ぎる為、しばらく気が付かなかった位だ

 

俺はその手を聖歌が終わるまで握り続けていた

 

聖歌が終わり、シスター・ヌードルが子供達を別の部屋に移し、シスター・グリーンが此方に来た

 

「あらマーカス君。神を信じる気になったのかしら⁇」

 

「んな訳ねぇだろ。歌聞きに来たんだよ歌を」

 

「ぐが〜〜〜…」

 

聖歌が心地良かったのか、きそは手を繋いだままイビキをかいていた

 

「…ったく」

 

きそを長椅子に寝かせ、上に革ジャンを被せた

 

「あら。マーカス君そんな事する様になったのね⁇」

 

「俺の娘だよ」

 

きその頭を撫でた後、シスター・グリーンの顔を見る

 

「んでっ⁇俺をここに呼んだ理由は何だ⁇」

 

「そうね…」

 

シスター・グリーンは何を思ったのか、俺を長椅子に座らせ直せ、膝の上に座って来た

 

シスター・グリーンは結構小柄で、立てばきそとドッコイドッコイの身長になる

 

きそより出る所は出ていて、少し色っぽく、そして年増だ

 

言っていなかったと思うが、俺は年上の女がチョット苦手だ

 

俺は皆から言われている様に、甘える事が苦手で、どう接して良いか分からないからだ

 

だからこそ年下でヒステリーでどうしようもない女を嫁に選ぶんだろうなぁ…

 

「長年シスターやってると体が火照っちゃう時があるのよね…」

 

シスター・グリーンは俺の手を取り、自身の太ももの上に置く

 

「…歳いくつだ⁇」

 

「レディに年齢は聞いちゃダ〜メ。分かった⁇」

 

「ウッセェババア‼︎」

 

「あら。そんな事言って良いのね⁇今の私達、他の人が見たらどう見えるでしょうね〜…ふふふふふ」

 

「よしっ‼︎レイ、カメラ切ったよ‼︎」

 

「デカした‼︎」

 

「あ、あら〜⁇」

 

実はきそ、寝ていた訳ではなく、長椅子に設置されていた隠しカメラの回線を切っていたのだ

 

実はきそが手を繋いで来た時、きそは俺の手の平に指でモールス信号を送っていたのだ

 

”椅子の隙間にカメラがあるから切る”

 

俺は寝たフリしたきそに革ジャンを被せて外側から見えない様にし、きそはその中でカメラの回線を切っていたのだ

 

「一本取られちゃったぁ〜‼︎」

 

シスター・グリーンは笑いながら俺の両手を握り、後頭部を俺の鳩尾に当てた

 

「シスターの下で何年やってたと思ってるんだよ」

 

「たまにはシスター以外の名前で呼んでくれてもいいでしょ、マーカス君っ⁇」

 

「ちっ…」

 

頭を掻こうとしたが、シスター・グリーンは信じられないパワーで俺の手を握っていた

 

「呼んでくれたら離してもいいかなぁ〜⁇」

 

「ホントだな⁉︎約束だぞ⁉︎」

 

「えぇ」

 

「…ゆ、ユウグモお姉ちゃん」

 

「なぁに⁇マーカス君っ⁇」

 

「うへぁ〜…」

 

きそは回線を切ったカメラで二人をコッソリ映す

 

レイが”お姉ちゃん”なんて言うのは大変珍しい

 

それを顔を真っ赤にしてだ

 

カメラに映った二人は、身長差が凄い本当の姉と弟に見えた

 

「こんなに立派になって…お姉ちゃんは幸せよ⁇」

 

ユウグモはレイの手を頬に置き、頬擦りをする

 

「早く降りてくれ。ババアは重い」

 

「冷たさは変わらないのね⁇」

 

「いい年して色付いてんじゃねぇよ」

 

「その悪〜いお口塞ぐにはどうしたらいいかしら⁇」

 

「キスでもしたらどう⁇」

 

「きそ‼︎」

 

「ふふふ〜…」

 

きそはカメラを持って俺達を撮影している

 

「お母さんには言わないよ。約束する」

 

「にはじゃない‼︎誰にもだ‼︎」

 

「誰にも言わないよ⁇ささっ、ブチューっと‼︎」

 

きそがニヤつきながら手で行為を促す

 

「…ったく」

 

俺は上を向いて目を閉じているシスター・グリーンの髪をかき上げ、額にキスをした

 

「あん…」

 

「色っぽい声出すな‼︎」

 

「てっきり唇にするかと…」

 

「する訳ねぇだろ‼︎娘の前だぞ‼︎」

 

「おしい〜‼︎」

 

当の娘は惜しがっている

 

だがしない

 

絶対にしない

 

嫌な予感がする‼︎

 

「口ん中見せてみろ‼︎えぇ⁉︎」

 

「あっ‼︎ひょっろ‼︎ケホッ…」

 

俺はシスター・グリーンの口の中に指を突っ込んだ

 

「コレは何かなぁ〜⁉︎」

 

口の中から指を抜くと、薬品のカプセルが出て来た

 

「えっとぉ〜…媚薬⁇」

 

「きそ。だから言ったろ。絶対何かあるって‼︎」

 

「ユウグモお姉ちゃんは悪女⁇」

 

「悪女も悪女だ‼︎ったく、二度とすんなよ⁉︎俺は年増に興味無いんだ‼︎」

 

「お姉ちゃんを年増だなんて…たかだかよんj…」

 

俺は急いでシスター・グリーンの口を塞いだ

 

「…歳の話した俺が悪かったよ」

 

「ふふっ。まぁいいわ。今日は諦めたげる」

 

シスター・グリーンはようやく膝の上から降り、此方に振り返る

 

「でも、時々膝の上に座らせて⁇」

 

「座るだけな⁇絶対だぞ⁉︎」

 

「分かったわ。また来て頂戴⁇」

 

「気が向いたらな。じゃあな」

 

俺はようやく長椅子から立ち上がり、きそを連れて教会を出た

 

 

 

 

外に出ると、きそはパクって来たカメラを大事そうに抱いていた

 

「良い絵が撮れましたね、グヘヘ…」

 

「お前段々横須賀に似て来たな…」

 

「親子だからね‼︎」

 

きその嬉しそうな顔を見ると、本当に横須賀の顔が浮かんだ

 

俺はきその前に屈み、先程シスター・グリーンにした様に髪をかき上げ、額にキスをする

 

「わっ…」

 

きその顔が一気に赤くなる

 

「そしてコレは没収だ」

 

「あがっ‼︎」

 

きその一瞬の隙を突き、カメラを奪う

 

「ぢぐしょ〜‼︎高値で売れると思ったのに"〜っ‼︎」

 

「ヌハハハハハ‼︎まだまだ甘いわ‼︎」

 

きそが地団駄を踏む前で、メモリーカードを抜き、内ポケットに仕舞う

 

「カメラは好きにしていいぞ」

 

「ホント⁉︎」

 

きその地団駄が止む

 

「要らんモノ撮るなよ⁉︎分かったか‼︎」

 

「んっ‼︎分かった‼︎」

 

「よし‼︎」

 

そして再び手を繋ぐ

 

この時、きそには不思議な感情が生まれていた

 

それは少し前からだった

 

いや、その感情自体は随分前からあった

 

きそはレイが、レイに気がある女性と話していたりすると、何故か邪魔をしたくなるのだ

 

そしてその女性にイタズラもしたくなる

 

きそは気付いていないが、横須賀と仲が良くない頃に色々チョッカイをかけていたのはその感情の為である

 

今では横須賀にそんな事しないが、今日シスター・グリーンに対してその感情が息を吹き返した

 

…ヤキモチだ

 

だが、きそがこの感情に気付くのは、もっともっと先のお話になるのであった…



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141話 神様なんていない(2)

次の日の朝…

 

俺は急用があり、また横須賀に来ていた

 

大した事では無く、用はすぐに済んだ

 

朝ご飯もまだだったので、俺は繁華街で何か腹に入れようとした

 

その道中に教会があった

 

おれは早歩きで教会の前を通り過ぎようとした

 

「ん⁇」

 

教会の中からオルガンの音色が聞こえた

 

とても綺麗な音色で、聞き覚えのある曲が耳に入る

 

入りたくなかったのだが、聴き入る程の音色だ

 

どうしても気になった俺は、教会の扉を開けてみた

 

教会の中はヒンヤリとした空気に包まれており、昨日の雰囲気とは少し違う

 

あぁ、これが神の御前って奴か…

 

俺は教会の中でも関係無くタバコに火を点け、オルガンの主に近付いて行く

 

教壇の近くにオルガンはあり、一人の少女が鍵盤を打っていた

 

俺はオルガンを撫でながら少女に近付いて行く

 

「懐かしいな…」

 

「だぁれ⁇」

 

顔を上げた少女は、目の前にいる俺をキョロキョロして探す

 

どうやら盲目の様だ

 

「神様だといいな」

 

「神様⁉︎マジパナイ‼︎」

 

あ、結構明るいのな…

 

「随分懐かしい曲が聴こえてな。ちょっと寄ってみたんだ」

 

「そうですか。この曲は”きぬ”が昔住んでいた街を救ってくれた人が教えてくれた曲なんです‼︎」

 

「俺もどっかの街でその曲を覚えた。懐かしいな…」

 

「元々は軍楽隊の人が作った曲らしいんです。その人は、その軍楽隊の人の為に今でもこの曲を色んな楽器で弾いているとか」

 

「…」

 

俺が急に口を閉ざすと、きぬはキョロキョロし始めた

 

「あの…急に黙られると怖いです」

 

「あ…あぁ、すまん。その人とは会った事あるのか⁇」

 

「顔は見た事ありません。きぬは目が見えませんから…」

 

「そっか…邪魔したな。また来るよ」

 

「いつでも来て下さい。きぬはここに居ます‼︎」

 

きぬに別れを告げ、俺は教会を出た

 

「へぇ〜…アンタが神に祈るとはねぇ」

 

教会を出ると横須賀が待っていた

 

「違ぇよ。懐かしい曲が聴こえたから入っただけさ」

 

「そっ。コーヒーでも飲みましょ」

 

俺は横須賀に腕を組まれ、間宮に向かった

 

間宮の朝は忙しい

 

沢山の工兵や遠征前の艦娘が、ここで体を温めて行くからだ

 

俺達はいつも座っている席が空いていたのでそこに座ってコーヒーを注文する

 

「マーカス大尉‼︎」

 

注文を待っていると、呼ばれ慣れない呼び方で誰かに呼ばれた

 

「初月か⁇面と向かって会うのは久しぶりだな⁇」

 

「中々挨拶出来なくてすまない」

 

出会った当初とは、性格が打って変わった

 

最初こそ手に負えないボンバーちゃんだったが、最近では俺が横須賀に来た時に隠れた位置からしっかりと警護してくれている、立派なボディーガードだ

 

「初月は今日はお休みなのよね⁇」

 

「そうだ。だが心配するな。マーカス大尉と提督の警護はしっかりと遂行している。今現在もな」

 

「誰だ⁉︎」

 

全く気配がしない

 

見られてる感じもしない

 

と、言う事はよっぽど隠れるのが上手な奴だ

 

「今日は今から繁華街でお買い物をするんだ」

 

「気をつけてな。そうだ‼︎チョットだけ小遣いをやろう」

 

「構わん。僕のお金で買う」

 

「なら昼飯代にでも回せ…あ、そっか、俺達はタダか…」

 

「ふふっ。だから要らないと言ったんだ」

 

初月が笑う

 

初月の笑顔を見れるのは結構珍しい

 

「では、行って来ます」

 

「楽しんで来なさい」

 

初月は俺達に手を振り、間宮を出た

 

「変わったな、初月」

 

「初月は私達を護衛する事に価値を見出してるの。ボンバーちゃんの癖が抜けたら、結構大人しくて可愛かったわ‼︎」

 

ついでに横須賀も変わった

 

コイツ、少し前までは身分にモノ言わせて自堕落な生活をしていたのに、娘が産まれてから変わった気がする

 

前までの横須賀なら、誰が休みとか一人も把握していなかったハズだ…

 

「コーヒーお待たせしました‼︎」

 

間宮にコーヒーを貰い、角砂糖とフレッシュを入れ、かき混ぜる

 

「シスター達の様子はどうだ⁇」

 

「アンタが心配してる程じゃないわ。アンタと違って、艦娘の子は神を信じる子は多いわ」

 

「目に見えない奴を信じろ…か…」

 

コーヒーを置き、タバコに火を点ける

 

紫煙を肺いっぱいに入れ、それを一気に吐く

 

「さっき聞いてたオルガンの曲…あれは限られた人間しか知らん」

 

「軍楽隊が演奏してた曲⁇」

 

「そうだ。曲は知ってたとしても、弾けるとなると本当に限られて来る」

 

「イギリスのあの街よね…私もよく覚えてるわ…アンタに壁ドンされた街だから」

 

「いらん事は覚えてるのな…」

 

俺はため息を吐くが、横須賀は笑っている

 

ひとしきり笑った後、横須賀はコーヒーを飲み干して立ち上がった

 

「さっ、私は執務室に戻るわ。アンタは基地に戻るの⁇」

 

「そうだ…なっ‼︎」

 

急に立ち上がり、横須賀に壁ドンしてみた

 

「お前からお別れのキスを貰ったらな⁇」

 

「えっ‼︎チョット…」

 

横須賀の顎を上げ、目を見つめる

 

「たまにはお前からしてみろ」

 

「んん〜っ‼︎」

 

横須賀は必死に背伸びをする

 

「届かない…んん〜っ‼︎」

 

「はぁ…」

 

横須賀の顎を更に上げ、言った通りにお別れのキスをする

 

間宮の店内から歓声が上がる

 

「ヒューヒュー‼︎良いね提督‼︎」

 

「流石はレイさん‼︎憧れるぜ‼︎」

 

艦娘の子も、ゴリゴリの野郎達も一緒になって盛り上がる

 

唇を離し、真っ赤っかになっている横須賀の頭を撫でる

 

「ホラ、行け」

 

「ん…」

 

横須賀は恥ずかしそうに間宮から出て行く

 

出口付近で横須賀は足を止め、此方に振り返った

 

「レイ、ありがと」

 

俺は余ったコーヒーを飲みながら、横須賀に手を振った

 

横須賀は笑顔で間宮を後にした

 

「良いカップルですね‼︎」

 

間宮も勿論事を見ていた

 

「アイツはあぁ見えて、結構乙女だからな…」

 

その時の俺は余程嬉しそうな顔をしていたのだろうか

 

この後しばらく、艦娘や野郎達に散々おちょくられた

 

 

 

 

基地に戻ると、食堂でたいほうとひとみといよがカーペットの上でお絵かきをしていた

 

俺はそんな三人を見ながら、久しぶりに部屋からギターを持って来た

 

「おっ‼︎レイのリサイタルだ‼︎」

 

俺のギターにいち早く反応したのは意外にも隊長だった

 

「あら‼︎レイ君のギター久しぶりね‼︎」

 

その次に貴子さんも反応を示す

 

「あんまり弄らなさ過ぎると悪くなるからなっ」

 

ソファーに座り、ギターを弾く

 

俺は知りたかった

 

今日聴いたあの曲…

 

ここで知っているのは、隊長とグラーフだけだ

 

教会で聴いた曲と同じ曲を、俺はギターで奏でる

 

足元にいた子供達もお絵かきを止め、此方を見ている

 

「懐かしい曲聴こえた」

 

グラーフも来た

 

やはりグラーフも知っている

 

曲が終わると拍手され、隊長が言う

 

「懐かしいな…」

 

「グラーフも知ってる」

 

「やっぱ隊長とグラーフは知ってるか…」

 

「すてぃんぐれい、そのおうたなぁに⁇」

 

たいほうが無邪気に聞いて来た

 

「これはな”恋のマリーゴールド”って曲だ」

 

「まりーごーるろってなんら⁇」

 

「きそしゃんのしゅきな、きいろいしゅわしゅわのじゅーすか⁇」

 

ひとみといよが腕を組んで悩んでいる

 

「この曲はな、俺の友達が遺してくれた大切な曲なんだ」

 

「照月知ってるよ‼︎」

 

照月は山盛りの枝豆を食べながら答えた

 

「お兄ちゃん、この前夜に弾いてたよね⁇それとそのジュースは”現実的ゴールド”だよ‼︎」

 

「しょっかぁ〜‼︎」

 

「げんじちゅてきごーるろかぁ〜‼︎」

 

ジュースの名前を知ったひとみといよは、たいほうの膝の上でゴロゴロし始めた

 

「たいほうのおひざでねんねする⁇」

 

「たいほ〜…」

 

「たいほ〜…ふぁ…」

 

俺のギターを聴いて眠たくなったのか、ひとみもいよもたいほうの膝の上で眠ってしまった

 

「ねんねんころり〜ぶっころり〜」

 

たいほうは二人の頭やお腹を優しく叩いたり撫でたりしながら、スヤスヤ眠る二人の寝顔を見て微笑む

 

歌っている子守唄が怖かったけどな…



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141話 神様なんていない(3)

数日後、たまたま会ったアレンと話しながら歩いていると、いつの間にか教会の前に来ていた

 

そしてまた、あの曲が聴こえてくる

 

「随分懐かしい曲だな」

 

「お前も知ってるのか⁇」

 

「まぁな。キャプテンが作曲して、軍楽隊に提供したのを覚えてる」

 

「ラバウルさんが作ったのか⁉︎この曲を⁉︎」

 

「作っただけだってキャプテンは言ってた。曲名付けたのは軍楽隊のメンバーだって」

 

「来い」

 

アレンと共に教会に入る

 

教会の中には、やはりきぬがいた

 

「相変わらず精が出るな」

 

きぬはオルガンを弾く手を止め、声がする方に顔を向けた

 

「その声は…」

 

「きぬ。その曲を作った人が分かったんだ」

 

「エドガーさんですよね⁇」

 

「知ってるのか⁉︎」

 

「えぇ。きぬはエドガーさんからこの楽譜を貰いました」

 

きぬの前には、点字で書かれた楽譜が置いてある

 

恐らく、世界で一つしかない楽譜だ

 

「きぬが会いたいのはエドガーさんじゃないのか⁇」

 

「エドガーさんにも勿論会いたいです…でも、この曲を一番最初に教えてくれた人に会いたいです」

 

ますます謎は深まる…

 

 

 

基地に帰ってもそれは同じだった

 

「えいしゃんおなやみ⁇」

 

「ひとみたちがきいたげう‼︎」

 

まさか子供達に心配されるとは…

 

二人はいつものように俺の膝の上に乗る

 

目の前では、たいほうがピアノのオモチャで遊んでいる

 

「すてぃんぐれい、このまえのおうたおしえて⁇」

 

「あぁ。おいで」

 

ひとみといよを膝の上に乗せながら、たいほうの後ろからピアノに手をかける

 

「ここはこう」

 

「こう」

 

たいほうは物覚えが早い

 

あっと言う間に最初の部分を覚えていた

 

「たいほうはピアノ好きか⁇」

 

「たいほうぴあのすき‼︎」

 

「えいしゃんすごい…」

 

「なんでもできう‼︎」

 

膝の上ではしゃぐ二人を見て、俺はふと思い出した

 

過去にこうして教えた事がある…

 

…まさか‼︎

 

 

 

 

 

次の日の早朝、俺は早速教会に向かう

 

相変わらず、あの曲が流れている

 

俺は教会に入り、きぬに近付く

 

「神はいたか⁇」

 

オルガンをさすりながら、きぬの隣に来た

 

「あっ‼︎おはようございます‼︎」

 

きぬはいつもの様にオルガンを弾くのを止め、声のする方を見る

 

「いつも途中で止まるのな」

 

「あ、あはは…実はこの先は分からないんですよ…あまり聞いた事も無くて、楽譜も無くて…」

 

きぬは後頭部を掻きながら笑っている

 

「ここはだな…」

 

「あっ」

 

きぬの手を取り、鍵盤に触れさせる

 

鍵盤を押すと、教会内に音が反響する

 

数秒後に静かになり、また鍵盤を押す

 

それを繰り返す

 

「思い出したか⁇」

 

「貴方、マーカスさんですか⁇」

 

「マーカス・スティングレイは俺の名前だ」

 

「あぁっ…」

 

きぬは笑っているが、目からは涙が落ちていく

 

「きぬ、ずっとマーカスさんに逢いたかったんです‼︎だから毎日お祈りして‼︎それで…」

 

「神は残酷だな」

 

「へ⁉︎」

 

俺はタバコに火を点け、きぬに背を向けた

 

目の前には、御神体がデカデカと置かれている

 

「目の前に逢いたい人がいるのに、その人を見る事も出来ない」

 

「いいんです…この目は、神様がきぬに与えた試練ですから…」

 

「ならっ…きぬは望んだのか⁇その試練とやらを」

 

「いえ…」

 

「俺は神を信じてない。平等を謳って、結局屁理屈でそれを捻じ曲げて、人の上に人を作るからな」

 

「そんな事…言わないで下さい…」

 

きぬの声に覇気が無くなって来た

 

「きぬはそんな神に何を望む⁇」

 

「きぬは…目が見える様になりたいです…」

 

「目が見えたら何をしたい⁇」

 

「マーカスさんの顔を見たいです‼︎それに、いっぱいいっぱい楽譜を覚えて、人に聞かせてあげたいです‼︎」

 

その答えを聞いて、俺は肺に溜めた紫煙を吐き出した

 

「だったら、俺がお前の神になってやる」

 

「マーカスさんが…神様に、ですか⁇」

 

「望まない試練を与える奴より、今お前の目の前にいる奴を信じろ」

 

「マーカスさん…」

 

「事が終わったら、俺はもう一度同じ事を聞く。その時は答えを聞かせてくれ」

 

「…はいっ‼︎」

 

きぬの返事を聞き、俺はきぬを抱き上げた

 

「へっ⁉︎何処に行くんですか⁇」

 

「黙って掴まってろ」

 

きぬを抱き上げたまま、俺は教会を出た

 

 

 

 

そんな二人の様子を、誰かが天井から見ていた

 

「うっはぁ〜…メッチャカッコいい…」

 

その誰かは、手に握っていたT-爆弾を仕舞い、二人が教会に出るまで天井から見届けていた

 

 

 

 

 

 

「拉致なのです‼︎」

 

「マーカスさん…そんなに溜まってるの⁇」

 

外に出ると、運悪く雷電姉妹に出くわした

 

「急用だ。医務室まで道開けられるか⁇」

 

「仕方無いのです」

 

「分かったわ‼︎」

 

聞き分けは良いんだけどなぁ…

 

雷電姉妹が道を開けてくれたお陰で、医務室まですぐに着けた

 

「お前ら、チョットそこで待ってろ」

 

「電はもう行くのです」

 

「待ってるわ‼︎」

 

俺が医務室に入ると、雷電姉妹は軽く口論を始めた

 

「おい‼︎何で待つ必要があるのです‼︎」

 

「命令かもしれないじゃない‼︎」

 

「…仕方無いのです」

 

雷電姉妹は近くに備えられたベンチに座り、足をプラプラしながら俺の帰りを待ち始めた

 

 

 

 

きぬを診療台に寝かせ、俺は機材を準備する

 

「怖いか⁇」

 

「怖くないです。目の前に神様がいますから」

 

「その調子だ。目を閉じて…」

 

きぬは言われた通りに目を閉じた

 

きぬに酸素マスクを付け、全身を溶液に浸して行く…

 

「一時間したら目を開けてご覧」

 

「分かりました」

 

修復材に浸されたきぬは眠りについた

 

俺の仕事はここまでだ

 

「明石」

 

「はい」

 

「後は任せる。一時間後にシスター達をここに呼んでくれ」

 

「畏まりました」

 

もう大丈夫だ

 

あの液体にしばらく浸かれば、目位は見える様になる

 

医務室から出ると、雷電姉妹はちゃんと待っていた

 

「待ってやったのです」

 

「あの人は大丈夫なの⁇」

 

「もう大丈夫だ。行くぞ」

 

雷電姉妹は顔を見合わせ、不思議に思いながらも俺の後を着いて来た

 

「どこ行くの⁇」

 

「ん〜⁇たまには何か買ってやろうと思ってな」

 

着いたのは繁華街にある雑貨屋

 

「いらっしゃいませ〜」

 

ここならある程度のモノは揃っている

 

「好きなの持って来い。今日の御礼だ」

 

「行ってくるわ‼︎」

 

雷は嬉しそうに行くが、電は何故か俺の足元で渋っていた



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141話 神様なんていない(4)

「どうした⁇行かないのか⁇」

 

「欲しいモンなんてないのです」

 

「そっか。なら、俺と一緒に選ぶか⁇」

 

「そうしてくれると助かるのです」

 

電はさり気なく手を繋いで来た

 

俺には散々当たるのに、結構人見知りなのな…

 

「オモチャにするか⁇」

 

「オモチャは要らないのです。雷が選んでるのです」

 

「じゃあお洋服にするか‼︎」

 

「お洋服…」

 

電は洋服と言う単語に興味を示した

 

「どれがいい⁇」

 

「アレを着てみたいのです」

 

電が指差した先には、フリフリのドレスがある

 

「試着していいか⁇」

 

「どうぞ〜」

 

店員に許可を入れ、電を試着室に入れ、ドレスを着させてみた

 

「おぉ、似合ってるぞ」

 

「実用的じゃないのです」

 

試着室から出て来た電は、気に入ってはいるが歩きにくそうだ

 

「ははは‼︎なら違うのにするか‼︎」

 

「レイさんが選んで欲しいのです」

 

「ん⁇そうか⁇なら…」

 

実用的な服か…

 

そう言われると、どうしても目が行くのが革ジャン

 

だが、電のような小さい子には革ジャンは似合わない

 

ならどうするか…

 

「これなんかどうだ⁇」

 

俺が選んだのは黄色いパーカー

 

背中にヒヨコが描かれていて、デザインも可愛い

 

「着てみるか⁇」

 

「着てみるのです」

 

再び試着室に電が入り、数分したら出て来た

 

「ピッタリなのです‼︎」

 

「似合ってる似合ってる‼︎それなら実用的だな‼︎」

 

「これにするのです‼︎柄も気に入ったのです‼︎」

 

「雷もこれがいいわ‼︎」

 

オモチャを探していた雷だが、電と同じパーカーが欲しくなったみたいだ

 

「雷はこの色にするわ」

 

雷が手に取ったのは、電とお揃いの柄の水色バージョン

 

試着させて、ちゃんと似合っているか確認する

 

「似合ってな。よしっ、この二つ下さい」

 

「は〜い。ちょっとごめんね〜」

 

雷電姉妹は後ろを向き、店員に値札を取って貰う

 

「二着で1000円です〜」

 

店員に千円札を渡し、雷電姉妹はそのまま服を着て店を出た

 

「レイさん」

 

店員に手招きされ、店から出ようとした足が止まる

 

「あの子達があんなに懐くの、貴方だけですよ⁇」

 

「そうなのか⁇」

 

「口は悪いけど、やっぱりまだ子供なんですよっ」

 

目線を二人にやると、互いに着た服を見てニコニコしている

 

「また来るよ」

 

「ありがとうございました〜」

 

店員に一礼され、俺も店を出た

 

「レイさん、ありがとうなのです‼︎」

 

「とっても着やすいわ‼︎」

 

「チャリンコはもうチョイ待ってくれ。中々良いのが無くてな…」

 

俺はこの二人に子供用自転車の後の約束であるマウンテンバイクを買ってやっていない

 

「もういいのです‼︎」

 

「レイさんはいっつも私達に良くしてくれるわ‼︎」

 

「いや。約束は約束だ」

 

「レイさん…今までごめんなさいなのです…」

 

「ごめんなさい…」

 

急にシュンとなる二人の前に屈み、二人を抱き寄せる

 

「いいんだ…毎日辛いよな⁇」

 

そう言うと、二人共俺を抱き返して来た

 

余程抱えていたものがあったみたいだ

 

じゃないと俺にあれだけ当たらない

 

「ずっとこうして欲しかったのです…」

 

「雷もよ…」

 

「心配するな。俺はいつだってお前達の味方だ」

 

二人の背中をポンポンと叩き、帰りは二人と手を繋いで駆逐艦寮に帰って来た

 

「今度は電達がレイさんにご馳走するのです‼︎」

 

「楽しみにしておいて‼︎」

 

「んっ。分かった。じゃあな」

 

二人が部屋に入ったのを見届けた後、俺は教会に向かった

 

いつもの様にタバコに火を点け、オルガンに手を掛ける

 

「ふぅ…」

 

深い深いため息と共に紫煙を吐き、俺はオルガンを弾き始める

 

曲は勿論あの曲…

 

この曲には、色んな思いが込められている

 

二度と戦争が起きないよう…

 

愛する人の元に無事に帰れるよう…

 

家族が悲しまないよう…

 

軍楽隊、そしてあの街の戦いで散った市民の代弁を、この曲がしている

 

いざ曲が終わりそうになった時、教会の扉が開いた

 

「あの人がマーカス君よ…」

 

「わぁ〜…」

 

シスター二人ときぬだ

 

曲が終わり、俺は御神体を背にきぬ達を見た

 

きぬ達から見ると、俺は少し高い場所に立っている

 

「神はいたか⁇」

 

「…はいっ‼︎」

 

きぬは涙を払い、しっかりと此方を見ていた

 

「望まない試練を与える奴より、今お前の目の前にいる奴を信じろ…その答えは出たか⁇」

 

「はいっ‼︎きぬはやっぱり神様を信じます‼︎だって、目の前にいるんだもん‼︎」

 

「オーケー‼︎気に入ったぜ‼︎俺はマーカス・スティングレイ‼︎お前の名は⁉︎」

 

「きぬ‼︎」

 

きぬは元気良く答えた

 

「よしきぬ‼︎俺は道を与えた‼︎後はお前の自由に生きろ‼︎それが目の前にいる神様からの最初で最後の命令だ‼︎」

 

「はいっ‼︎マーカスさん‼︎」

 

俺は御神体の前を離れ、きぬ達に近付いた

 

「道に迷ったらいつでも来い。神は見捨てても、俺は見捨てないから…」

 

きぬに耳打ちし、俺は教会を出た

 

 

 

 

 

「あぁ〜ん‼︎マーカス君ってばカッコイ〜‼︎」

 

ユウグモは体をくねらせて悶絶している

 

「シスター・グリーン、本音が出てまし」

 

「”ハルサメ”はマーカス君を見て何も思わないの⁉︎私マーカス君に惚れちゃったかも〜‼︎」

 

「相手は既婚者でし」

 

「私がここまで惚れたのは初めてよ‼︎こうなれば略奪よ略奪‼︎」

 

「神への冒涜でし」

 

シスター・ヌードルもとい、ハルサメは冷静だ

 

「いいのよ。シスターやってたらね、男なんてこの服装にしか興味無いって分かるのよ‼︎いい⁉︎ハルサメも早くしないと出遅れるわよ⁉︎」

 

「ハルサメはシスター・グリーンよりババアじゃないでし」

 

「そんな事言っていいんだ〜⁇マーカス君のオカズにもなってない癖に〜」

 

「アレン君のオカズにはなってまし」

 

ハルサメは勝ち誇った様な顔をする

 

「うぐっ…」

 

きぬを差し置き、シスター二人の醜い喧嘩はしばらく耐えなかった…

 

 

 

 

教会を出た俺は、海岸にある階段で一人でタバコを吸いながらシェイクを飲んでいた

 

手元にはシェイクは二本

 

これから来るであろう、初月の代理に渡すつもりだ

 

「お疲れ様」

 

誰かが俺の横に座る

 

「ホラ」

 

「へへへ…ありがと」

 

初月の代理の正体はきそだ

 

確かにきそなら納得が行く

 

気配を消すのも上手いし、ある程度の護衛戦術は教えてある

 

ただ、問題は手当たり次第に爆弾を投げ込まないかが心配だ

 

「レイ、カッコ良かったね⁇」

 

「恥ずかしいんだぞ⁉︎俺は神だ‼︎とか厨二病かよ…」

 

「いいじゃん。レイはみんなからしたらホントに神様かも知れないよ⁇」

 

「んな事言っても何も出んぞ⁇」

 

「たいほうちゃんでしょ⁇いよちゃんひとみちゃん、照月に霞ちゃんにはっちゃん。そんで僕。後はその他諸々」

 

「みんな友達だからな。友達を助けるのに理由は要らん」

 

「みんなレイに助けられてるんだ。みんなから見たら、レイはきっと神様みたいなもんだよ」

 

「俺は神にはならん。出来るのはっ…神様の真似事だけさっ」

 

吸い殻を指で跳ね飛ばし、海へと捨てる

 

「レイって、やっぱりカッコイイね‼︎」

 

「それ飲んだら帰るぞ。てか逃げるぞ‼︎」

 

「え⁉︎何で⁉︎」

 

「マーカスく〜ん‼︎お姉ちゃんとチューしましょ〜‼︎」

 

遠くからシスター・グリーンが走って来た

 

「うはは‼︎何あれ超☆怖い‼︎」

 

「シスター・グリーンを相手にしたらシャレにならん‼︎」

 

「逃げよう‼︎」

 

きそと共に俺は走った

 

こうして、俺が偽りの神様になった日は幕を閉じた…



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142話 リベッチオ・パスタ(1)

さて、141話が終わりました

今回のお話は、題名の通りようやくこの子の正体が明らかになります

なに⁇リベッチオは出ていない⁉︎

ず〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っと前にパスタの国に行った時に、チョビ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っと出て来てます


俺はアレンと共に横須賀に来ていた

 

何でも美味いパスタの店が出来たらしく、俺達はそこに向かっていた

 

「いらっしゃいませー‼︎本場イッタリーのパスタだよー‼︎」

 

「これか」

 

”リベッチオ・パスタ”と看板を出すその店には、片方を巻き髪にした綺麗な女性がパスタを作っており、ホールには小麦色の肌の、幼女と少女の狭間で揺れている様な女の子がせっせとパスタを運んでいた

 

「いらっしゃいませー‼︎リベッチオ・パスタにようこそ‼︎」

 

「ようこそ〜」

 

「二人だ」

 

「こちらへどうぞー‼︎」

 

その女の子に案内され、窓際の席に案内される

 

「メニューです‼︎」

 

「んっ。ありがとう」

 

女の子の手からメニューを受け取る

 

「注文がお決まりになりましたら”リベ”を呼ぶか、そこのベルでお知らせ下さい‼︎」

 

よく見ると女の子の胸元には、まだ文字に慣れていないのか、ギリギリ”りべっちお”と分かる手書きのネームプレートが付けられている

 

「んじゃぁ、俺はミートソースで」

 

「はいっ‼︎ミートソース一つ‼︎」

 

「俺は…」

 

アレンはメニューを見て、ある事に気付く

 

「ナポリタンは無いのか⁇」

 

「ナポリタンはイッタリーのパスタではありませんので無いです‼︎」

 

「そうなのか…ん〜、じゃあ、カルボナーラを」

 

「かしこまりました‼︎カルボナーラとミートソースですね‼︎少々お待ちを‼︎」

 

リベは厨房に戻り、巻き髪に注文を書いた紙を渡す

 

リベが行った途端に、俺達はタバコに火を点けた

 

「キャプテンが見たら連れ帰りそうだな…」

 

「出禁になるぞ…」

 

「しっかし、日本語の上手な子だな」

 

「お待たせしました‼︎」

 

「「はやっ‼︎」」

 

二人して同じ言葉が出る

 

早いのは良いが、こうなると不安なのは味だ…

 

「いただきます」

 

「いただきます…」

 

二人共、恐る恐るパスタを口にし、今しばらく咀嚼する

 

「…美味いな⁇」

 

「…メチャウマだ」

 

味もパスタの硬さもちょうどいい

 

あっと言う間にパスタは無くなり、俺とアレンはそこそこ満足な状態でスプーンとフォークを置いた

 

「コーヒーいかがですか⁇」

 

リベがコーヒーを入れた容器を持って来た

 

「あぁ、頂こう」

 

リベがコーヒーを淹れてくれている時に、気になった事を聞いてみた

 

「君は日本語が上手いな⁇」

 

「パーパが日本語上手なんです。リベのパーパはパイロットなんですよ⁇」

 

「へぇ〜。何処の部隊だ⁇」

 

リベの口から出た部隊名で、俺達は椅子からひっくり返りそうになった

 

「サンダー…バード…だったかな⁇と〜っても強いんですよ⁉︎」

 

「お前マジか‼︎」

 

アレンの視線が痛い

 

言いたい事は分かる

 

どうせお盛んと言いたいんだろ‼︎

 

「いやいやいやいや‼︎チョイ待ちチョイ待ち‼︎」

 

必死に抗議するが、こうも立て続けに子供が産まれていたら説得力が無い

 

「パーパを知ってるの⁇」

 

「あ、いや、知ってると言うか、何と言うか…」

 

「空軍は嘘つかないんですよね‼︎」

 

リベの笑顔が痛い…

 

「お、俺の所属してる部隊だ」

 

「でも”レイさん”はパーパじゃないよね⁇」

 

「そうだな…てか、俺の名前知ってるのな⁇」

 

「うんっ‼︎リベは物知りなんだよ‼︎はい‼︎」

 

コーヒーを貰うが、リベはまだ何か聞きたそうだ

 

俺ももう少し知りたい

 

「俺の事、何で知ってるんだ⁇」

 

「マーマに教えて貰ったの。パーパと、もう一人の男性が居るって‼︎」

 

「その、マーマは誰だ⁇」

 

「ローマ‼︎」

 

無邪気に答えるリベだが、俺達は驚きを隠せないでいた

 

「おうふ…」

 

「アイツ子持ちかよ…」

 

「すみませ〜ん‼︎こっちもコーヒー下さい‼︎」

 

「あっ‼︎は〜い‼︎では、失礼します。レイさん、金髪さん、待たね‼︎」

 

「じゃあな」

 

俺とアレンは手を振り、リベは別の客の対応を始めた

 

俺達は変な気分のまま、リベッチオ・パスタから出た

 

「ローマの娘か…」

 

「俺は金髪さんかぁ…」

 

俺達はそれぞれの基地に戻り、その日の夕飯の前、俺はローマに今日の事を話してみた



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142話 リベッチオ・パスタ(2)

「ローマ」

 

「何⁇」

 

いつ話掛けても半ギレだ…

 

「リベッチオって子、知ってるか⁇」

 

俺がそう言うと、ローマの顔色が変わり、周囲を見回した後、俺の耳元に口を近付けた

 

「…あの子が横須賀に来てるの⁇」

 

「…パスタ屋で働いてる」

 

「兄さんには絶対黙ってて。良いわね⁇」

 

「何か理由があるのか⁇」

 

「…私を強請ろうっての⁇」

 

「理由くらい聞かせてくれたっていいだろ⁇」

 

「はぁ…来なさい」

 

俺はローマに連れられ、ローマの部屋に来た

 

「これ見て」

 

ローマに一枚の写真を渡される

 

「リベッチオだな」

 

「私の娘よ。兄さんとのね」

 

「事情がありそうだな…」

 

「…いい⁇絶対兄さんには黙ってて。良いわね⁇」

 

「分かったよ」

 

部屋のベッドの端に座り、ローマは話し始めた

 

 

 

 

だいぶ昔に、俺達はパスタの国の護衛に就いた事があった

 

その時、ローマは看護師

 

隊長は勿論パイロット

 

互いに二人は初対面だと思っていたが、実は生き別れの兄妹

 

そうとは知らず、二人はその場限りの体の重ね合いをしてしまった

 

言っておくが、この時点で貴子さんは死んだ事になっている

 

だから、隊長が寂しさを紛らわす為に女を抱くのは普通の事だ

 

その時の子がリベッチオだ

 

因みに俺はその時、グラーフに恋していた真っ最中だ

 

 

 

 

「てな訳」

 

「なるほどな…まっ、寂しさ紛らわすには一番手っ取り早い行為だわな」

 

「いい⁇絶対兄さんには内緒よ⁇こんな事がバレたら私…」

 

「言わねぇよ。心配すんな」

 

そう言い残し、俺は部屋を後にした

 

ローマは不安でいっぱいだった

 

一番知られたくない弱みを握られたからだ…

 

 

 

 

次の日から、ローマはちょくちょく俺の様子を伺いに来た

 

「対空性能は飛び抜けて良いね」

 

「問題は軽量化か…」

 

俺ときそが兵装の相談をしていたら、ローマは壁から顔を半分出して此方を見ていたり…

 

「もう怪我は大丈夫そうだな⁇」

 

「へへっ、心配ありがとう」

 

スカイラグーンで一服していても、背後の席にローマがいて、俺をジーッと見てくる…

 

グリフォンに乗り、ようやくローマの目から離れる

 

《ずーっと見てくるね、ローマさん》

 

「心配する必要ねぇのになぁ…」

 

だが、その内緒はある日突然バレてしまう…

 

 

 

 

俺はその日、毎週恒例の子供を連れて学校に送り、その後はいつもの様に横須賀とデートしていた

 

「レイ。アンタ、リベッチオ・パスタ食べたんですって⁇」

 

「あぁ。まぁまぁ美味かったぞ」

 

「行きましょ。定期視察がまだななの」

 

横須賀と手を繋ぎ、リベッチオ・パスタを目指す

 

「いらっしゃいませ〜‼︎」

 

相変わらずリベがてんてこ舞いに動いている

 

「あらっ。可愛いウェイトレスさんね⁇」

 

「横須賀さん。いらっしゃいませ〜」

 

巻き髪が挨拶した後、リベの案内で席に案内される

 

「メニューは此方になります‼︎」

 

「ありがと」

 

「俺はミートソース」

 

「馬鹿の一つ覚えね。すみませ〜ん‼︎」

 

「ぐっ…」

 

横須賀はサラッと酷い事を言ったあと、リベを呼んだ

 

リベはすぐに此方に来て、手元には伝票に注文を書く準備が整っていた

 

「ミートソース二つね」

 

「ミートソースを二つ。畏まりました〜‼︎」

 

リベが去り、俺は何となくメニューを見た

 

 

 

 

”新商品‼︎”

 

ナポリタン、嫌々始めました‼︎

 

280YEN‼︎

 

注※本場イッタリーにナポリタンはありません

 

 

 

 

「へぇ〜。イタリアってナポリタンないんだ⁇」

 

「らしいな。あのケチャッ”ピ”の絡んだパスタは中々好きなんだがな…」

 

「…アンタ、今なんて⁇」

 

「パスタは中々好きだ」

 

「その前よ‼︎ケチャッピ⁉︎」

 

「ケチャッピだろ⁇あのトマトのやつ。ホラ、マヨネーズと良く似た容器に入った…」

 

「はぁ〜…」

 

横須賀は深いため息を吐いた

 

どうやらケチャッピでは無いらしい

 

「ケチャッ”プ”‼︎はい、復唱‼︎」

 

「ケチャップ‼︎」

 

「もぅ…清霜でもそれ位分かるわよ⁉︎」

 

俺は自分の娘以下の知識か…

 

なんと情けない…

 

「お待たせしました‼︎」

 

「あらっ、早いわね⁉︎」

 

「横須賀さん、フーフーして食べて下さいね⁇」

 

「えぇ、ありがと」

 

横須賀はリベに手を振り、さっそくパスタを口にする

 

俺はそんな横須賀の食べる顔を見ていた

 

「あらっ‼︎美味しいわね‼︎」

 

「だろ⁇」

 

「うんっ‼︎イケるわ‼︎」

 

嬉しそうに食べる横須賀の顔を見て、俺もパスタを口にする

 

「リベッチオって子、日本語上手ね⁇」

 

横須賀が言った言葉で背筋が凍る

 

「まぁ、な…⁇」

 

背後から殺気がする…

 

ろ、ローマだ…

 

「あらローマ‼︎こっちいらっしゃいよ‼︎」

 

「…いいわ、別に。私ココで食べる」

 

「マーマ‼︎」

 

ある程度仕事が落ち着いたリベがローマに抱き着いた

 

「リベ…ごめんね⁇マーマ、リベの傍にいれなくて…」

 

ローマはリベの頭を愛おしそうに撫でる

 

やはり母親なんだな…

 

「いいよ。リベ、リットリオさんとパスタ作るの好きなの‼︎」

 

「レイ」

 

「な、何だ⁇」

 

リベとローマの方を向いていた首を横須賀に戻す

 

「隊長の子なんだってね⁇リベちゃんは」

 

「知ってるのか⁉︎」

 

「乙女はすぐに気付くわよ」

 

「どの口が…」

 

「隊長も薄々気づいてるしね、自分にたいほうちゃん以外に血の繋がった娘がいるって事」

 

「待ちなさい」

 

横須賀の話を聞いて、ローマが急に立ち上がった

 

「兄さんには言わないで頂戴」

 

「いつかはバレるわ」

 

「くっ…」

 

何故か分からないが、横須賀とローマはメンチをきり合う

 

「ま、まぁ待て。ローマ、横須賀が言ってるのも正しいのは分かるな⁉︎」

 

「…えぇ」

 

「俺達はお前を責める気はサラサラ無い。逆に手伝ってやるよ‼︎な、横須賀‼︎」

 

「ローマに気があればね」

 

今日の横須賀は何故か冷たい

 

「…ホントに手伝ってくれるんでしょうね⁇」

 

「当たり前だ‼︎何なら、後でローマの愚痴のサンドバックにもなってやる‼︎」

 

ローマは少し悩んだ

 

「マーマ…」

 

リベッチオの悲しそうな顔を見て、ローマは決心が付いたようだ

 

「いいわ。なら手伝って頂戴」

 

「オーケー。なら善は急げだ。横須賀、行くぞ」

 

「んっ」

 

「ローマ、お前は高速艇で帰って来い。リベを連れてな⁇」

 

「えぇ」

 

何故か半ギレの横須賀を連れ、俺はリベッチオ・パスタを出た

 

グリフォンに乗るまでの間、横須賀は俺の腕を終始締め付けるかの様に抱き着いていた

 

何故キレていたかは、後で分かる事になる…

 

 

 

 

 

 

基地に着くと、いつも通り子供達がカーペットの上で遊んでいた

 

「えいしゃんぱすたたべたか⁇」

 

「おいしかった⁇」

 

「あぁ、美味しかったぞ。二人共、もう少し歯が生えたら食べに行こうな⁇」

 

「レイ、どうした⁇」

 

「え⁉︎」

 

「冷や汗が出てるぞ⁉︎」

 

隊長は勘が鋭い

 

隠し事は出来ないな…

 

「あぁ、あはは‼︎た、隊長、話があるんだ‼︎」

 

「待ちなさい。私から話すわ」

 

高速艇で帰って来たローマとリベッチオが来た

 

「とりあえず単刀直入に言うわ。兄さんと私の子よ」

 

「あらあらあら‼︎貴方がリベちゃん⁉︎」

 

一番最初に反応したのは、なんと貴子さんだった

 

「私は貴子。宜しくね⁇」

 

「うんっ、よろしく‼︎」

 

貴子さんとリベは普通に接している

 

「ローマ」

 

リベと話した後、貴子さんは顔を上げた

 

「貴子…ごめんなさい…」

 

「どうして早く言わないの」

 

「えっ⁉︎」

 

貴子さんはローマをギュッと抱き締めた

 

「ごめんなさい…貴方一人に抱えさせてしまって…」

 

「あ…」

 

ローマは思った

 

貴子は私が思っているより遥かに母性が強い

 

それは子供達が感じるモノではなく、大人であり、同性の私が感じられる位だ

 

私が気にしていたのは、一体何だったのだろう…

 

こんな事なら、もっと早く打ち明ければ良かった…

 

「私は誰も責めないわ。貴方も、ウィリアムも…私が悪かったの。あの時、ウィリアムに寂しい思いをさせてしまったから…」

 

「貴子…ありがと…」

 

「何にも気にしなくていいの。現に見なさい」

 

貴子さんが隊長の方を見ると、隊長の膝の上でリベが座っていた

 

「マーマ‼︎パーパはあったかいね‼︎」

 

ローマは安堵から涙を二粒こぼした

 

 

 

 

 

実は、隊長はリベの事を大分前から知っていた

 

それは貴子さんが武蔵だった頃にだ

 

貴子さんが記憶を戻した後、隊長は貴子さんにリベの話をした

 

貴子さんは何一つ怒らなかった

 

逆に、寂しい思いを貴方にさせてしまったと、本人自体が後悔していた位だ

 

 

 

 

「まっ、良かったじゃない。そろそろ迎えに行くわよ」

 

「あぁ、そうだな」

 

「高速艇で帰るわ。隊長、それでは失礼します」

 

「わざわざ済まなかったな…」

 

隊長は若干申し訳なさそうだ…

 

まぁ、仕方ないか…

 

高速艇に乗ると、ようやく横須賀が半ギレの原因が分かった

 

高速艇に乗っても、横須賀は握った俺の手を離さなかった

 

「今日はどうした⁇随分ご立腹だな⁇」

 

「…アンタ、ローマがアンタの事好きって、知ってる⁇」

 

「マジか」

 

「マジよ」

 

ようやく分かった

 

横須賀はローマに俺が取られると思っているのだ

 

だからこうして手を離さないでいる

 

要は嫉妬しているのだ

 

「心配すんな。俺の嫁は生涯一人だ」

 

「嘘ついたら清霜行きね⁇」

 

「分かったよ」

 

横須賀はようやく笑った

 

ここ数日、ハチャメチャ続きだったが、これでようやくゆっくり眠れそうだ…



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143話 恋は動き出す(1)

さて、142話が終わりました

今回のお話は、私が最近ようやく入手した艦娘のお話です

とはいえ、大分前からちょくちょく出てきています




「いっちにち、一殺‼︎三日で三殺‼︎榛名はハンマァ振るダズル〜‼︎」

 

ワンコの横で、榛名がリズムに合わせてハンマーの素振りをする

 

「ダズルも飽きないニムな」

 

「あ⁇おいクソニム‼︎榛名に口答えすっと、この前みたいに脳天叩き割るダズル‼︎」

 

「何も言っとらんニム‼︎」

 

単冠湾の1日は本当に賑やかだ

 

その筆頭は勿論榛名

 

そして、最近はこのニムも賑やかだ

 

少し前に榛名がイージス艦でトローリングしていた際、偶然引っ掛かった潜水型の深海棲艦が攻撃して来た為、榛名は海中から引き摺り出し、ハンマーでこれでもかと殴打

 

190発目を迎えようとした時、潜水型深海棲艦は白旗を上げ、榛名は首根っこを掴んで嫌々入渠ドックに放り込んだ

 

あまりにも殴られ過ぎた為か、潜水型深海棲艦は入渠途中、艦娘になった

 

それがニムだ

 

…後に聞いた話によるとこの子は深海棲艦側の裏切り者だったらしく、停戦状態になっていた人間側に攻撃しようとしていた張本人らしい

 

 

 

 

「最近榛名は出番が無くて暇ダズル。クソニム。ちょっと30発位叩かせるダズル」

 

「ふざけんなニム‼︎理不尽ニム‼︎」

 

「ははは。お褒め頂き光栄ダズル‼︎」

 

榛名はハンマーを振りながらニムに近付く…

 

「うわぁ‼︎提督‼︎助けるニム‼︎」

 

ニムはワンコの後ろに隠れるが、榛名には関係無い

 

「提督もたまには一発行っとくダズルか⁉︎」

 

「ちょっ‼︎榛名‼︎」

 

「ぬぅんダズル‼︎」

 

一瞬でワンコが座っていた椅子が大破する

 

ワンコはニムを抱え、部屋の端へと逃げた

 

「おい待つんダズル‼︎ちょっと痛いだけダズル‼︎」

 

「そのちょっとが即死ニム‼︎」

 

「おいクソニム‼︎なに提督にオッパイ当ててるんダズル‼︎」

 

「サービスニムゥ♪♪」

 

ニムは榛名をおちょくるかの様にワンコに胸を押し付ける

 

「ぐぬぬぬぬ…クソニム…クソニムは榛名を怒らせたダズル…」

 

ハンマーを握る手に力がこもる

 

「ハンマーの血のぬめりにしてやるダズル‼︎」

 

榛名がハンマーを振り上げた瞬間、執務室の扉がノックされた

 

「チクショウ誰ダズル‼︎」

 

「はっ…はいはい‼︎」

 

榛名のハンマーが止まり、ワンコは命拾いしたと思い、扉を開けた

 

「こんにちは‼︎」

 

「たいほうちゃん‼︎いらっしゃい‼︎」

 

訪問者はたいほうだ

 

たいほうは大きめのリュックを携えている

 

「あのね、すてぃんぐれいいそがしいから、たいほうおつかいにきたの」

 

「そっかそっか。たいほうちゃんは偉いなぁ‼︎」

 

ワンコは執務室の中にたいほうを入れ、ジュースを出した

 

「いただきます‼︎」

 

「いい子いい子ダズル」

 

鬼神と言われた榛名も、子供の前では大人しい

 

榛名はたいほうやきそを見かけると、彼等がそうしている様に膝の上に置く

 

「あっ‼︎これ、すてぃんぐれいがわんこさんにわたしてって‼︎はい‼︎」

 

ジュースを机の上に置き、たいほうはリュックに入っていた書類をワンコに渡す

 

「ありがと」

 

「あとこれ」

 

今度は一枚の封筒

 

「よこすかさんからだって。きゅうかのひ‼︎」

 

「休暇かぁ…」

 

「すてぃんぐれいにほうこくしてもいい⁇ちゃんとわたしたよって」

 

「うんっ、いいよ」

 

たいほうはきそに貰ったタブレットを取り出し、あの会話ツールを起動した

 

 

 

 

てぃーほう> わたした‼︎

 

リヒター> 助かった‼︎ビスケット二箱買ってあるから、たいほう食べていいぞ‼︎

 

てぃーほう> やったね‼︎

 

リヒター> 俺の引き出しの一番下に入ってるからな

 

てぃーほう> いただきます

 

 

 

 

簡単に報告と会話を済ませた後、タブレットを仕舞おうとしたたいほうの手を、何故かワンコはたいほうの手を掴んで止めた

 

「ん⁇わんこさんもたぶれっとほしい⁇」

 

「これ…何処で…」

 

ワンコが目にしたのはタブレットでは無く、タブレットに付いていた、ハート型の赤い石のキーホルダー

 

「まりちゃんからもらったの‼︎」

 

「まり⁉︎」

 

「うんっ‼︎きょじゅうくにいるまりちゃん‼︎」

 

たいほうは素直に答えた

 

だが、それだけでは確証には至らない

 

「まりちゃんはどんな子だった⁇」

 

ワンコはたいほうの肩を持ち、ほんの少しだけ小さく揺する

 

「んとね…ち〜っす‼︎とかいってた‼︎」

 

「はぁ…」

 

ワンコはたいほうの肩を持ったまま深いため息を吐いてうつむいた

 

「わんこさん、まりちゃんしってる⁇」

 

「うん…知ってるよ。優しい子だよね⁇」

 

「うんっ‼︎たいほう、まりちゃんすき‼︎」

 

ワンコはたいほうの笑顔を見て、確証に変わった

 

まりは昔から人に好かれる

 

たいほうに好かれても何ら可笑しくない…

 

ワンコはたいほうのリュックにご褒美のお菓子を詰め、たいほうを基地へと返した

 

たいほうが帰ってすぐ、ワンコは休暇届けの書類に手をかけた

 

今週末に逢いに行こう‼︎

 

本当は今すぐにでも逢いに行きたい

 

だけど、基地を開ける訳にも行かない

 

なら、大湊の方に頼める週末にしよう‼︎

 

ワンコはすぐに書類に書かれていた番号に電話を入れ、横須賀に休暇を出した

 

横須賀は二つ返事で許可を出した

 

「はぁ〜っ…よしっ‼︎」

 

誰にでも分かる嬉しさをワンコは出していた

 

だが、一人だけは違っていた…

 

「…このままではいかんダズルな」

 



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143話 恋は動き出す(2)

そして週末…

 

早朝、ワンコは出掛ける準備をし、いざ出ようとしていた

 

「ニム、榛名は⁇」

 

「なんか本土に遠征に行くって言ってたニム。提督、ニムもコレしたいニム」

 

「あぁ、いいよ。榛名がいない内にしときな」

 

「ニムゥ‼︎」

 

ニムはいつも榛名が牛耳っているマッサージチェアーに座り、映画を見始めた

 

ニムを執務室に残し、ワンコは港に来た

 

「提督、霧島も横須賀まで行くマイク」

 

「うん」

 

霧島と共に高速艇に乗り、横須賀を目指す

 

横須賀に着くと、霧島は繁華街に向かって行った

 

「おっ、ワンコ‼︎」

 

「レイさん‼︎」

 

ジープの貸し出し場でレイに出会った

 

「休暇か⁇」

 

「えぇ。居住区に行こうかと」

 

「ほぅほぅ…なら手前まで送ってやるよ」

 

「いいんですか⁉︎」

 

「どうせ俺達も居住区の近くまで行くからな」

 

ワンコはレイの言葉に甘え、ジープの助手席に乗った

 

高速に乗ると、レイはタバコに火を点けた後、口を開いた

 

「帰りは横須賀に電話寄越しゃ、迎えが来る」

 

「分かりました‼︎」

 

「…まりに逢いに行くのか⁇」

 

「どうしてそれを⁉︎」

 

「たいほうに聞いたよ。ワンコ、まりの事を知ってるって」

 

「…まりは同級生なん…もが‼︎」

 

ワンコが何か言おうとした時、レイはワンコの口にタバコを一本咥えさせ、火を点けた

 

「言いたくないなら言うな。人には色々事情がある」

 

「レイさん…」

 

「…お前タバコ吸うよな⁉︎」

 

「えぇ。たまにですが」

 

「なら良かった」

 

レイは何も聞かなかった

 

ワンコはレイの優しさに触れ、居住区の入り口付近で降ろして貰った

 

「ハンカチは持ったか⁇」

 

「大丈夫です‼︎」

 

「じゃあな。俺はボウリングして来る」

 

「ボウリングですか⁉︎」

 

「横須賀にコテンパンにされたからな…内緒だぞ‼︎」

 

「えぇ‼︎」

 

レイはそう言い残し、ジープを走らせた

 

居住区の入り口の検問は厳しい

 

一般市民は入れる人が限られる

 

ワンコは身体検査を受け、ようやく居住区に入った

 

だが、居住区は広い

 

何せ街一つ分だ

 

「あの…まりという子の家は何方ですか⁇」

 

「申し訳ありません。提督と言えどもお答えしかねます」

 

「そうですか…」

 

検問所の職員に断わられ、ワンコは広い居住区を渡り歩く事にした

 

 

 

 

 

「…ふぅ」

 

ワンコの思ってる以上に、居住区は広かった

 

一旦広場のベンチで休憩を取り、自販機で買ったジュースを口にする

 

「あら。見慣れない顔ね⁇」

 

「君は…」

 

ワンコの前で、ブロンドの髪が踊る

 

見た所、大人の女性の様だ

 

「アドミラルとお見受けするわ。違う⁇」

 

「よく分かったね」

 

ブロンド髪の女性はワンコの横に座り、顔を合わせる

 

「私はビスマルク。貴方は⁇」

 

「犬養健一。みんなからワンコって呼ばれてる」

 

「私もワンコって呼ぶわ。それで、誰かお探し⁇」

 

「うん。まりって子を探してるんだけど…」

 

「まりなら今学校よ。案内してあげる‼︎」

 

ビスマルクに手を引かれ、赤いオープンカーに乗せられた

 

「行くわよ‼︎」

 

「うわっ‼︎」

 

ビスマルクの運転は荒らそうに見えるが、中々上手い

 

ワンコは必死に車にしがみ付きながら、ビスマルクの運転に着いて行こうとする

 

「びっ‼︎ビスマルク‼︎ちょっとゆっくり‼︎」

 

「ごめんごめん‼︎」

 

ビスマルクは高々と笑う

 

笑った顔も美しい

 

信号で止まると、ビスマルクは口を開いた

 

「ワンコはウィリアム大佐を知ってる⁇」

 

「うん。とてもお世話になってる人だからね」

 

「私、あの人に育てられたのよ⁇」

 

「そうなの⁉︎」

 

「大佐には嫁がいるでしょ⁇ここにはね、もう一人の大佐の嫁もいるから、暇なら探してみるといいわ‼︎」

 

学校の前に着き、ワンコはそこで降りた

 

「大佐にもう一人ケッコン相手がいるの⁉︎」

 

「いるわ。まっ、すぐに分かると思うけど⁉︎それにケッコンとは言え、その子も大佐も恋愛止まりよ。体の関係じゃないわ⁇」

 

「はへぇ〜…」

 

「じゃっ。頑張ってまりを探しなさい。じゃあね〜」

 

ビスマルクはサングラスをかけ、そのまま走って行った

 

残されたワンコは、とりあえず学校のチャイムを鳴らしみた

 

 

 

 

 

 

「大佐かぁ…私も好きだったなぁ…」

 

ビスマルクはオープンカーを走らせながら、独り言の様につぶやいた…



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143話 恋は動き出す(3)

「本日は社会見学の日でして…」

 

何とタイミングの悪い…

 

ワンコは学校から出ようとしたが、一人の職員に止められた

 

「犬養君じゃない⁇」

 

「山城先生⁉︎」

 

ワンコはこの学校に居たのだ

 

だから、当時からここに居る教職員はワンコを知っていた

 

この山城先生は、今も当時も国語の先生

 

「提督になったのね」

 

「えぇ」

 

「私が着いていてあげるから、ちょっと学校回らない⁇」

 

ワンコは山城先生の言われるがまま、校内を回る事にした

 

 

 

 

ワンコは一つ一つ思い出していた

 

当時のまま変わらない廊下

 

まり達と沢山話した中庭

 

そして教室…

 

自分が座っていた席の机を撫で、ちょっと座ってみる

 

目を閉じると、当時の思い出が蘇ってくる…

 

今でも背後から千切った消しゴムを当てられそうだ…

 

「犬養君はまりちゃんが好きだったのよね⁇」

 

山城先生はいつもの癖なのか教壇に立っている

 

「知ってましたか…ははは」

 

「あの日の事、許してくれなんて言わないわ…」

 

「別にいいです…」

 

「私は許してないけどね」

 

「なっ‼︎」

 

山城先生の手にはピストルが握られており、銃口をワンコに向けた

 

「あの日殺された先生ね…私の婚約相手だったの」

 

「生徒を売った奴だぞ‼︎」

 

「そうね。だから私達はそのお金を手にして、何処かに行こうとしてたのよ⁇」

 

「そんな事の為にまりとりさは…」

 

「真実を知って後悔した⁇」

 

「ゆるさなイ…」

 

机を掴んでいたワンコの手に力がこもる

 

「あはははは‼︎化け物は地獄に堕ちなさい‼︎」

 

山城先生が引き金に指をかけた時、いきなり黒板が置かれていた壁がバラバラに砕け散った

 

「はっ‼︎」

 

破壊された黒板と壁から見えた、見慣れたダズル迷彩のハンマー…

 

「そういう真相だったんダズルなぁ‼︎」

 

榛名だ‼︎

 

「な、何よコイツ‼︎」

 

「榛名‼︎」

 

「ぬぅんダズル‼︎」

 

榛名は山城先生の肩を掴み、頭突きを当て、一撃で気絶させた

 

「はっ‼︎口先だけのヘボダズルな‼︎」

 

榛名は久々に破壊行動が出来たのか、表情は嬉々としている

 

「大丈夫ダズルか⁇撃たれてないダズルか⁇」

 

「榛名…」

 

「提督に盗聴器を仕掛けといて正解ダズル」

 

「え⁉︎どれ⁉︎」

 

「そのカバンに付いてるピンバッチダズル」

 

今まで何故気付かなかったんだろう…

 

肩掛けカバンには、明らかに目立つピンバッチが付いていた

 

榛名が舌を出して、アッカンベーしてるピンバッチだ

 

…見ていたら腹が立ってくる

 

「よ〜し、榛名は表の警官にコイツを放ってくるダズル」

 

榛名は気絶した山城先生の足を持ち、ズリズリと引き摺って教室を出ようとした

 

「は、榛名‼︎」

 

「いいか提督。榛名はまりなら許してやるダズル。だがな、自分から抱こうとしたら、榛名はブッ殺すダズル」

 

「まりは…俺を覚えてくれてるかな⁇」

 

「心配するんじゃないダズル。こんなクソみたいな学校ダズルが、榛名は思い出がイッピーダズル。こんなキラキラの思い出、誰も忘れる事なんて出来んダズル。だから、まりが提督を忘れてるハズなんてないダズル」

 

「そっか…そうだよね」

 

「そうだ提督」

 

「ん⁇」

 

「因みに榛名は、ここで提督を好きになったんダズル。ここは長い長い恋愛の始まりの場所でもあるんダズル」

 

「俺もだよ、榛名」

 

「はんっ‼︎提督が言うとクッセェダズル‼︎」

 

「ぐっ…」

 

何故だろうな⁇

 

榛名に言われても、あまり腹が立たない

 

なるほど…

 

罵しられは、まりで慣れてたのか…

 

結局、学校でまりに逢う事は叶わなかった

 

ワンコは色んな思い出が詰まった学校を後にし、トボトボと歩き始めた

 

気付けばいつの間にか艦娘が固まって住んでいるエリアに来ていた

 

「あらあら。迷子さんかしら⁇」

 

振り返ると、そこには見た所大学生位の女性がいた

 

「私はみほ。君は⁇」

 

「犬養健一です。あの…」

 

「誰か探してるのね⁇」

 

ワンコはふと、みほの胸元に目が行った

 

ネックレスの先に指環が付いている

 

「これ⁇とても大切な人から頂いたのよ⁇」

 

「大佐とケッコンしてるのってまさか‼︎」

 

「あらあら、ウィリアムの知り合い⁇なら、ちゃんとお相手しないとね‼︎」

 

ワンコはみほにまりの話をした

 

まりはバイトがあるらしく、そのバイト先を教えてくれた

 

ワンコはみほにお礼を言い、そこへ走った

 

「あらあら…若いのね」

 

年寄りみたいな事を言った後、みほは家に入った



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143話 恋は動き出す(4)

ワンコは商店街エリアに戻って来た

 

まりは本屋でアルバイトしているらしい

 

めぼしい本屋は、とりあえず一件見つけた

 

そして、その本屋は小ぢんまりしており、外からでも中を伺う事が出来た

 

ワンコは窓の外から店内を覗いてみた

 

だが、まりらしき人物は見当たらない

 

ここじゃなかったのか⁇

 

いや、本屋はここしかない…

 

入ってみよう

 

ワンコは頭で色々考えながら、本屋に入った

 

漫画を見る振りをし、店内を見回す

 

だが、まりらしき人物はいない

 

ワンコはすぐに店を出て来た

 

もしかしたら、他に本屋があるかもしれない

 

ワンコはまた歩き出す

 

「イデッ‼︎」

 

後頭部に何か当たった

 

ワンコはすぐに地面に落ちたそれを拾い上げる

 

”いちごだいふく”と書かれた包装紙に包まれたそれが落ちていた

 

それを見た瞬間、ワンコの手は震え始めた

 

「にしし〜‼︎当たった当たったぁ‼︎」

 

モノを投げたフォームで立っていた女の子…

 

それは、ワンコがずっと探していた人物だった

 

「ま…まり…」

 

「ワンコ‼︎」

 

互いに走り、そして抱き合う

 

「迎えに来んの遅いってば…」

 

「ごめん…ごめんよ…」

 

「でも、何となくワンコが来るの分かってた。この前だって、りさの所に健吾が来たもん‼︎」

 

「そっか…そっか…」

 

「でも…まっ、許したげる。ホントに探しに来てくれたんだもん‼︎」

 

まりはあの頃と変わらず明るいままでいた

 

その後ワンコはまりの家に行き、その日一晩出て来なかった

 

 

 

 

一方その頃…

 

「ビスマルク‼︎酒ダズル‼︎酒持って来るんダズル‼︎」

 

「ちょっと…酔っ払い過ぎよ⁇」

 

榛名はビスマルクの家でたむろしていた

 

「アンタ今日は英雄だから、ちょっとはハッチャケて良いとは言ったけど…」

 

榛名はこの日、長年解決出来ないでいた事件を解決していたのだ

 

あの山城先生、実は指名手配犯だったのだが、居住区に警察は立ち入り出来ないので、今まで逮捕出来ないでいた

 

それが今日、証拠も含め、逮捕に至った

 

とっ捕まえたのは勿論榛名

 

だが、榛名にとっては合法的に暴れて破壊出来る場でしかなかったのだ

 

それより気になっていたのは…

 

「どうせ提督は今頃まりとアバンチュールダズル…」

 

「もちょっと自分の旦那を信じなさいな」

 

「提督は昔からまりが好きなんダズル。榛名はただの一幼馴染の可愛い女の子ダズル…」

 

「もう…」

 

ビスマルクは榛名の横に座り、背中をさする

 

「まりだって提督の事が好きダズル。でも、榛名はどっちも好きなんダズルよ⁇まりも提督も…」

 

「優しいのね、榛名は」

 

「しかしな、まりの好きより榛名の好きの方が上ダズル‼︎」

 

「それは提督も分かってくれてるわよ」

 

「ぐわ〜〜〜〜〜…」

 

榛名は眠っていた

 

考えるのに疲れたのだろう

 

ビスマルクは榛名に毛布を掛け、散乱したビールやチューハイの缶を片付け、ソファーで横になった

 

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「榛名。榛名」

 

「んがっ…後二時間ダズル…」

 

「榛名」

 

「ウッセェダズルな…」

 

榛名が目を覚ますとワンコがいた

 

榛名は珍しくワンコの胸に頭をつけた

 

「提督…まりはどうしたんダズル…」

 

「昨日の晩、沢山お話したよ」

 

「…この匂い…さてはまりを抱いたんダズルな⁇」

 

「うん」

 

「野郎‼︎ブッ殺してやるダズル‼︎」

 

榛名は寝起き早々、ワンコの首を絞めた

 

「ぐほぁ…はっ、榛名…」

 

「榛名は一応こう見えて提督の嫁ダズル‼︎」

 

「ま〜、抱いたって言うか、まりが抱いたって言うか…」

 

そこにはまりもいた

 

「まりか。ちょっとそこで待ってるダズル‼︎」

 

「はる、ワンコとケッコンしたんだってね⁇」

 

「そうダズル‼︎それなのにコイツは‼︎」

 

「よっ、と」

 

まりは榛名を背中から抱き締めた

 

「何をするんダズル‼︎離すんダズル‼︎」

 

「昨日の晩、まりはワンコにこうしただけ」

 

「ゼッテー嘘ダズル‼︎」

 

「ワンコはね、お嫁さんは榛名だけだって、まりを抱こうとしなかったんだよ⁇」

 

「…」

 

榛名は急に黙り、ワンコの首を絞めていた手を離した

 

「…本当ダズルな⁇」

 

「本当だって‼︎」

 

「…今日だけ信じてやるダズル」

 

「アンタ達…人ンチ破壊しないでよ⁇」

 

「はっ‼︎すまんダズル…」

 

榛名はここがビスマルクの家である事を忘れていた

 

「榛名、横須賀の繁華街行こっか」

 

「提督とダズルか⁇」

 

「そっ。久しぶりに二人でごはん食べよう⁇」

 

「これは寿司ダズルな。人の奢りで食べる寿司は最高に美味いダズル‼︎」

 

榛名の機嫌はすぐに治った

 

ワンコは榛名を連れ、ビスマルクの家を出た

 

「ビスマルク、色々ありがとう」

 

「気にしないで。榛名、また来なさいよ⁇」

 

「うぬ。次は美味い酒も持って来るダズル‼︎」

 

「ワンコっ‼︎」

 

「うわっ‼︎」

 

別れ際、まりはもう一度ワンコに思い切り抱き着いた

 

「いつか、はるを連れて此処に帰って来てよ…そんで、またみんなでいっぱいお話しよ⁇」

 

「分かった。約束するよ」

 

最後にワンコもまりを抱き返し、ワンコ達は居住区を後にした…

 

 

 

 

「まり、結局ワンコを何回抱いたの⁇」

 

「二回かな⁇ワンコって」

 

「榛名には黙ってなさいよ⁇」

 

「ん…」

 

まりは何故か嬉しそうに左手を撫でていた

 

「へぇ〜。良かったじゃない」

 

「まり、コレずっと欲しかったんだ…」

 

まりの左手の薬指には、銀色の指環が輝いていた…

 

 

 

 

 

帰りのジープ内で、榛名とワンコは後部座席で外を眺めていた

 

「提督」

 

「ん〜⁇」

 

「すまんかったダズル…」

 

「へ⁉︎何が⁉︎」

 

「嫁である以上、あそこではキレないといかんと思ったんダズルよ」

 

「榛名⁇」

 

「まりとアバンチュールしたのは匂いで分かるダズル。多分二回ダズル」

 

「ゔっ…」

 

「別にいいダズル。まりなら。榛名はまりも好きダズル」

 

「ごめん…謝っても許されないよな…」

 

「おい‼︎」

 

榛名が急に大声を出し、運転手の手元が一瞬狂う

 

「二度と榛名に謝るなと言ったはずダズル‼︎それにな、アバンチュールせずにまりを泣かせてみろ‼︎榛名は提督であろうとブッ殺すダズル‼︎」

 

榛名は車内でシートベルトをしているにも関わらずワンコの胸倉を掴んで揺さぶる

 

「わわわ分かった分かった‼︎」

 

「言っといてやるダズル。榛名は提督のした事全部肯定してやるダズル‼︎だがな、お友達やら仲間を泣かしてみろ‼︎そん時は榛名が提督をブッ殺すダズル‼︎いいな‼︎」

 

「分かった‼︎」

 

「ケッ‼︎」

 

榛名は気が済んだのか、ようやく手を離した

 

「まぁ、最後に言うなら、クソニムを抱いたらブッ殺すダズル。クソニムをな‼︎」

 

「わ、分かった…」

 

榛名はまり達や、今の仲間を大切に思ってはいるが、ニムだけは許していない様だ

 

それは行動に出て、ニムの脳天にハンマーを叩き付けたり、腹が立つとよくニムの足を掴んで振り回している

 

だが、ニムは大体榛名の傍にいる事が多い

 

ニムは少し前に言っていた

 

”自分を止めてくれた榛名を、ニムはとっても感謝してるニム”と

 

ニムは榛名が好きなのだ

 

榛名は勘の良い子だから、恐らくニムの感情にも気付いているだろう

 

…榛名の愛情表現が暴力という事にニムが気付くのはいつだろうか

 

ワンコはそんな事を考えながら、車内でずっと榛名の横顔を見ていた…



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144話 発動‼︎照月ック‼︎(1)

さて、143話が終わりました

今回のお話は、久々の照月のお話です

ガンビアを護る為、照月が奮闘します


「おいひ〜〜〜‼︎」

 

この日も照月はいつもの様にガンビアに侵入。いつもの場所で食料を食べ始めていた

 

「注水急げ‼︎」

 

「転覆するぞ‼︎」

 

ガンビアの中では、照月対策の為、機関部員達がダメコンを急ぐ

 

左に傾いたと思えば右に傾き

 

右に傾いたと思えば沈みかけ

 

照月がガンビアに乗ると、機関部はパニックを起こす

 

ガンビアの機関部員は極めて優秀な者が揃っており、ガンビアを降りたとしても、その経験からどの船からも引っ張りだこになるのが最近の現状だ

 

ようやく船体が前を向き、キチンと進み始めた

 

ヘロヘロになった機関部員は、束の間の休息を取る

 

その頃、操舵室では…

 

「艦長、あれは⁇」

 

ガンビアの前方に不審船が見えた

 

「この時間に、この海域を航行する船舶の連絡はないな…」

 

「どうしますか⁇」

 

「警告をしてくれ。相手の出方を見よう」

 

ガンビアの艦長は二人共平和主義だ

 

ガンビアの艦長は交代制で、何方の艦長も船員に優しく、そして照月にも優しい

 

「此方ガンビア・ベイⅡ。前方の艦、所属を述べよ」

 

ガンビアの船員は普通に言ったつもりだった

 

だが、向こうは気に入らなかった様で、此方に向けて何かを放って来た

 

「所属不明艦からトマホーク三発発射確認‼︎」

 

「ファランクス撃ち方始め‼︎」

 

ガンビアの各所に装備されたファランクスが唸る

 

一発撃ち落とし、次いで二発目のトマホークも撃ち落とす

 

だが、最後のトマホークだけファランクスの弾をヒラリヒラリと避け、甲板直上に狙いを定めていた

 

「防御体勢を取れ‼︎着弾するぞ‼︎」

 

全員が着弾するトマホークに防御体勢を取る中、トマホークが上空で破壊された

 

「何だ…何が起こった⁉︎」

 

《あれ、危ないやつだよね⁇》

 

「照月ちゃん⁉︎」

 

甲板でピョンピョン跳ねながら此方に手を振る照月が見えた

 

照月がピョンピョン跳ぶ度に、ガンビアの船内は小さな地震が起きた様に軽く揺れる

 

「照月ちゃん‼︎ありがとう‼︎助かったよ‼︎」

 

《ガンビアさん。あの船が攻撃したんだよね⁇》

 

「そうだ。これから拿捕に向かう。照月ちゃんは中で…」

 

《照月が捕まえて来てあげる‼︎ぴょん‼︎》

 

照月が甲板から飛び降りた‼︎

 

「照月ちゃん‼︎」

 

《照月のごはん邪魔する人は許さないよ‼︎》

 

照月は猛スピードで不審船の所に向かう

 

「照月ちゃんの援護に向かう‼︎機関、全速前進‼︎」

 

船体が軽くなったガンビアは、いつも以上に速力が出る

 

「トマホーク第二波‼︎二発です‼︎」

 

《照月に任せて‼︎》

 

照月は猛スピードのまま、長☆10cm砲ちゃんに二発の弾を入れ、放った

 

放たれた銃弾はトマホークの手前で炸裂、二発共砕け散った

 

「トマホーク破壊‼︎」

 

「たった二発で…」

 

《さぁ行くよ‼︎》

 

掛け声と共に、照月の口元にマスクが展開される

 

照月は口を開ける癖があるので、戦闘中異物が口に入らない様にきそとレイが照月の好きなアニメをモデルに造ったものだ

 

このマスクの中からは、身体の何処かに怪我をすると経口摂取可能の高速修復剤が散布され、一瞬で傷口を塞いでくれる

 

元から頑丈過ぎる照月には必要は無いとは思うが、万が一に備えての装備だ

 

《長☆10cm砲ちゃん、リリース‼︎》

 

照月のもとから二人の長☆10cw砲ちゃんが離れる

 

《ダイナミック‼︎》

 

照月は猛スピードのまま、不審船の手前で大の字になり、飛び掛かった

 

ついでに長☆10cm砲ちゃんもそのまま飛び掛かる

 

不審船の側面装甲は照月の形に穴が開き、その左右にポーズを取った長☆10cm砲ちゃんの形の穴が二つ開いた

 

「なんと大胆な…」

 

ガンビアの艦長の目は点になっていた



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144話 発動‼︎照月ック‼︎(2)

照月は不審船に侵入してすぐ、手の甲に巻いた艤装を構えた

 

そしてそれを出て来た人間に向ける

 

「ガンビアさん攻撃したのだぁれ⁇照月、ごはん食べてたんだよ⁇」

 

不審船の乗組員は、側面装甲に穴を開けて浸入して来た照月を化け物と認識し、照月を見るなり発砲を開始

 

「照月には効かないよ〜ん‼︎えいっ‼︎」

 

照月はレイの言った事をちゃんと聞いているようで、発砲して来た乗組員の足に向けて発砲を開始

 

だが、照月の手の甲の艤装は対空装備であり、目標付近で炸裂するヤバい奴

 

本来は人には撃てない様に設定されているのだが、今はそれが作動していない

 

照月の身に危険が及んでいるからだ

 

そんな強力な銃弾は、たった一発の銃弾で足を貫いたとしても大打撃を与えてしまう

 

現に銃弾を受けた乗組員の足は粉々に吹き飛び、床をのたうち回っている

 

「痛い⁇でも照月許さないよ⁇」

 

照月は床をのたうち回っていた乗組員を掴み、別の乗組員に投げて当てる

 

「あっ‼︎チョコレートだぁ‼︎」

 

乗組員を千切っては投げてを繰り返していると、照月の足元に誰かが持っていたチョコレートバーが二つ転がって来た

 

「照月、これ好きなんだぁ〜‼︎」

 

照月はそれを拾い、早速口にする

 

「あれっ⁉︎食べられない‼︎」

 

マスクが展開しているので、チョコレートバーが口に入らない

 

「ぐぬぬ…」

 

「いたぞ‼︎射撃開始‼︎」

 

「も〜っ‼︎」

 

照月はチョコレートバーを持ったまま、撃ってきた乗組員に対して猛ダッシュで突っ込んで行く

 

「照月ーーーーーック‼︎」

 

照月はそのまま飛び蹴りをかまし、そこにいた三人の乗組員が吹き飛ぶ

 

「マスク開けてよぉ〜‼︎あっ‼︎」

 

照月がそう言うと、マスクが解除された

 

「いただきま〜す‼︎」

 

照月はようやくチョコレートバーを口に出来た

 

「おいひ〜‼︎」

 

一口で一本食べ終え、いざ二本目に行こうとした時、チョコレートバーが吹き飛んだ

 

「あっ‼︎」

 

「そこを動くな‼︎」

 

少し離れた場所でアサルトライフルを構えている乗組員がいた

 

外見を見る限り、ボスに間違いなさそうだ

 

「照月のチョコレート…」

 

「動くな‼︎撃つぞ‼︎」

 

照月はそれどころではない

 

照月は食べ物を横取りされるのがこの世で一番嫌いなのだ

 

照月はゆっくりとそのボスに近付く

 

ボスはジリジリと後退しながらも撃てずにいた

 

照月から発せられている威圧感の所為だ

 

照月はボスに掴みかかり、大きく揺さぶる

 

「照月のチョコレート返して‼︎返して返して返して〜‼︎ね〜‼︎」

 

「ぐわわわわ‼︎や、止めんか‼︎撃つぞ‼︎」

 

「えいっ‼︎」

 

照月はゲンコツを振り下ろした

 

ボスの持っていたアサルトライフルはバラバラになり、部品が床に散乱する

 

「なっ…」

 

「照月のチョコレート返して‼︎」

 

「わ、分かった‼︎降参だ‼︎」

 

「降参とかいいの‼︎チョコレート返して‼︎」

 

「こ、ここにはない‼︎」

 

「チョコレート返して‼︎」

 

「い、命だけは‼︎」

 

「チョコレート‼︎」

 

照月の頭の中には、既にチョコレートしかない

 

ボスがどれだけ命乞いをしようとも、これ以降”チョコレート返して‼︎”としか言わなくなった

 

「反省します‼︎トマホーク撃った事も、蟹の密漁した事も‼︎」

 

「チョコレート返して‼︎」

 

「うわーーーん‼︎」

 

話が通じない照月相手に、ボスはとうとう泣き出してしまった

 

「確保‼︎」

 

ようやくガンビアから兵が送られて来た

 

「照月ちゃん、大丈夫か⁉︎」

 

ガンビアの艦長も来た

 

不審船に来てすぐ照月を見つけ、心配そうに声をかけた

 

「この人、照月のチョコレート撃ったんだよ‼︎」

 

「何て事を…代わりにコレをあげるから、その人を渡してくれるかい⁇」

 

艦長は内ポケットから板チョコレートを出し、照月に渡してみる

 

照月の事だから「これじゃない‼︎」とか言いそうだが、今はコレしかない

 

「ありがとう‼︎はい‼︎」

 

照月は案外素直にチョコレートを受け取り、ボスを渡してくれた

 

「来い‼︎」

 

「ううっ…照月怖い…」

 

ボス共々、乗組員はガンビアに連行された

 

不審船はガンビアに曳航され、犯人を降ろす為に横須賀を目指す

 

「カニさんだぁ〜‼︎」

 

不審船の中には、大量の蟹が水揚げされていた

 

「照月ちゃん。そのカニさんは毒でいっぱいだよ⁇」

 

「照月、毒はヤダよ」

 

「ガンビアでお肉食べるかい⁇」

 

「食べる‼︎照月、お肉好き‼︎」

 

「行こう」

 

「うんっ‼︎」

 

照月は蟹の入ったカゴの鍵を開け、海へと蹴り飛ばし、ガンビアへ向かった



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144話 発動‼︎照月ック‼︎(3)

二時間後…

 

「お肉まだぁ〜‼︎照月、お腹すいた〜‼︎」

 

「姫がご乱心だ‼︎調理場急げ‼︎」

 

「「「はいっ‼︎」」」

 

ガンビアの食堂では、ナイフとフォークを手にした照月が机を叩いて待っている

 

既に牛一頭は入っているであろう照月の胃袋は、まだ足りないと言い、更にステーキを強請る

 

「いただきま〜す‼︎」

 

運ばれれば、次から次へと、ステーキが照月の胃袋に消えて行く…

 

操舵室では艦長が目前に迫った横須賀を双眼鏡で見ていた

 

「今回は本当に助かりましたね」

 

「照月ちゃんが居なければ、今頃我々は蟹のエサだったかも知れないな…」

 

「いつか、本当にお腹いっぱいにさせて、ごちそうさまと言わせてみたいですね」

 

「ふっ…それは無理な任務だな」

 

他愛ない話をしていると、ガンビアは横須賀に着いた

 

 

 

 

 

「照月ちゃん、着いたよ」

 

「ごちそうさまでした‼︎」

 

照月はちゃんとお礼を言った後、食堂から出た

 

「「「ふぅ〜〜〜〜〜…」」」

 

調理場から安堵の溜息が漏れる

 

照月が艦長と共にガンビアから降りると、レイが待っていた

 

「うがっ‼︎やっぱり‼︎」

 

「お兄ちゃん‼︎」

 

照月は口にソースをいっぱい付けた状態でレイに抱き着いた

 

「御協力、誠にありがとうございました‼︎」

 

艦長は照月に頭を下げた

 

「何かあったのか⁇」

 

艦長は事をレイに話した

 

「なるほどな…」

 

「我々は照月ちゃんに命を救われました」

 

「ははは…」

 

レイは素直に受け取って良いか迷う

 

照月はそれ以上にガンビアの食料を食い荒らしているからだ

 

「ホント、いつでもガンビアにお越し下さい」

 

「だってよ、照月」

 

「うんっ‼︎照月、またガンビアさんのごはん食べたい‼︎」

 

照月は艦長に笑顔を返す

 

艦長はホッとした後、照月の頭を撫でた

 

照月は嬉しそうに艦長を見ている

 

照月にお礼をしたいならば、簡単な事でいい

 

お菓子をあげたり、頭を撫でたり

 

たったそれだけと思うかもだが、照月にとってはそれで充分なのだ

 

そしてレイは不審船に目が行った

 

「この穴…」

 

「照月が体当たりで開けたの‼︎」

 

不審船の側面装甲には、照月型の大の字の大穴が開いている

 

その左右には、長☆10cm砲ちゃんが照月の穴を際立たせるかのようなポーズを取って穴を開けている

 

「長☆10cm砲ちゃんは⁇」

 

「先に工廠で整備と補給を受けています」

 

「あのね、照月、お兄ちゃんみたいに足撃ったら、吹き飛んじゃった…」

 

「大丈夫。すぐ治る」

 

「お兄ちゃん、照月の好きなアニメの博士みたいだね‼︎」

 

「バレたか‼︎」

 

レイと照月、そして艦長は事情聴取の為、横須賀の執務室に向かった

 

 

 

 

 

「仕事が無いなら、密漁したりトマホーク撃ったりして良いのかしら⁇」

 

「…ごもっともです」

 

執務室では、照月が捕まえたボスが事情聴取を受けていた

 

ボスは椅子に座ってがんじがらめに縛られているので、逃げられる心配はない

 

「照月のチョコレート返して‼︎」

 

「ヒイッ‼︎」

 

照月はボスを見るなり椅子をガタガタ言わせて逃げようとする

 

食べ物の恨みは恐ろしい…

 

「照月のチョコレート返して‼︎」

 

「助けて‼︎”何でもしますから”‼︎」

 

その言葉を聞き、横須賀はニヤリと笑う

 

「今、何でもって言った⁇」

 

「何でもします‼︎ホントです‼︎だから命だけら‼︎」

 

「なら、私達の傘下に入りなさい」

 

「へっ…⁇」

 

「艦長。彼等のトマホークの撃ち方は素晴らしいものだったのでしょう⁇」

 

「えぇ。囮を使い、一発を本陣として当てる…並大抵の者では、あの戦術は思い付かないかと」

 

「その腕、私達の元で使ってみない⁇仕事だからお給金もあるし、衣食住も保証してあげるわ。どっ⁇捕虜には申し分無い条件でしょ⁇」

 

「一生着いて行きます‼︎だからこの子を離して下さい‼︎」

 

「照月ちゃん。パフェ食べる⁇」

 

「食べる‼︎」

 

「なら、これで食べて来ていいわよ」

 

横須賀はいつもの様に束になった間宮の引換券を照月に渡した

 

「ガンビアさん助けてくれたお礼よ⁇」

 

「ありがとう‼︎行ってきま〜す‼︎」

 

照月はボスから離れ、間宮へと向かった



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144話 発動‼︎照月ック‼︎(4)

「あ、ありがとう…」

 

「貴方がたの部下もまとめて引き受けます」

 

「ありがとう…ありがとう…」

 

ボスは倒れたまま、目に涙を浮かべている

 

「ただし。一人でも不審な行動をしたり、今日の様な事を繰り返した場合…そうね…」

 

「照月を派遣しよう」

 

冗談半分で俺がそう言うと、ボスはガタガタ震え始めた

 

「止めてくれ‼︎それだけは‼︎」

 

「なら、変な気は起こさない事ね。分かった⁇」

 

「分かりました‼︎」

 

「ならいいわ。とりあえずお風呂に入って、食事をしなさい」

 

「はいっ‼︎」

 

横須賀はボスを縛っていたチェーンや紐を解いた

 

「ふぅ〜。楽んなったよ‼︎」

 

「艦長、レイ。一応お風呂まで着いて行って」

 

「はいよ」

 

「畏まりました。行くぞ」

 

艦長はボスの腕を掴み、俺達は執務室から出た

 

「アンタ、名前は⁇」

 

「岩井だ」

 

「すまなかったな…いきなり撃っちまって…」

 

「次は無いぞ」

 

「分かってるよ。もう変な気は起こさないよ」

 

「なら早く入れ」

 

俺と艦長は男湯の前に来た

 

「ちょっと待て‼︎何で男湯なんだ‼︎私にも恥じらいはある‼︎」

 

ボスが急に抵抗し始めた

 

「黙って入れ‼︎オカマかお前は‼︎」

 

「嫌だっての‼︎襲われたらどうするんだい‼︎」

 

「誰も襲うかよ‼︎早く入れカマ野郎‼︎」

 

「聞き捨てならないねぇ…私は女だ‼︎」

 

「絶対嘘だ‼︎胸も無いし‼︎」

 

「サラシ巻いてるんだよ‼︎」

 

「初月‼︎」

 

「はっ。ここに」

 

俺が初月を呼ぶと、天井を返して初月が降りて来た

 

「コイツにはカマの疑惑がある。ひん剥いて差し上げなさい」

 

間宮の引換券を渡すと、初月それを受け取った

 

「御意」

 

「あっ‼︎ちょっと‼︎」

 

初月はボスをトイレに連れ込んで行った

 

「流石ですね」

 

「まさかいるとは思ってなかったぜ…」

 

適当に呼んでみたら本当に来てくれた初月にちょっとビビっていた

 

数分後、初月はボスを連れて帰って来た

 

「どうだった⁇」

 

「女である事に間違いはない」

 

「マジか」

 

「それに、サラシに隠れていて分からなかったが、相応な胸もあった」

 

「だから言っただろう‼︎私は女だって‼︎」

 

「…すまん」

 

「…申し訳無い」

 

「なら、なるべく早く女湯に連れて行ってくれ」

 

「分かった」

 

反省半分で、ボスを女湯に案内する

 

「ここだ」

 

「すまないね」

 

「僕が見張っておこう」

 

「頼んだぞ。終わったら間宮で何か食べて来い」

 

「んっ。ありがとう」

 

初月とボスは女湯に入って行った

 

「女海賊…ですか」

 

「いいんじゃないか⁇たまにはあんな奴がいても」

 

「気に入りましたよ」

 

「へっ⁉︎」

 

「惚れました‼︎一目惚れです‼︎ははは‼︎」

 

「嘘だろ⁉︎」

 

艦長はボスに一目惚れしてしまっていた

 

「久しぶりかも知れません。こんなに女性にドキドキするのは」

 

「そ、そっか…」

 

数十分後、ボスと初月は帰って来た

 

「いやぁ〜‼︎スッキリしたよ‼︎」

 

風呂上がりを見ると、ボスは女と分かる

 

サラシも巻いておらず、髪も艶が出て色っぽくなっている

 

「行くぞ」

 

「はいよ」

 

艦長は顔を赤くしながら、ボスの手を引く

 

まるで、俺と横須賀の昔を見ているみたいだ

 

俺はそんな二人を後ろで見ながら、後を着いて行った…

 

 

 

 

 

ボスが味方艦隊に加わりました‼︎




ボス…女海賊

ガンビア・ベイⅡをいきなり攻撃し、空腹の照月の食事を妨害した事で怒りを買い、捕まった女海賊

戦闘指揮は中々のもので、乗っていた船の限られた装備で空母をあそこまで追い込んだ腕がある

捕虜となった後、横須賀の条件をのみ、反対派の傘下に入り、大湊で岩井艦長の監視のもと、輸送船の護衛を務める

照月が苦手で、時々ガンビアに乗ってそのまま大湊に来る照月に「チョコレート返して‼︎」と言われ、その辺を逃げ回る姿をちょくちょく目撃されている


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145話 私をデートに連れてって‼︎(1)

さて、144話が終わりました

今回のお話は、のほほん日常回です

そう言えば、いつかレイは約束してたよね⁇

今度は二人きりでデートしような、って


「えい」

 

「えい」

 

「なんだ⁇」

 

テレビの前に敷かれたカーペットに本を置き、それを読んでいたひとみといよが俺の名を呼んでいる

 

「おしゃかな‼︎」

 

「へんなおしゃかな‼︎」

 

二人が見ている本は魚の”エイ”のページが開かれていた

 

「これえいしゃん⁇」

 

「こっちもえいしゃん」

 

二人は若干パニックになっている

 

俺がひとみといよの背後にあぐらをかいて座ると、二人共太もも部分に座る

 

二人にとって、ここは定位置であり特等席なのだ

 

「そっ。俺の名前はこのエイから来てる」

 

「おぉ〜」

 

「えいしゃんもえいしゃんか」

 

スティングレイは、確か日本語でエイの一種だったハズだ

 

鹿島は俺の時たま尖っている性格を見て、この名前を付けたのだろう

 

気に入ってるから良いけどな

 

レイって、呼びやすいあだ名も付いてるし

 

「めらまやきみたい」

 

「ほっとけーきみたい」

 

「いいか⁇エイさん見ても触っちゃダメだぞ⁇」

 

「なんれ⁇」

 

「えいしゃんさわったらだめ⁇」

 

「こっちのエイさんは毒があるんだ」

 

「こわい‼︎」

 

「どくこわい‼︎」

 

二人共一瞬でエイが嫌いになり、次のページをめくる

 

「たいほうにもみせて‼︎」

 

「んっ。おいで」

 

たいほうは空いている真ん中部分に腰を降ろし、魚図鑑を見始めた

 

「まんぼう⁇」

 

「まんぼうてなんら」

 

どうやら二人は平べったい魚が好みの様だ

 

「マンボウはな、物凄い数の赤ちゃんを産むんだ」

 

「えいしゃんのおよめしゃんみたいに⁇」

 

「あ〜しゃん、い〜しゃん、き〜しゃん」

 

「すてぃんぐれい、いっぱいこどもいるね‼︎」

 

この三人にとって、横須賀は俺のお嫁さんであり、子沢山の人の様だ

 

「もっともっといっぱい産むんだ。何億って数だ」

 

「おく⁉︎」

 

「おくってどのくらい⁉︎」

 

「たいほうにもおしえて‼︎」

 

「そうだなぁ…」

 

子供に億の単位を教えるのはちょっと難しい

 

「照月の食べるご飯粒の数位…か⁇」

 

俺がそう言うと、三人共「うわぁ…」と、引き目で見て来た

 

「てるしゃん、いっぱいたべう」

 

「ひとみといよちゃんはほにゅうびんにぽん」

 

「たいほうはおちゃわんいっこ」

 

「照月は⁇」

 

「「「いっぱい‼︎」」」

 

「億ってのは、それ位分からない位いっぱいある事なんだ」

 

「おぉ〜」

 

「てるしゃんのたべうごはんつぶか…」

 

「みてるだけでたいほうおなかいっぱい…」

 

子供達とこうして本を読むのは楽しい

 

子供達は知らない事をしり、俺はそんな子供達の反応を楽しむ

 

「マーカス様」

 

「はっちゃんも見るか⁇」

 

「いえ。はっちゃんとデートしませんか⁇」

 

はっちゃんはいつものスク水と違い、白い帽子を被ったり、綺麗な服に着替えている等、おめかしをしていた

 

ここまでされたら、断る理由が無い

 

「えいしゃんいく⁇」

 

「たいほうちゃんよんれ⁇」

 

「んっ。いいよ」

 

三人は俺の膝の上から降り、ソファーの下に背中を置いた

 

「ありがと、たいほう。お土産買って来るからな」

 

「うんっ‼︎」

 

たいほうは既に両脇に二人を置いて、本を読む体勢になっている

 

「気をつけてな」

 

「ちょっくら行きますか‼︎」

 

隊長に見送られ、俺はグリフォンに乗る

 

《本日はきそちゃんから許可を頂いています》

 

はっちゃんはいつの間にかアイリスに早変わりしており、グリフォンの中に入っていた

 

「行きたい所でもあるのか⁇」

 

《えぇ。はっちゃん、マーカス様と行きたい所があります》

 

「よしっ。なら連れて行ってくれ‼︎」

 

《発進します》

 

アイリスの自動操縦に任せ、グリフォンは飛び立った

 

 

 

 

 

午前10時23分

 

愛知県常滑市

 

そこには空港がある

 

中部国際空港…

 

通称”セントレア”

 

その空港が、今目の前にある

 

はっちゃんの操縦するグリフォンは、今まさにその空港に着陸しようとしていた

 

「ちょちょちょちょい待て‼︎伊丹みたいに民間空港じゃないんだぞ‼︎」

 

《セントレアも民間空港みたいな物です。人が経営しています》

 

「なんて解釈だ…」

 

俺の反論虚しく、グリフォンは着陸してしまった

 

グリフォンを降りてすぐ、空港のスタッフがゾロゾロと現れた

 

「ほら見ろ‼︎」

 

「大丈夫ですよマーカス様‼︎」

 

いつの間にかはっちゃんはグリフォンから出て、外で手を振っている

 

俺もキャノピーを開け、恐る恐る降りる

 

空港のスタッフは俺と目を合わせるなり、ジリジリと後退する

 

恐れるのも無理はない

 

見た事もない航空機から、変な外人と金髪の女の子が降りて来たのだ

 

「お待ちしておりました。貴女が”ハチ子さん”ですね⁇」

 

「そうです。はっちゃんとお呼び下さい」

 

一人だけ、此方に向かって歩いてくる男性がいた

 

はっちゃんとは知り合いの様だ

 

「知り合いか⁇」

 

「彼がマーカス・スティングレイです」



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145話 私をデートに連れてって‼︎(2)

「貴方が…」

 

男性はどうやら俺を知っている様だ

 

「いつも棚町がお世話になっています」

 

「棚町の知り合いか⁇」

 

「棚町さんの兄です」

 

「ほぉ⁉︎兄がいたのか‼︎」

 

「この度は弟共々、日本に招いて頂き、ありがとうございます」

 

棚町の兄は俺とはっちゃんに頭を下げた

 

「あ…いや…」

 

「マーカス様。棚町さんのお兄さんに敵意はありません。本当にマーカス様に感謝しています」

 

「良かった…」

 

俺ははっちゃんに言われるまで不安だった

 

俺は弟を叩き落とした相手だ

 

何をされても文句は言えなかったからだ

 

「戦闘機はお任せ下さい。人目に付かぬ様、格納庫に入れておきます」

 

「任せたぞ」

 

「ではマーカス様、行きましょう」

 

グリフォンが格納庫に牽引されて行き、俺ははっちゃんに牽引される

 

はっちゃんに着いて行くと空港から出た

 

「どこ行くんだ⁇」

 

「バスに乗ります」

 

空港の近くにバス停があり、俺達はそれに乗る

 

チラッと見えたバスの電光掲示板を見て、俺は行き先を理解したが、敢えて黙っておこう…

 

バスが走り出すと、はっちゃんは少しソワソワし始めた

 

「初めてか⁇」

 

「車に乗るのは初めてです」

 

「外見てみ」

 

はっちゃんと共に窓の外を見ると、空港と共に海が見えた

 

「いいものですね…」

 

「いつかドライブに連れてってやるよ」

 

「はいっ」

 

景色を眺めるフリをして、窓に映るはっちゃんの嬉しそうな顔を見る

 

余程”そこ”へ行くのが嬉しい様だ

 

数十分バスに揺られ、バスはある場所に停まった

 

「よいしょ」

 

はっちゃんはバスからジャンプして降りた後、俺もバスから降りる

 

基地とは違った潮風が顔に当たる…

 

「名古屋港”すいぞっ”館です‼︎」

 

はっちゃんが来たかったのは名古屋港水族館だった

 

「色んなお魚が見れると聞きました」

 

「ほら」

 

嬉しそうにはしゃぐはっちゃんに手を差し伸べる

 

「へっ⁇」

 

「今日はデートだろ⁇」

 

「…はいっ‼︎」

 

はっちゃんは喜んで手を取り、俺を館内へと引っ張った

 

入館料を払い、いざ水族館へ

 

「このお魚は見た事あります」

 

館内に入ると、はっちゃんも俺も歩く足を緩める

 

はっちゃんは時々、水槽内の魚を指差す

 

「カツオだな。隊長が捌くのが上手い」

 

「カラフルなお魚ですねぇ」

 

はっちゃんはエンゼルフィッシュを見てウットリしている

 

「エンゼルフィッシュだな。熱帯に住んでる」

 

「朝霜ちゃんの様なお魚がいます‼︎」

 

「そいつはピラニアだ。噛まれたら痛いぞ⁇」

 

「い〜ってしてます」

 

はっちゃんはピラニアの水槽の前で歯を見せる

 

普通の回遊魚を見たり、熱帯魚を見たりと、はっちゃんは忙しそうにしている

 

「面白いお魚がいます‼︎」

 

はっちゃんは一つの水槽の前で足を止めた

 

水槽の中では口を尖らせ、まるでフレンチキスを連発するかの様に口を合わせ合う魚がいた

 

「キッシンググラミーですって」

 

「喧嘩してるんだぞ」

 

「喧嘩してるのですか⁇」

 

「そっ。ここは俺の場所だ〜ってな」

 

「人間のキスとは全然違いますねぇ…」

 

はっちゃんはキッシンググラミーが気になるみたいで、しばらく眺めていた

 

しばらくキッシンググラミーを眺めた後、はっちゃんはパンフレットを片手に握り、トンネルのような場所に来た

 

「サメがいます‼︎」

 

はっちゃんが上を向いて指差す先には、巨大なサメが泳いでいた

 

「サメは嫌いか⁇」

 

「はっちゃん、サメは嫌いです。すぐに噛み付いて来ます。マーカス様は⁇」

 

「美味いんだぞ、サメ」

 

「食べられるのですか⁉︎」

 

「帰ったら貴子さんに聞いてご覧」

 

トンネルを抜けると、今度は哺乳類のコーナーに来た

 

「ビーバー…凄い歯ですねぇ」

 

「おっ」

 

はっちゃんがビーバーを見ていた横目で、俺は何かの骨格標本を見つけた

 

「これは何です⁇」

 

「アマゾンカワイルカだ」

 

骨格標本の横には、体がピンク色の、口の長いイルカが掲載されている

 

「カワ…イルカ⁇イルカさんは海の生き物では⁇」

 

「コイツは川に住んでるんだ。ほら、さっき見ただろ⁇ピラニアの住んでる川だ」

 

「食べられてしまいます」

 

「分からんぞ⁇コイツはピラニアを食っちまうかもしれない」

 

「でも、ピンク色のイルカさんは初めて見ました」

 

「世界は広いぞ⁇」

 

「マーカス様といると、知らない事が沢山です‼︎」

 

はっちゃんはご機嫌だ

 

哺乳類のコーナーを見た後、俺達は昼食を取る事にした

 

喫茶店と食堂が合わさった店の前に立ち、メニューとして用意された食品サンプルを見る

 

「はっちゃんはスパゲッティにします」

 

「俺はラーメン」

 

店内に入り、案内された席に座って、表で決めたメニューを注文し、外を眺めながらお冷を飲む

 

「マーカス様は”すいぞっ”館に行かれた事はありますか⁇」

 

「何回かある。あれは志摩だったかな…マンボウがいる水族館だった」

 

「マンボウ…平べっちゃいお魚ですか⁇」

 

「そっ。今朝、いよとひとみが面白がって見てた」

 

「いつか行ってみたいです」

 

「お待たせしました」

 

スパゲッティとラーメンが運ばれて来た

 

「頂きます」

 

「頂きます」

 

俺は箸を割って、ラーメンをすする

 

はっちゃんはスパゲッティをクルクル巻いて、口に入れる

 

普段、照月のスパゲッティの食べ方を見ているので、はっちゃんの真面目な食べ方が不思議に見える…

 

照月はスパゲッティや麺類は一気にすくって一気に吸い取る食べ方をする

 

はっちゃんの様に音の少ない食べ方ではなく、ズゾゾゾゾ‼︎と音が出る食べ方だ

 

「美味いか⁇」

 

「マーカス様とするお食事は何だって美味しいです‼︎」

 

はっちゃんは笑顔で答えてくれた

 

横須賀と違って素直だな…

 

可愛いってのは、こう言う事なんだろうな…

 

…俺は何を考えてるんだ

 

仮にもこれはデートだ

 

別の女を考えるなんて最低だ

 

目の前のラーメンとはっちゃんに集中しよう

 

俺はラーメンを食べ、頭の中にあった考えを消した

 

「ご馳走さまでした‼︎」

 

「こっち向いてみ」

 

はっちゃんは真面目そうに見えて、まだ子供っぽい所がある

 

こうして、ほっぺたにケチャップを付けるみたいに

 

「ありがとうございます」

 

はっちゃんの頬を拭き、店を出た

 

《この後、イルカショーが始まります》

 

館内にアナウンスが流れた

 

どうやらイルカショーが始まるみたいだ

 

「マーカス様。イルカショーですって‼︎」

 

はっちゃんは見る気満々だ

 

「行こう」

 

「はいっ‼︎」

 

はっちゃんと共に、イルカショーの会場に向かう



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145話 私をデートに連れてって‼︎(3)

会場に着くと、既に人が集まっていた

 

適当な場所に座り、ショーが始まるのを待つ

 

数分後、またアナウンスが流れる

 

《お待たせしました‼︎イルカショーの始まりです‼︎》

 

アナウンスが終わると同時に、イルカ達が会場の水槽に入って来た

 

「イルカさんです」

 

はっちゃんはイルカに釘付けになっている

 

調教師のホイッスルの合図で、イルカ達はジャンプしたり、水飛沫を上げたり等、多彩な芸を披露する

 

「おぉ〜っ‼︎」

 

「ははっ‼︎凄いな‼︎」

 

言ってる俺もイルカに釘付けになる

 

《それでは、ここでお客さんの中からイルカさんにエサをあげたい人を募集します‼︎イルカさんにエサをあげたい人‼︎手を挙げて下さ〜い‼︎》

 

「は、はいっ‼︎」

 

はっちゃんはいの一番に手を挙げた

 

まっ、これだけ人が居たら当たらな…

 

《では、そこの”カップル”のお二人‼︎どうぞこちらへ‼︎》

 

どうやらはっちゃんは当たったみたいだ

 

「やりました‼︎行きましょう‼︎」

 

「マジかよ‼︎」

 

はっちゃんに手を引かれ、水槽の縁を歩く

 

「では、お兄さんとお姉さんには、エサをあげる前に、一つ芸を披露して貰います‼︎」

 

「任せな」

 

俺は口に指を咥え、笛の様に吹き、手を下から上に上げた

 

するとイルカ達は列を揃え、ジャンプして一回転した

 

観客席からは歓声が上がっている

 

「これでオーケーか⁇」

 

「凄い…って‼︎違います‼︎」

 

「マーカス様‼︎はっちゃん達は芸の出し方を教えて貰うのです‼︎」

 

「な、何っ⁉︎すまん‼︎」

 

「逆にどうやってしたんですか‼︎」

 

「いや…その…」

 

「はっちゃんはどうすれば良いですか⁇」

 

「あ…そ、そうね‼︎」

 

はっちゃんは調教師の人に芸の出し方を教えて貰い、イルカをその場でクルクル回転させた

 

「では、エサをあげて下さい‼︎」

 

アジを渡され、二人はイルカに投げる

 

イルカ達はアジを綺麗にキャッチして食べた

 

「ありがとうございました〜」

 

俺達の出番は終わり、手を洗った後、観客席に戻って来た

 

「マーカス様。さっきのアレ、どうやってしたのですか⁇」

 

「大分前に水族館に行った時の見よう見まねだ…まさか上手くいくとは…」

 

「はっちゃんもやれば良かったです」

 

イルカショーが終わり、客がゾロゾロ移動し始めたので、俺達も会場を後にした

 

 

 

 

水族館もあと少し

 

だが、はっちゃんはお目当てをまだ見れていなかった

 

「あっ‼︎」

 

最後の最後で、開けた場所に出た

 

「はっちゃんが見たかったのはこれです‼︎」

 

そこには、巨大な亀の骨格標本が宙から下げられていた

 

「アーケロンです‼︎」

 

「デッカいもんだなぁ…へぇ〜」

 

数メートルはあろう骨格標本を、二人して見上げる

 

「はっちゃん、アーケロンを見たかったのです」

 

「クジラじゃなくてか⁇」

 

「マーカス様が読んでくれた本に、アーケロンの背中に乗って大海原を行くお話がありました」

 

「なるほど…」

 

どうやらはっちゃんは、俺の読んだ本の中に出て来た生物に興味が行くらしい

 

クジラ、イルカ、そしてアーケロン…

 

全部、はっちゃんがアイリスだった時に読み聞かせた本の中に出て来た生き物だ

 

「これだけ大きければ、はっちゃんも背中に乗って色んな所に行けますねぇ…」

 

はっちゃんは目を見開いてアーケロンを見ていた…

 

水族館の出口付近には、お土産コーナーがあり、そこで子供達のお土産を選ぶ事にした

 

「コイツはいい」

 

棚に陳列されたイルカのぬいぐるみ

 

腹部分を押すとピープー鳴って面白い

 

色違いを三つ買い、次のお土産を選ぶ

 

紐を引っ張ると震える小さなカピバラのぬいぐるみや、吸盤の付いたサメのぬいぐるみ等、ちょっといっぱい買ってみる

 

これだけ色々買えば、子供達はどれか一つは気に入ってくれるハズだ

 

「はっちゃんはこれにします」

 

はっちゃんの手には、亀のぬいぐるみがある

 

それらをカゴに入れ、レジで精算を済ませ、外に出て来た

 

海岸に備えられた柵にもたれ、タバコに火を点けると、手にジュースを持ったはっちゃんが横に来た

 

「楽しかったです‼︎」

 

「俺もさ。久々に息抜き出来たよ」

 

「”すいぞっ”館は良いものです」

 

俺はずっと気になっていた事を聞いてみた

 

「はっちゃん。お洋服を洗う機械、なんて言う⁇」

 

「”せんたっき”ですか⁇」

 

「ふっ…」

 

やっぱりな…

 

はっちゃんは水族館を”すいぞっかん”洗濯機を”せんたっき”と言う

 

たまに略す癖があるみたいだ

 

「そろそろ帰ろうか。暗くなって来た」

 

「…はいっ」

 

はっちゃんは何か言いたそうな感じをしていたが、俺達は帰りのバスに乗った

 

はっちゃんはセントレアに着くまで、もの惜しそうに外を眺めていた

 

ホント、平和になったらいろんな場所に連れて行ってやらないとな…

 

セントレアに着き、棚町の兄に礼を言い、グリフォンに乗り込む

 

《発進します》

 

「行こう」

 

セントレアからグリフォンが出る

 

管制塔も、地上にいた人も、グリフォンに手を振る

 

愛知…か

 

ここにも思い出が出来たな…



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145話 私をデートに連れてって‼︎(4)

空に上がると、既に星が見えていた

 

夜はいい

 

神経が高ぶる気がする

 

深呼吸をした後、はっちゃんが話しかけて来た

 

《マーカス様。音楽をかけてもよろしいですか⁇》

 

「良いのを頼むぞ」

 

俺は単独飛行の時、よく音楽を聴きながら飛ぶ

 

AIの載った機体に乗る時なんて特にだ

 

それはきそも知っている

 

きそはよくゲームのBGMを勝手に流しながら飛ぶ

 

時折BGMに合わせてテンポ良く敵機を落とす位だ

 

はっちゃんは何を流すかな…

 

「へぇ」

 

流れて来たのはムーンリバー

 

今のこの状況にピッタリだ

 

「そういやぁ、さっき何か言いたそうだったな⁇」

 

《…》

 

何故かはっちゃんは黙ってしまった

 

余程言い難い事なのだろうか⁇

 

《マーカス様》

 

「ん⁇」

 

《…月が綺麗ですねぇ》

 

何となく分かった

 

これは告白だ

 

随分前に、はっちゃんがAIの時に読み聞かせた本に出て来たセリフだ

 

言われたならば、答えを返さなければならない

 

「悪いな。死ねない体なんだ」

 

《ふふっ。マーカス様らしいお答えです。安心しました》

 

はっちゃんは察してくれたみたいだ

 

だが、その気持ちは充分伝わった

 

嬉しいの一言だ

 

「ありがとう」

 

《忘れないで下さい。はっちゃんの心は、いつもマーカス様のお傍にあります》

 

良い子を持ったな、俺は…

 

《マーカス様。ジェミニ様から通信が…切り替えます》

 

無線が切り替わり、横須賀の声が聞こえた

 

《浮気⁇》

 

「出歯亀は良い趣味とは言えんな」

 

《まぁいいわ。夜間戦闘の演習に付き合ってくれない⁇アンタ丁度いい場所にいんのよ》

 

「何機だ」

 

《三機よ。終わったら横須賀で補給してもいいから。ねっ⁇》

 

「ったく…遅えんだ…よっ‼︎」

 

喋っている間に、震電がグリフォンを横切って行く

 

《マーカス様。はっちゃん、戦闘機として戦うのは初めてです》

 

「やってみるか⁇」

 

《やってみます》

 

「よしっ。とりあえず一機に撃墜判定を出してみろ。二機目は俺が代わる。三機目は応用ではっちゃんが落としてみせろ」

 

《むっ。頑張りますね》

 

ムーンリバーが流れたまま、グリフォンがオートに切り替わる

 

普段きそが中に入っている時は、セミオートにしている為、完全なオートはヘラ以来だったりする

 

はっちゃんの操縦するグリフォンは、きその操縦する時の体当たりの様な鋭さは無いが、キチンと狙ってキチンと撃墜判定を出す、と言った丁寧な戦い方をしている

 

一定の距離を取り攻撃

 

ロックされればすぐさま離脱

 

几帳面な戦い方をし、震電の一機に撃墜判定を出す

 

《操縦を渡します》

 

「オーケー」

 

操縦を代わり、近くにいた一機に狙いを定める

 

「フーン、フンフーン…」

 

ムーンリバーを鼻歌で歌いながら、敢えて震電を背後につかせた

 

「見てろはっちゃん。こういう戦い方もある」

 

一機にブレーキをかけ、操縦桿を引く

 

《うわっ‼︎わぁっ‼︎》

 

グリフォンはまるで後転するかの様に、震電の頭上を越えて後ろ向きに回転

 

その一瞬の隙を突いて、機銃のトリガーを引き、撃墜判定を出す

 

「今のがフルバックだ」

 

《凄いです…マーカス様はいつもこの様な戦い方を⁇》

 

「たま〜にだ、たま〜に。さっ、操縦を渡すぞ」

 

《フルバック…した方が良いですか⁇》

 

「しなくていい‼︎あぁいった起動もあるってだけだ‼︎」

 

《いきます‼︎》

 

はっちゃんは先程よりも鋭さを増した飛び方で震電を追い込む

 

震電とはいえ、やはり最新鋭機には勝てなかった様だ

 

…ちょっと複雑だな

 

《やりました‼︎》

 

「よくやった‼︎」

 

《ありがと。横須賀に来て頂戴》

 

演習が終わり、横須賀に向かう

 

 

 

 

のちにこの演習は”ムーンリバーの教え”と呼ばれ、無人機教育の教本に載る事となる…

 

 

 

 

「レイっ‼︎」

 

横須賀に着くと、すぐに横須賀が来た

 

「はっちゃんとデート中だったの⁇」

 

「だな、はっちゃん」

 

《名古屋港”すいぞっ”館に行って参りました》

 

「そうだ。子供達にこれをやってくれ」

 

俺はミサイルハッチを開け、中から袋を出した

 

「私のはな…アイタ‼︎」

 

「言うと思った」

 

言われる前に横須賀の額に箱を当てる

 

「机の上にでも置いとけ」

 

「あらっ、イルカのスノードーム…ありがとっ‼︎」

 

横須賀はいつもの様にキスしようとするが、俺はそれを指で止めた

 

「デート中だ」

 

「そうね…ごほん」

 

《はっちゃんの事はお気になさらず。ささっ、ブチューっと》

 

「お前最近きそに似てきたな…」

 

「きそちゃんがはっちゃんに似てるんじゃないの⁇」

 

「どうだかな…」

 

その辺はちょっと複雑だ

 

一番最初に造り出したのは、アイリス…今のはっちゃんだ

 

だが、はっちゃんのボディを創り出したのはきそだ

 

考えると分からなくなる

 

補給を終えて、俺達は横須賀を発とうとした

 

《ジェミニ様が手を振っています》

 

「この瞬間は嫌いだ…」

 

《何故ですか⁇》

 

「無性に愛おしくなるんだよ、アイツが」

 

《なるほど…》

 

いつもは口煩い横須賀だが、見送りとベッドの上ではしおらしくなる

 

その瞬間が無性に愛おしい

 

そんな横須賀を横目に、グリフォンは横須賀を出た

 

 

 

 

 

基地にグリフォンが帰って来た

 

「ふぅ…」

 

《マーカス様。本日はありがとうございました》

 

「また行こうな、絶対」

 

《はいっ‼︎》

 

「えいしゃんかえってきたお‼︎」

 

「ごはんできてるお‼︎」

 

グリフォンのタラップを降りると、ひとみといよのお迎えが来た

 

「すぐ行くって言っといてくれ」

 

「わかた‼︎」

 

「はよこいお‼︎」

 

ひとみといよを食堂に戻らせ、ミサイルハッチからお土産が詰まった袋を取り出し、一旦床に置く

 

「はっちゃん」

 

「はいっ」

 

「こっちおいで」

 

はっちゃんを手招きし、近寄って来た所で唇を合わす

 

「マーカス様⁉︎」

 

「嫌だったか⁇」

 

唇を離すと、はっちゃんは真っ赤になっていた

 

「い、いえ‼︎とても嬉しです‼︎」

 

はっちゃんはテンパって言語がおかしくなっている

 

「デート中忘れてたからな」

 

「あ、あああありがとうございます‼︎」

 

「さっ‼︎飯食うぞ‼︎」

 

「は、はひっ‼︎」

 

はっちゃんは俺の後ろをカチカチになりながら着いて来た

 

 

 

 

夕食を食べ終え、お土産を配る

 

「いるかしゃんら‼︎」

 

「ひとみにくえうの⁉︎」

 

「たいほうのもある‼︎」

 

ひとみ、いよ、たいほうの三人は、あのピープー鳴るイルカのぬいぐるみを気に入ってくれたみたいだ

 

現に三人は、イルカのぬいぐるみをピープピープピープと鳴らせながら嬉しそうに振っている

 

他の子にもぬいぐるみ系のオモチャを渡す

 

「照月のはないの⁇」

 

「照月はこっちの方がいいだろ⁇」

 

照月にはあの小さくてブルブル震えるカピバラのぬいぐるみと、大量のお土産用のお菓子を渡す

 

「わぁ〜‼︎可愛い‼︎おいひ〜‼︎」

 

照月は机の上でカピバラをブルブルさせながらお菓子を頬張る

 

「レイ。私達には無いの⁇」

 

「お・か・し‼︎」

 

ローマ以外の大人には好評だ

 

隊長も貴子さんも母さんもパクパク食べている

 

「…まぁいいわ。ありがと」

 

不貞腐れながらも、ローマはお菓子を口にする

 

こうして、はっちゃんとのデートは幕を降ろした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩、皆が寝静まった後、俺は誰かの部屋をノックした

 

部屋の中の人は眠っていた為、俺はコッソリ部屋に入り、ベッドの横の台にネックレスの入った箱を置き、部屋を出た…

 

好きと言われれば何かしてやりたくなる

 

だが、彼女は大人だ

 

子供達の前ではいつもそれを隠している

 

だからこそ、こうして人目の付かない時に渡すしかない

 

「おやすみ、ローマ…」

 

彼女の寝顔を見て、俺は部屋を出た…



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146話 幼いシンデレラの甘え方

さて、145話が終わりました

今回のお話は、warspiteのお話です

普段子供達に好かれる姫の意外な一面が見れるかも


母さんが車椅子から降り、カーペットの上にいる

 

いつもはソファーの隅っこに居るのに珍しい

 

そんな母さんの前には、ひとみ、いよ、たいほうの三人が、この間買ったイルカのぬいぐるみを抱っこして昼寝をしている

 

母さんは真顔でそのイルカのぬいぐるみに、そ〜っと手を伸ばし、まるでジェンガを抜くかの様にそ〜っとそ〜っと抜く

 

母さんの真顔は見ていて何だか面白い

 

最初にいよの抱いていたイルカを取り、そっと頭を上げ、そこにイルカを差し込む

 

イルカのぬいぐるみは枕になった

 

母さんは次にひとみのイルカにも手を伸ばす

 

「んに…」

 

「ひぅっ」

 

ひとみが起きかけ、母さんは肩を上げる

 

それでもイルカのぬいぐるみを抜くのを止めない

 

ひとみの頭の後ろにもイルカが差し込まれ、最後はたいほう

 

たいほうは何かに掴まる時、しっかりガッチリ持つ癖があるので、中々イルカが抜けない

 

母さんはイルカを小刻みに左右に振りながら、徐々に抜いていく

 

その間も勿論真顔

 

口を真一文字に締め、たいほうだけを見ている

 

たいほうのイルカも抜け、また枕にする

 

「ふふっ」

 

母さんは満足気だ

 

 

 

 

 

オヤツの時間になり、子供達もゾロゾロ集まって来た

 

母さんと三人の子供達の前には小さな机が置かれる

 

「母さん。今日は子供達頼むよ」

 

「オーケーマーカス」

 

いつもは俺か隊長が座っている席に、今日は母さんが座る

 

「ひとみの分、いよの分、たいほうの分…母さんはこれな」

 

「ふふっ」

 

目の前に置かれたチョコレート味のスコーンを見て、母さんは笑う

 

ひとみといよは、霞が作ってくれた砕いたプリンの離乳食

 

たいほうは姫と同じスコーン

 

それぞれが食べ始め、俺も自分の席に着いてスコーンを口にする

 

「ぷはぁ〜っ‼︎」

 

「くぅ〜っ‼︎」

 

ひとみといよが何処かで聞いた様なセリフを吐いている横で、ふとたいほうと母さんを同時に見る

 

俺は笑みがこぼれた

 

たいほうの食べ方と母さんの食べ方が丸っきり同じだ

 

スコーンを手に持ち、口を開けてカブりつき、ポロポロ粉を落とす

 

二口、三口目には口周りは既に粉だらけになる

 

二人共口が小さいからこぼすのかもしれない

 

「おいひ〜‼︎」

 

正面に顔を戻すと、二人が苦戦していたスコーンをてんこ盛り用意され、それを一口で食べる照月がいる

 

勿論粉一つこぼさない

 

食べている照月は本当に幸せそうだ…

 

視線を再び二人に戻すと、スコーンを食べながら、テレビに夢中になっている

 

そしてまた、スコーンの粉が落ちる

 

ひとみといよもテレビは見ているが、食べる時はちゃんと離乳食を見ているので、多少口周りに付いている位だが、たいほうと母さんは大惨事になっていた

 

口周りは粉、粉、粉

 

粉は頬にも付いている

 

どうやって食べればあんな事になるのか…

 

拭かなければ…

 

ティッシュの箱を持ち、二人の前に来た

 

まずはたいほう

 

「いっぱいついてた⁇」

 

「そんだけ美味しかったって事さ」

 

たいほうの口元を拭いていると、後ろから服の裾をクイクイ引っ張られた

 

振り返ると、母さんが無言で此方を見て、小さく首を傾げていた

 

拭いてくれという合図だ

 

「こっち向いて」

 

「んっ…」

 

母さんの口元も綺麗に拭く

 

こうして見ていると、母さんはホントに子供っぽい

 

いつも気品溢れるオーラを出している反動なのだろうか⁇

 

いや、元々甘えんぼなんだろう

 

父さんに聞いたが、母さんは昔からふとした瞬間子供っぽいらしい

 

基本的に真顔になっている時に子供っぽくなるらしい

 

 

 

 

 

母さんが執務室でデスクワークをしている

 

隊長は1日に数時間は子供達との時間を必ず取る

 

その間、母さんはデスクワークをする

 

赤い縁の眼鏡を掛け、中々の早さで仕事を終わらせていく

 

そしてまた真顔になる

 

白紙に何か書いている

 

はたから見れば真面目に書類に向かっている様に見えるが、書類仕事は終わっている

 

「ふふっ」

 

紙に描いていたのはラクガキのようだ

 

可愛げのあるウサギやクマを描いている

 

随分と楽しそうにしている

 

「何してるの⁇」

 

「ん⁇ふふっ」

 

きそが来たので、一緒に母さんを眺める

 

「姫ってさ、時々スッゴク子供っぽくなるよね」

 

「それが可愛いんだよ。男はそれにコロッとやられる」

 

 

 

 

 

 

書類仕事を終え、母さんは食堂のソファーに座ってテレビを見始めた

 

たまには隣に座ってみよう

 

「よっこいせ」

 

母さんは俺が座った時、一瞬だけ俺の顔を見た

 

真顔だ

 

子供達が教育番組を見ており、俺も子供達と話をする為にそれを見る

 

しばらくすると、肩に母さんの頭が乗った

 

照月の様に口を開けて、ヨダレを垂らして寝ている

 

「ひめしゃんねた⁇」

 

「ひめしゃんおつかえ⁇」

 

テレビを見終えたひとみといよが来た

 

二人は誰かが寝ている時は静かにするという事を覚えたみたいだ

 

「そうだな…いっぱいお仕事したからな」

 

二人と話していると、母さんが膝の上に落ちて来た

 

「くぅ…」

 

「ったく…」

 

母さんの眼鏡を外し、いよに渡す

 

「机の上に置いて来てくれるか⁇」

 

「わかた」

 

いよは机の上に眼鏡を置いて、すぐに戻って来た

 

「これつかう⁇」

 

「握らせてみな」

 

ひとみといよは母さんの手にイルカのぬいぐるみの口先をツンツンさせた後、母さんに抱かせてみた

 

「くふっ…」

 

イルカのぬいぐるみを二つも抱いた母さんは幸せそう微笑んだ

 

「いるかしゃんふあふあしゅるの」

 

「ひめしゃんもふあふあしゅき⁇」

 

「そうかもなぁ」

 

俺が母さんの頭を撫でると、二人も真似して母さんの頭を撫でる

 

「ねんねんこおい〜」

 

「ぶっこおい〜」

 

たいほうの歌っていた、歌詞がチョイ怖い子守唄を二人は口ずさむ

 

 

 

 

 

夕ご飯を食べ終え、風呂も入り、今日は寝るだけだ

 

俺は子供達を寝かせ、食堂に戻って来た

 

「マーカスも飲む⁇」

 

「頂こうかな」

 

母さんからホットミルクを貰い、椅子に座って飲む

 

食堂には大人達が数人しかいない

 

見るテレビも無く、隊長がDVDをつけている

 

流しているDVDは、前に隊長にソックリな博士兼主人公が出ていた映画の最新作だ

 

「私が博士に似てるなら、今回はレイと横須賀に似てるな⁇」

 

テレビの中では、口うるさい女性の上司が主人公の男に当たっている

 

主人公は反論して、その女性を黙らせている

 

女性はそれだけ口うるさくしている癖に、いざデカい恐竜が来るとすぐに主人公の背後に隠れている

 

まるで横須賀だ

 

「ホント横須賀だな…」

 

「ふっ…」

 

隊長はニヤつきながら画面に食い入る様に見ている

 

しばらくDVDを見ていると、また服の裾をクイクイされた

 

「マーカス…」

 

母さんはオネムの様だ

 

「眠たいか⁇」

 

「うん…」

 

母さんは既に目を擦っている

 

俺は車椅子を押し、母さんの部屋の前まで来た

 

「トイレは大丈夫か⁇」

 

「大丈夫…」

 

部屋に入り、ベッドの傍に車椅子を止め、ブレーキをかける

 

「んっ」

 

母さんは手を広げ、こっちを見ている

 

抱っこしろとの合図だ

 

「今日は随分甘えんぼだなっ…よっ‼︎」

 

母さんの脇に手を入れると、すぐに俺を抱き締める

 

眠気が相当来ているのか、母さんの体温はいつも以上に温かい

 

いい匂いもする

 

「ふふっ」

 

俺に抱き上げられた母さんは何故か嬉しそうにしている

 

母さんをベッドに寝かせ、布団を被せる

 

「マーカス」

 

「どうしたっ⁇」

 

ベッドの傍に屈むと、母さんは真顔で俺の頬を撫でて来た

 

「私もぬいぐるみ欲しいです」

 

「ぬいぐるみ欲しかったのか⁇」

 

「ダメ⁇」

 

「今度買って来てやるよ」

 

母さんにちゃんと布団を掛け、部屋を出ようとした

 

が、ガッチリ腕を掴まれて引き止められた

 

「おやすみのキスは⁇」

 

「…」

 

「kiss」

 

母さんは真顔で迫る

 

「ったく…」

 

子供達にそうしている様に、髪の毛をかき上げ、額にキスをする

 

「ふふっ」

 

「おやすみ」

 

「おやすみマーカス」

 

俺は部屋から出た

 

部屋から出てすぐ、軽くため息を吐く

 

ホントに子供っぽいんだな…

 

まさかぬいぐるみが欲しかったとは…

 

表立っては、ちょっと気の強い良妻賢母

 

仕事も出来るし、料理だって出来る

 

それに、子供の面倒見も良い

 

だが、裏を返すとトンデモない甘えんぼさん

 

実は母さん、眠っていた子供達のぬいぐるみを引き抜いていた時、実は奪おうとしていたのだ

 

ホントは欲しくて欲しくて堪らない

 

何とか理性でセーブし、枕にする事でその思いを隠した

 

なのでソファーでうたた寝していた時、ひとみといよがぬいぐるみを抱かせると幸せそうな顔をしていたのだ

 

こんな子供っぽさを見せられたら、男は落とされてもおかしくない

 

…少し、呉さんの気持ちが分かった気がした

 

 

 

 

 

「レイは気付いてないね。レイの自動的に異性を落としていく癖、姫から遺伝してるの…僕もいつかつくかなぁ…」



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147話 粛清娘、来日(1)

さて、146話が終わりました

今回のお話は、折角取れたので新艦娘を出そうと思います

視察団の国とは⁉︎

艦娘はどこの国生まれかな⁉︎


横須賀がソワソワしている

 

なんでも今日は、とある国から視察が来るらしい

 

その国から提供されているT-50を一番良く乗りこなしているラバウルの連中も横須賀に呼ばれ、今は視察が来るまで執務室で待機している

 

「粛清されたらどうしよう」

 

「粛清ってなぁに⁇きーちゃん知りたい‼︎」

 

「気に入らない奴をブッ殺す事さ」

 

「きーちゃんも粛清したい‼︎」

 

清霜は机に手を付いてピョンピョンしている

 

「レイなら粛清していいぞ」

 

「レイなら仕方ないな」

 

「隊長‼︎アレンテメェ‼︎」

 

「提督、視察団が来られました‼︎」

 

清霜が飛び掛って来たのを抱き留めた途端、明石が入って来た

 

「こちらへどうぞ」

 

執務室の中に、軍服を着た五人の男が入って来た

 

その後に一人、女性も入って来た

 

「T-50のパイロットはどれだ」

 

先頭に立った男は開口一番に言った

 

「我々です」

 

ラバウルさん、アレン、健吾、北上が前に出る

 

「早速で悪いが、機体を見せて貰おうか」

 

視察団に言われるがまま、ラバウルの連中と共に執務室を出る

 

「これだな…ガングート」

 

「はっ」

 

格納庫の前に着くと、視察団の中にいた女性がアタッシュケースを開けた

 

「今から我々と模擬戦をして貰う」

 

「構いませんよ」

 

ラバウルさんは薄っすらと笑みを浮かべる

 

「準備が整った。いつでも可能だ」

 

「では始めよう」

 

どこか冷酷さが垣間見える視察団の連中は、自国で生産されたシルバーのT-50に乗り込む

 

対してラバウルの連中は赤黒いメタリックカラーのT-50に乗る

 

視察団は5機

 

ラバウルの連中は4機

 

数では不利だ

 

だが、あのラバウルさんの笑み…

 

あれは何か考えがあるな

 

そうこうしている内に、横須賀の上空に機体が上がって行く…

 

 

 

 

地上に残された俺達は、アタッシュケースの中に入れられたパソコンを眺める事にした

 

「貴様がマーカス・スティングレイか」

 

「なんだ⁇知ってるのか⁇」

 

「知ってるも何も、貴様と大佐は有名だからな。宜しくな」

 

「あ…あぁ…」

 

”ガングート”と呼ばれた女性は、何処か危険な感じを醸し出していた

 

「よし、これで良いだろう。私は少し一服する」

 

ガングートはパソコンを俺達の前に置き、自身はパイプを燻らせ始めた

 

「タバコ吸える年なのか⁇」

 

「あまり私に構うな」

 

「…レイ。粛清されるわよ」

 

ガングートは見た所身長が小さい

 

パイプを燻らせる年齢ではないのは確かだ

 

パソコンと上空を交互に睨む

 

数では劣勢だと思われたラバウル隊だが、実力の差と力量で視察団を追い込んで行く

 

二機で一機を仕留める、所謂サッチウィーブ戦法を取っている

 

ラバウルの連中にアレをされたらひとたまりも無い

 

俺と隊長が対峙しても負けるレベルだ

 

視察団はあっと言う間に撃墜判定が出た

 

 

 

 

「強いな。T-50を貴方がたに任せて正解だった」

 

地上に戻って来た視察団は何処かにこやかになっていた

 

「T-50は良い機体ですよ。今までの機体よりもずっと」

 

「ベルクトは気に食わなかったか⁇」

 

「ベルクトは旋回性能が良過ぎたんです。その点、T-50は勝手が効きます」

 

「そうか。貴方がたの様なパイロットに乗って貰い、T-50も幸せだろう」

 

「隊長。模擬戦のデータは本国に転送済みです」

 

「んっ。では、ガングートが食べたがっていた日本食を食べに行こうか」

 

「ハラショー‼︎」

 

「えと…何が食べたい、ですか⁇」

 

ぎこちなく横須賀が聞く

 

「これ位の大きさでな、コメに刺身の乗った食べ物だ」

 

ガングートは小さな手で”これ位の奴”と示す

 

「ずいずいずっころばしだな」

 

「そうね。では行きましょう」

 

一同はずいずいずっころばしに向かう

 

 

 

 

「いらっしゃ…大人数ですねぇ‼︎」

 

相変わらず瑞鶴は俺達に驚く

 

「席あるかしら⁇」

 

「此方へどうぞ‼︎」

 

テーブル席に案内され、俺と隊長は何故か視察団と同じ席に座らされ、ガングートと横須賀はカウンターに座っている

 

「貴方がたがサンダーバード隊ですね」

 

「そうです。粛清するなら今の内ですよ」

 

「ははは‼︎そんなバカな‼︎」

 

隊長の冗談で、視察団一同が笑う

 

「T-50には、貴方がたの戦闘データも組み込まれているのです。そんな貴方がたを粛清する訳にはいけません」

 

「そんなデータどこで…」

 

「我々は散々貴方がた…そしてSS隊に…ガングート、なんと言うんだった」

 

視察団の隊長らしき人物の問いに、カウンター席に座っていたガングートが答えた

 

「”モーコン・ハ・ゲール”だ」

 

「そうでした。モーコン・ハ・ゲール思いをしましたからね…」

 

笑って良いのか分からない

 

使い方が間違っているとは言わないが、イントネーションが可笑しい

 

それに、俺達は何度かこの国、ロシアの機体を相手にしている

 

もしかしたらではなく、俺達を恨んでいるに違いない

 

「恨んでいるなら言ってくれ」

 

「レイ、エビ取ってくれ」

 

「ほい」

 

「恨んでいる⁇何か勘違いをしていませんか⁇」

 

「これはなんだ⁇」

 

視察団の隊長の周りでは、寿司を手に取っては、これはなんだと不思議そうに見ている残りの連中が楽しそうにしている

 

「違うのか⁇」

 

「とんでもない‼︎恨んでいるなら、日本語を学んでわざわざ来ません‼︎」

 

「そ、そっか…」

 

「ハマチ来た。取ってくれ」

 

「ほい」

 

「我々の国の教本にも、貴方がたの飛び方は模範として載っています。もし我々が貴方がたを恨んでいたとして、大佐の言う粛清をしたのなら、本国に帰った瞬間、我々が粛清です」

 

「なら良かった…」

 

「それに、我々の国でようやく完成したあの子…」

 

視察団の隊長の目線の先にはガングートがいる

 

「日本の何処かの基地に”楽園”と呼ばれる、戦いの無い基地があると聞く。ガングートを…そこに預けてやりたい」

 

「それはまたどうしてだ⁇」

 

あらかた寿司を食い終えた隊長がようやく口を開いた

 

「あの子…ガングートはすぐに人を粛清したがる癖があります」

 

「「あぁ…」」

 

隊長と同じタイミングでため息を吐く

 

どこの世界にも”アイツ”みたいな奴はいるんだな…

 

 

 

 

 

「スッゲェ失礼な事言われた気がするダズル」

 

「仕方ないニム。榛名がハンマー振り回すからニム」

 

「テメェブッ殺してやるダズル‼︎」



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147話 粛清娘、来日(2)

「それで、ガングートもそこで預かって貰えれば、少しは粛清癖が治るかと…」

 

「まずは横須賀に預けてみては⁇」

 

「この基地に、ですか⁇」

 

「この基地の提督の旦那は彼です。何かあれば駆け付けてくれますよ」

 

「それは良い考えだ。だが、是非とも楽園に…」

 

「それは恐らく彼等の基地の事です」

 

横須賀が来た

 

良かった、口にご飯粒は付けていない

 

「貴方がたの話を聞く限り、彼等の基地が楽園です」

 

「なら話は早い‼︎是非ともガングートを‼︎」

 

「ふざけるな‼︎」

 

そう叫んだのはガングートだ

 

「ライコビッチ‼︎貴様私を見捨てるのか‼︎」

 

「ガングート、これは命令だ」

 

「嫌だぞ‼︎私は本国に帰る‼︎」

 

「ダメだ。ガングート、君は色々粛清しすぎた。その癖を治すまで、ここに居て貰う」

 

「ダメだダメだ‼︎ライコビッチ、お前も粛清だ‼︎」

 

「で、では我々はこれで…あ、これ名刺です。万が一何かあれば連絡を」

 

「ウガーッ‼︎待てライコビッチ‼︎」

 

視察団の連中は嵐の様に去って行った

 

名刺の裏に何か書かれている

 

”ガングート怖い。粛清癖が治ったら、日本の言葉で”つおいせんかん”になります。治ったら前線に出しても良いです。是非ご活用下さい”

 

ライコビッチより愛を込めて

 

実はライコビッチの視察団、ガングートが怖いので一目散に去って行ったのだ

 

「うわ〜〜〜ん‼︎ライコビッチのバカァ〜〜〜‼︎」

 

ガングートはずいずいずっころばしの店内で大泣きし始めた

 

「が、ガングートちゃんだっけ⁇食べましょうよ。ねっ⁇」

 

「ヤダヤダァ〜〜〜‼︎私に逆らう奴はみんな粛清なんだぞ‼︎」

 

ガングートは目を抑え、子供の様に泣いている

 

横須賀の目線が”なんとかしなさいよ”と訴える

 

「ガングート、本国では何食べてた⁇」

 

「グスッ…しゃ〜もん…」

 

「サーモンもあるぞ⁇一緒に食うか⁇」

 

「ヤダッ‼︎本国に帰る‼︎」

 

拗ねるガングートを尻目に、わざとらしくサーモンの寿司が乗った皿を取る

 

「あ〜‼︎サーモンウメェ‼︎もっと食お〜っと‼︎」

 

「ウッ…グスッ…」

 

「ガングートが泣いてる内に食っちゃおっかなぁ〜⁉︎な、隊長‼︎」

 

「んめえんめえ‼︎」

 

隊長も見せびらかすかの様にサーモンを食べる

 

「わ、私の分も残せ‼︎粛清するぞ‼︎」

 

「ならこっち来い」

 

ガングートは俺の横でサーモンの寿司を食べ始めた

 

ぎこちない箸の持ち方で、ガングートはパクパク食べて行く

 

「美味いか⁇」

 

「…まぁまぁだな」

 

「もっと食うか⁇」

 

「もういい。ずいずいずっころばしは美味しいと分かった」

 

「そっか。デザートはどうする⁇」

 

「いらん‼︎本国に帰る‼︎」

 

「あ〜プリンウメェ‼︎」

 

「ウッ…」

 

「ケーキウメェ‼︎」

 

ガングートの周りでは、見せびらかすかの様にデザートを貪る大の大人が二人

 

「ウッ…ウッ…」

 

ガングートはどうしても本国に帰りたいのか、ポロポロと涙を流す

 

「大丈夫」

 

むせび泣くガングートの頭に手を置いた

 

「エッ⁇」

 

「ここには仲間が沢山いる。俺だって、隊長だって、横須賀だっている」

 

「あのホルスタインもここにいるのか⁇」

 

「ホルスタ…」

 

多分ガングートは横須賀の一部分を見て言っている

 

どうやらガングートにとって同性であり、包容力のある横須賀が、現状安心出来る相手の様だ

 

「ホントにいるのだな⁇絶対だな⁇」

 

「ホントだ。空軍は嘘をつかない」

 

隊長からも背中を押される

 

「う、嘘ついたら粛清だからな‼︎」

 

「結構だ」

 

それからガングートはヒックヒック言いながらもケーキを二つ食べた

 

「マーカス。おぶれ。おぶらなきゃ粛清だぞ」

 

「ホラッ」

 

ずいずいずっころばしから出る時、ガングートをおんぶして出て来た

 

さっきも言ったが、ガングートは結構小さい

 

流石にたいほうやひとみやいよまでとはいかないが、きそより少し高い位だ

 

なので、おんぶするのも容易だった

 

「すぅ…」

 

「泣き疲れたんかな⁇」

 

ガングートは眠っていた

 

お腹いっぱいになったのと、泣き疲れたのもあるのだろう

 

ガングートを執務室のソファに寝かせ、毛布を掛けた

 

「…ハッ‼︎」

 

毛布を掛けた途端、ガングートが目を覚ました

 

「起きたか⁇」

 

「マーカス、貴様私に変な事する気か‼︎粛清するぞ‼︎」

 

ガングートは胸を手で隠した

 

「ガキには手は出さんよ」

 

「ウッ…」

 

威勢を張ってる割には、子供扱いに弱いみたいだ

 

頭を撫でると、満更でもなさそうな顔をしている

 

「私はまだ認めた訳じゃないからな‼︎」

 

「はいはい」

 

「気に入らない事をしたら粛清するからな‼︎」

 

「分かったよ”ガン子”」

 

「ガッ、ガン子だと⁉︎ふざけるな‼︎粛清だ粛清‼︎」

 

「ガン子ちゃん。あだ名を付けられるのは、これからよろしくって意味なのよ⁇」

 

「ヤダヤダ‼︎ガン子なんてヤダ〜〜〜‼︎」

 

ガングートはソファの上で駄々をこねてジタバタしている

 

「ガン子が粛清を止めたらガン子って呼ぶのも止めてやる」

 

「なら私もあだ名を付けてやる‼︎まずはお前‼︎お前はホルスタイン‼︎」

 

「いいわよ」

 

「ウッ…なっ、なら、大佐はパイロット男だ‼︎」

 

「良い名だ」

 

「…マーカスは…イディオットだ」

 

「…よく分からんが、気に入った」

 

「そうかイディオット‼︎ふひひ…」

 

「お前はガン子だぞ。いいな⁇」

 

「あぁ‼︎構わん‼︎」

 

 

 

 

こうして、粛清ちゃんが横須賀で生活する事になった

 

…心配だな

 

 

 

 

 

ガングートが艦隊に加わります‼︎




ガングート…粛清ちゃん

ロシアから来た、粛清が口癖の艦娘

本国では色んな人を粛清しかけて来ており、そのせいで日本で面倒を見る事になった

体も考えも幼いので、粛清しても大して痛くないが、今後命に関わる事をする可能性が大なので、今回日本に送られて来た

横須賀内でのあだ名はガン子、もしくはガン子ちゃん

ちょっとイジるとすぐ泣いて駄々をこねるか、粛清しようとしてくる

子供扱いに弱く、頭を撫でられたり、おんぶされたりすると落ち着く


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148話 アイヌの恋人(1)

さて、147話が終わりました

今回のお話も新艦が出て来ますが、この子は少し屈折して出そうと思います

彼女は艦娘⁇に当たるのかな⁉︎




大湊の執務室でガンビアの艦長、岩井とボスが棚町の前に立っている

 

「私の任務は補給艦の艦長かい⁇」

 

「そう。今日この基地に補給艦”神威Mk.2”が来た。ボスにはその艦長を任せようと思う」

 

「神威ねぇ…私の産まれた土地の言葉だねぇ。気に入ったよ‼︎」

 

「なら話は早い。行こうか。鹿島、何かあったらすぐに呼んでくれ」

 

「はいっ」

 

鹿島を執務室に残し、三人は埠頭に向かう

 

その道中、岩井が口を開いた

 

「不安じゃないのか⁇」

 

「私に言ってるのかい⁇」

 

「お前以外に誰がいる」

 

互いに目は合わさずに正面を向いているが、会話は成立している

 

「不安じゃないよっ」

 

「そうかい。なら良かった」

 

「何かあったら、アンタが助けに来てくれるんだろ⁇」

 

「まぁ…」

 

「フフッ、なら不安じゃないさっ‼︎私にはアンタが付いてる‼︎だろっ⁉︎」

 

ボスは岩井に歯を見せて笑顔を送る

 

岩井はそんなボスを見て、完全に心を射抜かれていた

 

埠頭に停泊していた神威Mk.2は今までのタンカーより一回り大きく、そして速い

 

しかも、軽い兵装まで付いている

 

「ほほぅ⁇これでアンタにゃ負けないねぇ⁇」

 

「守られるのは我々の方かも知れないな…」

 

一通り説明を受けた二人は談笑をし始めた

 

ボスは元々船長だったので、粗方の操作法は理解していた

 

後はプロである岩井に任せた方が良い

 

「…艦長」

 

「ん⁇」

 

そんな二人の後ろで、棚町とボスの手下が話し始める

 

「あの二人、デキてんすかねぇ…」

 

「人の恋路は邪魔しちゃならん。温かく見守ろう」

 

「へへっ。そっすね‼︎」

 

ボスは今まで見た事ない女の顔をしていた

 

完全に岩井に惚れている

 

そしてまた、岩井もボスに惚れている

 

「ボス、これはいりやすか⁉︎」

 

違う手下がボスの服一式を持って来た

 

「残ってたのかい⁉︎」

 

「いつかボスが着るかと思いやして」

 

「いいねぇ‼︎任務の最中はコレを着よう‼︎」

 

ボスは手下から服一式を貰う

 

見た所、バンダナや黒いサラシがある

 

民族衣装に近い服の様だ

 

「では、明日から頼むぞ」

 

「はいよっ‼︎ちゃんと守っとくれよ⁉︎」

 

ボスは軽く前傾姿勢になり、岩井の鼻先を突いた

 

「まっ、任された…」

 

岩井の心臓は飛び出しそうな位、鼓動を早めていた…

 

その日、岩井の部屋からは、今しばらくモソモソ動く音が聞こえたと言う…

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、岩井は早くからガンビアに乗り込んでいた

 

「よーし、いつでも発進可能だ‼︎」

 

岩井はいつも以上に気合いが入っていた

 

「艦長、何かおかしくないか⁉︎」

 

「いつも以上にやる気が入ってんな…」

 

いつも以上に早く作業が終わったガンビアの艦載機パイロットの二人が、岩井の張り切り具合に驚いている

 

「お前ら‼︎」

 

「はっ‼︎」

 

怒られると思ったはすぐに立ち上がり、背後に煙草を隠した

 

「ライター貸してくれるか⁇」

 

「あ…はっ、はい‼︎」

 

パイロットの一人が岩井が咥えていた煙草に火を点けた

 

「艦長、今日どうしたんですか⁇」

 

「え⁉︎」

 

乗組員もパイロットも、こう言った話が多い

 

つまらない事でもなんでも話し、岩井ともう一人の艦長も話し易い雰囲気作りをいつも心掛けている

 

二人共、怒った所を見た事がない位だ

 

本当に強いて言うなら、照月が乗艦して来た時に軽くパニクる位だ

 

「何か凄い張り切ってる気がします」

 

「あぁ…そう見えるか⁇」

 

「「凄く」」

 

二人にそう言われ、岩井は鼻で笑う

 

「あれだ。守るべき人が出来た…って感じだ」

 

「なるほど…」

 

「さっ‼︎私は行くよ‼︎振り落とされるなよ⁉︎」

 

「「了解です‼︎」」

 

岩井は操舵室に入って行った…

 

明るく話し易い艦長をバカにする連中は、この艦には一人も居なかった

 

むしろ、応援してやらねばと思っていた

 

「艦長、神威Mk.2艦長が改めてご挨拶したいと」

 

「んっ。通してくれ」

 

乗組員がボスを操舵室に通す

 

「神威Mk.2艦長でございます」

 

そこにいた一同、ボスの外見を見て”おぉ…”とため息を吐く

 

ボスは昨日の民族衣装の様な服に着替えていた

 

白く長い髪を青いバンダナで纏め、足には黒いサラシを巻いている

 

服は色んな所に隙間が出来ていて、太ももや横乳が見え隠れしている

 

「これは私の正装なんだよ。似合うかい⁇」

 

「に、似合ってる」

 

「艦長‼︎」

 

「ぐわっ‼︎マジか‼︎」

 

岩井は笑顔で親指を立てながら、両鼻から鼻血を出していた

 

岩井は鼻から大量のヘモグロビンを噴出するが、周りにいた乗組員のが瞬時にティッシュを詰め込んだので難を逃れた



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148話 アイヌの恋人(2)

「ちょっとだけ艦長を借りていいかい⁇一瞬だからさ⁉︎」

 

「えぇ、どうぞ」

 

「来なっ‼︎」

 

ボスに手を引かれ、岩井は操舵室から出た

 

操舵室から出てすぐ、岩井はボスに壁ドンされる

 

「私見て鼻血出したのかい⁉︎」

 

「まっ、まぁにゃ⁉︎」

 

岩井は鼻に真っ赤に染まったティッシュを詰めているので、言葉が変になっていた

 

「おまじないをしてやる‼︎」

 

「んっ⁉︎」

 

ボスは何を思ったのか、ヘモグロビン噴出中の岩井に追い撃ちをかけるかの様に岩井の顎を持ち、唇を合わせた

 

岩井は出航前なのに意識を持って行かれそうになっている

 

ボスとの深いキスが終わると、岩井はボスを抱き締めている事に気が付いた

 

「フフッ。私のファーストキスは高く付いたよ⁇」

 

「絶対護り抜けって事か…⁇」

 

「そう言う事っ…頼んだよ、相棒っ‼︎」

 

ボスは白く美しいアルビノの髪を揺らし、シャンプーの甘い香りを振り撒きながらガンビアから降りて行った

 

ボスが去り、岩井は唇が当たった部分をなぞる

 

実は岩井も初めてのキスだったのだ

 

「ふぅ…」

 

ため息を吐いた後、岩井は操舵室の扉を開けた

 

「「「うわぁ〜‼︎」」」

 

ドサドサ〜‼︎っと、ガンビアの乗組員が転げ落ちて来た

 

「お前ら…」

 

「い、いや‼︎艦長が心配で‼︎」

 

「決して下心では‼︎」

 

「くっ…こんなザマでは怒っても仕方あるまい…行くぞ‼︎」

 

「「「了解です‼︎」」」

 

岩井はヘモグロビンをせき止めていたティッシュを抜き、操舵室に入った

 

岩井は相変わらずの指揮で艦隊を進める

 

だが、頭の片隅にはボスがいた

 

産まれて初めて、明確に護ってくれと言われたのだ

 

それも格段の美人にだ

 

岩井は完全にボスに惚れ込んでいた

 

だが、それでも他人への接し方は変わらない

 

相変わらず乱入してくる照月にも、いつも通りに優しく接する

 

「照月ちゃん、今日はおでんがあるよ‼︎」

 

「照月、おでん大好き‼︎」

 

「乗組員全員に告ぐ‼︎お嬢のご来艦だ‼︎」

 

《了解です‼︎おでんの準備は整っています‼︎》

 

「行ってきま〜…」

 

《なんだい⁇そっちはおでんかい⁇》

 

「あっ‼︎」

 

無線の声が聞こえた途端、照月が下唇を噛み締めた

 

《誰かいるのかい⁇》

 

「照月のチョコレート返して‼︎」

 

《おや、照月ちゃんかい。いいよ。チョコレート食べさしたげる‼︎でも、今はお仕事中だから、照月ちゃんの基地に置いておくよ》

 

「ホント⁉︎」

 

《あぁ本当さ‼︎私は嘘はついた事はないんでね‼︎》

 

「なら許してあげる‼︎でもボス、もうとまほぉく撃たないでね⁉︎」

 

《勿論さ‼︎艦長に代わってくれるかい⁇》

 

「うんっ‼︎はいっ‼︎」

 

照月は無線を岩井に返し、おでんを食べに向かった

 

《今日は私が晩御飯作ってあげるよ。楽しみにしとくんだね》

 

「了解した。楽しみにしておくよ」

 

仕事と割り切り、無線を切る

 

だが、顔はニヤついている

 

「はは〜ん…」

 

「な、なんだ…」

 

いつもガンビアに乗ると、横に着いている乗組員がニヤニヤしながら岩井を見ている

 

「女っ気の無かったウチの艦長も恋ですかぁ…」

 

「恋…これが恋なのか⁉︎」

 

「「「気づいてなかったんですか⁉︎」」」

 

そこにいた一同全員がひっくり返る様な衝撃を受ける

 

「だって、初めてだから…」

 

「仕事は完璧なのになぁ…」

 

岩井は乗組員に散々弄られながらも、仕事に支障は出なかった

 

やはりそこは仕事と割り切っているのだろう

 

 

 

 

 

大湊に帰って来ると、ボスは一服した後厨房に立った

 

「ホラホラっ、男は禁制だよっ‼︎」

 

「どいたどいたぁ‼︎」

 

ガンビアの優秀すぎる炊事専門の乗組員達が、大湊の厨房から放り出される

 

ボスは手下数人と共に厨房に入り、メニューにあったカレーを作り始めた

 

一時間後…

 

「野郎共〜‼︎出来たぞ〜‼︎」

 

ボスがおたまとフライパンをカンカン鳴らすと、ゾロゾロと大湊の連中が出て来た

 

「さぁ‼︎食べな‼︎」

 

ボスの声と共に、全員がカレーを口にする

 

「美味い‼︎」

 

「野菜が柔っこいな‼︎」

 

ボスのカレーは美味しかった

 

カレーは程良く辛く、野菜も柔らかくなるまで煮込んである

 

絶妙なバランスで成り立ったカレーはかなり好評で、ガンビアの炊事班が舌を打つ位だ

 

「ご、ごちそうさま…」

 

「コラ‼︎ニンジン残してる‼︎」

 

岩井はニンジンが嫌いだ

 

いつも照月に食べさせる位嫌いで、大体は他の乗組員に食べさせている

 

「美味しくしてあるから食べてみな⁇」

 

「ううっ…」

 

岩井はニンジンから目を逸らす

 

「仕方ないねぇ…」

 

ボスは岩井の前に座り、スプーンでニンジンをすくい、岩井の前に持って行く

 

「あ〜ん‼︎」

 

「ううっ…」

 

「今日は一個だけ頑張ってみな⁇」

 

岩井はニンジンから目を逸らす

 

どうしても食べたくないのだ

 

「ニンジン食べない男は嫌いだよ‼︎」

 

「それはいかん‼︎」

 

岩井は意を決してニンジンを口にした‼︎

 

「艦長が…」

 

「ニンジンを…」

 

「食っただと…」

 

ガンビアの乗組員が息を飲む

 

岩井のニンジン嫌いは有名であり、皆が黙認していた事だ

 

それが今、惚れた女によって変わろうとしている

 

「食べた…」

 

「よ〜っし良い子だ‼︎」

 

「「「ウォォォォオ‼︎」」」

 

食堂から歓声が上がる

 

大の大人がニンジンを食べただけである‼︎

 

それでもガンビアの乗組員は、岩井の恋路を応援していたのだ

 

「少しずつ増やして行こうな⁇」

 

「う、うん‼︎」

 

ボスの笑顔に、岩井は骨抜きになっていた



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148話 アイヌの恋人(3)

その日の夜、岩井は部屋で一人悶々と考えていた

 

これが恋、か…

 

なら私は、やはりボスが好きなのだろうな…

 

考えていると、ドアがノックされた

 

「入っていいかい⁇」

 

「どっ、どうぞ‼︎」

 

考えていた本人が来た

 

手にはコーヒーカップとケーキが乗ったお盆を持っている

 

ボスが入って来た瞬間、広めの部屋にボス独特の甘い香りが部屋を包んだ

 

ボスの匂いは人工的な物の香りではなく、女性特有の甘い香りだ

 

「すまなかったねぇ…無理に食べさせて…」

 

「気にしなくていいさ」

 

「ケーキ食べないかい⁇作って来たんだ」

 

岩井はボスと共にケーキを食べ始めた

 

「フフッ、美味いかい⁇」

 

「うんっ‼︎美味い‼︎」

 

岩井はあっと言う間にケーキを平らげた

 

「美味かったかい⁇」

 

「美味かった‼︎」

 

「今食べたのはニンジンのケーキなんだよ」

 

「今のがか⁉︎」

 

ボスは料理が得意だ

 

なので、岩井の嫌いな物を好きな物で克服させようとしたのだ

 

「よっと」

 

ボスは岩井の隣に座り、テレビを見始めた

 

「アッハッハ‼︎」

 

ボスはテレビを見て笑う

 

岩井はそれどころではない

 

中途半端に見え隠れする、肉付きの良い太ももや尻、そしてデカそうな横乳に目が行っていたのだ

 

「私はアンタを殺そうとした人間だよ⁇」

 

「へっ⁉︎」

 

ボスは岩井がチラチラ見ていたのに気付いていた

 

「それでもいいのかい…」

 

「構わないさ…終わった事は言わない主義だ」

 

「私は…アンタを好きになっても良いのかい⁇」

 

「私も好きなんだ…だから、その…」

 

「んっ…」

 

出航の時とは違う、長いキスをする

 

ボスは岩井の胸板に両手を置き、岩井はボスの白く美しい髪を撫でる

 

キスが終わり、ボスは岩井に思い切り抱き着いた

 

「裏切ったら承知しないからね⁉︎」

 

「心配しないでくれ。初恋なんだ」

 

「ははっ、ウブだねぇ…」

 

ボスはしばらく岩井に抱き着いた後、部屋を後にした

 

「はぁっ…」

 

部屋を出たボスは胸に手を置き、顔を真っ赤にしていた

 

ボス自身も初恋なのだ

 

ボスはずっと気になっていた

 

岩井の事はずっと気になっていた

 

岩井と少し違い、これが恋と分かるまで時間はかからなかった

 

岩井を見る度、無駄に付いたと思っていた胸が高鳴り、彼を護ってやりたくなる

 

口では護って欲しいと言ったが、本心は彼の傍にいなければ…との思いの方が強かった

 

ボスは呼吸を整えた後、自室に戻って行った

 

「やっぱり…」

 

「頑張れボスっ…」

 

岩井がガンビアの乗組員に応援される中、ボスもまた、手下に応援されていた

 

初恋同士の淡い恋が今、始まろうとしていた…




神威Mk.2…ボスの新しい船

元は補給艦だが、この船はタンカーに近い

タンカーだが軽い武装が搭載されている

流石にトマホークは無いが、ロケット弾や機銃が搭載されている

ボスはこの船に乗り始めた頃から、自身の産まれ故郷の正装を着るようになる






ボス…乙女になったボス

命を救われた岩井に惚れ、なんだかんだと岩井の世話をやく

料理が上手で、色んな食材を美味しく調理出来る腕を持つ

今回のお話でアルビノである事が判明した



神威Mk.2に乗り込む時には正装を着込んでから乗る

頭には紋章の入った青いバンダナ

足には黒いサラシ

そして両サイドがパックリと開いた白い服等のセットがボスの正装

他にもあるかも知れない

ボディラインが結構ムッチリしているのと面倒見の良さで岩井以外にも好きな人は居る様子だが、皆二人の恋愛を応援している


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149話 ムッシュ・海防

さて、148話が終わりました

今回のお話は題名にある通り、また新艦が出てきます

注※新艦のイメージを著しく悪くする恐れがあります

特に頭クリーム色のあのペドっ子

…何処かのハンマーと同じ匂いがしても、お口チャックでお願いします 笑


朝、いつもの様に新聞と昨日の報告書が届く

 

隊長は新聞を読み、子供達はチラシをカーペットの上に置いて眺める

 

俺は報告書を見る

 

報告書とはいえ、面白おかしく書いてある新聞の様なものであり、毎日青葉がまとめているらしい

 

「えいしゃん‼︎」

 

「こえなんら⁉︎」

 

子供達が見せて来たチラシには”スカジャン&革ジャン専門店”ムッシュ・海防”‼︎横須賀に開店‼︎”と書いてある

 

「えいしゃんのおふくもあるお‼︎」

 

「ひとみはこのにょろにょろのおふくがしゅき‼︎」

 

いよとひとみがチラシに指差していると、隊長が新聞を置いた

 

「レイ。新しいの買ってやるよ。行こう」

 

「マジ⁉︎よっしゃ‼︎お前らも行くか⁉︎」

 

「いよはぐらーふのおふくでいい‼︎」

 

「ぐらーふまたつくって‼︎」

 

「んっ。分かった」

 

「子供達頼んだぞ」

 

「オトン。おんどりゃあの広島焼き買って来て。二つな」

 

「…分かったよ」

 

グラーフにお使いを頼まれ、俺と隊長は横須賀に向けて飛び立った

 

 

 

 

 

横須賀に着き、とりあえず気になったので、執務室に顔を出してみた

 

「うわぁ〜〜〜ん‼︎」

 

「ガン子ちゃん弱いね‼︎」

 

床に倒れたガングートの上に清霜が馬乗りになっている

 

「がっ、ガン子はつおいんだぞ⁉︎」

 

「き〜ちゃんにやられてるじゃん」

 

「うっ…うっ…」

 

清霜にごもっともな事を言われ、ガングートはポロポロと涙を流す

 

「ガン子つおい子だもん‼︎弱いとか言ったら粛清なんだぞ⁉︎」

 

ガングートは清霜に乗られながらも手足をバタバタさせて拗ね始めた

 

「お父様言ってた。ガン子ちゃんが粛清って言ったら、き〜ちゃんがガン子ちゃんを粛清しなきゃダメなんだよ」

 

「ひぃっ‼︎」

 

ガングートは殴られると思ったのか、目を閉じて身構えた

 

「うりうり〜」

 

「あっひゃひゃひゃひゃ‼︎」

 

清霜はガングートの脇に手を入れ、くすぐり始める

 

「もう粛清とか言わない⁇」

 

「ウッ…ウッヒヒヒ‼︎言わない言わない‼︎」

 

「あっ‼︎お父様‼︎おじ様‼︎」

 

「ムギュッ‼︎」

 

俺達に気付いた清霜は、ガングートを踏み台にして飛び掛って来た

 

「よいしょっ‼︎」

 

清霜を抱き止め、いつもの様に腕に抱く

 

「いい子にしてたか⁇」

 

「うんっ‼︎あのね、ガン子ちゃんすぐに粛清とか言うの。酷いよね⁇」

 

「ガ〜ン〜グ〜ト〜⁇」

 

「ひぅっ‼︎」

 

「ほらっ」

 

ガングートの頭にお菓子の箱を置いた

 

「ガン子にくれるのか⁇」

 

「きーちゃんと一緒に食べるんだぞ⁇」

 

「う…うんっ‼︎」

 

「き〜ちゃんも食べる‼︎」

 

清霜は俺から飛び降り、ガングートと一緒にビスケットを食べ始めた

 

仲は良さそうだ

 

執務室に二人を残し、目当てである革ジャンの店に向かう

 

「いらっしゃいませ‼︎」

 

「うっは…」

 

「頑丈な革ジャン、如何ですか〜‼︎」

 

「ちっさいな…」

 

いざ店に着いてみると、たいほうレベルで小さい女の子が三人、呼び込みや店内の接客をしていた

 

「あっ‼︎お父さん‼︎」

 

「おじ様。ごきげんよう」

 

店内には、朝霜と磯風がいた

 

「革ジャン買いに来たのか⁇」

 

「い〜ちゃんはオトンみたいな服は着ない。こっちだ」

 

朝霜も磯風もスカジャンを見に来た様だ

 

どれもこれも美麗な刺繍が施されている割には値段は手頃だ

 

「ムッシュのスカジャンに興味がありますか⁇」

 

三人いる内の赤い髪の子が来た

 

「少しだけご説明しても宜しいですか⁇」

 

かなり幼い外見の割に、口調はしっかりしている少女は、胸のネームプレートに”えとろふ”と書いてある

 

「おっ。頼む‼︎」

 

「ありがとうございます‼︎当店のスカジャンは全て”ムッシュ・シムシュ”の手作りとなっています‼︎ご購入頂いた方には、お好きな文字を刺繍させて頂くサービスもしています‼︎それと、オーダーメイドも可能です‼︎是非ご検討下さいね⁉︎」

 

えとろふはグダグダ説明したり、客にくっ付いたりせず、要点だけ説明して何処かに行った

 

「オーダーメイド…か」

 

ふとえとろふの背中を見ると、文字が縫ってあった

 

”干支露怖”

 

「おぉ…」

 

店外で呼び込みをしている、ピンク色の髪の少女の背中も見る

 

”苦無死利”

 

二人共背中に当て字が縫われている

 

「オトン‼︎スカジャン買えば、い〜ちゃんもアレして貰えるのか⁉︎」

 

何故か磯風の目が輝いている

 

「や、やめとけ。お母さんに怒られるぞ⁇」

 

「むぅ…そうか…」

 

「アタイ、コレにしよっかな‼︎」

 

朝霜が手に取ったのは、背中に厳つい鷲の刺繍が入ったスカジャン

 

傍らにはカタカナで”スカ”と書いてある

 

「ふっ…」

 

「なっ、何で笑う‼︎」

 

「いんや…」

 

「よしっ‼︎買ってやろう‼︎今まで何にも買ってあげられなかったからな‼︎」

 

「やったぜ‼︎おじ様ありがとう‼︎」

 

隊長が朝霜のスカジャンを買うのを見て、更に笑みが零れる

 

なるほど…

 

未来はちゃんと動いてるんだな…

 

「い〜ちゃんは龍にするぞ」

 

「よしよし」

 

磯風は龍のスカジャンで、朝霜と同じ様に”スカ”と刺繍されたスカジャンを買って貰う

 

「レイはどうする⁇」

 

「俺は…そうだな」

 

「頑丈な革ジャンがあるっ呪」

 

「おぉ⁉︎」

 

いつの間にか背後にクリーム色の髪の少女が立っていた

 

ネームプレートには”ムッシュ・シムシュ”と書かれている

 

どうやらこの子が手作りで革ジャンやスカジャンを造っているみたいだ

 

「これっ呪」

 

「おっ」

 

口調が特徴的なその子の手には、頑丈そうな革ジャンが持たれていた

 

「軽くて頑丈な革を使ってるっ呪。ムッシュのお墨付きっ呪。着てみるっ呪」

 

「どれっ…」

 

ムッシュに革ジャンを着させて貰うと、これがまた中々着心地が良い

 

「お兄さん似合ってるっ呪。買うなら安くしとくっ呪」

 

「へぇ〜、気に入ったよ」

 

「それにするか⁇」

 

「あぁ‼︎これにする‼︎」

 

「3000円でいいっ呪」

 

「手頃だな…」

 

レジに戻って行くムッシュの背中を見ると”死無呪”と縫われていた

 

どうやらムッシュは当て字が好きらしい

 

「ムッシュシュシュ…ムッシュは良い素材しか使わないっ呪。安くて頑丈なのが、ムッシュの革ジャンの売りっ呪」

 

隊長は5000円札を出すと、どうやら丁度だったらしく、そのまま革ジャン達が入った袋を渡された

 

「また買いに来るよ」

 

「いつでも来るっ呪。待ってるっ呪」

 

店を出てすぐ、朝霜と磯風はスカジャンを着た

 

「似合ってんだろ⁇」

 

「朝霜らしいな」

 

「おじ様ありがとう。大事に着る」

 

「また買ってやるからな」

 

二人共嬉しそうだ

 

しかし、あのムッシュ・シムシュは特徴的な話し方だったなぁ…

 

俺達はその後、き〜ちゃんとガングートを呼び、間宮へと向かった



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149話 人のイチゴパフェ

題名は変わりますが、前回の続きです

泣き虫ガングートと仲が良いのは誰かな⁇


「あっ‼︎照さんだ‼︎」

 

「おいひ〜‼︎」

 

照月の前には巨大なイチゴパフェが置かれている

 

「イディオット、あれはなんだ⁉︎」

 

「イチゴパフェだ。ガングートも食べ…」

 

「ガン子にもちょっとくれないか⁇」

 

「「「あっ‼︎」」」

 

時すでに遅し

 

ガングートは照月の横に行き、一番せびってイケない相手にイチゴパフェをせびった

 

「ダメだよ‼︎これは照月のイチゴパフェさんなんだよ‼︎」

 

「それだけあれば少し位良いだろう‼︎」

 

「ダメったらダメ‼︎」

 

「まっ、まぁまぁ…照さん、一口だけあげたらどうさ⁇」

 

「むぅ…」

 

朝霜に言われ、照月は嫌々ガングートの口にチョビ〜〜〜ッとだけイチゴパフェをすくったスプーンを持って行く

 

ガングートはそれをパクッと咥えた

 

「人から取ったイチゴパフェは美味しい⁇」

 

「う、うん…」

 

照月は珍しく口を真一文字に締めている

 

「照月知ってるよ。人から取ったものは何でも美味しいんだよ」

 

「うっ…」

 

ガングートは罪悪感に苛まれたのか、ちょっと泣きそうになっている

 

「チョビッと貰っただけじゃないかぁ…」

 

「照月、チョビッとあげるも嫌なんだよ」

 

「ううっ…」

 

「照月、乞食する子は嫌いだよ」

 

「うっ…うぇ〜〜〜ん‼︎」

 

ガングートは泣き始めてしまった

 

「泣いたってあげないよ」

 

「イディオットぉ〜…」

 

ガングートは泣きながら俺にしがみ付いた

 

「イチゴパフェ食べるか⁇」

 

「…いらにゃい」

 

スンスン言いながら、ガングートは俺を見上げる

 

「粛清って言わないだけ偉いじゃないか」

 

「…ホント⁇」

 

「ホントだ」

 

「ガン子ちゃん、き〜ちゃんとケーキ食べよ‼︎」

 

「…うんっ‼︎」

 

清霜はガングートの手を引き、間宮にケーキを注文した

 

「あっ‼︎お兄ちゃん‼︎」

 

「美味しいか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

照月の食事は邪魔しない事だな…

 

幸せそうにイチゴパフェを食べる照月の頭を撫で、そう心に誓った…

 

 

 

 

「ガン子ちゃん、それなぁに⁇」

 

「これはシベリア。ちょっと食べるか⁇」

 

「うんっ‼︎き〜ちゃんのもあげる‼︎」

 

ガングートと清霜を見ていると微笑ましい

 

隊長も朝霜も磯風もニコニコしている

 

朝霜と磯風に聞くと、最近のガングートは粛清と言わなくなり、言うと清霜が止めているらしい

 

もしかするとガングートは、清霜にとったら妹の様な存在なのかもしれない…

 

 

 

 

間宮を出た後、四人を執務室に連れて来た

 

「イディオット。また来てくれるか⁇」

 

「また来るよ。お前も娘みたいなモンだからなっ」

 

「ふふ…そっか…」

 

ガングートの頭を帽子越しに撫でると、照れ臭そうにしていた

 

「間宮食べたの、お母さんには内緒な⁇」

 

「大丈夫‼︎お母様、いつもここでシュークリーム食べてるから、間宮ダメって言われたらき〜ちゃん言い返す‼︎」

 

「んっ‼︎宜しい‼︎是非言ってやれ‼︎」

 

四人に別れを告げ、忘れない内におんどりゃあに来た

 

「広島焼き、持ち帰りで8個」

 

「お土産にするん⁇ちょっち待ってぇな〜⁇」

 

しばらくすると浦風から広島焼きのパックを入れた袋を貰い、代金を払って、横須賀を出た

 

 

 

 

基地に帰って来てすぐ、グラーフが来た

 

「おかえり。広島焼きは」

 

「ほらよ」

 

「んっ。すまんな。お金」

 

グラーフから広島焼きの代金”10円”を受け取る

 

「文句あるか」

 

「ある‼︎メッチャある‼︎」

 

「仕方無い。コレもやる」

 

グラーフから”10円ガム”三つと、手元でコナコナになった”きな粉棒”を二本貰う

 

「満足か」

 

「…まぁいい」

 

「うそうそ。はいっ」

 

グラーフからちゃんとした代金を受け取る

 

グラーフはたまに素でこう言った事をするから怖い

 

「あ、そうそう。たいほうといよとひとみの服作った。見たげて」

 

「ありがとうな」

 

「オトンの為に作った違う」

 

「ぐっ…」

 

グラーフにはもっと感謝しないとな…

 

食堂に戻ると、たいほうといよとひとみが新しい服を着ていた

 

「えいしゃんみて‼︎」

 

「ぐらーふつくってくえた‼︎」

 

「たいほうも‼︎」

 

三人お揃いの、収納の多いオーバーオールだ

 

特にたいほうが似合っている

 

「グラーフにありがとう言ったか⁇」

 

「「「ぐらーふありがとう‼︎」」」

 

「んふ〜」

 

三人に感謝され、グラーフは満足気だった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩、横須賀基地の寝室…

 

清霜とガングートは一緒の布団で横になっていた

 

「き〜ちゃんはつおいな…ガン子もつおくなりたい」

 

「き〜ちゃんはガン子ちゃんになりたいなぁ…」

 

「どうしてだ⁇」

 

「き〜ちゃん、戦艦になりたいの。そうしたら、お母様もお父様も、み〜んな、き〜ちゃんが守ってあげられるの…」

 

「き〜ちゃんは立派な考えを持っているな…ガン子も見習わなければならないな…」

 

「明日もいっぱい遊ぼうね⁇」

 

「あぁっ‼︎」

 

清霜とガングートは眠りについた…




択捉…干支露怖

新しく出来たスカジャン&革ジャン専門店”ムッシュ・海防”の三人いるペド店員の一人

店の商品を説明してくれるが、説明した後すぐに客から離れたりと、客が買いやすい環境を作ってくれる

赤い髪の毛をしており、中々愛くるしい





国後…苦無死利

”ムッシュ・海防”の三人いるペド店員の一人

外で呼び込みをしている事が多く、中々客寄せが上手い

髪の毛がピンク色と茶色で、作者が一瞬”美味しそう”と感じた子




占守…死無呪

”ムッシュ・海防”の三人いるペド店員の一人であり、店長のムッシュ・シムシュ

男ではないが、あだ名は”ムッシュ”

作者の好きなス○イダースの一人ではない

店内で売っている商品は、全部ムッシュの手作り

当て字が好きで、スカジャンを購入した際に、ちゃんとした名前を縫うか、当て字の名前を縫うかのサービスが受けられる

革ジャンの場合は、ワッペンが付いてくる

笑い方と語尾が特徴的

因みに語尾の”呪”は”しゅ”と読もう


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150話 愛憎劇の果てに(1)

さて、149話が終わりました

今回のお話は、新しい艦娘(私は最近来ました)

どんな子だろうね⁇


「ぶいんぶい〜ん、がしゃんがしょ〜ん」

 

「でおりあ〜ん‼︎」

 

「さんじぇんえん、かしつけあ〜す‼︎」

 

たいほうといよひとみの三人がいつもの様にカーペットの上でミニカーで遊んでいる

 

たいほうの持っている車は黄色い車で、二足歩行のロボットに変形している

 

ひとみといよは映画に出て来た近代的な外見のガルウイングのミニカーで遊んでおり、いつか隊長と見たのか、映画の中のセリフを言っている

 

「マーカス様。今日ははっちゃんがお昼を作りますね」

 

「二人のご飯は任せなさい」

 

お昼ははっちゃんと霞が作ってくれるみたいだ

 

「お昼は何だ⁇」

 

「”やきゅうどん”です」

 

「そろそろ食えるかな…」

 

ひとみといよを此方に向かせ、俺の歯を見せてみる

 

すると二人は俺の真似をして歯を見せた

 

「だいぶ生えて来たな…ちょっと試してみるか。霞、ひとみといよの”焼うどん”刻んでくれるか⁇」

 

「刻むのね。分かったわ」

 

はっちゃんが作った焼うどんを、霞はひとみといよが食べ易いように刻み、軽く冷ます

 

本当なら霞が離乳食を作り、哺乳瓶に淹れてくれるのだが、最近ひとみもいよも歯が生え始めたので、ちょっと試してみようと思った

 

「出来ました。はっちゃん特製の”やきゅうどん”です」

 

皆の前に焼うどんが置かれる

 

「たいほうはこっち」

 

「今日は俺と食べるか‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

最近はひとみといよとたいほうが小さな机の前に座り、その横で大人の誰かが一緒に食べている

 

ひとみといよがいつもの机で食事をすると、どうしても料理に手が届かないからだ

 

「さっ、イヨ。私と食べましょう。スプーン持って⁇」

 

「すっぷんもった」

 

母さんもこっちに来た

 

母さんはいよの隣に座り、スプーンを持たせる

 

いよは母さんにスプーンを見せており、母さんはそんないよを見て微笑む

 

「いただきます‼︎」

 

右にひとみ、左にたいほうを置き、焼うどんを食べ始める

 

「たいほうもひとみも、ちゃんとカムカムだぞ⁇」

 

「かむかむ」

 

「かむかむ」

 

たいほうもひとみも、頭を軽く振りながら刻まれた焼うどんをモグモグする

 

「10回カムカムしたらゴックンだぞ⁇」

 

ひとみは数を数えているのか、頭を軽く振りながら噛み続け、しばらくすると飲み込んだ

 

「おいしい‼︎」

 

「んっ、良い子だ。たいほうも美味しいか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

たいほうは握り拳にお箸を挿した状態で使い、器用に焼うどんを食べる

 

これなら刻んだ離乳食なら食べられそうだな

 

「霞。次から二人のご飯、こうしてくれるか⁇」

 

「分かったわ‼︎ふふっ…」

 

「何かおかしいか⁇」

 

「別になんでもないわよ‼︎」

 

実はレイがこうして面と向かって霞にモノを頼むのは初めてだったりする

 

霞はそれが嬉しくてたまらなかったのだ

 

 

 

 

 

「やきうろんおいしかった‼︎」

 

「はっしゃんまたつくて‼︎」

 

「はいっ。はっちゃん、またお料理しますね」

 

ひとみといよがはっちゃんにお礼を言っている横で、俺はたいほうとミニカーで遊んでいた

 

「ん⁇」

 

「てんてけてけてけ、てんてけてけてけ」

 

「たいほう。懐かしいの持ってるな⁇」

 

たいほうの手元には黒いボディのミニカーが握られており、テーマソングを口ずさんでいる

 

「パパのすきなくるま‼︎」

 

「はっちゃんのモデルとなった車です」

 

「ほぉ‼︎」

 

隊長が興味を示した

 

「パパびでおかけて⁇」

 

「よしよし‼︎」

 

隊長はテレビの前に屈み、何かのDVDを流し始めた

 

子供達はその間にミニカーを片付け、テレビの前にチョコンと座る

 

DVDが始まると、特にひとみといよが食い入る様に見始める

 

「うぁ〜」

 

「あぉ〜」

 

何故かは知らないが、ひとみといよはテレビに集中すると赤ん坊の頃みたいになる

 

俺もソファーに座って、いざ見ようとした時、タブレットに通信が入った



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150話 愛憎劇の果てに(2)

だずるがーる> レイ。暇だずるか

 

珍しく榛名からの連絡だ

 

 

 

 

リヒター> どうした⁇開発依頼か⁇

 

だずるがーる> ワンコがヤベェだする。助けて欲しいんだする

 

リヒター> 分かった。すぐ行く。単冠湾だな⁇

 

だずるがーる> うんにゃ

 

リヒター> 了解した

 

「隊長、単冠湾の榛名に呼ばれたから行ってくる」

 

「珍しいな⁇気を付けてな」

 

隊長に事を伝えた後、いつも通りグリフォンに乗ろうとした

 

《なぁに⁇急用⁇》

 

「ヘラか⁇どうした珍しい」

 

何故かグリフォンのAIにはヘラが入っていた

 

《きそとハチ公はいつもどんな気分で乗ってるのかって気になってね》

 

「ヘラ、このまま付き合ってくれるか⁇単冠湾がヤバいらしい」

 

《仕方ないわね…まっ、いいわ》

 

ヘラが”いいわ”と言った時には、既に発進していた

 

《それで⁇単冠湾がヤバい理由ってなぁに⁇》

 

「あの榛名が”ヤベェだする”と言う位だ。相当な事だろうな…」

 

《死人が出なきゃいいけどね…》

 

単冠湾に着くとイージス艦の野郎共と霧島が出迎えてくれた

 

「私、食堂で待ってるから、犬は用事を済ませなさい。じゃあね」

 

「サンキュー」

 

「レイさん‼︎エラい事になっとります‼︎」

 

「トンデモない奴が来たマイク‼︎」

 

「何があったんだ⁉︎」

 

「レイ‼︎早く来るダズル‼︎」

 

執務室の窓から榛名が呼んでいる

 

急いで二階にある執務室に上がると、榛名がハンマーを片手に、ニムとワンコを護っていた

 

ワンコは何故か気絶しており、ニムはワンコを抱きかかえるようにして護っている

 

「ご主人様⁇HAGYはご主人様に尽くしたいだけです」

 

「尽くしたいならなんで包丁を握っているんダズル‼︎」

 

入った途端、トンデモない空気が執務室に蔓延していた

 

榛名はハンマーを持ち、自分でHAGYと言った紫色の髪の女の子は手に包丁を持ち、互いに睨みを効かせている

 

「さぁ、ご主人様。HAGYの健康で身体に良い料理を食べましょ⁇」

 

「根菜ばっかの料理は健康な料理とは言えんダズル‼︎料理は肉、炭水化物、野菜のバランスが取れて料理と呼べるんダズル‼︎」

 

「シチューばかりしか作らない貴方に言われたくありません」

 

「ダズルをバカにすんなニム‼︎」

 

反論したのは、意外にもニムだった

 

「クソニム…」

 

「ダズルはニムにも美味しいシチューを作ってくれるニム‼︎それをバカにする奴は許さないニム‼︎うわぁぁぁぁ‼︎」

 

ニムは何を思ったのか、ワンコを置き、なんの装備もないままにHAGYに突っ込んで行った

 

「人の恋路を邪魔する奴は死になさい‼︎」

 

HAGYはニムに向けて包丁を突き出した‼︎

 

「貴様ぁ‼︎ブッ殺してやるダズル‼︎」

 

「HAGYYYYYYYYYYY‼︎」

 

包丁は”何か”を貫き、HAGYが雄叫びを上げる

 

「ニム⁇」

 

HAGYの雄叫びとは裏腹に、ニムには何一つ傷が付いていなかった

 

「ったく…何やってんだよ」

 

俺はニムを右腕で抱き寄せ、HAGYの包丁を間一髪左手で止めていた

 

「うおりゃ‼︎」

 

「はぎっ‼︎」

 

すかさず榛名のハンマーが唸り、HAGYの脳天が叩き割られ、HAGYは気絶した

 

「レイさん、ありがとニム」

 

ニムが俺から離れると、榛名がHAGYを片手に寄って来た

 

「レイ、いたいいたいダズルか⁉︎」

 

「大丈夫。HAGYの手を持った」

 

「ならいいダズル。ちょっとコイツに制裁を加えて来るダズル」

 

榛名はHAGYをズリズリ引き摺り、物にガンガン当てながら執務室を出て行った

 

「提督‼︎起きるニム‼︎」

 

「う〜ん…」

 

ワンコが目を覚まし、事の事情を聞く…



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150話 愛憎劇の果てに(3)

数日前…

 

「今日、岩川にいた子がここに着任する。みんな、よろしく頼むよ⁇」

 

「へ〜へ〜。任されたダズル〜」

 

「楽しみニム‼︎」

 

「新規の子はニム以来マイク‼︎」

 

一時間後、その艦娘が単冠湾に来た

 

「駆逐艦、萩風。着任しました‼︎」

 

「いらっしゃい」

 

「歓迎するダズル」

 

この時ニムは素潜り漁

 

霧島はイージス艦と共に近海警備に当たっていた

 

榛名は万が一に備え、ワンコの傍に居た

 

最初の頃はなんて事ない…いや、単冠湾にようやく来た、普通の語尾の艦娘だった

 

萩風は尽くすタイプの子と気付くのには、そう時間は掛からなかった

 

炊事、洗濯、家事等、家庭的な仕事を万全に熟す、単冠湾にはいなかった母親の様な存在だ

 

だがその反面、戦いにはあまり向いていないという印象が持てた

 

そんな生活が続いた今日…

 

ワンコは執務室でたまたま一人になっていた

 

護衛でもある榛名がたまたま執務室を出て何処かに行った時に、事件は起こった

 

「ご主人様⁇」

 

「萩風か⁇どう⁇ここの生活は慣れた⁇」

 

「あ、はいっ。ニムや霧島も良いお方です」

 

「榛名は怖い⁇」

 

「…ご主人様。健康ケーキを作ってみました。食べてみて下さい」

 

萩風は何故か榛名の事に関しては答えなかった

 

「美味しい‼︎」

 

「ふふっ、ニンジンのケーキです。大湊の方から教わりました」

 

「そっかそっか‼︎萩風は根菜が好きなんだな‼︎」

 

「えぇ、とても…」

 

ワンコはニンジンのケーキをパクパク”食べてしまった”

 

「榛名遅いなぁ…何してるんだろ⁇」

 

「…ご主人様」

 

「ん⁇」

 

ワンコは気付く事が出来なかった

 

萩風の裏の顔に…

 

「どうして榛名ばかりを見るのですか⁇どうしてHAGYは見てくれないのですか⁇ねぇ…ねぇねぇねぇ」

 

萩風は机越しにワンコに滲み寄り、顔を近付ける

 

「は…萩風⁇」

 

「ご主人様…HAGYならいつだってご主人様のお世話をします。だからもっとHAGYを見て⁇ねっ⁇ねっ⁇」

 

「見てるよ…ちゃんと…」

 

「見てないです‼︎ご主人様の目には榛名しか映っていません‼︎」

 

この時点で萩風の目の色が違っていた

 

「榛名がいなくなれば、ご主人様はもっとHAGYを見てくれますか⁇」

 

「萩風。それは怒るよ⁇」

 

「怒って頂けるのですか⁉︎HAGYの為に‼︎」

 

「うぅ…」

 

ワンコは萩風の気迫に負けていた

 

既に萩風は机の上に乗り、息がかかる程、ワンコの顔に自身の顔を近付けていた

 

「ご主人様…HAGYはご主人様だけのモノ…そしてご主人様はHAGYだけのモノ…誰の邪魔も要らないのです」

 

萩風はスリスリとワンコの頬を撫でる

 

「萩風…お前、ケーキに何入れた…」

 

ワンコの視界がグラつく

 

「うふふっ…HAGYと二人になりましょう…二人だけの世界に行きましょう…」

 

「いやぁ〜出た出た‼︎スッキリキリンダズル‼︎…おいハギィ‼︎テメェ何してるんダズル‼︎」

 

事に気付いた榛名が瞬時にワンコを引き寄せ、間一髪を逃れた

 

「…チッ」

 

萩風は右手の親指の爪を噛んだ後、背中の後ろに隠していた包丁を手にした

 

「お前がいるから、ご主人様はHAGYを見てくれない…死ね‼︎」

 

「黙れヤンデレ女‼︎貴様なんかに負ける榛名じゃないダズル‼︎」

 

榛名は本気で遅い掛かって来た萩風の包丁をトンカチで弾く

 

「いっぴー取れたニム‼︎」

 

タイミング良くニムが帰って来た

 

「おいクソニム‼︎今から言う言葉をレイに送るんダズル‼︎えぇい‼︎」

 

榛名は包丁を弾きながら、胸元からタブレットを取り、ニムに投げた

 

「わ、分かったニム‼︎」

 

そして現在に至る…



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150話 愛憎劇の果てに(4)

「萩風はヤンデレなのか⁇」

 

「えぇ…かなり独占欲があります。独占欲だけで言えば、榛名を越えてます」

 

「レイさん。ハギーはきっと、提督に身を引き受けて貰った恩を返したかっただけニム。それが行き過ぎただけなハズニム‼︎」

 

ニムの言葉には説得力がある

 

ニムはあの会話ツールの自己紹介の好きなモノの欄に、今でもワンコのtntnと書いている位だ

 

ニムも若干のヤンデレの気があるのだが、ニムは幼さが勝っている為、それが目立たない

 

「提督…ハギーと付き合うにはきっと苦労するニム…だけど、どうか捨てないで欲しいニム‼︎」

 

「そんな事しないよ」

 

「大丈夫だニム。こいつはその辛さを知ってる。だから、お前もハギーも含め、絶対に捨てるなんて真似はしない」

 

「入るんダズル‼︎」

 

「もうご主人様に向ける顔がありません‼︎離して‼︎」

 

榛名と萩風が帰って来た

 

榛名は執務室に入れようとしているが、萩風は嫌がっている

 

「萩風。ここに来なさい」

 

「はっ…はい…」

 

ワンコの一声で萩風は執務室に入って来た

 

「ごめんなさい‼︎HAGY、死んで詫びます‼︎」

 

萩風はその場で目を抑えて膝から落ちた

 

「ホレ、立つんダズル」

 

榛名に立たされ、萩風はワンコの前に再び立たされた

 

「榛名にはお話してくれたんダズル。ハギィ…榛名達の提督は”それ”を話してもドン引きしたり、突き放したりしないダズルよ⁇」

 

先程とは打って変わって、榛名は萩風の背中をさすっている

 

「話があるのか⁇」

 

「言わね〜なら榛名が言ってやるダズルよ⁇あのな」

 

「いいです‼︎HAGYの口から言います‼︎」

 

萩風は呼吸を整え、ワンコの顔を見た

 

「HAGYは…岩川に居た時…その…あの…」

 

「言わなくていいよ…」

 

ワンコも俺も察した

 

萩風は元岩川の提督に襲われていた

 

萩風にとってワンコは理想の提督であり、自分の身を救ってくれた恩人である

 

恩を返したくなるのは必然だった

 

だが、萩風の愛情は行き過ぎていた

 

食事に薬を盛ったり、榛名に危害を加えようとしたり…

 

萩風は愛情が行き過ぎ、愛情が独占欲へと変わってしまっていた

 

「萩風」

 

「はい…」

 

「君を見捨てたりしないし、襲いもしない」

 

「そこは襲うんダズル」

 

「何で襲わんニム‼︎」

 

真っ当な事を言ったハズなのに、ワンコは榛名とニムにケチョンケチョンに言われる

 

「あ〜…言い換えよう。萩風、私は君を見捨てたりしない。だから、榛名達と仲良くしてくれ」

 

「許して…くれるのですか⁇」

 

「提督…」

 

ニムはワンコにチョコチョコと歩み寄り、何か耳打ちをした

 

「好きだよ、萩風」

 

ワンコはニムに言われた通りの言葉を言った

 

「はっ…‼︎」

 

ワンコの言葉に萩風は反応を示した

 

「本当ですか⁉︎HAGYも提督が大好きです‼︎」

 

「テメェ…嫁の目の前で良く言えたダズルなぁ…」

 

「ダズルダズル‼︎ちょっと‼︎」

 

拳をバキバキ言わせる榛名の所にニムが歩み寄り、また耳打ちする

 

「…大丈夫ニム。提督はダズルが一番ニム」

 

「…本当ダズルな⁇」

 

「本当ニム」

 

目の前でワンコに抱きつき、ハギハギ言っている萩風を見て、榛名はため息を吐いた

 

「まぁ…こうして見てるのもいいダズルな⁇”ニム”⁇」

 

「初めてニムをニムって呼んでくれたニム‼︎」

 

「クソは取ってやるダズル」

 

「まっ、幸せにな⁇そろそろお嬢様がおかんむりだ」

 

「レイさん、ありがとうございました‼︎」

 

「萩風、あんま喧嘩すんなよ⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

あの顔を見ている限り、大丈夫そうだな…

 

「レイ。下まで送って行くダズル。ニム、ハギィがワンコに手を出さない様に見ておくダズル」

 

「分かったニム‼︎」

 

榛名に見送られ、食堂にいた叢雲を連れ、グリフォンに乗る

 

「次はきそも連れて来るんダズル。いいな」

 

「分かったよ」

 

榛名に見送られ、俺達は基地に戻った…

 

 

 

 

任務”愛憎劇の果てに”を遂行しました‼︎




萩風…HAGY

元岩川に居た艦娘で、最近単冠湾に来た

小学生高学年から中学生低学年の間位の身長で、胸が年相応以上にある

何気ない仕草に色っぽさを感じられ、年以上に見える

元岩川の提督に襲われた経験があり、救ってくれたワンコにゾッコン

一人称は「HAGY」

興奮すると「HAGYYYYYYYYY‼︎」とか言っちゃう、ちょっとイタイ子


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151話 大きな子供

さ、151話が終わりました

今回のお話は、榛名が萩風と共に横須賀の繁華街を訪れます


榛名はHAGYを連れ、横須賀の繁華街で食べ歩きをしていた

 

「どうダズルハギィ。ウメェダズルか⁇」

 

「はい、美味しいです‼︎」

 

HAGYは瑞鳳のプリンを食べてご満悦の様子

 

「榛名さんだ‼︎」

 

駄菓子屋の帰りであろう、清霜とガングートが榛名達の前に来た

 

「ハンマー見せて下さい‼︎」

 

「いいダズルよ」

 

榛名は振袖からいつものダズル迷彩のハンマーを取り出し、地面に立てて置いた

 

「キヨシー。ハンマーの良さが分かって来たダズルか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

榛名はニヤつきながら清霜の様子を眺める

 

実は榛名が振り回しているハンマー、榛名以外の戦艦の艦娘が持とうとしても、重すぎて上がらないのだ

 

榛名はそんなハンマーを持ち上げようとする清霜が可愛くて仕方ない

 

「振りやすいね‼︎」

 

「おぉ…」

 

清霜は榛名のハンマーを軽々と持ち上げた

 

初めてハンマーを持ち上げた人物を見て、榛名は驚いている

 

「いつかキヨシーも持てるといいダズルな」

 

「うんっ‼︎きーちゃんもいつか榛名さんみたいになる‼︎ありがとう‼︎」

 

清霜は二、三回ハンマーを振り、榛名に返した

 

「んで。なんダズル。このちっちゃいのは」

 

榛名はガングートに目を向け、抱き上げる

 

「離せ‼︎このシマウマ女‼︎」

 

「ハッハッハ。チッコイ割りには威勢がいいダズルな」

 

「この子はガングートちゃん‼︎ロシアから来たんだよ‼︎」

 

「ソ連ダズルか。よっと」

 

榛名はガングートを降ろした

 

「ロシアと言え、ロシアと」

 

「おそロシアダズル」

 

「くっ…何故だか分からないが屈辱だ…イディオットにチクッてやる‼︎」

 

「ハッハッハ。イディオットとはレイの事ダズルな⁇」

 

「ロシア語が分かるのか⁇」

 

「榛名はバイリンガルダズル。外国語なんざイッピー話せるダズル。だがな、榛名に合わせて言語を変えない奴はコレで一発ダズルな」

 

榛名は仕舞ったハンマーをチラリと見せる

 

「わ、分かった。ガン子が悪かった‼︎」

 

「分かればいいダズル。んで⁇駄菓子屋に行くんダズルか⁇」

 

「うんっ‼︎きーちゃん、キャラメル買うの‼︎」

 

「ガン子はきな粉棒を買う」

 

「うぬ。ならコレで買って来るといいダズル」

 

榛名はハンマーを仕舞っている逆の振袖から小銭を数枚出し、それぞれの手に落とした

 

「いいの⁉︎」

 

「いいのか⁇」

 

「榛名からお小遣いダズル」

 

「ありがとう‼︎」

 

「ハラショー‼︎」

 

一応横須賀の教育は良いのか、礼儀作法は二人共キチンとしている

 

二人が手を繋いで駄菓子屋に向かう後ろ姿を、榛名はしばらく眺めていた

 

「ハギィ。食ったダズルか⁇」

 

「あ、はい‼︎ごちそうさまでした‼︎」

 

「んじゃあ次行くダズル」

 

榛名とHAGYは満腹になってはいたが、喉が渇いていた

 

冷たいモノを飲むため、二人は間宮の暖簾を分けた

 

「やっとるダズルか⁇」

 

「はっ…榛名だ‼︎」

 

「ヒィッ‼︎榛名なんで⁉︎」

 

榛名が入って来た瞬間、数人の客が床にコップを落としたり、ビビって飲み物を零した

 

榛名とHAGYはカウンター席に座り、榛名が間宮を呼ぶ

 

「おい間宮‼︎」

 

「はっ、はい‼︎」

 

間宮はビクッと肩を上げた後、引きつった笑顔を見せながら榛名達の所に来た

 

「アイスミルクとメロンソーダを出すダズル。ハギィ。お前はどうするダズル」

 

「えっと…オレンジジュースを頂けますか⁇」

 

「かっ、畏まりました‼︎」

 

「間宮‼︎」

 

「ヒィッ‼︎」

 

「テメェ分かってるダズルな。この前みたいにアイスミルクだと言って脱脂粉乳を出してみろ。厨房から引き摺り出して蒼龍送りダズル」

 

「だっ、大丈夫ですよ…あはは」

 

間宮はカタカタ震える手で注文された品を準備し始めた

 

「Are you Haruna⁇」

 

「外人さんダズル」

 

榛名の横には、少し前に転任して来たアメリカのパイロットがいた

 

「YesDazzle。My Name Is HarunaDazzle」

 

「HarunaDazzle⁉︎」

 

「Yes。HarunaDazzle」

 

「HaHaHa‼︎」

 

アメリカのパイロットは訳が分からなくなったのか、急に笑い始めた

 

「Fu●kin'Dazzle」

 

榛名は笑顔で彼を罵倒する

 

「ハッハッハ‼︎久々だな、榛名‼︎」

 

「冗談はよすんダズル。リチャード、嫁にチクるダズルよ⁇」

 

「それはいかん‼︎すまん‼︎奢ってやるから勘弁してくれ‼︎」

 

「金が浮いたダズル」

 

アメリカのパイロットの正体はリチャードだった

 

リチャードは時たまこうして榛名に英語で話しかけて遊んでいる

 

「ハギィ。この人はレイのお父さんダズル」

 

「初めまして。萩風と申します」

 

榛名と違い、萩風はニコやかにリチャードに頭を下げた

 

「お淑やかな子だな…」

 

「リチャードは知らんだけダズル」

 

「おっ、お待たせしました‼︎」

 

二人の前にアイスミルクとメロンソーダ、オレンジジュースが置かれる

 

「頂くダズル」

 

「頂戴致します」

 

榛名はアイスミルクを一口で飲んだ後、メロンソーダも一口で飲み干す

 

「ぷは〜っ‼︎お口スッキリダズル‼︎」

 

「美味しいです‼︎」

 

「そっ、それはようございました」

 

「ハギィ。早く飲むダズル」

 

「ちょっ、ちょっと待って下さい‼︎」

 

萩風はストローでチュウチュウ飲んでいる為、飲むスピードが遅い

 

数分かけてオレンジジュースを飲み干した後、二人は席を立った

 

「ごちそうさまダズル。リチャード。支払い頼んだダズル」

 

「任せな‼︎」

 

「じゃあな。また来てやるダズル」

 

「ごちそうさまでした‼︎」

 

萩風が律儀に間宮に頭を下げ、二人は間宮を出た

 

 

 

 

「散々食ったダズルな」

 

「もうお腹”イッピー”です」

 

萩風は徐々に変わり始め…毒され始めていた

 

「…はっ‼︎」

 

「ふふふ…ハギィも慣れて来たダズルな。んじゃ、食後の運動に行くダズル」

 

榛名は萩風を連れ、遊戯場に来た

 

「榛名はこれが好きなんダズル」

 

榛名の目の前には、大きなボタンをハンマーで叩いて目盛りを上げ、頂点に達したら景品が貰えるゲームがある

 

「見てるんダズル」

 

榛名は腕を捲り、備え付けのハンマーを手にした

 

「うおりゃあ‼︎」

 

渾身の一撃がボタンに直撃し、軽く衝撃波が発生する

 

だが、目盛りは半分位しか上がっていない

 

「ハッ‼︎貧弱なハンマーダズル‼︎」

 

榛名が握っていたハンマーは柄の部分が折れてしまっていた

 

「コイツで一発行くダズル‼︎」

 

「それで叩いて大丈夫なんですか⁇」

 

「大丈夫ダズル‼︎」

 

榛名はいつものハンマーに持ち替え、構えに入る

 

「どぅおりゃあ‼︎」

 

「きゃっ‼︎」

 

先程よりも激しい音が響き、もっと激しい衝撃波が発生する

 

「うわっ‼︎」

 

衝撃波は近くにあったUFOキャッチャーの窓ガラスにヒビを入れ、プレイ中の人をビビらせた

 

「よ〜し‼︎やっぱりハンマーはこうダズルな‼︎」

 

上がり幅の限界を超えた目盛りはゲームから飛び出し、天井に当たって落ちて来た

 

ゲーム画面には”係員を呼んで下さい”と表示されている

 

「ちょっ、榛名‼︎またそれしたの⁉︎」

 

たまたま遊戯場の視察⁇に来ていた横須賀が異変に気付き榛名達の所に来た

 

「景品出ないダズル」

 

榛名は筐体を破壊したにも関わらず、景品をせびる

 

「景品以前に今月これで12台目よ⁉︎何回自前のハンマーで叩くなって言えば分かるのよ、もぅ…」

 

「じゃあ景品は諦めて別のんするダズル」

 

「ワニの奴はダメよ‼︎」

 

「何故ダズル‼︎」

 

「アンタが叩いたらワニが変になるのよ‼︎」

 

「ぐぬぬ…」

 

過去に榛名はワニを叩くゲームをやり、筐体全てのワニを本当の意味の戦闘不能になるまで叩きのめした

 

叩かれたロボットのワニは回路が狂ったのか、レイが辛うじて直してくれた今でも、叩いたら声こそするものの「ぴにゃ」とか「ぷべぁ」等、変な声しか出さなくなった

 

「…仕方ないダズル。勘弁してやるダズル。ハギィ、すまんな」

 

「いえいえ…あはは…」

 

遊戯場を出ると、迎えの船が来ていた

 

「おうち帰るダズル」

 

「そうしましょう」

 

榛名はHAGYの前に手を出した

 

「おてて繋ぐダズル」

 

「ふふっ。はいっ‼︎」

 

二人は手を繋いだ

 

それは親と子と見間違う位身長差がある

 

だが、HAGYにとって、榛名は”子供”と認識し始めていた

 

HAGYは気付いた

 

榛名はこれ程強いのに、まだ子供っぽい所がある

 

恐らく榛名自身はその事に気付いていない

 

HAGYは幾度と無く子供っぽさを見せる榛名に母性本能をくすぐられていた

 

元々面倒見の良いHAGYは、いつしかそんな榛名から目を離せなくなっていた…

 

 

 

 

 

 

萩風が毒され始めました



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152話 怪しいロリゲルマン(1)

さて、151話が終わりました

今回のお話は、久々のれーべ、そしてまっくすのお話です

ここ最近、朝に出て昼過ぎに帰って来るれーべとまっくす

報告書は出ているのだが、一体何をしているのか‼︎


最近、れーべとまっくすが怪しい行動をしている…

 

朝ごはんを食べ終えると何処かに消え、昼下がりに帰って来る

 

…怪しい

 

一応、行き先は毎回通達してから行くのだが、何か怪しい

 

「怪しいと思いませぬかね、隊長」

 

「怪しいと思いまする」

 

「はっちゃんも怪しいと思います」

 

「確かに怪しいわね…」

 

はっちゃんと叢雲が来た

 

この二人も、れーべとまっくすのコソコソ行動に疑問を抱いているみたいだ

 

「レイ、明日尾行しよっか‼︎」

 

きその発言に、その場に居た全員が無言で頷く

 

「よし。明日二人をつけてみよう‼︎」

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「行って来ます‼︎」

 

「昼下がりに帰ります」

 

「はよかえってこいお〜」

 

「はよかえってこいお〜」

 

いつも通り、れーべとまっくすが高速艇で基地から出た

 

ひとみといよが出入り口で見送り、港で貴子さんが何かを持たせている

 

俺ははっちゃんと叢雲にアイコンタクトを送り、準備を始める

 

「すてぃんぐれいもおしごと⁇」

 

「そうだ。たいほうはひとみといよとお留守番だな」

 

「わかった‼︎たいほうおるすばんしてるね‼︎」

 

「今度一緒にお買い物行こうな⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

たいほうはひとみといよを両脇に置き、朝から放送している子供向けアニメを見始めた

 

俺は準備をする為に工廠へ向かった

 

《超合金ブラック橘花マン‼︎限定200体発売‼︎この機を逃すな‼︎》

 

「てるしゃんのすきなろぼっろ‼︎」

 

「ぶあっくきっかまん‼︎」

 

CMでは、照月が好きそうな超合金ロボの宣伝をしている

 

「ひとみもいよもきっかまんすき⁇」

 

「きっかまんつおい‼︎」

 

「ひとみもすき‼︎」

 

たいほうは二人の笑った顔を見て、自分がいつもされている様に、二人の頭を撫でた

 

 

 

 

 

《きそ。二人の行き先はどこ⁇》

 

《舞鶴だってさ》

 

「ゴリまるゆの居る所か…」

 

「潜水艦と聞いています」

 

グリフォンとヘラが舞鶴を目指す

 

グリフォンの操縦席には、俺とはっちゃんが座っている

 

ヘラは俺と隊長しか乗せない為、ヘラだけで稼働している

 

 

 

 

舞鶴に着くと、ゴリまるゆが出迎えてくれた

 

「長旅ご苦労様。とりあえず中で冷たいモノでも飲んでくれ」

 

「お前ら、シェイク飲んで来ていいぞ」

 

「んじゃ、お言葉に甘えて」

 

「はっちゃんも行って来ますね」

 

「あっ、叢雲‼︎僕とレイの分もお願いしてい〜い⁇」

 

「はいはい。バニラとイチゴね」

 

叢雲とはっちゃんがミニ商店街に向かうが、何故かきそだけ行こうとしない

 

「お前はいいのか⁇」

 

「僕はここに居るよ。それよりさ…まるゆって、ホントに潜れるのかなぁ⁇」

 

きそ三人分の身長があるまるゆは、筋骨隆々

 

パッと見はスポーツ万能に見える

 

「この前凄かったんだよ⁉︎横須賀の島風ちゃんに煽られて、バタフライで追跡し始めたんだ‼︎島風ちゃん、ビビってオシッコチビってたんだよ⁉︎」

 

「アイツがバタフライで来たら怖いな…ははは」

 

「我に不可能は無い。潜って進ぜよう」

 

煽られたまるゆは今すぐにでも海に向かおうとしている

 

「ちょいちょいちょい‼︎潜るのはまた今度だ‼︎今日は別件で来た‼︎」

 

「何っ⁇」

 

「ここ最近、れーべとまっくすが来てない⁇」

 

「あのゲルマン人の二人か…確かに来ているな。だが、いつも商店街で飲み物を購入した後、この基地から出て行くな…」

 

「舞鶴でいる訳じゃないのか⁇」

 

「ますます怪しくなって来たね…」

 

「とにかく、提督に話してみると良い」

 

まるゆと別れ、舞鶴の執務室の扉を叩いた



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152話 怪しいロリゲルマン(2)

「ど〜ぞ〜」

 

気の抜けた声がした後、扉を開ける

 

「いらっしゃい。れーべ”君”とまっくす”君”の件ですか⁇」

 

中にはふちと羽黒がいた

 

「よく分かったな⁇」

 

「二人共基地から出てます。行き先は、え〜と…何処だっけ⁇」

 

「いつもとある会社へ向かっている様です。キチンと書類も提出しています」

 

羽黒から書類を受け取る

 

どうやら横須賀まで高速艇で向かい、そこから二式大艇でここまで来ているみたいだ

 

二式大艇は普段秋津洲がうんてんしており、空飛ぶタクシーの様な仕事をしている

 

秋津洲タクシー、片道500円

 

好評稼働中‼︎

 

「なるほどね…やっぱり何かあるね」

 

「ジープ借りれるか⁇」

 

「うんっいいよ〜。羽黒、鍵貸してあげて〜」

 

「こちらを。格納庫付近に停めてあります」

 

「サンキュー。昼前には帰るよ」

 

「レイ。この前はありがと」

 

「清霜に言ってやってくれ。きっと喜ぶ。それとな、あの子達は君じゃなくてちゃんだ」

 

「男の子じゃなかったの⁇そっか…」

 

何故かは分からないが、ふちは残念そうな顔をしていた

 

執務室を出ると、叢雲とはっちゃんが待っていた

 

「ほら」

 

「サンキュー。ドライブ行くぞ」

 

言われた通り格納庫に向かうと、ちゃんとジープが停めてあった

 

「はっちゃん、マーカス様の運転は初めてです」

 

「宙返りはお断りよ⁉︎分かった⁉︎」

 

「オッケーオッケー‼︎」

 

そう言って何故かきそが運転席に座る

 

「お前はこっち〜‼︎」

 

「あ°っ‼︎」

 

きそを抱き上げ、助手席に座らせ、シェイクを握らせる

 

「シートベルト締めたか⁇」

 

「「「締めた‼︎」」」

 

バックミラーで後ろに乗った叢雲とはっちゃんを見た後、ジープを出した

 

叢雲はシェイク片手に窓際に肘をつき、外を眺めている

 

はっちゃんは股にシェイクを挟み、マジマジと外を眺めている

 

そしてきそは…

 

「うはは‼︎この辺コンビニばっかだね‼︎」

 

「レイ‼︎市役所があるよ‼︎爆破したいね‼︎」

 

「エロ本屋あるよ‼︎行かなくていいの⁇」

 

きそは終始うるさかった

 

「二人は何処にいるって⁇」

 

「ん〜とね…次の信号左〜」

 

「ん」

 

「おぉ〜凄い本屋ですねぇ〜」

 

バックミラーを見ると、はっちゃんの目が輝いている

 

はっちゃんの目線の先には巨大な本屋がある

 

「帰りに寄るか⁇」

 

「いえ。今日は任務ですので…」

 

「二人が何してるか分かりゃあそれで任務は終いだ。俺も読みたい本があるから寄ろう」

 

「エロ本⁉︎」

 

「エロ本ね」

 

「違う‼︎お前らは俺が本を読むと言えば何でエロ本なんだ‼︎」

 

「じゃあ春画⁇」

 

「ふふ…官能小説かしら⁇」

 

「もういいやエロ本で…着いたぞ」

 

駐車場に車を停め、全員降りる

 

「なんだここ…」

 

「あっ‼︎」

 

きそが何かに気付いた

 

「何か知ってるのか⁇」

 

「ここ、橘花マンの製作会社だよ‼︎」

 

「へぇ〜…き、橘花マンのか⁉︎」

 

橘花マンはアニメ版と特撮版がある

 

どちらも子供向けだが、アニメ版の方が若干エロい

 

アニメ版はとにかく景雲レディが捕まり、敵陣にあんな事やこんな事をされる

 

限りなくグレーに近いR-15作品と言ったら早いだろうか⁇

 

現にレディのフィギュアが発売されると即完売になる

 

「とにかく行ってみようよ‼︎」

 

きそに手を引かれ、その製作会社に入る

 

そして壁にブチ当たる



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152話 怪しいロリゲルマン(3)

「いらっしゃいませ。本日、何方かと御約束はございますか⁇」

 

「ないっ‼︎」

 

「え〜と…」

 

「れーべとまっくすの保護者だ」

 

「少々お待ち下さい…」

 

受付の女性は内線をかけながら、俺を不審者を見る目で見て来る

 

「畏まりました‼︎すぐにご案内致します‼︎」

 

受付の女性が内線を置いた途端、顔色を変えた

 

「失礼致しました‼︎此方へ‼︎」

 

顔面蒼白になった受付の女性に連れられ、エレベーターに乗る

 

「俺はそんなヤバい奴に見えるか⁇」

 

「そっ、そんな事ありませんよ…あはは…」

 

「今はただの保護者さっ…」

 

「こっ、此方へ‼︎」

 

エレベーターを降りると、撮影所が見えた

 

「ワッハッハッハ〜‼︎我がゲルマニィ帝国に不可能な事は無いのだぁ〜‼︎行けい双子達よ‼︎」

 

「ゲルマーニャッ‼︎」

 

「ゲルマーニャッ‼︎」

 

仮面を付けた金髪の悪の女幹部が、マジシャンの格好をしたれーべとまっくすを操っている

 

「くそっ‼︎子供には手を出せぬ…」

 

橘花マンと景雲レディもちゃんといる

 

「うはは‼︎何あれ可愛い‼︎」

 

「レディもいます‼︎」

 

「へぇっ…子供向けなのに結構熱入ってるのねぇ」

 

しばらく様子を見ていると、撮影が終わった様で、ゾロゾロと人が出て来た

 

「あれっ⁉︎レイ⁉︎」

 

「お迎えに来た⁇」

 

マジシャンの格好をしたれーべとまっくすが俺達に気付いた

 

「何だ⁇お仕事してたのか⁇」

 

「うんっ‼︎ちゃんと報告書にも書いてあるよ‼︎」

 

「心配しなくても大丈夫。翔鶴さんもいるし、橘花マンの人も知ってる人」

 

「知ってる人だと⁉︎」

 

「あっ‼︎レイさん‼︎」

 

橘花マンが此方に来た

 

「すみません。お二人をお借りして…」

 

「それはいいが…」

 

全く見当が付かない

 

一体誰だ…

 

「あぁ。失礼しました‼︎」

 

橘花マンはヘルメットを脱いだ

 

「健吾‼︎」

 

橘花マンの正体は健吾だった

 

俺はいつも橘花マンが放送している時、ボ〜ッっと見ているか、テレビから離れた場所にいるので、中身が誰か全く知らないでいた

 

「脚本は私よ‼︎」

 

女幹部の正体はビスマルクだった

 

知り合いばかりで頭が軽く混乱する

 

「レイさん⁉︎」

 

景雲レディこと翔鶴も俺に気付いた

 

「何だよ。知り合いばっかか⁉︎」

 

俺が頭を抑えていると、ビスマルクが口を開いた

 

「橘花マンはキャストのほとんどが艦娘やパイロットなの。それで、集まったある程度の収益は退役した艦娘の社会復帰に充ててるの」

 

「へぇ〜…上手くやるもんだな…」

 

子供向け、大人向けにしっかりと分けられていて、何方の心も掴んでいる橘花マン

 

中々の高視聴率を取れているらしい

 

なので、収益もそこそこはあるはずだ

 

「あ〜いたいた‼︎れーべちゃん、まっくすちゃん‼︎はいこれ‼︎」

 

此方に来た男性がれーべとまっくすそれぞれに封筒と、一つの紙袋を貰う

 

「お疲れ様‼︎しばらくしたらまたお願いするよ‼︎」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「ありがとうございます」

 

男性が去った後、二人は紙袋の中身を見た



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152話 怪しいロリゲルマン(4)

紙袋の中身を見た途端、顔が綻んだ

 

「喜んでくれるといいね‼︎」

 

「大丈夫。限定品のネームバリューは強い」

 

「何貰ったんだ⁉︎」

 

「「内緒っ‼︎」」

 

れーべとまっくすは頑なに紙袋の中身を見せてくれない

 

「さっ‼︎もう少ししたら私は家に帰るわ。今日の撮影の分で今しばらくの放送分は撮れたから、私はしばらく休むわ」

 

「俺も帰るよ。遅く帰ると大和に心配される」

 

「翔鶴、帰るぞ」

 

「はいっ、レイさん」

 

健吾と翔鶴が着替えるのを待った後、ビスマルクに見送られ、俺達は撮影所を後にした

 

 

 

「どっ⁉︎イケメン揃いでしょ⁇」

 

「えぇ…」

 

「心配無用よ‼︎彼等は私達の味方。取って食いやしないわよっ‼︎」

 

引っ込み思案な受付嬢の背中をバシッと叩くビスマルク

 

ビスマルクはここでこうしてパパに恩返しをしていたのだ…

 

 

 

 

「レイさん。私はここで」

 

「何だ⁇送ってやるのに…」

 

「Hey‼︎健吾‼︎」

 

「来た来た」

 

黒いオープンカーに乗ってやって来たのは…

 

「Dr.レイ⁉︎」

 

「あっ、アイちゃんか⁉︎」

 

紛れもなくアイちゃんだ

 

「Sorry‼︎これから健吾とデートなの‼︎」

 

「お父さんには言ったのか⁉︎」

 

「えぇ‼︎健吾と寝たら健吾をKillするって言ってたわ‼︎」

 

「うわぁ…」

 

「Dr.レイ。またテラツキ連れて来てね‼︎キソ‼︎また遊びに来てね‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

アイちゃんと健吾は手を振りながら去って行った…

 

「アイちゃん…運転出来たんだ…」

 

「マーカス様。はっちゃん達も帰りましょう」

 

「その前に本屋でしょ⁇」

 

俺達も帰路に着いた

 

約束通り、帰り際に本屋に寄る

 

「欲しいのあったら持って来い。今日のご褒美だ‼︎」

 

「僕、新刊の漫画にしようかな⁇」

 

「コンプチークにする」

 

「漫画の全巻セットにしよ〜っと‼︎」

 

「毎週組み立てる本の全巻にしなさいよ‼︎」

 

車から降りながら話すきそと叢雲がメチャクチャ高そうな分野の本を買わせようとしている

 

「アイツら…」

 

「ふふっ。レイさん、嬉しそうですね⁇」

 

「まぁなっ…」

 

俺と翔鶴とはっちゃんはまだ降りておらず、楽しそうに本屋に入って行く四人を眺めていた

 

「マーカス様。はっちゃん、文学コーナーで”たっちょみ”してますね⁇」

 

「ん。迎えに行くよ」

 

はっちゃんが車から降りた後、俺と翔鶴も降りた

 

 

 

 

 

「レイさん。私この辺に居ますね⁇」

 

「ん。了解」

 

翔鶴をファッション誌が並ぶ棚に残し、俺は軍事関連の雑誌コーナーに来た

 

軍事関連の雑誌は面白い

 

現場に居る奴の視点と、書いている側の視点が全く違うからだ

 

それに、ある程度の政治経済も何となく分かる

 

10分位軍事関連の雑誌をあれやこれやと読んでいると、まずはれーべとまっくすが来た

 

「僕これにしてい〜い⁇」

 

「私はこれ」

 

れーべは海外のコミック

 

まっくすは言った通りコンプチーク

 

「んっ。そろそろ探しに行くか…」

 

雑誌を置き、残りの連中を探し始めた

 

「レイの好きそうな本だね」

 

「案外こっちかも知れないわよ⁇」

 

きそと叢雲が、それぞれ手に本を持ってエロ本コーナーを見ている

 

「未亡人シリーズと女学生シリーズか。俺は残念ながらこっちだ」

 

「「あっ‼︎」」

 

俺はきそと叢雲の間から”金髪外国人シリーズ”のエロ本を手に取った

 

「お前らなぁ…そんな歳でエロ本を見てはいけません‼︎」

 

「ごめんなさい…」

 

「悪かったわ…」

 

「んでっ⁇本は決まったか⁇」

 

「うんっ‼︎コレにする‼︎」

 

「私はこれ」

 

きそは航空力学の本

 

叢雲は甘えさせ方のマニュアル本

 

次は翔鶴を探そう

 

と、思ったが、翔鶴は既にレジで会計を済ませていた

 

「買ってやるのに」

 

「あっ、いえ…自分のお給金で買ってみようかと」

 

「マーカス様。はっちゃん、コレにしようと思います」

 

丁度はっちゃんも来た

 

「おっ⁉︎新しい本だな⁉︎よしよし‼︎」

 

はっちゃんはやっぱり文庫本を持っていた

 

それらをレジで精算し、本屋を出て皆を車に乗せ、舞鶴へと戻った

 

 

 

 

「見ろ‼︎我にだって潜水は可能だ‼︎」

 

いざ舞鶴から基地へ帰ろうとした時、ゴリまるゆが潜水の練習をしていた

 

「はっちゃん、沈んでる様に見えます…」

 

「溺れるの間違いじゃないかなぁ…」

 

「ぶはぁ‼︎おっ溺れ…」

 

「言わんこっちゃないです…」

 

はっちゃんはきそに本を持たせ、ゴリまるゆの助けに入った

 

数秒で陸に上げられ、ゴリまるゆははっちゃんにこれでもかと怒られる

 

「いいですか⁉︎無理に潜水するからこうなるのです。潜水をしたいのなら横須賀にイクちゃんと言う潜水のインストラクターがいます。その人に教えを請うて下さい」

 

「り、了承した…」

 

ゴリまるゆは一瞬シュンとするが、すぐに立ち直り、俺達と二式大艇を見送ってくれた

 

 

 

 

 

基地に着くと、お昼ご飯が出来上がっていた

 

「またお願いするかも‼︎」

 

秋津洲タクシーが基地から飛び立つのを見送ると、ガンビアと神威が近付いてるのが見えた

 

「ただいま〜」

 

「おかえり。昼飯出来てるぞ」

 

「隊長、もうすぐ補給が来るぞ」

 

「ありがとう。一服がてら見に行って来るよ」

 

隊長が食堂から出た後、俺も昼ごはんを口にした

 

「お昼はオムライス」

 

昼はグラーフの作ったオムライス

 

「いただきます」

 

オムライスを食べていると、れーべとまっくすがいつもより早く食べている

 

どうやら紙袋の中身を早く誰かに渡したいみたいだ

 

「ごちそうさま‼︎」

 

「ごちそうさま」

 

ほぼ一緒のタイミングでオムライスを食べ終え、れーべとまっくすはニコニコしながら誰かに近付く

 

「照月ちゃん‼︎」

 

「なぁに⁇あっ‼︎照月にケーキくれるの⁉︎」

 

どうやら照月は紙袋の中身をケーキと間違えている

 

「ケーキの方が良かったかな…」

 

「これ、照月にあげる」

 

「なになに⁇」

 

照月は紙袋を二人から受け取り、中身を見た

 

「わぁ〜‼︎ブラック橘花マンだぁ〜‼︎照月にくれるの⁉︎」

 

「うんっ」

 

「この前のお礼」

 

少し前、れーべとまっくすは以前買ったシュネッケン製造マシーンで大量のシュネッケンを作り出したのだが、二人以外に好き好んで食べるのはプリンツぐらいしかおらず、大量のシュネッケンが余った

 

そんな時、照月は嫌な顔一つせずにシュネッケンを全て平らげ、挙句の果てに「美味しかった‼︎」「また照月に作ってね‼︎」と二人に言った

 

二人はそれが嬉しかった様で、今回の仕事でついでに貰える、限定品の超合金ブラック橘花マンを照月にプレゼントしたかったのだ

 

「照月、これ欲しかったんだぁ〜‼︎ありがとう‼︎」

 

照月が食べ物以外で嬉しそうにしている

 

流石の照月も超合金は食べない

 

食べないどころか、部屋に大切に並べてある位だ

 

「おっ‼︎いたいた‼︎照月ちゃん‼︎」

 

「ボス‼︎」

 

「これ、ガンビアの艦長と私からのお礼だよっ」

 

ボスは照月に包装紙で包まれた箱を渡した

 

「じゃあね‼︎また遊びに来るんだよ⁉︎」

 

「うんっ‼︎ありがと〜‼︎」

 

ボスは照月に箱を渡すとすぐに帰って行った

 

照月はキチンとガンビアと神威を見送り、食堂に帰って来た

 

「何かな〜⁇ケーキかなぁ〜⁇バームクーヘンかなぁ〜⁇」

 

包装紙を開けると、超合金の文字が見えた

 

「あっ‼︎」

 

照月の顔が明るくなる

 

照月は超合金を貰うとかなり喜ぶ

 

「ブラック橘花マンだぁ〜‼︎」

 

「え⁉︎」

 

「え」

 

「もうひとつは…ブラック橘花マンだぁ〜‼︎」

 

この日、照月の手元には、計3つのブラック橘花マンの超合金が来た

 

「良かったな照月‼︎それ、200個しかないらしいぞ‼︎」

 

「うんっ‼︎照月、橘花マン大好きなんだぁ〜‼︎」

 

隊長の言葉に、照月は超合金ブラック橘花マンの箱を全部抱きしめながら笑顔で答えた

 

「照月ちゃんが幸せなら、いっか‼︎」

 

「うん。大切にしてくれる」

 

皆考える事は一緒だ

 

照月へのお礼には、食べ物か超合金が良い事を知っている

 

この日、照月は3体のブラック橘花マンを組み立て、それぞれ違うポーズで照月専用の棚に飾られた…



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153話 試作型深海棲艦(1)

さて、152話が終わりました

今回のお話ですが、物語の核心にふれます

かなり重要な回です


この日、俺はたいほうを連れて横須賀に来ていた

 

ここ最近遊んでいない気がしたからだ

 

「たいほうはどこ行きたい⁇」

 

「きーちゃんのところ‼︎」

 

「んっ。分かった」

 

たいほうは普段中々遊べない清霜の所に行きたがった

 

横須賀のいる執務室にたいほうを連れて行くと、清霜とガングートが遊んでいた

 

「あらレイ。連絡したら迎えに行くのに」

 

「清霜。たいほうが遊びたいって」

 

「うんっ‼︎きーちゃん達と遊ぼ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

子供らしく遊ぶ三人を見ながら、ポケットに手を入れて机にもたれた

 

「ホンット、いつの間にかお父さんの顔になったわね⁇」

 

「まぁなっ」

 

そう言う横須賀だって、当初の不安を良い意味で覆すかの様な母親らしい行動をしている

 

教育方針も案外筋が通っており、子供である三人はキチンとそれを聞いている

 

「ちょっとタバコ吸ってくる。任したぞ」

 

「えぇ」

 

執務室を出て、外にある灰皿の近くでタバコに火を点ける

 

三度程息を吐いた時、少し向こうでチラッとサラが見えた

 

声を掛けようと思ったが、サラは母さんと同じ様な顔をしていた

 

真顔で一点だけを見つめている

 

それも、少し悲しそうにしている

 

サラは工廠に入って行ったが、入る時に辺りを見回してから入った

 

…何かあったのだろうか

 

俺はサラの後をコソコソ着いて行き始めた…

 

 

 

 

サラはどんどん工廠の奥に入って行く

 

俺は気付かれない様に物陰からサラの後を追う

 

工廠の奥まで来ると、一気に人影が無くなった

 

そしてその先には、俺や横須賀でも入れない、地下室への開かずの扉がある

 

その地下室には特別なモノが格納されているらしく、本当に限られた人間しか開け方を知らないらしい

 

そんな扉をサラはいとも簡単にパスワードを打ち、地下室へ入って行った

 

俺はしばらく物陰で待った

 

数十分後、サラは何故か笑顔で帰って来た

 

サラが完全に去った後、俺は物陰から出て、先程サラが打ったパスワードを打ってみた

 

こう見えて軽い暗記は得意だ

 

「あ…開いた…」

 

生唾を飲む…

 

この下に何が眠っているのだろうか…

 

恐る恐る、暗く長い階段を一段一段降りて行く

 

コツーンコツーンと自分の足音が響き渡り、恐怖を倍増させる

 

中腹位まで来ただろうか⁇

 

俺は何故か分からないが、腰に付けていたピストルを握っていた

 

考えてもみろ

 

ここは横須賀だ

 

余程の事がない限り、敵なんていないハズ

 

だが何故か分からないが、下から漠然としない恐怖が吹き上がって来る

 

その答えはこの先にある

 

そして最後の一段から足を降ろす

 

地下室に着いた

 

一応地下室一帯にピストルを向けるが、特に何も無い様子だ

 

それより気になったのは、机や棚に所狭しと置かれている資料の数々

 

机にピストルを置き、手近にあった資料を一枚手に取った

 

”DMM Mk.0/Proto Type”

 

英語で書かれた資料だ

 

何度も読み返したのか、バインダーがボロボロになっている

 

プロトタイプと書かれたその資料を、俺は興味本位で見てみた

 

 

 

 

”DMM Mk.0/Proto Type”

 

DMM Knightシリーズ二人に続き、本格的に改造手術を受けたタイプ

 

打撃特化及び防御面を向上

 

DMM化した後に一時的に体力の消耗が見られるが、驚異的な回復力を持つ為、問題点に至らず

 

被験体を保護した際、左腕肘部分以降が欠損していた

 

何とかしなければ…



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153話 試作型深海棲艦(2)

我々には”Vea”と呼ばれる深海の被験体がいる

 

Veaの由来は、叫ぶ声を文字にしたモノである

 

 

 

Veaは身体再生能力に長けており、尚且つ私達に友好的だ

 

私達が気付かない内に自身の左腕を切り落とし、Mk.0の左腕に癒着させた

 

Mk.0に拒絶反応は無く、結果も良好だ

 

Mk.0は発見当初、身体中傷だらけだったが、あの装置に入っていれば命は保証される

 

一体Mk.0に何があったのだろうか

 

 

 

 

Mk.0はその驚異的な回復力でみるみる内に回復した

 

数日後には歩ける様になり、軽くではあるが、私達の研究を手助けしてくれる様になった

 

彼は自分をMk.0と呼ばれるのを嫌がっている様子だ

 

何か別の呼称を考えなければ…

 

 

 

 

助手でもある妻がMk.0を呼ぶ際”レイ君”と呼ぶ様になった

 

Mk.0は嫌がってはいるが、型番の様な呼ばれ方よりかは気に入っている様子だ

 

後で妻に話を聞くと、驚くべき答えが返って来た

 

万が一Mk.0が暴走してしまった際、この呼称で呼ばれると治る様に細工をしたと言う

 

本当だろうか…

 

妻の方が暴走気味の気がする…

 

 

 

 

Mk.0を外に出してみた

 

ずっと娘が付き添っている

 

そう言えばMk.0は娘の思い人らしい

 

娘といる時、Mk.0は一度も暴走する事が無い

 

この状態が安定して続けば、Mk.0を社会に返す事も念頭に入れている

 

本日をもち、Mk.0を被験体としての利用を終了する

 

本国からの命令で被験体をVeaに切り替えるとする

 

 

 

 

Mk.0が血まみれで帰って来た

 

帰って来たMk.0は全身血まみれの状態で、娘を抱えていた

 

原因は不明だが、娘はMk.0と共に出掛けていたらしく、道中で老人と口論になり、Mk.0が仲裁に入る

 

老人は娘を杖で殴打したらしく、Mk.0は娘を守る為に反撃

 

老人は自身が入居している老人ホームに逃げ帰るが、Mk.0の怒りは収まらず、老人ホームの人間を皆殺しにしたらしい

 

事態を聞いて駆け付けた警官の飽和発砲により、全身から多量に出血

 

そんな状態で娘を抱えて帰って来たのだ

 

如何に回復力が高いと言っても、これだけ出血していれば回復が間に合わない

 

…輸血が必要だ

 

 

 

 

彼の最後の記録をここに記す

 

彼は平和的な思考の持ち主だ

 

私達の事を家族だと認識している

 

私自身も彼を息子と認識し、情が湧いている

 

だが、あれ以降老人を見ると突発的に体の一部分がDMM化してしまう

 

特に左腕。あの部位には注意が必要だ

 

私はこれから本国に渡り、恐らく死刑になる

 

少し、深海の子達と関わり過ぎた様だ

 

恐らくMk.0とVeaは深海の子と人間の友好的な架け橋になる

 

彼等二人を深海側に身を置かせる事にする

 

こうでもしないと彼等が余りにも不憫だ

 

いや、不憫な思いなら既にさせているか…

 

Mk.0…

 

君が背負わなければならない運命は、余りにも残酷だ

 

だが、君はもう分かっているはずだ

 

深海の子にだって、友好的で戦いに反対する奴はいる

 

それを知る人間は数少ない

 

だから、頭の固い連中に教えてやって欲しい

 

彼女達だって生きている

 

コミュニケーションだって取れる

 

平和な道はあるはずだ…

 

頼んだぞ…マ…

 

 

 

恐らく名前が書いてあったのだろうが、誰かが何度も触れたのだろうか⁇

 

掠れて見えなくなっている

 

俺は最後の文に目を向けた

 

 

 

 

心残りがあるとすれば、妻の事だ

 

娘はきっと、巡り巡って君の元に行くだろう

 

だが妻は別だ

 

妻は思い込みが激しい

 

自分がこんな世にしてしまったと思い込んでいる

 

余裕がある時でいい

 

妻の考えを更生させてやってくれ

 

君ならきっと出来る

 

何せ、私と君は外見も性格も瓜二つだ

 

私に出来て、君に出来ない事は無い

 

頼んだぞ‼︎

 

資料はここで終わっている

 

 

 

 

資料を読み終えた瞬間、俺は振り返り、ピストルを構えた

 

「読んじゃったのね…」

 

そこに居たのはサラだった



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153話 試作型深海棲艦(3)

「Mk.0は…俺の事だな⁇」

 

「そうよ…ジェミニから聞いたわ。シャングリラで老人を殴ろうとした時、左腕にDMM化の兆候が見られたって」

 

サラは異様に落ち着いていた

 

机に腰掛け此方を見るサラに向けていた銃口を下げ、ピストルを腰に仕舞った

 

「マーくん…サラの事、嫌いになった⁇」

 

「いや。もっと早く教えて欲しかったな…って思っただけだ」

 

「…来て」

 

サラに連れられ、地下室の更に奥に連れて来られた

 

サラが足を止めた目の前には、ここに続く階段があった扉より遥かに厳重に施錠された扉があった

 

「この扉を開けたら…マーくんはきっとサラを嫌いになるわ」

 

そう言って、俺が言い返す暇なくサラは扉を開けた

 

錆び付いた扉が開く音と共に、中が明らかになった

 

「これは…」

 

扉の向こうには、基地にあるカプセルより年季の入ったカプセルが間隔を開けて並べられていた

 

カプセルは稼働しておらず、大部分は割れたり破壊されていたが、数個のカプセルの中には未だに何かが入ったままでいた

 

俺は未だに中に何か入っているカプセルの中身を見た

 

「深海側の駆逐艦…」

 

サラの方を振り返ると、サラは入って来た扉を閉めていた

 

「…サラ⁇」

 

「サラはね…マーくんじゃないマーくんと一緒に、新しい兵器を造っていたの」

 

規則正しい足音と共に、サラが近付いてくる

 

俺はこの日二度目の恐怖を感じていた…

 

「本国から受けた注文は、死なない兵士を造り出す事…マーくんが造ってくれたこの装置があれば、造作も無い事だった…サラもそう思ってたの」

 

「現実は違ったか⁇」

 

「そう…サラとマーくんじゃないマーくんが造り出したのは、人に憎悪を剥き出しにする子ばかりだったわ…」

 

「その子達はどうした⁇」

 

「暴動を起こして逃げ出したわ」

 

「ちょっと待ってくれ‼︎まさか…」

 

俺の嫌な予感はいつも当たる

 

次にサラの口から出る言葉を聞きたくなかった…

 

「この戦争が起こったのはサラ達の所為なの…サラ達が居なければ、この戦争は起こらなかったの…」

 

「はぁ…」

 

気が抜けた俺は、カプセルに背中を置いた

 

「怒ってるよね…サラの事、嫌いになったよね…」

 

そう言うサラの手には、ピストルが握られている

 

「マーくんっ…ゴメンね…サラ、耐えられないや…」

 

サラは涙で顔をグシャグシャにしながら、手にしたピストルを自身のこめかみに当て、引き金に指を掛けた

 

そして、一発の銃声が響き渡る…

 

「…」

 

「ぐっ…」

 

間一髪でサラの腕を掴み、銃口を別の方向に向けられた

 

だが、銃口が向けられた先には俺の左肩があり、銃弾は左肩を貫通していた

 

「…二度と死ぬなんて考えるな」

 

サラからピストルを奪い、床に落として蹴り飛ばした

 

「マーくんどうして…」

 

「子供達が悲しむ」

 

「あっ…」

 

子供達はサラに懐いていた

 

そんなサラが居なくなれば、子供達が悲しむのは目に見えている

 

そうこうしている内に、左肩の傷が癒えて行った

 

「サラの所為じゃない。気に病む必要も無い」

 

「…」

 

サラはしゃくり上げながら俺を見つめている

 

「それと、さっきサラが言ってた事も心配する必要も無い」

 

「ふふっ…マーくんにはジェミニがいるでしょ⁇」

 

しゃくり上げながら無理に笑顔を見せるサラを、俺は思い切り抱き寄せた

 

「しばらく黙ってろ…」

 

「うんっ…」

 

横須賀がたまに甘えて来る時にそうする様に、しっかりと抱き締めながら、サラの後頭部を撫でる

 

「ふふっ。ホントにマーくんに抱かれてるみたい…」

 

「サラの知ってるマーくんはこの後どうした」

 

「キスしてくれたわ…」

 

俺は何も考えずにサラと唇を合わせた

 

「これでイーブンだな」

 

嫁の母親とキスしたなんて話が出回れば、それこそ清霜に粛清されるだろうな…

 

「ありがと、マーくんっ」

 

唇を離し、すっかり泣き止んだサラを見て、笑みが零れる

 

「帰ろう。たいほうに怒られる」

 

「うんっ」

 

サラは俺が蹴り飛ばしたピストルを拾おうとした

 

「これは預かっとく」

 

「ふふっ…サラが撃たれるのは別のピストルだって言いたい⁇」

 

「そう言う事っ」

 

「もぅ…」

 

俺達は地下室から出た

 

執務室に戻るまで、サラはずっと俺の腕にくっ付いていた

 

ホントはもっと旦那に甘えたかったのだろう

 

究極の甘えん坊の母さんを見ていると、何となくそれが分かる気がする

 

子供達が待つ執務室の前に着くと、サラは腕を離した

 

「マーくん。サラ、マーくんとジェミニの子供、ちゃんと見るわ」

 

「頼むぞ。サラに懐いてるんだ」

 

答えはサラの笑顔を見て分かった

 

執務室の扉を開け、サラと共に中に入る…

 

「ただいま〜」

 

「あ〜っ‼︎やっと帰って来た‼︎イテテ‼︎」

 

執務室では、横須賀が子供達のスーパーボールの標的になっていた

 

「すてぃんぐれいおかえり‼︎」

 

「よっと。たいほうはスーパーボール好きだなぁ⁉︎」

 

いの一番でたいほうが俺に抱き着き、いつも通り抱き上げる

 

「うんっ‼︎すてぃんぐれいとはじめてあそんだのすーぱーぼーるだもん‼︎」

 

「そうだったなっ‼︎」

 

「お父様‼︎きーちゃんの作ったスーパーボール見て‼︎」

 

清霜の手には、ラメ入りのスーパーボールがある

 

「清霜が作ったのか⁇」

 

「うんっ‼︎ガン子ちゃんが教えてくれたの‼︎」

 

「ふふん」

 

ガングートは腕を組み、自慢気に鼻息を漏らす

 

「ありがとうな」

 

たいほうを降ろし、ガングートと清霜を抱き締めた

 

清霜は嬉しそうだが、ガングートは照れ臭さそうだ

 

「う…うん…」

 

「さてっ‼︎ちょっと腹減ったな。何か食いに行くか‼︎」

 

「オトン。い〜ちゃんは伊勢がいいぞ」

 

「今蟹食べたら爆発だもんな…アタイも伊勢がいい‼︎」

 

「たいほうけーきたべるの‼︎」

 

「きーちゃんはピザ‼︎」

 

「イディオット。ピロシキはあるか⁇」

 

それぞれが食べたい物を言い、俺達は伊勢で昼食を食べた…

 

 

 

 

 

”特殊深海棲艦資料”の一部が開示されました‼︎




捉え方は二つあると思います

サラ達研究者が悪いのか…

装置を造ったレイが悪いのか…

その辺りも踏まえて、感想をお待ちしております


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154話 重ね合わせた愛(1)

さて、153話が終わりました

シリアスなお話が終われば、次は日常回です

果たしてひとみといよは何を見ているのか⁉︎

そしてひとみといよがレイに懐く理由とは⁉︎


今日は午前中に横須賀で訓練があり、昼前には基地に戻って来た

 

隊長が入れ違いで横須賀に向かい、昼からの訓練に備えている

 

帰って来て昼ご飯が出来るまで、俺はソファーに寝っ転がりながら会話ツールを眺めていた

 

時折こうして確認しては、体調の悪い子を見つけて診察をしに行く

 

「えいしゃんおかえい‼︎」

 

「えいっ‼︎」

 

お腹の上にひとみといよが寝転ぶ

 

「何か見るか⁇」

 

タブレットを弄り、二人が好きそうな動画を流す

 

動画が始まると、ひとみといよは俺と目線を合わす為、ズリズリと這い寄り、またピッタリとくっ付いた

 

流した動画は二人が好きそうなアニメで、画面の向こうでは女の子が料理している

 

「これは何だ⁇」

 

女の子が持っている調味料を指差すと、二人はすぐに答えた

 

「「けちゃっぴ‼︎」」

 

「あらっ。誰かさんのが移ってるわね⁇」

 

「おおおお俺は悪くない‼︎多分…」

 

貴子さんが料理を机に置きながら俺を茶化して来る

 

俺は急いで動画を変えた

 

次はクレイアニメだ

 

どこの国のアニメかは分からないが、とりあえず”ペンギン”のクレイアニメだ

 

よし、ペンギンは覚えてるぞ‼︎

 

「ぴんげんしゃん」

 

「あかしゃんぴんげん」

 

「ふふっ。マーカスそっくりね」

 

執務が終わり、いつの間にか食堂に来た母さんが俺を茶化す

 

「俺は教えてないっ‼︎」

 

「ま〜ぐな〜む」

 

「ぺったんぺったん」

 

いよはペンギンの鳴き声

 

ひとみはペンギンの足音の真似をしている

 

「さぁっ‼︎出来たわ‼︎」

 

「よしっ‼︎お昼ご飯だっ‼︎」

 

ひとみといよを定位置に座らせ、俺はその間に座る

 

お昼はコロッケだ

 

「こおっけ‼︎」

 

「たかこしゃんのこおっけ‼︎」

 

「アンタ達はこれね」

 

霞が食べ易くしてくれたコロッケを二人の前に置いた

 

「たいほうはどうした⁇」

 

「たいほうは照月ちゃんときそちゃんと一緒に横須賀で食べるらしいわ」

 

「大丈夫よマーカス。ローマが付いてるわ」

 

心配はすぐに見透かされた

 

「よしっ、頂きますっ‼︎」

 

「いたあきます」

 

「いたあきます」

 

俺が食べ始めると同時に、ひとみといよも食べ始めた

 

二人は相変わらず軽く頭を振りながら口に入れた物を噛む

 

俺が二人を見ている横で、母さんが貴子さんに何かを見せていた

 

「なるほどね。それでマーカス君に懐くのね」

 

「マーカスに見せて良いかしら⁇」

 

「大丈夫よっ。マーカス君、多分何と無く分かってるし」

 

「なんの話だ⁇」

 

二人から離れようとした瞬間、服の裾を持たれた

 

「あかん‼︎」

 

「あかん‼︎」

 

「ごはんがさきっ‼︎」

 

「あとれ‼︎」

 

「んっ。そうだなっ‼︎」

 

ひとみといよの方が正しい

 

食事は食事、仕事は仕事だ

 

昼食を食べ終え、ひとみといよが俺のタブレットでさっきの動画の続きを見ている間に母さんと貴子さんに近付いた

 

「マーカス。これを見て」

 

「どれっ…」

 

母さんに渡された封筒の中の資料にはこう書かれていた

 

 

 

 

マーカス・スティングレイ様へ

 

”セイレーン及びシレーヌについて”

 

 

 

 

 

封筒の裏を見るとサラトガと書かれていた

 

「サラ⁇」

 

再び資料に目を通す

 

 

 

この間、セイレーンとシレーヌを見かけました

 

マーくんによく懐いていて驚きです

 

セイレーンとシレーヌはサラとマーくんじゃないマーくんが作った最高傑作です

 

あっ、最高傑作なんて言い方、失礼よね⁇

 

 

 

文章の所々にサラっぽさが見える

 

 

 

 

二人がマーくんに懐くのは必然なの

 

実はセイレーンとシレーヌは、マーくんの造った潜水艦”ロンギヌス”の量産型なの

 

今はしおいちゃん、だったかな⁇

 

天真爛漫な所、しおいちゃんにソックリでしょ⁇

 

しおいちゃんのAIをモデルにしてるから、いの一番にマーくんの声に反応したり、マーくんの言った事を聞くわ

 

マーくんがちゃらんぽらんな事教えたら、二人共すぐ覚えちゃうわ

 

ストラッピなんて教えちゃダメよ⁇

 

また二人の顔見せてね。マーくんもよ⁇

 

 

 

「なるほどなっ…」

 

「マーカス、怒ってる⁇」

 

「全然っ‼︎むしろ嬉しいさ‼︎」

 

どうやら俺は潜水艦に縁がある様だ

 

 

 

 

P.S

 

今日の夜、横須賀でパーティーがあります

 

ダンスをするらしいわ

 

サラと踊りましょっ♪♪

 

 

 

 

「連絡遅いのは母親譲りかっ‼︎」

 

横須賀もサラも連絡が遅い‼︎

 

メチャクチャ肝心な連絡はすぐに来るが、肝心だけどそうでもない連絡はいつも前日か当日だ‼︎

 

「お迎えに来たかも‼︎」

 

秋津洲が来た

 

隊長はもう向こうで待っているらしい…



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154話 雷鳥は踊る(1)

題名は変わりますが、前回の続きです

サラの言っていた通り、横須賀でダンスパーティーが始まります

レイは誰と踊るのかな⁇

そして、横須賀目線のお話もあります


横須賀に着くと、教会が騒がしい事に気が付いた

 

ひとみといよを肩に乗せたまま教会に入ると、椅子が退かされ、楽器が置かれていた

 

どうやらここでパーティーをするみたいだ

 

確かに教会の中ならだだっ広くて踊りやすい

 

「えいしゃん。これなんら⁇」

 

「これはバイオリンだ」

 

「ばいよいん⁇」

 

「こっちもいっしょ⁇」

 

「こっちはチェロだ」

 

「ちぇお⁇」

 

ひとみといよは見た事もない楽器に夢中になっていた

 

「そっ。とっても高いんだぞ⁇」

 

「えいしゃんできう⁇」

 

「どうだかな…」

 

「レイ。ちょっと引いてみなさいよ」

 

「高いモンだろ⁇壊したらヤバい」

 

「いいのよ。基地の備品なんだから。ホラッ」

 

たまたまそこに居合わせた横須賀に言われ、仕方なくチェロを手に取る

 

「下手でも知らんからな…」

 

ひとみといよを横須賀に預け、備えられていた椅子に座り、チェロを弾き始める

 

「おぉ〜…」

 

「えいしゃんすごいお…」

 

自分でもギリギリ覚えているかどうか怪しい、ロココの主題なんちゃらとか言う曲をチェロで奏でる

 

「あれ〜⁇何だろ⁇この曲…聞いた事ある…」

 

しおいが此方に寄り、一段だけある段差に肘をつき、ウットリしながら曲を聴き始める

 

「いよもあるお…」

 

「ひとみも…」

 

「あぁ、ちょっ…」

 

ひとみといよは握っていた横須賀の手を振り解き、しおいと同じ様に曲に聴き入る

 

そうこうしている内に、教会兼会場は軽くザワつき始めた

 

美しいドレスに着替えた艦娘と提督とが顔を見合わせ、踊って良いのか迷っている様子だ

 

よし、切り上げよう

 

チェロから手を離し、曲を終える

 

「どうしたお前ら⁇」

 

「ううん。レイって楽器弾くの上手いなぁ〜って思ってただけ〜」

 

「う〜ん…」

 

「おもいだせない…」

 

しおいの左右では、ひとみといよが腕を組みながら何か悩んでいる

 

「聞いた事あるのか⁇」

 

「かちこち…」

 

「しゃむいとこお…」

 

「…あっ‼︎」

 

ひとみといよが何か思い出しそうにしている横で、先にしおいが思い出した

 

「思い出した‼︎北極海の時だ‼︎」

 

「よく覚えてたな」

 

「ほっきょく⁇」

 

「ぴんげんしゃんいるとこお‼︎」

 

動物の名前は間違っているが、場所は覚えたみたいだ

 

「いよいったことない」

 

「ひとみもない」

 

「寒くて雪がいっぱいの所だ」

 

「ゆきってなんら⁇」

 

「わからん…」

 

ひとみといよと話すと、二人には分からない事が沢山出て来るな…

 

「さっ、貴方達はこっち。レイと私はあっち行くわよ」

 

横須賀はひとみといよの手を握りながら御馳走のある場所に連れて行こうとした

 

そこにはローマが居た

 

「めがねのとこいく‼︎」

 

「めがね〜‼︎」

 

別に嫌われてはいないが、二人にとってローマは自分達の面倒を見てくれたり、海へ放り込んでくれる為、横須賀より好感度は高い

 

「しおいもい〜こぉっ‼︎レイ、ありがと‼︎」

 

「しおい」

 

「ん⁉︎」

 

「北極海はもう無いから心配すんなよ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

しおいも御馳走の所に行き、俺と横須賀は御馳走の所にいるみんなを眺めていた

 

「何でひとみちゃんといよちゃんは懐いてくれないのかしら…」

 

「ははは‼︎心配しなくてもちゃんと懐いてるさ。あの二人にとって、ローマは特別なんだよ」

 

「だと良いけどっ」

 

「あっ‼︎マーくんいたいた‼︎」

 

黒いドレスに着替えたサラが此方に来た

 

「ジェミニ、マーくん借りるね‼︎」

 

「傷付けないでよ⁉︎」

 

サラに手を引かれ、教会の中心に立つ

 

「さっ、マーくん…」

 

サラの手を取り、待っていたかの様に曲が始まる

 

各基地の提督と艦娘とがクルクルと踊る

 

俺達もクルクル踊る

 

「素敵よ、マーくん」

 

「サラもな」

 

こうして見ると、サラはお婆ちゃんに見えない

 

普通にストライクゾーンに入る女性だ…

 

サラの言うマーくんじゃないマーくんが惚れたのがよく分かる…



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154話 雷鳥は踊る(2)

チョットだけ横須賀目線のお話


レイとサラが踊っている時、御馳走が用意されている場所では清霜が両手にチキンを手にして嬉しそうに食べていた

 

「美味しい⁇」

 

「美味しい‼︎き〜ちゃんチキン好き‼︎お母様はお父様と踊らないの⁇」

 

「そうねぇ…お母さんは最後で良いわ⁇」

 

「どうして⁇」

 

「ん〜⁇お父さんの事が好きな人がいっぱいいるからかな⁇」

 

「き〜ちゃんもお父様好き‼︎」

 

私は嬉しそうな清霜の頭を、父親がいつもそうしている様に撫でた

 

「よこしゅかしゃんさみしい⁇」

 

「えいしゃんむこうにいうから⁇」

 

ローマの手から離れたひとみといよが来た

 

この二人は本当に絵に描いた様な子供で、私はちょっとでいいから抱っこしてみたいと思っている

 

でも、もしかしたらイヤがるかも知れない

 

そう思うと出来なかった…

 

「そんな事ないわ⁇レイが帰って来るのは私って決まってるもの‼︎」

 

「ぜい〜あげう‼︎」

 

「おみかんのぜい〜‼︎」

 

私は素直に二人の前に屈み、二人が持って来たミカンゼリーを食べさせて貰う

 

「おいし⁇」

 

「うんっ‼︎美味しいわ‼︎ありがとっ‼︎」

 

ひとみといよの頭も撫でる

 

いつもレイや大人にキチンと洗って貰っているのか、二人の髪はサラサラしている

 

「んふ〜‼︎」

 

「んふ〜‼︎」

 

…グラーフに似てきたわね

 

「…二人は私の事、好き⁇」

 

「しゅき‼︎」

 

「えいしゃんのおよめしゃん‼︎」

 

二人はニコニコしている

 

チョット試してみようかしら…

 

私は二人の前で手を広げてみた

 

すると二人共ゼリーの乗ったお皿を机に置き、私に抱き着いて来た

 

「くふふっ…」

 

「き〜ちゃんのにおいがしゅる…」

 

ホントだ

 

二人に嫌われて無いのね、私…

 

それにしても、ホントに軽いわね…

 

レイが両肩に二人を乗せて、尚且つたいほうちゃんを肩車しても平気なハズだわ…

 

「よこしゅかしゃん、えいしゃんとおどう⁇」

 

「ひとみもおどいたい‼︎くうくう〜って‼︎」

 

この舌ったらずな喋り方も、堪らなく可愛い

 

「横須賀‼︎待たせたな‼︎」

 

「お母さんは⁇」

 

「親父と踊るんだとよ」

 

レイが振り返った先には、お母さんとリチャード中将がいる

 

「えいしゃん」

 

「おっ⁇どうしたいよ。横須賀気に入ったか⁇」

 

「うんっ‼︎よこしゅかしゃん、ふあふあしゅるの‼︎」

 

「たかこしゃんみたいなおっぱい‼︎」

 

「ひとみといよはローマとご飯食べてるんだぞ⁇」

 

「はよかえってこいお〜」

 

「き〜つけてな〜」

 

レイは何時もの様に笑顔で二人の頭を撫でた後、私の前に手を出した

 

レイって、誰に対しても態度を変えないんだ…

 

上であれ、下であれ、絶対に差別したりしない

 

あぁ、だから好かれるのね…

 

「行くぞ」

 

「えぇ‼︎」

 

レイの手を取り、お母さんとレイが踊っていた場所に立った



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154話 雷鳥は踊る(3)

レイ目線に戻ります

元気になった誰かが再登場します


先程とは違い音楽が流れ、俺は横須賀の手を強く握った

 

「レイ」

 

「何だ⁇」

 

「幸せよ…私」

 

「けっ」

 

横須賀はぎこちない笑顔を俺に送る

 

「何かあったのか⁇」

 

「ううん。何か、ふと幸せだなぁ〜って」

 

「しみったれた顔はお前には似合わんぞ。あの二人を見てろ⁇」

 

横須賀の手を握って踊りながら、御馳走が用意されている場所から此方を見ていたいよとひとみに歯を見せた

 

すると、二人はいつも通り俺に歯を見せて笑い返した

 

「あらっ‼︎」

 

「あぁやって笑ってろ。お前はそっちの方が似合う」

 

「…うんっ‼︎」

 

横須賀に笑顔が戻る

 

少し疲れているのかも知れないな…

 

ずっと子供を任せっぱなしだからな…

 

「レイ、またデート連れてって欲しいわ…」

 

「なら、今週の金曜なんかどうだ⁇映画見て、買い物して、みんなで飯食って…」

 

「レイと二人が良いわ…」

 

こんな事言うのは珍しい

 

「分かった。たまには二人で行こう」

 

また横須賀が笑顔になる

 

こういう時、無性に愛おしくなるんだよなぁ…

 

横須賀とのダンスが終わり、一旦休憩となった

 

「おかえい‼︎」

 

「おかえい‼︎」

 

「ただいま。よいしょ…」

 

すぐに二人がよじ登ろうとして来たので、抱き上げて肩に乗せる

 

「たいほうは何処行った⁇」

 

「たいほ〜あっち‼︎」

 

「パパしゃんのとこお‼︎」

 

二人が指差す方向には、隊長の頭に乗っているたいほうがいた

 

「イディオットはホントに子沢山だな」

 

「がんこちゃんら」

 

「しゅくしぇ〜ちゃん」

 

何処で覚えたのか、二人はガングートを知っていた

 

「ガン子の名も有名になって来たな‼︎」

 

ガングートは少し前から自分の事をガン子と言い始めている

 

それをガングートは気付いていない

 

チョットマヌケなのかも知れないな…

 

「どうだ⁇こっちは楽しいか⁇」

 

「うんっ‼︎イディオットの娘と友達になった‼︎」

 

「そっかそっか‼︎」

 

「ロシアにいた時は友達と呼べる存在が居なかったんだ…ガン子は今の生活を気に入っている」

 

「俺が居ない間に横須賀達に何かあったら頼むぞ」

 

「う、うん…」

 

何故かガングートはソワソワしている

 

「きょっ、今日はナデナデしてくれないのか⁇」

 

「あぁ‼︎そうだなっ…」

 

ガングートの頭を帽子越しに撫でた

 

ガングートは嬉しそうにしている

 

「ロシアでは…こんな事して貰った事なかった。イディオットも、ホルスタインも、ガン子をナデナデしてくれる」

 

「言っただろ⁇娘みたいなモンだって」

 

「あ、ありがとう…ガン子は嬉しいぞ」

 

ガングートは照れたまま、何処かに行った

 

「がんこしゃんかあいいね‼︎」

 

「しゅくしぇ〜しない‼︎」

 

「お前ら、何でガングートの事知ってるんだ⁇」

 

「はんま〜からきいた‼︎」

 

「しまうましゃん‼︎」

 

「…なるほどな」

 

…榛名か

 

榛名はたまに基地に遊びに来る

 

その時に話を聞いてたのだろう

 

「ん⁇」

 

肩に乗せた二人と話していると、服の裾をクイクイ引っ張られた

 

どうやら最後のダンス相手が決まりそうだ…

 

「えいしゃんおどう⁇」

 

「らんすすう⁇」

 

「そうだなっ…よいしょ‼︎」

 

二人を肩から降ろす

 

「そおいどこいった⁇」

 

「めがねのよこ‼︎」

 

「そおい〜‼︎」

 

「めがね〜‼︎」

 

二人は肩から降りた瞬間、しおいとローマの所に行った

 

「ふふっ」

 

「行くか⁇」

 

「お願いしてもいいかしら⁇」

 

「母さんが良ければ」

 

「端っこの方に行きましょう」

 

最後のダンス相手は母さんだ

 

曲が始まり、周りではダンスが始まる

 

母さんは車椅子に乗っているので、手だけで出来るダンスをする

 

激しい事は出来ないが、母さんと手を繋いで、俺が母さんの周りをクルクル回るだけでも母さんは楽しいみたいだ

 

「若い時にリチャードにこうして貰ったわ…」

 

「そういや、親父と何処で出逢ったんだ⁇」

 

「私とリチャードは上司と部下の関係だったの。私が上司で、リチャードが部下」

 

「俺と横須賀みたいにか⁇」

 

「そうね…ちょっとビックリしたわ」

 

どうやら親の恋愛の仕方は、子に遺伝する場合があるらしい

 

母さんとのダンスも終わり、御馳走のある場所に戻って来た

 

後は食べるだけだ

 

「オトンは楽器が好きなのか⁇」

 

いざ食べようとした時、磯風が来た

 

「昔暇潰しにやってただけだ」

 

「アレも出来るのか⁇」

 

磯風の目線の先には、バイオリンがある

 

「まぁ…チョットだけならな⁇」

 

「オトンは凄いな…」

 

磯風が驚いている

 

口の片方だけ開けて驚く癖は横須賀譲りだ

 

 

 

 

食事が終わり、パーティーがお開きになり後片付けが始まるが、外は余韻でまだまだ騒がしい

 

外は真っ暗になってはいるが、これからデートに出掛ける提督と艦娘も少なくないだろう

 

俺は妖精達が片付けているのを見ながら、残っていたバイオリンを手に取った

 

”なんや、バイオリン弾けるんか⁇”

 

”聞いてみよや”

 

妖精達しか居なくなった教会の中心に立ち、深く息を吐いた後、記憶の中にある一曲を弾く

 

”おぉ…”

 

”綺麗やなぁ…”

 

亡き王女へのなんちゃらとか言う曲が教会の中、そしてうっすらだが教会の外の連中の耳にも届く

 

 

 

「あら、素敵…」

 

「懐かしい気分だな…」

 

外の連中がザワつき始める中、一人だけ違う感覚に苛まれていた

 

「…マーカス様⁇」

 

 

 

 

弾き始めてからしばらくすると、オルガンの音が混じった

 

バイオリンを弾いたままオルガンの方を見ると、きぬが同じ曲をオルガンを弾いており、笑顔を送ってくれた

 

俺も笑顔を送り返し、またバイオリンへ集中する

 

「こっちからきこえるお‼︎」

 

「あっ‼︎えいしゃん‼︎」

 

「し〜っ、ですよ⁇」

 

「し〜っ」

 

「し〜っ」

 

ひとみといよがはっちゃんの手を弾いて教会に入って来た

 

三人はいつも通りの場所に置かれた

椅子に座り、静かに演奏を聴き始めた

 

そしてまた一人、演奏に参加する

 

今度はアレンだ

 

アレンは黙ったままもう一つのバイオリンを手に取り、俺に追従して弾き始めた

 

「この曲…」

 

曲を聴きながら小さく首を左右させるひとみといよを両脇に置いたはっちゃんは不思議な感覚に苛まれていた

 

演奏が終わり、きぬとアレンに礼を言う

 

「ありがとう」

 

「懐かしい弾き方が聞こえたからな。まっ、楽しかったぞ‼︎」

 

「きぬも楽しかったです‼︎」

 

ホントは隊長とラバウルさん辺りも居てくれれば良いんだが、二人はクラシックよりバンド向きだからなぁ…

 

「えいしゃんすごかったお‼︎」

 

「ひとみ、えいしゃんのがっきしゅき‼︎」

 

「そっかそっか‼︎」

 

「マーカス様、今の曲…」

 

「聞いた事あるか⁇」

 

「はい。はっちゃんがまだAIの時に聞いた事があります」

 

「ふふっ…やっぱな」

 

はっちゃんがAIの時、沢山クラシックを聴かせた

 

あの時ムーンリバーを流したのも、もしかするとクラシックからの影響かも知れない…

 

 

 

 

こうして、パーティーはお開きになった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、ロシア領土〜北極海〜

 

北極海で謎のレーダー反応があり、ライコビッチはそれの偵察に向かっていた

 

《ベルーガ。反応はその辺りだ》

 

「ベルーガ了解。一応付近を偵察する」

 

ライコビッチはレーダーの反応がある付近を飛び回るが、流氷やアザラシが居る位で、反応にあった艦は見当たらない

 

「こちらベルーガ。付近に不審な艦は見当たらない。故障じゃないのか⁇」

 

「ベルーガ…君の真下だ‼︎」

 

「真下って…」

 

ライコビッチは機体を逆さにし、海面を見た

 

「クジラ…か⁇」

 

巨大な影は海面に薄っすらと姿を見せ、そしてまた海底へと消えて行った

 

《ベルーガ‼︎反応が消えたぞ‼︎何が起こった‼︎》

 

「分からん…クジラの様な影が一瞬見えただけだ」

 

《…了解した。帰投しろ》

 

「了解。RTB」

 

ライコビッチの乗ったT-50が引き返していく

 

 

 

 

 

 

「寒いのは…もう嫌でち…」



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番外編 パパとママとたいほう

たまには番外編

色々リクエストがありましたので、一番書き易そうなものをさきに書きました

また順を追ってリクエスト回も投稿していきます

今回のお話は、久々のパパ目線のお話です


最近、平和な日々が続いている

 

表ではレイやたいほう達子供が遊んでおり、食堂ではひとみといよが姫と積み木をして遊んでいる

 

私はデスクワークの手を止め、外で遊んでいるレイ達を見ていた

 

「平和ねぇ…」

 

貴子がコーヒーを持って来てくれた

 

「貴子。今幸せか⁇」

 

「ふふっ。何を今更…」

 

貴子は私の質問を鼻で笑った

 

「幸せじゃなかったらここにいないわ⁇」

 

「そっか。そうだよな」

 

「ウィリアムは幸せ⁇」

 

「幸せさ‼︎これが理想だったんだ‼︎」

 

「たいほうがいて、マーカス君がいて、子供達も沢山いて…」

 

貴子は普段を見ている限り、かなり幸せそうだ

 

あの時と比べると見違える程違う

 

虚ろな目で童謡を口ずさむ貴子には、もう戻って欲しくない

 

「ウィリアムもマーカス君も、ずっとみんなに優しくしてくれてるわ。私が深海の時だって…」

 

貴子は私が知っている中では、最初に味方になった深海棲艦だ

 

戦艦タ級のマリア

 

今でも覚えている

 

今思えばあの時、私達家族は元の形に戻っていたんだな…

 

今じゃすっかり大家族だ

 

「マリアの時も、武蔵の時も、ウィリアムは私を抱き締めてくれたわ…そう考えると、マーカス君はウィリアムに似てるわね⁇」

 

「ふっ…もうレイの方が上かも知れんな…」

 

「ところでウィリアム…」

 

「何だ⁇」

 

貴子の目つきが、武蔵の時の様に鋭くなる

 

「リべちゃんの事だけど…」

 

「そうだな…ここに呼ぼうとも考えてたんだが…リベは今の方が良いらしい」

 

「あら。考えてたのね⁇」

 

「まぁな…自分で撒いた種だからな」

 

「種だけに⁇」

 

「…お前はきそか」

 

「ふふっ」

 

貴子は時折、きその様なイタズラな表情をする

 

元から下の話は平然と受け答えするか、受け流す貴子だが、武蔵の時から更に輪を掛けて下ネタに強くなった気がする

 

始まりは、傷付いた子や戦えなくなった子達の止まり木になれば…位には考えていた

 

戦うのは我々男だけで良い…

 

そう思っていたのは最初だけだ

 

いつしか護る側から、護られる側に移っていた

 

「パパしゃんひまか⁇」

 

「パパしゃんおひま⁇」

 

「え⁉︎どっから来た⁉︎」

 

いつの間にか足元にひとみといよがいた

 

「ここからきたお‼︎」

 

「おっきぃあな‼︎」

 

いつしかたいほうがほじくって開けた穴が、今ではひとみといよ位なら這いずって通れるまで大きくなっていた

 

因みに反対側にはソファーがある

 

「この穴も懐かしいわね…ずっとある」

 

「直すに直せなくてな…ははは」

 

「パパしゃん、いるかしゃんきあい⁇」

 

「ぴーぷーなるの」

 

ひとみといよは愛おしそうにイルカのぬいぐるみを抱き、ピープー鳴らす

 

そう言えば、姫が欲しそうに見ていたな…

 

「二人は何したい⁇」

 

「「おえかき‼︎」」

 

「こっちおいでっ‼︎」

 

貴子がそう言うと、二人は貴子の所に行った

 

貴子は執務室に備えられた小さな机の前に不要になった資料数枚と共に色鉛筆を置いた

 

二人はイルカのぬいぐるみを置き、いよは私、ひとみは貴子の膝の上に乗り、おえかきを始めた

 

「こうしてると、ホントに子育てやり直してるみたいね」

 

「そうだな…」

 

貴子はずっと子供を欲しがっていた

 

やっと出来た子供は国に無理矢理堕ろされ、きっと絶望しただろう

 

私もあの日、何もかも失った気分になった

 

今はどうだ⁇

 

娘は最高の友人に助けられ、今外でそんな彼と遊んでいる

 

「パパしゃんとたかこしゃんはころもひとい⁇」

 

「たいほ〜⁇」

 

「そっ。たいほうだな」

 

「いよはえいしゃんのころも‼︎」

 

「ひとみも‼︎」

 

「そしたら、お母さんは横須賀さん⁇」

 

「おかあしゃんはたかこしゃんとよこすかしゃん‼︎」

 

「おとうしゃんはえいしゃん‼︎」

 

「そっか…ははは」

 

貴子には気付かれたが、どうやら私は悲しそうな顔をしているらしい

 

「パパしゃんはパパしゃん」

 

「パパってろ〜いういみ⁇」

 

「わからん…」

 

おえかきしながら二人が悩む

 

「パパって言うのは、お父さんって意味なのよ⁇」

 

「しょっかぁ‼︎パパしゃんもおとうしゃん‼︎」

 

「おとうしゃん‼︎」

 

二人は色鉛筆を置き、私に抱き着いた

 

「おわっ‼︎ははは‼︎」

 

「良かったわね、お父さん⁇」

 

貴子がおちょくる

 

どうやら、私も気付けば子沢山になっていた様だ

 

 

 

 

 

「オトン。これは何だ。グラーフへの当て付けか」

 

食堂に戻ると、グラーフが外から戻って来たレイに怒っていた

 

グラーフの前には、レイが昨日横須賀で買って来てくれた色とりどりのポップコーンが入ったプラスチックの容器がある

 

「ちっ、違わい‼︎美味いから買って来たんだ‼︎」

 

「ホントか」

 

「ホントだ‼︎」

 

「…怪しい」

 

「…なら食うな‼︎」

 

「あっ」

 

珍しくレイがキレ気味でグラーフからポップコーンを奪った

 

「たいほう、俺とポップコーン食べるか⁇」

 

「たべる‼︎すてぃんぐれいのぽっぷこーんすき‼︎」

 

「よしよし‼︎」

 

「ぐぬぬ…」

 

グラーフは本気で言っていた訳では無く、ちょっとレイをおちょくるつもりで言ったみたいだ

 

そんなグラーフをよそに、レイはたいほうを膝の上に乗せ、テレビを見ながらポップコーンを食べ始めた

 

グラーフは机の上でションボリしている

 

「たいほう」

 

「ん⁇」

 

「グラーフみたいになってはいかんぞ⁇」

 

「すてぃんぐれい、ぐらーふきらい⁇」

 

「…」

 

レイはたいほうに何か耳打ちしている

 

「ふふふ…」

 

「内緒だぞ⁇」

 

「わかった…」

 

何故かたいほうは嬉しそうにしている

 

ポップコーンを食べ終え、レイは工廠に戻って行った

 

食堂には、未だダラけているグラーフとたいほうと私

 

厨房には貴子とローマがいる

 

「あんまり落ち込むなよ⁇」

 

「言い過ぎた」

 

「ぐらーふないてるの⁇」

 

たいほうはなだめるかの様に、小さな手でグラーフの背中をさする

 

「ぐらーふはすてぃんぐれいきらい⁇」

 

「嫌い…だってすぐ拗ねるもん…」

 

「すてぃんぐれいはね、ぐらーふのこと、だいすき‼︎っていってたよ⁇」

 

その瞬間、ローマがビクッとしたのを、私は見落とさなかった

 

「嘘だ。ジェミニが良いはず」

 

「ぐらーふもすきなんだって。あのね⁇すてぃんぐれいのはつこいのひとはぐらーふなんだって‼︎」

 

「…知ってる」

 

「あらっ‼︎そんな関係だったの⁉︎」

 

今度は貴子が興味津々で厨房から身を乗り出して来た

 

「たいほうもぐらーふすきだよ‼︎」

 

「グラーフもたいほう好き」

 

昔から愛憎劇にはなるべく首を突っ込まなかったが、今回も突っ込まなくて良い様だ

 

「…でも何でオトンはグラーフの事好きになったんだろ」

 

「たいほうしってるよ」

 

「教えて」

 

「だめだよ。たいほうとすてぃんぐれいのないしょ‼︎」

 

「教えて下さいな」

 

「だめだよ‼︎くうぐんはうそつかないんだよ‼︎たいほうもうそつかない‼︎」

 

「…たいほうは偉いね」

 

グラーフはうっすらと笑った後、諦めたかの様にたいほうの頭を撫でた

 

「あっ。すてぃんぐれいがね、あとでおれのところにこい‼︎っていってた‼︎」

 

「分かった。行ってくる」

 

グラーフは立ち上がり、工廠へと向かった

 

たいほうはグラーフの座っていた椅子によじ登り、グラーフが食べ残したクッキーを口に放り込んだ

 

私は頬杖をつきながら、たいほうに聞いてみた

 

「レイに何教えて貰ったんだ⁇」

 

「ぐらーふにいわない⁇」

 

「言わないよ」

 

どうやらたいほうは私とレイには隠し事をしないみたいだ

 

「あのね、すてぃんぐれいはぐらーふのおっぱいもすきだけど、おりょうりがすきなんだって‼︎」

 

「グラーフの料理は美味しいもんな…」

 

「それでね、すてぃんぐれいはね、ぐらーふのわらったかおがすきなんだって‼︎」

 

グラーフは常に眠たそうな顔な時が多い

 

そんなグラーフが時たま見せる笑顔に、レイは落ちたのだろう

 

「でもね、ぐらーふときどきないてるの」

 

「どうしてだ⁇」

 

「みはいるさんにあえないからだって」

 

「ミハイルは忙しいからなぁ…」

 

「すてぃんぐれいはね、それをしってるから、ぐらーふともっといっぱいおしゃべりしたいんだって‼︎」

 

「そっか…ありがとうな」

 

たいほうよ

 

たいほうは今、大人からすればかなり重荷を背負っている状態だぞ

 

複雑な恋の板挟みに遭っているんだ

 

たいほうは無邪気さ故にそれを分からないでいるが、今はそのままで良さそうだ…

 

「あっ。そうだ。あのねパパ」

 

「ん⁇」

 

「ぐらーふ、ときどきよなかうるさいの」

 

「寝言か⁇」

 

「わかんない…いく‼︎いくっ‼︎とか、もっともっと‼︎とか、みはいる〜‼︎とかいってるよ⁇」

 

「…たっ、たいほう⁇」

 

貴子が厨房から出て来た

 

貴子はたいほうの前にオレンジジュースの入ったコップを置き、たいほうに飲ませ、飲み終わった後、貴子はたいほうの両手を握った

 

「それはね、ミハイルさんに逢いたいから泣いてるのよ⁇」

 

「ぐらーふさみしい⁇」

 

「そうよ〜。たいほうだって、パパやマーカス君に逢えなくなったら寂しいでしょ⁇」

 

「さみしい…」

 

「グラーフも一緒なの。大好きな人に逢えなくて、とっても寂しくて、夜に一人で泣いてるのよ⁇」

 

「たいほうじゃだめなの⁇」

 

「そうね〜。グラーフの思うたいほうの好きと、ミハイルさんの好きは、ちょっと違うかな⁇」

 

「たいほうもいつかわかる⁇」

 

「分かる分かる‼︎たいほうが良い子にしてたら、きっと分かるわ‼︎」

 

「わかった‼︎たいほう”いいこちゃん”にする‼︎」

 

貴子が笑顔を送り、たいほうは椅子から降り、アイガモの散歩の為に靴を履き始めた

 

「ついでに工廠のみんな呼んできてくれる⁉︎」

 

「わかった‼︎」

 

たいほうが散歩に向かうと、貴子はたいほうを見ながら口を開いた

 

「たいほうもちょっとずつ敏感になってるのかしら…」

 

「成長してるんだよ、きっと」

 

「マーカス君に似て来たしね⁇」

 

「良い子ちゃんとかな」

 

レイはいつも出掛ける時、子供達に”良い子ちゃんで待ってるんだぞ〜”と言ってから出る

 

たいほうはちゃんと言う事を聞いているみたいだ

 

「おやつ‼︎」

 

「ひめしゃんつえてきた‼︎」

 

膝の上にひとみといよを乗せた姫が食堂に来た

 

「あらっ⁇てぃーほうがいないわ⁇」

 

「すぐ帰って来るわ。さっ‼︎ひとみちゃん、いよちゃん‼︎お手伝いしてくれる⁉︎」

 

「しゅる‼︎」

 

「えぷおんつけて‼︎」

 

貴子は二人に小さなエプロンを付け、自分達の分、そして姫ともう一つのオヤツを二人がいつも座る机の上に運ばせる

 

チョコチョコ歩く二人を見ていて、危なっかしいと思う反面、見届けてやらねばと思うと目が離せなくなる

 

「くっきーら‼︎」

 

「たいほ〜のしゅきなおやつ‼︎」

 

「もうそんな時間か⁉︎」

 

工廠に居た面々が帰って来た

 

レイの頭の上にはたいほうもいる

 

「どっこらせ〜…」

 

「すてぃんぐれいきょうあっち‼︎」

 

「あっち〜⁇」

 

「たいほうとたべるの」

 

「たいほうもこっちで食べたらいいじゃないか⁇」

 

「だめっ‼︎きょうはあっち‼︎パパこっち‼︎」

 

「はいはい。ふふ…」

 

「なんだなんだ⁉︎」

 

レイはたいほうに言われるがまま、食堂の椅子に座る

 

「すてぃんぐれいここね。たいほうはここ」

 

「うっ…」

 

たいほうはレイをグラーフの前に座らせ、自身はレイの横に座った

 

グラーフは目の前に座った瞬間、気まずそうな顔をした

 

「すてぃんぐれい、ぐらーふ。きょうはたいほうのおやつたべよ⁇」

 

「おっ‼︎グミか⁉︎」

 

「じゃん‼︎」

 

たいほうが後ろ手で隠していたのは、先程ケンカの原因になったモノと同じポップコーンだ

 

「ぐらーふたべて‼︎」

 

「うん」

 

「すてぃんぐれいも‼︎」

 

「お、おぉ…」

 

二人はたいほうに言われるがまま、ポップコーンを食べ始めた

 

「おいしいね‼︎」

 

「うん」

 

「だな」

 

二人共笑っている

 

たいほうが言いたいのはケンカはするな、だろう

 

何ともたいほうらしい解決の仕方だ

 

後々聞くとその日の夜、グラーフはまたうるさかったらしい

 

そして何故か、レイの声もしていたらしい…

 

 

 

 

 

 

 

「たまには三人で話してもいいだろ⁉︎」

 

「エッチな事してると思ったか」

 

「「残念だったな‼︎そいつは正解だ‼︎」」




グラーフは一人で慰める時うるさいんだって


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155話 ドッペルゲンガー

さて、154話が終わりました

今回のお話は、レイの知り合いの周りで、レイソックリな人物が出現しているとの情報が出回ります


俺はこの日、きそを連れて震電の演習に当たっていた

 

現状、震電の飛ばし方を教えられるのは俺一人

 

必然的に教官になっていた

 

「ほぉ〜、震電か」

 

いつの間にか居た親父が震電を撫でている

 

「親父も乗るか⁇」

 

「俺はコルセアでいいさ。そうだ‼︎マーカス見ろ‼︎パパコルセアの色塗り替えたんだ‼︎きそちゃんも見て‼︎」

 

「あ〜…」

 

「どれどれ‼︎」

 

親父はあの一件から、母さんにもちょくちょく逢引したり、基地に遊びに来たりしている

 

最近ようやく家族四人でずいずいずっころばしに行った

 

横須賀に言われ、たいほうと一緒に絵日記を書いたのを覚えている

 

「すごいだろ‼︎」

 

「へぇ〜‼︎」

 

「トゥルントゥルンだぁ‼︎」

 

親父の愛機であるコルセアは、ステルスコーティングを施されたのか、青いカラーリングから、光沢のあるトゥルントゥルンの黒に変わっていた

 

因みに震電にもこのトゥルントゥルンのコーティングが施されている

 

「スッゲェ…」

 

震電のパイロットからため息が漏れる

 

何せ、一応歴戦を切り抜けたパイロットが三人も目の前にいるのだ

 

「リチャード‼︎」

 

「げっ‼︎」

 

「レイ‼︎」

 

「げっ‼︎」

 

互いの妻がやって来た

 

現状、部下を引き連れてサボッているこの状況

 

多分親父は母さんからビンタされる

 

「休憩しましょう⁇疲れたでしょう⁇」

 

「あ、はい」

 

母さんが膝に置いていた紙箱には、焼き立てであろう小さなマフィンが沢山入っていた

 

「お茶もいっぱいあるわよ」

 

横須賀の手にはデッカいペットボトルがある

 

俺達は黒いコルセアの下にマットを敷き、マフィンを食べ始めた

 

「リチャード。まさかサボッてたんじゃないですよね⁇」

 

「い、いやぁ〜‼︎ま、まさか‼︎さささサボッてるなんてまたまた〜‼︎」

 

親父の目が泳ぐ

 

「リチャード‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

「私の目を見て言いなさい」

 

「サボッてました。はい」

 

「マーカス⁇お父さんがサボッていたら、撃っても良いからね⁇お母さんが許します」

 

「オーケー」

 

そこにいた全員が笑う

 

「あっ、そうだ‼︎部隊の名前決めなきゃ‼︎報告しなきゃダメなのよ‼︎」

 

「スーパー最強無敵強靭部隊なんてどうだ⁉︎あだっ‼︎」

 

親父がメチャクチャダサい名前を付けようとした途端、母さんは親父の頭を平手打ちした

 

「レイ、きそちゃん。二人が決めないとそれにするわよ」

 

「そ、それで良いんじゃないかなぁ…ははは」

 

きそは面白半分でホントにその名前にしようとしている

 

「お前らは何か良い名前はあるか⁇」

 

「マーカス大尉が決めて下さい」

 

「我々はスーパー最強無敵強靭部隊でも構いません‼︎」

 

震電の若いパイロットの素直さが怖い…

 

「そんな名前じゃ無線で呼びにくいな…”サンダース隊”…なんてどうだ⁇」

 

一同から「おぉ〜」と声が上がる

 

ようやくまともな名前が出て、尚且つカッコ良さげだ

 

「いいわね‼︎異議がなければそれで通すけど…」

 

誰も異議を言わなかった

 

震電の名に恥じない部隊名であり、そして彼等が憧れているであろうサンダーバード隊からも名を貰っている

 

「オッケー。なら決まり‼︎貴方達はサンダース隊。んでレイ。アンタ仮の隊長ね」

 

「俺は隊長ってガラじゃ…」

 

隊長と言われると、どうしても気が引けてしまう

 

越えてはならない壁の様な気がするからだ

 

「心配しなくていいわ。彼等が立派なパイロットになったら、リチャード中将に任せるから」

 

「お任せあれ‼︎」

 

「リチャード⁇ちゃんと教えなきゃダメよ⁇分かった⁇」

 

「そりゃあもちろ…」

 

「お酒のくすね方とか」

 

「ゔっ…」

 

「お釣りのチョロマカシとか」

 

「ゔっゔっ…」

 

「エッチな本の貸し借りとか」

 

「ゔっゔっゔっ‼︎」

 

親父は母さんに散々言われ、ついにいじけてしまった

 

「分かりましたかリチャード‼︎」

 

「う…はい…」

 

母さんは嬉しそうだ

 

オヤツタイムも終わり、今日は解散になった

 

腹が減ったので、きそと一緒に繁華街に行こうとしたら、親父も着いて来た

 

「あ、そうだマーカス。お前何で昨日タウイタウイモールで無視したんだ⁇」

 

「あ⁉︎タウイタウイモールだぁ⁉︎行ってねぇぞ⁉︎」

 

「居ただろ⁉︎アレは完全にお前だ‼︎」

 

「他人の空似じゃねぇのか⁇昨日は1日基地にいたし…なぁ⁇」

 

「うん。昨日レイはみんなとスゴロクしてたよ‼︎」

 

「じゃあアレは誰だ‼︎」

 

「知るか‼︎アレだ‼︎俺のクローンだクローン‼︎」

 

「お前が言うとシャレにならんぞ…」

 

「ったく…行くぞ」

 

俺達はいつもの様にずいずいずっころばしに入った

 

「やってるか⁇」

 

「いらっしゃい‼︎げっ‼︎中将‼︎」

 

「ちったぁデカくなったか‼︎はっはっは‼︎あだっ‼︎」

 

挨拶早々、親父は瑞鶴にセクハラ発言をブチかます

 

俺は母さんがそうしているように、頭を平手打ちした

 

「開幕早々セクハラしてんじゃね〜よ‼︎」

 

「んっ‼︎かんぴょう巻き流してくれ‼︎」

 

「かしこまりました‼︎」

 

横一列にカウンター席に座り、きそは流れて来たマグロとタマゴを取り、先に食べ始めた

 

「かんぴょう流しま〜す‼︎」

 

「来たぁ‼︎」

 

瑞鶴の握ったかんぴょう巻きがレーンに流れた瞬間、親父は全部取った

 

「中将はホントかんぴょう巻き好きですねぇ」

 

「甘くてグッドだ」

 

「それと中将‼︎私この間計ったら2センチ増えてました‼︎次ナイチチ扱いしたら爆撃するからね⁉︎」

 

「素晴らしい‼︎バストは大きい程素晴らしい‼︎」

 

俺の巨乳好きは親父から受け継いだのか…

 

「かんぴょう食べたらおっきくなるのかなぁ…」

 

きそは何故かずっと胸を気にしている

 

周りに巨乳が多いからなのかも知れない…

 

「にしても親父。瑞鶴と仲良いな⁇」

 

「瑞鶴は話し易いからな」

 

「そう言って頂けると幸いです、ちゅ〜じょ〜⁇」

 

瑞鶴はカウンター越しに、イタズラに親父に顔を近付ける

 

どうやら何か因縁があるみたいだ

 

その後俺達は寿司をたらふく食べ、いざデザートに手を伸ばそうとした

 

「いやぁ〜‼︎食った食った‼︎」

 

「親父」

 

「ん〜⁇」

 

「瑞鶴となんかあったろ⁇」

 

「なっ、ないっ‼︎」

 

「姫に言うよ⁇」

 

「それはいかん‼︎」

 

きその一撃が効いた様で、親父は口を割った

 

「瑞鶴とは…その…」

 

「だいぶ前に、襲われてる所を助けて貰ったんですよ」

 

「…」

 

話を聞くと、瑞鶴が横須賀から出て買い出しに行った時、ナンパされたらしい

 

瑞鶴は断っていたのだが、男性は無理矢理何処かへ連れて行こうと腕を掴んだ

 

そこに親父が急にバイクで現れ、男性を蹴り飛ばし、瑞鶴を背後に乗せて救出したらしい

 

「スッゴクカッコ良かったんですよ⁉︎」

 

「俺はいつだってカッコイイッ‼︎」

 

「うはは‼︎レイソックリだ‼︎」

 

「そう…貴方、またナンパしようと…」

 

「そうそう‼︎ホントは俺がナンパしよう…と…ハッ‼︎」

 

親父の横には、いつの間にか母さんがいた

 

「ふふっ…リチャード⁇」

 

「なぁに⁇スパイトしゃ…どわぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

親父が言う間も無く、母さんの笑顔の右ストレートが炸裂

 

親父は顔がメリ込む位殴られ、軽く吹っ飛んだ

 

「ズィーカク。ホントにごめんなさい」

 

「あぁ…いえいえ…あはは…」

 

「リチャード‼︎」

 

「はひっ‼︎」

 

「…今日は分かってるでしょうね⁇」

 

母さんが真顔で手をバキバキ鳴らす

 

「うひっ…」

 

きそが俺の腕を掴む

 

こんなに怒った母さんを見るのは初めてだ

 

「…今からイセに行って、私とデートしなさい」

 

「喜んで‼︎じゃあなレイ‼︎きそちゃん‼︎」

 

親父はすぐに母さんの車椅子を引き、ずいずいずっころばしから出て行った

 

「気を付けてな…」

 

「ばいば〜い…」

 

呆れ半分で親父と母さんを見送る

 

アレだけ渾身の右ストレートをモロに喰らって無傷の親父も相当だぜ…

 

「中将って、マーカスさんのお父さん⁇」

 

「そっ。よく似てるだろ⁇」

 

「特に性格が似てます‼︎」

 

「顔も似てるよ‼︎」

 

殴り飛ばされたり、セクハラしまくるのに、何故中将になれたのか不思議だ…

 

「そう言えばマーカスさん。数日前お一人でいらした時、お会計多目に頂いたみたいで…」

 

「ちょっと待て…俺はここに一人で来た事ない」

 

「えっ⁉︎じゃああの人は誰ですか⁉︎」

 

「中将も同じ事言ってたね⁇」

 

「俺のニセモンがいるのか⁇それともホントにクローンか⁉︎」

 

「マーカスさんが言うとシャレにならないんですけど…」

 

「う〜ん…」

 

どうやら、俺にソックリな奴が居るらしい

 

「あ…言われてみれば、何か無口だったかも」

 

「ますます分からん…」

 

「レイ。明日タウイタウイモールに行ってみようよ‼︎何かヒントがあるかも‼︎」

 

「そうだな。ごちそうさん‼︎」

 

「ありがとうございました‼︎またのご来店を‼︎」

 

俺達もずいずいずっころばしから出た

 

店を出てすぐ、きそと手を繋いで繁華街をブラブラする

 

「瑞鶴ってさ、いい匂いするよね。甘〜い感じの‼︎」

 

「目ェ離したら親父が手ェ出すぞ…」

 

瑞鶴のあの絡みやすさ、好きな奴は多いんじゃないだろうか…

 

それよりとにかく明日だ

 

そんなに俺に似ているのだろうか…

 

 

 

 

 

 

 

その頃、リチャード中将とスパイトは…

 

「美味しいか⁇」

 

「おいしい‼︎リチャード、ありがとう‼︎」

 

スパイトは口の周りにいっぱいクリームを付け、リチャードの前で幸せそうにケーキを頬張る

 

姫は本当に好きな人の前では、極端に甘えん坊になる

 

「リチャード、スパイトのことすき⁇」

 

「好きだよ。だから頼むから許してくれ‼︎」

 

「スパイトしってるよ。リチャード、ズィーカクをたすけただけでしょ⁇」

 

「そうだっ‼︎」

 

「なら、スパイトにチューして‼︎」

 

「こっ、ここでか⁉︎」

 

「はやく〜っ‼︎」

 

この後青葉にキス写真を撮られ、全提督に知れ渡るまで、さほど時間は掛からなかった…

 



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156話 タウイタウイモールでチョット休憩

155話の続きのお話です

ドッペルゲンガーを探しに、タウイタウイモールにやって来たレイときそ

久方ぶりに、みんなの娘が登場します


「いやぁ〜‼︎着いた着いた‼︎」

 

翌日、きそを連れてタウイタウイモールに来た

 

俺にソックリな奴を探す為、そして軽く買い物をする為だ

 

相変わらず人で溢れかえっている

 

「よっこら…」

 

「うはっ‼︎」

 

きその脇に手を入れ、肩の上に乗せる

 

「どうだ‼︎見渡せるか‼︎」

 

「すっごい見えるよ‼︎」

 

ずっとたいほうやひとみといよを乗せているせいか、最近肩に何か乗っていないと落ち着かない

 

「マーカス大尉‼︎お疲れ様です‼︎」

 

ストラットが挨拶に来た

 

これは丁度良い

 

「ストラットさん。二日前、レイを見た⁇」

 

聞きたい事はきそが聞いてくれた

 

「えぇ。女性と一緒でしたよ⁇」

 

「はは〜ん…レイ浮気⁇」

 

「ソフトクリーム無しな」

 

「分かったよぉ‼︎ゴメンってばぁ‼︎」

 

「私が呼んでも通り過ぎて行きましたので、何か怒らせたのかと…」

 

「そいつは俺じゃない‼︎ニセモンかクローンだ‼︎」

 

「なるほど…他人の空似ですか」

 

「俺達は買い物しながら探してみるよ。ありがとう」

 

「どうぞごゆっくり」

 

ストラットと別れ、とりあえずきそとの約束であるソフトクリームを食べに屋上へ向かう

 

「いらっしゃいまへ〜」

 

「いらっしゃいまへ〜、だって‼︎何売ってるの⁇」

 

「阿武隈ドーナツです‼︎はいっ、どうぞ〜」

 

阿武隈は相変わらず小さく切ったドーナツを食べさせてくれた

 

「美味しい‼︎」

 

「十個入りを二つくれるか⁇」

 

「はいっ、ありがとうございます‼︎」

 

「レイ。あぶくまチャレンジだってさ‼︎」

 

「どれ…」

 

レジの横の小さなのぼりに

 

”あぶくまチャレンジ‼︎あぶくまの名前を漢字で書いてみよう‼︎”

 

”10個買う毎に一回チャレンジ‼︎あぶくまの名前を漢字で書けたら一個サービス‼︎”

 

「書いてみて」

 

阿武隈から紙を渡され、俺は名前を書いてみた

 

「こうだ‼︎」

 

阿武隈と書いた紙を阿武隈に返す

 

「すごいすごい‼︎二つサービスです‼︎」

 

阿武隈はサービスで二つドーナツをくれた

 

…阿武隈よ

 

名前を書いてみてと言うのは良いが、看板に思いっきり

 

”阿武隈ドーナツ”

 

と書いてあるのはどうなんだ…

 

その後、きそは阿武隈にソフトクリームも作って貰い、近くのベンチで座って食べ始めた

 

「ソフトクリームもちょっとハチミツ味で甘いよ‼︎」

 

「中々イケるな」

 

「マーカスさん」

 

「山風。一人か⁇」

 

「ううん。お母さんと一緒だよ」

 

山風が屋上遊園地のアトラクションから降りて来て、声を掛け来た

 

「マーカスさん、この前は風船ありがとう」

 

「風船⁇」

 

「うん…山風が手を離したら飛んで行っちゃって…マーカスさん、代わりの風船くれたでしょ⁇」

 

「そ、そうだったか⁇」

 

子供にはホントの事を言い難いな…

 

「この前、隣にいた人だぁれ⁇真っ白な肌をした人。凄く可愛かったよ⁇」

 

「あれは〜え〜と、その〜…」

 

「やっ、山風ちゃん‼︎その人、レイじゃないんだ‼︎」

 

「ホント⁇なら、マーカスさんにソックリで、撫で方も凄く似てた」

 

「そんなに俺に似てたか⁇」

 

「うんっ。ちょっと無口だったけどね」

 

「ホントに分からん…誰なんだ…」

 

「あたし、お母さんとお買い物に行くから、もう行くね⁇」

 

「あ‼︎山風‼︎これやる‼︎」

 

俺は手にしていたドーナツを山風の前に出した

 

「はむっ…」

 

山風は一口食べた後、すぐに一礼して去って行った

 

「どうも女と一緒だったらしいな…」

 

「しかも真っ白な肌って言ってたよ⁇」

 

「心当たりが全くない‼︎」

 

謎は益々深まって行く…

 

今の所得られたのは、山風が可愛いって事だけだ

 

 

 

 

多少情報が得られたが、所在が掴めないまま、一旦ゲーセンに来た

 

「ハギィ。ちょっとやって見るダズル」

 

「HAGYに出来ますでしょうか…」

 

「あっ‼︎榛名さん‼︎」

 

ゲーセンには榛名とHAGYが居た

 

「は、ははは榛名お前…HAGYにもハンマーを…」

 

HAGYの手にはハンマーが握られている

 

「人聞きの悪い事言うんじゃないダズル‼︎ケチの横須賀がやらせてくれないからココでしてるんダズル‼︎」

 

よく見ると、HAGYの前には機械のワニが出現している

 

HAGYはそれを叩き、引っ込ませる

 

「終わりました」

 

「50点ダズルか。榛名もやるダズル‼︎」

 

榛名は袖を捲り、HAGYからハンマーを受け取る

 

「さぁ、かかって来るダズル‼︎」

 

榛名は出現したワニにハンマーを振り下ろす

 

HAGYの時にはパンパンやバシバシだったが、榛名が叩くとバシンバシンバキバキィと音がし始めた

 

数十秒もしない内に、悪いは出て来なくなった

 

「はんっ‼︎怖じ気付いたダズルか‼︎」

 

《お店の人を呼んで下さい》

 

「貧弱なワニダズル‼︎榛名に楯突こうなんざ10年早いダズル‼︎」

 

《お店の人を呼んで下さい》

 

ワニを叩くゲーム機からは、お店の人を呼んで下さいとしか言わなくなった

 

「は〜る〜な〜っ‼︎」

 

煙を吹きながら、何処かの回線がショートしてバチバチしているゲーム機に気付き、ようやくワンコが来た

 

「榛名は壊しとらんダズル。ワニが勝手に出て来んくなっただけダズル」

 

「横須賀のワニも壊したでしょ⁉︎」

 

「横須賀のワニも貧弱ダズル‼︎」

 

「とにかく‼︎榛名は金輪際コレしちゃダメ‼︎分かった⁉︎」

 

「何でダズル‼︎」

 

榛名は地団駄を踏んでワンコに刃向かう

 

「榛名だってワニしたいダズル‼︎」

 

「じゃあ榛名⁇今月、このワニ何台壊した⁇」

 

「榛名は壊しとらんダズル。勝手に壊れたんダズル」

 

ワンコは指を4本立てた

 

「今月まだ始まったばっかりなのに四台目‼︎」

 

「んな事は無いダズル」

 

「横須賀で二台、ここで一台。そんで今日もう一台‼︎」

 

「…榛名が悪いんダズルか」

 

「悪いとは言ってないよ。ただ、加減はしようって言ってるだけさ」

 

その時、榛名の目からポロポロと涙が落ちている事に気が付いた

 

「榛名だってワニ叩きたいダズル‼︎提督のアホ‼︎提督なんかハギィに茹でられるといいダズルゥ‼︎うえ〜〜〜〜〜ん‼︎」

 

よほどワニを叩きたかったのか、榛名はその場で大泣きし始めた

 

「ホントすみません…」

 

「榛名。俺達が造ってやるよ」

 

「僕達が造ってあげるから、ねっ⁇泣かないでよ‼︎」

 

「ひっく…えぐえぐ…」

 

よっぽど悔しいのか、中々榛名は泣き止まない

 

「榛名。HAGYは榛名をカッコイイと思いますよ⁇」

 

「ゼッテー…ひっく…嘘ダズル…」

 

「ホントですよっ…」

 

「俺もそう思うぞ。清霜が榛名みたいになりたいって言ってたぞ⁇」

 

「僕も榛名さん好きだよ‼︎」

 

「ほらっ。マーカスさんもきそちゃんもそう言ってますよ⁇」

 

HAGYは榛名の背中をさすり、何とかなだめようとする

 

「榛名はハンマーが無いと生きられんダズル…」

 

「榛名⁇」

 

「何ダズル…」

 

「このゲームが壊れたら、他の子供が出来なくなるでしょう⁇榛名はそれでもいいの⁇」

 

「それはいかんダズル…」

 

「なら、次からはもうちょっとゆっくり叩こう⁇ねっ⁇」

 

「…うん」

 

どうやら最近、榛名はストレスが溜まっているらしい

 

ニムも自分を慕ってくれ、HAGYは自分の面倒を見てくれる母親の様な存在

 

そしてそんな二人に止められ、提督へのダイレクトアタックも控えている

 

海へ出撃もするが、時たま現れる不審船を叩きのめして沈める位である

 

榛名にとって、これ程ストレスが溜まる生活はないが、良い方に考えれば、マトモな生活を送れる様になって来ている

 

そんな中、ここのゲーセンや横須賀にある遊戯場、そして自身の基地にある訓練室でハンマーを振り続けている

 

「榛名。ニムにお土産を買って帰ろうか⁇」

 

「アイス食べたいダズル」

 

「うんっ、アイスも食べましょうね⁇」

 

「レイさん、きそちゃん、今日はこれで」

 

「また遊びに行くよ」

 

「バイバイ」

 

榛名はHAGYとワンコに連れられ、ゲーセンから去った

 

「さてと…」

 

「おもちゃ売り場行こう‼︎」

 

俺もきそも、ゲーセンで居る気が無くなってしまい、おもちゃ売り場に来た

 

「うはは‼︎何これ面白い‼︎」

 

きそは手に付かない砂で遊び始めた

 

「おっ」

 

きそが砂で遊んでいる横で、俺はプラモデルに目が行った

 

「へぇ〜。昔の映画に出て来た機体か」

 

映像作品に出て来た架空の航空機のプラモデルの特設コーナーがあり、沢山ある中の一つを手に取った

 

手に取ったプラモデルの箱には、フィリップに似た機体が描かれている

 

何だか懐かしい気がする…

 

きそとたいほうが作りそうだな…

 

買って帰るか

 

となると、もう一つ欲しいな…

 

「こいつは…」

 

もう一つ手に取ったのは、今度はグリフォンにソックリな機体が描かれた箱

 

前進翼がカッコ良く、実に近代的なボディをした機体だ

 

これにしよう

 

「レイ、何か買うの⁇」

 

きそが戻って来た

 

「ん〜⁇フィリップとグリフォンに似てるなと思ってな」

 

きそに二つの箱を見せる

 

「ホントだ‼︎え〜と…フレイムフォックスと、戦闘精霊突風かぁ…カッコイイね‼︎」

 

「たいほうと一緒に作ってくれるか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

プラモデルを二つ買い、今度は手を繋いでその辺を歩く

 

「いないね」

 

「う〜ん…」

 

目的である、自分とソックリな人を探すが、幾ら探しても見つからない

 

目撃情報こそあるものの、真相は全く掴めないでいた

 

そんな時、大和とアイちゃんが前方から来るのが見えた

 

「よっ。買い物か⁇」

 

「あれっ⁇マーカスさん⁉︎さっき外でアメリカンドッグ食べてましたよね⁉︎」

 

「Dr.レイが二人⁉︎」

 

「来た‼︎来たよレイ‼︎大チャンスだ‼︎」

 

ようやく来たチャンス

 

逃す訳にはいかない

 

「あ、アイちゃん‼︎そいつどこで見た⁉︎」

 

「船着場の近くのホットスナックよ‼︎」

 

「ありがとう‼︎きそ、行くぞ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

俺はドーナツが入った袋

 

きそはプラモデルが入った袋を持ったまま、船着場へ走った

 

「ヤマト。何でDr.レイが二人いるの⁇」

 

「さぁ…分からないわ…」

 

「ちょっと行ってみようよ‼︎」

 

「あ、コラ、アイちゃん‼︎」




きそネティック


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156話 二人のマーくん(1)

題名は変わりますが、前回の続きです


息を切らして船着場に着くと、そこにはもう目当ての人物は見当たらなかった

 

「チクショウ‼︎逃したか‼︎」

 

「もうちょっとだったのに〜っ‼︎」

 

二人して地団駄を踏んでいると、ネコミミ付きのフードを被った人が、フーセンガムを膨らませながら此方に来た

 

「ダレカサガシテンノ⁇」

 

「まぁな…」

 

顔は隠しているが、一発で分かった

 

…深海の子だ

 

「ヘェ〜。ハカセニソックリ」

 

「博士⁇」

 

「ソッ。”ヴェア”ノハカセ。イッショニコウドウシテルンダ」

 

「ヴェア…」

 

「スペルはV、E、Aだ」

 

背後から聞こえて来た男性の声に、妙に聞き覚えがあった

 

振り返ると、手にフランクフルトを持った俺ソックリな男性がいた

 

「久しぶりだな、マーカス」

 

「あんたは…」

 

「ヴェアノハカセ。マーク・コレット」

 

「あっ‼︎」

 

名前を聞いて思い出した

 

サラの旦那だ‼︎

 

「うはぁ〜…レイそっくりだ…」

 

まるで自分の生き写しが目の前にいるみたいだ…

 

ホントに似ている

 

強いて言うなら、ホントに少しだけ、俺より老けているのと、ダッフルコートを着ている事位だ

 

「ま、マークさんと呼べばいいか⁇」

 

「何だっていいさっ。マークでも、マークさんでも。それに敬語も使わなくていい」

 

「分かった」

 

「積もる話もあるだろう。どうだ⁇横須賀で飯でも」

 

「あ…あぁ、そうだな」

 

「連絡入れとくよ‼︎」

 

きそに連絡を入れて貰い、俺達は横須賀へと向かった

 

 

 

 

横須賀に着くと、先にマークとヴェアは待っていてくれた

 

「蟹でいいか⁇」

 

「オッケーだ」

 

四人で瑞雲に入り、日向に個室へと案内された

 

「さて…」

 

マークはタバコに火を点けた

 

…吸ってるタバコまで一緒かよ

 

「とにかく礼を言わせてくれ。この戦争を休戦まで導いた事に」

 

「俺だけじゃない。隊長やジェミニ達の手助けがあってこそ出来た事だ」

 

「なるほど…」

 

「俺から先に聞いていいか⁇」

 

「なんなりと」

 

「悪いとは思ったが、機密文書を見た」

 

「君の記録しか書いていなかっただろ⁇」

 

「まぁ…それでだ。書かれていた文書を見る限り、マークは、その…」

 

「死刑になったはず、か⁇」

 

「そうじゃないのか⁇」

 

「なったさ。本国でね」

 

「ヴェアガタスケタ」

 

「まっ。何人かは…な⁇」

 

「なるほど…」

 

要は殺して生き延びた、と言う事だ

 

「生きる為に殺す…食うのと一緒だろ⁇」

 

マークの目は、最初見た時より鋭くなっており、俺達二人を睨み付けていた

 

「人の事言えないのが辛い…」

 

「な〜んてな‼︎ちょっと気絶させただけさ‼︎」

 

「ヴェアモソンナコトシナイ」

 

「んで、今の今までどこに居たんだ⁇」

 

「今はこうしてヴェアと各国を渡り歩いて、資源の手配やら休戦の手続きをしてる。マーカスの知り合いにも会ったぞ⁇ミサイル君だっけ⁇」

 

「…ミハイルじゃねぇのか⁇」

 

「あぁ、そうそう。そんな名前だ」

 

「カニガキタ」

 

ヴェアはガムを紙に包んで捨て、蟹鍋に箸を入れた

 

ヴェアを見て、俺達も蟹鍋を食べ始める

 

「これからも世界を旅するのか⁇」

 

「いや…もうある程度の主要国は回った。そろそろ落ち付きたいな…」

 

「それでここ数日横須賀に⁇」

 

「そんな所だ。ヴェアと住める様な場所があれば良いんだが…」

 

「じゃあじゃあ、横須賀に住んだら⁉︎」

 

それはきその一言だった

 

「横須賀に、か⁇」

 

「話を聞いてて分かったんだ‼︎孫もいるよ‼︎」

 

「ジェミニの子か⁇父親は誰だ⁇」

 

「レイ‼︎」

 

「そうかマーカスか‼︎君なら大丈夫だろ。どうだ、君に似てるか⁇」

 

マークの顔がニコやかになる

 

ついでにヴェアの顔も解れている

 

「ジェミニに似てたり、俺に似てたり…色々いるさ」

 

「楽しみだな…会えるといいなぁ…」

 

「飯食い終わったら会いに行こう。きっと子供達も喜ぶ」

 

「…マーカス」

 

「んあ⁇」

 

またマークの顔が険しくなる

 

「サラは…元気にしているか⁇」

 

「マークの帰りを今か今かと待ってる」

 

「そう…か…」

 

何故かマークの顔は浮かばれない

 

自分の妻に会うのが嬉しくないのだろうか⁇

 

「マーカス…その…多分当たってると思うんだが…」

 

「なんだ⁇」

 

「サラは…君の前で自殺しかけたりしていないか⁇」

 

「女の秘密は守る主義だ…すまん」

 

「なるほど…本当に迷惑を掛けたみたいだな…」

 

俺の返事はほぼ答えそのものだったが、マークは察してくれたみたいだ

 

「理由はそれじゃないだろ⁇」

 

「ふふ…何もかも見抜いてる、か⁇」

 

「なら、俺も多分当たってると思うんだが〜で言うぞ⁇」

 

「よし…」

 

俺はマークに耳打ちした

 

「…正直に言ったら、墓場まで持って行く…ヴェアを抱いたろ⁇」

 

「…何故分かった」

 

「…あれだけ妙な色気を出してる子とずっといりゃあ、誰だってそうなる」

 

二人してヴェアを見つめる

 

黒いパーカーに身を包み、フード部分にはネコミミ

 

そしてパーカーを着ていてもそこそこの主張をする胸

 

下は半ズボンなのか、パーカーを下まで下げると履いていない様にも見える

 

一見チャラそうに見えるが、フードの中からは顔立ちの良い、真っ白な肌の女の子が出て来た所を見ると、そういった感情を持っていなかったとしても、ジワジワと狂わされるに違いない

 

「…サラには黙っておいてくれ」

 

「…オーケー。男と男の約束だっ」

 

「ヴェアノワルグチカ」

 

「いんや。ヴェアは可愛いなって話さ」

 

「フゥン…」

 

ヴェアは素っ気ない態度を取るが、何処と無く照れている様にも見えた

 

話に集中していて、俺は蟹を食べるのを忘れていた

 

そろそろ食べよう

 

「あれ⁇」

 

「もう食べちゃった…」

 

既にきその前には大量の蟹の殻が置いてある

 

「サッサトタベナイホウガワルイ」

 

そう言うヴェアは蟹を殻ごと食べており、咥えた蟹をパキパキ言わせている

 

「…まぁいい。どうする⁇ジェミニに会うか⁇」

 

「頼んでいいか⁇」

 

「よしっ、じゃあ行こう」

 

瑞雲を出て、横須賀が居るであろう執務室に向かう

 

「あ、そうだ‼︎マークさん‼︎ちょっと先に入ってみてよ‼︎」

 

執務室の前に来ると、何故かきそがマークを先に執務室に入れようとした

 

「先にか⁇」

 

「僕達は後から行くから‼︎」

 

「…分かった」

 

「にししし…」

 

きそが何か企んでいる

 

マークは意を決して、執務室の扉を開けた

 

「あっははははは‼︎」

 

横須賀はリクライニングを倒し、ポテチをつまみながら、ホームシアターでコメディ映画を見ていた

 

怠惰丸出しだ

 

あれじゃあ妊娠しても気付かないハズだ…

 

俺達は扉のスキマから二人の様子を伺っていた

 

「あらレイ‼︎子供達は学校よ⁇」

 

「お前に逢いに来た」

 

「あらっ…嬉しいじゃない」

 

横須賀はホームシアターを消して明かりを点け、リクライニングを戻してマークを見つめる

 

「ご飯でも食べに行く⁇」

 

「食べて来た」

 

「気付かないモンだね…」

 

「ハカセトマーカス、ホントニニテル」

 

ヴェアも興味津々で執務室の中を見る

 

「サラはどうした⁇」

 

「お母さんは明石と一緒に研究室にいるわ」

 

「そっか…」

 

「なぁに⁇レイ今日変ね⁇あっ…」

 

マークは横須賀の顔を掴み、マジマジと見つめる

 

「そっ…そんなに見られると照れるんだけど…ていう、ちょっと老けた⁇」

 

「レイ、レッツラゴーだ‼︎」

 

「誰が老けただって⁉︎」

 

「えっ⁉︎レイが二人⁉︎どういう事⁉︎アンタまさかクローンでも造ったんじゃないでしょうね⁉︎」

 

「んな技術無いわ‼︎」

 

「いやあるよ⁉︎あるけど違うよ⁉︎」

 

きそのツッコミで、横須賀はちょっとずつ気付き始める

 

「ちょっと待って‼︎どっちが本物のレイよ‼︎」

 

「お前の旦那は向こうだ。ジェミニ」

 

「じゃあアンタ誰‼︎」

 

「お前のお父さんだっ‼︎」

 

マークはそう言って、横須賀の頬を引き延ばす

 

横須賀は驚いた表情をした後、目をウルウルさせ始めた

 

「ヤダ…レイソックリじゃない…」

 

「自分でもビックリしてるよ。他人の空似ってのはあるんだな」

 

横須賀は目に涙を溜めるが、驚き過ぎて涙を流せないでいた

 

「サラは研究室って言ってたな⁇」

 

「そ、そうよ…」

 

「マーカス。案内してくれるか⁇」

 

「はいよっ」

 

「ヴェアモイク」

 

「僕はお母さんといるよ‼︎」

 

きそと横須賀を執務室に残し、俺達は研究室に向かう

 

「ソレニシテモ、ハカセトマーカスハホントニニテルナ…ヨコニナラベラレタラ、ヴェアモワカンナイカモ」

 

「そういや、マークは本当に若いな⁇今幾つだ⁇」

 

「さぁな〜40から先は覚えてない。深海棲艦になると、年を取らなくなるからな」

 

「…なんだと⁇」

 

マークはサラッと物凄い事を言った

 

深海棲艦になると年を取らなくなるのも知らなかった情報だが、それよりも…

 

「実験するなら自分から。私のモットーだ。お陰で不死身に近い体を手に入れた」

 

「俺と一緒か…」

 

「いや。少し違う。私はただ単に死に難い体になっただけ。マーカスは全身を深海化出来る」

 

「とりあえず、助けてくれてありがとう」

 

「ヴェアに言ってくれ。君を連れ帰ったのはヴェアだ」

 

「ヒメノタノミダ。シカタナイ」

 

「姫⁉︎」

 

「チュウスウセイキ」

 

「あ…そう言えば、俺を深海にしたのは…」

 

「君の体のベースは中枢棲姫らによって出来上がっていた。私はちょっと手を加えただけだ」

 

「あいつにも感謝しなくちゃな…ここだ」

 

研究室の前に着いた

 

研究室はガラス張りになっており、廊下からでも中が伺えた

 

「サラ…」

 

明石と話していたサラはマークに気付き、嬉しそうに笑った後、小走りで此方に来た

 

「マーくんっ‼︎」



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156話 二人のマーくん(2)

オトモヴェアー


出て来た瞬間、サラは飛び付く様にマークに抱き着いた

 

「サラに会いに来てくれたの⁇」

 

「サラっ…」

 

マークはサラをキツく抱き締めた

 

「マーくんマーくんマーくんっ‼︎」

 

二人を見ていて、俺はマークを越えられないと思った

 

やはり、サラと居る時は偽りの愛だったのだと実感させられた

 

「すまんな。長い間心配かけて…」

 

「ううん、いいの‼︎おかえりなさい、マーくん‼︎」

 

どうやらサラは俺と間違えていない様子だ

 

少しの間だけだが、サラの傍に居たから、それは何となく分かった

 

「マーくんありがとう‼︎マーくんを連れて来てくれて‼︎」

 

「俺はもうマーくんじゃないな…レイでいい」

 

「ダ〜メッ‼︎二人共マーくんっ‼︎」

 

サラは俺も抱き締めた

 

「二人共、サラの大切なマーくんよ…」

 

「わ、分かった…分かったから、さっ、サラ…」

 

「苦しい…」

 

俺もマークも、サラの胸に抑え付けられ息が出来なくなっていた

 

「ふふっ、Sorry‼︎」

 

幸せそうなサラを見て、俺はそっと引いた

 

その時、何故か胸の奥底が痛んだ

 

その答えはすぐに分かった

 

偽りの、誰かの代わりの愛だと分かっていた

 

自分の嫁の母親だと言う事も分かっていた

 

それでも俺は心の何処かで、サラを愛していた

 

それと、きその気持ちもちょっと分かった気がした…

 

「ナンダ。カナシイカ」

 

「いんや。幸せだなぁ…ってな」

 

「ハカセガシアワセナラ、ヴェアモウレシイ」

 

「ヴェアはこれからもマークの傍にいるのか⁇」

 

「ハカセガイラナイトイウマデ、ヴェアハハカセヲマモル。ソレダケ」

 

「マークの事、好きなんじゃないのか⁇」

 

「スキサ。ダカラダカレタ。ハカセニダカレタシ、ヴェアモダイタ。イッパイ。ダケド、ヴェアノハカセガスキハ、マタチガウ」

 

「尊敬とかか⁇」

 

「ソンナカンジ」

 

ヴェアは俺と少し話した後、パーカーの腹部分に付いたポケットからガムを取り出し、膨らまし始めた

 

「マーカスモタベル⁇フーセンガム」

 

「ありがと」

 

ヴェアの前に手を出すと、ヴェアはガムの入れ物を振り、二、三個ガムを出してくれた

 

「ブドウアジ」

 

「ありがと」

 

ガムを噛み、フーセンを作ろうとしていると、ヴェアは此方を見ながらフーセンを作って、割って、また口に入れた

 

「フフフ」

 

初めてヴェアの笑った顔を見た

 

結構可愛い

 

「ヴェア」

 

「ン」

 

マークが戻って来た

 

「これからも私と一緒に居てくれるか⁇手が必要な事がいっぱいあるんだ」

 

ヴェアがまた笑う

 

「ウン。ハカセガノゾムナラ」

 

「良かった良かった‼︎じゃっ、俺はジェミニと何か食ってくるよ‼︎」

 

何だか、この場に居てはいけない気がした

 

俺は数歩後退りした後、横須賀の居る執務室に戻った

 

「マーカス、キヲツカッテクレタ」

 

「今度マーカス達も誘って、みんなでご飯食べような⁇」

 

「ウンッ」

 

 

 

 

執務室に戻って来ると、学校から帰って来た清霜とガングートが、きその左右にくっ付きながらホームシアターを見ていた

 

「おかえりなさい」

 

「…ただいまっ‼︎」

 

横須賀の顔を見て、何だかホッとした

 

「レイ」

 

「何だ⁇」

 

「私、泣かないって決めたわ」

 

「何でた⁇」

 

「笑顔の方が似合うんでしょ⁇それに、子供達の前で泣いてたら示しが付かないわ⁇」

 

「二人きりの時位構わないさ」

 

「んっ…分かった…」

 

横須賀の頭を、子供達にしている様に撫でる

 

「やっぱりアンタの手は落ち着くわ…」

 

「イディオット‼︎ガン子も撫でろ‼︎」

 

「き〜ちゃんも‼︎」

 

「僕も‼︎」

 

いつの間にかホームシアターが終わっており、子供達が来た

 

俺は順番に頭を撫でた

 

三人共嬉しそうにしている

 

「この子達がジェミニの子か⁇」

 

「お父さん‼︎」

 

マークが一人で戻って来た

 

「ただいま〜っ‼︎」

 

「ただいま帰ったぞ」

 

朝霜と磯風も帰って来た

 

「オトン見ろ。い〜ちゃん100点取ったぞ」

 

「アタイも100点取ったぞ‼︎」

 

二人はすぐに俺の所に来てテストを見せてくれた

 

「よしよし‼︎凄いじゃないか‼︎」

 

「ちょちょ、ちょ〜っと待って⁉︎二人共、お父さんがどっちか分かるの⁇」

 

「匂いが違うなっ」

 

「オトンにはお母様の匂いが付いてる」

 

「ほほぅ⁇これは興味深いな…」

 

「あんだよ。アンタ誰だ」

 

「オトンの姿を模したスパイか」

 

朝霜と磯風はリュックから各々の武器を取り出す

 

「ちょちょちょちょっと待ちなさい‼︎朝霜‼︎鉄パイプしまって‼︎磯風はメリケンしまう‼︎」

 

「お前達のお爺ちゃんだ‼︎」

 

「オトンソックリだぞ‼︎」

 

「お父さんを模しても、アタイ達を騙そうったってそうは行かないぞ‼︎」

 

「はっはっは‼︎ジェミニの小さい時にソックリだな‼︎」

 

「…本当にお爺様か⁇」

 

「オトンのクローンじゃねぇのか⁇」

 

「ぐわっ…ちょっ…」

 

朝霜と磯風はマークにベタベタ触り始めた

 

「き〜ちゃんも触る‼︎」

 

「どわっ‼︎」

 

清霜が飛び掛かる様にマークに抱き着き、倒れた所をベタベタと触る

 

清霜は心を許すと懐く傾向にある

 

どうやら清霜はマークに懐いたみたいだ

 

「うぬ。大丈夫だ。彼に敵性反応はない」

 

「変な事したらズドンだからな‼︎」

 

「き〜ちゃんのお爺ちゃん‼︎」

 

「敵じゃないに決まってるでしょ‼︎もぅ…って言うか、どうやって敵じゃないって分かったのよ」

 

「匂いで判断したのと、これを使った」

 

磯風の手には、見た事がない装置が握られていた

 

「何だそれ⁇」

 

「あ〜ちゃんが作ってくれたのだ。これを使えば、相手の諸々の状態が分かる」

 

「朝霜っ‼︎アンタまた勝手に工廠使ったでしょ‼︎」

 

「ううう…悪かったってば‼︎そんなケンケン言うなよ…」

 

「疑うのは良い事だ。気にしないでいい…よっと‼︎」

 

マークは一旦清霜を横に置き、立ち上がった後清霜を抱き上げた

 

「なるほどな…」

 

「なるほど⁇」

 

「ふふっ、き〜ちゃんにはまだ早いかな⁇」

 

「き〜ちゃん知ってるよ。お父様は深海棲艦なんでしょ⁇」

 

「知ってるのか⁉︎」

 

「うんっ‼︎知ってる‼︎き〜ちゃん、お父様とお母様のハイブリッドだから強いの‼︎き〜ちゃんはお父様の力を受け継いでるの‼︎」

 

「みんな知ってるのか⁉︎」

 

そこにいた全員が頷く

 

その情報は、ガングートでさえも知ってる

 

横須賀も俺も、子供達に隠し事をあまりしていない

 

だから俺が深海棲艦なのも知っている

 

「そっかそっか。隠し事をしないのは良い事だ」

 

「さっ、レイ。ご飯食べに行きましょ。お腹空いたでしょ⁇」

 

「ん⁇あぁ、そうだな。行こう」

 

「オトンとお母様はデートか」

 

「そっ。二人の時間も必要なのよ⁇」

 

俺は横須賀に手を引かれてそのまま執務室を出て来た

 

「レイ、ごめんね」

 

「何がだ⁇」

 

「折角連れて帰って来てくれたのに、子供達があんな対応だし、私はどうしていいか分からないし…」

 

横須賀はパニックになっていた

 

だから父親が帰って来ても、涙を流せないでいた

 

「空いた時間は埋めらるさ。今からでも遅くはない」

 

「んっ…レイがそう言うなら…」

 

「だったら前向いてろっ‼︎」

 

「レイ…」

 

「大丈夫。俺も親父と会った時はパニックになったろ⁇そんなモンさ‼︎」

 

横須賀は何となく力無く微笑んだ

 

俺は横須賀を少しだけ抱き締めた後、繁華街に行き、二人でパスタを食べた…

 

 

 

 

 

 

 

マーク・コレットが横須賀基地に着任しました‼︎

 

深海棲艦”ヴェア”が横須賀基地に着任しました‼︎




マーク・コレット…深海側の科学者

サラの夫であり、横須賀の父

レイに瓜二つだが、他人の空似

深海の一件の後アメリカに戻り、処刑されたと思っていたが、オトモヴェアにより救出され、一命を取り留める

その後は深海側の基地で隠居しながら世界を飛び回り、休戦協定や各基地に輸送する資源等の要請を頼んでいた

榛名が見つけ、強奪した特殊な金属を一番最初に見つけ出したのは彼であり、ヴェアと共に平和利用しようと日々模索している





ヴェア…オトモヴェア〜

常にマークの傍に居る深海棲艦

黒いパーカーを着ており、丈の短いジーパンを履いている

フーセンガムが好きで、大抵は噛んでいる

パーカーの上からでも分かる位には胸が大きく、お尻もまぁまぁデカい

マークを”ハカセ”と呼んでおり、自身が産まれてからずっと彼の傍に居る

その為か、マークとは軽い肉体関係にあった時期もあったらしい

資料にあった通り、当初から味方であり深海側で一番最初に平和に目覚めた子でもある

頑丈で再生能力にも優れており、レイやマークが頑丈なのは、ヴェアの能力を移した為

実はグリフォンの外観資料を匿名で横須賀基地に送ったのは彼女


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157話 てうてうぼ〜う

さて、156話が終わりました

今回のお話は梅雨のお話です

梅雨の時期になると、左腕が痛むレイ

そんなレイを見て、双子が行動を起こします

一話だけですが、きっと可愛い双子が見れると思います


朝早く目覚めてしまった

 

時計を見ると、まだ朝の5時半

 

朝日が昇り始めてもおかしくないのに、今日は何だか薄暗い

 

雨…か

 

食堂に行くと、貴子さんが窓際でひとみといよを抱っこして外を眺めていた

 

「あめふってう」

 

「ざぁざぁ〜って」

 

ひとみもいよも外を指差したり、窓に付いた水滴を目で追ったりしている

 

「今日はお外はお休みね」

 

「たかこしゃんかみのけすごいお‼︎」

 

「もしゃもしゃ‼︎」

 

「ふふふ…湿気たらこうなるのよ…」

 

貴子さんの髪は雨が降るとモコモコになる

 

「う〜ん…」

 

あまりに雨が降ると、たまに左腕が痛む時がある

 

肩を回したり、腕を曲げたりするが、何か違和感が出る

 

「えいしゃんおはよ‼︎」

 

「おはよ‼︎」

 

「あら、早いわね⁇お腹空いた⁇」

 

「雨降ったら左腕がどうもなっ…」

 

三人の前で左腕を回してパキパキと音を立てる

 

「えいしゃん、あめきあい⁇」

 

「おてていたい⁇」

 

「そうだなぁ…ちょっと痛いかな⁇」

 

「お薬塗ってあげるわ」

 

「頼みます。ふぅ…」

 

ソファーに座ると、貴子さんの腕から降りた二人が貴子さんの後を着いて行っているのが見えた

 

「いよがすう‼︎」

 

「ひとみもすう‼︎」

 

「ならお願いしようかな⁇あんまり塗りすぎちゃダメよ⁇」

 

「わかた‼︎」

 

「わかた‼︎」

 

いよは何処で覚えたのか、痛み止めの塗り薬を引き出しから持って来た

 

「ろこいたい⁇」

 

「肩と左腕をお願いします」

 

「あかった‼︎」

 

服を脱ぎいよに肩を見せると、いよは薬のフタを開け、手に薬を付けて俺の肩に塗り始めた

 

「ひとみはこっちすう」

 

「んっ。頼む」

 

ひとみは俺の左腕に薬を塗り始める

 

「おくすいぬいぬい〜」

 

「ぬいぬい〜」

 

ひとみといよの小さい手は、貴子さんの手とは違う気持ち良さがある

 

大人の手では塗れない絶妙な位置にも薬を塗ってくれるからだ

 

「あいっ‼︎できたお‼︎」

 

「ぬいぬいした‼︎」

 

「ありがとう」

 

「二人共おてて洗っておいで。牛乳淹れたげる」

 

「わかた‼︎」

 

「おててあらう‼︎」

 

ひとみといよは薬が付いた手を洗いに洗面所に向かい、貴子さんは台所に入って行った

 

「ありがとう、貴子さん」

 

「ううん。あの二人がお手伝いしてくれるから、私も助かるわ⁇それよりも大丈夫⁇」

 

「大丈夫。幾分か楽にはなった」

 

「そっ⁇今日は飛ぶの⁇」

 

「今日は無い。久しぶりに新しい兵器でも造ろうかなっ…っと‼︎」

 

ソファーに寝転がり、リモコンでテレビを点けた

 

《梅雨入りの日本では、連日雨模様が続いています》

 

選局ボタンを押し、色んなチャンネルに変えてみる

 

《本日から今しばらく雨が続きます》

 

《こうも雨が続くと、洗濯物が乾きませんね〜》

 

「ったく…マスメディアはどいつもこいつも同じ話しかせんのか」

 

「ふふっ。ウィリアムもよく言ってるわ」

 

「雨、雨、雨…一回言やぁ分かるってんだ」

 

《つくってウキウキ‼︎あそんでワイワイ‼︎》

 

「…」

 

何気無しに、子供達がいつも見ている教育番組で手が止まった

 

ようやく雨以外の情報が来たからだ

 

「あらた‼︎」

 

「あ‼︎うきうきしゃん‼︎」

 

手を洗った二人が帰って来た

 

ひとみといよはテレビの前に座り、教育番組を見始めた

 

《今日はてるてるぼうずの作り方を説明するよ‼︎》

 

《てるてるぼうずを作ると、雨が止むんだよね⁇》

 

「てうてうぼ〜う⁇」

 

「てるしゃんのぼ〜う⁇」

 

テレビの画面では、ウキウキさんと呼ばれたMCがてるてるぼうずを作っている

 

「お〜…」

 

「てうてうぼ〜うか…」

 

薬が効いて来たのか、眠気が来た

 

「マーカス君。ご飯出来たら起こしてあげるわ」

 

「お願いします…ふぁ…」

 

俺は貴子さんの言葉に甘え、少しだけ目を閉じた…

 

 

 

 

 

 

「マーカス君‼︎いよちゃんひとみちゃん‼︎ご飯出来たわよ‼︎」

 

「んっ…」

 

貴子さんに起こされると、いつの間にかひとみといよが腹の上で眠っていた

 

「ん⁇」

 

顔の横に何かある

 

顔をそっちに向けると、そこにはてるてる坊主が2つ置いてあった

 

顔が書いてあり、小さくて可愛いてるてる坊主だ

 

「作ってくれたのか⁇」

 

「マーカス君の左腕が痛くならないようにって」

 

「お前ら…」

 

口を尖らせて眠っている二人の頭を撫でる

 

 

 

 

 

少し前…

 

「えいしゃんのおてていたいの、てうてうぼ〜うつくたらなおうかな⁇」

 

「あめふいおわたらなおう‼︎」

 

ひとみといよは食堂にあったティッシュを使い、てるてる坊主を作り始めた

 

「はいっ」

 

それに気付いた貴子さんは、二人に輪ゴムとマジックを渡した

 

「あいがと‼︎」

 

「あいがと‼︎」

 

二人はてるてる坊主を輪ゴムで留め、最後に顔を描いた

 

「れきた‼︎」

 

「てうてうぼ〜う‼︎」

 

ちゃんとマジックを元の位置に戻した後、二人は眠っていた俺の所に来た

 

「ここにおいとく」

 

いよはてるてる坊主を俺の顔の近くに起いた

 

「ひとみのもおいて⁇」

 

「わかた」

 

いよはひとみのてるてる坊主も置き、二人は俺の腹の上によじ登って来た

 

「はよげんきになえお〜…」

 

「いたいいたいのとんれけ〜…」

 

二人は俺の鼻を掻いた後、朝ごはんまで俺の腹の上で眠りに就いた

 

 

 

 

 

 

「後で工廠に飾って来るよ」

 

「えいしゃんおきたか⁇」

 

「てうてうぼ〜うつくたお‼︎」

 

二人も起きた

 

「ありがとな。工廠に飾るよ」

 

「あめやむお‼︎」

 

「いたいのおわい‼︎」

 

無邪気に笑う二人をもう一度撫でる

 

その日の昼、空は本当に晴れ渡ってくれた…

 

 

 

 

 

 

「お母様‼︎きーちゃんてるてる坊主作ったの‼︎」

 

「あらっ‼︎ありがとう‼︎」

 

横須賀でも子供達がてるてる坊主を作っていた

 

一番純粋な清霜はティッシュで作ったシンプルなてるてる坊主を作って横須賀に渡す

 

「いーちゃんのは、いーちゃんの髪で首を絞めてあるから効くぞ」

 

「つ、強そうね…ふふっ‼︎」

 

磯風は自分の髪で首を絞めてある、ちょっと怖いてるてる坊主

 

「アタイのは芳香剤入りだ‼︎」

 

「いい匂いね‼︎」

 

朝霜は湿気た部屋にいい匂いがする様に、爽やかな香りのする芳香剤入りのてるてる坊主

 

「ガン子もテーリーボーズを作ってみたぞ‼︎」

 

「んっ‼︎上手に出来たわね‼︎」

 

ガングートは布で作った頑丈なテーリーボーズを横須賀に渡す

 

3体のてるてる坊主と1体のテーリーボーズは横須賀の執務室の窓際に飾られ、気分も滅入る梅雨のひと時の癒しとなった…




読者の皆様へ



前回、ひとみといよを出さなかった事に関し、この場で謝罪致します

本当に申し訳ございませんでした

猛省しております

前回のお話を一通り投稿してしばらくしたのち、多方面から「何故ひとみといよが出てこないのか」と、苦情を数十件に渡り頂きました

作者の力不足及び、読者の皆様の心境を読み取れていないと痛感致しました

この場で謝罪致します

本当に申し訳ございませんでした

ですが、話の流れ的にどうしても、どうしてもひとみといよが出ない場合がございます

その時はどうかご了承下さい

他にも作者なりに個性的に魅力的に書いた艦娘が多数ございます

ハンマー榛名やきそちゃん

最近で言うならガン子ちゃんやきーちゃん等…

万が一ひとみといよが出てこない場合は、是非別の艦娘達の姿もお楽しみ下さい

作者も邁進して行きますので、これからも宜しくお願い致します




苺乙女より


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158話 死神と呼ばれた潜水艦(1)

さて、157話が終わりました

今回のお話は、少し前に出て来た北極海の誰かのお話です


「ロシア、北極海で謎の生物発見か⁉︎だって‼︎面白いね‼︎」

 

「きょーりゅー⁇」

 

「どうかなぁ⁇」

 

食堂できそとたいほうが変な雑誌を見ている

 

「何見てるんだ⁇」

 

「UMA目撃情報‼︎」

 

「きょーりゅーみたいなのいるの」

 

「どれっ…」

 

きそに雑誌を見せて貰うと、海面に巨大な影が写り込んだ写真が掲載されていた

 

「クジラじゃないの⁇」

 

「クジラにしちゃあデカ過ぎないか⁇」

 

「やっぱりきょーりゅー⁇」

 

「う〜ん…」

 

俺はこういう未確認生物系は疎い

 

確かはっちゃんがそう言うのに詳しい

 

「お呼びですか⁇」

 

タイミング良くはっちゃんが来た

 

「はっちゃん。チョット来てくれ」

 

はっちゃんにもその雑誌を見せてみた

 

「なるほど…」

 

「分かる⁇」

 

「この影は恐らく何らかの鉄です」

 

「鉄⁉︎」

 

「えぇ。生き物なら、何処かしらのうねりがあります。この影にはありません」

 

「なるほど…流石ははっちゃん…」

 

「はっちゃん、ねっしぃみたことある⁇」

 

「はっちゃんも見てみたいです」

 

「たいほうもみたい‼︎」

 

この時は何の気なしに子供達と話していた…

 

 

 

 

 

次の日…

 

横須賀に来ていた俺ときそは、マークの研究室に来ていた

 

研究室の隔離された部屋の中で、マークとヴェアがアーマーの実験をしている

 

強化ガラスの向こうで何を言っているのか分からないが、マークは何故かアーマーを着込み始めた

 

「あのアーマーは、あらゆる攻撃から兵士を護ってくれるの」

 

「サラ」

 

サラの方に振り向いた瞬間、ガラスの向こうで大爆発が起きた

 

「マーク‼︎」

 

「大丈夫よ。見てて」

 

隔離された部屋の中の煙が排出されると、無傷のアーマーとヴェアが出て来た

 

すぐにヴェアはマークに寄る

 

アーマーの中からマークが出てくると、ヴェアは何かを言った後、マークの頬を撫でた

 

「マークさんっていっつもあんな実験の仕方してるの⁉︎」

 

「そうよ〜。安全を確かめるには、自分で試すのが一番良いんだって‼︎」

 

「怖い事するねぇ…」

 

きそとサラが話していると、マークとヴェアが隔離室から出て来た

 

「マーカス‼︎来てたのか‼︎」

 

「ちょっと寄っただけさ」

 

「あのアーマーなぁに⁇」

 

きそは隔離室に脱ぎ捨てられたアーマーに興味津々

 

「あれか⁇あれは新型のボディーアーマーさ。あらゆる外的ショックから護ってくれるんだ」

 

「僕も一緒に造りたい‼︎」

 

「いいよ。そういえばきそちゃんはPシールドを造っていたね⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「君と一緒に造ったら良い物が出来上がりそうだ。また頼むよ」

 

「うんっ‼︎楽しみにしてる‼︎」

 

きそは物を造るのが好きだ

 

きそは兵器も造るが、大抵は非殺傷の武器に留まっている

 

俺の造り出す兵器の類とは違い、きそは実用的な物や護る物を造る方が好きな様だ

 

「そうだマーカス。調査に行かないか⁇」

 

「心臓はやらんぞ」

 

「バカ。んな事はしなくていい。ここ最近、北極海に現れてはレーダーを狂わせている潜水艦がいるらしい。もしかすると、逸れてしまった深海の潜水艦かも知れない」

 

行くと言っていないのに、マークはホワイトボードにペタペタと写真を貼り始めた

 

「レイレイ。昨日見てた雑誌の奴じゃない⁉︎」

 

見る限り、昨日見ていた雑誌に掲載されていたUMA(仮)で間違いない様だ

 

「んでっ⁇俺に連れて帰れと⁇」

 

「そう言う事だ。報酬は弾むぞ⁇ロシアから」

 

「ったく…何で俺なんだ⁇」

 

「マーカスは潜水艦に詳しいと聞いた。不測の事態があっても、マーカスなら対処出来るだろ⁇」

 

「仕方無い…報酬の為じゃないからな⁉︎んでっ⁇いつ行くんだ⁇」

 

マークは此方を見つめている

 

「…今からかよ」

 

「ライコビッチと言う軍人に話をしてある。気を付けてな」

 

「…はいよっ」

 

 

 

 

 

 

グリフォンの所に戻ると、朝霜と磯風がグリフォンの前で話していた

 

「父さんの機体はいつ見てもカッチョイイなぁ〜」

 

「主翼が折れてるぞ」

 

「空母に艦載出来るんだ。畳める様に設計されてる」

 

「父さん‼︎」

 

朝霜は俺を見て飛び付いて来た

 

「きそ姉。今から飛ぶのか⁇」

 

「うんっ。ちょっとレイと調査に行って来る」

 

「気を付けてな」

 

「父さん。今度アタイの造った奴見てくれよ‼︎」

 

「帰って来たら見るよ。あぁそうだ‼︎隊長に言っといてくれ。俺ときそがロシアに行ったって‼︎」

 

「分かった‼︎」

 

地上で見送りをする二人に手を振り、グリフォンが飛び立つ

 

 

 

 

 

 

 

ロシア〜北極海基地〜

 

「寒いっ‼︎」

 

「うはは‼︎鼻水凍った‼︎」

 

横須賀や基地は今から夏本番だと言うのに、アラスカは身も凍る程の寒さだ

 

「マーカス大尉‼︎キソ=チャン‼︎お疲れ様です‼︎」

 

「寒い寒い寒い‼︎」

 

「早く中に入れて‼︎」

 

「此方へ‼︎」

 

ライコビッチに出迎えられ、基地の中に入る

 

「寒過ぎんだろ‼︎」

 

「鼻水凍ったよぉ‼︎」

 

「ははは。我々はこれが普通ですからね。日本が暑い位です」

 

ライコビッチにコーヒーを淹れて貰い、俺達は震える手でそれを飲む

 

「んで⁇その潜水艦ってのは⁇」

 

「ここから近い海中に時折出現し、出現の度に我々のレーダーを大きく狂わせて来るのです」

 

「なるほどな…」

 

「出現の度にメインのレーダーも狂うので、これがまた…」

 

「分かった。調査してみる」

 

コーヒーを飲み干し、外に出ようと扉を開けた

 

そしてすぐに閉めた

 

「…防寒具ないか⁇」

 

「此方を」

 

革ジャンの上からモコモコの防寒具を羽織る

 

「キソ=チャンはこっちね⁇」

 

きそも防寒具を着せて貰い、俺達は外へ出た

 

「グリフォン。ソノブイの準備は出来たか⁇」

 

《オッケーだよ‼︎いつでも投下可能だよ‼︎》

 

「よし、出るぞ」

 

北極海に向かって、グリフォンが飛び立つ

 

《此方ベルーガ。聞こえるかワイバーン》

 

「此方ワイバーン。聞こえてる」

 

《反応はその辺りだ。航空機が付近を飛ぶと浮上する事が多い。気を付けてくれ》

 

「了解した。グリフォン、ソノブイをバラ撒け‼︎」

 

《オッケー‼︎》

 

グリフォンのハッチからバラバラとソノブイが投下される

 

「こいつか…」

 

《立体レーダーに出すね》

 

グリフォンのモニターに潜水艦の全貌が映し出される

 

「こいつは…」

 

 

 

 

 

 

「びょんびょ〜ん」

 

「みょいんみょい〜ん」

 

「コラコラ二人共っ。マーカス君の楽器弄っちゃダメよ⁇CDかけてあげるから。ねっ⁇」

 

「し〜で〜⁇」

 

「おんがくきく⁇」

 

基地ではひとみといよが、俺のギター始め、色んな楽器を触っていた

 

様子を見に来た貴子さんがその辺にあったCDを流し、二人は楽器を弄るのを止めた

 

「あらっ。マーカス君、クラシック聴くのね⁇」

 

「ほぁ〜…」

 

「ほぁ〜…」

 

二人はCDを流し始めた途端、急に大人しくなった

 

「えいしゃんのとこいく」

 

「ひとみもいく」

 

ひとみといよはフラフラと外に出ようとしている

 

「マーカス君は今お仕事中よ⁇」

 

「えいしゃんよんでうの」

 

「かえっておいれ〜って」

 

「…はっ‼︎」

 

貴子さんは急いで流していた音楽を切った

 

「…たかこしゃん⁇」

 

「…おやちゅ⁇」

 

「良かったぁ…」

 

意識の戻った二人を見て、貴子さんは二人を抱き締めた

 

貴子さんは覚えていた

 

俺はAIに対しての帰還命令を”音楽”で下す事が多い

 

Flak 1がそうだった

 

そして、しおいがモデルの二人も同じく、今流した音楽で俺の元に帰って来る様になっている

 

そしてそれは、俺の”造った”潜水艦にも設定されていた



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158話 死神と呼ばれた潜水艦(2)

《潜水艦浮上‼︎来るよ‼︎》

 

「どわっ‼︎」

 

海面に巨大な船影が見えた瞬間、船体を軽く浮き上がらせながら海上に現れた

 

《レイ、どうする⁉︎》

 

「…」

 

海上に現れた潜水艦を見て、息が詰まった

 

《レイ⁇》

 

「タナトス…」

 

《タナトス⁇タナトスって、あの死神の⁇》

 

「タナトス。俺だ。分かるか⁇」

 

《創造主の声がするでち…》

 

《喋ったぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎》

 

グリフォンがビビっている

 

あの潜水艦は、俺がロンギヌスの前に造り出した一番最初の潜水艦だ

 

あの潜水艦は火力も防御力も速力も最高の仕上がり

 

浮上してもイージス艦レベルなら体当たりで破壊出来る程の硬さを持ってる

 

だが、俺がタナトスと名付けたのはそこじゃない…

 

「長い任務だったな…疲れたろ⁇」

 

《寒かったでち…もう、ここに一人ぼっちは嫌でち…》

 

「温かい海に帰ろう。戦争は終わった」

 

《うん…でもその前にしたい事があるでち》

 

「なんだ⁇」

 

《こんな所にタナトスを放置した創造主に、同じ思いを味わわせてやる事でち‼︎》

 

タナトスはいきなりグリフォンに標準を合わせて来た‼︎

 

ミサイルハッチも開いている‼︎

 

《ヤバッ‼︎逃げるよ‼︎》

 

《死ね‼︎創造主‼︎》

 

タナトスはグリフォンに向けて対空ミサイルを撃ち出した

 

《あれ⁇》

 

《うっしっし…ファイアコントロールロックせいこ〜う‼︎》

 

グリフォンがタナトスの電子機器をコントロールし、対空ミサイルを撃てない様にしていた

 

グリフォンにとって、敵の電子機器を弄るのは朝飯前

 

唯一ファイアコントロールをロック出来ないのは叢雲位だ

 

《外せ‼︎》

 

「撃たないって約束して、大人しく近くの軍港に行くって言うなら外してやる」

 

《…分かったでち》

 

タナトスは大人しく着いて来た

 

「タナトス。レーダージャミングも解除してくれないか⁇」

 

《嫌でち。創造主が裏切る可能性もあるでち。解除したけりゃ、タナトスに乗る事でち》

 

「…あぁったよ」

 

グリフォンのレーダーは正常に動いているが、軍港に近付くにつれ、基地との通信状態が悪くなった

 

グリフォンが着陸した後もそれは続いていた

 

「マーカス大尉‼︎これは一体‼︎」

 

「目的の潜水艦を連れて帰って来た。ちょっとグリフォンを頼む」

 

「り、了解…」

 

グリフォンを停めてすぐにタナトスの所に向かう

 

港に止まったタナトスは、辺りにいた兵士の野次馬達に囲まれていた

 

《来やがったでち》

 

「乗せてくれるか⁇」

 

《創造主だけでち。そこの緑の奴は嫌いでち》

 

「なっ、なんだとぉ‼︎」

 

「きそは良い子だ。一緒にお前を迎えに来てくれたんだぞ⁇」

 

《…二人だけでち》

 

「サンキュ」

 

タナトスが防水扉を開けてくれ、俺ときそだけが中に入る

 

「うわぁ…」

 

きそがため息を漏らす

 

艦内は無人だが、電子機器はしっかりと起動しており、ほぼ全ての機関が自立して動いている

 

俺はメインルームに入り、モニターの前に立った

 

「タナトス」

 

《何年放っておくつもりだったでち》

 

「すまん…忘れた訳じゃないんだ」

 

開口一番にタナトスに怒られた

 

怒られて当然だ

 

タナトスは、当時敵対していたロシアの動きを逐一見る為に北極海に配備された

 

少しでも不審な動きをしたら先制攻撃をする為でもある

 

それを、ロシアと仲良くなっても今の今まで、ずっと海底で見張り続けていたのだ

 

「どうして急に動き出したんだ⁇」

 

《タナトスが動いたらダメでちか》

 

「いや、良いさ」

 

《…帰投命令の音楽がしたでち》

 

「あぁ…なるほど…」

 

AIにいつも教えているのが一つある

 

それは最初で最後の命令であり、造り出したAIにはそれだけは守らせる

 

それは、とある音楽を聴いたら必ず帰投する事

 

それが俺がこの間バイオリンで弾いたあの曲だ

 

タナトスは何処からか無線を傍受して、命令と勘違いして浮上したのだろう

 

「タナトスはレイの事嫌い⁇」

 

《嫌いじゃないでち。これはタナトスに課せられた任務でち》

 

「僕達を許してくれるの⁇」

 

《創造主”は”いつだって許してるでち。緑の奴は嫌いでち》

 

「うぅ…」

 

《人の動きを封じる奴は嫌いでち》

 

「ごめんよぉ…」

 

「よしっ、出来た‼︎」

 

きそとタナトスが話している間、俺はタナトスの航路座標を設定していた

 

《ここに行けばいいでちか⁇》

 

「そっ。一人で行けるか⁇」

 

《タナトスをバカにすんなでち‼︎お使い位一人で行けるでち‼︎》

 

そう言って、タナトスは急に動き出した

 

「待て待て‼︎俺達を降ろしてくれ‼︎」

 

《早く降りるでち‼︎》

 

「レイ‼︎早く早く‼︎」

 

俺ときそは急いでタナトスから飛び降りた

 

俺達が港に戻った瞬間、タナトスは海中に消えて行った…

 

「タナトスって、結構短気⁇」

 

「だからタナトスって名前なんだよ」

 

「なるほどっ…」

 

タナトスは確かに強力な潜水艦だ

 

だが、命令を聞かない事がたまにある

 

しおいやはっちゃんが的確に、そしてある程度は加減して言う事を聞く反面、タナトスは言われた事をこれでもかと忠実に熟し、完膚なきまで破壊する

 

AIの性格設定を失敗した訳ではない

 

ただ、護る者を護るにはそれなり…それ以上の打撃力が必要と判断した上でタナトスは産まれた…

 

きそと共に再びロシアの基地に戻り、今度は温かいミルクを飲む

 

「でも、タナトスってカッコイイね‼︎」

 

「ありがとう」

 

「それで、何処に座標設定したの⁇」

 

「一旦は横須賀に設定しておいた。後はアイツが望む場所に配備させようと思う」

 

「タナトスはしおい達のお姉ちゃんに当たるの⁇」

 

「そっ。しおいがみんなを護る盾なら、タナトスは槍だ」

 

「なるほどね〜」

 

「きそ」

 

「ん〜⁇」

 

両手でコップを持ってミルクを飲んでいたきそが、机にコップを置いた瞬間、俺はきその両手を取った

 

「もし、だ。もし、タナトスが体を欲しいと言って来たら、造ってやってくれないか⁇」

 

「うんっ‼︎いいよ‼︎」

 

きそは口周りに白い輪を作りながら、ビックリする位素直に受け入れてくれた

 

「君達」

 

誰かに呼ばれて振り返る

 

そこにはガングートを小さくしたような白髪の女の子が立っていた

 

…垂れ目で何だか眠たそうな顔をしている

 

「ライコビッチが呼んでいる。来てくれ」

 

「ロシアの子だ」

 

「私は響。元は日本の艦娘だ」

 

「へぇ〜っ。一人で来たのか⁇」

 

「そう。日本の政治は響に合わなかった。私はロシアの方が良い。無理矢理連れて帰らないでくれ」

 

「んな事するか。案内してくれ」

 

響に連れられ、ライコビッチの居る部屋に案内される

 

「ここだ。ライコビッチ、入るよ」

 

「ベールヌイ‼︎変な人には襲われなかったか⁉︎置いてあったオヤツはキチンと食べたか⁉︎ん⁉︎」

 

「大丈夫。襲われてないし、オヤツもキチンと食べた。美味しかったよ」

 

「う〜んハラショー‼︎」

 

ライコビッチは普段の冷徹な瞳ではなく、デレッデレな顔で響に頬擦りをする

 

その間響は無表情のまま頬擦りを受け続けていた

 

「ら、ライコビッチ…お客様だ」

 

「お客…う、うんっ‼︎」

 

俺達に気付き、ライコビッチは咳払いをする

 

「目標の潜水艦は此方で引き取った。迷惑かけたな…」

 

「此方こそありがとうございます。これで北極海の生態調査が継続可能になりました‼︎」

 

「…随分と子煩悩なんだな⁇」

 

半笑いでライコビッチに迫る

 

「あ、あはは…」

 

「あ、そうだ‼︎これ見て‼︎」

 

きそはタブレットを取り出し、ライコビッチに写真を幾つか見せた

 

「ガングート…こんなに楽しそうに…」

 

大体は清霜と遊んでいる写真だが、ライコビッチにとっては嬉しい報告だった様だ

 

「あの、マーカス大尉」

 

「なんだ⁇」

 

「差し支えなければ、ガングートがロシアに帰りたいと言うまで、そちらで預かって頂けませんか⁇」

 

「それはいいが…」

 

「ガングートはロシアに帰って来たら実験や研究の矛先になります。私はそれを見ていられなかった…だから、貴方がたに託したのです」

 

ようやく分かった

 

ライコビッチはハナから日本にガングートを”逃がす”つもりだった

 

粛清癖を治せと言って来たのは口実で、本当の目的はガングートをロシアの実験の矛先にならない様に逃がす事にあった

 

響は日本からの”来賓”扱いなので、そう言った扱いをすると国際問題に発展するので絶対にそうはならない

 

「レイ、そろそろ帰ろう。またひとみといよに怒られるよ⁇」

 

「そうだな。また遊びに来るよ。ガングートは任せな」

 

「お願いします」

 

「私が外まで送ろう。ライコビッチは書類を整理しておいてくれ」

 

「ちゃんと帰って来るんだよ⁉︎分かった⁉︎」

 

「分かった」

 

響がライコビッチに微笑みを送る

 

グリフォンに乗るまでの間、響が口を開いた

 

「ライコビッチにとって、ガングートは娘みたいな子なんだ」

 

「マジで子煩悩なんだな…見方が変わったよ」

 

「確かにライコビッチは目つきが悪い。だけど、いつだってみんなを心配してる…上に立つべくして立った人さ」

 

「あの時も情が湧かない様に…」

 

「大尉は知らないだろうな。あの日帰って来た時、ライコビッチがギャン泣きしていたのを」

 

「時々、ガングートに連絡を取らせるようにしよう。そしたらギャン泣きは無くなるだろ⁇」

 

「…多分」

 

話が良い感じに途切れ、おれたはグリフォンに乗る

 

手を振って見送る響に手を振り返し、ロシアを後にした…

 

 

 

 

《ベールヌイって呼んでたね》

 

「ロシアじゃ”信頼できる”って意味だ」

 

《いい名前だね》

 

「あぁ」

 

残る問題はタナトス一つ

 

横須賀に着くのは3日後…

 

暴れなけりゃあ良いが…




無人潜水艦”タナトス”…カチカチ潜水艦

火力、速力、防御力、どれもトップクラスの潜水艦

AIのみの独立起動が可能で、数年に渡ってロシアに目を光らせていた

イージス艦程度なら体当たりで余裕に大破させられる装甲

1基地なら十二分に再起不能に叩ける程の火力

尚且つ普通の潜水艦の二倍の速度で動き回れる

ただ、AIに少々難があり、言われた事以上の破壊行動をしてしまう


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159話 双子の目標

さて、158話が終わりました

今回のお話は、とある双子の目標が明らかになります

次のお話では題名は変わりますが、続きになります


次の日、俺は約束通り朝霜と一緒に横須賀の工廠に篭っていた

 

「アタイ、電力で撃ち出せる艤装を作りたいんだ‼︎これ見てくれ‼︎」

 

朝霜に渡された設計図に目を通す

 

「これ、ホントにお前が書いたのか⁉︎」

 

「そうさ‼︎動力部が何とかなりゃあ、加速装置も造れるんだけどさ…良い動力部が無いんだなぁ…」

 

朝霜の設計図はほぼ完璧な仕上がりだ

 

問題は本当に後は動力部だけだ

 

「よし、アレンの技術を頂戴しよう」

 

「パクるの間違いじゃねぇのか⁇」

 

「パクるんじゃない‼︎頂戴するんだ‼︎」

 

とは言いつつ、一応アレンに報告を入れる

 

返信はすぐに返って来た

 

”お前にやるんじゃない。朝霜ちゃんに分けてあげるんだヴァーカ‼︎”

 

”朝霜ちゃん‼︎俺の技術で良かったら自由に使っていいからね‼︎”

 

「にゃろう…」

 

笑いと怒りが同時に込み上げてプルプルする

 

「父さんはホント人脈広いよな〜」

 

「ったく…まぁ、今度会ったら礼を言っとくよ」

 

アレンは本当に良い奴だ

 

それに、頭のキレる奴でもある

 

アレンは限りなく永久機関に近いエネルギー発生装置を開発している

 

複合サイクルエンジンや、この資料に書かれている本体直結型振動動力装置やら…

 

アレンの技術はグリフォンにも使われている

 

だから航続距離がバカに長い

 

「父さん、ありがとな‼︎」

 

「造ったらまた見せてくれるか⁇」

 

「頼むぜ‼︎」

 

朝霜の場合は本当に見るだけでいい

 

朝霜は自分の手で造り出すのが好きで、他人に手伝われるのは好きではない

 

見る以外にすると言えば、別の事でちょっとサポートしてやれば良い

 

「それよりゴメンよ⁇忙しいのにさ、アタイの所に来てくれてさ‼︎」

 

「娘とお話するのも俺の仕事だ」

 

朝霜の前髪を上げて額にキスをし、数回頭を撫でる

 

「へへっ…」

 

「ケガしない様にな‼︎」

 

「あぁ‼︎」

 

朝霜と別れ、工廠から出て来た

 

今日は四人一緒に来た

 

きそは勿論の事、たいほう、ひとみ、いよ

 

この四人だ

 

さて、探しますか

 

まずは広場だ

 

「初月‼︎」

 

「はっ‼︎」

 

工廠の屋根から初月がシュタッと降りて来た

 

「俺が不在の間、ひとみといよの安全は確保出来たか⁇」

 

「はっ、現在も遂行中でござる」

 

「ぷっ…く…」

 

「くくく…」

 

最近、初月との殿様ごっこがマイブームになって来ている

 

「心配は無い。二人は広場でマーカス大尉のお知り合いの方とご一緒している」

 

「ありがと。毎度すまんな」

 

いつも通り、初月に間宮の券を渡す

 

「有り難き幸せ」

 

初月は間宮の券を受け取った後、またすぐに屋根の上に消えた

 

広場に行くと、本当にひとみといよがいた

 

それも、誰かのレジャーシートの上でお菓子を食べさせて貰っている

 

「私のお名前は⁇」

 

「あたごん‼︎」

 

「ぱんぱかしゃん‼︎」

 

「わっ、私の名前は覚えてくれた⁉︎」

 

「めがねのはいねずみのおね〜しゃん‼︎」

 

「やさし〜めがね‼︎」

 

「あはっ‼︎そうそう‼︎」

 

愛宕と鳥海と一緒に居るみたいだ

 

「すまんな、面倒見てくれて」

 

「ほらっ、お父さんが帰って来たわ‼︎」

 

「「えいしゃん‼︎」」

 

愛宕が焼いてくれたであろうクッキーを持ったまま、ひとみといよが寄って来た

 

「えいしゃん、あたごんのくっき〜おいし〜‼︎」

 

「やさし〜めがねがじゅ〜すくえた‼︎」

 

「ちゃんとお礼言ったか⁉︎」

 

「あたごんあいがとう‼︎」

 

「やさし〜めがねあいがとう‼︎」

 

「いえいえ〜また抱っこさせてね〜‼︎」

 

「大尉、お子さん達を連れてまたトラックに遊びに来て下さいね⁇」

 

「サンキュー。土産も持ってくよ‼︎愛宕、アレンにありがとうって言っておいてくれ。朝霜が世話んなったらしい」

 

「分かったわ‼︎伝えておく‼︎」

 

ひとみといよが俺の肩に乗り、これでもかと二人に手を振る

 

「あたごんのくっき〜おいしかった‼︎」

 

「あたごんはあえんしゃんのおよめしゃん⁇」

 

「そうだぞ〜。アイちゃんに似てるだろ⁇」

 

「あいしゃんのほ〜がおっきぃお⁉︎」

 

「あいしゃんがおか〜しゃん⁇」

 

確かにアイちゃんの方が色々と大きい

 

既に身長も食べる量も愛宕を追い抜いている

 

ひとみといよからすれば、どっちが母親か分からないだろう

 

「愛宕がアイちゃんのお母さんだ」

 

「「おぉ〜」」

 

「お母さんってのはな、ちっちゃくて良いんだ。ちっちゃい方が可愛いだろ⁇」

 

「よこしゅかしゃんもちっちゃいお」

 

「れも、たかこしゃんおっきぃ」

 

「ゔっ…」

 

マズイ…

 

この展開は大変マズイ

 

「貴子さんは大きくて良いんだ。貴子さんはみんなのお母さんだろ⁇大きくなくちゃ、みんなを抱っこ出来ないだろ⁇」

 

「しょっかぁ〜‼︎」

 

「ひとみもたかこしゃんみたいになえう⁇」

 

「ひとみがそう思ってるならなれるさ‼︎」

 

「いよはよこしゅかしゃんみたいにないたい‼︎」

 

「何でた⁇」

 

「いよも”こぁ〜〜〜っ‼︎”っていいたい‼︎」

 

いよは、横須賀がいつも吠えている姿を見ていた様だ

 

確かに言う事を聞かない子に対して「コラーーーッ‼︎」と吠えている

 

「…あれは真似しちゃいかん。見習わない様にな…ははは」

 

横須賀の変な所を見て、横須賀を目指すいよ

 

貴子さんの愛情を沢山受け、貴子さんの様な母親を目指すひとみ

 

この二人の夢が叶うのは、ずっとず〜っと先の話になる…



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159話 熟れた狼の駄菓子屋

題名は変わりますが、前回の続きです

熟れた狼とは誰なのか⁉︎

きそが欲しかった物とは⁉︎


きそとたいほうはすぐに見付かった

 

駄菓子屋の前で駄菓子を食べていた

 

「きしょ〜」

 

「たいほ〜」

 

「おかえり‼︎」

 

「おいで‼︎」

 

ひとみといよは俺の肩から降り、たいほうの所に行った

 

「何食べてるんだ⁇」

 

「酢イカ‼︎美味しいんだよ⁇」

 

きそは俺の前に、食べていた酢イカの袋を出す

 

硬めの細切れにされたイカを一つ貰い、口に放り込む

 

酢で味付けされており、中々美味しい

 

「お家帰って食べる分は買ったか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

きその隣には、大きめの袋がちょっと膨らむ位に詰められた駄菓子達があった

 

最近、ひとみもいよもよく食べるからな…

 

そんな二人はたいほうからあんずを貰い、大人しく食べている

 

「俺も何か飲むかなっ…」

 

「いらっしゃい」

 

駄菓子屋の中では服の腕を捲り、団扇を仰ぎながら店番をしている足柄がいた

 

一応俺の気配は察知しているのか、いらっしゃいとは言ってくれたが、備え付けられたテレビで流れているサスペンスの再放送に夢中になっている

 

妙な色香が漂っており、若干子供が

近寄り難い感じがする

 

「昼間っからんなもん見てると、またBBAとか言われっぞ⁇」

 

「失礼な‼︎誰がババ…マーカス大尉‼︎」

 

ようやく俺に気付き、体勢を立て直す

 

「ラムネと棒のゼリーくれるか⁇」

 

「は、はいっ‼︎少々お待ちを‼︎」

 

足柄はレジの横にある冷蔵庫からラムネと棒のゼリーを取り、台の上に置いた

 

「ふ、袋にお入れしましょか⁇」

 

「すぐ食べるからいい」

 

「ひ、160円です」

 

終始ビビりまくりの足柄に代金を渡し、その場でラムネを開けた

 

「ら、ラムネの瓶、返しに来てくれたら10円渡してるの…」

 

「中々サービス良いじゃないか」

 

「…」

 

マズい所を見られたと思っているのか、足柄はモジモジしている

 

「気にしなくていい。横須賀はもっと酷い」

 

「あはは…」

 

「真田とはどうだ⁇」

 

「二週間に一回デートしてるわ。この前、一緒に映画に行ったの。その後、お夕飯を食べて…」

 

今度は照れくさそうに真田の話をする

 

「まっ、上手く行ってる様で良かったよ」

 

「さっき、マーカス大尉の所の子が来てくれたわ」

 

「きそとたいほうか⁇」

 

「たまに来てくれるわ。朝霜ちゃん達も、清霜ちゃんを連れて来てくれたりね」

 

「清霜はお菓子好きだからなぁ…ごちそうさん」

 

飲み干したラムネの瓶を足柄に返した

 

「あ、ちょっと待って‼︎」

 

足柄はラムネの瓶を受け取り、本当に10円をくれた

 

表に戻ってくると、ひとみはたいほう、いよはきそにくっ付いていた

 

「さっ、遊戯場でも行くか⁇」

 

「うんっ‼︎UFOキャッチャーしたい‼︎」

 

「ひとみはたいほうとぼーるぷーはるいこうね⁇」

 

「たいほ〜とあそう‼︎」

 

たいほうの姉具合を見て、口角が上がる

 

出逢った当初と比べて、たいほうは随分と成長した

 

特にひとみといよが来てから、思考が著しく成長している

 

嬉しいと思う反面、俺は心の奥底で少し寂しいと感じていた…

 

遊戯場に着くと、きそはUFOキャッチャーをやり始め、たいほう、ひとみ、いよはボールプールに向かった

 

たいほう達の事を見ていようと思ったが、ボールプールの担当が頼り甲斐のある子だったので、安心して良さそうだ

 

「いらっしゃいませ、マーカス大尉‼︎ポーラがいつもお世話になっております‼︎」

 

「ざら‼︎」

 

「ざぁ⁇」

 

「ざぁざぁすう⁇」

 

ひとみといよはざらの足元をペタペタ触る

 

「ざらはざらざらしないよ。こっちきてたいほうとあそぼ⁇」

 

「いく‼︎」

 

「ひとみも‼︎」

 

三人は中々広いボールプールに入って行った

 

「マーカス大尉。三人はお任せ下さい‼︎」

 

「頼んだぞ」

 

とは言うが、手持ち無沙汰になった

 

仕方ない…

 

どれっ、久しぶりに打ちますかね

 

新世界に居た時、休みになるとたまに打ちに行っていた

 

何年振りだろうな

 

タバコに火を点け、パチンコ台の前に座る

 

確か、横須賀が横に居たらよく当たるんだよな…

 

懐かしい記憶を思い出しながら、無心でパチンコを打ち続ける

 

「ちっ…今のは当たりだろ‼︎」

 

「台叩いちゃやぁよ⁇」

 

いつの間にか隣に横須賀が座っていた

 

「サボり⁇」

 

「バカ、チゲェよ。お前ちょっと打て」

 

横須賀を打っていた台に座らせ、ハンドルを握らせる

 

「最近のパチンコ嫌いなのよね…リーチ長いし…あら、逆回転」

 

横須賀は滅多な事が無いとパチンコを打たないのだが、何故かやたらと詳しい

 

「お前、何でそんな詳しいんだ⁇」

 

「お父さんがパチンコ好きでね。あ、ほら、昔って子供も入れたから、私は横で見てたの」

 

「なるほどな…」

 

みるみる内に横須賀の背後にはドル箱が積まれていく

 

ようやく大当たりが終わり、パチンコ玉を景品と交換する

 

「あ、私その徳用鈴カステラ‼︎」

 

「タバコのカートン3つ」

 

横須賀は当分困らない程のお菓子を貰い御満悦

 

俺は俺で久々の海外のタバコが貰えて御満悦

 

それでもまだまだ玉は余っている

 

「横須賀。これ…」

 

目に入ったのは、残りの玉で貰える新入荷の景品

 

かなり高いが、それなりの品ではある

 

「プレゼントする⁇」

 

「これ、貰えるか⁇」

 

「うっしっし…取った取った」

 

タイミング良くきそが帰って来た

 

ビニール袋をズリズリ引き摺っている

 

「アームのパワー弄ったろ」

 

「い、いやぁ〜‼︎そそそそんな事僕はしないよぉ〜‼︎ししし失礼だなぁレイは‼︎」

 

きその額から冷や汗が流れている

 

「他のゲームセンターでしちゃダメよ⁇」

 

「うんっ‼︎ありがとうお母さん‼︎」

 

「ただいま‼︎」

 

「「たらいま‼︎」」

 

三人も帰って来た

 

「よこしゅかしゃんら‼︎」

 

「らっこして‼︎」

 

「おいでっ‼︎」

 

横須賀は走って来たひとみといよを抱き締めた

 

横須賀は嬉しいのだろう

 

ひとみといよは、ファーストコンタクトから横須賀を好いてくれる

 

そんな二人を、横須賀も可愛くて堪らない

 

「たいほうはこっちだなっ‼︎」

 

「すてぃんぐれいのあたま‼︎」

 

たいほうを頭に乗せた時、きそが一歩引き下がったのが見えた

 

きそが一歩引き下がるのには意味がある

 

多分、きそは気付いていない

 

本当は自分もして欲しいのだが、どうしても自分より年下である子供達を優先させてしまう

 

本当に優しい子だ

 

「きそ」

 

「ん〜⁇」

 

「お前にはアレをやる。それで我慢してくれるか⁇」

 

俺の目線の先には、先程貰った高額の景品がある

 

「セグウェイだ‼︎くれるの⁉︎」

 

「横須賀がプレゼントしてくれたんだ。大事に乗れよ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

きそは嬉しそうにセグウェイに乗り、俺達の横を走り始めた

 

「お母さん、ありがとう‼︎」

 

「事故しちゃダメよ⁇」

 

「うんっ‼︎いひひっ‼︎」

 

遊戯場を出て、きそはその辺でセグウェイを乗り回し始めた

 

余程嬉しかったのだろう

 

きその喜ぶ顔を見るのは俺も嬉しい

 

「今日はありがとね。朝霜に付き合ってくれて」

 

「アイツはいつか俺を越える素質を持ってる。いつでも付き合うさ」

 

「ふふっ。じゃあね⁇」

 

「あいがろ〜‼︎」

 

「ばいば〜い‼︎」

 

横須賀と別れ、俺達は基地に帰った…

 

 

 

 

その日、基地に帰って来ても、きそはセグウェイを乗り回していた…

 

 

 

 

 

 

 

 

タナトスが横須賀来航するまで後二日になりました



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ハーフタイム劇場〜ひとみといよの横スライド〜

タナトスが帰って来る前にちょっと休憩

タナトスが帰って来る前に、このお話ともう一話挟みます

もう一話が少しばかり残酷なお話になるので、現在何とかマイルドに仕上げている最中にてございます

ですので、前回のお詫びも含め、ひとみといよで癒されて下さい


ある日の朝、ごはんを食べ終えると床に座ったハズのひとみといよが横スライドしながら移動しているのが見えた

 

「いよはかいじょくらお〜‼︎」

 

「ひとみぱいえ〜つ‼︎」

 

そう言い残し、二人はスライドしながら廊下に消えて行った

 

「…何だ今のは‼︎」

 

「横にスライドしてたぞ‼︎」

 

あまりにもビックリし過ぎて、俺も隊長も一瞬思考が停止していた

 

隊長は新聞を机に置き、俺は昨日の報告書を放り投げ、二人の元に走った

 

 

 

 

「えいしゃんのおへや‼︎」

 

「とつえき〜っ‼︎」

 

ひとみといよは体勢を前向きに変えているが、座ったまま移動している

 

「えっとのした‼︎」

 

「おしゃしんみっけ‼︎」

 

二人は俺のベッドの下から写真を数枚取り出した

 

「こえあよこしゅかしゃん」

 

「えいしゃんのおよめしゃん」

 

「こえあぐらーふ」

 

「なんれぐらーふのしゃしんあるの⁇」

 

「わからん…」

 

「いたぞ‼︎」

 

「ひ〜っ‼︎」

 

「ひ〜っ‼︎」

 

俺と隊長が来た瞬間、ひとみといよは器用に俺達を擦り抜け、別の部屋へと向かった

 

「何なんだよあの移動方法は‼︎」

 

「何かに乗ってたな…」

 

確かにひとみといよは何かに乗って移動していた

 

「レイ、何か造ったか⁇」

 

「いや…」

 

ますます怪しくなる二人の移動方法…

 

 

 

 

 

「ぱぱしゃんのおへや‼︎」

 

「つくえのした‼︎」

 

隊長の部屋に置いてある机の下から、何やら怪しい本を抜き取り、中身を見る

 

「たかこしゃんみたいなひという」

 

本の中身は、貴子さんの様な褐色の肌の女性が掲載されている

 

「なんれはらか⁇」

 

「おふろはいるのか⁇」

 

「おちりかあよーぐうとだしてう」

 

「いた‼︎」

 

「ひ〜っ‼︎」

 

「ひ〜っ‼︎」

 

「捕まえたっ‼︎」

 

廊下で待機していた俺が二人を抱き上げた

 

そして、ひとみといよが何に乗っていたか分かった

 

…全自動掃除機だ

 

「るんたろっかいった」

 

「るんた〜」

 

全自動掃除機に手を伸ばす二人

 

「こえあげう‼︎」

 

ひとみの手から、何かの写真を貰う

 

「…」

 

「なんれぐらーふのしゃしん⁇」

 

「…いいか⁇絶対にグラーフに言うなよ⁇」

 

「わかた‼︎」

 

「いわない‼︎」

 

二人が素直で良かった…

 

この写真で何をしていたかバレたら大変な事になる

 

「おかしいな…」

 

顔面蒼白の隊長が自室から出て来た

 

「あっ‼︎い、いよ‼︎それは私の大切な本なんだ‼︎」

 

「こえ⁇」

 

いよの手には”褐色パラダイス”と題された意味深な本が握られている

 

「たかこしゃんみたいなひといた‼︎」

 

「いい子だから、それは返してくれ‼︎なっ⁉︎」

 

「あいっ‼︎」

 

いよは素直に隊長にエロ本を返した

 

「焦った…貴子にバレたらどうなる事や…」

 

「あ〜ら…面白そうな本ねぇ⁉︎」

 

隊長の背後から手が伸び、本を取られた

 

貴子さんだ…

 

「へぇ〜っ…ふぅ〜ん…」

 

貴子さんは真顔でパラパラと本を捲りながら、髪を逆立て始めた

 

「ウィリアムよ…私じゃ不満か…」

 

貴子さんはプルプル震え始めたと思えば口調が変わり、愛用の眼鏡を人差し指で掛け直した

 

「い、いや‼︎けっ、決してそう言う訳ではなくてだな‼︎え〜と、その〜…あ…あはは…」

 

貴子さんは怒ると武蔵に戻る

 

「ひ〜っ‼︎」

 

「ひ〜っ‼︎」

 

「説教をする。此方に来い‼︎」

 

「ホントすみません‼︎たっ、貴子さん‼︎」

 

ひとみといよがビビる中、隊長は食堂に連れて行かれた

 

「オトン」

 

「ぐ、グラーフ‼︎」

 

聞かれたか⁉︎

 

いや、そんなハズはない‼︎

 

「何でグラーフの写真持ってるの」

 

「こ、これはその…」

 

「貴子さんと一緒に説教する」

 

「俺は悪くない‼︎ホントだ‼︎」

 

「ひとみ、いよ。子供部屋で塗り絵しておいで」

 

「わかた‼︎」

 

「よいしょ…」

 

ひとみといよが腕から離れ、大ピンチの中、俺も食堂に連れて行かれた

 

「子供にとって悪影響とは思わんのか」

 

「…仰る通りです」

 

隊長がテレビの前で正座をして下を向いている

 

こんなうなだれた隊長、今まで見た事無い

 

「良いか⁉︎エロ本を買うなとは言わん。隠し場所はしっかり管理しろと言ってるんだ。分かったな⁉︎」

 

「はい…気を付けます…」

 

隊長の言葉を聞いて、貴子さんの顔が元に戻る

 

「ふふっ。なら許してあげる。気を付けるのよ⁇」

 

「はい…」

 

貴子さんからエロ本を返して貰い、隊長は俯いたまま食堂から出て行った

 

「次オトン」

 

「はい…」

 

グラーフに言われるがまま、隊長と同じくテレビの前で正座する

 

「グラーフの写真で何した」

 

「…人様には言えない事です」

 

「オトンの妄想の中のグラーフはどんなだ」

 

「…いつも大変な目に遭っております」

 

「気持ち良かったか」

 

「…はい」

 

「よし。それならいい」

 

何故かグラーフは写真を返してくれた

 

「は…え⁉︎」

 

「グラーフ知ってる。グラーフ、だいぶ前からオトンのオカズ」

 

「ゔっ…」

 

図星を言われて、ぐうの音も出なくなった

 

「でも、手を出さないなら、それ位はいい」

 

「何か…すいません…」

 

「ジェミニいるから控えろよ⁇分かったか」

 

「はい…」

 

「早く持って帰って。んで、ひとみといよの手に届かない所に置くの」

 

「分かりました」

 

素直にグラーフに従い、俺は部屋に戻り、グラーフは写真を別の場所に隠した…

 

今度はタペストリーの裏だ

 

絶対バレない

 

…バレないと信じたい

 

 

 

 

 

その後、俺は港でタバコを吸い始めた

 

横では隊長も煙草を吸っている

 

「…男って、辛いな⁇」

 

「あぁ…」

 

その日一日、俺達は心の中でギャン泣きをしていた…



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160話 壊された雌鳥(1)

さて、159話が終わりました

ハーフタイム劇場は楽しめましたか⁇

今回のお話は、北上さんのお話です

ちょっと重たいお話です


昨日の礼と合わせて、今日はラバウルに遊びに来ている

 

あまり顔を合わせていないひとみといよも連れて来た

 

「あたごんら‼︎」

 

「あいしゃん‼︎」

 

「Oh〜‼︎CuteなBabyね‼︎」

 

「いらっしゃい‼︎」

 

既に愛宕の頭一つ分大きくなったアイちゃんは、軽々とひとみを抱き上げる

 

愛宕も愛宕で、慣れた手付きでいよを抱き上げ、そのまま執務室を出て行った

 

そして相変わらず執務室の机にはウェルカムポップコーンが置かれている

 

「おいひ〜‼︎」

 

シャクシャクと音を立てながらポップコーンを口にするきそを見て、ガンビアの護り神を想像する…

 

「アレン。昨日はありがとうな」

 

「あれ位ならいつでも言ってくれ。てか、勝手に使ってくれて構わん‼︎」

 

「朝霜が喜ぶね‼︎」

 

もう口周りにポップコーンのカスをいっぱい付けたきそが笑う

 

「アレン。俺達の決まり事は分かってるよな⁇」

 

「んなもん別にいいって。あれはお前の研究成果がなきゃ、それこそ完成してない」

 

「ダメだ。俺の理に反する」

 

「ったく…」

 

アレンは後頭部を掻きながら悩む

 

俺達の決まり事とは、互いに造った技術を借りた時、後腐れが無い様に恩返しをする事

 

それは向こうが断っても必ず行う

 

金、行動、何だっていい

 

人の道に反する事ならある程度は行動する

 

それが俺とアレンのルールだ

 

「そうだな…なら、一つ頼んでいいか⁇」

 

 

 

 

 

 

 

アレンに言われ、T-50の格納庫に来た

 

「よっ。元気か健吾‼︎」

 

「レイさん‼︎ご無沙汰です‼︎」

 

「今日は子供達も一緒⁇」

 

格納庫には健吾と北上が居た

 

…問題の二人だ

 

アレンが頼んで来たのはこうだ

 

「北上が何か思い詰めてるみたいなんだ。ちょっと様子見てくれないか⁇」

 

とは言われたものの、二人の間に特にこれと言った亀裂は走っていない

 

となると、北上と大和の関係か⁇

 

「健吾さん、あみさん‼︎お茶が入りましたよ‼︎」

 

「ありがとう」

 

「サンキュ〜。喉乾いてたんだよね〜‼︎」

 

見た所、北上と大和の関係も悪くない

 

なら何だ⁇

 

余計に謎が深まる…

 

 

 

 

 

ラバウルで昼食を食べる事になり、ひとみといよは愛宕とアイちゃんに任せ、俺ときそはパイロットグループの席に座った

 

「…どうだ⁇分かったか⁇」

 

「…すまん、全くだ」

 

そう言って、何気無しに北上の方を向いた

 

北上はほんの一瞬だけ悲しそうな顔をした後、愛おしそうに別席に座っている愛宕達を見ていた

 

少し原因が分かった気がする…

 

 

 

 

昼食を食べ終えた後、きそを連れて、医務室を貸して貰った

 

ここなら外部に話が漏れない

 

「きそ、北上を呼んで来てくれるか⁇」

 

「オッケー‼︎待ってて‼︎」

 

きそが北上を呼びに行っている間に、窓を開けてタバコを一本吸っておいた

 

…恐らく、北上が悩んでいるのは子供の事

 

男の俺が踏み入れる所じゃないとは思うが、力になれるならなってやりたい

 

「な〜に〜⁇」

 

きそが北上を連れて帰って来た

 

「そこに掛けてくれ」

 

机にあった灰皿でタバコの火を消し、早速話に入る

 

「何か悩んでるな⁇」

 

「いや、まぁ…何て〜の⁇女の悩み⁇」

 

「ラバウルの連中には言い難いか⁇」

 

「まぁ…男にはちょっと言い難いね」

 

「僕にも言い難い⁇」

 

「あ…あのさ…心配してくれるのは有り難いんだけどさ…これに関しては関わんないでくれる⁇あたしの問題だし、男には言い難いし…」

 

「分かった。もう深入りはしない」

 

「でも、ありがとね。心配してくれてさ⁇」

 

「最後に一つだけ言っていいか⁇」

 

「ん。いいよ」

 

「もし悩みの種が体の問題なら、俺が治してやる。気が向いたら連絡をくれ」

 

「…」

 

北上は俺を数秒見詰めた後、何も言わずに医務室から出た

 

「レイは大体分かったの⁇北上さんが悩んでる理由」

 

「何と無くな…」

 

疑問を残したまま、俺達はラバウルを後にした…



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160話 壊された雌鳥(2)

基地に戻って来て、工廠で艤装の点検をしていると、パソコンにメールが届いた

 

メールは北上からだ

 

”本当に治してくれんの⁇”

 

俺は即座にメールを返した

 

”出来る限りの事はしてやる。俺を信じてみるか⁇”

 

”分かった。色々話すからさ、今からそっち行くわ”

 

メールを終えた後、隊長に事を報告しに行く

 

「隊長。俺だ」

 

「開いてるぞ〜」

 

隊長は執務室で、日頃の哨戒任務の資料を纏めていた

 

「ちょっとだけ工廠を閉め切る。北上と大事な話があるんだ」

 

「内緒話は良くないぞ⁇」

 

隊長は笑いながらそう言う

 

「貴子さんをちょっと貸して欲しいんだ」

 

「貴子をか⁇なるほどな…よし分かった。貴子‼︎貴子〜‼︎」

 

「は〜い」

 

執務室から隊長が呼ぶと、食堂に居た貴子さんの返事が聞こえた

 

「…何か熟年夫婦みたいだな」

 

「ふふ…貴子はレイよりちょっと年上なだけだぞ⁇」

 

忘れがちだが、隊長が30ちょっと

 

貴子さんが隊長より幾つか下

 

落ち着いているからかなり年上に見えるが、俺より3つか4つ上なだけだ

 

…言っておくが、鹿島より貴子さんの方が若い

 

そうこうしていると、執務室に貴子さんが来た

 

「レイがちょっと頼みたい事があるらしいんだ」

 

「あら。マーカス君が頼み事なんて珍しい…何かしら⁇」

 

「俺が言ったら、工廠に来て欲しいんだ」

 

「んっ。分かったわ」

 

本題はまだ明らかになっていないので、来て欲しい事だけ貴子さんに頼み、俺は工廠に入った

 

数十分後、基地に一機のT-50が着陸した

 

T-50から降りて来たのは勿論北上

 

北上は隊長達に挨拶をした後、工廠に来た

 

「来てくれてありがとう。掛けててくれ」

 

北上はいつもきそが座っている椅子に座り、俺は基地のシャッターを閉めた

 

「マーカス。遊びで言ってんなら今の内だよ⁇」

 

「いや、本気だ」

 

「…分かった。あんたを信じて話すよ」

 

俺は北上の目をしっかりと見て、彼女の話を聞いた

 

「いやぁ、実はさ〜。あたし、ウィリアムに墜とされる前にも一回墜ちてんだよね〜」

 

「…」

 

「そん時にさ、敵の捕虜になってさ〜…もうメチャクチャにされた…助けを呼んでも、だ〜れも助けてくんないしさ〜…」

 

「北上…」

 

「んで、健吾が助けに来てくれて、帰って来た時にさ…誰の子か分かんない子がお腹に居て、まぁ、堕ろしたたんだわ」

 

「…身篭らなくなったのか」

 

北上は捕虜になった時に、言葉では表せない位に凌辱され、身篭らない体になってしまった

 

ケッコンした今、やはり考えてしまうのは最愛の人との子供…

 

だから北上はひとみやいよを見て悲しい顔をしていたのだ

 

「そゆ事。あたしは話したよ。次はマーカスの番」

 

「分かった。今から検査に移る。良く話してくれたな」

 

「ね〜、ホントに出来んの⁇」

 

「俺を信じろ」

 

「あっ…」

 

何故か北上は黙ってしまった

 

「きそ‼︎カプセルの準備だ‼︎」

 

「オッケー‼︎」

 

きそがカプセルの準備をしている間、俺は北上を診察台に寝かせた

 

「あみ」

 

「えっ⁉︎」

 

「不安か⁇」

 

「…うん」

 

「大丈夫。心配すんな」

 

「マーカスってさ…ホントズルいよね」

 

「何がだ⁇」

 

「こう言う時だけカッコイイの、ホントズルい…」

 

北上は俺の手を握って来た

 

やはり不安なのだろう…

 

「あんさ…今だから言うけどさ…マーカスの事、好きだったよ⁇」

 

「お前もお前だな」

 

「ふふっ…ジェミニがマーカスに惚れた理由が、今分かったよ…マーカスはいつだって助けてくれんだね…」

 

「友達を助けるのに理由は要らん。そうだろ⁇」

 

「…うんっ‼︎」

 

「準備出来たよ‼︎」

 

カプセルの準備を終えたきそが来た

 

「さっ、行って来い」

 

手を離した時、北上は笑顔を見せた

 

俺は健吾が惚れた理由が、今分かったよ…

 

「後は待つだけっ‼︎え〜と…二時間だってさ‼︎」

 

「もう少ししたら貴子さん呼んで来てくれるか⁇俺は健吾を呼んでおく」

 

「オッケー」

 

俺ときそはパソコンの前に戻り、ドリンクバーからコーラを出して飲み始めた

 

「北上さんがね」

 

「ん⁇」

 

きそは北上の悩みをとある人物から聞いていた

 

「健吾さんの子供を、大和さんにお願いしたんだって」

 

「大和に聞いたのか⁇」

 

「うん。大和さんは優しい人だから、大和さんも悩んでたみたい」

 

「悩みの種はこいつでチャラだ。後は健吾次第だ。人の恋路を邪魔するのは…」

 

「呼ばれた時だけ、だっけ⁇」

 

「そう言うこった‼︎」

 

その後、コーラを飲みながらきそはパソコンでゲームをし始め、俺はカプセルの中の北上の様子を見たりと中々慌ただしく過ごした

 

そして二時間後…

 

治療を終えたカプセルから北上が出て来た

 

「終わった⁇」

 

「お疲れさん。最終検査だ。横になってくれ」

 

「おめでとう‼︎」

 

「あ…ありがとうございます…」

 

貴子さんにバトンタッチをし、きその待つパソコンの前に戻って来た

 

「きそ、お前は北上にこれを渡すんだ」

 

内ポケットから取り出したチケットをきそに渡した

 

「何これ」

 

「スカイラグーンの意味深な方の休憩室の回数券だ」

 

「はは〜ん…健吾さんと一緒に渡す⁇」

 

「そうだな」

 

「マーカス君‼︎」

 

貴子さんが帰って来た

 

手元でOKマークを出し、笑顔で帰って来た所を見ると、治療は完了したみたいだ

 

俺は内線で食堂で何も知らずに待っている健吾を呼んだ

 

「マーカスさん、どうしたんです⁇」

 

すぐに健吾は工廠に来た

 

「向こう行ってみ」

 

「はぁ…」

 

何が何だか分からないまま、健吾は北上の待つ場所へ向かう

 

「隊長」

 

「ゴメンね、急に出ちゃってさ」

 

「心配しましたよっ…」

 

北上は診察台の上に座っており、健吾はその横に座った

 

「あたしさ、子供産めないでしょ⁇」

 

「その話は止しましょう…」

 

「マーカスときそちゃんに治して貰ったんだ‼︎」

 

「え…」

 

驚いた表情をし、無意識に涙を流す健吾の横で、北上はお腹をさすっている

 

「だからもう心配しないで‼︎」

 

「…はいっ‼︎」

 

健吾は涙を拭き、北上を思い切り抱き締めた

 

北上は嬉しそうに健吾に手を回し、背中を叩く

 

「そんな幸せそうな二人にプレゼントだぁ‼︎」

 

「一発決めちゃってね‼︎」

 

きそは北上

 

俺は健吾に先程の券を渡した

 

「ありがとっ」

 

「マーカスさん…本当にありがとうございます…」

 

「バッキャロゥ‼︎愛しのハニーの前で泣くんじゃねぇ‼︎泣いていいのはちゃんと北上のお腹から子供が産まれた時だ‼︎分かったら行け‼︎帰りに一発かまして男を見せろ‼︎北上の上に立つまたと無いチャンスだ‼︎」

 

「そ〜だそ〜だ‼︎」

 

「俺みたいに横須賀の尻に敷かれた人生を送りたいか‼︎」

 

「そ〜だそ〜だ‼︎」

 

「マーカスさん…この御礼は必ずします‼︎」

 

「いや、それは止めてくれ」

 

「え⁇」

 

俺は急に真顔に戻った

 

「これはアレンへの御礼なんだ。御礼ならアレンに言ってくれ」

 

「マーカス…」

 

「マーカスさん…」

 

「にゃろうサッサと行け‼︎」

 

「芸術とリア充は爆発だぁ‼︎」

 

俺達はそれぞれ券を渡した背中を押し、それぞれのT-50に押し込んだ

 

「マーカスさん、俺…」

 

「健吾。お前は北上の思いを背負って生きて来た。それを今、北上に返すべきだ。俺が出来るのはここまでだ。後は愛でカバーしな。お前なら出来るさ」

 

健吾の頭を強めに撫でる

 

「はいっ‼︎ありがとうございました‼︎」

 

「よしっ‼︎良い顔だ‼︎行って来い‼︎」

 

俺がT-50から降りると、健吾は飛び立って行った

 

次いで北上のT-50も飛び立つ

 

美しい飛行機雲を残し、二人はスカイラグーンへと向かう…

 

「行ったな…」

 

「うんっ…」

 

しばらくの間、二人の残した飛行機雲をきそと共に見つめていた…

 

 

 

 

 

 

その日、北上と健吾はスカイラグーンを訪れ、健吾はしっかりと北上を抱いたらしい

 

 

 

 

 

 

「北上に”黙って俺の子を産め‼︎”だとか強気にイってイた割には、その後”あみさん、あみさん”とイってイた。男は訳分からんな…」

 

by イキュ牛

 

 

 

 

 

タナトスが横須賀来航するまで後1日になりました



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161話 心優しきリーパー(1)

さて、160話が終わりました

横須賀に、ついにタナトスが来航します

タナトスが来航する直前、横須賀の執務室では…


横須賀の港で仁王立ちして海を眺める…

 

今日、タナトスが帰って来る

 

横須賀近海でジャミングが強くなっているので、近くに居るのは間違いない…

 

 

 

 

同時刻、横須賀の執務室では…

 

「たあとす⁇」

 

「たあとすてなぁに⁇」

 

アタイの膝の上で、ひとみといよが質問攻めをして来る

 

「お父さんが造ったスッゲー強い潜水艦さ‼︎」

 

「えいしゃんすおい‼︎」

 

「なんれもつくう‼︎」

 

「よいしょ〜っと」

 

子供の前にも関わらず、母さんはリクライニングを倒し、スクリーンを降ろす

 

「母さん‼︎仕事終わったのか⁉︎」

 

「終わったわよ〜。あ、朝霜。そこのシュークリーム取って〜」

 

「ったく…」

 

致し方無く冷蔵庫からシュークリームを取り、母さんの前にドンッと置く

 

「はい、あ〜ん‼︎」

 

「あ〜ん…」

 

母さんからシュークリームを一口貰う

 

やっぱり美味しいな

 

「あんま食い過ぎっと肥えるぞ⁇」

 

「いっぱいあるから、いよちゃん達と食べていいわよ」

 

「…あんがとっ」

 

アタイの分と二人の分を持ってホームシアターの前に戻って来たと同時に、スクリーンに映画が映し出された

 

「うぁ〜」

 

「あぉ〜」

 

ひとみといよがいつも通りの反応をして始まった映画は、タイムトラベル物の映画

 

「昔、お母さんとお父さんがデートした時に見に行った映画なの」

 

「ほぇ〜…」

 

また二人を膝の上に座らせ、映画を見る

 

序盤の内容は、死んだ恋人を助けようと何度も過去に戻って助けようとするが、何度戻って助けようとしても恋人は死んでしまうと言った意味の深い内容だ

 

序盤でも分かる位、中々胸に来る…

 

 

 

 

 

 

 

横須賀の執務室で流れている映画が中盤辺りに入った時、港付近で水柱が上がった

 

タナトスが勢い良く海面に現出し、天を目掛ける様に艦首を突き出した

 

「そっ、総員退避ーっ‼︎」

 

俺がそう叫ぶと、付近に居た艦娘や整備兵達が慌ただしく逃げるが、港付近では浸水が起こり、辺り一面水浸しになる

 

そして、軽く地響きが起こる

 

《ただいまでち‼︎》

 

「バッキャロゥ‼︎水浸しじゃねぇか‼︎」

 

《創造主が帰還時の説明をしなかったのが悪いんでち‼︎》

 

「…まぁいい。おかえり」

 

《ただいまでち‼︎》

 

タナトスは大人しく錨を降ろし、横須賀に停泊した

 

 

 

 

「なんだぁ⁉︎」

 

「ぐあぐあすう‼︎」

 

「あ〜しゃんこあい〜‼︎」

 

タナトスの帰還時に起きた地響きは執務室にも届いて来た

 

アタイはひとみといよを抱き締め、地響きが収まるのを待つ

 

地響きはすぐに収まり、アタイは二人を離し、母さんの方を振り向いた

 

「母さん‼︎大丈夫か⁉︎」

 

「んがっ…」

 

母さんは鼻ちょうちんを作って大口を開いてイビキをかいていた

 

「起きろ‼︎」

 

「うひっ‼︎」

 

鼻ちょうちんが割れ、母さんが起きた

 

「何かグラグラしてたわ…目眩かしら⁇」

 

「違わい‼︎来たみたいだぜ‼︎」

 

ホームシアターの向こうにあるカーテンを開けると、港に巨大な潜水艦が停泊しているのが見えた

 

「デッケェ〜…」

 

息を飲むようなデカさだ…

 

お父さんはアレを造ったのか…

 

「んっ、いよにもみしぇて‼︎」

 

「ひとみも‼︎」

 

お父さんの様に腕力が無いから、アタイは二人を脇に抱え、窓の外を見せた

 

「えいしゃんいた」

 

「おみじゅ、ごぁ〜ってなってう」

 

《横須賀‼︎聞こえるか‼︎》

 

二人と一緒に外を見ていると、母さんの無線からお父さんの声がした

 

「はいはい‼︎来たのね⁉︎」

 

《悪い‼︎水浸しにしちまった‼︎》

 

「起こった事言っても仕方ないでしょ⁇」

 

《怪我人が居ないか確認してくれ‼︎》

 

「分かったわ‼︎」

 

母さんは無線を基地全体に切り替えた

 

「港付近で浸水が発生した。手隙の者は怪我人及び行方不明者が居ないか確認して‼︎繰り返す…」

 

普段はナマケモノの母さんだが、こう言う決断が早いのはホント尊敬する

 

お父さんだってそう言ってた

 

「朝霜、あんたは二人とお留守番ね⁇清霜とガングートが帰って来たらシュークリームあげて。いいわね⁉︎」

 

「あ、あぁ‼︎任せな‼︎」

 

母さんは上着を着ながら外へ出て行った

 

「おうすばん⁇」

 

「あ〜しゃんとおうすばん⁇」

 

「そうだぞ〜‼︎”良い子ちゃん”にしてたら、お父さんも早く帰って来るかんな‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

「おとなしくしてう‼︎」

 

二人はホントに大人しくしてくれていた

 

持って来たお気に入りのイルカのぬいぐるみで遊んだり、お絵描きをしたりと、普段お父さんが向こうで二人に何を教えているか、この二人を見るとよく分かる

 

アタイはアタイで母さんの椅子に座り、母さんがゼッテー残しているであろう書類を片付け始めた

 

アタイは母さんの様な決断力は無いけど、計算だとか、輸入される物資がいついつ来る等を纏める事位はアタイでも出来る

 

って言うか、アタイがやんなきゃ母さんはいつまでも貯めておく

 

まっ、これで小銭くれっから良いんだけどさっ…

 

「あ〜しゃんあ〜しゃん‼︎」

 

いつの間にか横に居たいよに服の裾を引っ張られた

 

「ん⁇どした⁇」

 

「こえあげう‼︎」

 

手を休め、いよの手から紙を貰う

 

「おぉ‼︎アタイか‼︎」

 

いよから貰った紙には、ニコニコ笑ったアタイが描かれていた

 

そういや、お父さんはみんなが書いた絵を宝物の様にファイルに挟んでたな…

 

あ…何か分かる気がする

 

「ひとみもかいた‼︎」

 

ひとみからも絵を受け取る

 

ひとみの描いたアタイは、歯がギザギザに描かれている

 

「アタイは歯ぁギザギザだもんな‼︎二人共上手だなぁ‼︎アタイにくれんのか⁉︎」

 

「あげう‼︎」

 

「ひとみたち、あ〜しゃんらいしゅき‼︎」

 

「二人共、ホント”良い子ちゃん”だなぁ‼︎」

 

二人をギュッと抱き締める

 

「くふふっ…」

 

「あ〜しゃんのにおいら…」

 

「アタイの匂い⁇」

 

「あ〜しゃん、おひしゃまのにおいすうの‼︎」

 

「えいしゃんはたあこのにおい‼︎」

 

「母さんの匂いも分かんのか⁇」

 

「よこしゅかしゃんは、ふあふあしゅるにおい」

 

「よこしゅかしゃん、いいにおいしゅるの」

 

「えいしゃん、おかあしゃんのにおいっていってら‼︎」

 

「へぇ〜…意外だなぁ…」

 

いつも大体お菓子食ってるか、デッケェ音立てて屁ぇこいてんのに…

 

やっぱ、母さんも母さんなんだな…

 

「ふぅ〜っ、疲れたぁ〜‼︎」

 

「ただいまぁ〜」

 

母さんとお父さんが帰って来た

 

「えいしゃんら‼︎」

 

「えいしゃん‼︎」

 

二人はアタイから離れ、お父さんに突進するかの様に飛び付いた

 

…アタイも一発決めてみっかな⁉︎

 

「お父さん‼︎」

 

アタイは足にくっ付いている二人を避け、お父さんのボディに向かって飛び付いた

 

「朝霜っ‼︎ははっ‼︎」

 

お父さんはアタイをしっかりと抱き留めてくれた

 

「またデカくなったか⁇」

 

「メシモリモリ食ってっからな‼︎」

 

「タナトスの整備が終わったらメシ食いに行くか‼︎」

 

「やったぜ‼︎」

 

「んじゃっ、ちょっくら行って来る」

 

「あ〜しゃんあいがと‼︎」

 

「たのしかた‼︎」

 

「あぁ‼︎また後でな‼︎」

 

お父さんは二人を連れて執務室を後にした

 

「…」

 

またすぐに逢えんのに、何か分からない喪失感に苛まれる…

 

「お父さんと離れると寂しくなるでしょ⁇」

 

「何で分かった‼︎」

 

「お母さんがそうだったからよっ。あらっ‼︎書類終わらせてくれたの⁉︎ありがと〜っ‼︎」

 

「あ、あぁ…良いって事よ…」

 

この気持ちを、母さんは今まで何十回何百回と越えて来たのか…⁇

 

やっぱ、アタイには越えらんねぇな…

 

母さんはタフだなぁ…



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161話 心優しきリーパー(2)

「おっき〜‼︎」

 

「おっき〜‼︎」

 

二人を連れて港まで戻って来た

 

《創造主。そのちっちゃいのはなんでち⁇》

 

「お前の妹さ。ひとみ、いよ、ご挨拶しようか⁇」

 

「いよ‼︎」

 

「ひとみ‼︎」

 

《タナトスでち。さっ、中に入るでち》

 

メチャクチャ短い自己紹介を終え、タナトスの艦内に入る

 

「うぁ〜」

 

「あぉ〜」

 

二人は不思議そうにタナトス内部のモニターを見回す

 

「よいしょっ」

 

一番デカいモニターの前にある機器の上に、ひとみといよが普段被っているヘルメットを置き、ケーブルを接続する

 

《それはなんでち⁇》

 

「これを使って、セイレーンシステムをお前にインストールする」

 

《タナトスの人格を変えるつもりでちか》

 

「んな事しねぇよ。索敵能力を上げるんだ」

 

《創造主も成長したもんでち》

 

「俺より凄い奴がいるんだぞ⁇」

 

《へぇ。その内逢わせて欲しいでち》

 

「この前逢ったろ⁇」

 

《あの緑の奴でちか》

 

「そっ」

 

相変わらずタナトスは少し怒り気味で話す

 

そんなビミョ〜な空気を打ち破ったのは、大人しく座っていた二人だった

 

「れっち〜‼︎」

 

「れっちれ〜っち‼︎」

 

《いよとひとみだったでちか⁇》

 

「いよっ‼︎」

 

「ひとみっ‼︎」

 

《これは好きでちか⁇》

 

タナトスはモニターにイルカの映像を映し出した

 

「いるかしゃんら‼︎」

 

「いるかしゃんしゅき‼︎」

 

モニターを見て、キャッキャキャッキャとはしゃぐ二人を見て、俺は機材にもたれて腕を組んだ

 

「二人がイルカが好きって良く分かったな⁇」

 

《セイレーンシステムと一緒に、二人の好きな物も一緒に入って来たでち》

 

「二人は気に入ったか⁇」

 

《子供は最優先護衛目標でち。創造主が教えたんでち》

 

「良い子だっ…」

 

タナトスは確かに暴れん坊だ

 

だが、根は優しい奴だ

 

俺は、もしかするとタナトスにあれこれ命令し過ぎたのかも知れない

 

やれアイツを護れ、やれ攻撃をしろ等、少し言い過ぎた気がする…

 

挙げ句の果てには、何年も北極海に放ったらかしだ…

 

怒っても仕方ない

 

「よしっ。インストール完了だ‼︎」

 

《音響索敵、脆弱部探知でちか》

 

「いっぱい撃つのも良いが、一撃で仕留めるのも気持ち良いモンだぞ⁇」

 

《まぁ、その内試してみるでち》

 

「それと、新しい艦載機があるんだ。今度乗っけてみるか⁇」

 

《良いのじゃなきゃ海に沈めて来るでち》

 

「俺のお墨付きだ。安心しろ」

 

「いるかしゃん、ぴぉ〜んってしてう‼︎」

 

「ぼ〜うぽいってしてう‼︎じょ〜じゅじょ〜じゅ‼︎」

 

ひとみといよはモニターの中にいるイルカを指差したり、拍手を送っている

 

そんな二人を見て、俺は親の顔をしていたらしい

 

《創造主も父親になったでちか》

 

「まぁなっ。中々騒がしいけど、飽きない毎日だぞ⁇」

 

《創造主が父親とか、世も末でち》

 

「言ってろっ…」

 

タナトスから降りる前に、最後に兵装の確認をした

 

「タナトス。火器管制システムを出してくれ」

 

タナトスは黙ってモニターに兵装の各種を出した

 

・対空機銃6門

 

・艦首爆雷投射機2門

 

・艦首魚雷発射管4門

 

・対空ミサイルポッド16門

 

・側面衝撃波発生装置2門

 

・無人偵察機1機

 

・無人戦闘機2機

 

かつて最強を目指して造られた潜水艦らしい装備だ

 

艦首爆雷投射機なんて、浮上した際に、水上の敵艦に向かって投射して、突き刺して爆発するシロモノだ

 

タナトスのワンオフ装備であり、これを知っているのは俺とアレンしかいない

 

タナトスにセイレーンシステムをインストールしたのは、この兵装の命中率を格段に上げる為だ

 

衝撃波発生装置は、敵潜水艦に魚雷を撃たれた際に、衝撃波で誤作動を起こして誘爆させる為の兵装だ

 

これもタナトスのワンオフ装備であるが、燃費が良くない

 

それに防御兵装なので、敵艦に有効打を与えられない

 

特に異常は見当たらないが、一度大規模な点検は必要だな…

 

《タナトスは横須賀所属になるでちか⁇》

 

「お前はどうしたい⁇」

 

《創造主のお好きな様にするがいいでち》

 

「なら、俺が不在の時、家族を護ってやってくれ」

 

《そう言う事なら了解したでち‼︎》

 

タナトスは素直に了承してくれた

 

「よし、ごはん食べに行くか‼︎」

 

「いよもいく‼︎」

 

「ひとみもいく‼︎」

 

とは言う二人だが、未だ目線はモニターの先のイルカにある

 

そんな二人を抱き上げ、肩に乗せる

 

「タナトスにありがとうは⁇」

 

「たあとすあいがと‼︎」

 

「またみしぇてえ‼︎」

 

《また遊びに来るといいでち》

 

「じゃあな、タナトス」

 

《じゃあなでち》

 

俺達はタナトスから出た

 

 

 

 

 

港に降りた俺達は、早速皆の待つ執務室に向かっていた

 

「ひとみ、ないたえう⁇」

 

「るいるいるっこぉあし⁇」

 

「いよ、ぱんたえたい‼︎」

 

「ひとみ、おしゅしたえたい‼︎」

 

珍しく二人の意見が食い違う

 

「帰って来た‼︎」

 

執務室に戻って来ると、子供達がみんな帰って来ていた

 

「イディオット。ガン子も行きたい‼︎」

 

「い〜ちゃんも行くぞ‼︎」

 

「お父様‼︎き〜ちゃんも行きたい‼︎」

 

「よしよし‼︎んじゃあ行きますか‼︎」

 

そして俺達は”瑞雲”に向かった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かにさんおいしかった‼︎」

 

「いよちゃんもひとみも、わぁままいわない‼︎」



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162話 双子のシマエナガと雷鳥の妻(1)

さて、161話が終わりました

今回のお話は、ひとみといよのおつかいのお話です

そして、レイが心の奥底で悩んでいた事が明らかになります


タナトスが横須賀に来てから数日後の金曜日…

 

タナトスは次の出撃があるまでドックで大規模な補修工事を受ける事になった

 

「いいかしおい。ちゃんとお勉強して、タナトスに教えてやってくれよ⁇」

 

「うんっ‼︎しおいに任せて‼︎」

 

「れーべとまっくすは、いっぱい日本文化を学んで来いよ⁇んでっ、俺に色々教えてくれっ」

 

「うんっ‼︎分かった‼︎」

 

「みんなの為に勉強してくる」

 

「「「行って来ま〜す‼︎」」」

 

「いってらっしゃい‼︎」

 

「はよかえってこいお〜」

 

「き〜つけてな〜」

 

三人を学校に送り、ちゃんと昇降口に入るまで見届ける

 

「よ〜し、たいほうは今日は貴子さんとお買い物だな⁇」

 

「うんっ‼︎ママとおかいものするの‼︎」

 

「マーカス君っ、ありがとうね‼︎」

 

丁度貴子さんも来た

 

貴子さんは俺の頭の上からたいほうを受け取り、手を繋いで繁華街に向かった

 

「えいしゃんなにすう⁇」

 

「たあとすのとこいく⁇」

 

「タナトスは色々点検中だからなぁ。今日は違う所行こうか⁇」

 

「ひとみ、あ〜しゃんのとこいきたい‼︎」

 

「いよも‼︎がんこしゃんいうかな⁇」

 

二人共朝霜の所へ行きたがった

 

今日は二人共横須賀に行きたがっていたので連れて来た

 

本当ならきそと二人で横須賀に来て、きそは学校が無ければ朝霜達と遊んだり、繁華街をブラブラする時間になる

 

そのきそはタナトスを見に行って、既にいない

 

 

 

執務室に行くと、横須賀が慌ただしく動いており、その先に清霜とガングートがいた

 

「コラーーーーーっ‼︎」

 

「「こぁーーーーーっ‼︎」」

 

ひとみといよが嬉しそうに横須賀のマネをする

 

「捕まえたっ‼︎あんた達って子は‼︎」

 

「何やってんだ⁇」

 

「私のシュークリーム全部食べたのよ‼︎」

 

「ったく…行くぞ」

 

「き〜ちゃんはお留守番⁇」

 

「ガン子もお留守番か⁇」

 

「お父さんと母さんは週に一回しか普通に逢えないんだ」

 

横須賀が踏ん反り返って座っている椅子に朝霜がいた

 

「アタイもいるし、おばあちゃんもいるから大丈夫さ‼︎」

 

「分かった。ひとみ、いよ、良い子ちゃんでいるんだぞ⁇」

 

「あかった‼︎」

 

「いいこしゃんにしてう‼︎」

 

こうして、俺と横須賀はデートに出掛けた…

 

 

 

 

 

「あらっ‼︎セイレーン‼︎シレーヌ‼︎」

 

「いよぉっ‼︎」

 

「ひとみぃっ‼︎」

 

ひとみといよは、自分を昔の名で呼ばれるとキレる

 

現に二人を抱っこしたサラの腕の中では、必死に離れようともがく二人がいる

 

「ヒトミ⁇イヨ⁇サラの事、嫌い⁇」

 

「しゅき‼︎」

 

「しゅき‼︎」

 

ちゃんと名前を言えば、二人はそれに答えてくれう

 

「じゃあ〜…この中で一番好きな人は⁉︎」

 

二人は即答した

 

「「あ〜しゃん‼︎」」

 

朝霜は書類を書きながら親指を立てた

 

「もうちょっとしたら、アタイと遊ぼうな‼︎」

 

 

 

 

 

 

その頃、俺達は…

 

「中々イケるわね⁇」

 

「このホワイトソース掛けも中々なモンだぞ⁇」

 

俺達は視察兼デートで、繁華街に新装開店した店に来ていた

 

最初に来たこの店は開店はまだしておらず、明日の開店に備えて、俺達が試食に来ていた

 

最上の”スティックミート”

 

棒に刺した肉を低価格で美味しく食べられ、ソーセージを始め、色々な肉類がメニューに書かれている

 

最上はタウイタウイモールの埠頭で出店でフランクフルトやアメリカンドッグを売り捌き、頑張ってお金を貯め、ようやく横須賀に店を開ける様だ

 

「どうかな⁇」

 

「俺は良いと思うぞ。この価格でこの味なら、足柄に肩を並べられるな」

 

「私も良いと思うわ‼︎明日の開店、頑張んなさいよ⁇」

 

「ありがとうございます‼︎やった…僕の店だ‼︎」

 

最上は感極まっている

 

「じゃあ最上、明日の開店、頑張んなさいよ⁇」

 

「横須賀さんもデート頑張ってね‼︎」

 

最上のスティックミートを出て、次の店に行くまでの間、ど〜しても気になる事を横須賀に聞いてみた

 

「味良し、価格良し、愛想良し…完璧ね‼︎」

 

「あのネーミングセンスはどうなんだ⁇」

 

「スティックミート⁇」

 

「まぁ…」

 

「良いんじゃないかしら⁇味は良いんだから、客は寄り付くわよ。アンタのスティックミートと違ってね。次〜っ‼︎」

 

「こっ、コンノヤロ…」

 

反論する言葉が無い

 

頭の中で何度も考えるが、どう考えても、二人+一人しか居ない

 

悶々と考えながら、横須賀と歩調を合わせ、次の店に入った

 

 

 

 

 

 

「あらっ⁇ポテトが無いわ⁇」

 

「ぽれと⁇」

 

「いよちゃんのしゅきなおいもしゃん」

 

「おぉ〜」

 

朝霜の手がまだ空かない為、ひとみといよはサラと一緒に厨房に来ていた

 

二人はエプロンを着せて貰い、今からポテトを作るお手伝いをしようとしていた

 

「サラ」

 

マークが来た

 

マークはカウンターから厨房に顔を覗かせている

 

「あっ、マー君‼︎お腹空いたの⁇」

 

「まーきゅん⁇」

 

「えいしゃんそっくい‼︎」

 

「セイレーンとシレーヌじゃないか‼︎そうか、マーカスが来てるのか‼︎」

 

マークもサラと同じ様に、ひとみといよを昔の名で呼ぶ

 

「いよっ‼︎」

 

「ひとみっ‼︎」

 

二人はマークに向かって歯を見せ、イーッと言う

 

昔の名前がどうしても嫌いらしい

 

「そうかそうか‼︎ヒトミとイヨと言うのか‼︎」

 

「ゔぅ〜っ‼︎」

 

「がぅぅ〜っ‼︎」

 

「か、可愛い…」

 

「マー君に似て来たのね‼︎」

 

歯を見せて睨み付けるのは、二人にとっての威嚇行動

 

だが、サラとマークにとっては、子供の可愛い仕草にしか見えない

 

「マー君、サラ、ちょっとポテト買ってくるわ⁇」

 

「しゃら、おかいものいく⁇」

 

「ひとみたちがいったげう‼︎」

 

「で、でも…」

 

「よし、ヒトミ、イヨ。おつかい頼めるか⁇」

 

「いよにあかせて‼︎」

 

「おつかいすう‼︎」

 

二人はドーンと胸を張る

 

「ちょっと待ってろ」

 

マークが何かを取りにその場から離れた後、サラは不安ながらも、平仮名で紙に買う物を書き、いよに渡した

 

「まずはヒトミな」

 

戻って来たマークは、ひとみにお金を入れた財布を首から掛ける

 

「ぴよしゃんら…くふふっ」

 

ひとみは首から掛けられたヒヨコの財布が気に入った様子

 

「んっ、いよもぴよしゃんほちい」

 

「イヨの分はこれな⁇」

 

マークはいよの持っていた紙をひとみとお揃いのヒヨコの財布に入れ、同じ様に首から掛けた

 

「ぴよしゃん」

 

「ちゃんとおつかい出来たら、そのお財布とお釣りをあげるぞ⁇」

 

「あかった‼︎いってきあす‼︎」

 

「いってきあす‼︎」

 

二人は意気揚々と出掛けて行った

 

「もぅ…マー君、やっぱり変な教え方してる…」

 

「アサシオ‼︎」

 

「はっ‼︎ここに‼︎お呼びですかマーク様‼︎」

 

アサシオはマークの足元のタイルを吹き飛ばし、床からいきなり出現した

 

「ワォ…マー君、その子だぁれ⁇」

 

「えと…マーカスとジェミニを護衛してるハツヅキと一緒⁇」

 

「ニンジャね‼︎」

 

「忍者です‼︎」

 

「ニンジャなのか‼︎」

 

「忍者です‼︎」

 

生真面目そうに見えるアサシオと呼ばれた子は、初月と同じ、重要人物を影から守る護衛部隊の一人だ

 

「アサシオ。ヒトミとイヨを影から護衛してやってくれ」

 

「畏まりました‼︎行って参ります‼︎」

 

マークが瞬きした瞬間には、もうアサシオは居なくなっていた

 

「ニホンのニンジャは凄いわね…」

 

「やっぱりニホンは奥が深いな…」



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162話 双子のシマエナガと雷鳥の妻(2)

「す〜ぴゃ〜みゃ〜けっろついた‼︎」

 

「ぴゃ〜‼︎」

 

ひとみといよは、目的地である、数日前に開店したお店に着いていた

 

この店に関しては、いよはほとんど噛んでいない

 

本当に”スーぴゃ〜マーケット”なのだ

 

この店は安くて量の多い食材がたくさん売っている

 

ひとみといよはしっかりと目当ての物を見つけられるのだろうか…

 

 

 

 

 

 

 

「次はここよ」

 

「そういやなかったな」

 

次に来たのは、今まで横須賀になかった本屋

 

敷地面積も中々広く、期待が大きい

 

「いらっしゃいませー」

 

店内は静か目のBGMが流れており、雰囲気も中々良い

 

「妙高。調子はどう⁇」

 

「元帥様、大尉様。お疲れ様です。上々ですよっ」

 

レジに居た女性は後ろで髪を纏めており、妙な色香が漂っている上品な女性である

 

…誰かと同じ匂いがする

 

「レイ、ここには漫画から参考書、んで、海外の雑誌もあるわよ⁇」

 

「素晴らしい‼︎」

 

「大尉様。妹がお礼を申しておりました」

 

「妹⁇」

 

こんな上品な女性の妹だ

 

助けた覚えはないが、さぞ別嬪だろう

 

だが、その淡い期待はすぐにバッキバキ砕かれた

 

「大尉様が居たから、今の様な良い殿方と知り合える事が出来ました」

 

「妹ねぇ…名前は⁇」

 

「足柄です」

 

特に理由は無いが、聞きたくない名前が聞こえた

 

「足…何だって⁇」

 

「足柄です。駄菓子の」

 

「嘘だろ⁇妙高が妹じゃないのか⁉︎」

 

「妹は姉の私から見ても、妙な色気がありますから、いつも年上に見られるんです」

 

「なるほど…」

 

「これ、下さい」

 

妙高と話していると、客がレジに来たので身を避けた

 

「あらっ⁇レイ⁇」

 

そこに居たのは鹿島だった

 

「さっ、横須賀。次行くぞ次。妙高、頑張れよ‼︎また来るからな‼︎」

 

「ちょっ、ちょっと‼︎」

 

「あっ、はい‼︎ありがとうございました‼︎」

 

横須賀の背中を押し、急いで妙高書店を出た

 

「レイ‼︎ちょっと待って下さい‼︎」

 

鹿島が追って出て来た

 

俺は横須賀の背中を押しながら、背後にいるであろう鹿島に話し掛けた

 

「旦那とは上手く行ってんのか⁇」

 

「レイ、こっち向いて下さい」

 

「デート中なんだ。ワリィな。また遊びに行くよ」

 

とにかくその場を去りたかった

 

そんな俺に対して、鹿島は俺の服を掴んで引き留めた

 

「レイはあれからずっと私を避けてます。たまにはお話しましょうよ」

 

「また今度な。デート中なんだって」

 

「約束ですよ⁇」

 

「約束する」

 

俺は淡々に鹿島に言葉を返す

 

鹿島の声を聞くと、どうしても情が出てしまう

 

本当は一刻も早くこの場を去りたいのに…

 

鹿島は諦めたのか、俺達と逆の方向に歩いて行った

 

「冷た過ぎじゃない⁇」

 

「帰る場所がある奴にはこれで良い」

 

「また情が湧いちゃいそう⁇」

 

「…まぁな」

 

「良いじゃない、また情が湧いちゃったって。ちゃんと私の所に帰って来たら、それでいいわ。次が最後よ‼︎」

 

そう言えば、朝霜が言ってたな…

 

母さんはタフだって

 

コイツと一緒に居ると、知らないコイツの知らない部分が出て来て、また好きになって行く…

 

「最後はここよ‼︎」

 

「スーぴゃ〜マーケット」

 

ここまで来ると、おんどりゃあやずいずいずっころばしがマトモなネーミングセンスに見えて来た…

 

「涼し〜‼︎」

 

中はかなり広い

 

流石にタウイタウイモールの様な大きさでは無いが、平面でも充分な奥行きだ

 

「酒匂達がやってるのよ⁇」

 

「だからスーぴゃ〜なのか…なるほどな」

 

最近、毒されて来ているのだろうか⁇

 

この店の名前もマトモに聞こえて来た…

 

「ペットボトルのジュースでも買いましょ」



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162話 双子のシマエナガと雷鳥の妻(3)

「ぽれとあった‼︎」

 

俺達がジュースを選んでいる二つ向こう側のレーンで、ひとみといよが子供用のカートにお使いの品を入れていた

 

「さんつかって⁇」

 

「いちつ、につ、さんつ‼︎さんついえた‼︎」

 

いよはちゃんと数を数えながら、ポテトの徳用袋を3つ、カートに入れる

 

「つい、とあとのかんかんよんつ‼︎」

 

「いちつ、につ、さんつ、よんつ‼︎よんついえた‼︎」

 

カートにトマトの缶詰が4つ放り込まれる

 

「あらっ⁉︎二人共何してるの⁇」

 

二人は横須賀と鉢合わせた

 

横須賀が二人の前に屈むと、二人はまず抱き着く

 

「しゃらとまーきゅんのおつかい‼︎」

 

「ぴよしゃんのおさいふもあった‼︎」

 

「お父さんとお母さんのお使いしてくれてるの⁉︎良い子ね〜‼︎」

 

「初月‼︎」

 

「ここに‼︎」

 

いつも通り、初月がスーぴゃ〜マーケットの天井から降りて来た

 

「二人の護衛を頼めるか⁇」

 

「言うと思った。大丈夫だ。朝潮と言う護衛が着いてる。安心してくれ」

 

初月の目線の先には、レーンの向こう側から、棚越しに二人をガン見している黒髪の少女が居た

 

「彼女は強い。普段はマークの所で隠密をしているからな」

 

「色々すまんな…」

 

「構わない。僕の仕事はこれだから…なっ‼︎」

 

初月は瞬く間に天井裏へと消えた

 

横須賀に目線を戻すと、ひとみといよに目線を合わせ、楽しそうに話している

 

「レイ、ひとみちゃんといよちゃんと一緒に帰りましょうか」

 

「ぴゃ〜とは会わなくていいのか⁇」

 

「会うわよ。レジでね⁇さっ、後は何買うの⁇」

 

「ちょこえ〜とごつ‼︎」

 

「さいごあ、さいら〜はちつ‼︎」

 

「じゃあ、お菓子の所行きましょうか‼︎」

 

こう見ると横須賀は本当に良いお母さんだ

 

娘達に自堕落な母と思われがちだが、忘れないで欲しい

 

産まれて初めて俺に愛を教えてくれたのは紛れもなく、目の前にいるその自堕落な女性だ

 

「ちょこえ〜とあった‼︎」

 

「いよちゃんとって⁇」

 

「んっ、んっ」

 

お菓子の所に来るが、いよの身長ではチョコレートに届かない

 

「とろかへん」

 

「よいしょっ‼︎」

 

横須賀はいよを抱き上げ、棚にあるチョコレートを取らせた

 

「ちょこえ〜となんつ⁇」

 

「ごつ‼︎」

 

「いちつ、につ、さんつ…」

 

いよは数を数えながら、カートにチョコレートを落として行く

 

「ごつ‼︎ごついえたか⁉︎」

 

「いえた‼︎」

 

「よいしょっと…」

 

「よこしゅかしゃん、あいがと‼︎」

 

「あいがと‼︎」

 

降ろして貰ったひとみといよは、キチンと礼を言っている

 

「い〜え‼︎最後はサイダー⁇」

 

「さいら〜‼︎」

 

「さいら〜はちつ‼︎」

 

横須賀は二人の一歩後ろを歩き、一生懸命カートを引く二人を眺めている

 

俺はそんな三人の少し後ろを歩く

 

横須賀…

 

お前、本当はこんな買い物をしたかったんだろ⁇

 

すまないな…

 

俺がこんな体なばっかりに…

 

朝霜達には本当に申し訳ないが、ひとみといよと接する幸せそうな横須賀を見ていると、どうしてもそう考えてしまう…

 

「レイ」

 

「なんだ⁇」

 

横須賀は振り向かずに歩みながら俺に話し掛けて来た

 

「朝霜達に囲まれていても幸せよ⁇だから、そんな考え持たないでちょうだい」

 

「…何で分かった」

 

「誰の嫁と思ってんのよ」

 

横須賀は二人に笑顔を送りながらも、俺の心を見抜いていた

 

俺は、背中を見せている横須賀に、何度目か分からない恋に落ちる音を聞いていた…



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162話 双子のシマエナガと雷鳥の妻(4)

飲み物の所に来て、今度はひとみが品を取る

 

「ごつ、ろくつ、ななつ、はちつ‼︎」

 

サイダーを8つカートに入れると、横須賀は二人の頭を撫でた

 

「偉いわね‼︎ちゃんと数えられた‼︎」

 

「くふふっ…‼︎」

 

「よこしゅかしゃんのなれなれしゅき‼︎」

 

撫でられた二人は本当に嬉しそうな顔をしている

 

「さっ‼︎レジ行きましょっ‼︎」

 

俺はずっと三人の輪に入れずにいた

 

こうして幸せな三人を眺めているのも悪くないと感じていた

 

本来、辿る筈の子育ての道…

 

それを今、横須賀は経験している

 

最低な父親だな…俺は…

 

レジに来ると、ぴゃ〜が居た

 

「ぴゃ〜、横須賀さんだぁ‼︎」

 

「あら‼︎喋れる様になったのね⁉︎」

 

「うんっ‼︎酒匂、いっぱい頑張ったんだぁ‼︎」

 

横須賀と話しながら、ぴゃ〜はレジを打っていく

 

二つの事を同時に出来る奴は凄いと思う

 

「ありがとうございました〜‼︎また来てね〜‼︎」

 

「またくるお‼︎」

 

「ぴゃ〜ばいばい‼︎」

 

「ばいば〜い‼︎」

 

横須賀は買った物を袋に入れ、そのまま持とうとした

 

「貸せっ」

 

「あっ…」

 

「子供を頼む」

 

「…うんっ‼︎」

 

帰り際、横須賀は右でひとみ、左でいよと手を繋ぎ、帰路につく

 

俺は買った物が入った袋を背中で抱えて持ちながら三人の大分後ろを、タバコを吸いながら歩いていた

 

歩きタバコはあまりしないのだが、今はこうでもしないと落ち着かない

 

あの三人を見ていると、何故かは分からないが涙が出そうになるからだ

 

「すてぃんぐれい‼︎」

 

「たいほう‼︎」

 

貴子さんと買い物に行っていたたいほうが走って来たので、急いでタバコを地面に落とし、踏み付けて火を消す

 

たいほうは一瞬で俺の頭に登り、定位置に着く

 

「楽しかったか⁇」

 

「うんっ‼︎ママ、いっぱいたべてた‼︎おんどりゃあと、ずいずいずっころばしと、いせとずいうん‼︎」

 

「メッチャ食ったな…たいほうも食べたか⁇」

 

「うんっ‼︎おなかいっぱい‼︎」

 

いつもよりちょっと重いたいほうを頭に乗せたまま、横須賀達に着いて行く

 

「マーカス君ゴメンね⁇デート中なのに…」

 

「いいさ」

 

「…子供が小さかったら…そう考えてる⁇」

 

貴子さんにもバレた

 

俺はどうも隠すのが下手らしい

 

「あんな幸せそうな顔を見てたら…な⁇」

 

「心配しなくていいわ。いつかひとみちゃんもいよちゃんも大きくなって、朝霜ちゃん達みたいになる。それが早かったって思えば良いのよ‼︎」

 

「貴子さんは強いなっ…」

 

貴子さんは、悩みが吹っ飛ぶ位の笑顔を見せてくれた

 

「母は強いのよ⁇マーカス君のお嫁さんだってタフなのよ⁇」

 

「みんなそう言うな⁇」

 

「その内、マーカス君にだって分かるわ⁇」

 

「その内…かっ…」

 

「はっはっはっは‼︎」

 

貴子さんは急に高笑いをし始めた

 

「悩みがある時は笑い飛ばすのよ‼︎わっはっはっは‼︎」

 

「わっはっはっは〜‼︎」

 

たいほうも高笑いする

 

「…ははは。はっはっはっは‼︎」

 

俺も釣られて笑ってしまう

 

「さっ、たいほう⁇マーカス君はデート中だから邪魔しちゃいけないわ⁇」

 

「うんっ‼︎すてぃんぐれいありがとう‼︎」

 

「もう少ししたら帰るからな⁇」

 

たいほうを貴子さんに渡し、二人を見送る

 

 

 

 

 

「ふふっ。や〜っと笑った」

 

「えいしゃんわあってう‼︎わっはっは〜‼︎」

 

「ひとみもわあう‼︎わっはっは〜‼︎」

 

両サイドでレイの真似をする二人…

 

レイ⁇

 

貴方には分かる⁇

 

私、いつだって幸せよ⁇

 

子育てをしたいって思いは、やっぱりあるわ

 

でも、朝霜や磯風、清霜やガングートに囲まれて、騒がしい毎日も好きなの

 

だから、心配しなくていいわ…

 

でもありがとっ、心配してくれてっ

 

 

 

 

 

 

厨房に入る前に、俺はひとみといよに袋を持たせた

 

「しゃら‼︎かえってきたお‼︎」

 

「おつかいしてきた‼︎」

 

「ヒトミ‼︎イヨ‼︎ありがとう‼︎」

 

「頑張ったなっ‼︎」

 

サラもマークも、二人をたっぷり撫でる

 

そして横須賀が吠えた

 

「コラーーーーーッ‼︎」

 

「「こぁーーーーーっ‼︎」」

 

二人は横須賀の怒号が好きなのか、毎度毎度真似る

 

「事故に巻き込まれたらどうするのよ‼︎」

 

「ごめんなさい…」

 

「すまん…」

 

「行くなら行くでどっちか着いて行ってあげてよ‼︎」

 

「ごめんなさい…」

 

「すまん…」

 

横須賀はビックリする位、二人に爆弾を落とした

 

「ま〜きゅん、ぴよしゃんあいがと‼︎」

 

「らいじにすう‼︎」

 

「あぁ。すまなかったな…次は一緒に行こうな⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「しゃらもいっしょにいこうね‼︎」

 

「えぇ‼︎行きましょう‼︎」

 

「ジェミニ、マーカス。今日はご馳走だぞ‼︎みんな呼ぼう‼︎」

 

数十分後、朝霜始め、子供達が集まり、きそも帰っ来た

 

「タナトスはどうだった⁇」

 

「やっと僕の事分かってくれたよぉ…疲れたぁ〜」

 

きそはきそで疲れる作業をしていたみたいだ

 

「タナトスはホントにレイが好きだね」

 

「何か言ってたか⁇」

 

「何かある事に創造主が〜って言ってたよ」

 

「ありがとな、タナトスの相手してくれて」

 

「ううん‼︎僕も楽しかった‼︎」

 

「さぁっ、出来たわよ‼︎みんな食べて‼︎」

 

目の前にサラの手料理が大量に置かれる

 

「「「いただきま〜す‼︎」」」

 

その日、俺達は三世代揃った大家族でご飯を食べた…



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163話 イカれたメロン(1)

さて、162話が終わりました

前回が軽くシリアスだったので、今回は楽しいお話です

序盤は双子は出てきませんが、途中で出て来ます

久し振りにきそが暴言を吐くよ‼︎


横須賀の工廠に新しい奴が来たらしい

 

普段から朝霜辺りが世話になるので、きそと共に挨拶に来た

 

「ばばりばりばり〜‼︎」

 

見た事の無い奴が電極を合わせて、手元でバチバチ言わせている

 

「ちょちょちょちょレイ‼︎」

 

工廠に入る寸前に聞こえて来たヤバそうな声を聞き、きそが俺を引っ張って入り口に引き戻した

 

「アレはヤバいって‼︎」

 

「あ…あぁ…イカれてるな…」

 

きそと共に入り口に隠れながら、もう一度声の主を見る

 

後ろ姿を見る限り、女の子の様だ

 

「エッレ、エレエレエレキテル〜。電気ショックでば〜りばり〜‼︎」

 

鼻歌を歌いながら、手元で何か造っている

 

「び〜りびりびり、ば〜りばり‼︎感電したらエクスタシー‼︎」

 

「…頭おかしいのかな⁇」

 

「だぁれだぁ‼︎」

 

「バレた‼︎」

 

ばりばりちゃんは手元に電極を持ったままいきなり振り返り、此方に走って来た‼︎

 

「出歯亀する奴ぁ、特製のエレキテルでばりばりにしてやるぁ‼︎」

 

「「うわぁぁぁぁぁあ‼︎」」

 

二人して悲鳴を上げ、飛び掛かって来たばりばりちゃんに対して屈んで身構えた

 

「うおりゃ‼︎」

 

「ばりっ‼︎」

 

ばりばりちゃんが急に吹っ飛んだ

 

ばりばりちゃんは頭からゴミ箱に突っ込み、足をバタつかせる

 

「お父さん‼︎きそ姉‼︎大丈夫か⁇」

 

目を開けると朝霜が手を伸ばしていた

 

「助かったよ…」

 

「メッチャ怖かった‼︎」

 

どうやら朝霜がドロップキックでばりばりちゃんを吹っ飛ばしたらしい

 

「”夕張”‼︎この人がアンタの逢いたかったマーカス・スティングレイときそ姉さんだ‼︎」

 

「えっ⁉︎」

 

夕張と呼ばれた女の子はゴミ箱の中から返事をした

 

「マーカスさん、きそさん、ごめんなさい‼︎エレキテルでエクスタシーさせようとしたのは謝るから出して〜」

 

「ったく…」

 

「よいしょっ…」

 

きそと共に夕張の足を掴み、ゴミ箱から引き摺り出した

 

「いやぁ〜すみません。まさか貴方達とは知らず」

 

夕張は頭にバナナの皮を付けながら後頭部を掻いている

 

「この人は夕張さんだ。最近ここに来たんだ‼︎」

 

「最近までボスの所に居ました‼︎」

 

「あぁ‼︎なるほどな‼︎だから夕張なのか‼︎」

 

ボスの所に居る子は、北海道の地名が呼び名の子が殆どだ

 

この子は夕張

 

北海道の地名だ

 

「お父さん、夕張はばりばりウッサイけど凄いんだぜ⁇アタイの今履いてる靴も電力で高くジャンプしたり、アシストで速く走れんだ‼︎」

 

「へぇ〜‼︎」

 

確かにドロップキックは凄まじい威力だった

 

「私はエレキテルでばりばりしながら安全な物を造りたいだけなんです‼︎」

 

「過程が怖いよぉ…」

 

「あ、そうだ‼︎私、レイさんのファンなんです‼︎タナトスを造った方なんですよね⁉︎ね⁉︎」

 

「そ、そうだ…」

 

徐々に近付いて来る夕張の気迫に負けそうになる

 

ゴミ箱に突っ込んで、頭にバナナの皮を付けてるのに、妙に甘い体臭がし、タンクトップ一枚の谷間から控えめな胸が見え隠れしている

 

「私、いつかレイさんの潜水艦に私の造った艤装を載せて貰うのが夢なんです‼︎」

「出来が良ければこっちから頼むよ」

 

「は、はいっ‼︎あっ、写真とかポスターで見るより良い男ですね‼︎」

 

「気に入った」

 

「では、私は作業に戻ります‼︎ばばりばりばり、ばばりばり〜‼︎」

 

夕張はまた電極を合わせてバチバチ言わせながら、工廠に戻って行った

 

「朝霜、気を付けてね⁇夕張ヤバイよ⁉︎」

 

「大丈夫さ。あぁ見えて、一番周りに気を配ってる」

 

「「嘘だ‼︎」」

 

その辺にいた鳩が俺達の声にビビって飛び立った

 

「ホントだって‼︎作業中はアタイを近付けさせないモン‼︎」

 

「ここは朝霜の言った事を信じよう」

 

「朝霜、これあげる。ヤバくなったら、これを投げて一気に逃げるんだ」

 

「あんがとな‼︎」

 

きそは朝霜にT-爆弾を二つ渡した

 

朝霜はたいほうと同じく、胸にT-爆弾を入れた

 

 

 

 

 

 

その日の夕方、きそは横須賀の所に行き、俺は一人で工廠に来ていた

 

横須賀の工廠のパソコンには、試作機の設計図やその他諸々のデータが入っている

 

しかも俺しか見れない

 

開示する為のパスワードは俺しか知らないからだ

 

パソコンの前に座り、マイクを付ける

 

「タナトス。いるか⁇」

 

《なんでち》

 

「やっぱここにいたか…」

 

タナトスもネットワークの海を行き来出来る

 

そして何が恐ろしいかと言うと、タナトスは自分の意思でファイヤウォールを侵食して侵入出来る

 

例えそれが警察であろうが、国家機密であろうが

 

そして、侵入した痕跡は一切残さない

 

まさにプロの仕事だ

 

《これがタナトスに載せる機体でちか⁇》

 

「そっ。今はスペックだけだがどう思う⁇」

 

《良い機体と思うでち》

 

画面越しからはタナトスがどれを見ているか分からないが、喜んでいる事に間違いは無い

 

「忍び足で近付いてもムダだぞ」

 

「ひっ‼︎」

 

後ろから夕張が近寄って来ているのが分かった

 

「流石は元スパイ…」

 

「いいか⁇」

 

椅子を夕張の方に向けた後、立ち上がって、彼女に歩み寄る

 

夕張をどんどん壁際に寄せ、顔の横に手を置いた

 

「ちょっ…マーカスさん…恥ずかしいですって」

 

「夕張」

 

「は、はい…」

 

夕張はタンクトップ一枚しか着ておらず、妙に体臭が艶かしい

 

香水なのか、鼻を近づけるとフワッとメロンの香りがする

 

「ここにいる間、スリなんかしてみろ」

 

「あっ…‼︎」

 

空いていた方の手で、夕張が俺のポケットに伸ばしていた手を取る

 

「俺がスパイなら、お前はスリなのな」

 

「…っ‼︎」

 

夕張は此方を睨み付けている

 

「お前の目的は何だ。金か⁇情報か⁇」

 

「安全な道具を造りたいのはホントです‼︎」

 

「ならスリなんかに使う手があるなら、そっちに使え」

 

「クセなんですよ‼︎スリは‼︎」

 

「早くその癖治さないとヤバいぞ〜⁇」

 

「…」

 

夕張は睨み付けるのを止めた

 

「よし、これも何かの縁だ。今度から3回、お前にチャンスをやる」

 

「3回⁇何がですか⁇」

 

「俺が来る度に、コイツをスッてみろ」

 

夕張の前に財布を見せた

 

「チャンスは1日1回。それを3回やって、一回でもスレたらお前の勝ち。免許証以外の中身はやる」

 

「失敗したら⁇」

 

「そうだな…」

 

ふと夕張を見ると、何故か頬を赤らめていた

 

「マーカスさんがお金なら、私は体…ですか⁇」

 

「貧乳に興味は無い」

 

「あ、はい…って言うか、凄い真顔で言いますね⁇」

 

どうやら俺は真顔で返事をしたらしい

 

「そうだな…失敗したら、朝霜の手伝いをしてやってくれないか⁇」

 

「そんなんで良いんですか⁇」

 

「ならもっとキツいのが良いか⁇照月にご飯奢るとか⁇」

 

「朝霜ちゃんのお手伝いの方が良いです‼︎」

 

大体の連中は、二者択一の選択肢を与えた時、片方に照月にご飯を奢るを出すと、絶対選ばない

 

必然的にもう片方が選ばれる

 

「じゃっ、頑張ってスレよ〜」

 

「…」

 

夕張は黙ったまま、俺を見送った…




夕張…エレキテル娘

横須賀の工廠に新しく来た工兵

物を造るのは上手いが、造っている最中ばりばりウルサイ

朝霜の書いた設計図を忠実に再現出来る腕を持っているが、スリの常習犯であり、自分で止めようとしても治らない

ボスの子分であり、腕を見込まれて横須賀に来た

体からメロンの香りがする


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163話 イカれたメロン(2)

1日目…

 

「無人機の開発はどう⁇」

 

「今回も中々の出来だ。小型だけどミサイルも積める」

 

「…」

 

横須賀と話しながら、夕張のスリを避ける

 

諦めた夕張は元の位置に戻り、作業に入った

 

「今日はここでした〜」

 

作業中の夕張の前に立ち、内ポケットの中を夕張に見せる

 

そこにはちゃんと財布があった

 

「今度は外しませんからね‼︎」

 

 

 

2日目…

 

「梅雨は鬱陶しいな…」

 

今日は雨と言う事もあり、雨天時の対空演習を終え、きそと飲茶”丹陽”に来ていた

 

「左腕痛む⁇」

 

「てるてる坊主が効いてるから大丈夫さ」

 

「うっしっし…あっ、すみません‼︎」

 

丹陽にも夕張が出現

 

座って飲茶を堪能していた俺に、わざとらしくぶつかって来た

 

「大丈夫か⁇」

 

「あっ、はい‼︎すみませんでした‼︎」

 

夕張はそのまま店を出て行った

 

「レイもやるね〜。これは中々思い付かないや」

 

「だろ⁇」

 

きそと二人、出て行く夕張を見てニヤつく

 

丹陽で飲茶を堪能した後、答え合わせに工廠に来た

 

「今日は何処ですか‼︎」

 

「きそ」

 

「はいっ‼︎」

 

きそは腹巻きの中から俺の財布を出した

 

「汚い‼︎」

 

「誰も俺が持ってるとは言ってない」

 

「明日はラストチャンスだよ〜。じゃあね〜」

 

「ぐぬぬ…」

 

 

 

 

3日目…

 

夕張スリチャレンジも最終日

 

両肩にお気に入りの灰色のワンピースを着たひとみといよが乗った状態でチャレンジ開始

 

今日はある事をしようと思う

 

「夕張」

 

「あ、はい‼︎」

 

今か今かと待ち受けていた夕張は、ばりばり言わせていた電極を切り、すぐに俺に駆け寄って来た

 

「ひとみといよが居るから、今日は工廠に入れない。グリフォンの補給と整備、頼んでいいか⁇」

 

「はいはい…え〜っと⁇」

 

夕張はグリフォンの所に行く前に、チラチラ俺達を見ていた

 

昨日の一件もあり、ひとみといよも油断出来ない

 

あのワンピースの下に財布があるかも知れない…

 

「ゆ〜あり⁇」

 

「めおんのにおいしゅる‼︎」

 

「あぁ…制汗スプレーの匂いかな⁇臭い⁇」

 

「いいにおい‼︎」

 

「こおにおいしゅき‼︎」

 

「そっ⁇良かった‼︎」

 

「んじゃ、任せたぞ」

 

「は〜い、了解で〜す‼︎」

 

夕張の腕は本当に勿体無い

 

スリなんかしなくても、充分に稼げる腕を持ってる

 

「えいしゃん、す〜ぴゃ〜みゃ〜けっろいきたい‼︎」

 

「ひとみもいきたい‼︎」

 

二人共、マークに貰ったピヨちゃんのお財布をワンピースの中に入れている

 

さっきからたまにチャリチャリ音がしているので、隊長か貴子さん辺りにお小遣いでも貰ったのだろう

 

相変わらずひとみといよは子供用のカートを引き、俺はその背後を行く

 

「何買うんだ⁇」

 

「じゅ〜しゅかう‼︎」

 

「おやつもかう‼︎」

 

ここで面白い事が起きる

 

飲み物は二人共同じ、乳酸菌飲料

 

だが、買うお菓子が違う

 

ひとみはフルーツグミ

 

いよはソフトスルメを選んで来た

 

双子でも好みは違う様だ

 

「えいしゃんなにすう⁇」

 

「何だ⁇俺に買ってくれるのか⁇」

 

「ひとみたちがかったげう‼︎」

 

二人はドーンと胸を張っている

 

どうやら、ここは二人に甘えた方が良いみたいだ

 

「なら、俺もジュースとお菓子にするかな⁇」

 

二人が引いているカートの中に、コーラとチョコビスケットを放り込む

 

二人共俺が放り込む品を目で追い、同じ動きをする

 

「こえにすう⁇」

 

「二人でレジ行けるか⁇」

 

「「いけう‼︎」」

 

二人共意気揚々とレジに向かって行った

 

「こえくらさい‼︎」

 

「おかねはあう‼︎」

 

「ピッてするから待ってね〜」

 

今日は能代がレジ担当だ

 

ひとみがレジを通した品を眺めている最中、いよはピヨちゃんの財布から何かを取り出した

 

「こえもぴってしてくらさい」

 

「あらっ‼︎ポイントカードね⁉︎はいっ、ありがとう‼︎」

 

「くふふっ…」

 

いよはここの店のポイントカードを取り出し、ちゃんとポイントを加算させていた

 

「貴子さんのか⁇」

 

「いよとひとみちゃんのぽいんろかーろ‼︎」

 

「おなまえかいた‼︎」

 

カードの裏を見ると、辛うじてわかる字で

 

”い よ ひ とみ”

 

と、書かれていた

 

たいほうや貴子さん辺りに教わったんだろう

 

「400円です」

 

「100円玉2つあるか⁇」

 

「きんきんきあきあのおかね⁇」

 

いよは500円玉を取り出した

 

「それは500円だ。銀色のお金で、1が1つと、0が2つのお金だ」

 

二人共、財布の中をゴソゴソ弄る

 

「あた‼︎」

 

「こえ⁇」

 

「そっ。もう一つあるか⁇」

 

「につあった‼︎」

 

「ひとみもあった‼︎」

 

「じゃあ、レジのお姉さんに渡してみな⁇」

 

「あいっ‼︎」

 

「ひゃくえんらまにつ‼︎」

 

「はいっ、ありがとう‼︎」

 

能代は笑顔で二人の対応をしてくれた

 

「ありがとうな、能代」

 

「い〜えっ。お子さんですか⁇」

 

「そっ。まだ産まれて数ヶ月だ」

 

「もう歩いてるんですか⁉︎」

 

「能代もじきに分かるさっ。じゃあな」

 

「のしろんばいば〜い‼︎」

 

「のしろんあいがと〜‼︎」

 

「ばいば〜い‼︎」

 

スーぴゃ〜マーケットを出て、繁華街にあるベンチに座り、買ったお菓子やジュースを食べる事にした

 

「あいっ‼︎」

 

「あいっ‼︎」

 

いよからコーラ

 

ひとみからチョコビスケットを受け取る

 

「二人共ありがとうな⁇」

 

「たいほ〜いってら。えいしゃんとわけわけすうって‼︎」

 

「たかこしゃんいってら。えいしゃんのもかったげてって‼︎」

 

「そっかそっか‼︎」

 

「いたあきます‼︎」

 

「いたあきます‼︎」

 

「頂きます‼︎」

 

二人は外でもちゃんと頂きますと言ってからお菓子とジュースを食べ始めた

 

 

 

 

「ごちそうさあれした‼︎」

 

「ごちそうさあれした‼︎」

 

「ごちそうさまでした‼︎」

 

二人共お菓子は食べ終えたが、飲み物は半分近く残っている

 

その飲みかけのペットボトルを二人共背中に挿した

 

「つえた〜い‼︎」

 

「えいしゃんもすう⁇」

 

「こうか⁇うひっ‼︎」

 

確かに冷たい

 

だが、ヒンヤリしていて、蒸し暑い今の時期にはピッタリだ

 

「さっ、グリフォンの所に戻るか」

 

ひとみといよをまた両肩に乗せ、工廠へと戻って着た

 

「うんたった〜うんたった〜」

 

「あんあんあ〜」

 

ひとみといよは鼻歌を歌っている

 

よっぽど楽しいみたいだ

 

「ただいまっと」

 

「たらいま‼︎」

 

「かえってきたお‼︎」

 

「あっ、お帰りなさい‼︎弾薬と燃料の補給、完了してますよ‼︎」

 

夕張は丁度グリフォンのタラップを降りて来ていた

 

「グリフォン。ひとみといよに動画でも見せてやってくれるか⁇クーラーも入れてな⁇」

 

《オッケー》

 

ひとみといよをグリフォンの助手席に乗せ、モニターで動画を見させる

 

「どうだ⁇ちゃんとスレたか⁇」

 

「スる所か、今日は居なかったじゃないですか」

 

「ちゃんとグリフォンのキャノピー見たか〜⁇」

 

「キャノ…あーーーっ‼︎」

 

今日はグリフォンのキャノピーの端っこに、財布を貼り付けておいた

 

それも、ちょっと探せばすぐに分かる場所にだ

 

「残念だな。今日は簡単にスレたのに」

 

「ぐぬぬ…」

 

「もうスリなんか止めろ。その腕で充分稼げるだろ⁇」

 

「…はいっ」

 

「良い子だ」

 

ちゃんと反省した夕張の頭を撫でる

 

「そういやお前、歳いくつだ⁇」

 

「マーカスさんより一回り下位かと思います」

 

「一回り…中学生位か⁉︎」

 

「多分⁇」

 

「多分って…」

 

「10から先は覚えてません。ボスに拾われたのが10歳です」

 

話を聞くと、路頭に迷っていた時にボスに拾われたらしい

 

それからおおよそ数年…

 

つまり、深海と人間が最初にドンパチやった時後に、夕張はボスに拾われた

 

戦争は何もかも奪うな…

 

「ボスは言ってました。アンタは私達みたいな海賊になっちゃいけないって。横須賀に居る、横須賀の旦那の所に行きなって。それがマーカスさんです」

 

「俺は常にこの基地に居るわけじゃないぞ⁇」

 

「構いません。マーカスさんの娘さんが居ますから、私、結構楽しいですよ⁇」

 

「なら良かった」

 

「えいしゃんまらか〜」

 

「めがねかられんわ〜」

 

「ローマからか⁇」

 

グリフォンのモニターを見る為に、夕張との話を終え、グリフォンに乗った

 

二人の子供の父親の背中を見て、夕張はボソリと呟く

 

「マーカスさん、私、知ってましたよ。キャノピーに財布がある事…」

 

夕張は、彼に抱いてはいけない感情を抱いてしまっていた…

 

この日以降、夕張はスリを止めたという…



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164話 旅行鳩の愛鳥(1)

さて、163話が終わりました

今回のお話は、勘の良い方はすぐ気付くかも知れませんが、とある艦娘の赤ちゃんが産まれます

そしてレイはその赤ちゃんと接し、複雑な心境になります


夕張の件から数日後…

 

深夜までとある作業をしていた為、俺は工廠でグラビア雑誌を開けて顔に置いて眠っていた

 

「レイ‼︎鹿島と棚町さんの間に子供が出来たわ‼︎」

 

「は、はぁ⁉︎」

 

定期報告に来た横須賀の一言で叩き起こされた

 

「いつまで寝てんのよ‼︎もう昼前よ‼︎」

 

「昨日徹夜だったんだ…よいしょ‼︎」

 

グラビア雑誌を放り、致し方無く起き、あくびをする

 

「鹿島か…ふぁ…」

 

「良い機体になりそう⁇」

 

立ち上がると、横須賀はシートが被せられた試作機を見ていた

 

全貌は明らかになっていないが、きそや妖精達と共に建造を進めている

 

「まぁなっ…ヴェアに貰った設計図を元に造った。まっ、その内この試作機で実験してみるさっ。行くぞ」

 

「あ、ちょっと」

 

グリフォンに乗ろうとしたら止められた

 

「二式で行くわ」

 

「なら、何人か連れてくか…」

 

 

 

 

 

「ちゃんと霞のおててと、たいほうのおてて握ったか⁇」

 

「にいった‼︎」

 

「たいほ〜のおてて‼︎」

 

「きそ、はっちゃん。俺に何かあったら止めてくれよ⁇」

 

「う、うん‼︎」

 

「はいっ、マーカス様‼︎」

 

これだけ連れてきゃ大丈夫だろ

 

ひとみといよのお目付役に、霞とたいほう

 

俺のお目付役に、きそとはっちゃん

 

ひとみといよは初めての大湊になる

 

俺が中々大湊に寄り付かないからだ

 

「久し振りかも‼︎」

 

勿論秋津洲も健在

 

「チェンジ‼︎」

 

「了解かも‼︎」

 

いつも通り秋津洲と操縦を代わり、二式大艇が基地から出る

 

「おそあ〜」

 

「とりしゃん〜」

 

「ぽーらだ‼︎」

 

「凄い…」

 

ひとみ、いよ、たいほう、そして霞まで、外の景色に夢中になる

 

「ふぅ…」

 

子供が出来たら祝う

 

それさえも、心の何処かでイヤがる自分がいた

 

「なぁに⁇やっぱりイヤ⁇」

 

助手席を見ると、横須賀は膝の上で頬杖をつき、イタズラな目で俺を見ていた

 

「仮にも自分が叩き落とした奴と、元妻に会うんだぞ⁇」

 

「アンタがそう言っても、向こうはアンタのお陰で今があるって言ってるわ⁇」

 

「…」

 

そう言えば鹿島は時々、頭お花畑になる時があったな…

 

今が幸せ過ぎて、本来憎むべき相手でさえ感謝している

 

「じゃあレイ⁇何で大湊が危機に晒された時、アンタは一番早く助けに来たの⁇」

 

「たまたま大湊に居たからだ」

 

「…きっとレイの事だから、二人の子供を見たら気も変わるわ⁇」

 

「だといいな。着水するから黙ってろ。舌噛むぞ」

 

「はいはい」

 

横須賀は終始楽しそうに助手席に座っていた

 

横須賀…

 

何度も言って悪いが、旦那の元妻と会うんだぞ…

 

 

 

 

「レイ‼︎来てくれたのね‼︎」

 

「お久ぶりです‼︎大尉‼︎」

 

「あ、あぁ…」

 

執務室に入った途端、二人に歓迎される

 

「ずっと来てくれないから心配しましたよ⁇」

 

「いつも照月ちゃんにお世話になってます‼︎」

 

途中から話が耳に入って来なかった

 

どうも体が拒絶しているらしい

 

「レイっ」

 

「…ハッ‼︎」

 

気が付くと横須賀が左腕を握っていた

 

「ごめんなさい…レイ、昨日徹夜作業してて、まだオネムなのよ。ねっ⁇」

 

笑顔を送る横須賀だが、左腕を握る手に軽く力が入っている

 

「そ、そうなんだ。すま…ふぁ…」

 

横須賀に話を合わせる為に、あくびをかます

 

「少し横になりますか⁇」

 

「いや、いい…早く子供を抱かせてくれ。楽しみで仕方ない」

 

「マーカスさんと横須賀さんよ⁇」

 

鹿島の足元から、ひとみといよサイズの小さな女の子が顔を見せた

 

毛先が鹿島に似たのか白っぽく、何処かで見た事があった記憶があるのだが、思い出せない…

 

「か、可愛い〜‼︎おいでっ‼︎」

 

横須賀は早速膝を曲げ、鹿島の足元にいる女の子に向かって手を広げた

 

女の子は指を咥えながら、チョコチョコ歩いて来た

 

「あ、あらららら…」

 

横須賀を避け、女の子は俺の足に抱き着いた

 

そして、愛おしそうに頬を擦り付けて来た

 

「よいしょっ…」

 

女の子を抱き上げると、俺の胸に頭を置き、寝息を立て始めた

 

「寝ちまった…」

 

「レイは本当に子供に懐かれますねぇ…」

 

「名前は⁇」

 

「”時津風”ですっ」

 

「そっか…」

 

思い出した

 

随分前に夢で見た記憶だ

 

俺と鹿島の未来を映し出した、あの夢…

 

それが今、現実になって手元に帰って来た

 

鹿島に時津風を返すと、時津風はすぐに目を覚ました

 

「びぇ〜〜〜〜〜‼︎」

 

時津風は泣き始め、赤子特有の甲高い声を出す

 

「あらあら…」

 

「私が抱こう」

 

鹿島は必死にあやすが泣き止む気配は無く、棚町が抱いたら更に酷くなった

 

「どうしたんだ〜⁇ん〜⁇」

 

棚町は尽力を尽くすが、時津風が泣き止む気配は無い

 

俺は棚町の腕の中で泣きじゃくる時津風の頬を、手の甲側の人差し指と中指で撫でた

 

「良い子だ…」

 

「キャッキャッ‼︎」

 

時津風は一瞬で泣き止み、更に笑い始めた

 

「凄い…」

 

「流石は父親ですねぇ…」

 

横では横須賀と鹿島がため息を吐いている

 

「大尉、お願いがあります」

 

「しばらく抱っこしてくれか⁇」

 

「えぇ。時津風は大尉に懐いてます」

 

再び時津風を抱かせて貰う

 

俺に抱っこされると落ち着くのか、時津風はすぐに眠ってしまう

 

「レイ。子供部屋に案内します」

 

鹿島に案内され、時津風を布団に寝かせに行く事にした

 

子供部屋は執務室の隣にあり、執務室からはいつでも内部を見れる様になっている

 

「あかしゃんら…」

 

「かあいい〜…」

 

着いて来たひとみといよは、布団で寝た時津風の顔を覗き込んでいる

 

「ひとみもいよも、赤ちゃん好きか⁇」

 

「しゅき…」

 

「ひとみも…」

 

赤ちゃんが眠っているので静かにすると言うのは、二人には分かっているみたいだ

 

四人で時津風の顔を見ていると、俺の腕から離れたと気付き、グズり始めた

 

「おっはようしゃん、あっかしゃん」

 

「ひとみ〜あ〜、ま〜ま〜お〜」

 

「おっ…」

 

貴子さんにでも歌って貰っているのだろうか⁇

 

ひとみといよは時津風のお腹を優しくポンポンと叩き、子守唄を歌う

 

すると、時津風はまた寝始めた

 

「あかしゃんねた…⁇」

 

「たかこしゃんのおうたきいた…⁇」

 

「凄いじゃないか⁉︎」

 

「たかこしゃん、ひとみちゃんといよねんねすうとき、このおうたうたってくえうの」

 

「たいほ〜はねんねこおい〜うたってくえう」

 

ひとみといよは俺の知らない所で愛情を注がれ、それをしっかりと受け継いでいる

 

基地で一番小さいと思っていたが、たいほうと同じく、少しずつ、色んな事を覚えているみたいだ

 

執務室に帰って来ると、子供達が棚町からお菓子を貰って食べていた

 

「んっ、いよもびすけっろほちい」

 

「ひとみもほちい」

 

「はいっ‼︎」

 

「あいがと‼︎」

 

「あいがと‼︎」

 

二人共棚町からビスケットを受け取り、横須賀の膝の上で食べ始めた

 

「あらっ…ふふっ‼︎」

 

二人に甘えられ、横須賀はご満悦

 

「レイはどうやって二人に教育を⁇」

 

「俺は何もしてない。基地で貴子さんや、子供達が面倒見てくれてるんだ」

 

「なるほど…」

 

「そうだ大尉‼︎今日こそご飯食べて行って下さいよ⁉︎」

 

「美味いのじゃなきゃイヤだぞ⁇」

 

「ふふっ‼︎勿論‼︎今日はボスが料理番です‼︎」

 

棚町に案内され、食堂へと向かう

 

鹿島は時津風の面倒を見る為、執務室に残った

 

食堂に行くまでの道中、頭にたいほう、右手できそ、左手で霞と手を繋いでいた

 

ひとみといよは横須賀と手を繋ぎながら、横須賀と共に歌を歌っている

 

「はっちゃんは帰りの時な⁇」

 

はっちゃんは何故か首を横に振った

 

「はっちゃんは、この間デートして貰ったのでい〜です」

 

「ダメだ。それはそれ、これはこれだ」

 

「つっ、次は私ともデートしなさいよ…」

 

そう言ったのは霞

 

「たいほうはたまにすてぃんぐれいとでーとしてるよ‼︎」

 

「そうだな。んじゃ、次は霞だな⁇」

 

「う、うんっ…」

 

自分で言い出したのに、霞は顔を真っ赤にしていた



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164話 旅行鳩の愛鳥(2)

「野郎共〜‼︎飯の時間だよ〜‼︎」

 

ボスの掛け声一つで、妖精含めた野郎共がゾロゾロと食堂に集まって来た

 

「今日はハンバーグだ‼︎しっかり食べるんだよ⁉︎」

 

「「「は〜〜〜い‼︎」」」

 

大湊の野郎共、全員ボスに骨抜きである

 

「岩井っ⁉︎ニンジン2つ、ちゃんと食べるんだよ⁉︎」

 

「食べた‼︎」

 

「よ〜し、えらいえらい‼︎」

 

軽く頭を抱え、ようやく笑いが込み上げて来た

 

ダメダメじゃねぇか‼︎

 

…まぁいい

 

男はいつだって甘えん坊だ

 

「マーカス大尉⁉︎」

 

「よっ」

 

全員、一瞬食べる手を止め、此方に礼をする

 

「「「お疲れ様です‼︎」」」

 

「止めてくれよ。照月が世話になってるんだ」

 

「普段、お世話になっているのは此方の方です‼︎」

 

「レイ。大湊の人達から、照月ちゃんが何て呼ばれてるか知ってる⁇」

 

「護り神かなんかだろ⁇」

 

「ヴァルキリーよ、ヴァルキリー」

 

「ヴァルキリー…」

 

ヴァルキリー…戦乙女…

 

実際のヴァルキリーもメチャクチャ食っていたのだろうか…

 

言っている間に、ボスが目の前にハンバーグと大盛りのライスが置いてくれた

 

「上手くやってるみたいだな⁇」

 

「アンタのお陰さっ。人に愛されるってのも、案外悪くないな⁇」

 

そう言って、ボスは岩井の方を見た

 

岩井は部下の面々に囲まれ、楽しそうにハンバーグを食べている

 

「やる事やって、あんな風なら誰も文句は言わんだろ⁇」

 

「だと嬉しいねぇ」

 

ボスは忙しいのか、少し話をした後、また厨房に戻って行った

 

「大尉。話は変わりますが、この子達が言っていた…」

 

「そっ。ひとみといよ」

 

「いよ‼︎」

 

「ひとみ‼︎」

 

反応した二人は、口周りにデミグラスソースをいっぱい付けていた

 

ボスは子供には、上にソースをかけた辛くないハンバーグを作ってくれており、二人共口周りにいっぱいソースを付けている

 

勿論、たいほうもいっぱい付けている

 

「こっち向きなさい」

 

「ん〜っ」

 

たいほうは霞に

 

「さぁっ、フキフキしましょうね」

 

「はっしゃん〜」

 

「ふきふき〜」

 

ひとみといよははっちゃんに

 

「こっち向け」

 

「ん〜…」

 

きそは俺に拭いて貰う

 

ひとみといよはスコーンやら粉が落ちる系の食べ物は食べるのが上手いが、ソース系はまだまだヘタッピだ

 

たいほうときそはどう足掻いてもソース系は付く

 

「あなたっ‼︎」

 

背後から鹿島の声がした

 

鹿島の腕には、目を覚ました時津風が抱かれている

 

「時津風〜‼︎起きたかぁ〜‼︎」

 

棚町が鹿島に駆け寄る

 

相変わらず時津風は棚町が近付くとグズる

 

俺は振り返らずに、右隣に座ったきそのハンバーグを切っていた

 

「レイっ‼︎はいっ、あ〜んっ‼︎」

 

左隣に座っていた横須賀は、俺の左腕をグッと握りながら、切ったハンバーグを俺の口に放り込んだ

 

「…ありがとう」

 

「ふふっ。アンタも付いてるわよ⁇」

 

どうやら俺も胡椒やらが付いていたらしく、横須賀に口を拭いて貰う

 

「アンタも子供ね⁇」

 

「ウルセェ‼︎」

 

「レイ…⁇」

 

時津風を抱いた鹿島が寄って来た

 

「タバコ吸ってくる」

 

「あっ…」

 

横須賀の手を振り解き、食堂を出た

 

「お任せ下さい」

 

「お願いするわ」

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

施設を出て、タバコに火を点けた

 

やっぱ来るんじゃなかった…

 

時津風は可愛い

 

だが、棚町と鹿島が仲良さ気な行動を見せると心の奥底で抵抗が始まる

 

横須賀が左腕を握って来たのは、多分深海化の兆候が見られたからだろう

 

施設の壁にもたれてタバコを吸っていると、誰かの足音が近付いて来た

 

「ここに居ましたか」

 

来たのははっちゃんだ

 

「悪いな。あそこには居たくなかった」

 

「分かります。何となくですけどね」

 

はっちゃんは俺の横で屈み込み、その辺に落ちていた小枝でアリの進行妨げ始めた

 

勿論左側にいる

 

「嫌いではないのでしょう⁇お二人の事」

 

「嫌いじゃないさ。ただ、あの二人の人生に俺は要らない」

 

「はっちゃんはそうは思いません」

 

「ふっ…はっちゃんにはまだ早いかもな⁇」

 

「時津風のマーカス様へのあの懐き様…はっちゃんは少し不思議に思います」

 

「どうしてだ⁇」

 

「確かにマーカス様は子供の扱いが大変上手です。でも、時津風が父親である棚町様にあれ程懐かないのは異常です」

 

「その内懐くさ。時間がかかる子だっている」

 

「ふふっ、タナトスみたいにですか⁇」

 

「あいつは仕方ない。元から…おっと」

 

タブレットにメールが入った

 

 

 

 

”タナトスの悪口を言われてる気がしたでち

 

タナトスの悪口を言ったら、括り付けてそのまま潜行するでち”

 

 

 

 

「よし‼︎タナトスの悪口は止めよう‼︎」

 

「はいっ」

 

タバコを吸い終え、はっちゃんと一緒にその辺を歩き始めた

 

「マーカス様。ジュースがあります。オレンジの」

 

はっちゃんは何か欲しい時、モノスンゴク遠回しに言う

 

普通の人なら、そうだな〜位の返しをすると思うが、俺は分かっている

 

はっちゃんはオレンジの炭酸が飲みたいのだ‼︎

 

「二つ買って来てくれ」

 

「はいっ‼︎」

 

はっちゃんにお金を渡し、自販機のジュースを買わせる

 

ジュースを持ったはっちゃんと一緒にそれを飲む

 

「マーカス様。鹿島様の事、頭お花畑とか思ってます⁇」

 

「何で分かった‼︎」

 

「はっちゃんもそう思ったからです」

 

はっちゃんのタレ目を見続けていると、何もかも見透かされている様な気がする…

 

「マーカス様は、今のままで良いと思います。鹿島様はマーカス様と生活していた時も、棚町様を思っていらしたのでしょう⁇」

 

「まぁな…ずっと心ここにあらずって感じだった。だから子供も出来なかった…まっ、俺の体が悪いんだ」

 

そう言って自身の胸を二度叩く

 

「マーカス様はいつもそうです。必ず自身の所為にします」

 

「女と別れる時位、男の所為にするんだよっ‼︎」

 

ジュースを飲んでいるはっちゃんの頭を撫でながら、空き缶を捨てる

 

「いつか、はっちゃんにもマーカス様の思っている事が分かりますか⁇」

 

「はっちゃんは賢いからもう分かってるんじゃないか⁇行くぞ〜」

 

「あ、はい」

 

はっちゃんと話して、少し気が軽くなった

 

鹿島の頭がお花畑と思ってるのは俺だけじゃなかった

 

はっちゃんと二人で執務室に戻って来た

 

「おかえり、レイ」

 

「おかえりなさいっ‼︎」

 

「ただいま。よいしょ…」

 

横須賀と鹿島と棚町が何か話している横で、子供達がカーペットを敷いておままごとをしていたので、俺はそっちの方に座った

 

敷かれたカーペットは二枚

 

今座った方には

 

たいほう、きそ、霞が座っている

 

「およよ…たいほうとはあそびだったのね…」

 

「すまないたいほう…僕には妻が居るんだ…」

 

「あなたってひどいひと…」

 

「なっ…なんちゅう…」

 

おままごとしているとは分かっていたが、こんなヘビーだとは思っていなかった

 

ここには入ってはいけない気がする…

 

もう片方のカーペットには

 

ひとみ、いよ、はっちゃん、そして目を覚ました時津風達がいた

 

「これなぁに⁇」

 

「これはくましゃん‼︎」

 

「くま⁇」

 

「くましゃん。こっちはわんわん‼︎」

 

「わんわん⁇」

 

ひとみといよが時津風の持っているぬいぐるみの名前を教えている

 

「とっき〜わんわんしゅき⁇」

 

「わんわんすき」

 

時津風は犬のぬいぐるみを大事そうに持っている

 

「ひとみたちはいるかしゃんがしゅき‼︎」

 

「いるか⁇」

 

「これです」

 

はっちゃんのタブレットに、イルカの映像が映し出され、三人ははっちゃんの周りにくっ付く

 

「いるかしゃんら‼︎」

 

「すいすい〜」

 

「いるか…」

 

時津風は不思議そうにタブレットを見ている

 

もう話せる様になっているか…

 

この子もやっぱり…

 

イルカの映像が終わると、ひとみといよははっちゃんにくっ付いたまま昼寝をし始めてしまった



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164話 旅行鳩の愛鳥(3)

「…」

 

時津風が口を開けてジーッと俺を見ている

 

「おいで」

 

「ん」

 

時津風はすぐに俺の膝の上に乗って来た

 

「俺はマーカス・スティングレイ。宜しくな⁇」

 

「しってる」

 

「ふふ…お母さんから聞いたか⁇」

 

「うん。おかあさんがおとうさんのつぎにすきなひと」

 

犬のぬいぐるみを弄りながら時津風がそう言うと、はっちゃんが此方を見てニヤついた

 

「そ、そっか…」

 

「おかあさん、もっとおはなししたいっていってる」

 

「俺は時津風とお話したい」

 

「とっき〜はまーかすおじさんのここでねてる。おやすみ…」

 

時津風は俺の膝の上で丸くなって寝始めた

 

「ったく…しょうがない奴だ…」

 

時津風を犬の様に撫でる

 

ひとみといよ位の身長なのに、もうある程度饒舌に話せている

 

言語能力だけで言うなら、既にたいほうと同じレベルだ

 

 

 

 

「なるほどねぇ…」

 

 

 

 

良い時間になったので時津風を鹿島に返し、俺達はまた二式大艇に乗り込んだ

 

「あれ…秋津洲‼︎秋津洲‼︎」

 

秋津洲が居ない

 

「何かも⁉︎」

 

秋津洲は銃座から顔を出した

 

「いたいた。帰るぞ」

 

「レイさん。秋津洲、ここからの景色見たいかも。一回もないかも」

 

「助手席にきそ乗っけていいか⁇」

 

「いいかも‼︎えへへ〜‼︎」

 

体付きは大人びているのに、性格は子供っぽいんだな…

 

「確認して来るから、ちゃんと横須賀と良い子ちゃんにしてるんだぞ⁇」

 

「「「は〜い‼︎」」」

 

「きそ、エンジン温めといてくれ‼︎」

 

「オッケー‼︎」

 

一応子供達は全員乗っているが、飛ぶ前にもう一本吸っておきたい

 

二式大艇から降り、タバコに火を点けようとした時、誰かがライターを差し出して火を点けてくれた

 

「鹿島…」

 

「もぅ…やっと話してくれました」

 

無言のまま、俺と鹿島は埠頭で腰を降ろした

 

「ボスにお礼言っといてくれ。美味かったって」

 

「分かりました…それでレイ…」

 

「旦那と時津風は良いのか⁇」

 

「私だって息抜きしたいです。レイは元気そうですね⁇」

 

「まぁな。お陰様で暇しない生活してる」

 

「ふふっ、良かった‼︎」

 

不思議なモンだな…

 

こうしていると、左腕の疼きが無い

 

…あぁ、なるほどな

 

俺は表面では鹿島を突き放そうとしていたが、まだ何処かで鹿島が好きなんだ…

 

深海化したのも意味が分かった

 

無意識の内に棚町と鹿島を”また”引き剥がそうとしていたんだ

 

それだけは絶対やってはならない…

 

そんな時、ふと横須賀の顔が浮かんだ

 

横須賀は普段ガミガミうるさいが、アイツなりにぎこちなくだが、一生懸命俺に尽くしてくれる

 

そんな一途な奴を裏切れない

 

やっぱり横須賀が一番好きだと再確認した

 

「ふふっ…こうしていると、私達が恋人同士だった時を思い出しますね⁇」

 

「お前は相変わらず頭お花畑だな⁇」

 

ため息混じりで、ぎこちない笑顔を鹿島に送る

 

「そんな事ないですよ⁉︎」

 

鹿島はそんな俺に笑顔を送る

 

「そろそろ行く」

 

「また来て下さいね⁉︎いつだって待ってますから‼︎」

 

「次来たら、またコーヒーでも淹れてくれ。じゃあな」

 

二式大艇に乗り、昇降口を閉める

 

「お別れは済んだ⁇」

 

子供達に囲まれて幸せそうな横須賀を見て、俺は横須賀に壁ドンをした

 

「ちょ、ちょっと…子供達のま…んっ…」

 

横須賀に無理矢理口付けをすると、子供達の声が止まった

 

「えいしゃんちゅ〜してう…」

 

「よこしゅかしゃんちゅ〜してう…」

 

唇を離し、横須賀の頭を撫でた後、操縦席に座った

 

備え付けられたバックミラーで子供達の座っている席を見ると、ひとみといよが放心状態の横須賀の頬をペチペチしているのが見えた

 

「レイ」

 

助手席に座っているきそがニヤケ顔で俺を見て来た

 

「きそは知らないのか⁇パイロットってのは、出る前に好きな奴とキスすると無事帰って来れるんだ」

 

「願掛けみたいな感じ⁇」

 

「そっ。お前、二式の操縦席は怖いか⁇」

 

「怖くないよ。嘘、怖い‼︎」

 

怖いはずだ

 

二式の操縦席は白煙をご機嫌良く噴き出すからだ

 

「なら俺の分も祈ってろ。マジで祈れ‼︎」

 

「なんみょ〜ほ〜れん…」

 

きそはパニクったのか、いきなりお経を唱え始めた

 

「バッキャロゥ‼︎そりゃお経じゃねぇか‼︎」

 

「え〜と、え〜と…ぼ、僕は”クリステル”じゃないし…え〜と、う〜んと…」

 

「クリステルだぁ⁉︎」

 

「”キリタン”だっけ⁉︎わっかんないっ‼︎って言うかレイは神様信じてないんでしょ⁉︎」

 

「んっ‼︎それもそうだ‼︎レッツゴー‼︎」

 

「レッツゴ…うわわわわわわ‼︎」

 

相変わらず飛ぶ前にガタガタ言う二式大艇は、基地に向かって飛び立った

 

飛び立ってしばらくすると自動操縦に切り替え、リクライニングを倒し、秋津洲が飲んでいたであろうラムネを口にした

 

「レイ」

 

「なんだ⁇」

 

「とっきーが何でレイに懐くか分かったよ」

 

「そりゃあ俺の包容力の高さだろ⁉︎」

 

「それ自分で言う〜⁇」

 

今度は俺がきそにニヤケ顔を送る

 

「あのね、鹿島はまだレイの事が好きなんだよ。確かにレイとの間に子供が産まれなかったのは、鹿島が拒絶したからだ。それは100%鹿島の所為だ」

 

「それと本件にどんなご関係が⁇」

 

ラムネを飲みながら淡々と話す

 

「鹿島がレイを好きな影響が時津風に遺伝したんだ。だから棚町さんに懐かないのにレイに懐くでしょ⁇」

 

「それホントか⁇」

 

「うん。鹿島は棚町さんの事をホントに好きだから子供も出来た。だけど、まだどっかでレイへの思いも生きてたんだよ、きっと」

 

「ホンットアイツは自分勝手だな…」

 

「でもさ、不思議だよね。朝霜ちゃんとかはあんまり鹿島を好きじゃないよね⁇」

 

「お前、俺がまだ鹿島を好きだと思ってんのか⁉︎」

 

「うん」

 

「いいかきそ」

 

「ん⁇」

 

俺はシートベルトを外し、きその頭を後ろに向けた

 

「あそこにいる放心状態の横須賀を見てみろ」

 

「見てる」

 

「あのオッパイを見ろ。あれに挟まれて死ぬか銃殺刑なら、大体の男はあれに挟まれて死にたい」

 

「鹿島もまぁまぁあるよ⁇」

 

「それに普段ガミガミ言う癖して、案外素直なんだ」

 

「それは鹿島にはないね。鹿島は常に忠実だもん」

 

「それに、自分なりに一生懸命俺に尽くしてくれる。アイツ以上に良い女、今の日本に何人いる⁇」

 

「もういないんじゃない⁇」

 

「そう言う事だ。俺は未だにアイツに逢うと、好きな所が一つずつ増えて行く程に惚れてるんだぞ⁉︎」

 

「何かごめん、疑っちゃって…」

 

「んっ‼︎分かれば宜しい‼︎」

 

本当は全部自分に言い聞かせた言葉だ

 

俺は二式大艇の中で先程一瞬芽生えてすぐ消えた思いを掻き消す為、ラムネを流し込んだ…

 

 

 

 

 

大湊で時津風が産まれました‼︎




時津風…わんわん娘

大湊の棚町と鹿島の間に産まれた娘

鹿島が艦娘なので、産まれて来た時津風も例外無く成長が早い

ひとみといよがたいほうの頭一つ分小さく、時津風もひとみといよと同じ位の大きさ

とりあえず小さい

犬のぬいぐるみが好きで、鹿島に抱っこされている時以外はずっと抱っこしている

何故か棚町に懐かず、レイに懐くのは鹿島の思いが遺伝した為

別に棚町が嫌いではないが、落ち着くのはレイなだけ


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165話 雷鳥の群れ(1)

さて、164話が終わりました

今回のお話は少し長めです

そして、内容は続きですが、題名も途中で変わります


新人パイロットの教育を任されたレイ

その訓練中、凶鳥と呼ばれた部隊と出くわします


夕ご飯も食べ終え、後は寝るだけ

 

俺は明日は横須賀で演習の教官に当たっているので、ちょっとは早く寝なければいけない

 

「うぁ〜」

 

「あぅ〜」

 

ひとみといよがロードショーを見ている

 

テレビ画面では海賊が大暴れしており、子供が見るにはちょっと早い気もする

 

「隊長…俺、アレの標的にならんよな⁇」

 

テレビ画面では、悪い海賊が人を剣で串刺しにしている

 

「分からんぞ〜⁇子供は時に残酷だからなぁ〜⁇」

 

「や、止めてくれよ…」

 

「怪獣のオモチャ電車で轢いたり〜⁇」

 

「ヒーローのフィギュアの腕捥ぎ取ったり」

 

「小虫を潰したり⁇」

 

「あああああ…」

 

隊長、貴子さん、グラーフ、ローマが俺を脅す

 

「ほ〜らほ〜ら、レイは覚えてるかなぁ〜⁇たいほうが生き物とクワガタを戦わせようとしていたのを〜」

 

「ひとみちゃんといよちゃんもそんな時期なのかもねぇ〜」

 

「「うぃっひっひっひ…」」

 

「うっ…」

 

隊長と貴子さんが不気味に微笑みながら顔を近づけて来る…

 

この夫婦、手を組ませるとホントに怖い…

 

「レイ、後は私に任せてもう寝なさい。明日早いんでしょ⁇」

 

ローマがメガネを掛け直しながら心配してくれた

 

「寝れっかな…」

 

「お〜やお〜やレイ君‼︎君が恐怖を感じるとはねぇ〜‼︎」

 

「早く寝ないとひとみちゃんといよちゃんに言っちゃうわよ〜⁇」

 

「ぐっ…お…ね、寝てやる‼︎グッスリ寝てやるからな‼︎見てろ‼︎」

 

後はみんなに任せよう

 

ととととにかく、明日は早い

 

俺は恐怖で小一時間眠れなかったが、何とか眠りに就く事が出来た…

 

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「ひとみちゃん、いよちゃん。ちょっとおいで…」

 

いつも貴子さんが一番最初に起きて、その次に何故かひとみといよが起きる

 

二人は貴子さんによく懐いており、お手伝いもする

 

貴子さんにとっても二人は子供なのだ

 

「マーカス君起こして来てくれる⁇今日は早いんだって」

 

「わかた‼︎」

 

「あさごはんいう⁇」

 

「コーンフレークって言ってくれる⁇」

 

「わかた‼︎」

 

「いってくう‼︎」

 

パタパタと走りながら俺の部屋に向かってくるひとみといよ…

 

「ふふふ…マーカス君、驚かないといいけどっ」

 

「ふぅ〜‼︎スッキリスッキリ‼︎」

 

俺は目覚ましの為にシャワーを浴びて、ひとみといよが俺の部屋に向かって行ったと入れ違いで食堂に入った

 

「あらっ⁉︎」

 

「ぬっふっふ…貴子さんも甘いな…」

 

「えいしゃん‼︎」

 

「さわ〜した⁇」

 

「うひっ‼︎」

 

「ふふっ‼︎」

 

いきなり両肩に乗って来た二人

 

「どっから来た‼︎」

 

「えいしゃん、おふとんちあった‼︎」

 

「おふおにいた‼︎」

 

「ひとみちゃんといよ、おきがえすうとこおにいた‼︎」

 

「ふふふ…」

 

どうやら貴子さんにまた喰わされたみたいだ…

 

「さっ、座って‼︎コーンフレークでいい⁇」

 

「お願いします」

 

子供達が座っている場所に座り、貴子さんがコーンフレークを作ってくれる僅かな時間を待つ

 

「こ〜んふえ〜く、たのしいあ〜」

 

「おいち〜ふえ〜く〜」

 

両サイドで二人が左右に揺れながら歌を歌う

 

「はいっ、出来たわ‼︎ひとみちゃんはこっち、いよちゃんはこっちね⁇」

 

「あいがと‼︎」

 

「いたあきます‼︎」

 

「頂きます‼︎」

 

テレビでは教育番組が流れているが、ひとみといよは目の前に置かれたコーンフレークに集中して食べている

 

ぎこちない手でスプーンを持ちながらも、綺麗に口にコーンフレークを運んで行く

 

ポロポロ零す母さんとは大違いだ

 

母さんは同時に事を熟る人だが、ご飯だけはそうは行かないからな

 

「ごちそうさま‼︎行って来ます‼︎」

 

「遅くなるなら連絡するのよ〜‼︎」

 

「は〜い‼︎」

 

貴子さんはまるで年頃の男子を送り出す母親の様に、いつも俺を見送ってくれる

 

《おはよう、レイ。ご飯食べた⁇》

 

「コーンフレークをたらふく食った‼︎」

 

《僕はゼリー食べた‼︎演習終わったら何か食べよう⁉︎》

 

「オーケー‼︎行くぞっ‼︎」

 

基地からグリフォンが離陸して行く

 

 

 

 

 

「…でだ」

 

いざ教官に就こうと思ったら、親父がサンダース隊の連中と地べたに座って話し込んでいた

 

「おじいちゃんだ‼︎」

 

「おぉ‼︎きそ‼︎マーカス‼︎」

 

「…何で親父がいんだよ‼︎」

 

「す、スパイトの命令…⁉︎」

 

「ったく…まぁいい。そこに居るなら手伝ってくれ」

 

「四人ずつに別れてくれるか⁉︎」

 

8人いたサンダース隊の連中は、きっちり4:4に別れ、別々の訓練をする事になった

 

 

 

 

 

《黒い震電部隊…レイの部隊か⁇》

 

「アレンか⁉︎」

 

哨戒任務を終えたであろう、ラバウルの連中が見えた

 

《どれっ…少し相手をしてあげますか‼︎》

 

《ワイバーン。この前のお礼も兼ねて、本気でお相手します‼︎》

 

「サンダース隊各機‼︎良い機会だ‼︎ラバウルの連中を叩き落とせ‼︎」

 

全機から《了解‼︎》との返答を受け、SS隊との演習が始まる

 

相手は凶鳥と恐れられている三機

 

見習いのパイロットでは歯が立たないのは目に見えている

 

だが、これ以上に経験値を上げる機会はまたと無い

 

それに向こうは最新鋭のジェット機、T-50

 

プッシャー式ではあるが、レシプロの此方には勝ち目はほぼ無い

 

となると、俺の指揮能力が問われる

 

「各機、動きの良いのはリーダー機だ‼︎まずは傍の機体から撃墜判定を出せ‼︎」

 

《ウィルコ‼︎》



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165話 雷鳥の群れ(2)

まずは健吾の機体から狙わせる

 

健吾の機体の怖い所は、フラフラ運転してる様に見せかけて、いつの間にか背後に付かれている亡霊の様な操縦だ

 

「深追いするな。ケツに付かれたら、落ち着いて俺の所に引っ張って来い」

 

《ラジャー‼︎》

 

《へぇ〜‼︎中々やるじゃん‼︎》

 

二機を付かせ、健吾を追い回させる

 

「よ〜し、次は俺のライバル機だ。あいつは教本に従った丁寧でキレのある操縦をして来る。教科書に書いてある事を思い出せ〜」

 

《了解‼︎》

 

《中々やるじゃない…のっ‼︎》

 

残りの二機を付かせ、アレンを追い回す

 

「さ〜て、ボスキャラと行きますか…」

 

《サイクロップスが相手か…楽しみだね‼︎》

 

《私の相手はレイかな⁇来なさい。ウィリアムにも通用する飛び方を教えてあげます》

 

無線の向こうからでも伝わって来る、ラバウルさんの本気具合

 

隊長の次に戦いたく無い相手だが、逆に言えば一度相手をして見たかった人でもある

 

「そ〜だ‼︎こう言う時こそアレンのマネだよな‼︎」

 

《この戦いが終わったら、お母さんに花束を渡すんだ‼︎》

 

「俺、この戦いが終わったら、もう一つの指環を渡すんだ‼︎」

 

《誰に⁉︎》

 

《レイさんも二人目⁉︎うわっ‼︎》

 

《嘘だろ⁉︎しまった‼︎》

 

アレンのマネをして、死亡フラグを立てたつもりの一言が戦況を大きく変えた

 

俺の一言に戸惑ったアレンと健吾の二機に撃墜判定が出たのだ

 

「や〜いや〜い‼︎引っ掛かってや〜んの〜‼︎」

 

《チクショ〜‼︎》

 

《一本喰わされました…》

 

《ふふっ、ワイバーン…君も親鳥になったようですね…》

 

「やっぱ残ったか…」

 

《本気で行かせて貰います‼︎》

 

「来いっ‼︎」

 

上空で交差する二機

 

その姿は、既に地上に降りていたリチャードの目にも映っていた

 

「エドガーとマーカスか…サンダース隊‼︎よく見ておけ‼︎自分の息子に言うのもアレだが、あれがエース同士の戦いだ‼︎」

 

凶鳥と雷鳥が交差する上空

 

その時、横須賀に居た誰もがその様子を見上げていた…

 

 

 

 

 

 

数十分後…

 

「負けた‼︎」

 

「やっぱ歴戦の強者には敵わないや‼︎」

 

見事に負けた

 

流石は凶鳥の親鳥だ

 

負け犬の遠吠えになるが、俺は良い線は行っていた

 

だが、ラバウルさんはターンをしながら機首をいきなりカクッと曲げ、その瞬間に機銃を受けて撃墜判定が出た

 

今調べたが、ラバウルさんは的確にコックピットだけを狙い抜いていた

 

流石は凶鳥…

 

敵で出て来た時には、機体の前に俺が死んでいた

 

そんなラバウルさんを隊長は、模擬戦であれど勝ち抜いて来た

 

やっぱり、敵わないな…

 

「ふふっ。随分と成長しましたね⁇」

 

T-50を降りて来たラバウルさんが話し掛けて来た

 

「やっぱラバウルさんには勝てないか…」

 

「落ち込む事はありません。マーカスはよくやりました。ここまで私に楯突いて来たのは、ウィリアム以来ですよ」

 

「越えられない壁かぁ…」

 

「いた‼︎レイテメェ‼︎」

 

「誰とケッコンですか⁉︎」

 

アレンに軽く首を絞められ、健吾が楽しそうにそれを見ている

 

「冗談だよ‼︎悪かった‼︎」

 

「ったく…ローマ辺りにでも渡すかと思ったぜ…」

 

「俺もローマさんかと」

 

「やめろやめろ‼︎中途半端に気になるだろうが‼︎」

 

アレンを振り払い、三人で一旦笑う

 

「隊長‼︎」

 

機体を格納庫に停めたサンダースの連中が来た

 

「よ〜し、上出来だったぞ‼︎SS隊相手に撃墜判定は素晴らしい戦果だ‼︎今日は間宮で食っていいぞ‼︎親父の奢りだ‼︎解散‼︎」

 

「え''っ…よ、よ〜し‼︎来い‼︎間宮に行くぞ‼︎」

 

タイミングが良いのか悪いのか、丁度親父が来た

 

サンダースの連中は親父に着いて行き、間宮に向かった

 

「レイが隊長とか世も末だな…」

 

「俺は良いと思いますよ‼︎」

 

「アレンはアレだ。マジで地に足降ろしてアクセサリー作りに専念した方が商売になるな」

 

「褒めてんのかな〜⁇」

 

「俺は人の悪口は言わない質でね」

 

「さっ。アレン、健吾、レイ、きそちゃん。私達も間宮に行きましょう。好きなのを食べて下さい」

 

「ちょっとだけ工廠に顔見せて来る。すぐ行く‼︎」

 

「待ってますよ」

 

「帰って来んな〜‼︎」

 

「早く来て下さいね〜‼︎」

 

「分かった‼︎アレンのアホ‼︎」

 

俺はきそと共に小走りで工廠に向かった

 

 

 

 

「へへっ…」

 

「良い友人ですね」

 

「はいっ‼︎」

 

「私には、友と呼べる人間はウィリアムしか居ません…あ、健吾。あみさんは別ですよ⁇昔恋仲でしたからね」

 

「やっぱり」

 

「しかし、健吾には驚かされましたね。航空機は撃墜出来ても、私にはあみさんを撃墜出来なかった」

 

「は、恥ずかしいから行きましょうよ‼︎」

 

健吾は恥ずかしさを隠す為、二人の背中を押して間宮に向かわせた

 

「ふふっ…健吾も照れるんですねぇ⁇」

 

「今度大和に聞いておこう‼︎」

 

「アレンがそのつもりなら、ベッドで愛宕さんにデレデレになってるのレイさんにバラすよ⁉︎」

 

「でででデレデレじゃない‼︎骨抜きにされてるだけだ‼︎」

 

「「一緒っ‼︎」」

 

二人にツッコミを入れられながら、三人は間宮に向かった



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165話 雷鳥の群れ(3)

「夕張」

 

「ばばりば、あっ、レイさん‼︎」

 

「またばりばり言わしてる…」

 

「朝霜は来てないのか⁇」

 

「そこに居ますよ」

 

工廠の隅っこの方で、何かを振ってカチカチさせている朝霜が居た

 

「なに造ってるんだ⁇」

 

「あ、お父さん‼︎アタイ、スッゲー発見したんだ‼︎はいっ‼︎」

 

「どれっ…」

 

朝霜が振っていたモノを渡され、手に取って見る

 

見た所、普通のサブマシンガンと普通の電池に見える

 

「ちょっと外行こうぜ‼︎工廠で撃ったらエライ事になる」

 

「あ、あぁ…」

 

朝霜に言われるがまま外に来た

 

「野郎たち‼︎集まんな‼︎」

 

朝霜の掛け声と共に、足元にズラズラ〜っと妖精達が集まって来た

 

「凄いや‼︎朝霜ちゃんも呼べるんだ‼︎レイみたいだね‼︎」

 

「お父さんみたいに全員は呼べないさ。ちょっとお父さんも呼んでみてよ‼︎」

 

「よし、手本を見せてやる‼︎」

 

腕を組み、足を軽く広げ、顔をクワッ‼︎とさせ、いつもの様に叫ぶ

 

「野郎共‼︎集合〜‼︎」

 

すると、朝霜の倍以上の妖精がゾロゾロ集まって来た

 

数人の妖精は頭の上に乗っている始末だ

 

「と、まぁこんな感じだ」

 

「スゲェ…」

 

「僕もやってみよ‼︎」

 

きそも同じ様に叫ぶ

 

「野郎共‼︎しゅ〜ご〜‼︎」

 

「呼んだか⁇」

 

「なんだなんだ⁇」

 

たまたま近くに居たその辺の工兵の男性が二人、きその号令で寄って来た

 

「ちょ、違う違う‼︎ごめんなさい‼︎」

 

すぐに事に気付き、二人は去って行った

 

「ダメだ…僕は本物の野郎しか呼べないよぉ…」

 

「ははは‼︎そう落ち込むな。でだ、本題はコレだったな⁇」

 

「んっ。野郎ども、的を出してくれ」

 

”あいあいさー”

 

妖精が小さなリモコンのボタンを押すと、海上に的が数個出た

 

「お父さん、アレを撃ち抜けっか⁇」

 

「どれっ…」

 

渡されたサブマシンガンの様なモノを構え、引き金を引いてみた

 

「うわっ‼︎」

 

引き金を引いた途端、前髪が風圧で上がり、ほぼ同タイミングで的が粉々に吹き飛んだ‼︎

 

「す、凄い…」

 

「着弾までの時間がほとんど無いな…」

 

「そいつは試作の小型の電磁投射機さ。バッテリーやら、電力やら、問題は色々あんだけど、ベースはコレで完成した」

 

「僕にも撃たせて‼︎」

 

きそにもそれを渡し、同じ様に的を撃たせてみる

 

「うはは‼︎凄い凄い‼︎」

 

面白い様に壊れて行く的

 

「ありゃ⁇」

 

数発撃つと弾が出なくなった

 

「あ〜、バッテリー切れだな。ちょっと貸して」

 

朝霜に投射機を返すと、グリップの底を開け、中にあったバッテリーを取り出した

 

「ばりばりしないのか⁇」

 

「しない‼︎このバッテリーは夕張が感電した時に思い付いて、一緒に造ったんだ‼︎」

 

「おろろろろろろろろ‼︎」

 

言ったしりから工廠から夕張の声が聞こえた

 

「はぁ…ま〜た感電してやんの…大丈夫か〜‼︎」

 

「大丈夫で〜す‼︎あっ…」

 

夕張が絶頂した声を聞き、朝霜は頭を抑えてため息を吐いた

 

「…最後のは聞かなかった事にしてくれ」

 

「オーケー…お前も大変だな⁇」

 

「毎日数回は自爆の感電だかんな。まっ、お陰で内部にはしっかり充電出来て、外部には漏れない電池が出来上がったんだ‼︎でた、この電池は振ると充電出来る」

 

「振るのか⁇」

 

「そっ。母さんがアレをシゴくみたいにな‼︎」

 

「となると…こうか‼︎」

 

電池を持ち、高速で上下に振る

 

先程朝霜がカチカチ言わせていたのはこの音だった

 

「もうそんくらいでいい。もっかいグリップの底から入れて…」

 

「こうか⁇」

 

「そっ。んで、弾が入ってりゃあまた撃てるし、もし補充が必要ならストッパーが掛かる」

 

「うはは‼︎」

 

どうやらきそのお気に入りになったみたいだ

 

「これ、機銃みたいに高速で撃ち出せる様になるか⁇」

 

「あ〜…大分時間は掛かっけど、何とかして見るよ‼︎他にも色々造ってんだ‼︎」

 

「他はどんなの⁉︎」

 

「内緒にしとくよ。お父さんときそ姉をあっ‼︎と驚かせてやるかんな‼︎」

 

「楽しみにしてるぞ‼︎」

 

「ありがとう‼︎良い武器だね‼︎」

 

「へへっ…」

 

俺達に褒められ、朝霜も満更でもないようだ

 

「これから間宮でラバウルの連中と話ついでに飯食べるんだ」

 

「分かった。あんがとな‼︎」

 

「またね〜‼︎」

 

朝霜は終始満面の笑みで俺達を見送ってくれた

 

「いやぁ〜‼︎凄かったね‼︎」

 

「あれが機銃になったら革命だぞ‼︎」

 

引き金を引いた時には着弾している機銃が完成すれば戦闘機界に革命が起きる

 

俺は精々信管を特殊な物にして散弾にする位しか出来なかった

 

朝霜はその上を行こうとしている

 

 

 

 

「着いた着いた‼︎2名で〜す‼︎」

 

間宮に着くと先にきそが入り、人数を言う

 

「レイ‼︎きそちゃん‼︎こっちだ‼︎」

 

アレンの手招きで席に座り、冷たいサイダーを間宮に頼む

 

「タナトスに新鋭機を載せるらしいな⁇」

 

「一機はもう載ってる。今造ってる機体が量産機体の最後だ。ラバウルに配置する」

 

「来た来た‼︎」

 

大湊に行って数日後、建造を進めていた潜水艦搭載の戦闘機が完成し、内部の人間のみに知らせ、タナトスに積載された

 

その戦闘機はコックピットが無く、完全自立起動で動く

 

AIに付き物であり、危険視されているハッキングだが、その機体のAIは主人とその周りの人間の言う事しか聞かない様に設定してある為、ハッキングは事実上不可能だ

 

それと、万が一の際、最終的には主人の言う事を聞く様にも設定してある

 

「じき実戦投入され…なんだよ‼︎」

 

横須賀から通信が入った

 

《レイ‼︎聞こえる⁉︎》

 

「なんだ⁇」

 

《鹿島が行方不明になったの。アンタ知らない⁇》



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165話 旅行鳩の行き先

題名が変わりますが、前回の続きです

次回も題名が変わりますが、このお話の続きです


スピーカーに切り替え、その場に居た全員に聞こえる様にした

 

「…最後に確認された場所は⁇」

 

《スカイラグーンよ。今、総司令達が向かってるわ。督戦隊のメンバーはそこにいる⁇》

 

「全員揃ってます」

 

《総理大臣からの命令で、鹿島を救出して欲しいとのお達しが来たわ》

 

「畏まりました。SS隊、出動‼︎鹿島を救出します‼︎」

 

「ウィルコ‼︎」

 

「了解です‼︎」

 

《レイ。隊長には伝えたから、一時的にSS隊の編成に加入して頂戴》

 

「了解した」

 

《スカイラグーンには棚町さんが居るから、何かあったら伝えてあげて頂戴。良いわね⁉︎》

 

「了解した。行ってくる」

 

通信を切った後、ラバウルさんから一着のトレンチコートを渡された

 

「マーカス。これを着て行きなさい」

 

「いいよ。これで行く」

 

「マーカス」

 

ラバウルさんの目は本気だ

 

どうやら着なければならない

 

「分かったよ…」

 

革ジャンとポケットに入れていた物を全部出し、トレンチコートに着替え、バサッとなびかせてみた

 

「うわぉ‼︎」

 

隣にいるきそがビビってる

 

「ふふっ…”久方振り”にそれを着た感想は如何ですか⁇」

 

「良いんじゃないか⁇前より軽いな⁇」

 

「それでも防弾チョッキの代わりになる位の強度があります」

 

「ちょっと待って⁉︎久方振りって⁉︎」

 

「話は後だ。行くぞ」

 

間宮から出て、ラバウルの連中がT-50に乗り、俺もグリフォンに乗る

 

「ワイバーン、緊急発進‼︎滑走路を開けろ‼︎」

 

《了解。三番滑走路から離陸して下さい》

 

一番、二番滑走路からT-50が上がって行く

 

ラバウルの連中が上がりきった後、俺達も空へと上がる

 

《とにかくスカイラグーン、だね》

 

「面倒な女だ…」

 

《それでレイ。さっきラバウルが言ってた久方振りって⁉︎》

 

「過去に一回だけSS隊に居たんだよ。そん時もコイツを着た」

 

《なるほど…僕だから良いけどさ、普通の機体に乗る時は普通のパイロットスーツ着てね⁉︎》

 

「了解したよっ」

 

グリフォンと話しているとあっと言う間にスカイラグーンに着いた

 

「まずは情報を聞きます。それから…」

 

「その必要はない。答えはすぐ出る。待ってな」

 

「あっ‼︎ちょっ、レイ‼︎」

 

アレンの制止虚しく、トレンチコートのポケットに手を入れたまま、きそと共に棚町が待つであろう喫茶ルームに向かう

 

「レイさん…」

 

「たイへんみたイだな」

 

厨房に居るテンション低めの扶桑さんと潮が迎えてくれた

 

「大尉…」

 

喫茶ルームのホールでは、落胆した様子の棚町が居た

 

「立て」

 

棚町は言われるがまま、すぐに立った

 

そして俺は、渾身の右ストレートを棚町に当てた

 

「レイ‼︎何やってんのさ‼︎」

 

「あの時殺しておくべきだったか⁇」

 

「申し訳ありません‼︎」

 

殴られた棚町はすぐ様頭を下げた

 

「お前は自分の愛した女一人ロクに護れんのか‼︎」

 

「申し訳ありません…」

 

「いいか」

 

頭を下げ続ける棚町の胸倉を掴み、顔を近付ける

 

「俺は罪滅ぼしの為だと思ってお前の所に鹿島をやった。俺の人生を賭けてでも、もう一度逢わせてやりたかったからだ。それが無駄だったと言うのなら…」

 

「あっ…」

 

棚町の薬指からケッコン指環を抜き取った

 

「これは返して貰う」

 

「はい…」

 

「きそ、行くぞ」

 

「う、うん…」

 

ポケットに指環を入れ、喫茶ルームを出ようとした

 

「レイさん」

 

見送りに来た扶桑さんに耳打ちする

 

「アイツが自殺しない様に見張っててくれないか。必ず連れ帰ってくるから」

 

「ん…気を付けてね⁇」

 

扶桑さんと潮にぎこちない笑顔を送り、喫茶ルームを出た

 

「よっしゃ行くぞぇ‼︎」

 

「やったね‼︎」

 

喫茶ルームを出た瞬間、怒っていた表情がコロッと変わる

 

「帰って来た‼︎分かったか⁉︎」

 

「指環を取り返した‼︎」

 

「バカかテメェは‼︎何で今、痴情のもつれを持ち出した‼︎」

 

「まぁ待て。ちょっとタラップ昇ってモニター見に来い」

 

グリフォンのモニターの前に指環を見せる様に持つ

 

「グリフォン。鹿島の現在位置は分かるか⁇」

 

《…パラオだ》

 

「…またか。次はどんな奴だ⁇」

 

《分からない。だけど、鹿島の反応の周りに生体反応が多数あるよ⁉︎》

 

「場所が分かれば後は叩くだけだ‼︎」

 

「これっ…お前がこのシステム造ったのか⁉︎」

 

アレンが驚いている

 

「この指環は、鹿島の位置が分かる様になってる。だからこそ取り返した。オーケーアレン君⁇」

 

「へっ、オーケーだっ‼︎」

 

アレンとハイタッチし、アレンはタラップを降りた

 

「レイ‼︎座標を送ってくれるか⁉︎」

 

《もう送ってあるよ‼︎》

 

「オーケー‼︎デッケェ花火上げようぜ‼︎」

 

「救出してからな‼︎」

 

4機は再三目のパラオ泊地へと向かう…



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165話 傷物にされた旅行鳩(1)

題名は変わりますが、前回の続きです


パラオ泊地へと近付く中、モニターには鹿島の位置がずっと表示されていた

 

「イージス艦、巡洋艦…よくまぁこんなに…」

 

パラオ泊地にはそこそこの数の艦船が揃っていた

 

ざっと見積もっても、十数隻は配備されている

 

それに航空機も配備されている

 

紫電か…

 

パイロットによっちゃあ面倒になる機体だ

 

《SS隊各員、着陸許可が下りました。着陸した後、鹿島を救出。パラオを脱出します。宜しいですか⁇》

 

《バッカス了解》

 

《”オルトロス”、了解です》

 

健吾のTACネームが前と違う

 

「姓名判断師に見て貰ったのか⁇」

 

《コレに固定したんです。SS隊に入る前はこの名でしたからね》

 

「なるほどっ」

 

4機がパラオに降り立つ

 

ラバウルの連中全員が機体から降り、俺はタブレット片手にグリフォンを降りた

 

「落とすなよ」

 

「はいは〜い」

 

きそにタブレットを預け、この基地のトップが居るであろう部屋に来た

 

何にせよ、まずは話し合いだ

 

「何用だ」

 

隊長やラバウルさんが執務をしている様な机と椅子に、一人の老人がコーンパイプ片手に座っていた

 

いけ好かないタイプの人間って事だけは分かる

 

「アンタがココの新しい司令か⁇」

 

「口に気を付けたまえ」

 

「マーカス。ここは私が」

 

ラバウルさんが俺の肩を掴み、そっと後ろに下げてくれた

 

「ここに鹿島と言う女性が訪問致しませんでしたか⁇」

 

「来ておらんな」

 

「そうですか…では、少しばかり調査をさせて頂きます」

 

「断る。私の基地内で好き勝手はさせん」

 

「ふふっ。やましい事が無ければすぐに終わりますし、謝礼も出ますよ⁇」

 

「悪いが金には興味は無い。お帰り願いたい」

 

「困りましたね…きそちゃん、総司令は何と仰りましたか⁇」

 

「強制捜査を許可する。我々も其方に伺います…だって‼︎」

 

きそはタブレットをパラオの提督に見せた

 

「そんな物では証拠にならん。もう一度言う。お帰り願おう」

 

「お断りします。アレン、健吾、マーカス基地内の捜査を。きそちゃん、私を護ってくれるかい⁇」

 

「うんっ‼︎分かった‼︎レイ、後はお願いね⁉︎」

 

「任せな」

 

「了解です‼︎」

 

「行ってきます‼︎」

 

アレンと健吾が先に部屋から出た

 

「気を付けて下さいね⁇」

 

「”キャプテン”もな」

 

俺も二人に続いて部屋を出た

 

「ふふっ…マーカスの口からキャプテンと出ましたか…」

 

「貴様…勝手な真似を…」

 

「今しばらく彼等を待ちましょう。もう一度言いますが、やましい事が無ければすぐに終わります」

 

ラバウルさんはパラオの提督に不敵な笑みを浮かべながら、一人掛けのソファーに腰を降ろし、壁に掛けられている日本刀をほんの一瞬見た後、きそと共に俺達の帰りを待った

 

 

 

 

「ちっ…」

 

「ここは一体…」

 

「どうなってやがる…」

 

俺は舌打ちをし、健吾は驚き、アレンはため息混じりで各部屋を見渡している

 

「老人だらけじゃねぇか…」

 

「それに、あまり友好的な視線じゃありませんね…」

 

「キャプテンから発砲の許可を貰ってる。いざって時は躊躇わずに撃て」

 

「オーケー。とにかく鹿島の反応がある場所に行こう」

 

タブレット片手に、鹿島の反応を目指す

 

「もう少し先だな…」

 

鹿島の反応を目指している最中にも目に入る、老人達の敵意剥き出しの視線

 

少しずつだが、左腕が疼き始めている

 

「大丈夫ですか⁇」

 

「心配すんな。鹿島の状態を見て暴れるか決める」

 

そして、鹿島の反応位置まで来た

 

「ご…ごはんですよ〜…」

 

「いた‼︎」

 

ホールの様な場所で、目の下にクマを作りながら老人達にごはんを配膳している鹿島がいた

 

目に見えて疲労困憊しており、今にも倒れそうだ

 

「確保‼︎」

 

俺の一言でアレンと健吾が鹿島を確保する為に飛び出した

 

「あ…貴方達…」

 

「鹿島を保護‼︎」

 

アレンが鹿島を確保し、健吾は二人を護り入った

 

「レイさん‼︎至急司令部に伝達を‼︎」

 

「オーケー‼︎」

 

すぐに横須賀に連絡を入れる

 

「クラーケン‼︎鹿島を確保した‼︎」

 

《了解したわ。今、総司令の部隊がそっちに向かってるわ‼︎ありがとう‼︎》

 

「ちょっと忙しいからまたな‼︎」

 

横須賀との通信を切り、この場から出ようとした

 

「何処へ連れて行く‼︎」

 

「わしらの楽しみを返せ‼︎」

 

「楽しみだぁ…⁇アレン、待て」

 

アレンに背負われて安心したのか、気絶した鹿島を見た

 

スカートの一部分がパリパリになっている…

 

「テメェラ…」

 

「ヤバッ‼︎」

 

「レイさん」

 

今度は健吾に止められる

 

健吾は右腕で俺の左腕をしっかりと持ち、深海化を抑えてくれた

 

「アレン、先に行って。俺は大丈夫だから」

 

「健吾…」

 

鹿島を背負ったまま、アレンは一瞬足を止めた

 

「たまには俺にも護らせてよ」

 

健吾がアレンに笑顔を送る

 

いつもなんやかんやでアレンに護られていた健吾が、今度はアレンを護ろうとしている

 

「ったく…分かったよ‼︎レイを頼んだ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

アレンと鹿島がその場から離れ、先程いた部屋に戻る為に角に入った瞬間、数発の銃声が響いた



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165話 傷物にされた旅行鳩(2)

「行きましょう」

 

「やる様になったな…ははは」

 

健吾と俺の足元には、数人の老人が倒れている

 

「生きる為に殺す…食べるのと一緒ですよ。行きましょう」

 

健吾に救われる日が来るとはな…

 

昔は無愛想ないけ好かないガキだと思ってはいたが、北上や大和ど出逢って随分変わったみたいだ

 

 

 

 

 

銃声が響いた直後、ラバウルさん達のいる部屋では、ラバウルさんときそがパラオの提督の確保に移ろうとしていた

 

「ふふっ…やはり当たりでしたね」

 

「さっ、確保に移ろう‼︎」

 

きそとラバウルさんはほぼ同時に立ち上がり、パラオの提督の両サイドに着こうとした

 

「ケツの青いガキが…わしを確保するなんざ100年早いわ‼︎」

 

パラオの提督は机の下に隠していた軍刀できそに切り掛かった

 

「危なっ‼︎」

 

きそは間一髪でしゃがんで軍刀を避けた

 

「危ないじゃんか‼︎」

 

「貴様の様な上下関係もままならぬ若僧が、わしに楯突くとは大間違いじゃ‼︎」

 

「レイが年寄り嫌いな理由が分かったよ…」

 

「死ね‼︎小童‼︎」

 

大振りの構えできそを斬ろうとするパラオの提督

 

きそはパラオの提督の目を見続けている

 

いざ振り下ろそうとした瞬間、鉄と鉄がぶつかる、形容し難い音がした

 

「…私の友人に…手を出しましたね⁇」

 

「貴様…」

 

ラバウルさんは壁に掛けられていた日本刀で、パラオの提督の脇から軍刀を鮮やかに止めていた

 

「キャプテン‼︎ビンゴです‼︎鹿島…」

 

「キャプ…テン⁇」

 

「何だ⁇」

 

帰って来た俺達は、異様な光景に息を飲む

 

ラバウルさんは下を向き、重なり合った二振の刀がカタカタと音を立てている

 

「きそちゃん‼︎こっちおいで‼︎」

 

「う、うん‼︎」

 

健吾に呼ばれ、きその安全が確保される

 

「…私を怒らせましたね⁇」

 

「フン‼︎この程度で何を言うか‼︎」

 

パラオの提督はラバウルさんの日本刀を弾き、体勢を立て直した

 

「貴様等…もう逃げられんぞ。外にはベテランの連中が船、そして航空機に乗って臨戦態勢だ」

 

「…質問に答えろ」

 

ラバウルさんは下を向いたまま、パラオの提督に話し掛けた

 

「貴様‼︎目上の人間に対してその態度は何だ‼︎」

 

「私の質問に答えろと言ってる。聞こえないのか…」

 

「答える義務はない」

 

そう言った瞬間、パラオの提督の軍刀を握っていた指が落ちた

 

「ギャァァァア‼︎」

 

「年だけ無駄に食って、態度だけ大きくなったみたいですねぇ…」

 

「こ…このガキ…」

 

「…耳の穴かっぽじってよく聞け老害野郎」

 

初めて聞くラバウルさんの敬語じゃない喋り方に、何故か全員が一歩背後に下がる

 

ラバウルさんの目が完全に開くのを初めて見た…

 

いつも笑っている印象が強いラバウルさんは、笑うと目を閉じる

 

本当はほんの少し開いているのだが、パッと見は閉じている様にも見えていた

 

それが今、完璧に開いている

 

「本当ならこの場で八つ裂きにしてやりたいが、貴様には聞かなきゃならん事が山程ある。指だけで済んだだけマシだと思え…返事は‼︎」

 

「…」

 

パラオの提督はそっぽ向いて返事をしない

 

ラバウルさんはこれ見よがしに、パラオの提督の左手の指を一瞬で落とした

 

「も、もう止めてくれ‼︎頼む‼︎」

 

パラオの提督は土下座をしてラバウルさんに謝罪をする

 

「私はね…悪人が地べたに頭を擦り付けてる姿を見ると、叩きのめしたくなるんですよ…貴方の様な品の無い低脳な老人が血を吹き出して、それを全身に浴びる…考えただけでも身震いしますねぇ」

 

ラバウルさんは恍惚の表情を浮かべている

 

「きそちゃんは見ちゃダメ」

 

「うわっ」

 

きそが健吾に目を塞がれた

 

「まっ…とりあえずはこの辺で良いでしょう。健吾、もう大丈夫ですよ」

 

健吾はきその目元に置いていた手を離した

 

ラバウルさんは日本刀を鞘に仕舞い、きその前で膝を曲げた

 

「怖い思いをさせてしまいましたね…」

 

「ううん。ラバウルさんが助けてくれるって信じてたもん‼︎」

 

「ふふっ…きそちゃんは強い子ですね‼︎」

 

ラバウルさんはきその頭を撫でた後、俺にも謝罪してくれた

 

「マーカス。きそちゃんに迷惑を掛けてしまいました…申し訳ありません」

 

「気にしないでくれ。きそを助けてくれてありがとう」

 

「助けられたのは此方です」

 

ラバウルさんの目が元の薄目に戻っていたのを見て、少し安心した

 

「貴様等…覚悟は出来ただろうな…」

 

パラオの提督には最後の切り札が残っていた

 

外に待機している戦闘艦だ

 

「貴様等全員皆殺しだぁ‼︎」

 

「後は総司令に任せましょう‼︎帰りますよ‼︎」

 

パラオの提督をその場に残し、全員で施設から出る

 

「やられた…」

 

「袋の鼠ですねぇ…どうしましょうか…」

 

案の定、表には戦闘艦が待機しており、泊地を囲む様に配置されていた

 

主砲が此方に向けられている所をみると、証拠ごと抹消するつもりなのだろう

 

老人が考えそうな事だ

 

奴等、自分さえ良ければそれで良いからな…

 

この状態なら、一歩動けば確実に蜂の巣

 

各々の戦闘機に走ろうが、絶対間に合わない

 

俺が深海化しようが、全員は護れない

 

万事休すの事態…

 

生唾を飲んだその時、タブレットに通信が入った

 

通信の相手の名前は二つある

 

”い”

 

”ひ”

 

こんな時にイタズラかよ…

 

そう思った時、タブレットから聞き覚えのある声が聞こえて来た



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165話 傷物にされた旅行鳩(3)

《しぇんしゅかろんほ〜‼︎》

 

《うちから‼︎はじえ〜‼︎》

 

「はっ‼︎伏せろ‼︎」

 

空から何かが放物線を描いて飛んで来たと思った瞬間、数隻の戦闘艦に突き刺さり、大爆発を起こした

 

「な、何が起こって…」

 

「艦が爆発したぞ‼︎」

 

「うはは‼︎凄い凄い‼︎」

 

爆発を起こした艦が、たったの一撃で轟沈して行く…

 

《えいしゃ〜ん‼︎》

 

《たすけにきたお〜‼︎》

 

「いよ‼︎ひとみ‼︎」

 

ひとみといよの声がタブレットから聞こえた瞬間、巨大な潜水艦が巡洋艦に体当たりをかましながら現れた

 

《ったく…世話の掛かる創造主でち》

 

「タナトス‼︎」

 

タナトスが援護に来てくれた‼︎

 

《子供の頼みは断れんでち》

 

どうやらタナトスの中にひとみといよが乗っているみたいだ

 

だが、相変わらずグリフォンには乗れない

 

空は既に多数の紫電が制空権を確保しており、ベテランのパイロットが乗っているであろうあの機を相手にしたら、幾らジェットと言えど飛んでもすぐにオダブツだ

 

グリフォンは特殊合金で出来ているので心配は無いが、滑走路付近に停めてあるT-50が破壊されるのも時間の問題だ…

 

仕方無い…”アレ”を試してみるか‼︎

 

「”クラウディア”‼︎発艦‼︎」

 

《クラウディア、発艦でち‼︎》

 

タナトスの中心部から何かが撃ち出され、空中で外殻とブースターが外れ、中から戦闘機が出て来た

 

その戦闘機は主翼を畳んでおり、空中で広げた後、バーナーを吹かして攻撃態勢に入った

 

「あれが言ってた無人機か⁉︎」

 

「そうだ」

 

空を見上げるラバウルの連中をよそに、クラウディアに命令を出す

 

「クラウディア‼︎ラバウルの連中ときそが機体に乗るまでハエを叩き落としてくれ‼︎」

 

《了解しました。戦闘開始》

 

上空でクラウディアが戦闘を始める

 

「アレン、鹿島を貸せ。今の内に機体に乗れ‼︎」

 

「任せた…ぞっ」

 

アレンから鹿島を受け取る

 

「きそ、ラバウルのみんなとスカイラグーンに帰れるか⁉︎」

 

「タナトスに乗るんだね⁉︎大丈夫‼︎任せて‼︎」

 

全員を見送った後、タナトスに通信を入れる

 

「負傷者がいる‼︎乗せてくれるか⁉︎」

 

《ちょい待つでち‼︎》

 

《でっち〜‼︎つい、あれねあって‼︎》

 

《ひとみ、よあいとこさあす‼︎》

 

どうやらタナトスの中では、いよが敵を指定し、ひとみが弱点を探しているみたいだ

 

《よし‼︎創造主を乗せるでち‼︎》

 

《えいしゃんのせう‼︎》

 

《れっち〜はよ‼︎》

 

《創造主‼︎30秒で乗るでち‼︎》

 

タナトスは俺を乗せられそうな場所に停泊した

 

自動で防水扉が開き、鹿島をおんぶしたまま、急いでタナトスに入る

 

「乗ったぞ‼︎」

 

《行くでち‼︎》

 

防水扉を閉めながら、タナトスはその場を離れた

 

「ふぅ〜…」

 

深い息を吐いた後、鹿島を背負いながら、とりあえずメインルームを覗いてみた

 

「わるいおふね、あとなんつのこってう⁇」

 

「よんつのこってう‼︎」

 

ひとみといよは椅子の上に立ち、モニターを見ていた

 

「でっち〜、しぇんしゅかろんほ〜なんつのこってう⁇」

 

《まだまだいっぱいあるでち‼︎》

 

「じぇんぶぶっこおいら‼︎」

 

「よんつともぶっこおいら‼︎」

 

《任せるでち‼︎》

 

ひとみといよの言った通りに、タナトスは艦首爆雷投射機の標準を定める

 

「でっち〜‼︎ここねあって‼︎」

 

《了解したでち‼︎マグナム‼︎》

 

ひとみが定めたポイントに、掛け声と共に爆雷を撃ち出す

 

4隻同時に命中。4隻共、大爆発を引き起こす

 

「ろか〜ん‼︎」

 

「ぶっこおい〜‼︎」

 

《戦闘終了‼︎帰還するでち‼︎》

 

戦闘が終わったのを聞いて、二人に声を掛けた

 

「ひとみ‼︎いよ‼︎」

 

「えいしゃん‼︎」

 

「おかえい‼︎」

 

鹿島を降ろし、椅子から飛び降りて駆け寄って来た二人を抱き留める

 

「危ないから来ちゃダメだろ…」

 

「らいじょ〜う‼︎たあとすつおい‼︎」

 

「たあとすかたい‼︎」

 

ドーンと胸を張る二人を見て、ちょっと安心した

 

「鹿島をネンネさせて来るから、ちょっとだけ頼めるか⁇」

 

「ろ〜すう⁇おうちかえう⁇」

 

「よこしゅかしゃんのとこいく⁇」

 

「スカイラグーンに行けるか⁇」

 

「わかた‼︎でっち〜きいたか⁉︎」

 

《航路をスカイラグーンに設定したでち》

 

タナトスはちゃんと航路を設定していた

 

「えいしゃんもねんねすう⁇」

 

「えいしゃんおつかえ⁇」

 

「大丈夫。すぐ帰って来る。タナトス、二人に何か見させてやってくれ」

 

《了解したでち》

 

相変わらず気絶したままの鹿島を、船内のカプセルに放り込んだ

 

万が一の為に載せておいて良かった…

 

計器を操作し、症状が判明した

 

過労、貧血、栄養失調、臀部裂傷、内臓損傷…

 

そして、公には言えない部分にも傷を負っていた

 

これ位の傷なら、スカイラグーンに着くまでに治る

 

スタートボタンを押した後、タバコに火を点けた

 

スカイラグーンに着くまで後三時間

 

鹿島の治療が終わるまで二時間

 

良い感じに終わるな

 

俺は鹿島の治療が終わるまで、ずっとタバコを吸ったりしてそこに居た

 

「…レイ⁇」

 

「起きたか⁇」

 

カプセルの中で鹿島が目を覚ました

 

「また…助けてくれたのね⁇」

 

「しゃ〜なしなっ」

 

「うふふっ…レイはいつもそう…」

 

「感謝するなら、ラバウルの連中と、ひとみといよに言うんだな」

 

「レイ…私…私…」

 

「分かってる。何も言うな。治してやるから、内緒にしておけ」

 

「ありがとうございます…」

 

「その…なんだ」

 

いつもの癖で、後頭部を掻く

 

「冷たくして悪かったよ」

 

「いいんですよ…また、鹿島とお茶してくれれば…」

 

「分かったよ…大湊で美味いコーヒー淹れて待ってろ」

 

「はいっ…レイ…」

 

 

 

 

 

そして二時間後…

 

「う〜ん‼︎スッキリしました‼︎レイは凄いですね‼︎」

 

「そりゃど〜もっ」

 

「レイ…」

 

鹿島が背中にゆっくりと抱き着いて来た

 

「嫌…ですか⁇」

 

「俺に横須賀を裏切れと言うのか」

 

「いいえ…ただのお礼です…」

 

「…お前に棚町を裏切らせたくない」

 

「今は全部忘れて下さい…棚町さんも、横須賀さんも…」

 

鹿島に迫られるが、理性は保っていた

 

「人妻を食う気にはなれん‼︎」

 

「酷い…」

 

鹿島は目をウルウルさせながら俺を見詰める

 

「…悪かったよ」

 

「ふふっ…えいっ‼︎」

 

ちょっとでも気を許した俺がバカだった…

 

再び鹿島に抱き着かれ、長い一時間となった…

 

 

 

 

 

スカイラグーンでは、ラバウルの連中とグリフォンが既に到着しており、喫茶ルームで待ってくれていた

 

「じゃあ、二人を任せたぞ」

 

《了解でち‼︎》

 

「はよかえってこいお〜」

 

「き〜つけてな〜」

 

防水扉から顔を出しているひとみといよに手を振り、喫茶ルームに続く階段を登る

 

「行くんだ…」

 

鹿島の背中を押し、喫茶ルームの中に入れる

 

「まゆ…まゆ‼︎」

 

「棚町さんっ‼︎」

 

二人は互いに抱き合い、熱いキスをする

 

「レイさん‼︎ありがとうございました‼︎」

 

「棚町‼︎」

 

棚町に指環を投げ返す

 

「おっと…」

 

「愛しのハニーに付けて貰うんだな。今度は離すなよ⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

棚町は鹿島に指環を嵌め直して貰い、互いの顔に笑顔が戻ったのを見て、喫煙所に来た

 

「いいのかレイ⁇」

 

真剣な目をしたアレンがタバコを咥えながら隣に来た

 

「何がだ⁇」

 

「まだ好きなんじゃねぇのか⁇」

 

「ケッ‼︎俺は鹿島みたいな従順な奴は無理だ。それこそローマみたいなキツキツメガネの方が良いね‼︎」

 

「ホントにローマは満更でもないのか⁇」

 

「アイツ、意外に子供の面倒見良いんだよ。んで、何かと俺に気を使ってくれる」

 

「へ〜ぇ…」

 

「横須賀が居ない間、アイツが色々埋めてくれてるんだ。感謝してる」

 

「抱いたのか⁇」

 

「バッ‼︎仮にも隊長の妹だぞ‼︎抱けるかよ‼︎」

 

「そっか」

 

「お前はホンットバカだな‼︎」

 

「バカで結構‼︎」

 

「けっ‼︎」

 

「へっ‼︎」

 

互いに罵倒しあいながら、ようやく長い一日が終わった…

 

 

 

 

ひとみといよが何故来てくれたかと言うと、俺が朝方飛び立った後、ひとみといよは横須賀に逢う為に、お目付け役のはっちゃんと共に秋津洲タクシーを使用し、横須賀に来た

 

その時、タイミング悪く鹿島が失踪したのを知り、はっちゃんは横須賀と共に執務室で各基地に連絡を取っていた

 

ひとみといよは横須賀とはっちゃんが忙しいと分かり、イルカの動画を見る為にタナトスに侵入。そのまま出港してしまい、パラオに来た…と言う訳だ

 

 

後の総司令の調査によると、再三再建されたパラオはほとんど老人ホームの様になっており、介護する人間が少なかったらしい

 

そこで面倒見も容姿も良い鹿島を拉致監禁し、老人達の世話役に置いた

 

パラオの中で鹿島は昼夜問わず散々な事をされ、救出されるまで気が休まる時が無かったと言う…

 

 

 

 

 

 

パラオ泊地が立ち入り禁止区域に指定されました

 

鹿島拉致監禁事件のデータベースがアップロードされました




鹿島失踪事件の全貌が知りたい方、感想の最後の部分等で教えて下さい

別の方法でも構いません

要望が多ければ、別の場所になるかも知れませんが書きたいと思います


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166話 もう一人の恩師(1)

さて、165話が終わりました

今回のお話は、ようやくレイに技術を教えたのが明らかになります

レイはその人にどんな感情を抱いているのか…


「そう言えばレイ。アンタ指環、もう一つ何処にやったの⁇」

 

横須賀が定時報告に来た際、重コンの話になった

 

横須賀が決めたルール上、提督に当たる人物は二人までケッコンして良い事になっている

 

アレンと逢う度にこの話になっているが、別に一人でも良いハズだ

 

アレン自身も愛宕一人だしな

 

「気になるのか⁇」

 

「え⁇えぇ…まぁね⁇」

 

「内緒だ」

 

「だっ、誰かに渡してないでしょうね⁉︎」

 

「渡したら言ってるっての‼︎」

 

「あ…そっか…」

 

「ほら、もう行け‼︎」

 

横須賀の背中を押し、船へ戻して見送る

 

「はぁ…」

 

最近、やたら重コンの話になる事が多い

 

正直な話、とある人物に渡そうか…とは考えた事があった

 

だが、それは今はもう出来ない

 

旦那が居るからだ

 

「ゆびわ⁇」

 

「えいしゃんのゆびわ⁇」

 

ひとみが左手、いよが右手を取り、指環を探す

 

小さな手で指環を探すが、見当たらない

 

「俺のはこっちだ」

 

服の襟部分をめくり、ペンダントと一緒になったケッコン指環を取り出した

 

「おぉ〜‼︎」

 

「につある‼︎」

 

ひとみがそう言った瞬間、その場に居た全員が俺の方を向いた

 

「マーカス君⁇ちょ〜っと私に見せてくれる⁇」

 

「た、貴子さん…」

 

貴子さんは物凄い気迫で俺に迫り、ペンダントの先に付いた指環を見た

 

「え〜と…ジェミニ・スティングレイ…ウォースパイト・オルコット…」

 

「母さんのは違う。ケッコン指環じゃない」

 

「貴子。それは私がマーカスを尊敬していると言う意味のリングです。ケッコン指環とは、ちょっと違います」

 

「ますます気になるわね…」

 

「貴子。幾ら空軍は嘘をつかないとは言え、男には隠したい事もある」

 

「むむむ…」

 

隊長のフォローのお陰で、貴子さんは手を離した

 

「ちょっと出掛けて来る。夕方には帰るよ」

 

「横須賀か⁇」

 

「あぁ。たまにはシスターにも顔見せないとな」

 

「んっ、良い心掛けだ‼︎」

 

「私も行くわ」

 

珍しく霞の方から着いて来た

 

「ひとみといよはおるすば…」

 

「いよ、よこしゅかれおよぐお‼︎」

 

「ひとみも‼︎」

 

「イクちゃんの水泳教室です。まだ時間はありますし、はっちゃんとしおいが着いて行きます」

 

「んっ。任せたぞ。ちゃんとはっちゃんとしおいの言う事聞くんだぞ⁇」

 

「わかた‼︎」

 

「いってあっしゃい‼︎」

 

三人に見送られ、霞とグリフォンに乗り、横須賀を目指す

 

 

 

 

《霞、それなぁに⁇》

 

霞はグリフォンに乗ってから、ずっと何かを握り締めている

 

「たまにはレイときそに何か食べさせてあげようと思ったのよ」

 

「ホントか⁉︎」

 

「いつも世話になってるのに、何にも返せてないからね」

 

《僕アレ食べたい‼︎肉の棒の奴‼︎》

 

多分、最上のスティックミートの事を言っている

 

「レイは⁇何食べたい⁇」

 

「コイツと一緒の奴で‼︎」

 

「分かったわ。レイの用事が終わったら行きましょ」

 

横須賀に降り、きそと霞と共に教会を目指す

 

「あっついなぁ〜」

 

「レイ。アイスキャンディー食べる⁇」

 

「食べる食べる‼︎」

 

「すいません。アイスキャンディー3つ下さい」

 

霞がたまたまそこを通り掛ったアイスキャンディー売りを捕まえ、俺達の所に戻って来た

 

「好きなの取って⁇」

 

霞が買って来たのは、水色と黄色と紫色

 

この暑さの所為でどれも美味そうに見える

 

「僕サイダー‼︎」

 

「俺はグレープ‼︎」

 

「私はレモンね‼︎」

 

見た目で勝手に味を決め、早速口に入れる

 

「…サイダーじゃない‼︎」

 

「グレープじゃないだと⁉︎」

 

「レモンじゃない…」

 

味を確かめる為、各々もう一度アイスキャンディーを口に入れる

 

「ミントだ‼︎美味しい‼︎」

 

「バナナね‼︎中々イケるわ‼︎」

 

「俺のは”ブリーベリー”だ‼︎」

 

「「何それ⁉︎」」

 

きそと霞が同時に俺の方を向く

 

「今何て言った⁉︎」

 

「ブリーベリーって何よ⁉︎」

 

「ブリーベリーってのは、ほら、あれだ。目が良くなる、小粒で結構イケるフルーツだ」

 

きそも霞も、ドン引きして蔑んだ目で俺を見て来る…

 

ヤバい、何か間違っていたのか⁉︎

 

「レイ…それ”ブルーベリー”だよぉ‼︎」

 

「どこで覚えたのよ…」

 

「大体ピンゲンとか、ガーガーさんとか、ブリーベリーとか教えるのは鹿島だね⁇レ〜イ⁇」

 

きその顔がドアップで目に映る

 

「一回全部覚え直した方が良いかもな…ははは…」

 

アイスキャンディーの棒を捨て、教会に向けて歩く

 

右手で霞と手を繋ぎ、左手はポケットの中に入れている

 

きそが防波堤の上を手を広げながら歩いているからだ

 

「教会だっけ⁇」

 

「そっ。たまには顔見せないとな」

 

「神様信じてないんじゃないの〜⁇」

 

「信じるかよ、あんな奴等」

 

「ふ〜ん…よいしょっ‼︎」

 

教会が近付いて来たので、きそが防波堤から降りて来た

 

そして俺の左手をポケットから抜き、手を絡ませた後、教会に入った

 

「マーカスく〜ん‼︎」

 

「うひゃ‼︎」

 

「何⁉︎」

 

両手に居た二人が、ドタドタ〜っと走って来たシスター・グリーンに怯えて手を離し、脇に避けた

 

その途端、シスター・グリーンが飛び付いて来た

 

「はなっ…せ‼︎」

 

シスター・グリーンの口に指を入れてまで食い止めるが、物凄いパワーで反発して来る

 

「ババァの癖にっ…なんちゅうパワーだっ‼︎」

 

「指環くれるの⁉︎それとも指環⁉︎指環ね⁉︎あ〜ん‼︎結婚式はいつにしましょう‼︎」

 

「ババァに興味は…無いっ‼︎」

 

ようやくシスター・グリーンを引き剥がす

 

「ハァ…ハァ…」

 

「若い男の子は、幾つになっても素晴らしいわ…あはははは〜‼︎」

 

「きそ、大丈夫だ。霞、チェーンを降ろせ」

 

俺の身の危険を察知したのか、きそはT-爆弾、霞は手にチェーンを巻いて待機していた

 

「ちょっと危険を感じて…あはは…」

 

「ヤバい奴じゃないの⁉︎」

 

「ふふふ…お乳臭い女の子達…私の人生の重みに敵うとでも⁉︎」

 

「うんっ‼︎」

 

「歳だけ食ったアンタ位勝てるわ‼︎」

 

きそも霞も、シスター・グリーンを睨み返す

 

「あっははは‼︎それでこそマーカス君の子ね‼︎さっ、いらっしゃい‼︎貴方達を歓迎します‼︎」

 

「ふぅ…」

 

「まぁいいわ…」

 

きそも霞も武器を下げ、シスター・グリーンに案内されて、シスター達の休憩室に入る

 

「うひゃひゃひゃ‼︎ウケるでし‼︎」



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166話 もう一人の恩師(2)

「はぁ…」

 

中にはシスター・ヌードルが降り、椅子に座って即席麺を食べながら、ブラウン管のテレビを見て爆笑していた

 

「きそ。アレンに送ってやれ」

 

「あやややや‼︎それはダメでし‼︎」

 

シスター・ヌードルは急いでテレビを消し、シスター・グリーンの手伝いに向かう

 

数分後、お盆に5つコップを乗せて二人が椅子に座る

 

「はいっ、出来たわ‼︎ミントティーよ‼︎」

 

全員に行き渡り、きそと霞もコップの中身を飲もうと手を伸ばした

 

「先に飲んでみろ」

 

「えっ⁉︎」

 

「うっ…」

 

きそと霞が伸ばしていた手を引っ込めた

 

シスター・グリーンは冷や汗を流し、シスター・ヌードルは顔が引きつる

 

「流石はマーカス君でし」

 

「ふふっ…マーカス君とアレン君には敵わないわね⁇」

 

シスター・グリーンはミントティーを飲み、安全である事を保証して見せた

 

「飲んでいいぞ」

 

きそと霞もミントティーを口にし、ささやかながらお茶会が開かれる

 

「あっ、そうでし‼︎ヌードルのオヤツがあるでし‼︎」

 

シスター・ヌードルが席を離れ、レトロ感溢れる冷蔵庫からお菓子を取って戻って来た

 

「ヌードルが作ったでし‼︎抹茶、チョコ、イチゴ味でし‼︎」

 

ヌードルは早速置いたお菓子を口にする

 

どうやら安全みたいだ

 

「”マカロフ”か。洒落たモン作るじゃねぇか」

 

「「え⁉︎」」

 

「マーカス君⁇」

 

「それはピストルでし」

 

きそと霞は俺の方を見て、口を開けており、シスター二人は馬鹿にした様な目で俺を見てくる

 

「レイ。これはマカロ”ン”‼︎はい‼︎」

 

「マカロン‼︎」

 

「そろそろローマにチクろうかしら‼︎」

 

「ダメだ‼︎それだけはいかん‼︎」

 

「ふふっ、冗談よ‼︎」

 

最近、霞の冗談がシャレにならない位上手くなって来た

 

「これ美味しいや‼︎」

 

「いっぱいあるから、好きなだけ食べていいでし」

 

「ちょっと一服してくる。シスター、二人を任せた」

 

「これ食べてるでし」

 

反応したのはシスター・ヌードルだけ

 

俺は裏口から外に出て、海の見える防波堤に座り、タバコに火を点けた

 

「よいしょ」

 

隣に座ったのはシスター・グリーン

 

俺はタバコを吸う為に外に出る時、シスター・グリーンにアイコンタクトを送っていた

 

なのでシスター・グリーンは反応しなかった

 

話があるから、そのまま出て来いとの合図だ

 

「指環でもくれるのかしらっ⁇」

 

「例の人は見付かったか⁇」

 

シスター・グリーンの話を無視して話を進める

 

実は、大分前からとある人物を探して貰っている

 

その人は俺の尊敬する人で、AIの産み出し方、そして教育の仕方を教えてくれた博士だ

 

流石に隊長には敵わないが、心底感謝している

 

ただ、反攻作戦前後辺りから行方を眩ませている

 

せめて俺が力になれるなら、なってやりたい

 

そして、あわよくば…

 

「一つ聞いてもいい⁇」

 

「答えられる事ならな」

 

「どうしてそこまでして、その人を探してるの⁇」

 

「世話になった人なんだ。何にもお礼をしてない」

 

「好きだったの⁇」

 

「そうじゃない。ただ、尊敬はしてる」

 

俺は何にも考えずに少し座り直した

 

「嘘ね。マーカス君、自分を隠す時、ずり落ちても無いのに座り直すもの」

 

「…好きだと言えばそうなのかもな」

 

「そう…一応、探してはおいたわ」

 

そう言って、シスター・グリーンは服をズラし、谷間を見せた

 

そこにはUSBメモリがネックレスに付けられて、首から下げられていた

 

「ここに、マーカスの知りたい情報が入ってるわ」

 

「対価は何がいい⁇」

 

「ゆb…」

 

「指は困る。戦闘機を動かせなくなるからな」

 

「じゃなくて‼︎ゆびw…」

 

「指環以外な」

 

「んもぅ…」

 

シスター・グリーンを困らせるのは面白い

 

「あげるっ」

 

シスター・グリーンはUSBメモリを付けていたネックレスを取り、俺の首に付けた

 

「これまでマーカス君を利用した事、これで少しは償えたかしら⁇」

 

「充分だ。まっ⁉︎後は手当たり次第薬を入れなきゃ、シスターはモテるぜ⁉︎」

 

「ふふっ…私はババァなんでしょ⁇」

 

シスター・グリーンは、少し悲しそうに微笑んでいる

 

「俺達を利用してなきゃ、渡す相手はアンタだった」

 

「…じゃあっ‼︎来世に期待しよっかなぁ‼︎」

 

「その前に良い奴来るさ。低身長で巨乳。デメリットがあるとすりゃあババァなだけだ」

 

「見てなさい。マーカス君並に良い男捕まえてあげるわ‼︎」

 

「その意気だ」

 

シスター・グリーンからUSBメモリを貰い、休憩室に戻って来た

 

「さっ‼︎肉食べに行くか‼︎」

 

「うんっ‼︎ごちそうさま‼︎」

 

「美味しかったわ‼︎」

 

「また来ると良いでし‼︎」

 

「マーカス君、気を付けてね⁇」

 

「ありがと」

 

シスター・グリーンの前で少し屈み、額に掛かっていた髪を掻き上げ、額にキスをした

 

「良かったでしね‼︎」

 

「え…えぇ…」

 

シスター・グリーンは顔を真っ赤にしている

 

シスター・グリーンが好きなのは本心だ

 

本当に感謝してる

 

俺達をスパイとして利用しなければ、それさえ無ければ、あれだけ俺を好いていてくれる女性を無下にはしない

 

教会を出て、俺達は最上のミートスティックに向かう

 

「うはは‼︎良い匂い‼︎」

 

「あっ‼︎大尉‼︎お疲れ様です‼︎」

 

ハチマキを巻いて、汗が落ちるのをしっかりとガードした状態で、最上は肉を焼いていた

 

「僕、ホワイトソース掛けウインナーにする‼︎」

 

「私はぐるぐるソーセージ‼︎」

 

「俺はマスタードウインナーで‼︎」

 

「ありがとうございます‼︎すぐ焼き上がるので待ってて下さい‼︎」

 

目の前でしっかりと焼かれて行く肉達

 

先程マカロンを数個食べたが、これは別腹だ

 

「はいっ‼︎どうぞ‼︎」

 

「「「頂きま〜す‼︎」」」

 

二人共、美味しそうに肉にかぶり付く



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166話 もう一人の恩師(3)

「中々イケるわね⁉︎」

 

「美味しいよ‼︎」

 

「うんっ、美味い‼︎」

 

「へへっ、良かったぁ‼︎」

 

最上も嬉しそうだ

 

そして、いつも気になるネーミングセンス

 

…どうにかならなかったのだろうか

 

最上のスティックミート…か

 

合ってるっちゃ合ってるんだが、な〜んか違う気がする…

 

「美味しかった‼︎また来るね‼︎」

 

「うんっ‼︎ありがとう‼︎」

 

肉を食べ終え、店から出る

 

そしてすぐにきそと霞が口を開いた

 

「スッゴク美味しかったけど、あの名前、どうにかならなかったの⁇」

 

「味と価格で勝負してんじゃない⁇」

 

やはり二人も思っていたか…

 

「さてとっ…」

 

「レイ。僕、霞とその辺にお買い物行って来てい〜い⁇」

 

「おぉ、いいぞ。ちょっとタナトス見て来るから、飽きたら帰って来いよ⁇」

 

「分かった‼︎霞、行こう‼︎」

 

「えぇ‼︎」

 

きそと霞と別れ、俺はタナトスが停泊している場所に来た

 

《創造主でち》

 

「中に入れてくれるか⁇」

 

《OKでち‼︎》

 

ちゃんとタナトスに許可を入れてからじゃないと、無理矢理入ったりしたら潜行してしばらく上がって来なくなる

 

タナトスの中に入り、先程のUSBメモリを取り出した

 

「調べ物がしたい。いいか⁇」

 

《外部からの通信をシャットダウンしたでち》

 

「いい子だ」

 

USBメモリを挿し、情報を開示する

 

「これは…」

 

《見た事ある奴でち》

 

探していた人物は案外近くに居た

 

深くため息を吐き、頭を落ち着かせる

 

「タナトス。この情報に嘘が無いか調べてくれ」

 

《今の所は無いでち。どの写真にも合成箇所はないでち》

 

「だったら俺は、今まで気付かないままで居たのか⁇」

 

《そういう事になるでち。まぁ、これだけ変わっていれば誰だって分からないでち》

 

ため息を吐き、肩を落とす

 

「だからグリフォンの設計図くれたり、クラウディアの建造に付き合ってくれたのか…」

 

《そう言う事でち》

 

「参ったな…」

 

《創造主お得意の遠回しで探りを入れて見るでち》

 

「そうするか…ありがとうな⁇」

 

《これ位ならいつでもでち‼︎》

 

USBメモリを抜き、タナトスから出る

 

そして、とある場所を目指す…

 

 

 

 

「ン⁇」

 

着いた先はマークの研究室

 

「マーカスカ。ハカセハキュウケイチュウダ」

 

「ヴェアと話に来た。嫌か⁇」

 

「ン〜ン。ウレシイ。コーヒーニスルカ⁇ソレトモタンサンガイイカ⁇」

 

目の前で冷蔵庫を弄るヴェアは、俺が彼女に言っていないハズの嗜好品を何故か知っている

 

「炭酸にする」

 

「ホラッ」

 

サイダーを投げ渡され、缶の周りを少し指で叩いた後、蓋を開け、ヴェアの横に座る

 

「メズラシイナ、ヴェアニアイニクルナンテ」

 

「色々お礼を言いたかったんだ。グリフォンの設計図とか、クラウディアの建造とか」

 

「ヴェアハシリタカッタダケ。マーカスノゲンカイヲ」

 

ヴェアは俺の横で同じ様にサイダーを飲む

 

「ソウイエバ、マーカスハユビワヲモウヒトツワタシテナイラシイナ。ジェミニガサワイデタ。ダレニワタスツモリダ⁇」

 

面白半分でそれを聞いてくるヴェアも、やっぱり乙女なんだな…

 

「実は渡そうと思ってるんだ」

 

「ダレニダ⁇」

 

「世話になった人さ。俺に兵器の造り方や、AIの産み方を教えてくれた人だ」

 

「…マーカスモリチギダナ」

 

ほんの数秒前まで俺の目を見ていたヴェアは、急に前にあったPCに目を向けた

 

俺は椅子から立ち、机にもたれ、ヴェアの横にあった灰皿を此方に寄せた

 

「吸うか⁇」

 

「ヴェア、サイキンガムニシタ」

 

それでも俺はヴェアにタバコの箱を突き付ける

 

ヴェアは諦めたのか、差し出したタバコの箱から一本取り出し、自身のライターで火を点けた

 

「メンソールの方が良かったか⁇」

 

「レギュラーデモイイ」

 

ふと、灰皿に目をやる

 

吸殻が立っている様な状態で、所狭しと刺さる様に火が消されている

 

クセのある火の消し方だ

 

嘘つきだな、ヴェアは…

 

たまにいる、喫煙女性の独特の体臭

 

俺からすれば、妙に心をくすぐられる微妙な匂いだ

 

ヴェアにはふとした瞬間それがした

 

「ヴェアは好きな人いるのか⁇」

 

「ハカセ」

 

即答だった

 

「デモ、ハカセヨメイル」

 

「そっか…話、変えようか。深海棲艦になったら、記憶が消えるってのは本当らしいな⁇」

 

「コジンサハアル。チョットノコッテルノモイレバ、イマノタカコサンノヨウニ、ナカナカモドラナカッタイヒトモイル」

 

「お前もいつか、戻るといいな⁇」

 

「ヴェッ‼︎」

 

そう言って、工廠で時折掛けているメガネをヴェアに掛けた

 

「じゃあな。また来るよ」

 

「ウン…」

 

 

 

 

 

 

俺が出た後、ヴェアはメガネを取り、まじまじとそれを見つめた

 

「ほんっと…遠回しな子なんだから…全部気付いてる癖に」

 

ヴェアはメガネを掛け直し、何故か嬉しそうにPCに向かう

 

メガネの両縁には文字が彫ってある

 

かなり昔の物の様で、少し擦れて読めなくなってはいるが、片方の文字からすると、何かの記念品の様だ

 

そして、もう片方にはマーカスが尊敬している人物の名前が、そこには彫られていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大淀 博士




レイが缶を指で叩いていましたが、炭酸系のジュースの缶は、外周をグルリと一周、指で弾く様に叩くと吹きこぼれにくくなります

これは実際にも使えるので、是非お試し下さい


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お気に入り件数1000件突破記念質問コーナー

長らくお待たせしました

やるやると言っていた、質問コーナーを設けます

今回のMCは初回のあの二人‼︎

そして、ゲストが大勢訪れます‼︎

珍しく長い回ですが、本編のちょっとした謎も明らかになるので、是非お楽しみ下さい


きそ「おめでと〜‼︎」パァン

 

霞「おめでと〜‼︎」パァン

 

きそ「遂にお気に入り件数1000件突破だぁ‼︎」

 

霞「随分と長い時間掛かったわ…」

 

きそ「今日は特別な回だから、また僕達がパーソナリティーで質問に答えるよ〜‼︎」

 

霞「途中、数人のゲストも呼んでるから楽しみになさい‼︎」

 

きそ「早速行ってみよ〜‼︎」

 

 

 

Q.作者さんがこの物語を書こうと思った理由は何故ですか⁇

 

きそ「艦これ好きだからじゃないの⁇」

 

霞「私達、最初からいないからわからないわ…」

 

???「それには私が答えよう」

 

きそ&霞「「パパ‼︎」」

 

パパ「作者がこの物語を書き始めたのは、些細な理由が始まりだったんだ」

 

パパ「作者は当時言われていた”書けば出る”との都市伝説を信じていた数人の友人に煽られ、当時持って居なかった、大鳳、そして武蔵をベースに、説を実証する為に書き始めた」

 

きそ「結果はどうだったの⁇」

 

パパ「まず大鳳だが、この物語でたいほうが初登場した直後、数え切れない連敗から脱出した」

 

霞「ほへ〜…」

 

パパ「そしてしばらくした後、武蔵が初登場した」

 

パパ「その直後、武蔵が艦隊に加入した」

 

きそ「書けば出るってホントなんだね…」

 

霞「マグレじゃないの⁇」

 

パパ「ふふ…その都市伝説を信じるか信じないかは、読者が決める事だ」

 

パパ「ついでに良い事を教えよう」

 

パパ「この作者、新艦が出たら、ある程度の艦はすぐに出すだろう⁇」

 

パパ「あれは、皆の基地にもその子が来ますように…との願いが込められてる」

 

きそ「ちゃんと考えてるんだ…」

 

霞「ただの変態のノータリンだと思ってたわ…」

 

 

 

 

A.最初は些細な理由で始めました

 

その後、地味に地味〜に書き進め、本日まで来ました

 

 

 

 

 

 

パパ「じゃあ、私はこれで失礼するよ」

 

きそ&霞「「ありがと〜‼︎」」

 

きそ「さてっ‼︎意外な理由が明らかになった所で次に行こう‼︎じゃん‼︎」

 

霞「今日は多いわよ‼︎」

 

 

 

 

Q.この作品には映画ネタが多いどすな。これから先、どんな映画をオマージュされますやろか⁇

 

きそ「京都の人からだね」

 

霞「確かに映画ネタが多いわね」

 

???「それについては私が答えるわ‼︎」

 

きそ「お母さん‼︎」

 

霞「そっか‼︎横須賀さんなら映画に詳しいから知ってるかも‼︎」

 

横須賀「ふふん♪♪」

 

きそ「お母さん、どうして作者さんはよく映画ネタを使うの⁇」

 

横須賀「作者にとって、映画や音楽は思い入れが多いの」

 

横須賀「例えば、隊長が子供達に見せている映画の中に恐竜の映画があったわよね⁇」

 

きそ「あった」

 

霞「たいほうが好きな映画ね⁇」

 

横須賀「あの映画は作者が小さい頃に、大阪で家族で見た映画なの」

 

きそ「ほぇ〜…」

 

横須賀「誰かと見ただとか、胸に来た映画のネタはこの作品に出て来る事が多いわ」

 

きそ「作者さん、涙腺緩いからね」

 

霞「情緒不安定じゃなかったのね」

 

横須賀「探したら結構あるかもよ⁇そうそう。私とレイの今の関係も、映画のキャラがモデルなのよ⁇」

 

きそ「それも恐竜の映画だっけ⁇」

 

横須賀「そっ。最新作のねっ⁇」

 

霞「あ、そうだ。こんなお便りも来てるわ‼︎」

 

Q.横須賀さんに質問です。横須賀さんは何故Uちゃんを”USBちゃん”と呼ぶのですか⁇

 

横須賀「ユー、サブマリンじゃないの⁇だからUSBちゃんよ⁇」

 

きそ「ドイツとごったになってる…」

 

霞「え⁉︎違うの⁉︎私もそう思ってたんだけど‼︎」

 

きそ「違うよぉ‼︎潜水艦の英語はサブマリン。ドイツ語はユーボート‼︎」

 

横須賀「あら」

 

きそ「しかもサブマリンだったら、SSだよぉ‼︎」

 

 

 

A.思い入れの強い作品は、時々ネタとしてサラッと書きます

 

A.横須賀はレイの事を言えません

 

 

 

横須賀「じゃっ、私はこれで失礼するわ。頑張んなさいよ⁉︎」

 

きそ&霞「「ばいば〜い‼︎」」

 

きそ「相変わらずのオッパイだ‼︎」

 

霞「レイはアレに落ちたのね…」

 

きそ「さ〜て、次行こうか‼︎」

 

 

 

 

Q.ダンスパーティーで、レイが弾いていた曲名を知りたいです

 

きそ「レイ本人が忘れてた曲だね」

 

霞「レイって絶対音感があるの⁇」

 

???「それに関しては私がお答えしましょう」

 

きそ&霞「「ラバウルさん‼︎」」

 

ラバ「マーカスは一度聴いた曲を丸コピー出来る程、音楽に優れています」

 

ラバ「あの時マーカスが弾いていた曲は、一曲目がロココ風の主題による変奏曲、二曲目が亡き王女へのパヴァーヌです」

 

きそ「あ、そ〜だ。一曲目の曲を聴いて、タナトスが動き出したんだよね⁇」

 

霞「ロココなんちゃら⁇」

 

ラバ「聞いた話によると、マーカスはAIに対して、音楽で命令させる方法を使っている様です。あの時、マーカスの子達が寄って来たでしょう⁇」

 

きそ「あ、確かに」

 

ラバ「マーカスは”帰還命令”を音楽で教えているのでしょう。この辺はマーカスやアレンの方が詳しいですよ」

 

 

 

A.ロココ風の主題による変奏曲

 

亡き王女へのパヴァーヌ

 

この二曲です

 

この二曲を使用したのは、とあるゲームをオマージュしているからです

 

ゲームボーイカラーの作品ですよ

 

 

 

 

ラバ「それでは、私はこれで。また遊びにいらして下さいね⁇」

 

きそ&霞「「ありがと〜‼︎」」

 

きそ「レイって、意外に多趣味だよね」

 

霞「結構幅広いわよね」

 

きそ「さぁっ‼︎次の質問だぁ‼︎」

 

 

 

 

Q.レイが抱いた人、二人とプラス一人と言っていましたが、プラス一人って誰⁉︎凄く気になる‼︎

 

きそ「これは本人を呼ぼ…」

 

???「それについては俺が話そう」

 

きそ&霞「「アレンさん‼︎」」

 

アレ「男には話し難い事もある。俺の知ってる範囲で話そう」

 

霞「とりあえず、二人は鹿島と横須賀さんで確定よね⁇」

 

アレ「そっ。問題はもう一人だろ⁇」

 

きそ「誰だ…まさか貴子さん⁉︎」

 

アレ「んな訳あるか‼︎因みにローマでもない」

 

霞「まさかたいほう⁉︎」

 

アレ「あいつはロリコンじゃない。あいつの好みは…」

 

きそ「まさか…アイちゃん⁇」

 

アレ「それはブッ殺すな。グラーフだよ、グラーフ」

 

霞「あ」

 

きそ「そっか。グラーフならあり得るか」

 

アレ「レイは一度、寝ボケたグラーフに襲われてる」

 

きそ「何そのラッキースケベ」

 

アレ「一晩中、カピカピになるまで搾られてたな…ありゃあ酷かった。対照的にグラーフはツヤツヤしてた」

 

霞「ヤる事はヤってるのね…」

 

アレ「多分、それが原因でグラーフに惚れたんじゃないか⁇あの頃のアイツは母性に飢えてたからな…」

 

きそ「グラーフも悪女だねぇ…」

 

 

 

 

A.グラーフです

 

グラーフに寝込みを襲われたのが原因で、レイはグラーフに恋に落ちました

 

 

 

 

アレ「さてと、次は誰が来るかな⁇」

 

霞「誰かしら…私達も知らないのよ」

 

きそ「じゃないとこんなリアクション取らないよぉ‼︎」

 

アレ「ははは‼︎まぁそうだな‼︎そんじゃな‼︎」

 

きそ&霞「「ありがと〜‼︎」」

 

霞「さぁ、次行くわよ‼︎」

 

 

 

 

Q.レイが産み出した潜水艦やAIが沢山居ますが、今現在判明しているだけで良いので、産まれた順に教えて下さい

 

きそ「んっ‼︎良い質問だぁ‼︎」

 

霞「ゲストは誰かしら…」

 

???「私が答えます‼︎」

 

きそ&霞「「ワンコさん‼︎」」

 

きそ「何か久々に見た気がするよ⁉︎」

 

霞「ごめんなさいね、最近出番回さなくて…」

 

ワン「気にしないで。えーと…レイさんの潜水艦だよね…あったあった‼︎」

 

ワン「下に書くね。上から順に産まれた順番です」

 

 

 

 

・アイリス(はっちゃん)

・タナトス

・ロンギヌス(しおい)

・ひとみ&いよ

 

 

 

きそ「ほぇ〜。タナトスって結構お姉さんなんだ‼︎」

 

霞「しおいの方がお姉さんだと思ってたわ‼︎」

 

ワン「レイさんはタナトスの改良型として、しおいを産み出したんだって」

 

きそ「おっと、通信だ」

 

 

 

”ワンコへ

 

タナトスの悪口を言ったので、今度沈めるでち

 

よ〜〜〜〜〜く、覚えておくでち”

 

 

 

霞「何処で聞いてるか分からないわね…」

 

ワン「うわわわ‼︎タナトスゴメンよ‼︎悪く言うつもりはないんだ‼︎」

 

きそ「ま、まぁ、タナトスは優しいから大丈夫だと思うよ⁇」

 

 

 

 

A.アイリスことはっちゃんが産まれ、次にタナトス、続いてしおい

 

そしてしおいをベースにひとみといよが産まれました

 

アイリスのみ潜水艦には搭載されず、

ずっとレイのPCの中でコンシェルジュの様な活躍をしていました

 

そして作中でレイが言っていた通り

 

タナトスが攻撃型特化

 

ロンギヌスが防御型特化

 

攻めのタナトス

 

護りのロンギヌスです

 

 

 

ワン「じ、じゃあ私はこれで。タナトスに謝ってくるよ」

 

きそ「気を付けてね⁇」

 

霞「沈められない様にね⁇」

 

きそ「さて、心配だけど次に行こう‼︎」

 

 

 

 

Q.どうしてひとみといよは子供のままなんですか⁇

 

きそ「お世話になってる生放送の主さんからの質問だね」

 

霞「いつもお世話になってます」

 

きそ「子供のまんまと言えばたいほうちゃんが最近ちょっと成長した様に見えるの僕だけ⁇」

 

霞「そんな事ないわ。私も思う」

 

サラ「私の出番ですね‼︎」

 

きそ&霞「「サラさん‼︎」」

 

サラ「マー君の造ったカプセル…アレの中に入っている間、傷は治るのだけど、成長が止まっちゃうの」

 

きそ「つまり、年取らないって事⁇」

 

サラ「そっ。長期間入り続けてると、体がソレを通常だと認識して、外に出ても成長が止まるの」

 

霞「あっ、そっか‼︎たいほうとひとみといよはずっとあの中に居たから…」

 

サラ「マー君がたいほうや、ひとみといよをその辺に連れ出してるのは、遅れた成長を少しでも元に戻そうとしてるのよ⁇」

 

きそ「いっぱい関わる事で、ちょっとでも戻るの⁇」

 

サラ「そうよ〜。沢山お話して、沢山遊んであげたりすると、段々年相応に戻って行くの。少しずつ、だけどね」

 

 

 

 

A.カプセルに長期間入り続けると、成長が止まってしまいます

 

たいほう、ひとみ、いよは長期間カプセルに入っていたので、成長が止まっていますが、たいほうが少しずつ成長しています

 

ひとみといよはもう少し掛かりそうです

 

 

 

 

サラ「今日はマー君とデートなの‼︎これでおいとまするわ‼︎」

 

きそ「どっちのマー君⁉︎」

 

サラ「おっきい方のマー君っ‼︎」

 

霞「マークさんね…」

 

きそ「後誰が来てない⁇」

 

霞「トラックさんとか⁇」

 

きそ「レイも来てないね」

 

霞「まぁいいわ‼︎次行くわよ‼︎」

 

 

 

 

Q.レイの本当のタイプは横須賀じゃないって本当ですか⁇

 

???「俺が答えるよ‼︎」

 

きそ&霞「「健吾さん‼︎」」

 

健吾「レイさんの本当のタイプってのは、金髪ロングで巨乳なお姉さんでしょ⁇」

 

きそ「うん。アイちゃんみたいなね」

 

霞「もしかして、レイはアイちゃんがタイプだから小さい時からやたらめったら構ってたの⁇」

 

きそ「…」

 

健吾「…」

 

霞「二人揃って頭抱えてないで返答しなさいよ‼︎」

 

きそ「ごめんよぉ、レイ…」

 

健吾「反論出来ないのが辛い…」

 

霞「…まぁいいわ」

 

健吾「それで、レイさんのタイプがある意味具現化されたのがはっちゃんなんだ」

 

きそ「金髪で巨乳だもんね、はっちゃん」

 

霞「でもお姉さんじゃないわ⁇」

 

きそ「い、一応お姉さんじゃないのかな⁉︎」

 

健吾「そそそそうさ‼︎体はお姉さんじゃなくても、立場上はお姉さんだ‼︎」

 

霞「フォローになってないわよ…」

 

健吾「何気にはっちゃんはレイさんと付き合いが長いから好みを知ってたみたいだね」

 

きそ「結論で言うと、レイの本当のタイプはアイちゃんでいいね⁇」

 

霞&健吾「「異議なし」」

 

 

 

 

A.レイの本当のタイプは、アイちゃんの様な金髪ロングでボンキュッボンなお姉さんが好みです

 

愛宕じゃなくてアイちゃんです

 

レイにとって、愛宕とアイちゃんの間には何かの違いがある様です

 

 

 

 

健吾「もうそろそろ終わりかな⁉︎」

 

きそ「あと三つ‼︎」

 

健吾「頑張ってね‼︎じゃっ、俺はこれで‼︎」

 

きそ&霞「「ありがと〜‼︎」」

 

霞「何か序盤と違って随分明るくなったわね⁇」

 

きそ「愛の力って偉大だよね…次っ‼︎」

 

 

 

 

Q.高速艇や秋津洲タクシー等、色々な移動手段がありますが、どれが一番速いですか⁇

 

きそ「おっとぉ‼︎ここでコレが来るかぁ‼︎」

 

霞「長年の疑問が解決するわ‼︎」

 

???「私が答えよう」

 

きそ&霞「「呉さん‼︎」」

 

呉「まず言いたいのは、高速艇はこの作品の中で一番速い水上艦だ。武装がない代わりに、徹底的な軽量化と、強力で馬力のあるエンジンを使用している」

 

きそ「島風ちゃんでも無理⁇」

 

呉「島風の二倍のスピードは出る。だからこそ、海上で攻撃された際も、持ち前のスピードで逃げ切れる」

 

霞「確かに高速艇は速いわよね…酔う暇も無いもの」

 

呉「次いで秋津洲タクシーだが、高速艇より遥かに人が乗れる。そして、高速艇より遥かに遠方に行ける」

 

きそ「あ、言われてみれば高速艇で遠くに行ってるシーン無いね⁇」

 

呉「高速艇は確かに速い。だけど、秋津洲タクシーに比べると人数が乗らないし、航続距離が短いんだ」

 

霞「使い分けが重要って事ね」

 

呉「そう言う事っ」

 

 

 

 

A.少人数で日本近海を巡るなら高速艇

 

大人数で遠方に行くなら秋津洲タクシー

 

因みに照月は高速艇が大好きです

 

 

 

 

呉「電話だ…どうした朝風。何⁉︎ポーラと隼鷹が作った晩飯がほぼつまみ⁉︎分かった‼︎お父さんとお子様ランチ食べに行こう‼︎」

 

きそ「いいお父さんになってるね」

 

霞「そうね…やっぱり子供は偉大なのよ」

 

呉「すまん、私はこれで‼︎」

 

きそ「ゆっくり食べて来てね‼︎ありがと〜‼︎」

 

霞「ありがと〜‼︎」

 

きそ「そろそろ終わりかな⁇」

 

霞「あと二つよっ‼︎次っ‼︎」

 

 

 

 

Q.横須賀の繁華街の飲食店には、本当にお金の概念が無いのですか⁇

 

???「私が答えましょう‼︎」

 

きそ&霞「「トラックさん‼︎」」

 

トラ「久しぶりだね⁉︎」

 

きそ「うはぁ〜‼︎メッチャ筋肉質になってる‼︎」

 

霞「カッコイイわ‼︎」

 

トラ「ふふっ‼︎ありがとう‼︎え〜と、繁華街の飲食店だったね⁇」

 

きそ「そうそう‼︎お金払わないでも食べれるのか〜、だって‼︎」

 

トラ「艦娘の子は無料で食べられるよ。それと、提督が同伴してても提督は無料になるんだ」

 

霞「横須賀さんって、こういう所太っ腹よね⁇」

 

きそ「大人の汚い話になるけど、採算取れるの⁇」

 

トラ「横須賀の繁華街の一部は一般解放されてて、その人達からは少なからず代金は頂戴してる。だからまぁ…トントンか、ちょっとしたプラスマイナスがある位だね」

 

霞「まぁ…味は悪くないし、美人が店員だもんね」

 

きそ「あ、そ〜だ‼︎こんな質問も来てたんだ‼︎」

 

Q.横須賀の繁華街で人気が高いベスト3を教えて下さい

 

トラ「良い質問だね‼︎」

 

きそ「僕、横須賀の繁華街ならずいずいずっころばしが好き‼︎」

 

霞「私はスイーツ伊勢‼︎」

 

トラ「答えを見てみようか‼︎」

 

 

 

三位…おんどりゃあ

 

理由…

 

・店員が美人

・方言女子最高

・安くて味が濃くて美味しい

 

 

 

二位…スイーツ伊勢

 

理由…

 

・ケーキバイキングは画期的

・ご褒美に連れて行って貰うと嬉しい

・店員が清潔

 

 

 

 

一位…ずいずいずっころばし

 

理由…

 

・好きなだけ食べて、好きな時に帰れる

・瑞鶴が目の前で握ってくれるから安心

・客の好みを覚えてるのは凄い

 

 

 

ワースト

 

 

 

 

きそ「凄いや‼︎言ったの両方入ってる‼︎」

 

霞「何かワーストって見えたんだけど⁇」

 

トラ「いやぁ、一つだけワーストがあってね…でも、ちゃんと褒めてるんだ」

 

きそ「見てみようよ‼︎」

 

トラ「ワーストは一個だけだ」

 

 

 

 

ワースト票

 

駄菓子屋足柄

 

理由…

 

・店員がBBA

・外部から来た男の子相手に濃い

・駄菓子は美味しいが、店内がいつも寒い

・更年期障害なのか、お釣りをよく落とす

・いっぱい買うと割引してくれるが、やっぱりBBA

・とにかくBBA

 

 

 

 

きそ「酷い言われ様だ…」

 

霞「結構好きなんだけど⁇」

 

トラ「実は駄菓子屋足柄は繁華街では一二を争う人気店なんだ」

 

きそ「一位は⁇」

 

トラ「”高雄の部屋”だね」

 

きそ「高雄の部屋⁇」

 

霞「そんなのあったっけ⁇」

 

トラ「雑貨店って言ったら早いかな⁇」

 

きそ「あそこ高雄で部屋って言うんだ‼︎」

 

霞「知らなかった‼︎」

 

 

 

 

A.食は大切との横須賀の計らいで、艦娘は無料

 

艦娘と一緒に来た提督も無料になります

 

A.上記の順位の通りです

 

足柄の駄菓子屋は人気がありますが、男の子にはちょっと濃いです

 

そして今初めて言いますが、雑貨店の店主は高雄です

 

何⁉︎気付いてただと⁉︎

 

 

 

 

 

トラ「次が最後だね」

 

きそ「あと一人、来てないんだ」

 

霞「まっ、誰かは見当つくけどね⁇」

 

トラ「ふふっ…”彼”は好かれてますね。君達の顔を見れば分かります。またいつでも遊びに来て下さいね⁇」

 

きそ&霞「「また行きます‼︎」」

 

きそ「次が最後かぁ…」

 

霞「ちょっと寂しい気もするわね」

 

きそ「ラスト‼︎」

 

 

 

 

Q.タバコの書き方が違うのですが、意味があるのですか⁇

 

きそ「さぁ、もう呼んじゃおう‼︎」

 

霞「えぇ‼︎」

 

きそ&霞「「レイ〜〜〜っ‼︎」」

 

レイ「ラストは俺か‼︎」

 

きそ「はいっ‼︎これ答えて‼︎」

 

レイ「何々…タバコの書き方が違うのですが、意味があるのですか…か」

 

霞「そうだったっけ⁇」

 

レイ「確かに違うな。俺が言うのは”タバコ”隊長が言うのは煙草。カタカナか漢字の違いだ」

 

きそ「ホントだ‼︎」

 

霞「何で固定しないのかしら⁇」

 

レイ「理由は俺と隊長の年の差を明らかにする為さ。それと、俺の方が深海の血が濃いから、時たまカタカナ表記になるらしい」

 

きそ「作者さん、ちゃんと考えてるんだね…」

 

霞「ちょっとは見直したわ‼︎」

 

 

 

A.煙草とタバコ

 

隊長が煙草

 

レイがタバコ

 

他にも分けているのがありますが、明確に書き分けているのはタバコです

 

理由は、隊長とレイの年の差を明らかにする為

 

そして、深海の血がレイの方が濃い為です

 

 

 

 

きそ「これで全部かな⁇」

 

霞「楽しかったわ‼︎」

 

レイ「またその内溜まって来る。そんときゃ、また二人に頼むってさ」

 

きそ&霞「「オッケー‼︎」」




この度、お気に入り件数1000件を突破し、読者の皆様に対してのお礼として、久方振りの質問コーナーを設けました

実は、質問で一番多かったのは

”次回の質問コーナーはいつするのか”でした

私自身も、この作品のキャラ達と近付ける気がして、この回は好きです

楽しめましたでしょうか⁇

また質問が溜まって来たら開催しようと思います

これからもよろしくお願いします


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167話 真っ赤なお弁当(1)

さて、166話が終わりました

今回のお話は、ド〜〜〜〜〜ンと暗くなります

ですが、新しい子も出て来ます

可愛らしい子なので、暗いお話の心休めにどうぞ


横須賀の基地の横には、大きな公園がある

 

そこは勿論海が見えて、昼間はお散歩コース

 

そして夜はデートスポットになっている

 

その日俺は、清霜とガングートがそこで遊んでいると聞いたので、磯風と共に迎えに行く事になった

 

「確か、いつもこの辺りで…あぁ‼︎いたいた‼︎」

 

清霜とガングートはすぐに見付かった

 

休憩する為に建てられた、屋根と椅子がある場所でおしゃべりしていた

 

「あっ‼︎お父様‼︎」

 

「イディオット‼︎」

 

清霜とガングートは、俺を見つけるなりすぐに抱き着いて来た

 

「オトンは本当に二人に好かれてるな」

 

「磯風も来い‼︎」

 

ついでに磯風も抱き寄せる

 

「やめろ‼︎い〜ちゃんはタバコの匂いが嫌いなんだ‼︎離せ‼︎」

 

「ぐはっ‼︎」

 

磯風、俺を全否定である

 

「いーちゃんもイディオットにナデナデして貰うといい。イディオットのナデナデは良いぞ⁉︎」

 

「触るなよ。噛むからな」

 

「わ…分かった分かった」

 

もしかすると磯風は思春期に入っているのかも知れない

 

ちょっと聞いてみよう

 

「磯風。俺と一緒に洗濯洗うの嫌か⁇」

 

「それは構わん。洗濯の回数は少ない方が良いからな」

 

「俺の事、キモいとか言わないのか⁇」

 

「オトンは気持ち悪くは無い。お母さんが惚れたのも分かる。クサイだけだ」

 

「ぐっ…おっ…」

 

ジワジワとダメージが蓄積して行く…

 

「帰ろう。おばあちゃんがお菓子を作ってくれたんだ。あ〜ちゃんはもう食べてるぞ」

 

「何かな〜⁇き〜ちゃん、マフィンがいいな〜‼︎」

 

「ん⁇」

 

三人が楽しそうに基地へ帰る中、一人の少女に目が行った

 

その少女は防波堤で足を降ろし、小さなお弁当箱を開けて、中身を口にしている

 

ただ、あまりにも身なりがボロボロだった

 

服は至る所が破れ、髪の毛はボサボサ

 

この近辺でこの様な子を見かけたのは初めてだ

 

「磯風。二人連れて先に戻ってろ」

 

「うぬ」

 

磯風に二人を任せ、その少女に近付く

 

「お弁当食べてるのか⁇」

 

「うん」

 

少女の前で膝を曲げ、顔を見てみた

 

ぎこちない手つきでお箸を持ちながら、真っ赤なお弁当の中身を食べている少女は、かなり虚ろな目をしている

 

よく見るとお弁当箱の中身は、底に薄っすらと白ご飯が敷かれているだけで、オカズの類いは一切無かった

 

「そんなんで足りるのか⁇」

 

「”おじさん”はパチンコで忙しいし、”おばさん”は男の人と出掛けてるから、残ってるご飯、少しずつ食べてるの」

 

どうやら少し訳ありみたいだ

 

「学校はどうした⁇この時間は学校だろ⁇」

 

「先生にね”臭いから学校に来るな”って言われた」

 

「なんちゅう先生だ…」

 

「お兄さんは、あの基地の人⁇」

 

「そっ。おじさんとおばさんは何時に帰って来るんだ⁇」

 

「分かんない…もうずっと帰って来てない」

 

少女はそれに慣れているのか、俺と話しながら粗末なお弁当をパクパク食べ続けている

 

「お、お父さんとお母さんは⁇」

 

「いない。”なな”が赤ちゃんの時に、事故で死んじゃった」

 

マズイ事を聞いてしまった…

 

「ななって言うのか⁇」

 

「うん」

 

「よしっ‼︎ご飯に行くか‼︎」

 

「お父さんとお母さんが、知らない人に着いて行っちゃダメって言ってた」

 

「お風呂入りたくないか⁇」

 

「お風呂…」

 

「美味しいオヤツ、食べたくないか⁇」

 

「オヤツ…」

 

こうしてドンドン行きたくなる様に仕向けて行くのは誘拐犯の常套句だと聞くが、今はそれどころでは無い

 

「ななが帰りたくなれば帰ればいい。でも、お家に帰ってもご飯食べられないし、誰も居ないんだろ⁇」

 

「うん」

 

「なら来い」

 

「うん」

 

ななはお弁当箱をきんちゃくに仕舞い、俺と基地に向かって歩き始めた

 

「まずはお風呂だな。一人で入れるか⁇」

 

「うん」

 

大浴場の前に着き、ななの目を見る

 

口を半開きにして、色々な物を見て驚いている

 

「初月‼︎」

 

「はっ‼︎ここに‼︎」

 

初月が天井から降りて来た

 

「この子をピカピカにしてくれるか⁇」

 

「任せろ‼︎」

 

「二人共、後で間宮に行こうな⁇」

 

「まみや⁇」

 

「楽しみにしておけ。大尉が良い所に連れて行ってくれるぞ」

 

「うん」

 

ななはさっきから”うん”しか言わない

 

余程過酷な環境を生きて来たのか、大人には逆らえない様になってしまっている様子だ

 

ななと初月を大浴場に送り、俺はななの着替えを探し始めた

 

「お父様‼︎」

 

タイミング良く清霜が来た

 

「あの子だぁれ⁇」

 

「お腹空いてるみたいだから、ここに連れて来たんだ。そうだ清霜‼︎お父さんとお服買いに行かないか⁇」

 

「行くっ‼︎」

 

清霜と手を繋ぎ、ちょっと早足でいつもの雑貨店を目指す

 

「いらっしゃいませ〜」

 

「子供服見に来たんだ。奥だったな」

 

「真っ直ぐ行って右側です」

 

店員と挨拶を交わし、子供服を見る

 

ななは清霜と同じ位の背格好だ

 

清霜に合わせれば、大体は合うだろう

 

「さっきの子、どんな服が似合うと思う⁇」

 

「う〜ん…これはどう⁉︎」

 

清霜が指差したのは、セーラー服の様な服

 

確かにこれなら合いそうだ

 

「それとあの子、髪の毛で目が隠れてたから、これも似合うと思う‼︎」

 

清霜が持って来たのは、白いカチューシャ

 

「シャツとパンツは適当でいいな。清霜は何がいい⁇」

 

「ん〜と…コレがいい‼︎」

 

清霜の目線の先には、ウサギのポーチがある

 

「これでいいか⁇」

 

「うんっ‼︎お父様ありがとう‼︎」

 

「これ下さい」

 

店員に品を持って行くと、着替え一式ですぐに気付かれた

 

「新しい子ですか⁇」

 

「まぁ、そんな所だ」

 

「なら、2500円にまけておきます」

 

「すまんな」

 

品物を袋に入れて貰い、レジ越しに清霜に渡して貰う

 

「また来るよ」

 

「ありがとうございました〜。清霜ちゃん、ばいば〜い」

 

「ばいば〜い‼︎」

 

雑貨店を出て、また早足で大浴場に戻る

 

「清霜も間宮行くぞ」

 

「いいの⁉︎」

 

「お母さんとお姉ちゃんには内緒だぞ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「これを初月に渡して来てくれないか⁇」

 

「分かった‼︎」

 

清霜がいて助かった

 

男の俺じゃ、脱衣所にさえ入れないからな

 

しばらくすると、三人共戻って来た

 

清霜はそのまま中で初月と共にななの着替えを手伝ってくれた様だ

 

「お〜お〜‼︎綺麗になった‼︎」

 

ななは見違える様に綺麗になって戻って来た

 

髪は艶を取り戻し、黒く汚れていた肌も白さを取り戻していた

 

「このお洋服…」

 

「ななにあげる。さっ、間宮行くぞ‼︎」

 

「行こっ‼︎」

 

「うん」

 

清霜に連れられ、ななは少しだけ微笑んだ

 

「大尉」

 

「なんだ⁇」

 

「あのななと言う子。随分と衰弱している。もう何日も栄養を摂っていないみたいだ」

 

「初月的にはどう思う⁇」

 

「一人二人増えた所で変わりは無いと思う。ここなら学校もあるし、教育も受けさせられる」

 

初月は勘の鋭い子だ

 

昼間っからここに居た時点で気付いていたみたいだ

 

清霜とななに少し遅れて間宮に着いた

 

清霜はななと手を繋ぎ、ちゃんと間宮の前で待っていた

 

「レストラン⁇」

 

「そっ。色々あるから、好きなモン食えよ⁇」

 

「うん」



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167話 真っ赤なお弁当(2)

席に座ると、清霜の注文する料理は既に決まっている様に見えた

 

「ホントに何でもいいの⁇」

 

「あぁ、いいぞ」

 

「僕はドリアにしても良いか⁇」

 

「んっ」

 

「じゃあ、ななコレにする」

 

なながメニューを指差す

 

そこそこボリュームのあるお子様ランチだ

 

「オッケー。間宮‼︎」

 

「はいっ」

 

間宮はすぐに此方に来てくれた

 

「チキンドリアとお子様ランチ二つ。んで、え〜と…」

 

「生にしますか⁇」

 

「そうだな。生とアイスコーヒーで‼︎」

 

「畏まりました‼︎」

 

間宮が厨房に向かい、ななを見る

 

ななは急に何かが気になったのか、俺の目を見た瞬間下を向いてしまった

 

「なな」

 

「はい」

 

「そんなクソみたいな先生が居る学校なんかサボッちまえ‼︎」

 

「うん」

 

「言っとくがな、なな。俺は中学はおろか、小学校も行った事がない」

 

「ホント⁇」

 

「あぁ」

 

「お父様、学校行ってないの⁉︎」

 

「本当か⁉︎」

 

ななに言ったのに、清霜と初月の方が驚いている

 

「マジだ。だから言語がたまに弱いだろ⁇」

 

「お待たせしました〜」

 

それぞれの料理が目の前に置かれて行く

 

「いただきま〜す‼︎」

 

「いただくぞ」

 

「いっただっきま〜す‼︎」

 

「…」

 

三人が食べるのを見て、ななは数回瞬きした後、小さく手を合わせてから、お子様ランチを口にし始めた

 

ななは一口お子様ランチを食べた後、何かに気付いたかの様に次々と口に入れ始めた

 

「おいしぃ〜なぁ〜‼︎」

 

口の周りにいっぱいチキンライスを付けながら、ようやくにこやかに笑ってくれた

 

「なな。お前さえ良ければ、明日からここの学校に通うか⁇」

 

「ここの学校⁇」

 

「そっ。ここの学校なら優しい先生がいっぱいいるし、給食も美味しい。どうだ⁇」

 

「行きたい‼︎」

 

「手続きなら俺が済ませてやるから、心配するな」

 

「ありがとう、お兄さん‼︎」

 

「なら決定だ。明日から通える様にしておくから、明日の朝、さっき入って来た門の前に来い」

 

「…うんっ‼︎」

 

その時、ななは一瞬渋った

 

その理由は、次の日明らかになった…

 

 

 

間宮を出て、ななを門まで送る

 

「お兄さん、清霜ちゃん、初月さん、ありがとうございました」

 

「また明日な⁇」

 

「…うん」

 

やはり渋る

 

帰る道中、何度も何度も此方を振り返る

 

だが、家には帰らねばならない

 

まだ虐待と決まった訳じゃないからな…

 

 

 

 

次の日…

 

「おはようございます‼︎」

 

「おっ⁉︎ちゃんと来たな⁉︎行こうか‼︎」

 

ななを連れて、学校へと向かう

 

「マーカスサン、オハヨウゴザイマス‼︎」

 

「んっ、おはよう‼︎」

 

「…」

 

頭に鞄を乗せた駆逐の深海の子を見た瞬間、ななは俺の背後に隠れた

 

「…」

 

「マーカスサンノオトモダチ⁉︎」

 

「そっ。ななって言うんだ」

 

ななは俺のズボンをガッチリ握り締めて離さない

 

「怖くないぞなな。みんな友達だ」

 

「ヨロシクネ、ナナチャン‼︎」

 

「…噛まない⁇」

 

「噛まないなっ⁇」

 

「カマナイ‼︎ヤクソクスル‼︎」

 

深海駆逐の子はその場で待ってくれている

 

どうやらななに触れて欲しい様だ

 

「触ってご覧…」

 

「うん…」

 

ななの手をそっと握り、ゆっくりと深海駆逐の子の頭に置く

 

「ウヒヒ…」

 

「わぁ〜…ツルツルしてる」

 

ななの恐怖はすぐに消えた

 

深海駆逐の子はななが撫でてくれる手を嬉しそうに堪能している

 

「テレビとかで見て、ずっと怖いものと思ってた…」

 

「外見で判断しちゃいけないぞ⁇中にはこうして、人と仲良くなろうとしてくれる深海の子だっている」

 

「うんっ…お名前は⁇」

 

「イーサン‼︎」

 

ななは此方を向いた

 

そう言えば、名前を教えていない

 

「俺はマーカス・スティングレイ。お兄さんでいいぞ⁇」

 

「お兄さん、行って来ます‼︎」

 

「行って来い‼︎」

 

「イコッ‼︎」

 

ななとイーサンは一緒に学校へと入って行った

 

「生な事する様になったな⁇」

 

背後に隊長が立っていた

 

「隊長‼︎」

 

「遊戯場行くぞ。ボウリングの腕見てやる」

 

隊長と共に遊戯場に行き、束の間の休息を取る

 

「そうか。ななって言うのか…」

 

ボウリングをやりながら、隊長にななの事を話した

 

「明らかなネグレクトだ。何とかしてやりたい」

 

「何か必要な事があったら言うんだぞ⁇何だったら基地に引っ張って来い‼︎」

 

「最終的にそうさせっかなぁ〜…」

 

そう言いながら投げたボールは、ガターへと吸い込まれて行った…

 

 

 

 

夕方になると、ななが帰って来た

 

「ただいま‼︎」

 

「どうだった⁇」

 

「楽しかった‼︎」

 

どうやら楽しめたみたいだ

 

帰りにななと駄菓子屋に寄り、数個の駄菓子を食べ、また門へと送る

 

「明日も来てくれるか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

昨日より覇気のある返事をしたななを見送る

 

そしてななはまた、何度も何度も此方を振り返る…

 

その度に、胸の奥がチクリと痛む

 

 

 

 

 

次の日も、そのまた次の日も、ななはちゃんと学校に来てくれた

 

帰りにジュースを飲んだり、数十分だけグリフォンに乗せて空を飛んでみたりもした

 

「ありがとうございました‼︎」

 

「また明日な⁇」

 

朝と夕方、ななを見送るのが日課になって来た

 

昼間は基地や横須賀で工廠で艤装を開発したり、哨戒任務や訓練に当たる

 

夕方になり、ななを見送ってから、基地に戻る日々が続いている

 

「ななちゃん、可愛い子だよね」

 

今日はきそと共に、何度も振り返るななに手を振る

 

「あ、レイ‼︎やっと見つけました‼︎」

 

息を切らした鹿島が来た

 

「どうした⁇」

 

「あの…ななちゃん…」

 

「とりあえず呼吸整えてよ。はい、お水」

 

「ありがとうございます…」

 

鹿島はきそに差し出された水を飲み、息を整える

 

「んで⁇なながどうした⁇」

 

「虐待の痕があります」

 

「何処にあった⁇」

 

「背中にヤイトの痕跡が数ヶ所、腹部や胸辺りに多数の痣があります」

 

「なんで気付かなかったんだ‼︎」

 

「ごめんなさい‼︎私の力不足です‼︎」

 

「あんなに傍に居たのに…クソッ‼︎」

 

「ごめんなさい、レイ…」

 

「…鹿島。多分レイは自分に悔やんでるんだよ」

 

きそが鹿島の耳元でつぶやく

 

「えっ⁇」

 

「鹿島を責めてなんてないよっ」

 

悔やんでも悔やみ切れない…

 

とにかく明日だ

 

明日、ななが来たらまずは検査をしよう

 

 

 

その日の夜…

 

「お兄…さん…きよしも…ちゃん…たすけて…」

 

ななは必死で歩いていた

 

ボロボロの体で、足を引き摺りながら横須賀基地を目指す

 

この日の夜、ななは保護者の男性と女性に暴行を受けていた

 

虐待の中でななは思い切り腹を踏み付けられたり、後頭部を殴打されていた

 

ななは、もうほとんど見えない目で横須賀を目指していた

 

「お兄…さん…」

 

「お、おい‼︎ゲートを開けろ‼︎」

 

ゲート付近に備えられた櫓の中から警備にあたっていた兵士が門を開ける様に指示する

 

その日、俺はたまたま横須賀に残っており、アレンと少しだけ飲んでいた

 

「大尉‼︎マーカス大尉はいらっしゃいますか⁉︎」

 

「何だ⁉︎」

 

息を切らした男性が鳳翔に入店して来た



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167話 真っ赤なお弁当(3)

「女の子が一人重体です…診て頂けますか⁇」

 

そう聞いて、椅子に掛けていた革ジャンを羽織る

 

「場所は⁇」

 

「案内します」

 

「アレン、きそを医務室に呼んでくれ。多分執務室の横須賀の所にいる」

 

「分かった‼︎ツケでお願いしていいか⁉︎」

 

「あ、はい‼︎お気を付けて‼︎」

 

鳳翔を出てすぐに俺とアレンは左右に別れ、それぞれの場所に向かう

 

「現在、応急処置は施していますが…」

 

「なな‼︎」

 

いつもななが出入りする門の近くで、男性職員が必死にななに呼び掛けていた

 

「容態は⁇」

 

「吐血及び、頭部からの出血が見られます」

 

「分かった。医務室に運ぶ」

 

「おに…さ…」

 

ななが薄っすらと目を覚ました

 

「もう大丈夫だからな‼︎」

 

「ごめ…さい…ゴホッ…」

 

ななは話した途端に多量の血を吐いた

 

内臓が破裂している可能性が高い

 

「よく頑張ったな‼︎」

 

「うん…」

 

弱々しく笑顔を送るななを抱え、医務室に走る

 

「なな、起きてるんだぞ⁉︎」

 

「おおき、な…うみ、の…」

 

ななは歌を歌い、何とか意識を保とうとしている

 

「そうだそうだ。お歌歌うんだ‼︎」

 

医務室に着き、付き添いで着いて来てくれた男性職員二人に扉を開けて貰い、中に入る

 

「ななちゃん⁉︎」

 

医務室では既にきそが待ってくれており、ななを抱えて来た俺を見て驚いている

 

「きそ、カプセルの準備だ‼︎」

 

「お、オッケー‼︎」

 

「なな、もう少しの辛抱だからな⁉︎ちょっとお腹見せてな⁇」

 

ななの服を捲り、腹部に聴診器を当てる

 

「オッケー、大丈夫…」

 

本当は大丈夫じゃない

 

だが、ななを安心させる為に嘘を吐く

 

「えへへ…」

 

大丈夫と聞いた途端、ななは少しだけ笑った

 

「なな、俺が誰か分かるか⁉︎」

 

「お父…さん…」

 

ななは俺を見て”お父さん”と言い残し、精一杯の笑顔を送り、俺の目の前で緩やかに倒れて行き、心電図が0を示した

 

「馬鹿野郎‼︎なな‼︎」

 

急いで心臓マッサージに取り掛かる

 

「死んだらもう戻せないんだ‼︎起きろ‼︎ななぁ‼︎」

 

「レイ‼︎準備出来たよ‼︎」

 

「よし‼︎」

 

急いでななをカプセルに入れ、治療を開始させる

 

「なに…」

 

カプセルと連動しているPCの画面に表示されている文字を見て、肩を落とす

 

”Patient Death”

 

患者死亡の文字だ

 

「また…救えないと言うのか…」

 

ここ数日の、ななとの思い出が一気に頭を過って行く…

 

 

 

 

「おいしぃ〜なぁ〜‼︎」

 

「お兄さん、行って来ます‼︎」

 

「清霜ちゃん‼︎ななとお菓子食べよう‼︎」

 

 

 

 

一気に涙が込み上げて来た

 

あまりにも情け容赦ない最後だ…

 

「レイ‼︎諦めちゃダメだよ‼︎今、別の方法探してるから‼︎」

 

「…きそ」

 

「なに⁉︎」

 

俺はきそに対してとんでもない注文をした

 

「本気で言ってるの⁉︎」

 

「それしか方法はない」

 

「…分かった。でも、失敗するかも知れないよ⁇こんなの初めてだから…」

 

「お前にしか頼めない。一生の頼みだ‼︎」

 

俺はきそに頭を下げた

 

「…あと二回だからね⁉︎」

 

「すまん‼︎」

 

「後は僕が何とかする。だからレイは…始末をお願い」

 

「すまん…終わったら、何でも買ってやるから…」

 

きそを医務室に残し、外に出て来た

 

「レイ‼︎」

 

医務室の外ではアレンが待ってくれていた

 

「アレン。お前にも一生の頼み、使って良いか⁇」

 

「あ、あぁ…あと二回な⁇」

 

「諜報部とコンタクトを取って、ななの保護者二人と学校の先生を連れて来てくれないか⁇」

 

「ったく…一生の頼みなんか使うな。困った時はっ、お互い様だろ⁇分かった。すぐに行ってくる」

 

「連れて来る場所は追って連絡するよ」

 

「レイ。気を確かにな⁇」

 

「あぁ…」

 

走り去るアレンの後ろ姿を見て、俺は思った

 

やはり神なんて信じるモンじゃない

 

子供にまでこんな仕打ちをする神がいてたまるか

 

いいだろう…

 

無能なお前達代わって、俺が代わりに裁いてやる…

 

「何かあったの⁉︎」

 

異様な空気を感じた横須賀が来た

 

「人が一人死んだ…それも、小さな女の子だ」

 

「…助けられなかったの⁇」

 

「俺のせいだ…気付いていたのに、助けてやれなかった」

 

「そう…」

 

横須賀は背伸びをして、俺の頭を撫でてくれた

 

「きそを信じなさい。あの子は出来る子よ」

 

「きそに何かあったら、助けてやってくれ。少し外す」

 

「分かったわ」

 

その場は横須賀に任せ、俺はある場所に来た

 

《浮かない顔してるでちな》

 

「入れてくれるか⁇」

 

俺が来たのはタナトスが停泊しているドック

 

タナトスはすぐにハッチを開け、中に入れてくれた

 

「タナトス。頼みがある」

 

《北極海以外でお願いするでち》

 

「お前の中で、人を殺すかも知れない」

 

《理由を聞かないまま、タナトスの中で好き勝手させないでち》

 

タナトスに全てを話す

 

全てを話し終えた後、タナトスは一つの部屋の扉を開けた

 

《創造主》

 

「何だ⁇」

 

《創造主はいつも言っているでち。まずは話し合いから、って。殺すのはそれからでも良いでち》

 

「ふっ…分かったよ」

 

《何で笑うでち‼︎》

 

「お前に説教される日が来るとはな」

 

《ク創造主‼︎》

 

タナトスと話して、ほんの少しだけ元気が出た

 

後は…ここで全てを待つだけだ

 

 

 

 

数時間後…

 

既に外は深夜

 

ある程度の調べはついた

 

流石は諜報部

 

国が数週間、数ヶ月かかるだらしないトロトロとした情報集めが数時間で終わった

 

これだけ情報が集まれば…

 

「来た」

 

ようやく通信が入る

 

「俺だ」

 

《ななちゃんの両親を連れて来たぞ‼︎》

 

《担任の先生も連れて来ましたよ‼︎》

 

アレンに続き、健吾の声もした

 

どうやら手伝ってくれたみたいだ

 

「ありがとう。タナトスの中で待ってる。連れて来てくれ」

 

通信から数分後、ハッチの開く音が聞こえた

 

沢山の足音が此方に向かって歩いてくる

 

「此方へ」

 

扉の向こうからアレンの声がした後、三人が入って来た



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167話 真っ赤なお弁当(4)

「あ〜、すんませんわぁ。ウチの子が迷惑を」

 

「すんませ〜ん」

 

明らかにチャラそうな男女に続き、多少は小綺麗にした女教師が入って来た

 

「座れ。アンタは担任だな」

 

「あ、はい」

 

「自己紹介は聞きたくない。俺もしないから」

 

三人を椅子に座らせた後、アレンと健吾に一旦礼を言いに行く

 

「すまん。もう少し付き合ってくれ」

 

「レイ」

 

アレンに肩を掴まれ、耳打ちされる

 

「あの保護者の二人、パチンコ屋で確保した」

 

「そっか…」

 

「落ち着いてな⁇」

 

「ありがとう…二人共」

 

扉を締め、アレンと健吾はその向こうで待機してくれる事になった

 

俺は先程座っていた席に戻り、わざと音を立てて座る

 

「あの〜、ほんで娘は…」

 

「ななちゃんはどうなりましたか⁇」

 

「率直に言う。ななは死んだ」

 

保護者の二人がため息を吐いた後、冷や汗を流し始め、担任の先生は口を抑えて涙を流し始めた

 

「何でななが死ななあかんのや…」

 

「えぇ子やのに…」

 

「これを見ろ」

 

保護者二人の前に資料を投げる

 

「それで、な…」

 

「お前は後だ。お前にも話がある」

 

担任の先生は何か言おうとしたが、俺はそれを遮って保護者二人に話続けた

 

「ななの死因は、内臓破裂及び、後頭部に強烈な殴打を受けたのが理由の脳挫傷の二つだ」

 

「誰がそんな…」

 

「誰が⁇タナトス。分かったか⁇」

 

《足のサイズ、指紋、全部一致したでち》

 

「タブレットに送ってくれ」

 

数秒後、タナトスから資料が送られて来たので、二人に見せる

 

「これはお前の靴のサイズ。そして、ななの腹部にあった足跡。そしてこっちは、ななの体に付着していた指紋。これはアンタの指紋。全部一致している」

 

保護者二人の思考が止まる

 

「虐待の動かぬ証拠だ。無いだろうが、一応弁解があるなら聞いてやる」

 

「…だって面倒臭いやん⁇」

 

「そらウチらやってストレス溜まるし…つい…」

 

「お前達のその”つい”でななは死んだ。分かるか⁇お前達の頭の中では、未だにチンジャラ言ってるかも知れんが、お前達が殺人を犯したのは事実だ。それと…悪いが、ななの鞄に盗聴器を仕込ませて貰った」

 

榛名が舌を出しているピンバッジ型の盗聴器を取り出し、再生する

 

《お前この服なんや‼︎》

 

《ご飯くらい炊いとけや‼︎》

 

《ごめんなさい‼︎ごめんなさい‼︎》

 

盗聴器の向こうから聞こえて来る男女の怒号に続き、明らかにななに暴行している音

 

そしてななの悲鳴に混じった謝罪

 

「動かぬ証拠だ」

 

「酷い…」

 

担任の先生は自分がした事を忘れているのか、被害者ヅラをしている

 

これだけの証拠を突き付けられたのに、保護者二人は屁理屈を並べ始めた

 

「てか、お前子供いんの⁇」

 

「子供おらへん奴に、ウチらのストレス分かる⁉︎」

 

「五人いる。最近双子も産まれたから七人だ」

 

「な…」

 

「だからなに⁉︎七人いるからなに⁉︎」

 

保護者の女は切羽詰まったのか、訳の分からない事を口走り始めた

 

「悪いが、俺は自分の子供と接したり、自分以外の子供と接したりしていてもストレスとは感じない。子供はそれが仕事だからな。お前達がパチンコ打つみたいにな⁇それで終わりか⁇」

 

「申し訳ありませんでした‼︎」

 

保護者の男はようやく頭を下げたが、女の方は往生際が悪い

 

「謝る必要無いやん‼︎ウチらの所に預けた奴等が悪いんや‼︎」

 

「まぁいい。次はアンタだ」

 

「はい」

 

「ななに対して、アンタ何と言った⁇」

 

「…」

 

「答えられないのか」

 

「…」

 

担任の先生は沈黙を貫く

 

「沈黙は答えじゃない。まっ、これだけ被害者ヅラしてるなら、よっぽどの事を言ってくれたみたいだな⁇」

 

それでも担任の先生は沈黙を続ける

 

「はぁ…」

 

俺は担任の先生の前にあった机を殴った

 

殴った部分がメリ込み、腕が震える

 

ようやく怒りが込み上げて来た

 

「お前が言わないなら言ってやろう。ななに「臭いから学校に来るな」と言ったな⁉︎」

 

「事実無根です」

 

「ななはお前に何度も救いを求めたハズだ。何故放置した‼︎」

 

「それは…」

 

「はいかいいえで答えろ。職務放棄したな⁇」

 

担任の先生は言った

 

「…はい」

 

「最初からそう言え」

 

「ワシら、どうなりますやろか…」

 

保護者の男が言ったその言葉を聞き、俺は三人に背を向けた

 

「俺が何故、この中で話をしたと思う⁇」

 

「何でですか⁇」

 

「…静かに話を出来るから、ですか⁇」

 

「艦の中は、艦を所有している国と同じ扱いになる」

 

「これは日本の船でっしゃろ⁇」

 

保護者の男を無視して、話を続ける

 

「お前達は大きな間違いを犯した…だが、それはすぐに訂正出来る」

 

俺は三人の方に振り返った

 

振り返った手にはピストルを握っている

 

三人が一度に立ち上がり、壁の方に後退る

 

「し、正気かこいつ…」

 

「もう一度言う。艦の中は所有している国と同じ扱いになる」

 

「まさか…」

 

担任の先生は気付いた様だ

 

「この艦は俺の艦だ…つまり…」

 

なんの前触れも無く、保護者の女の脳天を撃ち抜く

 

「この俺がルールだ」

 

「こ…このやろっ」

 

次いで、保護者の男の脳天も撃ち抜く

 

「ひっ…」

 

最後に残った担任の先生は、怯えて震えが止まらなくなり、失禁している

 

「お前は少し苦しんで貰う」

 

銃声が一発響く

 

「い…痛い…」

 

撃ったのは腹部だ

 

「痛いか」

 

「痛い…っ」

 

担任の先生は、自分が汚した床に膝から落ちた

 

「助かりたいか」

 

「助けて…下さい…」

 

「ななを救ってやれば…俺も救ってやったのにな」

 

最後の銃声が響く

 

「終わったぞ」

 

俺の合図で、アレンと健吾が入って来た

 

「え〜ぇ、派手にやっちゃって〜。処理すんの一苦労だぞ⁉︎」

 

「殺しちゃいない。仮死状態にしてあるだけだ」

 

血は大量に出てはいるが、実は三人共死んではいない

 

死んだ様に見せかけて仮死状態にしてあるだけだ

 

「確かに…息はあります」

 

「お前はホンット末恐ろしいなぁ

⁉︎」

 

「こんな所でシスターの教育が役立つとはな」

 

この仮死状態にする技はシスターから教えられた技で、相手を殺さずに捕らえられるが、数センチズレると即死に至る危険極まりない技だ

 

それを三発共成功させている所を見ると、俺の腕もまだ落ちていないな…

 

「んでっ、どうする⁇」

 

「記憶を全部消す。そしたら、真っ当に生きるだろ」

 

「了解です。レイさんらしいや‼︎」

 

これ以上、ななと同じ思いをするのは充分だ…

 

記憶を消せば、真っ当に生きてくれるだろう

 

「タナトスの中にもカプセルがある。そこに入れる」

 

俺達は最後の罰として、三人を一つのカプセルの中に同時に詰めた

 

後は数時間後に出て来て、記憶がまっさらな状態で社会へ返す

 

まっ、優しい奴に出会う事を祈るよ…

 

きそに聞いたやり方で、三人の記憶を消して行く…



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167話 真っ赤なお弁当(5)

数時間後…

 

「帰れ帰れ〜」

 

記憶を抜かれ、ボーッとした状態の三人を基地の外へ叩き出す

 

「どうなるか見ものだなぁ⁇」

 

「俺も鬼じゃない。真っ当に働いていた時の記憶だけは残しておいてやった。その内気付くだろう」

 

三人を見送った後、一本の連絡が入る

 

《レイ、どうなった⁇》

 

通信の先はきそだ

 

「記憶を消して世に送り返した。まっ、心配は無いだろ」

 

《そっか…悪いニュースと良いニュースがあるんだけど…どっちから聞きたい⁇》

 

「悪いニュースからだな」

 

《これで僕はマッドサイエンティストだ》

 

「今更言うか⁇」

 

《酷いや‼︎》

 

通信の向こうから聞こえて来るきその声は、比較的明るい様に思えた

 

「良いニュースは⁇」

 

《施術、成功したよ‼︎今、体を再構築してる‼︎》

 

「ありがとう。すぐ行く」

 

通信を切り、アレンと健吾と共に医務室に向かう

 

「あ、来た来た‼︎」

 

医務室では、ちょっと肩で息をしているきそが待っていた

 

「疲れただろ⁇」

 

「うん…まぁね⁇お母さんがカプセルの前にいるから、一緒に見て来て」

 

きそはそのまま椅子にもたれかかり、目を閉じた

 

「横須賀」

 

「レイ、アレン。見て…」

 

横須賀に言われ、カプセルの中を見る

 

カプセルの中では、もうある程度の体が出来上がって来ている

 

「凄いわ…」

 

俺はあの時、きそにこう言った

 

”脳を取り出して、体を再構築してくれ”と

 

脳挫傷を起こしてはいたが、本当ならカプセルにさえ入れば何ら問題は無かった

 

だが、ななは途中で息を引き取ってしまった

 

カプセルはそこまで高性能じゃない

 

死人を蘇生する事は出来ない

 

だから、脳だけ何とか修復し、記憶から体を再構築させた

 

それはきそでさえ試した事がない大手術

 

深海の子は、潮の一件があるが、普通の人間では初めてであり、尚且つ深海棲艦より遥かに脆い

 

そんな中、きそはたった一人で成功させたのだ

 

疲れ果てて眠ってしまってもおかしくない

 

神経を擦り減らしながら作業を行ったのだろう…

 

「きそが言ってたわ。このタイマーがゼロになったら、ななちゃんはここから出て来るって」

 

カプセルの下部には

 

”71:23:23”

 

と、アナログのタイマーで表示されている

 

約72時間…3日後に、ななは生まれ変わる

 

「横須賀」

 

「当ててあげましょうか⁇」

 

「やってみろ‼︎」

 

「ななちゃんを私達の子供として迎えてくれないか⁇でしょ⁇」

 

「ご名答だ」

 

「いいわよ。一人二人増えた所で、騒がしいのは変わりないわ。子供達には私から説明しておくわ」

 

「慣れて来たら抱っこさせろよ⁇」

 

「俺も‼︎」

 

「分かったよ。振り回して悪かった」

 

「気にしないで下さい。あっ‼︎じゃあ、これで”あみ”の件とイーブンですね⁉︎」

 

「オメェは〜‼︎」

 

健吾の首に手を回し、空いている手でコメカミをグリグリする

 

「気にすんなって言っただろ〜⁇」

 

「ごめんなさい‼︎」

 

ようやく笑顔が戻る

 

「そうかそうか。健吾も遂に北上を呼び捨てかぁ‼︎」

 

「い、いやぁ…あはは…」

 

健吾ははぐらかすが、呼び捨てにしたのは事実である

 

健吾の顔を見ると、どうやら仲は良くなった様子だ

 

「さて、朝メシでも食いに行くか‼︎」

 

「僕も行く‼︎」

 

きそが飛び起きた

 

随分腹が減っていたみたいだ

 

「レイ、奢って‼︎」

 

「よしよし。朝メシだがっ、パーッと食いに行くか‼︎」

 

ようやく終わりを迎えたこの一件

 

既に外は明るくなり始めていた…

 

 

 

 

 

三日後…

 

少し前からカプセルの前で俺ときそ、そして横須賀が待機している

 

そして、アナログタイマーが全て0になった

 

「くぁ〜っ…‼︎」

 

カプセルの中から出て来た”少女”は、大きくアクビをする

 

「おはよう」

 

「おはようさん‼︎」

 

どうやら元の性格はかなり明るかった様だ

 

俺は生まれ変わった少女の前で屈み、目線を合わせる

 

「新しい人生だなっ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

少女に白いカチューシャを渡す

 

少女はすぐにカチューシャを付け、俺に笑顔を見せた

 

少女は飲み込みが早かった

 

自分が一度死んでしまった事も、なんとなくだが理解している様だ

 

「君の新しい名前は”谷風”。これからは谷風って名前だよ⁇」

 

きそはいつも名前を付けるのが早いし上手い

 

そして、付けられたその名は、皆それぞれ似合っている

 

「谷風かぁ‼︎うんっ‼︎良い名前だね‼︎気に入ったよ‼︎」

 

「じゃあ、谷風で登録するわね‼︎」

 

横須賀は谷風の頭を撫でた後、谷風を登録する為に部屋を離れた

 

「谷風。今日からここで暮らす事になるが、もう心配しなくて良いからな⁇」

 

「イーサンにまた逢える⁇」

 

「逢える。約束する」

 

「よっしゃ‼︎谷風、やる気出て来た‼︎」

 

「その意気だっ」

 

谷風はまた学校に行きたいみたいだ

 

あそこならイジメも無く学校生活を送れる

 

何故イジメが無いと断言出来るかって⁇

 

イジメが起きれば、双方の仲に亀裂が生じる問題に発展する可能性も0じゃない

 

それにイジメをしたら、艦娘の子であろうが深海の子であろうが、空飛ぶ怖いオッサン集団に撃たれると普段から鹿島達教師が箔を付けているからだ

 

ちょっとインパクトが強い気もするが、イジメが起きなければそれで良いし、双方それで理解している

 

何にせよ、谷風が気に入ってくれて良かった…

 

 

 

 

 

 

駆逐艦”谷風”が横須賀で暮らし始めました‼︎




谷風…てやんでい艦娘

レイが保護した少女”なな”の生まれ変わり

外見はほぼ元の姿のままだが、目の色が変わっている

因みに目の色は黄色寄りのオレンジ

ななの時は暗い性格で大人には逆らえない性格だったが、生まれ変わった後は元々はそうだったのか、かなり明るい性格であり、口調に特徴がある

学校生活がお気に入りで、調理実習が楽しみ

赤いお弁当箱は谷風になっても大切な物で、今は学校に行く時やお出掛けする際の肩掛け鞄の中で、お菓子入れとして重宝している


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168話 姫と貴子と嫁姑(1)

さて、167話が終わりました

今回のお話は、リクエストがあった、スパイトと貴子のちょっとしたお話です

そう言えば二人の母親のお話は書いていなかったので、二人が絡むお話を書くのは今回が初です

貴子と姫は一体どんな関係なのか⁉︎


「静かね…」

 

「そうね…」

 

子供達を寝かし終えた夜、基地の食堂には母が二人

 

片方は貴子

 

もう片方は私

 

今日はマーカスとウィリアムは横須賀に泊まっている

 

私と貴子は紅茶を飲みながら、束の間の休息に勤しむ

 

「いつもありがとうね、スパイト。ウィリアムを手伝ってくれて」

 

「こちらこそ。マーカスに愛情をありがとう、貴子っ」

 

私達二人は上手くやっているはず

 

でも、私は貴子を越えられない

 

貴子は私から見ても凄いと思う

 

私より一回り半程歳が下なのに、あれだけの子供達を一度に愛する事が出来る

 

私には到底真似出来ない

 

それを貴子は、さも普通にやってのける

 

ヒトミとイヨをマーカスの様に両肩に乗せたり

 

照月の食欲に付き合ったり

 

霞に料理を教えたり

 

れべとまくすの手品を見たり

 

自分の娘であるてぃーほうを一番に可愛がったりしない

 

私はどうしても、てぃーほうやヒトミとイヨを先にしてしまう

 

それに、マーカスだって…

 

「そうだスパイト。ちょっと聞いてくれる⁇」

 

貴子は一旦ティーカップを置き、私の目を見つめた

 

「どうしました⁇」

 

「この間、タウイタウイモールで、ウィリアムのお母さん…アクィラに会ったの」

 

「ちょっとバブリーなあの方ね」

 

「子供達と一緒に居たんだけど、アクィラ、どうも私の事を気に入らないみたいなの」

 

「貴子は良い嫁よ。気にする必要は無いわ」

 

「ん…そうなんだけど…ね⁇」

 

貴子を見る限り、言われたのは自分の事だけでは無さそうだ

 

「リベちゃんの事を言われて…ちょっとね⁇」

 

「Left⁇Right⁇」

 

「ライト…」

 

「Hook⁇Straight⁇」

 

「両方…」

 

「いい⁇貴子」

 

私もティーカップを置き、貴子を見つめる

 

「悪口を言う人間は、殴られる覚悟があるから言っているの。もしそれでゴタゴタになったとしても、原因を作ったのはAquilaの方よ」

 

「殴ったのは、ちょっとやり過ぎたかな…って」

 

「大丈夫。私は貴子の味方よ。子供達の前で悪口言うのはイケない事だわ。それで、Aquilaは⁇」

 

「えと…壁まで突き飛ばしたらノビちゃった…」

 

「Oh…」

 

貴子は腕力がハンパない

 

リンゴを片手で握り潰したり

 

握力だけでギョーザを作ったり

 

マーカスとウィリアムが読み終わった厚みのある週刊誌を容易く真っ二つにしたりと、尋常じゃない握力の持ち主だ

 

Aquilaが吹っ飛ぶのもおかしくない

 

「貴子。これを…」

 

貴子の前に、膝の上に置いてある箱からピンバッジを取り出す

 

「これは⁇」

 

「今、子供達の間で流行ってるんですって」

 

私が出したのは、単冠湾の榛名が舌を出し、アッカンベーのポーズをした姿を模した小さなピンバッジ

 

横須賀やタウイタウイモールで500円程度で売られている割には高性能な録音機だ

 

「申し訳無いと思いながら、貴子の事は先に聞かせて貰ったわ」

 

「たいほうね⁇」

 

「うふふっ‼︎御名答‼︎てぃーほうが持っていたのを貸して貰ったの。私は事実を知った上で、私は貴子の味方をするわ」

 

録音されていたのは、中々に酷い内容のAquilaの暴言だった

 

貴方をウィリアムの嫁と認めていないとか

 

リベは特殊な境遇の子なのに、よく他の子と同じ扱いを出来るだとか

 

そして、貴子がキレた理由に直結した暴言が

 

どうせたいほうは大きく育たない。所詮貴方の教育はそこまでだと言われていた

 

録音内容を聞く限り、この時点では貴子は苦笑いをしていた

 

そして、最後に貴子に言った言葉で、貴子はAquilaを吹っ飛ばした

 

ヒトミとイヨみたいな”化け物”とよく接していられるな…

 

キレて当然だと思う

 

よく殴ったと思うし、よく我慢したと思う

 

「あんな姑嫌っ‼︎スパイトが姑さんだったら良かったのに〜っ‼︎」

 

貴子は机に突っ伏して駄々をこねる

 

貴子は時々こうして、私に本音を言ってくれる

 

私も貴子の本音を聞けて嬉しい

 

「ふふっ。貴子にそう言われると、おばあちゃんになったのも悪くないと思いますっ」

 

「そっかぁ。スパイトはお母さんだし、おばあちゃんかぁ…」

 

「私が本当に強いて言うなら、マーカスの長女のアサシモ…もうちょっとゆっくりと歯を磨いて欲しいものです」

 

「あの子、歯ギザギザだからね」

 

「小さい頃のマーカスは、今のアサシモに良く似ています。私はあの頃、ほんの少ししかマーカスに接してあげられませんでしたが、記憶はちゃんと残っています」

 

「あんな感じだったのね…」

 

「貴子の小さい頃は、てぃーほうみたいな感じかしら⁇」

 

「ちょっとツリ目の所とか、ふとした瞬間、私に似てるなぁ〜とは思う」

 

「性格はウィリアム⁇」

 

「あの頑固さはウィリアム譲りね。ほら、たいほうって、一度決めたらやめないでしょ⁇」

 

「確かに…てぃーほうは一度決めたら諦めませんね」

 

てぃーほうはウィリアムに似て、頑固さも少し入っているが、てぃーほうの性格上、曲がった事が嫌いなのだと思う

 

それに、Aquilaの言った事は間違っている

 

てぃーほうはしっかり成長している

 

ヒトミとイヨの面倒だってちゃんと見るし、段々と覚えている事も増えて来ている

 

「さてとっ‼︎私も少し寝よっかな〜。色々聞いてくれてありがと」

 

「またお話しましょう⁇私、貴子と話すの好きなの」

 

「うんっ‼︎」

 

貴子の笑った顔は、てぃーほうに良く似ている

 

そう言えば、私はマーカスと似ている所はあるのかしら…

 

寝る前にちょっと行ってみましょう



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168話 姫と貴子と嫁姑(2)

「どわっ‼︎」

 

「マーカス」

 

「か、母さん‼︎」

 

マーカスはベッドの上で本を読んでいた

 

「毎度毎度ドア突き破って入って来ないでくれるか⁉︎ま〜た修理だ‼︎」

 

私はマーカスの部屋に入る時、車椅子で助走を付けて一気に入る

 

そうでもしないと、マーカスは開けてくれない

 

「寝れないのか⁇」

 

「ううん。寝れるわ。ね、マーカス。てぃーほうと貴子は、どこか似てる所があるわよね⁇」

 

「笑った所とかな。段々握力も上がって来てるから、その内貴子さんみたいにリンゴ位握り潰せるかもな」

 

「私とマーカスは似てる所あるかしら」

 

「言われて分かるモンなのか⁇」

 

「そう言われると辛いわ。探して頂戴」

 

「無茶言うなよ…」

 

軽くマーカスを追い込むのは、少し楽しい

 

マーカスは明日お休みだし、少し位話していても大丈夫だとは思う

 

「マーカス様。お茶を淹れました」

 

未だにこの子の名前をどう読んで良いのか、よく分からない

 

皆は”ハッチャン”と呼んでいるが、名前的には”Infinity-tyan”な気もする

 

「おっ。すまん」

 

「スパイト様も是非お飲み下さい。はっちゃんの特製です」

 

ハッ=チャンは私にもお茶を淹れてくれた

 

「Thank you」

 

「そうだはっちゃん。俺と母さんの似てる所ってあるか⁇」

 

「マーカス様とスパイト様ですか⁇そうですねぇ…」

 

ハッチャンは口元に人差し指を置き、少し考える

 

「マーカス様。これを掛けてみて下さい。スパイト様、メガネはございますか⁇」

 

「えぇ、ここに」

 

「掛けてみて下さい」

 

何ハッチャンは何故かマーカスに自身のメガネを渡した

 

私も言われるがまま、箱からメガネを出して掛けてみる

 

「ふむふむ…こうして見ると、少し似ていますねぇ…」

 

私もマーカスも赤い縁のメガネ

 

確かに横顔は似ている気もする

 

「では、メガネを取って下さい」

 

マーカスも私も言われるがまま、メガネを取る

 

「ふふ…お二方共、何気無い仕草がソックリです」

 

「なるほどな…」

 

マーカスも私も右手でメガネを素早く取り、片方だけ折り畳んで人差し指に掛け、腕を組む

 

今のマーカスの体勢は、私と全く同じだ

 

「ふふっ、良かった。似てる所があって‼︎」

 

「それと、はっちゃん的には子供の扱いも似ていると思います。マーカス様もスパイト様も、子供達と同じ目線でお話したり、一緒に楽しんでいます」

 

「やっぱ親子なのな…」

 

「自分では分からないモノね…」

 

「ふふっ…」

 

ハッチャンが笑う

 

自分達では気付いていなかったのだが、私達はお茶を口にしながら右を向いて飲んでいたらしい

 

クセは似るモノね…

 

「マーカス、ハッチャン。私は寝るわ。ありがとう」

 

「次はドア吹っ飛ばすなよ〜」

 

「おやすみなさい」

 

マーカスの部屋を出て、私も眠る事にした…



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168話 姫と貴子と嫁姑(3)

次の日の朝…

 

お休みのマーカスは朝早くからヒトミとイヨを連れて横須賀に向かった

 

私は執務室で書類仕事を処理している

 

「うい〜んうい〜ん」

 

「ふふっ」

 

足元では、てぃーほうがお気に入りのMini Carで遊んでいる

 

「貴子」

 

「はいはい。どうしたの⁇」

 

「お袋ぶっ飛ばしたらしいな⁇」

 

「ママとパパだ」

 

てぃーほうが二人の声に反応し、私はメガネとペンを置いた

 

「てぃーほう。私、喉渇いたから、一緒に食堂でジュース飲みましょうか」

 

「うんっ‼︎」

 

てぃーほうを膝の上に乗せ、ちょっとだけ急いで食堂に向かう

 

「ごめんなさい…」

 

「ウィリアム。怒る相手が違うわ」

 

「姫…」

 

「てぃーほう。オレンジジュースをお願いしても良いかしら⁇」

 

「わかった‼︎」

 

てぃーほうが膝の上から降り、貴子の横に付く

 

「ウィリアム。貴方、貴子の旦那なら、貴子の味方をしてあげなさい」

 

「違うんだ姫‼︎貴子を責めてない‼︎」

 

「え⁇」

 

「お袋の事だ。どうせ思った事をポンポン言ったんだろ⁇」

 

「えぇ…」

 

「よくそれだけで我慢してくれたな…って言おうとしたんだ」

 

「それでも、手を挙げたのは良くないわ…」

 

「落ち込む必要は無い。お袋は一度痛い目に遭って分かるべきだ。知ってるか⁇親父が長門と再婚した時、お袋は親父を”あんな人”と言った。自分で分かってないんだよ」

 

貴子は下を向いて黙ったままでいる

 

「貴子は良くやってる。本当に有り難い」

 

「そうよ貴子。貴方は私よりウンと立派よ⁇」

 

「ありがとう…二人共…」

 

「もってきた‼︎」

 

「ありがとう、てぃーほう」

 

てぃーほうは私達の前にオレンジジュースを淹れたコップを置き、また私の膝の上に乗る

 

「たいほう。たいほうはアクィラおばあちゃん好きか⁇」

 

「す、すき…」

 

珍しくたいほうが吃る

 

「たいほうも嫌いか…」

 

「あのね、あくぃらおばあちゃん、たいほうはおっきくならないとか、ひとみといよのわるぐちいうの」

 

「たいほうの前で言ったのか⁉︎」

 

「うん。たいほうと、てるづきと、かすみもいた」

 

「はぁ〜…」

 

「ママはね、たいほうをかすみのところにおいて、あくぃらおばあちゃんをどっかにつれてってた」

 

たいほうの言葉を聞き、私とウィリアムは胸を撫で下ろした

 

貴子は子供達の見えない所で殴っていたのだ

 

「貴子。ありがとう」

 

「ううん…お母さんを殴った事実は変わらないわ…」

 

「貴子」

 

ウィリアムはずっと下を向いている貴子の頭を撫でた後、ギュッと抱き締めた

 

「お前は良い妻だ。ごめんな、辛い思いをさせて…」

 

「いいの。スパイトだって、貴方だって分かってくれたら。でも、殴った事は反省してる」

 

「それだけで充分さっ‼︎」

 

幸せそうな夫婦二人を見て、私も何だかリチャードが恋しくなる

 

「おかたづけしてくる‼︎ひめ、ありがとう‼︎」

 

「ふふっ、いつでもっ」

 

てぃーほうが膝の上から降り、もっと人肌恋しくなる

 

「ウィリアム。書類はある程度終わらせてあるわ」

 

「姫もありがとう」

 

「スパイト〜っ‼︎アッロハァ〜‼︎」

 

陽に焼けた肌にアロハシャツ、そしてサングラスを掛けた男性が私の名を呼ぶ

 

「い、いらっしゃいませ‼︎ウィリアム、私お茶淹れるわ‼︎」

 

「あ、ちょっ、貴子さん。気にしないで下さい‼︎急に来た私が悪い‼︎」

 

貴子とウィリアムが離れ、貴子は厨房、ウィリアムは男性を席に案内しようとした

 

私は男性に近付いた

 

「リチャード‼︎」

 

「スパイト‼︎」

 

来たのはリチャードだ

 

私は車椅子を引き、リチャードの懐に潜り込む

 

そして、拳をリチャードの顎に当てる

 

「ぐほぁっ‼︎」

 

「貴方って人は‼︎どうしていつもいつも空気が読めないの‼︎」

 

「ごめんなしゃい‼︎スパイトの好きなマカダミアナッツのチョコレート買って来たから‼︎ね⁉︎許して⁉︎」

 

「…」

 

机に大量のマカダミアナッツのチョコレートを置くリチャードを睨む

 

リチャードはいつもそう

 

間が悪いと言うか、空気が読めないと言うか…

 

とにかく、大体入って来るタイミングが最悪だ

 

「ほらスパイト‼︎これ買って来たから‼︎機嫌直してくれ‼︎」

 

リチャードが渡して来たのは、イルカのストラップ

 

「まぁ…‼︎可愛いわ。私にくれるの⁇」

 

リチャードは頷く

 

私はリチャードからそれを受け取り、すぐに大切な物を入れておく箱に入れた

 

因みにこの箱の中、貴子やマーカスの嫁が散々探していた、マーカスの二つ目の指環がケースごと入れてある

 

マーカスが”ここならバレないだろう”と言って、私に預けたのだ

 

皆が何処を探しても見つからないハズだ

 

「ウィリアムとレイはこれっ‼︎ジャジャン‼︎アロハシャツ‼︎」

 

ウィリアムには白いアロハシャツ

 

マーカスには赤いアロハシャツを買って来てくれた

 

「ありがとうございます」

 

「マーカスに言っておいてくれ。真夏に革ジャンは暑苦しいってな‼︎じゃっ‼︎」

 

「リチャード‼︎」

 

「はひっ‼︎」

 

「ここ」

 

私は自身の唇を指差した

 

「ロコモコ付いてたか⁉︎」

 

「もぅ‼︎」

 

リチャードの胸倉に手を伸ばし、此方に引き寄せ、唇を合わせる

 

「横須賀にマーカスがいるわ。夕ご飯までに帰る様に言っておいて。分かった⁇」

 

「分かったよ、ひ〜めっ‼︎いだっ‼︎」

 

頬をビンタし、リチャードを見送る

 

ありがとう、リチャード

 

ちょうど貴方が恋しかったの…



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168話 姫と貴子と嫁姑(4)

目線がスパイトから貴子さんにチェーンジ‼︎


その日の夜、マーカス君は帰って来た

 

「たらいま‼︎」

 

「おなかすいた‼︎」

 

「ただいま〜っと‼︎」

 

ひとみちゃんといよちゃんもちゃんと帰って来た

 

「お帰りなさい‼︎ご飯出来てるから、おてて洗ったら食べてね‼︎」

 

「おっ‼︎オムライスだ‼︎」

 

「おむあいす‼︎」

 

「おててあぁってくう‼︎」

 

三人は手を洗い、いつもの席に座る

 

私は出来上がったオムライスをそれぞれの前に置く

 

「いたあきます‼︎」

 

「いたあきます‼︎」

 

「頂きます‼︎」

 

マーカス君の教育の良さが分かる

 

ひとみちゃんといよちゃんは食べる前にちゃんと手を合わせて頂きますと言ってから食べる

 

外に出た時だってそう

 

誰かに会ったらちゃんと挨拶するし、物を貰ったらちゃんとお礼も言う

 

ぎこちない手つきで私の作ったオムライスを美味しそうに食べる二人と、その傍らで父親の目をするマーカス君を見る度、何だかホッとする

 

「ごちそうさあれした‼︎」

 

「ごちそうさあれした‼︎」

 

「ごちそうさまでした‼︎」

 

食べ終えたお皿を重ね、マーカス君が持って来てくれた

 

「ごちそうさま‼︎」

 

「ありがとう。お風呂湧いてるわよっ」

 

「ひとみ、いよ、行くぞ」

 

「おふお〜‼︎」

 

「さわ〜すう‼︎」

 

三人がお風呂に行き、お皿だけ洗った後、誰もいなくなったソファーに座る

 

何気無しにテレビを見ていると、スパイトが食堂に来た

 

「時間ね…」

 

「そうね…」

 

スパイトがテレビの前のカーペットに腰を降ろし、バスタオルを構える

 

私もソファーに畳んで置いてあったバスタオルを構える

 

そして、二人して生唾を飲む

 

厨房の横の扉が開いた瞬間、ひとみちゃんといよちゃんが走って来た

 

「あぁった‼︎」

 

「あたあふいて‼︎」

 

私はひとみちゃん

 

スパイトはいよちゃんを抱き留め、頭を拭く

 

私達二人は、毎夜こうして構えて待っている

 

これが一日の最後の仕事だからだ

 

「ふふっ、綺麗になったわ‼︎」

 

「あいがと‼︎」

 

「はいっ‼︎ちゃんと拭けましたっ‼︎」

 

「あいがと‼︎」

 

「貴子さんも母さんもありがとう」

 

最後にマーカス君も来た

 

「マーカス」

 

「俺はいいよ」

 

「マーカス」

 

スパイトがマーカス君のタオルに手を伸ばす

 

スパイトが真顔になっている

 

甘えたい合図だ

 

マーカス君はその顔を見たのか、スパイトにタオルを渡し、カーペットに座って頭を拭いて貰う

 

実はマーカス君も甘えん坊なのかもしれない

 

その後、スパイトは一足先に寝室に向かい、マーカス君は工廠の戸締りを確認しに行った

 

私はひとみちゃんといよちゃんに冷たい牛乳を淹れた後、もう少しだけソファーに座っていた

 

「「ごちそうさあ‼︎」」

 

「コップ置いておいてもいいわよ」

 

「たかこしゃん‼︎」

 

「よいしょ‼︎」

 

ひとみちゃんといよちゃんが左右に座って来た

 

二人の頭を同時に撫でる

 

すると、二人共私の手を握って来た

 

とても小さくて、温かい手だ

 

「たかこしゃんのおてては、がんありやしゃんのおてて‼︎」

 

「たかこしゃんのおてては、おかあしゃんのおてて‼︎」

 

私の手は、あかぎれやマメ等が出来ていて、子供二人には少し痛いかも知れない

 

「こえ、えいしゃんのつくったおくすい‼︎」

 

「たかこしゃんにぬいぬいすう‼︎」

 

二人の手には、小さなケースに入ったクリームが握られている

 

「あらっ‼︎お薬塗ってくれるの⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「おててらして‼︎」

 

二人の前に手を出すと、二人共ケースを開けてクリームを手に塗ってくれた

 

「ぬいぬい〜」

 

「きもち〜⁇」

 

「気持ちいいわ〜…」

 

本当に気持ち良い

 

あぁ…マーカス君が言っていたのがよく分かるわ…

 

絶妙に小さい指先で、ツボに入ってるのね…

 

「あいっ‼︎ぬいぬいした‼︎」

 

「あとはねんねすう‼︎」

 

「ありがとっ‼︎とっても気持ち良かったわ‼︎」

 

寝る前に二人を抱っこする

 

「くふふっ…」

 

「たかこしゃんのらっこ…」

 

抱っこを終えた後、二人を肩に乗せ、子供部屋に寝かせ、再び食堂に帰って来ると、マーカス君が換気扇の下でタバコを吸っていた

 

「二人にお薬塗って貰ったわ」

 

「あれは睡眠前に塗ると効果が出る。俺の軟膏が入ってる引き出しに入れておくから、いつでも使ってくれ」

 

「あら。じゃあ早く寝ないと‼︎」

 

「電気消しておくよ」

 

後はマーカス君に任せ、私も寝室に入った

 

 

 

次の日の朝…

 

「凄い…」

 

私の手はあかぎれどころかマメさえも綺麗さっぱり無くなっていた

 

流石はマーカス君ね…



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特別編 色んな職業と双子のシマエナガ

さて、168話が終わりました

今回のお話は、ちょっとハーフタイムです

本編には繋がりませんが、ひとみといよがちゃんと周りの話を聞いている事が、良い意味でも悪い意味でも明らかになります


「いおいおなおちごろ」

 

「しょ〜お〜しは、ひをけしあすっ」

 

ひとみといよが窓際で絵本を読んでいる

 

俺はソファーに座ってキンキンに冷えたサイダーを飲みながら、毎日馬鹿みたいに同じ事を繰り返す国会中継を見ていた

 

「毎日毎日しょーもねぇ事して、おマンマ食えたらそりゃ良いだろうに」

 

独り言をブツブツ言いながらも、中継を見る

 

中継先では、議員の一人が”ないない”と言い続けている

 

「どうせ金あるんだから、はした金払ってこの話終わらせて、もっと良い事しようとは思わんのかねぇ…」

 

そんな中、口やかましく人の意見を聞かない議員に対し、鶴の一声で全て纏めて行く人物がいた

 

総理だ

 

今の総理の様に、本当の意味で国民の為に動いてくれる人間は本当に尊敬出来る

 

総理に対して、けど〜や、でも〜は通用しない

 

総理のやり方は、まず試してみる事

 

ダメなら私が責任を取る。そう言ったやり方だ

 

現にこの総理になってから休戦協定も結ばれたし、日本各地に保育所や幼稚園が増え始めている

 

総理の考えは正しいと思う

 

総理がした政策は、老人ホームの敷地内に幼稚園や保育所を建設するというもの

 

こうする事で老人共は子供の面倒を見たりと何かしらの活気が出る

 

その為に日本に保育士を増やした

 

総理は保育士や介護士の免許を取れるハードルを少し下げ、人員を増やし、キッチリとしたシフトの中で残業も無いと、巷ではこの二つの職業は人気らしい

 

「あすのうんてんしゅしゃん」

 

「あす、たくち〜、れんしゃ。いっぱいあう」

 

国会中継に飽き、ひとみといよの近くに座る

 

「何見てるんだ⁇」

 

「おしごろのほん‼︎」

 

「えいしゃんのおしごろのってた‼︎」

 

ひとみといよは、沢山の職業が載っている絵本を読んでいた

 

「おいしゃしゃん‼︎」

 

「おっ‼︎良く覚えてるな‼︎偉いぞ‼︎」

 

「こえは”ぴ〜ぽ〜しゃ”けがしたひとおはこいます」

 

「うっ…」

 

「ふふふ…」

 

台所にいる貴子さんの視線が痛い…

 

俺は気を紛らわせる為にサイダーを飲む

 

「こえは”こっきゃのいぬ”‼︎」

 

「こっきゃのいぬ‼︎」

 

二人の覚え方を聞き、サイダーを吹き出す

 

不安になった貴子さんも来た

 

「ど、何処で覚えた⁉︎」

 

「どこれおぼえた⁇」

 

「わからん…」

 

「ひとみちゃん、いよちゃん。これは警察。悪い人を捕まえるお仕事よ⁇」

 

「け〜しゃつ⁇」

 

「け〜しゃつ⁇」

 

「そうだぞ。立派な職業だ」

 

「け〜しゃつすごい‼︎」

 

「ひとみ、け〜しゃつないたい‼︎」

 

どうやら意味が分かっていないまま言っていた様だ…

 

ビックリした…

 

「ひとみちゃんは警察になったら、どんな事したい⁇」

 

「あくぃあつかまえう‼︎」

 

「いよもあくぃあつかまえう‼︎」

 

「あらっ…」

 

貴子さんは何故かちょっと嬉しそうな顔をした

 

どうやら二人共、隊長のお母さんが嫌いな様だ

 

「てれびみう」

 

「ひとみ、ほんおいてくう」

 

あらかた読んだのか、ひとみが子供部屋に本を仕舞いに行き、俺はいよをソファーに座らせて、一緒にテレビを見始めた

 

貴子さんは自分で淹れたコーヒーを椅子に座って飲み始め、同じくテレビを見る

 

「としおりいっぱい」

 

「いよにはまだ早いかもな〜」

 

「よいちょ…」

 

ひとみは帰って来てすぐ、いよの反対側に座る

 

ひとみといよを両サイドに置き、いざチャンネルを変えようとした

 

「ひとみちゃん、いよちゃん、あれはどんな名前のお仕事か知ってる⁇」

 

何気無い貴子さんの質問…

 

この質問が、また波乱を呼ぶ

 

「こっかいのうた‼︎」

 

「じぇ〜きんどろお〜‼︎」

 

再びサイダーを吹き出す

 

貴子さんもコーヒーを口から漏らしている

 

「何処で覚えたんだよ…」

 

「あぁ…」

 

二人してため息を吐き、頭を抱える

 

「ひとみ、いよ。あれは国会議員だ」

 

「しょ〜もあいひとちあう⁇」

 

「おかねないないいうひとちあう⁇」

 

「マーカス君っ⁉︎」

 

貴子さんに睨まれる

 

完全に俺の話を聞いていたみたいだ

 

「あれは悪い国会議員だ。他の人はみんな良い人なんだ。ほら、この人なんて特にそうだ」

 

そう言って、アップになった総理を指差す

 

「あの人は総理よ」

 

「そ〜い⁇」

 

「そおい⁇」

 

「しおいじゃない、そ・う・り」

 

「「そ〜い‼︎」」

 

「そっ。この総理は良い人だぞ⁇」

 

前任の総理とは随分違う

 

前任の総理は金持ちは更に儲けて、貧乏人は更に貧乏になるという政治をした

 

正直な話、前任の総理の所為で深海との戦争が始まったと言っても過言じゃない

 

今の総理がずっと総理をしていたら、この戦争も起きていなかったと思う

 

 

とにかく、ちゃんと覚えさせなきゃダメだな…



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特別編 生命の疑問

立て続けに特別編です

前回の続きの様なお話です

遂に売られる事になってしまったアイガモ達

その事を知った、たいほうと照月は一体何を思うのか…


「が〜が〜しゃん‼︎」

 

「がぁ〜がぁ〜‼︎」

 

表でひとみといよ、そして照月とたいほうがアイガモの散歩をしている

 

「そろそろ時期じゃないの⁇」

 

「まぁなっ…」

 

叢雲の言う通り、日本の法律に従って、アイガモはそろそろ食わなければならない

 

あれ程愛着のあるアイガモを、四人は食べられるのだろうか…

 

当初は命の大切さを学ばせる為に飼い始めたアイガモだが、あまりにも残酷過ぎる気もする…

 

それに、調理出来る人間がここには居ない

 

もし出来たとしても、子供達の前で残酷なシーンは見せたくない

 

「子供達には良い思い出になるかも知れんな…」

 

「だと良いんだが…」

 

特にたいほうと照月は本当によく面倒を見てくれた

 

アイガモ達は、ほぼ毎日照月に追い回されていた

 

暑い日は照月に頭にマヨネーズを付けられ

 

寒い日は照月に体にマヨネーズを付けられ

 

照月の「お腹空いたぁ〜」との声が聞こえれば、アイガモ達はマヨネーズを付けられていた

 

………

 

よくよく考えたら、照月にマヨネーズを付けられ、食べられそうになっている思い出しかない…

 

照月…

 

ガンビア…

 

「あ‼︎そうだ‼︎神威に引き取って貰おう‼︎ボスなら何とかしてくれる気がする‼︎」

 

「ボスなら良いかもしれんな」

 

 

 

 

「それで、私に頼みに来たのかい⁇」

 

物資を搬入する為に基地に寄ったボスを捕まえ、食堂に連れ込む

 

「ボスにしか頼めないんだ‼︎」

 

「まぁ、出来ない事は無いけど…取り敢えず、そのアイガモを見せてくれるかい⁇」

 

「こっちだ」

 

子供達が昼寝をしているこの時間…

 

チャンスは今しかない

 

「ほぉ〜⁇中々良い頃合いに太ってるじゃないか‼︎」

 

ボスは平然とした表情で一羽のアイガモを捕まえる

 

「一羽1000円でどうだい⁇」

 

「金はいい」

 

「ダメだ。タダで貰う訳には行かない。照月ちゃんとたいほうちゃんにあげておくれよ」

 

「なら、それで頼む」

 

「了解したよっ」

 

ボスにアイガモ達を引き取って貰う事になった

 

俺はアイガモの代金を受け取り、内ポケットに仕舞う

 

「岩井とは上手く行ってるのか⁇」

 

「上手く行ってるさ。岩井が私を嫌わなければ…だけどね⁇」

 

「なら良かったよ」

 

「アンタもまた大湊に来るんだよ⁇」

 

ボスはそう言って、俺に耳打ちする

 

「…鹿島の顔見なくたって、ご飯位は食べに来ておくれっ…黙っといてあげるから」

 

「ありがとう」

 

「じゃあね‼︎」

 

ボス達が去り、アイガモ達も基地を去る…

 

さて、どう説明するかな…

 

 

 

 

「ごちそうさま‼︎」

 

「お散歩行って来ます‼︎」

 

オヤツを食べ終えたたいほうと照月は、日課であるアイガモの散歩に行こうとする

 

「た、たいほう、照月」

 

「ん⁇」

 

「ちょっとこっちおいで」

 

たいほうと照月を呼び止め、机を挟んだ向こう側に座らせる

 

「アイガモさんな、結構太って来ただろ⁇」

 

「そろそろ食べ頃だよねぇ〜‼︎照月、早く食べたいなぁ〜‼︎」

 

「あいがも、ほんとうにたべれるの⁉︎」

 

「食べれるよ‼︎照月、アイガモのおそば好きなんだぁ〜‼︎」

 

「アイガモさんな、欲しいって人が居たから、その人にあげたんだ」

 

「何であげちゃうの⁉︎照月が食べるんだよ⁉︎だから毎日マヨネーズで味付けしてたのに‼︎」

 

「あいがも、もういないの⁇」

 

「日本の法律はややこしいんだ」

 

「照月、日本嫌い‼︎」

 

「たいほうもきらい‼︎」

 

「まぁ、その気持ちは分かる。それでな⁇その人が二人に育ててくれてありがとうって、お金をくれたんだ」

 

アイガモは全部で11羽

 

一羽1000円で、合計11000円

 

一人5500円を二人に渡す

 

「大人って汚いよね…照月達の自由を全部奪う…」

 

「あいがも、たべられるためにうまれてきたのかなぁ…」

 

照月はかなり怒っており、たいほうは呆れ返っている様に見える

 

「照月、国のシステム変えようかなぁ…全部倒せば、照月がリーダーだよねぇ…」

 

照月は余程怒っている

 

照月は散々アイガモにマヨネーズをかけたりしていたが、それ相応に愛情も注いでいた

 

それをいきなり売ってしまった俺にも責任はある

 

「だめだよ‼︎き〜ちゃんいってた。そのうちくたばるからほうっておけって‼︎」

 

たいほうはたいほうで、既に諦めている様に見える

 

「そうなのかなぁ…」

 

「パパもいってたよ。くにのぼうそうはいつかおわるから、ほうっておけばいいって。こっかいぎいんは、せっぱつまるとわかるんだって‼︎」

 

「照月が切羽詰らせてあげようかなぁ…」

 

「コラコラ。そんな事言っちゃいかんぞ。どうだ⁇そのお金でお菓子買うか⁇」

 

「貯めておこうかな。いつか叩き返す為に…」

 

これ程怒っている照月を見るのは初めてかも知れない…

 

「すまん、二人共。アイガモを売ったのは俺だ‼︎」

 

「何でお兄ちゃんが謝るの⁇」

 

「すてぃんぐれいわるくないよ⁉︎」

 

「お前達が悲しむと思って、黙って売った俺が悪いんだ‼︎」

 

「それは違うよ。悪いのは国だよ⁇国が作った法律だよ⁇照月達から自由を奪う為に作ったルールだよ⁇」

 

「そのうち、たいほうたちもくにのるーるでころされるのかなぁ…」

 

たいほうの疑問で、軽く息が詰まる

 

総理はそんな人ではないが、別の政治家ならやり兼ねない…

 

そんな中、台所に居た貴子さんとグラーフが反応を示した

 

「そんな事ないわたいほう」

 

「大丈夫。もしそうなったら、マーカスもパパも助けてくれる」

 

「照月もいるよ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

そうならない事を祈りたい…

 

「照月、チョー☆ゴー☆キン買おっかな‼︎それなら、国に持って行かれないでしょ⁉︎」

 

「たいほうはぷらもでるかう‼︎きそとつくるの‼︎」

 

「よしよし。なら、今からタウイタウイに連れてってやる‼︎準備して来い‼︎」

 

「マーカス君。私もお買い物行きたいから、秋津洲ちゃん呼びましょう⁇」

 

「そうだな」

 

その日、貴子さんと俺、そしてたいほうと照月でタウイタウイモールに行った

 

照月の国に対する不信感と嫌悪感は異常なまでに膨らんでいる

 

周りの影響もあるだろうが、アイガモの一件で更に嫌悪感を見せている

 

それに、照月の力なら本当に破壊しかねない

 

そして、たいほうが抱いている不安…

 

もしそうなった場合、俺は子供達を助けられるだろうか…

 

俺の考えが取り越し苦労だと良いのだが…

 

俺はその晩、あまり眠る事が出来なかった…




次回からは本編になります


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169話 被害者続出‼︎Panic In The Yokosuka City(1)

さて、168話が終わりました

今回のお話は、冷蔵庫の奥底で眠っていた物のお話です

一体何が出て来るのかな⁇


「たらいま‼︎」

 

「かえってきたお‼︎」

 

「お帰りなさい‼︎冷蔵庫に冷えたジュースあるから、おてて洗ったら飲んでもいいわよ‼︎」

 

一旦外から帰って来たひとみといよを、貴子さんが出迎える

 

ひとみといよはキチンと手を洗った後、冷蔵庫の前に来た

 

「んい〜‼︎」

 

「あけ〜‼︎」

 

二人掛かりで冷蔵庫を開ける

 

貴子さんはそんな二人を笑顔で見守る

 

最近、二人掛かりでなら冷蔵庫を開けられる様になった

 

「あいた‼︎」

 

「じゅ〜しゅ‼︎」

 

「ふふっ」

 

時刻は10時半…

 

冷蔵庫をちゃんと開けた二人を見届けた後、貴子さんはお昼ごはんの支度をある程度終えて、ほんの少しだけ休憩する為に食堂の椅子に座ってコーヒーと少しのお茶菓子を食べ始めた

 

いよは冷蔵庫からピッチャーに淹れられたオレンジジュースを取り出し、ひとみが床にコップを置く

 

いよが全身を使ってピッチャーを持ち、コップにジュースを注いで行く

 

「こえひとみちゃんの‼︎」

 

「あいがと‼︎」

 

「いよのもいれう‼︎」

 

いよは自分の分のオレンジジュースを淹れた後、冷蔵庫にピッチャーを直そうとした

 

「ん⁇」

 

いよは冷蔵庫の奥にあった、見た事の無い缶を見付け、それを取り出した

 

「こえなんら⁇」

 

「うしゃぎしゃんのし〜うはってあう」

 

いよの持っている缶にはウサギのシールが貼ってあり、二人は不思議そうに缶を見つめる

 

「たかこしゃんにきいてみう‼︎」

 

「そうすう‼︎」

 

二人はオレンジジュースを飲み干し、流しにコップを置き、貴子さんの所に不思議な缶を持って来た

 

「たかこしゃん、こえなぁに⁇」

 

「あら…何かしらコレ…」

 

いよから缶を受け取り、貴子さんも不思議そうに缶を見回す

 

「うしゃぎしゃんのじゅ〜しゅ⁇」

 

「ん〜…分からないわ…何入ってるか分からないから、これはやめときましょ⁇」

 

「わかた‼︎」

 

「れべのとこいってくう‼︎」

 

「ふにふにのおかちもあうの‼︎」

 

そう言い残し、二人は子供部屋に向かった

 

「ただいま〜っと」

 

「お帰りなさい‼︎」

 

ひとみといよと入れ違いで、哨戒任務から帰って来た

 

「あっちぃ〜‼︎たまったモンじゃねぇ‼︎」

 

「上空でも暑い⁇」

 

「この季節は直射日光が最悪だよ…ったく…」

 

そう言いながら、貴子さんの前に置いてあったジュースの缶に手を掛け、あたかも普通の様に栓を切り、飲み口に口を付けた

 

俺の行動はあまりにも普通過ぎて、貴子さんも静止が間に合わなかった

 

そして、缶の中身の第一陣が喉を通る…

 

「げっ‼︎」

 

「マーカス君、そう言えばそれ何⁇」

 

机に缶を置いた瞬間、呼吸が早くなる

 

「何でコレがここにあんだよ…」

 

「ひとみちゃんといよちゃんが見付けたのよ。ちょっと、大丈夫⁉︎」

 

「多分…俺はこの後すぐ、変な行動をしたり、言動がおかしくなる。そん時ぁ、引っ張たいてくれ…頼む‼︎」

 

「わ、分かったわ‼︎」

 

「オトン。帰ったか」

 

タイミング悪く、グラーフが食堂に入って来た

 

俺は下を向いたまま立ち上がり、グラーフを壁へと追いやる

 

「な…ど、どうしたオトン…顔がこわ…」

 

グラーフに壁ドンをし、俺は何を思ったのか、トンデモ無い言葉を口走った

 

「グラーフ、俺と付き合えよ」

 

「オ、オトンとか」

 

グラーフは平然な顔をしてはいるが、内心はビビっている様に見える

 

「お前の体…気に入ったよ。愛してやるから、俺の物になれ…」

 

グラーフの顎を持ち、顔を近付ける

 

「う…オトンどうしたんだ」

 

「オトンじゃないだろ⁇」

 

「ま、マーカス…」

 

「ふふっ…ずっと好きだったんだぜ、お前の事…」

 

「ん…」

 

グラーフは顔を背けるが、満更でも無さそうな顔をし始めた

 

「お前のうなじから香る女の香り…ベッドの上でもう一度味わいたい…」

 

「あっ…」

 

グラーフの首元に鼻を近付けると、グラーフは艶めかしい声を出した

 

「わ…分かった…じゃない。グラーフ、ミハイルいる」

 

「ミハイル何か忘れさせてやるよ…」

 

「う…」

 

「さぁ、ベッドにい…」

 

「ぬんっ‼︎」

 

貴子さんの右ストレートがモロに頬に当たった

 

「うわぁぁぁぁぁあ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

窓の外まで吹っ飛ばされ、コンクリートの上に落ちた

 

「うわっ‼︎やり過ぎた‼︎マーカス君‼︎大丈夫⁉︎」

 

「よっしゃあ‼︎元に戻ったぁ‼︎」

 

ようやく正気を取り戻し、食堂に戻る

 

「だ、大丈夫⁉︎力入れ過ぎちゃった‼︎」

 

「あれぐらいの力で殴られないと”鹿島の薬”の効果は解けん‼︎」

 

「まだ残ってたのね」

 

「グラーフ、悪かった」

 

「う、うん…いい。グラーフ大丈夫」

 

グラーフは俺の顔を見るなり、顔を赤くして食堂を出て行ってしまった

 

「これ凄いわね…」

 

「そいつには、飲んだ奴が抑え付けていた感情を表に出す効果があるんだ。数時間経つか、思いっきりショックを与えたら正気に戻る」

 

「子供の手に渡ったたら危険ね…捨ててくるわ‼︎」

 

「ちょっと待て‼︎俺が処理する‼︎」

 

「そう⁇」

 

貴子さんから、鹿島の薬を受け取る

 

「ちょっと使いたい人がいるんだ…ふふ…見てろよ…」

 

「あんまり多様しちゃダメよ⁇」

 

「大丈夫さっ…ふふふ…」

 

 

 

 

その日の昼…

 

横須賀である人物を探す

 

「いた…」

 

自身のコルセアの下で相変わらずサボッている親父が居た

 

もうすぐ買い物から帰って来た母さんが来る

 

その時にこの薬を服用してたら、どうなるのか…

 

俺はジュースを淹れたコップの中に先程の薬を少し淹れ、薬が入っていないジュースを淹れたコップと二つ持って、親父に寄る

 

「ホラよ」

 

「サンキュー‼︎喉渇いてた‼︎」

 

俺は薬の入っていないジュースを飲む

 

「変わった味だな⁇」

 

「リチャード‼︎」

 

来た‼︎母さんだ‼︎

 

相変わらず母さんは親父を見ると、すぐに此方に寄って来る

 

俺はコルセアの着陸脚に隠れ、様子を伺う事にした

 

親父は母さんに気付いたのか、すぐに立ち上がった

 

母さんは懲りずに親父の懐に飛び込み、アッパーを当てる

 

親父は母さんのアッパーを手で食い止めた‼︎

 

「What's⁉︎」

 

「いつもいつも出会い頭に殴りやがって…殴られる身にもなってみろ‼︎」

 

「…リチャード⁇」

 

「お前はいつもそうだ‼︎出逢った時からず〜〜〜っと‼︎殴ってばっかりだ‼︎」

 

「ど、どうしたのよ…ひうっ‼︎」

 

親父は掴んでいた母さんの腕を離し、顔を近付けた

 

「お前は黙って俺に抱かれてろ。いいな⁇」

 

「‼︎」

 

親父はそのまま何処かに行ってしまった

 

母さんは口を開けたまま、ボーッとしている

 

「母さん⁇」

 

母さんに近付き、様子を伺う

 

「素敵…」

 

「へ⁇」

 

母さんの目はキラキラしている

 

「リチャードが私に逆らったの初めて‼︎それに、私を名前で呼ばなかった‼︎素敵よリチャード‼︎」

 

いつも親父に強気でいる母さんだが、立場が逆転した今日、母さんね表情は嬉々としている

 

結構Sな方だと思っていたが、母さんは案外Mなのかも知れない…

 

母さんは強気で責められるのに弱いのか…

 

それより、薬が切れた後の二人が楽しみだ…



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169話 被害者続出‼︎Panic In The Yokosuka City(2)

繁華街を歩いていると、前からワンコと榛名が歩いて来た

 

…これは見たい

 

「提督。遊戯場行きたいダズル」

 

「ワニの奴はしちゃダメだよ⁉︎分かった⁉︎」

 

「ウッセェダズル‼︎んなこたぁ分かっとるダズル‼︎」

 

これは面白い事になりそうだ…

 

俺はこっそり遊戯場に先回りし、あたかも最初からそこに居たかの様に待機する

 

「ザラ」

 

「あらっ、マーカス大尉‼︎お疲れ様です‼︎」

 

「コーラくれるか⁇」

 

「少々お待ちを〜」

 

ザラは遊戯場の管理をする傍ら、飲み物やタバコを売っている

 

ボーリングをしながらジュースを飲む艦娘の子が居たり、タバコを咥えながらビリヤードする航空部隊の連中もいる

 

流石に軽食までは置いていないが、基本的には、汚さない、ゴミは必ず持ち帰るかゴミ箱にいれる事さえ守れば、繁華街で買って来た軽食を食べても良い事になっている

 

「はいっ、どうぞ〜」

 

「ありがと」

 

ザラからコーラを貰い、入り口付近に目を向ける

 

「待ち合わせですか⁇」

 

「誰か来ると面白いな〜って思ってな」

 

ザラと話して数分後…

 

「スズピ〜ダズル‼︎」

 

「はいはい。榛名はこっち‼︎」

 

ワンコと榛名が来た⁉︎

 

榛名は普通にワニを叩く台の方に足を運んで行く

 

ワンコはそれを止め、榛名の腕に自身の腕を絡ませて道を反らせる

 

「引っ張るんじゃね〜ダズル‼︎ワニはしないダズル‼︎」

 

「ワンコ‼︎榛名‼︎」

 

「レイさん‼︎」

 

「レイ‼︎提督が榛名はワニしちゃダメとか言うダズル‼︎」

 

「やって見ろよ。面白い事になってるぞ」

 

「ほら見るダズル‼︎レイはこう言ってるダズル‼︎」

 

「レイさん…ホントに大丈夫なんですか⁇」

 

「大丈夫。その代わり、筐体のハンマーだけ使えよ⁇」

 

「オーケーダズル‼︎さぁ、待ってろワニ‼︎榛名がブチのめしてやるダズル‼︎」

 

榛名は意気揚々とワニを叩く台に向かう

 

「あぁ、ちょっと榛名‼︎」

 

「心配するな。ワニ”は”強化してある」

 

「そうですか…」

 

「マーカス大尉ときそちゃんがあれだけ直せば大丈夫とは思いますよ‼︎」

 

そう言うザラだが、心配そうに”ワニのゲーム”を見つめる

 

「まぁ…榛名の前では貧弱なワニには変わりないだろうな…コーラ、二つ貰えるか⁇」

 

「かしこまりました〜」

 

 

 

 

「さ〜て、榛名がブッ叩いてやるダズル‼︎出て来い‼︎」

 

榛名は備え付けのハンマーを手にし、腕を捲る

 

《やれるモンならやってみやがれ‼︎行くぞ‼︎》

 

「来い‼︎弾き返してやるダズル‼︎」

 

《うりゃりゃりゃりゃ‼︎》

 

筐体から物凄い数のワニが出現し始める

 

「オラララララララララ‼︎」

 

が、榛名も負けてはおらず、ワニが出て来た順に全部叩き返している

 

《参った…降参だぁ…》

 

「ハンッ‼︎相変わらず貧弱なワニダズル‼︎」

 

榛名はゲームが終わった後、キチンとハンマーを指定の場所に置いた

 

「ん⁇」

 

ゲームが終わった直後、榛名の目線の先には別のゲームがあった

 

「モグラ叩き…」

 

ワニのゲームの横にあったゲームは、ワニを叩くのと同じ要領で、今度はモグラを叩くゲーム

 

「よし、今度はモグラダズルな」

 

榛名は筐体に小銭を入れ、再び備え付けのハンマーを握る

 

「オラァ‼︎」

 

《%3÷=€4\#:☆》

 

榛名の一撃で筐体はバグりにバグり、内部で誤作動を起こし、謎の機械音を出し始めた

 

「一匹しか出て来んダズル…おいモグラ‼︎サボッてないで出て来るダズル‼︎」

 

《@¥°<%*2&d》

 

変な機械音を出しながら、もう一匹モグラが出て来た

 

「吹っ飛ぶダズル‼︎」

 

榛名はモグラに強烈な一撃を加えた

 

モグラの胴体は引き千切れ、近くに居た女の子の目の前に落ちた

 

「ヒッ、ヒィィィィイ‼︎オボロロロロロ‼︎」



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169話 被害者続出‼︎Panic In The Yokosuka City(3)

「何だ⁉︎」

 

女の子の悲鳴に気付き、コーラを置いて声のした方に行ってみる

 

「すまんすまん、怖かったダズルな…」

 

「オボッ…オボロロロロロ…」

 

「どうした⁉︎」

 

「は、榛名…」

 

榛名が背中をさすっている女の子は、ずっとゲボを吐いている

 

「モグラ吹っ飛ばしたら、この子の前に落ちちゃったダズル…」

 

「ビックリしたな、朧」

 

「ヒック…エグエグ…」

 

朧の足元には、引き千切れたモグラの模型があり、首から何かの液が出ていた

 

大人でも一瞬たじろぐ怖さがある

 

朧の口元を拭いた後、よほど榛名が怖いのか、朧は俺に抱き着いたまま離れなくなった

 

「酷い事をしたダズル…」

 

「榛名…」

 

流石にワンコは榛名を叱ろうとした

 

俺はそんなワンコの腕を止めた

 

「ここは遊戯場だ。お前達、ザラの所にジュース置いてある。それ飲んでちったあ落ち着け」

 

「はい…」

 

「分かったダズル…」

 

流石の榛名も反省している様子だ

 

「朧っ」

 

朧は俺の腹部に顔を埋めたまま離れようとしない

 

「よいしょっ」

 

朧を抱きかかえ、顔を見る

 

かなり怯えている様子だ

 

「榛名は怖いな⁇」

 

「…はい」

 

「でも、榛名だって遊びたかったんだ。賢い朧なら、分かってくれるな⁇」

 

「はい…」

 

「あっ‼︎レイさん‼︎」

 

「このクソパイロット‼︎朧にまで手を出したの⁉︎」

 

漣と曙が来た

 

どうやら、ここで遊ぶ予定だったみたいだ

 

「朧を返しなさい‼︎早く‼︎」

 

「曙ちゃん、違うよ。レイさんは朧を助けてくれたの。よいしょ」

 

「ハァ⁉︎」

 

「レイさん‼︎ウチの朧がお世話になりました‼︎」

 

曙がキツイ分、漣は案外礼儀正しい

 

「これで冷たいモンでも飲ませてやれ」

 

三人分のジュースが買える小銭を、漣に渡す

 

「コイツ、金で揉み消すつもりよ‼︎」

 

「レイさんはそんな人じゃないよ‼︎」

 

「レイさん、ホントにありがとうございました」

 

「気にすんな。ほら、行って来い」

 

三人を見送るが、曙だけは嫌そうに此方をチョイチョイ見返して来た

 

ザラの所に戻って来ると、榛名は珍しく下を向いて落ち込んでいた

 

「今日はやり過ぎちゃったね⁇」

 

「うん…」

 

珍しく榛名の語尾にダズルが付かない

 

これは重症だ

 

「そんな落ち込むなっ」

 

「レイ…」

 

榛名の横に立ち、余っていたコーラを飲む

 

そして、三人に気付かれない様に榛名のコーラにあの薬を入れる

 

さて、榛名はどう出るか…

 

「子供に嫌われたり、泣かれたりするのはイヤダズル…」

 

そう言いながら、榛名はコーラを口にする

 

俺は生唾を呑んだ

 

「ワニは良いけど、もうモグラはしちゃダメだよ⁇分かった⁇」

 

「提督はお優しいのですね…」

 

「へっ⁇」

 

「えっ⁉︎」

 

ワンコとザラが榛名の方に振り向く

 

「榛名がハンマーを振り回したり、”ニムさん”や”萩風さん”を叩いたりしても、提督は榛名をキツく叱ったりしません」

 

「ニムさんって…榛名⁇」

 

「そんな提督だからこそ、榛名は提督をお慕いしています」

 

そう言って、榛名はワンコに微笑みを送る

 

いつもの流し目の様な怖い微笑みではなく、本心から出た優しい微笑みだ

 

「あ…う、うん‼︎」

 

「ふふっ‼︎あっ‼︎提督、榛名と”ぷりくら”を撮りませんか⁇あれなら、榛名はハンマーを振り回さずに済みます‼︎」

 

「うんうん‼︎行こう行こう‼︎」

 

ワンコはよっぽど嬉しいのか、すぐに榛名を連れて、ぷりくらコーナーに消えて行った

 

「な…何あれ…」

 

「さっすが鹿島の薬だな…」

 

ザラに見せびらかすかの様に、あの薬を見せる

 

「それなんですか⁇」

 

「抑え付けてた感情を表に出す薬さ。榛名の本心はあぁなんだよ」

 

榛名は元から根は優しい子だ

 

それが薬の効果で表に出た

 

しっかしまぁ…アレだけ逆転するとはな…

 

語尾にダズルが無くなり、暴力的な性格は影を潜めている

 

…数時間後が楽しみだ

 

「れ、レイさん…私もそれを飲めば、抑え付けてた感情が表に出ますか⁇」

 

「何だ⁇飲んでみるか⁇」

 

「私も何か変わるのかな…って」

 

「良いだろう。飲みモンあるか⁇」

 

ザラはすぐに自分の分のジュースを淹れて来た

 

その中に薬を入れ、軽く混ぜた後、ザラは一気に飲み干した

 

と、同時に5時の時報が鳴る

 

「ザラ、交代するね」

 

時報と同時に来た女の子は、左目が義眼になっていた

 

「古鷹。後は頼むわね」

 

「古鷹…」

 

「こんにちはレイさん」

 

「その子は最近此処に来たの。優しい子よ⁇」

 

「そっか。宜しくな」

 

「はいっ‼︎」

 

「レイ、行くわよ」

 

「へっ⁉︎あ、あぁ‼︎」

 

ザラに呼び捨てにされ、遊戯場を出る

 

「どこ行くんだ⁇」

 

「間宮よ。レイと飲みたいのもあるけど…まずは片付けなきゃイケナイ奴がいます」

 

間宮に着くと、久々に見た顔が居た



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169話 被害者続出‼︎Panic In The Yokosuka City(4)

「あえあえあえ〜あはははは〜たのし〜、たのし〜ですねぇ〜」

 

「ポーラ‼︎」

 

「ざっ、ザラ姉様⁉︎」

 

間宮の隅っこで一人で呑んで独り言を言っているポーラが居た

 

「ポーラ、アンタ今日は私に付き合いなさい」

 

「いやぁ〜‼︎や〜だぁ〜‼︎ポーラ一人で呑みたいのぉ〜‼︎」

 

「ポーラ⁇」

 

ザラはポーラを睨み付ける

 

「うぅ〜…分かりましたて。その代わり、レイさんはポーラの横に座らせますて」

 

「えぇ、良いわよ。すみませ〜ん‼︎」

 

席に座った直後、ザラは間宮を呼ぶ

 

「はいは〜い‼︎いかがしましょう‼︎」

 

「赤と白を三本ずつ、あと、適当に肴を出して頂戴」

 

「は、はい‼︎畏まりました‼︎」

 

途轍も無い注文をしたザラを目の当たりにし、ポーラは俺に腕を絡ませて来た

 

「…ザラ姉様、ポーラより酒豪ですて」

 

「…マジか」

 

「…ポーラの三倍…いや、五倍は呑んでも酔いませんて」

 

「何話してんのかしら、ポーーーラ⁉︎」

 

「いやいやいや、大した事じゃありませんて‼︎あ、あはは…」

 

段々とポーラの顔がシラフに戻って行く…

 

その後数時間、ザラは一人で酒も肴も全て食べ尽くした

 

「さぁ、次行くわよ次‼︎」

 

「ぽ、ポーラ、もうお家帰りますて‼︎アサカーゼが待ってますて‼︎」

 

「今日は呑んでも良い日なんでしょポーーーラ⁉︎」

 

「うぎぎ…仕方ないですて…」

 

その後、ザラは蟹瑞雲で日本酒と蟹鍋を食べ始めた

 

「レイさん。離れちゃイヤですて。ザラ姉様に何されるか…」

 

「分かった分かった‼︎」

 

ポーラは半泣きでずっと俺の腕にしがみ付いている

 

「ったく…どいつもこいつも文句ばっか言いやがって…レイだけよ、マトモにザラとお話してくれるの」

 

ようやくザラに酔いが回って来た

 

ワイン10本、日本酒5本も一人でスッカラカンにすりゃ、そりゃ酔うか…

 

「それでポーラ。”マーマ”とはどうなの⁇」

 

「ん〜…最近マーマも忙しいみたいで、中々逢ってないですて」

 

「マーマ⁇」

 

「あぁ、レイには言ってなかったっけ⁇アクィラって知ってる⁇」

 

「あぁ。髪の毛後ろで纏めた、イタリアの人だろ⁇」

 

「その人がポーラ達のマーマですて」

 

「へぇ〜…」

 

あまりにも普通に言うものだから、俺も普通に流してしまった

 

「アクィラがお母さんだと⁉︎」

 

数秒後、ようやく事の重大さに気付いた

 

「ちょっと待て‼︎って事は二人共あれか⁉︎隊長の妹か⁉︎」

 

「え⁉︎どう言う事⁉︎」

 

二人に隊長とアクィラの話をした

 

「あ〜…そう言う事ですか」

 

どうやらザラとポーラの父親は、リットリオとローマの父親とは違う様だ

 

「って事は〜…ポーラもザラ姉様も、隊長さんの”イボキョーダーイ”になりますか⁇」

 

「隊長に言っておくよ…今度、家族で集まって飯でも行って来い。話したい事もあるだろう」

 

あまりにもビックリし過ぎてザラの酔い、そして薬の効果も切れた所で、その日は基地に帰った

 

基地に帰って一服しながら、ザラとポーラの事を隊長に話した

 

「言われてみれば、何と無く顔似てるな…」

 

「今度アクィラ含めてみんなで飯でも食ったらどうだ⁇」

 

「その時はレイ。反対側の席で待機していてくれるか⁇」

 

「ふっ…了解した‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は沢山遊びましたね‼︎榛名、感激です‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

高速艇に乗っている、幸せそうなワンコと榛名

 

「今度はモグラも頑丈になってると良いダズル」

 

「そ、そうだね…」

 

此方も薬の効果が切れ、元の榛名に戻っていた

 

ワンコは少し残念そうな顔をした後、やはり榛名はこうでなくてはと思い、自分達の基地に戻って行った…



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170話 粘土で遊びたいでち‼︎(1)

さて、169話が終わりました

今回のお話は、新しい子が出て来ます

何⁉︎題名で予測出来た⁉︎

違う子かも知れないじゃないか‼︎


金曜は子供達を学校に送った後は横須賀とデートだが、毎週水曜日は子供達と遊ぶ事になった

 

子供達は汚しても良い様に、クーラーの効いた工廠の床にシートを引き、紙粘土で遊んでいる

 

そして俺も手に紙粘土を持っている

 

「こねこね〜‼︎」

 

「こえこえ〜‼︎」

 

「なにつくおっかあ〜⁇」

 

たいほうの近くにひとみといよが座り、一緒に紙粘土をこねている

 

「れべとまくすは、私と作りましょう⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「うん」

 

母さんはれーべとまっくすのいる場所で紙粘土をこねている

 

「粘土は食べられないんだよねぇ〜」

 

「そんな事言いながらラムネの形に千切って…ホントに食べちゃダメよ⁉︎」

 

照月は紙粘土を千切り、本物と見間違える程、リアルなラムネの形にこねて行く

 

隣に座った霞は照月を心配そうに見ながら、手元ではある程度の形が出来上がって来ている

 

「僕は何作ろっかなぁ〜」

 

きそはきそで作る物を悩んでいる

 

「レイは何作ってるの⁇」

 

「ん〜⁇」

 

「うわっ‼︎コルセアだ‼︎」

 

こう見えても石膏からフィギュア位は作る自信がある

 

「じゃあ僕は…」

 

きそも作るのを決めた様子で、紙粘土をこね始めた

 

「はっちゃんはウサギさんを作ります」

 

「しおいもつ〜くろ‼︎」

 

それぞれが作り始めた時、タブレットに通信が入った

 

メールやアプリの文字通信ではなく、通話の様だ

 

通信相手は…

 

”た”

 

…最近、一文字の奴が多い気がする

 

「…もしもし」

 

《それは何でち⁇》

 

「タナトスか⁉︎」

 

相手はタナトスだった

 

近くを回遊している様で、俺達の話し声が聞こえたみたいだ

 

「これは粘土って言うんだ。結構楽しいぞ⁇」

 

《タナトスもしたいでち》

 

俺は一瞬だけタブレットから目を逸らした

 

遂にこの時が来た

 

タナトスがボディを欲しがっている

 

きそに目をやると、俺の視線に気付いた様で、既に此方を見ていた

 

きそはゆっくり頷くと、紙粘土を置いて、工廠の奥に走って行った

 

「こっち来れるか⁇」

 

《補給ついでに行くでち。待ってろ創造主》

 

そう言うと、タナトスとの通信は切れた

 

タブレットを机の上に置き、きその所に向かう

 

「行けそうか⁇」

 

「うん。ボディはもう造ってあるから、後はタナトスが気に入るかどうかだ」

 

きそはずっと前からタナトスが入る為のボディを造ってくれていた

 

それは既に完成しており、カプセルの中でタナトスが入るのを今か今かと待ち受けている

 

「ん⁇」

 

いよが紙粘土を持っていた手を止め、港の方を見つめ始めた

 

ひとみもそれに反応し、同じ方を見つめる

 

「えいしゃん、たあとすきた‼︎」

 

「たあとすきた‼︎」

 

「早いな」

 

数分後、タナトスが埠頭に着いた

 

《創造主‼︎腹減ったでち‼︎》

 

異変に気付いた隊長が表に出て来た

 

「隊長‼︎」

 

「デッカいなぁ〜…」

 

隊長はタナトスのデカさに圧巻していた

 

《ウィリアムさんでち》

 

「おっ‼︎私を知ってるのか⁉︎」

 

《創造主が一番尊敬してる人でち》

 

「ほほぅ、そうかそうか‼︎君はレイが言ってた潜水艦だな⁇」

 

《タナトスと言うでち‼︎よろしくお願いします‼︎》

 

「んっ‼︎此方こそ宜しく‼︎」

 

「タナトス。メインコンピューターにアクセス出来るか⁇」

 

《何か用でちか⁇あれでちか⁇タナトスのバグ取りでちか⁇》

 

「そんな感じだ」

 

《…》

 

「タナトス⁇」

 

タナトスは急に黙ってしまった

 

「レイ‼︎来たよ‼︎」

 

「ったくあいつは…」

 

隊長を連れて、工廠に戻って来た

 

《おい‼︎緑の奴がいるとは聞いてないでち‼︎》

 

「タナトス、ちょっとだけじっとして…」

 

《変な事したら基地ごと緑の奴をブッ殺してやるでち‼︎》

 

「大丈夫…安心して…」

 

いつもより集中しているきそ

 

インターネットの海にいても暴れ回るタナトスをジッとさせるのは一苦労の様だ

 

「これがタナトスか⁇」

 

隊長が指差す先には、キラキラした物体が画面の中を右往左往している

 

「そっ。これがタナトスの知能さ」

 

「今、何を考えているか分かるか⁇」

 

「俺達を見て、様子を探ってる」

 

タナトスは周りのカメラにアクセスし、俺達の表情や声に探りを入れている

 

メインコンピューターとは別のPCに、カメラのモニターや音波をのメーターが出ているので、それはすぐに分かった

 

「タナトスはさ、ボディを持ったら何をしたい⁇」

 

《粘土したいでち》

 

「いっぱいあるよ〜。ひとみといよもしてるよ⁇」

 

PCに映っているカメラのモニターが、ひとみといよの方を向き、ズームする

 

《おい緑の》

 

「ん⁇」

 

《タナトスにこんなの見せて、嫌がらせのつもりでちか⁇夢の無い話はすんなでち‼︎》

 

「ふふふ。そんな事言ってるのも今の内だよ〜」

 

きそはUSBをPCに挿し、カプセルの方にも挿そうとした

 

《やめるでち‼︎USB外すでち‼︎》

 

「うりうり〜」

 

《おい創造主‼︎緑の奴を止めるでち‼︎》

 

「そ〜れブスッと‼︎」

 

《うびびびびびびびび‼︎》

 

タナトスの悲鳴が聞こえたと同時に、メインコンピューターに

 

0%

 

と表示され、その数値がゆっくりと1%、2%と進んで行く

 

タナトスの思考データが、カプセルの中身へと移動して行く…



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170話 粘土で遊びたいでち‼︎(2)

数分後…

 

「これは…」

 

目を開けたタナトスは、不思議そうに”手”を動かす

 

「おはよう、タナトス‼︎」

 

「緑色…タナトスはどうなったでちか⁇」

 

カプセルから出て来たタナトスは、少しだけ嫌そうにきそを見つめた

 

「それはタナトスのボディだよ。僕からのお詫びっ」

 

「凄いでち…」

 

ボディを持ったタナトスは、不思議そうに辺りをキョロキョロする

 

「おっ‼︎中々可愛い奴が出て来たな⁉︎」

 

「別嬪さんだな‼︎」

 

「‼︎」

 

俺に気付いたタナトスは、すぐに抱き着いて来た

 

「創造主でち‼︎」

 

「初めましてだなっ」

 

タナトスの頭をしっかりと撫でる

 

タナトスはしばらく俺に抱き着いたまま離れようとしなかった

 

タナトスをくっ付けたまま、粘土をしている子供達の所に戻って来た

 

「でっち〜ら‼︎」

 

「れっち〜ら‼︎」

 

「ひとみといよでち‼︎」

 

「行って来い」

 

タナトスを離し、ひとみといよの所に行かせる

 

「でっち〜‼︎」

 

「れっち〜‼︎」

 

タナトスはひとみといよを同時にギュッと抱き締めた

 

「ずっとこうする夢を見てたでち…」

 

「んっ‼︎レイの子だな‼︎」

 

「すてぃんぐれいみたい‼︎」

 

「レイそっくりだね‼︎」

 

「流石は生みの親」

 

隊長、たいほう、れーべ、まっくすは当時の事を知っている

 

今のタナトスを見て、自分でもそう思った

 

「れっち〜。ひとみたちとねんろしよ‼︎」

 

ひとみから紙粘土を受け取り、タナトスは不思議そうにそれをこねる

 

「でっち〜なにつくう⁇」

 

「これが粘土…おぉ…凄いフニュフニュしてるでち」

 

今のタナトスは、見る物触る物全てが不思議な状態だ

 

産まれて初めて触れた物体が粘土なら尚更だ

 

ひとみといよ、そしてたいほうと同じ様に遊ぶタナトスを見て、胸を撫で下ろす

 

破壊神や死神と言われた子が今、子供達と共に遊んでいる

 

そんな光景を見て、何だかホッとした

 

「あ、そ〜だ‼︎タナトスに新しい名前付けなきゃ‼︎」

 

「タナトスはタナトスで良いでち」

 

「そ、そっか…」

 

「この名前が好きなんでち。創造主がタナトスに付けてくれた名前でち」

 

「何か、良い意味で思ってたのと違うって思ってるの僕だけ⁇」

 

「タナトスは元々命を大切にする子だ。ただ、降り掛かる火の粉を自力で弾き返す力を持ってるだけさ」

 

しかしまぁ、随分可愛いボディを造って貰ったな…

 

 

 

 

 

「みんなご飯よ〜‼︎」

 

貴子さんの声で、子供達が食堂へと向かう

 

それぞれの作った紙粘土は、もうほとんど完成に近付いている様に見える

 

そんな中、タナトスだけ粘土をこね続けていた

 

「タナトスも行く…」

 

タナトスが作っていた紙粘土も既に完成に近付いている

 

ただ、あまりの完成度に息を飲んだ

 

「これはひとみ。こっちはいよでち」

 

タナトスの手元には、ひとみといよがそれぞれのイルカに乗っている粘土細工が出来上がっていた

 

「凄いじゃないか‼︎」

 

「その内創造主も作るでち」

 

タナトスは褒められて御満悦の様子だ

 

「さっ。ご飯だ。行くぞ〜」

 

「タナトスも食べて良いでちか⁇」

 

「勿論さ‼︎貴子さんの料理は美味いぞ〜」

 

タナトスはマットから立ち、俺の後ろを着いて来た

 

「でっち〜きた‼︎」

 

「れっち〜ここすわう‼︎」

 

ひとみは自身の隣をポンポン叩き、タナトスが座るよう促す

 

「あらっマーカス君‼︎お盛んね‼︎」

 

「慣れて来てるのが怖い…」

 

「ふふっ、冗談よ。きそちゃんから聞いたわ。貴方がタナトスちゃんね⁇」

 

「貴子さんでちか⁇」

 

「そうよ。宜しくね⁇」

 

口では返事をしないが、タナトスはちゃんと頷いている

 

「あ、そうそう。大人用のオカズ作り過ぎちゃったのよね…」

 

「ゔっ…」

 

貴子さんが持って来たのは、ゴーヤチャンプルー

 

俺は瓜科のアレルギーを持っているので、食ったら死ぬ

 

と言うか、貴子さんが瓜科を使った料理をするのは珍しい

 

「信号機みたいな子達が持って来てくれたのよ。無碍にする訳にもいかないと思って…」

 

「これは何でち⁇」

 

「タナトスちゃんにはちょっと早いかもね…」

 

貴子さんがそう言うと、タナトスはゴーヤチャンプルーに手を伸ばした

 

「事を知るのに遅い早いは関係無いでち‼︎タナトスが食べるでち‼︎頂戴しますでち‼︎」

 

案外丁寧に貴子さんの手からゴーヤチャンプルーを取り、タナトスはひとみといよが待つ席に座る

 

「あら…」

 

「ホントにレイそっくりだな⁇」

 

「事を知るのに遅い早いは関係無い…か」

 

タナトスは俺の口調が少し移ったのか⁇

 

色々と俺に似ている気がする

 

「んっ⁉︎」

 

「ほらほら‼︎やっぱり苦いでしょう⁉︎」

 

貴子さんが心配そうに近寄ると、タナトスは口にしたゴーヤチャンプルーを飲み込んだ

 

「美味しいでち‼︎」

 

「あらっ、苦いの好き⁇」

 

「タナトスはご飯食べるの初めてでち。これが苦いでちか…でも、貴子さんの料理は美味しいでち‼︎」

 

「ふふっ、気に入ったわ‼︎」

 

「おい緑色‼︎」

 

「はいはい」

 

「さっき名前を決めろと言ってたでちな⁇」

 

「決まった⁇何でも良いよ⁇それで登録してあげる‼︎」

 

「ゴーヤにするでち」

 

「ゴーヤ⁉︎それはまたどうして⁇」

 

「タナトスが初めて食べたご飯を忘れない様にする為でち。創造主、ゴーヤでも良いでちか⁇」

 

「んっ⁉︎意味があるならそれでいい。立派な名だ‼︎」

 

「ご〜や⁇」

 

「れっち〜ちあう⁇」

 

「ひとみといよはでっち〜で良いでち。そっちの方が呼び易いでちよ⁇」

 

「じゃあしおい、でち公ってよ〜ぼお‼︎」

 

「はっちゃんはでっち〜にします」

 

「ぐっ…お…」

 

嫌がり方も俺そっくりだ

 

「よしっ。名前が決まったお前に、俺からプレゼントだ」

 

「ん⁇」

 

ゴーヤは産まれてからずっと、前髪が目にかかっていた

 

俺はゴーヤの前髪をかきあげ、髪留めを付けた

 

「おぉ…」

 

「見やすいか⁇」

 

「見やすいでち‼︎ありがとう、創造主‼︎」

 

「それは電探になってる。誰かが逸れたら、それを使って探してやってくれ」

 

「了解したでち‼︎」

 

「いよはこれあげう‼︎」

 

「ひとみもこれあげう‼︎」

 

ひとみといよがワンピースのポケットから出したのは、花弁の髪飾り

 

恐らく、スーぴゃ〜マーケットか何処かで買ったのだろう

 

「付けてあげるわ。ひとみちゃん、いよちゃん、貸してくれる⁇」

 

「「あいっ‼︎」」

 

髪飾りを貴子さんに渡し、ゴーヤはそれを付けて貰う

 

「うんっ‼︎よく似合ってるわ‼︎」

 

「うふふ…」

 

ゴーヤが思い切り笑った顔を初めて見る

 

異名とは違い、年頃の女の子の笑顔を見せてくれた…

 

 

 

 

 

潜水艦”伊58”が、時々遊びに来る様になりました‼︎




伊58…チャンプルー娘

タナトスのAIから産まれて来た艦娘

タナトスの時とは違い、暴力的な性格は影を潜めている

趣味は潜水と粘土細工を作る事

時折基地に遊びに来て、しおい、はっちゃんと共に海の幸を採って遊んだり、ひとみといよと近海で泳いだりする事もある

産まれてこの方、きそが大の苦手であり、きそを”緑の奴”と呼ぶ

きその事は嫌いではなくて、苦手

いつ機能制御されるか分からないかららしい


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171話 The Ocean Hunter(1)

さて、170話が終わりました

今回のお話は、海中戦です

出撃した五人の潜水艦の子達…

彼女達は何を思うのか…


《こちらエイトガール。現在、潜行状態で作戦海域に向かっています》

 

「了解した。作戦海域に到着次第、装備を展開。ひとみといよのカバーをしつつ、任務を遂行してくれ」

 

《了解です、ワイバーン》

 

はっちゃんとの無線が切れ、直後にゴーヤから無線が入る

 

《目標を発見したでち‼︎》

 

「よし。いよにやらせてみてくれ。何事も経験だ」

 

《分かったでち。いよ、やってみるでち。そ〜っと近付くでちよ⁇》

 

《しょ〜っと…》

 

食堂でモニターを睨み付ける様に見ている俺と隊長が生唾を飲みながら、いよを見守る

 

《れきた‼︎》

 

「よしっ‼︎よくやった‼︎」

 

「良い子だぞいよ‼︎」

 

《レイ〜‼︎こっちも見付けたよ〜‼︎》

 

「しおいか。ひとみにやらせてくれるか⁇」

 

《オッケー。さっ、ひとみ。コレを掴んでみよっか‼︎》

 

《ろか〜ん‼︎ってしない⁇》

 

《大丈夫だよ》

 

モニターを見ながら、再び生唾を飲む二人

 

《いた〜い‼︎やいやあったな‼︎》

 

「ぐわ〜っ‼︎」

 

「おしい〜‼︎」

 

「ウニは早かったかぁ〜‼︎」

 

モニターの先では、潜水艦の子達が素潜りをして、海の幸を採っている

 

はっちゃんが全体を見渡すリーダー役

 

しおいがひとみのお目付け役

 

ゴーヤがいよのお目付け役をしており、それぞれが見付けた海の幸を採っている

 

そして俺と隊長は、不安半分、面白半分で、はっちゃんのメガネから見える目線をモニターに映し、潜水艦の子達を眺めていた

 

《うにつおいお‼︎》

 

《はっちゃん‼︎アレある⁇》

 

《ありますよ。さっ、ひとみ。はっちゃんのマジックハンドを使ってウニを採ってみましょう》

 

《うにぶっこおいら‼︎》

 

ひとみ、ウニに再チャレンジ

 

今度はマジックハンドを使って、ウニを掴む

 

《とえた‼︎》

 

《上手上手‼︎》

 

《ここに入れましょうね》

 

ウニも採れ、二人に褒められ、ひとみは御満悦

 

「どうだひとみ、いよ。楽しいか⁇」

 

《たのし〜‼︎》

 

《おっき〜かいとえた‼︎》

 

「よしよし」

 

ひとみは此方に手を振り、いよは採れたての大きいアワビを見せてくれている

 

「今日は海の幸だな⁇」

 

「隊長の出番だな‼︎」

 

「ウィリアムは海の幸”だけ”は調理上手いものね⁇」

 

「ち、チャーハン位は作れる‼︎」

 

貴子さんと隊長が軽く話し込んでいる最中にも、潜水艦の子達は海の幸を採って行く

 

ある程度の海の幸を採り終えた五人は、近海にある岩で休憩を取っていた

 

「いっぱいとえた‼︎」

 

「あ〜び、うに、にょおにょお‼︎」

 

はっちゃんの持っていたビクの中には数個のウニが

 

ゴーヤの持っていたビクの中には、数個のアワビと一匹の穴子が入っていた

 

「ひとみ、いよ。はっちゃんがウニの食べ方を教えてあげます」

 

「うにたえる⁇」

 

「おいし⁇」

 

「よいしょ…」

 

はっちゃんはビクの中からウニを一つ取り出し、その辺にあった手のひらサイズの石を持った

 

「うりゃ」

 

はっちゃんはそれをウニに叩き付けた

 

「うにぶっこおい‼︎」

 

「なんかれてきた‼︎」

 

割れたウニの中から、黄色い物体が出て来た

 

「これがウニの食べられる部位です。食べてみましょう」

 

ひとみといよは黄色い物体を手に取り、口に入れてみた

 

「うぇ〜」

 

「おいし〜‼︎」

 

ひとみはマズそうな顔をしているが、いよは気に入ったみたいだ

 

「ふふっ。その内気に入りますよっ」

 

はっちゃんはもう2つウニを叩き割り、中身を出した

 

「しおい、ゴーヤ。食べてみて下さい」

 

「いただきま〜す‼︎」

 

「頂くでち‼︎」

 

しおいとゴーヤもウニを口に入れる

 

「うんっ‼︎美味しい‼︎」

 

「ビミョーな味でち…」

 

好き嫌いが分かれるウニの味

 

しおいとはっちゃんは時々海に潜った時にオヤツ代わりに食べているが、ひとみとゴーヤには合わないみたいだ

 

「はっしゃん」

 

「はい」

 

「いよ、おしゃかなもといたい‼︎」

 

「マーカス様。如何致しましょう」

 

《しおいの銛は使わせないでくれ。いよとひとみの腕に付いてる艤装にプラズマ機関砲がある。それで採らせてみてくれ》

 

「分かりました」

 

しおいは背中に銛を背負っており、猛者感が出ている

 

銛はひとみといよにはまだ早過ぎるので、とりあえずは腕の艤装に付いている、プラズマ機関砲で魚を狙わせてみる事にした

 

「さぁ、もう一度行きましょう」

 

五人が再び海に潜る



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171話 The Ocean Hunter(2)

「ひとみといよはどう⁇」

 

「今また海に入った」

 

きそも食堂に来て、隣でココアを飲み始めた

 

俺と隊長はコーヒーを飲みながら、向こう側の様子を見守る

 

「私も見ていい⁇」

 

「勿論‼︎」

 

貴子さんもモニターの前に来た

 

今度はモニターを2つ用意し、ひとみといよの目線を映す

 

《おしゃかな、いっぱいいうなぁ〜》

 

《ろえにしょっかあ〜》

 

二人の目線の先には、大小様々な魚が沢山いる

 

最初に狙いを定めたのはいよの方

 

《でかいおしゃかないた‼︎》

 

いよの目の前を泳いで行ったのは、恐らくカンパチ

 

いよはすぐにカンパチに狙いを定め、プラズマ機関砲を何発か撃った

 

見事カンパチは気絶し、腹を向けて海上へと向かって行った

 

《いよはお魚採るの上手でち‼︎》

 

《やったえ‼︎》

 

「上手いぞいよ‼︎」

 

「うはは‼︎凄い凄い‼︎」

 

「凄いぞいよ‼︎」

 

「上手よいよちゃん‼︎」

 

そこに居た全員が、魚を採ったいよに拍手を送る

 

《おしゃかなとえたお〜‼︎》

 

「帰って来たらパパに料理して貰おうね⁇」

 

《たかこしゃんか〜⁇わかた‼︎がんばう‼︎》

 

いよはさらなる獲物を探す為、ゴーヤに手を繋いで貰いながら、辺りを散策し始めた

 

「あら。映画でも見てるの⁇」

 

「母さんも見るか⁇」

 

「えぇ」

 

母さんは牛乳をコップに淹れた後、一緒にモニターを見始めた

 

次はひとみ

 

《はっしゃん、ひとみあえといたい‼︎》

 

《あのお魚は凶暴です。気を付けて狙いを定めましょう》

 

ひとみの目線の先には、岩陰から顔を出しているウツボがいる

 

それを見た貴子さんは、何故か少し興奮しながらひとみに言った

 

「ひとみちゃん‼︎それ採ってくれたらビスケットあげるわよ‼︎」

 

《たかこしゃんか〜⁇ひとみがんばうお‼︎》

 

ひとみはウツボに狙いを定め、いよと同じく数発のプラズマ機関砲を放つ

 

《あたた‼︎》

 

プラズマが直撃したウツボは気絶し、海底に横たわった

 

《ゆっくり引っこ抜きましょう》

 

《んい〜‼︎》

 

気絶したウツボは岩陰から引き摺り出され、はっちゃんがトドメを刺す

 

《これで大丈夫です》

 

《おしゃかなとえたお‼︎》

 

「いいぞひとみ‼︎」

 

「ひとみは強いな‼︎」

 

「素晴らしいわ‼︎」

 

「ウツボ採るなんて凄いや‼︎」

 

《んふ〜》

 

ひとみは自慢気に首にウツボを巻き、鼻息を吐いた

 

…グラーフの癖が移っている

 

そして、そんなひとみを見て大興奮しているのが貴子さん

 

「ひとみちゃん‼︎私ウツボのから揚げが大好きなの‼︎みんなで一緒に食べようね‼︎」

 

《たかこしゃんのかああげたのしみ‼︎》

 

その後、潜水艦の子達は小魚を採ったりして、数十分後には基地に帰って来た

 

「たらいま‼︎」

 

「おしゃかないっぱいとえた‼︎」

 

ひとみといよが貴子さんに採れたての海の幸を渡す

 

「ありがと〜っ‼︎頑張ったわね〜っ‼︎」

 

「くふふっ…」

 

「くふふっ…」

 

ひとみといよは、貴子さんやな頭を撫でられて御満悦の様子

 

「さっ、みんなでお風呂入っておいで‼︎ご飯の準備するわ‼︎」

 

「はっしゃんいこ‼︎」

 

「れっち〜いこ‼︎」

 

はっちゃんとゴーヤは手を引かれ、お風呂に行こうとした

 

「そおいは⁉︎」

 

「そおい〜‼︎」

 

「しおいは大丈夫だ。先に入ってくれ〜だってさ」

 

「わかた‼︎」

 

「さわ〜してくう‼︎」

 

四人がお風呂に向かい、隊長と貴子さんが台所に立った

 

「貴子はから揚げな⁇」

 

「ウィリアムはお刺身ね⁇」

 

この夫婦が同時に台所に立つのは初めてだ

 

激レアな光景かも知れない

 

「たっだいまぁ〜‼︎どっせい‼︎」

 

「おまっ‼︎またデッカいの仕留めたな⁉︎」

 

帰って来たしおいの背中には、サメが背負われていた

 

しかもまだ生きている

 

「ヤバい…今日パラダイスかも…」

 

貴子さんがサメを見てヨダレを垂らす

 

今日は貴子さんが好きな海の幸ばかり上がって来た

 

そして貴子さんはサメをすぐに締め、ある程度の大きさに切った後、ウツボをから揚げにしている油の中に放り込み、残りは部位に分けて冷凍庫に仕舞った

 

「ウィリアム…」

 

「なんだ⁇」

 

「ヤバい。超幸せ…」

 

二人共何が凄いって、話しながらも手は動いている

 

「あ、レイ」

 

「どうした⁇」

 

「折れちゃった…」

 

しおいの手には、綺麗に真っ二つに折れた銛が握られていた

 

「新しいの作ってやるよ。サメに勝てる奴をな」

 

「ありがとう‼︎しおいもお風呂入ろ〜っと‼︎」

 

しおいもお風呂に向かい、俺ときそはモニターを工廠に仕舞った

 

その日の夕食は、海の幸パーティーになった

 

貴子さんと照月はサメのから揚げを山程食べ、かなり満足し…

 

ひとみはお刺身に舌鼓を打ち…

 

いよはウニとアワビをパクパク食べている

 

他の子達も色とりどりの海の幸に満足した様子で、その日の夕食は終わった…




ウニ…チクチクするアイツ

海の中にいる黒くてチクチクしていり憎いヤツ

中身は美味しく、いよのお気に入り

ひとみは当初、ウニを爆弾だと思っていた




アワビ…デカい貝みたいなアイツ

海の中にいる、裏側がチョットアレなヤツ

お刺身にするとかなり美味で、いよのお気に入り

慣れてくると、美味しい癖に採り易い




ウツボ…凶暴なアイツ

岩陰に潜んでいる憎いヤツ

ひとみはコイツを採った後、首に巻くのがトレンドらしい

白身で美味しく、顔の割りにクセが無く、貴子さんの大好物





ブリ…何故か基地の周りにいっぱいいるアイツ

人をおちょくるかの様に泳ぐムカつくヤツ

たいほうに仕留められたり、いよに仕留められたりと、やたら子供に仕留められるが、基地の周りには、まだまだワンサカといる

一口で食べられるからと、照月のお気に入り




サメ…基地の近海最強のアイツ

多分、ワンサカといるカンパチを狙いに来た危険なヤツ

馬鹿みたいに何度もしおいにケンカを売るが、全部返り討ちに遭い、貴子さんの胃袋に入っている

一度採ると3日は食料に困らない程巨大なヤツもいるが、小さいヤツもいる

巨大なヤツが出るとすぐにしおいが出撃し、追い返すか殺られるかの攻防を繰り返している




アナゴ…にょろにょろしたアイツ

たまに見かけるレアフィッシュ

基地に持って帰って管理しておかないと、照月にチュルンと行かれる


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172話 高速偵察部隊出動‼︎(1)

さて、171話が終わりました

今回のお話は、意外に書いていなかったレイとアレンのお話です

果たして二人はどんな行動に出るのか。


その日、俺はアレンと一緒にバイクで居住区に来ていた

 

「必殺‼︎」

 

「顔パス‼︎」

 

「行ってらっしゃいませ」

 

冗談半分で検問所を顔パスと称し、バイクで突っ切った

 

だが、検問所の男性職員は一礼しただけで、俺達がゲートをくぐる寸前でバーを上げてくれた

 

「おいマジで通っちまったぞ‼︎」

 

「いいのか⁉︎」

 

「戻るぞ‼︎」

 

バイクを反転させ、男性職員に謝りに戻る

 

「あの…冗談半分で顔パスとかすみませんでした…」

 

「二度としません…」

 

検問所に居た男性職員は、如何にも頑固を絵に描いた様な職員だ

 

その顔が一瞬で笑顔に変わる

 

「あっはっは‼︎構いませんよ‼︎マーカス大尉、マクレガー大尉‼︎貴方がたは本当の意味の関係者なので、顔パスで結構ですよ‼︎」

 

「よし、ならオッケーだ‼︎」

 

「ありがとう‼︎」

 

「行ってらっしゃいませ‼︎」

 

検問所を後にし、居住区へと入る

 

「おいレイ‼︎お前の好きそうな金髪ボインだぜ⁉︎」

 

「ナンパだナンパぁ‼︎」

 

目の前の歩道からビスマルクが歩いて来た

 

「「ビス子〜っ‼︎」」

 

「ビスマルクよビスマルク‼︎」

 

それだけ言い残し、片手で手を振りながら走り去る

 

「もぅ…ホンットバカ‼︎」

 

そう言うビスマルクだが、久しぶりの外部の知り合いに出会い、笑顔になっていた

 

 

 

「コロッケ食うぞコロッケ‼︎」

 

「オッケー‼︎」

 

商店街でバイクを止め、コロッケ屋に向かう

 

「コロッケ二つ‼︎」

 

「はいよ‼︎ちょっと待ってね‼︎」

 

この街に入るにはそれなりの審査がある

 

住む事はかなり難しいが、確か、まりのお世話になっている家は、退役軍人の家

 

そしてみほは軍人達の子供を預かる保育所でバイトをしている

 

ある程度の地位に居る一握りの軍人は、退役した艦娘を娶ったり、養女にする事で、監察役としてここを終の住処とするらしい

 

世間の艦娘への風当たりも、まだまだ強い

 

となると、必然的にこう言った場所が必要になってくる

 

このコロッケ屋のオバさんだって、それなりの審査をクリアしたが故にここに居る

 

…もしかしたら監察役かも知れない

 

「若い男の子は久しぶりだねぇ‼︎前はまりちゃんの彼氏さんがお見えになったけど、知り合いかい⁇」

 

「「ともらちれす‼︎」」

 

二人して、同じ様に”友達です‼︎”と、返すが、コロッケが思ったより熱くて声になっていなかった

 

「そうかいそうかい‼︎ゆっくりしていきなよ⁇」

 

コロッケ屋のオバさんは中に入って、揚げ物を揚げ始めた

 

「さてとっ…もちっとヤカりに行きますか‼︎」

 

「え〜と…ちょっと待ってくれよ⁇」

 

アレンは地図を取り出し、現在位置を確認する

 

「よし、まずはこの地区に行こう‼︎」

 

再びバイクに乗り、瑞鳳達が住んでいるエリアに向かう

 

「おらおら〜‼︎悪い子はいねぇか〜‼︎」

 

「粛清しちゃうぞぉ〜‼︎」

 

「アレンさ〜ん‼︎レイさ〜ん‼︎」

 

全く怖がっていない瑞鳳が声を掛けて来た

 

「どうした卵焼き娘よ」

 

「我々には卵の持ち合わせは無いっ‼︎」

 

「違いますよ‼︎人を卵焼きしか作らないみたいに言わないで下さいよぉ‼︎」

 

三人が笑う

 

アレンも何度か居住区に来た事があり、瑞鳳自体、繁華街にいるので顔見知りだからだ

 

「今日は見回りですか⁇」

 

「まぁな。今日はホラ、年に一回の一般開放の人だろ⁇」

 

「危険箇所やら危険人物がいないか見に来たんだ」

 

「今の所は大丈夫です‼︎ありがとうございますっ‼︎」

 

瑞鳳は卵焼きを焼いていても、こうして大人しくしていても、小柄な体が良く映えて可愛らしい

 

「じゃあな。今日は楽しめよ⁇」

 

「次だ次‼︎」

 

バイクのアクセル掛け、瑞鳳の前から去る

 

「あの二人が危険人物だよぉ…」



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172話 高速偵察部隊出動‼︎(2)

瑞鳳と別れてからしばらく走ると、前方からギャルが二人歩いて来た

 

「レイ‼︎ピチピチのギャルだ‼︎」

 

「ナンパだナンパぁ‼︎」

 

ギャル二人の横でバイクを停め、スタンドを下げる

 

「ヘイ彼女‼︎俺達とお茶しない⁉︎」

 

「レイさん⁉︎」

 

「貴方は確か…健吾の上司でしたわねぇ…」

 

マズい奴をナンパしてしまった…

 

ワンコの嫁と、健吾の昔の想い人だ…

 

「さっ、アレン君。撤退しようか」

 

「そうしましょう」

 

「待てぇ〜‼︎」

 

「まり、引き摺り降ろしますわよ‼︎」

 

俺はまり、アレンはりさに掴まれ、バイクから歩道へと引き摺り降ろされた

 

「やめろ‼︎我々は職務中だ‼︎」

 

「そうだそうだ‼︎見回りと言う立派な職務だぞ‼︎」

 

「ナンパしたのはどっちかなぁ〜⁇ん〜っ⁇」

 

まりの顔がドアップで映る

 

「部下の恋人を軟派するとは良い度胸ですわねぇ〜⁇」

 

アレンはりさに思い切り顔を近付けられる

 

「追い込まれましたな」

 

「その様ですな」

 

こう言う時は、ちょっと早いが奥の手を使う

 

「よしアレン‼︎伝家の宝刀”男泣き”を使おう‼︎」

 

「よし‼︎」

 

「いいのかまり‼︎離してくれなきゃ、俺達は今この場で泣くぞ‼︎ギャン泣きだぞ‼︎」

 

「男のギャン泣きはみっともないし見苦しいぞ‼︎」

 

「「さぁ‼︎どうする‼︎」」

 

まりとりさは顔を見合わせ、互いに笑った後、頷きあった

 

「まっ、許してあげるとしますか‼︎」

 

「そうですわね‼︎」

 

「その代わり今日の夜、まりとりさに何か奢ってよ⁉︎」

 

「任せろ‼︎」

 

「逃げた時はそうね…総理に報告させて頂きますわ‼︎」

 

「ならん‼︎」

 

「言う所がぶっ飛びすぎだ‼︎」

 

「なら、しっかりと見回りをして下さいませ」

 

「気をつけてね〜」

 

「ひ〜っ‼︎」

 

「ひ〜っ‼︎」

 

ようやくまりとりさに解放され、逃げる様にその場を去る

 

「良い殿方ですわね」

 

「ワンコも健吾も幸せだろうに〜」

 

艦娘の家が並ぶエリアに異常は無かった

 

問題はこの先にある、本日限りの一般開放エリアだ

 

今日の午後、ここで夏祭りが開催される

 

俺達二人は祭り開始前の見回りの為に、こうして居住区を一周し、危険箇所や危険人物が居ないか見回りをしている

 

バイクを停めた後、夏祭りの会場へと入る

 

夏祭りの会場は、階段を上がった先の神社にある

 

途中の階段がないスペースにも出店があったりと、中々どうして広い会場でもある

 

会場には既に出店がスタンバイしており、すぐにでも始める準備が出来ている

 

「来たか」

 

「そうみたいね」

 

「伊勢、日向‼︎」

 

既に法被を着てやる気満々の伊勢と日向がスタンバイしている

 

「私達二人は総理の護衛に回る。祭りの警護は任せたぞ」

 

「了解したっ」

 

とはいえ、祭りが開始されるまで時間がある

 

俺とアレンはベンチに座り、タバコに火を点けた

 

「久し振りだな。こんな平和な社会を見るのは」

 

「まぁな。普段も今日みたいな感じだと良いんだがな…」

 

「あらあら。早速サボり⁇」

 

紺色の浴衣に着替えたみほが、両手にラムネを持って此方に来た

 

「綺麗なおべべ着ちゃって‼︎」

 

「ナンパされるぞナンパ‼︎」

 

「はいはい。私には大佐がいるから大丈夫よっ‼︎」

 

そう言って、俺達にラムネをくれた

 

「ありがとう」

 

「ありがとう。君が大佐の…」

 

「そっ。みほって言うの。宜しくね⁇」

 

「流石大佐だ。目の付け所が違う」

 

「そういえばレイ。貴方、子沢山になったんだって⁇」

 

「お陰様で暇しない生活してるよ」

 

「その内、ここに連れて来てね⁇じゃっ、またね」

 

みほがその場を去り、俺達は彼女を目で追う

 

「あの子も艦娘か⁇」

 

「そっ。ここに来ると、大体みほが案内してくれる」

 

アレンと話していると、空に空砲が上がった

 

《居住区夏祭りを開始します‼︎みなさん、こぞってご参加下さい‼︎》

 

「さてっ、行きますか‼︎」

 

「うぬっ‼︎」

 

ラムネの瓶を捨て、夏祭り会場の見回りが始まった



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172話 高速偵察部隊出動‼︎(3)

金魚すくい屋のセリフに注目


会場はあっと言う間に人と艦娘でごった返し、夏祭りの雰囲気が出て来た

 

「レイ‼︎」

 

金魚すくいの屋台から、誰かに呼ばれた

 

「摩耶‼︎」

 

何でも屋から駄菓子の卸問屋になった摩耶がいた

 

「バイトか⁇」

 

「そっ。どうだ⁇やってくか⁇」

 

「どっちがすくえるか賭けようぜ」

 

「負けたら背後のカキ氷な⁇」

 

「いいだろう‼︎」

 

摩耶からポイを貰い、いざ金魚すくいスタート

 

ふふふ、アレンよ

 

君は知らないだろう

 

俺の所には、金魚すくいで無類の強さを誇るしおいがいる事を‼︎

 

しおいに学んで、金魚すくいの特訓をした俺の力を見るがいいわ‼︎

 

「うおりゃ‼︎」

 

「この表面の水分を調整するには…」

 

「そぉい‼︎」

 

「この角度からだな…」

 

五分後…

 

「嘘だろ…」

 

アレンはブリキの桶5つ分の金魚をすくい、俺は桶2つ分の金魚をすくった所でポイの紙が破れた

 

アレン5つ、俺2つ

 

完敗である

 

「ぬっはっはっは‼︎航空力学を学んでいたのは貴様だけでは無いわぁ‼︎」

 

「クッソォォォオ‼︎てか金魚すくいで航空力学応用できんのか⁉︎」

 

「も…物の考え様⁇」

 

訳分からん考えの奴に負けたのか…

 

「しっかしまぁ…獲りに獲ったなぁ⁇」

 

金魚すくいの大きな水槽の中には、数えられる位の数匹の金魚しか泳いでいない

 

「3匹位くれるか⁇清霜にやりたい」

 

「んっ」

 

摩耶は値段表を指差した

 

 

 

金魚すくい

 

一回100円

 

すくった分持って帰れます。拒否権はありません

 

すくえなくても3匹あげます

 

 

 

「200円で商売上がったりじゃねぇか‼︎」

 

「いいんだよっ。アタシは少なくなったら足すだけだからな」

 

摩耶は出店の後ろのカーテンを捲った

 

出店の裏には上に網が張られた巨大な水槽があり、その中には出店に出ている金魚より遥かに多い数の金魚がミチミチに入っていた

 

「弥富でも見た事ないぞ…行った事ないけど」

 

「裏にまだいるって事は心配無いな」

 

「そう言うこった‼︎荷物になるから、帰りまで預かっておいてやるよ‼︎」

 

「サンキュー‼︎」

 

「楽しかったよ‼︎」

 

「見回り頑張ってな‼︎」

 

摩耶と別れ、メイン通りに戻って来た

 

「味何にするんだ⁇」

 

「イチゴで‼︎」

 

「イチゴのカキ氷を二つ」

 

「はいは〜い‼︎」

 

数十秒後、出来上がったイチゴのカキ氷を貰い、代金を払う

 

俺達はイチゴのカキ氷を食べながら見回りを続ける

 

「大当たり〜‼︎」

 

「見たか‼︎」

 

「おっ⁉︎」

 

大当たりを報告する声と共にベルが鳴り、聞き覚えのある声が聞こえて来た

 

「60インチのプラズマテレビです‼︎」

 

「ろっ、60インチ⁉︎」

 

「当てた奴の顔見に行こうぜ‼︎」

 

人混みを掻き分け、テレビが当たったであろうクジ引き屋の前に来た

 

「リチャードさんにあげるわ‼︎」

 

「瑞鶴が当てたんだ。瑞鶴の部屋に置いてくれ」

 

「はぁぁぁぁぁ‼︎」

 

「レイ‼︎気を確かに持て‼︎」

 

息を吸い込みながら喉で音を鳴らし、頬に手を当てる

 

親父が目の前で堂々と浮気している‼︎

 

瑞鶴は浴衣を着て、親父も甚平を着ている

 

しかもか〜な〜り、仲良さそうにしている

 

「マーカスさん⁉︎」

 

「えっ⁉︎マーカス⁉︎」

 

二人に気付かれた‼︎

 

「ほっ、ほほほ本官は何も見ていないであります‼︎」

 

「どうやら人違いの様です‼︎失礼しました‼︎」

 

アレンと共に警官の真似をして、早急にその場を去ろうとした

 

「待て待てマーカス‼︎スパイトには言ってある‼︎」

 

「よく母さんが許可したな⁇」

 

「普段寿司奢ってくれたりしてるんだ。何かお返しをと思って、ここに来たんだ」

 

「なるほど…」

 

「なぁ、マーカス…」

 

親父が耳打ちする

 

「頼むからスパイトには黙っててくれ」

 

「ほほぅ⁉︎」

 

「そうだマーカス‼︎小遣いをやろう‼︎アレン、勿論君にもな‼︎」

 

そう言って、親父は俺達にそれぞれ一万円札を握らせた

 

そして、一万円札を握った手をキツく握り締められる

 

「…どうか御内密に」

 

「どうしよっかなぁ〜⁉︎」

 

「お、俺はこれで充分です‼︎」

 

アレンは口止め料を貰って満足しているが、俺はもう少しおちょくろうとした

 

「よしマーカス。それ以上強請る気なら、必殺の”上官命令”を使おう‼︎」

 

「分かった分かった‼︎邪魔して悪かったよ‼︎瑞鶴、じゃあな‼︎」

 

「また来て下さいね〜‼︎」

 

嫌々一万円札を内ポケットに入れ、その場を去る

 

「まっ、あれだ。分かってやって、黙ってやるのが男同士ってモンだろ⁇」

 

「流石はレイ‼︎カッチョイイ‼︎」

 

親父も普段大変な職務に就いているのに、嫁に中々逢えないもんな…

 

身近な愛が欲しくなるのも分かる気がする

 

ある程度の見回りが終わり、神社の下に降りて来た

 

階段の中腹や神社に比べて出店は少ないが、少しは出ており、人も中々いる

 

俺達の見回りもここで終わり

 

後は軽く見回りを続けつつ、問題があれば駆け付ければ良い

 

「マーカス君‼︎」

 

「貴子さん‼︎」

 

貴子さんが来た

 

どうやら隊長と貴子さんは午前中、居住区の家で二人で過ごし、隊長はこれからみほとデートに行くみたいだ

 

だが、浴衣を着ていない

 

「レイ‼︎」

 

「隊長‼︎」

 

隊長も来た

 

隊長は甚平に着替えており、みほと逢う気満々だ

 

「Papa‼︎」

 

「アイちゃん‼︎」

 

アレンはアレンで、アイちゃんが来た

 

隊長達が横須賀でアイちゃんを見つけ、アイちゃんも行きたがっていたので連れて来たみたいだ

 

「レイ、俺はアイちゃんと出店回るよ。ありがとな⁇」

 

「お前と一時でも行動を共に出来て、誇りに思うよ」

 

そう言って、互いに自身の胸に拳を当てた

 

「私も行って来るよ」

 

「楽しんで来るのよ⁇」

 

「あぁ‼︎」

 

貴子さんは軽く甚平をはたいたり、着直させた後、隊長を見送った

 

アレンと隊長が同時に去り、俺と貴子さんがその場に残る

 

「貴子さ…」

 

この後の予定を聞こうと、貴子さんの顔を見た

 

貴子さんは、階段を意気揚々と登って行く隊長を、悲しそうな顔で見続けていた

 

「貴子さん」

 

「ん〜⁇」

 

俺の方に振り返った貴子さんは、いつもの顔に戻っていた

 

いつも気丈な貴子さんの悲しそうな顔を見るのは初めてだった

 

そんな貴子さんを前にし、俺は知らずの内に手を差し出していた

 

「俺と行こう」

 

「…」

 

貴子さんは軽く口を開けながら迷い半分、驚き半分の様な表情をしている

 

まさか、旦那の部下からデートに誘われると思ってなかったのだろう

 

「私も行っていいのかしら…」

 

「勿論さ‼︎ホラッ‼︎」

 

「…うんっ‼︎」

 

貴子さんは俺の手を取った

 

握った掌は、何故か横須賀と同じ、可愛げのある、柔らかく優しい手の平をしていた…



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172話 嫉妬と言う名の愛

題名は変わりますが、前回の続きです


「マーカス君は何食べたい⁇」

 

「俺に奢らさせてくれよ」

 

「あらっ、それは失礼」

 

イタズラな目をして笑う貴子さん

 

貴子さんはいつだって俺のお姉さん代わりの人だ

 

しかし、年齢は俺より下である

 

横須賀と大して変わらないハズだ

 

「貴子さんは何が良い⁇」

 

「そうねぇ…」

 

貴子さんの目線の先には、既にチョコバナナの出店がある

 

「チョコバナナがいいわ⁇」

 

「何本食べる⁇」

 

「一本でいいわ」

 

「遠慮しないでくれ」

 

「あらそう⁇なら八本下さい」

 

「そんなに一人で食べ切れるのかい⁇」

 

「えぇ」

 

貴子さんは、チョコバナナの出店の店員を微笑みながら睨む

 

「はいっ、どうぞ〜‼︎」

 

「ありがと〜‼︎頂きま〜す‼︎」

 

貴子さんはその場で嬉しそうにチョコバナナを頬張り始めた

 

「う〜ん‼︎久々に食べるわぁ〜‼︎」

 

八本あったチョコバナナは、目の前でみるみる内に無くなって行く

 

チョコバナナは貴子さんの口に一本につき一発で放り込まれ、十数回咀嚼された後、飲み込まれて行く

 

五分もしない内に、チョコバナナは全滅した

 

「ホントに何でも食べていいのかしら⁇」

 

「男に二言は無いっ‼︎」

 

「知らないわよ〜⁇」

 

貴子さんに手を引かれ、出店を回る

 

焼きそばを食べ

 

ベビーカステラを食べ

 

たませんを食べ

 

たい焼きを食べ

 

貴子さんは普段抑えている、照月並の食欲を爆発させている

 

「おいひ〜‼︎」

 

まるで照月だ

 

そんな幸せそうな貴子さんを見て、俺は笑顔を送る

 

そういえば貴子さんは、照月と食事をする時、今と同じ顔をする

 

食欲を爆発させる事で、ストレスを解消しているのかもしれない

 

「あっ‼︎いたいた‼︎レイさ…」

 

「まりっ…」

 

俺に声を掛けようとしたまりを、りさが手を引いて止めた

 

「人の恋路を邪魔する奴は馬に何とやら…ですわ⁇」

 

「あ…」

 

まりとりさは、訳有りげな俺達を見て、逆方向に歩いて行った…

 

 

 

 

「マーカス君はさ」

 

「ん⁇」

 

歩きながら、貴子さんと話す

 

「マーカス君は良い旦那さんよね」

 

「そうか⁇手が回らない時なんて山程ある」

 

照月の暴飲暴食、ガンビアへの謝罪

 

好奇心旺盛になって来た、ひとみといよの付き添い

 

清霜の破壊衝動の抑制

 

手が回らない時なんて山程ある

 

だが、他の子達が手助けしてくれる事が、最近多くなった

 

ひとみといよは、はっちゃんやしおい、そしてゴーヤが付き添いをしてくれたり

 

照月はガンビアの職員、そして最近貴子さん以外にも霞が料理の補助をしてくれたり

 

清霜には、すっかり粛清癖が消えたガングートがいる

 

本当に助かっている

 

「ん〜ん。立派よ。あれだけの子供達をちゃんと教育して纏めてる。私も楽だわ⁇」

 

「そう言って貰えると助かるよっ」

 

貴子さんと話していると、打ち上げ花火が始まった

 

既に神社に居たので、近くの空いているベンチに腰を降ろした

 

「綺麗…」

 

花火が炸裂する度に、貴子さんの表情がよく見えた

 

「あ、そうだマーカス君。時々、私と照月ちゃんとで、ご飯に行かせてくれない⁇」

 

「いつでもっ」

 

「ふふ…言ったわね⁉︎今度舞鶴に行って来るわ⁇」

 

舞鶴の食料事情が心配になって来た…

 

照月一人でも壊滅に追い込むのに、そこに貴子さんまで行くのだ

 

さらば舞鶴…

 

良い所だったよ…

 

「貴子さんは、隊長の事好きか⁇」

 

「好きよ⁇どうしたの急に⁇」

 

「良い夫婦だな〜って思ってな」

 

「そうね…私だってウィリアムに腹立つ時はあるわ。今日みたいにね…」

 

徐々に武蔵に戻って行く貴子さんを見て、背中に悪寒が走る

 

やっぱり怒ってたのか…

 

「そ、そっか…」

 

「でも、この腹が立ってるのは嫉妬なのよ。ウィリアムが好きって証拠でしょ⁇」

 

「まぁな」

 

「心配しなくても大丈夫よ。ウィリアムの次に好きなのはマーカス君だから」

 

「こう見えても俺は人の旦那だ‼︎」

 

「あらっ。人妻を誘ったのはだぁれ⁇」

 

「ぐっ…それを言われると辛い…」

 

「ふふっ‼︎そんな事言わないわ。今日はスッゴク楽しかったわ⁇」

 

「またどっか行こう」

 

すると、貴子さんは首を横に振った

 

「最初で最後で良いわ。私にはウィリアムがいるもの」

 

「…それもそうだな」

 

「でも、マーカス君と少しでも二人きりになれて、スッゴク楽しかったわ‼︎」

 

「んっ‼︎俺もだ‼︎」

 

結局、俺は花火が終わるまで花火を見る事は無く、ずっと貴子さんの横顔を見続けていた…



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172話 理想の女

もう一度題名が変わりますが、前回の続きです




打ち上げ花火が終わり、俺と貴子さんは神社の階段を降りる事にした

 

「摩耶‼︎」

 

「おっ、来たか。ホラよっ‼︎」

 

摩耶から大量の金魚を受け取った後、普通に貴子さんの方を見た

 

「ベビーカステラを3袋‼︎」

 

「フランクフルトPlease‼︎twoね⁉︎」

 

「たい焼きを20個‼︎」

 

「Tako Yaki…ふ〜ん。Five Pack Please‼︎Papaと食べるわ‼︎」

 

「チョコバナナ余ってるの⁇半額⁉︎4本下さい‼︎」

 

「おぉぉぉぉ…」

 

貴子さんと、いつの間にかいたアイちゃんが、畳み掛けている出店を潰して回っている

 

それぞれ大量に買っているが、二人のあの胃袋なら、平気で収まるだろう…

 

「凄い買い方だな…」

 

「多分、あの5倍は入る…」

 

流石の摩耶もビビっている

 

「むふふふっ…」

 

「Papa‼︎」

 

貴子さんもアイちゃんも、いっぱい買ってご満悦

 

「貴子」

 

「おふぁえりなふぁい」

 

帰って来た隊長が口にいっぱい物を含んだ貴子さんの所に来た

 

「レイはどうした⁇」

 

貴子さんは俺の方を向いた

 

俺は貴子さんに対し、ゆっくりと首を横に振った

 

「…みふぇない」

 

「そっか。いっぱい買ったなぁ‼︎」

 

「んっ」

 

貴子さんは咥えていたたい焼きを隊長の口に入れ込んだ

 

「みほさんは⁇」

 

「友達と帰るらしい。貴子は俺と帰るか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

やっぱり、貴子さんは隊長と一緒じゃなきゃダメだ

 

「…」

 

隊長と帰る寸前、貴子さんはもう一度俺の居た場所を見た

 

だが、俺はそこにはいなかった…

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

もう一度、神社に戻って来た

 

先程貴子さんと花火を見ていたベンチで、タバコに火を点ける

 

アレンはアイちゃんと一緒に帰ると連絡が来た

 

急に一人になると、案外寂しいモンだな…

 

タバコを咥えたまま、ベンチに横になると、星が見えた

 

こんなゆっくり星を見るのは久方振りかも知れない…

 

星に手を伸ばしながら、鼻歌を口ずさむ

 

「もうそれ以上、もうそれ以上…」

 

「随分懐かしい歌ね⁇」

 

「ビスマルク」

 

急に現れたビスマルクは黒い浴衣を着ており、片手に団扇を持っていた

 

「子供はもうお家に帰る時間だぞ⁇」

 

「子供じゃないわ」

 

ビスマルクは俺の頭を膝の上に乗せた後、ベンチに腰を降ろした

 

「隊長さんが言ってたわ。レイが神社にいるから、逢いに行ってくれって。それと、御礼を言っておいてくれないかって」

 

「…バレてたか」

 

「男の私が行くより、私の方が喜ぶから、だって言ってたわ」

 

「なるほど…」

 

確かにビスマルクは俺の本当の好みのドストライクだ

 

金髪で巨乳でプロポーション抜群

 

正に理想の外見だ

 

本当に欲を言うなら、外見が一番好みなのはアイちゃんなのは、永遠に黙っておこう…

 

「レイはいつもそうやって、子供達に歌ってあげてるの⁇」

 

「楽器の時もある。寝付きが良いのは歌だけどな」

 

「ふぅん…」

 

ビスマルクは俺の顔を団扇で扇いでくれながら、下にある街を見つめていた

 

「綺麗な街よね…」

 

「良い街だ」

 

「大阪もこんな感じなの⁇」

 

「いや。四六時中、年がら年中ウルサイまちさ」

 

新世界に住んでいた時は、確かに年がら年中ウルサかった

 

だが、その内それが心地良くなって来るし、四六時中暇しない場所だった

 

この街や他と比べれば、ほんの少し治安は悪いが、それさえ目をつむれば、俺は是非あの街を勧めたい

 

「そんなの眠れないじゃない‼︎」

 

「住めば宮さっ。3日もすりゃあ、騒音がなけりゃ眠れなくなる」

 

「その内行ってみたいわ」

 

「あそこは良い街だ。来る人を拒まない。誰だって楽しめる」

 

「そんなに良い所なの⁇」

 

「行きゃあ分かるさっ」

 

「帰りたい⁇」

 

「時々はな…あそこは、俺の第二の故郷みたいなモンさ」

 

新世界には、一年に一度位の頻度で、無性に帰りたくなる

 

子供達の声とは違った騒がしさ…

 

ガラの悪そうな奴と思えば、内面はピュアなオッサン達と飲む、一期一会の酒…

 

安くて美味しいB級グルメ…

 

「行きたくなって来たな…」

 

「長期休暇取って行ったら⁇」

 

「そうだな…」

 

ビスマルクと話していると、いつの間にかタバコの灰が地面に落ちていた

 

「レイ…」

 

「ん⁇」

 

「今日は私の家に来ない⁇」

 

「一杯やるか⁉︎」

 

「えぇ‼︎」

 

そうと決まれば話は早い

 

ビスマルクと共に長い階段を降り、停めてあったバイクに跨り、彼女にヘルメットを被せ、バイクを出した

 

俺の腰に腕を回し、背中に密着させたビスマルクの胸からは、速い鼓動が伝わって来た…

 

祭り会場からビスマルクの家は案外近く、すぐにバイクを停めた

 

「ちょっと散らかってるけど、気にしないで⁇」

 

「俺のデスクよりは綺麗だろ⁇」

 

「ふふっ…」

 

ビスマルクの家に入り、色々あった今日を忘れるかの様に、酒を煽った…

 

 

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「…」

 

ビスマルクの家には、ベッドは勿論一つ

 

その上で俺は目を覚ました

 

隣には、寝息を立てているビスマルク…

 

どうやら、一晩の過ちを犯してしまっ…

 

「おはよう…」

 

目を擦りながらビスマルクが起きた

 

「お、おはよう…」

 

「本当に何にもしなかったのね⁇」

 

「へっ⁉︎あっ、あぁ‼︎勿論さ‼︎」

 

どうやら過ちは犯していなかったみたいだ

 

ビスマルクは何故か数秒俺を見つめた後、ベッドから立ち上がり、背伸びをした

 

「朝ご飯はどうする⁇軽く作ろっか⁇」

 

「横須賀で食べるよ。昨日の報告もしてない」

 

「そっ⁇」

 

顔だけ洗い、革ジャンを着て、真夏の早朝独特の肌寒さの中、ビスマルクの家を出た

 

「また来るのよ⁇」

 

ビスマルクは玄関でドアにもたれながら、俺を見送ってくれた

 

「今度は酒抱えてお邪魔するよ」

 

「気を付けてね‼︎」

 

「ありがとう‼︎」

 

ビスマルクに見送られ、俺は横須賀へと戻った…




レイがノーヘルでバイクを運転しているシーンがありますが、良い子は絶対真似しないで下さい


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173話 シマエナガ達の水浴び(1)

さて、172話が終わりました

今回のお話は、ひとみといよが通っている水泳教室のお話です

一緒に通っているメンバーも明らかになります


外は夏場にも関わらず、ほんの少し涼しさを感じる

 

朝方の薄明るい時間に外に出ると、何処か懐かしい風が吹いている

 

「あら。早起きさんね⁇」

 

窓際に座ってタバコを吸っていると、貴子さんが起きて来た

 

「今日は横須賀でひとみといよの水泳教室なんだ」

 

「マーカス君も泳ぐの⁇」

 

「あぁ。駆逐の子の面倒見てくれと頼まれてるんだ」

 

「晩御飯までには帰って来れそう⁇」

 

「腹減らして帰って来る‼︎」

 

「ふふっ‼︎今日はハンバーグだから、終わったらすぐ帰って来るのよ⁇」

 

「分かった‼︎」

 

「おあよ‼︎」

 

「おきた‼︎」

 

ひとみといよがちゃんと起きて来た

 

「ひとみちゃん、いよちゃん。今日は何するの⁇」

 

「よこしゅかれ、ぷ〜うはいう‼︎」

 

「ぷ〜うれおよう‼︎」

 

「そっかそっか‼︎じゃあ、朝ごはん食べないとねっ‼︎」

 

朝早くに基地を発つ人は、決まってコーンフレークを食べる

 

これなら腹持ちも良くて、すぐ食べられるからだ

 

「今日はチョコレートのコーンフレークよ‼︎」

 

「こ〜んふえ〜く‼︎」

 

「ちょこえ〜と‼︎」

 

ひとみといよは、机の前に座って、注がれて行くコーンフレークを眺めている

 

俺もタバコを消し、何時もの様にひとみといよの間に座り、コーンフレークを食べ始めた

 

「さくさくすう」

 

「しにゃしにゃのもあう」

 

コーンフレークを食べ終わり、二人をグリフォンに乗せる

 

「ぐいほん〜」

 

「きしょ〜」

 

二人はいつも通り、グリフォンの中に入っているきそを探そうとする

 

「今日は違うぞぉ〜」

 

《戦闘機の中も良いモンでち》

 

「でっち〜ら‼︎」

 

「れっち〜ら‼︎」

 

モニターに映ったゴーヤを見て、二人は突いて遊ぶ

 

《いていていて‼︎止めるでち‼︎》

 

「でっち〜、なんれぐいほんはいってうの⁇」

 

《今日は緊急の時にゴーヤも乗れる様にする訓練でち‼︎》

 

「おねあいしあすっ」

 

「おねがいしあすっ」

 

最近気付いたが、いよが段々濁点を上手く話せる様になって来ている

 

でっち〜、ぐいほん等、チョコチョコレパートリーも増えて来ている

 

成長している証だ

 

 

 

 

 

 

「あちゅい‼︎」

 

「とけう‼︎」

 

横須賀に着くと、完全に炎天下になっていた

 

水泳教室に行く前に駄菓子屋に立ち寄り、三人でラムネを飲む事にした

 

「バトルチョップ‼︎」

 

「「あとるちょっぷ‼︎」」

 

二人共、俺の真似をして股の間にラムネの瓶を挟み、ビー玉を落とす栓に向かって、掛け声と共にチョップを振り下ろす

 

「しゅあしゅあれてきた‼︎」

 

「つえた〜い‼︎」

 

噴き出したラムネが、二人の太ももにかかる

 

二人共早速ラムネを両手で持ち、喉を潤して行く

 

「かぁ〜‼︎」

 

「くぁ〜‼︎」

 

「お前らはオヤジか‼︎」

 

「のんら‼︎」

 

「からんこおん」

 

ひとみがラムネの瓶を振り、中のビー玉を瓶にぶつけ、音を出す

 

「よしっ。足柄に瓶返して、10円貰って来い‼︎」

 

「わかた‼︎あしがあ〜‼︎」

 

「らむねのんら‼︎」

 

二人の身長とほぼ同じのカウンターの前に立ち、ラムネの瓶を足柄に渡す

 

「はいっ‼︎ありがとう‼︎」

 

足柄はラムネの瓶を受け取り、二人に10円ずつ渡した

 

「あいがと‼︎」

 

「おいしかた‼︎」

 

「ふふっ‼︎また来てね‼︎」

 

二人共ちゃんとお礼を言ってから、それぞれのヒヨコの財布に10円玉を入れた

 

「すまん。ついでに棒のゼリー貰えるか⁇」

 

「大尉⁉︎」

 

二人にラムネの瓶を換金させた後、俺もラムネの瓶を返し、ついでにキンキンに冷えた棒のゼリーを貰う

 

「50円です」

 

「ほい」

 

棒のゼリーを貰い、ケツのポケットに入れた

 

「誰かにあげるの⁇」

 

「そっ。新しく基地に来た子になっ」

 

「えいしゃん、ぷ〜ういこ‼︎」

 

「ぷ〜うはいいたい‼︎」

 

ひとみといよは、俺の両足に捕まり、早くプールに行きたそうにしている

 

「そうだなっ。また来るよ」

 

「またね〜」

 

足柄と分かれ、二人を肩に乗せてプールを目指す

 

「先生の名前は覚えたか⁇」

 

「いくしゃん‼︎」

 

「よこしゅかしゃん‼︎」

 

「お友達はいるか⁇」

 

「あきつん‼︎」

 

「あきつん⁉︎」

 

「う〜じょ〜‼︎」

 

「う〜じょ〜⁉︎」

 

二人共、何と無く聞いた事がありそうな名前だが、あだ名で呼んでいるので分からない

 

プールに着き、入り口付近で二人を降ろす

 

「お着替え入れた袋持ったか⁇」

 

「「もった‼︎」」

 

二人共、ちゃんと着替えを入れた袋を持っている

 

「二人共来たのね‼︎」

 

水泳教室の先生である伊19が迎えに来てくれた

 

「イク。頼んだぞ」

 

「分かったなの‼︎イクにお任せなの‼︎」

 

イクは二人を連れ、施設に入って行った

 

「創造主も子煩悩になったモンでち」

 

二人を見送ると、建物の壁にもたれたゴーヤがいた

 

横須賀にも基地と同じカプセルがあり、叢雲や翔鶴がAIから再びボディを持つ時に使っているが、最初は何だかんだの登録で時間がかかる

 

今日はそれで来るのが少し遅くなったのだ

 

「ホラッ」

 

さっき買った、棒のゼリーをゴーヤに投げる

 

「イテッ‼︎」

 

受け取るかと思ったが、ゴーヤの顔にペチィ‼︎と当たり、ゴーヤの手元に落ちた

 

「これは何でち⁇」

 

「食べたら分かるさ」

 

「どれ。食べてみるでち」

 

ゴーヤは棒のゼリーを両手で持ち、真っ二つに割り、喉へと流し込み始めた

 

「なんつ〜ワイルドな食い方だ…」

 

「チマチマ食べるのはゴーヤの性分に合わんでち」

 

「…まぁいい。俺と来るか⁇俺と駆逐の子の面倒見て欲しいんだ」

 

「行くでち‼︎」

 

ゴーヤは産まれて初めて俺の手を握り、ゴーヤと共に施設に入った



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173話 シマエナガ達の水浴び(2)

ひとみといよは早速水着に着替えて、プールサイドに立った

 

「あたあし〜みずぎ‼︎」

 

「つくってもあった‼︎」

 

「良く似合っているであります‼︎」

 

「えぇモン貰うたなぁ‼︎」

 

ひとみもいよも、俺とグラーフが協力して作った水着を着ている

 

伸縮性が良く、水中での水の抵抗も少なく、尚且つ圧迫感をなるべく感じさせない競泳水着だ

 

紺色と、脇に白い縦線が入った水着の左下の脇部分に

 

IーXⅢ

 

と、書かれているのがひとみ

 

IーXⅣ

 

と、書かれているのがいよだ

 

これはローマの提案で、俺とグラーフはその部分に、平仮名でそれぞれの名前を入れようと思ったのだが、ローマが「こっちの方が新型感が沸くわ」と言ったので、そうしてみた

 

中々新型感が出ている

 

「まずは準備体操するの‼︎」

 

イクが四人の前に立ち、ストレッチと柔軟を始める

 

「んい〜」

 

「うい〜」

 

ひとみといよはイクの真似をして、プールサイドで足を大きく広げ、腕を上げて体を左右に曲げる

 

「いだだだだ‼︎」

 

「アカン‼︎つった‼︎」

 

黒いビキニに着替えたあきつ丸、そして”駆逐用のスクール水着”を来た龍驤がそれぞれ悲鳴を上げる

 

「準備体操でコレじゃあダメなの…」

 

「あきつんがんばえ〜‼︎」

 

「あきつんもいちょっろ〜‼︎」

 

ひとみといよの助太刀もあり、あきつんことあきつ丸は足を広げながら、体を前方に倒す事が出来た

 

「ふう〜…ありがとうであります‼︎」

 

「ここをこうすると…痛い⁇」

 

横ではイクが龍驤の腰を引っ張っている

 

「いでででで‼︎あっ‼︎」

 

龍驤の腰がパキンと鳴る

 

「いやぁ〜‼︎入った入った‼︎ありがとうな‼︎」

 

「まだ若いのに、それじゃあダメなの。さっ‼︎ゆっくりとプールに入るの‼︎」

 

準備体操を終え、全員プールにゆっくり入る

 

「つえた〜い‼︎」

 

「ゆっくい〜」

 

「ふう…」

 

「うがぼ…」

 

ひとみといよは基地である程度は泳ぎ慣れているので、自力でプカプカ浮いている

 

あきつ丸はとある部分が浮き袋代わりになり、普通に浮いている

 

問題は龍驤だ

 

足を入れ、いざプールに入ろうとした瞬間、龍驤は消えた

 

イクはすぐに龍驤を引き上げ、龍驤を抱き締めた状態で今日の目標を話し始めた

 

「今日はこのプールの端から端まで泳げる様になるの‼︎」

 

「わかた‼︎」

 

「やってみう‼︎」

 

「頑張るであります‼︎」

 

普段はヘルメットから酸素が補給されているが、今日は無い

 

それでも二人はやる気満々だ

 

あきつ丸も目標を貰い、意気込んでいる

 

「そんな殺生な‼︎」

 

龍驤だけは反論していた

 

龍驤は1mでさえ泳げない

 

「龍驤にはビート板を使って貰うの‼︎」

 

イクはプールサイドに手を伸ばし、置いてあったビート板を龍驤に持たせた

 

「助かるわ〜…ふぃ〜…」

 

「よいしょっ‼︎」

 

誰かがプールの反対側から飛び込み、水中を颯爽と泳ぎ、ひとみといよの前に来た

 

「ぷはぁ‼︎」

 

「「よこしゅかしゃん‼︎」」

 

現れたのは、あきつ丸と同じ黒いビキニに着替えた横須賀だ

 

「提督っ。ある程度二人は任せたの。イクは多分、二人に付きっ切りなの」

 

「分かったわ。さっ、ひとみちゃん、いよちゃん。私と泳ごっか‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

「ひとみもおよう‼︎」

 

横須賀はひとみといよの手を取り、ゆっくりと向こう岸に向かって泳ぎ始めた



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173話 シマエナガ達の水浴び(3)

更新が遅くなってしまい、申し訳ありません

とある方を迎えに行ってたので、更新が遅くなりました


「デッデデーン‼︎」

 

「デッデデーチ‼︎」

 

その頃、俺とゴーヤも水着に着替えていた

 

俺はトランクスタイプの水着に着替え、ゴーヤはいつものスクール水着から着替え、フリル付きのビキニに着替えていた

 

「よし行くぞ‼︎」

 

「行くでち‼︎」

 

早速二人でプールに向かう

 

「うおっ⁉︎」

 

「結構いるでち‼︎」

 

このプールは一つのプールを二つに区切っており、片方はひとみ達がいる教習用

 

此方側は遊ぶ為に解放されている

 

今は小さいエリアだが、その内遊ぶ専用のプールも造られるだろう

 

「軽く体操したら入るぞ‼︎」

 

「おいっちに〜、で〜っち‼︎」

 

「に〜に〜、で〜っち‼︎早いもん勝ち‼︎」

 

「待つでち‼︎」

 

本当に軽く体操をしただけで、俺達はプールに飛び込んだ

 

「ぷは‼︎」

 

「ぷはぁ〜‼︎」

 

久々に冷たい真水に浸かった気がする

 

普段は海水だから、こういった真水のプールは何だか新鮮味がある

 

「レイさんなのです‼︎」

 

「泳ぎに来たの⁉︎」

 

雷電コンビが浮き輪に乗って此方に来た

 

「そっ‼︎監視役は名ばかり…俺とゴーヤは遊びに来たのだぁ‼︎」

 

「そうなのでーち‼︎」

 

「その子は⁇」

 

「ゴーヤでち‼︎」

 

相変わらず短い自己紹介をするゴーヤ

 

「ゴーヤちゃんなのです‼︎」

 

「レイさんまったね〜‼︎」

 

「楽しめよ〜‼︎」

 

プールの中では、誰しもテンションが高めになる

 

「創造主。ゴーヤもひとみといよみたいにアレして欲しいでち」

 

「アレ⁇」

 

「メガネが二人をポーイってするやつでち‼︎」

 

「よ、よし‼︎」

 

早速ゴーヤを抱え、肩に乗せて投げる体勢に入る

 

「行くぞ‼︎シューーーーー‼︎」

 

「シューーーーー‼︎」

 

ゴーヤを人気の無い場所に投げる

 

軽く水柱が上がり、すぐに水面から顔を見せた

 

「ぷひ〜‼︎」

 

「どうだ‼︎」

 

「これは最高でち‼︎次からゴーヤもして貰うでち‼︎」

 

ゴーヤはそう言い残し、そのまま何処かに泳いで行った

 

「えいしゃん‼︎」

 

隣のプールから、いよが話し掛けて来た

 

「おっ‼︎いよ‼︎泳いでるか⁇」

 

「およいれる‼︎」

 

「あらレイ‼︎」

 

「おぉっ…」

 

ひとみの手を引きながら泳いで来た横須賀は、黒いビキニを着ている

 

だが、胸を全て隠し切れておらず、北半球から見える”それ”が如何にデカイか物語る

 

「流石はレイの子ね。もう手を離しても大丈夫みたいよ⁇」

 

「良く頑張ったな‼︎」

 

プールを分ける為の柵に手を掛けているいよの頭を撫でる

 

「んっ、ひとみもなれなれして‼︎」

 

「ひとみも良く頑張ったな‼︎」

 

「私も‼︎」

 

「横須賀はいっぱい食べて偉いな‼︎」

 

「なっ‼︎」

 

「二人を頼んだぞ」

 

「任せなさい‼︎」

 

いよは柵から手を離し、再び横須賀の手を取って泳ぐのを再開した

 

「マーカスさん」

 

「おっ‼︎山風‼︎」

 

今度は山風が来た

 

「あ、あのね。ボール、膨らまないの」

 

「貸してみ」

 

山風からシナシナのビニールボールを貰い、一気に膨らませる

 

「ホラッ‼︎」

 

「ありがとう」

 

珍しくニコッと笑う山風

 

山風は普段、表情が読み難い

 

だが、やはり笑うと年相応の少女の顔をしている

 

「山風は誰と来たんだ⁇」

 

「えと…お母さんと、朝風ちゃんと来たの」

 

「そっかそっか」

 

「ありがとう。またね」

 

山風も離れ、一人になる

 

こうも大勢いる中で一人になるのはかなり寂しい

 

「ん⁇」

 

ふと、監視員に目が行った

 

仕方ない…こうなりゃ奥の手だ‼︎

 

俺は監視員のいる見張り台の下から声を掛けた

 

「お〜い‼︎」

 

「あれっ⁉︎レイさん⁉︎ちょっと待ってて‼︎」

 

見張り台から、一人の女性が降りてくる

 

「交代交代‼︎」

 

「へ⁉︎あ、ちょっと‼︎」

 

「千代田はプールに入りなさい‼︎上官命令ですよ⁉︎」

 

「どういう意味よ‼︎」

 

「俺が飽きるまでプールで泳いどけ‼︎」

 

「感謝していいのやら…」

 

千代田をプールで泳がせ、俺はジュースを飲みながらプールの監視をする

 

やはりそこは艦娘だ

 

溺れる子は基本いない

 

「ちょい待ってぇな‼︎」

 

向こう側でビート板に掴まって泳いでいる龍驤を除いて…だがな

 

ふとゴーヤを見ると、駆逐の子の背中を押して早く泳がせたりとまぁまぁの人気者になっている所を見ると、中々楽しめている様だ

 

 

 

昼になると水泳教室が終わり、プールから出て来た

 

「レイさん‼︎そろそろ代わるわ‼︎」

 

千代田が帰って来た

 

「おっ‼︎サンキューなっ‼︎」

 

見張り台から降り、千代田にバトンタッチした後、ゴーヤを連れて脱衣所に来た

 

「楽しかったか⁇」

 

「また来たいでち‼︎」

 

そしてゴーヤは、何の恥じらいも無く俺の横で着替え始める

 

俺は俺で、いつもの事なので気にしない

 

「さっ‼︎かき氷でも食べるか‼︎」

 

「食べるでち‼︎」

 

着替え終えた後、脱衣所から出るとひとみといよ、そして横須賀が待っていた

 

「ただいま‼︎」

 

「たらいま‼︎」

 

「おかえり‼︎」

 

「おかえりでち‼︎」

 

俺はいよ、ゴーヤはひとみを抱き締める

 

「かき氷でも食いに行くか‼︎横須賀、お前も来い。お礼だ」

 

「ありがとっ」

 

「自分もかき氷を食べるであります‼︎ね⁉︎龍驤殿‼︎」

 

「あ〜…疲れたわ〜…せやな。かき氷でも食わなやってられんわ」

 

皆でスーぴゃ〜マーケットに向かい、中でかき氷でも買おうとした

 

「おっ‼︎」



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173話 シマエナガ達の水浴び(4)

スーぴゃ〜マーケットの前に出店が出ており、ノボリに”かき氷”と書いてあった

 

これはタイミングが良い

 

「いらっしゃい‼︎おっ、レイか‼︎」

 

「摩耶‼︎」

 

最近よく摩耶に会う

 

摩耶は夏場、引っ切り無しに働いているみたいだ

 

「夏は稼ぎ時だからな。んでっ、どれにする⁇」

 

「すとおえい〜‼︎」

 

「ひとみもそえ‼︎」

 

「俺はレモン‼︎」

 

「ゴーヤもレモンにするでち‼︎」

 

「あきつ丸、龍驤。アンタ達は⁇」

 

「奢ってくれるんか⁉︎ほな、抹茶の練乳がけや‼︎」

 

「自分はこの”ぶるぅはわい”にするであります‼︎」

 

「じゃあそれと、私はメロン‼︎」

 

「ストロベリー2つとレモン2つ。抹茶の練乳とブルーハワイとメロンだな‼︎分かった‼︎そこに座って待っててくれ‼︎」

 

ベンチに座り、かき氷を待つ

 

「ホンマ、見るたんびにエェ男やなぁ〜」

 

「提督が羨ましいであります」

 

いつの間にか龍驤とあきつ丸が両サイドに座っている

 

ひとみ、いよ、ゴーヤは、いつの間にか横須賀の隣に座っている

 

「アンタ達も真面目にしてればその内見つかるわよ」

 

お前が言うな‼︎と、言おうと思ったが、ひとみといよの前だから止めておこう

 

 

「待たせたな‼︎」

 

それぞれのかき氷が来た

 

「いたあきます‼︎」

 

「いたあきます‼︎」

 

ひとみといよが小さく手を合わせて”いただきます”と言う仕草を見て、横須賀の顔が蕩ける

 

二人がぎこちない手つきでスプーンを持ち、口へ運ぶ仕草を見て、龍驤とあきつ丸の顔の筋肉も緩くなる

 

「ウチもあんな子できるやろか…」

 

「きっとできるであります。龍驤殿なら…」

 

「そうやって食べるでちか…なるほど…」

 

ゴーヤはかき氷も初

 

ひとみといよが食べるのを見て、自分も食べてみる

 

「ぐわっ‼︎い、いでででで‼︎」

 

ゴーヤが頭を抑え始めた

 

「今のは何でち⁉︎」

 

「一気に食うからやん‼︎」

 

「かき氷はゆっくり食べるでありますよ」

 

ゴーヤは毒を盛られたと勘違いしているみたいだ

 

初めて食べるかき氷は、冷たく甘く、ゴーヤは一気に掻き込んでしまった

 

俗に言う、アイスクリーム頭痛が来たのだ

 

「でも、中々美味しいでち‼︎」

 

ゴーヤはかき氷も気に入ったみたいだ

 

「よこしゅかしゃん、え〜ってして⁇」

 

「え〜…」

 

いよに言われるがまま、横須賀は舌を出す

 

「みおいいお‼︎」

 

「あきつんも、え〜ってして⁇」

 

「ろうれありあるら⁇」

 

「あおいお‼︎」

 

横須賀とあきつ丸の舌の色を見て、ケラケラ笑うひとみといよ

 

「れっち〜とえいしゃんも、え〜ってして⁇」

 

「え〜…」

 

「え〜…」

 

「きいお‼︎」

 

「あっきっき‼︎」

 

俺とゴーヤの舌を見て更に笑う二人

 

「う〜じょ〜は⁇」

 

「え」

 

龍驤も舌を出すが、あまり色は付いていない

 

「みおいいおちあう」

 

「抹茶のかき氷はな、舌に色付かへんねん」

 

「なうほお…」

 

「ひとみ、ついかああっちゃにすう‼︎」

 

ひとみといよのケラケラ笑いは横須賀も釣られる様で、いつも以上に笑顔になっている

 

 

 

 

「ごっそうさん‼︎」

 

「ごちそうさまであります‼︎」

 

「気を付けて帰るんだぞ⁇」

 

「ありがとうな‼︎」

 

「またであります‼︎」

 

かき氷を食べた後、龍驤とあきつ丸と別れ、俺達も帰路に着こうとした

 

「かにしゃんら‼︎」

 

「かにしゃん⁇」

 

ひとみといよが横須賀と手を繋ぎながら、瑞雲のストック蟹の水槽の中を覗いている

 

「たいほ〜のしゅきなろ〜ぶつ‼︎」

 

「ちょっきんちょっきん‼︎」

 

「ふふふっ…」

 

横須賀は蟹を見るのではなく、水槽の中を見ているひとみといよを見続けていた

 

「横須賀さんは随分子供好きでちな」

 

「まぁなっ…こう言う日位しか、年相応の母親にならせてやれないからな」

 

横須賀の年齢で言えば、本当に丁度ひとみといよ位の子供がいるはずだ

 

ひとみといよを連れて来た時位、アイツに世話を任せてやりたい

 

今日のプールの時、横須賀を見てそれを再確認した

 

「かにしゃんまたな〜」

 

「さいなあ〜」

 

「ごめんねレイ‼︎」

 

「いいさっ」

 

そして、横須賀と一緒に居るひとみといよを見て思う

 

いつもはたいほうと同じ位甘えん坊で、いつの間にか両肩に乗っているのに、横須賀と一緒に居る時はずっと横須賀の所に居る

 

二人も横須賀が好きな様だ

 

 

 

グリフォンに乗り、ひとみといよにシートベルトとヘルメットを被せるまで、横須賀は二人にベッタリくっ付いていた

 

「シートベルトはした⁇」

 

「ちた‼︎」

 

「ヘルメットはちゃんと被った⁇」

 

「かうった‼︎」

 

「ん…」

 

最後の最後で、横須賀は一瞬悲しそうな顔をした

 

「すぐ遊びに来るさ」

 

「そうね…待ってるわ⁇」

 

いつもの様に、飛ぶ前に横須賀と口付けを交わす

 

「「おぉ〜‼︎」」

 

目の前で大人のキスをしている俺達を見て、二人は小さく歓声を上げる

 

「さっ。キャノピーを閉める」

 

《挟まるでちよ》

 

横須賀がタラップから飛び降り、グリフォンを見つめる

 

「横須賀にバイバイしてやってくれ」

 

「「あいあ〜い‼︎」」

 

キャノピー越しから横須賀が二人に手を振るのが見えた

 

横須賀がひとみといよを愛おしそうに見つめたまま、グリフォンは横須賀から飛び立った…

 

 

 

「相変わらず綺麗な機体だなぁ…」

 

グリフォンが飛び立ってすぐ、工廠から顔を見せた朝霜が横須賀の隣に立っていた

 

「そうね…乗ってるパイロットも良い人なのよ⁇」

 

「…明日は雨だな」

 

「冗談言わないのっ‼︎さっ‼︎晩御飯の準備するわよ‼︎朝霜、手伝って頂戴⁇」

 

「あぁったよ」

 

後に朝霜は語る

 

この日の母さんは、いつにも増して美しかった…と



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174話 ハンマー榛名、唯一の悩み(1)

さて、173話が終わりました

今回のお話は、久々のハンマー榛名のお話です

何かを悩んでいる榛名…

原因は一体何なのか⁇


榛名は時々目をこする

 

学生の頃から、時々目頭を押さえて前を睨み付ける

 

日中でも稀にあるが、頻発するのは疲労が溜まって来た夜に多い

 

別に眠たい訳ではなさそうなのだが…

 

「眠たいの⁇」

 

「んな訳じゃねぇダズル」

 

いつもそう言ってはぐらかす

 

「何見てるんダズル⁇」

 

「ん〜⁇HAGYとか、ニムの装備の書類かな⁇」

 

「”ピンク色”の奴がいるダズル」

 

「…榛名⁇」

 

榛名の目線の先には、ニムの艤装のモデルとなった、横須賀のイクちゃんの写真がある

 

だが、榛名は不思議な事を言った

 

イクちゃんの写真を見て”ピンク色”と言ったのだ

 

「ピンク髪は淫乱と言うダズル‼︎コイツも多分そうダズル‼︎」

 

「榛名…」

 

「何見てるニム⁇あっ‼︎イクちゃんニム‼︎」

 

「淫ピダズル」

 

「イクちゃんはピンクじゃないニム。水色ニム」

 

「…」

 

榛名は急に黙ってしまった

 

「…うおりゃ‼︎」

 

「あがっ‼︎」

 

「うりゃあ‼︎」

 

「ニムっ‼︎」

 

榛名はいきなり二人の後頭部を殴り、気絶させた

 

「あ…危ねぇダズル…危うくバレる所ダズル…」

 

榛名は逃げる様に執務室から出た

 

 

 

 

「はぁ…」

 

榛名が逃げた先はスカイラグーン

 

カウンター席に座り、カプチーノを淹れて貰う

 

「なんだ。またたたイたのか」

 

「オメェには関係ねぇダズル」

 

「はんま〜しゃんら‼︎」

 

スカイラグーンには、たまたまひとみといよがいた

 

「オメェ達は分かりやすくて良いダズル」

 

ひとみといよは、いつもの動きやすい灰色のワンピースを着ていた

 

榛名はそっと二人の頭を撫でた

 

「はんま〜しゃんおなやみ⁇」

 

「いよたちがきいたげう‼︎」

 

「ふふっ…二人にはまだ早いダズルよ⁇」

 

「あぁ、いました。榛名さん。帰りましょう⁇」

 

「ハギィ…」

 

心配したHAGYが迎えに来てくれた

 

「提督が悪いんダズル。あとニムも」

 

「私が叱っておきます。さっ、お家に帰りましょう⁇」

 

「ん…」

 

自分の身長の倍はある榛名の手を引き、HAGYはスカイラグーンから出た

 

 

 

 

 

次の日…

 

単冠湾では演習が行われた

 

相手はトラック基地のダブルドラゴンコンビ

 

対する相手は榛名とニム

 

「全艦載機、発艦‼︎」

 

「爆撃機は全弾投下して‼︎」

 

榛名に向かって落とされる爆弾の雨

 

榛名は仁王立ちで身構え、大量の爆弾が直撃する

 

「んなモン効かんダズル‼︎」

 

「な…」

 

黒煙の中から出て来た全く無傷の榛名

 

蒼龍と飛龍に歯を見せて笑った後、振袖からハンマーを取り出した

 

「おいニム‼︎必殺技ダズル‼︎」

 

「オッケー‼︎」

 

海中から飛び出て来たニムは、榛名のハンマーに立った

 

「どっち狙う⁇」

 

「”赤色”の方ダズル‼︎」

 

「右か左か‼︎」

 

「左ダズル‼︎」

 

左には蒼龍がいる

 

「よしっ‼︎」

 

「行くダズル‼︎うぉりゃあ‼︎」

 

「いっけぇ〜‼︎」

 

榛名がハンマーを振ると、ニムが飛んで行った

 

ニムは蒼龍に当たる少し前に、頭突きの体勢に入った

 

「ひっさーつ‼︎スーパーミラクルウルトラニムニムアイアンヘッドォ‼︎」

 

要は頭突きである

 

ニムは普段榛名に頭をハンマーで殴られまくっている為、頭蓋骨がカチカチになり、並大抵の打撃ではビクともしなくなっている

 

「うわぁ‼︎」

 

ニムの頭突きは蒼龍の額に当たり、大破判定が出る

 

「ぬっふふふ…」

 

「やったね榛名‼︎」

 

このスーパーミラクルウルトラニムニムアイアンヘッドの怖い所は破壊力もそうだが、当たってすぐにニムが榛名の所に帰って来る事

 

簡単な話、ニムが気絶するまで、榛名は何度でも遠距離技を使う事が出来る

 

そして攻撃しなくとも、ニムを一撃で敵の中心部に放り込める

 

「さぁ、もっぱつ行くダズル‼︎」

 

「こ、降参降参‼︎」

 

飛龍が白旗を上げ、演習が終わる

 

演習が終わり、基地に戻るまで、ニムはハンマーに座っていた

 

「ダズル」

 

「あ⁇」

 

「もしかしてダズルは色が分からんニム⁇」

 

ニムはようやく気付いた

 

実は榛名、疲れて来ると色があまり分からなくなるのだ

 

平時でも、確定で分かるのは白色と黒色位

 

ハンマーをダズル迷彩に仕上げているのも、自分が絶対に分かる色だからである

 

鮮やかな色になるに連れ、どんどん分からなくなる榛名の目…

 

辛うじて分かるのは、昨日ひとみといよが着ていたワンピースの色位である

 

「おいニム」

 

「ニムぅ⁇」

 

「…蒼龍は何色ダズル」

 

「…蒼龍は緑色ニム。飛龍はオレンジ色ニム」

 

「分かったダズル」

 

「ありがとうニム‼︎」

 

基地に着き、榛名はニムを降ろす

 

榛名はハンマーを畳み、振袖の中に仕舞い、自然とニムと手を繋ぎ、ワンコとトラックさんのいる食堂に向かって歩き始めた

 

「そうだ‼︎これからはニムがこうして教えてあげるニム‼︎」

 

「ニムに悪いダズル」

 

「ダズル」

 

「あ⁇」

 

「ダズルは謙遜する必要ないニム。ニムはいつだってダズルの味方ニム‼︎」

 

「一丁前に言う様になったダズルな」

 

「ニムニムニム…」

 

口ではそう言う榛名だが、ニムの笑顔を見て、嘘は吐いていないと確信していた



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174話 ハンマー榛名、唯一の悩み(2)

食堂に着くと、既に蒼龍と飛龍がケーキを食べていた

 

「おい提督‼︎テメェなに一人だけケーキ食ってるダズル‼︎」

 

「榛名のもあるよ‼︎ニムもおいで‼︎」

 

榛名はワンコの左側に座り、また左側にニムも座る

 

「はいっ‼︎今日はお疲れ様‼︎」

 

「あはっ‼︎イチゴちゃんダズル‼︎」

 

榛名とニムの目の前に置かれたのは、クリームたっぷりのショートケーキとブルーベリーのケーキの二種類が置かれた

 

作ったのは勿論トラックさん

 

「…イチゴちゃんは赤色ニム」

 

「イチゴちゃんも真っ赤っかで美味しそうダズル‼︎いただくダズル‼︎」

 

榛名は左手でフォークを持ち、ケーキを食べ始める

 

榛名は両利きであり、いつもお箸やフォークが置いてある方の手で、それ等を持って食べる

 

「イチゴちゃん美味しいダズル‼︎」

 

「ニムはブルーベリーニム‼︎」

 

榛名もニムもご満悦

 

トラックさんもそんな二人を見てご満悦の様子

 

「榛名ちゃんには勝てない相手はいるのかい⁇」

 

「いるダズル。大佐の所の貴子ダズル」

 

そこにいた全員から”あぁ…”と、声が漏れる

 

「力としても、女としても勝てん相手ダズル」

 

再び全員からため息が漏れる

 

横須賀分遣基地の提督である大佐の嫁…貴子さん

 

褐色で巨乳なだけでも男を堕とせるのに、面倒見の良さと家庭的な性格のお陰で、榛名の様なチョット大人な艦娘から見てもかなり立派な女性である

 

…そして、空で無類の強さを誇る大佐を唯一撃墜したのも彼女である

 

貴子さんの事は反対派の中でも度々噂に上がり

 

・トラックさんが脱帽するレベルの料理の腕

 

・榛名を感服させる程の腕力

 

・横須賀以上の包容力

 

・怒ったら呉さん以上に怖い

 

等々…

 

大体は褒め言葉が出て来る

 

「ははははは‼︎シチューしか作れんダズルは何一つ勝てんニム‼︎イテェ‼︎」

 

榛名は黙ったまま、ニムのつむじにゲンコツを落とした

 

「半分は後で食べるダズル。美味しいモンはゆっくり食べるダズル」

 

「今日中には食べてね⁇」

 

「分かったダズル」

 

榛名は冷蔵庫に半分残したケーキを入れた

 

「では、ありがとうございました」

 

「またお相手してね‼︎」

 

「楽しかったわ‼︎」

 

数十分後、トラック基地の連中が高速艇で基地を去る

 

ワンコは執務室に戻り、ニムは自室に戻った

 

食堂には榛名一人だけが残った

 

「お疲れ様、榛名」

 

「ハギィ」

 

洗濯物を干し終えたHAGYが戻って来た

 

「ハギィはトラックさんのケーキ食べた事あるダズル⁇」

 

「いえ…でも、とても美味しいのですよね⁇」

 

「これをやるダズル」

 

榛名は先程残しておいたブルーベリーのケーキを冷蔵庫から出し、HAGYの前に置いた

 

「とっても美味しいんダズル」

 

「頂いて良いのですか⁇」

 

「ハギィに食べて欲しいダズル」

 

「では、お言葉に甘えて…頂きます」

 

「ふふふ」

 

HAGYの向かい側の席に座り、頬杖をつきながらHAGYを見る榛名

 

榛名はこうしてHAGYを見るのが好きだ

 

身近にいる母親の代わりの様な存在である彼女に対して、榛名は恋心に近い感情を向けていた

 

健康を気にして本当に美味しい物を食べた事が少ない彼女を連れ出して横須賀の繁華街に行ったり、色々な遊びを一緒にするのも大体彼女である

 

霧島やニムも付き合ってくれるが、一番最後まで榛名に着いて行けるのは彼女しかいない

 

榛名は身近にも越えられない相手が居たのだ

 

「お腹イッピーです‼︎」

 

「提督には内緒ダズルよ⁇」

 

「えぇ‼︎内緒です‼︎」

 

そんなHAGYも、段々と榛名に甘える様になって来ている…

 

 

 

 

そんな二人の様子を、食堂の陰から一人の少女は見ていた

 

「ダズルは良い奴すぎるニム…こうなったら…」



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174話 ハンマー榛名、唯一の悩み(3)

タブレットの音が鳴る

 

「誰だ⁇」

 

確認すると相手は単冠湾のニムだ

 

リヒター〉どうした、珍しいな?

 

ニム〉治して欲しい奴がいるにむ

 

リヒター〉そっちへ行こう。単冠湾で良いか⁇

 

ニム〉急を要する怪我じゃないにむ。実は…

 

 

 

ニムから全てを聞いた

 

榛名はどうやら色弱の様だ

 

単冠湾にもあるカプセルに入っても治らないと見ると、きぬとはまた違う症状みたいだ

 

「榛名さんがどうかしたの⁇」

 

きそにメールのやり取りを見せた

 

「じゃあ…今までずっと分からないまま戦ってたって事⁉︎」

 

「そう言う事になるな…」

 

「榛名さん…」

 

きそは榛名の事になると、少しムキになる傾向がある

 

榛名は産まれて初めて自分の造った物を評価してくれた人でもある

 

それに対しての恩返しでもあるのだろう…

 

その日、きそは一晩工廠から出て来なかった

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「レイ‼︎レイ起きて‼︎」

 

きそが俺を揺さ振る

 

「ん…んが…」

 

「んがじゃないの‼︎単冠湾に行きたいんだ‼︎」

 

「分かった分かった…8時間したらな…」

 

そう言って寝返りを打つと、きそは大きく息を吸い込んだ

 

「起きろぉぉぉぉおおお‼︎」

 

「どわぁ‼︎分かった分かった‼︎単冠湾だな⁉︎」

 

きその雄叫びで目を覚まし、朝ご飯も食べないまま、グリフォンに乗る

 

「レイ、これ持ってて‼︎」

 

きそはグリフォンに入る前に、俺に楕円形のケースを二つ渡して来た

 

「なんだこれ⁇」

 

「内緒っ‼︎壊さないでね⁉︎」

 

きそは嬉しそうな目を俺に見せた後、グリフォンに入った

 

「ふっ…」

 

ケースを開けて中身を見た後、俺は大体の事を理解した

 

 

 

 

 

単冠湾に着くと、ワンコが迎えてくれた

 

「いらっしゃいませ、レイさん‼︎きそちゃん‼︎」

 

「すまん、朝飯食わしてくれ‼︎限界だ‼︎」

 

「畏まりました‼︎」

 

俺の腹の非常事態を聞いて、ワンコに食堂に案内された

 

「ゴメンね、レイ…」

 

きそは食堂に向かって行く俺に謝った後、榛名を探し始めた

 

「いっちにち一発、みっかで三発‼︎」

 

榛名はすぐに見付かった

 

HAGYが洗濯物を干している少し離れた場所で、ハンマーを素振りしていた

 

「榛名さん‼︎」

 

「きそ‼︎」

 

榛名はハンマーを降ろし、きそを抱き締める

 

「相変わらず凄い圧だ…」

 

榛名の巨乳で押し潰されて、きそは息が出来なくなる

 

「榛名さん。今日はプレゼントがあるんだ‼︎」

 

「きそから貰うのは何だって嬉しいダズル‼︎」

 

「これ‼︎」

 

きそは片方のケースを榛名に渡した

 

「これは何ダズル⁇」

 

「開けてみて‼︎」

 

ケースを開けると、中にはサングラスが入っていた

 

「おぉ‼︎」

 

「掛けてみてよ」

 

「ふふふ…」

 

榛名はきそから貰った”サングラス”を掛ける

 

ただのサングラスと思っていた榛名は、数秒後、大きく後悔する事になる

 

「似合ってるダズル⁇…ん⁇」

 

「似合ってるよ‼︎セレブな感じが出てる‼︎」

 

「ん⁇ん⁇」

 

榛名は何度もサングラスを外したり掛けたりを繰り返しながら、きそを見たり、洗濯物を干しているHAGYを見る

 

「色が分かるダズル…」

 

榛名はサングラスを掛けたまま、ポロポロと涙を流す

 

「それは色彩補助のメガネなんだ」

 

「あはっ…キレイキレイダズル…」

 

産まれて初めて見る、ほぼ完璧な色鮮やかな世界…

 

「お花ちゃんはピンクダズル」

 

足元に咲いていた花はピンク色

 

「お空は水色ダズル」

 

空は綺麗な水色

 

「ハギィのブラジャーは紫色ダズル」

 

HAGYの大きな胸を覆うブラジャーは紫色

 

榛名の世界に、色が戻って行く…

 

「きそ、本当に貰って良いんダズル⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

榛名は無言できそを抱き締めた

 

「きそは緑色…覚えたダズル…」

 

「あと、コレは予備のメガネ。もし壊れたら言ってね⁇」

 

「んっ…」

 

色彩補助のメガネを掛けた榛名は、かなり貫禄が出ている

 

パッと見はグラサンであり、榛名に良く似合っている

 

榛名はメガネを掛けたまま、きそと共に執務室に戻って来た

 

「帰ったダズル‼︎」

 

「おっ、サングラス貰ったの⁇」

 

「そんな所ダズル」

 

榛名は早速ワンコの手元にあった書類を手に取った

 

「イクは水色ダズル」

 

「榛名…」

 

ワンコは榛名の目の事を知っていた

 

榛名の気に触れてしまうので、今まで言い出せずにいたのだ

 

「榛名、きそちゃんとレイさんにお礼言った⁇」

 

「きそ、レイ。ありがとうダズル‼︎」

 

「本当にありがとうございます‼︎」

 

「良かったな、きそ」

 

「うんっ‼︎」

 

榛名の役に立って、きそは御満悦の様子

 

この色彩補助メガネは後日、横須賀で試作品第二号が造られ、商品化が決定した




色彩補助メガネ…きそが造ったメガネ

きそが榛名の為に造ったメガネ

外見はサングラスの様で、デザインにもこだわっている

これを掛ける事で色彩感覚に補正が入り、限りなく原色に近い色を見る事が出来る

現在、ホワイトアウト症候群の患者に配布され始めている


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175話 ピクセルガール(1)

さて、174話が終わりました

今回のお話は、ちょっと不思議な少女のお話です


その日、横須賀の格納庫でクラウディアがメンテナンスに入っていた

 

妖精達が機体の各部位の点検に移り、俺はAIの方のクラウディアのメンテナンスに入っていた

 

「クラウディアには感謝しなくちゃね⁇」

 

「そうだな。一度命を救われてるしな」

 

きそと共に、機体の方のクラウディアを見る

 

《お褒め頂き、光栄です》

 

クラウディアが話す度に、PCに表示された円形のメーターが上がったり下がったりする

 

一時的にPCに移ったAIの方のクラウディアが俺達に話し掛けて来た

 

「そう言えばクラウディアの産まれた経緯聞いてないや」

 

きその疑問は良い疑問だ

 

俺はAIを産む時、理由は必ず要ると思っている

 

それは人間がより快適に暮らせる様になる等、何だって良い

 

極論を言えば、破壊の為に産んだって構わない

 

それが産まれた理由なら、その子にだって産まれて来た意味はある

 

一番情けないのは、何の理由も無くAIを産む事だ

 

俺の産んだAIだけかも知れないが、AIはふとした瞬間、産まれた意味を考える

 

その時に産まれた意味を説明すると、AIはその為に今以上に一生懸命尽くしてくれる様になる

 

現に俺はアイリスをコンシェルジュ代わり、タナトスを破壊の為に産んでいる

 

そう。AIは元来、人間の私利私欲の為に存在する

 

後は周りの人間が如何にして接してやるかが問題だ

 

そして、クラウディアが産まれた理由は…

 

「クラウディアは横須賀が考えたAIなんだ」

 

「お母さんが⁇」

 

「そっ。忠実に動いて、私をサポートしてくれて、絶対に裏切らないAIを産んで欲しいってな」

 

《私のパートナーの設定は創造主様ではなく、ジェミニ・スティングレイ様となっています》

 

クラウディアも本来はアイリスと同じく、コンシェルジュ目的で造られたのだ

 

《現在、ジェミニ様から創造主様へ”貸し付け”をしている状態です》

 

「あ、あはは…お母さんが言いそうだ…」

 

「いいかクラウディア。真似しちゃいけないと思ったら、真似しなくてもいいんだぞ⁇」

 

《畏まりました。次回から言葉を選びます》

 

「良い子だっ」

 

クラウディアは勤勉な子だ

 

人から沢山の事を学んで、沢山記憶する…

 

 

 

 

”大体終わったで‼︎”

 

”えぇ機体や‼︎”

 

メンテナンスを終えた妖精達が足元に来た

 

「サンキューな。お菓子食うか⁇」

 

”食べる‼︎”

 

”ちょうだい‼︎”

 

妖精達を机の上に乗せ、小皿の上にクッキーを数枚置き、早速クッキーを食べ始めた

 

「さてっ‼︎俺達も何か食うか‼︎」

 

「うんっ‼︎クラウディア、お散歩するなら横須賀のネットワークだけだよ⁇」

 

《畏まりました。行ってらっしゃいませ》

 

きそがクラウディアに釘を刺した後、俺ときそは昼ご飯を食べる為に格納庫を出た

 

 

 

 

俺ときそが去った後、クラウディアは電子の海を散歩していた

 

散歩と言っても、きそに言われた通り、ちゃんと基地内のネットワークのみに抑えている

 

AIとは言え、クラウディアだってお年頃。一人でお出掛けしたい

 

《これは…創造主様の秘蔵ファイル…》

 

クラウディアは俺の秘蔵ファイルを開いた

 

《グラーフ様の写真…》

 

そのファイルの中には、グラーフの写真が沢山入っていた

 

極々稀に誰も居ない時にスライドショーで見る事が些細な楽しみだったが、クラウディアに簡単にバレた

 

《…見なかった事にしましょう》

 

クラウディアはファイルをそっと元の位置に戻した

 

《色んなファイルがあります》

 

横須賀の基地には色んなファイルがあった

 

ほとんど開けられないが、幾つかは開ける事が出来た

 

その中の一つに”妙高”と名付けられたファイルがあった

 

クラウディアはそのファイルを開けてみた

 

《わぁ…》

 

中には文章で埋め尽くされたメモが出て来た

 

《…》

 

そのメモには、恋愛描写が沢山出て来る小説が書いてあった

 

クラウディアはそのメモに夢中になった

 

粗方読み終わった後、クラウディアはメモをファイルに仕舞い、元の位置に戻した

 

《これは⁇》

 

次に目に入ったのは、何かの内部システム

 

そこにはモデルを打ち込むか、写真を入れる空欄があり、横には細かな設定が出来る小さな空欄が並んでいた

 

クラウディアは興味本位でそれに触れてみた



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175話 ピクセルガール(2)

”パスワードを入力して下さい”

 

《…》

 

クラウディアはその時、初めて自分以外のシステムに興味が湧いた

 

悪いとは思いつつ、システムのパスワードを開示する

 

”モデルを設定して下さい”

 

《モデル…手本…模範…》

 

クラウディアは考えた

 

自分の模範になるのは、パートナーである横須賀

 

クラウディアは自分の記憶から、横須賀の写真を抜き、空欄に入れる

 

”初期設定の髪型を設定して下さい”

 

《髪型…》

 

クラウディアの頭の中にあるのは、モデルとした横須賀の写真

 

クラウディアは訳を分かっていないまま、髪型を決める

 

クラウディアはその後、そのシステムから色々聞かれる度に全て答えた

 

年齢…1歳

 

身長…10840ピクセル

 

体型…500GB

 

クラウディアは勤勉な子だが、どこか抜けている所がある

 

途中から自分の事を書き始めていた

 

システムがどんどん立体モデルを創り上げて行き、最後の質問に来た

 

”胸のサイズを設定して下さい”

 

クラウディアはふとグラーフの写真を思い出した

 

グラーフは大きい物を持っている

 

ただ、出来上がったモデルを見る限りグラーフと同じサイズにすると、かなり不釣り合いになる

 

《小さくもなく、大き過ぎない様にお願い出来ますか⁇》

 

モデルが変更され、年頃の女の子が表示された

 

”此方で建造を開始致します”

 

《建…あ、ちょっと‼︎》

 

クラウディアが弄っていたのは建造装置だった

 

ようやく事の重大さに気付いたクラウディアは停止システムにアクセスしようとするが、時既に遅し

 

建造の進展具合のバーを見ながら、クラウディアは焦っていた

 

”AIの移植を開始します”

 

《あぁっ‼︎》

 

建造装置のシステムは近くにいたクラウディアを移植するAIと勘違いし、建造装置の中に放り込んでしまった

 

《やめて下さい‼︎誰か‼︎》

 

この時に限って、いつもファイルを解除しまくっているタナトスが居なかった

 

《消えちゃいます‼︎あぁ…》

 

 

 

 

 

「う〜ん、美味しかったぁ‼︎」

 

おんどりゃあで広島焼きを数枚食べて、きそは御満悦

 

きそは唇の周りをペロペロしながら、俺と手を繋いで格納庫に戻って来た

 

格納庫に戻る道中、激しい爆発音が響いた

 

「な、なんだ⁉︎」

 

「敵襲⁉︎」

 

爆発音の後、すぐにうっすらと黒煙が上がる

 

格納庫の方からだ‼︎

 

「あわわわわ…」

 

二人共頭によぎったのは、クラウディアの不備だ

 

ミサイルの暴発や、機体が破壊されたのかも知れない

 

「行くぞ‼︎」

 

「うん‼︎」

 

きそと共に格納庫に急ぐ…

 

「あ、あれ⁇」

 

格納庫に入ってすぐ、クラウディアの確認をする

 

だが、特に異常は見当たらない

 

「何だったんだ…⁇」

 

「分かんないや…クラウディアに聞いてみよう。クラウディア‼︎」

 

《…》

 

きその応答に答えたのは、ノイズ音だけ…

 

「クラウディア‼︎応答して、クラウディア‼︎」

 

《…》

 

「クラウディアがいない…」

 

きその顔が青ざめる

 

「誰か来てくれ‼︎」

 

格納庫の横に建っている、建造装置がある施設から悲鳴が聞こえて来た

 

「クラウディアは後だ‼︎俺が何とかする‼︎」

 

「わ、分かった‼︎」

 

急いで隣の施設に移動する

 

「どうした⁉︎」

 

「たっ、大尉‼︎」

 

物陰に隠れていた工兵の近くに寄り、目線の先を見る

 

「う…ぐ、あ…」

 

「な…」

 

爆発の原因が分かった

 

数個ある建造装置の内の一つが破壊され、煙を上げている

 

そして、溶液に塗れた素っ裸の女の子が呻き声を上げながら、辺りをフラフラ歩いていた

 

見た所、体のサイズ的に駆逐艦の様だ

 

「あの子が破壊したの⁇」

 

「えぇ。いきなり建造装置の中に現れて、内部から…」

 

「いきなり建造装置から出て来た…⁇」

 

建造装置は外部から弄らなければ、臓器であろうと絶対に生成出来ない

 

誰も弄っていないのに、勝手に産まれて来る事はあり得ない

 

考えろ…

 

好戦派の妨害工作か…

 

それとも、ネットワークの海からパスワードをこじ開けて…

 

…パスワードをこじ開けて⁇

 

「まさか…」

 

だが、もしこれが本当なら、全て辻褄が合う

 

今目の前でフラついているのは、もしかしたらクラウディアなのか⁇

 

クラウディアなら並大抵のパスワードなら簡単にこじ開けられる

 

「ここだ‼︎」

 

異変に気が付いた憲兵隊が来た

 

「けん、ぺい、たい…」

 

「捕獲しろ‼︎マーカス大尉に引き継ぐ‼︎」

 

「「「はっ‼︎」」」

 

憲兵隊が女の子の捕獲にかかる

 

「は…離せぇ‼︎」

 

「ぐわっ‼︎」

 

「うわっ‼︎」

 

女の子は掴み掛かって来た憲兵隊をいとも簡単に壁へ叩き付けた

 

「フーッ、フーッ‼︎」

 

「こ…こいつ…」

 

憲兵隊の隊長の体が震える

 

憲兵隊に敵意剥き出しの少女は、近くに置いてあった試作型の艤装に目が行く

 

「軽巡の艤装だ…」

 

「どうするつもりだ⁇」

 

女の子の目線の先には、軽巡の子が白兵戦をする為に造った、対艦刀が床に転がっている

 

過去に天龍と言う艦娘が使っていたのをモデルにし、造り上げた物だ

 

だが、あれは駆逐艦の子には重すぎる為、持てたとしても攻撃に転用出来ない

 

すると、女の子は離れた対艦刀に向けて手を伸ばした

 

「えぇ〜…‼︎」

 

女の子の手の中に、同じ対艦刀が生成されて行く…

 

「…プログラム再構築。内部データを軽巡洋艦に切り替え完了」

 

「…」

 

きそが驚く中、俺は確信した

 

あれはクラウディアだ

 

クラウディアには適応変化機能が備わっている

 

戦う度に強くなり、横須賀に多くを手助けする為にそのプログラムを作成したのだが、クラウディアは予想外の進化を遂げていた

 

クラウディアは任意で艦種を変えられる

 

それも適材適所で…

 

「…」

 

「くっ…」

 

クラウディアは対艦刀を持ち、ジリジリと憲兵隊の隊長に歩み寄る

 

「クラウディア‼︎」

 

「‼︎」

 

女の子は反応を示した

 

やはりクラウディアだった

 

「創造主様…」

 

「人を傷付けちゃダメだろ⁇」

 

「申し訳ありません…」

 

クラウディアの手の中から対艦刀が消えて行く…

 

「それはデータの塊か⁇」

 

「適応変化機能の一環です」

 

「そっか」

 

「ま、マーカス大尉…」

 

「悪い事をしたな…」

 

「い、いえ‼︎無事解決出来て良かったです‼︎では‼︎」

 

憲兵隊は逃げる様に去って行った

 

「ホラッ、これ着ろ」

 

着ていた革ジャンをクラウディアにかける

 

「ありがとうございます…あの…」

 

「建造装置のパスワード、こじ開けたろ⁇」

 

「…申し訳ありません」

 

「興味を持つのは良い事だ。次からはパスワード開ける時はちゃんと聞いてからやろうな⁇」

 

「…はいっ‼︎」

 

クラウディアは産まれて初めての笑顔を見せた



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175話 ピクセルガール(3)

「きそ‼︎」

 

「も、もう大丈夫⁇」

 

いつの間にかPシールドを手にしたきそが、工兵を護りながら物陰から出て来た

 

「クラウディア」

 

「はい」

 

「あれが”護る”って行為だ」

 

「護る…」

 

クラウディアは再び右手を前に出し、Pシールドのコピーを造り出す

 

「これは盾だ」

 

「盾…盾は、人を護る道具…」

 

「凄い…」

 

「凄いです…」

 

きそと工兵は、目の前で起きた不可思議な現象にため息を吐く

 

クラウディアは盾をしっかりと記憶した様だ

 

のちの調査結果によると、クラウディアは興味本意で建造装置のシステムを弄ってしまい、モデルを設定した建造装置は、近くに居たAIのクラウディアを取り入れる知能と判断してしまったとの結果が出た

 

 

 

 

次の日…

 

「さ〜て、お仕事お仕事っと‼︎」

 

「ジェミニ様。粗方の執務は終わらせておきました。後はジェミニ様本人が決断する執務のみを残してあります」

 

「あらっ‼︎ありがとぉ〜‼︎」

 

クラウディアは元の横須賀の付き人に戻っていた

 

AIの時に作業を見ていたのもあるだろうが、クラウディアはボディを得てから、まるでスポンジで水を吸うかの様にどんどん記憶を増やして行き、たった一日で粗方の事を覚え、横須賀の雑務を午前中には終わらせる事が可能になった

 

その分横須賀は繁華街を見回りをする時間を増やしたり、艦娘の子達と接する時間を増やす事にした

 

「ジェミニ様は子沢山ですね」

 

「そう⁇こんなモンじゃない⁇」

 

執務室で双子の姉妹に面倒を見られている、三人の妹達

 

そんな彼女達を見つめる、横須賀とクラウディア

 

「ジェミニ様。赤ちゃんはどうしたら出来るのですか⁇」

 

「く、クラウディア‼︎今日はアンタも見回りに行くわよ‼︎」

 

横須賀は上手い具合に話を反らせた

 

「私もですか⁇」

 

「そうよ。朝霜、磯風。みんなをお願いね⁇」

 

「あぁった‼︎」

 

「分かった」

 

朝霜と磯風に子供達を任せ、横須賀とクラウディアは外に出た

 

「あらっ‼︎レイだわ‼︎」

 

外に出たと同時に、滑走路にグリフォンが降りて来た

 

サンダース隊の演習が終わり、今から多分恐らくきっと繁華街に向かう

 

「なるほど…ジェミニ様はよほど創造主様がお好き…と」

 

クラウディアは歩きながら微笑む

 

自分のパートナーである横須賀は、自分の創造主を見ると、とても明るい顔に変わる

 

クラウディアはそんな横須賀の顔を見るのが好きになっていた

 

「喉乾いた‼︎」

 

「足柄の所でラムネ飲むか‼︎」

 

きそとレイがグリフォンから降りて来た

 

「あ‼︎お母さん‼︎」

 

きそは横須賀を見るなりすぐに抱き着きに行った

 

「巡回か⁇」

 

「そっ。繁華街行くから、アンタも来なさい」

 

「分かった。どうだクラウディア⁇横須賀は駄々こねて無いか⁇」

 

「大丈夫です、創造主様」

 

クラウディアの頭を撫で、繁華街に向かおうとした

 

「あ‼︎そうだクラウディア‼︎名前登録しなきゃ‼︎」

 

「名前…ですか⁇」

 

「そっ。みんなAIの時とボディの時と名前が違うんだ」

 

「僕はこの状態の時はきそ。AIの時はグリフォンなんだよ‼︎」

 

「なるほど…」

 

早速工廠に向かい、きそがPCの前に座る

 

「さて、どうしよっか⁇」

 

「クラウディアは付けたい名前はあるか⁇」

 

「う〜ん…」

 

クラウディアは産まれて初めて悩む感情を見せた

 

名前を付けるのには、悩む事を覚えさせる目的もある

 

大体は少し悩んだ後にきそが付けるが、勿論その子がそうしたいと言えばその名で登録する

 

「何だっていいよ⁇」

 

「そう…ですね…」

 

クラウディアは考える

 

そして、ふと自分が造られた数列を思い出した

 

10840ピクセル…

 

自分が電子の海で活動する際に与えられたピクセル数だ

 

そして、昨日朝霜達が数字の語呂合わせをして遊んでいたのを思い出した

 

「お…や…し…お…」

 

「おやしおにする⁇」

 

「はい。”親潮”にします‼︎」

 

「良い名だ」

 

「良い名前ね」

 

「じゃあ親潮で登録するね‼︎」

 

きそに登録を済ませて貰い、ドッグタグを貰う

 

「これは失くしちゃダメだよ⁇クラウディアが親潮である証拠だからね⁇」

 

「ありがとうございます」

 

クラウディア改め、親潮はきそからドッグタグを受け取る

 

親潮がドッグタグを受け取った瞬間、誰かのお腹が鳴った

 

「お腹が鳴りました。これは…」

 

鳴ったのは親潮のお腹

 

「ははは‼︎親潮、それは立派に生きてる証拠だ‼︎」

 

「ご飯食べよっか‼︎僕もお腹空いちゃった‼︎」

 

「ご飯は午前7時14分に頂きました」

 

「それは朝ご飯よ⁇人は朝、昼、晩にご飯を食べるの。さっ、行きましょ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

横須賀はきそと手を繋いで、少し先を歩き始めた

 

親潮は仕事はかなり上達しているが、一般常識はまだまだ足りていない

 

不安な面はまだまだ多いが、横須賀の教育もしっかりしているみたいだ

 

「創造主様。クラ…親潮、まだまだ学ぶ事が多いです」

 

「横須賀が色々教えてくれる。あいつはあぁ見えて、結構母性が強いからな」

 

「ジェミニ様がきそ様と手を繋いでいる行為も、母性の一つですか⁇」

 

「やってみるか⁇」

 

「はい」

 

親潮は俺と手を繋いで歩き始めた

 

「人の手は暖かいのですね…創造主様も母性をお持ちなのですか⁇」

 

「俺のは母性じゃなくて父性だな」

 

「父性…」

 

「女の人は母性。男の人は父性だ」

 

「では、親潮が持つとすれば母性…ですか⁇」

 

「そっ」

 

「なるほど…」

 

前を歩く二人…そして親潮を見ながら思った

 

こうして久々に質問攻めを受けるのも悪くない…と

 

 

 

 

クラウディア改め、”親潮”が横須賀に所属しました‼︎




親潮…スーパーコンシェルジュちゃん

レイがタバコを吸いながら造ったコンシェルジュ型AIの2号、クラウディアがボディを持った姿

1号はアイリスもといはっちゃん

横須賀の為に造られたAIなので、レイの所にいる事は滅多に無いが、産みの親であるレイには、少なからず恋心に似た尊敬は抱いている

AIの時でもボディを持っても、少し見た仕事を瞬時に覚え、更に効率化する事が出来る適応変化能力を備え、誰かの為に尽くす事で喜びを感じる

ただ、一般常識がまだまだ弱く、簡単な事をあまり知らない

ボディを持った時にだけ、適応変化能力が異常に発達し、更に素早く危険を察知出来る様になり、手身近にある武器のコピーを造り出して戦う事も出来たり、自分のボディスペック以上の武器を使用したり出来る様になる

おっぱいは身長相応にあるらしい


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176話 生贄の少女達(1)

さて、175話が終わりました

今回のお話は、久々のバトル&軽いシリアス回です

スカイラグーンで休憩していた隊長とレイは、一体何を見たのか⁇


昼下がり、俺と隊長はスカイラグーンでコーヒーを飲んでいた

 

きそはクイーンと共に、下で他の機体とお話をしてから来るらしい

 

「扶桑さん‼︎ミルクセーキ一つ‼︎」

 

「畏まりました‼︎」

 

「アレンだ。おい‼︎こっちだ‼︎」

 

「レイか⁉︎」

 

たまたま来たアレンも輪に入り、三人で話をする

 

「アイちゃんはどうだ⁇」

 

「大変だよ‼︎夜の健吾とあみの声マネをしてくるんだ‼︎」

 

「アレン…私達も通って来た道だ…」

 

真面目な目をしてド下ネタを言う隊長は貴重だ

 

隊長と貴子さんが夜、ベッドの上でする行為を次の日何故かひとみといよがマネをする

 

”うぃいあむ…たかこをらいて…⁇”

 

”おまえはわあままなこらな⁇”

 

”はえしくしないれ‼︎”

 

”はえしいのあしゅきなんらろ‼︎”

 

とかな

 

隊長と貴子さんはそんな二人を見て、顔を青くするが、ローマや母さんはいつも笑っている

 

「そうだぞ。俺なんか絵日記に書かれた‼︎」

 

俺は俺で、清霜の絵日記にビッシリと書かれた

 

”昨日の夜、お母様はベッドで寝ていたお父様の上に乗り、泣きながらスクワットをしていました。面白いと思いました”

 

その絵日記は、横須賀によって厳重に保管されている

 

子供は大人のマネをしたがるのはあながち間違っていないと良く分かる行為でもある

 

「アイちゃんも俺の耳元で真似してくるんだ…」

 

「もしかすると、乗り越えねばならん壁なのかも知れんな…」

 

「「「はぁ〜…」」」

 

隊長の言葉で、三人共ため息を吐く

 

「おっと」

 

タブレットに通信が入る

 

母さんからだ

 

 

 

 

姫〉画像ファイルが三枚あります

 

 

 

 

母さんは時々、訳の分からない画像を送ってくる

 

そうと分かっいても、画像は見てしまう

 

一枚目は、母さんがお昼ご飯を食べている写真

 

昼はミートスパゲッティを食べた様で、相変わらず口周りがドロドロになっている

 

二枚目は、食後の紅茶を飲んでいる母さんの写真

 

口はクッキーのカス塗れになっている

 

三枚目は、窓際にいるひとみといよの写真

 

「ん⁇」

 

その写真を見て、すぐに異変に気付く

 

いよが海面に向かって指をさしている

 

「ちょっと電話する」

 

すぐに母さんにテレビ電話を入れる

 

《マーカス⁇どうしたの⁇》

 

「ひとみといよはそこに居るか⁇」

 

《えぇ。ほら》

 

母さんの顔が画面から消えると、窓際に座っているひとみといよが映った

 

「ひとみ〜いよ〜」

 

二人を呼ぶとすぐに気付き、画面に向かって来た

 

《えいしゃんか〜⁇》

 

《ぱぱしゃんもいう⁇》

 

二人は互いに頬をくっ付けながら画面いっぱいに映る

 

「どうしたんだ⁇何かあったのか⁇」

 

《おふねいるお‼︎》

 

《れっかいおふね‼︎》

 

「船だぁ⁇」

 

《がんいあしゃんみたいなおふね‼︎》

 

《ぺちゃ〜ってちたおふね‼︎》

 

「ガンビアみたいにデカくて、ぺちゃ〜…方向は⁇」

 

《あっち‼︎》

 

ひとみといよが窓際に走り、指をさす

 

「ここの方向だ…」

 

アレンがキョトンとしている

 

「ちょっと煙草吸いがてら見てくる」

 

隊長が表に出た

 

「ありがとな。ちゃんと良い子ちゃんにしてるんだぞ⁇」

 

「わかた。はよかえってこいお〜」

 

「あえんしゃんさいなあ〜」

 

通信が途切れた途端、隊長が駆け足で戻って来た

 

「無線室を貸してくれ‼︎所属不明の空母が見えた‼︎」

 

「ど、どうぞ‼︎」

 

「レイ、アレン、そこで待機しててくれ‼︎」

 

「ウィルコ‼︎」

 

「了解‼︎」

 

俺が時折ラバウルの部隊に編入する様に、アレンも時折此方に編入する

 

単眼鏡で窓の外を見ると、確かに遠くの方に空母が見えた

 

それも飛び切り巨大な奴だ

 

「何処の艦隊だ⁇」

 

「護衛の艦船も居やがる…」

 

単眼鏡に映っているだけでもかなりの数がいる

 

何処かの艦隊が大規模攻勢に出たのだろうか…

 

「レイ‼︎アレン‼︎出撃だ‼︎」

 

緊迫した顔の隊長が帰って来た

 

「好戦派が大規模攻勢に出た。ここが狙われる可能性が高い」

 

「何⁉︎」

 

一番恐れていた事態が起きる

 

好戦派が一気に大規模攻勢に出たのだ

 

ここしばらく平穏を保っていたのは、艦船を建造する為の期間だったのか…

 

「イクノカ⁇」

 

俺達を引き留めたのは戦艦棲姫だった

 

「ここを護ってくれ。私達もじき戻る」

 

「アンナノトタタカッタラシヌゾ‼︎」

 

戦艦棲姫が吠えたのは初めてだ

 

それも、俺達の心配をする為に吠えた

 

「ユウカントムボウハチガウ‼︎オマエタチダケデモニゲロ‼︎」

 

「俺達がやらなきゃ誰がやる」

 

「心配するな。必ず帰る」

 

「俺ミルクセーキ飲んで無いから淹れといてくれよ⁉︎」

 

「マテ‼︎イツカエルカダケヤクソクシロ‼︎」

 

その問いに、隊長だけが応答する

 

「盆には来るさ」

 

「ワカッタ…ヤクソクダゾ‼︎」

 

そう言い残して、隊長は喫茶ルームを出た

 

「大佐っ…」

 

カウンターの向こうに居た扶桑さんが口を抑えている

 

「ドウシタ⁇」

 

戦艦棲姫は、隊長に言われた言葉の意味が分かっていなかった

 

「オボンニクルトイッタ」

 

「今年…もうお盆は過ぎてます…」

 

「エ…」

 

戦艦棲姫の顔が青ざめる

 

隊長の言ったあの言葉…

 

要は、魂になってここに帰って来るとの意味だった…

 

 

 

 

 

スカイラグーンから三機が上がる

 

《レーダーに反応無し…ジャミングの影響かなぁ…》

 

《此方も反応無しです》

 

クイーンとグリフォンのレーダーを持ってしても、敵の大規模艦隊が映らない

 

「どうなってやがる…」

 

《横須賀に連絡を入れてある。増援が来るまで私達で持ち堪えるぞ。いいな⁇》

 

《了解っ。まっ、レーダーに映らん軍艦なんざ、怪しさMAXだわな…》

 

《了解しました。イカロス、ワイバーン。今しばらく其方の部隊に編入します》

 

《頼んだ。もう一度通告を出してみる》

 

隊長は最後通告を出す

 

《此方横須賀分遣基地、サンダーバード隊。貴艦隊に告ぐ。所属と目的を述べよ》

 

隊長が通告を出し、数秒ノイズが続いた後、ノイズ混じりの返答が来た

 

《サンダーバード隊か。貴様等に我々の目的を答える義務は無い》

 

《これは最後通告だ。厄介な事になる前に反転せよ。繰り返す、これは最後通告だ》

 

隊長の通告を遮るかの様に、旗艦からの返答が来た

 

《全艦隊、上空の航空機部隊を叩き落とせ。敵に味方する輩を皆殺しにせよ》

 

《了解…残念だ》

 

《隊長、行こう。今の無線は全員に聞こえてた》

 

《撃ってくるぞ‼︎》

 

《散開しろ‼︎こうなれば増援が来るまで避けまくれ‼︎》

 

隊長の指示で、全機散開行動に移る

 

《……ク……ル……発艦‼︎》

 

混線した無線から、旗艦である空母から艦載機が発艦したのが分かった

 

《チッ…ジャミングの上に艦載機か…厄介だな…》

 

「…そうだ‼︎グリフォン、MSWを起動‼︎」

 

《なるほど‼︎オッケー‼︎》

 

MSWならレーダーに頼らなくても赤外線で当てられる‼︎

 

水面ギリギリまで高度を下げ、MSWを起動する



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176話 生贄の少女達(2)

《敵駆逐艦に標準…燃料庫確認…カウントダウン、5…4…》

 

護衛の駆逐艦に狙いを定め、距離を縮めて行く…

 

《え…ちょちょちょちょっと待って‼︎》

 

急にMSWの標準が切れ、グリフォンがオートで高度を上げた

 

「どうしたんだ⁉︎」

 

《レイ…あの駆逐艦、女の子が中にいる…》

 

「何だと⁇」

 

《今、燃料庫を探すついでにスキャンしてみたんだ…そしたら、生体反応が一つしか無くって…》

 

「待て…じゃあ、あの駆逐艦は…」

 

グリフォンの言った事は俺の想像を超えていた

 

《恐らく、セイレーン・システムの量産型だ。しかも、一人で全部動かしてる》

 

それならばレーダーに映らないのにも合点が行く

 

要は中にいる女の子がレーダーを相殺しているのだ

 

考えろ…

 

どうすれば良い…

 

 

 

 

 

 

 

「マタ…オマエノチカラヲカリルトキガキタナ…」

 

スカイラグーンの地下に保管されていた、巨大な艤装

 

その前に佇む、一人の女性…

 

「ウッ…」

 

その女性は艤装を装着しながら顔を抑える

 

離した手の平には、何かが欠けた様な小さな塊が付いていた

 

「ジカン…かぁ…」

 

彼女はふと艤装を見た

 

艤装からも、小さな欠片がポロポロと落ち始めている

 

「イキマしょっ。こレガ最ゴノシュツ撃ヨ‼︎」

 

目の前のシャッターが開く

 

彼女にとっての、最後の出撃が始まる…

 

 

 

 

《通信だ。繋ぐね‼︎》

 

《レイ、そこにいるのか⁉︎》

 

「グラーフ‼︎」

 

勇ましい声の主はグラーフ

 

上空を見上げると、相変わらず高高度にスペンサーが見えた

 

《スペンサーの処理能力を以ってしても無理だ‼︎後は目視でレーザーを落とす位しかない‼︎》

 

「ダメだ‼︎中に女の子がいる‼︎」

 

《そんな事を言ってる場合か‼︎レイ、貴様が決めろ‼︎レーザーを落として皆を救うか、一人の少女の命を救うか‼︎》

 

グラーフの言う通りだ

 

大いなる勝利には、大いなる犠牲が伴う

 

俺は操縦桿を握りながら、どうすれば良いか…最善策は何かを考える

 

《レイ。気持ちは分かってやる。後で慰み者にもなってやる。だから…今は目を瞑れ》

 

「グラーフ…」

 

《心配するな。私はいつだってレイの味方さ。さっ、その空域から離れて。隊長とアレンも》

 

隊長とアレンが空域を離れるのが見えた

 

《あれだな…》

 

グラーフは高高度から対飛来物破壊レーザーを旗艦である空母に狙いを定め始める

 

《レイ‼︎レーダーに反応が‼︎》

 

レーダーを見ると、艦隊に向かって突っ込んで行く一つの反応が見えた

 

それも、かなりのスピードで空母の方に向かって行く

 

「なんだ…」

 

どうやら潜水艦の様だ

 

潜水艦の反応が敵空母と重なる

 

《うわっ‼︎な、なに…これ。電子機器が‼︎》

 

その瞬間、空中を飛んでいる航空機にまで届く程の衝撃波が起きた

 

《此方イカロス‼︎電子機器が狂った‼︎》

 

《此方バッカス‼︎こっちもダメだ‼︎》

 

《此方セイレーン‼︎何が起こった‼︎標準がメチャクチャだ‼︎》

 

たった一撃の衝撃波で、航空機の電子機器が全て狂い始める

 

「グリフォン‼︎しっかりしろ‼︎グリフォン‼︎」

 

《目が回る〜…》

 

グリフォンの電子機器が少しずつ元の状態を取り戻して行く

 

「大丈夫か⁉︎」

 

《らいじょうぶ〜…よしっ、オッケー‼︎クイーン、スペンサー、そっちは大丈夫⁉︎》

 

《私も大丈夫です》

 

《此方も大丈夫ですよ》

 

《アレンさんは⁉︎》

 

《心配ありがとう。もう大丈夫さ》

 

AIが目を回す位の衝撃波…

 

そして、一定時間電子機器をお陀仏にする衝撃波…

 

敵艦隊のど真ん中に浮上して来た潜水艦に、安堵の溜息を吐く

 

《何なんでちか此奴等は‼︎》

 

《タナトス‼︎》

 

多分、またその辺を回遊していて、俺達の危機に気付いたのだろう

 

《敵艦捕捉‼︎主砲を放て‼︎》

 

一隻の駆逐艦がタナトスに狙いを定め、主砲を放つ

 

《ははははは‼︎タナトスにそんなモンは効かんでち‼︎》

 

タナトスは撃って来た砲弾を物ともせず、その駆逐艦に艦首を向け全速前進し始める

 

「ま、待てタナトス‼︎其奴を沈めないでくれ‼︎」

 

《どっか〜ん‼︎》

 

「あぁ…」

 

俺の制止叶わず、タナトスは体当たりで駆逐艦を真っ二つにする

 

《全員レーダーを見るでち‼︎》

 

「レーダー…はっ‼︎」

 

いつの間にかレーダーが復活しており、敵艦の位置が丸分かりになっていた

 

《いいでちか⁇タナトスが狙いを定めるでち。みんなはそこに痛いのを喰らわせて欲しいでち‼︎》

 

「…分かった」

 

こうなってしまえば、もう中の子達は助ける事は不可能だろう

 

今はタナトスを信じて、撃沈するしかない

 

タナトスとのデータリンクによる飽和攻撃が始まり、みるみる内に護衛の艦隊が沈んで行く…

 

複雑な気分だ…

 

敵にここまで情けを掛けたのは初めてかも知れない…

 

《敵イージス艦の撃沈を確認‼︎残りは空母だ‼︎》

 

グラーフの声で、あれだけいた艦隊が後一隻になったと分かった

 

「うわっ‼︎」

 

だが、そこはやはり旗艦

 

データリンクした後の飽和攻撃をしようとしても、山程積まれた機銃で追い返される

 

《何なんだあの防空性能は‼︎》

 

《つ、強い…》

 

隊長がおののく程の防空性能を見せている敵空母

 

既に近付く事すら出来ない

 

《せめてあの機銃が無ければ…》

 

隊長が言っているのは空母の両脇に備えられた山程の対空機銃

 

あれが行く手を阻んでいる

 

《誰か近場に支援砲撃可能な艦はいないか⁉︎》

 

ミサイルではなく、直接の砲撃なら打撃を与えられる

 

《此奴はヤバイでち‼︎タナトスの爆雷まで破壊されるでち‼︎》

 

タナトスの攻撃まで防がれると来た

 

先程からタナトスは何度も体当たりを試しているのだが、あまりに巨大な為にビクともしない

 

ここまで来て万事休すか…

 

《てキ・カん・ハッ・けん‼︎》



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176話 生贄の少女達(3)

《誰だ⁇》

 

緊迫した空気の中、気の抜けた声が無線から聞こえた

 

《ドキなさい‼︎》

 

《戦艦棲姫⁇》

 

キャノピー越しに戦艦棲姫が見えた

 

だが、様子がおかしい

 

彼女からも、艤装からもポロポロと何かが落ちている

 

あんな身体で砲撃なんかしたら…‼︎

 

《Fer‼︎》

 

「バッカヤロ‼︎」

 

戦艦棲姫、最後の砲撃が唸る

 

戦艦棲姫の砲撃は、側面の機銃群を一撃で破壊し、防空網に穴が開いた

 

《うっ…ク…》

 

砲撃が終わった直後、戦艦棲姫は海上に倒れた

 

「馬鹿野郎‼︎何でそんな身体で来た‼︎」

 

《まー…カ、ス…》

 

弱々しい戦艦棲姫の声が無線を通じて耳に入る

 

「なんだ…」

 

《やく…に、たっ、た⁇》

 

「充分だ‼︎もう引き返せ‼︎」

 

《後は我々に任せろ‼︎》

 

《ありがとう、戦艦棲姫‼︎》

 

隊長、アレンからも感謝の言葉が届く

 

《これで少しは…償えた…か、な…》

 

戦艦棲姫の体が沈んで行く…

 

《罪を償ったら死ぬのは甘ちゃんの考える事ダズル‼︎》

 

《えっ…》

 

聞き覚えのある最恐の艦娘が、沈み行く戦艦棲姫の腕を取り、海上へ引き戻す

 

「は…榛名‼︎」

 

戦艦棲姫の腕を取ったのは、あのメガネを掛けた榛名

 

榛名は久々に合法的に暴れられると聞き、遂行中の遠征を無視し、ニムと共にここに駆け付けてくれた

 

《話は聞いたダズル‼︎航行不能にすれば良いんダズルな⁉︎》

 

「そうだ‼︎頼む‼︎」

 

《分かったダズル‼︎ニム‼︎この死にたがりを頼むダズル‼︎》

 

榛名は戦艦棲姫をニムに任せ、空母へと向かう

 

 

 

 

「さぁ、これを飲むニム」

 

「ありがと…」

 

彼女はニムに応急修復剤のパックを貰い、中身を飲む

 

「綺麗な外人さんニムね〜」

 

「え⁇」

 

「金髪ちゃんニム」

 

彼女は海面を見た

 

見知らぬ金髪の女性が此方を見返しているのが見える

 

「私…一体…はっ‼︎」

 

「ニムっ‼︎」

 

沈みかけている禍々しい艤装のベールが剥がれ、中から美しい主砲が現れた

 

彼女はすぐにそれを取り、海上へと引き戻す

 

「これは…」

 

「きっと神様からのご褒美ニムよ。罪を償ったから、新しい人生を歩めと言ってるニム」

 

「新しい…人生…」

 

彼女は艤装を撫でながら決意を固める

 

「救わなければ…彼等を‼︎」

 

「ニムと一緒に行くニム‼︎」

 

彼女は美しい金色の髪を潮風になびかせながら艤装を手に取り、帽子を被り直しながら艤装を装着して行く

 

「…あら⁇」

 

艤装を装着している途中、主砲に文字が彫られているのに気が付いた

 

「Ri、che、lieu…」

 

彼女の名前は、戦艦”リシュリュー”

 

リシュリューは艤装を装着し終わると、もう一度ニムの顔を見た

 

「よく似合ってるニム‼︎」

 

「ありがとう。第二の人生…ね⁇」

 

ニムは言葉さえ発しなかったが、笑顔で頷いた

 

「さぁ‼︎行くわよ‼︎」

 

「ニムッ‼︎」

 

ニムとリシュリューが空母へと向かう…

 

 

 

 

 

「だぁーーーっはっはっはぁ‼︎榛名にかかればこんなモンチョロいダズル‼︎」

 

十分もしない内に、空母は榛名一人に占領された

 

舵はバラバラにされ、エンジンルームも再起不能

 

電子機器は画面を叩き割られ、カタパルトも破壊

 

榛名は思う存分暴れ回った後、捕虜として大量の乗組員を逮捕

 

「ぬっ⁉︎」

 

それでも数人が最後の足掻きで機銃で空を叩く

 

「Fer‼︎喰らいなさい‼︎」

 

聞き覚えのない声が聞こえた瞬間、機銃だけが撃ち抜かれた

 

「あの金髪ちゃんは何ダズル‼︎」

 

「榛名さん‼︎もう大丈夫ですよ‼︎」

 

金髪ちゃんが微笑みながら榛名に手を振っている

 

「お…おぉ…」

 

榛名は久々にきそ以外の人にさん付けをされ、チョット驚く

 

「後はお偉いさんにシバかれると良いダズル」

 

榛名は大満足のまま、空母に開けた穴から飛び降りた

 

榛名が空母から飛び降りると、下には金髪ちゃんとニムが待っていた

 

「榛名さん。助けて頂き、ありがとうございました」

 

「元戦艦棲姫ニムよ」

 

「そうダズルか。名は⁇」

 

「戦艦リシュリューです」

 

「リシュリュー。お家に帰るまでがピクニックダズルよ‼︎」

 

「はいっ‼︎リシュリュー、榛名さんに着いて行きます‼︎」

 

「何か調子狂うダズルな…」

 

どうやらリシュリューは助けて貰った榛名を気に入っている様子だ

 

榛名は不思議な感覚のまま、スカイラグーンへと向かう

 

 

 

 

 

榛名が空母をボッコボコにしている時、俺は一旦基地に帰って来ていた

 

「えいしゃん‼︎」

 

「おかえい‼︎」

 

「んっ…ただいま…」

 

息を切らしながら子供達が出入りしている場所から食堂に入ると、何も知らないひとみといよが抱き付いて来た

 

「おかえりなさい。大丈夫だった⁉︎」

 

「あぁ、大丈夫だ。はっちゃんとしおいを呼んで欲しい」

 

「分かったわ‼︎」

 

貴子さんが小走りで子供部屋に向かい、俺がカーペットに座って数分もしない内に二人が来た

 

「おかえりなさい、マーカス様」

 

「おかえり、レイ‼︎」

 

「ちょっと座ってくれ」

 

ひとみといよも俺の異変に気付いたのか、はっちゃんとしおいが座っている横に座り直した

 

「どうしたの⁇」

 

「助けて欲しい子がいるんだ…」

 

「誰をですか⁇」

 

「沈めた船の中に、何人もの女の子がいたんだ」

 

食堂の空気が一瞬で凍り付く

 

「頼む…その子達を救ってやってくれないか⁇」

 

俺は四人の前で土下座をする

 

「俺が不甲斐ないばかりに…」

 

「しおい。すぐに潜行準備を。ひとみ、いよ。ちゃんとはっちゃんに着いて来て下さいね⁇」

 

「わかた‼︎」

 

「ゆうこときく‼︎」

 

「しおいの所で艤装を装着して来て下さい。はっちゃんもすぐに行きます」

 

「そおい〜‼︎」

 

「へうめっろ〜‼︎」

 

はっちゃんの一言で、しおい、そしてひとみといよが準備に取り掛かる

 

「すまん…本当にすまん…」

 

「謝らないで下さい。はっちゃん、ようやくマーカス様に必要とされて嬉しいです‼︎」

 

「はっちゃん…」

 

目に溜まっていた涙を拭き、何度もはっちゃんに向かって頷く

 

「この恩は必ず返すからな」

 

「そうですねぇ…あっ。では、マーカス様が横須賀様に言っている事を真似します。礼ならキスで返して下さい」

 

はっちゃんはそう言って、しおいの持って来た艤装を装着し、海へと向かう

 

「めがね‼︎」

 

「いくれ‼︎」

 

「分かった分かった‼︎」

 

「マーカス君も気を付けるのよ⁉︎」

 

「分かった‼︎じき隊長も連れて帰る‼︎」

 

相変わらずローマに海へと放り投げて貰うひとみといよを見送り、一息も着けないまま、タナトスの待つ海域に引き返す

 

 

 

 

スカイラグーンでは隊長含め、総司令達お偉いさん連中が空母”アーク・ロイヤル bis”の乗組員の事情聴取兼尋問を進めていた

 

乗組員の話によると、レイの言った通り、アーク・ロイヤルbis以外は単独で航行しており、中にいた少女は今暗い海の底にいる

 

「レイ…」

 

窓の外を見て、レイや潜水艦の子達が心配になる

 

乗組員を一人として逃すつもりは無いが、誰一人として少女を助けようとしない

 

彼等にとって、艦娘は道具と変わりないのだ…



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176話 生贄の少女達(4)

「ひとみといよを預かります。しおいは単独での探索をお願いします」

 

「オッケー」

 

はっちゃんはお得意のソナーを使いながら、海底に沈んだ船の中から生体反応を探す

 

「微弱ですが、反応がありますねぇ…」

 

「はっしゃん。ここにいうお」

 

ひとみが一つの船を指差す

 

船に開いた穴から中に入り、ソナーを使う

 

「いました」

 

ひとみの言った通り、カプセルの中に女の子が眠っていた

 

「結構重いですから、皆で持ちますよ…せ〜のっ‼︎」

 

「んい〜っ‼︎」

 

「あぁれ〜‼︎」

 

三人でカプセルを持ち上げ、何とか船内から出る

 

「しおい。聞こえますか⁇生存者を一人確保したので一旦浮上します」

 

《オッケー‼︎こっちも見つけたから、後で手伝って‼︎》

 

「分かりました」

 

三人がカプセルを持ち上げ、海上に出るとタナトスが待機していた

 

「はっちゃん‼︎」

 

タナトスの艦上からマーカス様が手を振っている

 

「マーカス様‼︎」

 

はっちゃん達はカプセルをタナトスに引き渡した

 

「マーカス様。あと一つ生体反応があります。もう少々お待ち下さい」

 

「も〜ひとがんあり‼︎」

 

「いってくう‼︎」

 

「ありがとうな…」

 

マーカス様の申し訳無さそうな顔を見た後、今度はしおいを目指して潜る

 

しおいは既に艦内からカプセルを引き出してくれており、海底に置いてはっちゃん達を待っていた

 

「馬力足らなくて…」

 

「全員なら出来ます。さぁ‼︎」

 

四人がかりでカプセルを持ち上げ、再び海上に上がる

 

マーカス様にカプセルを渡し、はっちゃんとしおいとでもう一度海底の探索に向かう

 

…だが、幾度探せも一人の生体反応もない

 

何度も呼吸を繰り返しながら、数時間が経過する…

 

「あ…」

 

海中に浮遊していた誰かの千切れた腕が目の前に来た

 

…既に魚達が啄ばみ始めている

 

「しおい。これだけ探索したのに出てこないとなれば…」

 

「…分かった」

 

探索を切り上げ、タナトスに戻る事にした

 

タナトスに戻ると、すぐにマーカス様がはっちゃんとしおいをキツく抱き締めてくれた

 

「ありがとう…辛かっただろ⁇」

 

「大丈夫ですよ。はっちゃん、こう見えてビビリの耐性があります。しおいはビビってましたけどね」

 

「怖いモノはこわいもん‼︎」

 

「後は俺達に任せてくれ。何とかしてみる」

 

「しおい。タナトスのご飯は美味しいんですよ⁇」

 

「ホント〜⁇」

 

しおいははっちゃんに疑いを持ちつつ、二人でタナトスの艦内食堂に向かった

 

「さて…」

 

 

 

 

 

タナトスの医務室に戻ると、きそが慌ただしく動いていた

 

救い出されたカプセルは、現状3つ

 

はっちゃんやしおい達が引き上げたカプセルが2つ

 

そしてもう一つは、タナトスが一番最初に体当たりを当てた駆逐艦の中にいた少女が入ったカプセル

 

タナトスはあの後、小型の無人潜水艦を出し、カプセルだけを引き上げてくれていた

 

しかし、どれも予断を許さない状態

 

それでもきそは一人で三人分の命を救おうと、3つのカプセルの前を右往左往している

 

「レイ‼︎」

 

「助けられそうか⁇」

 

「ふふふ…僕を誰だと思ってるの⁇レイはあの空母の調査をお願い」

 

「分かった。頼んだぞ‼︎」

 

「任せて‼︎」

 

話す限り、きそは余裕そうだ

 

ここは任せて大丈夫だろう

 

俺はタナトスの後部格納庫に向かい、慌ただしく動く妖精達を前にしてタバコに火を点ける

 

「さてとっ…クランプ外せ‼︎」

 

”あいあいさー‼︎”

 

目の前で宙ぶらりんになっていた黄色い小型潜水艦が降りて来た

 

この潜水艦は、マンボウの形をしており、調査の為の潜水艦であり、攻撃力は皆無だが中々に防御力が高い

 

「ちょっと狭く造り過ぎたか…」

 

防水扉を開け、操縦席を覗く

 

有人艦の割には結構窮屈な造りだ

 

改良は必要だな…

 

「うきうきまいんら‼︎」

 

「ひとみものいたい‼︎」

 

内緒で造っていたのに、何故かひとみといよが知っており、目を輝かせている

 

「何で名前知ってるんだ⁇」

 

「よこしゅかのゆ〜いじょ〜にあた‼︎」

 

「まんぼ〜しゃん‼︎」

 

横須賀の遊技場に置いてあっただと⁉︎

 

今度見てみよう

 

「ちょっと行って来るから、はっちゃんの所にいるんだぞ‼︎」

 

「わかた‼︎」

 

「き〜つけてな〜‼︎」

 

二人に見送られ、防水扉を閉める

 

「よ〜し出発だ‼︎」

 

”うきうきマリン、発進や‼︎”

 

後部シャッターが開き、ゆっくりとうきうきマリンが着水する

 

目指すは大破し、座礁したあの空母だ

 

 

 

 

「デッケェモンだなぁ…」

 

近付くに連れて分かる、この空母の大きさ

 

ガンビアも大概デカイが、コイツはもっとデカイ

 

何処か入れそうな場所は…

 

「おっ」

 

恐らく榛名が開けたであろう、側面に出来た巨大な穴

 

そこから入ろう

 

うきうきマリンを停めてワイヤーで適当な場所に固定した後、防水扉を開けて、空母の中に入る

 

中には勿論人っ子ひとりいない

 

だが、手元のレーダーを見ると微弱ながらも反応が一つあった

 

しかも時刻は午後10時

 

オバケが出るかも知れない

 

懐中電灯で照らしながら、もう片方の手で生体反応を探るレーダー。そして口にはタバコを咥えている

 

タバコを吸う事でオバケが寄らないと聞いたからな…

 

反応に向かって歩いて行くにつれ、レーダーから発する音の間隔も短くなって行く

 

「この辺りか…」

 

レーダーが生体反応を示したのは機関室

 

もし居るとすればここの確率が高い

 

…しかし、何処を探しても見つからない

 

目ぼしい機材は全て見て回った

 

セイレーン・システムの複製ならば機関室に置くハズなのに…

 

オバケの恐怖と軽い疲労の為、何気無しに柱に背中を置き、もう一本のタバコに火を点けた

 

「…内は…煙だ…」

 

「ひっ…」

 

いきなり聞こえて来た声で肩が上がる

 

来たかオバケ…

 

「艦内は禁煙だ…」

 

「すっ、すすすすみましぇん‼︎」

 

ビビってタバコを床に捨て、すぐに踏んで消化する

 

「よし…良い子だ…」

 

「え…」

 

今の声…背後から聞こえて…

 

恐る恐る背後に振り返って見る…

 

「うひぃぃぃぃぃぃい‼︎ひぃぃぃぃぃぃぃい‼︎」

 

俺のすぐ背後に女の顔が浮かび上がっている‼︎

 

このまま白目を剥いて気絶してしまいたい‼︎

 

だが、何とか気力で乗り切る

 

今は救助中だ

 

気を取り直して柱と思っていた物を見ると、巨大だが見慣れたカプセルが見えた

 

「き、君がこの艦の中枢だな⁇」

 

「…」

 

どうやら気を失ったみたいだ

 

だが、このままでは巨大過ぎてタナトスに運べない

 

カプセルの中で気を失っている女性の顔を見ながら、どう運んで良いものか考える

 

「わっ‼︎」

 

「ひいっ…」

 

カプセルの中に居た女性は起きていた様で、いきなり目を見開いて驚かして来た

 

俺は見事気絶し、その場に倒れた

 

「情けない男だ…フンッ‼︎」

 

女性はいとも簡単にカプセルのガラスを割り、気絶した俺の首根っこを掴み、そのままズリズリと何処かに運んで行った…

 

 

 

 

「ぬはっ‼︎」

 

「起きましたか⁇」

 

気が付くとベッドに寝かされており、横にはっちゃんが居た

 

「オバケはどうなった⁉︎」

 

「オバケ…ですか⁇」

 

ベッドから起き上がると、ここがスカイラグーンと気付くまで時間は掛からなかった

 

「皆さん喫茶ルームにお集まりですよ。それと二人、お初のお方がいらっしゃいます」

 

「ありがとう」

 

「マーカス様」

 

喫茶ルームに行こうと立ち上がろうとすると、はっちゃんに座り直させられた

 

「ここなら誰も見ていませんっ…」

 

はっちゃんは約束のご褒美を受け取る

 

「…こんなので良いのか⁇」

 

「えぇ。はっちゃんも横須賀様と同じ事、してみたかったのです」

 

無言ではっちゃんの頭を撫で、二人で喫茶ルームに向かう

 

「おっ‼︎レイが起きたぞ‼︎」

 

「おかえり‼︎」

 

「ただいまっ‼︎」

 

隊長、アレン、そして榛名とニムが迎えてくれた

 

「オバケで気絶するとかなっさけねぇ野郎ダズル‼︎」

 

「うるせぇ‼︎怖いもんは怖いんだよ‼︎ひとみといよ達は⁇」

 

「みんな先にタナトスで帰って晩御飯食べてる。俺達も一杯やろう‼︎今日は特別だぞ‼︎」

 

隊長の前には豪華な料理とお酒が置かれている

 

「俺も祝って良いのか⁇」

 

「今日誕生日の子がいるんだよ」

 

隊長がそう言うと、皆が同じ人物を見る

 

「戦艦棲姫改め、戦艦リシュリューです‼︎」

 

「なるほど…それは祝わんといかんな‼︎」

 

「座れ座れ‼︎」

 

誕生日は誕生日で祝わねばならないな

 

「「「かんぱ〜い‼︎」」」

 

「かんぱ〜い‼︎」

 

グラスを持った手が一つ増えた

 

「え…」

 

背筋に悪寒が走る

 

「わっ‼︎」

 

「あ°っ‼︎」

 

空母の中に居たオバケがいる‼︎

 

「なっ、ななな何で‼︎」

 

「ははは‼︎レイ、その子はアーク・ロイヤルって名前だ」

 

「よろしく、ビビリさんっ‼︎」

 

「よ、よろしく…」

 

アーク・ロイヤルは高貴な外見とは違い、中々活発な性格の様だ

 

よく見ると、一昔前の横須賀の様な目をしている…

 

とりあえず、今はリシュリューの誕生日を祝ってやろう…

 

色々するのは明日でも良いな…

 

沈んだ船の中の生体反応も無い

 

救えるだけの子は、何とか救えたからな…

 

今はリシュリューの誕生日を祝ってやる事にしよう‼︎

 

 

 

 

戦艦リシュリュー及び、航空母艦アーク・ロイヤルが味方艦隊に加わります‼︎




リシュリュー…トリコロール娘

人を助けたいと思った戦艦棲姫の中から出て来た艦娘

火力が高いのに足も速い

榛名に助けられた為、榛名をとても尊敬している

嫌な予感がする…





アーク・ロイヤル…赤いオバケ

空母”アーク・ロイヤルbis”の中枢システムの中身

高貴な外見をしている割に人をビビらせたりする等、かなりのイタズラ好きであり、よく笑う快活な子

カプセルの外に出てからは、目に見えてビビるレイをおちょくるのが好き

オッパイ以外は、一昔前の横須賀に似ている





うきうきマリン1号2号…探査用小型潜水艦

タナトスに内蔵されている、マンボウの形をした黄色い小型潜水艦

横須賀の遊技場にある、ひとみといよが好きなゲームをモデルにしている

1号が有人艦であり、2号が無人艦

気付いた人もいるかも知れないが、一昔前に実際にゲームセンターにあったゲームがモデル

完全に余談になるが、モデルになったゲームは作者の思い出のゲームであり、ひとみといよがイルカ好きと言う案は、このゲームが無ければ生まれなかった


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177話 歓喜のトリコロール

さて、176話が終わりました

シリアスが終わればギャグ回ですよ‼︎

ようやく誰かにお友達(理解者)が現れます‼︎

一話しかありませんが、きっと楽しいお話です


「戦艦リシュリュー‼︎出撃だリュー‼︎」

 

「行って来るダズル‼︎」

 

「さいならニム〜」

 

「あああああ…」

 

リシュリューと榛名を見送り、ワンコが頭を抱える

 

リシュリューは榛名に救われ、かなり尊敬しているらしく、単冠湾に配属になった

 

それ自体に問題は無い

 

問題は…その…

 

 

 

 

数日前、リシュリューが単冠湾に来た

 

「戦艦リシュリューです‼︎」

 

「提督‼︎念願の金髪ちゃんダズルよ‼︎」

 

「誰もそんな事言ってない‼︎」

 

ファーストリシュリューは、大人びた女性であり、こんな事を思ったら失礼極まりないが、ようやくフツーの子が来てくれたと思った

 

「リシュリューを案内してくるダズル」

 

「頼んだよ」

 

これが間違いだった

 

あの時、何故私が案内しなかったのだろうと大変後悔している

 

 

 

 

榛名とリシュリューは工廠に来ていた

 

「榛名さん。榛名さんは艤装を使わないのですか⁇」

 

「榛名はハンマーとかチェインソーの方が良いんダズル」

 

榛名は自慢のハンマーをリシュリューに持たせてみた

 

「これで敵を一発でオダブツにするのが好きなんダズル」

 

「リシュリューも欲しいです‼︎」

 

「おぉ…」

 

清霜に続き、自分のハンマーを軽々と持つ人を見て、榛名は余計リシュリューが気に入った

 

”ハンマーやったら造ったるで‼︎”

 

”任せてぇや‼︎軽くて強力な奴造ったるわ‼︎”

 

「ホント⁉︎嬉しい‼︎」

 

「楽しみダズルな‼︎」

 

待つ事数十分…

 

”出来たで‼︎”

 

「おぉ〜‼︎」

 

リシュリューの前にトリコロール色のハンマーと、同じ色をしたトンカチが置かれた

 

”持ってみ”

 

リシュリューはそのハンマーを手にし、人が居ない空間でハンマーを振ってみた

 

「軽くて振りやすい”リュー”‼︎ありがと”リュー”‼︎」

 

”えぇって事よ‼︎”

 

”また造ったるわ‼︎”

 

「良かったダズルな‼︎」

 

「嬉しいリュー‼︎榛名さんとお揃いリュー‼︎」

 

「ふふふ…」

 

榛名はここに来て、ようやくハンマー友達が出来たと歓喜していた

 

「帰って来たダズル‼︎」

 

「おかえり。どうだったリシュリュー⁇」

 

リシュリューの手元を見た瞬間、顔から冷や汗が出た

 

「リシュリューもハンマー造って貰ったリュー‼︎」

 

「終わった…」

 

私は膝から落ちた

 

セカンドリシュリューで幻想は打ち砕かれた…

 

 

 

 

そして今に戻る

 

「うぉりゃあ‼︎」

 

「せいやぁ‼︎」

 

榛名とリシュリューは、資源発掘の遠征に来ていた

 

「榛名さん一人でさえ強力な助っ人なのに、あの金髪の女性も来てくれたら…」

 

数日前リシュリューが来てから、資源発掘のスピードが異常に速く進んでいた

 

そのスピードは、普通の発掘スタッフのおよそ五倍

 

「おい‼︎変な金属が出たダズルよ‼︎」

 

「こっちはボーキサイトが出たリューよ‼︎」

 

しかも二人共意外にも繊細な仕事をする為、スタッフには大人気だ

 

「榛名さん‼︎リシュリューさん‼︎今日は終わりにしましょう‼︎」

 

「分かったダズル‼︎」

 

「分かったリュー‼︎」

 

二人共手を止め、スタッフが集まる輪に入り、お菓子やジュースを貰う

 

「ハンマーには平和な使い方もあるリューね」

 

「そうダズルよ。こうして岩砕いて金稼ぐのも悪くないダズル」

 

「はいっ。今日のお給料‼︎」

 

「ありがとダズル‼︎」

 

「ありがとリュー‼︎」

 

榛名とリシュリューはその働きにより、日給を他のスタッフより遥かに多く貰っているが、誰一人文句を言わない

 

榛名達が来てくれるお陰で、自分達も給料を貰っている様なものだからだ

 

「さっ、おうち帰るダズル‼︎」

 

「ハギィのお夕飯が楽しみリュー‼︎」

 

発掘スタッフと別れを告げ、二人は帰路に着いた…

 

 

 

 

「ははははは‼︎そんな悩む必要ないニム‼︎」

 

私は執務室の机にうつ伏せになって、レイさん達にどう説明しようか悩んでいた

 

折角レイさん達が命懸けで救った命なのに、私が不甲斐ない所為で榛名二号になってしまった…

 

「悩み過ぎマイク‼︎」

 

「そうですよ提督‼︎くっ…」

 

「「「ははははは‼︎」」」

 

ニム、霧島、HAGYの全員に爆笑される

 

「ただいま帰ったダズル‼︎」

 

「ただいまリュー‼︎お腹空いたリュー‼︎」

 

榛名とリシュリューが帰って来た

 

「お金イッピー貰ったダズル‼︎」

 

「リシュリューもイッピー貰ったリュー‼︎」

 

「あ…あはは…それは二人のお金だから、二人が使いなさい」

 

「提督、元気ねぇダズルな⁇」

 

「一発叩くと治るリュー‼︎」

 

「それもそうダズルな‼︎」

 

「分かった分かった‼︎メッチャ元気‼︎見てよこの筋肉‼︎」

 

「貧弱ダズルな。榛名の方が筋肉モリモリダズル‼︎」

 

榛名の腕の筋肉はムキムキだ

 

「リシュリューもムキムキリュー‼︎」

 

リシュリューの腕の筋肉もモリモリ付き始めている

 

「さぁっ‼︎ご飯にしましょうか‼︎」

 

HAGYがベストタイミングで話を区切り、皆食堂に向かった

 

さっき筋肉を見せたリシュリューの顔を見て、何だかつっかえが取れた

 

あれだけ幸せそうな顔をしているのなら、私がレイさん達に多少怒られたら済む話だ

 

その時は覚悟を決めれば良い

 

半ば諦めに近い状態で、私も食堂に向かった…




トリコロールハンマー…リシュリュー専用装備

榛名とお揃いのハンマー

榛名がダズル柄なら、リシュリューのハンマーはトリコロールカラー

大体榛名のハンマーと同じ性能

火力+100
対空+2
対潜+1


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178話 涙の誓い(1)

さて、177話が終わりました

今回のお話は、新しい子が出て来ます

そして、いつの間にか基地に馴染んでいるアークが意外な一面を見せます


基地の工廠で、三人の回復が進められる

 

「レイ、そっちはどう⁇」

 

「大丈夫そうだ。82%まで復元出来てる」

 

少女達の体の大多数がそのまま残っていたのが救いだった

 

戦闘の衝撃で内部がやられた位なら、俺にも修復出来る

 

「ふぅ…チョット疲れた。休憩‼︎」

 

「休憩だ休憩‼︎」

 

時刻は昼前

 

ドリンクバーからコーラを出し、きそと一緒に飲む

 

正直な話、後は彼女達の回復力が要になる

 

俺達が出来るのはここまでだ

 

ただ…一人だけ問題がある

 

横一列に並べられたカプセルの一番左に入っている、一番小さい女の子…

 

どうやら対タナトス用に産まれた、対潜に特化した子らしいが、当のタナトスが頑丈過ぎて全く歯が立たなかった

 

そして、どうも発声機能がイカれてる

 

恐らく戦闘による大ダメージの影響だろう

 

「名前付けてあげなきゃね⁇」

 

「そうだな…」

 

コーラを飲みながら、きそと共に悩む

 

彼女達は番号で呼ばれていた

 

カプセルの傍に書いてある通し番号がソレだ

 

あの艦隊の中で唯一名前が付いていたのは…

 

「何やってんの⁉︎」

 

大声を出しながら、いきなり工廠に入って来た赤髪の女性…

 

アークロイヤルだ

 

アークは声がデカい

 

どうやら俺がビビるのが面白いらしい

 

「お前のお友達を治してんだよ」

 

「ビビリの癖に凄いね‼︎」

 

「レイビビリだってさ‼︎」

 

「うるせぇ‼︎」

 

「よいしょ‼︎」

 

アークは勝手に工廠の床にマットを敷き、そこに座ってサンドイッチを食べ始めた

 

奔放過ぎる…

 

「僕にも頂戴‼︎」

 

「いいよ‼︎カツサンドと、タマゴサンド、野菜だけのサンドもあるよ‼︎」

 

「タマゴサンド食べたい‼︎」

 

「はい‼︎」

 

きそもマットに座り、サンドイッチを頬張る

 

そんな二人を見て、少しだけ微笑む

 

アークは思っているより悪い奴じゃない

 

料理の腕だって悪くないし、隊長のお手伝いもする

 

やはり、そこは外見と同じく気高い様だ

 

「ビビリはお医者様なの⁉︎」

 

声のデカさはどうにもならんみたいだがな…

 

そんなアークは、口の周りにパンのカスをいっぱい付けている

 

何処かで見た風景だ…

 

「そっ。アークも怪我したら、ちゃんと俺の所に来るんだぞ⁇」

 

そう言いながらアークの口周りをティッシュで拭く

 

「ありがとう‼︎ビビリは凄いんだね‼︎」

 

笑顔を送るアークは中々可愛い

 

この子供っぽさ…何処かで…

 

「きそちゃんもお医者様⁇」

 

きそに話す時は普通のトーンに戻る

 

「僕はチョット違うかな⁇」

 

「でも凄いわ⁇こんな事出来るなんて、素晴らしい腕だと思うわ⁇」

 

「えへへ…」

 

きそは褒められて照れている

 

「もうみんなの名前は覚えたか⁇」

 

「うん‼︎ウィリアム提督でしょ⁉︎貴子さんでしょ⁉︎ローマ、グラーフ…」

 

アークは皆の名前を覚えていた

 

ただ、言っても恐らく治らないであろう点が一つあった

 

「俺の名前は⁇」

 

「ビビリじゃないの⁇」

 

「あ。もしかして知らない⁇」

 

「うん」

 

いつの間にかアークの膝の上に移動していたきその言葉で、アークが俺の名前を知らないと言う事実が飛び出た

 

「知らないからビビリって呼んでたのか⁉︎」

 

「教えない方が悪いと思う‼︎」

 

アークにメチャクチャごもっともな事を言われる

 

「俺はマーカス・スティングレイだ」

 

「ふ〜ん…」

 

「興味ないんかい‼︎」

 

「それでみんなレイって呼んでるのね…」

 

「そう言う事だ」

 

「分かった。レイ、三人をお願いね⁇」

 

「お、おぉ…」

 

急に素直になって、マットとサンドイッチを入れていたバスケットを片付け始めた

 

「これあげる‼︎食べて‼︎」

 

「ごっほっ‼︎」

 

素直になったと思ったら、急に口にクッキーを投げ込まれた

 

「アークが作ったデカいクッキーあげる‼︎」

 

「あいらとう…」

 

「バイバーイ‼︎」

 

スキップしながら、アークは工廠を去る

 

「台風みたいな人だね…」

 

「あれだけ元気ありゃあ大丈夫だな…ははは…」

 

どうやら俺をからかうのが好きみたいだ…

 

回復も順調に進み、後数分で完了する所まで来た

 

食堂ではアークがお昼を食べているのが見え、サンドイッチを食べていたのに、まだバクバクとカレーを食べている

 

まっ、アークもその分動くから良いか…

 

《一番カプセルの修復が完了しました》

 

「来た…」

 

そして、間髪入れずに

 

《二番カプセルの修復が完了しました》

 

と、音声のお知らせが入る

 

俺ときそは生唾を飲み、俺は一番カプセル、きそは二番カプセルのロックを外す

 

「かっは…」

 

「けっほ…」

 

一番カプセルからは、メガネを掛けた子が

 

二番カプセルからは、潮を銀髪にした様な子が出て来た

 

「きそ、そっちの子を頼む」

 

「オッケー。チョットごめんね…」

 

互いに開けたカプセルの子の目にライトを当てたり、脈を計る

 

「うんっ‼︎大丈夫そうだね‼︎」

 

「こっちも良好だな‼︎」

 

「ここは何処だ…アンタ達は一体…」

 

メガネを掛けた子が口を開いた

 

「ここは横須賀分遣基地さ」

 

「ここに来たからもう大丈夫だよ‼︎」

 

「アンタ達が助けてくれたのか…」

 

「まぁ…」

 

「あの…ありがとうございます…」

 

銀色の潮っぽい子が頭を下げる

 

「…腹減ったろ⁇貴子さんにご飯作って貰おう」

 

何も言えなかった

 

自分達が撃沈したとは、今は言えなかった

 

二人を連れて食堂に入る

 

「あらっ‼︎小さなお客さんね⁇」

 

「よく来たな‼︎」

 

貴子さん含め、そこに居た全員が好意的な対応をしてくれる

 

「デカい…」

 

メガネを掛けた子が、貴子さんの威圧に一歩引く

 

「さっ、そこに座って⁇」

 

二人共椅子に座り、貴子さんにカレーを作って貰う

 

「さっ、食べて‼︎」

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

二人共カレーを口に入れる

 

俺と隊長、そして貴子さんが二人の様子を眺める

 

「お…美味しい…」

 

「あの…全部食べていいですか⁇」

 

「勿論よ‼︎いっぱいあるから、おかわりもあるわよ⁇」

 

それを聞いた途端、二人の目が輝き、カレーを食べるのが早くなる

 

二人はその後もう一度カレーをおかわりした後、ちゃんと手を合わせてごちそさまになった



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178話 涙の誓い(2)

「何かお礼がしたい」

 

「あの、私、遠征が出来ます‼︎」

 

「そんなの気にしなくていい。今まで良く頑張ったな…」

 

「ここはゆっくり休む所だ。何も気にしなくて大丈夫さっ」

 

「しかし…」

 

メガネの子が渋る

 

どうやら義侠は大切にする子の様だ

 

「その内慣れるさっ」

 

「照月、お散歩して来る‼︎」

 

「照月、二人を連れて行ってくれないか⁇」

 

「うんっ‼︎一緒に行こう‼︎」

 

「い、行って来ます」

 

「行って参ります」

 

「気を付けてな⁇」

 

照月は二人の手を引き、そのままお散歩に出掛けて行った

 

「心配は無さそうだなっ⁇」

 

「だと良いんだけどなぁ…」

 

隊長の言葉を聞き、後頭部を掻く

 

「ビビリ‼︎口拭いて‼︎」

 

一難去ってまた一難

 

今度はカレーでドロドロになったアークの口を拭く

 

「あ〜もぅ、分かった分かった‼︎」

 

アークの口を拭いていると、服の裾を引っ張られる

 

「マーカス⁇」

 

「…分かったよ」

 

今度は母さんの口も拭く

 

この二人、チョット似ている…

 

 

 

 

 

「これはお兄ちゃんの仕事場‼︎」

 

「なるほど…あの男は工兵なのか」

 

照月は二人に基地の案内をしていた

 

「お兄ちゃんは”こうへい”じゃないよ⁇マーカス・スティングレイって名前‼︎」

 

「ははは、面白い奴だな」

 

「次はここ‼︎」

 

次は戦闘機の格納庫を案内する

 

「これがパパさんの飛行機で、これがお兄ちゃんの飛行機で、最後はグラーフさんの飛行機‼︎」

 

「あ…」

 

「ひっ…」

 

二人共、グリフォンを見た瞬間震え始めた

 

「どうしたの⁇飛行機怖い⁇」

 

「この航空機…」

 

「き、綺麗な飛行機ですね⁇」

 

「うんっ‼︎お兄ちゃんは凄いんだよ⁉︎飛行機も運転出来るし、潜水艦だって造るんだよぉ⁉︎」

 

照月は俺の事を一生懸命説明しようとするが、それが逆目に出てしまう

 

「これがお兄ちゃんの潜水艦‼︎」

 

港に停泊しているタナトスの所に来た時、メガネの子が歯を食い縛った

 

「アイツが…‼︎」

 

「どこ行くの⁉︎」

 

「ま、待って‼︎」

 

二人の制止を振り切り、メガネの子は工廠に向かった後、一人食堂に戻って来た

 

 

 

 

 

子供達が部屋に行き、食堂に残っているのは俺と隊長、そして後片付けをしているはまかぜと貴子さんが台所にいる

 

俺と隊長は子供が居ない間にタバコを吸いながら雑誌を見ていた

 

「撃つなら撃て」

 

物音一つ立てず、いつの間にかこめかみに駆逐艦の主砲が当てられていた

 

誰が向けているかは大体分かる

 

俺は当てられた主砲に見向きもせず、雑誌のページをめくる

 

「お前が仲間を殺したのか‼︎」

 

「そうだ」

 

主砲を当てているのはメガネの子

 

メガネの子は涙声で俺に問い掛ける

 

「お前の所為で…お前の所為で私達の仲間は…お前もあの時いたな‼︎」

 

メガネの子は隊長にも主砲を向ける

 

「それしか方法はなかった」

 

隊長も至って冷静であり、雑誌のページをめくる

 

台所にいたはまかぜと貴子さんも至って冷静であり、全く口出ししない

 

「その命で償って貰う‼︎」

 

主砲を更に押し付けられた時、俺は椅子から立ち上がった

 

「ひっ…」

 

「心臓はここだ」

 

メガネの子が持っている主砲を、あえて心臓の方に向ける

 

「くっ…」

 

「憎いんだろ⁇なら絶好のチャンスだ」

 

「うぅ…」

 

メガネの子は引き金を引くのを躊躇った

 

「ほら…撃てぇ‼︎」

 

「ひっ‼︎」

 

メガネの子が威圧に負け、主砲を放つ

 

「甘いな」

 

「え…」

 

俺は手で砲弾を止めていた

 

「何…で…」

 

「何でって…それの弾、マシュマロだしな⁇」

 

「え⁇」

 

涙でドロドロになった顔のメガネの子から主砲を取り、外に向ける

 

「行くぞ照月‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

照月のいる少し上に向かって主砲を放つと、シュポンと情けない音を出しながらマシュマロが宙を舞う

 

「おいひ〜‼︎ありがと〜‼︎」

 

照月は発射されたマシュマロを口でキャッチし、そのまま何処かに行った

 

「俺がその辺に艤装置いてあるかと思ったか⁇」

 

「チクショウ…チクショウチクショウチクショウ‼︎ゴメンよみんな‼︎」

 

「え〜、泣かしたの〜⁇」

 

タイミング悪くアークが来た

 

「女の子泣かしたらダメなんだよ‼︎」

 

「アークも俺が憎いか」

 

「全然‼︎ビビリをビビらせる方が楽しいもんっ‼︎」

 

「アー…ク⁇」

 

メガネの子がアークの方を向く

 

「女の子泣かすのもダメだけど、人に砲を向けるのはもっとダメよ⁇」

 

「アーク…旗艦のアーク・ロイヤルさんなのか⁇」

 

「そう‼︎如何にも私がアーク・ロイヤル‼︎」

 

アークは舌を出しながらウインクをし、親指を立てた

 

「何故ここ所にいるのです‼︎」

 

「何故って…助けて貰ったし、まとも…いや、それ以上に生活を送れるから⁇」

 

「此奴等は私達の味方を‼︎」

 

「黙りなさい」

 

アークの顔が一瞬で変わる

 

いつもふざけている事が多いアークだが、今は第一印象と同じ、気品に溢れた態度をしている

 

「救われたのが分からないの⁇」

 

「あ…」

 

「彼等は邪の道を行こうとしていた私達を阻止して下さった上、救助まで行ってくれたの」

 

「そうなのか⁇」

 

「言葉に気を付けなさい」

 

「そ…そうなのですか⁇」

 

「まぁなっ」

 

「敵だった私達を救おうとした上、全部を救えなかった事を後悔までしている。そんな彼等を撃つならば…今度は私が貴方を撃ちます。良いですね⁇」

 

「は、はい」

 

「じゃっ、お話お〜わりっ‼︎ビビリ⁇感謝なさいよ⁉︎」

 

アークはスキップしながら部屋に続くドアへと移動する

 

「ありがとうな」

 

「バーカ‼︎」

 

アークは舌を見せた後、自室に戻って行った

 

「ははは‼︎随分気に入られてるな⁉︎」

 

「弱味を握られてるの間違いだ‼︎」

 

「も…申し訳ありませんでした‼︎」

 

メガネの子はその場で土下座をする

 

「頭挙げろ。謝るのはこっちの方だ。全員は救ってやれなかった…」

 

「充分です…心を入れ替えます…」

 

「ん…」

 

メガネの子をキツく抱き締めると、更に泣き始めた

 

「良く頑張ったな…」

 

「うっ…ひっぐっ…」

 

「レイ‼︎出来たよ‼︎」

 

「ホラッ」

 

メガネの子の背中を軽く叩き、ドッグタグを持って来たきその方に向かせる

 

「これは⁇」

 

「君の名前だよ‼︎」

 

ドッグタグには”Amagiri”と彫られている

 

「あまぎり…」

 

「あっちの子は”さぎり”‼︎我ながら最っ高の名前だね‼︎」

 

きそは毎回段々とそれっぽく見えてくる絶妙な名前を付ける

 

「いいか⁇君は今日から番号じゃなくて、あまぎりとして生まれ変わった。これからは楽しい人生が待ってるぞ⁉︎」

 

「はいっ‼︎」

 

「敬語も使わなくて良い。ほら、言ってみ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

あまぎりはようやく笑顔を見せてくれた

 

さぎりもきそが説明してくれた様で、二人共ここで過ごす事になった

 

「さ〜てぇ⁉︎そうと決まれば艤装がいるなぁ⁉︎」

 

「アンタの為なら、何処だって行くぜ‼︎」

 

その時、ドアが半分開き、アークが顔を半分出して此方を見て来た

 

「ワタシモホシイ…」

 

「あまぎりはどんな事が好きだ⁇」

 

「輸送とか遠征は得意だ‼︎」

 

「ギソウホシイ…」

 

「なるほどな…」

 

「ワタシニモツクレ…」

 

「…」

 

「…」

 

あまぎりと共にアークの方を見る

 

「ツクレ…ギソウホシイ…」

 

顔を半分出すアークを見て、笑いながらため息を吐く

 

「…アークはどんなのが良い⁇」

 

「メチャツヨな艤装‼︎」

 

「え〜ぇ。ワガママ言うアークの艤装はピンポン玉発射装置にしような」

 

「それがいいや‼︎」

 

「ビビリのケチ‼︎アホ‼︎マヌケ‼︎」

 

罵声三連撃を喰らい、更にやる気が無くなる

 

「分かった分かった。ちょっと待ってろ」

 

見るに見かねた俺は一旦部屋に戻り、戦闘機のミニチュアを持って来た

 

「アークにはコレをやろうな」

 

随分前に作ってそのままにしていた震電二型のミニチュアをアークに渡す

 

「戦闘機だぁ‼︎わ〜いわ〜い‼︎」

 

…多分、この後数秒でブッ壊される

 

「ぶるるるる〜ばばばばば〜、ちゅど〜ん、ぴゅ〜、ぼか〜ん‼︎」

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

その場にいた全員が、開いた口が塞がらなくなった

 

ついさっきあれ程の気迫を見せたアークが、今では戦闘機のミニチュア一つで遊び始めている

 

口を尖らせて効果音を発するアークは、見ていて何だか面白い

 

「こ、これでしばらく大人しくなるだろ…」

 

「あ、あぁ…」

 

「ぷるぷるぷる〜」

 

楽しそうに遊ぶアークを見て、ちょっとホッとした

 

あれは本気の目だ

 

本気で遊んでいる子供の目だ

 

情けない姿になったアークをよそに、俺は工廠に向かった…

 

 

 

駆逐艦”あまぎり”及び”さぎり”が味方艦隊に加わります‼︎




あまぎり…遠征メガネ

好戦派の艦に乗っていた艦娘

当初は仲間を屠ったレイや隊長を憎んでいたが、アークの言葉で自分達を救おうとしてくれていたのを知る

好戦派に付いていた時の旗艦だったアークに弱い

戦いより遠征が好きで、少しずつだが、人の為に生きようと第二の人生を歩み始めた

思い込みは激しいが、根はとっても良い子

ジッとしているのが苦手なタイプ

顔に似合わず、抱っこすると良い匂いがするらしい





さぎり…銀の潮

好戦派の艦に乗っていた艦娘

あまぎりと違い、当初から薄っすらと自分達を救ってくれた事を知っており、きその言葉でそれが確信に変わった

作者は銀の潮とほざいているが、実際横に並べると中々似ている

物分りが良い子で、あまぎりと同じく遠征が好き

あまぎりと違い、下着に色気がある


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179話 一番最初のお友達(1)

さて、178話が終わりました

あまぎりさぎり、そして口うるさいアークも加わり、また一段と騒がしくなった基地

今回のお話は、そんな基地にもう一人追加されます


あまぎりとさぎりが基地に来て数日後…

 

「ぶいんぶい〜ん‼︎」

 

「うわ〜‼︎やられた〜‼︎きんきゅうだっしゅつだ〜‼︎」

 

テレビの前で、アークとたいほうがオモチャで遊んでいる

 

「あ〜くなにもってうの⁇」

 

「ひとみもしいたい‼︎」

 

ひとみといよがアークの手元を不思議そうに見ている

 

「ビビリから貰った戦闘機‼︎」

 

「いよはくうま‼︎あんぶうび〜いくお‼︎」

 

「いかしてあおかない‼︎へんち〜ん‼︎」

 

いよの手には黄色い車

 

ひとみの手には銀の車のミニカーが握られている

 

「たいほいはれっぷう‼︎ばばばば‼︎」

 

「うわ〜‼︎あんぶうび〜‼︎ろか〜ん‼︎」

 

四人は実に楽しそうに遊んでいる

 

俺は今しばらく四人を見た後、工廠に入った

 

「アークはどうだった⁇」

 

「相変わらずさっ。どうせその内飽きたらここに来るだろ」

 

「それもそうだね‼︎」

 

白衣を羽織り、きそと共に最後のカプセルの前に立つ

 

「出て来るよ‼︎」

 

ようやくカプセルから最後の一人が出て来た

 

べチャッと音を立て、地べたに落ちた少女は声を出さずに泣き始めた

 

「よ〜しよし‼︎痛かったな‼︎」

 

声を出さずに泣く少女の前で膝を曲げ、頭を撫でる

 

出て来た少女は本当に小さかった

 

この基地で一番小さいのは勿論ひとみといよ

 

そして次はたいほう

 

出て来たこの子は、ひとみといよよりは大きいが、たいほうよりは小さかった

 

「僕はきそ‼︎」

 

「俺はマーカス・スティングレイだ‼︎」

 

「…」

 

少女は口を縦に開け、しゃくり上げながら俺達の顔をしばらく見た後、俺の所に寄りギュッと抱き着いて来た

 

「大丈夫。大丈夫さっ」

 

好戦派の連中はこんな子まで利用していたのか…

 

抱っこを始めてから、少女は一切俺から離れようとしない

 

怯えきって話にならない

 

しかも声帯に異常がある為、意思の疎通も中々難しい

 

「よしっ‼︎みんなの所にご挨拶に行こう‼︎」

 

そう言った途端、少女は俺に力強くしがみ付いた

 

「お友達もいっぱいいるぞ⁇オモチャだってある」

 

「…」

 

余程酷い扱いを受けていたのだろう

 

俺の胸に置いた手に物凄い力を入れている

 

「俺にくっ付いてたら行けるか⁇」

 

そう言うと、渋々だが首を縦に振ってくれた

 

「よしっ‼︎じゃあみんなの所に行ってみよ〜‼︎」

 

きそを先頭に置き、食堂に戻る

 

「パパ‼︎最後の子が出て来たよ‼︎」

 

「おっ⁉︎どれどれ‼︎」

 

「この人はパパ。みんなのお父さんなんだよ‼︎」

 

きその紹介を受けた後に隊長が近寄ると、少女は更に俺にしがみ付く

 

「おっと」

 

隊長は察してくれた様で、伸ばした手を引いてくれた

 

「物凄いレイに懐いてるな⁇」

 

「何か事情があるみたいなんだ…」

 

「あらっ‼︎可愛らしい子ね⁇」

 

台所から貴子さんが顔を見せた

 

少女は貴子さんの声に反応を示した

 

「抱っこしても大丈夫かしら…」

 

「この人は貴子さん。みんなのお母さんなんだよ‼︎」

 

少女は貴子さんをチラ見する

 

「おいでっ‼︎」

 

恐る恐るだが、少女は貴子さんに手を伸ばす

 

「よいしょ〜‼︎」

 

貴子さんが少女を抱っこする

 

少女は口を縦に開け、貴子さんの顔を不思議そうに見つめている

 

「貴子さん…その…」

 

「何と無く分かってるわ⁇いいのよ、お話出来なくても。み〜んな一緒よ⁇」

 

貴子さんの包容力に救われた…

 

「その子だぁれ⁉︎」

 

たいほう達と遊んでいたアークが、一旦手を休めてこっちに来た

 

「名前はまだ無いんだ。ビビらせたりしないでくれよ⁇」

 

「ビビリと一緒の扱いはしないわ⁇」

 

「ぐっ…」

 

アークは”そんな分かりきった事、なんで言うの⁇”とでも言いたそうな顔を見せて来た

 

「しっかしあれだなぁ。名前が無いと不便だな…」

 

何気無しにそう言うと、少女は持っていた小さな鞄から何かを取り出し、俺に渡してくれた

 

「まつわ…」

 

少女が渡してくれたのは、平仮名で書かれた名札

 

それも、小学生が付けるようなデザイン皆無の名札では無く、縁がチューリップの名札だ

 

「よろしくな、まつわ」

 

貴子さんに抱かれたまつわの頭を撫でると、口を縦に開けて、不思議そうに俺を見た

 

「ちょっとだけ工廠に戻る。まつわを頼みます」

 

「分かったわ。さっ、お菓子食べよっか‼︎」

 

貴子さんは、まつわを抱きながら台所へと向かう

 

まつわは貴子さんの肩から顔を半分出し、俺ときそを見つめていた…



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179話 一番最初のお友達(2)

工廠に戻り、カプセルの後片付けをする

 

「ねぇ、レイ。まつわの持ってたあの名札って…」

 

やはりきそも不思議に思っていた様子だ

 

あの名札…

 

あれは幼稚園児が付ける名札だ

 

それが鞄に入っていた

 

「調査が要るな…それと、何とかして意思の疎通法も作らなきゃな」

 

「僕、まつわの過去を調べてみるよ。レイは意思疎通の方法お願いしていい⁇」

 

「何から何まですまんな…」

 

「気にしないで‼︎調べ物得意なんだ‼︎」

 

後片付けが終わった後、きそは食堂からオヤツを持って来て、PCの前に座った

 

俺は食堂の椅子に座り、言われた通り、まつわとの意思疎通方法を考える

 

そのまつわは、お昼寝の為に子供部屋に向かった貴子さんにしっかりとしがみ付いたまま、一緒に向かっているらしい

 

「みんなお昼寝しゃったぁ」

 

「眠たくない」

 

”(・ω・)”

 

子供部屋から、れーべとまっくすが戻って来た

 

まっくすの頭の上にはボーちゃんがいる

 

れーべとまっくすはソファに座り、シュネッケンを齧りながらニュースを見始めた

 

「遠くに行っちゃダメ。分かった⁇」

 

”(-_-)b”

 

ボーちゃんはまっくすに許可を貰い、その辺をウロウロし始めた

 

” ̄(・_・”

 

ボーちゃんが足をつついて来た

 

「どうした⁇」

 

ボーちゃんを机の上に置き、電子の顔を見る

 

”_φ(・_・”

 

どうもボーちゃんは何かを伝えたいみたいだ

 

裏が白い広告とボールペンを持って来て、ボーちゃんの前に置く

 

”_φ(・ ・”

 

ボーちゃんは触手でボールペンを持ち、広告の裏に文字を書き始めた

 

”\(・ ・)/”

 

書き終えた広告の裏を見る

 

”こえをだすそうちほしい”

 

「なんだ⁇みんなとお喋りしたいのか⁇」

 

頬杖をつきながら、半笑いでボーちゃんの電子の顔を見る

 

”_φ(・ ・”

 

ボーちゃんは再び何かを書き始め、また俺に見せる

 

”まつわのかんがえてることわかる”

 

その文字を見て、話が一気に変わる

 

「ホントに言ってんのか⁇」

 

”くうぐんうそつかない”

 

「お前は海軍だろ‼︎」

 

”(^_^;)”

 

「…分かった。ちょっと待ってろ。嘘付いたら、まっくすに一週間接近禁止な⁇」

 

”( ̄^ ̄)ゞ”

 

どうも嘘は吐いていない様子だ

 

音声のシステムなら話は早い

 

AIの為の音声プログラムがあり、それをボーちゃんにインストールすれば良い

 

早速工廠からプログラムを入れたUSBを取り、食堂に戻って来た

 

「後ろ向いてみ」

 

”(・ ・”

 

ボーちゃんの後ろ部分を開け、中の装置を出す

 

「痛くないか⁇」

 

”∧( 'Θ' )∧”

 

「あ、そうか」

 

後ろ部分を開けられたボーちゃんは一時的に機能停止状態になっている

 

ボーちゃんのプログラムにUSBを繋ぎ、手早く音声システムを組み込み、後ろ部分を閉める

 

「そらっ、出来たぞ⁇」

 

”(≧∇≦)”

 

「音声装置は元から付いてるから、もう使えるだろう。ちょっと話して見てくれ」

 

《まーかすさん、ありがとう》

 

「良い子だ」

 

少しぎこちない気もするが、初期段階でこれだけ言えれば上出来だろう

 

「ただいまぁ〜」

 

タイミング良くまつわを抱っこした貴子さんが帰って来た

 

まつわは俺を見るなり、貴子さんの所から俺の所へと手を伸ばして移ろうとしている

 

「おいでっ」

 

「よいしょ…」

 

まつわを預かると、相変わらず俺の服を力強く握り締める

 

「ありがとう、貴子さん」

 

「いいのよっ。また抱っこさせてね⁇」

 

貴子さんが台所に入り、俺はまつわと一緒にボーちゃんの方を見る

 

まつわはボーちゃんに気付くなり飛び上がる様にビックリし、震えながら俺にしがみ付く

 

《まつわちゃん、怖がらないで》

 

「大丈夫。この子は友達だ」

 

俺とボーちゃんの言葉を聞き、まつわは震えつつもボーちゃんの方を見た

 

《僕はボーちゃん。君のお友達》

 

まつわは口を縦に開けて俺の顔を見た

 

「まつわのお友達だってさ⁇」

 

まつわは服を掴んでいた片方の手を離した

 

ボーちゃんに触れようとしている

 

「まずは手を触ってみるか」

 

まずは俺がボーちゃんの触手に触れ、危険が無い事を教える

 

まつわは何度も俺とボーちゃんの顔を交互に見ながら口を縦に開ける

 

そして、まつわがボーちゃんに手を伸ばす

 

最初はチョンチョンと指先でボーちゃんの触手をつつき、安心だと分かると、ボーちゃんの触手を手の平に置いた

 

《よろしくね》

 

非常に分かり難いが、ようやくまつわが笑った

 

《まーかすさん、約束を守ります》

 

「お…」

 

ボーちゃんはまつわの胸元で持たれ、俺はまつわを膝の上に乗せ換えた

 

《おにいちゃんは、まつわのみかた⁇》

 

「あらっ⁉︎」

 

貴子さんが台所越しに驚き、まつわは更に口を縦に開け、目を大きく見開く

 

「勿論さ‼︎」

 

《たすけてくれて、ありがとう》

 

「此方こそ…生きていてくれてありがとう」

 

親友が出来たまつわは、嬉しそうにボーちゃんを抱き締める

 

「ボーちゃんが喋ってる」

 

「レイは凄いや‼︎」

 

「褒めてくれてありがとう。まっくす、しばらくボーちゃんをまつわに貸してやってくれないか⁇」

 

「うん。いいよ。私に変態行為しなくなるから」

 

《まっくすは柔らかくて、触り心地最高》

 

「まつわ。ボーちゃんに何かされたらすぐ言って。ボーちゃん蹴り飛ばすから」

 

《だいじょうぶ。まつわ、ボーちゃんすき。まっくすさん、ありがとうございます》

 

「でも、たまには私にも貸して。…たまに愛おしくなる」

 

《わかった。かしてくれてありがとう‼︎》

 

まっくすとれーべは再びソファに戻った

 

「ボーちゃん。お前凄いな⁇」

 

《脳波を読み取るのは、ボーちゃん得意》

 

「まつわ、ボーちゃんを大切にな⁇」

 

《うんっ‼︎おにいちゃん、ありがとう‼︎》

 

まつわは俺から離れ、テレビの前に座り、ボーちゃんを膝に置いている

 

「工廠にいるから、何かあったら呼んでくれ」

 

「分かったわ‼︎」

 

ようやく工廠に落ち着き、きその調査を聞いてみる



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180話 涙の銃弾(1)

前回の続きになります

蒼龍が出てきますのでグロ注意です

まぁまぁ重たい話になっています


「どうだ⁇何か分かったか⁇」

 

「う、うん…」

 

PCの画面に映ったきその顔は青ざめていた

 

「どうした⁇」

 

「まつわ…誘拐されてる」

 

PCに出ているきその調査結果を見る

 

 

 

対潜特化型海防システム

 

このシステムは、対潜に特化しており敵潜水艦に対し有効なレーダー及びソナーを搭載

 

艤装は爆雷を多数積載

 

「これが艤装の一覧」

 

通常の缶の様な爆雷から始まり、ヘッジホッグ、そして小型の対潜ミサイルまで積まれている

 

文章には続きがある

 

このシステムは独立して運用可能であり、人員を乗せる手間が無い

 

ただ、その代わりシステムの中枢となる”艦娘”、もしくは手頃な”少女”を乗せるしかない

 

 

 

 

「とりあえず、まつわのシステムはこんな感じ。次が問題なんだ…」

 

きそがPCを弄り、次の文章を表示する

 

どうやら好戦派の一人の日記をハッキングして入手した様だ

 

 

 

海防システムの中枢確保について

 

現在、海防システムのみが稼働不可となっている

 

駆逐艦及び航空母艦は独立起動可能となったが、このシステムには駆逐艦より幼い子が必要となる事が調査の結果、明らかになった

 

切羽詰った研究員が幼稚園児を誘拐し、無理矢理海防システムの中枢へと放り込んだ

 

海防システムは稼働したが、どこか心残りがある

 

私達は何の為に戦っているのだろうか…

 

文章はここで終わっている

 

 

 

 

「まつわを誘拐した研究員は何処にいる」

 

「トラックの刑務所だね」

 

「コイツに少し聞きたい事がある」

 

「分かった。トラックさんに連絡入れとくね」

 

食堂に戻り、執務室に向かう

 

「隊長、俺だ」

 

「開いてるぞ〜」

 

執務室に入ると、母さんとアークもそこに居た

 

「きそから聞いたよ”アルカトラズ”に行くのか⁇」

 

「んな事言ったら蒼龍に食われるぞ⁇」

 

隊長は数秒考えた後、すぐに撤回した

 

「…蒼龍には内緒にしてくれ」

 

「分かった。今日は横須賀に泊まるかもしれないから、ご飯は要らない」

 

「分かった。すまんな、任せっきりで…」

 

「気にしないでくれ。勝手にやってるだけさ」

 

「マーカス⁇トラックさんに失礼の無い様にね⁇」

 

「ビビリは良い奴だったよ…」

 

「勝手に殺すな‼︎」

 

アークのお陰で、多少は気迫を取り戻す

 

執務室を出た後、食堂でコーヒーを流し込む

 

遊び疲れたのか、ソファでひとみといよと固まり、相変わらず口を縦に開けて寝ているまつわがいた

 

寝ているまつわはボーちゃんを抱いており、俺は髪をそっと撫でて出ようとした

 

《お母…さん…》

 

ボーちゃんがまつわの脳波に反応し、言葉を発した

 

「まつわ…」

 

まつわは口を縦に開けたまま、一粒の涙を流した

 

「その涙…俺が銃弾にして返してやる。だから、ちょっとだけボーちゃんを借りるぞ」

 

「行くのね」

 

貴子さんが見送りに来てくれた

 

「子供達を頼みます。ボーちゃんと俺はすぐ帰ると…」

 

「マーカス君…」

 

まつわの涙を撫でた後、ボーちゃんを頭に乗せ、タナトスに乗る

 

操舵室に入り、いざ艦長の座る椅子に座ろうとした時だった

 

「創造主も色々大変でちな」

 

いつの間にかゴーヤが壁にもたれて腕を組みながら俺を見ていた

 

「トラックでいいでちか⁇」

 

「頼んだ」

 

「そこで大人しくしてるでち…」

 

ゴーヤは体勢を崩さずに目を閉じる

 

タナトスの電子機器が稼働し、錨が引き上げられ、タービンが回る

 

「抜錨するでち」

 

ゴーヤは目を閉じたままタナトスを動かし、基地から出航させる

 

「目標航路設定。トラック基地。所要時間…」

 

ゴーヤは機械的な言葉を幾つか口にした後に目を開け、俺の所に来た

 

「創造主」

 

「なんだ⁇」

 

「たいほうが言ってたでち。トラックさんのケーキは絶品だって。落ち着いたら、ゴーヤも食べたいでち‼︎」

 

「今日でも良いんじゃないか⁇俺が用事済ましてる間に、トラックさんなら食わせてくれるだろ」

 

「おぉ〜‼︎」

 

ゴーヤも少しずつだが、色々な物に興味を示し始めている

 

「さ〜てぇ⁉︎着くまでする事ねぇな⁇」

 

「そう言えばこの前、創造主の元嫁からゲームを貰ったでち」

 

ゴーヤはゲームのディスクを取り出し、機器にいれる

 

「またふっるいゲーム貰ったなぁ⁉︎」

 

「やり方が良く分からんでち」

 

ゴーヤが貰ったのは、かなり古いハードの、恐竜を倒すゲームの”2”

 

何故2だけ貰ったのかは分からない

 

「暇潰しにはなるでち」

 

「やってみるか…」

 

ゴーヤからコントローラーを貰い、トラックに着くまでそれをプレイする事にした…

 

 

 

 

 

「チクショウ‼︎何でそんな所から出てくんだよ‼︎」

 

「反則でち‼︎」

 

”(゚Д゚)”

 

「あっ‼︎バッカヤロウ‼︎」

 

「ダメージ喰らってんじゃね〜でち‼︎」

 

”(♯`∧´)”

 

「そっちに行くんじゃねぇ‼︎左じゃねぇ右だ‼︎お箸を持つ方‼︎そう‼︎そうだ‼︎」

 

「やっとまともな動きし始めたでち」

 

”(≧∇≦)”

 

何だかんだ文句をブツブツ言いながらも、このゲームは中々噛み応えがある

 

チョット操作性に難有りだが、中々どうして面白い

 

ボーちゃんとゴーヤと交代しながらプレイしていると、時間はあっと言う間に過ぎた

 

「トラック基地に着きました。錨を降ろします」

 

ゴーヤの機械的な言葉で、一気に我に返る

 

「セーブしといてくれ」

 

「了解でち‼︎」

 

「ボーちゃんはちょっとだけお留守番な⁇」

 

”(`_´)ゞ”

 

トラックに降り立ち、まずは執務室に向かう

 

「ようこそレイ。話は聞いてます。蒼龍が”アルカトラズ”に居ますので、彼女の方が詳しいかと」

 

「ありがとう。トラックさんまでアルカトラズなのか…」

 

「あぁ…あはは‼︎そっちの方が呼びやすいのでね‼︎流刑地だとか、島流しとかより、よっぽどカッコ良いでしょう⁇」

 

「まぁなっ。じゃあ、行ってくる。あ‼︎そうだ‼︎もし失礼じゃなけりゃ、食堂にいるゴーヤにケーキを食べさせてくれないか⁇勿論礼はする」

 

「そりゃあ勿論‼︎お気を付けて‼︎」

 

俺が執務室を出てすぐ、トラックさんはある人物に無線を繋いだ

 

「今そっちに向かった。後は頼む」

 

《了解。提督はそっちを頼ンだ》



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180話 涙の銃弾(2)

〜トラック基地・アルカトラズエリア〜

 

アルカトラズに着くと、早速蒼龍が居た

 

「そこから出たいですかぁ〜⁇」

 

「出せ‼︎俺は悪くない‼︎」

 

「いけませんねぇ。貴方達は私に食べられるんですよぉ〜⁇」

 

蒼龍は牢屋の中にいる囚人をマジックハンドでつつきながらおちょくって遊んでいる

 

「蒼龍」

 

「あっ‼︎レイさん‼︎」

 

俺を見るなり、蒼龍はスキップをしながら飛び掛かって来た‼︎

 

俺は必死に蒼龍の頭を掴んだり口の中に手を入れて食われるのを防ぐ

 

「んん〜っ‼︎指ぃぃぃぃ‼︎指を食わせろ‼︎」

 

「ストップ‼︎頼むからストップ‼︎ホラ‼︎これな〜んだ‼︎」

 

「コレ何ですかぁ⁇」

 

ポケットからタナトスに載っていた非常食である高カロリーの焼き菓子を出し、蒼龍にチラつかせる

 

「コレやるから離してくれ‼︎」

 

蒼龍はすぐに手を離し、焼き菓子を取った

 

「イデッ‼︎」

 

蒼龍が急に手を離した為、コンクリの地面に落ちた

 

「さて」

 

目の前には勿論牢屋

 

「この中で大規模艦隊に所属していた奴は⁇」

 

囚人達は沈黙を貫く

 

「蒼龍。こいつらの罪状は⁇」

 

「え〜と、死刑と無期懲役ですねぇ」

 

流石はアルカトラズ

 

極悪戦犯ばっかり入ってやがる

 

「死刑の連中は⁇」

 

「左の牢屋全部です」

 

「事情聴取は⁇」

 

「後は食べられるのを待つだけですよ〜」

 

「そっか」

 

俺は一番近い位置にあった牢屋の鍵を開け、囚人を一人出し、牢が群がる中心部に膝をつかせた

 

「え⁉︎いつの間に⁉︎」

 

俺はもみ合いの際に蒼龍の谷間から鍵を抜き取っていた

 

「正直に自分が何をしたか、研究員はどいつかを言えば刑期を無くしてやる。どうだ⁇悪くないだろ⁇」

 

「ちょっとレイさん‼︎」

 

焦る蒼龍に目もくれず、俺は囚人の目を見続ける

 

「お…俺はシステムの実験担当だった…その時、何人か犠牲を出した」

 

「研究員は」

 

「向かいの牢にいるあの男だ…」

 

向かいの牢には、此方を睨み付けている男が居た

 

「蒼龍、そいつを出してくれ」

 

「わ、分かりました‼︎」

 

蒼龍に鍵を返し、研究員を牢屋から出す

 

「レイさん‼︎提督から聞いたぜ‼︎何かあるなら手伝うよ‼︎」

 

タイミング良く江風が来てくれた

 

トラックさんが無線を入れていたのは江風だった

 

理由は、何か手伝える事があるなら手伝う事と、対蒼龍対策の為である

 

「こいつをあの潜水艦に運んで置いてくれ」

 

「おっしゃ分かった‼︎」

 

研究員は言葉を発しないまま、潜水艦に運ばれて行った

 

「もっ、もう良いだろ⁉︎全部話した‼︎」

 

残ったのは研究員の居場所をゲロった死刑囚

 

「あぁ。そうだな。蒼龍」

 

「え⁉︎良いんですかぁ⁉︎」

 

蒼龍はジリジリと死刑囚に滲み寄る

 

「や、止めろ…嘘だろ⁉︎」

 

「短くなったろ⁇」

 

「オヤツがおしゃべりしていますねぇ…」

 

「あがっ…ギャァァァァ‼︎」

 

蒼龍は死刑囚の右肩に噛み付き、肉を噛み千切る

 

「美味いか⁇」

 

「はひっ‼︎もひろんれすよぉ〜‼︎」

 

蒼龍は早速食べ始めており、口周りを血で汚している

 

「食い過ぎんなよ⁉︎」

 

「ん〜っ‼︎おいひ〜い‼︎」

 

こうなれば蒼龍は歯止めが効かない

 

駆逐艦の子達や、トラックさんを食べようとしなくなっただけ随分マシだろう

 

…残りは研究員だ

 

 

 

 

 

潜水艦に戻り、ボーちゃんを連れて研究員と江風のいる部屋に向かうと、江風は研究員を口にタオルを詰め込み、椅子に雁字搦めにして抑え付けていた

 

「ありがとう。これはお礼だ」

 

蒼龍と同じく、高カロリーの焼き菓子を江風に渡そうとした

 

「いーよ。提督のメシの方が美味いかんな‼︎じゃな‼︎」

 

江風はお礼を受け取らないまま、タナトスから出て行った

 

「さてっ…」

 

向かい側の椅子に座り、研究員の頭にボーちゃんを乗せる

 

研究員はボーちゃんに大層ビビり、椅子をガタガタ言わせながら逃げようとしている

 

「ボーちゃん。利用する様なマネして、本当にすまん」

 

《これでようやくマーカスさんの役に立てるね‼︎》

 

「お前は充分役に立ってるさっ」

 

ボーちゃんの頭を撫で、研究員に質問を始める

 

 

 

 

質問を繰り返して行く内に、幾つか分かった

 

あまぎりさぎり他多数は建造装置から産まれ、まつわ…そしてもう一人は誘拐によって確保されたらしい

 

俺はその話を聞いて耳を疑ったが、それ以上でも以下でもない情報しか、彼は知っていなかった

 

そして、本題に入る

 

「まつわを誘拐したのはお前だな⁇」

 

《手頃な実験体が居なかったからしたまでだ》

 

研究員は自分の考えを読まれているのに気付き、頭を振ってボーちゃんを剥がそうとする

 

暴れる研究員を無視し、俺はボールペンでバインダーに挟んだ紙に、聞いた質問と答えを書き上げて行く

 

「まつわの母親はどうした⁇」

 

《狙いはまつわだけだった。が、母親が暴れたもんで口封じの為に誘拐した》

 

「その後はどうした」

 

《あのシステムは一定の年齢を重ねると反応しなくなる。大層美人だったから、おおよそ男達の慰み者にでもなったのだろう》

 

「チッ…」

 

持っていたボールペンをへの字に叩き折る

 

「最後に聞く…まつわに何をした」

 

《我々に従順になる様な洗脳、訓練、調教さっ》

 

「…ボーちゃん、データは取れたか⁇」

 

《全部取った‼︎》

 

「よくやった。食堂にジュースとお菓子置いてあるから食べて来い」

 

《やったぁ‼︎》

 

ボーちゃんは研究員の頭から離れ、床に降りた後、部屋から出た

 

ボーちゃんが出た後、俺は研究員に見せびらかす様にピストルを出した

 

「悪いがお前に慈悲は無い。今から込める銃弾は、お前に連れ去られた一人の女の子の怒りと悲しみが込められてる…」

 

研究員は目の前で込められて行く銃弾に冷や汗を流す

 

ピストルに”二発の弾”が込められ、首に銃口を向ける

 

「この一発は…お前の身勝手によって人生を奪われた女の子の涙だ‼︎」

 

研究員の喉を撃ち抜き、背後の壁に血が吹き飛ぶ

 

研究員は辛うじて生きてはいるが、喉に風穴が開き、絶命するのも時間の問題だ

 

「そしてこの一発は俺と…俺の”母さん”の怒りだ‼︎」

 

今度は眉間を撃ち抜く

 

「地獄で研究してな。ちったぁ退屈凌ぎになんだろ⁇俺からの長い長い宿題だ」

 

「だぁ〜っ‼︎何やってんでちぃ‼︎」

 

タイミング悪くゴーヤが部屋に入り、大股を開きながら頭を抑える

 

「タナトスを汚すなとあれ程言ったでち‼︎」

 

「わ、悪い…」

 

「ったく…トラックさんの所に行って来るんでちな」

 

「土下座してくるよっ…二人犠牲を出した」

 

「今更一人二人殺した所で変わんないでち‼︎」

 

「まぁな」

 

ゴーヤは相当頭に来ているらしい

 

ゴーヤはタナトスの艦内を意図的に汚されるのを相当嫌う

 

いよとひとみのお菓子のカス等は笑って許すが、今回の様に意図的に殺人等をするとメチャクチャキレる

 

「そんなに汚れるのイヤか⁇」

 

「好きな人の前では、綺麗でいたいでち…」

 

「お前…」

 

「あ〜もぅ‼︎とっとと行くでち‼︎このク創造主‼︎だぁ〜もぅ‼︎何でこんな爆散するんでちか‼︎」

 

ゴーヤにその場の処理を任せ、トラックさんの所に戻って来た

 

「執行は完了しましたか⁇」

 

「二人犠牲を出した」

 

「そうですか…」

 

トラックさんは随分落ち着いていた

 

その答えはすぐに出た



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180話 涙の銃弾(3)

「蒼龍の執行よりはマシでしょう⁇」

 

「い、いや…まぁ…」

 

「蒼龍は楽には逝かせてくれませんからね」

 

蒼龍の執行は確かに怖い

 

生きたまま各部位を喰い荒らされ、意識のあるまま自分が死に行く姿を確認しなければならない

 

「当初は罪人とは言え、断末魔は耐えられませんでしたが、毎晩蒼龍の執行を見て慣れました」

 

「はは…」

 

トラックさんは頭を抑えている

 

「それよりレイ。これを」

 

トラックさんは俺にタオルを渡してくれた

 

「今のレイの顔を見たら、ひとみちゃんやいよちゃんが怖がりますよっ」

 

「すまん」

 

タオルで顔を拭くと、ベッタリと血が付いていた

 

こんなになるまで気付かんのか、俺は…

 

「そうだ‼︎食欲はありますか⁇」

 

「多少はな」

 

「シュークリーム、食べませんか⁇」

 

「食欲湧いてきた‼︎」

 

トラックさんがシュークリームを食べさせてくれると聞いた瞬間、腹まで鳴る始末

 

早速食堂に移り、トラックさんにシュークリームを出して貰う

 

「駆逐の子にも食べて貰いましたが、レイの意見も欲しくてね」

 

「頂きます‼︎」

 

早速シュークリームを食べる

 

皮は分厚く、中は濃厚なクリームとカスタードがギッシリ詰められており、しつこく無い甘さでとても美味しい

 

「どうですか⁇」

 

トラックさんは生唾を飲む

 

「美味い‼︎カスタードもクリームも最高だ‼︎」

 

「たいほうちゃんや照月ちゃんに出しても大丈夫ですか⁇」

 

「勿論‼︎トラックさんが良いなら是非食べさせてやってくれ‼︎」

 

「ふぅ…安心しました‼︎」

 

互いに笑い、ようやく事が落ち着く…

 

 

 

 

「お気をつけてお帰り下さい」

 

「蒼龍と江風に礼を言っておいてくれ。江風に至っては何も受け取らなかったんだ」

 

「畏まりました‼︎」

 

トラックさんに別れを告げ、タナトスの防水扉を閉めた

 

「や〜っと綺麗になったでち‼︎」

 

先程の部屋に戻ると、見違える様に綺麗になっていた

 

「ゴーヤ」

 

「帰って来たでちか」

 

「その…悪かったな」

 

「これからは前もって言って欲しいでち」

 

「分かったよ」

 

「こらボーちゃん‼︎肉を食うんじゃね〜でち‼︎」

 

ボーちゃんは残った肉片を食べ、ゴーヤはそれを叱っている

 

「さっ。お家に帰るでち‼︎」

 

ゴーヤの一声で、タナトスがトラックから出航する…

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「お帰りなさい‼︎」

 

「よくやったな‼︎」

 

基地に帰ると、貴子さんと隊長が迎えてくれた

 

「腹ペコペコだぁ…」

 

「もうすぐご飯出来るからね‼︎」

 

隊長の前に座り、調査結果を書き留めた書類を出した

 

「誘拐、暴行…その他諸々。救いようの無い結果だったよ」

 

「すまんな…お前に汚れ役ばかり任せて…」

 

「気にしないでくれ。一応、今回の一件で好戦派は一掃出来た」

 

「勲章モンだぞ⁇」

 

「勲章よか、俺は焼きそばの方が良いね」

 

「お待ちどうさま‼︎」

 

「おっ‼︎頂きます‼︎」

 

貴子さんが持って来た山盛りの焼きそばを早速頂く

 

隊長が書類を脇に挟み、窓を開けてタバコを吸い始めた

 

「えいしゃんおかえい‼︎」

 

「たえたらおふおいこ‼︎」

 

ひとみといよが足元に来た

 

「んっ‼︎分かった‼︎まつわはどうした⁇んっ⁇」

 

反対側の足がつつかれる

 

振り返るとボーちゃんを抱いたまつわがいた

 

《まつわもお風呂入る》

 

「俺と一緒で良いか⁇」

 

《うんっ‼︎》

 

焼きそばを食べ終えた後、たいほうも入れた五人で風呂に入る事にした

 

 

 

 

「えいしゃんきもち〜⁇」

 

「気持ちいいぞ〜」

 

ひとみといよに背中を流して貰い

 

《頭ゴシゴ〜シ》

 

「まつわもボーちゃんも気持ちいいぞ〜」

 

まつわとボーちゃんに頭を洗って貰い

 

「おゆかけるよ‼︎」

 

「来い‼︎」

 

たいほうにこれでもかとお湯をかけられる

 

正に至れり尽くせり

 

湯船に入ると、まつわはボーちゃんに掴まり、ひとみといよと共に軽く泳ぎ始めた

 

「すてぃんぐれい、きょういそがしかった⁇」

 

「そうだなぁ…ちょっと疲れたな。ごめんな、中々遊んでやれなくて」

 

久しぶりにたいほうを抱っこしながら湯船に入る

 

「たいほうおともだちいっぱいできたからだいじょうぶ‼︎」

 

「そっか…」

 

たいほうも随分と成長した気がする…

 

嬉しい反面、少し寂しいな…

 

「でも、たまにはたいほうとあそんでね⁇」

 

「勿論‼︎」

 

たいほうはやはり無邪気だ

 

そんなたいほうを見て、ほんの少し安心した…

 

 

 

風呂から上がり、子供達が寝静まる

 

俺は食堂に残り、ソファに座ってボーっとテレビを見ていた

 

「マーカス」

 

「なんだ⁇寝付けないのか⁇」

 

母さんが来た

 

「ビビリは寝ないの⁇」

 

母さんの車椅子を引いたアークも来た

 

「たまには夜更かしもしたくなるお年頃なんです〜」

 

「調査結果の書類を見たわ」

 

母さんの一言で身が凍りつく思いになった

 

「その、何だ。ありがとな⁇俺を護ってくれてよ」

 

「気にしないで下さい。姫のご子息を御守りするのは、私の役目です」

 

アークの口調が一気に丁寧なものに変わる

 

あの研究員が誘拐したのはもう一人いた

 

…アークだ

 

アークと俺には、切っても切れない縁があった…



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180話 赤い雷鳥

題名は変わりますが、前回の続きになります

アークとレイの関係が明らかになります


俺がまだドイツで孤児になる前…

 

俺は知っての通り、イギリス人とアメリカ人の間に産まれた

 

しかも母さんは女王陛下の血を引く人

 

家には少なからず使用人がいた

 

その中の一人がアーク

 

アークは俺のお守りを主に担当し、そして産まれて初めての友人になった

 

だが、物心付く前に戦争になり、俺、そしてプリンツはドイツに取り残された

 

アークは俺達二人を護ってくれたらしい

 

そして俺達を親父が言った通りに孤児院に残し、自分は長期に渡る実験の為に連行された

 

アークには感謝しても仕切れない

 

 

 

 

「マーカスが最初、ジェミニを連れて来た時は驚いたわ。胸以外はアークにソックリだったから…」

 

「うっ…」

 

アークは胸を隠した

 

「俺はアークをどっかで覚えてて、尚且つ好きだったんだな…」

 

「そうね」

 

「マーカス様」

 

「ビビリで良い。そっちの方がアークらしい」

 

「そうよアーク。マーカスはビビリよ⁇」

 

「かっ…畏まりました。ビビリ、これからもアークに何なりと…」

 

アークは俺に一礼をする

 

「そうだな…ならっ、これからも俺をおちょくるんだな‼︎」

 

「あらっ‼︎ふふっ‼︎」

 

母さんが笑う

 

「ひ、姫‼︎何とか言って下さい‼︎」

 

「私も素のアークが好きよ⁇」

 

「ぐっ…わ、分かった‼︎これからもビビリをビビらせてやるから覚悟しろ‼︎」

 

「そう‼︎それが良い‼︎」

 

「うぐ…」

 

アークは頭を抱えている

 

「アーク⁇もう昔の様な関係ではありません。マーカスだってそう言っています」

 

「ちょっと一晩悩ませて下さい…」

 

アークは頭を抱えたまま、部屋に戻って行った

 

「マーカス、アークを頼むわね⁇」

 

「こちらこそ。後は艤装だなぁ…」

 

「そうそう‼︎アサシモからコレをマーカスに渡してくれと‼︎」

 

母さんはいつもの箱から短剣の様な物を取り出した

 

「なんだこれ⁇」

 

「”ユーバリン”と一緒に造ったみたい」

 

「ユーバリン…」

 

夕張と聞いてまず浮かぶのが電気ショック

 

恐る恐る短剣を鞘から抜くと、何かのスイッチがあった

 

「バリスティックか⁇」

 

「どうかしら…」

 

誰もいない窓に向かってスイッチを押すと、刀身から電気が流れた

 

電気特有のパチパチ音がし、電流が目に見えた

 

「これどっかで見たな…」

 

多分、タナトスの中でした恐竜のゲームの武器だ

 

言われてみれば、女側の主人公はアークに似ていたな…

 

「明日試してみるよ」

 

「そうね。おやすみ、マーカス」

 

「おやすみ」

 

母さんの額にキスをし、俺もベッドに入った…

 

 

 

 

 

 

好戦派が壊滅しました

 

壊滅及びその後の迅速な対応に対し、勲章を授与します

 




きそ「何のゲームか分かるかな⁉︎」


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181話 雷鳥、凶鳥、時々番犬(1)

さて、180話が終わりました

今回は明るいお話です

好戦派の動きが落ち着いた為、三人のヤンキーが休暇を貰いました

果たして彼等は何をするのか⁉︎


朝、目が覚めると横に誰か居る事に気付いた

 

「…」

 

寝ている時まで口を縦に開けているまつわがそこにいた

 

”∧( -Θ- )∧”

 

ボーちゃんはまつわの枕元で触手を仕舞い、球体状態になってスリープモードになっている

 

まつわに布団を掛け直し、食堂に向かう

 

”(ノД`)”

 

俺が部屋から出てすぐにボーちゃんが目を覚まし、触手を出してまつわの状態を見る

 

《血圧正常、心拍数正常…》

 

まつわのバイタルを確認した後、ボーちゃんももう少し眠る事にした…

 

 

 

 

「今日は視察⁇」

 

「休暇という名のな…ふぁ」

 

あくびをしながら貴子さんと話す

 

今日はアレンと健吾と横須賀で逢う約束をしている

 

隊長に休暇を取りたいと言ったら、二つ返事で許可をくれた

 

好戦派の勢いも一気に弱まり、本格的な調査は総司令部が行うらしい

 

まっ、あの三人なら任せて大丈夫だろうし、何かあれば駆け付けてやればいい

 

「ふふっ‼︎久し振りに任務抜きで逢うんでしょ⁇」

 

ぬるめのコーヒーだけ淹れて貰い、すぐに飲み干す

 

「そっ。たまにはアイツらをコテンパンにしないとなっ。行ってきます‼︎」

 

「楽しんでらっしゃい‼︎」

 

貴子さんに見送られ、早速格納庫のグリフォンに乗ろうとした

 

「レイさん‼︎今日はこっちかも‼︎」

 

港で秋津洲が呼んでいる

 

「あ、そっか。今日はダメなのか」

 

「さっ‼︎横須賀に行くかも‼︎」

 

二式大艇に乗り、いつもの様に操縦席に座ろうとした

 

「今日はダメかも‼︎提督がダメって言ったかも‼︎」

 

秋津洲に客席に座らされ、シートベルトで縛られる

 

「いいか⁇絶対落ちるなよ⁇」

 

「心配しなくていいかも‼︎レッツゴー‼︎」

 

秋津洲の掛け声と共にご機嫌に白と黒の煙を噴き出す二式大艇のエンジンを見て、俺は全てを諦めた

 

 

 

 

 

「着いたかも‼︎」

 

「煙の割には揺れないのな」

 

シャングリラにあった瑞雲とは違い、揺れも少なく着水もかなりの腕前で横須賀に着いた

 

「おっ‼︎来た来た‼︎」

 

横須賀の港では既にアレンと健吾が待っていた

 

「朝飯食うぞ‼︎」

 

朝ご飯を食べる為に、ずいずいずっころばしに向かう

 

「いらっしゃい‼︎今日は大勢ね⁉︎」

 

「今日のオススメは⁇」

 

「良いカツオが入ったんです‼︎如何ですか⁉︎」

 

「んじゃそれ‼︎」

 

「俺も‼︎」

 

「俺も‼︎朝からお寿司は初めてです‼︎」

 

瑞鶴は俺達に笑顔を送った後、カツオのお寿司を握り始めた

 

「お待ちどうさま‼︎」

 

「「「頂きます‼︎」」」

 

三人共、一口でカツオの握りを平らげる

 

「何でも言ってね。すぐ握るから‼︎」

 

瑞鶴はすぐに握ってくれる

 

「バッテラあるか⁇」

 

「味が良く染みたのがあるわ‼︎」

 

「鉄火巻を長めでくれるか⁇」

 

「オッケー‼︎すぐ作るわ‼︎」

 

「グッピーの軍艦巻き下さい‼︎」

 

「新鮮なのがあるわ‼︎」

 

「クリオネのたたき一つ‼︎」

 

「直輸入モノよ‼︎」

 

「アロワナの炙りだ‼︎」

 

「ちょっと待ってね。今シメてるから‼︎」

 

瑞鶴に散々注目をし、朝ご飯とは思えない量を食べる

 

「腹一杯だ‼︎」

 

「6200円だけど、6000円にしとくわ⁇」

 

「一人2000円は…食ってるな‼︎」

 

「割り勘だ割り勘‼︎」

 

「安いモンです‼︎」

 

一人2000円ずつ置いて、ずいずいずっころばしから出た

 

「いやぁ〜、食った食った‼︎」

 

「やっぱ美味いなぁ‼︎」

 

「久し振りにいっぱい食べました‼︎」

 

次は食後の運動に向かう為、遊戯場へと足を運ぶ

 

その道中、屋根の上で明石が作業しているのが見えた

 

俺達三人は明石の下に向かい、首を上に向ける

 

「今日は白か」

 

「しかもレースだぜ」

 

「履いてたんですね…」

 

目的は勿論明石のパンツ覗き

 

素晴らしいまでに白いパンティーだ‼︎

 

「あっ‼︎三人共お疲れ様です‼︎休暇ですか⁉︎」

 

「そんな所だ‼︎何やってんだ⁉︎」

 

互いに大きめの声を出し、会話を進める

 

「天井の修理です‼︎ちょっと脆くなってて‼︎パンツ見たのは黙ってますから、ちょっと見てくれませんか⁉︎」

 

「バレてらぁ‼︎」

 

「逃げろ‼︎」

 

「分かりました‼︎提督にスカート捲られたって言います‼︎」

 

「健吾、俺達がやってる間にラムネ買って来てくれないか⁇」

 

「了解です‼︎」

 

健吾に小銭を持たせてラムネを買いに行かせている間に、ハシゴで屋根の上に登る

 

「ったく…パンツ見せる方が悪いんだよ。なぁ⁇」

 

「世の中には見せパンってのがある位だ。パンツ一つで文句言うなってぇの」

 

二人でブツブツ文句を言いながら屋根に上る

 

「そこ、前の台風で雨漏りしてる場所ですから気を付けて下さいね⁇」

 

「…」

 

「…」

 

俺達の反応は無い

 

「嘘っ‼︎」

 

焦った明石はすぐに振り返る

 

そこに俺達はおらず、あるのは屋根を突き破って下に落下したであろう、二人分の大穴だけ

 

明石は穴を覗いて見た

 

「うわぁ…」

 

二人は物の見事に落下していた

 

明石が直していた屋根は女湯の屋根…

 

要は入渠施設に落ちたのだ

 

明石が忠告する数秒前…

 

俺達はブツブツ文句を言いながらも明石の元に向かおうとした

 

そして同時に同じ屋根の板を踏む

 

屋根は落とし穴の様に音を立てずに崩れ、俺もアレンも真顔のまま、そして無言のまま”スンッ‼︎”と効果音を出しながら落下したのだ

 

落ちて0.3秒後、ようやく悲鳴が出た

 

「うわぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

「何だってんだぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

2秒後、湯船の中に落ち、二人分の水柱が上がる

 

「うわぁ‼︎」

 

「何だっ呪⁉︎」

 

「何なの⁉︎」

 

入渠施設にいた、ザラ、占守、伊19が驚く

 

「何だ何だ⁉︎いきなり落ちたぞ‼︎」

 

「空じゃなくて良かった…」

 

「レイさん‼︎アレンさん‼︎大丈夫ですか⁉︎」

 

天井から明石が顔を見せた

 

「もっと早く言えよ‼︎」

 

「びしょ濡れじゃないか‼︎」

 

「人の話聞かない方が悪いんです‼︎」

 

「何だ…レイさんとアレンさんか…」

 

「驚いて損したっ呪」

 

「ビックリさせないで欲しいのね」

 

俺達は入渠中の女子の驚きの無さに驚いている

 

「あの…もうチョイ驚けよ…」

 

「悲しいだろ⁇」

 

「ついでにそこで体流したらどうです⁇」

 

「レイさんとアレンさんが入ってても、誰も文句言わないのね‼︎」

 

「ムッシュが流してあげるっ呪‼︎」

 

普段二人共子供達と一緒にいる所為か、全く警戒心を持たれていない

 

「はいは〜い‼︎脱ぎ脱ぎするのね‼︎」

 

イクに服を脱がされ、俺はザラ、アレンは占守に体を洗われる



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181話 雷鳥、凶鳥、時々番犬(2)

「さっ‼︎綺麗になったらポイなのね‼︎」

 

「ぐへぇ‼︎」

 

「えうっ‼︎」

 

体を洗い終わると、中々の怪力のイクに首根っこを掴まれ、脱衣所に放られる

 

「ふふふ…まぁ良い…今日はこれ位で勘弁してやろう‼︎」

 

「だがな‼︎次はあると思え‼︎」

 

「「さらばだ‼︎」」

 

「ちょっ‼︎二人共服‼︎服ぅ〜‼︎」

 

服を着けないまま外に出ようとすると、入り口付近で誰かに当たった

 

「あら、貴方達‼︎」

 

「香取てんてー‼︎」

 

「お久し振りです‼︎」

 

ぶつかったのは空戦の臨時教師に来ていた香取てんてーだ

 

「先生も今からお風呂か⁇」

 

「…ほほぅ⁇」

 

香取てんてーは舌舐めずりをしながら眼鏡を直す

 

「な〜んか怒ってらっしゃいません⁇」

 

「貴方がたには、少し厳しい教育が必要な様ですね⁇」

 

「い、いやぁ〜、僕達悪い事してません‼︎」

 

「見ろ‼︎健全な男子だ‼︎」

 

「健全な男子…ほぅほぅ…先生は健康な男子の筋肉美が大好きです」

 

「「あ」」

 

ここでようやく気付く

 

自分達が何も身に付けていない事を‼︎

 

「あ‼︎屋根の修理しなくちゃな‼︎アレン⁉︎」

 

「そうそう‼︎服着たら行かなきゃな‼︎ははは‼︎では先生、これでは‼︎」

 

「ふふふふふ…」

 

「だっ‼︎」

 

「ばっ‼︎」

 

逃げようと反転してすぐに香取てんてーに首根っこを掴まれる

 

「先生は年上が好みですが…鹿島の様に若い男性も良いものですね…」

 

「あ、あはは…」

 

「お、俺達食っても美味しくは〜…」

 

「少し位つまみ食いしても、誰も咎めませんよね⁇」

 

「嫌だぁぁあ‼︎」

 

「誰か助けて‼︎」

 

「さぁ‼︎先生と補習授業です‼︎」

 

俺とアレンはタオルだけ渡された後、別室に連れて行かれた…

 

 

 

 

20分後…

 

「やっと終わった…」

 

明石が屋根の修理を終え、下でラムネを抱えて待っている健吾の所に降りて来た

 

「お疲れ様です。はいっ」

 

健吾は明石にもラムネを差し出す

 

「気が利きますねー‼︎ありがとうございますぅ‼︎」

 

「レイさんとアレンは⁇」

 

「え〜と、その〜…」

 

「筋‼︎」

 

「肉‼︎」

 

俺とアレンはタンクトップ一丁とジーパンの姿にチェンジし、明石と健吾から少し離れた場所で意味不明にマッチョポーズを取る

 

「凄い筋肉…どうしたらあぁなるのかな⁇」

 

「アレンさんの筋肉も良いですねぇ〜‼︎」

 

健吾は思った

 

艦娘は筋肉好きが多いのだと

 

「いやぁ〜、参った参った‼︎屋根から落ちて風呂にドボン、その次は香取てんてーに掴まってこっ酷く叱られた」

 

「はぁ〜、怖い怖い。怒ったらほうれい線が増えるっての‼︎」

 

「マーカス大尉⁇アレン大尉⁇」

 

「「はぁーーーっ‼︎」」

 

肩に手を置かれ、互いに息が詰まる

 

恐る恐る首だけ振り返ると、そこには笑顔で怒り狂った香取てんてーがいた

 

「気をつけ‼︎」

 

香取てんてーの一言で二人共正面を向き、背筋が伸びる

 

「礼‼︎」

 

明石と健吾に向かって礼をする

 

何故か健吾と明石は頭を下げた

 

「ダブルバイセップス‼︎」

 

「「ぬんっ‼︎」」

 

香取てんてーに言われた通りのマッチョポーズを取る

 

たまたまそこを歩いていた艦娘の子達が立ち止まり、何故か拍手を送っている

 

「いいですか二人共。先生にそんな事を言っていたら、いつの日か奥さんに同じ事を言ってしまいますよ⁇」

 

「了解であります‼︎」

 

「気を付けます‼︎」

 

「先生は誰よりも美しく、そして可愛い‼︎復唱‼︎」

 

「「先生は誰よりも美しく、そして可愛い‼︎」」

 

ギャラリーが大爆笑している

 

そりゃそうだ

 

男二人がマッチョポーズをしたまま、先生に対して美しいやら可愛い等と叫んでいるからだ

 

「ふふっ…今日の所は許してあげます。休暇を楽しんで下さいね⁇」

 

香取てんてーから解放され、一目散に健吾の所に行く

 

「よしっ‼︎遊戯場行くぞ‼︎健吾‼︎ラムネくれ‼︎」

 

「オッケー‼︎」

 

健吾からラムネを貰い、俺達は逃げる様に遊戯場に向かった

 

「全く…あの二人には困ったものです」

 

「先生の教え子の中でも逸材じゃないんですか⁇」

 

「ふふっ、そうね。まぁ…ウィリアム程ではないですがね」

 

明石は見逃さなかった

 

香取がウィリアムの話をした途端、女の顔になったのを…

 

 

 

 

 

「むふふふふ…これは横須賀に来た甲斐がありましたねぇ…」



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181話 雷鳥、凶鳥、時々番犬(3)

遊戯場に着き、早速ボウリングを始める

 

相変わらずアレンは上手い

 

アレンはカーブ等小細工をせず、パワーだけでピンを倒して行く

 

そしてあまりボウリングをした事のない健吾も段々上達し始めて来た

 

1ゲーム終わり、ジュースを飲みながら一服する

 

「健吾。お前横須賀のボウリング見たら爆笑するぞ⁇」

 

「横須賀さんのボウリングですか⁇」

 

「ジェミニのボウリングの仕組みは未だに分からん…」

 

横須賀は時折ここのボウリング場で球を投げている

 

そして未だに”あの投げ方”だ

 

「お呼びかしら⁇」

 

巡回に来ていた横須賀が来た

 

「丁度良い‼︎お前一回投げろ‼︎」

 

「ストライク取ったら何かくれる⁇」

 

横須賀がにやけ顔で詰め寄ってくる

 

「今度ひとみといよと一緒にお買い物をセッティングする」

 

「これで行くわ‼︎」

 

デカい胸して、こう言う時は動きが速い

 

「うんしょ…よいしょ…」

 

持っているボウリング球は相変わらず一番重い球

 

それをガニ股でえっちらおっちらレーンの前まで運んで来る

 

「うりゃ‼︎」

 

ドンッ‼︎と音がし、三人はボウリング球を目で追う

 

数秒後、ピンが全部倒れる

 

「やったわ‼︎」

 

「な⁇」

 

「す…すごっ…」

 

「レイ‼︎ちゃんとセッティングしなさいよ⁉︎じゃあね〜‼︎ふふふのふ〜‼︎」

 

上機嫌のまま、横須賀はスキップしながらボウリング場を出て行った

 

俺達三人はタバコを咥えたまま、レーンの向こうで片付けられて行くピンを見ていた…

 

 

 

 

 

ボウリングが終わり、ザラのいるカウンターで軽食を挟む事にした

 

「ハンバーガーお待たせ‼︎」

 

三人の前にチンされたハンバーガーとポテトが置かれる

 

軽食なのでこれで良い

 

「そういや、アイちゃんのハンバーガーは美味かったな⁇」

 

「最近ジャンクフード作るのが好きでな、チキン、ポテト、シェイク…高カロリー何でも来いだ」

 

「大和の薄味に飽きた頃合いに出てくるから丁度良いんだ。俺は好きだよ⁇」

 

「健吾は良い子だ。よし、帰りにお菓子買ってやるからな⁇」

 

俺は健吾が無言でガッツポーズしたのを見逃さなかった

 

しかし、このザラのカウンターキッチンは中途半端に居心地が良い

 

ゲーム類の騒がしい音があり、暗過ぎず明る過ぎない

 

何とも言えない空間だ…

 

「そうだ。初月‼︎」

 

「はっ‼︎」

 

天井から降りて来た初月にメニューを渡す

 

「何か食え。何も食べてないだろ⁇」

 

「本当か⁇なら、大尉と同じのが良い‼︎」

 

「ザラ‼︎ハンバーガーとポテト追加だ‼︎飲みモンはコーラで‼︎」

 

「畏まりました‼︎」

 

ザラが準備をし始め、いざ初月が席に座ろうとした時だった

 

カウンターキッチンの向こうにあるスロットやパチンコのエリアでフィーバーが出た

 

「景気の良い音だ」

 

「‼︎」

 

音楽が流れ始めた途端、初月が急に踊り始めた

 

「ぶはははは‼︎初月⁉︎」

 

「どうしたんだよ‼︎」

 

「凄い軽やか‼︎」

 

いきなり踊り始めた初月に笑いを隠せない三人

 

「僕はこの曲を聴くと何故か踊ってしまうんだ‼︎止めてくれ‼︎」

 

「すぐ終わるさっ‼︎くふふっ…」

 

初月を止めようとするが、どうしてもシュールさが勝ってしまい、笑みが零れる

 

結局初月は数分間に渡って踊り続けていた

 

「ハァ…ハァ…」

 

ようやく曲が終わり、初月は息も絶え絶えにコーラを飲む

 

そりゃああんだけ手を上げ下げしたり反り返ったりしたらさぞしんどいだろう

 

「あの台…撤去してくれないかな…」

 

「にっ…くくっ…日本のニンジャはみんなそうなのか⁇」

 

アレンは笑いを堪えながら初月に質問をしようとする

 

「コウガのニンジャはみんなあれを聴くと踊り出すんだ」

 

「コウガ⁇」

 

「何かカッコいいな。コウガニンジャか…」

 

そこで健吾がふと気付く

 

「あっ。マークさんの所にいるあの子も踊るの⁇」

 

アサシオの事だ

 

マークとアサシオは時々二人でいるので、何となく存在が知られている

 

「アサシオはイガニンジャだから踊らない。情けない…護衛部隊は沢山いるのに僕だけだぞコウガは‼︎」

 

「イガニンジャ…」

 

「コウガニンジャ…」

 

「ニンジャって二種類いるんですね⁉︎ザラ知りませんでした‼︎」

 

健吾は日本産まれなので知っていたが、ザラ含めたその場に居た三人はニンジャには二種類あると初めて知った…

 

 

 

 

「ごちそうさま。僕は任務に戻る」

 

初月は食べ終わってすぐ、また天井裏に戻って行った

 

「おい。ちょっとスロット打とうぜ‼︎」

 

俺がニヤけながら二人の顔を見ると、アレンも健吾もニヤけながら天井を見上げた

 

「ん⁇」

 

天井から一枚紙切れが落ちて来た

 

”やめてくれ お願いだ”

 

「まっ。今日の所は勘弁してやろう」



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181話 雷鳥、凶鳥、時々番犬(4)

昼下がりになり、俺達は繁華街に戻って来た

 

「お父様‼︎」

 

目の前から清霜が走りながら飛び掛かって来た

 

膝を曲げ、清霜を受け止める姿勢に入る

 

「よいしy…」

 

「レイ‼︎」

 

「レイさん‼︎」

 

清霜の勢いは凄まじく、三人の真ん中に居た俺は二人の前から一瞬で居なくなった

 

最近めっきり大人しくなったから忘れてた…

 

清霜は俺の血を一番受け継いでるんだった…

 

「お父様見て‼︎ガン子ちゃんと一緒にお買い物行って来たの‼︎」

 

「な…何買ったんだ⁇」

 

「ジャン‼︎」

 

清霜は首から下げたポーチの中からお菓子やらビー玉を沢山取り出した

 

「これはお姉様の分と、お母様の分でしょ…これはお父様の‼︎」

 

「んっ。ありがとう」

 

清霜から飴玉を3つ受け取る

 

「いたっ‼︎やっと追い付いた‼︎」

 

息を切らせたガングートが来た

 

ガングートは俺に気付いた後すぐにアレンと健吾に気付く

 

「ん⁇貴様達は確かラバウルのT-50のパイロットだったな⁇」

 

「久し振りだな。どうだ⁇こっちの生活は」

 

「中々良いぞ。日本は”ガン子”にとって第二の故郷だ‼︎」

 

「ガン子…」

 

「何だ⁇ガン子はガン子だろう⁇久し振りに粛清してやろうか⁇ん⁇」

 

ガングートは微笑みながら二人にジリジリと近寄る

 

「わ、悪かった‼︎ガン子はガン子だなっ‼︎」

 

「うんうん‼︎良いアダ名だと思うよ‼︎」

 

腑抜けになってもそこは戦艦

 

戦艦を怒らせたらどうなるか、基地で痛い程知っている二人は必死に平謝りをする

 

「そうか。分かってくれたらそれでいい。イディオット2、イディオット3。清霜‼︎イディオット〜‼︎」

 

ガングートが俺の所に来た瞬間、二人は安堵の息を吐いた

 

「ちっさくても戦艦は戦艦だね…」

 

「大和を怒らせた時みたいにならなくて良かった…」

 

実はアレン、一度あの温和な大和の逆鱗に触れている

 

まだアイちゃんが産まれる前、それも愛宕とケッコンする前、アレンの部屋は結構汚かった

 

床には食べ終えたお菓子の袋

 

ベッドにはエッチな本が無造作に置いてあり、如何にも一人暮らしの男の部屋‼︎を体現していた

 

大和はそれを毎日片付けていたが、何度片付けようと次の日には散らかっていた

 

それが一カ月続き、とうとう大和がブチ切れた

 

「ちょっとは片付けろと…何度言ったら分かるんですかぁぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

大和が吠えた瞬間基地中のガラスと言うガラスが全て吹き飛び、壁に亀裂が入り、付近を飛んでいた旅客機の計器を数分間に渡って狂わせた

 

大和自身もまさかここまで甚大な被害が出ると思っておらず、吠えた後は大変申し訳無さそうな顔をしながら、妖精達と共に修理を行っていた

 

アレンはそれからケッコンし、アイちゃんも産まれて、キチンと片付けをする様になった

 

あの恐怖の出来事をラバウルの人間は”女神の鉄槌”と呼んでおり、大和だけは怒らせないように日々を暮らしている

 

「お父様、またき〜ちゃんとガン子ちゃんと遊んでね⁇」

 

「そうだぞイディオット。家族サービスも大切だ‼︎」

 

「分かった。約束な⁇」

 

清霜とは指切りげんまんをし、ガングートは頭を撫でる

 

清霜とガングートが去り、高雄の部屋に来た

 

「いらっしゃいませ」

 

アレンと健吾が店の奥に向かい、俺はレジ周辺の貴金属を見ていた

 

「これは…」

 

ショーケースにあったアクセサリーに目が行く

 

「その商品、結構売れ行き良いんですよ⁇」

 

「へぇ〜…」

 

と、言いながらアレンの方をわざとらしく見る

 

A&A maid…

 

デザイン、丈夫さ、そして価格

 

全てが万人受けする物だ

 

ちょくちょく横須賀で愛宕を見掛けたのはここに来てたのか…

 

ショーケースの中はもうほとんど無い

 

本当に中々の売れ行きの様だ

 

「この前もお父様が御来店なされて、お連れの方の為にお買い上げしていましたよ」

 

「どっちだ…」

 

「ふふっ、両方です」

 

言われてみれば瑞鶴はネックレスをしていた

 

親父に買って貰ったのか…

 

「これ貰えるか⁇」

 

「畏まりました。500円になります」

 

ショーケースの中にあるカチューシャを指差し、専用のケースに入れて貰う

 

中々のデザインなのに低価格

 

良い仕事するな

 

高雄に500円玉を渡した所で、アレンと健吾もレジに来た

 

アレンは大きめのサイズの女性モノのTシャツ二枚

 

健吾はマフラーを二本買っている

 

アイちゃんや大和にあげるんだろうな

 

「ありがとうございました〜」

 

高雄の部屋を出ると、時刻は夕方

 

そろそろそれぞれの基地で夕飯の時間だ

 

「そろそろ帰らなきゃな」

 

「楽しかったよっ」

 

「また遊びたいです‼︎」

 

「今度はワンコも誘ってやろう‼︎」

 

それぞれの基地に向かう二式大艇に乗り込む寸前まで話し込み、男三人の休暇は終わりを迎えた…




A&A maid…アクセサリー製作会社

デザイン良し、丈夫さ、低価格の三拍子揃った庶民的なアクセサリー製作会社

デザインが良く、尚且つ電探等の効果も付いてくる為、艦娘の間で徐々に人気が出て来ている

製造元に言えばオーダーメイドも可能

A&Aの正体はアレン&愛宕の頭文字


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182話 ちゅるちゅるアークちゃん(1)

さて、181話が終わりました

今回のお話は、アンケートを取っていた回になります

雑誌で日本食を見ていたアークちゃん

どうしても食べたい物があり、ビビリに頼む事にしました


「ビビリ‼︎」

 

雑誌を持ったアークが食堂に来た

 

耳をつん裂くアークの声で、カーペットの上で本を読んでいたひとみ、いよ、たいほう、まつわが一瞬肩を上げた

 

「何だ⁇」

 

「これは何だ‼︎」

 

「どれっ」

 

突き付けられた雑誌を受け取り、記事を見る

 

気になった子供達も集まって来た

 

〜日本食入門・うどん編〜

 

「おうろん」

 

「あーく、おうどんたべたことない⁇」

 

「うどんは美味しいのか⁇」

 

「おいち〜‼︎」

 

《まつわも食べたい‼︎》

 

「よしビビリ‼︎今から食べに行こう‼︎ウィリアム殿、マーカスを借りても構わないか⁉︎」

 

「壊さないって約束する⁇」

 

「多分」

 

「よし、良いだろう‼︎」

 

「隊長‼︎」

 

隊長は微笑みながら親指を立てた

 

「仕方ねぇ…行くぞ」

 

「えいしゃん”くっこお”とれ〜と⁇」

 

「くっころ⁉︎」

 

「あ〜く、えいしゃんいないとき、くっ、こおせ…っていってた‼︎」

 

「ほほぅ⁇」

 

にやけ顔でアークを見ると、顔を真っ赤にして焦っていた

 

「い、いや、その…ひ、一人じゃ寂しいし⁇ビビリいないと張り合いないし⁇さっ、寂しいって訳じゃないんだからな⁉︎勘違いするなよ⁉︎」

 

「はいはい」

 

「なんだその返事は‼︎べっ、別にビビリが居なくてもアークは寂しくなんかない‼︎」

 

だが俺は知っている

 

この間の休暇の際、アークは大変寂しい思いをしていたらしい

 

ひとみから聞いた情報によると、壁に顔面を何度も打ち付け「も〜ダメだ、も〜ダメだ」と連呼していたのを聞き

 

いよからの情報では、ボーッとした顔でヨダレを垂らしながらソファに座ってうわ言の様に「殺してくれぃ、殺してくれぃ」と連呼していたのを聞き

 

たいほうからの情報では、カーペットに寝転がって駄々をこね「ビビリはいつ帰って来るのだうわ〜ん‼︎」と泣き叫び、子供達になだめられていた情報を聞いた

 

工廠に向かい、グリフォンに乗る為にきそを呼ぶ

 

「きそ‼︎行くぞ‼︎」

 

「はいは〜い‼︎」

 

「ダメだ。ビビリは今日はアークのモノだ‼︎二人で行くぞ‼︎」

 

そう言ってアークに力強く腕を組まれる

 

「だってさ‼︎」

 

「きそ、すまん」

 

「気にしないで‼︎新しい艤装のメンテしてるよ‼︎」

 

こうなれば高速艇だ

 

一度食堂に戻り、高速艇を手配する

 

数十分後、近場に居た高速艇が基地に来た

 

アークと高速艇に乗ると、アークは靴を脱いで椅子に膝を置き、水平線を見始めた

 

「乗るの初めてか⁇」

 

「このコーソク=テーは速いな‼︎ビビリの戦闘機みたいだ‼︎」

 

「これやるから黙って乗ってろ」

 

内ポケットから高雄の部屋で買った物を取り出し、アークに渡す

 

「アークにくれるのか⁇」

 

「この前寂しい思いさせた詫びだよ」

 

「もうアークのだからな‼︎返せって言っても返さないからな‼︎」

 

「中見て気に入ればな」

 

アークは口煩く言いながらもケースを開けた

 

「カ‼︎チュ‼︎ウ‼︎シャ‼︎だぁぁぁぁあ‼︎」

 

「くっ…」

 

大声を出して大喜びするアークに一瞬怯む

 

「アークにくれたんだな⁉︎コレはもうアークの物だからな‼︎」

 

「分かったから黙って座ってろ‼︎舌噛むぞ⁇」

 

「い〜だ‼︎」

 

アークは歯を見せた後、ケースを谷間に挿し、大人しく座り、大事そうにカチューシャを色んな角度から見始めた

 

「帰ったら姫に自慢していいか⁇」

 

「自慢したら母さんも欲しがるから、一緒に選んでくれるか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

そうこうしている内に高速艇は横須賀に着いた

 

 

 

 

その頃基地では…

 

「ウィリアム」

 

「どうしました⁇」

 

ヒジョーに申し訳無さそうな母さんが、食堂に居た隊長の所に来た

 

「アークが申し訳無い事を…」

 

「あぁ、あはははは‼︎気にしないで大丈夫ですよ‼︎レイとアークは少しコミュニケーションが必要みたいですしね⁇」

 

「そう言ってくれると助かります…アークは、マーカスともう一度出逢えてとても嬉しいのだと思います」

 

「そうでしたね…」

 

《お兄ちゃん大忙し‼︎》

 

たまたま近くに居た、口を縦に開けたまつわの手元にいるボーちゃんが言う

 

母さんはまつわの頬を撫でながら話す

 

「ごめんなさいマツワー…今度、マーカスに言っておくわ⁇貴方ともデートする様にね⁇」

 

《お兄ちゃんとデートしたい‼︎》

 

「たいほうもすてぃんぐれいとでーとしたい‼︎」

 

「ひとみも‼︎」

 

「いよも‼︎」

 

子供達が皆口々に自身の息子を好いていてくれて、母さんはホッとする

 

「姫。レイは人気者です。心配しなくても大丈夫ですよ」

 

「そうよ‼︎マーカス君は頼り甲斐があって、みんなのお父さんなんだから‼︎」

 

「Thank you…」

 

貴子さんにもそう言われ、母さんは少し涙目になっていた



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182話 ちゅるちゅるアークちゃん(2)

横須賀に着くと、アークは真っ先に高速艇から降りた

 

「早くしろビビリ‼︎」

 

「あぁったあぁった‼︎イカさん、ありがとう」

 

「いつでもお呼び下さい」

 

イカさんに礼を言った後、アークの所に走る

 

「ウドンはどこで食べられるのだ⁉︎」

 

「…あったかな」

 

横須賀に来たは良いが、そう言えばうどんの店は見た事ない

 

「はぁ〜⁉︎ここまで来てないだと⁉︎アークはウドンを食べに来たんだ‼︎」

 

「まぁ待て。ちょっと考えさせてくれ…」

 

「あらマー君‼︎」

 

向こうからサラが来た

 

サラは俺を見るなり腕にしがみ付き、胸を押し当てる

 

「一人か⁇」

 

「そうなの。聞いて‼︎マー君ったら研究研究でぜ〜んぜんサラの相手してくれないの。マー君の子供とは大違い‼︎」

 

「この方は⁇」

 

人前ではアークは大人しく礼儀正しい

 

「あぁ。サラトガさんだ。俺の妻のお母さんだ」

 

「ハロー‼︎サラトガです‼︎」

 

「サラ=トガー…か。私はアークロイヤル。マーカスの護衛だ」

 

しかもちゃんとマーカスと呼んでくれている

 

「あらっ‼︎マー君、こんな別嬪さんが護衛なの⁇」

 

「まぁな」

 

「そうだサラ=トガー。この辺りでウドンを食べられる場所はないか⁇」

 

「ウドンねぇ…あっ‼︎ズイズイズッコロバシはどう⁉︎」

 

「なるほど…あそこなら出るな‼︎」

 

「ズィーズィーズッコロバシ⁇」

 

「行きゃあ分かる。サラ、ありがとうな⁇」

 

「ふふっ、いつでもっ‼︎」

 

サラと別れ、ずいずいずっころばしに向かう

 

「サラ=トガーはビビリの事が好きなのか⁇」

 

「そりゃあないな。サラには旦那がいる」

 

「旦那がいるのにあんなにビビリにくっ付くのか⁉︎」

 

「事情があったんだ。長い間、旦那と離れ離れになってたんだ。俺はその代わりみたいなモンさ」

 

「サラ=トガーがあぁしていたなら、アークがしても問題はないな‼︎」

 

そう言うとアークはすぐに腕を絡ませて来た

 

「今日のビビリはアークのモノだ‼︎」

 

アークはずいずいずっころばしに着くまで痛い位に腕を絡ませていた

 

どうしてアークがここまでするのか、この時の俺は知る由もなかった…

 

 

 

 

「いらっしゃ…浮気ですか⁇」

 

ずいずいずっころばしに入って早々、くっ付いていたアークを見て浮気と疑われた

 

だが、瑞鶴は人の事は言えない

 

「そんな所だ。うどんあるか⁇」

 

「うどんね‼︎葛城‼︎うどん二丁‼︎」

 

「うどんにちょーーーーー‼︎」

 

瑞鶴のいるカウンターの後ろで、何やら女の子が小麦粉を打っている

 

「新入りか⁇」

 

「そっ。今までパックのおうどんだったんだけど、あの子が来てから手打ちになったの。あぁ、値段は変わらないから心配しないで‼︎」

 

「これはなんだ⁇」

 

アークの前には、レーンに乗ったお寿司が回っている

 

「これはお寿司。ちょっと食べてみるか⁇」

 

「オスシー…」

 

「何食べたい⁇あたしが握ったげる‼︎」

 

「では、このサラダロールを…」

 

「オッケー‼︎」

 

「あぁ、えと…」

 

アークは瑞鶴の名を言おうとしたが、まだ名前を聞いていない為、どう呼んで良いか分からないでいた

 

「瑞鶴だ」

 

「ず、ズィーカク。アークはこの流れてる所から取ってみたい」

 

「オッケー。手前から流すわね」

 

瑞鶴はサラダロールを作った後、アークの少し前からそれを流した

 

「き、来た‼︎お、おいマーカス‼︎どうしたら良い‼︎オスシーを取れば良いのか⁉︎」

 

言った割には俺の肩を叩いてどうすれば良いかテンパる

 

「こうやってお皿を取るんだ」

 

「おサラ…」

 

アークはサラダロールの乗ったお皿を取り、手元に置いた

 

「食べて良いのか⁉︎」

 

「いただきますしてからな⁇」

 

「いただきます…」

 

アークは生唾を飲んだ後、サラダロールを一つ手で掴み、口へ運んだ

 

「美味い‼︎」

 

「ふふっ‼︎良かった‼︎」

 

「オスシーは美味いのだな‼︎」

 

「マーカスさんはどうする⁇クマノミの軍艦にする⁇」

 

「クマノミ…」

 

「醤油を垂らして食べると美味しいよ⁇違うのならプレコのたたきもあるよ⁇」

 

「プレコ…」

 

瑞鶴は何故か俺やアレンが来ると熱帯魚の寿司を勧めて来る

 

「安全は保障するわ⁇急速冷凍したりして、品質良いのを使ってるから‼︎」

 

と、親指を立てる瑞鶴

 

「瑞鶴さん‼︎うどん出来ました‼︎」

 

「ありがとう」

 

葛城と呼ばれた女の子が俺とアークの前にうどんを置いた

 

「おぉ‼︎これがウドン‼︎」

 

「瑞鶴」

 

「はいはい」

 

「いなりを頼む」

 

「オッケー‼︎」

 

瑞鶴がいなりを握る前で、アークは念願のうどんを夢中で啜っている

 

「ウドン美味い‼︎」

 

アークはズルズルちゅるちゅる音を立て、本当に幸せそうにうどんを食べている

 

「良かったな。うどん食べれて」

 

「うんっ‼︎」

 

それだけ美味そうに食われりゃ、うどんも幸せだろう

 

アークを横目に、俺もうどんを食べる事にする

 

「美味いな」

 

「ふふっ。気に入ったらまた頼んであげて⁇」

 

「分かった。ここに代金置いとくからな⁇」

 

「ありがとう‼︎また来てね‼︎」

 

いつも通り座っていた席のテーブルに代金を置き、ずいずいずっころばしを出て来た

 

「ビ…マーカス‼︎またこのズィーズィーズッコロバシに来よう‼︎アーク気に入った‼︎」

 

「その前にお口フキフキだ」

 

「んっ」

 

アークの口周りはネギやら天かすがいっぱい付いている

 

ハンカチを取り出し、ドロドロになったアークの口周りを拭く

 

「お前はホンット母さんに似てるな⁇」

 

「姫にか⁇」

 

「母さんも食い方汚いんだ」

 

「…確かに。姫はソース類を出されると、食べる度に汚れて行く。何故だ⁇」

 

「母さんもお前も、ちょっと子供だって事だ」

 

「…ありがとう」

 

ハンカチを仕舞うと、アークはまた自然に腕を絡ませて来た

 

「次は何処行く⁇」

 

「ビビリ。あれはなんだ⁇」

 

アークの目線の先には、久々に見る摩耶の出店があった

 

「よっ‼︎」

 

「レイか‼︎何か買ってくか⁉︎」

 

相変わらず摩耶の出店は特徴的な物が多い

 

「おっ」

 

一つの商品に目が行き、それを手に取る

 

「オママゴトセット…マーカス。気は確かか⁇」

 

「違わい‼︎」

 

「マーカスはしないのか⁇」

 

「しない‼︎」

 

「それは潰れたオモチャ屋から買い取ったモンだ。100円で良いぜ⁇」

 

裏の値札を見ると、薄っすらと店名が書いてあった

 

”ハッピーマック”

 

10年程前に日本各所で見た気がする…

 

「よし、買った‼︎」

 

摩耶に100円玉を渡す

 

「毎度あり‼︎」

 

摩耶からおままごとセットを買い、手に持って歩く

 

「100円の割には沢山入ってるな⁇」

 

「お買い得だったぜ‼︎」

 

「…ビビリ。その右下の野菜は何て名前だ⁇」

 

おままごとセットの右下には、キノコみたいなオモチャがある

 

これ位俺でも分かる

 

「マッシュ”ムール”だろ⁇」

 

「…は⁇」

 

「マッシュ”ムール”だろ⁉︎」

 

俺の答えを聞いて、アークは爆笑し始めた

 

「ははははは‼︎まだ”てぃーほう”の方が分かっているな‼︎」

 

「ぐっ…マッシュムールじゃないのか⁉︎」

 

「ひぃ〜‼︎ひぃ〜‼︎び、ビビリ、それはマッシュルームだ‼︎」

 

アークの爆笑は止まない

 

遂には腹を抱えて笑い始めた

 

「あぁ‼︎そうかそうか‼︎マッシュルームか‼︎」

 

「レイさんなのです‼︎」

 

「こんにちは‼︎」

 

タイミング良く雷電姉妹が来た

 

「お前ら‼︎これは何だ‼︎」

 

そう言って、マッシュルームなる物を指差す

 

「松茸なのです‼︎」

 

「松茸ね‼︎」

 

「はははは‼︎…は⁇」

 

「全然違うじゃねぇか‼︎」

 

「マッシュルームだろ⁉︎アークに間違いはない‼︎」

 

「松茸なのです」

 

「松茸ね」

 

「ふぅ…」

 

アークは二人の前で膝を曲げ、首を傾げてニコッと微笑んだ

 

「…拗ねるぞ⁇」

 

アークの一言で雷電姉妹の額から冷や汗が流れる

 

「マッシュルームなのです‼︎」

 

「よく見たらマッシュルームね‼︎」

 

「はっはっは‼︎ほら見ろ‼︎やはりマッシュルームだ‼︎アークは正しい‼︎」

 

「そ、そうだな…」

 

ダメだ、今日はアークのペースに飲まれてる…

 

アークは自分が正しいと思い込んでおり、それを意地でも押し通す

 

…それが良さでもあるんだがな




ハッピーマック…子供達の夢の城

一昔前に日本各所に存在していたオモチャ屋さん

大型スーパーにお客を取られたのと、時代の波に抗えず、少しずつ閉店して行った

現在はコンビニ等に姿を変えるが、それでも子供達を見護り続ける仕事を忘れられず、未だ存在感があり過ぎる場所がチラホラ

横須賀にいる千代田が関わっていたらしい



作者からのメッセージ

勘の良い方はお気付きでしょう。あの全国チェーンのあのオモチャ屋です

どうか、忘れないで下さい

作者はこのオモチャ屋に沢山の思い出を置いて来ました

それは二度と取り戻す事が出来ません

なので、こうしてオマージュした名前だけでもここに残して置く事にしました

読者の方々、そして私自身の為にも

何となく、忘れてはいけない記憶の気がするのです



P.S
リクエストが多ければ、このオモチャ屋のお話を書くかも知れません


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182話 ちゅるちゅるアークちゃん(3)

「ここは何だ⁇」

 

横須賀のいる執務室の前に立つと、アークは少したじろいだ

 

「子供達を紹介しておこうと思ってな」

 

「ビビリはケッコンしているのか…」

 

何故かアークは悲しそうな顔をした

 

執務室のドアを開け、中に入る

 

「あら‼︎来てたの⁉︎」

 

親潮と共に執務をしていた横須賀がすぐに俺達に気付き、椅子から立ち上がって此方に来た

 

「ん…」

 

アークは組んでいた腕に力を入れた

 

顔を見ると、ほんの少しだけ横須賀に敵意を見せている様に見えた

 

「基地の生活には慣れたかしら⁇」

 

「ちょっとだけな」

 

「お父様だ‼︎」

 

清霜も来た

 

前回の一件を反省しているのか、清霜は俺の前に来る寸前でスピードを緩め、足に抱き着いた

 

アークに組まれている反対の腕で清霜の頭を撫でる

 

清霜の頭を撫でていると、アークは気付かれない程度に自分の方に俺を引っ張って来た

 

「お父様、その方は⁇」

 

「この人はアークロイヤルさんだ」

 

「アークでいいぞ」

 

「アークさん‼︎お父様を宜しくお願いします‼︎」

 

清霜がアークに頭を下げる

 

「マーカスと違って礼儀正しい子だな‼︎気に入った‼︎」

 

「創造主様」

 

「おっ‼︎どうだ親潮。横須賀はワガママ言ってないか⁇」

 

「大丈夫です。親潮、ジェミニ様から学ぶ事は沢山あります」

 

「どれっ。一つ二つ聞かせて貰おうか⁇」

 

「創造主様…」

 

親潮が横須賀の顔を見ながら話を渋るので、膝を曲げてみた

 

すると、親潮は俺の耳元で横須賀から学んだ事を教えてくれた

 

「フタに付いているヨーグルトやプリンの食べ方や、アメリカンドックのカリカリ部分の食べ方を教わりました」

 

どうやら横須賀は素晴らしき無駄知識ばかりを親潮に叩き込んでいる様子だ

 

「親潮は楽しいと感じてるか⁇」

 

「ジェミニ様や創造主様…そして創造主様の御子息様達と過ごす時はいつだって楽しいです‼︎」

 

「なら問題無い‼︎」

 

「どっ⁇ちゃんと教えてるでしょっ⁇」

 

横須賀はドーンと胸を張る

 

その姿を見て、二人の少女を思い浮かべる

 

あぁ、ひとみといよは横須賀のマネをしているんだな…

 

こぁ〜〜〜〜〜っ‼︎とか

 

きいたげう‼︎何々したげう‼︎という時の仕草とか

 

二人は横須賀のマネをする事が多い

 

「朝霜達はどうした⁇」

 

「朝霜は工廠、磯風は朝霜の艤装の試験運用、ガングートはお昼寝、ななは同級生の子と遊びに行ったわ⁇」

 

「き〜ちゃんはお母様のお手伝いしてるの‼︎」

 

「そっかそっか‼︎偉いな‼︎」

 

「…」

 

清霜の頭を撫でていると、親潮がこっちを見ているのに気が付いた

 

「親潮、ありがとうな⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

「むっ…」

 

親潮の頭を撫で終わった途端、アークに手首を取られた

 

「アークも撫でろ‼︎アークも良い子ちゃんにしてるだろうが‼︎」

 

アークは俺の手を何としてでも自分の頭の上に置こうとしている

 

「分かった分かった‼︎アークも良い子だな‼︎」

 

「ふふふ…」

 

アークの頭も撫でるとようやく落ち着いてくれた

 

「もうちょいアークに基地を案内して来る」

 

「レイ。一つお願いがあるんだけど」

 

「なんだ⁇」

 

 

 

 

 

横須賀に言われた場所に来た

 

「てやんでぃや‼︎」

 

その場所に近付くにつれ、威勢の良い声が聞こえて来た

 

「ここだな」

 

「ラーメン=テヤンディ…」

 

嫌な予感しかしない…

 

声の主は屋台の中におり、俺とアークは暖簾を分けた

 

「いらっしゃいてやんでぃ‼︎空いてるてやんでぃに座ってやんでぃ‼︎」

 

屋台の店主は、青みがかった髪の女の子

 

てやんでぃてやんでぃうるさいが、笑顔は良い

 

「マーカス。テヤンディとはなんだ⁇今日は特別な日か⁇」

 

「そのディじゃない。べらんめぃ‼︎と、一緒の言葉だ」

 

「なるほど…要は馬鹿野郎をマイルドにしたのだな‼︎」

 

「今のでよく分かったな⁇」

 

「何にするてやんでぃ⁇」

 

「どれっ…」

 

てやんでぃちゃんからメニューを貰う

 

”てやんでぃラーメン

 

380円

 

味は保証するでぃ‼︎”

 

このメニューしかない

 

「じゃあこの…」

 

「てやんでぃ‼︎てやんでぃを一丁だな‼︎」

 

「あ…アークもテヤンディにしよう、か…な⁇」

 

「てやんでぃ二丁入りや〜す‼︎てやんでぃ‼︎がってんでぃ‼︎」

 

自分に注文をして、自分で注文を受けている

 

「てやんでぃてやんでぃ‼︎」

 

「はやっ‼︎」

 

ラーメンはすぐに出て来た

 

しかも美味しそうだ

 

「ん⁇」

 

アークが何かに気付く

 

「”オハチ”がない‼︎マーカス、アークにそれを寄越せ‼︎」

 

「おはちだぁ⁉︎」

 

「オハチはオハチだ‼︎日本人はオハチを使って食事をするのだろう⁇」

 

「箸の事か⁉︎」

 

「そうだ。オハチが無ければ食べられない」

 

「アーク。これはお箸だ」

 

「オハチだ‼︎」

 

箸一つで顔を見合う

 

アークも母さんも、時々日本語のイントネーションが可笑しい

 

アークのオハチよろしく、母さんは子供達をてぃーほう、れべ、まくすと言っている

 

…嫌な所遺伝したな、俺

 

「てやんでぃ‼︎箸の一本で喧嘩するんでねぇ‼︎てやんでぃすっぞ‼︎てやんでぃが悪いんだからてやんでぃと言ってくれればいい‼︎ほいっ‼︎」

 

てやんでぃちゃんからアークに”オハチ”が渡される

 

「ありがとう…」

 

箸を貰った後、アークはちゃんと手を合わせた後、俺の方を見た

 

「味は中々だな」

 

「マーカス。これはウドンとは違うのか⁇何か細いぞ⁇」

 

「これはラーメンだ。ウドンと同じ食べ方でいい」

 

「ほ〜…」

 

俺が食べるのを見て、アークはラーメンを口にする

 

「…美味しい‼︎」

 

濃いめの醤油ラーメンで、ちぢれ麺がスープに絡んで中々どうして美味しい

 

それに味もしつこくなく、見た目の割には後口はあっさりしている

 

「美味しかった‼︎」

 

「ごちそうさまっ‼︎」

 

「いいてやんでぃっぷりだ‼︎また来なよ⁉︎」

 

暖簾を再び分け、表に出て来た

 

「味は良かったな」

 

「そうだな」

 

屋台から出て、とりあえずアークの口周りを拭く

 

どうやって食べたらそんなに口周りが汚れ、ほっぺたにネギやらメンマの切れ端が付くのだろうか…

 

「ビビリはあれだな…」

 

「なんだ⁇」

 

口を拭きながらアークは口を開いた



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182話 ちゅるちゅるアークちゃん(4)

「アークが見ても、ビビリは良い父親だと思う」

 

「お褒め頂きありがとうございますぅ〜」

 

「アークは本気で言っている‼︎でなければこれだけ子供達に好かれる事はない‼︎」

 

「おぉ…そうか」

 

今まで俺を小馬鹿にし続けて来たアークから、褒め言葉が出た事に驚いている

 

「ば、バーカ‼︎ビビリのアホ‼︎」

 

「はいはい。お家帰るぞっ」

 

「ぐぬぬ…」

 

一応横須賀に報告しておこう

 

再びアークを腕に付けながら、横須賀にメールを打つ

 

 

 

リヒター> 行って来た

 

ぜみに> どうだった⁇

 

リヒター> 味も価格も良し。後は店員がてやんでぃを控えたら完璧だ

 

ぜみに> ありがと。てやんでぃちゃんは涼風って言うの。また夜に見たら寄ってあげて⁇

 

リヒター> 今日はありがとうな

 

ぜみに> 感謝なさい

 

 

 

「ビビリが感謝されるべきじゃないのか⁇」

 

アークがタブレットのやり取りを見ていた

 

「横須賀はこれでいいんだよ」

 

「何故横須賀を嫁に選んだ⁇」

 

「横須賀はこう見えて尽くす良い女なんだ。困った時には、絶対傍に居てくれる」

 

「…アークじゃダメだったのか⁇」

 

「アーク⁇」

 

掴まれている腕に力が入る

 

これで全部理解出来た

 

アークは嫉妬していたのだ

 

「ビビリは良い奴過ぎる。アークのワガママにも付き合ってくれたり、子供達にも好かれる」

 

「イケメンだしな⁇」

 

「自分で言うか⁉︎」

 

「アークは…マーカス様をその様に育てた覚えは…」

 

「アーク」

 

高速艇に向かっていた足を止める

 

「母さんのお土産忘れた」

 

「それはいかん‼︎姫は何が良い⁉︎」

 

「ぬいぐるみ欲しがってたな…」

 

「向こうに店があるだろ‼︎行くぞ‼︎」

 

アークに手を引かれ、繁華街へ引き返す

 

上手い具合に話を切り替えて良かった…

 

アークに手を引かれたまま、高雄の部屋に着いた

 

「ハァ…ハァ…」

 

「き、急に走ると辛いな…」

 

「い、いらっしゃいませ…」

 

高雄が瞬きをしながらビックリしている

 

「ぬっ…ぬいぐるみあるか⁇」

 

「どんなのが良いですか⁇」

 

「海の動物があればベストだ」

 

「でしたら、そこのコーナーは如何ですか⁇」

 

高雄の目線の先には”水族館タイアップフェア”と書かれており、イルカを始めとした色々なぬいぐるみが置かれている

 

「子供達はイルカだろ…母さんは違う方が良いか⁇」

 

「マーカス。このひょろ長いのはなんだ⁇」

 

見るとアークの手にはチンアナゴのぬいぐるみが抱かれていた

 

「チンアナゴだ。アークはそれにするか⁇」

 

「チン=アナゴ…」

 

アークはチンアナゴのぬいぐるみの顔を見た

 

点と線で縫われた笑った顔だ

 

シンプルなのに中々可愛い

 

「アークにも買ってくれるのか⁇」

 

「差別はいかんからな。おっ‼︎こいつにしよう‼︎」

 

手にしたのは”ペン”ギンのぬいぐるみ

 

アークのチンアナゴも一緒に、高雄のいるレジに運ぶ

 

「二つで1000円です」

 

「ありがとう」

 

ぬいぐるみを袋に入れて貰う時、アークはチンアナゴのぬいぐるみを手に取り、そのまま抱っこした

 

「このまま持ってる」

 

よっぽどチンアナゴのぬいぐるみが嬉しい様だ

 

結局、基地に帰るまでアークはチンアナゴのぬいぐるみをずっと持っていた

 

 

 

 

 

「ただいま〜っと」

 

「ただいま‼︎」

 

基地では既に子供達は眠っており、大人連中が一息つきながらコーヒーを飲んでいた

 

「お帰りなさい。ご飯食べた⁇」

 

「ちょっと食べて来た」

 

「そっ⁇ならコーヒーは⁇」

 

「飲む」

 

「アークも‼︎」

 

「ふふっ‼︎手洗って待ってて‼︎」

 

貴子さんにコーヒーを淹れて貰っている間、アークと手を洗いに洗面所に向かう

 

「ビビリ」

 

「なんだ⁇」

 

「今日はありがとう。ウドンも美味しかったし、チンアナゴも嬉しい」

 

「また連れてってやるよ」

 

「約束だからな⁉︎」

 

「空軍は嘘を吐かん。ほら、行くぞ」

 

食堂に戻って来ると母さんも追加されており、紅茶を飲んでいた

 

「ひ、姫…」

 

「アーク。そこに座りなさい」

 

「はい…」

 

怒られると思ったアークは、母さんの前に座り、下を向いている

 

母さんは紅茶を飲みながらアークに話し掛ける

 

「マーカスに何買って貰ったの」

 

「チンアナゴ…」

 

「チンアナゴ⁇」

 

「これです」

 

膝に置いていたチンアナゴのぬいぐるみを母さんの前に出す

 

「良かったわ‼︎」

 

「へ…」

 

「マーカス、私に一度お土産を忘れたの。アークに買わなかったらどうしようかと」

 

「母さんはこれだ」

 

チンアナゴが引き上げられ、代わりに紙袋を渡す

 

「開けていいの⁉︎」

 

「あぁ」

 

母さんが紙袋を開けるとペンギンのぬいぐるみが出て来た

 

「わぁ〜っ‼︎」

 

子供の様にキラキラした目で、母さんはペンギンのぬいぐるみを持ち上げた

 

「あと、これを買って頂き…」

 

「ふわふわしゅる〜‼︎ふふふっ‼︎」

 

「アーク。今の母さんに言っても無駄だ」

 

「う、うん…」

 

俺とアークはコーヒーを飲み、その後俺だけそ〜っと部屋に戻った

 

その日の晩、母さんはペンギンのぬいぐるみを抱っこしたまま眠りに着いた…



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183話 ぷとぷと大行進(1)

さて、182話が終わりました

今回のお話は少し短めです

私自身の体調の変化の所為です。申し訳ありません

短い代わりに、少し多めにページを書こうと思います


「いるかしゃんおしぇんたく‼︎」

 

「さっぱいちたか〜‼︎」

 

「アークのチンアナゴ‼︎」

 

この日、洗濯物と一緒にぬいぐるみが洗濯された

 

カニのぬいぐるみ

 

イルカのぬいぐるみ

 

チンアナゴのぬいぐるみ

 

そしてペンギンのぬいぐるみ

 

ひとみといよ、そしてアークは天日干しにされたそれぞれのぬいぐるみを窓際から見ていた

 

「ぴんげんしゃんだえの⁇」

 

「あれは姫のだ」

 

「「おぉ〜」」

 

そんな三人の様子を、きそとたいほうが後ろから眺めていた

 

たいほうはきその膝の上におり、二人でミニカーで遊んでいる

 

「たいほうのかにさんもおせんたく」

 

「たいほうちゃん、あのぬいぐるみずっと大事にしてるよね」

 

「たいほうがね、パパとママといっしょにはじめておそとでごはんたべたときにもらったぬいぐるみなの」

 

「なるほどねぇ」

 

「照月もぬいぐるみ欲しいなぁ〜」

 

照月が表から帰って来た

 

「てるづきはどんなぬいぐるみほしい⁇」

 

「照月、モ〜モ〜さんのぬいぐるみがいいなぁ〜」

 

「も〜も〜さんのぬいぐるみ⁇」

 

「うんっ‼︎モ〜モ〜さんのぬいぐるみ抱っこして寝たら、夢の中でい〜っぱいステーキ食べられると思うんだぁ〜‼︎」

 

きそはたいほうと照月の会話をジッと聞いていた

 

 

 

 

基地では平和な時間が流れる中、二人の艦娘が哨戒任務に当たっていた

 

「な〜んもねぇダズルな…」

 

「後ろからも何にも来ないニム」

 

ニムは榛名が構えたハンマーに腰掛け、榛名の後方を確認している

 

「褒美が貰えるとはいえ、暇な任務はクソダズル‼︎」

 

「ん⁇ダズル‼︎あれは何ニム‼︎」

 

ニムの指差す方向の海面に、小さな人影が立っていた

 

「いつの間にいたダズル…」

 

榛名はすぐに方向を変え、その人影に近付こうとした

 

「ぷとーーーっ‼︎」

 

人影が叫び声を上げる

 

すると、海中から叫び声を上げた奴と似たような奴が大量に出現し、二人を取り囲む

 

「アンノウン反応ダズル」

 

どれだけ周りを見渡してもアンノウン反応ばかり

 

「提督‼︎訳分からんガキに囲まれたニム‼︎」

 

《まだ攻撃しないで‼︎味方かもしれない‼︎》

 

《榛名‼︎ちょっと待つマイクよ⁉︎》

 

基地でワンコと霧島が必死にIFFの認識を繰り返す

 

「ぷとーっ‼︎」

 

一体が榛名に飛び掛かって来た瞬間、榛名はハンマーを持っていた手を変え、腰を深く落とした

 

「こんの…クソヘボがぁ‼︎」

 

「ぷとぉ‼︎」

 

榛名の渾身の右アッパーがぷとぷとうるさい奴のアゴにクリーンヒットし、吹き飛ばされた

 

「榛名に攻撃したダズルな…貴様ら覚悟しておくダズル。一匹も逃さんダズル‼︎」

 

「ニムっ‼︎」

 

ハンマーから降りたニムが海中にリリースされる

 

敵にとっての地獄が始まる…



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183話 ぷとぷと大行進(2)

その頃基地では…

 

「ぬいぐるみがイッピーだリュー‼︎」

 

派遣任務の帰り、丁度中間地点に基地があった為、リシュリューが補給に来ていた

 

「いらっしゃい。榛名ちゃんは⁇」

 

「榛名さんとニムさんは哨戒任務だリュー」

 

貴子さんに食事を作って貰い、リシュリューは壁にハンマーを置き、外を見たりして大人しく待っている

 

「こえなぁに⁇」

 

「あか、しお、あお‼︎」

 

ひとみといよが、壁に掛けられたハンマーを見つけた

 

「持ってみる⁇」

 

「んい〜‼︎」

 

「うごけ〜‼︎」

 

ひとみといよが二人がかりでリシュリューのハンマーを持とうとするがビクともしない

 

「可愛い〜」

 

小さな二人が一生懸命頑張る姿を見て、リシュリューは微笑む

 

「何⁇そんなに重いの⁇」

 

必死な顔をして持ち上げようとする二人を見たローマも挑戦してみる

 

「なっ…何コレ…」

 

ローマでさえビクともしない

 

「アンタ達…こんな重いのいっつも片手で振り回してる”ロー”⁉︎」

 

「お〜⁇」

 

「ふいまあしてうお〜⁇」

 

「慣れれば高火力低燃費よ⁇」

 

「そんなバカな…」

 

「さっ、出来たわ‼︎ローマはコーヒーね⁇」

 

「ありがとう」

 

「いただきます‼︎」

 

単冠湾での教育が良いのか、リシュリューはちゃんと帽子を脱ぎ、手を合わせた後、スパゲッティを食べ始めた

 

「美味しいです‼︎merci‼︎」

 

「ありがとっ」

 

台所に戻ろうとした貴子さんは、リシュリューのハンマーに目が行った

 

貴子さんは何気無しにトリコロールのハンマーを持ってみた

 

「意外に軽い”むさ”」

 

ハンマーを持ってすぐ、貴子さんは取っ手部分を軽く回し、ハンマーを2、3回転させた

 

その姿を見てリシュリューは口を開けたままスプーンとフォークを落とし

 

ローマはコーヒーを吹き出した

 

「たかこしゃんすごいお…」

 

「ぱぱしゃんいってた…たかこしゃん、ぱあ〜つおいて…」

 

「榛名さんしか持てなかったのに…」

 

「ひとみちゃんもいよちゃんも大きくなったらきっと持てる”むさ”。よいしょ…」

 

貴子さんは一瞬語尾が変になったが、ハンマーを置いた瞬間それは治った

 

「むしゃ‼︎」

 

「もてうむしゃ‼︎」

 

ひとみといよはローマの足にくっ付きながら、貴子さんのマネをし、ローマは自然と二人の後頭部を撫でている

 

「単冠湾で造ったハンマー持つと語尾変わるのね…」

 

「が、外人さんだ…」

 

たいほうと照月をお昼寝させに行ったきそが帰って来た

 

「きしょ‼︎」

 

「こえもって‼︎」

 

「え⁇こ、これ⁇」

 

ひとみといよに言われ、きそはハンマーを手にする

 

「おっ…重い”きそ”…んん〜っ‼︎」

 

きそまで語尾が変わる

 

「きしょいった‼︎」

 

「おもいきしょ〜‼︎」

 

ひとみといよがケラケラ笑っている横で、きそは一瞬でかいた額の汗を拭いている

 

「はぁ…はぁ…なっ、何これ…」

 

手を離した途端、語尾が元に戻る

 

「スパゲッティ、ごちそうさまでした‼︎」

 

「気を付けて帰るのよ⁇」

 

貴子さんがリシュリューを見送る為に近寄った瞬間、リシュリューがハンマーを手に持った

 

「また来てもいいリュー⁇」

 

「勿論よ‼︎」

 

「いしゅう〜おうちかえう⁇」

 

「しまうましゃんのとこお⁇」

 

見送りに来たひとみといよの頭を撫でながら、リシュリューは膝を曲げた

 

「そうだリュー。リシュリューのお家はあそこだリュー。じゃあ、ありがとうございましたリュー‼︎」

 

補給を終えたリシュリューが基地から去る…

 

 

 

 

 

「オラァ”ぷとぷと”‼︎ちゃんと運ぶんダズル‼︎」

 

「ぷとぉ‼︎」

 

「海に沈めるニムよ⁇」

 

「ぷ、ぷとぉ‼︎」

 

榛名とニムは、ぷとぷと(仮称)相手に大勝利を収めていた

 

ぷとぷとの数はおよそ100匹

 

榛名はその大軍に対し、張り手やエルボー等を始め、殴る蹴るの暴行をぷとぷとに喰らわせ

 

ニムは足を掴んで海中に引き摺り込み、口を抑えて窒息寸前にしたり、海中から飛び出して天空×字拳を嚙ます等でぷとぷと軍を圧倒

 

そして今、榛名達を襲った罰として、大量のぷとぷとの組体操で創り上げた”椅子”に座り、スカイラグーンを目指している

 

「ホラホラ‼︎しっかり動くんダズル‼︎」

 

「ぷとぉ…」

 

「ダズル‼︎マーカスさんの潜水艦ニム‼︎」

 

「ホントダズル。おいぷとぷと‼︎あの船の所に行くんダズル‼︎」

 

「攻撃したら全員ブッ殺すニムよ⁇」

 

「ぷとぷとぉー‼︎」

 

ぷとぷと達はタナトスに向かって、榛名達を運び始めた



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183話 ぷとぷと大行進(3)

トリガーハッピーまつわ


榛名達がタナトスに気付く少し前…

 

《オラオラオラァ‼︎くたばっちまえ‼︎ははははは‼︎》

 

「うわぁ‼︎」

 

「危ない‼︎」

 

「う…上手いでち…」

 

潜水艦娘の三人とまつわが演習を行っている

 

今日は潜水艦の子達に回避運動、そしてまつわに対潜の仕方を教えている

 

まつわは元は対タナトス専用に造られたシステム

 

対潜のスペックは元からかなり高い

 

頭に帽子の様に乗っかっているボーちゃんの指示も相まって、まつわは潜水艦の子達を追い込んで行く

 

《ははっ‼︎見えてるぞ‼︎》

 

「イデッ‼︎」

 

ゴーヤに撃沈判定が出る

 

《そこっ‼︎》

 

「やだやだ〜っ‼︎」

 

しおいにも撃沈判定が出る

 

まつわの爆雷投射の方法はかなり上手い

 

第一段階で潜水艦の子に向けて四方に小型の爆雷をバラ撒き、逃げ道を無くす

 

第二段階で威力の高い爆雷を小型爆雷を投射した中心に投射し、大打撃を与えている

 

残っているのははっちゃんのみ

 

《くっ…ちょこまかと動きやがって…》

 

まつわは目をしかめ、歯を食い縛っている

 

普段基地では甘えん坊で大人しい子なのに、対潜活動となるとかなり活発になる様だ

 

「よーし、時間だ‼︎演習終了‼︎戻って来い‼︎」

 

バインダーを脇に挟み、帰投命令を出し、全員タナトスに戻らせる

 

タナトスに戻って来た潜水艦の子達は、帰って早々、ゴーヤとしおいはまつわを褒めた

 

「まつわは強いでちな‼︎」

 

「しおいがまさか一撃とは…」

 

《でも、はっちゃん倒せなかった…》

 

「はっちゃんは倒せないはずです。はっちゃんにはこれがありますからね」

 

はっちゃんは腰に着けた、いつかきそに造って貰ったプラズマ機関砲を見せた

 

はっちゃんはまつわの投射した爆雷をそれで全て破壊していた

 

「子供相手に汚いでち」

 

「爆雷破壊とかずるい〜」

 

「ほらほら、ケンカすんな。みんな良く頑張ったな‼︎」

 

今日はそれぞれに別々の艤装を載せていた

 

ゴーヤは強化型タービン

 

しおいはデコイ発生装置

 

はっちゃんはプラズマ機関砲

 

そしてまつわはきそが造ったソナーと、二種類の爆雷を載せていた

 

《あ‼︎け‼︎ろ‼︎》

 

《開けるニム‼︎》

 

聞き慣れた声が聞こえ、モニターを見ると、踏ん反り返って何かに座っている榛名とニムが見えた

 

「ちょっと待て‼︎ハンマーで叩くなよ⁉︎」

 

《早くするんダズル‼︎》

 

側面の防水扉を開けると、榛名とニムはタナトスに入って来た

 

「とっとと歩くんダズル‼︎」

 

「ぷとぉ‼︎」

 

「な、何だそいつらは‼︎」

 

榛名とニムは、周りに大量の子供の様な黒い物体を引き連れてタナトスに雪崩れ込んで来た

 

「榛名を襲って来たから叩いてお灸を据えたら懐いたダズル」

 

「ぷとぷとニムよ⁇」

 

「ぷとっ‼︎」

 

「よいしょ…どれっ…」

 

近くにいた一体を抱き上げる

 

「P…T…」

 

「ぷと」

 

ヘルメットの部分に小さく”PT”と書かれている

 

ぷとで間違ってはいないが…

 

「何ダズル。榛名は間違ってねぇダズル」

 

「ぷとはぷとニム」

 

「そ、そうだな…」

 

二人の視線が怖い…

 

こいつらの名前は”ぷと”に決まった

 

「スカイラグーンに行きてぇんダズル」

 

「いいニムか⁇」

 

「よ〜し、スカイラグーンで休憩してから帰るか‼︎」

 

「ジッとしてるでち…」

 

ゴーヤが口を閉ざし、目を閉じる

 

タナトスのタービンが回る音が聞こえた後、ゴーヤは口を開いた

 

「目的地をスカイラグーンに設定しました。目的地までおよそ25分」

 

「オーケーゴーヤありがとう。さてと…」

 

「言う事を聞くんダズル‼︎」

 

「大人しくするニム‼︎」

 

問題はこの大群のぷとぷと達

 

何故榛名達を襲ったのか分からない

 

「ぷとぷとぷと」

 

ぷとぷとの一体がまつわに近寄る

 

《ひっ…》

 

「テメー‼︎まつわを怖がらせるんじゃねぇダズル‼︎」

 

「ぷとっ‼︎」

 

「まつわ。ちょっとボーちゃん借りるな⁇」

 

まつわからボーちゃんを剥がし、台の上に置く

 

”∧( 'Θ' )∧”

 

ボーちゃんは台の上に置いた途端、台の上をモソモソ這いずり始めた

 

「ウロチョロしたら落ちるぞっ⁇」

 

”(._.)”

 

ボーちゃんは台の上からぷとぷとを見ている

 

「お前らのリーダーは誰だ⁇」

 

「ぷとっ‼︎」

 

「ふふ…榛名がリーダーダズル」

 

そこにいたぷとぷと全員が榛名を指差す

 

「ちげぇよ‼︎お前達の仲間内でのリーダーは誰だって聞いてるんだ‼︎」

 

「ぷとっ‼︎」

 

よく見ると黒いぷとぷとに混じって、一体だけ青いぷとぷとがいる

 

どうやらそいつがリーダーの様だ

 

そのリーダーの前で膝を曲げ、目線を合わせようとしたが、それ以上に小かった

 

「何で榛名達を襲ったんだ⁇」

 

「ぷ…ぷと…」

 

「ちゃんと言わねえと頭叩き割るダズル‼︎」

 

「ぷ‼︎ぷとぷと‼︎」

 

青いぷとぷとは身振り手振りで何かを伝えようとするが、ぷとぷと言うだけで分からない

 

「ボーちゃんに翻訳して貰おう」

 

青いぷとぷとを抱き上げ、ボーちゃんのいる台の上に置く

 

”(♯`∧´)”

 

「ぷとっ‼︎」

 

台の上で二人は睨み合っている

 

「ボーちゃん。ぷとぷとが榛名を襲った理由を解析してくれるか⁉︎」

 

”( ̄^ ̄)ゞ”

 

敬礼する顔文字を表示した後、ボーちゃんはぷとぷとに触手を伸ばした

 

”・_・)〜”

 

「ぷべぁ」

 

触手が絡み付き、ぷとぷとが変な声を出した後、ボーちゃんは翻訳を開始する

 

《あの人達味方かなぁ⁇》

 

《お友達になれるかなぁ⁇》

 

《そうだ‼︎まずは僕のお友達を紹介しよう‼︎》

 

「榛名」

 

「飛び掛かって来たから殴ったんダズル‼︎正当防衛ダズル‼︎」

 

ボーちゃんの翻訳には続きがあった

 

《ハンマー持ってる…敵だ‼︎》

 

《いた〜い‼︎》

 

《敵だ‼︎みんなかかれ‼︎》

 

「ぷとぷと」

 

「ぷべぇ…」

 

リーダーぷとぷとは首をうなだれている

 

一応反省している様子だ

 

「どっちもどっちだなっ。榛名はすぐに殴らない。ぷとぷとは勘違いされない様に自分から飛び掛からない。分かったか⁇」

 

「ぷとっ‼︎」

 

リーダーぷとぷと含め、ぷとぷと達は理解してくれたみたいだ

 

「んなもん先手必勝ダズル。殺られる前に殺るのが榛名の鉄則ダズル‼︎」

 

「HAGYに言うぞ⁇」

 

「それはいかんダズル」

 

榛名はワンコよりHAGYに弱い

 

ワンコに言っても結局ハンマーの力で抑え付けて従わせる

 

ただ、何故かHAGYだけにはハンマーを振るわない

 

榛名はHAGYに対して、何か特別な感情を抱いているのかも知れない

 

「それでお前ら、何処から来た⁇」

 

《集積地お姉さんの所‼︎》

 

「なんだと⁉︎集積地は榛名が脳天叩き割ったハズダズル‼︎」

 

《集積地お姉さん生きてる。でも、もう敵じゃない》

 

「ぷとっ」

 

足元にいた一人のぷとぷとが何かが書かれた紙を渡して来た



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183話 ぷとぷと大行進(4)

集積地の威嚇行動を可愛くしてみた回


”集積地ちゃんの派遣サービス

 

派遣社員を低価格で派遣します

 

掃除、洗濯、炊事…その他諸々の雑務を請け負います

 

一仕事につき、雑用PTを10人送ります

 

料金…

 

雑務一つ…3000円

雑務三つ…8000円

雑務五つ…13000円

 

※注…性的なサービスはございません”

 

 

 

集積地はぷとぷと達を使い、雑務専用の派遣サービスをしているみたいだ

 

「へぇ〜っ⁉︎中々面白いシステムだな⁇」

 

「集積地は反省してるんダズル⁇」

 

「これを見る限りしてるんだろうな」

 

どうやらコイツらはこの名刺に書かれている雑用PTの様だ

 

《今からスカイラグーンに行って、お掃除をします》

 

「はぁ〜っ…それでこの人数なのか…」

 

「スカイラグーンに接近。退艦の準備をして下さい」

 

ゴーヤの言葉で、ぷとぷと達はまた組体操で椅子を作り始め、榛名とニムはそれに座る

 

「スカイラグーンに到着しました」

 

「さっ。降りよう。ゴーヤ、ありがとな」

 

「お安い御用でち‼︎」

 

ゴーヤの頭を軽く撫でた後、タナトスを降りた

 

 

 

「キッ、キサマハイツゾヤノハルナ‼︎」

 

「いつぞやのクソヘボ集積地ダズル」

 

降りて早々、白い肌が特徴的な、眼鏡を掛けた女性が立っていた

 

榛名の話を聞く限り、彼女が集積地お姉さんらしい

 

「ピーティータチヲカエセ‼︎」

 

「ハンッ‼︎イヤダズル‼︎ぷとぷと達は榛名に着いて来てるんダズル‼︎」

 

「「「ぷとぉ〜〜〜っ‼︎」」」

 

「イデッ‼︎」

 

「ニムッ‼︎」

 

ぷとぷと達は集積地お姉さんを見るなり組体操を崩し、榛名とニムをコンクリの上に放り出し、一斉に駆け寄った

 

「ン〜ッ。コワカッタナァ〜⁇コワイオネエサンハイヤダナァ⁇」

 

集積地お姉さんは喧嘩を売るかの様に榛名の方を見ながらぷとぷと達の頭を撫でている

 

「グヌヌ…ブッ殺してやるダズル‼︎」

 

榛名はプルプルした後ハンマーを構え、集積地お姉さんに振り被った

 

「ダメニム‼︎スカイラグーンで戦ったらニム‼︎」

 

「…チッ。ニムの言う通りダズル」

 

「レロレロレロレロ〜〜〜‼︎」

 

「おっ…ぐっ、が…」

 

集積地お姉さんは榛名を馬鹿にするかの様に舌を出して挑発した後、喫茶ルームに入って行った

 

「いつかもっかいブッ殺してやるダズル…」

 

ブツブツ文句を言いながらも、榛名もニムを連れて喫茶ルームに向かって行った

 

 

 

 

 

喫茶ルームで扶桑さんに潜水艦の子達とまつわを任せ、喫煙所に来た

 

「災難だったみたいだな⁇」

 

「キサマハタシカ…マーカスサンダッタカ⁇」

 

「よく知ってるな⁇」

 

「チュウスウセイキノオメツケダカラナ」

 

喫煙所には集積地お姉さんがいた

 

タバコは吸っていないが、手にジュースを持って水平線を見つめている

 

「コウミエテハンセイシテルンダ…ダカラハケンサービスヲハジメタ」

 

「それは良い事だ。一つ聞いて良いか⁇」

 

「コタエラレルコトナラ」

 

「あれだけの数のPT達をどうやって産み出した⁇」

 

「…」

 

どうしても気になるのはそこだ

 

あれだけの数のぷとぷと達を産み出した技術は何処にあるのか…

 

「ハルナニノウテンタタキワラレタアト、ワタシハマダイキテタ」

 

「タフだな」

 

「ン…ソノアト、ワケノワカラナイレンチュウニツレテイカレテ、ソコデ…」

 

「悪い…言いたくなかったな」

 

「ダイジョウブ。ナレテルカラ。ソコデピーティータチヲ、ナッ⁇」

 

「なるほど…」

 

「マッ⁉︎マーカスサンヤウィリアムサンガタタキノメシテクレタカラスッキリシタヨ‼︎」

 

「好戦派の奴等がか…」

 

「コウセンハノヤツラハ、ワタシガカンムスノテキセイガナイトワカルト、シンカイノセジュツヲシタ。ソノアト、イチドチュウスウセイキニタスケラレテ、ハルナニタタキノメサレタンダ」

 

「ちょっと待て…人間だったのか⁉︎」

 

「キオクハナイガナ」

 

集積地お姉さんがジュースを飲んでいるのを見て、ようやくタバコに火を点けた

 

「ナァ、マーカスサン」

 

「なんだ⁇」

 

「ハナシテナカッタガ、ココノイッカクニハケンサービスノジムショヲタテルコトニナッタ」

 

「良いんじゃないか⁇平和に利用するならな⁇」

 

集積地お姉さんに返事を返しながら手すりにもたれ、紫煙を吐く

 

「ダカラ、ソノ…」

 

「榛名と仲直りしたいんだな⁇」

 

「ハルナガヨケレバ」

 

「だとよっ」

 

「ほ〜ん⁇」

 

榛名は喫茶ルームの窓から話を聞いていた

 

榛名は一旦窓際から消えた

 

「うおりゃ‼︎」

 

バリーン‼︎とガラスが割れる音が聞こえた後、榛名は喫煙所に来た

 

「榛名はガラス窓を見ると割りたくなっちゃうんダズル」

 

と、舌を出す榛名

 

「でだ集積地‼︎」

 

「ナ、ナンダ‼︎」

 

「オメェとなんか仲直りしてやんねぇダズル‼︎」

 

「ナッ‼︎」

 

集積地は驚いたと同時に軽く怒りを見せた

 

「まっ⁇ただの友達じゃなくて喧嘩友達なら良いダズルよ⁇」

 

「ふふっ」

 

なんとも榛名らしい

 

榛名は集積地と仲直りしてただの友達になるより、今のままの様な喧嘩友達が良いらしい

 

それは、榛名の精一杯の愛情表現だった

 

「フッ…イイダロウ‼︎ハルナトハソッチノホウガイイ‼︎」

 

「宜しくダズル‼︎」

 

「アァ‼︎」

 

二人は固く握手する

 

その行為は、艦娘と深海の子が明確に手を取り合った大変貴重な瞬間でもあった

 

「ふふっ…」

 

「ハハッ…」

 

と、思ったがそうでもなさそうだ

 

互いに握った手を握り潰そうと力を入れている

 

「離すんダズル‼︎」

 

「ハルナガハナセ‼︎」

 

「んぎぎぎ‼︎」

 

「グヌヌヌ‼︎」

 

「あっ、HAGY」

 

「はっ‼︎」

 

俺がそう言うと、榛名はスッと手を離した

 

ふと榛名を見ると、軽くだが頬を赤らめている

 

やはり榛名とHAGYの間には何かあるみたいだ

 

 

 

 

榛名と集積地お姉さんが喫煙所を去り、足元を見るとぷとぷと達が割れたガラスを片付けていた

 

「お前らは働き者だな⁇」

 

「ぷとぷと」

 

俺の顔をチラッと見た後、ぷとぷと達は再びガラスを片付ける

 

ひとみといよとほぼ同サイズのその体で一生懸命ホウキやちりとり、そして雑巾を持つ姿は見ていて何だか可愛い

 

ぷとぷと達は片付けを終えた後、喫茶ルームに戻り、集積地お姉さんの周りに集まっていた

 

俺も喫茶ルームに戻り、潜水艦の子達とまつわの所に行く

 

”(´ε` )”

 

ボーちゃんがまつわの目の前でジュースを飲んでいる

 

「騒がしいのは良いでちな」

 

「まぁなっ。静まり返ってるよりよっぽど良い」

 

ゴーヤは俺の横に座り

 

しおいはまつわを膝の上に乗せ

 

はっちゃんは疲れた一体のぷとぷとを横に置き、頭を撫でている

 

はっちゃんの手が心地良いのか、撫でられているぷとぷとは鼻ちょうちんを作っている

 

少しずつ人員が減って来ていたスカイラグーンに、また活気が戻っている

 

「そろそろ帰るぞ。御飯の時間だ」

 

俺の言葉で基地の子がみんな立ち上がる

 

「レイさん、またお越し下さいね⁇」

 

「あの子達を頼むよ」

 

「畏まりました」

 

「マーカスサン、アリガトウ」

 

「榛名と仲良くなっ⁇」

 

集積地達と別れ、俺達はスカイラグーンを後にした…




ぷとぷと…PT小鬼群

集積地お姉さんの派遣サービスで働くぷとぷとうるさい奴等

全部で100体おり、一体だけ青いリーダーぷとぷとがいる

見た目の割に結構働き者




集積地お姉さん…派遣サービスの女社長

榛名に脳天を叩き割られた後、反省してぷとぷとの派遣サービスを始める

元々は人間だった様で、結構ツライ過去を背負って生きている


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184話 拗ねた雄鳥(1)

さて、183話が終わりました

今回のお話は、久し振りにパパ目線のお話になります

パパの楽しみである、深夜のDVD観賞…

観ている映画にも注目です


皆が寝静まった頃…

 

皆が…特に貴子が起きない様に、暗い食堂でコソコソと動く…

 

貴子が起きたら何を言われるか分からない

 

ジュースとコップを持ち、軽いお菓子を持って、一旦テレビの前に座る

 

テレビを付け、DVDの電源を入れる

 

《培養ハザーーードゥオ》

 

日中執務で忙しい為、こうして夜中に映画を観る事が多い

 

子供達にも普段からDVDを観せる事はあっても、今流しているSFホラーは一人の時しか見ない

 

DVDが始まり、飲み物とお菓子を持ってソファーに座る

 

アクションが多く、中々見応えはあるが序盤から結構グロい

 

これは子供達に観せられないな…

 

それでも、お菓子を食べるスピードは速くなる

 

持って来たポップコーン、中々味が濃くて美味しいな…

 

黙って映画を観続け、物語もいよいよ中盤と言う時、両隣に重さを感じた

 

映画の内容も相まって、恐る恐る、まずは右隣を見てみる

 

「じょんびら」

 

私の服の裾を掴みながら、テレビを指差しているひとみがいる

 

次は左隣

 

「さいこおすてーき」

 

映画の中でバラバラにされた人間を観て、笑っているのか怖がっているのか分からないいよが、私に頭を置いて映画を観ていた

 

「いつの間にいた⁇」

 

「じゅっといた」

 

「ばいようはじゃ〜どぅお〜のとこおかあ」

 

要は最初からである

 

やたらお菓子類の減りが速いと思っていたら、ひとみといよがチョコチョコ摘んでいたからか…

 

「怖くないのか⁇」

 

「なえた」

 

「も〜っろこあいことしってう」

 

「例えば⁇」

 

「ひとのあたま、ぴすとうれろか〜んしたい⁇」

 

「ほうちょうれあたまばいばいしたい⁇」

 

「ぱんちれぽんぽんにあなあいたい⁇」

 

「怖い怖い…」

 

幼さ故に恐怖心が無いのか、何気無い顔をしながら私に怖い事を言って来る

 

「えいしゃんこあい⁇」

 

「レイがしてたのか⁇」

 

「えいしゃん、ろ〜じんにしてう」

 

「あと、ろ〜やにはいってうひと」

 

「なるほどな…ひとみといよの前でした事あるか⁇」

 

「ない」

 

「ない」

 

そこの所レイはかなりしっかりしている

 

私は何度か艦娘の子達の前で人を殺めかけているが、レイにはそれが無い

 

「じゃあ何で知ってるんだ⁇」

 

「たあとすれみた」

 

「タナトスでか⁉︎」

 

「れっち〜、えいしゃんらいすき」

 

「でっち〜、えいしゃんじゅっとみてう」

 

「それでか…」

 

ゴーヤはレイの事が好きらしく、内緒でずっと監視しているらしい

 

その映像をひとみといよはたまたま観ていたらしく、その時にレイのスプラッターなシーンが映されたって訳か

 

「れっち〜にないしょ」

 

「えいしゃんにもないちょ」

 

「内緒にしとくよ。私がお菓子食べてたのも内緒にしてくれるか⁇特に貴子に」

 

「わかた」

 

「ないちょちとく」

 

二人は結局最後まで映画を観た後、口をゆすいで子供部屋に戻って行った

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「おはよ〜」

 

「ウィリアム。ちょっと」

 

食堂に来た瞬間に貴子に手招きされる

 

「夜中にポップコーン食べたでしょ⁇あとオレンジジュースも」

 

「食べたかも知れんし、食べてないかも知れん」

 

貴子から目を逸らし、何とかはぐらかそうとする

 

「食べた事に関しては怒って無いわ。ウィリアムも趣味の時間欲しいわよね⁇」

 

「うん」

 

「何で私の”富良野ジャガバター味ポップコーン”食べたの」

 

「はっ…」

 

貴子のだったのか…

 

「おあよ‼︎」

 

「おきた‼︎」

 

ひとみといよが起きて来た

 

「おはよう‼︎ひとみちゃんといよちゃんは偉いわね〜⁇人のお菓子食べないものね〜⁇」

 

食い物の恨みは恐ろしいな…

 

貴子はひとみといよを抱っこし、それぞれの場所に座らせた

 

「…ひとみちゃんといよちゃんにも食べさせたわね⁇」

 

帰って来た貴子の眼光が鋭くなる

 

「…はい」

 

「タウイタウイモールに行ってもいいかしら⁇」

 

「…はい」

 

「ひとみちゃんいよちゃん‼︎朝ごはん食べたらみんなでタウイタウイモールに行こっか‼︎」

 

「いく‼︎」

 

「おかちかう‼︎」

 

「ふふっ…ウィリアム⁇」

 

ひとみといよに微笑んでいた顔が、此方を向いた瞬間に一気に怖くなる

 

「…はい」

 

「次…もし人のお菓子食べたら…ウィリアムの財布で照月ちゃんと一緒に回らないお寿司食べに行くから…」

 

「…はい」

 

気迫に負け、言い返す手段が全く無くなっていた

 

「おはよ〜。あ、いたいた‼︎貴子さん‼︎」

 

貴子の気迫に負けて棒立ちしていると、レイが起きて来た

 

手には袋を持っている

 

レイは食堂に来てすぐ台所に入り、袋の中身を出した

 

「昨日横須賀の駄菓子屋に行ったら、貴子さんの好きそうなお菓子あってさ‼︎夜中に帰って来たから渡せなくて…はい‼︎」

 

「あらっ‼︎」

 

レイの手には、昨日の晩三人で摘んだポップコーンが握られている

 

「食べたかったのよ〜‼︎ありがとう‼︎」

 

と、言いながら貴子がチラッとコッチを見た

 

(ウィリアムと随分違うわね⁇)

 

と、でも言いたそうな顔をしている

 

「う…うわ〜〜〜ん‼︎」

 

「隊長⁉︎」

 

その場の空気に耐えられなくなった私は、基地から逃げ出した

 

「放っておきなさい」

 

「…何かあったろ⁇」

 

「放っておきなさい」

 

「ひっ…」

 

レイでさえ貴子の眼力に負け、一歩後ろに下がっていた

 

 

 

 

「…スン」

 

《そう泣かないで下さい》

 

私はクイーンに乗って基地から飛び立っていた

 

操縦はクイーンに任せ、私は体育座りでむせび泣いていた

 

「だっ…だって、たかっ、貴子がさぁ…」

 

《そこまで泣く事ですか》

 

「あそこまでっ、怒るとっ、思って、ない、じゃん」

 

《はぁ》

 

クイーンの中でとにかくむせび泣いた

 

クイーンがドン引きする程泣いた

 

《パパさん。私とデートをしませんか⁇》

 

「クイーン、と、か⁇」

 

《横須賀でケーキを食べましょう。貴子さんには内緒で》

 

「しかし…」

 

《こんな時でもないと、パパさんと一緒にいられませんからね》

 

私はクイーンに言われるがまま、横須賀に連れて行かれた…



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184話 拗ねた雄鳥(2)

「おじ様だ‼︎」

 

「え⁉︎隊長⁉︎」

 

朝食中の磯風が気付き、横須賀達が窓の外を見ると、クイーンが着陸脚を出しているのが見えた

 

「こんな朝っぱらから珍しいわね…」

 

「何かあったのでしょうか⁇」

 

「朝霜、磯風、子供達を頼むわ‼︎ちょっと行って来る‼︎親潮、アンタも来なさい‼︎」

 

「畏まりました‼︎」

 

親潮は握っていたお箸を置き、横須賀の背後を着いて行った

 

「おか〜さん、大慌てだねぇ」

 

幸せそうにご飯粒を口周りいっぱいに付けた谷風も窓の外を見る

 

「もしかすると緊急事態かも知れないかんな」

 

 

 

 

「よいしょ…っと」

 

「翔鶴」

 

「パパさん‼︎」

 

翔鶴は私を見るなり、たいほうの様に抱き着いて来た

 

「もぅ…まだ目元が赤いですよ⁇」

 

「そうか⁇」

 

久々に抱き締める翔鶴は、いつもより体温が高く感じる

 

「隊長‼︎」

 

「横須賀⁇どうした⁇」

 

「いえ…緊急事態かと思って…」

 

「今日は翔鶴のお誘いなんだ」

 

「なるほど…ビックリしました…」

 

「おはようございます、大佐殿」

 

親潮の敬礼していた手を掴み、腰元へ降ろす

 

「敬礼は無しだ」

 

「は…はい」

 

「朝ごはん食べに戻りましょ⁇」

 

「はい」

 

緊急事態と思い飛んで来た横須賀と親潮は胸を撫で下ろした後、朝食に戻って行った…

 

 

 

 

翔鶴に腕を絡まらせながらやって来た繁華街

 

「翔鶴」

 

「パパさん⁇二人きりの時は翔子と呼んで下さい」

 

「しょ…翔子。ケーキで良いのか⁇」

 

「パパさんとなら何処でもっ‼︎」

 

翔鶴もとい翔子は嬉しそうに笑顔を返してくれた

 

今日ばっかりはこの笑顔に救われる事になりそうだ

 

早速伊勢に向かい、ケーキバイキングを堪能する事にした

 

「はいっ‼︎パパさんっ‼︎」

 

翔子にあ〜んをして貰う

 

「んっ‼︎」

 

「中将⁇あ〜ん‼︎」

 

「あ〜んっ‼︎」

 

横の席にラブラブのカップルがいる

 

片方はダンディーな外国人

 

もう一人は…

 

「大佐⁉︎なんでここに⁉︎」

 

瑞鶴だ

 

親父が瑞鶴と不倫していると、レイが言っていたのは本当の様だ

 

「おっ‼︎ウィリアムも不倫か‼︎」

 

「い、いえ…そういう訳では…」

 

「ははは‼︎冗談さ‼︎ほ〜ら瑞鶴、チョコレートケーキだぞぉ〜⁇」

 

「ちょうだいちょうだ〜い‼︎」

 

甘々な関係過ぎて吐きそうになる

 

「パパさんも貴子さんとあんな事したいですか⁇」

 

「今翔子にして貰ったからいいさ」

 

「パパさん…」

 

翔子はクスクスと微笑む

 

あまり比べてはいけないが、翔子には貴子にはない可愛さがある

 

翔子にはお淑やかさがある

 

貴子は付き合っていた時からも、丁寧だが結構大雑把な所があった

 

それも含めて、私は貴子が好きだ

 

それは変わらない

 

ただ、お菓子一つでマジギレされたらいても立ってもいられない

 

「結構頂きましたね⁇」

 

「食べる子は好きだ」

 

「ふふっ‼︎」

 

翔子は結局3ホール程ケーキを食べ、伊勢を後にした

 

「出た…」

 

「行こう…」

 

私と翔子が店を出てすぐ、誰かがコーヒーを置き、間隔を開けて店を出た…

 

 

 

 

翔子を腕に着け、繁華街を歩く

 

「パパさんは映画お好きですか⁇」

 

「そうだな。昔貴子とよく観に行っ…」

 

翔子に人差し指で口元を押さえられる

 

「今日はその名前…言わない様にしませんか⁇」

 

「んっ…そうだな。気付かなかった。すまん」

 

翔子は一度瞬きをした後、ぎこちなく微笑み、人差し指を離し、また歩き始める

 

 

 

 

「翔鶴が女の顔になっている…」

 

「完全に惚れてるね…」

 

先程から後を着けている、サングラスを掛けた女性二人組

 

その二人は壁から半分顔を出し、ずっと二人の様子を伺っていた

 

彼女達二人は、とあるクライアントに夕飯にプリンを付ける条件で雇われたプロのスパイ

 

赤い髪のスパイが

コードネーム…KKT

(くっ・ころ・ちゃん)

 

そして緑の髪の小さなスパイが

コードネーム…KST

(き・そ・ちゃん)

 

二人は数々の難事件を解決して来たスパイのプロでもある

 

「ね、ねぇ、あれ…」

 

「あれは…ザ・パパラッチ・アオバ」

 

追跡目標付近にカメラを持った美少女が現れた‼︎

 

 

 

ザ・パパラッチ・アオバとは…

 

提督や艦娘の写真を無許可で撮り、週刊誌に載せちゃうお茶目な女の子

 

たまにとんでもないスクープ写真を”間違えて”撮っちゃったりして、間違えて撮られちゃった提督を全提督の笑い者にするパワーを持っている

 

スパイ行動中は真っ先に排除対象になる

 

「パパの不倫を週刊誌に乗せられたら大変だよぉ」

 

「アーk…KKTに任せろ」

 

KKTはザ・パパラッチ・アオバに見つからない様に前屈みながら歩き、ゆっくりと近付く

 

「へっへっへ…大佐はまだ此方に気付いてないよ⁉︎」

 

ザ・パパラッチ・アオバは独り言を言いながらカメラを構え、追跡目標を写真に収めようとしている

 

KKTは匍匐前進で彼女に近付き、腰に付けているスパイ道具”サージスタンガン”を素肌のある脛に当てる

 

「おりゃ」

 

「あばっ‼︎」

 

ザ・パパラッチ・アオバは一瞬で気絶

 

「心配するな。多分峰打ちだ」

 

KKTは鞘にサージスタンガンを仕舞い、足早にKSTの所に戻って来た

 

「仕留めたぞ」

 

「オッケー」

 

ザ・パパラッチ・アオバは目を回しているが心配は無い

 

その後、追跡目標はジープの発着所に入って行った

 

二人はジープの影に隠れながら、追跡目標の様子を伺っていた…




サージスタンガン…ユーバリン力作非殺傷スタンガン

短剣の様な形のスタンガン

とある赤髪のスパイが腰に付けており、彼女のお気に入り

刀身自体に攻撃力はほとんど無いが、手元のスイッチを押すと高圧電流が流れる

アークはこれを使ってショートした電子機器を復活させたり、開かなくなった電子キーの扉をショートさせてこじ開けたり等、案外平和利用している

艦娘の子に当てると気絶する

とあるゲーム内の武器がモデルで、作者がどうしてもアーk…KKTに持たせたかった武器


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184話 拗ねた雄鳥(3)

長い間ストップしてしまい、申し訳ありません

色々ありましたが、ようやく落ち着いたのでまた再開します


「では、午後20時までに返却をお願いしますね」

 

「分かった」

 

翔子を助手席に乗せ、横須賀を出た

 

たまにはドライブするのも悪くない

 

高速に乗ると、下にある街を一望出来た

 

「綺麗…」

 

翔子は髪を耳元で止めながら外を眺めている

 

後部座席に隠れている二人のスパイもつられて翔子の見ている方を見る

 

「パパさんと一緒に空を飛んでいる時と、また違った景色ですね…」

 

「たまには低空から眺めるのも良いもんさ」

 

KKTとKSTは後部座席から少しだけ顔を出し、二人を見る

 

大変仲睦まじい二人が垣間見える

 

スパイ二人は元の位置に戻り、正面を向きながら口を開いた

 

「…これはヤヴァイね」

 

「…クライアントに報告せねば」

 

そう言う二人の襟元には、榛名が舌を出したピンバッジが付けられている

 

KSTの技術により、クライアントの耳に逐一報告が行く様になっている

 

ジープは高速を外れ、サービスエリアに来た

 

追跡対象はここに来たかったみたいだ

 

スパイ二人はジープが停車する寸前で飛び降り、別の車の死角に隠れた

 

「どこ行くんだろ…」

 

「ん⁇」

 

KKTの目線の先に看板がある

 

”いちごがり

←”

 

「イチゴ=ガリ⁇」

 

「苺の食べ放題みたいな感じだよ。ほら、あの赤い果物」

 

看板には分かり易い様に苺のイラストが描かれている

 

「ストロベリーか。なるほど…」

 

「入って行ったよ」

 

スパイ二人は、追跡対象の後を追う様にいちごがりの施設に入って行った

 

 

 

「ウィリアムも拗ねるのですね」

 

「ごめんなさい…」

 

基地の食堂では、貴子さんと母さんがコーヒーを飲みながら話をしている

 

俺は子供を集めて、テレビの前で積み木で遊んでいた

 

「マーカス君、ごめんね⁇きそちゃん使う様な真似して」

 

「楽しそうに行ったからいいさ」

 

あの後、きそとアークは貴子さんから何かを言われた後、目を輝かせて意気揚々と横須賀に向かった

 

貴子さんが何を言ったのかは知らないが、余程魅力的な報酬が出るのだろう

 

「えいしゃんおしごろすう⁇」

 

積み木を積みながら、いよがそう聞いて来た

 

「んっ。今日は良いんだ。ホラッ、今日はみんなと遊ぶ日だろ⁇」

 

「きょうはすいようび‼︎」

 

たいほうの目線の先の日めくりカレンダーを見ると、今日は水曜日

 

本当に子供達と遊ぶ日だ

 

「きしょかえってくう⁇」

 

「くっこおは⁇」

 

「みんな帰って来るさ。隊長もな⁇」

 

「マーカス君が凄いマトモに見えて来た…」

 

「マーカスも拗ねる時はあるわ。ねっ⁇マーカス⁇」

 

「えいしゃんすねう⁇」

 

「うわ〜んいう⁇」

 

「すてぃんぐれいすねるの⁇」

 

「うっ…」

 

子供達の視線が痛い…

 

隊長…早く帰って来てくれ‼︎

 

 

 

 

「パパさん、はいっ‼︎」

 

「んっ‼︎」

 

追跡対象は翔子さんに苺を食べさせて貰っている

 

「き…KST」

 

「なぁに⁇」

 

「さっきからやってるあの行為はなんだ⁇」

 

「あ〜んって奴⁇」

 

「そうだ」

 

二人は手に練乳を入れた容器を持ち、苺を頬張りながら追跡対象の様子を伺っていた

 

「好きな人に食べさせて貰うのって、嬉しくなるんだ」

 

「アー…KKTも、もう一回ビビリにしたら喜ぶか⁇」

 

「喜ぶと思…もう一回⁇」

 

「ビビリには昔離乳食を食べさせていた」

 

「はぇ〜…」

 

「ビビリは良く食べる子で、スプーンまで齧っていたな…」

 

「KKTって…結構年寄り⁇」

 

「なっ‼︎ビビリより多少は年上なだけだ‼︎」

 

「ん⁇」

 

「ヤバッ‼︎」

 

苺を頬張った追跡対象が背後を振り返った‼︎

 

KSTは急いでKKTの頭を抑えて、苺のなる木に身を隠した

 

「すまん…」

 

「ビックリしたぁ…」

 

追跡対象は再び翔子さんの方を向き、話しながら苺を頬張り直した

 

 

 

 

苺狩りを終えた後、施設の横にある動物のふれあいコーナーに来た

 

「あらっ、可愛い‼︎」

 

翔子は一匹の小動物の前に屈み、頭を撫でた

 

「ウサギさんで合ってますか⁇」

 

「そっ。ウサギさんだっ」

 

私も翔子の横で膝を曲げる

 

翔子とこうしてじっくりデートするのは初めてかも知れない

 

翔子は翔子で、私の機体…クイーンのAIとして、そして女優として忙しい生活を送っている

 

こうした息抜きも必要なのかも知れないな…

 

「うわぁ〜ん‼︎助けてぇ〜っ‼︎」

 

「何でこっちに来るんだーっ‼︎」

 

「ふっ…」

 

私達がいる小動物のコーナーの反対側で、柵の向こうに入って、まぁまぁ巨大なアルパカに追い掛けられている見覚えのある二人を見て笑みが零れる

 

私が気付かないとでも思っていたのだろうか⁇

 

伊勢に居た時からずっと着けて来ているのは知っている

 

ジープに乗った時も、私はバックミラーで二人がちゃんとシートベルトを締めているのを確認してからジープを出した

 

「うっ‼︎」

 

なんて事を考えていると、いきなり数回のフラッシュが焚かれた

 

「へへっ…」

 

カメラを構えていたのは、どっかの記者の様だ

 

一般市民に紛れ込み過ぎて分からなかった

 

私も落ちたな…

 

「パパさん、この人、週間文秀の記者さんです。しつこく付きまとって来てて…」

 

「パパラッチか…」

 

翔子は女優だ

 

スキャンダルで強請ってくる輩も少なからずいるだろう

 

「いい写真貰いましたわ‼︎女優、景浦翔子のお相手は年輩の男性‼︎」

 

週間文秀の記者はそそくさとその場を去って行った

 

「パパさん‼︎追わないで下さい。あぁ言う人は放って置く様にと言われてます」

 

「いいのか⁇」

 

「えぇ。それよりあっちに行きましょう‼︎」

 

翔子はパパラッチを気にせず、私の腕に自身の腕を絡ませた後、アルパカコーナーに向かった



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184話 拗ねた雄鳥(4)

「よいしょ〜っ‼︎」

 

「ぐわっ‼︎」

 

走ったパパラッチの先に誰かがいきなり飛び出し、足を引っ掛けた

 

パパラッチはすっ転ぶが、カメラは死守している

 

「いいカメラだね‼︎」

 

「あっ‼︎」

 

足を引っ掛けた子はパパラッチから一瞬でカメラを奪い取り、中のデータを見始めた

 

「なんだテメェは‼︎」

 

「スパイ」

 

「す、スパイ⁉︎」

 

「貴様の様な陰湿な輩から対象を護衛する様に依頼されたのだ」

 

KKTが出て来て、パパラッチの前に立つ

 

「う〜わ‼︎翔子さんばっかりだ‼︎」

 

パパラッチのカメラのデータは、翔子さんの写真ばかり撮られていた

 

「あれか。ヘンタイ=サンか⁇」

 

「人の商売を邪魔するな‼︎営業妨害で訴えるぞ‼︎」

 

「じゃあ僕達はプライバシーの侵害とストーカー行為で訴えるね‼︎」

 

「やはりヘンタイ=サンか。ビビリ以下だな」

 

「二度と付きまとわないって約束したら、カメラだけは返してあげるよ⁇」

 

「コイツ…言わせておけば…」

 

「KST‼︎ダンプが来たぞ‼︎」

 

ここはサービスエリア

 

ダンプが入って来ても何ら可笑しくない

 

「ホントだ‼︎ダンプの人に頼んで踏んでも〜らお‼︎」

 

「わ、分かった分かった‼︎データはやるから、カメラは返してくれ」

 

「はい」

 

KSTはメモリを抜き取り、カメラだけは返した

 

「あ、言っておくけど、本体メモリは消したからね」

 

「くっ…」

 

「じゃっ、毎度あり〜‼︎」

 

KSTはメモリを手元で軽く投げてまた掴み、KKTと共にその場を去った

 

 

 

 

 

スパイ二人が追跡対象を再び探すと、二人共既にジープに座って、エンジンを掛けているのが見えた

 

「ヤバヤバ…」

 

「危ない危ない…」

 

バレない様に急いでジープの後部座席に座り、シートベルトを締める

 

「これは何だ⁇」

 

「いちごシェイクだってさ」

 

二人の目の前には、それぞれシェイクが置いてある

 

「「はっ‼︎」」

 

二人は顔を見合わせた後、恐る恐るバックミラーを見た

 

パパがバックミラー越しにガン見している

 

「あ、あはは…」

 

「ど、どうするKST‼︎」

 

「お二人さん、ありがとうございました」

 

「翔子っ」

 

パパは笑いながら翔子さんの顔を見た

 

「あ、はいっ‼︎」

 

「私達はスパイなんて見てなかったっ‼︎」

 

「そうです‼︎今日は二人きりでとっても楽しいデートでしたね‼︎」

 

「パパ…」

 

「流石はビビリの上に立つ人間だ…懐が違う」

 

可愛いスパイ二人も乗せた”二人きり”のジープは帰路に着いた…

 

 

 

 

「俺も人間や、あんなんされたらカチンとくるわ」

 

パパラッチはブツブツ言いながら、自分の車に乗って翔子さん達を追い掛けようとした

 

「ん⁇」

 

エンジンが掛からず、ギャリギャリと嫌な音が出た

 

不審に思ったパパラッチは車から降り、後方に回ってみた

 

「げっ‼︎」

 

後輪のタイヤが二つ共外され、ご丁寧に止め具だけ持ち去られていた

 

次いでの様にバッテリーも外され、タイヤの上に置かれている

 

バッテリーとタイヤの間に挟まれた紙には、新聞から切り抜いた文字で

 

”走れルもんなラ走ッてみヤがれ‼︎”

 

と書かれた紙が置いてあった

 

「くっそ、あいつら…」

 

「貴方が週間文秀の記者ですか⁇」

 

「なんだテメェら…」

 

「ストーカー行為、プライバシー侵害、住居不法進入、窃盗、盗撮、恐喝、その他諸々の容疑で連行します」

 

「令状はあるのか⁇ん⁇」

 

「令状⁇これが令状だぁ‼︎」

 

パパラッチはいきなり顔面に右ストレートを喰らった

 

「や、やめてくれ‼︎謝るから‼︎」

 

「ふふ…悪人が助けを求めるのを見るのは良い物ですねぇ…私はこの瞬間が好きで、この依頼が止められないんですよ…」

 

パパラッチは終始敬語で満面の笑みを浮かべている男性に連れて行かれ、その後、彼を見た者は居なかった…

 

 

 

基地に帰って来ると、貴子が料理を作って待ってくれていた

 

「おかえい‼︎」

 

「しょこたんおかえい‼︎」

 

「ただいまっ‼︎」

 

相変わらず窓際で私達の帰りを待っているひとみといよが迎えてくれた

 

「パパおかえり‼︎」

 

「おっ‼︎ただいまっ‼︎」

 

その次にたいほうに抱き付かれる

 

「レイは⁇」

 

「れべとまくすと一緒に子供部屋にいるわ⁇」

 

「ひとみちゃん、いよちゃん、マーカス君達呼んで来てくれる⁇」

 

「わかた‼︎」

 

「れぇえ〜‼︎あっくす〜‼︎」

 

ひとみといよがレイ達を迎えに行った直後、貴子が話し掛けて来た

 

「ウィリアム…その…ごめんなさい。ちょっと言い過ぎたわ…」

 

「悪かったな、勝手に食べて」

 

「ううん。良いの。ひとみちゃんまといよちゃんに聞いたわ。ウィリアムと一緒に食べた〜って」

 

「あいつら…」

 

「さっ‼︎食べましょ‼︎しょこたんも座って‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

久し振りに翔鶴も貴子のご飯を食べる事になった

 

「ただいま‼︎」

 

「ただいま戻りました‼︎」

 

きそとアークも帰って来た

 

分かってはいるだろうが、スパイ二人の正体はKKTがアーク、KSTがきそだ

 

二人は貴子にプリンで雇われ、私の浮気調査では無く、私達の護衛に来てくれていたのだ

 

「パパラッチからメモリパクったよ‼︎」

 

「チョー=楽しかった‼︎」

 

「ごめんなさいね…二人に任せちゃって…危なかったでしょ⁇」

 

「ううん‼︎また雇ってね‼︎」

 

「アークもまたする‼︎」

 

「アーク⁇ちゃんとスパイ出来たかしら⁇」

 

「はっ。このアーク、任務は必ず遂行致します」

 

アークは良い子ちゃんモードに戻り、姫の前で一礼する

 

「アルパカ」

 

「うっ…何故それを…」

 

「ふふっ…私は何でもお見通しですよっ、アーク⁇」

 

姫はそう言って、アークからあのピンバッジを取った

 

アークは如何にも”しまった…”と言いたそうな顔をしている

 

「メモリどうしよっか⁇しょこたん欲しい⁇」

 

「出来ればデータを削除して欲しいです…」

 

「それもそうだね。アーク‼︎」

 

「はっ‼︎」

 

きそはアークにメモリを投げた

 

投げられたメモリはサージスタンガンでショートさせられ、見るも無惨な姿になった

 

「気に入ってるのね⁇」

 

「非殺傷兵器ですから、アークは好きです」

 

「いつかユーバリンとアサシモに御礼を言うのですよ⁇」

 

「はっ。仰せのままに」

 

アークがサージスタンガンを仕舞った所で、レイ達も食堂に来た

 

「デザートメッチャ出来た‼︎」

 

れーべとまっくすの手にも、ボウルに入れられた山盛りのグミが抱えられていた

 

いつか買ったシュネッケン大量製造機は、使い方と材料を変えれば美味しいグミを作る事も可能だ

 

「照月、ご飯もグミも食べたい‼︎」

 

三人の横では、ハムスターの様に頬を膨らませた照月がグミを頬張っている

 

よっぽど美味しいらしい

 

この日の夕食はいつもより長く続き、翔鶴が普段の話やどんな仕事をしているのかを話してくれた…

 

そして、きそとアークにはプリンが一つずつ付いて来ていた…




次回はとあるお話の伏線回収回になるかも⁉︎です


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185話 子が紡いだ恋の行方(1)

さて、184話が終わりました

今回のお話は、恐らくきっと伏線回収になります

やっと書けると言うか、ずっと書きたかったと言うか…

でも、このお話はまだかなぁと思いつつ、ようやく書く事が出来ました

不可解な所も含め、また謎が謎を呼ぶお話になると思います



朝霜がとある物を開発した所からお話が始まります


「で…出来ちまった…」

 

横須賀の工廠で、朝霜が震え上がる

 

「どっ、どうでした⁉︎」

 

「あぁ…」

 

朝霜の目の前の机の上に置いてある艤装を見て、夕張も震え上がる

 

「ま、参ったな…どどどどうしよう‼︎」

 

朝霜は考える

 

お母さんに知らせれば恐らく悪用する

 

姉妹達に知らせるのは危険すぎる

 

となると、必然的に残るのは…

 

 

 

 

 

「さっぶ‼︎」

 

「さみゅい‼︎」

 

「うひ〜っ‼︎」

 

「かぜひくよ⁉︎」

 

朝霜がパニックになっている時、俺は基地の外を見回りに出ていた

 

寒風が吹いた途端、体中にくっ付いているひとみ、いよ、たいほうが更に抱き着く

 

最近メッキリ寒くなった

 

それに、ひとみといよは寒いのが初めてだ

 

流石にお気に入りのワンピースはしばらくお蔵入りになり、今度は紺色の長袖のパーカーを着ている

 

たいほうも色違いの黄色のパーカーを着ており、どれも暖かそうだ

 

「うみ、ばっちゃ〜んなってう」

 

「き〜かさかさ〜ってちてう」

 

「りすもいないね」

 

海は寒風で波を立て

 

裏の林は寒風で葉音を立て

 

いつものリスは行方を眩ませた

 

「かっ、帰ろう‼︎」

 

「ここあのむ‼︎」

 

「あったかいここあ‼︎」

 

「たいほうものむ‼︎」

 

あまりにも強い寒風の所為で、四人は基地に引き返して来た

 

「ちょっと待ってね‼︎あっ‼︎丁度帰って来たわ‼︎」

 

食堂に戻って来ると、貴子さんが無線で誰かと話していた

 

無線の主は、貴子さんの反応を見る限り、どうやら俺に用がある奴らしい

 

「おかえりなさい。マーカス君、娘さんからよ」

 

「ありがとう」

 

貴子さんから無線機を貰い、俺から降りた三人は貴子さんの所に向かって行った

 

「お外寒かった⁇」

 

「さむかた‼︎」

 

「お洋服暖かかった⁇」

 

「ぽかぽかしゅる‼︎」

 

「リスはいた⁇」

 

「りすね、いなかった…」

 

「ふふっ…ウィリアムとスパイトの所に行って来てご覧。その間にココア淹れといてあげる‼︎」

 

「「わかた‼︎」」

 

「いってくる‼︎」

 

ひとみといよは普段から言われている様に、たいほうと手を繋いでから隊長のいる執務室に向かって行った

 

そんな三人を横目に、俺は無線機を持った手を震わせる

 

「本当なのか…⁇」

 

《あぁ。とりあえず、誰にも言わずに来てくれ。万が一失敗して、みんなをガッカリさせたくない》

 

「わ、分かった。すぐ行く‼︎」

 

無線を切り、定位置に置いた後、呼吸を整える

 

「随分焦ってるわね…」

 

貴子さんが心配そうに見つめて来る

 

「朝霜が新しい艤装を造ったらしいんだ」

 

「結構力作なのね⁇」

 

「そんな所。ちょっと出掛けます」

 

「あっ‼︎ちょっと待って‼︎」

 

出入り口で引き止められ、貴子さんが台所から出て来た

 

「寒いからこれ着けて行きなさい⁇」

 

貴子さんに薄手のマフラーを首に巻いて貰う

 

「アークが作ってくれたのよ⁇ビビリが寒くない様に〜って」

 

「アークがか⁉︎」

 

「この前はチンアナゴをありがとうって言ってたわ⁇」

 

「なるほど…行ってきます‼︎」

 

「気を付けてね‼︎」

 

貴子さんに見送られた後、工廠でアニメを見て絶賛サボり中のきその頭を撫でる

 

「うわっ‼︎」

 

「横須賀に飛ぶぞ」

 

「オッケー‼︎行こう‼︎」

 

きそはアニメを切り、グリフォンの中に入った

 

操縦席に座って電子機器のチェックをした後、グリフォンが口を開いた

 

《いいマフラーだね》

 

「アークが作ってくれたらしいんだ」

 

《アークはホントにレイが好きだね‼︎》

 

「好かれる事は良い事だ。行くぞ‼︎」

 

《うんっ‼︎》

 

グリフォンが基地から飛び立つ…

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜っ‼︎ドキドキしてきた‼︎」

 

「マーカスさん、どんな反応するだろ‼︎」

 

朝霜と夕張はその辺をウロウロしながら俺が来るのを今か今かと待っていた

 

「何が出来たんだ⁇」

 

「お、お父さん‼︎」

 

「き、きたきた‼︎」

 

俺ときそが来ても焦っている

 

「こ、これなんだ‼︎」

 

朝霜と夕張の前には、何処かで見た事があるバットが置かれている

 

「これ何⁇」

 

きそは机から頭を出し、バットを見つめる

 

今気付いた

 

きそは朝霜より頭一つ分身長が小さい

 

身体だけで言うと、朝霜の方が姉に見える

 

「きそ姉、お父さん。これはその…」

 

それでも朝霜はきそを姉と慕う

 

我ながら、良い娘を持ったな…

 

話がズレたが、俺はこのバットの正体を何となく知っていた

 

「話すより試した方が早いかもな。お父さん‼︎行きたい”時代”はあるか⁇」

 

やはりそうだ

 

なら、一つ試したい事がある

 

「第二次世界大戦中に行ってみたいな」

 

「ダメだ」

 

やはり断わられた

 

俺を第二次世界大戦中に連れて行くのはどうしてもダメらしい

 

「ならそうだな…じゃあ、終戦からしばらくしてからでもいい」

 

「あぁった。ケツ出してくんな‼︎」

 

朝霜はそれを承諾し、バットに付いているダイヤルを合わせた

 

「んっ‼︎」

 

俺は言われた通りにケツを突き出した

 

「きそ姉はどうする⁇」

 

「ぼ、僕はいいや…ご、ごめんね朝霜‼︎」

 

何かを感じたのか、きそはケツバットを断った

 

「いいさ。まだ試験段階みたいなモンだかんな。アタイが行って確かめて来るってのが筋ってもんさ‼︎んじゃ行くぜ‼︎」

 

「あだっ‼︎」

 

朝霜の渾身のフルスイングがケツに当たる…

 

 

 

 

 

 

「いででで…」

 

しばらく意識を失った後、ケツから地面に落ちた

 

「よっこら‼︎」

 

数秒遅れて来た朝霜は普通に立ったまま転送が終わる

 

「それタイムマシーンか⁉︎」

 

「ん⁉︎あぁ、まぁな‼︎夕張が光より速い弾を撃ち出す艤装を造ってたら、アタイはアタイでコレの構想が産まれたんだ‼︎まさか上手く行くとはな…」

 

最初に不思議そうな顔をしたのと、最後の一言が気になるが、これでようやく分かった

 

時代は上手く動いている

 

それも筋書き通りに

 

「んで⁇お父さんは何したいんだ⁇」

 

「逢いたい人がいるんだ」

 

朝霜と一通り会話を終えた後、周りを見渡す

 

世界大戦が終わり、日本経済を立て直す為に人が慌ただしく動いている

 

ファッションも随分と現代に近付き、今でこそ洋服と呼ばれる物を着ている人物もチラホラいる

 

だが、その中に混じって和服の人もいる

 

「朝霜」

 

「ギザギザ丸だ」

 

「ギザギザ丸だぁ⁉︎」

 

「アタイとお父さんは、この時代にはタブーの存在だ。だから名前を変える」

 

「じゃあリヒターにする」

 

「オーケェー」

 

「行きたいのはイタリアの大使館だ。場所は…」

 

癖でタブレットを取り出す

 

そしてすぐ気付く

 

勿論電波が無い

 

そして付近を歩いていた人から好奇の目で見られる

 

「あれはなんだ…」

 

「アメリカの最新機器か…」

 

「ははは早くしまえ‼︎あ、あはは…」

 

ギザギザ丸は体でタブレットを隠し、周りに愛想笑いを送る

 

「イタリア大使館はどっちだ⁇アタイ達、ここ来んの初めてなんだ‼︎」

 

ギザギザ丸はその場にいた人にイタリア大使館の場所を聞いてくれた

 

「あかった。ありがとな‼︎行くぞリヒター‼︎」

 

ギザギザ丸に背中を押され、その場から離れる

 

「ンなモン出すな‼︎」

 

「すまんすまん‼︎」

 

「も〜。頼むぜ⁇あっちだ」

 

軽くキレているギザギザ丸にタブレットを没収され、後ろを着いて行く

 

あの日と同じ、鷲の刺繍と”スカ”と縫われたスカジャンを着ている

 

「気に入ってるのか、スカジャン⁇」

 

「ん⁇着やすいかんな。お父さんの革ジャンみたいなモンさ」

 

そういう所まで親に似るんだな…

 

「ここだ」

 

「変わってないな…」

 

ずっと昔に一度来たっきり

 

だが、外見はなんら変わっていなかった

 

「んだよ、一回来たみたいな言い方して。てか、どうやって入んだよ」

 

「大使館に用は無い。用があるのは…こっちだ」

 

大使館近くに建てられている、大きな屋敷

 

俺はそこに用があった

 

「たんたんたぬき、こんこんきつね」

 

屋敷の前で女の子がボールをついて遊んでいる

 

クルクルドリルの髪型で、たいほう位の年齢の女の子は、鼻水を垂らしながら楽しそうに遊んでいる

 

何となく、彼女が鍵の様な気がする…



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185話 子が紡いだ恋の行方(2)

「お嬢ちゃん」

 

「ひっ…外国人…」

 

女の子の前に屈むと、ボールを持ったまま怯え始めた

 

「お嬢ちゃんのお名前は⁇」

 

「は…春風…」

 

「そっか。神風って人を探してるんだけど…知らないか⁇」

 

「お母様に何するの⁇」

 

やはり神風の子か

 

どうりで似ていると思った

 

「やっぱりな…俺はリヒター。お母さんの知り合いなんだ」

 

「ホント⁇酷い事しない⁇」

 

「約束する。絶対」

 

「こっち」

 

「ギザギザ丸、行くぞ」

 

「あ、あぁ…」

 

春風と手を繋ぎ、屋敷の中に入る

 

「”早霜さん”‼︎お客様連れて来たよ‼︎」

 

春風が玄関から叫ぶと、数秒後に返事が来た

 

「はい。ただいま…」

 

手を拭きながら現れたのは、髪の長い女中

 

女性と言うより、少女の方が正しいかも知れない

 

「あら…珍しい。外国人のお客様ね⁇」

 

「お母様に用事があるんだって」

 

「なるほど…私が案内しましょう。春風様、台所にオヤツがありますので、お召し上がり下さい」

 

「ありがと‼︎」

 

「此方へ…」

 

早霜に案内され、ギザギザ丸と共に屋敷の奥へ向かう

 

「マーカス様は神風様とはどう言うご関係で⁇」

 

「昔の知り合いなんだ。アランはどうした⁇」

 

「アラン様ともお知り合いでしたか…アラン様はしばらくアメリカに渡られました」

 

「そっか…」

 

「その間、私が神風様と春風様の身の回りのお世話をしています」

 

早霜は背中で語る

 

見た限り、外見も性格も結構暗い感じがする

 

ギザギザ丸は何かを感じたのか、さっきから俺の腕にずっとくっ付いている

 

早霜が急に足を止め、襖を開けて中に入った

 

「少々お待ちを…」

 

中で話している声が何度か聞こえた後、早霜が戻って来た

 

「お通り下さい」

 

「ありがとう」

 

襖の奥にギザギザ丸と共に入る

 

「神風っ」

 

「リヒターさん…‼︎」

 

神風は床に伏せていた

 

布団の横に座ると、神風は俺の手を握って来た

 

「逢いたかった…」

 

「俺もさっ…」

 

神風の手を握り返す

 

随分と歳を取り、随分と弱ってしまっているが、当時の面影は何処と無く残っていた

 

「リヒターさんも、ギザギザさんも、変わらないのね…⁇」

 

「まぁなっ…」

 

「アタイを知ってるのか⁇」

 

「えぇ。勿論。火事の時は、助けて頂いてありがとうございました」

 

「ギザギザ丸。神風には本当の事話していいか⁇」

 

「…一つ約束してくれ」

 

「何でしょう⁇」

 

「アタイ達の事は誰にも内緒にしてくれ。それなら、話してもいい」

 

「勿論内緒にしますよ」

 

神風の目は自然と上目遣いになり、俺の手に指を絡ませる

 

この癖…未来の子孫も同じ癖だ

 

私を信じて…

 

未来の子孫も同じ事をしていたな…

 

「ビックリするかも知れんが、俺達は未来から来たんだ。俺はリヒターって名前じゃなくて、マーカス・スティングレイって言うんだ」

 

「やっぱり…」

 

神風は弱々しく微笑む

 

「私の子孫は、ちゃんといますか⁇」

 

「あぁ。未来で俺が嫁に貰った」

 

「わぁっ‼︎嬉しい‼︎」

 

神風はこの日、最初で最後のとびきりの笑顔を見せてくれた

 

「私の子孫も、マーカスさんの事が好きなのね…良かったぁ…」

 

「神風と一緒で、一昔前は赤い髪の毛でな。まっ、性格は似てないが、容姿は何処と無く似てる」

 

「お父さん。ホラッ」

 

「サンキュー」

 

朝霜にタブレットを返して貰い、神風に横須賀の写真を見せる

 

「見えるか⁇」

 

「えぇ。この子が⁇」

 

「そっ。ジェミニって言うんだ」

 

「ジェミニ…良い名前ね⁇ギザギザさんはもしかして…」

 

「マーカスとジェミニの間に産まれた子供さっ。朝霜って言うんだ‼︎」

 

「ふふっ…マーカスさんにそっくり。よいしょ…」

 

「無理するな」

 

神風が起き上がろうとしたので、それを支える

 

「朝霜ちゃん。ちょっとだけ、抱っこさせて⁇」

 

「ん⁇アタイ⁇いいよっ‼︎」

 

朝霜は嫌がる素振り一つ見せずに神風の前に座った

 

神風は朝霜を抱き締め、背中をポンポンと叩き、頭を撫で始めた

 

「あっ…」

 

「ありがとう…私に逢いに来てくれて…」

 

朝霜の体から一気に力が抜ける

 

自分の母親のやり方と丸っきり同じなのだ

 

朝霜はホッとしたに違いない

 

朝霜も軽く神風を抱き返した後、今度は俺の方に手を伸ばして来た

 

俺も嫁の先祖に甘える事にした

 

「私の子孫をお願いしますね⁇」

 

「んっ…」

 

まるで横須賀やサラに抱き締められた様な感覚に陥る

 

先祖代々、包容力の高さは変わっていないみたいだな…

 

「コホッ…」

 

俺を離した後、神風は咳き込んだ

 

無理をさせたみたいだ

 

「マーカスさん、朝霜ちゃん。ありがとう。安心したわ」

 

「無理させたな⁇」

 

「いえ…マーカスさん。最後にワガママを言っても良いですか⁇」

 

「なんだ⁇」

 

「頭を撫でて貰えませんか⁇」

 

「んっ。分かった…」

 

あの日の別れ際と同じ様に、神風の額の髪を分け、顔を見た後頭を撫でる

 

「ふふっ…不思議な感覚ですね…遠く離れた未来から来た子孫の旦那に頭を下げ撫でて貰うのって。」

 

「長生きするんだぞ⁇」

 

「うんっ…」

 

神風は最後に弱々しく笑顔を見せた後、俺の手を離した

 

俺が襖から出る寸前まで、神風は布団の中から手を振っていた…

 

 

 

 

神風のいた部屋から出て、先程の道を引き返す

 

「横須賀とソックリだったな⁇」

 

「あぁ‼︎抱き方までソックリだった‼︎あ〜…でさぁ、何でアタイの事知ってたんだ⁇」

 

「話せば長くなるけど、俺とお前は小さい頃の神風に逢った事がある」

 

「自分から聞いといて何だけど、メンドッチイ話はパスだ。要はアタイが未来から来て、お父さんとその時代に行ったんだろ⁇」

 

「そんな所さっ」

 

「実はアタイも、実験がてら過去に行って来たんだ。設計図とか持ってな。いやぁ〜、全然基地変わってないな‼︎」

 

あの時の話だ

 

やはり未来はしっかりと動いている

 

ここで一つ気になった

 

あの日は未来では”いない”と言っていた子の事だ

 

「たいほうはいたか⁇」

 

「ん⁇あぁ、いたよ。ひとみといよとかはいなかったな…考えると、あの二人がいないと案外寂しいモンだなぁ⁇」

 

「ふっ…横須賀みたいな事言うな⁇」

 

「まぁな‼︎」

 

朝霜は照れ臭さそうに鼻の下を掻いた

 

「おかえりなさいませ…玄関までご案内します」

 

「ありがとう」

 

途中まで早霜が迎えに来てくれていた

 

「楽しかったぜ‼︎あぁ、そうだ‼︎思い出した‼︎聞きたい事あんだけどさぁ」

 

「分かる範囲であれば何なりと…」

 

朝霜は笑いながら早霜に言った

 

「何でお父さんの名前知ってんだ」



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185話 愛しの貴方と二人きり

題名は変わりますが、前回の続きです


早霜は歩く足を止め、ゆっくりと此方に振り返る

 

「さぁ…空耳ではないでしょうか…」

 

「いんや。アタイは聞いたぜ。それに、アタイ達はアンタに自己紹介をしてない。なのにお父さんをマーカス様と呼んだ」

 

朝霜の顔から笑顔が消える

 

怒ってはいないが、本気になっている顔だ

 

「勘の鋭いお方…」

 

「さっさと答えたらどうだ。アタイは気が短いぜ⁇」

 

「ヒステリックなのね…相変わらずで安心しました」

 

どうやら早霜は俺達を知っている様子

 

先程からずっと、長い髪に隠れた瞳で交互に俺達を見つめている

 

「いいでしょう…話してあげます。早霜は、未来から来た観察者…未来が歪まない様に、二人を見守ってるの…」

 

「未来って…」

 

「アタイ達も未来から来たんだぞ⁇」

 

「それよりももう少し先の未来…早霜はこうやって、二人の行く先々で待ってるの…」

 

「アタイ達を取って食うつもりなら大間違いだぜ⁉︎」

 

「そんな野蛮な事…早霜はしません。早霜は、二人が好きだから…こうして先回りして待ってるの」

 

「…悪い奴じゃなさそうだな⁇」

 

「誰に頼まれて来たんだ⁇」

 

「それは内緒…早霜、クライアントとの約束は守るの…」

 

そう言うと早霜は背中から、朝霜と同じバットを取り出した

 

「早霜がお話出来るのはここまで…」

 

早霜が床にバットの先端を当てると、早霜の体が薄くなり、後ろが透けて見えた

 

「ふふっ…」

 

いざ体が消える瞬間に、早霜は俺に近付き、耳元で囁いた

 

「さようなら”お父様”…また逢いましょう⁇」

 

「早霜‼︎」

 

そう言った時には、既に早霜は消えていた

 

「ったく…変な奴だったなぁ‼︎」

 

「早霜…」

 

「お父さん⁇」

 

「なっ、何でもない‼︎帰ろう‼︎」

 

「だな‼︎」

 

朝霜もバットを取り出し、またケツバットを食らう…

 

 

 

 

 

「いでっ‼︎」

 

「よっと‼︎」

 

俺は尻餅、朝霜は普通に立ったまま、現代に戻って来た

 

「帰って来た‼︎」

 

「どっ、どうでしたか⁉︎」

 

「中々良かったぞ⁉︎なっ⁇」

 

「あぁ‼︎これで成功した確証が得られた‼︎」

 

そう言う二人だが、不安が残っていた

 

神風の体調もそうだが、気掛かりなのは早霜の事…

 

朝霜はそれより自分の造った物がキチンと作動した事の方が嬉しいみたいだ…

 

 

 

 

朝霜と夕張はもう少しだけ調整すると言い、俺達は基地に帰って来た

 

きそは先にご飯を食べに向かい、俺は一人工廠の椅子にもたれながら考える

 

もし早霜が俺達を傍観しているのなら、初めてタイムスリップした時にも居たのだろうか…

 

考えろ…

 

何処かに居たはずだ…

 

俺達を見ても好奇の目で見たりせず、俺達の話す現代の言葉を理解したりしていた奴が…

 

あの時、何処に行った…

 

神風やアランと話す以外に、誰かと話したハズだ…

 

「いた…」

 

ふと思い出した

 

一人だけ話した奴がいた

 

「ウェイトレスだ‼︎」

 

つい独り言が出てしまう

 

今思い返せば、確かに似ている

 

「ふふっ…ご名答です」

 

「はっ‼︎」

 

全く気配を感じさせぬまま、早霜が背後に立っていた

 

「流石はお父様…姉様達と一緒で勘の鋭いお方です」

 

「少しだけ話したい事がある。いいか⁇」

 

「えぇ…早霜に聞きたい事があれば、早霜はお父様の為に何だってお答えします。ですが…ここはマズイので…場所を変えましょうか…」

 

そう言って早霜は俺を立たせ、俺にくっ付いた後、床をバットの先端で突いた

 

 

 

 

「ここは⁇」

 

気が付くと、見覚えのある街に立っていた

 

「お父様が造った世界…早霜や、お母様達が暮らす街よ…」

 

立っている場所は居住区の様だ

 

「ふふっ…行きましょう⁇お父様の好きな場所で、二人っきりでお話しましょう⁇」

 

「んっ」

 

早霜に手を引かれ、ある場所に連れて行かれる…

 

「ここなら二人っきり…誰もいないわ⁇」

 

連れて来られた場所は、いつの日かビスマルクと話した神社のベンチ

 

早霜は自販機でコーヒーを買い、俺と一緒に飲みながら話を始めた

 

「それで…お父様が聞きたい事とは⁇」

 

「過去の世界で、ウェイトレスに化けて俺達を見てたな⁇」

 

「えぇ…お母様に言われて仕方なく…」

 

早霜の口からようやくクライアントが誰か発覚する

 

「そうだとは思うが、一応聞くぞ⁇」

 

「えぇ。お母様は間違いなくジェミニです…そこは御心配なく…」

 

「だ、だろうな…」

 

髪の奥で光る瞳

 

そして顔立ちは横須賀に似ている

 

「お父さんも勿論…」

 

「ふふっ…お父様は昔から疑い深いお方ね…勿論、早霜はお父様とお母様の子です」

 

ここに来て、ようやく早霜の笑顔を見た

 

あぁ、コイツは横須賀の子だなと良く分かる

 

笑った時に目を閉じるのは横須賀の癖だ

 

「ここは未来なのか⁇」

 

「えぇ。先程も申した様に、お父様が造った街…そして、おじ様や歴戦の強者のお方が羽を休める場所…お父様やおじ様達が今いる場所が楽園と呼ばれているなら、ここはユートピアと呼ばれてる…」

 

「ここを造ったのは隊長じゃないのか⁇」

 

「えぇ。確かにおじ様です。でも、盛り上げたのはお父様よ⁇」

 

「そっか…未来の俺は立派な奴なのか…流石だな‼︎」

 

「ふふっ…それでこそお父様です」

 

幾度目か早霜が笑顔を見せた時、早霜は街を見渡しながら言った

 

「じき、私が産まれます…」

 

「お前の姉の時もそうして逢いに来てくれたよ」

 

「忘れないで下さい…早霜はお父様を親愛しています…」

 

「分かってるっ‼︎」

 

「あっ…」

 

力強く、早霜の頭を撫でる

 

そしてまた、早霜はとびきりの笑顔を見せてくれる

 

一番最初に出逢った時の暗い印象を吹き飛ばすかのように明るい笑顔を見せてくれた

 

「そうだ。お父様、ちょっとお家に寄って行きませんか⁇渡したい物があるの…」

 

「面倒な事にならんか⁇ほら、タイムパラドック何とかに」

 

「ふふっ…それを言うならタイムパラドックス…心配しないで。その部分は早霜が消しておくから」

 

「…分かったよっ‼︎”娘”を信じる‼︎」

 

「行きましょう」

 

早霜を腕に付け、長い長い階段を降りる

 

ここも変わってないのな…

 

それに早霜のくっ付き方、まるで横須賀をくっ付けてるみたいだ

 

居住区に向かう道、数人の艦娘とすれ違った

 

瑞鳳、ビスマルク、鈴谷、熊野…

 

皆、昔と変わらない対応をしてくれた

 

そして、くっ付いている早霜を見ても、まるでいつもの光景かの様にスルーして行く

 

「さぁ、入りましょう…」

 

昔と変わらないままの、自分の家に着く

 

早霜が玄関を開けると、何故か一歩引き下がった

 

「ふふっ…来るわ…」

 

早霜の行動を不思議に思った途端、ドタバタと足音が聞こえた

 

聞き覚えのある、二つの足音…

 

「おとさ〜んっ‼︎」

 

「おとさんおかえり〜っ‼︎」

 

「ゔっゔっ‼︎」

 

二人に猛突進を受けるが、何とか受け止める

 

走って来たのはひとみといよ

 

ちょっとデカくなっている為、もう両肩には乗せられないが、それでも当時と変わらずベッタリとくっ付いて来る

 

「おとさん、おかさんまたさぼってた‼︎」

 

「ねんねしてポテチたべてた‼︎」

 

「にゃろう…」

 

未来になってもアイツのサボり癖は治ってないのか‼︎

 

「ひとみ姉さん、いよ姉さん。早霜、もう少しだけお父様に用事があるの。後で早霜と一緒にご飯を作りましょう⁇」

 

「もうたべた‼︎」

 

「おかさんとメガネのスパゲッティたべた‼︎」

 

「そう…」

 

早霜は自分より小さな姉二人を見て、何故か嬉しそうにしている

 

ひとみといよが離れ、俺は早霜の部屋がある二階に案内された

 

「早霜は末っ子…だからあの二人が早霜を姉の様に慕ってくれるのが嬉しくて…」

 

「なるほどな」

 

ひとみといよは昔よりかは饒舌に話せているが、やはり身長はまだまだ小さい

 

あのカプセルの中に長期間いた影響がここまで出てるのか…

 

「早霜のお部屋はここ…」

 

早霜の部屋に入ると、早霜は紙をまとめた束を持って来た

 

「これは…早霜が考えた設計図…お父様なら、造ってくれるハズ」

 

「今見てもいいか⁇」

 

「帰ってからのお楽しみ…」

 

「分かった。ありがたく頂戴するよっ」

 

「さぁ…帰りましょう」

 

「ちょっと待ってくれ…」

 

ここまで来ると、どうしてももう一人だけ逢いたくなった

 

早霜と一階に降り、台所に向かう

 

「…」

 

皿洗いをしている、随分家庭的になった、見慣れた背中がそこにはあった

 

俺はゆっくりと近付き、背中からそっと彼女を抱き締める

 

「何よ…甘えんぼさんね⁇」

 

「過去で待ってるからな…」

 

「えっ…」

 

貴子さんの様な、母親の背中になった横須賀が振り返った時には、既に俺も早霜もいなかった…

 

 

 

 

 

 

「お父様…」

 

「んっ…」

 

現代の基地に戻って来た

 

「これで…お別れですね…そうだ。産まれて来た早霜に、これを渡してくれますか⁇」

 

早霜は自身の髪を括っていたリボンを解き、俺の手に落とした

 

「早霜」

 

「はい…」

 

俺は早霜に最後の質問をした

 

「俺の子に産まれて来て幸せか⁉︎」

 

早霜は俺の言葉を聞きながら、バットを床に打つ

 

消えて行く体で、早霜は初めて感情を露わにした

 

「当たり前じゃない‼︎幸せに決まってるわ‼︎」

 

最後に横須賀ソックリな言葉を残し、早霜は未来に戻って行った…

 

「アイツは横須賀似だな、うん」

 

食堂に戻ろうとした時、ふと気付く…

 

 

 

 

俺は今、誰に逢っていた⁇

 

誰に逢ったかは思い出せないが、とても幸せな時間を過ごした気がする…

 

それに、この設計図…

 

誰かは思い出せないが、とても好きな人から貰った気がする…

 

「おいビビリ‼︎飯だぞ飯‼︎」

 

「あ…あぁ‼︎分かった‼︎」

 

机の上に設計図を置き、アークの呼ぶ食堂へと走って行った…

 

 

 

 

 

 

「ちゃんと記憶は消した⁇」

 

「えぇ…お母様」

 

「なら心配無いわね。ありがと、早霜っ‼︎」




早霜…長髪根暗ちゃん

未来から来たレイと横須賀の間に産まれた末っ子

言葉の最初に”えぇ”と言ったり”ふふっ”と笑う事が多い

未来の横須賀に頼まれて過去の世界を行き来するレイと朝霜が未来を変えない様に監視を続けていた

最初は百貨店内にある食堂のウェイトレスとして

そして今回は神風の屋敷の女中として、常に先回りして待機していた

未来ではひとみといよに続く甘えん坊さんで、居住区にいる艦娘の子達が二人を見ても何も言わないレベルでレイにベッタリしており、常に胸を押し当てている

末っ子の為に頼られる事が少ないが、成長が遅いひとみといよが姉の様に慕ってくれるので、彼女自身も二人に良く懐いている

何度も言うが、ひとみといよの方が姉である

パッと見は根暗に見えるが、本当は明るく良く笑う子

愛情表現がちょっと強めなのがネック

横須賀譲りのプロポーション、そして諦めない強さはレイから受け継いでいる



もう少しすると、現代の早霜も出て来ます

その時、何故早霜がここまでファザコンになるのかも明らかになります


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185.5話 あの日の約束(1)

185話が終わりましたが、その番外編になります

自分を含め、二人実験に成功した朝霜

しかし、朝霜はもう一度だけ確証が得たい

その為に、過去にちょっとした未練がある二人が過去に飛ばされます


マー君の忘れ物

 

「あ〜しゃん、あにしてんの⁇」

 

「ひとみといよちゃんは、よこしゅかしゃんとおさんぽしてうの」

 

この日、ひとみといよは横須賀に預けられ、レイは航空演習に向かっている

 

そんな二人が横須賀と共に見回りに来たのが工廠前

 

たまたま朝霜が出て来ており、二人は横須賀と手を繋いだまま、朝霜に話し掛けていた

 

「おぉ‼︎来てたんか‼︎」

 

朝霜はちゃんと膝を曲げ、二人に目線を合わせる

 

「あ〜しゃんおしごろ⁇」

 

「えいしゃんといっしょ⁇」

 

「んな所だな‼︎アタイも早くお父さんの手助け出来る様になんないと、きそ姉に顔向け出来ないかんな‼︎」

 

「朝霜、晩御飯はみんなで食べまるわよ⁇」

 

「あかった‼︎んじゃ、もうチョイ作業してくんよ‼︎」

 

「がんばえ〜‼︎」

 

「あ〜しゃんつおいお〜‼︎」

 

「ふふっ…」

 

朝霜を見送る二人を見て、横須賀の顔が綻ぶ

 

横須賀はその後二人を連れて繁華街へと向かった…

 

 

 

 

 

「あ〜ぁ、誰かも一人位試せないモンかねぇ…」

 

朝霜は工廠で少しダラけていた

 

自分と父親で装置の確証は得られたが、もう一人位は試してデータを得たい

 

一番のベストは、過去でやり残した事がある人

 

だが、日本人はシャイなのか、やり残した事があったとしても言ってくれない

 

夕張だってそう

 

明らかにやり残した事があるのに、絶対に言ってくれない

 

多分、夕張の事を知っているのは、大湊にいるボスと、お父さん位だろう

 

「おっ」

 

そんな時、表にサラとマークを見掛ける

 

あの二人ならもしかすると…

 

「おじいちゃん‼︎おばあちゃん‼︎」

 

「あらアサシモ‼︎」

 

「どうした⁇新しい艤装でも出来たか⁇」

 

「おじいちゃんとおばあちゃんは、やり残した事ってあっか⁇」

 

「やり残した事ねぇ…いっぱいあり過ぎるわね…マー君は⁇」

 

「あるっちゃあるけどな…ははは」

 

サラは多過ぎて諦めてるみたいだが、マークは様子が違う

 

「言ってくれよ」

 

「サラ、ちょっと待っててくれ」

 

「えぇ」

 

マークは朝霜を連れ、一旦工廠の中に入った

 

「あ、あんだよ…」

 

「サラの前で言い難い…実は…」

 

マークは朝霜にやり残した事を話してくれた

 

「んだよ、おじいちゃんはシャイだなぁ‼︎」

 

「サラは忘れてるみたいだが、もしやり直せるなら、そこをやり直したいな…」

 

「あぁった。アタイが一肌脱いでやんよ‼︎」

 

「あっ、あっははは‼︎朝霜がか⁉︎」

 

マークは朝霜を笑う

 

まさか自分のやり残した事を解決してくれるとは思っていないのだろう

 

「笑いやがったな⁉︎見てろよ‼︎おじいちゃんのやり残した事をやり直すにゃ、車が必要だな‼︎それもジープみたいな天井が無い奴じゃなくて、普通車だな‼︎」

 

「ふふっ…そうだ」

 

「ちょっとそこで待ってな‼︎」

 

朝霜は工廠から走って行った

 

「アサシモ行っちゃったわ⁇」

 

朝霜が工廠から出たのと入れ違いで、サラが入り口付近にもたれかかり、マークに話し掛けた

 

「ちょっと待ってやろう。孫の世話も大切だっ」

 

「ふふっ、そうねっ‼︎」

 

 

 

 

「え〜と…あったあった‼︎」

 

横須賀の一角に停めてある、隊長の車

 

今のマークに一番必要なアイテムだ

 

朝霜は覚えていた

 

横須賀に車のキーを預け、時々動かして欲しいと頼んでいた隊長の事を

 

「え〜と…鍵挿して…よっしゃ‼︎」

 

エンジンが掛かり、朝霜はそれを運転し、マークのいる場所に戻る

 

勿論朝霜は免許なんて持っていない

 

だが、ここは一応”自宅の敷地内”である為、乗ったらいけないと言う訳ではない

 

それに朝霜はいつもここで働く人のジープの運転等を見ている

 

多少の運転の仕方は頭に入っていた

 

「持って来たぞ‼︎」

 

「マー君、アサシモ本気よ⁇」

 

「何言ってんだ‼︎アタイはいつだって本気さ‼︎おじいちゃん、その日がいつか覚えてっか⁇」

 

「30年前のサラの誕生日だ」

 

「あぁった」

 

朝霜は車から降り、背中からバットを出し、言われた年月日にダイヤルを合わせる

 

「おっしゃ出来た‼︎おじいちゃんおばあちゃん‼︎車に乗んな‼︎」

 

「マー君っ‼︎」

 

「あ、あぁ」

 

サラに背中を押され、マークが運転席に座り、サラが助手席に座る

 

「乗ったか⁉︎」

 

「乗ったわ‼︎」

 

「乗ったぞ‼︎」

 

「んじゃっ‼︎帰りは迎えに行ってやん…よっ‼︎」

 

朝霜は車の後部バンパーにフルスイングのバットを当てた…

 

 

 

 

 

「うおっ⁉︎あ、アサシモ‼︎何するんだ‼︎」

 

アサシモを叱ろうとしたマークが後ろを振り返るが、そこにアサシモはいない

 

「…あら⁇マー君‼︎マー君見て‼︎」

 

「ん⁇」

 

二人の目の前には、一昔前の光景が広がっていた

 

何処か懐かしいネオン付きの看板…

 

当時は前衛的だった、俗に言うワンレンボディコンの服の女性…

 

忙しく動き回るサラリーマン…

 

全ての景気が最高潮だった時代だ

 

それに、今乗っているこの車

 

ウィリアムが昔から乗っている車だが、今では博物館モノだが、この時代では最新車

 

偶然にも、この車は行き着いた時代にフィットした

 

そして気付く

 

自分達の乗った車が、赤信号の先頭で待っているのを

 

「マー君青よ‼︎」

 

「あ、あぁ‼︎」

 

白い車が走り出す

 

その姿は水を得た魚の様で、ご機嫌にエンジンを吹いてくれた

 

「マー君‼︎ダイエィがあるわ‼︎」

 

「懐かしいな」

 

サラは助手席から、今では数が少なくなったオレンジ色の看板の大手スーパーを指差す

 

「ホントに戻って来たのね…」

 

「現実なのか…これは…」

 

「現実じゃなかったら、こんな古いラジオ流れてないわ⁇」

 

車内にはラジオが流れており、今では古いと言われる曲が、当時のヒット曲として流れている

 

《デート中のカップルに”ドライブインシアター”お知らせだぁ‼︎》

 

「マー君見て‼︎」

 

「しっ…」

 

マークはサラの口を閉ざす為に、ハンドルを握っていた片方の手を離し、サラの口元に置いた

 

《本日のドライブインシアターは…》

 

マークは各所のドライブインシアターが放映される場所を聞き、進行方向を変えた

 

「もういい⁇」

 

「あぁ。行き場所決まったからな」

 

「そっ⁇ね〜見てマー君‼︎ツーテン・カークよ‼︎懐かしいわぁ…」

 

「登りたいか⁇」

 

「ん〜んっ。マー君、予定あるみたいだし、サラ我慢しますっ‼︎」

 

とは言うサラだが、ツーテン・カークをずっと見つめている

 

内心登りたいみたいだ

 

「用事が済んだら時間がある。後で登ろう」

 

「やったっ‼︎」

 

サラと約束をした所で、車は目的地に着いた

 

着いた場所は、だだっ広いテント

 

入り口では人がおり、皆そこでお金を払っている

 

「いらっしゃいませ」

 

「んっ」

 

マークも代金を払い、テントの中に入る

 

「何かあるの⁇」

 

「まぁ見てろ」

 

キョトンとするサラを横目に、マークはラジオの周波数、そして音量を弄る

 

「よ〜し、これでいいだろ‼︎」

 

「真っ暗よ⁇」

 

「サラっ、前向いて」

 

「前⁇」

 

サラが前を向いた瞬間、暗闇では存在が分からなかったスクリーンに映画が映し出された

 

「わぁっ…」

 

その映画は、サラがずっと見たがっていた映画

 

マークはこの日、サラを誘ってここに連れて来ようとしていた

 

だが、仕事が長引いてしまい連れて来る事が出来ず、オマケにサラと喧嘩をしてしまった

 

マークはその事をずっと後悔していたのだ

 

「30年越しで悪いな」

 

「…ううん」

 

サラは涙を拭いた後、少しだけシートを倒し、映画に没頭し始めた

 

サラの横で、一仕事おマークもシートを倒す

 

だが、マークはほとんど映画を見ていない

 

マークは今しばらく、幸せそうなサラの横顔を見つめていた…

 



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185.5話 あの日の約束(2)

体調崩してましたが、またちょくちょく書きますぞい


映画が終わり、サラは途中で売りに来たポップコーンとコーラを飲みながらワンワン泣いていた

 

マークはサラが泣き止むのを今しばらく待ちながら、コーラを喉に入れる

 

「…スン」

 

「ちょっとは落ち着いたか⁇」

 

「うん…」

 

マークはもう一つの約束を果たす為に、再び車を走らせる

 

30年越しの、約束を果たす為に…

 

「マー君、動物園だわ‼︎」

 

車を路駐させ、サラと腕を組んで歩いていると、サラは動物園に興味を示した

 

「行きたいのか⁇」

 

「ウィリアムとタカコの思い出の場所なんですって」

 

「ウィリアムの⁇」

 

「そっ。なんでも、若い時に何度か来た事があるんですって‼︎」

 

「なるほどな…」

 

ウィリアムもここ、オーサカに思い入れがあるみたいだな

 

そう言えば、マーカスは昔この辺りに住んでいたらしい

 

ウィリアムは休日のマーカスと遊ぶついでに、タカコとデートしていたのだろう

 

ウィリアムとマーカスは兄弟みたいな仲だからな…

 

「ツーテン・カーク‼︎」

 

「登りたかったんだろ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

マークはツーテン・カークでやりたい事があった

 

だから、あの日もサラを誘った…

 

「うわぁ…」

 

ツーテン・カークの展望台に着くと、一面にネオンが広がっている

 

サラは窓に手を置いて、愛おしそうに夜景を眺め始めた

 

「マー君。ありがと…」

 

「30年前、この景色を見せたかったんだ。それが今叶った…」

 

サラはマークの腕に、そっと頭を置く

 

「マー君…パチンコの看板があるわ…」

 

「そ、そうだな…」

 

こういう雰囲気ブチ壊しの所を見ると、やはりジェミニは娘なんだなと思う

 

マーカスには申し訳ないな…

 

「アニマル達はいるかしら⁇」

 

サラはツーテン・カークの上から、眼下にあるテンノー・ジ・ドーブツエンを見下ろす

 

「サラ」

 

「なぁに⁇」

 

「結婚しないか⁇」

 

そう言って、マークはポケットから指環が入った小さな箱を出す

 

実はマークとサラ、ちゃんとした婚姻をしていなかった

 

30年前、本当はここでプロポーズをしようとしていた

 

それがズルズル引っ張り、結果、今日に至ってしまった

 

「ふふっ…マー君今幾つ⁇」

 

「40から先は覚えてない」

 

サラがクスクスと笑う

 

艦隊化計画の副産物であの日と変わらない、若い笑顔を見せるサラを見て、マークは当時の事を思い出していた…

 

「ふふっ‼︎分かったわ‼︎オジンなマー君はサラがお婿に貰ってあげるっ‼︎」

 

「ありがとう」

 

サラの細い薬指に指環を嵌め、夜景をバックにキスを交わす

 

その場にいたノリの良い関西の人は、マーク達を見てヒソヒソと話す事などせず、軽く拍手を送った後、二人が唇を離した後すぐに各々の会話に戻って行った

 

「結婚するまでに孫まで出来ちゃったね⁇」

 

「色々あったからな…」

 

「へぇ〜。結婚まだだったんか…意外だなぁ‼︎」

 

「アサシモ‼︎」

 

「迎えに来たぜ‼︎」

 

アサシモと共にエレベーターに乗り、下へと降りる

 

「車はもう送ってあるかんな⁇」

 

「ありがとう。ようやく胸のつっかえがとれたよ」

 

「凄く楽しかったわ‼︎」

 

腕を組んでいる、目の前の幸せそうなアベックを見て、アサシモは自身の父親と母親を写す

 

「良いってこった‼︎んじゃ、帰るぜ‼︎」

 

アサシモはエレベーターの床をバットの先端で突いた

 

「お疲れ様でした。お帰りの際はお土産コーナーに…あれっ⁉︎」

 

エレベーターガールが気付いた頃には三人の姿は無くなっていた…

 

 

 

 

 

現代に戻って来ると、ひとみといよ、そして横須賀が工廠にいた

 

「かえってきたお‼︎」

 

「あ〜しゃん、ま〜きゅん、しゃら‼︎」

 

「いやぁ〜‼︎ただいまぁ〜‼︎」

 

「あ〜しゃんおかえい‼︎」

 

「おかえい‼︎」

 

「おっ‼︎ただいまぁ‼︎」

 

 

帰って来たアサシモに早速抱き着く双子の少女を、マークもサラも目で追う

 

「おかえりなさい」

 

「ただいま」

 

「ジェミニ見て見て‼︎サラ、マー君に指環貰ったの‼︎」

 

サラは嬉しそうにマークに指環を見せる

 

「え⁉︎結婚してなかったの⁉︎嘘でしょ⁉︎」

 

「30年間ズルズル引っ張ってたんだ…ははは」

 

マークは申し訳無さそうに後頭部を掻く

 

「おじいちゃん、おばあちゃん‼︎今日は結婚記念日だな‼︎」

 

「おぉ‼︎そうか‼︎」

 

「お祝いしましょう‼︎そうだ‼︎隊長もレイも呼びましょう‼︎」

 

「けっこんきえんびてなんら⁇」

 

「わからん…」

 

皆が幸せそうに笑う中、ひとみといよは腕を組んで悩んでいた…

 

 

 

 

その日、マークとサラの知り合いを集めて、簡単ではあるが、二人の結婚記念日を祝うパーティーが開かれた

 

「けっこんきえんびたのしい‼︎」

 

「みんなあつまう‼︎」

 

ひとみといよの悩みは”楽しい事”として解消された



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186話 ちいさなぼうけん(おつかい)(1)

さて、185話、そして185.5話が終わりました

今回のお話は、ひとみといよのお使いのお話です

そして、二人のエージェントも出て来ます

果たして遂行出来るのか⁉︎

注※この物語の最中に描かれているタバコのお使いは、未成年は禁止されています。真似しない様にね‼︎


最近のひとみといよは、誰かのお手伝いにハマっている

 

今日は横須賀で仕事をしているが、途中でタバコが切れた

 

「あ〜大変だぁ〜。タバコが切れたぁ〜。何処かにお使いに行ってくれる優しい子はいないかのぉ〜‼︎」

 

と、ワザとらしく言い、のぉ〜‼︎の時に、工廠の隅っこでおままごとをしているひとみといよの方を向く

 

すると、二人共オモチャを置いて此方に寄って来た

 

「えいしゃんおなやみ⁇」

 

「ひとみたちがきいたげう‼︎」

 

「お使いしてくれるか⁇」

 

「おつかいすう‼︎」

 

「なにかう⁇」

 

二人はやる気満々

 

早速お使いする品を言う

 

「このタバコを2つ買って来てくれ」

 

ひとみに空のタバコの箱を渡し、ヒヨコの財布に千円札一枚とお小遣いの小銭数枚を入れる

 

「えいしゃんのたあこにつ‼︎」

 

「ほかないか⁇」

 

「じゃあ、みんなで食べるお菓子何個か買って来てくれるか⁇」

 

ひとみのヒヨコ財布にも同じお金を入れる

 

「いってくるお‼︎」

 

「いってきあす‼︎」

 

「人に会ったらちゃんとご挨拶だぞ⁇」

 

「あかった‼︎」

 

「こんにちあすう‼︎」

 

二人は手を繋いで工廠を出た

 

「よし、頼んだぞ」

 

「任せて‼︎」

 

「行って来るぞビビリ‼︎」

 

 

 

 

「こんかんかんこん」

 

「かんこんかんこん」

 

ひとみといよはその辺で拾った木の枝を持ち、鉄の柵をカンコン言わせながら繁華街を目指す

 

駆逐の子も同じ事をしているのか、所々塗装が剥げている

 

「れこ‼︎」

 

「くおれこ‼︎」

 

屋根の上に、時々たいほうに撫でられている野良黒猫がいた

 

「れこおいてこい‼︎」

 

「れこ〜っ‼︎」

 

「ニャー」

 

黒猫はひとみといよを見て、少し鳴き声を出す

 

「にぁ〜ちあう‼︎おいてこい‼︎」

 

「いよちゃん。こんにちあすうお‼︎」

 

「れここんにちあ‼︎」

 

「こんにちあ‼︎」

 

すると、黒猫は屋根から飛び降り、ひとみといよの足元に来た

 

「れこきた‼︎」

 

「れこかむ⁇」

 

「わからん…」

 

自分で呼んだ割には、二人は結構ビビる

 

いよは先程の棒で恐る恐る黒猫を突いてみようとし、ひとみはそんないよの背中に隠れた

 

「れこ‼︎いよとひとみかんだあ、しょ〜ちしないお‼︎」

 

「ニャー」

 

黒猫は差し出された木の枝に先をペロペロ舐め始めた

 

ひとみもいよも黒猫に危険は無いと察し、黒猫の背中を撫でてみた

 

「ふあふあ‼︎」

 

「あったかい‼︎」

 

黒猫も心地が良いのか、腹を見せる

 

それに合わせて小さな手もお腹に移動する

 

「れこおなまえあ⁇」

 

「ニャー」

 

「おなまえないのか⁇」

 

「ニャー」

 

何度言っても、黒猫はニャーと返すだけ

 

「いよがつけたげう‼︎」

 

「ひとみもつけう‼︎いよちゃん、なににすう⁇」

 

「えんけ〜ち〜にすうか⁇」

 

いよは覚えていた

 

貴子さん、母さん、ローマのアダルティな女性

 

そして隊長も、とあるドラマを観ている

 

医療系の物語で、女医が主人公のドラマだ

 

俺はそのドラマが好きで、結構食い入る様に観ている

 

その中に出て来る黒猫の名前を付けようとしている

 

「あにすんやこおくそれこ〜‼︎っていわえう」

 

「あかんな」

 

「うんこにすう⁇」

 

この時期の子供が大好きな言葉、うんこ

 

今その名が、黒猫に付けられ様としている‼︎

 

「うんこにすうか⁇」

 

何を思ったのか、いよも許容し始めた‼︎

 

「ここにかいといたげう‼︎」

 

黒猫は野良猫なのに、誰かに付けられたのか首輪をしており、中心には真っ白なプレートがぶら下がっている

 

いよはそれを掴み、ヒヨコ財布の中からキャップ付きの鉛筆を取り出し、名前を書き始めた

 

「う、ん、こ‼︎」

 

ネームプレートには、拙い字で”うんこ”と書かれてしまった

 

「うんこさいなあ〜‼︎」

 

「またなれなれさしてえ‼︎」

 

ひとみといよは本当に黒猫に”うんこ”と名前を付け、その場を去った

 

「何て名前つけるんだよぉ…」

 

「うんこはいかんなうんこは」

 

タイミングを少しズラして、KSTとKKTが物陰から出て来た

 

二人共事の終始を見ており、早速うんこを捕まえる

 

「書き直しておこう」

 

KSTはボールペンを取り出し、うんこのネームプレートを”あんこ”に変える

 

「い〜い⁇君はうんこじゃなくてあんこ。いいね⁇」

 

「ニャー」

 

あんこはKSTの足をスリスリした後、その場で丸くなって寝息を立て始めた

 

「人懐っこい猫だな」

 

「みんな撫でたり声掛けたりしてるからじゃない⁇」

 

二人共あんこを数回撫でた後、ひとみといよを追い掛けた



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186話 ちいさなぼうけん(おつかい)(2)

「でゅくし‼︎」

 

「りゅくし‼︎」

 

今度は道のヘリに生えたコケを木の棒で剥がしながら、目的地を目指すひとみといよ

 

「あしがあしゃ〜ん‼︎」

 

「きたお〜‼︎」

 

「あらっ‼︎可愛いお客様ね‼︎」

 

着いたのは駄菓子屋足柄

 

ひとみといよは、タバコがここに売っているのをちゃんと覚えていた

 

「こえくらさい」

 

ひとみが、先程貰ったタバコの箱を見せる

 

「”Custard”の一ミリね。はいっ‼︎」

 

「につくらさい」

 

「につね‼︎はいっ‼︎」

 

足柄はひとみの数の数え方に合わせ、棚からタバコをもう一つ取り、ひとみに渡す

 

「あいがとおざます‼︎」

 

足柄からタバコを受け取り、ひとみはちゃんとお金を払い、お釣りとタバコをヒヨコ財布に入れようとするが、容量が小さい為入らない

 

「ぴよしゃんはいらへん」

 

「ちょっと待って‼︎え〜と…」

 

ヒヨコ財布にタバコを入れようとするひとみを見兼ねて、足柄は店の奥に行き、何かを持って帰って来た

 

「ここに入れて行きなさい⁇」

 

「ぱんらしゃん‼︎」

 

ひとみの顔が明るくなる

 

足柄が持って来たのは、パンダの柄が入った巾着

 

ひとみは早速タバコ二箱を巾着に入れ、紐を伸ばして振り回し始める

 

「くうくう〜」

 

「んっ、いよもぱんらしゃんほちい」

 

「いよちゃんのもあるわ。はいっ‼︎」

 

「わぁ〜っ‼︎」

 

いよの顔も明るくなる

 

と、なると早速物を入れたくなるのが子供の性

 

「そうら‼︎」

 

いよはお小遣いを貰ったのを思い出し、数個だけお菓子を選ぶ事にした

 

「ちょこえ〜といちつ…ち〜かあにつ…さあみさんつ‼︎こえにすう‼︎」

 

いよはカゴに

 

チョコレート一個

 

チーカマ二本

 

小さなカルパス三つ

 

を入れ、足柄に精算して貰う

 

「ここに入れる⁇」

 

「いえてください‼︎」

 

パンダの巾着に入って行く駄菓子を見て、いよはその場でピョンピョン跳ねる

 

「はいっ、ありがとう‼︎」

 

「あいがとござます‼︎」

 

足柄から膨らんだパンダの巾着を受け取り、二人は駄菓子屋足柄を出た

 

「す〜ぴゃ〜みゃ〜けっろいく⁇」

 

「おかちかう‼︎」

 

二人は巾着を振り回しながら、すーぴゃーマーケットを目指す

 

「よしよし、ちゃんと買ってるね」

 

「アシガラ。ありがとう」

 

「これ位ならいつでも言って頂戴‼︎」

 

スパイ二人は二人がちゃんとお使いを遂行しているのを見届けた後、また後を追い始めた

 

 

 

 

「わんわんら…」

 

「れかい…」

 

すーぴゃーマーケットに行く道中で、二人は行く手を阻まれる

 

一応鎖には繋がれているが、誰かが連れて来た軍用犬が鎮座しているからだ

 

軍用犬がいるのは最上のスティックミートの近く

 

ひとみといよは軍用犬を見た瞬間、足を止めた

 

「こえはやばいお…」

 

「わんわんかむ⁇」

 

「かみそう…」

 

壁に沿って恐る恐る移動するひとみといよだが、無情にも軍用犬は二人の方を向き、いきなり吠えた

 

「ウォン‼︎」

 

「ひ〜っ‼︎」

 

「ひ〜っ‼︎」

 

軍用犬はまだ軍用犬(見習い)の様で、敵意剥き出しで鎖をチャラチャラ言わせながら二人に飛び掛かろうとしている

 

「いよちゃん‼︎さあみあえて‼︎」

 

「ああああかった‼︎」

 

いよは急いで巾着からサラミを取り出し、軍用犬の足元に投げた

 

「どや‼︎」

 

「ウォンウォンワンワン‼︎グルルルル‼︎」

 

「ひ〜っ‼︎」

 

「こわいお〜っ‼︎」

 

ヨダレを撒き散らしながら、今にも二人に襲い掛かろうとする軍用犬(見習い)

 

二人はブルブル震えながら互いに抱き合い、軍用犬(見習い)を見つめる

 

「おりゃ」

 

「ぎゃん」

 

誰かがすれ違い様に軍用犬(見習い)を気絶させて行ってくれた

 

「さっさと行かないと食べられちゃうぞぉ〜…」

 

「ひ〜っ‼︎」

 

「おたしゅけ〜っ‼︎」

 

物陰から来た緑色のスパイの言葉で、二人はすーぴゃーマーケットの方に走って行った

 

「行った行った。良かったぁ…」

 

「全く…躾のなっていない犬だな」

 

「グルル…」

 

軍用犬(見習い)はすぐに起き上がり、KKTに敵意を向ける

 

「貴様…イヌの分際で私に逆らうというのか…」

 

KKTは手元でサージスタンガンをバチバチ言わせる

 

が、そこで予測しない事が起きた

 

バキンと音がした

 

「ヤバイ‼︎」

 

軍用犬(見習い)を縛っていた鎖が切れた‼︎

 

「KST‼︎逃げるぞ‼︎」

 

「あれはヤバイって‼︎」

 

「ウォンウォンワンワンワンワンワン‼︎」

 

イカれた目でヨダレを撒き散らしながら、スパイ二人を追い掛け回す

 

「うわぁ〜ん‼︎助けてぇ〜‼︎」

 

「イヌ怖い〜‼︎」

 

スパイ二人は両手を挙げながら繁華街を逃げ回り、イカれた軍用犬(見習い)に追い掛け回され、どんどんすーぴゃーマーケットから離れて行く…

 

「あれ⁇あっ‼︎コラァ‼︎」

 

ようやく飼い主が気付き、ホイッスルを吹いた

 

「ワフッ」

 

軍用犬(見習い)はその音に気付き、スパイ二人を追い掛けるのを止め、飼い主の元に向かった

 

「もっ、申し訳ありません‼︎」

 

「ちゃんと躾といてよぉ…」

 

「死ぬかと思ったぞ…」

 

追い掛け回された詫びとして、二人は最上のスティックミートを奢って貰う事になった

 

「う〜んっ‼︎美味しい‼︎」

 

「うん、美味い‼︎なぁ、KST。ここの店主は男なのか⁇」

 

「女の人だよ⁇」

 

「勘違いされるぞ…」

 

「…やっぱそう思うよね⁇」

 

「…あぁ」

 

しばらく下を向いて最上のスティックミートのネーミングセンスを考えた後、ある事に気付いた

 

「しまった‼︎二人を追い掛けなきゃ‼︎」

 

「そうだ‼︎美味すぎて忘れる所だった‼︎」

 

「ごちそうさま‼︎」

 

「ゴチになった‼︎」

 

「ありがと〜‼︎また来てね‼︎」

 

最上に挨拶をした後、スパイ二人は全速力ですーぴゃーマーケットに向かった




Custard…レイのお気に入りのタバコ

最近レイがシフトした、甘い香りがするタバコ

横須賀が昔吸っていたタバコでもある

カスタードの様な甘い香りがし、クセも少ない

1mg、5mg、8mg等色々あるが、レイは1mgのソフトが好きらしい


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186話 ちいさなぼうけん(おつかい)(3)

「おかちなににすう⁇」

 

「くっち〜にすう⁇」

 

すーぴゃーマーケットに着いた二人は早速子供用カートを二人で引き、お菓子コーナーに来た

 

「くっち〜いえた‼︎」

 

「ぽぷこ〜んは⁇」

 

「ぽぷこ〜んいえう‼︎」

 

カートにドサドサッとお菓子が入れられて行く

 

「クッキーとポップコーン入れたね…」

 

スパイ二人はコソコソ動きながら、二人の後を付ける

 

時には何気無くすれ違い

 

時には反対側のレーンから覗いたりと、尾行を続ける

 

「おい」

 

「ん〜⁇」

 

「これは何だ⁇」

 

KKTの目の前には、鍋でやるラーメンのパックが置いてある

 

「お鍋でするラーメンだよ。食べた事ない⁇」

 

「ない。食べたい」

 

「…コッソリ入れちゃう⁇」

 

「…うぬ」

 

KKTは鍋用ラーメンパックを取り、お菓子を選ぶ二人に近付く

 

「ふにゃふにゃのおかちあう」

 

「たいほ〜のしゅきなおかち」

 

「こえもいえとく⁇」

 

「いえとく‼︎」

 

徳用グミパックを選ぶ二人のカートに、KKTは手に持っているラーメンパックをそっと入れ、KSTの所に戻って来た

 

「よし」

 

「後は二人がどう出るかだね…」

 

お菓子を選び終え、二人はレジに向かう

 

「ぴゃあ‼︎いらっしゃい‼︎」

 

「ぴぁ〜‼︎」

 

「きたお‼︎」

 

酒匂担当のレジで、カートの中のお菓子達の精算が済んで行く…

 

「ラーメン食べるの⁇寒くなって来たもんね‼︎」

 

「…あ〜めんいえたか⁇」

 

「いえてない」

 

「うっ…」

 

その時、いよがスパイ二人が隠れていた場所に首を向けた‼︎

 

「ヤバッ‼︎」

 

「バレたか⁉︎」

 

「…どうだろ」

 

スパイ二人は棚の影に隠れた後、顔半分だけ覗かせてみた

 

「あいがとござます‼︎」

 

「あ〜めんあたかそう‼︎」

 

「気を付けてね〜‼︎」

 

精算を済ませた二人は、買った物を入れたレジ袋を片方ずつ持ち、レイのいる工廠へと引き返して行った

 

「間一髪だったな…」

 

「危ない危ない…」

 

いよの察知能力は侮れない

 

だが、後は帰路を見守るだけ

 

このまま行けば、任務を遂行出来る

 

 

 

 

「かにしゃん‼︎」

 

「ちょっきんちょっきん‼︎」

 

二人は帰路にある瑞雲の蟹の生け簀で立ち止まり、しばらく中を覗く

 

「今日はカニさんどうかなぁ〜⁇」

 

「おぼおおおら‼︎」

 

「おろろろろ‼︎」

 

「二人共”ろ”が多いよ‼︎」

 

たまたま来た朧に蟹の事を聞く二人を見て、スパイ二人は腹を抱える

 

「うひひひひ‼︎オボロロロだって‼︎」

 

「奴は人間ポンプだからな…しかし、オボロロロ…」

 

横須賀の基地でも人間ポンプと悪名高い朧

 

過去に艦隊が弾薬切れでどうしようもなくなった時、敵に対し大量のゲボを吐いてその場を離脱し、艦隊を救った経歴がある彼女には、畏怖と敬意を込めて”人間ポンプ”と呼んでいる

 

因みに朧はいつでも何処でも吐く事が出来る

 

ただ、ビックリした時にはいきなり吐いてしまうので要注意

 

「おぼおおおまたな〜‼︎」

 

「さいなあ〜‼︎」

 

朧は笑顔で二人に手を振り、自身はまた蟹の生け簀を眺め始めた

 

「KST。今度オボロロロにクラッカー鳴らしてみてくれ」

 

「や、ヤダよ‼︎顔にかかったらどうするんだよぉ‼︎」

 

「そりゃあ丸一日KSTに近付かんな‼︎」

 

「酷いや‼︎それに朧ちゃんホントに強いんだから、あんまり言ったら殺られるよ⁉︎」

 

「んっ。すまん」

 

吐く事に隠れがちだが、朧はそれなりの実力を持っている

 

速力だって速いし、トラックさんに学んだ肉薄雷撃が一番上手いのは朧だ

 

バカにしたら二つの意味でホントに殺られる

 

だからこそ、皆朧に敬意を払っている

 

 

 

 

「えいしゃ〜ん‼︎」

 

「かえってきたお〜‼︎」

 

「おっ‼︎おかえり‼︎」

 

二人が工廠に帰って来た

 

「あいっ‼︎」

 

ひとみがタバコ二つをレイに渡す

 

「んっ‼︎ありがとなっ‼︎」

 

「おかちかってきた‼︎」

 

「ありがと‼︎おっ‼︎いっぱい買ったなぁ‼︎」

 

いよはお菓子の入ったレジ袋を渡す

 

二人は直前でそれぞれ渡す物を決め、レイに渡すことにしていた

 

ひとみはタバコ、いよはお菓子をそれぞれ渡す

 

「ん⁇」

 

レジ袋の中身を見たレイが一つ変わった物が入っているのに気付いた

 

「何だ⁇ラーメン食べたいのか⁇」

 

半笑いで鍋用ラーメンパックを取り出すレイに、二人は同じ事を言った

 

「くっこおがいえた」

 

「かさかさ〜っていえてた」

 

「そうか。なるほどな…」

 

実はいよ、レジにいた時ハッキリとKKTとKSTを発見していた

 

そして、この鍋用ラーメンパックをカートに入れたのもKKTだと分かっていた

 

ただ、二人共素直な良い子なので”くっころの食べたい物も買わなきゃ”いけない”との認識があり、そのまま買ってくれたのだ

 

しかも二人のお小遣いから割り勘で出してくれている

 

「バレてんじゃん‼︎」

 

「イヨとヒトミの察知能力は侮れんな…」

 

KSTは半呆れでKKTの顔を見て、KKTは感心しながら三人を見る

 

「よしっ、スタンプだな⁇」

 

「すたんぷおす‼︎」

 

「たかこしゃんすたんぷ‼︎」

 

二人はヒヨコ財布からスタンプカードを出した

 

それは貴子さんが作ってくれた物であり、スタンプを押す空欄は全部で10個あり、全て溜まると夕ご飯の時にプリンが付くのだ

 

レイはその事を知っていて、わざと二人にお使いを頼み、スタンプ捺印の協力をしていたのだ

 

「これでよしっ‼︎」

 

レイはスタンプカードに母印を押した

 

「横須賀呼んだから、みんなでお菓子食べような⁇」

 

「くふふっ…」

 

「よこしゅかしゃん…」

 

二人は嬉しそうな顔をしながら、元のおままごとをしていたシートの上に戻って行った

 

「アーク、きそ」

 

「はいはい」

 

「んっ‼︎」

 

「お前らにもスタンプを進ぜよう」

 

「やったね‼︎」

 

「ビビリは太っ腹だな‼︎」

 

きそもアークもこのスタンプカードを持っている

 

一応任務は遂行した二人のカードにもスタンプを押す

 

「アークはちゃんと二人にありがとうって言っておくんだぞ⁇」

 

「アークだってな、食べたい物はな、あるんだ」

 

「お前が入れたから自分達の小遣い割いて買ってくれたんだぞ⁇」

 

「それはいかんな。ヒトミ、イヨ‼︎ありがとうな⁉︎」

 

「くっこお、わんわんぶっこおいちてくえた‼︎」

 

「たすかた‼︎」

 

「バレてたね」

 

「あぁ…」

 

「あらっ。みんな集まってるわね⁇」

 

「「よこしゅかしゃん‼︎」」

 

きそより早く横須賀に気付き、早速抱き着きに行くひとみといよ

 

「きそも来なさい⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

きそも横須賀に抱き着きに行く

 

「アークはビビリでいいや‼︎立てビビリ‼︎」

 

「はいはい…」

 

横須賀横目に、アークは俺と腕を組む

 

その時アークの口元が緩んでいたのを、俺は知らなかった…



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187話 貴方と私の宝物(1)

さて、186話が終わりました

今回のお話は、珍しく横須賀の目線になります

普段、横須賀はどんな目でレイ、そして娘達を見ているのかな⁇


「気を付けてね⁇」

 

「あぁ」

 

いつもの様に、グリフォンに乗り込んだレイにキスをする

 

お別れのキスでもあるし、必ずここに帰って来いのキスでもある

 

グリフォンが基地に飛び去ってしばらくした後、近くに居た清霜を連れて執務室に戻る

 

「お母様」

 

「なぁに⁇」

 

清霜はレイに買って貰った赤い車のオモチャを大事そうに脇に抱え、逆の手で私の手を握っている

 

「お母様はお父様と夜何してるの⁇」

 

「そうね〜…昔のお話とか、次のデートの約束ね」

 

「お母様はお父様嫌い⁇」

 

「あら。どうしてそんな事言うの⁇」

 

「だってお母様、お父様がここに来た夜、いつもベッドの上でお父様に馬乗りになってるもん」

 

「あ…」

 

大人の夜のお楽しみ…榛名で言うアバンチュールを覗かれていた

 

清霜から見れば、私がレイを虐めている様に見えたのだろうか

 

「そ、そうね‼︎レイはたま〜〜〜に要らない事するから、お母さんはお仕置きしてるのよ⁉︎」

 

「お母様楽しそうだったよ⁇コレが良いんでしょ‼︎とか、愛してるわ〜‼︎とか」

 

周りが異様にザワつく

 

夜のひと時をバラされた‼︎

 

「ききき清霜‼︎お姉ちゃんには内緒で間宮に行きましょうか‼︎」

 

清霜を抱え、その場から離れる

 

間宮に着き、清霜にパフェを食べさせ、その前で私は頭を抱える

 

「お母様はお父様を粛清してるの⁇」

 

「そ、そんな事してないわ⁉︎」

 

「お父様はお母様を好き‼︎って言ってた‼︎」

 

「そっ⁇ふふっ…」

 

旦那であれど、好きと言われるのは中々嬉しい

 

「清霜は車好き⁇」

 

清霜の横には、大きな車のオモチャが置いてある

 

「うんっ‼︎き〜ちゃん、車好きなの‼︎」

 

「そっか。レイと一緒ね⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

清霜はほっぺたにクリームを付け、本当に美味しそうにパフェを食べて行く…

 

 

 

 

執務室に戻って来ると、親潮とガングートが居た

 

ガングートはぬり絵、親潮は眼鏡を掛けて私の椅子に座り、執務用とは別のノートPCを真剣な目で見つめている

 

清霜がガングートとぬり絵を始めたのを見て、私は親潮の横に座る

 

「珍しいわね⁇」

 

「ジェミニ様⁉︎」

 

私に気付くと親潮はヘッドホンを外し、ノートPCを閉じてしまった

 

「き、きそ様に造って頂いて、それで…」

 

「別に怒らないわよ⁇きそにお礼は言った⁇」

 

「はいっ」

 

「なら良いわ。きそは物造りが好きだから、時々付き合ってあげて⁇それも執務の内よ⁇」

 

「畏まりました」

 

「でっ⁇何してたの⁇」

 

「…」

 

親潮はノートPCを開き、中を見せてくれた

 

”目の前に英雄が立ち塞がる”

 

”Oyashioの決意は固い”

 

”Oyashioはマーガリンナッツパイを食べた”

 

昔ながらの趣を強く残したゲームがモニターに表示されており、机の上に置いた親潮のヘッドホンから、頭に根強く残りそうなBGMが聞こえて来る

 

「どれどれ…」

 

ヘッドホンを付け、少しBGMを聴いてみる

 

「…」

 

懐かしい感じもするけど、何処か力強さを感じるBGMだ

 

ヘッドホンを外しても、やはり頭に残る

 

「結構良いBGMじゃない」

 

「エドガー様の作曲らしいです」

 

「そりゃ良いハズだわ」

 

それに、ストーリーも中々良さそう

 

誰が考えたんだろ…

 

「ちょっと飲み物取って来るからお願いするわ」

 

「畏まりました」

 

執務室を出て、キッチンにコーラでも取りに行こうと思った時だった

 

「あばっ‼︎」

 

急にモーレツな腹痛に襲われ、壁に手を付く

 

下したみたいだわ、こりゃ…

 

何かイケナイ物でも食べたかしら…

 

「いづづ…だ、誰か…」

 

「提督‼︎」

 

天井が外れ、初月が降りて来た

 

「どうした⁉︎腐った物でも食べたか⁉︎」

 

「えぇ…そうみたい。明石呼んで来てくれる⁇」

 

「分かった‼︎少しだけ待ってろ‼︎」

 

初月が去り、壁に背中を当てて腰を下ろす

 

こうする事で多少は楽になり、考える頭が出来た

 

腐った物なんて食べたかしら…

 

「提督‼︎大丈夫ですか⁉︎」

 

担架を持った衛生兵を数人連れた明石が来た

 

「悪いわね明石…」

 

「すぐ医務室に運びます‼︎」

 

担架に乗せられ、医務室へと運ばれる…



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187話 貴方と私の宝物(2)

一時間後…

 

「え〜と、その〜…」

 

私の腕の中には、産まれたての赤ん坊がいた

 

あの腹痛、ただの腹痛ではなく陣痛だったのだ

 

流石に三人産むと出産には慣れて来たが、陣痛だけは耐えられなかったみたいだ

 

赤ん坊を抱っこしている横で、助産婦の千歳と千代田は喜びを露わにしてくれているが、明石はビミョーな顔をしている

 

「大尉とは、その〜…」

 

「す、数日前かしら…良く分からないけど、レイがどうしてももう一人欲しいって言い出したから…」

 

「産まれたのか⁉︎」

 

「見せて‼︎」

 

事態を聞き、引き返して来たレイときそが来てくれた

 

「えぇ。楽な出産だったわ⁇」

 

レイに赤ん坊を抱かせる

 

「初めましてだな。”早霜”」

 

レイは既に名前を決めていたみたいで、赤ん坊の事を”早霜”と呼んだ

 

「あらっ。名前まで決めてたの⁇」

 

「まぁなっ。この子との約束なんだ」

 

不思議な事を言うレイを、私はおちょくった顔で見る

 

「ふ〜ん…未来でも行って来たのかしら⁇」

 

「んな所さっ」

 

「お母さん大丈夫⁇」

 

「えぇ。大丈夫よっ」

 

きそがベッドから半分顔を出し、私を見ている

 

相変わらず色々な物に対して身長が足りないきその頭を撫でる

 

目しか見えていないが、嬉しそうな顔をしてくれている

 

「ほらっ、お母さんの所に行こうな」

 

早霜が返って来ると、早霜はジッと私を見つめて来た

 

「早霜…」

 

私もレイも、早霜の顔を見る

 

そんな私達を見て、きそは一歩下がる

 

きそは気付いていないのね

 

自分がどんどん遠慮する人間になってる事を…

 

「きそ」

 

「ん⁇」

 

「きそも好きだからね⁇忘れちゃダメよ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

その後の話で、早霜は横須賀で預かる事になった

 

早霜も他の子の御多分に漏れず、成長が早かった

 

産まれて2日目にはえっちらおっちら立ち上がり

 

3日目には歯が生え

 

4日目には流暢に話し始めた

 

…もう驚かないわよ⁉︎

 

伊達に3人も産んでないわ‼︎

 

「きよしもねぇさん。それは⁇」

 

「これ⁇これはき〜ちゃんの車‼︎お父様に買って貰ったの‼︎」

 

「はやしももくるまほしい…」

 

早霜が清霜の宝物の車に手を伸ばすと、清霜は車を取る

 

「やだ‼︎これだけはき〜ちゃんのっ‼︎」

 

「そう…」

 

早霜は清霜に睨まれてすぐに手を引いた

 

早霜はビックリする位諦めが早い

 

それに本当に大人しい子

 

ここまで大人しいと逆に不安になる

 

何も無ければ良いのだけど…

 

 

 

 

数日後…

 

「清霜姉さん」

 

「ん⁇」

 

「早霜も車欲しいです」

 

「ダメだよ‼︎あれだけはき〜ちゃんの‼︎」

 

「そう…」

 

清霜は頑なにあの車のオモチャを貸そうとしない

 

どうやらレイに買って貰った、自分なりの宝物との認識があるみたいだ

 

少し位貸してやれば良い…とも思うが、それを清霜含め子供達に言う事はレイから禁止されている

 

子供達にだって、大切な物や意思がキチンとあるからだ

 

「早霜はどうだ⁇」

 

「レイ‼︎」

 

「お父様‼︎」

 

清霜の顔がパァッと明るくなる

 

普段から明るい清霜を更に明るくさせたのは、勿論レイ

 

清霜は本当にお父さんっ子だ

 

レイもレイで、飛び付いて来る清霜の受け止め方に段々慣れて来ている

 

清霜はレイに抱かれながらも片手で車のオモチャを持っている

 

…どうしても早霜に貸したくないらしい

 

「朝霜と磯風は⁇」

 

「工廠に行ったわ。焼き芋作るんですって」

 

「ガングートもか⁇」

 

「そっ。親潮も行ったわ⁇ななは学校よ⁇」

 

「そっかそっか。よいしょ…」

 

「わ」

 

レイは足元でレイをジッと見つめていた早霜も抱き上げ、清霜の反対側の腕に抱いた

 

「…」

 

早霜はどうしても清霜の車のオモチャが欲しいようで、レイの腕の中でさえ手を伸ばす

 

「ダメだよ‼︎」

 

「そう…」

 

「ははっ‼︎なんだ早霜。車欲しいのか⁇」

 

「車欲しい。早霜も、清霜姉さんと遊びたい…」

 

「よしよし。なら買いに行こうか‼︎」

 

「私、ちょっと朝霜達見て来るわ⁇」

 

「無線預かる」

 

「ん…」

 

私が持っていた緊急用の無線をレイに渡そうとすると、早霜が手を伸ばした

 

「なら早霜にお願いするわ⁇落としちゃダメよ⁇」

 

「うん」

 

私の手から無線を取ると、早霜はアンテナを齧ったり、軽く振ったりし始めた

 

「よ〜し、行こう‼︎」

 

レイ達を見送った後、コートを羽織り、朝霜達の所へ向かう

 

 

 

「どうだ⁇美味いか⁇」

 

「これが焼き芋…とても甘くて美味しいです‼︎」

 

「チンチンに熱いが、中々イケるな‼︎あづっ‼︎」

 

工廠の中で、四人が焼き芋を食べているのが見えた

 

「おぉ‼︎お母さん‼︎」

 

「懐かしい装置ね⁇」

 

四人が焼き芋を食べていた中心には、いつの日がきそが作った”芋自動調理機”があった

 

「母さんも食うか⁇ホレ‼︎」

 

「あらっ。ありがと」

 

朝霜から焼き芋を貰い、皮ごと頂く

 

「はぇ〜…」

 

私を覗き込むかの様に、親潮が口を開けながら見つめて来る

 

「な、なぁに親潮…」

 

「いえ…朝霜様と同じ歯をしているなと…」

 

朝霜と私の歯は良く似ている

 

ギザ歯だ

 

夜ベッドの上でレイを噛むと、どんな銃弾に撃たれた時より叫ぶ

 

ストローも噛む癖があり、すぐに先端がダメになったり、歯ブラシがハの字に湾曲してすぐダメになる所も似ている

 

「磯風様はジェミニ様の若い頃の写真に良く似ています」

 

「い〜ちゃんはオトンに似てない。一切な‼︎」

 

磯風、アンタ気付いてないわね

 

普段の仕草の一つ一つ、レイにソックリよ

 

特に悩んでる時に机に人差し指をコツコツする癖

 

「ガン子ちゃんは面倒見の良さがマーカス様に良く似ています」

 

「そうか‼︎そうだろう‼︎」

 

ガングートは鼻息を出して自慢気にしている

 

焼き芋を食べながら、自慢の娘達の微笑ましい姿を見るのも何だか悪くない気もする

 

数十分後、レイ達が工廠に来た

 

「おっ‼︎いたいた‼︎」

 

「車買って貰った」

 

早霜の脇には、清霜とは色違いの青い車が挟まれている

 

レイの腕から二人が降り、床で遊び始める

 

口を尖らせて車のオモチャで遊ぶ二人は、見ていて本当に可愛い

 

「早霜はホントに大人しいなぁ」

 

朝霜も同じ事を思っていた

 

「大人しい子もいるさっ。なっ、早霜⁇」

 

「うん」

 

レイが早霜と清霜の頭を撫でる

 

「さてっ。俺は一旦帰るわ」

 

「気を付けて帰るのよ⁇」

 

「分かった。清霜、早霜。仲良くするんだぞ⁇」

 

車のオモチャに夢中になっている二人は、レイの言葉に耳を貸していない

 

そんな二人を見てレイは微笑んだ後、基地へと戻って行った…



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187話 貴方と私の宝物(3)

数日後、朝霜が工廠に居るので清霜早霜の二人も工廠の入り口付近の床で遊んでいた

 

「おトイレ行って来ます」

 

「き〜ちゃん居なくて大丈夫⁇一人で出来る⁇」

 

「大丈夫」

 

車のオモチャを置き、早霜は一人トイレに向かった

 

清霜は遊ぶのを一旦止め、車のオモチャを置いて工廠の中に入り、水筒のお茶を飲んでいた

 

その時、工廠の前を一台のジープが走って来た

 

工廠の前を通り掛った時、バキバキと何かを踏み潰す音がした

 

「何か踏んだみたいだな…」

 

「確認して来ます」

 

ジープから男性が一人降り、タイヤの確認に向かう

 

それと同時に、清霜の悲鳴が響く

 

「あーーーーーーーーーーーっ‼︎」

 

ジープのタイヤの下には、大切にしていた、レイに買って貰った車のオモチャが2台ともペチャンコになっていた

 

「酷い‼︎き〜ちゃんの宝物なのに‼︎」

 

「ご、ごめんよ…」

 

「新しいの買ってあげるから。ねっ⁇」

 

ジープに乗っていた二人は、半泣きで表に出て来た清霜に気付き、必死に宥めようとする

 

「あ…」

 

トイレに行っていた早霜が戻って来た

 

「早霜の車…」

 

「す、すまない…」

 

早霜はジープの下から自分の車を取り出し、胸に抱く

 

「お父様に買って貰ったのに…早霜の宝物なのに…」

 

二人に対して背を向けていた早霜の髪が逆立ち、毛先が白く変色して行く

 

「は…早霜ちゃん…⁇」

 

異変に気付いた男性二人はジリジリと後退する

 

「ゆるサナイ‼︎」

 

振り返った早霜の眼は赤く光り、男性二人に敵意を剥き出しにしていた…

 

 

 

 

 

工廠付近で大きな音が立つ

 

巨大な物が倒れる音だ

 

「何だ⁉︎」

 

たまたま横須賀の格納庫に居たレイが異変に気付く

 

「お父さん‼︎」

 

息を切らした朝霜が格納庫に飛び込んで来た

 

「どうした⁉︎何か横転でもしたか⁇」

 

「は…早霜が…」

 

「案内してくれ」

 

朝霜の口から早霜と出た瞬間、レイは革ジャンを羽織り、朝霜の先導する場所を目指す

 

「あれだ‼︎」

 

朝霜が指差す先には、見るも無惨になったジープ、そして怒り狂った早霜が居た

 

「ハヤシモノタカラモノナノニ…オトナハスグニウバウ‼︎」

 

「ヒィッ‼︎」

 

「ごめんなさい許して‼︎」

 

「…」

 

レイは早霜の姿を見て息を飲んだ

 

早霜は一人の男性の首を持ち、そのまま持ち上げていたのだ

 

「ハヤシモノタカラモノヲトッタンダカラ…ハヤシモモタイセツヲモラウ‼︎」

 

「うわぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

早霜が空いている手を構え、持ち上げている男性の腹に狙いを定め、男性は悲鳴を上げた

 

「ゔっ…」

 

「エ…」

 

早霜が突き出した手は、一人の男の腹に突き刺さる

 

「オトう様…」

 

「た、大尉‼︎」

 

レイのお腹からは血が流れ出している

 

早霜は掴み上げていた男を降ろし、レイを支えた

 

「どうしてお父様が…」

 

「は…やしも…」

 

レイはお腹を抱えながらも、早霜の頭を撫でた

 

「力を、見誤る…な…」

 

「担架だ‼︎担架持って来てくんな‼︎」

 

「はっ‼︎」

 

薄れていく意識の中でレイは、立派に成長した長女を眺めながら目を閉じた…

 

 

 

 

「まぁ、あれだな。早霜の力の抑制はしっかりしてやらんとな」

 

「そうね」

 

「しっかしまぁ、力の抑制となると早霜に結構な負担を掛けるかも知れんな…」

 

「そうね」

 

「深海の血が強いのはよ〜く分かった」

 

「…一つ聞いていい⁇」

 

「んぁ⁇」

 

「何でピンピンしてんのよ‼︎」

 

私の横でレイが人のドーナツをムシャムシャ食べている

 

しかも早霜がDMM化して一、二時間後の事だ

 

腹部に重傷を負って担架で運ばれたハズなのに、もう完治している

 

「ま、無敵だからな」

 

「心配掛けさせないでよ…」

 

「ジープの二人は大した怪我じゃない。数日もすりゃ治んだろ」

 

「人の心配する前に自分の心配しなさいよ‼︎」

 

「喧嘩してるの⁇」

 

二人で話していると、清霜が帰って来た

 

「してないしてない‼︎」

 

「清霜は大丈夫か⁇」

 

「うん…でも、き〜ちゃんの車…」

 

「また買ってやるよっ」

 

「うん…」

 

清霜はあの車のオモチャがお気に入りだったので、ショックも大きいだろう

 

ショックが大きいのはもう一人…

 

「お…お父様…」

 

「早霜。こっちおいで」

 

「…」

 

怒られると思っている早霜は、執務室の入り口から中々こっちに来ない

 

「よし。早霜が行かないなら俺が行く」

 

椅子から立ち上がり、レイが早霜に寄る

 

早霜の前まで来ると、レイは膝を曲げ、早霜は執務室の扉を後ろ手で閉めた

 

「ビックリしたな⁇」

 

「早霜…どうしてあんな事…」

 

「いいんだ。早霜の力は立派な力だ」

 

レイは早霜の頭を撫でながら話を続けた

 

「いいか早霜」

 

「はい」

 

「力には二通りある。破壊する力…それと、誰かを護る力。早霜は、さっきの自分の力を見て、どんな気分だった⁇」

 

「とっても…嫌な気分…」

 

「ならその力は、誰かを護る為に使った方が俺はカッコ良いと思うぞ⁇」

 

「お父様…」

 

早霜はレイの目をジッと見返した

 

「ん⁇」

 

「早霜は…お父様の本当の娘⁇」

 

「そっか。早霜はまだ知らないか…」

 

レイは左手の手袋を取り、早霜の目の前に出して見せた

 

真っ白な、深海の腕だ

 

「お父さんな…深海棲艦なんだ」

 

「わぁ…」

 

数時間前の自分と同じ様な腕を見て、早霜は胸を撫で下ろす

 

「早霜は俺の事嫌いか⁇」

 

「嫌いな訳ない‼︎早霜、お父様好き‼︎」

 

早霜は産まれて初めて、産声以外の大声を出した

 

「ホントか⁇」

 

「空軍は嘘を吐かない…お母様言ってた」

 

「そっか…」

 

「お父様は、早霜の事…好き⁇」

 

「勿論さ‼︎早霜は良い子ちゃんだろ⁇お父さん、良い子ちゃんは大好きだ‼︎」

 

産まれて初めて、早霜は歯を見せて笑った

 

…私のギザ歯がちょっと遺伝してる

 

「車は今度買ってやるから、今はこれで我慢してくれ」

 

レイは内ポケットから白いリボンを取り出し、艶やかな黒に戻った早霜の長い髪を纏める

 

「んっ。よく似合ってる」

 

「ありがとう」

 

「清霜にはこれだな‼︎」

 

「やったぁ‼︎」

 

清霜にはオマケ付きのキャラメルを渡す

 

見ていない様で娘の好みを良く知っている

 

レイは最後に二人の頭を撫でた後、私にウインクを送る

 

「ほらっ。レイを送りに行くわよ」

 

二人を連れ、基地に帰るレイを見送る

 

「気を付けてね⁇」

 

「あぁ」

 

今日のキスは、心配のキス

 

「早霜もしたい」

 

「コラコラ。今だけはお父さんとお母さんの時間だ」

 

たまたま近くに居た朝霜が、走り出した早霜を止める

 

タービンを回し始めたグリフォンに、そこに居た皆が手を振る

 

特に清霜が力強く手を振る

 

グリフォンが飛び立ち、私は軽いため息を吐く

 

「さっ‼︎お腹空いたでしょ⁇おばあちゃんの所でご飯にしましょう‼︎」

 

娘達が元気良く返事をする

 

サラの所に向かう道中、私はもう一度空を見上げた

 

一本の飛行機雲が、ずっとずっと先の水平線へと向かっている

 

「置いてくぞ〜‼︎」

 

私はそれを見てほんの少し微笑んだ後、娘達が呼ぶ所に戻って行った…



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188話 一人の少女の安息地(1)

さて、187話が終わりました

今回のお話ですが、先に言っておきます

大変なキャラ崩壊を起こして”しまいました”

こうなるつもりじゃなかったんだ…

ですが、楽しめるお話になっているかと思います

そして、新キャラが一人出てきます


「ぷはーっ‼︎」

 

海にしおいが一人

 

今晩のおかずを確保する為、そして照月のオヤツを捕獲する為に潜っている

 

そしてまぁまぁの捕獲量

 

後はビッグなサメでもブッ倒せば大成功なのだが…

 

「いたっ‼︎」

 

直して貰った一本銛を構え、サメに立ち向かう

 

「いっけぇ〜‼︎」

 

サメの腹部に銛が刺さる

 

「うおっ‼︎」

 

銛で刺されたサメが暴れ始めた瞬間、別の銛がサメに突き刺さり、しおいはそれを避けた

 

「ばばんぼ‼︎」

 

銛を打ち込んだのは、自分と良く似た少女

 

「誰⁉︎」

 

しおいは一旦海面へと向かい、銛を突き刺した少女を待つ事にした

 

「ぼばっば」

 

数秒しない間に少女も上がって来た

 

「え〜と…」

 

「うほうほばんぼ」

 

「分かんない…」

 

「ばんぼーばんぼー」

 

少女は身振り手振りでしおいに何かを伝えたがっている

 

「あ、御礼してるの⁉︎」

 

「うほうほ」

 

少女は頷いた

 

「サメ欲しいの⁇え〜と…」

 

タイミング良く仕留めたサメが浮かんで来た

 

「これ‼︎え〜と…プレゼント‼︎」

 

しおいも身振り手振りでサメを譲る事を伝える

 

「ばんぼーばんぼー‼︎」

 

どうやら喜んでいるみたいだ

 

「あはは…」

 

全く分からない少女の会話に着いて行けず、しおいは苦笑いする

 

「うんがーうんがー」

 

「え、着いて来いって⁇」

 

「ぼんばぼんば」

 

しおいは少女と共にサメを持ち、言われるがまま着いて行く事にした

 

 

 

 

「うんがーうんがー」

 

しばらく泳ぐと、島が見えて来た

 

「あっ、あそこがお家⁇」

 

「うんがー」

 

どうやらそこが少女の家らしく、泳ぐスピードが少し早くなる

 

浜に近付き、しおいも少女もサメの持ち方を変え、上陸の準備に掛かる

 

二人でサメを抱え、浜に上がると、少女は急に舌を打つ様に声を出した

 

「あららららららー‼︎」

 

しおいは一瞬少女の顔を見た後、前を見直した

 

「アララララララー‼︎」

 

「うわぁ‼︎」

 

少女が出した声と同じ声が返って来た瞬間、ゾロゾロと住民らしき人が出て来た

 

「ウンガバンボー‼︎」

 

「ばんぼばんぼー‼︎」

 

「ボボンバー‼︎」

 

住民らしき人が一斉に右手を握り、宙に上げた

 

どうやら、狩りに成功した少女を讃えているらしい

 

「うっほうっほ」

 

少女がしおいを身振りで紹介する

 

「ボボンバー‼︎」

 

「バンボバンボー‼︎」

 

しおいにも賞賛が分けられる

 

「めっしめっし」

 

「ご飯⁇」

 

身振りを見る限り、ご飯を食って行けと言っているみたいだ

 

「うんがー」

 

「いいの⁇」

 

「うんがーばんぼー‼︎」

 

しおいは少女に甘える事にした…

 

 

 

 

 

「しおいちゃんは⁇」

 

「素潜りしたいって、朝一番にすっ飛んでった」

 

「あら…」

 

基地ではしおいの分の昼食も勿論準備されている

 

「そおいおしゃかなとってう⁇」

 

「でかいおしゃかな⁇」

 

「食べたら探しに行くか⁇」

 

「そおいさあしにいく‼︎」

 

「うみいく‼︎」

 

ひとみといよも心配する中、基地では昼食タイムが始まる…

 

 

 

 

「おいし〜‼︎」

 

「めっしめっし‼︎」

 

基地で皆が心配する中、しおいは島でおもてなしを受けていた

 

シンプルな焼き魚や、甘くて味の濃いフルーツを食べ、しおいは御満悦

 

「ど、どうしてここまでしてくれるの⁇」

 

「ばんぼー‼︎」

 

少女が指差す先には、動物の皮に描かれた絵があった

 

「あ〜…なるほど。この島ではサメは悪い奴で、しおいが倒したから⁇」

 

「ぼんばぼんば」

 

「ボンバボンバ」

 

少女、そして周りに居た島の住民が頷く

 

「あ、そうだ‼︎私はしおい‼︎」

 

「そ…お…い⁇」

 

「う、うんっ‼︎」

 

ここでもこう呼ばれるのか…と、一瞬思ったしおいだが、最近此方の方が定着して来ているので、まぁ良いかと思い、そのままにした

 

「貴方の名前は⁇」

 

「うんがー」

 

「あ、うんがーって名前なの⁉︎」

 

「ばんぼっ」

 

少女は頷く

 

うんがーはしおいが気に入った様で、次から次へと飲み物や料理を食べさせていた…

 

 

 

 

「マジで遅いな…」

 

「ちょっと心配ね…」

 

「そおいあっちにいう」

 

「うんあ〜あんお〜っていってう」

 

窓際に居たいよが急に指を差し、しおいが居るであろう方向を見始め、ひとみが訳の分からない言語を話し始めた

 

「場所分かるのか⁉︎」

 

「わかう‼︎」

 

「えいしゃんつえてて‼︎」

 

「よっしゃ。ちょっと迎えに行くか‼︎」

 

「気を付けてね⁇」

 

「行って来ます‼︎」

 

「「いってきあす‼︎」」

 

ひとみといよと共にタナトスに乗り、モニタールームに座る

 

「でっち〜、そおいのとこつれてて‼︎」

 

「れっち〜ろこいった⁇」

 

ひとみといよがゴーヤを探す

 

「ここでち」

 

「うぁ〜っ‼︎」

 

「ひ〜っ‼︎」

 

ひとみといよの背後で仁王立ちをしていたゴーヤ

 

「大人しくしてるでちよ…」

 

タナトスが動き始め、ひとみといよはいつもの定位置である椅子の上に立つ

 

「しおいは何してるんだ…」



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188話 一人の少女の安息地(2)

「ぐが〜…」

 

レイ達がしおいの捜索に出掛けた同時刻、しおいは島の家で昼寝をしていた

 

獲った獲物は網の中に入れ、海の中に放り込んである為、帰りにまた手にすれば良い

 

それよりしおいは満腹には勝てず、もうすぐ冬にも関わらずポカポカ陽気の中でうたた寝する方が優先だ

 

「うっほうっほ」

 

うんがーもしおいの横に来て、同じ様に昼寝を始める

 

「ん…」

 

しおいが目を覚ますと、横にはうんがーが眠っており、しおいは家を抜け出し、砂浜を探索してみる事にした

 

「未開の地なのかなぁ…」

 

言語が無い、ご飯も中々エスニック

 

そしてほとんどの住民が動物の皮や葉っぱで大切な部分を隠していた

 

まともな服を着ているのはしおい位だ

 

良い所だって勿論ある

 

ご飯はとっても美味しかったし、砂浜だって、ゴミ一つ流れていなくてとても綺麗だ

 

カラフルな鳥だっているし、何せ暖かい

 

「あっ‼︎何かある‼︎」

 

しばらく砂浜にそって歩いていると、これだけ綺麗な砂浜に似つかわしく無い、巨大な機械の残骸が放置されていた

 

しおいはそれに近付いてみた

 

何故かは分からないが、自分と同じ匂いがしたからだ

 

「なんだろ…」

 

残骸の周りをウロチョロしながら、しおいは想像を膨らます

 

「あ」

 

随分錆びていて大半が読めなくなっているが、何か文字が書かれているのに気が付いた

 

「え〜と…い‼︎よんぜろぜろ‼︎分からん…」

 

お気付きの方も居るかと思うが、ひとみといよが時々「わからん…」と言うのは、しおいのマネをしているからである

 

「そおいそおい」

 

「うんがー」

 

背中に銛を背負ったうんがーが来た

 

「これ何だろね⁇」

 

「うんがーうんがー」

 

「え、ちょっと‼︎」

 

うんがーはしおいの腕を掴み、残骸の中に入って行った

 

「うわぁ〜…」

 

中は所々穴が開いており、そこから太陽の陽が差し込んでいる

 

そして、所々に侵入している植物を見る限り、かなり前に流れ着いた様だ

 

「うっほうっほ」

 

「あ…」

 

うんがーが指差す先には神棚があった

 

何故かそこだけは綺麗にしてあり、不思議な感覚がしおいに纏わり付く

 

「うんがーうっほうっほ」

 

「うんがーちゃんは、ここから出て来たって⁇」

 

「うっほうっほ」

 

うんがーは頷く

 

「またまた〜。しおいを脅かそうとしてもダメだよ〜だ‼︎」

 

「うんがぁ…」

 

うんがーは悲しそうな顔をする

 

「アラララララララ‼︎」

 

「ばんぼ‼︎」

 

外で声がした途端、うんがーはすぐに振り返り、銛を構える

 

「どこ行くの⁇」

 

「ばんぼばんぼうっほうっほ‼︎」

 

しおいの手を掴み、うんがーは表に出た

 

「ばんぼーーーっ‼︎」

 

うんがーの声で、草の陰から数人の住民が出て来た

 

それぞれ槍や斧を構えており、臨戦態勢になっている

 

「そおい、ほっほほっほ」

 

「ん〜⁇」

 

うんがーが槍で差す方向には、見慣れた潜水艦が島に向かって来ていた

 

「タナトスだ‼︎」

 

「た、あ、と、す⁇」

 

「そう‼︎しおいのお友達‼︎」

 

「そおい、ともだち⁇」

 

「そう‼︎敵じゃないよ‼︎」

 

「ばばんばーーーっ‼︎」

 

「ババンバーーーっ‼︎」

 

うんがーは分かってくれた様で、うんがーが声を出した途端、周りの人は武器を降ろした

 

「そおい、ともだち、めっしめっし」

 

「いいの⁇」

 

「うっほうっほ」

 

うんがーの笑顔を見る限り、みんなにご飯を食べさせたいみたいだ

 

浜にタナトスが着き、しおいは歩み寄る

 

「レイ〜っ‼︎」

 

防水扉が開き、レイが降りて来た

 

「ったく。何処行ったかと思ったぞ⁉︎」

 

「えい⁇」

 

「そう‼︎しおいのお友達‼︎」

 

「えい、ともだち、めっしめっし」

 

「レイ〜‼︎ご飯食べよ〜って‼︎」

 

「分かった‼︎ちょっと待ってろ‼︎」

 

レイが降りて来た後に続き、ひとみといよ、そしてゴーヤが降りて来た

 

「オォ〜」

 

「サーモサーモ」

 

「ハハー…」

 

住民達がいきなり土下座を始めた

 

その相手はレイではなかった

 

「あにちてんの⁇」

 

「はは〜っていってう」

 

ひとみといよである

 

「そおい、さーもさーも‼︎」

 

「え⁇イルカの事⁇」

 

「さーも、うんがー、どっぽら」

 

「あ〜…なるほどね⁇」

 

うんがーの身振り手振りを見る限り、さーもはイルカ

 

そして、どっぽらと言うのは護ってくれる

 

イルカは私を護ってくれる

 

要はこの島ではイルカは神様である

 

その神様を模したぬいぐるみを持った二人が降りて来たので、住民は神の使いだと思い、土下座をしたのだ

 

「サーモ、メッシメッシ‼︎」

 

「めっしめっし‼︎」

 

「めっちてなんら⁇」

 

「たまけうおとこか⁇」

 

ひとみもいよも、何となく言っている事が分かる様だが、何か違う

 

「ゴーヤも食べたいでち‼︎」

 

「ゴーヤ⁇」

 

「ゴーヤメッシ⁇」

 

「メッシメッシ‼︎」

 

ゴーヤもご飯を食べさせて貰う事になり、先程しおいが食事した場所に向かう

 

「おぉ〜」

 

「くらものいっぱいあう‼︎」

 

ひとみといよの前には大量の食べ物がある

 

レイ達の前にも結構あるが、ひとみといよはそれ以上にある

 

そして待遇も違う

 

「たべていい⁇」

 

「メッシメッシ‼︎」

 

「いたあきます‼︎」

 

「いただきます‼︎」

 

早速ひとみといよが用意された物を口にする

 

「オォー…」

 

二人が食べる度に、住民から声が上がる

 

「ひとみといよを神様の使いだと思ってるみたいだね」

 

「な…なるほど…」

 

「えい、めっしめっし」

 

「あ、あぁ。頂きますっ‼︎」

 

レイも用意された物を食べる

 

「おっ⁇結構美味いな‼︎」

 

「おいし〜‼︎」

 

「くらものおいち〜‼︎」

 

ひとみといよにも好評の様だ

 

「ばんぼばんぼ」

 

「おっ。ありがとう」

 

木で作ったコップにジュースを注いで貰い、レイはそれを飲む

 

「サッパリしてるな⁇」

 

「うっほうっほ」

 

「ヤシの実か‼︎」

 

「あ、そうだレイ。この島で機械の残骸見つけたんだ‼︎」

 

「機械⁇こんな綺麗な所にか⁇」

 

「うん。何か、い‼︎何とか‼︎って書いてあったよ⁇」

 

「ちょっと見に行ってみるか…」

 

食事を終えた後、ゴーヤにひとみといよを任せ、しおいとうんがーと共に残骸の場所に来た

 

「嘘だろ…マジかマジかマジか‼︎」

 

残骸を見た瞬間、レイは目を見開き、駆け寄って行った

 

「はは…生きてる内に見れるなんて…」

 

レイは目を潤ませながら、残骸に触れる

 

「知ってるの⁇」

 

「あぁ…伊400だ…はぁ…」

 

レイは伊400に抱き着く様にもたれかかり、深呼吸をする

 

「俺がこの世で一番好きな潜水艦だ…タナトス…そんでロンギヌスの元になった艦だ」

 

「ほぇ〜…」

 

しおいは間の抜けた返事をする

 

「そおい、えい、うっほうっほ」

 

「そうだ。効果あるか分からんが…」

 

レイはポケットからきそリンガルを取り出し、耳に付けた

 

「しおい、れい、こっちこっち」

 

「おっ‼︎効いてる効いてる‼︎」

 

完璧な翻訳は無理だが、言ってる事がある程度は明確になった

 

そして、先程しおいに案内した神棚の前に着く



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188話 一人の少女の安息地(3)

「うんがー、ここ、うまれた」

 

レイがうんがーの方を見る

 

うんがーはレイに笑顔を送っている

 

「もしかして…船霊なのか⁇」

 

「そうそう。うんがー、ふなだま」

 

それを聞き、レイはうんがーの前で跪いた

 

「貴方の資料を頂いております…」

 

「ははは。れい、おもしろい」

 

「うんがーって名前は誰に付けて貰ったの⁇」

 

「みんな、うんがー、うんがー、よぶ」

 

産まれた頃から周りがうんがーうんがー言っているので、自分の事をうんがーだと思っている様だ

 

「名前ないのかぁ…」

 

「俺が付けてやるよ‼︎あ、いや、付けさせて下さい‼︎」

 

「れい、うんがー、なまえ、つける⁇」

 

「そう‼︎」

 

「どんな、なまえ」

 

「そうだな…しおん、なんてどうだ⁇」

 

最近レイもきそに感化されて来たのか、名付けが早い

 

それに、中々彼女にお似合いの気もする

 

「うんがー、しおん、なまえ⁇」

 

「そう‼︎」

 

「しおん、きにいった‼︎」

 

この世で一番尊敬する艦の笑顔を見て、レイも笑顔を送る

 

「俺は霊とか神とか信じてないが、貴方を見て、ちょっとは信じようと思ったよ」

 

「ねぇねぇ、レイはどうしてしおんが船霊だって分かるの⁇」

 

「ここさ」

 

しおんはこの島で唯一まともな服を着ており、腹部横に”イ400”と書かれていた

 

「それに、船員達が良く愛していたのが分かる。しおん、船霊の時、みんなしおんにお話してくれたりしたろ⁇」

 

「うんうん」

 

「じゃないと、何十年も経った後にこんな綺麗に神棚だけ残らん」

 

「しおん、せんそー、きらい。みんな、すきだった」

 

しおんは下を向いて、少しだけ当時の事を話してくれた

 

「しおん、みんな、すき。だから、さいご、しおん、うそ、ついた」

 

「嘘⁇」

 

「せんそー、おわた、かえろて。みんなかえてきた」

 

しおいもレイも、当時の事を嬉しそうに話し、神棚を愛おしそうに見るしおんを見ている

 

「せんちょー、しおんのうそ、しってた。でも、いうこと、きいてくれた。せんそー、ほんとにおわてた」

 

「嘘から出た誠…か」

 

「しおん、あめりかわたた。いろいろけんさ。けんさおわて、しおんここきた」

 

「優しい子だな…しおんは…」

 

「それからしおん、せんちょー、あった。せんちょー、あいにきた。しおん、せんちょーふれたい。だから、このからだ、ねがった。ねがいかなった‼︎」

 

しおいもレイも鼻をすする

 

そして、同じ事を思う

 

あぁ、愛だな…と

 

「しおん、せんちょーと、いっぱい、ごはんたべた。せんちょー、うれしい、しおんもうれしい。とても、たのしかた」

 

「その船長は⁇」

 

「せんちょー、おとし。いんきょ。そっとする。せんちょー、しおん、いやなおもいで。しおん、ここでくらす」

 

「逢わなくていいの⁇」

 

「だいじょぶ。せんちょー、しおんとやくそく、した。やすくに、あう。せんちょー、そこいく。しおんも、そこいく」

 

「なるほどな…」

 

「そのとき、しおん、せんちょー、およめ。ごはん、つくる‼︎いっぱいいっぱい、つくる‼︎」

 

最後の最後で、しおんは一粒だけ涙を零した

 

本当はしおんは船長に逢いたいのだろう

 

だが、それでも船長の身を重んじ、自分はここで暮らしている

 

「しおんはここに居て幸せか⁇」

 

「しおん、しあわせ‼︎みんな、やさしい‼︎しおんも、みんな、すきっ‼︎」

 

「そっか…」

 

「でも、しおい、ときどき、ここ、くる。しおんと、ごはん、たべる」

 

「うんうん‼︎しおんはしおいのともだだよ‼︎」

 

「うんうん」

 

レイは思う

 

何処と無くしおんとしおいは似ているなと

 

それもそうだ

 

しおんはしおいの姉だ

 

何十歳も歳は離れているが、姉である事に変わりは無い

 

「れい、しおい。ありがと。しおん、はなしきいて、くれて」

 

「此方こそ。良い経験になった」

 

「うんうん‼︎」

 

「うんうん」

 

三人は神棚に一礼した後、歴戦の勇者の中から出た

 

「ばんぼ〜‼︎」

 

「うんあ〜‼︎」

 

「でっち〜‼︎」

 

「バンボバンボー‼︎」

 

「アララララーッ‼︎」

 

家が立ち並ぶ場所に戻って来ると、ひとみ、いよ、ゴーヤが奉られ、住民はファイヤーダンスを踊っていた

 

「れい、かみさま、つれてきた。みんな、うれしい」

 

「い、生贄とかじゃないだろうな…」

 

「だいじょぶ。みんな、ふるーつ、たべる。ひとくる、うれしい。でも、ちょっと、ふあん、なる」

 

「なるほどね〜」

 

「しおい、れい、いこ‼︎しおん、ばんぼ〜、したい‼︎」

 

しおんに手を引かれ、しおん曰く神を奉る”ばんぼ〜”に参加する

 

その日、夜までばんぼ〜をし、皆鱈腹食べた後、流石に貴子さんの心配になるだろうと島を出る事になった

 

「みんな、また、くる」

 

「うんうん‼︎絶対来るよ‼︎」

 

「ありがとうな‼︎」

 

「バンボバンボー‼︎」

 

「ばんぼ〜‼︎」

 

「あんお〜‼︎」

 

住民達から熱烈な別れの踊りを目にしながら、獲物を入れた網を持ったしおいを乗せたタナトスは島を後にした…

 

 

 

 

 

「おかえりなさい‼︎」

 

「ただいま‼︎随分遅くなった‼︎」

 

「たらいまばんぼ〜‼︎」

 

「かえってきたあんお〜‼︎」

 

「あらっ⁉︎どうしたの可愛いの付けて‼︎」

 

ひとみといよは花で作った首輪や、頭にも花の王冠が乗ったままでいた

 

「ばんぼばんぼ〜いってた‼︎」

 

「ふう〜つたえた‼︎」

 

「ふふっ、楽しかったみたいね⁇」

 

島に行った皆、それぞれが良い経験を積んで帰って来た

 

 

 

 

 

 

一つ問題があるとすれば、しばらくひとみといよから「ばんぼ〜」や「うっほうっほ」が外れなかった事だけだ…




しおん…先住民族娘

基地から少し離れた場所にある先住民族が暮らす離島にいる艦娘

先住民族の言葉を話し、きそリンガルでも辛うじて分かる位の言語を話す

活発で人見知りしない良い子だが、サメには容赦無い

正体は伊400の船霊で、自分を大切に扱ってくれた船長に少し恋心を抱いていた


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189話 連合の白い悪魔(1)

さて、188話が終わりました

今回のお話しも新キャラが出て来ます

何ッ⁉︎サブタイトルが何処かで聞いた事があるだと⁉︎

そんな事は無い‼︎


「照さ〜ん‼︎ご飯にしましょ〜っ‼︎」

 

「分かった〜‼︎」

 

この日も照月は大湊のタンカー部隊の護衛に就ていた

 

今日は神威Mk.2に呼ばれ、照月は昼食を取る

 

「いっただっきま〜す‼︎」

 

船員一同と一緒に、照月はドカ盛りのチャーハンを食べ始める

 

「あれ⁇ボスは⁇」

 

一瞬でチャーハンの半分が消えた時、照月は気付く

 

神威Mk.2の艦長であるボスが居ない

 

いつもなら神威で食事を取っていたら声を掛けてくれるのに…

 

「ボスは妊娠中なんです」

 

船員の一人がボス不在の理由を照月に伝える

 

「ボス、赤ちゃん出来たの⁇」

 

「えぇ。ガンビアの岩井艦長との子供ですよっ」

 

「いいなぁ〜…照月も赤ちゃん見たいなぁ〜」

 

と、言いつつ、照月はチャーハンを食べる

 

照月は食欲には勝てないのです

 

 

 

 

3日後、基地に一報が入る

 

「お〜お〜‼︎岩井さんとボスが結婚か‼︎」

 

「照月にも見せて‼︎」

 

食堂の椅子に座っていた俺の横に照月が座り、各基地の情報が載っている新聞を照月にも見せる

 

「大湊の岩井艦長&ボスが結婚して、ついでに子供が産まれたらしい」

 

「へぇ〜っ‼︎照月も赤ちゃん見たいなぁ〜‼︎あっ、そうだ‼︎照月、ボスと岩井さんにお祝いしなきゃ‼︎行って来ま〜す‼︎」

 

「夕ごは…いねぇ…」

 

振り向いた時には、既に照月は居らず…

 

今日の照月は朝食が軽め(丼茶碗12杯の白米、赤ウインナー36本、目玉焼き24枚)なので、足も速い

 

 

 

 

照月はガマ口財布と、麻のお買い物袋を持ち、タウイタウイモールに向かっていた

 

「あっ‼︎秋津洲タクシーだぁ‼︎」

 

口を開けながら上を向くと、上空に秋津洲タクシーが見えた

 

「お〜い‼︎照月もの〜せ〜てっ‼︎」

 

だが、秋津洲タクシーは照月に気付かない

 

「むっ…」

 

長☆10cm砲ちゃんに弾を込め、秋津洲タクシーを狙う

 

「撃てぇ‼︎」

 

長☆10cm砲ちゃんの弾は秋津洲タクシーのコックピットを掠める

 

「うわっ‼︎何かも⁉︎」

 

操縦席にいた秋津洲は、いきなり下から飛んで来た銃弾に驚く

 

下を見ると、海上でピョンピョン跳ねている照月が見えた

 

「お〜い‼︎照月も乗せてよぉ〜っ‼︎」

 

「照月ちゃんかも‼︎ちょっと待つかも‼︎」

 

秋津洲は撃たれてはかなわないと思い、すぐに二式大艇を照月の近くに降ろす

 

「こんにちは〜‼︎」

 

秋津洲タクシーは回送だった様で、中には誰もいない

 

「シートベルト締めるかも」

 

照月は長☆10cm砲ちゃんを横に置き、シートベルトを締める

 

「締めたよ‼︎」

 

「よし、飛ぶかも‼︎」

 

照月はルンルン気分で二式大艇の窓から外を見る

 

が、中々飛ばない

 

「秋津洲さん。二式大艇飛ばないよ⁇」

 

「ちょ、ちょと待つかも‼︎あっれ〜…」

 

照月が乗った途端、二式大艇は宙に浮かなくなった

 

エンジンは既に掛かっており、一応前には進んでいる

 

「早く早く〜‼︎」

 

段々と照月の機嫌が悪くなる

 

「ぐぬぬ…こっ、こうなったら仕方無いかも‼︎大艇ちゃん‼︎ニトロ使うかもニトロ‼︎」

 

秋津洲は操縦席の”にとろ”と書かれた大きめのボタンに向かってゲンコツを振り下ろす

 

「おほっ‼︎来た来た‼︎」

 

操縦席付近では白煙

 

プロペラ部分では黒煙を上げながら、二式大艇は加速した後、ようやく宙に上がった

 

「うわぁ〜‼︎かもめさんだぁ〜‼︎」

 

二式大艇の下では、海面付近でカモメ達が飛んでおり、照月はヨダレを垂らしながらそれを見る

 

「照月ちゃん、タウイタウイモールでいいかも⁇」

 

口を開けたままカモメを見ていた照月は、すぐに秋津洲の質問に答えず、ほんの数秒間を置いて、振り向いてから答えた

 

「あ、うんっ‼︎ボスと岩井さんに赤ちゃんが産まれたから、照月、お祝いを買いに行くの‼︎」

 

「なるほどなるほど…」

 

話が終わり、照月はタウイタウイモールに着くまでずっと窓の外を見ていた



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189話 連合の白い悪魔(2)

タウイタウイに着き、照月は二式大艇から降りる

 

「秋津洲さん、ありがとう‼︎」

 

「回送中だったのは内緒かも‼︎」

 

そう言って、秋津洲は照月から代金を取らなかった

 

「さてっ。照月はお買い物だね‼︎うんっ‼︎」

 

照月はカゴを持ち、早速赤ちゃん用品のコーナーに向かう

 

「え〜とぉ…粉ミルクでしょ〜⁇紙オムツでしょ〜⁇あっ‼︎タオルとガーゼもいるよね‼︎」

 

カゴに放り込まれて行くベビー用品の数々

 

普段間の抜けた感じがする彼女であるが、意外にも赤ちゃん用品の事に詳しい

 

「え⁇お洋服はどうするかって⁇」

 

足元にいる長☆10cm砲ちゃんが手を振りつつ、照月に服はどうするか伝える

 

「お洋服はサイズがあるから、また今度にしよう⁇ありがとね〜」

 

最後にパックされた離乳食を数個カゴに放り込んだ後、照月はレジに並ぶ

 

「お願いしま〜す‼︎」

 

商品が精算されている最中、照月はガマ口財布を出し、支払いの準備をする

 

「15400円になります」

 

「はいっ‼︎」

 

照月はガマ口財布から一万円札を二枚取り出す

 

普段照月は哨戒任務や護衛任務に就いているので、そこそこのお金は持っている

 

時折飛び込んで来る特殊任務(不審船撃退、敵基地食料庫壊滅)の手当は横須賀で管理している

 

横須賀さんには手は出せない場所にあるので安心して頂きたい

 

お釣りを貰った照月は、お札を財布の中に入れ、小銭は手に持ったまま、パンパンになった麻袋を持ち、タウイタウイモールを出て来た

 

「あっ‼︎あったあった‼︎」

 

外にあった出店を見るなり、照月は走り寄る

 

「いらっしゃい‼︎」

 

「フランクフルト6本下さい‼︎」

 

最上のスティックミートの出張店だ

 

元々最上はここでこの店を出していたが、横須賀に自分の店を持ったので、ここは出張店になり、代わりにタウイタウイモールの職員がここに居る

 

「はいっ‼︎」

 

「ありがと〜‼︎美味しそぉ〜‼︎」

 

片手に3本ずつフランクフルトを持ち、照月はご満悦

 

照月は1本のフランクフルトを一口で食べた後、船着場に来た

 

「イカさんだぁ‼︎お〜い‼︎」

 

「照月ちゃん。お買い物かい⁇」

 

「うんっ‼︎照月、今から大湊に行くの‼︎」

 

「そっかそっか。乗って行くかい⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

高速艇に乗った照月は麻袋を置き、景色を見ながらフランクフルトを胃に落とす

 

照月は高速艇が好きで、こうして乗れる機会を普段から楽しみにしている

 

それに今日は運転手がイカさん

 

数いる高速艇の運転手の中で、イカさんだけは照月を乗せても普通の運転が出来る

 

照月は大湊に着くまでフランクフルトを全部胃に落とし、キチンと備え付けのゴミ箱に棒を捨てる

 

「さっ、着いたよ」

 

「イカさんありがとう‼︎」

 

「また声掛けてね⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

大湊に降り立ち、照月は麻袋を肩に掛け、執務室を目指す

 

「コンコン。照月です」

 

キチンとノックをする照月

 

一時期は”恐怖のノック”と言われた行為も、最近は影を潜めている

 

「照月ちゃん⁇開いてるよ」

 

「ボスと岩井さんにお祝いに来ました‼︎何処にいますか⁉︎」

 

「自室に居ると思うよ。ありがとね⁇」

 

「うんっ‼︎行って来ま〜す‼︎」

 

照月が執務室から去り、棚町、そして鹿島が安堵の溜息を吐く

 

「照月ちゃんを前にすると背筋が伸びるな…」

 

「普段からお世話になってる上、怒らせたら基地壊滅間違い無しですからね…」

 

 

 

 

「え〜とぉ、岩井さんのお部屋は〜…あった‼︎」

 

岩井さんの部屋の前に着き、早速ノックをする

 

「コンコン。照月です」

 

「照月ちゃん⁉︎開いてるよ‼︎」

 

「失礼しま〜す」

 

照月が中に入ると、中々広いリビングに来た

 

「いらっしゃい照月ちゃん。ここ来るのは初めてだったね⁇」

 

「うんっ」

 

岩井さんの言葉に笑顔を送る照月だが、何故か照月は控えめに返事をした

 

「おやおや照月ちゃん‼︎いらっしゃい‼︎」

 

「ボス。わぁ〜っ‼︎」

 

ボスの腕の中には、ボスに似た銀髪の子が抱かれており、指を咥えながら照月をジーッと見ている

 

赤ちゃんが起きているのを見た後、照月は声を普通のトーンに戻した

 

照月は赤ちゃんが寝ているかも知れないので、気を使って声を控えめにしていたのだ

 

「お名前は⁇」

 

「この子は”涼月”。照月ちゃんから一文字貰ったんだよ⁇」

 

「わぁ〜っ‼︎嬉しい〜っ‼︎」

 

ボスと岩井さんは、子供に照月から一文字貰った名を付けてくれていた

 

照月が居なければ、ボスと岩井さんは繋がっていなかった…

 

ボスと岩井さんは、その感謝を表す為に、自分の子に”涼月”と名付けた

 

「抱っこしてみるかい⁇」

 

「う、うんっ‼︎長☆10cm砲ちゃん、ちょっとお願い‼︎」

 

照月は生唾を飲んだ後、長☆10cm砲ちゃんに麻袋を持たせ、ボスから涼月を受け取る

 

「わぁ〜っ…」

 

涼月を抱っこした照月

 

照月に抱っこされている涼月

 

両者共、互いの顔を見て微笑む

 

涼月は照月の顔に手を伸ばし、頬を触ったり、照月の大きな胸に軽く触れたりしている

 

「照月も赤ちゃん欲しいなぁ〜…ボス、岩井さん、ありがとう‼︎」

 

涼月をボスに返し、長☆10cm砲ちゃんから麻袋を貰う

 

「照月、お祝い持って来たの‼︎はいっ‼︎」

 

「良いのかい⁉︎普段からお世話になってるのに、こんな事までして貰って…」

 

麻袋ごと岩井さんに渡すと、岩井さんは一度躊躇った

 

「お祝いはキチンとしなきゃなんだよ‼︎」

 

「アンタっ。ありがたく貰っておきなっ」

 

「んっ。有り難く頂戴するね⁇」

 

「うんっ‼︎じゃあ、照月はこれで帰るね‼︎」

 

「ちょっとちょっと‼︎ご飯位食べて行きな‼︎」

 

「い〜のい〜の‼︎照月、赤ちゃん見てお腹いっぱいになっちゃったんだぁ〜‼︎じゃあね〜‼︎」

 

照月は本当に岩井さんの部屋から出た

 

「気を使わせちゃったな…」

 

「優しい子だからなぁ…ほら、見て」

 

岩井さんが麻袋の中をボスに見せると、中にはベビー用品が詰め込まれており、ある程度は凌げるセットが出来上がっている

 

「落ち着いたら、照月ちゃんに鱈腹食べさせてやろう。世話になりっぱなしだ…」

 

「ホント、出来た子だねぇ…」

 

 

 

帰りの高速艇の中で、照月は長☆10cm砲ちゃんを抱っこしながら、涼月の事を思い出していた…



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189話 連合の白い悪魔(3)

涼月が産まれてから、照月は時々一人で大湊やガンビア率いる輸送連隊に足繁く通う様になった

 

隊長にも俺にも何処に行くかキチンと言っている為、誰も文句の一つも出なかった

 

もしかすると照月にとって、ようやく見付けた”生き甲斐”なのかも知れない…

 

数週間後…

 

「なるほどな…」

 

大湊に来ていた俺は、一人の少女から聴診器を外す

 

「あの…涼月、何処か悪いんですか⁇」

 

聴診器を当てていたのは、随分と大きくなった涼月

 

数週間で照月と同じ位の体格になり、言葉も流暢に話せている

 

「お父さんとお母さんとお話があるから、照月の所に行って待っててくれるか⁇」

 

「はい」

 

涼月を医務室から出し、ボスと岩井さんを椅子に座らせる

 

涼月の急成長で考えられる事は一つ

 

「どっちか、艦隊化計画の手術を受けてるな」

 

「あぁ、それなら私かな」

 

そう言ったのはボスだ

 

岩井さんもそれを知っているみたいだ

 

「涼月にも艦隊化計画の影響が及んでる。って言っても、そんなに大きなデメリットは無い」

 

「良かった…」

 

「病気じゃなかったな…」

 

ボスに続き、岩井さんも安堵の溜息を吐く

 

「まっ⁇強いて言うなら、子育ての順序を吹っ飛ばすから、小さい時の子育てを経験出来ない事位か⁇」

 

「いいさ。涼月は私達の子供である事に変わりは無いよっ」

 

「私達が願うのは、照月ちゃんの様に健康で人を思う子に育って欲しい…それだけです」

 

「なるほどっ…まっ、健康に問題は無い。後は食ったりお話したりと…まぁ、普通の子育てだな⁇」

 

「あ。それとマーカスさん。一つお願いが」

 

「なんだ⁇」

 

ボスと岩井さんは顔を見合わせ、互いに頷いた…

 

 

 

 

 

「ホントに大丈夫なの⁇」

 

艤装を付け、何故かリュックを背負った照月が不安そうにしている

 

俺はその横で持って来た艤装の最終確認を行う

 

数日前に涼月の検査を終えた後、ボスと岩井さんから一件の依頼を受けた

 

”涼月の艤装を造ってやって欲しい”

 

俺は流石に断ろうとした

 

だが、涼月の両親二人の意見は、あの子の意見を尊重してやって欲しいとの事

 

一応艤装は造ってはみたが、上手くいくかどうか…

 

「何事も経験さ。照月の言いたい事は分かる。早すぎる、だろ⁇」

 

「うん…」

 

「本人きってのお願いなんだ。それにっ…」

 

照月の頭を撫でる

 

「照月が付いてるから大丈夫だろ⁇」

 

「うんっ‼︎照月、涼月ちゃんを護ってあげるんだぁ‼︎」

 

照月が嬉しそうにガッツポーズをした時、涼月が来た

 

「引き返すなら今だぞ⁇」

 

「大丈夫です。涼月も、お照さんと共にお母さんやお父さんを護りたいんです」

 

涼月の目は本気だ

 

これ以上、引き止めてしまうとこの子の意思を曲げてしまう事になる

 

「分かった。なら引き止めはしない。艤装を付けよう」

 

新品の艤装を涼月に装着して行く

 

とは言え、この艤装はデータを取る為の試作艤装

 

どれも初心者でも簡単に扱える艤装であるが、威力は抑えてある

 

主砲は照月と秋月と同じ手甲に巻くタイプの主砲

 

そして、意思は無いが自動で狙いを定めて銃弾を撃ち出してくれる、長☆10cm砲ちゃんのレプリカを一つ

 

もう一つはまだ無く、形こそ長☆10cm砲ちゃんだが、中はケースになっている

 

因みに中には涼月専用の武器になるであろう艤装が入っている

 

「照月、後は任せたぞ⁇」

 

「うんっ‼︎涼月ちゃん、照月と一緒にスカイラグーンまで行ってみよっか‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

照月は艤装を付けた涼月に手を伸ばし、海の上に立たせ、ゆっくりと進み始めた

 

「上手上手‼︎」

 

「おおおおお…」

 

照月の補助を受けた涼月の足はプルプルしているが、段々慣れて来たのか、軽い補助だけで海上に立てる様になった

 

「うんっ‼︎もう大丈夫だね‼︎」

 

「おぉ〜…凄いです‼︎」

 

数十分もすると、涼月は補助無しで海上を行ける様になった

 

涼月の姿を見て、照月は俺に連絡を入れる

 

「お兄ちゃん‼︎照月、このまま涼月ちゃんとスカイラグーン目指すね‼︎」

 

《了解した。俺もグリフォンで追い掛ける》

 

照月の無線を聞き、ゴールであるスカイラグーンを目指す為、グリフォンに乗る

 

 

 

 

「お照さん」

 

「ん〜⁇」

 

「スカイラグーンとは⁇」

 

「スカイラグーンはね、お兄ちゃんみたいなパイロットの人が休憩したり、照月達がジュース飲んだり、お菓子食べたりする所なんだぁ‼︎」

 

「ジュース…お菓子…んっ‼︎」

 

ジュースと聞いて、涼月の顔に力が入る

 

「ん⁇」

 

スカイラグーン到着まであと半分位まで来た時、照月の目に一隻の船が目に入った

 

「ちょっと棚町さんに聞いてみよ〜っと‼︎」

 

照月は無線を棚町に繋げながら、船に近付く

 

涼月もそれに着いて行く

 

《此方大湊基地。どうしましたか⁇》

 

「照月の居る場所分かりますか⁇」

 

《ちょっと待ってね…え〜と。うん、分かるよ》

 

「今日って、この辺りに漁を許可してる船は居ますか⁇」

 

《う〜ん…居ないね。不審船か⁇》

 

「うん。凄い数のお魚獲ってるよ‼︎」

 

《了解。船員をふん縛ってくれるかい⁇》

 

「分かった‼︎」

 

照月は無線を切ると、腕をグルグル回す

 

「涼月ちゃん。照月が護ってあげるから、照月のお仕事、一緒にしてみる⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

照月は涼月を連れて、密漁船に近付く

 

この後、涼月を連れて行った事を後悔する事になるとも知らずに…

 

 

 

 

密漁船に近付いた照月は、乗組員に聞こえる様に声を上げる

 

「何やってるのぉ〜っ‼︎」

 

「…」

 

乗組員は照月の声に耳を傾けず、密漁を続ける

 

「勝手にお魚獲ったらダメなんだよ〜っ‼︎」

 

「…」

 

それでも耳を傾けず、黙々と漁を続ける

 

「そっかそっかぁ〜。照月を無視するんだね〜。そっかそっかぁ〜」

 

照月は笑いながら、背負っているリュックを肩から外す

 

「長☆10cm砲ちゃん持って‼︎」

 

長☆10cm砲ちゃんにリュックを持たせ、中を開ける

 

照月はリュックの中から何かを取り出し、火を点け、密漁船へ投げた

 

「えいっ‼︎」

 

密漁船に投げ込まれた物を見て、船員は慌てふためき、海の中へ飛び込む

 

そして、船上で爆発が起きる

 

「何しやがる‼︎」

 

「死んじまうだろ‼︎」

 

「照月、最後忠告したよ‼︎」

 

「いつ‼︎」

 

「照月、お魚獲ったらダメなんだよぉ〜って言ったよ‼︎」

 

「この野郎…」

 

船員の一人が隠し持っていたピストルを照月に向ける

 

「えいっ‼︎」

 

照月は相変わらずゲンコツでピストルを破壊する

 

「なっ…」

 

「抵抗しないで。照月、命までは取らないから」

 

そう言って照月は救命ボートの紐を手甲銃で切り、海上に落とした

 

「さっ‼︎死にたくないなら乗って乗って〜‼︎」

 

「従おう…」

 

船員達は救命ボートに乗った後、ようやく諦めが付いたのか、下を向いたまま話さなくなった

 

「船は残ってる。またやればいいさ」

 

「さぁっ‼︎照月と一緒にお仕事しよっか‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

「涼月ちゃんは左ね。照月は右っ‼︎」

 

照月はリュックから先程と同じ型のダイナマイトを取り出し、ライターで火を点ける

 

「それっ‼︎」

 

「えいっ‼︎」

 

二人が投げたダイナマイトは密漁船に当たった数秒後、爆発を起こす

 

「これは凄いです‼︎」

 

「でしょ〜⁉︎照月、これ大好きなんだぁ‼︎」

 

照月も涼月も笑顔でダイナマイトを密漁船に投げ続ける

 

「やっ、やめろ‼︎頼むから‼︎」

 

船長であろう人物が悲鳴をあげる中、数分もしない内に無人になった密漁船は木っ端微塵になった

 

「不審船は何処の国だろうと、照月は爆破するよ‼︎分かった⁉︎」



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189話 連合の白い悪魔(4)

「なんて事しやがる‼︎」

 

「このクソアマァ‼︎」

 

「ふ〜ん。そんな事言って良いんだぁ〜」

 

照月は救命ボートに寄り、ダイナマイトに火を点ける

 

「ど〜しよっかなぁ〜⁇どか〜んしちゃおっかなぁ〜⁇ふふふ…」

 

照月はダイナマイトを両手に持ち、面白半分で救命ボートの真ん中に置こうとする

 

「わ、分かった分かった‼︎悪かった‼︎」

 

「に、二度としません‼︎」

 

船員は大パニックを起こし、照月から離れようと救命ボートの隅に寄る

 

「そう⁇なら照月は許してあげる」

 

「ですが、涼月は許すかどうか‼︎」

 

涼月は救命ボートに掴まり、猛スピードでその辺を駆け巡り始めた

 

「涼月ちゃん分かってるぅ‼︎」

 

「少しお灸を据えなければ、貴方がたは反省しません‼︎」

 

「や、やめてくれ‼︎」

 

「お、お願いだ‼︎たっ、助けてくれーっ‼︎」

 

結局涼月は数分間に渡り救命ボートを激しく揺らしたり、猛スピードで駆け回った

 

「こっ…降参れふ…」

 

「参りました…」

 

遂に船員達が白旗を上げた

 

「凄い凄い‼︎上出来だよ‼︎」

 

「お照さん。私、あの爆弾好きです‼︎」

 

「ダイナマイトさん気に入った⁇そっかそっか‼︎」

 

涼月はダイナマイトの爆発音が大変気に入った様だ

 

そしてこの時、第二のボンバーガールが産まれて”しまった”のを、もう少し後で気付かされる…

 

 

 

 

スカイラグーンに着き、照月涼月の二人は早速密漁船の乗組員の身柄をSS隊に引き渡す

 

「密漁及び不法侵入容疑で逮捕する」

 

「そこのアンタ。最後に聞かせてくれないか⁇」

 

船長が見つめる先には照月がいる

 

「なぁに⁇」

 

「どうしたらあんなに強くなれる⁇」

 

「いっぱい食べて、いっぱい人とお話ししたら強くなれるよ‼︎」

 

「そうか…」

 

「行くぞ」

 

何かを満足した船長はその後すぐ船員と共にSS隊に連れられ、一旦トラック基地に送られた…

 

「さぁっ‼︎ここがゴールだよ‼︎」

 

照月が喫茶ルームの扉を開ける

 

「涼月‼︎良く頑張ったねぇ‼︎」

 

「初仕事じゃないか‼︎」

 

「ふふふっ」

 

ボス、そして岩井さんにナデナデされてご満悦の涼月

 

「照月もよく頑張ったなっ」

 

「うんっ‼︎」

 

照月の頭を撫でた後、涼月に寄る

 

「涼月。どうだった⁇」

 

「はいっ‼︎とても勉強になりました‼︎」

 

「その顔を見ると分かる。よしっ‼︎涼月専用の艤装を造ってやる‼︎気に入った艤装はあるか⁇」

 

「はいっ‼︎ダイナマイトさんです‼︎」

 

「お、おぉ…」

 

満面の笑顔で答える涼月に軽く引く

 

これはトンデモナイ子を目覚めさせてしまったのではないか…

 

「お、オーケー‼︎任せな‼︎」

 

その後、涼月の艤装を外した後、涼月達三人は大湊へと戻って行った…

 

「だ、ダイナマイトが気に入ったか…」

 

 

 

 

 

トラック基地”アルカトラズ”

 

「二度と密漁はしません‼︎神に誓います‼︎」

 

送られて来た密漁者は皆、トラックの執務室でトラックさんとSS隊のメンバーの前で土下座をしていた

 

どうやら照月涼月を見て心を入れ替えた様子だ

 

「まぁ…そこまで反省しているのなら…」

 

「あの”白い悪魔”に逆らったら、次は本当に死にます‼︎仕事も真面目に探します‼︎」

 

「仕事が無いのか⁇」

 

「はい…職が無いので人の道に外れた行為をしてしまいました…」

 

「監視付きの条件で護衛任務に就ける様に手配してみましょう」

 

今まで船長含めたトップ三人が話していた中、ようやくアレンが口を開く

 

「手配はするが…次同じ行為をしたりでもしたら…」

 

「白い悪魔を呼んで爆破…かな⁇」

 

「真面目に働きます‼︎お願いします‼︎白い悪魔だけは‼︎」

 

健吾も段々人の脅し方が分かって来た様だ

 

「分かりました。まぁ、罪は罪ですが、此処に居る彼等よりよっぽど反省の余地はありそうですから、横須賀基地からの許可も降りるでしょう。それまでは此処でトラックさんと共に動いて下さい」

 

「畏まりました‼︎」

 

密漁者達は威勢の良い返事を返した

 

 

 

 

一週間…

 

「今日からお世話になります‼︎」

 

大湊の執務室で、中々立派な制服を着た元密漁船船長である”レーダー艦艦長”と、その部下が居た

 

「まさか軍艦を操縦出来るとは…」

 

「あはは…攻撃艦には乗艦した事はありませんが、レーダー艦は何度か…」

 

棚町は船長の経歴を見て驚いていた

 

彼もまた、あの反攻作戦で行き場を失い、他同様海賊行為を働いていたのである

 

「提督。お父さんから任務完了の御報告です」

 

「ヒッ…」

 

書類を持って来た涼月を見て、レーダーさんは肩を上げ、部下達は冷や汗を流す

 

「お話しは伺っております。宜しくお願いしますね⁇レーダーさん⁇」

 

「はっ、はひっ…こちらこしょ…」

 

レーダーさんは白眼を剥きかけながら、歯をカチカチ言わせている

 

「大丈夫。涼月、いきなりは爆破しません」

 

涼月はレーダーさんの鳩尾を人差し指で上から下へとなぞる

 

「ですが…逆らったらいつの間にか体内に埋め込んだ爆発物が…バンッ‼︎ですよ⁇」

 

急に大声を出し、レーダーさんを脅す

 

「はひっ”レディ”…」

 

「お照さんやお父さん、お母さんと一緒に、涼月を…護って下さいね⁇」

 

最後に涼月は上目遣いをしてレーダーさんを見た

 

「もっ…勿論です‼︎」

 

「では、宜しくお願いします」

 

涼月が執務室を出た瞬間、レーダーさんは膝を落とした

 

「れっ、レディには逆らえん…」

 

 

 

駆逐艦”涼月”が産まれました‼︎味方艦隊に加わります‼︎

 

レーダーさん一同が味方艦隊に加わります‼︎




涼月…心優しき正義の爆弾厨

ボスと岩井さんの間に産まれた女の子

涼月の名は、二人がお世話になっている照月から一文字貰っている、由緒ある名前

照月を姉の様に慕い、ガンビア率いる輸送連隊の護衛を務める

ダイナマイトや時限爆弾等の高火力爆発物が大好きであり、日々独学で研究を行っている

不審船や密漁船を見つけると、照月と共に何処の国の船であろうと必ず爆破する





レーダーさん…ガチムチおじさん

密漁している所を、照月涼月コンビの”襲撃”に遭い、船を木っ端微塵に爆破され、行き場を失う

その正体は単冠湾のイージスさんに続き、反攻作戦で行き場を失った艦の乗組員達であり、レーダー艦のスペシャリストが揃っている

皆レーダーを扱える為、密漁も捗っていたのではないか⁇と言われている

涼月に体内に爆弾を埋め込まれたらしく、逆らう事が出来ない


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190話 オンナノタタカイ(1)

さて、189話が終わりました

今回のお話はちょっとグロいシーンがあります

そして、榛名の秘密も明らかになります

多分、泣けるお話です


朝5時…

 

「ふぁ…」

 

アクビをしながら食堂に来た

 

「おあよ‼︎」

 

「たかこしゃんきて‼︎」

 

「ん〜⁇」

 

二人に足にくっ付かれ、窓際に向かう

 

最近、ひとみちゃんといよちゃんの方が起きるのが早い

 

早く起きては定位置の窓際に座って外を見ている

 

「もこもこふってうの」

 

「あた⁇」

 

「あらっ。雪降って来たのね…よいしょ〜」

 

私に抱っこされた二人は、降っている雪に、小さな手を伸ばして取ろうとしている

 

二人からすれば、握りやすいもこもことした綿に見えるのだろう

 

「これは雪って言うのよ⁇」

 

「ゆき⁇」

 

「あたちあう⁇」

 

「そうよ〜。とっても冷たいの。今日はお外はお休みね⁇」

 

「しゃむいのいや‼︎」

 

「ぷうぷう〜ってすう‼︎」

 

「ふふっ。あったかい牛乳淹れたげるっ」

 

二人を降ろし、これまた定位置の机の前に座らせる

 

「さっぶ‼︎」

 

マーカス君も起きて来た

 

「おはよう。あったかいコーヒー飲む⁇」

 

「お願いします…くぁ…」

 

マーカス君もアクビをする

 

「えいしゃんおあよ‼︎」

 

「んっ。おはよう」

 

「ゆきふってう‼︎」

 

「なにっ⁉︎もうそんな季節か…」

 

マーカス君も窓際に立ち、雪を見つめる

 

「あらっ⁇」

 

こんな朝早くに、珍しく無線が鳴る

 

「俺が出る」

 

「お願いするわ」

 

マーカス君が無線に出てくれたので、私はコーヒーと牛乳を淹れる

 

「此方横須賀分遣隊。どうした⁇」

 

「はいっ」

 

「あいがと」

 

「あいがと」

 

ひとみちゃんといよちゃんの前に、あったかい牛乳を淹れたコップを置く

 

マーカス君の近くに熱いコーヒーを淹れたコップを置くと、無言で一礼した後、一口飲んでくれた

 

「場所は⁇」

 

コーヒーの入ったコップを置き、近くにあったメモ用紙とペンを取ると何かを書き始めた

 

「オーケー、了解した。救援を出す。近場の遠征部隊も救助に回る様に伝達してくれ」

 

無線を切った後、マーカス君は一度部屋に戻り、革ジャンを羽織って戻って来た

 

「どうしたの⁇」

 

「横須賀からだ。スカイラグーンの近くで、タンカーと民間の客船が衝突だとよ」

 

「行って大丈夫なの⁉︎」

 

「現場の指揮を頼まれたんだ。ちょっと出掛けて来る」

 

「これだけでも持って行って⁇」

 

「ありがとう。行き道で飲むよ」

 

出掛けようとするマーカス君に、コーヒーが入った水筒を渡す

 

「ひとみといよはお留守番だな⁇」

 

「はよかえってこいお〜」

 

「き〜つけてな〜」

 

マーカス君が飛んで行くのを見送り、食堂に戻る…

 

 

 

 

 

 

「ったく…譲り合いしねぇからこんな事になるんだよ‼︎」

 

《創造主様の仰る通りです》

 

グリフォンが飛び立つ少し前、たまたまネットの海にいたクラウディアを捕まえ、グリフォンに載って貰った

 

「一度現場の確認に向かう。その後、スカイラグーンに着陸してくれ」

 

《畏まりました》

 

クラウディアの操縦で、事故が起きた場所へと向かう

 

「お〜お〜、派手にやってくれたなぁ…」

 

無線で連絡を受けた座標に到着

 

眼下には転覆した民間の船舶、そして今にも傾きそうなタンカーが見えた

 

タンカーの側面には大穴が開いているが、舵やらダメコンを弄れば辛うじて立て直せそうだ

 

《民間の船舶にも、タンカーにも多数の生存者の反応があります》

 

「オーケー。スカイラグーンに行くぞ。俺を降ろしたら、上空から情報を集めてくれ」

 

《畏まりました。携帯端末に情報を逐一送信いたします》

 

「良い子だ」

 

スカイラグーンに着き、グリフォンを降りる

 

《お気を付け下さい、創造主様》

 

「ただの事故さ。心配無い」

 

「マーカスサン‼︎」

 

クラウディアを降りてすぐ、既に事故の事を耳にした集積地が待っていた

 

「集積地。お前の会社の出番だぞ‼︎」

 

「ピーティータチヲハケンシタ。マーカスサン、ゲンバノシキハマカセル」

 

「オーケー。俺の足あるか⁇」

 

「ホバークラフトガアル。ツカッテクレ」

 

「おっしゃ‼︎」

 

スカイラグーンに停泊していたホバークラフトに乗り、エンジンを掛ける

 

「ぷと‼︎」

 

「ぷっと‼︎」

 

ホバークラフトの横で行き遅れた数人のPTが俺を見ている

 

「乗るか⁇」

 

「「ぷとぉ‼︎」」

 

PT達を後ろに乗せ、運転席にタブレットを固定し、現場へと繰り出す

 

《通信を繋ぎます》

 

タブレット越しにクラウディアの声が聞こえる

 

「了解。此方マーカス。どうした⁇」

 

《おいマーカス‼︎何処に行きゃいいダズル‼︎》

 

「榛名か⁉︎何処にいる⁉︎」

 

《オメーの右側ダズル‼︎》

 

「ぷと‼︎」

 

「おっ、サンキュー‼︎」

 

片手でホバークラフトを運転しつつ、もう片手でPTから受け取った双眼鏡で右側を見る

 

榛名の周りに、リシュリューとHAGYが見える

 

遠征に出掛けた寸前の様子だが、救援に当たってくれるみたいだ

 

「確認した。俺の横に来い‼︎」

 

《オーケー。ハギィ、スカイラグーンであったかいモン作って待ってて欲しいダズル》

 

HAGYが「分かりました」と言った後、榛名とリシュリューが此方に来た

 

「すまんな」

 

「気にする事はね〜ダズル‼︎」

 

「助ける方が大切だリュー‼︎」

 

「ぷと…」

 

榛名を見て、PT達が少し引く

 

「大丈夫だぞ。もう榛名は味方だ」

 

「ぷとっ‼︎」

 

事故現場に着き、ホバークラフトを停止させる

 

「よしっ。榛名とリシュリューは民間船を。俺とPTはタンカーだ」

 

「オーケーダズル‼︎」

 

「行ってくリュー‼︎」

 

互いにハンマー片手に救出に向かう姿を見て、若干不安になる

 

「ぷとっ‼︎」

 

「ぷとぷと‼︎」

 

「よしっ」

 

PT達を両肩に乗せ、タブレットを持つ

 

《創造主様。レーダー艦、護衛空母、補給艦が接近中です》

 

「大湊の部隊だな」

 

大湊の部隊が来てくれたら安心だ

 

「大尉‼︎救助は此方にお任せ下さい‼︎」

 

ガンビアの甲板から岩井さんの顔が見えた

 

「了解した‼︎ちょっくら調査してくる‼︎」

 

PT達、そして榛名達に救助活動を任せ、事故原因の調査に移る

 

 

 

 

「クラウディア。上空から客船の方の破損箇所をスキャンしてくれ」

 

《はい。創造主様》

 

クラウディアにスキャンを任せ、まずはタンカーの調査を行う

 

「操舵室…か」

 

タンカーも既に傾いている

 

此方側だけでも何とか立て直せれば証拠として持ち帰れる

 

《スキャン完了。携帯端末に情報を送信いたします》

 

「クラウディア。もう一つ仕事を頼みたい。傾いてる船はどうすりゃいい⁇」

 

《そのタンカーのダメコンは電子制御が可能です。創造主様、舵は動かせますか⁇》

 

「今そいつの前にいる。猿でも分かる様に説明してくれよ⁉︎潜水艦の操縦は出来てもタンカーはからっきしだ‼︎」

 

《ふふっ。畏まりました。では、舵を左に3回回して下さい》

 

「オーケーっ…」

 

多少クラウディアにバカにされた気もするが、段々クラウディアが成長しているのを目の当たりにして嬉しい気もする

 

《固定して下さい》

 

「オーケー」

 

《後は此方でダメコンを制御します。創造主様は艦内の調査を続けて下さい》

 

「愛してるぜ、クラウディア」

 

《…ジェミニ様がヤキモチ妬きますよ⁇》

 

「へっ‼︎お前も一丁前に返せる様になったか‼︎」

 

タブレット越しにクラウディアと話しながらも、艦内のチェックを続ける

 

「タンカー内の生体反応は⁇」

 

《一つだけ貨物室に生体反応があります》

 

「逃げ遅れたのか…⁇」

 

《創造主様、気を付けて下さい。側面に開いた穴は貨物室付近にあります》

 

「だったら尚更だっ」

 

俺は生体反応がある貨物室へと足を向けた…

 

クラウディアの忠告をちゃんときいておくべきだった…と、この日程後悔した日はない一日になろうとは思いもしなかった…



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190話 オンナノタタカイ(2)

「大丈夫ダズル⁇」

 

「ありがとう…」

 

「さっ‼︎怪我の手当てをするんだリュー‼︎」

 

「すまん…」

 

榛名、リシュリューが民間人に手を貸し肩を貸し、ガンビアや神威から出された救助艇へと乗せる

 

「よしっ‼︎次で最後ダズル‼︎リシュリュー、先にガンビアで待ってるんダズル‼︎」

 

「分かったんだリュー‼︎」

 

リシュリューを見送る

 

「ん…⁇」

 

榛名は一瞬だけ、リシュリューの背中から目を離すのを躊躇った

 

「アイツの背中を見るの…なんか最後の気がするダズル…」

 

一瞬、不思議な感覚に苛まれた後、すぐに最後の救助艇が来た

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「赤ちゃんダズル」

 

救助艇に最後に乗ったのは、赤ちゃんを抱いた母親と、その夫の三人組

 

榛名はそんな三人を見て、記憶のずっとずっと奥にある自分の家族の事を思い出そうとしていた…

 

「赤ちゃんは榛名に任せるダズル。さっ、二人は乗るんダズル」

 

「すみません…」

 

榛名が赤ちゃんを抱き、腕の中であやす

 

「赤ちゃんは何て名前なんダス…」

 

赤ちゃんを抱いたまま振り返った榛名の頬に、数滴の鮮血が付いた

 

「え…」

 

数秒前まで赤ちゃんを抱っこし、気丈に振る舞っていた赤ちゃんの両親はそこには無かった

 

あったのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

落ちて行く、二人の下半身だった

 

 

 

 

 

 

「なん…」

 

榛名の頭が一瞬止まる

 

そしてすぐ、赤ちゃんだけは護ろうと救助艇へ放り込む

 

「行くんダズル‼︎」

 

「り、了解‼︎」

 

救助艇を送った後、榛名はすぐに二人の元へ歩み寄る

 

「何やってんダズル…赤ちゃんが…」

 

「アハハハハ‼︎シンダシンダァ‼︎」

 

声が聞こえた方に顔を向ける

 

タンカーに空いた大穴から誰かが笑っているのが見えた

 

手から煙が出ている所を見ると、その誰かが二人を殺した様子だ

 

「オメェ…何やってんダズル…」

 

榛名は二人の方に向き返り、ハンマーを握り締める

 

「オマエモシネェ‼︎」

 

第二波が榛名に向けて放たれる

 

「…」

 

「ナッ…」

 

榛名は無言のまま、ハンマーを持った逆の手で砲撃を掴み取った

 

「クソみたいな砲撃ダズルな…」

 

掴み取った砲弾を海へ落とした後、榛名は二人の遺体に一礼をした

 

「すまんダズル…今はこれ位しか出来んダズル…」

 

礼を終えた後、榛名は大穴から砲撃をした人物の元に向かう為、ゆっくりと海上に足を置いた

 

「今行ってやるダズル…そこで待ってるんダズル…」

 

 

 

 

榛名がタンカーへと向かう少し前、俺も榛名と同じ場所を目指していた

 

「いた」

 

《創造主様‼︎敵性反応です‼︎離れて‼︎》

 

「何⁉︎」

 

クラウディアの通信を聞き、壁にもたれながら中の様子を見る

 

「アハハハハ‼︎シンダァ‼︎ミンナシンダァ‼︎アッハハハハ‼︎」

 

「何だアイツは…」

 

見た事の無い新種の深海棲艦がそこに居た

 

その深海棲艦はタンカーの大穴から砲撃を繰り返し、今まさに沈もうとする客船に攻撃を繰り返していた

 

「止まれ」

 

ピストルを構え、深海棲艦の前に出る

 

「アハハハハ…ダァレェ⁇ヒトガタノシンデルノ、ジャマシナイデクレル⁇」

 

「民間の客船だ。何処のどいつか知らんが、攻撃するな」

 

「カンケイナイデショ⁇ジャマシナイデ‼︎」

 

そうしてまた、砲弾をしようとする

 

「仕方無い…」

 

深海棲艦に向けてピストルを数発放つ

 

「イタイ‼︎ヤメテヨォ‼︎」

 

当たりはしたが、新種なのかあまり効果が無い

 

「やめろと言ってる。もっぱつ撃つぞ」

 

「ヤメテッテ…オネガイシテルノニィィィ‼︎」

 

「なっ‼︎」

 

深海棲艦はいきなり飛び掛かって来た

 

咄嗟にそれをかわし、大穴が背後にある状態になった

 

《創造主様‼︎ここは撤退を‼︎》

 

「生存者はもういないか⁉︎」

 

《えぇ‼︎潮時です。空中で拾いますので、大穴から飛んで下さい‼︎》

 

「よし…」

 

大穴の方へと後退りながら、深海棲艦との距離を取る

 

《創造主様‼︎》

 

「とっ‼︎」

 

大穴から飛んだ瞬間、グリフォンに拾われ、一気に大空へと逃げた

 

「な…何なんだアイツは‼︎」

 

《恐らく、この事故を引き起こした張本人かと。ここは榛名様やリシュリュー様に任せて、創造主様は治療に当たってくれとジェミニ様から連絡を受けました》

 

「お前の言う通りにするよ」

 

俺もDMM化すれば対等に戦えただろうが、クラウディアと横須賀の言う通り、今は民間人の治療に当たった方が良いだろう

 

《創造主様。もう少しご自分の体の心配もなさって下さい》

 

「分かったよ…ありがとう、クラウディア」

 

スカイラグーンへと撤退して行くグリフォンを見ながら、新型深海棲艦は不気味に微笑んでいた…



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190話 オンナノタタカイ(3)

「…」

 

無言のまま下を向いた榛名がタンカーに乗り込む

 

「オメェだけはゼッテー許さんダズル…」

 

「コワイカオネェ…ソンナニアカノタニンガダイジ⁇」

 

「榛名は誰かを護る為に産まれたんダズル…嬉々として民間人をブッ殺すオメェには一生分からんダズル…」

 

「アハハ‼︎アンタモヤッテルコトハイッショヨ⁉︎ハンマーデハカイシテ、ヒトヲコロス‼︎ドコニカワリガアルノ‼︎」

 

「榛名のハンマーはな…オメェみたいな奴に…」

 

ハンマーを持つ榛名の手が震える

 

「オメェみたいな奴に‼︎非力な人間に代わって鉄槌を下す為にあるんダズル‼︎」

 

一瞬でハンマーを構え、深海棲艦に向かって降り下げる

 

「アマイ…アマイワァ‼︎」

 

深海棲艦もハンマーを防ぎつつ、鋼鉄で覆われた両手で榛名に殴り掛かる

 

「…」

 

榛名は無言のまま、涙を振りまきながら深海棲艦にハンマーを振り続けた

 

久々に見た民間人の家族に、榛名は自分の姿を重ね合わせていた

 

榛名には両親が居ない

 

今までずっと、家族と言えるのはワンコただ一人だった

 

それが今、沢山の愛情を受け、純粋に人の為に戦おうとしている

 

「オメェみたいな奴…海に立つ資格もねぇダズル…」

 

「サミシイオンナ…アァサミシイ‼︎」

 

「何にも知らないオメェに榛名の事を言う資格はねぇダズル‼︎」

 

「ソウ⁇コノカオヲミテモ⁇」

 

髪の毛やタンカー内の影に隠れて見えなかった深海棲艦の顔が、外の明かりに照らされて明らかになる

 

「オメェは…」

 

榛名はその顔に見覚えがあった

 

「山城‼︎」

 

自分達の学校の先生であった山城

 

今まで売り飛ばされたり、大切な人を何度も殺されかけた、榛名にとっては因縁の相手であり、いつまでも榛名達に憑き纏う亡霊の様な存在だった

 

そんな人が今、深海棲艦となって民間人を攻撃し、榛名の前に居る

 

「アンタタチハイツモワタシヲジャマスル…コンドハジャマサセナイ‼︎アノヒトノイサンデ、ワタシハアンタタチヲコロス‼︎」

 

「ぬぁぁぁあ‼︎」

 

いつまでも埒が開かないと見たのか、榛名はハンマーを床に叩き付けた

 

「いつまでも憑き纏いやがって…良いダズルよ…サシでブン殴ってやるダズル…」

 

「アンタガブキヲステテモ、ワタシハツカウワヨ‼︎」

 

「その減らず口…今すぐへし折ってやるダズル…来い‼︎」

 

二人の女の戦いが始まる…

 

一人は大切な人を護り、自分を写した家族の無念を晴らす為に…

 

一人は恋人の無念を晴らす為に…

 

 

 

 

 

「よし、そこ持ってろ。大丈夫だからな」

 

「ぷと」

 

スカイラグーンに搬送されて来た民間人やタンカーの乗組員の治療に当たる

 

PT達の手助けもあり、このまま行けば何とかなりそうだ

 

「点滴のチェックを頼む。切れそうだったら言ってくれ」

 

「ぷとっ‼︎」

 

「マーカスさん。少しお休みになって下さい」

 

HAGYが水筒と焼きケーキを持って来てくれた

 

「頂くよ」

 

水筒の中身を飲みながら、二口三口ケーキを食べる

 

「榛名が心配か⁇」

 

「えぇ…」

 

「アイツは強い。早々はへこたれない子さ。HAGYも知ってるだろ⁇」

 

「えぇ‼︎大丈夫ですよね‼︎」

 

HAGYも榛名の話をすると物凄く心配そうな顔をする

 

やはり何かあるみたいだ

 

「ごちそうさま」

 

「もう少しだけ、宜しくお願いします」

 

「任せな‼︎」

 

革ジャンを羽織り直し、多少は落ち着いたPT達の所に向かう

 

「ぷと‼︎」

 

足元に小瓶を二つ持ったPTがいる

 

「モルヒネじゃない。ペニシリンを使う」

 

「ぷとぷと」

 

正直な話、何と無く榛名が不安だ

 

あの新型の深海棲艦…

 

榛名が敵う相手なのだろうか…

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

「ハァ…ハァ…」

 

タンカー内では、息を切らせた二人が顔を見合わせていた

 

「シネェ‼︎ハルナァ‼︎」

 

「ゔっ…」

 

榛名の鳩尾に、鋼鉄の手が突き刺さる

 

榛名は一瞬だけ痛がった後、深海山城の腕を取り、手刀を振り下ろした

 

「ギャア‼︎イタイ‼︎」

 

「ひとみといよの技ダズル…オメェには…人の強さは一生分からんダズル」

 

左腕が無くなった深海山城は、それでも抵抗を続ける

 

「ぐっ…」

 

鳩尾に突き刺さったままの左腕を抜こうとするが、思いの外深く突き刺さり、そう簡単には抜けない

 

「クッソォ…メッチャイテェダズル…」

 

血を吐きつつも、それでも深海山城を睨み続ける

 

「フフフッ…アンタニモイッショウワカラナイコトガアルンジャナイノ⁇」

 

「何っ…」

 

「ボセイヨ‼︎ボ・セ・イ‼︎ハハオヤガイナイアンタハ、ヒトヲドウアイシタライイカワカラナインデショ‼︎」

 

深海山城は榛名の痛い所を突いた

 

榛名は母親の愛情を知らない

 

母親に愛された事が無いから、愛し方も知らない

 

だからこそ、暴力こそが愛…そう思っていた

 

「ほざけ‼︎少なくとも貴様よりかは分かってるつもりダズル‼︎」

 

「ジャア…アナタニハハオヤノアイジョウヲオシエテクレルヒトハイルワケ⁉︎オカアサントヨベルヒトハイルワケ⁉︎イナイワヨネェ⁉︎ダカラコンナコトデキルンダヨネェ⁉︎」

 

深海山城に言われた榛名は、一人の女性を思い出していた

 

その女性は、榛名にとって初めて母性を教えてくれた人…

 

ワンコやニムとはまた違う、いつも自分の心配をしてくれた人…

 

その人を護る為なら、自分は死ねると思わせた人…

 

そう思った時、体は勝手に動いていた事…

 

「分かったダズル…そんなに知りたいなら…教えてやるダズル…」

 

榛名は震える右手を握り締め、深海山城に向けて見せた

 

「榛名の本当の愛情表現はな…この愛しのゲンコツちゃんダズル…」

 

「フフッ…」

 

深海山城は榛名から見えない位置で、右手に仕込んだ砲の準備をしている

 

「コレデオワリヨハルナァ‼︎」

 

装填が完了した直後、榛名に向けて右手が向けられ、砲撃が放たれる

 

「…」

 

榛名はこの体になって初めて、一点だけを見つめた本気の顔を見せ、左手で砲撃を止めた

 

「榛名に…飛び道具は効かんダズル」

 

「ナ…ナンデ…」

 

「榛名は…母親の愛情なんざ、知らんダズル…だがな‼︎」

 

「ヒッ…」

 

ここに来てようやく榛名に恐怖し、深海山城が後退し始める

 

「これで終わりダズル‼︎死ね山城‼︎」

 

史上最悪最強のビンタが山城に放たれる

 

深海山城は反論する暇も無く頭部を吹き飛ばされ、榛名の手に持たれた

 

「これが榛名の母性ダズル…悪い子にはビンタが一番ダズル…うっぐ…」

 

榛名は鳩尾を抑えて膝を落とす

 

「イッテェ…イッテェダズル…」

 

息絶えても尚、榛名の鳩尾を抉る深海山城の左腕

 

痛みが産まれ、血が流れ出る

 

「チクショウ…」

 

痛みに耐えかね、とうとう床に倒れた

 

最強最悪と言われた彼女は、呼吸を荒くしながら、ふと一人の女性を思い出した

 

「もっと…甘えとくんだったんダズル…」

 

《榛名‼︎》

 

「幻聴が聞こえるダズル…あはは…もう…終わりダズルな…」

 

《榛名‼︎聞こえますか榛名‼︎》

 

幻聴ではなかった

 

無線から声が聞こえる…

 

「誰ダズル…」

 

《榛名‼︎あぁ、心配しました…》

 

「あ…」

 

声の主は、榛名に母性を教えてくれた人

 

その人の声を聞いて安堵したのか、榛名は先程流せなかった涙を流した

 

「はっ…ハギィ…」

 

その正体はHAGY

 

この世でHAGYだけ、榛名に母性を教えてくれた

 

《マーカスさんから聞きました。榛名、お家に帰りましょう⁇》

 

「もう…無理ダズル…」

 

《榛名⁉︎》

 

「ハギィ…榛名の頼み、聞いてくれるダズル…か⁇」

 

《えぇ。なぁに⁇》

 

痛む鳩尾を抑え、沢山の涙を零し、榛名は最後に一番言ってみたい事を無線の先に叫んだ

 

 

 

 

「助けてぇ…お母さぁぁぁん‼︎」

 

 

 

 

産まれて初めて言った、”おかあさん”の言葉

 

本当なら、もっともっと早くに言う筈の言葉を、榛名はようやく吐いた

 

《わっ…分かったわ‼︎すぐに行きますから…榛名、しっかり気を保つのよ⁉︎》

 

悲痛な榛名の叫びは、しっかりとHAGYの耳に届いた

 

叫んだ榛名はその後、その場に倒れた

 

「へっ…満足…ダズ…る…」



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190話 オンナノタタカイ(4)

更新が遅れて申し訳ありません

スマホをアップデートした際、メモに書いてあったSSが全部消えてしまい、思い出すのが大変でした

大変申し訳ありませんでした


猛攻の末、榛名は何とか勝利を収めた

 

だが、榛名は深海棲艦の一撃を受け、意識不明の重体…

 

その榛名を今、リシュリューが救出に来た

 

《榛名さんを見つけたリュー‼︎》

 

「よし、連れて帰って来てくれ‼︎クラウディア‼︎基地行ってきそ引っ張って来てくれ‼︎」

 

《畏まりました》

 

俺は俺で負傷者の手当てを進める

 

数十分後、榛名を抱えたリシュリューが戻って来た

 

背中には自分の分と榛名のハンマーを背負った状態だ

 

「戻って来たリュー‼︎」

 

リシュリューに抱えられた榛名の鳩尾は、深海棲艦の腕が突き刺さっており、喫茶ルームの床にポタポタと血が落ちて行っている

 

「よしっ‼︎緊急オペだ‼︎露天風呂に運んでくれ‼︎」

 

「分かったリュー‼︎」

 

リシュリューに抱えられ、榛名は脱衣所で横に寝かされた

 

「まっ…マーカス…」

 

「もう喋るな‼︎よく頑張ったな‼︎」

 

「こいつが…犯人ダズル…」

 

榛名は持っていた風呂敷包みを俺に渡した

 

「榛名達のっ…学校の、先公ダズル…」

 

「分かった。よく頑張ったな…服脱がせるからな⁇」

 

榛名の服を脱がせ、傷を確認する

 

「オメェの好きな…巨乳ダズル…」

 

「そんだけ喋りゃあ上等だ‼︎よし、露天風呂でオぺをする。PT‼︎モルヒネくれ‼︎」

 

「ぷとっ‼︎」

 

PTからモルヒネと注射器を受け取り、榛名の腕に打つ

 

「まっ、マーカス…」

 

「何だ⁉︎」

 

「きそにっ…謝って欲しい、ダズル…」

 

そう言って、榛名は震える手であの眼鏡を俺の手に置いた

 

レンズは割れ、フレームも曲がっている

 

「榛名の…”宝物”ダズル…」

 

「分かった。直して貰う様に言っといてやる」

 

「ぐへぇ…」

 

変な声を出した後、榛名は眠りについた…

 

「榛名さん…」

 

クラウディアに連れて来られたきそが、横たわっている榛名を見て青ざめる

 

「こいつを取り除く。手伝ってくれるか⁇」

 

「う、うん‼︎」

 

きそと共に榛名を温泉に浸ける

 

本来ならカプセルに放り込めば良いのだが、万が一このままこの腕が癒着してしまったらとんでもない事になる

 

なるべく傷口に湯を当てぬ様に、しかし体中の別の大小の傷は治癒出来る様、体を湯船に浸ける

 

「降って来た…」

 

オペが続く中、再び雪がチラつく

 

「この気温が味方してくれるかもしれないよ⁇」

 

湯船の効能、そして気温の低さが相まって、榛名の出血が少なくなって行く

 

それでも互いに手は止めない

 

「オッケー…切除完了‼︎」

 

ガシャンと音を出し、トレーに置かれる深海棲艦の腕

 

後は傷口の状態を見て、カプセルに放り込むか、このまま露天風呂に浸かっておけば良い

 

「ふぅ…」

 

「…」

 

俺が安堵の息を吐く前で、きそは榛名の首元に手を置いた

 

「オッケー…おかえり、榛名さん」

 

「一段楽だな…」

 

「うんっ…」

 

きそは露天風呂の端に座り、榛名の頭を膝に置き、ずっと榛名の顔を見たり、前髪を撫でたりしている

 

「俺は中でもう一仕事して来る。榛名は任せたぞ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

ここは二人きりにさせた方が良いみたいだ…

 

榛名がHAGYを母親と思っているなら

 

きそにとっての榛名も、それに近い感情があるみたいだしな…

 

 

 

 

「ふ〜ん、ふんふ〜ん…」

 

榛名を膝の上で寝かせたまま、きそは鼻歌を歌う

 

「榛名さん…僕知ってるよ⁇榛名さん、お月様が好きなんだよね⁇お月様に行けば、誰も傷付けなくて済むから…1人でいられるからだよね…」

 

今きそが鼻歌を歌っているのは、榛名が時折歌っている歌だ

 

きそはちゃんと覚えていた

 

「もう一人じゃないよ…」

 

きそは榛名の頭を撫で、鼻歌を歌い続ける…

 

 

 

 

 

榛名をきそに任せた後、俺は医務室に来た

 

スカイラグーンに置かれているカプセルは三つ

 

内二つが既に起動しており、中に入っている”人間”の治療を進める

 

「さてと…」

 

榛名が命辛々持ち帰って来た風呂敷を開ける

 

「うへぇ…」

 

覚悟はしていたが、やはり生首が入っていた

 

生唾を飲み、恐る恐る生首を手に取る

 

「…ナニミテンノヨ」

 

「ヒィィィイ‼︎」

 

生首が喋った瞬間、一気に壁際に下がる

 

「い…生きてんのか⁉︎」

 

「シンカイノセイメイリョクヲナメナイデチョウダイ」

 

「こっ、こここ怖くなんかないぞ‼︎」

 

本当はションベンチビって、今すぐこの場から逃げ出したい

 

「な…名前は何て言うんだ」

 

「…ヤマシロ」

 

「お前には聞きたい事が山程ある」

 

「ハッ‼︎ワタシガハナストデモ⁉︎」

 

「なら俺は知らん。お前をそのままここに放っておく。何日持つかなぁ〜⁇いや、何カ月…何年何十年もこのままだろうなぁ〜その生命力なら」

 

「グ…」

 

流石にこのまま何十年も放置は困る様で、ヤマシロは渋り始めた

 

「どうする⁇俺ぁどっちでも構わん。ただ、俺はお前を治してやれる。良い取り引きだとは思うがな⁇」

 

「…ワカッタワヨ‼︎ハナセバイインデショ‼︎」

 

「良い子だ…」

 

ヤマシロを掴み、そのままカプセルに投げ入れる

 

「まっ、あれだ。治してはやるが、二度と悪さ出来ん様な体にする。それに監視も付く。いいな⁇」

 

「ワカッタワヨ‼︎ダカラハヤクナオシテ‼︎カミツクワヨ‼︎」

 

「そんなナリで言われても怖くないよ〜だ‼︎」

 

ヤマシロはカプセルの中で浮遊しており、中でグルグル回っているので、全然怖くなかった

 

「さてっ…流石にちょっと休憩しますかね…」

 

診察、治療、手術と立て続けにやれば、流石に疲れが来る

 

「そこでジッとしてろよ‼︎」

 

「ワカッテルワヨ‼︎」

 

後は待てば良い

 

ただ、人間は艦娘やら深海の子達と違って、少し治りが遅い

 

カプセルには治癒能力を飛躍的に上昇させる効果がある

 

人間は艦娘達と比べると治癒能力は低い

 

だから治癒も遅い

 

「大尉‼︎」

 

喫茶ルームに戻ると、何人かの兵士が頭を下げて来た



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190話 オンナノタタカイ(5)

「御協力、感謝致します‼︎」

 

「俺は何もしてねぇよっ。礼ならきそと、今アンタらの足元にいるPT達に言ってやってくれ」

 

「ぷ〜…」

 

「ぴ〜…」

 

PT達も疲れたのか、兵士達の足にもたれかかって鼻ちょうちんを作っていた

 

「ははは…ありがとう、PTさん達‼︎」

 

「ぷぴ〜…」

 

「ぴぷ〜…」

 

それぞれの足元にいたPTを撫で、兵士達は一般市民を連れて喫茶ルームを出た

 

「お疲れ様です」

 

兵士達を見送った直後、目の前の机にショートケーキとコーラが置かれた

 

「分かってるな…」

 

「HAGYは何だってお見通しですよっ。榛名を救って頂き、ありがとうございました」

 

「感謝してくれてるならっ…」

 

椅子に座り、フォークを手に取り、逆の手でコーラを飲んだ

 

「これを代金として貰うとすっか‼︎」

 

「提督がお礼は後日…と」

 

「今貰ったからパスだって言っとけ‼︎んっ‼︎美味い‼︎きそにも作ってやってくれるか⁇」

 

「それは”茂樹”大佐から差し入れです…」

 

「茂樹大佐ぁ⁇誰だ⁇」

 

「トラック泊地の提督さんです。他にも多方面の方から差し入れを頂きました」

 

「茂樹って言うのか…」

 

長い間トラックさんで通っていた為、今更ながら本名を知った

 

「食った食った‼︎よっこらせ‼︎」

 

ケーキを食べ、コーラを飲み干した後、ソファに横になった

 

「食べてすぐ横になったら牛になりますよ⁇失礼します…」

 

HAGYに膝枕をして貰う

 

今ではする方が多くなった膝枕だが、久々にして貰うと中々心地良い

 

「榛名にもよくするんですよ⁇」

 

「榛名がHAGYをお母さんと呼んだ理由…少し分かる気がするな…」

 

「せめてお姉さん…位が良かったですが…でもっ、頼られるのは悪い気はしませんねっ⁇」

 

「その内慣れる…さ…」

 

疲れに勝てず、そのままHAGYの膝枕の上で目を閉じた…

 

 

 

 

「ぬはぁ‼︎」

 

何時間も経過した後、榛名はベッドの上で目を覚ました

 

「ぐへぇ…イテェダズル…」

 

相変わらず痛む鳩尾

 

誰かが処置してくれたのか、体中に包帯が巻いてある

 

「榛名…⁇目が覚めましたか⁉︎」

 

「ハギィ…」

 

ベッドの横で眠っていたHAGYが榛名の手を握る

 

「心配させないで下さい…」

 

「悪かったダズル…よっこら」

 

HAGYの支え付きで、榛名はベッドから立ち上がる

 

「誰が処置してくれたんダズル⁇」

 

「マーカスさんときそちゃんですよっ…ほらっ」

 

「ぐがーーー…」

 

「んごーーー…」

 

喫茶ルームで、白衣を着たまま死んだ様に眠っているマーカスときそがいた

 

「みんな助けてくれたんですよ⁇」

 

「感謝しないといかんダズルな…そういや、赤ちゃんの家族は…」

 

「マーカスさんが接合してくれています。ただ…莫大な時間を要するみたいです」

 

「接合⁉︎どれ位ダズル…」

 

流石に助からないと思っていたあの両親が助かったと聞いて、榛名は驚いている

 

「…三年です」

 

赤ちゃんの両親は下半身と上半身が分かれ、尚且つ中腹部分は吹き飛んでしまっており、カプセルに放り込んで、長い時間を掛けて全身を取り戻す作業に入っていた

 

「三年…あ、あの赤ちゃんはどうするんダズル‼︎」

 

「ほ〜らほ〜ら、リシュリューだリュー」

 

マーカス達から離れた席で、リシュリューが赤ちゃんを抱っこしてあやしている

 

「榛名はどうしたいですか⁇」

 

「は、榛名は…」

 

「レロレロレロだリュー‼︎」

 

「見捨てる事なんか…出来んダズル。ハギィ、リシュリュー」

 

「大丈夫だリュー‼︎」

 

「分かってましたよ榛名っ‼︎」

 

「ありがとダズル…でも、提督が何て言うダズル⁇」

 

「それについては御安心を。HAGYが言ってあります」

 

「ニムと霧島は何て言ってたダズル⁉︎」

 

「早く帰って来いにむ〜、普段の行いが悪いからこうなるまいく〜…と」

 

「あんのクソマイク…いっぺんぶっ飛ばしてやるダズル‼︎」

 

「そんだけ言えりゃっ…傷は癒えたみたいだな」

 

「マーカス。助かったダズル」

 

「お前の巨乳拝めたからイーブンにしといてやるよ。それとっ…」

 

きそに革ジャンを被せたマーカスは、何故か奥の部屋に行き、手に何かを持って戻って来た

 

「何ダズル」

 

「忘れモンだっ」

 

榛名の足元にハンマーが落とされる

 

「ありがとダズ…おいマーカス‼︎オメェ何でハンマー持てるんダズル‼︎」

 

「誰がそいつの設計図書いたと思ってるんだ」

 

「リシュリューのハンマーの設計図も書いてくれたんだリュー‼︎」

 

「知らんかったダズル…」

 

「それと、あの家族の事だが…」

 

「ハギィから聞いたんダズル。ありがとう、マーカス」

 

「時間は掛かるが、何とかしてやる。あのヤマシロって奴もな」

 

「あ…アイツは元は先公ダズル。学校にでも置くと良いダズル。監視付きでな」

 

「それも手だな…処分は任せてくれるか⁇」

 

「監視とか躾がいるなら榛名が出てやるダズル‼︎」

 

「助かるよ。きそっ」

 

「んぁ…」

 

目を擦りながらきそが起きた

 

「榛名さん‼︎」

 

起きた直後、きそは榛名に抱き付く

 

「心配したよぉ…」

 

「もう大丈夫ダズルよ…ありがとう、きそ」

 

きそが榛名に抱き付いている時、外に輸送機が着陸するのが見えた

 

「ようやくお出ましかっ…」

 

輸送機が着陸して数分もしない内に、階段を登る音が聞こえて来た

 

「お疲れ様、レイ」

 

来たのは横須賀だ

 

「負傷者は向こうだ」

 

「分かったわ。こっちに運んでちょうだい‼︎」

 

横須賀は替えのカプセルを持って来てくれた

 

「アンタが居てくれて良かったわ…近場にドクターが居なかったのよ」

 

「治療ならいつでもっ」

 

「そうそう榛名。レイもきそも。国から感謝状が来るわよ⁇」

 

「感謝状送るくらいなら焼肉奢れって言っとけ‼︎」

 

「そうダズル‼︎死にかけたんダズル‼︎焼肉位食わせて貰わなきゃイヤダズル‼︎なぁきそ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

「総理大臣からのありがた〜い感謝状なのに⁇」

 

「「「うん‼︎」」」

 

三人の意見がピタリと合う

 

「…まっ、まぁいいわ。とにかく、今日はありがとう。お礼は後日基地宛に送らせるわ⁇」

 

「隊長に心配掛けたな…」

 

「隊長が事故報告書を出してくれたわ。ラバウルさんと一緒にね⁇」

 

「マーカスと違って気の回るナイスガイダズルな‼︎ははは‼︎」

 

「ニャロウ‼︎そんだけ冗談言えりゃあ充分だ‼︎さっさと帰れ‼︎」

 

「榛名さん。赤ちゃんのお名前決めるんだリュー‼︎」

 

「言われてみればそうダズル」

 

帰る寸前にリシュリューに言われ、榛名は結構真面目に悩み始める

 

「そういや、雪降ってるダズルな…」

 

窓の外では、相変わらず雪が降っている

 

「マーカス。この子は男の子ダズル⁇」

 

「女の子だ」

 

「よし、なら”吹雪”にするダズル‼︎」

 

「吹雪、ですか⁇」

 

「そうダズル。雪みたいにキレイキレイな子になって、吹雪見たいに力強くて、誰にも負けん子になる名前ダズル‼︎」

 

結構適当に付けたと思っていたが、結構キチンとした理由があった

 

「オメェにしちゃマトモだな⁇」

 

「ウッセェ‼︎榛名はいつだってマトモちゃんダズル‼︎」

 

「吹雪ちゃんね…単冠湾向けに高速艇を手配してあるわ。赤ちゃん冷やしちゃダメよ⁇」

 

「んっ…じゃあ、榛名は帰るダズル」

 

「ありがとリュー‼︎」

 

「ありがとうございました‼︎」

 

単冠湾の三人と赤ちゃんは高速艇に乗り、帰って行った…

 

「あら、隊長だわ‼︎」

 

「ラバウルさんも‼︎」

 

スカイラグーンに、親鳥二機が着陸する

 

いつ見ても体が震える程カッコ良い

 

「レイっ」

 

「なんだ⁇」

 

窓の外を見ていた俺の襟に手を伸ばし、唇を当てられる

 

「今日のお礼よ…」

 

「高いお礼だ事…」

 

「うへぁ…」

 

丁度間に居たきそが上を向いて口を開けている

 

「きそにもねっ‼︎」

 

横須賀はきその額にも唇を当てる

 

「へへへ…」

 

照れ臭いのか、きそは額を何度も撫で、顔を赤くしている

 

「お疲れさん、レイ」

 

「此方は全て完了致しましたよ」

 

隊長とラバウルさんが迎えに来てくれた

 

「ありがとうございます」

 

「もう晩御飯だ。今日は貴子のカレーだぞ‼︎」

 

「よし、撤収‼︎ラバウルさん、ありがとうございました‼︎」

 

「ふふっ。平和の為ならいつでもっ」

 

「気を付けて帰るのよ‼︎ご飯の前にシャワー入りなさいよ‼︎」

 

「はいはい‼︎」

 

横須賀とラバウルさんに見送られ、俺達は基地に戻った

 

数日後、基地と単冠湾宛てに国からの感謝状と、焼き肉5万円分の金券が届いた…



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特別編 ラバウルの多忙な1日〜前編〜

お正月の特別企画

大掃除をする事になったラバウル基地のイケメンパイロットと美人妻と、ワガママボデーの一人の娘と、その他諸々

そんな中、可愛いクリーナーがラバウルを訪れます




「Oh‼︎Souzi⁉︎ソウジって誰⁇」

 

「オゥ‼︎ソウジ=サン‼︎じゃなくて大掃除だ。ビッグなクリーンさ」

 

「それで健吾がホウキ持ってるのね‼︎OK‼︎IOWAもオーソージする‼︎」

 

この日、ラバウルは大掃除をする事になった

 

「あいしゃんいそがし⁇」

 

「あえんしゃんもいそあし⁇」

 

「ひとみ、いよ‼︎来てたのか‼︎」

 

この日、ひとみといよはたまたまラバウルに遊びに来ていた

 

アレンは背中に何か背負っているひとみといよを抱き上げ、顔の近くに寄せた

 

「レイはどうしたんだ⁇」

 

「えいしゃん、らばううれお〜しょ〜じすうかあ、おてつだいちておいれ〜っていってた‼︎」

 

「えいしゃんあとれくうって‼︎そえまれひとみといよちゃんもおてつらいすう‼︎」

 

「そっかそっか‼︎」

 

アレンが二人を降ろすと、二人は背中に背負った何かを降ろした

 

「こえはるんたきゅん」

 

「こえはかえつうつうにすうやつ」

 

いよはルンタ君のスイッチを入れ、ひとみは壁に何かの装置を付けた

 

「よいちょ…ひとみちゃんのったか⁇」

 

「のった‼︎」

 

「いってきあす‼︎」

 

「いってきあす‼︎」

 

「お、おぉ…」

 

「行ってらっしゃい‼︎」

 

ひとみといよはルンタ君に乗り、執務室を出て行った

 

アレンは一瞬思考が停止していたが、ラバウルさんは笑って見送った

 

「大丈夫かな…」

 

「あ、アレン‼︎」

 

ラバウルさんが目を向ける方には、壁に付けた装置が動き回っていた

 

「おぉ〜…」

 

「コレは凄い…」

 

以前アレンがコケてブチ撒けて付けたコーヒーのシミが綺麗に消えて行く…

 

「この調子なら大丈夫でしょう」

 

「ですね」

 

ラバウルさんもアレンも掃除用具を持ち、執務室を出た

 

 

 

 

「てっしゅ」

 

「おかちのごみ」

 

ひとみといよはルンタ君に乗りながら、ルンタ君の吸い込めない大きなゴミをマジックハンドで取り、背負っている小さなカゴに放り込んで行く

 

「Oh‼︎ヒトミ‼︎イヨ‼︎」

 

「あいしゃんら‼︎すとっ”ぴ”‼︎」

 

「るんたすとっ”ぴ”‼︎」

 

アイちゃんを見つけ、二人はルンタ君を止める

 

「オテツダイしてくれてるのね‼︎Thank you‼︎」

 

「さんくぅ〜‼︎」

 

「さんきぅ〜‼︎」

 

「コレ飲んで‼︎」

 

「あいがと‼︎」

 

「いたあきます‼︎」

 

アイちゃんからミルクを貰い、二人はルンタ君に乗ったままそれを飲む

 

「ごちそうさまれした‼︎」

 

「おいしかた‼︎」

 

「頑張ってね‼︎」

 

「いけるんた‼︎」

 

「いけるんた‼︎」

 

二人がそう言うと、ルンタ君はまた動き出した

 

「IOWAもあれ欲しい…」

 

ルンタ君に乗る二人を見て、アイちゃんはしばらく物欲しそうに見つめていた…

 

 

 

 

「たあこのはこ」

 

「じゅ〜すのかんかん」

 

その辺にポイポイ捨てる癖は、アレンか北上の仕業だ

 

アレンは大和の女神の鉄槌を喰らってからその癖が治ったので、北上が犯人だ

 

「ここけんごしゃんのおへや」

 

「きえいなおへや」

 

二人は健吾の部屋に入り、一通りルンタ君で回る

 

「なんもなかったな」

 

「なんもない」

 

ルンタが何も吸い込まない程、健吾の部屋は綺麗にしてあった

 

「つぎ、あえんしゃんのおへや‼︎」

 

「きえいきえいかぁ〜⁇」

 

二人がいざアレンの部屋に入ろうとした時、誰かの叫び声が響いた

 

「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア‼︎‼︎‼︎」

 

「ひっ‼︎」

 

「うぅしゃ〜い‼︎」

 

二人は咄嗟に耳を塞ぐ

 

叫び声が聞こえた瞬間、窓は粉々に割れ、アレンの部屋のドアが木っ端微塵に吹き飛び、ルンタ君の機能が停止した

 

「やあとしゃんのこえちた‼︎」

 

「ばくらんか⁉︎」

 

「るんたいけうか⁇」

 

「おめめくうくうになってう」

 

ひとみもいよもルンタ君をペチペチ叩くが、ルンタ君はしばらく起動しそうにない



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特別編 ラバウルの多忙な1日〜中編〜

仕方無くルンタ君から降り、悲鳴が聞こえた部屋に入る

 

「やあとしゃん‼︎」

 

「あにちてんの⁇」

 

「ごっ、ゴキッ…ゴキゴキ…」

 

「あたたたさえたか⁇」

 

「だえに⁇」

 

マーカス、そして隊長が好きな漫画の技をかけられたと勘違いしている二人の前には、ブルブル震える大和がいる

 

そして、カサカサと動く生物もいる

 

「ヒッ…」

 

「ごっき〜ら‼︎」

 

「うりゃ」

 

ひとみがマジックハンドでカサカサ動く生物を掴む

 

普段たいほうと一緒に虫を捕まえているので、二人共ゴッキーは平気だ

 

「とえた‼︎」

 

「ちょちょちょちょっと‼︎こっち向けないで下さい‼︎」

 

「ごっき〜こあい⁇」

 

大和はコクコク頷く

 

「あ、おちた」

 

ひとみが手を滑らせ、大和の足元にゴッキーが落ちた

 

「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア‼︎‼︎‼︎」

 

たまたましゃがんでいたひとみといよは奇跡的に女神の鉄槌を回避

 

女神の鉄槌が向けられた方向には壁があり、見るも無残に大破

 

横の部屋である健吾の部屋と繋がった

 

「ばあばあになた‼︎」

 

「きゃぁぁぁあ‼︎ていってた‼︎」

 

理由は分からないが、しゃがんではいたものの、ほぼ直撃の女神の鉄槌を二度も受けても、ひとみといよは何故かピンピンしている

 

「なんか凄いVoiceがして、Papaとケンゴもみんな倒れた‼︎」

 

「あいしゃん‼︎」

 

「あいしゃんごっき〜いう⁇」

 

ひとみはマジックハンドで掴んだゴッキーをアイちゃんに見せる

 

「Oh…Cockroach…」

 

アイちゃんは引いてはいるが、大和の様に悲鳴は上げない

 

「こっくお〜ち」

 

「ごっき〜、こっくお〜ちいうんか⁇」

 

ひとみといよはマジックハンドに掴まれてジタバタしているゴッキーをまじまじと見つめる

 

「CockroachはKillね‼︎」

 

「きう‼︎」

 

「ごっき〜きう‼︎」

 

「きうってなんら⁇」

 

「ぶっこおいか⁇」

 

「YES‼︎」

 

「おりゃ‼︎」

 

ひとみはマジックハンドに力を入れるが、パワーが足りず、ゴッキーはブッコロリ出来ない

 

「おっき〜かたいお‼︎」

 

「あいしゃんちて‼︎」

 

「ン〜ン〜‼︎」

 

アイちゃんは無言で首を振る

 

「やあとしゃん‼︎」

 

再び大和に向けられるゴッキー

 

「ヒッ…」

 

「やあとしゃん、ごっき〜にわぁぁぁあちて‼︎」

 

「Waaaaa⁇」

 

アイちゃんは不思議そうな顔をしている

 

アイちゃんは知らない

 

大和の女神の鉄槌の威力を…

 

「まっ、窓の方に行きましょう…」

 

大和に誘導され、全員窓際に行く

 

「あいっ」

 

「うゔっ…」

 

再三目のゴッキーを見て、大和は吐き気を催す

 

「致し方ありません…」

 

決意を固めた大和は大きく息を吸い込む

 

「ワァァァァァァァァア‼︎‼︎‼︎」

 

窓に向けられたゴッキーは女神の鉄槌をモロに喰らい、粉微塵に吹き飛んだ

 

「アウッ‼︎」

 

相変わらず女神の鉄槌をほぼ直に喰らい、前髪が上がるひとみといよ

 

アイちゃんでさえ耳を塞いでうずくまったのに、ひとみといよは粉微塵に吹き飛んだゴッキーを見てケラケラ笑っている

 

「ぶっこおい〜‼︎」

 

「ごっき〜ばあばあになた‼︎」

 

ひとみはマジックハンドをカチャカチャ言わせ、いよはその先端をツンツン突いている

 

「ヒトミ、イヨ…平気なの⁇」

 

「へ〜き‼︎」

 

「いよちゃんもひとみもつおい‼︎」

 

心配するアイちゃんの前で、横須賀譲りの胸張りをし、”んふ〜”とグラーフ譲りの鼻息を吐く

 

「ヤマト凄い‼︎IOWAもWaaaaa‼︎したい‼︎」

 

「あはは…マネしちゃいけませんよ⁇」

 

「うわぁ‼︎」

 

「やあとしゃんやあとしゃん‼︎」

 

大和が困り顔をしながら頬を掻く足元を、ひとみといよが引っ張る

 

「ごっき〜れてきた‼︎」

 

「いっぱいれてきた‼︎」

 

何度も部屋を揺らされ、身の危険を感じたのか、アレンのベッドの下から大量のゴッキーが出現し始めた‼︎

 

「う…う〜ん…」

 

あまりのゴッキーの量を見て、ついに倒れた大和

 

「こえはやばいお‼︎」

 

「いっぱいいうお‼︎」

 

「アワワワワ…」

 

ベッドの下に巣でもあったのか、一気に部屋を覆うゴッキーの大群

 

アイちゃんに至っては立っているのが困難になり、しゃがみながらひとみといよの元に来た

 

「いよちゃん‼︎あえつかう‼︎」

 

「あかった‼︎」

 

いよはウェストポーチの中を弄り、何かを取り出して床に置いた

 

「おりゃ」

 

いよが床に置いたそれを踏み付けると、白煙を噴き出し、一瞬で部屋を覆った

 

「まっちお〜‼︎」

 

「あいしゃんらいじょ〜うか⁇」

 

「ゲッホゲホ…オッ、OK…」

 

「やあとしゃんは⁇」

 

「みえへん」

 

部屋中真っ白になり、煙が晴れるまで数分かかる…

 

「あいしゃんおった‼︎」

 

「やあとしゃんおった‼︎」

 

「Hey、ヤマト〜‼︎」

 

「う〜ん…」

 

アイちゃんが大和の頬をペチペチし、大和は目を覚ます

 

「おめめくうくうになってた」

 

「ごっき〜みてくうくうになた⁇」

 

「情けないです…」

 

「そ〜いしといてあえう‼︎」

 

「いよたちにあかせて‼︎」

 

そう言うとひとみといよは黒いゴミ袋を取り出し、マジックハンドでゴッキーを掴み、ポイポイゴミ袋に入れ始めた

 

「立派なCleanerネ…」

 

「後で美味しいお菓子を準備しますね⁇」

 

大和とアイちゃんは、アレンの部屋の処理を二人に任せ、逃げる様に部屋を出た

 

 

 

 

「う〜ん…」

 

「大和…ですかねっ…」

 

女神の鉄槌の影響は食堂まで伝い、食堂の掃除をしていたアレンとラバウルさんは見事気絶

 

ひとみといよがアレンの部屋を真っ白けっけにし、大和とアイちゃんが部屋を出た辺りで目を覚ました

 

「Papa‼︎Grandpa‼︎」

 

「申し訳ありません…」

 

起き上がった二人を抱き締めるアイちゃんに続き、物凄く申し訳なさそうな大和が来た

 

「Papa‼︎ヤマト凄いの‼︎Waaaaa‼︎って言ったら、Doorがバラバラになった‼︎」

 

「かぁ〜っ‼︎レイに頼まないとな…」

 

「ふふっ…」

 

アレンが頭を抑える横で、ラバウルさんがクスクス笑う

 

「申し訳ないとしか言葉が見つかりません…」

 

「終わった事は仕方ないさっ。窓拭き頼めるか⁇」

 

「はいっ‼︎それなら大和にも出来ます‼︎」

 

「OK‼︎IOWAもする‼︎」

 

「ではこれを」

 

ラバウルさんから窓拭き用のスプレーと雑巾を貰い、大和は食堂の窓、アイちゃんは食堂を出て別の部屋の窓を拭きに行こうとした

 

「ひとみちゃんといよちゃんはどうしました⁇」

 

「「今行っちゃダメッ‼︎」」

 

「かっ…畏まりました…」

 

戻って来たアイちゃんはいつも通りだったが、大和の猛烈な気迫に負け、ラバウルさんはひとみといよの様子を見に行くのを止めた

 

 

 

 

「IOWAもマドフキ〜♪♪」

 

アイちゃんは自室の窓拭き

 

父親と違って、部屋は中々綺麗だ

 

「も〜っ‼︎Papaがタバコ吸うから〜っ‼︎」

 

アイちゃんの部屋に、時々アレンが”逃げて”来る

 

理由は分からないが、休みになるとアレンは鬼の形相の愛宕に追い掛け回される時があり、アレンは時々アイちゃんの部屋に隠れに来る

 

その時、一応窓は開けているが、アイちゃんの部屋でタバコを吸う

 

なので、窓がチョット黄ばんでいる

 

「IOWAもWaaaaa‼︎したいなぁ〜…」

 

アイちゃんは先程の大和の雌叫びを目の当たりにして、憧れを抱いていた

 

「IOWAだってマド位なら…Papaが悪いんだもんね‼︎」

 

何を思ったのかアイちゃんは大きく息を吸い込み、窓に向かって吠えた

 

「Waaaaaaaaaaaaaa‼︎‼︎‼︎」

 

アイちゃんの声を受け、窓ガラスがパリーン‼︎と音を立てて割れた

 

「Oh…」

 

「コラッ‼︎」

 

「アウチ‼︎」

 

いつの間にか背後にいた父親に、つむじにゲンコツを落とされる

 

「お前はまたっ‼︎」

 

「パッ…Papaが悪いんだからね‼︎IOWAのRoomでタバコ吸うから‼︎」

 

「すまんっ‼︎」

 

「分かればOK‼︎」

 

懐の大きさは父親譲りのアイちゃん

 

窓ガラスが全部割れた為、父親にガラスを張らせ直せ、アイちゃんは部屋から出た

 

「OK…IOWAだってWaaaaa‼︎出来る…ふふふ…」

 

アイちゃんは不敵な笑みを浮かべ、別の部屋を目指す…

 

 

 

 

「Mama‼︎」

 

「アイちゃん⁇ちょっと手を貸してくれる⁇」

 

プレイルームに行くと、母親の愛宕が窓際で何かを引っ張っていた

 

「錆びちゃってるから、別のに変えようかと思ってるの…」

 

愛宕が引っ張っているのは、錆びた雨戸

 

「Destructionするの⁇」

 

「そうね〜アイちゃん外せる⁇」

 

「OK‼︎Mama、下がって‼︎」

 

愛宕はアイちゃんの言う通り、雨戸から一歩下がる

 

アイちゃんは再び大きく息を吸い込んだ

 

「Daaaaaaaaaaaaaaaaa‼︎‼︎‼︎」

 

「わぉ‼︎」

 

咄嗟に耳を塞ぐ愛宕の横で粉砕される雨戸

 

「OK‼︎」

 

「コラッ‼︎」

 

「オウチ‼︎」

 

再びアレンにゲンコツを落とされる

 

「雨戸は壊しちゃダメだろ⁉︎」

 

「アレン。この雨戸は変えるつもりだったのよ⁇」

 

「そうよPapa‼︎IOWA頼まれた‼︎」

 

「すみませんでした‼︎」

 

アレンはすぐに頭を下げた

 

この父親、空では強いのに家庭になると女二人に立ち向かわれ、極端に弱くなる

 

「分かればOK‼︎」

 

やっぱりアイちゃんは懐が大きい

 

「あえんしゃんいた‼︎」

 

「おっ⁉︎おかえり‼︎」

 

感覚が自分達の父親に似ているのか、ひとみといよはアレンの足に抱き着く

 

「あえんしゃん‼︎おへやぶっこおいになた‼︎」

 

「ぶっこ…ハァァァァァア⁉︎」

 

アレンは足に二人をくっ付けたまま、自分の部屋に向かう

 

「おおおおお…」

 

部屋の前に着いた途端、ひとみといよはアレンから離れ、アレンは膝を落とした

 

アレンの目の前には、木っ端微塵に吹き飛ばされたドアがある

 

「あああああ…」

 

部屋の中は綺麗にはなっているが、健吾の部屋と繋がっている

 

床にはひとみといよがチラ見でもしたのか、のエロ本が開いて置いてある

 

「アレンさん…申し訳ありません…」

 

「や…やまやま大和…」

 

「やあとしゃん、あえんしゃんのおへやからごっき〜でてきたからあ、わぁぁぁあ‼︎ちてくえた‼︎」

 

「おっき〜こなになってた‼︎」

 

「ご、ゴッキー⁇」

 

「こえ」

 

いよがアレンの前で黒いゴミ袋をチョット開ける

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

中には何百匹ものゴッキーの死骸が入っていた

 

「ぽ、ポイしに行こう‼︎なっ⁉︎」

 

「あかった‼︎」

 

「おっき〜ぽいすう‼︎」

 

ひとみといよはアレン達に連れられ、外のゴミ集積所に来た

 

「ごっき〜さいなあ〜」

 

「かえってくんなお〜」

 

「よしっ‼︎じゃあ、愛宕とアイちゃんと一緒にお風呂行っておいで‼︎」

 

「おふおいく‼︎」

 

「ごっき〜ぶっこおいちて、こなこななった‼︎」

 

「ふふっ‼︎きっと気に入るわ‼︎」

 

「Come on‼︎」

 

愛宕はいよ

 

アイちゃんはひとみをそれぞれ抱っこし、露天風呂に向かう



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特別編 ラバウルの多忙な1日〜後編〜

「あたごんはあいしゃんのおか〜しゃん⁇」

 

「そうよ〜。でも、アイちゃんの方が最近大っきいわよね〜」

 

「えいしゃんいってた。おか〜しゃんはちっちゃいほうがい〜お〜って‼︎」

 

「あいしゃんはおっき〜かあ、みんなをくぅ〜ってれきうの‼︎」

 

ひとみはアイちゃんの腕の中で、抱き締めるジェスチャーをする

 

「IOWAもいつかはMamaになるのかなぁ〜…」

 

「二人はお母さんの事好き⁇」

 

「たかこしゃんしゅき‼︎」

 

「よこしゅかしゃんもしゅき‼︎」

 

二人にとっての母親は、貴子さんか横須賀

 

何方を天秤にかける訳でも無く、均等に好きな様だ

 

「おふくぬいだ‼︎」

 

「すっぽんぽん‼︎」

 

「OK‼︎行きましょ‼︎」

 

変わらずそれぞれに抱っこされ、露天風呂向かう

 

「ぷい〜…」

 

「うい〜…」

 

シャワーを浴び、二人は同じ様に頭を振って水を払う

 

「ホントに双子ね…」

 

「使う手が違うわ⁇」

 

体を洗うタオルを見ると、いよは左手

 

ひとみは右手で洗っている

 

実は基地で左利きの人が一人いる

 

いよはその人によく物事を教えて貰うので、左利きになっていた

 

因みに彼女達の父親であるマーカスは両利きである

 

「お風呂浸かりましょうか」

 

ひとみといよの身長では、ちょうど溺れてしまう深さの湯船の為、またそれぞれに抱っこされ、湯船に浸かる

 

「かぁ〜」

 

「くぁ〜」

 

「ふふっ‼︎二人共おじさんみたいよ⁇」

 

「えいしゃんもぱぱしゃんも、くぁ〜っていっておふおはいう」

 

「おゆざば〜ってでうの」

 

「いつもはパパとマーカスさんと入るの⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「はっしゃんとそおいもはいう‼︎」

 

「そっかそっか‼︎」

 

「Egg食べましょ‼︎」

 

アイちゃんが持って来た温泉卵とスプーンを貰い、愛宕に殻を取って貰う

 

「えっぐ‼︎」

 

「ぷうぷう〜‼︎」

 

卵は見た事あるが、温泉卵の様に中身がプルプルな卵は見た事がない二人は興味津々

 

「こうやって食べるのよ⁇」

 

「「いたあきますっ」」

 

愛宕の手元を見て、ひとみもいよも温泉卵を掬い、口の中に入れる

 

「おいし〜‼︎」

 

「ぷうぷうたまお‼︎」

 

二人は温泉卵を二つずつ食べた後、脱衣所に戻って来た

 

「あたごんふいてくあさい」

 

「あいしゃんふいてくあさい」

 

「ふふっ‼︎こっち向いて⁇」

 

「OK‼︎」

 

愛宕とアイちゃんに頭を拭いて貰う

 

「Milk飲んだら戻りましょ‼︎」

 

「「いたあきますっ」」

 

愛宕とアイちゃんが片手で牛乳を飲む足元で、ひとみといよは両手で瓶を持って飲む

 

「ふた‼︎」

 

「ぎゅ〜ぬぅ〜のふた‼︎」

 

ラバウルの露天風呂にある牛乳瓶の蓋は、他とは違う

 

ラバウル航空隊の機体エンブレムが描かれてあり、中々カッコいい

 

「くおいとりしゃん」

 

黒い鳥が咆哮しているラバウル航空隊のエンブレムは、二人にとってもカッコよく見えた

 

「ぱぱしゃんとえいしゃんのひこ〜きも、とりしゃんのえ〜かいてあうの」

 

「これはPapaとかケンゴの飛行機のマークなのよ⁇」

 

「こえくらさい‼︎」

 

「ひとみもほちい‼︎」

 

「ふふっ。バッチにしてあげよっか⁉︎」

 

愛宕は牛乳瓶の蓋にクリップを付け、ひとみといよの首の左側辺りにそれをくっ付けた

 

「「あいがとござます‼︎」」

 

「帰りましょうか‼︎」

 

帰りもそれぞれに抱っこされ、皆の待つ食堂へと戻る

 

 

 

 

「たらいま‼︎」

 

「あっ‼︎えいしゃん‼︎」

 

アレン、健吾、ラバウルさんとコーヒーとお菓子を食べていると、四人が戻って来た

 

「おかえり‼︎ありがとうな⁇」

 

「此方こそ‼︎二人のおかげで随分助かったわ⁇」

 

「特にPapaのRoom‼︎」

 

「こ、コラッ‼︎」

 

アイちゃんがアレンににやけ顔を送った後、愛宕もアイちゃんもひとみといよを降ろした

 

二人はキチンと礼を言った後、俺に飛び付いて来た

 

「たあごたえた‼︎」

 

「ぷうぷうたまお‼︎」

 

「ちゃんとお礼言ったか⁇」

 

「あたごんあいがと〜‼︎」

 

「あいしゃんあいがと〜‼︎」

 

「ふふっ、い〜え〜‼︎」

 

「また入ろうね‼︎」

 

ひとみといよがお礼をしている時、ふと首元に目が行った

 

「おっ⁉︎お前達、ラバウルに入ったのか⁇」

 

「はいった‼︎」

 

「らあううはいった‼︎」

 

二人はグラーフと同じ鼻息、横須賀と同じ胸張りをし、バッチを自慢する

 

「ルンタはどうした⁇」

 

「るんたきゅん、おめめくうくうになった」

 

「呼んでみ⁇」

 

「るんたこ〜い‼︎」

 

「るんた〜‼︎」

 

ひとみといよがルンタを呼ぶと、食堂の入り口から二台のルンタが入って来た

 

「るんたなおたか⁇」

 

「よいちょ…」

 

二人共俺から降りた後、ルンタを背負って来たカゴにいれる

 

「IOWAも欲しい…」

 

「アイちゃんも呼んでみたらどうだ⁇来るかも知れんぞ⁇」

 

コーヒーを飲みながら、冗談半分でアイちゃんに言ってみた

 

「OK…る、ルンタ〜…」

 

正直なアイちゃんは、俺に言われた通りにルンタを呼んだ

 

すると、食堂の入り口から二台より少し大きなルンタがアイちゃん目掛けて入って来た

 

「Oh‼︎」

 

「説明書と充電器は此処に置いておくから、アレンと一緒に見るんだぞ⁇」

 

「うんっ‼︎Thank you‼︎Dr.レイ‼︎」

 

俺が来たのはアイちゃんに製品版ルンタを渡す為と、ひとみといよを連れて基地に帰る為である

 

「さっ。お家帰ってご飯食べるか‼︎」

 

「きょうはあにかあ〜⁇」

 

「おむあいす‼︎」

 

「ははは‼︎良く分かったな⁇」

 

「えいしゃん、けちゃっ”ぴ”のにおいすう‼︎」

 

「ケチャッピ」

 

「Ketchupi」

 

「ケチャッピか」

 

「は…」

 

愛宕、アイちゃん、アレンが俺にやけ顔を送り、俺は笑顔のまま表情が固まり、冷や汗を流す

 

「そう言えばStopもStopiだったわ⁇」

 

「けちゃっぴちあう⁇」

 

「すとっぴちあう⁇」

 

「良いんですよ。教え方は人それぞれです。私の指導とウィリアムの指導の方法が違う様なものです。教育に答えはありません」

 

ラバウルさんの言葉で救われた…

 

結局その後、俺は恥ずかしさを隠す為に、逃げる様にラバウルを後にした…

 

 

 

 

「たらいま‼︎」

 

「かえってきたお‼︎」

 

「あらっ‼︎お帰りなさい‼︎」

 

基地に戻り、貴子さんに迎えて貰った後、二人が手を洗いに行く

 

「無線で聞いたぞビビリ‼︎災難だったらしいな‼︎」

 

「ま、まぁな⁉︎」

 

アークにおちょくられ、後頭部を掻く

 

「おててあぁった‼︎」

 

「おなかすいた‼︎」

 

「よし‼︎今日はアークと食べるぞ‼︎」

 

「くっこおとたえる‼︎」

 

「くっこおすわろ〜‼︎」

 

「ふふふ…」

 

ひとみといよはアークの左右に座り、貴子さんが持って来たオムライスを食べ始めた

 

「イヨ、あ〜ん…」

 

「うぁ〜…」

 

アークは左手に持ったスプーンでオムライスを掬い、いよに食べさせる

 

「んっ、ひとみもちて⁇」

 

いよが食べさせて貰っているのを見て、ひとみもアークの服の裾を引っ張り、あ〜んをせびる

 

「よしよし。ヒトミ、あ〜ん…」

 

「くぁ〜…」

 

「美味しいか⁇」

 

「おいし〜‼︎」

 

ひとみにも笑顔を送るアーク

 

アークはきっと、昔の俺を思い出しているのだろう

 

「ヒトミとイヨって、利き手が違うのね⁇」

 

母さんの言葉通り、二人はソックリだが、利き手が違う

 

いよが左利きだ

 

そして、左利きを教えたのは今まさにごはんを食べているアーク

 

いよは何故かアークに良く懐いており、アークもいよに何かを教える事が多い

 

「なんだビビリ。ビビリもして欲しいのか⁇」

 

アークがそう言ったので、俺は無言で口を開けた

 

「赤ん坊か…全く…ほらっ‼︎」

 

文句を言いつつも、アークは口にオムライスを入れてくれた

 

「美味い‼︎」

 

「まっ、まぁ⁇たまにはしてやってもいいぞ⁇あ…あはははは‼︎」

 

引きつった笑いを見せるアーク

 

久々に俺を世話をして照れているのだろう

 

「たいほうにもあ〜んして‼︎」

 

《まつわも‼︎》

 

「アーク、お願いします」

 

「じゃあ私も…」

 

「ウィリアム⁇」

 

ノリで隊長が立ち上がろうとしたが、笑顔でモノスンゴイ力を出した貴子さんに止められた

 

結局、アークは子供達全員と母さん、そして何故かグラーフにもあ〜んをしていた…



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191話 スパイトだってお年頃

さて、190話、そして特別編が終わりました

今回のお話は、姫がお出掛けする所から始まります

実は基地の人達以外に知り合いが少ないスパイト

そんな姫に意外なお友達が出来ます


「遅くなったわ…」

 

その日、スパイトは横須賀で買い物をしていた

 

姫だって、一人で買い物くらいしたい

 

時計を見ると既に19時

 

基地で晩御飯を食べる時間だ

 

「これは⁇」

 

車椅子を動かし、一際明るいネオンが光る店の前に来た

 

「Bar…かしら⁇」

 

目の前には、最近横須賀で開店したバーがある

 

スパイトの喉がゴクリと鳴る

 

基地では酒類が少ない

 

あると言えば、工廠の冷蔵庫にある、息子のビール位

 

たまには飲んだって…構わないわよね⁇

 

スパイトは自分にそう言い聞かせ、タブレットを箱から出す

 

姫 >飲んで帰りたいと思います

 

たかこ >分かったわ。スパイトの分は冷蔵庫に入れておくわ‼︎

 

飲むとなれば、問題は帰りの足

 

たまには息子を足に使っても良いだろう

 

姫 >マーカス。横須賀にいるから、お母さんが言ったら迎えに来て頂戴

 

だが、しばらく待っても反応は無い

 

夜間哨戒にでも当たって入るのだろう

 

帰りの足は後で考えれば良いと考え、スパイトは車椅子を動かし、バーの中に入った…

 

 

 

 

「いらっしゃいませ‼︎」

 

「”ボッチ”よ」

 

スパイトは時々チョットズレた言葉をそれらしい場面で吐く

 

今だって、ボッチを一名様と捉えている

 

ホール担当の子は苦笑いを浮かべながら、店内に手を向ける

 

「あ、あはは…お好きな席へどうぞ‼︎」

 

「Thank you」

 

店内には自分の息子の年代の男性やOjisanが話しており、心地良いガヤつきで、スパイトはとりあえず雰囲気が好きになった

 

「ここが空いてるわね」

 

ソファーの席が空いていたので、車椅子を止めてソファーに移る

 

「ご注文は何に致しましょう」

 

「そうね…」

 

メニューを手に取り、パラパラと捲る

 

「この1976年の赤、それと…」

 

今度は肴の欄に来る

 

「Fish&Cipsを」

 

「畏まりました」

 

店員が厨房に向かい、店内を見回す

 

「んあ〜…」

 

気の抜けた声が聞こえ、その方に振り向く

 

「綺麗な外人さんで〜すね〜あはははは〜」

 

呂律が半分回っていない少女が、瓶ビール片手にスパイトを見つめている

 

「貴方は⁇」

 

「ポーラですかぁ⁇ポーラはポーラと言いますぅ〜」

 

「そう…ポーラもボッチかしら⁇」

 

「ポーラはボッチじゃありませんて。ポーラ、こう見えて娘がいますて」

 

「ここに座りなさい。フラフラじゃないの」

 

「えへへ、はぁ〜い‼︎」

 

スパイトがソファーをポンポンと叩いた場所にポーラが腰を下ろす

 

「私はスパイト。よろしくね⁇」

 

「スパイトさん⁇スパイトさんスパイトさん…何処かで聞いたよ〜な〜…」

 

ポーラは俯いて悩み始める

 

俯いた顔を見ると、ポーラは口を尖らせている

 

「マーカスは知ってるかしら⁇」

 

「マーカスさん⁉︎勿論ですよぉ‼︎ポーラ、何度もお世話になってますて‼︎」

 

「息子がいつもお世話になってます」

 

「マーカスさんのお母様ですか。そうですか…お母様⁉︎」

 

飲んでいたビールを噴き出す程驚くポーラ

 

スパイトはいつもの様に自然にハンカチを取り出し、ポーラの顔を拭く

 

「あ…ありがとござます…」

 

「ふふっ、綺麗な顔が台無しよ⁇」

 

あまりにも驚き過ぎた為、ポーラは酔いが覚めてしまい、申し訳無さでいっぱいになる

 

「あ、あのあの‼︎ポーラがアサカーゼを産んだ時、マーカスさんにお世話になりましたて‼︎それと、ポーラが逸れた時にお迎えに来てくれたり、それにそれに…」

 

自身の息子が普段している事を教えて貰い、スパイトはポーラの話の最中、終始満面の笑みを浮かべる

 

「とにかく、マーカスさんは凄い人ですて‼︎」

 

「Thank you、ポーラ。ふふっ…」

 

「お待たせしました」

 

フィッシュアンドチップスが置かれ、グラスにワインが注がれて行く

 

「グラスをもう一つ頂けるかしら⁇」

 

「畏まりました」

 

「いいんですかぁ⁇」

 

「えぇ‼︎二人で飲んだ方が、私も楽しいわ⁇」

 

「へへ…」

 

ポーラは照れ臭さそうに笑い、追加されたグラスに注がれるワインに視線を送る

 

「じゃあ、かんぱ〜い‼︎」

 

スパイトが微笑み、グラスが重なり合う音を立てる

 

「スパイトさんは何処のお方ですかぁ⁇」

 

「イギリスよ⁇イギリスは良い所よ⁇」

 

「はへぇ…ポーラはイタリアですて。イタリアも良い所ですよぉ⁇」

 

「Pizzaの国ね⁇」

 

「そうですそうです‼︎ポーラ、ピザ好きですて‼︎」

 

少し幼さが残るポーラを見ながら、スパイトはワインを口にする

 

スパイトは楽しくてたまらなかった

 

勿論基地での会話も楽しいが、こうした新鮮味のあるお話を聞くのも、スパイトは気に入っていた

 

ポーラは沢山の事を教えてくれた

 

イタリアは綺麗な街が多い

 

家庭的な美味しい料理が沢山ある

 

軟派な男が多い

 

でも気持ちは熱い国だ

 

スパイトは行った事の無い国の話を聞いて、心を踊らせる

 

そして、どんどんポーラが好きになって行く

 

「ふぁ〜…」

 

お互いに沢山話をした後、ポーラは欠伸をした

 

「おねむかしら⁇」

 

「そ〜れすねぇ…」

 

ポケ〜ッとした顔をしながら、ポーラは目を擦る

 

その顔は本当に幼く見え、スパイトの母性が動いた

 

「ここに横になって⁇」

 

スパイトは自身の膝をポンポンと叩く

 

「失礼じゃありませんかぁ…⁇」

 

「いいの。気にしないで⁇」

 

「じゃあ…お言葉に甘えて〜…」

 

スパイトの膝に頭を起き、ポーラは目がトロンとし始める

 

「スパイトさん…」

 

「どうしました⁇」

 

「また、ポーラと飲んでくれますかぁ〜⁇」

 

「勿論。ポーラがよければ」

 

「えへへ〜…良かったぁ〜…」

 

そう言った後、ポーラはうつ伏せでスパイトの膝枕で眠りに就いた

 

そんなポーラを見て、スパイトは髪を撫でたり、背中をゆっくりポンポンと叩く

 

「いらっしゃいませ」

 

ポーラを寝かせてすぐ、入口のカウベルが鳴る

 

「母さん」

 

「マーカス⁇」

 

上を向くと、背後に立っている息子のマーカスの顔が見えた

 

「お久し振りです」

 

「アレン」

 

横にはマーカスの友達である、パイロットのアレンもいる

 

「寝たのか⁇」

 

「えぇ。沢山お話ししてくれたわ⁇」

 

「俺、今日飲むから、母さん一人で帰れr…」

 

マーカスが今から言おうとしている言葉を予測し、真顔になる

 

「…分かった。横須賀に泊まろ」

 

「絵本も読んで頂戴⁇」

 

マーカスに甘えられる時はとことん甘えておくと決めている

 

「オーケー。じゃあ、ちょっと飲んでくる」

 

二人がカウンター席に座った後、残ったワインを飲み干した

 

「コーラを頂けるかしら⁇」

 

残ったフィッシュアンドチップスをコーラと一緒に食べ、二人を待つ

 

 

 

 

その頃、カウンターでは…

 

「おまかせを二つで‼︎」

 

「畏まった‼︎」

 

ネームプレートに”那智”と書かれた女性のバーテンにお任せのカクテルを注文するマーカスとアレン

 

数分後、カクテルが出来上がる

 

「ゔっ…」

 

「こっ、これはカクテル…か⁇」

 

「ガンジスの淀みでございます」

 

二人の前に置かれたカクテルは、どこからどうみても泥水にしか見えない

 

「心配するな。ちゃんとしたカクテルだ」

 

「い、頂きます…」

 

「よ、よし…」

 

意を決し、同タイミングで”ガンジスの淀み”と名付けられたカクテルを飲む

 

「…」

 

「…」

 

一旦グラスから口を離し、もう一度飲む

 

「…美味いな」

 

「…うん」

 

見た目の割には中々美味なガンジスの淀み

 

コクのある甘さで、奥行きに茶葉を感じる

 

「ほうじ茶を使っているんだ。だからそんな色になるんだ」

 

「なるほど…」

 

「もう一杯くれるか⁇」

 

ガンジスの淀みを気に入った二人は、今しばらくそれを楽しむ

 

「楽器あるな」

 

飲みながらふと気付く

 

店内の奥に幾つか楽器が置いてある

 

「上手く弾けたら割引してやるぞ⁇」

 

と、那智が半笑いで言ったが最後

 

二人は一瞬で楽器の前に行く

 

「あ、ちょっ…」

 

「大尉二人の演奏だ‼︎」

 

「やった‼︎」

 

那智は知らなかった

 

この二人、演奏は朝飯前なのだ

 

そしてすぐに演奏が始まる…

 

 

 

 

「あらっ、マーカス…」

 

スパイトは遠目で息子の演奏を見る

 

そして、曲に合わせて鼻歌を歌う

 

ポーラにとって、もう一段階上の心地良い空間が産まれる

 

それも束の間

 

心地良い演奏、そしてお酒も入り、スパイトも俯いて眠ってしまった…

 

 

 

 

目が醒めると、何処かのベッドの上

 

「朝…」

 

「起きたか⁇」

 

息子が着替えを持って来てくれた

 

「マーカスが運んでくれたの⁇」

 

「そっ。寝ちまったからな」

 

「Sorry…」

 

「気にすんな。着替えたら間宮に行ってくれ。お友達がお待ちだぞ⁇」

 

着替えを置いた後、息子は出て行った

 

着替えを済ませ、身嗜みを整えてから間宮に向かう

 

「あ‼︎スパイトさん‼︎」

 

「ポーラ‼︎」

 

ポーラに手招きされ、机を挟んだ向かい側に座る

 

「朝ごはん食べてから帰りましょ〜」

 

「えぇ‼︎」

 

その日、スパイトもポーラも楽しく朝食を食べ、互いの基地に戻って行った

 

この日を境に、横須賀基地内ではスパイトとポーラが一緒にいる所を度々目撃されるようになった…

 



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192話 あの子は恋する女学生(1)

さて、191話が終わりました

今回のお話は、鹿島からある物を貰う所から始まります

それを使って何をするのか…

そして誰に使うのか…


「レーダー艦”ダイダロス”より”ダイナマイトハニー”へ。其方の状況は⁇」

 

《敵影無しです。航路このままで構いません》

 

「了解した。”ヴァルキリー”其方は⁇」

 

《照月も大丈夫だよ‼︎》

 

「よし、演習終了‼︎御二方、神威に向かって下さい」

 

今日は大湊の近海で、レーダー艦”ダイダロス”の付き添いで対潜演習を行っていた

 

因みにダイナマイトハニーと言うのは、涼月の事である

 

演習が終わり、二人が神威に戻って行くのを見届けるまでがダイダロスの仕事である

 

「行ったか…ふぅ…」

 

ダイダロスの艦長は、二人が神威に入って行くのを見て、無線器を降ろし、深い溜息を吐く

 

「ハニーが怖いですか⁇」

 

「当たり前だ‼︎四肢に爆弾埋め込まれてるんだぞ‼︎」

 

ダイダロスの艦内が少し明るくなる

 

密漁をしなくなったダイダロスの船員は、よく笑う様になった

 

しかし、艦長は相変わらず涼月に脅されている

 

あれから一度だけ試しに涼月に逆らった時、左肩関節が高速で脈打ち始めたのを境に、艦長は一切涼月に逆らえなくなっていた

 

涼月の言った事は本当で、艦長の四肢の関節部それぞれに本当に爆弾を埋め込んである

 

「まっ、まぁ…確かに可愛い所もある…か、な⁇」

 

実は涼月、自分の両親、照月に続き、艦長に懐いている

 

普通にしてれば、涼月はまだまだ甘えんぼさんなのだ

 

「艦長」

 

「なんだ⁇」

 

「相手は生後一年も…あいた‼︎」

 

「そう言う感情じゃないわいや‼︎」

 

焦った艦長は隣にいた部下にゲンコツを落とし、語尾が変になった

 

 

 

 

 

「ただいま〜‼︎」

 

「ただいま戻りました」

 

「お疲れさんっ。ご飯出来てるから食べて来な‼︎」

 

神威に戻って来た二人は食堂に向かう

 

「わぁ〜っ‼︎」

 

「お肉沢山‼︎」

 

今日の昼食は、ボスオリジナルの満艦全席

 

満漢全席じゃなく、満艦全席なのは、艦の中で食べるからである

 

二人は早速席に着き、満艦全席を食べ始める…

 

 

 

 

その頃大湊では…

 

「マーカスおじさん、これは⁇」

 

「これは何だろうな⁇時津風は何だと思う⁇」

 

「アヒルさん」

 

「じゃあ読んでみるか…」

 

時津風を膝に乗せ、絵本を読む

 

一緒に来たきそは工廠で今日のデータを集めている

 

絵本を読み聞かせている時津風は本当に大人しく、ジーッと絵本を見ている

 

基地にいる子供達、そして自分の子供達の様に、あれはなんだこれはなんだと聞かれない分、少し寂しい気もするが、これもこれで良い

 

「あらレイ‼︎来てたのね⁉︎」

 

「すみません、時津風の相手して貰って…」

 

腕を組んだ鹿島、そして腕を組まれた棚町が帰って来た

 

「手隙だったんだ。照月は⁇」

 

「もうすぐ帰投します」

 

「んっ…」

 

読み聞かせが中断した為、時津風が俺の腕を叩く

 

「すまんすまん‼︎」

 

読み聞かせを再開し、時津風はまた大人しくし始める

 

「大尉は本当に父親になりましたね…」

 

「レイは元からあんな感じですよっ」

 

夫婦からお褒めの言葉を頂きながら、読み聞かせを進める

 

「アヒルは…」

 

「…」

 

先程からカクカクと首がうな垂れていた時津風の頭が胸板に当たる

 

どの子も一緒だな…

 

読み聞かせをすると寝てしまう

 

「よいしょ…」

 

時津風を寝かせた後、棚町達の所に寄る

 

「大尉。たまには謝礼を受け取って頂けませんか⁇」

 

棚町が分厚い茶封筒を机の上に置く

 

毎回護衛の代金や演習の謝礼を渡して来るが、いつもなんだかんだ理由を付けて全部断っている

 

分厚いのは、今までの分も入っているからだろう

 

だが、どうしても彼等から受け取りたくなかった

 

俺に払う金で、空いた時間を少しでも取り戻せば良い。そう思っているのもあるし、俺はちゃんと横須賀からキチンとした給金は貰っている

 

横須賀からも「それはキチンとした正当なお金だから受け取りなさい⁇」と言われているが、何か嫌だ

 

「そうですよレイ。これは一応職務なんですから‼︎」

 

「礼なら照…」

 

「「照月ちゃんはちゃんと受け取ってくれます‼︎」」

 

「ゔっ…」

 

言いたい事を先に言われ、声が詰まる

 

「なら…金よか物が良いな」

 

「物…ですか⁇大尉を超える物か…」

 

棚町が頭を抱える横で、鹿島がニヤついている

 

「レイ…面白い薬をあげましょうか⁇」

 

「そうそう‼︎そう言うのだよ‼︎」

 

「少々お待ちを…」

 

鹿島が隣の部屋に行き、小瓶と説明書らしき紙を持って来た

 

「この薬は面白いですよ…何と若返りの薬です‼︎」

 

「ほほぅ⁉︎」

 

鹿島から説明書を受け取り、内容を読む

 

 

 

 

”細胞回春液 KSM-16”

 

・使用法

 

1.食事に三滴程垂らし服用

 

2.飲料物に一滴二滴垂らし服用

 

・作用

 

服用者の細胞を活性化し、16歳前後の見た目へと退行させる

 

服用後、その状態で再度服用すると8歳前後まで退行

 

16歳未満には服用しない事。本液薬の効能が出ません

 

・副作用

 

服用者の一時的記憶喪失

 

・作用の効能が切れる方法

 

全身の血行を促進させ、本液薬を体内全域に行き渡らせる

 

本液薬は全身に行き渡ると自動的に消滅しますが、通常の心身の状態では戻る事はありません

 

 

 

 

これは中々面白そうだ‼︎

 

「この、記憶の一時的喪失ってのは⁇」

 

「使った人が一番好きな人の記憶が無くなります。分かりやすく言うと、レイの記憶が無くなればレイが好きだと言う事です」

 

「なるほど…」

 

「それと、全身の血行を〜と言うのは、要はドキドキさせれば良いんです‼︎」

 

「よし、買おう。幾らだ」

 

「それがお礼です」

 

「よし、それなら受け取る‼︎」

 

「帰って来たよ〜‼︎」

 

タイミング良く照月も帰って来た

 

「またお願いしますね」

 

「また来てね⁇」

 

二人に別れを告げ、時津風の頭を撫でた後、執務室を出た

 

きそを迎えに行き、グリフォンに乗ろうとした時、表でダイダロスの艦長が涼月から逃げ回っていたが、気にしないでおこう…




ダイダロスさん…レーダー艦艦長

涼月に頭が全く上がらないレーダー艦”ダイダロス”の艦長

涼月に逆らうと、四肢に埋め込まれた爆弾が爆発すると脅されている

まさか爆弾が入っているとは本当に思っておらず、一度軽く逆らった所、左肩関節部が高速で脈打ち始めたのをキッカケに、涼月に逆らえなくなる

涼月の渾名をダイナマイトハニーと付けたのは彼

涼月に対しては、子供の様な感覚を示しており、涼月自身も悪く思っていないが、逆らうといつでも爆破するつもりではあ


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192話 あの子は恋する女学生(2)

基地に帰り、一服終えた所で早速薬を試したい所だが、誰に試そうか…

 

「マーカス」

 

タイミング良く母さんが来た

 

「お夕飯だから、れべとまくすを呼んで来てくれる⁇」

 

「分かった」

 

最初は母さんにしよう

 

今も若いが、もっと若い母さんも見て見たい

 

れーべとまっくすを呼んで来た後、夕飯になり、貴子さんから母さんが食べるサラダを受け取る

 

そしてその中に鹿島の薬を垂らして母さんの前に置いた

 

因みにカレーにも垂らしてある

 

今日はアークと母さんがひとみといよのお世話をし、俺はローマの横に座った

 

「頂きますっ」

 

夕飯を口にしながら、チラチラと母さんを見る

 

「ヒトミ、カムカムよ⁇」

 

「かむかむ」

 

「イヨもモグモグよ⁇」

 

「もぐもぐ」

 

「ふふっ」

 

ひとみといよを見て微笑みながら、母さんはサラダを口にする

 

「あら⁇」

 

母さんが異変に気付く

 

「何か若返った気がするわ‼︎」

 

だが、あまり変わっていない気もする

 

母さんは16位からあんま変わってないのか…

 

そして、カレーも口にする

 

「こ…これは⁉︎」

 

みるみる母さんが小さくなって行く

 

服はダボつき、来ている意味を成さず、カチューチャも床に落ちた

 

「すぱいとしゃんちっしゃ〜い‼︎」

 

「ひとみちゃんといよみたいになた‼︎」

 

「え…え⁇」

 

小さくなった母さんは何が起こったか分からずアタフタしている

 

「ま、ま〜かす〜‼︎」

 

「ホントに効くんだな…」

 

小さくなった母さんを抱き上げると、ダボダボになった服がずり落ちた

 

「や〜っ‼︎や〜っ‼︎」

 

抱き上げた母さんは勿論素っ裸

 

「い、いよ‼︎何か服持って来てくれ‼︎」

 

「あかった‼︎」

 

どうしていいか分からず、とりあえず母さんを降ろし、革ジャンを被せる

 

「どうして…」

 

「薬の所為だ…すまん…」

 

「ぐら〜ふのおふくもってきたお‼︎」

 

グラーフがたいほうに作ってくれていた服をいよから貰い、母さんに着せる

 

「どうしてこんなことに…」

 

「俺が母さんの飯に薬入れたからだ…すまん…」

 

「すてきだわ…」

 

「へ⁇」

 

「ふふっ‼︎」

 

母さんは急に俺に抱き着いて来た

 

「これでま〜かすにおもいっきりあまえられるっ‼︎」

 

「はは…」

 

「グラーフにも寄越せ」

 

「そうよ‼︎私だって若返りたいわ⁉︎」

 

勝手に大人組による薬争奪戦が始まる

 

「レイ。その薬を飲んだら私も若返るのか⁇」

 

「多分…鹿島に貰ったんだ。危険性は無い」

 

「そうか…なら奪い取るまで‼︎」

 

最近隊長もその場のノリに流されるから怖い

 

「分かった‼︎わ〜かった‼︎とりあえず今日は一人だけな⁉︎全員若返ったら基地が機能しなくなる‼︎」

 

「じゃあグラーフが先だな」

 

「私が先よ‼︎」

 

「効果が切れるまでレイに任せるから私が先だ‼︎」

 

一人に絞っても結果は同じ

 

ここで隊長の横から手が伸びる

 

「ウィリアム⁇」

 

貴子さんだ…

 

貴子さんは隊長の首を掴み、ジワリジワリと力を入れる

 

「あ、はい…わかりまひた…」

 

「オトン。グラーフだよな」

 

「私よ‼︎」

 

残ったのはグラーフとローマ

 

「グラーフは明日哨戒任務があるから、今日はローマだな」

 

「仕方ない」

 

「よしっ‼︎」

 

「16歳位になるか、8歳位になるか、どっちが良い⁇」

 

「16歳ね。早く入れて‼︎」

 

ワクワクしながらローマは薬をカレーに垂らされるのを待つ

 

内ポケットから瓶を取り出し、ローマのカレーに垂らした後、軽くかき混ぜる

 

「ほらよ」

 

「頂くわ」

 

瞬時にカレーを口に入れ、何度か咀嚼した後飲み込んだ

 

「凄いわ…」

 

みるみる内にローマが若返る

 

今と大して変わらない気もするが、若干肌にハリが戻った気もする

 

「と、まぁこんな感じだ」

 

「どうやったら元に戻るんだ。グラーフそれ知りたい」

 

「ドキドキさせればいい。そしたら効果が切れる」

 

「なるほどな」

 

「それと副作用があって、まぁ、対した事じゃ無いが…」

 

副作用の話をしようとした時、急にローマが口を開いた

 

「アンタ誰⁇」

 

「と、まぁ…一時的な記憶の喪失があ…る…マジか」

 

「兄さん。お客さんなの⁇」

 

「あ、あぁ…」

 

隊長はいつの間にか説明書を読んでいた

 

「ふ〜ん…ま、いいわ。私、お風呂入って来るわ。貴子、ご馳走様」

 

「え、えぇ…」

 

貴子さんも不思議そうな顔をしている

 

ローマが風呂に向かってすぐ、隊長が口を開いた

 

「ローマはレイが好きなのか…」

 

「そうみたいね…」

 

説明書を読んでいた隊長と貴子さんが放心状態になる

 

「めがね、えいしゃんしゅき‼︎」

 

「めがね、えいしゃんみうとろきろき〜ってなう‼︎」

 

「マジか」

 

「あじ」

 

「あい」

 

机に肘をつき、顔を抑える

 

好意を持ってくれている事は知っていた

 

だが、一番とは聞いていなかった

 

「ふふっ‼︎ま〜かすもてもてね‼︎」

 

母さんはいつの間にか俺の肩に乗っていた

 

体重もたいほうと同じ位か…

 

「どれ、アークも試してやろう‼︎」

 

「あっ‼︎」

 

ローマがチョビッと残したカレーを、アークが口にした

 

「おぉう…」

 

みるみる内にアークが小さくなって行く

 

「どうだぁ⁉︎アークも若返っただろう⁉︎」

 

「くっこおちっさ‼︎」

 

「ろ〜ら〜‼︎」

 

椅子の上に立ち、アークは胸を張っている

 

「姫も小さくなったんだ。アークもやりたい。それに貴様‼︎何故姫を肩に乗せている‼︎」

 

「アークもか…」

 

「あ〜くはしかたないわ⁇むかしからま〜かすがすきだったもの」

 

「おい貴様‼︎アークも抱っこしろ‼︎姫だけやるとかズルいぞ‼︎」

 

アークはアークで俺の鳩尾に抱き着く

 

「ふふん」

 

「おおおごごご…」

 

「えいしゃんみちみちになってう」

 

「ぱぱしゃんらっこ」

 

「おっ‼︎珍しいな⁇よいしょ…」

 

隊長に抱っこされるひとみといよは珍しい

 

時々一緒に遊んでいるのは見かけるが、抱っこするのは久々かもしれない

 

「ま〜かす、おふろいきましょ‼︎」

 

「貴様マーカスと言うのか」

 

「そうだ」

 

「マーカス、アークも風呂に連れてけ‼︎」

 

「分かった分かった…」

 

結局、二人ともくっ付けたまま風呂に向かった

 

 

 

「ま〜かす、だっこして⁇」

 

「アークも‼︎」

 

湯船に入っても二人はベッタリ

 

「マーカス、もう少し寄れ。アークが入れないだろう‼︎」

 

「ふふっ…えいっ‼︎」

 

ベッドに入っても二人はベッタリ

 

挙句、母さんに至っては腹の上にくっ付き始めた

 

「…」

 

「姫は眠ったか⁇」

 

「あぁ…アークは寝ないのか⁇」

 

「貴様ともう少しこうしていたい」

 

「分かった…」

 

横でガン見をして来るアーク

 

「おやすみのキス位したらどうだ」

 

「来いよ」

 

「ん…」

 

寄って来たアークの額に唇を置く

 

「まさか、ビビリにこうして貰う日が来るとはな…アークは嬉しいぞ…」

 

唇を離すと、いつものアークに戻っていた

 

「戻ったな⁇」

 

「アークはビビリが好きだ。分かっておいてくれ…」

 

そう言い、アークは恥ずかしさに勝てずそっぽ向いて寝てしまった

 

母さんは戻らんな…

 

人の服にヨダレ垂らして…



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192話 あの子は恋する女学生(3)

次の日になっても、母さんは元に戻らず

 

朝ご飯もベッタリ

 

歯磨きもベッタリ

 

着替えもベッタリ

 

「よし。こうなりゃ親父に会わせよう‼︎」

 

「おやじ⁇」

 

「リチャードだよ」

 

「りちゃ〜ど⁇ま〜かすのしりあい⁇」

 

「オーケー。親父を忘れてる」

 

「丁度良い。レイ、これを中将に渡して来てくれるか⁇」

 

「オーケー。任された。母さん、行くぞ」

 

「うんっ‼︎」

 

隊長から書類を受け取り、ロリ化した母さんを抱っこしながらグリフォンに乗る

 

「大人しく乗ってるんだぞ⁇」

 

「は〜い‼︎」

 

助手席の母さんにベルトを付け、横須賀に向けて飛び立つ

 

 

 

「ん〜っ‼︎チゲ鍋最高‼︎」

 

「親父」

 

「寒い日はチゲ鍋だよな‼︎」

 

「親父」

 

「はいっ‼︎中将、あ〜んっ‼︎」

 

「親父」

 

「あ〜んっ‼︎」

 

「親父」

 

「なんだね…ま、マーカス‼︎」

 

何度も呼んでようやく振り向いた親父は、俺を見た瞬間椅子から転げ落ちた

 

親父は瑞雲にいた

 

瑞鶴も一緒にいる

 

妻、そして息子の前で堂々と浮気をしている

 

「よく息子の前で堂々と浮気出来るな…」

 

「う、浮気ではない‼︎こここ、これは、その…」

 

「とりあえず隊長から」

 

隊長から預かった書類を渡すと、親父の目付きが変わった

 

「すまん。クイーンとグリフォンのフライトデータなんだ。VR演習の敵役に役立てようと思ってな」

 

「まっ、役立つ所には役立ててくれ。それとっ…」

 

「おっ…」

 

「ま、ま〜かす…」

 

親父の膝の上に乗せた母さんは、不安そうに俺を見ている

 

「大丈夫だ。この人は母さんの好きな人だ」

 

母さんの頬を撫でると、少し涙を浮かべた後、ゆっくり頷いてくれた

 

「親父、”母さん”を頼んだ‼︎じゃっ‼︎」

 

「お、おいマーカス‼︎どういう意味だ‼︎」

 

「ま〜ま〜中将。食べましょう⁇」

 

「子供用の椅子がいるだろう」

 

「あ…ありがとう」

 

日向が持って来てくれた子供用の椅子に、謎の幼女を座らせる

 

「君、お名前は⁇」

 

「うぁ〜すぱいと‼︎」

 

「すっ、スパ…」

 

「チゲ鍋大丈夫かな…」

 

「ちょっとよそってやってくれ」

 

瑞鶴がチゲ鍋をよそってくれている間、母さんは親父を見ず、小さな容器によそわれていくチゲ鍋を見ていた

 

「はいっ、どうぞ〜」

 

「いただきます‼︎」

 

チゲ鍋を食べる母さんを見ながら、二人も同じ物を食べる

 

そして、母さんの口周りが真っ赤になっていく

 

「こりゃスパイトだわ」

 

「どうしてこうなったのかしら…」

 

口周りが汚れて行く事で分かられる母さんも母さんだな…

 

 

 

 

母さんの事は親父に任せときゃいい

 

俺は俺で試したい奴がいる

 

「レイ‼︎」

 

伊勢に入ろうとする横須賀が見えた

 

丁度良い。探す手間が省けた

 

「ケーキ食べるわよ‼︎」

 

俺の答えを聞く間も無く、横須賀に腕を引かれて伊勢に入る

 

「私レアチーズケーキ‼︎」

 

「取って来いってか⁇」

 

「あいたたた…急に足が…」

 

「しばくぞコイツ…」

 

仕方なくレアチーズケーキと、自分の分のアイスケーキを持って来た

 

「う〜ん‼︎美味し〜い‼︎」

 

「取りに行く時位動けよ…太るぞ⁇」

 

「うるさいわね〜っ‼︎乙女に太るとか、それでもジェントルマン⁇」

 

「…悪かったよっ」

 

「それでこそレイよ‼︎次っ、フルーツタルト‼︎ほら、早くっ‼︎」

 

横須賀は空いた皿をフォークでチンチン鳴らし、早くフルーツタルトを持って来いとせびる

 

悪い子にはお仕置きだ

 

取りに行ったフルーツタルトに、あの薬を二滴垂らし、戻って来た

 

「あ〜…」

 

しっかしまぁ…

 

オヤツ食ってるコイツの顔は、ホントに幸せそうだな…

 

「美味しいわぁ〜‼︎…へ⁇」

 

横須賀の身長が萎んで行く

 

胸も少し減り、髪の毛が赤くなって行く

 

「何これ」

 

「…」

 

若返った横須賀を見て、息が詰まりそうになる

 

黒髪ロングの暴食女も良いが、母親譲りであろう赤髪になった横須賀は、それ以上に可愛く見えた

 

「…何よ」

 

「い、いや…」

 

「アンタ誰」

 

「お、俺は、その…」

 

俺の事を忘れていて、少しホッとする

 

いつもなら女性と対面してもこんな事にはならないのに、16歳に戻った横須賀を目の前にした今、まるで初恋の相手を目の当たりにした様な感覚に陥っていた

 

上手く話せない…

 

手が震える…

 

心臓の鼓動が早くなる…

 

あぁ、やっぱり俺はコイツが好きなんだな…

 

「ここは初めてかしら⁇」

 

「いや…時々来てる」

 

「ふ〜ん…でも見ない顔ね⁇あ、分かった‼︎最近配置された部隊の子でしょ⁉︎」

 

「そんな所だ」

 

「まっ⁉︎精進なさい⁇ここには精鋭のパイロットが山程いるわ⁇じゃあね。もぅ…何なのよこの服。ダボダボじゃない」

 

横須賀は着ている服にブツブツ文句を言いながら、伊勢から出て行った

 

横須賀が出て行ったので、とりあえずは執務室を目指す事にした

 

「…」

 

「…」

 

「…ねぇ」

 

「なんだ⁇」

 

「何で着いてくんのよ‼︎」

 

「執務室に用があるんだ」

 

「あらそう」

 

必然的に向かうのは互いに同じ執務室

 

横須賀の後ろを歩きながら、執務室の扉が開く



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192話 あの子は恋する女学生(4)

「お父様‼︎」

 

「お父様」

 

清霜と早霜とが飛び掛かって来るのを抱き止める

 

清霜もセーブしてくれているのか、最近慣れて来た

 

「お父様⁇」

 

「お父様はお母様の旦那さんでしょ⁇」

 

「…」

 

「アンタが私の旦那ぁ⁇あはは‼︎ないない‼︎」

 

椅子に座り、横須賀は引き出しからポテトチップの袋を出し、それを食べ始めた

 

「お母様…さっき、ケーキ食べたばかり」

 

「き〜ちゃんもケーキ食べたい‼︎」

 

「アンタ、どこ所属よ」

 

「ここだ」

 

「ふ〜ん…何が目的かしら⁇」

 

机の上に肘を置き、口元に置いた状態でジッと此方を見つめる横須賀

 

本当に忘れるんだな…

 

「お母様、何かおかしい…」

 

「若くなった気がするけど、何か怖い…」

 

清霜と早霜の、俺の足を抱き締める力が強くなる

 

「まっ、いいわ⁇私、着替えて来るから、それまでに出て行きなさい。まだ居る様なら、憲兵に突き出すから。分かった⁇」

 

力強く扉を閉め、横須賀は出て行った

 

「聞く必要ない…」

 

「き〜ちゃん達と遊ぼ‼︎」

 

「おと…」

 

お父さんはお母さんを〜と言おうとしたが、二人がジッと見つめながら結構な力を入れて引っ張って来たので、それに従う事にした

 

「ビーダーメンにしましょう」

 

「お父様”マト”ね‼︎」

 

「ウソちょっと待っ…」

 

二人がおもちゃ箱に向かう

 

娘を信用しない訳ではないが、清霜の言う事だ

 

何となく嫌な予感がする…

 

「はいっ‼︎」

 

清霜の手には、悪そうな顔をした男が描かれたプラスチックの人形がある

 

「お父様は…それを動かして、ビー玉避ける」

 

「よかった…」

 

清霜にオモチャのマトを渡され、一安心する

 

どうやら二人が持っているプラスチックの人形から発射されるビー玉を避ければ良いらしい

 

「よし来い‼︎」

 

床に座り、マトを動かす

 

「行くよ〜‼︎」

 

「えい」

 

伏せ状態の二人が笑顔でビー玉を撃ち出す…

 

ビー玉を撃ち出した瞬間、二人の長い前髪が上がり、

 

パリーン‼︎

 

バンッ‼︎

 

と、背後で破壊音が聞こえた

 

「あっちゃ〜ハズレ〜」

 

「調整…し過ぎた⁇」

 

「おおおおお…」

 

恐る恐る背後を振り返ると、窓ガラスが割れ、壁にビー玉がメリ込んでいた

 

壁にメリ込んだビー玉は煙を上げ、未だ回転を続けている

 

《横須賀基地‼︎此方ペトローバ隊‼︎訓練中の機体が何者かに機銃攻撃を受けた‼︎》

 

「ちょっと待ってな…」

 

緊急の無線が入り、人形を置いて無線を取る

 

「此方横須賀基地、ワイバーン。ペトローバ隊、何処からの攻撃か分かるか⁇」

 

《横須賀基地方面からだ‼︎誤射ならキツく言っておいてくれ‼︎》

 

「…すまん。多分、清霜のビー玉だ…」

 

方向的に、多分清霜が飛ばしたビー玉だ

 

まさか戦闘機に当たって機銃攻撃扱いされるとは…

 

《ならしょうがない‼︎被害は軽微だ‼︎航行に問題は無い‼︎》

 

「了解した。念の為、着陸後に被弾箇所をチェックさせてくれ」

 

《了解した‼︎》

 

無線が切れ、再びマトの人形を取ろうとした

 

「まだいる…」

 

「横須賀。ちょっと話が…」

 

「初月‼︎」

 

制止虚しく、横須賀は初月を呼んでしまう

 

「ここに」

 

天井をひっくり返して初月が降りて来る

 

「コイツをひっ捕らえて頂戴‼︎」

 

「ははは。提督。面白い冗談を」

 

「何よ。逆らうつもり⁉︎」

 

「幾ら提督の命令であれ、提督の旦那…しかも僕自身もお世話になってる人を捕まえる事は出来ない」

 

「何よ…みんなしてコイツが私の旦那旦那って…」

 

「ホントだよ‼︎お父様はお母様の大切な人なんだよ‼︎」

 

「早霜達を…護ってくれる」

 

「なら旦那らしい事して頂戴‼︎」

 

「してる」

 

「お父様してるよ⁇」

 

「これ以上に何を求めるんだ」

 

「うっ…」

 

三人から反論され、横須賀は言い返す事が出来ない

 

「大尉は良いお方だ。横須賀に居ない時にだって、提督や子供達を心配している」

 

「へ、へぇ〜…」

 

「お母様だって、お父様が来たら嬉しいって言ってるじゃん‼︎」

 

「…」

 

「早霜も…お父様好き。いっぱい、遊んでくれる。それに、助けてくれる…」

 

俺にベッタリくっ付いている三人を見て、ようやく横須賀は俺が旦那だと思い始めたみたいだ

 

「じゃあ…アンタホントに…」

 

「そうだ」

 

「ふ…ふ〜ん…なら私の男には変わりないわね⁇」

 

「まぁな」

 

「ならデートなさい」

 

「良いぞ。何処行きたい⁇」

 

「へっ⁉︎そっ、そうね…」

 

答えがすぐに返って来て、横須賀は少し驚いている

 

まさか本当にデートしてくれるて思ってなかったのだろう

 

「ふっ、服でも買って貰おうかしらっ⁉︎」

 

「分かった。清霜、早霜。お留守番出来るか⁇」

 

「出来る‼︎」

 

「悪い人来たら…ビー玉で撃つ」

 

「良い子だっ」

 

「ただいま〜っとぉ‼︎あっ‼︎お父さん‼︎」

 

「谷風‼︎」

 

谷風が帰って来た

 

「朝霜姉さんが呼んでたよ‼︎」

 

「多分練習機の事だろ。ありがとう、行ってくるよ」

 

「お父さんはお母さんとデート⁇」

 

「そ…そんな所よ…」

 

「かぁ〜っ‼︎いいなぁ〜っ‼︎谷風もデートしたいなぁ〜‼︎」

 

「今度間宮で美味いもん食おうな⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

執務室を出て、横須賀と共に格納庫に向かう

 

「悪いな、付き合わせて」

 

「別に。私が言ったんだもん」

 

そう言う横須賀はそっぽ向いている

 

…可愛くねぇの

 

「お疲れ様です、大尉」

 

「どの機体だ⁇」

 

「此方です」

 

整備士に案内され、ペトローバ隊の機体であるF4Uのところへ向かう

 

「おぉ、来てくれたか。お父さんは何だと思う⁇」

 

F4Uの周りには既に数人の整備士と朝霜がいた

 

「破損箇所は⁇」

 

「左主翼の中心だ。綺麗にブチ抜いてやがる」

 

立て掛けられたタラップを上がり、破損箇所を確認する

 

朝霜が言った通り、何かが綺麗に貫通している跡がある

 

「修復は何とかなりそうだな。問題は何が当たったか…だな⁇」

 

「だな」

 

「しかし、当該時刻、当該場所で対空演習をしていた艦娘も兵もいません」

 

「ジャン‼︎」

 

ポケットからくすねて来たビー玉を出す

 

「ビー玉…ですか⁇」

 

「これを破損箇所に合わせると…」

 

破損箇所にビー玉を合わせると、多少広がりはあるが、ほぼピッタリと一致した

 

「原因は清霜と早霜のオモチャのビー玉だ」

 

「ビー玉にコルセアの主翼を貫通させる程の威力があるでしょうか⁇」

 

「暇があったら遊んでやってくれ。その時に、ビーダーメンで遊ぼうって言ったら分かるさ。それと…」

 

タラップを降り、整備士に全員に頭を下げた

 

「申し訳なかった…清霜がとんでもない事を…」

 

「い、いやいやいや‼︎頭上げて下さい‼︎」

 

「そうですよ大尉‼︎原因が分かって良かったです‼︎」

 

「アタイからも注意しとくよ…すまなかった‼︎」

 

朝霜も頭を下げてくれた

 

「頭を上げろマーカス、朝霜。子供のやった事に罪は無い」

 

現れた男性を見て、整備士達の背筋が伸びる

 

男性の言う通りに頭を上げると、そこには清霜がビー玉で主翼をブチ抜いたF4Uのパイロットであり、ペトローバ隊の隊員がいた

 

「君の父にはいつも世話になっている。それに、これ位なら修復だって効く。心配する必要は無い」

 

「アンタペトローバの…」

 

「父上は立派なお方だ。どんな人種であれ、どんな国籍であれ、分け隔て無く接してくれる」

 

「…良い所もあるんだな」

 

「しかし、だ…」

 

一瞬にして場の空気が重くなる

 

「何故あの様な美人の妻を嫁にした上で浮気なんぞするのか‼︎」

 

男性がその場で地団駄を踏み、全員肩の荷を降ろす

 

「瑞鶴の事か…」

 

 

 

 

 

その頃、親父と瑞鶴と母さんは…

 

「いつもむすこがおせわになってます」

 

「私の事は覚えてくれてるんだ…」

 

チゲ鍋を食べ終えた三人は教会に来ていた

 

母さんは左手を瑞鶴、右手を親父とそれぞれ手を繋ぎ、二人の間にチョコンと座っている

 

「りちゃ〜どさんは、かみさましんじる⁇」

 

「我々の部隊は女神の加護を受けているから落ちないんだ」

 

リチャードの目は本気の目をしている

 

俺と違い、親父は神を信じている

 

だから時折こうして教会に足を運んでいる

 

「むすこはしんじてないの。かみさまなんて、いやしない。って」

 

嬉しそうに俺の話をする母さんを

 

「スパイトに似たんじゃないか⁇」

 

「わたしに⁇」

 

「スパイトさんは神様はいると思う⁇」

 

「いないとおもうわ。かみはしょせん、にんげんのそ〜ぞ〜ぶつだ〜って

、むすこがいってたもの」

 

「神の形をした人形にすがるなら、目の前の人間に頼るね。だろ⁇」

 

「よくしってるわね‼︎」

 

「息子だからな」

 

「そう言えばマーカスさん、前に言ってたわ⁇もし神が居るなら所詮金で動く現金な奴だ。日本にはそれをせびる箱まで置いてある〜って」

 

「…賽銭箱の事か⁇」

 

「むすこはときどきぬけてるの」

 

リチャードはスパイト「お前と一緒だな」と言い返そうとしたが、息子の話をされて嬉しそうなスパイトの顔を見て口を閉ざした

 

「ようこそいらっしゃいました」

 

シスター・グリーンが来た

 

口周りにお菓子のカスが付いているのを見ると、どうせまた裏で茶でもすすっていたのだろう

 

「お祈りですか⁇それとも懺悔ですか⁇」

 

「お祈りだっ」

 

「畏まりました…」

 

シスター・グリーンが聖書を出し、三人は数分間目を閉じながら内容を聞く

 

数分後、シスター・グリーンが聖書を閉じ、お祈りが終わる

 

「ふふっ…中将もお盛んな様で」

 

「”ユーグモ”も少しは祈ったらどうだ⁇シスターなのにマーカスに惚れるのは不純だぞ⁉︎」

 

「私がマーカス君に向ける愛はただの性的な愛ですので心配なく…」

 

「それを不純って言うんだ‼︎」

 

リチャードとシスター・グリーンは互いに笑い合う

 

親子共々、話易さは変わらない

 

リチャードだって、中将らしからぬ話易さだ

 

「”ゆ〜ぐも”。”はるさめ”は⁇」

 

「奥で昼寝をしております」

 

「知り合いなの⁇」

 

「ユーグモとハルサメはマーカスの面倒を見ていてくれたんだ」

 

「じゅ〜ねんいじょ〜もね」

 

「へぇ〜…」

 

「わたしのむかしからのしりあいなの‼︎だからむすこをたすけてもらったの‼︎」

 

「って事はシスターって結構…」

 

「まだよんじゅっ…‼︎」

 

歳を言おうとしたシスター・グリーンの口を、リチャードが咄嗟に塞いだ

 

「読者からの怒りのメールが来るからやめとけ‼︎」

 

「ぷぁ…マーカス君と同じ事するのね⁇」

 

シスター・グリーンの年齢は永遠に不明である…



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192話 あの子は恋する女学生(5)

格納庫を出て、約束通り横須賀と繁華街へ向かう

 

繁華街へ向かう道中、手を繋いだり腕を組んだりはしなかったが、横須賀は常に横にいた

 

「アンタ」

 

「なんだ⁇」

 

その呼び方は変わらないのかよ…

 

「アンタは何で私と結婚した訳⁇」

 

「お前といたら暇しないからだ」

 

「ふ〜ん…随分変わってんのね」

 

「元に戻ったら同じ質問してやるよ」

 

高雄の部屋に着き、横須賀は俺から離れて服を選び始めた

 

俺は俺で、高雄のいるレジの前で、ショーケースの中を見ている

 

「横須賀さん、何か若返ってません⁇」

 

高雄も横須賀の若返りに気付く

 

「新薬の実験みたいなモンさ」

 

二人して服を選ぶ横須賀の横顔を見る

 

顎を少し引き、一点を見つめる、横須賀の昔からの癖が見えた

 

黙っていたら本当に可愛い

 

「大尉は本当に横須賀さんが好きなんですね⁇」

 

「まぁ…な⁇」

 

「これにするわ‼︎」

 

横須賀が持って来たのはチェック柄のセーター

 

「他はいいのか⁇」

 

「そうね…じゃあ、この店で一番高いアクセサリー貰える⁇」

 

最近陰を潜めていたが、ここに来て横須賀の暴君が炸裂した

 

「ぐっ…ここはそのままの方が良かった‼︎」

 

「あはは…でしたら、イヤリングは如何ですか⁇」

 

「イヤリング」

 

ショーケースの中には、A&A maidのイヤリングが何個か置いてある

 

高雄は幾つかをショーケースから出し、俺達の前に置いた

 

「綺麗…」

 

「どれがいい⁇」

 

「そうね…イヤリングも良いけど、ネックレスも見たいわ⁇」

 

「そのネックレスは変えない方が良いかと…」

 

「これ⁇」

 

横須賀の首には、あの指環付きのネックレスが掛かっている

 

「誰に貰ったか忘れちゃったのよ…」

 

「大尉っ」

 

「んっ」

 

高雄に言われ、自分の襟を捲ってネックレスを見せた

 

「あ…」

 

お揃いのネックレスを見た瞬間、横須賀が少し止まった

 

そして、みるみる内に頬が赤みを帯びた

 

「い、イヤリングにするわ‼︎」

 

久々に見たアタフタする横須賀を見て、口角を上げる

 

「まっ、まぁ⁉︎私レベルになると何でも似合うわよね‼︎アンタ決めて頂戴‼︎」

 

「そうだな…」

 

一組のイヤリングを取り、横須賀の耳に付ける

 

手を近付けただけで分かる、少し荒くなっている横須賀の呼吸

 

そろそろ戻るか⁇

 

「あ…」

 

横須賀の耳から手を離すと、赤い石が付いたイヤリングが付けられていた

 

「お前は赤が似合う」

 

高雄に鏡を見せて貰い、横須賀は何度も鏡越しのイヤリングと、自分の横顔を見る

 

「…私とおんなじ髪の色⁇」

 

「そっ」

 

「…これにするっ」

 

「頂けるか⁇」

 

「畏まりました。イヤリングはそのまま付けていきますか⁇」

 

「う…うん…」

 

服とイヤリングを入れるケースを紙袋に入れて貰い、代金を払って高雄の部屋を出た

 

「あ…ありがと…」

 

「良く似合ってる」

 

「…」

 

横須賀は紙袋を胸の前で両手で抱え、下を向いたまま何度も瞬きをし、耳に髪をかける仕草を繰り返している

 

素直じゃないのに、分かり易いんだよな…

 

「あ、アンタ…どうせ他の女の子にも同じ事してるんでしょ⁇生意気でイケ好かないけど…その…カッコイイ…し…ど、どうなのよ‼︎」

 

上目遣い気味に睨まれる

 

「だとしたらどうする⁇」

 

「アンタをクソと思うわ」

 

「朝霜達に聞いて見るんだな」

 

タイミング良く、朝霜と磯風が此方に向かって来た

 

「おぉ‼︎お父さん‼︎」

 

「何だ⁉︎お母さんが若いぞ‼︎オトン‼︎お母さんに何をした‼︎」

 

磯風が真っ先に横須賀の異変に気付く

 

「何でもないの磯風。ねぇ、貴方達のお父さんは、他の女の人にも優しいの⁇」

 

「ん〜…そだな〜…確かに優しいっちゃ優しいな⁇」

 

「信頼はされてる。それはい〜ちゃんも見てる」

 

「んでも、お父さんが一番優しくしたり、一番心配してるのはお母さんなんだぜ⁇」

 

「オトンは絶対に一線は超えない。い〜ちゃんでもそれは言える」

 

「そう…」

 

「デート中に悪かったな‼︎」

 

「お母さんもオトンも、もう少ししたら帰って来いよ⁇今日はおばあちゃんが晩御飯を作ってくれるんだ」

 

「もう少ししたら帰るよ」

 

「お母さん。い〜ちゃんが荷物を持って帰ってやろう」

 

「ありがと」

 

磯風に紙袋を渡し、もう少しだけ横須賀と歩く事にした

 

「…ねぇ」

 

「ん⁇」

 

振り返ると、顔を真っ赤にし服の襟で口元を隠し、そっぽ向いた横須賀が見えた

 

「手…位、繋いであげてもいいわ…」

 

栗色のカーディガンの裾から手の平が出る

 

「んじゃ、お言葉に甘えて…」

 

握った横須賀の手は、緊張しているのか震えている

 

「まぁ…ちょっとは好かれてるみたいだし⁇私も好きになったげるわ⁇」

 

昔の傲慢横須賀に戻っているのを見て、鼻で笑う

 

「可愛くねぇの…」

 

「生意気ね…」

 

俺と中々の身長差がある横須賀は、俺の顔を見る度に見上げる様な形になる

 

それも、普段よりもう少し小さい身長だ

 

必然的に上目遣いになる

 

そんな横須賀の手を左手で握り、繁華街をグルリと歩いた後、執務室に戻って来た

 

執務室には誰もおらず、机に一枚の紙が置いてあった

 

「あ⁇何だこれ⁇」

 

”マー君とジェミニへ

 

食堂で待ってます”

 

「行くわよ」

 

横須賀に言われ、食堂に向かう

 

「あっ‼︎来た来た‼︎マー君‼︎ジェミニ‼︎」

 

「楽しかったみたいだな⁇」

 

「まぁなっ…よいしょ‼︎」

 

大人三人の席に座らず、癖の様に子供達のいる席に座る

 

「向こうに行けオトン。い〜ちゃんとあ〜ちゃんだけで充分だ」

 

「お父様は清霜と食べるの‼︎」

 

「早霜も」

 

磯風には避けられるが、他多数がくっ付いて来てくれた

 

「美味しいか谷風⁇」

 

「うんっ‼︎チキンもピザも美味しい‼︎」

 

学校に行ってる時などに横須賀に来るもんだから、谷風とは入れ違いが多かった

 

久々に谷風が食べる姿を見て胸を撫で下ろす

 

「オトン何食う。い〜ちゃんが取ってやる」

 

「そのピザと…チキン二つくれるか⁇」

 

「分かった」

 

磯風に食事を取って貰い、清霜と早霜に挟まれながら食べ始める…

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

夕ご飯を食べ終えた後、風呂に入って横須賀の部屋のベッドの脇に座る

 

「子供達と寝ないのね」

 

「週に一回はお前と時間を取るって決めてる」

 

「そっ」

 

横須賀はベッドの上で釈迦涅槃像の様な状態でシュークリームを頬張りながら、リモコンを弄る

 

「太るぞ⁇」

 

「ほ、ほっといて頂戴‼︎ほら、冷蔵庫からもう一個取って‼︎」

 

「はいはい…」

 

テレビの横にある小型冷蔵庫の中からシュークリームが入った袋を取り、横須賀に投げる

 

横須賀は礼も言わずにシュークリームの袋を取り、テレビに視線を向けたまま、袋を開けている

 

「アンタも食べたいなら食べて良いわよ⁇」

 

「俺ぁいい」

 

この姿を見る度、情けなく思う

 

そんな自堕落満開の横須賀の背後で横になり、ちょっと抱き寄せて見る

 

「ちょっと…」

 

それでもリモコンとシュークリームは絶対手放さない

 

頑なに自堕落をしようとする横須賀を見て、ちょっとイタズラしたくなった

 

「あっ⁉︎」

 

横須賀の手からシュークリームを取り、そのまま頬張った

 

「何考えてんのよ‼︎」

 

シュークリームを取られた横須賀はすぐに此方を向き、ビンタの体勢に入る

 

「あっ…」

 

横須賀の手首を取り、目を見つめる

 

「な…何よ…はっ…離しなさ…」

 

暴れる横須賀を抱き締め、そのまま布団に入る

 

「やっ…痛い事しないで…」

 

「こうしてるだけだ…」

 

「絶対嘘」

 

口では反発しているが、横須賀の体から力が抜けて行く

 

「俺を信じろ」

 

「…やぁよ」

 

「どうすりゃ信じてくれる⁇」

 

「…」

 

「横須賀」

 

「…今はその名前で呼ばないで」

 

「ジェミニ」

 

耳元でジェミニと言った瞬間、ビクッと肩が上がった

 

「き…キスでもしたらどうかしら⁇」

 

「ワガママな女だ…」

 

「んっ…」

 

布団の中でジェミニを抱き締めながら、長い夜を過ごす…

 

 

 

 

 

「おはよう…」

 

「おはよう。いい朝よ‼︎」

 

ヘトヘトな俺に変わり、横須賀はツヤツヤしている

 

結局あの後、主導権は横須賀に渡り、絞りに絞られた

 

そして…

 

「レイ、朝ごはん食べてから行くでしょ⁇」

 

「そうだな…よいしょっ‼︎」

 

髪も黒に戻り、変わらずデカイ胸をした横須賀がそこに居た

 

「良い薬だったわ。まっ⁇アンタを忘れなきゃ花丸なんだけどね」

 

「改良点はありそうだな…」

 

着替えながら話を続け、いざ部屋を出ようとした時、手を掴まれた

 

「レイ…」

 

「なんだ⁇」

 

横須賀の目を見る限り、普通の事ではなさそうだ

 

「はいっ‼︎バレンタイン‼︎」

 

横須賀から箱入りのチョコレートを貰う

 

今日がバレンタインと言う事を忘れていた‼︎



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バレンタイン特別編 恋する乙女達

さて、192話が終わりました

前回の終わりで告知した、バレンタインの特別編です

それぞれの場所で思い思いに繰り広げられる恋の後先

誰の恋路を垣間見るのかは、貴方次第です

何⁇訳が分からない⁇

このお話の最後まで見たら分かると思いますよ、ふふふ…


「世はバレンタインダズル」

 

「美味しそうなチョコレート作るんだリュー‼︎」

 

単冠湾の鬼神二人が基地に降り立つ

 

この二人、バレンタインにチョコレートを配る為にチョコレートを作りに来たのだ

 

「いらっしゃい。待ってたわ‼︎」

 

今からここで貴子さんと共にチョコレートを作るのだ

 

「産地直送ダズル‼︎」

 

「イッピー貰って来たリュー‼︎」

 

榛名とリシュリューは風呂敷に包んだ何かを背負っており、台所にそれを置いた

 

「これだけあればホールケーキも幾つかイケるわね⁇」

 

「ガーナまで行って来たんダズル‼︎」

 

「農場の伐採のお手伝いしたんだリュー‼︎」

 

榛名とリシュリューは、風呂敷からボトボトとカカオを台所に落とす

 

この二人、本気で一からチョコレートを作ろうとしている

 

「板チョコ溶かして型に入れるだけのチョコレートは手作りチョコとは言わんダズル」

 

「リシュリュー達はちゃんと一から作るんだリュー‼︎」

 

「なるほどなるほど。確かにそうよね‼︎じゃあ、始めましょうか‼︎」

 

女三人のチョコレート作りが始まる…

 

 

 

 

「て・い・と・く・っ‼︎」

 

トラック基地では、執務室にいるトラックさんに、蒼龍が顔を近付けている

 

「チョコレートか⁇」

 

「いいえ。久し振りに指食べさせてくれないかなぁ、って」

 

「ダメだ‼︎」

 

「いいじゃないですかぁ‼︎指の一本や二本、無くなっても困りません〜っ‼︎」

 

「クソっ‼︎離せぃ‼︎」

 

力付くでトラックさんの指を食べようとする蒼龍

 

力付くでそれを阻止するトラックさん

 

バレンタインと言うのに、二人の攻防が始まる

 

「ま〜たやってンよ…蒼龍の姉貴‼︎」

 

「指ぃ‼︎指指指ぃぃぃぃぃい‼︎」

 

「ダメだ‼︎ダメだダメだダメだ‼︎」

 

トラックさんは蒼龍の頬に指を突っ込まれながらも、頬をめくる様にしながら阻止している

 

ハグキ剥き出しで何とか指を食べようとしている蒼龍を見て、江風が頭を抱えてため息を吐いた

 

「蒼龍の姉貴‼︎アタシと横須賀で買いモンしないか⁉︎」

 

「かひもろ⁇」

 

「そうさ‼︎今日はバレンタインだから、プレゼント選びに行こうぜ‼︎」

 

「行くっ‼︎」

 

「ぬはっ‼︎」

 

蒼龍の攻撃が離れ、トラックさんは呼吸を整える

 

「じゃあ提督、行ってくンな‼︎」

 

「ちょちょ‼︎ちょっと待て‼︎お小遣いを…」

 

「い、いいって」

 

いつもなら素直に受け取る江風が、今日は珍しく受け取らない

 

「向こうで欲しい物買いなさい」

 

「提督分かってないですねぇ」

 

ふと江風を見ると、顔を赤らめているのが見えた

 

「…今日はバレンタインですよっ」

 

「なるほど…イデッ‼︎」

 

耳元で囁いて来た蒼龍に納得した瞬間、耳たぶを齧られた‼︎

 

「行って来ま〜す‼︎」

 

「き、衣笠‼︎」

 

「はいは〜い‼︎どっ、どうしたの⁉︎」

 

「ヨードチンキ持って来てくれ‼︎」

 

「わわわ分かった‼︎」

 

来てくれた衣笠は、耳から血を流しているトラックさんを見て驚き、すぐに救急箱を持って来た

 

「蒼龍に齧られたんですか⁇」

 

「不意を突かれたんだ…参ったよ…」

 

トラックさんは衣笠に膝枕をされながら、耳にヨードチンキを塗って貰う…

 

 

 

 

 

「Papa‼︎Chocolateあげる‼︎」

 

「ありがと。アイちゃんが作ったのか⁇」

 

「Yes‼︎Iowaが作ったの‼︎」

 

ラバウルでは、アイちゃんがアレンにチョコレートをあげている

 

「ケンゴとGrandpaにもあげたの」

 

「よろこんれたろ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「もう一つは誰にやるんだ⁇」

 

早速アイちゃんチョコレートを食べているアレンは、アイちゃんの手にもう一つチョコレートがある事に気付いた

 

「Papa、Dr.レイに逢いに行く⁇」

 

「行くっちゃ行くけど…」

 

「これ…Dr.レイ渡して欲しいの」

 

アイちゃんは手を震わせ、照れ臭さそうにアレンにレイの為に作ったチョコレートを渡す

 

「あ…あぁ…」

 

「約束だからね⁉︎」

 

「分かった」

 

「EatしちゃNoよ⁉︎」

 

「分かった」

 

「開けちゃダメだからね⁉︎」

 

「分かった」

 

「約束破ったら寝てる時にwaaaaa‼︎だからね‼︎」

 

「分かった」

 

「絶対よ⁉︎」

 

「分かった」

 

「Dr.レイに渡してね⁉︎」

 

「分かった」

 

散々言った後、アイちゃんは部屋から出て行った

 

レイへのプレゼントが一番凝っている

 

それにあの表情…

 

俺の娘に限ってそれは無い

 

無いと願いたい

 

絶対無い

 

俺のはしきりが付いた箱に、小さなチョコレートが規則正しく入れられているチョコレート

 

レイのはどんなのだろうか

 

ちょっと開けてみよ…

 

「開けちゃダメだよ‼︎」

 

「ヒイッ‼︎」

 

ドアをすこ〜〜〜しだけ開け、アイちゃんが半分だけ顔を覗かせていた

 

「今から行って来るよ‼︎」

 

「Mamaが早く帰って来いって」

 

「わ、分かった」

 

アイちゃんにビビりながら、アレンはT-50に乗り込む…

 

 

 

 

「ついた‼︎」

 

横須賀基地にタナトスが停泊する

 

「おてて繋ぎましょう⁇」

 

「ひとみはゴーヤと繋ぐでち‼︎」

 

いよははっちゃん

 

ゴーヤはひとみと手を繋ぎ、繁華街へ向かう

 

そして、すぐに目に行くバレンタインの看板達

 

「あえんたいんらって」

 

「ばえんたいんっなんら⁇」

 

「わからん…」

 

「バレンタインと言うのは、好きな人にちょっとしたプレゼントを渡す日です」

 

「仕方ねーから創造主に石コロでもあげるでち」

 

「ひとみもぷれれんとちたい‼︎」

 

「いよもすう‼︎」

 

「はっしゃんおかいもおいこ‼︎」

 

「れっち〜もいこ‼︎」

 

「ゴーヤ。行きましょうか⁇マーカス様が喜ぶ物、ゴーヤなら分かるでしょう⁇」

 

「ま…まぁ…」

 

ゴーヤは照れ臭さそうにはっちゃんから目を逸らし、人差し指で右の頬を掻いている

 

「マーカス様と同じ癖です」

 

「う、うるさいでち‼︎ひとみ、行くでち‼︎」

 

「いくれち〜‼︎」

 

ひとみとゴーヤが先に繁華街に向かい、一呼吸遅れていよとはっちゃんも二人の後を追う…

 

 

 

 

 

タウイタウイモールでもバレンタイン商戦が行われている

 

「このハバネロ入りチョコレートはいかがですか⁇」

 

「”ワビサビ”入りのチョコレートもあるわ⁇」

 

タウイタウイモールにいるのは、アークとスパイト

 

「よしアーク。全部買いましょう」

 

「すみません。このイタズラチョコレートセットを1セット頂けるか⁇」

 

「あ。デンピォーはリチャード・オルコット宛で」

 

「ビビリとウィリアム様はどうされますか⁇」

 

「そうね…マーカスはフルーツ系が好きだから…これにしましょう‼︎」

 

アップルエッセンス入りの、甘過ぎないチョコレートを手に取るスパイト

 

「アークはこれにします」

 

アークはチョコレートを辞め、炭酸漬けのパイナップルが入った瓶を手に取る

 

「わぁ〜っ‼︎チョコレートいっぱ〜い‼︎」

 

「ふんぎっ‼︎」

 

「ぬんっ‼︎」

 

「何だ⁉︎」

 

アークが声の方へ振り返り、スパイトも振り返る

 

「ダメよ照月‼︎これは商品‼︎」

 

「そうですよお照さんっ‼︎ちゃんと代金をお支払いしないと‼︎」

 

チョコレートが沢山置いてあるコーナーに突っ込もうとした照月を、秋月と涼月が二人掛かりで羽交い締めにして止めている

 

「照月もチョコレート食べたいよぉ〜‼︎」

 

「ダメよ‼︎全部食べちゃうでしょ‼︎」

 

「全部じゃないよぉ。ほんの九割だけだよ⁇」

 

「それを全部と言うのっ‼︎」

 

「そんなに食べたら壊滅ですっ‼︎」

 

照月はジタバタしながら、自分が食べるのはあくまで特設コーナーの九割だけだと言い張る

 

「アーク。テルヅキ達を誘ってフードコートに行きましょう。あの子、ここのステーキ好きなの」

 

「畏まりました。お〜い‼︎」

 

アークが照月達を呼びに行き、照月は目を輝かせ、抵抗を止めた

 

タウイタウイモール壊滅の危機を脱したスパイトは、ふぅとため息を吐いた

 

 

 

 

「オトンは何をやれば喜ぶ」

 

「お母さんじゃね〜のか⁇」

 

横須賀と俺が居ない執務室では、子供達が作戦会議を開いていた

 

「きそ姉さんは分かる⁇」

 

「レイって結構モテるから、中々のチョコレート貰うと思うんだ…」

 

「創造主様の好きな物をリストアップします」

 

親潮がレイの嗜好品をリストアップし、ホログラムに出す

 

子供達はホログラムを囲む様に集まり、親潮もそこに入る

 

「き〜ちゃん達は甘くないのにする⁇早霜はどんなのが良いと思う⁇」

 

「カレーパン…」

 

早霜は人差し指を咥えながら、今自分が食べたい物を言った

 

「カレーパン…そうだ‼︎イディオットにピロシキを作ってやろう‼︎そこにイディオットの好きな具材を入れてやろう‼︎」

 

「「「おぉ〜‼︎」」」

 

ガングートの一言で、レイに渡すバレンタインの品が決まる

 

「そうと決まれば買い物だな‼︎」

 

「ボルシチも作ってやろう‼︎そうだそうだ‼︎今日の夕食をガン子達で作ろう‼︎イディオットとホルスタインに対する日頃の感謝だ‼︎」

 

ガングートを筆頭に置き、子供達のバレンタイン作戦も始まる…

 

 

 

 

 

 

 

「バレンタイン一色ね⁇」

 

「世の恋人は大変だ…」

 

広場でパンを食べながら、慌ただしく動く艦娘達を眺める

 

「あら⁇もうこんな時間…」

 

「行くのか⁇」

 

「えぇ。定時視察よ。レイはどうする⁇」

 

「そうだな…」

 

 

 

 

さぁ、どうしようか⁇

 

1.基地帰還ルート(グラーフ、ローマルート)

…二人の告白へ

 

2.繁華街進行ルート(江風、蒼龍ルート)

…二人の娘のプレゼントへ

 

3.制空権奪還ルート(アレン、アイオワルート)

…お前にやるチョコレートはねぇ‼︎へ

 

4.海岸線視察ルート(はっちゃん、ゴーヤ、いよ、ひとみルート)

…海街からの贈り物へ

 

5.間宮待機ルート(アーク、スパイト、照月、秋月、涼月ルート)

…イタズラ好きの少女達へ

 

6.食堂進入ルート(朝霜、磯風、清霜、早霜、谷風、親潮、きそ、ガングートルート)

…愛娘達の手料理へ

 

 

 

 

ルート選択により、出て来る艦娘が違います

 

お話はそれぞれでおしまいです

 

それぞれ短いお話ですが、悪しからず…




感想でどれを選んだか教えて頂けたら幸いです


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∟1.基地帰還ルート 二人の告白

このお話は、1を選んだ場合のお話です

基地に帰還したレイ

基地には単冠湾の二人が、チョコレートを作っていました

そんな中、レイは二人の女性からチョコレートを受け取ります


「おっ⁇」

 

タブレットにメールが入る

 

 

 

たかこ> スゴイウマイチョコ

 

貴子さんの写真付きメールが来た

 

色んなチョコレートが机に並んでいる写真だ

 

だずるがーる> レイの分はねぇダズル‼︎

 

リシュルー> レイさんには”二人”が作ってくれたのがあリュー‼︎

 

 

 

これは一旦帰った方が良さそうだ

 

「一旦帰るよ。また夜に来る」

 

「そっ⁇な〜んか子供達がやりそうだから、なるべく来て頂戴ね⁇」

 

「分かった。きそに言っといてくれ。すぐ帰るって」

 

「分かったわ」

 

横須賀と別れ、一旦基地に戻る…

 

 

 

「ただいま〜」

 

「お邪魔してます」

 

「おっ⁉︎ワンコか珍しい‼︎」

 

二人を迎えに来たのか、ワンコが食堂に座っている

 

「案外チョコレートって量出来んダズル」

 

「でもでも‼︎産地直送だから美味しいハズだリュー‼︎」

 

「どれっ…」

 

「ダメダズル‼︎」

 

「アカンリュー‼︎」

 

「ダメよマーカス君‼︎」

 

並べられたチョコレートを取ろうとしたら、三人から散々に断られた

 

「オトンはこっち」

 

「要らないなら残していいから」

 

奥からグラーフとローマが出て来た

 

グラーフはチョコがけのポップコーン

 

ローマはチョコ味であろうチュロを持っている

 

「いただきます」

 

まずはグラーフのポップコーン

 

そして、ローマのチュロを齧る

 

「苦いな…」

 

「ビターだもん。苦いに決まってる」

 

「チュロはどうなのよ」

 

「美味いぞ⁇作れるならまた作ってくれよ」

 

「暇があればね」

 

ローマは淡々と答えを返した

 

「そういや戻ったんだな⁇」

 

「アンタの為に作ろうって思ったら戻ったわ」

 

「オトン。ちゃんとローマにお礼言うの」

 

グラーフに背中を押され、ローマの前に来る

 

「ありがとな⁇」

 

「えぇ」

 

「オトン。ローマはオトンのナデナデが欲しいらしい」

 

「ぐ、グラーフアンタ‼︎」

 

「ん…」

 

騒ぎそうになったローマの頭に手を置き、少し動かす

 

「ありがと…」

 

「ホワイトデーに期待する。いいかオトン。飛び切りの準備な⁇」

 

「分かったよ…」

 

「おい提督。ウメェダズルか⁇」

 

「うんっ‼︎ありがとう榛名、リシュリュー‼︎」

 

「お、おぅ…」

 

「取りに行った甲斐があったリュー‼︎」

 

口の周りにいっぱいチョコを付けて、満面の笑みでチョコケーキを食べるワンコを見て、榛名とリシュリューは顔を見合わせて微笑んだ

 

「そういやHAGYはどうした⁇」

 

こう言う事が得意そうなHAGYが見当たらない

 

「ハギィは今日はお休みダズル。榛名達からのプレゼントダズル」

 

「今日はこれから榛名さんとリシュリューでシチューを作るんだリュー‼︎」

 

「ハギィにもチョコレート作ったんダズル」

 

「色んなジャムが入ったチョコレートなんだリュー‼︎」

 

台所には、箱に詰められたそのチョコレートが置いてある

 

「貴子。助かったんダズル‼︎」

 

「またみんなでお料理したいリュー‼︎」

 

「こちらこそ‼︎今度はお料理でも作りましょう⁇」

 

「本当にありがとうございました‼︎」

 

単冠湾の連中が去り、貴子さんは子供達の為のチョコケーキを冷蔵庫に仕舞った

 

「ありがとう、貴子さん」

 

「ホントに楽しかったわ⁇お片付けも速いし、普通に楽しかったわ⁇」

 

「あれだけハンマー振り回してんのに、案外大人しいのね、二人共」

 

「意外に可愛かった。榛名結構乙女」

 

「見たかったな…」

 

あの榛名が乙女か…

 

「あ、そうそう。はっちゃんとゴーヤちゃんが、ひとみちゃんといよちゃんと一緒にお買い物に行ったわ⁇」

 

「珍しいな。買い物なんて」

 

「マーカス君にお菓子買ってるのよっ‼︎」

 

「ちょっと見て来るよ」

 

「晩御飯、冷蔵庫に入れとくからチンして食べてね⁇」

 

「分かった」

 

グラーフとローマからチョコを貰い、横須賀に戻る為にグリフォンに乗り込もうとした

 

「ちょっと」

 

タラップを上ろうとした時、ローマに引き止められた

 

「食べてくれてありがと…」

 

「お菓子作り好きなのな⁇」

 

「えぇ…多少なら作れるわ⁇」

 

次の瞬間、俺は口を滑らせた

 

「たまにでいいから、俺の為に作ってくれよ」

 

言った後に”しまった”と気付くが、既に遅し

 

「ありがと。そう言ってくれるの、マーカスだけよ…気を付けてね⁇」

 

「あぁ」

 

タービンを回し、滑走路に向かう最中、ローマはずっと手元で手を振っていた

 

横須賀と同じ振り方だ

 

どこか悲しげに振るその手は、見ていて無性に愛おしくなる

 

あぁ、本当に好いてくれているんだな…

 

隊長、すまねぇ…

 

やっぱ、無碍にする事なんて、俺には出来ない…

 

ローマに見送られ、俺は横須賀へと引き返した…



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∟2.繁華街進行ルート 二人の娘のプレゼント

このお話は、2を選んだ場合のお話です

広場で江風と蒼龍を見たレイ

横須賀に言われて、レイは二人を尾行し始めます

ただ、江風には悩みがあるようで…


「江風と蒼龍だ…」

 

「尾行出来る⁇」

 

「オーケー…」

 

横須賀と別れ、繁華街に向かった江風と蒼龍の尾行を始める

 

江風と蒼龍は、まず最初に伊勢に入った

 

二人の席からしきりを挟んだ席に座り、コーヒーを啜りながら備え付けの新聞を読むフリをする

 

「お父さんのケーキには敵いませんねぇ〜」

 

「まぁな〜」

 

「お父さんは何が良いかな⁇」

 

「刺繍入りのジャケットとかどうだ⁇」

 

「いいですねぇ‼︎お父さん、全然外行き持ってないからなぁ〜。そうしましょう‼︎」

 

聞こえて来る声で分かる

 

蒼龍はあぁ見えて、父親であるトラックさんの事を好いている

 

その反面、江風は少し複雑な感情を抱いている気もした

 

「さっ、出ましょうか⁇」

 

「ゴチンなった‼︎」

 

二人はそれぞれモンブランとショートケーキを食べ、体を温める為にココアを飲み、伊勢を出た

 

「ごちそうさん」

 

「ありがとうございました。二人の尾行ですか⁇」

 

「まぁなっ。またイルミネーション発動されたら敵わん…」

 

伊勢を出て、二人が話していたであろう行き先のムッシュ・海防に向かう

 

「どんなジャケットが似合いますかねぇ〜」

 

案の定、二人はムッシュ・海防でジャケットを選んでいた

 

二人に気付かれないように、店外にある革ジャンの品定めをするフリをする

 

「蒼龍の姉貴とお揃いの緑のスカジャンなンてどうだ⁉︎」

 

「おぉ〜‼︎これならお父さんにも泊が付きますねぇ‼︎」

 

「にしし…」

 

何となく、江風が悩んでいる事が分かった気がする

 

蒼龍が”お父さん”と言う度、江風はどうして良いか分からない顔をしている

 

「これく〜ださいっ‼︎」

 

「3000円っしゅ。刺繍はどうするっしゅ⁇」

 

「S・Aでお願いします」

 

S・A…

 

トラックさんが茂樹って名前なのは知ってるが、Aは知らない

 

蒼龍と江風が1500円ずつ払い、刺繍が出来上がるのを待つ

 

「アタシ、ちょっと外出てるわ」

 

「寒いのでここに居ますね〜」

 

江風だけ、ムッシュ・海防から出て来た

 

「あ、レイさん」

 

「よっ」

 

ちょうど良い

 

少しカマかけてみよう

 

「お父さんにバレンタインのプレゼント渡すのか⁇」

 

「あぁ…まぁ、そンな所さ…あはは…」

 

江風の目が泳ぐ

 

予想は当たっていたみたいだ

 

「呼んでみたらどうだ⁇」

 

「断られたらどうすんだよ‼︎」

 

「トラックさんの事だ。断らんさっ。照れはするだろうけどな」

 

「うぅ…」

 

「良い機会だと思うぞ⁇」

 

江風は悩んでいる様に見える

 

「で、でもさ…その…お父さンって呼ンじまうと、その…ケ、ケ…」

 

江風はモジモジし始め、また目が泳ぐ

 

「江風の好きはどっちだ⁇」

 

「両…方…」

 

あぁ、なるほどな

 

江風は今、凄く悩んでいる

 

本当はトラックさんを蒼龍と同じ様にお父さんと呼びたい

 

だけど、お父さんと言ってしまうとケッコン出来なくなる

 

江風は今、両方の好きと言う感情の狭間で、どうして良いか分からなくなっている

 

「アタシさ…衣笠が羨ましいよ…明るくてさ、何でも出来てさ…」

 

俺と江風は防波堤にもたれながら蒼龍を待ちながら話をする

 

「衣笠は衣笠さっ。江風、お前はトラックさんの好きな所を、二つの目で見れる凄い奴だ」

 

「二つの目⁇」

 

「そっ。衣笠はトラックさんを男として。蒼龍はお父さんとしてしか見れない。でも江風、お前は違うだろ⁇男と

しても、お父さんとしても見れる」

 

「そだな」

 

「江風は他の子より倍、トラックさんの好きな所を知ってるって訳だ」

 

「…バカにしないか⁇」

 

「する訳ねぇだろ‼︎愛に間違いは無い‼︎」

 

「分かった‼︎アタシ、今日頑張って見る‼︎」

 

「あっ‼︎」

 

江風の決意が固まった所で、蒼龍が出て来た

 

「ちゅ〜事だ‼︎じゃあな‼︎」

 

蒼龍の目の色が変わるのを見て、その場から脱出する為にダッシュで逃げた

 

「指…」

 

「まぁまぁ、今日は良いじゃないか」

 

「勿体無い…」

 

「帰ンぞ‼︎」

 

「うんっ」

 

江風と蒼龍は、トラックさんに渡すプレゼントを手にし、自身達の基地に戻った…

 

 

 

 

「ただいま‼︎」

 

「戻ったぞ〜‼︎」

 

「おかえり。良い物買えたかい⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

蒼龍は持っていた紙袋をトラックさんに渡した

 

「私にかい⁇」

 

「割り勘で買ったんですよ⁇ねっ⁇」

 

「あぁ‼︎似合うと思うぜ‼︎」

 

「どれどれ…」

 

紙袋の中から、緑のスカジャンが出て来る

 

「おぉ〜‼︎高かったんじゃないのか⁉︎」

 

スカジャンを手にしたトラックさんは、内側にはS・Aと刺繍されているのに気が付いた

 

「”茂樹・有村”…お父さんのイニシャル、刺繍して貰ったの‼︎」

 

「ありがとう…」

 

筋骨隆々のトラックさんは、中々身の丈に合う服が見つからず、大きめのスカジャンを貰い、感涙している

 

そんなトラックさんを見て、江風は言った

 

「だ、大事にしてくれよな…お、お父さン‼︎」

 

「勿論さ‼︎いやぁ、これは本当に嬉しい‼︎」

 

「ンじゃ、アタシ風呂入って来るわ‼︎」

 

「ありがとうな‼︎」

 

「いつものお礼さっ‼︎」

 

江風は笑顔で手を振りながら執務室を出た

 

「い…言っちまった…」

 

執務室を出てすぐ、江風は口を抑えて震えていた

 

「また、呼んでみよう、かな⁇えへへ…」

 

ニヤついた顔をしたまま、江風はお風呂に向かった…

 

 

 

 

「江風からお父さんと呼ばれた‼︎」

 

「嬉しいですかぁ⁇」

 

蒼龍は執務室の机に両肘で頬杖をつきながらトラックさんを見つめている

 

「うんっ‼︎今日はダブルで嬉しいよ‼︎」

 

「お父さんは素直ですねぇ〜…」

 

「娘二人からプレゼントかぁ…うんうん‼︎」

 

何度も何度もスカジャンを見てはデレデレの顔になるトラックさんを見て、蒼龍はいつもの食人衝動を起こさず、その傍らでただただ微笑んでいた…



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∟3.制空権奪還ルート お前にやるチョコレートはねぇ‼︎

このお話は、3を選んだ場合のお話になります

横須賀基地上空でアレンのT-50を見かけたレイと横須賀

事前報告が無い為、レイは着陸したアレンの所に向かいます


「あら⁇アレンだわ⁇」

 

横須賀が見上げる先にはアレンのT-50がいた

「連絡あったか⁇」

 

「無かったわ⁇急用かしら⁇」

 

そうこうしている内に、アレンのT-50が着陸態勢に入る

 

「チョイ見て来るよ」

 

「頼んだわ。私、間宮の方向に行くわ⁇」

 

横須賀と別れ、アレンのいる場所に向かう

 

「ヤ''ツ''ハドゥコドゥァァァァ…」

 

「ヒイッ‼︎し、知りません‼︎」

 

「レ''ーーーイ''ーーー…」

 

「うわぁぁぁあ‼︎」

 

T-50が着陸した場所に向かうと、数人の整備兵が逃げて来た

 

「大尉‼︎助けて下さい‼︎」

 

逃げて来た数人の若い整備兵が俺の背中に隠れた

 

「な、なんだなんだ⁉︎」

 

「レ''ーーーイ''ーーー‼︎」

 

「ばっ、バーサー化していらっしゃる…」

 

口から白い息を吐き出しながらプレゼント箱を持ったアレンが、敵意剥き出しで此方に向かって来る

 

「な、なんだよ‼︎」

 

「ン''ッ‼︎」

 

鳩尾前にプレゼント箱を突き出される

 

「お前からか⁉︎」

 

「アイちゃんからだ馬鹿野郎‼︎」

 

「マジか‼︎」

 

バーサー化が解けたアレンの口からアイちゃんからと聞いて、すぐさまプレゼント箱を取ろうと手を伸ばした

 

「欲しいか」

 

「欲しい‼︎」

 

「なら俺を倒せ‼︎欲しけりゃ奪え‼︎ヌハハハハ‼︎」

 

「よっしゃ引き受けた‼︎」

 

「大尉同士の模擬戦だ‼︎」

 

「録画していいですか⁉︎」

 

整備兵達が興奮し始める

 

アレンVSレイは、相当な時が無ければ中々お目にかかれない

 

今がその”相当な時”なのだ

 

「しろしろ‼︎レイが負ける姿をキッチリ収めるんだぞ‼︎」

 

「心配すんな‼︎3分で叩き落としてやる‼︎」

 

各所に模擬戦連絡が飛び交い、繁華街に放送までされる事態になる

 

《ただいまより、アレン・マクレガー大尉、マーカス・スティングレイ大尉による模擬戦を開始します》

 

「マジかマジか‼︎」

 

「それは見ものだな‼︎」

 

「録画班‼︎準備出来たか⁉︎」

 

基地が騒然とする中、二機が飛び立つ

 

「本気で来い‼︎アレン‼︎」

 

《お前にやるチョコレートはねぇ‼︎》

 

開始の合図である、ヘッドオン状態から交差する二機…

 

基地上空で、意地と意地のぶつかり合いが始まる…

 

 

 

 

一時間後…

 

「す…スゲェ…」

 

「どうやったらあんな操縦…」

 

全く決着する事無く、二機は空に白煙を交差させて行く

 

「ほらほらどうしたアレン‼︎そんなもんかぁ⁉︎」

 

《こんな楽しい模擬戦、すぐに終わらせてたまるか‼︎》

 

「はっはっは‼︎」

 

《はっはっは‼︎》

 

あまりにも楽し過ぎた

 

空を駆け、命を削り合うのはこうでなくては‼︎

 

高笑いさえ、空に交差して行くこの感覚…長らく感じていなかったな‼︎

 

「だがな、アレン。燃料切れだ‼︎」

 

《俺もだ‼︎》

 

「降りたら決着だぞ⁉︎」

 

《オーケー乗った‼︎》

 

結局、決着つかずのまま、二機は燃料切れで戻って来た

 

着陸してすぐ、互いの機体に整備兵やパイロット達が寄り、賞賛の言葉を振り撒いてくれた

 

そんな声を受けながら、二人は勇み足で歩み合う

 

そして近寄った瞬間、互いに右手を構え、前に突き出した

 

「「ジャンケンポン‼︎」」

 

俺はパー

 

アレンはグーを出した

 

「っしゃあ‼︎」

 

「ぐや''じい''〜〜〜っ‼︎」

 

アレンは腕で顔を隠しながらプレゼント箱を突き出した

 

そこに居た全員が”へ⁇”と言う顔をするが、思い出して欲しい

 

この二人、チョコレート一箱で争っていただけである‼︎

 

「大事に食えよ‼︎マジで‼︎」

 

「取ったどぉぉぉぉぉお‼︎」

 

「アイちゃん泣かしたら許ざんからな‼︎分かったか⁉︎」

 

「誰が泣かせるかよ‼︎」

 

「またなっ‼︎」

 

「あぁ‼︎」

 

アレンはそのまま基地に帰って行った…

 

「アイちゃんのチョコレートかぁ‼︎」

 

早速箱を開け、中身を見る

 

「おぉ〜‼︎」

 

彩り鮮やかなチョコレートが、規則正しく入っている

 

メッセージカードが付いており、

 

”毎日一つずつ食べてくれると嬉しいです”

 

と、書いてあった

 

「これは宝物にしよう。うん」

 

メッセージカードを内ポケットに仕舞い、横須賀達の待つ執務室に戻った…

 

 

 

 

 

 

この日の壮絶な模擬戦は、後に”バレンタインデーの聖戦”と呼ばれ、模擬戦に発展した理由は伏せられたまま、映像記録として保管された…




続きはもう少し掛かります。ごめんなさい、ホント



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∟4.海岸線視察ルート 海街からの贈り物

このお話は、4を選んだ場合のお話になります

バレンタインと聞き、駄菓子屋に訪れた四人の潜水艦娘

レイへのプレゼントは何を選ぶのかな⁇


「海岸の方も騒がしいわね…」

 

「多摩とあかりがいるな」

 

海岸線では、カップルがチラホラ歩いている

 

今日は告白日和だからな…

 

「ちょっと行ってみましょうよ‼︎」

 

横須賀に手を引かれ、海岸線へと向かう

 

 

 

 

「創造主はモテるから、結構な量の甘いモンを貰うはずでち」

 

「はっちゃん達は甘くない物を選ぶんですね⁇」

 

「れたすじお〜‼︎」

 

「さあみたお〜‼︎」

 

四人は足柄の駄菓子屋に来ていた

 

ひとみといよが甘くない駄菓子を選ぶ中、はっちゃんとゴーヤも一応選ぶ

 

「あらっ、大尉にプレゼント⁇」

 

「ばえんたいんのおかいもお‼︎」

 

「ぷれれんとかう‼︎」

 

「じゃあ…これなんてどうかしら⁇」

 

足柄はレジの横にある、年季の入った桐箪笥から、これまた年季の入ったオイルライターを出した

 

「あいた〜」

 

「戦時中に作られた記念品らしいんだけど、ちょっと前に売りに来た人がいたのよ」

 

「創造主は結構タバコ吸うでち」

 

「1940年代の製品ですねぇ。かなり貴重品です」

 

「おいくあ⁇」

 

「あんえん⁇」

 

「そうね…大尉なら大事に使ってくれるだろうし、3000円位でどうかしら⁇」

 

「はち、ゴーヤ達は1000円出すでち」

 

「ひとみ、いよ、500円玉はありますか⁇」

 

「あいっ‼︎」

 

「あいっ‼︎」

 

はっちゃんとゴーヤが1000円ずつ出し、ひとみといよは500円玉をそれぞれ足柄に渡した

 

「綺麗な箱に入れとくわね‼︎」

 

「ここは骨董品も扱ってるんでち⁇」

 

「知る人ぞ知る、だけどね」

 

「こえもくらさい‼︎」

 

「だがち‼︎」

 

ひとみといよが、持っていた数個の駄菓子をレジに置く

 

「はいっ、ありがとう〜」

 

「くるくるしたらダメでちよ⁉︎」

 

ひとみといよは手頃な袋を持つと振り回す癖がある

 

「こぼえう⁇」

 

「零れるでち」

 

「はっしゃんおててつないれ‼︎」

 

「はいっ、ふふっ」

 

店を出てからは、今度は逆の方の手を繋ぐ

 

駄菓子屋を出て、砂浜近くの階段に座り、はっしゃんとゴーヤに挟まれたひとみといよが駄菓子を食べ始めた

 

「いよ、よこしゅかしゃんにこえあげうの‼︎」

 

「ひとみはこえ‼︎」

 

二人の手には、うさぎの形をした小さなチョコレートがある

 

「あいっ、はっしゃん‼︎」

 

「れっち〜あいっ‼︎」

 

互いに駄菓子の入った袋から別のうさぎチョコを出し、それぞれに渡す

 

「良いのですか⁇」

 

「ゴーヤにくれるでち⁇」

 

「みんなにあげうの‼︎」

 

「いっぱいかった‼︎」

 

ひとみといよが駄菓子を食べる両サイドで、はっちゃんとゴーヤは、貰ったチョコレートを口に放り込む

 

「買い物か⁇」

 

「創造主‼︎…ではないでちな」

 

ゴーヤが一瞬見間違う程、レイと似ている人物が背後に座ってサイダーを飲んでいる

 

「ま〜きゅんら‼︎」

 

「ま〜きゅんしゃらは⁉︎」

 

「サラはみんなで料理してる。男の私は追い出された」

 

「いよたちがいたげう‼︎」

 

「よちよち」

 

はっちゃんとゴーヤから離れ、ひとみといよはマークの膝の上に行く

 

「マーカス様を見ませんでしたか⁇」

 

「ジェミニとデートしてるんじゃないか⁇」

 

「ぜみに‼︎」

 

「よこしゅかしゃん‼︎」

 

ひとみといよが横須賀の名前を言い、はっちゃんとゴーヤは辺りを見回す

 

「…近くにいるでち」

 

「…えぇ」

 

「えいしゃんあっち‼︎」

 

「よこしゅかしゃんもあっち‼︎」

 

ひとみといよが指差す方を見ると、大分遠くで、同じ様に砂浜近くの階段に座り、何かを話しているレイと横須賀が見えた

 

「索敵能力は相変わらずだな⁇」

 

「いよ、ろこいてもえいしゃんみえう‼︎」

 

「おめめきぅ〜ってすうの‼︎」

 

そう言って、二人は一瞬だけ目を細めた

 

「創造主の所に行くでち‼︎」

 

「マークさん。二人と一緒に来て下さい」

 

「オーケー。ヒトミ、イヨ、行くぞ‼︎」

 

「いくお‼︎」

 

「いくお‼︎」

 

両肩にひとみといよを乗せたマークと共に、二人の所へ向かう…

 

 

 

 

「あっははは‼︎何それ⁉︎」

 

「ったく…アイツの横にいるといつもそうだ」

 

レイの話がよっぽど面白いのか、横須賀は八重歯を見せて笑っている

 

「ジェミニはあぁして笑うんだな」

 

「知りませんでしたか⁇」

 

「普段は自堕落してるか、真面目な顔して子供達の相手してるからな」

 

「ギザ歯が子供に遺伝してるでち」

 

何度も言うが、横須賀はギザ歯だ

 

誰に似たんだろうか…

 

「よこしゅかしゃん、は〜ぎじゃぎじゃ‼︎」

 

「あ〜しゃんとは〜しゃんも‼︎」

 

「サラもギザ歯何だぞ⁇よく口閉じてるか、半開きでも隠れてるかだから見えないけどな⁇」

 

「お父さん‼︎」

 

「さっ。お母さんの所に行きなさい」

 

「ま〜きゅんあいがと‼︎」

 

「またちてえ‼︎」

 

ひとみといよを降ろし、横須賀の所に向かわせる

 

「よこしゅかしゃん、こえあげう‼︎」

 

「ひとみも‼︎」

 

先程のウサギチョコを横須賀に渡す

 

「あらっ‼︎バレンタインくれるの⁇食べさせてくれる⁇」

 

「あいっ‼︎」

 

「あ〜ってちて⁇」

 

「あ〜…」

 

口を開けた横須賀に、二人はチョコレートを放り込んだ

 

「んっ。美味しいわ‼︎ありがとっ‼︎」

 

「くふふっ…」

 

「くふふっ…」

 

横須賀にべったりくっ付く二人を見て、はっちゃんとゴーヤも俺の所に来た

 

「マーカス様。これを」

 

「ひとみといよからもでち」

 

「おっ⁉︎四人からか⁉︎」

 

はっちゃんからケースを貰い、中を開ける

 

「…」

 

中に入っていた物を見て、息が詰まりそうになる

 

「お気に召しませんでしたか⁇」

 

「…高かったろ⁇」

 

「いえ。一人1000円位です」

 

「こいつぁ、潜水艦竣工の記念に造られた記念品だ。よく手に入れたな⁇」

 

「足柄が売ってくれたでち」

 

「なるほど…大事にするよっ」

 

潜水艦の子達から貰う、潜水艦竣工の記念品か…

 

中々感慨深いな…

 

「さっ‼︎そろそろサラがお待ちかねだ‼︎行くぞ‼︎」

 

マークの言葉で、全員の足が食堂へと向かう…




サラは本当にギザ歯なのか‼︎


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∟5.間宮待機ルート イタズラ好きの少女達へ

バレンタインからかなり日が開いてしまいました

大変申し訳ありません

イベント、リハビリ、イベント…

結構忙しいと、言い訳しておきます

感想も順次返信致しますので、もう少々お待ち下さい

このお話は、5を選んだ場合のルートです

スパイト、アーク、照月、秋月、涼月はタウイタウイでお買い物

そして、アークがある異変に気付きます


「姫‼︎アーク‼︎ステーキ”ごちそうさま”‼︎」

 

「い〜え。また食べましょう⁇」

 

「照月⁇もうちょっと姫さんやアークさんを見習って食べましょう⁇」

 

照月は相変わらずステーキを吸い取る様に食べる

 

姫とアークはマナーを守り、美しくステーキを食べていた

 

照月に是が非でも見習って欲しい秋月は何度も教えようとするが、照月はナイフとフォークこそ持つものの、刺しては吸い、刺しては吸いを繰り返していた

 

店の肉をほとんど食い荒らした所で、この日珍しく照月は”ごちそうさま”を言った

 

「マナー気にしないでテルヅキ‼︎私、テルヅキが食べるのを見るの好きなの‼︎」

 

「アークも好きだ‼︎いっぱい食べるのは良い事だ‼︎」

 

「うんっ‼︎ありがとう‼︎」

 

照月がどれだけ食い荒らしても、タウイタウイモールに被害は行かない

 

毎回何処からとも無く補填とその費用や諸々の経費が入り、売り上げが1日で爆上がりする為、逆に重宝されている

 

それに、照月は毎回タンカーの護衛任務を遂行している

 

このタンカー護衛任務は国にとっても重要で、貴重な物資や資源が本土に来る

 

照月が護衛を始めてからタンカーの連隊はほぼ無傷で入港する為、照月はかなり貴重な存在になっている

 

そして、涼月が参加し始めてから更に護衛の強固さが増している

 

危険な任務ではあるが、それ程国にとっては貴重な任務である為、照月にはそれに見合った給金が勝手に入金される

 

勿論涼月にも給金が出ている

 

総司令部と国からはこれ位の店の被害は喜んで補填する。照月には鱈腹食わせてやれと言われており、店側は損害どころか儲けが入るシステムになっている

 

「そろそろ横須賀に向かいましょうか。リチャードが待ってるの‼︎」

 

「アキツシマを呼んであります」

 

四人がゾロゾロと秋津洲タクシーに向かう中アークだけ、スパイトの食べた後の皿を見た

 

今日の姫、少し食べ過ぎでは無いだろうか…

 

いつもならステーキ一枚食べたらビビリにお口フキフキして貰うのに、今日は三枚も食べている

 

不思議に思いながらも、アークも秋津洲タクシーに向かう…

 

 

 

 

「あっ‼︎ウインナーさんだぁ‼︎」

 

最上のスティックミートの前には小さく切ったウインナーの試食が置いてあり、照月はそれにすぐに目を付け、パタパタと走って行った

 

「照月‼︎試食は一個よ‼︎」

 

「ろ〜ひてぇ〜⁇」

 

振り返った照月の両頬はパンパンに膨れている

 

吸い取る様にウインナーは照月の口の中に向かい、今正に飲み込もうとしている

 

「次は何食べよっかなぁ〜‼︎」

 

ウインナーを飲み込んだ瞬間、照月はスキップをしながら次の店を潰しに掛かる

 

秋月は一瞬思考が停止し、冷や汗を流す

 

「す、涼月‼︎そっちのワキ持って‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

冬場に汗をかきながら、二人は照月の両脇に手を入れ、引き摺りながら食べ物関連の店から引き剥がす

 

「クレープ‼︎駄菓子‼︎ラーメン‼︎鍋‼︎ケーキ‼︎お寿司‼︎離して‼︎照月お腹空いてるのぉ‼︎」

 

「ダメ''でずお''でる''ざん''‼︎」

 

「な、なんてパワー…‼︎」

 

二人掛かりで照月を進行方向の逆に引っ張っても、照月はズリズリと先進する

 

「テルヅキ‼︎テルヅキの好きな大きなイチゴパフェ、食べましょうか‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

「ぐはっ‼︎」

 

「ぐへぇ‼︎」

 

急に照月が動きを止めた為、変な声を出しながら二人が倒れた

 

スパイト達と共に間宮に入り、照月達はアークに見て貰い、スパイトはリチャードの待つ席に座った

 

「あの子凄いな…」

 

リチャードの目線の先には、照月と照月の前にある超特大イチゴパフェ

 

「テルヅキはアレでいいの。沢山食べて、それ以上に動く子だから。さ、リチャード。これを」

 

「ありがとう。どれっ…」

 

早速タウイタウイで買ったチョコレートを渡し、それを食べるリチャードを真顔で見つめる

 

渡したチョコは3つ

 

その中に激辛チョコは1つ

 

スパイトはリチャードの反応が楽しみで顔がニヤけそうになるが、なんとか真顔で耐える

 

「美味しいかしら」

 

「うんっ。美味いな‼︎スパイトも食うか⁇」

 

「私は良いわ。さっき味見させて貰ったから」

 

「…その、なんだ。この前は済まなかった」

 

「気にしてません。私も久しぶりにリチャードに愛されて良かったわ⁇それより、それの味はどうかしら⁇」

 

「辛いよ⁇」

 

「そう。え⁉︎」

 

「ものっそい辛い‼︎」

 

「バチが当たったのねリチャード‼︎」

 

スパイトにようやく笑みが溢れる

 

唇を真っ赤にしながらのたうち回るリチャードを見て、スパイトは爆笑

 

「ふひひひひ‼︎」

 

「は、謀ったなスパイト‼︎」

 

「息子と妻の前で堂々と浮気するからイケないのですよリチャード」

 

「クッソォ‼︎謝罪は後だ‼︎間宮、水くれ‼︎」

 

「…一応悪いとは思ってるのね」

 

数分後、ようやく痛み辛みが終わったリチャードは、机に頭を擦り付けていた

 

「ほんとしゅみましぇん…」

 

「別に浮気は構いません。ただ、せめて私やマーカスの前では見せないで頂戴」

 

「…何でもっと怒らないんだ⁇」

 

「怒った所で仕方ないでしょう⁇」

 

スパイトはこう言う所も寛容であるが、やはり目の前でイチャコラされてはヤキモチを妬くのだろう

 

ガツンと怒ったり、第三者に頼らず、こうしてイタズラをして分からせる所を見る限り、子供っぽいが分かり易く、そして誰も傷付かない

 

「ズィーカクとはキチンとお付き合いをして頂戴。じゃないと、マーカスの信用にも関わります」

 

「はい」

 

最後に、机に顎を置いて涙目でスパイトを見ているリチャードの耳に口を寄せた

 

「…ズィーカクを愛した倍は、私を愛して頂戴。いいわね⁇」

 

「ありがとう…」

 

「ふふっ…反省したのなら、本物のバレンタインチョコをあげます‼︎」

 

今度は笑顔でリチャードにバレンタインチョコレートを渡す

 

「良いのか⁇」

 

「えぇ。結構多いから、ズィーカクと食べて頂戴⁇」

 

「分かった」

 

「好きよ、リチャード…」

 

「俺もさ…てか、今日は良く食うな⁇」

 

スパイトは間宮に来てから結構な量のパンケーキを注文して、ずっとパクついていた

 

しかも梅か何かのジャムをたっぷりと塗ってある

 

「急にお腹空いちゃって…リチャード、このレモンのサイダーを頼んで頂戴⁇」

 

「大丈夫なのか⁇」

 

「えぇ‼︎食べる事は良い事よ‼︎」

 

この時、誰も知らなかった…

 

まさかスパイトの体に、あんな事が起きていようとは…



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∟6.食堂進入ルート 愛娘達の手料理

お待たせしました

このお話は、6を選んだ場合のお話…そして、全てのルートの終着点が最後に少しだけあります

子供達に手料理を作って貰ったレイと横須賀

久々に幸せな家族に囲まれます


「たまには付き合ってやるよ」

 

「レイ、今日は晩御飯食べて行きなさいよ」

 

「そうするかなっ」

 

横須賀と見回りと言う名の軽いデートを済ませ、食堂に戻って来た

 

「帰ったか‼︎晩御飯を用意したぞ‼︎」

 

サラ辺りが準備してくれていたと思っていたが、どうやら違うらしい

 

「レイ食べよう‼︎」

 

「お父様座って‼︎」

 

きそと清霜に挟まれた席に座ると、目の前に熱々のボルシチが置かれた

 

「ガン子達が作ったんだ。きっと美味いぞ⁉︎」

 

「アタイ達はこれだ‼︎」

 

間髪入れずに朝霜がピロシキを持って来てくれた

 

「お父様の好きなもの…入れてある…」

 

「心配するなオトン。キュウリは入ってない。おじいちゃんも食べれないからな」

 

ピロシキは朝霜、磯風、早霜が作り

 

ボルシチは清霜、きそ、ガングートが作ってくれたみたいだ

 

「頂きます‼︎」

 

「頂くわ‼︎」

 

横須賀も同時に食べ始める

 

ボルシチは味が濃く、俺好みの味

 

貴子さんは薄味も濃い味も作れる

 

なので、いつもは絶妙な味付けをしてくれている

 

勿論貴子さんの料理も好きだが、何ヶ月かに一度はガツンと濃い物が食べたくなる

 

それに見合った味付けを、このボルシチは出してくれている

 

ピロシキは外はパリパリ、中はひき肉やら肉系等が入っており、ボルシチによく合う

 

久々にガッツリと濃い物ばかり食べている気がする

 

「親潮と谷風はどうした⁇」

 

「アソコにいんよ」

 

二人はサラと一緒にまだ何か作っている

 

「おかわりあるかしら⁇」

 

横須賀がボルシチとピロシキをおかわりしている

 

「イディオットはどうだ⁇」

 

「もう一杯貰うかな」

 

「いっぱい食えよ‼︎」

 

ガングートにもう一杯ボルシチを入れて貰い、ついでにピロシキももう一つ口にする

 

やはり美味い

 

子供達に作って貰う料理は、こんなにも美味く感じるのか…

 

感慨ぶか…

 

「ん〜っ‼︎おいひ〜い‼︎」

 

い…な…

 

もう少し味わって食えよ…と、横須賀に言おうとしたが、結構味わってそうなので、口角を上げただけにした

 

「さっ‼︎マー君‼︎デザートが出来たわ‼︎」

 

「プリン作って見たんだぁ‼︎」

 

「ジェミニ様がお好きと聞いて‼︎」

 

サラ、谷風、親潮が作っていたのはトロトロのプリン

 

「うはぁ〜‼︎ありがと〜‼︎」

 

谷風にプリンを渡され、早速口にする横須賀

 

「創造主様は此方です」

 

「んっ。ありがとう」

 

俺は親潮からプリンを貰う

 

横須賀のトロトロプリンと違い、ちょっと硬めのプリンだ

 

「創造主様は硬めがお好きと聞いたので…」

 

「よく知ってるな‼︎うんっ‼︎美味い‼︎」

 

プリンも程良く甘くて、口がサッパリする

 

「さっ‼︎サラ達も頂きましょう‼︎」

 

サラの言葉で、子供達も席に着き、ボルシチやピロシキを食べ始める

 

「あ〜…」

 

大口を開けてピロシキを頬張るサラ

 

…横須賀のギザ歯はサラ譲りか

 

男ウケする顔付きしてる割に、歯は凶暴なんだな…

 

「おっ‼︎美味そうな料理だな‼︎」

 

「ロシアノリョウリダ」

 

マークとヴェアも来た

 

「マー君‼︎子供達が作ってくれたのよ‼︎」

 

「そっかそっか‼︎」

 

「オイシソウ‼︎」

 

マークとヴェアも席に着き、料理を食べ始める

 

…マークはギザ歯じゃなかった

 

やはりサラから遺伝したのだな…

 

こうしてバレンタインは子供達に囲まれて終わりを迎えた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基地に戻って眠りに就いた頃、部屋の扉がゆっくりと開く…

 

少女は手にバレンタインのプレゼントが入った袋を手にして、俺の枕元にそれを置いた

 

「ママといっしょにつくったの。おいしいよ。すてぃんぐれいたべてね⁇」

 

少女はそう言い、俺の頭を撫でた後、部屋を出て行った…

 

次の日の朝、少し溶けたチョコレートが入ったプレゼントが枕元に置かれていた

 

誰がくれたのかすぐに分かった

 

俺の大切な友達からだ

 

俺はそのチョコレートを一粒口に入れた後、リビングへと向かった…



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193話 命の権利(1)

さて、192話、バレンタイン企画が終わりました

バレンタイン企画は長い間待たせて申し訳ありませんでした

今回のお話はアレン目線のお話です

試験飛行を終え、ガンビアに着艦したアレン

すると、ガンビアに異変が出ます

普段アレンがどんな目でレイを見ているかも分かります


「此方SS隊バッカス。着艦許可を求める」

 

《了解。試験飛行お疲れ様です》

 

横須賀からの要望で、新型機の試験飛行を依頼されていたアレン

 

最終目的地はガンビア

 

そこで機体は一旦ガンビアに格納され、別基地に配属される

 

「着艦フック…よし。エンジン停止」

 

マニュアル通りの誠実な操縦をするアレンは、自身の乗るT-50のAIからも好評であり、アレンは自信を持っていた

 

レイに勝てるのは、この誠実な操縦だ…と

 

「お疲れさん‼︎」

 

そのレイが迎えに来てくれた

 

俺の試験飛行の様子、そして機体性能を見に来ている

 

ガンビアの端くれに、ド下手に停めたグリフォンを見る限り、未だに空母の離着陸はヘタクソな様だ

 

「若干左エンジンの吹きが悪い。その他は申し分ない性能だ」

 

「サンキュ。調整しとくよ」

 

ヘルメットをレイに投げると、レイはそれを受け取り、指を通して肩に置いた

 

「致し方無く、帰りは送ってあげます」

 

「はは〜ん⁇発艦出来るのかなぁ〜⁇」

 

「ウッセェ‼︎発艦位出来るわ‼︎」

 

コイツの前では、本当の自分でいられる

 

嘘偽りなく、本当の自分を出せる

 

だから、レイは親友だ

 

どんな時だって、コイツは俺を救ってくれた…

 

だから、今回だって…

 

 

 

 

ガンビアの中に入り、帰りはどうせレイの不安MAXの発艦に任せる為、軽くビールを飲む

 

「大尉。報告書です」

 

「「おっ。サンキュ」」

 

一つの報告書に、同時に二人の手が伸びる

 

「俺だろ⁉︎」

 

「俺だろ⁇」

 

「失礼しました‼︎マーカス大尉宛てです‼︎」

 

「はっはっはぁ〜‼︎」

 

ニヤケ顔でレイが報告書を取る

 

「ゼッテー少佐になってやっからな‼︎顎で扱ってやるぁ‼︎」

 

「はいはい。言ってないでビール飲みなさい」

 

俺をいなした後すぐ、レイの目付きが変わる

 

コイツの本気の目を見るのは好きだ

 

誰かの為に動いている目だ

 

「そういやさ」

 

「ん⁇」

 

互いに目を合わさず、会話が進む

 

レイは報告書

 

俺はその辺にあったグラビア雑誌を見ている

 

「チョコレート美味かったぞ」

 

「俺の娘の作ったチョコレートだ。美味いに決まってる」

 

「”アレン”は子煩悩だねぇ〜」

 

「言ってろっ」

 

他愛無い会話をしていると、急にガンビアが揺れた

 

「何だ⁉︎」

 

「照月でも乗って来たんだろ⁇」

 

レイは呑気にコーヒーを飲んでいるが、どうも様子が違う

 

揺れが長い

 

「違うみたいだな」

 

「あぁ」

 

ようやくレイがコーヒーカップを置き、異変に気付いた

 

「機関室に連絡を取る。アレン、操舵室に連絡取ってくれ」

 

「オーケー」

 

レイが機関室に連絡を取っている反対で、操舵室に連絡を繋ぐ

 

「操舵室。どうした⁇揺れが大きいぞ」

 

《機関部が原因不明の急停止をした‼︎現在、緊急処置をしているが、舵が効かない‼︎クソッ‼︎予備エンジンに点火しろ‼︎》

 

どうやら向こうも分かっていないらしい

 

「分かった。アレンも連れて其方に向かう」

 

レイが無線を切った後すぐ、俺も無線を切った

 

「原因は機関室らしい。来てくれるか⁇」

 

「オーケー。直せりゃ良いが…」

 

レイと共に早足で機関室に向かう

 

俺達はこう見えてエンジニア

 

最悪、応急処置位ならなんとか出来る

 

「マーカス大尉‼︎アレン大尉‼︎此方です‼︎」

 

機関室に入ってすぐ、機関室の人員に案内された場所を見て、二人共息を飲んだ

 

「これがガンビアの中枢…」

 

ガンビアの機関室には、巨大なカプセルがあり、その中には金髪の女の子が入っていた

 

それを見て呆然としていたが、もっと呆然としていたのはレイの方だ

 

「セイレーン・システムで動いてたのか…ガンビアは…」

 

「我々ではサッパリです。こんな事は初めてで…」

 

「仕方ねぇ…アレン、手伝ってくれ」

 

「任せな‼︎」

 

レイはカプセルの前の椅子に座り、電子機器を弄り始め、俺はその横でタッチパネルを操作する

 

「よし、ガンビアから一時的にセイレーン・システムを分離させる。お前ら‼︎手動でエンジン点火出来るな⁉︎」

 

「はい‼︎出来ます‼︎」

 

「だとよ」

 

「問題ねぇな‼︎」

 

「やるぞ‼︎」

 

「あぁ‼︎」

 

レイと顔を見合わせた後、数分間互いの作業に集中する

 

「セイレーン・システム分離‼︎」

 

「エンジン点火‼︎」

 

「エンジン点火ぁ‼︎」

 

作業員がエンジンを点火

 

「やった‼︎エンジン点火‼︎」

 

二人してため息が漏れた

 

「流石は俺達だな‼︎」

 

「まっ‼︎お前がいりゃあざっとこんなモンよ‼︎」

 

俺達がハイタッチをした瞬間、カプセルの中でゴボッと気泡が出た

 

「おはよう」

 

《ア…》

 

カプセルの中の女の子はうっすらと目を開けており、何か言いたそうにしている

 

「艦体から君を一時的だが分離した。どうして急停止したんだ⁇」

 

《ア…レ…》

 

「俺か⁇」

 

先程からずっと俺を見ている

 

俺に何か言いたいのだろうか⁇

 

《イ…ショ…》

 

「一緒⁇」

 

そう言い残すと、彼女は目を閉じた

 

「なんだったんだ…」

 

「お前に惚れたんだなっ‼︎」

 

「モテる男は困るな‼︎ははは…」

 

レイの冗談を笑って返したが、内心、彼女に少し情が湧いていた

 

カプセルの中の女の子に対し、アイちゃんが映ったのかも知れない…

 

結局、その後ガンビアはセイレーン・システムと結合し直し、無事運転を再開した…



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193話 命の権利(2)

その日、珍しく眠れなかった

 

セイレーン・システムの操り方は粗方知っている

 

どんな子が入っているかも知っていた

 

だが、実際目の当たりにするとあんなにも胸を打たれるのか…

 

「アレン⁇」

 

「ん⁇」

 

「眠れないの⁇」

 

眠れないのが珍しく思えたのか、横に寝ていた愛宕が話し掛けて来てくれた

 

「今日、アイちゃんと同じ位の女の子がカプセルに入ってるのを見たんだ…」

 

「アレンはどうしたい⁇」

 

「分からない…だけど、助けてやりたいって気持ちがどこかにあるんだ…」

 

「なら、助けてあげましょう⁇レイさんみたいに、子沢山になっても良いわ⁇」

 

「ん…」

 

愛宕の率直な答えで決心がついた

 

あの子を救ってやろう

 

 

 

次の日の朝、俺はレイの基地に向かった

 

「あえんしゃんら‼︎」

 

「草投げろ草‼︎」

 

「おりゃ‼︎」

 

「うりゃ‼︎」

 

下でレイとひとみといよが草むしりをしながら遊んでいるのが見えた

 

上空の俺を見かけた瞬間、三人は持っている草を投げているのも見えた

 

俺が降りると草投げも終わり、ひとみといよが足に抱き付いて来た

 

「あえんしゃんあにちてんの〜」

 

「いよたちとあしょぼ〜」

 

レイと感覚が似ているのか、この二人はいつもくっ付いてくれる

 

「アレンと大事なお話するから、きそと遊んでな」

 

「きしょ〜‼︎」

 

「あえんしゃんさいなあ〜」

 

「またなっ」

 

ひとみといよが走り去ったのを見て、とりあえずレイを工廠に入れた

 

「な、何だ⁉︎告白ならNOだぞ⁉︎」

 

「頼みがあるんだ…」

 

レイを壁に寄せて、肩を掴んだ

 

「ある程度は聞いてやる」

 

レイの顔が本気の顔に変わる

 

「昨日の子…あの子を助けたいんだ」

 

「バカ言うな‼︎ガンビアの中枢だぞ⁉︎あの子を抜いたらガンビアが動かなくなる‼︎」

 

「俺が代わりに入る‼︎だから…」

 

「オメェが代わりに入った所で、ガンビアの動かし方分かるのか⁇」

 

「いや…それは…でも覚える‼︎」

 

「無理だ。それに、お前はシステムのエンジニアの方が向いてる」

 

「だったら俺一人でなんとかする」

 

いつもなら「仕方ねぇなぁ」等悪態をつきつつ、なんやかんやで手伝ってくれるのだが、今回はダメらしい

 

「お前が入るのがダメだって言ってんだ‼︎」

 

「どういう事だ⁇」

 

「ガンビアの中枢が無くなりゃ、ガンビアは動かなくなる。だったら、代わりを入れてやりゃあ良い」

 

「出来るのか⁇」

 

「俺を誰だと思ってる。アイリス、”G73”のAIを出してくれ」

 

《ディスクを取り出します》

 

「頼む」

 

PCに入ったAIに話し掛けたレイは、自動的に開いた読み取り機からディスクを取り出した

 

「こいつがガンビアの中枢の代わりになる。さっ、こっからが問題だ。正当法に行きゃ、恐らく断られる」

 

レイの口角が上がる

 

これは”悪いことしようぜ”の合図だ

 

「俺達ゃ元スパイだ‼︎」

 

「やる事やって捕まろうぜ‼︎」

 

「お前達は集まるといつもそうだな…」

 

「隊長‼︎」

 

「大佐‼︎」

 

いつの間にか大佐が壁にもたれていた

 

「いいか…」

 

大佐は此方に歩み寄って来た後、俺達の肩に手を回した

 

二人して息を飲む

 

止められたな…こりゃあ…

 

「やる事やって来い。責任は取ってやる」

 

「了解‼︎行って来る‼︎」

 

「ありがとうございます‼︎行って来ます‼︎」

 

互いの機体に乗り、大湊を目指す…

 

 

 

 

 

「エドガー」

 

「申し訳ないです…」

 

実は昨日の異変に気付いていたキャプテンは高速艇を使い、先に此処な来て大佐に事を話してくれていた

 

「謝る必要は無いさ。まっ、見守ってやろう」

 

「えぇ…最悪、大湊を叩けば黙るでしょう。マーカスの因縁の相手もいるようですしね⁇」

 

「相変わらず怖いな…」



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193話 命の権利(3)

大湊に着き、ガンビアを確認する為に基地の屋上から双眼鏡で確認する

 

「鎮座しておりますなぁ」

 

「鎮座しておりまする」

 

互いの双眼鏡の向こうに映る、目標であるガンビア

 

「ここで何をしている」

 

声がした後方に顔を向けると、岩井と違うもう一人のガンビアの艦長がいた

 

「ガンビアってデカイな〜って思って…」

 

「コイツに着艦方法を教えてたんです‼︎」

 

「大尉御二方でしたか‼︎不審人物かと‼︎」

 

「「不審人物はコイツだ‼︎」」

 

と、互いに指をさす

 

「ガンビアは良い艦です…今までの艦より、凄く…」

 

彼の名前はヴィンセント

 

厳つそうな顔付きをしてはいるが、話が分かる人間だ

 

そんなヴィンセントが、ほんの一瞬、悲しそうな顔を見せた

 

「そこまで艦長に言わせるんだ。ガンビアは良い艦だろうに。な、アレン」

 

「そうだな」

 

「ふふっ。いつでもいらして下さい。大した物はありませんが、軽食と飲み物はいつでもお出ししますよっ」

 

ヴィンセントが去り、レイも異変に気付いた

 

「ありゃ訳ありだな」

 

「セイレーン・システムと関係あるんじゃないか⁇」

 

「面倒な事にならなきゃ良いが…」

 

双眼鏡を仕舞い、屋上から降りた後、ガンビアへと向かう

 

顔見知り…特にレイの所にいる照月ちゃんのお陰で、ガンビアの艦内へは顔パスで行けた

 

ようやく止められたのは機関室の前の門番

 

「ようこそガンビアへ‼︎」

 

「昨日のシステムのチェックをしに来た。構わないか⁇」

 

「どうぞ‼︎お通り下さい‼︎」

 

難なく機関室に入り、カプセルの前に来る

 

「さ〜てとぉ⁇クラウディア。ガンビアのメインシステムに接続してくれ」

 

《畏まりました。ガンビア・ベイⅡ、メインシステム内に接続…》

 

「お前スゲェな…」

 

「友達の頼みだ。最後までやる」

 

そう言った、前を見つめるレイの目はとても澄んだ目をしていた

 

「大尉‼︎彼女に何を‼︎」

 

レイとクラウディアが電子機器を操作する中、一人の作業員が止めに入った

 

「システムを切り替えるのさ」

 

「待って下さい‼︎そんな事したら艦長が悲しみます‼︎」

 

「艦長が⁇」

 

「クラウディア。一旦作業を中断してくれ」

 

《畏まりました。メインシステムに接続して、作業を中断致します》

 

クラウディアが作業を中断し、レイはインカムを取り、作業員の方を向いた

 

「話を聞かせて貰おうか。どうも彼女とヴィンセントは訳ありみたいだしな」

 

「ヴィンセント艦長は、時々ここに来て彼女を見てるんです。どう言った関係かは分かりませんが…いつもとても悲しそうな顔をされています」

 

「そうか…」

 

「何をしている‼︎」

 

言ったしりから当人が来た

 

「彼女に触れるな‼︎」

 

「彼女をここから出す」

 

「下がってろ…」

 

俺は作業員を逃がし、レイとヴィンセントの睨み合いが続く…

 

「艦長。彼女とどういう関係だ⁇」

 

「言う必要は無い。とにかく、彼女から離れろ。これは命令だ‼︎」

 

「断る‼︎彼女にも生きる権利はある‼︎」

 

言い合いを続けるレイとヴィンセントだが、急に互いの声が止まる

 

「悪いが…ようやく出逢えたんだ。ここで引き剥がされる訳にはいかん」

 

ヴィンセントが銃を構えた

 

「撃てよ」

 

冷たい目をしながら、レイは銃口に体を近付ける

 

「頼む…彼女から離れてくれ…君を撃ちたくな…」

 

ヴィンセントか一瞬躊躇った瞬間、レイは銃を奪い、ヴィンセントに向け返した

 

「あ…」

 

「半端な思いで…」

 

喋りながらレイは銃を解体し、足元に銃弾を落として行く

 

「人を弾こうとするな」

 

たった数秒で銃はバラバラに解体され、ヴィンセントの足元に落とされた

 

「クラウディア。接続再開。彼女をここから出す」

 

《畏まりました。接続を再開します》

 

「大尉…」

 

「こっから出て、抱き締めてやりゃあ良い…」

 

「…」

 

ヴィンセントは敵わないと感じたのか、レイの背中を見続けている

 

「俺に出来る事は⁇」

 

「保護‼︎」

 

「よっしゃ分かった‼︎」

 

レイが快調に作業を続ける中、ヴィンセントからコツコツと音がした

 

爪を床に立てたり、時々擦り付ける様にして、音を立てている

 

「…」

 

《創造主様》

 

「分かってる…」

 

レイはヴィンセントの出す音に耳を傾けながら、作業を続ける

 

そして、レイも手元の空きスペースの上を指先でコツコツと突き始めた

 

それでも作業のスピードは緩めない

 

互いの指の音がやんで数分後、レイは立ち上がった

 

「G73。聞こえるか⁇」

 

《おはようございます。私はガンビア・ベイII、エンジンを起動します》

 

レイの言葉に反応したAIがガンビアを動かす

 

「おぉ…」

 

流石のヴィンセントも驚いている

 

「システム変更完了。よくやったな、クラウディア」

 

《お褒めに預かり光栄です》

 

「今度一緒に甘い物でも食べに行こうな⁇」

 

《はいっ‼︎お待ちしてます‼︎》

 

クラウディアとの通信が切れ、レイはインカムを外してヴィンセントに投げた

 

「ホラよ。後はアンタ次第だ」

 

「あ、あぁ…おとと‼︎」

 

《初めまして、ヴィンセント艦長》

 

インカムを受け取ったヴィンセントは早速G73の質問責めに合っている

 

「さ〜て、御対面だ…」

 

セイレーン・システムを必要としなくなったガンビアは、中から女の子を出す為にカプセルから溶液を抜いている

 

溶液が無くなった時、フタが開いて床に女の子出て来た

 

俺は女の子を受け止め、顔を見合わせた

 

「大丈夫か⁇」

 

「ア…ア…」

 

女の子はアレンの顔を見て何かを伝えようとしている

 

「が、ガンビア‼︎」

 

「…」

 

俺の腕から簡単に女の子が引き剥がれる

 

ヴィンセントの言葉を聞く限り、ガンビアと言う名前らしい

 

「逢いたかった…」

 

「…」

 

ガンビアもヴィンセントを抱き締め返している

 

「もう大丈夫だからな⁇ほら、これ着て」

 

素っ裸の状態でいたガンビアはヴィンセントから上着を被せて貰い、頭を撫でて貰った

 

「ガンビア。この人達と行くんだ」

 

「ア…」

 

ヴィンセントの話の最中に、ガンビアが俺の手を握って来た

 

「心配ない。アレンは信頼出来る奴だ。俺が保証する」

 

「ア…レ…ン…」

 

「そっ。アレン。よろしくな⁇」

 

ガンビアは首をほんの少しだけ縦に振り、握った手に力を入れた



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193話 命の権利(4)

「艦長。”話した通り”、この子はアレンに任せる」

 

「頼んだぞ…ガンビア⁇またな⁇」

 

別れの間際、ガンビアはヴィンセントの差し出した手を握った

 

「ん…」

 

ヴィンセントは悲しそうな顔をした後、ガンビアから手を離した…

 

「行こう‼︎新天地を用意してあるんだ‼︎」

 

俺がそう言うと、ガンビアは微笑みながら頷いた

 

「アレン。後は任せたぞ」

 

「お前はどうするんだ⁇」

 

「棚町に説明して来る。G73の使い方も説明しなきゃならんしな。ホラよっ」

 

グリフォンの中を探っていたレイから、ガンビアの着替え一式を受け取る

 

「洗濯して返せよ⁇グラーフからパクって来たんだ。じゃな」

 

レイはグリフォンから降り、後頭部を掻きながら基地に向かった

 

「ありがとうな‼︎レイ‼︎」

 

後ろ姿のレイは左手を革ジャンのポケットに入れ、右手の人差し指と中指

を立て、一度だけ縦に振った

 

ムカつく時もあるが、今目に映っているレイは本当カッコいいと思えた

 

「行こっか」

 

ガンビアは笑顔で頷く

 

ガンビアと共にT-50に乗り、大湊を後にした…

 

 

 

 

 

「ここが俺達の家だ」

 

「…」

 

ガンビアは口を開け、辺りを見回している

 

「おかえりなさい。話は聞いてますよ。彼女ですかっ」

 

「ようこそラバウルへ‼︎」

 

「だ…」

 

二人の顔、そして俺の顔を交互に見ているガンビア

 

「アレンの友人のエドガーと申します」

 

「同じく柏木です‼︎」

 

「エド…かし…」

 

「そっ。エドガーと、健吾っ」

 

「よろ…し…」

 

「アレン。ご飯を用意してあります。食べて下さいね⁇」

 

「了解です、キャプテン‼︎」

 

ガンビアを連れて食堂に向かう俺達を、二人はしばらく見ていた

 

 

 

「んー…」

 

「どうしました⁇」

 

「二人、どこか似てるな…と」

 

「健吾もですか…」

 

「キャプテンもですか…」

 

二人共同じ事を考えていた…

 

アレンとガンビア…

 

何処と無く、二人は似ている様な気がした…

 

「Oh‼︎Papaソックリね‼︎」

 

「ホント‼︎アレンに似てるわ‼︎」

 

「ガンビアだ。よろしくな⁇」

 

「よろ、しく」

 

少しずつだが、ガンビアの言葉が戻って来ている

 

「MeはIowa‼︎」

 

「私は愛宕‼︎」

 

「アイオワ、アタゴン…」

 

「んっ‼︎アタゴンだな‼︎」

 

「もうっ‼︎食事が出来てるわ‼︎」

 

愛宕に軽く叩かれ、食事の席に着く

 

アイちゃんも愛宕も既に食べた様で、二人共お皿を洗っている

 

ガンビアを横に置き、ピザを食べる

 

「美味いか⁇」

 

「うん」

 

ガンビアは頷きながら、ピザを食べている

 

アイちゃんと違って、大人しい子も良いもんだな…

 

時々ガンビアの様子を見ながら、テレビを見ながらピザを食べ進める

 

すると、目の前にピザが出され、小刻みに揺れた

 

「あ〜、ん」

 

嬉しそうな顔をしながら、俺にあ〜んをしようとしている

 

最初はふざけてるのかと思ったが、目が真剣な目をしていたので、ふざけてるのでは無いと一瞬で気が付き、口を開けた

 

「あ、あ〜ん…」

 

「おおきく、なるのっ」

 

ようやくガンビアが笑ってくれた

 

ピザを食べ終え、ガンビアに基地を案内する

 

「ここはお風呂だ」

 

「オフロ」

 

「ここは格納庫だ」

 

「カクノーコ」

 

「ここが俺の部屋だ」

 

「アレン、おへや」

 

基地を回っている間、ガンビアは俺の腕から手を離さなかった

 

「Papa‼︎Iowa、Bath行って来る‼︎」

 

「あっ‼︎アイちゃん‼︎ガンビアも頼む‼︎」

 

「OK‼︎」

 

「んっ、んっ、アレン」

 

アイちゃんと一緒に風呂に行かそうとすると、物凄い力で腕にしがみ付いて来た

 

「お風呂入ったら、俺のお部屋においで⁇」

 

「どこも、行かない⁇」

 

「行かない。約束する」

 

「ん…」

 

渋々腕から離れ、アイちゃんと共にお風呂に向かうが、ガンビアは何度も此方に振り返る

 

ガンビアが見えなくなり、一旦食堂に戻る

 

「可愛い子ですね⁇」

 

「怖がりなのか…⁇」

 

「アレン⁇」

 

「あぁ、いや。ガンビアが中々離れなくてな…」

 

「アレンの事好きなんじゃない⁇」

 

「美人の嫁と娘では不満…と」

 

「ちょっ‼︎違う‼︎健吾‼︎」

 

その後も、ガンビアの謎行動は日に日に増えた…



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193話 命の権利(5)

ガンビアは日に日に話せる様になり、若干怖がりな事が分かった

 

だが、気になるのはそこじゃない

 

「おやすみ、ガンビア」

 

「♪〜」

 

寝る時は必ず横に座り、俺が眠るまでお腹をポンポン叩きながら歌を歌い

 

「行って来ます」

 

「アレン。襟が曲がってる。ちゃんと前髪も…よしっ。気を付けてね⁇」

 

出撃前は愛宕よりキチッと身嗜みを整えてくれ

 

「ふぁ…」

 

「ガンビアのお膝で、横になって⁇」

 

出撃から帰投して疲れて帰れば膝で寝かせてくれたり

 

異常なまでに愛情を向けてくれた

 

そして、どうしても気になるのが一つだけあった

 

「…」

 

ガンビアの膝の上で寝ていると、いつもガラガラのオモチャの音が鳴る

 

「Sleepin、アレン…」

 

子供扱いされている様で、バカにされている様で、嫌と思った

 

だが、ガンビアがガラガラを振る度、俺は猛烈な眠気に襲われ、そしてビックリする位気持ち良く朝を迎えられる

 

だから、無碍に叱る訳にも行かなかった

 

「ガンビアはアレンに懐いていますねぇ」

 

「アレンが懐いてるんじゃないの⁇」

 

「最近分からなくなって来た…」

 

愛宕の作る朝食を食べながら、頭を抱える

 

懐いているのは俺か

 

それともガンビアか

 

「アレンは知らないのね⁇」

 

「何がだ⁇」

 

カウンター越しに愛宕が話す

 

「ガンビアちゃん、アレンが居ない時は凄く怖がりなのよ⁇」

 

「アイちゃんのドッキリで泣いちゃうし」

 

「俺の声聞いたら隠れちゃうし」

 

「私達が近付こうとしたら、壁の向こうに隠れて、ビクビクしながらこっち見てるし」

 

「俺はどうなんだ⁇」

 

「アレンには自分から近付こうとしていますねぇ。ここ最近、アレンが帰って来たら真っ先に反応するのはアイちゃんかガンビアです」

 

「愛宕もですよ、キャプテン」

 

「申し訳ありません…愛宕とアイちゃんとガンビアです」

 

健吾が愛宕にウインクすると、愛宕は微笑みを返した

 

「あのガラガラはどうしたんだ⁇」

 

「アイちゃんの為に買ったんだけど、予想外に早く育っちゃったから、プレイルームに置きっ放しだったの。それをガンビアちゃんが頂戴‼︎って言ったからあげたの」

 

「アレン…」

 

入口に隠れ、顔を半分出したガンビアが見えた

 

「おっ‼︎ガンビア‼︎ご飯食べよう‼︎」

 

「アレン、その…」

 

「ん⁇」

 

「ガラガラ、いや⁇」

 

「嫌じゃないさ‼︎よく眠れるからな‼︎」

 

「そう…良かった…」

 

ガンビアは胸を撫で下ろした後、俺の横に座った

 

「でもアレン。ホントガンビアちゃんと似てるわね⁇」

 

「何回言うんだよ…」

 

ガンビアの事を知れば知る程、皆口を揃えて俺と似ていると言う

 

「アレンのお嫁さんは、愛宕」

 

「そうよ〜‼︎ちゃんと覚えてくれたのね⁇」

 

「うん…ガンビア、アレンの事、もっと知りたい」

 

ガンビアはモジモジしながら、愛宕を見ている

 

「あ、愛宕…その…」

 

「ふふっ‼︎人徳よアレン⁇嫉妬なんてしてないわ‼︎」

 

ガンビアがベッタリしていても、愛宕は怒らないで居てくれた

 

行動も何一つ変わらない

 

それどころか、ガンビアにもしっかりとコミュニケーションを取ってくれている

 

良い嫁を貰っ…

 

「愛宕、良いお嫁さん。アレンにお似合い」

 

ガンビアに先に言われた

 

「あ、ありがとう…」

 

「うふふっ…」

 

愛宕と見合って微笑み合っていると、食堂のドアが蹴破られた

 

「検査のお時間どぅえ〜〜〜っすぅ‼︎」

 

「レイ‼︎」

 

両手に機材を持ったレイが半ギレで入って来た

 

「イチャついてんなら誰か開けてくれ‼︎」

 

「「すみませんでした‼︎」」

 

「医務室借りても良いか⁉︎」

 

「薬品は御自由に使って下さい」

 

「サンキュー…よっと」

 

キャプテンと健吾が謝り、レイは機材を持ち直し、医務室へと向かった

 

「レイさん」

 

「そっ。俺達の友達さっ」

 

「イケメンでしょう⁇」

 

「お医者さんなんだよ⁇」

 

「レイさん、お医者さん。ガンビア、出してくれた人」

 

「そっ。ガンビアにとっても、俺達にとっても大切な人だ」

 

俺がガンビアの頭を撫でる中、そこに居た全員が頷いていた

 

 

 

「オーケー。ガンビア、来てくれ」

 

「アレン、来て」

 

「んっ」

 

ガンビアに手を引かれ、レイの待つ医務室に入る

 

「採血とDNA検査…後は簡単な検査をするからな⁇」

 

「うん」

 

相変わらずガンビアは少しだけ縦に首を振る頷き方をする

 

「じゃあ、まずは採血から…」

 

「ぴっ‼︎」

 

レイの採血は早い

 

そして痛くない

 

ガンビアが俺の手を力を込めて握り、ぴっ‼︎っと言った間に採血は終わっていた

 

「次はDNA検査のサンプルを取るからな…」

 

ガンビアは大きな口を開け、頬の裏側の組織を取られ

 

髪の毛を一、二本抜かれた

 

「おっしゃ‼︎後は内診だ。胸の音聞かせてくれるか⁇」

 

「ん…」

 

ガンビアは恥ずかしそうに服を捲り上げ、シンプルな黒一色のブラを露わにした

 

その時、俺は何故だか分からないが、ガンビアとレイの間に手を割って入れた

 

「…何だ⁇」

 

「い、いや…その、すまん…」

 

「アレン。ガンビア、大丈夫」

 

「そ、そか…ははは…」

 

レイは引く訳でもなく不思議そうに俺を見ていたが、すぐにガンビアに聴診器を当てた

 

「よ〜し、見た限りは良好だな‼︎悪かったな、付き合わせて」

 

「ありがとござます」

 

「こちらこそ。ちょっとだけアレンと話があるから、先に食堂に居ててくれるか⁇」

 

「うん…」

 

不安そうに何度も俺の顔を見ながら、ガンビアは医務室から出た

 

「その…悪かった…」

 

「気にすんな。愛は人によって違うからな」

 

「…バカにしないで聞いてくれるか⁇」

 

「お前をバカとは思ってるが聞いてやろう」

 

「ぐっ…」

 

そう言ってニヤつくレイだが、この目はちゃんと聞いてくれる目だ

 

「ガンビアといると、その…護ってやりたくなるような…護って欲しくなるような…不思議な感覚になるんだ」

 

「珍しいな。お前の口から護って欲しくなるって言葉が出るとは…」

 

レイと同じく、いつの間にか護る立場になっていた俺は、女性にほとんど甘えずにここまで来た

 

それが今、ガンビアと出逢って変わろうとしている

 

勿論、愛宕には甘える時はある

 

だが、何かがガンビアとは違う

 

それが分からないでいた

 

「ガンビアがお前に向ける愛情は、母親の愛情に近いんじゃないのか⁇」

 

「母親…」

 

「ポケットにガラガラ入ってたな⁇」

 

「あぁ…毎晩あれを振ってくれる」

 

「それを母親の愛情って言うんだよ。子供扱いじゃない。ガンビアにとっちゃ、それが愛情表現なんだ」

 

「なるほど…」

 

「ヴィンセントのモールス…聴こえてたろ⁇」

 

「まぁ…」

 

あの時、ヴィンセントとレイが爪でやっていた奴だ

 

レイもモールスと気付いていた

 

「”妻をどうするつもりだ””妻をよろしく頼む”だとよ」

 

「やっぱりガンビアの旦那だったか…」

 

「…きそが二人の過去を調べてくれた。お前に預けとくから、暇があったら見とけ」

 

資料を受け取り、レイは機材を片付け始めた

 

「さっ‼︎か〜えろ‼︎アレンがガラガラで寝てるってひとみといよに教えてやろ‼︎」

 

「レイ」

 

「冗談だよ」

 

「ありがとな」

 

「いいってこった‼︎まっ、気が向いたらビールでも奢ってくれ‼︎じゃあな‼︎」

 

「あぁ」

 

レイが帰り、食堂に戻って来た

 

「アレン‼︎」

 

すぐにガンビアが駆け寄って来てくれた

 

不思議なもんだな…

 

さっき母親とか話したからだろうか⁇

 

ふと、目の前にいる女性が自分の母親だったら…と、考えていた

 

 

 

 

その日の夜、ガンビアを先に寝かせ、資料を見て見た

 

ガンビアは確かにヴィンセントの妻だった

 

そして、何故俺を子供扱いをするか、少しだけ分かった

 

ガンビアは自分の子供と生き別れている

 

生き別れた時はまだ赤ん坊だ

 

その時の事がトラウマとなり、俺に対して子供扱いをしているのかもしれない…

 

「アレン…」

 

ガンビアの寝言を聞き、布団を掛け直した後、俺も横になる事にした



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193話 命の権利(6)

数日後、結果を持ったレイが来てくれた

 

「ガンビアの検査結果が出た」

 

「サンキューな」

 

検査結果が入った封筒を受け取ろうとしたが、レイはサッと封筒を上に上げた

 

「これを見るのは相当な覚悟がいる」

 

「空戦よりか⁇」

 

「空戦よりだ。悪いが比じゃない」

 

「貸せっ」

 

レイから封筒を取り、中身を出した所でもう一度止められた

 

「覚悟は出来たか⁇」

 

「出来てるって〜‼︎のっ‼︎」

 

レイの制止を振り切り、中の資料を見た

 

「…」

 

その結果を見て、一気に血の気が引いた

 

「…満足行く結果か⁇」

 

「…間違い無いんだな⁇」

 

「絶対と言い切れる程間違いない」

 

「…嘘だろ」

 

「あ。血液検査とか内診の結果はこっちね‼︎まっ‼︎元気出せよ‼︎じゃな‼︎」

 

レイは俺の腕を二回軽く叩いて、逃げる様に帰って行った

 

 

 

 

その日の夜、基地は雷雨に見舞われた

 

アイちゃんの部屋でタバコを吸いながら、愛宕から逃げていた

 

逃げている理由は、愛宕のシュークリームをつまみ食いした為

 

アイちゃんが雨戸を閉めながら外を見ている中、俺はアイちゃんの勉強机の椅子に座り、封筒の中身を見ていた

 

「凄いThunderね…」

 

「あぁ…」

 

「Papa⁇」

 

様子がおかしい俺に勘付いたのか、アイちゃんは俺を見て瞬きしている

 

「アイちゃんはさ…ガンビアの事好きか⁇」

 

「好きよ‼︎どうして⁇…Papa⁇」

 

アイちゃんが振り返った時には、俺は居なかった…

 

 

 

 

「アレン…どこぉ…⁇」

 

廊下では、ガンビアが枕を抱きながら俺を探していた

 

「ぴっ‼︎」

 

何度も雷が鳴り、その度にガンビアは泣きそうになりながら身を屈める

 

「うぅ…アレン…」

 

「ガンビア⁇」

 

「アレン‼︎」

 

アイちゃんの部屋から帰って来た俺を見掛けたガンビアは、一目散に走って俺に抱き着いた

 

「Thunder怖い…」

 

「大丈夫だ…」

 

恐怖に震えるガンビアを抱き締め、少し落ち着かせる

 

「一緒にベッドまで行こう」

 

「うん…」

 

ガンビアと手を繋ぎながら、俺の部屋を目指す

 

何処かにガラガラのオモチャがあるのか、ガンビアが歩く度にガラガラ鳴っている

 

ガンビアは手を繋いだ反対の手で枕を抱き締めたままでいる

 

まるで子供の様だ…

 

ガンビアを俺のベッドに入れ、横にある椅子に腰掛けた

 

「アレン、ここにいる⁇」

 

「いるよ。ちゃんとガンビアが寝るまで」

 

「ん…」

 

余程不安なのか、掛け布団の隙間から手を出し、俺の手を強く握る

 

「今日はどんなお話しようか⁇」

 

「今日は、ガンビアのお話、してい⁇」

 

「いいよ…」

 

ガンビアと繋いだ手を膝に置き、俺を見つめるガンビアを見返す

 

「ガンビアね…子供いたの」

 

「どんな子供だ⁇」

 

「赤、ちゃん。男の子の、赤ちゃん」

 

「…今いくつだ⁇」

 

「わかんない…でも、おっきくなってると、いいな」

 

「どっか行っちゃったのか⁇」

 

「うん…ガンビア、おてて、はなしちゃった…」

 

「…」

 

普段も半泣きの状態でいる事が多いガンビアだが、今は違う

 

生き別れた子供の事を思い出し、涙している

 

「今でも子供の事は思い出す⁇」

 

「忘れた事、無い‼︎」

 

ガンビアの声に力が入る

 

「カプセルの中にいた時だって、忘れなかった‼︎」

 

「そっか…」

 

涙声でガンビアは言う

 

それを聞いて”ホッとした”

 

「ガンビアは立派なお母さんだな」

 

「あのね…」

 

「ん⁇」

 

ガンビアの布団を掛け直しながら、話を聞き続ける

 

「アレン…ガラガラ、嫌い⁇」

 

パジャマのポケットに入っていた、ガラガラを掛け布団の隙間から出した

 

「嫌いじゃないよ」

 

「赤ちゃん、ガラガラ、好きだった」

 

ガンビアは悲しそうに微笑みながら、空でガラガラを鳴らす

 

「アレンの、Motherは、どんな人⁇」

 

「俺か⁇俺は母さんの事は知らないんだ…」

 

「Sorry…」

 

「いいんだ。知ってて欲しかったんだ…だから、もっと聞いて欲しい」

 

「アレンは、Motherと、逢いたい⁇」

 

「逢いたいな…逢って、俺は大きくなったって言いたい。友達が出来た、ケッコンをした、子供が産まれた…話す事が沢山ある」

 

「Motherに逢って、何、聞きたい⁇」

 

「何にも聞かなくていい。ただ、少しだけ褒めて欲しい…かな」

 

「いい、こ」

 

母性からだろう

 

褒めて欲しいと言った俺の頭をスリスリと撫でてくれた

 

「アレンは、どんなMotherが、いい⁇」

 

「そうだな…」

 

ガンビアはジッと俺を見つめている

 

意を決した俺は、理想の母親をガンビアに言った

 

「俺の心配をしてくれて、ガラガラを振って、怖がりな…今目の前にいる人みたいな人かな」

 

「…アレン⁇」

 

「ただいま…”ママ”…」

 

ガンビアの目から、ポロポロと涙が落ちる

 

「やっぱり、アレンなのね…」

 

ガンビアはベッドから起き上がり、俺の頬を撫でた

 

「おかっ、え、りっ…アレ、ン…」

 

ズビズビと鼻水を垂らしながら、ガンビアは俺の胸にしがみ付いた

 

「ママ…」

 

レイ…

 

俺の感情は間違ってないと、いち早く気付いてくれてありがとう…

 

やっぱり、お前はかけがえの無い親友だ…

 

 

 

 

「アハッ…Papaったらあんなに甘えてる…」

 

「やっぱりお母さんだったのねっ…どうりで似てると思ったっ…」

 

俺の様子を、アイちゃんと愛宕はコッソリ見ていた

 

母親がいないアレンは、今の今まで甘える事を知らずに生きて来た

 

ようやく人に…母親に甘えるアレンを見て、二人は微笑んでいた

 

しばらく二人を見た後、愛宕もアイちゃんも食堂に戻ってホットミルクを飲んだ

 

「IowaもPapaにHugして貰うから、Papaもして欲しかったのね⁇」

 

「そうよアイちゃん。アレンだって、甘えたい時はあるのよ⁇」

 

「Mamaじゃダメなの⁇」

 

「私じゃダ〜メッ‼︎嫁と母親には、超えちゃイケない壁があるのっ‼︎」

 

「Iowaもいつか分かる⁇」

 

「分かるわよ‼︎アイちゃんなら、きっと分かるわ‼︎」

 

「ウンッ‼︎」

 

素直で物分かりが良いアイちゃんなら、すぐに分かると思う…

 

そう思う愛宕であった

 

 

 

 

 

「行って、らっしゃい‼︎アレン‼︎」

 

「早く帰って来るからな‼︎」

 

すっかり明るくなったガンビアが、俺を見送る

 

「GrandmaはホントにPapaが好きね⁇」

 

「ウンッ‼︎ガンビア、アレンと”ジンセー”取り戻すの‼︎」

 

「あらっ‼︎もう日本語も覚えたのね‼︎」

 

アイちゃんも愛宕も、ガンビアがアレンの母親と知っても態度を変えなかった

 

ガンビアがそれが良いと言ったので、基地にいる全員、ガンビアに対して態度を変えなかった

 

唯一変わったのは、アレンが甘える事を覚えた位だ

 

「お花。ガンビア、タンポポ覚えた。これ好きっ‼︎」

 

滑走路付近に生えていたタンポポを摘み、ガンビアは瓶に水を入れ、窓際に置いた

 

 

「子供の様な母親ですねぇ」

 

ラバウルさんと健吾がコーヒーを飲みながら、チョコチョコ動くガンビアを目で追う

 

健吾が頬杖をつきながら言う

 

「”ロリ”な母親も良いものです…あ''っ…」

 

頬杖を離した健吾が振り返った時には既に遅し

 

「素晴らしい…健吾も少女の良さが分かって来ましたか‼︎うんうん‼︎少女はですね…」

 

健吾は頭の中で”やっちまった…”と後悔する…

 

結局、アレンが哨戒任務から帰って来てからも、ラバウルさんの”熱血ロリ会議(一方的)”は終わらなかった…




ガンビア・ベイ…口みたいなピーナッツちゃん

ガンビア・ベイIIの中枢にいた、アレンの母親

金髪ツインテールでオドオドしているのが印象

アレンを子供扱いするが、それは小さい時のアレンを見れなかった反動が出ている為

ビックリした時の顔がアレンにソックリ


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194話 戦慄‼︎オボロと化したスパイト

さて、193話が終わりました

最近、良く食べてはちょっと吐くスパイト

その原因は、とある事にありました


ここ最近、母さんがよく食べる

 

「おいし〜わぁ‼︎」

 

いつもの倍…いや、それ以上に食べている

 

それも、結構酸味がある物を好んで食べている

 

晩御飯を食べ終えて数分後、ソファーに座って酢イカを食べている始末だ

 

「いよにもくらしゃい‼︎」

 

「ひとみもたえたい‼︎」

 

「良いわよ‼︎はいっ‼︎」

 

ひとみといよが、母さんから酢イカを貰って食べている

 

「ゔっ…」

 

急に母さんの動きが止まる

 

「おぼおおおすう⁇」

 

「ふくおもってくう‼︎」

 

ひとみが台所に走り、貴子さんの所に行く

 

「すぱいとしゃん、おろろろろちたいって‼︎」

 

「これ持って行ってあげて‼︎」

 

ひとみが小走りで持って来た袋に、母さんは軽く吐いてしまった

 

「ヒトミ、サンキュー…」

 

「きおちあうい⁇」

 

「すいすいちたげう」

 

「サンキュー…」

 

ひとみといよに背中をさすって貰い、母さんは少し落ち着いた

 

しばらく二人にさすって貰い、母さんは口をゆすぎ、またソファーに戻って来た

 

「あら…ふふっ」

 

すぐに寄って来たひとみといよは、母さんの膝の上に頭を置き、寝息を立て始めた

 

「ん⁇」

 

「お⁇」

 

急に目を覚まし、ひとみといよは母さんのお腹に耳を当てた

 

「あら…どうしたの⁇」

 

「ろっくん、ろっくん…」

 

「なんかいう…」

 

「…へ⁇」

 

母さんの腹から謎の鼓動が聞こえると言うひとみといよ

 

「ぐ〜っていった‼︎」

 

「おなかしゅいた⁇」

 

「えぇ」

 

「くっち〜たえよ‼︎」

 

「ひとみたちもおやしょくすうの‼︎」

 

母さんの膝から降り、二人は台所に向かう

 

「どうしちゃったのかしら…」

 

母さんはお腹をさすり、自分の体調に不安を抱く…

 

 

 

 

それからも母さんはよく食べては、たまに吐いた

 

段々と母さんの異常に気付いた俺だったが、母さんのオボロロロにてんてこ舞いになっていた

 

身長が足らず、俺に取って欲しいと頼んだ最中に

 

「マーカス‼︎そこのお菓子取ってくだ、ゔっ、オボロロロ…」

 

「ちょっ‼︎」

 

そのお菓子を食べながらコメディ番組を見ながら

 

「あはははははオボロロロ‼︎」

 

「間に合え‼︎」

 

デスクワークをしながら

 

「この書類はウィリアオボロロロ‼︎」

 

「姫‼︎セーーーフ‼︎」

 

食っては吐きの繰り返しである

 

流石に様子がおかしいとなった俺は、母さんを診る事にした

 

だが…

 

「どっこも悪いこたぁねぇな…」

 

母さんの悪い所は見当たらない

 

「私、最近オボロみたいな事になってるわ…」

 

ゲロに関して、大分気にしている様子だ

 

「最近変わった事なかったか⁇」

 

「変わった事…」

 

母さんは口元に手を当てて考える

 

俺と同じ考え方だ

 

「リチャードと…その…」

 

「シたんだな⁇」

 

「えぇ。あの小さい時にね」

 

あんな小さくなった母さんを抱いたのかよ…

 

「うらや…いや、何でもない。って事は妊娠か⁉︎」

 

「どうかしら…」

 

「きそ‼︎」

 

「はいはい」

 

「エコー検査だ。貴子さん呼んで来てくれるか⁇」

 

「オッケー‼︎」

 

きそに貴子さんを呼ばせに行き、エコー検査の準備をする

 

「ホントに赤ちゃんだったら、マーカスはどうする⁇」

 

「どうもこうもっ‼︎子供には慣れたさっ‼︎よいしょっ‼︎」

 

艦娘用のエコー検査器具を引っ張り出す

 

「呼んで来たよ‼︎」

 

「スパイトが妊娠ですって⁉︎マーカス君、お母さんにまで…」

 

「そ、それはない‼︎」

 

「違うわ‼︎リチャードよ貴子‼︎」

 

「ふふっ‼︎冗談よっ‼︎ちょっと見せてね…」

 

後は貴子さんに任せた方が速い

 

毎度思うが、男ってこう言う時無力だなぁ…

 

数十分後、貴子さんの結果が出た

 

「妊娠してるわね…」

 

「Oh…」

 

「これでスパイトが良く食べて、たまに吐いていた理由が分かったわ‼︎」

 

「レイも遂にお兄ちゃんかぁ‼︎」

 

「もうお兄ちゃんだけどな…」

 

そう。俺にはオイゲンと言う妹がいる

 

「今度はお兄ちゃんと呼んでくれよ…」

 

そう言って、診療台に横になっている母さんの腹を撫でた

 

「ははっ、蹴ってる蹴ってる‼︎」

 

「まっ…マーカス…」

 

「何だ⁇」

 

「うっ…産まれりゅ…ゔうっ…」

 

急に母さんが呻き始めた

 

「う、嘘だろ…きそ‼︎横須賀の千代田呼んでくれ‼︎」

 

「お、オッケー‼︎」

 

一気に基地がてんてこ舞いになる

 

「うぎぎぎ…あぁっ‼︎」

 

「大丈夫よスパイト‼︎」

 

痛みが増した母さんは貴子さんの手をかなりの力で握る

 

「マーカス君‼︎痛み止めある⁉︎」

 

「今作ってる‼︎」

 

「出来上がり次第、すぐ打ってあげて‼︎」

 

「出来た‼︎」

 

痛み止めを打ち、数分後には多少は母さんは落ち着いた

 

「レイ‼︎千代田さん来たよ‼︎」

 

「早いな‼︎助かるよ‼︎」

 

「スカイラグーンに居たのが良かったわ‼︎代わって‼︎はい、出た出た‼︎」

 

千代田にきそと共に追い出され、工廠のシャッターが閉められた

 

「…」

 

「…」

 

二人して下を向きながら、瞬きを数回する

 

ホントにする事がない

 

「…コーヒー飲もっか⁇」

 

「…だな」

 

食堂に戻ると、隊長もソワソワしていた

 

「隊長。コーヒー飲むか⁇」

 

「あ、あぁ…随分冷静だな⁇」

 

「もう慣れたさっ」

 

「レイ。代わりなさい」

 

コーヒーを淹れようと台所に立つと、ローマに弱いヒップアタックされて台所から出された

 

「アンタが淹れると苦くなるから、私が美味しいの淹れたげる」

 

「おぉ。サンキュー」

 

「あはははは‼︎」

 

きそも慣れたのか、結構呑気にテレビを見て笑っている

 

「おゆいえてきた‼︎」

 

「ぬういおゆ‼︎」

 

ひとみは桶

 

いよは背中にお湯が入ったタンクを背負い、台所近くの扉から来た

 

「ごめんな、いよ、ひとみ。貴子の所持って行ってくれるか⁇」

 

「わかた‼︎」

 

「たかこしゃんにわたちてくう‼︎」

 

ひとみといよはそのまま工廠へと向かった

 

「すまんな、レイ…貴子も私も使ってしまった」

 

「全然‼︎ひとみもいよもスタンプ貰えるから良いんだろ⁇」

 

「ははは‼︎そっかそっか‼︎」

 

「姫が妊娠だと⁉︎ビビリ貴様‼︎」

 

洗濯物を干していたアークが食堂に来て、俺に食って掛かって来た

 

「ちがわい‼︎親父だよ‼︎」

 

「なにっ⁉︎リチャード殿との子だと⁉︎」

 

「ホントだよアーク‼︎」

 

「なら、アークはもう一度…」

 

アークが何か言おうとした時、工廠から元気な泣き声が聞こえて来た

 

「産まれたみたいだなっ」

 

「元気な産声だ…」

 

俺も隊長も安堵のため息を漏らす

 

工廠からひとみといよがパタパタと走って来た

 

「あかしゃんうまえた‼︎」

 

「ぴ〜ぴ〜ってないてう‼︎」

 

ひとみは俺

 

いよは隊長の肩に乗り、隊長と俺は赤ちゃんの顔を見に行く事にした

 

 

 

 

「良い子ね…」

 

母さんの腕の中で、ホントにピーピー鳴いている赤ちゃんがいた

 

「艦娘だから、きっとすぐに成長するわよ⁇」

 

「元気な子で良かったわ‼︎また何かあったら呼んでね‼︎」

 

「すまんな千代田。急に呼んで…」

 

「またビールでも奢って頂戴。それでチャラにしたげるっ‼︎じゃあね‼︎」

 

千代田は高速艇でスカイラグーンに戻って行った…

 

「かあい〜っ…」

 

「すぱいとしゃんのあかしゃん…」

 

ひとみもいよも子供好き

 

赤ちゃんを見て目をキラキラさせている

 

小さくて可愛い、女の子だ

 

今日学校に行っている子達が帰って来たらビビるだろうなぁ…

 

「スパイトーっ‼︎あれっ、いないのか⁇」

 

「リチャードだわ…」

 

たまたま近くを飛行していた為、基地に寄ったリチャードが来た

 

「スパイ…いたいた‼︎お土産買って来たぞ‼︎」

 

「貴子っ、ちょっとお願い」

 

「よいしょっ…いい子ね〜」

 

母さんは貴子さんに赤ちゃんを抱かせ、人差し指を立て、クイクイしてリチャードを近くに寄らせた

 

「絶対叩かれるからヤダッ‼︎」

 

「叩かないからいらっしゃい」

 

おそるおそる親父が母さんに寄ると、母さんは赤ちゃんを見た

 

「貴方の子よ、リチャード」

 

「うそん…」

 

「さっ、どうぞ〜…」

 

親父も貴子さんに赤ちゃんを抱かせて貰う

 

「はは…そっかそっか‼︎」

 

「名前、何にしましょうか⁇」

 

「決めてた名前があるんだ。言ってもいいか⁇」

 

「えぇ」

 

「”ジャーヴィス”…ジャーヴィスが良い‼︎」

 

「ジャーヴィス⁇」

 

「幸運な子に育って欲しいんだ。だから、ジャーヴィス‼︎」

 

「いいわね‼︎ジャーヴィスにしましょう‼︎」

 

「じゃび〜‼︎」

 

「あ〜いしゅ‼︎」

 

ジャーヴィスと名付けられた子は、こうして基地で産まれた

 

意外だと思うが、基地で産まれた子は初めてである

 

ただ、このジャーヴィス…

 

とてもとても、元気な子だった…

 



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195話 Mother's Garden(1)

短いですが、194話が終わりました

横須賀で検査を受けた後、基地で暮らす事になったジャーヴィス

しかしこのジャーヴィス…


「姫。もう一度やり直させて下さい」

 

「マーカスの様にしてはダメよ⁇」

 

「勿論でございます」

 

「俺今スッゲーバカにされた気がするんだけど⁉︎」

 

アークが母さんに、ジャーヴィスの面倒をみたいと言った

 

産まれる少し前に”もう一度…”と言っていたのはこの事らしい

 

そして、母さんとアークのやり取りを見て、大人連中が肩を揺らしている

 

「ぐっ…おっ…俺はダメ兄貴にはならんっ‼︎見ろ‼︎」

 

言われる前に色々買って来てみた

 

おしゃぶりを3個

 

粉ミルク2缶

 

着替え4着

 

「どうだぁ‼︎」

 

「まずは合格点だなビビリ」

 

「ぐっ…」

 

ジャーヴィスは数日間横須賀に渡り、検査を受けている

 

母さんは一旦基地に帰って来て、再度迎えに行く準備をしていた

 

「こんに、ちは‼︎」

 

「おぉガンビア‼︎」

 

「よっ‼︎祝いに来たぞ‼︎」

 

アレンとガンビアがお祝いに来てくれた

 

「いつも、息子がお世話に、なってます」

 

ガンビアがペコリと礼をする

 

「この人がガンビアか⁉︎」

 

「うんっ。ガンビア、アレンの、おかさん‼︎」

 

「はぇ〜…あ、いやいや、此方こそ…」

 

何処かたどたどしい日本語を話すガンビアを見て、アレンは凄く嬉しそうな顔をしている

 

「赤ちゃんの、オモチャ、買った‼︎」

 

ガンビアから、赤ちゃん用のオモチャが入った袋を貰った

 

「俺からはコレ。みんなで飲んでくれ‼︎」

 

アレンからはジュースがパンパンに入った段ボールを貰う

 

「どうだ⁇母親とやり直す人生は」

 

「良いもんだな…これから横須賀で外食するんだ‼︎」

 

「そっか。楽しんで来いよ‼︎」

 

「あぁ‼︎行こう”ママ”‼︎じゃあな‼︎」

 

「おめでと、ござます‼︎」

 

アレンとガンビアが去り、俺達の中でネタが産まれた

 

「あのイケメンがママ…だと…」

 

「すっごい意外…」

 

「アレンも意外に甘えんぼさんなのね…」

 

「やはりルイはルイを呼ぶ…のか…」

 

隊長、貴子さん、母さんはクスクス笑っていたが、アークだけは口を開けてサラッと俺をバカにした

 

…アークに些細なバチが当たります様にっ‼︎

 

 

 

 

 

数日後、母さんがジャーヴィスを抱いて帰って来た

 

口にはおしゃぶり

 

手にはガラガラのオモチャを持っている

 

「ジャーヴィス共々、よろしくお願いします」

 

「此方こそ、よろしくお願いします」

 

ジャーヴィスを抱えた母さんが一礼し、ジャーヴィスは不思議そうに大人連中を見回しながら、ガラガラを振っている

 

母さんはソファーに座り、足元にジャーヴィスを降ろした

 

思った通りジャーヴィスは成長が早く、もうその辺をハイハイして動き回っている

 

「なでなでしてもだいじょうぶ⁇」

 

「大丈夫よっ」

 

「じゃーゔぃすおいで‼︎」

 

たいほうにとっても、ジャーヴィスにとっても初コンタクト

 

その場にいた大人連中が息を飲み、二人に見入る…

 

ジャーヴィスはたいほうに近付き、抱っこをせがむ様にくっ付いた

 

「いいこいいこ〜」

 

たいほうに抱っこされたジャーヴィスは、嬉しそうにガラガラを振った

 

皆が笑顔を見せる中、母さんだけは安堵の息を吐いた

 

その理由は、すぐに分かる事になる

 

「この子がジャーヴィス…」

 

自称、子守役のアークが来た

 

アークはたいほうとジャーヴィスに寄り、膝を曲げた

 

「ジャーヴィス。私はアークだ。よろしくな⁇」

 

「あーくさんだよ、じゃーゔぃす」

 

ジャーヴィスはジーッとアークの目を見ている

 

「てぃーほう。アークにも抱っこさせてくれるか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

アークがジャーヴィスを抱っこしようとしたその時

 

ガラガラバシッ‼︎

 

「いでっ‼︎」

 

ジャーヴィスは持っていたガラガラでアークが伸ばした手を叩いた

 

「はは…元気な子だ‼︎アークは気に入っ」

 

アークはジャーヴィスの顔を間近で見ようと顔を近付けた

 

バシバシガラバシッ‼︎

 

「あだっ‼︎いだだ‼︎」

 

今度は頭を叩かれる

 

「ジャーヴィス⁇メッ‼︎」

 

母さんがジャーヴィスを軽く叱ると、ジャーヴィスは”真顔”で一瞬そっちを向いた後、アークを見つめながらガラガラを振り始めた



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195話 Mother's Garden(2)

「うっぐ…」

 

アークが若干参っている表情を見せても、ジャーヴィスは真顔でアークを見つめ、ガラガラを振る

 

そして、アークはチラッと俺を見た

 

助けろとの合図だ

 

「よっこらせ〜っと‼︎」

 

椅子から立ち上がり、アークの横に座る

 

「おいでジャーヴィス」

 

俺がそう言うと、ジャーヴィスはたいほうの腕の中から、俺に手を伸ばした

 

「よしよし…」

 

ジャーヴィスはガラガラで叩こうとせず、すぐに俺に抱き着いてくれた

 

「ぬぬぬ…ビビリばっかりズルいぞ‼︎アークも抱っこしたい〜っ‼︎」

 

アークは俺を睨み付けて歯軋りを始めた

 

「ジャーヴィス⁇アークお姉ちゃんが抱っこしたいって⁇」

 

自分の名前を呼ばれているのが分かっているのか、ジャーヴィスはジャーヴィスと呼ぶとちゃんと振り向いてくれる

 

「お、おいで〜…」

 

アークが抱っこしようとした時、ジャーヴィスの手からスッとガラガラを取った

 

すると、ジャーヴィスはアークの腕に向かい、アークに抱き止められた

 

「ははっ…ジャーヴィス…」

 

アークは愛おしそうにジャーヴィスに頬擦りをする

 

しかしジャーヴィスはアークの顔を避けようと手を突き出している

 

「これからよろしくな、ジャーヴィうぎぎぎ…」

 

ジャーヴィスは真顔でアークの頬に手を押し付け、向こうに向かそうと必死である

 

「ジャーヴィス⁇これな〜んだ⁇」

 

ジャーヴィスの前でガラガラを鳴らす

 

ジャーヴィスはすぐにガラガラに反応し、ガラガラに手を伸ばす

 

「おっ…」

 

「アーク叩かないか⁇」

 

流石に言葉はまだ分からない様で、ジャーヴィスはガラガラを取ろうと必死に手を伸ばす

 

仕方無くガラガラをジャーヴィスに持たせた直後、ジャーヴィスはアークの顔面にガラガラを向けた

 

ガラバシッ‼︎

 

「ぷぎゃ‼︎」

 

ガラガラはアークの鼻先に直撃

 

流石のアークもこの一撃が効いたのか、一旦ジャーヴィスを降ろした

 

「うぅ…私が何をしたと言うのだ…」

 

鼻を抑えながら泣きそうになるアークを見て、流石に可哀想になって来た

 

「ジャーヴィスは強いなぁ⁇」

 

そう言うと、ジャーヴィスは一瞬俺を見て、別の方向を向いてガラガラを振った

 

「アーク、大丈夫⁇」

 

「えぇ…これしきの事ではヘコたれません…」

 

とは言うが、流石に少しは心にキている様子だ

 

その日から、アークの子守奮闘記が始まった

 

 

 

次の日の朝、午前5時…

 

朝早くから私は、いつの間にか一人テレビ前のカーペットの上に座って、ガラガラを振りながら窓の外を見ているジャーヴィスの為にミルクを作っている

 

姫はここ数日、横須賀に行き来したりして疲れが出ている為、朝は遅めに起きている

 

貴子さんはもう少ししたら起きてくれる

 

「ジャーヴィス〜ミルクの時間だぞ〜…」

 

ガラガラで叩かれる恐怖が残っている私は、ジャーヴィスと距離を取りながら、まずは哺乳瓶を近付ける

 

自分が呼ばれた事と、近付けられた哺乳瓶に気付いたジャーヴィスは私の方を向いた



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196話 アークの子育て奮闘記(1)

話数と題名が変わりますが、前回の続きです

目線がアークに変わります

果たしてアークはジャーヴィスに好かれる事が出来るのか⁉︎


ガラガラバシ‼︎

 

「いでっ‼︎」

 

私をガラガラで一発叩いた後、哺乳瓶を手に取った

 

だが、おしゃぶりをしている為、ミルクを飲めないでいる

 

「ほらっ、おしゃぶりを取ろうな⁇」

 

ジャーヴィスのおしゃぶりを取った後、ようやくガラガラを手放し、私に抱っこされた後、哺乳瓶を両手で持った

 

「ははっ‼︎ジャーヴィス…」

 

ようやく赤ちゃんらしいジャーヴィスを見た私はホッとした

 

「くっこおおあよ‼︎」

 

「じゃ〜ゔぃしゅもおあよ‼︎」

 

貴子さんより一足早く、ヒトミとイヨが起きて来た

 

よほどお腹が空いていたのか、ジャーヴィスは哺乳瓶の中身のミルクに夢中になっている

 

「よしよし…いっぱい飲んで、いっぱい大きくなるんだぞ…」

 

「くっこおじょ〜じゅ‼︎」

 

「ちぅちぅ〜ってのんれう‼︎」

 

「ふふっ…」

 

ヒトミとイヨに応援された私は少し自信を取り戻した

 

「よしっ、沢山飲んだな〜」

 

哺乳瓶が空になり、私はジャーヴィスの背中をポンポンと叩く

 

「ひとみもたかこしゃんにぽんぽ〜んってちてもあった‼︎」

 

「なんれすうの⁇」

 

「これはゲップを出す為にしてるんだ。赤ちゃんは自力でゲップを出せないんだ…」

 

そう言っている内に、ジャーヴィスはゲップをした

 

「よしよし‼︎良い子だ‼︎」

 

「い〜こい〜こ〜‼︎」

 

「じゃ〜ゔぃしゅい〜こ〜‼︎」

 

ヒトミとイヨに撫でられ、ジャーヴィスは二人を見る

 

「くっこおけがちてう」

 

昨日と先程を含め、私はちょっとした擦り傷の様な怪我を負っていた

 

「おくすいぬいぬいすう‼︎」

 

ヒトミとイヨはいつもの引き出しから塗り薬を持って来て、私の傷に塗り始めた

 

「ひいひいすう⁇」

 

「大丈夫だ…」

 

「おくすいぬいぬい〜」

 

「ふふ…」

 

二人の小さな手が心地良く、私は自然と笑みが零れた

 

「はよよ〜なえお〜」

 

「おくすいぬいぬいおちまい‼︎」

 

「ありがとうな、ヒトミ、イヨ」

 

「またぬいぬいちたげう‼︎」

 

「ひとみたちは、いまかあたかこしゃんのおてつらいすうの‼︎」

 

「おはよ〜…あらっ‼︎早いわね⁉︎」

 

「たかこしゃんおあよ‼︎」

 

「あしゃおはんつくお‼︎」

 

ヒトミとイヨは貴子さんと共に台所に入って行った

 

「ビビリと違って気が回る子だ…いだっ‼︎」

 

私がそう呟いた時、ジャーヴィスが私の肩をちみった

 

「ジャーヴィス…痛いぞっ‼︎」

 

ジャーヴィスを引き剥がし、目の前で抱き上げると、ジャーヴィスは真顔で私を見つめ返した

 

「元気な子だな、ジャーヴィスは…」

 

 

 

 

皆が朝ご飯を食べ終えた後、ジャーヴィスはその辺をハイハイで動き回っていた

 

「よいしょ…」

 

ビビリに抱っこされたジャーヴィスはヒジョーに大人しい

 

ガラガラを振りはするも、ビビリを叩こうとしない

 

「アークお姉ちゃんが抱っこしたい〜って」

 

「おいでっ、ジャーヴィス‼︎」

 

私に呼ばれて反応はするものの、ジャーヴィスはすぐにビビリの顔を見る

 

「俺が良いのか⁇ははっ‼︎」

 

「あ…」

 

ジャーヴィスはビビリに抱かれながら窓際に連れて行って貰い、外を眺め始めた

 

「あれはなんだろうな⁇」

 

ジャーヴィスはガラガラを鳴らしながら、外にいるカモメに目を向けている

 

ビビリは本当に子供の扱いが上手いと思う

 

「お⁇出たな⁇」

 

しばらくすると、ジャーヴィスからブリブリと音が聞こえた

 

「ビビリ、アークが変えよう。ウンチッチだ」

 

「おっ。頼む…」

 

ジャーヴィスをビビリの手から預かる際、ビビリは毎回ガラガラを取ってくれる

 

それでもジャーヴィスはガラガラが欲しい様で、ビビリの手のガラガラに手を伸ばす

 

「ウンチッチキレイキレイにしてからな⁇」

 

そして、何も言わなくてもガラガラを鳴らしながら、オムツを替える為に私の部屋まで着いて来てくれる

 

「ウンチッチフキフキしような〜」

 

「ほ〜らジャーヴィス、ガラガラだぞ〜」

 

オムツを替えている最中もジャーヴィスの横に座り、ガラガラを鳴らして気を反らせてくれている

 

「すみません、マーカス様…」

 

「ビビリで良いぞ〜」

 

そう言うマーカス様の目は、ジャーヴィスの方を向いている

 

私はそれが何故か、とても悔しかった…

 



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196話 アークの子育て奮闘記(2)

「ありがとうアーク。助かるわ‼︎」

 

「いえ、これ位の事…」

 

昼間になり、ようやく一段落ついた姫にジャーヴィスを返す

 

姫の所にいる時もジャーヴィスは大人しい

 

やはり私は、ジャーヴィスに嫌われているのだろうか…

 

「お疲れさん」

 

「あぁ…すまない…」

 

ビビリが紅茶を淹れてくれた

 

「ビビリは何人も経験して来たのだな…」

 

「いんや。俺は他人に任せっきりだ」

 

「そんな事は無い‼︎ビビリは何人も子育てをして来ている‼︎」

 

「子供達を横須賀に預けっぱなしの俺に、アークをとやかく言う権利は無い」

 

「それは…」

 

ビビリはコーヒーを飲みながらも、私を労ってくれた

 

「預けっぱなしにしてるから、未だに磯風に避けられる」

 

「それは言えてるな…」

 

「薄情な奴め…」

 

そう言ってビビリは笑う

 

その笑顔を見て、私も笑う

 

その姿を、ジャーヴィスは姫の膝の上でジーッと見つめていた…

 

 

 

 

夜になり、ジャーヴィスも寝る時間

 

「さっ、ジャーヴィス。姫の所でネンネだ…いたっ‼︎」

 

ガラガラバシ‼︎

 

ジャーヴィスを姫の横で寝かせても、ガラガラで私を叩く

 

「ジャーヴィス‼︎メッ‼︎よ⁇」

 

姫に叱られたジャーヴィスは、姫の顔を見た後、私の顔を見て数回ガラガラを振る

 

「おやすみ、アーク…」

 

「おやすみなさいませ…」

 

電気を消し、姫の部屋を出る

 

ジャーヴィスの哺乳瓶の消毒をしてから寝ようと思い、食堂に戻って来た

 

「ん⁇」

 

台所には、消毒液に浸けられた哺乳瓶があった

 

台所から食堂を見ると、ソファーで誰かが座って寝息を立てていた

 

「マーカス様…」

 

左手を肘置きに置き、マーカス様は眠っていた

 

哺乳瓶を消毒液に浸けておいてくれたのはマーカス様だ

 

「ふふっ…おやすみなさいませ…」

 

マーカス様に毛布を被せた時、ふと気付いた

 

…私も、マーカス様に甘えてみたい

 

そう思った時には、マーカス様の横に座っていた

 

「こんなに大きくなられて…」

 

マーカス様の肩にそっと、頭を置いてみた

 

あぁ…

 

子供達が懐く理由が分かる…

 

温かいんだ、マーカス様は…

 

「懐かしいです…貴方の傍にいた時間を思い出します…」

 

数十分だけのつもりが、いつの間にかマーカス様の横で眠りに着いていた…

 

 

 

 

「はっ‼︎」

 

気付いた頃には朝

 

既にマーカス様はおらず、私はソファーで横に寝かされ、毛布が掛けられていた

 

時計を見ると午前4時…

 

いや、もう5時か…

 

ガラガラ

 

「ん⁇」

 

ソファーの下から音がする

 

ソファーの下を覗くと、そこにはジャーヴィスがいた

 

音の正体はジャーヴィスのガラガラだ

 

「おはよう…ミルクの時間だな…」

 

そう言って立ち上がろうとした時、ジャーヴィスが足に抱き着いて来た

 

「お…抱っこか⁇」

 

やはりガラガラの恐怖はある

 

それでも、ジャーヴィスを抱き上げた

 

「は…はは…‼︎」

 

ガラガラガラとガラガラを振り、ジャーヴィスは真顔ながら嬉しそうに体を揺らしながら、私に抱かれてくれた

 

「ジャーヴィス‼︎」

 

嬉しくなって、つい頬擦りをする

 

それでもジャーヴィスは叩かないでいてくれた

 

「よしよし‼︎ミルクにしような‼︎」

 

「くっこおおあよ‼︎」

 

「じゃ〜ゔぃしゅはおまかしぇ‼︎」

 

タイミング良く、ヒトミとイヨが起きて来てくれた

 

「頼んだぞ‼︎アークはミルクを作る‼︎ふふっ‼︎」

 

遂に叩かれずにジャーヴィスを抱く事が出来た私は、喜んでミルクを作った

 

「おはよ〜…アークも早いわね⁉︎」

 

「ようやく…ようやくジャーヴィスに叩かれずに抱っこ出来たんだ‼︎」

 

「そう‼︎良かったわぁ。心配してたのよ⁉︎」

 

貴子さんも心配していてくれた様だ

 

「私もジャーヴィスちゃんにミルクあげてみていい⁇」

 

「勿論だ‼︎」

 

今日は貴子さんに抱かれて、ジャーヴィスはミルクを飲んだ

 

貴子さんに抱かれている時も、ジャーヴィスは大人しい

 

そして、貴子さんに背中をポンポンされ、ゲップを出した後、皆が起きるまでその辺をコロコロし始めた



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196話 アークの子育て奮闘記(3)

「今日は偵察任務がある。昼には帰って来るからな⁇」

 

「気を付けてな、ビビリ、ウィリアム殿」

 

偵察任務がある二人を見送り、ジャーヴィスの所に戻って来た

 

「ジャーヴィス。今日は何して…あだっ‼︎」

 

ガラガラバシッ‼︎

 

幸せも束の間

 

ジャーヴィスにガラガラで叩かれる

 

「な…何故だ…」

 

「じゃ〜ゔぃすだめだよ。あーくさんたたいたら」

 

たいほうが叱ってくれて、ジャーヴィスは普通にガラガラを振り始めた

 

「ジャーヴィス‼︎いい加減になさいっ‼︎」

 

姫に怒られ、ジャーヴィスはビクッと肩を上げた

 

そして、スンスン鼻をすすり、ピーピー泣き始めてしまった

 

「大丈夫ですよ姫‼︎アークはちっとも…」

 

「ダメですアーク。悪い事は叱らないと」

 

「ジャーヴィス…」

 

流石に泣かれては胸に来る

 

「よしよし…良い子だからな〜…」

 

怒られた事が分かったのか、私に抱き上げられてもガラガラで叩かなくなった

 

「ジャーヴィス⁇アークは貴方の事が大好きなのよ⁇叩いたらダメよ⁇」

 

叱られて姫が怖くなったのか、ジャーヴィスは姫を見ようともせず、私の胸に顔を埋めている

 

「はは…」

 

「もぅ…お転婆なんだから…」

 

かと思えば、もう寝息を立てている

 

「アーク、ホントにごめんなさいね…」

 

「いえ。お気になさらず」

 

ジャーヴィスを姫に返し、食堂で紅茶を飲みながらビビリの帰りを待つ…

 

 

 

「ただいま〜っと‼︎」

 

「今日も平和な空だった‼︎」

 

ビビリとウィリアム殿が帰って来た

 

ビビリの声に気付いたのか、ジャーヴィスが目を覚ました

 

「マーカス。ジャーヴィスが抱っこしてって‼︎」

 

「おっ‼︎ジャーヴィス、たっだいまぁ〜‼︎」

 

ジャーヴィスはビビリに高い高いされ、嬉しそうにガラガラを振っている

 

「アークっ…」

 

「ん⁇」

 

ビビリに呼ばれ、二人に歩み寄る

 

「今なら大丈夫だ」

 

「うん…」

 

ビビリに抱っこされたジャーヴィスの頬を、人差し指で撫でてみる

 

「あは…」

 

長めの瞬きをしながら、ジャーヴィスは指を受け入れてくれている

 

「ジャーヴィス‼︎」

 

大人しいジャーヴィスを見る度ホッとする…

 

「まるで夫婦だなっ⁇」

 

「アークも案外お似合いだったのよっ」

 

ウィリアム殿と貴子さんには、私達がジャーヴィスを可愛がる姿が夫婦に見えていた…

 

 

 

 

それから数日間、私はジャーヴィスの面倒を見続けた

 

だが、相変わらずジャーヴィスは私をガラガラで叩く

 

流石の私もそろそろ疲弊し始めた

 

「ふぅ…」

 

ジャーヴィスを姫の所に寝かし、食堂に来た

 

「アーク、ちょっと無理し過ぎじゃない⁇」

 

「いや…大丈夫だ…私が姫に頼んだんだ…」

 

「ちょっと怪我してるじゃない‼︎お薬塗ってあげるから、ソファーに座って⁇」

 

ソファーに座り、貴子さんに薬を塗って貰う

 

「アークは頑張り屋さんね…」

 

「私は…過去にマーカス様を見捨ててしまった…今、それが返って来ているんだ…」

 

「そんな事ないわ⁇アークはホントに頑張ってる」

 

貴子さんにそう言われ、涙が出そうになった

 

ジャーヴィスは他の人にはよく懐き、大人しい

 

だが、私への態度は時間や日によって違う

 

何がダメなんだろう…

 

「アーク」

 

「ビビリ…」

 

「明日、休みを取ろう」

 

「ダメだ。私にはジャーヴィスが…」

 

「ジャーヴィスは母さんや貴子さんが見てくれる」

 

「そうよアーク。明日はお休みしなさい⁇」

 

「そうか…なら、そうさせて貰う、かな⁇」

 

「アークの好きな物食べに行こう‼︎なっ⁉︎」

 

「本当か⁉︎よし、なら明日はお休みだ‼︎」

 

「ならもう寝ろ。ありがとうな⁇」

 

「気にするな‼︎それより、明日は頼むぞ‼︎」

 

ビビリにそう言われ、私は明日、休む事になった

 

 

 

 

「「ふぅ〜…」」

 

食堂では、ビビリと貴子さんがため息を吐いていた

 

「良かったわ…素直に聞いてくれて」

 

「ありがとう、貴子さん」

 

少し前、ビビリは姫に呼ばれ、明日アークをジャーヴィスから離すように言った

 

アークはここ数日で大分ストレスが溜まっていた

 

だから、明日アークを連れて、1日好きな事をさせてやって欲しい

 

姫がそう言ってくれたのだ

 

 

 

明日はビビリとデートだ

 

とても…とても楽しみだ‼︎



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196話 アークの子育て奮闘記(4)

次の日の早朝…

 

午前4時、姫の部屋…

 

「スー…」

 

姫がまだ寝ている中、布団がモゾモゾ動く

 

ガラッ

 

ポテッ

 

ベッドからガラガラが落ちた後、ジャーヴィスも落ちて来た

 

ジャーヴィスはハイハイで動きながら、半開きになっている部屋のドアを開け、まずは執務室を目指す

 

ガラ…

 

ガラガラ…

 

薄暗い中、奇妙な音が廊下に響く

 

ジャーヴィスは執務室のドアを押し、中に入る

 

そして、何故か壁に向かう

 

壁に近付き、ジャーヴィスは一旦座って休憩をした後、壁に開いた穴に入った

 

そして、食堂に着く

 

ジャーヴィスはこうして毎朝食堂に辿り着くのだ

 

しかし、今日は誰もいない

 

ジャーヴィスが起きるより早く、私達は横須賀に向かっていた

 

アークが居ないと分かっていないジャーヴィスは、一人でガラガラを振ったり、カーペットの上をコロコロしたりして、アークもといミルクを待つ

 

「もぅ…また脱走したの⁇」

 

誰かが起きて来て、ジャーヴィスを抱き上げる

 

ジャーヴィスは彼女の”眼鏡”がお気に入りで、抱っこされたらいつも触ろうとする

 

「ふふっ…オッパイ好きなのね⁇」

 

アークは若干控えめなオッパイをしている為、普段は気付かないが、ジャーヴィスも誰かと同じくオッパイ好き

 

今でさえ、彼女のオッパイを叩いたりつついたり、頭を置いたりしている

 

「お兄ちゃんは何処にいるのかな〜」

 

彼女はジャーヴィスと共に窓際に立ち、薄暗い外を眺める

 

「私の好きな人も、貴方と一緒で空を飛んでるのよ⁇」

 

ジャーヴィスは分かっていないだろうが、彼女は自分の好きな人をジャーヴィスに打ち明けた

 

ジャーヴィスは外を見ながら彼女を叩こうとせず、ガラガラを振っている

 

「ふふっ…」

 

ジャーヴィスは彼女に甘える様に抱き着き、食堂に目線を戻した

 

「ふぁ〜…」

 

「おはよう」

 

「おはよ〜。ご飯作るわね〜」

 

彼女はジャーヴィスと共にカーペットの上に座り、ハイハイしたりコロコロしたりする可愛らしい仕草を目で追う…

 

 

 

 

横須賀に着き、朝霧が立ち込める中、海岸線を歩く

 

ビビリの腕をグッと握り、水平線の向こうで朝練をしている艦娘の子を横目に、長い長い海岸線を歩く

 

「…ビビリ」

 

「ん〜⁇」

 

「喉乾いた」

 

「コーヒーでも飲むか‼︎」

 

自販機でコーヒーを買い、階段に座って熱いコーヒーを飲む

 

「はぁ〜…」

 

「まだ白い息出るんだな⁇」

 

「寒いからな…ジャーヴィスが冷えないよ…」

 

ふと、ビビリに人差し指で口を止められた

 

「今日はその話はナシだ」

 

「ん…」

 

「そうだ。今日はアークの夢を叶えてやる約束だったな‼︎」

 

ビビリはポケットの中から小さな箱を出した

 

「これは⁇」

 

「今日一日、これを付けている間は俺の嫁だ」

 

「は…正気か⁇ビビリにはヨメがいるだろう‼︎」

 

ビビリの手には、一時期皆が血眼になって探していたもう一つのケッコン指環があった

 

「横須賀には言ってある。なんなら、後で聞けばいい」

 

「う…」

 

本当は嬉しかった…

 

一日だけでも、ビビリのヨメでいられる…

 

だが、果たしてビビリの子供達まで裏切って良いのだろうか…⁇

 

「嫌なら良いんだ」

 

「い、いや‼︎付けてやる‼︎付けて下さい‼︎」

 

「手出せ」

 

ビビリに指環を付けて貰う

 

凄く幸せな気分だ…

 

「よく似合ってる」

 

「そ、そうか…ふふ…」

 

私は手を空に上げ、何度も指環を眺めた

 

「行こう。そろそろ繁華街が開く」

 

「あぁ‼︎」

 

ダンナとなったビビリの腕をギュッと握る

 

一時的にダンナとヨメになった私達は、朝ご飯を食べに繁華街に向かう

 

 

 

 

 

前日の夜…

 

「アークの夢ってなんだ⁇」

 

ビビリは子供部屋にいた

 

「くっこおのゆめ⁇」

 

「あーくのゆめ⁇」

 

子供達のほとんどが一度聞き直して、すぐに答えてくれた

 

「レイのお嫁さんだね‼︎」

 

「えいしゃんのおよめしゃん‼︎」

 

「くっこお、えいしゃんのおよめしゃんないたい‼︎」

 

「すてぃんぐれいのおよめさん‼︎」

 

「レイの嫁になる」

 

「犬の嫁ね」

 

「レイさんの妻になる事です」

 

「レイのお嫁さんになる事なんじゃない⁉︎」

 

「あぁぁあ分かった分かった‼︎」

 

満場一致でビビリのヨメになる事だと猛攻撃を受けたビビリは、子供達を寝かせた後、姫の所に来た

 

「アークの夢は分かったかしら⁇」

 

ビビリは頭を抱えながら、姫に言った

 

「…指環を出してくれ」

 

「ふふっ‼︎やっぱり‼︎」

 

「子供達が満場一致でアークは俺の嫁になりたいんだと言って来た」

 

「子供達に嘘は無いわ。頼むわね⁇」

 

「何とかしてみるよっ。ありがとな‼︎」

 

姫はビビリに指環を入れた箱を渡し、ビビリは部屋を出た…

 

 

 

 

「うまいな‼︎ズィーカク、これは何だ⁉︎」

 

私達はズィーズィーズッコロバシに来ていた

 

「ツナサラダよ‼︎」

 

「ふふ…」

 

ズィーカクの握るオスシーは美味しい

 

サラダロールも、ツナサラダバトルシップも美味しい

 

「あれっ⁉︎その指環どうしたの⁉︎」

 

ズィーカクが指環に気付いた

 

「あぁ。ビビリとケッコンしたんだ‼︎」

 

「「「えぇ〜〜〜〜〜〜っ‼︎」」」

 

店内にいた客までビビリだした



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196話 アークの子育て奮闘記(5)

アークがとある人物に一目惚れ


「こう見えてアークはリョーサイケンボなんだぞ‼︎お料理も出来る‼︎洗濯も掃除も出来る‼︎夜戦だってある程度は心得ているぞ‼︎ははは‼︎」

 

私がそう言うと、ビビリは一瞬私の胸を見た後、お茶を飲みながら目を逸らした

 

「マーカスさんはどうする⁇ナンヨウハギにする⁇それともネオンテトラにする⁇」

 

「ナンヨウハギにする」

 

「ナンヨウハギ…」

 

ズィーカクの手元には、青い魚がいる

 

前に来た時もビビリは変な魚を食っていた

 

…いや、食わされているのか⁇

 

…美味しいのだろうか⁇

 

「アークさんはこっちよ‼︎」

 

ズィーカクが流してくれたのは、プリプリのエビ

 

「おぉ〜‼︎アーク、これ好きだ‼︎頂きます‼︎」

 

野菜系のオスシーも良いが、やはり魚介類も美味しい

 

「ど⁇マーカスさんもアークさんも美味しい⁇」

 

「美味い‼︎」

 

「ズィーカクのオスシーは美味しいな‼︎」

 

「ふふっ‼︎良かった‼︎」

 

「儲かってますかーっ‼︎」

 

リチャード殿が来た

 

そう言えば、リチャード殿はズィーカクとフリンしているらしい

 

「さっ、アーク。面倒な事になる前に行こうか‼︎」

 

「ごちそうさまズィーカク‼︎」

 

「親父にツケといてくれ‼︎」

 

私達は中将と入れ違いでズィーズィーズッコロバシから出た

 

 

 

 

「中将⁇息子さんがツケといてって‼︎」

 

「はっはっは‼︎安い口止め料だ‼︎」

 

「中将、ウナギの味見してくれない⁇」

 

「おぉ〜‼︎ウナギか‼︎」

 

今日もこの二人はご機嫌にウワキをしている…

 

 

 

 

「リチャード殿と話さなくて良いのか⁇」

 

「人の恋路を邪魔しちゃならん。よっこらせ‼︎」

 

ビビリと共に、広場の中心にある大きな木の下のベンチに座る

 

ビビリはタバコに火を点け、駆逐艦の子達を眺めている

 

「ビビリはいつからタバコ吸ってるんだ⁇」

 

「さぁな〜。気が付きゃ吸ってた。多分、兵器の開発やら、設計をし始めた頃だろうな」

 

「タナトスもビビリが造ったんだな」

 

「色んな人の力を借りたけどな…それに、姉妹艦を造った俺が沈めた」

 

「姉妹艦⁇二隻いたのか⁇」

 

「開発段階ではもう一隻の三隻居たんだ。最後の子は、開発段階で頓挫になった…今でもどっかに設計図位はあるんじゃないか⁇」

 

ビビリは自分が造ったり産み出したりした子や、航空機をモノ扱いしない

 

いつも”彼女”や”あの子、その子”と言う

 

「その子の名前は⁇」

 

「アルテミス」

 

「アルテミス⁇」

 

どっかの国の神の名だ

 

「アルテミス。その子は光学迷彩搭載の潜水艦で、狩猟の神の名に恥じない性能を持つハズだった…まっ、時代は彼女に追いつかなかったって訳だ」

 

「また造りたいと思うか⁇」

 

「まぁな…AI自体は完成していたんだ。それに、小型なら光学迷彩は可能にまではした。でもそれまでだ」

 

「そうか…」

 

淡々と話し、目を輝かせているビビリだが、その奥で、どこか悲しい目をしていた

 

ビビリも色々背負って生きているのだな…

 

「そう言えば、ビビリは神を信じてないのに、潜水艦には神の名を付けるのだな⁇タナトスとか、アルテミスとか…」

 

「さっ‼︎この話は終いだっ‼︎遊戯場行こう‼︎」

 

「ユーギジョー…」

 

ビビリは話を切り上げ、私を連れてユーギジョーに向かう

 

 

 

 

その頃基地では…

 

「じゃ〜ゔぃしゅ。こえあ〜んら⁇」

 

「ぴ〜ぷ〜」

 

きその膝の上にいるジャーヴィスの前に、ヒトミとイヨのお気に入りのイルカのぬいぐるみが出される

 

ジャーヴィスはイルカのぬいぐるみを欲しそうに手を伸ばしている

 

「らっこちてみう⁇」

 

「あいっ‼︎」

 

ヒトミとイヨからイルカのぬいぐるみを貸して貰い、ジャーヴィスは二つ共ギュッと抱き締めた

 

「これはイルカさんだよ⁇」

 

きその声に反応して顔を一瞬上げ、すぐにヒトミとイヨに顔を戻し、小さくイルカのぬいぐるみを振っている

 

その度にイルカのぬいぐるみはピープーピープー鳴る

 

どうやらジャーヴィスはその音が気に入った様で、何度も振る

 

「ヒトミ‼︎イヨ‼︎こっちにいらっしゃい‼︎」

 

「ひめしゃんら‼︎」

 

「いってくうお‼︎」

 

姫に呼ばれたヒトミとイヨは二人の前から去った

 

「ジャーヴィスは振ったら音がするオモチャが好きなんだね…ふふふ」

 

嬉しそうにイルカのぬいぐるみを振るジャーヴィスを抱っこするきそは何かを考えていた…

 

 

 

「空飛んだら命中率は高いのにコレはからっきしだな‼︎」

 

「うぬぐぐ…」

 

ビビリと共にユーギジョーに来た私達は、バスケットボールをゴールに入れて、高得点なら景品の引換券が貰えるゲームをしていた

 

制限時間内に30回入れれば引換券が貰えるのだが、私は50回

 

ビビリは12回

 

「ははははは‼︎どうしようもないな‼︎」

 

「アークに負けるとは…」

 

ビビリは膝から崩れ落ちている

 

「どれ。あのザラとか言う奴に渡せば良いのだな⁇」

 

「そっ。お菓子とか小ちゃい景品位なら貰えるだろ」

 

「ははは‼︎あ〜楽しかった‼︎」

 

私が先にザラの所に向かうと、ビビリはよっぽど悔しかったのか、最後の一球をまだ手にしている

 

「早く行くぞビビリ‼︎」

 

「分かったよ‼︎」

 

ビビリはゲーム台から少し離れた位置から後ろ向きでバスケットボールを投げて、ゴールに入れていた

 

「手を抜かれていた…だと⁇」

 

「手は抜いてないと思いますよ⁇マーカスさん、何でか分からないんですけど、後ろ向いて投げた方がよく入るんです」

 

「変な特性持ってるのだな…」

 

しかしこのザラとか言う娘、良い匂いがするな…

 

人工的な香水や化粧品の類いの匂いではなく、如何にもザラ独特‼︎の匂いだ

 

あぁ、あれか

 

このユーギジョー、男が固まって来るのか

 

子供達は子供達のコーナーがあって、パイロットや職員が遊ぶコーナーがあって、ザラは後者寄りにいる

 

男達が吸ったであろうタバコの匂いがする…

 

電子機器のモーターの匂いがする…

 

ふとした瞬間、男の汗の匂いがする…

 

でも何故だろう。私はどれも嫌いじゃない

 

そんな男臭さの中、ザラの甘いフレグランスが心地良く思える

 

「どうされましたか⁇」

 

「い、いや‼︎どれにしようかなと‼︎」

 

クソッ、何だこの気持ちは‼︎

 

ザラも私も女のハズなのに、ドンドンザラに惹かれて行く私がいる

 

軽く首を傾げるその仕草にさえ、何故だか分からない胸の高鳴りがする

 

「そっ、そのクッキーを貰おう‼︎」

 

「はいっ‼︎此方ですね‼︎」

 

笑顔で棚からクッキーの箱を取り、私に手渡すザラ

 

私は引換券をザラに渡す

 

「どうぞ〜」

 

引換券を渡した時、ザラの手から私の手に触れた

 

そして、何故かも分からずテンパってしまう

 

「はっ、はひっ…ありがとごじゃましゅ…」

 

「ふふっ‼︎レイさんも遂にお渡しになられたんですね⁇」

 

「はは…事情があってな。今日は特別なんだ。今日だけ、”マーカス様”は私の旦那なんだ」

 

「マーカス様⁇」

 

「あぁ‼︎いやいやビッ、ビビリだっ‼︎」

 

クソッ‼︎何故だ‼︎

 

何故ザラの前ではペースを崩されるのだ‼︎

 

「ザラ。コーラくれるか⁇」

 

「わっ、私も同じのを‼︎」

 

「少々お待ちを〜‼︎」

 

カウンターの向こうで、ザラのフリル付きのスカートが揺れる…

 

ウェーブのかかった髪先が揺れる…

 

冷静を保ったフリをし、口元で両手で杖をつきながら唾を飲む

 

「アーク」

 

「な、なんだビビリ」

 

ビビリが半笑いでコッチを見て来る

 

「何でもないっ」

 

ビビリはそのままの顔でタバコを取り出し、火を点けた

 

「言え‼︎私達は夫婦だろう‼︎夫婦に隠し事はナシだ‼︎」

 

「母さんに似てるなって思っただけさ」

 

「そうか。おそばに居たから、似て来るのは必然かもな」

 

「…鈍感な野郎だ」

 

ビビリだけには言われたくない

 

「そういや、ポーラは最近どうだ⁇」

 

「この前、スパイトさんとバーに行ってましたよ⁇スパイトさんに誘われる様になってから、息抜き程度に飲む様になって助かってるんです‼︎」

 

「なら良かった。母さんもたまには飲みたいだろうからな」

 

「おいビビリ。ポーラと姫は飲んでいるのか⁇」

 

「何だ⁇アークも飲みたいのか⁇」

 

「そうだな。アークも飲みたい」

 

「なら、夜は飲みに連れてってやるよ」

 

「飲み過ぎないで下さいよ⁇」

 

「どうせまた歌わされて楽器弾くから飲む暇なんざないだろうから大丈夫さ‼︎ごちそうさん‼︎」

 

「あ…」

 

いつの間にか互いにコーラを飲み干していた

 

「ごっ、ごちそうさま…また来ていいか⁇」

 

「えぇ‼︎勿論‼︎」

 

ザラ、気に入った

 

ビビリ並にホッとする

 

機会があったらまた来よう

 

 

 

 

 

「凄い綺麗な人だったなぁ…」

 

ザラはザラで、アークに憧れを持っていた

 

気品溢れる身嗜み

 

スラッとしたスリムなボディ

 

何をしても様になるその姿は、ザラの目にも焼き付いていた…



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196話 アークの子育て奮闘記(6)

ユーギジョーを出ても、ビビリは色んな所に連れて行ってくれた

 

いっぱい遊んだ

 

いっぱい食べた

 

いっぱい愛して貰った

 

たった一日だけど、ビビリとの夫婦生活は本当に有意義に過ごせた

 

最後にはデートスポットである、海沿いを歩いた

 

朝歩いた砂浜が続く海岸線とは違い、下は赤レンガで舗装され、上は街灯が並んでいてとても綺麗な道になっている

 

「楽しかった‼︎」

 

「アークが楽しめたならそれでいい」

 

相変わらず私はビビリの腕にくっ付いていた

 

「たった一日だけど、アークは嬉しかった…ビビリと夫婦になれて」

 

「今度、ザラと飲みの席でもセッティングしてやるよ」

 

やはりビビリは気付いていた

 

恋愛に疎いと姫やウィリアム殿から聞いていたが、他人の事情に勘付くのは上手いな…

 

「…いいんだ」

 

「そうか⁇アークがいいなら別にいいか…」

 

「…ビビリがいい」

 

そう言って、ビビリの腕に頭を置いた

 

「マーカス様と一緒がいい…アークは、それが一番嬉しい…」

 

「なら、また遊びに来よう。飲むより食べる方がいいだろ⁇」

 

「うんっ…」

 

幸せだ…

 

ジェミニとケッコンする前にマーカス様と再会していたら、アークは…

 

「マーカス様…」

 

「ん⁇」

 

「アークはどうすれば良いでしょう…ジャーヴィスに叩かれ続け、そろそろ限界です」

 

「アークは良くやってる。ジャーヴィスを怒らずに良くここまで来た」

 

「…」

 

朝と違い、マーカス様は私の話を聞いてくれた

 

「俺は基地にいる時にしか、ジャーヴィスの相手を出来ない。それをアークは四六時中やってる。本当に立派だ」

 

「ん…」

 

「ありがとう、アーク」

 

街灯の下で立ち止まり、マーカス様は私をギュッと抱き締めてくれた

 

私は初めて、マーカス様の胸で泣いた

 

「良く頑張ったなっ」

 

「ううっ…」

 

何度も何度も頭を撫でられ、背中をさすって貰う

 

勝てない…この包容力には…

 

私が勝手に対抗意識を燃やしていた相手は、あまりにも強大過ぎた…

 

数分間泣き続け、ようやく落ち着いた私の手を握り、マーカス様は歩き始めた

 

「アーク。一つ試したい事があるんだ」

 

「試したい事⁇」

 

「そっ。きそから聞いたんだ」

 

マーカス様の試したい事を聞きながら、私達は帰路に着いた…

 

 

 

 

基地に着くと、ほとんどの人が眠っていた

 

「マーカス様」

 

「ん⁇」

 

「この指環は本日まで有効ですか⁇」

 

まだ付けている指環をマーカス様に見せる

 

「そ、そうだな」

 

「では、アークの最後のお願いを聞いて頂けますか⁇」

 

「ちょっ‼︎」

 

マーカス様を自室に連れ込み、一日の夫婦生活は幕を下ろした…

 

 

 

 

次の日の朝、午前5時手前…

 

ガラ…

 

ガラガラ…

 

廊下からジャーヴィスのガラガラが聞こえる

 

「起きたか…」

 

ベッドから起き上がろうとした時、マーカス様に戻された

 

「もうちょっと寝てろ」

 

額にキスされ、布団を被し直して貰う

 

「ん…」

 

言葉に甘え、もう少しだけ横になる事にした…

 

 

 

次に目が覚めたのは、いつも起きる時間

 

着替えてから食堂に行くと、いつもの光景があった

 

「くっこおおきた‼︎」

 

「しゃくばんはおたおしみれしたえ‼︎」

 

ヒトミとイヨにバレている‼︎

 

「おはようアーク」

 

「お…おはようございます…」

 

ヒトミとイヨに言われ、マーカス様の顔を見るのが恥ずかしくなった

 

「ふふっ‼︎良かったわねアーク⁇」

 

「あ…あはは…」

 

勿論姫にもバレている

 

…が、怒ってはいない様子だ

 

「…怒っていないのですか⁇」

 

「どうして⁇一日だけだったけど、マーカスとアークは夫婦でしょう⁇」

 

「あ…」

 

昨日の指輪が付けっ放しのままだ

 

「かっ、返します‼︎」

 

すぐに指環を取ろうとしたが、マーカス様に止められた

 

「預かっておいてくれ」

 

「へ⁇」

 

「ケッコンした訳じゃないけど、アークに預かっておいて欲しい。指環もその方が幸せだ」

 

「なら…そうさせて貰おう、かな⁇えへへっ…」

 

多分私は今、物凄く幸せそうな顔をしていると思う

 

良かった…愛されてる…

 

「でだ。アーク…」

 

「そうでしたね…」

 

マーカス様と共に、テレビの前でコロコロしながらその辺にいる子供達にガンガン当たりまくっているジャーヴィスの前に来た

 

「よいしょっ」

 

マーカス様に抱っこされたジャーヴィスは、真顔ながらも嬉しそうに体を揺らし、ガラガラを振っている

 

「アークお姉ちゃんだぞ〜」

 

そう言って、マーカス様は私にジャーヴィスを近付ける

 

が、ガラガラで叩かれない

 

それどころか、私の顔を見て笑っているようにも見える

 

「おいでジャーヴィス‼︎」

 

すると、ジャーヴィスはすぐに私に手を伸ばして来てくれた‼︎

 

すぐにジャーヴィスを抱っこし、ギュッと抱き締める

 

「良い子だジャーヴィス」

 

「ははっ‼︎ジャーヴィス‼︎」

 

今日のジャーヴィスは機嫌が良い

 

普段からこう大人しいと本当に助かる

 

そして、マーカス様と顔を見合わせ、頷きあった後、ある事を試す…

 

「良かったなアーク⁇」

 

「あぁ‼︎助かったぞビビリ‼︎あだっ‼︎」

 

ガラッバシ‼︎

 

額にガラガラが当たる。痛い

 

さっきまでちょっと笑顔を見せていたジャーヴィスの顔が真顔に変わっている

 

「ジャーヴィスは良い子ちゃんだな⁇アーク⁇」

 

「えぇ。マーカス様」

 

ガラガラ

 

ジャーヴィスは叩かない

 

それどころか、私の胸に頭を置いている

 

「アーク。今日のお昼は何だ⁇」

 

「ビビリの好きなコロッケもぽぇ‼︎」

 

ガラガラバキィ‼︎

 

アークの頬が歪む位にガラガラが叩き込まれる。メチャ痛い

 

「ははは‼︎やっぱり‼︎」

 

「ははは‼︎そういう事か‼︎」

 

私とマーカス様は、顔を見合わせ笑い合う

 

「ウィリアム。アークとマーカスが壊れたわ…」

 

「大丈夫そうですよ⁇」

 

姫とウィリアム殿が、私達三人を見る

 

「ジャーヴィスはアークお姉ちゃん嫌いじゃないよな⁇」

 

マーカス様の言葉に反応し、ジャーヴィスはマーカス様の方を向き、ガラガラを振る

 

「マーカス様の事をバカにされるのがイヤだったんだな…悪かった…」

 

そう

 

ジャーヴィスが私を叩くのには理由があった

 

私がマーカス様をビビリと言うと、ジャーヴィスはキレる

 

どうやら産まれながらにかなりブラコンの様だ

 

「ふふっ‼︎ジャーヴィスも私と好きな人一緒なのね‼︎」

 

姫が来たのでジャーヴィスを返す

 

姫もマーカス様が好きなのか…と思ったが、親子だから好きなのは当然か…

 

私の好きとは違い過ぎるな…

 

私はそれから、ジャーヴィスに叩かれる事は無くなった…




ジャーヴィス…小さなスパイトちゃん

スパイトの娘であり、レイの妹

口におしゃぶりを咥え、ガラガラを手に持ち、常に振って遊んでいる

アークの事は好きだが、レイを馬鹿にするアークは嫌い

スパイトとかなり似ており、何だか面白い予感がする…


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197話 おしゃべりジャーヴィスちゃん

さて、196話が終わりました

今回のお話は1話しかありませんが、もう少しだけジャーヴィスのお話です

テレビを見ながらガラガラを振るジャーヴィス

果たして初めて話す言葉とは⁉︎


アークが大量の洗濯物を干している間、ジャーヴィスはソファーに座って紅茶を飲みながら日報を読んでいる母さんの足元にいる

 

大人連中は昼食後のコーヒーやら紅茶タイム

 

少し離れた位置では、きそとたいほうは紙粘土で遊んでいる

 

実に平和だ

 

そんな中、急にジャーヴィスが目を閉じてプルプルし始めた

 

何事かと思い、俺は飲んでいたコーヒーを

 

きそとたいほうは紙粘土で遊ぶ手を一瞬止める

 

そしてジャーヴィスは…

 

ブシィッ‼︎

 

と、クシャミをした

 

母さんがビクッ‼︎となる足元で、ジャーヴィスは自分のクシャミに驚いて喜んでいるのか、体を縦に揺らしてガラガラを振っている

 

「何かパンダみたいだね」

 

「ぱんだ⁇」

 

「赤ちゃんのパンダがクシャミして、お母さんパンダがビクーッてなるの」

 

「たいほうもパパのところでくしゃみしたら、びく〜ってなるかな⁇」

 

「ふふ…どうだろ⁇隊長、結構ビックリ系に強いからね⁇」

 

きそもたいほうもニコニコしながら話している

 

「洗濯物終わり‼︎」

 

「おしぇんたくおわい‼︎」

 

「いるかしゃんもおしぇんたくちた‼︎」

 

アークと共に洗濯の手伝いをしていたひとみといよも戻って来た

 

「ひとみちゃん、いよちゃん‼︎ジュース飲む⁇」

 

「のむ‼︎」

 

「よ〜ぐうとのじゅ〜しゅ‼︎」

 

「さっ、アークも座って‼︎お洗濯ありがとうね⁇」

 

アーク達は子供達の座るテレビの前の席に座り、貴子さんにジュースと紅茶を貰う

 

「おいち〜‼︎」

 

「よ〜ぐうとしゅき‼︎」

 

「ふふっ…」

 

すっかり二人の扱いに慣れたアークは、左手でカップを持ち、紅茶を飲む

 

《GO☆GO☆橘花マーン‼︎GOGO橘花マーン‼︎》

 

「お〜お〜きっかめ〜ん‼︎」

 

「ご〜ご〜きっかめ〜ん‼︎」

 

子供達の好きな特撮番組が始まる

 

「お⁇」

 

ハイハイしながらアークとひとみの間に座り、ジーッとテレビを見始めたジャーヴィスに、大人達がホッとする

 

ジャーヴィスは最近メッキリアークを叩かなくなったどころか、かなりアークに懐いている

 

《オイゲーヌ‼︎パンツァーシュレックでタイガーを始末してくれ‼︎》

 

《川の向こうにスナイパー》

 

《敵が近付いて来たら火炎瓶を投げるんだ‼︎》

 

テレビの向こうで、ど〜見てもプリンツ、れーべ、まっくすがいる

 

れーべとまっくすは少し前から双子のロリゲルマン役で出ていたが、今回はプリンツまでいる

 

どうも三人は味方になったらしいが…

 

子供向けの特撮番組なのに、何故こうも現実味を帯びてて泥臭いのか…

 

ぱ、パンツァーシュレックに火炎瓶だと⁉︎

 

《ありがとう‼︎ゲルマンちゃん達‼︎ここからは私が相手だ‼︎来い‼︎メッサーシュミッター‼︎》

 

しかし敵は中々カッコイイ

 

「けんごしゃんがんばえ〜‼︎」

 

「かっこい〜お〜‼︎」

 

ひとみといよは橘花マンを健吾と言っている

 

当たってるだけに何も言えない

 

メッサーシュミッターと橘花マンが交戦状態に入った瞬間、一旦CMになった

 

ジャーヴィスはCMでさえ真新しい物に見えており、ジーッと見ている

 

《All right‼︎美味しい紅茶、ミルク味とレモン味が発売ネー‼︎》

 

久し振りに見た金剛はCM女優になっていた

 

「おらーい」

 

その声の主に、大人連中が一斉に目を向ける

 

アークは一瞬で声の主に反応し

 

隊長は新聞を降ろし

 

俺はコーヒーを吹き

 

ローマは眼鏡がズレ

 

母さんはビクッと肩を上げ

 

貴子さんは冷蔵庫を弄っていた手を止め

 

グラーフは口を開けたまま止まり

 

ひとみといよでさえビックリして、全員が同じ言葉を放った

 

「「「喋ったぁぁぁあ‼︎」」」

 

声の主は、今もテレビを見ているジャーヴィス

 

ジャーヴィスがCMの真似をして初めて喋ったのだ

 

「ジャーヴィス‼︎もう一回言ってくれ‼︎」

 

アークがジャーヴィスの前に行き、もう一度喋る様に言うが、ジャーヴィスはアークの顔を見てガラガラを振るだけ

 

「もう一回喋るかも知れんな⁇」

 

「もうちょっと見せてみましょう⁇」

 

「わ、分かりました‼︎」

 

隊長と母さんに言われ、アークは元の位置に戻る

 

CMが終わり、再び橘花マンが始まる

 

《メッサーシュミッター…貴様とは戦いたく無い‼︎》

 

《俺には戦う事しか残ってない…もう何も無いんだ‼︎》

 

結構良い内容が流れているはずなのに、大人は全員そっちのけでジャーヴィスを見つめる

 

《もうやめよう、メッサーシュミッター…》

 

《橘花マン…》

 

《ダーリン…もういいの…戦わなくて…》

 

ど〜見てもアイちゃんがメッサーシュミッターの恋人らしい

 

「だーりん」

 

再び大人達が反応する

 

「良い子だジャーヴィス‼︎」

 

アークに頭を撫でられながら、ギュッと抱き締められるジャーヴィス

 

喜びを露わにするアークに対して、ジャーヴィスはテレビをジーッと見ている

 

橘花マンが終わり、ジャーヴィスはハイハイで動き始めた

 

母さんの足を齧っていたのかと思えば、ひとみといよの所でイルカのぬいぐるみをピープー鳴らしたり、ふと目を離せば隊長の執務室に行っていたりと、ジャーヴィスはチョロチョロ動き回っていた

 

俺は自室に戻り、艤装の資料をまとめていた

 

ガラガラガラ

 

「ん⁇あ⁉︎何でいるんだ⁉︎」

 

いつの間にかジャーヴィスが足元にいた

 

「アークはどうしたんだ⁇」

 

「お兄ちゃんは働き者だな⁇」

 

ベッドの脇に腰掛け、両手で頬杖をついているアークがいた

 

「ジャーヴィスは何が好きだ⁇よいしょ…」

 

ジャーヴィスを膝の上に乗せ、資料を見せる

 

「マーカス様の造った物だぞ〜」

 

ジャーヴィスは両手に資料を持ち、多分意味が分かっていないままそれを見ている

 

写真や絵が好きなのか、戦闘機の設計図や艤装の写真をずっと見ている

 

「これは飛行機だ」

 

「マーカス様が乗ってるんだぞ〜」

 

「ひこき」

 

またジャーヴィスが喋る

 

「そうだぞジャーヴィス‼︎」

 

「偉い偉い‼︎」

 

しばらく資料を見た後、ジャーヴィスは飽きたのかアークの所に行きたがり始めた

 

「ジャーヴィス。この人はアークだ。アーク。言ってご覧⁇」

 

アークに抱かれたジャーヴィスは、俺とアークを交互に見ている

 

「あく」

 

「そうだ‼︎偉いぞジャーヴィス‼︎」

 

「じゃびす」

 

「ジャーヴィスは君の名前だ。俺はマーカス。マーカスだ」

 

「ま…」

 

アークはあく、俺の事は、ま、と覚えてくれた

 

「そうだっ…」

 

「あく、ま」

 

「ふふふっ‼︎」

 

「その内お兄ちゃんって言ってくれるかな…」

 

「ま、のままかも知れませんね…」

 

「ふふ…今日は一緒にお風呂入ろうな⁇」

 

ジャーヴィスの頭を撫でた後、二人は部屋から出た

 

「さてっ‼︎」

 

二人が部屋から出た後、一つの資料に目が行った…




橘花マンのワンシーンは何かのゲームがモデルです

何か分かるかな⁇


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198話 もう一人の愛娘(1)

話数、題名共に変わりますが、前回の続きです

アークの話で気になった、計画段階で頓挫してしまった潜水艦”アルテミス”

そのAIと久々に話をしようとするが…


工廠に来てPCを点け、インカムを着ける

 

「誰かいるか⁇」

 

《何か用かしら⁇》

 

「ヘラか」

 

アイリスがボディを持ってから、結構な確率でヘラが相手をしてくれている

 

ヘラと話しながら厳重に管理された倉庫を開け、AIが入ったディスクを探す

 

「一人、話したい奴がいるんだ」

 

《私は邪魔かしら⁇》

 

「いや、そのままいて欲しい。ほったらかしにしてたからブチギレるかも知れん」

 

《情けないわねぇ…ま、いいわ⁇》

 

「あった。いくぞ…」

 

息を呑み”Artemis”と書かれたディスクを入れる…

 

「おはよう、アルテミス」

 

《おはよ》

 

NO SIGNAL

 

「あぁ⁉︎」

 

《誰もいないわよ⁇》

 

いるはずのAIが入っていない

 

何度調べようが、何処にもいない

 

拗ねていて話したくなくても此方から話は出来るはずだが、今回は話が違う

 

《何か書いてあるわ…ちょっと待ちなさい》

 

ヘラが何か出してくれようとしている

 

《出た。出すわ》

 

画面に文字が打ち出される

 

”ART HP”

 

「ヘラ。これを打った位置を探せるか⁇」

 

《待ちなさい…横須賀ね。この位置よ》

 

地図を出して貰い、この文字を打った場所をピンポイントで出す

 

「ヘラ。一緒に来てくれるか⁇」

 

《えぇ。たまには私に乗りなさいよ》

 

「分かった。隊長に報告して来るから、エンジン点けといてくれ‼︎」

 

《すぐ来なさいよ⁇》

 

隊長に報告しに、食堂に戻る

 

「隊長。ちょっと横須賀に行って来る」

 

「帰りに広島焼き買って来てくれないか⁇」

 

「お。了解」

 

おんどりゃあは人気だな…

 

貴子さんのメシ食ってる隊長でさえ食べたくなる物だからな…

 

「きそはお留守番な⁇」

 

「はっちゃん乗せるの⁇」

 

「たまにはヘラで行く」

 

「お嬢が乗せるって珍しいね…」

 

と、きそが呟いた瞬間、きそのタブレットにメッセージが入った

 

 

 

ヘラ> 叩くわよ

 

美少女剣士きそ> ごめんなさい

 

 

 

「バレてる…」

 

「地獄耳だからな…子供達を頼むぞ」

 

「うんっ‼︎」

 

ヘラに乗り、横須賀を目指す…

 

 

 

《でっ⁇あの文字はなんなの⁇》

 

「ALTはアルテミス。AIの名前さ。HPはヘルプ…要は助けてくれだ」

 

《じゃあ、レイが知らない間にその子は連れ去られたって訳⁇》

 

「その可能性が高い…まずは行ってみないと分からん」

 

《着陸するわよ》

 

横須賀に着き、ヘラにタブレットに場所を転送して貰う

 

工廠…

 

確かに一時期ここで管理はしていたが…

 

《サポートしてあげるから、行ってみなさい》

 

「分かった」

 

タブレット片手に、工廠を目指す

 

工廠の中に入ると、工兵がてんやわんや動いていた

 

本当にここでアルテミスが⁇

 

《レイ。その施設の地下よ》

 

「地下…」

 

工廠の地下と言えば、サラの旧研究施設だ…

 

《電子ロックね。開けたげる》

 

ヘラに頼めば一瞬で電子ロックが解除された

 

…あの時の苦労は何だったのか

 

扉が開き、下へと続く階段が出て来る

 

相変わらず漠然としない恐怖が吹き上げて来る…

 

生唾を飲んだ後、ピストルを構え、階段を降りる

 

本棚や資料が乱雑に置いてあるエリアには、アルテミスの反応は無い

 

だとすると…

 

《その扉の向こうね》

 

「ふぅ…」

 

深海棲艦のカプセルがある部屋に繋がる重圧な扉の前で、一旦深呼吸をする

 

《緊張してる⁇》

 

「まぁな…あんま此処には来たくなかったんだが…行くぞ」

 

金属が擦れる嫌な音を出しながら、扉が開く

 

再び目にする、目にしたくない光景…

 

《三つ先のカプセルの中よ》

 

「カプセルだと⁉︎」

 

ヘラに言われた通りに三つ先のカプセルに向かう

 

「空だぞ」

 

カプセルの中は既に空

 

溶液を抜かれている所を見ると、中身は出された様子だ

 

《反応はそこからよ》

 

埃に塗れたネームプレートを指で拭う

 

”TTType Submarine 3”

 

ネームプレートに書かれていた名前を見て頭を抱える

 

《何かの潜水艦の三番艦の様ね》

 

「タナトス型三番艦…」

 

《タナトスって…レイの潜水艦じゃないの⁇》

 

「そう…でも、三番艦は計画段階で頓挫したんだ。誰が…」

 

アルテミスが連れ去られ、救難信号を出した場所には頓挫したはずの潜水艦の名前…

 

誰かが盗んで建造してるのか⁇

 

《ちょっと待ちなさい。一時的にそのエリアに電力を流すわ》

 

数十秒後には電気が通り、メインコンピューターが点いた

 

《そのカプセルから連れ出したのが誰か、履歴で分かるはずよ》

 

「サンキ…」

 

《出たわ‼︎》

 

自分でしようとした時には、ヘラが調べ終えてくれていた

 

《コイツね》

 

アルテミスを持ち出した奴のデータが映し出された

 

「工作員だったのか…」

 

顔写真を見て更に頭を抱える

 

《アルテミスを出した後から行方不明みたいよ》

 

「いや…何度か見てる奴がいる…それより、ちょっと相手にし難いのが問題だ…」

 

考えろ…

 

どうすりゃいい…

 

万が一、アルテミスに搭載されるはずだった光学迷彩が完成していれば最悪の事態も有り得る

 

アルテミスは悪用すると大変な事になる

 

普通の潜水艦以上に敵に見つからずに相手を討てる

 

しかも相手が相手だ…

 

《もしその潜水艦が完成してたら、その潜水艦自体を何らかの方法で探知出来ないの⁇》

 

「無理だ。アルテミスは絶対に見つからない」

 

それに関しては確信があった

 

光学迷彩に加え、アルテミスはレーダーにさえ映らない

 

エンジンの音さえ極限まで消せる

 

タナトスが火力、ロンギヌスが守備力であるとすれば、アルテミスは隠密性がトップクラスに高くしてある

 

考えた俺が言うんだ。絶対にその方法ではまず見つからない

 

《AIが誘拐される時代ねぇ…》

 

「AI…」

 

ふと、一人の顔が浮かんだ

 

「…あの人に頼ろう」

 

地下から出て、ある人の場所に向かう…



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198話 もう一人の愛娘(2)

「後はアーマーの重量だな…」

 

「カルクシタラ、カラダガトウソウヲモトメルカモナ」

 

「それはアーマー違いだ…」

 

マークの研究室では、あのアーマーがドンドン改良されている

 

「頼みがある」

 

「珍しいな⁇素材の手配か⁇」

 

「ヴェアを貸して欲しい」

 

「エロドウジンミタイナコトスルノカ」

 

「違う」

 

「ア…」

 

何かを察したのか、ヴェアはマークの顔を見た

 

「頼む」

 

「ウ…」

 

「何だか分からんが、マーカスの頼みなら悪くはしないだろう」

 

「頼む…”大淀”博士」

 

「フゥ…ソノナデヨバレチャ…」

 

俺の一言で決意したのか、ヴェアは眼鏡を掛けた

 

「しょうがない、ですねっ‼︎」

 

ヴェアの体が黒髪の綺麗な女性に変わる…

 

「ヴェアは世を欺く為の仮の姿‼︎この大淀こそが私っ‼︎」

 

バァ〜ン‼︎と決めポーズを決める大淀

 

ちょっと厨二病なのがたまにキズだが、権威ある博士である事に間違いは無い

 

「それで⁇この大淀に頼み事とはマーカス君‼︎」

 

「AIが一人奪われた。なんとかして取り返したい」

 

「マーカス君から奪い取るなんて相当ね…分かった‼︎大淀さんにお任せ‼︎」

 

大淀博士はすぐにPCの前に座り、キーボードを打ち始めた

 

「博士と知り合いだったのか⁉︎」

 

「博士から艤装の作り方やらAIの産み方を教えて貰ったんだ」

 

「元は貴子ちゃんの友達なの。ウィリアム君ともお友達だし〜、あっ‼︎エドガー君ともお友達かな⁉︎」

 

「「へぇ〜…」」

 

貴子さんを貴子ちゃん

 

隊長やラバウルさんに対して君付けで呼ぶ大淀博士

 

「さっ、出たわ‼︎」

 

向けて貰ったモニターを見ると、俺が産み出したAIが今どこにいるか一目瞭然で分かった

 

 

 

Iris…ウィリアム君の基地のマーカス君の部屋

 

Thanatos…横須賀基地の港

 

Stella…バンボー族村

 

Claudia…横須賀基地の執務室

 

Siren…バンボー族村

 

Sirene…バンボー族村

 

 

 

「しおいとひとみといよは何してんだ…」

 

三人が気になったが、問題はアルテミスだ

 

 

 

Artemis…タウイタウイモール

 

 

 

 

「タウイタウイモールだぁ⁉︎」

 

「おかしいわね…もうちょっと詳細が出るはずなのに…」

 

「行って見ない事には分からんな…」

 

「着いてったげるわ‼︎マーカス君一人じゃ分からないでしょ⁇大淀さんなら何かあったら対処出来るから‼︎マーク君、いいかしら⁇」

 

大淀博士は眼鏡をクイッと上げながらマークを見た

 

「ちゃんと帰って来いよ⁇無傷でな⁉︎」

 

「ふふっ‼︎オッケー‼︎なら決まり‼︎行くわよマーカス君‼︎」

 

ノートパソコンを手にした大淀博士と共に、研究室を出た

 

大淀博士は何処に行くのかと思えば、タナトスの所に来た

 

「タナちゃ〜ん‼︎の〜せ〜て〜っ‼︎」

 

「タナちゃん…」

 

大淀博士はちゃん付けしたがるな…

 

タナトスのハッチが開き、大淀博士は早速操舵室に向かう

 

「タナちゃん。タウイタウイモールに行ける⁇」

 

「分かったでち」

 

「ちょい待て‼︎俺はヘラで行く‼︎」

 

「そっか。マーカス君ヘラちゃんで来たのか…」

 

「言われなくても来たわよ」

 

いつの間にか叢雲がタナトスの中に居た

 

「ヘラはどうするんだ⁇」

 

「オートで帰らせたわ」

 

外を映し出したモニターを見ると、ヘラが飛んで行った

 

「じゃっ‼︎しゅっぱ〜つ‼︎タナちゃん‼︎レッツラゴーゥ‼︎」

 

「レッツラゴーでち‼︎」

 

テンション高めな大淀博士を乗せた”タナちゃん”は、タウイタウイモールを目指して進み始めた…

 

 

 

 

タウイタウイモールに着く少し前、大淀博士はタッチパネルを操作し始めた

 

「タナちゃん。タウイタウイモール一帯をクラウディアでスキャニングしてくれる⁇」

 

「クラウディアはカラでち」

 

クラウディアは無人機

 

何らかのAIが乗っていなければ動かない

 

「私が行くわ」

 

叢雲がヘラに変わり、クラウディアに乗る

 

「クラウディア、発艦‼︎」

 

クラウディアが打ち出され、タウイタウイモール上空をぐるっと一周し、スキャニングを開始する

 

「アルちゃんは動いてないわね…」

 

大淀博士のノートパソコンには、先程と一緒で、アルテミスことアルちゃんはタウイタウイモールにいる

 

「ん⁇」

 

港の端くれをスキャニングした時、大淀博士が動いた

 

「ヘラちゃん。港をもう一回スキャニングしてくれる⁇」

 

《分かったわ》

 

反転し、もう一度港のスキャニングを開始

 

「いた…いたわ‼︎ここよ‼︎」

 

ペイント機能を使い、赤い丸で何もない場所を囲む

 

「ヘラちゃん‼︎この場所にマーカーを撃ち込んで‼︎」

 

《何もないわよ⁇》

 

「いいから‼︎」

 

《了解したわ》

 

ヘラが小型のマーカーを何もない場所に撃ち込む

 

すると

 

スコン‼︎

 

と、何かに当たる音がした

 

《め…命中したわ…》

 

「えへへ‼︎ブイッ‼︎」

 

大淀博士が喜んでいる本後ろで、ゴーヤが話し掛けて来た

 

「この人やるでちな…」

 

「俺の尊敬する人だからな…」

 

「はっはっは‼︎この大淀から逃げられると思ったら大間違いよ‼︎」

 

「厨二病でち」

 

「昔からあぁだ…」

 

完全置いてけぼりになりそうになっている俺達二人

 

「何で分かったんだ⁉︎」

 

「女の勘‼︎」

 

大淀博士はウインクした後、いつも俺が座っている椅子にもたれた

 

「さっ‼︎後は誰が帰って来るか待ちましょ〜‼︎」

 

 

 

 

 

その頃、タウイタウイモールでは…

 

「おいち〜おいち〜‼︎ふにふに〜」

 

「こんなにいっぱい付けて…ちゃんと拭きなさいっ‼︎」

 

「ふにふに〜」

 

幸せそうな親子が屋上でソフトクリームを食べている

 

「”るいちゃん”、ソフトクリームすき‼︎」

 

「そっかそっか‼︎」

 

自分の事をるいちゃんと言った少女は、母親であろう女性に口元を拭いて貰っている

 

「マーマひこうき‼︎」

 

るいちゃんが指差す先には、クリーム色の前進翼の航空機が飛んでいる

 

「クラウディア…るいちゃん、行くわよ」

 

女性はるいちゃんの手を引き、屋上から去った…

 

 

 

 

その頃基地では…

 

「ただいまーっ‼︎」

 

「うんが〜‼︎」

 

「あんお〜‼︎」

 

三人が帰って来たが、隊長ときそが机の上に立てたタブレットを真剣な目をして見ている

 

きそが隊長の膝の上に座っているので、それが多少の和みになってはいるが、緊迫しているのに変わりはない

 

「あにちてんの〜⁇」

 

「ん⁇お空から撮った動画見てるんだ」

 

「んっ、ひとみにもみしぇて‼︎」

 

「いよもみたい‼︎」

 

「おてて洗ってからね〜」

 

二人は動画を見たいのを我慢し、しおいに連れられ手を洗いに向かう

 

「きそ」

 

「んっ‼︎貴子さん、ひとみちゃんといよちゃんに動画見せておいて下さい」

 

「分かったわ‼︎」

 

きそと隊長が外に出る…

 

「きしょろっかいった」

 

「ぱぱしゃんもいった」

 

手洗いを終えて帰って来たひとみといよは、二人を目で追う…

 

 

 

 

 

「来たわ‼︎」

 

タウイタウイモールでは、屋上に居た親子が、モニター上に赤丸を書いたあの場所へ戻って来た

 

「マーカス君‼︎行くわよ‼︎…マーカス君⁉︎」

 

「さっき出てったでち」

 

「マーカス君…」

 

「戻ったわ。どうなってるの⁇」

 

ヘラが帰って来た時には、既に遅かった

 

「マーカス君…」

 

 

 

 

「さっ、るいちゃん。帰りましょうか⁇」

 

「うんっ‼︎マーマとおうちかえる‼︎」

 

アルテミス艦内に戻って来た親子二人

 

「るいちゃん。エンジン点けてちょうだい」

 

「は〜い‼︎」

 

るいちゃんがエンジンを点火しようとする

 

が、エンジンが点かない

 

「あれぇ〜…つかない」

 

「点かないだろうな」

 

「はっ‼︎」

 

回る椅子をグルッと回し、二人の顔を見た

 

「まさかアンタが犯人だったとはな…」

 

「るいちゃん。下がってなさい」

 

「るいちゃんこのひとしってる‼︎るいちゃんのパーパ‼︎」

 

「アルテミス…なのか⁇」

 

「うんっ‼︎マーマにおなまえつけてもらったの‼︎”るいーじ・とれっり”‼︎っていうの‼︎」

 

「そうか…」

 

アルテミスもとい、るいーじとれっりを見て笑みが零れた

 

…ちゃんと覚えてくれていたんだな

 

「るいちゃん。今からマーマとお話があるから、奥で待っててくれるか⁇」

 

「うんっ‼︎るいちゃんいいこだから、パーパのいうこときくよ‼︎ふにふに〜」

 

るいちゃんは素直で良い子だ

 

るいちゃんが操舵室から出て数十秒後、俺は目の前の女性に目を向けた

 

「何故アルテミスを奪った」

 

「私の任務だからよ」

 

「何処の差し金だ」

 

「はは‼︎スパイの私が言うと思うかしら‼︎」

 

「なら、アルテミスは連れ帰る」

 

話が通じないと分かり、るいちゃんのいる部屋に向かって歩き始めた

 

「あの子には手を出さないで‼︎」

 

女性はすぐに俺の腕を掴んで動きを止めた

 

「…ホントにスパイか⁇」

 

「…」

 

女性は体を震わせ、目元が緩む

 

「す、スパイよ…」

 

「本物のスパイは、目標に対して情が湧かない」

 

「あ…アンタに分かるはずないわ…」

 

「分かるさ。俺もスパイだったからな。正直に言え。アルテミスに情が湧いたな⁇」

 

「…」

 

女性は黙ってしまった

 

本来はアルテミスを奪取して、潜水艦のボディを造るはずだったのだろう

 

だが、見た所甘えん坊なるいちゃんを見て、女性は母性が擽られ、粗方逃げているのだろう

 

「…あの子を見た時、自分が何をしているのか分からなくなったの。貴方のAIを奪取して、カプセルの中にボディを産み出した…この子がカプセルの中で必死に生きようとしているのが目に見えた時、この子と一緒に逃げようと思ったの」

 

「…」

 

「私と関わったら、貴方達…ウィリアムの沽券に関わるから、敢えて悪い様に言って突き放したの。だから、貴子さんには悪い事を言っちゃった…特にたいほうちゃんには…」

 

アルテミスを奪取した犯人はアクィラだった



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198話 もう一人の愛娘(3)

《アクィラ。そこにいるのか》

 

「待ってて」

 

通信が入り、アクィラはモニターに出す

 

《アルテミスは何処だ》

 

「貴方達にあの子は渡さないわ」

 

《そうか。なら、此方にも考えがある》

 

通信が切れ、アクィラは俺の方に振り返った

 

「ごめんなさいで…済まないわよね」

 

「そうだな」

 

「あの子を返すわ…だから、あの子を護ってあげて⁇」

 

「マーマ、パーパ、おはなしおわった⁇」

 

るいちゃんが帰って来た

 

「るいちゃん‼︎」

 

アクィラの顔付きが変わり、るいちゃんに向かって叫んだ

 

「マーマー‼︎」

 

手回しがもう回って来た

 

男がるいちゃんを人質に取り、此方に銃を向けた

 

「え〜んえ〜ん‼︎マーマー‼︎パーパー‼︎」

 

「手を上げろ‼︎」

 

「断る」

 

銃声が響いた後すぐ、男の足に穴が開き、るいちゃんを離した

 

「タナトスまで走れ‼︎」

 

「るいちゃん‼︎」

 

「マーマ‼︎」

 

るいちゃんとアクィラが抱き合っているのを見た時、何故か敵わないと感じた

 

「レイ‼︎」

 

「助けに来たよ‼︎」

 

大淀博士が基地に繋げていたのだろう

 

隊長ときそが助けに来てくれた

 

「ウィリアム私…」

 

「話は聞いた。許されない行為だが、今はレイを信じる‼︎」

 

「レイ早く‼︎」

 

「俺はこいつで行く‼︎二人をタナトスに頼む‼︎」

 

「分かった‼︎スカイラグーンで待ってるからね‼︎」

 

きそと隊長がアクィラとるいちゃんを連れ出した

 

もう安心だな

 

電子機器を弄り、いざエンジンに点火しようとした時…

 

「よっ‼︎」

 

いきなり後頭部にガス缶が振り下ろされ、、咄嗟に振り返ってそれを止めた

 

「手こずらせやがって…」

 

ガス缶で殴られるのは流石に堪えるぞ…

 

男がもう一度ガス缶を振り上げた

 

「ひじゃちお〜らお‼︎」

 

「ひりゃちお〜ら‼︎」

 

「いでっ‼︎」

 

ガンッ‼︎

 

ゴンッ‼︎

 

と、男の膝が内側から砕ける音がした後、男は膝をついて倒れた

 

「ひとみ‼︎いよ‼︎」

 

魚雷をバットの様に持ったひとみといよが、何故かそこに居た

 

「ぶっこおいはしゃんといたう‼︎」

 

「まっと〜にいきうんあな‼︎」

 

「このガキ…」

 

男はすぐに立ち上がり、ひとみといよに掴み掛かろうとする

 

「ぶっこおいすうか⁇」

 

「いたいれ⁇しらんれ⁇」

 

「ほ〜え、ほ〜え…ここかあ〜っ⁇」

 

いよは男の鳩尾

 

「しぬれ⁇いたいれ⁇ろか〜んすうお⁇」

 

ひとみは男の眉間に魚雷の先端を置き、グリグリする

 

「ひとみ、いよ。ありがとう。そいつをグルグル巻きにして情報を聞き出す」

 

「くうくうあきにすう‼︎」

 

「ぐうぐうあきら‼︎」

 

ひとみといよにグルグル巻きにされた男は床に寝かされた後、暴れない様に二人が体の何処かに常に魚雷の先端を突き付けている

 

「いたい⁇」

 

「痛い…」

 

「たすかいたい⁇」

 

「助かりたい…」

 

「「だえだね‼︎」」

 

男は完全にひとみといよにおちょくられている

 

《レイ‼︎二人をタナトスに入れたよ‼︎》

 

「了解した。そのままスカイラグーンに向かってくれ‼︎」

 

《オッケー‼︎タナトスお願い‼︎》

 

タナトスが動き出し、アルテミスもエンジンの点火に入る

 

「あらっ‼︎可愛い子‼︎」

 

「大淀博士‼︎」

 

「お〜よろはかしぇ⁇」

 

「めがね」

 

「マーカス君一人じゃアルちゃん動かすのしんどいでしょ⁇大淀さんも手伝ったげる‼︎」

 

「助かる」

 

大淀博士が来てからすぐ、アルテミスはスムーズに出港した

 

「さ〜て‼︎尋問タ〜イム‼︎」

 

「おきお‼︎」

 

「はよ‼︎」

 

「わ、分かった…」

 

大淀博士の言葉に反応したひとみといよに蹴られながら起き上がり、男は椅子に座らされた

 

「よくもやってくれたな」

 

「上からの命令だったんだ…や、やめろ‼︎」

 

男の足元でひとみといよが何やらガサゴソしている

 

「あばえたらぶっこおいすうれ⁇」

 

「えいしゃんのほ〜むく‼︎」

 

「うぅ…」

 

男は嫌々俺の方を向いた

 

「誰の差し金だ。アクィラとお前のボスは誰だ」

 

「い…言ったら助けてくれるのか⁇」

 

「足元にいる俺の娘の気分による」

 

男はひとみといよの顔を見た

 

自分より遥かに小さい子にコテンパンにされた自分が情けなくなったのか、男は一呼吸置いた後、口を開いた

 

「…防衛省だ」

 

「国が何でアルテミスを欲しがる」

 

「誰だって欲しいさ。この潜水艦は高性能だ」

 

「俺は構想しただけだ。造ったのは別の奴だ。そいつは誰だ」

 

「アンタじゃないのか⁇」

 

「いや…」

 

「あ、ゴメンマーカス君。言うの忘れてた‼︎アルテミス造ったのアクィラちゃんとサラちゃん」

 

「アクィラとサラ⁉︎」

 

「そっ。マーカス君の為に二人で内緒で造ってたんだけど、先に国が目を付けちゃって」

 

「それに、私はアクィラとアルテミスを保護しろと聞いた」

 

「大淀博士。総理に電話を繋いでくれ」

 

「総理ね‼︎オッケー‼︎」

 

話が分からなくなって来たので、本元の更に上に聞いた方が早いだろう

 

《マーカスか⁇どうした⁇》

 

「総理。防衛省の連中に俺のAIを奪取しろと言ったか⁇」

 

《いや…そんな命令した覚えはない》

 

「防衛省の差し金が今ここにいるんだが、どうしたらいい⁇」

 

《ちょっと待ってろ‼︎防衛大臣を叩いて来てやる‼︎スカイラグーンに連れてけばいいか⁇》

 

「忙しくないのか⁇」

 

《はは‼︎なぁに‼︎友人の頼みは断れんよ‼︎こっちは任せなさい‼︎》

 

「頼んだ」

 

通信が切れ、男に顔を戻す

 

「アンタに銃を向けたのは謝る…不審人物かと…」

 

「俺は弾いたからな。イーブンだろ。足はどうだ⁇」

 

「そう言えば痛くない…」

 

「おくすいぬいぬいちたったれ‼︎」

 

「かんちゃせ〜お‼︎」

 

二人は男の足の被弾箇所に薬を塗ってくれていた

 

「ありがとう…良い子なんだな」

 

「自慢の娘さ。さっ、着くぞ」

 

「あうけ‼︎」

 

「分かったよ…」

 

呆れ半分で男はスカイラグーンに足を降ろした

 

皆が待っている喫茶ルームに入ると、アクィラが隊長にコテンパンに怒られてギャン泣きしていた

 

「絶対貴子とたいほうに謝れ‼︎分かったな‼︎」

 

「わ''がり''ま''じだぁぁぁ〜‼︎」

 

「うげ…あくぃあ…」

 

「こあい〜…」

 

男の足元にいたひとみといよは、取り敢えず男のズボンにしがみ付いた

 

人懐っこいひとみといよでさえ、アクィラは苦手の様だ

 

「大丈夫。アクィラは良い人だ」

 

「うそら‼︎」

 

「たかこしゃん、あくぃあぱんちちてたもん‼︎」

 

「マーガズぐん、ごべんなざい…」

 

涙と鼻水でドロッドロの顔面になったアクィラに謝られる

 

「防衛省の命令だったんだろ⁇」

 

「うん…」

 

「連れて来たぞ‼︎」

 

総理の傍らには、ボッコボコに殴られて顔がパンパンに膨れ上がった防衛大臣がいた

 

「秋津洲タクシーの中で全部ゲロった。本当に申し訳無い…」

 

「何故アルテミスを奪取した」

 

「く…国にょ防衛を上げりゅ為に…」

 

「国の防衛を上げる為なら盗みを働いても良いのか。ましてや自分の手を汚さずに…」

 

「おっひゃると〜りでふ…」

 

「マーカス。処分は君に任せる。因みに私は蒼龍送りが良いかと思う」

 

「キツ過ぎないか⁇」

 

「彼は幾度と無く部下に窃盗を依頼していたんだ。放っておいたらまたやる。それに、ちょっと個人的恨みもある」

 

「蒼龍送りだな」

 

「よし。歩け」

 

総理に連れられ、防衛大臣は出て行った

 

「あぁ、そうだマーカス‼︎」

 

「ん⁇」

 

「き…機会があったら、タナトスに乗って見たいんだが…」

 

「タナトスにか⁇」

 

急にデレた総理が面白くなった

 

「い、嫌なら良いんだ‼︎」

 

「ゴーヤ。総理を送ってやってくれないか⁇」

 

「お安い御用でち‼︎」

 

「今回の礼って事で良いなら、ゴーヤに着いて行ってくれ」

 

「マジで⁉︎やった‼︎行く行く‼︎オラとっとと歩け‼︎矢崎‼︎マーカスに失礼ない様にな‼︎」

 

「はっ‼︎」

 

意気揚々と総理が出て行った

 

「矢崎って言うのか」

 

「申し遅れました。私、総理補佐官の矢崎と申します」

 

「防衛省の差し金じゃないのか⁇」

 

「あはは…申し訳ございません。総理からは名を伏せていろと…」

 

「じゃあアンタは…」

 

「総理からの直属の命令で、アクィラとるいちゃんを保護する様に言われたのです。ただ、失礼ながらまさか貴方がマーカス様とは…とんだご無礼を」

 

「こっちこそ悪かった…総理って、もしかして軍事マニアか⁇」

 

「総理は潜水艦マニアなんです」

 

男の一言で、総理が潜水艦マニアだと知る

 

「そうなのか⁇」

 

「えぇ。執務室に潜水艦の模型を飾ってるくらいですから。それに、今回の件が潜水艦絡みだとアクィラさんが総理に申し出てくれて、私をここへ」

 

「…結構濃いな」

 

「…かなり」

 

「なかなおいちた⁇」

 

「もうえいしゃんたたかない⁇」

 

俺の足元にひとみ

 

矢崎の足元にいよが来た

 

「したよ‼︎この子はひとみ。そっちの子がいよだ」

 

「いよ‼︎」

 

「ひとみ‼︎」

 

「私は矢崎。君達強いんだね⁇」

 

「えいしゃんのむすめらもん‼︎」

 

「ひとみといよちゃんつおい‼︎」

 

ドーンと胸を張るひとみといよ

 

「アクィラさん。総理からの辞令が来ています」

 

「総理から…」

 

ようやく泣き止んだアクィラは、矢崎から辞令書を貰う

 

「たった今、防衛大臣の席が空いてしまったみたいで、代わりを探している所です。アクィラさんがよろしいならば、今しばらくお願いしたいとの事です」

 

「私が…」

 

「総理は艦娘と人間との隔てを無くすおつもりです。それに手を貸して欲しい、と」

 

「でも私…」

 

「マーマおえらいさんになるの⁇すごいすごい‼︎」

 

アクィラの隣でるいちゃんが喜んでいるのを見て、決心が付いたみたいだ

 

「謹んでお受けいたします」

 

「母さん。その内貴子の所に来いよ⁇ちゃんと説明しておくから」

 

「ちゃんと謝るわ…言っちゃイケナイ事、あの子に言っちゃったから…」

 

「行きましょう。これから忙しくなりますよ‼︎」

 

矢崎と共にアクィラも立ち上がった

 

「お騒がせ致しました」

 

「また後日お詫びに行きます」

 

「る…るいちゃん‼︎」

 

勿論るいちゃんもアクィラ達と行こうとした

 

「なぁに⁇」

 

「マーマは好きか⁇」

 

「うんっ‼︎マーマすき‼︎るいちゃんたすけてくれたの‼︎」

 

「そっか…」

 

「パーパ」

 

るいちゃんに手招きされ、耳を寄せた

 

「産んでくれて、ありがとう…お父様…」

 

耳元でハッキリとした言葉を放ち、るいちゃんは最後の”アルテミスさ”を出した

 

その言葉に、涙が零れた

 

「るいちゃんいくね‼︎パーパまたね‼︎」

 

「元気でなっ…」

 

子を手放すとはこう言う事か…

 

何も言えない、何も出来ない…

 

こんな虚無感に襲われるのか…

 

「元気出せっ」

 

「へっ…元気だよ‼︎」

 

隊長に頭を撫でられ、指で涙を払う

 

「今日は横須賀で飲むか‼︎」

 

「行く‼︎」

 

「僕達が貴子さんに言っとくよ‼︎」

 

「たまには二人で飲んで来なさいな‼︎」

 

「きょ〜はぷいんもあえう‼︎」

 

「こえたまった‼︎」

 

ひとみといよの手には、一面にスタンプを押して貰ったカードがあった

 

「レイ。もうちょっとグリフォン借りていいか⁇」

 

「擦らないでくれよ⁇」

 

「大丈夫だっ」

 

その後、子供達は秋津洲タクシーに乗り、隊長はグリフォンに乗り、俺と大淀博士はアルテミスに乗った

 

 

 

 

横須賀に向かうアルテミスの中で、俺は椅子に座って考え事をしていた

 

「マーカス君っ」

 

背中から大淀博士が抱き着いて来た

 

「アルテミスのデータを消してやってくれないか⁇」

 

「言うと思って消してありますぞ」

 

「そっか…」

 

「ね、マーカス君」

 

大淀博士が、俺の膝の上に対面状態で座る

 

「やめてくれ…嫁いるの知ってるだろ…」

 

そう言って顔を背けるが、すぐに引き戻された

 

「女で出来た傷は、女でしか埋められないの、マーカス君なら知ってるでしょ⁇」

 

「なら横須賀に埋めてもら…」

 

「はは〜ん⁇確かマーカス君は巨乳フェチだったにゃ〜っ⁇」

 

博士は胸が無い

 

ある事はあるのだが、俺からすれば無い

 

「胸が無くたって、出来る事はあるのっ‼︎」

 

………

 

……

 

 

居酒屋鳳翔にて…

 

「こっ酷くやられたな⁇」

 

「うぅ…頼む‼︎横須賀にはなにとぞ‼︎」

 

俺の顔中に付けられたキスマークの数々

 

あの後、俺は大淀博士からキスの猛攻撃を受けていた

 

隊長は俺の顔を見て、ずっと笑いを堪えている

 

「おっ酒お酒〜‼︎翔子ちゃ〜ん‼︎」

 

「あら貴方‼︎」

 

タナトスを返しに来た総理が来た

 

「うはははは‼︎マーカス‼︎なんだその顔‼︎」

 

「くっ…」

 

「ははははは‼︎」

 

総理が爆笑するのを見て、隊長も糸が切れた

 

「はぁ…はぁ…いやぁ、笑った笑った‼︎」

 

「しばらく言われるな…こりゃあ」

 

結局総理も交えた三人で酒を交わし、夜は更けて行った…




るいーじ・とれっり…ふにふにちゃん

タナトス型潜水艦3番艦として産まれるハズだったが、計画が頓挫した為、保管庫に眠っていたAI。元はアルテミと言う名前

自分の事を”るいちゃん”と呼び、まだまだ知能は足りなさそうに見えるが、そこが可愛い

アクィラとソフトクリームが好き



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199話 クソガキ先生(1)

スピーディーに198話が終わりました

今回のお話は、新艦がまた一人出て来ます

果たして誰なのか…


「ん〜っ‼︎」

 

横須賀の広場でのびをする

 

春がもうそこまで来ているのか、風がほんのり暖かい

 

訓練するには絶好の日だ

 

「さてさて…」

 

朝からの訓練の為、滑走路に向かう

 

「お⁇」

 

いつも時間前には立って待っているサンダース隊の連中が、今日は座って何かを見ている

 

「いいかい⁇この機体は…」

 

震電の下に小さな黒板を立て、水色の服を羽織った少女が何かを教えている

 

「こらこら。ここは立ち入り禁止だぞ」

 

「わぁ‼︎」

 

少女の首根っこを掴み上げ、宙に上げる

 

「な、何するんだ‼︎ボクは先生なんだぞ‼︎」

 

少女はジタバタするが、まるで説得力が無い

 

こんな小学生くらいの子供が先生な訳無い

 

「離せよぉ‼︎子供扱いしないでよ‼︎」

 

「はいはい。あっちでジュース買ってやるからな〜」

 

「ホントに先生なんだってばぁ〜っ‼︎」

 

少女を滑走路から離れた場所に置き、小銭を渡した

 

「危ないからもう入って来るなよ⁇」

 

「わ〜い‼︎お金だぁ〜‼︎じゃなくて‼︎いらない‼︎ホントに先生なんだってば‼︎」

 

壮絶なノリツッコミの後、少女は小銭を突き返して来た

 

「何の先生だ⁇ん⁇」

 

「ボク、ロシアからの派遣将校なんだ‼︎」

 

「はは。冗談が上手い奴だ。じゃあな〜」

 

少女の頭を撫で、訓練へと戻る

 

「ちょ、ちょっと‼︎はぁ…」

 

少女はため息を吐いた後、トボトボとその辺を歩き始めた…

 

 

 

 

「よ〜し上出来だ‼︎降りたら飯にしよう‼︎」

 

昼前には訓練が終わり、滑走路に震電達とグリフォンが降り立つ

 

「大尉…」

 

「ん⁇」

 

サンダース隊の一人が指差す方向には、窓際に立ち、此方を見ているさっきの少女がいた

 

そして、俺の顔を見るなり驚いた顔をして、何処かに去って行った

 

「見てる分には良いだろ」

 

「あの子の話、妙に説得力があったんで結構面白かったんです‼︎」

 

「絵本でも見て学んだんだろ⁇飯行くぞ‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

サンダース隊の連中を連れ、ランチタイム中のずいずいずっころばしの暖簾を分ける

 

「やってるか⁇」

 

「いらっしゃいマーカスさん‼︎お好きな所にどうぞ〜‼︎」

 

テーブル席に座り、早速寿司を食べ始める

 

「そういや、お前らこれはどうなんだ⁇」

 

寿司を頬張りながら小指を立てる

 

サンダース隊は五人いる

 

一人くらいは付き合っている奴がいるかな⁇とは思っていたが、一人が大火力の爆弾をその場に落とした

 

一人目…

 

「自分はまだいませんが、本屋の店員さんが気になります」

 

妙高がタイプか

 

二人目…

 

「好きな子はいるんですが…」

 

「誰だ⁇」

 

「か…香取先生…」

 

その場から”おぉ〜”と声が上がる

 

三人目…

 

「雑貨屋の店員さんが気になります‼︎」

 

高雄がタイプか

 

四人目…

 

「自分は恥ずかしい話、全くなくて…」

 

「気にすんな。その内出来るさ‼︎」

 

「へへっ…はいっ‼︎」

 

そして、最後の五人目に全員が目を向ける

 

コイツがとんでもない爆弾を放り込んだ

 

「田舎に妻がいます‼︎」

 

全員がお茶を吹いたりシャリを吹き出した

 

「け、結婚してんのか⁉︎」

 

「はい‼︎ここに写真が…」

 

五人目の子は、内ポケットから写真を取り出し、皆の前に置いた

 

「妻の”大鯨”です」

 

「うわメッチャ美人じゃね〜か…」

 

「お前マジか‼︎」

 

「同い年なのに…」

 

全員がため息を吐くほどの美人が写真に写っていた

 

大鯨と言われた女性は、麦わら帽子を被り、スイカを胸に抱えて嬉しそうに微笑んでいる

 

「大鯨とは幼馴染なんです。自慢の嫁です」

 

「くっ…爆散しろぃ‼︎」

 

「そーだそーだ‼︎」

 

「何で言わなかった‼︎」

 

全員心で血涙を流すも、楽しそうに話している

 

「横須賀とは大違いだな‼︎ははは‼︎」

 

俺がそう言った時、サンダース隊の動きが固まった

 

「大違いで悪かったわね」

 

テーブルの真横で横須賀が仁王立ちして俺を睨んでいる

 

「はは…は…い、いやぁ〜‼︎横須賀って奴はあれだな‼︎オッパイもデカイし、包容力もあるよな⁉︎」

 

「その子だって胸デカいわ⁇」

 

「え、え〜と…そ、その〜…」

 

「元帥は子育てが本当にお上手です‼︎」

 

大鯨旦那がフォローに入り、全員が頷く

 

「そう‼︎それだ‼︎」

 

「それだけかしら」

 

横須賀の怒りは収まらない

 

「うっぐ…」

 

完全に追い込まれた俺は、テーブルの上にサンダース隊の頭を寄せた

 

「…助けてくれ」

 

「任せて下さい。元帥は褒め上手‼︎」

 

一人が頭を上げてそう言うと、続いて皆も頭を上げて横須賀を褒め始めた

 

「元帥は若い‼︎」

 

「元帥は怒らない‼︎」

 

「元帥は優しい‼︎」

 

「俺達みんな元帥が好き‼︎」

 

「ふふっ‼︎サンダース隊は良い子揃いね⁇レ〜イ⁇」

 

「は…はひ…とってもゆ〜しゅ〜でふ…」

 

「大尉…」

 

サンダース隊の一人が腕を突き出す

 

壁ドンしろとの合図だ

 

横須賀は壁ドンに弱い

 

その合図に小さく頷き、席を立ち上がって横須賀を壁に寄せた

 

「な…何よ…ひっ‼︎」

 

壁ドン、発動‼︎

 

「黙って俺に着いて来い…」

 

「あっ…」

 

顔が真っ赤になる横須賀を見て、サンダース隊がガッツポーズをする

 

「…うっさいわね‼︎アンタに着いてってるでしょ‼︎このバカ‼︎」

 

「ぬべら‼︎」

 

パチィーンと、横須賀のビンタが炸裂する

 

「私が壁ドンで落ちると思ったのが関の山よレイ‼︎」

 

「今度の休み、ひとみといよと買い物行くか⁇」

 

「い…行く…」

 

「じゃあ許して‼︎」

 

「ま…まぁ良いわ⁇て言うか、そんなに怒ってないわ⁇」

 

「そ、そっか…」

 

「それとね…さっきの壁ドンで、落ちてるわよ⁇じゃあね‼︎」

 

照れ臭さに負けたのか、横須賀はずいずいずっころばしから走り去った

 

「元帥乙女なんですよね」

 

「う〜ん…下手に悪口言えない…」

 

そんな乙女な横須賀の話をしながら寿司を食べる…

 

 

 

寿司を食べ終え、サンダース隊は全員宿舎に戻った

 

俺は広場に行き、ベンチに座ってようやっとタバコに火を点けた

 

「君‼︎やっと見つけた‼︎」

 

朝いた少女がこっちに走って来た

 

「まだいたのか⁉︎タバコ吸ってるから危ないぞ⁇」

 

「どうしたらあんな飛び方出来るんだ⁉︎」

 

少女の目を見るとキラキラしている

 

これは本気の目だ

 

「戦う為に飛ぶより、如何にして生き残るかが俺の飛び方なんだ」

 

「教科書にはあんな飛び方書いてないぞ⁇」

 

「実戦に出たら分かる。確かに教科書は基本動作や生き残る術を書いてくれてある。でも、それは実戦に出たらほとんど意味が無い。頼るのはっ…自分の腕と勘だ」

 

「はぇ〜…流石だね‼︎」

 

「サンダース隊の連中には、それを分かって欲しいんだ。殺す飛び方じゃなくて、生きる飛び方を…」

 

「ふむふむ…確かにサンダース隊の飛び方は生存率を高める為の回避訓練に重点を置いてるね⁇」

 

少女は腋に挟んでいた書類を見て、サンダース隊の特徴を見抜いた

 

「他の部隊の様に、満遍なく訓練してる訳じゃないの⁇」

 

「いや。攻撃訓練もしてるさ。それはなんだ⁇」

 

「あぁこれ⁇横須賀基地の飛行隊の記録さ‼︎ボクが纏めたんだよ‼︎」

 

ニコニコしながらバインダーに挟んだ書類を渡して来た

 

「よく調べたな…」

 

ここの基地の飛行隊の訓練内容を殆ど記録しており、どの部隊がどの訓練をしている等、事細かに書かれている

 

「良い趣味してるな⁇」

 

少女にバインダーを返すと、苦笑いしながら受け取った

 

「君はホンットに失礼だね⁇」

 

「まっ。また見に来いよ。悪い点があったら教えてくれ」

 

「ホント⁉︎」

 

タバコを携帯灰皿に入れ、少女の横から立ち上がった

 

「子供の言った事の方が正しいって事も、世の中にはあるんだよ‼︎じゃあな‼︎」

 

「ぐぐ…何て失礼な男だ‼︎」

 

最初からクソガキだと思っていたが、数日後、俺はちょっと後悔する事になる



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199話 クソガキ先生(2)

数日後…

 

「授業なんて嫌です‼︎」

 

「お呼びじゃないぞー‼︎」

 

「帰れ帰れー‼︎」

 

「俺達ゃ暇だが暇じゃないぞー‼︎」

 

「ボイコットだボイコットー‼︎」

 

サンダーバード隊とSS隊全員が学校に集められ、子供達の座っている学習机に座らされる

 

隊長、ラバウルさん、俺、アレン、健吾が、ただ挨拶に来ただけの香取先生に消しゴムのカスや空き缶、雑誌を投げる

 

「う〜ん‼︎この感覚‼︎久々だわぁ〜‼︎」

 

何故か香取先生はゾクゾクしている

 

そして、香取先生が眼鏡をクイッと上げた瞬間、暴言も物投げもピタッと止まる

 

散々言ったりやったりした癖に、香取先生の気迫に全員が負けた

 

「さぁ…問題児君達⁇今日は先生じゃないの」

 

そう言った瞬間、暴言だけが再開する

 

「帰れ帰れー‼︎」

 

「デカイのは態度とオッパイだけかー‼︎」

 

「空軍としては若い先生を所望するー‼︎」

 

「そーだそーだ‼︎もっと若い先生を出せー‼︎」

 

「ピチピチの新任教師がいいです‼︎」

 

「あっ…んんっ…」

 

五人に暴言を吐かれた香取先生は何故か体をビクッとさせた

 

「こんのヤンキー共め…」

 

と、ちょっと香取先生がビビらすと、五人はピタッと止める

 

「ふふっ‼︎最近の子は真面目過ぎて、中々貴方達の様な子がいないの。ほんの少しでも、久々に貴方達の前で教壇に立てて良かったわ⁇」

 

「今の子は真面目だからな…」

 

「たまには貴方達不良の授業をするのもら悪くないですね⁇では、教師をお呼びして来ます。あっ、その子には今みたいな事しちゃダメですよ⁇」

 

「はいはい」

 

「分かった分かった」

 

「香取先生にしかしねぇよ」

 

「年なんだから体いとえよ」

 

「湿布貼って寝て下さいね」

 

「あっ…はぁっ…」

 

香取先生は感じながら教室を出た

 

香取先生が出た後すぐ、隊長とラバウルさんがタバコに火を点けた

 

「ふふっ‼︎当時を思い出しますね、ウィリアム⁇」

 

「ふふ…お前らもあんな扱いだったのか⁇」

 

隊長が半笑いで俺達に話し掛けて来た

 

「あぁでもしないと反発出来なかったからな…」

 

「授業は真面目に受けてました」

 

「ヤンキーってこんな感じなのか…」

 

健吾一人だけが知らない

 

香取先生の授業が始まる前、四人がかりで説得して健吾も参加させた

 

俺達の中で、開幕と閉幕は香取先生に何かを言ってから始まって終わる

 

あぁでもしないと、普段は太刀打ち出来ないからだ

 

「うわ…ホントにヤンキーじゃんか…」

 

ようやく本来の先生が来た

 

「あぁん⁉︎」

 

「舐めてんじゃね〜ぞ‼︎」

 

「先公だからって威張ってんじゃ、ね〜ぞ‼︎」

 

「分かってんのかあぁん⁉︎」

 

「幼女だ…」

 

ラバウルさんだけ反応が違う

 

「初めまして‼︎ボクは”タシュケント”‼︎ロシアから来たれっきとした派遣将校ですっ‼︎」

 

「ゲッ‼︎マジか‼︎」

 

「ふふん♪♪これでボクが先生だって分かったでしょっ⁇」

 

数日前のクソガキが教壇に立っている

 

タシュケント先生の授業が始まる…

 

 

 

 

「いいかい⁇T-50のエンジンは…」

 

授業自体は真面目に聞く五人

 

「質問していいか⁇」

 

「はいっ‼︎同志ウィリアム‼︎」

 

隊長の真面目な質問に、タシュケント先生は丁寧で分かり易い答えを返している

 

「なら、模擬戦でエドガーを叩き落す事も可能だな⁇」

 

「どうかな⁇同志エドガーは同志ウィリアムと同じ位の強さを持ってる。因みに同志アレン、同志健吾そして”イディオット”も同じ位の力だね‼︎」

 

「はいはいはい質問質問質問‼︎」

 

「はいっ‼︎イディオット‼︎」

 

「俺は同志じゃないんですかぁ〜‼︎」

 

「ボクの事をクソガキ扱いする人はイディオットだ‼︎」

 

ニヤケ顔で俺を見るタシュケント先生に根負けした

 

「分かった、分かったよタシュケント先生‼︎」

 

「はいっ‼︎同志マーカス‼︎」

 

勝ち誇った顔をするタシュケント先生

 

小学生位の身体付きなのに…



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199話 クソガキ先生(3)

授業が終わり、タシュケント先生は教室を出た

 

「タシュケント」

 

「先生でしょイディオット⁇」

 

「ぐっ…タシュケント先生…」

 

「なぁに⁇同志マーカス」

 

「しばらくこっちにいるのか⁇」

 

「しばらくどころかずっといるよ⁇」

 

「なら、手が空いた時でいいからあいつらに教えてやってくれないか⁇俺じゃ教えられない事もある」

 

「え⁉︎あ…う、うん。暇があっら、ねっ⁇」

 

何故かタシュケント先生は目が泳いだ

 

「ど、同志マーカスの教え方で充分じゃない…か、な⁇あはは…」

 

タシュケント先生は目が泳いだまま、逃げる様にその場を去った

 

数日後、この時何故タシュケント先生がこうなっていたか分かる事になる

 

 

 

 

数日後、横須賀基地滑走路

 

今日の教師は三人

 

俺、アレン、そしてタシュケント先生

 

「いいか⁇今日の訓練は二つ行う。まず一つは遠方への出撃だ。君達には今からシャングリラまで飛んで貰う。航路の途中にはSS隊が敵として君達を攻撃する。撃退するか見逃すかは君達次第だ」

 

大まかな訓練内容はこうだ

 

横須賀基地からシャングリラまでの遠征

 

そして、その道中にSS隊との交戦

 

この二つだ

 

「俺は本気で潰しに掛かるからな⁇訓練とはいえ、ここで手を抜いたら実戦では即死だ」

 

「それと、今日は俺はいない。先にシャングリラで君達を待っている」

 

サンダース隊全員の顔に緊張が産まれる

 

「万が一俺が撃墜された時、君達は君達自身で航路を決めて飛ばねばならん。その為にも今回の訓練は非常に重要な訓練になる。君達が航路を決めて、君達自身でシャングリラまで来るんだ。いいか‼︎」

 

「「「了解‼︎」」」

 

「ま、あれだ。タシュケント先生もいるから、何かあったらすぐに救援を呼ぶ事。解散‼︎」

 

「え⁉︎ぼ、ボクも行くのか⁉︎」

 

全員が威勢の良い返事をした後、固まって航路を考え出す中、タシュケント先生だけが冷や汗を流していた

 

「俺とアレンは時間までシャングリラで待機する。あの子達を頼んだ」

 

「ちょっと待って‼︎」

 

「そこに予備の震電がある‼︎そいつに乗ってくれ‼︎」

 

「いやいやいや‼︎ちょっとぉ〜‼︎」

 

俺達がそれぞれの機体に乗り、シャングリラに向かう

 

 

 

「どどどどうしよ…」

 

タシュケント先生がオロオロして既に数十分…

 

「タシュケント先生‼︎」

 

「我々はこの航路で現地に向かいます」

 

サンダース隊の子達がタシュケント先生に航路を記した地図を持って来た

 

「先生はどう思われます⁇」

 

「え⁉︎いいい良いんじゃないか…なっ⁉︎」

 

タシュケント先生はそれどころではない

 

「よし‼︎行こう‼︎」

 

サンダース隊がゾロゾロ機体に乗り込む中、タシュケント先生は予備の震電に乗るのを躊躇っていた

 

「えとえと、ここはこうして…わぁ‼︎」

 

震電のエンジンがかかる

 

「うわ‼︎どどどどうしよ‼︎だ、誰か‼︎」

 

タシュケント先生の乗る震電が滑走路に出る…

 

 

 

《来た来た‼︎》

 

《何かノロくないか⁇》

 

《様子が変だ。ちょっと見て来る》

 

一機の震電が高度を下げ、滑走路をノロノロ行く震電に近付く

 

《タシュケント先生。大丈夫ですか⁇》

 

《だだだ”だいじょっぶ”だよぉ‼︎ボクを誰だと‼︎》

 

と、虚勢を張るが、震電のスピードは上がらない

 

《…失礼ですが、飛行経験は⁇》

 

《えっと〜その〜…す、少しだけ、かな⁇》

 

この時点でこのサンダース隊の子は気付いた

 

タシュケント、実は飛べないのである

 

《分かりました。左手にレバーが見えますか⁇》

 

《えと…これかな⁉︎》

 

《それを前に倒すと加速。後ろに引くと減速です。前に倒して見て下さい》

 

《加速した‼︎次は⁉︎》

 

《私のタイミングで目の前の操縦桿を手前に引いて下さい》

 

《おおおオッケー‼︎》

 

《今です‼︎》

 

ようやく最後の震電が上がる

 

《私が常に横にいますから、シャングリラまで頑張りましょう⁇》

 

《助かるよ…ふぅ…》

 

彼は無線の周波数をタシュケントに伝え、いつでも自分と通信出来るようにした後、前方で固まって飛ぶサンダース隊に着いて行った…



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199話 クソガキ先生(4)

サンダース隊が横須賀を飛び立った時、俺達はシャングリラに着いていた

 

「ヒヨコちゃんが心配か⁇」

 

「いんや。彼奴らは大丈夫だろ…」

 

港にポツンと停められた瑞雲を見ながらタバコを吸う

 

「心配なのはタシュケントの方だ」

 

「先生だから大丈夫だろ⁇」

 

「彼奴の飛行記録見たか⁇」

 

「ヤバいのか⁇」

 

「ヤバイ。ヒヨコちゃんよりショボい」

 

アレンは鼻から紫煙を吐き出し、呼吸を整えて言った

 

「…終わってんな」

 

「だから敢えてタシュケントを付けた。お前の攻撃からタシュケントを守れるかどうか…これも訓練内容さ」

 

「お前にしては考えてんな⁇」

 

「お前にしてはが余計だ‼︎いいか⁉︎全部落とす勢いで叩きのめせ。じゃないと訓練じゃない‼︎」

 

「後悔するなよ⁉︎」

 

「しないさ。ここで負けるようじゃ…彼奴らは実戦では通用しない」

 

そう言いながらアレンの横でしゃがみ、タバコを指ではね、海に捨てた

 

「随分本気だこと…」

 

「俺の勘なら、もう少ししたらスカイラグーンに着くハズだ…」

 

 

 

 

「大丈夫ですか⁇」

 

「はらひれはら…」

 

震電から降りて来たタシュケント先生は目を回してフラフラになっていた

 

「うぁ〜…」

 

「おっと‼︎」

 

フラフラのタシュケント先生は、ずっと付き添ってくれていたサンダース隊の子の体にもたれかかった

 

彼はタシュケント先生を抱き留めようとしたが、どう見ても抱き締めてしまっている

 

「うぅ…ごめんよぉ…」

 

身長差でどうしても上目遣いになり、タシュケント先生は彼を見つめる

 

「あの…その…胸が…」

 

「あ‼︎あぁ‼︎ごめんごめん‼︎」

 

タシュケント先生が離れるも、彼はタシュケント先生から目を背けた

 

「君、名前は⁇」

 

「”涼平”です」

 

「リョーヘーね⁇覚えとくよ‼︎」

 

タシュケント先生は、補給を受けている間、皆が行く喫茶ルームに行こうとした

 

「あら⁉︎あらららら⁉︎」

 

三半規管がおかしくなったのか、タシュケント先生はまだフラフラしている

 

「大丈夫ですか⁇」

 

「む〜っ‼︎」

 

自分はフラフラなのに、目の前にいる生徒は全くフラフラしていないのに腹を立てているのか、タシュケント先生は右の頬を膨らませた

 

「んっ‼︎」

 

タシュケント先生は両手を広げ、涼平の前で上げて見せた

 

「えと…これは⁇」

 

「抱っこっ‼︎」

 

「抱っこ⁉︎」

 

「抱っこしてよぉ‼︎ボク歩けない〜っ‼︎」

 

タシュケントはその場で地団駄を踏み始めるが、相変わらずフラフラしている

 

「あわわ‼︎分かりました‼︎」

 

涼平は辺りを見回した後、タシュケント先生の脇に手を入れた

 

「えへへ…”ありがっと”♪♪」

 

「うっ…」

 

タシュケント先生を抱っこした涼平の胸は異常に早く鼓動していた

 

涼平は恋をした事が無かった

 

皆が色々答えていたずいずいずっころばしで、「全く無い」と答えた自分がとても恥ずかしかった

 

恋をしようと何度も本気で考えた事もあった

 

しかし、涼平の思い描く理想の女性はいなかった

 

それが今、こんな幼女の様な女性に対して、生まれて初めて体が熱くなっていた

 

「さっ、着きましたよ」

 

「ありがっ…おろろ…」

 

喫茶ルームの入り口でタシュケント先生を降ろし、まだフラフラしているタシュケント先生と手を繋いで中に入った

 

「おっ‼︎来た来た‼︎」

 

「大丈夫ですか⁇」

 

「えへへ…だいじょっぶ…」

 

軽く飲み物を飲むだけの小さな休憩だが、皆充分に気力を取り戻している

 

航路は残り半分だが、道中の最後には屈強な航空隊がいる

 

それぞれが緊張する中、涼平だけはタシュケント先生に付きっ切りになっていた

 

「ごめんよぉ、リョーヘー…」

 

「いえ」

 

タシュケント先生はソファーに座ってずっと涼平の腕にもたれかかっていた

 

「タシュケント先生、具合悪いのか⁇」

 

「まぁ、その…あれだっ。ほら…女体の神秘さ」

 

「あぁ…」

 

「それは仕方ないな…」

 

「ここに残りますか⁇」

 

「だいじょっぶ‼︎行くよ‼︎」

 

「涼平、頼んだぞ」

 

「任された」

 

涼平とタシュケント先生以外が喫茶ルームを出て、再び震電に乗る

 

「行こう、リョーヘ」

 

「無理になったらすぐに言って下さい。どうにかしてタシュケント先生だけでもシャングリラに着かせますから」

 

「うんっ」

 

涼平もタシュケント先生も震電に乗り込む…

 

 

 

 

「今スカイラグーンを出たみたいだ」

 

「そろそろ準備しますかねっ‼︎」

 

SS隊の三人が準備にかかる

 

「マーカス。本当に良いのですか⁇」

 

「叩き落すつもりで頼む」

 

「分かりました。アレン、健吾。手加減は要りません。参りますよ‼︎」

 

「イエス、キャプテン」

 

「イエス、キャプテン」

 

三人の目付きが変わる

 

本気で叩き落す目だ

 

この目をした彼等を相手に何機か生き残れば上出来だ

 

序でにアレンか健吾辺りに傷を負わせれば大成功と見ていい

 

そう思っていた俺の期待が完全に外れる事になるとは…



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199話 クソガキ先生(5)

《”ファイヤフライ”そっちはどうだ⁇》

 

「大丈夫だ。そろそろ来てもおかしくないな…」

 

《あと数分もすりゃ、シャングリラが見えてくる》

 

「了解。前方警戒を頼む」

 

《任せな‼︎》

 

先頭の機体との無線が切れ、涼平はタシュケント先生の方を見た

 

…一点見つめをしている

 

戦闘機乗りで一点見つめは危ない

 

「タシュケント先生」

 

《…》

 

「タシュケント先生‼︎」

 

《うぁ‼︎はいはい‼︎》

 

半分気絶していた様だ

 

「シャングリラが見えて来ました」

 

前方に目的地であるシャングリラが見えて来た

 

「先に先生を送ります」

 

《ありがっと…えと、ファイヤフライ‼︎》

 

《来たぞ‼︎》

 

凶鳥三羽が前方に見えた

 

「タシュケント先生を送ったらすぐに援護する‼︎それまで三機の内二機を追い詰めろ‼︎」

 

《了解した‼︎交戦開始‼︎》

 

「タシュケント先生、行きましょう‼︎」

 

《ホントに撃ってるよ⁉︎》

 

「本気で殺しに掛かって来てる証拠です。さぁ‼︎」

 

タシュケント先生の機体横にピッタリと着き、滑走路に近付く

 

「着陸脚を出して下さい」

 

《えと…これかな⁉︎》

 

「管制塔。一機着陸態勢に入る。誘導を頼みます」

 

《了解》

 

「タシュケント先生、お気を付けて」

 

《ファイヤフライ》

 

「はい」

 

《ありがっと‼︎頑張ってね‼︎》

 

「了解です」

 

タシュケント先生の機体から、涼平の乗る震電が離れて行く

 

猛スピードで急上昇をした後、涼平はすぐに交戦状態に入った

 

 

 

 

「うへぇ…」

 

グデングデンになりながら、タシュケント先生は震電から降りた

 

「うわ…うわうわうわ‼︎」

 

上空では三羽の凶鳥、そして五羽の雷鳥の雛が踊っている

 

何度も曳光弾が見える度、タシュケント先生は彼の無事を祈る…

 

 

 

「…」

 

管制塔から彼等の様子を眺め、モニターには八機の被弾状況が表示されている

 

「どうぞ」

 

「ありがとう」

 

職員にコーヒーを淹れて貰い、それを飲みながら上空とモニターを交互に見る

 

「お…」

 

健吾に被弾判定が出る

 

「お…え…ちょ…」

 

今度はアレンに被弾判定

 

「無線をくれ‼︎」

 

職員から無線を貰い、サンダース隊の無線を聞く…

 

《ば…バッカス機を被弾させた‼︎》

 

《やった‼︎オルトロス機に命中‼︎》

 

「嘘だろ…」

 

SS隊に無線を繋ぎ、二人の様子を聞く

 

「被弾判定が出てるぞ⁉︎」

 

《ちょっと忙しい‼︎》

 

《どうやったらこんな飛び方‼︎うぁっ‼︎》

 

会話の最中に健吾に撃墜判定が降りた

 

《へへ…ミスった…楽しかったよ‼︎》

 

《おいオルトロス‼︎バッカ‼︎》

 

残りはアレン、そしてラバウルさんだけ…

 

《ファウッ‼︎》

 

アレンにまで撃墜判定が降りた

 

しかもサンダース隊は全機生き残っている

 

「マジか…」

 

《お前どんな教え方したんだ⁉︎》

 

「どんなって…攻めるより生き残る飛び方さ…」

 

《生き残るって…お前五機一気に攻められるとは考えてねぇぞ‼︎》

 

サンダース隊の連中は、二機で一機を仕留めるどころか、全員で一人を叩き落すと言う奇抜な攻め方をし、背後に着かれれば離脱を繰り返し、また誰かに着く…と言う、相手に回すとメチャクチャ厄介な攻め方をしていた

 

火力を集中したら、確かに落とせるだろう…

 

そうこうしている内に、ピンク色に染まったT-50が二機降りて来た…

 

残るはラバウルさん…どうでるか…

 

 

 

《さぁ、来なさい。戦闘機乗りの腕次第でこう言った飛び方が出来ると言う事を教えてあげましょう》

 

T-50が五機と交差する…

 

《へぇ〜…面白くなって来たね〜》

 

《私達の出番か…》



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199話 クソガキ先生(6)

震電が五機、全機ピンク色に染まって帰って来た

 

「いやぁ〜強かった強かった‼︎」

 

「演習とは言え、レシプロであれだけジェットに楯突くなら心配は無いな」

 

「面目無い…貴方達の手を借りなければ勝てなかったかも知れません…」

 

シャングリラの中でSS隊の三人、隊長、北上、そしてサンダース隊がいた

 

ラバウルさんと交戦状態になったサンダース隊は、予期せぬ事態に見舞われた

 

哨戒任務を終えた隊長と北上がスカイラグーンで合流し、サンダース隊がシャングリラ上空で空中戦を繰り広げていると聞き、装備を変えて乱入して来たのだ

 

サンダース隊は親鳥三羽にみるみる内に叩き落とされた

 

そりゃあ太刀打ち出来ない

 

結果、三人は一つの被弾もせず、シャングリラに降りて来た

 

激戦を終えた震電は機体を綺麗に洗い流され、数日間メンテナンスに入る

 

なので帰りは震電では無く、明日来る秋津洲タクシーでサンダース隊は帰る

 

メンテナンスが終われば、震電はガンビアで輸送され、横須賀に戻って来る

 

それまでサンダース隊は休暇に入る

 

「エース五機相手はやり過ぎだ…特に隊長と北上‼︎」

 

「いやぁ、すまんすまん‼︎」

 

「しっかし健吾とアレンを落とすかぁ〜。やるねぇあの子達‼︎」

 

「あんなに仲良くなって…」

 

アレンと健吾はサンダース隊の輪に入り、中々楽しそうに話している

 

互いに普段あまり関わる機会が無く、ようやく関われた…ってのが本音だろう

 

「しかしあのファイヤフライというパイロット…あの子は強かった」

 

「アイツはサンダース隊の副リーダーなんだ。皆を纏めるだけの実力はもってる」

 

涼平の強さは親鳥達にも伝わっていた

 

彼は強い

 

そして、他人を動かせる素質を持ってる

 

ただ、何を護るべきか…という認識が若干薄い気がする

 

「そう言えばその本人が見当たりませんね⁇」

 

「タシュケントもいないな」

 

「あたしも授業受けたかったなぁ〜」

 

北上がブスくれる中、タシュケント先生が廊下を歩いて来た

 

「タシュケント‼︎」

 

「ど、同志マーカス…そ、その…」

 

申し訳なさそうに俺を見た後、その場から離れようとした

 

「涼平にお礼言っとけよ⁇」

 

涼平と言うと、タシュケントは足を止めた

 

「今から行くんだ。ちゃんと、ありがっとって言わなきゃ」

 

「そか。あぁ、涼平に会ったら”火事起こすなよ‼︎”って言っといてくれ‼︎」

 

「⁇…分かった」

 

不思議に思いながらも、タシュケントは涼平の所に向かった

 

 

 

「…」

 

涼平は海岸の端っこで流木に座り、焚き火をしていた

 

涼平はいつも何故か演習や出撃が終わると海の近くで焚き火をし、火や海をボーッと見つめている

 

「みんなの所には行かないんだね⁇」

 

「タシュケント先生」

 

涼平の横に腰掛け、タシュケントも焚き火を見る



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199話 護る力は誰が為

題名が変わりますが、前回の続きです

結構重要な伏線回収があります


「焚き火好き⁇」

 

「えぇ。戦う理由を…思い出しますから…」

 

上目遣い気味に、タシュケントがリョーヘーの顔を横目で覗く

 

リョーヘーは笑っているのか怒っているのか分からない顔をしているが、とても真剣な目をしている

 

「戦う理由⁇」

 

「自分…深海の人達と暮らしてたんです」

 

「へぇ。珍しいね⁇」

 

涼平はタシュケントを一瞬見た後、太めの木の枝で火を弄った

 

「良い人も沢山いました…質素な生活ではありましたが、中々幸せでした」

 

「どうして深海棲艦と一緒に暮らそうと思ったの⁇」

 

「分かり合えるかな…って。コミュニケーションを取れば、互いに手を取り合う事も可能…そう思った時にはそこにいました」

 

「どんな事したの⁇」

 

涼平はタシュケントに打ち明けた

 

人口の少ない離島で産まれ、そこで暮らしていたある日、武装解除した友好的な深海棲艦が来た事

 

深海の人達と手を取り合い、色々な物を作った事

 

一緒にご飯を食べた事

 

一緒に遊んだ事

 

人には言えぬ、深海への強い思いがあった事

 

「そしてあの日、自分は全てを失いました」

 

「どうなったの⁇」

 

「島が空襲に遭ったんです。日本軍機の…皆で作った家も、道具も、友達も、思い出も…全部火に焼けました」

 

「…」

 

あまりに壮絶な過去に、タシュケントは息が詰まる

 

「それからです。人を愛せなくなったのは…自分では分かってるんです。きっと、また失うのが怖い…と」

 

「もしかして焚き火を見るのは…」

 

「自分の意思を保ってるんです。恥ずかしい話、今が楽しくてしょうがないんです。仲間がいて、艦娘達に囲まれて、大尉がいて…」

 

ようやく薄っすらと笑ったリョーヘーを見て、タシュケントはホッとする

 

「そっかぁ…」

 

「それに、火を見てると彼奴を思い出しますから…」

 

「あいつ⁇」

 

「島が火に焼ける中、高笑いをしながら水平線の向こうに去って行った、紫色の長い髪の女…彼奴が島を焼いた。彼奴の放った爆撃機で、皆は焼かれて苦しんで散って行った…」

 

「まさか…パイロットになった理由って…」

 

「彼奴に一矢報いてやりたい…ただその一心です」

 

涼平の怒りに呼応するかの様に、焚き火が強く燃え上がる

 

「…ダメだよ」

 

「自分は強くないといけない。それも、今度は奪われない様になるまで」

 

「ダメだってばぁ‼︎」

 

立ち上がったタシュケントが吠える

 

「先生⁇」

 

「折角良い腕持ってるのに、復讐とかやめてよ‼︎」

 

「自分は…」

 

「そんなに復讐したいなら、その力で今日みたいにボクを護ってみせてよ‼︎」

 

「…」

 

リョーヘーは言葉に詰まった

 

告白になっている事に、熱くなったタシュケントは気付いていない

 

「よいしょ‼︎」

 

タシュケントはリョーヘーの膝の上に座り、前を開けているリョーヘーのジャケットの中に入った

 

「…」

 

「…」

 

「…あったかいですか⁇」

 

「あったかい」

 

リョーヘーの鼓動が早くなる

 

「だいじょっぶだよ、リョーヘー。ちゃんとボクを抱っこして、ドキドキしてるもん。好きな証拠だよ」

 

「そう…なのですか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

タシュケントは首を上にあげ、リョーヘーに笑顔を見せる

 

「どうしても復讐する⁇」

 

「えぇ…彼奴を見たら、この手で…」

 

膝に置いていたリョーヘーの手に力が入る

 

タシュケントはその上に自身の小さな手を置いた

 

「ダ〜メッ…リョーヘーは良い子だから分かるでしょ⁇」

 

「先生…」

 

リョーヘーの胸板に頭を置き、タシュケントは目を閉じた

 

「勿体無いよ…その力…ボクを護ってくれたんだ。護るべき事に使うべきだよ…」

 

「護るべき事…」

 

「あ‼︎そ〜だ‼︎リョーヘーにまだお礼してないね‼︎よっこらせ…」

 

タシュケントはリョーヘーの膝の上で方向転換し、リョーヘーの顔を見れる対面状態で座った

 

「う…」

 

身長の割に主張している胸がリョーヘーの胸板に当たる

 

「こっち向いてリョーヘー。命令だよ…」

 

中々タシュケントに目を合わさないリョーヘーを見て、タシュケントはリョーヘーの顔を小さな手で掴んだ

 

「大丈夫。安心して…ボクが着いててあげる。リョーヘーが復讐しない様に、ねっ…」

 

「…それも命令ですか⁇」

 

タシュケントは静かに首を横に振った

 

「ん〜ん。これはボクからのお願い。嫌なら、いいよ⁇」

 

タシュケントの顔を見て、リョーヘーしばらく悩んだ後、ゆっくり首を縦に振った

 

「…分かりました」

 

「ん…良い子…」

 

少女の様な小さな先生と、静かに復讐の火を燃やすパイロットの二人が口付けを交わす

 

「リョーヘー」

 

「…はい」

 

「ボクのファーストキスは高く付いたよ⁇」

 

唇を離したタシュケントは怪しく微笑む

 

「どう言えば良いか…その…自分も…です」

 

「ふふっ…あっ‼︎焚き火消えちゃった‼︎」

 

「水かけて帰りましょう⁇」

 

バケツに海水を汲み、焚き火を完璧に鎮火した後、二人は手を繋ぎ、皆の待つ場所へと戻って行った…

 

 

 

 

 

数日後…

 

「お〜いリョーヘー‼︎」

 

滑走路に出入りしなくなったタシュケントが、柵の向こうから涼平を呼んでいる

 

「あ‼︎先生‼︎」

 

「おっしゃ‼︎誰かの恋人が来た様だし⁉︎今日は終いだ‼︎かいさ〜ん‼︎」

 

俺が教本を畳んだ音で、本日のサンダース隊の訓練を終えた

 

タシュケントに向かって走って行くのは勿論涼平

 

「へへっ。涼平の奴よかったな‼︎」

 

「くやしーっ‼︎」

 

「こちとら血涙だ血涙‼︎」

 

「身長差カップルだな‼︎」

 

「これからはクソガキって呼べないなっ…」

 

残ったサンダース隊の連中と共に、幸せそうな顔付きになった涼平を今しばらく眺めていた…




タシュケント…空色のクソガキ

ロシアからの派遣将校の分際で空を飛べない、デスクワークとデータ集めが得意な艦娘

かなり低身長で小学生位に間違われるが、れっきとした大人

こんな癖して胸がデカい


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200話 大人の子供

さて、199話が終わりました

早い話で、もう200話です

細々と書きながらここまで来ました

本当にありがとうございます



今回のお話は、とある人物が開発改良したお薬が基地に届きます


「うっふふ…出来た出来た…」

 

何処かの基地の研究室で、女が怪しく微笑む…

 

女は出来立てホヤホヤの”それ”を小包に入れ、とある場所に送る…

 

 

 

 

定時便であるガンビアが基地に着いた

 

「マーカス大尉はいらっしゃいますか⁇」

 

「なんだ⁇」

 

「大湊の鹿島様からです」

 

「鹿島から⁉︎」

 

ガンビアの乗組員から小包を受け取る

 

「では、いつも通り倉庫に資材を搬入しておきます‼︎」

 

「おぉ。頼んだ」

 

テレビの前に座り、鹿島から届いた小包を開けようとすると、ひとみといよとジャーヴィスが寄って来た

 

「か・ち・まっ‼︎」

 

「とっき〜のおかあしゃん‼︎」

 

「そっ。よく覚えてるな」

 

三人共、小包が開くのをジーッと見ている

 

「まかす」

 

「おぉっ⁉︎」

 

「しゃえった‼︎」

 

「まかす‼︎」

 

色々話し始めているジャーヴィスは、色々な物に興味を持ち始めている

 

もうおしゃぶりとガラガラは持っていないが、今は代わりにリモコンを持っている

 

「ジャーヴィス。これはリモコンだ」

 

「りもこ」

 

「えあいえあい‼︎」

 

「いもこんおぼえた‼︎」

 

褒められて嬉しいのか、リモコンを持った手を振ってニコニコしている

 

さぁ、問題は小包だ

 

三人が見る中、小包を開く

 

「うさいさんら」

 

「じゅ〜しゅ⁇」

 

小包の中には、ウサギのシールが貼ってるある瓶が三つと説明書が入っていた

 

小包を膝に置き、説明書を見る

 

 

 

”レイへ”

 

この前のお薬の副作用無しバージョンが出来ました‼︎

 

効果が切れるのも二時間後に仕上がりました‼︎

 

それと、追加効能があります

 

子供に飲ませると大人に成長します

 

赤ちゃんにも飲ませても大丈夫ですが、少ししか効果が出ません

 

勿論この効果も二時間後に切れます

 

副作用も後遺症も無いですので、お気軽にお試し下さいね‼︎

 

 

 

鹿島より

 

 

 

 

「怪しい…」

 

ちょっと鹿島に連絡を入れてみよう

 

小包を机の上に置き、無線を大湊に繋ぐ

 

「あぁ。鹿島か。小包寄越してくれたか⁇」

 

俺が無線で会話している背後で、何かガサゴソ動いている

 

「分かった。確認したかっただけだ。ありがとう」

 

無線を置き、背後を振り返る

 

鹿島から確証を得られたから、使いたい奴に使わせてみるのも良いだろう

 

「お⁉︎あ、あれ⁉︎」

 

小包の所に戻ると、瓶が一本消えていた

 

それに、さっきいた三人もいない

 

「レイさん電話終わった⁇」

 

「あぁ。ひとみといよ知らないか⁇」

 

「おままごとしよ‼︎」

 

「ジャーヴィスもした〜イ‼︎」

 

知らない女性が二人と、ちょっとデカくなったジャーヴィスがいる

 

女性二人はかなり色っぽく、はち切れそうなパツンパツンの灰色のワンピースを着ており、胸も大きく腰回りもくびれておりとてもグラマラスだが、二人共外見は瓜二つ

 

違うのは左右対称に伸びた髪の毛と目付き位だ

 

片方はパッチリおめめだが、もう片方は薄目で実に艶かしい目付きをしている

 

「…誰だ」

 

「レイさん、おままごと嫌⁇」

 

「DVD見よ‼︎」

 

「ジャーヴィス、車のドラマがい〜ナ‼︎」

 

パッチリおめめの女性がDVDをセットしている最中に、もう一人の女性とジャーヴィスにソファーに座らされた

 

「始まった‼︎」

 

「ジャーヴィスここ座ル‼︎」

 

ジャーヴィスが膝の上に座り、女性二人が両脇に着いた

 

「よいしょ…くふふっ…」

 

二人共俺の腕にしっかり抱き着き、テレビを見ている

 

頭を肩に置かれた時、フワッと良い匂いが鼻に入った

 

子供用の弱酸性のシャンプーを使ってるな…

 

ひとみといよみたいな小さな子達が使ってるシャンプーの匂いだ

 

ん⁇ひとみといよ⁇

 

この癖…この笑い方…

 

まさかと思うが…

 

意を決して、そのまさかの名前を呼んでみた

 

「ひとみ」

 

「はぁい〜」

 

左脇の女性が反応する

 

「いよ」

 

「はぁ〜い」

 

今度は右脇の女性が反応した

 

「ひとみといよか⁉︎」

 

「お薬飲んだらデッカくなった‼︎」

 

「ひとみもいよちゃんもレイさんと一緒‼︎」

 

「お薬勝手に飲んじゃダメだろ⁇」

 

「グラーフがくれた」

 

「グラーフが飲んでい〜よ〜って」

 

「ホントにグラーフさん言ってたヨ〜‼︎」

 

「おおおオトン…」

 

三人に薬を飲ませた犯人が来た

 

グラーフは俺がトンデモナイ状況になっているのを見て口をパクパクさせている

 

「グラーフ。ちょっと来なさい」

 

「グラーフを怒るか」

 

「怒る」

 

「そうか」

 

諦めたグラーフがソファーの下のマットで正座した

 

「あれは薬だ」

 

「そうとは知らなかったんだ…すまない…」

 

「次からちゃんと聞いてから飲ませてくれ。子供にはキツイ時もある」

 

「分かった。あぁ、そうだ‼︎お詫びにリュックサックを作ろう」

 

「だとさ⁇」

 

だが三人はDVDに夢中である

 

「分かった。作ってやってくれ」

 

「うん」

 

グラーフが自室に戻り、俺はそのままDVDを見続けた

 

いや、見続ける他なかった

 

何せ、膝にはジャーヴィス

 

両脇には大人になったひとみといよがいる

 

…身動きが取れないのだ‼︎

 

「レイさんの好きなオッパイあるよ‼︎」

 

「横須賀さんみたいにしたげるっ‼︎」

 

ひとみといよは俺の腕に胸を押し付けた

 

「ほ〜れほ〜れ‼︎」

 

「ど〜だ‼︎」

 

この笑い方、この言い方…

 

完全にひとみといよだ

 

「二人共大きくなっても美人さんなんだな⁇」

 

「ひとみ美人さん⁇」

 

「いよも美人さん⁇」

 

こんなに美人なら、将来どんな旦那を貰うのか少し楽しみになって来た

 

結局、二時間ずっと三人は俺にベッタリくっ付いたままDVDを見ていた

 

 

 

 

二時間後…

 

「元に戻らないんです‼︎」

 

「ちらん‼︎」

 

ひとみは元に戻ったが、いよはまだ戻っていない

 

不安になるどころか、何処かで聞いたようなCMのセリフを言いながらケラケラ笑っている

 

「うぉ‼︎もどった‼︎」

 

若干タイムラグがあったみたいだ

 

ひとみといよも元の小さな二人に戻ったが、一人だけ元に戻らないでいた

 

「え〜っとぉ、これはリモコンでショ〜⁇こっちはカレンダー‼︎」

 

「じゃ〜ゔぃしゅもろらへんな⁇」

 

「なんれかあ⁇」

 

二時間経っても三時間経っても、ジャーヴィスが元に戻る事はない

 

「ヒトミ、イヨ‼︎ジャーヴィスと遊ボ〜‼︎」

 

「なにすう⁉︎」

 

「おえかきちよ‼︎」

 

目の前の問題より、ひとみといよは遊ぶ事を優先した

 

 

 

 

「おやすみスリーピ〜ン…ふぁ…」

 

「おやすみジャーヴィス」

 

結局、ジャーヴィスが元に戻る事は無く、母さんのベッドに行った

 

「元に戻るかしら…」

 

ジャーヴィスを撫でながら、母さんは不安半分喜び半分の様な顔をする

 

「どうだかな…もしかすると、本当に成長したのかもな」

 

「だと良いんだけど…」

 

母さんの心配をよそに、ジャーヴィスは寝息を立てている…




ひとみといよは何のCMを見てたのかな⁇


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200話 おでかけジャーヴィスちゃん

題名は変わりますが、前回の続きです

おめかししたジャーヴィスちゃん

今日はどこへ行くのかな⁇


次の日の朝…

 

「グッモーニン‼︎ダーーーリーーーン‼︎」

 

「おはよ…ふぐぇ‼︎」

 

相変わらず朝5時に起きるジャーヴィスが布団にのし掛かって来た

 

既に着替えて何かしたい気満々だ

 

「今日はママとお出掛けするんだヨ〜‼︎」

 

「そっかそっか…ジャーヴィス。どっこも悪くないか⁇」

 

「うぇ⁇ジャーヴィスどっこもワルくないヨ⁇」

 

「ならいいんだ。昨日お薬飲んだから、どうかなって思っただけだ」

 

この天真爛漫な笑顔を見てる限り、本当に成長した様だ

 

ひとみといよも確かそうだったな…

 

ヨチヨチ歩きかと思えば、急に歩き出したりしたしな

 

「ダーリンも〜ヨコスカ行ク〜⁇」

 

「そうだなっ。今日は横須賀と逢う約束してるんだ」

 

「ダーリンのおヨメさん⁇」

 

「そっ。ジャーヴィスは物覚えが良いな⁇」

 

「フフフ…ジャーヴィス、カシコイこなんだヨ〜⁇」

 

馬乗りになっているジャーヴィスの頬を撫でると、母さんと同じ顔をした

 

「さっ。ご飯食べよう。ジャーヴィスは何食べたい⁇」

 

「ジャーヴィスね〜、ダーリンと一緒のコーンフレーク食べたいナ〜‼︎」

 

「ジャーヴィスはまだ歯生えてないから早いかもな⁇い〜ってしてみ、い〜って」

 

「い〜…」

 

「生えてる…」

 

乳歯がゾロゾロ〜と生え始めている

 

「そろそろ離乳食か、柔らかいものなら食べられそうだな…よいしょ」

 

ジャーヴィスを抱き上げ、食堂に向かう

 

「クッコロいないヨ⁇」

 

「まだ早いからな…」

 

ジャーヴィスを抱っこしたまま、窓際に寄る

 

「トリさんいないネ」

 

「朝早いから、鳥さんもまだネンネしてるかもな⁇」

 

「おはようございます」

 

「クッコロだ‼︎」

 

「おぉジャーヴィス‼︎遂に私を覚えて…なん…だと…」

 

「アークッコロイヤル‼︎」

 

「なっ…」

 

アークッコロイヤルは膝から崩れ落ちた

 

「ジャーヴィス、アークもダーリンも好きッ‼︎」

 

「良かった…アークと呼んでくれた…」

 

ジャーヴィスはアークに手を伸ばし、アークの胸に移った

 

「…ちょっと試してみるか」

 

「んっ。そうだなビヴィリ‼︎」

 

ジャーヴィスはアークの両方のほっぺたを伸ばしている

 

「ナンデアークはダーリンビビリって呼ぶノーッ‼︎ヒドイヨ⁉︎」

 

「しゅまんしゅまん‼︎」

 

ジャーヴィスのブラコンは治っていない

 

それでもアークにしっかり懐いている

 

皆が起き、朝ご飯を食べた後、ジャーヴィスと母さんは横須賀に向かった

 

「俺もそろそろ行くかな」

 

冷蔵庫からジュースを取り出して、それを飲んでから向かおうとした時、小包に気付いた

 

一応冷蔵庫に入れておいたが、まさか減ってる訳ないだろ…

 

そうは思いつつも、小包の中を見て見た

 

「一本なくなってる…」

 

それに気付いてすぐに食堂に目をやる

 

特に変わっている奴はいない

 

まぁ…体に害は無いから心配は無いか…

 

冷蔵庫を閉じてオレンジジュースを飲み干し、俺も横須賀へと向かう…

 

 

 

「おフネはハヤイ〜、ダーリンもハヤイ〜」

 

高速艇に乗り、窓の外を眺めながらジャーヴィスは横須賀に着くのを楽しみに待っている

 

「ジャーヴィスは何食べたい⁇」

 

「何食べよっかナ〜⁇ダーリンがね⁇硬く無いのなら食べてイ〜ヨ〜って‼︎ジャーヴィス歯が生えたノ‼︎」

 

「い〜っ」

 

「い〜っ」

 

母さんがジャーヴィスに歯を見せると、ジャーヴィスもマネをして歯を見せる

 

「あら。ほんと」

 

「にしし‼︎あっ‼︎ダーリン‼︎」

 

二人の乗った高速艇の上を、グリフォンが過って行く

 

「早〜イ‼︎」

 

「ふふふ…」

 

兄の乗る戦闘機を見て、ジャーヴィスは目をキラキラさせている

 

その姿を見て、母さんも微笑んだ…



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200話 おでかけマーカスくん

おでかけジャーヴィスちゃんの裏側のお話


横須賀に着き、執務室に来た

 

「行きましょ‼︎」

 

おめかしした横須賀が既に待っていた

 

「早霜も…」

 

「早霜‼︎今日は何しよっか‼︎」

 

早霜も着いて来ようとしたが、朝霜が止めてくれた

 

「早霜はアタイ達と遊ぼうな⁇」

 

「うん」

 

早霜は素直に朝霜の所に行き、朝霜がウインクしたのを合図に、俺達は執務室から出た

 

「相変わらず早霜は素直だな⁇」

 

「ずっとあんな調子よ⁇私とか、朝霜の言う事ちゃ〜んと聞いてる」

 

「俺に似て良い子だな⁇」

 

「私に似たんだわ⁇」

 

早霜はどっち似なんだろう

 

朝霜は歯以外は確実に俺似

 

磯風は確実に横須賀似

 

清霜は確実に俺似

 

早霜は外見と歯は横須賀似

 

性格は俺に似てる気もするが…

 

「そう言えば、ジャーヴィスちゃんはどう⁇」

 

「元気に動き回ってるよ。今日は母さんとこっちにいるんだ」

 

「あら。気になるわね⁇ふふっ‼︎」

 

ひとみといよ、そして子供達のお陰で大分と子供慣れして来た横須賀

 

ジャーヴィスと逢うのも楽しみな様だ

 

「あ。そうそう。CDショップが出来たのよ‼︎」

 

「言われてみればなかったな⁇」

 

「ここよ‼︎」

 

「Poi's Music…」

 

周りが周りなので物凄いマトモに見える

 

「いらっしゃいませっぽい」

 

「輪投げ屋‼︎」

 

祭りの日に輪投げ屋をしていた、夕立がいた

 

たいほうが好きな”ていとくといっしょ”と言う番組で歌って踊っている子でもある

 

「ていとくといっしょと輪投げ屋が休みの時はCD売り捌くっぽい」

 

「夕立、あのCD入ったかしら⁇」

 

「入ってるっぽい‼︎」

 

夕立がバックヤードに行ってすぐ、どうしてもぽいが気になった

 

「入ってるのか入ってないのか分からんな…」

 

「夕立の何々っぽい〜は、榛名のダズル‼︎と一緒よ」

 

「ホントのっぽいはどう言うんだ⁇」

 

「今日は夕立、お仕事だから遊ぶのは無理っぽいぽい‼︎はい‼︎」

 

夕立が横須賀にCDを渡し、早速中を見る

 

「ぽいの二乗よ‼︎これこれ‼︎ありがとっ‼︎」

 

「色々視聴出来る機械を仕入れたっぽい。そこにあるっぽい」

 

「どれ…」

 

店の中心にタッチパネルとイヤホンが置いてある

 

「私が先よ‼︎」

 

何も言って無いのに横須賀が先にイヤホンを耳に当てた

 

「あら。懐かしいわ…」

 

イヤホンを耳に当てた横須賀は、昔を思い出しているのか、目を閉じて聴き入っている

 

タッチパネルには”シナモン・アップル”の”跳躍的五分間”と表示されている

 

横須賀が昔から好きな歌手だ

 

横須賀と声が似ているので、俺も中々好きだ

 

ノスタルジックと言うか、電波的と言うか、謎めいた歌い方をするので、今も昔もファンが多い

 

「買ってやろうか⁇」

 

「このアルバム欲しいんだけど…いい⁇」

 

「たまには買ってやるよ」

 

横須賀に言われたアルバムを買い、ぽいぽいの店から出た

 

「この歌手、親潮も好きなのよ」

 

「親潮がか⁇」

 

「そっ。”君のライフ”って曲聴いて好きになったみたい」

 

「意外だな…」

 

「お仕事終わったらみんなと遊んでるか、部屋でパソコン見ながらダンス踊ってるわ⁇」

 

「もっと親潮を良く知らんといかんな…」

 

「親潮はアンタの事良く知ってるみたいよ⁇この前のガンビアの件だって、親潮が一番最初に気付いたのよ⁇」

 

「俺に似て気の回る子だからな‼︎」

 

「私に似たんだわ⁉︎私に似て真面目なのよ‼︎」

 

「ふ…そうだそうだ‼︎親潮はお前に似たんだ‼︎」

 

がるる〜とでも言いたそうに、ギザ歯を見せて威嚇する横須賀を見て根負けした

 

ひとみといよが時たまやる威嚇も横須賀をマネてるのか…

 

「広場の方に行きましょう⁇」

 

広場の方に足を向けながら、視察を続ける…




横須賀と親潮が好きな曲と歌手のモデルは誰でしょ〜


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200話 おでかけジャーヴィスちゃん 2nd

ジャーヴィスとスパイトが待ち受ける間宮

リチャードは二人に戦いを挑む‼︎


「いい、じゃ〜ゔぃす。ままにあわせてね⁇」

 

「分かっタ‼︎」

 

間宮でリチャードを待つ”少女”二人

 

片方はジャーヴィス

 

片方はスパイトなのだが、何処からどう見てもジャーヴィスが二人にしか見えない

 

そう。あの薬をパクったのはスパイトだ

 

リチャードが来る少し前に薬を飲み、ロリ化してリチャードを待ち、イタズラしようと企んでいる

 

服はグラーフに頼んで繕って貰った、ジャーヴィスと同じ服を着ている

 

「いらっしゃいませー」

 

「待ち合わせをしてる」

 

リチャードが来た

 

「あちらのお席に…」

 

「おー‼︎ジャーヴィス‼︎」

 

ジャーヴィスに気付いたリチャードは”スパイト”を抱き上げた

 

「寂しかったか⁉︎」

 

「「さみしかったヨー‼︎」」

 

「お⁉︎え⁉︎」

 

二人同時に答える

 

リチャードは席に座っているジャーヴィスを見てすぐ、スパイトの顔を見た

 

「だっこ‼︎」

 

「おぉ…こっちがジャーヴィスか‼︎」

 

スパイトを降ろし、今度はジャーヴィスを抱っこする

 

「じゃ〜ゔぃすこっちだヨ〜⁇」

 

「…疲れてんのかな」

 

丸っ切り一緒な二人を見て、リチャードは目をパチパチさせた後、ジャーヴィスを降ろし、席に着いた

 

「ママはどうしたんだ⁇」

 

「ジャーヴィスだけだヨ⁇」

 

「じゃ〜ゔぃすだけできたノ‼︎」

 

「偉いっ‼︎」

 

リチャードに撫でられて、二人共ご満悦

 

片方は褒められて

 

片方は旦那に褒められて

 

「さっ‼︎何食べよっか‼︎」

 

「「ぱんけ〜き‼︎」」

 

「間宮。パンケーキ二つとコーヒー貰えるか?」

 

「畏まりました」

 

「あぁ、パンケーキは切ってやってくれ‼︎」

 

「畏まりました」

 

パンケーキを待つ間、二人共リチャードに笑顔を送る

 

「どっちがどっちだ…」

 

見れば見る程、両方ジャーヴィスに見えて来た

 

左もジャーヴィス

 

右もジャーヴィス

 

仕草も一緒

 

「ジャーヴィスは双子だった…のか⁇」

 

「「ジャーヴィス双子じゃないヨ〜⁇」」

 

「う…」

 

同じ答えを返され、リチャードは口にしかけたコーヒーを飲むのを躊躇した

 

「パンケーキとコーヒー、お待たせしました」

 

「「ありがト〜‼︎いただきま〜ス‼︎」」

 

食べ方も丸っ切り一緒

 

だが、一つだけ違う点があった

 

「んんん⁉︎」

 

右のジャーヴィスはメープルシロップ

 

左のジャーヴィスはチョコを掛けて口に運んだ

 

どうやら嗜好は違うみたいだ

 

「「んん〜っ‼︎おいシ〜‼︎」」

 

「この前食べたの…あれ何だったかな〜」

 

「「ズイウンのチゲ鍋のコト〜⁇」」

 

「あぁ‼︎そうだそうだ‼︎思い出した‼︎」

 

とは言いつも、リチャードは焦る

 

どちらかが絶対スパイトのハズ

 

だが、そのどちらかが分からない

 

リチャードは確信を突ける質問を探している…

 

「息子の名前は⁇」

 

「「マーカス・スティングレイ」」

 

「俺の好きな食べ物は⁇」

 

「「シュネッケン以外」」

 

「初デートの場所は⁇」

 

「「ビッグ・ベン」」

 

「ぐっ…」

 

何処まで合わせてあるのか、二人は同じ答えを出す

 

リチャードは机に突っ伏して悩み始めた

 

「「ふふふ…」」

 

思い悩むリチャードを見て、二人は顔を見合わせて微笑み合っている

 

そうだ…

 

これはやりたくなかったが、今の現状ではやらざるを得ない

 

「よしっ‼︎お散歩しよう‼︎」

 

スパイトは足が悪い

 

抱っこをせびった方がスパイトだ

 

「「分かっタ‼︎」」

 

椅子から立ち上がり、二人共リチャードの所に来た

 

いやいやいやいや

 

待て待て待て待て

 

どちらかがスパイトのハズなのに、何故歩けるんだ…

 

「さぁ、りちゃ〜ど…」

 

「どっちがジャーヴィスか…」

 

「「分かるかナ〜⁉︎」」

 

左のウキウキしてるジャーヴィスか…

 

右のワクワクしてるジャーヴィスか…

 

チャンスは一回、ヒント無し

 

落ち着けリチャード

 

スパイトの事は良く知っている

 

「よし‼︎じゃあひだ…」

 

「ジャーヴィス」

 

マーカスとジェミニが来た

 

「あ‼︎ダーリン‼︎」

 

その瞬間、左のジャーヴィスが振り返り、マーカスの所に走って抱き着きに行った

 

「ざんねんりちゃ〜ど」

 

残った右のジャーヴィスがスパイトだ

 

二択に負けたのか…

 

「ソックリ過ぎるだろ…」

 

「む〜っ‼︎あら…」

 

タイミングを見計らったかの様に、スパイトのが元の姿に戻り、咄嗟に抱き留めた

 

「ふふっ‼︎次からはジャーヴィスか私かどうか、ちゃんと確認しないといけませんね⁇」

 

「どうすりゃ分かる」

 

「ジャーヴィスを抱っこした時にマーカスの悪い事を言ってご覧なさい」

 

「どういう事だ⁇」

 

「ジャーヴィス‼︎パパが抱っこしたいって‼︎」

 

マーカスの腕に抱っこされていたジャーヴィスを受け取り、言われた通りちょっとだけマーカスを悪く言ってみた

 

「マーカスはマヌケらな…いれれれれ‼︎」

 

ジャーヴィスに両頬を引っ張られ、グイーッと伸ばされた

 

「パパ⁉︎ダーリンのワルグチ、ジャーヴィス許さないヨ‼︎」

 

「あははははは‼︎」

 

歯を噛み締めながら睨み付けるジャーヴィスを見て、スパイトが腕の中で笑う

 

「私達の子供よリチャード」

 

「ほうらな‼︎」

 

未だにジャーヴィスに引っ張られている為、変な声を出した

 

「じゃあねジャーヴィスちゃん‼︎」

 

「バイバイ‼︎」

 

ジェミニとマーカスが去り、今度はちゃんとしたスパイトとジャーヴィスとデートし始める

 

間宮を出た後、ジャーヴィスを肩車しながら繁華街に向かう

 

「ジャーヴィスは何が好きかな〜⁇」

 

「ジャーヴィス、ダーリンスキ‼︎後は〜ナゾナゾもスキ‼︎」

 

「じゃあジャーヴィス。ネコはニャンニャン、犬は何て鳴く⁇」

 

「えへへ〜。なんだろ〜ネ〜‼︎」

 

問題を出されて、ジャーヴィスはニコニコしている

 

多分、訳が分かっていないが、ニコニコしているのでかなり可愛い

 

「ジャーヴィスその…」

 

「イヌはなんて鳴くのかナ〜⁇」

 

「よしっ‼︎ナゾナゾの本買いに行こっか‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

スパイトの車椅子を押しながら、ジャーヴィスの本を買う為に本屋に向かう

 

繁華街の本屋に着き、ジャーヴィスは早速ナゾナゾの本を持って来た

 

「エ〜トォ〜…イヌはワンワン‼︎だネ‼︎」

 

「偉いぞジャーヴィス‼︎それにするか⁇」

 

「うんっ‼︎サンキューパパ‼︎」

 

スパイトの舌が遺伝しているのか、ジャーヴィスの英語の発音はかなり良い

 

ジャーヴィスに本を買い、ジャーヴィスはスパイトの膝の上に座り、本を読み始めた

 

その日、リチャードがジャーヴィスのナゾナゾ攻めに遭ったのは言うまでもない…



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201話 美女スパイ潜入調査(1)

さて、200話が終わりました

今回のお話は、美女のスパイが活躍するお話です

彼女達はレイのスパイの知り合いと言うが、果たしてその正体とは…


世間一般はお花見のシーズン

 

俺は世間一般から外れ、護衛任務

 

「敵機も敵艦も無し。随分と暇な任務だこと…ふぁ…」

 

《こんだけ護衛で固めたら流石に攻撃して来ないね》

 

護衛対象は空母を中心とする艦隊

 

イージス艦もいりゃ、フリゲート艦もいる

 

しかも空には空母から発艦した連中が常にレーダーを張り巡らせている

 

《航空部隊各員に告げる。順次、燃料の補給に母艦へ帰投して下さい。ワイバーン。貴方も休憩を》

 

空母からの御達しが入り、航空部隊が次々着艦していく

 

「お言葉に甘えますかね」

 

《一人で着艦出来る⁇》

 

「着艦位出来るわ‼︎」

 

グリフォンに文句を言いながらも、空母に着艦

 

《歪んでるよ》

 

前にアレンに言われたように、俺は空母に着艦すると必ず歪んで停める

 

「く…空母には停められたからセーフだセーフ‼︎」

 

《はいはい。降りよっ‼︎》

 

「よっこら…」

 

グリフォンから降り、きそと共に空母内の食堂に向かう

 

「お疲れ様です。マーカス大尉」

 

案内役であろう男性が挨拶に来た

 

「ようこそ。空母”イントレピッド Dau”へ」

 

「ダウってなぁに⁇」

 

今までbisやMark.2は聞いて来たが、Dauは初だ

 

「Daughter…つまり娘と言う単語の頭文字です」

 

「なるほど…ありがとうございます」

 

きそは艦長と話しながら、目の前にオレンジジュースを置いてくれた人にお礼を言った

 

「行き先は横須賀だったな⁇」

 

「えぇ。艦上パーティーがございます」

 

「聞いてないぞ…」

 

「ジェミニ様に名簿を頂いております」

 

「あいつはまた肝心な事を…」

 

「お母さんらしいね‼︎」

 

「マーカス大尉。貴方のお名前もございます」

 

「あんのやろ…」

 

これは横須賀に着いてすぐに言わなければならない

 

「今しばらくは艦内でおくつろぎ下さいませ…」

 

「あぁ」

 

そう言って去った男性が顔を向こうに向ける瞬間、一瞬口角が上がった

 

「横須賀にひとみちゃんといよちゃんもいるらしいよ⁇ほら‼︎」

 

きそのタブレットには、広場でシートを引き、お弁当を食べている横須賀とサラ、そしてひとみといよが写っている

 

粗方サラに作って貰ったのだろう

 

「大尉。艦長がお呼びです」

 

「きそ。横須賀に言っとけ。肝心な事は早く言えってな」

 

「オッケー‼︎」

 

俺を呼んだ男性に着いて行き、食堂を出た

 

「い〜なぁ〜。僕もお花見したいなぁ〜」

 

きそは足をプラプラさせながらオレンジジュースを飲み、横須賀に返信を打つ…

 

 

 

 

「返って来た‼︎」

 

美少女剣士きそ> 僕もお花見したい‼︎

 

ぜみに> 今日はパーティーがあるから沢山食べましょ⁇

 

美少女剣士きそ> レイが重大な事は早く言えってさ‼︎

 

ぜみに> ごめんって言っておいて。後、その空母に今度新しく提督になるお偉いさんの女性がいるから、宜しく言っておいて⁇

 

美少女剣士きそ> 分かった‼︎

 

 

 

メールが終わり、お母さんが話して来た

 

「そう言えば、一人外国から提督になる方がいるのよね⁇」

 

「そっ‼︎しかも女性よ‼︎」

 

「ちゃんとご挨拶なさいよ⁇」

 

「わ、分かってるわよ…もぅ…」

 

笑いながらお母さんに叱られ、チキンを齧る

 

「あら‼︎お久しぶりです‼︎」

 

「鹿島‼︎」

 

買い物帰りの鹿島が来た

 

結構な荷物を持っている

 

「かちまおくすいあいがと‼︎」

 

「おいちかった‼︎」

 

鹿島から薬を貰ったのか、ひとみといよはお礼を言っている

 

「うふふっ‼︎ひとみちゃんといよちゃんも飲んだのですね⁇おっきくなれましたか⁇」

 

「おっきくなた‼︎」

 

「えいしゃんみたいになた‼︎」

 

「横須賀様もご所望ですか⁇」

 

「副作用が無いなら頂いてもいいわ⁇」

 

「畏まりました‼︎では、ひとみちゃんといよちゃんが飲んだお薬をお送りしますね‼︎」

 

「よこしゅかしゃん。ひとみ、かちまにおれ〜すう‼︎」

 

「いよもすう‼︎おにもつもったげう‼︎」

 

「ん〜っ‼︎良い子ね‼︎気を付けるのよ⁇」

 

ひとみといよを撫でた後、二人は鹿島の荷物を頭の上で持ち、船着場へと向かった…



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201話 美女スパイ潜入調査(2)

「おかえりレイ」

 

「時間だ。出るぞ」

 

「ちょっと待って…オッケー‼︎」

 

きそはオレンジジュースを飲み干し、すぐに俺の横に来た

 

「どんな人だった⁇」

 

「さっきの案内役の人だったよ。新しい提督らしい」

 

「え…女の人じゃないの⁇」

 

「どういう事だ…よいしょ」

 

グリフォンに乗り、イントレピッドDauから発艦した後、すぐにグリフォンに話を聞く

 

「さっきの話、どう言う意味だ⁇」

 

《お母さんが言ってたんだ。新しい提督の人は女の人だって》

 

「じゃあアイツは偽者か⁇」

 

《どうだろ…代理なんて訳無いよね⁇ちょっと待って。オートに切り替えるからコレ見て欲しいんだ》

 

グリフォンの話を聞き、横須賀ときその会話を見て、不信感が沸く

 

《調べた方が良くない⁇パーティーあるみたいだし》

 

「行ってみるか…」

 

言っている間に横須賀に着陸し、四人が出迎えに来てくれた

 

「おかえりなさい」

 

「ただいま。肝心な事はもうチョイ早く言ってくれ‼︎」

 

「ごめんなさい。さっ‼︎着替えて‼︎隊長とラバウルさん呼んだから、みんなで行きましょ‼︎」

 

「サラ。三人を頼む。ちょっとだけジェミニと話があるんだ」

 

「オッケー。マー君も早く‼︎ね⁇」

 

きそとひとみといよを連れたサラにウインクされた後、俺は横須賀を施設の壁に寄せた

 

「な…何よ…夜まで我慢なさいよ…」

 

「新しい提督が来るのか」

 

「わ…悪かったわよ…今度から早く言うから…ねっ⁇そんな怒らないで。チューしてあげるから‼︎」

 

横須賀が目を閉じてキスの体勢に入ったが、話を続ける

 

「俺が会ったのは男の提督だったぞ」

 

「え…」

 

横須賀はすぐに目を開け、事の重大さに気付いた

 

「確かに女性だったわ…しかも結構な美人よ⁇」

 

「オッサンだったぞ」

 

「怪しいわね…パーティーに潜入出来るかしら」

 

「ひとみといよを任せた。空母には来るなよ」

 

「分かったわ」

 

最後にちゃんとキスした後、俺達は一旦着替えの為に執務室に向かう…

 

 

 

「この人が本来の提督なんだな⁇」

 

「そうよ。もし艦内にいたら救出してちょうだい」

 

「分かった」

 

夜のパーティーに向け、横須賀から顔写真を貰い、革ジャンの内ポケットに仕舞う

 

ちょっと芋臭い気もするが、ホントに中々の美人だ

 

「後、武器は置いて行った方が良いわ。入り口で検問してるわ」

 

「なくすなよ⁇」

 

横須賀にピストルと換えのマガジンとナイフを預ける

 

「どんだけ持ってんのよ…」

 

「いざって時の為だ。きそ、ひとみ、いよ。横須賀を頼むぞ」

 

「オッケー‼︎」

 

「あかった‼︎」

 

「よこしゅかしゃんといっちょにいう‼︎」

 

四人に見送られ、いざ空母に向かう…

 

 

 

 

空母の前から見ても分かる様に、結構どんちゃん騒ぎしている

 

「ようこそ。お名前をお伺い致します」

 

大型のタブレットを持って立っている受付に止められた

 

「マーカス・スティングレイ。大尉だ」

 

「マーカス…スティングレイ…大尉…ありました。ようこそ、イントレピッドDauへ」

 

受付を通過し、中に向かう

 

イントレピッドDauに入った直後、シャンパンを貰い、それをチビチビ飲みながら中を歩く

 

「マーカス大尉」

 

「お⁇」

 

名前を呼ばれたので、振り返った

 

そこには先程提督と名乗った男性がいた

 

「少し、二人でお話をしたいのですが…」

 

「俺でよければ」

 

怪しまれてはいけないと思い、彼の話に乗る事にした…



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201話 美女スパイ潜入調査(3)

「ウンメー‼︎」

 

レイが軽くピンチになっている頃、横須賀の繁華街でアレンがいた

 

ラバウルさんの付き添いで来たのだが、やる事が無く、繁華街で食べ歩いていた

 

片手には最上のスティックミート

 

もう片方には缶ビール

 

ちょっと飲んでいるので、軽く酔っぱらってはいるが、テンションが高いだけで済んでいる

 

「マクレガー大尉」

 

そんなアレンの前に、二人の美女が来た

 

「おっ⁉︎美人が相手してくれんのか⁉︎」

 

「えぇ。でもっ、わたくし達のお願いを聞いて下さるのなら…ですが⁇」

 

一人の美女がアレンの持っていたスティックミートを取った

 

「面倒事は嫌いなんだ。返してくれ」

 

アレンがスティックミートに手を伸ばすが、女は宙に上げて取らせない

 

「マーカス大尉に危険が及んでいても…ですか⁇」

 

「なんだと…」

 

女の一言でアレンの酔いが覚めていく…

 

「マーカス大尉は現在、空母のパーティーに参加しておられます」

 

「中で尋問されている可能性が高いのです」

 

「応援に行きたいんだが、俺じゃ入れない…」

 

「わたくし達が招待客を偽造して、中に潜入しますの。マクレガー大尉、貴方はマーカス大尉とわたくし達の武器を調達してくれませんこと⁇」

 

「それは構わんが…どうやって君達を信用すればいい。いきなりこんな事言われて、おいそれと武器を渡す訳にもいかん」

 

「では…マーカス大尉がどうなっても良い…と⁇」

 

「マクレガー大尉なら分かって頂けると思いましたのに…」

 

「う…」

 

アレンは苦し紛れにビールを口にした

 

そして、二人の目を見た

 

本気で悲しんでいる目をしている

 

「…分かった。その目を信用しよう。ただ、二つ約束してくれ」

 

「構いませんわ」

 

「一つは、裏切ったらレイと共に地の果てまで追い求める」

 

「えぇ」

 

一人の女が頷いた

 

「もう一つは、事が終わったら俺の酒の相手をする事。どうだ⁇」

 

「構いませんわ、マクレガー大尉。それ位の事、わたくし達がして差し上げます…が、事が終わってから、ですの」

 

「分かった。来い」

 

酔いが覚めたアレンに案内され、二人は工廠へと向かう…

 

「さて…どいつにしようか」

 

レイの武器庫から山程ある武器や艤装を見て、二人が使い易そうな武器、そしてレイが使えて隠蔽性のある武器を選ぼうとするが、いかんせん量が多い

 

「なるべく人を傷付けずにマーカス大尉を救出したいですの」

 

「それと、空母内にはもう一人対象がおられます」

 

「なるほどな…とりあえずこれ付けとけ」

 

二人はアレンの背後にある台に腰掛け、渡された小型の無線機を耳に付けながら、武器の選択を待つ

 

「良いのがあった‼︎」

 

アレンが持って来たのは、二丁のリベレーター

 

「いいか⁇このプラスチック製のリベレーターっぽい奴はリロード無しで五発まで撃てる。それに、入ってる銃弾は速効性の麻酔弾だから、殺す心配も無い」

 

「どうやって使いますの⁇」

 

「引き金を引くだけでいい。それとコイツは使い切りだ」

 

「後はマーカス大尉の武器…」

 

「レイの武器はコイツだ」

 

革の鞄を持って来たアレンは台の上にそれを置き、鞄を開けた

 

「ソードオフショットガンを解体して、君達に持たせる」

 

鞄の中には、簡単にだが解体されたソードオフショットガンと、その弾が入っている

 

「これじゃあ受付でバレますわ⁇」

 

「受付で磁気探査があるわ⁇」

 

「コイツは鉄に見えて鉄じゃ無いんだ。弾にも鉄を使っていない。俺を信じろ」

 

アレンは二人を見つめた

 

「畏まりましたわ」

 

「貴方を信じます、マクレガー大尉」

 

「それと、中を見られた場合も心配するな。鞄には特殊な細工がしてある。取手を握って捻りながら開けると…」

 

アレンは一度鞄を閉じ、再び開けた

 

「あら」

 

「果物になったわ⁇」

 

そこには果物と雑誌が入っていた

 

「最悪、オヤツだと言って押し通れ」

 

「畏まりました」

 

「感謝します、マクレガー大尉」

 

片方の女が鞄を持ち、二人はリベレーター片手に空母に向かおうとした

 

「あぁ、ちょっと待て‼︎その服装じゃマズい‼︎」

 

「いけませんか⁇」

 

「この服はお気に入りですの」

 

二人は灰色のワンピースを着ていた

 

これではパーティーで浮いてしまう

 

「一応は高官の来るパーティーだ。ドレスは着て行った方が良い。それにっ…武器の隠し場所もな⁇」

 

「この辺りにドレスを売っている所はありまして⁇」

 

「高雄の部屋がある」

 

早速高雄の部屋に向かい、二人にドレスを選ばせる

 

「これに致します」

 

「私も同じのを」

 

「一回着てみろ」

 

一人を試着室に入れ、もう一人も横の試着室に入れる

 

「如何かしら⁇」

 

「似合いますか⁇」

 

二人が選んだのは、片足のスリットが大きく開いたドレス

 

元のプロポーションが良いのか、生足と胸が目立ってかなり綺麗だ

 

「オーケー。それでバッチシだ‼︎幾らだ⁇」

 

「二着で二万円です」

 

「おっしゃおっしゃ」

 

「マクレガー大尉。わたくし達が払いますの」

 

「お金ならあります」

 

「男に花持たせろ。丁度だ‼︎」

 

「ありがとうございます。値札だけ切りますね⁇」

 

二人共高雄に背中を向け、値札を切って貰った

 

「ふふっ…マーカス大尉とソックリ」

 

「彼の友人である事が良くわかります…」

 

「はいっ、どうぞ〜」

 

「ありがとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

二人共ちゃんと高雄に頭を下げ、アレンと共に高雄の部屋を出た

 

「マクレガー大尉、ありがとうございます」

 

「大事に着ます」

 

「良いって事よ。それとっ…」

 

アレンの手には二本の口紅

 

アレンはそれを二人の唇にチョチョイと塗り、高雄の部屋の窓に映させた

 

「綺麗…」

 

「真っ赤です…」

 

二人は口紅が塗られた唇に軽く触れながら窓に映る自分自身を見た

 

「帰って来たら、この口紅やるよ」

 

「必ず帰って来ますわ」

 

「マクレガー大尉にお酒も注がないとなりませんからね」

 

どうやら二人は美人な癖に口紅を塗った事がなかったらしい

 

「それと、リベレーターは谷間にでも隠しとけ」

 

二人はアレンの目の前でリベレーターを谷間に隠した

 

「んっ。ちゃんと見えないな」

 

「行って来ますわ」

 

「御協力、感謝致します」

 

二人が空母に向かう…

 

「しっかし美人だったな…レイの奴、顔は広いとは思ってたが、まさかあんな美女が知り合いにいるとは…」



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201話 美女スパイ潜入調査(4)

「ようこそ。お名前をお伺いします」

 

「サティ・コレット。ジェミニ元帥の招待客ですの」

 

「フォティ・コレット。同じくジェミニ元帥の招待客です」

 

「失礼致しました‼︎確かにお名前が御座います‼︎一応ですが、磁気探査だけ、御協力をお願いします」

 

「えぇ」

 

「構いませんわ」

 

二人は機材を当てられるが、何処にも反応は無い

 

「どうぞ中へ」

 

「ありがと」

 

「行きましょう」

 

偽名を使い、二人は中に入る

 

「見たか⁇凄い美人だったぞ⁉︎」

 

「ここの元帥は女性だから、美人の知り合いも多いんじゃないか⁇」

 

受付で二人が噂される中、女二人は空母に入った…

 

 

 

 

「大尉は何処かしら…」

 

空母内のホールではダンスパーティーが行われている

 

「お一つどうぞ」

 

「ありがとう」

 

「頂くわ」

 

シャンパンを貰い、それを片手に二人はダンスパーティーの隅っこを移動する

 

「お酒です」

 

「あまり飲んじゃダメよ」

 

「そこの美人さん。ダンスのお相手をお願い出来ますかな⁇」

 

高官であろう見た目壮年の男性からダンスの誘いを受けた

 

「構いませんわ。フォティ、ちょっと持ってて下さる⁇」

 

「えぇ」

 

サティからシャンパンを受け取った時、サティはフォティの耳元で囁いた

 

「…大尉と救出対象の場所を聞いてくるから」

 

フォティはその足で壮年の男性の元へ向かう

 

曲が始まり、二人は踊る

 

「何処の所属かな⁇」

 

「横須賀ですわ、ウィリアム大佐」

 

「私を知ってるのか⁇」

 

「えぇ。雷鳥の伝説はわたくし達の耳にも届いておりますわ」

 

「そっか…」

 

相手をしていたのは、横須賀分遣隊所属のウィリアム・ヴィットリオ大佐

 

彼もまた、マーカス大尉の捜索をしている

 

「大佐殿…マーカス大尉を知りませんこと⁇」

 

クルクル踊りながら、サティはウィリアムの耳に口を寄せた

 

「私達も探している…」

 

「そう…」

 

「…彼処にこの艦の高官がいる。君なら聞けるかも知れない」

 

「ありがとうございます、大佐殿。それと、わたくしの個人的な夢が叶いましたわ…」

 

「行くんだ…」

 

ウィリアムはそっとサティの手を離し、その高官の所へ向けた

 

「お初にお目にかかります」

 

「ダンスのお相手かな⁇」

 

「えぇ」

 

サティはその高官とも手を取り合い、踊る

 

「わたくし、マーカス大尉の付き添いですの。途中で逸れてしまって…」

 

「大尉は会議中だ。邪魔しちゃいけないよ⁇それより、私と踊ろう」

 

「重要な書類をお渡ししなければなりませんの…教えて下さらない⁇」

 

「ダメだ…軍事機密なんだ…」

 

「そっ…折角良い事して差し上げようと思いましたのに…残念ですわ…」

 

サティはダンスを踊りながら、高官の鳩尾を人差し指でなぞり、目を見つめる…

 

「二階の会議室だ…」

 

「ふふっ…ありがと。部屋でお待ちになって⁇」

 

「待ってるよ‼︎」

 

強制的にダンスを終え、サティはフォティの所に戻って来た

 

「大尉の居場所が分かったわ」

 

「行きましょう」

 

二人は階段を上がり、会議室へと向かう…



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201話 美女スパイ潜入調査(5)

「タナトスの設計図を渡して貰おうか」

 

「断る」

 

「おい」

 

「ぐへぇ…」

 

先程の提督と話し合いすると思っていたのが間違いだ

 

コイツらの狙いはタナトスの設計図、もしくはタナトス本体だ

 

今しがた逆らった瞬間、脇に居た兵士に銃底で殴られてテーブルに抑え付けられた

 

「へっ…殴ったら余計にやらんぞ」

 

「いつまで減らず口を叩いていられるかな…」

 

「お前達にタナトス級の設計図をやりゃあ、悪用するのは目に見えてる」

 

「それはどうかな⁇おい、もう良い」

 

「はっ‼︎」

 

テーブルに抑え付けられたのが外れ、元の体勢に戻る

 

「地下に本物の提督がいる。良い女だぞ…」

 

「対価はその女か」

 

「そうだな。君も気に入ると思う」

 

「失礼しますわ」

 

ドレスを着た美女二人が入室して来た

 

「おい、会議中だぞ」

 

「マーカス大尉。書類をお持ちしましたの」

 

「誰だアンタら…」

 

片方の美女は俺の足元に革の鞄を置き、もう片方は俺の耳に口を近付けた

 

「マクレガー大尉からですの…」

 

「アレンの知り合いか…」

 

「廊下でお待ちしてますわ」

 

「分かった…」

 

置かれた鞄を開け、書類を取り出すフリをする為、机の下に体を消した

 

「おい貴様‼︎それは何の書類だ‼︎」

 

「貴方の一番欲しがってる書類でしてよ⁇」

 

「少しだけお待ちになって下さいな」

 

「あ…あぁ…」

 

二人は偽提督の肩を持ち、耳元で囁いた後、部屋から出た

 

「良い匂いのする女だ…だが、あぁ言う女には気を付けなければな⁇」

 

「そうだな」

 

「おい…」

 

机の下から顔を出した瞬間、俺の手にはソードオフショットガンが握られていた

 

「手上げて武器降ろしな」

 

偽提督と付き添いの兵士はすぐさま手を上げた

 

「本物の提督は何処だ」

 

「ち、地下の食料庫だ…」

 

「オーケー…しかし、動き出したら面倒だな…」

 

「わ、悪かった‼︎」

 

「悪い子にはオシオキだ」

 

会議室で銃声が響く…

 

「ふぅ…ちょっと寝てな」

 

銃声はそんなに大きく無く、偽提督のはスグに眠った

 

このソードオフショットガンの弾は速効性の麻酔弾

 

当たった時多少は痛いが死にはしない

 

「う…」

 

「アンタには恨みがある」

 

「助け…」

 

「ぬんっ‼︎」

 

兵士の顎に左フックを入れ、気絶させた後、ショットガンを革ジャンの中に仕舞って、革の鞄を持って会議室を出た

 

「お片付けはおすみ⁇」

 

「あぁ。助かったよ」

 

「後は救出対象ですわ」

 

「地下の食料庫だ」

 

「行きましょう、マーカス大尉」

 

「待ってくれ。アンタ達の名ま…」

 

「行きましょう。時間がありません」

 

「あぁ…」

 

二人の名前を聞けずに、地下の食料庫を目指す

 

「アレンの知り合いらしいな」

 

「ここです」

 

アレンの知り合いかどうか聞こうとした瞬間、食料庫に着いた



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201話 美女スパイ潜入調査(6)

「鍵がかかってますわ…」

 

「姉さん。これで開きますか⁇」

 

もう一人の女性が、谷間から鍵を取り出した

 

「いつの間に…」

 

「さっき姉さんがダンスパーティーに参加している間にスリを」

 

「ふふっ。手グセの悪い妹だことっ‼︎」

 

姉さんと呼ばれた女性が鍵を開け、中に入る

 

「誰…」

 

食料庫の奥に、パイプに繋がれた女性が居た

 

「アンタを助けに来た」

 

「Oh…Thank you…」

 

かなり憔悴しているが、治療すれば大丈夫そうだ

 

「手錠を外す。ちょっと待ってな…」

 

「貴方、名前は⁇」

 

「マーカス・スティングレイ。大尉だ」

 

「Oh…リチャードの息子ね…息子にも助けられちゃったわ…」

 

「外れた‼︎話は後だ。ここから出よう‼︎」

 

手錠を外し、女性を背負う

 

「マーカス大尉。わたくし達が道を開きます」

 

「マーカス大尉は私達に着いて来て下さい」

 

「分かった」

 

二人に案内され、空母の外を目指す

 

食料庫を出て階段を上がり、いざ空母から出ようとした

 

「止まれ。そのじょ…」

 

「あら。随分と効き目があること」

 

妹の方の女性が谷間からリベレーターを出し、瞬殺で近衛兵を眠らせた

 

「行きましょう」

 

空母から出ると、隊長、ラバウルさんと憲兵が待ってくれていた

 

「レイ‼︎」

 

「この人が提督だ‼︎カプセルに入れる‼︎」

 

「分かった‼︎エドガー‼︎憲兵引き連れて中を頼む‼︎」

 

「畏まりました‼︎さぁ‼︎行きますよ‼︎」

 

ラバウルさんが憲兵をゾロゾロ引き連れて空母の中に入るのを見て、俺達は医務室に女性提督を運んだ

 

「よしっ。もう安心だからな‼︎」

 

「Thank you…ふぅ…」

 

カプセルに女性を入れた後、ようやく一息つけた

 

「よくやったなレイ‼︎」

 

「彼女達のお陰さっ‼︎」

 

「いいえ。貴方の功績ですわ、マーカス大尉」

 

「それと、わたくし達を信じてくれたウィリアム大佐とマクレガー大尉のお陰です」

 

「あの堅物君のアレンが信用するとはねぇ〜」

 

タバコに火を点け、咥えながらカプセルの時間を見る

 

「私はエドガーの応援に行って来る。事が終わったら奢ってやるから、鳳翔で待ってろ」

 

「へへっ、やりぃ‼︎」

 

隊長が去り、謎の美女二人と俺と、カプセルに入った女性の四人になった

 

「助かったよ。そうだ、何かお礼させてくれ‼︎」

 

「ふふっ…構いませんわ⁇」

 

「わたくし達、いつもマーカス大尉にお世話になってますの。その恩返しですわ⁇」

 

「ははっ‼︎面白い事言うな⁇」

 

「でもっ…お礼と言って下さるのなら…えいっ‼︎」

 

「えいっ‼︎」

 

「おぉ…」

 

二人が急に抱き付いて来た

 

「「…抱き締めて下さる⁇」」

 

「んっ」

 

二人をギュッと抱き締める

 

何処かで抱き締めた気がする…

 

「ふふっ‼︎これで満足ですわ‼︎」

 

「わたくし、夢も叶いましたの‼︎」

 

「もう行くのか⁇」

 

「えぇ…でも、すぐにお逢い出来ますわ⁇」

 

「わたくし達は、常に貴方のお傍に…」

 

「分かった。何も聞かないでおくよ…ありがとうな⁇」

 

二人は笑顔を見せた後、医務室から去った

 

お礼をしたいのなら、何も聞かずに黙っておこう

 

これがあの二人に対して返せる唯一の恩だ…

 

 

 

「上手く行ったわね⁇」

 

「スリ上手に出来た‼︎」

 

「そろそろ戻りましょう⁇横須賀さんが心配するわ⁇」

 

「はいっ‼︎姉さん‼︎」

 

二人は工廠に戻り、借りた武器をキチンと返した後、元の服に着替え、横須賀の待つ執務室に戻った…

 

 

 

 

その日の深夜…

 

「まさか俺が囚われのお姫様”役”になるとはな…」

 

「悪かったって言ってんでしょ⁉︎」

 

「まっさか演習とはな‼︎」

 

横須賀含めた五人が鳳翔に集まり、実はまさかの演習だった事が判明した

 

偽提督は本当は艦長で、事が終わった後、付き添いの兵士と共にスッ飛んで来て申し訳ない位床に頭を擦り付けて来たので、両人カプセルに放り込んだ

 

一応怪我をしているしな

 

女性提督のあの憔悴も演習

 

一日食べなかっただけであぁなったらしい

 

「でも、あの美女は誰だったんだ⁇」

 

「演習の一環じゃないのか⁇」

 

「何よ、みんな揃って…」

 

横須賀以外は口を揃えて言う、美女二人の存在

 

「あえんしゃんおしゃけのむ⁇」

 

「かんつ〜はい‼︎」

 

「おっ‼︎ありがとう‼︎」

 

いつの間にか、ひとみといよが参加している

 

「おみかんのじゅ〜しゅ‼︎」

 

「かああえ‼︎」

 

いよはアレンにチューハイを注いだ後、オレンジジュースを飲み

 

ひとみは唐揚げをパクついている

 

「貴子には内緒だぞ⁇」

 

「あかった‼︎」

 

「ないちょすう‼︎」

 

「ありがとう、隊長」

 

「たまには良いさ。レイも貴子には内緒だぞ⁇爆弾落とされるから‼︎」

 

「了解っ」

 

「あえんしゃん、あ〜んちて⁇」

 

「あ〜…」

 

「おいち⁇」

 

「美味しい‼︎」

 

ひとみといよはずっとアレンの相手をしている

 

後は、数日後に正式に着任するあの女性提督だな…

 

こうして、美女二人の謎を残したまま、夜は更けて行った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イントレピッドDauの一室で、一人の男性が声を上げた

 

「美女はどうしたーーーーーーーーっ‼︎」




サティ・コレット…美女スパイ(姉)

巨乳で色気タップリ、生足が艶めかしい美女スパイ

行動力があり、色気で男性を落とすのが得意

何やらレイに恩があるらしく、恩返しの為にレイを助けに来た

下記のフォティとは双子らしい


フォティ・コレット…美女スパイ(妹)

姉が巨乳が目立つなら、妹はお尻がチャームポイント

勿論お胸も大きい

色気による攻撃は得意ではないが、一応出来る

何処で覚えたのか、スリの方が得意

彼女もレイに恩があるらしい


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202話 死の邂逅(1)

さて、201話が終わりました

今回のお話は、会ってはならない二人が会ってしまいます

それを止めようと周りは奮闘しますが…


「では、行って参ります」

 

「気を付けてね。あそこの部隊は強力な航空隊が揃ってるわ」

 

サンダース隊の子達が演習の為に飛び立った

 

今日はレイが居ない

 

居ないと言うか、向こうから申し込んで来たので、私が勝手に受けた

 

2回目の彼等だけの演習だ

 

強力な航空隊とはいえ、彼等なら大丈夫そうだ…

 

「同志ジェミニ」

 

「あら。タシュケント」

 

タシュケントが来た

 

「これ、昨日の彼等の飛行記録。後、今日の敵部隊の記録だよ」

 

タシュケントから彼等の飛行記録を貰い、それをパラパラと捲りながら話を続ける

 

「ありがと。涼平とはどう⁇」

 

「今から水上機で見に行くんだ‼︎だいじょっぶ‼︎水上機の操縦は慣れてるんだ‼︎」

 

「そっ⁇なら良いわ⁇貴女も気を付けてね⁇」

 

「では、行って参ります」

 

タシュケントも執務室から出る

 

「なぁ、母さん」

 

「なぁに、朝霜」

 

「引き揚げさせた方が良いんじゃ無いか⁇」

 

急に朝霜がサンダース隊を引き揚げさせろと言い出した

 

「大丈夫よ‼︎サンダース隊なら負けはしないわ‼︎」

 

「違うんだ…何と無く嫌な予感がするんだ…」

 

「あら。珍しいわね、あんたがそんな事言うって」

 

珍しく朝霜が私に楯突いて来た

 

「父さんには言ったのか⁇」

 

「言って無いけど…」

 

「アタイ、ちょっと出掛けて来るわ」

 

「夕ご飯までには帰るのよ」

 

「あぁ」

 

朝霜まで出掛けて行く…

 

心配しなくても大丈夫なのに…

 

たかだか一演習よ⁇

 

 

 

 

「エンジン良し…ロケランも、良いな‼︎おっしゃ出んぜ‼︎」

 

朝霜の乗るブリストルが横須賀から飛び立つ

 

目指すはレイのいるスカイラグーン

 

レイは今日、スカイラグーンで機材のメンテナンスをしているハズ

 

朝霜はその手伝いに向かうのと、サンダース隊が演習に向かった事を報告しに向かう

 

「な〜んか、嫌な予感すんだよなぁ…」

 

 

 

 

「レンチくれるか⁇」

 

「ぷと」

 

「トンカチちょーだい‼︎」

 

「ぷと」

 

俺ときそはPT達と共に、スカイラグーンの機材のメンテナンスをしていた

 

「よ〜し、ここはこんなモンだな‼︎」

 

「ぷとぷと‼︎」

 

「何だ⁇お前もコレしたいのか⁇」

 

「ぷー‼︎」

 

PT達は、俺が頭に巻いているタオルを真似したい様で、手を伸ばしている

 

「ったく…仕方ねぇ奴だな‼︎ほらっ‼︎」

 

「ぷぴー‼︎」

 

PTの頭にタオルを巻いていると、窓の向こうでレシプロ機のエンジン音が聞こえた

 

「朝霜ちゃんだ‼︎」

 

「手伝いに来てくれたんだろ⁇」

 

休憩がてら用意されたコーヒーを飲みながら朝霜を待つ

 

「ぷひゃ‼︎」

 

「冷まして飲めよ⁇」

 

PTの一人がココアで舌を火傷する

 

「父さん‼︎」

 

「手伝いに来てくれたのか⁇」

 

息を切らした朝霜が来た

 

…様子がおかしい

 

「どうしたんだ⁇横須賀でなんかあったか⁇」

 

「父さん。アタイ、嫌な予感がするんだ」

 

「聞いてやろう」

 

「サンダース隊の人達が演習に行ったんだ」

 

「横須賀には言ってあるぞ。あの子達だけの演習も必要だってな。演習先は何処だ⁇」

 

朝霜の話を聞きながら、コーヒーを飲む

 

「呉だ」

 

「…何だって⁇」

 

朝霜から行き先を聞いて、コーヒーを飲む手が止まる

 

「呉だ。ほら、清政さんのトコの」

 

「きそ、出るぞ‼︎呉に向かう‼︎」

 

「え⁉︎あ、うんっ‼︎」

 

「それやる。フ〜フ〜して飲めよ⁇」

 

「ぴっ‼︎」

 

PT達にコーヒーを渡し、革ジャンを羽織る

 

「出撃ですか⁇」

 

「緊急だ。悪い、メンテナンスはまたする」

 

「えぇ。お気を付けて‼︎」

 

「また来イよ‼︎」

 

扶桑さんと潮に見送られ、グリフォンに飛び乗る

 

「お、おい父さん‼︎アタイはどうすりゃいい‼︎」

 

「死にたくなけりゃ戻ってろ‼︎ありがとうな‼︎」

 

「あぁ‼︎」

 

朝霜に見送られ、スカイラグーンから飛び立つ

 

 

 

《どうしたのさ‼︎》

 

怒ってはいないが、チョイ半ギレのグリフォンが話して来た

 

「サンダースの連中に呉はヤバいんだ‼︎」

 

《まだ戦うのは早い⁇》

 

「違う‼︎サンダースの中に呉の連中を恨んでる奴がいるんだ‼︎詳しい話は後だ‼︎とにかく演習を中止させる‼︎」

 

《わ、分かった‼︎》

 

全速力で呉を目指す

 

間に合えば良いが…

 

 

 

「こちらファイヤフライ。全機、報告を」

 

《ファイヤクラッカーだ‼︎火の粉は振り払った‼︎》

 

《ファイヤフォックス。全機撃墜完了》

 

《ファイヤナイト‼︎こっちもOKだ‼︎》

 

《ファイヤボール。該当空域に敵影無し》

 

数機に数発のかすり傷を負わされたものの、サンダース隊はしっかりと勝利を収めていた

 

《演習終了。サンダース隊各機は基地に降りて補給。隼鷹隊は母艦に戻り、帰投せよ。全機、御苦労だった》

 

呉さんの一言で演習が終わる

 

「サンダース隊、着陸します」

 

《こちらワイバーン。聞こえるか、ファイヤフライ》

 

大尉からの連絡が入った

 

「ファイヤフライ。聞こえます」

 

《AI無しの俺と戦いたいらしいな》

 

「えぇ。貴方自身の本気を、一度で良いから見ていたいんです」

 

《来い。今の俺はAI無しだ。俺対お前の真剣勝負だ》

 

「畏まりました。此方こそ、よろしくお願いします‼︎」

 

グリフォンが猛スピードでファイヤフライの乗る震電の横を抜けて行く

 

呉の上空で、二機が交戦状態に入る…



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202話 死の邂逅(2)

俺と涼平が交戦する少し前…

 

「呉に着いたら、なるべく隼鷹を涼平から引き離せ」

 

《涼平君を⁇》

 

「あいつ…自分の産まれた島を隼鷹の爆撃で失ってるんだ…名前は知らないとは思うが、姿をみたら恐らく…」

 

《オッケー。じゃあ、僕先に呉に行ってるよ‼︎》

 

「任せた。俺はその間、涼平と戦う」

 

《一人で大丈夫⁇》

 

「心配すんな。教え子に負ける訳にはいかん」

 

《オッケー。じゃ、お先にぃ〜》

 

グリフォンから離れたきそは、一足先に呉のカプセルに転送された

 

「頼む…遭わないでくれよ…」

 

呉が見えて来ても、エンジンはフルスロットルのまま、涼平と交戦状態に入った

 

 

 

 

 

もし涼平と隼鷹が遭ってしまったらとんでもない事になる

 

作戦とは言え、隼鷹は涼平の家族や友人を殺している

 

涼平が航空機に乗り始めたのは隼鷹に復讐する為だと、俺は知っている

 

空で貰ったものは、空で返したいんです…と

 

タシュケントが来てくれて、涼平にくっ付いてくれて多少は抑えてるとは思ってはいるが、最悪の事態は避けたい

 

「遅い‼︎」

 

《あっ‼︎》

 

急ブレーキを入れ、最小限の宙返りをし、涼平の背後に着き、機銃のトリガーを引く

 

涼平の乗る震電がピンク色になる

 

「な〜〜〜っはっはっはぁ‼︎AIが無かったら俺に勝てると思ったかぁ‼︎」

 

《強い…》

 

「俺がサンダーバード隊なのをお忘れなくぅ〜‼︎」

 

《ぐ〜や〜じ〜い〜‼︎》

 

俺が冗談交じりで煽ると、涼平も冗談交じりで悔しがった

 

《レイ。もうOKだよ》

 

「オーケー。ファイヤフライ、着陸しよう」

 

《了解》

 

きそから連絡が入ったのを合図に、涼平を着陸させる

 

「ふぅ…」

 

「完敗です、大尉」

 

グリフォンから降りると、涼平が待ってくれていた

 

「良い線行ってたぞ。まっ、相手が悪かったな‼︎」

 

「リョーヘー‼︎」

 

「先生‼︎」

 

「ほらっ。フィアンセがお待ちだ」

 

「行って来ます‼︎」

 

涼平の背中を押し、タシュケントの所へ向かわせる

 

「ホント強いね」

 

きそが来た

 

「すまんな、使いっ走りみたいな真似させて」

 

「ん〜ん。隼鷹さんは執務室にいるから、なるべく涼平君を近付けさせないでね⁇」

 

「ありがとな」

 

俺ときそも休憩の為、呉の食堂に向かった

 

 

 

「おぉ〜‼︎イケメンがいっぱいですねぇ〜‼︎ポーラ、お食事作るの頑張っちゃいますぅ〜‼︎」

 

「可愛い人だな…」

 

「アドレス知りたいなぁ…」

 

食堂に座っていたサンダース隊の子達が、ポーラについて色々話していた

 

「ポーラは人妻だぞ。よいしょ」

 

「ひ、人妻⁉︎」

 

「あんな童顔なのにですか⁉︎」

 

「しかも子持ちだ」

 

「「えぇ〜…」」

 

キッチンでポーラが何かを焼く、ジュワ〜という音を聞きながら、食事を待つ

 

「朝風ぇ〜。皆さんにお食事運んでちょ〜だ〜い」

 

「はいはい」

 

気の抜けたポーラの声で、朝風がハンバーグを運んで来た

 

「さっ、食べて頂戴‼︎」

 

「貴方がポーラさんの…」

 

「そっ。私は朝風。覚えといてね⁇」

 

「そっくりだ…」

 

朝風と会う度に思う

 

段々ポーラに似て来たな…

 

皆と同じ事を考えつつ、ポーラの作ったペッパーハンバーグを口に入れる

 

「同志マーカス。ボク、リョーヘーと一緒にここの基地司令に挨拶してくるね‼︎」

 

タシュケントの一言で、ハンバーグが詰まる

 

「ダメだ‼︎後にしろ‼︎」

 

「どうしてさ‼︎」

 

「そんなに行きたいなら俺が行く‼︎」

 

ナイフとフォークを置き、ナプキンで口を拭いた後、席から立って食堂を出た

 

「…何か怒ってます⁇」

 

「怒ってないよ‼︎たまにそう見える時があるんだ。ごめんね⁇」

 

「いえ…」

 

涼平は、自分が何かしてしまったのかと勘違いしている

 

 

 

執務室の前に立ち、ドアをノックする

 

「マーカス・スティングレイだ」

 

「どうぞ」

 

執務室の中に入り、呉さんと隼鷹に一礼する

 

「部下を代表してお礼をしに来た」

 

「やっぱりマーカスの教え子か‼︎」

 

「強かったよ、アンタの教え子‼︎」

 

「今、食堂で昼食を食わして貰ってる。もう少し居させてやってくれ」

 

「ゆっくりして行くと良い。今は特段大きな作戦も無いしな」

 

「一人キレのあるパイロットが居たな…ファイヤフライ、だったかな⁇」

 

褒められて嬉しい反面、複雑な気分になる

 

「じゃ、俺も頂きますかね」

 

「ゆっくりして行ってくれ」

 

「後で挨拶に行くよ‼︎」

 

隼鷹の言葉で冷や汗が出る

 

だが、いつも通りの失礼で失礼じゃ無い俺で居なければならない

 

ぎこちない笑顔を送りながら、俺は執務室を出た

 

食堂に戻ると、サンダース隊の数人がトランプをしており、他数人が居ない

 

「他の奴等はどうした⁇」

 

「タバコ吸いに行ったのと、涼平とタシュケント先生は食後の散歩に。きそちゃんは二人をスニーキングすると言ってました」

 

「ちょっと見てくる」

 

涼平とタシュケント、そしてきそを探す為に表に出て来た

 

二人はすぐに見つかった

 

港で腰掛けてアイスを舐めていた

 

…これは邪魔しない方が良さげだな

 

問題はきそだ

 

かくれんぼ上手いからな…

 

「レ〜イ〜」

 

「うひゃお‼︎」

 

草むらから急に手が伸び、服を掴まれて引き摺り込まれた

 

「えへへ、ビックリした⁇」

 

引き摺り込んで来たのは、スニーキング中のきそだ

 

「ビックリした…隼鷹はどうだ⁇」

 

「今の所大丈夫みたいだよ。隼鷹さんは執務室、二人は目の前。このまま行けば大丈夫そうだね」

 

「そっか…」

 

昼食も終わり、サンダース隊の帰投時間も近付いている

 

「ゾロゾロ出て来たよ」

 

時間通りに各々の震電に向かい、出発時間と呉さんの挨拶を待つ

 

「何か話してるね⁇」

 

「ちょっと聞いてくる」

 

サンダース隊の子達が整備士と何か話しており、両者共頭を抱えている

 

「どうした⁇」

 

「大尉。ファイヤフライ機なんですが、プロペラの不調がありまして…」

 

「どれ」

 

整備士から書類を挟んだバインダーを受け取り、内容を確かめる

 

どうやらプロペラが一枚吹き飛んだみたいだ

 

「あ〜…なるほどな。これ位なら直せる。涼平以外は帰投出来るな⁇」

 

「はい‼︎」

 

「涼平は整備後の震電か、何かしらに乗せて連れ帰るって横須賀に言っておいてくれ」

 

「了解です‼︎」

 

「どうかされましたか⁇」

 

丁度涼平が来た

 

「エンジンの不調だ。直してやるから、ちょっと待ってな」

 

「ありがとうございます、大尉」

 

「皆、ご苦労だった。今後ともよろしくお願いします」

 

「「「ありがとうございました‼︎」」」

 

呉さんの挨拶も終わり、涼平を除いたサンダース隊が呉から飛び立って行く…

 

なんてこった…

 

一番帰らせたい涼平だけが残るなんて…

 

「君がファイヤフライかな⁇」

 

「はい」

 

「隼鷹の艦載機隊が、君に一番墜とされたと拗ねていたよ」

 

「あはは…」

 

「良い腕だ。是非ウチに欲しい」

 

「ダァ〜メダメダメダメ‼︎サンダース隊は俺の子だ‼︎」

 

呉さんはニヤリと笑い、それが冗談だと分かった

 

「いつか共闘出来る事を楽しみにしてるよ」

 

呉さんは涼平の肩を叩き、涼平は呉さんに一礼した

 

「タシュケントはどうした⁇」

 

「隼鷹と言う方にご挨拶をしに行きました」

 

何気無く言った涼平の一言が、一気に血を凍らせた

 

「涼平。プロペラの整備の仕方を教えてやる。来い」

 

「あ、はい‼︎」

 

涼平と共に、震電のプロペラの付け替えに入る

 

「吹っ飛んでるな…」

 

涼平の震電のプロペラの何本かは先端を失い、一本は根元から外れていた

 

「一機だけ、自分に突っ込んで来る様に飛んで来た機体がいました。可能性があるとすれば、その機体に擦ったのかと」

 

「強かったか⁇」

 

「えぇ…あの日の機体を思い出しました…」

 

いつもの表情を見せる涼平だが、拳に力が入っているのを見落とさなかった



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202話 死の邂逅(3)

「今も憎いか⁇」

 

「えぇ。頭にこびり付いて離れないんです…逃げ回って、助けを求めて、降伏した友人達の悲鳴が…」

 

目付きが変わって行く涼平に、少し恐怖を感じる…

 

余程の恨みで無ければ、この様な表情にはならない

 

「彼奴は、そんな人達の上に容赦無く爆弾を落として行った…老人も女性も子供も、無差別に焼き払った…あの笑い声も、あの姿も…忘れるハズが無い」

 

今にも血涙を流し出しそうな涼平を見て、自分が情けなくなった

 

一人の部下の過去でさえ、救ってやれないのか、俺は…

 

「もし…もし、だぞ⁇」

 

「はい」

 

涼平は瞬時に顔付きをいつもの表情に戻した

 

「もし、ソイツに遭ったら…どうする⁇」

 

「殺したい…と言う気持ちは充分にあります」

 

「まぁ…仕方ないわな」

 

「ですが正直な所、もう少し今を楽しみたい…と言う気持ちの方が強いです」

 

「タシュケント8割位か⁇」

 

「あはは。タシュケント先生は3割位です。後の3割は大尉、もう3割は仲間、1割は横須賀の艦娘の方達です」

 

「遭わない事を祈るね。お前はっ‼︎誰かを護る為に飛ぶ方が似合ってる‼︎」

 

震電のプロペラを外しながら、涼平と話を続ける

 

「タシュケント先生にも同じ事を言われました。うおっととぉ‼︎」

 

外したプロペラを涼平に投げると、落としそうになりながらもちゃんと受け止めた

 

「そっちの方が幸せだぞ⁇」

 

「そっか…大尉は自分の気持ちを理解して頂けるのですね」

 

「良く似た経験してるからな。よっしゃ‼︎後は変えのプロペラ付け替えたら終いだ‼︎」

 

「ありがとうございます、大尉」

 

「気にすんな。工廠行って予備のパーツ取りに行くぞ」

 

手を払った後、壊れたプロペラを抱いた涼平と共に、横にある工廠に向かう

 

「そこで待ってろ」

 

「はい」

 

工廠に入って変えのパーツを探していると、きそが来た

 

「れっ…レイっ…」

 

走って来たのか、随分息を切らしている

 

「大丈夫か⁇」

 

「ごめん…何とか止めようとしたんだけど…無理だった…」

 

「…」

 

何度目か分からない冷や汗が出た直後、パーツを探すのを止め、涼平の方を向いた

 

「ありましたか⁇」

 

「涼平」

 

「はい」

 

「絶対振り返るな。命令だ」

 

「え…」

 

「絶対背後を振り返らないで。そのままこっちに来て」

 

「は…はい…」

 

何事か分かっていない涼平は、息を飲んだ後、こっちに向かってゆっくりと歩き始めた

 

「止まるんじゃねぇぞ」

 

「目潰すよ」

 

「恐ろしい事言わないで下さいよきそちゃん…」

 

もういっそ、目を潰してやった方が楽になるのでは無いかと、一瞬頭を過ぎった

 

背負うにはあまりに残酷な運命だ

 

分かってやるフリや素振りは出来るが、俺には涼平の背負った運命の重さが分からない…

 

そんな重い空気をたった一瞬で裂かれてしまう

 

「おっ‼︎いたいた‼︎お〜い‼︎涼平く〜ん‼︎」

 

その言葉は、あまりにも軽かった

 

「バカ‼︎涼平‼︎」

 

「涼平君‼︎」

 

反射的に涼平は振り返ってしまった

 

明るく能天気に走って来る隼鷹に対し、涼平は一瞬で顔を変え、腰のピストルに手を掛けた

 

「リョーヘー‼︎ダメ‼︎」

 

「おぉっ⁉︎」

 

猛スピードで走って来たタシュケントが、体を大の字に広げて涼平と隼鷹の間に割って入った

 

「退けタシュケント‼︎」

 

涼平は別人の様な顔付きになり、ただ怒りのままに隼鷹にピストルを向ける

 

「ダメだよリョーヘー‼︎ボクの前で、人殺しなんてしないでよ…」

 

「うるさい‼︎今すぐそこを退け‼︎お前も弾くぞ‼︎」

 

「…いいよ。リョーヘーに殺されるなら」

 

本当は怖いはずなのに、タシュケントは涼平に笑顔を送った

 

「でも、忘れないで。リョーヘーの事を大切に思ってる人が沢山いるんだ…その中の一人に、ボクだっている事、忘れないで。ねっ⁇」

 

「そうだぞ涼平。お前の後ろにいる俺ときそだって、お前の味方さっ‼︎」

 

「そうだよ涼平君‼︎」

 

「…」

 

涼平はしばらく黙った後、ゆっくりピストルを下げた

 

「見損なったよ…こんな小さな子に銃向けるなんてな。こっちおいで」

 

「あっ…」

 

何も知らない隼鷹は、タシュケントを勇気ある子供位にしか認識しておらず、タシュケントの肩を掴んで何処かに去ろうとした

 

その隼鷹を見て、涼平はピストルを腰に戻した手を握り締めた

 

「家族も…」

 

「涼平‼︎」

 

涼平の体が震え始めた…

 

「友人も…」

 

「ダメだよ‼︎涼平君‼︎」

 

肌が白く変色していく…

 

「恋人までモ…」

 

「へ⁇」

 

髪も白く変色していく…

 

「俺カラ奪ウナァァァァァア‼︎」

 

雄叫びの様な叫び声を上げながら、涼平は隼鷹に飛び掛かった

 

「DMM化だ‼︎レイ‼︎」

 

きそが俺の方を見た瞬間には、俺はそこにはいなかった

 

「ドケ‼︎ジャマダ‼︎」

 

「レイ…」

 

涼平と隼鷹の間に入り、何とか涼平を止める

 

「きそ‼︎隼鷹とタシュケント連れて逃げろ‼︎」

 

「お、オッケー‼︎行こう‼︎」

 

「私、なんかしたのか⁇」

 

「死にたくなかったら今は黙ってて‼︎」

 

きそに連れられ、隼鷹とタシュケントがその場から離れた

 

「クソッ‼︎マテ‼︎コロシテヤル‼︎コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル‼︎」

 

深海と化した涼平は、逃げる隼鷹に必死に手を伸ばし、殺そうと力を込めて俺を退けようとする

 

「涼平」

 

「ハナセ‼︎アイツダケハ‼︎アイツダケハコロス‼︎」

 

「頼む…俺に部下を殴らせないでくれ…」

 

「ウゥッ…ジュンヨウ‼︎モドッテコイ‼︎」

 

俺も力を込めて涼平を止めるが、恐らくもう少しで根負けする

 

殴りたく無い

 

コイツの気持ちは痛い位に分かる

 

涼平に殺されたって可笑しくない事を隼鷹はした

 

ただ、涼平は言った

 

今が幸せだと

 

だからこそ、止めてやらなければ…

 

「涼平」

 

「ウゥガァ‼︎」

 

もうほとんどの理性を無くし、ただただ隼鷹だけを殺そうと、逃げた先に目を向けている

 

血涙を流し、ただ恨みを晴らそうと、一点だけを見つめる涼平を見て、俺は決心した

 

許してくれ、涼平…

 

「ヴッ‼︎」

 

涼平の右頬に右フックが入る

 

「スコシダケ…ガマンシテクレ。オマエヲ、シアワセナオマエニモドシテヤル…」



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202話 死の邂逅(4)

「うっ…」

 

次に涼平が起きたのは、知らないベッドの上

 

「あ、起きた‼︎レイ‼︎起きたよ‼︎」

 

「きそちゃん…ここは⁇」

 

「呉の医務室だよ。涼平君、貧血で倒れたんだ」

 

「はぁ…情けないです…ありがとうございます」

 

涼平は自分がDMM化したのを忘れていた

 

余程キレていたのだろうな…

 

「おっ‼︎起きたか‼︎」

 

「申し訳ありません、大尉」

 

「お前は頑張り過ぎだっ。横で寝てるフィアンセに心配掛けるなよ⁇」

 

「フィア…」

 

涼平が横を見ると、ベッドの横で眠っているタシュケントがいた

 

「タシュケント…」

 

タシュケントの頭を優しく撫でる涼平は、先程とは打って変わって、とても優しい顔をしている

 

「はへ…あ…リョーヘー…」

 

目を擦りながらタシュケントが起きた

 

「心配掛けましたね…」

 

「ん〜ん。リョーヘーならだいじょっぶだって分かってた‼︎」

 

「それと涼平。ここの提督が会いたいらしい。呼んでも良いか⁇」

 

「そんな‼︎自分が行きます‼︎」

 

「いいんだ、涼平」

 

「そこで楽な姿勢で待ってて⁇」

 

「だいじょっぶだよ、リョーヘー」

 

「は…はぁ…」

 

リョーヘーは訳が分からないまま、そのままベッドの上で待たされた

 

「失礼します…」

 

「じつれいっ、じまずっ…」

 

「彼奴は…‼︎」

 

顔面真っ青になった呉さんと、ズビズビ泣いている隼鷹が医務室に来た

 

「大変申し訳ありませんでした‼︎」

 

「ぼんどにごべんなざい‼︎」

 

涼平は拳を握るが、タシュケントがそれをグッと押さえている

 

「言い訳はしません…あの島に爆撃命令を出したのは私です」

 

「ばぐげぎじたのばばだしでずぅ…」

 

医務室の床に頭を擦り付けて土下座をする二人を見るが、涼平の怒りは収まらない

 

「…家族と友人を…返して頂けますか⁇」

 

「申し訳ありません…友好的な深海、しかも人が暮らしていたとは…」

 

「自分は一生を掛けても貴方がたを許す事はありません。ですが、今は友軍…ですから、一つだけ約束して下さい」

 

「何なりと」

 

「二度と、自分から何かを奪わないで下さい」

 

「約束する…」

 

二人が幾ら猛省しても、涼平の仲間は戻って来ない

 

ふとそれを感じたのか、涼平はため息を吐いた

 

「…少し、一人にして頂けますか⁇」

 

「分かった…行こう」

 

未だに鼻をすする隼鷹を連れ、呉さんは医務室から出て行った

 

「きそ。俺達も出よう」

 

「うん」

 

一人にしてくれと言ったが、タシュケントと居た方が良さそうだ

 

「やっぱりリョーヘーは良い子だね」

 

「そう、ですか⁇」

 

「うんっ…」

 

「たった今、生き甲斐を失いました…」

 

涼平は精気を失った目をし、窓の外を眺めている

 

「隼鷹…そしてここの提督が味方である以上、自分の復讐は終わりです…」

 

「それでいいんだよ、リョーヘー。復讐なんてダメだよ…」

 

タシュケントは涼平の手を握るが、それにも精気は感じられない

 

「リョーヘー、楽しい話しようよ。リョーヘーの夢ってなぁに⁇」

 

「家の設計士になりたかったです」

 

「お家の⁇」

 

「えぇ。深海の人達と小屋を造ったりしている内に、それが楽しいと気付きました」

 

「そっかそっか。パイロットは違うの⁇」

 

「パイロットは…そうですね…はは、パイロットも、です。でも、二番目かも知れません」

 

少しだけだが、涼平の目に覇気が戻る

 

「タシュケント先生の夢は⁇」

 

「ボクかい⁇ボクはオヨメになる事かな⁇」

 

「どんな方が好みですか⁇」

 

「そうだね〜…ん〜と…」

 

口元に人差し指を置き、タシュケントは考える

 

「復讐を辞めて、幸せ探しをしてる人かな⁇」

 

「はは」

 

「あ‼︎そうそう‼︎ボクの事を助けてくれたり、ファーストキスをあげた人かな⁉︎」

 

「なるほどっ…」

 

「よいしょ」

 

タシュケントは涼平の膝の上に乗り、顔を近付けた

 

「だからね、リョーヘー…」

 

「は…はい…」

 

タシュケントは照れ臭くさそうな笑顔を送った後、真顔で言った

 

「ボクの為に死んで⁇」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっはははははは‼︎そりゃ勘違いするだろ‼︎」

 

《告白こっわ〜‼︎》

 

帰りのグリフォンの中で、涼平とタシュケントの乗る震電の無線を聞き、二人で大爆笑する

 

どうやらタシュケントが涼平に告白したらしいが、涼平が萎縮してしまう事態になったらしいが、話を聞いている限り、誰だって怖いだろう

 

《し、仕方ないだろ⁉︎必死に顔戻そうとしたら真顔になったんだ‼︎》

 

《それ、ホラー映画で言う台詞ですよ⁇》

 

《うぅ…意味違ったのかぁ…最悪のプロポーズだよぉ…》

 

タシュケントが言ったのは、復讐の為に命を捨てるのでは無く、自分に半生をくれと言う意味

 

涼平が受け取ったのは、今すぐこの場で自分の為にスプラッターな事になれ‼︎と、勘違いした

 

急に真顔に戻ったら、誰だってそう思う

 

《お陰で、まだ生きたいと分かりました》

 

《なら良かった‼︎えへへっ‼︎》

 

「美味いモン食って、好きな女といるのもまた人生だぞ、涼平」

 

《そうだよ‼︎タシュケントとエッチな事も出来ないよ⁇》

 

《はいっ‼︎》

 

すっかり覇気が戻った涼平の声を聞きながら、俺達は横須賀に戻った…



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203話 ギャンブラーの仕返し(1)

さて、202話が終わりました

今回のお話は、ちょっとイラッとして、ちょっとほっこりするお話です

サイコロが気になるひとみといよ

周りの大人がそれぞれの特技を教える中、一人だけ特殊技を持った人物が現れます


「おぉ〜…」

 

「さいこおくうくう〜ってちてた」

 

貴子さん達が子供達を連れてタウイタウイモールに行っている昼下がり、お留守番のひとみといよがマジック番組を見ていた

 

ひとみといよはいつも貴子さんがやっている家事をアークと一緒に終わらせ、テレビを見ながら帰りを待っている

 

「エドガーが上手いんだよな」

 

「ラバウルさんが⁇」

 

これは珍しくラバウルさんの情報を聞けそうだ…

 

「あんな真面目な風貌して、元ギャンブラーだからな」

 

「意外だな…」

 

「ダイスも上手い、トランプも上手い。一回相手して貰うとすぐ分かる」

 

「いよもこえちたい‼︎」

 

いよはカップの中でサイコロをタワーにする遊び

 

「ひとみはさいこおれあしょいたい‼︎」

 

ひとみは純粋にサイコロを転がしたい

 

「おっ‼︎そうかそうか‼︎ちょっと待ってな」

 

隊長は一度自室に戻り、何かを持って帰って来た

 

「エドガーに貰った競技用のダイスだ」

 

「くえうの⁇」

 

「お金賭けたりしちゃダメだぞ⁇遊ぶだけだ」

 

「あかった‼︎」

 

「あいがと‼︎」

 

ひとみといよはそれぞれ四つずつサイコロを貰い、いよは紙コップにダイスを入れてタワーを作ろうと奮闘し、その横でひとみはサイコロの遊び方の本を見ている

 

「おりゃ、おりゃ、おりゃ、おりゃ」

 

いよは机にダイスを間隔を空けて置き、紙コップを動かし、中に入れて行く

 

「くうくう〜、おりゃ‼︎」

 

俺と隊長も、いよが開ける紙コップの中身を見る

 

「うあ〜、れきへん」

 

そう簡単に出来る筈もなく、ダイスはタワーになる事なく、普通に目を出している

 

「どれっ」

 

隊長の言葉に反応し、いよは隊長に紙コップを渡した

 

カポッ、カポッ、カポッ、カポッと、紙コップの中にダイスを入れ、数回軽く回し、机に置いた

 

「見てろよ…」

 

いよは紙コップに目線を合わせ、ジーッと見ている

 

「おぉ〜‼︎」

 

紙コップを開けると、綺麗にタワーになったダイスが出て来た

 

「ろ〜やってすうの⁉︎」

 

「これか⁇これはな…」

 

いよが隊長と遊んでいる間、俺はひとみの所に来た

 

「ひとみは何見てるんだ⁇」

 

「さいこおのあしょいかた‼︎」

 

サイコロの遊び方と書かれた本を、ひとみはずっと見ている

 

「こえちたい」

 

「丁半か」

 

二つの賽をカゴに入れ、半か丁か当てるゲームだ

 

昔で言う博打の一種であり、賭け事でなければ、簡単に出来るゲームでもある

 

「ちぉ〜あ、く〜しゅ〜。あんあ、きしゅ〜」

 

「覚えたか⁇」

 

「うんっ‼︎さいこおいえた‼︎くうくう〜‼︎」

 

ひとみはカゴの代わりに紙コップを使い、丁半を開始する

 

「あいっ‼︎ろ〜っちら‼︎」

 

カーペットに紙コップを置き、ニコニコしながら俺を見つめる

 

「ひとみはどっちだと思う⁇」

 

「あんとおもう」

 

「よし、半だ‼︎」

 

「ぱかっ‼︎ちぉ〜れちたぁ‼︎」

 

紙コップを開けた中には、半を示す賽があった

 

「おりゃ‼︎れきた‼︎」

 

「上手だ‼︎」

 

「くふふ…」

 

いよはいよであっという間にコツを覚え、イビツな形ではあるが、ダイスのタワーが出来上がっていた

 

「今度エドガーに会ったら、サイコロのやり方を聞くといい」

 

「らあうるしゃん、さいこおじょ〜じゅ⁇」

 

「上手いぞ〜⁇私よりタワーを綺麗に作れるし、凄い技術を持ってる」

 

「たのしみ‼︎」

 

ひとみといよは貰ったサイコロを大事そうに仕舞い、また別の遊びを始めた…



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203話 ギャンブラーの仕返し(2)

次の日…

 

俺は横須賀で航空演習。隊長とラバウルさんが座学の教官をしている間、ひとみといよは広場でシートを広げ、お菓子を食べながら昨日のサイコロを振って遊んでいた

 

「ろっちとおもう⁇」

 

「ちぉ〜‼︎」

 

「ぱかっ‼︎あんれちた〜‼︎」

 

「もっかいちて‼︎」

 

ひとみといよが遊びで丁半をしているのを、通りすがりの男性が見た

 

「子供が博打をするとは何事か‼︎」

 

たまたま視察に来ていた、司令部からの派遣員だ

 

「ひとみといよちゃん、さいこおれあしょんれうの‼︎」

 

「おじしゃんもすう⁇」

 

「馬鹿者‼︎職務中の私に博打を打てとは何事か‼︎即刻しまえ‼︎」

 

「こあいな」

 

「ほっとけ」

 

ひとみといよは彼に臆する事なく、再びサイコロで遊び始めた

 

「このっ‼︎」

 

「「あっ‼︎」」

 

彼は二人が遊んでいた紙コップとサイコロを蹴り飛ばした

 

「即刻しまえと言ったハズだ。風紀が乱れる」

 

「ぱぱしゃんのさいこお…」

 

「ばあばあになた…」

 

ひとみといよの宝物になったサイコロは、壁に当たって割れてしまっていた

 

「これに懲りたら、公の場で博打をしない事‼︎返事は‼︎」

 

「さいこおしゃん…」

 

ひとみはバラバラになったサイコロを手に置き、ポロポロと涙を流す

 

「ひとみちゃんなかちたあ…」

 

「なんだと⁇」

 

「いのちれつぐなえ‼︎」

 

いよは何処からか魚雷を取り出し、彼に向かって飛び掛かろうとした

 

「おやおや。穏やかじゃありませんねぇ」

 

いよが振りかざした魚雷を、ラバウルさんが止めた

 

「どうしたんだ⁇」

 

すすり泣くひとみを抱き上げた隊長は、ひとみの手の平を見た

 

「さいこおしゃん…」

 

「壊れちゃったのか⁇」

 

「あのひとけってきた」

 

「公の場で博打をする方が悪いのだ」

 

勝ち誇った様な顔をし、彼はひとみと隊長を見つめる

 

「この二人は遊んでいただけではありませんか⁇」

 

「賭け事はするなと教えてある」

 

「紛らわしい行為をする方が悪い」

 

「ほうほう…なるほど。言い訳をされますか…いよちゃん、ひとみちゃん。私に任せて頂けませんか⁇」

 

「らあうるしゃん…」

 

「ふふっ…少女を泣かせる輩は、法が許しても私が許しません」

 

「私は職務中だ。邪魔をしないでくれ」

 

「ウィリアム。ポーカーをしましょうか」

 

ラバウルさんは一瞬、隊長にウインクをし、内ポケットからトランプを出した

 

「よし」

 

互いにひとみといよを膝の上に置いた状態で、ポーカーが始まる

 

「何を賭けますか⁇」

 

すると、隊長はポケットから財布を取り出し、中からカードを出し、ラバウルさんの前に投げた

 

「全財産だ」

 

「ほうほう、大きく来ました…ねっ‼︎」

 

シャッフルしているトランプを一枚手に取り、彼に向かって投げた

 

トランプは彼の頬を切った後、地面に落ちた

 

「ほら。私達は博打をしていますよ。注意しては如何ですか⁇」

 

彼はその場から去ろうとしていた

 

「貴様…」

 

「大博打をしている我々には注意せず、ただ遊んでいただけのこの子達の遊び道具を破壊して…ただで済むとお思いですか⁇」

 

「更迭されたいみたいだな…」

 

「更迭ですか。大きく出ましたね…貴方が貴方のルールで裁くならば、我々は我々のルールで裁かせて頂きます。さっ、如何なされますか⁇」

 

笑顔で言うラバウルさんだが、物凄い気迫を発し、彼は圧倒されていた

 

「それとも、私と勝負するのが怖いと申されますか⁇」

 

「…今晩、9時に食堂だ」

 

「畏まりました。もし逃げたら…貴方の大切な物を頂戴致しますので悪しからず…」

 

「…出来損ない共が」

 

捨て台詞を吐き、彼は去って行った

 

「ホントにやるのか⁇」

 

「えぇ。お灸を据えなければなりませんからね…それとウィリアム」

 

ラバウルさんは隊長が出したカードを拾い、隊長の前に出した

 

「貴方の財産はいりません。私が欲しいのは…」

 

自身の親友であるラバウルさんに対し、隊長は久し振りに恐怖を感じていた…



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203話 ギャンブラーの仕返し(3)

夜9時…

 

「時間通りに来たのは褒めてあげましょう」

 

「この後は軍法会議だぞ」

 

「構いませんよ。さ、お座りに…」

 

薄暗い食堂の一席で、男二人の戦いが始まる

 

エドガーは珍しく咥え煙草をしながら、柄が全部”アイちゃんの顔”のトランプを切る

 

「もし不安なら、別のトランプをお使いになられますか⁇」

 

「構わん」

 

「そうですか…ポーカーはご存知で⁇」

 

「あぁ」

 

「ではポーカーで参りましょう…私はエドガー。貴方は⁇」

 

「高橋だ」

 

「それでは高橋、始めましょう。私、高橋…」

 

エドガーの手から、一枚、また一枚とトランプが配られて行く

 

「さぁ、どうぞ」

 

「二枚チェンジだ」

 

高橋は手札から二枚トランプを抜き、山札の上から二枚取る

 

「全部チェンジで」

 

エドガーは手札全てを捨て、山札から五枚引く

 

「さ。貴方の番ですよ」

 

「これで構わん」

 

「本当に良いのですか⁇」

 

「あぁ」

 

「後戻りは出来ませんよ⁇」

 

「構わん」

 

「では、手札をお見せ下さい」

 

「フルハウスだ」

 

「なるほど…良い手ですね…」

 

ダイヤの3のスリーカードと、ハートの2のワンペア

 

「手堅く、そして強い。まるで貴方の様です」

 

「貴様も早く見せたらどうだ」

 

「と…その前に。このゲームのベットをご存知で⁇」

 

「なんだ⁇金か⁇ハッ‼︎所詮は傭へ…」

 

机の隅がライトで照らされる

 

「言いましたよね。全財産だと」

 

「いつの間に‼︎」

 

高橋のクレジットカードがそこに置かれていた

 

「もし降参なさると言うのならば、降参後に簡単なお仕事を二つ申し上げます」

 

ダラダラと脂汗を流す高橋を前に、ラバウルさんは薄っすら目を開ける

 

「うぐ…」

 

「さぁ…全財産か、降参か…二者択一です」

 

「…降参だ」

 

その目と賭けられたものに怖気付いたのか、高橋は根を上げた

 

「ま。それも良いでしょう…」

 

「降参の条件とは何だ」

 

「簡単ですよ。貴方の横にいる子に、キチンと謝罪を申して下さい」

 

高橋の両サイドが照らされる

 

「ひっ‼︎いでで‼︎」

 

「おりゃおりゃおりゃおりゃ‼︎ひとみちゃんのさいこおかえしぇ‼︎」

 

「おりゃおりゃおりゃおりゃ‼︎」

 

ひとみといよは高橋のスネをポカポカ叩き始めた

 

「わ‼︎悪かった‼︎遊んでいただけだったんだな‼︎」

 

「さいこおしゃんかえしぇ‼︎おりゃ‼︎」

 

「いでっ‼︎」

 

「こえれもくあえ‼︎うりゃ‼︎」

 

「あだっ‼︎」

 

二人は最後に高橋の膝に可愛い正拳突きをし、机の下を通ってラバウルさんの足にピッタリ抱き着いた

 

「おあった‼︎」

 

「あたたたちた‼︎」

 

「良い子です」

 

「もう一つは何だ」

 

「此方が指定しますので、壊したサイコロより上級なサイコロを、この子達に返して上げて下さい」

 

「分かった…それ位なら構わん」

 

「では、これでお開きにしましょう」

 

勝負が終わったラバウルさんはそそくさとトランプを片付け始めた

 

「何でしょう⁇」

 

「あんたの手は何だったんだ」

 

「知りたいですか⁇」

 

「あぁ」

 

「ふふ…畏まりました」

 

ラバウルさんは自身の手札を高橋の前に置いた

 

「う…」

 

エース四枚とジョーカーのファイブカードが、高橋の目の前に置かれる

 

菱型のイヤリングを強調するアイちゃん

 

三つ葉のクローバーを咥え、ウインクするアイちゃん

 

胸の前で手でハートを作るアイちゃん

 

オモチャの槍を持ったアイちゃん

 

そして、舌を出しているアイちゃん

 

「降参して正解でしたね」

 

「たかあちさいなあ〜‼︎」

 

「いのちびおいちたな‼︎」

 

トランプを内ポケットにしまい、いよを肩車、ひとみを抱っこした後、食堂を出た

 

数日後、高橋にダイヤモンドと純金で出来たサイコロの明細が届くのは知る由も無い

 

 

 

 

 

「ひとみちゃん。好きな数字は何ですか⁇」

 

「さんといち‼︎ひとみのおなまえ‼︎」

 

「なるほどなるほど…それっ‼︎」

 

基地に帰る少し前、ラバウルさんとひとみといよは昨日と同じ場所でシートを引き、ラバウルさんが賽を四つツボに入れて数回振った後、ひとみといよの前に置いた

 

「一が二つ、三が二つです」

 

ツボを開けると、賽は一と三が二つずつ出ていた

 

「うぁ〜‼︎」

 

「すごい‼︎」

 

「次はいよちゃん。好きな数字は何ですか⁇」

 

「いちとよん‼︎いよのおなまえ‼︎」

 

「ふふっ、なるほど…では、次は少し凝ってみましょう‼︎」

 

再びツボに賽が入れられ、それを振った後、二人の前に置き、ツボを開ける

 

「に、ご、さん、よん」

 

「ばあばあ‼︎」

 

「足してみて下さい」

 

「につとごつで、ななつ」

 

「さんつとよんつれ、ななつ」

 

「ななつとななつで…じゅ〜よんつ‼︎あ‼︎いちとよん‼︎」

 

「正解です‼︎」

 

「ひとみ〜‼︎いよ〜‼︎帰るぞ〜‼︎」

 

「ぱぱしゃんら‼︎」

 

「ありがとござました‼︎」

 

「いえいえ、此方こそ。また遊びましょうね⁇」

 

ラバウルさんは、隊長に向かって行く二人を見て優しく微笑んだ後、シートと丁半セットを片付けた…



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204話 終の住処に住む”女”(1)

さて、203話が終わりました

今回のお話は、愛される誰かのお話です

新しい子も出て来ます

果たして誰なのか…

そして、私の他の作品も見て下さっている読者の方は、あっ‼︎となるかも知れません 笑


「おいしぃ〜なぁ〜‼︎」

 

「蟹…っ、ズワイガニッ‼︎食べずにはいられません‼︎」

 

「いっぱい食べるのよ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

この日、横須賀は急に手隙になった

 

丁度お昼時なので、暇そうにしていた谷風と親潮を連れて瑞雲に来た

 

親潮が両手で食べている横で、谷風はぎこちない箸の持ち方で、どちらかが向いた蟹を食べている

 

「美味しいです‼︎」

 

「おいし〜‼︎おか〜さん、ありがとう‼︎」

 

「ふふっ、い〜えっ‼︎」

 

丁寧に食べる親潮も好きだが、横須賀は谷風の様にほっぺたに食べカスを付けて本当に美味しそうに食べるのを見るのも好きだ

 

そして最近、横須賀は気付いた

 

レイといる時は食べる方が好きだけれど、子供達と食べている時は、それを眺める方が好きな自分がいる事を

 

「作り甲斐があるな」

 

「あら日向‼︎ごちそうになってるわ‼︎」

 

「日向さん、ありがとうございます‼︎」

 

「ありがと‼︎」

 

「ふふ…たんと食えよ」

 

日向は会話中に蟹の殻を回収し、また厨房へと戻って行った

 

 

 

 

「ごちそうさま〜‼︎」

 

「美味しかった…親潮、蟹が好きになりました‼︎」

 

「また連れて来てあげるわ。あ、それともレイが連れて来てくれるかな⁇」

 

「谷風、お父さんとみんなで食べたいなぁ〜‼︎」

 

「親潮もそう思いますっ‼︎」

 

谷風も親潮も満腹

 

横須賀はまだちょっと食べ足りない気もしたが、執務室にあるお菓子をパクついていれば小腹も満たされるだろう…

 

 

 

「そろそろ店仕舞いだな」

 

時刻は8時

 

平日のこの時間は、す〜ぴゃ〜マーケット以外は店を閉め始めている

 

日向は看板と暖簾を外し、厨房で簡単な片付けをした後、瑞雲を出た

 

手には自分で食べる用の数杯の蟹と氷を入れた発泡スチロールのケースを持ち、何人かが乗り合わせているマイクロバスに乗り、居住区へと帰る

 

「ありがとう」

 

正門で降ろされ、皆それぞれの自宅に向かう

 

「む」

 

一番最初にここに住み始めた艦娘の家の前に、誰が乗って来たかすぐ分かる4台のバイクが停まっていた

 

それに、カーテン越しの影を見る限り、鍋をつついているようだ

 

「奴等か…ふ…」

 

そのバイクを見た後、日向は微笑み、インターホンを鳴らした

 

「はいは〜い‼︎」

 

「やぁ」

 

出て来たのは、ほろ酔いのビスマルク

 

「あら日向‼︎アンタも上がって行きなさい‼︎」

 

「いや、良いんだ。蟹を持って帰って来た。鍋にそのまま突っ込んでやれば良い」

 

「ちょっと待ってなさい‼︎」

 

ビスマルクは一度家の中に入り、缶のお茶とビスマルクお手製のウインナーをいっぱい入れたビニール袋を持って来た

 

「これは帰りに飲んで、こっちは今日出来たてのウインナーよ‼︎ボイルするか焼いて食べなさい」

 

「ありがとう。晩はこれにしよう」

 

「今度は飲みに来るのよ‼︎」

 

「あぁ。上物の日本酒を引っさげて来る」

 

折角帰って来た四人を邪魔する訳には行かない

 

ビスマルクの家を開けた時に聞こえた声

 

ビスマルクの笑い方

 

ヤンキーが四人が来ているのだろう

 

内二人はここに想い人が居ると聞いた

 

まぁ、私も想い人がいるのだがな

 

お茶を飲みながら、自分の家に着いた

 

「お母さんおかえり‼︎」

 

白いワンピースを着た娘が迎えてくれる

 

「ただいま。お父さんはどうした⁇」

 

「お仕事してる‼︎」

 

「そうか。晩御飯作るの手伝っておくれ」

 

日向はエプロンを着け、台所に立った

 

「ウインナーだ‼︎」

 

「”大東”は肉好きだもんな」

 

「うんっ‼︎」

 

大きな鍋にボトボト投入されるビスマルクのオリジナルウインナー達を見て、娘は台の上に乗りながら鍋の中を覗く

 

「ビスマルクから貰ったんだ。たんと食えよ⁇」

 

「うんっ‼︎お父さん呼んでくる‼︎」

 

大東は仕事をしている旦那を呼びに行った

 

旦那はこの街で唯一の配送の仕事をしている

 

艦娘やこの居住区に住む人間が注文した品を自宅で請け負い、それを入荷する

 

外から入って来た物品の検査もしているので、中々の信頼はあると確信している

 

それに、旦那は元提督だ

 

基地が破壊された時、序でに提督を引退した

 

まぁ、それが一番の原因なのだが、何故引退したのかは私だけが知っている

 

それは墓場まで持って行く…

 

「おっ‼︎今日はウインナーか‼︎」

 

「あぁ。ビスマルクに貰ったんだ。それと、空軍の四人が遊びに来ていた」

 

「マーカスはいるのか⁇」

 

旦那が大東に前掛けを付けながら話して来た

 

「あぁ。あの話し声ならいるだろう」

 

「マーカスとアレンには結構世話になってる。それと、二人の友達のミハエル」

 

「あの二人は破天荒だが、彼等がいなければ私達の安息もなかっただろう。さぁ、頂こうか」

 

「頂きます‼︎」

 

「いただきま〜す‼︎」

 

気が付けば、私は母になっていた

 

産まれて来た子も、もう幼稚園児

 

艦娘になって、ここまで来るのはあっと言う間だった気もする

 

戦うのも好きだが、旦那と出会って、私は女だと言う事を思い出した

 

頼られる事が多くなる中、当時から今も変わらず、良い意味でも悪い意味でも、旦那は私を一人の女性として扱ってくれた

 

だから、私は旦那に着いて来た

 

どうやら間違いはなかった様だ

 

朝は一人の母親

 

昼は蟹鍋店の女店主

 

夜は女になる

 

まぁ、そうなるな

 

ふと昔を思い出していると、旦那の横で大東がご飯をポロポロ零し、前掛けを汚している

 

「大東はお友達出来たか⁇」

 

「うんっ‼︎佐渡ちゃん‼︎」

 

「ほぅ⁇どんな子だ⁇」

 

「あのね‼︎口ず〜っと、イーッ‼︎ってしてる子‼︎最近来たんだ‼︎」

 

「そうか。仲良くするんだぞ」

 

「うんっ‼︎」

 

ご飯を食べた後、大東は旦那と風呂に入った

 

その間に布団を敷き、食器を片付ける

 

片付け終わった後、大東の幼稚園鞄を開け、明日の準備をする




佐渡ちゃんは誰の子なのかな⁇

次は多分、そんなお話です


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204話 終の住処に住む”少女”(2)

題名がピッとだけ変わってますが、前回の続きです

当てられるスポットが日向から大東に変わります


「チリ紙、ハンカチ、入れたな」

 

最後に先生からの報告手帳を見る

 

”今日は元気にお外で遊んでいました

 

ここ最近、編入した佐渡ちゃんと言う子と仲良く遊んでいます”

 

「ふふ…」

 

どうやら大東が言った事は本当の様だ

 

「ぎゅーにゅーぎゅーにゅー」

 

風呂から上がった大東は、旦那に冷蔵庫から牛乳を取って貰い、自分のコップに入れて両手で持って飲んでいる

 

「さぁ、大東。もうおやすみの時間だ」

 

「おやすみー」

 

大東を布団に寝かせた後、私も風呂に入る

 

後は旦那が絵本等を大東に読み聞かせてくれる

 

「ふぅ…」

 

湯船で一日の疲れを癒す

 

この疲れも良いもんだ

 

元帥は毎日午後に必ず時間を取り、決められた曜日の、決められた店に視察に来る

 

その時、元帥は必ず店の一番高い物を頂かれる

 

艦娘達や提督は無料だ

 

あの元帥の事だから、どうせ無料なら一番高い物を食べよう…そういう魂胆だと思っていた

 

だが、元帥は視察の際、毎回必ず代金を支払う

 

今日も支払ってくれた

 

私が思っていたより、遥かに良い提督だと思う

 

視察で店員の行動と客の出入り等をシッカリと確認され、それに応じた給金を払ってくれる

 

あまり売上が好調で無い日も、それなりの給金をくれる

 

言動は私から見ても、マーカス大尉が言っている様に、中々チャランポランだ

 

だが、行動力の高さと速さ、人望の厚さ、そして気風の良さは私の知る限りトップクラスに入る

 

あれだけ大人数…エースパイロットの所属する部隊、腕利きの海軍…それらを引き抜いて、自分の元に置いておくのは並大抵の努力と資金では出来ない

 

「ん…」

 

考えたらのぼせてきた

 

上がろう

 

脱衣所で体を拭き、苺柄のパジャマに着替えてリビングに戻って来た

 

「お疲れ様、日向」

 

「貴方こそお疲れ様です…大東は寝ましたか⁇」

 

「寝たよ。随分と遊んで来たみたいだ」

 

「そう…貴方もお遊びになりますか⁇」

 

「ん⁇そ、そうだな…」

 

”旦那と二人きり”になる時、私は女に変わる

 

夜中は抱かれる時もあれば、抱く時もある

 

どちらの時も、旦那は私を愛してくれる

 

変わったと言うのなら、もう襲われる事が無くなった事位だ…

 

 

 

 

 

 

「みほよ。毎日すまんな」

 

「気にしないで‼︎行き道だし、一緒の幼稚園だから‼︎」

 

「大東。みほに失礼のない様にな」

 

「うんっ‼︎」

 

みほと手を繋いだ大東の服の襟を整える

 

「よしっ、行って来い」

 

「行って来ま〜す‼︎」

 

みほは学校

 

大東は幼稚園に向かう

 

因みに学校から幼稚園は一本道の同じ通りにある

 

「また夕方ね⁇」

 

「うんっ‼︎ありがとうみほちゃん‼︎」

 

みほと別れ、大東は幼稚園に来た

 

幼稚園の園児はまだまだ少ない

 

全員合わせても、10人と少し

 

先生は入れ替えで常時四人いる

 

園児三人に一人は先生がいる計算だ

 

「オッス大東ちゃん‼︎」

 

「あ‼︎佐渡ちゃん‼︎おはよう‼︎」

 

綺麗な歯を見せながら現れた女の子

 

この先、大東と一生の友達になる佐渡である

 

この幼稚園にいるという事は、佐渡の親も海軍の関係者

 

一体誰の子なのか…



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204話 終の住処に住む”少女”(3)

「は〜い‼︎おはようございま〜す‼︎」

 

「飛鷹せんせ〜だ‼︎」

 

いつの日かパラオで救出された飛鷹がそこにいた

 

飛鷹も無事に居住区へと辿り着いたのだ

 

「今日はおえかきをしましょうね〜」

 

大東と佐渡にクレヨンと画用紙が配られ、先に書き始めたのは佐渡の方

 

大東も少し遅れてクレヨンを取り、絵を描き始めた

 

「大東ちゃんは何描いてるのかな⁇」

 

「お母さんとかにさん‼︎」

 

「そっかそっか‼︎佐渡ちゃんは⁇」

 

「にしし…瑞雲‼︎」

 

佐渡の手には緑色のクレヨンが握られている

 

「瑞雲好きなんだ‼︎なんでも出来んだぜ‼︎」

 

「瑞雲は強いものね〜。分かるわ‼︎」

 

「お母さんのお店と一緒の名前だ‼︎」

 

「マジか‼︎大東ちゃんのお母さんも瑞雲好きか‼︎」

 

「うんっ‼︎カニ鍋のお店してるの‼︎」

 

「ふふっ」

 

楽しそうに話す二人を見て、飛鷹先生は他の子達の様子も見る

 

おえかきが終わると、お弁当の時間

 

大東はおにぎり二個と昨日のウインナー数本と、ちょっとした野菜

 

佐渡は日の丸弁当とポテトと唐揚げ

 

容量は小さいが、どっちも美味しそうだ

 

佐渡も大東も自分に似合うお箸が無いので、子供用のフォークでお弁当を食べ始めた

 

「うまうま‼︎」

 

「ぱくぱく‼︎」

 

佐渡も大東も、ほっぺたに食べカスを付けながらお弁当を食べる

 

お弁当の時間が終われば、夕方まで自由時間

 

佐渡と大東は、いつも決まって外で遊ぶ

 

「ぶいんぶい〜ん‼︎」

 

「どどどどど‼︎」

 

「あらあら。また航空機のオモチャで遊んでる」

 

学校が終わったみほが来た

 

佐渡は瑞雲の模型、大東は強風の模型を持ち、その辺を走り回っている

 

「みほ先生。後をお願いしても良いですか⁇」

 

「えぇ。代わるわ」

 

飛鷹先生が帰り、先生がみほに代わる

 

「ん⁇」

 

佐渡と大東を見ていると、門の所で数人の園児が固まっているのが見えた

 

男性二人が缶ジュース片手に、門越しの園児達に何か配っている

 

「ちょっと‼︎何してるの‼︎」

 

「ヤバい‼︎」

 

「撤☆退‼︎」

 

男性二人はみほを見るなり、そそくさと逃げようとした

 

「待ちなさい‼︎」

 

「うわっ‼︎」

 

「うはっ‼︎」

 

みほは門を開け、男性二人の首根っこを掴んで戻って来た

 

「俺達は悪くない‼︎」

 

「さっきゲーセンで取ったお菓子上あげただけだ‼︎」

 

「あーーーっ‼︎」

 

佐渡が瑞雲片手に声を上げた

 

「あ、あ、あのあの‼︎さささサイン下さい‼︎」

 

「ほほぅ⁇俺達の事を知ってるご様子で⁉︎」

 

「マーカスさんとアレンさん‼︎」

 

「え…」

 

確認しないままひっ捕らえたので、みほは顔を見ていなかった

 

「た、大尉‼︎失礼しました‼︎」

 

みほはすぐに手を離した

 

「いやぁ、これでこの幼稚園は安全だと分かったな」

 

「うぬっ‼︎」

 

「ああああのあの‼︎さささ佐渡、二人の飛行機見て、その…」

 

「ははっ‼︎緊張しなくて良いぞ⁇俺達の飛ぶ所見てくれたんだな⁉︎」

 

「は、はいっ‼︎」

 

「瑞雲の一二型か…見せてくれるか⁇」

 

佐渡はオモチャの瑞雲をレイに渡した

 

「君は強風か」

 

「あ、はい…」

 

「日向の娘さんよ⁇」

 

「そうかそうか‼︎いつも日向に食わして貰ってるから、君にもお礼をしなきゃな‼︎」

 

大東はアレンに強風を渡す

 

「二人共、暇⁇」

 

みほがにやけ顔で二人を見る

 

「分かったよっ」

 

「隊長には内緒だからな⁉︎不審者で捕まったとか恥ずかしい‼︎」

 

「ふふっ、いいわよっ‼︎」

 

結局、大尉二人はほとんどの園児が帰るまで見てくれた

 

レイはこう見えて保育士の免許を持っている

 

ここにいても、何ら不思議ではない

 

残ったのは大東と佐渡の二人

 

二人共遊び疲れたのか、大東はアレン、佐渡はレイの膝で眠っている

 

「あらあら…遊び疲れたのね⁇」

 

「二人共良い子だ…」

 

子育て経験のある二人は、子供をあやすのが本当に上手い

 

普段ワンパクな二人がスコンと寝てしまった

 

「すまない。迎えに来るのが遅れた」

 

「日向ね。大東ちゃん。お母さんが来たわよ‼︎」

 

「ん…」

 

「大尉⁇」

 

「よっ」

 

「これは申し訳無い事を…」

 

「気にすんな。これも視察の一環さっ」

 

アレンから大東を受け取り、日向は深々と一礼して帰って行った

 

「そういや、佐渡の親は誰なんだ⁇」

 

「みほ先生‼︎ありがとう‼︎」

 

「ちょうど来たわ‼︎」

 

現れたのは飛鷹

 

実は飛鷹、艦娘を引退した後、パイロットの一人と繋がり、佐渡を産んでいたのだ

 

母親からレイやアレンの話を聞いていたのなら納得する

 

「ま、マーカス大尉‼︎その節はお世話になりました‼︎」

 

飛鷹はレイを見掛けた途端に、ビシィ‼︎と敬礼をする

 

「敬礼は無しだ。良い子だな…よいしょ」

 

「あら、知り合い⁇」

 

「大尉と大佐にはパラオの一件で救出して頂いて…」

 

「そうだったの…ふ〜ん⁇」

 

みほとアレンがにやけ顔でレイを見る

 

「今は幸せか⁇」

 

「はいっ‼︎今は旦那も佐渡も居て…この飛鷹、幸せです‼︎」

 

「んっ‼︎よかったよかった‼︎」

 

「では、失礼いたします‼︎大佐によろしくお伝え下さい‼︎」

 

「達者でな」

 

飛鷹と佐渡が帰り、園児は居なくなった

 

「さっ、お二人さん‼︎ケーキ食べましょ‼︎」

 

「おっ‼︎美味そうだな‼︎」

 

「いっただきまぁ〜すぅ‼︎」

 

二人はみほの焼いたカップケーキとお茶を飲みながら、みほと他愛ない話を繰り返す

 

 

 

 

こうして、居住区の一日が終わる

 

そこは、彼女達にとっての終の住処

 

番を持ち、子を産み、家族や友人と過ごし、いつかそこで幕を閉じる

 

暗く冷たい深海ではなく、今度は暖かいベッドで眠りながら、明日はどうしようかと優しい悩みをしながら夢を見る

 

 

 

そして、いつの日か誰かがこう言う…

 

ここは、私達の”シャングリラ”だと…




今回は日向一家でしたが、またいつか別の家庭にスポットを当てるかもしれません


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205話 みんなの学舎(1)

さて、204話が終わりました

今回のお話は学校のお話です

あまぎりとさぎりの担任は誰なのか…

また少し、学校の仕組みも明らかになります


「何よ‼︎」

 

「文句あるわけ⁉︎」

 

「うぎぎぎ…」

 

「ぐぬぬぬ…」

 

昼間から誰かが喧嘩している

 

それを見て、俺は笑っていた…

 

 

 

ここ最近、ジャーヴィスの成長が目に見えて速い

 

CMを見て喋り出したと思えば立って歩き出し

 

何処かぎこちないが、ちゃんとした言葉を話し始めた

 

「”ダーリン”‼︎」

 

俺の事を”ダーリン”と呼び、清霜並に飛び着いてくる

 

「何してるノ〜‼︎」

 

「明日の学校の準備さっ」

 

明日は子供達は学校の日

 

俺は横須賀とデート…

 

でもしたかったのだが、視察になりそうだ

 

「ジャーヴィス。リュックサック作った」

 

グラーフ特製の頑丈で可愛いリュックサックを見て、ジャーヴィスの目が輝く

 

チョロチョロ動き回るジャーヴィスが動き易い様に、ゆったりとしたリュックの紐がポイントだ

 

「ジャーヴィスにくれるノ⁉︎」

 

「みんなとお揃い」

 

「ありがと〜‼︎何入れよっかナ〜‼︎」

 

グラーフにリュックサックを貰ったジャーヴィスはご満悦

 

「ジャーヴィスもガッコー行ってみたイ‼︎」

 

リュックサックを抱っこしたまま、ジャーヴィスは母さんの前に座った

 

「学校では給食と言って、美味しい物を食べさせてくれるのよ⁇」

 

「ジャーヴィス、タカコサンのご飯がイイ」

 

「嬉しい事言ってくれるじゃない…」

 

貴子さんは自身の料理を褒められてご満悦

 

「でも、ちゃんと座ってお話聞くのよ⁇」

 

「分かっタ‼︎」

 

「良い子ね」

 

ジャーヴィスは早速リュックサックにクレヨンやら鉛筆を入れ始めた

 

明日はジャーヴィスも連れて横須賀に向かう事になった

 

 

 

 

次の日、今日は大人数なので秋津洲タクシーを呼んだ

 

「お空飛んでル〜‼︎」

 

「ちゃんと座ってないと怪我すんぞ⁇」

 

「カモメさんダ‼︎」

 

あまぎり、さぎり、たいほうの三人も乗せ、学校に向かう

 

「ここはこうして…」

 

「こう⁇」

 

「そう」

 

さぎりとたいほうは大人しく折り紙をしている

 

「でも良いのか⁇私達まで学校行かせて貰って…」

 

あまぎりは俺の横で要らぬ心配をしている

 

「俺みたいに中卒以下の学歴にはなって欲しくないんだっ‼︎俺みたいになりたいか‼︎」

 

「たいほうなりたい‼︎」

 

「私もです‼︎」

 

「私もだ‼︎」

 

「ジャーヴィスモ‼︎」

 

「お、おぉ…」

 

こう肯定されると悪い気はしないが、今は違う

 

「い、いいか⁉︎日本って言う国は学歴社会なんだ‼︎就職するには学歴がいる‼︎それに免許だっている‼︎」

 

「それで私達を学校に⁇」

 

「そんな所さ。俺はまともに学校に行った事が無い…小学校もな」

 

「…何かゴメンな⁇」

 

マズイ事を聞いてしまった…との顔になっているあまぎりの肩を寄せ、耳元で囁いた

 

「…給食って美味いらしいぞ」

 

「…配給の食事みたいなモンか⁇」

 

「…もっと美味い」

 

「…マジか」

 

「…マジだ」

 

あまぎりはこう言った対応が通じるので話が楽だ

 

まるで小さいアレンを相手にしている様な感覚で接していられる…

 

正直な話、学校に行ってみたいと言う気はある

 

先生がどんな授業をするのか、生徒とどんな話をするのか…

 

俺は何も知らない

 

だからこそ、この子達には少しでも学ばせてやりたい…



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205話 みんなの学舎(2)

俺が結構真面目な考えをしている時、横須賀の学校内の給食室では…

 

「ほ〜れほ〜れ‼︎もっと美味しくなるんダズル‼︎」

 

「ニムーッ‼︎フーッ‼︎ニムーッ‼︎フーッ‼︎じっくりーッ‼︎フーッ‼︎コトコトッ‼︎フーッ‼︎ニムーッ‼︎」

 

「HAGYYYYYYYYYYYYY‼︎」

 

榛名は大釜でシチューを混ぜ

 

ニムはその下で竹筒で火に酸素を送り

 

HAGYは高速で野菜を切り、大釜へと放り込んで行く

 

「よーし‼︎お米炊くダズル‼︎」

 

「ニムッ‼︎」

 

「よい…しょっ‼︎」

 

榛名は米一俵を両肩にそれぞれ持ち、ニムとHAGYは一人一俵を持ち、炊事場に戻って来た

 

「うおりゃ‼︎」

 

「ザバァー‼︎」

 

「どざぁー‼︎」

 

二つ目の大釜に四俵のお米が投入される

 

「棒持ったダズルか⁉︎」

 

「持ったニム‼︎」

 

「持ちました‼︎」

 

三人は大釜の縁に立ち、手にした棒をお米の海に突っ込んだ

 

「よ〜し‼︎注水開始ダズル‼︎」

 

榛名が蛇口を捻ると、大量の水が出て来た

 

「え〜んや〜」

 

「こ〜ら〜」

 

「ぐるぐる〜」

 

三人は大釜の縁をぐるぐる回り始めた

 

毎回こうしてお米を研いで行くのだ

 

「真っ白けっけダズル」

 

数分もしない内に、大釜の中はお米のとぎ汁でお米が見えなくなっていた

 

「排水開始ニム‼︎」

 

「そりゃ‼︎」

 

HAGYが下に降り、大釜の下の栓を抜く

 

すると、大量のお米のとぎ汁が排出される

 

「排水完了‼︎キャップOKです‼︎」

 

「注水開始ダズル‼︎」

 

これを後二回ほど繰り返すと、先程のシチューの様に火に酸素を送る作業に入る

 

三人で交代しながらお米を炊いて行く

 

「ブフォーーー‼︎」

 

榛名が酸素を送り込む度に、火は強火になる

 

「よ〜し。しばらくはこれ位の火で十分ダズル」

 

「休憩するニム‼︎」

 

「はいっ‼︎どうぞ‼︎」

 

HAGYの作ったお茶を飲みながら、しばらくは雑談に入る

 

「この前テレビで見たニム。世の中には口噛み酒と言うのがあるらしいニム」

 

「口ん中入れて、オゲーって出して、放置したら出来るんダズル」

 

「限定品として横須賀で出したら売れそうですね⁇」

 

「んなケッタイなモン売れんダズル」

 

「ダズルの口噛み酒なんか絶対飲みたくね〜ニム‼︎いでっ‼︎」

 

ニムのつむじにゲンコツが落とされる

 

「だったらオメーがするんダズルニム‼︎ほ〜れ、ここに米はあるダズル‼︎」

 

「わ、悪かったニム‼︎」

 

榛名とニムが仲良く言い争う中、外が騒がしくなって来た

 

「子供達が来られましたね⁇」

 

「さ、もう一仕事ダズル」

 

「後はリシュリューのイカフライニム‼︎」

 

三人はまた、給食作りに戻る…

 

 

 

「マーカスサン、オハヨウゴザイマス‼︎」

 

「んっ、おはよう。いつもありがとなっ」

 

膝を曲げ、谷風の一番最初の友達の、イ級のイーサンの頭を撫でる

 

「お父さんおはよう‼︎」

 

「おっ‼︎谷風おはよう‼︎」

 

「イーサンおはようさん‼︎」

 

「オハヨウ‼︎マーカスサン、イッテキマス‼︎」

 

「行って来ま〜す‼︎」

 

「いっぱい勉強して来いよ‼︎」

 

谷風は俺に一瞬だけ抱き着いた後、イーサンと共に学校に入って行った

 

「ジャーヴィスちゃんも学校行くのね⁇」

 

俺がイーサンと谷風を見送る横で、横須賀がジャーヴィスの身嗜みを整えてくれていた

 

「ウンッ‼︎ジャーヴィスもガッコー行ってみたいノ‼︎」

 

「そっ。美味しい給食があるから、楽しみにしてなさい⁇」

 

「いて来ま〜ス‼︎」

 

「まつわ、ボーちゃん。ジャーヴィスを頼んだぞ⁇」

 

《うんっ‼︎》

 

”o(`ω´ )b”

 

まつわとボーちゃんも見送り、あまぎりとさぎりが残った

 

「私達も行って来るぜ‼︎」

 

「行って参ります」

 

「先生に宜しくな。先生にイチャモン付けられたら、マーカスを呼ぶぞって言っとけ」

 

「ははは‼︎オーケー‼︎」

 

「畏まりました‼︎」

 

あまぎりとさぎりも学校に向かう

 

「対照的ね⁇」

 

「どっちも良い子さっ。んで⁇今日はどうする⁇」

 

「学校の中等部の視察で終わりそうよ」

 

「そんな重大な事か⁇」

 

横須賀は無言で頷いた

 

「今日の給食当番、榛名よ」

 

「給食はシチューか」

 

「お昼から榛名は中等部の監視よ」

 

「榛名がか⁉︎榛名が監視って相当…まさか‼︎」

 

「そのまさかよ。ヤマシロが先生よ」

 

「急いだ方が良いな」

 

「えぇ。行きましょ」

 

俺達は学校の中等部へ急いだ

 

 

 

 

学校は四段階に分かれている

 

園児部

 

初等部

 

中等部

 

高等部

 

この四段階だ

 

初等部は小学校低学年の勉強

 

ほとんどの子がここに所属している

 

中等部は小学校高学年の勉強

 

あまぎりとさぎりがここに所属している

 

高等部は中学校の勉強と、ほんの少しだけ専門的な事を学ぶ

 

横須賀の艦娘の一部がここに所属している

 

園児部は俗に言う幼稚園

 

まつわとジャーヴィスがここにいる

 

おえかきをしたり、先生の紙芝居を聞いたりして、発想豊かな子になるのを目指している

 

この学校では人の話を聞く力を伸ばしたり、想像力を高めるのを目的としている

 

難しい勉強はあまりしないが、他の基地の子と親しみ、社交性を付けるのも目的だ

 

そんな所に、あのヤマシロが来たのだ

 

「失敗だったらどうする⁇」

 

「子供に変な知識を植え付けたり、見捨てたりしない限りはこっちも見捨てないさ」

 

とは言いつつ、手は腰に行っている

 

「ここよ」

 

「どれ…」

 

教室の入り口の窓から、教室内を眺める

 

「じゃあここは…そうね、あまぎりさん。あまぎりさんはどう思うかしら⁇」

 

「キツネは罪滅ぼしをしたいんだと思う。沢山果物やら魚を持って来て、ホントは謝りたいんだと思う」

 

「正解よあまぎりさん。貴方は読解力が豊かね⁇」

 

「へへっ…」

 

褒められたあまぎりは嬉しそうに鼻の下を人差し指で掻いている

 

ヤマシロも満更ではなさそうに微笑んでいる

 

「…案外良いんじゃない⁇」

 

「…だな」

 

監視を続けるも、特にヤマシロに変わった様子は無い

 

それどころか、教えるのも褒めるのも上手い位だ

 

「午前の授業はこれ位にしましょうか。さっ、お楽しみの給食ね⁇」

 

「給食…レイさんが言ってた奴か‼︎」

 

教材をまとめたヤマシロは、少しだけ微笑みながら教室を出ようとした

 

「お疲れ様ね⁇」

 

「ジェミニさん。それとマーカスさん」

 

ヤマシロが此方に気付いた

 

「いつの間に復活したんだ⁇」

 

「内緒よ。女は秘密が多い程面白いでしょう⁇」

 

「まぁなっ…」

 

「心配しないで。もう変な気は起こさないわ」

 

「なら良いけど…」

 

「私、気付いたの…」

 

ヤマシロはポツポツ話し始めた

 

「カプセルの中で考えたわ…心酔していた彼が悪だったって…私、教員生命を捨てて、生徒まで売って、彼に着いて行こうとしたの」

 

「まっ…愛は人それぞれだからな」

 

「その彼は何処にいるの⁇」

 

横須賀の質問に、ヤマシロは首を横に振った

 

「彼は人からも深海からもタブーの存在だった…結局、居場所が無くなってひっそりと死んだわ。私が深海化出来るだけの装備を遺して…」

 

ヤマシロの言葉を聞き、俺は左手を背中側に隠した

 

「もし貴方が産まれ変わりたいって願うのなら、ここには新しい恋だって転がってるかも知れないわよ⁉︎」

 

「そうかしら…」

 

「見た所、まぁまぁの美人だしな⁇」

 

「勿体無いわよ⁇」

 

「…頑張ってみる」

 

ヤマシロは教材で顔を隠しながら職員室に向かった

 

「アンタの言う通りかもね」

 

「何がだ⁇」

 

「私達次第で、気を改めるって事よ。さっ、今の内に他の部へ行きましょ」

 

横須賀の後を着いて行く形で、園児部へ向かう



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205話 みんなの学舎(3)

「わぁ‼︎美味し〜イ‼︎」

 

”(о´∀`о)”

 

園児部も給食の時間

 

ジャーヴィスは初めての給食を食べ、まつわはボーちゃんに給食を食べさせている

 

「ジャーヴィスこれ知ってル‼︎シチュー‼︎」

 

《にんじんさん、たまねぎさん、とりにくさんもあるね‼︎》

 

「美味しいね‼︎マツワー、ボーチャン‼︎」

 

そんな三人の様子を、窓の外から眺める

 

「ご満悦みたいだな⁇」

 

「榛名のシチューは美味しいからね⁇」

 

「ん⁇あの子は⁇」

 

大体は把握してるつもりだが、一人見慣れない子が居た

 

前掛けをした丸い顔の女の子だ

 

保母さんである軽巡洋艦”由良”にシチューを食べさせて貰っている

 

ひとみといよくらいに小さい

 

「吹雪はちゃんと食べてリュー⁇」

 

「リシュリュー」

 

給食作りを終えたリシュリューが来た

 

「そうか‼︎榛名が保護した子か‼︎」

 

「そうだリュー‼︎吹雪は最近離乳食を食べ始めたんだリュー‼︎」

 

「はは‼︎そうかそうか‼︎」

 

一生懸命シチューを食べ、口元を汚す吹雪やジャーヴィス達を見て、三人の顔が綻ぶ

 

「マーカスさん、ジェミニさん。検食お願いしたいリュー」

 

「ん。分かったわ」

 

「普通先じゃないのか⁇」

 

と、半笑い気味でリシュリューに着いて行く

 

「ちゃんとした検食は校長のあきつ丸先生にお願いしてるんだリュー。マーカスさんとジェミニさんは美味しさ探求の検食だリュー‼︎」

 

「なるほどな…」

 

職員室に着くと、榛名とニムとHAGYが居た

 

「ちょっとコクが足んね〜ダズル」

 

「鶏肉の味は中々良いニム。今度は牛肉にするニム」

 

「野菜の量を少なめにして、肉を多めにしますか⁇」

 

「栄養のバランスと味のバランスは難しいダズルな…」

 

三人共メチャクチャ真面目にシチュー談義をしている

 

「おぉマーカス、ジェミニ。これ食うんダズル」

 

「美味しいニムよ‼︎」

 

「中々力作ですよ‼︎」

 

榛名にシチューを貰い、適当な席に座って食べてみた

 

「相変わらず美味いな…」

 

「鶏肉の味が効いてて美味しいわ‼︎」

 

「ふふふ…満足したなら充分ダズル」

 

「これで提督さんにももっと美味しいシチューを食べさせてあげられますね‼︎」

 

俺と横須賀がシチューに舌鼓を打つ横を、ヤマシロが通り過ぎようとした

 

「マーカスさん。これ、甘いキャンディです」

 

「お。サンキュー」

 

ヤマシロに紙包みのキャンディを貰い、シチューの皿を手近な机に置き、それを食べた

 

「ん⁇」

 

キャンディの包み紙を捨てようとしたが、中に何か書いてあるのに気が付き、開けて見た

 

”一人、虐待を受けてる子がいるの。調査してくれませんか?

 

昼からの視察の際にお教えしますので、授業参観としていらして下さい”

 

「レイ‼︎レイってば‼︎」

 

「ん⁉︎あぁ」

 

「お昼からは榛名に任せましょう⁇私達は園児部で…」

 

「悪い。あまぎりに様子見に来いって頼まれてんだ‼︎ちょっとだけ抜ける」

 

「そっ。なら、園児部で待ってるわ」

 

「んじゃ行くダズル。ニム、ハギィ。お皿洗い頼むんダズル」

 

「頑張るニム〜」

 

「生徒を叩いちゃダメですよっ⁇はいっ、行ってらっしゃい‼︎」

 

「んっ‼︎」

 

榛名はHAGYに身嗜みを整えて貰い、俺と共に中等部へ向かう

 

 

 

「では皆さん、座右の銘を考えましょうか」

 

中等部は道徳の授業

 

「ヤマシロは授業は上手いんダズルよ…」

 

「褒め上手だからな…」

 

再び窓の外からヤマシロの様子を見る

 

それでも俺の手は腰

 

榛名は左手の振袖に右手を入れて臨戦態勢

 

「さっき飴ちゃんの包み紙見てたダズルな」

 

「一人虐待を受けてる子がいるらしい」

 

「それはいかんダズルな」

 

二人で話していると、ヤマシロがこちらに来た

 

「どうぞ」

 

「ありがとう」

 

「邪魔するダズル」

 

榛名が先に中に入り、少し遅れて中に入ると、ヤマシロが耳打ちして来た

 

「…頭にドーナツが付いてる子よ」

 

「…ドーナツ」

 

何気ない仕草のまま、ヤマシロはそのまま教壇に戻った

 

「さぎりさんはどうかしら?」

 

「私は一日一善です‼︎」

 

「んじゃあ私は一汁三菜だな」

 

あまぎりが冗談で答えた

 

「健康的な生活で案外オススメよ⁇」

 

「お…あ、あぁ…」

 

その答えにもヤマシロは怒らず返す

 

ホントに上手いんだな…

 

「さて…」

 

探すは頭にドーナツを付けた子

 

そんな特徴的な子、すぐに見つかった

 

「あの子か…」

 

クリーム色の髪の毛に、頭の両サイドにドーナツを付けた子がいた

 

問題は無さそうだが、ちゃんと確認しなければならない

 

子供達の勉強を確認するのと同時に、ドーナツちゃんにゆっくりと近付く

 

「何よ」

 

ドーナツちゃんと目が合った

 

「捗ってるか⁇」

 

「ふんっ‼︎」

 

ドーナツちゃんはそっぽ向いた

 

そして、そっぽ向いた瞬間に左の首元に傷が見えた

 

良い証拠だ

 

ドーナツちゃんにはそれ以上触れず、他のところにも回る

 

「ロクサーヌはどうだ⁇」

 

「ハイ‼︎」

 

ロ級のロクサーヌの座右の銘は”無知は恥ではない。新しい事を知れるチャンス”と書かれている

 

「素晴らしい考えだな」

 

「エヘエヘ…」

 

ロクサーヌを撫でた後、教室をグルッと一周して、元の教室の後ろに戻って来た

 

「榛名」

 

「何ダズル」

 

「保健室にいるから、ヤマシロに頼んであのドーナツを連れて来てくれ」

 

「オーケーダズル」

 

榛名を教室に残し、俺は保健室に向かった

 

 

 

 

「吹雪、あ〜んよ⁇」

 

横須賀は園児部で吹雪にゼリーを食べさせていた

 

横須賀からゼリーを食べさせて貰う吹雪は、前掛けも口元もドロドロに汚しながら、一生懸命口を開けてゼリーを食べる

 

「は〜い、上手よ〜‼︎い〜こい〜こ〜‼︎」

 

褒める横須賀を見つめながら、吹雪は口をモグモグ動かす

 

「お口フキフキするんだリュー」

 

リシュリューに口周りを拭いて貰い、前掛けを外す

 

「お姉さんに抱っこさせてね〜」

 

吹雪を抱っこした横須賀は、背中を軽く叩く

 

「けふ…」

 

「ちゃんとゲップ出来たわね〜」

 

「赤ちゃんの扱い上手いリュー‼︎」

 

「伊達に何人も育ててないわよ⁇」

 

そんな吹雪だが、普段からリシュリューを見ているのか、横須賀に抱っこされていてもリシュリューの顔を見ている

 

「ほ〜ら吹雪‼︎リシュリューだリューって‼︎」

 

吹雪はその丸い顔でリシュリューをジーッと見つめる

 

「リシュリューだリュー‼︎よいしょ…」

 

リシュリューに吹雪を渡し、横須賀はまつわとジャーヴィスの所に来た



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205話 みんなの学舎(4)

「ジャーヴィスとまつわは何してるの⁇」

 

「おえかキ‼︎」

 

”φ(・_・”

 

《マーカスさんとまつわかいてるの‼︎》

 

まつわの手元の画用紙には、レイとまつわが描かれている

 

「ふふっ、ジャーヴィスは⁇」

 

「ジャーヴィスはね〜、ダーリンとクッコロ‼︎」

 

ジャーヴィスの画用紙にはレイとアークが描かれている

 

アークは特徴的な髪色だから描きやすいのかしら⁇

 

「ボーちゃんは⁇」

 

”φ(・ ・”

 

ボーちゃんはとても真剣に絵を描いている

 

「わぁ〜…」

 

《ボーちゃんすごい…》

 

ジャーヴィスとまつわが、ボーちゃんの描いている風景の絵を見てため息を漏らす

 

「何処かしら⁇」

 

”٩( 'ω' )و”

 

まつわから手を離している為、ボーちゃんは液晶で顔文字を出し続けている

 

ボーちゃんはかなり絵が上手い

 

そう言えば隊長もかなり絵が上手い

 

レイも上手いは上手いけれど、何方かと言えば図面や物体の絵が上手い

 

その点隊長はオールマイティに上手い

 

”\(・ー・)/”

 

出来上がった絵を三人に見せてくれた

 

「あらっ‼︎私は何処か分かったわ‼︎」

 

「おうちダ‼︎」

 

《まつわたちのおうち‼︎》

 

”( ◠‿◠ )”

 

ボーちゃんが描いていたのは、自分達の基地の港

 

「ボーちゃんもおうちすキ〜⁇」

 

《好き‼︎みんないるから‼︎》

 

集中タイムが終わったボーちゃんはようやく話し始めた

 

「私の肖像画でも描いて貰おうかしら⁇」

 

”_(:3」z)_”

 

《ボーちゃんつかれた〜って》

 

ボーちゃんは変な顔文字を出した後、まつわの膝の上に乗って丸まった

 

「ジャーヴィスもネンネした〜イ…ふぁ…」

 

《まつわも…》

 

オヤツを食べ、ジャーヴィスはあくびをし、まつわはトロンとした目を擦り始めた

 

「お昼寝しましょうか⁇」

 

「うン…」

 

《ねんねしたい…》

 

横須賀は二人を抱っこし、由良が敷いた布団に入れた

 

「レイが来るまでおやすみね…」

 

「うん…ヨメはどこか行くノ〜…⁇」

 

「レイが呼んだら行って来るわ⁇」

 

《…》

 

ジャーヴィスがちょこちょこ話す横で、まつわは口を縦に開けて寝息を立てていた

 

「レイは優しい⁇」

 

「うん…ダーリンやさしいヨ…」

 

「レイの事好き⁇」

 

「うん…ヨメは⁇」

 

「私も好きよ⁇」

 

横須賀はジャーヴィスの頭を撫でたり、前髪を掻き上げたりしながらジャーヴィスが眠るのを待つ

 

「すぅ…」

 

「おやすみジャーヴィス、まつわ…」

 

数分もしない内にジャーヴィスは眠った

 

”_(:3」z)_”

 

”_(┐ ε:)_”

 

まつわが寝ている枕の上で、ボーちゃんはコロコロしている

 

「あんまりまつわとジャーヴィスに変な事しちゃダメよ⁇」

 

《しない‼︎警戒中‼︎》

 

「そっ⁇良い子ね⁇」

 

ほとんどの子がお昼寝をした

 

廊下では授業終了のチャイムが鳴っている

 

「レイだわ」

 

廊下でレイを見かけた

 

「後はお任せ下さいませ」

 

「任せたわ。由良、リシュリュ…」

 

「ンガッ…」

 

スヤスヤ眠る吹雪の横で鼻を鳴らしながら寝ているリシュリューに毛布を被せた後、横須賀は廊下に出た

 

「レイっ」

 

「横須賀か」

 

 

 

 

「何処か行くの⁇」

 

「保健室さ。一人検査したい子が居るんだ」

 

「来たわよ」

 

横須賀と話していると、ドーナツちゃんが来た

 

「おぉ、悪いな。ちょっと検査したくてな」

 

「そんな事の為に呼んだわけ⁉︎ふんっ‼︎結構よ‼︎」

 

ドーナツちゃんはそっぽ向いて何処かに行こうとした

 

「あら。命令に逆らうのね」

 

「命令ですって⁉︎」

 

横須賀の鶴の一声が効いたのか、ドーナツちゃんは此方を向いた

 

「そっ、命令よ。私からの直々の命令。破るのかしら⁇」

 

「う…どうせ変な事するつもりでしょ‼︎」

 

「ならコイツにも横にいて貰う。それで安心だろ⁇」

 

「…分かったわよ‼︎受ければ良いんでしょ受ければっ‼︎」

 

ドーナツちゃんは嫌々保健室に入った

 

「そこに座ってくれ」

 

「はい」

 

ドーナツちゃんは半ギレのまま丸椅子に座った

 

俺はドーナツちゃんの前に座り、書類をまとめたバインダーを机の上に置き、少しだけ記入した後、膝の上に置いた

 

「よしっ。まずは自己紹介…」

 

「駆逐艦”満潮”っ…所属はブルネイっ…アンタはマーカス大尉でしょ⁇」

 

「話が早いな」

 

「早くしてよ‼︎」

 

「早速で悪いが、首の傷はどうした」

 

「えっ⁉︎」

 

バインダーに記入しながら満潮に首の傷の事を聞く

 

満潮は手で咄嗟に首の傷を隠した

 

「な…何でもないわ…」

 

「首の傷は何故付いた」

 

「わ…私帰る‼︎」

 

「ダメよ」

 

満潮は首を隠しながら立ち上がったが、横須賀に進路を塞がれた

 

「う…」

 

観念したのか、満潮はまた丸椅子に座った

 

「満潮⁇」

 

急に大人しくなったと思えば、満潮は下を向いて震え始めた

 

「こ…これ言ったらっ…こっ、殺されるっ…」

 

「心配するな。俺達が護る」

 

「アンタ達大人なんか信用出来ないわ‼︎」

 

満潮は俺をキツく睨んだ

 

その目には涙が溢れている

 

「横須賀。満潮を脱がしてやってくれ」

 

「分かったわ」

 

「やめてよ‼︎アンタも提督みたいな事すんのね‼︎バカ‼︎アホ‼︎だから大人なんか信用出来ないのよ‼︎」

 

「はいはい。行くわよ」

 

満潮は横須賀に奥に連れて行かれ、身体の傷を確認する為に服を脱がされた

 

「提督に対してのPTSDの可能性大だな…」

 

満潮は”提督みたいな事すんのね”と零した

 

虐待かどうかは分からないが、提督から何かしらの虐待をされている可能性が高い

 

「どうしてこんな事になるまで言わなかったの…」

 

「どうしよ…殺される…私殺される‼︎」

 

「大丈夫よ満潮。絶対護ってあげるから‼︎レイ‼︎ちょっと来て‼︎」

 

緊迫した声で横須賀に呼ばれ、すぐに奥へ向かう

 

「見て…」

 

「よしよし。よく頑張ったな…」

 

満潮の体は痣や傷だらけ

 

処置されるどころか、つい最近出来た傷もある

 

「殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される…」

 

満潮は震えながらオシッコを漏らした

 

「大丈夫よ満潮。私達がいるわ」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…満潮は悪い子です…」



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205話 みんなの学舎(5)

「安定剤をお願い‼︎」

 

「よしよし。満潮、ちょっとごめん…なっ‼︎」

 

「う…」

 

首元に注射を打つと、すぐに意識を失った

 

「寝かせて着替えさるわ…」

 

「俺はブルネイの提督を呼んでくる。ちょっと話がある」

 

横須賀と別れ、廊下に出て来た

 

「レイ」

 

「榛名」

 

「その顔…やるんダズルな⁇」

 

「手伝ってくれるか⁇反抗したら一発二発殴って良いからよ」

 

「へっへっへ…リシュリュー呼んでくるダズル」

 

「職員室で待ってる」

 

待ってましたと言わんばかりに榛名はリシュリューを呼びに行った

 

職員室で電話を借り、ブルネイの番号を打ち、通話を繋げる

 

《はい。ブルネイ基地です》

 

「横須賀基地だ。満潮の事で話がある」

 

《…畏まりました。其方に向かいます》

 

横須賀のインパクトはデカイようで、ブルネイの提督はすぐに此方に向かう事になった

 

「連れて来たダズル‼︎」

 

「合法的に殴れると聞いたリュー‼︎」

 

腕をグルグル回しながら二人が職員室に入って来た

 

「会議室に行こう」

 

「そうダズルな。学校はマズイダズル」

 

「吹雪はニムさんに任せたリュー‼︎」

 

二人を従え、横須賀の会議室に向かう

 

 

 

 

「遅いわね…」

 

秋津洲タクシーの前では、迎えに来た霞がイライラしながら待っていた

 

「遅いかも…」

 

「私、ちょっと見てくるわ」

 

あまりにも遅い皆を心配した霞が学校に向かう…

 

 

 

「あまぎり」

 

「おぉ、霞」

 

中等部では、あまぎりとさぎり、そしてジャーヴィスとまつわがいた

 

「あれ⁇かすみ⁇」

 

ヤマシロに抱っこされたたいほうも来た

 

「何やってんのよ。帰るわよ」

 

「レイさんと横須賀さんが待機してろって…」

 

「どこ行ったのよ」

 

「会議室だ」

 

「ったく…ま、いいわ。ちょっと見てくる」

 

皆と別れて、霞は会議室に向かう

 

 

 

 

 

「来たな。ま、座ってくれ」

 

ブルネイの提督が来た

 

俺の前に座らせ、短時間で何とか纏めた満潮のカルテを見せた

 

「虐待の証拠だ。ま、一応弁解の余地はやる」

 

「満潮の口答えが気に入らなくて…」

 

「気持ちは分かるが、アンタは提督だ。あの子を従えなきゃならん」

 

「偉そうに…」

 

「何だと」

 

「大尉の分際で偉そうにするなと言ったんだよ‼︎」

 

ブルネイの提督は手にピストルを握っていた

 

「榛名、リシュリュー」

 

「オーケーダズル‼︎」

 

「了解だリュー‼︎」

 

「な、何だぐあっ‼︎」

 

隠れていた二人がブルネイの提督を床に抑え付けた

 

「大尉の分際と言ったな」

 

「このっ…」

 

「その大尉でさえ越えられないのか」

 

ブルネイの提督の前で屈み、タバコに火を点ける

 

「オメェは提督失格だ。じき、横須賀から通達があるだろうから、それまではジッとしてるんだな」

 

立ち上がり、窓を開けて紫煙を逃す

 

「お前に何が分かる‼︎」

 

「分かるよ、アンタの言う苦労って奴は。ただ、俺は苦労と感じた事は無い」

 

「…」

 

「楽しまなきゃ損だろ⁇人付き合いも、子育てもよ…」

 

「ヒッ…」

 

「あの人で間違いないわね⁇」

 

「うぅ…」

 

横須賀が満潮を連れて来た

 

満潮は横須賀の背後でビクビク震えている

 

「立つんダズル‼︎」

 

「もう少しお話を聞くんだリュー‼︎」

 

「このっ‼︎」

 

ブルネイの提督を立たせた後、すぐに暴れ出し、二人の取り押えから抜け出してしまった

 

「手ェ上げな」

 

「あら」

 

ブルネイの提督は横須賀を人質に取り、此方にピストルを向けた

 

「痛っ‼︎」

 

「行きなさい。彼が護ってくれるわ」

 

横須賀は満潮を榛名とリシュリューの前に蹴り出した

 

「こっち来るんダズル」

 

「もう大丈夫だリュー」

 

榛名とリシュリューに抱きかかえられるも、満潮は震えている

 

「人の嫁を人質に取るとは良い度胸だな」

 

「手を上げろ‼︎こいつを撃つぞ‼︎」

 

「こうか⁇」

 

ポケットに入れていた手を出し、肩の高さに手を上げた

 

俺はポケットから手を出したと同時に、左手の手袋を取っていた

 

肩の高さに左手が上がった時、薬指が少しだけ曲がり、カチッと音を立てた

 

「…良い子だっ」

 

その瞬間、左腕を真っ直ぐに伸ばし、右手で支えた

 

会議室に爆発音が鳴り響く

 

それと同時に、横須賀の髪が揺れ動いた

 

「ゔっ…うがぁぁぁあ‼︎」

 

「確保‼︎」

 

ピストルを持った手が吹き飛んだブルネイの提督を、横須賀が投げ飛ばして確保に入った

 

「虐待及び殺人未遂の現行犯で逮捕するわ」

 

「痛い…助けてくれ…」

 

「その言葉…満潮は何回何十回言ったかしら」

 

その後すぐに駆け付けた憲兵隊により、ブルネイの提督は逮捕された

 

「やっぱ一回が限界か…」

 

「何よそれ」

 

「ヤマシロの艤装さ。頂戴したんだが、修復しても一発が限界か…」

 

左手に着けた艤装からは煙が噴き出し、破損してしまっていた

 

「榛名の腹にブッ刺さったヤツダズル」

 

「鉄拳制裁とはこの事さっ」

 

「いた‼︎どこフラついてたのよ‼︎」

 

心配してくれた霞が来た

 

「悪い悪い‼︎ちょっと世直しになっ‼︎」

 

「ふ〜ん。ま、いいわ。どうせその子助けてたんでしょ⁇」

 

「そんな所さ」

 

霞はリシュリューの腕の中にいる満潮に歩み寄った

 

「アンタ運が良いわね。私達の提と…レイって提督⁇」

 

ここに来てようやく霞が俺の職業に疑問を抱いた

 

「提督じゃないわ。パイロット兼医者よ。後はエンジニアね」

 

その答えは横須賀が出した

 

「…まぁ、ちゃんとした私達の提督もいるわ。彼含め、立派な人よ」

 

「…あっそ。別に助けてなんて一言も言ってないわ」

 

「何よこいつ‼︎ありがとう位言ったらどうなの⁉︎」

 

満潮の素っ気ない態度に霞がキレる

 

「一昔前のお前だなっ」

 

「何ですって⁉︎」

 

「ほらっ、行くぞ」

 

「あ…うん…キッ‼︎覚えてなさいよ‼︎」

 

「バーカ」

 

「ムキーッ‼︎」

 

すれ違いざまに霞に喧嘩を売り、霞は見事にそれを買い上げ、立ち向かおうとした

 

「はいはい喧嘩すんな」

 

「う…」

 

霞の後頭部を抑え、進行方向へと促す

 

「横須賀。満潮を頼んだ。榛名、リシュリュー、霞が帰るまで見送ってやってくれないか⁇」

 

「オメェはどうするんダズル」

 

「左腕直してから帰る」

 

「分かったリュー‼︎さ、満潮、横須賀さんの所に行くリュー」

 

横須賀はリシュリューから満潮を預かり、肩に手を置いた

 

霞は戦艦二人に囲まれ、縮こまりながら秋津洲タクシーに向かった

 

「満潮」

 

「何よ」

 

霞を見送ったままの状態で、後ろにいる満潮に話し掛けた

 

「俺と来るか⁇」

 

「ぜっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっったい嫌‼︎」

 

即座に全否定される

 

「そっか…ま、所属は横須賀になるだろうから、今お前の肩を持ってる奴を護ってやってくれ」

 

「言われなくてもするわよ…」

 

「なら心配ねぇな‼︎じゃな〜」

 

一瞬だけ振り返った後、工廠へ向かおうと歩き始めた

 

「ちょっと待ちなさいよ‼︎」

 

満潮に止められ、歩みを止め、首を少し後ろに向けた

 

「…ありがと」

 

「あまぎり達と仲良くしてやってくれよな」

 

「…うん」

 

ほんの少し笑った後、ようやく工廠へと歩み始めた



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205話 みんなの学舎(6)

レイが工廠に向かってすぐ、私は満潮と手を繋ぎながら執務室に向かっていた

 

「彼、いつもあぁなの⁇」

 

「そうよ。いつだってレイは貴方達の味方よ⁇」

 

「…ふ〜ん」

 

満潮はあの提督の所為で大人が信用出来なくなっていた

 

それでも、私の手を握ってくれている

 

もしかすると、まだやり直せるかもしれない

 

「大人が信用出来ない⁇」

 

「…」

 

「さっきの霞ちゃんもそうだったわ。最初はレイに食って掛かってた」

 

「アイツは嫌いよ」

 

「霞ちゃんも良い子よ⁇勿論、満潮もね⁇」

 

「分かるはずないわ…」

 

満潮は時々私の顔を見るが、すぐに目を逸らし、下を向いてしまう

 

大人と目を合わせるのが怖いのかもしれない

 

「最初はレイを好きになったらどう⁇」

 

「…」

 

「そうね…最初の任務は、レイのいる基地に行って貰おうかしら⁇」

 

「…アイツ、良い奴かしら⁇」

 

「私の旦那だから信用なさい。それと、その基地には大佐がいるの。大佐も良い人よ⁇」

 

「ん…」

 

「二人共顔は怖いけど、とっても優しいわ⁇」

 

「…頑張る」

 

満潮は納得してくれたみたいだ

 

後はレイや隊長の方が、満潮に良い影響を与えてくれるはず…

 

 

 

 

 

「…」

 

工廠に来た俺は、作業台の上にあの左腕を置き、普段夕張がばりばり言わせている道具で破損箇所を修復し始めた

 

「倉田甲冑ね…」

 

「ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」

 

子供達を送り終えたヤマシロが来た

 

脇に何か挟んでいる

 

「これ、必要だと思って」

 

「何だ⁇」

 

ヤマシロが脇に挟んでいた一冊の書物を受け取る

 

「深海の艤装…」

 

ヤマシロがくれた書物には、深海の艤装の作り方や修復の仕方が書かれていた

 

「彼が持っていたの。私にはもう必要無いから、貴方にあげるわ」

 

「倉田だろ、その彼の名前」

 

「えぇ。何で知ってるの⁇」

 

「自分が殺した奴の名前くらい覚えてるさ。コイツの名前も倉田甲冑だろ⁇」

 

「流石は元スパ…」

 

「それ以上言うなよ⁇」

 

「ふふっ…分かったわ。じゃあね⁇」

 

「待て」

 

帰ろうとしたヤマシロを引き止めた

 

「二つ聞きたい事がある」

 

「ん…」

 

「俺が学校で倉田を殺した後、アイツは生きていたのか⁇」

 

「えぇ。数年だけだったけど、彼は生きてたわ…さっきも言ったけど、結局、私の知らない所で死んだわ…」

 

「そっか…もう一つは、コイツの見返りはなんだ⁇」

 

さっきの書物を持ち、ヤマシロに見えるように動かす

 

「要らないわ」

 

「そんな訳にはいかん」

 

俺がそう返すと、ヤマシロは微笑んだ

 

「なら、次の恋が上手く行く様に応援して頂戴⁇」

 

「オーケー」

 

そう言い残し、ヤマシロは工廠から出て行った

 

ヤマシロがくれた書物は、深海の艤装が事細かに書かれていた

 

それを元手に、この倉田甲冑”山城”を修復して行く…

 

「よしっ」

 

一時間もしない内に、それは修復出来た

 

後は自分の手に着けて、着け心地を確認するだけだ

 

子供達に触れても怪我しない様に、先程の仕込み砲は取り除いた

 

もう使えなかったしな

 

着け心地も悪くない

 

これなら左手の握力補助の為だけに使える

 

後は手袋をはめて、表からは見えない様にすれば良い

 

革手袋をはめ、左手を数回動かしたあと、俺も基地に戻った…

 

 

 

 

 

数日後の昼…

 

「来たわよ」

 

「よく来たな。さ、座ってくれ」

 

ちょっとは明るくなった満潮が遊びに来た

 

隊長が満潮を食堂に案内し、貴子さんがお菓子とジュースを持って来てくれた

 

「あ…えと…」

 

「いっぱい食えよ⁇」

 

「足りなかったら言ってね⁇」

 

貴子さん手作りのカップケーキ数個が、満潮の前に置かれる

 

「食べていいの⁇」

 

「勿論‼︎貴子の手作りなんだ‼︎」

 

「お口に合うかどうかは分からないけど…きっと美味しいわよ⁇」

 

「…頂きます‼︎」

 

大人二人に警戒していた満潮は、二人が大丈夫だと分かると、カップケーキに手を伸ばし、頬張り始めた

 

「あら。この前のお礼でもしに来たのかしら⁇」

 

満潮がカップケーキを食べる中、イタズラに笑う霞が食堂に来た

 

「何よ‼︎このクソ霞‼︎」

 

「ハァ⁉︎文句あるわけ⁉︎このウ○コ満潮‼︎」

 

「ウ○コですって⁉︎」

 

「ハンッ‼︎クソとか言うからそうなるのよ‼︎」

 

「うぎぎぎ…」

 

「ぐぬぬぬ…」

 

昼間から喧嘩している二人を見て、俺達は笑っていた…



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206話 空母のネーチャン(1)

さて、205話が終わりました

今回のお話は、先日横須賀に来ていたイントレピッドDauが、横須賀に正式に着任する事になります

観艦式では、小さいながらも恋物語があるみたいです


「イントレピッドDauが正式に着任するわ」

 

「あのネーチャンか」

 

「そっ。話によると、駆逐艦の子を連れて来るらしいわ⁇」

 

横須賀と視察と言う名目でタウイタウイモールに行き、ステーキを頬張る

 

この間来たイントレピッドDauが正式に着任するらしい

 

「私の手の回らない事してくれるの‼︎」

 

「例えば⁇」

 

「パイロット寮の掃除‼︎」

 

「他は⁇」

 

「パイロットのご飯作り‼︎」

 

横須賀から聞く彼女の任務は雑用しか出てこない

 

「艦長…だよな⁇」

 

「そうよ⁇」

 

「雑用ならPT達を雇った方が…」

 

「PT達も雇ってるわよ⁇基地の窓拭きしたり、艦娘の服のお洗濯したり、後は繁華街とかの清掃ね⁇」

 

「ちゃんと雇ってんだな…」

 

意外にも横須賀はPT達を使ってくれていた

 

それも中々の適所で使っている

 

「煙草の吸い殻のポイ捨てが繁華街で頻発してるらしいわ。銘柄はカスタードですって。あ‼︎レイはカスタードだったわね⁉︎いけないんだぁ〜‼︎」

 

「悪かったよ‼︎気を付ける‼︎」

 

「そう言うと思ったから、灰皿を各所に置いたわ」

 

「ちゃんとそこに捨てる」

 

「良い子ねっ。さっ、帰りましょ‼︎」

 

ステーキの鉄板を返し、秋津洲タクシーに向かう道中、横須賀は左腕に腕を絡ませて来た

 

「そういやアンタ、左手に何か着けてたわね⁇」

 

「ん⁇あぁ、ヤマシロからのお詫びの品みたいなモンさ。痛いか⁇」

 

「ううん。ちょっと硬いだけよ…おりゃ‼︎」

 

そう言って横須賀は俺の左手を強く握る

 

今の「おりゃ‼︎」の言い方で分かったが、ひとみといよの掛け声の言い方と良く似ている

 

もしかしたらマネしているのかも知れないな…

 

横須賀を左腕にくっつけたまま秋津洲タクシーに乗り、俺は操縦席、横須賀は当然かの様に客席に座り、シートベルトを着ける

 

「ほらよっ」

 

「ありがとかも‼︎」

 

秋津洲にオレンジジュースを渡し、空へ飛び立つ

 

飛んでしばらくした時、客席でどデカイシェイクを飲みながら外を見ている横須賀をミラーで見た

 

「イントレピッドはいつ来るんだ⁇」

 

「明日よ。あら、海上輸送隊だわ‼︎」

 

「お前はまた肝心な事を…」

 

「あ〜‼︎シェイク美味しいわぁ〜‼︎」

 

頭を抑えてため息を吐く俺を余所に、横須賀はシェイクを飲み続ける

 

横須賀に近付き、段々と海上が騒がしくなる

 

「あれか」

 

「そっ」

 

眼下にイントレピッドDauが見えた

 

相変わらずデカい

 

「着水するぞ。秋津洲」

 

「んが〜…」

 

副操縦席に座っている秋津洲は大イビキをかいて寝ていた

 

「ったく…秋津洲‼︎」

 

「はっ‼︎寝ちゃってたかも⁉︎」

 

「もう着水するぞ」

 

「は、はいかも‼︎」

 

二式大艇を港に停め、俺と横須賀が降りる

 

「ありがとね‼︎」

 

「サンキューな‼︎」

 

「あ、あはは…次もお待ちしてるかも‼︎」

 

寝た事をきにしてるのか、秋津洲は後頭部を掻きながら笑って答えた

 

「今日は泊まって行きなさい。明日、隊長とSS隊のみんなが来るから、合流して頂戴」

 

「分かった」

 

明日に備え、今日は横須賀で泊まる事になった…

 

 

 

 

 

次の日の朝、横須賀にパイロット達が勢揃いした

 

「久々の観艦式だなっ」

 

「正装は苦手だ…」

 

「二人共こっち向いて」

 

隊長と俺、そしてグラーフがサンダーバード隊として固まる

 

グラーフに最終の身嗜みを整えて貰う俺達の横で、ラバウルさん、アレン、健吾、そして北上のSS隊四人がピシッとした正装で立っている

 

「他の部隊も居るみたいだな」

 

親父率いるペトローバ隊

 

歴戦の猛者率いるジブリール隊

 

総司令率いるグレンデル隊

 

呉さん率いる若武者、新生サンダルフォン隊とター坊

 

そして…

 

「き、緊張する…」

 

「シバかれたらどうしよう…」

 

「オシッコチビりそう…」

 

「服にシワとかのないかな…」

 

「ふぅ…」

 

ガッチガチに緊張したサンダース隊もいる

 

「あら。今日だったわね」

 

たまたま教材を持ったヤマシロが通り掛かった

 

「今日は学校休みだろ⁇何で教材なんか持ってんだ⁇」

 

「これは私の勉強道具よ。貴方の部下⁇」

 

「そっ。みんなまだ若い」

 

全員に挨拶させようと思ったが、全員それ所ではない

 

「君。ちょっといらっしゃい」

 

ヤマシロに手招きされ、ファイヤクラッカーこと”園崎”が歩み寄る

 

「襟が曲がってるわよ」

 

「あ、はひゃ…」

 

「ん。これでいいわ。何よ」

 

「い、いえ‼︎何も‼︎」

 

そう言う園崎の視線が下に落ちる

 

「あぁ…なるほど…」

 

ヤマシロは結構胸がデカい

 

ヤマシロが園崎の襟を直した時、園崎の胸板にそれが当たっていたのだ

 

「いいわよ。減るもんじゃないし」

 

「…」

 

園崎はヤマシロをジーッと見つめている

 

「…何よ」

 

「あ…」

 

ヤマシロに見つめられた園崎は顔を真っ赤にした後、正気に戻った

 

そんな彼を見て、その周りにいた皆が同じ言葉を思い浮かべた

 

こいつ、惚れたな…

 

「い、行って参ります‼︎」

 

「いってらっしゃい」

 

そんな園崎を、ヤマシロは真顔で彼を見送った…

 

 

 

 

観艦式が始まり、横須賀はあのネーチャンと

 

グラーフは電子戦機の観覧に

 

俺達はラバウルのメンツと一緒に同じ場所でオードブルにパクついていた

 

「たっ、大尉‼︎」

 

「ん⁇」

 

声がした方を向くと、この間俺を叩いた二人がいた

 

「この度は本当に申し訳ありませんでした‼︎」

 

目を合わせた直後に二人して頭を下げた

 

「いいっていいって‼︎演習だったんだろ⁇ホラ食え‼︎サラのチキンは美味いぞ⁇」

 

「寛大な処置、ありがとうございます」

 

二人も入れて更にパクつく

 

ある程度腹に収めた後、サンダース隊がいない事に気が付いた

 

「そう言えばアイツ等どこ行ったんだ⁇ちょっと探して来る」

 

「探したら戻って来るんだぞ⁇」

 

「俺も行くよ。食後の運動だ‼︎」

 

着いて来てくれたアレンと共に、会場内を歩く

 

「なぁ、レイ」

 

「何だ⁇」

 

「これだけのオールスターが集まる事、もう無いんじゃ無いか⁇」

 

「言われてみればそうだな…」

 

足を止めて周りを見回す

 

左を向けばエースパイロット

 

右を向けばエースパイロット

 

前も後ろもエースパイロット

 

そこに居るほとんどがエース中のエースばかりだ

 

「だ〜っはっはっはぁ‼︎そ〜かそ〜か‼︎」

 

「はぁ…」

 

豪快な高笑いを聞き、頭を抑えてため息を吐く

 

「中将こそエース中のエースだぞ⁇」

 

「空では強くても、下であぁじゃあな…」

 

親父達は酔いに酔い、周りの連中と豪快に笑っている

 

「おっ‼︎マーカスとアレン‼︎お前達も飲め‼︎」

 

「いいって‼︎親父が飲みゃいいだろ‼︎」

 

親父が肩を組んで俺にビールを飲ませようとしてくるのを引き剥がそうとする

 

「…そういやマーカス。演習とは言え、イントレピッドを助けてくれたらしいな」

 

「ん⁇あぁ、まぁな。アレンのお陰なんだ」

 

「俺は別に…」

 

親父は控えめになっているアレンの肩も寄せ、俺達の耳元で呟いた

 

「彼女がお前達を探してる。お礼がしたいそうだ」

 

「お礼⁇」

 

「…ナニしてくれるんだろうな⁇」

 

特に期待はしていないが、俺とアレンは生唾を飲んだ

 

「リチャード」

 

「取り込み中だ‼︎イントレピッドは良いぞ…何せすぐに抱き着く癖があってな…」

 

「リチャード」

 

「ちょっと待ってくれ‼︎」

 

しつこく名前を呼ばれたので、親父はそちらに向いた

 

「はぁ〜〜〜〜〜っ‼︎」

 

親父の息が詰まる

 

「リチャード⁇何を話してるのかしら⁇」

 

そこには笑顔で腕をバキバキ鳴らす母さんが居た

 

「なっ、何でスパイトがここに⁉︎」

 

「何ででしょうねリチャード…」

 

「あ…あっははは‼︎スパイトさん‼︎何食べますか⁉︎何でも取りますよ‼︎」

 

「じゃあ、そのナゲットを」

 

「喜んで‼︎」

 

人が変わったように、親父は母さんの食事を取り始めた

 

「マーカス。向こうで貴方の部下がいたわ⁇」

 

「ありがと。行って来るよ」

 

「あ、リチャード。その草も取って下さい」

 

「どっち」

 

親父のトングはキャベツとレタスで迷っている

 

「右の草です」

 

トングはレタスを掴み、母さんの皿に乗せた

 

「Thank you」

 

母さんと親父はこのままで大丈夫だろ

 

アレンとその場を抜け、母さんに言われた方向に向かう



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206話 空母のネーチャン(2)

「母さん、レタスを草って言ってたな…」

 

「俺の母さんもそうだ。バーベキューしたら”そのお肉、ちょうだい”ってよ。どの肉か分からん‼︎」

 

どうやら互いの母親は何処か子供っぽい所が残っているようだ…

 

「いたいた‼︎」

 

サンダース隊の皆がいた

 

香取先生やタシュケントもそこにいた

 

「リョーヘー‼︎はい、あ〜んっ‼︎」

 

「あ〜んっ」

 

「見せびらかしやがってこの野郎‼︎」

 

「島流しだ島流し‼︎」

 

「…」

 

「…どうした⁇」

 

「え⁉︎あぁ‼︎何でも無い‼︎」

 

皆が涼平とタシュケントの仲に妬く中、園崎だけがボーッとしており、食べる手を止めていた

 

「ほらほら‼︎妬かない妬かない‼︎先生がしてあげるわ‼︎はいっ、あ〜ん‼︎」

 

「「「あ〜ん‼︎」」」

 

香取先生にあ〜んをして貰い、我先にと食い付く

 

が、園崎は食い付かない

 

あの日、ずいずいずっころばしで香取先生が気になると言っていたのに…

 

「園崎がして貰わないなら俺がしても〜らお‼︎かとりてんて〜‼︎俺にもあ〜んして‼︎」

 

俺が香取先生に向かって行き、アレンは園崎の横に来た

 

「いいのか⁇あ〜んして貰わなくて」

 

「マクレガー大尉‼︎お疲れ様です‼︎」

 

園崎はお皿を置き、すぐに一礼した

 

「さては惚れた女がいるな⁇」

 

「あ…いえ…その…あ、あはは…」

 

アレンがそう言うと、園崎は目が泳いで身振り手振りが激しくなる

 

「香取先生は年上好きですし…」

 

「なるほどな…お前は女教師が好きなんだな。そうかそうか」

 

「ちっ、違います‼︎…たまたま好きになった女性が教師なだけでありまして…」

 

「ヤマシロを頼んだぞ」

 

「へっ⁇」

 

「あいつは過去に男に利用されて気を病んでる。本当に信頼出来る異性を待ってる」

 

「…尚更好きになりました」

 

アレンは微笑んだ後、園崎の頭を撫でて俺の所に来た

 

「マーカス君アレン君。イントレピッドさんにはお会いしましたか⁇」

 

「いや、まだだ。もう少ししたら向こうから来るらしい。向こうも都合があるからな」

 

「なら良いわ」

 

「レイ。そろそろ戻ろう」

 

「そうだな。香取先生、彼等を頼みます」

 

「分かったわ」

 

香取先生になら任せても大丈夫だ

 

サンダース隊の皆も見つけたし、後は隊長の所に戻るだけだ

 

 

 

 

「おかえり」

 

「ただいま」

 

俺達が帰って来てすぐに、向こうからあの女性が来るのが見えた

 

「Hello‼︎」

 

「ハロー‼︎」

 

快活な挨拶に対し、此方も快活な返事をする

 

「これからお世話になります、イントレピッドと申します‼︎」

 

「よろしく頼むわね‼︎」

 

横須賀は実に嬉しそうだ

 

「貴方はリチャードの…」

 

「マーカス・スティングレイです」

 

「ん〜っ‼︎宜しくね‼︎後日キチンとお礼をするわ‼︎貴方はアレン・マクレガー大尉ね⁉︎話は聞いてるわ‼︎」

 

「ありがとうございます」

 

「宜しく〜ねっ‼︎」

 

イントレピッドは俺達二人を抱き寄せた

 

「挨拶はこうでなくてはなっ‼︎」

 

「生きてて良かったっ‼︎」

 

イントレピッドの柔らかい体が体中に当たり、俺達は御満悦

 

「あ‼︎そうそう‼︎貴方達に紹介するわ‼︎アメリカから連れて来た女の子がいるの‼︎」

 

イントレピッドは後ろを向き、その女の子の名前を呼んだ

 

「サム‼︎サームー‼︎」

 

「はーい‼︎」

 

「この子はサミュ…あら⁇」

 

イントレピッドが視線を俺達の方に戻すと、そこには横須賀しか居なかった

 

「…アンタ達、何してんの⁇」

 

俺達もラバウルの連中もサムと聞いた途端に、蜘蛛の子散らすように建物の陰に隠れていた

 

「いや…その…なんて言うか…」

 

「天敵と言うか…」

 

「本能と言うか…」

 

「”SAM”はちょっと…」

 

「流石にお断りですね…」

 

隊長とラバウルさんまでもが建物の陰に隠れている

 

「あはははは‼︎違うわ‼︎そっちのサムじゃないわ‼︎この子はサミュエル・B・ロバーツ‼︎渾名がサムなだけよ‼︎」

 

「撃たない⁇」

 

「撃たないわ‼︎」

 

「落とさない⁇」

 

「落とさないわ‼︎」

 

「なら大丈夫だ‼︎」

 

その言葉を聞き、全員が戻って来た

 

「みんな面白い人だね‼︎」

 

サムと呼ばれた女の子は青い髪の毛をしており、八重歯がチャームポイントっぽい

 

水兵の服を着ており、脇には鯨のぬいぐるみがある

 

「サミュエルは私の補佐としてお世話になるわ⁇」

 

「そっか。宜しくな、サミュエル」

 

「うんっ‼︎マーカス大尉‼︎」

 

膝を曲げてサミュエルと視線を合わしている真上で、互いに真顔になった横須賀とイントレピッドが頷き合っているのを、俺は知らなかった…



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207話 血に踊る番犬(1)

さて、206話が終わりました

今回のお話は、また一つの伏線が回収されます

あの日、何故彼女は一人だったのか…

それが今、明らかになります

注※ちょっとだけエッチかもしれません


観艦式から数日後…

 

今日はタナトスの補給の為に横須賀に来ていた

 

「艦首爆雷の充填はオーケーだ。残りは何処だ⁇」

 

《タナトス自体の休暇でちな》

 

「はいはい」

 

冗談を交えながら、タナトスの補給を終わらせて行く

 

《そういや、新しい奴が来たらしいでちな》

 

「イントレピッドとサミュエルさ。良い人だぞ、二人共。今、ひとみといよと一緒に執務室いる」

 

 

 

 

 

 

「うぁ〜」

 

「あぅ〜」

 

横須賀の執務室では、イントレピッドとサムが改めて挨拶に来ていた

 

「サミュエル・B・ロバーツです‼︎サムって呼んでね‼︎」

 

「しゃむ‼︎」

 

「おふか…」

 

「ダメよひとみちゃん」

 

横須賀がひとみの口を塞ぎ、イントレピッドが自己紹介に入ろうとした

 

「いんとえいっちょ‼︎」

 

「かんちぉ〜しゃん‼︎」

 

「あら⁇知ってるの⁇」

 

「私を知ってくれてるのね⁉︎お名前は⁉︎」

 

二人は何故かイントレピッドを知っていた

 

イントレピッドは前屈みになり、ひとみといよに顔を近付けた

 

「ひとみ‼︎」

 

「いよ‼︎」

 

「OK‼︎ヒトミ&イヨね‼︎」

 

「二人共レイの書類でも見たのね⁇イントレピッド、これを渡しておくわ」

 

横須賀とイントレピッドが業務的な話に入った

 

「しゃむ、こえなぁに⁇」

 

ひとみの目線の先には、サムの抱いている鯨のぬいぐるみがあった

 

「これ⁇これは鯨さんのぬいぐるみだよ‼︎ポーチになってるんだ‼︎」

 

「くじらしゃん‼︎」

 

「こえ、いるかしゃん‼︎」

 

「ぴ〜ぷ〜しゅるの‼︎」

 

ひとみといよはニコニコしながら、サムの前でイルカのぬいぐるみをピープー言わせる

 

「わぁ‼︎いいね‼︎」

 

「かちたげう‼︎」

 

「あいっ‼︎」

 

「ありがとう‼︎わぁ〜…柔らかい…」

 

サムにも分かる、二人のイルカの柔らかさ

 

「おうちにぴんげんしゃんもいうの‼︎」

 

「が〜が〜しゃんもいう‼︎」

 

「素敵なお父さんとお母さんなんだね‼︎ありがとう‼︎」

 

二人にイルカのぬいぐるみを返し、ひとみといよは脇に抱える

 

「サム。行きましょうか‼︎」

 

「うんっ‼︎またね、ヒトミ、イヨ‼︎」

 

「またえ〜‼︎」

 

「ばいば〜い‼︎」

 

イントレピッドとサムが去り、ひとみといよは横須賀の足元でおままごとをし始めた

 

「きぉ〜のよるあ、ぴらふにしゅるから、はやくかえってきてえ⁇」

 

「あかった‼︎いってくう‼︎ぐいほん、はっち〜ん‼︎」

 

ひとみが貴子さん

 

いよがレイの真似をしている

 

「今日は何処か行くの⁇」

 

「たあとすのって、とあっくいく‼︎」

 

「れっち〜もいっちょ‼︎」

 

「とあっくしゃんのおかちたえるの‼︎」

 

「気を付けて行くのよ⁇」

 

「迎えに来たぞ」

 

話していたら丁度レイが来た

 

手には平たい箱を持っている

 

「レイ、トラックに行くの⁇」

 

「あぁ。新しいスイーツが出来たらしい」

 

話している最中に、ひとみといよがレイの肩に乗る

 

「ちょっと頼まれてくれない⁇」

 

「なんだ⁇」

 

「蒼龍の血液検査なんだけど…」

 

「まだなのか⁇」

 

「あの子注射が嫌いでね⁇私の注射怖がっちゃって…」

 

「…だろうな」

 

横須賀の採血は本当に怖いし痛い

 

いきなり針を突き刺さそうとするし、血の抜き方も超が付くド下手

 

「そ〜る〜おくい‼︎」

 

「わるいこあ、そ〜る〜おくいら‼︎」

 

何処で聞いたのか、二人は蒼龍を知っていた

 

「親潮に採血セット持って来させるわ」

 

横須賀が内線を親潮に繋げ、採血セットを持って来させるように言う

 

数分後、親潮はちゃんと採血セットを入れたカバンを持って執務室に来た

 

「創造主様、此方でお間違いないですか⁇」

 

一応中身を確認するが、流石は親潮

 

予備までしっかり入っている

 

「ありがとう。これ、この前のガンビアのお礼だ」

 

持っていた箱を親潮に渡す

 

ガンビアの時の礼を、まだしていなかったからだ

 

「宜しいのですか⁇親潮が頂いて…」

 

「横須賀と一緒に食べても良いぞ⁇」

 

困った親潮には横須賀の名を出すと一番効く

 

「はいっ‼︎有り難く頂戴します‼︎」

 

ほらな。目が輝いた

 

「じゃ、行ってくる」

 

「頼んだわ‼︎」

 

ひとみといよが手を振り、横須賀と親潮が手を振り返すのを見て、執務室を出た

 

 

 

 

「何貰ったの⁇」

 

「開けてみます」

 

レイが出た後すぐ、私は親潮が貰った箱の中身を見たくてしょうがなかった

 

親潮が包み紙を破り、箱の蓋を開けると、中にはクッキーが入っていた

 

「わぁ‼︎これ、親潮が食べたいと思っていたクッキーです‼︎」

 

私の横で親潮が目をキラキラさせる

 

こんな風に喜ぶ親潮は珍しい

 

いつもだって真面目で良く笑う子だけど…

 

あぁ、なるほどね…

 

レイから貰ったから余計に嬉しいんだわ

 

そんな目をされちゃあ、食べられないわね…

 

「美味しいです‼︎ジェミニ様も食べましょう‼︎」

 

「本当に良いの⁇」

 

「はいっ‼︎創造主様はジェミニ様と一緒に食べるともっと美味しいと、普段から仰られております‼︎」

 

あぁ…

 

敵わないな、こりゃ…

 

レイには負けるなぁ…

 

結局親潮の笑顔に負け、二人でクッキーを食べた



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207話 血に踊る番犬(2)

「れっち〜みぎ‼︎」

 

「こうでちか⁉︎」

 

「そこれぱんちら‼︎」

 

トラックに向かう道中、いつものように古いコンシューマ機でゲームをする

 

俺はタナトスの最終チェックがてら、サブのモニターの前に座っていた

 

画面と睨み合いながら不備がないかチェックをしつつ、タービンやエンジンの稼働具合も確認する

 

「燃料良し…タービン良し…武器管理システム…良しっ」

 

強いて言うならば、衝撃波発生装置の充電が三発中二回しか無い位だ

 

衝撃波発生装置はタービンが回る事で自動で充電されて行く

 

専用のダイナモを使えば充電出来なくもないが、トラックに向かうまでの道中で充電完了するので、その必要は無さそうだ

 

「創造主」

 

いつの間にかゲームを止めたゴーヤが横に来た

 

ひとみといよはゴーヤが流している動画を見ている為、大人しくそれを眺めている

 

「今日はどんなスイーツでち⁇」

 

「ゴーヤはどんなのだと思う⁇」

 

「チョコ系だと思うでち‼︎」

 

いつの間にかゴーヤは俺の膝の上に乗り、足をパタパタと動かしている

 

「しっと〜りしたチョ目的地付近に接近しました。退艦の準備を始めて下さいコのケーキを食べてみたいでち‼︎」

 

トラックに近付き、ゴーヤはアナウンスと普通の会話がゴッチャになる

 

「はははっ‼︎ありがとなっ‼︎」

 

「情けないでち」

 

ゴーヤの頭を撫でた後に膝から降ろし、ひとみといよの後頭部を撫でる

 

「降りるぞ〜」

 

「とあっくついた⁇」

 

「こえうさいしゃん」

 

二人が見ていたのはウサギの動画

 

今まさにニンジンを食べている所で、二人共釘付けになってはいるが、ちゃんと俺に抱っこされる

 

「うさぎしゃん、にんじんたべてう‼︎」

 

「むしゃむしゃ〜って‼︎」

 

「ウサギさんにばいば〜いは⁇」

 

「ばいば〜い‼︎」

 

「またあとれな〜‼︎」

 

ゴーヤが動画を止め、俺達はトラックに足を降ろした

 

 

 

 

 

「いらっしゃい‼︎さっ‼︎座って下さい‼︎」

 

飛龍にトラック基地の食堂に案内され、三人を座らせる

 

「蒼龍はいるか⁇」

 

「あ、はい。お呼びしましょうか⁇」

 

「医務室に呼んでくれ。採血があるんだ」

 

「分かりました‼︎提督にもお伝えしておきますね‼︎」

 

二人は飛龍に任せ、鞄を持って医務室に入る

 

手を消毒して白衣を羽織り、採血セットを机に置く

 

「む〜っ…」

 

「来たか」

 

蒼龍は入り口から顔半分を出し、俺を睨んでいる

 

「すぐ終わるぞっ⁇」

 

「…横須賀さんみたいにするんでしょ」

 

「大丈夫。俺を信じろ」

 

「う〜…」

 

蒼龍は物凄〜く嫌そうな顔をしながら嫌々俺の前に座る

 

「最近はどうだ⁇上質な肉はいたか⁇」

 

「何日か前にパラオの老人を何人か頂きましたけど、老人は美味しくないです」

 

「防衛省の奴はどうしてる⁇」

 

「あぁ‼︎あの方は美味しく頂きましたよぉ〜‼︎良い物ばっかり食べてたんでしょうねぇ〜‼︎ジューシーで肉厚で噛み応えがありました‼︎」

 

「ふ…それは良かった。さっ‼︎終わった‼︎ありがとな‼︎」

 

「え⁉︎もう終わりですかぁ〜⁇」

 

「終わりだ」

 

「次からレイさんにお願いしたいですねぇ〜」

 

「蒼龍が良ければいつでもっ」

 

蒼龍は痛い顔一つしないまま、医務室から出て行った

 

蒼龍の血を専用のケースに入れ替え、冷蔵パックに入れ、一旦トラック基地を出て、タナトスに戻って来た

 

「さてとっ…」

 

カプセルのある部屋の椅子に座り、蒼龍の血液が入ったケースを出す

 

機材の中にそれを入れ、蓋を閉めてスイッチを押す

 

《検査を開始します》

 

これで帰って来た時位には病気やら、万が一誰かと血縁があれば分かる

 

ま、トラックさんは確実だとして、残りは無いと思って良いだろう

 

機材を付けたまま、入り口のロックを確実に締めたのを確認した後、皆の待つ食堂に戻って来た



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207話 血に踊る番犬(3)

「おいち〜‼︎」

 

「ちぉこえ〜とのけ〜き‼︎」

 

「ゴーヤ、これ好きでち‼︎」

 

「そっかそっか‼︎ふふっ…」

 

食堂に戻って来ると、珍しくひとみといよが口周りを汚してトラックさん手作りのケーキを食べていた

 

ゴーヤも口元チョコ塗れの所を見ると、よっぽど美味しいのだろう

 

「ありがとう、トラックさん」

 

「此方こそ‼︎蒼龍の検査ありがとうございます‼︎さぁ‼︎召し上がって下さい‼︎」

 

「待ってましたっ‼︎」

 

俺もようやくチョコケーキにありつく

 

「い、如何ですか⁇」

 

トラックさんは生唾を飲む

 

俺は口の中のチョコケーキを飲み込んだ瞬間に言った

 

「…美味い‼︎」

 

「ふぅ…良かった…」

 

「あっさりしてて食べ易いな‼︎」

 

「チョコの味を崩さない程度にフルーツエッセンスを加えてみたんです」

 

「ゴーヤ、これ食べたかったでち‼︎」

 

「そっかそっか‼︎喜んで貰えて良かったよ‼︎」

 

この後、このチョコレートケーキが世に出て一発当てるまでには時間は掛からなかった…

 

 

 

 

「じゃあ提督⁇私はスカイラグーンに行きますねぇ〜⁇」

 

「あぁ待ってくれ。私も行こう。飛龍‼︎しばらく基地を頼む‼︎」

 

「畏まりました‼︎行ってらっしゃい‼︎」

 

トラックさんは肩掛けのクーラーボックスを持ち、蒼龍を連れて、スカイラグーンに向かうみたいだ

 

「スカイラグーンに行くのか⁇」

 

「えぇ‼︎これを持って行こうかと‼︎」

 

中には勿論チョコケーキ

 

「タナトスで行こう。ケーキのお礼だ」

 

「助かりますねぇ〜。帰りは高速艇で帰りますねぇ〜」

 

「宜しいのですか⁇」

 

「これはお礼をしなきゃならんでち‼︎」

 

「ゴーヤもそう言ってるんだ。さぁ、行こう」

 

「では、お言葉に甘えて…」

 

「ごちそうさあれした‼︎」

 

「ごちそうさあれした‼︎」

 

「ごちそうさまでち‼︎」

 

丁度三人も食べ終えた

 

三人の顔や口周りを見ると、このケーキが如何に美味いかが良く分かる

 

「ありがとう、いっぱい食べてくれて」

 

蒼龍とトラックさんも乗せ、タナトスはスカイラグーンを目指す…

 

 

 

 

スカイラグーンに向かうタナトスの艦内で、トラックさんと蒼龍はコーヒーを飲みながら

 

ひとみといよはDVDを見ながら

 

ゴーヤはモニターを見ながら目的地に到着するのを待つ

 

俺は先程の検査結果を見る為に、再びカプセルのある部屋に来ていた

 

「さてと…検査結果を出してくれ」

 

《畏まりました。検査結果を表示します》

 

検査機のモニターの前に座り、完了した検査結果を見る

 

伝染病…無し

 

持病…無し

 

身体的異常…無し

 

ズラーッと出された結果を見る限り、身体は頑丈を極めている蒼龍

 

あれだけ人を喰っているのに、何処も異常が無い

 

残りはDNAだが、トラックさんは確定として、恐らく他にはいないだろう

 

「DNAの検査結果の一覧を出してくれ」

 

《DNA検査の結果です》

 

再びズラーッと表示される、今度は蒼龍を除くほとんどの艦娘と提督

 

もし一致すれば、親子、もしくは兄弟の可能性が非常に高い

 

「ま、トラックさんは確定だな」

 

《DNA一致件数、二名該当》

 

「あ⁉︎」

 

検査機からはハッキリ二名と聞こえた

 

画面をスクロールし、名前を確認する

 

《この方は女性なので、99.9%母親と言って間違いないでしょう》

 

口元を両手で抑えながら何度も深呼吸をし、画面を見る

 

「因果なモンだな…」

 

《有村茂樹様…あなた方で言うトラック様は近眼です。この方とは何度か同じ場所におられても、互いに気付かなかったのでしょう》

 

「運動会とかでもいた気がするんだが…筋肉質になったのもあるし、まぁ、同じ場所って言っても別々の場所だったからな」

 

《一応書類を印刷しておきます。渡すタイミングは貴方にお任せ致します》

 

「頼んだ」

 

そこそこ衝撃な事実に頭を抑えながらも、蒼龍の実名が中々可愛い事が唯一の救いだった…



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207話 血に踊る番犬(4)

「目的地付近に接近しました。退艦の準備を始めて下さい」

 

ゴーヤの言葉を聞き、艦上に出た

 

スカイラグーンを見つめながら、タバコに火を点ける

 

「うおっ‼︎」

 

頭上を二機のT-50が通過して行き、髪の毛が風圧を受けて舞い上がる

 

二機の通過寸前、発光信号が見えた

 

”スイーツ タベニキタ”

 

”オマエハ カエレ ワラ”

 

あんな事を言う奴はアレンしかいない

 

「タナトス。対空機銃をアレンに向けろ。向けるだけだぞ‼︎」

 

《分かってるでち‼︎》

 

タナトスの船体の至る所から対空機銃が現れ、アレンに向ける

 

《レイ‼︎一緒に食べよう‼︎》

 

すぐにアレンから切羽詰まった無線が入った

 

「素直でよろしい。対空機銃を戻せ」

 

タナトスが対空機銃を戻すと同時に、不安がよぎった…

 

 

 

 

「ありがとうございました‼︎」

 

「助かりましたぁ〜‼︎」

 

「いつでもっ」

 

トラックさんと蒼龍を見送り、アレンと健吾の所に来た

 

「レイさん‼︎」

 

「健吾」

 

正直、今健吾に会いたくなかった

 

「他の子は⁇」

 

「アイちゃんと北上と大和、んでママが先に来て準備してる」

 

一人の名前を聞き、血の気が引いた

 

「そ、そっか」

 

「愛宕にお土産持って帰らなきゃな‼︎」

 

「はは…」

 

普段の至ってフツーのアレンとの会話が耳に入らない

 

「喉乾いたから先行ってるわ」

 

「あ、あぁ‼︎」

 

「俺もすぐ行く‼︎」

 

「健吾。タバコ吸うか」

 

「はいっ‼︎」

 

とにかく、少しでも健吾をこの場に留めたかった

 

 

 

 

その頃、スカイラグーン喫茶ルームでは…

 

「良かったですねぇ〜。お父さんのケーキが好評で」

 

「う〜む、パティシエ冥利につきる…」

 

これだけの人数から美味しいと言われたら、流石のトラックさんも中々御満悦の様子

 

「ん⁇」

 

スカイラグーンのキッチンは、いつも綺麗にされている

 

「良い包丁だな」

 

「マーカスさんとアレンさんが作ってくれたんです」

 

「この”まな”板も清潔を保たれてる」

 

トラックさんがまな板と言った瞬間、蒼龍はトラックさんを半目で見た

 

怒っているのか、照れ臭いのか分からない実に中途半端な顔だ

 

「私はケーキ食べましたからねぇ〜。バターコーンでも頂きましょうかねぇ〜」

 

「はいっ、畏まりました」

 

「レシピと材料をある程度置いておくから、是非作って見て下さい」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

トラックさんはようやくソファに座り、蒼龍と一緒にコーラとバターコーンを待つ

 

そんな二人を、一人の女性が見つめる…

 

「あの人、ずっとこっちを見てますねぇ〜…」

 

「ん〜⁇」

 

蒼龍の目線の先には、ジュースを配っている女性が一人

 

その女性がチラチラと二人を見る視線に、蒼龍はすぐに気付いた

 

「食べちゃいましょうかぁ〜」

 

「コラ蒼龍」

 

ソファから立ち上がり、ニコニコ笑顔で彼女を食べようとする蒼龍を止めるトラックさん

 

そんなトラックさんの名を、彼女は呼んだ

 

「茂樹さん…」

 

「えっと…」

 

「ほらお父さん。眼鏡掛けて」

 

「あ、あぁ…」

 

トラックさんは眼鏡を掛け、彼女を見た

 

「”恵子”なのか…」

 

「茂樹さん…」

 

「えと…えと…」

 

見つめ合う二人の横で、蒼龍は二人を何度も見てキョロキョロオロオロしている

 

遂には席を立ち上がり、二人は抱き合う

 

女性はジュースを乗せていた盆を置き

 

トラックさんはほんの少しだけ書いていた別のレシピを書く手を止め、二人はきつく抱き締め合う

 

「逢いたかった…」

 

「私もです…」

 

それは感動の再会だった

 

生き別れたと思っていた旦那

 

死んだと思っていた妻と再会を果たした

 

そして、何も言わず二人は口づけを交わす

 

其処にいた全員が再会を祝福する中、グラスが割れる音が喫茶ルームに響いた

 

「は…」

 

隣にいた俺は腰に手を当て、無言で頭を抑え、溜め息を吐いた

 

一番遭わせたくない二人に、一番遭わせたくないタイミングで遭わせてしまった

 

「け…健吾さん…」

 

「ごっ…ごめんね”大和”…おお…おかしいよね…俺みたいな奴ガッ…ウッ…やっ、大和みたいな美人と一緒になれるなんてっ…ごめんねっ…役不足だったよねっ…」

 

健吾はポロポロ涙を流しながらも、笑顔で自分には見せた事の無い女の顔になった大和を見続けた

 

話している途中、健吾はDMM化しかけたが、それを残った愛と持ち前のガッツでねじ伏せて笑顔を送り続けた健吾に、本当は拍手してやりたい

 

あまりにも優しく

 

あまりにも哀れで

 

あまりにも強い男…



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207話 血に踊る番犬(5)

あの美女二人が再び大活躍‼︎


「健吾さん私‼︎」

 

《創造主様‼︎横須賀より緊急入電‼︎現在、大湊所属艦レーダー艦ダイダロスが所属不明機をレーダーで捕捉‼︎手隙の航空隊は至急現場に向かって下さい‼︎》

 

大和が何か言おうとした時、通信が入った

 

「俺が出る。健吾を借りるぞ」

 

「OK‼︎Papaに言っておくわ‼︎」

 

「行くぞ健吾」

 

「…ウィルコ‼︎」

 

健吾は涙を拭き、すぐに空の男の顔に変わり、T-50に向かう

 

「俺がなんとか説得してみる」

 

「あの、レイさん…」

 

「マーカス…その…」

 

「誰も責められないのが痛い所だな…」

 

そう…

 

この愛は誰も責める事が出来ない

 

誰にも罪はなかった

 

あるとすれば、戦争が全てを引き裂いた…としか言えなかった…

 

健吾に少し遅れ、俺も飛び立った

 

 

 

 

「こちらグリフォン。着陸許可を求む」

 

《了解グリフォン。オルトロスに続き、着陸して下さい》

 

「着り〜く‼︎」

 

《グリフォン。敵は⁉︎》

 

「クラウディアが嘘吐くとはなっ…」

 

《ご迷惑でしたでしょうか…》

 

「いや。助かったよ」

 

薄々気付いていた

 

タナトスで来たはずなのに、スカイラグーンにグリフォンがあった時点で、何となくクラウディアが気を使ってくれたと気付いた

 

「健吾」

 

《はい》

 

「よく頑張ったな」

 

《俺は…》

 

無線の向こうで啜り泣く声が聞こえた

 

俺だけは今の健吾の心境を分かってやれる

 

俺の時は鹿島だった

 

毎日毎日日の終わりに恋人の写真を見た時だけ、鹿島は女の顔をした

 

それが健吾の場合は大和

 

俺は正直ウンザリしていた時もあったが、鹿島はその分俺に尽くしてくれた

 

大和だってそうだ

 

「れっち〜おいてきた‼︎」

 

「ちゃんとでっち〜にいってきあ〜すっていったお‼︎」

 

「おい‼︎」

 

いつの間に忍び込んだのか、助手席にひとみといよがいた

 

健吾にいっぱいいっぱい…尚且つ二人はヘルメットのステルス機能を使い、ちゃんとシートベルトを締めて助手席に座っていた

 

《あはは…創造主様、如何なさいますか⁇》

 

「…横須賀の所でお菓子食べて良い子ちゃんにしてるんだぞ⁇」

 

「けんごしゃんおつかえ⁇」

 

「こっぴ、ぱい〜んてちてた」

 

「そうだな…健吾はちょっと疲れてるかもしれない。俺がお話して元気になるようにしてくるからなっ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

「がんあってえ‼︎」

 

ひとみといよの頭を撫でた時、丁度横須賀が迎えに来てくれた

 

ひとみといよを連れて行ってくれた横須賀を見届け、健吾が降りてくるのを待つ

 

「よいしょ…」

 

T-50から降りて来た健吾は、怒っているのか悲しんでいるのか、何方でも取れる顔をしていた

 

「もう夕方ですよ、レイさん」

 

「気にすんな。ラバウルさんから横須賀宛に通知が来たらしい。たまには有給を取れだとよっ」

 

「はは…そうですね…」

 

これは悲しんでるな

 

「よ〜し‼︎今日はパーッと飲むぞ‼︎」

 

「あ‼︎ちょっと‼︎」

 

健吾の背中に手を回し、肩をグッと抱き寄せる

 

優しい背中だ…

 

誰も責められはしないが、この背中はもっと責められないな…

 

 

 

 

 

 

 

そんな俺達を窓の内側から台に乗って見ている人影が二つ…

 

「けんごしゃんおつかえ」

 

「ひとみたちにれきう⁇」

 

「やう⁇」

 

「やう‼︎」

 

横須賀の一瞬の目を盗み、ひとみといよは何処かへ向かった…

 

 

 

 

「ま。飲んで少しは忘れろっ」

 

「ありがとうございます…」

 

Bar 那智のソファー席に座り、健吾にビールを注ぐ

 

健吾は注がれたビールを一気に飲み干し、タンッ‼︎と音を立てて机に置いた

 

「…くぅ」

 

「何も心配しなくて良い。どうにかしてやる」

 

「俺にはもう…大和を愛せる自信が…」

 

「健吾…」

 

「俺はやっぱり…陰日向で誰かを見てる方が似合ってます。すみません」

 

「そう消極的になるな」

 

健吾はグラスを持ったまま下を向いていたので、もう一度ビールを注いだ

 

「おっと…ちょっとすまん」

 

タブレットに通信が入った為、一旦店を出た

 

俺と入れ違うかの様に、美しいドレスに身を包み、真っ赤な口紅を塗った美女二人がバーに入って行くのを、俺は気が付かなかった…

 

 

 

「ひとみといよがいないだぁ⁉︎」

 

横須賀に呼ばれた俺は、執務室に来ていた

 

「私達が2秒目を離した隙にステルス機能を使って…」

 

「どうしよ…さらわれちゃったのかしら‼︎」

 

横須賀と親潮が同じタイミングでほんの一瞬目を離した隙に、ひとみといよが何処かへ消えたらしい

 

「お母様‼︎あったよ‼︎」

 

「あぁ…」

 

清霜が持って来たひとみといよのお気に入りのワンピースを見て、横須賀は気絶しそうになる

 

「裸で連れて行かれたのね…レイどうしよ…ごめんなさい私…」

 

こんなに怯える横須賀は初めて見た

 

肩を揺らし、口元に手を当てて泣きそうになっている

 

「気付いた時点で全出入り口は封鎖したのですが…」

 

「その内帰って来るだろ。清霜、服を元に戻しておいてやってくれ」

 

「はい‼︎お父様‼︎」

 

清霜はワンピースを持ったまま執務室を出て行った

 

「どうしよ…私のせいだ…」

 

「そう言う年頃だ。あんま気にしすぎると成長に良くない。親潮、二人にステルス機能を使った形跡は⁇」

 

「あります」

 

「ステルス機能を使ったって事は、さらわれた線は無いな。何か隠し事でもしたいんだろ」

 

「もしくはイタズラか…ですね⁇」

 

「そっ」

 

「何かあってからじゃ‼︎」

 

「遅いんだろ⁇」

 

横須賀が吠えようとしたのを遮る様に言った

 

「何でそんなに冷静なのよ‼︎」

 

「娘を信じてるからさ」

 

「あ…」

 

「あ…」

 

横須賀と親潮の息が詰まる

 

本気の俺の目を見た二人は、何かを確信した様だ

 

「健吾と飲み直してくるから、ま、帰って来たら言ってくれ。絶対怒るなよ⁉︎二人にだって内緒にしたい事もある」

 

「分かったわ」

 

「はい。創造主様」

 

未だ心配する横須賀の横で、親潮は俺と目を合わせて左目をほんの少し細めたのを見て、微笑みを返し、執務室を出た

 

 

 

「はいっ、あ〜んっ‼︎」

 

「あ…」

 

「おいし⁇」

 

「お…美味しい…」

 

健吾は謎の美女二人に左右の腕を組まれ、唐揚げを食べさせて貰っている

 

「君達は一体…」

 

「わたくしはサティと申しますわ⁇」

 

「私はフォティ‼︎」

 

「…幾らかな⁇」

 

健吾はお金を払って

 

「んもぅ…お金なんて要りませんわ⁇」

 

「今日はわたくし達におまかせっ‼︎ねっ⁉︎」

 

「あ…あぁ…」

 

「さっ‼︎飲んで飲んで‼︎」

 

今度はジョッキビールを持たされ、健吾はそれを半分位飲み干す

 

「今日は辛い事がおありのようで…」

 

「そうなんだ…妻が…」

 

サティが言った言葉で、健吾はまた落ち込んでしまった

 

「…よいしょっ‼︎」

 

そんな健吾を見て、サティは健吾の膝の上に対面状態で座った

 

「女で出来た傷は、女でしか埋められませんことよ…柏木中尉⁇」

 

サティは健吾の顔を持ち、鼻先に息を吹き掛けた

 

「食べて遊んでも、誰も中尉を怒ったりしませんわ⁇」

 

「う…」

 

「おっとっ…」

 

そんなタイミングの時に俺が来た



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207話 血に踊る番犬(6)

「レイさん‼︎」

 

「お楽しみのようで」

 

「ありがとな、二人共」

 

健吾は両手に花状態

 

いや、片方は膝の上、か…

 

「構いませんわ。あれは少し辛い場面でしたの…」

 

「誰だって落ち込みますわ⁇」

 

「知ってるのか⁇」

 

何故か二人は健吾に何があったか知っていた

 

「情報は早いのですよ⁇マーカス大尉⁇」

 

フォティにそう言われ、渋々頷く

 

「数秒だけ良いか⁇」

 

「えぇ」

 

「明日、俺と一緒に居住区に行こう。詳しい話は明日する。あぁ心配するな‼︎悪い話じゃない‼︎」

 

「了解です」

 

「じゃっ、後はお楽しみを…」

 

そのまま、きそ☆ウォークよろしく軽やかに後退し、また店を出た

 

あの様子じゃ、俺よりサティとフォティに任せた方がよさそうだ…

 

 

 

 

「女で出来た傷は、女でしか埋められない…か」

 

「父に教えて頂いたお言葉ですわ⁇」

 

「良いお父さんなんだね⁇」

 

「えぇ、とても…わたくし達が癒せるのなら、自分が嫌じゃない程度に癒してあげなさい、と教えて頂きましたわ⁇」

 

 

 

次の日の朝…

 

「よっ」

 

「おはようございます」

 

ジープの発着場に来た健吾は、昨日より元気そうに見えた

 

「乗ったか?」

 

「はい」

 

健吾がシートベルトを締めたのを確認した後、健吾の膝の上に書類を置いた

 

「一週間の有給消化命令だ」

 

「良いんでしょうか…こんなタイミングで…」

 

「こんなタイミングだから取るんだよ‼︎ほら行くぞ‼︎」

 

「うぉっと‼︎」

 

戸惑っている健吾をよそに、アクセルを踏んだ

 

 

 

 

基地を出て、高速に乗る寸前で赤信号で停まった時、タバコに火を点けながら口を開いた

 

「昨夜は楽しかったか⁇」

 

「シンプルに有意義でした。飲んで、話して、癒されて…」

 

「そっかそっか」

 

信号が青に変わり、高速に乗る

 

「レイさんはジェミニさん以外に女性を抱いた事ありますか⁇」

 

「いきなり爆弾放り込むな…」

 

とは言うが、健吾の楽しそうな顔を見ると言わざるを得ない

 

「鹿島とグラーフ、んで、最近アークを抱いた。あぁ‼︎言っとくがグラーフは不発だ‼︎ミハイルにチクんなよ⁉︎」

 

「良いなぁ…俺はあみさんだけです」

 

うわ…結構キッツイな…こりゃ…

 

あれだけ一緒に居たのに抱かなかったのか…

 

いや、抱けなかったかもしれない

 

急に横の景色を見だした健吾の、窓に反射したその顔は少し悲しく、少し怒った顔をしていた

 

「良い事教えてやろうか⁇」

 

「なんですか⁇」

 

「女で出来た傷は、女でしか癒せないんだ」

 

俺がそう言うと、健吾は笑いながら俺を見た

 

「…何がおかしいんだよ」

 

「いえ。昨日も同じ事を聞いたな、って」

 

「当たってたろ⁇」

 

「えぇ‼︎」

 

ようやく健吾の笑った顔を見れた

 

「しっかしまぁ…あのサティとフォティって誰なんだろうな⁇」

 

「知らないんですか⁉︎」

 

「あぁ…この前のイントレピッドDauの演習の時に、か〜な〜り‼︎世話になった‼︎」

 

タバコを消しながら健吾に話す

 

デカデカと灰皿の中に貼られた”NO SMOKING‼︎”と絵と文字で描かれたシールの上に吸い殻を押し付けて閉めようとしたら、健吾もタバコを吸い始め、手でストップした為、開けたままにした

 

「…意外です」

 

「さ。着いたっ‼︎」

 

話していたらあっと言うまに居住区に着いた

 

艦娘が住んでいるエリアの手前でジープを停め、健吾を降ろした

 

「あ、あの‼︎レイさん‼︎」

 

「グラーフは不発だからな‼︎」

 

「分かりました‼︎じゃなくて‼︎俺どこに行けば‼︎」

 

「…お前を待っててくれる場所があるだろ⁇」

 

「あ…はいっ‼︎」

 

何かに気付いた健吾の顔が一気に明るくなる

 

「分かってるなら早く行け‼︎それとな健吾‼︎」

 

「はい‼︎」

 

既に歩き始めていた健吾に言った

 

「グラーフは不発だか」

 

話の途中で健吾が言った

 

「分かってますよレイさん‼︎グラーフさんに抱かれたんですね‼︎」

 

「轢き殺すぞ‼︎ゼッテー言うな‼︎」

 

「はーいっ‼︎」

 

互いに満面の笑みで別れ、健吾は第二の帰る場所

 

俺はビスマルクの家に向かった

 

 

 

レイさんと別れた俺は、ある家の呼び鈴を鳴らした

 

《は〜い‼︎何方様ですの⁇》

 

「あの…か、かしわ…」

 

《‼︎》

 

インターホンが消え、家からドタドタと音が聞こえたかと思えば、勢い良く扉が開いた

 

「健吾さんっ‼︎」

 

出て来たのはりさ

 

りさは出て来た瞬間、俺に飛び付いて絡みつくように抱き着いてくれた

 

「お帰りなさいまし‼︎」

 

「ただいま、りさ‼︎」

 

ただ帰って来ただけの俺を見て、こんなに喜んでくれた

 

「お腹空きましたでしょう⁇何か食べましょう⁇」

 

りさの家に入る…

 

二階建ての綺麗な家だ

 

あ。りさ独特の匂いがする

 

焼き立てのクッキーのような甘い香りだ…

 

「さっ‼︎座ってくださいまし‼︎」

 

久方振りに”食卓”に座る

 

いつもはだだっ広い食堂のようなスペースで食べるので、こういった二人きりの空間で、二人きりの食卓に座るのは店を除いて本当に久方振りだ

 

「健吾さんの好きなスパゲティを作りますわ‼︎」

 

「おぉ〜‼︎」

 

「さっ‼︎お煙草でもお吸いになって⁇」

 

灰皿を置かれ、言葉に甘えて煙草に火を点ける

 

「何かありましたの⁇」

 

「実は…」

 

りさには全てを話した

 

りさだけは、何でも話しても構わない…

 

そんな気がした

 

「結構キツイですわね…」

 

「ごめんよ、こんな話…」

 

「構いませんわ⁇私、健吾さんの事、もっと知りたいですもの‼︎さっ‼︎出来ましたわ‼︎」

 

何気無しにりさに言われた一言がとても嬉しかった

 

こんな自分にでも、待っててくれる人が居たのか…

 

「休暇中はここに居てくださいまし。私とお出掛けしましょう⁇ねっ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

りさも俺もスパゲティを食べながら微笑み合う

 

俺が欲しかった”ケッコン生活”はこれに近いのかも知れない…



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208話 交差する思いと想い(1)

題名と話数は変わりますが、前回の続きです

一時的にりさの待つ居住区に帰った健吾

互いの思いを確かめる為、レイはラバウルに向かう…


健吾を居住区に置き、俺はその足で横須賀に戻り、今度はラバウルに飛んでいた

 

《今日は忙しいね》

 

「ヘタすりゃまだ動くぞこりゃ…」

 

普段から横須賀以外の周りから「動き過ぎ」と言われているが、動いていた方が気が楽な時もある

 

「着いたね」

 

「さ〜て、どう出るか…」

 

ラバウルに来た目的は二つ

 

一つは健吾を居住区へ送った報告

 

もう一つは大和の様子を見る為

 

最初の目的はすぐに終わった

 

食堂にラバウルさんが居たからだ

 

「ラバウルさん」

 

「マーカス‼︎申し訳ありませんね…健吾を送って頂いて…」

 

「いいドライブだったよ。これ、報告書です」

 

「何から何まで申し訳ありません…今の健吾を一人にすると、変な気を起こしかね無いのでね…」

 

「まぁなっ…」

 

ラバウルさんの言う通りだ

 

今の健吾を一人でジープに乗せて居住区に行かせたら、恐らくヤケを起こしていただろう

 

だったら俺が着いて行って、バカな話でもしていた方がウンとマシだ

 

「それで、大和は…」

 

「健吾の部屋に居ますよ」

 

「僕はアイちゃんの所にいるね⁇」

 

「終わったら呼びに行くからな」

 

きそとラバウルさんと別れ、健吾の部屋に向かう

 

健吾の部屋の前に着き、扉を叩く

 

「マーカスだ」

 

いつもならすぐに反応があるのに、今日は無い

 

「大和。俺だマーカスだ。開けるぞ」

 

鍵は掛かっていなかったので、扉を開けて中に入る

 

「大和〜…」

 

相変わらず綺麗に整理整頓されている健吾の部屋に、大和の姿は無い

 

「ん⁇」

 

健吾の机に紙切れが一枚

 

「…」

 

その紙切れを見て、頭を抑えて机に拳を振り下ろした

 

 

 

”トラックに行きます

 

しばらくお暇を頂きます

 

大和”

 

 

 

 

「マーカス⁇」

 

「レイ‼︎」

 

俺が机を殴る音が聞こえたのか、ラバウルさんとアレンが来た

 

無言で置き手紙と化した紙切れをを二人に突き出す

 

「これは参りましたね…」

 

「傷を抉りに来たな…」

 

「まぁ、健吾の休暇が終わるまで待ってやろう。大和にも考えがあるかも知れない」

 

健吾を居住区に”保護させた”のは正解だったみたいだ

 

健吾は何も知らないままでいられる

 

こんな逆三行半みたいなモン面と向かって突きつけられた日にゃ、健吾は…

 

あぁ、考えたくもない…

 

 

 

 

休暇中の健吾は、これ以上にない充実した日常を過ごしていた

 

自分を待っていてくれた人と過ごす日々…

 

食事でさえ、散歩でさえ、ただの少しの会話でさえ、健吾は幸せだった

 

ただ、健吾は彼女は抱こうとはしなかった

 

その一線だけは越えなかった

 

そして最終日…

 

「綺麗ですわね…」

 

「うんっ…」

 

二人は思い出の観覧車の中にいた

 

りさは健吾に嬉しそうに腕を絡め、健吾は照れ臭さそうに外を見ながら、りさと手を絡める

 

「必ず帰って来て下さいね…このりさ、ずっと健吾さんを待っておりますから…」

 

「ありがとう、りさ…それだけで今日まで生きてこれた…」

 

りさは健吾の肩に頭を置き、健吾はそれを優しく撫でた

 

「もし、今のお嫁さんが元の鞘に収まってしまったら…」

 

「笑って見送るよ」

 

「りさがその指環…代わりに付けますわ⁇」

 

健吾が首から下げている、ネックレスに付いた二つの指環の内片方をりさが見つめる

 

「大丈夫。俺、大和もりさも信じてる。だから、大丈夫‼︎」

 

「や〜っと笑って下さいましたわ‼︎それでこそ健吾さんですわっ‼︎さっ‼︎降りますわよ‼︎」

 

最後の日が終わる…

 

この観覧車を降りれば、健吾は横須賀に帰らなければならない

 

「あっ…」

 

りさが立とうとした時、健吾は産まれて初めてのワガママを彼女にした

 

彼女を抱き寄せた後、か細く震える体をキツく抱き締めた

 

「もう一周だけ…お願い…」

 

「構いませんわ…貴方となら、何処までも…」

 

健吾は感じていた

 

自分の為に、鼓動を早めてくれる女性の存在を…

 

彼女をグッと抱き締めた後、頭に鼻を付け、深く息を吸い込む…

 

焼き立てのクッキーのような甘い香り、そしてシャンプーの匂いを肺に記憶させる為に、健吾は深く息を吸った…

 

 

 

 

「りさ」

 

「ん…」

 

別れの間際まで、りさは腕に付いていてくれた

 

「貴方の帰る場所は、ここと…空の上ですわっ⁇」

 

「…行って来る‼︎」

 

「えぇ‼︎このりさ、ここでお待ちしておりますわっ‼︎」

 

健吾は何度も何度もりさの方を振り返りながら、ジープの待つ場所に来た



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208話 交錯する思いと想い(2)

「帰る場所は見つかったか⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

健吾は来た時より遥かに見違えた、明るい顔付きになっていた

 

自分が今から伝えなければならない事を、今の幸せな健吾に言うのが本当に辛い

 

「レイさん」

 

「んあ⁇」

 

高速に差し掛かった頃、タバコに火を点けた俺に健吾が口を開いた

 

「大和は元気ですか⁇」

 

「あぁ」

 

「…トラックに帰ったんですね」

 

「あぁ」

 

一番聞かれたく無い事を聞かれた

 

俺に出来るのは、平然と返す事だけ…

 

実に情けない

 

「指環の返却があった」

 

「…」

 

「ホラッ」

 

ポケットから指環を入れた箱を取り出し、健吾の膝に置いた

 

「俺なら捨てるね。今すぐ」

 

「ですよね…」

 

健吾は下を向いたまま、指環ケースを見つめていた

 

「…まっ、持ってろよ。思い出はそう簡単には捨てられんだろ」

 

「はい…」

 

これは相当キてるな…

 

まるで一昔前の健吾だ

 

仕方無い…

 

怒りの矛先をこっちに向けるか…

 

「…一発ブン殴っちまった」

 

「はい…え⁉︎」

 

「仮にもお前は俺の部下だ。その部下をコケにする奴は、お前が許しても俺が許さん」

 

「レイさん…」

 

どうだ…

 

俺にキレろ、健吾

 

仮にも嫁をブン殴った奴だぞ

 

「やっぱりレイさんは凄いや‼︎」

 

「…」

 

健吾は一瞬笑った後、すぐに優しい目に変わった

 

「…そんな見え見えの嘘、俺に通用するとでも⁇」

 

「…バレたか」

 

「レイさんが人を殴るのあんまり見た事ないです。それも女性を…アレンはあるけど」

 

「はぁ〜‼︎そういう事言っちゃう‼︎」

 

「優しいですからね…レイさんは…」

 

「アイツが殴るの見た事あるか⁇」

 

「あ、はい。悪人に対しては”オラ先手必勝だこの野郎‼︎”って言ってグーです」

 

「う〜んアイツらしい‼︎」

 

話をしていると、すぐに横須賀に着いた

 

「ありがとうございました」

 

「ちょっと待て。コーヒー飲むぞ」

 

ジープを返した後、健吾を連れて間宮に向かった

 

「いらっしゃいませ‼︎」

 

「コーヒー二つだ」

 

「かしこまりました‼︎」

 

二人掛け用のテーブル席に座り、伊良湖が持って来るコーヒーを待つ

 

「まっ。上手く行くさっ」

 

「えぇ…」

 

「…通信だ。表に出て来る」

 

健吾は黙ったまま俺を目で追い、また机の上に置いたメニューに視線を向けた

 

健吾一人になって一分もしない内に、椅子が引かれる音がした

 

その音に気付き、健吾は視線を上げた

 

「健吾さん…」

 

目の前に居たのは俺ではなく、私服に着替えた大和

 

「あ…や…大和…」

 

目の前に現れた大和に、健吾は息が詰まる

 

大和は大変申し訳無さそうな顔をしながら、健吾に口を開いた

 

「謝って済まされる事ではありません…」

 

「だよね…」

 

健吾の言葉で、大和は更にシュンとする

 

「あの‼︎私、有村少将とは…」

 

「言わなくていいよ」

 

「え…」

 

「大和が言いたくないなら、言わなくていいよ。そんな大和、見たくない」

 

「…」

 

大和の想像を超えていた、健吾の懐のデカさ

 

「…俺だってこの一週間、大和に仕返しする為に浮気してやった‼︎だってさ、相手はあのトラックさんだよ⁉︎敵う訳無いよ‼︎」

 

「それは違います‼︎」

 

「だから…さっき謝って済む事じゃないって言ったんだ」

 

「違います健吾さん‼︎あれは私が…‼︎」

 

何かを言おうとした大和の口を、健吾は人差し指で塞いだ

 

「大和⁇」

 

「はい…」

 

「こう言う時位、カッコつけさせてよ…ねっ⁇」

 

再び見せられた健吾の懐の広さに、大和は一粒涙を流した

 

「…貴方は優し過ぎます」

 

「これで良いんだ、大和…これで…」

 

大和を見つめる健吾の目は、とても優しい目をしていた

 

そして大和は、あの日自分がしてしまった事を心の底から悔いた

 

理由はどうであれ、こんなにも優しい人を、優しい旦那を…自分は悲しませてしまった

 

「さ…行くんだ大和」

 

「嫌です…」

 

「君の帰る場所は俺じゃない。本当の旦那と、娘の所だよ」

 

「嫌です‼︎」

 

初めて見た、大泣きして自分にすがる大和

 

「あそこだ」

 

間宮の入り口で、誰かが俺に頭を下げた後、健吾の所に寄って来た

 

「柏木さん‼︎」

 

「トラックさん⁉︎」

 

現れたのは、走って来て汗ダクになったトラックさんだった

 

「大変‼︎申し訳ありませんでした‼︎」

 

「申し訳ありませんでした‼︎」

 

トラックさんは着くや否や健吾の足元で大和と共に土下座をした

 

「顔上げて下さい‼︎何をして…」

 

「とんでもない事をしてしまいした…申し訳が付きません‼︎」

 

「よっ、と…」

 

「え…」

 

「え…」

 

健吾は二人を立たせ、ホコリを払った

 

「やめて下さい。俺、尊敬してる人のこんな姿、見たくないんです」

 

「柏木さん…」

 

「時々、大和と逢って頂けますか⁇」

 

「いえ…大和とは、今生の別れを…」

 

「俺の”妻”を悲しませないで下さい」

 

健吾の目は本気の目をしていた

 

健吾はトラックさんを、エドガーやアレン、そしてウィリアムやレイの空の男達の次に尊敬していた

 

何でも出来て、料理が美味しい

 

健吾の持っていない物を、トラックさんは持っていたからだ

 

「本当に良いのですか⁇」

 

「勿論‼︎子供は一人位欲しかったけど…まぁ良いや‼︎」

 

「いやいやいやいや‼︎作って下さい‼︎」

 

「そうですよ健吾さん‼︎何なら今すぐ寮で‼︎」

 

若い内から子供を諦めようとしだした健吾に対し、トラックさんはテンパり、大和に至っては服の肩を出した

 

「そんな感じでいて下さい…お願いだ…」

 

「あ…」

 

「…はいっ‼︎」

 

潔の良い返事をした大和を見て、トラックさんは思った

 

あぁ…彼には敵わないな…

 

真に大和を笑顔に出来るのは、彼しかいない…

 

健吾と有村の思いは、良い意味で交錯していた…

 

 

 

 

 

「ふふっ…上手く行きましたわね⁇」

 

「でもこれじゃあ、元の鞘がどちらか分かりません」

 

「これで良いんですのよ。愛は千差万別、人それぞれ…お父様がいつも仰っているでしょう⁇」

 

「そうですね…」

 

「帰りましょうか。お母様が心配されますわ⁇」

 

「えぇ、姉さん」

 

三人に気付かれぬまま、美女二人は間宮の入り口から立ち去った…



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209話 雷鳥の妻の勘(1)

さて、中々の修羅場の207、208話が終わりました

今回のお話は、ちょっぴり切なくて、ちょっぴり楽しいお話です

ようやくあの謎が解けるかも⁉︎


もうそろそろ初夏

 

レイの言う通り、夏になりかけだが、朝は少しヒンヤリして心地良い

 

「こえ、うにとうやつ」

 

「こえ、びいびいのやつ」

 

「危なくなったらちゃんとしおいとはっちゃんに言うのよ⁇遠くに行っちゃダメだからね⁇」

 

私達は港に来ていた

 

しおいとはっちゃんと一緒に、ひとみといよが小さな漁をする為、それを見送りに来た

 

「あかった‼︎」

 

「いってきあす‼︎」

 

しおいとはっちゃんが二人の隣に着き、海へと潜る…

 

こうなればしばらく上がって来ない

 

あの子達は朝ご飯を食べたけど、私はまだだ

 

間宮でモーニングでも頂こうかしら

 

視察と言う名目でね‼︎

 

「いらっしゃいませ‼︎おはようございます‼︎」

 

「え〜とっ⁇この一番高いモーニングを頂けるかしら」

 

「は、はいっ‼︎」

 

伊良湖が焦って伝票を書き、そのまま厨房の間宮に渡した

 

あ、そうだ

 

何かあったらいけないから、タブレットは机に置いとこう

 

濡れちゃいけないから、なるべく端っこに…

 

タブレットを出していると、机を挟んだ前の席に誰かが座った

 

「いっぱい空いてるでしょ⁇他の所座んなさい」

 

顔を見ずに人影だけで言ってしまった

 

「ならカウンターに座る」

 

「ちょっと待って」

 

席を立とうとした人影の服の裾を掴む

 

「す、座んなさいよ…」

 

「ど〜もっ。伊良湖‼︎モーニングプレート‼︎コーヒーでくれ‼︎」

 

「畏まりましたー‼︎」

 

「悪いな。朝からひとみといよの事見て貰って」

 

「別にいいわ⁇」

 

座ったのは、朝の航空訓練を終えたレイ

 

レイは断りも無く革ジャンの胸ポケットから煙草を取り出し、吸い始めた

 

「アンタこの前ジープで吸ったでしょ」

 

「あれは吸ってない。吹かしただけだイデッ‼︎」

 

言い訳の途中でレイの頭に軽くゲンコツを落とす

 

「一緒よ‼︎」

 

「すまんすまん‼︎」

 

「お待たせしました‼︎モーニングパンケーキセットです‼︎」

 

「あら、ありがと」

 

私の目の前に料理の乗ったお皿がドンドコ並ぶ

 

採れたての野菜サラダ

 

目玉焼きとベーコンとウインナー

 

おっきいパンケーキが三枚

 

シロップとチョコソースが入った小瓶がそれぞれ一つ

 

ヨーグルト

 

最後にコーヒー

 

レイは机に頬杖をついて微笑みながら、置かれて行く皿一つ一つを目で追って行く

 

ひとみといよがよくしてるあの癖ね

 

分かんないなら、す〜ぴゃ〜マーケットの話を見るといいわ

 

レイが二人の父親だって事が、またちょっと分かるわ

 

「マーカスさんのモーニングです‼︎」

 

「ど〜もっ」

 

レイのモーニングも置かれる

 

お皿におっきなタマゴサンドが二つとウインナー二本

 

それとコーヒー

 

こんなのじゃ足りないわ

 

あ、あれか

 

陸の勤務になってから胃がおっきくなったのかしら…

 

「…」

 

「…なんだよ」

 

「アンタが食べてるの、久々に見たな〜って思っただけよ」

 

「いつも見てるだろ⁇」

 

そう言ってレイは笑う

 

私も目の前の料理を口に運ぶ…

 

 

 

 

「ご馳走様」

 

「また来るよ」

 

「ありがとうございました‼︎」

 

間宮を出て、レイは爪楊枝を咥えながら一旦進行方向と逆の方を向いて、歩き始めようとした

 

「ちょっと待ちなさい」

 

「なんだ⁇」

 

私と逆方向を歩き始めようとしたレイを引き止め、腕を組んだ

 

「視察行くわよ」

 

「ん」

 

「否定しないのね」

 

「暇だからな」

 

私はいつもそうだ

 

素直になれない

 

だからこうして、視察と嘘を吐いてレイとデートをする

 

レイがそんな奴じゃないのは遠の昔に知っている

 

正直に”デートして欲しい”と言えば、すぐに時間を空けてくれる

 

でも、私はワガママだから、今すぐにデートがしたい

 

だから、嘘を吐いた

 

「あら。通信だわ…はい」

 

《うにとえたお‼︎》

 

《でかいおしゃかなもとえた‼︎》

 

通信の相手はひとみといよ

 

「あらっ‼︎じゃあおばあちゃんに渡して、今日の夜ご飯にしましょう⁉︎」

 

《あかった‼︎》

 

《しゃらにあたちてくう‼︎》

 

通信が終わり、タブレットを仕舞う

 

「ふふっ…」

 

「ひとみといよか⁇」

 

「えぇ。今帰って来たらしいわ⁇」

 

「今のお前、母親の顔してるぞ」

 

「…はっ‼︎」

 

繁華街のガラスに映る自分を見た

 

レイが映ったのが見えた後、顔が綻んだ自分の顔が見えた

 

これが母親の顔か…

 

「ホラ、行くぞ」

 

「あっ」

 

レイに軽く引っ張られ、その場を後にする

 

視察は昼前まで続いた

 

色々食べて、色々飲んだから、今はちょっと疲れてベンチで休んでいる

 

「ちょっとトイレ行って来るわ」

 

「ん」

 

レイが離れてすぐ、繁華街に気になる人がいた

 

二人はウインドウショッピングでもしているのか、歩いては少し店内を見ては話しを繰り返している

 

すぐにベンチを立ち上がり、二人を引き止めた

 

「ちょっと貴方達」

 

「あら、これは元帥様…」

 

その二人はサティとフォティと呼ばれている女性二人

 

私に気付いたサティがスカートの裾を摘んでお辞儀した

 

「貴方達がサティとフォティね。レイとアレンが世話になったわ。それと、健吾も世話になったって言ってたわ⁇」

 

「わたくし達は、いつだって貴方がたのお傍に…」

 

サティは裾を摘んでお辞儀をし、フォティがそのまま一礼した後、すぐに歩き出そうとした

 

「ちょっと待ちなさい」

 

私が止めると、二人は歩みを止めた

 

「お礼位させなさいよ」

 

「構いませんわ。わたくし達、いつも貴方がたから頂いてますの」

 

「お礼を返すのは此方の方です」

 

そう言い残して、二人はまた歩み出した

 

「待って‼︎私、貴方達を知らないわ‼︎」

 

「ふふっ…すぐに分かりますわっ⁇」

 

「あ…」

 

サティの笑顔だけが残り、私の髪を揺らす風が吹いた…

 

「どうした⁇」

 

「例の二人よ。サティとフォティ」

 

「あの二人は謎が多いな…」

 

「いつかお礼したいわね⁇」

 

「放って置くのがお礼なんだよ、あの二人は。そろそろ帰るぞ」

 

「ちょっと待ちなさいよ‼︎」

 

一足先に歩み出したレイが伸ばした手を取り、小さなデートは終わりを告げ、執務室に戻る



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209話 雷鳥の妻の勘(2)

「清霜達はまだみたいね」

 

「親潮もいないな…」

 

誰もいない執務室はガランとしている

 

いつもは子供達がいるので中々騒がしいが、昼下がりのこの時間は一瞬だけ静かになる

 

親潮と朝霜磯風は三人で見回り

 

ガングートと清霜早霜はお昼寝かお母さんの所

 

ななは学校

 

いつもなら一気に静かになるこの時間の内に一気に仕事を片付けるのだが、今日はもう無い

 

「はっちゃん達でも探して来る」

 

「戻って来たらオヤツ食べましょ⁇」

 

レイが執務室から出て数十秒後、入れ違いの様に誰かが入って来た

 

「提督‼︎不審者を逮捕しました‼︎」

 

入って来たのは憲兵隊の隊長とあきつ丸

 

「何処にいるの⁇」

 

「はっ。会議室にいるであります‼︎」

 

「すぐに行くわ‼︎」

 

上着を着て、憲兵隊の隊長と共に会議室に向かう

 

「離せ‼︎俺は何もしてない‼︎」

 

会議室では一人の男性が暴れており、憲兵隊の二人が取り押さえていた

 

「彼は何を⁇」

 

「本人によると、防衛省の人間らしいのですが…タナトスの設計図を拝借しようとしておりました」

 

「漏洩してないでしょうね⁇」

 

「あんな頑丈な倉庫を破るのは無理であります…」

 

あきつ丸は制帽を直しながら、あきれ顔で答えた

 

タナトス型の設計図は横須賀でも超が付く機密事項

 

それはもう無茶苦茶頑丈な倉庫に保管してあるし、何重もの電子ロックを破って、本人認証とか私の静脈、網膜スキャン…

 

…とにかく無理よ‼︎

 

「そっ。ならいいわ。尋問室に移して頂戴」

 

「了解であります‼︎」

 

とにかく尋問しなければ…

 

「騒がしいですわね⁇」

 

「ちょっと貴方達どうやって…」

 

いつの間にかサティとフォティがいた

 

「尋問なさるのですか⁇」

 

「そうよ。貴方達も尋問されたくないなら早くここから出なさい」

 

そう言うと、二人は不審者を横目で見ながら帰って行った

 

「どうやってここに…」

 

「提督。準備が出来ました」

 

「行くわ」

 

尋問室に入り、少し強引な尋問が始まる

 

本来なら軽い問答をして、その後監視を付けて奉仕活動で済ましてあげるのだが、今回は訳が違う

 

基地の機密事項を拝借しようとした挙句、未だに抵抗を続けている

 

台に寝かされて手足の自由を奪われても、彼はまだ抵抗を続けていた

 

「…ちょっと休憩するわ」

 

「…」

 

一点だけを見つめて、「俺は言いません」みたいな顔がムカつく

 

久し振りに煙草でも吸って落ち着こう…

 

表に出て、胸ポケットからクシャクシャになった煙草の箱を取り出し、マッチで火を点けた

 

メンソールの香りが頭をスッキリさせてくれる…

 

さて、どう処理しようかしら…

 

 

 

 

「お母様がお困りね」

 

「なんとかしないといけませんね…」

 

人の目をかいくぐり、サティとフォティが戻って来た

 

「お母様は尋問をしてましたわね⁇」

 

「はい。彼から何かを聞く、と」

 

「準備は良いわね⁇」

 

「はい。姉さん」

 

サティとフォティが尋問室に入る

 

「誰だ貴様達は‼︎」

 

「フォティ。ゴーグルを着けてあげて⁇」

 

「はい、姉さん」

 

「何かするつもりか知らんが、俺は口を割らん」

 

「それは残念ですわ⁇フォティ、始めましょう」

 

「えぇ」

 

「はっ。言ってろ」

 

二人はマジックハンドを手にし、彼の両脇から消えた

 

「なんだそれは」

 

再び両脇から現れた二人は、マジックハンドの先に何かを掴んでいた

 

「この辺かしら…」

 

「もう少し右ですね」

 

サティはマジックハンドで掴んだそれを、彼の顔の上で構えた

 

「それっ」

 

「いだっ‼︎」

 

サティはその何かを何のためらいも無く彼の顔面に落とした

 

「おりゃ」

 

「ぐっ‼︎」

 

続いてフォティも落とす

 

「やめろ‼︎何を落とした‼︎」

 

「バフンウニですわ⁇チクチクチクチク、痛いですよね⁇それっ」

 

「ぽとり」

 

「やめろやめろいででで‼︎」

 

サティとフォティは、彼の顔にバフンウニを落とし続ける

 

「吐く気になりましたか⁇」

 

「この位屁でもない」

 

「では次に参りましょう」

 

二人はまた両脇に消え、マジックハンドに何を掴んで戻って来た

 

「ノーマルなウニです」

 

「これは痛いですわぁ〜っ⁇それっ」

 

「ぎゃ‼︎」

 

サティは如何にも痛そうな声と雰囲気を醸し出しながら、またもやためらい無く顔面にノーマルウニを落とす

 

「そりゃ」

 

「ぎゃぁぁぁあ‼︎」

 

フォティも顔面に落とし、彼は悲鳴を上げる

 

「やめろ‼︎これ以上は本当に‼︎」

 

「痛いですか⁇」

 

「痛い‼︎」

 

「助かりたいですか⁇」

 

「助かりたい…が‼︎俺は口は割らん‼︎」

 

「じゃあダメです。おりゃ」

 

「うりゃ」

 

「うぎゃぁぁぁあ‼︎」

 

そこそこの落下速度のウニを何度も顔面に落とされ、彼はそろそろ限界に来ていた

 

「言いませんわね…」

 

「姉さん。次に行きましょう」

 

「そうね…」

 

「ヒィ…フゥ…」

 

彼の顔面は、折れたウニのトゲだらけになっていた

 

「次は痛いですわ〜…」

 

「よいしょ…」

 

「な…何だそれは‼︎」

 

フォティのマジックハンドの先には、強力そうな針をしたデカいウニがあった

 

「ただのガンガゼですわ⁇」

 

「凄く痛そうです」

 

「ひっ…ひっ…」

 

サティは彼の頬を撫でながら、逃げないように固定する

 

その顔上には、フォティが持ったガンガゼが待機している

 

「ガンガゼのトゲには毒がありますの…刺さるとどうなるか…うっふふふ…」

 

「ほ〜れほ〜れ」

 

フォティはイタズラにガンガゼを彼に近付ける…

 

「うううう…分かった‼︎言う‼︎だからそれだけはやめてくれ‼︎」

 

「あ、落ちた」

 

「ひぎゅぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

フォティが”わざと”落としたガンガゼは、彼の顔の横スレスレに落ちた

 

「ちょっと貴方達‼︎何やってるの‼︎」

 

そこでようやく私が帰って来た

 

「頼む‼︎何でも話すから助けてくれ‼︎」

 

「え…」

 

尋問していた彼は怯えきっていた

 

「またお会いしましょう⁇」

 

「包み隠さずお話して下さいね⁇」

 

「は、はひっ‼︎」

 

サティとフォティはバケツにマジックハンドを入れて、尋問室から出ようとした

 

「ちょっと待って‼︎お願い‼︎」

 

サティとフォティはすぐに足を止めてくれた

 

「私にまで借りを作る気⁇」

 

「違いますわ。これは恩返し…わたくし達、いつも…」

 

「貴方達に貸しを作った覚えは無いわ‼︎それに、そのマジックハンドは私の娘のよ‼︎」

 

少しカンシャクを起こしてしまった

 

仮にも借りを作った相手なのに…

 

「…覚えていなくても、私達にはあります」

 

「…沢山の愛情を、ありがとうございます」

 

二人は同じタイミングで左右対称の目の涙を人差し指で払い、一礼した後、また何処かに行ってしまった

 

「あ…」

 

二人の後ろ姿を見て、私はある事に気付いていた…

 

結局彼は本当に口を割り、不法侵入で逮捕となった

 

実は国などはでっち上げで、基地の備品を盗んで売り飛ばそうとしていただけだった…



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209話 雷鳥の妻の勘(3)

「たらいま‼︎」

 

「かえってきたお〜‼︎」

 

執務室にひとみといよが帰って来た

 

私は先程の後、すぐに執務室に帰って来ていた

 

「お帰りなさい‼︎今日はどこ行ってたの⁇」

 

「はんかあいおしゃんぽちてきた‼︎」

 

「すちっくみ〜ろつくうのみた‼︎くうくう〜ってちたういんあ〜‼︎」

 

いよが言っているのは、最上のスティックミートのグルグルウインナーの事だろう

 

「今日は何採れたの⁇」

 

「うにいっぱいとえた‼︎」

 

「にぉおにぉおのおしゃかなもとえた‼︎」

 

「たかこしゃんのしゅきなうつぼ‼︎」

 

「うつおおいち〜‼︎」

 

「ちゃんと覚えたのね‼︎偉いわ‼︎サティ、フォティ‼︎」

 

サラッと言ってみた

 

「うんっ‼︎」

 

「いよちゃん…」

 

いよは何の疑いもなく返事をしてくれたけど、ひとみは気付いた

 

「あ…ちらない‼︎ちらないちらない‼︎」

 

「さ、さち〜⁇」

 

「ほ、ほち〜⁇」

 

二人共私の顔を見てタラタラ汗を流している

 

「ん〜っ⁇」

 

笑顔のまま、二人に顔を近付けてみる

 

「ひぃ〜‼︎」

 

「ひぃ〜‼︎」

 

かなりビビってはいるが、視線は私の目から離そうとしない

 

レイと良く似てるわ…

 

「内緒にしといてあげるわ⁇」

 

「ほんと⁉︎」

 

「ないちょちてくえう⁉︎」

 

「その代わりっ‼︎危ない事しちゃダメよ⁇」

 

「あかった‼︎」

 

「後はそうね…次、サティとフォティに逢ったら、その時に言うわ⁇」

 

「いよちゃん‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

二人は頷き合い、ポケットから小さな小瓶を取り出し、中身を少しだけ飲んだ

 

「へんち〜ん‼︎」

 

「へんち〜ん‼︎」

 

二人が可愛いポーズを取り、掛け声を言った後、みるみる身長が伸び、ツルペタな胸が出て、キュートなお尻が突き出た

 

「横須賀さんっ‼︎」

 

「どうですか⁇」

 

「わぁ〜…可愛いわ‼︎」

 

サティとフォティになった二人は、何処か幼さが残った抜群のプロポーションの美女

 

その辺の男なら引っ掛かり…

 

…引っ掛かってるのか

 

「それで横須賀さん。お願いとは⁇」

 

「何なりと…」

 

「娘に言うのも変だけど…いいかしら⁇」

 

「えぇ」

 

「構いませんわっ」

 

私は意を決して言った

 

私は仕事中の付き合いなら山程あるが”こう呼べる”間柄の人が居ない

 

だからこそ、二人に言った

 

「私の”友達”になって下さい‼︎」

 

「勿論ですわっ‼︎」

 

「勿論です‼︎」

 

そう

 

私は同性の友達が少ない

 

グラーフやふちとか、その他諸々の付き合いは勿論あるんだけど、どうしても仕事上の付き合いになってしまう

 

だからこそ、私は友達が欲しかった

 

そして、気になるのがもう一つ…

 

「その服、どうなってるの⁇」

 

「グラーフさんに作って頂きましたの‼︎」

 

「小さな時はワンピース、この姿の時は簡単なドレスになります」

 

ひとみといよの時に着ていた灰色のワンピースは、サティとフォティになってもほぼそのまま

 

グラーフお手製の伸縮性の強い生地で作られだろう

 

ただ、かなりボディラインは目立っている

 

「今度はご飯食べたり、洋服買ったりしましょうね⁇」

 

「楽しみにしています」

 

「唐揚げを食べたいです」

 

「おっ‼︎サティ、フォティ‼︎」

 

レイが帰って来た

 

「ごきげんよう、マーカス大尉‼︎」

 

「お帰りなさい、大尉‼︎」

 

「ただいまっ」

 

レイは気付いていない

 

…気付いていないフリをしてるのかしら⁇

 

「では、私達はこれで失礼します」

 

「またお逢いしましょう⁇」

 

「気を付けて帰るのよ‼︎」

 

二人共ドレスの裾を掴んで一礼した後、執務室から出て行った

 

「ひとみといよはどうした⁇」

 

「さっきトイレに行ってたから、もうすぐ帰って来ると思うわ⁇」

 

あ、これ気付いてないわね

 

「たらいま‼︎」

 

「かえってきたお‼︎」

 

ひとみといよが帰って来た

 

「うにいっぱいとえた‼︎」

 

「しゃらにあたちてきた‼︎」

 

「そっかそっか‼︎よいしょ…」

 

父親に抱っこされ、幸せそうな二人を見るとこっちまで幸せな気分になる

 

晩御飯は豪勢になるわね⁇

 

「お友達は出来たか⁇」

 

「おともらちれきた‼︎」

 

「かあいいひと‼︎」

 

「そっかそっか‼︎」

 

そう言った後、ひとみといよが私の方を見て、軽く手を振った

 

私も二人に手を振り返した

 

私が心から友人と呼べる人は、案外ずっと近くにいた…



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210話 心の叫び(1)

さて、209話が終わりました

今回のお話は、少しだけエッチなお話です

エッチなお話が苦手な方は、少し目をつぶって欲しいですが、ストーリーに関わる重要なお話もあるかも知れません…

果たしてうなされているのは誰なのか…

そして、救ってくれたのは誰なのか…



「ハッ…ハッ…んっ…」

 

一人の艦娘がベッドで喘ぐ

 

「ハッ…うっ、ん…」

 

自分の声で目が覚める

 

「夢…か…」

 

悪夢にうなされた彼女は、深夜に目を覚ましてしまった

 

「…お水でも飲もうかしら」

 

ベッドから起き上がり、食堂へと向かう

 

食堂に着き、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り、自分専用のコップに注ぎ、一度それを飲み干す

 

「んっ…んっ…ん…はぁっ」

 

口元を手で拭き、呼吸を整える

 

「またあの夢…」

 

彼女は何度も同じ夢を見ていた

 

彼女は過去に辱めを受けた経験があった

 

何度も嬲られ、そして捨てられた…

 

だけど、そんな自分を救ってくれた人がいた

 

この基地のみんなもそうだけれど、また別の誰か

 

その人は、散々辱めを受けた私に躊躇いも無く手を差し伸べてくれた

 

その人は何も言わず、私を遠い場所に匿ってくれた

 

失礼な事に、私はその人の事をうっすらとしか覚えていない

 

唯一覚えているのは夢で言われた言葉だけ

 

「へぇ、案外子供っぽいんだな」

 

これだけ

 

自分でも失礼な人だと思う

 

だけど、思い出せない

 

もしかすると、思い出さない方が良いんじゃないか…とも思う

 

「ふぅ…」

 

呼吸を整え終え、もう一度ミネラルウォーターを飲み、もう一度ベッドに入って目を閉じた…

 

 

 

 

 

次の日…

 

彼女は横須賀に来ていた

 

他に二人もいるけれど、パチンコと買い物をしている

 

彼女は一人、長い海岸線の途中にある階段で腰を降ろしていた

 

「ふぅ…」

 

缶コーヒーを飲みながらため息を吐く

 

昨日の夢が頭から離れない

 

あの日の事を思い出す…

 

胸を穢され、太腿も穢され…

 

ファーストキスもヴァージンも散らされ…

 

思い出すと体が締め付けられる思いになる

 

だからこそ、一人になりたかった

 

「よいしょ‼︎」

 

突然誰かが横に座った

 

「…なぁに⁇」

 

見慣れない若い男性だ

 

基地の人間ではない

 

「一緒に寿司食わない⁉︎」

 

「…ナンパならお断りよ。一人になりたいの。放っておいて」

 

「そんな事言わずに行こうよ‼︎」

 

そう言って、彼は手を引いて来た

 

「やめて‼︎」

 

「へへ…」

 

「ひっ…」

 

気が付くと周りには数人の男性がいた

 

タイミングが悪い…

 

今しがた、あんな事を思い出していたのに…

 

「や、やめて…」

 

一気に恐怖が蘇り、体が震えて固まる…

 

「来いよ‼︎」

 

抵抗虚しく、海岸線を降り、街へ連れ出された

 

あぁ…また辱しめられるのか…

 

いつもならブン殴ってやるのに、恐怖で体が動かない…

 

「ね〜ね〜何する⁉︎」

 

「…好きにすれば」

 

半ば呆れ半分に答えを返す

 

「ならホテル決定‼︎」

 

やっぱりだ…

 

体しか見てない

 

あぁ、誰か…

 

「スーパーウルトラダイナミックハイパーストロングキーーーック‼︎」

 

「ぐあっ‼︎」

 

「え…」

 

ダッサイ掛け声がしたと思えば、一人の男性がいきなり吹っ飛んだ



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210話 心の叫び(2)

「何だぁこいつ‼︎」

 

「正義の味方だっ‼︎」

 

そこにはフルフェイスのヘルメットをした男性が腰に手を当てて立っていた

 

「こいつぶっ殺…ごっ…」

 

「ぬははははは‼︎」

 

何の前触れもなく、右ストレートが顔面に当たり、また一人男性が吹き飛ぶ

 

「死ねや‼︎」

 

「愚か者めが‼︎」

 

「あっ…が…」

 

今度は顔面に肘鉄

 

あっと言う間に私をナンパした男性はその場に倒れた

 

私は安心したのか、腰が抜けてその場にへたり込んでいた

 

「艦娘を拉致したのは重罪だ…横須賀で逮捕されるか、今謝って全てを忘れるか…選んで頂こうか‼︎」

 

「「「すみませんでした‼︎横須賀基地の艦娘とは知りませんでした‼︎」」」

 

ナンパした男性達はすぐにその場で土下座した

 

「うぬっ‼︎反省したのなら許してやろう‼︎骨を折られる前に帰りなさい‼︎」

 

「「「はいっ‼︎失礼しました‼︎」」」

 

男性達は一目散に逃げて行った

 

「お嬢さん、お怪我はありませんか⁇」

 

フルフェイスのヘルメットの男性はすぐに私に近寄り、腰が抜けた私に手を差し伸べてくれた

 

「…助けてなんて言ってないわ」

 

差し伸べてくれた手を掴まず、私は立ち上がった

 

しかもなぁに⁇

 

助けて頂いたのに、この言い方は

 

とは考えてはいたが、プライドが勝ってしまった

 

立ち上がってすぐ、私は歩き出した

 

「横須賀まで送ってやるよ」

 

「結構よ」

 

「お寿司でも食べないか⁇」

 

バイクに乗ったままチョロチョロ着いて来るこの男に腹が立った

 

「助けてくれてどうもっ‼︎これでいい⁉︎」

 

「美人を助けるのは当然の事だからな‼︎」

 

それでも横をチョロチョロ着いて来る

 

「あのねぇ…」

 

何度も引き剥がそうとするが、彼は着いて来た

 

「はぁ…」

 

ため息を吐いた後、一旦歩みを止めた

 

「助けてくれた事は有難いわ‼︎でもね‼︎顔も明かさない、名前も明かさない癖にナンパするなんてどう言う神経してるのかしら⁉︎」

 

「おっとこれは失礼‼︎美人に見せる顔じゃないと思って‼︎」

 

彼はようやくヘルメットを取った

 

「リチャード・オルコットだ‼︎リチャードって呼んでくれ‼︎」

 

「中将様⁉︎失礼しました‼︎私なんて事を…」

 

助けて頂いたのは、まさかのリチャード中将だった

 

「あ〜あ〜固い固い‼︎敬礼は無しっ‼︎肩の力抜いて‼︎いつも通りの君で良い‼︎」

 

「…分かったわ」

 

「ごほん…では改めて…お寿司食べない⁉︎」

 

「…美味しいのじゃなきゃやぁよ⁇」

 

「勿論‼︎味は保証する‼︎」

 

「なら、付き合ってあげます」

 

「乗って‼︎」

 

ヘルメットを渡され、それを被った後、中将の背中にくっ付いた

 

「早く出して頂戴」

 

「行っくよ〜ん‼︎」

 

バイクは軽快に横須賀へと引き返して行く…

 

「ねぇ、中将」

 

「ん〜⁇」

 

「ズィーカークもこうして⁇」

 

「なっはっは‼︎まぁな〜‼︎」

 

「貴方、ナンパ癖直したらどうなの⁇」

 

「嫁が恐妻だからな‼︎」

 

「なぁに、それ。言い訳のつもり⁇」

 

「はっはっは‼︎」

 

中将は笑い飛ばした

 

それにつられて、私も少しだけ笑う

 

「さっ、着いた」

 

「どうもっ…中々快適なツーリングだったわ」

 

横須賀に着き、ヘルメットをリチャードに返す

 

中将もヘルメットを脱ぎ、棚にそれを置いた

 

「それはようございました‼︎」

 

中将に着いて行くと、やっぱりズイズイズッコロバシに着いた

 

「中将〜⁇浮気ですか〜っ⁇」

 

「ちが…」

 

「違うわ。お礼をしてるの」

 

「へ〜ぇ⁇中将やるじゃん‼︎さっ‼︎座って座って‼︎」

 

ズィーカークに案内された席に座り、帽子を脱ぐ

 

「…ありがとう」

 

「助けられたのは本当だから、気にしないで頂戴」

 

中将はただ笑って返した後、しばらくはスシを食べる

 

「ピンクソースが無いわね」

 

「ぴ、ピンクソース⁉︎」

 

「私の国ではスシにピンクソースが付いてたわ」

 

「それが本場の寿司さ」

 

「そっ。でも美味しいわね。でっ、何であんな所にいた訳⁇」

 

「あぁ。空から連絡を受けたんだ」

 

「空⁇」

 

「息子と息子の友人さっ」

 

「後で礼を言っておくわ」

 

お腹イッピーになるまでスシを食べ、私はポーチからオサイフを出そうとした

 

「男に格好付けさせてくれ」

 

「でも今日は助けて貰ったし…」

 

「今返して貰った」

 

「…分かったわ」

 

中将に止められ、財布を仕舞う

 

表で待っていると、中将はすぐに出て来た

 

「ごちそうさま」

 

「少しは気は晴れたか⁇」

 

「えぇ。それと…」

 

中将の頬に、お礼のキスをする

 

「おっほ‼︎」

 

「貴方の嫁と、ズィーカークが惚れた理由が分かったわ…じゃあね‼︎」

 

中将は呆然と立っているけど、気にしないでおこう…

 

 

 

待ち合わせ場所に来たが、まだ二人共来ていない

 

もう少しだけ、砂浜にいよう

 

「あら⁇」

 

砂浜には綺麗な貝殻が流れ着いていた

 

「綺麗な貝殻…」

 

薄いピンク色の貝で、向こう側が薄っすら透けて見えている

 

「もっとあるかしら」

 

その辺にあった木の枝を拾い、それで辺りを掘り返してみる

 

「こっちも綺麗ね」

 

いつの間にか貝殻探しに夢中になっていた

 

「レディに砂遊びは似合わないぞっ⁇」

 

「…なぁに⁇失礼な人ね⁇」

 

「よっと…」

 

お礼を言わなければならない人が横で膝を曲げた



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210話 フレンチギャル

題名は変わりますが、前回のお話の続きです

お話の主人公は誰か分かりましたか⁇

題名が大きなヒントになってます


「感謝するわ」

 

「気にすんな。友達だろ⁇」

 

「そうね。そういう事にしといてあげるわ」

 

二人は顔を見合わせずに、木の枝で砂を掘り返しながら話を続けた

 

「貴方のお父様に助けて頂いたわ」

 

「…悪いな、ナンパに付き合わせて」

 

「いいの。でも、貴方と一緒ね。自動的に惚れさせて行く…」

 

「褒めてんのか⁇」

 

「想像に任せるわ。あっ‼︎あった‼︎」

 

ピンクの貝殻の片割れがあった

 

「アレンに加工してもらうか⁇」

 

「えぇ。お金は出すから、消毒とか滅菌した後、イヤリングにして頂戴」

 

「りょ〜かいっ」

 

マーカスに貝殻を渡し、彼は基地方向に足を向け、私はもう少しだけ貝殻を探す為にもう一度膝を曲げた

 

「あぁ、そうだ」

 

「なぁに⁇」

 

マーカスは首を少しだけ此方に向け、言った

 

「案外子供っぽいんだな」

 

「え…」

 

マーカスは前を向いた後、右手の人差し指と中指を一回だけ振り、歩いて行った

 

動け、私の体‼︎

 

私はあの人に二度も救われた‼︎

 

動け動け動け動け動け動け動け‼︎

 

「ま、待ちなさい‼︎」

 

勇気を振り絞って、声を出した

 

「なんだ⁇」

 

マーカスは足を止めてくれた

 

「あ、あ…」

 

ありがとう

 

この一言を言うだけなのに、声が詰まる

 

そんな私を見て、マーカスが微笑む

 

「来るか⁇」

 

「あ…」

 

あの日と同じ様に、手を差し伸べられる…

 

私はすぐに木の枝を捨て、彼の手を握った

 

「待って‼︎お願い‼︎」

 

「もう待ってるぞ」

 

「貴方に言わなきゃいけない事があるの‼︎」

 

「私の谷間、何ガン見してんのよ‼︎か⁇」

 

「そんなのどうだって良いわ‼︎ありがとう‼︎私を救ってくれて‼︎」

 

「今返して貰った」

 

「あ…」

 

真顔で真剣な目をした彼を見て、ふと笑顔が溢れた

 

「お父様と同じ事言うのね⁇」

 

「じゃあ変える…」

 

「いいわよ」

 

彼は両腕を広げた

 

「ん…」

 

ギュッと私を抱き寄せてくれる両腕で、あの日を思い出した

 

あぁ、この腕だ…

 

さっきのナンパな男達に抱かれるのはイヤだけど、彼になら構わない気もする

 

「ありがとう…何度も助けてくれて…」

 

「気にすんなって言ったろ⁇」

 

「気にするわ⁉︎二回よ二回‼︎貴方分かってる⁉︎」

 

私が軽くカンシャクを起こすと、マーカスは私の頭に手を置いた

 

「お前がこうしているだけで充分さっ」

 

「ん…」

 

照れてしまい、下を向く

 

あぁ、また子供っぽいとか思われてる…

 

「んんっ‼︎そう言って貰えると助かるわ⁉︎」

 

咳払いをした後、元の私に戻る

 

「行こう」

 

「待ちなさい」

 

今度は私が手を出す

 

「エスコートして頂戴」

 

「オーケー。そうでなくちゃな‼︎」

 

マーカスは私の手を握り、待ち合わせ場所に連れて行ってくれた

 

「そう言えば貴方、ブロンドヘアーが好きなのよね⁇」

 

「え⁉︎あ、はい…」

 

マーカスがキョドリ出す

 

「ヨメで不満を感じたら、私に言いなさい。相手をしてあげます」

 

「はは。それは要らん心配だ」

 

「そっ⁇なら宜しい」

 

「来た来た‼︎帰りますよ〜‼︎」

 

既に待ち合わせ場所では皆が待っていた

 

「行くんだ」

 

「言われなくても行くわ。じゃあね⁇」

 

「んっ」

 

マーカスの手を離し、一度だけ振り返り、軽く投げキッスをする

 

マーカスは投げキッスを空で掴む仕草をし、それを食べた

 

それを見て、私はまた笑顔になった…

 

 

 

 

次の日の朝…

 

今日は遠征

 

「準備OK⁇」

 

「えぇ。準備万端よ」

 

「後はこれをっ…」

 

提督が地面を引き摺りながら艤装を持って来てくれた

 

「もう…持つわ。貸しなさい」

 

提督から艤装を受け取り、海上に立つ

 

「ありがとリュー‼︎じゃあ、行ってくリュー‼︎」

 

「気を付けてね‼︎」

 

提督に手を振り、遠征へと向かう…

 

「オメーも隅に置けないダズルな」

 

「リシュリューがリュー⁇」

 

「何もねぇダズルよっ」

 

榛名さんがニヤリと笑う…

 

それ以降、私”リシュリュー”が悪夢にうなされる事はなくなった…

 

 

 

 

数日後、ラバウルからアレンさんが来た

 

「悪いな、遅くなって」

 

アレンさんの手にはアクセサリーケースが握られていた

 

中にはあのピンクの貝殻で出来たイヤリングが入っていた

 

「あら。ホントに作ってくれたの⁇」

 

「友達の頼みは断らない主義なんだ」

 

「そう…ありがとっ」

 

早速イヤリングを耳に付け、アレンさんに見せてみた

 

「ど⁇似合うかしら⁇」

 

「似合ってる。アイツの言った通りだな」

 

「あら。彼が⁇」

 

「美人だから、こいつも似合うって言ってたぞ⁇」

 

「お世辞が上手いのね。幾らかしら⁇」

 

「もう貰ってる」

 

「彼が⁇」

 

「そっ。何もプレゼントした事がないから、プレゼントさせてくれだとさ」

 

「なら、お礼に貴方の宣伝でもしてあげるわ⁇」

 

「それは有難いな」

 

鏡越しでアレンさんに話し掛けながら、お気に入りになった貝殻のイヤリングを見る…

 

「今度、アルバイトでもしてみようと思ってるの」

 

「ほう⁉︎どんなだ⁇」

 

「ふふっ…それはね…」

 

リシュリューが何のアルバイトを始めるかは、ほんの少しだけ先のお話で明らかになる…



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211話 初夏の海水浴〜親潮のちょっと可愛い所を添えて〜

さて、210話が終わりました

今回のお話は、ちょっと早い海水浴のお話です

と、その前に、ちょっと可愛い親潮を見て頂けたらなと思います

親潮の意外な趣味とは⁉︎


「あづい‼︎」

 

「へばってしまうな…」

 

スカイラグーンで休憩していた俺と隊長は、アイスコーヒーを飲みながらへばっていた

 

初夏とはいえ、かなり暑い

 

「海にはまだ早イぞ」

 

「だろうな…海に入りゃあ、多少は涼しいだろうなぁ〜」

 

潮にグレープのシャーベットを貰い、それを口にしながら今しばらくはグデェ…となる

 

こうも暑けりゃ飛ぶ気にもならん

 

そう言っていた俺がバカだった…

 

 

 

俺と隊長はその足で横須賀に向かい、異様な光景を目にする

 

「砂浜が人でいっぱいだ…」

 

横須賀の砂浜は人でごった返していた

 

「ちょっと早めに海開きしたのよ」

 

「そっか…」

 

いつの間にか横にいた横須賀の体全体を見る

 

脇にはシャチの浮き輪

 

頭にはシュノーケル

 

足はサンダル

 

そして、出る所出たのを隠す黒いビキニ

 

遊ぶ気満々だ

 

「何よ」

 

「職務はどうした職務は‼︎」

 

「これが職務よ⁇」

 

横須賀は当たり前の事を聞くな‼︎と、言いたそうな顔で俺を見て来た

 

「ちょっとは隊長を見習え‼︎隊長は…」

 

「イヤッハァーッ‼︎」

 

いつの間に着替えたのか、隊長は海パンに着替え、既にサーフィンに勤しんでいた

 

頼みの綱があれじゃあ、やらない訳にはいかない

 

「…と、言う訳だっ‼︎」

 

「アンタも来なさい。一応、艦娘達を見るって職務なのよ⁇じゃあねぇ〜‼︎」

 

「んっ‼︎分かったっ‼︎」

 

「親潮に着替え渡してあるから、一緒に来なさい」

 

返事を返そうとしたが、既にシャチの浮き輪で遊び始めたので、そのまま執務室に向かった

 

「創造主様‼︎お待ちしてました‼︎」

 

「待っててくれたのか⁇」

 

「はいっ‼︎此方にジェミニ様からお預かりした海パンがございます‼︎」

 

執務室に入ると、横須賀とお揃いの黒ビキニに着替えた親潮が待っていてくれた

 

羽織っている黄色いパーカーが可愛いのもポイントだ

 

「親潮が持ち物をお預かりしますね」

 

「おっ。頼む」

 

革ジャンやジーパンのポケットからピストルやら弾倉やらナイフ、タブレットを取り出し、親潮が構えているブリキのトレーに置く

 

「金庫に入れておきますね」

 

「ありがとな」

 

「いえっ。親潮は外でお待ちしてますね」

 

「すぐ行くからな」

 

親潮は俺の手荷物を金庫に入れた後、執務室の外に出てくれた

 

海パンに着替え、一応無線機だけ持ち、執務室を出た

 

「親し…」

 

「〜♪♪」

 

窓の方を向いている親潮が、鼻歌を歌いながらキュートなお尻を振っているのがすぐ目に入った

 

「お、親潮…」

 

「はっ‼︎そっ、創造主様っ‼︎」

 

俺に気付いた親潮は、窓の縁に置いてあった小さなタブレットをすぐに取り、後ろ手に隠した後、顔を真っ赤にして斜め下を向いてしまった

 

「ダンス好きなのか⁇」

 

「は、はい…」

 

照れまくった親潮は、一旦自室に戻り、タブレットを置いてまた戻って来た

 

「行きましょう‼︎」

 

自然と親潮と手を繋いだ後、横須賀の待つ砂浜に向かう…



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211話 初夏の海水浴〜親潮のだいぶ可愛い所を添えて〜

ちょっと所じゃなく、親潮は可愛い

そうは思いませんかね⁇


「ジェミニ様はどこでしょう…」

 

「あれだっ…」

 

ため息まじりに、横須賀をくっ付けたシャチの浮き輪を指差す

 

「風船…ですか⁇」

 

「そっ。親潮は海水浴初めてか⁇」

 

「はいっ。見た事や立ってみた事はあるのですが…入るのは初めてです」

 

「俺と一緒に入って見るか⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

親潮はパーカーのデータを消し、ようやくビキニ姿になった

 

「…ビキニは本物だろうな⁇」

 

「あ、はい。ジェミニ様の昔着ていたビキニだと…」

 

「ならいい。さっ、行こう」

 

まずは波打ち際まで行き、親潮に海水を慣れさせる

 

「ぴゃっ‼︎」

 

親潮の足元に海水が当たり、可愛い悲鳴を上げる

 

「冷たいか⁇」

 

「は、はいっ…」

 

「ゆっくり入ろう」

 

「そっ、創造主様…」

 

親潮が伸ばした両手をしっかり握り、一歩ずつ海に体を浸けて行く…

 

「大丈夫か⁇」

 

「ははは…はいっ…」

 

ほんの少し怯えながらも、親潮は膝下まで海水に足を浸けた

 

「ひぁっ‼︎」

 

急に少し高い波が来た瞬間、親潮のおヘソ位にまで海水が当たり、それに驚いた親潮が飛び掛かる様に抱き着いて来た

 

「よいしょっ‼︎」

 

しっかりと親潮を抱き留めた後、腕の中でビクビク震えている親潮の背中を軽く叩いて落ち着かせる…

 

「こうしてれば大丈夫か⁇」

 

「はっ、はいっ…親潮、もう少ししたら適応しますので、今しばらくはこのままで…」

 

「背中に移動出来るか⁇」

 

「はいっ」

 

親潮を背中に移動させた後、首にしっかりと腕を回させた

 

「このまま泳ぐから、息が出来なくなったらグッと力を入れるんだ」

 

「それでは創造主様が‼︎」

 

「はは‼︎俺はそう簡単には死なないさ‼︎もっとグッと掴まっとけ‼︎」

 

「こっ、こうですか⁉︎」

 

言われた通りに親潮は俺に掴まる力を強めた

 

腕は首に回し、足は腰に回して、ガッチリホールドしている

 

背中に当たった胸が中途半端に心地良い…

 

「行くぞ〜」

 

「はいっ‼︎」

 

平泳ぎでその辺を回遊し始める

 

「創造主様は泳ぎもお得意なのですね…」

 

「まぁなっ。いつ海上に落ちるか分からんからな」

 

親潮と話しながら、まずは横須賀のシャチを目指す

 

「万が一そうなってしまった場合、親潮がすぐに救出に参ります」

 

「はっはっは‼︎これで安心して落ちれるなっ‼︎」

 

「でも、慢心はダメッ‼︎ですよ⁇」

 

「りょ〜…かいっ‼︎」

 

「あ''っ‼︎」

 

シャチの尻尾を掴み、横須賀を転覆させる

 

「何すんのよ‼︎」

 

そう言いつつ、横須賀はすぐに体勢を元に戻し、シャチを直し始めた

 

「す、すみませんジェミニ様‼︎」

 

「あいつは泳ぎが得意だから、今度教えて貰うと良い」

 

「丁度良かったわ。向こうの海岸エリアを見て来て頂戴」

 

「はいはい。じゃっ、行って来ま〜す」

 

「畏まりました」

 

親潮をくっ付けたまま、横須賀に言われた海岸エリアの観察に向かう…



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211話 初夏の海水浴〜渚のボンバーガールを添えて〜

海だぁぁぁぁぁ‼︎サイトB〜〜〜‼︎


〜横須賀海岸エリア・サイトB〜

 

一般公開エリアであるサイトAとは違い、サイトBは時たま艦娘が演習をしている、ちょっとだけ危険なエリア

 

艦娘が演習をしている間は立ち入り禁止区域になり、サイトAとの間にもネットが張られる時がある

 

そしてここのエリアでは、何故か貝類が良く採れる

 

今の時間帯は演習も無く、立ち入り禁止も解除されている

 

「よしっ、いったん休憩だ」

 

「ありがとうございました‼︎」

 

砂浜に上がった後、親潮が背中から降り、二人でそこに腰を降ろした

 

「静かですね…横須賀にこの様な場所があったとは…」

 

「うぉぉぉぉぉお‼︎」

 

カチャッ…

 

「普段は中々入れんからなぁ…穴場中の穴場なのかもな…」

 

「うぉぉぉぉぉお‼︎」

 

カチャッ…

 

「…」

 

「うぉぉぉぉぉお‼︎」

 

カチャッ…

 

「…いい加減気になりますね」

 

叫び声を上げながら、誰かが砂浜で何かをしている…

 

「誰だ‼︎」

 

「うぉぉぉぉぉお‼︎」

 

カチャッ…

 

「コラッ‼︎何やってるんだ‼︎」

 

叫び声の主は砂浜を掘り返した後、なんと地雷を埋めていた‼︎

 

「すみません…ここで食べられる貝が沢山採れると聞いて…」

 

「地雷ではあんま採れないぞ⁇」

 

「新しい非殺傷”爆弾”の実験もついでにしようと…あっ、横須賀さんには許可を入れてあります」

 

「本日のスケジュールを確認します」

 

親潮に確認を取って貰う間、俺は一生懸命地雷を埋めている彼女の前で膝を曲げた

 

「非殺傷の爆弾⁇」

 

「はい。砂の中で動きがあれば跳ね上げて貝を出すだけです。爆弾とはいえ、火薬はバネを動作する時のごく微量な分量だけです」

 

「分かった。でもっ‼︎お片付けはちゃんと頼むぞ⁇」

 

「はいっ、マーカスさん」

 

「確認が取れました。確かにジェミニ様に許可を得てあります」

 

「ならいい‼︎怪我す…」

 

話しながら立ち上がり、親潮の所に行こうとした時だった

 

カチッ

 

「は…」

 

足元で嫌な音がした

 

踏んだ

 

絶対踏んだ

 

「創造主様‼︎」

 

「マーカスさん。足を上げても大丈夫です」

 

「ホントに⁉︎」

 

「はい。”涼月”を信じて下さい」

 

「行くぞぇ‼︎」

 

地雷を埋めた張本人”涼月”の言葉を信じ、足を上げた

 

すると、足元はモコッ…と砂が上がっただけだった

 

「マーカスさん、一応目を閉じて下さい。貴方もお願いします」

 

「んっ‼︎」

 

俺と親潮が目を閉じると、ポンッ‼︎と音が聞こえた

 

目を開けると、確かに地雷はあったが、地雷その物はあり、ほんの少しだけ砂が上に飛ぶ軽い爆発が起きただけみたいだ

 

地雷と言うか、バネ仕掛けのトラップと言うか…

 

これなら確かに非殺傷兵器だ

 

兵器…なのか⁇

 

「わあっ‼︎貝が沢山‼︎」

 

「…」

 

「…」

 

涼月は背中に背負った掃除機で貝を吸い取っている

 

俺と親潮は、その姿をただ呆然と見ていた

 

「サイトBには危険がいっぱいですね…創造主様…」

 

「そ、そうだな…」

 

今いる周りにも埋まってんだろうなぁ…

 

そう思うと、非殺傷地雷でもかなりビビる

 

「あの、マーカスさん。貝を少しお分けします」

 

そう言って、涼月は掃除機のボトル部分を取り外そうとした

 

ボトルの中には、それまでに採ったであろう貝と、今採った貝が少し入っている

 

「いいさ。持って帰ってみんなで食べてくれ」

 

「ありがとうございます‼︎もう少しだけ、涼月はここで貝を探します」

 

涼月の顔が笑顔になった後、涼月は何処からかリモコンスイッチを取り出し、指を掛けた

 

「創造主様。ここは撤退しましょう‼︎」

 

「よしっ‼︎撤退‼︎」

 

俺達が砂浜に走った途端、涼月はリモコンのスイッチを押した

 

「…そこですっ‼︎」

 

「うひゃお‼︎」

 

「きゃっ‼︎」

 

背後でポンッ‼︎と破裂音が聞こえた

 

そして、その後すぐにブィィィィインと、掃除機の音がする

 

カンッ、カラランと音を立ててる所を見ると、ちゃんと貝は入っているみたいだ

 

「行きましょう創造主様‼︎ここは危険です‼︎」

 

「よしっ‼︎帰るぞ‼︎」

 

再び親潮を背負った体勢で、安全な海岸エリア・サイトAに戻って来た…



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211話 初夏の海水浴〜親潮の子供らしい仕草を添えて〜

え〜…

読者の皆様、お久し振りです

苺乙女です

今回のお話でしたが、多方面から

・ひとみといよは居ないのか
・ひとみといよを出さない理由は何なのか
・ひとみといよを出さないのなら私は何の為に生きているのか

ナドナド

中々の量のお便りを頂きました

たまに出ない時もあります。ホンットご了承下さい


「涼月さんはちょっと危険です…」

 

「大湊じゃあ、ダイナマイトハニーなんてあだ名が付いてる」

 

「…中々かっこいいですね⁇親潮も、何かあだ名が欲しいです」

 

「ははは。親潮はなんてあだ名になるだろうな〜。よしっ、着いたぞ‼︎」

 

海岸エリア・サイトAに戻って来た

 

親潮を背負ったまま、再び横須賀のシャチに寄る

 

「ジェミニ様はどうされました⁇」

 

「あいつ何処行きやがった⁇まさか‼︎」

 

一瞬、嫌な予感が過ぎる

 

「親潮、シャチに乗ってろ」

 

「は、はいっ‼︎よいしょ…」

 

「はぁ〜〜〜〜〜っ…」

 

「創造主様‼︎」

 

大きく息を吸い込んだ後、シャチの下に潜り込む

 

もしかすると溺れてるのかも知れない

 

何処だ横須賀…

 

何処にいる…

 

 

 

 

一方その頃海上では…

 

「シャ〜チはぷかぷか海の上〜♪♪ご飯を探して海の中〜♪♪」

 

親潮はシャチの浮き輪に揺られて、ゴキゲンに鼻歌を歌っている

 

「あ…」

 

目の前に、見慣れた人の後ろ姿が見えた

 

だが、何か様子がおかしい

 

頭は海面から出しているのだが、そこからあまり

 

「確かこうして…チャプチャプ」

 

親潮は下を向き、その人の所に向かう為に手で水を掻き始めた

 

「んっ‼︎美味しいっ‼︎」

 

「ジェミニ様」

 

「あ⁉︎あら⁉︎お、親潮⁉︎あ、あはは…」

 

人影の正体は横須賀

 

横須賀は手にウニを持ち、中身を貪っていた

 

「創造主様がご心配なされています」

 

「いいのよ。レイは放っておけば」

 

「…何を食べているのですか⁇」

 

「ウニよ。ほら、この間ひとみといよが採って来てた」

 

「ぷはぁ‼︎横須賀‼︎」

 

「あら。ご心配ど〜もっ。よいしょっ…」

 

横須賀がシャチに乗り、親潮と一緒にこっちを見た時、ふと気付いた

 

「…」

 

「何よ」

 

「どうされましたか⁇」

 

「いんや。親子だな、って」

 

親潮と横須賀は何処と無く似ている所がある

 

横須賀をモデルに親潮はボディを造ったとは言ってはいたが…ここまで似るとは…

 

「親子だから仕方ないわ⁇ねっ⁇」

 

横須賀はこっちを向いたまま、親潮の腰に手を回した

 

「…」

 

親潮はボーッと頭上にある横須賀の顔を見つめている

 

上を向いたら口が半開きになる所も似ている

 

「はいっ‼︎ジェミニ様‼︎」

 

ようやく親潮が答えた

 

「このまま浜まで押してやるよ」

 

「そっ。ありがとっ」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

二人を乗せたシャチを押しながら、浜を目指す

 

「シャ〜チはプカプカ海の上〜♪♪」

 

「ご飯を探して海の中〜♪♪」

 

互いに歌い合う幸せな母親と娘を見ながら、俺は泳ぐ…

 

「ふぅ‼︎ありがとっ‼︎」

 

「楽しかったです‼︎」

 

浜に着き、横須賀はシャチの空気を抜き、親潮はまたパーカーデータを展開させた

 

「お〜い‼︎父さ〜ん‼︎母さ〜ん‼︎親潮〜‼︎」

 

「かき氷食べよ〜っ‼︎」

 

浜の上の階段から、朝霜と清霜が俺達を呼んでいる

 

朝霜を見た後、親潮を見る

 

あぁ、朝霜のパーカーのデータを取ったのか

 

「今行くわ‼︎レイ‼︎シャチ持って来て‼︎」

 

「すぐに行きます‼︎」

 

「はいはい…よいしょっ‼︎」

 

シナシナになったシャチを持ち、母親と娘達の後ろを歩く…

 

シャワーを浴びた後、俺達はサラの作ったかき氷を食べ、その日は横須賀に泊まった…

 

 

 

 

 

「くぁ…」

 

「んがっ…」

 

軽く夕ご飯を済ませた後、レイと親潮は執務室のカーペットの上で眠りに就いた

 

遊び疲れたのね…

 

帰ってからも清霜達と遊んでくれてたし…

 

「何だ寝たのか…」

 

パジャマに着替えたガングートがおやすみを言いに来た

 

「遊び疲れたのよっ…」

 

「ははっ…こうして見ると確かに親子だな」

 

「そうねっ…」

 

ガングートと一緒に、二人の寝顔を見る…

 

同じように口を開け…

 

同じように大の字になって…

 

同じタイミングで口をモゴモゴしながら頬を掻いている…

 

「これを被せてやろう」

 

ガングートから毛布を貰い、二人に被せる…

 

「ではおやすみ…」

 

「おやすみさない…」

 

あくびをしながら、ガングートが執務室から出た

 

ガングートが出た後、二人の寝顔を見る為に戻って来た

 

「親子は貴方もよ、レイっ…」

 

親潮には額に

 

レイには唇にキスをして、私はきそちゃん特製のマッサージチェアで横になりながら、一日を終えた…

 

 

 

 

 

その日の深夜、サイトB…

 

「涼月ちゃん‼︎貝さん採れた⁉︎」

 

「えぇ‼︎沢山採れました‼︎」

 

「照月と根刮ぎ行こっか‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

………

 

「ハマグリです‼︎当たりです‼︎」

 

「あ〜っ‼︎ホタテさんだぁ〜っ‼︎照月、これ好きなんだぁ〜‼︎」

 

「お照さん。これは⁇」

 

「それはイモガイさん‼︎毒があるんだよ‼︎」

 

「刺してますよお照さん‼︎」

 

「イモガイさんの分際で照月に逆らうの⁇照月に毒なんて効かないよ‼︎」

 

「爆破しますか⁇」

 

「イモガイさんは蒼龍さんにあげるんだぁ〜‼︎なんかね⁉︎悪い人を退治するのに使うんだって‼︎」

 

「橘花マンみたいです‼︎」

 

「1tも採れば充分だね‼︎明日の朝ごはんにはなるよ‼︎」

 

「帰りましょうか」

 

「うんっ‼︎」



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212話 フレンチギャルのアルバイト(1)

さて、211話が終わりました

今回のお話はリシュリューが主人公

少し前にお話した、リシュリューのバイトのお話です




「これは効率が悪過ぎるダズル。クソダズル」

 

「ニムはプール教室の先生がいいニム」

 

単冠湾の食堂の机で、榛名とニムが頬を重ね合わせながら遠征情報誌を読んでいる

 

「お‼︎採掘の遠征があるダズル‼︎これにするダズル‼︎」

 

「ニムはプール教室の先生の遠征するニム‼︎」

 

榛名は収入と仕事内容が一致しないと行かない効率重視タイプ

 

ニムは頭の叩かれ過ぎで思考能力が無くなり、楽しければ何でも良いタイプ

 

「リシュリューに負けてられんダズル‼︎」

 

「提督‼︎お願いするニム‼︎」

 

榛名が耳にかけていた赤鉛筆で、互いに行きたい遠征情報に丸を付けた情報誌をワンコに渡す

 

「オッケー。油田採掘と、プール教室のインストラクターだね」

 

榛名とニムが遠征の手配をして貰う中、リシュリューは既に一人で遠征に向かっていた…

 

 

 

 

横須賀に一人の女性が降り立つ

 

両耳にピンクの貝殻のイヤリングを付けた女性だ

 

この日、リシュリューは新しく始めた定期遠征の為に横須賀に来ていた

 

「待たせたかしら⁇」

 

「気にしないで良いわ。さ、乗って⁇」

 

迎えに来たのはビスマルク

 

リシュリューと共に赤いオープンカーに乗り、自分達の働くあのビルに向かう

 

「あなたが一人で遠征ねぇ…」

 

「どんな遠征か気になったのよ。リシュリューに合うと良いんだけど⁇」

 

「合うと思うわよ。貴方、中々プロポーション良いもの」

 

「そう⁇」

 

途中コンビニで休憩を挟みながら、小一時間位でビルに着いた

 

「じゃあ、私は橘花マンの撮影があるから、リシュリューはそっちでお願いね⁇」

 

「終わったらその辺散歩してるわ」

 

「リシュリュー様。此方へどうぞ」

 

リシュリューはビスマルクと別の部屋に移り、遠征を始める…

 

 

 

 

「次はこのポーズをお願いします」

 

「こうかしら⁇」

 

新作の夏服に着替えたリシュリューが、カメラの前で挑発的なポーズを取る

 

「次はこのポーズをお願いします」

 

「んっ‼︎」

 

リシュリューがポーズを取る度、シャッターが切られる

 

リシュリューはモデルの遠征を始めたのだ

 

 

 

あの日、リシュリューはアレンにこう言った

 

「今度、伐採と植樹の遠征があるの。斧は良いわよ⁇」

 

「随分力仕事だな…あ‼︎そうだ‼︎ちょい待ってくれ‼︎」

 

アレンは何かを思い出し、タブレットを持って部屋を出た

 

しばらくすると、通話を切りながらアレンが戻って来た

 

「リシュリュー。モデルの仕事やらないか⁇」

 

「モデル⁇リシュリューが⁇」

 

「そっ。ほら、健吾が橘花マンの撮影してるだろ⁇そこで小耳に挟んだらしい」

 

「リシュリューに出来るかしら」

 

「出来るさ‼︎」

 

「なら、このイヤリングを付けて行くわ」

 

そして今に至る

 

 

 

撮影が終われば、今度はインタビュー

 

「好きな食べ物はなんですか⁇」

 

「ナタデココね」

 

「趣味はなんですか⁇」

 

「伐採と収穫、それと植樹よ」

 

「随分とパワフルな趣味ですね…」

 

「動く事が好きなの。あぁ、それと、料理を作るのは好きだわ⁇」

 

「どんな料理ですか⁇」

 

「色々出来るわよ。デザートも作れるし…そうね、得意な料理はフライ物かしら⁇」

 

リシュリューは質問に対し、一問一答でしっかり答えて行く

 

そして最後の質問…

 

「そのイヤリングは何処のブランドですか⁇」

 

「A&A maidよ。安くて可愛いの」

 

「A&A maid…なるほどなるほど…これで終わりです。本日はありがとうございました」

 

「此方こそっ」

 

「あとで謝礼をお支払い致しますので、もうしばらくお待ちください」

 

撮影とインタビューが終わり、リシュリューはビルを出て来た…

 

 

 

 

ビルの陰から、リシュリューを見る人影が一人…

 

「今そっちに行った…」

 

《了解した。そのまま尾行を頼む》

 

 

 

 

「カフェ、本屋、コンビニ…へぇ〜。中々都市なのね」

 

リシュリューの目に映ったのは、近代的な建物と今風のお店

 

横須賀にある繁華街のノスタルジックな雰囲気も良いけれど、こういうちょっと都市な雰囲気も嫌いじゃない

 

「うっ…」

 

急に耳をつんざく音が建物の中から聞こえて来た

 

音がする方向を見ると、看板が見えた

 

「パチン、コ。スロー、ト」

 

音も雰囲気も気になったリシュリューは、パチンコ店に足を向ける…

 

 

 

「リシュリューがパチンコ店に入りそうだ」

 

《了解した。なるべく”ねいびぃちゃん”に近付けさせる》

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ〜‼︎」

 

「ここは遊技場なのかしら…あら⁇」

 

パチンコ店入店まで後ほんの数歩の所まで来た時、リシュリューは店の前の人だかりに気付いた

 

「はいぱぁらっきぃ〜‼︎」

 

「あら」

 

パチンコ店の前でイベントをしているのか、水着姿の金髪の女性が、パラソル片手に手を振っている

 

「貴方、こんな所で何してるの⁇」

 

「今日はイベントなんです‼︎」

 

「ねいびぃちゃ〜ん‼︎」

 

「はぁ〜い‼︎はいぱぁらっきぃ〜‼︎」

 

ねいびぃちゃんは呼ばれた方に振り向き、笑顔で手を振る

 

「貴方、ラバウルのや…」

 

「はいぱぁらっきぃーーーっ‼︎‼︎‼︎」

 

「キャッ‼︎」

 

リシュリューが何かを言おうとした時、ねいびぃちゃんは大声でそれを搔き消した

 

リシュリューは耳を塞いでしゃがみこみ、観客は目を回し、向かい側にあるカフェでコーヒーを飲もうとしていた男性客のカップが割れた

 

「あっ…と」

 

叫んだ反動で、ねいびぃちゃんの金髪の下からツヤツヤの黒髪が見えた

 

幸い誰も見ていなかったので、ねいびぃちゃんはすぐにそれを直した

 

「くぅ…凄い威力ね…や」

 

「ねいびぃちゃん」

 

リシュリューの顔に、ねいびぃちゃんの笑顔がどアップで映る

 

「ね、ねいびぃちゃん…」

 

「間違えたらねいびぃちゃん、え〜んえ〜ん、ですよ⁇」

 

「え、えぇ…」

 

流石のリシュリューもねいびぃちゃんに恐怖したのか、立ち上がってすぐパチンコ店から離れようとした

 

「あら⁇可愛いおさかなね⁇」

 

ねいびぃちゃんの足元の看板には新しい台の紹介が描いてあり、リシュリューはそのキャラクターに目が行った

 

目がクリクリして可愛いおさかなのキャラが描いてあり、リシュリューは少し惹かれた

 

「貴方、これに出てくるの⁇」

 

「えぇ‼︎ねいびぃちゃんが出て来たら熱々です‼︎キュイーキュイーです‼︎」

 

「そ、そう…貴方、かなりキャラ変わるのね…」

 

「すぅ…」

 

リシュリューに言われてちょっと腹が立ったのか、ねいびぃちゃんは大きく息を吸い込んだ

 

「わわわ分かったわ‼︎貴方はねいびぃちゃんよね‼︎」

 

身振り手振りでねいびぃちゃんの肯定をし、雌叫びを止める

 

「ふふっ‼︎いらっしゃいませ〜‼︎はいぱぁらっきぃ〜‼︎」

 

「ここにいたら殺られるわ…」

 

何とかねいびぃちゃんの隙を見て、リシュリューはその場から逃げるように去った…

 

 

 

「タッチバックスに向かった」

 

《了解した。美味いのを淹れる》




果たしてねいびぃちゃんの正体とは‼︎


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212話 フレンチギャルのアルバイト(2)

「はぁ…へぇ…ねいびぃちゃんは恐ろしいわね…喉乾いたわ…」

 

息を切らして軽く前屈みになるリシュリューの目の前に、とっても美味しそうなコーヒーショップが‼︎

 

「タッチバックス…何か卑猥ね」

 

店の前の黒板には今のリシュリューにとって、物凄く美味しそうなアイスコーヒーが描かれている

 

時間はまだまだあるし、どうせならオサレに過ごしたい

 

迷う事なく、リシュリューはタッチバックスに入った

 

「いらっしゃいませ」

 

店内は数人の女性客と、オールバックの壮年間近のマスターが一人

 

「表にあったアイスコーヒーを頂けるかしら」

 

「畏まりました」

 

カウンター席に座り、リシュリューは男性店員を眺めたり、店内を見回したりしてアイスコーヒーを待つ

 

「お待たせしました。コーヒーフロートです」

 

リシュリューは案外子供染みた物が好きな気がある

 

このアイスコーヒーを頼んだのも、可愛らしいからとの理由である

 

「アイスが乗ってるのね。美味しそう。頂きます」

 

食べる前にリシュリューはちゃんと帽子を脱ぎ、手を合わせてからコーヒーフロートを口にする

 

「んっ…んっ…んっ…」

 

リシュリューの飲み方は何故か少しエロく聞こえる

 

「ぷぁっ‼︎美味しいわね‼︎グアテマラ辺りの豆かしら‼︎」

 

「ご名答です。お詳しいのですね⁇」

 

マスターはコップを拭きながら、リシュリューと話す

 

「グアテマラは行った事あるの。コーヒー豆の収穫と苗木の植樹に行ったわ⁇」

 

「どうりで…」

 

「貴方、コーヒー淹れるの上手ね⁇」

 

「其れ程でも…」

 

「…貴方、何処かで会った事…」

 

「アイスのサービスです」

 

「あら。ありがと」

 

何かを言おうとした時、リシュリューのアイスコーヒーに、二つ目のバニラアイスが落ち、遮られる

 

何故かマスターは冷や汗を出している…

 

「あぁ‼︎映画で見たわ‼︎貴方、恐竜の映画の博士に似てるわ‼︎」

 

「よく言われます」

 

マスターは不器用ながらもリシュリューに笑顔を返した

 

「ごちそうさま。幾らかしら⁇」

 

「200円です」

 

「はい。また来るわ‼︎」

 

「お待ちしております」

 

マスターに一礼され、リシュリューはカウベルを鳴らし、タッチバックスを出た

 

 

 

「タッチバックスを出た」

 

《オーケー。作戦2へ移行。尾行を続ける》

 

「頼んだ」

 

 

 

 

「もう少しね」

 

ビスマルクとの待ち合わせの時間までもう少しある

 

「う…」

 

元来た場所を戻ろうとしたが、行く手にはねいびぃちゃんを越えなければならないという壁がある

 

「はいぱぁらっきぃ〜‼︎」

 

「うひっ…」

 

ねいびぃちゃんの声を聞き、リシュリューは身震いする

 

ねいびぃちゃんだけはどうにかして避けたい

 

「あれね」

 

目の前には雑居ビル

 

あの中を通れば、ねいびぃちゃんルートを避けて通れる

 

迷う事なく、リシュリューは雑居ビルに入った…

 

 

 

「雑居ビルに入った」

 

《了解。そのまま尾行を続けて下さい》



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212話 フレンチギャルのアルバイト(3)

「あら。本屋なのね」

 

雑居ビルの中は本屋

 

それも全フロア本屋

 

リシュリューは早速ファッション雑誌を手に取り、立ち読みを始める

 

その向かい側では、金髪の女の子が同じく立ち読みをしている

 

リシュリューが立ち読みを終えると同じ様に動き、また立ち読みを始める

 

3回目位になると、流石のリシュリューもそれに気付いた

 

「…なぁに⁇」

 

「…」

 

向かい側の女の子は自分に話し掛けられているとも気付かず、立ち読みを続ける

 

不審に思ったリシュリューは、今手に取っていた雑誌を持ち、レジに並んだ

 

すると、その女の子もレジに向かい、リシュリューの真後ろに並ぶ

 

「何か用なの⁇」

 

「…」

 

イヤホンで音楽を聞いているのか、女の子は漫画を脇に挟みながら別方向を向いている

 

「貴方、ラバウルのア…」

 

「お次の方どうぞ〜」

 

女の子を二度見した後、リシュリューはレジで会計を済ませた

 

 

 

本屋から出た後、リシュリューは見事にねいびぃちゃんを回避し、元来た道に戻って来た

 

「ん…」

 

リシュリューは何度も振り返り、その度に歩くスピードを速める…

 

先程の女の子が背後から着けて来ていた

 

リシュリューの歩くスピードに合わせて、女の子も歩くスピードを速める…

 

「…」

 

リシュリューは歩くのをやめた

 

「アウチ‼︎」

 

リシュリューの背中に女の子が当たる

 

「やっぱり貴方なのね」

 

「アハハ…」

 

苦笑いしながらリシュリューの顔を見ていたのはアイオワだった

 

「Papa‼︎ケンゴ‼︎ウィリアム‼︎Dr.レイ‼︎ヤマト‼︎OKよ‼︎」

 

アイオワが耳に付けていた無線で全員を呼ぶ

 

「ちょっと‼︎ねいびぃちゃんは勘弁よ‼︎」

 

リシュリューがそう言った途端、右肩が握られた

 

「ひぃ‼︎」

 

「ねいびぃちゃんとは誰ですか⁇」

 

肩を掴んだのは大和

 

「あ、貴方がねいび…」

 

「大和です」

 

ねいびぃちゃんと同じく、顔を近付けて圧迫する

 

「あ…ひゃい…」

 

「お疲れさん、リシュリュー」

 

「貴方達…」

 

ラバウルのアレンとカシワギ

 

分遣隊のウィリアムとマーカスが来た

 

「Dr.レイを見たらキラキラになったわ…」

 

「アイオワ」

 

「ン⁇」

 

「彼の事は好きよ。男として…ね⁇」

 

「アイオワも好き‼︎」

 

リシュリューは横目でアイオワを見ながら少しだけ笑った

 

リシュリューもアイオワも、マーカスに対する好きは同じ

 

異性としても好きな事は勿論好き

 

だが、それ以上に”男”として彼の事を好いている

 

似てはいるが、少し違う

 

「あっ‼︎やっぱりウィリアムだったのね⁉︎」

 

「申し遅れました。わたくし、コーヒーショップ、タッチバックスのウィリアム・ヴィットリオを申します…」

 

ウィリアムが冗談交じりにリシュリューに一礼し、そこにいた皆が笑う

 

ウィリアムが顔を上げた後、アレンが口を開いた

 

「リシュリュー、気付いたか⁇」

 

「何が⁇」

 

「今日すれ違った女の子、みんな元艦娘だったの」

 

「あら…じゃあ、私の勘は当たってたのね⁇」

 

リシュリューは薄々気付いていた

 

ビスマルクが社長を勤める、多種多様な会社を経営する巨大なビル…

 

それを中心に、街でアルバイトする女の子達

 

言われてみれば、写真を撮ってくれた人やインタビューしてくれた人も、元からカメラマンじゃない気がする

 

「開発途中だけど、ここは”第2居住区”なんだ」

 

「ここが…」

 

第1居住区のベッドタウンの様な造りとは違い、第2居住区は都市化が進んだ街造り

 

まだ少し先になるが、退役した艦娘や、一定の階級の人間、もしくは功績を残した人間には、何方かに住む権利、そしてある程度の恩給が国から支給される

 

考察、計画、そして実行に移したのは横須賀

 

いつの日か、深海の子達も一緒に暮らせたら…とも考えた上で、ベッドタウンと都市化の二つを造り上げた

 

「今日の俺達はリシュリューさんの万が一の護衛と、開発段階の視察が目的なんです‼︎」

 

「私はアルバイトの体験も兼ねてました」

 

大和、ウィリアムはアルバイトの体験

 

そして健吾は橘花マンの撮影が終わった後に駆け付けてくれた

 

「みんなありがと…そろそろ時間だわ。ちょっと行ってくるわね」

 

「帰りは一緒に帰ろう」

 

「えぇ」

 

リシュリューは約束通りの時間に”ビスマルク・インダストリー・ビル”に入った

 

 

 

「リシュリュー様。今回はありがとうございました」

 

受付横の小さな応接室に通され、先程インタビューしてくれた人と対面してソファーに座る

 

「此方こそありがとう」

 

「此方、今回の謝礼になります」

 

「ありが…こんなに⁉︎」

 

謝礼として渡された封筒には、十数万が入っていた

 

「私、そんな仕事…」

 

「ビスマルクCEOが仰っておりました。また次回もお願いしたい、と。今回はそれを含めた上での謝礼です」

 

「え、えぇ…貴方達が良ければ、また呼んでくだ、さい…」

 

「勿論‼︎此方からもよろしくお願い致します」

 

ようやく男性が笑った

 

「ねぇ、一つ聞いてもいいかしら」

 

「答えられる事であれば」

 

「元は海軍なの⁇空軍なの⁇」

 

「ドイツ海軍です。アドミラルジェミニと、ビスマルクCEOとは、開戦以来のお付き合いで…」

 

「カメラマンは⁇」

 

「彼も同じです。とある事情で国を追われましてね…アドミラルジェミニは、我々の素性を知った上で、腕を買ってくれました。彼女には感謝してもしきれません」

 

「とある事情…」

 

「当時最新鋭の高速戦艦”ビスマルク”の建造ですよ…内緒にしておいて下さい。…CEOは経営は上手いのですが、この件に関してはヒステリーですから」

 

そうリシュリューに耳打ちする

 

この男、中々冗談が通じる男である

 

「…忘れてあげるわ」

 

「では、次回もよろしくお願い致します」

 

「ありがとうございました」

 

「お気を付けて」

 

リシュリューが応接室から出ると、ビスマルクが待っていてくれた

 

「帰りはみんなと帰りなさい。今日はありがとうね」

 

「楽しかったわ‼︎」

 

ビスマルクの小さく振る手を、リシュリューも同じ様に振り返す

 

こうして、リシュリューの一日は終わった…

 

 

 

 

数日後、リシュリューが表紙の雑誌が発売された

 

「ガールズ・フリート・ファッションの増刷依頼よ‼︎」

 

「か、畏まりました‼︎」

 

ビスマルク・インダストリーは、この日嬉しい大パニックに見舞われた

 

初回号をリシュリューが表紙を飾ったオサレの雑誌”ガールズ・フリート・ファッション”が爆発的に売れ、どこの店舗にも無い非常事態になった…



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213話 歌いたい、叫びたい(1)

さて、212話が終わりました

今回のお話は、学校のお話です

小さな子を見る度に、母親の顔になる横須賀

その隣で、レイは複雑な思いを抱きます


「行てきま〜ス‼︎」

 

《行って来ます‼︎》

 

「行ってらっしゃい‼︎後で行くわね‼︎」

 

横須賀に見送られ、学校に向かうジャーヴィスと松輪

 

「おはようございますだリュー‼︎」

 

今度は吹雪を抱っこしたリシュリューが来た

 

「おはよう‼︎吹雪はどう⁇」

 

「吹雪っ、横須賀さんだリュー‼︎」

 

リシュリューがそう言うと、吹雪は横須賀の方を向いた

 

おしゃぶりを咥えた吹雪は、横須賀の目をジーッと見ている

 

「おはよう吹雪っ‼︎」

 

顔を近付けた横須賀を見ながら、リシュリューの胸に頭を置く吹雪

 

「吹雪は甘えんぼさんだリュー」

 

見ている限り、吹雪はリシュリューに懐いている

 

「ふふっ‼︎行ってらっしゃい‼︎」

 

「行ってくリュー‼︎」

 

吹雪とリシュリューを見送り、後ろを振り返ると、パンを咥えた磯風が走って来た

 

「コラ磯風‼︎物咥えて走らない‼︎」

 

「すまんオカン‼︎遅刻する‼︎」

 

猛スピードで走り去って行った磯風は、ソニックブームを巻き起こした

 

「キャッ‼︎」

 

「ワォ‼︎」

 

横須賀のスカートやら、たまたま歩いていたサラのスカートが舞い上がる

 

「「やだ、もぅ…」」

 

同じタイミングで、同じ言葉を放つ、横須賀とサラ

 

「おぉ〜…」

 

疎らに歩いていた男性から、嬉しい方のため息と、何故か拍手が送られた

 

「横須賀は黒のレースっ…」

 

「サラは白のシルクっ…」

 

クソ真面目な顔して、馬鹿丸出しの事をメモに書く、俺とマーク

 

横須賀とサラ、それぞれの旦那が校門前にいた

 

「レイっ‼︎」

 

「マー君っ‼︎」

 

「「何書いてるのかしら〜⁇」」

 

母娘丸出しの言葉を同時に言われる

 

顔を近付ける所までソックリだ

 

「ほっ、本官は職務中であり…」

 

そう言いながらマークの方を見ると、サラがマークの頬を引っ張っていたが、マークは微動だにしていない

 

「だ・し・な・さ・いっ‼︎」

 

「わ、分かった分かった‼︎」

 

歯を剥き出して怒る横須賀に根負けして、内ポケットからメモを出した

 

それよりマークの方が面白そうだ

 

「い〜っ‼︎よ⁇マー君っ‼︎」

 

サラは何度もマークの頬を引っ張っているが、マークはそれでも微動だにしない

 

グギギ…と、音が出そうになる位引っ張りながら、サラは眉をピクピクしながら少しだけ怒りを露わにする

 

「もぅ…サラ泣いちゃうわよ…ぐすん…」

 

頬のグギギ引っ張り

 

「分かった分かった‼︎ほらっ‼︎」

 

流石に根負けしたマークも、サラにメモを渡した

 

「私とレイはこのまま学校の視察。お父さんとお母さんは⁇」

 

「朝ごはん食べて、今日はお休みしてお散歩して来るわ⁉︎」

 

「そっ⁇間宮行くの⁇」

 

「ズイズイズッコロバシだ。じゃあなジェミニ‼︎」

 

「じゃあねぇ〜‼︎」

 

サラがフリフリ振る手に、横須賀が反応して振り返す

 

俺とマークは顔を見て頷き合った

 

「さ。行くわよ」

 

いつも通り、まずは中等部の授業参観

 

「…ねぇ」

 

「…あぁ」

 

先生は鹿島

 

他のみんなも疎らにいるが、教室に入る前から分かる

 

磯風が机に突っ伏して寝ている‼︎

 

横須賀がゆっくりと教室の後ろのドアを開け、磯風に近付く…

 

横須賀は磯風の教科書をそ〜っと取り、軽く丸めた…

 

「い〜そ〜か〜ぜ〜…」

 

一文字言う毎に、横須賀は磯風の頭を教科書で軽く叩く

 

「ん…眠っていたか…」

 

「ダメでしょ⁇授業中に寝たら」

 

「すまない…くぁ〜…」

 

磯風は大あくびをした後、ちゃんと鉛筆を持って授業を受け始めた

 

「朝霜は工廠にいるの⁇」

 

「あぁ。今日はい〜ちゃんだけだ」

 

「ちゃんと勉強しなさいよ⁇」

 

「うぬ」

 

磯風がちゃんと前を向いたのを確認した後、横須賀は教室から出て来た

 

「お前に似たんだな」

 

「…それは否定しないわ」

 

次は高等部の参観

 

先生は香取先生

 

今度は一緒に教室に入る

 

「居住区には、こういったマナーがあります」

 

どうやらマナー講習のようだ

 

「アンタも学ん…」

 

横須賀が言う前に席に座っていた

 

横須賀も何も言わずに横の席に座り、香取先生の授業を傍観する…

 

「ふふ…大きな生徒がいるみたいです…ねっ‼︎」

 

意味も無く襲い掛かる香取先生のチョーク投擲‼︎

 

「よっと‼︎」

 

ハイスピードで一直線に此方に飛んで来たチョークを、右手の中指と人差し指で受け止める

 

「「「おぉ〜‼︎」」」

 

「はいっ‼︎マーカス君‼︎ここでセリフ‼︎」

 

「礼には礼で返さんと…なっ‼︎」

 

香取先生に高速でチョークを投げ返す

 

香取先生は眼鏡を光らせてニヤリとした後、顔の横で右手でチョークを取った

 

「はいっ、よく出来ましたっ‼︎居住区では、何かをされたら必ず恩で返します‼︎」

 

「「「おぉ〜‼︎」」」

 

生徒からまた歓声が上がる

 

歓声が上がると同時に腰を上げ教室を出ようとした

 

「マーカス君⁇先生の眉間から12.3cmズレてましたよ⁇」

 

「ワザとだよ‼︎早く旦那見つけろよ‼︎」

 

「あっ…」

 

香取先生が悶絶するのを見ながら、横須賀と一緒に教室を出た

 

「アンタいっつもあんな授業受けてたの⁉︎」

 

「まぁな。香取先生は特にだ」

 

「ヒェ〜…」

 

「因みに言うと、チョーク返しは必須科目だ」

 

「ヒェ〜…」

 

ヒェ〜…しか言わなくなった横須賀を横に置きながら、園児部に向かう

 

本当は初等部があるのだが、今日はお休み

 

「さてっ…」

 

園児部に入ると、みんなでお歌を歌っていた

 

ジャーヴィスが一番デカイ声で歌っていると言うか、今日は他に園児がほとんど居ない

 

知っているのは松輪と、吹雪くらいだ

 

後は二、三人、何処かの基地の子が一緒に歌っている

 

松輪は吹雪の横で紙に何か書いており、吹雪はおしゃぶりを咥えながら、松輪の手元を見ている

 

時々松輪は吹雪と顔を合わせ、松輪は微笑み、吹雪は体を縦に振っている

 

ボーちゃんはそんな二人を見守るかの様に二人の目の前でユラユラ揺れている

 

「可愛い…」

 

「…」

 

最近駆逐艦の子達に避けられなくなったのは、母性が強くなったからなのかも知れない…

 

ひとみといよと散歩している時もそうだが、横須賀は本当に小さな子を見ると母親の顔になる

 

今も横でその顔をしている

 

その顔を見る度、俺の心の何処かがチクリと痛む

 

「あ。元帥、大尉。お疲れ様です」

 

「あ‼︎ダーリン‼︎」

 

「よいしょっ‼︎」

 

ピアノの音が止まり、由良とジャーヴィスがこっちを向き、ジャーヴィスが飛び掛かって来たのを抱き留める

 

「さっ。給食にしましょうか。お二人も御一緒に」

 

「頂こうかな」

 

「そうしましょう。検食代わりよ」

 

由良が給食を準備する最中、俺と横須賀は子供達に前掛けを掛ける

 

「給食は何かナ〜‼︎」

 

「お腹減ったー‼︎」

 

「オラもお腹空いただよ‼︎」

 

「…へ⁇」

 

「え…」

 

俺はジャーヴィス、横須賀は吹雪の前掛けを掛けていた手が止まり、由良に至っては注いでいたお茶がドポドポ垂れている

 

「ぼーさん。ぼーさんは何食べたいだよ」

 

《ぼ、ボクはエビフライ…》



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213話 歌いたい、叫びたい(2)

「松輪ちゃん⁇」

 

「んだ」

 

「おま…話せたのか…⁉︎」

 

「さっきジャーヴィスさんのお歌聞いてたら、オラも歌いたいと思っただよ」

 

可愛い顔して、ドが付く田舎っ子丸出しの訛り

 

その訛りが強い話し方で、声は歳相応の可愛い高い声

 

「なして皆プルプルしてるだよ」

 

「松輪っ‼︎」

 

「松輪ちゃん‼︎」

 

横須賀と同じタイミングで松輪を抱き締める

 

「お⁇お⁇まぁかすさんも、ジェミニのねーちゃんもどうしただ‼︎」

 

「よかった…よかったよ松輪っ…」

 

「ジャーヴィスもギューすル‼︎」

 

ジャーヴィスもくっ付き、松輪は三人に潰れる位抱き締められた

 

「あ、暑いだよ‼︎」

 

「はは、すまんすまん‼︎」

 

全員松輪から離れ、松輪の頭を撫でた後、それぞれが別の場所に向かう

 

「ぼーさん。オラの傍にいてくんろ」

 

《ボクはずっと松輪ちゃんの傍に居るよ》

 

「あんがとなぁ、ぼーさん。オラの代弁さ、してくれて」

 

《ボク、楽しいからいいよ‼︎》

 

松輪はボーちゃんを撫でた後、吹雪に目をやった

 

「吹雪さん、オラとお絵かきしよなぁ」

 

《あ、そうだ》

 

ボーちゃんは吹雪に触手を伸ばし、額に置いた

 

吹雪は目をパチクリしながら触手に目を向け、手を伸ばす

 

《これなぁに⁇》

 

「お〜。吹雪さんも話せるだよ…オラの事も分かるか⁇」

 

松輪は吹雪に顔を近付ける…

 

《まっちゃん》

 

「おー‼︎正解だぁ‼︎オラの事、分かってくれてるだよ‼︎」

 

吹雪はおしゃぶりを取り、ボーちゃんの触手の中腹部を掴んだ

 

《イデッ‼︎》

 

前歯が少し生えた口で、吹雪はボーちゃんの触手の中腹部を齧り始めた

 

《ボール》

 

《ま、マーカスさん‼︎》

 

「ボーちゃん痛いよ〜って言ってるぞ⁇」

 

吹雪は俺の声に反応して此方を見ながらも、口はモゴモゴさせている

 

吹雪の口からボーちゃんの触手を取ると、吹雪は机に置いてあったおしゃぶりに手を伸ばした

 

「吹雪もお腹空いてるのよ。さっ、吹雪⁇お姉さんとご飯にしましょうねぇ〜⁇」

 

吹雪は横須賀に任せよう

 

吹雪の目線はご飯の方に行ってるしな…

 

「大丈夫か⁇」

 

《大丈夫‼︎》

 

一応ボーちゃんの触手を見るが、特に傷は無いみたいだ

 

「今日はエビフライですよ〜」

 

《やった‼︎》

 

今日の給食は、ボーちゃん念願のエビフライ

 

「エビフライ美味しいだよ‼︎」

 

「サクサクだネ‼︎」

 

《美味しい美味しい‼︎》

 

三人共ご満悦

 

ボーちゃんに至っては、両手に一尾ずつ持ってムシャ付いている

 

「はい、吹雪。あ〜…」

 

横須賀の前では吹雪が離乳食を食べている

 

「うんっ‼︎上手よ吹雪〜‼︎」

 

憎い…

 

あの笑顔が憎イ…

 

そんな顔ヲするナ…

 

「ダーリン」

 

「はっ…」

 

知らぬ間に握り締めていた左手の上に、ジャーヴィスの小さな手が乗る

 

「大丈夫だよ、ダーリン」

 

「ジャーヴィス…」

 

ジャーヴィスの青い瞳に自分の姿が映る…

 

ジャーヴィスにそんなつもりは無いのだろうが、今の俺の感情を見透かされているような、透き通った目をしている…

 

「ジャーヴィスにア〜ンして‼︎」

 

「んっ‼︎ほらっ‼︎」

 

「ぱくッ‼︎」

 

口の周りに衣を付けて、実に美味そうに食べるジャーヴィスを見てホッとした…

 

 

 

 

給食が終わると、子供達はお昼寝の時間

 

「ダーリン…」

 

「どうした⁇」

 

肘を付きながら横になり、ジャーヴィスのお腹をポンポンしていると、布団の中から手が伸びた

 

そして、左手を握られる

 

「ダーリン、ホントはワァーって言いたイ⁇」

 

「そうだな…みんなには内緒にしておいてくれるか⁇」

 

「うん…ジャーヴィス、ダーリンの味方だヨ…」

 

ギュッと握られる左手…

 

ただただ握り返す事しか出来なかった…

 

「ありがとな…」

 

「ん…」

 

頭を撫でると、ジャーヴィスは昼寝を始めた…

 

 

 

 

「気を付けて帰るのよ〜‼︎」

 

皆が帰り始め、横須賀は校門で皆を見送っている

 

子供達は皆、秋津洲タクシーに入れて来た

 

俺は一人、高等部の部屋の窓際でタバコを吹かしていた

 

目線の先には、変わらず笑顔を送る横須賀がいる

 

「マーカス君」

 

「香取先生」

 

香取先生も窓際に立ち、横須賀を見る

 

「妬いてるのね⁇」

 

「俺がか⁉︎」

 

「マーカス君、自分で気付いてない⁇元帥が子供達に笑顔を送る度にマーカス君、とっても悲しそうな顔してるの…」

 

「ずっと悩んでるんだ…やっぱり、マトモな男の子供を産みたかったんだろうな…って」

 

「マーカス君…」

 

「赤ん坊やら、ひとみといよには母親の顔を見せるんだ…あぁ、これが横須賀のしたかった事なんだな、って」

 

「元帥はそんな事思っ…」

 

「思ってるよ」

 

香取先生の言葉を遮り、ジャーヴィスと同じ様に香取先生の瞳を見つめる…

 

「ひっ…」

 

香取先生の体が固まる

 

「マーカス君、貴方、今ウィリアムと…」

 

「大尉‼︎」

 

香取先生を睨んでいる最中、一人の兵が入って来た

 

「どうした⁇」

 

すぐにそっちに顔を向ける

 

「太平洋沖に未確認機の反応が三機あるとの報告が‼︎」

 

「分かった、俺が出る」

 

「ま、マーカス君‼︎」

 

「横須賀には言うなよ‼︎」

 

そのまま兵と一緒に学校を出た

 

 

 

 

「大尉、グリフォンは…」

 

今日は秋津洲タクシーで来たので、グリフォンはいない

 

「T-50を貸してくれ」

 

「了解。三番格納庫の機をお使い下さい。スクランブル出るぞ‼︎」

 

今はとにかく、ここから出たかった

 

横須賀に居たくなかった

 

子供達と帰れば良かったとは思ったが、今は一緒にいたくはなかった

 

「ワイバーン、出る」

 

バーナーを吹かし、横須賀から一気に離れる…

 

《目標到達まで、五分。依然、アンノウン反応です》

 

「了解」

 

…来いよ

 

今の俺を癒せるのは、コレしかない

 

深く深呼吸をし、久方振りの感覚を取り戻して行く…

 

 

 

 

「レイが行ったの⁇」

 

「そうだ。スクランブルらしい」

 

「そっ」

 

横須賀は執務室で爪を研いでいた

 

「母さん‼︎もうちょい心配してやれよ‼︎」

 

「してるわよ〜」

 

朝霜に言われても、横須賀は爪を研ぎ続ける

 

「父さん、ヤキモチ妬いてんだぜ…」

 

「…レイが⁇」

 

「そうだよ‼︎母さんが赤ん坊の面倒見る時、父さんには見せない顔になってんだよ‼︎それ見て父さん、スッゲー悲しい顔してんだぜ⁇」

 

「…」

 

横須賀は爪研ぎを止め、朝霜の顔を見た

 

「それ…ホントに言ってる⁇」

 

「ホントだ‼︎」

 

「げ、元帥‼︎」

 

朝霜と話を破るかの様に、執務室の扉が叩かれる

 

「開いてるわ」

 

「失礼します‼︎」

 

電文を持った兵が来た

 

「ワイバーン、レーダーからロスト‼︎現在、捜索隊が出動しました‼︎」

 

「嘘…」

 

「ば…場所は何処だ⁉︎アタイが出る‼︎」

 

「やめなさい朝霜‼︎もしレイが落ちてたらアンタも落ちるわよ‼︎」

 

「く…」

 

「捜索隊を出して頂戴。場所は⁇」

 

「はっ。この辺りでレーダーからロストしました」

 

地図を開け、レイが消息を絶った場所に赤いピンを付けて貰う

 

「分かったわ。ダイダロスを向かわせて頂戴」

 

「了解しました‼︎」

 

兵が部屋から出た後、横須賀は膝を落とした

 

「あぁ…」

 

「心配すんな母さん…父さんは無事だよ…なっ⁇」

 

「私の所為だ…私がレイにちゃんとしてあげなかったからだ…」

 

この日、朝霜は産まれて初めて母親が泣く姿を見た…

 

 

 

 

レイが消息不明になりました



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214話 暗夜の航路(1)

さて、213話が終わりました

行方不明になってしまったレイ

全員がとある壁に当たる中、一人だけ艦載機を発艦させます


レイが消息不明になった報は、すぐに隊長にも告げられた

 

 

 

「レイがか⁉︎分かった。付近を捜索してみる」

 

無線を切り、首を落としてため息を吐いた

 

レイが行方不明だと…

 

「貴方…」

 

「ウィリアム…」

 

貴子と姫が心配そうに私を見つめる…

 

「子供達には黙っておいてくれ…」

 

「ん…分かったわ…」

 

「マーカスをお願いします」

 

「…行ってくる」

 

「すてぃんぐれいおそいね⁇」

 

「えいしゃんまらかあ〜」

 

「かえってきたあ、すごおくすうの‼︎」

 

外を出ようとした時、子供達の言葉が胸に刺さった…

 

その時、ふと気付いた

 

「ひとみ‼︎いよ‼︎レイが何処にいるか分かるか⁉︎」

 

ひとみといよはレイが何処にいても居場所が分かる‼︎

 

「えいしゃんあっち‼︎」

 

「じゅ〜っとむこう‼︎」

 

ひとみといよが窓の先を指差した‼︎

 

「偉いぞ‼︎行って来る‼︎」

 

「いってあっちゃ〜い‼︎」

 

「き〜つけてな〜‼︎」

 

すぐにクイーンで基地から飛び立った…

 

 

 

 

 

 

 

横須賀に五機が降り立つ…

 

途中、一報を聞いてすぐに飛んで来てくれたラバウルの連中と合流し、共に捜索を始めたが、壁にブチ当たった

 

台風だ

 

それも強力な台風

 

流石の私達でも、暴風域に突っ込んで行くのは自殺行為だ…

 

「クソッ‼︎」

 

格納庫の壁を殴り、荒くなった呼吸を何とか落ち着けさせる…

 

「この台風じゃ無理です…貴方達まで…」

 

「レイを失う訳にはいかん‼︎」

 

「ウィリアム…痛い位気持ちは分かりますが、私達まで行方不明になっては元も子もないです…」

 

「…クソッ‼︎」

 

そこに居た全員の思いを分かっているかの様に、横須賀にも雨が降り始めた…

 

それに、もう夜だ

 

更に危険になる…

 

ここは待つしかない…

 

 

 

 

雨はバケツをひっくり返した位に土砂降りになり始めた

 

「…」

 

ドチャ…ドチャ…と、足音を立てながら、男は歩く

 

深く帽子を被り、脇に地図を挟んで、男は歩く

 

「誰か飛ばせる空母と艦載機は無いのか‼︎」

 

「こんな嵐の中じゃ無理だ‼︎」

 

合羽を着て、必死になってレイを探そうとしてくれている皆を横切り、男は歩く

 

ガラガラガラと扉が開けられ、男は一件の店に入る

 

「中将⁉︎ビショ濡れじゃない‼︎」

 

女は男の元に駆け寄る

 

「もう…無理しないでよ…」

 

男の体を布で拭き、女は気付く

 

男の体が震えている事に…

 

「…力を貸してくれ」

 

「中将…」

 

底抜けに明るく、底抜けに優しい男が、女の前で恥じらいもなく床に頭を置いた

 

その姿を見た女は、全てを察した

 

「…いいよ、中将。私の命、中将にあげる」

 

女は後一回だけ、天翔ける力を残していた

 

それを今、男の為に使おうとしている

 

「そこまで誘導したげるわ‼︎」

 

「今こそレイさんにお礼を返すのです‼︎」

 

偶々腹ごしらえをしに来ていた、二人の小さな姉妹

 

「機体はあるんだ。頼むみんな。俺に力を貸してくれ」

 

男は姉妹にも頭を下げた

 

「中将…」

 

「なら行きましょ‼︎」

 

「頭を上げて欲しいのです‼︎」

 

男は立った

 

男の名前は、リチャード

 

女の名前は、瑞鶴

 

姉妹の名前は、雷、電

 

四人は今、暗夜の航路へと向かおうとしている…

 

 

 

 

 

 

 

「これだ」

 

「綺麗…」

 

「強そうなのです‼︎」

 

「F6F-5Night…」

 

リチャードがいざという時に持って来た機体が、そこにあった

 

黒いボディーのこの機体は、多少の雨風なら何の心配も無く飛べる頑丈な機体

 

その機体が、使うべき時が来た

 

「分かった。中将を引っ張って行く」

 

「頼んだ…あぁ、雷、電。少しだけ目を閉じててくれ」

 

「キスするのね‼︎」

 

「ブチューっと行くのです‼︎」

 

そうは言うが、二人はキチンと目を閉じてくれた

 

「中将。一つ約束して」

 

「ん。何だって聞く」

 

瑞鶴はリチャードの顔を両手で持ち、ほんの少し微笑み、耳元で囁いた…

 

「…来世では、もっと私を好きんなってね⁇」

 

「瑞っ…」

 

唇を重ね合う二人…

 

リチャードの体がみるみる小さくなる…

 

「はいっ‼︎良いわよ‼︎」

 

「じゃあ行きましょ‼︎」

 

「命令なんてクソ喰らえなのです‼︎」

 

リチャードを載せた瑞鶴、そして雷電姉妹が嵐の中を進み始めた

 

瑞鶴の胸当ての中に詰められたリチャードは、一人考えた

 

もしかして瑞鶴は…

 

そう考えた後、リチャードは胸一杯に彼女の匂いを肺に入れた…

 

 

 

 

「凄い雨風だわ‼︎」

 

「あはははは‼︎雷もヤバイのです‼︎」

 

「中将‼︎ポイントに近付いたわ‼︎」

 

”発艦出来るか⁉︎”

 

胸当ての中から顔を出し、瑞鶴に話し掛ける

 

「出来るよ…やったげる‼︎」

 

”頼む‼︎”

 

瑞鶴が弓を構える

 

「リチャード機、発艦‼︎」

 

”発艦‼︎”

 

矢は雨を退けるかの様に真っ直ぐに放たれ、一機の航空機へと姿を変えた

 

「行った行った‼︎」

 

「瑞鶴さん凄いのです‼︎瑞鶴さん⁉︎」

 

「くっ、そぉ…」

 

発艦の影響で、瑞鶴の艤装に亀裂が入る

 

「待たなきゃ…あの人、帰る場所、ないじゃん…」

 

「もう無理なのです‼︎」

 

《ありがとう、瑞鶴‼︎雷、電‼︎瑞鶴を連れて帰ってくれ‼︎》

 

「分かったのです‼︎」

 

「帰るわよ‼︎」

 

「中将…ごめん…私、ここまでみたい…」

 

力無く雷電姉妹に肩を持たれ、瑞鶴達は航路を戻って行く…

 

 

 

 

「生きてろよ、レイ…」

 

リチャードの手には、ひとみといよから聞いた場所の地図があった

 

この辺りの海域には、ボーキサイトが採れる島がある

 

レイはそこにいると踏んだ

 

もし墜落したのなら、早急に助けが必要だ

 

救急キットも持った

 

大した事は出来ないが、レイなら救急キットがあれば自分で治せるだろう

 

「…あった‼︎」

 

思惑通り島があった

 

「滑走路は…おっと‼︎」

 

観測用の航空機が止まる滑走路を探しながら、揺れる機体を立て直す

 

「あった‼︎」

 

滑走路を見つけ、着陸態勢に入る

 

「滑るっ…‼︎」

 

何とかブレーキを掛け、機体を止める事が出来た

 

キャノピーのロックを外し、一瞬で降りてすぐに閉じた

 

そして、すぐに叫んだ

 

「マーカーーース‼︎」

 

「あ⁉︎親父⁉︎」

 

すぐに反応があった

 

「何やってんだ‼︎」

 

「早くこっちに来い‼︎」

 

滑走路の先はトンネルになっており、レイはそこからリチャードを呼んでいた

 

「機体引っ張って来てやるから待ってろ‼︎」

 

「すまん‼︎」

 

レイはすぐに機体をトンネルの中に入れてくれた

 

「これで一安心だ…おい…」

 

リチャードはレイを力強く抱き締めた

 

「馬鹿野郎…心配掛けさせるな‼︎」

 

「無線とレーダーが効かないんだよ。しかもこの嵐だ」

 

「未確認機はどうした‼︎」

 

「そこにっ」

 

レイの目線の先には、T-50

 

そして、深海側の戦闘機が三機、雨宿りをしていた

 

「敵じゃなかったのか⁇」

 

「そっ」

 

「マーカスサン…」

 

トンネルの奥から声が聞こえる

 

それも、案外近くから

 

「起きるな。まだ傷は癒えてない。それにこの雨だ…」

 

レイはすぐに歩み寄り、声の主の前でしゃがみこんだ

 

「その子は…」

 

「帰り道の途中で怪我したんだ」

 

そこに居たのは、軽母ヌ級

 

足を怪我している

 

そして、目の赤い空母ヲ級

 

スカイラグーンに居た子とは違うみたいだ

 

「艦載機を飛ばして、助けを呼びに来てくれたんだ」

 

「そっか…なら良かった…」

 

「親父、救急キットあるか⁉︎」

 

「あぁ‼︎あるぞ‼︎」

 

救急キットをレイに渡すと、すぐにヌ級の手当てを始めた

 

「よしっ‼︎これでオーケーだ‼︎」

 

「アリガトウ‼︎」

 

「ゴメイワクヲオカケシマシタ…」

 

「良いんだ…ヌ級は子供か⁇」

 

「ソウ。ワタシノコドモ…」

 

膝に来たヌ級の頭を優しく撫でるヲ級の顔は、横須賀と同じ、母親の顔をしていた

 

「…なるほどなっ」

 

「マーカスサン⁇」

 

「違うんだな…母が子に充てる愛と、男に充てる愛は…」

 

「ソウ…チョットチガウ。ヤッパリ、ハハオヤハ、コドモヲアイシテシマウノ…」

 

「帰ったら謝らなきゃな…」

 

レイのその顔は、何処か優しさに満ち溢れていた



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214話 暗夜の航路(2)

「マーカスサン…ココニイル⁇」

 

「あぁ。ここにいるよ」

 

ヌ級が心配そうにレイに話し掛け、レイはヌ級の頭を撫でながら小さな手を握った

 

ジェミニが子供に対して母親の顔をしているのなら、レイはこう言う時、父親の顔をしている

 

自分の息子に言うのもなんだが、自分より父親らしい顔をしている、と、リチャードは思った

 

ヌ級が鼻ちょうちんを出しながら眠り始め、ヲ級も寝息を立て始め、レイは革ジャンからタバコとライターを抜き取った後、ヲ級にそれを掛けた

 

雨は降り続き、トンネルの縁から滴り落ちている…

 

レイもリチャードも適当な場所に座ってタバコに火を点けた

 

「親父」

 

「何だ⁇」

 

「初めてレイって呼んでくれたな」

 

「無線、聞こえたのか⁇」

 

「あんだけ近寄りゃぁ、嫌でも入るさ」

 

「まっ、焦ってたからなっ…」

 

紫煙を吐きながら、レイはリチャードの載って来た機体を見た

 

「…5Nightか」

 

「良い機体だぞ。今度、貸してやるよ」

 

「指揮機として使っていいか⁇」

 

「あぁ。指揮機としてはバッチリの機体だ」

 

リチャードは自分の機体をいつも黒くする

 

コルセアだって、リチャードのだけは黒い

 

「そういや、ここまでどうやって来た」

 

「あぁ。瑞鶴に妖精にして貰って発艦して貰った」

 

「そっか…」

 

タバコ片手のレイがリチャードの横に腰掛け、リチャードとは反対方向である外を眺めながら、タバコを吸い続ける

 

「…母さんには黙っといてやるよ」

 

「頼む」

 

レイは知っている

 

艦娘とパイロットは深い絆で結ばれると、艦娘はパイロットを妖精に変える事が出来る事を

 

人から妖精に、妖精から人へと、自由に変える事が出来る

 

それをリチャードは瑞鶴でする事が出来る

 

一番手っ取り早い方法は、互いが愛し合い、体を重ね合わせる事

 

恐らくリチャードは瑞鶴を抱いている

 

「帰ったら瑞鶴を観るよ」

 

「すまん…」

 

レイは苦笑いを見せた後、再び外に目を戻した

 

「後の見張りは俺に任せて、少し休んでくれ」

 

「分かった…」

 

レイにそう言われ、リチャードは壁にもたれて目を閉じた…

 

レイは何度もタバコを吸いながら、三人の様子を見ていた…

 

 

 

 

翌朝…

 

リチャードは何かを動かす音で目が覚めた

 

「マーカスサン、アリガトウゴザイマシタ」

 

「気を付けて帰るんだぞ⁇」

 

「オレイハゴジツオモチシマス」

 

「気にするな。これが俺の仕事だ」

 

ヌ級とヲ級は何度もお礼をしながら、トンネルから出て行った…

 

「行ったか…」

 

「あぁ」

 

二人が見えなくなるまで、レイは二人の背中を見続けていた

 

「俺達も帰ろう」

 

「あぁ‼︎心配掛けさせたからな‼︎」

 

T-50と5Nightがトンネルから出て、空へと戻って行く…

 

 

 

 

「はぁ…」

 

横須賀の執務室では、横須賀はため息を吐き、隊長が貧乏ゆすりをしている

 

執務室の中央には、立体レーダーが展開されているが、時々基地周辺で飛んでる哨戒機が映るだけで、二機が映る気配は無い

 

「エドガー、出よう」

 

「待って隊長。もう少しだけ…」

 

「ぐっ…」

 

横須賀は四人を信じていた

 

もし瑞鶴が発艦したリチャード機がレイを見つけていれば、台風が過ぎ去った今なら連れ帰って来るはず

 

だが、そのリチャード機でさえ反応はロスト

 

「父さんも爺ちゃんも何してんだよ…」

 

「お父様、どこ行ったの⁇」

 

「心配しなくていいわ早霜…」

 

横須賀は心配そうに自分を見つめる早霜の頬を撫でる

 

「はっ‼︎来ました‼︎」

 

「見せなさい‼︎」

 

親潮のPCに電文が来た

 

PCには、座標と何度も送ってくれたであろう電文が打ち出されていた

 

 

 

”ケガシタヤツガイル チリョウシテクル”

 

”キュウキュウキットガタリナイ ヨコシテクレ”

 

”キイテンノカ アホジェミニ”

 

”モウイイ ヒトリデスル アホ”

 

 

 

「あは…‼︎すぐに救急キットを運んで頂戴‼︎」

 

「ジェミニ様。既に此方に向かっている様子です。この電文は昨夜の午後に打たれたもので、電波障害が解消された今、まとめて来た模様です」

 

「明石‼︎立体レーダーの索敵範囲を広げて‼︎」

 

「了解です‼︎」

 

執務室の中央に、立体レーダーが更に大きく展開される

 

「いた‼︎あれだ‼︎」

 

レーダーの隅に二機が映った

 

「はぁ…」

 

「ふぅ…」

 

そこに居た全員が安堵の息を吐き、腰が抜ける

 

すぐに立ち直り、横須賀は無線を手に取った

 

「ワイバーン‼︎聞こえる⁉︎」

 

《聞こえるぞ‼︎心配掛けたな‼︎》

 

元気そうなレイの声が執務室のスピーカーから聞こえた

 

「怪我はないか⁉︎」

 

続いて隊長が無線を手に取る

 

《怪我は無いけど、腹減った‼︎》

 

「レイだな」

 

「レイね」

 

「ケプリ。応答願います」

 

《私も大丈夫だ‼︎寿司が食いたいね‼︎》

 

「中将ね」

 

「中将だな」

 

再び全員が安堵の息を吐いた

 

「滑走路を開けて頂戴‼︎その後哨戒機を全機呼び戻して‼︎」

 

「はいっ‼︎ジェミニ様‼︎」

 

ようやく笑顔を見せた親潮が、滑走路を開けるように指示を出す…

 

 

 

 

「え〜…疲れたぁ〜…」

 

「寿司奢ってやるよ…」

 

前屈みになり、ダラけながら俺達が機体から降りて来た

 

「レイ‼︎」

 

待っていた隊長が、俺をキツく抱き締めた

 

「すまん、心配掛けた…」

 

「気にするな‼︎帰って来ただけで充分さ‼︎」

 

「横須賀…」

 

隊長の手から離れた俺は、横須賀の所に来た

 

横須賀は俺を睨んでいる

 

「横須賀、すま…ぶべら‼︎」

 

横須賀のビンタが炸裂した後、ギュッと抱き締められた

 

「どれだけ心配したと思ってんのよアホレイ‼︎」

 

「悪い悪い…」

 

横須賀は俺の胸に顔を埋めたまま、小さく震えている

 

そんな一人の母親を抱き締め返す

 

「よく分かったよ…お前が母親の顔をする意味が」

 

「…ごめんなさい。アンタが妬いてるとは思わなかったわ…」

 

「いいんだ…」

 

「さ〜てさてさてさてぇ⁉︎俺に飛び付いて来てくれるギャルはどっこかなぁ〜‼︎」

 

親父のアホのおかげで少し場が和んだ

 

「瑞鶴がいないな…あ‼︎寿司屋だな‼︎」

 

「中将待って‼︎」

 

誰も自分を慰めてくれないので、親父は一番手っ取り早く慰めてくれる瑞鶴の所に行こうとした

 

横須賀は俺の体から離れ、何故か親父を止めた

 

「なんで‼︎スパイトも瑞鶴もリシュリューだっていないじゃないか‼︎」

 

「今行くと後悔します」

 

「はは‼︎しないしない‼︎」

 

「中将待って‼︎お願いですから‼︎」

 

「じゃあな〜」

 

リチャードはケラケラ笑いながら繁華街へと向かって行った…

 

「瑞鶴、何かあったのか⁇」

 

「えぇ…」

 

隊長と顔を見合わせ、頷き合った後、横須賀と共に繁華街へと走る



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215話 機械仕掛けの愛(1)

さて、214話が終わりました

横須賀がリチャードをずいずいずっころばしに行くのを止めた理由とは⁉︎

今回のお話では、恐らく、リチャードがどれだけ彼女を愛しているのかが分かります


「…もう三日よ⁇」

 

「よっぽど好きだったんだな…」

 

俺と横須賀の二人が、ずいずいずっころばしの店内を盗み見する…

 

店内には、いつものカウンター席に座る親父が一人

 

他には誰もいない

 

こうなったのには、訳があった…

 

 

 

 

三日前

 

レイを迎えに行ったその日、リチャードはいつものようにずいずいずっころばしに入った

 

「瑞鶴〜‼︎来たぞ〜‼︎」

 

「イラッシャイマセ」

 

「お⁉︎あ⁉︎え⁉︎」

 

店内に入った瞬間、親父の思考が止まる

 

いつも瑞鶴が笑顔を送りながらお寿司を握っているカウンターの向こうに、瑞鶴そっくりなロボットがいたからだ

 

「オスキナセキニ、ドウゾ」

 

「えっと…ずいずいずっころばし、だよな⁇」

 

「ハイ。トウテンハ、ズイズイズッコロバシデス。ワタシハズイカク。オスシヲニギリマス」

 

ウィンウィン

 

モーター音を出しながら、ズイカクロボは自己紹介をした

 

「ず、瑞鶴だと…君がか⁉︎」

 

「ハイ。ワタシハズイカク。オスシヲニギリマス」

 

「…」

 

リチャードは何とも言えない気分になりつつも、いつものカウンター席に腰を下ろした

 

「ナニヲニギリマショウ」

 

「えと…かんぴょう巻きを…」

 

「アリガトウゴザイマス。カンピョウマキ、ハイリマシタ」

 

リチャードが注文した通りに、ズイカクロボは器用にかんぴょう巻きを作り上げて行く…

 

「カンピョウマキデス」

 

「ありがとう…」

 

コト…

 

リチャードの前にかんぴょう巻きを乗せた皿が置かれる

 

リチャードは早速かんぴょう巻きを口に運ぶが、いつもの明るくうるさい会話は無い

 

「オイシイデスカ」

 

「あぁ、美味いよ…」

 

「ウレシイデス」

 

無機質に喜びを見せるズイカクロボから目を話す事無く、四つあるかんぴょう巻きの二つ目を口に運ぶリチャード

 

「あちゃあ…」

 

「何だよあれ」

 

ようやく追い付いたレイと横須賀が、ずいずいずっころばしの暖簾を分ける

 

「ジェミニ。瑞鶴は何処だ⁇」

 

箸を置き、背中で語るリチャード

 

「そこに居ます…」

 

その背中を見ながら話す横須賀

 

二人の視線の先が一致する

 

「イラッシャイマセ。ニメイサマデスカ」

 

「今…中将の目の前にいるのが、正真正銘…瑞鶴です」

 

「どうしてこうなった…」

 

「瑞鶴はあの後、カプセルで治せない程の内部大破をしまして…基地に帰投するなり手術を受けました。その結果です」

 

「そんなバカな…」

 

リチャードの肩から気が抜け、ストンと落ちた

 

「お寿司握りロボにはなりましたが、今目の前にいるのは瑞鶴です」

 

「瑞鶴‼︎俺だリチャードだ‼︎」

 

リチャードは立ち上がり、お寿司握りロボに話し掛けた

 

「リチャードサン…ズイカク、オボエマシタ」

 

「瑞鶴…」

 

首をうなだれ、リチャードは深いため息を吐く

 

「…私のせいだ」

 

「違います中将。瑞鶴は最後の使命を果たしたまでです」

 

「すまん…二人にしてくれないか…」

 

「えぇ…レイ。行きましょ…」

 

「あ…あぁ…」

 

流石のレイでさえ掛ける言葉が無く、横須賀と共にずいずいずっころばしから出た…

 

「ナニヲニギリマショウ」

 

「ごめんな…瑞鶴…」

 

「ナゼ、アヤマルノデスカ」

 

「私が頼んだから…瑞鶴がこうなるとも知らずに…」

 

ウィーン、パフォ

 

「アツイオシボリデス。ナミダヲフイテクダサイ」

 

「…」

 

渡された熱いおしぼりで、リチャードは顔を拭き、涙を拭う

 

「ナゼ、ナイテイルノデスカ」

 

「そんな事も分からなくなってしまったのか…」

 

「ズイカクニハ、リチャードサンガ、ナイテイルリユウガ、ワカリマセン」

 

「…」

 

リチャードは半泣きの顔になり、目を閉じた

 

明るい店内を思い出していた

 

明るい瑞鶴を思い出していた

 

今となっては、良き思い出…

 

「分かった…瑞鶴。一人じゃ寂しいだろ…」

 

「オキャクサマガコナイノハ、サミシイデス」

 

「熱燗をくれるか⁇」

 

「アツカンデスネ。ショウショウオマチヲ」

 

リチャードはずっと瑞鶴を見ていた

 

無機質にモーター音を出しながら熱燗を作り、店内にはリチャードしかいないのに、せっせこせっせこお寿司を握っては、レーンに流しているその姿を、ずっと眺めていた…

 

 

 

 

 

「…」

 

いつの間にかリチャードはカウンターに頭を置いて眠ってしまっていた

 

ウィーン、ウィ、ウィーン、パサ…

 

リチャードが眠った事に気付いたお寿司握りロボは、椅子に掛かっていたリチャードのジャケットを背中に被せた

 

「テンナイハ、サムイデスカラネ」

 

「中将…」

 

「イラッシャイマセ」

 

心配になったウィリアムが来た

 

「中将、帰りましょう」

 

「ん…んぁ…ウィリアムか…放って置いてくれ…」

 

「ベッドで寝ないと…さぁ」

 

ベロンベロンに酔い潰れたリチャードを何度も揺すり、何とか起こす

 

「瑞鶴をなぁ…一人にしたくないんだ…」

 

「気持ちは分かりますが、閉店時間です」

 

「んぁ…あぁ…そうだな…そりゃいかんな…」

 

「代金は後で払いに来ますから、このまま」

 

「ん〜…すまんなウィリアム…」

 

ウィリアムに肩を貸して貰い、リチャードはようやく重たい腰を上げた

 

ずいずいずっころばしを出ても、リチャードは相変わらず酔っ払ったまま、ウィリアムに肩を貸して貰いながらフラフラ歩いていた

 

「フラフラしてるとレイにドックに放り込まれますよ」

 

「ドックかぁ…」

 

「ジャーヴィスにも笑われますよ」

 

「ドック…ジャーヴィス…はは、毒ジャーヴィス‼︎毒ジャーヴィスだ‼︎」

 

「ダメだなこりゃ…」

 

ウィリアムは鼻で笑いながら、もたれかかった腕を持ち直した

 

「リチャードサン」

 

何故かお寿司握りロボが着いて来ていた

 

「おぉ、瑞鶴。どうした。また明日行くぞ〜」

 

「オトシモノデス」

 

ウィーン、ポト

 

「小銭入れか…ありが…」

 

感謝の言葉を述べようとしたリチャードの口が止まった

 

「マタノオコシヲ、オマチシテイマス」

 

キュラキュラキュラキュラキュラキュラ…

 

「瑞鶴…」

 

カウンターに居たから気付かなかった

 

お寿司握りロボの足はキャタピラになっていた

 

「お前、そんな姿になってまで…」

 

ガラガラガラ…ピシャ

 

「うぅっ…‼︎」

 

届けられた小銭入れを、リチャードは強く握り締めた

 

「見たかウィリアム…」

 

「はい、中将。確とこの目で…」

 

「私に関わる女性は、皆足に何か抱えるんだ…はは…浮気したバチだな…」

 

「そんな事はありません。さぁ…」

 

この後リチャードはウィリアムに連れられ、ようやく自室に辿り着き、ベッドで眠った…



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215話 機械仕掛けの愛(2)

前回が暗いお話だったので、今回はちょっと明るめですよ




次の日の朝…

 

午前中だけレイが残る事になった

 

隊長とエドガーの代わりにアレンが来てくれて、二人は今見回りをしてくれている

 

「不安だわ…」

 

あの二人に見回りを任せると安心は出来るが不安が絶えない

 

そしてその横須賀の考えは、すぐに的中する…

 

 

 

 

「リチャード‼︎ブレックファーストよ‼︎」

 

いつもならいの一番に起きているリチャードが、この日一番遅く、心配になったイントレピッドが自室まで見に来た

 

「リチャード⁇開けるわよ…リチャード⁉︎」

 

リチャードは自室にいなかった

 

ならば外でタバコでも吸っているのだろうと屋上に来た

 

「いないわ…」

 

寮の何処を探してもリチャードがいない

 

「むっ…」

 

イントレピッドは屋上に設置してある双眼鏡に目が行った

 

繁華街の方を向いている双眼鏡を覗き、端から順に見て行く

 

朝食どきなので、パイロットも艦娘も色々ゾロゾロ出て来ている

 

「むっ‼︎」

 

双眼鏡の倍率を上げる…

 

「いたっ。何食べてるのかしら…」

 

これ以上倍率を上げられないので、結局断念したが、朝食は食べているので一安心したイントレピッドは、ため息を吐きながら食堂に戻って来た

 

「余っちゃったわ…」

 

リチャードの分の朝食が余ってしまった

 

リチャードは朝と夜を沢山食べるので、いつも多めに用意してある

 

「パラリラパラリラー‼︎」

 

「オラオラ‼︎朝だ‼︎飯の時間だぁ‼︎」

 

リチャード分の朝食の処理に悩んでいたイントレピッド

 

窓の向こうでは、朝からハイテンションな二人が超の付く低速でジープを走らせながらエンジンを吹かし、騒音を撒き散らしている

 

「ふふふ…うるさい子にはオシオキね…」

 

悪い顔をしながら、イントレピッドは寮の外に出た…

 

 

 

 

「パラリラパラリラー‼︎」

 

此方もまた、悪そうな顔をしながらジープに乗る二人

 

口でパラリラ言いながら、鈍足ジープでゆっくり見回りを続ける

 

「行って来ま〜す‼︎」

 

「「気を付けて行って来いよ〜」」

 

怖い顔と近寄り難い態度とは裏腹に、子供達は皆二人に挨拶して朝食や学校に向かう

 

「ヒャッハァー‼︎パイロット寮だぜ‼︎叩き起こしてやれ‼︎」

 

「オラ起きてんのか‼︎」

 

運転していたアレンがクラクションを鳴らす

 

「リスト上、夜間哨戒に出た奴はいねぇはずだぁ‼︎」

 

「オラオラ‼︎早起きして健康的な生活を送らせてやるぁ‼︎」

 

アレンはリズム良くクラクションを鳴らし、マーカスは大声を出しながら助手席でマラカスを振っている

 

「ふふふ」

 

突然、ジープのエンジンが切れた

 

「あ⁉︎何しやがんだ‼︎」

 

「マクレガー⁇マーカス⁇」

 

口元はニヤついているが、大層悪そ〜な顔をしたイントレピッドが運転席横から手を伸ばし、キーを捻っていた

 

「く、空母のねーちゃんだ…」

 

「うるさい子にはオシオキが必要ね…」

 

「ヤッベェ‼︎アレン‼︎エンジン掛けろ‼︎」

 

「よいしょっ‼︎」

 

「うわっ‼︎」

 

「それっ‼︎」

 

「はなせ‼︎」

 

イントレピッドの肩に担がれた二人が、寮の中に連れて行かれる…

 

 

 

「そこに座ってなさいよ⁉︎」

 

イントレピッドのパワーに負け、二人はパイロット寮の食堂の席に座らされた

 

「クッソォ…スゲェパワーだ…」

 

「俺達二人担いでピンピンとは…」

 

成人男性二人を担いでもピンピンしてるイントレピッドに、二人は逆らえないでいた

 

「二人共、ブレックファーストは食べたかしら⁇」

 

「今から食べる」

 

「間宮のモーニング食べる」

 

「食・べ・て、ないわよね⁇」

 

キッチンで何かをじゅんびしているイントレピッドが一瞬止まって此方を見る横顔を見て、二人は固まる

 

「食べてない‼︎」

 

「お腹減った‼︎」

 

「ふふっ‼︎正直でいい子っ‼︎リチャードがブレックファースト食べなかったのよ…」

 

二人の前に、パンやらサラダやら肉が置かれる

 

「さっ、食べて‼︎」

 

「頂きます‼︎」

 

「頂きます‼︎」

 

「ふふっ…」

 

イントレピッドは二人の正面の席に座り、頬杖をつきながら嬉しそうに眺め始めた

 

「マーカス。リチャードの様子が変なの。何か知らない⁇」

 

「あぁ…瑞鶴と色々あったんだよ…俺達が首突っ込む事じゃないさ」

 

「男女の問題かしら⁇」

 

「そっ。首突っ込むとロクな事がない。おいアレン‼︎俺のベーコンだぞ‼︎」

 

「お前はウインナー食ってろ‼︎」

 

「ふふっ‼︎」

 

オカズを取り合う二人を見て、イントレピッドは優しく微笑んだ

 

「ごちそうさん‼︎」

 

「ごちそうさまでした‼︎」

 

「またパラリラするの⁇」

 

「まぁな。行くぞパラリラー‼︎」

 

「見回り再開だぁ‼︎」

 

マーカスはマラカスを振りながら運転席に座り、後部座席にマラカスを置いた

 

助手席に座ったアレンはタンバリンを取り、バンバンシャカシャカ鳴らし始めた

 

「おっしゃ行くぞ‼︎」

 

「フォーーーーー‼︎」

 

「「ごちそうさまでしたーーー‼︎」」

 

また鈍足でジープが走り出す

 

笑顔で手を振って二人を見送った後、イントレピッドは頭を抱えた

 

何となく、アドミラルジェミニが心配している理由が分かった気がしたからだ

 

「まぁ…騒がしいのも嫌いじゃないわ⁉︎」

 

 

 

 

ジープは繁華街の手前まで来た

 

二人はジープを降り、マーカスはマラカスを手に持ち、繁華街に入った

 

「マーカス君とアレン君の見回りだぁ‼︎」

 

「オラオラ‼︎ちゃんと朝飯食ってっか‼︎」

 

「「「食べてまーす‼︎」」」

 

間宮に居た艦娘や兵達が一斉に返事をした

 

「フゥーーーーー‼︎」

 

「フォーーーーー‼︎」

 

「「「イェーーーーー‼︎」」」

 

朝からマラカスを振って、タンバリンを鳴らしまくるハイテンションの二人に、そこに居た全員が声援を送り、二人は出て行った

 

「問題はこの先だ」

 

「中将がどう反応するか…」

 

この時間帯、開いているのは間宮かずいずいずっころばし

 

朝からハイテンションなのは、リチャードを励ます為でもあった

 

「行くぞ…」

 

「おぅ…」

 

ずいずいずっころばしの暖簾を分ける…




寮母さんでも、母親はやっぱり強い


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215話 機械仕掛けの愛(3)

「フォーーーーー‼︎」

 

「モーニンモーニンモーニンモーニン‼︎」

 

「イラッシャイマセ。ニメイサマデスカ」

 

「なんだっ、マーカスとっ、アレンかっ」

 

親父はウドンを啜っていた

 

「まさか…」

 

冷や汗が走る

 

「か、葛城‼︎」

 

「は〜い‼︎」

 

奥からハチマキを巻いた葛城が出て来た

 

「良かった…」

 

葛城までロボットになったかと思っていた

 

「あ。ミニうどん二つ貰えるか⁇」

 

「ミニウドンデスネ。アリガトウゴザイマス。ミニウドンニチョウオネガイシマス」

 

「はいよ‼︎ミニうどん二丁‼︎」

 

マラカスもタンバリンも振らず、二人は大人しくうどんを待つ

 

「ミニうどんあがりました‼︎」

 

コト

 

コト

 

「ミニウドンデス」

 

「「いただきます」」

 

割り箸を割りつつ、親父の様子を見る

 

黙々とうどんを啜っている

 

ま、大丈夫そうだ

 

正直結構満腹なんだが、ミニうどんくらいなら入る

 

「葛城」

 

「はい」

 

「親父はずっとあの調子か⁇」

 

「私は今朝方出勤したので昨晩は良く分かりませんが…はい」

 

「そっか…」

 

親父の目は瑞鶴を見て笑っていると言うより、懐かしんでいる目だ

 

「本当に好きだったんだな…」

 

「マジもんだったとはな…」

 

結局俺達はミニうどんを食べた後、邪魔しちゃいけないと思い、ずいずいずっころばしから出て来た

 

その日も親父は丸一日瑞鶴の傍に居た

 

夜になるとまた飲み始め、誰かが迎えに行く…

 

「オッ…ラァ〜ッ‼︎帰んぞおじいちゃ〜〜〜んっ‼︎ドック放り込むぞぉ〜〜〜っ‼︎」

 

「重イ〜ッ‼︎」

 

「あ‼︎朝霜‼︎毒ジャーヴィスゥ‼︎」

 

「パパ⁉︎ジャーヴィス毒ないヨ⁉︎」

 

「ジャーヴィス毒ない⁇」

 

「ないヨ‼︎」

 

「そんなぁ…」

 

朝霜とたまたまスパイトと遊びに来ていたジャーヴィスが、何故かジャーヴィスに毒が無いと分かり落ち込んだリチャードをヒーコラ言いながら寮まで運ぶ

 

「ぐへぇ…」

 

「ついたァ…」

 

「ぐが〜…」

 

ベッドにリチャードを運び終わり、タオルケットを被せる朝霜

 

そして、リチャードの冷蔵庫から勝手にレモンの炭酸を頂戴するジャーヴィス

 

「ジャーヴィス…」

 

「んあ⁇なぁにパパ⁇」

 

「スパイトには言うな…」

 

「…分かった。内緒にするヨ」

 

少しは悪気があるのか、リチャードはジャーヴィスに内緒にするように言った後、イビキをかいて寝始めた

 

「じゃ、帰るか‼︎」

 

「ウン‼︎」

 

朝霜はジャーヴィスを台車に乗せ、パイロット寮を出た

 

「アーチャン‼︎」

 

「おっ‼︎あんがと‼︎」

 

台車に乗ったジャーヴィスはレモンの炭酸を丸ごと頂戴したのをゴクゴク飲みながら、時折朝霜にもあげていた

 

「ダーリンどこかナ〜⁇」

 

「那智さんのトコにでもいんじゃないか⁇」

 

朝霜の予感は的中する

 

「おっと。ちょっと待ってな⁇」

 

朝霜は台車を押す手を止め、震えたタブレットを見る

 

 

 

ぜみに> レイが那智のバーにいるから連れて帰って来てくれる⁇

 

ギザギザ丸> あぁった

 

 

 

「バーだとさ」

 

「バー行コ‼︎」

 

タブレットを仕舞い、朝霜は台車を押す…

 

 

 

 

バーに着くと、ドアを開ける前から騒がしさが伺えた

 

「…なんだ⁇」

 

「人いっぱいだネ…」

 

窓の外から店内を見ている人までいる始末

 

朝霜は台車を停め、ジャーヴィスと手を繋いでバーに入った

 

「いいわよマーカス‼︎嫌いじゃないわ‼︎」

 

「おぉ〜‼︎」

 

スパイトとポーラが酔っ払って騒いでいる

 

その先にはレイとアレンさんがいる

 

何かモノマネをしながら歌を歌っているみたいだ

 

「アッハハハ‼︎いいわよマーカス‼︎」

 

「いいぞいいぞぉ〜‼︎」

 

スパイトは人が違ったかのように酔っ払い、叫び散らしている

 

ポーラはいつも通り騒いでいる

 

「子供は寝る時間だぞ」

 

「那智さん」

 

「おいマーカス‼︎子供がお迎えに来たぞ‼︎」

 

しかしレイとアレンはマイクスタンドを持ち、華麗に歌い続ける

 

「…もう一曲だけ待っててくれ」

 

「あぁった。オレンジジュース下さい」

 

「ジャーヴィスはピーナッツ‼︎」

 

「畏まった。スパイトさんの所で待ってるんだ」

 

二人はスパイトとポーラの所に向かい、騒ぎまくっている二人のいるソファーに座る

 

「フォーーーーー‼︎」

 

「おばあちゃん」

 

「フォ、あら朝霜‼︎」

 

「ジャーヴィスちゃんもいますね〜」

 

「ポーラ‼︎飲むわよ‼︎」

 

「飲みまぁ〜すぅ‼︎」

 

スパイトとポーラは瓶ごとワインを飲み始めた

 

「瓶ごと行くな‼︎ほら、グラス‼︎」

 

「ポーラサンもッ‼︎はいッ‼︎」

 

「ゴックン…プァ‼︎フォーーーーー‼︎」

 

「最高ですぅ〜〜〜〜〜‼︎」

 

「ダメだ…早くなんとかしないと…」

 



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215話 機械仕掛けの愛(4)

朝霜が止めようが、スパイトもポーラも叫び散らしまくる

 

「さっ‼︎帰るぞ母さん‼︎」

 

「ポーラも帰るぞ‼︎」

 

ようやくレイとアレンが来た

 

「あ〜い。スパイトさん、また今度〜」

 

「むっふふ…ポーラ帰るの⁇」

 

「ポーラ、アレンさんと帰りま〜す」

 

「また飲みましょうね‼︎」

 

「あ〜い…」

 

聞き分けの良いポーラを担ぎ、アレンは先にポーラを寝かせに千代田の寮に向かった

 

「さ‼︎マーカス‼︎母さんと飲みましょ‼︎」

 

「母さんも帰るんだっ」

 

「ヤダヤダヤ〜ダァ〜‼︎マーカスと飲むぅ〜‼︎」

 

スパイトはクネクネ動きながら駄々をこねる

 

「ほらっ‼︎」

 

「む〜っ」

 

レイが手を伸ばすと、スパイトは嫌々手を取った

 

バーを出て朝霜はジャーヴィスを乗せた台車を押し、レイはスパイトをおんぶして執務室を目指す

 

「飲み過ぎたら親父に怒られるぞ⁇」

 

「いいのよ。リチャードは怒らせとけば。だってぜ〜んぜん‼︎私を相手してくれないもん‼︎ズィーカクば〜っかり‼︎」

 

ズィーカクと言う時、スパイトは嫌味ったらしく声を荒げた

 

何故こんなに飲んでいるかようやく分かった…

 

「はは。妬いてんのか⁇」

 

「えぇ。悪いかしら」

 

スパイトは半笑い、半怒り顔でレイの左肩に顎を置き、何とか見える自身の息子の横顔を見つめる

 

「…マーカスだけよ。私の相手してくれるの」

 

「ジャーヴィスもママの味方だヨ‼︎」

 

「そうね、ジャーヴィス…」

 

「アタイもだぞ‼︎」

 

「アサシモ…ありがと…」

 

安心したのか、スパイトはレイの肩に顎を置いたまま眠ってしまった…

 

 

 

 

執務室に着き、ソファーにスパイトを寝かせ、床に布団を敷いて朝霜とジャーヴィスを寝かせる

 

「ダーリンもネンネ⁇」

 

「もう少ししたらな⁇」

 

「ぐぁ〜…」

 

ジャーヴィスの横では、既に朝霜がイビキをかいて寝ている

 

「今日は何して遊んだんだ⁇」

 

「んとネ〜…アーチャンとお絵かきしテ〜…お散歩しテ〜…お菓子食べたヨ…」

 

「朝霜好きか⁇」

 

「アーチャン好キ…あのネ、ジャーヴィスの好きな事、たくさん知ってるノ…」

 

「そっか…」

 

ジャーヴィスの目がトロンとして来た…

 

「ダーリン…」

 

ジャーヴィスも寝息を立て始めた

 

レイは二人が寝息を立てたのを確認した後、自室に戻った…

 

 

 

 

そして三日目…

 

「…もう三日よ⁇」

 

「よっぽど好きだったんだな…」

 

俺と横須賀の二人が、ずいずいずっころばしの店内を盗み見する…

 

店内には、いつものカウンター席に座る親父が一人

 

他には誰もいない

 

この三日間、ずいずいずっころばしにはほとんど客が寄り付かないでいた

 

理由は明白

 

皆、親父と瑞鶴を二人きりにしてやりたいからだ

 

朝ごはんを食べ終えた後、親父は深いため息を吐いた後、航空演習に向かった

 

相変わらずキレの良い動きを見せる親父の黒いコルセアを、横須賀と共に管制塔から双眼鏡で眺めていた

 

「お義父さん、あんなにキレ良いのに…」

 

「早く何とかせんとな…てか、お前お義父さんって…」

 

「間違ってないでしょ⁇あら、雨だわ…」

 

管制塔の窓ガラスに水滴が付いた

 

「演習終了。雨天の為、着陸に注意を払って下さい」

 

《了解した。ケプリ、RTB》

 

横須賀の無線にも普通に対応する

 

問題は地に降りてからだ…

 

 

 

「親父‼︎甘いモンでも…」

 

「悪いな、マーカス…」

 

「中将。私とはどうで…」

 

「そんな気分じゃないんだ…」

 

「「あ…」」

 

コルセアから降りて来た親父は、俺達二人を押し退けるかの様に、下を向いたまま繁華街の方へと足を向けた…

 

 

 

 

誰もが気を使い、誰も居なくなったずいずいずっころばし…

 

「オキャクサマガ、イマセン」

 

悲しくお寿司だけがレーンを回り、お寿司握りロボは廃棄されていくお寿司を見て悲しくなった

 

「ヨビコミヲ、シテキマス」

 

「ちょっと瑞鶴さん‼︎」

 

キャタピラをキュラキュラ言わせながら、お寿司握りロボは表に出て来た…

 

「イラッシャイマセ。オスシハ、イカガデスカ。オイシイオスシハ、イカガデスカ」

 

お寿司握りロボが必死の呼び込みをする中、無情にも雨足は強くなる…



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215話 機械仕掛けの愛(5)

「どうしちゃったのかしら…」

 

「分からん…」

 

てっきりずいずいずっころばしに行くのかと思いきや、親父は部屋に引き篭もってしまった

 

もしかすると、お寿司握りロボの顔を見るのが辛くなってしまったのかも知れない…

 

「私達だけでも行きましょうか」

 

「メンテナンスもあるしな」

 

結局俺と横須賀だけでずいずいずっころばしに向かう事になった…

 

 

 

台風程ではないが、雨足は中々強くなって来た

 

横須賀と相合傘をしながら、繁華街に来た

 

「イラッシャイマセ。オスシハ、イカガデスカ。オコサマセットモ、アリマスヨ」

 

「うそ…」

 

雨ざらしになりながらも健気に呼び込みをするお寿司握りロボを見た瞬間、横須賀は目を見開いて口を抑えた

 

「お子様セットあったんだ…」

 

「…」

 

てっきり横須賀はお寿司握りロボに感動しているのかと思いきや、お子様セットがある事に感銘を受けているだけらしい

 

マークが言ってたな…

 

サラの感覚がちょっとズレてるから、ジェミニも多分ズレてるだろう…って

 

「イラッシャイマセ、イラッシャイマセ」

 

「…もういいのよ、お寿司握りロボ」

 

「イラッシャイマセ」

 

無機質に挨拶をされ、流石の横須賀もちょっと胸にキたみたいだ

 

「2名よ」

 

「アリガトウゴザイマス。ニメイサマ、ゴライテンデス」

 

お寿司握りロボに案内され、俺達はずいずいずっころばしに入った

 

「テヲ、アライマス」

 

「えぇ」

 

ウィーン、ガシャガシャ…

 

ちゃんと手を洗った後、お寿司握りロボはいつもの位置に付いた

 

「いなり寿司と…そうね、トロを貰えるかしら」

 

「イナリズシ、トロ、アリガトウゴザイマス」

 

横須賀の注文を受けた後、お寿司握りロボは俺の方を向いた

 

「サバを貰えるか⁇」

 

「サバ、アリガトウゴザイマス」

 

注文を受けた後、お寿司握りロボはちゃんと注文されたお寿司を握り始めた

 

「イナリズシト、トロデス」

 

コト、コト

 

「サバデス」

 

コト

 

「頂くわ」

 

「頂きます」

 

割り箸を割り、寿司を口に運ぶ

 

「んっ、味は落ちてないわね‼︎」

 

「やっぱイケるな‼︎」

 

「アリガトウゴザイマス。ズイカクハ、ウレシイデス」

 

ウィ、ウィーン

 

お寿司握りロボはガッツポーズをしてみせた

 

お寿司は相変わらず美味かった

 

だが、どうしても店内の雰囲気が暗い

 

悲しさに満ち満ちている…

 

黙々とお寿司を食べる中、お寿司握りロボが口を開いた

 

「リチャードサンヲ、ゴゾンジデスカ」

 

「あ…あぁ‼︎知ってるよ‼︎」

 

「リチャードサンガ、キマセン」

 

「え、演習が終わって疲れてるのよ‼︎」

 

「リチャードサン、ズイカクノコトヲ、スキダト、イッテクレマシタ」

 

「お寿司握りロボは、リチャードさんの事好きかしら⁇」

 

「トテモ、キニナルオカタデス」

 

お寿司握りロボに感情のプログラムがあったのか…

 

「痛い場所は無いか⁇」

 

「ミギウデノボルトガ、ホンノスコシ、ユルンデイマス」

 

「おいで」

 

お寿司握りロボはキュラキュラ言わせながらカウンターから出て来て、俺の前で止まり、右腕を前に出した

 

「これだな…」

 

右腕の関節部のボルトが緩んでいる

 

お寿司握って、あれだけウィンウィン動かしてればそうなるか…

 

しっかりとボルトを締め、簡単にだが潤滑油を少しだけ塗っておいた

 

「動きやすいか⁇」

 

「アリガトウゴザイマス。アナタノ、オナマエヲ、オシエテクダサイ」

 

「俺はマーカス」

 

「マーカスサン」

 

ウィ、ウィーン

 

お寿司握りロボは横須賀の方を向いた

 

「私はジェミニ」

 

「ジェミニサン。マーカスサン、ジェミニサン。ズイカク、オボエマシタ」

 

健気なお寿司握りロボを見て、俺達二人は不思議と子供を見ているような気分になり、笑みが零れた

 

俺がしたかったのはこれだ

 

この一瞬の喜びなんだ

 

横須賀にもそれとなく伝わったみたいだ…

 

 

 

 

互いに何皿か食べ終え、ずいずいずっころばしから出ようとしたら、お寿司握りロボが見送りに来てくれた

 

「アリガトウゴザイマシタ」

 

「頑張るのよ⁇」

 

「ハイ、ジェミニサン」

 

「またな」

 

「オキヲツケテ、マーカスサン」

 

ウィ、ウィ、ウィーン、フリフリ

 

まるで娘達を学校に送る時の様に、俺達は笑顔でお寿司握りロボに手を振り返した

 

「今、アンタの気持ちが分かった気がするわ」

 

「なら良かった」

 

「でっ⁇進んでるの⁇」

 

「明日には終わる。まっ…普通の子に戻る、が…」

 

「後は本人次第よ」

 

 

 

 

 

4日目…

 

「イラッシャイマセ。オスシハイカガデスカ」

 

この日の朝もお寿司握りロボはずいずいずっころばしの軒下で客寄せをしていた

 

「なんだこのロボット‼︎」

 

一生懸命客寄せをするお寿司握りロボの前に、三人組の不良が来た



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215話 機械仕掛けの愛(6)

「オスシハイカガデスカ。オウドンモ、アリマスヨ」

 

「寿司屋の癖にうどんなんか出してんじゃね〜よ‼︎」

 

不良達は意味も無くお寿司握りロボを蹴り飛ばし、倒れたお寿司握りロボを蹴ったり踏みつけたりし始めた

 

「ヤメテクダサイ。ズイカク、コワレテシマイマス」

 

「ロボットが握った寿司なんか食えるか‼︎」

 

「ははは‼︎人になって出直して来いよ‼︎」

 

「イタイデス。ヤメテクダサイ」

 

「ブッ壊れろ‼︎」

 

「アァ」

 

カメラが歪み、思考能力が低下しつつあるお寿司握りロボは、ふと一人の男性を思い浮かべた

 

「リチャードサン…」

 

「あぁ⁉︎何だって⁉︎」

 

「イヤデス。ズイカク、コワレタクアリマセン。リチャードサン。ウワァァァア」

 

お寿司握りロボは精一杯腕を振り回し、抵抗し始めた

 

「ズイカク、ヤクソクシマシタ。リチャードサンニ、オスシヲ、タベテモラウ」

 

「な…何だコイツ…気持ち悪りぃ…」

 

「腕取っちまえ‼︎」

 

「オラ‼︎動くな‼︎」

 

「ウワァァァア、ウワァァァア」

 

お寿司握りロボは羽交い締めにされても、両腕をグルグル回して抵抗を続ける

 

「ブッ壊れろや‼︎」

 

「ヤメテクダサイ、ゴメンナサイ」

 

まさに腕を折られようとした瞬間、誰かの頬が砕ける音が聞こえた

 

「へが…」

 

お寿司握りロボの腕を折ろうとした不良が、いきなり吹き飛んだ

 

「がっ…」

 

もう一人は回し蹴りで踵を口元にクリーンヒットさせ、一瞬でダウン

 

「ちょ、ご、ごめんなさい‼︎ごめ、ごっ…」

 

最後の一人はCQCで瞬く間に気絶

 

「アァ」

 

「人の女に手ぇ出すとは…分かってんだろうな…」

 

「ちょっ…」

 

お寿司握りロボを半破壊され、怒り狂ったリチャードは、近くに転がっていた不良の一人の口に足を置いた

 

「今の俺は機嫌が悪いんだ…」

 

リチャードは足を口に置いたまま、タバコに火を点け、下を向いた

 

「フーーーッ…」

 

「おごごごご…」

 

紫煙を吐きながらゆっくりと足に力を入れると、ミシミシと音を立てた

 

「中将‼︎」

 

ようやく異変に気付いた憲兵隊が駆け付けて来た

 

「…チッ。小僧、命拾いしたな…」

 

足を離し、フライトジャケットを着直した後、お寿司握りロボの所に来た

 

「リチャードサン」

 

「工廠に行こう」

 

お寿司握りロボは台車に乗せられ、リチャードに運ばれる

 

「リチャードサン」

 

「なんだ⁇」

 

「キテクレテ、アリガトウゴザイマス」

 

ボロボロにされ、それでも感謝を述べるお寿司握りロボを見て、リチャードは台車の持ち手を強く握った

 

「…昨日は悪かったな」

 

「ズット、マッテマシタ」

 

「腹下してたんだよ。昨日は朝飯にイントレピッドの朝食も食べたんだ」

 

昨日、演習が終わった直後から気が沈んでいたのはこの為である

 

「キゲン、ヨクナイ、デスカ」

 

「人が休みなのに朝からマーカスやらアレンやらジャーヴィスやらその他諸々が枕元でガシャガシャドンドンパフパフ鳴らしやがって…」

 

そう言うリチャードだが、顔には笑みを浮かべていた

 

実は内心、子供や孫達に起こして貰って満更でもなかった

 

「さっ、着いた」

 

「リチャードサン。ズイカク、ナオリマスカ」

 

「治るさ‼︎息子のマーカスはっ‼︎腕利きのエンジニアだっ‼︎」

 

お寿司握りロボを背負い、工廠の台の上に置く

 

「これまた派手にぶっ壊してくれたな…」

 

俺の所に来たお寿司握りロボは、見るも無残に大破も大破

 

「直せるか⁇」

 

「ま…やってみる。期待はすんなよ⁇」

 

「任せた」

 

リチャードが工廠から出た後、すぐに大淀博士に連絡を入れた

 

「お寿司握りロボが大破した。手伝ってくれ」

 

《オッケー‼︎すぐ行くわ‼︎》

 

 

 

 

二時間後…

 

「親父」

 

「どうだった⁉︎」

 

「すまん…」

 

「は…」

 

お寿司握りロボを修理して、元通りにする事は叶わなかった

 

「まっ。お寿司握りロボは、だがな」

 

「どういう意味だ…」

 

「中将」

 

工廠のカプセルの前には、私服に着替えた瑞鶴がいた

 

「瑞鶴…なのか⁇」

 

「正真正銘瑞鶴よ‼︎」

 

腰に手を当て、私は瑞鶴だ‼︎と言い張る

 

「俺の好きな寿司は⁇」

 

「かんぴょう巻き‼︎」

 

「俺の乗ってるバイクは⁇」

 

「あれでしょ⁇黒いボディのカマキリハンドル‼︎ナンバーは、す・4‼︎」

 

「瑞鶴‼︎」

 

「中将‼︎」

 

二人共大きく腕を広げ、小走りで駆け寄り、強く抱き締め合う

 

「すまなかった…」

 

「いいの…最後に誰かの役に立てたもの…」

 

「ん…マーカス、ありがとうな。マーカス⁇」

 

親父が振り返った時には、俺はそこにはいなかった

 

 

 

 

「これで良かったのか⁇」

 

「えぇ。リチャードが幸せなら、私も幸せよ、マーカス」

 

工廠の裏で海を見ながら、俺の隣で母さんが笑う

 

瑞鶴が大破して入渠していたのは本当だ

 

瑞鶴が治療に専念している間に、母さんはここぞとばかりにずっと計画していたお寿司握りロボをずいずいずっころばしに置き、リチャードが如何に瑞鶴を好いているかの度量を計り始めた

 

因みにこの少し前に大淀博士が遊び半分で造った自動お寿司握りロボを改造したのが、ズイカクだ

 

瑞鶴が大破してすぐ、母さんはこの機を逃すまいと瑞鶴本人に許可を入れ、お寿司握りロボをずいずいずっころばしに設置した

 

そう。これだけリチャードが意気消沈したのはただの母さんのイタズラである

 

「目の前で大々的に浮気だぞ」

 

工廠の中を見ると、親父と瑞鶴が熱いキスを交わしている

 

「その分倍は尽くして貰うからいいわ。それにマーカス。貴方もいるしね⁇」

 

こうして笑った顔を見ると、母さんがジャーヴィスを産んだとよく分かる

 

「母さんがいいならそれでいい。止めたきゃいつでも言ってくれ。そん時ゃ、本気で叩き落としてやるから」

 

「ふふっ、OKマーカス‼︎」

 

 

 

 

後日、普通の女の子となった瑞鶴がずいずいずっころばしに戻って来た

 

最初の客は勿論リチャード

 

お寿司握りロボ⁇

 

お寿司握りロボは瑞鶴が休日の時に代理で出る事が決まった

 

そっ。修理は何とかなった

 

不良は外部から来た一般客で、横須賀が計一週間の奉仕活動をさせて事無きを得た…

 

 

 

 

 

 

 

スパイトがこれだけリチャードの浮気に耐えられているのは、実は自分も一番身近な人に浮気をしているとは、誰も知る由が無い…

 

それはスパイトにとっては絶対隠しておかなければならない感情

 

ウィリアムにも、貴子にも、ジェミニにも、誰にもバレてはいけない

 

ましてや本人には絶対隠しておかなければならない、そんな感情

 

抱いてはいけない相手に、スパイトは抱いてはいけない感情を抱いていた…



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216話 シャークマウス(1)

さて、216話が終わりました

今回のお話は、誰かが大暴れするお話です

突如として出現したアンノウン

果たしてその正体とは…


スカイラグーンから数十キロ離れた沖合…

 

この日、レーダー艦”ダイダロス”が付近をいつもと変わらぬ様子で巡回をしていた

 

少し離れた位置に、護衛の為に来てくれた照月と涼月もいる

 

「そういや、ここで結構な規模の海戦があったらしいな⁇」

 

「我々が大湊に所属する少し前の話ですよね…」

 

旗艦アークロイヤルbis率いる大規模艦隊迎撃戦の事だ

 

作戦名、ジャスティスブレイク

 

正義と言う名の破壊の力が互いに交錯した海戦だ

 

それからと言うもの、不思議な事が多く起こっている

 

近くを通った民間船によれば

 

・発信者不明の電信を傍受した

 

・女の子の声が聞こえた

 

・海上を走る少女の影を見た

 

等々、半都市伝説のような噂が流れている

 

「噂が本当ならば、海戦での生き残りがいるのかも知れないな…」

 

「噂が噂のままならば良いのですが…」

 

「艦長。通信を傍受しました」

 

「読め」

 

電文を持って来たダイダロスの乗組員の言葉の前に、ダイダロスさんと補佐は息を飲んだ

 

「はっ。”マケナイ マケラレナイ”との事です」

 

ダイダロスさんと補佐は顔を見合わせた

 

「発信源の特定を頼む」

 

「了解」

 

補佐が電信の発信源の特定に入る

 

「一応、横須賀と大湊に連絡を入れておけ。発信源不明の電信あり。救助依頼の可能性がある為、本艦はこのまま待機、と」

 

「了解しました」

 

二人に命令を出してすぐ、ダイダロスさんは無線を取った

 

「ヴァルキリー、レディ。発信源不明の電信を傍受した。付近に異変が無いか索敵範囲を広げてくれ」

 

《分かった‼︎照月は左‼︎》

 

《了解です、ダイダロス。涼月は右を》

 

無線を切り、ダイダロスさんは水平線を見つめながらため息を吐いた

 

「心強い味方が居て助かりましたね⁇」

 

「この艦には大した武装が無いからな…あっても使い方知らんし…」

 

「ですよね…」

 

ダイダロスには大した武装が載っていない

 

武装という武装は、精々左右に一つずつある固定銃座のみ

 

もし奇襲を掛けられたり海戦になればひとたまりも無い

 

「発信源特定。レーダーに表示します」

 

ダイダロスのモニターに発信源が映し出される

 

「ここが発信源の模様です」

 

「完璧にジャスティスブレイク作戦の跡地だな…」

 

「艦長‼︎横須賀から入電‼︎サンダーバード隊を護衛に付けるとの事‼︎」

 

「おぉ‼︎」

 

ダイダロス一同、安堵のため息を漏らす

 

サンダーバード隊が来てくれれば一安心だ

 

《ダイダロス、聞こえるか》

 

「聞こえます、イカロス‼︎」

 

無線から聞こえた声はウィリアム

 

《発信源のデータを受け取った。ちょっくら見てくるよ》

 

《お兄ちゃんとパパさん頑張れ〜‼︎》

 

《照月、涼月。ダイダロスを任せたぞ》

 

《うんっ‼︎》

 

マーカスの声がした途端、照月と涼月がダイダロスの護衛に戻って来た

 

これで護りは完璧だ

 

《ダイダロス。スカイラグーンで待機していてくれ》

 

「了解。サンダーバード隊、支援に感謝します」

 

《二人を頼んだ》

 

ダイダロスの上空を行き、綺麗に二手に分かれるサンダーバード隊の二人

 

その二人を見て、ダイダロスの乗組員は二度目の安堵のため息を吐いた

 

 

 

 

「発信源はこの辺りだ」

 

《了解。何もなければ良いんだがな…》

 

そう思っていたのも束の間…

 

「来やがった…」

 

”ドコダ クロイシニガミ”

 

電信が来た後すぐ、目下に人影を見つけた

 

「グリフォン。奴をマークしろ」

 

《オッケー‼︎》

 

グリフォンがモニターでアンノウンをマークしている間、隊長に無線を繋げる

 

「ワイバーンからイカロスへ。目標を発見した」

 

《了解。攻撃の意思はあるか⁇》

 

「ビミョーな所だ。会話してみる」

 

《任せたぞ》

 

隊長との無線を終え、次はアンノウンに繋げる

 

「こちら横須賀分遣隊。アンノウン、聞こえるか」

 

《…》

 

「避けろグリフォン‼︎」

 

《うひゃお‼︎》

 

低空飛行で近付いた途端、いきなり発砲を受けた

 

「やめろ‼︎撃つんじゃない‼︎」

 

《見つけた…悪魔め‼︎》

 

「なんだと…うおっ‼︎」

 

話す余地無く、発砲を受け続ける

 

「撤退だ‼︎」

 

《オッケー‼︎アレはヤバイね‼︎》

 

《ワイバーン、大丈夫か‼︎》

 

すぐに隊長から無線が入り、横に着いて貰った

 

「平気だ。ちょっとビビっただけだ」

 

《スカイラグーンで補給を受けよう。燃料が持たん》

 

「了解」

 

一旦隊長と共にスカイラグーンまで退却する事になった…



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216話 シャークマウス(2)

「大丈夫か⁇」

 

「怪我も被弾も無い」

 

「ならいい」

 

グリフォンから降りてすぐに隊長が来てくれた

 

「あいつは一体…」

 

「まだアンノウンとしか言いようが…」

 

「大佐‼︎大尉‼︎逃げて‼︎」

 

隊長と話していると、ダイダロスの乗組員が走って逃げて来た

 

「見つけたぞ。黒い悪魔‼︎」

 

「隊長」

 

隊長にヘルメットを渡し、ついさっき海上で遭遇した少女の方を向く

 

青い髪で、まだまだ幼い顔と体をしているが、殺意だけは大人顔負けに伝わって来る

 

「さっきも俺を悪魔と言ったな」

 

「許さない‼︎」

 

話が伝わりそうな相手ではなさそうだ…

 

「地獄へ落ちろ‼︎」

 

「うおっ‼︎」

 

再三目のいきなりの砲撃

 

横に転がり、何とかかわせはしたが…

 

「なんて威力だ…」

 

地面が大きく抉れる程の砲撃

 

直撃すれば流石にもたなさそうだ…

 

「人に向けて撃ったらダメなんだよ‼︎」

 

異変に気付いた照月が割って入ってくれた

 

「うるさい‼︎」

 

今度は照月に向けて砲撃を放つ

 

「伏せろ照月‼︎」

 

「えいっ‼︎」

 

再び地面が抉れる

 

照月は自身に向かって来た砲弾に対し、ゲンコツを振り下ろした

 

砲弾は照月に向かう事なく、照月の足元を抉った

 

「次は照月の番だね〜‼︎えいっ‼︎」

 

照月は一瞬で少女の前に踏み込み、ゲンコツを振り下ろした

 

「ふ…」

 

照月のゲンコツは少女に当たる少し手前で止まり、少女はニヤリと笑う

 

「あれぇ〜っ‼︎あれあれあれ〜っ‼︎」

 

照月は何度もガンガンゲンコツを振り下ろすが、少女に当たる気配は無い

 

それどころか、ゲンコツの当たりすぎで周りの地面が沈んで来ている

 

「なんでぇ〜⁇」

 

「邪魔をするな‼︎」

 

今度はゼロ距離からの砲撃

 

「えいっ‼︎」

 

それでも照月は弾く

 

「照月に豆は効かないよ」

 

「ふ…なら、これならどうだ‼︎」

 

少女は軽くジャンプした後、照月に向かってストレートパンチを繰り出した

 

「わぁ‼︎」

 

照月が後ろに下がる

 

かなりの体重があるはずの照月を下がらせる程のパンチ

 

それに、攻撃が届かない目に見えない障壁

 

「目的はなんだ‼︎」

 

「悪魔と死神の首を取る。それだけ」

 

「悪魔と死神だぁ⁇」

 

「横須賀分遣隊だと言ったな。横須賀に行けば死神に会えそうだ…」

 

「ふざけるな‼︎誰が行かせるか‼︎」

 

「次は負けない…悪魔にも、死神にも…」

 

そう言い残し、少女は海へと帰って行った…

 

「横須賀に行くだと…」

 

「レイ‼︎急ぐぞ‼︎今なら横須賀に間に合う‼︎」

 

「分かった‼︎照月‼︎大丈夫か⁉︎」

 

「うんっ‼︎あの子強いね‼︎照月、殴りたくなっちゃった‼︎」

 

ニコニコしながら照月は怖い事を言っている

 

「照月、お兄ちゃんに手を出す奴は誰であろうと許さないよ」

 

「いいか照月。俺達がいない間、基地のみんなを護ってくれるか⁇」

 

「照月もあの子殴りたい‼︎」

 

「照月は良い子ちゃんだから、俺の言う事聞いてくれるな⁇」

 

「分かった‼︎照月、みんなを護るよ‼︎」

 

照月は素直な子だ

 

ちゃんと接すれば、いつだって助けてくれる

 

「お兄ちゃん。反発したら言ってね⁇照月がピーラーさんであの子皮剥きしてあげる‼︎」

 

「分かった」

 

ニコニコ笑顔を送る照月の瞳の奥に、怒りの炎が見えた

 

照月の頭を撫でた後、俺と隊長はすぐに横須賀へと飛んだ

 

《アンノウンを避けて飛ぶ。全速力で行くからな‼︎》

 

「オーケー‼︎着いて行く‼︎」

 

帰り際、眼下にあの少女が見えたが、高度の高い位置を飛行している為、撃って来る事は無かった



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216話 シャークマウス(3)

横須賀に着いてすぐ、執務室で緊急会議が開かれた

 

「コードネーム”シャークマウス”には強力な小型主砲、目視不可の何らかの障壁がある」

 

あの少女のコードネームはシャークマウスになった

 

「そのシャークマウスは艦娘なの⁇深海なの⁇」

 

「分からん。目に見えてる問題は二つ。彼女の目標である悪魔、それと死神。悪魔は俺だと言ったが、死神が…死神…⁇」

 

何で気付かなかったんだ‼︎

 

それに気付いた時、すぐに無線機を取った

 

「タナトス‼︎沖に出ろ‼︎」

 

《な、なんでちか‼︎》

 

「沖に出たら急速潜行して待機しろ‼︎」

 

《わ、分かったでち‼︎》

 

恐らく彼女の狙いはタナトスだ

 

「そんなに強いの⁇」

 

「照月にパンチ当てて下がらせるレベルだぞ」

 

「それ…結構ヤバめじゃない⁉︎」

 

「だから言ってんだ‼︎問題は後一つ、障壁だ。あれをどうにかしない限り、攻撃を当てる事も不可能だ」

 

「この間みたいに中和するとかは無理かしら」

 

「作戦1はそれで行こう」

 

ホワイトボードに意見を書いて行く

 

まずは横須賀の障壁中和作戦

 

「集中砲火も視野に入れておいたらどうだ⁇」

 

「作戦2は集中砲火だな」

 

作戦2は隊長の集中砲火作戦

 

「話は通じる相手じゃ無いのよね⁇」

 

「あぁ。話す前に砲撃だ。ただ、万が一対話の意思があった場合、攻撃行動は中止して欲しい」

 

「分かったわ」

 

「それとな、レイ。一つ気になる事があるんだ…」

 

「気になる事⁇」

 

「シャークマウスがいた海域は、ジャスティスブレイク作戦が展開された海域だろ⁇もしかするとの可能性だが…」

 

俺も横須賀もハッとした

 

「生き残りがいた…」

 

「見た所、体格は松輪と良く似た感じだった。可能性は低くはない」

 

松輪もあの作戦の生き残りだ

 

確かに言われてみれば体格が似ている

 

「ラバウル航空隊が来たわ」

 

窓の外で四機が着陸体勢に入っている…

 

今回ばかりは航空戦力でどうにかならないかも知れない…

 

 

 

 

 

ラバウルの四人が到着した後、執務室に立体レーダーが展開された

 

「シャークマウスの現在位置はここ。まずはレイが対話を試みた後、障壁中和作戦を行うわ。第二作戦に、火力集中作戦。今の所、これしか対抗策が無いわ」

 

「行って来る」

 

「はいっ。死んじゃダメだよ⁇」

 

「心配すんな。すぐ戻る」

 

きそからシールド中和装置を貰い、執務室を出た

 

 

 

 

シャークマウスが来るであろう港に立つ

 

非常警報が発令され、今ここに立っているのは俺一人

 

「来たな…」

 

水平線にシャークマウスが見えた

 

「悪魔め…二度目は無いっ‼︎」

 

「待てよ‼︎」

 

「問答無用‼︎」

 

制止虚しく、シャークマウスは二発の砲撃を放った

 

「ぐっ…」

 

殺意を込めた砲撃は距離が足りなかったのか、奇跡的に足元に落ちた

 

「死ね‼︎悪魔‼︎」

 

間髪入れずに飛び掛かってストレートを振りかざして来た

 

今しかない‼︎

 

右手で中和装置を起動させ、左手で此方もストレートを当てる体勢に入る

 

シャークマウスの拳に当たれば良いが…

 

「…チッ」

 

「うおっ‼︎」

 

見えない障壁に拳が弾かれる

 

中和装置の効力が無い

 

参ったな…

 

 

 

 

「第二作戦に移行します。目標はシャークマウス」

 

執務室では横須賀達が慌ただしく無線を使い、艦娘達を各所に配備させている

 

「…障、壁」

 

監視カメラの映像を見ながら、一人の少女が呟いた

 

「ちょっと‼︎何処行くの⁉︎」

 

「心配しないで下さい。すぐ戻ります。第2作戦開始を少し遅らせて下さい」

 

「ちょっと‼︎もぅ…第2作戦開始は合図があるまで待機して頂戴‼︎」

 

横須賀の制止虚しく、少女は執務室を出た…



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216話 シャークマウス(4)

「死神は何処だ‼︎」

 

「聞いてどうする‼︎」

 

「地獄に送ってやるんだ‼︎」

 

シャークマウスに対して攻撃は弾かれる為、距離を取りながら話を続けていた

 

「死神は俺の子だ‼︎地獄へ送るとか言ってる奴に教える訳にはいかん‼︎」

 

「なら貴様から地獄へ落ちろ‼︎」

 

シャークマウスが砲撃の姿勢に入る

 

「艦種データ、重巡洋艦へ移行…」

 

「くたばれ‼︎悪魔ぁ‼︎」

 

「完了」

 

「ぐあっ‼︎」

 

シャークマウスがいきなり吹き飛んだ

 

頬を殴られ、痛そうな形に頬を歪ませながら、シャークマウスは宙に浮いた

 

「創造主様‼︎お怪我は⁉︎」

 

そこにいたのは親潮だった

 

シャークマウスに対して強烈な右フックを咬まし、吹き飛ばしていた

 

「障壁はどうした⁉︎」

 

「創造主様のお手元にある中和装置を真似て、適応変化能力で中和しました」

 

「なるほどな…」

 

「ですが、三分間しか障壁は破れません。その間に髪留めの障壁発生装置と主砲を破壊します」

 

「三分だな⁇」

 

「創造主様がお煙草を一本お吸いになる時間が約三分間です」

 

ニヤリと親潮が微笑む

 

俺がアレンにする”悪い事しようぜ”の合図だ

 

「了解っ‼︎」

 

タバコを咥え、オイルライターの蓋を開ける…

 

オイルライターの火でタバコに点火すると親潮が頷き、シャークマウスの方に顔を向けて腕を構えた

 

「行くぞ親潮」

 

「はいっ。創造主様」

 

今まさに立ち上がろうとしているシャークマウスに向かって、俺達は拳と首を鳴らし、歩み寄る

 

「くそぅ…負けないっ…負けられないんだよ‼︎」

 

「動かないで下さい…」

 

親潮はシャークマウスの髪留めに手を伸ばした

 

「触るな‼︎悪魔の子め‼︎」

 

「…」

 

「ぐぁっ‼︎」

 

シャークマウスが親潮の手を払った瞬間、親潮は真顔でシャークマウスの顔面にメリ込む位のストレートパンチを当てた

 

「障壁発生装置確保‼︎」

 

「主砲も確保だ」

 

「ぐっ…」

 

シャークマウスは鼻血を垂らしながらも、未だに敵意を向けている

 

「…親潮、ありがとう。下がってろ」

 

「はい」

 

親潮が引き下がったのを見て、腕を構える

 

「オーケー…サシで勝負だ」

 

シャークマウスは一対一の勝負を望んでいる

 

「うがぁぁぁあ‼︎」

 

身長差をモノともしないジャンプで、シャークマウスは俺の顔面に拳を振りかざす

 

「ぬんっ‼︎」

 

「ぐぁ…っ」

 

今度は左フックがシャークマウスの右頬に当たる

 

流石に限界が来たのか、とうとうシャークマウスは倒れた

 

それと同時に、タバコの灰が落ちた

 

何とか間に合ったみたいだ…

 

「観念しろ」

 

「死にたくなければ手を上げて下さい」

 

俺は内ポケット

 

親潮はデータでピストルを出し、シャークマウスに向けた

 

「何で…」

 

負けたのを確信したのか、シャークマウスは地面に手を突き、ポロポロと涙を落とし始めた

 

「何で私だけ助けてくれなかったんだよぉ‼︎」

 

「やっぱり…」

 

「みんな助かったのに‼︎私だけ助けてくれなかった‼︎いっぱい助けてって言ったのに‼︎誰も来てくれなかった‼︎」

 

隊長が睨んだ通り、シャークマウスはあの作戦の生き残り

 

「死神も悪魔も倒せなかった…あぁ…」

 

意気消沈したのか、シャークマウスは肩の力を抜いた

 

「俺達と来い」

 

「いい…酷い事をしたからな…」

 

「だったら尚更来て下さい。ここなら貴方を利用する様な真似をする輩はおりません」

 

「…」

 

「そして、いつか知って下さい。貴方が悪魔や死神と呼んでいる方が、どれだけ貴方を思って、あの日貴方がたを撃沈したか」

 

親潮の言葉を聞き、シャークマウスの体がピクリと動いた

 

「…知れるだろうか」

 

俺の言葉より、親潮の言葉の方が響いている

 

「貴方にその気があれば、ですが」

 

「…」

 

それでもシャークマウスは躊躇いを見せた

 

「さっ。行きましょう。まずは貴方を治療します」

 

「…」

 

親潮が差し伸べた手を、シャークマウスは無言で握った

 

「…帰りましょうか、創造主様‼︎」

 

「んっ」

 

第2作戦に移行する前に、親潮の機転で事無きを得た

 

親潮に背負われたシャークマウスは余程疲れていたのか、すぐに眠ってしまった

 

こう見ると、大人しくてまだまだ幼さが残っている

 

こんな子を戦いに出していたのか…

 

 

 

「さ…おやすみなさい…」

 

医務室に着き、シャークマウスをカプセルに入れた後、親潮と俺はようやく一息つけた

 

「助かったよ…」

 

「創造主様が無事なら、親潮はそれで満足です‼︎」

 

「お前も見といてやるよ」

 

「はいっ」

 

親潮は本当に良い子だ

 

ただ、何故だろう…

 

はっちゃんもゴーヤもそうだが、俺の産み出したAIは何が何でも俺を護ろうとしてくれる

 

俺がそう指示した覚えは無い

 

指示したと言えば、自身の保管を最優先に考え、その範疇で誰かに手を差し伸べる事をちょろっと言った位だ

 

強制もしていない

 

親潮にもその傾向がある

 

とても有り難い事なのだが、少し気にもなっている現象でもある

 

「特に異常は無いな」

 

「ありがとうございます」

 

聴診器を外し、タバコに火を点ける

 

「創造主様はお医者様になるのが夢だとジェミニ様にお聞きしました」

 

「どうなんだろうな…パイロットでいたい気持ちもあるし、地に降りて医者になるのも悪く無いと思ってる」

 

「親潮はどちらの創造主様もカッコイイと思います‼︎」

 

親潮に言われると、ちょっと揺らいでしまう自分がいる

 

医者、か…

 

いつか地に足を降ろしたら、それも…

 

「お医者様は変身して戦うのですよね‼︎親潮、カッコイイと思います‼︎」

 

あ、これ多分違うな

 

俺の思ってる医者と、親潮の思ってる医者は多分違う

 

「…親潮」

 

「剣を手にして切除手術をされたり、ピストルで撃ってウィルスを消滅させるのですよね‼︎」

 

「いいか親潮」

 

親潮の肩を掴み、一旦呼吸を整える

 

「は、はいっ‼︎」

 

この瞳…真面目な瞳だ…

 

「親潮は特撮好きか⁇」

 

「はいっ‼︎とっても‼︎清霜様といつも見ています‼︎」

 

「そうかそうか。親潮は多趣味だな」

 

「沢山覚えて、親潮、沢山楽しいです‼︎」

 

半笑いの顔を手で抑え、嬉しさ半分、戸惑い半分の気持ちを隠した

 

親潮の情報は時たまズレている事がある

 

横須賀の仕業もあれば、俺の所為もある

 

今も典型的な例だ

 

一波乱あったが、親潮の素っ頓狂な情報のお陰で気持ちが和んだ

 

…当の本人は本気だが



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216話 シャークマウス(5)

次の日の朝…

 

「よく眠れたか⁇」

 

「…まぁ」

 

シャークマウスが大きなあくびをしながら目を覚ました

 

俺、横須賀、親潮が目の前にいてもシャークマウスの目は変わらず本気だが、もう敵意は向けてはいない様子だ

 

「貴方、帰る場所は⁇」

 

「そんなの無い」

 

「なら、ここに居なさい」

 

「…」

 

目を逸らすシャークマウスだが、内心、決心は固まっている様にも見える

 

「あっ。そう言えば、お名前を聞いていませんでした‼︎」

 

「無い。番号で呼ばれていた」

 

「私が決めたげるわ‼︎」

 

「俺が決めてやるよ‼︎」

 

二人同時に言い放ち、互いの目を見る

 

「…なによ」

 

「なんだよ…」

 

そしていつもと同じくヤイヤイ言い合いを始める

 

「ふふっ」

 

「君の親はいつもこうなのか⁇」

 

微笑む親潮の横で呆れるシャークマウス

 

何とも情けない姿の二人を見て、相反する感情を抱く

 

「えぇ。騒がしいのも悪く無いと、いつも創造主様もジェミニ様も仰っています…が…」

 

今日は珍しく取っ組み合って床を転がり回るまでに発展した俺と横須賀の痴話喧嘩を見て、親潮もシャークマウスも呆れ顔になる

 

「…これはどうすれば収まる」

 

「貴方が一言…ここに居たい。そう言えば収まるかと」

 

「…はぁ。分かった‼︎分かった分かった‼︎ここに居たい‼︎」

 

「言ったな⁉︎」

 

「言ったわね⁉︎」

 

「ねっ⁇」

 

「はぁ…」

 

随分情けない場所に就いてしまった…

 

と、シャークマウスは人差し指で頭を抱える

 

「じゃあ、お名前を付けるわね⁇何が良いかしら…」

 

「シャークマウスは鮫です」

 

「鮫…鮫はフカって呼ばれてるな」

 

「なんならシャークマウスでも…」

 

「「「ダメッ‼︎」」」

 

この親子は…と、少し思ったが、シャークマウスはふと口角を上げた

 

こんなにバカで、こんなに真面目に自分の事を考えてくれる人は初めてだったからだ

 

そして、これがシャークマウス最後の微笑みであり、最後の思考となった

 

「フカ…フカ…ん〜…」

 

「フカ…福…」

 

「”福江”なんてどうよ⁇」

 

三人全員が同じ方を向く

 

青い髪の少女の方だ

 

「福江」

 

「そっ。福のある江」

 

「ふかえ」

 

「そうだ。福があるようにな」

 

「私福江」

 

「そうです。ほっぺたおたふくみたいですからね」

 

「あ、あんたのせいだろ‼︎」

 

やはり親潮の一言は効くみたいだ

 

「ほっぺたおたふく福江ちゃんね。登録しておくわ」

 

「ほっぺたおたふくは要らないからな‼︎えと…」

 

「私はジェミニ。横須賀でも良いわ⁇」

 

「俺はマーカス。レイでも良いぞ⁇」

 

「私は親潮。おっちゃんと言ったら怒ります」

 

福江にニコニコ笑い掛ける親潮を見ながら、俺と横須賀は顔を見合わせて微笑んだ

 

あんなに堅物だった親潮が、冗談を言うまでに感情が構築されている

 

「では、親潮はジェミニ様と視察に参ります」

 

「レイも来なさいよ⁇」

 

横須賀と親潮が部屋を出て、俺と福江の二人になった

 

「…過去の事を忘れろとは言わない。その気があれば、いつだって殺しに来ても構わん」

 

「…」

 

「ただ、ここにいる限りは最低限、普通の生活は保証する」

 

「…本当だろうな」

 

「本当さっ。なんなら、横須賀に聞いてみるといいさっ」

 

「今は信じる…」

 

「死神にも、いつか会わせてやるよ」

 

「もういい。マーカスがそう言うなら、死神も同じだろう」

 

「…ありがとう」

 

福江は物分かりの良い子だ

 

確かに我は強いが、ちゃんと言って、それなりの行動を取れば言う事を聞いてくれる

 

「それとな、福江。一つだけ聞きたい事がある」

 

「答えられる事なら」

 

福江の前に障壁発生装置の髪留めと、小型の主砲を置く

 

「これは何処で手に入れた⁇」

 

「あぁ、壊滅した基地の残骸を掻き集めた物と聞いた。深海の技術らしい」

 

「場所は分かるか⁇」

 

「パラオだ。話に聞くと、何度も壊滅させられた内の一回で深海の技術を研究していたから、もう無いと思う」

 

「あの時か…」

 

思い出すのは、ボーちゃんと初めて出逢ったあの日のパラオ

 

パラオには振り回されるな…

 

「そっか…これは研究に回して良いか⁇新しいの造ってやるよ」

 

「あぁ。それなら必要無い」

 

「じゃっ、話は終わりだ‼︎初月‼︎」

 

「ここに」

 

「‼︎」

 

久方振りに初月が天井から降りて来た

 

「福江と一緒に間宮に行って、執務室に戻って来てくれ」

 

初月の分と福江の分の2枚の間宮の無料券を初月に渡した

 

「了解した。福江、行こうか」

 

「んに…」

 

「お⁇」

 

急に可愛い声を出し、福江は俺のズボンの端を掴んだ

 

どうも怖いみたいだ

 

「あ…あっははは‼︎心配するな‼︎」

 

「取って食わないか…⁇」

 

「食わないな⁇初月⁇」

 

「心配するな‼︎僕はただの忍者だ‼︎大尉の御所望なんだ。君に危害を加えたりしない。約束する」

 

「…分かった」

 

福江は嫌そうに手を離し、二度俺の方を振り返り、初月と共に部屋を出て行った

 

「さてっ…」

 

とりあえずは福江の艤装を金庫に仕舞おう

 

貴重なサンプルだ

 

工廠に行き、巨大な金庫の中の一角にそれらを置いた

 

「ロックよし…」

 

ちゃんと戸締りを確認し、いざ視察に向かおうとした時だった

 

「ん⁇」

 

海水浴場の方が騒がしい

 

何かを造っているみたいだ

 

「お〜いレイ〜っ‼︎手伝ってくれ〜っ‼︎」

 

アレンが呼んでいる

 

アレンの呼び声に答え、海水浴場へと向かう…

 

 

 

数日後、何を造っていたか分かる事になる

 

 

 

 

海防艦”福江”が仲間に加わりました‼︎




福江…シャークマウス

アークロイヤルbis戦の生き残りであり、撃沈された後も海の底でカプセルの中で生命を維持していた

自身を撃沈し、ほったらかしにしたレイとゴーヤを強く恨んでいたが、二人が本当は助けたかった事を知り、今はそれが本当かどうか確かめる為に横須賀にいる

深海の技術が生かされた艤装を使い、小柄な体から高火力を繰り出せる

口は大人っぽいが、行動は子供っぽい

親潮にボッコボコにされてほっぺたがおたふくみたいになってしまい、清霜や横須賀にムニムニされる日々を送っているが、案外嫌いではないらしい


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217話 男の海の家

さて、216話が終わりました

今回のお話は楽しいお話です

あの後果たして何があったのか…

そして、今回は選択肢制のお話です

詳細はお話の最後にあります


海水浴場には人集り

 

艦娘、パイロット、工兵…

 

その他諸々沢山だ

 

「…」

 

「…」

 

「ぐぅ〜…」

 

俺とアレンと涼平は、とある事情により砂浜にぶっ倒れていた

 

「アレン」

 

「何だ」

 

「前から思ってたけどよ」

 

「あぁ」

 

「お前アホだろ⁉︎」

 

「オメェにだけは言われたかねぇ‼︎」

 

「何で海の家突貫工事で造るんだよ‼︎」

 

人集りの先には海の家

 

それも三棟もある

 

妖精達の力を借りたが、3日徹夜で頑張った

 

福江の一件のあの後、アレンに呼ばれたのはこの為だ

 

まさか海の家を造るとは思わなかった

 

元々涼平が描いてくれていた設計図を元に建設を開始

 

何とか開始日に間に合った

 

「すまん‼︎」

 

「うぬっ‼︎反省すればよろしい‼︎」

 

涼平はヘトヘトになり、砂浜でイビキをかいて眠っている

 

「涼平には感謝だな」

 

「休暇と特別支給でも手配しとくよ」

 

「うわ‼︎リョーヘー⁉︎」

 

水着に着替えたタシュケントが小走りで来た

 

「タップンタップンですな」

 

「素晴らしいですな」

 

顎に手を当て、タシュケントの胸を凝視する

 

ピンクの水玉模様の水着を身に付けたタシュケントは、それはもうタプンタプンお乳を揺らしながら涼平の所に来た

 

「邪魔をすると馬に蹴られますな」

 

「そろそろ行きますかな」

 

「同志‼︎ありがっと‼︎」

 

「こっちがありがっとだ‼︎」

 

「じゃあな‼︎」

 

もう見てられない…

 

鼻血出そうだ…

 

小柄な癖に脱いだらスゲェな…

 

涼平は良い奴を捕まえたな…

 

 

 

 

「さて、どっから回るよ」

 

「そうだな…」

 

海の家は三棟ある

 

それぞれ提供している商品も違う

 

 

 

左の海の家は大人連中があくせく動いているのが見える

 

どうやらお酒や大人向けの料理を提供しているみたいだ

 

遠目から見ても全体的に巨乳が多いぞ‼︎

 

 

 

真ん中の海の家は学生位の子が料理を提供しているのが見える

 

提供しているのもソフトドリンクやかき氷等、ここはファミリー向けの海の家みたいだ

 

なんか異国の子が多い気がするぞ‼︎

 

 

 

右の海の家は小さな子達がチョコチョコ動いているのが見える

 

ここは飲み物だけの提供みたいだな

 

それにしても本当に小さい子達が頑張っているぞ‼︎

 

あっ‼︎カウンターで人相の悪い怖そうなオジさんが二人もいるぞ‼︎

 

 

 

「何処から行こうか⁇」

 

 

 

 

ここから先は選択肢になります

 

勿論全部読んで頂いても構いません

 

巨乳のネーチャンか

 

ピチピチ異国ギャルか

 

ロリロリパラダイスか

 

お好きな海の家をお選び下さい

 

 

 

巨乳のネーチャンの海の家に行きたい‼︎

…∟1.真夏の乙女のパラダイスへ

 

ピチピチ異国ギャルの海の家に行きたい‼︎

…∟2.異国の香りに包まれよう‼︎へ

 

ロリロリパラダイスの海の家に行きたい‼︎

…∟3.ロリとカタギの美味しいジュースへ

 

どれを選んでも楽しめます

 

それぞれの海の家から一人だけ出すと…

 

左の海の家…黒ビキニ千代田

 

真ん中の海の家…赤いフリフリ水着ザラ

 

右の海の家…スク水いよひとみ

 

お好きな海の家からどうぞ‼︎



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∟1.真夏の乙女のパラダイス

このお話は、左の海の家を選んだ場合のお話になります

オッパイだらけの海の家‼︎

凄いぞ‼︎たゆんぽよんだ‼︎


「左の海の家に行こう」

 

「むっふふ…見てるだけでも巨乳がいっぱいだぁ…」

 

互いにケッコンしていても、変態であることに変わりは無い

 

「いらっしゃいませ‼︎あ、マーカスさん‼︎」

 

「うっほ‼︎」

 

出迎えてくれたのは、黒いビキニを身に付けた千代田

 

も、溢れんばかりの巨乳である

 

「いらっしゃい、アレン大尉」

 

「これはこれは」

 

アレンは千歳に目をやる

 

千代田とお揃いの黒いビキニで、千歳の方が若干だがハリがある気がする

 

「さ‼︎マーカスさん‼︎座って‼︎」

 

アレンと同じテーブルに座り、それぞれからメニューを貰う

 

「オススメはビールよ‼︎」

 

「じゃあビールと…お前何にする⁇」

 

「ヨーグルトサワーで」

 

「畏まりました〜。ビールとヨーグルトサワー入りました‼︎」

 

千代田と千歳がカウンターに向かい、俺達二人は机に腕を置き、口元で組みながら店内を見回した

 

オッパイ

 

オッパイ

 

お尻

 

オッパイ

 

お尻

 

「…パラダイスだな」

 

「…パラダイスですな」

 

「ビールお待たせしましたぁ‼︎」

 

タァン‼︎と勢い良くビールジョッキが置かれる

 

「ヨーグルトサワーでぇ〜す‼︎」

 

スッ…と優しくヨーグルトサワーのグラスが置かれる

 

「こいつもこいつで巨乳だな…ふふふ…メッチャデケェのにパツンパツンだぜ…」

 

「俺のはムチムチの巨乳だ…ふふふ…均等の取れたボディで胸だけ更に大きいとは…へへへ…」

 

二人共、胸の谷間から顔へと目線を上げながらそれぞれの飲み物を飲んだ

 

「美味しいかしら⁇」

 

「アレン⁇美味しい⁉︎」

 

「横須賀⁉︎」

 

「愛宕⁉︎」

 

ゴゴゴ…と聞こえてきそうな気迫を出す、それぞれの嫁

 

「なんでアンタがここにいんのよ‼︎」

 

「造ったから見に来たんだよ‼︎お前は何でここにいるんだよ‼︎」

 

まさかオッパイを見に来たとは言えまい…

 

「何って、バイトよ⁇どっ⁇似合ってるかしら⁇」

 

いつもの自慢気に胸を強調するポーズを取る横須賀

 

「浮気しちゃやぁよアレン⁇」

 

「はひっ…」

 

一言言っただけでその場を去る愛宕

 

この差だ

 

「あらっ‼︎マー君‼︎アレン‼︎」

 

サラがフリフリ手を振りながら目の前をローラースケートで通り過ぎて行った

 

あのプロポーションでおばあちゃんとは思えない位ピチピチだ

 

「じゃっ、私は”忙しい”から‼︎」

 

まるで俺達がサボっているかの様な言い方をして、横須賀はカウンターに戻った

 

「うっ…うっ…そうなんです…」

 

「可哀想に…私がギューしてあげるわっ‼︎」

 

二つ程離れた席で、どっかのパイロットと、見覚えのあるネーチャンがいる

 

いや、もうオーラがカーチャンだ

 

胸にポケットが付いた紺色の水着を着ている、これまたボインなお方

 

「いい子ね…ママは頑張る貴方が大好きよ⁇」

 

「ママァ…」

 

パイロットは彼女にギューされて、大きな谷間に顔を埋めて安らかに眠った…

 

「おい」

 

「あぁ」

 

二人共飲み物を置き、立ち上がった

 

「いい子ね…」

 

「すぅ…」

 

その間にも、ネーチャンのオッパイで次々とパイロット達が安らかに眠らされて行く

 

「あらっ⁇マーカスとアレンね⁇」

 

ネーチャンの正体はイントレピッド

 

周りには包容力に負けたパイロット達が幸せそうに眠りについている…

 

「俺達もギューされたい‼︎」

 

「ギューして欲しい‼︎」

 

「甘えん坊さんね⁉︎でもダ〜メっ‼︎新米だけのサービスよ⁇」

 

「新米だけズルいぞ‼︎」

 

「差別は良く無いぞ‼︎」

 

「そーだそーだ‼︎俺達だって新米みたいなモンだ‼︎」

 

「ギューして‼︎」

 

「してくれないなら駄々こねるぞ‼︎」

 

「床で寝っ転がってな‼︎」

 

「んも〜。仕方ないわね⁇そ〜…れっ‼︎」

 

「「あ°っ…」」

 

それぞれの顔に、それはそれはとっても柔らか〜いオッパイが当たる

 

水着一枚隔てた向こうは未知の領域…

 

柔らかさのパラダイス…

 

そう考えると…

 

「ネンネ〜ネンネするのよ〜…」

 

「だいぶ酔ってるな…」

 

「体温が高いな…」

 

「んんっふっふふっふぅ〜」

 

イントレピッドはかなり酔っていた

 

普段からギューする癖はあるが、今日は拍車がかかっている

 

意識はあるみたいだが、テンションはハイになっている

 

「はいは〜い、おしまいよ〜っ⁇」

 

「何してんのよ情けない‼︎ほら‼︎こっち来なさい‼︎」

 

未婚の女性のオッパイに顔を埋めている、アホ丸出しの互いの旦那を見て、愛宕と横須賀が襟首を掴みに来た

 

「「ヤダヤダヤダ〜っ‼︎ママ〜っ‼︎」」

 

「アイちゃんにチクろうかしら〜⁇」

 

「また清霜に絵日記に書かれるわよ‼︎」

 

「「はい。すみません」」

 

互いの弱点を出され、その場で正座する

 

「イントレピッドにごめんなさいは⁇」

 

「気持ち良かったで…いでっ‼︎」

 

「またして欲しいで…あだっ‼︎」

 

ニコニコ笑顔の愛宕に、スリッパで頭を叩かれるアレン

 

真顔のままの横須賀に、ゲンコツを落とされる俺

 

「制裁ね」

 

「制裁ですね〜」

 

「ちょっ‼︎嫌だ‼︎ごめんなさい許して‼︎」

 

「助けてくれーっ‼︎」

 

「「うふふふふふ…」」

 

結果、俺達は”ふざけすぎちゃった罪”で制裁を喰らう羽目になった…

 

 

 

 

「なんと情けない‼︎」

 

「やっぱりこうなるのか‼︎」

 

結局店を追い出された俺達は、店の横にテントを立てられ、その中に放り込まれた

 

テントの入り口には、

 

''い

ふ''

 

と、書かれた看板が立てられている

 

やっぱりこうなる

 

「こんな場所で暑くないですか⁇」

 

「差し入れよ」

 

「来たぁ‼︎」

 

「天は我々を見捨ててなかったぁ‼︎」

 

机の上にキンキンに冷えたジュースを置いてくれた、赤いパレオに身を包んだ地中海的なオッパイ二人

 

リットリオとローマだ

 

「ホントにオッパイ好きですねっ」

 

「まっ、趣味は人それぞれだからいいわ。じゃ、私は兄さんの所に行くから」

 

「また来いよ‼︎」

 

「すぐ来いよ‼︎」

 

「ね…姉さん、行きましょ…追い出されて目が血走ってるわ…」

 

「また来ますねっ」

 

俺達は二人が一番右の海の家に入るまで、ジュースを飲みながら凝視していた…

 

 

 

 

後に俺達二人はしばらくイントレピッドから”甘えんボーイ”と呼ばれ、今しばらく言われ続けた…



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∟2.異国の香りに包まれよう‼︎

このお話は、真ん中の海の家を選んだお話になります

異国の女性が沢山いる海の家

凄いぞ‼︎金髪の外国人もいるぞ‼︎


「真ん中から行ってみるか」

 

「一番無難そうな所行ったな…」

 

左は巨乳だらけで是が非でも行きたい

 

右は多分大丈夫そうだ‼︎

 

だったらお楽しみは最後に取って置きたい

 

それに、さっきから美味そうな匂いがずっとしている

 

「あっ‼︎お二人さん‼︎こっちこっち‼︎」

 

金髪の女の子が手招きしている

 

これは行くしかない‼︎

 

 

 

「いらっしゃいませ‼︎」

 

「ザラはバイトか⁇」

 

「はいっ‼︎ザラ、今日は遊戯場はお休みして、こっちのお手伝いです‼︎」

 

可愛いらしいフリル付きの赤い水着を身に付けたザラは、相変わらずどこに行ってもウェイトレスが似合う

 

「何かお召し上がりになりますか⁇」

 

「何があるんだ⁇」

 

「これだ」

 

俺とアレンの分のメニューが、ザラではない誰かから手渡された

 

「ビビリはウナギピザだな」

 

「アーク‼︎」

 

メニューをくれたのはアーク

 

スタイルは良いが他の子と比べて出る所は出ていない

 

そんなアークが身に付ける水着はピンクのフリフリ

 

「ふっふっふ…今日はジャーヴィスが居ないからな‼︎思う存分ビビリをビビリと言えるぞ‼︎」

 

「お、おい…」

 

アレンが指差す方には窓がある

 

その先には下から顔を半分出したジャーヴィスがいる

 

怒ってはいなさそうだが、真っ直ぐな視線でアークを見ている

 

「いらっしゃいませマーカス様‼︎アレン様‼︎お好きなご注文をどうぞ‼︎」

 

ジャーヴィスに気付いたアークはすぐに声色を変えて来た

 

「スッゲー嫌々出してる感が凄い…」

 

「俺はこのウインナーピザとコーラにする。レイは⁇」

 

「いいだろう…ウナギピザとコーラだ‼︎」

 

「ほぅ…ウナギピザだな⁇知らないからな‼︎」

 

アークが去った後、ちょっとヤバい奴を頼んでしまったか…と不安になった

 

コーラを飲みながら店内を見回す

 

赤いフリル付き水着のザラ

 

ピンクのフリフリ水着のアーク

 

後二人いるが、今の所顔が見えない

 

台所にいる金髪のおさげ髪の子

 

それと、ポニーテールに括った金髪の子

 

どの子もスタイルが良い

 

「お待たせしましたー‼︎ウインナーピザです‼︎」

 

活気の良い声と共に、輪切りウインナーをふんだんに乗せたピザが来た

 

「おっ‼︎プリンツちゃん‼︎アルバイトか⁇」

 

「はいっ‼︎最近は裏で家事とか子供達と遊ぶのが多かったので、今日は表でアルバイトです‼︎」

 

金髪おさげはプリンツ

 

赤と黒のビキニを着てアルバイトしている

 

「そうか。プリンツちゃんは妹か」

 

「そっ」

 

「俺も兄妹欲しいな…」

 

アレンが兄妹を欲しがるとはな…

 

ちょっと意外だ

 

「頼んでみろよ。案外頑張ってくれるかもな⁇」

 

「…想像したくない」

 

「無理無理〜っ‼︎」

 

「やめろ‼︎中途半端に変な気分になる‼︎」

 

アレンの気持ち、ちょっと分かる気がする…

 

「アレン、キョーダイ、欲しい⁇」

 

「まぁ…」

 

「ん…分かった。ママ、頑張るね」

 

「え⁉︎ちょ‼︎嘘‼︎ストップーッ‼︎」

 

「ん⁇」

 

いつの間にかプリンツはおらず、何故かガンビアが居た

 

童顔に似合わず、結構ボインだ

 

身に付けているビキニは黒を基調とし、左胸に大きな白い星が描かれている

 

見た目の割に結構派手だな…

 

「アレン、キョーダイ、いらない⁇」

 

「い、今更いい‼︎」

 

「ママは欲しい」

 

「えぇ〜…」

 

アレンの制止虚しく、笑顔のガンビアは注文を取りに行った

 

「アイちゃんでさえ手一杯な時あるのにもう一人だと…」

 

「無理無理〜っ‼︎」

 

「無理無理〜っ‼︎」

 

ガンビアの口癖である、無理無理〜っ‼︎を言い合い、アレンはどうにか正気を保つ

 

「出来たぞマーカス様‼︎ウナギピザだ‼︎」

 

「う、うわぁ…」

 

アークが意気揚々と持って来たウナギピザを見て、ため息を漏らす

 

「結構真面目にアークが作ったんだぞ」

 

「美味そうだな…」

 

そう、このウナギピザ、中々美味そうな外見をしている

 

薄い輪切りにされたウナギが散りばめられており、身にはちゃんとタレらしき物を塗ってある

 

ド真ん中にチリッチリに焼いたウナギの頭さえ無ければ完璧だったんだが…

 

「美味いはずだぞ」

 

「頂きます」

 

まだ少し嫌悪感を残しつつも、ウナギピザを食べてみた

 

「あ⁉︎美味いぞ⁉︎」

 

「ふふ…だろう⁇」

 

「意外だ。イケるな、これ」

 

予想外に美味だったウナギピザ

 

横でアレンもウナギピザを頬張り、美味そうに食べている

 

「そう言えば、母さんと貴子さんが一回だけウナギで喧嘩してたな」

 

「あぁ…姫はウナギを見るとすぐゼリーにしたがるからな…」

 

母さんはお菓子の作り方は上手い

 

普通の家庭料理もソツなくこなす

 

だが、時折ブッ飛んだ料理が出て来る

 

パンに塗る何とかマイトとか言う黒いジャム

 

不気味なウナギゼリー

 

母さんはそれを美味い美味いと言って食う

 

決して味覚がバグっている訳ではなく、祖国やら故郷の味らしい

 

「アークはフツーだぞ」

 

「これ食うとそうなるわな」

 

その点、アークは全て平均的にこなせる

 

ただ、やはり時折ブッ飛んだ料理を作るのはやはり…

 

「ではマーカス様、また自宅で」

 

「お、おぉ…」

 

アークも別席の注文を取り始めた

 

「お〜、姉ちゃん。溢れちまったぞ」

 

「ひっ…すみません…Sorry…」

 

ガンビアが客に飲み物を零したみたいだ

 

それも厳つくてゴツい客だ

 

「あぁ、ママ。俺が拭くよ」

 

「アレン…」

 

「おい。俺はそっちの姉ちゃんに…」

 

「申し訳ありませんね…私のママが…」

 

膝を拭くアレンの手に力が入り、ゴツい客に笑顔を送る

 

「お…おぉ…」

 

「お飲み物の替えをお持ちします。少々お待ちを」

 

「い、いや〜‼︎美味かったなぁ〜‼︎」

 

ゴツい客は見るからにアレンから目を逸らし、冷や汗を流し始めた

 

「宜しいので⁇」

 

「…申し訳ありませんでした‼︎マクレガー大尉の母とは知らず‼︎」

 

ゴツい客は机に突っ伏して謝り始めた

 

「次ママに手ェ出したらケツミサイルだからな…」

 

「はひぃ‼︎ししし失礼します‼︎」

 

ゴツい客は逃げる様に出て行った

 

「Thank you、アレン…」

 

「気にしないでいいよ」

 

丸で妹か娘を相手する様にガンビアを慰めるアレン

 

軽く抱きしめた後、頭を撫でてカウンターに返している

 

それをコーラを飲みつつ帰りを待つ俺

 

「すまんすまん」

 

「何で兄妹が要らないと言ったか分かったよ」

 

「何だ⁇」

 

「アレンも苦労人だなって思ってな」

 

「そうですか」

 

「そうですな」

 

まさか言えるはずもない

 

アレンがガンビアと接するのは、子供を相手にするのと同じだと…

 

 

 

 

結局、ウインナーピザもウナギピザも完食した

 

「ありがとうございましたー‼︎」

 

「また来てねー‼︎」

 

「マーカス様はウナギピザしかないぞ〜」

 

「アレン、後で、ね⁇」

 

鱈腹食べた俺達は、満腹感が収まるまで砂浜で大の字になった…

 

 

 

 

「え〜と。ウインナーピザが1、ウナギピザも1」

 

「やはりブリティッシュの料理は美味いのだな‼︎」

 

「ウインナーピザだって負けてませんっ‼︎」

 

プリンツはアークと戦っていた

 

何方が多く売れるのか…

 

「…」

 

この時、ザラは言わなかった

 

自分のシンプルなピザが一番売れている事を…



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∟3.ロリとカタギの美味しいジュース

このお話は、右の海の家を選んだ場合のお話になります

小さな女の子がウェイトレスをする海の家

果たしてカタギの二人に耐えられるのか⁉︎

勿論、可愛いウェイトレスも在席していますよ‼︎


「右がスゲー気になる…」

 

「一番客多くないか⁉︎」

 

見た所、集客率は右の海の家がナンバー1

 

左にも真ん中にもちゃんと客足はあるのだが、一般女性の客が多い気がする

 

「最近話題の写真映えみたいな奴やってんのか⁇」

 

「”インスタグラーフ”か⁇」

 

「そうそう」

 

インスタグラーフとは…

 

グラーフが趣味で始めた写真投稿SNS

 

最初は自分の作った服をアップするだけだったが、ジワリジワリと人気が上がり、今ではちょっとした収入を得る位にまで成長したサイトである

 

因みに当の本人は、相変わらず”な〜ぐ〜ちゃん”の名で写真投稿をしている

 

「まぁ…行ってみるか」

 

いざ店内へ‼︎

 

「いあっしぁいましぇ‼︎」

 

「おしゅきなしぇきにろ〜ぞ‼︎」

 

「ひとみ⁉︎」

 

「いよちゃん⁉︎」

 

出迎えてくれたのは、いつものスク水に着替えたひとみといよ

 

ひとみはメニュー

 

いよは盆を持っている

 

「えいしゃん、おきぁくしゃん‼︎」

 

「あいっ‼︎めぬ〜‼︎」

 

「ありがとう」

 

ひとみからメニューを受け取り、まずは飲み物を見る

 

 

 

・ブレンドコーヒー

・アイスコーヒー

・キャラメルマキアート

・カプチーノ

・カフェラテ

・ナッツコーヒー

 

・ココア(アイスorホット)

・コーラ(アイスorホット)

・お茶(アイスorホット)

 

「どえにしあすか⁇」

 

「俺はキャラメルマキアート。レイは⁇」

 

「ホットのコーラだ」

 

見た瞬間心惹かれた、ホットコーラ

 

あるなら是非飲ませて貰おうか‼︎

 

「あかりあちた‼︎」

 

「しぉ〜しぉ〜おまちくらしゃい‼︎」

 

ひとみといよはパタパタと足音を立てて厨房へと戻って行った

 

「可愛いウェイトレスだな‼︎」

 

「ちゃんと注文の聞き方覚えてるな…」

 

「ダーリン‼︎」

 

「おっ‼︎ジャーヴィス‼︎」

 

今度は白のフリフリ水着を着たジャーヴィスが来た

 

「おつまみどうすル〜⁇」

 

「そうだな〜。ピーナッツくれるか⁇」

 

「ダーリンはピーナッツ…アレンサンハ〜⁇」

 

「俺はゼリーくれるか⁇」

 

「おみかんにすル〜⁇ぶどうにすル〜⁇」

 

「ぶどうにする‼︎」

 

「OK‼︎待っててネ〜‼︎」

 

ジャーヴィスも厨房に戻る

 

この海の家には、小さな子のウェイトレスが沢山いる

 

「あいっ‼︎おねぇしゃん‼︎」

 

「ありがと〜‼︎」

 

右ではいよが女性にジュースを運び、頭を撫でて貰っている

 

「かへあてれきまちたお〜‼︎」

 

「ここに置いてくれる⁉︎」

 

「あいっ‼︎」

 

左ではひとみが女性の前にアイスコーヒーを置いている

 

「ヤッバ‼︎超可愛い‼︎」

 

ウェイトレスの身長に合わせた小さな椅子と机に座り、客の女性達はスマホやらタブレットを弄りつつ、ちょこまか動く可愛いウェイトレスを目で追ったりしている

 

「あ‼︎すてぃんぐれい‼︎」

 

「たいほう‼︎」

 

たいほうまでウェイトレスをしている

 

たいほうはグレーのピチッとした水着を上下に着ている

 

「じゅーすのみにきたの⁇」

 

「そっ。たいほうはお仕事か⁇」

 

「うんっ‼︎すてぃんぐれいといっしょだね‼︎」

 

たいほうと話すと自然と笑顔になる

 

横のアレンも優しい顔をしている

 

「おうちかえったらあそぼうね‼︎」

 

「分かった‼︎怪我しないようにな⁉︎」

 

「うんっ‼︎」

 

たいほうは別の注文を取りに向かった

 

そろそろ注文した品が来そうだ

 

「ピーナッツおまたセ‼︎」

 

「ぶろうのぜい〜おまたしぇちまちた‼︎」

 

「「ありがとう‼︎」」

 

俺はジャーヴィス

 

アレンはいよからおつまみを貰う

 

「きぁあめうまきあ〜とれきまちたお〜‼︎」

 

ひとみがアレンの前にキャラメルマキアートを置く

 

「ホットコーラでございます」

 

「いやいやいやいや…」

 

俺の前に、グツグツに沸騰したコーラが置かれる

 

「マスターのエドガーからのサービスでございます」

 

「隊長⁉︎」

 

何故か海パン一丁の隊長が来た

 

マスターのエドガーとか言っているので、多分ラバウルさんも…

 

「マスターはふざけた注文をした貴方に対し、一気飲みを御所望です」

 

「…悪かった」

 

「では代わりのご注文を」

 

「アイスカプチーノくだしゃい…」

 

「畏まりました。少々お待ちを」

 

隊長が厨房に戻ってすぐ、アレンがタブレットを見ていた

 

「インスタグラーフのトレンドに上がってるぞ‼︎”小さなウェイトレスがいる海の家”だとよ‼︎」

 

この海の家が最新の情報に上がっていた

 

小さなウェイトレスがお小遣い稼ぎに頑張ってる、だとか

 

コーヒー一杯分の癒しの時間、だとか

 

評判は中々の様子だ

 

「その下の”海パンダディ”は何だ」

 

どうしても気になった

 

小さなウェイトレスやら、如何にも可愛らしい内容が続く中、一瞬チラつく”海パンダディ”なるトレンド

 

「…何か嫌な予感がする」

 

「押してみろよ…」

 

飲み物ではなく、互いに生唾を飲み込む

 

”海の家に可愛いウェイトレスがいたよ‼︎あと、海パンのカッコイイダディも‼︎”

 

”ウェイトレスも可愛いけど海パンのマスターがマジウケる 笑”

 

”左向いたらちっちゃいウェイトレス。右向いたら海パンのダディ‼︎”

 

「…」

 

「…」

 

俺もアレンも笑いを堪えるのに必死

 

「えいしゃん‼︎かぷち〜おれきまちたお〜‼︎」

 

「おぉ、ありがと」

 

ひとみがアイスカプチーノを持って来てくれた

 

「あにみてうの⁇」

 

「パパとラバウルさんがな、海パンダディだってよ‼︎」

 

「かいぱんらり〜」

 

「ひとみちゃん。二人に言ってみてくれるかい⁇海パンダディって」

 

「あかった‼︎」

 

ひとみが厨房に戻り、互いの隊長に何か言っているのを見る

 

「き、来た‼︎」

 

ひとみとの会話が終わると、隊長とラバウルさんがこっちを見た後、カウンターの向こうから出て来た

 

「大人しくしよう‼︎」

 

カプチーノを口にしながら、あたかも何もなかったかの様に振る舞う

 

「お客様。暴言を吐かれては困りますねぇ…」

 

「お客様とて許せませんねぇ…」

 

腕をバキバキ鳴らしながら、俺達の席の前に立つ隊長とラバウルさん

 

「はひゃ…」

 

「ひぃ…」

 

「手伝って頂きましょうかね」

 

「それがいい」

 

「ほ、本官は職務中で…」

 

「ご馳走様でした‼︎」

 

「職務怠慢として上に報告しましょう」

 

「あ〜、これは痛いぞレイ」

 

隊長とラバウルさんがニヤつく

 

悪い事を企む俺達と同じ顔をしている‼︎

 

「手伝わさせて下さい‼︎」

 

「誠心誠意、勤めを果たします‼︎」

 

「では海パンに着替えて頂きましょう‼︎」

 

 

 

 

結局、俺達は隊長達と共に海の家の手伝いに入った

 

その後、インスタグラーフのトレンドに”海パンアニキ”がトレンド入りしたのは言うまでもない…

 

 

 

 

「ありがとうございました。またのお越しを」

 

「海パン一丁なのに丁寧過ぎてマジウケる‼︎」

 

散々笑われたが、海の家は大反響だった

 

「またね‼︎可愛いウェイトレスさんっ‼︎」

 

「またきてくらしゃい‼︎」

 

「まってますお〜‼︎」

 

ひとみといよが最後の女性客をお見送りをし、ようやく終わった

 

「ようやく終わりですねっ」

 

「あぁ。中々っ、疲れたなっ」

 

隊長とラバウルさんが入り口で伸びをする背後で、俺達はカウンター席で隣から貰ったピザを食べていた

 

「お疲れさん、レイ、アレン」

 

「まっ、中々楽しかったよ。なっ⁇」

 

「おぉ。ピザもウメェしな‼︎」

 

「さっ‼︎みなさん‼︎おじさんとご飯にしましょう‼︎」

 

「「「わ〜い‼︎」」」

 

隊長がカウンターの向こう。俺、アレンがカウンター席

 

そしてラバウルさんは子供達の輪に入ってピザを切り始めた

 

「エドガーは昔からあぁなんだ…」

 

「いつもは立派で心強いんですがね…」

 

隊長とアレンが頭を抱える

 

「ラバウルさんのロリコンってそんな酷いのか⁇」

 

「ちっちゃい女の子が軍隊の奴に足引っ掛けられたら、単機で基地ごと破壊する奴だ」

 

「足引っ掛けた奴を引き摺り出すまで攻撃をやめない」

 

「確か、それに近い理由でベルリンの主要基地を幾つか破壊してるはずだ」

 

「隊長が鬼神と言われるなら、ウチのキャプテンは守護神と言われる位にロリコンだぞ」

 

「ついでに言うと、エドガーは決して自分から女の子に触れない」

 

「自分から触れるのは騎士道に反するらしいな」

 

「触れる時は怪我をした時と、向こうから来た時だけさ」

 

「レイ。今度エドガーに少女の話をしてみろよ」

 

「俺なんか半日で終わると不安になるレベルだぞ⁇」

 

もうバカスカ出て来るラバウルさんのロリコン伝説

 

言われてみれば、ラバウルさんから女の子に触れているのを見た事がない

 

たまにラバウルに行けば、ひとみといよの方から膝の上に登る位だ

 

「まっ。ロリコンさえ除けばあいつは立派な男だ」

 

「えぇ」

 

隊長とアレンと一緒に、メチャクチャ幸せそうなラバウルさんと子供達を見ながら、カウンター席の三人の夜は流れて行った…



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217話 男達の夏休み

題名は変わりますが、海の家のお話の続きです

それぞれの海の家の視察を終えたレイ達は、自分達も夏休みを満喫します

何故こんな事をいきなりし始めたのかは、最後の方で明らかになります


夜8時…

 

三つの海の家が営業を終わろうとしている

 

「ここかなぁ〜⁇お肉のいい匂いするよぉ〜⁇」

 

一人の少女が招待状片手に海岸に来た

 

「あっ‼︎来たわ‼︎こっちよ‼︎」

 

「横須賀さんだぁ〜‼︎」

 

横須賀に気付き、少女は小走りで皆が固まっている場所に来た

 

一日目に余った生鮮食材+横須賀が繁華街から貰った大量の食材を持ち寄り、皆で海の家の開店記念と久し振りのパーティーをしていた

 

招待状片手の少女はこの日、遠征の帰り

 

親潮から招待状を受け取り、この場に来たのだ

 

「照月もお肉食べたい‼︎」

 

少女の正体は照月

 

「照月ちゃんはこっちよ‼︎ほらっ‼︎」

 

「うわぁ〜〜〜‼︎」

 

照月の前には、大量の焼肉やら焼きそば、ピザや焼いた野菜がある

 

そこにいる全員でも到底食べ切れる量ではない

 

「わぁ〜っ‼︎照月にくれるの⁉︎」

 

「えぇ‼︎今日のご褒美よ‼︎」

 

「いただきま〜す‼︎」

 

大量の料理を照月はみるみる減らして行く

 

「おいひ〜〜〜‼︎」

 

「いっぱい食べるのよ⁇」

 

「うんっ‼︎横須賀さんっ‼︎ありがとう‼︎」

 

幸せそうに焼肉やら焼きそばをバクバク食べる照月

 

実は横須賀にとってもこれは好都合だった

 

食材自体はあまり余らなかった

 

ただ、捨てるのはもったいない

 

だったら誰かに食べて貰った方が良い

 

食べる=照月との認識は、横須賀にもあった

 

繁華街でも今日の余りを分けて貰い、こうして照月に食べて貰った方が食材も幸せだろう

 

「あれっ⁇お兄ちゃんは⁇」

 

「レイはね…」

 

横須賀が言おうとした時、基地から少し離れた場所から何かが上がった

 

それは空中で炸裂し、美しく夜空を彩る

 

「わぁ〜っ‼︎花火だぁ〜っ‼︎」

 

「レイとパパは花火上げに行ってるの‼︎」

 

 

 

 

 

「オラオラオラオラフォーーーーー‼︎‼︎‼︎」

 

「燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろヒョーーーーー‼︎‼︎‼︎」

 

離島から花火が大量に上がる

 

俺とアレンが手持ち花火を持ち、走り回りながらデカい花火に点火しまくる

 

「ばんぼばんぼー‼︎」

 

「エドガー‼︎第二陣セットうんがー‼︎」

 

「畏まりましたばんぼー‼︎」

 

「アレン‼︎セット完了ばばんぼー‼︎」

 

「ぼんばーぼんばー‼︎」

 

「うんしょ…よいしょ…」

 

隊長、ラバウルさん、健吾の三人が花火を設置しまくり、俺達二人はこれでもかと点火しまくる

 

きそは何かを運んでいる

 

「楽しいかしおんさん‼︎」

 

「うんうん‼︎」

 

たまたまそこに居たしおんさんは、夜空を明るくする花火をキラキラした目で眺めていた

 

「おいレイ‼︎」

 

「なんだ‼︎」

 

とにかく花火に点火する為に、俺達は走りながら会話を続ける

 

「また上から花火見たいな‼︎」

 

「そうだな‼︎来年は上から見ようぜ‼︎」

 

「俺達戦争屋の特権はそれ位しかないからな‼︎」

 

「いいんだよ‼︎一個でもありゃあな‼︎」

 

小一時間花火に点火しまくり、横須賀から連絡が入った

 

《ありがと。これで”お見送り”は出来たわ》

 

「だといいんだが…」

 

「そっか。今日は…」

 

「日本にとっちゃ、重要な日さ」

 

8月15日

 

日本にとっては終戦記念日

 

この花火はお見送りの為でもある

 

最初は少し戸惑った

 

だけど、誰かを弔うのに人種や国籍なんて関係ない

 

気持ちの問題だ

 

だからこそ、花火を上げた

 

ある人は楽しんで、ある人は弔う

 

それでいい。今はそれでいいと思う

 

美しい物を見て怒る奴はいないはずだからな

 

「ラストのしだれ花火行くよ‼︎」

 

きそがダイナマイトの起爆装置の様な装置を押し込もうとしている‼︎

 

「やめろバカ‼︎」

 

「ダイナマイツ‼︎」

 

導火線に火が付いた‼︎

 

「来た‼︎」

 

「走れ‼︎」

 

どんどん花火に近付く導火線の火

 

「伏せろ‼︎」

 

物凄い爆発音と共に、巨大な花火が打ち上がる…

 

 

 

 

 

「わぁ〜っ‼︎」

 

巨大なしだれ花火は横須賀からもよく見えた

 

「ろか〜ん‼︎」

 

「ぼかーん‼︎」

 

ひとみといよがキャッキャ言う

 

「ちょっと…低過ぎない⁉︎」

 

 

 

 

 

「あぢぢぢぢぢ‼︎」

 

「あちちちちち‼︎ヤッベェ‼︎」

 

「あはははは‼︎ひっく‼︎」

 

横須賀の予想通り、しだれ花火は離島に降り注いでいた

 

「消火ぁぁぁあ‼︎」

 

「ばんぼー‼︎」

 

総員で消火作業に入り、何とか事なきを得た…

 

 

 

 

こうして、俺達の波乱の海の家視察は幕を閉じた

 

艦娘達はこれからほんの少しの夏休みらしい

 

また繁盛すると良いな…



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218話 フレンチギャルの子育て日誌(1)

さて、217話が終わりました

間が空いてしまって申し訳ありません

作者はぎっくりの腰になり、腰がイッテェダズルになっていました

トイレに行くだけで半時間掛かりました

それはさておき、今回のお話は赤ちゃんのお話です

猛者揃いの単冠湾

その中でも赤ちゃんに懐かれる艦娘が一人

そんな彼女のお話です


単冠湾の基地の執務室

 

「ほ〜れほ〜れ、こっちダズル〜‼︎」

 

「リシュリューの所にくリュ〜‼︎」

 

「おいでニム‼︎」

 

「吹雪ちゃん‼︎こっちに来ませんか⁇」

 

榛名、リシュリュー、ニム、HAGYの前には、床に座った吹雪がいる

 

吹雪は瞬きをしながら全員の顔を見た

 

「あはっ‼︎リシュリューの所に来たリュー‼︎」

 

「うぬぐぐぐ…何で榛名には懐かんダズル…」

 

「ニムが懐いてあげるニム‼︎」

 

「やめるんダズル‼︎来るんじゃねぇダズル‼︎」

 

「あっ‼︎あの機体は‼︎」

 

窓の外で、一機の戦闘機が着陸している

 

「ありゃあマーカスときそダズル」

 

「多分カプセルのメンテナンスだリュー」

 

「ダズル。今日こそちゃんと挨拶するニムよ」

 

「マーカスの態度次第ダズル」

 

 

 

「レイごめんね⁇急に言って」

 

「いんや…ふぁ…構わんさ。一人で出来るか⁇」

 

「うんっ‼︎大丈夫‼︎」

 

この日俺は夜間哨戒を終えて、基地に帰ろうとした

 

だが、きそが単冠湾でカプセルのメンテナンスをしたいと言った為、そのままの足で補給と休みがてら単冠湾に来た

 

「あ‼︎榛名さん‼︎」

 

「きそ‼︎」

 

榛名を見かけたきそは、飛び付くように抱き着き、榛名と一緒にカプセルのある部屋に行った

 

「レイさん‼︎お疲れ様です‼︎」

 

「急に悪いな。きそが終わるまで飯食いたいんだ」

 

「勿論‼︎HAGY‼︎」

 

「畏まりました‼︎」

 

俺は俺でHAGYに着いて行く

 

 

 

 

「吹雪はマーカスさん知ってリュー⁇」

 

リシュリューの前には、ぬいぐるみを振って遊んでいる吹雪がいる

 

「これはくまさんだリュー」

 

今度はおしゃぶりを取り、くまのぬいぐるみの耳を口に入れて甘噛みし始める吹雪

 

このくまのぬいぐるみ、グラーフが造ったぬいぐるみである

 

吹雪が怪我をしないように極限まで痛い部分を減らし、フワフワ部分を増やす

 

そして耳は噛み応えのある低反発素材

 

恐らく吹雪は不思議な噛み応えが面白くて耳を甘噛みしている

 

「お腹空いたリュー⁇」

 

色々齧り出した吹雪を見て、リシュリューは離乳食を作る為に台所に向かった

 

「あら。着いて来たリュー⁇」

 

ハイハイをしながら吹雪が着いて来ていた

 

リシュリューは吹雪を抱っこした後、執務室に戻って来た

 

「ご飯作るから大人しく待っ…」

 

机付きの椅子に座らせようとしたが、吹雪はリシュリューから離れようとしない

 

「仕方ないリュー」

 

リシュリューは赤ちゃんを抱っこする器具を付け、そこへ吹雪を入れた

 

「大人しくしてるんだリュー」

 

そしてまた台所に立つ

 

 

 

「美味しいのが出来たリュー‼︎」

 

執務室に戻り、今度こそ吹雪を机付きの椅子に座らせる

 

「シチュー、オカユ、トリニクのトマト煮。どれから食べたいリュー⁇」

 

吹雪の前には、美味しそうな離乳食が三つ置かれている

 

リシュリューは吹雪のおしゃぶりを取り、前掛けを付けながら最初に食べる離乳食を選ばせる

 

吹雪の目線は、鳥肉のトマト煮に行っている

 

リシュリューは吹雪の前に座り、スプーンで鳥肉のトマト煮を掬い、吹雪の口元に持って来た

 

「吹雪、あ〜んだリュー」

 

すると吹雪はリシュリューの顔を見ながらも口を開け、それを食べ始めた

 

「もぐもぐだリュー」

 

吹雪にご飯を食べさせていると、執務室の扉がノックされた

 

「あ、どうぞリュー‼︎」

 

「よっ」

 

「あらマーカス‼︎」

 

レイの顔を見て、リシュリューの顔がパアッと明るくなり、口調が元に戻る

 

吹雪はそんなリシュリューの顔をジーッと見ている

 

「おっ⁉︎吹雪はご飯か⁇」

 

「えぇ。貴方も食べる⁇」

 

「下で貰って来たよ。美味かった」

 

「そっ⁇」

 

「ちょっと横にならせてくれ。夜間哨戒で疲れた…ふぁ…」

 

「えぇ。そこのカーペットの上で横になるといいわ⁇」

 

レイはリシュリューの言葉に甘え、テレビの前のカーペットで横になり、テレビの電源を入れた

 

「はいっ‼︎ごちそうさまだリュー‼︎」

 

綺麗に口元を拭いて貰い、吹雪は嬉しそうに体を縦に揺らす

 

リシュリューは吹雪の前掛けを外しておしゃぶりとくまのぬいぐるみを持たせ、椅子から吹雪を降ろした

 

この二つがあれば、普段も大人しい吹雪は更に大人しくなる

 

単冠湾の執務室に危険は少ない

 

ワンコと榛名が吹雪の為に色々配慮して、角を少なくしたり、重たい物は完全に吹雪の手が届かない場所に置かれている

 

今の内にリシュリューは前掛けを洗濯したり、食器を洗う為に一旦執務室を出た

 

 

 

 

椅子から降ろされた吹雪はカーペットの上に座り、キョロキョロしながらぬいぐるみを軽く振ったりしながら、ハイハイをし始めた

 

俺はカーペットに寝転びながら、半目でテレビのニュースを見ていた

 

眠たい…

 

絶妙なまどろみの中、視界に映る赤ん坊が一人

 

吹雪はハイハイで俺の腹の上に登ろうとしている

 

既に吹雪でニュースは見えないが、半目のまま吹雪を見続ける

 

吹雪は俺の腹の上に登ってそこに座り、目を大きく開いてくまのぬいぐるみと自分の体を縦に揺らす

 

吹雪は嬉しい事があると体を縦に揺らす

 

小高い丘を登頂した気分なのだろう

 

吹雪は俺の腹の上で座り、また辺りをキョロキョロ見回す

 

そして俺と目が合い、軽く下を向く

 

「どうした吹雪」

 

吹雪はジーッと俺の目を見つめ、軽くくまのぬいぐるみを振る

 

…何と無くだが、嫌な予感がする

 

「…吹雪。頼むからそこでするなよ⁇」

 

俺の懇願虚しく、吹雪は目を閉じて気張る

 

「…よいしょ‼︎」

 

腹の上では止めて欲しかったが、食べたら出すのは健康な証拠だ

 

吹雪を抱き上げ、オムツを貰う為にリシュリューの元へと向かう



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218話 フレンチギャルの子育て日誌(2)

また少し、物語の伏線に触れます

あの日、隊長の裏でマーカスの相手をしたのは…


「あら。どうしたの⁇」

 

リシュリューは洗濯室にいた

 

「吹雪がウンコした。オムツあるか⁇」

 

「えぇ、あるわ。替えてくれるの⁇」

 

「任しとけ‼︎」

 

こう見えて結構オムツの付け替えは経験してる

 

ジャーヴィスで沢山したしな

 

「さっ、吹雪。オムツ替えような」

 

リシュリューに貰ったオムツとお尻拭きと袋を持ち、吹雪を寝かせ、オムツを替え始める

 

「吹雪は元気な子だな⁇」

 

リシュリューやHAGYの作る料理が余程美味しいのか、吹雪はモリモリ出していた

 

ちゃんとお尻を拭いて、替えのオムツを履かせる

 

「上手いわね⁇」

 

「まぁなっ。よっしゃ出来た‼︎」

 

オムツを履かせ終わると、吹雪はすぐにコロコロ転がり、ハイハイの体勢に入った

 

「そうだマーカス。吹雪の検査おねがいしたいんだけど」

 

「お、分かった」

 

目が覚めたついでだ

 

単冠湾には医療器具も揃っている

 

白衣に着替え、医務室に移動する

 

「検査すリュー」

 

リシュリューに抱っこされた吹雪が来た

 

吹雪はリシュリューの顔を見たり、俺の顔を見たりとキョロキョロしている

 

「さっ、お口見せてな…」

 

金属のヘラで吹雪の口を開けて喉を見る

 

「喉は大丈夫だな…おっ‼︎ちょっとずつ歯生えて来たな⁉︎」

 

吹雪は前歯がほんの少し生え始めていた

 

「よしっ、ありがとな…ちょっと抱っこさせてくれるか⁇」

 

「よいしょ…」

 

リシュリューから吹雪を受け取り、膝に座らせる

 

「吹雪⁇これな〜んだ⁇」

 

吹雪の右側にくまのぬいぐるみをチラつかせる

 

吹雪がそっちに目をやり、右手を伸ばした隙に、左腕から採血をする

 

「よ〜し良い子だ‼︎」

 

「助かったわ⁇」

 

「結果は追って知らせるよ」

 

吹雪が大人しい性格で助かった

 

採血は泣く子もいるからな…

 

横須賀の駆逐艦の一部と阿賀野が泣く

 

白衣を脱いで、吹雪の血液を冷蔵庫の中へしまい、また執務室に戻って来た

 

吹雪をカーペットの上に降ろし、俺も横になった

 

「ここに寝なさい」

 

ソファーの下にもたれたリシュリューが膝をポンポンしたので、言葉に甘える事にした

 

「貴方、昔と変わらないのね」

 

「まぁなっ…」

 

リシュリューの膝は温かい

 

俺はリシュリューを知っている

 

読者の皆は覚えているだろうか

 

隊長がローマを抱いたあの日の事を

 

その日、俺も女に相手をしてもらった

 

その相手がリシュリューだ

 

とはいえ、俺は当時も抱く勇気が無く、朝日が昇るまでこうしてリシュリューに膝枕をして貰い、ずっと話し込んだ

 

ローマは看護婦だったが、リシュリューはバーのダンサーか何かだったハズだ

 

「夢は叶ったみたいね」

 

「何だったかな」

 

「ジェミニを守るんでしょう?」

 

「…忘れたっ」

 

鼻から息を吐き、薄っすらと笑みを浮かべる

 

そんな時、吹雪が此方に向かって来た

 

寄って来た吹雪に手を伸ばし、頬を撫でる

 

吹雪は俺とリシュリューを見ながら体を縦に振っている

 

「ね…私達、もし繋がってたら、今頃この子位の子が居たのかしら⁇」

 

「どうかな…もっと大きいかもな⁇」

 

リシュリューは俺の顔に手を置き、言った

 

「私の本当の名前、覚えてるかしら」

 

「覚えてるよ」

 

「言って頂戴」

 

「何だ。リシュリューは気に入らないか⁇」

 

「いいでしょ。貴方と私の秘密があっても…貴方位しか、もう覚えてないの」

 

「分かった…」

 

真上に映るリシュリューの悲しそうな瞳を見て、リシュリューの本当の名前を言った

 

「”カーラ”」

 

「ん。よろしい」

 

リシュリューの本当の名前は”カーラ”

 

今は戦艦”リシュリュー”として生きている

 

リシュリューはカーラの時から義理堅い

 

あの日だって、制空権確保の為に敵戦闘機を追い払った

 

そのお礼に、と、現地の行きつけのバーのダンサーであったカーラが一晩相手をしてくれた

 

今だって、救われた恩があるからと単冠湾にいる

 

「眠たい⁇」

 

「少し寝たい…いいか⁇」

 

「えぇ。リシュリューの膝で寝なさい。吹雪も寝たわ⁇」

 

ふと腹を見ると、吹雪が腹にもたれかかって鼻ちょうちんを出していた

 

「ふふっ、貴方、子供に懐かれ…」

 

リシュリューが何か言おうとした時、二人共鼻ちょうちんを出していた…

 

 

 

 

 

「ただいまーっ‼︎」

 

「帰ったダズル‼︎」

 

「しっ…」

 

執務室に帰って来たきそと榛名は、ワンコに静かにする様に言われた

 

「寝てるダズル…」

 

三人の目線の先には

 

ソファーの下にもたれかかったリシュリュー

 

そのリシュリューの膝枕で眠るレイ

 

レイのお腹にもたれかかっと鼻ちょうちんを出している吹雪がいた

 

「そっとしとこっか⁇」

 

「うぬ。ウメェコーヒーとケーキでも食べるダズル」

 

「うんっ」

 

結局、三人が起きるまで、ワンコ達は食堂でケーキを食べていた…

 

 

 

 

 

リシュリューの本当の名前をもう一人知っていた事を、俺達はずっとずっと先に知る事になる…



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219話 新種のシスター(1)

さて、218話が終わりました

長い間間隔を開けて申し訳ありません

今回のお話は、新しいシスターのお話です

新種のシスターは誰かと知り合いの様子で…


「神、ですか」

 

「そうよ〜。レイは信じてないみたいだけどね⁇」

 

親潮と横須賀は、今日も視察という名のお散歩

 

急に神の話をしたのは、親潮が教会に興味を示したからだ

 

「ではゴーヤさんは神ですか」

 

あまりにも突拍子の無い親潮の真面目な問いに、横須賀は声を出して笑う

 

「あっははは‼︎あの子はそういう名前なのよ。レイって信じてない癖に自分の産み出した子には神の名前を付けるのよね」

 

「アイリス、タナトス、ステラ、アルテミス…」

 

「クラウディアもよっ⁇」

 

「はっ‼︎」

 

横目で親潮を見る横須賀が微笑む

 

親潮は自分もちゃんと二人の子供だと再認識し、笑顔を見せた

 

「そう言えば、最近教会にシスターが一人増えたらしいわ⁇」

 

「シスター・グリーン様と、シスター・ヌードル様ともう一人、ですか⁇」

 

「えぇ。どんな人かしらね⁇」

 

「優しい人だと良いです」

 

親子二人の視察は続く…

 

 

 

 

次の日の昼

 

繁華街で何か食べようとしていた俺とアレンは、教会近くの喫煙所で一服していた

 

「おしゃ‼︎そろそろ行くか‼︎」

 

「おっ‼︎」

 

タバコの火を消し、ベンチから立ち上がる

 

さぁ、何を食おうか‼︎とか、楽しい話をしようとした矢先だった

 

俺達二人は物陰に隠れた

 

「なんでシスターがここに…」

 

「分からん…新種か⁇」

 

前からシスター服を着た少女が、両手に買い物袋を持って歩いて来た

 

ユーグモでもなければ、ハルサメでもない

 

新種のシスターだ

 

茶色のフワフワショートカットで、目にハイライトが無い

 

なんだかヤバい気がする…

 

「どうする…裏から回るか…」

 

「しかねぇだろ…」

 

そのシスターを回避する為、壁に添いながら別ルートを目指す

 

「…何してるの」

 

「「ヒギャァァァァァア‼︎」」

 

そのシスターがいきなり背後に現れた‼︎

 

このシスター、とにかく足が速い

 

「撤退‼︎撤退だ‼︎」

 

一瞬の隙を付いて、脇から逸れる

 

「ねぇ」

 

「「ワァァァァァア‼︎」」

 

それでも前方に瞬時に現れるシスター

 

「よし…アレン。こうなりゃ必殺技だ」

 

「しかないな…」

 

ゆっくりとシスターから反転し、逆方向を向いて歩き始める

 

ダッシュで無理ならゆっくり歩けば良い

 

「取った」

 

「あ‼︎」

 

「クソゥ‼︎」

 

服の裾を掴まれ、動きを止められる

 

「…何で避けるの⁇」

 

「だって…なぁ⁇」

 

「あそこのシスターは強者ばっかなんだぞ‼︎」

 

「シスター・グリーンとシスター・ヌードルの事ですか⁇」

 

「そうだ‼︎欲求不満と怠惰のシスターだっ‼︎」

 

「…」

 

背後から殺気を感じる…

 

「マーカス君⁇」

 

「はひぃ…」

 

「アレン君⁇」

 

「はひっ…」

 

互いに背後から別々の殺気を感じる

 

「さっ‼︎お祈りをしましょう⁉︎ねっ‼︎ねっ‼︎」

 

「すぐ終わるでし‼︎」

 

「「嫌だぁぁぁぁぁあ‼︎」」

 

「「グヘヘへへ…」」

 

二人共ヨダレを垂らし、目に殺気を込めながら俺達を引っ張り、教会へと引き摺り込んだ…



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219話 新種のシスター(2)

「この子は”シスター・マリッジ”貴方達が出てから来てくれた子よ⁇」

 

「本当の名は”岸波”と申します」

 

教会に引き摺り込まれた俺達は、シスター達がいつも何かを食べたり、大体シスター・ヌードルがサボってマカロン食ってる部屋に来ていた

 

この新種のシスターの名は、シスター・マリッジ。またの名を岸波

 

「シスター・マリッジ…」

 

「ヴィンセントは元気⁇」

 

「あ、ま、まぁ…」

 

「そう」

 

意味深な事を言い、シスター・マリッジはお茶を飲む

 

「知り合いか⁇」

 

「えぇ」

 

「マーカス君と違って、ここの教会の熱心な信者でもあるわよ⁇」

 

「へ〜へ〜そうですかそうですか‼︎」

 

微笑むシスター・グリーンに言われるが、神を信じる気はこれっぽっちも無い

 

「言ってたら来たでし」

 

マカロンで口元をコナコナにしたまま、シスター・ヌードルが部屋から出た

 

「話は聞いてる。貴方がマーカス。貴方がアレン」

 

「宜しくな」

 

「宜しく」

 

シスター・マリッジは俺達二人を見たまま、顎をほんの少し引いた

 

このシスター、目を見ただけでは感情が読めない

 

「いいか⁉︎お前はもう少し真面目に仕事をしろ‼︎お前は真面目にしてりゃあ良いパイロットだ‼︎」

 

突然教会の中から怒号が聞こえた

 

「ウッセェアホ‼︎オメーに言われる筋合い何てこれっぽっちも無いね‼︎」

 

「んだとこの野郎‼︎」

 

「やんのか⁉︎」

 

大の大人二人が口論をしている

 

仮にも静寂にしなければならない場所だ

 

シスター・ヌードルが止めに入っている

 

「はいはい‼︎喧嘩しないで欲しいでし‼︎」

 

「かっ‼︎」

 

「こっ‼︎」

 

二人の口にマカロンをぶち込んで黙らせるシスター・ヌードル

 

怒らせたら怖いのは相変わらずだ…

 

しっかし誰だ…こんな場所で喧嘩する奴は…

 

「親父⁉︎」

 

「パパ⁉︎」

 

そこに居たのは互いの父親

 

「こっ、これはマーカス大尉‼︎」

 

「よっ‼︎」

 

ヴィンセントはキチンと一礼するのに、親父は軽〜く挨拶するだけ

 

「シスター・グリーン。どうかリチャードの遊び癖を粛清してやって下さい」

 

「シスター・グリーン‼︎どうかヴィンセントの堅物を粛清してやって下さい‼︎」

 

「ふふっ。神にでも出来ない事はあります‼︎」

 

俺もアレンも、頭を抱えてため息を吐く

 

「知り合いだったのか⁇」

 

「嫌々ずーーーーーっと致し方無く護らせて貰わせてるんですー‼︎」

 

「いつも素晴らしい援護感謝しますぅーーー‼︎」

 

「ぐぬぬぬ‼︎」

 

「うぎぎぎ‼︎」

 

褒めているのか貶しているのか分からない

 

「いらっしゃい」

 

シスター・マリッジが来た

 

「あ…」

 

ヴィンセントの目が優しい目に変わる

 

シスター・マリッジも、それに合わせるかのように微笑んだ

 

「えと…その…」

 

「さっ‼︎三人共‼︎シスター・マリッジとヴィンセントさんは懺悔の時間です。奥でオヤツを食べましょう‼︎シスター・ヌードル。オヤツをお願い」

 

「はいでし‼︎」

 

シスター・グリーンの長い瞬きのアイコンタクトで、俺もアレンも理解した

 

見てはいけない奴だ

 

親父は最初から何が起こるか知っているのか、既にシスター・ヌードルのケツを見ながらサボリルームに向かっている

 

それにしても、かなりの身長差だ

 

貫禄のある身長のヴィンセントと違い、シスター・マリッジは小さい

 

何が起こるのだろうか…

 

 

 

 

「美味しい⁇」

 

「まぁな」

 

ポイポイマカロンを口に入れながら、致し方無くテレビを見る

 

「アレン」

 

「はい‼︎」

 

珍しく真面目な顔をした親父が、アレンに話掛けた

 

「ヴィンセントは昔から、極々稀に人の命を軽く見てしまう癖があるんだ。あぁ、悪口じゃない」

 

「はい」

 

「あいつの偉い所はそれに自分で気付いて、前もってこうして懺悔しに来るんだ」

 

「意外です…パパにそんな癖があったなんて…」

 

「あいつは良い艦長だ。だが、その良い艦長にも抱える物はある。それを今扉の向こうで一時的に降ろしてる。それだけの事さっ」

 

「なるほど…ありがとうございます」

 

「たまにはカッコイイ事言うでし」

 

「たまに⁉︎いつもカッコイイだろ⁉︎」

 

親父の膝の上で足をプラプラしながら笑うシスター・ヌードルが今何を言っても、全く貫禄が無い…




でしでし言ってるのはハルサメチャンです 笑


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219話 新種のシスター(3)

「部下の命を軽く見てしまった」

 

「そう」

 

教会の真ん中で、シスター・マリッジが上目遣いでヴィンセントの言葉に耳を傾ける

 

「言う事を聞かない部下に対し、帰って来なければ…と…艦長らしからぬ感情です」

 

「膝を落として下さい」

 

言われるがまま、ヴィンセントは膝を落とした

 

シスター・マリッジはそんなヴィンセントの頭に手を伸ばし、そっと抱き締め、腹部に耳を当てさせた

 

「トックン…トックン…聞こえますか⁇」

 

「はい…」

 

「これが命の音…」

 

シスター・マリッジとか言う名だが、勿論妊娠なんてしていない

 

しかし、シスター・マリッジと呼ばれる理由はこの行為にある

 

シスター・マリッジは、普通の人より心臓が少しだけ下にある

 

その為、腹部に耳を当てると、まるで胎児の心音の様に聞こえて来る

 

抱き締められた相手はこの上なく安堵し、柔らかく良い匂いのするシスター・マリッジに落ちる

 

「貴方の祈りは確と届いています。また道を踏み外しそうになったら、いらして下さい」

 

「ありがとうございます。シスター・マリッジ」

 

ヴィンセントはシスター・マリッジから離れ、祈りと一礼をした後、教会から出て行った…

 

 

 

 

「終わりました」

 

シスター・マリッジが帰って来た

 

「ありがとう。貴方も食べなさい」

 

「…貴方達もしたいの⁇」

 

ジト目で俺達を見るシスター・マリッジ

 

「「「俺達は空母のネーチャンがいるからいい」」」

 

俺、アレン、親父の三意見が揃う

 

全員嫁はいるが、最悪イントレピッドに頼めば同じ事をしてくれる

 

「…ひどっ」

 

シスター・マリッジは何故か俺をジト目で見た後、マカロンを食べ始めた

 

「パパとはいつから知り合いで⁇」

 

座ったシスター・マリッジに、アレンはすぐに声を掛けた

 

「君とお嫁さんが居なくなってすぐ」

 

「結構長い付き合いで⁇」

 

「まぁ…貴方達二人はベルリンの院。私はのサンフランシスコの院だったから。同じ宗派でも場所が違うわ⁇」

 

「そういう事か…」

 

「確か、リチャードもヴィンセントも同じサンフランシスコ出身…それに、ヴィンセントは元から信仰心が強いの。だから知ってる」

 

「まっ、信仰は大事だ。なぁ⁇マーカス⁇」

 

「へ〜へ〜」

 

親父の言葉を物ともせず、マカロンを口に放り込む

 

「何にせよ、これからお世話になるわ。宜しく」

 

「シスター二人を頼む」

 

「サボってたら叱ってくれて構わないから」

 

「分かった」

 

ようやくシスター・マリッジが微笑んでくれた

 

「貴方達、結構面白い」

 

「マーカス君もアレン君も、アホの塊なのよ⁇」

 

「行く先々で問題行動でし‼︎」

 

シスター・グリーンもシスター・ヌードルもケラケラ笑う

 

「さ、帰ろうかアレン君‼︎」

 

「アホの塊とか言われたしな‼︎」

 

「また来てね⁇」

 

「気が向いたらな⁇」

 

「アレン君の好きなマフィンでも作って待ってるでし‼︎」

 

「それは楽しみだ」

 

神は信じないが、考えを改めたこの二人は好きだ

 

マトモにしてれば、面倒見の良い小さな姉の様な存在だ

 

「よしっ‼︎行くか‼︎」

 

親父がシスター・ヌードルを膝から降ろし、立ち上がった

 

「…寿司に千円だ」

 

「…うどんに千円だ」

 

どちらも大して変わらないが、取り敢えず互いに賭け、生唾を飲む

 

寿司か‼︎

 

うどんか‼︎

 

どっちだ‼︎

 

「ジェミニに言われたんだ。新しく出来た弁当屋の視察を二人に任すように頼まれてるんだ。じゃあね〜‼︎シスター達‼︎」

 

「また来てね⁇」

 

「歓迎するでし‼︎」

 

「またね」

 

ニコニコ笑顔でシスター達に手を振る親父の背後で、開いた口が塞がらない俺とアレン

 

「弁当…だと…」

 

「寿司じゃない…だと…」

 

互いに千円渡し合い、イーブンに終わった…

 

「さっ、行こうか‼︎」

 

親父に連れられ、教会を出た…

 

 

 

 

 

「あの二人、いつか信者にする…ふふ…」

 

 

 

 

シスター・マリッジこと、岸波が教会に来ました‼︎




シスター・マリッジ…お腹ポッコリちゃん

シスター二人と同じ宗教を信仰する新種のシスター

グリーンとヌードルが居たのがベルリンの教会

マリッジが居たのはサンフランシスコの教会

グリーンとヌードルがレイとアレンにスパイ技術を叩き込んだりしたのと違い、マリッジはようやっと来たマトモなシスター

心臓の位置が普通より少しだけ下に位置し、お腹に耳を当てると胎児の心音の様に聞こえ、とても安らぐと一部で有名

ビックリする程足が速い。凄いね


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220話 青い女の笑顔の弁当(1)

さて、219話が終わりました

話数、題名、共に変わりますが、前回の続きになります

リチャードから要請を受け、レイとアレンは居住区へと視察に向かいます

果たして誰がお弁当を作っているのかな⁇


「必殺‼︎」

 

「顔パス‼︎」

 

「行ってらっしゃいませ」

 

「「行って来ま〜す‼︎」」

 

居住区入口のゲートを顔パスで切り抜け、俺達は居住区の商店街を目指す

 

数十分前…

 

「お前達に居住区の商店街にある弁当屋の視察を頼みたいとのお達しだ」

 

「名前は⁇」

 

「行けば分かるとのお達しだ」

 

「了解っ。まっ、パッと見て食って帰って来るさ」

 

「行って参ります」

 

「評判が良ければ繁華街にも出すらしいから、しっかりな‼︎」

 

 

と、言う事だ

 

横須賀も親父も適当で敵わん…

 

商店街エリアに着き、バイクを停め、いざ弁当屋を探す

 

「りさ‼︎」

 

「あらお二人共‼︎ごきげんよう‼︎」

 

タイミング良くりさがいた

 

「この辺に弁当屋が出来たらしいんだが…知ってるか⁇」

 

「えぇ‼︎今から私も行きますの‼︎」

 

りさに着いて行き、弁当屋を目指す

 

「ここでしてよ⁇」

 

「いらっしゃいませー‼︎ノリ弁3個ですね‼︎ありがとうございます‼︎」

 

青い髪を三角巾でキチンと纏めた女性が弁当屋をしている

 

そこそこ流行ってはいるみたいだ

 

「りさは昼飯か⁇」

 

「えぇ。バイトに行く前に腹ごしらえですの‼︎では、私はここでっ‼︎」

 

「ありがとな」

 

「今度、健吾も連れて来るよ」

 

それを聞いたりさは一瞬だけ此方に振り返り、笑顔を見せた

 

「さ〜て。何注文すっか⁇」

 

「どれどれ…」

 

 

 

”ゴトゴト弁当

 

ノリ弁当…120円

サケ弁当…120円

カラ弁当…120円

ヘルシー弁当…150円

ゴトー弁当…200円”

 

 

 

「安いな⁇」

 

安い割には中々美味そうだ

 

「どれ食う⁇」

 

二人してメニューで悩んでいる時、通信が来た

 

相手は横須賀だ

 

しかもテレビ通話だ

 

「どうした⁇」

 

《お弁当屋さんは見つかりましたか⁇》

 

「親潮⁉︎横須賀はどうした⁉︎」

 

タブレットに親潮の顔が映る

 

親潮が電話して来るという事は、横須賀は恐らくサボっているのだろうな

 

《鼻ちょうちんをお作りして、椅子で就寝されています》

 

ため息を吐きつつ、親潮に横須賀を写して貰う

 

執務は終えたみたいだが、大いびきをかいて寝ている

 

「…叩き割れ‼︎」

 

親潮は机にあった鉛筆を取り、横須賀の鼻ちょうちんに向けた

 

パチッ

 

《はっ‼︎》

 

「お目覚めですか〜⁇」

 

《寝てないわよ⁉︎目を閉じて気絶してただけよ⁉︎》

 

「それを寝るって言うんだ‼︎弁当はどれにするんだ⁇」

 

《ゴトー弁当にして頂戴。その店で一番高い奴が一番力量が分かるから》

 

「了解っ」

 

《あと、もう一つ買って帰って来て頂戴。私も食べて確かめるから》

 

「了解っ」

 

通話が終わり、早速注文に向かう

 

「いらっしゃいませ。ご注文は何に致しますか⁇」

 

「このゴトー弁当を3つ」

 

「畏まりました‼︎600円になります」

 

アレンも出そうとしたが、俺が一足早く財布を出した

 

「サンキュー」

 

「たまには奢ってやるよ」

 

と、視線を戻した先には、既に準備されている弁当を入れた袋がある

 

「えへ」

 

しかも中々の美人だ

 

代金を渡し、袋を受け取る

 

「ありがとうございましたー」

 

袋を持ち、その辺にあるベンチに座って弁当を取り出した

 

「「おぉ〜‼︎」」

 

ゴトー弁当は、他の弁当のおかずが全部入っていた

 

鮭の切り身、唐揚げ、きんぴらごぼう、それと白身魚のフライ

 

そしてのり弁

 

これで味が良ければ売れるな

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

割り箸を割り、いざゴトー弁当実食開始



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220話 青い女の笑顔の弁当(2)

「…」

 

「…」

 

黙々と食べる二人…

 

「美味いな⁇」

 

「イケるな⁇」

 

その言葉を皮切りに、互いにゴトー弁当にガッ付く

 

十数分後には綺麗に完食した

 

「中々良いんじゃないか⁉︎」

 

「このサイズなら戦闘糧食としてもイケるな‼︎」

 

値段、量、サイズ

 

申し分無い

 

「あの‼︎」

 

「おっ‼︎弁当屋のネーチャンだ」

 

三角巾を外しながら此方に来た、青い髪の女性

 

「視察の方とは知らずに‼︎私”ゴトランド”と申します‼︎」

 

ゴトランドは深々と頭を下げた

 

「頭上げてくれ‼︎その方が良い。変な肩肘張らずに作れたろ⁇」

 

「そ、それはそうですけど‼︎」

 

「視察って誰から聞いたんだ⁇」

 

「横須賀のジェミニさんから連絡が来ました。今その辺にいる男性二人が視察だと」

 

辺りを見回すが、男は俺達しかいない

 

そうか、居住区だから男は限られた奴しか居ないのか‼︎

 

「今電話来たのか⁇」

 

「はい。貴方達がゴトーのお弁当を買って頂いた直後です」

 

本日二度目のため息を吐く

 

「まぁ…抜き打ちには丁度良かったんじゃないか⁇」

 

アレンの言う事も一理ある

 

まぁ、今回は良かった事にしておこう

 

「あの‼︎またいらして下さい‼︎」

 

「来るのは君の方かもしれないな⁇」

 

「え⁇」

 

「この量と味、料金なら横須賀の方から呼ぶだろうな」

 

「わぁ…嬉しい‼︎」

 

「これ持って帰らんといかんから、今日は帰るよ」

 

「ありがとうございました」

 

ゴトランドは深々と頭を下げ、帰路に着く俺達を見送ってくれていた…

 

 

 

 

横須賀に着き、執務室にゴトー弁当を持って来た

 

「これがそのお弁当ね⁇」

 

「そうだ」

 

「頂くわ」

 

割り箸を割り、横須賀もゴトー弁当実食開始

 

数分間、黙々と弁当を食べる横須賀は本気の目をしている…

 

いつもこうなら助かるんだがなぁ…

 

「アレンさん‼︎ビーダーメンやろ‼︎」

 

「よしっ‼︎」

 

「早霜もする…」

 

清霜と早霜はアレンと遊んでいる

 

親潮とガングートはテレビを見ている

 

「三人は学校か⁇」

 

「えぇ。そこの引き出しにテストやらおえかきが入ってるわ⁇」

 

「どれっ…」

 

横須賀は弁当の検討に集中しているので、言われた引き出しからそれらを出して見た

 

 

 

”いそかぜ 15点”

”朝霜 95点”

”なな 78点”

 

三人の国語のテストだ

 

その中でも、磯風のテストを見てみる

 

問…”最も”という言葉を使って文章を作りましょう

 

答…い〜ちゃんは最も強い

 

なぜ三角が貰えるのか…

 

問…”かもしれない”という言葉を使って文章を作りましょう

 

答…この鳥はかもしれない

 

勿論不正解

 

磯風…それを言うなら”カモかも知れない”だ…

 

そんな磯風の回答を見て、自然と顔が綻ぶ

 

次は絵だ

 

朝霜は設計図を書けるので、横須賀の兵舎を描いている

 

とても上手い

 

ななは可愛らしいお花の絵だ

 

磯風は…

 

「…」

 

磯風の絵を見て、良い意味のため息が出た

 

そこには、金髪のオールバックの若い男がスケッチされていた

 

それも何枚もだ

 

タバコを吸っていたり…

 

ご飯を食べていたり…

 

笑っていたり…

 

まるで生き写しかの様に描かれている

 

「ぐあっ‼︎やられたぁ‼︎」

 

「き〜ちゃんの勝ち‼︎」

 

描かれていたのは、今正に清霜達と遊んでいるアレンだ

 

「ごちそうさま」

 

「あ…ど、どうだった⁉︎」

 

娘が自分の親友へ充てる思いを汲み取り、複雑な気分を絵と同時に引き出しに戻し、横須賀の方を向いた

 

「こっちに本店建てさせるわ。親潮‼︎」

 

「はいっ、ジェミニ様」

 

「繁華街にゴトー弁当を造らせるわ。移転と許可書の書類を作成してくれる⁇」

 

「畏まりました」

 

横須賀と親潮の作業が始まり、俺は手持ち無沙汰になる

 

「レイ」

 

「ん⁇」

 

PCに向かったまま、横須賀は話し掛けて来た

 

「磯風の事、気付かなかったでしょ」

 

「あぁ…まさかだ。アイツの気持ちがよ〜く分かった」

 

「ふふっ。私もっ‼︎」

 

「なんの話だ⁉︎」

 

ようやくアレンが気が付いた

 

「お前がアイちゃんの事が好きな気持ちがよ〜く分かったって事さっ」

 

「今更かよ…」

 

いつも通りに苦笑いを浮かべ合う、俺とアレン

 

引き出しから磯風の絵を取り出し、アレンに見せた

 

「あぁ‼︎」

 

アレンは磯風の絵を持ち、ゆっくりと眺め始めた

 

「モデルを頼まれてな。い〜ちゃんはアレンさんを描きたいんだ。お礼はオトンに頼む‼︎ってな‼︎」

 

「礼は何がいい」

 

「要らん。勉強の糧になったんだ。それで充分さ」

 

絵を返して貰い、一枚手に取って壁に当てた

 

「そうか。なら安物の額縁に入れて、壁に飾って鼻の穴に画鋲を刺しておこう」

 

「やめろ‼︎」

 

そんな事しないと分かっているので、互いに笑い合う

 

「さっ‼︎出来たわ‼︎レイ、アレン、ありがとね」

 

「どう致しまして」

 

「これ位ならいつでも」

 

「ゴトランドは二週間後にこっちに来るわ。向こうのお弁当屋さんは、居住区の誰かに任せるわ」

 

「退役した艦娘を就かせるのか⁇」

 

「どうかしらね…向こうには退役した軍属コックもいるし、一概に艦娘とは言えないわ⁇」

 

「その辺は大丈夫だろう。最悪摩耶がいる」

 

アレンの言葉で俺と横須賀が”あぁ”と息を吐き、納得した

 

「じゃあ名前は”摩耶ってん弁当”にしましょう」

 

「決まった訳じゃないぞ…」

 

「ジェミニ様。摩耶様から許可を頂きました」

 

横須賀の隣では、既に親潮が摩耶に電話を繋げていた

 

「ようやく定職持つ気分はどうだって言って頂戴」

 

その後、横須賀はゴトランドにも電話を繋げ、電話越しの会話ではあるが、ゴトランドは二つ返事で快諾した…

 

 

 

 

 

二週間後…

 

「いらっしゃいませー‼︎四つですね‼︎ありがとうございます‼︎」

 

ゴトー弁当は繁華街で飛ぶ様に売れた

 

実は横須賀の繁華街、店に入れば食べられるのだが、持ち帰りでその場で食べられる”ある物”が今まで無かった

 

ゴトランドがそれを売り始めた結果、繁華街の別の店舗でも売り上げが伸び始めた

 

「いらっしゃいませ‼︎」

 

「ゴトー弁当のプレーンを一つ」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

客に渡すのは、白米だけのお弁当

 

ゴトランドは白米だけを入れたお弁当を売り始めていた

 

そう、繁華街には沢山のおかずはあるのだが、白米だけを売ると言うのが無かった

 

最上のスティックミート

 

浦風のおんどりゃあ

 

瑞鳳の卵焼き

 

丹陽の春巻き

 

その他色々ある

 

ゴトランドの白米だけのお弁当は”ゴトー弁当プレーン”と呼ばれ、中々の売り上げを見せていた

 

それでも他のお弁当も売れている

 

何せゴトー弁当には、安い、早い、美味いの三拍子が揃っている

 

戦闘糧食にも利用され、売り切れる事もあるくらいだ

 

「いらっしゃいませ‼︎あ‼︎マーカスさん、アレンさん‼︎」

 

「好調みたいだな⁇」

 

この日もアレンと共に、ゴトー弁当の視察に来ていた

 

「はいっ‼︎お陰様で‼︎」

 

「ゴトー弁当二つ」

 

「400円になります‼︎」

 

早速ベンチに座り、ゴトー弁当を頂く

 

「流石はゴトー…」

 

「良い腕してるな…」

 

「えへ」

 

ゴトランドが笑顔を送る

 

これも繁盛の秘訣なんだろうな…

 

 

 

 

軽(航空)巡洋艦”ゴトランド”が着任しました‼︎




ゴトランド…弁当屋ちゃん

遥か遠い北欧の国からやって来た、青髪美人のお姉さん

眠そうな外見と違い、結構快活なお姉さん

揚げ物と炭水化物と海苔が好き

仕事終わりに遊戯場で体を動かしている姿をよく目撃されている

縄跳びが上手いらしいよ。凄いね


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221話 お尋ね者は誰ですか⁇(1)

さて、221話が終わりました

今回のお話は、ラバウルからスタートします

お尋ね者を探しに来たとある女性

しかし、誰も教えてくれずに…


ある日のラバウル…

 

「アレン…いい加減諦めたら⁇」

 

「うぬぐぐぐ…」

 

「やっとアレンを負かす日が来た…」

 

食堂でアレンと健吾がボードゲームをし、その横で愛宕が行く末を見つめている

 

ボードゲームは圧倒的に健吾の優勢

 

ようやくこの日が来たのだ

 

「おい‼︎誰かいるか‼︎」

 

「あ‼︎お客さんだ‼︎」

 

「やられた‼︎」

 

客が来たアレンは、この機を逃すまいと客の方に行ってしまった

 

「いらっしゃい。補給か⁇」

 

「いや、違う」

 

アレンが対応した女性は、長い金髪で、愛宕並に胸があった

 

どうやら日本人ではないらしい

 

アレンは彼女を見るなり、レイが好きそうな女性だ…と思っていた

 

「この方を探しているのだが。知らないか⁇」

 

彼女が左胸ポケットから写真を取り出す

 

アレンは写真の人を知っている

 

だが、得体の知れない女性に教える訳にはいかない

 

「名前も知らない人に教える訳にはいかないな」

 

「あぁ、すまない。余の名前は”ネルソン”貴様は⁇」

 

「アレン・マクレガーだ」

 

「それで、知っているのか⁇」

 

「その人との関係は⁇」

 

「この人は余の姉。こっちは…」

 

写真は二枚あった

 

アレンは二枚目の写真の人も知っていた

 

「彼からすれば叔母になるのか⁇恐らくは叔母だ」

 

本当は教えても良いかとは思ったが、信用して良い情報ではないかも知れない

 

「何処かの基地で見た事はあるが…」

 

「そうか。職務中にすまなかったな」

 

それだけ聞くと、ネルソンは胸ポケットに写真を仕舞い、帰ろうとした

 

「ネルソン」

 

「なんだ⁇」

 

「その人に会って何をするんだ⁇」

 

「親戚が会いに来ただけさ。ではな」

 

ネルソンはラバウルから去って行った

 

ネルソンが見えなくなるまで見送った後、アレンはすぐにとある場所に通信を入れた…

 

 

 

 

「コラ吹雪‼︎シチューも食べるんダズル‼︎」

 

単冠湾では、榛名が吹雪にお昼ごはんを食べさせていた

 

吹雪は榛名が掬ったシチューを口に当てられるが、口を開ける気配は無く、スプーンが当てられた逆方向に顔を向けている

 

「お粥にするダズルか」

 

今度はお粥を掬って吹雪の口に持って行く

 

これは食べた

 

「シチューダズル」

 

もう一度シチューを掬い、吹雪の口に持って行く

 

しかし食べない

 

「なんっ…コリャ‼︎」

 

挙句の果てに吹雪はシチューが入っている容器を指で押し、榛名の方に寄せた

 

つまり、要らないと言う意味である

 

「榛名のシチューが食べれないダズルか…いい度胸ダズルなぁ⁇」

 

吹雪は榛名の顔をジーッと見ている

 

吹雪からすれば、榛名は”シチューしかくれないヤバイ人”位にしか見えていない

 

HAGYは”野菜ばっかりの人”

 

ニムは”オヤツをくれる人”

 

そしてリシュリューは”美味しいごはんをくれて、抱っこしてくれる人”

 

赤ちゃんからすればリシュリューに懐くのは必然である

 

「榛名の腕が悪いんダズル。次はもっとウメェシチューにしてやるから、楽しみにしてるんダズル」

 

榛名は吹雪に怒らず、頭を撫でた後、容器を持って台所に向かった

 

「誰かいるか‼︎」

 

「やかましい‼︎後ダズル‼︎」

 

「あ、はい…」

 

10分後…

 

「何ダズル」

 

待たせた癖に、客を睨みつける榛名

 

今は榛名はそれ所じゃない

 

「余はネルソンだ」

 

ラバウルでの反省を生かし、ネルソンはちゃんと自己紹介を先にした

 

「用は何ダズル」

 

「この人を知らないか⁇」

 

「知らん‼︎」

 

「じゃあこっちの人は…」

 

「知らん‼︎榛名は今機嫌が悪いんダズル‼︎」

 

吹雪に当たれない為、榛名の機嫌は超最悪

 

「今何をしているかだけでもいいんだ…」

 

「知ってても気分良くても教えてやんね〜ダズル」

 

「そうか」

 

「他を当たるんダズル」

 

「手間をかけさせた。すまない」

 

またもやネルソンはそそくさと帰ろうとした

 

「…ちょい待つダズル」

 

流石に気が引けたのか、榛名はネルソンを引き止めた

 

「ソイツらの事は、全部は言えんダズル。ただ、反対派では有名な奴だから、何処かの基地でヒントやら、もしかすると本人に逢えるかも知れんダズル」

 

「反対派⁇」

 

「榛名達反対派は、深海との戦いを最小限に食い止めてるんダズル」

 

「和平、と言う事か⁇」

 

「そうダズル。だからその二人も榛名の大切な味方で、お友達ダズル」

 

「そうか‼︎ふふっ‼︎」

 

榛名の口から反対派や友達と聞いて、ネルソンの顔が綻んだ

 

「それを聞いて安心した‼︎ありがとう、えと…」

 

「榛名ダズル」

 

「ありがとう、榛名」

 

ネルソンは単冠湾も後にする

 

「さて。晩飯の吹雪のシチューダズル」

 

吹雪は晩御飯もシチューになりそうだ…

 

 

 

 

 

「ここなら行けそうだ‼︎」

 

人員も沢山おり、尚且つ屈強そうな兵士が揃っている

 

「おぉ〜‼︎」

 

ネルソンの前に一隻の空母が停泊した

 

「おい‼︎」

 

「はっ‼︎」

 

ネルソンは荷降ろしをしていた空母の乗組員を引き止めた

 

「私はネルソン。この艦で一番偉い奴は誰だ」

 

「艦長‼︎岩井艦長‼︎」

 

「なんだ⁉︎」

 

乗降口の真上の甲板から顔を出したのは岩井

 

「彼が”ガンビア・ベイⅡ”の艦長です。艦長‼︎この方はネルソンさんです‼︎艦長に御用だそうで‼︎」

 

「すまないな岩井殿‼︎降りて来て貰えるか‼︎」

 

「とうっ‼︎」

 

「「艦長‼︎」」

 

岩井が甲板から飛ぶ振りをした瞬間、下にいた部下の二人がすかさず落下地点に来た

 

「飛ぶと思った⁉︎」

 

岩井がしたのはただの飛ぶフリだった

 

「やめて下さいよ⁉︎」

 

「艦長でもその高さからは大怪我ですからね⁉︎」

 

「すぐ降りる‼︎」

 

岩井を待つ間、二人の部下はネルソンを見た

 

「凄い美人さんだ…」

 

「胸デッカ…」

 

ネルソンの胸は、自身の服を押し上げる位に大きい

 

ネルソンも胸の下で手を組むので、強調するかの様に下から押し上げ、二人の目線は自然とそこに行った

 

「聞こえているぞ」

 

「しっ、失礼しました‼︎」

 

「申し訳ありません‼︎」

 

カンカンカンと急いで降りて来る足音が聞こえ、岩井が降りて来た

 

「お待たせしました‼︎」

 

「この二人を知らないか」

 

ネルソンは岩井にあの写真を見せる

 

「確かに私の知り合いですが…ネルソンさん、貴方に簡単には教える訳にはいかないのです」

 

岩井の言葉を聞き、ネルソンはため息を吐きながら写真を降ろした

 

「知り合いまで出来た奴しかいないのか⁉︎」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

「いや、まぁ…なんだ。悪い事では無いのだが…はぁ…」

 

探し求めている二人の信頼度が強過ぎて、誰も居場所を吐かない

 

段々とネルソンの疲労も溜まって来た

 

「仕方ない。次を当たる」

 

「今日は大湊で一泊して行って下さい」

 

「構わん。余は二人を探さねばならない」

 

「この二人みたいな奴がワンサカ出て来ますよ」

 

「あっ‼︎」

 

「ゴホン‼︎」

 

相変わらずネルソンの一部分を見ていた二人を見て、ネルソンは岩井の言葉に甘える事にした

 

 

 

 

「ここが大浴場さ‼︎今の時間は貸切みたいな物だから、ゆっくり入んな⁇」

 

「すまないな」

 

ボスに案内され、ネルソンは大浴場に来た

 

「ほぅ‼︎これはこれは‼︎」

 

大湊の大浴場もかなり広い

 

すっぽんぽんになったネルソンはタオル片手に腰に手を当てながら大浴場を見渡した

 

用意されたタオルやボディソープで体を洗った後、湯船に浸かる…

 

「ニホンの風呂もいいなぁ…」

 

ネルソンはしばらくの間、暖かい風呂を堪能する…

 

 

 

 

「特に怪しい物は見当たりませんねっ…」

 

「確かに…しかし、これだけの持ち物で基地を回っているのか⁇」

 

ネルソンが入浴中に、脱衣所で二人の影が動く

 

胸の形がクッキリ残った上着や、着ている物を全て調べるが、出て来たのは必需品や写真とガムだけ

 

残っているのは革の鞄だけ

 

しかも鍵が付いている

 

「小規模の爆発で開けてみますかっ…」

 

「やめときましょう。そこまでしては、我々の動きが感知されます」

 

「分かりましたっ。涼月はお父さんとお母さんに。貴方は提督に報告を。鞄以外に不審物は見当たらなかった、と」

 

「了解です」

 

持ち物検査をしていたのは、涼月とダイダロスさん

 

二人はそれぞれ分かれ、報告に向かう…

 

 

 

 

「スッキリしたかい⁇」

 

「うむ‼︎ニホンの風呂は凄いな‼︎感謝する‼︎」

 

ネルソンが風呂から出ると、ボスが待っていてくれた

 

「さっ、御飯にしようか‼︎アタシが作ったから、きっと美味しいよ⁇」

 

「いいのか⁇至れり尽くせりで…」

 

「客人を持て成すのが日本人なんだよっ‼︎さっ、行こう‼︎」

 

「うむっ‼︎」

 

今度は食堂に向かう…

 

 

 

 

「おぉ〜‼︎」

 

料理を見て、ネルソンの目が輝く

 

「さっ‼︎好きなの取って食べてくんなっ‼︎」

 

夕御飯はボス特製のバイキング形式の料理の数々

 

ネルソンはお皿を片手に、トングを片手に持ち、カチカチ鳴らしながら料理を選ぶ



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221話 お尋ね者は誰ですか⁇(2)

「パン、ローストビーフ、草もあるな‼︎」

 

バランス良く皿に食べ物を盛るネルソン

 

「いただきます‼︎」

 

席に座って、ちゃんといただきますをしてから、ネルソンはそれらを食べ始めた

 

「ネルソンさん」

 

「ん…」

 

対面の席に岩井が座る

 

食べていた物を飲み込み、ネルソンは岩井の方を向いた

 

「すまない。どうされた⁇」

 

「明日は何処へ向かわれるので⁇」

 

「まだ決めていない」

 

「手当たり次第で向かわれているのですか⁇」

 

「うぬ。余には時間が有り余っている」

 

「其れ程までにその二人を⁇」

 

「会わねばならんのだ…どうしても」

 

そう言ったネルソンの顔を見て、岩井は何かを悟った

 

「…そう言えば、ここへはどうやって⁇」

 

「あれだ」

 

食堂の窓の向こうには、港にロープで括り付けた手漕ぎボートが見えた

 

「あ、あれでですか⁉︎」

 

「余に不可能の文字はないっ‼︎」

 

ドーンと胸を張るネルソン

 

その手には豆が沢山出来ていた…

 

「一体何処から…」

 

「イギリスからだが⁇」

 

「イ、イギリス⁉︎」

 

ネルソンは手漕ぎボート一つで、遠路遥々イギリスからやって来ていた

 

「うぬ。途中、幾つか補給地点を重ねて此処まで来たんだ。まっ、長年出来ずにいた世界旅行だなっ‼︎」

 

「…」

 

手漕ぎボートとネルソンを交互に見ている岩井は、開いた口が塞がらずにいた

 

「ごちそうさまだ‼︎あの女性に言っておいてくれ、とても美味かったとなっ‼︎」

 

「ネルソンさん‼︎」

 

「うん⁇」

 

岩井は決心した

 

こんなに綺麗な女性が、ここまでして会いに来るのだ

 

きっと、悪い様にはしない

 

「明日の朝、ガンビアで基地を回りましょう」

 

「良いのか⁇」

 

「勿論‼︎」

 

「あぁ、そうだ。この基地は和平派か⁇」

 

「えぇ。横須賀基地直轄の派遣基地です」

 

「横須賀…」

 

「直接お伝え出来ないのは心苦しいですが…我々には、返し切れない恩がその方にはあるのです。どうか、ご了承を…」

 

「ふふっ‼︎そうかっ‼︎」

 

探し求めている二人を褒めると、やはりネルソンは喜んだ

 

本当に悪い人ではなさそうだ

 

夕御飯を食べ終えた後、ネルソンは用意された部屋の温かいベッドで眠りについた…

 

 

 

 

次の日…

 

「この艦はトラック基地を目指し、その後横須賀へ入港します」

 

「トラックか。トラックも和平派か⁇」

 

「ふふっ。和平派しか相手しませんよっ」

 

ネルソンと岩井はガンビア・ベイIIに乗り、トラックを目指していた

 

「そう言えば、ずっと大事に持っていますね⁇」

 

岩井が目をやったのは、ネルソンがずっと持っている革の鞄

 

「あぁ。土産物が入ってるんだ。見るか⁇」

 

「宜しいんですか⁇」

 

「見られて恥じる物ではないっ‼︎」

 

涼月とダイダロスさんが開けずにいた鍵が外され、ネルソンは鞄を開けた

 

「これは…」

 

岩井は鞄の中を見て、自分達を恥じた

 

「何なら全部見てくれて構わない。乗せて貰ってまで、余は無礼を働きたくない」

 

「いえ…」

 

「全部出そう‼︎」

 

ネルソンは机の上に鞄の中身をひっくり返し、鞄の底を叩き、底板を剥がして岩井に見せた

 

「申し訳ありませんでした‼︎」

 

何一つ怪しい物は出て来なかった

 

「疑いを持つのは普通の事だ。余も謝らなければならない。もっと早くに見せるべきだった」

 

「そんな事はありません。人間誰しも、知られたくない事はございます」

 

「そう言ってくれると有難い」

 

岩井は帽子のつばを摘み、ほんの少し頭を下げた

 

「さっ。もうすぐです」

 

トラック基地が見えて来た…



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221話 お尋ね者は誰ですか⁇(3)

「ここの基地は有村さんがいらっしゃいます。写真の方の事も知っているかと」

 

「すまないな」

 

「恐らく有村さんは厨房にいるかと。有村さんはパティシエでしたのでね」

 

「ほう‼︎」

 

「出港の際にはお知らせします。それまで、ごゆっくり」

 

岩井は作業指揮の為、一旦ガンビアから降りた

 

次いでネルソンも降り、厨房のある食堂へと向かう

 

「おいしいね‼︎」

 

「こえしゅき‼︎」

 

「いよもしゅき‼︎」

 

「おぉ…」

 

食堂ではたいほう、ひとみ、いよがおやつを食べていた

 

ネルソンはその三人を見て、少しホッコリとした

 

「あいこくのひとら‼︎」

 

「えぶぃばれ〜‼︎」

 

「こんにちは‼︎あたしたいほう‼︎」

 

「いよ‼︎」

 

「ひとみ‼︎」

 

「うむ‼︎礼儀の良い子だ‼︎余はネルソンだ‼︎」

 

初めて顔を見る人には、自分から挨拶をすると言うのは、ウィリアムもレイもキチンと教えていた

 

「何を食べているのだ⁇」

 

「たうと‼︎」

 

「ぶい〜べい〜のたうと‼︎」

 

三人共、口周りを紫色にしてブルーベリーのタルトを食べていた

 

「お…」

 

「提督からの差し入れですぅ〜」

 

緑色の着物を着た女の子が、ネルソンの前に同じ物を出した

 

「余も頂いて良いのか⁇」

 

「どうぞぉ〜」

 

ニタァ…と微笑む女の子に、ネルソンは身震いするも、折角出された物なので、頂く事にした

 

「うぁ〜」

 

「あぅ〜」

 

「いただきます」

 

ひとみといよの間に座り、ネルソンはタルトを食べ始めた

 

「ねうしぉん、ろこかあきたお⁇」

 

「イギリスからだ。うむ‼︎美味い‼︎」

 

「ひめしゃんといっしぉ‼︎」

 

「えげれす‼︎」

 

ひとみといよの言葉を聞き、ネルソンはフォークを置いた

 

「イギリスの知り合いがいるのか⁇」

 

「うん‼︎えげれすかあきた‼︎」

 

「ほ、他にもいるか⁉︎イギリスの奴は‼︎」

 

「子供に聞くのはっ、あまり宜しく無いかと」

 

厨房から筋骨隆々のパティシエの服を着た男性が出て来た

 

「す、すまない…」

 

「自己紹介が遅れました。有村と申します」

 

「貴方が…早速で悪いが、この二人を見た事はないか⁇」

 

ネルソンはあの写真を出す

 

「いよちゃん、ひとみちゃん、たいほうちゃん。良いかな⁇」

 

「らいじぉ〜ぶ‼︎」

 

「わういひとちあう‼︎」

 

「おっぱい…」

 

ひとみといよはネルソンの事を既に見抜いている様子で、たいほうはネルソンの膨らみに目が行っている

 

「畏まりました。では、その二人に限り無く近付く場所をお教えしましょう」

 

「うぬ‼︎」

 

「…と、本当は私の口から言うべきでしょうが、この三人が今から行くので、着いて行って見て下さい」

 

目線を下げると、三人がネルソンを見ていた

 

「ねうしぉんもいく⁇」

 

「こ〜しぉくて〜‼︎」

 

「おっきい…」

 

「わ、私はガンビアに乗せて貰って…」

 

「その三人も乗せて行きましょう」

 

岩井が食堂に来た

 

岩井と目を合わせた有村は敬礼を交わす事は無く、互いに小さく一礼した

 

「そろそろ行きましょうか⁇」

 

「ごちそうさあれした‼︎」

 

「おいちかった‼︎」

 

「またたべたい‼︎」

 

「ふふっ‼︎次はもっと美味しいのを作って待っていますね⁇」

 

「まなちゃん、またね‼︎」

 

「またねぇ〜」

 

「マナチャン…」

 

「またいらして下さいねぇ〜」

 

「う、うぬ…」

 

蒼龍にも挨拶を済まし、ネルソンは子供達と共にガンビアに戻って来た

 

 

 

 

「ぎゃんび〜‼︎」

 

「えいえ〜い‼︎」

 

用意された個室でひとみといよが丸窓から外を眺めているのを、ネルソンは腕を組んで眺めていた

 

「…」

 

「なんだ⁇」

 

たいほうはずっとオッパイに目が行っている

 

「ふふ…触ってみるか⁇」

 

「うん‼︎」

 

たいほうを抱き上げ、胸元に寄せる

 

「やわらかいね‼︎」

 

「余のそこは安らぎを与える場所だからなっ。柔らかく、安心するものでなければならない」

 

「…」

 

「眠ったか…」

 

余程ネルソンの胸が安心したのか、たいほうはすぐに眠ってしまった

 

「たいほうねんね⁇」

 

「うむ。食べたら寝るのは良い証拠だ」

 

ベッドの縁に腰掛けていたネルソンの両脇に、ひとみといよも座る

 

「この二人を知っているか⁇」

 

どうしても気になるネルソンは、たいほうを抱っこしたまま、二人に写真を見せた

 

「うん」

 

「ちってう」

 

「何処にいるかは…」

 

「いあない‼︎」

 

「ないちょ‼︎」

 

ひとみといよは頑なに言おうとしない

 

それ所か、目の前に目標達成もチラつかせ始めた

 

イタズラな小娘だ…

 

そう思うネルソンだが、顔は微笑んでいた

 

子供でさえキチンと約束を守る程、二人は子供達に信頼されている

 

「ねうしぉん、ひめしゃんといっちぉのにおい」

 

「ふあふあ」

 

「ふふ、そうか…」

 

悪い人間には敵対意識を向ける二人だが、ネルソンにはそれを向けていない

 

それ所か、既に少し懐いている気もする

 

結局、ネルソンは横須賀に着くまで三人の子守をする事になった…

 

 

 

 

「おぉ〜‼︎ここが横須賀‼︎」

 

ガンビアが横須賀に着いた

 

岩井達が荷降ろしや積み込みをするのを横目に、ネルソンはたいほうを肩車、ひとみといよを両肩に乗せて降りて来た

 

「よこしゅかしゃんのとこいこ‼︎」

 

「おしゃしんあかるかも‼︎」

 

「れっつご〜‼︎」

 

「うぬ‼︎あぁ、そうだ‼︎岩井殿‼︎」

 

ネルソンは三人を乗せたまま、器用に革の鞄からラム酒を取り出した

 

「見つかるといいですね‼︎」

 

少し離れた場所に岩井がいた

 

ネルソンは其方に向かい、ラム酒を岩井の前に出した

 

「これは礼だ。受け取ってくれ」

 

「仕事の一環ですので」

 

「ほら」

 

「では、有り難く頂戴します。ジェミニ元帥は執務室にいるかと」

 

「うぬ」

 

岩井にラム酒の瓶を握らせ、ネルソンは子供達の誘導で横須賀の執務室へと向かう

 

 

 

 

「ここ、よこしゅかしゃんのおへあ」

 

「うぬ…」

 

目標に近付き、流石のネルソンにも緊張が見え始めた

 

意を決し、扉を叩く

 

「開いてるわ」

 

「失礼するぞ」

 

「よこしゅかしゃん‼︎」

 

「あしぉいにきた‼︎」

 

「あらっ‼︎いらっしゃい‼︎」

 

いつの間にか肩から降りていたひとみといよ

 

しかし、たいほうはネルソンから降りようとしない

 

「ありがとうね、連れて来てくれて」

 

「いや、いいんだ…貴様がジェミニだな⁇」

 

「えぇ、そうよ」

 

「私はネルソン。この二人に用があって参った」

 

胸ポケットから写真を出す

 

「この二人に用があるの⁇」

 

「そうだ」

 

「変な事をしないと約束するなら、呼んであげるわ⁇」

 

「女王陛下に誓って約束する」

 

「分かったわ。少し待ってて」

 

「やったね‼︎」

 

「あぁ‼︎ようやく辿り着いた‼︎」

 

肩車したたいほうと微笑み合う

 

「やったねうしぉん‼︎」

 

「やったねうしぉんら‼︎」

 

「そうだ‼︎やったネルソンだ‼︎」

 

ようやくネルソンは二人に辿り着いた

 

後は待つだけだ



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221話 お尋ね者は誰ですか⁇(4)

一時間後…

 

「よこしゅかしゃん」

 

「ん〜⁇なぁに⁇」

 

「もうおなまえいってい⁇」

 

「いいわよ〜」

 

ひとみ、いよ、横須賀の前では、子供達と遊ぶネルソンの姿があった

 

「クソゥ…何故負けるのだ‼︎」

 

「たいほうのかち‼︎」

 

「ふふ…早霜の勝ち…」

 

「き〜ちゃんの勝ち‼︎」

 

ネルソンは初対面の子供に懐かれている

 

誰かと一緒だ…

 

「ねうしぉん、えいしゃんしゅき⁇」

 

「ん⁇あぁ。そうだな…あの子からしたら、私は叔母になるからな」

 

「あら。スパイトの姉妹なの⁇」

 

ひとみの言葉を返したネルソンの言葉に、横須賀が反応した

 

「うぬ。余は姫の妹だ。ま…色々あるが、そこには触れないでくれ。その内姫が説明してくれると思う」

 

「分かったわ」

 

ネルソンがぎこちない笑顔を見せた後、執務室の扉がノックされた

 

「俺だ」

 

「私よ」

 

「来たわ。開いてるわ‼︎」

 

「えいしゃんら‼︎」

 

「お父様‼︎」

 

清霜やいよ達が来る人の方を向く

 

「母さんまで呼んでどうかしたのか⁇」

 

「ごきげんよう、ジェミニ‼︎」

 

「ひ、姫‼︎」

 

「あらネルソン‼︎来てくれたの⁉︎」

 

スパイトに気付いたネルソンは、すぐにスパイトの足元に寄り、そこで膝を曲げた

 

「このネルソン、遅ればせながら祝言に参りました」

 

「シューゲン⁇」

 

いつも通りの変わらない笑顔のスパイトだが、執務室には張り詰めた空気で満ちていた

 

子供達も大人も、ただただ二人を見るだけしか出来ないでいた

 

「御子息が産まれた一報を耳に入れました」

 

「ネルソン。立って⁇話しにくいわ⁇ジャーヴィスの事ね‼︎」

 

「ジャーヴィス…なんと良い名前‼︎」

 

スパイトの言葉でネルソンは立ち上がり、革の鞄を開けて何かを取り出した

 

「此方が祝いの品になります」

 

「あら。ありがとう‼︎」

 

ネルソンの鞄の中から出て来たのは、子供服やオモチャが沢山

 

そう、ネルソンは知らない…

 

 

 

 

「ネルソン。ジャーヴィスにも会って頂戴⁇」

 

「はっ」

 

「知り合いか⁇」

 

「えぇ、勿論‼︎私の妹よ‼︎」

 

「余はネルソンだ‼︎」

 

ドーンと胸を張るネルソン

 

これだけ見ると嫌な予感がする…

 

「マーカス・スティングレイだ。宜しくな」

 

「ふふっ‼︎そうか‼︎貴方がマーカスか‼︎」

 

ネルソンは持っていた写真を見せた

 

「おぉ〜‼︎懐かしいな‼︎」

 

ネルソンが持っていたのは、俺が軍の広告塔として利用されたあの写真

 

やっぱりいつみてもイケメンである

 

「行きましょう‼︎リチャードにジャーヴィスを預けてるの‼︎」

 

「子供達は私に任せて頂戴」

 

「頼んだ」

 

母さんの車椅子を押し、ネルソンと共に執務室を出た

 

 

 

「マーカス殿。ヒトミ、イヨはマーカス殿の御子息か⁇」

 

「そっ。俺の娘っ。たいほうは俺の隊長の子。清霜早霜も俺の娘だ」

 

「よく教育されている。立派な子だ」

 

「マーカスは子沢山なのよ⁇ねっ⁇」

 

「少子高齢化の歯止めに貢献してるだけさっ」

 

俺と母さんが笑う中、ネルソンは微笑んでいた

 

「そう言えばネルソン⁇貴方ここまでどうやって来たの⁇」

 

「ガンビア・ベイⅡと言う護衛空母に乗艦させて頂きました」

 

「そう。てっきりまたカヌーで来たかと思ったわ⁇」

 

「いいいいやっ‼︎わわわ私がそんな事をする訳はないっ‼︎」

 

母さんから目を逸らし、身振り手振りが大きくなるネルソン

 

「カヌーで来たのね」

 

「イギリスからカヌーで来たのか⁉︎」

 

「まぁ…長年やりたかった事だからなっ‼︎」

 

良い意味でドン引きしていた

 

言われてみれば、手には綺麗な容姿には似付かないマメが出来ていた

 

「何事も経験だからなっ。余は学ぶ事が好きだ‼︎」

 

少しずつ印象が変わっていく

 

当初は昔の横須賀の再来と思っていたが、どうやら違うみたいだ

 

「さっ、ここよ」

 

いつもの店の暖簾を分ける

 

「タコさん美味しいネ‼︎」

 

「唐揚げもあるぞ‼︎」

 

テーブル席にいた、ジャーヴィスと親父

 

ジャーヴィスは口の周りに米粒を付けて、実に美味しそうにお寿司を食べている

 

「この子がジャーヴィスか‼︎」

 

「ウン‼︎ジャーヴィス‼︎お…」

 

「そうかそうか‼︎ふふふ‼︎」

 

ネルソンはジャーヴィスの横に座り、ジャーヴィスを触りまくる

 

そんな事よりジャーヴィスはお寿司に夢中

 

サイドメニューの唐揚げやら枝豆を口に入れ、ずっとモゴモゴしている

 

「姉さんの小さい頃によく似ておられる」

 

流石に気になったジャーヴィスはネルソンを引き剥がし、ジッ…と目を見つめた

 

「お姉サンだぁれ⁇」

 

「余はネルソンだ‼︎」

 

「久し振りだな‼︎結婚式以来か⁉︎」

 

「リチャード殿‼︎これは久しい‼︎」

 

親父とも知り合いの様子だ

 

母さんの妹と言うのは本当のようだ

 

「アークはどうしたアークは」

 

「アークもいるわ。私達の基地にいるの」

 

「クッコロなんだヨ‼︎」

 

「ふふっ…そうかそうか。ジャーヴィスもアークが好きなのだな⁇」

 

アークの存在も知っている様子

 

ひとみといよが懐く、と言う事は悪い奴ではないと確信出来る

 

だが、この女性

 

何か知っている様な表情を時折俺に向けて来る

 

「この辺りに宿はあるか⁇今日は休もうと思うのだが…」

 

「あぁ…なら、横須賀に手配させるよ」

 

急に話し掛けられ、一瞬言葉に詰まる

 

横須賀に通信を入れると、ネルソンの部屋の手配はすぐに出来た

 

横須賀が、昔長門が使っていた部屋ならすぐに使えるからと言ってくれた

 

「ネルソン、また改めてお話しましょう⁇」

 

「畏まりました」

 

「マーカスはどうするんだ⁇今日はこっちか⁇」

 

「そうだな。たまには子供達の相手をするよ」

 

「ヒトミ、イヨ、てぃーほうは預かるわ」

 

「ダーリンバイバイ‼︎」

 

「気を付けてなっ」

 

母さんとジャーヴィスが帰り、三人が残る

 

「じゃっ、マーカス。ネルソンに手ぇ出すなよ‼︎」

 

「分かってらい‼︎」

 

代金を払い、瑞鶴に投げキッスをした後、親父も寮に戻った

 

「行こうか」

 

「うぬ」

 

ネルソンと共に、戦艦寮へと向かう…

 

 

 

 

「マーカス殿」

 

「何か言いたそうだな」

 

寮に向かう道中、ネルソンが急に足を止めた

 

「ここに来るまでに、アレンと言う男に出会った」

 

「アレンがどうかしたのか⁇」

 

「うぬ…預かり物を持っていてな。それを届けに来たのが、もう一つの理由なんだ」

 

「届けてやろうか⁇」

 

「いい…余は、もう一度アレンと話をしたい」

 

ネルソンから笑顔が消え、悲しい表情になる

 

「アレンに惚れたか⁇」

 

「余はアレンとは恋仲だった」

 

あまりにも突然の告白に息が詰まる

 

しかし、ネルソンの本気の目を見て、あぁ、これは本当なんだと理解した

 

「何故別れを突き付けたか、余は知りたい。そして、何故別れた女に”あんな物”を託したのか…」

 

淡々と話すネルソンを前に、何となくアレンが愛宕を選んだ理由が分かった

 

容姿が若干ネルソンと被っているんだ

 

もしそうならば、アレンはネルソンを忘れていない

 

一時期の俺達のように、知らないフリをしていただけだ

 

「あんな物とは⁇」

 

「マーカス殿であれ、見せる事はできない。すまない」

 

ネルソンは胸を隠した

 

おそらく谷間にでも入っているのだろう

 

「まっ。会わせてやるよ」

 

「本当か⁉︎」

 

「ジャーヴィスの礼だ」

 

「よし、なら頼んだ‼︎今度服を買ってやるからなっ‼︎」

 

そう言って、ネルソンは寮に入った…

 

「アレン…か」

 

俺の知らないアレンが一つ見えた気がする…



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222話 Unsung Love(1)

さて、221話が終わりました

ネルソンはアレンと再会を果たします

再会したアレンは、ネルソンに何を思うのか…

そしてまた、幾つかの伏線が拾われます

お楽しみに‼︎


次の日の朝…

 

「よっ」

 

「おぅ」

 

間宮のモーニングで居合わせた俺達二人

 

アレンも俺も同じ物を頼み、相席に座る

 

「アレン。お前に会わせてやりたい人がいるんだ」

 

互いにタバコに火を点け、アレンが俺に顔を近付けた

 

「…別嬪だろうな⁇」

 

「結構」

 

「よし‼︎呼べ‼︎」

 

別嬪と聞いて、アレンは即答

 

早速行動に移る

 

「内線借りるぞ」

 

「は〜い‼︎」

 

間宮の内線を使い、ネルソンの部屋に繋げる

 

「俺だ。間宮にいるから来てくれ。場所は分かるな⁇」

 

《うぬ。ブレックファーストの時間だから、余も頂こう》

 

「アレンを待たせてある」

 

《何っ⁉︎すぐ行く‼︎》

 

ネルソンの方から内線を切った

 

席に戻り、またアレンとの話に戻る

 

「でっ⁇どんな子だ⁇」

 

「一目惚れだとよっ」

 

「モテる男は辛いな‼︎はっはっは‼︎」

 

「アレン‼︎」

 

「はっ…」

 

高笑いをしていたアレンの声が止まる

 

アレンの目線の先には、息を荒くしたネルソンがいる

 

「え〜と、マーカス君。君の紹介したい人って、あの金髪の子⁇」

 

「そうだ」

 

「あっ‼︎そうだっ…俺っ…T-50の整備があるんだったっ‼︎…じゃな‼︎」

 

アレンは口いっぱいにモーニングを詰め込み、最後にコーヒーで流し込んだ後、間宮を出ようとした

 

「アレン…」

 

「…ちょっと来い」

 

顔付きが険しいものになり、アレンはネルソンの肩を抱き、表に出て行った…

 

 

 

 

 

ネルソンを連れ、アレンは砂浜に来ていた

 

「逢いたかったぞ」

 

「分かってる。ありがとう…」

 

互いに見つめ合う等はせず、ただただ水平線を眺めたりしながら、砂浜を歩いている

 

「…冷たい真似して、悪かった」

 

「忘れられたのかと思ったぞ」

 

昨日あんなに笑顔を見せていたネルソンは、すっかりしおらしくなっていた

 

其れ程までアレンを愛している証拠だ

 

「手を繋いでいいか」

 

「あぁ…」

 

アレンの手に、ネルソンの手が絡む

 

「ふふ…」

 

「…」

 

ようやく互いに目を合わせる

 

ネルソンは笑顔を送り、アレンは愛おしそうな笑みをネルソンに送る

 

愛宕にも、アイちゃんにも、ましてやガンビアにも見せないアレンの顔だ…

 

 

 

 

数年前…

 

俺達の記憶にも鮮明に焼き付いている、あの美しい街…

 

ネルソンとアレンはそこで出逢った

 

その街から一番近い基地に防空の為に雇われた俺達は、あの日も空の連中を指揮していた一人の女性と出逢う

 

それがネルソンだ

 

サンダーバード隊はまた別基地に雇われていた為、この関係はレイでさえ初耳だったのはその為である

 

アレンは密かにネルソンと恋仲になっていた

 

それも、深い関係だ

 

アレンにとっては当時、久方振りに出逢った、赤の他人で、自分を必要としてくれる人

 

ネルソンにとっては、自分に初めてアプローチをかけて来た人

 

当時からグラーフは人気者だったが、アレンはネルソンに落ちた

 

そしてあの日、街の灯火管制がネルソンの指揮で一斉に解除され、奪還作戦が始まる

 

真夜中を照らすサーチライト

 

市民が発起し、敵兵から奪取した機銃を、俺達を付け狙う敵機に向けた

 

出撃する寸前、アレンにも不安が過っていた

 

泥沼の戦いになるのは目に見えていた

 

流石のアレンも撃墜されて、死ぬかも知れない

 

そう思ったアレンは、自分が開発していた多数の設計図のデータをネックレスの先端のUSBに入れ、ネルソンに託した

 

そのネックレスが今、在るべき場所へ帰ろうとしている…



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222話 Unsung Love(2)

「これなんだがな。アレンから預かっていた物だ」

 

ネルソンがネックレスを外す

 

ネックレスの先端は谷間へ向かっており、USBはネルソンの谷間にスッポリ隠れていた

 

昨日、レイの前で胸を隠したのはこの為である

 

「護ってくれてたのか…」

 

「うぬ。余は約束を守る」

 

アレンがUSBに手を伸ばす

 

…が、途中で止めてしまう

 

「そのデザイン、好きか⁇」

 

USBはそれとバレない様に凝った加工が施されていた

 

アレンらしく、女の子受けする様な可愛らしいデザインだ

 

ネルソンが「これはネックレスだ‼︎」と言っても、何らおかしくない

 

ネルソンがあれを付けたまま入浴している所を見ると、恐らく防水も施されている

 

「うぬ‼︎余はアレンのアクセサリーが好きだ‼︎」

 

「やるよ」

 

「しかしこれは…」

 

「持っていてくれ。冷たくしたお詫びだ」

 

「ん…」

 

ネルソンはネックレスを付け直した

 

「こうするしかなかったんだ…許してくれなんて言わない」

 

「怒ってなどいない。アレン、余はアレンの事を知りたい。何でも対話は大事だ。違うか⁇」

 

「その通りだ」

 

「一度だけ聞こう。どうして余に何も言わずに別れを突き付けた‼︎」

 

アレンはすぐに答えを返した

 

「あの日死んでいたかも知れない男に付きまとわれるのは嫌だろ⁇」

 

結構真面目に答えたアレンだが、ネルソンの目は点になっていた

 

「…それだけか⁉︎」

 

「それだけだ」

 

「正気か⁉︎」

 

「正気だ」

 

「はっはっはっは‼︎…」

 

立ち止まったネルソンは高笑いをした後、アレンに思い切り抱き着いた

 

「こんな色男、余の方から手放す訳がなかろう」

 

「俺の思い違いか⁇」

 

「全てアレンの思い違いだっ」

 

その言葉を聞き、アレンもネルソンをキツく抱き締めた

 

長い長い抱擁

 

ネルソンにとっては、長年待ち侘びた瞬間

 

アレンにとっては、償いの瞬間

 

アレンにとっての”あの日”が、ようやく終わりを迎えた…

 

 

 

 

「次は離さんからな。良いな、アレン」

 

「うん…そう言えばネルソン。何処に配属になった⁇」

 

「知らんっ‼︎」

 

ネルソンは堂々と仁王立ちで胸を張る

 

「ネルソンに気があれば、横須賀かラバウルに来るか⁇」

 

「うぬ‼︎そうさせて貰おう‼︎カヌーも散々漕いだしなっ‼︎」

 

その日、アレンが横須賀に相談に来たのは言うまでもない…

 

 

 

 

 

数日後…

 

「余がネルソンだ‼︎これから宜しくなっ‼︎」

 

「やったねうしぉん‼︎」

 

「やった‼︎やった‼︎やったねうしぉん‼︎」

 

横須賀に遊びに行っていたひとみといよが、ネルソンの改めた挨拶を受けていた

 

「ネルソン。ひとみといよ連れて朝飯行くぞ」

 

「うぬ‼︎ヒトミ、イヨ、オスシーは好きか⁇」

 

「おしゅし〜しゅき‼︎」

 

「いよもいく‼︎」

 

「よし、行くぞ‼︎」

 

ネルソンの肩に、二人が乗る

 

ネルソンは肩に乗せた二人と手を繋ぎ、落ちない様にしている

 

その左手の薬指には、アレンがずっと渡さずにいた”二つ目の指環”が光っていた…




ネルソン…カヌーのネーチャン

遠路遥々イギリスからカヌーでやって来た凄い人

色々事情はあるが、スパイトの妹

ジャーヴィスのお祝いに来たのもあるが、恋人であるアレンに逢いに来た

結構高貴に見えるが、実は一途で乙女な女の子

子供が好きで、大雑把な料理は出来る

愛宕に劣らずオッパイがデカい。凄いね


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223話 複雑な親娘

さて、222話が終わりました

今回のお話は、アイちゃんとネルソンの悩みと、題名は変わりますが、楽しいお話になります

いきなりラバウルに来たネルソン

他の皆が慣れていく中、アイちゃんだけが少しだけ複雑な思いを抱きます


ある日のラバウル…

 

「ネルソン、ほんっとコーヒー淹れるの上手ね‼︎」

 

「お手伝いも、してくれる」

 

「執務も手助けして頂いてますよっ」

 

「気に入って貰えて光栄だっ‼︎」

 

キッチンに立ったネルソンは、カウンター席に座っている、愛宕、ガンビア、ラバウルさんにコーヒーを淹れていた

 

「ネルソン⁇アレンと上手くやってる⁇」

 

ネルソンは新妻。それも愛宕と言う嫁がいる中で来た

 

「うぬ‼︎愛宕に感謝せねばな。ありがとう、私を受け入れてくれて」

 

「大丈夫よ‼︎アレンの好きな人は、私も大切にしなきゃ‼︎」

 

「アレンには、勿体無い」

 

笑い合う二人の傍らで、ガンビアは嬉しさ半分、申し訳無さ半分の顔をしている

 

愛宕がネルソンを受け入れるには、そう時間はかからなかった

 

言われた時は勿論少しは驚いた

 

だが、すぐに気付いた

 

ネルソンはアレンの大事な人

 

アレンがもう一つの指環を誰にも渡さなかった理由も、愛宕は知っていた

 

その相手を、アレンはようやく連れて来た

 

ならば自分もネルソンを好きになる

 

きっと、私も好きになってくれる

 

たったそれだけの理由で、愛宕はネルソンを受け入れた

 

皆が平和な時間を送る中、アイオワが食堂の前の廊下を通って行った

 

「アイちゃん‼︎ネルソンがココア淹れてくれたわよ‼︎」

 

「いらない」

 

「お、おい‼︎アイオワ‼︎」

 

心配になったネルソンが厨房から出て、アイちゃんに手を伸ばした

 

「Don't touch Me‼︎Nelson‼︎」

 

「あ…」

 

アイちゃんに吠えられ、ネルソンは手を下げた

 

アイちゃんはそのまま何処かへ行ってしまった

 

「すまない…余が悪い…」

 

「気にしない気にしない‼︎アイちゃんはまだ慣れてないのよ‼︎」

 

「ん…だと良いが…」

 

ネルソンはアイちゃんに避けられ、見るからに落ち込んでいた…

 

 

 

 

「Papa」

 

「おぉ、アイちゃん。どうした⁇」

 

格納庫で作業をしていたアレンの所に、アイちゃんが来た

 

「ここに居ていい⁇」

 

「おぉ。いいぞ」

 

アイちゃんは格納庫の隅にあった椅子に座って、下を向き始めた

 

明らかにいつもの快活なアイちゃんではない

 

「どうした⁇」

 

「ン〜ン…なんでもナイ…」

 

「ココアでも飲むか⁇」

 

「ン…」

 

アレンが淹れたココアはちゃんと飲むアイちゃん

 

「PapaはNelson好き⁇」

 

アイちゃんが悩んでいるのを見て、アレンはアイちゃんの前に座った

 

「好きさ。ネルソンといると、何度も生き甲斐を感じた」

 

「Mamaはもう嫌いなの⁇」

 

「それはないな。愛宕も好きさ」

 

アイちゃんはココアを飲みながら、アレンの話を聞く

 

「アイちゃんも分かるさ。絶対に」

 

「ねぇ、Papa。Iowa…」

 

「ん⁇」

 

「ンーン…やっぱりいい」

 

聞きたい事は山程あった

 

だが、アイちゃんは聞けずにいた

 

聞いてしまうとアレンを傷付けてしまうかもしれない

 

そんな気持ちが何処かにあった

 

アレンが作業に戻り、アイちゃんは自室に戻って来た

 

テレビを見ながらボーッと考えていると、部屋の扉がノックされた

 

「ハーイ‼︎」

 

自室に戻ったアイちゃんは元のアイちゃんに戻っていた

 

「あ。アイちゃん。お菓子持って来たんだけど…」

 

来たのは健吾

 

手にはお盆があり、お菓子と飲み物が乗っている

 

「Iowaにくれるの⁉︎」

 

「うん」

 

「OK‼︎Come on‼︎」

 

健吾を自室に入れ、一緒にお菓子を食べ始めた

 

「アイちゃんはネルソン嫌い⁇」

 

「嫌いって訳じゃないワ…ただ…どう接していいのか…」

 

「そっか…迷うよね…」

 

アレンには吐けなかった思いを、健吾にはスッと吐けた

 

他人だからこそ、吐けたのかも知れない

 

アイちゃんはネルソンを嫌いな訳ではなかった

 

ネルソンとどう接して良いか分からないでいた

 

だからさっきもネルソンにキツく当たってしまった

 

「俺、思うんだけどね…」

 

「ウン…」

 

お菓子を食べる手を止めた健吾に反して、アイちゃんは気を紛らわせるかのように口いっぱいに食べている

 

「アレンはきっと、ネルソンに愛情を教えて貰ったんじゃないかな」

 

「NelsonがPapaに⁇」

 

「多分、ね⁇」

 

「じゃあMamaは…」

 

アイちゃんが気になるのは愛宕の事

 

「愛宕は…」

 

「言って、ケンゴ」

 

言いたくなさそうな健吾の顔を、アイちゃんが睨んだ

 

「愛宕はきっと、初めて愛情をくれた人がアレンなんだ」

 

「悪いことじゃない⁇」

 

「全然‼︎逆に立派だよ‼︎俺なんか貰いっ放しなのに、アレンはあげてるんだ。普通の人には出来ないよ」

 

そう聞いて、アイちゃんの顔にほんの少しだけ笑みが戻った

 

アイちゃんからすれば、ネルソンが来たから愛宕が無碍にされると感じていたみたいだ

 

「ケンゴは、アミとヤマトとどうなの⁇」

 

「俺はリードするタイプじゃないから…アレンみたいに色々してあげるってのは、苦手なんだ…」

 

「Iowaにしてくれてるのに⁇」

 

「え…」

 

「Iowa、とっても嬉しいワ‼︎ケンゴがこうして会いに来てくれて、お菓子を食べて、おしゃべりして‼︎」

 

「…こんなので良いのかな」

 

「Of course‼︎特にヤマトは喜んでくれるワ‼︎」

 

「んっ。頑張ってみる‼︎」

 

結局、何方が励まされたのか分からないまま、健吾はアイちゃんの部屋を出た



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223話 その笑顔に、俺は落ちたんだ(1)

題名が変わりますが、前回の続きです

固い題名ですが、内容は楽しい内容になっておりますので、存分にお楽しみ下さい 笑笑


次の日…

 

「愛宕。アレンと少し出掛けてくる」

 

「気を付けてね‼︎アレン⁇ちゃんとエスコートしなさいよ⁇」

 

「オーケー‼︎」

 

昼前にアレンとネルソンが横須賀へ向かった

 

「Mama」

 

「アイちゃん⁇お手伝いしてくれる⁇」

 

「OK‼︎」

 

愛宕と一緒に洗濯物を干し、アイちゃんはネルソンの事を聞いた

 

「MamaはNelson好き⁇」

 

「好きよ〜⁇どうして⁇」

 

「ン〜ン、ならいい‼︎Iowaも好きになる‼︎」

 

「何にも考えなくていいのよ⁇肩の力を抜いて、沢山お話すれば、きっと好きになれるわ⁉︎ネルソンもそう思ってる‼︎もっとネルソンに甘えなさい⁉︎」

 

「ウン‼︎」

 

愛宕はアイちゃんより、アイちゃんの事を知っていた

 

やはり母親は強かった…

 

 

 

 

横須賀に着いた二人は、繁華街へ来ていた

 

「あらアレン‼︎」

 

「お久し振りです」

 

前から来たのはサラ

 

マークから借りたであろうジャケットの下には、パッツンパッツンのTシャツを着ている

 

「初めましてよね⁇私はサラ。ここの基地の元帥の母です」

 

「ネルソンだ。宜しく頼む」

 

「えと…その、サラ…」

 

「ふふっ。Tシャツでしょ⁇」

 

サラは胸元辺りの赤い生地を軽く掴み、巨大な胸を魅せるように離した

 

胸元には

 

南チ''

蛮キ

定ン

''食

 

との文字がプリントされており、おへそ辺りにチキン南蛮定食らしき絵もプリントされている

 

「ダッ…」

 

「ユニークなTシャツだなっ」

 

アレンが次に何を言うか分かっていたネルソンは、目にも留まらぬスピードでアレンの口を塞ぎ、サラのTシャツを褒めた

 

「今、ムッシュでセールしてるから、行ってみるといいわ⁇」

 

「そうか‼︎よしアレン、行くぞ‼︎ではサラ、失礼する‼︎」

 

「またね〜」

 

口を塞がれたのと、ネルソンの眼力に負けたアレンはコクコクと頷き、ネルソンに手を引かれて、サラが来た方向に進んだ

 

「余はユニークだと思うぞ⁇」

 

「ネルソンがそう言うなら…」

 

「よし、そのムッシュとやらに行くぞ‼︎」

 

ネルソンのキラキラした目を見て全てを諦めたアレンは、素直に着いて行く事にした…

 

 

 

「アレンさん、いらっしゃいませ‼︎」

 

ムッシュ・海防に着いたネルソンとアレンは、早速択捉と出会った

 

「ユニークなTシャツがあるらしいな」

 

「あ、はいっ‼︎こちらです‼︎」

 

択捉に案内され、Tシャツのコーナーに来た

 

「ムッシュが作ったんですが…あはは…」

 

択捉から見ても、あのTシャツはダサいみたいだ

 

「ここです」

 

「おぉ‼︎」

 

「おぉ…」

 

ネルソンは目を見開いて喜んでいたが、アレンと択捉はどうしようもない…とでも言いたそうな顔をしている

 

「おいアレン‼︎これは何と読む‼︎」

 

ネルソンが楽しそうに胸元に置き、アレン見せたTシャツに描かれていたのは…

 

お今''

品夜

書の

''き

 

>抱っこ チュー

揉む 食べる

 

 

 

「え、えと…その…」

 

流石のアレンでも目を逸らした

 

「なんだ」

 

ネルソンが聞いているのは、子供が聞く”赤ちゃんはどうやったら産まれるの⁇”レベルで返答し難い質問だ

 

「…夜の部の話だ」

 

「む。そうか」

 

そう言って、ネルソンはカゴに入れた

 

「買うのか⁉︎」

 

「うぬ。パジャマにする」

 

「まぁ…それなら…」



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223話 その笑顔に、俺は落ちたんだ(2)

「これは何と読む⁉︎」

 

''首

速''

 

「ゔっ…」

 

実に反応しづらい文字だ

 

「この文字は何だ」

 

ネルソンはうつむき、Tシャツの文字を見た

 

「ハイウェイだ」

 

「これはやめておこう。おぉ‼︎こいつは気に入った‼︎」

 

た''

3こ

0焼

0き

''円

 

文字の下には、笹舟に乗ったたこ焼きの絵がプリントされている

 

「たこ焼きだ。日本のB級グルメだ」

 

「よし」

 

これもカゴに入れた

 

「そうだアレン。アイオワの服のサイズは何だ⁇」

 

「確か…」

 

「3L」

 

アレンが詰まっていた時、横から誰かが言ってくれた

 

「グラーフ‼︎」

 

後ろに居たのはグラーフだった

 

手には

 

”わたがし”

 

と文字があり、その下に棒付きの綿菓子の絵がプリントされているTシャツを持っていた

 

「確か貴様はサンダーバードの…」

 

そう言いつつ、ネルソンはこっそりアレンに腕を絡めた

 

「そう。グラーフ。宜しくね」

 

「余はネルソンだ」

 

グラーフはちゃんと頷いた後、アレンを見た

 

「アレン、アイちゃんは3L」

 

「そんなデカイのか⁇」

 

「胸、あるから」

 

それを聞いてこのサイズを聞いて、アレンはようやく「あぁ…」と漏らした

 

グラーフは精算を済ますと、すぐにムッシュを出て行った

 

「確かアレンが余に会う前に好いていたと言うのは彼女か」

 

「そう。ずっと昔だけどな」

 

アレンが顔を下げると、ネルソンは上目遣いで軽く顎を下げ、ほんの少しだけ嫉妬し、大半は嬉しい顔をアレンに見せた

 

「アイオワに服を買ってやりたい」

 

「いいのか⁇」

 

「余はもっとアイオワと話をしたい。もっとアイオワを知りたいんだ‼︎これなんかどうだ⁉︎」

 

いつもは頼もしく、勇ましい顔付きをしているネルソン

 

しかしこの時、瞬間、ネルソンはアレンしか知らない乙女で優しい笑顔を見せていた…

 

少し離れた場所にいた択捉と国後でさえ、その瞬間を見た時、アレンさんはあの笑顔に落ちたんだな…と悟った

 

「よし‼︎こいつにしよう‼︎店主、幾らだ」

 

「全部で1400円っ呪」

 

「出すよ」

 

「余が出すと言ったぞアレン」

 

軽く笑みを送り、軽く首を傾げるネルソン

 

たったそれだけでインパクトがあるが、アレンは素直に従った

 

「分かったっ」

 

鼻で息を吐き、軽く微笑みながらアレンは財布を仕舞った

 

「それはプレゼントにしたい。包んでくれるか」

 

「お安い御用っ呪」

 

占守にアイちゃんのプレゼントを包んで貰い、ムッシュを出て来た

 

「アレン」

 

「ん⁇」

 

「余はこれがしたかった」

 

「いつでも来れるさ」

 

「幸せだぞ、アレン」

 

デレデレの顔をアレンに見せるネルソン

 

ネルソンのそんな顔を見てアレンは言葉を失い、ただただ微笑みを返す事しか出来なかった…

 

 

 

 

 

「帰ったぞ‼︎」

 

「ただいま‼︎」

 

「お帰りなさい‼︎ご飯食べましょ‼︎」

 

「アレン、ここ」

 

愛宕とガンビアに出迎えられ、アレンだけが席に座った

 

「お帰り、Nelson‼︎」

 

「うぬっ‼︎ただいまだ‼︎」

 

アイちゃんに出迎えられたネルソンはキチンと返事を返し、プレゼントを前に出した

 

「コレは⁇」

 

「余はアイオワともっと話したい。もっとアイオワ知りたい。だから、すこしだけでいい。時々は余とも話して欲しい…んだ…」

 

「も…勿論よ‼︎Sorry、Nelson…」

 

アイちゃんはネルソンにギュッと抱き着いた

 

こんなにも自分を知ろうとしてくれていた人を突き放していたのだ

 

「謝るのは余だ…混乱させてしまったな…」

 

そんなアイちゃんの頭を、ネルソンはそっと撫でた

 

「そうだ。プレゼントを開けてくれ」

 

「ウンッ‼︎」

 

アイちゃんがプレゼントの袋を開ける

 

「オォー‼︎」

 

中からは紺色のパーカーが出て来た

 

「アハ‼︎可愛い柄ね‼︎」

 

パーカーの胸部分には

 

”たいやき”

 

との文字と絵があり、背中部分には巨大なたいやきの絵がプリントされている

 

「Thank you、Nelson‼︎」

 

「今度は一緒に買いに行こうな」

 

「ウンッ‼︎」

 

こうして、アイちゃんとネルソンの問題は解決に終わった…

 

 

 

 

 

 

 

横須賀では…

 

「うははははは‼︎ダッセェなんだそれ‼︎」

 

「なによ」

 

「服に唐揚げ定食大盛りはねぇだろ‼︎」

 

執務室では、パッツンパッツンのクソTを着た横須賀が真面目に執務していた

 

「外見なさいよ」

 

「どれ…」

 

外を見ると、至る場所でクソTを着た艦娘が歩いている

 

「おおおおお…」

 

もうワンパンチ当てられると膝から崩れ落ちそうな時に、最後にド派手なアッパーをブチ込んで来た子がいた

 

「お帰りなさいませ、創造主様‼︎」

 

「ははははははは‼︎」

 

「創造主様⁇」

 

あの生真面目な親潮もクソTを着ている

 

それもまた

 

”タ

1500円〜”

 

と、絶妙に訳の分からない文字が描かれ、御丁寧にタイヤの絵までプリントされているから、笑いが止まらなくなった

 

この日からクソTはしばらく流行り、しばらく俺の笑いは止まる事はなかった…



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224話 眠り姫(1)

さて、223話が終わりました

今回のお話は、とある艦娘の謎が明らかになります

言われてみれば最初からいて、今の今まで正体が掴めなかった一人の艦娘

果たして誰なのか

そして、結構悲しいお話になります


横須賀、電子の海…

 

「これは…」

 

クラウディアとなった親潮がバグ取りをしていた最中、一つのファイルを見つけた

 

「何でしょう…」

 

クラウディアはそのファイルに手を伸ばした…

 

「あいたっ‼︎」

 

クラウディアの手を弾き返すかの様に、そのファイルは厳重にロックされていた

 

「貴重な資料の様ですね。やめておきましょう」

 

バグ取りを終えたクラウディアが親潮へと戻る…

 

 

 

「おかえり。ありがとね」

 

「定期的にバグ取りはした方が宜しいかと思いまして。メインコンピューターは綺麗にしておきました」

 

「じゃっ、お昼にしましょう‼︎」

 

「はいっ、ジェミニ様‼︎」

 

横須賀とお昼ご飯を食べる為、繁華街へと向かう

 

 

 

 

「おいしい⁇」

 

「はいっ‼︎美味しいですっ‼︎」

 

「んっ、良かったっ‼︎」

 

横須賀と親潮は鳳翔に来ていた

 

お刺身の舟盛りが提供される事を知り、横須賀と共に食べに来たのだ

 

横須賀も親潮も、ほっぺたに大根のつまを付けている所を見ると、美味しく頂いている様子だ

 

「いらっしゃいませ。あらっ、マーカスさん」

 

「よっ。おっ‼︎いたいた‼︎」

 

「創造主様‼︎」

 

レイが来た

 

たまたまではなく、どうも二人を探していたみたいだ

 

「あらレイ‼︎アンタも食べる⁇」

 

「軽くでいい。鳳翔さん、アルコールのないビールと唐揚げを」

 

「畏まりました」

 

「ちょっと私トイレ行くわ。レイ、頼んだわよ」

 

「ん」

 

横須賀が席を立ち、すぐに親潮が口を開いた

 

「心拍数が上昇しています」

 

「え⁉︎あぁ‼︎ほら、あれだ。横須賀といると、色んな意味で血圧上がるからなっ‼︎」

 

「いつもとは違いますが…」

 

「ははは‼︎親潮には敵わんな‼︎」

 

「親潮、何かいけない事を…」

 

親潮には分かっていた

 

レイの異様な心拍数上昇は、恐らく自分が何かしたからだと

 

「…あのデータに触れただろ⁇」

 

「あの…その…気になってしまって…」

 

「怪我してないか⁇」

 

「いえ、親潮は大丈夫ですが…申し訳ありません…」

 

「なら良かった…」

 

そのタイミングでノンアルコールビールと唐揚げが置かれ、親潮は自然と栓を抜き、レイのグラスにビールを注いだ

 

「ありがとう。横須賀に習ったのか⁇」

 

「あ、いえっ‼︎時々早霜様のジュースを開ける際に学びました‼︎」

 

「あっはっはっは‼︎そうかそうか‼︎てっきり横須賀にやらされてるかと‼︎」

 

「ふふ。あの、創造主様。あのファイルは一体…」

 

数秒前まで笑っていたレイの顔が、真面目な顔に変わった

 

「あれは”眠り姫”の心臓なんだ」

 

「眠り姫…」

 

「俺が一番最初に造った”成功したAI”がアイリスだ」

 

「眠り姫様は失敗した…と⁇」

 

「失敗じゃないさ。ただ、ちょっと凶暴過ぎるんだ」

 

「タナトス様よりも、ですか⁇」

 

「タナトスの数倍は凶暴だ」

 

「なるほど…通信です」

 

親潮のタブレットに通信が入る

 

《親潮‼︎タナトスはそんなに凶暴じゃないでち‼︎》

 

タナトスの中にいるであろう、ゴーヤの顔がドアップでタブレットに写る

 

「あわわわわ‼︎ごめんなさいタナトス様‼︎強い、と言う意味で申し上げたのです‼︎」

 

《なら許してやるでち‼︎》

 

一言文句を申した後、ゴーヤはすぐに通信を切った

 

「あいつは地獄耳だからな…」

 

「タナトス様以上…ですか」

 

「そっ。まぁ、俺から言えるのは、眠り姫を叩き起こすなって事だけだ」

 

「ジェミニ様はこの事をご存知で⁇」

 

「あいつがここに置いてくれてるんだ。最初から、ずっとな」

 

「な〜んの話してんのかしら⁉︎」

 

戻って来た横須賀は親潮の横に座って、またお刺身を食べ始めた

 

「横須賀は美人だって話さ。な⁇親潮⁇」

 

一瞬だけ、親潮にウインクを送る

 

「えぇ。ジェミニ様の昔話を聞いていました。今も昔も可愛くて美人だと」

 

「ふふん⁇親潮も分かってるじゃない‼︎」

 

久々に褒められて、大変ご満悦な横須賀

 

食欲に更に拍車が掛かる

 

「俺は別件があるから、先に出る」

 

「気を付けてね」

 

「行ってらっしゃいませ」

 

「ありがとうございました」

 

三人に見送られ、レイは鳳翔を出た

 

 

 

 

工廠の角にある俺専用のPCの前に座り、PCを付け、インカムを付ける

 

「アイリス、いるか⁇」

 

《はいっ、マーカス様》

 

AIの名前表示に”Iris”と出た

 

「”ヒュプノス”の様子を観てくれ」

 

《畏まりました》

 

そう言うとアイリスはすぐにヒュプノスのデータを引っ張り出し、画面に表示した

 

《心拍数及び感情の変化は特にありません》

 

「なら良かった」

 

《時折気になさるのですね》

 

「余程の事が無い限りは触れないさ。ただ、久々にその名を聞いたから、気になってな」

 

《一応、ロックを掛け直しておきます》

 

「頼んだ」

 

アイリスが離れ、俺もPCの電源を落とした

 

これが間違いだったとは、すぐに気付かされる事になる…



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224話 眠り姫(2)

その日の夜…

 

「さっ。今日はもうネンネだなっ」

 

「おやすみ、すてぃんぐれい」

 

「おやしゅみ‼︎」

 

「またあちた‼︎」

 

子供達を寝かせて食堂に戻って来た時、一本の無線が入った

 

こんな時間に珍しい…

 

誰だ⁇

 

「もしもしレイ⁉︎」

 

無線の先は横須賀

 

声を聞く限り、焦っている…

 

「どうした⁇」

 

「基地が大変な事になってんのよ‼︎すぐ来て頂戴‼︎」

 

「分かった‼︎すぐ行く‼︎」

 

無線を切ってすぐに準備をし、大人組がいる食堂に戻って来た

 

「緊急命令だ。ちょっと長引くかも知れない」

 

「分かった。行こう」

 

コーヒーを飲んでいた隊長も着いて来てくれる事になり、二人で横須賀を目指す…

 

 

 

 

横須賀に着き、機体から降りてすぐに執務室へ来た

 

「現在位置は繁華街方面‼︎防衛線を張って‼︎」

 

「バリケード設置部隊は警戒しつつ、作業を行って下さい‼︎」

 

執務室では横須賀と親潮がPCを睨みながら、慌ただしくキーボードを叩いたり、インカムで何かを話している

 

「何があった⁉︎」

 

俺と隊長に気付き、横須賀が此方に目を向けた

 

「あ、レイ‼︎ヒュプノスが起きちゃったのよ‼︎」

 

「ヒュプノスが…」

 

冷や汗が頬を伝う

 

親潮と話した通り、ヒュプノスはタナトスの数倍強い

 

その力を抑える為に、元の凶暴な性格を眠らせてあった

 

その眠りから、ヒュプノスは目覚めた

 

いや、目覚めてしまった

 

「隊長。子供達と艦娘達と地下のシェルターに避難誘導をお願いします」

 

「分かった。レイ、横須賀、無茶はするなよ」

 

隊長が執務室から出た後、親潮の所に来た

 

「申し訳ございません創造主様‼︎」

 

「謝る必要は無いさ。遅かれ早かれ、必ずこの日が来た。ヒュプノスの現在位置は」

 

「はい。現在繁華街方面へ向かって進行中です」

 

レーダーで見ると、ヒュプノスは繁華街から本そこまで来ていた

 

「分かった。教会へ誘導してくれ。横須賀、工廠ではっちゃんを呼んで、お前ははっちゃんと一緒に教会にいてくれ」

 

「わ、分かったわ‼︎」

 

横須賀が出た後、革ジャンを羽織り直しながらもう一度位置を確認し、執務室から出ようとした

 

「創造主様⁉︎何をなさるのですか‼︎」

 

「俺か⁇俺は娘を止めに行く。それだけさ」

 

「では親潮も御一緒に‼︎」

 

正直者で優しい親潮の事だ

 

必ずそう言うと思った

 

「横須賀を守ってやってくれ。頼む」

 

「ですが‼︎」

 

親潮が産まれて初めて反発をした

 

ヒュプノスが目覚めた今、基地が大変な状態になろうとしているのは重々分かっている

 

だが、今親潮が反発をした事が無性に嬉しかった

 

「親潮は聞き分けの良い子だろ⁇」

 

「親潮は…」

 

「自分が悪いと思ってるなら、それは間違いだ。あの子を産んでおいて、放ったらかしにした俺が悪い」

 

「…畏まりました。親潮、ジェミニ様の護衛にあたります。ですが創造主。危機を感じたらすぐに親潮を呼んで下さい」

 

「ありがとう」

 

そう言い残し、ヒュプノスのいる場所へと向かう…

 

 

 

 

「暴れてやがるな…」

 

レーダーの位置に近付くにつれ、施設の一部や防御の為の盾がその辺に落ちまくっている

 

ヒュプノスが目覚めたのは大変マズイ

 

あの子には”あるプログラム”が組み込まれている

 

それを破る術はほとんど無い

 

もしそれが福江の様なシールドなら、まだ策はあったのかも知れない

 

もしあるとすれば…

 

「やけに静かだな…」

 

暴れているはずなのに、横須賀はやけに静かだ

 

「何処だ…何処にいる…」

 

何度も辺りを見回すが、見つかる事はない

 

「いたぞ9時方向‼︎」

 

「これ以上進ませるな‼︎」

 

兵士の声が聞こえた

 

「あっちか‼︎」

 

音が聞こえた反対方向を向いていた為、体を其方に向けた途端聞こえて来る、鉄と鉄とがぶつかり合う音が聞こえた

 

まだ抑えられていないみたいだ

 

いや…抑えられる訳ない、か…

 

急がなければ…

 

その場所にはすぐに着いた

 

「ここをこうすると痛いわよね…あはは…あははははは‼︎」

 

「いだだだだ‼︎」

 

ヒュプノスは一人の兵士の盾を紙の様に丸めて捨て、顔を持ち上げて投げ飛ばしていた

 

「ヒュプノス‼︎」

 

俺の声に反応したヒュプノスは、首だけ此方に向けた

 

「あら。これはこれはマーカスさん。今更なぁに⁇私を止めに来たの⁇」

 

「狙いは俺だろ」

 

「えぇ。勿論。私を産んだのにすぐ眠らせたのですものっ‼︎」

 

話の最中に兵士から手を離し、笑顔でいきなり此方に飛び掛かって来た

 

冷や汗を散らせながら、ヒュプノスを避ける

 

ヒュプノスに触れてはいけない

 

絶対に負ける

 

「やっぱり私を避ける…うふふっ、そう言うのは覚えてるのねぇ⁇」

 

「そのプログラムは俺が作ったからな。それにお前も」

 

「こんな体に産んで頂いて、どうもありがとうございます。最悪の気分です」

 

ヒュプノスの言葉を聞いて、胸が痛んだ

 

今まで好意を向けてくれる子が多かった分、その言葉は突き刺さった

 

「私を消す⁇消したい⁇そうよね‼︎」

 

「ヒュプノス」

 

「なぁに⁇」

 

「俺が憎いか」

 

「えぇ。とっても。だから今から殺すわ。貴方が産んだ子に、貴方は殺されるの。素敵でしょう⁉︎」

 

「着いて来い」

 

ヒュプノスの目を見ながら、その場からゆっくり離れる

 

「あはは‼︎逃げるの⁉︎…逃がさないから」

 

走って来たヒュプノスに合わせ、俺も走る

 

ここで追い付かれたら全てが終わる

 

どうにかして教会へと向かわないと…

 

「マーカス様‼︎」

 

教会の前でははっちゃんが待機していた

 

「数分間だけヒュプノスを頼む‼︎」

 

「畏まりました‼︎」

 

はっちゃんにバトンタッチし、教会に逃げ込んだ

 

「今度はお姉様…お姉様はマーカスさんの味方なのね⁇」

 

「えぇ。はっちゃんはマーカス様の味方です。この先もずっと」

 

「そう。ならお姉様も殺すわ⁇」

 

「ヒュプノス‼︎」

 

「死ねアイリス‼︎」

 

ヒュプノスが飛び掛かり、はっちゃんは防御の体勢に入る…

 

 

 

 

「レイ‼︎」

 

教会に転がり込んだ俺は、息を整えながら待っていた横須賀に目を向けた

 

「ありがとう、ヒュプノスを置いてくれて…」

 

「気にしないで頂戴。私の大切な部下よ。それに、あの子は私達を救ってくれたじゃない」

 

「そうだったな…」

 

「その恩を返しましょう⁇」

 

「分かった…」

 

ここでヒュプノスを迎え撃つ

 

力が無理なら、方法は別にある

 

もし止められるのならば、俺の造った潜水艦全てに当て嵌まる事でやるしかない

 

「行くぞ」

 

「えぇ」

 

横須賀がマイクを持った

 

俺のピアノの音に合わせて、横須賀が歌い始める…



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224話 眠り姫(3)

「あ…」

 

「ちっ…」

 

教会前広場で攻防を繰り広げていた二人が手を止め、中へと入って来た

 

唯一命令として教えてあった、緊急時自分の元へ産み出した子を寄せる方法

 

それを今使った

 

多分基地でもひとみやいよ、ゴーヤとしおいも動いているだろう

 

「…」

 

はっちゃんがヒュプノスの顔を見たりして動ける中、ヒュプノスは動けないでいた

 

目覚めて初めて聞く、美しい声に魅入っていた

 

「おはよう、ヒュプノス⁇」

 

「…おはようございます」

 

嫌そうに横須賀の言葉に答えるヒュプノス

 

ヒュプノスはすぐに俺に目を向け、拳を握り締める

 

「ねぇ、ヒュプノス⁇私、一つだけ教えて欲しいの」

 

「それを答えたらマーカスさんを殺すわ…なぁに⁇」

 

「どうしてあの日、私達を救ってくれたの」

 

「…」

 

横須賀がそれを聞いた途端、ヒュプノスは下を向いた

 

「自分が標的になってレーザーなんて落とされたら死ぬかも知れないのよ⁉︎」

 

「そんなの…そんなの気分よ。私には”絶対防御”があるもの」

 

ヒュプノスに勝てないのはこの絶対防御の為だ

 

攻撃を予測し、一番的確な回避方法を瞬時に計算、回避する

 

ヒュプノスはそれを最大限に使い熟せる

 

普通の攻撃なら、まず当たらない

 

「ありがと、ヒュプノス。私達を護ってくれて」

 

「やめて‼︎」

 

横須賀の言葉に、ヒュプノスは首を横に振った

 

「はっちゃんからもお礼を言います。ありがとうございます」

 

「やめてやめてやめて‼︎私、感謝される筋合い無い‼︎」

 

何度も首を横に振り、少し怯えた表情を見せるヒュプノス

 

それでも俺の方を向いた

 

少しだけ、元に戻っているのかも知れない

 

今此方を向いたのは”私、どうしたらいいの⁇”の答えを聞く為なのかも知れない

 

「ありがとな、ヒュプノス」

 

「いやいやいやっ‼︎貴方から感謝されるなんて…」

 

いきなり感謝の言葉を三人から向けられ、ヒュプノスはフラフラになりながら長椅子に座った

 

「まだ、マーカス様を殺したいですか⁇」

 

「…話ぐらいは聞いたげるわ」

 

「マーカス様っ」

 

はっちゃんに言われ、ヒュプノスの前に座った

 

「ごめんな、ヒュプノス」

 

「…私は失敗作よ」

 

やはり気にしていた、自分は失敗作だという事

 

「そんな事はない」

 

「だったら‼︎どうして私を眠らせたの⁉︎」

 

ヒュプノスの頭に手を伸ばす…

 

ヒュプノスはビクッと反応をし、一瞬下がった後、頭を前に戻した

 

一時的に絶対防御を切ったヒュプノスの頭に手を置き、それを撫でた

 

「ヒュプノスは暴れん坊さんだったからな…でも、今日のを見て分かったよ」

 

「…何を」

 

「人を殺してないだろ」

 

ヒュプノスより前に、横須賀がハッ‼︎とした

 

確かに物は破壊したが、人は殺してはいない

 

「…おと…貴方がそう言ったからよ」

 

ヒュプノスは何かを言いかけたが、すぐに飲み込んだ

 

「ヒュプノスは偉いな」

 

「…偉くなんかないわ」

 

「お前は初めて、俺が造ったカプセルから産まれて来た子なんだ。無碍にはしたくないんだ」

 

頭を撫でつつ、ヒュプノスの目を見る

 

ヒュプノスもそれを見返している

 

その目は既に暴れん坊のヒュプノスではなく、一人の”艦娘”に戻ろうとしていた



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224話 眠り姫(4)

「…どうすればいいの⁇どうしたら貴方は…私を見てくれるの⁇」

 

眠っていても、ヒュプノスはずっと自分を見て欲しかった

 

その答えをようやく返す日が来た

 

「大丈夫。ずっと見てるよ」

 

「そう…良かった…」

 

「ヒュプノスは何が好きですか⁇」

 

はっちゃんの質問を、ヒュプノスはすぐに返した

 

「お歌を歌いたいの…あのね、みんなでお歌、歌いたい…」

 

落ち着いて来たヒュプノスは、段々まぶたが落ちて来ていた

 

「よしよしっ‼︎お歌歌おうな‼︎」

 

もう一度眠ってしまう前に、良い思い出を作って眠って欲しい

 

ヒュプノスの両手を持ち、両脇にはっちゃんと横須賀が座る

 

「くまさんのお歌歌いましょうね⁇」

 

「うん…」

 

そして、童謡を口ずさむ

 

はっちゃんも

 

横須賀も

 

俺も

 

ヒュプノスが眠るまで歌い続ける

 

ヒュプノスは知能が低い

 

知っている歌も、童謡位しか知らない

 

理由は簡単だ。眠らせて、何も経験させなかったからだ

 

くまさんの歌を歌い、ひよこの歌を歌い、シャチの歌を歌っていた時、ヒュプノスの首がゆっくりと落ちた

 

握り返す力も無くなったヒュプノスの手を握り締め、横須賀はヒュプノスの頭を撫でた

 

「まだ起きています。何か言葉を当てるなら今です」

 

はっちゃんの言葉で、ヒュプノスの頬に手を当てた

 

「ヒュプノス、分かるか⁇お父さんだぞ⁇」

 

「おとう…さん…」

 

「もう一個だけ…もう一個だけお歌歌いましょう⁇ねっ⁇」

 

「おかあさん…」

 

「ん⁇なぁに⁇」

 

「ヒュプノスね…」

 

次に発した、か細いヒュプノスの言葉で、俺の時間が止まる

 

目を見開いた途端、涙が頬を伝った

 

最後の最後にギュッと握り返してくれたヒュプノスの手が落ちた時、一気に涙が溢れた

 

「よく頑張ったなっ…」

 

「偉いわヒュプノス…みんなでお歌歌えたね」

 

「頑張りましたね…」

 

ヒュプノスは再び眠りに着いた

 

教会からヒュプノスを運ぶ為、俺は産まれて初めてヒュプノスをおんぶした

 

「ヒュプノスは軽いな〜」

 

「いっぱいご飯食べなきゃね〜」

 

「はっちゃんとお菓子食べましょう」

 

道中、三人共、眠ったヒュプノスに話し掛けていた

 

ヒュプノスは愛情も知らぬまま、今日まで生きて来た

 

そして今日、産まれて初めて愛情を知った

 

「おやすみ、ヒュプノス…」

 

「ゆっくり休んでいいのよ…」

 

ヒュプノスに布団を被せ、悲しい夜が終わりを迎えた…

 

 

 

 

 

「マーカス様…」

 

「すまん。今夜は一人にしてくれ」

 

「畏まりました」

 

すぐに察してくれたはっちゃんは一礼した後、横須賀の所に行った

 

「はっちゃん。カップラーメン食べましょ⁇」

 

「はい」

 

後片付けは朝になってから妖精とすればいい

 

今は、一人になりたい

 

風の冷たさが身に染みる外を歩き、室内プールに着いた

 

ここなら一人になれる

 

プールの縁に座り、ズボンのまま足を浸けた



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224話 眠り姫(5)

「…」

 

月明かりが差し込むプールに、俺の顔が映る…

 

ヒュプノスが暴れ出した理由は分かった

 

雁字搦めに掛けたロックに怒り心頭し、力任せに解いてしまった

 

そして、ヒュプノスが最後に言った言葉を思い出していた

 

”貴方に触れたくて、貴方とお話ししたくて、貴方を見たくて、私は産まれて来たの”

 

ヒュプノスの些細な願望を全て無視する事を俺はしてしまった

 

ヒュプノスは俺が産み出した、一番最初の艦娘だ

 

それも、狙って出来た訳ではなく、偶然産まれて来た

 

造りかけのAI、造りかけのボディが何らかの反応を起こし、ヒュプノスは産まれた

 

理由は今でも分からない

 

人間と同じ体の構造、同じ摂取方法、同じ生殖方法を持つその姿を初めて見た時は驚いた

 

そして、ずっと隠していたのには訳がある

 

ヒュプノスは確かに暴れん坊だ

 

しかしそれは表向きの理由であり、本当の理由は、国から隠す為でもあった

 

今でさえ艦娘は周知されているが、一昔前に人工的に命を産み出した事が表に出れば、国や機関は必ず動き出し、反対活動をする

 

その時の事を考えると、あまりにもヒュプノスが不憫だった

 

だから俺は、AIであるヒュプノスを眠らせた

 

簡単な話だ。ヒュプノスをスリープ状態にすれば良かった

 

ヒュプノスの事から、他のAIの子達は、二度と同じ事がない様にスリープ状態に出来ない仕様になっている

 

唯一スリープ状態に出来るAI

 

そこから付けた名前が”ヒュプノス(眠り姫)”だった

 

何も知らないまま眠っていれば、外部に漏れる事も、辛い事を知る事もない

 

そしてここでもう一度不思議な事が起きた

 

眠らせたはずのヒュプノスが起きたのだ

 

今度は暴れん坊では無く、人懐っこい性格で

 

これも理由は判明してはいないが、ヒュプノスは恐らく二重人格だったのかと思う

 

AIはイレギュラーが多い

 

良くも悪くも、な…

 

ヒュプノスを二重人格と仮定して、起きたもう一つの人格は子供っぽく、イタズラ好きな普通の女の子だった

 

俺はその子を横須賀に置き、一つだけ命令を出した

 

”お前の自由に生きるんだ。俺も横須賀も、お前を支える”

 

俺がそう言うと、ヒュプノスは横須賀の手を借りながら、自分で道を探して生き始めた

 

本当は何度も話し掛けようかと思った

 

だが、いつも社交的な会話で済ませてしまっていた

 

もっと話さなければならなかったのだろうな…

 

眠らせた方のヒュプノスが目覚める恐れが、何処かにあったのだろうな…

 

まだまだだな…

 

…ただ、一つ気になる事があった

 

ヒュプノスには対抗策として、もう一つ対になるAIを産み出した

 

その子はヒュプノスと対話をし、ヒュプノスの感情を安定させる能力があった

 

しかしその子は知性を子供に造りすぎてしまった挙句、イタズラ半分で逃げ出し、とうの昔に何処かへ消えてしまった

 

今、何処にいるのだろう…

 

あの子も自由に生きているといいな…

 

人に縛られずに…な…

 

AIだって命だ

 

生命は必ず道を探し出す

 

そう信じてる…

 

プールから足を出し、俺は施設を出た…

 

 

 

 

何処かの基地…

 

「ニムムムム…」

 

自分の生きる道を探し出したAIが、幸せそうに眠りに就いていた…

 

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「くぁぁぁあ〜…う〜ん…」

 

横須賀基地の部屋で、少女が目覚める

 

「…あれぇ〜⁇昨日なにしてたの⁇」

 

昨日の記憶がスッポリ抜けた少女は、少し考えた

 

「まっ‼︎いいの‼︎済んだ事考えても仕方ないの‼︎」

 

少女は朝ごはんを食べ、身嗜みを整えた後水着に着替え、プールに来た

 

「おねあいしあす‼︎」

 

「およぎたい‼︎」

 

「今日も頼むで‼︎」

 

「今日はクロールであります‼︎」

 

四人の生徒の前で、少女は八重歯を見せて微笑んでこう言った

 

 

 

「は〜いっ‼︎イク、行くの〜っ‼︎」



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225話 炎の拳(1)

さて、224話が終わりました

今回のお話は、ファイアクラッカーこと園崎のお話です

園崎がしているスポーツは何なのか…

そして、とある艦娘の過去が明らかになります


「はいっ。今日はこの辺りにしましょうか」

 

「「「ありがとうございました‼︎」」」

 

ヤマシロの授業が終わり、子供達がそれぞれの基地に戻る

 

ヤマシロはそれを見送りに外に出ていた

 

「あっ…」

 

「おかえりなさい」

 

哨戒飛行を終えた園崎が帰って来た

 

「た…ただいま戻りました」

 

ヤマシロはただただ笑みを送る

 

園崎はヤマシロを見て、頬を赤らめる

 

「じ、自分、今から間宮でコーヒーでも頂こうかと…」

 

「一緒していいかしら」

 

「ヤマシロさんがよければ」

 

二人は間宮へと向かう

 

その足取りは、互いにほんの少し横間隔開けてはいるが、横一列に歩いている

 

何も言わない

 

何も要らない

 

純粋な、プラトニックな愛がそこにはあった

 

二人はこうして週に一度は時間を作り合い、一緒に居られる時間を作っていた

 

間宮に入ってもそれは変わらず、時折微笑み合ってはコーヒーを飲む

 

園崎もヤマシロも、それだけで良かった

 

「では、自分はこれで」

 

「また一緒しましょう」

 

別れ際、ヤマシロは園崎の胸に抱かれ、愛おしそうな顔をした後、小さく手を振る

 

大人なヤマシロが一瞬見せる子供の様な顔を見る度、園崎はヤマシロに落ちて行った…

 

 

 

幾度目かの逢瀬…

 

この日、ヤマシロは園崎に話し掛けてみた

 

「そういえば、ここに入った理由を知らないわ」

 

「大した事じゃありませんよ」

 

「聞かせて」

 

園崎は、久々の話が出来るなら良いか…と思い、口を開いた

 

「あれは…」

 

 

 

園崎がサンダース隊に入隊する数ヶ月前…

 

園崎はあるスポーツをしていたが、素行が悪く、誰彼構わず当たり散らしてはカツアゲの様な行為を繰り返していた

 

そんな事を続けていたある日、ある人物に因縁を付けてしまった

 

園崎はいつもの様にカツアゲをしようと目論んだ

 

ただ、それが間違いだった

 

園崎は、やっているスポーツを駆使してその人物に挑んだ

 

結果、たった一発のパンチでノックダウン

 

園崎は地面に膝を落とした

 

今まで何度も挫折をさせられ、そのまま放ったらかしにされ続けた人生を送って来た園崎

 

今度もまた、そうなると思った

 

しかし、彼は違った

 

お前、中々見所があるな。俺の基地に来ないか⁇

 

そう言って手を差し伸べてくれた人が、横須賀に居た

 

園崎はその言葉を信じてみる事にした

 

「大尉も勿論尊敬してます。ですが、自分はやはりあの人が…」

 

「色々あったのね」

 

「自分は人生をやり直すと決めました。もし、もう一度やり直せるならば、次は”これ”を、護る為に使いたいんです」

 

そう言って、園崎はテーピングを施した右手を見せた

 

園崎は元ボクサー

 

素質はあったのだが、誰も認めてくれなかった

 

そんな中、自分をコテンパンに打ち負かした挙句、自分の腕を見込んでくれた人が居た

 

その人は…

 

「じゃっ、スパイト‼︎行ってくるよん‼︎」

 

「気を付けて帰るのよ⁇」

 

大尉の母親であるスパイトが、屈んだ一人の男性の襟を直している

 

「中将‼︎お疲れ様です‼︎」

 

男性の存在に気付いた園崎はすぐに立ち上がり、一礼した

 

「おっ‼︎園崎‼︎どうだ⁇ボクシングの調子は‼︎」

 

「中将に言われた通り、次は然るべき時まで鍛錬を重ねています」

 

園崎を見込んだ人とは、リチャードの事

 

いつもふざけた行動ばかりしているが、航空機の操縦と、腕力だけはかなり強い

 

「んっ‼︎よろしい‼︎またいつでも相手してやるからな〜バイバ〜イ‼︎スパイト‼︎バイバ〜イ‼︎」

 

スキップで間宮を出るリチャードを見て、スパイトは手を小さく振り、園崎とヤマシロは小さく一礼した

 

「あ⁇ちょっと待てぇ〜…」

 

きそウォークをしながら、リチャードが戻って来た

 

「…出来ちゃった⁇」

 

「はい」

 

「一人私にお譲り下さい。中将」

 

まさかのヤマシロの告白

 

間宮にいた全員が、自然とそっちを向いていた

 

「いいねぇ‼︎悪さしないと約束して、園崎が良いって言えばオッケー‼︎じゃね〜‼︎」

 

リチャードはそれだけ確認すると、任務に向かった

 

「貴方がソノザキね⁇」

 

「はいっ、スパイトさん。いつもお二人にお世話になっています」

 

「話はマーカスから聞いてるわ。リチャードはあまり、自分のした事を言わないから…」

 

「中将に拾われて、大尉に着いて行って、自分は変われました。隊の他の連中も同じ思いです」

 

「たまにはリチャードもいい事するのね‼︎またお逢いしましょう⁇See you‼︎」

 

スパイトも間宮を出た

 

スパイトを見送り、園崎は視線をヤマシロに戻した

 

「自分を嫌いになりましたか⁇」

 

「嫌いにならないわ」

 

「そう…ですか」

 

「私の話もするわ。聞きっぱなしはいけない」

 

「お願いします」

 

ヤマシロは園崎に全てを話した

 

自分が深海であった事

 

過去に罪を犯した事

 

教え子に銃口を向けた事

 

そして、教え子を本気で殺そうとした事

 

全て、園崎に話した

 

「嫌いになったでしょう。そんな女なのよ、私」

 

「構いません」

 

園崎はヤマシロの顔をジッと見つめた

 

「お互い背負うべき物があるからこそ、惹かれたのかも知れません。現に自分はそうです」

 

「そうね…」

 

この時、ヤマシロは何も言わなかった

 

だが、確実にヤマシロの考えが変わった瞬間であった

 

悪い彼、騙されていた自分

 

それが今、自分と同じ道を歩んでくれると言ってくれる彼に変わった

 

「出ましょうか。自分はこれからトレーニングなので」

 

「えぇ」

 

二人が間宮から出る

 

その時、間宮にいた人物は皆同じ思いを抱いていた

 

あの二人ならこれから先紆余曲折あろうが、必ず何方かが支え合うだろう…と



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225話 炎の拳(2)

園崎のボクシングの腕は、横須賀に来てから異常に強くなっていた

 

理由は明白

 

周りが強過ぎるのと、教え方が上手い連中が多いからだ

 

「ハァーイ‼︎ソノザキ‼︎」

 

「イントレピッドさん」

 

リングでスパーリングをしていた園崎は、ノールックで右ストレートで相手のノックダウンをとり、リング外のイントレピッドの所へ来た

 

「つ、強い…」

 

「ありがとうございました」

 

「こちらこそ‼︎また頼むよ‼︎」

 

ここに来てから、園崎は礼儀を重んじるようになった

 

「貴方、大分強くなったわね⁇」

 

「皆さんのお陰です」

 

「じゃあ〜…私とやろっか‼︎」

 

「女性は殴らない主義です」

 

「大丈夫大丈夫‼︎私怪我しないから‼︎あっ、そうだ‼︎私に勝てたら〜…好きな事させてあげるっ‼︎」

 

そこまで言われて、園崎の闘志に火が付いた

 

「言いましたね…分かりましたっ‼︎」

 

上着を脱ぎ、上半身スポーツブラの姿になり、グローブを嵌めたイントレピッドがリングに上がる

 

園崎は礼をした後、グローブを構えた

 

イントレピッドは礼を返した後、その場で軽く飛び始めた

 

「あら…」

 

リチャード達を落とした巨乳がユサユサ揺れるが、園崎はイントレピッドの目を見ている為、悩殺は意味をなさなかった

 

ゴングが鳴り、園崎がイントレピッドに近付く…

 

と、同時に園崎はリングの上に膝を落とした

 

「え…」

 

イントレピッドの右ストレートが顔面に直撃したのだ

 

その場にいた全員が一瞬の事過ぎて、何が起こったか分らずにいた

 

「だぁーっ‼︎イントレピッド‼︎」

 

「ハァーイ‼︎リチャード‼︎」

 

頭を抱えたリチャードが入って来た

 

イントレピッドは健気にリチャードに手を振っている

 

「ダメだろボクシングしちゃ‼︎」

 

「むーっ‼︎たまにはいいでしょ⁉︎動かないとデブになるわ⁉︎」

 

「ソノザキ‼︎大丈夫か⁉︎」

 

「一体なにが…」

 

リチャードに抱えられ、園崎は立ち上がった

 

「イントレピッドは向こうで女子ボクシングのチャンピオンなんだよ‼︎」

 

「本当ですか⁉︎」

 

「ふふふふふ…」

 

いやらしく微笑むイントレピッド

 

「俺の部下をノビさせるな‼︎」

 

「ならリチャード相手して頂戴⁇強いのは空とベッドの上だけ⁇」

 

「うぬぐぐぐ…」

 

イントレピッドと関係を持っていた事が明らかになった

 

どうやら、本当に付き合ってはいた様だ

 

「どうなのリチャード」

 

「うぬぐぐ…分かった‼︎ちょっと待ってろ‼︎」

 

リチャードは園崎を立たせた後、一旦リングから降りた

 

「Sorryソノザキ…つい本気を…」

 

「いえ…油断大敵と言う言葉を忘れていました…中将とはお付き合いを⁇」

 

「えぇ。ちょ〜っと根に持ってるの…」

 

イントレピッドの笑顔が怖く感じた

 

「おっしゃこーい‼︎」

 

グローブを着けたリチャードが来た

 

「Come On‼︎リチャード‼︎」

 

リチャードがリングに上がり、ゴングが鳴る‼︎

 

「リチャードっ‼︎どうしてっ‼︎私とっ‼︎別れたのっ⁉︎」

 

「あいつをっ‼︎守らなくちゃっ‼︎ならんからだっ‼︎」

 

空前の様な凄まじい攻防がリングで繰り広げられる

 

「私の事嫌いになった⁉︎」

 

「嫌いじゃないさ‼︎」

 

園崎はその二人をずっと眺めていた

 

自分を一撃で打ち負かした人が目の前に二人もいるのだ

 

3分後…

 

「私と別れてどうよリチャード」

 

「とても残念だと思いましゅ…」

 

ボッコボコにパンチを入れられ、リング上で正座させられ、シュンとしたリチャードがいる

 

「言い訳しない⁇」

 

「しましぇん…」

 

「まっ‼︎いいわっ‼︎リチャードボッコボコに出来たし‼︎今日は許したげるっ‼︎」

 

「ありがとうございました…」

 

「え⁇何て言ったの⁇聞こえないわ⁉︎」

 

聞こえてるはずなのに、ワザと聞こえないフリをし、グローブを付けたまま耳を傾げるイントレピッド

 

「あ…あ…アイダホ娘‼︎」

 

リチャード、最後の反撃

 

「よしっ‼︎リチャード‼︎今日は貴方をボッコボコにするわ‼︎」

 

イントレピッドは笑顔でグローブをバンバン鳴らし、リチャードに近付く

 

「よしっ‼︎ソノザキ‼︎イントレピッドの戦い方を見たな⁉︎」

 

「…嘘ですよね」

 

「リチャード⁇部下に振るのは良くないわ⁇」

 

「私が相手する‼︎」

 

出入り口から現れたのは…

 

「キヨシモ‼︎」

 

「き〜ちゃん強いよ‼︎」

 

出入り口には、グローブを付け、腕を組んだ清霜がいた

 

「あはははは‼︎いいわ‼︎かかってきなさい‼︎」

 

イントレピッドは内心舐めていた

 

こんな小さな子に私が負けるはずない。と

 

「止めて下さいよ中将‼︎」

 

流石の園崎も止めに入る

 

「キヨシモ。やめるか⁇」

 

「やるっ‼︎」

 

しかし清霜のやる気は満々

 

「清霜ちゃん‼︎ボクシングした事は⁉︎」

 

「ないっ‼︎でもさっき見たから大体分かった‼︎」

 

「中将。止めましょう‼︎」

 

「やってやれキヨシモ‼︎」

 

カーンとゴングが鳴る

 

「…仕方ないっ‼︎」

 

試合中のリングは神聖な場所

 

自分が入って良い場所ではないが、今は緊急事態だ

 

園崎はリングの縁に手をかけ、登ろうとした

 

「おじいさまの言うこと聞かない人は…誰だぁーーーっ‼︎」

 

園崎が止めに入ろうとした瞬間、リング上に倒れて行くイントレピッド

 

「カンカンカーン‼︎試合終了ーっ‼︎」

 

「き〜ちゃんの勝ちっ‼︎」

 

嬉しそうにガッツポーズをする清霜の傍らで、園崎は腰を抜かしていた

 

「何て無謀な…」

 

園崎はしっかり見ていた

 

清霜は開始直後、イントレピッドの懐に入り、まずはボディに右フック

 

その後ジャンプし、顔面に左フック

 

そして最後に掛け声と共に右アッパーを顎に直撃させていた

 

「流石はリチャードの孫ね…次は本気で行くわ‼︎」

 

「キヨシモ。どうする⁇」

 

「やるっ‼︎」

 

園崎は開いた口が塞がらないまま、何も言えずにいた

 

自分の拳は、一体なんだったのか…

 

ゴングが鳴り、再び始まる二人の試合

 

「えっと…確かイントレピッドさんのやってたのは…」

 

ボソボソ言う清霜を前に、イントレピッドはどんどん近付いてくる

 

「よいっ、しょっ‼︎」

 

再び倒れるイントレピッド

 

今度は完璧にダウンしている

 

「き〜ちゃんの勝ちっ‼︎」

 

清霜は高身長なイントレピッドを前にジャンプして飛び上がり、いつもの笑顔で子供らしい清霜の笑顔が消え、一瞬本気の顔を見せた後、渾身の右ストレートをイントレピッドの顔面に当てた

 

横で見ていた園崎は、清霜を”カッコイイ”と思い始めていた

 

自分より遥かに身長が高い強大な相手に少しも臆する事なく、清霜は突っ込んで行き、勝利を掴み取った

 

自分には無いカッコ良さだ

 

「はっ…‼︎」

 

軽く飛んでいた意識から目覚めたイントレピッドの前に、清霜が来た

 

「楽しかった‼︎ありがとうございますっ‼︎」

 

「貴方強いのね‼︎気に入ったわ‼︎此方こそありがとう‼︎」

 

「楽しかった…」

 

清霜はボクシングを楽しんでいた

 

園崎は忘れていた…

 

そっか。少しボクシングを重荷に感じていたんだ、俺…

 

楽しまなきゃダメだな‼︎

 

清霜ちゃんみたいに‼︎

 

リングから清霜を肩車したイントレピッドが降りて来た

 

「キヨシモ。誰に習ったんだ⁇」

 

「おじいさまとイントレピッドさんのやり方見てただけ‼︎」

 

「見てただけ⁉︎」

 

「うんっ‼︎」

 

「ふふっ。それは敵わないわねっ…」

 

清霜の事で笑い合う二人を見て、もしかしたら夫婦になっていたかも知れない二人を少しだけ垣間見た園崎

 

案外お似合いだったのかと思う傍らで、リチャードはやはり尻に敷かれるタイプなのか…と思っていた

 

「楽しむ、かっ」

 

そんな三人を見て、園崎は自分の右手を見て微笑んでいた

 

 

 

その後、園崎がまた少し強くなったのは言うまでもない…




園崎…ボクサーパイロット

サンダース隊三番機、ファイアクラッカー

少し前までヤンキーだったのを、リチャードが引き抜いて来たスポーツ刈りの青年

横須賀に来てから素行が良くなり、パイロット技術も高い

負けの経験を次に活かせる結構凄い奴

現在清霜に弟子入り志願中


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226話 ホワイトブレンド(1)

さて、225話が終わりました

今回のお話は、また一人新しい子が出てきます

リベッチオパスタに来た隊長とマーカス

そこで出逢ったのは、見慣れた少女だったのだが…⁇


「いらっしゃいませぇ、リベッチオパスタにようこそ〜」

 

久々に隊長と共に横須賀に来た

 

リベッチオパスタに入り、リットリオとリベッチオを様子を見るためだ

 

「カルボナーラと…隊長はどうする⁇」

 

「ナポリタン一つ」

 

「…兄さんまで」

 

厨房に戻る時、リットリオは嫌そうな流し目で隊長を見た

 

普段ほんわかしているリットリオだからこそ、流し目は怖い

 

「ナポリタンに恨みでもあるのか…」

 

「祖国のパスタじゃないからだろ⁇ほら」

 

メニューの横にある小さな立て札を隊長に見せた

 

”ナポリタン、嫌々始めました

 

ナポリタンは祖国のパスタではありません。どうしても、と言う方に嫌々始めました

 

380円もします”

 

「こりゃよっぽど嫌だな」

 

「お待たせしましたぁ〜。はいっ、マーカスさんっ」

 

リットリオがパスタを持って来た

 

コトッ

 

俺の前にカルボナーラが置かれる

 

「はい」

 

ドンッ‼︎

 

ナポリタンが隊長の前に置かれる

 

ついでに俺と隊長の肩もビクッ‼︎と上がる

 

怒るリットリオに対し、どちらもかなり美味そうだ

 

「兄さんが祖国に反旗を…リットリオは悲しいです」

 

「リベッチオはどこだ⁇」

 

人の話を全く聞いていない隊長を見るのはかなり珍しい

 

「あちらに」

 

「ナポリタン2つですね‼︎少々お待ち下さい‼︎」

 

「またナポリタンだと…」

 

リットリオは握り拳を握り締め、下唇を噛み締めている

 

いつものリットリオはもういない様な、とてつもない怒りの形相を一瞬見せた

 

「ナポリタン2つ入りま〜す‼︎」

 

「はぁ〜い」

 

注文が厨房に来たリットリオは元の優しい顔に戻った

 

「ではまた〜」

 

俺も隊長も食べながら手を振り、リットリオを厨房へと見送る

 

「見たか⁇あのリットリオの顔…」

 

隊長が顔をテーブルの真ん中に近付けて話して来た

 

「次からナポリタンはやめた方が良いかもな…」

 

俺も同じ様にして、そう言った時だった

 

ストッ‼︎

 

「ワォッ‼︎」

 

「おぉぉぉぉ…」

 

ビィィィン…

 

テーブルの真ん中にフォークが突き刺さり、微細動していた

 

「ごめんなさい兄さん。手が滑ってしまいましたぁ」

 

リットリオの笑顔が怖い…

 

「分かった‼︎分かったよ‼︎ミートソース一つ‼︎」

 

隊長がそう言うと、リットリオの顔がパァッと明るくなった

 

「はいっ、兄さんっ。祖国へおかえりなさいっ」

 

「私がナポリタン頼むと売国奴扱いか…気を付けなければ…」

 

そう言って、隊長が苦笑いする

 

パスタの国の艦娘は怒らせると怖いな…

 

 

 

「食った食った‼︎」

 

「やっぱ美味いな‼︎」

 

結局ミートソースパスタは二人で分けた

 

かなり満腹になり、表に出て来た

 

表に出て早速タバコに火を点けていると、俺達の足元を通過して行く三輪車が来た

 

俺も隊長も黙ってそれを目で追う

 

三輪車の後ろには紐で括り付けられた荷台があり、何やら食材らしき物が乗っている

 

「リベッチオの2Pカラー…か⁇」

 

「白いリベッチオだったな…」

 

白いリベッチオは三輪車を降り、三輪車から荷台の紐を取り、それを掴んで荷台を引いた

 

「持って来ました‼︎」

 

入って行ったのはリベッチオパスタ

 

白いリベッチオが荷台の物をリットリオに渡すのを見て、俺達二人はその場に屈み込んだ

 

「分かった。リベッチオの亜種だ」

 

「リベッチオのアルビノかもな…」

 

「白いリベッチオなんて聞いた事あるか⁇」

 

「報告書には無かったはず…」

 

タバコを吸いながら、結構真面目に白いリベッチオの正体を考える

 

「ヤンキーは何処かしらね」

 

俺達の姿を見た横須賀が来た

 

「リベッチオの亜種がいるぞ‼︎」

 

「リベッチオの2Pカラーだぞ‼︎」

 

「えぇ⁇どれよ…」

 

三人でリベッチオパスタの店内を見る…

 

「あ〜ぁ‼︎”マエストラーレ”よ‼︎」

 

「「マエストラーレ⁉︎」」

 

「パスタの国から来たのよ⁇仲良くしてあげて頂戴ね⁇」

 

あたかも普通に対応し、横須賀はそのまま繁華街に見回りに行った

 

「リベッチオの亜種じゃなかったのか…」

 

「2Pカラーでもなかったな…」

 

「ありがとうございました〜‼︎」

 

「来た…」

 

マエストラーレが出て来た

 

「お嬢ちゃんお嬢ちゃん」

 

「あ、はいっ‼︎」

 

「お嬢ちゃんは何処から来たのかな⁇」

 

「パスタの国からです‼︎」

 

「ちょっとおじさんたちとお話しないか⁇」

 

「はいっ‼︎勿論‼︎叔父様‼︎マーカスさん‼︎」

 

「叔父様だと⁉︎」

 

「マーカスだと⁉︎」

 

マエストラーレは俺達を知っていた

 

「お母さんは誰だ⁇」

 

「え⁇あの人ですけど…」

 

マエストラーレの目線の先には、リットリオが

 

「お父さんは⁇」

 

「お父さんは本国で提督をしていました‼︎」

 

隊長の頭にすぐに浮かんだ、初老の男性

 

あぁ、あの人なら納得だ

 

「してましたって事は、今はしてないのか⁇」

 

「はい。ジェミーニさんからお誘いを受けて、居住区で暮らしてます」

 

「あ」

 

「隊長⁇」

 

何かに気付いた隊長は、何故か冷や汗を流していた

 

「あ、あの〜…マエストラーレ⁇」

 

「はいっ」

 

「その人って〜、喫茶店してる⁇」

 

「はいっ‼︎タッチバックスと言う喫茶店をしてます‼︎」

 

「…レイ。都市型の方の居住区行くぞ」

 

「了解っ。訳ありだなっ」

 

早速ジープを借り、俺の運転で都市型居住区へ向かう



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226話 ホワイトブレンド(2)

喫茶店に着くまで、危険がいっぱい


都市型居住区に着き、隊長に着いて行く

 

「はいぱぁらっきぃ〜‼︎きゅい〜きゅい〜‼︎」

 

パチンコ店の前で、金髪の女の子がアルバイトをしているのが見えた

 

「ね…ねいびぃちゃんだ…」

 

「ねいびぃちゃんはマズイな…壁沿いに行くぞ」

 

隊長と共に、ねいびぃちゃんにバレないように背後の壁を伝う…

 

「あ‼︎そこのお二人さん‼︎ねいびぃちゃんときゅい〜きゅい〜しませんか〜⁉︎」

 

瞬殺でバレた

 

「きゅい〜きゅい〜しません‼︎」

 

「じゃあな”大和”‼︎」

 

「すぅ…」

 

俺の言った一言で、ねいびぃちゃんがキレた

 

「ふせろ‼︎」

 

「うぉっ‼︎」

 

「はいぱぁらっきぃぃぃぃぃい‼︎」

 

隊長に頭を抑えられて間一髪で地面に伏せ、何とか女神の鉄槌を回避出来た

 

「きゅい〜きゅい〜」

 

地面のタイルが剥がれまくり、何処からともなくやって来た妖精達があくせく直す中、砂埃の中からねいびぃちゃんがきゅい〜きゅい〜言いながら出て来た

 

「私達はこの先に用事があるんだ‼︎」

 

「大和ではありません。私はねいびぃちゃんです」

 

「ねいびぃちゃん‼︎」

 

「ねいびぃちゃん可愛い‼︎」

 

地面に尻を付いている俺達に顔を寄せ、ねいびぃちゃんは俺達を交互に見た

 

「ありがとうございますっ‼︎」

 

満足そうにねいびぃちゃんは帰って行った

 

「死ぬかと思った…」

 

「貴子と同じ匂いがするよ…あいつもっ、怒るとおっかないからなっ」

 

「ウィリアム⁇」

 

隊長と俺の肩がビクゥ‼︎と上がる

 

「…レイ」

 

「…俺に代わって、今した声の主を見てくれならお断りしたい」

 

カタカタ震えながら、互いに冷や汗を流す

 

物凄い殺気が背中を伝っている…

 

「…アイスコーヒー奢ってやるから」

 

「わ、分かった…」

 

恐る恐る背後を振り返る…

 

「マーカス君達もいたのね‼︎」

 

「あははは…」

 

そこに居たのはやっぱり貴子さん

 

俺には笑顔を見せる貴子さんだが、隊長の背中を見た瞬間、目付きが武蔵に戻った

 

「ウィリアム」

 

「…はい」

 

「こっち向いて」

 

「…右ストレートですか」

 

「左フックよ」

 

真顔で返す貴子さんが怖い…

 

「クソゥ‼︎こうなりゃヤケだ‼︎」

 

隊長は勢い良く振り返った

 

「大丈夫⁇」

 

貴子さんはポケットからハンカチを取り出し、隊長の顔に付いた砂を払った

 

「え⁉︎あぁ‼︎勿論さ‼︎」

 

そう言う隊長の目は泳いでいる

 

「次言ったら左フックと右ストレートとアッパー二回よ⁇」

 

「はい。勿論です」

 

全く威厳の無い隊長も珍しい

 

「貴子もお休みか⁇」

 

「そっ‼︎ここはどんな所かな〜って思って見に来たの。中々良い所ね‼︎」

 

貴子さんもここを気に入ったみたいだ

 

まだまだ開発途中だが、来る度に都市化が進んでいる

 

「もうちょっとブラブラしてから帰るわ⁇」

 

「ゆっくりな‼︎」

 

「じゃね‼︎お二人さん‼︎」

 

貴子さんは笑顔でビルの中に入って行った

 

「さぁ、行くか‼︎」

 

「オーケー‼︎」

 

目指すは喫茶”タッチバックス”…



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226話 ホワイトブレンド(3)

女神の鉄槌に巻き込まれ、貴子さんに遭遇した俺達は、ようやく喫茶”タッチバックス”に着いた

 

「いらっしゃいませ」

 

店内は良い感じに混んではいるが、皆コーヒーを楽しみに来ている…という雰囲気が伝わって来る

 

カウンターの向こうでグラスを磨くマスターは、絵に描いたようなマスター顔となりをしている

 

「ウィリアムさん。どうぞお掛けになって下さい。マーカスさんも」

 

マスターに案内されたカウンター席に座り、お冷とおしぼりが置かれる

 

「申し遅れました。私、タッチバックスのオーナー、マックと申します」

 

隊長も俺も渡されたおしぼりで顔を拭く

 

「此方から近々ご挨拶に…とは思っていましたが。とんだ御無礼を」

 

「開店直後で忙しいのは仕方ないさっ。それに、一日ここを貸し切らせて貰った」

 

「あぁ…貴方がたでしたか」

 

マックはクスリと笑いながら隊長にホットコーヒーを淹れ、俺の前にアイスコーヒーを置いた

 

「マーカスさんはアイスコーヒーでしたよね」

 

「おぉ…」

 

何も言っていないのにアイスコーヒーが置かれた事に少し困惑する

 

この人…俺を知ってるのか⁇

 

「して、リットリオの件ですが…」

 

「妹を任せた。それにあの…」

 

「マエストラーレにもお会いに⁇」

 

「その子だ‼︎あの子は礼儀正しい良い子だ」

 

「きっと叔父上様に似たのでしょう」

 

アイスコーヒーを飲みながら、隊長とマックの顔を交互に見る

 

隊長は自身を褒められて満更でもない様な顔をしている

 

「マーカスさん。シロップとミルクの追加はいかがなさいます⁇」

 

「ミルクをもうひ…」

 

言い終わる前にミルクと、隊長の分と俺の分のチョコケーキが置かれる

 

…何故だ

 

「何で分かるんだ⁇」

 

「勘ですよ。提督になる前は色々と経験を積みましたから」

 

裏が読めない…

 

「貴方がたには、お礼を申し上げなければなりません」

 

「にゃにをら⁇」

 

「おれいしゅるのはこっちらんじゃらいか⁇」

 

隊長も俺もケーキを頬張りながらマックの問いを返す

 

「私はイギリス生まれなのです」

 

「イギリス…」

 

「貴方がたが解放した街は、私の故郷でもあります」

 

「へぇ…」

 

「なるほどな…」

 

「あの街が解放され、私は”戦車”を降りました」

 

「戦車ねぇ…」

 

「マーカスさん。貴方が言った通り、映画になりましたよ」

 

マックの言葉で、アイスコーヒーを逆噴射した

 

「何か言ったのか⁇」

 

「メッチャ言った覚えあるわ…」

 

 

 

 

遂に街が解放されたその瞬間…

 

俺は確かに言った

 

作戦成功の一報を受け、気分が高揚していたのもある

 

眼下に戦車部隊が見えたんだ

 

その戦車部隊の先頭に無線を繋げ、こう言った

 

”この勝利はお前達のモンだ‼︎あんたのサクセスストーリーの映画化も近いぜ‼︎”

 

その問いに対し、戦車部隊の隊長が無線を返してくれた

 

”そりゃあ願ったり叶ったりだ‼︎”

 

と…

 

その隊長がどうやらマックである

 

 

 

 

話を聞いていると、マックは街が解放され、戦車を降りた

 

帰る場所が戻って来たマックは、今しばらくその街で暮らした

 

しかしその後まもなく深海との戦いになり、各国の海軍は高官を多数失った

 

その人員補填の為、マックは召集された

 

戦車部隊の隊長が海軍に呼び戻され、提督になる為のカリキュラムを受けさせなければならない程、被害は凄かった

 

隊長がそうしたのと同じく、最初は訳も分からない右往左往の状態

 

そんな中支えてくれたのがリットリオ

 

互いが恋に落ちるまで、そう時間はかからなかったらしい

 

 

 

「そうだったのか…」

 

「ですので、少しばかり平穏なここで暮らすのも良いかと」

 

「願ったり叶ったり、だな」

 

「えぇ」

 

「ただいま帰りました‼︎」

 

「ただいま〜。あら、兄さん。マーカスさん」

 

リットリオとマエストラーレ、そしてリベッチオが帰って来た

 

「まさかとは思うが、リベッチオの面倒まで…」

 

「気にする必要はございません。二人共、私の娘には変わりございませんので」

 

マックは事情を知った上で、リベッチオの面倒まで見ていてくれていた

 

「しかし、何かしないと…」

 

「ではこうしましょう」

 

マックは隊長の顔を見て、手をカウンターに置いた

 

「貴方がたは私に明日を与えてくれた。今、その礼を返している…こう致しませんか⁇」

 

隊長は一呼吸置いた後、答えを言った

 

「分かった。リベッチオを任せる。何かあったらすぐに言ってくれ」

 

「畏まりました。リベ、ラーレ。手を洗ったらオヤツにしましょう」

 

「はーい‼︎パーパ、マーカスさんっ‼︎チャオ‼︎」

 

「失礼します叔父様、マーカスさん‼︎」

 

俺も隊長も笑顔で二人を見送った

 

ここで一つ気になった

 

「マックはリベッチオから何と呼ばれて⁇」

 

「パパ、と呼ばれています」

 

「そっか…また来るよ」

 

「お待ちしております」

 

複雑な気持ちなのだろうな、隊長

 

父親も母親も傍にいられない状態だ…

 

タッチバックスを出て数歩歩いた所で、隊長が口を開いた

 

「お前の気持ちが分かったよ」

 

「俺はいつでも、もう少しと思ってるんた。明日かも知れないし、来年かも知れない。もう少ししたら、みんなで平和に暮らせる」

 

「なるほどな…私達の双肩、って訳だ」

 

「それに、今のままの方が幸せかも知れないと思っておくんだ」

 

「今のま…」

 

「行こう、隊長」

 

「…分かったっ‼︎」

 

話を句切らせた俺の目を見て、るいちゃんの事に感付いてくれた隊長は、一歩先にいた俺の横に来てくれた

 

そして、何も言わずにいつもの俺達に戻った

 

 

 

 

再び戻って来た、ねぃびぃちゃんが待ち構えるパチンコ屋の前

 

ねぃびぃちゃんは店の前に立ち、来店する客に手を振っている

 

「よし…レイ。帰りは正面突破だ‼︎」

 

「はいぱぁらっきぃ〜‼︎」

 

「3、2、1でスタートだな‼︎」

 

「きゅい〜きゅい〜‼︎」

 

「行くぞ…」

 

俺達は広い遊歩道の真ん中でクラウチングスタートの構えを取った

 

「3…2…1…ドンッ‼︎」

 

隊長の掛け声と共に、パチンコ屋の前を通り過ぎる

 

「わっ‼︎‼︎‼︎」

 

ねぃびぃちゃんが叫んだ直後、衝撃波が巻き起こり、俺、隊長、その辺の市民が目を回した

 

「おめめくるくる全回転〜‼︎きゅい〜きゅい〜‼︎」

 

その日、結局俺達二人はねぃびぃちゃんにパチンコ店に連れ去られ、そこそこ当たりを出して帰って来た…



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クリスマス特別編 アイム・サンタクロース作戦

え〜とぉ…

その〜

何故今更と思いますよね

言い訳するなら、年末なのでリハビリも締め、そして大掃除も沢山

つまり何が言いたいかと言うと

遅れてしまい、大変申し訳ありません



今回のお話は題名通りクリスマスのお話です

普段会わない人が顔を合わせるかも知れません


「全員揃ったか⁇」

 

横須賀の作戦会議室で、各基地の精鋭パイロット達が集められた

 

前に立っているのは隊長である

 

その横には補佐としている横須賀もいる

 

隊長が作戦概要を説明すると言うのは、かなり重要…そして大規模な作戦になる

 

そこにいた全員が息を飲んだ

 

 

 

数日前の昼…

 

「私だ」

 

「開いてます」

 

横須賀の執務室に隊長が来た

 

「言えばお伺いしましたのに」

 

「いや。情報を漏洩させたくなかっただけだ。今なら二人きりで話が出来るな⁇」

 

「えぇ」

 

隊長の話の途中で、横須賀は事の重大さに気付き、書類を書いていた手を止め、隊長の目を見た

 

「3日後の朝7時。出来るだけここにエース級のパイロットを集めて欲しい」

 

「構いませんけど…またどうし…」

 

今度は横須賀の話の途中で、隊長が横須賀の前に書類を置いた

 

その書類を見た瞬間、横須賀はすぐに許可を下ろした

 

「畏まりました。その日、夜間哨戒が無いパイロットを選出します」

 

「すまんな。私一人では無理だ」

 

隊長がお手上げになる程の作戦だ

 

 

 

 

 

「作戦概要を伝達する」

 

隊長の作戦説明が始まる

 

「来たる明日深夜、我々は大規模作戦を展開する。君達にはその作戦に参加して欲しい」

 

「作戦内容は⁇」

 

ラバウルさんがそう言い、隊長は一瞬ラバウルさんを見た後、自身の背後のスクリーンを見た

 

「明日深夜、我々は各所に物資を投下、若しくは着陸後運搬する。投下の場合はパラシュートを付けた小型コンテナを投下。着陸後運搬の場合は各基地の人員による迅速な作業の後、完了とする」

 

「つまり俺達は物資を運ぶ…若しくは護衛しろ、と⁇」

 

今度はアレンが口を開いた

 

「いや。物資を現地まで運んで欲しい。本作戦には兵装の類は必要無い」

 

「兵装を下ろした分物資を乗せて行け、と⁇」

 

「へぇ〜。何か奇抜だねぇ」

 

今度は健吾と北上だ

 

「そういう事だ。目標は味方基地全て。そして、スカイラグーン及びバーズシャングリラ」

 

スクリーンに場所と名前、そして各基地の基地のアップが出た

 

反対派の全ての基地がラインナップされている

 

その内、横須賀、ラバウル、俺達のいる分遣基地は”輸送済み”と書かれている

 

残りは

 

第一輸送部隊…大湊、呉

 

第二輸送部隊…トラック、舞鶴

 

第三輸送部隊…単冠湾、シャングリラ

 

「居住区に関しても本作戦を行う。尚、居住区に関しては必ず着陸してから運搬作業を行う事とする」

 

「そんなに大規模なのか…」

 

流石の親父も展開規模を見て驚いている

 

「分散すればそれも短時間で可能です、中将」

 

「何だか分からんが、楽しそうじゃないの‼︎よしっ‼︎乗った‼︎」

 

「私もウィリアムに乗りますかねっ」

 

「分かりました。では私も」

 

「じゃ、アタシも〜。いいね⁇健吾⁇」

 

「勿論です」

 

そこにいた全員が隊長の作戦を受けた

 

「機体は如何なさるので⁇」

 

ター坊が気になる事を言ってくれた

 

小型とはいえ、コンテナを運ぶとなるといつもの機体では飛べない気もする

 

「機体は此方が用意した機体に乗って貰う。心配するな。良い機体だ」

 

スクリーンに映し出された機体は、恐らくアヴェンジャー辺りの多少重い物を載せても大丈夫で、尚且つ航続距離が長い機体だろう

 

「尚、本作戦は深海側との共同作戦になる。向こうも向こうで忙しく動き回っているが、すれ違った場合は挨拶を忘れずに頼む」

 

「オーケー、大体は分かった。作戦名は何にするんだ⁇これだけ大規模なら、作戦名もよっぽどだろう⁇」

 

親父が言ったその言葉で、全員が息を飲んだ

 

「作戦名は…」

 

一瞬、会議室が静まり返る

 

「クリスマスプレゼント運搬作戦。通称”アイム・サンタクロース”作戦だ‼︎」

 

デカデカとスクリーンに”私達はサンタクロース‼︎”との文字が出て、全員椅子からすっ転んだ‼︎

 

「はっはっは‼︎たまには面白い事を真面目に説明するのも良いものだな‼︎」

 

「それ位普通に言って下さいよ‼︎」

 

「一本取られましたね…」

 

「あはははは‼︎ウケる〜‼︎」

 

「かなり危険な作戦かと思いましたよ…」

 

全員の緊張が綻んだ所で、隊長が運搬先の基地を皆に選ばせた

 

全員が決まった所で、再び隊長が口を開いた

 

「本作戦完遂後は、スカイラグーンに集合。私達はそこでパーティーを開く。トラックさん、貴子、ボスの三人。それと、深海の子達が料理を作って待ってくれている」

 

その言葉を聞き、全員の士気が上がる

 

「それと最後に…」

 

「大佐。ここからは私が説明致します」

 

ここに来てようやく横須賀が前に立った

 

「ここ最近”サンタ狩り部隊”なる部隊の所属を確認しています。部隊の目的は恐らく私達の運搬しようとしている物資にあります」

 

「さ、サンタ狩り部隊…」

 

「サンタ狩り部隊による挑戦状が来ています」

 

スクリーンに”それ”が映る

 

 

 

”サンタさんへ

 

サンタさん。今年は叩き落します

 

プレゼントさんを根刮ぎ貰います

 

サンタ狩り部隊より”

 

 

 

皆がザワつくなか、俺だけサンタ狩り部隊の目処が付き、頭を抱えた

 

「サンタ狩り部隊に遭遇した場合、会敵せずに全速力で振り切って下さい」

 

「足止めは無理なのか⁇」

 

「私達で何とかするしかないわ」

 

アレンの問いも簡単に弾かれた

 

「分かった。よしっ、やろう‼︎」

 

「作戦開始‼︎健闘を祈る‼︎」

 

アイム・サンタクロース作戦が始まった‼︎



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第一クリスマスプレゼント運搬部隊 不触(さわらず)の誓い

このお話は、アレンとラバウルさんのお話です

果たして何処に運ぶのか…


第一運搬部隊、SS隊二機

 

サイクロップス機

 

バッカス機

 

本部隊は呉基地及び大湊へ物資運搬

 

 

 

 

「キャプテン。久々じゃないですか⁇平和な星空を飛ぶのは」

 

《そうですねぇ。こんな夜は少女と過ごしたいものです》

 

「後でブラックボックス解析されますよ…」

 

二人はバラバラに二箇所へと向かっていた

 

ラバウルさんは爆撃のプロ

 

アレンはあの後アヴェンジャーに乗り、しばらく試乗して体を慣らしていたので、もう順応して来ている

 

ラバウルさんは呉へ

 

アレンは大湊へと向かっている

 

「しかしまぁ…赤いアヴェンジャーとは…」

 

本作戦で全員が乗るアヴェンジャーは、赤く染められていた

 

《我々はサンタクロースですよ、バッカス》

 

横須賀の妖精達が気を利かせて染め上げてくれたのだ

 

作戦中、パイロット達はサンタクロースになる

 

赤いアヴェンジャーはサンタクロースに少しでも近付く為でもある

 

「見えて来ました」

 

アレンの前に大湊が見えて来た

 

《此方も見えました。ではアレン、後で会いましょう》

 

「了解」

 

《バッカス機、其方の機影が見えた。着陸を許可する》

 

ラバウルさんと通信を切った直後、大湊から着陸許可の通信が入った

 

「了解」

 

アレンが大湊へと降りる…

 

 

 

 

「お疲れ様です、マクレガー大尉。運搬作業と燃料の補給を行いますので、少しでも休憩して下さい」

 

「ありがとう」

 

鹿島からコーヒーを受け取り、アレンはベンチに腰を下ろした

 

「アレンも大変ですね⁇」

 

「これも悪くないさっ。時津風は元気か⁇」

 

「えぇ‼︎今日はもう寝ちゃいました。プレゼントが楽しみなんですって‼︎」

 

「そっか」

 

「ありがとうございました、マクレガー大尉」

 

運搬作業中の棚町がアレンに気付き、此方に来たので、アレンは手を挙げた

 

「はは」

 

棚町と鹿島が横に並んだ瞬間、アレンは少し笑った

 

「どうしたんです⁇」

 

「いやっ。お似合いだなってな」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「ありがとうございます、大尉」

 

レイ。お前には鹿島は高嶺の花過ぎたな

 

お前には鹿島は似合わない

 

別れて正解だ

 

お前は、お前の事”だけ”を本気で待っていてくれて、お前とヤイヤイ言い合える奴の方がお似合いだ

 

鹿島は正直過ぎる

 

コーヒーを飲みながら、アレンはそう思っていた

 

「そう言えば大尉。ケッコンしたとお聞きしました」

 

「ん⁇あぁ。昔の恋人さ。逢いに来てくれたんだ。本当につい最近さ」

 

「明日はデートですか⁇」

 

「ふふ、まぁなっ」

 

ネルソンとのデートする事を考え、アレンの顔が綻んだ

 

因みにお昼はネルソン

 

夜は愛宕とお食事をする

 

「運搬作業及び燃料補給作業、完了しました」

 

「ありがとう。よしっ、んじゃ行くか‼︎」

 

鹿島にコーヒーカップを返し、アレンは再び空へと戻る…

 

 

 

 

 

 

「さて、私は如何しましょうかね」

 

ラバウルさんは既に爆撃体勢

 

《ラバウルさぁ〜ん。こっちですよぉ〜》

 

間の抜けた声が無線から聞こえて来た

 

「ポーラさん。そのサイリウムは⁇」

 

眼下ではポーラがインカムを付け、サイリウムを両手に持ってピョンピョン跳ねているのが見えた

 

《ここに落として欲しいって合図ですぅ〜》

 

「分かりました。絶対に”その場から動かないで”下さい」

 

そう言うとラバウルさんは体勢を取り直し、加速して距離を取り直した

 

「投下」

 

《おぉ〜》

 

一瞬本気の目になった瞬間、ラバウルさんのアヴェンジャーからコンテナが投下された

 

コンテナはすぐにパラシュートを開き、フワフワ漂いながら、ポーラの近くに落ちた

 

《ありがとございますぅ〜》

 

「メリークリスマス、ポーラさん」

 

本当は呉に降りて、抱き付いて来てくれた山風あたりを撫でくり回したかったであろうラバウルさん

 

しかし今日はそれを血涙を流し、下唇を噛み締めながら何とか堪えた

 

今日は子供達はクリスマス

 

聖なる夜を汚してしまうのは、少女を護る立場の人間として最悪な行為である

 

「う、疼く…」

 

ラバウルさんの中で、天使と悪魔が睨み合う

 

天使はこのままスカイラグーンに飛べ‼︎と

 

悪魔は呉に戻っちゃえYO‼︎と

 

呉に戻ろうとする疼く右手を左手で抑え付け、ラバウルさんはスカイラグーンに戻って行った…



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第二クリスマスプレゼント運搬部隊 ソウリュウ

このお話はリチャードと高山のお話になります

題名にある艦娘と邂逅するのは果たして何方なのか‼︎


第二運搬部隊、横須賀所属ペトローバ隊一機

 

呉所属サンダルフォン隊一機

 

ケプリ機

 

パピヨン機

 

本部隊はトラック基地及び舞鶴基地へ物資運搬

 

 

 

 

「サーイレンナーイ、ホーゥリーナーイ」

 

《中将はいつもこの様に⁇》

 

鼻歌を歌いながら飛ぶリチャード

 

それとは対象的に真面目に飛ぶ高山

 

「ん⁇まぁな〜」

 

《中将⁇また足で運転してないですよね⁇》

 

「硬い事言うなジェミニ〜。平和な空だぞ平和な〜」

 

《…まさかとは思いますけど、酔ってます⁇》

 

「シラフだシラフ‼︎アヴェンジャーに失礼だろ‼︎」

 

レイが戦闘機思いなのは、父親譲りの様だ

 

「さ〜てっ‼︎よいしょっ‼︎」

 

リチャードは足で操縦していた体勢を止め、操縦桿を握った

 

「トラックが見えて来た。パピヨン、そっちは任せたぞ」

 

「了解」

 

パピヨン機との無線を切り、本気の目に変わるリチャード

 

その目には、トラック基地の滑走路が映っている

 

流石は歴戦の空母率いる基地

 

滑走路も煌々と照らされている

 

《中将、その基地だけは着陸せずに投下して下さい》

 

「投下⁉︎何でだ⁉︎」

 

《その基地には蒼龍が居ます。トラックさんからのお達しです》

 

「はは。取って食う訳じゃないだろうよ。降りるぞ〜」

 

《取って食べる子なんですよ‼︎》

 

「何⁉︎うぉっ‼︎」

 

リチャードが着陸しようとした瞬間、地上から戦闘機が離陸し、アヴェンジャーを掠めていった

 

《外しちゃいましたねぇ〜》

 

混線なのか、何処からか無線が入った

 

「ど、何処からだ‼︎」

 

滑走路のど真ん中にツインテールの女の子が立っており、此方の顔を”ニタァ…”と見ているのが見えた

 

《中将‼︎蒼龍から離れて下さい‼︎》

 

「あれがサンタ狩り部隊か⁉︎」

 

《違います‼︎元から蒼龍はあんな感じなんです‼︎》

 

「と、投下ぁぁぁあ‼︎」

 

リチャードは逃げながらコンテナを投下し、そのままトラック基地から離脱した

 

《あれぇ〜⁇逃げるんですかぁ〜⁇まぁ〜、今日はこれ位で許してあげますぅ〜》

 

「ひぃ〜おっかねぇ〜」

 

トラック基地から離陸した戦闘機も引き返して行った…

 

 

 

 

「いらっしゃい。補給⁇それとも、お知らせ⁇」

 

「報告にあった物資の輸送です」

 

「あぁ〜」

 

舞鶴に降り立った高山は、その基地の女性提督、ふちに躍らされていた

 

何せ、ふちはかなりの天然

 

考えがしっかりしている高山からすれば、ただただ翻弄されるだけの存在

 

今でさえ、クリスマスプレゼントの配達をも忘れかけていた

 

「え〜と〜…あ、これだね。羽黒、ちょっとお願いね。まるゆ呼んでくるから」

 

ようやく書類を見つけ、ふちはまるゆを呼びに行った

 

「大変ですね」

 

「この位は楽です」

 

折角羽黒が珍しく気を使ってくれたのに、高山は素っ気なく返した

 

「煙草は⁇」

 

「吸っていいなら」

 

羽黒は執務室の机の引き出しから携帯灰皿を取り出し、高山に投げた

 

「煙草吸って大人しく待ってて。コーヒーでも淹れてあげるわ」

 

「お気遣いなく」

 

羽黒はこの年代の男性の扱いに慣れて来ていた

 

特にマーカス、アレンのコンビ

 

そしてマーカス、ウィリアムのコンビ

 

この二組が来て「コーヒーでも淹れてあげる」と言えば

 

「砂糖とミルク二つずつな」

 

「俺は一個ずつ」

 

「私はミルクだけで」

 

と、注文まで付けてくる始末

 

しかし、羽黒は最近そっちの方が気楽と思い始めている

 

「好きに入れて」

 

「ありがとう」

 

コーヒーと砂糖、そしてミルクを高山の前に置く

 

高山は砂糖とミルクに手を付けず、ブラックで飲み始めた

 

高山がコーヒーを飲み、羽黒が書類整理をしていると、基地が揺れた

 

「何だ⁉︎地震か⁉︎」

 

「まるゆが来たわ」

 

高山はコーヒーを置き、廊下に出た

 

「ありがとまるゆ。今日はクリスマスだったんだね」

 

「厳密に言うならイヴなるものだ。本陣は明日だ」

 

大人の男性が数人掛かりでようやく持ち上がるコンテナを、まるゆは軽く肩に乗せて持ち歩いていた

 

「そっかそっか。チキン食べなきゃね」

 

「我はササミを頂きたい」

 

「うわ…」

 

普通なら怖気付くのだが、ふちはいつもの事なので普通に会話しながら横を歩いている

 

「ここに置いて⁇」

 

「うぬ」

 

「ちょっ‼︎」

 

ドガン‼︎

 

再び基地が揺れる

 

執務室の真ん中にコンテナが置かれ、高山はそれを避けた

 

「うぬが運搬してくれたのか⁇有難き幸せ。このまるゆ、うぬの気持ちをしかと受け止め、感謝しよう」

 

「ありがと〜ございます」

 

「あ、は、はい…どうも…」

 

まるゆとふちに頭を下げられ、高山も自然と頭を下げていた

 

「機体の補給は済ませておいた。客人、しかと休まってから飛び立つといい」

 

「あ、ありがとう…」

 

「ではな。我は寝なければならない。”ぷれぜんと”なる物を頂けなくなるからな」

 

「そ、そうだな…」

 

「そうだ。うぬにもぷれぜんとを差し上げよう」

 

まるゆは鎖で足に繋いでいた”運”と書かれた丸い筒から粉を取り出した

 

「我が配合した特殊なプロテインだ。筋肉増強、新陳代謝も上がるぞ」

 

「頂くよ…」

 

断ったら潰されると感じた高山は、素直に受け取る事にした

 

「では、また機会があれば」

 

「次は繁華街にも寄って下さいね〜」

 

「気をつけてね」

 

「さらばだ客人」

 

ほぼ思考が止まった高山は、何故か”また来たい”と思いながら、舞鶴を飛び立った…



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第三クリスマスプレゼント運搬部隊 深海達から私達へ

このお話は、北上と健吾のお話です

ヌ級が可愛いかも⁉︎


第三運搬部隊、ヘルハウンド隊二機

 

ケルベロス機

 

オルトロス機

 

本部隊はバーズシャングリラ及び単冠湾へ物資運搬

 

 

 

 

「そいやぁオルトロス。大和とはど〜なの⁇」

 

互いの目的地まで、二人は横並びに飛んでいる

 

ケルベロス機はシャングリラへ

 

オルトロス機は単冠湾へと向かう

 

《明日の午前中、横須賀でデートです。その後、大和はトラックへ》

 

「ほ〜ん、なら暇な訳だ。ならそのまんま横須賀で待ってな。私ともデートしようよ」

 

《宜しいのですか⁇》

 

「ふふふ〜、楽しませてあげるよん。じゃ、また後でねぇ〜」

 

ケルベロス機が編隊から離れ、オルトロスはそのまま真っ直ぐ飛ぶ

 

 

 

 

「見えた見えた」

 

《コッチコッチ‼︎》

 

《ココオリテ‼︎》

 

深海の子達がライトで滑走路へと誘導してくれているのが見えた

 

「はいは〜い」

 

誘導に従い、ケルベロス機がシャングリラに着陸

 

「オツカレサマデス。コーヒーヲオモチシマス」

 

「どもども〜」

 

他の部隊が着陸したのと同じく、北上は一度アヴェンジャーから降り、補給と運搬作業を終えるのを待つ

 

「コンバンワ‼︎」

 

「おっ。こんばんは〜」

 

いつかレイに治療して貰ったヌ級がいた

 

ヌ級の頭の上にはコーヒーカップとお菓子が二個置いてある

 

「ドゾ‼︎」

 

「ありがとね」

 

ヌ級の頭の上からコーヒーとお菓子を取り、ベンチに座る

 

「ここって珍しいよね〜」

 

北上は話しながらお菓子の紙を剥き、一つを口に放り込んだ

 

「ドシテデスカ⁇」

 

「ここってさ〜、人と深海の人達が一緒くたになってんじゃん⁇」

 

「ボクハスキデス‼︎」

 

「ふふ。あたしも。仲良くが一番だよね〜」

 

二つ目のお菓子を剥き、今度はヌ級の口元に持って来た

 

ヌ級は一度北上の顔を見た

 

北上は目を一瞬大きくした

 

それを見ヌ級は北上の手からお菓子を食べた

 

「ツミコミ、カンリョーシマシタ」

 

「ありがとね。じゃ、あたしも行きますかっ‼︎」

 

「イッテラッシャイ‼︎」

 

「じゃあねぇ〜」

 

北上はヌ級の頭を撫でた後、アヴェンジャーへと乗り込んだ

 

「へぇ〜」

 

いざ離陸しようとした時、気が付いた

 

深海側の航空機も赤いペイントを施し、何処からか帰って来た

 

そして着陸した後、プレゼントを幾つか腹部ハッチから落としていた

 

「なんだ。あたし達と一緒じゃん」

 

北上は微笑んだ後、スカイラグーンへと向かった…

 

 

 

 

 

「久し振り‼︎健吾‼︎」

 

「元気にしてたか‼︎」

 

単冠湾に降りた健吾は、久し振りに同級生との再会を果たしていた

 

相手は勿論ワンコ

 

「おぉ。プレゼントの配達はオメーダズルか」

 

そして榛名

 

「他のみんなは⁇」

 

「リシュリューと吹雪はもう寝ちゃった。霧島はイージス艦と一緒にサンタ狩り部隊の索敵中。HAGYは部屋にいる。ニムは…」

 

「ニムは横須賀に行ったダズル」

 

そこにいた全員が薄々勘付いていた

 

全員、自分達が集まるから気を使ってくれたのだと

 

「そっか。まぁでも、久し振りだよな。こうして同級生三人が揃うって」

 

「うん‼︎あ、そうだ健吾。今度さ、五人でご飯でも食べようよ‼︎」

 

「おっ‼︎いいな‼︎」

 

仲の良かった同級生五人組

 

健吾

 

ワンコ

 

榛名

 

まり

 

りさ

 

この五人が集まる日は、そう遠くはなかった

 

「んじゃ、そんときゃ集合場所はビスマルクの家の前ダズルな」

 

「「OK‼︎」」

 

「良い返事ダズル‼︎」

 

特別な思いを抱き、健吾は再び空へと戻る

 

「気を付けてね、健吾‼︎」

 

「おう‼︎」

 

二人が固い握手をし、健吾はアヴェンジャーへと乗り込んだ

 

「やっぱ健吾は良い友達ダズルな」

 

「うんっ‼︎」

 

たまに見せる、ワンコの嬉しそうな笑顔

 

時折レイやアレン達に誘われて横須賀にいる時に見せる笑顔だ

 

「ま。いいダズル。さっ、提督。榛名と六時間ちょいアバンチュールダズル‼︎」

 

「うんっ‼︎え⁉︎」

 

あまりにも突然の事に、ワンコは”うん”と答えてしまった

 

「うんって言ったダズル‼︎さ、行くダズル‼︎」

 

「ちょっ‼︎」

 

榛名に簡単に担ぎ上げられ、ワンコは榛名の自室に消えて行った…



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第四クリスマスプレゼント運搬部隊 乗りたくないミッチェル

このお話は、マーカスとパパのお話になります

マーカスとパパはとある爆撃機で運搬する様に言われるが…⁇


第四運搬部隊、サンダーバード隊2名

 

イカロス

 

ワイバーン

 

本機は二つの居住区のヘリポートに対し、順次コンテナを投下

 

 

 

 

「さ〜てと。俺達の番ですかっ‼︎」

 

「今の所はサンタ狩り部隊の連絡も無い。順調に進行中だ」

 

「レイ。私達は二人乗りの爆撃機で向かう。何せ、プレゼントが多いからコンテナもデカい」

 

「任されたっ」

 

「貴様等」

 

「お⁇」

 

現れたのはネルソン

 

「アドミラル・ジェミニと親潮が忙しいからなっ。余が無線で案内してやろう」

 

「それは助かる‼︎」

 

ネルソンは元司令官

 

それも、あのアレンを生き長らえさせた司令官でもある

 

「爆撃機とはいえ、貴様の腕を見てやろう‼︎」

 

「見とけよ‼︎俺達ゃやる時ゃやるんだ‼︎」

 

「レイ、行くぞ‼︎」

 

「オッケー‼︎」

 

指揮をネルソンに任せ、二人で格納庫に来た

 

「「おぉ〜‼︎」」

 

目の前にはアメリカの爆撃機がある‼︎

 

「B-25だ‼︎」

 

「ミッチェルか‼︎」

 

「リチャード中将が持って来た機体です」

 

ミッチェルの整備をしていた整備士に説明を受けた

 

「コンテナ及びパラシュートの調整はバッチリです。燃料も行って帰って来ても充分余る量を給油してあります」

 

「う〜ん、流石だ」

 

「一応、秋津洲さんのニトロを使えるようにしてあります。サンタ狩り部隊に遭遇した際はそれを使用下さい」

 

「秋津洲の手が掛かってるのか⁉︎」

 

「えぇ。ミッチェルは秋津洲さんが整備を」

 

「さ、帰ろう」

 

「夕ご飯は何だろうな」

 

俺も隊長も、秋津洲の名を聞き踵を返した

 

「大丈夫ですよ‼︎飛びますから‼︎」

 

「飛ぶのは問題無いんだ‼︎」

 

「煙だよ煙‼︎」

 

俺達が反発すると、整備士達が全員”あぁ…”とため息を吐いた

 

「他の機体は⁇」

 

「現状ミッチェルが一番整備されて…」

 

「カ号は⁇」

 

「コンテナが上がりません」

 

「艦爆は無いのか」

 

「コンテナが…」

 

「陸攻は⁇」

 

「コンテナ…」

 

「「はぁぁぁぁぁぁ…」」

 

二人してため息を吐き、嫌々ミッチェルに乗った

 

「レイは信仰は無かったな」

 

「無いっ‼︎」

 

シートベルトを締めながら会話を続ける

 

「何でもいいから祈っててくれ。私の分まで」

 

「お、オーケー…」

 

「本気で祈れ‼︎頼むから‼︎」

 

「い、行くぞ‼︎」

 

ミッチェルが基地から飛び立つ…

 

「チクショウ‼︎やっぱじゃねぇか‼︎」

 

飛び立ってすぐ、機体のどこかがガタガタ鳴り始める

 

「たぁすけてくれぇーーーい‼︎」

 

流石の隊長も手すりを持ち、悲鳴を上げている

 

「俺達なんか悪い事したか⁉︎」

 

「したかもしれん‼︎腹立って貴子を無理に抱いた事もある‼︎」

 

「それ言うなら俺も横須賀に牛みたいとか言った‼︎」

 

《おい》

 

「バチ当たったか⁉︎」

 

「だとしたら仕打ちが酷すぎるだろ‼︎」

 

《騒ぐな喧しい‼︎》

 

「「イギャァァァア‼︎」」

 

ネルソンの無線にさえビビり、悲鳴を上げまくる俺達二人

 

「助けてネルソン‼︎」

 

「懺悔するから‼︎」

 

《分かった分かった。まずは加速しろ加速》

 

「加速どれ‼︎」

 

「多分それだ‼︎」

 

隊長の目線の先には何かのレバーがある

 

「これ‼︎」

 

ガタガタ鳴る操縦席内で、俺の手に隊長の手が重なった

 

「「加速‼︎」」

 

レバーを前に倒す

 

「おっ…」

 

「暴れん坊だ…」

 

ようやく落ち着いたミッチェルの中で、俺達はため息を吐いた

 

《少しは静かに操縦しろ。もうすぐ第一目標だ。投下の準備をしろ》

 

「へ〜へ〜」

 

「分かりましたよ〜」

 

《悪態を吐くな。いいか。下で日向とミホが構えている》

 

「みほがか」

 

眼下にヘリポートが見えた

 

豆粒みたいなサイズだが、確かにみほと日向が見えた

 

「投下体勢に入る。隊長、合図したら投下してくれ」

 

「了解した。準備は出来てる」

 

一度体勢を整え、投下の体勢に入る

 

「3…2…1…投下‼︎」

 

「投下‼︎」

 

投下されたコンテナはパラシュートを開き、気流の関係で少し位置はズレはしたが、ちゃんとヘリポート内に落ちた

 

《大佐、ありがとね⁇》

 

《マーカス。夜間飛行、お疲れ様だな》

 

「また近々会おうな、みほ」

 

「大東と仲良くな〜」

 

コンテナを受け取ったのを確認したのを見届け、高度を取り直し、都市型居住区へと向かう

 

《ほぅ⁇中々上手いじゃないかっ‼︎》

 

「ま、何回もして来たからな」

 

「爆弾投下なんざ朝飯前よ」

 

《よしっ。次が最後だ。貴様等、ビスマルクは知っているなっ⁇》

 

「勿論だ」

 

「俺達の友達だ」

 

《都市型居住区にはビスマルクのビルがある。それを目標に飛べ》

 

「ビスマルクのビルね。了解っ」

 

ビスマルクインダストリービルの事だ

 

ビスマルクの元で働いている人は完全シフト制

 

時間が来たら強制退社。残業はビスマルクが許さない

 

15分前には退社の準備をしないと警報が鳴るシステムまである

 

なので、この時間帯にビスマルクのビルにいる奴は夜勤の連中だ

 

「オーケー、見えた」

 

「へへ。橘花☆マンのリハーサルやってるぜ」

 

灯りが付いている回数で、誰かが数人の前で橘花☆マンのスーツを着て動いているのが見えた

 

「やっぱ健吾の方がキレあるな」

 

「健吾も良い就職先だよなぁ…万が一引退したら俳優だもんな」

 

《私語は慎め。運動公園が見えるな》

 

「見えた」

 

《そこにねぃびぃちゃんとビスマルクがいる。投下して拾って貰え》

 

「ね、ねぃびぃちゃん…」

 

「お口チャックだな…」

 

操縦席で戦慄する

 

ミッチェルに乗っている状態で鉄槌なんざ撃たれてみろ

 

即死亡だ

 

「よし、投下‼︎」

 

「投下‼︎」

 

今度はしっかり中心にコンテナが落ちた

 

《受け取りました‼︎》

 

《ちゃんと帰りなさいよ‼︎》

 

「よし、帰ろう」

 

「じゃあな〜‼︎またお前ん家行くからな〜‼︎」

 

《待ってるわよ‼︎》

 

ビスマルクとねぃびぃちゃんとの無線を切り、俺達は一旦横須賀に向かう為に海上に出て来た

 

《お疲れ様だなっ。よし、スカイラグーンで待っているぞ》

 

「また後でな」

 

「なんなら一緒に行くか⁇」

 

《断る。まだ死にたくないのでな》

 

「や、野郎‼︎言いやがったな‼︎」

 

「意地でも乗せてやるからな‼︎」

 

《ははは‼︎じゃあな‼︎》

 

ネルソンは高笑いを残したまま無線を切った

 

「さてっ。乗り換えるか」

 

「だなっ。いつ煙吹くか分からん…」

 

《……なぁ⁉︎》

 

「何だ⁇混線か⁇」

 

隊長が無線の周波数を弄ると、段々と声がクリアになって来た

 

《サンタさんみ〜っけ‼︎》

 

《プレゼント、頂きますっ‼︎》

 

《赤い死神‼︎負けない‼︎》

 

「サンタ狩り部隊だ‼︎」

 

海上に出るんじゃなかった‼︎

 

サンタ狩り部隊は三人

 

照月

 

涼月

 

そして福江

 

既に何人か”メリークルシミマス”の犠牲になったのか、三人の袋は既にパンパンになっている

 

「レイ‼︎ニトロだニトロ‼︎全速力で逃げるぞ‼︎」

 

「ニトロ‼︎」

 

”にとろ”と描かれたボタンを殴るように押す

 

「「ウギャァァァァァア‼︎」」

 

忘れていた白煙が操縦席に噴き出す‼︎

 

《逃げた‼︎横須賀に降りるよ‼︎》

 

《捕まえましょう‼︎》

 

《メッチャ負けない‼︎》

 

 

 

 

 

「あれぇ〜⁇いないよ⁇」

 

「逃げられましたねっ…」

 

「負けた‼︎」

 

サンタ狩り部隊が横須賀に着いた頃には俺達二人は既に離陸済み

 

着陸直後、ミッチェルは滑走路に置いたまま、猛ダッシュで互いの機体で離陸した

 

「まっ、いっか‼︎今年も沢山サンタさん倒したし‼︎」

 

「私達の勝ちですっ‼︎」

 

「勝った‼︎」

 

「さ。もう行っていいよ‼︎」

 

照月は横須賀の倉庫で縛っていた老人の紐を解いた

 

赤い服を着た老人は捕らえられていたにも関わらず、照月達の頭を撫でてソリに乗った

 

「トナカイさん、またね‼︎」

 

「メリー、クリスマース‼︎」

 

老人はソリに乗り、”空”へと帰って行った…

 

 

 

 

 

「うへぇ…疲れた…」

 

「お疲れ様です。さっ‼︎どうぞ‼︎」

 

「頂きますっ」

 

スカイラグーンの机で頭を置いていた俺の前にチョコレートケーキが置かれた

 

既に周りはドンチャン騒ぎ

 

俺はもう少しだけ休憩したい気分

 

「んっ‼︎美味い‼︎」

 

トラックさんのケーキは相変わらず美味い

 

…だが、何処かで食べた事のある味に近い気がする

 

「マックか」

 

独り言の様にポツリと呟くと、トラックさんの手が止まった

 

「”師匠”をご存知で⁉︎」

 

「師匠ってマックの事か⁇」

 

「えぇ‼︎私の師匠です‼︎」

 

「都市型の方の居住区で暮らしてる」

 

「そうですか‼︎」

 

「戦車長じゃないのか⁇」

 

「私は元戦車乗りですよ⁇」

 

全員の視線がトラックさんに向き、同じ事を言い放った

 

「「「マジか‼︎」」」

 

「えぇ。戦車乗りの先輩でもあり、パティシエの師匠でもある方です」

 

「はぁ〜っ…」

 

「良いクリスマスプレゼントを頂きました。後日、お伺いしても宜しいですかね⁇」

 

「あぁ。タッチバックスって喫茶店してる」

 

「なるほどなるほど…」

 

トラックさんとの話はしばらく続き、パイロットと戦車乗り提督達の夜はふけていった…

 

こうして、俺達の波乱に満ちたアイム・サンタクロース作戦は終わりを告げた…

 

 

 

 

福江が笑っていた事が、一番良かったのかも知れない…




投稿が遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした

ミッチェル、本当は良い機体ですよ‼︎


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227話 戦艦になる為に(1)

さて、226話及びクリスマス編が終わりました

あけましておめでとうございます

お年玉は頂きましたか⁇

私は中学の頃からあげる立場になりましたね 笑笑

今回のお話は、清霜のお話です

ある戦艦に憧れを持った清霜

果たして彼女から何を教わるのか…⁇


「き〜ちゃん戦艦になりたい‼︎」

 

「そうね〜。いつかなれるわよ〜」

 

横須賀の執務室のいつもの風景

 

早霜はボーッと二人の掛け合いを眺め、ななはちゃぶ台で宿題をしている

 

いつもの事なので横須賀は適当に返す中、今日は一味違った

 

「ジェミニ様の思う、一番強い戦艦とは誰ですか⁇」

 

そう言ったのは親潮

 

「いい質問するわね」

 

清霜も親潮も横須賀の目を見る

 

「やっぱり榛名じゃないかしら⁇」

 

「榛名さん強いよね‼︎き〜ちゃん、榛名さんみたいになりたい‼︎」

 

榛名の事が話題に上がり、清霜の目がキラキラし始める

 

「親潮はどうなのよ」

 

「そうですね…」

 

親潮は口元に指を置き、少し考えた

 

「親潮は貴子様かと」

 

「貴子さん⁇」

 

「ちょっと来なさい。親潮。武蔵の演習記録出せる⁇」

 

「畏まりました」

 

横須賀の膝の上に清霜が乗り、親潮はPCで武蔵時代の貴子さんの動画を出した

 

「清霜⁇あれはだぁれ⁇」

 

「貴子さんだ‼︎」

 

PCの中にいる貴子さんは勇ましく戦っており、清霜の目には榛名と同じ位カッコ良く見えた

 

勿論榛名も好きだが、清霜は貴子さんが戦艦だった姿を見た事が為、更にカッコ良く見えていた

 

「清霜、貴子さんみたいになりたい‼︎」

 

「貴子さんにお願いしてあげよっか⁇清霜がどうしたら戦艦になれるのかな〜って‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

横須賀はその場で基地に無線を入れた

 

 

 

 

その頃基地では…

 

「でっち〜、こえたえて‼︎」

 

「あ〜ってちて‼︎」

 

テレビを見ていたゴーヤは、いきなりひとみといよに押し倒され、口に何かを入れられようとされていた

 

「い、いやでち‼︎カラフルなのは大体ヤバイでち‼︎」

 

「おいち〜のい〜‼︎」

 

「ぱくっ‼︎」

 

「あ‼︎」

 

食堂のカーペットの上で、れーべとまっくすのグミ製造機を使い、色とりどりのグミを作り出したひとみといよが、ゴーヤにグミを食べさせようとしているのだ

 

「こえはそ〜だ」

 

「こっちあおみかん」

 

青色のグミと橙色のグミをゴーヤに食べさせようとする二人

 

「うぅ…」

 

ゴーヤはコーヒーを飲んでいる俺の方をチラッと見た

 

”本当に食べて大丈夫でち⁇”

 

と、でも言いたそうな顔だ

 

ゴーヤの声無き訴えに気付き、コーヒーカップを机に置き、三人の前に屈んだ

 

「ならっ、俺はこっち貰おうかな⁇」

 

「あいっ」

 

いよの手から青色のグミを貰い、口に放り込んだ

 

「おっ‼︎ソーダ味か‼︎」

 

「しゅあしゅあしゅる⁇」

 

「シュワシュワで美味しいぞ‼︎」

 

そう言って、三人共ゴーヤの顔を見た

 

「わ、分かったでち‼︎」

 

「あいっ」

 

ゴーヤは生唾を飲み、ひとみよに手から橙色のグミを取り、口に放り込んだ

 

「あ。美味しいでち」

 

「れっち〜もつくお‼︎」

 

「どれどれ」

 

「おっ。無線だ」

 

ゴーヤがグミに興味を持ち始めたのと同時に、無線が鳴った

 

「此方横須賀分遣隊。どうした⁇」

 

《あ、レイ⁇貴子さんいる⁇》

 

「あぁ。いるよ」

 

台所にいる貴子さんに目を向ける

 

はまかぜと一緒に夕飯の準備をしてくれている

 

《代わって頂戴》

 

「貴子さん。横須賀からだ」

 

「分かったわ」

 

貴子さんは手を拭き、受話器を取った

 

「はい。代わりました」

 

「勿論‼︎いつでもいらっしゃい‼︎」

 

「待ってるわね‼︎」

 

「なるほど。畏まりました。私で良ければ」

 

「夜ですね。畏まりました。お待ちしておりますね」

 

最初の内は誰か子供と話していたのだろう

 

後半は恐らく横須賀で真面目な対応をし、何言葉目には受話器を置いた

 

「今日の夜、清霜ちゃんが来るわ‼︎」

 

「清霜が⁇」

 

「戦艦になる為にお勉強したいんですって」

 

「な、何かすいません…」

 

「気にしないで‼︎私が教えるのは初歩よ。怒ったりしないわ⁇清霜ちゃんの好きにやらせてみるわ⁇」

 

「ありがとうございます…」

 

久々に貴子さんに対して敬語が出た

 

「はっはっは‼︎貴子なら大丈夫だろ‼︎」

 

隊長も楽観的に構えている

 

「き〜ちゃんくるの⁉︎」

 

いつの間にか足元にはたいほうがいた

 

「そうだぞたいほう‼︎たいほうは何になりたい⁇」

 

「たいほうすてぃんぐれいみたいになりたい‼︎」

 

「そっかそっか‼︎」

 

「たいほうもいっぱいひとたすけるこになる‼︎」

 

たいほうの言葉に自然に笑みが出た…

 

 

 

 

 

夜…

 

「来た‼︎」

 

高速艇に乗った清霜が来た

 

「お父様〜っ‼︎」

 

「よいしょっ‼︎」

 

相変わらず飛び掛かってくる清霜を受け止め、早速食堂に入った

 

「いらっしゃい‼︎来たわね‼︎」

 

清霜は俺の手から飛び降り、貴子さんに一礼した

 

「よろしくお願いします‼︎」

 

清霜の目は至って真剣

 

「じゃあ清霜ちゃん。私のお手伝いしてくれる⁇」

 

「勿論です‼︎」

 

流石の貴子さんも、清霜の本気さにたじろいでいる

 

俺も隊長もビックリしている

 

貴子さんは一瞬だけ俺を見て、ニヤリとした後、清霜を連れて子供部屋に向かった

 

「まっ…お前には似てないな」

 

「横須賀にも似てないさ」

 

半笑の隊長が俺の肩を軽く二回叩き、隊長も自室へと戻って行った

 

「き〜しゃん、いそがし⁇」

 

「あしぉいにきたちあう⁇」

 

ひとみといよがソファの隅に寝転びながら俺を見ている

 

「そうだなっ。よいしょ」

 

俺がソファに座ると、ひとみといよはいつも通り両サイドに来た

 

「き〜しゃんだえににてう⁇」

 

「よこしゅかしゃん⁇」

 

「そうかも知れないな。横須賀は優しいもんな⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「よこしゅかしゃん、い〜およめしゃん‼︎」

 

ひとみといよがそう言うのなら、清霜の真剣さは横須賀譲りなのかも知れない

 

しばらくすると、ひとみといよは目を擦ったりコックリコックリし始めた

 

どうやら子供部屋では、貴子さんと清霜がまだ何かしているらしい

 

二人を俺のベッドに寝かせた後、俺もその横で眠りに就いた…



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227話 戦艦になる為に(2)

嫁力発動、貴子さん

貴子さんは作中屈指の良妻

清霜ちゃんにどんな料理を教えるのかな⁇


「お父様起きて‼︎朝ぁぁぁあ‼︎」

 

「ん…清霜か⁇」

 

時計を見ると朝7時

 

ひとみといよは既にいない

 

ベッドの脇には、エプロンを着けた清霜がいる

 

「昨日は貴子さんに何教えて貰ったんだ⁇」

 

「えっとね‼︎お布団の敷き方と、温かい牛乳の作り方‼︎朝はご飯の作り方‼︎今からお洗濯のやり方と干し方‼︎」

 

「そっかそっか。ちゃんと言う事聞くんだぞ⁇」

 

「うんっ‼︎き〜ちゃん、お父様の為に朝ご飯作ったんだよ‼︎」

 

「おっ‼︎マジか‼︎くぁ〜っ…」

 

「来て‼︎」

 

アクビをした後、清霜に手を引かれて食堂に来た

 

「おはようマーカス君‼︎」

 

キッチンにいる貴子さんの機嫌がいつもより良い

 

いつも良いのだが、今日はもう一段階良い

 

「おはようございます。清霜はどうですか⁇」

 

「ビックリする位飲み込みが早いの。私の言った事全部メモして覚えてるわ⁇」

 

「誰に似たのかしらね⁇」

 

朝ご飯を食べていたローマがニヤリと笑う

 

「ローマまで言うか‼︎」

 

「マーカス君に似たのよっ‼︎ねっ⁇」

 

貴子さんがウインクをしてくれた後、清霜を連れて洗濯物を干しに行った

 

「そりゃあ貴子さんに憧れるわ…」

 

「まっ。ビビリはヤンキーだかりゃな」

 

ジャーヴィスにほっぺたを引っ張られながらも、アークは俺の事を言う

 

「そうね。キヨシモは勤勉な子だわ」

 

「清霜は⁉︎」

 

微笑みながら母さんまで向こう側に回る

 

「まっ。あれ。オトンはオトン。清霜ちゃんとは違う優しさあるよ」

 

「グラーフ…」

 

「その分マーカスは子供に好かれてるじゃないか。あの雷電姉妹がお前にだけは懐いてる」

 

「なるほど…」

 

隊長とグラーフに言われ、満更でもない気分になる

 

「あいっ、ろ〜じぉ‼︎」

 

「き〜しゃんのつくったあしゃおはん‼︎」

 

ひとみといよが持って来てくれた朝ご飯

 

目玉焼き

 

ウインナー

 

食パン

 

ホットミルク

 

そして何故か餃子

 

清霜でも簡単に作れて、尚且つお腹が膨らむ物が置かれて行くが、餃子が気になる

 

「頂きます」

 

ひとみといよは俺が朝ご飯を食べたのを見届けると、器用にキッチンの横の扉を開け、洗濯物を干す場所に行った

 

10分もすると朝ご飯を食べ終え、お皿を流しにいたはまかぜの所に返しに来た

 

「ごちそうさん」

 

「今日は私ではないです」

 

「あ、そっか」

 

はまかぜが笑う

 

「清霜さんは勤勉ですね。マーカスさんに似ています」

 

「お前は俺の味方かっ」

 

「いつだって私は味方ですよ」

 

淡々と話しているようだが、はまかぜは笑っている

 

「またグラタン作ってくれよ⁇最近寒くて敵わん」

 

「勿論です」

 

「あぁ、そうだ。何で餃子があったんだ⁇」

 

どうしても気になっていた事をはまかぜに聞いた

 

朝ごはんはパッと済ませたが、餃子は中々美味かった

 

しかし、何故朝から餃子なのか…

 

それも3つも

 

「清霜さんが貴子さんをマネて…」

 

「…あっ」

 

そう言えば、貴子さんは握力だけで餃子を作る

 

皮と餡を手に置き、一気に握り締める

 

すると、何故か熱々の餃子が出来上がる

 

しかも味は一級品

 

ただ、その時の貴子さんの顔がかなり怖いので、隊長でさえ直視出来ない

 

それを清霜はマネて”出来た”と言う事になる

 

「既に戦艦並の力はあるのでは…」

 

「う〜ん…」

 

はまかぜと同じく、腕組みをしながら顎に手を当てて頭を抱える

 

「凄い顔でしたよ、清霜さん」

 

「よし分かった‼︎やめだ‼︎」

 

「ふふっ。はいっ‼︎」

 

はまかぜと会話した後、工廠に来た

 

《創造主様》

 

「親潮か」

 

PCの前に座ると、待っていたかの様に親潮から通信が入った

 

それもテレビ電話だ

 

「段々様になって来たな⁇」

 

《ありがとうございます》

 

親潮はインカムを付けて画面を見ていた

 

ちょっと若いオペレーターと言っても通用する位に型にハマって来ている

 

《ジェミニ様からの伝言で、清霜様は如何なさっているのかと》

 

「ちゃんと貴子さんに着いて行ってるよ。アイツは何してるんだ⁇」

 

《えと…その…》

 

横須賀の事を言われ、親潮の目が泳いだ

 

「…カメラ向けてみ⁇」

 

《…畏まりました》

 

親潮が画面から離れ、カメラを動かした

 

「…」

 

《…》

 

《…ごっ》

 

リクライニングを倒し、イビキをかいている横須賀が映った

 

「…清霜は凄い真面目だぞ」

 

《割りますか⁇》

 

親潮の目の前には、横須賀の鼻ちょうちんがある

 

「仕事は残ってるのか⁇」

 

親潮はまたカメラを動かした

 

《これくらい残ってます》

 

カメラの先には、結構な量の書類の束が‼︎

 

「叩き割れ‼︎」

 

親潮はすぐに早霜辺りが使っている色鉛筆を手にし、横須賀の鼻ちょうちんに向けた

 

パチ

 

《寝てないわよ》

 

「目閉じて気絶は無しだぞ」

 

《鼻ちょうちん膨らませて遊んでただけよ。清霜はどう⁇》

 

「貴子さんの言う事聞いて色々してるぞ」

 

《そっ。ならいいわ。さ、仕事仕事〜》

 

横須賀はこれ見よがしに書類を手に取り、仕事を再開した

 

《で、では創造主様‼︎これにて‼︎》

 

親潮の顔が映り、通信が切れた

 

 

 

清霜は昼からも貴子さんの手伝いをしている

 

掃除をしたり、お昼ご飯を作ったり、ちょっと休憩をしては何かをする為に動いている

 

その度に清霜はやった事をメモにしっかりまとめている

 

たいほうやひとみといよが何度か遊びに誘おうとしているが、アークやローマが代わりに遊んでいる位、大人達にも清霜の真剣さが伝わっている

 

何が清霜を突き動かしているのか…

 

そんなに戦艦になりたいのか…

 

 

 

「ごちそうさまでした‼︎」

 

貴子さんと清霜が焼いてくれた夕ご飯の焼肉が終わり、大人達はコーヒータイム

 

清霜と貴子さんはお風呂の湯を溜めに行っている

 

「ありゃあマジだな…」

 

「貴子が教えてるのは家事だぞ…」

 

「タカコを信じなさい」

 

俺達の目線が母さんに行く…

 

 

 

「清霜ちゃん、もう帰るの⁇」

 

「お母様が今日の夜までって」

 

「お風呂は⁇」

 

「向こうで入ります‼︎」

 

「そっか…」

 

溜まって行くお湯を見ながら、貴子さんは清霜と話をしていた

 

貴子さんはちょっと嬉しかった

 

普段、隊長や俺が子供達から尊敬されているのを、貴子さんはいつも横で見ていたからだ

 

一度で良いから憧れられてみたい…との気持ちが何処かにあった

 

「清霜、戦艦になれますか⁇」

 

「なれるわ、清霜ちゃんなら」

 

貴子さんは清霜と目線を合わせるように屈み、清霜の手を握った

 

「戦艦には二つの役目があるの。一つは、持っている”道具”で大切な人を守る事」

 

「はい」

 

「もう一つは、大切な人の帰る場所を守り抜く事。今日清霜ちゃんに教えたのは、二つ目の役目よ⁇」

 

「清霜は横須賀ですか⁇」

 

「そうね。清霜ちゃんが守り抜くのは、横須賀になるわ。難しく考えないで⁇清霜ちゃんの出来る範囲で良いのよ⁇毎日1つでもいいの。マーカス君が居ない間、横須賀さんや、お姉ちゃん達を守ってくれる⁇」

 

「やれます‼︎」

 

「うんっ‼︎大丈夫ね‼︎」

 

お湯が出ていた蛇口を閉め、清霜と貴子さんが帰って来た

 

清霜は帰る為の準備をし、リュックを背負った

 

「ありがとうございました‼︎」

 

「清霜ちゃん、これあげるわ」

 

貴子さんが渡したのは、清霜サイズのエプロン

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「マーカス君、港まで送ってあげてくれる⁇」

 

「分かった。行こうか、清霜」

 

「はいっ‼︎」

 

手を繋いで港まで行く間、清霜は一度だけ振り返り、貴子さんに手を振った…

 

 

 

 

「さっき貴子さんに何教えて貰ったんだ⁇」

 

「き〜ちゃんが戦艦になる方法‼︎」

 

「…そっか」

 

清霜は頑なに教えてくれない

 

男と男の秘密があるように、女と女の秘密もあるのだろう

 

笑顔のまま、清霜は横須賀に帰って行った…

 

 

 

その日以降、何故か清霜が横須賀の家事を手伝う様になったのは言うまでもない



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228話 夢のカタチ(1)

さて、227話が終わりました

今回のお話は、ネルソンのネックレスの中身のお話です

そして、新しい子が出てきます

果たして誰なのか…


「アレン。そう言えばこれには何のデータが入っているのだ⁇」

 

休暇中のアレンとネルソンがいるラバウル

 

朝ごはんを終えて、食堂のソファーで横になりながら雑誌を読んでいたアレンの近くに来たネルソンがネックレスを見せた

 

ずっとネックレスを護っていたネルソンは、気になってはいたが、中身を見る事は無かった

 

「見るか⁇」

 

「うぬ‼︎」

 

早速アレンの部屋に移動してPCの前に座り、ネルソンからUSBを受け取り、PCに挿した

 

何度かアレンがキーボードを叩くと、何かの設計図が出て来た

 

「空中艦隊計画か」

 

「そっ。俺の夢だ」

 

ずっと前に愛宕と見ていた資料より、更に細かい資料がそこにあった

 

「ん⁇これは⁇」

 

ネルソンの目に一つの資料が入る

 

「”ツクモ型エンジン”の設計図さ」

 

「ツクモガタエンジン⁇」

 

「複合サイクルエンジンさ。少しの燃料で最初の発電器を動かして、それらで別の発電器を動かす。それを用いて充電して静かな状態で物を動かせるエンジンさ」

 

「潜水艦に向いてそうだな」

 

「マーカスのタナトス級に、この”イヅナ型”が乗ってる」

 

イヅナ型エンジンは燃料で起動した後、水力発電で動き、その余力で風力で発電し、それらで溜まった電力を動力にしたり、兵装を管理している

 

簡単に言うと、ガソリンでの起動と電力によるクリーンな起動の二つが可能なエンジンだ

 

最初だけガソリンで起動さえしておけば、後は様々な発電方法でエネルギーを産み出せる

 

「こいつはなんだ⁇」

 

「こいつは…」

 

ネルソンの目線の先には、何やら完成間近の設計図

 

そしてAIがあった

 

「巡航管制艦”ダッキ”、管制AI”タマモ”…良い名だなっ」

 

「まっ…上手く行かないのはいつもの事さっ」

 

顔を見合わせて微笑み合う二人

 

アレンはネルソンと軽いキスをした後、機体のある場所に行った

 

ネルソンはアレンを見届けた後、PCに目を戻した

 

「色々考えていたのだなっ…」

 

多量にある設計図を見ながら、ネルソンは微笑む

 

完成間近まで来ていた、火力プラットフォーム

 

載せる機材まで事細かに描かれた、電子プラットフォーム

 

そして、無人管制による重巡航管制機…

 

何らかのアーセナルシップとしても活躍が期待されていたみたいだが、途中で頓挫してしまっている

 

アレンの夢の塊がそこにあった

 

そして、最後にAIに目をやった

 

”玉藻”と名付けられたそのAI

 

「そうか…ふふっ」

 

ネルソンは気付いた

 

このAIは、今までずっとネルソンと一緒にいたのだ

 

アレンから預けられた大切なデータだと思っていたが、AIと聞いてその思いが変わった

 

「良い子だぞ、タマモ」

 

そう言って、ネルソンはタマモが入っているPCを撫でた…

 

 

 

 

それから数日…

 

「よいかタマモ。これはオムレツだ」

 

夜中にネルソンは眼鏡を掛けてPCにネックレスの中にあるUSBを挿して座り、PCに話し掛けていた

 

「何してるんだ⁇」

 

アレンがコーヒー片手に、ネルソンが座っている椅子に腕を置きながらPCを眺めている

 

「タマモに色々教えているのだ」

 

アレンはコーヒーをすすり、ネルソンではなくPCを見ている

 

「レイには遠く及ばないなっ…」

 

「比べる必要は無い。アレンはアレン。タマモはタマモだ。よいかタマモ…」

 

何気無いネルソンの言葉を聞き、アレンはネルソンの後頭部を見て微笑んだ

 

アレンはずっと気になっていた

 

自分は何かとレイの二番手な事が多い

 

潜水艦だって、艤装だって、医療だって…

 

それが今、ネルソンのたった一言で吹き飛んだ

 

アレンはそっとネルソンから離れ、何かを持って来た

 

「ん⁇」

 

ネルソンの耳にインカムを付けた

 

「タマモは話せないが、ネルソンの声は聞こえてる」

 

「おぉ‼︎そうか‼︎」

 

アレンはずっとネルソンを見ていた

 

人に何かを教えるネルソンの姿を久々に見たからだ

 

アレンはそんな姿ネルソンの姿を見るのが好きでいた…



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228話 夢のカタチ(2)

それからもネルソンは合間を見つけては、タマモに色々な事を教え続けた

 

例え寝る前10分だけでも、毎日話す時間を作った

 

それでも、夫婦生活やラバウルの皆とは仲良くやっていた

 

そして、ある日の夜…

 

「タマモ。これは団子だ」

 

PCの画面に団子の画像を出し、タマモに話し掛ける

 

勿論、答えが返ってくる訳ではない

 

「ん⁇」

 

突然メモが開き、文字が打たれて行く

 

”団子 オムレツ”

 

「おぉぉぉお‼︎アレン‼︎おいアレン起きろ‼︎」

 

「ん〜⁇」

 

驚いたネルソンはすぐにアレンをバシバシ叩いて起こし、PCの画面を見せた

 

「これ…タマモがか⁉︎」

 

たった一行の文だが、目を擦っていたアレンは一気に目が覚めた

 

自分が産み出したAIがコミュニケーションを取ろうとしているのだ

 

「そうだっ‼︎タマモ、余の名前はネルソンだっ‼︎」

 

ゆっくりとだが、メモに書かれて行く文字

 

”ネルソン”

 

「俺はアレンだ‼︎」

 

”アレン”

 

二人の声を聞き取り、ちゃんと答えを返した

 

「凄い…」

 

”父上 母上”

 

「そうだぞっ‼︎余はタマモの母だっ‼︎」

 

「俺がお父さんだ‼︎」

 

”タマモ”

 

「そうだっ‼︎貴様の名前はタマモだっ‼︎」

 

「き、記録だ…記録‼︎」

 

アレンはビデオカメラを持って、ネルソンとPCを映し始めた

 

「よいかタマモ。余が好きなのは紅茶だっ‼︎」

 

”紅茶 紅茶はダージリン”

 

「偉いぞタマモ‼︎余が好きな菓子は分かるか⁉︎」

 

”スコーン”

 

スコーンと画面に文字が打たれ、ネルソンはアレンの顔を見た

 

「凄い…」

 

「偉いぞタマモ‼︎流石は余とアレンの”子供”だっ‼︎」

 

ネルソンはPCの中にいるタマモに向かって話し掛けている

 

再びネルソンの何気無い一言で、アレンの思いが変わる

 

そっか

 

ネルソンにとっては、タマモは子供なのか

 

だからこんなにタマモに教えているのか…

 

…そう言えば、ジェミニもそうだ

 

ひとみちゃんといよちゃんと出会って、ジェミニは随分母親らしくなった

 

AIには母性本能をくすぐる何かがあるみたいだな…

 

”父上”

 

「ほらっ、アレン‼︎」

 

ネルソンからインカムを貰い、それを付けた

 

「どうしたタマモ」

 

ゆっくりと文字を打つタマモ

 

打たれて行く文字を見て、アレンもネルソンも息が詰まった

 

”タマモ いらない子⁇”

 

「そんな訳あるか。俺の大事な子だ」

 

”どうして ネックレスに 入れて 母上の 所に?”

 

そう文字が打たれ、言葉が詰まった

 

そんなアレンを見て、ネルソンはアレンからインカムを取り、再び付けた

 

「アレンはな。タマモが死んで欲しくなかったから、余に預けたのだ」

 

ネルソンの問い掛けに、タマモの返答は無い

 

「今の今まで、アレンは余達を護ってくれていたのだぞ⁇」

 

”本当⁇”

 

「あぁ。本当だ。アレンは立派な父親だぞ‼︎」

 

”よかった”

 

「ふふ…」

 

生身の我が子を撫でるかのように、ネルソンはPCを撫でた

 

「さっ。今日はもう休もう。タマモ、また明日なっ」

 

”おやすみなさい 母上”

 

「おやすみ、タマモ」

 

”おやすみなさい 父上”

 

タマモは二人に返事を返した

 

それだけでも、二人の親は心躍った

 

その夜、アレンとネルソンは同じベッドで沢山の話を話した

 

明日は何を教えようか…

 

明日は何を見せてあげようか…

 

一分一秒進む毎に、親の顔になっていく二人…



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228話 夢のカタチ(3)

数日後…

 

「タマモ。MeはIowa‼︎覚えてくれた⁉︎」

 

”あいちゃん”

 

「Good‼︎」

 

今度はアイちゃんがPCの前に座っている

 

”父上”

 

「Papa‼︎タマモが呼んでる‼︎」

 

「どうしたタマモ」

 

”タマモは 役目を 思い出しました”

 

「いいんだタマモ」

 

”タマモの 役目は 父上の 補助を する事”

 

本来のタマモの役目は、本人の言う通りアレンの補助をする事

 

色々な事を調べたり、計算をしたり、データを引き出したりと…

 

名前に恥じない働きをするのがタマモの役目のはずだった

 

「タマモの好きにしてご覧」

 

”タマモの 好きに⁇”

 

「そっ。タマモはどんな事をしたり、されてみたい⁇」

 

”タマモは…”

 

タマモは悩んでいた

 

非常に珍しい光景だ

 

「Iowaみたいに、Papaにギューして貰う⁇」

 

アイちゃんはPCに見える様にアレンに抱き付いた

 

”タマモも それがしたい”

 

「なるほどなっ」

 

「タマモの夢は素敵な夢ね‼︎」

 

照れているのか、タマモは黙っている

 

ここ数日でタマモの感情表現は格段に増えている

 

音声システムでも造ってやろうかと思っていた矢先に、遠回しではあるがタマモは体を持ちたいと言った

 

「ここは権威を呼ぼう」

 

ネルソンの一言で”アイツ”に頼る事に対して抵抗が無くなった

 

 

 

 

「なるほどな…」

 

一時間もすれば、横須賀にいたレイときそちゃんがすっ飛んで来た

 

きそちゃんはアイちゃんと一緒に遊び、俺とアレンはPCの前に居た

 

「一番詳しいからな」

 

事の事情を説明し始めると、レイは真面目な顔になった

 

「タマモちゃんか⁇」

 

”貴方の お名前は⁇”

 

「俺はマーカス・スティングレイ。君のお父さんの友達さ」

 

”よろしく お願い します”

 

レイはタマモと話しながら、何かのプログラムを組み込んでいる

 

「それは何だ⁇」

 

「お前と造った音声システムさ。横須賀から引っ張り出して来た」

 

「よく残ってたな⁉︎」

 

「お前の手が掛かると質が良いからな。よし、出来た‼︎」

 

作業をしながら、レイもネルソンと同じ褒め方をした

 

二人の何気無い一言がコイツと張り合うのでは無く、手を取り合えと語り掛けて来る

 

「さっ、タマモ。君の初めてのお仕事だ‼︎君はどんな声が良いか、自分で選ぶんだ‼︎」

 

”声”

 

タマモの前に、音声システムと話し方の癖等の情報が並べられる

 

レイは真剣な目でタマモの動きを見ているが、顔は綻んでいる

 

まるで、自分の子供の成長を間近で見るような…そんな目をしている

 

”父上”

 

「ん⁇どうした⁇」

 

”タマモが どんな声でも 抱き締めて くれますか⁇”

 

「勿論さ‼︎」

 

”よかった”

 

レイは何も言わず、俺達の顔を見て微笑んでいた

 

”では これに します”

 

タマモはシステムを二つ選んだ

 

「オーケー。今からそれを君に組み込むから、ジッとしてるんだ」

 

”畏まりました”

 

タマモにシステムが組み込まれ始める

 

膨大なデータが着床するまでしばらく時間がかかる為、俺とレイは部屋を出てコーヒーを飲む事にした

 

「済まぬな、急に呼び出して」

 

「気にするな。子供の夢を運ぶ仕事ならいつだって飛んで来るさ」

 

キッチンにいたネルソンにコーヒーを淹れて貰い、俺達はそれを飲みながら時間を待った

 

「…張り合う必要なんてなかったんだな」

 

「ねぇよんなモン。お前はお前にしか出来ん事がある。現に見ろ。俺はお産に関してはからっきし。精々痛み止め作って貴子さんと千代田にポイされるのが関の山さ。お前はどうよ⁇」

 

「助産師の免許がある」

 

確かに愛宕のお産を処置したのは俺だ

 

アイちゃんを最初に抱き上げたのも俺だ

 

「シールド中和装置の根幹思い付いたのは⁇」

 

「俺だ」

 

「皆が幸せになるエンジン造ったのは⁇」

 

「…俺だ」

 

レイの言葉を聞き、体が震えて来る

 

何を張り合っていたんだ、俺は…

 

「俺には出来ない仕事さ。お前は出来る」

 

「ありがとう、レイ」

 

「気にすんな。お互い様だろ」

 

コイツに頼って良かった…

 

コイツが親友で良かった…

 

コイツが本気でぶつかれる奴で良かった…

 

今はそれしか出て来なかった

 

「まっ。今度誰かの出産の時は頼むわ。貴子さんも忙しいからなっ」

 

「いつでも頼ってくれ」

 

イタズラに口角を上げるレイに対し、俺も口角を上げ返す

 

タマモのデータ着床までもう少し…



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228話 夢のカタチ(4)

「そろそろ終わった頃合いだな」

 

「行くか⁇」

 

「行こう」

 

「余も行こう‼︎」

 

ネルソンもタマモの成長を見る為、アレンの部屋に戻って来た

 

「どうだタマモ。終わったか⁇」

 

タマモの返答は無い

 

「…タマモ⁇どうしたのだ⁇」

 

「タマモ、どうした⁉︎」

 

「具合でも悪いのか⁉︎」

 

三人が語り掛けるも、タマモからの応答は無い

 

「きそを呼んでくれ」

 

レイはインカムを外しながら俺達にきそちゃんを呼ばせるように言った後、キーボードを叩き始めた

 

「余が行こう。アレン、タマモを頼んだ」

 

「頼んだぞ‼︎」

 

ネルソンが出た後、レイはキーボードを叩き続けながら、俺にインカムを渡した

 

「初仕事だ”父上”。タマモに語り掛けてくれ。俺は居場所を探す」

 

「分かった‼︎タマモ、何処にいるんだ⁉︎」

 

どうやらタマモは俺のPCから抜け出したみたいだ

 

その居場所をレイが探し出し、俺はタマモに語り続ける

 

「はいはい、どうしたの⁇」

 

きそちゃんが来てくれた

 

「これを見てくれ」

 

「AIの通貨経路だね」

 

「何処に行ったか分かるか⁇」

 

「うん。工廠付近にいる」

 

それを聞いたレイがゆっくりと此方を向いた

 

「あ、アレン…」

 

「何だ⁉︎」

 

「え、AIってのはな⁇その…イレギュラーが多いんだ…」

 

何故かレイは目が泳いでいる

 

「タマモは大丈夫なのか⁉︎」

 

「大丈夫どころか〜、その〜…工廠に行けば分かる‼︎」

 

「なら行くぞ‼︎」

 

ネルソンを連れて行き、レイ達より一足早く工廠に向かう

 

「立派な父上だこと」

 

「僕は何にもしてないよ⁉︎」

 

「分かってるさ。あの子の意思さ」

 

レイ達も小走りで工廠に向かう…

 

タマモが居なくなったPCの片隅に、小さく文字が表示されていた

 

”建造中”と…

 

 

 

「開けるぞ」

 

「うぬ」

 

「待て待て待て‼︎」

 

「ちょっと待って〜‼︎」

 

追い付いたレイ達が、工廠の扉を開けようとした俺達を止めて扉の前に立った

 

「アレンさん、ネルソンさん。この扉開けると引き返せないよ⁇」

 

「二人にその覚悟はあるか⁉︎」

 

「よく分からんが余達の子供だぞ‼︎」

 

「何かあってからじゃ遅いんだ‼︎」

 

「じゃあ開けるぞ⁉︎」

 

「行くよ‼︎」

 

工廠の扉が開かれる…

 

「タマモ‼︎」

 

「何処だタマモ‼︎」

 

俺もネルソンも工廠の中で叫ぶが、何処にもいない

 

「おいレイ‼︎来てくれ‼︎」

 

「ここから見てるよ」

 

「家族は誰にも邪魔されちゃいけないからね」

 

「なに⁉︎」

 

そう言って、レイときそちゃんは入り口に立って微笑み合っている

 

「父上‼︎母上‼︎」

 

呼ばれ覚えのある呼ばれ方が工廠に響いた

 

その声が聞こえるなり、ネルソンはゆっくりと歩みを速め、声のした方に走った

 

そして、声の主を抱き締めた

 

「タマモ‼︎」

 

「母上じゃあ母上じゃあ‼︎」

 

ネルソンにはすぐに分かった

 

目の前にいる少女がAIのタマモだと…

 

「なっ…タマ…⁉︎」

 

焦ってレイの方を見返すと、顎で”早く抱き締めてやれ”と合図した

 

「父上‼︎」

 

巫女服に身を包んだ”娘”を抱き締めるのに、言葉は要らなかった

 

「タマモっ‼︎」

 

「父上‼︎」

 

タマモを抱き上げ、高い高いする

 

「ずっとこうしたかったんだ…」

 

画面の向こうやネックレスの中にいた自分の子供が今、こうして自分の元に現れた

 

こんなに嬉しい事はない

 

「…やっぱりレイの友達だね⁇」

 

「…あぁなるんだよ。そのうち分かるさっ」

 

そう言って、レイはきそちゃんの頭を撫でた

 

「ふふっ‼︎あ、そうだ。名前を決めなきゃ‼︎」

 

「タマモじゃダメなのか⁇」

 

「余はタマモで構わん‼︎」

 

「わっちもタマモがよい‼︎」

 

俺達はタマモに新しい名前を付ける事を反対したが、きそちゃんは引き下がらなかった

 

「新しく産まれて来たんだ。新しい名前も必要だよ⁇」

 

「なら…」

 

「待て。余が決めたい」

 

考えようとした矢先、ネルソンに止められた

 

「実は何と無く決めていたのだ。タマモは日々学ぶ子だ。知能も日々進んでいる。日々学び、日々進む…”日進”はどうだ⁇」

 

「「「おぉ〜…」」」

 

そこにいた全員が納得した、意味も響きも綺麗な名前

 

誰も反対する奴は居なかった

 

「凄い良い名前じゃん‼︎」

 

「こりゃ決定だなっ」

 

「日進…か」

 

「わっちは幸せもんじゃあ‼︎」

 

全員が日進の方を向く

 

「わっちは、父上にも母上にも名前を付けて貰うた。わっちはどっちも好きじゃ‼︎」

 

「日進…貴様は良い子だ‼︎」

 

「良い子だっ‼︎」

 

俺もネルソンも日進を撫で繰りまわす

 

「さっ‼︎俺は帰りますかねっ‼︎」

 

「邪魔しちゃいけないしね‼︎」

 

「レイ‼︎きそちゃん‼︎ありがとう‼︎」

 

「気にすんな。お互い様だっ」

 

「またね〜‼︎」

 

引き際を理解しているレイときそちゃんは、そう言い残すと工廠から出て行った…

 

「さぁ日進‼︎皆の所に行こう‼︎」

 

「うぬ‼︎楽しみじゃ‼︎」

 

「行くぞアレン‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

日進を中心に手を繋ぎ、俺達は皆の待つ場所へと帰った…

 

 

 

 

 

水上機母艦”日進”が産まれました‼︎




日進…巫女服ちゃん

アレンがネルソンに預けていたAI”玉藻”が体を持った姿であり、アレンとネルソンの子供

巫女服を着て産まれて来た理由は、アレンがベッドの下に隠していた漫画をネルソンが見せた為

一人称がわっち、言語が広島弁なのもそこから

管制AIな為、物覚えや知識の吸収が早い

元がアーセナルシップの為、何らかの特殊艤装を持てる可能性がある

現在はラバウルで愛宕や大和達と共に家事をしている

好きな物は一番最初に覚え、一番最初に作れるようになったオムレツ



重巡航管制機”妲己”…アレンの”夢の形”

アレンが考案していた空中艦隊計画の旗艦

空母能力及び何らかのアーセナルシップの役割もこなし、それらを撃ち出す能力があった

莫大な費用が掛かる為企画は頓挫したが、設計図はネルソンのネックレスに入っていた



九十九型エンジン…複合サイクルエンジン

アレンが考案し、実現可能にした傑作エンジン

初期動作だけ少量のガソリンで行い、クリーンな電力を次々に生み出す

例…初期動作→水力発電→風力発電→タービン回転時の回転エネルギー

タナトス級には”飯綱型”と呼ばれる頑丈で静かなエンジンが載っている



マーカスが外国の神様やそれに近い名前を付けるのに対し、アレンは漢字の名前を付ける。面白いね


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229話 君と過ごした街(1)

さて、228話が終わりました

今回のお話は、ヴィンセントのお話です

アメリカに呼び戻されたヴィンセント

果たしてヴィンセントはどうなるのか⁉︎


「一時帰国命令か…」

 

ヴィンセントに一時帰国命令が下りた

 

理由は不明だが、アメリカが言って来たので帰らない訳には行かない

 

「向こうで何か話があるのかと」

 

「今の生活が気に入っているので、帰りたくはないのですがね…仕方ありません」

 

「では、受諾します」

 

棚町に判を押され、ヴィンセントの一時帰国が許可された

 

「アドミラル棚町」

 

「何でしょう」

 

「荷物を引き上げて来ても構いませんか」

 

「勿論。あなたさえ良ければ」

 

棚町の言葉を聞き、ヴィンセントは帽子のツバを指先でつまみ、執務室から出た

 

「気に入って頂けてるみたいですね⁇」

 

「マクレガー大尉とガンビアさんも居るからじゃないかな。今ようやく家族が戻って来たんだよ、きっと」

 

「では、見守ってあげなければ‼︎ですね⁇」

 

「そゆことっ‼︎」

 

鹿島と棚町が話す執務室

 

そんな中、ヴィンセントは複雑な思いのまま、本土を飛び立った

 

 

 

 

「ヴィンセントがアメリカに召集ねぇ」

 

ヴィンセントがアメリカへと向かった次の日、横須賀パイロット寮

 

「ねぇ。な〜んかやな予感しない⁇」

 

リチャードとイントレピッドが朝から話している

 

リチャードは朝食を食べながら

 

イントレピッドは食器を片付けながら

 

実に夫婦関係に近い絵面である

 

「あいつは堅物だが、腕は確かだからな。しかも歴戦の空母の艦長。本国だって他国に渡したくないだろうに」

 

「リチャードは召集されないのね⁇」

 

イントレピッドはイタズラに笑いながらリチャードを見る

 

「どうせ俺は女たらしのクソパイロットですよ〜だ」

 

冗談が通じる二人だからこそ、こうして笑い合える

 

「まっ⁉︎そう言う私も召集されないんだけどねっ⁉︎」

 

「何だろうな…”あの二人”にも聞いてみるか…ごちそうさん‼︎」

 

「食器は置いておいて‼︎あっ、リチャード⁉︎」

 

イントレピッドは食器を洗っていた手を止め、キッチンから出て来た

 

「ちゃんと身嗜み整えて。ニット被って‼︎」

 

リチャードのジャンパーを整え、ポケットから自身が編んだニット帽を被らせる

 

「はいっ‼︎OK‼︎風邪引いちゃダメよ⁇」

 

「お前はマ…」

 

お前はママか‼︎と言おうとしたが、パイロット達からママと言われているのを思い出し、言わない事にした

 

「こうしてジワリジワリ、私を嫁にしなかった事を後悔させたげる…ふふひふひひ」

 

「う…」

 

イントレピッド特有の、ニタァ…と微笑む恐怖の笑顔

 

蒼龍のニタァ…とはまた違うベクトルの恐怖で背筋が凍る

 

蒼龍のニタァ…は、死滅を意味する

 

蒼龍のニタァ…を見た人は、今の所リチャードしか生存していない

 

そんなレベルで恐ろしい死の微笑みである

 

しかしイントレピッドのニタァ…は、何処か優しさが残っているニタァ…

 

数分後にはイントレピッド自体を怒らせた事を後悔する…そんなニタァ…

 

「行ってくる」

 

「行ってらっしゃい‼︎」

 

イントレピッドに見送られ、リチャードは”あの二人”の場所に向かう…

 

 

 

 

「これで筋力の補助が出来るぞ」

 

「コレダケデモ、トリアエズツカエル」

 

「やったわねマー君‼︎」

 

研究室で三人が出来上がったアーマーの腕部分をマークが装着し、性能を試している

 

アーマーはもう完成目前に近いみたいだ

 

「よっ」

 

「リチャードか珍しい。どうした⁇」

 

「いんや。ヴィンセントのアホが本国に渡ったって聞いてな。何か知ってるか⁇あ、すまんな」

 

ヴェアからコーラを貰い、それを飲みながらリチャードは机に腰を置き、マークと話す

 

「ヴィンセントがか⁇」

 

「あぁ。何でもっ…急な召集だったモンからっ…出てから知った」

 

「マー君…」

 

サラが不安そうにマークを見つめる

 

「ヴィンセントは艦長だ。そう手荒な真似はしないだろ」

 

「だと良いがな…」



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229話 君と過ごした街(2)

その頃ヴィンセントは…

 

「懐かしいな…」

 

生まれ育った場所である、サンフランシスコに戻って来ていた

 

ガンビアともここで出逢った

 

目に入ったのは、そのガンビアと何度もデートをしたカフェ

 

久々にここで食事をしようと考えた

 

「いらっしゃいませ。ご注文は⁇」

 

「クロワッサンとコーヒー。それと、アイスクリーム」

 

「畏まりました」

 

食事が来るのを待つ間、ヴィンセントは街を眺めていた

 

美しい街だ…

 

アレン、エドガー、ケンゴ。そしてサンダーバードの連中がとある街を美しい…この街だけは護らねばと言っていた事が、このサンフランシスコを見て良く分かる

 

私はきっと、この街の為なら死ねるのだろうな…

 

「お待たせしました」

 

クロワッサンとコーヒー、そしてアイスクリームが置かれる

 

「ありがとう」

 

ヴィンセントは朝食にアイスクリームを食べる事が多い

 

いつ死ぬか分からない仕事

 

ならば、朝に一番好きな物を食べておけば後悔は少ない

 

彼なりのジンクスでもある

 

クロワッサンを頬張りながら、コーヒーを啜る

 

三つあったクロワッサンが最後の一つになった時、ヴィンセントは何かの視線に気が付いた

 

視線の先に目を合わせる

 

そこには髪の毛はボサボサ、身嗜みもボロボロの子供がいた

 

手にウサギのぬいぐるみを持っているが、地面を何度も引き摺っているのか、ボロボロになっている

 

ヴィンセントは人差し指を立てて軽く前後し”こっちに来い”と合図をした

 

子供はそれに誘われるがまま、ヴィンセントの所に来た

 

「こんな朝っぱらからどうしたんだ」

 

「…」

 

子供はボケーッとした目でヴィンセントを見つめるが、返事は返さない

 

「パパとママはどうしたんだ⁇」

 

すると、子供は首を横に振った

 

「…まぁいい。そこに座って」

 

ヴィンセントの向かい側に子供が座る

 

「お腹は空いてるか⁇」

 

その問いに、子供は首を縦に振った

 

「分かった」

 

ヴィンセントはベルを鳴らし、店員を呼んだ

 

「クロワッサンと…オレンジジュース。それと、アイスクリーム」

 

「畏まりました」

 

子供はキョロキョロして不安そうに店員とヴィンセントを交互に見る

 

「心配するな。取って食いはしないさ」

 

「あり…が…と」

 

ようやく言葉を話した

 

「そのウサギの名前は⁇」

 

「キャロル…」

 

「そっか。おっ、きたきた」

 

「お待たせしました」

 

子供の前にクロワッサンとオレンジジュース、そしてアイスクリームが置かれて行く

 

ヴィンセントが目で合図をすると、子供は一礼してヴィンセントの目を見ながらクロワッサンを口に入れた

 

「コーヒーのおかわりを」

 

ヴィンセントもコーヒーのおかわりを貰い、子供が食べ終わるのを待つ

 

「おいしいね、キャロル…」

 

ほんの少しだけ、子供に笑顔が戻る

 

子供が食べ終わったのを見て、ヴィンセントは代金を机に置いた

 

「私は仕事があるから、またな」

 

子供は真っ直ぐな目でヴィンセントを見つめるが、ヴィンセントはそのまま背を向けた

 

ヴィンセントが目指すのは、当時ガンビアと住んでいたアパート

 

ガンビアとアレンが見付かった今、ヴィンセントが居るべき場所は家族の待つ場所だ

 

サンフランシスコも大事だ。護らねばならない

 

だが、再開出来た家族を護るのが最優先だ

 

「…」

 

背後に視線を感じる

 

「着いて来たのか⁇」

 

振り向くと、そこには先程の子供がいた

 

「…まぁいい。体位は洗ってやる」

 

ヴィンセントが手を差し伸べると、子供はすぐに手を取った

 

「おっ…」

 

それも、離さまいと力強く握られる

 

余程一人ぼっちだったのだろう

 

アパートに着き、ヴィンセントはまず風呂場に向かう

 

「出た出た」

 

正直湯が出るか心配だったが、ライフラインはまだあるみたいだ

 

何せ、長い期間開けていたからな

 

湯が溜まるまでの間、ヴィンセントは手配してあった運搬業者に連絡を入れた

 

「私だ。二時間したら荷物を大湊宛に梱包して届けてくれ。なに、あまりないからすぐ終わるさ。頼んだ」

 

電話を切ると、ヴィンセントは服を探し始めた

 

「とりあえずはこれを着とくか…」

 

少しどころかかなりデカイ、ガンビアのTシャツ

 

胸元にデカデカとナポレオンフィッシュのプリントが施されている

 

しかし、これなら子供の体格なら全身を隠せてワンピース代わりとして使える

 

「よしっ。お風呂に入ろう」

 

脱衣所に行き、ヴィンセントは子供の服を脱がせた

 

「おっと…」

 

薄汚れていたので分からなかった

 

その子供には、見慣れた物が付いていなかった

 

それどころか、胸部が少し出始めてさえいた

 

「女の子だったのか。すまない、気付かなかったよ」

 

少女は何が起きているのか分からないという顔をしている

 

ヴィンセントは少女を椅子に座らせ、まずは目一杯のシャンプーで髪の毛を洗い始めた

 

「綺麗な髪じゃないか」

 

「かみ」

 

二回程髪を洗うと、垂れたお湯が顔の汚れを流し、ちゃんと女の子の顔が出て来た

 

「体は洗えるか⁇」

 

ボーッとヴィンセントを見る少女にボディソープやタオルを渡すと、キチンと洗い始めた

 

「私はキャロルを洗って来るから、体洗ったらお風呂に入るんだぞ」

 

「うん」

 

風呂場を出て、キャロル、そして少女か身に付けていた物全てを洗濯機に放り込む

 

ついでに乾燥もしておけば、二時間で終わるだろう

 

洗濯機を見ながら横須賀で買った電子タバコを吸って、少女が上がって来るのを待つ

 

「あったかいか⁇」

 

ドア越しだが、ちゃんと音は聞こえる

 

パチャパチャと音がする所を見る限り、ちゃんと湯船に浸かっているみたいだ

 

「たすけて」

 

「どうした⁉︎」

 

慌てて風呂場に入ると、少女は浴槽から出れずにいた

 

浴槽に入った時は木の台があったが、出る時は何もなく、足も届かず、完璧に出れずにいた

 

「よいしょっ‼︎」

 

少女の脇に手を入れ、浴槽から出した

 

「ありがと」

 

「着替えようか」

 

体を拭いた後、ガンビアのTシャツを着せた

 

「あちゃ…」

 

中途半端に胸部が出てるので、それを隠す物が無い

 

それに、パンツも無い

 

「考えるんだ…え〜と…」

 

作戦ならパッと出て来るのだが、こう言う子供…しかも女の子に対してどうして良いのか分からない

 

「と、とにかくパンツだ‼︎」

 

引き出しからガンビアのパンツを取り出し、少女の前に出した

 

「は、履けるか?」

 

「はく」

 

少女はうつむきながらパンツを履くが、すぐに床に落ちた

 

少女は落ちたパンツをジーッと見ている

 

ヴィンセントもジーッと見る

 

「そうだ‼︎」

 

ふと思い出したヴィンセントは、再び引き出しから違うパンツを取り出した

 

「ちょっと派手だが、無いよりは良いだろう」

 

取り出したのは黒いレースのパンツ

 

横に結び紐が付いているので身体が小さくても何とか調整出来ると見た

 

ヴィンセントは少女の服を捲り上げ、パンツを履かせ、紐を結う

 

胸にはタオルを二重にしたのを巻き、大切な部分は隠せた

 

「よしっ。これで何とか凌いだな」

 

洗濯機から乾燥を終えたキャロルを取り出し、少女に抱かせる

 

「キャロル」

 

少女はキャロルを愛おしそうに抱き、キャロルの額に鼻を付けた

 

少女に下着もどきを着けた所でインターホンが鳴った

 

「中将。運搬作業に参りました」

 

「頼んだ…」

 

ヴィンセントにとって、愛する人との憩いの時間を過ごしたかけがえのない場所

 

最後となると、やはり名残惜しさがあった

 

「中将、娘さんもいらしたのですか⁇」

 

作業員に言われ、ヴィンセントは目線を下げた

 

洗濯したキャロルを抱いた少女が、ヴィンセントの手を握っている

 

「あ⁉︎あぁ…まぁ、色々と…な⁇私はこれからサンフランシスコの基地に向かう。後は頼んだ」

 

「了解しました‼︎」

 

少女を腕に付けたまま、ヴィンセントは思入れ深いアパートを出た…



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229話 君と過ごした街(3)

「基地に着いたら検査して貰って、身元の確認するから。ちゃんとして、待ってたらご飯食べような」

 

「うん、ちゅじょー」

 

「私はヴィンセント。ヴィンセントだ」

 

「びんせんと」

 

「そうだ。君は⁇」

 

「わかんない。おなまえない」

 

「身元が分かったら名前も分かるさっ」

 

バスを乗り継ぎ、ヴィンセントと少女は海軍基地に着いた

 

 

 

 

基地に着き、検問で身分証を見せる

 

「ヴィンセント・マクレガーだ」

 

「ヴィンセント中将ですね。畏まりました、お通り下さい」

 

「さ、行こう」

 

少女を抱き上げ、ヴィンセントは基地の中に入ろうとした

 

「中将。その子は」

 

「私の娘だ。見学させてやろうと思ってな。ウロチョロしないな⁇」

 

「うろちょろしない」

 

「畏まりました」

 

いざ海軍基地の中に入る…

 

 

 

「わぁ」

 

サンフランシスコ基地は元は造船所

 

その名残が今でも残っている為、造船、または修理の為に来港する艦がそこにはいた

 

「おふね。おっきいおふね」

 

「私はあんな艦に乗ってるんだ」

 

強化ガラス越しにでも十二分に伝わる、その存在感

 

アメリカも、あの戦争の影響で大量の艦を失った

 

その影響が未だに続いている

 

「ヴィンセント中将。此方へ」

 

「分かった。この子の検査を頼みたい。それと、身元の確認も」

 

「畏まりました」

 

少女を係員に抱かせる

 

「んっ、んっ」

 

少女はヴィンセントと離れたくないのか、ヴィンセントに手を伸ばした

 

「大丈夫。すぐに帰る。食べたい物を決めておきなさい」

 

「ん…」

 

「さ、行きましょう」

 

ヴィンセントは襟元を直し、呼ばれた場所へと歩みを進める

 

顔も艦長の顔へと戻る…

 

職員に預けられた少女は、職員に抱かれた肩から顔を出し、ヴィンセントを見つめている

 

その視線を、ヴィンセントはしっかりと受け止めていた…

 

 

 

 

「よく来てくれたな、マクレガー中将」

 

「アドミラルレクター。どの様なご用件で⁇」

 

ヴィンセント、リチャード達をまとめているアメリカ海軍提督、レクターさん

 

結構な爺さんだが、ここまでこの二人含めウィリアムやエドガーを一時期指揮していたのも彼である

 

「表に出たまえ。見せたい物がある」

 

「はっ」

 

レクターの言うがまま、ヴィンセントも執務室から出る

 

歩きながらレクターは口を開いた

 

「ヴィンセント。君は今まで何隻の艦に乗って来た」

 

「はっ。先の戦争の前は駆逐艦一隻、護衛空母一隻。開戦当初は航空母艦に。そして現在はガンビアに乗船しております」

 

「生粋の母艦乗りだな」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

話している最中にレクターが足を止め、体を左に向けた

 

ヴィンセントも同じ様に体を其方に向ける

 

「これは…」

 

「見た事ないかね」

 

「イントレピッドDau…」

 

強化ガラスの向こうに見えた、イントレピッドDau

 

「彼女は改装を終えたんだがな…彼女を指揮する人間がおらん」

 

「以前、横須賀に来港した時に男性の方がおられたと耳にしましたが…」

 

「彼は別の艦に乗っている。母艦よりもっと小型だが、中々上手くやっておる」

 

イントレピッドDauは良い艦だ

 

頑丈で、艦載数も多く、防空能力にも優れている

 

「それとなヴィンセント。改装後のイントレピッドDauには、アレンの考えたエンジンが載っとる」

 

「アレンのですか」

 

アレンのエンジンが載っているとなると、かなり立派に改装されたと考えて良い

 

「イントレピッドが彼女を降りた今、頼れるのはお前しかおらん」

 

「つまり…私にこのままアメリカに残れ…と⁇」

 

レクターとヴィンセントは、無言のまま目を見合う



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229話 君と過ごした街(4)

さりげなく、一つ伏線を回収しています

どこか探してみてね


先に口を開いたのは、クスリと笑った後のレクター

 

「お前にその気はないじゃろ」

 

「何故それを」

 

「何十年お前の上司をしとると思っとる」

 

「では、条件は…」

 

「これから先アメリカが危機に陥ったら、彼女と共に救いに来てくれんか⁇”あのマヌケ”と、お前の部下を連れて」

 

「畏まりました」

 

「ヴィンセント。久々にアレ、聞かせてくれんか」

 

「…」

 

何故かヴィンセントは照れ臭さそうに帽子のツバを直した

 

「アドミラルレクター。この艦を…私に下さい」

 

「うぬ。やはりお前はその言葉が似合うの」

 

ヴィンセントはぎこちない笑顔をレクターに返す

 

ガンビアの艦長になる際、ヴィンセントはレクターに同じ事を言った

 

そして、ヴィンセントはその言葉に恥じぬ働きをした

 

自分の妻と一緒に…

 

執務室に戻って来た二人は、レクターの淹れた紅茶を飲みながら対面のソファーに腰掛けた

 

「…ときにヴィンセント。セイレーン・システムの件はどうなっとる」

 

「はっ。現在、回収作業と、セイレーン・システムの母体の日常生活の復元の作業中であります」

 

ヴィンセントは鞄から大きめの書類封筒を取り出し、レクターに渡した

 

レクターはそれをパラパラと見た後、ヴィンセントに視線を戻した

 

「そうか…やはり、リチャードの息子が鍵か⁇」

 

「はい。彼には、妻を救って頂いた借りがあります」

 

「彼の手助けをしてやってはくれんか。彼なら、この問題を解決してくれるだろう」

 

「申し訳ありません、アドミラルレクター。既に彼と、彼の父親には頭が上がりません故」

 

レクターは数秒口を開けた後、またクスリと笑った

 

「お前が冗談を言うとはな」

 

「リチャードが移ったのかも知れません」

 

「ふふ…あぁ、そうだヴィンセント。ガンビアさんをセイレーン・システムに放り込んだ戯け者は、ワシが始末してやったわ‼︎」

 

「誰でしたか⁇」

 

「アメリカの研究機関の連中でな。お前が思っとる奴ではなかった」

 

「自分の思い違いでしたか…」

 

「”マークもサラ”も、逆にお前を心配しておった。マークに限っては、ガンビアさんを探す為に世界を飛び回っとったんだ」

 

「自分の悪い癖です。まだ、やり直せますかね…」

 

「ふふ…やり直すやり直さないと考えとるのは、お前だけかも知れんぞ」

 

「え…」

 

その時、執務室のドアが勢い良く開いた

 

「リチャード参上‼︎」

 

「イントレピッド参上‼︎」

 

「ま、マーク参上‼︎」

 

三人共胸の前で腕を組んだ状態で執務室に来たが、マークだけは少し恥ずかしそうにしている

 

あの後、結局心配になり、ここへ駆け付けて来た

 

「ほらの」

 

「やいジジイ‼︎そのアホを返しやがれ‼︎」

 

「そうよ‼︎返しなさい‼︎」

 

「ヴィンセントは日本に必要な奴だ‼︎」

 

「リチャード‼︎」

 

レクターの一言で、全員直立不動になる

 

そして、こう言う時大体怒られるのはリチャードである

 

「リチャード。貴様この私がヴィンセントを呼び戻したと思うてか」

 

「そそそそうであります…」

 

「このタワケが‼︎だ〜からお前は万年マヌケなんじゃ‼︎」

 

「イントレピッドDauの話をしていただけさ」

 

「けっ‼︎心配掛けさせんな‼︎ヴィンセントのアホ‼︎」

 

「お前は表でクッキーでも食っとれ‼︎イントレピッド‼︎これでこのマヌケを摘み出せ‼︎」

 

「分かったわ‼︎」

 

レクターはイントレピッドに紙幣を三枚渡すと、リチャードの背中を押して執務室から追い出した

 

「みんな‼︎」

 

「なんだ‼︎」

 

「心配してくれて、ありがとな」

 

「うわ…ヴィンセントが感謝した…」

 

「明日は雪だわ…」

 

「鳥肌が凄いぞ…」

 

「テメェら…」

 

三人全員、物凄い嫌そうな顔でヴィンセントを見る

 

そんなヴィンセントは拳を握り締める…

 

「待ってるから来いよ〜」

 

「みんなで帰りましょう‼︎」

 

「また後でな」

 

三人が出た後、レクターは煙草に火を点けた

 

「あのタワケが‼︎腕は良いが素行が悪過ぎる‼︎」

 

「あれでも、横須賀では好かれています」

 

「まぁ…人を惹きつける力もあるが…な⁇」

 

レクターとヴィンセントでさえ、手に負えないリチャードの素行

 

「…まぁ、あれだヴィンセント。最悪スパイトさんに頼んでだな…」

 

「既に何度か叩きのめされています」

 

「う、う〜む…アドミラルジェミニはどう扱っておるのだ…」

 

レクターは机に手を置き、頭を抱えた

 

ここまで来ると気になってくる、横須賀のリチャードの扱い方

 

「リチャードは子供の扱いが上手いですから、その辺りで活躍しています」

 

「…アイツがか⁇」

 

「はい」

 

「意外だな…」

 

「アイツの知能が子供なだけかと」

 

「それは合点が行くな」

 

褒めているのか、貶しているのか分からない二人の会話だが、そこには笑顔があった

 

それでも、二人がリチャードを信頼している事に間違いはなかった…

 

 

 

 

「びんせんと」

 

「終わったか⁇」

 

イントレピッドDauの艦長任命の辞令を受け、ヴィンセントは少女を迎えに来た

 

「体に異常はございません。ただ、やはり身元は分からないまま、国籍も不明です」

 

「そっ、かっ」

 

少女を抱き上げ、頬を撫でる

 

「とりあえずは約束だ。何食べたい⁇」

 

「ほとけき」

 

「ジュースは何にする⁇」

 

「みるく」

 

「よしよし」

 

少女はたった数時間の内に、しっかりヴィンセントに懐いていた

 

ヴィンセントと少女は食堂に着き、ホットケーキを食べ始めた

 

「おいしいね、キャロル。びんせんと」

 

「ふふ」

 

ヴィンセントは、ずっと少女を見つめていた

 

子育てをやり直すのなら今しかなく、この子が良い…そう思った

 

「私と来るか⁇」

 

「いく」

 

言葉は普通だが、少女の顔は疑問に溢れている

 

「”楽園”に連れて行ってやる。良い所だ」

 

「うん」

 

今度は明るい顔を見せた

 

ホットケーキを食べ終え、ヴィンセントは少女を抱き上げてイントレピッドDauの場所に戻って来た

 

「おっ‼︎戻って来たぜ‼︎」

 

「あらっ⁉︎可愛い子ね⁇」

 

イントレピッドが少女の存在に気付き、手を広げた

 

少女はすぐにイントレピッドに移り、頬擦りされる

 

「この子には居場所が無いんだ。横須賀に連れて帰る」

 

「よこすか」

 

「お名前はなんて言うの⁇」

 

「おなまえない」

 

「あら…」

 

流石にそろそろ名前を決めなければならない

 

「”ジョンストン”だ」

 

「おっ⁉︎お前が初めて乗った艦の名前か‼︎」

 

「ジョンストンには世話になった。艦長としての役割を教えて貰った艦だ。その恩を返すべき時が来た…そうだろう⁇」

 

リチャードもイントレピッドもマークも、皆首を縦に振った

 

「じょん」

 

「そう言うと男の子みたいだが、お前は立派な女の子さ」

 

腰を軽く曲げたヴィンセントに対し、ジョンストンはキャロルを前に出し、ヴィンセントの鼻先に当てた

 

「さっ、帰りましょうか‼︎」

 

「へへ。艦長様のお部屋にお邪魔してやるぜ‼︎新機能があるからな‼︎」

 

「新機能⁇」

 

「見てからのお楽しみって奴さ」

 

職員に見守られながら、四人はイントレピッドDauに乗り込む

 

「ヴィンセント。扱い方は分かるわよね⁇」

 

「マニュアルを読んだ。粗方は分かるさ」

 

「リチャード⁇見習いなさいよ⁇」

 

「へいへい」

 

イントレピッドとジョンストンは食堂に

 

「ヴィンセント、リチャード。抜錨の際は合図を送ってくれ。エンジンテストをアレンから受けている」

 

「ピース‼︎って言ったら抜錨だ‼︎」

 

「了解した。後でな」

 

マークはエンジンルームに向かう

 

ヴィンセントとリチャードは操舵室に来た

 

「へへ…高みの見物だぜ…」

 

「お前はいつも私を見下ろしてるだろ」

 

「あ〜ぁ、そんな事言っちゃう⁇」

 

「んで。新機能はなんだ」

 

「まぁまぁ、そこに座れよ」

 

言われるがまま、ヴィンセントは艦長が座る椅子に腰掛けた

 

「おぉ…」

 

すると、椅子が自動的に倒れた

 

「リクライニングだっ‼︎」

 

流石のヴィンセントも一瞬間を空けた

 

「こ、これだけ⁉︎」

 

「もう一つある。このスイッチを入れると…」

 

リチャードが棒状のスイッチを入れると、普段は大海原を見渡す窓ガラスにパワーウィンドウが展開された



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229話 君と過ごした街(5)

「パワーウィンドウだっ‼︎」

 

「どうやって外見るんだ⁇」

 

「その点はご心配無く」

 

パワーウィンドウが閉められて間髪入れずに内側にパノラマが展開される

 

映し出された映像は勿論外側の景色

 

これならばパワーウィンドウを展開しても平気だ

 

「パノラマ投射は外の小型カメラが逐一流している。それと、パワーウィンドウには防弾加工が施してある。戦闘になればコイツを展開して戦う」

 

「どんどん最新化して行くな…」

 

リチャードに葉巻を渡され、最初で最期の操舵室での喫煙を始める

 

「パワーウィンドウが開いたらどうするよ」

 

「おちょくってオサラバだな」

 

互いに目を合わさず、前だけを見る

 

「よ〜し、やりますか‼︎」

 

リチャードがスイッチを切り、徐々にパワーウィンドウが開いて行く…

 

「やぁ‼︎どうも‼︎」

 

「中将さんだよ‼︎」

 

外では職員達が歓声を送っているのが見え、二人は葉巻片手に高みの見物

 

「あいつら笑ってやがるぜ‼︎」

 

「今からビックリするだろうな⁉︎バイバ〜イ‼︎」

 

「「ピーーース‼︎」」

 

二人の掛け声と共に、イントレピッドDauが出港する

 

《お前ら‼︎そこで葉巻を吹かすな‼︎》

 

「バレた‼︎五分で逃げ切れるか⁉︎」

 

「任せろ‼︎」

 

レクターの怒号と同時に、イントレピッドDauは横須賀に向けて”逃げ出した”

 

 

 

「あのガキ共は…」

 

言葉ではブチ切れてはいるが、レクターの表情は落ち着いていた

 

「アドミラルレクター。イントレピッドDauは無事、横須賀に向けて出港しました」

 

「そうか。ヴィンセント、聞こえるか」

 

《聞こえます。アドミラルレクター》

 

「イントレピッドDauを任せた」

 

《了解です、アドミラルレクター》

 

「それとな。あまりそこで吸うなよ⁇」

 

《…畏まりました》

 

ヴィンセントのクスリと笑う声と共に、ちゃんと返事が返って来たのを聞き、レクターは無線を切った

 

「後はヴィンセントなら大丈夫じゃろ」

 

基地から去るイントレピッドDauを眺め、レクターは微笑んでいた…

 

 

 

 

「アイツはどこ行ったんだ」

 

出港してからすぐ、リチャードは何処かに行って帰って来ない

 

「進路異常無し。マーク、エンジンはどうだ⁇」

 

《問題ない。ご機嫌に吹かしてる》

 

このまま航海していれば問題無く横須賀に着く

 

折角なので新機能のリクライニングを使い、一息入れる

 

「おいリチャード‼︎売店でエロ本見つけて来た‼︎」

 

帰って来たリチャードは腕に大量のエロ本を抱えて戻って来た

 

「はぁ…あのマヌケは‼︎」

 

リクライニングを戻し、リチャードが来た方を見る

 

既に地図を置く机にエロ本を並べている

 

「ほれ」

 

「要らん‼︎直して来…」

 

”ツインテール特集‼︎可愛いのは髪型だけじゃない‼︎ウブなあの子のピチピチボディ‼︎”

 

表紙を見て、生唾を飲むヴィンセント

 

「どれっ」

 

散々言っていた割に、すぐに雑誌の中身を見始めた

 

「むほほ‼︎これはこれは‼︎」

 

「うはは‼︎こりゃたまらん‼︎」

 

「やっぱりツインテールは良いなぁ‼︎お前何読んでるんだ⁇」

 

珍しく感情を露わにしながら独り言をブツブツ言いながら読むヴィンセントの横で、リチャードも何かの雑誌を読んでいた

 

「ガールズ・フリート・ファッションさ」

 

「珍しいな⁇」

 

今月号はリットリオが表紙

 

そこはやはりイタリア艦娘

 

リシュリューの大人の魅力とはまた違う、少しカントリーなファッションを着こなしている

 

「俺レベル立ち絵で余裕よ‼︎」

 

「頼むからそれ以上手出すなよ⁇」

 

「俺の嫁はスパイト一人さ…瑞鶴には何度も助けて貰ってるんだ。俺も、マーカスも。その礼さっ」

 

一瞬で真面目な顔になるリチャードを見て、ヴィンセントは胸を撫で下ろした

 

「この子ガンビアに似てるな‼︎」

 

「ツインテールこそ正義だ」

 

バカを言う二人を、イントレピッドに抱かれたジョンストンの二人が入口で見ていた

 

「見習っちゃダメよ〜」

 

二人に気付かれないように、イントレピッドとジョンストンはそっとその場を離れた

 

「ついんてる」

 

「私がしたげるわ‼︎」

 

 

 

 

横須賀にイントレピッドDauが帰って来た

 

「新しい生活になるな」

 

「だな。お前とまた戦える事を光栄に思う」

 

「こっちもだっ」

 

固い握手を交わす、艦長とパイロット

 

これからヴィンセントは横須賀と大湊を行き来する事になる

 

「びんせんと」

 

「ここが横須賀だっ」

 

ジョンストンと共に、そして家族や仲間と共に、また新しい生活が始まる…

 

 

 

駆逐艦”ジョンストン”が横須賀に配属されました‼︎




ジョンストン…ヴィンセントの養女

サンフランシスコで路頭に迷っていたのをヴィンセントが保護した女の子

長い間ほったらかしにされてたせいか、色々世話をしてくれるヴィンセントに非常に懐く

普段は横須賀のパイロット寮、もしくはガンビアやアレンの家族と一緒にいる姿が目撃されている




ヴィンセントがツインテールフェチだという事が判明

もしかしてヴィンセントは、リチャードと瑞鶴の逢い引きに嫉妬しているのかもしれません 笑笑


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特別編 貴方に恋した一週間(1)

さて、229話が終わりました

今回のお話は特別編です

私自身がどうしても書きたかったお話であり、伏線回収もございます

このお話は、誰かが艦娘になるまでのお話です

彼女がどうして艦娘になったのか

その謎が解かれるお話です


「〜♪」

 

テレビの前に座った母さんがひとみといよの頭を膝に乗せ、鼻歌を歌う

 

俺はその横で、母さんの義足のメンテナンスをしていた

 

「あんておうた⁇」

 

「あんあん〜」

 

鼻歌の良さに気付いたひとみといよが反応を示した

 

「これ⁇ん〜…題名は知らないの」

 

歌が好きな母さんにしては珍しい答えだ

 

「へぇ。母さんにも知らない曲あるんだな⁇」

 

「私が若い時にね、その時好きだった人が歌ってたの‼︎私の初恋っ‼︎」

 

「母さんの好きな人…」

 

唐突に現れた、第2の男の存在

 

俺がビックリする横で、母さんの目は輝いていた

 

この目、よっぽど好きだったに違いない

 

「ろんなひと⁇」

 

「とっても立派な人よ…それで、とっても不思議な人…」

 

「おなまえは⁇」

 

「それがね…私に”本名”を教えてくれなかったの…」

 

名前さえ知らない男の正体…

 

名前も知らないのに、母さんにここまで思わせる男の存在…

 

俺の知らない母さんの”乙女”が一瞬見えた

 

「よしっ、出来た‼︎」

 

「あち‼︎」

 

「あちれきた‼︎」

 

母さんの所に義足を持って来た

 

「嵌めるぞ」

 

「えぇ。お願いするわ」

 

義足を嵌めながら、母さんに話し掛けた

 

「親父の事じゃないのか⁇」

 

「リチャードより前よ。それに、リチャードより立派な人よ」

 

その人と親父を比べると、母さんの声に覇気がこもった

 

察するに、一緒にするなとの事だ

 

「そういや母さん、いつからこれしてるんだ⁇」

 

気付いた時から、母さんは義足を付けていた

 

気付いたら気になる、いつから付けているのか…

 

「これもその人から貰ったのよ⁇14歳位だったかしらね…」

 

「随分と長持ちだな…」

 

「長持ちするって言ってたもの‼︎」

 

母さんはまた、一瞬乙女に戻る

 

「さっ、出来た」

 

「うごかちて‼︎」

 

「はいっ、ふふふ」

 

母さんは何らかの事情で、両足の膝から下を欠いている

 

義足を付けて何とか立ち上がる事が出来るが、長時間の歩行は腰に負担が掛かって困難になる

 

それに、中途半端に柔らかい素材で出来ている

 

「新しいのを造ろうか⁇」

 

「いいの。あの人から貰った物だから…」

 

愛おしそうに義足を撫でる母さん

 

俺でもなく、親父でもなく、全く知らない第3の男をチラつかせる母さんは、少しイタズラな女の子に見えた

 

ここまで言われると、少し気になった

 

「ひとみといよを頼む」

 

「えぇ、分かったわ」

 

「ろっかいく⁇」

 

「おちごろ⁇」

 

「そっ。良い子ちゃんにしてるんだぞ〜」

 

「いってあっちゃ〜い‼︎」

 

「はよかえってこいお〜‼︎」

 

ひとみといよを母さんに預け、俺は横須賀に飛んだ

 

 

 

 

工廠に来てすぐ、厳重に管理された倉庫の片隅にある朝霜ボックスを開く

 

「あったあった」

 

取り出したのはあのバット

 

母さんが14って事は…

 

バットのダイヤルの年代をどんどん巻き戻す

 

年代はここでは伏せておくが、行く前から不安が過ぎった

 

…もし、そいつと会ったとして、俺はどうする

 

…そうだ、義足の造り方を聞こう

 

この時代であの持ち様だと、当時でも高性能だ

 

是非造り方を聞きたい

 

そうすれば、母さんの義足もそうだし、隊長の左足の義足にも生かせる技術があるかも知れない

 

そう思うと、俄然会いたくなった

 

…行こう‼︎母さんの初恋がある時代に‼︎

 

俺は床をバットで小突いた…



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特別編 貴方に恋した一週間(2)

イギリス…

 

粗方合わせたであろう、母さんが14の頃の時代…

 

その時代のとある街の中に俺は行き着いた

 

「やっぱイギリスか…」

 

見渡す限り、田舎の街

 

ゲームにでも出て来そうな、極々ありふれた、海沿いの街だ

 

どうやら母さんはここで育ったみたいだ

 

そういや母さんは貴族の産まれ

 

いれば一発で分かるはずだ

 

それにしても、随分賑やかな街だ

 

人が明るいのか

 

「いだっ‼︎」

 

走って来た誰かとぶつかった

 

俺は時代を遡ると、必ず誰かにぶつかられる

 

目立つのか、邪魔な位置に送られたのか…

 

「あーれー‼︎」

 

ぶつかった人が抱えていたバスケットから落ちるオレンジ、リンゴ、ブドウ

 

俺にぶつかってひっくり返したみたいだ

 

「Sorry‼︎前見てなかったの‼︎」

 

「お互い様さっ」

 

ぶつかったのは金髪の女の子

 

綺麗な顔立ちをしていて、身を包んでいる物もドレスに近い

 

二人共前屈みになって地面に散らばった果物を集め、バスケットに戻す

 

「随分変わった格好ね⁇」

 

相変わらず俺はジーパンに革ジャン

 

元の時代は冬場なので革ジャンの下には長袖を着ている

 

散々グラーフに言われたので、最近着始めた

 

だが、そろそろ長袖は脱いでいいみたいだ

 

少し暑いな…

 

「あぁ…ははは。別の国から来たんだ」

 

「この街は初めて⁇」

 

「あぁ。まぁなっ」

 

俺の生まれ故郷である、イギリスのこの小さな街

 

生まれたは良いが、記憶が無いので初めて来たのと何ら変わり無い

 

「なら私が案内してあげるわ‼︎来て‼︎Stand up‼︎」

 

彼女が俺の左手を引いて立ち上がらせた

 

「案内する代わりに、貴方バスケット持ちね‼︎」

 

「オーケー‼︎」

 

フルーツを入れたバスケットを持ち、彼女に街を案内して貰う

 

「ここはFishを買う所‼︎」

 

「ある程度のFruitはここで揃うわ‼︎」

 

「お食事をしたいならここがオススメ‼︎美味しくて安いの‼︎」

 

彼女は街一式を案内してくれた

 

市場を散策し、今で言う大衆食堂の様なレストランまで教えてくれた

 

「ありがとう、助かったよ」

 

「いいのいいの‼︎そう言えば、貴方お名前は⁇」

 

「リヒターだ」

 

「リヒターね。私は”ゲルダ”‼︎」

 

ここでようやく聞く事が出来た

 

「その身嗜み…結構お嬢様なのか⁇」

 

その問いに対しゲルダは答えを返さず、微笑みを返した

 

そして、そのまま自分の話に切り替えた

 

「リヒターはどうしてこの街に⁇」

 

「探し人がいるんだ。この街にいるはずなんだが…」

 

粗方歩いたはずだが、母さんらしき人物は見つからない

 

もしかすると、ゲルダが言っていたあの屋敷にいるのかも知れない

 

「見つかるといいわね⁇」

 

「見つかるまではここに居ようと思う」

 

「私も手伝うわ‼︎」

 

ゲルダは積極的な子だ

 

初対面の俺に対し、かなりの面倒を見てくれる

 

「気持ちだけ貰っておくよ。散々面倒見てくれたのに、これ以上…」

 

「そう⁇じゃあまた会いましょう⁉︎」

 

「分かった」

 

ゲルダにバスケットを返し、手を振る彼女を見送る

 

活発で面倒見の良い女の子だ

 

しかし、気になるのは母さんだ

 

幾ら貴族とはいえ、見つける事は愚か、素振りもないとは…

 

本当にこの街にいるのだろうか…

 

その日の晩、泊まる所がないので、広場のベンチで眠りに就いた…



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特別編 貴方に恋した一週間(3)

次の日の朝…

 

「リヒターさんっ‼︎」

 

「んぁ…」

 

目を開けると、ゲルダの顔が大きく映った

 

「Good Morning‼︎」

 

「お、おはよう…くぁ…」

 

「探し人は見つかりました⁇」

 

「いやっ…全くだ。足取りもない」

 

「Breakfast食べました⁇」

 

「食べてない。何食うかな…」

 

寝起きのボーッとする頭で色々考える

 

何を食おうか

 

何処を探そうか

 

色々考える中、民族衣装に近い服を着たゲルダが、後ろ手に隠していたバスケットを前に出した

 

「御一緒に食べませんか⁇」

 

「いいのか⁇」

 

「勿論‼︎」

 

ゲルダは俺の横に座り、バスケットからミルクやらサンドイッチやら朝食を取り出して、ペーパーと共に俺に渡してくれた

 

「はいっ‼︎召し上がれ‼︎」

 

「頂きますっ」

 

ハムとレタスのサンドイッチを一口頬張る

 

実にシンプルな朝食だが、何処か懐かしい味がした

 

「リヒターさんは”草”好きですか⁇」

 

「草⁇」

 

ゲルダの目線は、サンドイッチのレタスに行っている

 

「あぁ‼︎結構好きだ。そのままは中々だけどな⁇」

 

「私も同じです‼︎」

 

そんなゲルダの手には、タマゴとレタスのサンドイッチ

 

食べる度に口が汚れて行く…

 

2、3個のサンドイッチを食べ終え、ゲルダは空になったバスケットに空になったミルクの瓶を入れた

 

「お腹膨らみました⁇」

 

「お腹いっぱいだ。ありがとう」

 

「どういたしましてっ‼︎」

 

朗らかに言うゲルダだが、口周りはタマゴやらミルクの瓶の輪っかが出来ている

 

「動くなよ…」

 

「えっ⁇」

 

子供達にも母さんにもいつも通りに行う、食事後の口周り拭き

 

ゲルダがくれたペーパーで、ゲルダの口周りを拭く

 

「よしっ」

 

ゲルダの口周りが綺麗になった

 

「ありがとうございますっ‼︎」

 

「本当に手伝ってくれるのか⁇」

 

「勿論です‼︎今はSummer Vacationなので‼︎」

 

ゲルダが言うには、今この時期は夏休みの様だ

 

「なので、私もお手伝いします‼︎」

 

「助かるよ」

 

ゲルダと共に、母さんの捜索が始まる

 

 

 

「その方の特徴は⁇」

 

「女の人で、金髪で、ちょっと抜けてる人だ」

 

「美人さんですか⁇」

 

「まぁなっ。それと、結構貴族みたいなんだ」

 

歩きながらゲルダに母さんの特徴を伝える

 

「その人のお名前は⁇」

 

「すまん。それだけは事情で言えないんだ…」

 

「うむむむ…難しいですね…」

 

ゲルダの表情は面白い

 

悩む表情も、考える表情も

 

横に居てくれるだけで、長い捜索も息を詰まらせる事なく続けられる

 

昼時になっても、母さんが見つかる事はない

 

「そう言えばリヒターさん。どうしてその人を探してるんですか⁇」

 

「お礼が言いたいんだ」

 

「はへぇ…」

 

ゲルダは何か分からない‼︎との顔をしている

 

正直、俺も分からない

 

ただ知りたい

 

第三の男の存在を…

 

「居ないな…」

 

段々暗くなって来た

 

ゲルダの事もだが、一日の捜索もそろそろ限界だ

 

「今日は終ろう。ゲルダ、家まで送るよ」

 

「ありがとうございますっ‼︎」

 

「礼を言うのはこっちさっ」

 

ゲルダに着いて行き、その横を歩く

 

「明日は見つかるといいですね⁇」

 

「そうだな…街も中々広いから、もう少しかかるかもな…」

 

「あ、そう言えばリヒターさん。お宿はどちらに⁇」

 

「今日はちゃんとある」

 

「そう‼︎なら良かった‼︎私の家はここです‼︎」

 

「おぉ…」

 

ゲルダと話していて気付かなかったが、ゲルダは中々立派な屋敷に住んでいた

 

「ではリヒターさん⁇また明日、あの場所でお会いしましょう⁇ねっ⁇」

 

「分かった‼︎」

 

笑顔で手を振りながら門をくぐるゲルダに手を振り返し、屋敷の前を後にする

 

ゲルダが屋敷に入ったのを見届け、一度現代に戻り、風呂に入った…



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特別編 貴方に恋した一週間(4)

その後、3日4日と探したが、全く足取りが掴めなかった

 

本当に母さんはこの街にいるのだろうか…

 

今考えれば、ゲルダが住んでいる様な屋敷は数件ある

 

その内の一つにいるのかも知れないが、それらしき人物はいない

 

屋敷の中で何かしているから出られないのだろうか…

 

そして、迎えた5日目…

 

朝、広場のベンチでゲルダを待つ

 

「ん⁇」

 

海の向こうで、何かの音が聞こえた気がした

 

「Good Morning‼︎」

 

「おはよう」

 

ゲルダがバスケットを持ってやって来る、いつもの朝

 

サンドイッチやフルーツを食べ、海を眺める

 

「ゲルダ…」

 

「はい⁇」

 

「もしかすると、俺の探してる人はここには居ないかもしれない…」

 

「リヒターさん⁇」

 

「ゲルダに散々案内して貰ったんだ。街の隅から隅まで調べたはずだ」

 

「う〜ん…あと調べてないとすれば…」

 

一生懸命、ゲルダは悩んでくれる

 

そんな彼女だからこそ、この数日で情が湧いて来ていた

 

「確かに無いかも知れません…でもでも‼︎私、リヒターさんを信じてます‼︎」

 

ゲルダが俺の目を見つめる

 

誰かと同じ感覚だ…

 

真っ直ぐて、透き通った、美しい瞳に俺が映る

 

「分かった。もう少し探そう‼︎頼めるか⁇」

 

「勿論ですっ‼︎」

 

いざベンチから立ち上がった時、先程と同じ感覚に再び襲われた

 

また海の向こうからだ…

 

「エンジン音…」

 

「何か聞こえますか⁇」

 

確かに聞こえた

 

航空機が空を行く時に出す、独特の音…

 

それも沢山…

 

単眼鏡を取り出し、音の方向を見た

 

「ゲルダ…ここはイギリスだよな⁇」

 

「はいっ。イギリスです‼︎」

 

「…今日は人探しはやめだ」

 

「どうしたのですか⁉︎」

 

「逃げるぞ‼︎走れ‼︎」

 

「あっ‼︎」

 

ゲルダ手を引き、市場の中へと走る

 

「避難しろ‼︎航空機が山ほど来る‼︎早く‼︎」

 

ゲルダの手を引きながら、市場に避難を促す

 

「え、えと‼︎ひ、避難して下さい〜‼︎」

 

異変に気付いた数十人は建物に入ったり、物陰へと隠れ始めたが、市場にはまだまだ人がいる

 

「ゲルダ、何処か安全な場所は無いか⁇」

 

「え、えと、えと…」

 

音で分かる。航空機が近い…

 

胃酸が口に上がって来そうな恐怖が体を震わせる

 

いつもならグリフォンに乗って、空に上がれば良い

 

だが、今は殆ど打つ手が無い

 

「あっ‼︎私のお屋敷の地下があります‼︎でも、ここにいる人全員は無理です‼︎」

 

「来た…」

 

「えっ⁇ちょっ、ちょっと‼︎」

 

ゲルダを抱き上げ、レンガ造りの建物の陰に隠れた途端、街の上空に航空機が来た

 

「ひっ‼︎」

 

航空機のエンジン音が通過すると同時に、爆破音が響く

 

それを聞いて小さな悲鳴を上げ、小刻みに震えるゲルダを抱き締め、目を閉じる

 

航空機は街の上空を通過する際、何発もの投下爆弾を落として行った

 

「メッサーシュミット…」

 

「り、リヒターさんっ…」

 

「大丈夫。大丈夫だ」

 

ゲルダはかなり驚いて失禁こそしていたが、まだ意識は保っている

 

「今が恐らく第一波だ。これからまだ来るはずだ」

 

「は、はい」

 

「恐らくここもダメになる。隙間を縫って逃げるからな⁇」

 

「…」

 

俺の胸にくっ付き、服を掴んだまま、ゲルダは何も言わずに離れない

 

「…一緒ですか⁇」

 

「一緒だ。絶対見捨てない」

 

「ん…分かりましたっ‼︎」

 

涙を拭き、気丈なゲルダに戻る

 

表の様子、そして空の様子を伺い、第一波が通り過ぎたのを確認し、ゲルダの手を握った

 

「…行くぞ‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

陰から出て、一気に走る



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特別編 貴方に恋した一週間(5)

「あぁ…」

 

「見るな‼︎」

 

ゲルダの目に映る、街中に転がる市民の死体の山

 

数日前に俺にフルーツをくれた、笑顔が印象的な市場のばあさん

 

昨日、余った魚を一緒に食おうと言ってくれた気の優しい中年の男性

 

皆、逃げ遅れていた…

 

俺達の声が届かない位置にいたからだ

 

「ゲルダっ‼︎」

 

「はぁ…はぁ…」

 

次の物陰へと一旦身を潜める

 

先程と同じく、俺が壁に背中を置き、ゲルダを対面で抱き締める

 

第二波が来る…

 

「見るんじゃない…」

 

ゲルダを胸にきつく抱き締める

 

爆破音が何度も繰り返される

 

その度に、悲鳴が聞こえる

 

「心配するな」

 

ゲルダにとって、投下爆弾より恐怖なのは人の悲鳴

 

普段耳にしない音より、より身近な、”人”が恐怖する声の方が恐ろしさは増加する

 

「私達…ここで死にますか⁇」

 

目も合わさず、不安な状態でゲルダは問う

 

「死なない。君が死ぬのは何十年も先の温かいベッドの上だ」

 

その返しに、ゲルダはうっすらと笑みを浮かべた

 

「ねぇ…リヒターさん…私達だけでもお屋敷の地下に行きましょう⁇」

 

「分かった。そこまで行こう」

 

第二波が通り過ぎた…

 

第三波まで、少しだが隙が出来た

 

一瞬だけの静寂は、俺でも恐怖を感じた

 

ゲルダの屋敷まで、もう少し…

 

 

 

「もう少しだ、ゲルダ」

 

逃げる途中、息絶えた軍人が落としたであろうライフルを手にし、ゲルダと共に屋敷を目指す

 

「は…はい…」

 

ゲルダは身体的にも精神的にも疲れていた

 

俺は俺で、頭上を越えて行く航空機に対し、何度もライフルを向け、低空飛行の機体に対して威嚇射撃をしていた

 

そんなゲルダに、最後の槍が突き刺さる

 

「うそ…」

 

屋敷の門の前に来たゲルダは、変わり果てた自分達の屋敷を見て膝を落とした

 

屋敷には爆弾が落とされ、家がえぐれていた

 

「いやぁぁぁぁぁあ‼︎うそうそこんなの嘘よ‼︎ねぇ‼︎誰かいないの⁉︎」

 

とうとうゲルダはパニックに陥った

 

「ゲルダ‼︎ゲルダ‼︎」

 

「ね、ねぇリヒターさん‼︎わわ、私のお家、立派でしょう⁉︎」

 

「ゲルダ…」

 

「そ、そうだわ‼︎リヒターさんに出来立てのワインを飲んで頂かないと‼︎」

 

「ゲルダっ」

 

パニックに陥り、錯乱状態にあるゲルダを胸に寄せた

 

「私どうしたらいいの⁉︎ねぇ‼︎教えてよリヒターさん‼︎」

 

返す言葉が見つからない

 

ただただ、ゲルダを強く抱き締めるだけ…

 

「いいかゲルダ。今は逃げるしかない。みんな避難してるから、また会える」

 

「…本当ですか⁇」

 

「あぁ」

 

「…」

 

無言のまま俺達は手を握り合い、何度も隠れながら街から離れて行く…



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特別編 貴方に恋した一週間(6)

街が見渡せる小高い丘まで来た

 

至る所で黒煙が上がっている…

 

「街が…」

 

言葉が出ない

 

自分達が今までして来た事の下では、こんな事になっていたのか…

 

「リヒターさん…」

 

「なんだ⁇」

 

「これが…戦争なのですか⁇」

 

「そう。悲惨なものさ。何もかも奪って行く…」

 

頭上では、弾を撃ち尽くした航空機達が撤退して行く

 

情け容赦ないな…

 

手当たり次第に落としては、何食わぬ顔で帰って行った…

 

撤退して行く航空機の巻き起こした風が、灰で少しくすんだゲルダの金色の長い髪を揺らす

 

ほんの少しだけ、ゲルダの顔が勇ましく見えた…

 

「戻りましょう、リヒターさん。街の人を救わないと」

 

「分かった。行こう」

 

攻撃が止み、未だ部分的に燃える街へと戻って来た

 

死体、悲鳴、泣き声、死体…

 

口には出さないが、地獄絵図と化していた

 

「倒れてる人を広場まで運ぼう」

 

「えぇ」

 

気丈に明るく振る舞うゲルダは、もういなかった

 

そこにいるのは、ただただ無心で道に倒れている人を運ぶ華奢な少女

 

見ていて胸が壊れそうになる

 

そんなゲルダを横目に見ながら、ふと考えた

 

母さんや第三の男の行方を探っていたが、それはもう良い

 

その代わり、もう少しだけゲルダと一緒にいよう

 

せめて、ゲルダが生きて行ける場所に行くまでは…

 

どうしても、見捨てる事が出来なかった

 

そんな矢先、事件は起きた

 

俺がほんの一瞬、ゲルダから目を離した瞬間だった

 

倒壊した家屋にいた何人かの人が、焦った様子で出て来た

 

「不発弾だ‼︎」

 

声が聞こえた方にゲルダが首を向けたその瞬間

 

不発弾は役目を思い出した

 

俺が顔をそちらに向けた時、ゲルダが身を避ける姿が一瞬だけ見えた後、家屋が倒壊した際に舞い上がったチリやホコリの中に消えて行った

 

「げ…ゲルダ…」

 

運んでいた人を降ろし、一瞬停止した思考をすぐに戻し、現場に走る

 

辺りに舞う白いモヤを掻き分け、ゲルダを探す

 

「ゲルダ‼︎何処にいるんだ‼︎」

 

「り…ひた、さん…」

 

か細い声が聞こえ、視線を落とす

 

「ゲルダ‼︎」

 

地面に突っ伏したゲルダを見つける事が出来た

 

「すぐに助けてやるから、ジッとして…」

 

ゲルダは何故か俺の足を掴んだ

 

「あ、足が…」

 

「足が痛いのか⁇」

 

「見て…頂けませんか⁇」

 

「分かった。大丈夫だからな‼︎」

 

ゲルダが痛むと言う、足元に来た

 

それを見て、俺は腰が抜けた

 

家屋の柱が落ちてきたのか、木材がゲルダの足に直撃しており、膝から下が潰れていた

 

「リヒターさん…」

 

「…」

 

ゲルダの声は、既に入って来なかった

 

考えろ…

 

どうすればいい…

 

………

 

…カプセルだ

 

現代に戻れば、カプセルに入れられる

 

誰にも分からない、目の届かないカプセルに入れられれば、誰も知らないままゲルダを治せる

 

思い当たる場所が一つだけある

 

それを思い付いた直後、俺はゲルダの所に戻って来た

 

「ゲルダ…少しだけ我慢してくれ」

 

ゲルダは俺の目を見た後、小さく頷いた

 

すまない朝霜…

 

…お前を裏切った父さんを許してくれ‼︎

 

ゲルダを抱き上げ、地面をバットの先で突いた…

 

 

 

 

モヤが晴れた後、一時的に避難していた市民達が戻って来た

 

「いない…」

 

「さっきの女の子は…」

 

「木っ端微塵になったのか…」

 

そこにはゲルダはいなかった

 

いたのは、ゲルダが運んでいた人だけ

 

「助けに入った異国の男もいないぞ‼︎」

 

「可哀想に…」



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特別編 貴方に恋した一週間(7)

「ゲルダ」

 

「はい…」

 

「君にはまだお礼を返してなかったな」

 

「何のですか…⁇」

 

「朝食とか、捜索のさ」

 

現代に戻って来た

 

そこには幾つものカプセルがあった

 

初期型のカプセルではあるが、欠損部位の治療位は何とかなる

 

幾つかは破壊こそされてはいたが、幾つかはまだ使用出来るカプセルが残っていた

 

その一つに抱いていたゲルダの体を浸けた

 

「私…もうダメですか⁇」

 

「必ず助けるよ。約束する」

 

「ね…もう一度、抱き締めてくれませんか⁇」

 

カプセルに入る寸前、もう一度だけゲルダの体を抱き締めた

 

「すぐに会おうな」

 

「えぇ…」

 

眠るようにゲルダは体を横たえた

 

カプセルの蓋を閉め、時間を確認する

 

48:00:00

 

2日か…

 

ゲルダは両足を失った

 

この初期型のカプセルでは傷口を治す事が出来ても、再生する事は恐らく不可能だ

 

義足が必要だ

 

設計図は”ここ”にもある

 

後は材料を集めれば2日で何とかなる

 

いや…して見せる

 

ゲルダの顔をもう一度見た後、俺は”地上”に上がった

 

そう、ここは横須賀

 

ゲルダを治療しているのは、サラの研究所だ

 

命を無碍にしていた場所で、命を救おうと考えた

 

過去を変えると言う、途轍もない罪を犯した事は重々理解している

 

それでも、何故か彼女は救わないといけない気がした

 

工廠で設計図を用意し、材料を掻き集め、また地下に戻る

 

誰の目にも見つかっていない事を祈ろう

 

カプセルのある大きな部屋の横にある作業室に入り、義足作りを始める

 

サラはずっとここで何かを書いていたのか

 

何故だろうな

 

ここで何かをすると、大体は何かの理に反するのだな

 

義足造りは、ゲルダが目覚める時間まで続いた…

 

 

 

 

ゲルダが目覚める数時間前

 

「で…出来た…」

 

数時間、短距離なら何ら普通と変わりない歩行が出来る様に仕上がった、限りなく肌に近い感触を持つ義足が出来上がった

 

そうだ。名前を彫っておいてやろう

 

左足の内側

 

それもパーツを外した裏側に

 

”Gerda”

 

と彫った

 

言っている間に、ゲルダが目覚める

 

 

 

 

カプセル前に立ち、時間が終わるのを待つ

 

タイマーが全て0を指し、治療が終わる

 

「おはよう、ゲルダ」

 

「おはようございます…生きてます?私…」

 

「約束は守る主義なんだ。意外か⁇」

 

「ふふっ…知ってますよ⁇」

 

カプセルの中から、ようやく微笑んだゲルダを抱き上げ、服を着せる

 

「足…無くなりましたね…」

 

「これを造った」

 

出来上がった義足をゲルダに見せる

 

「これは⁇」

 

「新しい人生の足さ。きっと似合う」

 

ゲルダの足に義足を着ける

 

母さんの義足と同じ構造なので、着け方はすぐに分かった

 

「まぁ…素敵‼︎」

 

見た目もピッタリだ

 

本当は何もかも良くないが、少しは似合ってくれて良かった

 

「動かしてごらん」

 

ゲルダは足に神経を集中し始める

 

すると、目の前に座っていた俺の脛をコツンと蹴った

 

「ごめんなさい‼︎でも凄いわ‼︎」

 

「長い時間は歩けないが、毎日少しずつならまた歩ける様になる」

 

「新しい人生なのね…素敵な足をありがとう‼︎」

 

「最後にもう一回だけ調整させてくれ」

 

「えぇ‼︎」

 

もう一度義足を取り、最後に細かい調整を行う

 

「リヒターさん」

 

「ん〜⁇」

 

ゲルダの顔を見ずに、義足をいじる

 

流石に集中力が切れて来たので、咥えタバコをしながらだが、背中にゲルダ視線をしっかりと感じる

 

「私は全てを失いました。家族も、家も、街も…」

 

「…」

 

「私、リヒターさんが造ってくれた新しい足で新しい人生を歩みたいんです‼︎」

 

「それはいい事だ‼︎何事も前向きが一番さ‼︎」

 

「名前も改めます」

 

「ほぅ⁇どんな名前だ⁇名前位なら義足の見えない所に彫るぞ⁇」

 

「”ウォースパイト”にします」

 

義足の調整をしていた道具を机に落とし、タバコが床に落ちた

 

何だと…今、何て言った⁇

 

ゆっくりと後ろに振り返る…



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特別編 貴方に恋した一週間(8)

「ん⁇」

 

優しく微笑むゲルダがそこにいる

 

「ウォースパイト、か。良い名前だなっ」

 

動揺を隠し切れない…

 

「戦争を軽蔑する者。そう言う意味です」

 

頷く事しか出来なかった

 

今度は右足のパーツの裏側に

 

”War Spite”

 

と彫り、ゲルダの所に戻って来た

 

「リヒターさん…」

 

「ん⁇」

 

義足を着けながら、ゲルダの言葉に耳を傾ける

 

「探していた人は…」

 

その問いには、ちゃんと笑顔で返せた

 

「もう見つけたよ」

 

「そう…」

 

ただ、探していたのはゲルダだったとはこの時は言えずにいた

 

「帰ろう」

 

「えぇ」

 

ゲルダに目を閉じさせ、過去へと戻る…

 

 

 

 

 

戻って来たのは、あの日から数ヶ月後の、街を見渡すあの小高い丘の上

 

まだまだ復興は終わってはいないが、少しずつ活気が戻って来ているのが見えた

 

「お別れ、ですか⁇」

 

「そうだな…ゲルダはどうするんだ⁇」

 

「私は何処か別の所で生きようかと思います」

 

「そっか…」

 

最後にゲルダであった少女の顔を目に焼き付けておく

 

何処かで見た真顔だ…

 

最後に街を見渡しながらタバコを吸い、鼻歌を歌う

 

ゲルダはその横で俺の肩に頭を置き、何度も頭を動かしていた

 

「お〜い‼︎アンタ達‼︎」

 

後ろにジープが来た

 

「俺達今から都心にみんなを送って行くんだが、アンタらも乗るか⁉︎」

 

何処かの軍隊だ

 

「行くんだ」

 

「リヒターさん…」

 

ゲルダは最後にキスをしてくれようとした

 

だが、それはしてはならないとすぐに思い、人差し指で止めた

 

「俺の事は忘れるんだ。いいね⁇」

 

「やっぱり嫌です‼︎そんな事出来ません‼︎」

 

「…君はこれから長い時間を生きる。その中で、きっと良い人が見つかる」

 

「嫌っ‼︎」

 

我が強いのはこの時から変わってないみたいだ…

 

仕方ない…

 

「もし…もしだ。これから長い人生の中で、もう一度俺を見かけて声を掛けたら…」

 

俺は母さんから貰った指環付きのネックレスを”母さん”に託した

 

「これを俺に返しに来てくれ」

 

「こんな高価な物…‼︎」

 

「今日は特別な日になるといいな」

 

「…えぇっ‼︎」

 

ゲルダはネックレスの先の指環を大切そうに握り締めた

 

最後に笑顔のゲルダの頭を撫で、ジープに乗せた

 

「必ず貴方を探すわ‼︎だから待ってて‼︎」

 

その言葉に、無言で頷く

 

「アンタは良いのか⁇」

 

「俺はいい」

 

「そっか。達者でな〜」

 

ジープの運転手のドッグタグの名前が見えた

 

リチャード・オルコット

 

後にゲルダと繋がる男だ

 

「ありがとう、リヒターさん‼︎」

 

ジープが見えなくなるまで、ゲルダに手を振り続ける…

 

こうして、俺の人探しは終わりを迎えた…



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特別編 貴方に恋した一週間(9)

基地に帰り、皆が眠るのを待つ

 

今日に限って、母さんは一番最後まで起きていた

 

「母さん。義足をもう一度見たいんだ。いいか⁇」

 

「えぇ、お願いするわ」

 

母さんを工廠に連れて行き、椅子に座らせて左足の義足を外し、一つのパーツの裏を見た

 

そこにはしっかりと”Gerda”と彫られていた

 

間違いない

 

ゲルダは母さんだった

 

「オーケー。これでいい」

 

また義足を嵌め、軽く動かさせる

 

「ふふっ…」

 

「イダッ‼︎」

 

相変わらず俺の脛を蹴り飛ばす

 

しかし、今度はイタズラに笑う

 

ゲルダらしいと言えば、ゲルダらしいのか…

 

「マーカス。今日は私が寝るまで一緒にいて頂戴⁇」

 

「いいよ」

 

「ジャーヴィスは今日だけアークに預けたの」

 

「寝るまで横にいるさ」

 

母さんがベッドに入り、俺はその横で母さんの目を見る

 

「マーカス…私ね⁇昔約束をしたの」

 

「どんな約束だ⁇」

 

「とても大切な人とお別れして、その人を探しに行く約束よ…」

 

「見付かったのか⁇」

 

「どうかしら…でも、これだけは言えるの」

 

母さんは俺の手を握り、こう言った

 

「あの夏のたった数日間…あれが私の人生の中で一番輝けたわ…」

 

俺の中でも根強く残る、母さんと過ごしたたった数日

 

全てが変わり、全てが始まった

 

俺が出会うはずだった第三の男にもちゃんと出会えた

 

そして、時代も上手く動いている

 

それでも、母さんの中では未だに終わっていない

 

「その内見つかるさっ…大丈夫」

 

「ふふっ…今日も”特別な日”になったわ、マーカス」

 

また少し乙女の顔に戻った母さんの顔を見て、俺も少し笑う

 

「おやすみ、マーカス…」

 

「おやすみ…」

 

母さんの手を離そうとした

 

「なるほどっ…」

 

手には、あの日ゲルダに渡したネックレスが乗っていた

 

何十年の時を越え、今また手元に戻って来た

 

「ちゃんと約束は守れてるよ…おやすみ、ゲルダ…」

 

眠った母さんの額にキスをする

 

「おやすみなさい…リヒターさん…」

 

眠った母さんはあの日の夢を見ているのか、微笑んで寝言を言っていた…

 

 

 

 

 

次の日の朝

 

「う〜んっ‼︎気持ちの良い朝‼︎」

 

昨日の夜、スパイトはとても良い夢を見た

 

あの夏の日に戻り、一番好きな人とまた出逢えた夢を見た

 

あの日始まった長い長い恋愛は、スパイトの中で未だに続いている…

 

 

 

 

 

 

 

ゲルダ…若いスパイト

 

スパイトの絶世期の頃の名前

 

今でこそイタズラ好きで面倒見が良い母親だが、昔は快活で行動的な女の子

 

両足を失った際にカプセルに入った為艦娘化

 

つまり、何が言いたいかと言うと

 

自分の息子が初恋の相手であり、現在進行形で恋する乙女。凄いね



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230話 カントリーガール、襲来(1)

さて、229話及び特別編が終わりました

如何でしたか、特別編

私のワガママにお付き合い頂き、誠にありがとうございました

今回のお話は日常回になります

そう言われれば横須賀になかった”あれ”が建設されます

そして、驚愕の事実も発覚します 笑


「レイ。牧場するわよ‼︎」

 

その言葉は突拍子も無く言われた

 

「…牧場」

 

「そっ、牧場」

 

「モーモーさんがいるアレか⁇」

 

「ガーガーさんも…いる…⁇」

 

「そうよ〜。モーモーさんもガーガーさんもいるわ⁇」

 

朝霜と早霜が口を開いたが、完全に俺の言い方が移っている

 

「学校の横に何頭か飼おうと思うの」

 

「ガーガーさんはまた俺が買いに行くとして、モーモーさんはどうするんだ⁇」

 

「実はもうモーモーさん居るのよ」

 

最初はその意味が分からなかったが、表に出て分かった

 

 

 

 

「おぉ‼︎モーモーさんだ‼︎」

 

イントレピッドDauから降ろされて行くモーモーさん達

 

「アメリカのモーモーさんよ‼︎」

 

「…」

 

横須賀がモーモーさんモーモーさん連呼するので、視線が胸に行った

 

「誰がモーモーさんよ」

 

「何にも言ってねぇだろ‼︎牛舎はどうするんだ‼︎」

 

「造って頂戴。アレンと涼平を招集するわ」

 

「さっ、朝霜、早霜。お父さんとご飯行こうか」

 

「モーモーさん…」

 

「モーモーさんどうすんだ⁇」

 

「うっ…」

 

二人の視線が痛い…

 

「ご褒美もあるわよ⁇」

 

胸の下で組んでいた腕を軽く上げる横須賀

 

つまり、造ったらパラダイスが待っている‼︎

 

「分かった‼︎分かったよ‼︎やりゃいいんだろやりゃあ‼︎」

 

「さっすがお父さん‼︎」

 

「お父様…凄い…」

 

まさか横須賀のモーモーさんの乳搾り体験出来るからとは子供には言えない…

 

「元帥‼︎出来上がりました‼︎」

 

涼平がクルクル巻きにした紙を持って来た

 

「流石ね。どれどれ…」

 

「隊長、手伝って頂けませんか⁇」

 

「勿論さ‼︎アレンもすぐ来る」

 

「よしっ‼︎」

 

横須賀は見ても分からない設計図を見たフリだけし、必要経費、必要材料に間違いは無いか凝視した後、涼平に返した

 

「これで良いわ。レイ、後はアレンと涼平と一緒に進めて頂戴。涼平⁇出来上がりの報酬はデカいわよ⁇」

 

「か、畏まりました‼︎」

 

「事前に言われた材料は確保してあるから、妖精達に聞いて頂戴」

 

横須賀と別れようとした時、向こうからアレンが来てくれた

 

「来たぞ。牛舎の建設だって⁇」

 

「そっ。ま〜た突貫工事だ‼︎」

 

「設計図はここに‼︎」

 

「野郎共‼︎集合〜‼︎」

 

久々の号令だが、相変わらずキッチリ集まってくれる妖精達

 

涼平が地べたに広げた設計図を全員で見る

 

俺、アレン、涼平が屈んでいる頭や肩に妖精達が乗り、同じ様に眺める

 

”まぁ、半日やな”

 

”牛さんは何頭や⁇”

 

「とりあえずは4頭らしい。まっ、少しは足されるだろう」

 

”牛舎の後のアヒルさんの柵は楽勝や‼︎”

 

”ま、こっちは多めに見積もって二時間やな”

 

「よし、牛舎に取り掛かろう‼︎」

 

早速牛舎建設に取り掛かる

 

大人数の妖精は細部まで計算された資材のカットや小さな部品を嵌め込む等、それぞれが細かい作業

 

俺達は重たい物や大きな物を運び、それを大まかに組み立てる作業

 

勿論妖精達も大きな資材を大人数で運んでいる

 

一時間もすると、牛舎らしい骨組みが完成した

 

流石は妖精

 

数で攻めて仕事を終わらせる

 

「よ〜し‼︎休憩〜‼︎」

 

ひと段落作業を終えた所で一旦休憩を取った

 

妖精は妖精で固まってお菓子やお茶を飲む

 

俺達は俺達で固まってうんこ座りをしてタバコを吸う

 

「へへ。横須賀、俺達を見くびったな⁇」

 

「伊達に海の家造ってないからな」

 

「喜んで貰えるといいですね‼︎」

 

「あら‼︎もうここまで出来たの⁉︎」

 

飲み物とアイスを持って来た横須賀が来た

 

「半日もあれば出来上がる。まっ、見てな‼︎」

 

「そっ⁇じゃあ、きそと隊長にアヒル買わせに行くわ。これあげる‼︎じゃあねぇ〜」

 

横須賀はデカイオレンジジュースのペットボトルと紙コップ

 

それと、棒のアイスキャンデーを数本置いて行った

 

「こんのクッソ寒い中アイス食えだと…」

 

あたかも普通に置かれたアイスキャンディーに戦慄する俺達三人

 

「夏場はコーンポタージュだったな…」

 

「逆…ですね…」

 

悪態を吐きながらアイスキャンディーを囓る

 

しかし、凍えながらアイスを頬張るのは実に情けない

 

「オレンジジュースもキンキンだぞ‼︎」

 

冷凍庫にでも入れてあったのかと思う位、オレンジジュースも冷えていた

 

「あ、あれかも知れませんよ⁉︎自分達が汗かいてるから心配されて…」

 

涼平は涼平で何とか横須賀を庇おうとするが、流石に無理になって来ている

 

「そう取ってやるか…よしゃ‼︎とっとと作んぞ‼︎」

 

俺が先に現場に戻り、アレンと涼平が後から来た

 

「アレを見ると朝霜が子供って分かるな⁇」

 

「ふふっ、はいっ‼︎」

 

 

 

 

「ちょいとでもこの榛名に勝てると思ったダズルか‼︎このマヌケ‼︎」

 

「モー‼︎」

 

三人と妖精達が牛舎を造り上げている間、榛名とリシュリューは出来上がるまで、すぐ横のだだっ広い空き地の一角で牛の世話をしていた

 

「榛名さん。フツーにしてれば大丈夫だリュー」

 

リシュリューはキチンと手綱を握っているが、榛名は何故か牛にケンカを売られて突進された所を、角を掴んで押し返していた

 

「いいか牛‼︎これ以上榛名に反抗するなら残酷な事になるダズル‼︎」

 

「モーモー‼︎」

 

「モーじゃねぇダズル‼︎ぐぬぬぬ‼︎」

 

双方一歩も引かない攻防が続く

 

「うおりゃ‼︎」

 

「モッ‼︎」

 

ようやく牛を横倒しし、榛名の勝ちが決まる

 

「だぁ〜〜〜っはっはっはぁ‼︎牛が艦娘に勝てる訳ね〜ダズうぼぁ〜〜〜〜〜‼︎」

 

すかさず起き上がった牛に猛突進を喰らい、榛名は水平線の向こうに飛んで行った

 

「榛名は乱暴だからいかんニム」

 

ニムは暴れ牛の背中を撫で、餌の草を食べさせたりする為、すぐに落ち着いてニムにべったりになった

 

「クッソォ…覚えとくんダズル‼︎ゼッテーシチューの具材にしてやるダズル‼︎」

 

「そんなワカメまめしで言われても迫力ないニム」

 

「ハンッ‼︎そんな事を言ってられるのも今の内ダズル‼︎榛名には後二回変身が残ってるダズル‼︎」

 

その瞬間、そこにいた作業中の人員の時間が止まった

 

「今…アイツ何て言った⁇」

 

「二回変身が残ってる…だと…⁇」

 

「た、確かにそう聞こえました…」

 

”あ、あれでプレーン榛名やと…”

 

”とおの昔に第二改装済ましてるもんやと…”

 

そう

 

榛名は第二改装はおろか、今まで一度も改装を行った事がない

 

メンテナンスや治療こそすれど、艤装の強化や身体的強化は一度も無い

 

つまり、榛名は出会った当初からず〜〜〜〜〜っと”無印の榛名”のまま、今日に至っている

 

「何か文句あるダズルか‼︎」

 

「無い無いマジで無い‼︎」

 

「カッコいいぞ榛名‼︎」

 

「強くてカッコいいです‼︎」

 

「榛名はか弱い乙女ちゃんダズル」

 

その一言で、全員が一斉に

 

榛名は可愛い‼︎

 

榛名は美人‼︎

 

榛名は良妻‼︎

 

等と褒め言葉の総攻撃を榛名に当てた

 

「むふふ…そんなに言わなくても榛名は大丈夫ダズル‼︎」

 

散々褒められて満足したのか、榛名はワカメまめしの体を洗う為にドックに向かう

 

とりあえずこの日だけでも、榛名の悪口を言う輩は横須賀から消え去った…



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230話 カントリーガール、襲来(2)

夕方頃…

 

「よーし、モーモーさんの搬入開始‼︎」

 

数により突貫工事した牛舎が出来上がった

 

中々の出来上がりだ。申し分ない

 

「牛さん入るニム‼︎」

 

「新しいお家リュー‼︎」

 

「こういう単細胞脳の奴にはコレが一番効くんダズル」

 

榛名は道に干草の束を間隔を開けて置き、牛舎に牛を誘導する

 

四頭中二頭はニムとリシュリューがそれぞれ誘導

 

残り二頭は、ようやく榛名に懐いた乳牛一頭とあの暴れ牛

 

乳牛は榛名に綱で誘導され、牛舎の中へ

 

残るは暴れ牛

 

「ほれ食う大丈夫」

 

暴れ牛は干草の束を一つ食べ、榛名を見る

 

「メンチきってんじゃねーダズル‼︎」

 

「ウモ‼︎」

 

榛名の怒号に怒ったのか、暴れ牛は前足を動かし、突進の体勢に入った

 

「ヤマシロビンタダズルな」

 

榛名はビンタの体勢に入る

 

「モッ…」

 

榛名の気迫に気付いたのか、暴れ牛は榛名に擦り寄った

 

「よ〜し、良い子ちゃんダズル‼︎」

 

暴れ牛を最後に、牛の搬入が終わる

 

 

 

 

次はアヒルの搬入に入る

 

「こぁ〜〜〜っ‼︎」

 

「が〜が〜しゃんこっち‼︎」

 

「ガァガァ」

 

きそと隊長が農家で買って来たアヒル達が、ひとみといよに追い掛け回されている

 

「運動会のアヒル追い、思い出すわね⁇」

 

出来上がった頃にやって来た横須賀を横に、ひとみといよを眺める

 

「つかあえた‼︎」

 

「うるしゃくちてうと、たかこしゃんにふらいろちきんにちてもあうお‼︎」

 

ひとみは一羽のアヒルを両手で抱え

 

いよは首根っこを掴み、二羽のアヒルを持ってアヒル小屋に入って行った

 

「ちょっと見て来るわ⁇」

 

「俺も行くよ」

 

ひとみといよが入って行ったアヒル小屋に、俺達も入る

 

「まめたべなしゃいまめ」

 

「たねにすうか⁇」

 

ひとみといよは、ちゃんとアヒルに餌を与えていた

 

「ちゃんとガーガーさんにご飯あげてくれてるのね⁉︎」

 

「うん‼︎」

 

「が〜が〜しゃんしゅき‼︎」

 

「私にもやらせてくれる⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「まめあげうの‼︎」

 

横須賀がひとみといよと共にアヒルの世話しだしたので、俺はアヒル小屋から出て来た

 

「アヒルサン待テー‼︎」

 

今度は学校帰りのジャーヴィスがアヒル広場で走り回っていた

 

「おっ」

 

ジャーヴィスが柵の内側走り回る中、柵の向こうにたいほうがいた

 

たいほうは遊びたそうな顔をしているが、柵を越えようとしない

 

様子を見るために、柵越しにたいほうの前まで来た

 

「どうしたたいほう。遊ばないのか⁇」

 

「うん…」

 

そう言うたいほうの目は、悲しい目をしている

 

たいほうはアヒルにトラウマがある

 

遊び相手であったアイガモ達を、国のルールと言う名目で取られたからだ

 

「たいほう‼︎ばんざい‼︎」

 

「ばんざい」

 

「よいしょ‼︎」

 

「わぁ‼︎」

 

たいほうが両手を挙げた瞬間に脇に手を入れ、柵の内側に入れた

 

「大丈夫さ。今回は横須賀のアヒルさんだから、国に取られたりしない」

 

「ほんと⁇」

 

「そうよたいほうちゃん‼︎」

 

横須賀がたいほうの前に屈み、手を握った

 

「くににとられたりしない⁇」

 

「しないわ⁇でもね、たいほうちゃん。これは私なりの命の授業なの」

 

また、横須賀の目が母親の目に変わる

 

「じゅぎょう⁇」

 

「そうよ。国に取られたりはしないけど、いつかは給食になるの」

 

「どうしてがーがーさんたべられるの⁇」

 

「それをたいほうちゃんにも知って欲しいの。あ、そうだたいほうちゃん‼︎ガーガーさんはどんな赤ちゃん産むかな⁉︎」

 

「ひよこちゃん」

 

「ジャン‼︎」

 

横須賀のポケットから、アヒルの卵が出て来た

 

「たまご」

 

横須賀はたいほうの手を取り、手の平に卵を乗せた

 

「卵からひよこちゃんが産まれるのよ⁇」

 

「たいほう、たまごたべてる」

 

「頂きますって言うのはね⁇命を頂きますって意味でもあるのよ⁇」

 

「こわいね…」

 

たいほうは卵を握りながら、横須賀の目を見た

 

「大丈夫よたいほうちゃん。誰でも一度悩む時があるの。たいほうちゃんは偉いわ⁇ちゃんと命の大切さに気付いてるもの‼︎」

 

「うんっ」

 

たいほうの目に少しだけ活気が戻る

 

「あのね、よこすかさん」

 

「ん⁇なぁに⁇」

 

「このたまご、ひよこちゃんうまれる⁇」

 

「温めてみましょうか‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

たいほうと手を繋ぎ、横須賀は再びアヒル小屋に向かおうとした

 

「レイ。アンタも来て」

 

「おぉ‼︎ちょい待ってな‼︎柵が緩いんだ‼︎よっと‼︎よしよし」

 

横須賀に言われ、三人でアヒル小屋に入る

 

アヒル小屋に入り、たいほうは孵化場に卵を置き、干草を周りに置いた

 

「ひよこちゃんうまれるかな⁇」

 

「楽しみに待ってましょうか‼︎」

 

入口の縁にもたれ、屈み込んだ二人を背後から見る

 

何度も言うが、横須賀が子供といると絵になる

 

ひとみといよに始まり、たいほうやジャーヴィス、吹雪のような赤ちゃんでさえ、傍に居るだけで絵になる

 

俺はそんな絵を見るのが好きになっていた

 

「今日はもうお家に帰る時間だから、アヒルさんにバイバイしましょうか⁇」

 

「うん」

 

「さっ、行っといで‼︎」

 

たいほうはアヒルに近付き、頭を撫でた

 

「またたいほうとあそんでね‼︎」

 

「ガーガー‼︎」

 

アヒルにもそれは伝わったのか、一羽のアヒルがたいほうに擦り寄った

 

たいほうはそのアヒルを軽く抱き寄せ、愛おしそうに羽を撫でた

 

「ちゃんと教えてあげないとね…」

 

「あんなのを見せられたらな…」

 

国に友達を奪われたたいほう

 

胸を貫く様な経験をした自分達より遥かに小さい女の子の痛みは、その姿だけで伝わった

 

アヒルを離し、たいほうは俺達の所に戻って来た

 

「ばいばいしてきた‼︎」

 

「じゃあ、レイと一緒にみんなの所に行きましょうか‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

たいほうを真ん中に、俺と横須賀が手を繋ぐ

 

珍しくたいほうが頭に乗らないと思ったら、横須賀が居る時は手を繋ぐのだと、今更気が付いた

 

「あ‼︎パパだ‼︎」

 

「お家帰るぞ‼︎」

 

「よこすかさん、すてぃんぐれい、ありがと‼︎」

 

俺達の手から離れ、隊長と手を繋いだたいほうの前に屈み、目線を合わせる

 

「明日帰ったら一緒に遊ぼうなっ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

たいほうの頭を撫でると、いつものたいほうに戻ってくれていた

 

「サマになってたぞ。ジェミニとお前とたいほう」

 

「こう見えても一応父親だからな⁉︎」

 

「ありがとうございます、隊長‼︎」

 

隊長は俺達に微笑んだ後、子供達と共に基地に戻って行った

 

「あ、そうだレイ。アンタに紹介する子がいるのよ」



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230話 カントリーガール、襲来(3)

隊長達を見届けた後、再び牛舎の所に足を運ぶ道中、横須賀が急に言った

 

「新しい子か⁇」

 

「そっ。最近初等部に来た子なんだけど、牛とかアヒルに詳しい子なの」

 

「初等部って事は小学生辺りか⁇」

 

「そうね。高学年行ってるか行ってない位よ⁇」

 

牛舎に戻って来た

 

牛舎自体は出来たが、実はサイロがまだ未完成だ

 

ここは妖精達に任せれば明日には終わるので放っておいて良い

 

とは言え、一応餌は出る

 

その餌の出口に、彼女は居た

 

麦わら帽子を被り、サイロの出口で屈んでいるその少女は、後ろ姿を見ただけでも田舎娘の雰囲気を醸し出している

 

「”峯雲”‼︎」

 

「あ、はい」

 

横須賀に峯雲と呼ばれた少女は立ち上がり、此方を向いた

 

「この人がマーカスよ」

 

「貴方がマーカスさん…話はお聞きしています‼︎私、峯雲と言います‼︎」

 

「宜しくな、峯雲」

 

口と顔は平然を装っているが、目線は自然と一部分に行っていた

 

デカい…

 

はまかぜで慣れたとは思ってはいたが、やはり目が行ってしまう

 

「サイロは言っている間に完成する。後は必要な器具があればこっちで準備する」

 

「粗方は揃ってます‼︎妖精さん達が作ってくれましたので‼︎」

 

「今、明石と夕張に搾乳器造らせてるから、後は…」

 

「搾乳器…」

 

一人悶々と考えている時、早霜が足元に来た

 

「おっ、早霜。モーモーさん見たか⁇」

 

「ちょっとだけ…見た…」

 

「早霜連れて行って来る。峯雲、何かあったら言ってくれよ⁇」

 

「畏まりました‼︎」

 

早霜と手を繋ぎ、牛舎に来た

 

「モーモー」

 

「早霜、モーモーさん…好き…」

 

鳴き声を上げた牛に、早霜は頭に手を置いた

 

そして、次の一言で全員が一斉に動き出す事になる

 

「照月さんも…喜ぶ…」

 

もうそろそろ繁華街でご飯にしようとしていた、アレン、涼平

 

気を抜いていた妖精達

 

それらが一斉に早霜の方を向いた

 

「…忘れてた」

 

「わぁ〜っ‼︎モーモーさんだぁ〜っ‼︎」

 

時既に遅し

 

入口には目を輝かせた照月がいる‼︎

 

「照月さん…早霜と、遊んでた…」

 

照月はいつも高速艇で帰る

 

それを忘れていた…

 

「そ、総員退去‼︎退去だ‼︎」

 

妖精達がワーキャー‼︎言いながら、牛舎付近から猛ダッシュで逃げ

 

アレンと涼平は退去誘導をする為、その場に残った

 

「モ''〜〜〜モ''〜〜〜ざんだぁ〜〜〜」

 

牛に向かってヨダレを垂らしながら笑顔で飛び掛かる照月を見て、時間が緩やかになる…

 

照月の対策をしていなかった…

 

終わった…

 

五分で壊滅だ…

 

「い''〜だ〜だ〜ぎ〜まぁ〜〜〜ず〜〜〜‼︎」

 

それはもう残酷な事になるのは目に見えていた

 

早霜の目を隠し、その場に屈み込んだ…

 

………

 

……

 

 

「…あれ⁇」

 

照月の方をチラ見してみる

 

「牛乳さんまだかなぁ〜⁇」

 

照月は何処からか出した搾乳器を使い、一頭の牛から乳を搾っていた

 

「て、照月…それは…」

 

「あ‼︎お兄ちゃん‼︎あのね、夕張さんと明石さんが、これを試して来て欲しいって言われたから、照月、試しに来たの‼︎」

 

試作品ではあるが、ちゃんとタンクも下に置いてある

 

照月は食が絡むと意外に真面目である

 

「も、モーモーさんは食べないのか⁇」

 

「食べないよ⁇牛乳さん”無限”に出すんだから勿体無いよ⁉︎食べるならあっち‼︎」

 

照月の目線の先には、あの暴れ牛がいる

 

「出来たぁ‼︎お兄ちゃん、照月、これを明石さんに届けなきゃいけないの」

 

搾乳器を外し、照月は牛乳が溜まったタンクを持ち上げた

 

「そ、そっか‼︎照月は偉いな‼︎」

 

「うんっ‼︎照月、頑張るよ‼︎」

 

照月はそのまま牛舎の出入り口まで来た

 

「あんまり暴れると、照月が頭から食べちゃうからね〜‼︎」

 

「ウモ…」

 

入口近くにいる暴れ牛の頭をポンポンしながら、照月は怖い事を言い、牛舎から出て行った

 

「ふぅ…死ぬかと思った…」

 

早霜はキョトンとしている

 

「帰ろう、お父様…」

 

「…帰ろっか‼︎」

 

照月が意外に理解がある事が分かり、ようやく落ち着きを見せた…

 

 

 

 

その日の夜、横須賀に搾乳器を使った事を、また清霜の絵日記にされたのはまた別のお話…

 

 

 

 

 

 

峯雲が横須賀牧場に来ました‼︎




峯雲…カントリーちゃん

最近初等部に来た田舎娘

牛やアヒルの扱いに長けており、簡単な農業だって出来る

牛乳や野菜はキチンと検査された上で繁華街の料理に使われたり、繁華街開放日に売られたりする

はまかぜよりは小さいが、それでもデカい。凄いね‼︎




横須賀牛乳…2リットル250円

横須賀牛乳と書かれているが、横須賀にいる牛の牛乳なので、名前にある人から搾った物ではない

繁華街開放日に売られる美味しい牛乳

栄養価も高く、瑞鳳のプリンにも使われている

繁華街開放日の売り子は日によって違うが、横須賀が売り子をするとものの数分で売り切れる

理由は分からない


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231話 疑惑と謎(1)

さて、230話が終わりました

峯雲はパッと出でしたが、また出てきます

今回のお話は、涼月がイッピー出て来ます

そして、誰かの謎が明らかになります

テメェだったのか‼︎


ある日のダイダロス…

 

「今日はお休み〜‼︎お休みだけど〜…」

 

「しっかり前を向いて下さいっ…‼︎」

 

ダイダロスさんの背後で、涼月が爆弾とライターを手にしている

 

「は、ハニー⁇」

 

「何ですかっ…‼︎」

 

「どどど、どうしてお父さんとお母さんの盗聴したいんだい⁇」

 

涼月は無言でライターを擦る

 

「あいやいやいや‼︎けけけ決してハニーの詮索をする訳では無くて‼︎」

 

「涼月だって…知りたい事はあるんですっ…‼︎お父さんとお母さんは、涼月の知らない場所で何をしているのかっ…それを知りたいだけですっ…‼︎」

 

「わわわ分かりました‼︎」

 

「分かりました…⁇」

 

「畏まりましたっ‼︎誠心誠意、遂行してみせます‼︎」

 

涼月を背後に置いたまま、ダイダロスさんは盗聴を続ける…

 

「…聞こえて来た」

 

《どうしたんだいっ⁇今日はっ、がっつくじゃないかっ‼︎》

 

《たまにはいいだろっ》

 

「…」

 

「…」

 

ヒジョーに気不味い空気が流れる…

 

「…気不味いので、貴方を爆破しますっ…‼︎」

 

「そんなぁ‼︎」

 

涼月がライターを擦る‼︎

 

《……済みだ》

 

「ん⁇」

 

混線が入った

 

「待って…どこからだ…」

 

異変に気付いた涼月も手を止める

 

「これは…」

 

「メモを取ってく…ださい‼︎」

 

涼月に命令口調で言うと爆破されるのを思い出し、ダイダロスさんはすぐに口調を丁寧に戻した

 

「はいっ…‼︎」

 

録音と同時に、話している言葉を書き上げて行く…

 

「マズい事…ですかっ⁇」

 

「あぁ…凄くマズい…お父さんの所に連れて行ってくれるか⁇」

 

録音を終えたダイダロスさんは、データを取り出しながら涼月と話す

 

「構いませんけど…何故お父様の所にっ…⁇」

 

「岩井さんが一番信頼出来るからさ」

 

「畏まりましたっ…‼︎行きましょうっ‼︎」

 

ダイダロスを降り、岩井のいる部屋を目指す…

 

 

 

「ただいま帰りましたっ…‼︎」

 

「おかえり涼月‼︎」

 

「ダイダロスはどうだった⁇」

 

「それが…」

 

「失礼します」

 

涼月の背後からダイダロスさんが手元に音声を再生する機材を持って来た

 

「珍しいな…どうされました⁇」

 

「かなり重要な事ですので…」

 

「アタシと涼月は抜けるよ」

 

「いえ、いて下さい」

 

入口を閉めて鍵をかけ、ダイダロスさんは深呼吸した後、再生機材を机の上に置いた

 

「岩井さん、ボス。私からすれば、貴方がたが一番歳が近くて、尚且つ話が通じる。その上で、この音声を聞いて欲しいんです」

 

「おぉ…分かった…」

 

「聞こうじゃないか」

 

二人にイヤホンを渡し、先程盗聴した音声を流す

 

最初は黙って聴いていた二人だが、段々顔が険しくなっていく…

 

「これは本当か⁉︎」

 

「あの人に限って…まさかだよ…」

 

「確かに自分は罪を犯した身…信用はないかも知れません。ですが、これがもし誠の真実なら…」

 

「その点は心配ない。いつだって信頼してるさ‼︎」

 

「なんなら、アタシだって海賊みたいな事してたしねぇ」

 

「信用はありますっ…‼︎」

 

そう言ったのは涼月

 

「ダイダロスさんっ…‼︎貴方は確かに情けないお方ですっ…」

 

「き、キツイな涼月さん…」

 

「ですがっ、涼月もその時横にいて聞いていましたっ…‼︎」

 

この通信を盗聴していたのは二人いた

 

涼月が証人になれば、この音声が本物だという確率が跳ね上がる

 

「一気に信憑性が高くなったな…」

 

「ヴィンセントはどこ行ったんだい⁇横須賀かい⁇」

 

こうなれば、高官であり皆の話をよく聞いてくれるヴィンセントに頼りたい所

 

「えぇ。イントレピッドDauの日です」

 

「参ったねぇ…」

 

「我々達で、何とか横須賀に届けられませんか⁇せめて、横須賀のジェミニさんか…もしくはマーカスさん辺りにコレを届けられれば…」

 

「恐らく通信も傍受されて解読される」

 

「下手すれば、この部屋も盗聴されてる可能性が高いねぇ…」

 

「…少し、涼月に時間を頂けませんかっ…⁇」

 

「あぁ…」

 

ダイダロスさんと岩井さんが首を縦に振り、涼月は何処かに通信をし始めた

 

数分後…

 

「皆さん、これをっ…‼︎」

 

涼月が机の上にタブレットを置いた

 

そこには、照月と文字で会話した記録が残っていた

 

今から横須賀で遊ぶ予定を立ててくれた

 

これなら高速艇で行けば良い

 

「きそさんの作ったこの会話チャットのインターネットは独立していますっ…‼︎」

 

「なるほど‼︎偉いぞ涼月‼︎」

 

「任せたよ涼月。流石はアンタはアタシ達の子だ‼︎」

 

「よしよし‼︎お小遣いをあげよう‼︎」

 

ダイダロスさんは録音データを入れたメモリを涼月に渡し、少し多めのお小遣いを涼月に渡した

 

涼月はダイダロスさんにお礼を言う為に口を耳に近付けた

 

「…シケてますねっ」

 

「わ、分かりまちた…」

 

ダイダロスさんは財布から紙幣を全部取り出し、涼月のリュックに詰めた

 

「ではっ…行って参りますっ…‼︎」

 

「気を付けてな‼︎」

 

「アタシ達もすぐに行くから‼︎」

 

「向こうで待っていて下さい‼︎」

 

「ダイダロスさんっ…‼︎いつもの合図をっ…‼︎」

 

涼月の目が、ダイダロスさんを見つめる

 

「ゴー‼︎ハニー‼︎」

 

「…はいっ‼︎ダイダロス‼︎」

 

意気揚々と、涼月は部屋を出て行った

 

「なんだい⁇随分仲良いんだねぇ⁇」

 

「ありがとう、いつも涼月の相手をしてくれて」

 

「護られているのは此方ですよっ」

 

今は涼月に賭けるしかない…



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231話 疑惑と謎(2)

涼月が横須賀に着いた

 

「あっ‼︎涼月ちゃんだ‼︎お〜い‼︎」

 

「お照さんっ」

 

照月が港で待っていてくれた

 

「事情は何となく分かるよ」

 

涼月に近付くなり、照月の目が本気に変わる

 

深くは話していない涼月だが、照月には何となく危ない状況だとは分かっていた

 

その事実はすぐに明らかになる

 

「横須賀さんにお話しよ。あの人、そういうのはしっかりしてるから」

 

「えぇ」

 

遊ぶはずだった二人は、執務室に向かう…

 

 

 

「こんなデスクでどうやって仕事してんだ‼︎ちったぁ片付けろ‼︎」

 

「ほらな、言われただろ⁇」

 

朝っぱらから横須賀のキッタナイデスクを片付ける

 

普段から朝霜に言われているみたいだが、デスクの上には

 

資料

菓子袋

資料

資料

菓子袋

菓子袋

資料

 

と、見るも無残な状況になっている

 

「うっさいわね‼︎整理は出来てるけど整頓出来てないだけよ‼︎」

 

「親潮を見習え親潮を‼︎」

 

横須賀の横にある親潮のデスクは整理も整頓も出来ている

 

当の親潮は、今日は学校の為お休み

 

「ここだけはお父さんに似たんだなっ‼︎」

 

「ここだけは余計だここだけは‼︎」

 

「コンコン。照月です」

 

横須賀と言い合っている最中、執務室のドアがノックされた

 

「照月ちゃんだわ…珍しいわね⁇開いてるわ⁉︎」

 

「失礼しま〜す」

 

「失礼しますっ…‼︎」

 

照月の後ろには、涼月もいた

 

リュックサックが膨らんでいる所を見ると、大湊から何か持ってきたのだろう

 

「マーカスさんっ…ちょうど良かったですっ…‼︎」

 

「俺に用か⁇」

 

当初は、爆弾の素材の手配か造り方のレクチャーかと思った

 

だが、涼月が取り出したのは音声再生器

 

「ダイダロスさんとっ…お父さんとお母さんからですっ…‼︎」

 

イヤホンを渡されながら、涼月は誰からの物か教えてくれた

 

俺と横須賀は顔を見合わせ、イヤホンを耳に当てた…

 

 

 

《あぁ。深海の艤装を手配済みだ。長波に載せようかと》

 

《ははは。長波はその為に建造しましたから。一度は拉致されましたがね…》

 

《それでは困るんですよ。セイレーン・システムでさえ、新たに導入するには時間が掛かるのだろう⁇》

 

《だからこそ、生身で深海化させた上で相応の艤装を長波に持たせるんです》

 

《此方には深海化させる技術がありますからね》

 

 

 

イヤホンを取りながら、頭が真っ白になる

 

「なぁ…まさかとは思うが…この電話の主は…」

 

「棚町さんですっ…‼︎」

 

一番関わりたく無い人物に、好戦派の疑惑がかかった

 

それも、長波に手が及んでいる

 

「誰か知ってる奴はいないのか…」

 

「呉さんとヴィンセントさん‼︎」

 

その答えは、何故か照月が答えた



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231話 疑惑と謎(3)

「呉さんとヴィンセントだ⁉︎」

 

「ヴィンセントさんに付き添いのお手伝いお願いされた時に呉さんもいたの‼︎極秘事項だから、お兄ちゃんにもお話しちゃダメだって言われて…」

 

「呉さんは味方か⁇」

 

「うんっ‼︎ヴィンセントさんと一緒に深海の危ない兵器を処理してるの‼︎」

 

「ちょっと待ってろ」

 

タブレットを弄り、すぐにヴィンセントに通信を繋げた

 

「ヴィンセントか⁇」

 

《マーカスか⁇どうした⁇》

 

「棚町の事で、何か知っているなら教えて欲しい」

 

《君は棚町にこれ以上関わりたく無いだろうと思ったが…》

 

「頼む。友人の間に更生させてやりたい」

 

《分かった。キヨマサを執務室に召集しておいてくれ》

 

「了解した」

 

ヴィンセントとの通信を切り、今度は横須賀と涼月が話す

 

「三人はまだ大湊ね⁇」

 

「はいっ…‼︎お父さんの部屋に居ますっ…‼︎」

 

それを聞いた横須賀は内線のスイッチを押した

 

「私よ。あきつ丸、龍驤。憲兵数人を連れて、大湊の岩井艦長の自室にいる、岩井艦長、ボス神威、ダイダロスさんの三人を救出して来て欲しいんだけど、出来そうかしら」

 

返答はすぐに返って来た

 

《あきつ丸にお任せであります‼︎》

 

《任しとき‼︎すぐ行ったるわ‼︎》

 

「頼んだわよ」

 

「早い…」

 

照月が言った事に間違いは無かった

 

横須賀は行動が速い

 

普段は怠惰丸出しだが、いざと言う時に何だかんだ把握してくれている横須賀に頼る

 

「えと…お兄ちゃん…」

 

「…鹿島が危ない」

 

デスクに手を置き、下を向きながら考える

 

鹿島が危ない

 

それに、時津風も…

 

「ダメよレイ。アンタが行く必要無いわ」

 

顔を上げ横須賀の方を見るが、横須賀の目はPCに向かっている

 

「横須賀俺は…」

 

「行く必要無いつってんの‼︎」

 

急に声を荒げ、俺含め、そこに居た全員が一瞬強張った

 

こんなに怒鳴る横須賀は久々に見た

 

しかし、それでも横須賀はPCから目を離さず、俺の目を見ようとしない

 

「あきつ丸達に任せなさい。私は会議室の準備して来るから。朝霜、隊長とSS隊に連絡入れて召集して頂戴」

 

「お父さんに頼みゃい〜だろ」

 

「いいから入れなさい。分かったわね」

 

横須賀は怒ったまま、執務室から出て行った

 

「ったく…一大事に私情挟むなっての‼︎面倒っちぃなぁ‼︎」

 

悪態を吐きつつも、朝霜は連絡を入れ始めてくれた

 

「どうしてっ…マーカスさんは出られないのですかっ…‼︎」

 

「分からん…」

 

「横須賀さん、どうしちゃったんだろ…」

 

本気で悩む俺達を見ながら、朝霜は軽く唇を噛み締めていた…

 

 

 

 

 

横須賀が帰らないまま、また執務室のドアがノックされる

 

「ヴィンセントだ」

 

「清政です」

 

「開いてる」

 

呉さんを連れたヴィンセントが来た

 

二人共、脇に鞄を携えている

 

「すまないマーカス。もっと早くに話すべきだった…彼は君と因果があると聞いて…」

 

「いいんだ。それより、彼奴の周りの人間を何とかしてやりたい」

 

「そう言うと思ったよ。キヨマサ‼︎」

 

「はっ」

 

ヴィンセントは呉さんから鞄を受け取り、中から書類を取り出した

 

「我々は秘密裏にセイレーン・システム及び深海の艤装の回収を行っている。まぁ見てくれ」

 

ヴィンセントと呉さんが持って来た書類に目を通す

 

そこには、深海の影響を受けた人物や身内が事細かに記されていた

 

何処の基地にも深海の影響を受けた人物や艦娘がいるが、そのほとんどは

 

”影響無し”

 

”生活復帰状態”

 

と書かれ、観察自体続いてはいるが、特に大々的な計画を立てた形跡は無い

 

「大湊がない…」

 

「そう。無いんだよ…全く」

 

ヴィンセントに言われ、机に書類を置く

 

言われてみれば確かにそうだ

 

何処の基地にも深海上がりや、俺見たいに人が深海の所もある

 

関係無いと言われればそれまでだが、これだけ周りがいる中、一人だけいないのは確かに怪しい

 

「俺達の基地はどうなんだ⁇」

 

「大尉と隊長の基地には数人在籍していますが、元帥や大尉達を見た限り、大丈夫と判断したまでです」

 

「大湊は探しても何も出て来ない。だからこそ怪しい」

 

「会議室の準備が出来たわ」

 

「分かった。行くよ」

 

「アンタは来なくていいわ」

 

「何だと⁉︎」

 

横須賀に止められ、足が止まる

 

「ですが元帥、彼の力が…」

 

「とにかく‼︎アンタは今回の事に関わらないで。良いわね、命令よ」

 

「大尉、仕方ありません。ここは我々にお任せを」

 

「心配するな。何とかなるさ」

 

「…あぁ」

 

「行きましょう。照月、涼月、引き出しにお菓子あるから食べていいわよ」

 

「ありがと〜‼︎いただきま〜す‼︎」

 

「いただきますっ…‼︎」

 

大人は男一人、俺だけ執務室に取り残された



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231話 疑惑と謎(4)

「お母さん、嫉妬してんじゃねぇの⁇」

 

横須賀の椅子に朝霜が座り、椅子を左右に回し、その足元で照月涼月がお菓子にパクついている

 

「俺にか⁉︎」

 

朝霜は何かに気付いていた

 

「だって鹿島さんのトコだろ⁇さっきお父さん、何て言った⁇」

 

「分からん…」

 

「鹿島さんが危ないって言ったろ⁇あっからお母さん、様子変だろ⁇」

 

「あの横須賀が任務に私情挟むか⁉︎」

 

「女ってのはんなモンさ。自分の目の前で別の女の話されたらたまったモンじゃないさ」

 

「あのっ…‼︎涼月が上手く説明致しますのでっ…‼︎」

 

「気にするな。夫婦喧嘩に首突っ込むとロクな事がない」

 

涼月に心配され、自分を情けなく思う

 

しかし、手持ち無沙汰だ

 

と、思ったのも数十分

 

「ただいま」

 

何故か横須賀が帰って来た

 

「よ、横須賀…その…」

 

朝霜が目で”謝っとけ”と合図する

 

「なぁに⁇ハッキリ言いなさい⁇」

 

「その…悪かったよ」

 

「…何を⁇」

 

横須賀は一切目を合わせてくれない

 

「…鹿島の事をお前の前で言って」

 

「…」

 

目は合わせてくれたが、既にジト目

 

正直怖い…

 

「だがな‼︎任務に私情を…」

 

「アンタに棚町を裁けるの⁇」

 

その名前を聞き、息が詰まる

 

相手は一度殺めかけた相手

 

もう一度手を掛けるとなると、背負う物も大きくなる

 

「…やるさ。もう一度」

 

「やめときなさい」

 

「な、なぁ…その辺でやめとこうぜ…アタイも言い過ぎたから…なっ⁇」

 

「俺がもう一回あいつのケツを蹴り上げりゃ良い話だろ‼︎」

 

「アンタがこれ以上何か背負う背中見たくないのよ‼︎」

 

「人の命が掛かってんだぞ‼︎」

 

「そんな事アンタより分かってるわよ‼︎」

 

「あわわわ‼︎」

 

壮絶な痴話喧嘩が始まるが、お互い至って本気

 

朝霜は止めるに止められず、アタフタしている

 

「アンタ棚町の何を知ってんの⁉︎偽名って事が分かった事も知らない癖に‼︎」

 

「偽名⁇」

 

「そうよ‼︎」

 

机に書類が叩きつけられ、それを手に取った

 

そこに書いてあった名前に、体が震えた

 

「く…”倉田”…」

 

「知らないでしょうね」

 

ヤマシロの元恋人であり、健吾やワンコの学生時代をメチャクチャにした奴だ

 

俺が健吾を救出した際に一回

 

叩き落とした際に一回

 

そして、ヤマシロに聞く限り一回

 

計三回死んでいるが、これで辻褄が合った

 

奴は深海棲艦だ

 

恐らく、今まで普通なら即死の大打撃を受けた際、大怪我で済ませていたのだろう

 

「知ってるさ」

 

「え…」

 

「尚更行く理由が出来た」

 

書類を机に置き、入口のドアに足を向かわせる

 

「あ、ちょっと‼︎も、もぅ…‼︎使いたくなかったけど…」

 

俺がドアに手を掛けようとした瞬間…

 

「れ、レイく〜ん‼︎」

 

横須賀に呼ばれ、体が言う事を聞かなくなる

 

忘れた頃に放られる、サラが施した最悪の際に使う硬直コール

 

「…チクショウ」

 

ドアノブから手が離れない

 

「奥の手を使わせて貰ったわ。レイ君⁇お姉ちゃんの言う事聞く⁇」

 

「聞くから治してくれ‼︎」

 

「事が収まるまで、ここでお姉ちゃんとお座りしてる⁇」

 

「してるから‼︎」

 

「じゃあ、良い事教えたげる‼︎」

 

しかし硬直は治さない

 

横須賀はイタズラに俺に顔を近付け、耳元で囁いた

 

「彼は味方よ…」

 

「なんだと⁉︎」

 

「だから会議が早く終わったのよ。長波は特殊な子なのよ。元から深海の素質があるの」

 

「あの電話の内容は…」

 

「長波は自分から進んで深海の艤装かどうかチェックしてくれてるのよ。それに、倉田は深海について調べていた人よ⁇長波が危険ならすぐに止めさせるわ⁇だから、心配しないで。ねっ⁇」

 

「…信じていいのか⁇」

 

「お姉ちゃんを信じないなら、硬直は解かないわ⁇」

 

「分かった‼︎信じるから‼︎」

 

「そっ⁇じゃ、解いたげる‼︎レイッ‼︎」

 

「くはっ‼︎」

 

横須賀からレイと呼ばれ、ようやく硬直が解けた

 

「私ずっと言ってるわよね⁇罪を償うチャンスはあげるって」

 

「まぁ…」

 

「倉田も同じよ。棚町として、第二の人せ…第三…いえ…第よ…あぁもう‼︎とにかく反省してんのよ‼︎」

 

「そこは第二にしてやれよ…」

 

「あのっ…‼︎」

 

横須賀の引き出しの前で床に座り込んでいた涼月が立ち上がった

 

「ご迷惑をおかけして…」

 

「気にしないで‼︎棚町もいつかは言わないといけないって言ってたから、ちょうど良い機会だったのよ⁇」

 

涼月は申し訳なさそうな顔をしつつも、お菓子のカスを頬に付けているのを見て、まだ子供なんだと実感するが、涼月は涼月なりに気にしていたみたいだ

 

 

 

しばらくすると、本日数度目のノックがされ、横須賀がドアに向かった

 

「さっ、涼月ちゃん。お迎えが来たわ‼︎また遊びにいらっしゃい⁇」

 

「この度は大変ご迷惑を…」

 

「しばらく顔向け出来ないよ…」

 

「本当に申し訳ありませんでした…」

 

「申し訳ありませんでしたっ…」

 

岩井さん、ボス、ダイダロスさん、そして涼月が申し訳なさそうに頭を下げた

 

「棚町は良い提督よ⁇これを機に話す機会を増やしたらどうかしら⁇」

 

「ダイダロスさんは爆破するとしてっ…涼月はそうしますっ…‼︎」

 

「勿論です‼︎」

 

「とにかく、すぐに帰って頭を下げるよ」

 

「終わった…」

 

ダイダロスさんだけが膝から崩れ落ちた

 

「お父さん、お母さん、先に待っていて下さいっ…‼︎涼月はダイダロスさんに用事がありますのでっ…‼︎」

 

「爆破したらダメだぞ⁉︎」

 

「…」

 

「涼月、ダメだよ⁇」

 

「…」

 

涼月はただただ目を見返すだけ

 

「マーカスさんもっ…横須賀さんもっ…涼月に少し時間を下さいっ…‼︎」

 

「わ、分かった…」

 

「い、いいわよ…」

 

涼月とダイダロスさんをその場に置き、岩井とボスの見送りに行った



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231話 疑惑と謎(5)

「覚悟は…出来てますねっ…⁉︎」

 

「うぬぐぐぐ…」

 

涼月は真顔のままダイダロスさんに歩み寄り、壁に寄せる

 

「最後に、言い残す事はありますかっ…⁇」

 

「てやんでぃラーメン、食べたかった…」

 

その言葉に涼月は顔色を変えた

 

「二杯でどうですっ…‼︎」

 

「た、助かりますか⁇」

 

「助かるも何もっ…涼月は少し強請ってみただけですっ…‼︎」

 

涼月の口角が優しく上がる

 

「最初から爆破するつもりはありませんっ…ただ、少し…」

 

「少し⁇」

 

「貴方の身を心配しただけですっ…‼︎」

 

今度はイタズラにダイダロスさんに顔を近付ける涼月

 

「ありがとう、涼月…」

 

「…」

 

「…」

 

互いに目を見合うが、互いに何も言わない

 

「…気不味いので軽く爆破をっ…‼︎」

 

涼月はすぐに何処からか爆弾を取り出す

 

「わわわ分かった分かった‼︎帰りましょう‼︎」

 

「はいっ…‼︎」

 

涼月に尻に敷かれつも、結局は仲の良い二人

 

ダイダロスさんは、涼月に爆弾を放り投げられる日常も、何となく悪くないと思い始めていた…

 

 

 

 

 

二人を迎えに来たガンビア・ベイⅡ

 

「大尉‼︎元帥‼︎」

 

ガンビアから降りて来たのは、今回の一件の張本人である棚町

 

棚町は俺達に気づくや否や、すぐに駆け寄り、深々と頭を下げた

 

「疑われるような行動をしてしまい、大変申し訳ありませんでした‼︎」

 

「私の権限で、今から話を聞かせて貰うわ。それで今回の件はおしまいにしましょう⁇」

 

「畏まりました‼︎」

 

「申し訳ありませんでした‼︎」

 

「アタシ達のリーダーを疑うなんて…本当に申し訳が立たないよ…」

 

岩井もボスも棚町に頭を下げた

 

「頭を上げて下さい‼︎言わなかった私が悪いんだ…ダイダロスさんにも、涼月ちゃんにも悪い事をしてしまって…」

 

「涼月も謝りますっ…‼︎」

 

「自分の所為でこんな事になってしまい…申し訳が立ちません…」

 

「良いんです。遅かれ早かれ、大尉にも元帥にも言う日が来ていましたからね‼︎」

 

「ダイダロスさんはっ…涼月がこれから爆破しますのでっ…ねっ⁇」

 

頭を下げつつ、涼月はダイダロスの横顔を見た

 

「ば、爆破されましゅ…」

 

「そういう事よ‼︎」

 

横須賀の言葉で、謝罪の嵐は締めくくられた

 

「お父さん、お母さん、涼月は後でダイダロスさんと共に帰りますっ…‼︎」

 

「ダイダロスさんに迷惑かけちゃダメだぞ‼︎」

 

「頼んだよダイダロス‼︎」

 

「了解しました‼︎」

 

岩井さんとボスが帰路につき、涼月とダイダロスさんが繁華街に向かう

 

「今日はありがとうございましたっ…‼︎」

 

「我々はこれから繁華街で少し食べてから帰ります‼︎」

 

「良いカップルよっ‼︎」

 

「年の差だなっ‼︎」

 

涼月とダイダロスさんが見つめ合う

 

「…恥ずかしいので爆破してもっ…⁇」

 

「ああああ分かりました分かりました‼︎」

 

二人の後ろ姿を、棚町を含めた三人で見届ける

 

「基地でもあの様な感じなんですよ」

 

「常日頃爆弾から逃げ回ってんのか⁉︎」

 

「えぇ」

 

「まっ⁉︎いいんじゃない⁇二人共嬉しそうだし‼︎」

 

そう言う横須賀の足取りも、繁華街に向いている

 

吸い込まれる様に入ったのは、蟹瑞雲

 

「日向〜、個室開けて頂戴」

 

「一番奥だ、いつもので良いか⁇」

 

「えぇ。三人前ね」

 

小慣れた注文をし、三人で個室に入る

 

「日向が来るまで少し時間があるわ」

 

「では、その前に話しておきましょう」

 

棚町が口を開く

 

 

 

棚町はずっと深海の研究をしている

 

マークやサラとは違った方向性で、深海から如何に人や艦娘へと戻るのか…其方側の研究をずっと続けている

 

長波は棚町が計画的に産み出した、少し特殊な艦娘

 

生身の艦娘でありながら、深海の艤装を持てる

 

その習性を利用し、深海の艤装解析を進めていた

 

危険な艤装は破壊した上、廃棄

 

比較的安全性のある物は、艦娘の艤装へと転換する場合もある

 

 

 

「今まで黙っていて、申し訳ありませんでした…」

 

「も少し早く言ってくれたら、レイも深海の艤装を提供してくれるわ⁇」

 

「ホントだぞ。何なら、この基地にもある」

 

「いいんです。自分が言わなかった事で撒いた種ですので…あぁ‼︎裏切るとか、貴方がたの敵に回る等は絶対にありませんので‼︎」

 

「なぁに⁇何か根拠でもあんの⁇」

 

横須賀が頬杖をつきながら、棚町の顔を見る

 

「幸せなんです、かなり」

 

しかし、棚町は俺の顔を見る

 

何となく、横目でチラっと横須賀を見た

 

…何故俺をジト目で見る‼︎

 

「お、お〜お〜‼︎そうかそうか‼︎」

 

「大尉のおかげですよ、本当に」

 

棚町は更に地雷を撒き、俺を追い込む

 

「そんな大尉を敵に回すなんて…自分にはとても…」

 

「そ、そ〜かそ〜か‼︎」

 

ビクビクしながら横須賀を見る…

 

普通の顔だ…良かった…

 

「そうだ。これも棚町が考えたんだよな⁇」

 

俺は左腕を見せた

 

「倉田甲冑‼︎どうやってそれを⁉︎」

 

「ヤマシロを救出した際に頂戴したんだ」

 

「ヤマシロ…」

 

棚町の顔が暗くなる

 

「ヤマシロに合わす顔がないか⁇」

 

「死んだと思ってますよね…」

 

「そうだな…それに、今は彼氏もいる」

 

「なら、そっとしておきましょう‼︎そうだ、これを見て頂いた方が早いでしょう‼︎」

 

棚町の鞄から書類が出て来た

 

今日はやたらと書面を見てる気がする…

 

渡された書類を見ていると、個室の外から声がした

 

「すみません‼︎2名です‼︎」

 

「奥の個室だ」

 

「来たわね」

 

俺だけ誰が来るか分からずにいたが、横須賀と棚町は分かっているような素振りでいる

 

個室の扉が開き、2名様が入って来た

 

「「先生‼︎」」

 

「健吾、健一…」

 

来たのは息を切らした健吾とワンコ

 

「さ、レイ。帰るわよ」

 

「分かったっ‼︎」

 

これは帰った方が良さそうだ…

 

 

 

 

「君達五人には合わせる顔が無いよ」

 

健吾もワンコも棚町の対面の席に座り、話を始める

 

棚町は二人に目を合わせようとしない

 

「どうして言ってくれなかったんですか‼︎」

 

「今の今まで恨むしかなかったんですよ⁉︎」

 

「それでいいんだよ…それで。私は君達五人を売った…それは事実だ」

 

棚町は何かを隠すかのように、タバコに火を点けた

 

「じゃあ、一つだけ聞かせて下さい」

 

「いいよ、何でも」

 

「どうして俺達だけ生き残ったんですか」

 

「…」

 

その問いに、棚町は黙ってしまう

 

「俺達五人だけですよ、生き残ったのは…」

 

健吾とワンコの同級生は、あの五人だけ

 

調べれば数人は生きているかもしれないが、ほとんどは先の戦争で行方が分からなくなっていた

 

「本当は俺達を売ったんじゃなくて、匿ってくれたんじゃないんですか⁉︎」

 

「いや、金は貰ったよ。だからこそ、あの時山城と逃げられた」

 

「本当は貰ってないんですよね⁇」

 

「やめてくれ…本当に私は…」

 

「ありがとうございます、先生‼︎」

 

「助かりました‼︎」

 

タバコの灰を落とした後、棚町はクスリと微笑んだ

 

「ふ…相変わらずバカだなぁ…何にも知らないまま、私を恨み続ければ良かったものの…」

 

棚町は健吾達五人を売った訳ではなかった

 

健吾達五人の生徒には艦隊化計画の適合があり、棚町はそれを身体検査で知っていた

 

そして、五人だけでも救おうと奮闘した

 

結果、マークとサラが四人を引き受けた

 

棚町はその後、一度はレイによって仮死状態に

 

しばらく山城と共に静かに暮らした後、国外に逃亡しようとするが、道中で国家機関に取り押さえられ、山城だけが逃亡した

 

棚町の足取りはそこで一旦途絶えた

 

そして、倉田と言う名を変え、棚町として大湊を任された

 

それを先程の会議で伝えられた二人が今、先生であった彼に逢いに来たのだ

 

「俺達の基地に物資が滞り無く届いていた時点で気付くべきでした…」

 

「せめてもの謝罪さ…許して貰おう等とは考えてないさ」

 

「許すも何も…‼︎あ、そうだ‼︎今度、同窓会しましょうよ‼︎榛名もまりもりさも呼びますよ‼︎」

 

「私が行った所で…」

 

「ワンコ‼︎」

 

「んっ‼︎」

 

ワンコが咳払いをし、目が真剣になる

 

「棚町」

 

「はっ」

 

「これは横須賀元帥からの命令だ。従わなければ軍法会議だ。いいな」

 

「…」

 

「先生‼︎」

 

棚町は見た

 

自分より遥かに年下である彼が、今、自分の為に本気になっている姿を

 

「分かったっ。その時に、三人にも事実を話すよ」

 

「よしっ‼︎」

 

「待たせたな」

 

丁度蟹鍋も来た所で、一番最初の小さな同窓会が開催された…

 

 

 

 

「美味しいですねっ…‼︎」

 

その頃、涼月とダイダロスさんはてやんでぃラーメンを啜っていた

 

「二人きりで食べるのは久々ですね⁇」

 

「もっとっ…涼月を誘って下さいっ…‼︎」

 

スープを飲みながら、涼月は幸せそうに二杯目を平らげた

 

「ならっ‼︎今度はケーキですねっ‼︎」

 

丼を置いた涼月は、ダイダロスさんにニコリと微笑んだ…

 

 

 

心配とは裏腹に、長い一日が幕を下ろした…




ボス神威(追記)

ボスの本当の名前

神威にソックリではなく、れっきとした神威

ちょっと口調は違うけど、神威

通常神威よりちょっとだけ出る所が更に出てる

小神威達のボスだからボス神威


小神威…ボスの子分

こかもい

大湊にウジャウジャいる、ボスの子分

ダイダロスさんの部下と恋仲になる小神威もいるが、ダイダロスさんの部下の方が圧倒的に少ない

ボスと良く似た民族衣装っぽい服装を身に付けており、とにかく大湊の至る所にいる

しかし、ボスより一頭身二頭身小さいのですぐ分かる

圧倒的物量で各所の運搬作業を凄いスピードで終わらせるぞ‼︎


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232話 恋する青い鳥(1)

さて、231話が終わりました

今回のお話は、お弁当屋のお話です

このお話の中でお弁当を売ってる子といえば…


「いらっしゃいませー‼︎」

 

今日も元気にお弁当を売るゴトランド

 

「あっ‼︎おはようございます‼︎」

 

「プレーンを一つ‼︎」

 

「プレーンですね‼︎すぐご準備しますね‼︎」

 

この日もゴトゴト弁当のプレーンが飛ぶように売れる

 

最近ゴトランドは白米一つで生計を立てられるようになって来た

 

そんな中、別の注文が入る

 

「ゴトー弁当を一つ」

 

「ゴトー弁当ですね‼︎少々お待ちを‼︎」

 

その青年はゴトランドが弁当屋を建てた時から毎朝ここに来て、一番高いゴトー弁当を買い、何処かに行く

 

今日は少し、引き止めてみる事にした

 

「ね⁇貴方、何処の部隊⁇」

 

「サンダース隊です。あ、ほら、マーカス大尉の」

 

「そっかそっか。精鋭さんなんだねっ‼︎はいっ、出来たわ‼︎」

 

「ありがとう」

 

本当にいつもすぐに消える

 

少しずつ、ゴトランドは彼が気になっていく…

 

「すみませーん‼︎」

 

「あ、はーい‼︎」

 

ゴトランドの思いを遮るかのように、新しい注文が入る…

 

 

 

 

彼は朝に一度顔を見せると、その日はそれっきり

 

また明日の朝しか、顔を見られない

 

「今日も来るかしら…ふふっ」

 

繁華街の店舗が開店し始め、ゴトゴト弁当の前にも人が来る

 

朝からまたプレーンが売れ、のり弁が売れ、ヘルシー弁が売れ…

 

しかし、プレーンの売り上げだけは頭一つ抜きん出ている

 

「ゴトー弁当を一つ」

 

来た‼︎と思い、顔を上げる

 

「あ、はい‼︎ちょっとだけ待ってね‼︎」

 

そこには、毎朝見慣れた顔

 

何だか少し、ホッとする

 

「そろそろ名前、教えてくれないかな⁇」

 

「自分のですか⁇」

 

「貴方以外に誰が居るのっ⁇」

 

サンダースの彼が後ろを振り返ると、その瞬間だけ列になっていなかった

 

ゴトランドの方に体を戻すと、彼女はレジの机に肘を置き、彼を見て笑っている

 

「高垣と言います」

 

「高垣クンね⁇覚えたわっ。ゴトのお弁当、美味しい⁇」

 

ゴトランドは言葉と共に、お弁当の入ったビニール袋を前に出した

 

「えぇ、とても」

 

高垣はそれを受け取り、ゴトランドに笑顔を返す

 

そしてまた、何処かへ消えて行く

 

「高垣クン、ね…」

 

 

 

 

高垣はいつもの定位置に来た

 

繁華街を抜けた先にある、少しだけ小高い場所であり、海を見渡せるし、繁華街も見渡せる

 

そしていつもこの場所で、ゴトー弁当を頂く

 

ビニール袋から取り出し、フタを開ける

 

炊き立てのご飯と、揚げたてのフライ

 

沢山のオカズと白米の温かい匂いを肺いっぱいに入れる

 

「はぁ…」

 

出る声とは裏腹に、顔は綻んでいる

 

「いただきます」

 

最初はいつも、タルタルソースの付いた白身魚のフライ

 

そして、軽くご飯を食べる

 

高垣はこの時間をとても大事にしている

 

涼平の焚き火…

 

園崎のスパーリング…

 

そして、高垣の朝食

 

サンダースの子達は皆それぞれ大切な時間を持っており、隊の皆もそれを邪魔しない

 

「おっ‼︎ガッキー‼︎美味そうなモン食ってんな‼︎」

 

「中将‼︎」

 

高垣は座っていたベンチから立ち上がろうとしたが、リチャードはそれを肩を持って座らせた

 

「悪い悪い‼︎ちゃんと食ってるんだな‼︎イントレピッドが心配してな‼︎」

 

「あぁ…すみません、ご心配をお掛けして」

 

朝ご飯とはいえ、高垣は一旦ベンチにゴトー弁当を置いた

 

「はっはっは‼︎私は今からヴィンセント君の甲板バンジーを見届けなきゃならん‼︎じゃあな‼︎」

 

「か、甲板バンジー⁉︎」

 

耳を疑い、何故か心惹かれた甲板バンジーとのパワーワード

 

「食ったらイントレピッドDauに来い。多分、面白い事になる」

 

そう言い残すと、リチャードはスキップしながら去っていった

 

「甲板バンジー…」

 

「おべんとしゃん‼︎」

 

「おいししぉ〜‼︎」

 

「うわ‼︎」

 

リチャードを見届けた目をゴトー弁当に戻すと、そこには誰かが座っていた

 

そこに居たのは、朝から面白半分でリチャードの後ろを気付かれない様に着いて来ていたひとみといよ

 

「こえ、あんておかず⁇」

 

「これはきんぴらごぼうです」

 

ひとみといよが自分達の隊長であるマーカスの娘だというのは、隊のみんなが知っている

 

特に意味は無いのだが、高垣は何故か敬語になっていた

 

「あいっ」

 

ひとみといよに見られながら、いよが外でお弁当を食べる時に使うスプーンで口に入れて貰う

 

「おいち⁇」

 

「美味しいです‼︎」

 

「ついはなににちますか⁇」

 

「ごはん⁇はくまい⁇おこめ⁇」

 

「お、おこめで…」

 

「あいっ」

 

次はごはんを口に入れて貰う

 

「ひとみといよちゃんも、たかこしゃんにつくってもあったおにぎりたべう‼︎」

 

「よこすわてい〜れしゅか⁉︎」

 

「どうそっ‼︎」

 

ひとみといよはヒヨコの巾着からアルミホイルの包みを取り出し、高垣の横で食べ始めた

 

「ご〜とあんど、ごとあんど〜」

 

「ゴトランドを知ってるのかい⁇」

 

「うん‼︎すうぇ〜れんのおんなのひと‼︎」

 

「おべんとつくうがいじんしゃん‼︎」

 

ひとみといよから見ても、ゴトランドはお弁当を作る外国の人

 

「ごとあんどのおべんとあ、おいち〜かあ、かおい〜ぜお‼︎」

 

いよが頭の上で腕で0を作る

 

「はは‼︎何ですか、それ‼︎」

 

舌ったらずな話し方でも分かる

 

ゴトランドのお弁当は、美味しいからカロリーゼロ‼︎

 

「おとあんろにいってみて‼︎」

 

「かおい〜ぜお‼︎って‼︎」

 

「明日の朝言ってみますっ」

 

話しながらおにぎりを食べ終えたひとみといよは、アルミホイルを丸めてヒヨコの巾着に入れて立ち上がった

 

「がっき〜もいく⁇かんあんあんじ〜‼︎」

 

「食べたら行きますよっ」

 

「あってますお〜‼︎」

 

一足先にひとみといよが甲板バンジーに向かう

 

高垣は今しばらくその場に残り、ゴトのお弁当を堪能した

 

 

 

 

「イヤッフゥゥゥウ‼︎」

 

イントレピッドDauの甲板では、バンジージャンプが始まっていた

 

ジャンプ場は二カ所あり、片方からは点検と安全確認の為にヴィンセントがバンジーしているのが見えた

 

「あ、あの…本当に飛ばなきゃダメですか…⁇」

 

「棚町さんからのお達しですっ…‼︎」

 

もう片方のジャンプ場に立っているのはダイダロスさん

 

どうやら、一応形式上には罰になった為に、面白半分で与えた”罰バンジー”をしている様子だ

 

背後には涼月がいる

 

「後が積んでますっ…‼︎」

 

「ちょ、ちょっと待って…」

 

「仕方がありませんっ…」

 

涼月はポケットからグレネードを取り出した

 

「ほれ」

 

そして、何のためらいもなくピンを抜き、ダイダロスさんの足元に投げた‼︎

 

「うわぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

ダイダロスさんがグレネードを回避するには、レッツバンジー‼︎するしかなく、そのままそこに居た全員の視界から消えた



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232話 恋する青い鳥(2)

「良いお方でしたっ…」

 

涼月はダミーグレネードを拾い、再びピンを刺し、ポケットに戻した

 

「ひ、酷い目に遭った…」

 

ダイダロスさんはバンジーの紐に吊り下げられながら、引き上げられるのを待っている

 

「あにちてうの⁇」

 

「ばんぢ〜‼︎」

 

「あれ⁉︎ひとみちゃんいよちゃん⁉︎」

 

バンジーの落下地点の海から、ひとみといよが出て来た

 

「たのちい⁇」

 

「…ちょっと楽しかった」

 

「もっかいすう⁇」

 

「もっかいしない‼︎」

 

「あげてい〜れすお〜‼︎」

 

いよの声とほぼ同時に、ダイダロスさんは引き上げられていった

 

「下にひとみちゃんといよちゃんが居たんだけど⁉︎」

 

「落ちると思ったのにっ…」

 

「二人はお手伝いに来てくれてるんだ」

 

話を切り出したのはヴィンセント

 

二人が下に居るのは、バンジーの紐が万が一切れた場合に、すぐに救助が可能になるようにスタンバイしてくれているのだ

 

「つぎだえや〜‼︎」

 

「へへへ…ハニー⁇ハニーもいかがっすか…」

 

ダイダロスさんは不敵に笑う

 

こんな時位しか、涼月に反撃出来ない

 

せいぜい怖がって頂こう‼︎

 

「それ」

 

「え‼︎」

 

涼月は紐を付けてすぐ、何の躊躇いも無くレッツバンジー‼︎をして視界から消えた

 

「いてててていて‼︎」

 

下で二人が騒いでいる

 

「なんぼほろばくらんもってうんあ‼︎」

 

涼月がバンジーをしてすぐ、体のいたる場所に隠し持っていた爆弾の数々がひとみといよの周りに降り注いで来ていた‼︎

 

「心配しないで下さいっ…‼︎ほとんどダミーとスモークですっ…‼︎」

 

「しゅも〜くをなえるお‼︎」

 

「しゅも〜くぐえぇ〜どおつかう‼︎」

 

冗談を言いながら、宙ぶらりんになった涼月にダミーグレネードやらスモークを返して行く

 

「あえてくらしゃ〜い‼︎」

 

「ありがとうございますっ…‼︎」

 

涼月も引き上げられて行く

 

「あ、すずしゃん‼︎わすえもお‼︎」

 

いよが涼月の忘れ物である一つの手榴弾を手に取った

 

「上に上がったら投げて下さいっ…‼︎」

 

「むいれ〜す‼︎」

 

「とどきましぇ〜ん‼︎」

 

「投げて下さいっ…‼︎掴みますっ…‼︎」

 

「ぐえね〜〜〜ろ‼︎」

 

いよが投げた”閃光”と書かれたグレネードを、涼月は宙ぶらりんの状態でキッチリキャッチし、甲板へ戻って行った

 

「つぎど〜じぉ‼︎」

 

「ちょっと待ってくれー‼︎」

 

ヴィンセントから指示を受け、ひとみといよは海面に漂ったり、軽く潜水しながらバンジーを待つ

 

 

 

 

「おっ‼︎ガッキーも一発やるか‼︎」

 

「あ、いえ。どれだけ高いか折角の機会なので…ちょっと見ておこうかと」

 

高垣もイントレピッドDauに来ていた

 

甲板から海面を見ていた高垣はリチャードに目を付けられ、あれよと言う間にバンジーの機材を付けられ、ジャンプ台に立った

 

「怖いか⁇」

 

「け、結構高いですね…」

 

「あっ‼︎ゴトランドちゃん‼︎」

 

まさか居るとは思ってはいなかったが、高垣は一応後ろを向いた

 

「へぇ〜。君、結構勇気あるんだね‼︎」

 

「ゴトランドちゃんもそう言って…あら⁉︎ガッキー⁉︎」

 

リチャードが振り返ると、そこに高垣はいなかった

 

「勇気あんなぁ〜、ガッキー…」

 

「結構度胸ある人なんだ、へぇ〜‼︎」

 

リチャードとゴトランドは甲板に前屈みになりながら、バンジーして行く高垣を見ていた…



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232話 恋する青い鳥(3)

「わぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

高垣、ゴトランドに見惚れて足を踏み外す

 

海面近くになり、流石の高垣も目を閉じようとした

 

パシャ

 

パチャ

 

「ぎゃぁぁぁあ‼︎」

 

急にひとみといよが浮上して来たので、更に悲鳴を上げる

 

「びっくいちまちたか⁉︎」

 

「びびびびっくりした…」

 

心臓バクバクの高垣に対し、ひとみといよは海面から顔を出し、ケラケラ笑っている

 

「あ‼︎おとあんろ‼︎」

 

「勇気あるんだねーっ‼︎」

 

「ははは…」

 

上下逆目線でゴトランドを見て、少しだけホッとする

 

…ゴトランドに魅入って足を踏み外したなんて言えない

 

「安全装置投げるから、ヒトミとイヨを上げられるかー⁉︎」

 

「分かりましたー‼︎」

 

安全装置が投げられ、海面に落ち、ひとみといよはすぐにそれを取りに行った

 

高垣はバンジーの紐を緩めてもらい、ひとみといよに近付き、持って来た安全装置を二人の腰に巻いた

 

「これでよしっ‼︎」

 

「がっき〜あげて‼︎」

 

「らっこ‼︎」

 

「よっこらっ…」

 

「あげてくらしゃ〜い‼︎」

 

ひとみといよを抱き上げ、いよの合図で引き上げられる

 

「かおい〜ぜおいった⁇」

 

「まっ、まだですっ」

 

「なんかくえうかも‼︎」

 

「何か貰えるんですかっ⁇」

 

ひとみといよは高垣に抱っこされながら、ゴトランドにカロリーゼロ‼︎を言えと言っている

 

二人の言い方からすれば、それを言えば何か貰えるみたいだ

 

「お疲れさん‼︎」

 

リチャードに安全装置を外して貰い、高垣はひとみといよの安全装置を外す

 

「がっき〜あいがと‼︎」

 

「たすかいあした‼︎」

 

「いえいえ」

 

「頑張ったね‼︎ゴト、ちょっと惚れちゃった‼︎」

 

「おっと…ヒトミ、イヨ。イントレピッドの作ったオヤツ食べに行こっか‼︎」

 

「おやつあにかあ〜‼︎」

 

「くっち〜‼︎かぷけ〜き‼︎」

 

リチャードの機転により、ゴトランドと高垣がその場に残る

 

「あ、あの、その…」

 

「何⁇どうしたの⁇」

 

ゴトランドの軽い上目遣いに、高垣は生唾を飲む

 

「早く言わないと、ゴトは短気ですよ⁇」

 

目を見られながら軽く微笑むゴトランドを見て、高垣の鼓動は早くなる

 

目を見ている限り、ゴトランドは何を言われるか察している様子

 

しかも満更でもない

 

「か…」

 

「か⁇」

 

ゴトランドは思った

 

”か”で始まると言う事は…

 

1.彼女になって下さい‼︎

2.彼氏とかいるんですか⁇

3.火曜日、空いてますか⁇

 

大体この辺りだと予測した

 

返す答えもちゃんと決まっていた

 

1.お友達からなら、ゴトで良ければ‼︎

2.君がなるんじゃないの⁇

3.よく定休日知ってるね。どっか行く⁇

 

この3つだ

 

しかし、高垣の口から出たのは…

 

「カロリーゼロって何ですか‼︎」

 

「君がなるんじゃ…へ⁉︎」

 

焦って2番の答えを返したが、問われたのは斜め上の事案

 

「あ、後でゴトのお店の前の広場に来たら教えてあげるよ…ねっ⁇」

 

ゴトランドは目が泳ぎ、軽くしどろもどろになりながらも一応の答えは返した

 

「じ、じゃあゴト、お店があるから‼︎待ち合わせは夕方にしましょう‼︎」

 

「わ、分かりました…」

 

照れ隠しなのか、ちょっとキレているのか分からないゴトランドは、そのまま小走りでイントレピッドDauから降りて行った

 

「今のはプロポーズだろ⁉︎」

 

「いや、まぁ…」

 

軽く距離は離れた場所で作業していたヴィンセントにも今の状況は伝わり、”あの”ヴィンセントに突っ込まれた

 

高垣は自分を笑うしかなく、頭を掻きながら笑っていた…



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232話 恋する青い鳥(4)

夕方…

 

「あっ‼︎いたいた‼︎お待たせ‼︎」

 

高垣はゴトランドに言われた通り、ゴトゴト弁当の前の広場に来ていた

 

「あの、その…さっきは…ごめん」

 

「カロリーゼロって何よ」

 

「教えてもらったんだ。ゴトランドのお弁当は美味しいからカロリーゼロ‼︎って」

 

「へぇ〜、嬉しい事言ってくれるじゃん」

 

「でだ。その…」

 

「はいっ」

 

ゴトランドの手には、ペットボトルのお茶

 

それを高垣の手に置いた

 

「へっ⁇」

 

「んな訳ないよ。でもっ、それを言ってくれた人にはお茶をサービスしてるの」

 

「今までこれ貰った人は⁇」

 

「ん〜…」

 

ゴトランドは口元に手を当て、軽く上を向きながら考えた

 

そして、何かに気付いたフリをして笑う

 

「ふふっ、教えないっ‼︎」

 

「あれですか。個人情報って奴ですか」

 

「そっちの方が面白いでしょ⁇あっ、じゃあ条件をあげる。他にゴトに言う事ない⁇言ったら教えてあげるよ⁇」

 

ゴトランドは悪戯に微笑み、高垣の目を見た

 

「か、火曜日‼︎火曜日非番なんです‼︎」

 

「ゴトも火曜日はお休みだよ」

 

ゴトランドは「しめた‼︎」と思った

 

予想とは少しだけズレたが、デートのお誘いに間違いなかった

 

「映画にでも行きませんか」

 

「いいよっ。その代わり、お互いワリカンだからね⁇いい⁇」

 

「分かりました」

 

「んっ、ならOK‼︎楽しみにしてるわ⁇」

 

そう言い残し、ゴトランドはいつも通り遊戯場に縄跳びをしに向かおうとした

 

「あ、あの‼︎」

 

「ん⁇」

 

首だけ軽く振り返り、高垣の方を見る

 

「明日の朝も行っていいですか」

 

「恥ずかしいから来ないでって言ったら⁇」

 

「それでも行きます」

 

「ふふっ。ゴトはそんな事言わないよ。いつでも来てね⁇」

 

ゴトランドは可愛く手を振り、高垣と別れた

 

 

 

 

「ど、どうしよ…コクられちゃった…」

 

高垣と居た時は平然を装っていたが、いざ離れてから角に入ると恥ずかしさが込み上げて来た

 

「みちぁいまちたお〜…」

 

「おちぁあげた⁇」

 

「き、君達‼︎」

 

ゴトランドが赤面してうずくまっていると、両脇からひとみといよが出て来た

 

「あ、あれで良かったのかなぁ…」

 

「がっき〜、ごとあんどしゅきしゅきらもん‼︎」

 

「ちぁんとれきてた‼︎」

 

「そ、そっか…ふふ…」

 

この三人だけは知っている

 

ゴトランドと高垣の間を上手く繋げたのは、ひとみといよのおかげだと

 

実はあの”カロリーゼロ‼︎”

 

ひとみといよがゴトランドの為に考え出した高垣ひっつけ作戦だったのだ

 

高垣がゴトランドに意味不明に、ゴトランドのお弁当は美味しいからカロリーゼロ‼︎等と言えば、ゴトランド本人はちょっと嬉しいし、そのタイミングでお話も出来るだろうと考えた

 

そう。ゴトランドの方が高垣を好きなのである

 

「今からゴト、ユーギジョーで運動するけど、君達二人に何かお礼しないとね」

 

「ざあざあのざあのとこいこ‼︎」

 

「ふうたかしゃんかも‼︎」

 

「どっちかなぁ〜⁇」

 

ゴトランドはひとみといよ、両方と手を繋ぎ、遊戯場へと入って行った

 

 

 

その日の夕方…

 

遊戯場のザラキッチンで、チンのハンバーガーを食べ、オレンジジュースを飲むひとみといよ

 

その横でニコニコしながらゴトランドが二人を見ている微笑ましい光景を、遊戯場にいた人達が目の当たりにしていた…



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234話 Memory Photographer(1)

さて、232話が終わりました

今回のお話は、あのパパラッチちゃんがいらんことする…

とのお話では無く、アイオワのアイちゃんが色々写真を撮ります

最初は何を撮るのかな⁇


「ども‼︎呉の青葉です‼︎」

 

「貴様が、ザ・パパラッチ・アオバか‼︎」

 

「そうです‼︎青葉です‼︎」

 

この日、青葉はラバウルに来ていた

 

最近青葉はビスマルクに腕を買われ、ガールズ・フリート・ファッション…

 

略して”ガルフリ”の派遣カメラウーマンになっていた

 

しかし、過去に犯した数々の罪…

 

・男性パイロットの盗撮写真の売買

・男性提督の盗撮写真の売買

・艦娘に対してストーカー行為

・艦娘の盗撮写真を基地内で売買

 

等の悪行の数々が消える訳ではなく、未だに”ザ・パパラッチ・アオバ”の渾名は消えない

 

しかし、腕はかなり良い

 

押収した盗撮写真の数々も、中々綺麗に撮れている為、ビスマルクはその腕を買った

 

呉さんはその事に対し…

 

「青葉が遂に社会の役に…」

 

と、涙していたらしい

 

「ネルソンさん‼︎今日はお願いしますね‼︎」

 

「うぬ‼︎余に任せておけ‼︎」

 

ラバウルの至る所で一回一回着替えてはポーズを取り、青葉がカメラに収めて行く…

 

 

 

「アオバも大変ネ〜…」

 

「パパラッチから随分変わったわね〜」

 

青葉の様子を見ながら、アイちゃんと愛宕はポップコーンを食べている

 

「コレは⁇」

 

机の上には、青葉が予備で持っているインスタントカメラ”AOBASYARI”が置いてある

 

青葉がきそに頼んで作って貰った、ピンぼけしないインスタントカメラだ

 

それに、シャッター音も限りなく小さい

 

正に盗撮向きのカメラだが、勿論市販されていない

 

榛名のピンバッチやきそリンガルの様に、タウイタウイモールにも無いので悪しからず…

 

「アオバシャリ…」

 

「青葉とカメラのバシャリ‼︎って効果音をかけてるのよ‼︎」

 

ビミョーな顔をしながらも、アイちゃんはカメラに興味を持った

 

「メモリーカードを替えないと…あっ、アイオワちゃん、カメラに興味ありますか⁉︎」

 

「エ⁉︎イヤ、その…どんなのかなぁ〜ッテ…」

 

「青葉、それはまだ使ってないんでアイオワちゃんにあげます‼︎じゃ‼︎」

 

青葉はアイちゃんの手にAOBASYARIを置き、メモリーカードを持ってまたネルソンを撮りに行った

 

「あ‼︎チョット‼︎」

 

いきなり貰ったAOBASYARIを手に、アイちゃんは困惑する

 

「良かったわね、アイちゃん⁇」

 

「何撮ろうかな…」

 

 

 

 

その日の夜、被写体第一号は現れた

 

「Papa〜Mama〜、Rise Ball持ってき…」

 

「こうか⁇」

 

「そっ。中々上出来だっ」

 

アレンの自室で、ネルソンが眼鏡を掛けてPCの前に座り、その横でアレンがデスクに腰を置きながらコーヒー片手にネルソンに何かを教えていた

 

第三者から見ても、今、この二人の姿は絵になっている

 

「フフ…IOWAに気付かないPapaとMamaが悪いのよ…」

 

アイちゃんは一旦引き下がり、ポケットからAOBASYARIを取り出した

 

そして…

 

パチャリ…

 

「アイちゃん、どうしたんだ⁇」

 

「Rise Ballヨ‼︎IOWAとニッシンで握ったノ‼︎」

 

「そうか‼︎アレン、今日は終わりにしよう‼︎」

 

「そうだなっ」

 

PCの電源を切り、おにぎりに向かって軽く手を合わせた後、ネルソンもアレンも、おにぎりに手を伸ばし、食べ始めた

 

「コレはアイちゃんのライスボールだ、んなっ‼︎」

 

「Best Answer‼︎」

 

すっかりネルソンに懐いたアイちゃん

 

当初の困惑は何処へやら…

 

「こっちは日進か⁇」

 

「どうして分かるノ⁇」

 

「娘だからなっ‼︎」

 

「二人共、余の娘に変わりは無いっ‼︎」

 

「フフ…また後で取りに来るワ⁇」

 

アイちゃんは邪魔しちゃ悪いと思い、アレンの部屋から出た

 

「アイちゃん、随分上手くなったな…」

 

「日進はもう少しだなっ‼︎」

 

二人は顔を見合わせた後、一言だけ言った

 

「「日進のおにぎり、甘い…」」

 

恐らく、間違えて手に砂糖を塗ってしまったと思われる

 

それを抜きにしても、二人共どれがどっちが握ったおにぎりかは分かっていた…



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234話 Memory Photographer(2)

第二の被写体は次の日の横須賀で現れた

 

アレンの飛行訓練が終わった事を聞き、アイちゃんが迎えに来た時

 

広場のベンチでタバコを吸っているアレンとマーカスがいた

 

アレンはベンチの背もたれに背中を置き、軽く上を向きながら咥えタバコ

 

マーカスは軽く前屈みになり、右手にタバコ

 

二人共視線を左にズラし、何かを見て笑っている

 

その一瞬の何気ない日常の風景の中にいる二人の絵が、アイちゃんにとってシャッターチャンスとなった

 

パチャリ…

 

アイちゃんは一度AOBASYARIから目を離し、二人が見ている方を見た

 

二人の視線の先には、ランチマットを敷き、その上に

 

たいほう

ひとみ

いよ

日進

ジョンストン

 

の子供五人が、それぞれの母親に作って貰ったお弁当を食べていた

 

こんなにそれぞれの基地から子供達が集まるチャンスは滅多にない

 

アイちゃんは子供達にもレンズを向けた

 

パチャリ…

 

そして、最後に全員を収めた写真も一枚撮る

 

パチャリ…

 

「おっ‼︎アイちゃん‼︎何撮ってるんだ⁇」

 

「Dr.レイ‼︎貴方を撮ってたノ‼︎」

 

「お前が被写体とか世も末だな」

 

半笑いのアレンがマーカスをおちょくる

 

アイちゃんから見ても、自分の父親と大変仲が良く、父親が基地以外で嘘偽りなく相談出来る相手であるのには間違いなかった

 

「こう見えて‼︎マーカスさんはプロパガンダの広告塔になっているんだぞ‼︎」

 

と、マーカスは自分で言い、立ち上がってポーズを取った

 

「ヨコスカのお部屋にあるPosterのPauseがいいワ⁇」

 

「んっ‼︎いいぞっ‼︎」

 

マーカスは首を軽く傾げて、真剣な眼差しをレンズの向こうのアイちゃんに送る

 

「アッ…」

 

この瞬間、アイちゃんは分かった

 

普段、マーカスが治療をする時もあまり真面目な顔を見た事が無い

 

アレンと遊んでいる時も終始ふざけているイメージがあったマーカスが、この日初めてアイちゃんに真剣な顔を見せた

 

ヨコスカはこのギャップに惚れたのだ…と、すぐに分かった

 

パチャリ…

 

パチャリ…

 

アイちゃんは二枚写真を撮った

 

「現像したら見せてくれよ〜‼︎」

 

「ウンッ‼︎」

 

迎えに来た事を忘れ、アイちゃんはたいほう達の所へ行った

 

「悪いなレイ。アイちゃんに付き合ってくれて」

 

「これ位いつでも喜んでっ」

 

 

 

第三の被写体は、また次の日

 

ひとみといよが頭の上に何かを抱えて持ってラバウルに遊びに来た

 

アイちゃんはアレンと一緒に、ひとみといよと訓練場である海沿いに来た

 

「こえ、にっちんしゃんのしょうび‼︎」

 

「おけっとあんちぁ〜‼︎」

 

ひとみといよは頭の上に持った、ジュースの缶サイズのロケットランチャーが三発入った入れ物をピョンピョンしながらアイちゃん達に見せてくれる

 

アレンは前屈みになり、二人に問う

 

「レイが造ってくれたのか⁇」

 

「うんっ‼︎えいしゃんつくった‼︎」

 

「ひとみといよちゃんもうてう‼︎」

 

「よしっ‼︎あのターゲットに向かって撃ってみていいか⁇」

 

アレンが試射をしようとしたが、当のひとみといよは自分達が撃つ気だ



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234話 Memory Photographer(3)

「みといてくらしゃい‼︎」

 

「おっ‼︎やる気だな⁉︎見せてくれ‼︎」

 

ひとみといよは海上に立てられた的の方を向き、軽くお尻を振り、軽くジャンプした

 

「うりゃ‼︎」

 

「いけ‼︎」

 

シュバ‼︎

 

ドシュ‼︎

 

と、音を出し、放物線を描きながら縦回転をし、ロケットランチャーは的に向かい、そして…

 

ガチン、ガチン

 

ドン‼︎

 

バン‼︎

 

的を的確に射抜いた後、食い込んで爆発を起こす

 

「ろか〜ん‼︎」

 

「ぶっこおい〜‼︎」

 

「艦首爆雷みたいだな⁉︎」

 

「こえ、せつめ〜しぉ‼︎」

 

「あいっ‼︎」

 

いよからロケットランチャーの説明書を貰い、アレンは軽く流し読みをする

 

「…艦首爆雷だわ。アイツ、ついに折れたな⁇でもなんで…」

 

ひとみといよが頭の上で持っている装備は、かなり小型化はされてはいるが間違いなくタナトス級の主力装備である艦首爆雷発射装置

 

発案した当の本人が今の今まで誰にも渡さなかった技術の一つでもあり、非常に強力な艤装

 

その設計図、弾薬の生成法、メンテナンスの仕方が事細かに説明された書類が、今アレンの手元にある

 

「にっちんしゃんもうてうお〜って‼︎」

 

「つおいれ‼︎」

 

「日進…そうか‼︎アイちゃん、日進を呼んで来てくれ‼︎」

 

「OK‼︎」

 

アレンに言われ、アイちゃんは食堂に来た

 

「ニッシン‼︎Papaが呼んでるワ‼︎」

 

「父上がかえ⁉︎すぐに行く‼︎」

 

ネルソンと共にオヤツか何かを作っていた日進は、アイちゃんと一緒にアレンの所に来た

 

「父上‼︎どないしたんじゃ⁇」

 

「日進。これを」

 

「あいっ‼︎」

 

「あいっ‼︎」

 

日進がひとみといよからロケットランチャーを受け取る

 

「これは…えぇ装備じゃのう‼︎」

 

すると、日進は不思議な事をし始めた

 

「お…」

 

アレンでさえ驚いた行動

 

パチャリ

 

アイちゃんは何となくだが、その瞬間を写真に収めた

 

誰も何も言っていないのに、日進は二つあるロケットランチャーをそれぞれ腰の両脇に着けた

 

ひとみといよがランチャーを横に持って撃っていたが、日進は腰にランチャーを

着ける際、ランチャーを縦に着けた

 

「覚えてるのか⁇」

 

日進は前屈みになりながら悪戯に笑い、上目遣いでアレンに言う

 

「父上⁇わっちはちゃあ〜んと、父上からの使命を忘れとらんけぇ‼︎」

 

「そっかそっか‼︎」

 

日進はしっかり覚えていた

 

自分の使命は一体何か

 

自分が”本来産まれて来たであろう形”は何なのか

 

「お二人さん、ありがとうなぁ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

「にっちんしゃん、あえうってみて‼︎」

 

海上には、後六つの的がある

 

「ちぉっとまってくらしゃい‼︎」

 

「しょ〜てんしあ〜す‼︎」

 

ひとみといよは日進の両脇に着き、それぞれが一発ずつ持っていたロケットランチャーの弾を装填する

 

「「あいっ、ろ〜じぉ‼︎」」

 

「見とけよ〜‼︎」

 

日進は腰に着けたランチャーを手でしっかり固定し、狙いを定める

 

ひとみといよはアレンの足元に隠れ、様子を伺う

 

少し後ろで、アイちゃんは全員の後ろ姿

 

アレンは日進の後ろ姿を見ている

 

日進は深く呼吸をした後、声を出した

 

「はあっ‼︎」

 

パヒュパヒュと静かに音を出し、六発全部がタイミングをズラし、射出される

 

「おぉ〜‼︎」

 

「じぇんぶいった‼︎」

 

「くあえ〜っ‼︎」

 

パチャリ

 

三人が声を出す中、アイちゃんだけは決定的瞬間を収めていた

 

日進から放たれ、美しいまでに空を舞うロケットランチャー

 

その後ろで、三人が両手を挙げて歓喜する姿

 

完璧な一枚だ

 

そして、六発のロケットが的に近付く…

 

カン、コン、ガンッ、コン、ドス、バス

 

射出したタイミングと同じく、間隔をズラして的に当たる

 

そして一、二秒後、的は爆発により粉々に砕け散った

 

日進は何も言わず、振り返ってアレンに歯を見せた

 

「やた〜っ‼︎」

 

「じぇんぶっこおい〜っ‼︎」

 

「凄いぞ日進‼︎」

 

アイちゃんはこの瞬間も収めておく事にした

 

パチャリ

 

この時撮れた数枚の写真は、日進がアレンの夢の形を具現化した子だと言う決定的な証拠になった




・ひとみ
・いよ
・日進

には、ゲーム中のロケットランチャー”WG42”が本当に積めます

試してみてね


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234話 Memory Photographer(4)

最後の被写体は再び横須賀

 

買い物がてら、アレンに頼まれた書類を横須賀に渡しに来た時だった

 

「Nice TempoなMusicね…」

 

執務室から音漏れしてくる、陽気なテンポの曲

 

「おっ、アイちゃん。横須賀に用か⁇」

 

後ろから脇にバインダーを挟んだマーカスが来た

 

どうやら訓練の帰りのようだ

 

「Yes‼︎Papaから預かって来たの‼︎」

 

「一緒に入ろう」

 

漏れてる音も気になりつつ、アイちゃんはマーカスと一緒に執務室のドアを開けた

 

「親潮‼︎ラブラブビーム‼︎」

 

「ジェミニ‼︎ラブラブビーーーム‼︎」

 

「Oh…」

 

「はは…」

 

親潮と横須賀がフリフリの服を着て、スクリーンに映し出されたアニメ映像と同じ動きをしている‼︎

 

流石のアイちゃんも苦笑いをするが、咄嗟にカメラを取り出し、横須賀にシャッターを切る

 

パチャリ…

 

「あっ‼︎コラ‼︎ゲッ‼︎レイ‼︎」

 

アイちゃんに気付き、横須賀はすぐに映像を止めて2人の所に向かって来たが、マーカスが居た事に気付き、冷や汗を流した

 

マズイ所を見られたわ…とでも言いたそうな顔をしている

 

「俺が悪かったよ、横須賀」

 

「え⁉︎あ…う、うんうん‼︎分かれば良いのよ‼︎そっ、それで⁇用事はなぁに⁇」

 

「エ…エト…Papaからこれを…」

 

「航空打撃演習の結果だ」

 

「そ、そう‼︎ありがとっ‼︎」

 

引きつった笑顔を見せながら、アイちゃんから書類の入った封筒

 

マーカスからバインダーを受け取る横須賀

 

「俺が蔑ろにし過ぎたんだな。もっと、お前とコミュニケーションを取るようにするよ」

 

「そうしてくれると嬉しいわ‼︎」

 

横須賀はマーカスにいつもの笑顔を送るが、マーカスは何故か真顔のまま

 

「Bye‼︎ヨコスカ‼︎」

 

「ありがとね、アイちゃん‼︎」

 

「ウン‼︎Dr.レイ、行きましょ‼︎」

 

「すぐ電話するからな」

 

「待ってるわ‼︎」

 

アイちゃんはマーカスの背中を押し、執務室から引き剥がした

 

 

 

「マズイ所を見られたわ…」

 

「創造主様に見られるのは嫌ですか⁇」

 

「ううん‼︎いいのよ別に‼︎ただ、しばらくネタにされるのよ、私に限っては…ね⁇」

 

「…⁇」

 

別にマーカスに見られても何とも思わない親潮

 

マーカスだけには見られたくなかった横須賀

 

下手に言ってしまうと、親潮を傷付ける気もするし、貴重なダイエットの機会が減る

 

「よし‼︎踊るわよ‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

横須賀は考えるのを止めた

 

踊って歌えば吹き飛ぶからだ‼︎

 

 

 

 

繁華街まで来た2人だが、マーカスは頭を抱えていた

 

「Dr.レイ、どこか痛い⁇」

 

「胃が痛い…何だよ‼︎ジェミニ‼︎ラブラブビーム‼︎って‼︎」

 

「オヤシオも居たわ‼︎」

 

「親潮は良いんだ。元からあぁだからな…問題はジェミニだ」

 

親潮は元からダンスが好きな子だ

 

なので問題ない

 

「マァマァ‼︎チョット飲みましょう‼︎Papa言ってたわ‼︎辛い時は飲んで寝るの‼︎IOWAが付き合ってあげるから‼︎ねっ⁉︎」

 

アイちゃんに背中を押され、マーカスはBar 那智に吸い込まれて行った

 

「やぁ、いらっしゃい。早いな⁇」

 

「いつものを」

 

「畏まった。アイちゃんは何にする⁇」

 

「Orange JuiceとPistàcchio‼︎」

 

「畏まった」

 

那智がカクテルを作っている間、アイちゃんはカウンターに両手で頬杖をつき、マーカスはタバコに火を点けた

 

「どうしたマーカス。浮かない顔だな」

 

「あぁ…ジェミニがイカれた」

 

那智はシェイカーを振る腕を一瞬止め、鼻で笑った

 

「我々の提督は少しネジが外れているからこそ、我々を動かせる所もある」

 

「ジェミニ‼︎ラブラブビーム‼︎だぞ⁉︎」

 

那智はまたシェイカーを止めた

 

「ま、まぁ…元からあんな感じだ…気にするなマーカス。女には謎が多い方が良い」

 

「病んでねぇかな…」

 

「ふふ…提督は幸せ者だな。こんなにも心配してくれる旦那を持って…ガンジスの淀み。オレンジジュースとピスタチオだ」

 

マーカスがいつも頼むカクテル、ガンジスの淀み

 

それと、オレンジジュースとピスタチオが置かれる

 

カクテルは昼間に来たのでほぼジュースだが、味はいつもに限りなく近い

 

マーカスはそれを一気に半分程飲み干し、またタバコに口を付けた

 

「オヤシオも居たのよ⁉︎」

 

それを聞いて那智は爆笑した

 

「何っ⁉︎はっはっは‼︎マーカス‼︎君もたいほうやひとみやいよと遊ぶだろう⁇」

 

「今、IOWAとも遊んでくれてるわ‼︎」

 

「あっ…」

 

マーカスは今更気付いた

 

横須賀はただフツーに子供と遊んでいただけだった‼︎

 

とうとう横須賀がイカれて、ジェミニラブラブビームを撃ちまくっていたと勘違いしたマーカスの取り越し苦労で終わった…

 

「Dr.レイ‼︎もう一度ヨコスカの所に行きましょ‼︎」

 

「そうだなっ‼︎那智、ご馳走さん‼︎」

 

「今日は奢ってやる。そのまま行って来い‼︎」

 

「行って来る‼︎」

 

「また来るわ‼︎」

 

那智に言われ、もう一度アイちゃんと一緒に執務室に来た

 

「今度は別のMusicね…」

 

「…やな予感がする」

 

今度もまたハイテンポな曲が執務室から漏れている

 

「行くぞ…」

 

「OK…」

 

執務室のドアが開けられる…

 

「ね〜こ目の怪盗‼︎」

 

「び〜じんの怪盗‼︎」

 

親潮、横須賀

 

ピッチピチのハイレグを着てダンスを踊りながら熱唱中

 

パチャリ…

 

「オウッ…」

 

どうやらAOBASYARI最後の一枚だったようで、フィルムが回転する音が出た

 

「コラッ‼︎何してるのアイちゃん‼︎ゲッ‼︎レイ‼︎」

 

相も変わらず、マーカスの顔を見て冷や汗を流す横須賀

 

「ジェミニ」

 

「な、なによ…」

 

「似合ってるぞ‼︎」

 

「そ、そう⁉︎ならよかったわ‼︎」

 

ようやく横須賀の表情が落ち着いた

 

「ジェミニラブラブビームだもんな」

 

「親潮。レイの記憶を消して頂戴」

 

「畏まりました‼︎さっ、創造主様…ご覚悟‼︎」

 

「わ°っ‼︎」

 

ニコニコ笑顔の親潮が飛び掛って来そうなので、変な声を出しながらドアを閉めた

 

「はぁ…はぁ…あ、あっぶねぇ…」

 

「流石はDr.レイのムスメね‼︎」

 

「現像するのか⁇」

 

「Papaがしてくれるわ‼︎」

 

「アレンなら出来るな」

 

その後、アイちゃんはマーカスと別れ、カメラを大事そうに持ったまま、ラバウル行きの高速艇に乗った…

 

 

 

 

次の日…

 

「アイちゃん‼︎出来たぞ‼︎」

 

「Thank you Papa‼︎」

 

早速出来上がった写真を壁掛けコルクボードに飾って行く…

 

アレンとネルソン

 

アレンとマーカス

 

各基地の子供達

 

ひとみといよ、日進とアレンが空に向かって叫ぶ後ろ姿

 

日進とアレン

 

横須賀二枚

 

そして、プロパガンダの広告塔と同じポーズをしたマーカス

 

このマーカスの写真は勿論コルクボードの中心に貼られ、アイちゃんの宝物となった

 

数枚の写真は焼き増しされ

 

アレンとネルソンの写真は二人にプレゼント

 

各基地の子供達の写真は、それぞれの基地に届けられ

 

横須賀二枚は検閲により没収された

 

そして、アレンとマーカスの写真

 

この写真が小さな賞を取った

 

題名は”戦士達の休息”

 

その商品は…

 

「Digital Cameraだわ‼︎」

 

アイちゃんはデジタルカメラを商品として貰っていた

 

「良かったわねアイちゃん‼︎」

 

「また余も撮っておくれよ⁉︎」

 

二人の母親から祝福の言葉が送られたアイちゃん

 

「二人共‼︎こっち向いて‼︎」

 

「うん⁇」

 

「うぬ‼︎」

 

アイちゃんはカメラをタイマーにした後、二人の真ん中に入った

 

「「「ピース‼︎」」」

 

三人の声と共に、シャッターが降りる

 

ネルソン、アイちゃん、愛宕

 

全員がピースサインと笑顔

 

この写真がこの先何枚も撮る事になる三人が映った、記念すべき最初の写真となった…



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235話 こかもいホテル(1)

さて、234話が終わりました

今回のお話は、長い間謎だったこかもいの謎に迫ります

果たして何体いるのか…


ある日の横須賀…

 

神威mk.2が停泊し、補給物資が運ばれて行くのを見ながら、俺とアレンは間宮でパフェを食べていた

 

「ボスって胸デカいよな」

 

「太ももも良いと思うぞ」

 

真顔でエッチな話をするのは、俺達二人のいつもの会話

 

「マーカス‼︎アレン‼︎」

 

珍しくボスが間宮に来た

 

「ボスか⁇」

 

「どうした⁇」

 

俺も隊長もボスの声に振り向いた

 

「ちょっと頼み事があってねぇ…」

 

「俺達に出来る事なら」

 

「とりあえず言ってくれ」

 

「実は…」

 

話を聞き、俺達は大湊に飛んだ

 

 

 

 

 

「いらっしゃいっすー‼︎」

 

「ささ‼︎お茶でもどうぞっす‼︎」

 

大湊の来客用の宿泊施設

 

そこそこ立派な建物だが、担当者が担当者らしい

 

 

 

数時間前、俺達はボスからこう頼まれた

 

「私の部下が宿泊施設を担当する事になってねぇ…」

 

「部下って、あのちっちゃいボスみたいな子達か⁇」

 

「そうなんだ…うちじゃあ”こかもい”って呼ばれてる」

 

「じゃあボスは⁇」

 

「私はボス神威」

 

俺達二人の視線は、ボスが服越しに主張する立派なお胸

 

「確かに‼︎」

 

「まっ、色んな所がボス級だなっ‼︎」

 

「だろう⁉︎」

 

見せびらかすかの様に、ボスは胸の下で腕を組んだ

 

「色々サービスしちゃうんだけどなぁ〜」

 

「よし。行こうレイ」

 

「うぬっ‼︎」

 

鼻血を出した二人に、何の迷いも無かった

 

こうなれば鹿島や棚町は関係無い‼︎

 

俺達は大湊に飛んだ

 

 

 

 

そして、現在に至る

 

大湊来客用宿泊施設”神威の里”

 

入った瞬間にエントランスのソファーに運ばれ、お茶を出してくれた

 

「これがメニューっす‼︎」

 

ボスを小さくした様な子達が、俺達の前にメニューを置いてくれた

 

 

 

・御夕食

…ボスの満艦全席

お客様に御用事が無ければ18:00頃、自室に一報をお知らせ致します

一階レストランまでお越し下さい

 

・御入浴

…一階大浴場をご利用下さい

時間10:00〜22:00

 

・御遊技

…二階ゲームコーナー

…一階バー

が、ございます

 

・ルームサービス

…日替わりでお楽しみ頂けます

内容はスタッフがお知らせ致します

 

 

 

「結構しっかりしてるな⁇」

 

「この、ボスの満艦全席ってのは何だ⁇」

 

アレンが聞いた言葉に、案内役のこかもいが反応した

 

「よくぞ聞いてくれたっす‼︎ボスの満艦全席とは、普段照さんや頑張った艦娘に対して出されるスペシャルな料理っす‼︎」

 

「アレン、これは期待出来る。あの照月に”ごちそうさま”を言わせた料理だ」

 

「ほぅ⁇」

 

「ささ‼︎お部屋に行くっす‼︎」

 

こかもいの軍団に案内され、まずはエレベーターに乗る

 

「マーカスさんとアレンさんのお部屋は三階っす‼︎」

 

「お、おぅ…」

 

「そ、そうかっ…」

 

エレベーターにミチミチに乗って来たこかもい軍団に潰される…

 

い、息苦しい…

 

「ぐへぇ…」

 

「ぐはぁ…」

 

エレベーターを降り、宿泊する部屋の前に来た

 

「マーカスさんとアレンさんは相部屋っす‼︎」

 

「変な気起こしちゃ、や‼︎っす‼︎」

 

「分かってらい‼︎」

 

「早く開けてくれ‼︎」

 

「どぞっす‼︎」

 

こかもいにドアを開けて貰う

 

「おぉ…」

 

「中々いい眺めだな⁇」

 

予想していた以上のオーシャンビュー

 

かなり綺麗な内装

 

しかもでかいテレビもある

 

「気に入らないっすか」

 

「いや…結構いいな⁇」

 

「気に入ったよ‼︎」

 

「なら良かったっす‼︎夕ご飯まで時間があるっす‼︎遊技場とか、お風呂どうぞっす‼︎」

 

引き際が分かっているのか、こかもい達はすぐに部屋から出て行った

 

「着替えて遊技場行くか‼︎」

 

「よしっ、行こう‼︎」

 

早速浴衣に着替えてピストル等の武器、貴重品を金庫にしまい、遊技場へと足を運ぶ

 

「遊技場は…二階か」

 

今度はこかもいが居ないエレベーターに乗り、二階に降りる

 

「いらっしゃいっす‼︎」

 

「「「いらっしゃいっす‼︎」」」

 

二階に降りた瞬間こかもいの集団が見え、挨拶をした

 

「はは」

 

「ふふ」

 

チン

 

本能的にエレベーターの扉を閉じた

 

「あ‼︎ちょちょちょちょ‼︎帰らないで欲しいっす‼︎」

 

ボタンを押し、扉を開ける

 

「悪い悪い‼︎」

 

「本能だ本能‼︎」

 

「ささ‼︎遊ぶっす‼︎」

 

ちょっとデカイこかもいに案内され、二階に降りた

 

「お客さん、何がしたいっすか⁇」

 

「ん〜、特に決めてないが…パチンコあるか⁇」

 

「あるっす‼︎アレンさんは何がしたいっす⁇」

 

「射的はあるか⁇」

 

「あるっす‼︎」

 

アレンは縁日系の場所に行き、俺は旅館やホテルならでは型落ちしまくったパチンコ台の前に座った

 

う〜む、古い

 

ギリギリデジタルだが、画面がバッシバシだ

 

「持ち玉はこれっす‼︎なくなったらまた持って来るっす‼︎」

 

ちょっとデカイこかもいが持って来てくれた、パチンコ玉がミチミチに入ったドル箱一つ

 

「出玉は交換出来るっす‼︎」

 

「出玉は⁇」

 

「そっす。出玉はお菓子とか日用品に交換出来るっす‼︎」

 

ちょっとデカイこかもいの目線の先には、ザラがいるようなカウンターがあり、カウンター内にミチミチにいるこかもい達が手を振っている

 

「幾らだ⁇」

 

「ここ全部タダっす。ホテル代に含まれてるっすよ⁇」

 

「よ〜し、全部叩き出してやらぁ‼︎」

 

レトロパチンコ、いざスタート‼︎



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235話 こかもいホテル(2)

「アレンさん、これ持つっす‼︎」

 

「ほい」

 

アレンは縁日が一列に並んでいるエリアに来た

 

そこにはちゃんと射的があり、アレンはコルク銃を渡された

 

「弾は一回で10発っす‼︎」

 

「幾らだ⁇」

 

「ここ全部タダっす‼︎弾は足りなくなったら足すだけっす‼︎」

 

「言ったな⁇」

 

「言ったっす」

 

アレンは銃にコルクを詰めながら、台に並ぶ商品を見た

 

 

 

お菓子

 

食パン

 

ライター

 

食パン

 

食パン

 

お菓子

 

お菓子

 

食パン

 

新型ノートパソコン引換券

 

 

 

「うん、うん、うん⁉︎」

 

謎のラインナップである”食パン”が並ぶ中、アレンは中心にある目玉商品に目が行った

 

「あれだけ桁違わねぇか⁉︎」

 

案内してくれたちょっとデカイこかもいに話し掛けながらも、コルク銃を構えるアレン

 

「あれはヤバイっす‼︎最新モデルのノーパソが手に入るっす‼︎だけどカチカチっす‼︎」

 

「ネルソンに持って帰ってやりたいな」

 

「ネルソン⁉︎この前こかもい達のホテルに泊まってくれた人っす‼︎」

 

「ネルソンがか⁉︎」

 

「そっす‼︎すっごく綺麗なガイジンさんっす‼︎」

 

話によるとネルソンが大湊に一泊した際、最高のサービスを提供するからモニターをして欲しいとオッパイを見ていた二人から頼まれ、ここで一泊した

 

当時はまだ完璧に出来ておらず、それほどサービスは提供出来なかったらしいが、ルームサービスをした時に凄く喜んでくれたのを覚えているとアレンに教えてくれた

 

「そっか、世話んなったな」

 

「アレンさんも楽しんで欲しいっす‼︎」

 

アレンはコルク銃を構えながらちょっとデカイこかもいに微笑んだ

 

ピコッ‼︎

 

コルクが銃から飛び出し、何かが倒れた‼︎

 

 

 

 

 

「お〜い‼︎玉出ねぇぞ〜‼︎」

 

咥えタバコをしながら、俺はパチンコ台を叩いた

 

出玉は良いが、すぐ詰まるのが難点だな

 

「はいは〜い‼︎補充補充っす〜‼︎」

 

「マーカスさん‼︎飲み物どっすか⁉︎」

 

こかもいの一人がジュースメニューを持って来た

 

「サイダーとな、これと同じ銘柄のタバコくれるか⁇」

 

「分かったっす‼︎」

 

「あ〜‼︎コラコラ‼︎玉持ってけ‼︎」

 

カップで玉を掬うと、こかもいが戻って来た

 

「タバコの分だけ貰うっす‼︎85号‼︎」

 

「アイアイサーっす‼︎」

 

玉を数えるトレーを持ったこかもいがカウンターから出て来た

 

「85号だと…」

 

「頭の所に書いてあるっす‼︎」

 

玉を掬ってトレーに入れているのが23号

 

トレーを持っているのが85号

 

「100発頂くっす‼︎」

 

「4円かよ‼︎」

 

「4円っすよ‼︎でもある程度打ちホーダイっす‼︎」

 

「そ、そっか…」

 

それでもまだ、大当たりは続く…

 

 

 

 

「ふっふっふ…」

 

「大当たりっすー‼︎かんかんかんー‼︎」

 

射的コーナーでベルが鳴る

 

「新型ノートパソコン引換券ゲットっすー‼︎」

 

ノートパソコン引換券が落ちた‼︎

 

こかもい74号から引換券を貰い、アレンはふと気付いた

 

「これはどうやって買ってるんだ⁇」

 

「こかもい達のお給料から引かれるだけっす‼︎」

 

「んっ‼︎返却っ‼︎」

 

まさかのビックリ天引きシステムが発覚した為、アレンは引換券を返そうとした

 

「冗談っすよ‼︎備品として持ってきてくれるっす‼︎」

 

「後でカウンターで引き換えるっす‼︎」

 

「ならっ、そろそろ飲み物でも貰おうかなっ‼︎」

 

「お任せするっす‼︎」

 

大量のお菓子と食パンを抱えたアレンがカウンターに向かう

 

 

 

 

「だぁ〜っはっはっはぁ‼︎大量大量‼︎」

 

「全部で5万4263発っす‼︎凄いっす‼︎」

 

ようやく打ち終えた俺もカウンターへと向かう

 

大量のこかもい達が一人一個ずつドル箱を持ち、計算機に玉を入れて行く

 

「ささ、今の内に景品決めるっす‼︎」

 

「ん〜と…」

 

「よくまぁこんなに…」

 

射的を終えたアレンがカウンターでコーヒーを飲んで待っていた

 

「一番高いのを持って帰ろうと思ってなっ」

 

アレンがコーヒー片手にニヤつく

 

「こかもいの給料から天引きらしいぞ⁇」

 

それを聞いた途端、血の気が引いた

 

「なっ…‼︎返却‼︎へんきゃーく‼︎」

 

「これ備品っす‼︎」

 

「心配無いっす‼︎」

 

「よし。ならそのノートパソコンと謎のDVDを貰おう」

 

「流石はお目が高いっす‼︎」

 

カウンターの中にいる中くらいこかもいにノートパソコン、そして黒いパッケージに包まれたDVDを取って貰う

 

「DVDはチョー激ヤバのDVDっす‼︎」

 

「むっほほ‼︎」

 

ここまで言われれば、男の血が滾る

 

「どれにするっすか⁇3枚選べるっす‼︎」

 

DVDには、何故か艦の種類が書かれてある

 

「じゃあ…戦艦を2枚と空母1枚で」

 

「洋物にするっすか⁇」

 

「よ、洋物…」

 

「洋物はヤッバイすよ〜」

 

中くらいこかもいがニヤつく

 

「よ、よし…戦艦は一枚だけ日本だ。後は洋物を…」

 

「ふふふ…マーカスさんは本当にお目が高いっす…」

 

中くらいこかもいが袋にDVDを入れて行く

 

「そういや、君は他の子と比べて少し大きいな⁇」

 

ここでアレンが気になっていた事を言ってくれた



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235話 こかもいホテル(3)

「よくぞ聞いてくれたっす‼︎ちょっとデカいこかもいは”中ボスかもい”っす‼︎」

 

「「中ボスかもい…」」

 

俺もアレンも同じ反応をする

 

「頭の数字が一桁は中ボスかもいっす」

 

目の前にいる中ボスかもいの額の布の数字は7

 

「後8人いるっすよ」

 

「こかもいだけでも何人いるんだ⁇」

 

「全部で100人いるっす‼︎顔も性格もちょっとずつ違うっすよ‼︎」

 

よく見ると確かにこかもい達は少しずつ顔の輪郭やボディラインが違う

 

「ささ‼︎ノートパソコンっす‼︎」

 

俺とアレンにノートパソコンが渡される

 

「おー‼︎マジもんじゃねぇか‼︎」

 

「これはネルソンが喜ぶ‼︎」

 

「神威、嘘つかないっす」

 

俺はサイダー、アレンはコーヒーを飲み干した時、エレベーターが開いた

 

「マーカスさんアレンさん‼︎お食事の準備が出来たっす‼︎」

 

「おしゃ‼︎行くか‼︎」

 

「よしゃ‼︎ありがとうな‼︎」

 

「また遊びに来るっす‼︎」

 

「「「遊びに来るっすー‼︎」」」

 

今度は中ボスかもい3号に連れられ、エレベーターで一階を目指す

 

 

 

 

エレベーターを降り、中ボスかもい3号の後を着いて行くとレストランが見えた

 

「ようこそ〜、ボスの満艦全席へ〜‼︎」

 

「「ボス‼︎」」

 

中に入ってすぐ、ボスの顔が見えた

 

「ささ‼︎ゆっくり食べとくれ‼︎」

 

「こっちっす‼︎」

 

回転式テーブルの前に案内され、椅子に座る

 

「おぉ〜‼︎」

 

「これが満艦全席か‼︎」

 

中華、和食、洋食…その他諸々

 

それが回転式テーブルに所狭しと並んでいる

 

しかもどれも2人前で食べ切りサイズだ

 

「いただきます‼︎」

 

「いただきます‼︎」

 

早速箸を手にし、まずは卵あんかけを頂く…

 

「うっは‼︎ウンメ‼︎」

 

一口食べただけで分かる、味付けの美味さ

 

「チャーハン入るっすー‼︎」

 

こかもい達がせっせこせっせこ料理を運んで来てくれる

 

「よし、寄越せ‼︎」

 

「バカヤロウ‼︎俺が先だ‼︎」

 

ホッカホカチャーハンを取り合う中、春雨と春巻きが追加される

 

「ほらアレン。ハルサメだぞ〜」

 

「ゔっ…」

 

アレンは春雨と言う言葉が苦手だ

 

黒歴史があるからな

 

「は、る、さ、め、ちゃん‼︎」

 

「ぐっ…」

 

「春雨嫌いっすか⁇」

 

「この春雨は好きだ‼︎んっ‼︎頂こうじゃない‼︎」

 

こかもいの押しに負け、アレンは普通に春雨を食べた

 

春雨は好きだが、ハルサメは苦手なだけみたいだ

 

「餃子貰うぞ〜」

 

「お。俺は春巻き貰うな」

 

「お二人さん、ビール飲むかい⁇」

 

「飲む‼︎」

 

「頂戴‼︎」

 

「オッケ〜‼︎」

 

ボスにビールを持って来てもらい、互いに半分程一気に飲み干す

 

「くぁ〜っ‼︎」

 

「あ〜っ‼︎たまらん‼︎」

 

久々にありついたビール

 

互いに基地ではあまり飲まないので、合法的に飲むのはこことビスマルクの家位だ

 

しばらく満艦全席にありつき、あっと言う間に皿が空になった

 

「いやぁ〜、食った食った‼︎」

 

「美味かったぁ〜‼︎」

 

「今からお風呂だね⁇なら、これ飲んで行きな‼︎」

 

ボスが緑色の飲み物を持って来た

 

「アルコールを分解するジュースさ。甘く仕上げてあるよ」

 

「グリーンティーっすよ」

 

「飲めよ」

 

「ゔっ…」

 

今度はアレンに追い詰められる

 

「グ、リー、ン‼︎ティー‼︎」

 

「ぐっ…」

 

「グリーンティー嫌いっすか⁇」

 

「グリーンは苦手だが、グリーンティーは好きだ‼︎頂こうじゃないの‼︎」

 

ボスからグリーンティーを貰い、一気に飲み干す

 

「美味いな⁇」

 

「あれだ。抹茶だ抹茶」

 

「グリーンティーが抹茶って意味っす」

 

「緑茶じゃないのか⁇」

 

「緑茶もグリーンティーじゃなかったか⁇」

 

「「「う〜ん…」」」

 

俺、アレン、こかもいがその場で悩む

 

「ほらっ‼︎悩んでる間にお風呂行きなっ‼︎」

 

「行ってくる‼︎ご馳走さん‼︎」

 

「ごちそうさま‼︎また来るよ‼︎」

 

「いつでもっ‼︎」

 

「ささ‼︎こっちっす‼︎」

 

ボスに言われ、今度は中ボスかもい6号に着いて行く

 

 

 

 

「ごちそうさま言ってくれたっす‼︎」

 

「やったじゃないか‼︎」

 

「嬉しいっす‼︎」

 

こかもい達にとって、初めてのごちそうさま

 

満艦全席は普段照月や涼月に対して出される食事なのだが、ごちそうさまを一度も聞いた事がなかった

 

いつもキチンとお礼は言ってくれるが、ありがとうございました‼︎等、感謝の言葉

 

こかもい達はごちそうさまを聞いてみたかったのだ

 

「よしっ、ご褒美にデザート作ってあげようかねぇ‼︎」

 

「たい焼きがいいっす‼︎」

 

「杏仁豆腐がいいっす‼︎」

 

「い〜や‼︎焼きプリンっす‼︎」

 

ボスがデザートを作ってあげると言った瞬間、その辺にいたこかもい達の中で内戦が始まった

 

「ほらほら‼︎喧嘩しないの‼︎喧嘩する子は缶詰にしちゃうよ‼︎」

 

「わ〜っ‼︎それは嫌っす‼︎」

 

「ボスの作るの何でも好きっす‼︎」

 

「ジッとしてるんだよ‼︎」



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235話 こかもいホテル(4)

「おぉ〜‼︎」

 

「ここもか‼︎」

 

大浴場、そして露天風呂

 

ここもオーシャンビューになっている

 

「ささ‼︎お背中流すっす‼︎」

 

中ボスかもいが二人、体を洗うセットを持ってシャワーの前に来た

 

ここの中ボスかもいのナンバーは…2号と6号か

 

「二人共ガタイが良いっす‼︎」

 

「洗い甲斐があるっす‼︎」

 

「気持ちいいな…」

 

「あぁ…これはいい…」

 

ひとみといよがマッサージや塗り薬を塗る時、絶妙にツボに入って気持ちいいのと似たような理論の気持ちよさだ

 

中ボスかもいは、普段自分が洗い難い場所を洗ってくれる

 

これがまた絶妙に心地良い

 

「ささ‼︎湯船にどぞっす‼︎」

 

「こかもい達は一旦退散するっす‼︎」

 

その辺でスタンバイしていたこかもい達も含め、ドザーっと一斉に居なくなった

 

「静かだ…」

 

「逆に怖いな…」

 

先程までうるさい位に居たこかもい達が居なくなり、一気に静かになる

 

大浴場にいるのが不安になり、露天風呂に来た

 

「おっ…」

 

「はぁ…」

 

入ってすぐに分かった

 

スカイラグーンと同じ泉質だ

 

アレンが心地良さそうな溜め息を吐きながら露天風呂に体を沈め、俺も遅れて浸かる

 

「おっ、ガンビアだ」

 

「夜間訓練かなんかだな」

 

水平線にはガンビアがいる

 

艦載機が着艦しているのを見ると、夜間訓練だろう

 

「なぁ、レイ」

 

「ん⁇」

 

互いに水平線を眺めながら会話を続ける

 

「俺、今日一つ夢が叶ったよ」

 

「射的で全倒しか⁇」

 

「お前と一度、仕事抜きでこうして遊んで風呂に入ってみたかったんだ」

 

「また行けるさ。今度は内地が良いな⁇」

 

「そうだなっ…」

 

露天風呂でまったりとしながら、時間が流れて行く…

 

 

 

風呂から上がり、部屋に戻って来た

 

「そういや、ルームサービスが呼べるらしいな⁇」

 

「エッチなマッサージかもしれん‼︎呼べ‼︎」

 

「よし‼︎」

 

アレンが内線を取り、早速ルームサービスを呼ぶ

 

内線が繋がり、ルームサービスを依頼した後受話器を離し、アレンが此方を向いた

 

「レイ。ルームサービスはマッサージらしい。2コースあるみたいだ」

 

「どんなだ⁇」

 

「一つはこかもいマッサージ。もう一つはムチムチマッサージだ」

 

「そりゃあムチムチマッサージだろ⁉︎」

 

「レイ。こういう時はな、こう言うんだ」

 

再び受話器を持ち、アレンは言った

 

「両方頼む‼︎」

 

アレンは受話器を置いた

 

「さ〜て、どうくるか…」

 

「ムチムチマッサージの方にボスに一票だな‼︎」

 

「俺は長波のマッサージだなっ‼︎」

 

俺、長波

 

アレン、ボス

 

双方ムチムチマッサージに期待をして待つ

 

数分後…

 

ピンポーン

 

「来た‼︎」

 

チャイムが鳴ったので、アレンが扉を開けにいった

 

「よく来たな‼︎」

 

「この度はムチムチマッサージをご指名頂き、誠にありがとうございます」

 

「「「ありがとうございます‼︎」」」

 

アレンはそっと、扉を閉じた

 

「どうした⁇」

 

「…筋骨隆々の集団が来た」

 

「門前払いだ‼︎お帰り願え‼︎」

 

とは言いつつ、筋肉集団を中に招き入れた

 

ムチムチマッサージとは名ばかりで、俺達二人が思っていたムッチムチのギャル…つまりボスや長波のマッサージではなく…

 

ダイダロス乗組員達、筋骨隆々の集団が行うマッサージの事だった‼︎

 

「ボスや長波さんを期待されましたか⁇」

 

「い、いやぁ〜‼︎男の性だな‼︎なぁ、アレン‼︎」

 

「そ、そうそう‼︎誰もあわよくば押し付けオッパイに期待なんかしてない‼︎」

 

「なるほどなるほど…我々もその気持ちはよく分かります。では、横になって下さい」

 

「「うぅ…」」

 

若干引き気味になりながらも、俺達はベッドにうつ伏せになった

 

「参ります‼︎」

 

互いに筋肉が二人ずつ着いたのを見て、終わりを感じて目を閉じた…

 

 

 

 

30分後…

 

「肩が軽い…」

 

「首がよく回る…」

 

ルックスとは裏腹に、ダイダロス軍団のマッサージはかなり気持ち良いフツーのマッサージだった

 

「あ…えと…チップだな‼︎」

 

財布から札を一枚出そうとしたが、すぐに止められた

 

「チップは貰えません。代金は全て料金に含まれています」

 

「取ってくれ。かなり良かった」

 

アレンも渡しているが、向こうも断っている

 

「では、こかもい達に差し上げて頂けませんか⁇」

 

「分かった。そうするよっ」

 

財布に札を仕舞い、こかもい達に渡す事にした

 

「本日はお呼び頂き、誠にありがとうございました」

 

「「「ありがとうございました‼︎」」」

 

ダイダロス軍団が帰って行った…

 

「思ったより良かったな⁇」

 

「こりゃあ、次からはムチムチマッサージの方かもな⁇」

 

ピンポーン

 

「こかもい達だ‼︎」

 

立て続けにこかもい達も来た

 

今度は俺が扉を開けに行く

 

「本日はお呼び頂きありがとうございまっす‼︎」

 

「「「ありがとうございまっす‼︎」」」

 

「さ。入ってくれ‼︎」

 

総勢10人

 

内、中ボスかもい9号、4号

 

「ささ‼︎横になるっす‼︎」

 

一人につき、中ボスかもい一人とこかもい四人が着き、マッサージが始まる…

 

「足の裏ふみふみっす‼︎」

 

「腕モミモミっす‼︎」

 

「腰を押すっす‼︎」

 

「頭皮のマッサージするっす‼︎」

 

「…」

 

まさに至れり尽くせりとはこの事

 

気持ち良すぎて声も出ない

 

特に足の裏を踏んでくれてるのが本当に気持ちいい

 

「ぐぉ…」

 

アレンに至っては既に寝息を立てている

 

「ネルソンさんもこかもい達のマッサージ呼んでくれたっす‼︎」

 

「ネルソンにも同じマッサージしたのか⁇」

 

「ちょっとだけ違うっすけど、大体そっす‼︎」

 

「ネルソンはっ、どんな感想だった⁇」

 

ネルソンの話をし始め、アレンが目を覚ました

 

「ネルソンさん、ビクビクー‼︎ってなってたっす‼︎」

 

「ブルブルー‼︎って震えてたっす‼︎」

 

「イクって何すか⁇ボスは教えてくれないっす。どこ行くっすか⁇」

 

あられもないネルソンの話をこかもい達から聞き、アレンは頭を抑える

 

「知らない方がいい事もある」

 

「聞いた俺が悪かったよ…」

 

ネルソンがこかもいマッサージで絶頂した事を聞き、マッサージが終わった

 

「ありがとう。これ、少ないけど」

 

今度こそチップを渡す

 

が…

 

「要らないっす‼︎」

 

「こかもい達はボスからちゃんと貰ってるっす‼︎」

 

「またお呼び下さいっすー‼︎」

 

こかもい達は全くチップを取る気配すら見せず、流れる様に部屋から出て行った

 

「ネルソンの件は内緒にしといてくれ…」

 

「分かったよっ」

 

マッサージの心地良さをそのままに、俺達はベッドで眠りに就いた…



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235話 こかもいホテル(5)

「朝っすー‼︎カンカンカンっすー‼︎」

 

「な、なんだ…⁉︎」

 

こかもいの声で目が覚めた

 

フライパンか何かを一緒に叩いているので、ヒジョーに耳障りだ

 

「朝っすー‼︎カンカンカンっすー‼︎」

 

「何処だ…」

 

「朝っすー‼︎カンカンカンっすー‼︎」

 

「レイ…机の上の時計だっ…」

 

寝ぼけ眼のアレンが声の主に気付いた

 

「朝っすー‼︎カンカンカ」

 

目覚まし時計にバトルチョップを振り下ろし、こかもいの声を止める

 

ソファーに座り、寝起き一発目のタバコに火を点け、しばらくボーッとする

 

「そういや、今日はグリフォンの中身は無しか⁇」

 

「いや、はっちゃんがいた。昨日の時点で基地に帰ってる」

 

ピンポーン

 

朝一に誰かが来た

 

「ちょっと待ってなっ…よっこら‼︎」

 

まだ重たい腰を上げ、扉を開ける

 

「よく眠れたかい⁇」

 

「ボス‼︎」

 

扉を開けた先に居たのはボス

 

ボスはカートに朝食を乗せて来てくれた

 

「軽くでいいって聞いたから、本当に軽くしかないよ⁇」

 

「あぁ‼︎今から飛ぶからいいんだ‼︎」

 

「ならこれを‼︎」

 

ボスが持って来てくれたのはコーンフレークと二本の焼いたウインナー

 

本当にこれだけでいいのか⁇と、ボスの顔に書いてあるが、本当にこれだけでいい

 

いつも大体軽く済ませるか、ほとんど食べずに空を飛ぶ

 

普通に食べると戻してしまうからだ

 

「「いただきます‼︎」」

 

ソファーに座りながら流し込むようにそれらを食べ終え、チェックアウトの時間が来た…

 

 

 

 

持ち物を確認し、エントランスに来た

 

「本日は神威の里をご利用頂き、誠にありがとうございましたっす‼︎」

 

「中々良かったぞっ⁇」

 

「正式に開店したらまた来るよ‼︎」

 

「ありがとうございますっす‼︎モニターありがとうございましたっす‼︎」

 

「も、モニター⁉︎料金は⁉︎」

 

「ないっす‼︎」

 

「なんでだ⁉︎」

 

「モニターさんだからっす‼︎」

 

あれだけサービスを受け、料金を取らなかった

 

「あー…じゃあ、何かお土産買うよ‼︎」

 

「本当っすか⁉︎そこにクジがあるっす‼︎」

 

受付こかもい37号の目線の先には、小さな紙袋に入れられたクジがあった

 

駄菓子屋に置いてあるブロマイドのクジみたいな奴だ

 

「一回50円っす‼︎」

 

「やっすいな〜…」

 

「何が当たるんだ⁇」

 

「普通当たりがこかもいのブロマイド、中当たりが中ボスかもいのちょっとエッチなブロマイド、大当たりがボスのヤッバイブロマイドっす‼︎」

 

「10連だなっ‼︎」

 

「うぬっ‼︎」

 

互いに500円玉を出し、こかもい37号に渡す

 

「ありがとうございますっす‼︎たまにハズレがあるっす。ハズレだけど、もう一回引けるハズレっす‼︎」

 

「オーケー‼︎やってやろうじゃない…のっ‼︎」

 

俺は後ろから10袋

 

「当たれ‼︎」

 

アレンは前から10袋取った

 

まずは最初の一袋目…

 

”ハズレwww

もう一回引いてねwww”

 

ドヤ顔でおちょくる涼月の絵だ

 

「うぐっ…」

 

二袋目から五袋目まではこかもいのブロマイド

 

つまり、普通当たり

 

そして六袋目

 

”残念www

もう一回www”

 

今度は指差し爆笑をする涼月の絵だ

 

「ぐっ…」

 

七袋目…

 

「おっ⁇」

 

スクール水着を着た中ボスかもいだ

 

これは素晴らしい

 

八袋目…

 

こかもい

 

九袋目…

 

こかもい

 

10連ラストの十袋目…

 

こかもい

 

「後二回引けるっす‼︎」

 

「よぉーし‼︎」

 

最後の二袋は中腹部から引き抜いた

 

延長戦、一袋目…

 

「‼︎」

 

一瞬袋から取り出し、すぐに戻した

 

…ボスの恥じらい手ブラブロマイドだ

 

「当たりっすか⁇」

 

「…いい仕事するな⁇」

 

「むっふふ…青葉さん監修っす‼︎」

 

そして、正真正銘ラスト一袋

 

「うほっ‼︎」

 

ボス、体操服装備ブロマイド

 

ヒジョーに素晴らしい

 

「レイ」

 

「どうだったよ」

 

「…素晴らしいクジだ‼︎」

 

どうやらアレンも当たりを引いたみたいだ

 

「このクジはここに泊まってくれた人しか出来ないっす‼︎つまり、結構レアっす‼︎」

 

「これは横須賀でも採用すべきだな」

 

「売れるぞ、これ」

 

「またのおこし、お待ちしてるっすー‼︎」

 

「「「お待ちしてるっすー‼︎」」」

 

それはそれは素晴らしいブロマイドを手にし、俺達は帰路に着いた

 

《じゃあな、レイ。また行こうな‼︎》

 

「おぅ‼︎」

 

空中でアレンとも別れ、俺も基地へと帰った…

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の深夜…

 

完全に皆が寝静まったのを確認…

 

コソコソ動きながら、こかもいに貰ったDVDを食堂で見てみた

 

一枚目…チアガールサ○トガ〜ポンポンの誘惑〜

 

二枚目…食いしん坊イタリア娘〜リット○オ〜

 

それはもう鼻血モノだ

 

ちゃんと注意書きにも

 

・本作品は艦娘と呼ばれる方々とは一切関係ありません

 

と、ご丁寧に書いてある

 

そして最後

 

三枚目…褐色人妻む○し〜欲望の日記〜

 

「うぉぉ…」

 

誰とは言わないが、そっくりな人が画面の向こうにいる

 

「レイ」

 

「ひ‼︎」

 

いつの間にか隊長が真後ろにいた

 

「い、いつからそこに…」

 

「チアガールからだ」

 

「言ってくれよ…ふぅ…」

 

心臓の鼓動と呼吸を整え、DVDをメニュー画面にした

 

「幾らだ」

 

「へ⁇」

 

真顔の隊長がズイズイ寄って来る

 

「最後のDVDは買おう。幾らだ」

 

「あ…」

 

どうやら隊長は最後のDVDを見て、いてもたってもいられずに声を出してしまったみたいだ

 

「や、やるよ…その代わり黙ってて欲しい…」

 

仮にも横須賀の母親にソックリな女の子が出て来るDVDを見て鼻の下を伸ばしていた訳だ

 

こんな事、広まる訳にはいかない!

 

「よし…流石はレイだ…」

 

隊長に渡す為に、DVDプレイヤーからDVDを出す

 

そしと、いざパッケージに入れようとした時だった

 

パチ

 

「「ひっ‼︎」」

 

食堂の電気が点いた‼︎

 

「あら、何してるの⁇」

 

こんな時に限って貴子さんが起きて来た

 

「あいやいやいや‼︎ななな何にもないです‼︎」

 

「大事な話をしてたんだ‼︎」

 

「ふ〜ん…」

 

物凄いジト目で俺達を見ながら、貴子さんはキッチンで牛乳を飲んでいる

 

「さっ‼︎俺も寝よっかな…」

 

「そうだぞレイ。寝る子は育つからな‼︎ははは…」

 

隊長と一緒に廊下まで行こうとした

 

「よいしょ‼︎」

 

「「あっ⁉︎」」

 

瞬殺で首根っこを掴まれ、隊長と共に宙ぶらりんになる

 

「出しなさい」

 

「はい」

 

「はい」

 

俺も隊長も観念し、持っていたDVDを貴子さんに出した

 

「またこんなの見て…隠しときなさいよ⁇」

 

「はい」

 

「はい」

 

「あら。この子、私にソックリね⁇」

 

貴子さんが手に取ったのは、隊長に渡したDVD

 

「いやいやいや‼︎貴子の方が綺麗だ‼︎」

 

「貴子さんのがよっぽど美人だ‼︎」

 

「そう⁇」

 

このまま押し切れば行ける‼︎

 

逃げられる‼︎

 

「そうだぞ貴子。その子には胸がない」

 

「お尻も小さい‼︎」

 

その一言が貴子さんを怒らせた

 

「あらマーカス君。私のお尻がおっきいって⁇」

 

「やだやだやだ‼︎うわぁぁぁあ‼︎」

 

宙ぶらりんのまま服を捻られ、ぐるっと一周させられる

 

「もう一回回る⁇」

 

「引き締まったお尻です‼︎」

 

「んっ‼︎いいわ‼︎」

 

「ぐへぇ…」

 

ようやく床に足を付けられた

 

「ウィリアム⁇」

 

「はい…」

 

「分かってるわね⁇」

 

「はい」

 

結局、貴子さんは隊長を宙ぶらりんのまま何十周もさせた後、貴子さん似のDVDと隊長を持って部屋に戻って行った…




中ボスかもい…ちょいデカかもい

約100人いるこかもいを統べられる、体格は普通のかもい

このかもいが大体普通の神威と思うと分かりやすでしょう

しかし、お胸やお尻はもう一声欲しい所

やっぱりボス神威が美人でエロくて最強の神威



こかもいクジ…一回50円

こかもい、中ボスかもい、ボスのブロマイドが当たる

普通のもあれば、際どいのもある

ハズレである”ボンバー☆スズチャン”はシールになっており、子供達がイタズラに使う



ボンバー☆スズチャンはもう少ししたらその正体が明らかになります 笑


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236話 ミラクル☆オヤシオ(1)

さて、235話が終わりました

今回のお話は、誰かの夢がちょっとだけ叶うお話です

横須賀から急に居なくなったジェミニと親潮

果たして何処へ行ったのか…⁇


「横須賀はどうしたんだ⁇」

 

ある日の横須賀…

 

皆が粗方落ち着いて来た夕方、朝霜に呼ばれた

 

執務室から横須賀と親潮が姿を消したらしい

 

表で遊んでいた清霜達に話を聞くが、視察なら繁華街にいるはずだと答えるだけ

 

しかも磯風に顔を近付けすぎだと頬をチミられた

 

痛い…

 

今横須賀で執務を行っているのは…

 

「このあきつ丸が提督の代わりとは、提督殿も随分な用でしょうなぁ」

 

「アイツがお前における絶対的な信頼を聞いてみたいよっ…」

 

普段横須賀が座っている席にあきつ丸がおり、俺は机のヘリに座りながら潜水艦の絵が彫られたオイルライターでタバコに火を点ける

 

「あきつ丸はその為に造られたであります」

 

「ほぅ」

 

これは初耳だ

 

「提督業務代行、及び低年齢層艦娘の指導鞭撻。後は提督殿の色々な処理であります」

 

「色々な処理…ありがとう」

 

喫茶店でよく見る灰皿に灰を落とす

 

色々な処理と言うのは、恐らく書類や視察の事だろうとは思った

 

「夜伽をご存知でありますか⁇」

 

「…止めておこう」

 

どうやらデリケートでプライベートな処理らしい

 

「大尉殿の処理も命じられているであります」

 

あきつ丸がニヤつきながら白い手袋を嵌めた‼︎

 

「俺はいい。それより、子供達を頼んだ」

 

灰皿にタバコを押し付け、机から立ち上がる

 

なんとなくだが、あきつ丸に食われそうな気がする…

 

「つれないであります‼︎付き合うでありますぞ‼︎」

 

「横須賀と同じバストになったらこっちから頼むよ」

 

「それは無理でありますな」

 

「だろ⁇」

 

と、俺もあきつ丸も笑う

 

が…

 

「学ラン女子は嫌いでありますか」

 

面と向かっては落ちないと見たあきつ丸

 

机を避けて真顔で迫って来た

 

「提督殿はあきつ丸を好いてくれるであります。きっと大尉殿もあきつ丸に満足するであります。さ、脱ぐであります」

 

「うっ…」

 

一応後退しながら出入り口のドアには向かってはいるが、このまま壁に寄せられれば終わりだ…

 

「ただいま〜。おぉ、父さん‼︎」

 

そんな中、丁度朝霜が帰って来た‼︎

 

「貸せっ‼︎」

 

「うおっ⁉︎何だ⁉︎」

 

「あびゃびゃびゃばばばば‼︎‼︎‼︎」

 

朝霜がアークのあのスタンガンを腰にブラ下げているのを覚えていた

 

それを取り、あきつ丸の露出部位である絶対領域に当てると、あきつ丸は感電してその場で目を回して床に倒れた

 

「ふぅ…危ねぇ…」

 

「父さんも大変だなぁ…」

 

「助かったよ…」

 

朝霜にサージスタンガンを返すと、また腰にブラ下げた

 

「痕は…残ってないな」

 

ほんの少しだけあきつ丸のスカートを捲り、痕が無いかだけ確認する

 

特に痕は無いみたいだ

 

「気絶させるだけだかんな。その辺の調整はちゃんとしてあるさ」

 

「流石は俺の娘だ」

 

「…でだ。どうすんだよ、あきつ丸さん」

 

「…」

 

「…」

 

朝霜と二人、沈黙が流れる

 

「…手厚く弔ってやりなさい」

 

「…そだな‼︎」

 

「生きてるでありますよ⁉︎」

 

「「うわぁ‼︎」」

 

朝霜も俺も飛び付き合う

 

「まぁ…このあきつ丸もやり過ぎたであります」

 

「悪かったよ…」

 

あきつ丸を立ち上がらせると、朝霜が何かを思い出した様に口を開いた

 

「そうだお父さん。お母さん迎えに行ってやってくんないか⁇」

 

「何処だ⁇」

 

「都市型居住区のビスマルクインダストリービルだ」

 

「朝霜も行くか⁇」

 

「お〜‼︎行く行く‼︎」

 

「その間、あきつ丸は提督代行をやり遂げるでありますよ」

 

「頼んだぞ。それと、清霜達が帰って来たら手を洗ってサラの所で晩御飯食べさせてやってくれ」

 

「了解であります‼︎」

 

「行ってくんよ‼︎」

 

あきつ丸を執務室に残し、ジープの発着場に来た

 

「元帥のお迎えですね。伺っております」

 

着いた途端に、受付から一号車のキーを渡された

 

「してやられた感が凄いな」

 

「お母さんのこった。お父さんの事見透かしてんじゃね〜のかぁ⁇」

 

「まぁなっ。借りるぞ〜」

 

「お気を付けて」

 

朝霜を助手席に乗せ、シートベルトを着け、ジープのアクセルを踏んだ



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236話 ミラクル☆オヤシオ(2)

ミラクル☆オヤシオの必殺技は何かな⁇


横須賀達のいるビスマルクインダストリービルに向かう途中、海岸線が見える高速道路を走る

 

朝霜はずっと外を見ている

 

「お母さんが言ってたよ。この高速、いざって時に滑走路にするらしい」

 

「高速を滑走路にするのはよっぽどの時だ」

 

この高速道路、しばらくやたら真っ直ぐな場面がある

 

しかも高速道路を降りられる場所は都市型居住区の近くにもある

 

もう一つ言うならば、第一居住区にも繋がっている

 

万が一この付近に攻め込まれた…もしくは何らかの事情でここから飛ばして燃料を節約するしかない場合、中央分離帯を外して防衛の為の航空機を飛ばすのだろう

 

「お父さんはあるか⁇」

 

「下道なら何度かある」

 

「どんなだ⁉︎」

 

「トンネルの中に戦闘機を入れるんだ。そこから道路を走って飛ぶ」

 

「ほぇ〜…今はどうなってんだ⁇」

 

「元の国道に戻ってるらしい。滑走路の代わりになる位広い道路だったからな」

 

「何かスゲェな‼︎」

 

「激戦区のド真ん中だったからな。トンネルは戦闘機を隠すのに丁度いい」

 

「物は考え様だなぁ」

 

「さっ、降りるぞ〜」

 

昔話をしていたら煌々と光るビスマルクインダストリービルが見えて来た

 

それを目印に、高速道路を降りる

 

 

 

 

「おぉ〜‼︎ここスゲェな‼︎」

 

ビスマルクインダストリービルの駐車場に車を停め、朝霜が先に降り、街を見渡している

 

段々と都市型居住区の方も活気が出て来た

 

その内、眠らない街…とでも言われる日が来るのだろうか

 

「後で回ろう。ジェミニの事だ。多分ここで晩飯食うとか言うだろうしな」

 

「おしゃ‼︎なら早いとこ迎えに行くか‼︎」

 

早速ビスマルクインダストリービルに入る

 

「ようこそ、ビスマルクインダストリーに。本日はどの様なご用件でしょう⁇」

 

「ジェミニと親潮を迎えに来た」

 

「少々お待ち下さいませ」

 

何処かで見た受付嬢は、目の前のPCを使い登録されている人かどうか確認し始めた

 

「マーカス様でお間違いないですね⁇」

 

「そっ」

 

「アタイは朝霜‼︎」

 

「社長にお繋げしますね。此方をご覧下さい」

 

受付嬢はモニターに手を向けた

 

《あらマーカス‼︎ジェミニのお迎えね⁇》

 

すぐにモニターにビスマルクの顔が表示される

 

ビスマルクも元気そうだ

 

「そっ。朝霜も一緒に連れて行って良いか⁇」

 

《えぇ‼︎勿論よ‼︎楽しんで帰ってね‼︎》

 

「ありがとございます‼︎」

 

朝霜がモニター越しのビスマルクに手を振る

 

ビスマルクもそれに答え、朝霜に手を振り返しモニターが切れた

 

「では、ご案内致しますね」

 

エレベーターに乗り、ジェミニ達がいる改装を目指す

 

「動物園の受付は辞めたのか⁇」

 

「今日はお休みなんですの。向こうに三日、此方に二日。もしくはその逆ですの」

 

「なるほどな…」

 

「この街も、あの街も…三隈にとっては帰る場所ですわ⁇」

 

三隈の一言で、少しほっこりした

 

自分が一番好きな街を

 

「俺が言うのも何だが、ありがとうな」

 

三隈は前を向いてはいるが、微笑んでいた

 

「着きましたわ」

 

「ありがとう」

 

「あんがとな‼︎」

 

エレベーターを降りると、いつもは橘花☆マンを撮影している場所に来た

 

「マジカル☆ジェミニ‼︎参上‼︎」

 

「ミラクル☆オヤシオ‼︎見参‼︎」

 

「ボンバー☆スズチャン‼︎爆参っ…‼︎」

 

目の前で何処かで見た奴がフリフリの服を着て決めポーズをしている

 

「ははは‼︎おいお父さん見ろよ‼︎」

 

「ま、マジ、カ…何だって⁇」

 

「必殺技をお願いします」

 

撮影担当の一人がそう言うと、三人は必殺技の体勢に入った

 

「マジカル〜☆ナッコゥ‼︎」

 

「ミラクル☆ネットパンチ‼︎」

 

「燃料気化☆手榴弾っ…‼︎」

 

 

 

マジカル☆ジェミニ…右の拳の殴打

 

ミラクル☆オヤシオ…SNSで敵の動画をコメント付き投稿。敵出て来たなう

 

ボンバー☆スズチャン…ヤバそうなネーミングセンスの手榴弾を敵の足元にポイ

 

 

 

見てくれは魔法使い…いや、魔法少女の様な団体だが、やっている事に魔法のまの字も無い‼︎




マーカスが話していたトンネル滑走路はモデルがあります

分かる人いるかな⁇


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236話 ミラクル☆オヤシオ(3)

横のスタジオでは橘花☆マンの撮影をしている

 

今日はいつものアクションシーンではなく、会話シーンの撮影らしい

 

その為、いつもとスタジオが違うのだが…

 

「橘花、景雲、メッサーシュミット262…ジェットの先触れがこうも揃うとはな…」

 

「敵の量産型コメットも含めるとかなりだな」

 

健吾とアレンが飲み物片手に真面目に話しているシーンだ

 

「橘花☆マンもメッサーシュミッターもカッコイイよな…」

 

朝霜も橘花☆マンが好きらしい

 

健吾とアレンの普通の会話シーンみたいだが、三つのアクタースーツがズラリと並んでいる光景は圧巻であり、会話しているだけでもカッコイイ

 

…マジカル☆ジェミニと随分違う

 

「あらレイ‼︎迎えに来てくれたの⁇」

 

撮影を終えた横須賀が出て来た

 

「朝霜の社会見学を兼ねてな。マジカル☆ジェミニねぇ…」

 

「橘花☆マンの後に放送する女の子向けの特撮よ⁇」

 

つまり、日曜の朝っぱらからマジカル☆ジェミニは放送するらしい

 

「女の子向けの特撮なぁ…」

 

流石の朝霜も若干引いている

 

「なによ」

 

「女の子向けの特撮でおもっクソ物理攻撃はアタイでもダメだと思うぜ…」

 

「マジカルなんだから魔法使えよ…」

 

「放送見たら分かるわよ‼︎」

 

「創造主様‼︎朝霜様‼︎」

 

親潮と涼月も出て来た

 

「おー‼︎親潮‼︎似合ってんぜ‼︎」

 

「ありがとうございます、朝霜様‼︎」

 

朝霜に褒められ、親潮はご満悦

 

「涼月もなっ⁇」

 

「良かったですっ…‼︎」

 

危ない…

 

真顔でピンに手を掛けていた…

 

「親潮と朝霜はいつもあんな感じか⁇」

 

俺、横須賀、涼月の目線の先には、親潮がポーズを取る前で朝霜がタブレットで写真を撮っている

 

「そっ。仲良くて助かるわ⁇」

 

「親潮さんはジェミニさん。朝霜さんはマーカスさんに似ていますっ…‼︎」

 

「よく言われるよっ‼︎」

 

「よく言われるわっ‼︎」

 

「終わったぁー‼︎」

 

「くぁー‼︎」

 

橘花☆マンの撮影が終わった健吾とアレンが、大きく伸びをしながら出て来た

 

「健吾、アイちゃん来るまで飯でも食うか‼︎」

 

「うんっ‼︎あ、レイさん‼︎」

 

「よっ‼︎」

 

「おっ、そうか。今日は確か新番組の撮影があったんだな⁇」

 

「マジカル☆ジェミニだよ」

 

「マジカル…」

 

「ジェミニ…」

 

健吾もアレンも横須賀に目を向ける

 

「アンタ達の橘花☆マンとメッサーシュミッターみたいなもんよ‼︎」

 

「俺達が男の子向けなら、ジェミニさんは女の子向けの特撮ですね‼︎」

 

「健吾は物分りが良いから好きよ。ね⁇レイ⁇アレン⁇」

 

「橘花☆マン超えると良いな」

 

「ま、まぁ…あれだ。視聴者層が違うから…なっ⁇」

 

「まぁいいわ。さっ‼︎みんなでお夕飯にしましょう‼︎レイのおごりだって‼︎」

 

「ちょ‼︎な、何だと⁉︎」

 

横須賀は着替える為に二人の背中を押し、別の部屋にそそくさと消えた

 

「ま、まぁいい‼︎ここには食う所はタッチバックスしかねぇからな‼︎たかが知れてらぁ‼︎はっはっは‼︎」

 

腰に手を当てて高笑いをする

 

コーヒー位の打撃ならたかが知れている

 

これなら大丈夫そうだ

 

「コマンダンテストのフランス料理店があんぜ」

 

朝霜がタブレットで都市型居住区の地図を開けている

 

「はっはっは…は⁇」

 

高笑いが止まる

 

凄く高そうな料理の名前が聞こえた

 

「朝霜ちゃん。あのビルの最上階か⁇」

 

「だな‼︎新しく出来たみたいだから、お母さんも視察したいんかもな‼︎」

 

「なっ…あ…」

 

アレンと朝霜が窓から場所を確認している

 

ふ、フランス料理だと…

 

これは財布大爆発だぞ‼︎

 

「れ、レイさん…」

 

気まずそうな健吾が肩に手を乗せようとしてくれた

 

「…横須賀褒めた方が良いかな」

 

「今からでも遅くないですし、フランス料理じゃないかも知れませんよ⁇」

 

「よし」

 

朝霜とアレンが窓際で楽しそうに話しているのを余所に、俺と健吾は横須賀を待ち受ける

 

「さー‼︎いっぱい食べましょうねー‼︎」

 

「親潮、初めてです‼︎」

 

「涼月もですっ…‼︎」

 

「横須賀‼︎マジカル☆ジェミニ可愛かったぞ‼︎」

 

「なによ」

 

「そりゃあもう女の子やら若い奴にはバカウケだ‼︎色気もあるしな‼︎な‼︎健吾‼︎」

 

「勿論ですっ‼︎」

 

「今更言っても遅いわよ〜だ‼︎べ〜っ‼︎さっ‼︎行きましょうね〜‼︎」

 

横須賀は俺と健吾に舌を見せ、一足先に二人を連れてエレベーターで下に降りた

 

「終わった…」

 

それと同時に、俺は膝から崩れ落ちた

 

「ははははは‼︎一本取られたなレイ‼︎」

 

「ゴチんなんぜ‼︎」

 

「うぬぐぐぐ…こうなりゃ‼︎」

 

俺はエレベーターに走り、自動扉を開けようとした

 

「レイ‼︎」

 

「レイさん‼︎」

 

「お父さん‼︎」

 

三人に羽交い締めにされ、食い止められる

 

「離せ‼︎こうなりゃエレベーターのケーブルを切り落とすしかねぇんだ‼︎」

 

勿論やるはずはないが、現状そうでもしないと財布が爆発する‼︎

 

「冗談だよ‼︎」

 

「フランス料理なんてねぇって‼︎ちょい遅めのエイプリルフールだって‼︎なっ⁉︎」

 

それを聞き、体の力を抜いた

 

「じゃあ何食うの」

 

「”かむかむ”って店の焼肉だってお〜」

 

「何だそれ」

 

「焼肉だよ。国産和牛のな」

 

「やっぱケーブル落とす‼︎」

 

再び体に力を入れる

 

国産和牛もマズい‼︎財布が爆発する‼︎手持ちが足りない‼︎

 

「食べ放題があっから‼︎」

 

「ジェミニも考えてるっての‼︎」

 

「そうっすよ‼︎」

 

「よし…お前達を信じよう」

 

これ以上抵抗してももう変わらない

 

意を決して、エレベーターを降りた…



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236話 ミラクル☆オヤシオ(4)

親潮の焼肉の焼き方

そしてジェミニの好きな事とは…⁇


下に降りると、タブレットに連絡が入った

 

 

 

ぜみに> 本屋のビルの隣。そこの最上階の1つ下よ。全員連れて来て

 

リヒター> 分かった

 

 

 

「あのビルらしい」

 

ほとんどが本屋になっているビルの隣に、飲食専門のビルが出来た

 

今はまだ数は少ないが、言っている間にテナントが入るだろう

 

またエレベーターで上まで上がる…

 

「スゲぇ…」

 

「わぁ…」

 

「おぉ〜‼︎」

 

「おぉ‼︎」

 

エレベーターに乗った全員が声を上げた

 

エレベーターの中は強化ガラスなっており、上に上がるに連れて都市型居住区が眼下に来た

 

エレベーターのガラスの向こうに、夜景が広がっている

 

「アタイ達も空から見っけど、これは別だな‼︎」

 

朝霜の言葉に、三人共頷いた

 

もう少し見ていたい気もしたが、目的の階層に着いた

 

「かむかむ…おっ、あったこれか」

 

「いらっしゃい‼︎やっと来てくれた‼︎」

 

橙色の髪をした少女が出迎えてくれた

 

「来た来た‼︎こっちよ‼︎」

 

横須賀にも出迎えられ、俺達は焼肉”かむかむ”に入った

 

「いらっしゃいませ‼︎店長の”陽炎”です‼︎」

 

先程の橙色の髪の子がメニューを持って来てくれた

 

「陽炎…」

 

「ここの店も退役した子が働いてるのよ⁇」

 

「なるほどな」

 

「当店はオーダー制の食べ放題となってますので、お気軽にご注文下さい‼︎」

 

「じゃあこの縦一列全部と、ライスを人数分。それと、この店で一番高い肉を頂戴」

 

「はいっ‼︎かしこまりました‼︎」

 

オーダーを聞き、陽炎は厨房に入って行く

 

「かむかむねぇ…」

 

何かに気付いた横須賀は頬杖をついてニヤつく

 

「お肉をちゃんと、かむかむ‼︎して食べて下さい‼︎と言う意味では⁇」

 

親潮のかむかむの仕草が可愛くて、男三人がほっこりする中、横須賀はまだニヤついている

 

「かむかむ、陽炎…ふふっ…」

 

その二つを言われ、俺だけが気付いた

 

「隊長辺りしか分からんネタを親潮に放り込んでやるな」

 

「ふふっ。はいはいっ‼︎」

 

「何でしょうか…」

 

「ジェミニのしょーもない思い出し笑いさっ」

 

「お待ちどうさま」

 

今度は薄紫色の髪の子が来た

 

「おっ‼︎来た来た‼︎」

 

机に置かれて行く、生肉が乗った皿の数々

 

「涼月はどうした⁇」

 

前の席には横須賀、親潮、朝霜

 

涼月がいない

 

「そこに居るわ⁇」

 

「マーカスさんっ…‼︎」

 

隣の席に涼月がいた

 

「本当にそっちでいいの⁇」

 

「涼月は沢山食べますからっ…‼︎皆さんにご迷惑にならないようにっ…‼︎」

 

「分かったわ。その代わり、沢山食べるのよ⁇」

 

「はいっ…‼︎」

 

涼月はあっちで良いみたいだ

 

「レイ。焼いて頂戴」

 

「へ〜へ〜」

 

「創造主様。親潮にも教えて下さい‼︎」

 

「んっ‼︎いいぞ‼︎」

 

親潮にお肉の焼き方を教える

 

「まず、生肉は別のお箸かトングで掴む」

 

「これですね」

 

俺も親潮も専用のトングを持つ

 

「一枚一枚丁寧に網の上に置く」

 

「ぺちょ」

 

効果音付きで、親潮はお肉を網の上に置く

 

「少ししたら裏返して、逆側も焼く」

 

「よいしょっ」

 

少しこんがりと焼けて来た

 

ジェミニも朝霜も焼かれて行く肉に目が行っている

 

「それを2回ほど繰り返したら、両面に焼き色が付いたら、お箸を持ちかえて誰かに渡すか、取ってもらうんだ」

 

「では…アレン様と柏木様から‼︎」

 

「頂きまぁ〜す‼︎」

 

「頂きますっ‼︎」

 

親潮はアレンと健吾に焼いた肉を渡し、また次の肉を焼き始めた

 

「最後に、自分の分はある程度自分の皿に貯めておく。じゃないとジェミニが全部食う」

 

「親潮のは取らないわ⁇」

 

この時点で親潮”のは”と来た

 

「俺のは‼︎」

 

「アンタのは取るわよ。取らない方が悪いのよ‼︎」

 

「頂きぃ‼︎」

 

言い争っている内に脇から朝霜が肉を取って行った‼︎

 

結局、俺だけ焼く係になり、ほとんど食えずに五人が食べる様子を眺めていた

 

「遅いですよっ…‼︎」

 

「し、不知火に落ち度は無かったはず…そんな馬鹿な…」

 

左を向くと、涼月が不知火と言う店員を圧倒している

 

焼くスピードより、涼月が食べるスピードの方が圧倒的に早い

 

「不知火に落ち度は無かった…無かったんだ‼︎」

 

「あまり涼月を失望させないで下さいっ…‼︎さぁ、ボヤく暇があれば焼いて下さいっ…‼︎」

 

「くっ…はい…」

 

不知火は落ち度は無かったと言い続けるが、涼月は真顔で肉を食べて行く

 

「美味そうに食うな、涼月⁇」

 

「はいっ…‼︎とってもっ…‼︎」

 

不知火には真顔だが、俺には笑顔を送る涼月

 

…若干照月に似て来た気もする

 

一時間後…

 

「あ〜…食った食った…」

 

「お腹いっぱいだなっ‼︎」

 

「…」

 

それぞれが満腹になる中、横須賀が机に肘をつき、それを頭に置きながら手帳に何か書いている




陽炎…焼肉かむかむ店主

都市型居住区のビルの中にある、焼肉”かむかむ”の店主

結構安いのに、高品質の国産牛を食べられる

来店した客に対し「やっと来た‼︎」というのが口癖

不知火を唯一制御出来る貴重な退役艦娘




不知火…おちど

焼肉”かむかむ”副店主

仕事は出来るし焼肉も上手に焼ける

しかし、過重労働になったり切羽詰まるとおちどしか言わなくなる

涼月の焼肉を焼いていた際に、おちおちどどちお等と口走っていたのはその為

その時はグレープジュースを飲めば回復する



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236話 ミラクル☆オヤシオ(5)

「何書いてんだ⁇」

 

「ここの味とか品質とか値段設定よ。どの客層にはどの商品を売ればいいとか、粗方まとめてるの」

 

「お前それだけは真面目だよな」

 

「元から好きなのよ。それに、ここも私の管轄になるわ。責任問題は私に降りかかるの。顧客には満足行く代金設定で美味しいの食べて貰って、黙ってもう一回来てくれた方がマシだわ⁇」

 

「ま、真面目な事言ってやがんぜ…」

 

朝霜のドン引きした顔を皮切りに、男衆のイヤミが始まる

 

「明日は雪だぞ…」

 

「健吾。基地に除雪機あったか⁇」

 

「あ〜…工廠に小さいのなら。あれなら俺も乗れるよ」

 

遂に健吾までノリ始めた‼︎

 

「言いたい事言って…」

 

「褒めてるんですよ、ジェミニ様っ‼︎」

 

「何処がよ」

 

「皆さん、口角が2度から5度上がっています」

 

「だぁ〜‼︎親潮にはバレたかぁ‼︎」

 

「流石は親潮ちゃんだぁ‼︎」

 

「見抜かれてますね〜‼︎」

 

「ふふっ‼︎」

 

「まぁ…あれだお母さん。お母さんの経営能力は皆んな買ってる。じゃなきゃ、横須賀にあるあれだけの店の売り上げを全部一定で安定させるなんて無理なこった‼︎」

 

「そんな事出来るのか⁉︎」

 

流石にこれには驚いた

 

「それくらい簡単よ。売り上げが悪そうならば、会議とか視察に来た高官をそこに回したり、民間人に解放する日に配るパンフレットに大々的に乗せたりとか」

 

「「「へぇ〜…」」」

 

これには全員が感服した

 

普段視察とか言ってその辺で食いまくっていると思えば違っていた

 

「言われてみれば、視察してる時に探しに行くと毎回違う店にいるな⁇」

 

「そゆことっ‼︎全部均等に回って、そこを把握しなきゃ纏められないわ⁇一つが売り上げを占めてもダメ、一つが売り上げ不足でもダメ。総売上が100%なら、すべてのお店が誤差ありきで大体均等に10%とかじゃなきゃダメなの。それが長く続くコツよ⁇」

 

「見直したよ…」

 

「ふふん、もっと褒めなさい⁇」

 

「親潮や朝霜様達同伴させて頂いているのは、子供の意見を聞くためだと存じ上げています」

 

「んふ〜‼︎」

 

横須賀のドヤ顔がヒジョーにムカつくが、やっている事は賞賛されるべき事だ

 

「まっ。店側にも少しは協力して貰うわ。新メニューを考えたりね」

 

「例えば⁇」

 

「少し前なら、鳳翔さんの所かしら。ずいずいずっころばしのお魚と一緒に白身魚を入荷する事になったの」

 

話はこうだ

 

瑞鶴の回転寿司では毎日大量の魚を仕入れ、それを使ってお寿司を作る

 

安定した魚の量を確保する為に近場の漁業組合と提携を結んでいる事は知っている

 

しかし、そこはやはり互いに商売

 

漁業組合には大量に余った魚を買って欲しい時があった

 

横須賀は各店舗に回り、その魚の新メニューを考えてくれる人を探し始め、鳳翔さんが白身魚の天ぷらを新商品として出す事になった

 

これにより、鳳翔さんはランチメニューを出せるようになった

 

「昼間から夜までか…」

 

「その所は心配ないわ。昼間は千歳と千代田が天ぷら揚げてるから」

 

「手が空いたら行くか‼︎」

 

「天ぷらかぁ…最近食ってねぇしな⁇近々行くか‼︎」

 

「ワンコも誘っていい⁇」

 

「おー‼︎呼ぼう呼ぼう‼︎」

 

「へへ…ヤンキー四人衆だぜ‼︎」

 

男衆が楽しく話す中、女衆は和かに見守る

 

「たまには色んなとこ回ってあげて⁇結構新メニューとかがある店もあるわよ⁇」

 

「オーケー‼︎よしゃ‼︎そろそろ出るか‼︎」

 

いざ皆が立ち上がろうとした時、涼月にも声を掛けようとした

 

「お、ちど…おち、どち、お…」

 

「さぁっ…‼︎」

 

「うぅ…」

 

不知火がノイローゼになっている‼︎

 

それでも涼月は口をモグモグしながら不知火を真顔でガン見する

 

「涼月。いっぱい食べたか⁇」

 

「はいっ…‼︎」

 

 

こりゃ満腹じゃねぇな⁇

 

しかし、このままだと不知火が泡を吹…

 

吹きかけてるのか‼︎

 

「し、不知火‼︎しっかりしろ‼︎」

 

「おちおちおちどど…おおおちど…」

 

「陽炎‼︎」

 

「はーい‼︎あーもう不知火‼︎」

 

「おちど」

 

不知火は落ち度しか言わなくなっている

 

「ほらっ。これ飲んで‼︎」

 

陽炎が渡したのはグレープジュース

 

それを不知火は一気に飲み干す

 

「不知火に落ち度はありません」

 

「治った…」

 

「不知火は定期的にグレープジュースを飲まないと落ち度しか言わなくなるのよ…」

 

「大丈夫か不知火」

 

「はい。何ら問題ありません」

 

「スゲェ…」

 

「さぁ、涼月さん。次はカルビとタンです」

 

「いえっ…‼︎今日は帰りますっ…‼︎とてもっ、美味しかったですっ…‼︎ありがとうございましたっ…‼︎」

 

「そうですか。では、またのご来店を」

 

「また来て下さいね‼︎」

 

「ビスマルクによろしく伝えといて⁇あ。代金は横須賀に回して頂戴」

 

「畏まりました‼︎」

 

こうして、ジェミニの知らない事がまた知れた1日が終わった…

 

帰りのジープの中…

 

俺以外は、疲れからかイビキをかいていた

 

俺一人だけが、夜景で煌めく都市を眺めながら、高速を走っていた…

 

 

 

 

後日…

 

「親潮‼︎大変よ‼︎」

 

「な、何でしょう‼︎」

 

「マジカル☆ジェミニのフィギュアが飛ぶ様に売れてるわ‼︎」

 

「やりましたね‼︎」

 

かなりのクオリティで、提督服とマジカル☆ジェミニの衣装の着脱が可能だが、定価30000円という中々高額な価格にも関わらず、何故かマジカル☆ジェミニのフィギュアが飛ぶ様に売れた…

 

購入者年齢層

 

成人男性…98%

 

一体何に使うのか…永遠の謎である




マジカル☆ジェミニフィギュア…用途不明フィギュア

マジカル☆ジェミニが放送開始した記念に発売された1/3フィギュアであり、抱き枕に丁度良いサイズだが、30000円と高価

全身柔らか素材で、全身可動するが、ちゃんと関節部を隠してある等、非常にリアル

服の着脱もマジカル☆ジェミニと提督服に着脱可能

服の下の再現もされており、黒いレースのブラジャーとそれと同じ素材のガーターベルトとパンツを身に付けている

何故か購入者が成人男性が多いが、用途は不明


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237話 龍が愛した騎士(1)

さて、236話が終わりました

今回のお話は、誰かが試作機を造った所から始まります

果たして何の機体なのか…

そして、パイロットは誰なのか…


「出来たかも‼︎」

 

横須賀の工廠の片隅で、内緒でずっと造っていた試作機が出来上がった

 

それを造り上げたのは秋津洲

 

明るめの橙色のその機体は、レシプロ機

 

本来なら爆撃機として生まれるはずだった機体を、秋津洲は再びこの世に生を受けさせた

 

「んっふっふ…みんな秋津洲を見直すかも‼︎」

 

 

 

 

次の日…

 

俺と隊長がサンダースの演習終わりに埠頭でタバコを吸っていた時、その機体はお目見えした

 

「レイ。あれは何だ⁇」

 

「さぁ…カラーリング的に試作機っぽいな…」

 

明るめの橙色をしたレシプロ機が表に出て来た

 

「レイさん‼︎ウィリアムさん‼︎」

 

秋津洲が来た

 

「あれ乗る人を探してるかも‼︎」

 

「お前が乗りゃあいいだろ⁉︎」

 

「二式大艇を操縦出来るならあれ位朝飯前だろう⁇」

 

「いやぁ〜、大型は運転出来るけど、小型は無理かも。加速の具合とか全然違って…」

 

「なるほどな…確かに操縦の感覚は違う」

 

「分かった。俺が行こう」

 

「お願いするかも‼︎」

 

「どれっ。様子を見てやろう」

 

秋津洲に着いて行き、工廠の近くに来た

 

「あぁ‼︎来た来た秋津洲さん‼︎」

 

工廠の前には明石がおり、サンダースの連中と話していた

 

「パイロット見つかったかも‼︎」

 

「うぇ⁉︎私も見つけたんですけど⁉︎」

 

「おぉ。南山か‼︎」

 

「爆撃機じゃないか‼︎」

 

秋津洲が造り上げたのは南山

 

当時造り上げたは良いが、数機しか完成しなかった非常に珍しい機体だ

 

「何で知ってるかもぉ〜」

 

俺達が南山をキョロキョロ見てると、すぐに秋津洲が反応した

 

「資料とか山程見たからな」

 

「昔の機体でもある程度は分かるさ」

 

「はぇ〜…」

 

「明石。乗る奴は誰だ⁇」

 

「あ、はい‼︎サンダース隊の方をお一人試験飛行に‼︎」

 

「何だと⁉︎」

 

てっきり親父か誰かと思っていたが、まさかサンダースから引っ張るとは…

 

「自分ですよ、隊長」

 

「おぉ…」

 

サンダース隊4人目の隊員、森嶋

 

涼平

 

園崎

 

高垣

 

に続く、サンダース隊で名を明かした人物でもある

 

皆苗字だが、涼平は涼平で定着しているので、横須賀さえ涼平と呼んでいる

 

一応言っておくが、涼平の苗字は綾辻だ

 

サンダース隊の残りはあと一人

 

結婚して妻がいるアイツを残すのみだ

 

アイツの名が明らかになるのはもう少し先として…

 

森嶋は普段、他のメンバー4人の電子支援に回る事が多い

 

そう。サンダース隊に充てられた震電はそれぞれ少しずつ性能が違う

 

涼平は対空ロケット4発

 

園崎は対地爆弾2発

 

高垣は主翼下ハードポイント機銃左右一門ずつの計二門

 

森嶋は電子支援装備が機体に内蔵されている

 

俺達で言うとグラーフが非常に近い役割だ

 

だが、当の本人は自身の重要さに気付いていないのか、時たま前に出過ぎる事があるのが玉にきずだ

 

「飛ばせれるか⁇」

 

俺は腰に手を当てて

 

森嶋はヘルメットを脇に抱きながら南山を見上げる

 

「えぇ。マニュアルは読みました‼︎」

 

「煙が出ますって書いてあったか⁇」

 

隊長もジト目で森嶋に視線を送る

 

「書いてなかったです‼︎」

 

「よし、チェンジだ‼︎親父辺りを呼んで来る‼︎」

 

「隊長。自分、別の機体も慣れておきたいんです」

 

「ダメだダメだダメだ‼︎」

 

「ならんならんならん‼︎」

 

俺も隊長もブンブン首を横に振る

 

「どうしても行くのか、森嶋」

 

「やらせて下さい‼︎」

 

隊長が説得しても、森嶋の決意は固い

 

「時間がないのでいつものアレで決めます」

 

「分かりました‼︎」

 

俺、隊長、森嶋の三人が輪になる

 

「恨みっこなしだぞ⁇」

 

「行くぞっ‼︎」

 

「「「せーのっ‼︎」」」



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237話 龍が愛した騎士(2)

早い話で800ページ目です

節目節目でご挨拶をする様にしていますが、抜けている場合もございます。ご了承下さい

ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございます

そして、これからもどうかよろしくお願い致します


「行ってしまわれた…」

 

「煙吹かなきゃ良いがな…」

 

滑走路から飛び立つ、森嶋搭乗南山

 

「そらパーはチョキに弱いわな…」

 

「あれで決まるのは恨みっこなしさ」

 

言ってもキリがないので、結局ジャンケンで決着を付けた

 

俺…パー

 

隊長…パー

 

森嶋…チョキ

 

一撃で二者撃沈

 

森嶋は飛び立った

 

南山が見えなくなるまで、俺達は埠頭で行く末を見ていた

 

森嶋が行う事は大まかに三つ

 

・離陸の確認

 

・標的に対し投下爆弾による試験爆撃

 

・スカイラグーンにて着陸及び給油

 

この三つだ

 

離陸は上手く行った

 

次は試験爆撃だ

 

「クラーケンを使おう」

 

「あれなら範囲内までは追えるな」

 

立体レーダー・クラーケンで南山を追おうと、執務室に来た

 

「来たわね。出てるわよ」

 

執務室に入ると、既に横須賀が立体レーダーを起動していた

 

南山は無事に試験爆撃の標的に近付いて行っている

 

「無線をくれ」

 

横須賀から渡された無線を使い、南山の中にいる森嶋に繋げる

 

「こちらワイバーン。ファイヤナイト、聞こえるか」

 

《ファイヤナイトよりワイバーン。よく聞こえます》

 

「まもなく試験爆撃の標的だ。南山は震電と違って安定性がある。しっかり狙えるまで、何度もやり直していいからな」

 

《了解です》

 

一瞬無線を切り、立体レーダーに向かって話しかける

 

「クラーケン。南山に内部カメラはあるか⁇」

 

《ございます。立体レーダーの上部に表示します》

 

「頼む」

 

クラーケンの対話インターフェイスとの会話を終えてすぐ、立体レーダーに南山のコックピット内が表示された

 

「快適そうだな、ファイヤナイト」

 

《震電より少し広く感じます》

 

「試作機とはいえ、元は爆撃機だからな。標的は見えたか⁇」

 

《見えました‼︎》

 

立体レーダーにもそれはしっかりと表示された

 

《えっ⁉︎》

 

「あ⁉︎ダイダロスだと⁉︎」

 

「味方だぞ‼︎」

 

何故かターゲット表示になっているのは、大湊のレーダー艦、ダイダロス

 

「ファイヤナイト‼︎そいつは味方だ‼︎試験爆撃中止‼︎」

 

《了解‼︎》

 

立体レーダーに表示された南山が、爆撃体勢をやめて空中で大きく旋回する

 

「ファイヤナイト。聞こえる⁇」

 

無線を取ったのは横須賀

 

《聞こえます、クラーケン》

 

「マニュアルを見たとは思うけど、南山に積まれている爆弾は火薬も信管もない、ただ重さを同じにした鉄の塊よ」

 

《ですが‼︎》

 

「向こうも向こうで訓練があるのよ。その代わり、ピンポイントで爆撃なさい。いいわね⁇」

 

《了解しました‼︎再度、爆撃体勢に入ります‼︎》

 

横須賀が無線を切ってすぐ、俺と隊長が意見する

 

「正気か⁉︎いくら火薬も信管も無いとは言え、あんなもん高高度から叩きつけられたらタダじゃすまんぞ‼︎」

 

「ダイダロスにはまともな武装が無いんだろう⁇」

 

俺達の意見を聞き、横須賀はニヤリと笑った

 

「事前情報無しで敵に挑むのは、戦場では日常茶飯事でしょ⁇」

 

この表情と言い方を見る限り、ダイダロスには何か新しい艤装が積まれている

 

《投下‼︎》

 

話している間に、南山が爆弾を投下した

 

「投下コースは完璧だが…」

 

「問題はダイダロスだ」

 

「心配しないで」

 

立体レーダーでは、爆弾を投下した南山が離れて行くのが見える

 

が、ダイダロスは動かない

 

《対爆速射砲、撃ち方始め‼︎》

 

ダイダロス艦内の無線が聞こえた瞬間、一発だけ砲撃音が響いた後、爆弾が空中で消えた

 

《爆弾、空中で消滅‼︎》

 

「こちらでも確認したわ。試験爆撃成功よ‼︎」

 

《このままスカイラグーンに向かいます‼︎》

 

「ゆっくり休憩して帰るのよ。少し遅くなっても構わないからね⁇」

 

《了解です‼︎ふぅ…》

 

スカイラグーンに行くまでの最後の無線通信を終え、横須賀は無線を切った

 

「ダイダロスに対爆速射砲を搭載したの。それの試射をさせて貰ったわ⁇」

 

「なるほどな。互いに実戦に近い経験を積ませた方が良いからな」

 

「頼むから次からは俺達には言ってくれ」

 

「いやよ。毎度毎度敵が事前情報くれるわけないじゃない」

 

「ったく…分かったよ‼︎」

 

「聞き分けの良い子は好きよっ」

 

喋りながらも立体レーダーは見ていたが、再度無線を手に取った

 

「ワイバーンからファイヤナイト。そっちの調子はどうだ⁇」

 

《快適で…ゲホッ‼︎》

 

「ファイヤナイト‼︎ファイヤナイト応答しろ‼︎」

 

いざほとんどの工程が終わろうとした時、秋津洲謹製の悪い癖、白煙噴出が出てしまった

 

《エッ、エンジンから煙がっ‼︎前がっ、ゲホッ…見えません‼︎》

 

「しっかりしろ‼︎操縦桿を握るんだ‼︎いいか⁉︎絶対離すな‼︎」

 

《…》

 

一瞬、森嶋からの無線が途絶えた

 

「ファイヤナイト‼︎」

 

《息がっ…》

 

「ベイルアウトしろ‼︎お前の方が大事だ‼︎」

 

《了解しま…》

 

「ファイヤナイト‼︎おい‼︎森嶋‼︎」

 

森嶋からの無線が完全に途絶えた

 

「ベイルアウトは‼︎」

 

「確認した‼︎救助を出す‼︎」

 

「横須賀‼︎」

 

「今スカイラグーンに打電したわ‼︎」

 

ベイルアウトした地点はスカイラグーンから目と鼻の先

 

既にスカイラグーンから救助が出ている

 

「俺達も行こう」

 

「よし。横須賀、ここは任せた」

 

「上空から森嶋と南山の視認をお願いします。レイ、頼んだわ‼︎」

 

急ぎ足で執務室を出て、それぞれの機体に向かう

 

「あ‼︎お二人さ〜ん‼︎」

 

何も知らない秋津洲が来た

 

「秋津洲の南山はどうかも⁇」

 

「途中で消息を絶った。私達が今から確認して来る」

 

「え…」

 

秋津洲の顔が一気に青ざめる

 

「機体を潰したのは謝る。だが、今は森嶋の安否確認が先だ」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

「気にするな。ベイルアウトはしてる」

 

「ごめんなさい…」

 

目が一点を見つめる状態になってしまった秋津洲を脇目に見て、二機はスカイラグーンに向けて飛び立つ…

 

 

 

 

「今救助を出したわ‼︎もう少し耐えなさい‼︎」

 

《…》

 

「心拍数が上昇していますが、バイタルに異常はありません」

 

「気絶してるのかしら…」

 

「恐らくは。親潮ももどかしいです。今は創造主様達を信じま…レーダーに反応‼︎」

 

横須賀と親潮が立体レーダーに目をやる

 

「スカイラグーンからの救援かしら…」

 

「いえ、違います。ただ、敵対組織では無い様子です」

 

立体レーダーに目をやりつつ、森嶋に繋ぎっぱなしの無線に耳を傾ける

 

森嶋がベイルアウトした地点に近付く、味方反応が一つ

 

《あれぇ〜⁇》

 

語尾の伸び代に特徴がある若い女性の声が無線から聞こえた

 

「森嶋少尉に接近…」

 

その女性が海上から森嶋を抱き上げる音が無線で聞こえた

 

《美味しそうですねぇ〜、頂いちゃいましょうかぁ〜》

 

女性は森嶋を肩に担ぎ、そのまま何処かへ連れ去って行った…



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237話 龍が愛した騎士(3)

「いた‼︎」

 

海上に落ちた南山が見えた

 

「ファイヤナイト‼︎森嶋‼︎応答せよ‼︎」

 

しかし、森嶋からの応答は無い

 

《今はスカイラグーンに降りよう。どの道戦闘機じゃ救助は難しい》

 

「了解」

 

スカイラグーンに降り立った俺達の目に映ったのは、慌ただしく動いてくれていた深海達

 

「イマ、ピーティータチモダシタ」

 

「集積地か。助かるよ」

 

「キニスルナ。ワタシハレンラクヲココデマツ」

 

「ヒッパレー‼︎」

 

「オイショー‼︎」

 

森嶋より先に南山が上がって来た

 

「コレ、キタイ‼︎」

 

「ナオス‼︎」

 

「パイロットサン、モスコシマッテネ」

 

「あぁ。ありがとうな」

 

深海達が南山を格納庫に置く為に、下に車輪等を置きながら数十人で牽引してくれている

 

「俺達より早く動いてくれてたのか…」

 

そう呟くと、口に綱を咥えた駆逐艦ハ級

のハリルが、一瞬だけ咥えた綱を放した

 

「トモダチダモン」

 

「な…」

 

ハリルはまた綱を咥え、南山を牽引し始めた

 

「サンダースノヒト、オカシクレル‼︎」

 

「ナデナデシテクレル‼︎」

 

「バイバイスルトキ、トチューマデイッショ‼︎」

 

そう言いだしたのは、横須賀の学校に通っている深海の子供達

 

「そんな事してたのか…」

 

サンダースの連中は、皆心の何処かに傷を負っている

 

涼平が一番分かりやすいかも知れない

 

一度失ったからこそ、何かを大切に出来る

 

今自分達がやるべきは何か…

 

それを全員、何となく把握している気もする

 

「キュウナンシンゴウ、イドウチュウ」

 

横に居た軽巡級の深海がレーダーを表示したモニターを持って来てくれた

 

俺と隊長は、深海軽巡の左右に屈み込んでモニターを覗き込んだ

 

「おかしい。こんな速さで動けるはずがない」

 

「誰かに担がれてるのか⁇」

 

「ナンダロネ」

 

異様な速さで森嶋の救難信号が移動して行く

 

「森嶋の治療をしに来たはいいが、当の本人が何処行ったか分からんのはキツイな…おっと」

 

タブレットに通信が来た

 

「どうした⁇」

 

《創造主様。森嶋少尉はトラック基地に向かわれております》

 

「トラックだと⁉︎」

 

《創造主様とウィリアム様の航空視認、横須賀からの救助隊、スカイラグーンからの救助隊より早く救助なされました》

 

「分かった。すぐに行く」

 

「私が残る。レイは森嶋を頼んだ」

 

「行って来る‼︎ありがとな‼︎」

 

「ウンッ‼︎」

 

親潮との通信を終え、スピーカー越しに話を聞いていた隊長がスカイラグーンに残ってくれる事になり、森嶋のいるトラック基地を目指す為にグリフォンに乗る

 

《ねぇ、レイ⁇》

 

「どうした⁇」

 

グリフォン状態のきそと話すのは久方振りな気がする

 

きそは最近、きそでいる事が多い

 

最近は大規模な空戦も少なく、今の内に普段からグリフォンに慣らしておく為に、はっちゃんやゴーヤが乗る事も多いからだ

 

しかし、今日の様な本気の時は、やはり最高の相棒で良かったと思う

 

離陸した後、グリフォンは話を続けた

 

《さっき、お母さんと親潮の音声データを確認したんだけど…救助してくれたのは蒼龍さんみたいだよ⁇》

 

「そりゃあマズイな…」

 

《再生するね》

 

再生された音声データには、本当に大変マズイ単語が残されていた

 

”美味しそうですねぇ〜”

 

「ヤバイ…蒼龍からしたら森嶋は筋肉質でご馳走だ‼︎」

 

《返して欲しいならぁ〜私を倒してくださいぃ〜とか言われたらどうするの⁇》

 

「そん時ゃっ、お前に頼るさっ‼︎」

 

《へへ、オッケー‼︎じゃあ行こう‼︎》

 

俺達はトラックへと急いだ…

 

 

 

 

「ただいまぁ〜」

 

「おかえりなさい、蒼龍⁉︎」

 

「おかえりなさ…ど、どうしたの⁉︎」

 

帰って来た蒼龍を見た衣笠と飛龍は、蒼龍を見るなり駆け寄った

 

肩にパイロットらしき人物を担いで帰って来たのだ

 

「天津風ぇ〜、浦波ぃ〜」

 

「蒼龍さん、おかえりなさい」

 

「おかえりです、蒼龍さん‼︎」

 

「ほぉ〜れ」

 

「わ‼︎ちょ‼︎」

 

蒼龍が二人に投げたのは、タウイタウイモールのビニール袋

 

「仲良く食べるんですよぉ〜」

 

中にはお菓子がミチミチに入っている

 

トラックさんのお菓子も勿論美味しいが、たまにはジャンクなお菓子も食べたくなる

 

そんな頃合いに、蒼龍は何故かいつも子供達にお菓子を買って来てくれる

 

「ありがとうございます。その方は⁇」

 

「蒼龍のご飯ですぅ〜」

 

「う、浦波‼︎ダメよ‼︎蒼龍さん、ありがと‼︎」

 

「はいはぁ〜い」

 

「ちょっ、蒼りゅ…」

 

「衣笠。ここは蒼龍を信じましょう⁇ねっ⁇」

 

「うん…」

 

衣笠の言葉に耳を傾けず、蒼龍は自室に入ってしまった

 

制止しようものなら蒼龍に余裕でパワー負けする衣笠と飛龍は、ただ見守る事と、パイロットの無事を祈る事しか出来ずにいた…

 

 

 

 

「お服脱ぎ脱ぎしましょうねぇ〜」

 

気を失ってはいるが、ちゃんと呼吸をしている森嶋の服を、蒼龍は一枚一枚丁寧に脱がして行く

 

「んんっ‼︎美味しそうですねぇ‼︎」

 

先程までおっとりとした話し方をしていたのが、筋肉を見た途端におっとりさが消えた

 

「つ、つまみ食いしても大丈夫ですよねぇ〜…いやいや、ここは我慢…」

 

どうやら蒼龍、もう少し筋肉を付けさせてから森嶋を頂きたいみたいだ

 

「うっ…」

 

独り言をボヤいていた蒼龍の声を聞き、森嶋が意識を取り戻した

 

「寒いですねぇ〜」

 

「何で自分服を…」

 

「海に落ちてましたからねぇ〜」

 

「あ…」

 

「お着替えしましょうねぇ〜」

 

話しながらでも、蒼龍はテキパキ服を脱がせて行く

 

「お父さんの服を頂戴しましたぁ〜。これを着ていて下さいねぇ〜」

 

蒼龍はシャツと上着、下着とズボンを森嶋に渡す

 

トラックさんの服だが、今は着ていないので森嶋が着ても大丈夫な服を蒼龍は見繕っていた

 

「あ…ありがとうございます」

 

「何か温かい物を作って来ますねぇ〜。それまでぇ〜」

 

「ゔっ‼︎」

 

蒼龍はいきなり森嶋の肩を掴み、ベッドに倒した

 

「ちゃんと横になってて下さいね」

 

蒼龍の声のトーンが低くなり、顔付きも真顔になる

 

「は、はひ…」

 

蒼龍に言われるがまま、森嶋はベッドで横になった

 

 

 

 

森嶋を自室に寝かせ、蒼龍は厨房で料理を始めた

 

「そ、蒼龍⁇」

 

「何ですかぁ〜⁇」

 

横須賀から連絡を受けたトラックさんが厨房に入って来た

 

「さっきの方は⁇」

 

「落ちてたから拾ったんですよぉ〜」

 

「横須賀のパイロットさんらしいな⁇」

 

「胃に入れば関係無いですねぇ〜」

 

トラックさんの顔を見向きもせず、蒼龍はお粥とスープを作り続ける

 

「落ちてたから蒼龍のモノですよぉ〜」

 

「そ、そっか‼︎蒼龍のモノだな‼︎そうだそうだ‼︎」

 

冷や汗を流すトラックさんが肯定し始めた時に、ようやく蒼龍はトラックさんの顔を見た

 

「蒼龍のアネキ‼︎横須賀のパイロットさンの様子は⁇」

 

「心配無いですよぉ〜」

 

カウンター越しに話し掛ける江風に反応はするが、目をやる事なく蒼龍は料理を作る

 

いつもは江風と目を見て話すのに、今日は料理を見て話している

 

蒼龍にとって、森嶋は久々に転がり込んで来た上玉の肉

 

それも筋肉質で大変美味そうな肉

 

美味しい食事でブクブク太った政治家の肉も蒼龍は好きだが、シンプルに筋肉質の肉も蒼龍は好きだ

 

本当は今すぐにでも歯を立ててムシャぶり付きたい

 

だが、ほとんど無抵抗な人を食べるのは面白くは無い

 

蒼龍は知っていた

 

助かったと思わせたその瞬間に噛み付き、肉を喰らう

 

ストレスから解放され、全身に血液が回ったその瞬間が、一番美味しい瞬間だと

 

「さ〜、出来ましたねぇ〜」

 

「何のスープだ⁇」

 

「お肉のスープですよぉ〜。さ、蒼龍は行きますねぇ〜」

 

「あ…頼んだぞ…」

 

お粥、スープ、スプーンをお盆に乗せ、蒼龍は厨房から出て行った

 

「だ、大丈夫なンか⁇」

 

「蒼龍の部屋に入る勇気あるかい⁇」

 

「…ねぇな‼︎」

 

トラック唯一の蒼龍ストッパーでさえ、蒼龍の自室に入る事はスプラッターなお家に行くより怖い事だ

 

トラックさんはコーヒー

 

江風はイチゴミルクを飲みながら、厨房近くの席に座った

 

「演習では大人しいのになぁ〜」

 

「美味しそうじゃないからじゃないか⁇」

 

「有り得る…」

 

「それに、ここ最近蒼龍が艦娘を食べているのを見た事がない」

 

「アタシが来る前は食ってたンか⁉︎」

 

「遠心分離機に天津風を入れてあんかけを絞り出したり、浦波達を煮込んで芋焼酎にしたり、大潮の頭のアレを勝手に飯盒に変えたり…」

 

浦波の芋焼酎辺りでトラックさんは机に肘を立てて顔を伏せてしまった

 

「しかしまぁ、江風が来てからめっきり減ったな⁇」

 

「何でだろな⁇」

 

当の江風は気付いていないが、トラックさんは知っていた

 

蒼龍にとって、産まれて初めて自分に意見して、対等に渡り歩いてくれるのが江風

 

鳥海や衣笠、飛龍達もいるが、蒼龍よりほんの少し上からの目線で話してしまう上、逆らえない

 

三人にとって、蒼龍は目の離せない…離してはならない妹的なポジションだからた

 

はたまた、駆逐艦達は蒼龍が面倒を見ている気がある

 

蒼龍は決して面倒見が悪い訳ではない

 

普段の行いが非常にヤバいのでそう見られるだけである

 

「初めて出会った頃はな、建造装置から産まれて来た艦娘をそのまま食ってたんだ…」

 

「まぁ…今更聞いても普通だな⁇なンも変わりゃしないさ‼︎」

 

「江風はそこが優しいんだ。いつだって蒼龍を守ってくれる」

 

「褒めても行かね〜ぜ⁇」

 

「行くなら私が止めるよ…」

 

江風はイタズラに歯を見せて笑い、トラックさんもそんな江風を見て、少しだけ口角が綻んだ…



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237話 龍が愛した騎士(4)

「持って来ましたぁ〜」

 

「蒼龍さん…アイタタ…」

 

ベイルアウトした時に体を海面に打ち付けた衝撃が来ていた

 

「座れますかぁ〜⁇」

 

「えぇ…よいしょ…」

 

森嶋は何とか体を起き上がらせた

 

「蒼龍を知ってるんですかぁ〜⁇」

 

「えぇ。上空からっ、何度か演習を拝見しましたっ」

 

「そう…」

 

痛そうな体を起き上がらせながら、蒼龍が持って来たお粥とスープを見た

 

「いい匂いです」

 

「誰もあげるなんて言ってませんよぉ〜⁇蒼龍が食べるんですぅ〜。森嶋さんの横でぇ〜」

 

蒼龍は本当に森嶋の真横でそれらを食べ始めた

 

確かに一言も、食べさせてやるとは言っていない‼︎

 

「ハフハフ…」

 

「アムアム…」

 

「ズズッ…ゴクッ。あ〜」

 

しかも、いやらしく美味そうに食べる

 

「ふふ…」

 

だが、森嶋はそんな蒼龍を見て微笑んでいる

 

「美味しそうに食べますね⁇」

 

「美味しかったですからねぇ〜」

 

森嶋が見つめる中、蒼龍はお粥もスープも一口もあげる事なく、本当に横で食べるだけ食べて部屋を出て行った

 

 

 

 

「レイさん‼︎」

 

蒼龍が食堂に戻って来た

 

「ありがとうな、蒼龍‼︎」

 

相変わらず蒼龍が俺を見る目は獲物を狩る目だ

 

「いえいえ〜。指二本位頂ければぁ〜」

 

相変わらず指を狙って来る

 

「うっ…とっ、とりあえず‼︎森嶋の顔を見ていいか⁇検査しておきたいんだ」

 

「どうぞぉ〜。蒼龍のお部屋にいますぅ〜」

 

「ありがとう」

 

診察器具を入れた箱を持ち、蒼龍の部屋へと向かう

 

「い、行ったぜ…」

 

「マーカスさんは蒼龍の部屋から唯一生還した人だ。蒼龍も悪さしないと知ってるから気前良く入れられるんだ」

 

江風とトラックさんの目線の先には、再び厨房に立つ蒼龍の姿

 

また何かを作っている…

 

 

 

「入るぞ〜」

 

「隊長…申し訳ありません。大切な試作機を…」

 

「んなもん気にするな。お前が生きてりゃそれで良い。南山はまた改良でもするさ。診察だけしようと思ってな」

 

「ありがとうございます」

 

聴診器を耳に当て、内臓の音を確かめる…

 

特に異常は無い

 

次に血圧と脈拍

 

若干脈拍が高いが、問題は無い

 

体温は…

 

「少し体が冷えてるな。ちゃんと布団被れよ⁇」

 

「はい」

 

「きそ‼︎」

 

「…入っても大丈夫⁇」

 

きそは入り口から半分だけ顔を見せ、様子を伺っている

 

「大丈夫だ‼︎」

 

「うんしょ…よいしょ…」

 

巨大な機材を引っ張って来たきそ

 

「森嶋さん。じっとしててね⁇」

 

「はい。きそちゃん」

 

きそは手に小さな機械を嵌め、森嶋の頭から下半身に掛けてそれをかざす

 

「左腕に筋肉痛…あ、右足捻挫だね」

 

「しばらく安静だな⁇」

 

「情けないです…」

 

「まっ、気にするな‼︎休暇を取れたと思っとけ‼︎」

 

「どれ位休めば…」

 

「経過にもよるが…まぁ、三日って所だな。心配するな、サンダースの連中にも休みを取らせた」

 

「みんなお休みだから、森嶋さんもお休み‼︎オッケー⁉︎」

 

「分かりました」

 

森嶋の顔は、少し浮かない顔をしていた

 

機体を潰した事に対して罪悪感があるのだろう

 

「まっ…あれだ。誰か様子を見に来るかも知れん。”相手をしてやってくれ”」

 

「あ、はい。分かりました」

 

きそと機材を連れ、蒼龍の部屋を出た

 

 

 

 

「謝礼はする。しばらく森嶋を頼みたい」

 

「勿論ですよ、マーカスさん。謝礼なんて要りませんよ」

 

「ありがとう。それと、時々派遣を送る。暇しない子をな⁇」

 

「畏まりました」

 

「気を付けて帰ンだぜ‼︎」

 

「バイバイ江風ちゃん‼︎」

 

「じゃーなー‼︎」

 

トラックさんと江風に見送られ、俺達はトラック基地を後にした…

 

 

 

 

その頃、蒼龍の部屋では…

 

「…」

 

先程あんなに美味しそうに食べるのを見せられた森嶋の腹の虫が鳴る

 

流石に空腹には勝てない

 

今はジッと堪えるしかない

 

コト…

 

ベッドの脇の机に何かが置かれた

 

「お腹空きましたよねぇ〜」

 

「あはは…聞こえましたか⁇」

 

「今度は貴方の分ですよぉ〜」

 

ベッドの脇の机には、一人用鍋とお茶碗一杯分の白ご飯

 

「食べられそうなのでぇ〜こっちにしたんですよぉ〜」

 

「おぉ」

 

一人用鍋の蓋を開けると、中にはうどんが入っていた

 

それも、お肉がゴロゴロ入っていて非常に美味しそうな出来たてのうどん

 

「頂きます‼︎」

 

ようやくありつけた食事を前に、森嶋はすぐに箸を握った

 

「ズズズッ…」

 

「美味しいですかぁ〜⁇」

 

「はい‼︎とっても‼︎」

 

「全部食べていいですからねぇ〜」

 

このうどんも、先程のお粥やスープも、全て蒼龍の手料理

 

トラックさんの料理技術を、蒼龍は家庭料理としてキチンと継いでいる

 

味も美味しく、量も多い

 

普通に満足に至る料理を、蒼龍は簡単に作る事が出来る

 

それを知っているのは、トラック基地以外では森嶋が初となる

 

「全部食べましたねぇ〜」

 

「とても美味しく頂きました‼︎」

 

「ふふ…」

 

蒼龍は不敵に笑う

 

いつこいつを食ってやろうか

 

三日後の帰る寸前に食ってやろう

 

体調が戻って、いざ基地に復帰の兆しが見えた瞬間が美味しそうだ

 

そんな考えをしている

 

そんな蒼龍の考えをつゆ知らず、森嶋は蒼龍に笑顔を返した…

 

 

 

 

その日の夜…

 

モソモソ…

 

「ん…」

 

ギュウ…

 

森嶋は寝苦しさで目を覚ました

 

「そ、蒼龍さんっ…」

 

「私のベッドですからねぇ〜。私が寝るのは普通ですよぉ〜」

 

森嶋は完璧に蒼龍に抱き抱えられ、身動きが取れずにいる

 

…が、顔が真っ赤になっている

 

「あ‼︎あのあのそそ蒼龍さん‼︎」

 

「体を温めないといけませんからねぇ〜」

 

森嶋はそれ所ではない

 

蒼龍の柔らかい部分が全身に当たって、理性が死にかけていた

 

「さ〜、鼻から深呼吸してぇ〜」

 

「すぅ〜…」

 

蒼龍独特の甘い匂いが鼻に入り、無意識の内に森嶋の体から力が抜ける

 

「口から吐いてぇ〜」

 

「ふぅ…」

 

その瞬間、蒼龍は森嶋を抱き締めていた手を後頭部に起き、そこを撫で始めた

 

「大丈夫ですよぉ〜…ネンネですよぉ〜…」

 

「…」

 

森嶋の体に血が巡る…

 

安心したのか、数分もしない内に蒼龍の胸に顔を”置かされ”ながら、森嶋は眠りに就いた…

 

「ふふ…良い子ですねぇ〜…」

 

今、森嶋にしている事を、時々蒼龍にしてくれる人がいる

 

蒼龍はつい最近、ようやく母親の愛情を知った

 

今まで好きな人は殺すのが最上級の愛情表現だった蒼龍が、その人が蒼龍に人の愛し方を教えてくれた事で次第に薄れて行った

 

子供達から好かれ始めたのも、その為である

 

ただ、食いたいと思う事に変わりは無い

 

蒼龍は未だに悪人を本当の意味で食う

 

しかし、それ以外は本当に収まって来た

 

蒼龍に足りなかった、母親の愛情を与えた人物…

 

それは…



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237話 龍が愛した騎士(5)

次の日…

 

「うぅ…はっ‼︎」

 

森嶋は墜落した夢を見ていた

 

体から冷や汗が吹き出しているのに気付き、目が覚めた

 

「お目覚めですかぁ〜⁇」

 

「蒼龍さん」

 

蒼龍はベッドの脇に肘をつき、森嶋の顔を見ていた

 

「墜落した夢を見てました。はは…情けな…ぐぇ‼︎」

 

蒼龍は森嶋の胸倉をいきなり掴み、自身の元へ引き寄せた

 

「…」

 

昨晩と同じく、巨乳に顔を押し付けられる森嶋

 

「忘れましょうねぇ〜、よしよしぃ〜。深呼吸ですよぉ〜」

 

森嶋は深呼吸をする

 

もう一度眠りに就いてしまいそうな蒼龍の柔らかさと匂い…

 

「体は動きますかぁ〜⁇」

 

「えぇ。少しは楽になりました」

 

「朝ごはん食べたらぁ〜、少し歩きましょうかぁ〜」

 

蒼龍が視線をズラした先には、ご飯と海苔とお味噌汁

 

そして、目玉焼きとウィンナーがあった

 

「いただきます」

 

「どうぞぉ〜」

 

森嶋はすぐに箸を握り、朝食にありついた

 

蒼龍はベッドの脇に座り、太ももに肘を置きながら森嶋の顔を見つめている

 

いつもは黒く、破壊と殺戮に満ちた蒼龍の瞳

 

森嶋の食事風景を眺めているこの瞬間だけ、蒼龍の瞳に少し輝きが戻る…

 

「ごちそうさまでした」

 

あっと言う間に、森嶋は朝食を完食

 

それと同時に、蒼龍の瞳の輝きも無くなる

 

「洗面所で口をゆすいだらぁ〜、食堂に来てくださいねぇ〜。着替えもそこにありますからぁ〜」

 

「ありがとうございます」

 

蒼龍は食器を乗せたお盆を持ち、食堂へ

 

森嶋は洗面所へと向かう

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

口もゆすいで、顔もさっぱりとした

 

”もりしまさん”

 

と、紙が置かれていた下に着替えがあり、それに着替える

 

誰の物か分からないが、ちょうどのサイズのTシャツとジーパンに着替え、食堂に来た

 

「い、生き残ってンぜ‼︎」

 

「でかした‼︎」

 

「え⁉︎あ‼︎ちょっ…」

 

食堂に入って早々、江風とトラックさんに板挟みになり、何故か褒めちぎられた

 

「あ、あの‼︎まずはお礼を‼︎」

 

「そんなのはいい‼︎助けるのは当然です‼︎」

 

「そだそだ‼︎」

 

何故か二人が半泣きになる始末に、森嶋は戸惑っている

 

「蒼龍さんのおかげで、何とか歩けるようには…」

 

「どこも食われて無いか⁉︎」

 

「ホントに大丈夫か⁉︎」

 

「えぇ…だ、大丈夫で、ぐへ‼︎」

 

今度はいきなり背後から襟元を掴まれ、一気に引き寄せられる

 

「行きましょうかぁ〜」

 

「は、はい‼︎蒼龍さん‼︎」

 

蒼龍はいとも簡単に森嶋を担ぎ上げ、外に出ようとした

 

「そ、蒼龍⁇も、もうちょっと優しく持ち上げ…」

 

「何ですかぁ〜⁇」

 

顔だけ背後に振り向く蒼龍の瞳は、真っ黒になっている

 

「な、何でもないさぁ‼︎な⁉︎」

 

「何でもないよ‼︎行っておいで‼︎」

 

江風が必死にトラックさんを止め、蒼龍は森嶋を担いだまま出て行った

 

 

 

 

 

外に出てすぐ、蒼龍は森嶋を降ろした

 

「あ〜。ちょうちょさんですねぇ〜」

 

目の前をヒラヒラ飛んで来たちょうちょを見て、蒼龍は捕まえようと、手を伸ばす

 

「虫は好きですか⁇」

 

「綺麗な虫は好きですよぉ〜。ここには沢山いますからねぇ〜」

 

「あ…」

 

いつの間にか立っていたのは、花が咲き乱れる小さな丘

 

蒼龍はちょうちょを追い掛けるのを止め、花の前で屈み込み、木の枝で何かをほじくり始めた

 

一点を見つめたまま何かをほじくる蒼龍だが、森嶋の目には”大きな子供”として映っていた



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238話 騎士が愛した龍(1)

題名と話数が変わりますが、前回の続きです

今度は森嶋から蒼龍に送る視線となります


蒼龍の知能はあの日のまま、ほとんど動く事が無かった

 

たいほうやひとみといよは長時間カプセルに入っていた為、知識の吸収は早いが、体の成長が著しく遅い

 

蒼龍は違った

 

ある程度の体の成長がしきってはいるものの、頭を撃ち抜かれた際の損傷が治りきっていなかった

 

トラックさんが初めて蒼龍に出逢った時、蒼龍がまだ小さかったのは、外見は治ったものの脳の損傷が治りきっていないまま蒼龍がカプセルから勝手に出て来てしまったからである

 

人を食べたりするのも損傷した脳の部位が影響している可能性が高い

 

それが森嶋といる時、うっすら治りかけている

 

確かに森嶋を食べようとは思ってはいる

 

だが、ご飯を作ったり、抱き締めたり、ご飯を食べている顔を見つめて”嬉しい”と感じたりしている

 

一瞬瞳に光が戻ったのも、嬉しいと感じた瞬間

 

それが森嶋と横に居る時、瞳に光が戻る…

 

「ミミズさんですねぇ〜」

 

「…」

 

森嶋の反応は無い

 

お尻を地面に置き、足を広げて地面をほじり始めた蒼龍

 

「ダンゴムシさんですねぇ〜」

 

「…」

 

地面からほじくり出した虫をその辺に置きながら、蒼龍は森嶋の方を見た

 

森嶋は寝転びながら空に手を向けていた

 

「お空…」

 

蒼龍も森嶋と同じ空を見る

 

深海側の航空機が三機、編隊を組んで飛んでいる

 

「おっ…」

 

森嶋の腹に蒼龍の頭が置かれ、枕になる

 

蒼龍の手にはダンゴムシが両手に一匹ずつおり、こねくり回して遊んでいる

 

「ダンゴムシくるくる全回転〜」

 

森嶋は子供の様な蒼龍を見て微笑み、蒼龍の頭に手を置いた

 

「ん〜」

 

蒼龍はくすぐったそうにはしているが、嫌がってはいない

 

そして、大好物の指が目の前にあるはずなのに、何故か噛み付こうとしない

 

蒼龍は産まれて初めて赤の他人に甘えている

 

「ねぃびぃちゃんみたいですよ」

 

「ねぃびぃちゃん嫌いなんですぅ〜」

 

ダンゴムシを手の平でコロコロしながら、森嶋の問いに答える蒼龍

 

「人の好みはそれぞれですからね」

 

「蒼龍のお母さんなんですよぉ〜」

 

「そうでしたか…」

 

「蒼龍を置いて行ったのにぃ〜今更お父さんとベッタリなんてぇ〜、許せませんねぇ〜」

 

森嶋は何も返さず、ただ蒼龍の頭を撫で続ける中、蒼龍の髪を掻き分けて何かを探している様にも見えた

 

「蒼龍のお母さんはぁ〜衣笠だけなんですよぉ〜」

 

蒼龍に愛情を教えたのは、紛れも無い衣笠の存在

 

何でも無い時にギュッと抱き締めてくれたり、蒼龍に絵本を読んでくれたりする

 

無闇矢鱈に人を食べてはダメだと教えてくれたのも衣笠だ

 

「蒼龍のお母さんは衣笠だけなんですよ」

 

衣笠の話をした途端、蒼龍の目が輝く

 

「そうでしたか…」

 

蒼龍が今、複雑な立ち位置に居る事がよく分かった

 

あの日、自分を置いて行った母親

 

今、自分に愛情を教えてくれる母親

 

どちらを愛するかは一目瞭然だった

 

「戻りましょうかぁ〜」

 

また一瞬で蒼龍の目が暗くなる

 

「また遊んで下さいねぇ〜」

 

蒼龍はダンゴムシをちゃんと自然に帰し、手を振った

 

帰り道は蒼龍と横一列になって基地に戻る

 

「蒼龍さんは何が好きですか⁇」

 

「内緒ですよぉ〜」

 

蒼龍は森嶋の方を向くが、ほぼ真顔

 

だが、何処と無く微笑んでいる気もする

 

「おかえりなさい蒼龍‼︎」

 

「ただいまぁ〜」

 

基地に戻って来ると、衣笠が迎えてくれた

 

「もう大丈夫なんですか⁉︎」

 

「動かないと体が鈍ってしまうので」

 

「そっかそっか‼︎蒼龍⁇虫さんで遊んだの⁇手、泥だらけじゃない‼︎」

 

「ダンゴムシさんで遊びましたねぇ〜」

 

「ちゃんと手を洗って、うがいしたらお昼にしましょう⁇」

 

「は〜い」

 

まるで母親と子供の会話を見ているような…そんな風景が森嶋の目の前に映る



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238話 騎士が愛した龍(2)

「いただきます」

 

昼食は蒼龍の部屋ではなく、食堂で取る事になった

 

目の前にはトラックさんがいる

 

「レイさんと大佐には随分とお世話になってね」

 

「自分もです。行き場が無かった自分に、声を掛けて頂いて…」

 

「ほぅ。ヘッドハンティングかな⁇」

 

「えぇ。ジェミニ元帥に」

 

涼平はジェミニ

 

園崎はリチャード

 

高垣もリチャード。ついでにあだ名を付けたのもリチャード

 

そして、森嶋はジェミニに

 

それぞれヘッドハンティングされ、横須賀でサンダース隊となった

 

トラックさんとの話は盛り上がった

 

大佐二人の話、そして自分達の隊長の話…

 

語られなかった伝説が明らかになって行く…

 

無敗の基地航空隊、横須賀分遣隊とラバウル航空隊

 

どんな困難な状況でも、彼等は戦況を覆してくれる

 

そう言えば、呉の時にもうっすらと聞いた

 

あの二部隊に何度救われたか…と

 

「して…蒼龍とはどうかな⁇」

 

「はい。かなりお世話になっています。お食事も運んで頂いたり、散歩に連れ出して頂いたり」

 

「あ、いや、そうではなくてだな…何処か齧られたりだとか、噛まれたりとか…」

 

トラックさんは森嶋の体を見回している

 

「あはは‼︎ご心配無く‼︎ごちそうさまでした‼︎」

 

「食器は置いておいてくださいね」

 

「あの、少し資料を拝見してもよろしいですか⁇」

 

「勿論‼︎何か知りたい事があったら言ってくれ‼︎」

 

昼食を終え、少し体調と気分を取り戻した森嶋は資料を見る為に資料を纏めてある本棚の前に来た

 

「あった」

 

森嶋はすぐに一つの資料を手に取った

 

「ふふ…」

 

その資料に目を通し、森嶋は何故か微笑む

 

悪い事を企む微笑みではなく、子供の成長を見る様な暖かい微笑みだ

 

「あにみてうの⁇」

 

「ひとみにもみしぇて‼︎」

 

「へっ⁉︎」

 

いつの間にか足元にひとみといよがいた

 

「わえわえは、はけんしぉ〜こ〜ら‼︎」

 

「こあ‼︎そのしりぉ〜お、わたちなしゃい‼︎」

 

ひとみもいよも横須賀辺りで見て覚えたのか、自分達は派遣将校だと言い放った後、ケラケラ笑っている

 

マーカスが言っていた”暇しない子を送る”と言っていたのは、この二人の様だ

 

「これは重要な書類なのでいけませんよ」

 

森嶋は資料を閉じ、二人に目線を合わせる為に膝を曲げた

 

「もいしましゃん、まなしゃんしゅき⁇」

 

ひとみが確信を突く質問を投げた

 

すると、森嶋は迷う事なく返した

 

「彼女は私にとって、少し特別なんですよ」

 

「きかないれおきましぉ‼︎」

 

「そ〜しあしぉ‼︎」

 

ひとみもいよも物分りが良い

 

濁らせた答えを返すと、すぐに諦めてくれる

 

ただ、極稀に怒っている時はもう少し問い詰める時もある

 

…叩く場合もあるしな

 

「なんれまなしゃんてしってうの⁇」

 

その問いに、森嶋は固まる

 

「ん〜っ⁇」

 

「なんれかあ〜⁇」

 

ひとみといよは森嶋に顔を近付ける

 

「そ、それは…」

 

「こらこら。あんまり森嶋さんいじめちゃダメよ〜⁇」

 

「がしゃら‼︎」

 

「きぬあさ‼︎」

 

突如現れた衣笠にひとみといよは抱き上げられ、二人に頬っぺたをスリスリされる

 

「オヤツにしましょう⁇この子達もオヤツ食べに来たの‼︎ねっ⁉︎」

 

「うん‼︎とあっくしゃんのおかち‼︎」

 

「おいち〜お‼︎」

 

「分かりました。これだけ直して来ます」

 

「食堂に来てね‼︎」

 

子供二人を抱く衣笠の後姿は、未婚の森嶋から見ても良き新妻の背中に見えた

 

両サイドに抱っこしたひとみといよの顔を見ると、それはすぐに分かった…

 

 

 

 

「「ごちそうさあれした‼︎」」

 

「次も美味しいのを準備してますね⁇」

 

「お口拭くよ〜‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

「おいちかた‼︎」

 

チョコムースタルトを食べ終え、衣笠に口元を拭いて貰いながら、トラックさんにお礼を言うひとみといよ

 

「行きましょうかぁ〜。森嶋さんも一緒にぃ〜」

 

ひとみといよは蒼龍の両肩に乗せられ、

埠頭まで一緒に行く

 

「もいしましゃん」

 

「ん⁇なんですか⁇」

 

埠頭に降ろして貰ったひとみに呼ばれたので、また目線を合わせる

 

「あちた、えいしゃんとあえんしゃんくう‼︎」

 

「おむかえ‼︎」

 

「そっか。明日か」

 

「こんろはちんでんできあす‼︎」

 

「畏まりました‼︎と、伝えて頂けますか⁇」

 

「あかりまちた‼︎」

 

「えいしゃんにいっときあす‼︎」

 

ひとみといよを見送り、森嶋と蒼龍も食堂に戻って来た

 

「いつか蒼龍も赤ちゃん欲しいですねぇ〜」

 

「どんな子が欲しいですか⁇」

 

「ん〜…美味しそうな子ですかねぇ〜」

 

そう言う蒼龍の顔は、ニタァ…と笑っている

 

が、森嶋は普通に笑顔を返した

 

あのリチャードでさえ恐怖する、蒼龍のニタァ…

 

だが、何をどうやっても、森嶋は蒼龍を怖がる事はない

 

その様子を、トラックの皆はキチンと見ていた…

 

 

 

その日の夜…

 

「さ〜、ねんねしましょうねぇ〜」

 

再び蒼龍に抱き着かれ、背中をポンポンされる森嶋

 

「ん…何ですかぁ⁇この手はぁ〜」

 

森嶋も蒼龍を抱き返し、背中を優しく叩く

 

「昨日のお礼ですよ」

 

「ん〜…」

 

またも蒼龍は嫌がる事も無く、森嶋の胸板に頭を置き、グリグリし始める

 

森嶋は蒼龍の頭も撫で、眠りへと誘う…

 

森嶋が蒼龍の頭を撫でるやり方は、やはり何かを探している撫で方だ

 

ふと、森嶋の手が止まった

 

「はぁ…」

 

小さく吐いたため息が蒼龍の髪を揺らす

 

「何ですかぁ〜⁇」

 

「いえ…何でもありませんっ」

 

「あぅ…」

 

何故か森嶋は蒼龍を強く抱き締めた

 

抱き締められた瞬間、蒼龍は小さく喘いだ

 

「良かった…」

 

「…」

 

蒼龍は訳の分からないまま、森嶋に抱き締められ続けるが、微動だにしない

 

いざとなれば、食べて脱出出来る余裕があるからだ

 

「生きていてくれたんだ…」

 

「…何の事ですか⁇」

 

蒼龍の口調が変わる

 

そして、瞳に輝きが戻る

 

「いいんです…生きていてさえくれれば…」

 

「あ…」

 

再び抱き寄せられる蒼龍

 

その抱き寄せ方をされ、蒼龍はふと思い出した…

 

 

 

 

あの日母親は何処かへ行き、砲火に巻き込まれ、父親に苦しまない様に引き金を引かれた後、それでも蒼龍は瀕死の状態で生き延びていた

 

しかし、身動きも何も取れないまま、ただ地面に丸くなって、微かに続く呼吸を続けるだけ…

 

必死に生きようとする蒼龍の背中には、刺繍で”まな”と縫われている

 

「こんな小さな子まで…」

 

そんな瀕死の状態で身動きが取れなくなっていた蒼龍を、ふと誰かが抱き上げた

 

「マークさん‼︎この子、まだ息があります‼︎」

 

「分かった‼︎すぐに連れて行こう‼︎サラ‼︎」

 

「もう大丈夫ですよ…」

 

そう言って、撃ち抜かれた蒼龍の血だらけの髪を優しく撫でた男性

 

その男性が今、再び蒼龍を抱き締めている

 

 

 

 

「貴方が…」

 

「蒼龍さんの名前を知っているのも、あの日、刺繍を見たからです」

 

「どうして私をここに⁇」

 

「初期型のカプセルはここで造られていたんです。ここに連れて来るのが、一番手っ取り早かったんです」

 

「森嶋さん」

 

「はい、そうりゅ…ふぐっ‼︎」

 

蒼龍と言いかけた森嶋の口を、蒼龍は右手で口元を掴んで封じ、下を向いたまま言った

 

「…私の本当の名前、読んで頂けますか⁇」

 

「ま、まなひゃん…」

 

ゆっくりと蒼龍が顔を上げる…

 

「…遅いですよぉ」

 

蒼龍の瞳に涙が浮かぶ

 

その目はいつもの暗い瞳では無く、年相応にキラキラ輝くうら若き少女の瞳をしていた

 

「私、人を食べるんですよ⁉︎どうしてそんな私を助けたんですか‼︎」

 

「いいんです、それで。自分は、ありのままの蒼りゅ…まなさんが好きですから」

 

森嶋は蒼龍と言いかけたが、まなさんと言い直し、好きだと言う事も伝えた

 

「嬉しい…」

 

蒼龍からすれば、生まれて初めて赤の他人に愛された瞬間

 

そして、ようやく普通の蒼龍に戻った瞬間でもあった

 

蒼龍の食人を抑える鍵は、一番身近にあり、一番程遠い場所にあった”愛される事”だった…

 

「…告白と取りますよ⁇」

 

「構いません。料理、とても美味しく頂けました」

 

「…裏切ったら食べますからね⁇」

 

「元からそのつもりです」

 

「なら…楔を打って置きましょうか」

 

その日の夜、攻略不能と言われた蒼い龍が遂に落ちた

 

”愛”と言う、一番簡単で、一番難しい攻略法によって…

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「お父さん‼︎お母さん‼︎ちょっと横須賀に出掛けて来るね‼︎」

 

見違える様に明るくなった蒼龍が、意気揚々と玄関に向かった

 

「お、おぅ‼︎気を付けてな‼︎」

 

「蒼龍⁉︎何かあった⁉︎」

 

トラックさんも衣笠も、一瞬顔を見合わせた後蒼龍の方を向いた

 

「何にもない‼︎今日、二番の檻から三人出して食べるから触らないでね‼︎行ってきまーす‼︎」

 

「行ってらっ、しゃい…」

 

「気をつけて、ね…」

 

会話はいつもの蒼龍だが、目の明るさと口調が全く違う

 

慌てて食堂から出て来た衣笠とトラックさんは、ただただ蒼龍を見送るしかなかった

 

しかも森嶋も居ない

 

森嶋は

 

”ありがとうございました。御礼は後日、改めて伺います”

 

と、置き手紙を残し、いつの間にか基地を去っていた…



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238話 騎士が愛した龍(3)

「今日は間宮行くわ」

 

「新メニューか⁇」

 

「そっ。イチゴミルクが出るらしいの」

 

今日は森嶋を迎えに行く日

 

行く前に飲み物だけ飲んで行こうとしたら、横須賀に間宮に行こうと言われ、繁華街に来た

 

「何か騒がしいわね⁇」

 

「何かあったのか⁇」

 

間宮から人が逃げる様に出て来る

 

明らかに様子が違う

 

意を決して、間宮の暖簾を分ける…

 

「い、いらっしゃいませ‼︎お好きな席にどうぞ‼︎」

 

珍しく伊良湖も厨房に入っている

 

「イチゴミルク二つ頂戴‼︎」

 

「畏まりましたぁ‼︎」

 

伊良湖の声が聞こえ、いつもの入ってすぐのテーブル席に座ろうとした

 

「おっ‼︎蒼龍‼︎」

 

「あ‼︎レイさん‼︎」

 

いつもの席に蒼龍が座っていた

 

蒼龍は手で横に座れと、椅子をペチペチ叩いてくれた

 

逆らうと喰われる可能性があるのと、折角の好意なので俺達は座る事にした

 

「蒼龍も朝ご飯食べに来たんです‼︎」

 

「そっ⁇何頼んだの⁇」

 

「モーニングプレートとホットケーキです‼︎」

 

何故かは分からないが、いつもの蒼龍と違う気がする

 

いつもの蒼龍なら語尾に癖があるのだが、今の蒼龍は明るく話してくれている

 

それに、目の色が違う

 

「森嶋の様子はどうかしら⁇」

 

「お、お待たせしました‼︎」

 

蒼龍が何かを言おうとした時、伊良湖がモーニングプレートとホットケーキを

 

間宮がコーヒー二つとイチゴミルク二つをお盆に乗せて持って来てくれた

 

「さ‼︎食べましょうね、森嶋さん‼︎」

 

「「え」」

 

俺も横須賀も、一瞬で最悪の事態が頭に過る

 

蒼龍が森嶋を食った

 

その森嶋は現在蒼龍の胃の中におり、胃の中の森嶋に対して放った言葉だと…

 

「よいしょっ…」

 

二人共顔面蒼白になっていると、蒼龍は胸の谷間から何かを出した

 

蒼龍はそれを机の上の朝食の前に置いた

 

”心配をおかけしました…”

 

そこにいたのは、非常に申し訳なさそうな顔をした妖精化した森嶋

 

「森嶋‼︎アンタどうしちゃった訳⁉︎」

 

「また可愛いサイズになって‼︎」

 

”いや…その…”

 

森嶋は俺達から目を逸らす

 

「昨日は熱い夜でした‼︎」

 

「おおおおマジか‼︎」

 

「良かったじゃない‼︎」

 

俺だけが違う反応を送る

 

誰も手を出さない、出せない難攻不落と言われていた龍が遂に落ちたのだ

 

それでも横須賀は嬉しそうな反応を返した

 

「よっぽど好きなのね⁇食べないじゃない」

 

「違う意味で食べた方が美味しいですからね‼︎」

 

「だとよ」

 

”あはは…”

 

蒼龍と横須賀にニタリ顔を送られ、妖精森嶋は苦笑いする

 

「美味しかった‼︎レイ、私先に行くわ。気を付けて行きなさいよ⁇」

 

「分かった。今日は誰かの哨戒に付き合うよ」

 

「ありがとっ」

 

笑顔の横須賀を見送り、その場に三人残る

 

「そうか。森嶋の探し人は蒼龍だったか」

 

”はい。再び出逢えて本当に良かったです‼︎”

 

「そういや、森嶋はマークの付き人をしてたらしいな⁇」

 

”えぇ。元々自分はSPでしたので…開戦直後はマークさんに雇われていました”

 

「なるほどなっ…これで辻褄が合った」

 

森嶋が蒼龍と最初に出逢ったのは蒼龍が死に掛けの時だろう

 

要は第一印象は最悪だ

 

そんな中、マークのSPとして雇われていた森嶋は蒼龍を保護

 

蒼龍はカプセルの中に入れて貰い、トラックさんが来るのを待っていた

 

そして、今度は恋人として森嶋の前に戻って来た

 

森嶋はその後横須賀で雇われ、紆余曲折を経てパイロットに

 

恐らく出て行く事はないだろう

 

ま…野暮な事は言わないでおこう

 

「はいっ、あ〜ん‼︎」

 

”あ〜”

 

こんなに幸せそうな蒼龍を見るのは初めてだ

 

今の今まで誰にも出来なかった

 

”蒼龍を笑顔にする”

 

と言う行為を、森嶋はただ存在するだけでそうさせる事が出来る

 

…これ以上ここいるのも野暮な事みたいだ

 

「よしっ‼︎俺も行くか‼︎」

 

イチゴミルクが入っていたコップの氷をカランと鳴らせ、席を立った

 

「午後にはお返ししますね‼︎」

 

「たまには何も考えずにパーッ‼︎と楽しんで来い‼︎じゃな‼︎」

 

”はい‼︎隊長‼︎”

 

「ありがとうございます‼︎えへへっ‼︎」

 

笑った蒼龍は、普通に可愛いと思う

 

元から身体付きは男ウケしそうだしな

 

これなら森嶋を預けても安心だろう

 

二人のカップルを見届け、俺は間宮を出た…



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239話 ジョンストンの抱き方(1)

さて、238話が終わりました

今回のお話は、ジョンストンがメインのお話です

段々と横須賀での生活に慣れて来たジョンストン

ヴィンセントに抱かれる時、どんな抱かれ方をするのか…


「びんせんと」

 

朝、ヴィンセントの体が揺さ振られる

 

「おきて」

 

毎朝ジョンストンがヴィンセントを起こす役割を担っている

 

ヴィンセントが何か反応を起こすまで、ジョンストンはヴィンセントを揺さ振る

 

「ん…朝か…」

 

中々起きないヴィンセントの額に、ジョンストンは手を置いた

 

「おきて」

 

小さな手の平がペチペチ当たる

 

「分かったっ…くぁ…」

 

「くぁ〜」

 

ヴィンセントが大あくびする横で、ジョンストンが真似をするようにあくびをする

 

普段からも規則正しい生活をしているヴィンセントだが、ジョンストンが来てから更に規則正しい生活を送るようになっている

 

「あさごはん」

 

「今日は何だろうな⁇」

 

「ぱん」

 

「そっかそっか…よいしょ‼︎」

 

ようやく体を起こし、ヴィンセントは口をゆすいで身嗜みを整える

 

「行こっか‼︎よいしょっ」

 

「わ」

 

ヴィンセントはジョンストンの襟首の後ろを掴み、一瞬宙ぶらりんになったジョンストンを胸元に寄せた

 

ヴィンセントはジョンストンを抱き上げる時、大体この抱き上げ方をする

 

そのやり方は、イントレピッドの目にも止まる…

 

朝食を食べ終え、ジョンストンは子供用の椅子から降ろしてもらう

 

その時もヴィンセントは同じ降ろし方

 

「わ」

 

ジョンストンの後ろの襟首を掴み、床に下ろす

 

「ありがと」

 

ヴィンセントに降ろして貰うと、ジョンストンは外に行く準備をし始めた

 

「これはオヤツね‼︎」

 

イントレピッドがラップに包んだ数個のクッキーをジョンストンのリュックに入れる

 

ジョンストンのリュックには、クレヨンや画用紙、数個のオモチャが入れてある

 

「ありがと、いんとれ」

 

「沢山遊んでおいで‼︎」

 

「いてきます」

 

ヴィンセントよりも早く、ジョンストンは出掛けて行った…

 

 

 

「ひとみ、いよ」

 

「じょんら‼︎」

 

「あしょお〜‼︎」

 

ジョンストンの行き先は広場

 

そこには教官飛行中のマーカスを待っているひとみといよが居た

 

子供達が学校の時や、マーカスやアレンが教官をしている時は、決まって誰かが広場で遊んでいる

 

ジョンストンはそんな彼女達を探し出し、午前中はここで過ごす

 

「こえ、あしがあしゃんにもあったび〜らま」

 

「よんすとんにもあえる‼︎」

 

「きらきら」

 

ひとみといよからビー玉を貰い、ジョンストンは太陽に向ける

 

「こおこおちよ‼︎」

 

三人はビー玉を地面の溝に沿って転がして遊び始めた

 

 

 

お昼頃になり、俺とアレンが広場に戻って来た

 

「おっ‼︎ビー玉ころころ合戦か‼︎」

 

「えいしゃん‼︎」

 

「おかえい‼︎」

 

俺を見かけるなり、ビー玉をしまいすぐに抱き着くひとみといよ

 

ジョンストンが羨ましそうに二人を見る中、アレンが腕を広げた

 

ジョンストンはすぐにアレンに抱き着き、抱き上げられた

 

「あれん」

 

「いっぱい遊んだか⁇」

 

「うん」

 

相変わらず感情の起伏が少ないジョンストンだが、たまに笑った顔をみせる

 

こうして抱き上げられた時や、子供達と遊んでいる時等…少しずつだが、感情が出始めて来た

 

「あっ‼︎いたいた‼︎」

 

「お昼にしましょ‼︎」

 

サラとイントレピッドがバスケットを持ってこっちに来た

 

丁度良かった。サラに聞きたい事がある

 

敷いたシートの上に腰掛け、イントレピッドとサラがパンに野菜やらハムを挟む

 

「はむ‼︎」

 

「えたす‼︎」

 

「まよ」

 

「はいっ、どうぞっ‼︎」

 

簡易的なサンドイッチが出来上がり、ひとみといよとジョンストンから先に貰う

 

「「いたあきます‼︎」」

 

「いただきます」

 

三人共サンドイッチを両手で持ち、美味しそうに頬張る

 

「マー君。モリシマの事、Thank you」

 

聞こうとしていた事を先に言われた

 

「こっちが礼を言いたい。あいつはマークが雇ったSPだったんだろ⁇」

 

「そっ。とても優秀なね⁇確か、少し前まではケンペーにいたのかしら⁇」

 

「過去は詮索しないさ。よっぽどじゃない限りなっ⁇」

 

いよを膝に乗せたサラが微笑む

 

森嶋はマークが研究中に雇ったSP

 

マークが世界を回る仕事をし始めた際、横須賀で憲兵隊の一員となった

 

過去を色々と知ってはいるが、一切口外しない義理堅い奴なのは分かっている

 

サンダースに入った理由は、形はどうであれ、この前叶った

 

だが、これからも今のままでいてくれるだろう

 

守る者が出来た鳥は強い。それだけは言える

 

「おいしい」

 

ブチッ

 

「さきさきえたす‼︎」

 

ブチッ

 

「こえっ、あんのっ、おにく⁇」

 

よく見るといよのサンドイッチだけ肉が違う

 

少し硬めで味の濃いジャーキーに近い肉が入っており、いよはブチブチ引っ張りながら食べている

 

「あらっ⁉︎大人用のお肉だわ⁉︎イヨ、Sorry‼︎すぐ変えるわ‼︎」

 

「サラの方がハムだわ⁉︎」

 

イントレピッドが気付き、サラの食べているサンドイッチが、本来のいよのサンドイッチと気付いた

 

「いよっ、こっちにっ、すう‼︎」

 

意地でもブチブチ言わせながら硬い肉を噛み切るいよ

 

「いよは味の濃いのが好きだもんな⁇」

 

「うんっ‼︎」



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239話 ジョンストンの抱き方(2)

昼飯が終わり、俺とアレンは学校の見回りに

 

サラとイントレピッドはパイロット達の夕飯の仕込みに

 

ひとみといよ、そしてジョンストンは横須賀の執務室に来た

 

今度は清霜も輪に入り、四人共床を向いて何かしている

 

「ひとみ、いよ、清霜、今日は何するの⁇」

 

「おえかき‼︎」

 

「とりしゃんかくの‼︎」

 

「き〜ちゃんは飛行機‼︎」

 

ひとみ、いよ、清霜をそれぞれの背後から描き掛けの絵を眺め、最後にジョンストンに声を掛けた

 

「ジョンストンは何するの⁇」

 

「おえかき」

 

横須賀は椅子に戻り、親潮と一緒にそんな四人をチラチラ見ながら航空機や艦船の出入りをレーダーで見る

 

《こちらダイダロス。これより出港します》

 

「了解ダイダロス。良い航海を」

 

《ダイダロス、抜錨》

 

今の時間帯の出港予定の最後、ダイダロスが出て少し落ち着きを見せた執務室

 

「航空機はどう⁇」

 

「ケプリ機、イカロス機、サイクロップス機が基地上空及び周辺を哨戒中です」

 

「なぁに⁉︎今日の哨戒当番そんなに最強なの⁉︎」

 

自分で立てた当番だが、まさかこんなに最強の組み合わせが揃うとは思ってもいなかった

 

横須賀は窓際に立ち、上空を見上げる

 

ラバウルさんの搭乗するT-50が旋回するのが見えた

 

「T-50は名前を変えたようです」

 

「Su-57よね…それの前のモデルに、私乗ってたのよ⁇」

 

「Su-37、でしたよね⁇」

 

親潮は机の上の黒いSu-37の模型に目を向ける

 

現存するのは博物館にあるグラーフの電子支援特化型しか残っていないが、それでも横須賀の頭に残る思い入れの強い機体…

 

「そっ。良い機体よ⁇」

 

横須賀も机に置いてある、黒いSu-37の模型を眺めた

 

「おやつたえよ‼︎」

 

ひとみの声で時計を見た

 

時刻は午後3時

 

おやつの時間だ

 

「今日は貴子さんに何入れて貰ったの⁇」

 

「あにかあ〜⁇」

 

ひとみといよは、ヒヨコ巾着をガサゴソし、中からラップに包まれた小さなドーナツが出て来た

 

オヤツ入れになったヒヨコ巾着は、ひとみといよが横須賀や何処かに出掛ける時に貴子さんが中身を内緒で持たせてくれる

 

手作りのオヤツの場合もあれば、既製品のお菓子も入っている

 

「ジョンストンはオヤツあるの⁇」

 

「ある」

 

ジョンストンもリュックからお菓子を取り出す

 

「くっきー」

 

ジョンストンのリュックから数枚のクッキーが出て来た

 

「ひとみはまひん‼︎」

 

「いよもまひん‼︎」

 

ひとみといよはそれぞる二個ずつのマフィン

 

「き〜ちゃんはチョコレート‼︎」

 

それぞれがお菓子を取り出し、それぞれ食べ始める

 

「私達も休憩しましょう‼︎」

 

「そうねっ‼︎」

 

横須賀と親潮は、四人を眺めながらミルクティーとシューアイスを頬張る…

 

 

 

 

夕方…

 

「よこしゅかしゃん、ばんごはん⁇」

 

「そうね〜、ひとみといよは貴子さんのご飯ね⁇」

 

「きょ〜あ、かえ〜あいす‼︎」

 

「ふくじんづけ‼︎」

 

やはりいよのチョイスは渋い

 

「ジョンストンはなにかな⁇」

 

「いんとれのすてーき」

 

「そっかそっか‼︎」

 

ジョンストンは横須賀の目を見てちゃんと言っているので、流しで答えている訳ではない

 

「ヴィンセントと一緒に食べるの⁇」

 

「うん。キャロルもいっしょ」

 

ジョンストンはウサギのキャロルを横須賀の前に出した

 

ジョンストン達と話していると、執務室のドアがノックされた

 

「待たせたな」

 

「びんせんと。わ」

 

横須賀達の前でも、ヴィンセントはジョンストンの首の後ろを掴んで抱き上げた

 

しかもジョンストンはちゃんと手を広げていた

 

眺めている限り、嫌いとかではなく、ただ抱き上げ方が分からないだけ…が正しい様子

 

「いんとれのすてーき」

 

「ステーキは何のお肉か覚えたか⁇」

 

「うし」

 

「よしよし‼︎偉いぞ‼︎」

 

ヴィンセントに褒められ撫でられ、ジョンストンも御満悦

 

問題は抱き上げ方だが、横須賀は各人にやり方があるので言わない事にした

 

と、言うか、横須賀の娘で抱っこをせびるのはひとみといよ位だが、その二人は手を繋ぐか勝手に登ってくる

 

器用というか、何と言うか…

 

ただ一つだけ言えるのは、ひとみといよが来てから、自分に懐いてくれてから、基地の子供達が好いてくれるようになった

 

未だに雷電姉妹は懐いてくれないけれど…ね⁇



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239話 ジョンストンの抱き方(3)

夜…

 

「すてーき」

 

「切ってあげる‼︎」

 

ジョンストンの子供用プレートの上に、切ったステーキが置かれて行く

 

「ジョンストンは今日は何したの⁉︎」

 

「びーだまであそんだ。おえかきした」

 

「後で見せてくれる⁉︎」

 

「うん」

 

まるで親子のようなジョンストンとイントレピッドの会話

 

「サムは今日は何したの⁉︎」

 

「学校に行った後、繁華街の掃除したよ‼︎」

 

「そう‼︎助かるわ‼︎」

 

イントレピッドは子供の扱いが上手い

 

未婚で出産経験も無い彼女だが、何故か包容力が高く、子供達、そして若いパイロットに好かれる

 

「ま、あれだ。イントレピッドは母性が強過ぎてカーチャンにしか見えないんだよ‼︎はっはっは‼︎」

 

「ふふ…」

 

イントレピッドの目が捕食者の目に変わり、リチャードの座っている席に向かう

 

「は…はは…」

 

「…」

 

イントレピッドは無言でステーキを焼き石に当てる

 

「はいっ、リチャード‼︎あっつあつのウェルダンよ‼︎」

 

肉汁が沸騰するまで焼かれたステーキを、イントレピッドはリチャードの口に持って行く…

 

「ごめんなさい‼︎」

 

「あ〜んして‼︎」

 

中々食べようとしないリチャードに対し、イントレピッドは何度もステーキを口元に当てる

 

「ヤダ‼︎」

 

「諦めろリチャード。今のはお前が悪い」

 

「は〜い、美味しい美味しい‼︎」

 

「あぢゃぢゃぢゃぢゃ‼︎」

 

リチャードの口に熱々のステーキが放り込まれる

 

「りちゃど、おいしい⁇」

 

「お、おいひい…」

 

死に物狂いでステーキを噛みながら、リチャードは机に頭を置き、隣にいたジョンストンが頭に手を置いた

 

「お風呂入ろうか‼︎」

 

「うん」

 

子供用の椅子の上でジョンストンは両腕を広げる

 

が…

 

「わ」

 

ヴィンセントは相変わらずジョンストンの首の後ろを掴んで持ち上げ、胸元に置いた

 

「行ってくる」

 

「いてきます」

 

ヴィンセントとジョンストンを見送り、イントレピッドは二人を笑顔で見送った後、リチャードの頭を撫でた

 

「ほらほら、スネないのっ」

 

「うぐぐ…」

 

舌を火傷したリチャードは、嫌々頭を上げた

 

「ねぇ、ヴィンセントのジョンストンの抱っこの仕方、エグくない⁇」

 

「まぁ、たひかにな…」

 

リチャードは舌を火傷したので上手く話せないでいるが、腕を組んで威厳は保っている

 

「もぅ‼︎はい、お水‼︎」

 

イントレピッドから水を貰い、リチャードはそれを一気に飲み干した

 

「まぁ、確かに子供の抱っこの仕方じゃないな⁇」

 

「ジョンストンはちゃんと手を広げてるわ⁇」

 

「もしかして知らないんじゃないのか⁇」

 

ジョンストンはヴィンセントに抱っこされる時、ちゃんと手を広げている

 

それをヴィンセントはガン無視して首根っこを掴み上げる

 

ただ、二人の関係を見る限りヴィンセントがジョンストンを嫌い…という事は決して無い様子

 

ジョンストンはこれでもかと思わせる位ヴィンセントに懐いているので問題無い

 

問題はヴィンセントの抱っこの仕方だ…

 

 

 

「ジョンストンは髪長いな」

 

「ながい」

 

ヴィンセントとジョンストンはお風呂に入る時、いつも一緒

 

ジョンストンは長い髪をヴィンセントに洗って貰い

 

ヴィンセントはジョンストンに背中を流して貰う

 

浴槽に浸かる時は、ジョンストンはヴィンセントの膝の上

 

「100数えたら上がろうな⁇」

 

「うん」

 

浴槽に浸かりながら、二人は100まで数を数える

 

「ひゃく」

 

「よしっ、上がろう‼︎」

 

湯船から上がる時、ジョンストンはヴィンセントの首に手を回し、先まわりで抱き着いた状態にする

 

流石のヴィンセントも素っ裸の少女の首根っこを掴む事はなく、そのまま手を添えて湯船から出る

 

「体拭くぞ〜」

 

「んんんんん」

 

体をタオルで拭く度、ジョンストンは震えた声を出した

 

「さっ、今日はどうしようか⁇」

 

「ぽにて」

 

「よしよし‼︎」

 

ジョンストンの髪型のセットはヴィンセントの役目

 

寝る前は大体下ろすか、ポニーテールにする

 

朝は勿論ツインテール

 

完全にヴィンセントの趣味だが、ジョンストンは気に入っている

 

「ぽにて」

 

ポニーテールが出来上がり、ジョンストンは鏡を何度も見ている

 

「ありがと」

 

「さっ、今日はもうお休みだな⁇」

 

「うん」

 

寝室に行くまでは手を繋いで向かう

 

「これ、おえかき」

 

ベッドに入ったジョンストンから、今日皆で描いた絵を貰う

 

「サンドイッチとクッキー食べたんだな⁇」

 

「おいしかた」

 

ジョンストンであろう女の子の周りに、サンドイッチらしき物とクッキーらしき物が描かれている

 

ヴィンセントはそれを見て微笑んだ

 

「おやすみ、びんせんと」

 

「おやすみ、ジョンストン」

 

ジョンストンを寝かせた後、ヴィンセントは食堂に戻って来た



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239話 ジョンストンの抱き方(4)

「来た来た」

 

食堂にはイントレピッドが一人いた

 

「ジョンストンが描いた絵だ」

 

「見せて‼︎」

 

食事をしながら二人の会話が聞こえていたので、イントレピッドにジョンストンの絵を見せた

 

「ふふっ‼︎上手に描けてるわ‼︎これはジョンストンでしょ〜、お昼のサンドイッチと…あっ‼︎オヤツのクッキーね‼︎」

 

ヴィンセントは冷蔵庫からミルクを取り出し、コップに注ぎながらイントレピッドと話を続ける

 

「ありがとうな、ジョンストンの面倒見てくれて」

 

「ううん‼︎全然良いの‼︎…ねぇ、ヴィンセント⁇」

 

「なんだ⁇」

 

「子供の抱っこの仕方…もしかして知らない⁇」

 

ヴィンセントの手が止まる

 

「…何故そう思う」

 

「いやぁ…ヴィンセントがジョンストンを抱っこする時、ちょ〜っとエグいかなぁ〜‼︎なんて‼︎」

 

「エグいのか、私の抱き方は」

 

「まぁ…」

 

「どうすればいい」

 

普段から真面目なヴィンセントは、今まさに更に真面目になっている

 

その目は真剣そのもの

 

その目を見たイントレピッドは、少しずつ追い詰められている気がした

 

「ジョンストンは抱っこして欲しい時、手を広げてるでしょ⁇」

 

「言われてみれば」

 

「脇から手を入れて抱っこすればいいの‼︎」

 

「…落ちないか⁇」

 

「落ちないわ‼︎」

 

「どれ」

 

ヴィンセントはコップを置き、イントレピッドの前に立った

 

「私で試したい⁇」

 

「練習しておきたい」

 

「んっ、いいわ‼︎」

 

こう言った事にはオープンなイントレピッド

 

すぐにヴィンセントに向けて手を広げて、こう言った

 

「パパ、抱っこして⁇」

 

ヴィンセントは言われた通りにイントレピッドの脇に手を入れ、抱え上げようとした

 

イントレピッドはその際、ヴィンセントの首に手を回した

 

「よっ‼︎」

 

勿論上がらないが、筋は合っている

 

「そっ‼︎上手よヴィンセント‼︎」

 

「なるほど…これで良かったんだな」

 

「立派なパパよ、ヴィンセント⁇」

 

「…ありがとう」

 

抱き合ったまま、見つめ合う二人

 

互いに同僚で気の知れた存在だからこそ、こんな事が出来る

 

「…たまにはキスでもする⁇んっ⁇」

 

イントレピッドはヴィンセントの額に自身の額をコツンと当てた

 

ヴィンセントは黙ったままだが、目を閉じて満更でもなさそうな雰囲気を醸し出している

 

「…ガンビアがいるから、止めておくよ」

 

「へっ…」

 

硬い瓶が床に落ちる音がした

 

「「リチャード‼︎」」

 

たまたまジュースの瓶を捨てに来たリチャードに事を見られた

 

「あ、あいやいやいや‼︎おおお盛んだ事‼︎」

 

「いつからいたの⁉︎」

 

「さ、最後の方⁉︎かな⁉︎」

 

「言うんだ、リチャード」

 

「食堂で夜の運動し始めた位から」

 

この時のリチャードの顔は、ビックリする位の真顔

 

「ぜ、全部ではない‼︎断じて違う‼︎」

 

「…まぁいいさ。見たのがお前で良かったよ。ははは」

 

「正面からハッスルするなんて珍しいと思ってな‼︎はっはっは‼︎」

 

「リチャード⁇」

 

「はっはっは…は…はい…」

 

ゆっくりとイントレピッドの方を向くリチャード

 

「あ…あはは…」

 

イントレピッドの顔は満面の笑み

 

「ど〜してさらっとベッドの上の話バラすの⁉︎」

 

その顔を見て、リチャードはヴィンセントの方を向いた

 

「ゔぃ、ヴィンセント‼︎今日は奢ってやるよ‼︎なっ‼︎那智BARに行こうな‼︎うんうん‼︎」

 

肩をポンポン叩きながら、ヴィンセントを玄関に押して行く

 

「…分かったっ‼︎」

 

鼻でため息を吐くも、ヴィンセントの顔は笑っている

 

「怒らないなら、巨乳のネーチャンとも飲みたいんだけどなぁ〜」

 

イントレピッドもため息を吐いた

 

だが、その後に見せたのは、イタズラに微笑むいつものイントレピッドだった

 

「分かったわよ‼︎三人だけの秘密よ⁉︎」

 

「へへ、そうこなくっちゃ‼︎」

 

こうして、同期三人の夜は更けて行った…

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「びんせんと、かぴかぴ」

 

「少し昨日の疲れがな…ははは」

 

「りちゃど、かぴかぴ」

 

「今日は訓練おやすみしたい…なぁ、ヴィンセント…」

 

「あぁ…無理、だな…」

 

二人共何故か干からびており、机に突っ伏していた

 

「さぁっ‼︎今日も一日ハッピー‼︎元気モリモリで行きましょう‼︎」

 

「いんとれ」

 

対するイントレピッドは元気ハツラツのお肌ツヤツヤ

 

「つやつや」

 

「ふふ…ジョンストンも大きくなったら分かるわ⁇」

 

「「要らん事を吹き込むな‼︎」」

 

性格が真逆な二人の言った事が合致し、互いに拳を合わせた

 

「今日のオヤツはチョコマフィンよ‼︎」

 

「やった」

 

イントレピッドがジョンストンのリュックにオヤツを入れたのを見て、ヴィンセントが立ち上がった

 

ヴィンセントが立ち上がったのを見て、ジョンストンが手を広げた

 

イントレピッド、リチャード、そこに居た早番のパイロット達の全員が生唾を飲む

 

またエグい持ち方なのか…

 

それとも、イントレピッドから学んだ抱き方なのか…

 

「よいしょっ‼︎」

 

「わ」

 

今度はちゃんとジョンストンの脇に手を入れて抱き上げた

 

「ありがと」

 

「怪我しないようにな⁇」

 

「いてきます」

 

ジョンストンは誰よりも早く寮舎を出て遊びに行った

 

「上手よヴィンセント‼︎」

 

「上手いじゃないか‼︎」

 

「凄いです中将‼︎」

 

「バカッ‼︎からかうな‼︎」

 

それでも皆に褒められ、ちょっと満更でもないヴィンセント

 

その日以降、ヴィンセントが子供達を抱っこする時、エグい持ち方をする事がなくなった…



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240話 吹雪ちゃんとシチュー(1)

さて、239話が終わりました

今回のお話は、単冠湾の吹雪のお話です

愛情を沢山受け、吹雪は日々少しずつ成長して行く中、少しだけ言葉を話せるようになります

果たして、初めて話す言葉は何なのか…


遠征が終わり、榛名とリシュリューが帰って来た

 

ちゃんと手洗いうがいをした後、リシュリューはエプロンを着けて食堂に

 

榛名は執務室のカーペットの上に腰を下ろした

 

「吹雪。こっち来るダズル」

 

ようやく遊び相手が帰って来た吹雪は、おしゃぶりを咥えながらヨチヨチ歩きで榛名の所へ向かう

 

「大人しくしてたダズルか⁇」

 

吹雪の頭を撫でると、目をパチクリしながらも榛名に目をやった

 

「いいか吹雪。あれはニムダズル。ニ〜ム〜」

 

吹雪は榛名が指差した目線の先にいるニムを見た

 

「ニムダズル。言ってみるダズル」

 

「そんなオウムみたいにしてニム…」

 

呆れ顔のニムだが、内心言ってくれるのでは⁇と期待している一面もあった

 

吹雪はニムの姿を見て、指をさした

 

「おっ‼︎そうダズル‼︎ニムダズルよ‼︎」

 

「ニムニム〜」

 

ニムは吹雪に近付き、吹雪のほっぺたをムニムニした

 

榛名達の教育の仕方は、一つ変化があれば褒めるやり方

 

榛名が理想とする良妻賢母”貴子さん”の教育の方針を、榛名とリシュリューが聞きに行ったのだ

 

吹雪は単冠湾の皆から愛情をたっぷり受けて育っている

 

「これはボールダズル」

 

中にビーズが入った、ほぼお手玉のボール

 

吹雪はこれを持つと、シャカシャカする音が面白いのか、必ず振る

 

現に榛名から受け取ってすぐに体と同じく振り始めた

 

「ニムにポイするダズル」

 

「ニムに下さいニム〜」

 

ニムは前屈みになり、お手玉ボールが来るのを待つ

 

「ポイダズル」

 

榛名が何度か投げるジェスチャーすると、吹雪は良く似た体勢を取り、ニムにお手玉ボールを投げた

 

「イッテェニムゥ‼︎」

 

吹雪の投げたお手玉ボールは、パチィン‼︎と、ニムの顔面にクリーンヒット

 

「偉い偉いダズル‼︎」

 

「ボール投げれたニム‼︎」

 

ボールを投げた事にも、二人は褒める

 

ニムが吹雪にお手玉ボールを返すと、吹雪はまたシャカシャカ振り始めた

 

「吹雪は大人しい子だなぁ。よいしょ」

 

執務を終えたワンコが榛名達の輪に来た

 

「この人はワンコダズル」

 

「ワンコさんニム」

 

「僕はワンコ。ワンコだよ、吹雪⁇」

 

ワンコの方を向く吹雪

 

「あいた‼︎」

 

次の瞬間、吹雪はワンコの顔面にお手玉ボールを投げた

 

「吹雪は凶暴ダズルな…」

 

「可愛い顔してるのニム…」

 

「吹雪⁇僕はえ〜んえ〜んだよぉ」

 

ワンコはその場で泣くフリをし始めた

 

すると、吹雪は面白い行動をした

 

「んっ⁉︎」

 

吹雪は自分の口からおしゃぶりを取り、ワンコの口に突っ込んだ‼︎

 

「ブハハハハ‼︎ダッセェダズル‼︎」

 

「ワンコさん赤ちゃんニム‼︎」

 

「うぅ…ん⁇」

 

二人に爆笑され、うなだれるワンコの頭に手が乗る

 

置かれた手は小さな吹雪の手

 

吹雪の思いを要約すると…

 

”吹雪のおしゃぶりをやるから泣き止め”

 

と、でも言いたそうな情けないものを見ている表情をしている

 

「ウハハハハハ‼︎なっさけねぇダズル‼︎」

 

「吹雪に慰められてるニム‼︎」

 

榛名は吹雪を膝に置き、床に両手をつきながら爆笑

 

ニムは腹を抱えて爆笑

 

「洗ってくるよ…うぅ…」

 

おしゃぶりを口から取り、ワンコは執務室を出た

 

「しっかしまぁ、吹雪は良い子ちゃんダズルな⁇」

 

「きっと人を思いやれる子になるニム」

 

ご飯になるまで、吹雪は榛名とニムと遊んで貰う…

 

 

 

 

「ご飯出来たリュー‼︎」

 

「さ、吹雪。前掛けするダズル」

 

榛名に前掛けを着けて貰い、吹雪はいつもの子供用の椅子に座る

 

「今日は榛名が当番ダズル」

 

「お願いすリュー‼︎」

 

「ありがとダズル」

 

リシュリューから吹雪用の離乳食を貰った榛名は、吹雪の前に並べて行く…

 

「おかゆ」

 

コト

吹雪は中身を見ている

 

「しょうが焼き」

 

コト

一瞬おかゆに視線が戻ったが、しょうが焼きを見る

 

「シチュー」

 

コト

最後の皿の中身がシチューだと分かった瞬間、吹雪はまたしょうが焼きに目をやった

 

そして、この食事でまた少し吹雪が成長する

 

「これはご飯ダズル。白いご飯ダズルよ」

 

「しろ…」

 

「おぉ‼︎喋ったダズルよ‼︎」

 

急に吹雪が言葉を話し始めたのだ‼︎

 

そこに居たリシュリュー、霧島、ニム、HAGY、ワンコの全員が榛名と吹雪の方を向いた

 

「あ〜んダズル‼︎」

 

吹雪はおかゆを食べ、熱い視線をしょうが焼きに送る

 

「吹雪、これはシチューダズル」

 

毎度の事だが、吹雪は毎食毎食出て来て食べ過ぎたシチューを嫌がる

 

今もスプーンですくって口元に来たシチューの反対方向を向いている

 

それでも何度か抵抗した後、ちゃんと食べてくれる

 

「しょうが焼きダ…」

 

ようやく来たしょうが焼きに、吹雪はすぐに食いついた

 

おかゆ、シチュー、しょうが焼きのローテーションを何度か繰り返し、全ての器が空になった

 

「ご飯ごちそうさまダズル」

 

「ごはん」

 

「「「おぉ〜‼︎」」」

 

また一つ吹雪が話す

 

「吹雪。榛名ダズル」

 

「しろ」

 

「榛名ダズル」

 

「しろ」

 

吹雪は榛名が何を言っても”しろ”としか返さない

 

「よし、こうなりゃこうダズル…」

 

榛名は大きく口を開け、吹雪に分かりやすく言葉を話し始める

 

「は‼︎」

 

「は」

 

吹雪は榛名を真似して、小声ながらも同じ言葉を言った

 

「る‼︎」

 

「る」

 

「な‼︎」

 

「な」

 

”はるな”とは言えた

 

これを続けて言えば完璧だが…

 

「はるな」

 

「しろ」

 

「ダハァ‼︎」

 

瞬殺で”しろ”が返り、榛名はすっ転んだ

 

他の五人にも爆笑されている

 

「しろ、ごはん」

 

吹雪が初めて覚えた言葉

 

しろ

 

ごはん

 

白いのはご飯、と、榛名が言い続けて来た結果でもある

 

「うぬぐぐぐ…ま、まぁ良いダズル‼︎偉い偉いダズルよ‼︎」

 

勿論榛名は吹雪を褒めた

 

「また明日もイッピー覚えるダズルよ」

 

その日は吹雪はそれ以上の言葉を話す事なく、一日が終わった…



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240話 吹雪ちゃんとシチュー(2)

次の日の朝…

 

執務室のワンコの足元でヨチヨチ歩きながらぬいぐるみで遊ぶ吹雪

 

「吹雪〜⁇」

 

ワンコの声に反応し、吹雪は上を向いた

 

「僕はワンコ。ワンコだよ」

 

「ぱ」

 

「ふふっ‼︎」

 

一文字でも話してくれたワンコは、無性に嬉しくなり、吹雪の頭を撫でた

 

「今日は一日休みダズル‼︎」

 

「おはよう榛名」

 

「おはようダズル」

 

「しろ」

 

榛名の顔を見るなり、開口一番に”しろ”と言う吹雪

 

「よっこらせぃ‼︎」

 

榛名はワンコの足元に居た吹雪を抱き上げ、カーペットの上に連れて来た

 

「しろ、ごはん」

 

「腹減ったダズルか」

 

「ごはん」

 

「分かったダズルよ」

 

榛名は棚から赤ちゃん用のおせんべいの袋を取り出して来た

 

「いただきます、ダズル」

 

榛名は吹雪に見える様に手を合わせる

 

吹雪はちゃんと榛名の手を真似て、体の前で手を合わせた

 

「はい、どうぞダズル‼︎」

 

ぬいぐるみ片手におせんべいを食べる吹雪を、榛名は愛おしそうに眺める…

 

そんな榛名を、ワンコがこっそりと眺める…

 

サクサクと音を立て、吹雪は5、6口で一枚を食べ終えた

 

「しろ、ごはん」

 

「お昼までもう少しダズル。これが最後ダズルよ」

 

もう一枚だけ吹雪に渡し、その隙に榛名は赤ちゃん用のおせんべいの袋を棚に戻した

 

「おしゃぶりでも咥えてるダズル」

 

吹雪におしゃぶりを咥えさせ、またワンコの所に置いて榛名は執務室を出た

 

「おはよ〜ニム」

 

「おはよう、ニム」

 

次はニムが執務室に来た

 

「吹雪もおはようニム」

 

ニムが吹雪の前に来ると、吹雪はすぐに擦り寄り、ニムはその前に座ってぬいぐるみで一緒に遊び始めた

 

吹雪は単冠湾のほとんどの人に懐いてはいるのだが、序列的に言うとニムは二番目

 

やっぱり一番はリシュリュー

 

そして三番目に榛名

 

その他一人を除いて残りは同率

 

その一人とは…

 

「おはようございます、提督」

 

「おはよう、HAGY」

 

扉が開くと同時に、吹雪はその方向を見た

 

「お、おわ‼︎」

 

そしてすぐにぬいぐるみを床に投げ捨て、ニムに抱き付いた

 

吹雪はニムに抱き付いた後、ニムのお腹付近に顔を埋めて小刻みに呼吸し、全く動こうとしない

 

「大丈夫ニムよ」

 

吹雪の背中をさするが、吹雪は一向にこっちを向かない

 

「お昼ご飯の準備をして参りますね‼︎」

 

HAGYがそう言った瞬間、吹雪の荒い呼吸が一瞬ピタリと止み、HAGYが部屋を出てすぐに呼吸を整えた

 

「なはは…吹雪は分かってるニムね」

 

吹雪が顔も合わせたくない相手は、今しがた執務室を出て行ったHAGY

 

その理由は昼ごはんで明らかになる



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240話 吹雪ちゃんとシチュー(3)

単冠湾の昼食…

 

「吹雪もご飯ニムよ」

 

ニムは吹雪を抱き上げ、いつもの机付きの椅子に座らせた

 

いざ吹雪が椅子の下に付いている小さなタイヤのロックを掛けようとした時だった

 

「さぁ、吹雪⁇HAGY特製のご飯が出来ましたよ⁇」

 

HAGYが吹雪のご飯を持って執務室に来た

 

それを見た吹雪は何とか逃げ出そうと、足で床を蹴って移動し始めた

 

「ウギャ‼︎イッテェニムゥ‼︎」

 

タイヤはモロにニムの手を轢き、タイヤ痕がニムの手に付いた

 

「吹雪⁇どうして逃げるのですか⁇」

 

HAGYは足で吹雪のタイヤを止め、ロックを掛けた

 

それでも吹雪は逃げようと前に踏ん張る

 

そんな吹雪の前に、お昼ご飯が置かれる

 

「おかゆです」

 

コト

吹雪はニムを見ている

 

「肉じゃがの肉抜きです」

 

コト

吹雪はニムを見ている

 

「ごぼうと人参のシチューです」

 

コト

吹雪はニムを見ている

 

助けてくれ‼︎とでも言いたそうな目でニムを見つめる吹雪

 

HAGYは料理にほとんど肉を使わない

 

美味しいは美味しいのだが、味が根菜の味しかしない

 

吹雪はそれが如何に苦いかを知っており、HAGYの作るご飯を見るなり逃げ出す

 

最近ではHAGYを見るだけで顔も合わせようとしない

 

「はいっ、吹雪⁇肉じゃかですよ」

 

HAGYは吹雪の口元に肉じゃかの肉抜きを持って行くが、口を開けようとはしない

 

それどころか、意地でも食うか‼︎と言わんばかりに一文字に閉めている

 

「食べないのですか⁇」

 

悲しそうに吹雪を見つめるHAGYだが、吹雪は目も合わさず、口は一文字で微動だにしない

 

「食べなきゃダメですよ」

 

HAGYは何度も吹雪の口にスプーンを持って行くが、吹雪は絶対口を開けない

 

「分かりました…」

 

HAGYはスプーンを置いて、何故かぬいぐるみを手に取った

 

吹雪のお気に入りのクマのぬいぐるみではなく、ちょっとボロい猫のぬいぐるみに対し、HAGYはスプーンを口に当てた

 

「はいっ、ご飯ですよ〜」

 

「いやいや〜、ご飯食べないよ〜」

 

HAGYの一人芝居が始まる

 

「どうして食べないの〜」

 

「これ嫌いだよ〜」

 

「そう…」

 

HAGYはスプーンを吹雪の前にあるシチューの前に置いた

 

「好き嫌いしちゃダメでしょ⁉︎HAGY‼︎HAGY‼︎HAGYYYYY‼︎」

 

HAGYは突然猫のぬいぐるみを拳で殴打し始めた‼︎

 

「ちょっ、HAGY‼︎」

 

「怖いニム‼︎」

 

いきなりの出来事でワンコの制止も届かず、ニムは咄嗟に吹雪を庇うが、吹雪は豹変したHAGYに釘付け

 

「ハァ…ハァ…」

 

「ちょっ、ちょっとやり過ぎニム‼︎」

 

「吹雪⁇」

 

流石の吹雪もHAGYの気迫にビビったのか、半泣きの目でHAGYを見つめている

 

「榛名さんのオラオラを喰らいたいですか」

 

HAGYの目は本気

 

吹雪もそれに気付いたのか、小さくだが首を横に振った

 

「HAGYのハギハギを喰らいたいですか」

 

これにも吹雪は首を横に振る

 

「ご飯、好き嫌いせずに食べますか⁇」

 

吹雪はこれでもかと机を叩き、早くご飯をくれ‼︎と暴れ始めた

 

「はいっ、食べましょうね〜」

 

吹雪はHAGYにご飯を食べさせて貰い始めたが、吹雪は一点見つめ状態

 

こういう事をするから吹雪はHAGYに全く懐かない

 

「はいっ、よく食べましたね〜」

 

吹雪は目が点になりながらもHAGYの料理を完食

 

「後は任せるニム」

 

「お願いしますね、ニムさん」

 

HAGYが食器を下げ、吹雪はニムに椅子から降ろして貰い、カーペットの上に来た

 

「よしよし、怖かったニムね」

 

カーペットの上でニムに抱っこされた吹雪は、放置された猫のぬいぐるみを指差した

 

「猫ちゃん可哀想ニムね…」

 

散々ハギハギされた猫のぬいぐるみを取り、吹雪に渡す

 

「よしよし〜ってしてあげるニム」

 

最初はニムがお手本を見せ、猫のぬいぐるみの頭を撫でる

 

吹雪はニムと猫のぬいぐるみを何度か交互に見た後、ニムの真似をして頭を撫でた

 

「ニムは子育てに向いてるなぁ」

 

ワンコから見ても、ニムは子育てが上手い

 

暇さえあれば吹雪の横に居るのは大体ニムだ

 

「HAGYがやり過ぎなだけニム。教育に暴力は要らないニム」

 

「助かるよ、ニム」

 

「ニムは元から子供好きニム。苦になんてならないニム」

 

ニムの意外な才能は、子育てにあった

 

それを教えた…そうなるようにしたのは誰なのか

 

それを知るのは、ニム本人だけである…

 

 

 

 

「今日はお休みニムよ」

 

それでも寝る時はリシュリューの所に行きたがる

 

「こっちにくリュー‼︎」

 

吹雪をリシュリューに抱っこさせ、二人はベッドに入った

 

「お休みニム。吹雪、リシュリュー」

 

「おやすみなさいリュー‼︎」

 

ニムが執務室に戻ると、HAGYがワンコに怒られていた

 

そりゃあそうだ

 

吹雪の前であんな暴力行為を見せてご飯を食べさせてたのだ

 

「いいかいHAGY。暴力はダメだよ⁇」

 

「申し訳ありません…」

 

「怖がって逆にご飯食べなくなっちゃうよ⁇」

 

「はい…気を付けます…」

 

「HAGY」

 

「はい…」

 

ニムの呼び掛けに気付いたHAGYの目は真っ赤

 

「HAGYもHAGYの教え方があって、あぁしただけニム。次からしなきゃいいだけニム」

 

「そうだよHAGY」

 

「ありがとうございますっ…」

 

「んじゃ‼︎ニムはHAGYのウメェニンジンケーキでも頂くニム‼︎ワンコさんいるニム⁇」

 

「うんっ‼︎頂こうかな‼︎」

 

HAGYの顔が明るくなった

 

ニムはフォローも上手い

 

三人の執務室でニンジンケーキを食べ、その日はそれぞれ就寝となった

 

この日以降、HAGYは料理の味付けに、ちゃんと調味料を使うようになった…



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241話 私の秘蔵っ子(1)

さて、240話が終わりました

今回のお話は、ラバウルから始まります

最近ネルソンがオボロロロ状態

そこにプロフェッショナルの貴子さんが来て…



その背後で、レイはとある事で奮闘しています


ラバウル基地…

 

ラバウルさんはパパと共に哨戒飛行任務

 

健吾は愛宕、大和、おおい、暁、アイちゃん、日進を連れてタウイタウイモール

 

今基地にはアレンとネルソンしかいない状態になっていた

 

キッチンでネルソンがコーヒーを淹れている前で、アレンは食堂で新聞を眺めている

 

「おいアレン。貴様はある程度の医学知識を持っていたな⁇」

 

ネルソンがコーヒーをカップに注ぎながら、アレンに話しかける

 

「あぁ。一応それ相応は見れる」

 

「余を見てくれぬか。スーパーゲロでな」

 

「スーパーゲロ…」

 

どこで覚えたのかネルソンらしからぬ言葉を吐き、アレンは聴診器を持って来た

 

コーヒーカップを机に置いたネルソンはソファーに寝転んだ

 

「何処が調子悪いんだ⁇」

 

「うぬ。腹なんだがな。何か入ってる気がしてな」

 

「どれっ…」

 

服を捲り上げたネルソンのお腹に聴診器を当てる…

 

「このままではオボロだ。何とかならないか⁇」

 

「ん⁇」

 

ネルソンのお腹から心拍音が聞こえる

 

「妊娠だ…」

 

「そうか‼︎余とアレンの子だなっ‼︎」

 

アレンが唖然とする前で、ネルソンは驚く程飲み込みが早かった

 

「貴子さんを呼ぼう‼︎そしたら確実だ‼︎」

 

「うぬっ‼︎」

 

 

 

 

一時間後…

 

「ちょっと見せてね〜」

 

「うぬ」

 

きそちゃんが貴子さんを連れて来てくれた

 

「レイはどうした⁇」

 

「マーカス君、今日は横須賀で試験なの」

 

 

 

 

その頃レイは…

 

「いいですかマーカス大尉。これは昇格試験ですよ⁇分かってますか⁇」

 

香取先生が教壇に立ち、その前に一人ポツンとレイだけがいる

 

レイが嫌がり続けている昇級試験を受けさせているのだ

 

「ウッセェババア‼︎」

 

口で反発するレイだが、何故か椅子から立ち上がらない

 

「あんっ…いえっ‼︎今日こそは昇級して貰いますよ⁇」

 

「チェーンで椅子に括り付けてやる試験なんてどこにあんだ‼︎」

 

レイはチェーンで椅子に雁字搦めに括り付けられており、逃げようにも逃げられない

 

「マーカス大尉が逃げるからですよ⁇さぁっ、ペンを握りましょうか」

 

「い〜や〜だ〜‼︎」

 

 

 

 

きそちゃんがエコー検査をし、貴子さんが検査結果と診察を行った結果…

 

「うんっ、妊娠ね‼︎おめでとう‼︎」

 

やっぱりネルソンは妊娠していた

 

「余とアレンの子だっ‼︎」

 

きそちゃんが機材を片付けている横で、ネルソンと貴子さんは話を続ける

 

「そう言えば、どっちか艦隊化計画を受けてる⁇」

 

「うぬ。余が受けている」

 

ネルソンが艦隊化計画の手術を受けていた

 

こう見えてアレンは艦隊化計画の手術を受けていない

 

「なら、産まれて来るスピードが速いわ⁇本当に言ってる間よ⁇」

 

「名前を決めねばなっ‼︎」

 

「ふふっ。さっ、きそちゃん⁇帰ろっか‼︎」

 

「うんっ‼︎邪魔しちゃいけないよね‼︎」

 

そそくさと二人は基地から出て、貴子さんがグリフォンに乗った

 

《乗り心地はどう⁇》

 

「結構快適なのね⁇クーラーだってついてるし‼︎」

 

《宙返りしても大丈夫なドリンクホルダーもあるんだよ‼︎》

 

今回緊急時の為、貴子さんはレイやパパの付き添いなく機体に乗ってラバウルに来た

 

きそが居る時点で操縦の安全は確保されているので心配は無い

 

《きそちゃんか⁇今日はありがとうな⁇》

 

無線からアレンの声が聞こえて来た

 

《グリフォン‼︎》

 

《すまんすまんグリフォン‼︎貴子さんはいるか⁇》

 

「ここにいるわ、アレン君」

 

アレンの顔が映し出されたモニターに、貴子さんの目が行く

 

《忙しい中、ありがとうございました》

 

「気にしないで‼︎ここに来てから結構な数見てきたから慣れちゃったの‼︎」

 

《そう言って貰えると助かります。あの…またお願いするかも知れません》

 

「気にせずにいつでも言ってね⁇誰か手が空いてたらすぐに駆け付けるから‼︎」

 

《助かります。後日お礼に伺います》

 

流石のアレンも貴子さんには敬語

 

貴子さんは皆にフランクで居て欲しいのだが、艦娘であった貴子さんを知ってる人は皆敬語

 

”あの”榛名でさえ、貴子さんにはほぼ敬語を使う

 

《レイ迎えに行かなきゃ‼︎》

 

「私も連れてってくれる⁇帰りは高速艇で帰るから」

 

《一緒に乗って帰ろうよ‼︎》

 

「んっ、分かった‼︎お言葉に甘えるわね⁉︎」

 

《うんっ‼︎》

 

貴子さんを乗せたグリフォンは横須賀を目指す…



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241話 私の秘蔵っ子(2)

「ぐへぇ…」

 

きそと貴子さんが横須賀に着く少し前、レイの試験が終わり、香取先生の前で机に突っ伏していた

 

「マーカス君」

 

「大尉じゃねぇのかよ…」

 

「大尉じゃないわ。中佐よ」

 

「は⁉︎」

 

中佐と聞いて一気に起き上がる

 

「あ〜大変大変‼︎間違えて中佐の試験を出してしまいました‼︎」

 

香取先生は半笑いのオホホ笑い

 

「こんのババア…やりやがったな⁉︎」

 

「先生も胸を張れます。私のアカデミーからこれだけ高官が出れば」

 

「まっ、確かに張ってるな。態度もデカけりゃ胸もデカイ、正にババアだ‼︎」

 

チェーンで括り付けられているので、身振り手振りと表情で香取先生をおちょくる

 

「言わせておけばマーカス君…少しお仕置きが必要です…ねっ‼︎」

 

渾身のチョークショットがレイの眉間を狙う‼︎

 

「よっと‼︎」

 

それを毎度毎度最も簡単に右手の人差し指と中指で挟んで止めるレイ

 

「返品だっ‼︎」

 

いつもと同じく、香取先生の髪が揺れる位のスピードで黒板にチョークを返した

 

それでも香取先生は真っ直ぐな視線をレイから外さない

 

「眉間から12cmズレてますよ⁇」

 

「ワザと外したんだよ。昼飯食ってくるから、後で一応結果だけ教えてくれ」

 

いつの間にかチェーンを外したレイが立ち上がった

 

「あらっ⁉︎ちょっと‼︎どうやってチェーン外したの⁉︎」

 

「んなもん朝飯前だ。何なら試験前に外せた」

 

「…なら次はもっと強力な奴を準備しないといけませんね…」

 

口元に手を当てて目線を外した香取先生は、次はマーカスをどう括り付けようかと悩む…

 

「物騒な事言うな‼︎」

 

「冗談ですよ。先生も一緒して良いかしら⁇」

 

「行こう」

 

 

 

 

香取先生と表に来た

 

「何で腕組むんだよ…」

 

表に出てすぐ、香取先生が腕を絡めて来た

 

「たまにはいいでしょ⁇」

 

「オジンが好みじゃなかったのか⁇」

 

「そうね。最低でもウィリアムやエドガー位は欲しいわ…それでも、たまには人肌恋しい時もあります」

 

「…パスタでいいか⁇」

 

「えぇ」

 

腕を組まれたまま、リベッチオパスタに入る

 

サンダーバードの二人は、香取先生と食事となると何故か香取先生に麺系を食わせる

 

隊長はちゃんぽん

 

マーカスはパスタだ

 

「あ‼︎レイ‼︎」

 

「マーカス君‼︎」

 

リベッチオパスタにはきそと貴子さんが居た

 

香取先生と共に二人の横の席に腰を降ろしながら話を続ける

 

「昼食べに来たのか⁇」

 

「そんな所っ‼︎ねっ⁇きそちゃん⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

きそはミートスパゲティを口の周りにいっぱい付けて美味そうに食べている

 

貴子さんは貴子さんで、既に周りに数枚の空皿が重ねられている

 

「マーカス君は試験どうだった⁇」

 

「ダメダメのダメ‼︎そらもうからっきし‼︎」

 

昇級する気などサラサラ無い

 

今のポジションが一番しっくり来るのだが、上からの重圧(横須賀、香取先生、総司令)が凄く、嫌々受けに行った結果グルグル巻き試験が始まり、余計に昇級する気がなくなっている

 

「中佐に昇進ですね、マーカス君⁇」

 

「あらっ‼︎やったわね‼︎」

 

「ははは。俺が中佐なんてないない‼︎ミートソース1つ‼︎」

 

「私にも下さい‼︎」

 

奥からリットリオの「は〜い」が聞こえて来たので、注文は出来た

 

「レイが中佐ね〜、僕も階級欲しいなぁ〜」

 

駄々をこねながらもパスタを食べるきそ

 

貴子さんは机に肘を置きながら嬉しそうにそれを眺めている…

 

「あ‼︎そうそう、マーカス君‼︎グリフォン、乗り心地良かったわ⁇」

 

「へぇ⁇珍しいな⁇何処行ってたんだ⁇」

 

「アレン君の所っ‼︎」

 

「アレンさんの所‼︎」

 

「アレンが貴子さんを呼ぶだと⁉︎きそは分かるが…」

 

きそがアレンに呼ばれるのは普通に分かる

 

訓練の相手、AIの改修、装備の相談…

 

ただ、貴子さんが呼ばれる理由がいまいち分からなかった

 

ありえるとしたら、アイちゃんか日進に料理を教えに行った…位とは思うが

 

「アレン君とネルソンさんに子供が出来たのよっ」

 

全く違う答えが飛んで来た‼︎

 

ネルソンの妊娠の検査なら貴子さんが行ったのは納得すると

 

「三人目か‼︎良かった良かった‼︎ありがとう、貴子さん。助かりました」

 

「ねっ⁇」

 

「ふふっ、ホントねっ‼︎」

 

「何だよ、二人して笑って」

 

「レイは三人目って言うかなぁ〜って」

 

「日進、アイちゃん、んで今の子だろ⁇」

 

「あ、そっか。日進ちゃんが長女なんだよね」

 

「ネルソンのネックレスにずっと居たからな」

 

「レイも覚えてたんだね、ダッキ時代の日進」

 

「分かりやすく言うとな、俺がアイリス、アレンがダッキだ」

 

「分かりやすいわ‼︎お互いの初めてのAIなのね⁇」

 

「そっ。それにダッキは高性能だ。ダッキが居なきゃ、親潮の適応変化機能は無い。ありがとう」

 

「美味しそうね」

 

空気を読み、何も言わずに笑顔だけのリベッチオがミートソースパスタを持って来てくれた



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241話 私の秘蔵っ子(3)

親潮にはダッキ…今の日進と同じ適応変化機能が備わっている

 

この機能があれば、適材適所で一番効率の良い方法を模索して実行出来る

 

親潮はかなり特殊で、簡単な物なら自分を構成している成分で見た物を複製出来る能力が突然変異で産まれた

 

日進は聞いた話によると、初めて見た物や触った事の無い物の使用用途が瞬時に分かる能力が付いている

 

 

 

「AIの話をするマーカス君の顔、凄く生き生きしてるわ⁇」

 

「そうか⁇ありがとう‼︎」

 

「そろそろ行かないと‼︎きそちゃん、お買い物して帰ろっか‼︎」

 

「うんっ‼︎ごちそうさまでした‼︎レイ、また後でね‼︎」

 

きそは貴子さんに手を繋いで貰い、二人共俺達に手を振って店を出て行った

 

「アレンが三人目か…産まれたら見に行くかな」

 

「アレン君が部下になるわ⁇」

 

遂にアレンを顎で扱える日が来たか…

 

それを聞くだけで今すぐにでも昇進したい‼︎

 

「先生も嬉しいですよ、本当ですよ⁇」

 

香取先生は俺と目を合わせず、髪を耳にかけながらパスタをクルクル巻いて口に運んでいる

 

「マーカス君が中佐になったら、先生もようやく隠居です」

 

「まっ、ババアにはそれが似合うなっ‼︎」

 

ほんの少しシリアスな香取先生の顔を見て、わざといつもの話し方で返した

 

「隠居したら遊びに来てくれるかしら⁇」

 

「隠居なんかさせるか」

 

「あら…どういうつもり⁇」

 

眼鏡の向こうの表情が、いつもの香取先生に変わる

 

「昇進しねぇからな、俺」

 

「そんな…そろそろ先生の立場を考えて下さい」

 

「やなこった」

 

香取先生が持っているフォークが、皿の中に置かれた

 

「マーカス‼︎いい加減子供じみた事は止めなさい‼︎」

 

「隠居とか言っちゃうババアは、俺の知ってる口やかましい香取先生じゃないね」

 

「なんです⁇言いたい事があるならはっきり言いなさい」

 

「艦娘には、まだまだ香取先生が必要なんだよ。これから艦娘として生きて行く奴、今まさに艦娘として香取先生の手引きを受けている奴、これから引退する奴…どの子にも必要なんだよ」

 

「後継に鹿島がいます」

 

鹿島の名を出されて、何故か頭に来た

 

バンッ

 

「ひぅっ‼︎」

 

机を叩いて、香取先生の顔に近付いた

 

「鹿島じゃなくてあんたが必要なんだよ‼︎香取‼︎」

 

「はうっ…」

 

つい呼び捨てにする位、声に覇気がこもった

 

「辛くなったら俺もいるし、隊長やラバウルのみんなだっている。話位はいつだって聞く」

 

「はいっ…」

 

「今日は黙って俺の横にいろ。いいな」

 

「いましゅ…」

 

急にしおらしくなった香取先生

 

「ど、どうした⁇」

 

「んっ‼︎んんっ‼︎何でもありませんよっ‼︎少しばかり絶頂しただけです‼︎」

 

「うわ…」

 

「今日はマーカス君の傍に居ますからね⁇」

 

キラリと光る眼鏡を香取先生がクイッと上げた時、悪寒が走った

 

「あ‼︎俺今日親父と瑞鶴と寿司食うんだった‼︎じゃね‼︎バイビー‼︎」

 

フォークを置き、食いさしだがパスタを置いて店を出ようとした

 

「待ちなさ…いっ‼︎」

 

体に細いワイヤーが急に巻き付けられた‼︎

 

「ほんげ‼︎」

 

「今しがた、若い子も悪くないと思いましてね…貴方だけですよ、この香取を明確に必要と仰ってくれたのは…」

 

「ヤダヤダヤダヤダ‼︎俺にババアの趣味ないの‼︎ねぇ‼︎」

 

どれだけジタバタしてもワイヤーが食い込むだけ

 

「ヤダヤダはリベの特権だよ‼︎」

 

別席の空皿を持って来たリベッチオが前に来た

 

「ちょ‼︎リベッチオ‼︎お菓子買ってあげるから助けて‼︎」

 

「ヤダヤダヤダ‼︎ありがとうございましたぁ‼︎」

 

「またのお越しをぉ〜」

 

「あーっ‼︎ヤダヤダ‼︎助けてくれーっ‼︎」

 

「さっ、来なさい」

 

面白半分のリベッチオ、リットリオに見放され、店外に引っ張られて来た

 

「へぶっ‼︎」

 

そこでワイヤーが解かれ、自由を得た

 

「先生、そんなに魅力はないとは思わないのですが…」

 

「態度とおっぱいはデカイな、うんうん」

 

「もう…」

 

そしてまた、腕を組んで来た

 

「今日だけだからな」

 

「あら、さっきはいつでもって言ったじゃない。空軍は嘘をつかないんでしょう⁇」

 

「…お手上げだっ」

 

結局、その日試験結果が出るまで香取先生と基地を散策する事になった…

 

 

 

 

試験の結果⁇

 

大尉のままが落ち着くんだよ、俺は



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242話 金色の赤ちゃん(1)

さて、241話が終わりました

今回のお話で、アレンとネルソンの間に赤ちゃんが産まれます

名前は未だ不明ですが、アレンにソックリな赤ちゃんです


「ぐわぁぁぁあ‼︎こっ、こんなに早いのかっ…あ、アレン…」

 

「ネルソン⁉︎」

 

あれから三日後、ネルソンにいきなり陣痛が来た

 

アレンに担がれ、治療台に寝かされるネルソンの横に日進が来た

 

「母上⁇掛け声は分かるかのぉ⁇」

 

「うぬっ…ひー、ひー、ひーひーひーだなっ…」

 

「それじゃあ吐きっぱなしじゃ‼︎ヒーヒーフーじゃ‼︎」

 

「よし、ネルソン。落ち着いて力を入れるんだ」

 

「よしっ…ぐわっ‼︎」

 

ネルソンが力もうとしたと同時に、お腹の中の子が腹を蹴り始めた

 

「余の腹を蹴るとはっ…はっ‼︎元気な奴め‼︎こうなったら…日進、手を貸せ‼︎」

 

「な、何をするんじゃ⁉︎」

 

日進の手を握り、ネルソンは一気に力み始めた

 

「よぉぉぉぉぉお…‼︎‼︎‼︎」

 

 

 

 

 

「あれんさんとねるそんのあかちゃん、どんななまえかな⁇」

 

「あにになうとおもう⁇」

 

「あえんしゃんじぅにあ‼︎」

 

たいほう、ひとみ、いよがカーペットの上で輪になりながら話している

 

「この間、山城先生に教えて貰ったよ。出産ってのは命懸けらしいな」

 

天霧がコーヒーを持って来たついでに話し掛けて来た

 

「これは女性にしか分からない痛みだからな…俺には分からない問題だ」

 

「どれくらい痛いんだろうな…」

 

ここにいる出産経験者は三人

 

三人だが、内一人は聞かない方が良いだろう…

 

「結構ポンッって産まれたわ⁇今はちゃんとした麻酔で痛みも抑えられるし、天霧ちゃんが思ってるよりもう少しだけ楽になるわ⁇」

 

聞かない方が良いだろうと思っていた貴子さんが一番最初に答えてくれて、一番安心出来る答えを返してくれた

 

「私も力んだらスポッと出たわね」

 

「マーカスは辛かったわ…ウォーターメロンでも出てくるのかと思ったもの」

 

次いでローマと母さんが答えてくれた…

 

が、母さんの言い方が一番伝わり易くて一番痛そうだ

 

「ひとみもいつかあかしゃんうむ⁇」

 

「いよもうむ⁇」

 

「たいほうもうむ⁇」

 

「そうだなっ…よいしょ‼︎」

 

三人の前で腰を降ろすと、三人共寄って来た

 

「いつかみんなに好きな人が出来て、結婚した時に赤ちゃんは出来るかも知れないな⁇」

 

「ろ〜やってあかしゃんつくうの⁇」

 

「鳥さんが持って来るんだ。赤ちゃんどうぞ〜ってな‼︎」

 

「おかあしゃんのおなかにいえうの⁇」

 

「そっ。いつか知れるといいな⁇」

 

「とりしゃんおとす‼︎」

 

「とりしゃんおとちて、あかしゃんとう‼︎」

 

ひとみといよが立ち上がり、外に行こうとした

 

「あいやいやいや‼︎違うんだひとみ‼︎いよ‼︎」

 

「すきなひとといっしょにやるんだよ⁇」

 

たいほうが良い事を言ってくれた

 

「とりしゃんちあう⁇」

 

「あにちたあ、あかしゃんれきう⁇」

 

「え〜とだな…」

 

鳥作戦が失敗したとなれば、後は…

 

「ぱぱしゃんとたかこしゃん、ようになんかちてう」

 

「あえすうの⁇いくぞたかこ〜‼︎」

 

「あぁ〜‼︎もっとちぉ〜らい‼︎」

 

「だぁーっ‼︎ちょいちょいちょい‼︎」

 

隊長と貴子さんの夜のあられもない姿が披露されそうになったので、瞬時に口を塞いだ

 

「はぁ…はぁ…あっぶねぇ…」

 

「たいほうはどうしたらいいかしってる‼︎」

 

「そっか。鹿島に習ったもんな⁇」

 

「うんっ」

 

「マーカス君」

 

…背後から貴子さんの声がした

 

「…はい」

 

「こっち向いて」

 

「…左フックですか」

 

「右ストレートよ」

 

貴子さんの声を聞き、大きく深呼吸する

 

終わった…

 

これは激怒だ、声で分かる

 

いざ決意を固め、振り返る‼︎

 

「電話よ⁇」

 

「あ、はい」

 

貴子さんの手には無線機が握られていた

 

「どうした⁇」

 

《レイか‼︎産まれたぞ‼︎元気な女の子だ‼︎》

 

無線の先はアレン

 

ネルソンとの間に二人目が産まれた報告だ

 

「おぉ‼︎やったな‼︎名前はなんだ⁇」

 

《まだ決まってない。まぁ、すぐに決まるさ‼︎》

 

「分かった。一応二人共診察しよう。いいか⁇」

 

《助かる‼︎じゃあ、また後でな‼︎》

 

「了解‼︎」

 

無線機を置き、皆の方に振り返った

 

「ネルソンが赤ちゃん産んだって‼︎」

 

「やったねうしょん‼︎」

 

「やったねうしょん‼︎」

 

「やったね‼︎」

 

その場にいたひとみ、いよ、たいほうが軽く跳ねながら大喜びしている

 

「お祝いの準備しなきゃねっ‼︎」

 

「あ、あの…貴子さん⁇」

 

問題は貴子さんだ

 

多分怒らせた…

 

「ん〜⁇なぁに〜⁇」

 

「怒ってない⁇」

 

「あ〜ぁ‼︎怒ってないわ⁉︎あぁ言われたらそう返すだけよっ⁇」

 

「良かった…じゃあ、ちょっと診察行って来ます」

 

「ふふっ。すっかりお医者さんになったわね⁇」

 

確かに今の言い方だと医者だ

 

「スクランブルだっ‼︎」

 

「気を付けてねっ‼︎」

 

赤ちゃんの話に夢中な子供達を見た後、グリフォンの所に向かう

 

 

 

 

「きそ」

 

「はいはい」

 

グリフォンの近くにきそがいた

 

地べたに座ってPCを見ている

 

「何してるんだ⁇」

 

「タナトスが何処にいるか見てるんだ‼︎今横須賀で補給してる‼︎ほら見て‼︎」

 

PCにはタナトスの居場所が点で示されており、今現在補給を受けている様子

 

「タナトスにそこで待機してくれって言ってくれ。アレンに赤ちゃんが出来た」

 

「ホント⁉︎やったね‼︎」

 

「見に行くか⁇」

 

「行くっ‼︎隊長にも言っとくね‼︎」

 

「グリフォンで待ってるぞ⁇」

 

「うんっ‼︎すぐ行くっ‼︎」

 

グリフォンに乗り、きそが入るのを待つ

 

「お待たせ‼︎よいしょ…」

 

きそが乗り込み、タービンが回る

 

《名前何て言うのかな⁇》

 

「まだ決まってないらしい。着いた頃くらいには決まってるだろな」

 

《楽しみだね‼︎しゅっぱーつ‼︎》

 

ラバウルに向けてグリフォンが飛び立つ…



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242話 金色の赤ちゃん(2)

ラバウル基地、医務室…

 

「すまないマーカス、キソ。忙しい中来てくれたのだなっ」

 

「いいんだいいんだ‼︎お安い御用さ‼︎」

 

「わ‼︎可愛いね‼︎」

 

ネルソンの胸に、お包みに包まれた赤ちゃんがいた

 

ネルソンの胸が余程良いのかスヤスヤ眠っている

 

「一応、ネルソンの体調が落ち着いたら横須賀で本格的な検査を受けてくれ。俺は一時の検査しか出来ない」

 

「分かった」

 

「礼を言わねばならない。タカコサンとキソ、そしてマーカス…皆余が助けを求めたらすぐに来てくれた」

 

「気にするなっ‼︎抱っこさせてくれるか⁇」

 

「うぬっ‼︎」

 

ネルソンの腕から赤ちゃんを受け取る…

 

「お〜ぉ〜、力強い子だっ…」

 

これまでに赤ちゃんは何度か抱っこした

 

たいほう、朝霜、磯風、時津風…

 

兎に角沢山抱っこした

 

その中でも今抱っこしている赤ちゃんは皆より倍重たかった

 

力強く育つ証拠だ

 

「ありがとう」

 

ネルソンに赤ちゃんを返し、聴診器を出した

 

「少しだけ聞かせてくれよ…」

 

健康そのものの命の音が聞こえる…

 

何処に聴診器を当てても、健康そのもの

 

「よしっ。赤ちゃんは健康そのものだ。次はネルソンだな」

 

「うぬっ。アレン、少し頼む」

 

「おっ。分かったっ」

 

ネルソンが服を捲り上げ、胸元と腹部に聴診器を当てる

 

「産後の影響だろうが、疲労から少し消化不良を起こしてる。食生活が元に戻れば問題はないだろう。果物系を食べてくれ」

 

「この子のジュースを作る時に余も頂こう‼︎」

 

「良い心掛けだっ。後はきそがDNA検査をする。もし体調が悪くなったらすぐに連絡をくれ。横須賀に薬を手配させる」

 

「うぬっ‼︎」

 

「アレンさん‼︎髪の毛ちょっと抜くね‼︎」

 

「おっ‼︎頼んだ‼︎」

 

屈み込んだアレンの髪の毛を数本抜き、きそは綿棒を取り出した

 

「ほっぺたの中のも採るね」

 

「あ〜…」

 

口の中の組織も採り、アレンは終わり

 

次いでネルソンも同じ様に採取した後、赤ちゃんには起こさない様にそ〜っと口に綿棒を入れ、内側をクリクリして取り出した

 

「オッケー‼︎これで全部だ‼︎」

 

厳重なケースにそれらを仕舞い、検査は終了

 

「名前は何にしたんだ⁇」

 

「あぁ…実はまだなんだ…」

 

「日進は余が付けさせて貰ったからなっ。次はアレンが付けて欲しいのだ」

 

「いよがアレンジュニアにしたらどうだって言ってたぞ⁇」

 

「女の子だからな…流石に横須賀に行くまでには決めるさ」

 

「了解っ‼︎よしっ、きそ‼︎帰るぞ‼︎」

 

「オッケー‼︎邪魔しちゃいけないね‼︎」

 

「助かったよ、レイ」

 

「感謝する‼︎」

 

一番最初の家族団欒は邪魔しちゃいけないと思い、きそが持とうとしていたケースを持って医務室を出た…

 

 

 

 

 

DNA検査の結果は紛れもなく親子だった

 

いや、そんな事は些細な事だ

 

問題はあの赤ちゃん…

 

この子がまた暴れん坊な子だとは、誰もが少しは予測していたが…



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243話 トラップガール(1)

少し短いですが、242話が終わりました

今回のお話は、前回の三日後のお話になります

艦娘と人間の間に産まれた赤ちゃん

御多分に漏れず急成長を果たし、ラバウルに一波乱を起こします


三日後…

 

「そふとくい〜む、くい〜む」

 

「ねいねい〜」

 

「ばにらとちょこ⁇」

 

「おらにばにらさくんろ」

 

食堂では、きそが造ったソフトクリームねりねり器の前に子供達が集まっている

 

横須賀のモーモーさんから採れた牛乳を使って生成したプリンに続く物でもある

 

「どう⁇美味しい⁇」

 

「おいしいね‼︎」

 

「あま〜い‼︎」

 

「おいち〜‼︎」

 

「こりゃあうめぇだ‼︎」

 

子供達に喜んで貰い、きそもご満悦

 

「レイとパパも食べて‼︎」

 

「おっ‼︎美味そうだな‼︎」

 

「おっと…」

 

タイミング悪く無線が鳴った

 

「横須賀分遣隊だ。どうした⁇」

 

《レイ‼︎助けてくれ‼︎》

 

「アレン⁇どうした⁉︎」

 

無線の先のアレンの背後からガシャンドカンと音が聞こえて来る…

 

「襲撃か⁉︎すぐ行く‼︎」

 

《頼む‼︎俺達では防ぎきれない‼︎》

 

「ちょっと待ってろ‼︎」

 

無線器を置き、隊長の方に振り返った

 

「隊長‼︎ラバウルが襲撃されてる‼︎」

 

「スクランブルだ‼︎貴子、横須賀に通達。我々はラバウルに航空支援に向かう‼︎」

 

「分かったわ‼︎」

 

「僕も行く‼︎好きに食べてていいよ‼︎」

 

きそと隊長と共に格納庫に着き、それぞれの機体に乗る

 

《このタイミングで襲撃…か》

 

「アイツも因果な奴だ。幸せになったらすぐこれだ」

 

《…》

 

何故かグリフォンは黙っている

 

《パパさん⁇発進しますね⁇》

 

《了解。イカロス、出る‼︎》

 

隊長とクイーンが先に出た

 

「グリフォン、すまんな。折角のお披露目会なのに…」

 

《へ⁉︎あぁ‼︎全然‼︎ちょっと別の事考えてただけ‼︎》

 

「別の事⁇」

 

《上で話すよ。出るよ‼︎》

 

「ワイバーン、出る‼︎」

 

俺も空に上がり、隊長の横に着いてラバウルを目指す…

 

 

 

 

 

「見えて来た…」

 

《見た目は普通だな》

 

《スキャンの結果、敵性反応はありません》

 

クイーンのスキャンの結果、ラバウルに敵性反応は無い

 

《やっぱり…》

 

やはりグリフォンは何か分かっている

 

「何か話したそうだったな⁇」

 

《多分赤ちゃんじゃないかな⁇》

 

「あ」

 

《あ》

 

俺と隊長はそれで気付いた

 

それならスキャンしても敵性反応が無い結果に納得が行く

 

《赤ちゃん、ですか⁇》

 

クイーンだけはまだ全貌を知らない

 

艦娘や深海から産まれた赤ちゃんがどれだけ成長が早いかは、薄っすらとだが、朝霜達を見た…位の認識位だろう

 

「艦娘から産まれた赤ちゃんは成長が早いんだ。三日も経ちゃあ、まぁ…な⁇」

 

《朝霜さん達の様に、ですか⁇》

 

「そっ。後はまだ全貌は分からないが、母親か父親の潜在能力によって艦種も違ったりする」

 

《あ‼︎暁ちゃんとおおいだ‼︎》

 

滑走路の付近で暁とおおいが”着陸しろ”とジェスチャーを送っているのが見えた

 

《降りよう。敵じゃなさそうだ》

 

「了解」

 

隊長に続き、俺もラバウルに着陸した

 

 

 

 

 

グリフォンから降りてすぐ、暁とおおいが寄って来た

 

「敵じゃないな⁉︎」

 

「良く分かったわね‼︎」

 

「助けて頂戴‼︎」

 

二人共何故かボロボロになっている

 

これは相当な暴れん坊だ…

 

「後は私達に任せろ」

 

「もう乱暴で乱暴で…」

 

「手が付けられないのよ‼︎」

 

「昔のアイちゃんだな…」

 

「クイーン。基地のスキャンの精密度を上げてくれ」

 

《畏まりました。生体反応があり次第、マーカスさんのタブレット及びパパさんの無線にお知らせします》

 

「頼んだ」

 

「きそは一緒に来てくれ」

 

「オッケー‼︎」

 

背中に”63cm自己修復機能付刀剣”を携えたきそが居るなら、最悪背中から抜いて戦えるな

 

暁とおおいに案内され、ラバウル基地の門を開ける…



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243話 トラップガール(2)

「外見は変わってないな…」

 

《気を付けて下さい。至る所にトラップが仕掛けられています》

 

「と、トラップ…」

 

一見何だか分からないが、クイーンが言うには至る所にトラップが仕掛けられているらしい

 

「迂闊に歩けなくて…」

 

「アレン達はどうした⁇」

 

「至る所に隠れてるわ‼︎」

 

《生体反応がある場所をタブレットに送ります》

 

タブレットを出し、クイーンから送られて来た場所を見る

 

確かに至る所に隠れている

 

その中で一つ、ちょこまか動き回る反応が一つ

 

この反応が恐らく犯人だ

 

「まずは全員の安全の確…」

 

「アハッ‼︎ミ〜ツケタッ‼︎」

 

「ヒィッ‼︎」

 

「わっ、私達は表にいます‼︎後は宜しくね‼︎」

 

誰かの声がした途端、暁とおおいが表に逃げた

 

「見付かったっ‼︎」

 

「「健吾‼︎」」

 

二階から健吾の声が聞こえ、バタバタと二つの足音が聞こえて来た

 

「ま、待って‼︎話せば分かるよ‼︎ねっ⁉︎」

 

階段の上で健吾が身振り手振りで誰かに自分が無抵抗なことを示している

 

健吾の背後には下り階段がある

 

「ウシロムイテ‼︎」

 

「わ、分かった…」

 

「ね、ねぇ…嫌な予感が…」

 

きそが走ろうと身構える中、健吾はゆっくりと下り階段の方を向いた

 

「ホレェ‼︎」

 

ドンッ‼︎

 

「うわぁぁぁあ‼︎やっぱりぃぃぃい‼︎」

 

誰かの足が健吾の背中を蹴り飛ばした途端、健吾が階段の上から落ちて来た‼︎

 

「「健吾‼︎」」

 

俺と隊長が健吾に向かって走る‼︎

 

「どわぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

「よいしょっ‼︎」

 

隊長が健吾を受け止めてくれた

 

俺は悲鳴と共に居なくなった

 

「た、助かりました…ありがとうございます…ふぅ…」

 

「レイ⁇」

 

「レイさん⁉︎」

 

「上だよ‼︎」

 

きそが指差す方向には、逆さ吊りになった俺がいた

 

「ぐぉお…」

 

「な、何やってるんだ⁇」

 

「ブービートラップにハマった…きそ、ちょっと背後向いてくれ」

 

「蹴らない⁇」

 

「蹴らない‼︎」

 

「んっ‼︎」

 

きその背中の63cm自己修復機能付刀剣を抜き、天井から吊り下げられたワイヤーを斬った

 

ドサァ‼︎

 

「グヘッ‼︎」

 

思いっきり床に落ちた

 

痛い…

 

初っ端このレベルか…

 

「大丈夫っすか⁉︎」

 

「気にすんなっ…最近縛られまくってる気がするから慣れて来たっ‼︎きそ、ありがとな⁇」

 

「どういたしましてっ‼︎」

 

きそは刀剣を背中の鞘に仕舞い、俺の手を取って立たせてくれた

 

「健吾は大丈夫か⁇」

 

「はい。ですが、あの子は大分危険です。既に大和とあみさん、愛宕と日進…それと、アイちゃんが人質として捕まりました」

 

「大和とアイちゃんもか…」

 

女神の鉄槌持ち二人がアウトとなれば、かなり手厳しい

 

大和かアイちゃんが叫んでくれれば、トラップの幾つかは解除出来ると考えていたのがダメになった

 

「アイちゃんとどっちが危険だ⁇」

 

「段違いであの子かと。アイちゃんは暴れん坊でも甘えん坊だったので…しかも頭の回る子で、自分達には手の打ちようが…」

 

「強そうな奴から捕まえてるもんな…」

 

健吾の話によると、大和とアイちゃんの捕まえ方が手の込んだやり方らしい

 

座っている所を背後から襲い掛かり、コブを作ったタオルを口に巻き付け、後手で縛り上げた後、何処かに連れて行かれたらしい

 

「何か…だな⁇」

 

「あはは…ですよね…」

 

「バレたら赤っ恥だな…」

 

そこにいた男三人が下を向き、イケナイ感情を隠す

 

「なるほどなるほど…」

 

きそはジト目になっている

 

「とにかく、今は残りの連中を探そう」

 

「ですね。安全な場所に移動させないと」

 

「階段にはトラップはなさそうだな…タブレットにも表示されてない」

 

「二階から行こう」

 

健吾が落ちて来た為、階段にトラップはなさそうだと踏んだ

 

四人は階段を登り始めた

 

「ニッシシシ‼︎」

 

「「「「あっ‼︎」」」」

 

階段の上に犯人がいた‼︎

 

金髪のショートボブの一部分をカチューシャのように三つ編みにした、ちょっとツリ目気味な小さな女の子が歯を見せて笑っている

 

「アガリタイ⁇」

 

「上がりたい‼︎」

 

「ザンネ〜ン‼︎ドンッ‼︎」

 

女の子が右足で床を叩いた

 

それと同時に階段が滑り台になる

 

「「「ぐわぁぁぁあ‼︎」」」

 

「危なっ‼︎」

 

男三人が団子になって落ちる中、きそだけは手すりに掴まって難を逃れた

 

「アハッ‼︎オモシロイヒト‼︎Bye-bye〜‼︎」

 

女の子はスタコラサッサと二階の廊下に逃げて行った

 

「こ、こら待てーっ‼︎」

 

「きそ‼︎追うな‼︎」

 

「トラップまだあるかな⁉︎」

 

「絶対ある‼︎」

 

「分かった‼︎ちょっと待ってて‼︎階段だけでも解除するね‼︎うんしょ…」

 

きそは手すりに登って四つん這いでヨジヨジ階段の上を目指し、何とか着いた

 

「よっと‼︎」

 

きそが床を足を叩くと、階段が元に戻った

 

「登って来て‼︎」

 

今度は安全に階段を登り上げた

 

《パパさん。スキャンにも映らないトラップがあるようです》

 

「相当上手いぞ…」

 

「流石はアレンの子供です…」

 

「やっぱりな…」

 

「やっぱりね…」

 

犯人はやっぱりアレンの子供

 

三日でこれだけ動き回って、これだけトラップを仕掛ける子だ

 

確実にアレンの血を引いている

 

顔もアレンに似ていたしな…

 

「名前は何て言うんだ⁇」

 

「”コロラド”です。みんな”コロちゃん”って呼んでます」

 

「コロちゃん…」

 

残っているのは

 

ラバウルさん

 

アレン

 

ネルソン

 

この三人だ…



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243話 トラップガール(3)

アレンの自室に来た

 

熱源反応は無いが、一応念の為来てみた

 

「アレンー‼︎」

 

「アレンー‼︎何処だー‼︎」

 

何度か呼ぶが応答は無い

 

「いないね…」

 

「ん⁇」

 

アレンの机に何か書いてある紙があり、それを手に取ろうとした

 

「レイ待て‼︎それに触るな‼︎」

 

バチン‼︎

 

「おひょひょひょひょ‼︎」

 

いきなりネズミ取りに引っ掛かり、右手を挟み込まれた‼︎

 

「こんな所もか‼︎」

 

「行きますよ‼︎せーのっ‼︎」

 

隊長と健吾に罠を引っ張って貰い、何とか手を出した

 

「痛い…」

 

半泣き半笑いで手を抑える

 

こいつは痛かった…

 

「泣きそうか⁇」

 

「泣かないっ…男の子だもんっ…」

 

鼻をすすりながら、涙をこらえるフリをする

 

「カッコいいっすよ‼︎」

 

「…うんっ」

 

「うはは‼︎これ見て‼︎」

 

きそが紙を裏返しにすると、舌を出した顔の絵が描いてあった

 

「絶対探し出す‼︎もう怒った‼︎」

 

アレンの自室には誰もおらず、次は執務室に来た

 

ガコン

 

「あぁ、ウィリアム。助かりました…」

 

執務机の椅子にラバウルさんが座っていた

 

「大丈夫か⁇」

 

「大丈夫ですが…少し動けないんです」

 

「どうしたんだ⁇」

 

「お尻にトリモチを付けられたのに気が付かず、座ってしまいましてね…」

 

ラバウルさんのズボンのお尻には、ベッタリと…しかも御丁寧に”茶色”のトリモチが仕掛けられており、立ち上がれずにいた

 

「ズボンは何処だ⁇」

 

「そこの引き出しの一番下です。取って頂けますか⁇」

 

隊長が引き出しからズボンを出し、ラバウルさんの前に置いた

 

「すみませんね…」

 

ラバウルさんが着替えている間、三人は別方向を向いた

 

「ありがとうございます」

 

着替え終わり、全員がラバウルさんに向き直す

 

「いやぁ、コロちゃんには一本食わされましたねぇ」

 

「エドガーに気付かれずに仕掛けるとはな…」

 

「賞賛に値するべきですね…」

 

「レイ大変だったんだよ⁉︎ブービートラップに吊り上げられるし、ネズミ取りにもハマるし‼︎ね、レイ⁇…レイ⁉︎」

 

「レイ‼︎」

 

「レイさん⁉︎」

 

俺はそこには居なかった…

 

 

 

 

ほんの少し前…

 

四人が執務室に入る寸前、俺は最後尾にいた

 

三人が執務室に入った後、俺も追って入ろうとした瞬間、床がパカッと開き、声もなく直立不動のまま落ちた

 

丁度全員の死角になっていた為、誰も知らないまま俺は全員の視界から消えた

 

「ぐっ…おっ…」

 

落ちた先はボールプールになっていた

 

「ウシシシ‼︎」

 

穴の上でいやらしく笑うコロちゃんが見えた

 

「あっ‼︎いた‼︎コロちゃん‼︎」

 

コロちゃんの腕にはボールプールと同じ、柔らかいプラスチック製のボールが抱えられている

 

「ホレホレ‼︎」

 

「イテイテイテイテ‼︎」

 

俺に向けて、実に楽しそうにポイポイボールを投げるコロちゃん

 

「今捕まえてやるからな‼︎そこで待ってろ‼︎」

 

「クラエ‼︎」

 

コロちゃんは廊下の手すりの終わり部分で丸くなってる箇所に手を置き、それをひねった

 

「あばばばばばばば‼︎」

 

天井が開き、これでもかとボールが降り注いで来た

 

「アハハハハ‼︎ヘ〜ボ‼︎Bye-bye〜‼︎」

 

「ぢぐじょ〜‼︎」

 

渾身の拳をボールプールに振り下ろす

 

してやられてばっかじゃね〜か‼︎



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243話 トラップガール(4)

ボールプールから這い上がる為に、落とし穴の縁に掴まって上を見た

 

が、勿論コロちゃんは既にいない

 

「レイ‼︎」

 

「サンキュー…よいしょっ」

 

隊長が手を差し伸べてくれたので、それを掴んで上に上がる事が出来た

 

「今走って行ったな⁇」

 

「捕まえたらお尻ペンペンだな…絶対に許さん‼︎」

 

久々に闘志に火が点いた

 

腐っても俺は仮にもエンジニア

 

そんな俺に対して創作物で手玉に取るとは良い度胸じゃねぇか‼︎

 

「本当に申し訳ありません…」

 

ラバウルさんが頭を下げた

 

「いや、流石はアレンの娘だ。トラップの精密性がかなり高い。あれは見習うべきだ」

 

「そう言って貰えると本当に‼︎本当に助かります」

 

ラバウルさんが本当に‼︎の時に声色を強めた瞬間、四人が肩をビクッと上げた

 

今やラバウルはトラップだらけ

 

これはコロちゃんが捕まったらとんでもなく叱られるだろう

 

「私にも何か手伝わせて頂けませんか⁇」

 

「エドガーはそこに居てくれ。何かあった際、そこに居てくれるだけで助かる」

 

「私は良い友人を持ちましたね…」

 

「お互い様だ。健吾を借りるぞ⁇」

 

「健吾⁇三人を頼みますよ⁇」

 

「イエス、キャプテン」

 

残りはアレンとネルソンだ…

 

 

 

 

「熱源反応はここだ」

 

子供部屋の前に来た

 

「反応は一つだ」

 

《待って下さい‼︎扉の向こうにトラップがあります‼︎》

 

クイーンからトラップ有りの報を受けた

 

「どんなトラップだ⁉︎」

 

《開けた瞬間にグローブが飛んで来ます。しゃがんで開けて下さい》

 

「了解した」

 

全員その場にしゃがみ込み、隊長がドアノブに手を掛けた

 

「行くぞ…突入‼︎」

 

シュッ‼︎

 

ドアが開き、報告通りパンタグラフ付きパンチンググローブが飛んで来た

 

が、全員しゃがんでいた為に回避出来た

 

「へぶっ‼︎」

 

何故か俺だけパンチンググローブが顔面に当たった

 

「レイ‼︎」

 

二発目は聞いていない…

 

「パパ‼︎健吾さん‼︎先に行って‼︎ここは僕に任せて‼︎」

 

「分かった‼︎」

 

「お願いします‼︎」

 

「レイ‼︎大丈夫⁉︎」

 

「マジで上手いぞ…」

 

ドアには二発のパンチンググローブトラップがあった

 

一発目は顔面に当たる高さ

 

そしてこれはダミー

 

本陣は二発目

 

しゃがみ込んでいるのを想定してあり、立っている状態なら鳩尾、しゃがんでいる状態なら完璧に顔面を捉えた高さに設置してある

 

しかも、一発目が発動した動力で二発目も連鎖反応で発動するようにしてある

 

「複合サイクルエンジンみたいだ…はは…これは負けを認めるしかないな」

 

トラップの張り方を見て笑みが零れた

 

まるでアレンのやり方だ

 

一つで二つを起動させるやり方は間違いなくアレンのやり方だ

 

「何か嬉しそうだね⁇」

 

「アレンは自分の意思を継いでくれる奴が欲しかったからなっ…よいしょっ‼︎俺も嬉しいさっ‼︎」

 

何だかホッとした反面、更に闘志が湧いた

 

「だがな‼︎それとこれとは話が別だ‼︎絶対捕まえる‼︎」

 

「行こう‼︎」

 

「子供部屋には何もなかった…」

 

「してやられましたよ…」

 

隊長と健吾が帰って来た

 

「熱源反応は⁇」

 

「あれだ」

 

隊長が親指で後ろに指をさす

 

子供部屋の中心には電気毛布に包まっているぬいぐるみの山があった

 

「アハハハハ‼︎ヒッカカッテヤーンノー‼︎」

 

廊下の向こうで指差して爆笑するコロちゃんが見えた‼︎

 

「いた‼︎」

 

「ソコノヘボ‼︎イイコトTeachシテアゲル‼︎」

 

指差す先には俺がいる

 

「よし、来い‼︎」

 

「PapaハCaptureシタワ‼︎」

 

「何っ⁉︎」

 

コロちゃんは一瞬角に消えた後、ふん縛ったアレンを引き摺りながら現れた

 

「助けてー‼︎」

 

「フフフ…」

 

コロちゃんは悪い顔をしている

 

「アレンを離せ‼︎」

 

俺が駆け出そうとした瞬間、コロちゃんは言った

 

「ソノサキハHellヨ」

 

「くっ…」

 

コロちゃんが言うと迫力がある…

 

確かに何が仕掛けられているか分からない

 

「Bye-bye‼︎」

 

「助けてくれーーーい‼︎嫌だぁぁぁあ‼︎」

 

コロちゃんはアレンを引き摺りながら廊下の角に消えた

 

「良い奴だったよ…」

 

「あぁ…惜しい奴だ…」

 

「兄貴みたいな人でした…」

 

「カッコ良かったよね…」

 

全員がいつも通り弔いを送る…

 

「生きてるぞーーー‼︎勝手に殺すなーーー‼︎ぐわぁぁぁあ…」

 

アレンの悲鳴を聞き、四人共安堵の息を吐く

 

「さ‼︎行こう‼︎」

 

「アレンは大丈夫だ‼︎」

 

「後で助ければ問題ないですね‼︎」

 

「アレンさんは強いしね‼︎」

 

残りはネルソンだ



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243話 Coloradoのコロッケ

一瞬だけ題名が変わりますが、お話は続きです


食堂の近くに来た

 

「熱源反応が多い…」

 

「キッチンに反応ありだ」

 

食堂に近付くにつれ、何かを揚げている音が聞こえて来た

 

「ドアが開いてる…クイーン、トラップは⁇」

 

《確認出来ません。食堂は安全な様です》

 

「よし、突入‼︎」

 

食堂に一気に雪崩れ込む‼︎

 

「大人しくしろコロちゃん‼︎」

 

「そこまでだ‼︎」

 

「お…おぉ…」

 

キッチンにはネルソンがおり、いきなり入って来た俺達に驚いて目をパチクリさせている

 

「ネルソン‼︎大丈夫か⁉︎」

 

「うぬ。余は何故かトラップに掛からないのだ…」

 

「それは何だ⁇」

 

「コロラドを捕まえる罠だ。嵌め返してやろうと思ってなっ‼︎」

 

ネルソンの前でポコジャカ作られて行くコロッケ達

 

「コロチャンはコレが好きなんだ。これを食堂の真ん中に置く」

 

大皿の上にてんこ盛りに作られたコロッケを、食堂の真ん中にある長机の中心に置いた

 

「隠れておけ」

 

「本当に来るのか⁇」

 

「まぁ見ておけ‼︎」

 

全員が食堂の至る所に隠れ、ホッカホカコロッケに目線を送る…

 

数分後…

 

「Nice Sumer…」

 

本当に来た…

 

「ア‼︎Croquette‼︎」

 

コロちゃんが食堂の前を通りかかった時、食堂のコロッケ達に気が付いた

 

すぐに食堂に入り、コロッケ達に近付く

 

「ン…ン…」

 

コロッケは机の中心に置かれており、身長の低いコロちゃんでは、頭と目を机から出す位しか出来ず、手を伸ばしても届かずにいた

 

ふとネルソンを見ると”行け”と合図している

 

今しかないと思い、合図を見た俺だけが飛び出した‼︎

 

「捕まえたっ‼︎」

 

「ア‼︎」

 

ヒョイッと抱き上げる事に成功‼︎

 

「ハナセ‼︎ColoradoノCroquette‼︎」

 

コロちゃんはジタバタするが、3頭身もないコロちゃんがジタバタしても効果は無く、あっと言う間に抱っこの体勢になった

 

「コノヘボ‼︎ハナセ‼︎」

 

「コロッケ食べたいか⁇」

 

「アレハColoradoノ‼︎」

 

「うむっ。よく揚げていて美味いなっ‼︎」

 

「こいつはうまひ‼︎」

 

「ホックホクでひゅ‼︎」

 

「はふはふ…」

 

「アーッ‼︎」

 

全員が出て来て、コロちゃんに見せびらかすかの様にコロッケを食べ始めた

 

「エーーーン‼︎」

 

遂に泣き出してしまったコロちゃん

 

「みんなは何処にいるんだ⁇」

 

「ピーーーピーーー‼︎」

 

ギャン泣きしてそれどころじゃない

 

「分かった分かった。一つだけあげるから、みんなの場所教えてくれるか⁇」

 

「エグエグ…ヒック…」

 

流石に少し良心が痛んだので、コロッケをあげようと机の上のコロッケに手を掛けた瞬間だった

 

「Coloradoノ…Croquetteeeeeeeeeee‼︎」

 

パリンッ‼︎

 

ビシッ‼︎

 

ドサドサドサドサドサ…

 

「ホヘ…」

 

コロちゃんが気付いた時には全員気絶

 

窓は割れ、壁にヒビが入っていた…

 

………

 

……

 

 

「な…何が起こった…」

 

ネルソンが起き上がった

 

「耳がキーンとしてます…」

 

「まだ目回ってるよぉ…」

 

「”鉄槌持ち”は聞いてねぇ…」

 

全員がゆっくりと起き上がる

 

コロちゃんは女神の鉄槌持ちだった

 

大和、アイちゃん、そして多分貴子さんも持っている女神の鉄槌…

 

悲鳴の様な大声をあげ、衝撃波を巻き起こすのが女神の鉄槌

 

窓ガラスが割れて壁にヒビが入るレベルの衝撃波をモロに受けた俺達は即卒倒

 

その間にコロちゃんは逃げ出した

 

「コロッケ丸ごと行かれたな…」

 

隊長の目線の先には、大皿にてんこ盛りにあったコロッケ達が居たであろう場所

 

《電波…状…安定……ません》

 

女神の鉄槌により、電波まで狂う始末

 

「落ち着くんだクイーン。コロちゃんは何処に向かった⁇」

 

《工しょ……熱…反応が…》

 

「工廠に熱源反応だな⁇」

 

《はい…気をつ……て……ださい》

 

「工廠に向かったらしい。どうする⁇このまま行けば女神の鉄槌とトラップの二段構えだ…」

 

「仕方ない…”プロフェッショナル”を呼ぼう…」

 

電波状況が回復する数分間、コーラを飲みながら少し待ち、プロフェッショナルを呼ぶ為に基地に無線を繋げた…




最近、あのコロッケ屋を見てない気がします

何処いったんやろ

昔結構食べてました

お気に入りはクリームコロッケです


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243話 トラップガール(5)

一時間後…

 

「来た‼︎」

 

アイリスの操縦で向かわせたグリフォンが戻って来た

 

「来たわ‼︎」

 

「ありがとう貴子さん」

 

俺は貴子さんを呼んだ

 

最強の母性を持っている貴子さんなら、コロちゃんを何とかしてくれるだろうと睨んだ

 

「貴子。工廠にその子がいる。説得してくれるか⁇」

 

「分かったわ‼︎やるだけやってみる‼︎」

 

「すまない、タカコサン…」

 

「いいのいいの‼︎子供はこれ位が丁度いいのよ⁇ここで待ってて‼︎」

 

貴子さんを先頭に、いざ工廠へと向かう…

 

 

 

「クイーン。トラップはあるか⁇」

 

工廠の扉を開ける前に、最後のトラップチェックに入る

 

《天井と床に何らかの装置があります。ですが、用途は不明です》

 

「分かった。恐らく天井と床にトラップがある。気を付けて進むぞ」

 

「分かったわ」

 

「何かヤバイ予感がするよぉ…」

 

「私の後ろに隠れてなさい。ピンチになったらお願いね⁇」

 

「わ、分かった‼︎」

 

貴子さんはきそに言った

 

だが、隊長も俺も健吾も、全員貴子さんの後ろに隠れた

 

「…まぁいいわ‼︎行くわ‼︎」

 

貴子さんが扉を開ける…

 

「アレアレ〜⁇オバサンノウシロニカクレテヤーンノー‼︎」

 

コロちゃんは工廠の二階に立って、ニヤけ顔で見事に全員をおちょくって来た

 

「コロちゃん‼︎いらっしゃい‼︎美味しい物食べましょう‼︎」

 

「イラナイ‼︎」

 

「そんな事言わないで⁇コロちゃん良い子でしょ⁇」

 

「ソレイジョウWalkシタラ、ミンナドウナルカナ⁉︎」

 

コロちゃんは工廠の隅っこに目をやった

 

俺達も目をやると、全員グルグル巻きにされた状態で大人しくしていた

 

大和とアイちゃんには、前情報通りタオルで作った猿轡が咬まされている

 

「仕方ないわ…アレン君‼︎ちょっと気絶させるわよ⁉︎」

 

アレンはコクコク頷いた

 

「すぅ…」

 

「スゥ…」

 

貴子さんもコロちゃんも深く息を吸う…

 

そして…

 

「ご飯よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお‼︎‼︎‼︎」

 

「Aaaaaaaaaaaaaaa‼︎‼︎‼︎」

 

互いの女神の鉄槌がぶつかり合う

 

パリンッ‼︎

 

パリパリパリンッ‼︎

 

事前通告があったので、全員身構える事が出来た

 

が、相変わらず窓ガラスは粉々に砕け散り、今度は床に亀裂が入った

 

「Coloradoニソレハキカナイワ‼︎オバサンヘボーイ‼︎アハハハハ‼︎」

 

「そう…」

 

貴子さんが急にうつむき、隊長と俺はすぐに貴子さんに目を向けた

 

貴子さんの周りに落ちていた床の破片がカタカタ動き始めた…

 

「ヤバッ…」

 

「なら…ちょっと痛い目にあって貰おうか…」

 

「た、貴子…相手は子ど…」

 

「ウー‼︎」

 

隊長がなだめようとした瞬間、凄い形相で目が赤光りした貴子さんが隊長を睨んだ

 

「ひっ…」

 

たいほうと同じく、ビビって直立不動になった隊長に為す術は無い

 

「お、おしゅきにどうじょ…」

 

貴子さんはコロちゃんの方に向きなおし、一歩前に進んだ

 

「ザンネーン‼︎Coloradoイッタヨ‼︎Walkシタラヒドイッテ‼︎」

 

貴子さんの足元で何かが起動した

 

ガシャン‼︎

 

ガシャン‼︎

 

ガシャンガシャンガシャン‼︎

 

急に柵が現れ、閉じ込められた‼︎

 

だが、様子がおかしい

 

前後左右に何故か縦長の空き空間がある

 

「ミーンナソコデッ‼︎オッ・ルッ・スッ・バッ・ンッ‼︎」

 

コロちゃんが手元のスイッチを押した

 

《トラップです‼︎》

 

天井に仕掛けられていた、迫ってくる壁のトラップが降りて来た‼︎

 

《みなさん。何か武器はお持ちですか⁇》

 

「ピストルしかない‼︎」

 

「僕、刀しかない‼︎」

 

「俺もピストルしかないです‼︎」

 

「俺もピストルだ‼︎何とかなるか⁉︎」

 

現状、壁を打ち破れそうな武器は無い

 

もしありえるとしたら、飽和発砲で穴を開けるくらいだ

 

《6時方向の壁を撃って下さい‼︎》

 

「どの辺りだ⁉︎」

 

《左下を撃って下さい。そこが一番脆いです‼︎》

 

「了解‼︎」

 

三人ピストルを構え、クイーンに言われた場所に向けて引き金を引いた

 

カンッカンッカンッ…

 

「ぜ、全然効いてねぇ…」

 

ピストルの弾はいとも簡単に弾かれた

 

「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ‼︎ヘボヘボヘボヘボミーンナヘボ‼︎」

 

コロちゃんはのたうち回りながら爆笑している

 

《停止システムにアクセスします‼︎》

 

「ヌンッ‼︎」

 

クイーンが停止システムにアクセスしている最中、コロちゃんのいる方向の壁がエゲツない音がした

 

「フンッ‼︎ドリャア‼︎」

 

ドガンバゴンと音を立て、壁がへこんで行く…

 

「た、貴子…」

 

「誰がオバサンだってぇ〜⁉︎オリャア‼︎」

 

バキミシ…と、音を出し、正面の壁が動きを止めた

 

「フーッ…フーッ…」

 

貴子さんがようやく落ち着きを見せた

 

《なんて複雑な…パパさん、停止コマンド、応答しません‼︎》

 

「な、何だと⁉︎」

 

そう思ったのも束の間

 

残り3枚の壁はどんどん迫って来る

 

「コロちゃん」

 

「ナァニ〜⁇WallイチマイStopシタグライジャマダマダネ‼︎」

 

「私達にはプロフェッショナルがいるのよ⁇」

 

「Professional⁇」

 

「そうよ。とっても強いのよ」

 

「フーン⁇ナンダッテイイワ‼︎ソコデDead Endナンダカラ‼︎」

 

「今よ‼︎」

 

貴子さんが誰かに合図を送った

 

「こ〜か〜‼︎」

 

「もんき〜‼︎」

 

天窓から誰かがロープで降りて来た‼︎

 

それも二人いる



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243話 トラップガール(6)

「わういかべあ、こ〜ら‼︎」

 

「こあっ‼︎とありなしゃい‼︎」

 

二人は壁と床の隙間に何かをねじ込んだ

 

ゴゴガギガ…と、鉄が擦れ合う音を出し、左右の壁が止まった

 

「さいご‼︎」

 

「おりぁ‼︎」

 

後ろの壁の隙間にも何かをねじ込み、壁の接近を止めた

 

「…チッ‼︎」

 

「えいしゃん‼︎」

 

「ぱぱしゃん‼︎」

 

「ひとみ‼︎いよ‼︎」

 

助けに来てくれたのはひとみといよ

 

壁の隙間にねじ込んだのは、信管を抜いた魚雷

 

いつも何処からともなく出すアレだ

 

たまに背中に挿しているが、原理はよく分からない

 

…造った覚えもない

 

「終わりよコロちゃん。プロフェッショナルが来たわ」

 

「えいしゃん、ぱぱしゃん、ちぉっとまっててえ‼︎」

 

「けんごしゃんも、きしょも、まっててえ‼︎」

 

「分かった‼︎」

 

「頼んだぞ‼︎」

 

「お願いします‼︎」

 

「任せたよ‼︎」

 

ひとみといよは貴子さんの足元に着いた

 

「Professional⁇クソガキジャナクテ⁉︎」

 

「あんやと‼︎」

 

「もっかいいってみお‼︎」

 

「クソガキ〜‼︎コレデモクラエ‼︎Waaaaaaaaaaa‼︎‼︎‼︎」

 

女神の鉄槌を使い熟し始めたコロちゃん

 

ひとみといよ、そして貴子さんに渾身の一撃を放つ‼︎

 

「あーーーーーっ‼︎‼︎‼︎」

 

「わーーーーーっ‼︎‼︎‼︎」

 

ひとみといよも負けじと吠え返した

 

「ウッ⁉︎」

 

衝撃波がコロちゃんに返された‼︎

 

ひとみといよだけは女神の鉄槌を打ち破れる

 

大和の一件の時、ゼロ距離で女神の鉄槌を喰らっても無傷だったのは、ひとみといよは元から音波で敵影を感知出来たり、敵意が無いかを調べたり出来る為、それの応用で同じ音波攻撃の女神の鉄槌も打ち破る事が出来る

 

「言ったでしょう⁇プロフェッショナルだって」

 

「かんねんちたか‼︎」

 

「まだやりあすか⁇」

 

「オバサンナンカニマケナイ‼︎コレガLastヨ‼︎」

 

コロちゃんはポケットからスイッチを取り出した

 

恐らくこれが最後のトラップだ

 

「ひとみちゃん‼︎いよちゃん‼︎合体よ‼︎」

 

「あったい‼︎」

 

「がったい‼︎」

 

「「「「合体⁉︎」」」」

 

ひとみといよが貴子さんの両肩に乗った‼︎

 

「行くわよ‼︎せーのっ‼︎」

 

「伏せろ‼︎」

 

隊長が俺達三人を抱き留めた

 

「「「あーーーーーーーーっ‼︎」」」

 

「ヒッ‼︎」

 

女神の鉄槌が一つ

 

プチ女神の鉄槌が二つ

 

目の前の壁も倒れる衝撃を直撃で喰らい、コロちゃんは目を回した

 

「しゃんばいら‼︎」

 

「おめめくうくうか‼︎」

 

「諦めなさいコロちゃん‼︎」

 

「ウギュギュ…」

 

二階にいるコロちゃんはフラフラながらも何とか立ち上がった

 

そして…

 

「Coloradoノ…Loose…ネ…」

 

コロちゃんは目を回したまま、その場に倒れた

 

「マーカス君‼︎コロちゃんの救助お願い‼︎」

 

「分かった‼︎」

 

人質は隊長達に任せ、俺はコロちゃんのいる二階に駆け上がった

 

「コロちゃん‼︎」

 

「ウゥ…」

 

余程の衝撃だったのか、未だに目を回している

 

「ア…ヘボ…」

 

コロちゃんが目を覚ました

 

「大丈夫か⁇」

 

「ン」

 

何故か俺に抱っこをせがんで来た

 

「よしよし…」

 

さっきも抱っこしたが、コロちゃんはまだまだ軽い

 

コロちゃんを抱っこして、みんなの所に戻る為に立ち上がった

 

「コロちゃんは凄いな⁇どうやってあんなの造ったんだ⁇」

 

「PapaのPaperマネシタ」

 

「俺にも出来ない事をしたんだ。コロちゃんはきっと、アレンの後を継げるだろうな⁇」

 

その言葉を聞いたコロちゃんは、少し悪そうに微笑んだ

 

「Coloradoヲミナラッテモイイヨ‼︎」

 

「そうさせて貰おうかなっ‼︎」

 

また悪そうに微笑むコロちゃん

 

「キニイッタワ‼︎Nameハ⁉︎」

 

「俺はマーカスだ」

 

「マーカス⁇ン〜…ナガイカラ”ヘボ”ネ‼︎」

 

「分かったよっ…さっ、コロちゃん⁇皆にごめんなさいしような⁇」

 

「Nuuuuu…」

 

みんなの前にコロちゃんを降ろす

 

少しキツイかも知れないが、悪い事をしたなら謝ると覚えさせるチャンスだ

 

今なら悪い奴もいない

 

「…Sorry」

 

「よしよしっ‼︎」

 

実に嫌そうに謝るコロちゃんだが、予想通り、皆快く許してくれた

 

「コロちゃん⁇」

 

「ンッ」

 

そんな中、コロちゃんに近寄る女性が一人

 

コロちゃんの前で膝を曲げ、手を握る

 

「コロちゃん⁇私、まだ二十代なの…」

 

「「「え⁉︎」」」



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243話 周りはみんなお姉ちゃん

題名が変わりましたが、コロちゃんのお話の最後です


その場にいた大体の奴が貴子さんに注目する

 

確かに貫禄は年上の貫禄だが、実は俺とアレンと大して変わらない

 

一つ二つ上か下かなだけだが、そんな事、俺達の中では些細な事なので気にしない

 

「おばさんじゃないの…」

 

「オネーチャン⁇」

 

「そっ‼︎」

 

「タカコオネーチャン」

 

「いい子ねっ‼︎」

 

誰もが相手をして、誰もがパワー負けする貴子さん

 

その強さにコロちゃんも落ちた

 

「さっ‼︎ついでにみんなでご飯にしましょう‼︎」

 

貴子さんの提案で、ラバウルで食事を取る事になった

 

 

 

 

キッチンには、貴子さん、愛宕、ネルソンの良妻三人

 

揚げ物、甘めの味付けのオカズ、デザートが出来上がって行く

 

「皆、すまなかった…」

 

申し訳なさそうにネルソンが頭を下げた

 

「私もちょっと手荒な真似したから…ねっ⁈」

 

「タカコオネーチャン、Super Fighter‼︎」

 

コロちゃんは口周りにいっぱいコロッケの衣を付けながら、アレンの膝の上にいる

 

本当は甘えん坊のコロちゃん

 

今回の一件は、子供ながらのイタズラなのもあったのだが、コロちゃんにはちゃんとした理由があった

 

その理由は、一人しか知らない…

 

 

 

 

みんなで食堂に行く時、コロちゃんは貴子さんに抱っこされていた

 

「アノネ…」

 

「ん⁇どうしたの⁇」

 

「Secret、してくれる⁇」

 

「んっ、いいよっ‼︎」

 

コロちゃんは更に貴子さんに寄った

 

「…MamaノMilk…Coloradoノダケナノ。PapaはColoradoからMamaトルノ…」

 

コロちゃんはネルソンを独り占めしたかっだけだった

 

コロちゃんにとって、ネルソン以外の他の連中は邪魔で仕方ない

 

動きを封じるトラップを張っていたのはその為だった

 

「そっかそっか…パパは嫌い⁇」

 

「ン〜ン、Papaスキ。デモ、Mamaハモットスキ」

 

「コロちゃんは偉いわ⁇」

 

コロちゃんを抱っこしたまま、貴子さんは食堂に入った

 

「アレン‼︎」

 

アレンに気付いたネルソンが、一瞬で女の顔になる

 

「日進も大丈夫か⁉︎」

 

「…」

 

「…」

 

貴子さんもコロちゃんも、ネルソンをジーッと見る

 

「ありがとう、タカコサン‼︎コロチャン、Come on‼︎」

 

ネルソンは女の顔ではなく、母親の顔でコロちゃんの前に来て手を広げた

 

「さっ、コロちゃん⁇」

 

「Mama‼︎」

 

コロちゃんはすぐにネルソンに飛び付いた

 

大丈夫よ、コロちゃん

 

貴方のお母さんは、ちゃんと貴方を愛してくれてるわ…

 

 

 

 

その日の晩…

 

「え〜と…つまり、だ…」

 

「そういう事だオトン」

 

食堂でコーヒーを飲みながら、グラーフの前で頭を抱える

 

「ほぼ最年少か、俺」

 

「そう」

 

「大人メンバーで最年少か」

 

「そう」

 

グラーフは淡々と答えを返しつつ、コーヒーを飲む

 

ここでは年齢は別に大した意味を成さないのだが、大人メンバーでほぼ最年少と言われると何か思う所がある

 

…中盤位とは思ってたんだが

 

「え〜と、だ」

 

「何やってんのよ」

 

風呂上がりのローマが来た

 

「ローマお姉ちゃんな訳だ」

 

「そう」

 

「‼︎」

 

一瞬でローマの顔が真っ赤になる

 

「貴子さんは」

 

「貴子お姉ちゃん」

 

「ふふっ‼︎」

 

貴子さんは嬉しそうな顔をしながらお皿を拭いている

 

「私は何だ‼︎」

 

子供達と遊んでいたアークが、ワクワクしながらこっちに来た

 

「アークお姉ちゃん」

 

「もう一回言ってくれ‼︎」

 

「アークお姉ちゃん」

 

「むっひょひょ‼︎録音してやったぞ‼︎目覚ましにしてやる‼︎」

 

「やめろ‼︎何て事すんだ‼︎」

 

《アークお姉ちゃん》

 

アークが録音した俺の声を目の前で再生する

 

「うっ…」

 

《アークお姉ちゃん、アークお姉ちゃん、アークお姉ちゃん》

 

アークは真顔で録音を再生しまくる

 

「分かった分かった‼︎やっていいからやめろ‼︎」

 

「むっふふふ…」

 

「ノイローゼになりそうだ…」

 

更に頭を抱え、コーヒーを啜る

 

「私は何だ」

 

目の前を見ると、目を逸らしたグラーフがいる

 

「グラーフはグラーフだ」

 

「私は何だオトン」

 

あ。これ言わないと終わらない奴だ

 

だが、ここは折れないでおこう

 

「グラーフ」

 

「ジェミニお姉ちゃんとか言ってたのを横須賀中に言いふらすぞ」

 

「それはやめろ‼︎」

 

さらっと怖い事を言い出したグラーフに心が折れた

 

「私は何だ」

 

「…グラーフお姉ちゃん」

 

「んふ〜…」

 

ニヤけ顔で御満悦グラーフお姉ちゃん

 

「クソッ‼︎言われてみれば俺は横須賀より年下だ‼︎」

 

これは八方塞がりだ‼︎

 

「レイはその分妹みたいな子が多いだろ⁇」

 

隊長の一言で少し救われた

 

「よしっ。やる気出て来た‼︎」

 

「もう一回言って」

 

「おやすみ、グラーフお姉ちゃん‼︎」

 

「おやすみ」

 

こうして、波乱の一日が終わりを迎えた…



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244話 トランジスタグラマーママです(1)

さて、2.5頭身のコロラドのコロちゃんのお話が終わりました

コロちゃんはこれからまたちょくちょく出て来ます

今回のお話は、トランジスタグラマーな駆逐艦が出て来ます

変わった特殊能力を持った、マザーなあの子

魅惑のボデーで男衆を惑わします


ある日の夜…

 

「中将⁇また明日ね⁇」

 

「また明日な‼︎」

 

ずいずいずっころばしから、爪楊枝を咥えたリチャードが出て来た

 

外は既に人が疎らにしか居らず、繁華街は物静かな雰囲気になっていた

 

「ん⁇」

 

繁華街のど真ん中でリチャードを見つめる人影が一人…

 

「どうした⁇子供は寝る時間だぞ⁇」

 

「私がママです」

 

リチャードが近寄るなり、急に自分が母親と言い出した金髪の少女

 

「はは〜ん⁇腹減ってるのか⁇」

 

「ママです」

 

「瑞鶴‼︎まだやって…」

 

リチャードが瑞鶴を呼ぼうとした瞬間、少女はリチャードの服の裾を引っ張り、自分の方に寄せた

 

「おっぱい」

 

少し微笑みながら、リチャードの目を見つめる少女…

 

「お寿司‼︎」

 

それでもリチャードは反発し、お寿司を食べさせようとする

 

が、一瞬少女の胸に目線が行った

 

「おっぱい」

 

「お寿司‼︎」

 

「おっぱい」

 

「おっぱい‼︎」

 

「私がママです…ふふふ」

 

 

 

 

次の日…

 

「ねぇ、ヴィンセント⁇リチャード見なかった⁇」

 

いつもの朝食の時間、リチャードが居なかった

 

リチャードがいないと、イントレピッドは少し不安になる

 

「いや…見てない。ジョンストンは見たか⁇」

 

「みてない」

 

「サムー‼︎リチャード見たー⁉︎」

 

「見てないよー‼︎」

 

サムでさえリチャードの居場所を知らない

 

「ズイカクの所かしら…」

 

リチャードがいなくなれば、大体瑞鶴の所にいる

 

リチャードは朝食の時間はほぼ必ずいるか、何か用事があると言って取らないタイプだ

 

何も言わずにいないのはおかしい…

 

「ちょっと探してくる。まっ、多分瑞鶴の所だろう」

 

「お願いするわ」

 

「いてらっしゃい」

 

「怪我しないようにな⁇」

 

今日は遊ぶ予定があるジョンストンはそのまま朝食

 

非番のヴィンセントがリチャードの捜索に出た

 

 

 

 

「いらっしゃいませ‼︎ヴィンセントさん‼︎」

 

最初に訪れたのは、やっぱりずいずいずっころばし

 

瑞鶴はお寿司のお皿を拭いていた

 

「リチャード来てないか⁇」

 

「今日はまだ来てないけど…どうかしたんですか⁇」

 

「昨日から見てないんだ。どこ行ったんだ⁇」

 

「あ〜…なら、教会はどうですか⁇」

 

リチャードはたまに教会で祈るかサボッている

 

確率は高い

 

「教会か…なるほど、行ってくる。あぁ、見つけたら食べに来るよ」

 

「了解ですっ‼︎美味しいの準備して待ってますね‼︎」

 

次は教会を目指す…

 

 

 

「こんにちはヴィンセント。お祈り⁇」

 

「シスター・マリッジ…」

 

互いに穏やかな顔になる

 

「今日は探し人です、シスター・マリッジ。ずいずいずっころばしにも居ませんでした」

 

「リチャードね」

 

普段の行いが良く分かるリチャード

 

「残念ながら教会にも、休憩室にも居ません…」

 

「…」

 

ヴィンセントは休憩室をチラ見した

 

「アヒャヒャヒャヒャ‼︎こら傑作でし‼︎」

 

「アハハハハ‼︎いいわよ‼︎」

 

シスター・グリーンとシスター・ヌードルがテレビを見て爆笑している

 

「…いつも通りです」

 

「情けない所をお見せしました…」

 

ヴィンセントもシスター・マリッジも頭を抱える

 

「格納庫はどうでしょう。彼は機体を大事にしますから」

 

「それは確かに…」

 

「神のご加護があらん事を」

 

ヴィンセントは帽子のツバを摘み、一礼して教会を出た

 

次は格納庫を目指す…



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244話 トランジスタグラマーママです(2)

「中将‼︎おはようございます‼︎」

 

「おはよう。リチャードはいるか⁇」

 

格納庫に来た

 

整備士に挨拶を終え、探し人の名前を出した

 

「えぇ。5Nightの前にいらっしゃいます」

 

「ありがとう」

 

F6F-5Nはリチャードの愛機だ

 

いても何らおかしくない

 

「リチャード‼︎何処ほっつき歩いてたんだ‼︎」

 

「ママ‼︎これが俺の機体だよ‼︎」

 

「そう‼︎リチャードは立派な子になったのね⁇」

 

「うんっ‼︎ママだ〜い好き‼︎」

 

真面目を絵に描いたようなヴィンセントがすっ転びそうになる、リチャードの衝撃の姿

 

「リチャード…お前遂にイカれたか…いや、元からか…」

 

「ママ‼︎俺の友達のヴィンセント‼︎」

 

「お友達なのね⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

明らかに母親ではない金髪の少女が、ヴィンセントに近付いて来た

 

ヴィンセントの本能が揺さぶられる

 

…こいつはヤバい予感がする

 

近付いてはいけない‼︎

 

「ヴィンセントはツインテが好きなんだ‼︎」

 

「私がママです」

 

「違う‼︎それに君はツインテじゃない‼︎」

 

「ママです」

 

「違う違う違う‼︎」

 

ヴィンセントは首を横にブンブン振る

 

「おっぱい」

 

「ツインテ‼︎」

 

こでヴィンセントはチラッと少女の胸元を見た

 

小柄な体なのに服を押し上げる位大きい…

 

谷間も出来ている…

 

いやいや‼︎しっかりしろヴィンセント‼︎

 

第一目の前にいる子はツインテじゃない‼︎

 

「おっぱい」

 

「ツインテ‼︎」

 

「おっぱい」

 

「おっぱい‼︎」

 

ヴィンセントまでもが落ちた

 

謎のトランジスタグラマーの少女に、

 

歴戦のパイロット

 

歴戦の空母艦長

 

が、一瞬で落ちた

 

「私がママです…ふふふ」

 

 

 

 

 

《哨戒任務終了。降りてお昼でも食べなさい》

 

横須賀の合図で哨戒が終わる

 

今日の哨戒担当は俺とアレン

 

「レイ。昼飯行くぞ」

 

「オーケー‼︎よいしょっ‼︎」

 

「僕、今日はお母さんとご飯食べるんだ‼︎じゃね〜‼︎」

 

「いっぱい食えよー‼︎」

 

きそは横須賀と昼食を食べるようで、俺はアレンと共に繁華街に来た

 

「あ⁇なんだ⁇」

 

目の前から親父、ヴィンセント、そして謎の少女が来た

 

小柄な金髪の少女で、肩を出した青い服を着ている

 

何と言っても目立つのはあの胸

 

はまかぜ並にあるが、はまかぜより小柄な体であの不釣り合いな胸は何かグッとくるな…

 

「リチャード中将とパパだ…」

 

「様子がおかしい…」

 

二人で物陰に隠れ、何故かピストルを構えた

 

「新手のシスターか⁉︎」

 

「わ、分からん…」

 

とにかく見て分かる、異様な雰囲気

 

親父もヴィンセントも、あれ位の少女なら手を繋ぐか抱っこするはずなのに、両サイドに着いて歩いている

 

「ママ」

 

親父が足を止めた

 

「俺の息子が近くにいる」

 

「あら。リチャードに良く似てるの⁇」

 

「似てるよ‼︎」

 

「女の子全員ツインテにしてやる」

 

物陰から様子を見るが、明らかにおかしい

 

ヴィンセントに限っては、訳の分からない事を呟いている

 

「あそこだ‼︎」

 

「マズいバレた‼︎移動するぞ‼︎」

 

「行こう‼︎」

 

親父がこちらを指差した瞬間、俺達は物陰から離れた

 

「操られてんのか⁉︎」

 

「分からん‼︎明らかに様子が変だ‼︎」

 

いつの間にか駆逐艦寮まで逃げて来た

 

それでも物陰に隠れるのはやめない

 

「ここまで逃げりゃあ大丈夫だろ」

 

「あぁ…」

 

物陰から様子を見るが、着いて来ている様子はない

 

「私がママです」

 

「「ひっ‼︎」」

 

いつの間にか背後に立たれていた‼︎

 

「俺のママはガンビアだけだ‼︎」

 

「アレン‼︎」

 

「ママです」

 

「ガンビア‼︎」

 

アレンはガンビアと言いながら、少女を否定し始めた

 

「おっぱい」

 

「ガンビア‼︎」

 

「おっぱい」

 

「ガンビア‼︎」

 

アレンはつられて少女の胸元を見てしまった

 

「おっぱい」

 

「おっぱい‼︎」

 

「アレン‼︎クソッ‼︎」

 

アレンがやられた‼︎

 

何なんだあの少女は‼︎

 

一瞬でアレンが持って行かれた‼︎

 

アレンがやられたのを目の当たりにし、俺は逃げ出した

 

「待ちなさい‼︎私はママですよ‼︎」

 

少女の言葉を無視し、執務室まで走る

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

何とか振り切り、執務室の前まで来れた

 

「横須賀ぁ‼︎」

 

執務室のドアを開け、すぐに閉めた

 

「あら。どうひたの⁇」

 

「何かあっひゃ⁇」

 

「ひょ〜ひょ〜ひゅひゃま⁇」

 

横須賀ときそと親潮がステーキを頬張っている

 

「た、大変だ…親父とヴィンセント…アレンがやられた‼︎」

 

異変に気付いた横須賀がステーキを飲み込んだ

 

「…どういう事⁉︎」

 

「俺にも分からん…催眠術みたいな言葉を掛けられて操られてる…」

 

横須賀と窓の外を見る…

 

「おしり〜」

 

「ツインテ〜」

 

「ダイナマイトギャル〜」

 

それぞれの好みをブツブツ言いながら、少女を先頭に歩いているのが見えた

 

アレンに至ってはほぼ死語だ‼︎



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244話 トランジスタグラマーママです(3)

「うはは‼︎何あれ‼︎」

 

「ほぼゾンビじゃない‼︎」

 

「何とかならんのか‼︎被害甚大だぞ‼︎」

 

「まずあの先頭の女の子は誰ですか⁇」

 

「分からん…とにかくヤバい奴だ。催眠術か何かで人を操る事が出来る」

 

「何でアンタ効かないのよ」

 

「無視して突っ走って来た」

 

「あれは危険ね…分かったわ。対策本部を作るわ。アンタ指揮して頂戴」

 

一時間後、会議室に緊急に設立された対策本部に部隊が集められる

 

ラバウルからラバウルさんと健吾

 

基地から隊長と俺

 

横須賀からサンダースが集まった

 

「現状を説明する。リチャード中将、ヴィンセント中将、アレン大尉が洗脳状態にある」

 

「歴戦の猛者ばかり…か」

 

「アレンがやられるとは…非常に由々しき事態です」

 

「親潮。監視カメラの映像を出してくれ」

 

「畏まりました」

 

スクリーンに横須賀中に設置された監視カメラの映像が映し出される

 

《おしり〜》

 

《ツインテ〜》

 

「ヴィンセント中将が…」

 

「何て事だ…」

 

親父はいつもあんな事を言っている様な者なのだが、問題はヴィンセント

 

あの真面目一貫のヴィンセントがツインテツインテ連呼しながら横須賀を練り歩いている映像を見て、隊長とラバウルさんが頭を抱えた

 

「現在、対策は不明な事ばかりだ。一つ言えるのは、とにかく彼女の話を聞かない事。それだけしか言えない」

 

「洗脳状態を解くにはどうすれば良いでしょうか」

 

涼平の質問に答えるのも現状難しい

 

「…やってみて欲しい事は、彼女の話を聞かずにこの三人に何らかのショックを与えて欲しい」

 

「やれない事はないですね」

 

「マーカス。私達が先に出ます」

 

「私が援護しよう」

 

ラバウルさんと健吾、そして隊長が立ち上がった

 

「気を付けてくれ。今はそれしか言えない」

 

「任せて下さい‼︎闇討ちは得意分野です‼︎」

 

SS隊のメンバーは不意打ちが得意だ

 

もしかすると三人を救い出せるかもしれない

 

「健吾。行きますよ」

 

「イエス、キャプテン」

 

「中継頼んだぞ。もし私達に何かあっても、情報があれば収穫になる」

 

隊長はスクリーンと俺を交互に見た

 

「オーケー。親潮、中継に切り替えてくれ」

 

「畏まりました」

 

サンダースの連中と、中継された監視カメラに目をやる…

 

 

 

五分後…

 

《幼女〜》

 

《三つ編み〜》

 

《褐色〜》

 

「エドガーさんが‼︎」

 

「健吾がやられた‼︎」

 

「隊長‼︎嘘だろ⁉︎」

 

あのSS隊が全滅した

 

しかも隊長まで瞬殺だ

 

戦力が大幅にカットされた今、無闇矢鱈に俺達が出て行っても無駄死にするだけだ

 

「大尉‼︎こうなれば自分が一発ぶん殴って来ます‼︎」

 

拳を握った園崎が立ち上がった

 

「ちょっと待て。急いでは事を仕損じる」

 

考えろ…

 

洗脳された皆は何を見ていた⁇

 

何を話していた⁇

 

 

「…親潮。ラバウルさんと健吾が洗脳された瞬間を見せてくれ」

 

「畏まりました」

 

スクリーンに先程の映像が映る

 

《おっぱい》

 

《幼女‼︎》

 

《おっぱい》

 

《幼女‼︎》

 

《おっぱい》

 

《おっぱい‼︎》

 

重度のロリコンのラバウルさんの口からおっぱいと言う言葉を聞けた非常に貴重な映像だが、問題はそうじゃない

 

次に健吾を見る

 

《おっぱい》

 

《あみさんあみさんあみさんあみさん‼︎》

 

北上の名前を連呼して、何とか洗脳から逃れる健吾

 

《おっぱい》

 

《あみ…さん…》

 

《おっぱい》

 

《おっぱい‼︎》

 

「ここだ‼︎」

 

映像を止め、健吾の目線の先を拡大した

 

「胸元に目が行った瞬間に洗脳されてる」

 

「大尉。自分を無線で誘導して頂けませんか⁇」

 

園崎はニヤリと笑い、ここぞとばかりに腕を鳴らした

 

「自分に考えがあります」

 

作戦はすぐに実行された

 

胸元に目線が行くなら、目を隠せば良い

 

園崎はアイマスクをした状態で耳に無線を付け、その誘導により少女に近づいて行く…

 

「まっすぐ向かうんだ」

 

園崎は無言のままボクシングの体勢に入りつつ、少女と距離を詰める

 

《あら。ボクサーね⁇》

 

少女が園崎の存在に気付いた

 

「右フック‼︎」

 

《あら…》

 

少女に向かって右フックをお見舞いするが、首を少し後ろに下げられてかわされた

 

「左アッパー‼︎」

 

《強い強い。ママは強い子は大好きですよ》

 

左アッパーも簡単にかわされた

 

「右ストレート‼︎」

 

「左ボディ‼︎」

 

《ぐは‼︎何が起きた⁉︎》

 

《ぶへっ‼︎な、何だ⁉︎》

 

ヴィンセントとアレンが目を覚ました‼︎

 

「園崎‼︎ヴィンセントとアレンを連れ帰るんだ‼︎」

 

《暴れん坊さんはママがギューしてあげます》

 

少女に抱き締められ、園崎は身をよじらせて抜け出そうとしている

 

《離せ‼︎はな…せ…》

 

《おっぱい》

 

《おっぱい‼︎》

 

「園崎がやられた‼︎」

 

しかし、アレンとヴィンセントは救出出来た

 

数分後、二人が会議室に来た



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244話 トランジスタグラマーママです(4)

「息子共々申し訳ございません…」

 

「助かったよ…」

 

親子二人が深々と頭を下げた

 

「気にするな。問題はこいつだ‼︎」

 

《女教師〜》

 

スクリーンに映し出された少女と、園崎を指差す

 

「何なんだこいつは‼︎強すぎるだろ‼︎」

 

「名前は分かりました」

 

ヴィンセントが名前を覚えて帰って来てくれた

 

「言ってくれ‼︎」

 

「名は”フレッチャー”。視覚催眠ではなく”香り”による催眠です」

 

「凄い良い匂いがするんだ。それに酔わされた」

 

PCに分かった情報を打ち出して行く…

 

フレッチャー

 

香りによる催眠により、欲望を解放した状態になる

 

たったこれだけだが、十二分に進歩した

 

「創造主様。この親潮が全員救出して参ります」

 

「勝算でもあるのか⁇あるなら俺達が…」

 

「一時的に嗅覚を遮断すれば良い話です。この場でこれが出来るのは親潮だけ…創造主様、私にお任せ頂けませんか」

 

親潮ならではのやり方だ

 

それに、親潮の目は本気だ

 

ここは賭けてもよさそうだ

 

「…分かったっ‼︎親潮に賭ける‼︎」

 

「親潮、参ります‼︎」

 

フレッチャーは洗脳した男達を引き連れ、繁華街の中心まで来ている

 

頼んだぞ親潮…

 

 

 

 

《フレッチャー‼︎待ちなさい‼︎》

 

親潮が繁華街まで来た

 

会議室の全員がスクリーンを見つめる…

 

《私がママです》

 

《親潮の母は別にいます。今すぐその方達を離しなさい‼︎》

 

《この子達は私の可愛い息子です。貴方も私の可愛い娘です》

 

《畏まりました。では…問答無用です‼︎》

 

親潮が先制攻撃に出た‼︎

 

《ママ‼︎僕ボクシング出来るよ‼︎》

 

《ママを助けてくれるのね⁇後でお菓子を買ってあげましょうね》

 

園崎が立ちはだかり、親潮の攻撃の手が止まる

 

《貴方に手を出したくありません‼︎そこをどいて下さい、園崎さん‼︎》

 

《シッ‼︎》

 

親潮の制止虚しく、園崎のパンチが親潮に襲い掛かる

 

《仕方ありません…》

 

親潮はそのままの状態で園崎のパンチを避け、腕を取った

 

そして、何故か顔を近付けた

 

《園崎さん。それ以上すると、親潮がヤマシロさんより先にファーストキスを貰いますよ》

 

《それは…》

 

《嫌なら手伝って下さい》

 

《は、はひ…》

 

瞬殺で園崎の洗脳状態が解けた‼︎

 

「よし‼︎」

 

「頑張れ親潮ちゃん‼︎」

 

無力な男衆がスクリーン越しの親潮を応援する

 

丸で映画の一幕を見ているかのように会議室は盛り上がっていた

 

《親潮さん。ここは自分に任せて下さい》

 

《お願い致します。親潮はフレッチャーを‼︎》

 

園崎一人で、リチャード、ラバウルさん、健吾、隊長を相手

 

恐らく園崎に勝ち目はない

 

《健吾、ウィリアム。この辺りで良いでしょう》

 

《いやぁ〜、演技も疲れますねぇ》

 

《しばらくは笑い話だなっ…》

 

《えっ…》

 

既に洗脳から解けていた、ラバウルさん、健吾、隊長

 

《香取先生のアカデミーで習ったのですよ》

 

《お茶の子さいさいです‼︎》

 

《私達を洗脳するなんざ、百年早いな》

 

「アレン…」

 

アレンをジト目で見た

 

何故香取先生のアカデミー出身のアレンはバリバリ効いたのか…

 

「俺の好みが違う時点で察しろよ‼︎」

 

「言っただけさっ」

 

アレンの好みはダイナマイトボディではなく、ちょっと強気な女性

 

愛宕とネルソンは確かにダイナマイトボディだが、その点を踏まえると理解出来る

 

《おしり〜》

 

《中将。少しだけ失礼します…》

 

《おしりりりりっ‼︎》

 

ラバウルさんがテーザー銃を放ち、親父は倒れた

 

《何か凄い良い夢見てた気がする…》

 

《後で映像見たらひっくり返りますよっ…》

 

《帰りましょう。フレッチャーは親潮に任せましょう》

 

洗脳された男衆は全員解放出来た

 

問題はフレッチャーだ…

 

 

 

 

《創造主様》

 

「親潮‼︎大丈夫か⁉︎」

 

親潮がいるのは、少し小高くなっている海と繁華街を見渡せる場所

 

そこなら人も居らず、一対一で戦える

 

《創造主様〜》

 

「親潮…」

 

親潮まで洗脳されたか…

 

こうなりゃ一人位俺が何とか…

 

《何てっ‼︎驚きました⁇》

 

「バカッ‼︎ビックリさせるな‼︎」

 

どうやら親潮は俺を驚かせたかっただけみたいだ…

 

《妹に手を出すのは許さないわ》

 

《ヒュプノス‼︎》

 

親潮の背後で、舌を出して目を回しているフレッチャーの首根っこを掴んだイクが見えた

 

話口調からすると今はヒュプノスだ

 

《その子、お父様の娘なんでしょう⁇》

 

ヒュプノスは一瞬だけ親潮を見て、手が塞がっているので顎で親潮を指した

 

《そうだ。お前も親潮も、俺の娘だ》

 

そう返すと、ヒュプノスは一瞬穏やかな顔を見せてくれた

 

《なら、私は妹を護っただけ…後の処理はお父様に任せるわ》

 

「後で一緒にアイス食べよう‼︎な、ヒュプノス⁉︎だから親潮とそこで待っててくれ‼︎」

 

次いつか目覚めるか分からないヒュプノスとコミュニケーションを取る絶好のチャンスだ

 

《楽しみにしてるわ》

 

「隊長。後は自分達にお任せ下さい‼︎」

 

「デートの約束は大切と娘さんも仰っていましたよ⁇」

 

そう言ったのは涼平と高垣

 

最近ゴトランドと繋がって上手く行っているらしい

 

「誰が言ってたんだ⁇」

 

「ひとみちゃんといよちゃんです。二人のおかげでゴトランドと繋がれたんです」

 

「ひとみといよがか…」

 

「ですのでっ‼︎行ってください‼︎」

 

「すまん。任せた‼︎」

 

会議室を出て、親潮とヒュプノスの元に走る



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244話 トランジスタグラマーママです(5)

二人がいる場所に向かう為に石段を駆け上がる

 

「来たわね」

 

「たった今ジェミニ様の監視の元、ドックに搬そ…」

 

頂上まで登り詰めてすぐ、二人共抱き締めた

 

「…」

 

「どどどどうなされたのですか⁉︎」

 

「ありがとう…助かったよ…」

 

親潮はテンパっているが、ヒュプノスは無言のまま

 

「ヒュプノスさん…絶対防御は…」

 

「いいの。お父様には使わない」

 

そう言って、ヒュプノスは親潮に薄っすらと笑みを送る

 

「よしっ‼︎アイス食べよう‼︎」

 

「はいっ‼︎親潮、チョコミントが良いです‼︎」

 

「アイス…」

 

右手でヒュプノス、左手で親潮と手を繋ぎ、石段を降りる

 

「ヒュプノスは食べた事ないか⁇」

 

「イクの時に食べてるんでしょうね…私は無いわ」

 

「では一緒に食べましょう‼︎」

 

平穏が戻った繁華街…

 

三人で伊勢に入った

 

「いらっしゃいませ‼︎大尉⁇何か大変だったんじゃないの⁇」

 

「この二人が解決してくれたんだ」

 

挨拶に来てくれた伊勢の前に、親潮とヒュプノスの背中を押した

 

「そっかそっか‼︎じゃあご褒美だね‼︎好きなだけ食べて帰るんだよ⁇」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「ありがとう」

 

一旦席に座り、俺が待っている間に二人はスイーツを取りに行った

 

「ヒュプノスさんは何を食べますか⁇」

 

「最初は貴方と同じにするわ」

 

「ではこれを‼︎」

 

両手でお皿を持って待機するヒュプノス

 

そのお皿に、親潮はチョコミントアイスを二つと小さなチーズケーキを乗せた

 

「あら。美味しそう」

 

ようやくヒュプノスの顔が綻んだ

 

「本当にお父さんの顔になって〜」

 

セルフサービスなのに伊勢がアイスコーヒーを持って来てくれた

 

「ヒュプノスがあんなに嬉しそうな顔をするの、初めて見たんだ…」

 

「ヒュプ…あ〜ぁ、なるほどね‼︎」

 

伊勢は俺の目線の先で誰がヒュプノスか気付いてくれた

 

「そっかそっか。確かに最初から居たもんね。プールの先生だっけ⁇」

 

「そっ。あの子が自分で見つけた道さっ」

 

「”相方”はたまに来てくれるんだけどね」

 

「…相方⁇」

 

伊勢の言葉で、また俺の知らないヒュプノスとイクが出て来る

 

「そうそう‼︎単冠湾の所のニムちゃん‼︎あの子は榛名さんとたまに来てくれるよ‼︎」

 

「ニムか…」

 

「じゃっ‼︎私は厨房に戻るね‼︎何かあったら呼んでね‼︎」

 

伊勢が厨房に戻り、入れ違いで親潮とヒュプノスが席に座った

 

「こうやって食べるんです」

 

「こう⁇」

 

「そうです‼︎」

 

親潮の食べ方を見て、ヒュプノスも同じ様にアイスを口に運ぶ

 

「甘くてスースーするわ」

 

親潮とヒュプノスが美味しそうにスイーツを食べる姿を見れて、俺は十分だ

 

問題はフレッチャーだ…

 

あの子は一体何処から来た…



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244話 トランジスタグラマーママです(6)

その頃、医務室では…

 

「私だってママになりたかったのにー‼︎」

 

「あばばばば‼︎」

 

俺に変わってアレンがフレッチャーの様子を診てくれているが、フレッチャーはギャースカ泣いてばかり

 

「ふ、フレッチャー‼︎君は何処から来たんだ⁉︎」

 

「エーンエーン‼︎」

 

「うぐっ…」

 

キンキン声で泣き叫ぶ為、アレンも耳をふさぐ

 

「おっじゃましまぁ〜す‼︎」

 

両腕いっぱいに何かを抱えたリチャードが入って来た

 

「ヒック…」

 

「お…」

 

その瞬間、フレッチャーは泣き止んだ

 

「ほらほら泣くな‼︎お菓子食べて元気だそう‼︎はっはっは‼︎」

 

診察机の上にドサドサとお菓子を置くリチャード

 

「フレッチャーはどれが好きかな⁇スナックか⁇チョコレートか⁇」

 

「スン…スン…」

 

「ほらほら」

 

リチャードはフレッチャーの前でチョコがけ棒ビスケットの絵が描かれた箱をカサカサ振る

 

「いただき、ますっ…」

 

未だにスンスン言いながらも、フレッチャーはそれを手に取った

 

「フレッチャーはどこ…」

 

「まぁ待てアレン」

 

質問を再開しようとしたアレンをリチャードが止める

 

久々に見るリチャードの本気の目に、アレンは素直に従った

 

「フレッチャー⁇」

 

「はい…」

 

「この人はアレンだ」

 

「アレン…」

 

お菓子を食べる手を止め、アレンの方を向くフレッチャー

 

「俺はリ…」

 

「リチャード‼︎」

 

お菓子効果もあるのか、リチャードにはすぐさま反応した

 

「なんで俺の名前を知ってるんだ⁇」

 

「私は貴方のママですから」

 

フレッチャーはお菓子を食べる手を再開しつつ、今度はリチャードを見つめる

 

「う〜む。ますます分からん…」

 

フレッチャーがお菓子を食べる”カリカリサクサク”という音だけが医務室に響く

 

一つ確かなのは、今は催眠術を使っていない事だ

 

「よし。抱っこしてみよう‼︎」

 

「いきなりですか⁉︎」

 

解決の糸口が見つからないリチャードは暴挙に出た

 

確かに身長は子供…ジョンストンと同じ位のサイズなので、抱っこする事は可能だ

 

「よしゃ‼︎来いフレッチャー‼︎」

 

すると、意外にもフレッチャーは両手を広げ、リチャードに抱き上げられた

 

「どっから来たか分からんがっ…見捨てる訳にはいかんだろう」

 

「えぇ。ここならフレッチャーの居場所もあるでしょう」

 

「お菓子食べてていいから、俺の飛行機見に行こうな⁇」

 

フレッチャーはサクサクお菓子を食べながらも、ちゃんと頷いた

 

外に出て、アレンを隣に置きながら格納庫に向かって歩く

 

「そう言えばアレン。最近工廠が忙しいな⁇」

 

「噂によると、試作型の戦闘機を造っているとの事です」

 

一時期グリフォンの開発に使っていた格納庫、そして工廠がここ最近忙しい

 

それはマーカスやアレンでさえ知らない機密事項だが、噂ではそれとなく知っていた

 

「へぇ。国産の戦闘機か⁇」

 

「いえ。深海との共同開発です。もし完成すれば、マーカスのグリフォンに続いて二機目になります」

 

この戦争で産まれた傑作機、XFA-001”グリフォン”

 

その後継機が、生まれようとしている

 

誰が乗るのか

 

どんな機体なのか

 

まだ誰も知る事は叶わない…

 

「なるほどな…さっ‼︎ここだ‼︎」

 

F6F-5Nの前に着き、フレッチャーを降ろす

 

「あら。天使の紋章」

 

フレッチャーは尾翼に描かれた、八重歯が特徴的な天使のエンブレムに興味を示した

 

「ジブリール…もしくはガブリエルだ。まっ‼︎守り神みたいなもんさ。天使だけどな⁇」

 

すると、フレッチャーは首だけリチャードの方を向いてクスリと笑った

 

「リチャードはそんなに信仰強くないでしょ⁇」

 

「まぁな…よく知ってるな⁇」

 

「私はママですから」

 

何を言っても”私はママです”と返すフレッチャー

 

「ママはリチャードをずっと見てましたからね。何でも知ってます」

 

「どう言う事だ…」

 

「大尉。工廠で朝霜さんと夕張さんがお呼びです」

 

「あ…あぁ、分かった‼︎中将、自分はこれで‼︎」

 

「後でマーカス達と飯行くから準備しとけよ⁉︎」

 

「了解です‼︎」

 

アレンが去り、F6F-5Nの前ににはリチャードとフレッチャーの二人きり

 

リチャードはフレッチャーの前で膝を曲げ、フレッチャーはリチャードを見つめ

 

「守り神だなんで…そんな…」

 

「フレッチャー。真面目に言ってるんだ。答えてくれ」

 

「私はここから来たの」

 

フレッチャーが優しく微笑む

 

フレッチャーの背後にはF6F-5N

 

視線をそちらに移しながら、リチャードは立ち上がる

 

「息子にも教えたでしょう。機械には…」

 

「命が宿る…」

 

確かに教えたが、それは機械や物は大切に扱えとの意味で教えた

 

「いつから見てた⁇」

 

「貴方がパイロットになってからずっと傍にいましたよ」

 

「何を知ってる」

 

「そうね…」

 

フレッチャーは悪戯に悩んでいる

 

「貴方が本当は昔からイントレピッドの事を好きな事とか、イントレピッドとヴィンセントが繋がりそうになっているのを見て嫉妬したりとか、イントレピッドの姿を見てホッとしたりとか、帰って来たら実はイントレピッドになでなでして貰ってるとか、後は…」

 

出るわ出るわリチャードのあられもない姿

 

それはリチャードにしか知り得ない内情をであり、誰かが知っている事は無い

 

ずっと横にでも居なかった限り…

 

「よしよし分かった‼︎分かったから‼︎頼むから俺の内情をバラすな‼︎」

 

「ママは何でもお見通しです」

 

フレッチャーは微笑む

 

フレッチャーの本性は分からない

 

だが、今リチャードの目の前にいるのは、長年彼の守り神として彼を守り続けた存在であるのに間違いは無かった

 

「どうやってその体を持ったんだ⁇」

 

「私だってママになりたいんです。ママらしい事を貴方にしてあげたい…それではいけませんか⁇」

 

「本当はどうなんだ⁇」

 

「…イントレピッドばっかりズルイです」

 

体を持った原理は不明だが、持とうと思った理由は嫉妬から来ていた

 

「その服装は⁇」

 

「これは最近来た子を真似しました」

 

「ジョンストンか…」

 

出る所は全く違うボリュームだが、服装はジョンストンに非常に近い

 

「リチャード。私を貴方の元に置いて下さい」

 

「催眠術しないか⁇」

 

「しません。反省もしてます」

 

「イントレピッドとも仲良くするか⁇」

 

「します」

 

「なら来い。ここは誰も否定しない」

 

「ありがとう、リチャード…」

 

こうして不思議な少女、フレッチャーが横須賀に来た

 

 

 

 

数日後…

 

「疲れたぁぁぁあ‼︎もぉぉぉん‼︎」

 

ヘットヘトのリチャードが帰って来た

 

「お帰りなさいリチャード‼︎」

 

「ただいま‼︎」

 

「よ〜しよしよし‼︎」

 

イントレピッドにたっぷり撫でられるリチャード

 

それを横で薄っすらと微笑みながら見るフレッチャー

 

「着替えたらご飯にしましょう‼︎」

 

「分かった‼︎」

 

リチャードは早速部屋に戻り、着替えをする

 

「リチャード」

 

ベッドの脇に座ったフレッチャーが両腕を広げてリチャードを見つめている

 

「ママァァァア‼︎」

 

今度はフレッチャーの胸に顔を埋めるリチャード

 

「よしよし。ママですよ」

 

甘える相手が増えたリチャード

 

普段は軽い男に見られがちの彼だが、人を惹き付ける力は誰よりもあった

 

その力はちゃんと息子にも遺伝している事に、周りはしっかりと気付いていた…

 




フレッチャー…トランジスタグラマーちゃん

何処からともなく現れたロリ巨乳の少女

謎の催眠術で男衆を誘惑し、本能剥き出しにする

その正体は、リチャードの機体にずっと昔から宿っていた守り神のような存在

機体を乗り換えても尚リチャードに着いて来ていたので、リチャード本人の守り神かもしれない

自分はママと言い張るが、本性はまだまだ少女

ここ最近、ヴィンセントがジョンストン

リチャードがフレッチャーとジャーヴィスを連れて五人でいる所を繁華街にいるのを目撃されている


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245話 ピンクの悪魔(1)

さて、244話が終わりました

今回のお話は、イタリアからやって来たピンクのアイツが出て来ます

試射にやって来たとある艦娘

試射をするのは新型ミサイル

果たして彼女の思惑とは…


朝食を食べ終え、テレビの前でカーペットにうつ伏せになっているきそがいる

 

「キソ、眠いの⁇」

 

「ん〜…二度寝したい〜」

 

「起きないとシュネッケンだよ‼︎」

 

「それはヤダぁ〜…」

 

れーべとまっくすがきその近くに座り、きそのほっぺたを突いたりしている

 

それでもきそは多少グズる位でうつ伏せを止めない

 

そんな中、無線が鳴る

 

「横須賀分遣隊だ。どうした⁇」

 

《レイ⁇ちょうど良かったわ。中継するわね》

 

無線の主は横須賀

 

中継すると言っている位だから、遠方からの重要な通信だろう

 

《レイか⁇久々だな⁇》

 

「ミハイルか‼︎」

 

中継した先はミハイルだった

 

ここしばらく会えていなかったので、声を聞くのも久々だ

 

ついでにきそも目を覚ました

 

《無線ですまない。本来ならレイのタブレットに送るべきなんだが、今回は横須賀基地に協力して貰うんだ》

 

「そうかそうか‼︎それで、内容は⁇」

 

《新型のミサイルが出来上がったんだが、輸入しようか迷ってる所なんだ》

 

「ほう」

 

ミハイルは武器商人のような立ち位置にいる

 

巨竜事件の時もミハイルが手配してくれた爆弾で事なきを得た

 

《それで試射する場所がなくて、探していた所に横須賀からOKが来たんだ》

 

「要約すると、俺にミサイルを撃ってくれか観測してくれ…だな⁇」

 

《観測の方だ。頼まれてくれないか⁇》

 

「分かった。日程はいつだ⁇」

 

《そうだな…実は今、横須賀に着くんだ》

 

「なら早い方がいい‼︎今から行くさ‼︎」

 

《すまない。そうだ、アレンも呼んでくれないか⁇久々に三人で話がしたい》

 

「グラーフはいいのか⁇」

 

おちょくるようにグラーフの事を振ると、ミハイルは無線の先で笑った

 

《ははは‼︎悪いな。グラーフとは先打って伝えてある》

 

「了解したよっ。今から向かうから、少し待っててくれ」

 

《すまない、助かる》

 

無線を切り、そのままラバウルへ無線を繋げた

 

《ラバウル航空隊基地です。どうされましたか⁇》

 

出たのはラバウルさんだ

 

「マーカスです。アレンはいますか⁇」

 

《あ〜…少し忙しそうですが…ま、まぁ良いでしょう‼︎アレン‼︎》

 

アレンが忙しいのは分かる

 

多分コロちゃんの世話だろう

 

だがなんだ⁇

 

後ろの方から爆発音が聞こえたぞ⁉︎

 

《すまんすまん‼︎どうした⁇》

 

「忙しそうだな⁇」

 

《日進とネルソンと一緒にホットケーキ焼いてたんだ》

 

「結果はどうだ⁇」

 

《俺は二度とキッチンに立たない方が良さそうだ》

 

「爆発音はお前か‼︎」

 

《心配するな‼︎小麦粉に引火しただけだ‼︎》

 

「大事故だぞ‼︎」

 

《それで⁇どうしたんだ⁇》

 

「あぁ。ミハイルが横須賀に来るんだ‼︎」

 

《いつだ⁉︎》

 

「もうすぐ着く」

 

《よしっ‼︎すぐ行こう‼︎今すぐ行こう‼︎》

 

アレンは居場所のなくなったキッチンから今すぐに出たいらしい

 

無線を切り、早速準備に取り掛かる

 

「マーカス君、横須賀行く⁇」

 

「あぁ‼︎行くよ‼︎ミハイルが来るんだ‼︎」

 

「子供達は迎えに行く。心配するな」

 

朝早く、たいほうとひとみといよが横須賀に行っていた

 

ジョンストンや日進達と遊んだりお昼ご飯を食べたりするのだろう

 

「ちょっと出掛けて来る‼︎」

 

「ミハイルに宜しくな⁇」

 

「了解‼︎きそ、行くぞ‼︎」

 

「オッケー‼︎」

 

ミハイルが待つ横須賀へと飛ぶ

 

これから惨劇に見舞われるとも知らずに…

 

 

 

 

「僕はたいほうちゃん達の所にいるから、何かあったら呼んでね⁇」

 

「頼んだ‼︎」

 

きそと別れ、ミハイルとアレンが待つ執務室に来た

 

「ミハイル‼︎アレン‼︎」

 

「やっと来たか‼︎」

 

「レイ‼︎久々だな‼︎」

 

すぐにミハイルと拳を合わせ、握手する

 

「すまないな。急に呼び出して」

 

「気にするな‼︎んでっ⁇その新型の兵器ってのは何処だ⁇さっさと終わらせて飯でも食おうぜ‼︎」

 

「あぁ、もうすぐ着く。大湊と呉から護衛が着いてるんだ」

 

「大湊と呉⁇」

 

「レーダー艦とイージス艦さ」

 

「片方はダイダロスだな」

 

アレンが言ったのは大湊のレーダー艦、ダイダロス

 

呉のイージス艦…

 

「きくづきか‼︎」

 

「そんな名前だ。今から来る兵器の護衛、それと艦自体の護衛に着いてくれている」

 

両者共に非常に優秀な艦だ

 

「護衛されてる艦の名前は⁇」

 

「”ガリバルディ”イタリアのミサイル巡洋艦さ」

 

「待たせたわね」

 

話していると横須賀が来た

 

「訓練海域と標的はサイトBに準備したわ。まずは三隻が入港して顔合わせをしてから、親潮の案内に従って頂戴」

 

「分かった。何にせよ顔合わせだなっ」

 

一時間後、三隻が入港するまで執務室で待機

 

その間、ミハイルが持って来てくれたお土産のお菓子を食べながら待つ…



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245話 ピンクの悪魔(2)

《ガリバルディ、入港完了》

 

「行きましょ」

 

三隻が横須賀に来た

 

ドックに向かうと、

 

きくづき

 

ダイダロス

 

ガリバルディ

 

そしてタナトスがいた

 

《今日はドックも中も大勢でち》

 

タナトスから無線が入る

 

いつもなら入れ違いで一、二隻入港するのが多い横須賀のドック

 

今日は横一列でパンパンだ

 

それに、タナトスの中には子供達もいる様子

 

タナトスは俺達に気付いてすぐに無線を入れてくれた

 

「タナトスはドックにいっぱいいるの嫌か⁇」

 

《嫌じゃないでち。仲間がいるのは安心するでち》

 

「俺が言っても返してくれるか⁇」

 

そう言い出したのはアレン

 

「話してみるか⁇」

 

アレンの前にタブレットを出す

 

「タナトス。何かあったら俺達を守ってくれよ⁇」

 

《タナトスにお任せでち‼︎アレンさんは良い人でち‼︎》

 

「良かったな⁇」

 

「AIになった日進との話し方を勉強しておこうと思ってな」

 

「レイ。あれはタナトス級か⁇」

 

ミハイルの目前にいるタナトス

 

「そっ。俺の傑作だ」

 

《いい答えでち》

 

「これが…」

 

ミハイルが目を奪われる

 

まるで長年探し求めていた物がいきなり見つかったかのような表情をしながら、そこに佇むタナトスを見つめる

 

「噂には聞いていたが、立派な艦だ…はぁ…」

 

ため息まで出る始末

 

「おっと‼︎忘れてた‼︎挨拶だ挨拶‼︎」

 

自分の任務を一瞬忘れる位にミハイルはタナトスに魅入っていた

 

「また後でな、タナトス」

 

《待ってるでち》

 

タナトスと別れ、ガリバルディのドックに来た

 

「アンタ達が観測やってくれんだな⁉︎」

 

ガリバルディの付近にいた一人の少女がこちらに気付いた

 

「マーカスだ」

 

「アレンです」

 

「アタシはガリバルディ‼︎今日はよろしく頼むな‼︎」

 

一目見て分かった

 

彼女は艦娘だ

 

第一印象は随分と軽い感じの少女だと思った

 

それに若い

 

髪の毛もありゃあ染めてるな

 

ピンピンのピンクだ

 

「はっち‼︎お〜ぷん‼︎」

 

「たあとすあいがと‼︎」

 

タナトスの中から子供が二人出て来た

 

「あ‼︎えいしゃん‼︎」

 

「あえんしゃんもいう‼︎」

 

ひとみといよが此方に気付き、走って来た

 

ミハイルの存在に気付き、二人は一旦足を止めた

 

「うぁ〜」

 

「あぅ〜」

 

初対面の人に対して第一声目は必ずコレの二人

 

未だに何をしているかは分からないが、二人なりに何かを探っているのだろう

 

「えいしゃんのおともあち‼︎」

 

「君達は何て名前かな⁇」

 

ひとみといよの前にミハイルが屈み込む

 

「ひとみ‼︎」

 

「いよ‼︎」

 

「私はミハイル。宜しくね⁇」

 

「よおしくおねあいしあす‼︎」

 

「よおしくおねがいしあす‼︎」

 

ひとみもいよも快活に返事を返す

 

「アンタの子供か⁇」

 

「うぁ〜」

 

「あぅ〜」

 

ガリバルディにも同じ様に声を放つ

 

「「‼︎」」

 

声を放ってすぐ、ひとみといよは俺の足にしがみ付いた

 

「お〜お〜どうした⁇珍しいな⁇」

 

様子がおかしい

 

いつもなら、うぁ〜と言った後にキチンと挨拶をする二人が、ガリバルディにはしない

 

「あはは。まぁ良いさ‼︎これがプログラムだから、後はそっちで観測を任せた‼︎」

 

紙を渡され、目を通す

 

 

 

巡洋艦ガリバルディ搭載ミサイル試射実験

 

上記艦に搭載された新型ミサイルによる試射実験

 

目標…横須賀サイトB海域に設置された標的

 

使用艤装…軽量化レーダー投射ミサイル

 

 

 

その下に俺達の配備場所が書かれている

 

「了解した。指示に従ってサイトBに向かってくれ」

 

「んじゃ‼︎また後でな‼︎」

 

ガリバルディが艦に乗り、ようやくひとみといよが足から離れた

 

「どうしたんだ⁇」

 

ひとみといよはすぐに俺の肩に登り、耳元で囁いた

 

「あのひとやばい…」

 

「てき…」

 

「何だと⁇」

 

ひとみといよは、ガリバルディはヤバい敵と言い始めた

 

「みはいるしゃん、らまちてう…」

 

「みはいるしゃんあ、みかた…」

 

「警戒しろってか⁇」

 

「そう…」

 

「がいばうで〜やばい…」

 

「きそ達に言えるか⁇」

 

「きしょのとこいってくう‼︎」

 

「じぉんすとんと、にっちんしゃんとあしぉぶ‼︎」

 

二人は肩から飛び降り、またタナトスの中へと戻って行った

 

「今度、コロちゃんも連れて来ていいか⁇」

 

「あ…あぁ‼︎勿論さ‼︎」

 

「子供か…」

 

何も知らないアレンとミハイル

 

言うなら今しかない

 

「…ガリバルディは敵かも知れない」

 

「ひとみちゃんといよちゃんからか⁇」

 

最初に返事を返したのはミハイル

 

「あぁ。ミハイルにはちゃんと挨拶したのに、ガリバルディにはしなかった」

 

「確かにな…あの二人はキチンと挨拶の出来る子だ」

 

普段ひとみといよを見慣れているアレンも反応してくれた

 

「警戒しようにも、この距離じゃ無理だ」

 

「俺が防空警戒に出る。レイ、ミハイル、そっちは任せた」

 

「頼んだ。こっちで動きがあればすぐ連絡する」

 

「二人共、先に謝っておく…すまない」

 

ミハイルが俺達に頭を下げた

 

「な〜に‼︎気にするな‼︎まだ完璧に決まった訳じゃない‼︎」

 

「そうだぞ⁇試射で終わればそれまでさ‼︎」

 

「だといいが…」

 

消極的になってしまったミハイルの肩を抱き、俺とミハイルは親潮の待つ方を向いた

 

「アレン、任せた‼︎」

 

「オーケー‼︎後でな‼︎」

 

アレンと別方向を向き、それぞれの目的地へと向かう

 

この時、まだ気付いていなかった…

 

この日、アレンが一度も死亡フラグを口走っていなかった事を…



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245話 ピンクの悪魔(3)

「創造主様。此方へ」

 

機材を入れたケースを持った親潮に案内され、サイトBに足を踏み入れる…

 

「…」

 

「…」

 

「何してるんだ⁇」

 

俺も親潮も、足を少し前に出して探ってから先に進む

 

「過去に地雷がバラ撒かれていましたからね…」

 

「死にはしないし痛くもないが、ちょっと怖いからな…」

 

涼月はちゃんと回収とかする子だからな

 

その辺りは心配無いが…

 

「此方です」

 

海上には既に標的が出されている

 

「此方をどうぞ」

 

親潮が足元で機材を準備しながら、俺達に双眼鏡を渡してくれた

 

「ガリバルディが来た…」

 

「予定時刻より少し早いな…」

 

海上には既にガリバルディが到着

 

遅れてきくづきとダイダロスが見えた

 

「測定器及び各機材、配備完了しました」

 

「助かった」

 

「そう言えばその子は⁇創造主様って言ってたが…」

 

機材の前に着こうとした時、ミハイルが親潮の事を聞いた

 

「私は親潮です。元はマーカスのAIでしたが、今はジェミニ様の秘書をしています」

 

「ジェミニに似てるな…」

 

「ジェミニ様の外見を模倣しています。ミハイル様」

 

親潮は笑顔を送った後、測定器の前に着いた

 

「アレンだ」

 

上空にアレンのSu-57が見えた

 

《当該空域に着いた。いつでも始めてくれ》

 

無線からのアレンの合図により、試射が始まる

 

「了解。ガリバルディ、準備が整った。始めてくれ」

 

《了解‼︎さぁ‼︎行くよ‼︎》

 

先程の女の子の声が無線から聞こえ、ガリバルディが動く

 

標的は全部で三つ

 

それを如何に叩き壊すか、如何に命中させるかを今回見定める

 

「発射されました‼︎目標、一番標的。弾着まで…3秒‼︎」

 

「速い‼︎」

 

撃ち出されてほんの少し上に上がったと思えば、標的に方向を変え、一瞬で加速して標的に当たった

 

「次弾装填。目標、二番標的…発射‼︎弾着まで、3、2…弾着‼︎」

 

「装填も速いな」

 

「良いミサイルだろう⁇」

 

「あぁ…確かに…」

 

そして、最後の試射

 

「次弾装填。目標…ガリバルディ、それは味方です‼︎すぐに標的を変えて下さい‼︎」

 

「どうした親潮‼︎」

 

「ガリバルディ、ダイダロスに向けて標準を照射中‼︎」

 

《ジャミングを展開しろ‼︎》

 

ダイダロスは咄嗟にジャミングを展開

 

ミサイルの直撃は免れた

 

「親潮。横須賀に連絡をして、ガリバルディに繋いでくれ」

 

「畏まりました。此方を」

 

親潮から無線機を貰い、すぐに耳に当てる

 

「どう言うつもりだ、ガリバルディ」

 

《どうもこうも。元から敵だって事さ‼︎ほらほら‼︎もういっちょ行くよ‼︎》

 

ミサイルが当たらないと分かると、今度は主砲をダイダロスに向けた

 

《退避しろダイダロス‼︎》

 

《避けたら大尉達に当たる‼︎総員踏ん張れ‼︎》

 

「なに…」

 

ダイダロスの動きが緩やかになる

 

ガリバルディが向けた主砲の射線上に俺達はいる

 

ダイダロスが退避すれば、俺達が射線に入る

 

《そんな見栄張って。まずは君から落ちな‼︎》

 

速射砲は放たれ、ダイダロスの艦首付近に穴が開く

 

《目標、9時方向‼︎敵艦ガリバルディ。撃ち方始め‼︎》

 

きくづきが速射砲を放つ

 

《あはははは‼︎効かない効かない‼︎》

 

速射砲はガリバルディに当たるも弾かれている

 

きくづきの速射砲の威力はかなり高い

 

対深海加工を施していない艤装で、深海に打撃を与えるほどの貫通力を備えている

 

それでも弾くと言う事は、装甲に特殊な細工をしてある可能性がある

 

《攻撃許可が下りた。攻撃を開始する》

 

アレンのSu-57が爆弾の投下体勢に入った

 

Su-57には軽量だが、数発の投下爆弾が積載されている

 

命中すればせいぜい艤装の破壊が精一杯だが、それでもこの現状は何とかなる

 

《とことん甘いね、君》

 

「アレン‼︎ガリバルディやめろ‼︎」

 

ガリバルディのミサイル発射装置がアレンの方を向く…

 

《潮時か…だが、艤装は貰う‼︎》

 

投下のタイミングをずらした二発の爆弾がSu-57から切り離された直後、ガリバルディからミサイルが撃ち出された

 

「アレン‼︎馬鹿野郎‼︎」

 

粉々に撃ち抜かれたSu-57が海上に落ちて行く…

 

まさに一瞬の出来事だった

 

涙も何も出なかった…

 

しかも、アレンが投下した爆弾は両者共に弾かれている

 

「マクレガー大尉のベイルアウトを確認。きくづき、救助に迎えますか⁇」

 

《了解した‼︎すぐ救助に向かう‼︎》

 

「ガリバルディ…」

 

「創造主様、落ち着いて下さい。アレン様は無事です」

 

いつの間にか左手で双眼鏡を握り潰していたのを、親潮もミハイルも見ていた

 

「レイ。俺に考えがある」

 

「何だ⁇」

 

「”アレ”を使う時が来た」

 

ミハイルの言っている事は何となく分かった

 

「あの機体はまだ試験段階らしい。それに、俺でさえ使い方が…」

 

ミハイルはアタッシュケースから書類の束を取り出し、無言で俺の胸に置いた

 

「スポンサーは俺だ」

 

「ミハイル⁇」

 

「どの道レイかアレンに乗って貰う予定だった。今、その時が来たんだ」

 

「しかし…」

 

「深海からの贈り物だ。受け取ってくれ」

 

ミハイルの手に力がこもる

 

「…分かった‼︎」

 

「きくづき及びダイダロス、一時撤退します」

 

アレンを救助し終えたきくづきは、傷を負ったダイダロスを連れて横須賀に戻ろうとしている

 

「タナトス様がガリバルディの監視に着くとの方向がありました。入れ替え完了まで、およそ十分」

 

「やるなら今しか無い。試射実験中止。現時刻をもってガリバルディを敵艦とみなす」

 

「ジェミニ様も同意のようです」

 

「行こう、レイ‼︎」

 

機材を引き上げ、サイトBを出た…



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245話 ピンクの悪魔(4)

横須賀に戻って来た

 

既に基地はガリバルディの対策でてんてこ舞い

 

そんな中、きくづきが帰って来た

 

「お〜いレイ〜‼︎ミハイル〜‼︎」

 

何故かピンピンしたアレンがきくづきから降りて来た

 

「アレン‼︎大丈夫じゃないだろ⁉︎」

 

アレンは本当に無傷だった

 

強いて言うならば、少し海水浴をしたので体が濡れている以外に傷が無い

 

「よく分からんが助かった‼︎それよりレイ。機体はあるか⁇」

 

「検査が先だ、アレン」

 

「分かったよ」

 

ミハイルにも言われ、医療機器一式が揃っていて一番近い工廠でアレンを見る事になった

 

「何処も異常ないな…」

 

着替えさせた後、アレンの何処を検査しようが、何の異常もない

 

「レイ、機体はないのか。彼奴に一発食らわせてやりたい」

 

「ある事にはあるが…お前は少し休め」

 

そんな中、外から叫び声が聞こえた

 

「待って下さい‼︎艦長が‼︎」

 

「まだダイダロスには艦長が‼︎」

 

ダイダロスの乗組員が担架で運ばれながら、それぞれが似た事を叫んでいる

 

「ちょっと待ってろ。ミハイル、アレンを頼む」

 

「分かった。ほらアレン、少し休め」

 

「わ〜かったって‼︎」

 

様子がおかしいダイダロスの乗組員達

 

「ダイダロスは帰港してないのか⁉︎」

 

「艦長一人でガリバルディに‼︎」

 

「自分達をきくづきに乗せた後すぐに行ってしまわれて‼︎」

 

海上では、ガリバルディに向かって行くダイダロスが見えた…

 

 

 

 

数分前…

 

「先に行くんだ」

 

ダイダロスさんの誘導により、きくづきに乗せられて行くダイダロスの乗組員

 

ダイダロスが損失を受け、万が一に備えて最小限の人員を残して横須賀まで帰る寸法だ

 

「お前達も行くんだ」

 

ダイダロスに二人の乗組員が残っていた

 

「艦長。自分達が退艦すればレーダーが動かせません。付き合いますよ」

 

「そうですよ艦長。自分もいなければエンジンを起動出来ません」

 

二人共、まだ若い

 

それでもダイダロスさんを信じて、ダイダロスに残ると言った

 

「…ちょっと待て。一軸艦長からだ」

 

ダイダロスさんが無線器を取り、何かを話している

 

「きくづきのSPYレーダーの調子がおかしいらしい。修理出来るか⁇」

 

「可能です」

 

「頼めるな⁇」

 

「了解です‼︎すぐに戻ります‼︎」

 

一人がダイダロスを出た

 

「あいつの護衛に着け。命令だ」

 

「艦長‼︎」

 

「な〜に‼︎心配するな‼︎死んで帰ったらハニーに怒られる‼︎」

 

「約束ですからね…」

 

最後の一人の退艦が終わる

 

「一軸艦長」

 

《ダイダロス。どうしたんだ》

 

ダイダロスさんは一つ呼吸を吐いた後、無線器に言った

 

「…俺の自慢の部下だ。宜しく頼む」

 

《何をするつもりだ》

 

「罪滅ぼしさ」

 

無線を切ったダイダロスさんの手元で、ランプが点灯する

 

”艦首装甲破損・浸水箇所有り”

 

その警告を見た後、もう一度無線を取った

 

「…マクレガー大尉」

 

最後の無線は工廠にいるアレンへと繋いだ

 

《ダイダロスさん、助かりました。感謝します》

 

「一つ、頼まれてくれないか」

 

《自分に出来る事なら》

 

アレンの言葉に、ダイダロスさんは言葉を詰まらせた

 

今までずっと隠していた事があった

 

それを今、ダイダロスさんは言おうとしていた

 

煙草を咥えて一度だけ紫煙を吐いた後に、ダイダロスさんは言った

 

「”息子”を頼んだ」

 

《息子⁇息子とは…》

 

「息子が君の背中を追っているのを、私は見た。どれだけ君を信頼しているか…よく分かったよ」

 

《ダイダロスさん…あんたまさか…》

 

「通信を遮断する」

 

《待ってく…》

 

アレンが止めようとしたのを振り切り、ダイダロスさんは無線を切り、叩き付けるかのように無線を置いた

 

「…さぁガリバルディ‼︎地獄へ付き合って貰おうか‼︎」

 

ダイダロスが動き出す…

 

 

 

 

「SPYレーダーの修理を頼まれたのですが」

 

「SPYレーダー⁇普通に稼働しているが…」

 

「…」

 

レーダーを動かしていた彼は、一軸艦長の言葉で気付いた

 

あれは嘘だ

 

艦長は自分達を逃がす為に嘘を吐いた

 

自分達にあぁ言えば、行くと信じてくれたんだ

 

「艦長‼︎」

 

エンジン担当の彼が叫んだ

 

窓の外で、ダイダロスがガリバルディに向かって行く…

 

「艦長‼︎何をするつもりですか艦長‼︎」

 

「自分達を置いて行かないで下さい‼︎」

 

二人の叫び虚しく、ダイダロスは離れて行く…

 

 

 

 

横須賀では、ダイダロスの行動に一瞬動きが止まった

 

鉄と鉄とがぶつかる鈍い音が聞こえた…

 

「体当たりだと…」

 

ガリバルディの船体が傾く程の衝撃で、ダイダロスは体当たりをかました

 

ダイダロスはガリバルディの速射砲でボロボロになりつつも、未だミサイルの砲身が向いていた横須賀基地をその身を挺して守り抜いた

 

「ダイダロス大破‼︎ガリバルディは小破です‼︎」

 

親潮の叫ぶような声で止まった時間が元に戻る

 

「ミサイルはまだ積んでるのか⁉︎」

 

「かなりの数あります‼︎ここは危険です‼︎離れましょう‼︎」

 

親潮に手を引かれて、工廠に向けて走る

 

工廠まで行けば地下がある

 

そこに行けば安全だ

 

だが、他の奴は⁇

 

外の艦娘達は⁇

 

そんな事を考えていると、タブレットに通信が入った

 

一旦工廠と工廠の間に身を隠し、通信を繋いだ

 

《おこまい⁇》

 

《がいばうで〜ぶっこおいすうか⁇》



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245話 ピンクの悪魔(5)

「ひとみ‼︎いよ‼︎今どこにいるんだ⁉︎」

 

通信の相手はひとみといよ

 

ステルスでも使っているのか、居場所が分からない

 

《ぶっこおいすうか⁇》

 

《ろ〜しゅる⁇》

 

「危ないからすぐに工廠に来るんだ‼︎」

 

《ぶっこおいすうか⁇》

 

《ほっといたあ、きけんれすお》

 

ほんの一瞬だけ、二人を信じてみようと思った

 

「…出来るのか⁇」

 

《れきう‼︎》

 

《みといて‼︎》

 

ひとみといよが急に黙った

 

《あ〜…》

 

《う〜…》

 

透き通った声がタブレットから聞こえて来た時、ガリバルディがミサイルを二発放った

 

「ガリバルディ、ミサイル発射‼︎目標…ガリバルディ⁉︎」

 

ミサイルは先程と違い、一旦上空で距離を取った後、発射した艦であるガリバルディに向かう

 

「ミサイル着弾‼︎命中です‼︎」

 

二発共ガリバルディに直撃し、一発は速射砲を破壊

 

もう一発は甲板に打撃を与えた

 

《どあ‼︎》

 

《あたたか⁉︎》

 

「凄いぞ‼︎どうやってやったんだ⁉︎」

 

《もっぱついくか⁇》

 

《ちんでもあいましぉ‼︎》

 

ガリバルディに打撃が入った事により、外で歓声が上がる

 

ひとみといよが何処からかガリバルディのミサイルを操り、ガリバルディ自身に当てて打撃を与えている

 

その攻撃は数分間に渡って続き、ガリバルディは見るも無残に大破して行く

 

《ど〜だ〜‼︎》

 

《あいったか‼︎》

 

遂にガリバルディは動けなくなり、甲板から乗組員が海に逃げている

 

それを見て、親潮の持っていた無線器に話し掛けた

 

「横須賀‼︎聞こえるか⁉︎」

 

《聞こえるわ‼︎どうやったの⁉︎》

 

無線の先の横須賀でさえ驚いている

 

「後で説明する。艦娘達はどうした⁉︎」

 

《動ける子は海に逃がしたわ。呼び戻してガリバルディの乗組員を逮捕していいかしら⁇》

 

「頼んだ‼︎」

 

数分後には外洋から艦娘達が戻り、ガリバルディの乗組員の逮捕が始まる

 

 

 

俺と親潮は工廠で臨時の救護所を作り、きくづきやダイダロスの乗組員の手当てをしていた

 

「ダイダロスさん…」

 

ダイダロスはガリバルディに体当たりをしたまま動いていない

 

最悪の事しか頭に過ぎらない

 

「かっこつけるからっ…こうなるんですっ…‼︎」

 

そんな中、涼月の声が聞こえた

 

「ねー頼むよハニー…もう少し丁寧に…」

 

「ダメですっ…‼︎ダイダロスを潰したお仕置きですっ…‼︎マーカスさんにっ…痛い注射をして貰いますっ…‼︎」

 

ダイダロスさんを頭の上で担いだ涼月が来た

 

ダイダロスさんは身体中傷だらけだが、いつも通り涼月の尻に敷かれている

 

いつも通りの二人、元気そうなダイダロスさんを見て、その場に居た皆が安堵の息を吐いた

 

「どうしようもない方を連れて来ましたっ…‼︎治せますかっ…⁇」

 

「ここに寝かせてくれるか⁇」

 

過去に長門が使っていた臨時用のカプセルがある

 

浴槽型の艦娘用のカプセルで入渠専用だが、ダイダロスさんの傷レベルなら問題なく治せる

 

涼月はダイダロスさんを頭の上で担いだまま浴槽の前に立ち、少しプルプルした後…

 

「ほれ」

 

と言って浴槽に放り投げた

 

ボチャァァァアン‼︎と凄い音と水しぶきが出たが、ダイダロスさんはちゃんと浸かっている

 

「ハニー」

 

「何ですかっ…‼︎」

 

「ありがとう」

 

「死にたがりの面倒を見るのはっ…これが最初で最後ですっ…‼︎」

 

涼月は流し目でダイダロスさんを少し見た後、最後に笑った顔を見せて工廠を出て行った

 

「どこ行くんだ⁉︎」

 

「本物の試射をっ…見せてあげようかと思いましてっ…‼︎」

 

入り口付近で振り返った涼月は満面の笑み

 

涼月が向こうを向いた時、工廠の中からは何故か拍手が上がっていた

 

 

 

「レイ。軽い診察なら手伝うぞ⁇」

 

「頼んでいいか⁇机の引き出しに聴診器がある」

 

「オーケー」

 

アレンの助太刀が入り、治療はスムーズに済みそうだ

 

「ないぞ〜⁇」

 

「んなバカな…」

 

いつもの場所にあるはずの聴診器が無い

 

「ここにスペアがあったんだが…」

 

「医務室に置いてきたんじゃないか⁇」

 

「だといいが…よしっ‼︎これでオーケーだ‼︎」

 

「ありがとうございます」

 

話しながらも処置を進め、包帯巻きが終わる

 

そこに横須賀が来た

 

「レイ。ありがと」

 

「いいさ。捕虜にするのか⁇」

 

表ではガリバルディの乗組員がゾロゾロと救助され、捕虜として捕まえられている

 

「そうね。ちょっと流石に強請るわ」

 

「女の子の方のガリバルディはどうなった⁇」

 

「それが見付かってないのよ。捜査範囲を広めるわ」

 

「分かった。こっちはもう上がれる。重体が少なかったのがまだ救いだ」

 

死人が出なかったのがまだ救いだな…

 

それにしてもガリバルディは何処に…



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245話 ピンクの悪魔(6)

ひとみといよの尋問は真似をしないように


〜横須賀・貨物コンテナエリア〜

 

「…はっ‼︎」

 

薄暗い場所で、ガリバルディが目を覚ました

 

「め〜さめまちたか⁇」

 

「おめめくうくうれちたえ」

 

目の前にはひとみといよがいる

 

「テメェ‼︎クソッ‼︎何だこれ‼︎」

 

ガリバルディは椅子に座らされ、グルグル巻きになっている

 

「わういことちたひとには、おちおきれす」

 

「こえつけあす」

 

「やめろ‼︎何をするんだ‼︎」

 

ひとみの手にはマーカスとアレンが探していた、あのスペアの聴診器がある

 

「あばえたあさすれ」

 

「暴れたら刺す⁉︎」

 

「たこなぐいれす」

 

「うぅ…」

 

聴診器を付けるひとみの前で、いよが刺すやらタコ殴り等とガリバルディを脅す

 

ガリバルディは一旦は大人しくしたが、目はまだ反省していない

 

「はんしぇ〜ちますか⁇」

 

「けっ‼︎するかよ‼︎ここを手に入れれば深海に反撃出来んだぞ‼︎」

 

「はんしぇ〜ちましぇんえ」

 

「おちおきれす」

 

ひとみが聴診器を付け終わり、心音を聞く部位を取った

 

「きこえあすか〜‼︎」

 

ひとみは聴診器に向かって声を出した

 

※大変危険ですので、読者の皆は絶対に真似しないで下さい

 

「ギャーーー‼︎聞こえる‼︎聞こえてるから‼︎」

 

流石のガリバルディも悶絶する

 

「はんしぇ〜ちますか⁇」

 

「ケッ…するかよ‼︎大体深海」

 

「あーーー‼︎」

 

「わーーー‼︎」

 

「ウギャァァァァア‼︎」

 

「あかってんのか‼︎こあーーーっ‼︎」

 

「はんしぇ〜ちたんか‼︎こあーーーっ‼︎」

 

「ギャァァァァア‼︎」

 

反省しないガリバルディを見て、ひとみといよは聴診器に向かって叫んだ

 

※大変危険ですので、絶対に絶対に真似しないで下さい

 

「こ…これしきの事で…」

 

そこは艦娘なのか、クラクラしながらも何とか耐え凌ぐ

 

「ひきあしぇん‼︎」

 

「こびへつあいましぇん‼︎」

 

「はんしぇ〜ちましぇん‼︎」

 

「は…ははは…艦娘がこれしきの事でヘバるかよ‼︎」

 

「そ〜れしゅか」

 

「いたいめにあってもあいましぉ」

 

ひとみといよはかなり本気でキレている

 

レイやアレン達、顔見知りの人、そして元々乗って可愛がって貰っていたきくづきの乗組員を危険な目に遭わせた事に対して怒り心頭中

 

ひとみといよはガリバルディをそのままにし、一旦そこから出た…

 

「居ないわね…確かに帰って来たのを見た報告があるのよ」

 

「んな所にか⁇」

 

「普段は外から私と一緒に見る位なのよ⁇」

 

ひとみといよと入れ違いで、レイと横須賀がガリバルディの入っているコンテナの前を通った

 

ガリバルディは今、空のコンテナの中に詰められていた

 

しかし、聴診器アタックを喰らったガリバルディは耳鳴りがしており、二人に気付く事はなく、レイと横須賀はその場から去ってしまう

 

そして、レイと横須賀が角に入り死角になった時に、ひとみといよは台車に何かを乗せて持って帰って来た

 

そこには涼月も居る

 

「うんちぉ…」

 

「おいちぉ…」

 

「開けますねっ…‼︎」

 

再びコンテナが開けられ、三人が入って来た

 

「何度来てもおな…何だそれは‼︎」

 

ひとみといよが二人で転がして持って来たのは、クリーム色をした大きな球体

 

「貴方は試射をしに来たんですよねっ…‼︎涼月もっ…試射をするだけですっ…‼︎」

 

「せっち‼︎」

 

「まどあけた‼︎」

 

ひとみが球体を設置し、いよが小窓を開け、コンテナ内に酸素を入れる

 

「わ、悪かった‼︎ゴメンってば‼︎」

 

ガリバルディはひとみといよが足元に置いた物を見て暴れ始めた

 

「涼月が作ったっ…”6尺玉”ですっ…‼︎」

 

普通の打ち上げ花火の玉より一回り二回り大きい巨大な花火玉が置かれた

 

「ぎえすにのいます」

 

「とってもれかいれす」

 

涼月、ひとみ、いよ、全員真顔

 

それが圧倒的恐怖を生み出す

 

「この人でなし‼︎離せ‼︎離っ…」

 

ガリバルディが喚き散らしている最中、涼月はガリバルディの口元を片手で掴み、顔を近付けた

 

「人でなしはっ…どっちでしょうかねっ…‼︎」

 

「ご…ごえんなしゃい‼︎反省しましゅ‼︎反省しましゅから‼︎」

 

「心配しないで下さいっ…少し大きな照明弾みたいなものですっ…‼︎音も威力もっ…違いますがねっ…‼︎」

 

「てんか‼︎」

 

「ぼしぅ‼︎」

 

長い導火線の先に火を点けた‼︎

 

「行きましょう…‼︎」

 

「がいばうで〜さいなあ〜‼︎」

 

「またきあす‼︎」

 

「ちょっと‼︎ちょっと待って‼︎ねぇ‼︎せめてこれ外してよ‼︎」

 

無情にもコンテナの扉は閉められた

 

ガリバルディの耳には、御丁寧にテープで張り付けられた聴診器

 

「助けてーーーっ‼︎反省します‼︎ごめんなさい‼︎二度としませんから‼︎」

 

ガリバルディが泣き叫び助けを呼ぶ外で、別のコンテナの後ろに隠れながら、耳を抑えるひとみ、涼月、いよ

 

涼月を中心に置き、少し嬉しそうな顔をしながら爆発を待つ

 

そして…




もう一度言いますが、ひとみといよの尋問の真似をしないで下さい。約束ですよ‼︎


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245話 ピンクの悪魔(7)

「何だっ⁉︎」

 

「地震⁉︎」

 

いきなり大きく地面が揺れた

 

横に居た横須賀がすぐに腕に飛び付いて来たので、それを抱き留めた

 

「何だったの⁉︎」

 

「分からん…ミサイルの暴発の可能性もある」

 

地面が大きく揺れたのは一度だけ

 

辺りを見回し、異変がないか確かめる…

 

コンテナは落ちて来たり倒れたりする気配は無い

 

「あれか⁇」

 

そんな中、一つだけ異様なコンテナがあった

 

規則正しく並べられているコンテナの中で、曲がって置かれたコンテナが一つ

 

コンテナの入り口には、何かを転がして入れた形跡もある

 

「な…何なのよあれ…」

 

コンテナの方を向いた時点で、横須賀は俺の背後にいた

 

「シーッ…誰か来る…」

 

別のコンテナの陰に隠れ、怪しいコンテナの中に入って行く人影を見る…

 

「コラッ‼︎」

 

その人影を見て、すぐに陰から出た

 

「あ‼︎えいしゃん‼︎」

 

「えいしゃん‼︎」

 

コンテナの中に入ろうとしていたのはひとみといよだった

 

気付いてすぐに駆け寄って来た二人の前で屈み込んで抱き寄せた

 

「コンテナの所で遊んじゃダメだろ⁇」

 

「ごえんなしゃい…」

 

「あしぉんれたちあう‼︎」

 

ひとみが珍しく反発して来た

 

どうやらここにいたのには理由があるみたいだ

 

「遊んでたんじゃ無いのか⁇」

 

「ししぁ‼︎」

 

「試射⁇」

 

「そうですっ…‼︎」

 

涼月が来た

 

どうやら涼月の何らかの手伝いをしていたみたいだ

 

「中に誰かいるの⁇」

 

「捕虜がいますっ…‼︎」

 

涼月が扉を開け、横須賀も俺も中を見る

 

「あ…が…」

 

「ガリバルディ‼︎」

 

中は真っ黒焦げ

 

ガリバルディも真っ黒焦げ

 

目を回しているが、意識はある

 

「お〜い、生きてるか〜」

 

ガリバルディの前に立ち、頬をペチペチ叩くと目を覚ました

 

「耳の奴取れ‼︎」

 

「とえ⁇」

 

「とってくらしゃい」

 

「取って下さい‼︎」

 

ひとみといよはガリバルディに非常に強い憎悪を抱いている

 

「あ‼︎お前これ俺の聴診器‼︎」

 

ガリバルディの耳には、御丁寧にガムテープで貼り付けられた聴診器があった

 

「そこの二人が持って来たんだ‼︎」

 

「ごめんなしゃい…」

 

「もうちましぇん…」

 

スペアの聴診器が無くなった原因はひとみといよが持ち出した為だった

 

「今度から借りる時はちゃんと言うな⁇」

 

「いう‼︎」

 

「かちてくらしゃいいう‼︎」

 

「よし」

 

「甘過ぎないか⁉︎」

 

「お前がした事よりっ…まだマシだろう⁇」

 

縛られていたチェーンを外し、ガリバルディを自由にした

 

「いいのか、アタシを自由にして」

 

「黒焦げのままじゃどうにもならんだろ。それに、これだけやられりゃ反省したろ⁇」

 

「もうしないよ…こんな事、もうコリゴリだ」

 

「だとよ、横須賀」

 

横須賀はひとみといよの横に立ちながら答えた

 

「ま、一応それなりの罰は与えるわ」

 

「分かった。従う…」

 

「そうね…どんな罰がいいかしら⁇」

 

「お胸がありますっ…‼︎」

 

「おっぱい‼︎」

 

「おちち‼︎」

 

子供達全員がガリバルディの体付きに目が行く

 

「そうね‼︎個室に放り込んで山程男性職員送りましょう‼︎」

 

「うぅ…」

 

横須賀のエゲツない仕打ちに、ガリバルディも俺も軽く引く

 

「んな事しないさ」

 

「そうそう。アンタ、帰る場所無くなったわよ」

 

「え…」

 

横須賀の一言で空気が変わる

 

「さっき連絡があったわ。アンタ、軍所属じゃなくて企業の艦なのね⁇」

 

「…そうだ」

 

ガリバルディは軍の所属ではなく、軍の委託で兵器や艤装を開発製造していた企業の艦

 

ガリバルディは秘匿で造られた強力な艦である事に間違いはなかった

 

「国外追放ですって」

 

「…仕方ないか。ヤバい事をしたんだ」

 

「選択肢を選ぶのは後だ。とにかくっ、治療をしよう」

 

ガリバルディを背負い、ひとみといよ達の護衛付きでコンテナを出た

 

「…ありがとう」

 

真面目にしてれば、ガリバルディは良い子だ

 

医務室に着き、ガリバルディをカプセルに放り込む

 

《乗組員はどうなる》

 

カプセルの中からガリバルディが話す

 

「次裏切ったら海に沈めるつもりだ。が…帰る場所も今の所はないだろ⁇横須賀で全員引き取るだろうな」

 

《そっかっ…ありがと…》

 

「礼を言うならっ…横須賀に言うんだな」

 

椅子に腰掛け、タバコに火を点けながらガリバルディのカプセルを弄る

 

「あぁ、そうそう。ガリバルディは次要らん事したらあの三人な⁇」

 

《嫌だ‼︎もう悪い事しない‼︎》

 

「冗談だっ。二時間もすりゃ傷は癒える。そんときまた来るから、答えを出しといてくれ」

 

《あああアンタに従うよ‼︎だからあの三人だけは‼︎》

 

カプセルの中のガリバルディに向けて口角を上げた後、医務室を出た

 

「さてっ…」

 

後は捕虜の人事やらは横須賀に任せるとして…

 

「分かってんだろうなぁ‼︎この大馬鹿者が‼︎」

 

「隊長⁉︎」

 

いきなり隊長の怒号が聞こえて来た‼︎

 

会議室からだ‼︎

 

「隊長‼︎」

 

「レイ。こっち来て」

 

会議室を開けると横須賀と隊長、そしてガリバルディの艦長補佐がいた

 

横須賀に手招きされ、すぐに横須賀の所に寄った

 

艦長補佐は隊長に胸倉を掴まれ、宙に浮いている

 

隊長がここまでブチギレているのは久々に見た…



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245話 ピンクの悪魔(8)

艦長補佐を一旦降ろし、隊長もタバコを咥えて火を点けた

 

「…歯ぁ食い縛れ」

 

隊長は膝を床に置いた艦長補佐の前髪を左手で掴み、顔を良く見える状態にした

 

「…」

 

艦長補佐は目を閉じている

 

隊長は右手でゆっくりと拳を作る…

 

そして、無言のままの艦長補佐の顔面にドギツイストレートが当たった‼︎

 

艦長補佐は一撃で気絶し、興奮収まらぬ隊長は鼻息を荒くしたまま、俺の方に振り向いた

 

「…見たか⁇」

 

「見た…」

 

見られてヒジョーに困った顔をした後、いつもの隊長の顔に戻った

 

「イタリアの野郎だからな。同じイタリアの私が喝を入れてやった方がマシだろ⁇」

 

「あんなやり方何処で…」

 

俺から見てもかなりキツイやり方だ

 

普段優しい隊長があんなやり方を何処で学んだか分からない

 

「あぁ‼︎ははは‼︎貴子のやり方さ‼︎貴子は学生時代凄かったからな‼︎」

 

俺も横須賀も固まる

 

あー…これは隊長後ろ振り向いたら死ぬな

 

スゲー殺気だ…

 

「貴子は学生時代そりゃあもうモーレツヤンキーでな。さっきみたいな殴り方なんざ日常茶飯事さ‼︎」

 

半笑いの俺達は隊長から目を反らす

 

「どうした⁇二人共」

 

「モーレツヤンキーね」

 

「はっ°‼︎」

 

「も〜えつあんき〜‼︎」

 

「たかこしゃんまじぎえ‼︎」

 

ひとみといよ達を迎えに来てくれた貴子さんが入口付近で腕を組んで真顔で立っている‼︎

 

隊長は深呼吸した後、俺達の肩に手を置いた

 

「…振り向いたら死ぬか⁇」

 

「はい…もう即死かと…」

 

「…貴子はモーレツヤンキーに戻ってるか⁇」

 

「マーカス君は良い子よね⁇」

 

睨まれて直立不動になる

 

あぁ、たいほう…たいほうがビックリしたら直立不動になるのが今分かったよ…

 

「あ、はい。いつもの優しい貴子さんです」

 

「ウィリアム⁇」

 

「ぬぉぉぉお‼︎」

 

何を思ったのか、隊長は窓に向かって走って行った‼︎

 

「ダイナミック☆‼︎」

 

バリィィィィィイン‼︎と、窓ガラスを体当たりで叩き割り、隊長は二階から降りて行った‼︎

 

「「えぇーーーっ⁉︎」」

 

俺も横須賀も流石に心配になり、別の窓から隊長の様子を見た

 

「ごめんなさぁぁぁぁぁあい‼︎」

 

隊長は喚き散らしながら貴子さんに謝り、スタコラサッサと繁華街に逃げて行った…

 

「別に怒ってないのに」

 

「雷鳥がいるとは聞いてなかった…」

 

「あら。起きたの⁇」

 

気絶していた艦長補佐が意識を取り戻した

 

「申し訳…ありませんでした‼︎」

 

急に頭を下げ始めた艦長補佐

 

「どうしたの⁇あれだけ抵抗してたのに、隊長の事でも知ってるの⁇」

 

「ウィリアム中佐はイタリアではかなり名の知れたお方です。我々の国を救った英雄として…」

 

「隊長そんな事言ってたか⁇」

 

「貴方もです。オルコット大尉」

 

「…」

 

「…」

 

周りを見渡すが、横須賀と艦長補佐しかいない

 

「あ。俺か」

 

「アンタ以外誰がいんのよ」

 

「呼ばれ慣れてねぇんだよ。ほら、大体マーカスかレイだろ⁇」

 

「言われてみればアンタの事、オルコットさん‼︎なんて呼ぶ子居ないわね⁇」

 

「てな訳だ」

 

「マーカス大尉」

 

「そそ。そっちのがしっくり来る」

 

この艦長補佐、中々話のわかる奴

 

彼の話によると、自分達の企業は縮小が進み、新天地を探していた所に試射実験の話が舞い込んだ

 

横須賀ならば最初から資源も人員もある

 

そこを狙って単艦で突っ込んで来た

 

新型ミサイルを引っさげて…

 

「あの女の子にも言ったけど、貴方達には道は二つ。私達の傘下に入って艤装や兵器を提供して人間的な生活を送るか、今ここでふん縛って海にポイしてお魚の餌になるか…そのどちらかよ」

 

彼等は良い技術を持っている

 

横須賀の言いたい事は、その技術を私達に提供する代わりに、ここで普通の生活を送らせてやるとの事

 

提供しないなら全員海に沈める

 

「前者で宜しくお願い致します…」

 

選択肢があってない様な物だ

 

「裏切った場合、今度は即沈めるからな⁇」

 

「勿論でございます」

 

「じゃっ、話は終わり‼︎レイ、ガリバルディをお願い。私は彼等の寮の建設予定立てて来るわ⁇」

 

「任せなっ」

 

横須賀が出て行き、俺は艦長補佐とガリバルディの所に来た

 

「傷は癒えたか⁇」

 

《だいぶ楽んなった…ありがと》

 

ガリバルディをカプセルから出す

 

「ん〜っ‼︎助かったぁ‼︎」

 

背伸びをした瞬間、ガリバルディの胸が前に押し出される

 

何気無く艦長補佐を見ると、真剣な目で彼女を見ていた

 

「ガリバルディが上司か」

 

「そっ‼︎女艦長なんて見た事あるかい⁇」

 

「空母の艦長が一人いる。仲良くしてくれよ⁇」

 

「艦長、話は終わりました。雷鳥の補助に回りましょう」

 

「え…あの人がいんのか⁇とんでもねぇ事しちゃった…」

 

ガリバルディはガタガタブルブル震え始める

 

「心配するな。罰は彼が受けたし、今それ所じゃない」

 

 

 

 

その頃、その雷鳥は…

 

「ぴゃあ‼︎大佐、いらっしゃいませ‼︎」

 

「うぬ。バックヤードの内部監査に来た」

 

「お願いしま〜す‼︎」

 

酒匂に案内され、スーぴゃ〜マーケットのバックヤードに来た

 

「ここまて逃げりゃ大丈夫だろ…」

 

ボソッと本音が漏れたのを、酒匂は聞き逃さなかった

 

「逃げ⁇」

 

「あいやいやいや‼︎いいかっ酒匂。貴子が来ても、私を見ていないと言うんだ」

 

「わ、分かった‼︎」

 

酒匂がバックヤードからでたあと、隊長はバックヤードの隅に体育座りをしながら身を潜め始めた…

 

 

 

 

「この基地の案内は明日から少しずつ始める。ま…悪いがしばらくは独房に居てくれ。こっちのが安全だしな」

 

「分かりました」

 

「従う」

 

ガリバルディと艦長補佐を独房に入れる

 

とはいえ、三食はあるしオヤツもある

 

自由時間で読書や雑談、運動も出来る

 

独房と言えば聞こえは悪いが、短期更生施設の個室と思えば分かりやすい

 

ガリバルディの乗組員も順次送られてくるだろう

 

問題はアレンの機体だ…

 

 

 

 

隊長⁇

 

隊長はあの後貴子さんにすぐバレて担いで持って帰られたよ

 

夜中に自室から…

 

「ごめんなさい二度としません‼︎」

 

「死んじゃいますから‼︎ねぇ‼︎」

 

「もうやめて下さい‼︎貴子様‼︎」

 

とか聞こえて来たが…

 

その様子を、ひとみといよが真似するのはまた別のお話…

 

 

 

 

ガリバルディが艦隊に加わりました‼︎




ガリバルディ…ピンクミサイルちゃん

遠路遥々イタリアの企業から試射にやって来たピンクギャル

横須賀の施設が欲しいが為に謀反を起こすものの、ミサイルを操られ、自身に当てられ大破

現在は横須賀の傘下に入り、ミサイルや艤装作りに精を出す

男勝りな性格なのに、身体はお餅みたいに柔らかいらしい。凄いね


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246話 新型戦闘爆撃機

さて、246話が終わりました

今回のお話は、少し前に出て来た新型機のお話です

果たしてどんな名前になるのか…

途中、小さな小話を挟みますね


ガリバルディの一件から数日後…

 

「また近い内に来るよ。グラーフにも逢いたいしな⁇」

 

「いつでも来い。いつだって待ってるぞ‼︎」

 

「今度こそ、三人で飯だからな⁇」

 

ミハイルは再び旅に出た

 

機体を失くしたアレンは、横須賀で開発の手伝いに精を出している

 

「アレンさん。そろそろ空に帰りたいんじゃない⁇」

 

休憩中、アレンときそがジュースを飲みながら広場のベンチに腰掛けている

 

「ん⁇まぁそうだな。機体が来るまでの辛抱だ」

 

「それもすぐ叶うわ」

 

その輪に横須賀が入る

 

「最終チェックに入るから、先にアレンに見せるわ」

 

「よしっ‼︎」

 

「きそも来なさい⁇いい機体よ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

三人で機体のある場所へと向かう

 

「おい。Su-57の格納庫はあっちだろ⁇」

 

横須賀の足はいつものSu-57を格納している場所を通り過ぎた

 

「アレン。アンタの乗る機体はSu-57じゃないの」

 

「俺はあれ以外はあんま乗り慣れてないぞ」

 

アレンの言う”乗り慣れてない”は、マニュアルを見れば乗れるが、いきなりその子で戦えと言われたら無理と言うやつだ

 

誰だって無理だ、そんな事

 

「今から見せる機体は、誰も乗った事がないの」

 

「乗った事が無い…」

 

「ここよ」

 

横須賀が足を止める

 

止まった先にあるのは、新型機を開発している格納庫

 

「シャッター開けて頂戴」

 

警備にあたっている男性にシャッターを開けて貰い、中に入る

 

「おぉ…」

 

「わぁ〜…」

 

アレンもきそも息を飲む

 

三人の目の前にある赤黒いボディで光を反射する大型機が、新しい主人を待っていた

 

グリフォンと良く似た形状ではあるが、カラーリングも違えば、エンジンも搭載数も違う

 

「グリフォンの後継機か⁉︎」

 

「違うと言えば違うし、そうと言えばそうよ」

 

「性能が違うとか⁇」

 

「夜間戦闘爆撃機よ。要はマルチロール機。グリフォンは戦闘情報収集機。戦闘データを持って帰ったり、教官機に向いてる機体なの。しかも自分の身は自分で守れて、ねっ⁇」

 

横須賀はきそにウインクをする

 

「うんっ‼︎」

 

グリフォンは戦闘情報収集機

 

横須賀の言った通り戦闘データを持ち帰る、もしくは送る事が主の機体

 

グリフォンのデータを基にこれからの機体を製造したり、敵の動きを無人機にインストールし、訓練に生かす事も出来る

 

しかもグリフォンは自分で自分の身を守れるレベルの戦闘能力も兼ね備えている

 

装甲も硬く、落ちない設計になっている

 

 

 

今この目の前にある機体は、そのグリフォンのデータを基に製造された第一号機

 

夜間戦闘力に特化し、尚且つ内部に爆弾を積載出来る

 

積載数は倍程違う。しかし速力や旋回能力はそのまま

 

後継機であり、後継機ではないと言ったのはこの為だ

 

良く似た機体で全く別の性能の機体が出来上がった、と言えば話が早い

 

「名前はなんて言うんだ⁇」

 

「”XFB-002”よ」

 

「コードネームは⁇」

 

「今の所はまだ無いわ。アレン、アンタ付けていいわよ⁇」

 

「マジか…悩むな…」

 

「今日は休暇出すから、乗る前に英気を養っておきなさい」

 

「分かった」

 

「僕これ見てもいい⁇」

 

「いいわよ‼︎後で返しに来てね⁇」

 

「分かった‼︎」

 

きそは横須賀に貸して貰ったグリフォンやSu-57の性能マニュアルを見始めた

 

「アレン。悪いけど、まだアンタが乗る事は秘匿なの。マニュアルは乗る前に見せるわ⁇」

 

「分かった。有難く休暇貰うよ」

 

最後にもう一度その機体を見た

 

「産まれ変わり…か…」

 

アレンが叶えられなかった、空中艦隊計画

 

その計画が今、長い時を超えて帰って来た様な気がした…



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246話 香取先生のお茶会(1)

ここで小話を挟みます

そう言えば出て来てなかった彼女がここで出て来ます


アレンが格納庫から出て来た

 

「ありがとな。朝霜達を相手してくれて」

 

「気にするな。手持ち無沙汰だったんだ」

 

「おっしゃ‼︎たまには遊ぶか‼︎」

 

「よし‼︎そうしよう‼︎」

 

アレンと久々に遊ぶ事になった

 

そんな時、前から香取先生が来た

 

「貴方達、暇かしら⁇」

 

「ババアを相手してる時間は無いね‼︎」

 

「んじゃ‼︎行きますか‼︎」

 

「美人が出す美味しいお茶菓子が食べられるのに…」

 

その言葉に二人共足が止まる

 

「まぁ、何するか決めてなかったしな⁇」

 

「付き合ってやってもいいかな⁇」

 

「先生に付き合ってる暇は無いんじゃ無いのかしら⁇」

 

嫌味全開のニヤけ顔を送りながら、香取先生はメガネをクイっと上げる

 

「ババア一人にすると危ないからな。どこ行くんだ⁇」

 

「居住区です。知り合いがお茶と着付けをしてるの」

 

「居住区か。ジープ借りるか」

 

「話が早くて助かるわ‼︎」

 

香取先生を連れ、ジープの発着場に来た

 

俺とアレンは自販機でお茶とジュースを買いながら香取先生を待っている

 

「捕まえられましたか⁇」

 

香取先生が受付にいた男性に近付くと、どうやら俺達を捕まえる前にここに来たみたいだ

 

「えぇ。生きの良いのが二匹‼︎」

 

「それは良うございました。二番をお使い下さい」

 

「マーカス君‼︎」

 

「あいよっ‼︎」

 

香取先生からジープの鍵を投げられ、それを受け取り二番ジープのエンジンを掛けた

 

「乗ったか⁇」

 

「よいしょっ…えぇ、乗りましたっ」

 

バックミラーで香取先生の姿を見た後、ジープを出した

 

 

 

 

高速を走り、居住区の検問ゲート前に来た

 

「今日はバイクじゃないので⁇」

 

「今日は香取先生を連れて来たんだ」

 

「なるほど。身分証明書をご提示お願い出来ますか⁇」

 

いつもの男性がにこやかに話し掛けて来てくれた後、後部座席の香取先生から免許証を受け取った

 

「照合しますので今しばらくお待ち下さいね…はい、結構です。ご協力ありがとうございました」

 

香取先生が免許証を返して貰った後、ジープの発着場の自販機で買ったお茶を検問ゲートの男性に渡した

 

「暑いから熱中症に気を付けてな〜」

 

「あ、ありがとうございます‼︎」

 

検問ゲートを後にし、居住区に入る

 

 

 

 

「平屋建てのお家があるはずです」

 

「オーケー。そういや、その人はホントに美人か⁇」

 

「凄く美人ですよ⁇和服美人です」

 

「今までなかったタイプだぜ…」

 

「和服美人は聞いたことないな…」

 

「きっと驚きますよ」

 

とはいえ、居住区は結構広い

 

・広場兼繁華街のエリア

 

・艦娘が一人で暮らす今は独身エリア

ここにまり、りさ、みほ、瑞鳳辺りが住んでいる

 

居住区が出来始めた時に建てられた俺達の家もこのエリアにある

 

・艦娘と男性が暮らす家庭エリア

ここには日向や飛鷹が住んでいる

 

・戦果を上げた提督や艦娘が住む若干高級なエリア

ここだけはあまり足を踏み入れた事がない

 

検問を通れば普通に誰でも行って良いのだが、逆を言えば行く必要がなければ来る事はない

 

知り合いは独身エリアに多いしな

 

「雰囲気が変わったな…」

 

住宅の建て方が若干立派になって来た

 

ここが戦果を上げた者達のエリアか…

 

「マーカス君もアレン君も、住むならこっちかしら⁇」

 

「俺達はさっき通って来たエリアにあるんだ」

 

「結構広いぞ⁇」

 

「ふふ。では、先生とはご近所さんではなくなりますね」

 

「ま。ババアのやって来た事なら充分こっちだろうな」

 

「艦娘とパイロットを山程育て上げたもんな」

 

「あ‼︎あのお家です‼︎」

 

香取先生に指差す方向に、ザ・昔のお家‼︎な平屋建ての立派な屋敷があった

 

「降りましょうか」

 

先に香取先生が降り、屋敷に入る

 

「”天城さん”お久し振りですね⁇」

 

「香取さん。お待ちしておりました」

 

玄関で三つ指を立ててお出迎えをした和服美人”天城”

 

「ば、爆裂大当たりじゃねぇか…」

 

「流石はババアだな…美人の知り合いが多い…」

 

「貴方達は国連軍の…」

 

懐かしい言葉が出て来た

 

「マーカスです」

 

「アレンです」

 

「天城と申します。ようこそいらっしゃいました。さ、どうぞ」

 

中に案内され、畳の上に座る



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246話 香取先生のお茶会(2)

「あの人とはいつから知り合いで⁇」

 

「幼馴染なの。二人共真面目にしてたから、何人か紹介したい子が居ましたが…結婚しましたからね⁇」

 

「お待たせしました」

 

冷たい緑茶と、羊羹が畳の上に置かれる

 

ここでようやく目に入った

 

デカい…

 

横須賀並にデカい…

 

和服であのデカさなら脱いだらどうなってるんだ…

 

「頂きましょうか‼︎」

 

「頂きますっ」

 

「頂きます」

 

緑茶を飲み、羊羹を一切れ口に放り込む

 

「香取さんの教え子さんですか⁇」

 

「そうです。出世頭ですよ⁇」

 

二人共にこやかな顔をしながら俺達の方を見る

 

「そう言えば、俺達が何故国連軍と⁇」

 

「以前、ウィリアムとエドガーもここに来たのですよ」

 

「隊長が⁇」

 

「キャプテンが⁇」

 

「あの時は確か…昇進する前、でしたよね⁇」

 

「そうです。天城さんのお茶を飲むと昇進する…との伝説があります」

 

「昇進ねぇ…」

 

「う〜ん…」

 

俺もアレンもその言葉を聞いて思い悩む

 

二人共思っている事は同じ

 

今の地位、今のポジションがヒジョーに落ち着く

 

低くもなく、高くもなく

 

一番落ち着いて色々出来るポジションな為、昇進したくない

 

それに、互いに”超えてはならない壁”がある

 

それだけは互いに気付いていた

 

「きっと上手く行きますよ、アレン君⁇」

 

「あ。はいっ」

 

アレンは悩んでいた

 

多分、それは撃墜された事じゃない

 

あの新型機の事だ

 

「そういえば前に、貴方の基地から小さな女の子が来てくれました。貴方のお話をなさってましたよ⁇」

 

天城さんの目は俺の方を向いている

 

「女の子⁇」

 

「礼儀正しい子で、おつかいの帰りだと言っていました」

 

横須賀にいる小さな女の子…

 

大体は分かるが、どの子だ…

 

「特徴とかは⁇」

 

「笑顔でおいしいね‼︎と言う子でした」

 

「たいほうか‼︎」

 

何かを食べて”おいしいね‼︎”と言うのはたいほうしかいない

 

ひとみといよは、おいち〜‼︎

 

照月は、おいひ〜‼︎

 

その言い方はたいほうしかいない

 

「とはいえ、結構前ですが…香取さん、私のお茶を飲めば昇進するのは迷信でしたね⁇ふふふ‼︎」

 

「昇進したのでは⁇」

 

「したなっ」

 

「あぁ。してる」

 

たいほうはひとみといよが来てから面倒を見てくれる様になっている

 

それは充分昇進だ

 

「そう言う事です。なのでマーカス君もアレン君も昇進しますよっ」

 

「気が向いたらなっ」

 

「また今度な」

 

「食わねぇなら貰うからな⁇」

 

「どうぞっ」

 

香取先生に羊羹を貰い、アレンと一緒にパクつく

 

その前で、小声で話す香取先生と天城さん

 

「貴方に着いていてくれるんですね、香取さん」

 

「えぇ。自慢の教え子です」

 

「御二方、御煙草は…」

 

「吸いますが…今は控えるでしょう」

 

「たまには貴方も一服なされては⁇」

 

天城さんの顔を見て、香取先生は一瞬悩んだ

 

「…お願いします」

 

香取先生は誘惑に負けた

 

「お持ちしますねっ。御二方を火鉢の前へご案内して貰ってもよろしいですか⁇」

 

「勿論です」

 

天城さんが席を立つ

 

「しっかしまぁ凄い美人だ…」

 

「昔から男性にはモテてましたよ⁇」

 

「だろうな…」

 

あんな男受けしそう…いや、する容姿で礼儀作法がなっている女性、男なら誰だって振り向く

 

和服の下はどうなっているのか、とか…

 

気になった瞬間、夜も眠れなくなりそうだ…

 

「あちらの火鉢に参りましょうか」

 

火鉢とは言え、今は流石に火は点いていない

 

「さ、御三方。此方をどうぞ」

 

焼き物の灰皿に、タバコが三本置かれる

 

「これは⁇」

 

「緑茶を刻んだ刻み煙草です」

 

「どれっ…」

 

一本を手に取り、口に咥える

 

咥えた時点で甘い茶葉の香りが口の中に広がる

 

「さっ、どうぞ…」

 

天城さんにマッチで火を点けて貰う

 

「ありがとう…ございます…」

 

顔が近付き何故か照れる

 

「アレンさんも…」

 

「ありがとうございます」

 

アレンもタバコに火を点けて貰い、肺いっぱいに紫煙を入れた後、プカァと吐き出した

 

「さ、香取さん」

 

「ありがとうございます」

 

香取先生もタバコを吸い始めた

 

「吸うんだな⁇」

 

「たまには…こういうのも良いでしょう⁇」

 

紫煙を吐き出しながら話す香取先生は斬新だ

 

俺は普段”カスタード”と言う甘い香りのするタバコを吸う

 

アレンは”ロックスター”と言うメンソールのタバコ

 

普段から甘い香りのタバコを口にしているので、この緑茶の刻みタバコは結構気に入っている

 

どう製造しているのかは分からないが、肺にも辺りにも甘い茶葉の香りが広がっている

 

「市販はされてないのか⁇」

 

「自作ですので…吸いたくなれば、またここにいらして下さい。その時にここでお渡しします」

 

「そろそろ行きましょうか。天城さん、ありがとうございました」

 

「また来ます」

 

「ありがとうございました」

 

「また来ますね⁇」

 

「お待ちしています」

 

天城さんは畳の上で三つ指を立ててお見送りをしてくれた

 

たまにはこうして、丁重にお見送りされるのも悪くないな

 

帰りはアレンがジープの運転席に座り、エンジンを掛け、基地に向けて走り出す

 

「美人だったでしょう⁇」

 

「たまには悪くないな⁇」

 

「大和撫子…って言うのか⁇」

 

なるほど。あれが大和撫子か…と納得していたら香取先生が突っ込んだ

 

「天城さんは良妻賢母…でしょうね。大和撫子はちょっと違います。大和撫子はちょっとだけ、ヤキモチ妬きなんです」

 

「基地で言うなら誰だ⁇」

 

「性格で言うなら、貴子さんが一番近いですね」

 

「「あ〜」」

 

二人して納得する

 

外見は褐色だからそうはいかないが、確かに貴子さんの内面は大和撫子だ

 

「なら外見は⁇」

 

「アレン君の基地にいる大和さん、それと…本屋さんの妙高さんですね」

 

「「お〜」」

 

これにも納得する

 

確かに大和撫子だ

 

「先生は何ですか⁇」

 

「ババアはババアさ」

 

「まっ、あれだ。ちょっとエロいババアだ」

 

「あっ…そんな目で見られてたなんてっ…嬉しい…」

 

香取先生が後部座席でクネクネし始めた‼︎

 

「…アレン。側面に停めて叩き出せ」

 

「任せろ。同じ事考えてる」

 

「冗談ですっ‼︎冗談っ‼︎」

 

俺もアレンもバックミラーを見ながら鼻で笑う

 

これがなきゃ、香取先生じゃない

 

普段は厳しくて、ちょっとマゾで年増で

 

俺達の好きな、いつもの先生だ

 

そうこうしている内に横須賀に戻って来た

 

「また行きましょうね⁇」

 

「今度は奢らせてくれよ⁇」

 

「楽しみにしてますっ」

 

嬉しそうな香取先生を見送り、アレンと共にあの格納庫に戻って来た



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246話 妖狐使い(1)

ここからはまた本編に戻ります

名前を考えて来いと言われたアレン

果たしてどんな名前を新型機に付けるのか…

そして、アレンのちょっとしたフェチが分かります 笑


「コイツはまた…」

 

俺でさえ実機は初めて見た

 

あるのは知っていたし、パーツの提供もしたが目の当たりにするのは初めてだ

 

綺麗な機体だ…

 

ちゃんと赤黒い迷彩のSS隊のカラーリングにしてある所を見ると、最初からアレンに載せるつもりでいたんだな…

 

「横須賀からちょっと聞いたんだが、名前が無いらしいな⁇」

 

「実は名前、決まってるんだ」

 

「へぇ⁇何だ⁇」

 

「”刑部(おさかべ)”だ」

 

たまたまなのか、偶然なのか、アレンは自分が産み出した子に”狐の名前”を付ける事が多い

 

”イヅナ”型エンジン

 

重巡航管制機”妲己”

 

管制AI”玉藻”

 

そしてこの”刑部”

 

全部狐の名前だ

 

「似合ってるな」

 

「今帰って来たんだ。長い年月を超えて…」

 

刑部を見るアレンの目は、少し潤んでいた

 

本当だったら、重巡航管制機に積んでやりたかったのだろうな…

 

「お前、狐好きか⁇」

 

ちょっとだけ核心を突いてみた

 

「巫女服は好きだ」

 

アレンの目がキリッとなる

 

この目、見た事がある

 

スッゲー真面目な話する顔だ‼︎

 

「巫女服…」

 

「巫女服は良いぞ。あれこそ純潔な乙女しか着れない美しい服だ。赤と白のコントラスト、そこに若干加わる髪の毛の黒、所々露出する白い肌…他に何も要らないのが巫女服の良い所だ。いや‼︎あっちゃダメなんだ‼︎」

 

それ繋がりでアレンが狐が好きなのはよく分かった

 

そして、なぜ日進があの様な外見でボディを持ったのか、よーーーく分かった

 

ここは話を切り替えよう

 

「AIは誰が乗るんだ⁇」

 

《その心配はせんでよかろう‼︎》

 

何処からか訛りの強い声がした

 

「日進か⁉︎何処にいるんだ⁇」

 

《父上。ちと左じゃ》

 

俺もアレンもちょっと左を向く

 

《もうちっと左じゃ》

 

目の前には刑部が見える

 

《よー見えるけぇ‼︎》

 

「いつの間に⁉︎」

 

日進は刑部の中に入っていた

 

《わしゃ〜、その為に産んでもろうた存在じゃ。これ位朝飯前じゃ》

 

「そっか…」

 

機体内のAIが日進だと気付いたアレンは、安堵の息を吐いた

 

刑部のAIに日進はぴったりだ

 

《父上。この刑部〜いう機体の中は良いぞ‼︎好きな物調べ放題じゃて‼︎》

 

「なにっ‼︎」

 

《手始めにな〜に調べちゃろ〜かのぉ…あぁ、父上が前に飲みたがっちょった、じぇ〜け〜のくちか…》

 

「止めろ‼︎止めて下さい‼︎何でもするからそれだけは‼︎知らなかったんだ‼︎」

 

日進が何かを言おうとした時、アレンは猛制止をし始めた

 

よっぽどバレたくないらしい

 

《冗談じゃ‼︎さ、父上。乗っとくれ》

 

「乗らさせて頂きます…」

 

物凄い謙虚になったアレンが刑部に乗り込む…

 

「アレンさん、そんな趣味あったんだね…」

 

「機体の試運転が終わったら、ちょっとプレゼントあげましょう。巫女フェチなアレンに、ねっ⁇」

 

横須賀ときそが何かを企んでいる…

 

「レイ、行くわよ」

 

横須賀ときそと共に外に出て、刑部が陽の光を浴びるのを待つ…

 

 

 

 

《どうじゃ父上。意外に簡単じゃろ⁇》

 

「なるほど…オートが可能になったのか」

 

日進に教えて貰いながら、アレンは操縦を覚える

 

アレンは初めてオート航行が可能になった機体に搭乗した

 

今までフィリップやグリフォンを時折一瞬借りる事はあれど、ほとんどマニュアル操縦で乗っていた

 

《父上に代わって、わしが操縦しちゃるけぇ‼︎》

 

「よしっ、出よう」

 

滑走路に刑部が来た

 

「バッカス、出る‼︎」

 

《発進じゃ‼︎》

 

アフターバーナーを吹かし、アレンの乗る刑部は一気に上昇して行く

 

「ははっ‼︎凄い加速だ‼︎気に入ったぞ‼︎」

 

Su-57の乗り慣れた安定感を超える加速の良さ

 

しかし、Su-57で身に染みた安定感は忘れていない。そんな乗り心地

 

アレンは徐々に刑部の乗り心地を気に入っていた

 

《父上。わしもやってみたいのじゃ》

 

「よし。オートに切り替えてくれ‼︎」

 

《了解じゃ‼︎》

 

オートに切り替わり、日進の操縦で旋回を始める

 

《これが父上の空…》

 

アレンはモニターをチラチラ見ながら日進に話し掛ける

 

「気に入ったか⁇」

 

《気に入った‼︎おっと、通信じゃ》

 

《どう⁇新しい機体の乗り心地は⁇》

 

通信先は横須賀

 

下で様子を見てくれているのだろう

 

「気に入ったよ‼︎ありがとう‼︎」

 

《刑部は夜間に強いのよ⁇特殊能力があるから、ま…夜を楽しみに待ちなさい⁇》

 

「了解した」

 

《夜、レイと戦って貰うわ》

 

「遂に来たか…」

 

その言葉を聞き、体が震える

 

マーカスと戦う時が来た

 

互いに最強の機体に乗って、イーブンの状態でだ

 

とにかく、今は降りよう

 

少しでも休まなくては勝てる相手ではない…



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246話 妖狐使い(2)

夜間演習開始

しゃ〜


地上に降りると、時刻は夕方

 

夜間模擬戦に控えて少し休めとのお達しがあり、間宮でコーヒーだけ口にしている

 

その横で日進が何か食べながら本を読んでいる

 

「日進」

 

「ん〜⁇なんじゃ⁇」

 

「何食べてるんだ⁇」

 

「”しゃ〜”ベットじゃ‼︎冷うて美味いぞ⁇」

 

「何読んでるんだ⁇」

 

「”しゃ〜”ロックホゥムズじゃな。面白いぞ⁇」

 

「…そっかっ‼︎」

 

日進はしゃ〜しゃ〜言う時のイントネーションが独特だ

 

この前もラバウルでコロちゃんとお絵描きしながら、”しゃ〜ぺん”で”しゃ〜く”を書いていたしな…

 

そろそろ準備するか…

 

「行くのかえ⁇」

 

「雷鳥を狩るには、前以て準備しないとな」

 

「よしっ‼︎父上がそう言うなら‼︎」

 

再び格納庫を目指す

 

今度は武者震いと共に…

 

 

 

 

「おっ‼︎きたきた‼︎」

 

本気の目をしたアレンが来た

 

日進は何処となく気楽に構えている

 

「負けないよ‼︎」

 

「手加減して勝てる相手じゃない。いいか、日進⁇」

 

「任せちょけ‼︎」

 

「必見の模擬戦になるわね」

 

何か手に持った横須賀も来た

 

「勝った方にこれあげるわ」

 

「ぷすすすす…」

 

俺のデスクに白い陶器が置かれた

 

きそがニヤついているのを見ると、横須賀と共に仕組んだイタズラっぽいな

 

「中身は内緒よ。とても貴重な物が入ってるわ」

 

「よしっ‼︎やるぞ‼︎」

 

「絶対勝つからな」

 

机の上に置かれた陶器を見てから、アレンの顔が変わった

 

これはいつも以上に本気の目だ

 

中身はなんだ…と気になりつつ、二機は夜空に上がる…

 

 

 

 

 

《空中管制機の役割は親潮が務めます。宜しくお願いしますね》

 

「頼んだぞ」

 

《任せたよ》

 

だんだん親潮のオペレーターが様になって来た

 

声もクリアで聴きやすいしな

 

《今回はお二方に平等になる様、親潮は最小限の事しか申し上げません》

 

「オーケー。んじゃ…始めっか‼︎」

 

《来い》

 

無線から聞こえるアレンの声を聞いただけでも分かる

 

アレンは今、暗殺者に戻っている…

 

《うわ‼︎》

 

「どうした⁇」

 

急にグリフォンが声を出した

 

《刑部…レーダーに映らないよぉ…》

 

グリフォンに搭載されているレーダーはそこそこ強力

 

余程の妨害電波でも受けなければ、そうそう機能停止には陥らない

 

《此方からは見えてるぞ、ワイバーン》

 

「チッ…厄介な野郎だっ‼︎」

 

左旋回し、その場から離れつつ目視でも刑部を探す

 

「何処に行きやがった…」

 

《ワイバーン、ミサイルです‼︎避けて下さい‼︎》

 

「アイツっ‼︎やりやがる‼︎」

 

模擬戦なのでミサイル本体は勿論来ないが、アレンは此方側のアラートが鳴ると同時にミサイルを放って来た

 

「くっ…そ…」

 

急いでグリフォンを捻らせる

 

《ワイバーン、ミサイル回避》

 

当たらないとは分かってはいるが、ミサイル本体が見えないだけで恐怖も倍増している

 

《どうしたワイバーン。いつもの威勢は》

 

「ちょっと待ってろ‼︎すぐに炙り出してやる‼︎」

 

とはいえ、目視でもレーダーさえも映らない機体

 

どう探せば…

 

「グリフォン。後部カメラの一部を赤外線に切り替えろ」

 

《オッケー‼︎》

 

何処にいるか分からない刑部の動きに警戒しつつ、赤外線カメラの索敵を待つ

 

《いた‼︎8時方向‼︎熱源反応だ‼︎》

 

「そいつをマークして目を離すな。そいつがアレンだ」

 

《オッケー‼︎マークしたよ‼︎》

 

「こうなりゃこっちのもんだ‼︎」

 

マークした位置に機首を向け、機銃のトリガーに指を掛ける

 

《バッカス、狙われています。主翼にダメージ》

 

「何処にいやがんだ⁉︎」

 

機銃が命中したとの報告は上がるが、刑部が何処にいるか全く見当が付かない

 

近くには必ずいる

 

《お返しだ、ワイバーン》

 

「うわっ‼︎」

 

再びいきなりのミサイルに襲われ、今度は命中判定を出された

 

アレンの恐ろしい所はこれだ

 

此方側が完璧に死角やアウトレンジの場所から突然攻撃を仕掛けて来る

 

前触れも何もない。気付けば死んでる

 

《オッケーオッケー…燃えてきたよ…》

 

「もう一回行けるか⁇」

 

《任せて。もう見えてるから》

 

グリフォンの声のトーンが低くなる

 

《レイ。僕に一発だけやらせて⁇》

 

「分かった。オートに切り替える」

 

セミオートの操縦をオートに切り替え、グリフォンに渡す

 

「うおっ…」

 

撃墜判定を受けたのが余程気に入らなかったのか、グリフォンは急加速し始めた

 

《ちょこまかちょこまかと‼︎大人しくしな‼︎》

 

グリフォンは一瞬のタイミングでミサイルを放ち、インメルマンターンをしながら様子を伺う

 

《バッカス、被弾しました》

 

《オーケーオーケー。ナイスだグリフォン》

 

《そろそろ姿見せたらどう⁇僕には見えてるよ》

 

アレンとグリフォンの会話が終わった瞬間、夜空に一機の戦闘機が現出した

 

「な…」

 

《夜間光学迷彩だよ。あれと刑部のステルス合わされちゃ分かんないよ》

 

《ワイバーン。そろそろタイマンと行こうか》

 

「よし、来い。受けて立つ」

 

俺もアレンも、深い深呼吸をする

 

互いに距離を取り、加速したまま突っ込んで行く…

 

《ヘッドオンです‼︎撃って下さい‼︎》

 

ほぼ同じタイミングでミサイルを放ち、ほぼ同じタイミングで右に機体を向ける

 

《ワイバーン、バッカス。撃墜判定です》

 

「だとよっ」

 

《一勝一敗一分か》

 

「これが最後だ。次の一撃で決まる」

 

《日進。行くぞ》

 

先に動きを見せたのは刑部の方

 

《…いいんだね、レイ》

 

「あぁ。悪いな」

 

《気にしなくていいよ》

 

グリフォンも再び加速して行く…

 

数分間に渡り、攻めつ守りつの戦いが続く

 

背後に着いては着き返し

 

追い掛けては追い掛けられ

 

そして、そのせめぎ合いに勝ったのは…

 

「…ちっ」

 

《終わりだ、ワイバーン》

 

背後を取ったのは刑部

 

「あぁ。いいだろう」

 

《ワイバーン、被弾しました》

 

軍配は刑部に上がった

 

《演習終了です。流石ですね‼︎親潮もつい声が出てしまいました》

 

《いやぁ〜負けちゃった負けちゃった‼︎》

 

《わしも腕を思い出せそうじゃ‼︎》

 

AIになった互いの娘の声を聞きながら、横須賀へと戻って来た

 

 

 

 

「はいっ‼︎おめでとうアレン‼︎」

 

降りてしばらくすると、横須賀が”アレ”を持って来た

 

「誰が作ったんだ⁇」

 

「全部飲んだら教えてあげるわ⁇」

 

「飲まなきゃダメか‼︎」

 

「飲まなきゃダメよ。命令よ」

 

アレンは”アレ”を中身を知らずに飲もうとしていたが、知っている今、飲みたくなさそうな顔をしている

 

容器位は持っていても何かしらに使うから良いが、中身は…

 

「…頂きます‼︎」

 

意を決してアレンはソレを飲んだ‼︎

 

「どう⁇」

 

「…甘くて美味しい」

 

「それ、間宮の新作よ⁇」

 

「つぶつぶがある…」

 

アレンは口をモグモグしている

 

「意味深な容器に淹れたタピオカミルクティーはどう⁇」

 

「美味しい…」

 

何故かアレンは残念そうにしている

 

「因みに誰のお酒だと思った⁇」

 

「案外ネルソンがやりそうなんだよ。ネルソンはこういった伝統にあんまり否定的じゃないからな」

 

「じゃあ今度ネルソンに頼んどくわ‼︎」

 

「やめろ‼︎俺が悪かったから‼︎」

 

「冗談よ‼︎いいデータが取れたわ。明日の朝、ラバウルの二人が来るから、一緒に帰りなさい」

 

横須賀が先に戻り、俺達はようやく晩御飯を食べる為に繁華街へと足を向けた

 

手前にはきそと日進が楽しそうに話しながら歩いている

 

「ありがとうな」

 

「何がだ⁇」

 

互いに前を見ながら口を開く

 

「わざと負けてくれて、だ」

 

アレンは気付いていた

 

最後の一発、あれはわざと当たったのだと

 

「気にするな。最初からきそと決めてとんだ。勝つ感覚を教えるってな」

 

「お前らしいなっ」

 

「まっ‼︎飯食って千代田に耳かきして貰って寝る事だな‼︎」

 

「ん‼︎それは良い‼︎そうさせて貰おう‼︎」

 

こうして、演習が終わった夜は流れていった…

 

 

 

 

夜間戦闘爆撃機 XFB-002”刑部”がSS隊に配備されました‼︎




夜間戦闘爆撃機 XFB-002”刑部”

対空+13
爆装+13
命中+8
回避+12
行動半径11

XFA-001”グリフォン”の派生であり、爆撃機能を強化した機体

性能自体はグリフォンとほぼ同じだが、パイロットのアレンに合わせて安定性が高く造られている

本来グリフォンにも配備する予定のあった各箇所のハードポイントを刑部では追加。装備可能の爆弾及びミサイルの搭載量が一回り増えた

グリフォンのMSWは付いていないが、その分シンプルに仕上がっている為、戦闘機としても爆撃機としても今までになかったハイスペックを誇る

特筆するのは夜間光学迷彩

刑部本来のステルス性に加え、夜間時に機体が周りの風景に溶け込む特殊な技術を外装に施してある為、目視は不可能に近い

深海からの技術提供の為、その開発方法は一部技術者しか知らない




今回のお話でアレンが狐好き、巫女好きと分かりました

アレンがAIや製造した物に付ける名前、全て狐が関連しているのにお気付きでしたか⁇

諸説ありますが、刑部もその一つです

もしかすると、日進は”アレンの本当の好み”に合わせて産まれて来たのかも知れませんね


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247話 スマッシュしたいお年頃

さて、246話が終わりました

期間が空いてしまい申し訳ございません

家のWi-Fi様がこの梅雨のお陰で不具合を起こし、投稿するにも何をするにも一苦労な状態でした

今回のお話は、たいほうが出てきます

朝から麦わら帽子を被るたいほう

果たして何をするのかな⁇



※たいほうのお話の裏で、基地では何をしているのかを知る為、途中題名だけが変わります


「たいほう、おでかけしてくるね‼︎」

 

朝早く、たいほうが麦わら帽子を被って隊長と貴子さんの所に来た

 

「今日は何処行くんだ⁇」

 

「すてぃんぐれいとじゃがいもほるの‼︎」

 

「横須賀の畑ね⁇たいほうはじゃがいも植えたの⁇」

 

「うんっ‼︎あのね‼︎すてぃんぐれいとじゃがいもぼわ〜ってとるの‼︎」

 

貴子さんに身嗜みを整えて貰いながら、たいほうはワクワクするのを抑えられない

 

「お昼はマーカス君と食べる⁇」

 

「うんっ。きょうたいほうおひるごはんいらない。すてぃんぐれいとでーとするの‼︎」

 

「そっかそっか‼︎あっ‼︎ほらっ、高速艇が来たわ⁇」

 

「いってきます‼︎」

 

「気を付けてな⁇」

 

「楽しんでらっしゃい‼︎」

 

「き〜つけてな〜‼︎」

 

「はよかえってこいお〜‼︎」

 

隊長、貴子さん、ひとみといよに見送られ、たいほうは横須賀に向かう

 

 

 

「じゃがいもは、めをとってかわをむきます」

 

横須賀に向かう道中、たいほうはじゃがいもの調理法の本を何度も確認する

 

「まっしゅ、ふらいど、ちっぷす。どれにしますか。たいほうはまっしゅにします」

 

たいほうは本を読む時、本に語りかける

 

昔っからそうだ。絵本を読む時でも、追加で何かを言ったりしている

 

「さ、着きましたよ、たいほうさん」

 

「イカさん、ありがとう‼︎」

 

イカさんに挨拶をした後、たいほうは高速艇から降りた

 

目指すは勿論畑

 

 

 

 

たいほうが来る前に、俺と峯雲は打ち合わせ

 

「収穫出来そうか⁇」

 

「えぇ、大丈夫です。結構大きくなっているので取り頃ですよ」

 

峯雲は俺に軍手と背中に背負うカゴを渡しながら話をする

 

「農業についてはからっきしなんだ。何か要るんだろ⁇その、次に植える用の奴とか」

 

「その分はご心配なく。既に頂いておりますので。あ、マーカスさん‼︎来られましたよ‼︎」

 

「きたよ‼︎」

 

たいほうが来た

 

きその麦わら帽子を借りたたいほうはやる気満々

 

「よしっ‼︎じゃがいもたくさん取ろうなっ‼︎」

 

「うんっ‼︎たいほう、すてぃんぐれいとじゃがいもたべるの‼︎」

 

たいほうと共に、いざ芋掘り開始‼︎

 

 

 

「んん〜っ‼︎」

 

「ほいしょ〜っ‼︎」

 

たいほうの隣でじゃがいもを収穫する

 

峯雲に教わった通りにツルを引っこ抜く

 

「わ‼︎じゃがいもいっぱい‼︎」

 

たいほうのじゃがいもはモリモリ付いている

 

「ほいしょっ‼︎ぐっ‼︎」

 

俺のは一つだけ

 

「つぎはいっぱいついてるよ‼︎」

 

「よしっ‼︎次っ‼︎」

 

「んぎ〜っ‼︎」

 

「ほんっ‼︎」

 

こいつは絶対大量だ‼︎

 

最強に重たいぞ‼︎

 

「じゃがいもごこ‼︎」

 

たいほうはじゃがいも5個

 

「よっこらせ‼︎」

 

「じゃがいもじゃない‼︎」

 

俺が収穫したのはサツマイモ

 

それもご丁寧にデッカイサツマイモが3個もある

 

「つぎはじゃがいもだよ‼︎」

 

「よしっ‼︎とりゃ‼︎」

 

「う〜ん‼︎」

 

ズボズボズボと、今度はちゃんとじゃがいもが出て来た

 

「おっほ‼︎これは大量だ‼︎」

 

「たいほうもとれた‼︎」

 

たいほうとこうして何かをするのは本当に嬉しい

 

横須賀といたり、基地の子や朝霜達、ひとみといよ達とはまた違う嬉しさだ

 

一時間もすると、カゴいっぱいのじゃがいもが取れた

 

しかし、畑にはまだまだじゃがいもが沢山

 

「きょうはこのくらいにしといてやろー‼︎」

 

「また来るんだからね‼︎」

 

たいほうと一緒にツンデレなセリフを投げた後、畑エリアから出て来た

 

たいほうを頭に乗せ、カゴを背負って基地の調理場へ向かう道中、たいほうに何を作るか聞いてみた

 

「たいほうはじゃがいもで何作るんだ⁇」

 

「たいほうまっしゅするの」

 

「マッシュポテトか⁇」

 

「うん‼︎すてぃんぐれいなにたべたい⁇」

 

「ポテトはどうだ⁇沢山あるから山盛り作れるぞ⁇」

 

「ぽてともつくる‼︎たいほう、ぽてとのえむすき‼︎」

 

たいほうは時々貴子さん達に連れて行って貰うタウイタウイモールでチーズバーガーセットをよく頼む

 

ポテトのMとは、そのチーズバーガーセットに付いてくるポテトのサイズだ

 

調理場に着くと、食卓の椅子に座ってサラとマークがコーヒーを飲んでいた

 

「おかえりなさいマー君‼︎」

 

「ただいま‼︎」

 

サラだけは横須賀に来ると、家族に言う”おかえりなさい”を言ってくれる

 

横須賀は「あらレイ‼︎」だもんな

 

「てぃーほう、ポテト取ったの⁇」

 

「ぽてといっぱいとった‼︎」

 

「サラ」

 

何かに気付いたマークはサラを呼んだ

 

何かを話した後、サラが戻って来た

 

「マー君、ポテトの加工機の使い方分かる⁇」

 

「分かる。一応、きそのマニュアルを読んだからなっ」

 

サラと話しながら、じゃがいもの入ったカゴを降ろす

 

「コーヒーだけ飲ませてくれ。いいか⁇」

 

「勿論さ。どうしたんだ⁇」

 

「ふふっ‼︎ダメよマー君⁉︎女の子とデートする時は、二人きりで楽しまなきゃ‼︎」

 

後ろでは、嬉しそうにじゅんびをしているたいほうがいる

 

「サラもマー君も、ちょっとお出掛けして来るわね⁇頑張ってね、てぃーほう⁇」

 

「がんばる‼︎」

 

サラとマークは気を使ってくれて、外に出てくれた

 

たいほう本人は気にしていなさそうだが、ここは二人の気遣いに感謝しよう

 

「たいほうと‼︎」

 

「マーカスの‼︎」

 

「「むきむきくっきんぐ‼︎」」

 

たいほうと俺は見合った状態で掛け声を出し、調理を始める

 

「たいほうはじゃがいもあらうね‼︎」

 

「俺は皮と芽を取ります‼︎」

 

たいほうが洗ったじゃがいもの皮と芽を、照月に借りたピーラーさんで剥いていく

 

そう言えば、ガリバルディは尋問された相手がひとみといよと涼月で良かった

 

もし尋問相手が照月なら、腕の皮をピーラーでゆっくり剥いていただろうな…

 

照月にとってピーラーは武器だからな…

 

「こっちはまっしゅ。こっちはぽてと‼︎」

 

たいほうはどうしてもマッシュポテトにしたい様子

 

「こっちはポテトにするんだな⁇」

 

「うん‼︎」

 

きその造ったポテト製造機にポテト用のじゃがいもを入れ、後は放っておけばポテトは完成する

 

「ゆでる‼︎」

 

コンロに火をつけ、たいほうはじゃがいもを茹で始めた

 

「たいほう」

 

「ん⁇」

 

菜箸でクルクルじゃがいもを回しながら、たいほうは俺の言葉に反応した

 

「マッシュポテト好きなのか⁇」

 

「まっしゅまっしゅってしてみたいの」

 

たいほうは横に本を置いてそれを見ながらきちんと行程を踏んでいる

 

「マッシュにこだわるな⁇」

 

半分笑いながらたいほうに言ってみた

 

「ママがまっしゅまっしゅしてたの」

 

「貴子さんがか⁇」

 

「うん。まっしゅまっしゅすまっしゅー‼︎って」

 

「ど…どうやって…」

 

たいほうの言葉を聞き、一瞬不安になった

 

茹で上がったじゃがいもを冷ましながら、たいほうは一つのじゃがいもを取り、それをやって見せてくれた

 

「すまっしゅ‼︎」

 

右手でじゃがいもを握り潰そうとするたいほう

 

しかし、じゃがいもは潰れない

 

「ゆでたらできるかな⁇」

 

「冷ましたら出来るかもな⁇」

 

そう。これはムキムキクッキング

 

腕力で何とかなるなら腕力で何とかするのだ‼︎

 

「ゆでた‼︎」

 

「よしっ‼︎なら冷ましてスマッシュするか‼︎」

 

笑顔のたいほうと一緒に、ムキムキクッキングは続く…




書いていて気付きました

私の書く艦娘は、麦わら帽子を被ると何かを掘りますね

きそちゃん然り、たいほう然り 笑


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247話 雄鶏とシマエナガのザリガニ釣り‼︎

たいほうとマーカスがじゃがいもスマッシュしている裏で、基地では何をしているのかな⁇


一方、その頃隊長達は…

 

「ひとみ、いよ、どこ行くんだ⁇」

 

ひとみといよは揃ってバケツと、スルメを先に付けた紐を準備して外に出ようとしていた

 

「ざいがについにいく‼︎」

 

「れかいやつ‼︎」

 

「ウィリアム。たまには遊んであげたら⁇」

 

「そうだなっ…私も一緒に行っていいか⁇」

 

隊長は新聞紙をたたみ、ひとみといよの前に来た

 

「うんっ‼︎」

 

「ざいがにとお‼︎」

 

貴子さんの提案で、隊長とひとみといよが一緒に遊ぶ事になる

 

「あら⁇珍しい組み合わせね⁇」

 

執務から戻って来たスパイトが三人を見て言った

 

あの三人の組み合わせは珍しい

 

「ひとみちゃんといよちゃんと一緒にザリガニ採りに行くんだって‼︎」

 

「ザリガニ…ここにザリガニなんているかしら⁇」

 

スパイトが口元に手を当てて考える

 

そう、ここは離島

 

ザリガニがいるのか怪しい

 

「言われてみれば…」

 

続いて貴子さんも考える

 

「横須賀の周りなら分かるけれど…何採るのかしら…」

 

貴子さんもスパイトも、三人が何を採って来るのか考え続ける…

 

 

 

 

「ここでざいがにとう」

 

ひとみといよが行き着いた先は、工廠の裏

 

「あいっ‼︎」

 

隊長にスルメ付きの紐を渡し、一足先にひとみといよがコンクリートに沿ってスルメを垂らした

 

「ザリガニは川じゃないのか⁇」

 

続いて隊長も垂らすが、勿論隊長はザリガニが淡水生物なのを知っている

 

「ここれれかいのとう」

 

「でかいざいがに」

 

ひとみといよは陰で少しヒンヤリとしたコンクリートにうつ伏せになりながら紐が反応するのを待つ

 

隊長も屈んでジッとしながら、二人の言うザリガニが掛かるのを待つ

 

「こ〜へん」

 

「ちぉっとかついれあす」

 

立ち上がったひとみといよは紐を引き上げ、軽く運動をした後、腕を回しながら海に飛び込もうとした

 

「喝入れるのか⁇」

 

「たかこしゃんすまっしぅすう‼︎」

 

「すあっしぅ‼︎」

 

「近くだけだぞ⁇」

 

「あかった‼︎」

 

「いてきあす‼︎」

 

二人は意気揚々と海へ潜る…

 

隊長は様子を見ながら、内ポケットからタバコを取り出し火を点けた

 

「段々レイに似て来た、でしょ⁇」

 

「叢雲か」

 

隊長の横に座った叢雲に気付き、タバコの火を消そうとした

 

「消さなくていいわ。私が勝手に来たのよ」

 

タバコを咥え直した隊長は、叢雲が言った答えを返した

 

「確かにレイに似て来たなっ。やる事なす事、ちょっとずつ、な⁇」

 

「そういえばっ⁉︎また昇進しなかったらしいわねっ‼︎」

 

叢雲はコンクリートに寝そべりながら話を続ける

 

「何か考えがあるんだろうが、教えてくれないんだ。レイはレイなりの考えがあるだろうから、私は何も言わないさ」

 

「レイの事だから、きっと何か考えてあんのよ」

 

「本当は昇進して欲しいんだがなぁ〜…」

 

「おとなちくちお‼︎」

 

「ちめうぞ‼︎」

 

しんみりとした話をしていると、すぐ近くの海面でひとみといよがバシャバシャし始めた

 

「来たわね」

 

「何持ってるんだ⁉︎」

 

「でかいざいがにとえた‼︎」

 

「さんつとえた‼︎」

 

ひとみの右手、いよの両手に握られていたのはそれはそれは大きなザリガニ…ではなく

 

「伊勢エビじゃない‼︎よく採れたわね⁉︎」

 

「こえ、ざいがにちがう⁇」

 

「これは伊勢エビだ。ザリガニよりおっきくて美味しいんだぞ⁇」

 

「たかこしゃんに、かああえにちてもあいましぉ‼︎」

 

「あばえたばつれす」

 

食料が採れたら、とりあえず貴子さんの所へ持って行く

 

貴子さんに食べられるかどうかを聞いて、食べられるなら貴子さんに渡し、食べられないなら海へ返す

 

そうして、また海へ潜るを繰り返す

 

「ひとみ、いよ」

 

「あいっ」

 

「ん⁇」

 

「お刺身好きか⁇」

 

「しゅき‼︎」

 

「おしゃしみたべたい‼︎」

 

隊長は魚関連を捌くプロフェッショナル

 

刺身や海鮮丼なんかは特に美味しい

 

「たかこしゃんにあたちてくう‼︎」

 

「あってて‼︎」

 

ひとみといよは走って貴子さんに伊勢エビを渡しに行った

 

「またレイが教えたんじゃないの⁇」

 

「これはザリガニの進化した奴だ、ってか⁇」

 

「まっ。レイらしいわねっ」

 

「あたちてきた‼︎」

 

「ちぉっとまっててくらしゃい‼︎」

 

「また行くの…か…」

 

隊長が返事をする前にひとみといよは再び海に潜る

 

「何するのかしら…」

 

「分からん…」

 

叢雲と一緒にひとみといよを待つ

 

すると数十秒後、二人の足元にサザエが投げ込まれた

 

「お…」

 

次はアワビ

 

「へぇ…」

 

次はウニ二つ

 

その後もサザエやアワビ、そしてそこそこの量のウニが二人の足元に投げ込まれた

 

「こんなもんれすか‼︎」

 

「もっとたべあすか‼︎」

 

「これ位にしといてやろうか‼︎獲り過ぎは良くないからな‼︎」

 

「あかった‼︎」

 

「おいちぉ…」

 

ひとみといよが海から上がって来た

 

「何持ってるの⁇」

 

叢雲の視線の先には、二人の手に持たれたウニ

 

「おやつ‼︎」

 

「おりゃ‼︎」

 

ひとみといよはウニを石で叩き割り、中身を食べた

 

「ん〜‼︎おいち〜‼︎」

 

「うにさいこ〜‼︎」

 

それはそれは実に美味そうにウニを食べるひとみといよ

 

その後、四人でサザエ達をバケツに入れ、貴子さんの所に持って行く

 

「あらっ‼︎今日は海鮮ね⁉︎ウィリアム、任せたわ‼︎」

 

「任せろ‼︎」

 

この日、久々に隊長が厨房に立ち、夕ご飯は隊長の海鮮料理のパレードになる事が決まった



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247話 ポテト祭りと海鮮祭り

再びたいほうのお話になります

出来上がったポテト料理を食べるたいほうとマーカス

上手に出来上がったのか⁉︎




最後にたいほうがイタズラするよ‼︎


「すまっしゅ‼︎」

 

「スマッシュ‼︎」

 

俺とたいほうのクッキングは終わりかけになっていた

 

フライドポテトも揚げた。山盛りだ

 

後はたいほうのマッシュポテト

 

たいほうはやりたかった手でじゃがいもを潰すのが出来てご満悦

 

俺もたいほうを真似てやってみたが、これは中々快感だ

 

「ころっけもつくれるんだって‼︎」

 

「コロッケ…」

 

コロッケと聞いて背筋に悪寒が走った

 

「いっぱいできたね‼︎」

 

机の上には山盛りフライドポテト、それとてんこ盛りマッシュポテト

 

「よしっ‼︎食べよう‼︎」

 

「いただきます‼︎」

 

「頂きますっ‼︎」

 

最初はたいほうがプラスチックのスプーンでマッシュポテトを口に入れ、次いで俺もマッシュポテトを食べた

 

「おいしいね‼︎」

 

「上手に出来たなっ‼︎」

 

マッシュポテトは美味しく仕上がっている

 

流石は貴子さん直伝のスマッシュ

 

何でも美味しく仕上がる

 

次はフライドポテト

 

「たいほうはけちゃっぷ‼︎」

 

「俺はマスタード‼︎」

 

違うソースを付けたポテトを、互いの口に運ぶ

 

「おいしいね‼︎」

 

「美味しいなっ‼︎」

 

フライドポテトも上々の仕上がりだ‼︎

 

三十分もしない間に、マッシュポテトもフライドポテトもすっからかんになった

 

それ程までに美味かった

 

「ごちそうさまでした‼︎」

 

「ごちそうさまでしたっ‼︎」

 

腹も満腹になり、後はサツマイモで作ったお土産が焼き上がったのを取り出すだけだ

 

「すいーとぽてと‼︎」

 

横須賀産サツマイモのスイートポテトがオーブンから出て来た

 

勿論サツマイモはたいほうがスマッシュしてくれた

 

「みんなでたべるの」

 

「たいほうは偉いな⁇ちゃんとみんなの事考えてくれてるんだな⁇」

 

「あのね、うんりゅーにためしたいの。ねてるときにおはなのちかくにおいたらおきるかなって‼︎」

 

「雲龍は食いしん坊さんだからな。きっと飛び起きるさ‼︎」

 

話しながらスイートポテトをアルミホイルで包み、クーラーボックスに入れた

 

最後にキチンと片付けをし、ガスの元栓をしっかり閉め、調理場を後にする

 

「たのしかったね‼︎」

 

「またやろうな‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

そんな会話をしながら、久々に高速艇に揺られながら基地へと戻る…

 

 

 

 

「おかえりなさい‼︎」

 

「ただいま‼︎」

 

先にたいほうが食堂に入り、俺が後から入る

 

「あのね、すてぃんぐれいとすいーとぽてとつくったの‼︎」

 

クーラーボックスを貴子さんに渡し、中を開けて貰う

 

貴子さんはアルミホイルに包まれたスイートポテトを手に取り、中を開けた

 

「あらっ‼︎美味しそう‼︎」

 

「おいししぉ〜‼︎」

 

「ばんごはんたべたあ、いよにもくらしゃい‼︎」

 

「みんなでたべようね‼︎」

 

たいほうは手洗いうがいを済ませた後、スイートポテトを一つ手に取り食堂から出て行った…

 

 

 

 

「…」

 

「おっぱい…」

 

雲龍に部屋にこっそり入り、寝ている事を確認するたいほう

 

「…」

 

たいほうは雲龍の上に乗り、鼻先にスイートポテトを近付け始めた

 

「ん…」

 

「…」

 

たいほうは黙って雲龍の鼻先にスイートポテトを近付け続ける

 

「いい匂い…」

 

「あ〜ん」

 

目を覚ました雲龍の口元にスイートポテトを近付けると、雲龍は一口食べた

 

「美味しい」

 

「おきた⁇」

 

「起きた。ありがとう」

 

「ばんごはんたべよ‼︎」

 

「うん」

 

起き上がった雲龍はたいほうを抱きかかえ、部屋から出て来た

 

 

 

 

「おはよう…」

 

「おっ‼︎雲龍‼︎晩御飯食べるぞ‼︎」

 

普段雲龍は夜間哨戒機を飛ばしてくれている為、皆が起きてる最中は寝ている事が多い

 

この時間帯に起きて来た雲龍を見た隊長も少し驚いて返事を返している

 

「お魚沢山…」

 

「みんなで食べよう。さ、座って‼︎」

 

晩御飯は久々に全員揃って食卓を囲んだ

 

その日の晩、たいほう、ひとみ、いよは雲龍にベッタリくっ付いて、寝るまで離れなかった

 

「みんな寝た。貴方も寝る」

 

「後は任せていいか⁇」

 

「雲龍に任せて」

 

起き抜けのポケポケ具合と違う少しキリッとした雲龍を見て、俺もベッドに入った…




じゃがいも…横須賀産じゃがいも

横須賀の畑で採れた新鮮なじゃがいも

どんな料理にしても大体美味しく仕上がる凄いじゃがいも

貴子さんが握り潰すのを見て子供達がマッシュポテトを作りたがるが、それも美味しく仕上がる



貴子さんのマッシュポテトのやり方は

”貴子式空間圧縮法”と呼ばれ、現在真似はする者がいるが習得出来たのは清霜しかいない

余談

貴子さんの戦術は現在作中で四つ公開されている

”貴子式顔面分離張手”

”貴子式顔面陥没拳”

”貴子式真空調理法”

”貴子式空間圧縮法”

この四つ

前に榛名が”貴子式顔面分離張手”を

清霜が調理の際に”貴子式真空調理法”を

最近隊長が”貴子式顔面陥没拳”を

使っています。是非探してみて下さい 笑


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248話 水中都市(1)

さて、247話が終わりました

今回のお話は、そう言えば出て来てなかった三大都市の最後の一つの現状が明らかになります

横須賀にお願いされ、海域調査に来たマーカスとアレン

新しい水中探査機を使い、海域を調査します


「レイ。折り入って相談があるの」

 

「何だ⁇」

 

蟹瑞雲で新作の雑炊を食べていると、横須賀が急に相談を持ち掛けて来た

 

横須賀が相談を持ち掛けるのは珍しい

 

普段は強制や突発が多いからだ

 

「海域調査をお願いしたいのよ」

 

「何処だ⁇」

 

「東京湾よ。航空写真があるから見て頂戴」

 

机の上に写真が数枚置かれる

 

それを見て、息が詰まった

 

「水没してるのか…」

 

「そっ。反攻作戦の時の報復として…ね」

 

大阪、名古屋には何度か行った

 

大阪にはゴールデンウィークにみんなで

 

名古屋にははっちゃんと一緒に水族館に

 

東京にはあまり行った事がなかった

 

「刑部の航空写真によると、何か住んでるらしいのよ」

 

「人がか⁇」

 

「そこを調べて欲しいのよ。立入禁止にはしてあるらしいんだけど、時々船が近場に停泊したりしてるらしいから、絶対何か居るわ」

 

「分かった。探査艇でも連れて行く」

 

「アレンを連れて行って頂戴」

 

「分かった」

 

「お礼は何が良いかしら⁇」

 

そう言って横須賀は机に胸を乗せ、ニヤけ顔で頬杖をついた

 

「乳搾りだな、はいはい。じゃ、言って来る‼︎」

 

レンゲを置いて、早速準備に取り掛かりる

 

「高速艇の発着場でアレンが準備してるわ。何か機材があるなら乗せて頂戴」

 

「水中探査機があるんだ。そいつだけ乗せる」

 

そう横須賀に言い残し、工廠へと向かう

 

「もぅ…たまに真面目な顔するんだから…」

 

 

 

 

「あったあった‼︎」

 

工廠の武器格納庫からジュラルミンケースを取り出し、中身を確認する

 

小型水中探査機”イムヤッキーDX 3000”

 

ひとみといよのヘルメットから色々と改良を重ねた、人型の遠隔操縦型の探査機だ

 

外見はひとみといよ位の小さい女の子で、ステルス機能は付いていないが、無線で映像を送ったり、マイクが付いていたり等、リアルタイムで此方に情報を送る事が出来る

 

小型ながらもちゃんとAIが搭載されているので、道に迷ってもちゃんと帰って来れる

 

イムヤッキーの初号機…つまりDX1000は開発段階で改良を加え、タナトス内部にある”ウキウキマリン”になった

 

DX2000はウキウキマリンの量産型

 

そしてDX3000がこの女の子型ロボットの探査機

 

女の子の形にしたのは、万が一遭難者やコミュニケーションが取れる生物がいた場合、女の子の外見の方が安心感を得られるからだ

 

中身を確認した後、アレンの待つ高速艇の発着場に向かう

 

 

 

「おっ‼︎来た来た‼︎」

 

アレンはホバークラフトを手配してくれてあり、既にエンジンをかけて待っていてくれていた

 

「待たせたな‼︎よいしょ‼︎」

 

ジュラルミンケースと共にホバークラフトに乗り、横須賀を出た

 

「さてっ」

 

手を合わせた後、ジュラルミンケースを開け、イムヤッキーDX 3000を取り出し、目の前に座らせる

 

首をうな垂れて座っているイムヤッキーDX 3000は、普通の女の子に見える

 

赤い髪のポニーテールも似合っている

 

「それなんだ⁇」

 

ホバークラフトを操縦するアレンが、ジュラルミンケースの中身をチラチラ見ている

 

「水中探査機だ。イムヤッキーDX 3000」

 

「イムヤッキー…」

 

「昔の潜水艦の名前と、親しみ易さを込めたんだよ」

 

ジュラルミンケースの中にあったインカムと小型のモニターを起動する

 

「イムヤッキー、起動‼︎」

 

俺の合図で、イムヤッキーの首が上がった

 

「イムヤッキー‼︎」

 

「よしゃ‼︎」

 

可愛く右腕を突き上げた

 

起動した合図だ

 

「へぇ⁉︎可愛いじゃないか‼︎」

 

「俺のワンオフにするつもりだ。イムヤッキー、起動チェックだ。左腕を上げてくれ」

 

「イムヤッキー‼︎」

 

イムヤッキーは左腕をちゃんと上げる

 

「よし。じゃあ次は右足、左足を交互に三回上げ下げしようか」

 

「イムヤッキー‼︎」

 

イムヤッキーは言われた通りに右足左足を交互に上げ下げする

 

「よし、次は言語チェックだ。おはよう‼︎」

 

「イムヤッキー‼︎」

 

「こんにちは‼︎」

 

「イムヤッキー‼︎」

 

「んー…」

 

何を言っても元気に”イムヤッキー‼︎”としか返さない

 

対話IFの起動が遅れているのかもしれない

 

「言語チェックはいい。じゃあ、表情チェックにしよう。笑顔‼︎」

 

イムヤッキーはニコッと微笑む

 

「怒る‼︎」

 

イムヤッキーは少し視線を下げ、此方を睨む

 

「悲しい‼︎」

 

イムヤッキーは体育座りをして、顔を見せなくなった

 

「よしよし。最後はマイクチェックだ。私はイムヤッキー。貴方を救助しに来ました‼︎」

 

「私はイムヤッキー‼︎貴方を救助しに来ました‼︎」

 

俺が言った言葉を、イムヤッキーの声で返してくれた

 

「完璧だなっ‼︎現地に着くまで自由に観察してくれ」

 

イムヤッキーはアレンの横に行き、視線を航路に向け、その場に腰を曲げてホバークラフトの縁に手を置いた

 

「なるほど、救助も出来るのか」

 

「そっ。救助の時、その外見なら安心感が出るだろ⁇」

 

「確かになっ。おっ、見えて来たぞ」

 

目的の水没都市が見えて来た…



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248話 水中都市(2)

「派手にやられてんな…」

 

「国の重要拠点がこうも叩きのめされるとはな…」

 

橋は陥落

 

街は水没

 

東京のシンボルである赤い電波塔も倒れ、海に沈んでいる

 

水没都市と言うのが本当に似合う

 

「イムヤッキー‼︎」

 

「どうした⁇」

 

イムヤッキーが見つめる先は透き通った海の中

 

そこには海の中に沈んだ当時の街並みが、ほぼそのままの形で残っていた

 

「…」

 

どこか魅入ってしまいそうな…そんな美しさがそこにはあった

 

「この辺りで生体反応があった」

 

「ビルの半分が水没かっ…」

 

そこそこ大きめのビルが建ち並ぶエリア

 

そのほとんどが半分程海に沈んでいる

 

「そこにハンバーガーショップの看板があるだろ⁇そのビルの辺りだ」

 

アレンがホバークラフトをエンジンを切り、イムヤッキーがスタンバイに入る

 

「オーケー‼︎イムヤッキー、あのビルの中に行けるか⁇」

 

「イムヤッキー‼︎」

 

合図である右腕を上げ、イムヤッキーは水没都市へと出掛けて行った

 

透き通った海の中、イムヤッキーの赤い髪はよく目立つ

 

それを目で追うと、ちゃんと言われたビルに向かっている

 

「よしっ、後はイムヤッキーのカメラで追う‼︎」

 

ジュラルミンケースの中にあるモニターの前にアレンと共に座る

 

モニターを見ると、イムヤッキーはハンバーガーショップに入った

 

「綺麗なままだな…」

 

アレンがポツリと言ったその言葉の通り、ハンバーガーショップは未だに客を待っていた

 

真夏の日射しが差し込む店内は明るく、

 

床に固定された机

 

カウンター席

 

レジ

 

レジの上のメニュー表

 

水没していても、いつ客が来ても可笑しくない…

 

そんな状態のまま残っている

 

「イムヤッキー、二階に行けるか⁇」

 

レジを見ていたイムヤッキーは何も言わずに視線を階段へと向け、そっちに向かった

 

「二階もそのまんまだな…」

 

二階に着くなり、イムヤッキーはホールを見回した

 

テーブル席の椅子は流れてしまっているが、他は変わらず残っている

 

生体反応も特に無い。お魚が泳いでるだけだ

 

「三階に行こうか」

 

イムヤッキーは階段を泳いで上がり、三階へ

 

「水没が終わった…」

 

「足元だけみたいだな」

 

三階へ来ると、水没が足元までになっていた

 

イムヤッキーも立ち上がり、三階に足を踏み入れた

 

今俺達がいる場所からも見えるはずだが、マジックミラーになっているのか中が見えない

 

《アラ、カワイイオキャクサン》

 

「何だ⁉︎」

 

声がした方向にイムヤッキーは首を向けた

 

《アラ、アナタカンムス⁇》

 

深海棲艦だ‼︎

 

「私はイムヤッキーです‼︎貴方は⁇」

 

《ワタシハ”ルーナ”ルキューデス。サ、スワッテ》

 

イムヤッキーは椅子に案内され、そこに座った

 

椅子に座ったイムヤッキーはまたホールを見回す

 

すると、ル級のルーナの他に一人の深海棲姫がいた

 

一旦インカムを切り、モニターを凝視する

 

「何だ…コイツは…」

 

見た事もない深海棲艦がそこに居た

 

美味しそうに何かを頬張っているが、敵意は無さそうだ

 

「新種か⁉︎」

 

白い肌に小さな帽子を被った女性

 

今まで色々な深海棲艦を見て来たが、彼女は見た事が無い

 

再びインカムを付け、イムヤッキーに言った

 

「イムヤッキー。彼女の傍に寄れるか」

 

イムヤッキーは黙って立ち上がり、彼女の所に向かった

 

《ドウシタノ⁇イッショニタベル⁇》

 

モニターに映る彼女は、一見キツそうな顔をしているが、話してみるとそうでは無い事に気付いた

 

好戦的では無さそうだが、今の所は分からない

 

「お友達を呼んでもいいですか⁇」

 

《イイヨ。コワサナイヤクソクスルナラ》

 

「ありがとう‼︎」

 

イムヤッキーを彼女の前に座らせ、インカムを切る

 

「行って来る‼︎」

 

「そこに酸素ボンベを用意してある」

 

「デートにっ…酸素ボンベ背負って来る奴なんざいないだろっ‼︎」

 

革ジャンを脱ぎ、ズボンから財布やピストルを外し、海に飛び込んだ

 

「…確かに見たことないな‼︎」

 

アレンはホバークラフトの上でイムヤッキーのモニターを見続ける…

 

 

 

綺麗だ…

 

まるで生身で空を飛んでいるみたいだ…

 

水没都市を泳いで感じたのはその二つ

 

照り返した太陽が水没都市を美しく際立たせている

 

あたかも、最初からそうであったかのように…

 

水没都市を見ながらも、イムヤッキーのいるハンバーガーショップの三階を目指す

 

ここが三階か…

 

「ぷはぁ‼︎」

 

「イラッシャイ」

 

「予約した一名だっ‼︎」

 

イムヤッキーのモニターを見ている限り、ここは深海棲艦達のレストランになっている

 

なのでそんな入り方をした

 

「ア‼︎マーカスサン‼︎」

 

「知ってるのか⁉︎」

 

「シッテル‼︎”イーサン”ガオセワニナッテマス‼︎」

 

「あ‼︎イーサンのお母さんか‼︎谷風がお世話になってます‼︎」

 

このル級のルーナさん

 

谷風と仲が良いイ級の”イーサン”のママだった‼︎

 

「マーカスサンナラカンゲイスルワ‼︎イラッシャイマセー‼︎」

 

「よいしょっ‼︎」

 

ようやく海から上がり、濡れたままイムヤッキーを探す

 

「いたいた」

 

イムヤッキーは先程のまま、新種の彼女の前に居た

 

「アナタガマーカスサン⁇」

 

先にコンタクトを取ってくれたのは彼女の方

 

「マーカス・スティングレイだ。よろしくな⁇」

 

「カンゲイスルワ。ユックリシテイッテネ」

 

イムヤッキーの横、彼女の斜め前に座る

 

「君の名前は⁇」

 

「”ヨーグル”」

 

「ヨーグルか。この子はイムヤッキー、ロボットなんだ」

 

「サッキカラ、イムヤッキーシカイワナイ」

 

「イムヤッキー‼︎」

 

イムヤッキーは小型とはいえ、一応AIが入っているので興味がある物があればそれに視線が行く

 

今のイムヤッキーは目の前にいるヨーグルを見ているが、さっきはレジを見ていた

 

「ドウゾ〜」

 

「ありがとう」

 

俺とイムヤッキーの前に瓶のコーラが置かれる

 

「イムヤッキー‼︎」

 

イムヤッキーはすぐにコーラに興味を示し、瓶に手を伸ばす

 

「あちゃちゃちゃ‼︎お前は飲んだらビリビリドッカンだ‼︎」

 

「ホントニロボットナンダ」

 

「そっ。人型の水中探査機なんだが、まだ産まれたてなんだ」

 

「おいレイ‼︎俺もそっち行っていいか⁇」

 

「うひ⁉︎」

 

イムヤッキーが急に俺の方を向き、話し始めた

 

「脅かすな‼︎ちょっと待ってろ‼︎聞いてみる‼︎」

 

「悪い悪い‼︎こっちからじゃ全く中が見えないんだ‼︎」

 

イムヤッキーが男勝りに話す姿は何かシュールだ

 

アレンがインカムを使ってイムヤッキー経由で話しているらしい

 

窓の外を見ると此方側からはアレンの姿がよく見えた

 

アレンがモニターに向かって話しているのが見える

 

「ルーナ、アケテアゲテ」

 

「オッケー」

 

ヨーグルがそう言うと、左端のマジックミラーをルーナが開けてくれた

 

「コッチコッチ‼︎」

 

「おー‼︎ありがとう‼︎」

 

ホバークラフトをワイヤーで固定した後、アレンが入って来た

 

「アレンサンモコーラデイイ⁇」

 

「ありがとう‼︎」

 

アレンもコーラを飲み、やはり目が行くのはヨーグル

 

「アレン・マクレガーだ‼︎」

 

「マクレガー…アァ、ヴィンセントサンノムスコ⁇」

 

「知ってるのか⁇」

 

「オセワニナッテル、スゴク」

 

俺もアレンも顔を見合わせる

 

「パパを知ってるだと…⁇」

 

「他に知ってる人は⁇」

 

「ウルサイオトコ」

 

「うるさい男…」

 

「スゴク、イイヒト。ワタシタチヲ、ココニツレテキテクレタノ」

 

そう言うヨーグルの目は嬉しそうな顔をしている

 

「”タイヘイヨウ”デハグレタワタシタチヲ、ココニツレテキテクレタヒト」

 

「誰か分かるか⁇」

 

「分からん…うるさい男、か…」

 

俺もアレンも心当たりが無い

 

ヨーグルの話によると、彼女達は太平洋で行き場所を失った

 

その時に”うるさい男”に出会い、ここに連れて来てくれた

 

深海に友好的で、尚且つうるさい男…

 

俺もアレンも思い当たる節が無く、詰まっていた

 

「タンカーガキタワ」

 

ヨーグルとルーナが海の方を向いた

 

深海の駆逐艦達が頭に何かを乗せて何処かへ向かっている

 

「ガンビアと神威Mk.Ⅱだ‼︎」

 

「アノフネ、イツモヨッテクレル」

 

窓から外を見ると、駆逐艦達が神威Mk.Ⅱから降ろされた物資を何かと交換しているのが見えた

 

「何渡してるんだ⁇」

 

「”アビサル・ケープ”キョウコナテツ」

 

ヨーグルが机の上に小さな鉄の塊を置いた

 

「「あっ‼︎」」

 

俺もアレンも見覚えがあった

 

名は初めて聞いたが、グリフォンや刑部のボディの原材料になっている鉄だ

 

アビサル・ケープ…”深海の外套”か…

 

「ウルサイオトコガキタ」

 

腕を顎の下で組み、口とは裏腹に嬉しそうにその人を待つヨーグル

 

「好きなのか⁇」

 

「ケッコウキニイッテルワ。ヒマシナイモノ」

 

ヨーグルが言ってすぐ、一機の水上機が此方に向かって来た

 

「OS2Uだ‼︎」

 

「珍しいな‼︎」

 

バーガーショップビルの三階の真横に停まったアメリカ製水上機、OS2U

 

そこから降りて来たのは…



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248話 水中都市(3)

「リチャード‼︎もうちょっと落ち着いて操縦してくれないか⁉︎」

 

「これが俺の方乗り方だぁ‼︎あ、ヨーグルちゃ〜ん‼︎」

 

「イラッシャイリチャード」

 

親父とヴィンセントが降り、親父がヨーグルと手を振り合う

 

俺もアレンは頭を抱え、肩を震わせる

 

うるさい男、深海と友好的…

 

言われてみれば全部当てはまり、笑いが止まらなくなった

 

「中将なら納得だな⁉︎」

 

「ははっ、確かになっ‼︎」

 

「イムヤッキー‼︎」

 

親父とヴィンセントは窓際の席に座り、ルーナが注文を取りに行った

 

「コーラとフィッシュバーガー‼︎」

 

「私はサイダーとフィッシュバーガーで」

 

「オッケー。キョウハオキャクサンオオイ」

 

「他にもいるのか⁇」

 

「オクニ」

 

笑顔でオーダーを受けたルーナが首を背後に向けた先には俺達がいた

 

「マーカス‼︎アレン‼︎」

 

「親父だったんだな、ここに連れて来てくれたの」

 

「太平洋のど真ん中で行き場を無くしてたからな。横須賀だけでも友好関係になった今、無碍にする訳にもいかなくてな」

 

「ここなら誰にも邪魔をされずに暮らせます。それに、必要限の物資は届けてます」

 

「ワタシタチハ、カワリニコレヲ」

 

ヨーグルが机の上に置いたアビサル・ケープを人差し指でコツコツと突く

 

水没都市は行き場の失った深海棲艦の楽園と化していた

 

外を見ると、物資の運搬を終えた駆逐艦達の頭に乗った人型の子達が帰って来るのが見えた

 

人型の子達は水没したビルの中で遊んだり、少し高い所から水没した部分に飛び込んだりして遊んでいる

 

「楽園…か」

 

「この街は最初からこうだったんだよ…きっと…」

 

「イムヤッキー‼︎」

 

俺と外を交互に見るイムヤッキー

 

「アソンデオイデ。イジメタラオコッテアゲルカラ」

 

「よしっ‼︎遊んでおいで‼︎」

 

「イムヤッキー‼︎」

 

開いたマジックミラーのドアからイムヤッキーは遊びに向かった

 

「フィッシュバーガーオマタセ」

 

ルーナが4つのフィッシュバーガーを持って来てくれた

 

「いただきますっ‼︎」

 

白身魚のフライ、それにタルタルソースが塗られたシンプルなフィッシュバーガー

 

親父もヴィンセントも美味そうに食っている

 

どれ、まずは一口…

 

「んっ‼︎美味い‼︎」

 

「結構サクサクしてるな⁇」

 

「ココハシンカイタチノキッサテン。メニューハチョットシカナイケド、オキャクサンハクル」

 

「確かにっ…食の憩いはっ、必要だなっ…‼︎」

 

フィッシュバーガーを食べながらもヨーグルと話す

 

水没都市の喫茶店か

 

開けっ放しになったマジックミラーの扉の下で、時々ビルにぶつかった海水がザパザパと音を立てて見え隠れしている

 

こういう普段見慣れない光景の中で物を食べるのも悪くないな…

 

「タマニハアソビニキテ。コドモガタマニクルカラ」

 

「どんな子だ⁇」

 

「タニカゼチャント、ハガギザギザノコ」

 

「朝霜か…」

 

歯がギザギザ=朝霜は良くないとは思うが、大体朝霜しかいない

 

早霜もその気があるが、多分ここは朝霜だろう

 

「アタイッテイウコ」

 

「朝霜だな」

 

「朝霜ちゃんだな」

 

歯がギザギザでアタイと言うのは朝霜しかいない

 

「ソレデ、リチャードガオムカエニクル」

 

「ありがとう、親父」

 

「んなぁ‼︎いいって事よ‼︎可愛い孫の為さ‼︎」

 

「どうせ帰りは寿司食べさすんだろ⁇子供達を食べさせに来た〜って口実で」

 

「ん〜…ヴィンセント君には全て見抜かれているな…」

 

親父とヴィンセントの話で全員が笑う

 

「ソウダ。タノミガアル」

 

思い出したかの様にヨーグルが話を切り出す

 

「何だ⁇俺に出来る事なら言ってくれ」

 

「コドモタチガ”シロイネリネリ”ヲタベタガッテイル。ソレヲツクルキザイガホシイ」

 

「…ソフトクリームか⁇」

 

「タダイマ‼︎ア‼︎マーカスサン‼︎」

 

タイミング良くイーサンが階段の方から帰って来た

 

イーサンなら分かるかもしれない

 

「おっ‼︎おかえりイーサン‼︎イーサン、白いネリネリって、何か分かるか⁇」

 

「キソチャンノソフトクリーム‼︎」

 

「なら話は早い‼︎きそに手配させておくよ。しばらく時間をくれないか⁇」

 

それを聞いて、ヨーグルの顔が明るくなった

 

「モチロン‼︎オレイモジュンビスル‼︎」

 

「配送は此方に任せて下さい」

 

「ん〜…なんたる早さ‼︎」

 

アレンもビックリのスピードで事が解決した

 

「よっし‼︎そろそろ帰って晩飯の仕度だなっ‼︎」

 

「そうか、今日はイントレピッドが休みの日か。手伝おう」

 

そう言って、親父とヴィンセントは二人して俺達を見る

 

「わーかった‼︎手伝う‼︎」

 

「ふっふっふ…レイ、俺は料理スキルを上げたぞ⁉︎」

 

噂によると、ホットケーキを作る最中に粉塵爆発を起こしたアレン

 

見るに見かねたコロちゃんが作った方がよっぽど上手かったらしい

 

「見せて貰おうじゃねぇか、その料理スキルとやらを‼︎」

 

「じゃっ、ごちそうさまでした。幾らだ⁇」

 

「イラナイ。モトモトモライモノ。ソレニ、ココデハオカネイミナイ」

 

「そっか…じゃあ、また来るよ‼︎」

 

「イツデモキテネ」

 

「バイバイ‼︎」

 

「マタキテネ、マーカスサン‼︎」

 

三人に見送られ、俺達はホバークラフトに乗る

 

「んじゃ、横須賀でな〜」

 

「今夜はステーキだぞ〜」

 

親父達が先に飛び立ち、一足先に横須賀に向かう

 

「イムヤッキー、帰っておいで‼︎」

 

インカムでイムヤッキーを呼ぶ

 

カメラを見ると、イムヤッキーはちゃんとホバークラフトに向かって来ている

 

「来た来た」

 

赤い人影が近付いて来た

 

「…何かキラキラしてないか⁇」

 

「…ホントだな」

 

イムヤッキーは太陽の光を受けて何故かキラキラしている

 

「イムヤッキー‼︎」

 

ホバークラフトに上がって来て、それはすぐに分かった

 

「おまっ‼︎どうしたんだそれ‼︎」

 

「ははははははは‼︎」

 

イムヤッキーがキラキラしていた原因…



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248話 水中都市(4)

「イムヤッキー‼︎」

 

首に大量のネックレス

 

腕に大量の腕時計

 

それぞれの指全てに大量の指環

 

「キンキラキンが好きなのか⁇」

 

「イムヤッキー‼︎イムヤッキー‼︎」

 

大量の金品を身に付けてイムヤッキーは初めて嬉しそうな表情を見せてくれた

 

嬉しそうに手の平に乗せて何度も揺らしているのを見ると、本当はそのままにしてやりたい

 

が、ここは心を鬼にして教育しなければならない

 

俺はイムヤッキーの前で膝を曲げた

 

「イムヤッキーはキラキラしたのが好きなんだな⁇」

 

「イムヤッキー‼︎」

 

こんな心底嬉しそうにされたら心が揺れる

 

「でもな、イムヤッキー⁇それは拾った物だろ⁇ちゃんと返して来なさい」

 

「イムヤッキィー‼︎」

 

イムヤッキーは体をひねって”これは私の物”とでも言わんばかりに生まれて初めて反抗を見せた

 

「後で買ってやるから、今は返そうな⁇」

 

「イムヤッキィィィイ‼︎」

 

イムヤッキーはそれでも反発する

 

どうしても欲しいらしい

 

「いいか、イムヤッキー」

 

「おっ…」

 

今までアレンの前ではあまり見せなかった父親の顔を、俺はその時していたらしい

 

俺はイムヤッキーの指環まみれの手をギュッと握り、目を見つめた

 

「イムヤッキーが欲しいのは、お父さん良く分かる。キンキラキンで綺麗だよな⁇」

 

「イムヤッキー」

 

「でもな、イムヤッキー。この子達は商品なんだ。誰かに買われるのをずっと待ってるんだ」

 

「イむヤッきー‼︎」

 

一瞬、イムヤッキーの言語に変化が見られた

 

対話IFのようやく起動完了したか、AIに何らかの変化が起きたのだろうか…

 

「後でキンキラキン買ってあげるから、それは返して来てくれるか⁇」

 

「いむやっきー‼︎」

 

「おっ、行った行った」

 

俺の話を聞いてくれたのか、イムヤッキーはもう一度海に戻った

 

数分後…

 

「帰って来た‼︎」

 

「ただいま‼︎」

 

「キンキラキン返して来たか⁇」

 

「返して来た‼︎」

 

「んっ‼︎ん⁉︎」

 

イムヤッキーは何事も無かったかのようにホバークラフトの先頭に腰を下ろした

 

俺とアレンは驚き過ぎて顔を見合わせている

 

「イ、イムヤッキー⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

イムヤッキーは返事を返した

 

「おまっ‼︎話せるようになったのか‼︎」

 

「一時的な対話IFの起動不良でした‼︎」

 

「そっかそっか‼︎はは‼︎」

 

イムヤッキーの頭をたっぷりと撫でる

 

「これからも、イムヤッキーを変わらずお使い下さい‼︎」

 

「次はキンキラキン取り放題の所に連れてってやるよ」

 

「イムヤッキー‼︎」

 

合図だけは覚えているのか、イムヤッキーは右腕を上げた

 

「では、イムヤッキーはお家に帰ります」

 

「いいんだ。帰るのはケースの中じゃない。横須賀だ」

 

「イムヤッキーは充電しないと」

 

「常に充電してるんだ。そこにいるアレンのエンジンがイムヤッキーの中には入ってるんだ」

 

「イヅナ型エンジンを入れたのか⁉︎どうやって⁉︎」

 

設計者のアレンでさえ驚いている

 

アレンのイヅナ型エンジンは大型エンジンだ

 

今まで小型化しても精々車サイズにしかならなかった

 

だからこそ、タナトスの様な大型潜水艦の動力源に似合っている

 

それが今、超小型化されてイムヤッキーの動力部分に利用されている

 

「レイ。運転頼んでいいか⁉︎」

 

「オーケー。イムヤッキーと話すか⁇」

 

「いいか⁇」

 

「お話しましょう、アレンさん‼︎」

 

帰り道、アレンはイムヤッキーに興味津々に話し続ける

 

その時のアレンの顔は、父親とエンジニアの両方の顔をしていたのを、イムヤッキーはしっかりと見ていた…

 

 

 

 

横須賀に着いた

 

俺だけが繁華街に行き、イムヤッキーとアレンは工廠で一旦待機

 

「足柄‼︎」

 

「いらっしゃい大尉‼︎」

 

「これ、貰えるか⁇」

 

「120円よ」

 

駄菓子屋である物を買い、工廠に戻って来た

 

「イムヤッキーはご飯を食べられません。ビリビリドッカンです」

 

「そうだったなっ…」

 

「ただいまっと。イムヤッキー⁇よいしょっ‼︎」

 

「わぁ〜っ‼︎」

 

イムヤッキーの首に、赤い石が付いたオモチャのネックレスを付けた

 

「ありがとう‼︎」

 

「それはオモチャなんだ。だけどな、イムヤッキー。誰に貰ったかで、些細な物でもその人にとっては宝物になるんだ。賢いイムヤッキーなら、分かってくれるな⁇」

 

「マーカスさんから貰った物は、イムヤッキーの宝物です‼︎」

 

この時、アレンは思っていた

 

コロちゃんにもこうして優しく教えれば良いのだ、と…

 

「イムヤッキーのお家はここですか⁇」

 

「イムヤッキーがここにいたいなら、ここでいい」

 

「では、いつでもお手伝い出来る様にイムヤッキーはここにいます‼︎」

 

こうして、イムヤッキーは工廠にいる事となる

 

後日、イムヤッキーは自分の充電を機材に繋ぎ、電気を送っている姿を見た…

 

 

 

 

執務室…

 

「おかえりなさい、どうだった⁉︎」

 

「今晩報告書をまとめる。晩飯の当番になったんだ」

 

「私も行くわ。親潮、しばらく頼んだわ。何かあったらすぐに言って頂戴」

 

「畏まりました、ジェミニ様」

 

横須賀と二人でパイロット寮に向かうと、既に漂う美味しい匂い…

 

「出来てんじゃない」

 

「おかしいな…」

 

「おっ‼︎来た来たマーカス‼︎さ、食え‼︎」

 

親父とヴィンセントがキッチンで肉を焼き、パイロット達やジョンストン達子供がステーキを食べている

 

「美味しそう‼︎頂いていいかしら⁇」

 

「勿論‼︎さ、座って座って‼︎」

 

「ちょっとだけ連絡して来る。すぐ戻る‼︎」

 

一旦パイロット寮を出て、タブレットを出した

 

 

 

リヒター> ソフトクリーム製造機、造れるか⁇

 

美少女剣士きそ> もう造ってあるよ。イーサン達の所に渡す奴だよね⁇

 

リヒター> 話が早いな

 

美少女剣士きそ> ちょっと前に頼まれたんだ‼︎僕の造った機械で仲良くなれたら万々歳だよ‼︎

 

リヒター> ありがとう

 

美少女剣士きそ> オッケー‼︎

 

 

 

 

きそとの通信を終え、俺もステーキにありつく事にした…

 

 

 

 

イムヤッキーが工廠に住み着きました‼︎

 

 

 

水没都市”東京”偵察報告書が開示されました




・イムヤッキーDX 3000…伊168みたいな子

マーカスが造った人型水中探査機

攻撃能力は無く、探査に特化している

キラキラした物が好きで、見かけると根刮ぎ行こうとするのが玉にきず

ちっちゃなAIが入っているので、対話も出来る

工廠の中では”イムヤさん”と呼ばれ、色々な人に可愛がって貰っている

小柄な体で小型カメラを搭載しているので、不具合が起きている部分の近くに潜り込み、工兵達に情報を送るのが得意

マーカスとアレンの影響か、ちょっとずつ細かな作業が得意になって来ている


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水没都市”東京”偵察報告書

出て来た深海などを明るく紹介

深海の航空機のコードネームとかも出て来ますよ


東京湾及び近隣都市部について、現在友好的な深海棲艦の居住区となっている為、これ以上の偵察は不要

 

過度の接触及び奪還不要

 

本区域を”Abyssal Utopia”と命名

 

本区域に

深海戦闘機”Hunter”

改良型深海戦闘機”Breaker”

対潜兵装装備戦闘機”Cracker”

上記三種の航空機を確認

 

兵装が装備されていない為、現在は送迎や輸送に使用されている模様

 

補給物資…ガンビア・ベイⅡ、神威Mk.Ⅱが随時手配済み

 

等価交換として鋼材”アビサル・ケープ”を提供

 

判明している居住者は以下数名

 

・太平洋深海棲姫”ヨーグル”

・戦艦ル級flag ship”ルーナ”

・駆逐イ級elite”イーサン”

・重巡リ級”リノン”

他多数の人型及び駆逐艦の居住者有

 

名称不明な深海棲艦は横須賀の学校に通っている者も多数在籍している為、友好的な可能性大

 

尚、この区画付近で”白い鯨を見た”との報告が上がっているが、深海棲艦かは不明

 

報告から”シロナガスクジラのアルビノ種”と予測されるが、調査及び捕獲は禁止

 

以上をもって報告を終了

 

 

 

・ル級flag ship”ルーナ”…イーサンママ

 

谷風と仲が良いイーサンのママ

 

結構明るくて料理も上手なお方

 

水没したハンバーガーショップビルの三階で小さな喫茶店をしている

 

 

 

・太平洋深海棲姫”ヨーグル”…水没都市”東京”のボス

 

真っ白な体と小さな帽子が特徴的な、水没都市”東京”のボス

 

みんなをまとめるお姉さん的な存在で、結構ちゃんとした考えを持っている

 

リチャードとヴィンセントに救われ、水没した東京に住み始め、案外悪く無い生活を送っている

 

見た目の割に声が子供っぽく、第一印象とは良い意味で違った印象を持てる

 

 

 

・イ級elite”イーサン”…優しいイ級

 

横須賀の学校に通っている、とても友好的なイ級。ソフトクリームが好き

 

触り心地はツルツルヘルメット

 

とてもコミュニケーションが取り易く、初めて深海とスキンシップを取る時もイーサンから慣れる子が多い

 

まだまだ多い敵対意識を向ける深海との通訳的な位置に立つ事もでき、マーカス達に可愛がられている

 

谷風と特に仲が良く、背中に谷風を乗っけてその辺ウロチョロしてる

 

 

 

・重巡リ級”リノン”…無口な重巡

 

イーサンと一緒に横須賀の学校に通っている深海の重巡

 

完全無口ではなく、話し掛けたら結構気さく

 

見た目が結構ボーイッシュなので隠れたファンが多い

 

主武装は両腕に付けたナックルみたいな奴だが、どこかで貴子さんの戦い方を見たらしく、アンナヒトニカツノムリ!と判断して友好的な存在になったと言われている

 

最近暑いのでチューブトップブラに変えたらしい

 

 

 

・深海戦闘機”Hunter”…いっぱいいるアイツ

 

一番よく見かけるポピュラーな深海戦闘機

 

よく見るとエッジが効いていてカッコイイ

 

個々の力は弱いが、一度に山程出て来るのでたまに対処が間に合わない

 

マーカスが妖精の時に乗っていたフィリップはこの機体

 

ヌ級が怪我した時にマーカス呼びに来たのもこの機体

 

 

 

・改良型深海戦闘機”Breaker”…猫みたいなアイツ

 

たまに見たらビビる白い猫みたいなアイツ

 

Hunterと比べると結構強いし、いっぱいいる

 

見た目は怖いが、本当はみんなと仲良くしたい

 

口にカバンを咥えて繁華街でおつかいしてるのをたまに見かけるので、手伝ってあげよう。お礼に頭に乗せてくれるぞ

 

 

 

・対潜兵装装備戦闘機”Cracker”…一つ目のアイツ

 

出て来たらヤバイ一つ目の不気味な奴

 

ムッチャ強いが、こっちから攻撃しないと向こうも攻撃しないし、数が少ないので何とかなる

 

みんなが思ってるより小さく、よく電線に止まってる

 

足で掴んでいるアレは、戦闘の時は爆弾やら爆雷だけど、日常の時は缶ジュース

 

変な硬い木の実の中身が好きで、道路に置いて車に殻を割らせて食べるのを目撃されてるが、大して被害は無いので石とか投げないようにしよう。缶ジュースくれるよ



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249話 最弱‼︎狐の旦那、敗走中‼︎(1)

さて、248話が終わりました

今回のお話は、ラバウルのアレンのお話です

空では強者、家庭では最弱のアレン君

今回もしでかします


「ハァ…ハァ…」

 

「Oh‼︎papa⁉︎」

 

アレンはラバウルの基地の中で逃げ回っていた

 

金髪の女性三人に狙われ、行き着いた先はアイちゃんの部屋

 

「今度はナニしたの⁇」

 

「お、俺は悪くない‼︎」

 

アレンはアイちゃんに事の発端を話した

 

 

 

数十分前…

 

「あ〜、上がった上がった‼︎」

 

今日は一日休みなので、朝からお風呂に入り、サッパリして食堂に来た

 

食堂には誰もいない

 

「お」

 

しかし、机の上には何かがある

 

コロッケ

 

ミルクティー

 

「ありがたいな」

 

コロッケを頬張りながら、ミルクティーをゴックゴク飲む

 

脂っ気のあるコロッケを、甘いミルクティーと一緒に食べる

 

やめられないんだこれが

 

椅子に座って雑誌を読みながらコロッケにパクつき、ボトルごとミルクティーをガブ飲み

 

「お。無くなったか」

 

数分もしない内にコロッケもミルクティーも空になった

 

その時だった

 

「コロチャン。ミルクティーを淹れたぞ‼︎」

 

「私はコロッケ作ったのよ〜‼︎みんなで食べましょうね〜‼︎」

 

「Croquette‼︎Milk Tea‼︎」

 

…やっちまった

 

三人の間食だったのか…

 

「さ‼︎刑部の整備に行〜こっと‼︎」

 

雑誌を机の上に置いて、ゆっくり立ち上がる

 

「「「あ」」」

 

三人はすぐに空になった皿とボトルに気付いた

 

「おいアレン。貴様、コロッケとミルクティーを何処にやった」

 

「足生えて外行った」

 

「アレン〜⁇本当は何処に行ったの〜⁇」

 

「胃って言う所に行った」

 

「papaaaaaa‼︎」

 

「ごめん‼︎みんなの奴とは知らずに‼︎」

 

三人に詰め寄られる

 

ネルソンは胸の下で腕を組んでガン見

 

愛宕は笑顔で顔を寄せ

 

コロちゃんは歯をイーッ‼︎としながら威嚇

 

その三人の姿を見て、アレンは逃げ出した

 

そして現在に至る

 

「何でもかんでもEatするからそうなるんのヨ‼︎」

 

「ごめんなさい…」

 

「毎回IowaのRoomに来るシ」

 

「ごめんなさい…」

 

アレンが逃げる時、毎回入るのはアイちゃんの部屋

 

ここが一番被害を逃れやすいからだ

 

「IowaのRoomに来るのはいいの。papaは人の物Eatし過ぎヨ‼︎」

 

「以後気を付けます…」

 

自分の娘の前で正座になり、下を向いているアレン

 

このヒジョーに情けない絵面だが、アレンは結構な頻度でこうなる

 

実はアレン、ラバウルの男衆の中では最弱に近い

 

まずはラバウルさん

 

ラバウルさんは”不触の誓い”を立てている為、とにかく潔白。疑われる事も少ない

 

次に健吾

 

健吾も真面目で、食べたい時はちゃんと言ってちゃんと待つ

 

問題はアレン

 

三人の中で一番物を言い易く、中々頼りになる男でもあるが何やかんやと問題を起こす

 

とにかくつまみ食いが多い

 

その他を上げれば、脱走、爆発、言い出したらキリがない

 

そして、そうなった場合毎回逃げ込むのはアイちゃんの部屋

 

ここならとりあえず怒られる心配はないからだ

 

「どこに行った‼︎」

 

「アイちゃんの部屋よ‼︎」

 

「Umuuuu…」

 

「ホラ、来たワ」

 

「いいかアイちゃん‼︎パパが来たのは内緒だぞ⁉︎」

 

そう言うアレンの手は既に窓枠に掛かっている

 

「明日オカシ買ってくれル⁇」

 

「一つだけな‼︎」

 

「Mama〜‼︎」

 

「三つ‼︎三つ買うから‼︎な⁉︎」

 

「OK‼︎GO‼︎」

 

アレン、窓枠から飛び出し敗走



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249話 最弱‼︎狐の旦那、敗走中‼︎(2)

アレンが敗走した先…

 

「日進助けて‼︎」

 

工廠内にあるPCの前

 

そこに日進がいた

 

「お⁇何じゃ⁇わしに用か⁇」

 

「愛宕とネルソンとコロちゃんに追われてる‼︎」

 

「そ〜かそ〜か。ま〜た父上は母上に要らん事したんじゃな⁇ま〜ここに居るとえぇ‼︎」

 

日進は気楽に構えている

 

どうせまた父上が要らん事して追われているんじゃなぁ…位にしか捉えられていない

 

「そういやぁ、そろそろかのぅ」

 

「何かあるのか⁇」

 

「母上と愛宕がコロッケと茶を淹れてくれよるんじゃ‼︎」

 

「え〜とぉ〜、そのぉ〜…」

 

その言葉を聞き、アレンは挙動不審になる

 

「父上」

 

「はい」

 

「食べてもうた以外の言葉で説明しんさい」

 

「足が生えて俺の胃って所に逃げて来たんだ‼︎俺は悪くない‼︎」

 

「ほ〜かほ〜か…」

 

「に、日進さん‼︎違うんです‼︎」

 

「母上達が父上を追い掛け回しちょるのがよ〜分かったき。お縄じゃ‼︎」

 

「危ない‼︎脱走‼︎」

 

飛び掛かって来た日進をかわし、アレン、再び敗走

 

 

 

 

「ほっ」

 

「うわっ‼︎」

 

バリィィィィィイン‼︎と音を立て、体当たりで破られた健吾の書斎窓

 

「ど、どうしたのアレン⁉︎」

 

「後でお菓子買ってやるから、俺が来たのを黙っててくれ‼︎窓も直す‼︎」

 

「わ、分かった‼︎」

 

アレンは本棚の間に挟まり、身を隠す

 

「な…何やってんら⁇」

 

「あぁ、これ⁇俺も俺なりに色々勉強してるんだ。ほら、俺って高校中退だから…」

 

「心配しゅんな。俺なんか小学校もまともに行ってにゃい」

 

「…苦しくない⁇」

 

「こりょされりゅよりましら‼︎」

 

ミチミチになったアレンを見て、健吾は微笑んだ

 

「健吾」

 

「ん⁇」

 

「お前、笑うと可愛いんだな」

 

健吾はあまり笑わないが、たまに微笑んでいる

 

今のようにたまに笑顔を見せると何処と無く女の子っぽい

 

「やめてよ‼︎男同士じゃん‼︎」

 

「さっき何かが割れる音がしたぞ‼︎」

 

「き、来た‼︎」

 

「おい健吾‼︎開けてくれ‼︎」

 

「あ、はいは〜い‼︎」

 

ネルソンの声が聞こえ、健吾はドアに向かって行った

 

「今の内に〜…ん⁇」

 

アレンは再び窓から出ようとした

 

「ん〜⁇」

 

健吾が机で書いていた手帳の名前部分を見た

 

「か、し、わ、ぎ…梨…え…」

 

「いたぞ‼︎」

 

「ヤバ‼︎」

 

ネルソンにバレ、アレンは書斎から出た

 

 

 

 

「何で帰って来るのヨ…」

 

「行く所がなくなってなっ‼︎」

 

「もぅ…」

 

結局行き着く先はアイちゃんの部屋

 

アイちゃんが眼鏡を掛けて机で何かしている横で、アレンはアイちゃんの漫画を見て身を潜める

 

そんな中、アイちゃんの部屋の角にある避難通路用の地下通路の蓋が開いた

 

「Unnnn…あ‼︎いた‼︎papa‼︎」

 

「ホラ、来たわヨ‼︎」

 

「こ、コロちゃん‼︎」

 

アレンは一瞬でアイちゃんの背中に隠れた

 

地下から出て来たのはコロちゃん

 

手には縄を持っている

 

「どうして分かったノ⁇」

 

「papa、動きがOne Pattern」

 

「ゔっ…」

 

物凄いジト目でアレンを睨むコロちゃん

 

「それにColorado、Trap好き。Trapの基本は地形の把握よ‼︎さぁ、来なさい‼︎」

 

「ぐわ‼︎」

 

コロちゃんは縄をアレンに巻き、ぐるぐる巻きにした後床を引き摺ってアイちゃんの部屋を出た

 

「アイチャンも行こ‼︎mamaがcroquette作り直してくれたの‼︎」

 

「OK‼︎」

 

コロちゃん、アレン、アイちゃんの順番で食堂を目指す

 

「アイちゃん。助けて」

 

「今回もpapaが悪いワ⁇」

 

「mama、Angry」

 

「papa、そろそろcroquetteにして貰う⁇」

 

「ヤダヤダヤダヤダー‼︎」

 

アレンが暴れる中、食堂に着いた

 

「papa、captureした‼︎」

 

「よくやったぞ‼︎」

 

「偉いわよコロちゃん‼︎」

 

アレンは食堂に着いてもぐるぐる巻きのまま、五人が食べ終わるのを待つ…

 

「papa」

 

「アイちゃん…」

 

途中、アイちゃんが来てくれた

 

手には哺乳瓶を持っている

 

「コロちゃんにmilk tea、飲ませてくれる⁇」

 

「飲ます‼︎飲ますから解いて‼︎」

 

「OK‼︎」

 

アイちゃんに縄を解いて貰い、哺乳瓶を受け取る

 

「ほらコロちゃん。ミルクティーだぞ〜」

 

アレンはその場に屈み込み、コロちゃんに分かるように哺乳瓶を振ってアピールする

 

「ン…」

 

コロッケを頬張るコロちゃんは、口をモグモグしながらアレンの方に振り向いた

 

ズッ…

 

「うっ…」

 

アレンをビビらせるかのように、コロちゃんは急に動いては止まる

 

ズッ…

 

ズズッ…

 

「ゆっくり来い…頼むから…」

 

ザッ‼︎

 

「ヒィ‼︎」

 

急に動き、アレンの手から哺乳瓶を奪い取った

 

しかし、アレンの前からは離れない

 

元々コロちゃんはアレンが嫌いな訳では無い

 

前回も今回もそうだが、人の物を取るからこうなるのだ

 

「よしよし…」

 

なのでこうして哺乳瓶からミルクティーを飲んでいる最中のコロちゃんの頭を撫でても問題無い

 

「日進も美味いか⁇」

 

「うぬっ‼︎サクサクで美味しいのぅ‼︎」

 

「コロちゃん。ゲポーよ⁇」

 

愛宕がそう言うと、コロちゃんはアレンの手を取り”叩け”と促す

 

察したアレンはコロちゃんの背中をポンポンし始めた

 

「ゲポ…Thank you‼︎」

 

ちゃんとゲップを出したコロちゃんはアレンのほっぺたにチューした後、アイちゃんの所で遊び始めた

 

「ちゃんとアレンを好いているなっ‼︎」

 

「良かったわね、アレン⁇」

 

「良かったよ…てっきり嫌いなんだと思ってた…」

 

「嫌いじゃったら父上の所に行かんじゃろうて」

 

ホッと胸を撫で下ろすアレン

 

「ほれほれ父上‼︎わしが飲ましちゃる‼︎」

 

アレンのコップに新しいミルクティーが注がれる

 

「ありがとう」

 

アレンはそれを飲み、日進はアレンを見る

 

「他の人にしてもろた事あるかぇ⁇」

 

「何度かはな⁇心配するな、浮気じゃない‼︎」

 

「日進。アレンは仕事上付き合いが多い。それに毎日命を削る立派な職だ。そういった店に一時の疲れを癒しに行く事も普通なんだ」

 

「私達はその人達とは別の愛し方をすればいいのよ‼︎」

 

「母上。二人はなしてそんなに寛容なんじゃ⁇」

 

「それはだな…」

 

「それはね〜‼︎」

 

二人は同じ答えを出した

 

「「最後にアレンが帰って来るのはここだから」」

 

日進は母上二人の寛容さに感服していた

 

そしてそれは、この先少しずつ日進にも染み付いて行く事となる…



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249話 最弱‼︎狐の旦那、敗走中‼︎(3)

その日の夜…

 

「papa、Bath‼︎」

 

「アレン。コロチャンを頼めるか⁇」

 

「おしゃ‼︎行こう行こう‼︎お〜らチェックメイトッ‼︎」

 

「くそ〜‼︎マジじゃんか‼︎」

 

チェスでチェックメイトを取られて悔しがる健吾をよそに、コロちゃんと露天風呂に向かう

 

「papa。ColoradoもChessしたい‼︎」

 

「おっ‼︎コロちゃんもチェスしたいか‼︎今度のお休みの日に教えてやろうな‼︎」

 

抱っこしたコロちゃんとニコニコしながら脱衣所に着く

 

「よいしょっ‼︎」

 

「脱いだ‼︎」

 

最近体付きが若干コロコロし始めたコロちゃん

 

成長したのだろうか⁇

 

それもあるだろうが、身長はあまり伸びていない

 

元々2.5頭身なのが、2.6頭身位になった位だ

 

そう。コロッケの食い過ぎである

 

しかもコロちゃんは思っているより大人しい

 

普段基地にいる時はアイちゃんとチアをしたり、日進とおえかきをする位大人しい

 

しかし、トラップを張る時や今日のようにアレンを探しに来る時等、動く時にドバッと動くタイプだ

 

「お湯かけような〜」

 

「OK〜‼︎」

 

毎朝ネルソンに編んで貰っているカチューチャの形に編まれた髪を解きながら湯を浴びせる

 

「ン〜…」

 

髪を下ろすと何処と無くネルソンにも似ている気がするが、顔はやっぱり俺の方が近い

 

ネルソンに似たポイントは何処だろうか…

 

「温泉egg‼︎」

 

体を洗い終えて露天風呂に浸かりながら、コロちゃんは温泉たまごを食べ始める

 

アレンも数個食べ、コロちゃんが持って来てくれたたまごをもう一つ食べ始める

 

「papa」

 

「ん〜⁇」

 

「どうしてmamaを好きになったの⁇」

 

「ネルソンの事か⁇」

 

「yes」

 

露天風呂に浸かりながらコロちゃんはアレンの膝の上に乗り、温泉たまごを食べながらネルソンの事を聞いて来た

 

「ネルソンはな、凄くカッコ良いんだ。パパよりずっとず〜っと、強くてカッコ良いんだ。それに、笑うと凄く可愛いんだ」

 

「mama、cute⁇」

 

「キュートだぞ⁇みんな知らないだけさ。パパは知ってるんだ、ネルソンの可愛い所を沢山な⁇」

 

「mamaのどこが好き⁇」

 

「全部さ。外見も性格も、パパはネルソンの事を全部好きなんだ」

 

「Atagonは⁇」

 

「愛宕も同じさ。全部好きだ」

 

「フ〜ン…mamaに言ってこよ‼︎」

 

イタズラな顔をしながらコロちゃんは露天風呂から出た

 

脱衣所でコロちゃんの体を拭き、パジャマを着させて食堂に戻る

 

その道中、コロちゃんを抱っこしながらお話は続く

 

「今度、ひとみちゃんといよちゃんと遊んでみるか⁇」

 

「ニッシンは⁇」

 

「日進も連れてさ‼︎」

 

「行く‼︎」

 

コロちゃんにとって、敵わない子がひとみちゃんといよちゃん

 

Coloradoが危ないトラップを張れば、ひとみちゃんといよちゃんが解除しに来る…そう認識されている

 

それでも仲良くしたいのには変わりは無い

 

近々横須賀で子供達を交えて遊ばせてみるか…

 

 

 

 

「Good Night、papa」

 

「おやすみ、コロちゃん」

 

ネルソンに連れられ、コロちゃんはベッドに入った

 

「てな訳でアレン〜⁇」

 

「あ、愛宕さん…⁇」

 

ニコニコ笑顔の愛宕が近付いて来る

 

「ど〜して私の分のたまごも食べちゃったのかしら〜⁇」

 

「はっ…‼︎」

 

コロちゃんが持って来てくれる前に小腹が空いたので数個食べた

 

どうやら愛宕の分だったらしい

 

「ごめんなさーい‼︎」

 

「待ちなさい‼︎アレン‼︎」

 

アレンは一室に逃げ込んだ

 

「ハァ…ハァ…」

 

「papa⁉︎まだ逃げてるノ⁉︎」

 

「お願いしますアイちゃん。ここで寝かせて下さい‼︎」

 

相も変わらず逃げ込むのはアイちゃんの部屋

 

「今日だけよ⁇OK⁇」

 

「OKOK‼︎」

 

結局その日、アレンはアイちゃんの部屋で寝た

 

次の日の朝食、罰としてアレンのゆで卵だけ無かったのは別のお話…



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250話 ゲームセンター修理工

さて、249話が終わりました

早い話で250話です

ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます

そして、期間が空いてしまい申し訳ありませんでした

ここ最近地元では雨が多く、最近はずっと寝込んでいました

今回のお話ですが、この後に続くお話の繋ぎになります

そして、あるパイロットの外見が粗方明らかになります


「よしっ。こんなもんだなっ」

 

「忙しそうね」

 

「ヒュプノスか‼︎アイスでも食うか⁇」

 

「頂くわ」

 

真夏の炎天下の中、繁華街である準備をしていた所にヒュプノスが来たので、近くのベンチに座って一服する事にした

 

持って来たクーラーボックスの中からアイスを取り出し、ヒュプノスと一緒に食べ始める

 

「今日は色が違うのね」

 

「たまにはイメチェンさっ」

 

ヒュプノスの目線の先には革ジャンがある

 

朝方貴子さんが

 

「今日は黒い革ジャンじゃなくてこっちにした方が良いわよ⁇」

 

と言って渡してくれた、貴子さんの肌と同じ色をした褐色の革ジャンを着て来た

 

「案外そっちも似合ってるじゃない」

 

「これを着ると冒険家に間違われるんだ…」

 

「あ。冒険家なのです」

 

「トレジャーハンターに鞍替えしたの⁉︎」

 

言ったしりから雷電姉妹が来た

 

「な⁇」

 

「ふふっ。隠居のルートが増えたじゃない」

 

「結構似合ってるのです‼︎」

 

「そりゃど〜もっ」

 

話しながら電の前にソフトクリームを出すと、一齧りしたのでそのまま持たせた

 

「ありがとなのです‼︎」

 

「雷はどうする⁇買って来るか⁇」

 

「私のをあげるわ。シャーベットだけど」

 

「先生、いいの⁇」

 

「えぇ。食べて行きなさい」

 

「ありがとう‼︎」

 

雷電姉妹からしても、ヒュプノスはプールの先生

 

普段は人懐っこいイタズラ好きな女の子だが、ヒュプノスの時は若干クールだ

 

クール…

 

別の意味で今一番欲してる奴だ…

 

「ヒュプノスは平気そうだな⁇」

 

「普段プールにいるからね。その代わり、冬場もいるわ⁇」

 

「一概に良いとは言えんな…」

 

「…お父様、随分懐かれてるのね⁇」

 

ヒュプノスに言われて気付いた

 

いつの間にか雷電姉妹は俺の膝の上に乗ってアイスを食べている

 

「今度私も試そうかしら⁇それとも…変な気分になりそうかしら⁇」

 

イタズラにヒュプノスが笑う

 

「あるのですか⁇」

 

「あるの⁇」

 

「横須賀はケツデカイからな…たまにあるかな」

 

「夜にマーカスさんの上でスクワットしてるって聞いたのです‼︎」

 

「おっきいお尻が好きなのね‼︎」

 

「健康的な嗜好で安心したわ」

 

四方八方から滅多打ち

 

電に至っては、何故か夜の事情を知っている

 

「よし‼︎お菓子買ってやるから黙ってて貰おうか‼︎」

 

「「わーい‼︎」」

 

雷電姉妹が喜ぶ中、ヒュプノスだけは怪しく微笑む

 

「お父様はお尻がお好き…ふふ、そう…」

 

「残念だなヒュプノス‼︎俺は別の部位のがもっと好きだ‼︎」

 

「おっぱいなのです」

 

「おっぱいね」

 

「お胸⁇」

 

「あの、ちょっと、雷電さん」

 

三人は俺を置いて話を続ける

 

「マーカスさんはおっぱいが好きなのです」

 

「横須賀さんはかなりおっきいでしょ⁇」

 

「なるほど…アイリスがあの姿でボディを持ったのも納得だわ」

 

「あ、あのだな…」

 

三人の視線が痛い…

 

当たってるだけに痛い…

 

ここはチンチンに熱くなったアスファルトに膝を置いて土下座スタイルで行くしか…

 

「あ、おっぱいなのです‼︎」

 

「どれだ‼︎」

 

左を振り向くと、おっぱいが顔に当たった

 

スゲェ柔らかい…

 

良い匂いもする…

 

これは万人ウケするフカフカ具合だ…

 

「満足ダズルか」

 

「げ‼︎」

 

「げ‼︎とは何ダズル‼︎」

 

顔を上げると、そこに居たのはノーモーションの榛名

 

「悪い‼︎」

 

咄嗟に離れて頭を下げる

 

下手すりゃ死んだか…⁇

 

「乳の一つや二つ触られた所で、別に減るもんじゃねーダズル」

 

「悪かったよ…」

 

榛名がこう言った事に寛容な奴で助かった…

 

「悪いと思うならちょっと来るダズル」

 

「え‼︎うそ‼︎」

 

榛名の肩に担がれ、何処かに連れて行かれそうになる

 

「ヒュプノス‼︎三人でこれで好きなもん食って来い‼︎」

 

「分かったわ」

 

ヒュプノスに小銭入れを投げ渡した…

 

 

 

 

「よっこらせ」

 

「ゲーセンか⁇」

 

榛名が連れて来たのはゲームセンター

 

そこでようやく降ろして貰えた

 

「ザラ‼︎連れて来たダズル‼︎」

 

「すみませんマーカスさん‼︎」

 

ザラがカウンターから出て来た

 

「どうした⁇珍しいな⁇」

 

「実はクレーンゲームが故障してしまって…後、シューティングゲームの標準も合わなくて…」

 

「分かった。直そう」

 

「言ったダズル‼︎」

 

「ホントだ…」

 

ザラに案内され、まずはシューティングゲームの所に来た

 

「タイムクラッシャーか」

 

シリーズの最新作のシューティングゲームがそこにあった

 

コントローラーが拳銃の形をしており、ペダルを踏んで隠れるアクションが出来る、中々作り込まれたこの筐体

 

二人プレイも可能で、昔アレンや隊長とした記憶がある

 

デモ画面が流れているが、昔と違ってかなりリアルになっている

 

「赤い方の台の標準がおかしくて…」

 

「榛名。100円あるか⁇」

 

「しゃーねーダズルな」

 

「あ‼︎いやいやいや‼︎ザラが出しますよ⁉︎」

 

榛名に100円を借りようとしたが、ザラが台を開けてクレジットを入れてくれた

 

そして、トリガーを引いた状態でスタート

 

「えーと…あぁ、これだ」

 

設定画面を開いて標準モードを出し、的を数発撃って標準を元に戻す

 

「撃ってみてくれ」

 

そのままゲームが開始され、榛名にコントローラーを渡す

 

「おぉ‼︎こりゃあいいダズル‼︎ザラ、ちょっとやってみるダズル‼︎」

 

ザラも少しプレイ

 

「ホントだ‼︎ありがとうございます‼︎」

 

「次だな」

 

サラッと見た二人の射撃の腕に若干驚く

 

榛名は三人

 

ザラは五人

 

それを寸分違わず全弾頭を撃ち抜いていた

 

「これなんです」

 

次はクレーンゲームの前に案内される

 

「どう足掻いてもアームのパワーがクソダズル」

 

「ザラ。キーと工具箱を」

 

「畏まりました‼︎」

 

榛名と一緒にクレーンゲームの中を見る

 

「繁華街の奴のフィギュアダズルな‼︎」

 

「おぉ〜‼︎これは良いな‼︎」

 

クレーンゲームの中には、繁華街で働いている艦娘達のフィギュアがあった

 

ちゃんとした箱に入っており、それぞれの店構えと艦娘のフィギュアがセットになっている

 

例えば、駄菓子屋”足柄”のミニチュアと、足柄本人のフィギュア

 

俺的には内装がかなり凝っている高雄の部屋と高雄本人のフィギュアセットが一番欲しい

 

「結構人気あるんですよ⁇一般の方の開放日にも取っていく方がいらっしゃるんです」

 

工具箱とキーを受け取りながらザラと話す

 

「一番人気は何だ⁇」

 

「中年の方が居酒屋”鳳翔”と鳳翔さん本人のフィギュアセットを良く取って帰られます」

 

「分かる気がする…これも上手いな…」

 

内装までほぼ完璧に再現された居酒屋”鳳翔”内部

 

ゲーセンの景品にしとくにはもったいないクオリティだ

 

「誰が作ったんだ⁇」

 

ここにあると言う事は基地内に作ったやつがいるはずだ

 

「涼平さんです‼︎彼凄いんですよ⁉︎何でもミニチュアで再現出来るんです‼︎」

 

「納得だなっ」

 

涼平ならこれだけのミニチュアを作っても納得する

 

「後は金型を頂いたので、手隙の艦娘が内職として作ってます」

 

「人気があってやり過ぎるからブッ壊れた、と」

 

「そうなんです…」

 

「どれっ‼︎ちょっくら見てやるか‼︎」

 

クレーンゲームのガラス窓を開け、まずはアームの様子を見る

 

「ボルトが緩いな…」

 

アームのボルトを締め、動作確認に入る

 

マスターキーで本体を開け、クレジットを点灯させ、クレーンを動かす

 

「あ〜、上か‼︎」

 

クレーンの上のレールがガタついている

 

「ザラ、榛名、ちょっと時間掛かりそうだ」

 

「直して貰えますか⁇」

 

「んじゃ、榛名はワニ叩いてくるダズル‼︎」

 

榛名はワニを叩きに行き、ザラが残る

 

「10分位掛かりそうだ。サイダー淹れて待っててくれないか⁇」

 

「畏まりました‼︎お願いします‼︎」

 

「さてと…」

 

早速作業に取り掛かる…

 

 

 

5分後…

 

「レールはこれでいいな。後は配電盤だけ見るか」

 

クレーンはちゃんと力強く動き始めた

 

最後にもう一度中を開け、配電が狂っていないか確認する

 

「忙しそうですね、大尉」

 

「ん⁇」

 

仰向けで上半身が完璧にクレーンゲームの中に入っていたので顔を下げた

 

「ダイダロスさん‼︎怪我はもういいのか⁉︎」

 

そこに居たのはダイダロスさん

 

その後ろで涼月が飴を掬うゲームをしているのが見えた

 

「えぇ‼︎お陰様で‼︎」

 

「ちょっと待ってくれ‼︎よっこら‼︎」

 

クレーンゲームの中から出て、ドアを閉める

 

特に異常は無かった

 

修理はこれでお終いだな

 

「今日はデートか⁇」

 

「そうです。ハニーがここに来たいと言いましてね」

 

「なるほど…これは邪魔しちゃ悪いな‼︎」

 

「こちらこそ、作業中に申し訳ありませんでした」

 

「落ちませんっ…‼︎」

 

スチャ…

 

いざダイダロスさんと別れようとした時、不穏な声と音が聞こえた

 

「涼月‼︎爆弾はよせ‼︎」

 

「爆弾で揺らせば落ちますっ…‼︎」

 

涼月は手榴弾のピンに手を掛けている

 

「だぁーーーっ‼︎分かった分かった‼︎俺が積んでやるから‼︎なっ⁉︎」

 

「分かりましたっ…‼︎」

 

急いで涼月の台を開け、流れている飴をプッシャーに山盛りてんこ盛り乗せて事無きを得た

 

「これなら取れますっ…‼︎」

 

「軽く揺らす位にしてくれ」

 

「爆弾よりはっ…マシですかっ…⁇」

 

「そういう事だっ‼︎」

 

その後、涼月は黙ってゲームを続け始めた

 

 

 

 

ザラのカウンターバーに戻って来た

 

「修理終わったぞ」

 

「ありがとうございます‼︎助かりました‼︎」

 

カウンターの向こうでザラがサイダーとポテトを作ってくれている

 

「一応問題無く稼働出来る。後は筐体次第だなっ」

 

「結構古い台ですからね…」

 

「それが逆に良かったよ。最新機種なら一から覚え直しさっ」

 

「さっ、お疲れ様ですっ‼︎どうぞ‼︎」

 

笑顔のザラがサイダーとポテトを俺の前に置いてくれので、それと同時にキーと工具箱をザラに返した

 

「ダイダロスさんって、涼月さんと良くいますね⁇」

 

「娘みたいなもんだろ⁇自分に懐いてくれた初めての艦娘が涼月だからな」

 

「マーカスさんと、きそさんの様な関係ですか⁇」

 

「…いいかザラ」

 

「はい…」

 

俺は飲んでいたサイダーをカウンターに、タンッ‼︎と置いた

 

「きそは妹だ‼︎」

 

「ひっ‼︎」

 

「たまにはいいだろ⁇」

 

「目が怖いですよ…もう…」

 

ザラは物分かりの良い子なので、すぐに分かってくれた

 

「そうだ‼︎マーカスさん、新しい台が入ったんです‼︎やって行きませんか⁇」

 

「どれだ⁇」

 

「あれです‼︎」

 

ザラの目線の先にはテーブル台がある

 

テーブル台は向かい合わせに設置されており、対戦か協力プレイが可能みたいだ

 

「お金は要りませんので、少しお試しになって下さい」

 

「どれどれ…」

 

ザラに案内され、その台の前に座る

 

横スクロールの格闘ゲームみたいだ

 

「行きますね」

 

「おしゃ‼︎」

 

ザラにクレジットを入れて貰い、ゲームスタート

 

《この世は殺戮の時代。略奪と暴力が世を制す中、一人の少女が立ち上がった‼︎》

 

「…」

 

物凄い汗臭い敵キャラの立ち絵が大量に出た後、女の子の立ち絵が出て来た

 

その子が主人公みたいだ

 

”KBK・ハチジョー”

 

中々可愛いキャラだが、どう戦うのか…

 

《ハチジョー‼︎》

 

《ウワー‼︎》

 

通常攻撃ボタンを押して敵がやられた瞬間、すぐにザラを呼んだ

 

「ザラ‼︎ザラ‼︎」

 

「はいはーい‼︎どうされました⁇」

 

「こんな可愛いナリして口からビーム出すのか⁉︎」

 

このハチジョーとかいう中々可愛いロリキャラ

 

普通の攻撃が直線ビームであり、しかも口から出る

 

「手から誘導レーザーも出ますよ⁇溜め撃ちしてみて下さい」

 

通常攻撃ボタンを長押しし、数秒後に離した

 

《ハチジョーハチジョー‼︎》

 

《ウワー‼︎グワー‼︎》

 

ピウンピウン音を出し、誘導レーザーで敵を貫くハチジョー

 

しかし何故だろう…

 

謎の爽快感はあるので、何故かは分からないがのめり込んでしまう

 

そんな中、向こうの台に誰かが座ってクレジットを入れた

 

《協力者が来たぞ‼︎ハチジョーのお友達だ‼︎》

 

《KBK・イシガキ。推参》

 

今度も可愛いロリキャラ

 

ハチジョーが亜麻色の髪なら、イシガキは黒いショートヘアーだ

 

問題は攻撃だ…

 

《イシガキー‼︎》

 

《ギャーキャー‼︎》

 

「…」

 

「…一緒ですね⁇」

 

イシガキも口からビームを出した

 

投げ技をして敵を空中に放り投げてビームで攻撃している

 

「レイもゲームするんですね⁇」

 

「鹿島か」

 

反対側に居たのは鹿島だった

 

互いにゲームをしながら会話を続ける

 

「このゲーム、健吾さんがモデルのキャラがいるんですよ⁇」

 

「どいつだ⁉︎」

 

「私が操ってるキャラです」

 

KBK・イシガキ

 

言われてみれば若干健吾に似ている

 

「じゃあこのハチジョーは誰なんだ⁇」

 

「ワンコ君です」

 

ハチジョーは確かに犬っぽいが、ワンコに似ているかと言えば似ていない

 

多分雰囲気だけだろう

 

しかし、イシガキは健吾に似ている

 

健吾が目を細くしたら確かにイシガキだ

 

《世界は再び平和な世界となった‼︎ありがとう‼︎カードが出るぞ‼︎》

 

「カード⁉︎」

 

台の下からハチジョーのカードが排出された

 

ラメ加工がしてあり、子供が好きそうなデザインだ

 

「レイ⁇時間は空いてますか⁇」

 

「今日は空いてない。ザラ‼︎ありがとうな‼︎」

 

「あ、あの‼︎ありがとうございました‼︎」

 

「これ位ならいつでもっ‼︎」

 

ゲームセンターを出るまでに、榛名がパンチングマシン、涼月とダイダロスさんが自販機でアイスを食べているのが見えた

 

「レイ。今日何があるんですか⁇」

 

ゲームセンターを出ると鹿島が着いて来た

 

「夏祭だよ‼︎その準備してたんだ‼︎」

 

「もうそんな時期ですか…私も手伝いますっ‼︎」

 

鹿島も連れて、繁華街で準備に取り掛かる…




KBK・ハチジョー…口からビーム出す奴

横須賀のゲームセンターにあるテーブル台ゲーム”メタル・カイボー”のキャラ

いつもロリポップキャンディーを咥えているが、実はビームのエネルギー源

汗臭い男衆をビームで倒しまくるが、実は気絶させて反省させてるだけ

敵を倒した時たまに落とす”H”マークを取ると手から”ハチジョー・マシンガン”が撃てる

でも結局一番強いのは口から出すビーム

ワンコがモデルだが、雰囲気位しか似てない




KBK・イシガキ…口からビーム出す奴2

KBK・イシガキの相棒で、コイツも口からビーム出す

しかし”H”マークを取ると出るのは”ハンド・キャノン”

エネルギーはイシガキからの飴の補給であり、補給を受ける事でビームを撃てる


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横須賀繁華街夏祭り・その1〜男二人の夏祭り〜

さて、250話が終わりました

今回のお話は、横須賀繁華街で開かれる夏祭りのお話です

最初はマーカスとアレンの巡回ルートになります

駆逐艦に懐かれやすい彼等

夏祭りでもその力を発揮します


繁華街がいつも以上に騒がしくなって来た

 

「きやこた‼︎」

 

「きやかい‼︎」

 

両肩に乗せたひとみといよが屋台の文字を読んでいる

 

「随分久々にする気がするわね⁇」

 

「そうだな。ここ数年の夏は色々あったからな⁇」

 

ここ数年、海の家建設等、色々な出来事が夏にあった

 

「ひとみちゃん、いよちゃん。私とお祭り回ろっか‼︎」

 

「よこしゅかしゃんといく‼︎」

 

「えいしゃんおしごろ⁇」

 

「そっ。アレン達と見回りに行って来る」

 

横須賀に降ろして貰ったひとみといよはちゃんと横須賀と手を繋いだ

 

「じゃあ、また後でね⁇さっ‼︎何しよっか‼︎」

 

横須賀とひとみといよが屋台が連なる繁華街に入って行った

 

「レイ‼︎」

 

「おっ‼︎来た来た‼︎」

 

アレンが来た所で見回り開始‼︎

 

とはいえ、見回りとは名ばかりの屋台巡り

 

「おっ‼︎早速ご登場だな‼︎」

 

「摩耶‼︎」

 

相変わらず摩耶は屋台にいる

 

「弁当屋はどうした⁇」

 

「今日は休みさ‼︎見回りだろ⁇ほら、これ持ってけ‼︎」

 

「おっ‼︎サンキュー‼︎」

 

「ありがとな‼︎」

 

摩耶からラムネを買い、それを飲みながら屋台を回る

 

「今日は新しい奴はあるのか⁇」

 

「ガリバルディ辺りが怪しいな…何かやりそうじゃないか⁇」

 

「確かに…」

 

ラムネを飲みながらも俺達は歩みは進める

 

「はんっ‼︎私の方が大っきいわね‼︎」

 

「なっ‼︎わたしの方が大っきいわよ‼︎」

 

「喧嘩しないで〜」

 

金魚すくいの所で誰かが喧嘩している

 

「おっ‼︎霞と満潮は金魚すくいか‼︎」

 

「どれどれ…」

 

喧嘩していたのは霞と満潮

 

二人共アレンの前に金魚の入ったポリ袋を突き出している

 

この二人は相変わらず喧嘩友達だが、いつも取っ組み合いの喧嘩までは行かず、何故かいつも一緒にいる

 

そして、金魚すくいの屋台には見慣れない女性がいた

 

「君は見慣れないな⁇」

 

「天龍ちゃんが時々お世話になってま〜す」

 

ほんわかした話し方をする女性

 

霞と満潮を見る目もニコニコ笑顔だ

 

「龍田‼︎自己紹介になってないぞ‼︎」

 

「あ〜、ごめんなさ〜い。龍田で〜す」

 

「俺の妹だ‼︎宜しくな‼︎」

 

「宜しくな‼︎」

 

「妹だって」

 

霞は俺の嗜好を知っている為、此方を向いてニヤついた

 

「大尉、妹フェチなの⁉︎キッショ‼︎」

 

満潮の言葉で、俺の顔がそちらに向く

 

「な、なんだと⁉︎満潮‼︎ちょっと来なさい‼︎いいか⁉︎妹ってのはだな‼︎」

 

「あーもー‼︎話長そうだからいい‼︎じゃあね‼︎霞‼︎行くわよ‼︎」

 

「ちょっと‼︎あぁもう…み、見回り頑張んなさいよ‼︎」

 

「待ちやがれ‼︎キッショとはなんだキッショとは‼︎」

 

「わーったわーった‼︎レイ‼︎」

 

アレンに羽交締めにされ、致し方なく動きを止めた

 

「口噛み酒の狐ヤロー‼︎」

 

それを聞いたアレンは俺から腕を離し、手をパキパキ鳴らし始めた

 

「しゃ‼︎あのクソガキドーナツをシバきに行くかぁ‼︎」

 

「レイさんとアレンさんなのです‼︎」

 

「さっきはありがとう‼︎」

 

浴衣に着替えた雷電姉妹が前から来た

 

「おっ‼︎随分美人さんになったな⁇」

 

「電はいつだって美人さんなのです‼︎」

 

「イク先生に着替えさせて貰ったの‼︎」

 

目の前で嬉しそうにクルクル回る二人を見て、俺もアレンも顔が綻ぶ

 

「会場に異常はないか⁇」

 

「異常ないのです‼︎」

 

「強いて言うならまた太鼓櫓があったわ‼︎」

 

「…破壊しなければ」

 

「…あれはヤバいな」

 

「隊長さんとエドガーさんがそこにいたし、結構人も集まってたわ‼︎」

 

「レイ。貴重な情報を提供してくれた子に褒賞を」

 

「んっ‼︎貴官は勇敢にも敵地に侵入し情報を持ち帰った。ここにその栄誉を讃えよう」

 

俺とアレンは千円ずつ財布から取り出し、雷電姉妹に渡した

 

「ありがとなのです‼︎」

 

「ありがとう‼︎電、チョコバナナ食べましょ‼︎」

 

雷電姉妹は横須賀の駆逐の中でも良く動く

 

そして俺達に良く懐いてくれている

 

なので、こうした情報を得られるのも早い

 

「いらっしゃいいらっしゃい‼︎くじ引きやって行かないかい‼︎」

 

「ガリバルディ‼︎」

 

やっぱりガリバルディがいた

 

「おっ‼︎マーカスさんと狐の旦那‼︎」

 

「俺のあだ名はそれかよ…」

 

ここ最近、アレン=狐の旦那とのあだ名が広まって来た

 

「俺のあだ名はなんだ⁉︎」

 

「マーカスさんだろ⁇」

 

「ないのか‼︎」

 

「ないな‼︎」

 

どれだけガリバルディに言っても俺のあだ名は出て来ず、大体皆が言っている

 

レイさん

 

マーカスさん

 

で終わった

 

「よしアレン。くじ引きをしてやろう」

 

「いいだろう。一等はなんだ‼︎」

 

「マーカスさんと狐の旦那なら子供向けの奴じゃ割に合わないな…よし‼︎あたし達が書いた謎の設計図でどうだ‼︎」

 

ガリバルディが一等の景品を変えて来た

 

「出た‼︎謎の設計図‼︎」

 

あれは不思議な設計図が多い

 

役に立たない物から、物凄く便利な物までピンからキリだが、ガリバルディが持っているのは便利な物だろう

 

「いいだろう…受けて立ってやる‼︎」

 

「ダーリン‼︎ナニしてるノー‼︎」

 

タイミング良くジャーヴィスが来た

 

「ジャーヴィス‼︎やってみるか⁇」

 

「クジビキすル‼︎」

 

「ほらっ‼︎好きなの引きな‼︎」

 

ガリバルディがガシャガシャする箱の中の前にジャーヴィスを抱き上げ、手を入れさせた

 

「俺の分と二枚引いてくれ」

 

「はい‼︎」

 

クジを持ったジャーヴィスを降ろし、中を開ける

 

「1が2コ‼︎」

 

「しゃ‼︎」

 

ジャーヴィスはくじ引きの中に二枚しかない一等を二つ共引いた

 

ジャーヴィスは何故か運系のゲームに強い

 

そう言えば、母さんも何だかんだトランプとかが強い

 

ジャーヴィスにも運の良さが遺伝したのか⁇

 

「ほらよ‼︎君は〜…こっちだな‼︎」

 

「Thank you〜‼︎あは‼︎」

 

俺は目当ての謎の設計図

 

ジャーヴィスはテディベアを貰った

 

「狐の旦那はどうする⁇」

 

「一等はもうないのか⁇」

 

「ないな‼︎」

 

「やめとく‼︎」

 

「あはは‼︎だろうな‼︎まぁ、あるっちゃああるけど、後は子供用ばっかだ」

 

残りは子供が好きそうなオモチャばかりだ

 

一回200円でやりやすいし、駆逐艦の子たちが寄るだろうな

 

「また見回りついでに前を通る。詐欺すんなよ‼︎」

 

「了解了解‼︎見回り頑張ってな〜‼︎」

 

ガリバルディに見送られ、見回りを続ける

 

「ジャーヴィス‼︎」

 

「あ‼︎ママ‼︎」

 

前から母さんとアークが来た

 

「行って来いっ」

 

「ダーリン、アリガト‼︎」

 

ジャーヴィスはテディベアを母さんとアークに見せている

 

「マーカス、ありがとう。ジャーヴィスに買ってくれたのね⁇」

 

「ジャーヴィスがくじ引きで当てたんだ。な⁇」

 

「ウン‼︎イットーなんだヨ‼︎」

 

「そう‼︎良かったわね⁇」

 

「マーカス様。反対側からウィリアム殿が見回りをしていた。恐らく合流するだろうとの事だ」

 

「ありがとう」

 

「後でアークにも何か買ってくれ‼︎」

 

「盆踊り終わったら声掛けてくれ」

 

そう言うとアークの顔が明るくなった

 

今の三人で回るのも楽しそうだが、また少し微笑んだ

 

「分かった‼︎ふふっ…」

 

「マーカス⁇また後でね⁇」

 

「楽しんでくれよ⁇」

 

母さんは笑顔を見せ、俺達が来た道を行った

 

「キャプテン達が向こうから来るらしいな⁇」

 

ここで俺達二人の顔がニヤつく

 

「…たかるか⁇」

 

「…たかろう‼︎」

 

向こうから隊長達が来るのを待ちながら、俺達は見回りを続ける…



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横須賀繁華街夏祭り・その2〜ダディ二人と深海と〜

このお話はマーカス達が入り口から巡回していると同時に反対側から巡回しているパパとラバウルさんのお話になります

久方振りのパパ目線のお話です

小さな奇跡の瞬間もあります


見回り逆ルート

 

「久々ですね。こうして貴方と横で歩くのは」

 

「そうだな。男二人で歩くのも悪くないな」

 

私とエドガーは、入り口付近でやっていた足柄の串焼きを手にしながら祭りの見回りをしている

 

「大佐二人の見回り⁉︎」

 

「お疲れ様です‼︎」

 

その辺でたむろしていたサンダースの連中が、私達を見た瞬間立ち上がった

 

「異常はないですか⁇」

 

「は‼︎ありません‼︎」

 

「園崎。何かあったら大事になる前に右ストレート、だぞ⁉︎」

 

「了解です‼︎」

 

「ははは‼︎冗談だ‼︎楽しめよ〜」

 

楽しんでいる中に私達がいたら圧迫してしまうので、すぐにその場を離れた

 

「はいっ、中将‼︎あ〜んっ‼︎」

 

「あ〜んっ‼︎」

 

「「はぁ…」」

 

二人してため息を吐き、頭を抑える

 

目の前でリチャード中将と瑞鶴が唐揚げを食べ合っていたのを見てしまったからだ

 

「あれがなければ最強のパイロットなんですがね…」

 

「中将‼︎」

 

「美味しいね‼︎瑞か、おぉ‼︎ウィリアムとエドガーか‼︎」

 

「公衆の面前で堂々と浮気なされると顔向きが立ちませんよ」

 

「先程姫も見ましたし…その…」

 

「ダメじゃん中将‼︎行ってあげなきゃ‼︎」

 

「う〜む…確かに顔向きが立たないな…しかし、だ‼︎スパイトはアークと回ってる‼︎」

 

「では、もう少し大人しく逢引なさった方が良いと思いますよ⁇では、私達はこれで」

 

「盆踊りは来るんだぞー‼︎」

 

「ウィリアム。行きますよ」

 

「お、おぉ…」

 

エドガーに背中を押され、中将達の前から立ち去った

 

「確かに逢引はいけません。ですが、逢引を邪魔するのはもっといけません」

 

「言っても無理そうだしな」

 

「そう言う事です。私達は私達で見回りをしながら楽しみましょう」

 

再び見回りを続けていると、今度は初めて見る屋台の前に来た

 

「じゃがバターですか」

 

「大佐がた、お疲れ様です」

 

モクモクと立ち込める湯気の中に居たのは峯雲

 

蒸気で服が張り付いて下着が薄っすら見えている

 

「峯雲か。新しく出来た農場で採れたジャガイモか⁇」

 

「はい。今朝採ったばかりで美味しいですよ⁇」

 

「二つ頂けますか⁇」

 

「お好きなソースと、付け合わせのコーンを入れて下さいね⁇」

 

私はバーベキューソース、エドガーはマヨネーズを付けてその場で立ち食いし始める

 

「あ‼︎エドガー大佐ー‼︎」

 

「葛城さんですか」

 

じゃがバターの屋台の向かい側に居たのは葛城

 

いつもなら瑞鶴が出しているチョコバナナの屋台の店番をしている

 

「随分懐かれてるな⁇」

 

「一人になると、よくずいずいずっころばしに行きますからね」

 

「誘ってくれよ」

 

「一人の時間は大切ですよ、ウィリアム」

 

「なるほどな…確かに」

 

私は一人の時間は絵を描く

 

エドガーは一人の時間に何かを邪魔されずに食べる

 

レイだって一人の時はエッチな本を見ている

 

邪魔をされずに何かをする時間は大切だ

 

「ウィリアム大佐も見回りですかー‼︎」

 

「そうだー‼︎さっき瑞鶴を見たぞ‼︎」

 

「言っても聞かないんで放っておいてまーす‼︎」

 

「「はぁ…」」

 

二人でもう一度頭を抱える

 

しかし、互いに顔は少し微笑んでいた

 

「マーカスはいつもこれ以上の板挟みですよ…」

 

「よく耐えてるな…」

 

レイは私から見てもかなり気苦労が絶えない

 

リチャード中将と姫の板挟み

 

ジェミニとローマの板挟み

 

…あぁ、そうか

 

私と貴子もか‼︎

 

とにかく艦娘関係の板挟みになる事が多い

 

「私達も見習わなければなりませんよ、本当に」

 

「あら。これはこれは大佐様」

 

「貴方はイクさん…ではありませんね⁇」

 

「ヒュプノスか」

 

人の流れに乗ってやって来たのは、白いワンピース姿のヒュプノス

 

手にレイの小銭入れを持っている

 

「お父様に小銭入れを返そうと思ってるの」

 

「一緒に行くか⁇途中で合流するんだ」

 

「お願いしてもいいかしら」

 

「ちょっとだけお待ち下さいね。我々にも休憩が必要です」

 

「えぇ」

 

「あ、そうだヒュプノス。ちょっと待ってな」

 

二人を待たせ、葛城の屋台に来た

 

「そのピンクのチョコバナナを一つ」

 

「はい‼︎」

 

葛城は作ってあったピンクのチョコがかかったチョコバナナを取って渡してくれた

 

葛城に100円を渡した後、ヒュプノスの前に来た

 

「ほらっ」

 

「あら。私にくれるの⁇」

 

私の手からチョコバナナを取るヒュプノス

 

初めて触れたその手は、案外幼い事に気が付いた

 

「それはチョコバナナです」

 

「ビームソードじゃないのね」

 

ヒュプノスはチョコバナナを食べ歩きしている艦娘に目を向けた

 

「そう食べるのね」

 

ヒュプノスはチョコバナナを口に入れ、五分の一程を噛み切った

 

「レイがビームソードって教えたのか⁇」

 

「清霜が言ってたわ。”バナナ型のビームソード”があるから見つけたら食べるって」

 

「つまり、清霜さんにマーカスが教えましたね」

 

「だろうな…」

 

「お父様はたまに変な教え方をするわ」

 

そう言う私達だが、顔にはそれぞれ笑みが浮かんでいた

 

「ごちそうさま」

 

「行こうか」

 

今度は三人で見回りを続ける

 

「イラッシャイマセ〜、オイシ〜デスヨ〜‼︎」

 

声だけで何となく気付いた

 

「深海の子か」

 

深海の子達が出店をしているエリアに来た

 

「行ってみましょうか」

 

「変わった物があるかもしれないわね」

 

最初に来たのはヲ級の出店

 

「イラッシャイマセ〜‼︎」

 

ヲ級の出店はりんご飴

 

他にも幾つかのフルーツの飴が売っている

 

「あら。血の実」

 

「「血の実⁉︎」」

 

「これよ」

 

ヒュプノスの目線の先にあるのはイチゴ飴

 

「これを二つ頂けるかしら」

 

「アリガトーゴザイマス‼︎」

 

「あぁ、買ってやるよ。幾らだ⁇」

 

「いいの。買わせて頂戴」

 

レイの小銭入れから出すと思いきや、ヒュプノスは自分の財布からお金を出した

 

私もエドガーもヒュプノスの持つイチゴ飴を目で追う

 

小柄な割に大きな胸を持つヒュプノス

 

その谷間にイチゴ飴の棒を差し込んだ

 

「邪魔だと思ったけれど、お父様はこういうのが好きなのよね」

 

「レイは絶対喜ぶぞ‼︎」

 

「悩殺ですよ‼︎」

 

ヒュプノスは無言ではあるが、ここにきでとても嬉しそうな笑顔を見せてくれた

 

「ウィリアムサン。コノマエハムスコトモドモ、オセワニナリマシタ」

 

「あの時の子か‼︎」

 

少し前にレイが行方不明になった時、治療をしたのがこのヲ級だった

 

「ヌ級は元気か⁇」

 

「アソコニ」

 

ヲ級が視線を別の所に向ける

 

「‼︎」

 

視線の先には、ヲ級でさえ驚く光景がそこにはあった

 

「ジョウズダネェ‼︎」

 

「ありがとう‼︎」

 

そこにはハチマキを巻き、スーパーボールすくいの出店を担当しているヌ級がいた

 

「ウィリアム‼︎貴重ですよ‼︎」

 

「あぁ‼︎」

 

「確かに良い画ね」

 

待ちに待った瞬間が、四人の目線の先にあった

 

一瞬だけでも良かった

 

ヌ級が相手をしているのは…

 

一般の子供達だ‼︎

 

「イッパイトレタネェ‼︎」

 

「ハイ‼︎ドウゾ‼︎」

 

「深海さん、ありがとう‼︎お父さ〜ん‼︎いっぱい取れた〜‼︎」

 

横にはイ級のイーサンもいる

 

イーサンなら納得だ

 

あの子は非常に友好的な深海であり、イーサンから深海に慣れる子も多い

 

「スーパーボールスクイシマセンカー‼︎」

 

「タノシイデスヨー‼︎」

 

「これは非常に貴重なスクープですよ‼︎」

 

「青葉‼︎」

 

「青葉さん‼︎」

 

どこからともなく急に現れた青葉

 

片手にはデジカメを携えている

 

「収めたか‼︎さっきの写真‼︎」

 

「バッチリです‼︎先程のお子さんにも許可を頂いて来ました‼︎」

 

青葉のデジカメには、先程の絵面がキチンと収められていた

 

「やりましたね‼︎」

 

後にこの写真が何らかの鍵になる事には、その場に居た全員が理解していた

 

私達…そして深海の子達が待ち望んだ答えが、その一枚に詰まっていた…



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横須賀繁華街夏祭り・その3〜はだける浴衣、撮られる素肌〜

ちょっぴりスケベな横須賀ルート

ひとみといよが屋台で遊ぶ中、横須賀が異変に気付きます


中央ルート・満喫部隊

 

「よこしゅかしゃん、ゆかたおにあい‼︎」

 

「かあいい‼︎」

 

「あらっ‼︎ありがとっ‼︎」

 

レイと別れた後、私とひとみちゃんといよちゃんはお祭りの中心に来た

 

紺色の浴衣を二人に褒められて、ちょっと嬉しくなる

 

「おっき〜‼︎」

 

「れか〜い‼︎」

 

お祭りの中心の広場には、太鼓櫓が建てられている

 

今年の太鼓役はまた代わるらしいけれど、主催の私も聞いていない

 

一代目は榛名がしたけれど、今年は太鼓が二つある

 

…誰がするのかしら⁇

 

「さ〜‼︎寄ってらっしゃい‼︎楽しいゲームがあるよ‼︎」

 

「何かしら」

 

聞き覚えのある声が耳に入り、楽しいゲームをしている出店に足を運ぶ

 

「あにちてうの⁇」

 

「ぴよしゃんら‼︎」

 

出店にはヒヨコが沢山いた

 

カラーヒヨコでも売ってるのかしら⁇

 

「ヒヨコちゃんレースだよ‼︎」

 

「あら。結構お似合いじゃない」

 

「元帥‼︎ご無沙汰しています‼︎」

 

ヒヨコちゃんレースの出店をしていたのは呉さん

 

元から顔がイカツイので、出店をやると非常に似合う

 

「あはは…実は青葉が来てまして…いらない写真を撮ってないと良いですが…」

 

「大丈夫よ。きっと美人ばっか撮ってるから、また後でブロマイドが売れるわ⁇」

 

「だと良いのですが…あぁ、そうだ‼︎今は私はヒヨコちゃんレースの店番でした‼︎やられて行きます⁇」

 

「ぴよしゃんあにすうの⁇」

 

「どのヒヨコちゃんが一番早くゴールに着くかを当てるんだ。選んだヒヨコちゃんが一番に着いたら凄い景品が‼︎」

 

「「おぉ〜」」

 

「外れてもオモチャが貰えるよ‼︎」

 

「一回幾らかしら」

 

「一回100円です」

 

「やってみよっか‼︎」

 

「「うん‼︎」」

 

呉さんに100円玉を二枚渡し、ひとみちゃんといよちゃんはヒヨコの品定めに入る

 

パシャ

 

ヒヨコは全部で三匹

 

それぞれ頭に可愛いハチマキのような布が巻かれている

 

赤い布が巻かれたヒヨコ

 

青い布が巻かれたヒヨコ

 

緑の布が巻かれたヒヨコ

 

どれも普通に可愛いわね…

 

「ひとみあ、あおぴよしゃん‼︎」

 

「いよもあおぴよしゃん‼︎」

 

二人共青い布が巻かれた青ヒヨコを選んだ

 

「ほぅほぅ…二人共同じでいいのかな⁇」

 

「じぇったいはあい‼︎」

 

「あおぴよしゃん‼︎」

 

私は二人の後ろに屈み、ヒヨコを眺める事にした

 

「よ〜い…スタート‼︎」

 

透明な仕切りが取られ、ヒヨコちゃんレースが始まる

 

小さなラジコンのコースをヨチヨチ歩くヒヨコ達

 

見ているだけでも充分楽しめるわね

 

「いけ‼︎やえ‼︎」

 

「ぶっこおいら‼︎」

 

いよちゃんは”最後に生き残った一匹のヒヨコちゃんが勝者”だと思っているみたいね…

 

「おっ‼︎」

 

「あらっ‼︎」

 

ひとみちゃんといよちゃんの応援に呼応したのか、青ヒヨコは一着でゴールに着いた

 

「おめでとー‼︎」

 

呉さんが手持ちサイズの鐘をカランカラン鳴らす

 

「やった〜‼︎」

 

「いっと〜しぉ〜‼︎」

 

「さ‼︎景品はこの中から選んでね‼︎」

 

呉さんが出したのは、フワフワ素材で作られた動物のキーホルダー達が入ったケース

 

二人共、すぐにキーホルダーを手に取った

 

「こえにしゅる‼︎」

 

「ふあふあぴよしゃん‼︎」

 

ヒヨコのキーホルダーを手に取り、私の方に振り返った

 

「よこしゅかしゃん、あいがと‼︎」

 

「あいあと‼︎ぴよしゃんもあった‼︎」

 

「そっかそっかっ‼︎良かったわねっ‼︎」

 

二人共キーホルダーを一旦ポーチに仕舞い、また私と手を繋いだ

 

「ありがと。また回って来るわね⁇」

 

「お気を付けて‼︎」

 

ヒヨコちゃんレースの出店を後にし、次の出店に向かう

 

それにしても、さっきから視線を感じるわね…

 

一度シャッター音も聞こえたし…

 

誰かしら⁇

 

 

 

 

横須賀達が行った後、呉さんはポソリと呟いた

 

「…凄い谷間だったな」

 

 

 

 

次の出店は射的みたいね

 

「元帥‼︎ひとみちゃん、いよちゃん‼︎」

 

「とあっくしゃん‼︎」

 

「あにちてうの⁇」

 

今度はトラックさんがやる射的に来た

 

トラックさんに気付き、二人共コルク銃が置いてある台の上に登った

 

「このエリアは結構イカツイわね⁇」

 

「ヒヨコちゃんレースが一番ハクがあると思います…」

 

私とひとみちゃんといよちゃんがヒヨコちゃんレースの出店を見る

 

「さ〜いらっしゃいいらっしゃい‼︎」

 

顔に傷、ハチマキ、ガタイの良さ

 

あれで心は誰よりもピュアだなんて、確かに信じがたい

 

「私、射撃の腕上げたのよ‼︎」

 

「なされますか⁇」

 

「えぇ‼︎」

 

トラックさんに100円を渡し、コルク銃を構える

 

「弾は五発あります。好きな景品をどうぞ‼︎」

 

「ひとみちゃん。何が欲しい⁇」

 

「きゃあめう‼︎」

 

射的の台の上には、丁度正面にキャラメルがある

 

あれなら余裕よ‼︎

 

「いよちゃんは次ね⁇」

 

「うん‼︎」

 

ひとみちゃんといよちゃんが両サイドで見る中、コルクを詰め、キャラメルを狙う…

 

パスッ‼︎

 

「はずえ‼︎」

 

「もっかいちて‼︎」

 

「お、おかしいわね…」

 

コルクはキャラメルの右上を掠めて行った

 

「もう一回…」

 

胸を台に置き、前のめりになりながらキャラメルを狙う…

 

「…」

 

スス…と、銃が動く

 

右にいたいよちゃんが銃を指で押し、標準をズラして来た

 

ここを撃てって事かしら…

 

パスッ‼︎

 

ゴト‼︎

 

「おちた‼︎」

 

「きゃあめうぶっこおい‼︎」

 

「やったわ‼︎いよちゃん‼︎次何がいい⁇」

 

「いよもきゃあめう‼︎」

 

「よ〜し‼︎」

 

同じ体勢で、今度は横のキャラメルを狙う

 

「…」

 

スス…

 

また標準が動いた

 

今度は左にいるひとみちゃんが動かしたわね

 

パスッ‼︎

 

ゴト‼︎

 

「やったねうしぉん‼︎」

 

「きゃあめう‼︎」

 

「何で当たる場所分かるの⁉︎」

 

サワ…

 

「つい、よこしゅかしゃんほちいのとお‼︎」

 

「え、えぇ‼︎そうね‼︎」

 

弾は後二発

 

私はあの一番デカイプラモデルが欲しい

 

丁度二つあるし、たいほうちゃんやきそ辺りにあげたら喜びそうなのよね…

 

「あのプラモデルを取るわ」

 

「ぷあもれう⁇」

 

「でっかいあつ‼︎」

 

「行くわよ〜…」

 

銃を構え、プラモデルの箱の正面を狙う

 

あら…グリフォンのプラモデルだわ…

 

「…も〜ちぉっとこっち」

 

いよちゃんが指で標準をズラして来た

 

狙ってる先はプラモデルの箱の角

 

落ちるのかしら…

 

パスッ‼︎

 

ゴトゴト‼︎

 

「流石元帥‼︎」

 

トラックさんが手持ちサイズの鐘を鳴らす

 

プラモデルが見事に落ちた‼︎

 

「ぶっこおい〜‼︎」

 

「かあんかあ〜ん‼︎」

 

「あ、後一つ行くわ‼︎」

 

最後のプラモデルに狙いを定める

 

あら…こっちは刑部のプラモデルね…

 

「…」

 

やっぱり標準をズラして来た

 

最後はひとみちゃんが動かしてくれた

 

さっきは箱の角だったけど、今度は箱の上側ね

 

パスッ‼︎

 

ゴロゴロ‼︎

 

「やった〜‼︎」

 

「よこしゅかしゃんつお〜い‼︎」

 

最後のプラモデルも落ちた

 

「おめでとうございます‼︎目玉ですよ‼︎」

 

「ありがとっ‼︎はいっ、どうぞっ‼︎」

 

「あいがと‼︎」

 

「あいあと‼︎」

 

ひとみちゃんといよちゃんにキャラメル

を渡し、私は袋に入れて貰ったプラモデル二つを受け取った

 

「もう少し回って来るわ。頑張ってね⁇」

 

「お気を付けて‼︎」

 

キャラメルをカシャカシャ振るひとみちゃんといよちゃんと手を繋ぎながら、次の出店に向かう

 

な、何よ…今度はお尻⁇

 

痴漢がいるわね…

 

 

 

横須賀達が行った後の射的屋台で、やっぱり呉さんも呟く

 

「台に乗った胸…凄かったな…」

 

 

 

 

「いらっしゃいっす〜‼︎」

 

次はこかもい軍団のエリアに来た

 

「かちまら」

 

「いらっしゃいませ‼︎」

 

「あにちてうの⁇」

 

ひとみちゃんといよちゃんはその屋台を見に行った

 

こかもい軍団がズラァーっといる中、鹿島と棚町さんが居る

 

「えーと、確か…」

 

袖に入れてあった祭り会場のパンフレットを見る

 

「スマートボールね‼︎」

 

「元帥‼︎巡回ですか⁇」

 

棚町さんが私に気付いた

 

「そんな所っ。二人共やってみる⁇」

 

「ろ〜やってすうの⁇」

 

「おちえてくだしゃい‼︎」

 

「私が教えましょう‼︎」

 

鹿島がひとみちゃんといよちゃんにスマートボールのやり方を教え始めた

 

「このレバーを引っ張って玉を打ち出して…ここの穴に入れるんです‼︎」

 

「「おぉ〜」」

 

玉は綺麗に真ん中に入った

 

レイから聞いたけど、鹿島はスマートボールが上手みたい

 

このスマートボールは列を揃えるタイプ

 

横一列で四つ、その横の列が四つあり、穴は全部で16個

 

頭上にぶら下げられた景品達には、一列から順に結構な列数が記された紙が貼ってある

 

ひとみちゃんといよちゃんの背後に立って、スマートボール見よっと

 

「こんなもんれすか‼︎」

 

「も〜ちぉっとひいてくらしゃい‼︎」

 

「あいっ‼︎」

 

いよちゃんがレバーを引き、ひとみちゃんが台を見ている

 

「いけ‼︎」

 

「おりぁ‼︎」

 

玉が打ち出され、釘に当たる

 

「かん」

 

「こん」

 

「はいった‼︎」

 

「つぎ‼︎」

 

狙って入れてるの⁉︎

 

もうちょっと詳しく見たいわ…

 

サワ…

 

「捕まえたっ‼︎」

 

「へっ⁉︎」

 

拍子抜けした声が聞こえた

 

赤い浴衣が似合う、小さなポニーテールの女の子の手を間違えて掴んでしまった

 

「お〜、ジェミニじゃん。巡回⁇」

 

「あみじゃない‼︎」

 

横に居たのは北上

 

北上の部隊はいつも女性で固められる

 

今しがた手を掴んだ子が新しい子だとしても何ら不思議ではない

 

「貴方お名前は⁇」

 

「え、えと…その…り…」

 

「ごめんごめんジェミニ。この子人見知りが激しくってさ〜」

 

そう言われて、その女の子の手を離した

 

「そっ⁇また顔見せて頂戴⁇」

 

「あ、あの…は、はい…」

 

「じゃあね〜」

 

北上と女の子は人混みの中に消えて行った…

 

 

 

 

「ほら〜、やっぱバレてないじゃん。大丈夫だって〜」

 

「うぅ…」

 

「大丈夫大丈夫”梨紅”ちゃん‼︎」

 

 

 

 

再び視線をひとみちゃんといよちゃんに戻す

 

「いまどえもあえあすか⁇」

 

「7列だから…これだね‼︎」

 

棚町さんが棒で差した景品は、そこそこ新しいゲームソフト

 

「うそ‼︎もうそこまで行ったの⁉︎」

 

台を覗くと、玉は後三発

 

残る穴は左上の角の穴

 

「こえくあい⁇」

 

「も〜ちぉっとひいてくらしゃい」

 

「こえくあい⁇」

 

「いけ‼︎」

 

ひとみちゃんが打ち出した玉に、その場に居合わせたほぼ全員が固唾を飲んだ

 

「かん」

 

「こん」

 

「すぽ‼︎」

 

数秒間、その場がシーンとする

 

「大当たりー‼︎」

 

棚町さんが手持ちの鐘を鳴らす

 

「ばんじゃ〜い‼︎」

 

「いっと〜しぉ〜‼︎」

 

「やったねひとみちゃんいよちゃん‼︎最新ゲーム機だ‼︎」

 

「良かったわね‼︎」

 

「ろ〜しゅる⁇」

 

「かちまいうか⁇」

 

「私はもう持ってますので‼︎」

 

ひとみちゃんといよちゃんも知っている、鹿島がゲーマーな事

 

二人はあんまりゲームをしないので、本体には興味が薄いみたい

 

「あにれきうの⁇」

 

「ばいようはじゃ〜どぅお〜」

 

いよちゃんは何故か培養ハザードがお気に入り

 

少し前に隊長が実写映画を見ていたのを横で見ていたってのを聞いたわ

 

「培養ハザードの最新作も出来ますよ‼︎」

 

「鹿島」

 

「えぇ‼︎」

 

棚町さんと鹿島が頷きあった

 

「本体だけだとプレイ出来ないので、オマケに一つソフトも付けましょう‼︎」

 

「ばいようはじゃ〜どぅお〜くだしゃい‼︎」

 

「さいこおすて〜きみたい‼︎」

 

二人共即答で培養ハザードの最新作を入れて貰った

 

「ありがとね‼︎」

 

「さいなあ〜‼︎」

 

「ばいば〜い‼︎」

 

鹿島に手を振りながら、スマートボールの屋台を後にする

 

ゲーム機と培養ハザードのソフトは紙袋に入れて貰い、私が持つ事になった

 

「ひとみちゃんといよちゃんが培養ハザードするの⁇」

 

「めがねにやらす」

 

「きえうかあ、おもちろい」

 

ローマにやらせるのね…

 

確かにすぐコントローラー投げそうだわ…

 

「ちょっと休憩しよっか‼︎」

 

「「うん‼︎」」

 

屋台にある机付きの椅子に座り、何か食べる事にした

 

「いらっしゃい‼︎」

 

「いかしゃんら‼︎」

 

屋台の店主をしていたのは、高速艇船長のイカさん

 

席にあったメニューを取り、三人で見る

 

「ラムネ3つと…」

 

イカさんが出している屋台はたません

 

「たませんを3つ頂けるかしら」

 

「少々お待ちを」

 

イカさんが屋台に戻り、ひとみちゃんといよちゃんは辺りを見始めた

 

そんな中、再び…

 

パシャ…

 

「まただわ‼︎待ちなさい‼︎」

 

正面の人混みから明らかに此方を撮っていた奴を見て席から立とうとした瞬間、私よりも早く誰かが飛び出した

 

「おりゃ‼︎」

 

「ひじゃちりぉ〜ら‼︎」

 

「いたっ‼︎」

 

ひとみちゃんといよちゃんだ

 

どこから出したか分からない魚雷で膝カックンをし、盗撮犯を取り押さえた

 

「かんねんちなしゃい‼︎」

 

「にげあれへんぞ‼︎」

 

「う〜、ガードが強い〜…」

 

「青葉‼︎」

 

二人が引きずって来たのは青葉

 

手にカメラを持っている

 

「何してるのかしら⁇」

 

「え、えと…その…記念撮影を‼︎」

 

「見せなさい」

 

夕張からカメラを取り上げ、画像フォルダを見た

 

 

 

ヒヨコちゃんレースの時に屈んでいた時のうなじのアップ

 

射的してる時のお尻

 

今しがた机に置いた胸と谷間

 

全部見事に盗撮だ

 

「アンタ癖は治ってな…あら⁇」

 

その前の数枚の写真が目に入った

 

「イーサン達と子供達じゃない‼︎これは良い写真よ‼︎」

 

「今消せばそれもパーです‼︎後で消しますから‼︎」

 

「正直に使用用途を教えたら許したげるわ」

 

青葉は観念したのか、使用用途を話した

 

「…男性職員に一枚幾らかで売ろうかなと思いました…」

 

「幾らで売るつもりなの」

 

「…一枚500円とか」

 

「安い‼︎一枚1000円取りなさい‼︎」

 

「「そっち⁉︎」」

 

たませんを作りながら小耳に挟んでいた、イカさんでさえ声を出した

 

「イカさん‼︎この写真に幾ら出す⁉︎」

 

「え、え⁉︎じ、自分に振ります⁉︎」

 

「んっ‼︎」

 

イカさんに見せたのは射的してる時のお尻の写真

 

「むむっ‼︎こりゃあ3000円の価値はありますな‼︎」

 

「ほら見なさい」

 

イカさんが合わせてくれて助かったわ

 

「ま、いいわ。好きにやんなさい」

 

青葉にカメラを返し、致し方無く写真の販売許可を出した

 

「ありがたき幸せです‼︎」

 

「マージンは貰うわよ」

 

「え…」

 

青葉が一気に青ざめる

 

「10%ね」

 

「それ位ならお安い御用です‼︎」

 

「たませんとサイダーお待ちどうさま‼︎」

 

「来た来た‼︎さ、食べよっか‼︎」

 

「いたあきます‼︎」

 

「いただきあす‼︎」

 

青葉はこの瞬間の写真もきっちりと収めていた

 

もうちょっと真面目にしてくんないかしら…

 

腕は良いのに、勿体無いわ⁇

 

 

 

 

「あぁ。青葉さん」

 

「はいっ‼︎なんでしょう‼︎」

 

私達がたませんを食べている向こうで、イカさんが青葉を呼んでいた

 

「ちょっと…」

 

「はい」

 

屋台に近付いた青葉に、イカさんが耳打ちする

 

「…何枚ありますか」

 

「…三枚ですね。お安くしときますよ」

 

「…三枚とも買ったら安くなりますか」

 

「…三枚セットで2800円にしときますよ」

 

「…買います」

 

「…現像してからお持ちしますので、今度高速艇に乗った時にでも」

 

「…お待ちしてますね」

 

こうして、青葉の闇売買は成立して行く…

 

《横須賀繁華街夏祭り、本部からのお知らせです。20時から広場にて”男だらけの盆踊り大会”を始めます。こぞってご参加下さい》

 

「盆踊りですって‼︎行ってみよっか‼︎」

 

「うほっ‼︎」

 

「きんにくび‼︎」

 

たませんを食べ終え、私達は広場へと向かう

 

 

 

 

 

この後、結局青葉は真面目な浴衣艦娘の写真も撮り始めた

 

記念品としても良く、好きな艦娘をいつでも見れるアイテムとしても一般客に売れに売れた

 

そんな中、一番売れたのは黒い浴衣を着たリシュリューの写真

 

如何にガールズ・フリート・ファッションが人気があるのが良く分かった…




盗撮行為は犯罪です。青葉を見習わないようにしましょう


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横須賀繁華街夏祭り・その4〜謎の美少女、ふらふらぽそり〜

誰かを連れた北上ルート

謎の人見知りの美少女を連れ歩く北上

果たして美少女の正体は誰なのか…

途中、たいほう達にも出会います


全ルート・遊撃部隊

 

話は横須賀繁華街夏祭りが始まる少し前

にさかのぼる

 

〜横須賀基地・パイロット寮内〜

 

「ほ、本当に着なきゃダメ⁇」

 

「折角用意したんだから着て欲しいな〜。てか、チェスに負けたら着るって言ったじゃん」

 

「うぅ…」

 

待機していたパイロット寮の一室で、北上と誰かが目の前に置かれた浴衣を見て問答を繰り返していた

 

「行って帰って来るまでに何か買ってあげるからさ、着てよ」

 

「絶対バレるってば…」

 

「バレないバレない‼︎名前も変えるからさ‼︎さ‼︎まずはシャワーシャワー‼︎」

 

「うわ‼︎ちょっとぉ‼︎」

 

「あ。このボディーソープ使ってね〜。すっごくいい匂いするからさ〜」

 

北上にシャワールームに押し込まれ、今しばらく二人して出て来なくなった…

 

数十分後…

 

「さっぱりした」

 

「…よし、いい匂いだね。さ‼︎着替え着替え〜‼︎」

 

「えっ‼︎ちょ…」

 

間髪入れずにその”誰か”は北上にロッカールームに押し込まれ、しばらく出て来なくなった…

 

 

 

 

数十分後…

 

「後はあたしがちょちょいっとお化粧したげる〜‼︎」

 

「うぅ…」

 

鏡に映るのは、赤い浴衣を着た少女

 

北上がお化粧を施し、少女らしさが際立って行く

 

「はいっ、OK‼︎どうよ、女の子になった気分は⁇」

 

「ま、まだ分からない…」

 

少女は立ち上がり、鏡の前で自分の浴衣姿を見る

 

くるりと一回転してみたり、パットを入れた胸を持ち上げてみたり

 

嫌がってはいるが、少し不思議な感覚を確かめているようにも見える

 

「いいかい⁇君は今夜は”梨紅ちゃん”だよ。いいね⁇」

 

「それペンネー…」

 

「梨紅ちゃん行くよ〜」

 

「待って‼︎心の準備が‼︎」

 

北上に言葉を遮られ、手を引かれて外に出て来た

 

「おぉ〜、ここから見ても結構居ますねぇ」

 

「ね、ねぇ。本当に行くの⁇」

 

最後の最後にも梨紅ちゃんは躊躇う

 

「行くよ⁇なになに。誰かに見られたら嫌な訳⁇」

 

「ヤダよ‼︎」

 

「バレなきゃいいの‼︎さ、行くよ〜‼︎」

 

「ま、待って…」

 

「何さ〜」

 

先に行こうとした北上を、梨紅ちゃんは引き止めた

 

「せめて手繋いでよ…」

 

「おぉ…いいよいいよ‼︎それ位なら全然オッケー‼︎」

 

顔を真っ赤にした梨紅ちゃんと、今にも吹き出しそうな北上が、手を繋いで夏祭りエリアに入る

 

 

 

 

「梨紅ちゃんは何食べたい⁇」

 

「た、たこ、やき…」

 

震えた声で梨紅ちゃんが答える

 

「…もっと声高く」

 

「うぅ…たこ焼き食べたい…」

 

今にも消えそうな声だが、梨紅ちゃんは高めの声を出した

 

「むっふふ〜、オッケーオッケー‼︎」

 

「おっ‼︎いらっしゃい‼︎天龍様のたこ焼きだ‼︎」

 

「一つちょ〜だい」

 

「おっしゃあ‼︎」

 

北上が天龍の屋台でたこ焼きを買っている最中、梨紅ちゃんは横の金魚すくいを見ていた

 

「たいほうでめきんほしい‼︎」

 

「ボクはこのデカイ金魚にしようかな‼︎」

 

「ランチュウこそ至高」

 

マズイ…たいほうちゃんとれーべとまっくすがそこに居る…

 

バレようものなら大変な事になる…

 

「おっ‼︎三人は金魚すくいかな⁇」

 

「びんせんとさん‼︎こんばんは‼︎」

 

そんな輪の中に、ジョンストンとフレッチャーを連れたヴィンセントまで来た

 

「ん〜、とれない…」

 

「どれが欲しいのですか⁇」

 

「たいほうでめきんほしいの」

 

フレッチャーが前屈みになりながら、たいほうの狙っているデメキンを見た

 

「…おっぱい」

 

フレッチャーがつぶやくと、たいほうの前にデメキンだけが寄って来た

 

「よいしょ‼︎とれた‼︎ありがとう‼︎」

 

「いえいえ。お安い御用です」

 

「…あみさんあみさん」

 

「ん〜⁇」

 

それを見ていた梨紅ちゃんは、北上の浴衣の背中部分をクイクイ引っ張り、たいほう達の方に向けた

 

「凄いね〜。さ、食べよう‼︎」

 

北上と梨紅ちゃんは、ベンチに座ってたこ焼きを食べ始める

 

「美味しい⁇」

 

「…美味しい」

 

「むっふふ…」

 

恥ずかしそうにたこ焼きを食べる梨紅ちゃんを見て、北上はニヤつく

 

「こっから先は見回りも多いから、誰かと会うかもね」

 

「た、煙草吸いたい…緊張して来た…」

 

梨紅ちゃんはカタカタ震える手で巾着から煙草を取り出そうとした

 

「ダメダメダメダメ‼︎イメージは大事‼︎今は可憐な恥ずかしがり屋な女の子なんだぞ⁉︎」

 

「わ、分かった…」

 

「あみさんだ‼︎」

 

「たいほうちゃん‼︎」

 

「ひ‼︎」

 

そんな時、運悪くたいほうが来た

 

「たいほうでめきんとれたの‼︎」

 

「ほほぅ⁇育てるんだね⁇」

 

「ママにてんぷらにしてもらうの」

 

「お…お〜お〜そっかそっか‼︎」

 

一瞬真顔になったたいほうにビビる北上

 

「あみさんのおともだち⁇」

 

「そっ‼︎梨紅ちゃんって言うんだ〜。ほらほら、挨拶しないと〜」

 

「り…梨紅…です…」

 

「あたしたいほう‼︎あみさん、りくさん、またね‼︎」

 

「楽しんどいで〜」

 

たいほうが去り、北上は梨紅ちゃんの肩をポンポンと叩いた

 

「バレてないじゃん。イケるイケるぅ‼︎」

 

「バレてそう…」

 

たこ焼きのトレーをゴミ箱に捨て、散策を再開する

 

 

 

「ど〜こ行ったんかね〜」

 

「今日は会いたくないよぉ…」

 

北上が必死こいて男性陣を探す中、梨紅ちゃんは下を向いて、繋いでいない方の手で巾着を前で持ちながら歩いている

 

その行為が実に女性っぽく、祭りを楽しんでいる男性の視線を逆に注目させていた

 

「そこの二人‼︎俺達と一緒に回らない⁉︎」

 

遂に一般客のナンパが始まった

 

男性が二人、北上と梨紅ちゃんをナンパして来た

 

「あ〜、ごめんねぇ〜。この子恥ずかしがり屋でさぁ」

 

「君、名前は⁇」

 

「へっ⁉︎お…わ、わたっ、し…」

 

「いいじゃんいいじゃん‼︎行こうよ‼︎」

 

「あっ…いや…」

 

恥ずかしがる梨紅ちゃんの姿は、余計に男性達の興味をそそってしまう

 

「何をしているのかな⁇」

 

タイミング良くヴィンセントが来てくれた

 

ヴィンセントは男二人の首根っこを簡単に掴み上げ、身動き取れない状態にしてくれた

 

少し前にジョンストンを抱っこするやり方がここで役に立った

 

「あ⁉︎いや‼︎ちょっと道を聞こうかと‼︎」

 

「離してくれ‼︎」

 

「なんぱ。あみさんなんぱ」

 

ヴィンセントの頭に乗っているジョンストンが気付いてくれて、ヴィンセントを連れて来てくれたみたいだ

 

「何っ⁇それはいかんな…そんなにナンパしたいならジョンストンの相手をしてもらうぞ⁇メチャクチャ強いからな、ジョンストンは。ジョンストン⁇そこのレンガ、割れるか⁇」

 

「うん」

 

ヴィンセントに言われて、ジョンストンは頭から降り、近くにあった組み立て途中に余ったかどうか分からないレンガを一つ手に取った

 

「えい」

 

ジョンストンが腕の中で、レンガは真っ二つになった

 

「「えぇ〜…」」

 

男二人が下心丸出しでデートしたいのは北上と梨紅ちゃん

 

しかし、ヴィンセントが勧めたのは、男二人の前にいるフルパワーのジョンストン

 

「いこ」

 

そんな相手にも純粋無垢なジョンストン

 

「ま…まぁ…」

 

「いいか…」

 

「手出したらどうなるか…分かってるな⁇」

 

「出さねぇよ‼︎ガキじゃねぇか‼︎」

 

「…何したい⁇」

 

一人がジョンストンの前に屈み、ジョンストンと話し始めた

 

「しゃてき」

 

「…行くか」

 

「おぉ…」

 

「射的の所まで迎えに行く。それまでジョンストンをしっかり守ってやるんだ。いいな⁉︎」

 

「分かったよ‼︎」

 

「行こうか」

 

「だっこ」

 

「…ホラッ‼︎」

 

一人はまだ反抗的だが、もう一人は何故か肯定的になっていた

 

渋々抱っこしているように見えるが、顔は満更でもなさそうだ

 

「いやぁ、助かりましたよヴィンセントさん」

 

「女の子は護ると言ってる同僚の気持ちが今だけ分かりましたよ」

 

「ジョンストンは大丈夫なの⁇」

 

「ジョンストンがやると言いましてね。大丈夫。あの子は強いですよ」

 

「ありがとうございました…」

 

梨紅ちゃんがヴィンセントに一礼する

 

「…どこかでお会いしたような」

 

「あ〜‼︎ごめんねヴィンセントさん‼︎あたしこの子案内しなきゃ〜‼︎じゃね〜‼︎」

 

「お気を付けて‼︎フレッチャー、行こっか‼︎」

 

「えぇ‼︎」

 

ヴィンセントはジョンストンを見に

 

北上達は散策を続ける

 

 

 

 

「お〜。結構混んで来たね〜」

 

北上達が来たのはゲームが沢山あるエリア

 

一般客も艦娘も沢山いる

 

「捕まえたっ‼︎」

 

「へっ⁉︎」

 

いきなり梨紅ちゃんの腕が掴まれた

 

「あみじゃない‼︎」

 

「お〜、ジェミニじゃん。巡回⁇」

 

梨紅ちゃんの腕を掴んだのはジェミニ

 

「貴方、お名前は⁇」

 

「え、えと…その…り…」

 

「ごめんごめんジェミニ‼︎この子人見知りが激しくってさ〜」

 

梨紅ちゃんの顔を見ると、下を向いて目を閉じて顔を真っ赤にしていた

 

北上から見ても、ジェミニから見ても非常に女の子らしい仕草であり、同性であっても何故か生唾を飲んだ

 

「そっ⁇また顔見せて頂戴⁇」

 

「あ、あの…は、はい…」

 

「じゃあね〜」

 

ジェミニから離れ、北上はすぐに梨紅ちゃんに話し掛けた

 

「ほら〜、やっぱバレてないじゃん。大丈夫だって〜」

 

「うぅ…」

 

「大丈夫大丈夫。梨紅ちゃん‼︎てかさ、そんなビクビクしてたら逆にそそられるよ⁇」

 

「くぅ…」

 

口の形がピーナッツみたいになって恥ずかしがる梨紅ちゃん

 

「おや、あみさん」

 

「お。エドガーじゃん」

 

「楽しんでるか⁇」

 

そんな矢先に現れたのはウィリアムとエドガー

 

二人共、いつもは見慣れない紺色の甚平を着ているので、北上も梨紅ちゃんもここに来てようやく”夏”を感じる事が出来た

 

「ほぅほぅ。新しい子、ですか⁇」

 

「そうそう‼︎恥ずかしがり屋でさ、人混みに慣らそうと思ってね」

 

「り、梨紅です…」

 

「ウィリアム・ヴィットリオだ。宜しくな」

 

「エドガー・ラバウルです。お見知り置きを」

 

北上は笑いを堪えるのに必死

 

梨紅ちゃんは何故か少し落ち着いて来ているようにも見える

 

「あら⁇貴方確か…」

 

そんな時、二人の脇から出て来たヒュプノスが梨紅ちゃんをジーッと見つめ始めた

 

「あー‼︎そうだー‼︎あたし達もっと見て回らないとー‼︎じゃあねーバイバーイ‼︎」

 

北上は梨紅ちゃんの手を引いて、小走りでその場を走り去った

 

「…お気を付けて」

 

「楽しんでこ…行ったか…」

 

「ふふっ…なるほどなるほど…」

 

男二人が不思議がる中、ヒュプノスだけが不敵に笑っていた…

 

 

 

 

「あっぶなかったぁ〜…」

 

「流石はレイさんの娘ですね…」

 

二人して息を切らしながら何とか逃げ切る

 

「おっ。もう少しで終わりだね」

 

「良かった…」

 

梨紅ちゃんも安堵の息を吐く

 

あぁ…一番会いたくない人に会わなくて良かっ…

 

「おっ‼︎北上だぜ‼︎」

 

「おーい‼︎」

 

一番会いたくない人の声が聞こえ、こっちに来た

 

「…梨紅ちゃん⁇終わったみたいよ⁇」

 

「何で最後の最後にぃ…」

 

一番会いたくない人

 

アレン

 

レイさん

 

一生おちょくられる気がする…

 

「見慣れない子だな⁇」

 

「そ、そ〜なんだよマーカスぅ‼︎別基地から来た子でさぁ‼︎」

 

「何処の基地だ⁇」

 

アレンにとっては普通の疑問

 

しかし、北上と梨紅ちゃんにとっては最悪の質問

 

「へっ⁉︎あっ…えと…」

 

びっくりして声が裏返る梨紅ちゃんだが、その声が実に女の子っぽかった

 

「人見知りが激しいんだよ〜‼︎ねぇ‼︎」

 

「ん…⁇」

 

「ま、舞鶴‼︎です…」

 

「「あそこか…」」

 

梨紅ちゃんが適当に出した答えで、何故か二人は納得した

 

《横須賀繁華街夏祭り、本部からのお知らせです。20時から広場にて”男だらけの盆踊り大会”を始めます。こぞってご参加下さい》

 

ナイスなタイミングで放送が入った

 

「おっと。始るか‼︎」

 

「行くか‼︎」

 

「行ってらっしゃ〜い‼︎」

 

「見に来いよ‼︎」

 

「行けたら行くわ〜」

 

アレンとマーカスを見送り、北上と梨紅ちゃんは祭りの端から端まで歩き切った

 

「盆踊り、見に行こっか」

 

「参加しなくていいの⁇」

 

「今日は女の子だからいいよ」

 

最後の最後に落ち着きを見せた梨紅ちゃんは、少し困っていそうな笑顔を見せ、北上の横を歩きながら元来た道を戻る

 

「行くぞジョンストンちゃん‼︎」

 

「準備はいいか‼︎」

 

「うん」

 

「「オラ‼︎」」

 

「おら」

 

さっきナンパして来た男二人が、すっかりジョンストンと仲良くなって射撃を堪能している

 

このナンパした男二人はこの後、一応お叱りは受けたものの無罪放免となった

 

なんなら彼等は定期的に仕事を貰った

 

彼等二人は車の整備士であり、時々ジープやらの整備に来る事になった

 

そしてその時、お昼ご飯をジョンストンと一緒に食べているのを見かける事になる…




少し前のお話に、誰かが分かるヒントがあります。

アレンが逃げ回って、ガラス叩き割った時のお話ですね


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横須賀繁華街夏祭り・その5〜男だらけの前座大会〜

期間が空いてしまい、当の前に盆が過ぎました

作者のせいです。申し訳ありません

ラストの一つ前は、男だらけの前座大会になります

武骨な集団が一生懸命頑張ります‼︎


中央広場・盆踊り会場

 

「イッピー集まって来たダズル」

 

「やはり祭り事はこうでなくてはな」

 

櫓の上から、榛名とマッチョまるゆが集まって来た男衆を眺める

 

客足もかなり集まり、まずはステージ会場での前座が始まるのを待つ

 

《ただいまより、男だらけの盆踊り大会を開始致します》

 

「大淀ダズル」

 

会場の主催テントの中で、大淀がマイクを握っているのが見えた

 

「そう言えば、霧島は最近どうしている」

 

マッチョまるゆが気になるのは霧島の事

 

恐らくマイクマイク連呼しているからだろう

 

「霧島は元気ダズルよ。いっつも単冠湾の艦の出入りを見てくれてるダズル」

 

「今日はどうしている」

 

「ちょっと台湾に行ってるダズル」

 

「台湾…」

 

台湾と言えば、単冠湾の金剛が48年間遠征に行っている地

 

その金剛を今日は霧島が迎えに行っている

 

《まずは、大佐と中将の四人組によるサイリウムによる踊りです》

 

「メッチャ気になるダズル‼︎」

 

「サイリウムとはなんだ‼︎」

 

榛名もまるゆも、櫓から身を乗り出して会場を見始める

 

「はいっ‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

「「「「はいぃぃぃい‼︎」」」」

 

ピンク色の法被を着た四人が小走りでステージの後ろから出て来て、単横陣になる

 

ウィリアム、エドガー、リチャード…

 

「だぁ〜っはっはっは‼︎こら傑作ダズル‼︎」

 

「なっ…あの方は…」

 

最後の一人を見た時、普段の素性を知っている人間は全員すっ転んだ

 

サイリウム軍団の中にヴィンセントが混じっていたのだ‼︎

 

しかもピンク色の法被の胸の脇に

 

”I♡艦娘”

 

と、プリントしてあるので、それがまた笑いを誘う

 

「「「「レッツ‼︎ダンシン‼︎」」」」

 

軽快な音楽が流れ始め、男四人組によるキレッキレのサイリウムダンスが始まる

 

 

 

 

「はははははは‼︎」

 

「うっそだろ⁉︎」

 

マーカスは腹を抱えて笑い、アレンは膝から崩れ落ち

 

「いーわよヴィンセント‼︎キレッキレよー‼︎」

 

「ふふっ‼︎上手よリチャード‼︎」

 

イントレピッドとスパイトは、それぞれにおちょくり半分の声援を送り

 

「きらきら。びんせんときらきら」

 

「ヴィンセント、楽しそう」

 

ベンチに腰掛けたガンビアがジョンストンを膝に乗せて、いつもとは真逆で楽しそうなヴィンセントを眺め

 

「パパだ‼︎」

 

「あはは‼︎凄いや‼︎」

 

「流石はパパ」

 

会場の真ん中辺りに座っているたいほう、れーべ、まっくすも気付き、手拍子を送る

 

「ちょっとマー君‼︎あれ見て‼︎」

 

「ヴィンセント…あいつとうとうストレスで…」

 

ピンク色の浴衣に着替えたサラが嬉しそうに指差す方向にいる、キレッキレに踊るヴィンセントを見て、マークはヴィンセントの精神状態を危惧

 

それに反して、客席は大盛り上がり

 

”怖いおじさん達”と普段から敬意を込めて言われている集団の、尚且つボス的なポジションにいる四人がハチマキと法被を着ながら踊っているのを、誰一人として目を離さなかった

 

しかし、見ての通り本人達は至って真面目

 

それでも、この後続く前座が可哀想になる位爆笑をかっさらっている

 

「よ〜し、そこまでだ‼︎みんな‼︎どうだったかな‼︎」

 

サイリウムダンスが終わり、リチャードがマイクを取る

 

「楽しかったー‼︎」

 

「面白かったー‼︎」

 

「よーしよし‼︎みんな楽しめたらおじさん達は満足だ‼︎」

 

この時もマーカス達は笑いを堪えるのに必死

 

リチャード以外の三人がその場で腕を組み、ずっと頷いているからだ

 

「もっかいやってー‼︎」

 

「もっかいやって⁉︎よーし‼︎もう一回出来るか、おじさん達に聞いてみよっか‼︎」

 

どこからか聞こえて来た、子供のアンコールの声援

 

リチャードはちゃんとそれを拾い上げ、話すネタへと変えた

 

「ではまずウィリアムおじさん‼︎」

 

まずはウィリアムにマイクが向けられる

 

「おじさん、腰折れちゃう‼︎」

 

「ははははは‼︎」

 

「次はエドガーおじさん‼︎」

 

「おじさん…呼吸困難です…」

 

「ははははは‼︎」

 

二人共爆笑を取り、問題のヴィンセントにマイクが向けられる

 

「ヴィンセントおじさんはどうかな⁇」

 

「…血圧計をくれ‼︎」

 

「ははははは‼︎」

 

「キャーキャー‼︎」

 

一番爆笑をかっさらったのは、やっぱりヴィンセント

 

ギャップの時点で強過ぎる‼︎

 

 

 

 

「あ‼︎いたいた‼︎レイ、アレン‼︎」

 

「横須賀か‼︎」

 

両手にひとみといよを連れた横須賀が来た

 

「サイリウム軍団の後に20分程空いちゃったのよ。レイ、アレン、何かお願い出来る⁇」

 

「あの後にやれだと⁉︎」

 

「あれの後に行きたくねぇよ‼︎」

 

バカウケした後の前座なんて誰もやりたくない

 

「レイとアレンの歌聴きたくなって来たわ〜‼︎」

 

「えいしゃん、おうたうたう⁇」

 

「あえんしゃんもうたう⁇」

 

ひとみといよは、横須賀に買って貰ったか景品か何かのキャラメルの箱をカシャカシャ振りながらこっちを見ている

 

「大尉二人が歌うの⁉︎」

 

「見たい見たい‼︎」

 

艦娘達がゾロゾロ集まって来た

 

こうなれば背に腹はかえられん

 

「こうなりゃヤケクソだ‼︎アレン‼︎行くぞ‼︎」

 

「やってやろうじゃねぇか‼︎」

 

「やった‼︎ありがと‼︎」

 

俺は革ジャンを、アレンはジャケットを脱ぎ、横須賀に渡して舞台裏に来た

 

「よし。隊長達がサイリウム軍団なら俺達はタンクトップペアだ」

 

「ドラムは何とかあるが…後はキーボードがいりゃあいいんだが…」

 

「マーカスさんとアレンさん歌うの⁉︎」

 

タイミング良くきぬが来た

 

「確保‼︎」

 

「オーケー‼︎」

 

「えっ⁉︎ちょっと‼︎」

 

きぬを連れ、テント内の椅子に座らせ、説明をする

 

「は‼︎え‼︎きぬがですか⁉︎」

 

「現状、キーボードを操作可能なのはきぬしかいない」

 

「我々はボーカルとドラムをやらねばならぬ」

 

「そんな作戦みたいな…きぬで良ければお手伝いします‼︎」

 

「「しゃ‼︎」」

 

俺もアレンもその場でガッツポーズ

 

このメンバーなら何とかなる‼︎

 

「曲はどうしますか⁇」

 

「お前の得意な”宝城秀樹”で行くか⁇」

 

「おっしゃ‼︎なら決まりだ‼︎」

 

《続いては、大尉二人ときぬちゃんの演奏です》

 

「キャー‼︎マーカスサーン‼︎」

 

「アレンさーん‼︎」

 

テントの向こうでは、既に声援が待ち構えている

 

「よっしゃ‼︎」

 

「キャー‼︎」

 

ステージに上がり、再び声援が上がる

 

アレンときぬの演奏が始まり、俺はマイクスタンドを構え、歌い始める…

 

 

 

 

「ありがとー‼︎マーカス、感激‼︎」

 

「キャーキャー‼︎」

 

二曲を歌い終え大淀の方を見ると、手の平を出した

 

あと五分何とか繋げろとの合図だ

 

「よーし。曲が終わった所で、今日の主役を紹介しよう‼︎」

 

「マーカスサーン‼︎」

 

「はぁーい‼︎」

 

観客の皆が先に名前を言ってくれたのでそれに身を預ける事にした

 

「アレンさーん‼︎」

 

「OK‼︎」

 

「きーぬちゃーん‼︎」

 

「やっほー‼︎」

 

最後のきぬだけ、やたら武骨な集団が声を出していた

 

きぬはそれほどまで男性陣の癒しとなっている

 

「この後は俺達も参加する盆踊り大会がある。男だらけって書いてあるけど、女性の方、艦娘の子達もこぞって参加して欲しい‼︎榛名‼︎」

 

俺の声に応えて、榛名が太鼓を叩く

 

「まるゆ‼︎」

 

続いてまるゆも太鼓を叩く

 

「男だらけの盆踊り大会、スタートだ‼︎」



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横須賀繁華街夏祭り・その6〜放たれた女達〜

かなり間が空いてしまい、申し訳ありません

お祭り編の最後になりますと言いましたが、もう一話あります

夏祭りも終わりが見える中、よく食べる人達がお祭り会場に放たれます


「踊れ踊れ‼︎盆踊りダズル‼︎」

 

「おりゃあ‼︎どりゃあ‼︎」

 

盆踊りが始まり、榛名とまるゆは汗を散らせながら動きも激しくなる

 

櫓の下では、男達を中心に盆踊りが踊られる

 

「レイーっ‼︎来ないのーっ‼︎」

 

「アンタも来なさーいっ‼︎」

 

本部テントの中にいた俺は無線を手にとある人に連絡を入れていた

 

「お願いします。今行くー‼︎」

 

横須賀ときそに呼ばれ、俺も盆踊りに参加する…

 

 

 

祭り会場〜入り口〜

 

「行くわよみんな‼︎」

 

「うんっ‼︎照月、いっぱいお小遣い貰ったんだぁ‼︎」

 

「美味しそうですねぇ〜‼︎」

 

横須賀が企画する祭りは、食べ物関連はほぼ赤字にならない

 

祭りが終わりかけの時、沢山食べる人達が来るからだ

 

貴子さん、照月、そして蒼龍

 

この三人が今から屋台を潰して回る…

 

 

 

 

盆踊りに参加し、横須賀ときそ、そして隊長達と踊る

 

「貴子達はもう行ったか⁇」

 

「今満喫して貰ってる」

 

俺が視線を屋台の方に向けると三人が見えた

 

貴子さんは両手の指の隙間全てに牛串を

 

照月は両手にありったけのベビーカステラの紙袋を

 

蒼龍は大量の回転焼きを入れた紙袋を

 

それぞれ一つを一口で終わらせて行くのが見えた

 

「全員物凄い食い方だな…」

 

「相変わらず照月の食い方豪快だな…」

 

照月は紙袋からベビーカステラを手に取って食べる等の上品な真似はせず、一つも口から零す事無くまるで飲み物の様に胃に落として行く

 

「蒼龍はどうだ⁇」

 

「蒼龍も回転焼き一口だ」

 

蒼龍は蒼龍で、それこそ回転焼きがベビーカステラか⁇と見間違う程大口で回転焼きを一個一口で食べている

 

「貴子もか…」

 

「美味そうに食うな…」

 

貴子さんも牛串を串ごと行ってるのかと見間違うスピードで一本約五枚の肉を一口で平らげて行く…

 

三人共かなり美味そうに食べている為、

俺達は盆踊りに戻る

 

「えいしゃん‼︎」

 

「おっ⁉︎ひとみか⁇」

 

俺の後ろにひとみが来た

 

「ひとみもくうくう〜ってちたい‼︎」

 

「よしよし‼︎」

 

ひとみはダンスが好きだ

 

パーティーがあった時、ひとみは横須賀に踊りたいと言っていたらしい

 

「こ〜あって、こ〜あって、こっ‼︎」

 

「上手だぞ‼︎」

 

見て覚えたのか、ひとみはキチンと盆踊りを踊れている

 

「いよはどこ行ったんだ⁇」

 

「いよちゃん、よこしゅかしゃんのとこお」

 

ほぼ反対側の位置に横須賀、きそ、いよがいた

 

きそにレクチャーして貰いながら、いよも踊っている

 

「お祭り楽しかったか⁇」

 

「たのちかった‼︎よかしゅかしゃん、しぁてきちてた‼︎」

 

二人共踊りながらお話をする

 

「ひとみといよは何したんだ⁇」

 

「ぴよしゃんえ〜すと、かちまのぴぉ〜んってすうえ〜む‼︎」

 

呉さんのヒヨコレースと、鹿島のスマートボールをしたのだろうな

 

後は横須賀が射的で手に入れたキャラメルを貰ったのだろう

 

「横須賀の射的はどうだった⁇」

 

「…ぴよしゃんもあった‼︎」

 

珍しく話をはぐらかしたので、恐らく相変わらずの腕なのだろう

 

「ヘタっぴだったか⁇」

 

「ぴよしゃんもあった‼︎」

 

これ以上聞いても、ひとみは絶対吐かない

 

何回聞いても「ピヨちゃん貰った‼︎」しか答えたないだろう

 

「いよちゃんみて‼︎」

 

「あ、そ〜え、おちりふ〜いふ〜い‼︎」

 

いよはいよでダンスにはほぼ興味無し

 

勝手に好きな踊りを踊って、観客を賑わせている

 

現状でさえ、手をお腹の前で回しながらお尻を振っている

 

「たかこしゃん、いっぱいたえてう‼︎」

 

「横須賀と何か食べたか⁇」

 

「たあせんたえた‼︎」

 

たません位しか食べていない所を見ると、食べるより遊ぶ方に熱中していたんだろう

 

「ひとみ。いよと私と何か食べに行こうか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

ひとみといよが盆踊りでいい感じにお腹を空かせた所で隊長と一緒に屋台の方に向かって行った…



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横須賀繁華街夏祭り・その7〜眠り姫の誘惑〜

このお話で夏祭り編の終わりです

貴子さんが何らかの理由で武蔵に戻る中、ヒュプノスはマーカスの横に座ります


お祭り会場〜半壊〜

 

「マズイ‼︎貴子達が潰す前に食うぞ‼︎」

 

私達が来た時点で、屋台はほぼ壊滅

 

残っているのは浦風の屋台位しかない‼︎

 

「たこあきくらしゃい‼︎」

 

「ひおしまあきもくらしゃい‼︎」

 

「焼きそば三つだ‼︎」

 

「任しちょき‼︎」

 

私達の両肩に乗ったひとみといよは、浦風が焼き上げて行くたこ焼きや広島焼きを眺めてヨダレを垂らす

 

「あかしちぉき‼︎」

 

「ひおしまあき、じぅあ〜ってちてう‼︎」

 

いざ浦風が注文品をパックに詰めてくれた時、背後に誰かが立った

 

「たか…」

 

「振り返るな…」

 

「ぱくってさえう⁇」

 

「丸呑みだ…」

 

背後に立ったのは、腹を空かせて殺気立った貴子

 

「ウィリアム」

 

「うぃいあむって」

 

「あせだあだあ」

 

いよが言う通り、背後に立つ貴子の殺気で冷や汗が出ている

 

振り返らずに、背中越しに貴子に返事を返す

 

「な、なんだ貴子…」

 

「そこを退いて。私、それ食べたいの」

 

今の時間は貴子達のターン

 

貴子からすれば、私がここにいる事自体がおかしい

 

「す、すぐ退きます‼︎」

 

「ひ〜っ‼︎」

 

「こあい〜っ‼︎」

 

「出来たよ〜。はいっ‼︎たんとおあがり〜‼︎」

 

「ありがとう‼︎じゃあな‼︎」

 

「さいなあ〜‼︎」

 

「またくうお〜‼︎」

 

浦風から三つの袋を貰い、それぞれが一つずつ持って、その場から全速力で走り去った

 

「貴子さん‼︎どないしようかのう‼︎」

 

「全部頂ける⁇」

 

「ちょっち待っててぇな〜」

 

有無を言わさず、貴子さんは浦風の屋台から全ての商品を購入

 

数十分後、貴子さんの手には大量の袋が下げられていたが、勿論数分で消えた…

 

 

 

盆踊り会場〜本部横ベンチ〜

 

「お父様」

 

ベンチに置いてあったタオルで汗を拭いた瞬間、ヒュプノスが来た

 

「おっ‼︎ヒュプノス‼︎楽しんだか⁉︎」

 

「えぇ、雷電姉妹とも、大佐二人とも楽しめたわ」

 

会ってすぐに目が行ったのは、谷間に挿してある二本のイチゴ飴

 

「イチゴ飴買ったのか⁇」

 

「えぇ。取って下さる⁇」

 

胸の下で腕を組み、持ち上げて見せながら悪そうに微笑むヒュプノス

 

午前中におっぱいの話をしたからイタズラ心が刺激されたのだろう

 

「ありがとなっ」

 

いつもの横須賀で慣れているので、何のためらいもなくイチゴ飴を取り、ヒュプノスと一緒にベンチに座った

 

「案外普通に取るのね⁇」

 

「ふっふっふ…横須賀で慣れてるからな‼︎」

 

「次は別の方法でやる事にするわ」

 

「娘にそんな感情は抱かないさっ」

 

イチゴ飴を咥えながら、未だ余韻が残る盆踊り会場を眺める

 

「あら。私がそうだと言っても⁇」

 

「ヒュプノス⁇」

 

ヒュプノスもイチゴ飴を咥えながら、太ももに肘を置いて手を顎に置き、イタズラな目で俺を見ている

 

「ふふふ…じゃなきゃ誘惑しないわ⁇」

 

「…ありがとう」

 

「い〜え、どう致しまして」

 

数秒の間が空き、二人とも口の中でイチゴ飴を転がす

 

「アイリスに手出しちゃやぁよ⁇」

 

「どうしたっ⁇嫉妬を覚えたかっ⁇」

 

ベンチに手を置きながら、返事を返すも互いに視線は前を向いている

 

「あの子、お父様の好みに合わせてボディーを造ったのよ」

 

「ははっ‼︎人の事言えるのか⁇」

 

ヒュプノスは視線を落とした

 

「あら。言えなかったわ」

 

「心配するな、みんな好きさ」

 

ヒュプノスは無言のまま、ズリズリと横に寄って来た

 

「…お父様に恋するのはおかしいかしら⁇」

 

「恋愛は自由だ。愛に国境は無い」

 

「まるで自分が浮気でもしてるみたいな言い草ね」

 

「今してるだろ⁇」

 

「ふふっ…イケナイ関係も悪くないわ」

 

ヒュプノスはイチゴ飴の割り箸を指で弾いてゴミ箱に入れ、立ち上がる

 

「またデートして頂戴⁇」

 

「いつでもっ」

 

ヒュプノスは最後もイタズラに微笑みながら、屋台の方に歩いて行った…

 

「レイ‼︎」

 

次は横須賀が来た

 

「ひとみちゃんといよちゃんは隊長と食べに行ったわ⁇」

 

「おたしゅけ〜‼︎」

 

「ひぃ〜‼︎」

 

「助けてくれ‼︎」

 

言ったしりから肩にひとみといよを乗せた隊長が走って来て、俺の肩を掴んだ

 

「たっ、たかっ、貴子‼︎貴子が‼︎」

 

「ウィリアム」

 

貴子さんが来た

 

目が光っている所を見ると、食関連で怒らせたのだろう

 

「はわわ…」

 

隊長は見た事ないスピードで俺の背中に隠れた

 

「何したんだよ…」

 

「貴子のたこ焼き一個食べただけだ‼︎」

 

照月と貴子さんの食を少しでも邪魔する事は、死を意味する

 

「隊長…重罪ですよ…」

 

「みんなで食べてたから良いかなって思ったら、貴子も食べようとしてたらしいんだ‼︎」

 

「マーカス君」

 

ザッ‼︎と音を出し、貴子さんが目の前で止まった

 

「は、はひぃ…」

 

「死にたくないなら屈むんだなぁ‼︎」

 

「ひぃ‼︎」

 

む、武蔵に戻ってるじゃねぇか‼︎

 

「た、貴子しゃん…」

 

「よっこら」

 

貴子さんは何のためらいも無く隊長を肩に乗せた

 

「あー‼︎助けて‼︎嫌だ‼︎俺にはまだ夢があるんだー‼︎」

 

「ははは‼︎少し借りて行くぞ‼︎」

 

「は、はい…」

 

「楽しんで下さいねー‼︎」

 

貴子さんに肩に抱えられてジタバタする隊長を見送る…

 

「ぱぱしゃんど〜なうの⁇」

 

「てんぷあにさえう⁇」

 

横須賀の足にしがみ付いて、ガクブル状態のひとみといよ

 

基地で悪い事やイタズラをすると、貴子さんに天ぷらが唐揚げにされるかの二択を迫られる

 

勿論貴子さんがそんな事するはずはないが、今は武蔵だ

 

隊長は多分天ぷらになるだろう

 

「みて‼︎」

 

「たかこしゃん‼︎」

 

屋台の方にいた武蔵は貴子さんに戻り、隊長と腕を組んで屋台を回っていた

 

前回、居住区では出来なかった事を、貴子さんは本当はしたかったのだろう

 

放っておいた方が良さそうだ

 

「ひとみちゃん」

 

「うんっ‼︎」

 

「俺達も何か余りもん食べに行くか‼︎」

 

「今なら安いわよ‼︎」

 

「あ〜、ねむたい〜」

 

「くうくうちてちんろい〜」

 

数秒前までピンピンしていたひとみといよが急にジェスチャー込みで疲れをアピールし始めた

 

「沢山踊ったものね‼︎」

 

「…」

 

「ひとみといよちゃんあ、おしゃきにしつえ〜ちますえ」

 

「さいなあちま〜す」

 

「二人で戻れる…」

 

「横須賀っ」

 

二人を心配した横須賀を止める

 

俺の声に反応して振り向いた横須賀が、再びひとみといよの方を向くと、一目散に走り去るひとみといよが見えた

 

貴子さんと隊長を見て、二人なりに気を使ってくれたのだ

 

「…行きましょうか‼︎」

 

「行こう‼︎」

 

俺と横須賀の夏祭りは、こうして流れて行った…

 

 

 

 

 

 

 

「がんび〜しゃんたこあき‼︎」

 

「いんとえぴおこのみあき、おいち〜‼︎」

 

「いっぱい、食べてね‼︎」

 

「沢山あるわよ‼︎」

 

走り去ったひとみといよの行き先はパイロット寮

 

夏祭りの余韻を楽しむ為、ガンビアとイントレピッドがたこ焼きとお好み焼きを焼いていたのを二人は知っていた

 

リチャードとヴィンセント、ジョンストンとサム達と一緒にそれらを食べながら、二人の夏祭りも流れて行った…



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251話 RED DOG(1)

横須賀繁華街の夏祭りも無事に終わり、新しいお話になります

今回のお話は、ずっと出そう出そうと迷っていた艦娘が出て来ます

横須賀の地下で眠りに就いていたとある艦娘…

果たして一体誰なのか…


朝方、急に目が覚めたので埠頭でタバコを吸っていた

 

「寒っ…」

 

ここ最近、秋風が吹き始めた

 

基地に居ても横須賀に居ても、薄着をしていれば風邪を引きそうだ

 

「おはよ‼︎」

 

「えいしゃんおはよ‼︎」

 

「おっ‼︎おはよう‼︎」

 

ひとみといよは平気そうだな

 

「あしゃおはんれすお〜って‼︎」

 

「もうそんな時間か⁉︎」

 

「いこ‼︎」

 

タバコを吸い終わり、二人を肩に乗せ、食堂に戻って来た

 

「おはようマーカス君。寒くない⁇」

 

「俺は大丈夫。今日、サラに呼ばれたから朝ごはんを食べたら出ます」

 

「気を付けてね⁇夕飯はどうする⁇」

 

「帰れると思う…ふぁ…」

 

「朝早くにたいほうも横須賀に行ったわ⁇」

 

「ジョンストン達と遊びに行ったのか⁇」

 

「乙女には内緒も多いのっ‼︎さっ、行ってらっしゃい‼︎」

 

「行って来ますっ‼︎」

 

とは言うが、急に目が覚めたのでまだ少し眠たい

 

しかし、サラが呼び出すとは珍しいな

 

いつもなら横須賀にいる時にご飯を作ってくれる位なのだが、今日は俺のタブレットに直接呼び出しが来た

 

恐らく内密な話なのだろう…

 

グリフォンに乗り、横須賀を目指す…

 

 

 

《サラが呼び出しするなんて珍しくない⁇》

 

きそも不安に思っているみたいだ

 

「親潮に聞いても特に変わった様子は無いらしい」

 

《ますます怪しいじゃん‼︎》

 

不安を抱えつつ、横須賀へと向かう…

 

 

 

 

「マーカスだ」

 

「きそ‼︎」

 

「来てくれたわ‼︎入って‼︎」

 

マークの研究室に入るとマークとサラ、オーヨド博士がいた

 

「や〜‼︎おかえり、レイ君っ‼︎」

 

相変わらずのオーヨド博士に、少しだけ笑みを送り、視線をマーク達に戻す

 

「俺に用とは⁇」

 

「実はだな…」

 

「サラからお話します。マー君、これを見て。オーヨド、お願い」

 

「オッケー‼︎」

 

真剣な表情になるマークをよそに、オーヨド博士がPCを弄ると、モニターに何処かのカプセルが映し出された

 

「…」

 

「横須賀の執務室がある建物の地下に眠っていたのよ」

 

「恐らく、何らかの形で放置されていた可能性が高いんだ」

 

「…まだ残ってくれてたのか」

 

「レイ⁇」

 

カプセルの映像が出た時から、俺の様子がおかしい事にきそが気付いた

 

「何か知っているなら聞かせてくれないか」

 

「…そいつは初期型のカプセルの改良型だ。今のカプセルの様に高性能じゃないが、艦娘を産み出せる様になったプロトタイプのカプセルだ」

 

自分が造った物なので、今目の前にある映像のカプセルがどのシリーズなのかは分かっていた

 

「初期型と現状のカプセルの間って訳ね⁇」

 

「そうだ。だが、こいつには癖がある。今のカプセルの様に、何もかもが人に近い艦娘を産み出せないんだ」

 

「例えば⁇」

 

「分かりやすく言えば、言語機能が著しく少ないとか、何かの機能が著しく損なわれる」

 

「それくらいならまだレイ君が何とかしてくれるんじゃないかね」

 

「オーヨド博士。そう言うならアンタも出来るはずだ」

 

「てへっ‼︎」

 

オーヨド博士はこのカプセルのシステムをある程度理解している

 

と、なると俺を呼び出した理由はカプセルを造った本人が手順や産み出せる子の特徴を知っているからだろう

 

「このカプセルはもう一つ大きな特徴がある」

 

「どんな特徴⁇」

 

「身体能力のどれかが非常に高くなる。それは産まれて来てくれるまで分からない。足が異常に速かったり、腕力が異常に強くなったり」

 

「仮に聞くが…このカプセルと同型機で建造された子は居るのか⁇」

 

「いる」

 

あまりにも率直な答えで、その場にいた俺以外の全員が驚いた

 

「代表的なのは照月、蒼龍、ひとみ、いよだ」

 

「言われてみれば特徴的な能力があるな…」

 

《必要とあらば、私がそこまでのルートをご案内致します》

 

「親潮か⁇」

 

オーヨド博士のPCから親潮の声がした

 

《盗み聞きは良い趣味とは言えませんね…申し訳ありません》

 

「気にするな。事態が事態だ。ルートの案内は出来るのか⁇」

 

《可能です。準備が出来次第、申して下さい》

 

「なら頼む。誰か着いて来てくれないか⁇不測の事態があると助けがいる」

 

「私が行こう」

 

「大淀さんも行きましょうかね‼︎」

 

「僕はサラと残るよ。ここに不測の事態があったら危ないからね」

 

きそは持っていた刀を俺に差し出してくれた

 

それを受け取り、きその頭をしっかりと撫でる

 

「頼んだぞっ‼︎」

 

「任せてっ‼︎」



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251話 RED DOG(2)

マークの研究室から出て、インカムを付け直す

 

《エレベーターで地下一階に向かって下さい》

 

親潮に言われた通り、エレベーターで向かえる最下層の地下一階のボタンを押す

 

《地下に入りますので、電波レベルを上げます》

 

「中継地点はありそうか⁇」

 

《そこまで行けば、カプセルに繋いだPCがあります》

 

「了解」

 

エレベーターを降りると、すぐに親潮から誘導が来た

 

《九時の方向に向かって下さい》

 

地下一階は資料室

 

ここに過去の研究や戦闘データが保管されている

 

紙媒体の資料もあるが、最近は幾つかの記録媒体に保存され、適材適所でコピーされたものが執務室のコピー機に届く

 

《そこに地下への入り口ハッチがあります》

 

親潮の誘導通りに行くと、小さなハッチがあった

 

ハッチを開けると、ハシゴが見えた

 

「俺が先に降りる」

 

「オーヨド、先に行け」

 

「オッケー‼︎」

 

俺が先に降り、続いてオーヨド博士、最後にマークがハシゴを降りる

 

「レイ君。大淀さんのパンティーは何色かね」

 

「はいはい、水色の縞パンだ。よっこらせっ…」

 

オーヨド博士を軽くいなし、地に足を下ろす

 

《親潮は黒です》

 

「いい事を聞いたっ。次はどっちだ⁇」

 

負けじと親潮も自分の下着の色を言うが、横須賀と同じ色を身に付けているのは知っていた

 

《前方のシャッターを解錠します。その先が目的地です》

 

親潮の下着は元から黒と知っているので、これもいなしながらシャッターが開くのを待つ

 

「オヤシオの様に良い子だといいんだがな…」

 

タブレットを携えたマークが、目の前で俺と似た体勢で壁にもたれている

 

「どんな子であれ、変わりないさ。またそこから色んな事を教えてやればいい。それだけさ」

 

「レイ君らしいねぇ‼︎オーヨド博士、そういうレイ君だーい好きだよ‼︎」

 

「…ありがとう」

 

オーヨド博士に”好き”と言われると、今でも心の何処かで喜んでいる自分がいる

 

《心拍数と血圧の若干の上昇が見られます》

 

「気にするな。横須賀には内緒だぞ⁇」

 

《畏まりました。解錠、完了しました‼︎》

 

シャッターが開き、中へと入る

 

「これは…」

 

中を見た瞬間、息が詰まる

 

先程映像で見たカプセルとは違うカプセルが稼働状態のまま、そこにわんさかとあった

 

規則正しく並べられている所を見ると、まだ何か役目を終えていないようにも見える

 

「マーク、右側を頼む。オーヨド博士は真ん中を」

 

「わ、分かった」

 

「オッケー」

 

マークが多少驚く中、オーヨド博士はあまり驚かずに真ん中の列のカプセルを調べ始めた

 

「どれ…」

 

左側に来た俺は、最初に見えたカプセルのPCを弄る

 

「最終履歴は…っと」

 

モニターに履歴が映し出される

 

”海防艦占守 建造”

 

「ムッシュだと…」

 

「レイ君‼︎来て‼︎」

 

オーヨド博士に呼ばれ、真ん中のカプセルを見に行く

 

「これを」

 

オーヨド博士に言われ、モニターを見る

 

”重巡洋艦古鷹 建造”

 

「この子、ゲームセンターにいる子じゃない⁇」

 

「マーカス‼︎」

 

今度はマークに呼ばれ、オーヨド博士と共に向かう

 

「”ヘビークルーザータカオ”ってのは、あの雑貨屋の子か⁇」

 

全員聞いた事のある名前が表示されてあり、冷や汗が出る

 

「建造で産まれた子は何人かいるとは聞いたが…まさかここだったとはな…」

 

「てっきり上の階にある新型のカプセルかと思ってたよ…」

 

「しかし、だ。ここで産まれるのはいい。さっきのハシゴから出入りするのか⁇」

 

「親潮。この区画の見取り図を出してくれ」

 

《畏まりました。タブレットに送信致します》

 

すぐに親潮から見取り図が送らて来たので、それを三人で見る

 

《左側の扉からマーク様の研究所へと繋がっており、そこから比較的大きな搬入口から出入りが可能です》

 

「あまり聞きたくない名だ…」

 

《申し訳ありません…こう説明するしか…》

 

「気にするな、私がまいた種だ。マーカス、その扉を開けてくる」

 

「頼んだ」

 

マークが研究所へと繋がる扉へと向かい、俺とオーヨド博士は事の発端である旧式のカプセルの前に来た

 

「何なんだろうね…」

 

「ちょっと見せてくれよ…」

 

PCを操り、今カプセルに入っている彼女の手掛かりを探す

 

「親潮、そっちに転送する。解析を頼めるか⁇」

 

《勿論です、創造主様。此方で解析を進めます》

 

親潮にデータを転送していると、マークが帰って来た

 

「あまり見たくない光景だ…マーカス。あの部屋は秘匿ドックに繋がる道があるのを知ってるか⁇」

 

「知らない。あったのか⁇」

 

「あぁ。アルテミスと言う秘匿建造された潜水艦がいただろう⁇あの潜水艦はそのドックで造られた。ま…今は使われてないがな」

 

その名前が出た途端、俺はどうやら一瞬眉間にシワを寄せたらしい

 

「レイ君‼︎上に戻ったらこの大淀とパフェでも食べようか‼︎」

 

「分かった」

 

オーヨド博士は察してくれたのか、マークを壁に寄せた

 

「…あんまりレイ君の前でアルちゃんの話しちゃダメだって」

 

「すまん…ついうっかり…」

 

「…そのついうっかりでレイ君が離れたらど〜すんのさ」

 

「…気を付ける」

 

「気にしないでいい」

 

「「はっ‼︎」」

 

オーヨド博士もマークも俺が耳を立てていた事に驚く

 

「アルテミス…ルイージ・トレッリも俺の娘だ。どんなに離れていようが、それだけは変わらない」

 

「そ、そうだな‼︎」

 

「さっすがレイ君‼︎懐の広さは横須賀1だよ‼︎」

 

《解析完了しました》

 

「どうだった⁇」

 

親潮の言葉で、オーヨド博士もマークもPCに寄る

 

《現在このカプセルで建造…いえ、保管されているのは”航空母艦 赤城”です》

 

「赤城…」

 

《記録によると、横須賀基地防衛戦の際、赤城が投入され、敵対していた深海棲艦を撃退しています》

 

「横須賀がほぼ完璧な状態で残っていたのはこの子のおかげか…」

 

《はい。ですが、制御が不安定な面があり、現在はカプセル内に保管中です》

 

「つまり、横須賀にとっての切り札って訳か…」

 

その時、カプセルの中で気泡が出た

 

「何だ⁉︎」



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251話 RED DOG(3)

その音は三人にも、そして親潮の耳にも入った

 

《創造主様‼︎赤城が起動しています‼︎そこから脱出を‼︎》

 

「起動…」

 

親潮の言葉でカプセルを見ると、つい数秒前まで閉じていた目が開いており、俺を見つめていた

 

《マーク様‼︎大淀様‼︎創造主様を連れてそこから逃げて下さい‼︎》

 

「マーカス‼︎行くぞ‼︎」

 

「行くよ‼︎早く‼︎」

 

二人に連れられ、マークの言っていたドックの方へと逃げて来た

 

逃げる道中、カプセルが割れる音が聞こえた

 

恐らく赤城が叩き割ったのだろう

 

マークの研究室に繋がる道の扉が閉められ、一息つける

 

「ここからなら逃げ道は二つ。ドックから逃げるか、工廠に続く道から逃げるか」

 

「レイ君⁇」

 

「赤城の狙いは何だ…」

 

二人が逃げるのに必死の中、俺だけは考えが違っていた

 

赤城は親潮が言った通り、横須賀基地の防衛の為に生まれた子

 

ガリバルディの一件の時に目覚めなかった彼女が一体何故今になって目覚めたのか…

 

ゴン‼︎ガン‼︎

 

「来た来た来た来た‼︎レイ君逃げるよ‼︎」

 

向こうから赤城が扉を殴っているのか、扉が一瞬にしてヘコんでいく

 

「サラ‼︎研究室のシャッターを開けてくれ‼︎」

 

《分かったわマー君‼︎》

 

バガン‼︎と音が聞こえ、赤城が研究室に入って来た

 

「急げ‼︎」

 

「レイ君ってば‼︎」

 

「先に行ってくれ」

 

「マーカス‼︎」

 

「赤城と話がある」

 

今の一瞬で分かった

 

赤城は二人を見ていない。狙いは俺だ

 

「…分かった、レイ君」

 

「オーヨドまで何を‼︎」

 

「上で待ってるからね‼︎いい⁉︎大淀さんとの約束だよ⁉︎」

 

「了解した」

 

オーヨド博士がマークを連れて研究室を出たのを見て、赤城に視線を戻す

 

「赤城」

 

名前を呼ぶが、赤城は薄ら笑いを浮かべ、肩を揺らしながら息をしている

 

「狙いは俺だな⁇」

 

何を言っても、赤城は表情一つ変えない

 

《創造主様‼︎目の前に赤城がいますか⁉︎》

 

「あぁ、いるよ。今お話中だ」

 

《親潮に時間を下さい‼︎解析を進めて、弱点を探します‼︎可能ですか⁉︎》

 

「やれるだけやってみるさ」

 

親潮との通信を終え、もう一度赤城と対話する

 

「赤城。一度横須賀を護ってくれたらしいな⁇」

 

赤城は表情一つ変えない

 

肩を揺らしながら息をし、視線もずっと俺を見ている

 

「まずは着替えよう。素っ裸じゃ寒いだろ⁇」

 

革ジャンを脱ぎ、赤城に歩み寄る

 

「ほらっ」

 

革ジャンを着せている最中も、俺から視線を外す気配は全く無い

 

《創造主様‼︎聞こえますか⁉︎》

 

「聞こえる。どうだ⁇」

 

《赤城に対して難しい言葉は通用しません‼︎簡単な言葉で対話を試みて下さい‼︎》

 

「赤城。赤城⁇」

 

革ジャンを着せながら無線を聞いていたので、数秒だけ赤城から目を離していた

 

その隙に赤城の目線は俺ではなく、出入り口の方を向いていた

 

「あっ‼︎」

 

俺の制止を振り切り、赤城は出入り口の方に走る

 

「赤城‼︎待て‼︎」

 

赤城は止まった

 

親潮の言う通り、簡単な言葉なら赤城は聞いてくれるみたいだ

 

赤城はゆっくりとだが、俺の方に振り返った

 

「赤城。お腹空いたか⁇」

 

何を聞いても表情を変える事は無く、返事が返って来る事も無い

 

「みんなもうすぐお昼ご飯だ。赤城は何が食べたい⁇」

 

すると、赤城は俺の方にジリジリと寄って来た

 

「お…俺か…」

 

あのカプセルから産まれて来た子だ

 

蒼龍と同じ能力を持っていてもおかしくない

 

「赤城」

 

しかし、俺が赤城と言う度に動きは一応止めてくれる

 

「いましたっ…‼︎」

 

出入り口から涼月が来た

 

「マーカスさんっ…‼︎そこを離れて下さいっ…‼︎」

 

「やめろ涼月‼︎」

 

「ほれ」

 

涼月の手から手榴弾が放り投げられる

 

それがトンッ‼︎トンッ‼︎と地面に落ちた瞬間、終わりを感じた…

 

だが、手榴弾から放たれたのは爆発では無く催涙ガス

 

「ほれ」

 

咳き込む俺を、涼月は一瞬で担ぎ上げ、研究室から脱出する事が出来た

 

「ありがとう…ゲホッ、助かったよっ…ゲホゲホ…」

 

「たまたま遊びに来ていてっ…‼︎」

 

「レイ‼︎」

 

涼月と話していると、横須賀とマーク、オーヨド博士が来た

 

「赤城が起きちゃったのね…」

 

「あぁ…ゲホ…狙いはっ、俺だっ…」

 

「赤城をなんとかするわ。手伝って頂戴」

 

「分かっ…た。ゲホゲホ…」

 

横須賀と涼月に担がれ、一旦は工廠から出る…

 

 

 

咳も落ち着いた所で、執務室に来た

 

「赤城がこの基地の防衛の為に産まれたのはもう分かってるわね」

 

「あぁ。一度横須賀を護り抜いてるらしいな」

 

「赤城は初期に建造計画されたんだけど、あまりにも制御が難しいからあそこで保管されてたのよ」

 

「解析も完了していますので、合わせて資料を作りました」

 

横須賀から、当時から残っている申し訳程度の資料と合わせて親潮の解析結果を受け取る

 

「表情、言語が著しく脆弱…か」

 

「マーカス、ジェミニ、すまない…」

 

「大淀さんも謝るよ…」

 

赤城を発見し、確認しに行った事に対しての謝罪だろう

 

それよりも、資料の中に気になる言葉を見つけた

 

「気にしないでいい。これで分かった、ありがとう」

 

「行けるかしら⁇」

 

「涼月」

 

「はいっ…‼︎」

 

「お前、物投げるの得意だよな⁇」

 

ソファーに座っていた涼月は、待ってましたと言わんばかりにニヤつきながら無言で立ち上がった

 

「投擲ならっ…この涼月にお任せ下さいっ…‼︎」

 

「親潮も手伝ってくれ」

 

「はいっ‼︎」

 

「オーヨド博士は横須賀と待っていてくれ」

 

「分かったわ。アンタに任せる」

 

「レイ君。何か考えがあるのだね⁇」

 

「まぁな。マーク。きそにこれを返して来てくれ」

 

「分かった。大丈夫なのか⁇」

 

「赤城は友達が欲しいんだ。友達に刀は要らないさ」

 

三人を執務室に置き、俺達は執務室を出た…

 

 

 

 

「ありました‼︎」

 

「これならっ…‼︎」

 

俺達はスーぴゃ〜マーケットに来ていた

 

手に入れた道具は二種類

 

これを赤城に投げる

 

もし資料通りなら、赤城はコレに反応するはずだ

 

被害が出る前に何とか抑えてやらないと…

 

表に出て来ると、繁華街がザワついていた

 

「いました‼︎」

 

繁華街の通りに、下半身に何も着けていない赤城が見えた

 

中々肉付きが良い彼女があんな格好でウロついていたら、そりゃあ騒がしくもなるか…

 

「たいほう⁉︎」

 

そんな中、駄菓子屋の前にたいほうがいるのが見えた

 

「あたしたいほう‼︎」

 

たいほうは無邪気に自己紹介をし、赤城がたいほうの方を向く

 

「おねえさんのおなまえは⁇」

 

赤城を知っている俺達は、内心無駄だと思っていたその時だった

 

「あ‼︎か‼︎ぎ‼︎」

 

「ひっ‼︎」

 

急に赤城が大声で自己紹介をしたので、たいほうの直立不動が出た

 

「すてぃんぐれい‼︎」

 

「たいほう‼︎」

 

すぐに直立不動が治り、俺に気付いたたいほうがこっちに来た

 

「あかぎさんだって‼︎」

 

「そっかそっか。赤城はな、お友達が欲しいんだ。たいほう、なってくれるか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「よしっ…」

 

たいほうにもスーぴゃ〜マーケットで買った物を渡す

 

「第一作戦開始‼︎赤城‼︎」



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251話 RED DOG(4)

赤城がこっちを向き、それと同時に走ってこっちに向かって来た

 

「投げろ‼︎そらっ‼︎」

 

「ほれ」

 

「それっ‼︎」

 

「えいっ‼︎」

 

全員、手に持っていた物を赤城に向かって投げた

 

赤城は走って来るのをやめ、放物線を描いて向かってくるそれを目で追う

 

そして、地面にそれが落ちた後、こっちを向いた

 

「効いてませんしっ…物凄い此方を見てますっ…‼︎」

 

「”骨ガム”ではダメなようです‼︎」

 

赤城は骨ガムには興味を示さなかった

 

「”ぼーる”なげよ‼︎」

 

「第二作戦開始‼︎ほりゃ‼︎」

 

「ほれ」

 

「それっ‼︎」

 

「えいっ‼︎」

 

赤城は投げられたボールを見た瞬間、それに飛び掛かる様に向かって行った‼︎

 

「「「「行ったぁ‼︎」」」」

 

少しすると、赤城はボールを四つ抱えて戻って来た

 

「赤城はボール好きなんだな⁇」

 

ボールを目にした赤城の表情は、少し微笑んでいる気もする

 

「赤城。まずはお着替えだ」

 

四人に囲まれた状態で赤城を連れ、高雄の部屋に来た

 

「いらっしゃいませ。あら大尉」

 

「この子に服を」

 

「畏まりました。此方へどうぞ〜」

 

高雄に連れられた赤城は、また微妙に微笑んだ状態に戻っているが、暴れ倒す心配はなさそうだ

 

「お前達は好きなおもちゃ選んで来ていいぞ〜」

 

「親潮、前から欲しい物があったのでそれを持って来て良いですか⁉︎」

 

「あぁ‼︎今日のお礼だ‼︎」

 

「サイドポーチにしましょうっ…‼︎」

 

「たいほうもみてくるね‼︎」

 

数分後…

 

「ありました‼︎」

 

親潮はA&A maidのネックレス

 

「これにしますっ…‼︎」

 

涼月は絶対手榴弾を入れるであろうサイドポーチ

 

「たいほうこれにする‼︎」

 

たいほうは海の生物のミニチュアがミチミチに入った取手の付いたプラスチックケース

 

「よしよしっ‼︎赤城が来たらレジに置こうな⁇」

 

そして…

 

「大尉。この様な感じで如何でしょう⁇」

 

「おっ‼︎似合ってるぞ‼︎」

 

赤城は赤い袴型のスカートと、着脱しやすい浴衣型の上着を着けて貰っていた

 

「下着は目立たない様にシンプルな白を。結構なサイズがございましたが…」

 

「似合ってればいいさ。後、これも頼む」

 

「いつもお世話になっておりますので、全部で1万円で如何でしょう⁇」

 

「助かるよ」

 

高雄に代金を支払い、高雄の部屋を出て来た

 

「すてぃんぐれい、ありがとう‼︎」

 

「創造主様‼︎ありがとうございます‼︎」

 

「新しい手榴弾をっ…ここに入れますっ…‼︎」

 

「今日のお礼だ。ありがとうな⁇」

 

それぞれがお礼を言ってくれる中、涼月の答えを聞き、やっぱりなと思った

 

「赤城」

 

やはり赤城は俺に呼ばれると反応してくれる

 

「ごはんを食べよう‼︎」

 

「ご‼︎は‼︎ん‼︎」

 

「「ひっ‼︎」」

 

赤城は時折質問に対し、言葉を急に返す

 

それもかなりボリュームがデカイ為、俺とたいほうが直立不動になる

 

「良いお返事です‼︎」

 

「マーカスさんっ…涼月はこれでっ…‼︎」

 

「涼月もご飯行くぞ」

 

「ダイダロスさんとっ…ご飯なんですっ…‼︎」

 

「それはいかんな。デートの邪魔して悪かったな⁇」

 

「ポーチでイーブンですっ…‼︎」

 

涼月はダイダロスさんとデートに行った為、今度は四人で間宮に向かう



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251話 RED DOG(5)

「いらっしゃいませ〜」

 

「四人だ。それと、後一人来る」

 

「お好きな席にどうぞ〜」

 

伊良湖に言われ、いつもの入り口右のテーブル席に腰を下ろす

 

「親潮。きそ呼んでくれるか⁇」

 

「畏まりました‼︎」

 

テーブル席は四人掛けだが、たいほうは子供用の椅子に座るので、テーブルの頂点にいる

 

「ご飯食べるの⁉︎」

 

「好きなもん頼めよ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

きそは親潮の横に座り、一緒にメニューを見始めた

 

赤城は壁際に座り、俺はたいほうの横に座っている

 

「たいほうは何食べたい⁇」

 

「おこさまらんち‼︎」

 

メニューを見せる間もなく、たいほうは食べたいものが決まっていた

 

「よしっ‼︎赤城は何食べたい⁇」

 

赤城はず〜っと同じ顔で俺を見ている

 

「俺と同じカレーライスにしようか‼︎なっ‼︎」

 

何も言わない赤城だが、否定も無さそうだ

 

「伊良湖‼︎」

 

「は〜い‼︎」

 

伊良湖を呼び、それぞれが注文を頼む

 

「少々お待ち下さいね〜」

 

「赤城様は改二”戌”、でしたね」

 

「あ、か、ぎ」

 

「おっ…」

 

親潮の言葉に合わせる様に、赤城が口を開く

 

先程の様に爆発の様な声では無く、小声の様なトーンの声を出した赤城に、俺だけが驚く

 

「赤城」

 

「ん…」

 

「言語機能が定着して来たな⁇」

 

まだ自分の声に慣れていないのか、自分が発した声に驚いている様にも見える

 

「赤城は何が好きだ⁇」

 

赤城が指差す方には親潮がいる

 

「お、親潮ですか⁉︎」

 

「あの子は親潮。呼んでご覧⁇」

 

「お、や、ち、お」

 

「はいっ‼︎親ちおですっ‼︎」

 

次に赤城の視線はきそに移る

 

「僕はきそ‼︎」

 

「き、そ」

 

きそが微笑みを返すと、赤城はきそを真似して口元をほんの少し綻ばせた

 

次に赤城が見たのはたいほう

 

「たいほ」

 

「あたしたいほう‼︎」

 

たいほうは先程爆音自己紹介をしたので知っている

 

そして、視線は俺に移る

 

「俺はマー…」

 

自分の名前を言おうとした時だった

 

「おとうさん」

 

「…へっ⁇」

 

「おとうさん」

 

赤城は俺を”おとうさん”と言った

 

驚き過ぎて数秒返す言葉に詰まった後、親潮がフォローを入れてくれた

 

「あ、創造主様‼︎あれです‼︎すり込みですよ‼︎」

 

「ひよこちゃんみたいに⁇」

 

「レイホントに子沢山だね‼︎」

 

「そっか。俺はおとうさんか」

 

「おとうさん」

 

親潮の言う通りかもしれない

 

赤城は過去に一度目覚めているが、その時は命令だけを受けていた為、顔を覚えていない

 

それが今、赤城にとって一番最初に対話を試みた俺を父親だと言っても不思議ではない

 

艦娘には不思議な事が多いからな…

 

「お待たせしました〜」

 

伊良湖が食事を持って来てくれた

 

それぞれがそれぞれの食事を食べ始める中、赤城はジーッと待っている

 

「よしっ‼︎赤城、いただきますっ‼︎」

 

「いただきます」

 

俺の真似をして、赤城はカレーライスに手を合わせる

 

「赤城。これはスプーンだ」

 

「すーぷん」

 

「これをこうやって…」

 

俺がスプーンを持つと、赤城はスプーンも持ち、カレーライスの入ったお皿をコツコツ突いた

 

「これはカレーライスだ」

 

赤城は少し前の薄っすらと微笑んだほぼ真顔の状態で別の物をスプーンで指した

 

「これは福神漬けだ」

 

次は赤城と親潮の前に置かれた、みんなで食べる唐揚げをスプーンで指す

 

「これは唐揚げだ」

 

最後にカレーライスの横にあるお茶をスプーンで指した

 

「これはお茶だ。色んな種類があるんだぞ⁇」

 

赤城はゆっくりとお茶に視線を戻す

 

「こうやって飲むんだぞ⁇」

 

俺は自分の前にあるコップを手に取り、中身を飲んで見せた

 

赤城も真似してコップを手に取り、口元に近付け、中身を飲む

 

「おちゃ」

 

「そっ、お茶だ。美味しいか⁇」

 

赤城は同じ顔で俺を見た後、カレーライスを食べようとし始めた

 

「こうやってスプーンですくって、お口に持って来るんだ」

 

食べ方を見た後、赤城はカレーライスを口に入れた

 

「美味しいか⁇」

 

赤城は咀嚼をしながら俺の方をゆっくりと向く

 

そして、産まれて初めての笑顔を見せた

 

「そうか‼︎美味しいか‼︎」

 

そうと分かれば、赤城の食のスピードは速くなる

 

「…やっぱりレイってお父さんだね」

 

「…すてぃんぐれい、こどもいっぱいだね」

 

「…教え方が尋常じゃない位小慣れてます」

 

三人の少女がコソコソ話をする前で、俺は赤城にもう少し教えたくなった

 

「赤城。これはフォークだ」

 

「ふぁーく」

 

「そうだそうだ‼︎こうやって、唐揚げを食べるんだ‼︎」

 

赤城がフォークを手にし、目の前にある唐揚げの一つを突き刺す

 

俺も親潮も生唾を飲み、赤城を見守る

 

赤城はフォークで刺した唐揚げを俺に見せてくれた

 

「からあげ」

 

「いただきます、だ」

 

「いただきます」

 

唐揚げを食べ、今度も赤城は笑顔を見せる

 

「あっ。いたいた‼︎」

 

横須賀も来て、椅子を持って来てたいほうの横に座る

 

「この人は横…」

 

「おかあさん」

 

「あらっ‼︎」

 

赤城は横須賀を見るなり、開口一番でおかあさんと答えた

 

「そうよ⁇お母さんよ⁇」

 

「おかあさん、おとうさん」

 

「そうだっ」

 

「赤城も良い子ね⁇」

 

赤城には何らかの秘密がありそうだ

 

一応、検査しなければならないな…

 

「お⁉︎もう食べたのか⁇」

 

「かれーらいす、からあげ」

 

赤城の前には、既に空になったお皿が二つ

 

「全部食べたら、ごちそうさま。だ」

 

「ごちそうさま」

 

キチンとごちそうさまを言い、赤城達と共に執務室に戻って来た

 

 

 

 

「これはボールです」

 

「ぼーる、ぼーる、これもぼーる。あかぎのぼーる」

 

色々なボールがある中、赤城のボールは赤いボール

 

それもちゃんと覚え始めている

 

「ふふっ‼︎そうですっ‼︎」

 

執務室に戻り、カーペットの上で親潮達が赤城にボールを教える姿を見ながら横須賀と話す

 

「赤城は横須賀で預かるわ」

 

「防衛の為に産まれて来てくれた子だからな。ここにいるのが一番だろう。今晩は横須賀に泊まって、赤城を検査する」

 

「頼んだわ。あ、そうだ‼︎親潮‼︎」

 

「あ、はいっ‼︎」

 

親潮が机の前に戻って来た

 

「アンタ達に聞きたいんだけど、ボールは分かるけど何で骨ガム投げたの⁇」

 

「”いぬ”と書いてありましたので…」

 

「赤城改二”いぬ”だろ⁇」

 

「はぁ〜〜〜っ…」

 

珍しく横須賀が頭を抱えて溜息を吐いた

 

「”ぼ”‼︎よ‼︎」

 

「赤城改二”いぬぼ”、ですか⁇」

 

「親潮…」

 

流石の横須賀も俺も、笑いを堪え切れない

 

普段真面目な親潮だが、久々に抜けている所を見れた

 

「いい、親潮⁇」

 

「はい」

 

横須賀は親潮の前に資料を出す

 

しかし、何回見ても赤城改二”戌”だ

 

「この”戌”って言う字ね⁇資料が古いから虫食いとかシミで”戌”に見えちゃったの。ホントは”戊”なの」

 

「赤城改二戊‼︎」

 

「そっ‼︎偉いわ‼︎てな訳でレイ⁇骨ガムに反応しない理由分かった⁇」

 

「分かった…ボールには何で反応したんだ⁇」

 

「初めて見るカラフルな物には誰だって興味示すわ⁇」

 

「「なるほど…」」

 

母性が強くなった横須賀が言うと妙に納得した

 

「赤城にお手‼︎なんて言ってみなさいよ。反応しないわよ、きっと」

 

「どれ…」

 

そこまで言われると、少し試したくなる

 

「ぼーる、あかぎのぼーる。あかぎのぼーる、あかいろ」

 

「赤城⁇」

 

ボールを持ってから少し顔が穏やかになった赤城に、横須賀に言われた言葉を言ってみた

 

「お手‼︎」

 

すると、赤城は俺の差し出した手をバシィ‼︎と思い切り叩いた‼︎

 

「イテェ‼︎」

 

「ほらみなさい‼︎」

 

今のは偶然かも知れない…

 

もう一度試してみよう

 

「お手‼︎」

 

バシィ‼︎

 

「おかわり‼︎」

 

バシィ‼︎

 

「イテェイテェイテェ‼︎」

 

シャッターをど突いて破壊するレベルのパワーでお手を受けた‼︎

 

「あはははははは‼︎」

 

両手に激痛が走る背後で、横須賀が爆笑する

 

「赤城をいぬ〜なんて読むからそうなるのよっ‼︎」

 

「ヒィ、ヒィ…すみましぇんれした…」

 

赤城に叩かれた部位は真っ赤っかに痕が付いている

 

痛い‼︎ヒリヒリする‼︎

 

「さっ。今日はもうお休みね⁇レイ、頼んだわ⁇」

 

「了解した‼︎ひぃー‼︎」

 

たいほうはきそと基地に帰った

 

たいほうに夕ご飯はいらないと伝えてあるので、今晩は忙しくなりそうだ…



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252話 博士が愛した”もの”(1)

話数と題名が変わりますが、お話は続きです


「…」

 

工廠のベッドで眠りに就いた赤城に機材を付け、脳波や健康のチェックをし始める

 

「言語機能が産まれたてか…」

 

脳波や健康のチェックをし始めてすぐに分かった

 

「誰も教えなかったのか…」

 

言語機能、知的指数、そのどれもがまだまだ覚えたての状態

 

「…」

 

キーボードを叩き、別の情報の確認に入る

 

「…試作型基地防衛機能⁇」

 

赤城のデータに聞いた事の無い機能が入っていた

 

その情報を開示し、中身を見る

 

 

 

”基地防衛機能について”

 

本機能は各基地及び鎮守府において、最終防衛線の要となる機能である

 

敵対する勢力に対して圧倒的な攻撃力及び強固さにより撃退する

 

本機能は試作であるため、母体に何らかの影響がある可能性が高い

 

その際は母体を放棄。母体の記録を”マーカス・スティングレイ製造の建造機材”に投入し、記録を保存する事

 

記録1

 

横須賀基地に敵性深海棲艦が大規模進行。赤城の投入を決定

 

同日、これを撃退に成功するも、赤城の母体は自壊し始め、同時に制御不能となる

 

記録2

 

赤城の母体を建造機材に投入成功

 

制御不能となった機能を安定させる機能が開発可能となるまで、赤城は凍結処置とする

 

記録3

 

制御可能となる基地防衛機能の開発完了

 

残るは母体だが、とあるパイロットの妻にその適性が確認された

 

戦災孤児の内2名も適性がある

 

彼女達なら母体も強く、自壊の心配は無い

 

これにより、赤城の廃棄を決定

 

 

 

 

「…撃てよ」

 

後頭部に何かが当てられる

 

それはすぐに分かった

 

当てている人も見当がついた

 

「いやぁ、見られちゃうとはねぇ」

 

後頭部に当てられたのは、拳銃の銃口

 

当てているのは…

 

「動かないでね、レイ君。大淀さん、こうしなきゃならないの。そのままで二、三答えて」

 

「…」

 

両手を上げ、無言の肯定をした後、オーヨド博士は質問を始める

 

「赤城を造ったのは大淀さんだって、いつ気付いたの⁇」

 

「カプセルの前に立った時だ」

 

「マークが赤城を発見した時は驚いたね。まさかまだ凍結解除されてないなんてねぇ」

 

「御託はいい。質問を続けてくれ」

 

「そうだったね」

 

オーヨド博士はもう一度俺の後頭部に銃口を当て直す

 

「赤城をどうするつもりかな⁇」

 

「赤城の父親でいられる限り、俺は父親でいる」

 

「赤城は手懐けられないよ。ふふっ、暴走したら終わりだよ⁇大淀さんにも無理だったもん」

 

「今からでも遅く無い」

 

オーヨド博士は一度、呼吸を整えた

 

懐かしい吐息が、髪の毛を揺らす…

 

「…変わらないね、レイ君は」

 

「あんたもだろ」

 

淡々と答える俺をよそに、オーヨド博士の声は少し震えている

 

「…基地防衛機能の母体になったのは誰かなぁ⁇」

 

「それは横須賀の、という意味か⁇」

 

「そうなるね」

 

「言わなきゃダメか。俺はまだ信じたくない」

 

「言わなきゃ撃つよ」

 

PCの画面を見ながら、俺は深い溜息を吐いた

 

本当は永遠に気付きたくなかったんだが…

 

あの小さな二人がこんな重荷を背負わせられてるとは知るよしもなかった…

 

「…雷電姉妹だ」

 

「ご名答。良い事を教えてあげよう。あの二人は基地防衛機能もあるし、赤城の様に凍結しなくても加減が分かってるんだよ、口は悪いけどね…だけど、レイ君に懐いているのを見て驚いたよ。不思議なものだね。君は何故か艦娘に懐かれる」

 

「他に救う方法はなかったのか」

 

「どの道あの二人は艦娘の適性があったんだよ。大淀さんはそれの強化をしただけだよ…賢いレイ君なら、分かってくれるよね」

 

「雷電姉妹の事は分かってやる。だがな…」

 

「質問してるのはこっち〜。忘れないでね」

 

後頭部の銃口をグリグリされ、振り返るなと無言の重圧をかけられる

 

「さ〜、レイ君。これ、な〜んだ」

 

オーヨド博士は、俺の目の前にタブレットチラつかせ始めた

 

画面にはストップウォッチが表示されており、残りは五分

 

「…何だこれは」

 

「赤城は危険だからね。大淀さん、消去しようと思うんだ」

 

「何だと…」

 

「あ〜ら大変‼︎レイ君に残された時間はたったの五分‼︎その間に大淀さんからタブレットを取り上げてストップウォッチを止めないと‼︎」

 

その言葉を聞いてすぐに振り返り、オーヨド博士に掴み掛かる

 

「大淀」

 

「残念だねぇレイ君。君は命を救えずに終わっちゃう」

 

オーヨド博士はタブレット片手に、もう一度銃を構えた

 

距離は離れているが、今度は的確に俺の眉間を貫くつもりだ

 

「撃てよ」

 

「さようなら、レイ君。君は大淀さんの一番の部下だったよ」

 

瞬きもせず、引き金を引いたオーヨド博士の放つ弾丸を見る

 

あぁ…終わりか…

 

…いいさ、それでも

 

最後はあんまりだが、好きな人に殺されるならそれで良い…

 

弾が当たる瞬間、ようやく俺は目を閉じた…

 

 

…弾が来ない

 

何故だ…

 

「その答え…教えてあげましょうか⁇」

 

「君はオリジナルの…」

 

俺とオーヨド博士の間に割って入った一人の”愛娘”は、俺が香取先生のチョークを止める動きと同じ動作で弾丸を止めていた

 

「何発撃っても無駄よ。何発でも止めてあげるわ。弾も、貴方もね」

 

「そっかそっか。流石はレイ君の娘な訳だ」

 

「ヒュプノス‼︎危ないから下がってろ‼︎」

 

割って入ってくれたのはヒュプノスだった

 

俺がそう言うと、ヒュプノスは首だけを此方に向け、うっすらと微笑んだ



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252話 博士の愛した”もの”(2)

「そう言ってくれるお父様だからこそ、みんなお父様を護ってくれるのよ」

 

「あ〜参っちゃったな〜。大淀さん、降参しよっかな〜ヒュプノスちゃんが来たら無理だよ〜」

 

わざとらしい行動を見せるオーヨド博士

 

あれは諦めていない目だが、次の行動が読めない

 

「ならそれを寄越しなさい」

 

ヒュプノスはタブレットに手を伸ばす

 

残り三分…

 

オーヨド博士から奪えるのか⁇

 

「でも…諦めるのはまだ早いかなっ‼︎」

 

オーヨド博士の手には別の拳銃が握られている

 

「ヒュプノス‼︎下がれ‼︎」

 

「おっ‼︎さっすがレイ君‼︎自分が造った武器は覚えてるねぇ‼︎」

 

「撃ちなさいな」

 

「ほうほう。どうしてもレイ君を護るかね⁇」

 

「えぇ。愛されてると分かった以上、それを返さない人はバカよ」

 

「興味深いねぇ。今後の研究課題にさせて貰おっかなぁ⁇」

 

「好きになさい。撃つなら早くしなさい。トロいのは好みじゃないの」

 

「じゃっ、お言葉に甘えてさようならぁ〜」

 

何の躊躇もなく、オーヨド博士はヒュプノスに向かって引き金を引いた

 

今度は体が動いた

 

ヒュプノスを抱き寄せて背後に隠し、左手を前に出す

 

「あははははは‼︎思った通りだよ‼︎レイ君‼︎」

 

「何だ…⁇」

 

オーヨド博士は確かに引き金を引いた

 

だが、銃口から出たのは紐で繋がった万国旗とクラッカー

 

「ふふっ…やっぱり」

 

抱えていたヒュプノスがクスクスと笑う

 

「お父様は絶対に私を護ってくれる。それを大淀は見たかったのよ」

 

「いやぁ〜、これでレイ君が艦娘に懐かれる理由がようやく分かったよ‼︎」

 

「騙したのか⁇」

 

「そういう事になるかね⁇」

 

「騙したのは悪かったわ。ほら、お父様の好きなお胸、触らせてあげるから」

 

「大淀さんのパンツをもう一回見せよう‼︎」

 

「その前に赤城を消すな‼︎それを寄越せ‼︎」

 

「あぁ、これ⁇」

 

オーヨド博士の手の中にあるタブレットに表示されているストップウォッチの時間は、後三秒

 

「やめろ‼︎何考えて」

 

ストップウォッチが0を示すほんの少し前、オーヨド博士とヒュプノスはある方向を向く

 

チーンと音がしたのは電子レンジ

 

「さー‼︎出来た出来たー‼︎」

 

「それは何て言うの⁇」

 

オーヨド博士とヒュプノスは、まるで親子の様に電子レンジの前に立ち、中から何かを取り出す

 

「これは焼き芋‼︎レイ君の娘がいっぱい作れるから、今度はもっと美味しいのを食べるといいよ⁇」

 

「あら。ありがと」

 

「焼き芋のタイマーだと…」

 

「ふふふ…さ、赤城、起きて‼︎」

 

オーヨド博士の一言で、赤城は体を起こした

 

「これ…」

 

赤城が気になるのは焼き芋

 

指を揺らしながら、何度も焼き芋を指差しながら、俺の方を見る

 

「これは焼き芋だ。赤城も食べような⁇」

 

「やきーも」

 

赤城は物欲しそうにオーヨド博士の持つ焼き芋に手を伸ばす

 

「あげる代わりに、大淀さんからの最後の命…いや、お願いだ」

 

「おねがい」

 

「これからあのお兄さんが赤城を護ってくれる」

 

「おとうさん」

 

「マジかねレイ君」

 

「もう懐かれたの⁇」

 

「赤城。その人は大淀さんだ」

 

「これ」

 

赤城が欲しそうにしているのは、オーヨド博士が掛けている眼鏡

 

「これは眼鏡だ」

 

「めがね、おーよど」

 

「私はヒュプノス。お父様の長女よ」

 

「ひゅぷのす」

 

赤城はオーヨド博士もヒュプノスもしっかり認識し、また一つ物事を覚える

 

「めがね、ひゅぷのす」

 

「う〜む…やはり大淀さんはメガネかね…」

 

オーヨド博士は、子供達からメガネと覚えられる事が多い

 

ひとみといよもメガネと覚えている

 

「やきーも」

 

「あぁ、そうだったね‼︎ほいっ、どうぞ‼︎」

 

ようやく赤城は焼き芋にありつけた

 

だが、食べ方が分からず、俺をジーッと見ている

 

「私スプーン使うわ」

 

「すーぷん」

 

昼間に覚えたスプーンと言う単語

 

ぎこちなさは残るが、それが何かは伝わる

 

「赤城。ヒュプノスにスプーン下さいって言ってごらん⁇」

 

「すーぷん、ください」

 

「はいっ、どうぞ」

 

「赤城。何かをして貰ったら、ありがとうって言ってごらん⁇」

 

「ひゅぷのす、ありがと」

 

「ふふ。これ位いつでもっ」

 

ヒュプノスからスプーンを受け取り、赤城はそのままヒュプノスの横に着いた

 

「さ〜‼︎食べよ〜食べよ〜‼︎」

 

オーヨド博士が工廠の床にマットを敷いて、四人がそこに座り、焼き芋を食べ始める

 

「こうやって皮を剥くの」

 

「かわ、むく」

 

ヒュプノスと同じ様に、赤城も焼き芋の皮を剥いていく

 

「そうしたら、中の黄色いのをこうして…食べるの」

 

「いただきます」

 

「あら、そうね⁇いただきます」

 

ヒュプノスは普段プールの先生をしているので、誰かに何かを教えるのが上手い

 

それに、今目の前で俺の代わりに赤城に教えているヒュプノスのその姿は、俺の視線を一点に集中させ、今しばらく見せていなかった笑顔をようやく出す事が出来た

 

「中々イケるわね⁇」

 

「最近冷え込んで来たからな…ヒュプノスは大丈夫か⁇」

 

「えぇ。この水着もそうだけど、私自体プールに入りまくってるせいか、あまり寒さを感じないの」

 

「さむさ」

 

ヒュプノスと同じ様にスプーンで焼き芋を食べている赤城は、単語単語に反応を示した

 

「ぶるぶる〜ってする事だ。今度、ヒュプノスとアイス食べに行こうな⁇」

 

「あいす」

 

「ふふっ…楽しみにしてなさい⁇」

 

その場にいた四人で作る”IFの家族の形”が、そこにあった…

 

その瞬間に”あぁ…これが家族の形…”と、気付いていたのは、たった一人…

 

 

 

 

「私はこれで帰るわ⁇お父様、おやすみなさい」

 

「ありがとうな、ヒュプノス」

 

ヒュプノスはここ最近見せ始めてくれた優しい笑顔を俺に見せた後、オーヨド博士の方を向いた

 

「おやすみなさい、メガネさん」

 

「うぬぐぐぐ…レイく〜ん‼︎ヒュプノスちゃんがイジってくるぅ〜‼︎」

 

「はいはい。博士も寝ろよ⁇」

 

「う〜…あ、ヒュプノスちゃん。大淀さん、ちょっとレイ君に用があるんだ」

 

「そっ。なら私はっ…先に休ませて貰うわ⁇」

 

事が終わったヒュプノスは話している最中に伸びをし、宿舎へと戻って行った

 

ヒュプノスを見送った後、オーヨド博士は踵を返し、俺の方を向いた

 

「レイ君」

 

「何だ⁇」

 

「さっきの質問の続きをしたんだけど」

 

「質問は三つだろ⁇」

 

「そう言わないでよ〜。すぐ終わるからさ‼︎ねっ⁉︎お胸揉ませてあげるから〜‼︎」

 

「貧乳に興味は無いっ‼︎」

 

「う〜わ〜…そこまで言うかね⁉︎すんごい顔だよ⁉︎」

 

どうやら俺は途轍もなくヤバイ顔をしていたらしい

 

オーヨド博士は好きだが、貧乳に興味は無い

 

「…簡単なのだけだぞ⁇」

 

「オッケーオッケー‼︎と〜っても簡単‼︎すぐ答えれるよ‼︎」

 

「何だ⁇」

 

オーヨド博士は一呼吸置いた後、俺の愛した大淀の顔へと戻っていた

 

「私にも…まだチャンスはありますか⁇」



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252話 博士の愛した”家族”(3)

「…急に元に戻るなよ…どうしたんだ急に」

 

平静を装うが、呼吸も鼓動も全てが乱れる

 

「さっき、四人であぁして焼き芋を食べた時、ふと…家族ってこんなものなのかな…と思って…その…」

 

一人の女へと戻った大淀は、たった数十分だけの”家族の形”に憧れを持った

 

何十年も研究に没頭し、一人の男を慰める為に全てを尽くした

 

だが、それがまた一人へと戻った今、大淀は心の拠り所を無くしてしまったのにも俺は気付いている

 

「え…えと…レイ君には酷い事も沢山した…で、でもっ…でもね…」

 

余程寂しかったのだろう

 

普段、横にいるのは自分が慰めた相手とその妻

 

平然を装っていつだって飄々としていた大淀は、ここに来てようやく感情を爆発させた

 

溜まりに溜まった大淀の目からはポロポロと大粒の涙がアスファルトへと落ち、染み込んで行く…

 

大事そうに胸に置いたタブレットをギュッと抱き締め、涙を堪えながら俺に思いの丈をぶつける大淀を見て、久方振りに同年代に対して”愛おしい”との感情を抱いた

 

「どうして誰も大淀を愛してくれないの…」

 

何も言葉を返せない…

 

遅過ぎたんだ、何もかも…

 

あぁ、そうか…

 

数十分前のあの出来事は”本来あったもう一つの俺の人生の形”なのか…

 

「レイ君…大淀は…嫌いですか…」

 

涙声で俺に問う

 

そんな姿を見せなくても、とっくの昔に俺の答えは出ていた…

 

「えっ…」

 

長年の夢を、ここに来てようやく果たせる事が出来た

 

酷い姿になってしまった”初恋の相手”を、子供達にそうしている様にギュッと抱き締めた

 

「あっ…」

 

無言のまま頭を撫で、大淀の小さな体を壊れる程抱き締める

 

大淀は俺の胸に顔を埋め、今まで聞いた事のない位の大きな声で泣き喚いた

 

「家族ならいつだっているじゃないか…ヒュプノスだって、赤城だって、いつだって大淀を慕ってくれてる」

 

「…また、あぁしてくれる⁇」

 

「いつだって。大淀がそうしたいなら、俺達はいつだって大淀の家族さ」

 

「んっ…」

 

「それとな、大淀。俺に何にも酷い事なんてしてない」

 

「だ、だって…大淀さん、今回だってレイ君騙したり、ほら…レイ君の事、止めてあげられなかったし…」

 

「俺が戦争に行くのを止められなかったの事を後悔してるのか⁇」

 

大淀は胸に顔を埋めたまま、服に顔を擦り付ける様に頷いた

 

「俺の還る場所は横須賀でも大淀博士の所でもない。空さ」

 

俺が言わなくても、大淀は分かっていた

 

空を与えられたあの日から、俺の還る場所は空だと決めていた事も、何もかも、大淀は見抜いていた

 

だからこそ、こうして無言のまま顔を埋めて黙っている

 

「大淀の事…嫌いじゃない⁇」

 

「今でも好きさ」

 

「良かった…」

 

「赤城は俺に任せて、博士は少し休んでくれ」

 

「もうちょっと、こうしたいな…」

 

本当に見抜かれているな…

 

俺はこうしたちょっとした甘えん坊に弱い事さえも見抜かれている

 

「レイ君…もうひとつお願いしていい⁇」

 

「簡単なので頼む」

 

「これから二人の時は、博士じゃなくて…”大淀”って、呼んで欲しいなぁ…」

 

「分かった。大淀」

 

「ん…ありがと…」

 

大淀は俺の胸から離れ、鼻をすする

 

「はぁっ‼︎今日は満足満足‼︎データも取れたし、レイ君にた〜っぷり甘えられたし‼︎」

 

俺の胸から離れた大淀は、いつものオーヨド博士に戻っていた

 

この姿を見て、俺はまた胸を撫で下ろす

 

「ありがとうな、大淀」

 

「いえいえ〜、レイ君が産んだAIがな〜んでレイ君を必死に護るかもよ〜く分かったし〜、今日はよく眠れそう‼︎」

 

「答えは聞かないでおくよ」

 

「んふふ〜、レイ君らしいねぇ⁇いつか自分で分かる日が来るよ、絶対。レイ君なら出来る、大丈夫‼︎」

 

「言い切るな⁇」

 

「だって大淀さんの一番弟子ですからね‼︎はっはっは‼︎ではおやすみ〜‼︎」

 

スキップしながらご機嫌に帰路に着く大淀を見送り、工廠に戻る

 

「めがね」

 

「大淀はめがねだなっ‼︎んっ‼︎」

 

じきに赤城も流暢に話す様になるだろう

 

後は成長に身を委ねるしかない

 

こうして赤城の一件が収束し、次の日から赤城は誰かと一緒に基地内を歩き回っている姿が見られた…



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253話 ヴィンセントさんの華麗なる趣味(1)

さて、252話が終わりました

今回のお話は、意外に知られていないヴィンセントさんの趣味のお話になります

真面目で実直を絵に書いた様なヴィンセント

果たして彼の趣味とは…

可愛いジョンストンの仕事振りも見られます


パイロット寮内の一室の部屋

 

ここは執務室になっており、ヴィンセントかイントレピッドの何方かが必ずここにいる

 

今いるのはヴィンセント

 

次回の航空演習の部隊を選択している所だ

 

「びんせんと」

 

「ジョンストンか‼︎」

 

ジョンストンが何か抱えて来たので、ヴィンセントは一旦執務を切り上げる

 

「いんとれから」

 

ジョンストンが抱えていたのは、2Lのコーラ

 

ちゃんとコップが二つ、キャップの所に被せてある

 

「あけて」

 

「んしょっ‼︎」

 

ジョンストンからコーラを受け取り、キャップを開ける

 

プシュッと音がした後、ヴィンセントは二つのコップにコーラを注ぎ、一つをジョンストンに渡す

 

「ありがと」

 

「今日は遊ばないのか⁇」

 

「あめ」

 

今日は生憎の雨

 

いつもならこの時間は外にいるジョンストンだが、雨の日はほとんど出掛けない

 

「私のお手伝いしてくれるか⁇」

 

「うん」

 

ヴィンセントの横に小さな机と椅子を出し、ジョンストンはそこに座る

 

「この書類に、このスタンプを押してくれないか⁇全部出来たらお小遣いをあげるからな⁇」

 

「うん」

 

声で感情は分かりにくいが、ジョンストンの顔は執務室に来てからずっと少しニコニコしている

 

ヴィンセントは休暇届の書類の束と”許可”と彫られたスタンプをジョンストンの前に置いた

 

ジョンストンのアルバイトが始まる

 

「りょーへ」

 

「よし」

 

「ぽん」

 

ヴィンセントが「よし」と言うと、ジョンストンはスタンプを押して行く

 

「ざっきー」

 

「よし」

 

「ぽん」

 

園崎もスタンプを押して貰えた

 

「ぽん、ぽん、ぽんっ」

 

その後、数人続いて休暇許可をジョンストンに貰う

 

「りちゃど」

 

「待て」

 

リチャードの休暇届に来た瞬間、ヴィンセントはジョンストンを止めた

 

「はい」

 

ジョンストンからリチャードの休暇届を受け取り、ヴィンセントは”却下”のスタンプを押した

 

「今月末まで、休暇無し…と」

 

ヴィンセントはリチャードの休暇を書き直した

 

「りちゃど、おやすみなし」

 

「浮気するからな」

 

「うわき、だめ、きゃっか」

 

「よしよし。偉いぞジョンストン」

 

ジョンストンの頭を撫でながら、ヴィンセントはリチャードの休暇届を返す

 

「私よ‼︎」

 

イントレピッドが入り口の向こうに来た

 

「私じゃ分からん‼︎名前は‼︎」

 

「イントレピッド‼︎」

 

「よし、入れ」

 

「開けて〜‼︎手が塞がってるのよ‼︎」

 

「いんとれ、まって」

 

ジョンストンが椅子から立ち、ドアを開けてくれた

 

「ありがと〜‼︎あらっ、ジョンストンもお仕事⁇」

 

「うん」

 

「偉いわ‼︎オヤツにしましょ‼︎」

 

イントレピッドの両手にはオヤツが乗ったトレーが持たれている

 

なのでドアが開けられなかったのだ

 

「もうそんな時間か」

 

「いんとれのけーき」

 

「さっ‼︎ジョンストンも私もお仕事おしまいだ‼︎食べよう‼︎」

 

「うん」

 

三人で応接机の周りに座り、イントレピッドの作ったチョコレートケーキを食べる



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253話 ヴィンセントさんの華麗なる趣味(2)

「ね、ヴィンセント⁇」

 

「なんだ⁇」

 

「ヴィンセントの趣味ってなに⁇」

 

「趣味か…」

 

「じょんすとん、おえかき」

 

ジョンストンはお絵かき

 

イントレピッドは料理

 

リチャードは女

 

ヴィンセントだけあまり素性が知られていない

 

「笑わないか⁇」

 

「笑わないわ‼︎」

 

「ははは」

 

分かっているかの様にジョンストンが口の周りにチョコレートを付けまくった顔で笑う

 

ヴィンセントはそれをチラリと見て微笑み、イントレピッドの方を向いた

 

「ヘアメイクが好きなんだ」

 

「あら‼︎意外ね⁉︎」

 

「じょんすとん、これしてもらう」

 

ジョンストンは毎日朝にヴィンセントにして貰うツインテールを両手で掲げて見せた

 

「言われてみればそうだわ‼︎ジョンストンのツインテールもだし、ヴィンセントもいつもキチンとしたオールバックだものね‼︎」

 

「いつかアイツも整えたいんだがなぁ…」

 

アイツとはリチャードの事

 

リチャードの髪は結構長く、ヘアスタイルはちょっと綺麗な海賊の様になっている

 

「ついんてにする」

 

「それはいいな‼︎」

 

「それいいんじゃない⁉︎」

 

ジョンストンの一言で、リチャードの髪型がツインテールに決まる

 

「昔はカッコ良かったわよね〜」

 

「ふ…今も、さ」

 

「あ〜…んんっ‼︎」

 

「「リチャード‼︎」」

 

いつの間にか執務室の入り口にもたれていたリチャードが居た

 

「今のセリフ、逆にしてくんない⁇」

 

リチャードは真顔で何を言ってくるのかと思いきや、今言ったセリフを逆にしてくれと注文して来た

 

しかも指のジェスチャー付きで

 

「む…昔はカッコ良かったよな⁇」

 

「ふふっ‼︎今も、よ‼︎」

 

「よ〜し‼︎これで満足だぁ‼︎じゃあねー‼︎バイビー‼︎」

 

リチャードはそのまま何処かに行った

 

本当にたまたま通り掛かっただけみたいだ

 

数秒間が空いた後、イントレピッドが話をしなおす

 

「それで、いつからヘアメイク好きになったの⁇」

 

「ガンビアと結婚してからだ。ガンビアは雨降るとゴワゴワになってな…」

 

「普段もモコモコだもんね…」

 

「がんびー、もこもこ」

 

「あれだけ毛が多いと、ヘアスタイルも色々試しやすいんだ。それで好きになった」

 

「女の子で今一番したいのは⁇」

 

「そうだな…この間はリシュリューをしたし…」

 

「リシュリュー⁉︎あのモデルさんでしょ⁉︎」

 

サラっと放ったヴィンセントの爆弾発言

 

「あぁ。ガールズ・フリート・ファッションだったかな…写真を撮る時に何人かヘアアシスタントが着いたんだ。その内の一人が私さ」

 

リシュリューはガールズ・フリート・ファッションに何度か出ている

 

その度に爆売れするので、売り切れが続出する人気モデルだ

 

「その棚にある」

 

「どれどれ〜…」

 

リシュリューが出ているのは、棚にあるのを見る限り二回

 

その内の後の方をイントレピッドが手に取り、中を開ける

 

「どこかな〜⁇」

 

「りしゅりゅー」

 

膝の上にジョンストンを置き、ヴィンセントがヘアメイクしたリシュリューを探す

 

「あっ‼︎あったわ‼︎」

 

リシュリューの髪型は、後ろで髪をまとめ、顎の下辺りで毛先がクルッと内側になっている普段のリシュリューとは違った可愛さがあるリシュリュー

 

「ふれっちゃ、やって」

 

「フレッチャーをか⁇」

 

「うん」

 

「フレッチャーも髪長いし、色々出来るかもよ⁇」

 

「明日の朝、ジョンストンが終わってからやって見ようか⁇フレッチャーが良ければ、だが」



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253話 ヴィンセントさんの華麗なる趣味(3)

次の日の朝…

 

「ついんて」

 

ジョンストンはいつものツインテール

 

「おはようございます…ふぁ…」

 

タイミング良くフレッチャーが来た

 

「くぁぁぁあ…」

 

ジョンストンがあくびの真似をし、フレッチャーが横に座る

 

「フレッチャー。髪、整えてあげよう」

 

「あら、ありがとうございます。お願いしますね」

 

フレッチャーは寝起きの為、髪は下ろしている

 

いつもは頭のテッペンにタレミミの様に髪を結い、カチューシャを付けているフレッチャー

 

ヴィンセントはクシとヘアスプレーを手にし、フレッチャーの髪を整えて行く…

 

 

 

 

10分後…

 

「こんな感じでどうかな⁇」

 

「まぁ‼︎素敵‼︎」

 

出来上がった髪型は両サイドクルクル縦巻きお嬢様ロール

 

気品が出る髪型であり、ママママ言い張るフレッチャーにフィットしている

 

「後でママがお菓子を買ってあげましょうね⁇」

 

「分かった分かった。さっ‼︎行っておいで‼︎」

 

フレッチャーを軽くあしらい、ヴィンセントも身嗜みを整え始める

 

「フレッチャー‼︎ほっほー、イメチェンしたのか⁉︎」

 

洗面所を出てすぐ、フレッチャーはリチャードと鉢合わせたみたいだ

 

「ヴィンセントにして頂いたの。似合うかしら⁇」

 

「似合ってる似合ってる‼︎デートしたいくらいだ‼︎」

 

「ふふっ、また行きましょうね⁇」

 

「さ〜て、歯磨き歯磨き‼︎おっ‼︎ヴィンセント、ありがとうな⁉︎」

 

「いいさ。こっちから頼んだんだ」

 

リチャードとヴィンセントは互いにしばらく歯を磨いた後、ほぼ同じタイミングで髪の毛を整え始める

 

「さ、終わり‼︎」

 

「ちょっと待て‼︎」

 

ヴィンセントがピッチリオールバックを決める中、リチャードは寝癖直しスプレーを3プッシュしてクシャクシャー‼︎としただけで行こうとした

 

「ちょっと座れ‼︎」

 

「や〜だね〜‼︎これから瑞鶴の所に行くんだよ〜ん‼︎バイビー‼︎」

 

「髪の毛整えたらもっとモテるぞ」

 

「それは聞き捨てならんな」

 

そこは長年の付き合いにヴィンセント

 

リチャードを如何に動かすか熟知している

 

リチャードは大人しくヴィンセントの前に座り、ヘアメイクして貰う体勢に入る

 

「お前は身嗜みをキチンとすれば倍モテるぞ⁇」

 

「昨日イントレピッドが言ってたのは本当か⁇」

 

「本当だ」

 

それを聞いた途端、リチャードは口を閉じた

 

その後、数分間髪を整えて貰い、遂に完成

 

「おぉ…」

 

ヴィンセントと同じオールバックの髪型になったリチャード

 

ヴィンセントと違うのは、後ろ髪が長い事

 

何処かの俳優だと言われてもおかしく無い仕上がりになった

 

「こんな感じでどうだ⁇」

 

「気に入ったよ…ちゃんとすりゃ整うモンだな…がっはっは‼︎」

 

「さ、朝飯だ」

 

「ミルクだけ飲むかな‼︎」

 

生真面目で誠実なヴィンセント

 

自堕落で女にだらしなさそうに見えるが、絶対に一線は越えないリチャード

 

相反する二人が仲が良いのには、こうして持ちつ持たれつの関係を長年続けて来たからである…

 

 

 

 

「おはようヴィンセント‼︎ご飯出来たわ‼︎」

 

「おっ、ありがとう」

 

「すくらんぶる」

 

「スクランブルエッグか‼︎」

 

いつもの様にジョンストンの横に座るヴィンセントに続き、イントレピッドが座っている背後から机に置いてあるミルクの容器を取るリチャード

 

「あらっ‼︎カッコイイじゃない‼︎」

 

「似合ってますよ、リチャード‼︎」

 

「そりゃど〜もっ‼︎」

 

キッチンの台にもたれながら、目の前で朝食を食べる皆を眺めるリチャード

 

実はイントレピッドに褒められて、ちょっと満更でもない

 

「俺は瑞鶴の所に行って来る」

 

「いってらっしゃい」

 

スクランブルエッグのカスを口の周りに付けたジョンストンが一番先にいってらっしゃいを言ってくれたのを聞き、ジョンストンの頭を撫でてジャケットを着ながら、リチャードは繁華街へと向かう

 

 

 

「おっはよー‼︎」

 

「おはよう中将‼︎おっ‼︎結構似合ってんじゃん‼︎」

 

瑞鶴もリチャードの髪型に反応する

 

「んっふっふ…俺もまだまだ現役よ‼︎」

 

「よく似合ってるわリチャード」

 

「そうだろう‼︎」

 

美しい声の女性に褒められながら、リチャードは席に座る

 

「出会い立ての頃みたいよ」

 

「そうだろう‼︎」

 

すみっこの席に座っていた女性の方を向いた

 

「げっ‼︎」

 

「リチャード‼︎」

 

リチャードの目の前には、怒り心頭のスパイトがいた

 

「こっちへ来なさい‼︎」

 

「やだ‼︎」

 

絶対に怒られるのが分かっているので、意地でも動きたくないリチャード

 

「来ないなら私が行くわ」

 

「行きます‼︎行かさせて下さい‼︎」

 

流石に来られては元も子もないので、リチャードはスパイトと同じテーブルに腰を下ろした

 

「ふふっ」

 

数秒前までブチギレていたスパイトの顔は、リチャードが目の前に座ってすぐにいつもの優しい顔に戻った

 

「朝飯食いに来ただけだって…」

 

「知ってます。ちょっとカマを掛けてみただけです」

 

ビビるリチャードを前に、呑気に緑茶を飲むスパイト

 

スパイトもリチャードの扱いを理解している

 

スパイトはリチャードに関して”最後に私の横にいれば良い”と考えているので、瑞鶴との浮気も容認している

 

しかもスパイトにとって瑞鶴は息子の恩人

 

瑞鶴本人は気付いていないが、スパイトは何か恩返しがしたいと考えていた

 

なので、こうして時々お客としてずいずいずっころばしに足を運び、一人で沢山食べては何も言わずに出て行く

 

「素敵よリチャード」

 

「は、はい…」

 

「私と出逢った時もその髪型だったわ‼︎」

 

「そうだったかな…スパイトは変わらないな⁇」

 

「ふふっ」

 

リチャードがそう言うと、スパイトは不敵に微笑む

 

「そうだスパイト」

 

「なにかしら⁇」

 

「あれからもう何十年経ってる。そろそろ”本当の名前”を聞いてもいいだろ⁇」

 

リチャードはずっと気になっている

 

”スパイト”と言う名は、何らかの事情で別の名前になった

 

リチャードはスパイトの前の名前…つまり、本当の名前を知らない

 

「リチャード」

 

スパイトはお箸を置き、リチャードの顔を見る

 

「私はウォースパイトよ。他に何も無いわ」

 

「…すまん」

 

この話を数年に一度するのだが、決まってスパイトは言わない

 

それどころか、真顔で返して来るのでリチャードはいつも折れてしまう

 

「ごちそうさまでした。ズィーカク、幾らかしら⁇」

 

「あ、はい‼︎えと…1500円です‼︎」

 

「俺が出すよ‼︎出させて下さい‼︎」

 

「リチャード」

 

「はひぃ‼︎」

 

「たまには私にも花を持たせて下さい。ズィーカク、これでリチャードの分も‼︎お釣りは…そうね、リチャード、アサシモ達にお小遣いとしてあげて下さい」

 

そう言って、スパイトはいつもの箱から財布を取り出し、一万円札を瑞鶴に渡した

 

「い、いいんですか⁇」

 

「えぇ‼︎また来るわね。リチャード、頼んだわ‼︎」

 

「か、かちこまりまちた…」

 

怯えて固まるリチャードを余所に、スパイトは笑顔で店を出た

 

「中将⁇ほんと大事にしないとバチ当たるよ⁇」

 

「こ、今度ステーキでも食いに行くよ…」



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253.5話 その報われない恋の為に…

話数と題名が変わりますが、前回のちょっとした続きです

目線がスパイトに代わり、とある男性を目で追います

少し悲しい、スパイトさんの恋のお話です


表に出た私は、一人の男と出逢った

 

彼の顔を見るなり、私の顔は一気に明るくなる

 

「ふふっ‼︎」

 

その彼と一緒にいる時だけ、私は一人の少女に戻る

 

「お散歩しましょう‼︎」

 

彼はいつだって、私の”横”を歩いてくれる

 

一緒に歩く時、皆が後ろを歩く中、彼だけはいつも横を歩いてくれる

 

私が疲れた時だって、誰よりも早く気付いてくれる

 

子供達の相手をする中、彼に甘えても同じ様に相手をしてくれる

 

私が彼に心惹かれるまで、時間は掛からなかった

 

海岸沿いを二人で歩くこの時間だって、私にとっては大切な時間

 

彼と二人でいる時間は、まるで何十年の時を取り戻すかの様に美しい…

 

「トリさんだわ」

 

砂浜で白いトリさんが砂を突いている

 

エサでも食べているのね

 

「私も朝ご飯食べたわ‼︎とっても美味しかったの‼︎」

 

私がそう言うと、彼は私の前で膝を曲げて目線を合わせてくれた

 

「んっ…」

 

彼は私の頬に付いていたご飯粒を取ってくれた

 

よっぽど美味しかったんだな⁇と、彼が微笑む

 

その顔を見て、私も微笑みを返す

 

「もっと近くでトリさん見たいわ。いいかしら⁇」

 

私がそう言うと、彼は車椅子の前に立ち、手を広げる

 

それを見て、私も手を広げて彼に抱き付く

 

こうすれば、自然と彼に抱き付く事が出来る

 

あぁ…甘えてばかり…

 

私は彼に何かを返せるのかしら…

 

彼に抱かれて海岸沿いの階段の一番下まで降り、そこに腰を下ろす

 

…誰も見ていない

 

どうせならもう少し、甘えてみようかしら

 

子供達がいつもそうしている様に、今日は私が彼の膝の上に座ってみた

 

何も言わない…

 

これ位じゃ、彼は何にも言わない

 

子供達で慣れているのね、きっと

 

「そうだわ‼︎マメを持ってるの‼︎」

 

箱の中から小さな袋を取り出し、一つまみトリさんに向かって投げてみた

 

すると、トリさんはマメに寄って来た

 

砂浜をツンツンする姿は、見ていて可愛い

 

「トリさんも朝ご飯ね‼︎そうだわ‼︎こっちに呼びましょうか‼︎」

 

マメを一列になる様に投げ、ゴール地点は私の手になる様にする

 

「来たわ‼︎ふふっ‼︎」

 

ボッチのトリさんがこっちに来た

 

こんな子供じみた事をしても、彼は笑って私とトリさんを見てくれている

 

何十年も変わらない、優しい手…

 

何十年も変わらない、優しい微笑み…

 

何十年も変わらない、優しい彼…

 

変わったのは、たった一つ…

 

貴方が…

 

「あっ…」

 

そう思った時には彼に抱かれて、私はまた車椅子に座る…

 

「今日は何をするの⁇」

 

彼はいつだって忙しく動いている

 

この小さなお散歩だって、時間を割いてくれたに違いない

 

彼の目線は、学校に向いている

 

「そう。今日は学校に行くのね」

 

話さなくても分かった

 

今日は学校の視察の担当なのね

 

さっきズィーズィーズッコロバシを出た所に居たのは、子供達を見送って朝ごはんを食べようとしていたのね

 

「ごめんなさい‼︎私、朝食の邪魔を…」

 

そう言うと、彼は私の車椅子を押し始め、”朝食の後の紅茶でも飲めばいい”と、私をマミヤに連れて来てくれた

 

「紅茶を頂けますか⁇」

 

彼はいつものモーニングプレート

 

私は熱い紅茶

 

彼はいつも誰かと何かを食べる時、緊急の時以外何かを弄くったりしない

 

いつだって、目の前にいる人と話しながら食べる

 

「来たわ‼︎」

 

彼も私も、彼が注文したモーニングプレートが机に置かれていくのを目で追う

 

私は紅茶を飲みながら

 

彼はコーヒーとメダマヤッキーを食べながら、お話は続く

 

私は彼が何かを食べる姿を見るのが好き

 

それを眺めているだけで、幸せな気持ちになれるから…

 

しばらくすると、彼は立ち上がる

 

「一緒に外まで行きましょう⁇」

 

私が代金を出す前に、彼はいつもそうする様に、伝票の横に代金を置く

 

マミヤを出るまで、彼は私だけの物…

 

そうでないとしても、今だけはそう思いたい…

 

だから、別れ間際に今日の最後のワガママを彼にいつもお願いする

 

マミヤを出てしばらく歩いた所で、彼の服の裾を摘む

 

「ね…私の名前、呼んでちょうだい。久々に聞きたいわ…」

 

この世で私の名前を知っているただ一人の人…

 

私が彼と唯一秘密にしておけるのは、これ位しかない

 

リチャードにも教えない、彼だけが知っている、私の本当の名前を…

 

彼は私の背後に立ち、私をそっと抱き締め、耳元で囁く

 

「すぐ帰るよ、ゲルダ」

 

その声を聞き、私も彼の名前を返す

 

「行ってらっしゃい、リヒター。また後でね…」

 

彼の頬に頭を二度程擦り、頬を撫でた後、彼はいつもの彼へと戻る

 

見送る背中は、あの日見た背中と同じで、優しくて、大きくて、頼もしい背中

 

ただ一つだけ違うのは…

 

 

 

 

 

貴方が息子と言う事だけ…

 

 

 

 

 

私はこれから先もずっと、貴方を叶わぬ恋で見守り続ける…

 

でもいいの、私

 

だって私は貴方の母親

 

誰にも取られない立ち位置だもの‼︎



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254話 償いの朝(1)

さて、253話が終わりました

今回のお話は、面白い半分、暗さ半分なお話です

スカイラグーンでお料理教室を開く貴子さん

その背中を見守る、彼女を”愛していた男”

そんな彼には、どうしても償いたい過去がありました


今日は久々の休暇の日

 

朝ご飯を食べ終え、ソファーに座ってコーヒーを飲みながら子供達を眺める

 

定位置である窓のすぐそばでは、小さな声で何かを話しながら顔を見合っては外を眺めるひとみといよがいる

 

「きぉ〜あ、たかこしゃんおれかけ」

 

今日は朝から貴子さんがいない

 

スカイラグーンでお料理教室があり、貴子さんが教えに行っている

 

「ひとみ、いよ。貴子の真似してくれないか⁇」

 

鬼の居ぬ間になんとやらと言うが、隊長がまさにそれだ

 

「わういこはてんぷあにすうあお‼︎」

 

「ちぉっと‼︎かああげかえちなしぁい‼︎」

 

「ははははは‼︎」

 

仕草付きで貴子さんの真似をし、隊長は爆笑する

 

「ははは‼︎貴子そっくりじゃないか‼︎」

 

貴子さんが居ない時の隊長は無敵だ…

 

一方、その頃貴子さんは…

 

 

 

 

「はるちゃん‼︎そっちはどう⁇」

 

「榛名は大丈夫ダズル‼︎」

 

「き〜ちゃんも大丈夫‼︎」

 

スカイラグーンの広場で貴子さんが榛名達と唐揚げと天ぷらを作っている

 

貴子さんの横には、お手伝いに来た清霜がいる

 

「カラアゲダッテ‼︎」

 

「エビフライハタベタコトアルヨ‼︎」

 

待っている場所には、イーサンとあのヌ級がいる

 

「カラアゲ、オイシソウネ‼︎」

 

「ハンバーガーニハサモウ‼︎」

 

貴子さん達の周りには、ヨーグルやルーナ達、ママ深海がいる

 

どの基地も子供がいる

 

その子供達のご飯を作るのは、深海、艦娘関わらずお母さんの役目

 

母親という存在に、種族は関係無い

 

母親は子供達に喜んで欲しい事に、変わりはない

 

「これ」

 

差した人差し指を小刻みに振る癖のある艦娘が来た

 

「あらっ‼︎貴方は初めてね⁇」

 

「あかぎ」

 

教えて貰った事をきちんと覚えている赤城は、貴子さんに自分から自己紹介をする

 

「ほー⁇オメェが赤城ダズルか」

 

「マーカス君から聞いたわ‼︎私は貴子、もうすぐ出来上がるからね⁇」

 

「これ」

 

指差す先には、貴子さんが唐揚げを作るどデカイ鍋がある

 

「これは唐揚げっ‼︎」

 

「これ」

 

次は榛名が作る天ぷらの鍋

 

「これは天ぷらダズル」

 

「からあげ、てんぷら。あかぎ、からあげすき」

 

「マーカス君と食べたの⁇」

 

「たべた。ふぁーくつかう」

 

「もうすぐ出来上がるからね⁇」

 

「まつ」

 

赤城は大人しくその辺に座り、貴子さん達を真顔で見始めた

 

その姿を、喫茶ルームで見守る男性が二人…

 

「おイ。コーヒーだ」

 

「ありがとうございます」

 

「ありがとう」

 

窓際の席に座り、潮にコーヒーを貰う、ラバウルさんと健吾

 

ラバウルさんは至って真剣な目で、貴子さんの背中を見ている

 

「いいんですか⁇行かなくて」

 

「ふふ。好きだからこそ、見守る愛もあるのですよ」

 

それを聞いて、健吾は飲みかけていたコーヒーを吹き出した

 

「何かおかしな事を⁇」

 

「キャプテン、貴子さんが好きなんですか⁉︎」

 

「えぇ」

 

この質問にも、至って真剣に返すラバウルさん

 

「意外だ…」

 

「なんですか健吾。私が真性のロリコンとでも⁇」

 

「違うんですか⁇」

 

「色々あるのですよ、色々…」

 

ラバウルさんの横顔を見ながら、健吾はコーヒーを飲み続ける

 

目はいつも通りの細目だが、何か違う

 

この目は、何かを護る目だ

 

いつも健吾やアレンを護る時に垣間見る、とても真剣な目だ

 

「貴子さんは、ウィリアムの横にいる方が似合います。それに、私の手は汚れていますからね…」

 

「それを言い出したら自分も…」

 

「健吾は大丈夫です。私が保証しますよ。降り掛かる火の粉を自力で払う方法を教えたまでです」

 

「…」

 

健吾は何も返さないまま、ラバウルさんを見続ける

 

「ロリコンじゃないキャプテンなんて…」

 

健吾がボソッと独り言を呟き、ラバウルさんは海に目を向ける

 

「…波乱が来ましたね。行きましょうか」

 

「イエス、キャプテン」

 

コーヒーを置き、二人は喫茶ルームを出た



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254話 償いの朝(2)

「さっ‼︎出来たわ‼︎」

 

「「「ワーイ‼︎」」」

 

深海の子達が貴子さんに寄って行く

 

頭の上や、お腹の前に抱えたお皿に唐揚げが盛られて行く

 

「天ぷらはこっちダズル‼︎」

 

「「「ワーイ‼︎」」」

 

榛名の所にも、同じようにお皿を抱えた子達がズラリと並ぶ

 

「清霜ちゃんも食べましょうか‼︎」

 

「き〜ちゃん、貴子さんと一緒に食べる‼︎」

 

「そっかそっか‼︎なら、もうちょっとだけ私達のお手伝いお願いね⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

「からあげ、ください」

 

最後尾に赤城が来た

 

「はいっ、どうぞっ‼︎」

 

赤城のお皿にも、唐揚げが盛られる

 

「ありがと」

 

赤城はそのまま体を横に向け、榛名の方を向いた

 

「てんぷら、ください」

 

「うぬ」

 

出来たての芋天が唐揚げの上に乗る

 

「ありがと」

 

「イッピー食うんダズルよ」

 

榛名も貴子さんも、赤城を目線で追う

 

赤城はイーサンやヌ級の居る近くに座り、ポケットから何かのケースを出した

 

「すーぷん、ふぁーく。からあげは、ふぁーく」

 

谷風のお弁当セットとよく似たケースから、持ち手がプラスチックの子供向けのフォークを取り出した

 

「いただきます」

 

赤城は相変わらず真顔で唐揚げと天ぷらを頬張り始めた

 

「案外いい子ちゃんダズル」

 

「マーカス君の子供だから大丈夫よ、ねっ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

そう言って、貴子さんは清霜にウインクを送った

 

「あら、ラバウルのお二人さん」

 

「何やら不穏な気配がしましてね」

 

ラバウルさんは先程見ていた水平線の先を指差した

 

「あら…」

 

「ありゃあなんダズル」

 

水平線の向こうから”転がって来る”丸い何か

 

貴子さん達のいる広場に向かって、一直線に向かって来ている

 

「ぼーる」

 

「赤城ちゃん‼︎ボールじゃないわよ‼︎」

 

赤城はボールに反応して、それに向かおうとするが、貴子さんが止める

 

「止まる気はないみたいですねぇ」

 

「キャプテン、ここはお任せを」

 

健吾が前に出る

 

DMM化が可能な健吾なら止める事くらいは可能かも知れない

 

「仕方ないわね…はるちゃん‼︎」

 

「おっしゃ‼︎久々に貴子さんとやれるダズル‼︎」

 

「え⁉︎ちょっ‼︎」

 

貴子さんは軽々と健吾を持ち上げて背後に置き、榛名と共に前に出て腕を回し始めた

 

「清霜ちゃん」

 

「は、はい‼︎」

 

「戦艦の戦い方、よく見ておいてね⁇」

 

貴子さんは笑顔のまま、清霜に語り掛ける

 

「はいっ‼︎」

 

清霜に笑顔を見せた後、貴子さんは海の方を向いた

 

「ブレーキ掛けるんダズルーッ‼︎」

 

間近まで迫って来ている、丸い何か

 

勢いは治まる事なく、このまま行けば広場が大惨事になる事は目に見えている

 

「はるちゃん。それだけ言えば聞こえてるわ。行くわよ‼︎」

 

「オーケーダズル‼︎」

 

榛名は左手

 

貴子さんは右手

 

それぞれの手を構え、丸い何かが近付くのを待つ

 

そして…

 

「「うおりゃ‼︎」」

 

二人の掛け声と共に、渾身のストレートが転がって来たそれに直撃した

 

「イッタァーイ‼︎」

 

ストレートが当たった瞬間、丸い物体の中から声が聞こえた

 

「外すわよ‼︎」

 

「オーケーダズル‼︎」

 

丸い物体は何かの装甲の様で、貴子さんと榛名の腕力なら十二分にバラバラにする事が出来た

 

掴んでは投げられ、バラバラにされていく装甲

 

「アハハッ‼︎」

 

「あら…」

 

「チッセェダズル」

 

中から小さな女の子が出て来た

 

今の所、貴子さんと榛名しか見えていない

 

「ダメじゃない、こんなので転がって来ちゃ」

 

「アナタハダァレ〜⁇ワタシノテキダネ〜‼︎アハハハハ‼︎」

 

「はるちゃん‼︎離れて‼︎」

 

「危ねぇダズル‼︎」

 

少女は服の袖に砲を隠しており、それを貴子さんに向けていた

 

「健吾、ここを頼みます」

 

「キャプテン‼︎」

 

小さな女の子と聞いて、いてもたってもいられなくなったラバウルさんは、二人の脇の間から中を覗き込んだ

 

「な…」

 

中を見た瞬間、ラバウルさんは珍しく後退りした

 

「ど…どうして…貴女がここに…」

 

「アハハッ…ヤ〜ットミ〜ツケタァ‼︎」

 

「あっ‼︎コラッ‼︎」

 

「待つんダズル‼︎」

 

貴子さんと榛名の手を軽々と飛び越え、少女はラバウルさんの前に立つ

 

「う…」

 

いつもの様子では無い位、怯えた顔をしながらゆっくりと後退するラバウルさんとは裏腹に、少女は目を見開き、にこやかな顔をしながらラバウルさんにジワリジワリと歩み寄る

 

「ま…”マリナ”…どうしてここに…」



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254話 償いの朝(3)

「ドウシテ⁇アナタニオカエシヲスルタメニキマッテルワ‼︎」

 

マリナと呼ばれた少女は、そのままの笑顔のまま、ラバウルさんに詰め寄る

 

「アァ…ヨウヤクオワル〜‼︎」

 

袖の下から小口径の主砲をチラリと見せた時には、マリナはラバウルさんに弾を放っていた

 

「何するんですか」

 

ギリギリで弾を弾いたのは、右腕だけDMM化させた健吾

 

「アァ…オジャマムシガ…」

 

「どうして貴女がここに…」

 

ボソボソと呟きながらマリナを見つめるラバウルさん

 

その目はいつもの糸目のラバウルさんではなく、大きく見開き、怯えきっていた

 

「キャプテン‼︎しっかりして下さい‼︎」

 

「ドイテドイテェ〜‼︎」

 

「退かない‼︎退いたら君はキャプテンを殺す‼︎」

 

「ソウダヨ〜‼︎ダッテ、ソノヒトハワタシヲコロシタンダモノ〜‼︎」

 

「え…」

 

一瞬だけ健吾が怯む

 

重度のロリコンのキャプテンに至って、それはあり得ない

 

ましてや少女に”不触の誓い”を立てているキャプテンが、小さな女の子を殺すなんて…

 

「それっ‼︎」

 

「ア‼︎」

 

そんな緊迫した状況を、いとも簡単に終わらせた人…

 

「随分悪い子ね⁇」

 

「チョット‼︎ナニスルノヨ‼︎ハナセ‼︎」

 

その人とは貴子さん

 

貴子さんはいとも簡単にマリナの首根っこを掴み上げ、胸元に寄せて抱き上げた

 

「悪い子は天ぷらダズルな‼︎」

 

「そうね‼︎はるちゃん、点火してくれる⁇」

 

「お任せダズル‼︎」

 

「テンプ…アー‼︎ヤダヤダ‼︎」

 

ようやく気付いたマリナは、貴子さんの胸の中でジタバタするが、全く意味が無い

 

マリナは貴子さんに連れられ、天ぷら油がグツグツする鍋の前まで連れて行かれた…

 

「キャプテン‼︎しっかりして下さい‼︎」

 

「どうしてマリナがここに…」

 

ラバウルさんはマリナを見て以降放心状態

 

健吾が何度か肩を揺さぶるが、ブツブツと何かを呟くだけ

 

「タイヘンソウ…」

 

「イーサン…」

 

異変に気付いたイーサンが二人の所に来た

 

「ベッドニハコンデアゲヨウヨ‼︎」

 

「そうだね…さ、キャプテン、立って下さい」

 

「ボクニノセテ‼︎」

 

「いいのかい⁇」

 

「ウン‼︎」

 

イーサンの言葉に甘えて、健吾はラバウルさんをイーサンの背中に乗せた

 

「…イーサン」

 

「ナァニ⁇」

 

「どうして俺達をいつも助けてくれるんだい⁇」

 

すると、イーサンは意外な答えを出した

 

「キッカマンナラソウスルカラ‼︎」

 

「あ…」

 

橘花☆マンの役者は、今では名の知れた健吾

 

イーサンも橘花☆マンが大好きで、いつも見ている

 

橘花☆マンの優しい正義の力は、種族を超えたイーサンにだって伝わっていた

 

「ヨイショ…」

 

ラバウルさんをベッドに寝かせ、イーサンも健吾も顔を覗き込む

 

「…健吾」

 

「はい、キャプテン。ここに」

 

「私は…マリナに謝らなければなりません…」

 

「何があったのですか⁇」

 

「ボク、オソトニイルネ」

 

気を使ってくれたイーサンは外に出ようとした

 

「いえ…イーサン。貴方も是非聞いて下さい」

 

「ウン」

 

イーサンが健吾の隣に来た所で、ラバウルさんはマリナの事を話し始めた



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254話 償いの朝(4)

まだラバウルさんが若い時…

 

ラバウルさんは今も昔も変わらず、戦闘爆撃が得意分野だった

 

沢山の地で戦果を上げた

 

その裏では、沢山の血が流れた

 

ある日、ラバウルさんは当時の司令官から勅命を受けた

 

”伝染病が蔓延した小村に爆弾を落として被害を抑えろ”

 

今のラバウルさんならやらないが、万が一実行するなら仲間が止めてくれるだろう

 

だが、当時の彼はパパと同じ傭兵

 

若気の至りで、人命など気にする事も無かった

 

大金を握り締め、爆装を抱えた機体で意気揚々と村へと向かう

 

作戦は何ら難しいものでは無く、対空兵器も何も無いただただ平和な村へと爆弾を落とし、帰って来た

 

そして数日後、その村の生存者が一人保護される

 

それがマリナだ

 

マリナは伝染病に感染していなかった

 

だが、司令部が下した命令は、

 

”感染の恐れがある為、処分しろ”

 

その日、ラバウルさんは初めてマリナと対面した

 

泥だらけの顔、ボサボサの金髪…

 

それでも尚、輝きを失わない青い瞳…

 

その姿を見て、ラバウルさんは一瞬怯んだ

 

それでも、ラバウルさんは剣を構えた

 

そして、マリナは言う

 

”助けて‼︎”

 

その言葉を言い終わる前に、ラバウルさんは産まれて初めて、人生で最初で最後になろう、自分の手で直接殺人を犯した

 

一生、罪悪感が残るやり方で、マリナを殺めた

 

そして、ラバウルさんは誓う

 

二度と少女には手を出さない

 

二度と少女には触らない

 

助けを求められたら二度と見逃さない事を…

 

 

 

「最悪でしょう…私はそんな人間なんですよ」

 

「キャプテン…」

 

健吾は言葉に詰まった

 

返す言葉が見当たらない

 

「キッカマンイッテタ」

 

「イーサン…」

 

沈黙を解いたのは、イーサンの言葉

 

「ソウスルシカナカッタツミヲツグナオウトシテルヒトハ、セメチャダメダッテ‼︎」

 

イーサンの言葉に、二人が救われる

 

健吾は言葉に

 

ラバウルさんは過去を

 

「そうですよキャプテン‼︎」

 

「生きていると分かった以上…やり直せますかね…」

 

「勿論です‼︎行きますか⁇マリナの所へ‼︎」

 

「行きましょう」

 

健吾が先導し、イーサンはラバウルさんの横に着く

 

「貴方に救われましたね…」

 

「キッカマンハ、イツダッテミンナヲタスケテクレルヨ」

 

「ふふ…感謝せねばなりませんね…橘花マンにも、貴方にも…」

 

三人はマリナの所へと向かう

 

 

 

 

一方その頃マリナは…

 

「ヒィー‼︎ヤダヤダヤダヤダ‼︎」

 

「はるちゃん‼︎そっちは付けた⁉︎」

 

「へっへっへ…たっぷり塗ったダズル‼︎」

 

マリナは悪さをしたので、貴子さんと榛名の手によりぐるぐる巻きにされたのち、天ぷら粉を全身に塗られ、今まさに天ぷら油の中に放り込まれようとしていた

 

「「「テンプラ‼︎テンプラ‼︎テンプラ‼︎」」」

 

深海の子達が、マリナを天ぷらにしろと煽る

 

「ヨクミトキナサイ。ワルイコトスルト、アァナルノヨ⁇」

 

「タカコサンニサカラウトハ、カワイソウナコ…」

 

ルーナもヨーグルも、近くの子供達に”悪い事をすると貴子さんに天ぷらにされるの図”を目に焼き付けさせる

 

「待って下さい‼︎」



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254話 償いの朝(5)

「あら、ラバウルさん‼︎大丈夫なの⁇」

 

「私は大丈夫です。お願いです、マリナと話をさせて下さい」

 

「はるちゃん、どうする⁇」

 

「まぁ、本人が言うならいいダズル」

 

マリナは地に降ろされ、縄を解いて貰った

 

「ヒィー‼︎」

 

マリナが向かった先には、ラバウルさんが待ち構えている

 

マリナは咄嗟にラバウルさんの足にしがみ付き、ラバウルさんのズボンを天ぷら粉まみれにする

 

「タスケテ‼︎」

 

あの日と同じ言葉を聞き、ラバウルさんは優しく微笑み、天ぷら粉まみれのマリナの頭を撫でた

 

「畏まりました。二度と同じ過ちは犯しません。貴子さん、私にこの子を任せて頂けませんか」

 

「貴方がそう言うならっ‼︎」

 

「マリナ」

 

この日、ラバウルさんは不触の誓いをようやく解いた

 

マリナの手を握り、あの日と同じ青い瞳を見つめ返す

 

「ごめんなさいと言う言葉では、あの日の罪を贖う事は叶わないでしょう…」

 

ラバウルさんの言葉に、マリナはジッとラバウルさんを見つめ返す

 

「貴女に手を下した私の言葉なんか信用ならないと思います…ですが、もう一度、私にチャンスを頂けませんか…」

 

「…タスケテクレタンデしょ⁇マリナのムラニバクだんオトシタノモ、タスケテクレルタメデショ⁇」

 

「嘘偽りなく、貴女に全てを伝えます‼︎何度だって貴女に弁解します‼︎だから…」

 

珍しく、ラバウルさんが声を荒げ、涙を流した

 

その姿を、そこにいた全員は目に焼き付けていた

 

ラバウルさんにとって、”あの日”がようやく終わりを迎えた瞬間を…

 

「ミンナ、アノママだとシンダンデショ⁇」

 

マリナの言葉に、ラバウルさんは無言で頷いた

 

そして、首を上げた時に気付く

 

マリナの首に、傷跡があるのを

 

「これから貴女を守ります…だから…」

 

「モウいいよ…ダッタラ、コレアラッテよ‼︎」

 

マリナは天ぷら粉まみれになった体を、ラバウルさんに見せた

 

「…勿論です‼︎」

 

「良かったわね‼︎」

 

「ア、アンタハキライ‼︎」

 

「口の悪い子は天ぷ…」

 

「オネエサンハ、コジンテキニイケスキマセン‼︎」

 

何処で覚えたのか、マリナは丁寧語で貴子さんを嫌いと伝えた

 

「そっ⁇でもいいわ⁇じゃあマリナちゃん、約束したげるっ」

 

「ヒィ‼︎」

 

貴子さんはマリナの前に屈んだ

 

「今度、貴女を護ってくれる剣士さんと一緒に、私達の基地に遊びにいらっしゃい⁇その時、本当に美味しい天ぷらと唐揚げをご馳走するわ⁇」

 

「テンプラニシナイ⁇」

 

「うんっ‼︎約束するっ‼︎」

 

「ワカッタ‼︎アソビニイク‼︎」

 

「さぁっ‼︎天ぷら粉を洗いに行きましょう‼︎健吾、マーカスにジャーヴィスさんの服を一式貸してもらえるように要請して下さい」

 

「何に使うんですか⁉︎」

 

ついツッコミを入れてしまう健吾だが、ラバウルさんの答えは至ってまともなものだった

 

「マリナの着替えですよ。体格、身長、バストウエストヒップ、大体がジャーヴィスさんと一致してますのでね」

 

「あ、はい…」

 

マリナと手を繋ぎ、ラバウルさんはお風呂へと向かって行く…

 

「見ただけで大体把握か…あれでこそキャプテンです。うんうん‼︎」

 

「ラバウルサン、チイサイオンナノコスキ‼︎」

 

「彼はあぁじゃないとねっ‼︎」

 

その場にいた全員が、いつもの重度のロリコン患者に戻ったのを確信した…

 

 

 

 

スカイラグーン、露天風呂

 

「マリナはお家は何処ですか⁇」

 

マリナの髪を洗いながら、ラバウルさんはマリナと話す

 

「オウチナイよ〜、ズ〜ットボールのなかニイタの」

 

「では、私の所に来ますか⁇」

 

「ウン、そうする〜‼︎」

 

最後にお湯をかけ、ようやく天ぷら粉まみれの体が綺麗になった

 

綺麗なクルクル巻きの金髪

 

成長途中の体

 

いつものラバウルさんなら、飛びつきそうなボディが目の前にあるが、今のラバウルさんは、少女としてではなく、マリナとして見ていた

 

本来、マリナはまだまだ甘えたい盛り

 

ラバウルさんに抱っこされ、露天風呂に浸かる

 

「貴方、お名前は⁇」

 

「私の名前は”エドガー・シューマッハ”です」

 

「じゃあシューちゃんね‼︎」

 

「構いませんよ。貴女が呼んで頂けるなら、なんだって」

 

「私はね、本当の名前は”ジェーナス”って言うのよ⁇」

 

「ジェーナス…良い名前です」

 

互いに本当の名前を言い、数分間露天風呂に浸かる

 

ラバウルさんの本名を知る人物は本当に少ない

 

唯一知っているのは、パパぐらいしか居ない

 

彼は今は亡き国の産まれであり、国亡き後、名前を捨てて今日まで来た

 

そのお話は、いつかラバウルさんの口から語る事がある事を願おう…



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254話 償いの朝(6)

露天風呂から上がると、既に服が置いてあった

 

「一旦お借りしましょう」

 

「可愛いお服‼︎」

 

ラバウルさんに体を拭いて貰い、テンプラジェーナスから、可愛いジェーナスが出来上がった

 

「どぉ⁇ジェーナスに似合う⁇」

 

「お似合いですよ」

 

いつの間にか話す言葉も深海特有のカタコトではなくなり、ジェーナスはジャーヴィスがいつも着ている服を身に付け、ラバウルさんの前でクルリと一回転して見せた

 

「さぁ、出ましょうか」

 

「うんっ‼︎」

 

 

 

 

ラバウルさんとジェーナスが露天風呂から上がって来た

 

「おっ⁉︎あの子がそうだな⁇」

 

「ジャーヴィスと一緒だネ‼︎」

 

数十分前、基地に一報が来た

 

”ジャーヴィスの服を一式貸して欲しい”とのお達しだ

 

今までそんな事がなかったので、服とジャーヴィス本人を連れてスカイラグーンまで持って来た

 

「アナタお名前ハ⁇」

 

「ジェーナス‼︎」

 

「私はジャーヴィス‼︎」

 

対面する二人を見て、俺もラバウルさんも”姉妹かと思う位に良く似ている…”と言うのが感想だった

 

「あ〜…俺、表見てくる。アレンも来てるんだ」

 

「なるほど。二人は任されました」

 

ラバウルさんはすぐに気付いた

 

マーカスなりの気遣いだ、と

 

その後、ジャーヴィスとジェーナスはラバウルさんの近くでお話をしたり、おままごとをしたりして遊んでいるのが喫茶ルームで目撃された…

 

 

 

広場に来ると、アレンが先に残骸を見ていた

 

「何か分かったか⁇」

 

「特殊合金なのは間違いないな。アビサル・ケープの一種だろう」

 

「なるほどねぇ…」

 

腕を組みながら深めの息を吐き、話に聞いた”転がって来た艤装”を眺める

 

「違いがあるとすれば、こいつは内部で栄養を賄える」

 

「栄養⁇」

 

「恐らくだが、このチューブは栄養補給の為の物だろうな。残留物にプリンみたいな物があった」

 

「謎だな…」

 

アレンと共に内部を見る

 

内部には数本のチューブがあり、何らかのレバーやスイッチがある

 

レバーやスイッチは恐らく艤装を弄る為の物だろう

 

問題はチューブだ

 

チューブは既に貴子さんか榛名が千切ったのか、途中で無くなってはいるが、内容物が滴り落ちていた

 

一本のチューブを手に取り、鼻に近づけてみた…

 

「確かにプリンだな…」

 

そのチューブを指差し、根元を辿る…

 

「どこに繋がってやがる…」

 

指で辿って行くと、壁の向こうにチューブが向かっていた

 

「後部だと…」

 

「開けて見るか⁇」

 

「内容物をみたいな」

 

アレンと共に艤装の背後に回り、ドリルでネジを外す

 

「開いたっ‼︎レイ、そっち頼む‼︎」

 

プシューと空気が出るか入るかの音がし、後部が開いた

 

「オーケー‼︎せーのっ‼︎」

 

「よっこら‼︎」

 

アレンと共に後部を開けると、中には数本のタンクがあった

 

「タッコナンパ…」

 

「ベナゲチ…」

 

タンクには訳の分からない言語が書いてある

 

「…深海の食いもんか⁇」

 

「ガーバイラフミロシなんか聞いた事ねぇな…」

 

「パンナコッタネ」

 

「「ヨーグル‼︎」」

 

振り返ると、面白半分で覗きに来たヨーグルがいた

 

「ヨミカタハンタイ」

 

「パ、ン、ナ、コッ、タ…パンナコッタか‼︎」

 

これなら合点が行く

 

タンクの中身は、パンナコッタ、チゲ鍋、白身フライバーガー

 

チューブから滴り落ちているのを見る限り、細かく砕いて淹れていたみたいだ

 

「アノコ、コレシカシラナイミタイネ」

 

「楽しみが増えたな⁇」

 

アレンが微笑むのを見て、俺も笑い返し、互いにヨーグルの方を見た

 

「そうだなっ‼︎ヨーグル、本当の白身フライバーガーを食べさせてあげてくれないか⁇」

 

「モチロン‼︎イツダッテマッテル‼︎」

 

艤装の蓋を閉じ、後は横須賀の解析に任せる事にした

 

俺達の役目は、あの子が困った時に何かをしてやればいい…



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255話 無表情の君(1)

さて、254話が終わりました

今回のお話は、前回のお話のちょっとした続きになります

ジェーナスの一件が終わったその日の夜、マーカスは横須賀で艤装の解析を進めます


「てな訳でレイ⁇お願いね⁇」

 

「今しがた見たばっかなんだけどなぁ…まぁいいだろ」

 

横須賀にジェーナスの艤装が運ばれた直後、横須賀に引き止められ、艤装の前に座らされた

 

俺が任されたのは艤装内のタンク

 

成分調査と保存期間調査を任された

 

もし結果が良ければ、横須賀でも採用するらしい

 

「さてっ…アイリス」

 

《はいっ、マーカス様》

 

アイリスを呼び、早速調査に取り掛かる…

 

 

 

 

数時間後…

 

「やぁやぁレイ君‼︎忙しいみたいだね‼︎」

 

丁度お昼頃にオーヨド博士が来た

 

手にはサンドイッチが乗ったお盆がある

 

「ちょっと大淀さんと休憩しようよ‼︎」

 

「もうそんな時間か。アイリス、休憩しようか」

 

《畏まりました。アイリスは此方でアークさんの昼食を頂きます》

 

解析を進めていたPCから手を離し、オーヨド博士はPCの横に腰掛けてサンドイッチを食べ始める

 

「レイ君の好きなカツサンドもあるよ」

 

「どれっ…」

 

オーヨド博士に渡されたカツサンドを手に取り、一旦休憩を挟む

 

「どう⁇大淀さんのカツサンドは」

 

「美味いよ。ありがとう」

 

「んふふ〜、でしょうよ‼︎大淀さんはしっかりと成分を照らし合わせて作るからね‼︎」

 

パンは外は少しカリッと、中はフワフワ

 

ソースも味が濃くてドロッとしていて俺好み

 

カツもカリカリで美味い

 

貴子さんの揚げ物も勿論好きだが、オーヨド博士が徹底的に成分を調査して調理したカツサンドも美味しい

 

「昼飯作って貰って悪いが、手伝ってくれないか⁇」

 

「勿論‼︎大淀さんは何しよっか‼︎」

 

「内容物の調査を頼む。俺はタンクでからっきしだ‼︎」

 

「オッケーオッケー‼︎大淀さんにお任せ‼︎」

 

オーヨド博士が来てくれたら力強い

 

これで俺は艤装のタンクに集中出来る…

 

 

 

 

 

「驚いたな…」

 

《発展型を作成出来そうですか⁇》

 

「色々出来そうだ。何にせよ、運搬物を安全に運べるようになる」

 

「おっ⁇分かったかな⁇」

 

「あぁ。かなり強固なタンクだった」

 

《内容物をタンク内部で真空状態にする事が可能です》

 

「ほぇ〜…こっちも終わったよ。内容物はどれも何ヵ月前にタンクに入れられた物だったよ」

 

「保存期間が長いのも取り柄か…ありがとう。後は何がどれだけ入るかだな…」

 

このタンクは”J(ジェーナス)タンク”と呼ばれ、この後幅広く使用される事になる

 

 

 

 

解析が終わったJタンクは洗浄された後、保管に移る事になった

 

「レイ君、今日はもう休もうよ」

 

「そうだな…戸締りだけしたら俺も休むよ」

 

「じゃあね〜レイ君っ‼︎」

 

「礼はまたするよ」

 

オーヨド博士はシャッター付近で両手を振り、研究室に戻って行った

 

「アイリス。ありがとうな⁇」

 

《いつでもお呼び下さい。マーカス様、今日は其方でお休みになられますか⁇》

 

「あぁ。貴子さんによろしく頼む」

 

《畏まりました。おやすみなさい、マーカス様》

 

「おやすみ、アイリス」

 

アイリスとの通信を切り、シャッターを閉めに行こうとした時だった

 

「おっ…」

 

シャッターからほんの少し離れた場所に、一人の見慣れないフードを被った少女が立っているのが見えた



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255話 無表情の君(2)

「どうしたんだ⁇」

 

「…」

 

少女に近付くも、ボーッと俺の顔を見つめている

 

その時、一つの事に気が付いた

 

両手に何か持っている

 

それに、目にハイライトが無いと言うか、悪く言うなら目が死んでいる

 

「どうしたんだ⁇」

 

「ここに来れば艤装を修理して貰えると聞いた」

 

「どれっ。見せてみな」

 

少女は両手に握っていた”それ”を俺の前に差し出した

 

「”大発ちゃん”だ」

 

「動かなくなったのか⁇」

 

「…」

 

余程悲しいのか、少女はずっと虚ろな目でいる

 

「ここじゃ寒いだろ⁇工廠の中に来い」

 

「助かる」

 

少女を連れて工廠に戻って来た

 

ストーブを点け、その前に少女を座らせる

 

「名前は何て言うんだ⁇」

 

「神州丸」

 

「俺はマーカス・スティングレイだ。ま、そこに掛けてな」

 

神州丸は黙って座り、ずっとこちらを見ている

 

「さてっ…」

 

ミニカーの様な大発ちゃんを台に乗せ、いつもはきそが使っているレントゲン装置を当てる

 

「あー…ここか」

 

どうやら大発ちゃんは普通の車と同じ動力で動いている

 

破損が見付かった箇所はガソリンタンク

 

小型だが、これ位ならすぐに直せる

 

「もうちょい待てるか⁇ガソリンタンクに亀裂が入ってる」

 

「待機します」

 

命令に忠実な子だ…

 

神州丸の視線を背後に受けながら、ガソリンタンクを新しい物に交換する

 

作業は30分程で終わり、後は大発ちゃんの起動確認だけになった

 

「よしっ‼︎こんなもんだろう‼︎神州丸、出来…」

 

振り返ると、神州丸がいない

 

「貴様がマーカス大尉だな」

 

「おっと…」

 

背後から手を回され、首元にナイフが当てられる

 

その主は言わずもがな神州丸

 

「貴殿の腕を我が軍は必要としている。悪いが、連行させてもらう」

 

「断る」

 

「ならばここで死んで貰う」

 

神州丸はなんの躊躇いも無くナイフを動かした

 

「おっと」

 

それを左手で取り、何とか抵抗する

 

「苦しまない様に殺してやろうとしたのに…」

 

「何処の差し金だ」

 

「神州丸が口を割るとお思いなら間違いです」

 

機械の様な淡々とした話し方をする神州丸

 

「貴殿は”深海になる技術”を開発したはず。その技術を此方に渡して頂こう」

 

「…何処でそれを」

 

「我が軍の情報量を舐めないで頂きたい。さぁ、選んで頂きたい」

 

「どっちもっ…お断り、だっ‼︎」

 

喉元に来たナイフをへし折り、神州丸の方を向く

 

その時、神州丸の背後を見た

 

誰か立っている…

 

「成程…噂通りの腕前。この神州丸も生半可な立ち回ぐぇ…」

 

神州丸の背後からいきなりゲンコツが振り下ろされ、神州丸のつむじに当たる

 

「どっから湧いて来たでありますか」

 

相変わらず真顔で、肩で息をする子がそこに居た

 

「赤城‼︎」



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255話 無表情の君(3)

「おとうさん」

 

そこに居たのは、工廠で寝ていた赤城

 

今日は清霜と一緒に貴子さんのお料理教室に行っていたので、疲れているはずだ

 

「貴殿の子か。なら…」

 

「…」

 

神州丸は赤城の喉元に2本目のナイフを当てようとした

 

「人質を取らせて貰う」

 

が、身長が足らず、丁度赤城の胸辺りにナイフが当たる

 

「これ」

 

赤城は自身の身に迫った危機を理解しておらず、いつも通りに小刻みに人差し指を揺らしながらナイフを指差す

 

「それはナイフだ。とっても危ない物だ。神州丸、分かってるんだろうな」

 

「ないふ」

 

「その所存であります」

 

神州丸も赤城も顔色一つ変えず、俺を見つめる

 

「赤城を返して欲しくば、我が軍に従って頂こうか」

 

「ないふ、あぶない」

 

「少し黙っていて貰っ…ご…」

 

一瞬赤城から目を離した瞬間、赤城は神州丸の首を捻り、その場で気絶させた

 

「おとうさん」

 

「赤城‼︎怪我は無いか⁉︎」

 

「けが」

 

「何処か痛かったり、血が出る事だ」

 

赤城は真顔のまま、軽く横に首を振った

 

「これ」

 

赤城が気になるのは、床に転がった神州丸

 

「この人は神州丸だ。起きたら話を聞いてみような⁇」

 

「おはなし」

 

赤城は軽々と神州丸を持ち上げ、俺の方を見た

 

”何処に連れて行けばいい⁇”と、訴えかける目だ

 

「カプセルに入れような」

 

「かぷせる」

 

赤城は神州丸を雑にカプセルに放り込み、俺の横に戻って来た

 

「しんしゅうまる、きらい」

 

「そうだな。俺も今の所は嫌いだな」

 

「おとうさん、やさしい」

 

「赤城もなっ⁇」

 

そう言うと赤城は真顔から少しだけ微笑み、近くにあった椅子に座った

 

「レイー⁇」

 

タイミング良く横須賀が来た

 

「おかあさん」

 

「あらっ赤城‼︎今日は楽しかった⁇」

 

「からあげ、てんぷら、たべた」

 

「そう‼︎楽しかったら良かったわ⁇」

 

赤城は横須賀と話すと少し顔が綻ぶ

 

感情の表現の仕方はまだまだ未発達だが、少しずつ赤城なりの好きな物等が出来てきているみたいだ

 

「あら、この子は⁇」

 

「神州丸って子だ。どうも俺を連行しに来たらしい。大した怪我はないから、治療はすぐに終わるだろう」

 

「そっ。ならいいわ」

 

「れんこう」

 

「連れて行くって事さ」

 

「おやちお、れんこう」

 

赤城の口から急に親潮の名前が出て来た

 

「最近親潮とお散歩に行くのよ。ねっ⁇」

 

「おさんぽ、れんこう」

 

「ふっ…連行だなっ」

 

そうこうしている内に、神州丸の治療が終わる

 

「多勢に無勢でありますな」

 

「あきつ丸みたいな話し方すんのね。でっ⁇レイを連れて行くって⁇」

 

「冗談でありますよ。では、神州丸はこれで。大発ちゃんの修理、感謝するであります」

 

変わらず目にハイライトは無いが、神州丸はバツが悪そうに工廠から出て行こうとした

 

「すわる」

 

赤城が立ち上がり、神州丸の首根っこを掴んで引き戻す

 

「離すであります」

 

「おはなし」

 

「話す事なんてないであります」

 

「おはなし」

 

感情の起伏が分かりにくい二人の会話を見ているのは、ちょっと面白い

 

赤城はちょっと微笑んではいるが、相変わらず真顔

 

神州丸は眉を寄せるがやっぱり感情が分かりにくい

 

「観念なさい。さ、話して」

 

結局神州丸は赤城にパイプ椅子に座らされ、真顔で俺を見始めた

 

「父様が普段からお世話になっているであります」

 

「とうさま」

 

「お父さんって事よ。なぁに⁇レイの知り合いがお父さんなの⁇」

 

赤城に教えながらも、横須賀は神州丸に質問をする

 

「父様は”さんだぁす”の航空機乗りであります」

 

「な、なんだと⁉︎」

 

この辺りで一気に流れが変わる

 

今まで少し暗い雰囲気を匂わせていた神州丸だが、ここに来てサンダースの名前が出て来た事で少し明るくなる



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255話 無表情の君(4)

「お母さんは誰なんだ⁇」

 

「母様の名は蒼龍であります」

 

「森嶋か」

 

「森嶋ね」

 

蒼龍と聞いて、すぐに森嶋の名前が出て来た

 

あの二人なら有り得なくないが…

 

蒼龍は実はかなり幼いのは気にしないでおこう

 

「大尉殿」

 

「なんだ⁇」

 

「大尉殿は、深海も艦娘も診れる腕の立つ医者と聞いたであります」

 

「ある程度は診てやる。どうしたんだ⁇」

 

「母様のあの人食癖を治して欲しいであります」

 

「「ははははは‼︎」」

 

その言葉を聞き、俺と横須賀は爆笑した

 

神州丸が治して欲しい相手とは、蒼龍の人を食べる癖

 

普段トラックにいるであろう神州丸から見ても、蒼龍の癖は怖いのだろう

 

「何故笑うでありますか」

 

「神州丸は心配性の良い子ね⁉︎」

 

「あぁ‼︎神州丸、蒼龍はあのままでいいんだ‼︎」

 

「なんと…母様とも知り合いでありましたか。江風の姉様に聞いた所、大尉殿なら、母様を治せるかも、と」

 

「蒼龍はあのままで良いんだ」

 

「神州丸もいつか喰われそうであります」

 

「それは心配だな…」

 

ただでさえトラックさんや俺を食おうとしてる始末

 

娘の神州丸をちょっと齧る位なら有り得そうだ

 

「そう言えば、その大発ちゃんはどうしたんだ⁇」

 

「これは…」

 

「おっ…」

 

ようやく神州丸の顔が綻んだ

 

「これは、父様が母様の為に送った物であります。母様はまだ幼いと聞きました」

 

「父さんは優しいか⁇」

 

ここで神州丸から驚愕の事実が放たれる

 

「父様とはまだ会った事はないであります。きっと、父様は神州丸が産まれた事も知らないであります」

 

「蒼龍は言ってないの⁇」

 

「母様は、神州丸がいると父様の仕事に支障が出るといけないので黙っているであります。代わりに、爺様が神州丸を可愛がってくれるであります」

 

「爺様ってのは、トラックさんか⁇」

 

「茂爺様であります」

 

「凄い似合うわね…」

 

横須賀は笑いを堪えている

 

「…よしっ‼︎お父さんに会いに行くか‼︎」

 

「良いのでしょうか…」

 

「いいか、神州丸」

 

返事は無いが、神州丸は俺の目を見直した

 

そして、ようやく神州丸に触れる事が出来た

 

神州丸の小さな手を握り、俺も目を見返す

 

「自分の子供が嫌いな親なんていないさ。もし、森嶋が神州丸の事を嫌いだって言ったら、隊長権限で好きにさせてやるさ」

 

「やはり父様の隊長殿でありましたか…」

 

「さ、行こう‼︎赤城、横須賀と一瞬に執務室に戻れるか⁇」

 

神州丸と手を繋ごうとしたが、神州丸自身は普段からそうして貰ってるのか、両手を広げたので抱き上げる事にした

 

手を繋ごうにも、身長的に抱き上げた方が良いかもしれないな

 

「ねんね、する」

 

「今日は清霜達と一緒に絵本読みましょうね⁇」

 

「えほん、ねんねする」

 

「じゃあレイ⁇任せるわよ⁇」

 

「あぁ‼︎」

 

神州丸の事もだが、赤城が絵本と聞いた瞬間にまた嬉しそうな顔をしたのが嬉しかった

 

神州丸を抱っこしたまま、パイロット寮を目指す



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255話 無表情の君(5)

「大尉殿」

 

「ん⁇」

 

大発ちゃんを弄りながら、神州丸は胸の内を話した

 

「実は、大尉殿を少し恨んでいたであります」

 

「すまないな、父さんをこき使って」

 

「こうして連れて行って頂いてる時点でそれは無くなったであります」

 

「さっ、着いた」

 

パイロット寮の扉を開けると、ラウンジでサンダースの連中と親父とヴィンセントが固まってトランプをしていた

 

「隊長‼︎お疲れ様です‼︎」

 

「おっ‼︎マーカス‼︎も一人出来たか‼︎」

 

「違わい‼︎涼平、親父フルハウスだぞ‼︎」

 

「え⁉︎マジですか⁉︎無理じゃん‼︎」

 

「手の内を明かすな‼︎」

 

全員が笑う中、森嶋の背後に回る

 

別に俺がパイロット寮をウロチョロしていてもおかしくない為、すぐに森嶋の背後に回る事が出来た

 

そして、神州丸を抱き上げ、森嶋の首根っこにくっ付けた

 

「おっととっ‼︎隊長⁉︎」

 

「神州丸。その人が父さんだ」

 

「「「え⁉︎」」」

 

「中々聡明な顔付きであります」

 

森嶋の右肩に顎を置き、流し目で森嶋の顔を見る神州丸

 

それと相まって森嶋の背中にくっ付いた神州丸は、その小ささもあり実にシュールな絵面になっている

 

「そっか…産まれて来てくれたんだね…」

 

森嶋は、右肩に顎を置いて目だけで森嶋の顔を見ている神州丸の頭を撫でた

 

頭を撫でられて目を閉じる神州丸は、ここに来てようやく笑顔を見せた

 

「森嶋、少しだけ話していいか⁇」

 

「自分の部屋へ‼︎」

 

森嶋の部屋に案内され、事の真相を話した

 

 

 

 

「大変申し訳ない事を…」

 

「謝る必要は無い。ナイフもオモチャだった。しかしまぁ、よく足音もなく近寄れたな⁇」

 

「江風の姉様に教えて貰ったであります」

 

「「納得だな」」

 

江風なら納得だ

 

基地で唯一蒼龍を物理的に止められる彼女が、神州丸に護身術を教えるのは良い事だ

 

「隊長」

 

神州丸をベッドの縁に座らせ、森嶋が耳打ちして来た

 

「避妊はしたのですが…」

 

「蒼龍のゴム使ったろ…」

 

「…全部理解しました」

 

この会話で全部理解する森嶋も凄い

 

「しかし、これで私にも明確に戦う理由が出来ました」

 

「良い事だ。神州丸、父さんと会えて良かったな⁇」

 

「感謝するであります」

 

最後まで目にハイライトは無かったが、言われて見てふと気が付いた

 

あぁ…蒼龍の目と似ているのだな、と

 

 

 

 

 

神州丸…フードちゃん

 

森嶋と蒼龍の間に産まれた女の子

 

目にハイライトが少なく、感情が非常に読み取りにくい

 

身長がたいほうと同じ位なので、簡単に抱っこも出来るし、肩車も出来る

 

音も無く相手に近寄る事ができ、父親の森嶋に忍び寄り、首根っこにくっ付くのがマイブーム

 

分かりやすく言うと、側から見たマーカスとたいほうの様な外見になるので非常に微笑ましい

 

神州丸をくっ付けている人を後ろから見ると、フードを被っている様に見えるのでこれがシュールに見える

 

手に持っているのは”大発ちゃん”と言うラジコン

 

自宅であるトラックには”内火艇ちゃん”がある

 

内火艇ちゃんはBB弾が撃てる

 

どちらも車体の前方にニコニコマークが描かれていて可愛い

 

産まれたての割に、色んな所がプニュプニュしている。凄いね



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256話 激震‼︎オボロと化した貴子さん

さて、255話が終わりました

かなり時間が空いてしまいました

リハビリ、イベントと激動の年末でした。申し訳ありませんでした

今回のお話は、貴子さん朝起きて来た貴子さんがオボロと化しています


いつも通りの朝

 

ひとみといよがいつも通りの一番早起きで、貴子さんが起きてくるのを待つ

 

「たかこしゃんこ〜へん」

 

「おこちにいこ」

 

いつもなら5時過ぎに起きる貴子さんが、今日に限って起きて来ない

 

「おはよ〜うゔっ…」

 

いざひとみといよが起こしに行こうとしたら貴子さんが起きて来た

 

何故か非常に体調が悪そうだ

 

「たかこしゃん、おぼお⁇」

 

「何か体調悪いのよ…」

 

「めがねよんれくう‼︎」

 

「お願いするわ…」

 

ひとみといよは、体調の悪い貴子さんに代わり、ローマを呼びに来た

 

「めがね‼︎」

 

「おきてくあしゃ〜い‼︎」

 

「どうしたのよ朝っぱらから…」

 

眼鏡を掛けながらローマが起きた

 

「たかこしゃんおぼお‼︎」

 

「おえ〜‼︎ってちてう‼︎」

 

「なんですって…よいしょっ‼︎」

 

ローマを起こして食堂に戻って来た

 

「タカコ、どうしたの⁇」

 

「吐き気がするのよ…お腹も痛いし…」

 

貴子さんはソファーでグタっとしている

 

普段最強な貴子さんが弱っているのは珍しい

 

「今日は私達に任せて休んでよ」

 

「お願いするわ…ちょっとマーカス君に診て貰おうかな…」

 

「えいしゃんおこす‼︎」

 

「おくすいつくってもあう‼︎」

 

貴子さんはソファーで休み、ひとみといよがマーカスを呼びに来た

 

「あかへん」

 

「すぱいとしゃんおこす‼︎」

 

マーカスの部屋が開かないと見ると、いつも部屋の扉を突き破っているスパイトを起こすのが手っ取り早いと見た二人は、早速スパイトの部屋に入る

 

「すぱいとしゃん‼︎」

 

「あら…ヒトミ、イヨ…おはようございます…」

 

「たかこしゃんおぼおになた‼︎」

 

「何ですって⁉︎マーカスに診て貰いましょう‼︎」

 

ひとみといよの思惑通り、スパイトはマーカスの部屋に向かう

 

「あけてくらしゃい‼︎」

 

「任せて‼︎」

 

ひとみといよはその辺で耳を塞いでしゃがみ、スパイトが突進するのを見守る

 

バギャアン‼︎

 

「うわ‼︎」

 

「何だ⁉︎」

 

突き破ったと同時に、昨日作業を手伝っていたきそ、そして目当てのマーカスも目を覚ました

 

「マーカス‼︎タカコがオボロよ‼︎」

 

「分かった‼︎すぐ診よう‼︎」

 

「貴子さんが⁉︎」

 

オボロと言っただけで大体伝わり、マーカスときそを引き連れて食堂に戻って来た

 

 

 

 

食堂に来ると、ソファーでグッタリした貴子さんがいた

 

「ちょっと診せてくれよ…」

 

貴子さんはすぐに服をお腹まで捲った

 

それだけで何となく理解はした

 

「多分いるわ…」

 

「どれっ…」

 

聴診器を貴子さんのお腹に当てる…

 

「…」

 

お腹の中から鼓動が聴こえる…

 

これだけ診て来たら流石に分かった

 

「妊娠してるな…千代田を呼んでくる‼︎」

 

無線を取ろうとしたら、貴子さんに腕を掴まれた

 

「多分間に合わないわ…鎮痛剤を頼めるかしら」

 

「分かった‼︎ローマ‼︎ぬるめのお湯頼む‼︎」

 

「ひとみといよちゃん、たおうもってくう‼︎」

 

「僕、お母さんに連絡するよ‼︎」

 

「あぁ‼︎頼んだぞ‼︎」

 

「スパイト、お願い…そこに居て…」

 

「えぇ、居るわタカコ‼︎」

 

母さんは貴子さんの手を握り、ローマとひとみといよはてんてこ舞い

 

俺は俺で工廠で鎮痛剤を作る

 

 

 

 

《朝から騒がしいわね》

 

鎮痛剤を作っていると、PCが勝手に起動した

 

基地の中が騒がしいので、ヘラが起きたみたいだ

 

「ヘラか‼︎貴子さんが妊娠してるんだ‼︎」

 

《おめでたいわね⁇昨日までそんな兆候無かったのだけど⁇》

 

「艦娘ってのはそんなモンさっ‼︎妊娠も早けりゃっ、出産も成長も早いっ‼︎」

 

鎮痛剤を作りながら、AI状態のヘラと話を続ける

 

《結構貴重な事例なんじゃないの⁇》

 

「何がだ⁇」

 

《今まで深海と艦娘の交配、あったかしら⁇》

 

ヘラの言葉を聞き、一瞬手が止まる

 

「…確かに」

 

《出産記録を出したげるわ。鎮痛剤作ってなさい》

 

ヘラに出産記録を出して貰い、それを横目で見ながら鎮痛剤を作る

 

俺は横須賀。横須賀は艦娘でも深海でもない

 

隊長と貴子さん。たいほうを産んだ時はまだ何もない状態

 

アレンと愛宕、ネルソン。アレンがどちらも当てはまらない

 

トラックさんと大和。当時は何もない状態

 

棚町と鹿島。棚町がどちらも当てはまらない

 

呉さんとポーラ。呉さんがどちらも当てはまらない

 

どの記録を見ても、片方は艦娘でも深海でもない

 

「隊長が深海、貴子さんが艦娘…産まれて来た子は…」

 

《どうなるのかしらね。清霜みたいに深海側の血を濃く継いでるかも知れないし、アイちゃんみたいに艦娘側の血を濃く継ぐかも知れないし》

 

「一つ言えるのは、成長は早そうだな」

 

《言えてるわ》

 

「よしっ出来た‼︎行って来るよ‼︎」

 

《後で見せなさいよ⁇》

 

鎮痛剤をケースに入れ、食堂に戻って来た



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256話 はまかぜのミーム

題名は変わりますが、前回の続きです


「あかしゃん‼︎」

 

「ふきふきちましぉ〜え‼︎」

 

「頑張ったわね、タカコ‼︎」

 

「なん…だと…」

 

食堂の光景を見て、アークの様な口調になる

 

貴子さんは相変わらずグッタリしているが、ひとみといよの手元、そしてローマの目線の先には赤ちゃんがいる

 

「ひとみちゃん、いよちゃん。赤ちゃん泣いてる⁇」

 

「ないてない‼︎」

 

「こっちみてう‼︎」

 

赤ちゃんはひとみをジーッと見て入る

 

「泣かないのはマズイわ…ちょっとだけ、ゆ〜っくり、ペチペチしてみて⁇」

 

「あ〜んあ〜んいいなしゃい‼︎」

 

「え〜んえ〜んちなちゃい‼︎」

 

ひとみといよは両サイドから赤ちゃんの頬をつつく

 

それでも赤ちゃんは泣く事はなく、ひとみといよを交互に見ている

 

「あっ‼︎」

 

「はなちなしゃい‼︎」

 

挙句の果てにはひとみといよがつついていた指を手に取る始末

 

「れきましぇん‼︎」

 

「むいれす‼︎」

 

流石のひとみといよも赤ちゃんを泣かすのは無理みたいだ

 

「鎮痛剤、要らないな⁇」

 

「マーカス君。ありがとうね⁇」

 

「楽な出産だったわよ」

 

「すぽ〜んてれてきた‼︎」

 

「はあかった‼︎」

 

出産はよっぽど早かったみたいだ

 

見る限り、赤ちゃんも元気な様子

 

「おはよう…」

 

ようやく寝惚け眼の隊長が起きて来た

 

「おぉ…レイ…子沢山だな…」

 

隊長はまだ自分の子供と気付いていない

 

しかも俺の子だと勘違いしている

 

「コーヒー飲んだら抱っこさせてくれ…」

 

「分かった」

 

隊長はキッチンに向かい、コーヒーを淹れ始めた

 

「おなまえ、あににすう⁇」

 

「たかこしゃんじぅにあ⁇」

 

「そうか…貴子の子か…‼︎」

 

隊長が鼻からコーヒーを噴き出した

 

隊長が物凄いむせる中、目線は俺を向いている

 

「レイっ…わだっ、わだしのごか⁉︎」

 

むせる+驚き+焦りで隊長の言葉は変になる

 

「コーヒー飲んでからでいいさ‼︎そっ、隊長の子さ‼︎」

 

ローマに抱っこされ、隊長の所に来た赤ちゃん

 

「そうかそうか‼︎そうか…」

 

赤ちゃんの頬を撫でながら、隊長はポロポロ涙を零す

 

「たいほうはまだ起きてないのか⁇」

 

「まだ6時だ」

 

「おぉ…」

 

子供達が起きて来るのは大体7時

 

ひとみといよがいつも早いだけだ

 

「おんなおこ‼︎」

 

「ウィリアム⁇次は私が付けさせて⁇」

 

「勿論さ。貴子、よく頑張ったな⁇」

 

「うんっ…」

 

その後、貴子さんはきそが呼んだ高速艇で赤ちゃんと共に横須賀に搬送され、検査を受けた

 

 

 

 

「兄さん」

 

「なんだ⁇」

 

「朝ごはん、私が作るわ」

 

「しまった…忘れてた…」

 

そう

 

基地ではほとんど貴子さんが料理をしている

 

その貴子さんが基地を離れた今、料理が出来る連中で凌がなければならない

 

「ふっふっふ…私にお任せを…」

 

胸の下で腕を組み、不敵に微笑む子が一人

 

「この私に掛かれば貴子さんと同じ質の物を作れます。ふっふっふ…」

 

「はまかぜ…」

 

いつの間にか起きていたはまかぜがそこに居た

 

「キャラ変わったな…」

 

「参ります‼︎」

 

はまかぜがキッチンに立った‼︎

 

「おはよう…」

 

たいほうも起きて来た

 

「はまかぜだ…あさごはんぐらたんかな⁇」

 

目を擦りながらも、たいほうはキッチンに立つはまかぜを見て朝ごはんはグラタンと言う

 

はまかぜのグラタンは相変わらず絶品であり、グラタンであっても何ら問題はない

 

「グラタンじゃないです。見ていて下さい、たいほうさん‼︎」

 

キッチンで”ジュワー”と音がしている時点でグラタンではない

 

「ママは⁇」

 

「たいほう。貴子はな、赤ちゃんと一緒に横須賀に行ったんだ‼︎」

 

「あかちゃんうまれたの⁉︎たいほうのいもうと⁉︎」

 

「そうだっ‼︎」

 

隊長の言葉を聞き、たいほうの顔が明るくなる

 

「やったね‼︎」

 

ここ最近、妹の様な存在が増えたたいほうにとって、もう一人増えるのは今更の事の様だが、家族が増えるのは嬉しいみたいだ

 

「出来ました‼︎」

 

猛スピードで食卓に並んで行く、目玉焼きとベーコン、そしてトースト

 

「貴方達はこっちです‼︎」

 

たいほう達子供組には、コーンフレークとウサギのリンゴ二つ

 

「たかこしゃんのすきなごはんあんれすか⁇」

 

「こ〜んふえ〜くちあうな‼︎」

 

何かを言ってケラケラ笑うひとみといよ

 

「はまかぜは食べないのか⁇」

 

「後一人います」

 

「照月か…」

 

霞やれーべ達子供組もゾロゾロ起きる中、照月だけが起きて来ない

 

「おかしいな…いつもなら貴子の朝ごはんの匂いで起きて来るんだが…」

 

「秋月、少し見て来ます‼︎」

 

「頼んだ」

 

隊長に進言し、秋月が照月を見に行った

 

一分もしない内に、秋月は帰って来た

 

「照月がいません‼︎」

 

「「なんだと⁉︎」」

 

いつもの照月なら、誰かに行き先を必ず伝える

 

今回それが無いため、全員が不安になった

 

「横須賀に連絡しよう‼︎」

 

隊長は無線、俺はタブレットを手に取った

 

「ん⁇」

 

朝方忙しかったので、タブレットを触っていなかった

 

今見ると、タブレットに一件通信が入っている

 

 

 

照月、今日は朝ごはんはタウイタウイモールで食べるね‼︎

 

お昼くらいにお家に帰るね‼︎

 

 

 

 

「隊長。タウイタウイモールにいるらしい」

 

「なら良かった…」

 

すまない照月。ちゃんと連絡してくれているのに…

 

いつもならこんなヘマは無いのだが、流石に貴子さんがこうなると俺もテンパる

 

「貴子さんに色々と聞いていますので、お腹が空いたらはまかぜに言ってください」

 

「マジで助かる‼︎」

 

「これからは頭が上がらないな…」

 

「ひとみ、あんかとってくう‼︎」

 

「でかいざいがに‼︎」

 

「待って下さい。はっちゃんも行きます」

 

「しおいもい〜こお‼︎レイ、貴子さんのお祝い、サメでいいかな⁇」

 

ひとみといよがはっちゃんと準備する中、しおいは一本銛を

 

「ここ最近見かけないな…まだいるのか⁇」

 

「しおんと倒して来るよ‼︎待ってて‼︎」

 

しおいはそのまま海へと行ってしまった

 

はっちゃん達も行ってしまい、いよいよ手持ち無沙汰になる

 

「こういう時はだな。男は黙ってるもんさ」

 

「そっ。いつもと変わらず過ごせばいい。やれる事はやったさ」

 

隊長は新聞、俺はソファーで二度寝

 

出産は何度も経験しているので、男が無力なのも重々分かっている

 

誰かが帰って来るまで、こうして横になっていればいい…



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256話 貴子さんへのプレゼント

題名が変わりますが、前回の続きです


お昼前…

 

「なーんで今日に限って非番なんだよ…」

 

「レイが非番で良かったよ。基地で貴子を診れるのは、レイかきそしかいない」

 

「そう言ってくれると助かるよ…」

 

隊長はたいほう

 

俺はゴーヤを膝に乗せ、誰かが録画していたお笑い番組を見ている

 

ひとみといよがコーンフレークでケラケラ笑っていた理由が分かった

 

他の子供達は、終始落ち着かない様子でソワソワしているか、俺達の周りで遊んでいるかゴロゴロしている

 

「かえってきまちたお〜‼︎」

 

はっちゃん達エビ漁御一行が帰って来た

 

「ちびざいがにとえた‼︎」

 

「大量ですよマーカス様‼︎」

 

「おっ‼︎どれどれ‼︎」

 

はっちゃんが片手に持つバケツの中には、小さなエビが大量に入っている

 

「ぱぱしゃん、おりぉ〜りれきう⁇」

 

「任せろ‼︎刺身が良いか⁇かき揚げが良いか⁇」

 

「「おしゃしみ‼︎」」

 

「はっちゃんもお刺身でお願いします‼︎」

 

「よしっ‼︎レイ、お先に失礼‼︎」

 

「今日は色々されっぱなしだ…」

 

隊長が意気揚々とキッチンに着いた

 

しかし俺は未だに手持ち無沙汰

 

「ただいま〜‼︎」

 

「照月だ‼︎おかえり‼︎」

 

照月がようやく帰って来た

 

いつもの袋を引き摺りながら食堂に入り、荷物を降ろす

 

「よいしょっ‼︎」

 

ドンッ‼︎と言う音と共に、床に袋が置かれる

 

「いっぱい買って来たな⁇」

 

「うんっ‼︎照月、いっぱい赤ちゃんに必要なの買って来たんだぁ‼︎」

 

朝一番に出掛けたはずの照月が、何故か赤ちゃんの存在を知っている

 

「柔らか素材のお洋服でしょ〜、無添加で保存が効く粉ミルクと離乳食でしょ〜、お尻拭きに〜、ガーゼに〜後は怪我しないおもちゃ‼︎」

 

カーペットに並べられて行く、照月が選んだベビー用品の数々

 

しかも、どれもかしこも絶妙に必要な物で、如何に照月がベビー用品を選ぶのが上手いかが分かる

 

「なんで赤ちゃんの事知ってるんだ⁇」

 

「二日くらい前に照月、貴子さんに膝枕して貰ったの‼︎その時に貴子さんのお腹から音がしたんだぁ‼︎」

 

「照月しか気付いてなかったのか…」

 

「貴子は腹筋凄いからな…お腹も出てなかった」

 

「そういや、ひとみといよも母さんが妊娠してるのに気付いてたな⁇」

 

「おなか、ろっくんろっくんちてた‼︎」

 

「ここいますお〜って‼︎」

 

ひとみといよは普段の行動から、なんとなく分かっていても不思議ではない

 

「貴子さん、横須賀にいるの⁇」

 

「そっ。今赤ちゃんと検査受けてる」

 

「そっかぁ〜‼︎じゃあ、照月は邪魔しちゃいけないよね‼︎はまかぜさん、コーンフレーク下さいっ‼︎」

 

「何袋いきますか⁇」

 

「ん〜…五袋でいい‼︎」

 

はまかぜは床下収納からコーンフレークを五袋取り出し、ドデカイボウルにコーンフレーク五袋全部放り込み、牛乳三本を投入

 

「頂きまーす‼︎」

 

それを照月に渡すや否や、早速食べ始める

 

「足りるのか⁇」

 

「うんっ‼︎照月、タウイタウイモールでステーキいっぱい食べたんだけど…動いたらちょっとだけお腹空いちゃったんだ‼︎パパさんも食べる⁇」

 

今日の照月は大変上機嫌

 

普段ならコーンフレーク一枚を砕いたカケラでさえシェアするのが嫌なタイプな照月が、今日は一緒に食べようと言っている

 

「腹一杯食べるんだぞ⁇夕飯は私が海鮮を振る舞うからな‼︎」

 

「やったぁ‼︎ごちそうさまでした‼︎」

 

吸い取ったかのように、コーンフレークの入ったボウルはスッカラカンになっていた

 

「置いておいて下さい。今日ははまかぜにお任せを‼︎」

 

「ありがとう‼︎お兄ちゃん、照月、またお出掛けして来るね‼︎」

 

「夕飯までには帰るんだぞ⁇」

 

「うんっ‼︎行って来まーす‼︎」

 

荷物を置いてコーンフレークを食べに帰って来ただけの照月は、夕飯までの間にまた何処かに出掛けて行った

 

 

 

 

おやつの時間を終え、子供達のほとんどが子供部屋でそれぞれの事をし始めた

 

霞は算数ドリル

 

秋月は吹き矢製作

 

れーべとまっくすは橘花☆マンの台本の読み合わせ

 

きそははっちゃんとゴーヤと紙粘土

 

たいほうは松輪とボーちゃん、そしてジャーヴィスとで、この間買ったミチミチフィギュアシリーズで遊んでいる

 

そんな子供部屋の中心にはコタツがあり、そこにプリンツがいるので、何かあっても安心だ

 

俺は俺で工廠でヘラと何気無い話をしている

 

所変わって食堂

 

「むきむきちましぉ〜‼︎」

 

「ぷいぷいれす‼︎」

 

「アンタ達上手いわね…」

 

「ぐぬぬ…何故出来ん‼︎」

 

ひとみといよ、そしてローマとアークがエビの皮剥きをしている

 

何故か慣れた手付きで皮を剥くひとみといよの前で、ローマとアークが苦戦する

 

「たかこしゃん、てんぷあにしそう‼︎」

 

「確かに好きそうね」

 

ひとみといよ達が獲って来たエビは、エビフライには丁度良いサイズ

 

貴子さんが居たら確実にエビフライだろう

 

「よくこんなに獲れたわね⁇」

 

ローマの目線の先には、バケツ三つ山盛りにあるエビ

 

「くじあしゃんととった‼︎」

 

「しおいくいら‼︎」

 

「報告にあったクジラだな」

 

剥かれたエビを洗い、下味を付けている隊長がクジラに反応した

 

「ヨーグル達の所にいるクジラだろう。アルビノのクジラさ」

 

「そんなのがいるのか⁉︎」

 

「後で写真を見たらいいさ」

 

「ぱぱしゃん、しおいのみたことあう⁇」

 

ひとみの言葉に、隊長は少し悩んだ

 

「一回だけあるな…黒いイルカの中に、一頭だけ白いイルカがいたな。空から眺めるイルカも良いもんだぞ⁇」

 

「「いいなぁ〜」」

 

ひとみといよが同じ反応を示す

 

「その内会えるわよ」

 

「そうだそうだ‼︎ほら見ろ‼︎このエビもアルビノだ‼︎」

 

そう言って、アークは真っ白なエビを皆の前に出した

 

「ちょっと‼︎それ珍しいんじゃないの⁉︎」

 

「本当に真っ白だな…」

 

「え…」

 

アークは冗談半分でそのエビを手に取ったつもり

 

しかし、アルビノのエビ自体かなり珍しい

 

「まっちお」

 

「おめめあっか」

 

アルビノエビは体は白く、目が赤い

 

ひとみ達にとっては、一度に大量に獲るやり方をしているのでアルビノが混ざっている事など分からないまま獲っていた

 

「こいつは保存した方が良いな。何らかの研究になるかも知れない」

 

隊長はアルビノエビを掴み、たいほうがデメキンを育てていた水槽に海水を入れて放り込んだ

 

「さてっ‼︎皮剥きも終わっな。後は私に任せて貰おうか‼︎」

 

「おねがいちます‼︎」

 

「おしゃしみ‼︎」

 

「さ、手洗いに行きましょ。アークも行くわよ」

 

「ホワイトシュリンプか…ほぉ〜」

 

余程アルビノエビが気になるのか、アークは前屈みになって水槽を眺めている

 

「くっこお‼︎」

 

「いくれ‼︎」

 

「あ…あぁ‼︎」

 

ひとみといよに引っ張られ、アークも手洗い場へと向かう

 

この後、アルビノエビは”テンプラちゃん”と名付けられ、今しばらく基地で可愛がられる事となる

 

 

 

 

 

夕食の時間

 

「ただいまぁ〜‼︎わぁ〜っ‼︎美味しそ〜‼︎」

 

照月が帰って来たタイミングで、夕食が始まる

 

「「「いただきます‼︎」」」

 

隊長の刺身パーティーが始まる

 

「しおいはどうした⁇」

 

「もうこっちに向かってるらしい。何か大捕物だったみたいだ」

 

「宣言通りサメなんじゃないか⁇」

 

「だと面白いな‼︎」

 

隊長と笑いながら、団欒を囲んで飯を食う

 

貴子さんがいると、いつも話題を放ってくれるので、食事の際も話が尽きない

 

今日はその役目を隊長が担ってくれている

 

「ぷいぷいにないあした‼︎」

 

「おいち〜‼︎」

 

ひとみといよはプリプリのエビの刺身を食べて御満悦の様子

 

「パパさん。今度はまかぜにも教えて貰えませんか⁇」

 

「おっ‼︎いいぞ‼︎貴子はエビ見たら全部フライだからな‼︎」

 

饒舌に話す隊長を見て、横に座っていたローマが肘で突いて来た

 

「…タカコがいない兄さん、上機嫌じゃない⁇」

 

「…普段あんな事言ったらシメられるからな」

 

「…それもそうね」

 

「たっだいまぁー‼︎どっこらしょ‼︎」

 

しおいの声がしたと思うと、食堂が軽く揺れる

 

「うはは‼︎デッカ‼︎」

 

きそが驚くサイズのクーラーボックスが工廠寄りの出入り口に置かれていた

 

「いやぁ〜、案外てこずっちゃって‼︎」

 

そう言いながら後頭部を掻くしおいだが、クーラーボックスはかなり重そうだ

 

「サメを何匹か仕留めたんだけど、どうやって持って帰ろうか悩んでね‼︎」

 

「中身はサメか⁇」

 

「そっ‼︎貴子さん好きだと思って‼︎」

 

隊長が聞くと、しおいはクーラーボックスを開けて見せてくれた

 

「それでね、トラックの所に寄って、バラして貰った‼︎」

 

「トラックさんならやれる…か⁇」

 

「蒼龍さんも手伝ってくれたよ‼︎あー、後、ラジコンで遊んでる見慣れない子がいた‼︎」

 

「神州丸だな」

 

「噂のレイがやられかけた子だな⁇」

 

「そっ。三頭身位しかない」

 

「冷凍庫に入れとくね‼︎」

 

「頼んだ‼︎」

 

しおいはサメの切り身やフカヒレを冷凍庫に入れ始める

 

チラリと見たが、流石はトラックさん

 

丁寧に切り分けられ、個別に梱包してある

 

サメは上手く処理しないと臭いがキツイらしいが、全くしない

 

「しおいもた〜べよ‼︎」

 

こうして、貴子さんがいない一日がどうにかして終わる…



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257話 貴子さんの遺伝子(1)

話数、題名共に変わりますが、お話は続いています

貴子さんの赤ちゃんの検査に来たマーカス

早速壁にぶち当たります


次の日の朝…

 

「おしぇんたくおわい‼︎」

 

「くっこおもおわいまちたか‼︎」

 

「よし‼︎これで終わりだ‼︎」

 

朝から洗濯物を干していたひとみといよとアーク

 

この日は隊長は午前中哨戒任務、俺は横須賀に貴子さんの様子を見に行っていた

 

万が一基地に何かがあれば母さんもいるし、ローマやグラーフもいる

 

「今日はご希望に沿ってグラタンにしました」

 

昨日ほとんどの連中から”はまかぜだ。グラタンだな”と言われたので、朝食は本当にグラタンを出して来た

 

「ほたて‼︎」

 

「おいち〜‼︎」

 

俺も行きしなに食べたが、ホタテが入ったグラタンは味が濃くて体が良く温まった

 

「たかこしゃんのあかしゃん、あんておなまえかあ⁇」

 

「てんぷあちぁん‼︎」

 

「かああげちゃんかも‼︎」

 

「ユニーク過ぎないか⁉︎」

 

ひとみといよがケラケラ笑う横で、いよの隣にいたアークがツッコミを入れた

 

「くっこおあんとおもう⁇」

 

「そうだなぁ…」

 

アークは腕を組んで悩む…

 

「ウィリアム殿がてぃーほうの名付け親なら、タカコさんの名前を尊重して付けたはず…ならばタカコさんはウィリアム殿を尊重して英語圏の名前を付けるはず…と、アークは読んだ‼︎」

 

「ぽれとふあいちぁん‼︎」

 

「ふあいどちきんちぁん‼︎」

 

ひとみといよが付けた名前は、ポテトフライちゃんと、フライドチキンちゃん

 

「結局揚げ物か‼︎」

 

俺と隊長が帰るまで、名前当ては続く…

 

 

 

 

横須賀に着き、貴子さんがいると聞いた医務室に来た

 

「明石。俺だ」

 

「マーカスさん‼︎」

 

医務室にはいつも通り明石がおり、今正にベッドのシーツを敷き直している

 

「貴子さんは何処だ⁇」

 

「貴子さんはさっき外に出ましたよ⁇」

 

「大丈夫なのか⁇」

 

「えぇ‼︎何度も検査しましたけど、特に異常は無いどころか、お腹が空いた‼︎こんな事じゃ母乳も出ないわ‼︎と言ってついさっき繁華街へ‼︎」

 

それを聞いて、俺は上を向いて少し困り顔をしながら笑う

 

横須賀の傷病人に出される食事はまぁまぁ美味い物だが、貴子さんからしちゃ全く足りなかったんだろうなぁ…

 

「赤ちゃんは⁇」

 

「赤ちゃんは流石に置いて行って貰いました‼︎保育器に入ってますよ‼︎ご覧になります⁇」

 

「あぁ‼︎」

 

明石がシーツを敷き終わると同時に、保育器の場所に連れて来て貰う

 

「此方です‼︎」

 

「おぉ…」

 

そこには少し大きめの保育器があり、中にはおしゃぶりを咥えてハイハイする赤ちゃんがいた

 

「はは。可愛いな…」

 

赤ちゃんを見て、自然と笑みがこぼれる

 

赤ちゃんは保育器の中で既にハイハイをしているが、もうその位では驚かないでいた

 

「随分デカイ保育器だな⁇」

 

「艦娘用に特注品を造ってあったんです‼︎」

 

「なるほど…」

 

しばらく赤ちゃんを見ていると、赤ちゃんは保育器の蓋である、透明な強化プラスチックに触り始めた

 

「あの保育器は頑丈ですからね。早々壊れる事はありませんよ‼︎」

 

「自分の顔が映って不思議なん…」

 

ゴン‼︎

 

赤ちゃんが強化プラスチックに頭を打った

 

が、泣く事はせず、強化プラスチックに映る自分の顔を見つめている

 

「頭打ったんじゃないか⁉︎」

 

「開けましょう‼︎」

 

ゴン‼︎ゴン‼︎

 

頭を打ったんじゃない…

 

あれは意図的に頭突きしている‼︎

 

「開けますよ‼︎」

 

ゴンッ‼︎ゴンッ‼︎

 

「オーケー‼︎」

 

保育器が開き、赤ちゃんを抱き上げる

 

「よいしょっ‼︎凶暴な奴だ‼︎ははは‼︎」

 

赤ちゃんは長めの瞬きをしながら俺の目を見ている

 

赤ちゃんの頬を人差し指で撫で、ようやくまともに顔を見る事が出来た

 

「顔は貴子さん似か⁇」

 

「美人さんになりますよ、きっと‼︎…レイさん‼︎これ見て下さい‼︎」

 

明石の手元には、保育器の蓋があり、ヒビが入っている

 

「大丈夫なのか⁇どれどれ…」

 

赤ちゃんの額を見る

 

が、血が出ているどころか、赤くすらなっていない

 

「こりゃ貴子さんに似たな…」

 

「あはは…」

 

明石も俺も苦笑い

 

赤ちゃんは完璧に貴子さんの血を継いでいる

 

大人でさえ素手で殴っても傷一つ付かない強化プラスチックの保育器を頭突きで破壊する子だ

 

丈夫な子に育つだろう

 

「明石。保育器まだあるか⁇」

 

「えぇ。此方に‼︎」

 

「さっ‼︎お母さんが帰って来るまでここにいような〜」

 

横にあった空の保育器に赤ちゃんを入れた途端だった

 

ガンッ‼︎ゴンッ‼︎

 

赤ちゃんは保育器に入った後、明石と俺の顔を1回ずつ見た後、すぐさま頭突きを始めた

 

「だぁ〜っ‼︎分かった分かった‼︎」

 

「保育器が嫌なんですよ‼︎」

 

再び保育器を開け、赤ちゃんを抱き上げる

 

抱き上げたら抱き上げたで、今度は大人しくなる

 

「保育器が嫌となるとどうすりゃいいんだ…」

 

「床なんてとんでもないですもんね…」

 

かと言って、抱きっ放しな訳にもいかない

 

赤ちゃんがいても不思議じゃなく、安全な場所…

 

ここ最近の赤ちゃん…

 

「…そうだ‼︎学校の保育部だ‼︎明石、赤ちゃんを頼む。貴子さん呼んで来る‼︎」

 

「わっかりました‼︎」

 

明石に赤ちゃんを預け、繁華街に貴子さんを探しに向かう



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257話 貴子さんの遺伝子(2)

「さてとっ…」

 

いざ繁華街に立つと、貴子さんが居そうな店は山ほどある

 

間宮か⁇

 

いや、間宮は量が足りない

 

ならスティックミートか⁇

 

店が潰れるな

 

あり得るとすれば、量が食べられる

 

ずいずいずっころばし

 

蟹瑞雲

 

スイーツバイキング伊勢

 

飲茶丹陽

 

おんどりゃあ…

 

おんどりゃあだな

 

貴子さんは浦風の粉物が好きだ

 

それに、浦風なら貴子さんの食いっぷりに追従出来る

 

いざ、おんどりゃあの暖簾を分ける…

 

 

 

「いらっしゃい大尉‼︎」

 

「あらマーカス君‼︎」

 

やっぱりいた

 

「もう大丈夫なのか⁇」

 

「大丈夫よ‼︎それよりお腹空いちゃってね‼︎」

 

「食えるなら心配ないな‼︎」

 

「大尉は何にする⁇軽くにしとく⁇」

 

「そうだな。サイダーとたこ焼き3個で」

 

「任しちょき‼︎」

 

浦風がたこ焼きを焼いてくれてる間、赤ちゃんの事を報告する為に貴子さんの横に座った

 

「貴子さんに良く似てたよ。美人さんだ」

 

「ふふっ‼︎ありがとっ‼︎」

 

「今、学校の保育部に行ったよ」

 

「あらっ。保育器でも叩き割ったかしら⁉︎」

 

「…あんま言いたかないがな」

 

「あははははは‼︎やっぱり私の子ね‼︎」

 

頭を抑える俺に対し、貴子さんは大笑いしている

 

「後で弁償するわ⁇」

 

「気にしないでくれ。基地の備品だ」

 

「赤ちゃんはもう抱っこしたの⁇」

 

「頭突きで叩き割ってたからな…」

 

「あははははは‼︎」

 

再び頭を抑える俺に対し、腹がよじれる位に爆笑する貴子さん

 

これだけ笑えるなら元気だな…

 

「そう言えば名前は…」

 

「決めたわ‼︎」

 

「あー、待ってくれ‼︎聞いた俺が言うのもなんだが、最初に言うのは隊長じゃないと‼︎」

 

「ウィリアムにはさっき言ったわ。あの子は”アトランタ”よ」

 

「ア…アトランタ…」

 

名前を聞いた途端、懐かしい感覚が蘇る

 

あぁ…秋月と照月と初めて対面した時と同じ感覚だ…

 

アトランタと言えば、アメリカの防空巡洋艦

 

つまり俺達の天敵だ

 

「たいほうはウィリアムが私寄りに名付けてくれたの。今度は私がウィリアム寄りにしてみたの。英語にしたのは、あの子が何処に行っても覚えて貰えるようにしたの」

 

「なるほどな。アトランタなら分かりやすい」

 

貴子さんは笑顔でお好み焼きを食べながら話を続ける

 

「それにっ…なんとなくたいほうと合いそうな名前な気がするの。アトランタって名前は防空巡洋艦にも付いてるんでしょ⁇」

 

「う…うん…」

 

防空巡洋艦と言う名前を聞いて、再び体が強張る

 

「ごめんごめん‼︎でもこれで分かったわ。マーカス君でこれだけ驚くなら、今度からウィリアムが要らない事したらベッドにアトランタを置くわ‼︎」

 

頭の中で隊長の姿が容易に想像が出来、そこで俺もようやく大笑いする事が出来た

 

「一緒に学校行こうか⁇」

 

「今来たばっかりなの。ごめんね⁇」

 

「大尉。サイダーとたこ焼きじゃ‼︎」

 

「ありがとう」

 

浦風にサイダーと拳大のたこ焼き3つを貰う

 

貴子さんはこのまましばらくここに居た方が良さそうだ

 

「浦風。これ、パックに入れてくれるか⁇」

 

「任しちょき‼︎」

 

たこ焼きを一つだけ食べ、残り二つをパックに入れて貰う

 

断じて貴子さんと食べたくない訳ではないが、なんとなく一人にした方が良い気がした

 

「はいっ、どうぞ〜」

 

「ありがとう。貴子さん、また後で‼︎」

 

「すぐ行くわ‼︎」

 

たこ焼きパックを持ち、学校を目指す…

 

 

 

 

俺が居なくなったおんどりゃあ店内…

 

「貴子さん。大尉はどうなん⁇」

 

「マーカス君は良い子よ‼︎あの子、私にお世話になったってずっと言ってるんだけど、こっちの方がかなりお世話になってるのよ」

 

「子供に懐かれるけんね〜」

 

「あれだけたいほうが懐くの、かなり珍しいのよ。マーカス君位じゃないかしら…ほとんどの子供達の事を上手に扱えるの」

 

「貴子さんも上手じゃよ⁇ほんま上手いけぇ‼︎」

 

「ふふっ‼︎ありがとっ‼︎イカ焼き三枚頂戴‼︎」

 

「任しちょき‼︎」

 

浦風が聞きたかったのは違う事だが、話はお流れとなった…



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257話 貴子さんの遺伝子(3)

マーカス、E敗北‼︎


学校に着くと、今は授業中の様で誰も廊下に出ておらず、真っ直ぐ園児部に来た

 

「いたいた」

 

園児部のドアの窓から、明石の姿が見えた

 

隣に由良がおり、立って話している足元にアトランタがいる

 

ただ、目線はアトランタに行っているので、心配は無い

 

いざ園児部のドアを開け、中に入る

 

「あ‼︎ダーリン‼︎」

 

「マーカスさん‼︎」

 

「おっ‼︎よいしょっ‼︎」

 

入った途端に、ジャーヴィスと松輪が足元に抱き付いて来たので、膝を曲げて受け止める

 

「さっきネ‼︎赤ちゃん来たヨ‼︎」

 

「吹雪さんと一緒だ‼︎」

 

「あの子は貴子さんの赤ちゃんだ。ジャーヴィスも松輪も、友達になってくれるか⁇」

 

「ジャーヴィスなル‼︎」

 

「おらもなるだよ‼︎」

 

二人の頭を撫でると、互いに遊んでいた場所に戻る

 

「おっと…」

 

松輪はいつも通り吹雪の横に

 

ジャーヴィスはジャーヴィスと瓜二つの女の子の横に行く

 

そこにはジェーナスがいた

 

双子の姉妹と言われても、あの外見なら信じ込まれるだろうな…

 

ジャーヴィスとジェーナスは積み木に無夢中になっているので、そのままにしておこう

 

「マーカスさん‼︎」

 

「大尉。お疲れ様です」

 

「今日は見回りじゃないが、この子の様子を見ようと思ってなっ。何も食ってないんだろ⁇ほら」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「よっこらしょ…」

 

明石にたこ焼きパックを渡し、アトランタの前に座り、胡座をかく

 

アトランタは俺が目の前に座ったのを見て、ハイハイをやめ、赤ちゃん座りをして俺の方を見る

 

「おいで、アトランタ」

 

アトランタの手には、吹雪がいつも持っている柔らか素材のぬいぐるみが握られている

 

「俺にくださいな」

 

俺が手を前に出すと、アトランタは分かっているのか、ぬいぐるみを少し振る

 

「おいで。へぶっ‼︎」

 

「マーカスさん⁉︎」

 

「大尉⁉︎」

 

「だ、大丈夫だっ…」

 

いきなり顔面にぬいぐるみを投げ付けられた‼︎

 

要は、こっちに来るなとの合図だ

 

「柔らか素材で良かった…」

 

ぬいぐるみを拾って顔を上げると、アトランタがハイハイで移動しているのが見えた

 

「アトランタ…それは良くない。良くないぞ⁉︎」

 

再び赤ちゃん座りをして、俺の方を向いたアトランタの手には、プラスチック製の緑色の機関車が握られている

 

ジャーヴィスが好きなイギリスのアニメのキャラクターの”パースィー”だ

 

あれは当たると痛い

 

一回子供部屋で同じ物を踏ん付けた時があったが、死ぬ程痛かった

 

「あ、アトランタ⁇俺はパースィーが苦手なんだ。な⁇頼むよ。パースィーは良くない。良くな、ぐへぁ‼︎」

 

懇願虚しく機関車パースィーも顔面直撃‼︎

 

久々に鼻血が出た‼︎

 

「ぎ、ギブアップ…」

 

その場に大の字にうつ伏せになり、降参の体勢に入る

 

すると、アトランタがハイハイでこっちに寄って来た

 

顔だけ前を向き、アトランタの向かって来るであろう方向を見る…

 

すると、そこには赤ちゃん座りをしているであろう、アトランタのおへそ部分があった

 

恐る恐る顔を上げる…

 

「あ」

 

おしゃぶりを咥えながら、物凄いジト目で俺を見るアトランタが見えた次の瞬間

 

ゴンッ‼︎

 

「いでぁ‼︎」

 

アトランタ、渾身の頭突きが俺の額に入った

 

薄れ行く意識の中、俺は思った…

 

流石は隊長と貴子さんの娘だ…と



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257話 大敗北、マーカス君

題名は変わりますが、前回の続きです

気絶したマーカス君は何処へ⁇


「マーカス君‼︎マーカス君‼︎」

 

「レイく〜ん‼︎お〜い‼︎」

 

「レイ‼︎大丈夫か‼︎」

 

「うぐ…」

 

女性二人と男性の声で目が覚める…

 

どうやら医務室のようだ…

 

「ごめんなさいマーカス君‼︎」

 

「大丈夫かね‼︎」

 

「すまないレイ。アトランタがとんでもない事を…」

 

そこに居たのは、貴子さんと隊長。そして俺を処置してくれたであろうオーヨド博士がいた

 

「…アトランタは⁉︎」

 

気になったのはアトランタ

 

あの後、怪我とかしていないだろうか⁉︎

 

「アトランタ君は横須賀ちゃんの所にいるよ⁇」

 

「良かった…」

 

「マーカス君。キツく叱っておくわ⁇倒れたマーカス君に乗って遊んでたのよ…」

 

「レイの背骨に沿って機関車を走らせていた…」

 

どうやら気絶していた際、俺の体はアトランタに線路として使用されていたみたいだ

 

「ははっ‼︎なら良かった。怪我してないか⁇」

 

「してないわ。それより、マーカス君の体の方が心配で…」

 

「俺は鼻血くらいさ。アトランタが無事ならっ…良かったよっ‼︎」

 

「レイ君。お水っ」

 

「ありがとう」

 

ベッドから起き上がり、オーヨド博士から水を貰う

 

「隊長。今日はこっちにいてもいいか⁇」

 

「勿論だ‼︎ゆっくりしてくれ‼︎」

 

「貴子さん」

 

「なぁに⁇私に出来る事なら何でも言って⁇」

 

「アトランタは健康そのものだ。心配しなくていい」

 

「…ありがとうっ‼︎」

 

貴子さんは泣きそうな声で俺の手を握ってくれた

 

「さ〜てぇ⁇隊長、俺はちょっと前にパフェ奢って貰う約束したから行って来るよ‼︎」

 

そう言って、流し目でオーヨド博士の方を見ると、オーヨド博士は視線に気付き、ビクッとした

 

「そうだよレイ君‼︎乙女の約束をすっぽかすとはダメじゃないか‼︎」

 

「おっ‼︎そいつは邪魔しちゃいかんな⁉︎貴子、帰ろうか‼︎」

 

「マーカス君⁇お大事にね⁇」

 

「オーケー」

 

 

 

 

オーヨド博士と共に医務室から出て来た

 

外はもう夜

 

繁華街も所々閉まりかけているが、目的の間宮は空いている

 

「いいねぇレイ君。こういう普段騒がしい場所が静かな瞬間、大淀さん好きだよ⁇」

 

繁華街の電灯

 

閉店した店の看板の切れかけの電球

 

小さなネオン、それも現実に近い光景だが、それでも俺達二人は楽しめる

 

「ふふっ。現実的なネオンも、大淀さんは好きだよ⁇さ〜‼︎レイ君‼︎何パフェにしよっか‼︎」

 

大淀の嬉しそうな顔が横にある…

 

そんな大淀と共に、間宮へと入る

 

 

 

 

 

 

機関車“パースィー”…アトランタがジャーヴィスからパクったオモチャ

 

アトランタが大体手に持っている、結構固い機関車のオモチャ

 

一昔前はジャーヴィスが使っていたが、現在はアトランタが強奪した為、アトランタのオモチャとなる

 

アトランタはこれを投げてマーカスを倒した後、背中に乗って両手を挙げた後、背中を線路にして遊ぶのがマイブーム

 

マーカスに投げる時のみ、何故かカーブがかかり、大体顔面に当たる

 

対空+1

 

対マーカス時

対空+200



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258話 死神に戻る朝(1)

さて、257話が終わりました

前回のお話の続きですが、一気にお話が暗くなります

大淀と束の間の休息を楽しむマーカス

そんな中、最悪の一報が入ります


いつも横須賀が座っている、間宮に入ってすぐ右の席に腰掛ける

 

「イチゴパフェだって‼︎大淀さんはこれにしよっと‼︎レイ君なにする⁇」

 

「チョコパフェにしようかな」

 

「すみませーん‼︎イチゴパフェとチョコパフェ下さーい‼︎」

 

「畏まりました‼︎」

 

大淀が大声で注文すると伊良湖の声がした

 

「しっかし災難だったねぇ⁇」

 

「子供に懐かれないのはちょっと寂しいな…」

 

鼻の傷なんか、とうに癒えている

 

少しばかり傷心なのは、死ぬ程アトランタに好かれない事だ

 

叩きのめして上に乗られてレールになるのは懐かれていると言っていいのか微妙な所だ

 

「レイ君は子供に好かれるもんね〜。大淀さん、羨ましいなぁ〜」

 

「懐かれないのか⁇」

 

「懐かれてるというか…え〜と、う〜んと…扱いがザツいというか…」

 

「メガネか⁇」

 

「…そう」

 

大淀は最近、大淀である事が多い

 

大淀は元から絡みやすい性格もあり、傍から見ればかなり懐かれている

 

が、当の本人は子供達から十中八九付けられる“メガネ”というあだ名が気に入らない様子

 

「知ってるかいレイ君‼︎大淀さん、橘花☆マンにも出てるんだよ⁉︎」

 

「オペレーターだったか⁇」

 

「そう‼︎オペレーターの“オーヨドン”‼︎」

 

橘花☆マンに出演している大淀を見るのは面白い

 

いつもの厨二病が消え、如何にもオペレーターらしい話し口調で話す姿が見れる

 

しかし、それは作戦中のみ

 

会話パートでは素に戻る

 

「いいよねぇ〜。健吾君は橘花☆マンって呼ばれるし〜、アレン君はメッサーとかシュミッターって呼ばれるし〜。大淀さんだけなんだよ⁉︎十中八九メガネなの‼︎」

 

「オーヨドンがいいのか⁇」

 

「メガネよりはマシとは思わんかね‼︎」

 

大淀との会話で、少し気が安らいだ

 

「あぁ‼︎そうだレイ君。今度、橘花☆マンに新しいキャラが登場するんだけど、配役が見つかってないらしいんだよ」

 

「…どんな感じなんだ⁇」

 

突然放られた、橘花☆マンのリーク情報

 

橘花☆マンは子供が見るとアクションが激しく面白いが、大人が見るとストーリーがかなり濃くて面白い

 

「橘花☆マンが好きな子が良いんだって‼︎」

 

「橘花☆マンが好きな子ね…」

 

真っ先に思い浮かぶ、イーサンの顔

 

子供達の中で、一番橘花☆マンを良く知っているのはイーサンだろうな…

 

「お待たせしましたー‼︎イチゴパフェと、チョコパフェです‼︎」

 

「おっ‼︎美味しそうだねぇ‼︎頂きまーす‼︎」

 

「頂きますっ‼︎」

 

スプーンを手に取り、いざ一口目を食べようとした時だった

 

「大尉はいますか‼︎」

 

「なんだ⁇」

 

整備兵の一人が間宮に来た

 

様子を見る限り、息を切らし、何か焦っている様子

 

「近海にイーサンが…」

 

「こんな時間にか⁇そんな年頃なんだろ⁇」

 

半笑いで返した自分自身を、次に整備兵が返した言葉で恨んだ

 

「それが、体中に時限式の爆弾が巻かれて…」

 

それを聞いた途端、スプーンを置いて革ジャンを着た

 

「イーサンは何処だ」

 

「此方へ‼︎」

 

「大淀さんも行こう‼︎何かお手伝い出来るかも‼︎間宮ちゃん‼︎ごめん‼︎お代は後で払いに来るから‼︎」

 

「畏まりましたー‼︎」

 

三人で間宮を出てイーサンの居る場所を目指す為、工廠へと急ぐその途中、イーサンが見えた

 

「あそこに‼︎」

 

「あぁ…」

 

雷電姉妹達が爆弾を解除しようと試みているが、イーサンは泣きながら暴れている

 

「博士。ジェットスキー乗れるか⁇」

 

「乗れるよ。曳航かい⁇」

 

「イーサンの体に巻かれた爆弾を沖で解除する。出来るか⁇」

 

「やってみよう‼︎」

 

工廠の裏に着き、ジェットスキーの発着場前で工具箱の準備をする

 

「よし。博士‼︎そっちは⁉︎」

 

「これでオッケー‼︎レイ君、安定剤入れたかね‼︎」

 

「入れた。行こう‼︎」

 

「大尉‼︎博士‼︎よろしくお願いします‼︎」

 

「きそを呼んでおいてくれ‼︎」

 

「了解しました‼︎」

 

ジェットスキーのアクセルを入れ、大淀博士と共にイーサンの居る沖を目指す…



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258話 死神に戻る朝(2)

イタズラで体中に爆弾を巻かれたイーサン

イーサンを正義だと分かっている艦娘、そして博士と医者が必死に救おうと奮闘します


「母さん。父さんがジェットスキーで出たぜ」

 

「暴走族と一緒よ。夜に血が騒ぐのよ」

 

アトランタを抱っこしながら窓の外を眺める朝霜が俺の存在に気付いた

 

アトランタはアトランタで窓に手を伸ばしている

 

そんな横須賀は、椅子に踏ん反り返ってシュークリームを頬張っている

 

「大淀さんもいるぜ」

 

「レイの先生みたいな人だから一緒よ」

 

「元帥‼︎報告が‼︎」

 

ドアがノックされ、横須賀は口を拭いて体勢を直す

 

「よいしょっ。開いてるわ」

 

先程と同じ整備兵が横須賀の元に来た

 

「近海で体中に爆弾を巻かれたイーサンが発見され、現在、マーカス大尉、大淀博士、雷電姉妹が解除及び救助に向かっています」

 

「なんですって⁉︎」

 

事態に気付いた横須賀は、すぐに無線を取った

 

「レイ‼︎聞こえる⁉︎レイ⁉︎」

 

応答はない

 

「あぁもう…親潮は寝ちゃったし…」

 

《お母さん⁇》

 

レイの無線からきその声が聞こえた

 

「きそ‼︎レイがイーサンの体に巻かれた爆弾解除しに行ったのよ‼︎」

 

《話は整備兵の人から聞いたよ。僕達が出来るのは、レイ達を信じて待つ事しかないよ…》

 

「きそは今何処にいるの⁇」

 

《僕は工廠にいるよ。イーサンの治療する為に待ってるんだ》

 

「そう…頼んだわ」

 

《出来る限りの事はやってみる》

 

横須賀が無線を切り、深いため息を吐く

 

「…朝霜」

 

「分かってるさ。谷風には言うな、だろ⁇」

 

「えぇ…」

 

朝霜は父親達を信じているのか、真っ直ぐな目で窓の外を眺め続ける…

 

 

 

 

「暴れたらダメなのです‼︎」

 

「落ち着いて‼︎すぐにマーカスさんが来るわ‼︎」

 

「コワイヨォ‼︎ボクシンジャウノ⁉︎」

 

「死なないのです‼︎マーカスさんが助けてくれるのです‼︎」

 

「電‼︎雷‼︎良く頑張った‼︎」

 

「来てくれたわ‼︎」

 

「もう大丈夫なのです‼︎」

 

イーサンの近くでジェットスキーを停める

 

「よーしよしよし。イーサン、大丈夫だからな⁇」

 

イーサンのボディを撫でながら、恐怖する理由がすぐに分かった

 

体中にワイヤーか何かで雁字搦めにいくつもの時限式爆弾が巻き付けられている…

 

「レイ君。安定剤を」

 

「イーサン。ちょっと我慢だぞ…」

 

イーサンの舌に安定剤を注入

 

「コワイヨォ…」

 

少し震えながらも、イーサンは落ち着きを取り戻した

 

「大丈夫。大丈夫だからな…」

 

落ち着いたイーサンを見て、爆弾の処理に取り掛かる

 

「レイ君。これは随分厄介だ。ワイヤーがどれか一本切れる…もしくはタイマーがゼロになるかのどっちかで爆弾は爆発する」

 

「爆弾の内部のタイマーに繋がってる線がある。そいつを切断した後、信管を液体窒素に入れて作動しないようにする。いいな⁇」

 

「オッケー‼︎」

 

イーサンの体に巻き付けられた爆弾は、一つや二つではない

 

何十個も巻き付けられた上、どれか一本ワイヤーが切れた途端に連鎖反応て全て起爆する

 

一つ一つ爆弾自体を分解した上で、信管を取り除くしかない

 

「随分とお粗末な仕掛けだ…」

 

爆弾自体の解体は時間を掛ければ出来る

 

問題は解体作業を行っている二人が海の中に半身を浸けているという事

 

波の影響で非常に手元が狂いやすく、夜の為に視界も悪い

 

「これならどうなのです⁇」

 

「助かるよ」

 

「大淀さんは私が‼︎」

 

「ありがとね‼︎」

 

残ってくれた雷電姉妹が、探照灯を使い手元を照らし始めてくれた

 

「よしっ…一個完了‼︎レイ君、行けそうかい⁇」

 

「大丈夫だ。イーサン、誰にこんな事されたんだ⁇」

 

「ニンゲンノオトコノヒト…サンニンイタヨ…」

 

「何処の連中だ⁇」

 

「ニホンノグンタイノヒト…」

 

「好戦派か…」

 

今は考えるのはよそう

 

とにかく、爆弾の処理が優先だ…

 

 

 

 

あれから数十分…いや、一時間は経っただろうか

 

大方の爆弾はなんとか処理できる目処がついて来た

 

「後は海中に繋がってる奴だ。イーサン、もう少しだからな⁇」

 

「もうすぐ終わるからね‼︎」

 

「ウン…」

 

いざ海中に潜り、イーサンの腹部に巻かれた爆弾を解除しようとした

 

それを見て、俺も大淀博士も驚く

 

 

 

なんだ…これは…

 

何…これ…

 

 

 

先程まで解体していた爆弾とは桁違いにデカイ爆弾がそこにあった

 

こんな物が爆発したら、イーサンどころか基地の一角が消し飛ぶ

 

タイマーも残り数分しかない

 

…もう、間に合わない

 

一度海上に出て、息を整える

 

考えろ…どうすればいい…

 

「…電、雷。大淀を連れて横須賀の所へ行け。後は俺に任せろ」

 

「レイ君⁉︎君は何を‼︎」

 

「行けと言ってるんだ」

 

「…分かったのです」

 

「お別れは言わないわ」

 

「レイ君待って‼︎」

 

大淀は雷電姉妹に引っ張られ、横須賀へと向かって行くのを見届け、イーサンの方に振り返る…

 

「イーサン」

 

「ン…」

 

いつもの様に…

 

いつも朝、イーサンにそうしている様に、イーサンの頭に手の平を置いて撫でる

 

「シンジャウノ⁇」

 

「大丈夫。死なせないさ」

 

友好的な深海の子供の、あまりにも残酷な最期

 

俺が今出来るとすれば、最期を迎える時まで一緒にいてやる事しか出来ない

 

「絶対外してや…」

 

「マーカスサン、アリガトウ」

 

「…やめろ、イーサン」

 

イーサンの体が沖の方を向く…

 

「ムコウニイッテ‼︎ジャナイトボク…ボク…」

 

俺から数メートル離れた位置で振り返り、イーサンは口の砲を俺に向けた

 

「撃て、イーサン。憎いだろう…」

 

このままイーサンに撃たれて、一緒に死んでやったら、イーサンは寂しくないだろうか…

 

「ダメダヨ…マーカスサンハ、ミンナノオトモダチ」

 

イーサンは恐怖に震える体を、再び沖に向けた

 

一人で死ぬつもりだ…

 

「…イーサン、待ってくれイーサン‼︎」

 

イーサンの泳ぐ速さは、とてもじゃないが追い付かない

 

「オカアサン…おかあさーーーん‼︎」

 

 

 

 

最期の最期に、イーサンは人間らしさをみせた…

 

最期の最期で、イーサンは子供らしさをみせた…

 

誰よりも人間らしく、そして誰よりも命を大切にした心優しい深海が、目の前で散る…

 

 

 

「イー…サン…」

 

数秒が何時間にも思える

 

理解出来なかった

 

イーサンの残骸が俺の周りに流れて来るまで、ただただイーサンが散った方を向いていた…

 

「お父様‼︎しっかりなさい‼︎」

 

「イーサンが…」

 

異変に気付いたヒュプノスが来てくれた

 

「大丈夫。お父様は頑張ったわ…」

 

「どうすれば良かったんだ…」

 

「帰りましょう…体がこんなにも冷えてるわ…」

 

ヒュプノスに連れられ、俺はショックで気を失う…



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会話ログ 横須賀兵器実験室

※注
このお話には、説明文が一切ありません

演出の一環で会話文しかございません

ですが、伏線やヒントがいくつもあります

映像、もしくは会話ログを見ている感覚で見て頂けると幸いです


「きそちゃん‼︎そっちはどうだい⁇」

 

「なんとかなりそう‼︎レイはどう⁉︎」

 

「爆発の影響で多少の怪我はあるけど、そっちは心配ない。問題は…次目覚めたレイ君がどうなってるか…だね…」

 

「レイ、深海に行っちゃうの⁇」

 

「…わからない。敵に回る事はないだろうけど、大淀さんにもさっぱり…いつもの様にジェミニちゃんがレイ君を“繋ぎ止められれば”いいんだけど…」

 

「繋ぎ止める⁇」

 

「そっ。ジェミニちゃんからすれば、レイ君は手離せない人材なんだ。何故か分かるかい⁇」

 

「お医者さんだから⁇」

 

「この世で唯一“艦娘を“完璧に”処置対応出来る”のはレイ君だけなのさ。カプセルで艦娘を治せる、カプセルが無くても、自力で艦娘を診察して処置出来るのは、大淀さんでも無理。レイ君だけのワンオフなんだよ」

 

「あ‼︎そっか‼︎レイならカプセル自体も直せるから‼︎」

 

「飲み込みが早いね。流石はレイ君の子だ」

 

「僕の方は後はどうにかなりそう。大淀さん、僕に出来る事は⁇」

 

「レイ君が“元に戻らない事”を祈っておいて…」

 

「レイのDMM化…確かに強いよね…」

 

「レイ君の体には、大淀さんと同じ”重巡の姫級”の処置が施されてるんだ…」

 

「どうしたの⁇」

 

「…大淀さんが悪魔に変えちゃったのさ…優しいレイ君をね…」

 

「今だって優しいよ…レイはいつだって、みんなのお兄ちゃんだよ…」

 

「…きそちゃん。レイ君が頑なに開けない金庫があるでしょ」

 

「あ、うん。横須賀の艤装倉庫の奥にある」

 

「“0214”…試してご覧」

 

「分かった」

 

「何が出るかな⁇」

 

「ケースがある」

 

「持って来てご覧」

 

「はい」

 

「やっぱりここにあった…」

 

「これなに⁇」

 

「大淀さんが作った”人を深海にする薬”さ。とても強力なね…まだ残ってたんだね…」

 

「僕にどうしろと…」

 

「レイ君はこれの”完成品”を造り上げた。ここにあるのは、大淀さんが造ったプロトタイプの薬だ。きっと、誰かを救う為に使ったんだね…」

 

「完成品⁇」

 

「“艦娘”だよ。偶然の連続とはいえ、レイ君は艦娘を産み出した…深海の本来あるべき姿は、艦娘なのさ」

 

「じゃあどうしてあんな数の深海が⁉︎」

 

「軍が兵器転用したのさ。薬液に浸かればたちまち傷は治る。体力も腕力も人より何周りも上。誰だって欲しいさ。それによって産み出され、量産されたのが深海さ…」

 

「レイはどう思ってたの⁇」

 

「分からない…大淀さんでもレイ君の本心は読めない。でも、レイ君は凄く人間を恨んでただろうね。医学の発展の為に開発した物が、兵器に転用されたからね…それに、軍は人体実験もした」

 

「それは聞いた事がある」

 

「レイ君は色々抱えすぎちゃったんだ…本当はそっとしてあげたいけど…レイ君はきっと、また動く。誰かの為に…その時は、大淀さん達もレイ君を繋ぎ止める努力をすれば良いと思うんだ…レイ君なら、答えてくれる」

 

「そうだね…」

 

「…おっと‼︎会話ログを付けっ放しだ」

 

「消しておくね」

 

「お願いするよ」



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259話 死神の娘(1)

会話ログにお付き合い頂き、誠にありがとうございました

今回のお話は、マーカスの目線、そして横須賀の目線と交互に分かれてお話が進みます


その日、夢を見た…

 

あの日、福江に言われた一言が、俺の中にまだ巣食っている

 

気付きたくなかった

 

気付きたくもなかった

 

だけど、皆心の奥底で俺の事をそう思っている

 

だから、俺は…

 

 

 

「レイの容態は⁇」

 

「体の傷はほぼ完治に近いね…ただ、問題は心的なものだろうね…」

 

「そう…」

 

執務室で大淀の説明を受け、私は肩を落とす

 

私の問題はそれだけじゃない

 

「お母さん‼︎行ってくるね‼︎」

 

「あっ‼︎ちょっと待って谷風‼︎」

 

そう、谷風

 

とてもじゃないけど、イーサンの事を言えない…

 

レイならどう言うのかしら…

 

遅かれ早かれ気付かれるから、真っ向から言うのかしら…

 

「…よしっ‼︎大淀さんと一緒に行こうか‼︎」

 

「分かった‼︎行って来ま〜す‼︎」

 

笑顔で見送る私だが、不安しかない

 

「ジェミニ様…」

 

「気にしないでいいわ、親潮」

 

親潮はレイに似て勘の良い子

 

子供達の前では気丈に振る舞わなくては…

 

私に出来る事は沢山ある

 

それを一つ、それも大きな事を片付けなくては…

 

 

 

 

「…」

 

目が覚めた

 

あれからずっと眠っていたらしい

 

嫌な夢を見た

 

自分は皆からどう思われているか…そんな夢

 

だが、やる事が分かった

 

皆が俺をそう見ているならば、俺は永遠にその事から抗えないのだろう…

 

「…」

 

どうやら医務室ではなく、マークの研究室に担ぎ込まれたみたいだ

 

タイミング良く誰もいない

 

ここに担ぎ込まれたと言う事は、大淀辺りが俺の体に何かしたんだろう

 

だが、好都合だ

 

やる事が分かった以上、ここで必要な物を調達して行こう

 

 

 

 

「僕の方は後は待つだけ。問題はレイがどうなるかだね…」

 

「大淀にも言われたわ…」

 

きそも報告に来てくれた

 

大淀もきそも同じ事を言う

 

レイを引き止められる、繋ぎ止められるのは私だけだと…

 

「ちょっとレイの様子見に行ってもいいかしら⁇」

 

「いいよ。お母さんの声なら起きるかもしれない」

 

きそに連れて行って貰い、研究室を目指す…

 

 

 

 

「あそこのベッドにいるよ」

 

「分かったわ」

 

きそに教えて貰ったベッドまで来た

 

「いないわよ⁇」

 

「え⁉︎」

 

焦った様子のきそが来た

 

「僕がここ出るまではここに居たんだ‼︎」

 

嫌な予感しかしない…

 

「グリフォンの所かな⁉︎」

 

なんとなく。本当になんとなくだけれど…

 

レイはグリフォンの所に居ない気がした

 

考えろジェミニ…

 

レイなら…あの子ならどうするか…

 

「…もっと強力な子の所よ」

 

「もっと強力⁇」

 

「レイは性格上、やられた事を同じ事で返すわ。爆破には爆破で返すはずよ」

 

「爆破…タナトスの所かな⁉︎」

 

「行きましょう‼︎」

 

 

 

 

「タナトス」

 

「分かってる。全部言わないでいいでち」

 

タナトスは俺が今からする事を分かってくれていた

 

なら話は早い

 

「目的地は」

 

「昨日データを貰って把握してるでち」

 

「誰にだ」

 

「全部終わってから教えるでち」

 

「そうか。なら向かえ」

 

久方振りにタナトスに命令を出した

 

いつもなら“頼む”だとか“すまない”とでも言っているのだろう

 

「創造主⁇」

 

「なんだ」

 

「いや…いつもと違うと思っただけでち」

 

「タナトス。お前は皆からなんと呼ばれる」

 

「死神でち」

 

「死神に戻る日が来た。それだけだ」

 

「…」

 

タナトスは何も返さず、ただ俺の目をじっと見ている

 

「タナトス。抜錨しろ」

 

「了解でち。タナトス、抜錨」

 

タナトスが動き出す…

 

 

 

 

「あっ‼︎やっぱり‼︎」

 

タナトスが出航したのは、私達の目にも見えていた

 

「きそ。もういいわ」

 

「でも‼︎」

 

「いいの。行かせてやりなさい」

 

私はきそを止め、執務室の方に足を向けた

 

「レイが深海についたらどうするのさ‼︎」

 

「帰って来るわ」

 

「確信でもあるの⁇」

 

「レイは時々、帰る場所を見失うの。私達は、レイを私達の所に帰らせる様にすればいいだけよ」

 

「なんか分からないけど、分かった‼︎」

 

私にしか分からないでしょうね…

 

いえ、私にしか分からなくていいのよ

 

私にしか分からなくて、私にしか出来ない事

 

私がやるしかないのよ…

 

“元に戻ってしまったレイ”を取り戻さなきゃ



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259話 死神の娘(2)

「創造主」

 

「なんだ」

 

「名前を呼んで欲しいでち」

 

「なんだ、タナトス」

 

椅子に座ったまま、モニターを一直線に眺める俺の横顔を、タナトスが見つめる

 

そして、タナトスは少し笑う

 

「昔の創造主みたいでち」

 

「言ったはずだ。死神に戻る時だと」

 

「いいでちよ。タナトスの本来の役割はこれでち。破壊、殺戮、圧倒的な火力で押し潰す。これがタナトスの役割でち」

 

「…」

 

SS隊のコートの襟で口元と感情を隠す…

 

すまない、ゴーヤ

 

お前の内心は、痛い程分かってるつもりだ

 

こんな形で、私利私欲の為に産み出して、本当にすまない…

 

だが、今は持てる最強の抑止力で向こうを圧倒せねばならない

 

許してくれ…

 

「創造主はそういう所が優しいんでち」

 

「人の感情を読むなタナトス。任務に集中しろ」

 

「はいはい。分かったでちよ」

 

 

 

 

「横須賀基地です。少しお話をお伺いしたい事がございまして」

 

私に出来る事は、とりあえずは一つ

 

イーサンは最期の最期に、横須賀の基地にデータを送ってくれていた

 

それをもとに、ある基地へと連絡を入れる

 

「三人居るはずなのですが…えぇ。今、其方に調査隊が向かっています」

 

やはり向こうは犯人を出し渋る

 

休戦中とはいえ、人間からすれば深海は敵に違いない

 

だけど…

 

だけど、それじゃあイーサンはあまりにも浮かばれない

 

「調査隊が到着するまでに、表…もしくは会議室に三人を連れ出して下さい。此方の要求を承諾して頂かないならば、それ相応の処置を取らせて頂きます。では」

 

向こうの意見は分かった

 

なら、此方の意見も通させて貰うわ

 

レイ、後は任せたわ

 

 

 

 

「イージス艦3隻。敵性反応」

 

「雑魚を相手に構うな」

 

目的の基地が近付いて来た

 

やはり向こうは対潜能力のある艦を出して来たか

 

「敵イージス艦、爆雷投射」

 

「対水中速射砲で爆雷を処理しろ」

 

「了解」

 

真顔で座ったまま、タナトスに指示を出す

 

「敵イージス艦、更に2」

 

「此方の位置が把握されている以上、潜航していても意味が無い。いいだろう。タナトス、対艦戦闘用意」

 

「撃沈しますか⁇」

 

「邪魔する奴は全部叩きのめせ」

 

「了解」

 

タナトスが海上に出る…

 

 

 

 

《敵潜水艦、浮上‼︎》

 

《撃ち方、始め‼︎》

 

2隻いる内の1隻が速射砲を放つ

 

タナトスが常にアクティブにしている無線傍受を聞きながらも、俺もタナトスも動かない

 

「やれ」

 

「艦首爆雷、投射開始」

 

タナトスがたった二発放った艦首爆雷がイージス艦に突き刺さる

 

《はっ。大したダメージはない‼︎攻撃を続け…》

 

時間差で艦首爆雷が起爆

 

一つの無線が途切れる

 

「敵イージス艦、1隻撃沈。1隻を大破」

 

「此方に損害は」

 

「ありません」

 

「敵艦船に打電。逆らえば、全艦撃沈す」

 

「了解。目的地に向かいつつ、打電を行います」

 

コートのポケットに両手を入れたまま、目的地までモニターを見続ける…

 

 

 

 

「目的地に到着しました」

 

「タナトス」

 

「なんでち⁇」

 

「敵艦が来た場合は、お前の好きにしろ」

 

ジュラルミンケースを持ち、いざ退艦しようとした

 

「創造主」

 

「なんだ」

 

「帰って来たら、元の創造主に戻って欲しいでち…」

 

タナトスの言葉を聞き、退艦しようとしていた足が止まる

 

「これが俺だ。皆が死神や悪魔と言っている俺が本当の俺だ」

 

「そうだったでち…」

 

初めて見た、タナトスのシュンとした顔

 

その顔を見ていつもの情が湧いてしまい、下を向いたゴーヤの頭に手を置き、掴む様に撫でる

 

「あっ…」

 

「まっ…お前が言うなら考えておくよ。ゴーヤ」

 

「ありがとでち‼︎」

 

ゴーヤに見送られ、タナトスを降りる



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260話 死神を生んだ男(1)

なんと900ページになりました

ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございます

これからも少しずつではありますが、更新を続けて参ります



これから少しの間、マーカスが“元のマーカス”へと戻ります

ずっと死神や悪魔と言われ続けたマーカス

ここいらで一丁ブチギレます


「手荒い歓迎だな」

 

降りた途端に自動小銃を向けられる

 

「イージス艦を撃沈した責任を果たして貰おうか」

 

「退け。お前達に用は無い」

 

目の前にいた一人を突き飛ばし、基地内部へと向かおうとした

 

「撃て‼︎」と聞こえた時には、体に銃弾が数発当たっていた

 

「…面倒な奴等だ」

 

ため息混じりに振り向き、それと同時にピストルを取り出し、全員の足を撃ち抜く

 

「化け物が…」

 

「死なないだけマシと思え」

 

無言のままコートを着直し、ピストルをしまいながら再び基地内部を目指す

 

《創造主。聞こえるでち⁇》

 

タナトスから無線が入る

 

「なんだ」

 

《そこのトップがいるのは三階の執務室でち》

 

「そうか。俺の目的は違う」

 

《そいつに居場所を聞けばいいでち》

 

タナトスの言う通りだ

 

今の所、犯人の居場所は分からない

 

どの道ここのトップと話し合いになるだろう

 

だったら先に顔を拝んだ方が早い

 

タナトスに言われた通り、階段を上がる…

 

手薄な基地だ

 

それとも、部屋の中で大勢が待機しているのか⁇

 

《そこでち》

 

三階に着き、執務室の前に来た

 

「貴様がオルコット大尉か」

 

部屋の扉を開けると、今かと待ち受けていたであろう、中年男性が一人、尊厳のある椅子に座っているのが目に入った

 

「だったらなんだ」

 

「イージス艦撃沈の罪は重いぞ」

 

「主旨と違うな。俺はその話は聞いていない」

 

ジュラルミンケースを机に置きながら、話を続ける

 

「昨日深夜、深海に時限爆弾を巻き付けた奴がいるらしいな」

 

「まずは此方の要求からだ」

 

「そうか」

 

ジュラルミンケースを開け、中からベルトの様なものを取り出す

 

それを手に持ち、一気に中年男性に駆け寄る

 

「暴力か⁇ん⁇」

 

「そうだな」

 

カチャリ…

 

そう音がした時には、中年男性の首にそれは巻かれていた

 

「早く吐いた方が身の為だぞ」

 

「なんだ、これは」

 

中年男性の首に巻かれたそれは、イーサンに巻かれた物より威力は弱いが、起爆したらひとたまりも無い爆弾

 

イーサンに巻かれた物と同じ時限式であり、残り時間は3分

 

「イーサンにした事と同じ事だ」

 

「はっ‼︎私を脅した所で何も話さんぞ‼︎」

 

「心配するな。お前の家族もすぐにそっちに送ってやる」

 

この時、中年男性の背後にある窓ガラスが目に入った

 

いつもの俺ならもっと穏やかな顔をしているのだろう

 

だが、窓ガラスに映った自分の顔は真顔のまま、ほんの少しだけ口角を上げた酷い顔だった…

 

「主犯はどこにいる」

 

中年男性の目の前の机に腰掛け、タバコに火を点けながら質問を続ける

 

「…」

 

「そうか。得意の沈黙か」

 

「…」

 

「お前の周りの連中は不幸な奴だ。お前のせいで何の罪もないまま死ぬ」

 

「お前に罪の意識はないのか⁇」

 

「罪の意識か」

 

そう言われ、少し悩むフリをする

 

「そんなもの、空に捨てて来た」

 

「…あんたの指揮官に言われた通り、ここを出て右にある会議室に招集してある」

 

「そうか」

 

机から立ち上がり、ジュラルミンケースを持って執務室を出ようとした

 

「おい‼︎話しただろう‼︎」

 

「あぁ。話したな」

 

「これを外せ‼︎」

 

首輪式の爆弾を外してくれと言う中年男性

 

俺は足を止めるも、外すつもりはない

 

「イーサンも同じ事を言ったはずだ」

 

「私は関係ない‼︎部下が勝手にした事だ‼︎」

 

あまりにも情けない男性の言い分を聞き、呆れ果てながら無視して部屋を出た



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260話 死神を生んだ男(2)

「ここか」

 

会議室の前に来た

 

中から声が聞こえるので、ここで間違いない

 

ノックもなしにドアを開け、会議室に入る

 

「く、来るな‼︎」

 

「悪魔が‼︎」

 

三人共怯えながら部屋の端に寄せ集まり、自動小銃を構えている

 

「悪魔、か」

 

聞き慣れた言葉を言われるも、左手をコートのポケットに入れた体勢は変えない

 

「深海は敵だろうが‼︎」

 

「憲法学んで出直せ‼︎」

 

「お前は敵か⁉︎どうなんだ‼︎答えられないのか‼︎」

 

散々な言われ様だ

 

俺は無言のまま、会議室の机にジュラルミンケースをドンッと音を立てて置いた

 

「言いたい事はそれだけか」

 

「「「ひぃ…」」」

 

三人を睨むと、動きが止まった

 

これが香取の言っていた“目”か…

 

「一人一人来るのか。それとも、まとめて来るのか…選べ」

 

ジュラルミンケースの中身を出し、三人の前に出す

 

「死ねや‼︎」

 

一人の男が小銃の引き金を引いた

 

「なんっ…」

 

小銃の引き金がカチカチと音を鳴らし、男に弾切れを伝える

 

カチャリ

 

その隙に先程と良く似たベルトを、今度は腰に装置した

 

「な、なんだよこれ‼︎」

 

「来るな…来るなぁぁぁあ‼︎」

 

ベルトを巻かれた男が騒ぐ中、二人目の男がパニックを起こし、俺に向けて引き金を引く

 

体中に銃弾が命中するが、痛くない

 

DMM化している内なら、小銃の弾程度なら幾らでも耐えられるが、今は生身だ

 

無意識の内にDMM化でもしているのだろうか…

 

銃弾を浴びながらも男に近付き、小銃を掴み、腕を宙に上げる

 

「やめろ…やめて下さい‼︎」

 

「イーサンも同じ事を言ったはずだ。お前はどうなんだ。やめたのか」

 

「この野郎‼︎」

 

最後の遠吠えを聞き、両手首にブレスレット式の時限爆弾を巻き付けた

 

「た、助けてくれ‼︎」

 

最後の男は、出入り口に向かって逃げ出した

 

逃げる男の背中に向かって、投げナイフの様な物を投げる

 

「ぐあっ‼︎」

 

投げナイフの様な物は左肩に突き刺さり、男はその場に倒れた

 

「ちょっと刺さっただけだ。抜けるかも知れないぞ」

 

「ひぃ…ひぃ…」

 

男は息も絶え絶えに、肩に刺さったそれを抜こうと試みる

 

「…時間切れだっ」

 

男の左肩が吹き飛ぶ

 

「ぐぁぁぁあ‼︎痛い…痛い痛い痛いぃぃい‼︎ぐえぇ…」

 

悲鳴を上げて床をのたうち回る男の右手の平を踏み付け、男二人の方に振り向く

 

「反省しないとこうなる」

 

「本当に人間なのか…あんた…」

 

「悪魔なんだろ」

 

「ぎやぁぁぁぁあ‼︎」

 

ブレスレット式の時限爆弾を巻いていた男の両手も吹き飛ぶ

 

踏み付けていた男から足を離し、腰に時限爆弾を巻いた男に歩み寄る

 

「あ…あ…」

 

既に怯えきっていて、謝罪も出来ない

 

「ふっ…どうせすぐに治る」

 

男からすれば今の鼻笑いは、地獄の様な鼻笑いだったのだろう

 

「も、もうしません‼︎ごめんなさい‼︎降伏です‼︎」

 

「いいだろう。だが、イーサンの痛み、それと恐怖は分かって貰う」

 

「嫌だ‼︎嫌だ嫌だ嫌だ‼︎」

 

男は泣きながら必死にベルトを外そうとする

 

そんな男の顔を両手で掴み、此方へ向ける

 

「落ち着け。落ち着けよ」

 

「嫌だ嫌だ嫌だ‼︎死にたくない‼︎許して下さい‼︎」

 

「俺の目を見ろ」

 

「はっ…はっ…はっ…」

 

呼吸困難に陥りながらも、男は俺の目を見た

 

「苦しいよな」

 

「は、はひ…」

 

「生きたいよな」

 

男は言葉を返さず、何度も首を上下した

 

「大丈夫。すぐに治る。ほら、後10秒だ。深呼吸して」

 

男の頭を、いつも子供達にそうする様に手の平を数回置いた後、その場を離れた

 

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ‼︎助けて‼︎助け」

 

懇願虚しく、ベルトは爆発

 

「少しは思い知ったか」

 

倒れた三人を見下げた後、三人をタナトスへと運ぶ

 

どうせすぐに治ると言ったのは本当だ

 

元通りの体に戻してはやるが、これで自分達のした事が良く分かっただろう…

 

 

 

 

「ジェミニ様‼︎タナトス様から電文が‼︎」

 

横須賀に一通の電文が届く

 

送り主はタナトス

 

「読んで頂戴‼︎」

 

「アラシ ヤミ キボウハ テノナカニ」

 

「レイを迎えに行くわ‼︎」

 

「その間は親潮にお任せを‼︎」

 

その電文を聞いた後、いてもたってもいられず、停泊していたイントレピッドDauに飛び乗った



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261話 父親に戻る男

題名、話数共に変わりますが、前回の続きです

激おこぷんぷんマーカスから、いつものマーカスに戻ったマーカス

やっぱり楽しいお話が彼には似合いますね


タナトス艦内、医務室

 

「創造主はやっぱり優しいでち‼︎」

 

医務室のカプセルをフル稼働させ、三人の治療を行う横で、ゴーヤが様子を見に来ていた

 

「ゴーヤ、お前もお前だ。撃沈したイージスに死人を出さなかったらしいな⁇」

 

「ゴーヤもたまには外すでち」

 

そう言うゴーヤだが、動いている目標に対して的確に命中弾を出す目を持っている

 

逆もまた然り、と言う事か…

 

「しかしまぁ…」

 

医務室に備えられたPCで外部の様子を見る

 

そこにはガンビア・ベイIIとイントレピッドDau

 

修復を終え、練習がてら来たダイダロス

 

その他諸々の主力艦が軒を連ねて基地を包囲していた

 

《レイ⁇聞こえる⁇》

 

「横須賀さんでち」

 

無線から聞こえて来た、横須賀の声

 

《今からホバークラフトでそっちに向かうわ⁇》

 

「横須賀」

 

《なぁに⁇》

 

「お前も俺を、悪魔やら死神って言うのか⁇」

 

ゴーヤもその答えが聞きたい様子で、スピーカーから聞こえる横須賀の声に耳を傾けている

 

そしてその答えはすぐに返って来た

 

《悪魔や死神と繋がった覚えは無いわ。私が知っているのは、口が悪くて子供達に好かれるレイよ⁇》

 

「そっか…」

 

横須賀の言葉で、救われた気がした

 

《磯風には聞かない事ね‼︎》

 

「ははっ‼︎そうするよっ‼︎」

 

《開けて頂戴》

 

「開けてくれるか⁇」

 

「勿論でち‼︎おかえりでち、創造主‼︎」

 

 

 

 

 

横須賀がタナトス艦内の医務室に来た

 

「もう一人を基地内で確保したわ」

 

「爆弾と勘違いしてたろ⁇」

 

「あの首輪、電気ショックだったわ⁇」

 

「殺す価値も無かったからな」

 

「サラッとヤバイ会話してるでち…」

 

ゴーヤのボヤきで俺も横須賀もゴーヤの方を向き、ドヤ顔を送る

 

「それでだけど、この基地は総理から直々に所有許可を貰ったわ」

 

「どうするんだ⁇」

 

「深海の子達向けの居住区にしようって案が上がってるわ⁇」

 

「忙しくなりそうだ…」

 

「基地自体がどうなるかは、後は私に任せて頂戴。問題は人員よ」

 

「蒼龍送りは今しばらくは出来ないしな…」

 

俺と横須賀が悩む中、ゴーヤだけは何か思い付いた顔をしている

 

「台湾にいる“金剛さんのバナナワニ農園”はどうでち⁇この前霧島さんに聞いたでち、人員が足りないマイクー‼︎って言ってたでち‼︎」

 

「霧島に聞いてみましょう‼︎」

 

事が分かれば行動が早い横須賀

 

早速霧島に連絡を取っている

 

「分かったわ‼︎」

 

ものの数分で通話が終わる

 

「土地が広大過ぎて人手が足りないDeath‼︎丁度良いDeath‼︎って、前に言ってたから、強制的に送るマイクー‼︎ですって‼︎」

 

「これで人手不足は解消だなっ」

 

「ゴーヤ達はお家に帰るでち‼︎」

 

これで全てが終わった訳ではない

 

イーサンの弔い合戦が終わっただけだ…




激おこぷんぷんマーカス状態の時、いつもなら付いている

‼︎や⁇が無かったの、お気付きになりましたか⁇

もし時間が許すならば、もう一度だけ見直して見て頂けたら幸いです


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261話 Ethan Must Live

260話、そして261話の前半が終わりました

このお話にて、イーサンの一件は収束します

※注
このお話にて、イーサンが緑色の家に行ったり、イーサンが死んで死んで死にまくる事はありません 笑

たまたまこの題名になりました

明るいお話ですので

た の し ん で い っ て ね


横須賀に着き、タナトスの艦内にあったカプセルが入れ替えられる作業に入り、俺は指示を終えた後、マークの研究室に来た

 

「あ‼︎レイ‼︎おかえり‼︎」

 

「ただいまっ」

 

一番最初に迎えてくれたのはきそ

 

直前まで作業をしていたのか、若干疲れているように見える

 

「その…イーサンは…」

 

「治そうとしてくれてたんだろ⁇」

 

「えと、うん…まぁ…」

 

きその目が泳ぐ

 

「…工廠に行けば分かるよ‼︎僕は徹夜で作業したし、ちょっとだけ休むね⁇」

 

「ありがとうな」

 

「うんっ」

 

きそはそのまま椅子を倒し、大淀博士辺りの白衣を被って目を閉じた

 

「あ‼︎レイ君おかえり‼︎」

 

きその頭を撫でて研究室から出ようとした時、丁度大淀博士が帰って来た

 

「ただいまっ」

 

「丁度良かった‼︎工廠で仕上げと行こうよ‼︎」

 

「きそにも言われたよ。行こう」

 

大淀と一緒工廠へと向かう

 

その道中、大淀が珍しくタブレットを脇に抱えていないのに気が付いた

 

「タブレットはどうした⁇」

 

「きそちゃんに充電して貰ってるよ⁇」

 

「それは⁇」

 

大淀がタブレットの代わりに抱えている、茶色い大きな封筒

 

「橘花☆マンの新しい配役が決まったんだ‼︎その子に今から渡すつもりっ‼︎」

 

そう言いながら大淀は俺に封筒を渡して、中を見ろとジェスチャーする

 

「なるほどっ。なら、俺はベルトでも造ってやろうか⁇」

 

「ふふ。今しがた覚えたからかい⁇」

 

大淀がイタズラに微笑む

 

「バックル部分に爆弾じゃなくて高速修復剤でも入れといてやるよ」

 

どうやら、橘花☆マンの新しい配役は“正義の心に目覚めた女の子”らしい

 

「新しい高速修復剤もそこに入れてやるよ」

 

「おぉ。今度はどんなのだい⁇」

 

「錠剤型さ。カプセルやら経口摂取パックより治るスピードは遅いが、長い期間効果が続く」

 

「やっぱりレイ君は医者が似合うねぇ‼︎」

 

大淀の反応に微笑みで返すが、大淀にそう言われると、地に足を降ろした時は、医者でも良いと本気で思ってしまう

 

「さ〜‼︎着いた着いた‼︎さ、レイ君、初対面だよ‼︎」

 

工廠に着き、大淀が俺の背中を押す

 

「この子は…」

 

カプセルの中に入っている、赤い髪の少女

 

「この子が橘花☆マンの新しい配役だよ」

 

「名前は⁇」

 

「あ…」

 

大淀が言おうとしてくれたが、何となく聞かない方が良いと思った

 

「いや。出て来てから聞いた方がいいな」

 

「それもいいね‼︎じゃあ、行くよ〜‼︎」

 

大淀がカプセルの溶液を抜き、蓋を開ける

 

「あ…」

 

「おはよう」

 

「おっはよ〜‼︎」

 

「ボク、死んだんじゃ…」

 

「…」

 

産まれて来て開口一番に放ったその言葉を聞き、大淀の顔を見た

 

大淀は無言で頷いた後、とても優しい微笑みを浮かべた

 

「マーカスさんだ」

 

「…イーサン‼︎」

 

すっかり姿形は変わってしまったが、目の前にいる少女はイーサンに間違い無い

 

イーサンをギュッと抱き締め、頭を撫でる

 

「すまなかった…許してくれなんて言わない…」

 

「ど、どうしてマーカスさんが謝るの⁉︎」

 

驚いているイーサンを抱き締めたまま、俺は声にならない涙を流す

 

「マーカスさんはボクを助けてくれたのに、どうして謝るのさ‼︎」

 

「イーサン君。君に悪さをした奴はレイ君が退治したよ‼︎」

 

話せる状態ではない俺に代わり、大淀博士が代弁し始める

 

「やっぱりマーカスさんは強いや‼︎」

 

「橘花☆マンはいつも言ってるよね、悪い事した奴はバチが当たるって」

 

「うんっ‼︎」

 

「さぁっ、レイ君‼︎そろそろ離してあげようか‼︎」

 

イーサンをそっと離し、もう一度頭を撫でる

 

「あ‼︎でもこの体じゃあ、谷風ちゃんを乗せられないや‼︎」

 

「「今度は手を繋いであげてくれないか⁇」」

 

俺も大淀博士も同じ答えを返す

 

「勿論だよ‼︎」

 

イーサンは笑顔で返答を返してくれた

 

「そうだ。名前は何になった⁇」

 

「きそちゃんにこれ貰ったよ」

 

大淀博士の手にはドックタグ

 

それをイーサンの首に掛けながら、新しい名前で呼ぶ

 

「君の名前は“嵐”。沢山の人の思いがこもった、とても立派な名前だよ⁇」

 

「嵐…」

 

嵐に生まれ変わったイーサンは、掛けられたドックタグを手に取り、まじまじと見ている

 

「嵐には、一つ頼み事をしようと思ってな」

 

「なぁに⁇」

 

「ここに入っている台詞を覚えて欲しいんだが、出来るか⁇」

 

大淀から渡された封筒を、今度は嵐に渡す

 

「どうだ⁇」

 

「…凄いや‼︎橘花☆マンの台本だ‼︎」

 

「今度、ベルトを造ってやるからな⁇」

 

「うんっ‼︎凄いや…ボク、橘花☆マンに出れるんだ‼︎」

 

嵐はご機嫌に台本を読み始める

 

「ボクは“セイバーガール”なんだね‼︎」

 

「友達に自慢出来るぞ⁇」

 

「わぁ〜っ…」

 

艦娘となって初めて見る文字達は、嵐にとって、全てが憧れていた文字

 

嬉しいため息を吐きながら、嵐はキラキラした目でずっと台本を眺めていた…




嵐…生まれ変わったイーサン

深海の体を破壊された為、きそがギリギリの状態のイーサンの脳を移植させた新しい姿

初仕事は橘花☆マンに登場する、景雲レディの妹役の“セイバーガール”

この体になってからもアビサル・ユートピアにルーナ達と住み続け、そこにいる深海の子達からセイバーガールのマネをせびられる毎日を送っている

人に手を出す事は絶対にせず、谷風や友達を護る信念を持っているのはイーサンから変わらない

セイバーガールが“俺っ娘”なので、最近一人称が“オレ”に変わりつつある

何にでも興味があるお年頃であり、一昔前の翔鶴と良く似ている。景雲レディの側に居るのが長い影響かも知れない


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262話 雷鳥を線路として使うベイビーギャル(1)

さて、261話が終わりました

今回のお話は明るいお話です‼︎

イーサンの一件が終わり、ようやく休暇を取れたマーカス

食堂で休んでいると、汽車ポッポのオモチャを持った“あの子”がハイハイで寄って来て…


イーサンの一件から数日後…

 

ようやくほとぼりが収まり、基地で休暇を取れる日が出来た

 

「やっと休暇が取れた…」

 

アトランタの一件の時はあれ程暇だったのに、今度はてんてこ舞いだった為、休暇が欲しくなっていた所に来た休暇だ

 

食堂でゴロゴロしたい気分だ…

 

「疲れたでしょう⁇ここ数日色々てんてこ舞いだったものね…ありがとうね⁇」

 

朝方、貴子さんにコーヒーを淹れて貰い、あぁ、休みなんだな…と実感出来た

 

「ほ〜らほ〜らアトランタ‼︎ぬいぐるみだぞ〜⁇」

 

テレビの前で、アークが人形片手にアトランタの相手をしている

 

アトランタはおしゃぶりを咥えながらアークの人形に手を伸ばし、右手に抱え始める

 

「よ〜しよし良い子だな‼︎」

 

「私が手が回らない時、アークがほとんど見てくれてるの」

 

「ジャーヴィスの時みたいにならないといいな…」

 

貴子さんも俺も、二人を見て微笑む

 

「おいビビリ‼︎コーヒー飲んだら来い‼︎」

 

「分かったっ‼︎ごちそうさま‼︎」

 

「お願いするわね⁇」

 

コーヒーを飲み干し、アークとアトランタのいるカーペットの上に来た

 

「よっこらしょ‼︎アトランタ‼︎」

 

「この人はマーカスお兄さんだ‼︎」

 

アトランタの前に座ると、アークが紹介してくれた

 

「お…」

 

俺が来てすぐ、アトランタはおもちゃ箱の方にハイハイで向かって行く

 

そして…

 

「アトランタ…」

 

「汽車ポッポが好きなのだな‼︎」

 

アークはまだ気付いていない

 

アーク曰く、汽車ポッポをアトランタが手にするとどうなるか…

 

「アトランタ⁇パースィーは良くない。良くない、ってばぁ‼︎」

 

「ビビリ⁉︎」

 

「マーカス君⁉︎」

 

懇願虚しく、アトランタのパースィーが顔面に当たる

 

「マーカス君‼︎大丈夫⁉︎ちょっと見せて‼︎」

 

貴子さんに顔を掴まれ、被弾箇所を見て貰う

 

「アトランタ⁇これは投げるおもちゃじゃないの。めっ‼︎」

 

「アトランタ⁇マーカスお兄さんは痛い痛いだぞ⁇」

 

「だ、大丈夫だ。気にする事はない‼︎」

 

貴子さんとアークに言われても、パースィーを握るのはやめないアトランタ

 

いいだろう

 

「よし、アトランタ‼︎次は避けてやる‼︎」

 

「マーカス君はじっとしてなさい。鼻血が出てるわ⁇」

 

「そうだぞビビリ。アトランタはアークに任せろ‼︎」

 

しかし、俺もアトランタもやる気

 

絶対当てると自信のあるアトランタ

VS

これでも絶対防御を生み出したマーカス

 

その戦いが幕を開ける

 

俺はあぐらをかいて、アトランタがどう出て来ても良い体勢

 

アトランタは俺をジーッと見つめ、時々おしゃぶりを口の中で動かしながら様子を伺う

 

そして何故か貴子さんとアークの手が止まる

 

「来いっ…」

 

アトランタの方にほんの少し顔を近付けた瞬間、パースィーが飛んで来た‼︎

 

今度は避けられる‼︎

 

首を右に傾け、パースィー回避の体勢に入る

 

「ぐへぁ‼︎」

 

な、何故だ…

 

俺は絶対に避けたはず…

 

なのに何故また顔面直撃

 

「ぎ、ギブアッ、プ…」

 

俺は再びパースィーが原因でダウン

 

「汽車ポッポがカーブしていたぞ…」

 

「アトランタ⁇パースィーは没収ね⁇」

 

流石に怒った貴子さんは、アトランタの手からパースィーを没収

 

アトランタはしばらくボーッと貴子さんの顔を見た後、おもちゃ箱にハイハイで向かう



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262話 雷鳥を線路として使うベイビーギャル(2)

「た、タカコ‼︎」

 

しばらくガサゴソした後、アトランタは何かを手にし、ハイハイで俺の方に向かって来た

 

「何台あるのよ…」

 

アトランタがおもちゃ箱の中から出して来たのは替えパースィー

 

「アトランタ⁉︎投げちゃダメよ⁉︎分かった⁇」

 

アトランタは貴子さんの言葉に聞く耳持たず、アークの横も通り過ぎて俺の所に来た

 

横向けでダウンしている俺を、アトランタはグイグイ押し、うつ伏せにさせる

 

俺がうつ伏せになると、アトランタは俺の体をヨジヨジ登り、背中に跨る

 

そして、パースィー片手に両手を上に上げてチャンピオンポーズを取り、背骨に沿ってパースィーを走らせ始めた

 

「なんと楽しそうな…」

 

「アトランタ‼︎降りなさい‼︎」

 

流石に貴子さんもアトランタに対して声を上げる

 

「いや…いいんだっ…」

 

「ビビリ‼︎」

 

「マーカス君‼︎」

 

「アトランタは楽しそうか⁇いでっ‼︎あだっ‼︎」

 

俺が話した途端、アトランタはパースィーを俺の頭にゴンゴン当てる

 

「分かった分かった‼︎」

 

「ビビリどうする。動けないぞ」

 

「朝ごはん出来たら流石に降りるだろ。それまでは線路になるっ‼︎アーク、俺の部屋からタブレット取って来てくれないか⁇」

 

「分かった‼︎」

 

アークが食堂から出た後、貴子さんが来た

 

「アトランタ〜っ‼︎降りなさい〜っ‼︎」

 

貴子さんはアトランタを脇から抱え、何とか降ろそうとするが、アトランタは足で俺の体をガッチリ掴み、離れまいと抵抗する

 

「いいんだ貴子さん‼︎」

 

「苦しくない⁉︎」

 

「清霜で慣れたさっ」

 

「…じゃあ、今だけ‼︎今だけだから‼︎」

 

「勿論さ‼︎あだっ‼︎」

 

アトランタは喋るなと言わんばかりに俺をパースィーで殴る

 

「持って来たぞ‼︎」

 

「ありがとうっ」

 

アークにタブレットを持って来て貰い、俺はそれを床に立てて動画を見始める

 

こうしていると、アトランタは大人しくパースィーで遊び始めた

 

「あだだだだ…」

 

時折、アトランタは後頭部までパースィーを走らせて来る

 

「アトランタ⁇アークと遊ばないか⁇」

 

アークの近くには、子供達が遊んでいるおもちゃが沢山

 

アトランタは一瞬手を止めてアークの方を向いたが、すぐに俺を線路にし直す

 

「き、効かないだと⁉︎」

 

「さ‼︎朝ごはん出来たわ‼︎」

 

テーブルに朝ごはんが並び、アークが椅子に座る

 

「アトランタ。俺も朝ごはん食べたい」

 

しかし、アトランタはダメと言わんばかりに俺の重心に座り直す

 

「ビビリ。物凄いジト目で見られてるぞ」

 

「もぅ…アトランタ…」

 

俺は様子が分からないが、アークと貴子さんの反応でアトランタの様子が大体分かった

 

「おはよう…」

 

朝ごはんのタイミングで隊長が起きて来た

 

「ウィリアム」

 

貴子さんが無言で目線を送る

 

「ん⁇こらこらアトランタ〜‼︎」

 

事に気付いた隊長は、アトランタを降ろしに来てくれた

 

あれだけ貴子さんが降ろせなかったアトランタだが、隊長が同じように脇から手を入れるとすんなり降りた

 

しかし…

 

「いだっ‼︎」

 

アトランタは抱っこした隊長に対して頭突きをかます

 

「アトランタ‼︎おっぱい無しよ⁉︎」

 

「それはいかんな‼︎大人しくしいでででで‼︎」

 

おっぱい無しになったのはお前のせいだと言わんばかりに、アトランタは隊長の頬を引っ張る

 

その間、勿論ジト目

 

「ほらほら‼︎お腹空いてるのかしら…」

 

ようやく貴子さんの手に渡り、授乳の為に一旦食堂を出た

 

「なんとまぁ凶暴だ…」

 

「おしぇんたくおわい‼︎」

 

「あしゃごはん‼︎」

 

ひとみといよ、そしてグラーフが洗濯から帰って来た

 

「えいしゃん、ぱぱしゃん、おはよ‼︎」

 

「おはよ‼︎」

 

「おっ‼︎おはよう‼︎ありがとうな⁇」

 

「ご飯にしような‼︎」

 

朝からアトランタにボッコボコにされた俺達は、ひとみといよを見て何故かホッとする

 

「隊長もオトンもボッコボコ」

 

「理由は分からんが懐かれないんだ。レイに至っては線路になってる」

 

「アトランタにも敷かれて、嫁の尻にも敷かれる。ははは、オトンは敷かれる運命」

 

「うぬぐぐぐ…言い返せんのが辛い‼︎」

 

グラーフの言葉で少し場が和み、朝ごはんを食べる…



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262話 雷鳥を線路として使うベイビーギャル(3)

「アトランタいい⁇暴れちゃダメよ⁇」

 

アトランタも朝ごはんが終わり、食堂に帰って来た

 

俺はひとみといよとたいほうとで、たいほうのミチミチフィギュアで遊んでいる

 

「あとらんた‼︎あたしたいほう‼︎」

 

妹と教えられたたいほうは、アトランタに自分の名前を教えようとしている

 

「たいほうだよ‼︎」

 

アトランタはたいほうの方を向き、床に散らばっている恐竜のフィギュアに目をやる

 

「これはらぷとるだよ」

 

たいほうがラプトルのフィギュアをアトランタに見せた時、アトランタは一瞬後ろに下がった

 

どうもラプトルが嫌いらしい

 

「こえは、といけあとぷす‼︎」

 

ひとみが見せたトリケラトプスのフィギュアは手に取った

 

「こえは、ぶあきおさううす‼︎」

 

しかし、いよのブラキオサウルスは後ろに下がる

 

何かが怖いらしい

 

アトランタはその後すぐに俺達の元を離れ、その辺をハイハイしながらウロつき始める

 

しかし、俺の目はアトランタの方にある

 

赤ちゃんだから気になると言うのも勿論あるが、もう一つはいつ殺られるか分からないからだ

 

だが、その心配もなく、アトランタは外を見たり、ソファーに座っている母さんの足をトリケラトプスでつついたりしてそれなりに遊び始めた

 

数十分後…

 

「マーカス‼︎そっちに行ったわ‼︎」

 

母さんの言葉で気付く

 

「アトランタも遊…おぉ⁉︎」

 

寄って来たアトランタは、俺の腕をグイグイ押す

 

「どうしたんだ⁇」

 

ふとアトランタの手を見ると、奴がいた

 

奴だ。パースィーだ…

 

「わ、分かった…」

 

アトランタが言いたいのは、 早くうつ伏せになれ‼︎パースィーを投げるぞ‼︎だ

 

俺はアトランタの目で訴えかけるがまま、カーペットにうつ伏せになる

 

そして思った通り、アトランタは俺を登り始めた

 

「ちゃんぴぉ〜ん‼︎」

 

「いっと〜しぉ〜‼︎」

 

アトランタは俺を登頂した後、必ずチャンピオンポーズを取る

 

ひとみといよもそれに合わせてくれている

 

「だ、だめだよあとらんた‼︎すてぃんぐれいたおしたら‼︎」

 

ただ一人、たいほうだけが俺の心配をしてくれている

 

「いいんだたいほう。ありがとうな⁇」

 

「すてぃんぐれいおもくない⁇」

 

「重くないよ。大丈夫‼︎」

 

そんな俺達を気にも止めず、アトランタはたいほうに、登る前に置いて来たトリケラトプスを取れと目で訴える

 

「はい‼︎」

 

たいほうからトリケラトプスを貰い、アトランタはパースィーと一緒に遊び始める

 

背中でたまに4本足がスライドしているので、トリケラトプスも汽車ポッポになっているのだろう…

 

 

 

「マーカス君…ほんっとごめんなさい…」

 

「…」

 

数十分後、貴子さんが様子を見に来てくれたが、俺の反応は無い

 

「えいしゃんねてう」

 

「あとあんたのってすぐにねた」

 

「そっか…」

 

アトランタが背中で走らせるパースィーとトリケラトプスが微妙に気持ち良く、気が付いたら眠っていた

 

それでもアトランタは俺を線路にする事を辞めず、ずっとパースィーとトリケラトプスを背中で走らせている




トリケラトプス…アトランタの第二汽車ポッポ

アトランタがたいほうのミチミチフィギュアシリーズ“恐竜”から強奪した、緑色の体で二本のツノを持つ草食恐竜のフィギュア

ツノだけは柔らか素材

機関車パースィーは投げたり打撃武器として使うが、このトリケラトプスは何故か投げたりしない

アトランタはトリケラトプスもマーカスの背中に乗せて、パースィーと一緒にスライドさせるのがマイブーム

対地+1


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262話 雷鳥を線路として使うベイビーギャル(4)

「ここしばらく動きっぱなしだったものね…」

 

「ママ。あとらんたはどうしたらすてぃんぐれいからおりる⁇」

 

たいほうに言われ、貴子さんはアトランタをもう一度抱き上げてみた

 

「ふんっ‼︎」

 

「ふんっ‼︎」

 

「いけ〜‼︎」

 

「がんばえ〜‼︎」

 

どっからどう見ても貴子さんはフルパワー

 

しかも子供達の声援付き

 

だが、アトランタは微動打にしないどころか、そのままの顔で俺を線路にし続ける

 

「はぁ…はぁ…マーカス君…ごめんなさい…私には無理かも知れないわ…」

 

「ひとみたちあ、むりぉくれちた…」

 

「いいひとれちたえ…」

 

「かわいそう…」

 

「勝手に殺すな‼︎俺はアレンかあだだだだだ‼︎」

 

四人全員に亡き者にされ、俺が口を開いた途端に、アトランタはパースィーによる打撃を俺の後頭部に与える

 

「しかしまぁ、このままじゃタバコも吸えんな…」

 

「そっ…ぷふっ、そうねっ‼︎」

 

貴子さんが吹き出しそうになっている

 

「といけあとぷすのってう‼︎」

 

「何処にだ⁉︎」

 

「あたま‼︎」

 

ひとみといよに言われ、貴子さんが吹き出しそうになっている理由が分かった

 

頭にトリケラトプスを乗せて話している奴なんざ見た事ないからな

 

「何か気を引きつける物があると良いのだけれど…」

 

流石の貴子さんもお手上げ状態

 

アトランタは俺が少しでも起き上がろうとするとすぐに重心に座り直し、起き上がれなくして来る

 

多少踏ん張れば起き上がれない事もないが、それではアトランタが転げ落ちて怪我をする

 

「あ、いたいた」

 

れーべとまっくすが来た

 

お皿を持っていて、上にはてんこ盛りにグミが乗っている

 

「いっぱいグミ出来たんだ‼︎食べて‼︎」

 

「美味しいよ」

 

れーべとまっくすは皿ごと俺達の前に置き、キッチンに飲み物を飲みに行った

 

「おいち〜ぐみ‼︎」

 

「いたあきます‼︎」

 

「すてぃんぐれいにもあげるね⁇」

 

「あらっ‼︎美味しいわ‼︎」

 

四人全員が食べ始め、たいほうが幾つかのグミを持って来てくれた

 

「すてぃんぐれい、あ〜んして⁇」

 

「あ〜…あ⁇」

 

たいほうにグミを食べさせて貰おうとした瞬間、アトランタが背中から降りた

 

「アトランタはまだダメよ⁇」

 

「ぐみたべらえましぇん‼︎」

 

「は〜はえたあ、たえましぉ〜え‼︎」

 

アトランタの目線の先にあるのは、どうやら青リンゴ味のグミ

 

「これが気になるのかしら…」

 

貴子さんがアトランタに青リンゴ味のグミを近付ける…

 

「とった‼︎」

 

「ふいふい〜ってちてう‼︎」

 

アトランタは貴子さんからグミを受け取り、手元でフニフニし始める

 

触った事のない不思議な感触を楽しんでいるみたいだ

 

「あとらんた、みどりいろすきだね⁇」

 

「ホントだな…」

 

パースィーは緑色

 

トリケラトプスも緑色

 

そして今手にしているグミも緑色

 

「よし‼︎アークがアトランタのオヤツを作ってやろう‼︎」

 

何かに気付いたアークがキッチンに篭り始めた

 

アトランタが口に出来る物は限られている

 

果たしてアークは何を作るのか…



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262話 雷鳥を線路として使うベイビーギャル(5)

「みおいいろたくしゃん‼︎」

 

「あいっ‼︎」

 

ようやく俺の背中から降りたアトランタは、ひとみといよから手渡された緑色のグミをお皿に並べ始める

 

その間アトランタは大人しく、目もキラキラしている

 

緑色が好きで間違いないみたいだ

 

グミの山から緑色だけを取り除いた後、アトランタはパースィーとトリケラトプスを持って来た

 

「おっ」

 

お皿の縁にパースィーとトリケラトプスを置く

 

周りの皆がグミを食べている為、アトランタにもグミは食べ物だという認識は生まれたみたいだ

 

パースィーとトリケラトプスの前にはグミがあり、ちゃんと食べているように見える

 

「あとらんたは、とりけらとぷすすき⁇」

 

たいほうの問い掛けに気付き、アトランタは目を向ける

 

すると、アトランタは右手の人差し指でトリケラトプスの頭を撫でた

 

トリケラトプスはお気に入りになったみたいだ

 

「みどりいろのへーたいさんもあるよ‼︎」

 

たいほうが出して来たのは、緑色のミニチュアの兵隊達

 

たいほうはケースにミチミチに入っているフィギュアが好きで、恐竜シリーズを始め、海の生物シリーズや今目の前にある緑の兵隊の様な、沢山入っているのを好む

 

ケースを開けてアトランタの前に置くと、アトランタは早速兵隊を手に取った

 

そしてそれをグミを置いたお皿の縁に置いて行く…

 

「大人しいな…」

 

「おとなしいね…」

 

黙々と皿の縁に配置されて行く緑の兵隊達

 

「…」

 

「…」

 

まるでグミを守るかの様に配置され、ひとみといよでさえ行く末を見守っている

 

「あらっアトランタ‼︎上手に並べたわね⁉︎」

 

急に大人しくなった俺達を気にかけた貴子さんが様子を見に来た

 

貴子さんが膝を曲げてアトランタと目線を合わせた時、アトランタは手に持っていた緑の兵隊を貴子さんに見せる様に掲げた

 

「兵隊さん並べてるのね⁇」

 

アトランタは何かを伝えたそうに貴子さんに緑の兵隊を向け続ける

 

「ママもおいてって‼︎」

 

「いいのアトランタ⁇」

 

たいほうに言われ、貴子さんはアトランタの手から緑の兵隊を取る

 

「ここ⁇」

 

最後の一箇所に置く様に目線を向けるアトランタ

 

貴子さんはアトランタの目線の先に緑の兵隊を置く

 

「ぱちぱち〜‼︎」

 

「れきああり〜‼︎」

 

ひとみといよが拍手を送ると、アトランタもそれを真似してお腹の前で手を合わせた

 

「ふふっ‼︎さっ‼︎お昼にしましょう‼︎おいで、アトランタ‼︎」

 

ようやく貴子さんに抱き上げられたアトランタ

 

しかし、アトランタは床に手を伸ばす

 

「はいはい、これね⁇」

 

貴子さんがパースィーを取り、アトランタに渡す

 

アトランタは数秒パースィーを眺めて弄った後、俺の方を向く

 

「ぐへぁ‼︎」

 

「「えいしゃん‼︎」」

 

「すてぃんぐれい‼︎」

 

投げモーションが見えた時には顔面に当たるパースィー

 

再び倒れる俺…

 

強過ぎる…

 

「アトランタ‼︎マーカス君にごめんなさいは⁉︎」

 

流石の貴子さんもアトランタに吠えた

 

アトランタは目をパチクリしながら、貴子さんと俺を交互に見た後、貴子さんに床に降ろされ、ハイハイで俺に近寄る

 

「アトランタ⁇ごめんなさいは⁇」

 

仰向けに倒れている俺の頭近くに座り、物凄いジト目で俺を見下げる

 

そして…

 

「ぐへぁ‼︎」

 

アトランタの渾身の頭突きが当たる

 

こ、こいつは無理、だ…

 

意識が遠のく…



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263話 ベイビーギャルと美味しいムース

題名と話数は変わりますが、お話は続きです


「ビビリ‼︎起きろビビリ‼︎」

 

「はっ‼︎」

 

アークに起こされて目が覚め、起き上がって額を触り、一応出血がないか確認する

 

「派手にやられたな⁇」

 

「強過ぎるだろ…アトランタはどうした⁇」

 

「そこにいる」

 

アークの目線の先は俺の目の前

 

「おっ‼︎アトランタ‼︎オヤツ食べたか⁇」

 

そこにはアトランタが足を広げて座っており、俺に呼ばれて俺の目を見ている

 

「ビビリ。これをアトランタにやってみてくれないか」

 

「どれっ…」

 

アークに渡された小さなカップには、抹茶のムースが入っている

 

アークがアトランタの為に作ってくれたオヤツだ

 

「タカコにも許可を入れた。これならきっと食べられる‼︎」

 

「よしっ。アトランタ、オヤツだぞ〜」

 

「おしゃぶりを取ろうな」

 

スプーンで抹茶ムースをすくい、アトランタの口元に持って行く

 

アトランタは薄緑色の抹茶ムースを見るなり、目をキラキラさせている

 

「「あ〜んっ‼︎」」

 

俺達の問い掛けに、アトランタは口を開けてムースを食べた

 

「美味しいか⁇」

 

初めて口にした、母乳以外の物に不思議な感じがしているのか、俺達を何度も見たり、ムースの入っている器を見たりとキョロキョロしている

 

「いっぱいあるからな⁇」

 

もう一度スプーンを持って行くと、アトランタはすぐに口を開け、ムースを食べる

 

アークの抹茶ムースを気に入ってくれたみたいだ

 

「作り甲斐があるな‼︎」

 

「美味そうに食うな〜‼︎」

 

あっという間に抹茶ムースは無くなり、アトランタは器の中身を見せろ‼︎と手を伸ばす

 

「ごちそうさまだなっ⁇」

 

器の中が空っぽなのが分かると、俺を睨んだ

 

「ゔっ…」

 

無くなったのはお前のせいだ‼︎もっとムースを寄越せ‼︎とでも言わんばかりに睨んで来る…

 

「マーカスお兄さんはお昼ご飯の時間だ‼︎アークと遊ぼうな⁇」

 

アークに抱っこされ、アトランタはおもちゃの前に連れて行かれた

 

「レイ…大丈夫か⁇」

 

「これ位大丈夫さ‼︎」

 

ようやく食堂の椅子に座ると、隊長が心配してくれた

 

側から見ると俺はボコボコにされているらしい

 

「執務室にいると大人しいんだがなぁ…」

 

「普段は執務室にいるのか⁇」

 

「机とソファーを壁にやって、マットを敷いた上でひとみといよが付いていてくれてるんだ」

 

「大体いてくれるのよ⁇アトランタが危ない物を触ろうとしたり、口に入れたりしようとしたら、ちゃんと「こっちにちましぉ〜え‼︎」とか、「こっちたべあしぉ〜‼︎」とか言ってくれるの」

 

「意外だな…」

 

貴子さんはニヤケ顔で子供達の方を見た後、隊長の方も同じ顔で見た

 

隊長が口元で手を組みながら冷や汗を流している

 

ひとみといよが普段から貴子さんがいない時に真似をしているのを、貴子さん本人は知っていた

 

それをやらせているのは隊長

 

こりゃあ爆弾が落ちるな…

 

「お、俺、工廠に居るよ‼︎」

 

「分かった。ありがとうな⁇」

 

アーク達と遊んでいるアトランタを横目で見ながら、俺は工廠へと向かう



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264話 雷鳥の相談相手

題名と話数は変わりますが、お話は続きです

工廠に逃げ込んだレイ

そこには、良き相談相手となった一人の“母親”がいました


「ぐへぇ…」

 

工廠に着いてすぐにPCの前に座り、机にうな垂れる

 

《お疲れみたいね》

 

「ヘラか…」

 

肉体的にボコボコにされた俺を見て、ヘラが労いの言葉をかけてくれた

 

冷蔵庫からコーラを取り、それを口にしながらヘラと会話を続ける

 

「数え切れない位に顔面にパースィーが来た…」

 

《ジャーヴィスが懐いたんだもの。次はアークが懐かれる番よ》

 

「それもそうだなっ」

 

ヘラが何かを調べているのか、ずっとPCが動いている

 

《パースィーにも色々あんのね。アンタが当たったのどれ》

 

「この“はじめてのパースィー”だ。おもちゃ箱に二つあった」

 

ヘラは通販サイトを開け、俺の顔面に来たパースィーを表示した

 

《もう二つ程追加しましょうか》

 

PCのカーソルが“購入”へと向かう

 

「だっ‼︎バカっ‼︎止めろっ‼︎止めて下さい‼︎」

 

自分でもビックリする位のスピードでマウスを取り、ウィンドウを閉じるボタンに向かわせる

 

《ま、いいわ。止めといてあげる》

 

「あれ以上増やされたら敵わん…今でさえこんな状態だ」

 

ヘラの感情パラメーターを見ると

 

“愉悦”

 

“興奮”

 

と表示され、そして何故か

 

“母性”

 

と表示されている

 

《甘えん坊さんよ、アトランタは。懐かないのはアンタだけよ》

 

「アトランタを見たか⁇」

 

《抱っこさせて貰ったわ。私の胸のスリットに手突っ込んでたわ⁇》

 

「それでか…」

 

何故母性と表示されていたか、すぐに分かり、少し笑う

 

《アンタがいない間、きそが大変だったのよ⁇》

 

「きそがか⁇」

 

《ほら。あの子緑色じゃない⁇髪の毛引っ張られて半泣きだったわ⁇》

 

どうやらヘラもアトランタが緑色が好きと言うのは知っている様子

 

「俺はどうすればいい⁇」

 

《そうねぇ…線路になる位なら、懐かれていない訳じゃないわ⁇だって、アンタの手から物を食べるんでしょ⁇》

 

「そうだな。さっき抹茶ムースを食べさせた」

 

《アトランタにとって、アンタは初めて倒した相手なのよ。私とアンタみたいな関係と思ってるのよ、きっと》

 

確かにそうだ

 

アトランタにとって、初めて倒した相手は俺だ

 

つまり、倒したんだから言う事を聞け‼︎と言う訳だ

 

《その内直るわ。私もアンタをよっぽどじゃない限り、犬と呼ぶのを止めたみたいにね。貴子さんとウィリアムの子よ⁇いつか分かってくれるわ。アンタが一番最初の友達ってね》

 

「ありがとう。少し楽になった」

 

ヘラの言う通りだ

 

アトランタは、きっといつか分かってくれる

 

《気が済んだら、そのコーラ飲んで線路になって来なさい》

 

「分かったよっ。ありがとうな⁇」

 

《アンタがやる事はいつだって正しいわ。行ってらっしゃい》

 

いつの間にか、ヘラは相談相手になっている

 

誰にも相談出来ない事を、ヘラはキチンと答えを返してくれる

 

そしていつも「アンタがやる事は正しい」と背中を押してくれる

 

良き相談相手を持ったな、俺は…



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265話 雷鳥の背中を上陸作戦として使うベイビーギャル

題名と話数は変わりますが、お話は続きです

懲りずにレイの背中で遊ぶアトランタ

遂に背中で大規模作戦が展開されます


食堂に帰って来ると、アークがアトランタの相手をしていた

 

「マーカスお兄さんが帰って来たぞ‼︎」

 

アークがそう言うと、アトランタはすぐに俺を見てハイハイで寄って来た

 

そしてすぐに俺の左足を押し、早くうつ伏せになれ‼︎とせがむ

 

「ビビリ。アークはヒトミとイヨと夕飯のお手伝いに入る。アトランタを頼んだぞ‼︎」

 

「分かった‼︎アトランタも分かった‼︎」

 

アークが行ってすぐ、俺は少しアトランタから離れ、ソファーの下にうつ伏せになる

 

目の前にタブレットを立て、それを見ながらアトランタが乗るのを待つ

 

そして、ハイハイで寄って来たアトランタはすぐに俺に乗る

 

「ははは‼︎」

 

しばらくタブレットで動画を見ていると、アトランタが俺の背中に乗ったまま、ソファーに何かを置いている事に気が付いた

 

しかし、頭の上にはトリケラトプス

 

少しでも動けばトリケラトプスは落ち、パースィーによる打撃が入る

 

なので、何かを置いているとしか感じられなかった

 

ソファーの上に何かを置き終わると、今度は俺から降り、俺の背中に何かを置き始める

 

一つ置いてはガサゴソ

 

そしてまた置く

 

そんな中、ある程度の夕飯の支度を終えた貴子さんが来た

 

「ゔぇ‼︎アトランタ‼︎」

 

貴子さんが驚いている

 

「マーカス君。動いちゃダメよ⁇ウィリアム呼んでくるから‼︎」

 

「わ、分かった…」

 

どうやら俺の背中は凄い事になっているらしい

 

貴子さんが食堂を出てすぐ、隊長と一緒に戻って来た

 

「お〜お〜アトランタ‼︎随分派手に遊んだなぁ⁇」

 

アトランタは一瞬手を止めた

 

隊長に呼ばれたので、そっちを見ているのだろう

 

「レイ。動くなよ⁇」

 

「俺の背中はどうなってる…」

 

「ノルマンディー上陸作戦が展開されてる」

 

「なんっ‼︎」

 

隊長の一言で大体状況は把握出来たと同時に、どうしても一目見たくなった

 

「隊長‼︎こいつで写真撮ってくれ‼︎」

 

「どれ、任せろ」

 

タブレットを隊長に渡し、数枚写真を撮って貰う

 

「こんな感じだ」

 

「うは〜…」

 

俺の背中では、思ったよりノルマンディー上陸作戦が展開されている

 

ソファーの上に置いていたのは、どこから持って来たか分からないドイツ陸軍のミニチュア達が大量

 

そして、俺の背中には緑の兵隊達が大量

 

「アトランタ⁇マーカス君はオマハビーチじゃないのよ⁇」

 

貴子さんに怒られている事に気付いてないのか、アトランタは貴子さんにフィギュアを渡す

 

「もぅ…」

 

貴子さんは呆れ顔でドイツ兵のフィギュアをソファーに置く

 

「おっ。私もか⁇」

 

アトランタは隊長にもフィギュアを渡す

 

隊長は俺の脇腹付近に緑の兵隊のフィギュアを置く

 

隊長が置いた所で、アトランタはグミの時と同じように手を合わせた

 

完成して喜んでいるみたいだ

 

「マーカス君にありがとうは⁇」

 

「ありがとうだぞ、アトランタ⁇」

 

タブレットを暗くして、俺の左側で話している三人を見る

 

貴子さんと隊長に言われて何かを思ったのか、アトランタはハイハイで俺の顔の所に来て座る

 

「楽しかったか⁇」

 

俺がそう言うと、トリケラトプスを取った

 

「ありがとうよ、アトランタ⁇」

 

貴子さんの声でアトランタは振り向き、すぐに俺に視線を戻す

 

そして…

 

「アトランタ…」

 

「う〜ん…」

 

貴子さんが呆れ顔になり、隊長は頭を抱える

 

アトランタは先程のトリケラトプスよろしく、俺の頭を右手の人差し指でクリクリと撫でた

 

「あとらんたはすてぃんぐれいすきなんだね⁇」

 

たいほうにそう言われアトランタは一瞬そっちを向いた後、もう一度俺の頭を撫でた

 

「あとらんたはすきなものなでるんだよ‼︎」

 

「そうなの⁇どれどれ…」

 

貴子さんはトリケラトプスをアトランタから貰い、それをアトランタに向けて見た

 

すると、アトランタは同じ様にトリケラトプスの頭を撫でた

 

「あらっ‼︎ふふっ‼︎」

 

アトランタなりの愛情表現が分かり、その場にいた全員が和む

 

「眠たいんだな⁇」

 

アトランタの瞬きの感覚が長くなって来た

 

「おっぱい飲んでねんねしましょうね⁇」

 

貴子さんに抱かれて、アトランタは寝室に連れて行かれた…

 

「すまなかったな、レイ」

 

「んなぁ。いいこった‼︎」

 

こんなに申し訳無さそうな隊長初めて見た…

 

「貴子が、明日はレイの好きな物作るってさ」

 

「ハンバーグ一択だな‼︎」

 

「レイはハンバーグ派か」

 

どうやら貴子さんの好きな料理はそれぞれ違うみたいだ

 

「ひとみといよはフライドポテトらしいぞ⁇」

 

「昔作って貰ってから、ずっと好きなんだ」

 

「それを聞くと貴子が喜ぶな‼︎よしっ‼︎飯にしよう‼︎」

 

晩御飯はひとみといよ、アークが下ごしらえしてくれたスパゲッティを食べ、ようやく一日が終わる…



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266話 ベイビーギャルとパノラマ(1)

さて、265話が終わりました

ここしばらく書きだめをしては、貼るのを忘れていました

自分では貼ったつもりでいたんです‼︎



ここ最近、自粛ムードが漂ってますね

私自身も御多分に漏れず、自粛しております

出掛けるとしたら、精々左肩のリハビリ位です

リハビリだけはしないといけませんからね

世間は暗いムードですが、アトランタの行動を見て、一分一秒でもホッコリして頂ければ幸いです


次の日の朝

 

「哨戒任務に行って来る。アトランタ⁇また後でな⁇」

 

工廠に近い方の出入り口で、アトランタを抱っこした貴子さんが見送ってくれる

 

「マーカス君に行ってらっしゃいは⁇」

 

貴子さんがそう言うと、アトランタは俺に手を伸ばす

 

頭をアトランタの前に出すと、人差し指でクリクリして貰う

 

「もぅ…」

 

「ありがとう‼︎行って来るなっ‼︎」

 

アトランタなりの“行ってらっしゃい”みたいだ

 

俺を見送った後、アトランタは隊長のいる執務室に連れて来られた

 

 

 

「ぱぱしゃんおしおと⁇」

 

「おてつだいできう⁇」

 

ひとみといよが私の横で机の縁にぶら下がりながら、机の上にある書類を見ている

 

「はっはっは‼︎私でもサッパリだっ‼︎」

 

「さっぱいら〜‼︎」

 

「わからん‼︎」

 

私もヴィンセント中将と同じく、子供達が手伝える事なら仕事を与え、お小遣いあげる

 

一応貴子の知らない所でな

 

しかし、今のひとみといよには別の仕事が出来た

 

「ウィリアム。入っていい⁇」

 

「ははは‼︎いいぞ‼︎空いてる‼︎」

 

三人が爆笑する中、貴子さんが来た

 

「聞いてウィリアム。アトランタったら、マーカス君見送るのに頭撫でたのよ⁇」

 

「そうかそうか‼︎ちゃんと行ってらっしゃい出来たか‼︎」

 

「えいしゃん、よおこんれう‼︎」

 

「あとあんた、あいがと〜って‼︎」

 

貴子の心配を他所に、私達はアトランタのレイの扱い方を否定しない

 

「いいのかしら…」

 

「もしレイが怒ってたら、とっくの昔に私達は吹き飛んでるさっ」

 

「えいしゃん、おともだちだいじにすう‼︎」

 

「らいりぉ〜う‼︎」

 

長年付き合っている私が言える

 

もしアトランタがレイを怒らせたなら、とっくの昔に私達は粉微塵になっている

 

私はレイ本人ではないが、ひとみといよが言った通り、レイは味方をとても大切にする

 

そんな大切な奴に危害が加わると、レイは完膚なきまで叩きのめす

 

その光景を、私は何度も見て来た

 

現にアトランタにアークと一緒にご飯を食べさせてくれている

 

私の自慢の部下だ

 

心配する事はない

 

「ウィリアム⁇しばらくアトランタ見ていてくれる⁇」

 

「ひとみたちにおまかしぇ‼︎」

 

「でんしゃれあそびましぉ‼︎」

 

ひとみといよがアトランタの相手をしてくれる

 

早速おもちゃの線路を敷き始め、貴子に目線を戻す

 

「大丈夫そうね‼︎そうだウィリアム。マーカス君に晩御飯何食べたいか聞いてくれた⁇」

 

「貴子のハンバーグが一番好きらしいぞ⁇」

 

私がそう言うと、貴子は腕を捲った

 

「任せて‼︎そう言ってくれると俄然やる気出て来たわ‼︎」

 

貴子が執務室から出て、私は書類仕事

 

アトランタ達はおもちゃの電車で遊び始める

 

「ちんかんしぇんいきあ〜す‼︎」

 

「とっきぅ〜いきあ〜す‼︎」

 

ひとみといよが新幹線と特急電車を走らせ始める

 

アトランタはパースィーを線路に載せ、同じ様に走らせようとしている

 

「あいっ‼︎」

 

いよにスイッチを入れて貰い、パースィーも線路を走り始める

 

それを見たアトランタは、線路にトリケラトプスも置いた

 

「「あ」」

 

ひとみといよが声を出したのも束の間

 

トリケラトプスはパースィーに引き摺られて行ってしまった…

 

それを見たアトランタは、お腹の前で手を伸ばし、手を合わせる

 

レイと居る所を見ると、どうやら拍手しているみたいだ

 

「いっぱいはしあせう⁇」

 

「たくしゃんはしあせう‼︎」

 

ひとみといよが電車を沢山走らせる

 

「やあのてしぇん‼︎」

 

「あば〜あいな〜‼︎」

 

各都道府県に走っている電車達の名前を口にしながら、線路に置いて行く

 

アトランタも何か走らせたくなったのか、おもちゃ箱に向かい、中をゴソゴソし始める

 

「アトランタ…そんな物何処から…」

 

「じぇったいつおい‼︎」

 

「くっこおみたいになう‼︎」

 

アトランタが持って来たのは、ドイツ軍が使っていた“装甲列車”のおもちゃ

 

流石に少し気になり、書類仕事を一旦休め、三人の所に来た

 

「アークみたいになるのか⁇」

 

「いけ‼︎そこら‼︎」

 

「じぉ〜お〜へいかのたえに、ひきこおせ‼︎いまなあじこでしぉりさえう‼︎」

 

ひとみといよのモノマネで分かった

 

アークは機関車パースィーが出てくるアニメを見て

 

行け‼︎そこだ‼︎

女王陛下のために轢き殺せ‼︎

今なら事故で処理される‼︎

 

と、呟いているらしい

 

アトランタは装甲列車を線路に置き、走らせ始める…

 

「ぐぁ〜‼︎だっしぇん‼︎」

 

先ず最初に、昔東京で走っていた環状線が装甲列車に轢かれて脱線

 

「いけ‼︎にえきえ‼︎」

 

次に装甲列車が追うのは、特急電車“アバーライナー”

 

「らっしぇん‼︎」

 

必死に逃げるが、押し退けられる形で脱線

 

「ぱ〜すぃ〜‼︎」

 

「いけ〜‼︎ぶっこおいら‼︎」

 

残るはパースィー

 

しかも正面同士

 

装甲列車もパースィーもスピードを緩める事無く向かって行く

 

「いけ‼︎おしぇ‼︎」

 

「こんじぉ〜だ‼︎」

 

装甲列車VSパースィーの命の駆け引きが始まり、私でさえ釘付けになる

 

幾らおもちゃとはいえ、装甲列車

 

幾度と無く列車をなぎ倒して来た猛者だ

 

そんな奴に対して、パースィーは踏ん張るどころか押し返している

 

アトランタの丁度真ん前で争い始めた二両は、アトランタに気に入られようとしているのか、ほぼ拮抗…若干パースィーの押し気味のまま、勝負は佳境に入る

 

「あとあんた、たのちそう‼︎」

 

「おめめきあきあ‼︎」

 

二両の争いを見て、アトランタの目が輝いているのに気が付いた

 

…この血の気が多いのは貴子に似たんだろうな

 

「あ‼︎」

 

「ぱ〜すぃ〜、らっしぇん‼︎」

 

ここまで踏ん張って来たパースィーが、装甲列車にスタミナ負けし、遂に脱線

 

蒸気機関車が良く頑張った

 

アトランタもパースィーに拍手している

 

それに、どっちも気に入ったみたいだ

 

 

 

 

一方その頃…

 

《それで⁇アンタは線路になってるの⁇》

 

「線路にもなったし、オマハビーチにもなった」

 

いつも通り、平和な空

 

横須賀と無線で会話しながら快適な哨戒をする

 

今日はグリフォンにAIを入れていない

 

たまにはこうして慣らしておかないとな

 

「おっと。ブレイカーだ」

 

2時方向に猫の様な機体が3機見えた

 

ただ、目が赤色だ

 

もしかすると、此方に敵意を抱いているかも知れない

 

《IFFの反応は味方よ。お話してあげたら⁇》

 

「此方サンダーバード隊ワイバーン。そっちはどうだ⁇」

 

無線でそう伝えると、ブレイカーの目が青色に変わる

 

どうやら俺をステルス機の敵として認識していたらしく、話して味方と分かってくれたらしい

 

《コチラ、ブレイカーダイニブタイ。トウガイクウイキ、イジョウナシ。グッドラック、ヤタガラス》

 

「グッドラック、ナタリー」

 

《オナカヘッタ、ホキュウ》

 

《タコヤキタベル》

 

《ノドカワイタ》

 

どこの部隊も同じだ

 

ブツブツ小言を言いながら飛んでいる

 

《此方クラーケン。貴方達、スカイラグーンに行くの⁇》

 

《オナカヘッタ》

 

《今日の補給見ましょうか⁇》

 

《タコヤキ‼︎》

 

《コーンフレーク‼︎》

 

《チュロス‼︎》

 

3機共食べたい物が違うらしく、それぞれが別の物を口に出す

 

《パンケーキらしいわ⁇》

 

《グァー‼︎》

 

《パンケーキ‼︎》

 

《タベタイ‼︎》

 

「気を付けてな⁇」

 

《サンキュー。ヤタガラス、クラーケン》

 

ブレイカー第二部隊との通信が切れたと同時に、俺の哨戒任務も終わる

 

《さっ、アンタも補給よ‼︎帰還しなさい‼︎》

 

「了解」

 

《にしてもアンタ、グリフォンでもヤタガラスって呼ばれてんのね⁇》

 

この機体に乗り換えてから、様々な名で呼ばれる事が多くなった

 

艦娘達からは“グリフォン”

 

一部の深海の子達からは“ヤタガラス”

 

そして、俺ひっくるめて呼ぶ“ワイバーン”

 

「誰かに呼ばれるってのは、幸せな事さっ。親潮は横にいるのか⁇」

 

《今は赤城とお散歩に行ってるわ⁇着陸して探して見たらどう⁇》

 

「そうさせて貰うかなっ」

 

話している内に、横須賀が見えて来た

 

横須賀に着陸し、二人を探す事にする…



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266話 ベイビーギャルとパノラマ(2)

トロッコ問題を目の前にしたアトランタ

果たして何方に行くのか…


書類仕事も粗方終わり、後は昼食を待つだけだ

 

やはり執務室にいるアトランタは大人しい

 

ずっと電車を見ている

 

「じぅくおくか⁇」

 

「あにめ〜ろにちましょ‼︎」

 

ひとみといよは線路の周りに街を作って発展させて遊んでいる

 

そんな中、アトランタが動く

 

緑の兵隊を持って来て、線路に置き始める

 

「ひきこおす⁇」

 

「ぶっこおいすう⁇」

 

ひとみといよが物騒な事を言い始めたので、執務を終えた私も参加する事にした

 

「どれどれっ…」

 

アトランタの後ろに座り、様子を眺める

 

アトランタが緑の兵隊を並べているのは、ポイントを切り替えた先

 

道が二つに分かれており、片方には一人、もう片方には五人置いている

 

俗に言う、トロッコ問題が目の前にある

 

緑の兵隊を置き終わると、アトランタはひとみの方を見た

 

やれ‼︎と言いたそうな目だ…

 

「ひとみあこっち‼︎」

 

ひとみは一人の方にポイントを切り替えた

 

そして、一人の緑の兵隊は装甲列車に持って行かれた

 

ひとみがやり終わると、次にアトランタが目線を送ったのはいよの方

 

「いよこっち‼︎」

 

「すぷあった〜れす‼︎」

 

いよは五人の方にポイントを切り替えた

 

装甲列車に持って行かれる五人を見て、アトランタは目を見開いて輝かせている

 

そして、最後にアトランタが見たのは私の方

 

「私もか⁇」

 

「ろっちにすう⁇」

 

「ごにんぶっこおい⁇」

 

全員の視線が私に集まる…

 

「ま、まぁ、私はこうだな⁇」

 

流石に一人の方を選んだ

 

「「おぉ〜」」

 

「さすあれす‼︎」

 

「ひといれすんだ‼︎」

 

ひとみといよが拍手をし、最後に残ったアトランタの方を向く

 

「アトランタはどっちにするんだ⁇」

 

「ひとい⁇」

 

「ごにん⁇」

 

次はアトランタの番だというのが分かったのか、アトランタはポイント切り替えの所に目をやる

 

徐々に近付く装甲列車…

 

アトランタは皆のやっているのをちゃんと見ていたのか、ポイントの切り替えをする

 

五人の方に…

 

「すぷあった〜れす‼︎」

 

「きた‼︎」

 

装甲列車が近付いて来たその瞬間、アトランタは一人の方の緑の兵隊を手に取り五人の中に入れた‼︎

 

「な、なんだと…」

 

「ぜんぶっこおい〜‼︎」

 

「せんめつ‼︎」

 

無惨にも六人全員が装甲列車に持って行かれ、アトランタは拍手をして喜んでいる

 

その発想は無かった…

 

普通なら、止める努力をする‼︎だとかが出て来るはずの所を、アトランタは全て殲滅して無かった事にした

 

確かにこれなら目撃者もおらず、ウヤムヤに出来そうだ…

 

「ご飯出来たわよ〜‼︎」

 

貴子が来た

 

「ぱぱしゃん、あとれおかたつけちていい⁇」

 

「立派な街だもんな⁇後で写真撮ろうな⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「いってきあす‼︎」

 

ひとみといよが昼食を食べに行き、貴子とアトランタと私だけになる

 

「あらっ、アトランタ。電車で遊んでたの⁇」

 

私はふと気になった

 

貴子にトロッコ問題をやらせたらどうなるのだろうか…

 

「トロッコ問題で遊んでたんだ。な⁇アトランタ⁇」

 

アトランタは貴子の方を見ている

 

「どれどれ…私もやってみよっかな‼︎」

 

再び動き出す装甲列車

 

アトランタは装甲列車を眺めているが、私と貴子は緑の兵隊を見ている

 

「こっちね」

 

貴子はポイントを切り替えた

 

五人の方に…

 

「よいしょ」

 

そして、五人の方に一人の緑の兵隊を追加

 

装甲列車は六人全員殲滅して走り去った

 

やはりアトランタは拍手して嬉しそうにしている

 

やっぱり貴子に似たんだな…



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267話 父親、母親、眠り姫

題名と話数は変わりますが、前回のお話のマーカスサイドになります

親潮と赤城を探す最中、自分達の“長女”が目の前に来ます

父親と、母親と、何方か片方といる事はあれど、親子で並ぶ姿は見かけなかった三人

親潮と赤城はしばらく遊ばせておき、彼女と軽食を食べる事にします


「おかえりなさい」

 

グリフォンから降りると、横須賀が待ってくれていた

 

「ただいま。子供達は⁇」

 

「朝霜だけは執務室にいるわ。後はほとんど学校。親潮達を探しに行きましょ⁇」

 

グリフォンから降り、親潮達がいるであろう繁華街へと向かう

 

「そう言えばアンタ、高確率で何処かしらに赤ちゃんに乗られるわね⁇」

 

「言われるまで気付かなかったよ…」

 

時津風は膝の上

 

吹雪は腹の上

 

ジャーヴィスは抱っこ

 

そしてアトランタは背中の上

 

「子供にも乗られるわね⁇」

 

たいほうは肩車

 

ひとみといよは両肩

 

確かに乗られている…

 

「子供に好かれるオーラでもあるのかしら⁇」

 

「やめとけ。大淀博士の議題に上がりそうだ…レイ君が何故赤ちゃんに乗られるのか‼︎その謎に迫る‼︎とか言われる」

 

「ふふっ。分かったわっ‼︎」

 

横須賀も大淀博士のキャラをようやく理解出来て来ている

 

そうこうしている内に繁華街に着いた

 

「何処かしらね…」

 

「あら、おひょうひゃま」

 

口に何かを入れたままのヒュプノスがいた

 

「美味そうに食ってるな⁇」

 

「んんっ…ごめんなさい、丹陽のゴマ団子よ」

 

ヒュプノスはすぐに口の中にあったゴマ団子を飲み込んだ

 

「お母様は何か探してるの⁇」

 

「親し…」

 

俺はふと気付き、横須賀の口を手で塞いだ

 

「ヒュプノス。そのゴマ団子、まだ食べられそうか⁇」

 

「そうね。二つしか食べてないわ⁇」

 

「三人で行こうか‼︎」

 

これは絶好のチャンスだ‼︎

 

横須賀の口を咄嗟に塞いだのは、俺、横須賀、ヒュプノスの親子が揃う事は久々かも知れないと思ったからだ

 

「そうね‼︎親潮と赤城は大丈夫そうだし、行きましょ‼︎」

 

「嬉しいわ…」

 

ヒュプノスを真ん中に置き、ヒュプノスの両手をそれぞれが繋いで丹陽を目指す

 

後にその光景を見た人間や艦娘は、本来の親子に戻った三人を見ても、誰も声を掛けずにそっとしておいたと、誰もが言う…

 

 

 

 

「いらっしゃいまへ‼︎」

 

飲茶・丹陽に入ると、相変わらず口を開けた丹陽が来た

 

「三人よ‼︎」

 

「こちあの席にろ〜ぞ‼︎」

 

席に案内され、早速注文

 

「ゴマ団子と烏龍茶を三人前頂戴」

 

「おまらんおを三つ、烏龍茶を三つれすね‼︎お待ちくらはい‼︎」

 

丹陽が厨房に行き、横須賀がヒュプノスの方を見る

 

「ヒュプノスと来るのは久々ね⁇」

 

「そうね。私もお母様も忙しいもの」

 

「レイとはたまにこういう所に来るの⁇」

 

「お父様は、他の子供達と一緒に私も連れて行ってくれるわ⁇」

 

そう言って、ヒュプノスは笑顔を俺に送る

 

最近、ヒュプノスは笑う事が多くなった

 

普段の幼い外見でクールな顔も似合うが、ヒュプノスには笑顔がよく似合う

 

「私とも回数を増やしましょう⁉︎ねっ⁉︎」

 

「勿論よ、お母様‼︎」

 

「おまらんおお待たへしました‼︎」

 

「ありがとう」

 

丹陽がテーブルにゴマ団子と烏龍茶を置いてくれた

 

「いただきます」

 

「「いただきます‼︎」」

 

俺と横須賀の方が大きな声でいただきますと言う

 

「赤城に教えて貰ったわ⁇いただきます、ごちそうさま、って」

 

「赤城と遊ぶの⁇」

 

「えぇ。親潮と赤城と一緒にいると、色んな発見があって楽しいの」

 

「どんなだ⁇」

 

「そうねぇ…この前は、親潮が持って来た金属探知器を持って繁華街を回って、誰が一番小銭を拾えるか、とか」

 

「何やってんのよ…」

 

頭を抱える横須賀だが、顔は笑っている

 

何と無くだが、容易に親潮の姿が想像出来るのが辛い…

 

「誰が一番拾えたんだ⁇」

 

「赤城だったわ。赤城には敵影感知能力があるの。あれを使われたら太刀打ち出来ないわ⁇」

 

「やり方がキッたねぇなぁ…」

 

俺も横須賀と同じく、頭を抱えるが、顔は笑っている

 

「拾った小銭はリチャードさんに相談して、戦災寄付に回したわ⁇」

 

「偉いわ‼︎」

 

「偉いぞヒュプノス‼︎」

 

二人でたっぷりヒュプノスの頭を撫でる

 

「違うの‼︎みんなでそうしようって決めただけよ‼︎」

 

「それでも偉いわ⁉︎」

 

「ちゃんとした場所にやったんだ。誰も文句は言わないさ‼︎」

 

「お母様ならどうするの⁇」

 

「金額によるけど大体ネコババね‼︎」

 

「あら、頂戴じゃないの⁇」

 

「間違えた‼︎頂戴だわ‼︎」

 

三人共、同じタイミングで爆笑する

 

「あら、こんな時間。お父様、お母様、そろそろプールに戻ります。ごちそうさま」

 

ヒュプノスが立ち上がる

 

昼下がりになると、ヒュプノスはまたプールの先生へと戻る

 

「また来ような⁇」

 

「約束よ⁉︎」

 

ヒュプノスは無言のまま笑顔を返した後、何かに気付いて戻って来た

 

「お父様」

 

「どうした⁇」

 

「幸せよ、私」

 

「急にどうした⁇」

 

「私には“大好きなお母様”が二人もいるもの。お父様の娘で良かったわ⁇」

 

そんな事、初めて言われた

 

横須賀は横須賀で半泣き

 

ヒュプノスはどんどん変わって行く

 

どんどん人を愛する様になって行く

 

「私も好きよ、ヒュプノス‼︎」

 

「ありがとう。行って来ます」

 

ヒュプノスが愛情表現を表に出した事自体珍しい

 

それに、今日の嬉しそうな顔

 

俺達はもっと、ヒュプノスを知らなければいけないな…



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267話 大きな松の木の下で

題名は変わりますが、前回のお話の続きです

マーカスと横須賀、そしてヒュプノスが飲茶“丹陽”にいる時、親潮と赤城は高台の松の木の下で遊んでいます

何をしているのかな⁇


その頃親潮と赤城は、繁華街の先にある高台にいた

 

「これ」

 

赤城は足元に沢山転がっているまつぼっくりが気になる様子

 

「それはまつぼっくりです」

 

「まつぼくい」

 

「木に沢山なってます」

 

親潮が上を向くと、赤城も上を向く

 

「まつぼくい」

 

「取ってみますか⁇」

 

「とる」

 

そう言うと赤城は軽々と親潮を抱き上げ、肩車をする

 

「取れました‼︎」

 

親潮は手に二つのまつぼっくりを持ち、赤城から降りた

 

「はい、どうぞ‼︎」

 

「おやちお、ありがと」

 

「どう致しまして」

 

親潮と赤城はすぐ近くに備えられた石造りのベンチに座り、小休止を取る

 

「まつぼくい。これもまつぼくい」

 

赤城の手の中で、コロコロ動くまつぼっくり

 

どうやら赤城はまつぼっくりをボールか何かと思っているみたいだ

 

「種なんですよ⁇」

 

「たね」

 

「土に埋めると、この木になるのです」

 

「ぼーる」

 

「ボールにしては形が危ないですからね…投げたらダメですよ⁇」

 

「ん」

 

赤城はしばらくまつぼっくりを手元で遊んだ後、何も生えていない場所に目を向けた

 

「たね、うめる」

 

「埋めてみましょう‼︎」

 

親潮と赤城はその辺にあった木の枝で地面を掘る

 

数分掘り続けると、まつぼっくりが十二分に入る穴が二つ出来上がる

 

「おやちおのまつぼくい」

 

「ありがとうございます」

 

赤城からまつぼっくりを受け取り、互いに土に埋める

 

「大きくなるといいですね⁇」

 

親潮がそう言うと、赤城はいつもの様にほんの少し微笑んでいるよりも、また少し微笑む

 

「そろそろお昼ごはんですね」

 

「ごはん」

 

親潮は赤城に対し、父親がいつもそうしているのを見ているのか、自然と赤城と手を繋ぎ、執務室の方へと足を向ける

 

「今日は何でしょうか⁇」

 

「おにく」

 

「何のお肉がいいですか⁇」

 

「とりにく」

 

他愛の無い会話をしながら、繁華街まで降りて来た

 

「おっ‼︎いたいた‼︎」

 

「親潮‼︎赤城‼︎ご飯食べましょー‼︎」

 

階段を降りた所には、丁度親潮と赤城を探しに来た親二人がいた

 

「おとうさん、おかあさん」

 

「手を洗わなければいけませんね⁇」

 

「おてて、あらう」

 

繁華街の入り口に備えられた水道で手を洗い、ようやく二人の所に来た

 

「おかえりなさい‼︎」

 

「今日は何したんだ⁇」

 

「まつぼくいうめた」

 

「まつぼっくりを埋めて、育つかどうかの観察です‼︎」

 

「そっかそっか‼︎育つといいな⁇」

 

大好きな親二人に報告する二人は、いつだって明るい

 

悪い事以外は、絶対に褒めてくれるからだ

 

そんな横須賀の胸には、新しく繁華街に出来た“チキンランド・ミズホ”と書かれたバーレルに、山盛りに入れられたフライドチキンがあった

 

「本当に鳥肉でしたね⁇」

 

「からあげ、ちがう」

 

赤城にとっては、からあげとはまた違う鳥肉が出て来た

 

四人は繁華街の中心にある四人掛けのテーブルに座る

 

「これはフライドチキンよ⁇」

 

「ふらいどちーきん」

 

「こうやって、持つ所に紙を巻いて食べるんだ」

 

「いただきます」

 

赤城がフライドチキンを食べる様を、三人共手を止めて眺める

 

「おいしい」

 

「それは良かった‼︎」

 

「沢山あるから、いっぱい食べるのよ⁇」

 

赤城は両手にフライドチキンを持ってご満悦

 

その傍らで、親潮と横須賀は同じ顔と同じ食べ方をしている

 

フライドチキンを横に持ち、一番美味しい所から食べる食べ方だ

 

「どう⁇美味しい⁇」

 

「おいしい」

 

「美味しいです‼︎」

 

「チキンランド・ミズホは、これからしばらくはお試し期間で横須賀にいるの。また赤城達と食べに行きなさい⁇」

 

「ふらいどちーきん」

 

赤城も親潮も気に入った様子

 

特に赤城のお気に入りになったみたいだ

 

「さてっ。俺は早めに帰るよ」

 

「そうね。今日はありがとう、楽しかったわ⁇」

 

「また今度行こうな⁇」

 

「はいっ‼︎親潮、お待ちしております‼︎」

 

「ふらいどちーきん」

 

帰る直前になっても、赤城は俺にフライドチキンを見せてくれる

 

「そっ。フライドチキンだ。今度来たら、サラのチキンとどっちが美味しいか聞かせてくれ」

 

「さららちーきん」

 

「サラダチキンじゃないぞ⁇サラのチキンだぞ⁇」

 

赤城が何処かで覚えたサラダチキンとの単語を言い、親潮も横須賀も微笑む

 

赤城の頭を撫で、俺は基地に戻る…



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268話 貴子さん、大出血‼︎(1)

またまた題名は変わりますが、前回のお話の続きです

貴子さんのハンバーグを楽しみにしていたマーカス

そんな矢先、とある理由で貴子さんが大出血します


「ただいま‼︎」

 

「おかえりなさい‼︎もうすぐ出来るからね‼︎」

 

今日は楽しみな貴子さんのハンバーグ

 

手洗いうがいをした後、子供達の様子を見に行く

 

「貴子さん。アトランタは⁇」

 

「ウィリアムの所よ‼︎ひとみちゃんといよちゃんと遊んでるわ‼︎」

 

「どれどれ…」

 

食堂を出て、執務室に向かう

 

「隊長。俺だ」

 

「レイか‼︎開いてるぞ‼︎」

 

隊長の声が聞こえた後、俺は執務室のドアを開けた

 

「うぉ⁉︎」

 

入った途端、いつもの執務室とは違う事がすぐに分かった

 

大パノラマになっている…

 

「えいしゃんおかえい‼︎」

 

「だいとかいれす‼︎」

 

「こりゃまた凄いな‼︎」

 

ひとみといよの周りにはビル群

 

「マーカスお兄さんにおかえり〜って言ってごらん⁇」

 

街の中心にいる隊長の膝の上にはアトランタ

 

隊長の言った通り、執務室にいると大人しくしており、走って来る電車を見て拍手している

 

「あとあんたとつくった‼︎」

 

「ぱ〜すぃ〜まけた‼︎」

 

「そうかそうか‼︎みんなで作ったんだな⁇」

 

「「うんっ‼︎」」

 

ひとみといよと話した次は、アトランタ

 

「アトランタっ」

 

隊長がほんの少しだけアトランタを揺すると、ようやくアトランタは俺に気付き、こっちを向いた

 

そして、右手を俺の方に伸ばす

 

それを見てしゃがむと、行きと同じ様に人差し指で俺の頭を撫でてくれた

 

「おかえいなしゃい‼︎」

 

「えいしゃんしゅきしゅき‼︎」

 

「ホントだな。貴子が朝方言ってたんだ。アトランタはレイの頭を撫でるって」

 

「行って来ますとおかえりなさいらしい。アトランタなりの挨拶さっ」

 

「ふふっ…さっ‼︎飯の時間だ‼︎ひとみ、いよ‼︎行くぞ〜‼︎」

 

「おかたじゅけあ⁉︎」

 

「おもちぁしまう‼︎」

 

「いいさ。しばらくこのままにしておこう‼︎」

 

隊長の一言で、大パノラマはそのままになる事が決定

 

「アトランタも遊びたいみたいだし、しばらくはそのままにしとこうか⁇」

 

「あかった‼︎」

 

「きぉ〜のごはんは、あ〜にかあ〜⁇」

 

ひとみといよを引き連れ、一足先に食堂に戻って来た

 

「おほっ‼︎」

 

待ち侘びた貴子さんの手作りハンバーグ‼︎

 

それも二個ある‼︎

 

「トマトソースと、黒胡椒で良かったよね⁉︎」

 

「あぁ‼︎これが一番好きなんだ‼︎いただきます‼︎」

 

俺はこの組み合わせが一番好きだ

 

トマトの酸味と、黒胡椒のピリッとした辛さ、そして肉が交わるあの瞬間…

 

これが絶妙に美味いんだ

 

「ビビリもビビリで作り甲斐のある食いっぷりだな⁇」

 

「よっぽど好きなんだろうな…」

 

アークと隊長が俺を見て話し、貴子さんがニコニコしている

 

アトランタはカーペットに座った母さんの膝の上におり、子供達が食べ終わるのを二人で眺めている

 

「あの人はマーカスお兄さんよ⁇」

 

アトランタは俺に気付き、俺を指差しながら母さんの方を見る

 

散々パースィーで遊んだからなのか、手にパースィーはいない

 

あぁ、そう言えばパノラマを走っていたな

 

「あの人はアークお姉さんよ⁇」

 

今度はアークを指差す

 

「アトランタももう少ししたら食べような⁇」

 

アトランタなりに、段々遊び相手が分かって来たみたいだ

 

「さっ‼︎アトランタもご飯ね〜。スパイト‼︎ありがとう‼︎」

 

「私も頂くわ‼︎とっても美味しそうね‼︎」

 

「いっぱい食べてね‼︎」

 

貴子さんは母さんからアトランタを貰い、授乳の為に一旦自室に戻った

 

「貴子さんのハンバーグは美味いぞ‼︎本当に‼︎」

 

「頂くわ‼︎」

 

「ぎゃぁぁぁあ‼︎」

 

母さんがハンバーグを口にした瞬間、食堂の向こうから悲鳴が聞こえた

 

ドサドサと倒れる大人連中…

 

「あえ⁇」

 

「おめめくうくうになってう」

 

生き残ったのは、ひとみといよ

 

残りの大人連中、子供達は気絶

 

「たかこしゃん、ぎぁぁぁあいってた‼︎」

 

「くっこおおきて‼︎」

 

手身近に居たアークを揺するが、反応は無く、目を回している

 

「たかこしゃんのとこいこ‼︎」

 

「ぎぁぁぁあ‼︎」

 

いよは貴子さんの叫び声を真似しながら、貴子さんとアトランタのいる隊長の自室に来た

 

「らいじぉ〜ぶれすか⁇」

 

「ひ、ひとみちゃんいよちゃん‼︎マーカス君呼んで‼︎」

 

「えいしゃん、おめめくうくう」

 

「じ、じゃあぬりぬりのお薬取って来てくれる⁉︎」

 

「あかった‼︎」

 

ひとみが薬を取りに向かい、様子がおかしい貴子さんを見る為にいよが残った

 

「けがちた⁇」

 

「そうなのよ…まさかアトランタに歯が生えてるとは思ってなかったのよ…」

 

「い〜」

 

いよはアトランタに自分の歯を見せるが、アトランタはボーッといよを見返すだけ

 

「ち〜れた⁇」

 

「えぇ…ちょっと痛いわ…」

 

「おくすいもってきた‼︎」

 

「ありがとう‼︎」

 

ひとみが塗り薬を持って来てくれたので、貴子さんはすぐにそれを胸に塗る

 

「えいしゃん、まらおめめくうくう」

 

「おこす‼︎」

 

「ごめんね…ちょっとお願いするわ⁇」

 

「おまかしぇ‼︎」

 

「あかせて‼︎」

 

ひとみといよは部屋から出て、食堂に戻って来た

 

「えいしゃんおきて‼︎」

 

「たかこしゃん、ち〜れた‼︎」



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268話 貴子さん、大出血‼︎(2)

「うっ…」

 

ひとみといよに揺さ振られ、目を覚ます

 

ハンバーグを食べてたら、女神の鉄槌が飛んで来た所までは覚えてる

 

「ひとみ、いよ、大丈夫か⁇」

 

「たかこしゃんち〜でた‼︎」

 

「なに…」

 

まだ頭がクラクラする…

 

貴子さんが出血しただと…

 

…貴子さんが出血しただと⁉︎

 

ようやく意識を取り戻し、何とか立ち上がる

 

「わ、分かった‼︎」

 

「う〜ん…」

 

「ぱぱしゃんもおきて‼︎」

 

隊長も目を覚ます

 

「何が起こった…」

 

「貴子さんの鉄槌だ。貴子さんが出血したらしい。ちょっと見てくる」

 

「私も行こう。何か出来る事があるだろう」

 

四人で貴子さんのいる部屋に来た…

 

 

 

「貴子さん‼︎」

 

「あぁ。来てくれた…ごめんね、折角のハンバーグなのに…」

 

隊長と貴子さんの自室に入ると、貴子さんは左胸を抑えていた

 

「アトランタに噛まれて…」

 

「診てもいいか⁇」

 

無言のまま、貴子さんは手を退けた

 

左胸の先端を噛み切られたのか、出血している

 

「塗り薬は塗ったみたいだな…それには止血の効能がある。貴子さん、工廠まで歩けますか⁇」

 

「えぇ…」

 

「私が担ごう。レイ、準備出来るか⁇」

 

「すぐに取り掛かる‼︎」

 

急いで工廠に向かい、カプセルの準備に入る

 

「そこでジッとしてるんだぞ⁇」

 

いつの間にか着いて来ていたひとみといよをPCの前で待たせ、浴槽型のカプセルの準備に入る

 

「たかこしゃん、ぎぁぁぁあ‼︎いってた」

 

「なおう⁇」

 

「治るさっ‼︎あれくらいの傷ならっ‼︎こいつで一発さっ‼︎」

 

浴槽型のカプセルを準備しながら、ひとみといよに返事を返す

 

「よしっ‼︎準備完了だ‼︎」

 

「レイ‼︎準備出来たか⁉︎」

 

タイミング良く隊長が貴子さんをお姫様抱っこして来た

 

「オーケーだ‼︎ここに浸けてくれ‼︎」

 

「服脱ぐわ」

 

「おっと…服脱がなくてもそのまま浸かればいい」

 

貴子さんが服を脱ぎ始めたので、俺は後ろを向く

 

「血が付いちゃったのよ…」

 

「それはいかんな。着替えを持ってくる。レイ、貴子を頼んだ」

 

「分かった…」

 

背後で“チャプ…”と音がしたので、貴子さんが浴槽に入ったみたいだ

 

「後はそのまましばらく浸かっていれば、傷は回復する」

 

「ふぅ…ありがとうね…」

 

「此方こそ、ハンバーグありがとう」

 

後は心配する必要は無い

 

あの傷なら、このまま数十分浸かれば傷は治る

 

そのまま開けっ放しになった扉から出て、タバコに火を点ける

 

「たかこしゃん、おっぱいれっかい‼︎」

 

「おちちでう⁇」

 

「ふふっ。いっぱい出るわよ〜⁇」

 

「ははは…」

 

気を紛らわす為に、タバコを思いっきり吸う

 

いかんいかん…

 

「すまなかったな…レイ」

 

貴子さんの着替えを持って来てくれた隊長が来た

 

「後はこのまましばらく浸かっていれば大丈夫だ」

 

真面目な回答をしたはずだが、隊長の顔が笑っている

 

「お前の鼻血も治るといいな⁇」

 

「ふっふっふ…」

 

それはもう尋常じゃない位のヘモグロビンが、足元のアスファルトに滴り落ちて行く…

 

 

 

 

三十分後…

 

「んん〜っ‼︎ありがとう‼︎凄いわね⁉︎」

 

貴子さんの胸は元通りになっていた

 

「これ位いつでもっ」

 

「あらっ。ふふっ‼︎凄い鼻血‼︎」

 

「横須賀では慣れませんでした…」

 

横須賀も大概デカイが、貴子さんも相当デカイ

 

そんなたわわが、やれ柔らかいだの、やれお乳が出るだの…

 

「アトランタは俺に任せて、二人は休んでくれ」

 

「すまんレイ。今日は甘える」

 

貴子さんも流石に憔悴している

 

ここはアトランタは俺が見た方が良いだろう

 

「マーカス君こそ大丈夫なの⁇アトランタ、マーカス君に乗ったり物投げたり…」

 

「俺は大丈夫‼︎子供には慣れたさ‼︎」

 

「貴子。今日はレイに甘えよう」

 

「ん…」

 

「ありがとうな、レイ」

 

「いつでもっ」

 

貴子さんと隊長が基地に戻り、ひとみといよと俺が残る

 

「たかこしゃんなおった‼︎」

 

「ふっかつら〜‼︎」

 

「二人共、俺が気絶している間、ありがとうな⁇」

 

「ひとみといよちゃんにあ、ききあせん‼︎」

 

「ぎぁぁぁあ‼︎ききあせん‼︎」

 

俺の前で、グラーフ譲りのンフ〜で胸を張るひとみといよ

 

「ふふっ…」

 

残る問題はアトランタだ…

 

 

 

 

食堂に戻って来ると、アークと一緒にアトランタがいた

 

アークの持っているオモチャを見て、手を伸ばしているアトランタを見る限りは大人しい

 

「タカコは大丈夫か⁇」

 

「あぁ。あれくらいなら一発さ」

 

「マーカスお兄さんにありがとう、だな‼︎」

 

「よいしょっ。アトランタ、ちょっと見せてな…」

 

アトランタのおしゃぶりを取り、ひとみといよの歯を見た時と同じ、プラスチックの小さなスプーンでアトランタの唇をめくる

 

「ぐわ〜…生えたな〜」

 

既に歯が生え揃い始めたアトランタ

 

しかも、貴子さんの乳首を噛み切る強さだ

 

これで噛み癖が出たら…

 

考えたくないな…

 

「明日から離乳食だな⁇」

 

「そうだな。またタカコが噛まれる」

 

「今日はもう休…おっと…」

 

アークの手から離れたアトランタが、俺に抱っこをしろ‼︎とせがむ

 

「よいしょっ」

 

「良かったじゃないかビビリ。懐かれてる」

 

「さっ。アトランタもネンネだ」

 

貴子さんと隊長は自室にいるが、今日は二人にした方が良さそうだ

 

「ビビリ。アークは食器だけ片付ける。アトランタを頼む」

 

「分かった」

 

赤ちゃん用の布団一式を持って来て、そこにアトランタを寝かせる

 

「さ、アトランタ。ネンネだぞ…」

 

仰向けになったアトランタのお腹を、優しく叩く

 

数分もしない内に、アトランタの目はトロンとして来た…

 

「よしっ‼︎終わった‼︎ビビリ、アークが代わる。今日はお休み…」

 

いつの間にかアトランタにつられる様に、俺も眠りに就いていた

 

「お疲れ様です…マーカス様…」

 

アークは俺に毛布を被せ、今しばらく寝顔を見た後、自室に戻った…

 

 

 

 

次の日の朝

 

「おはよ〜…ふぁ…よしっ‼︎もう大丈夫よ‼︎」

 

今日はひとみといよより早く起きた貴子さん

 

昨日早めに寝たおかげでたっぷりと睡眠が取れた

 

「あらっ。マーカス君‼︎昨日はあり…」

 

貴子さんの言葉が途中で止まり、笑みがこぼれる

 

「どう足掻いてもそうしなきゃ嫌なのね⁇」

 

貴子さんの眼下には、俺とアトランタ

 

しかし、アトランタの居る場所は俺の腹の上

 

アトランタはどう足掻いても俺に乗らなきゃ気が済まないらしい

 

「マーカス君っ」

 

「んぁ…はっ、貴子さん。傷は大丈夫ですか⁇」

 

「大丈夫‼︎ありがとね⁇」

 

「アトランタは…」

 

「ふふっ‼︎そこにいるわ⁇」

 

「あぁ…」

 

気持ち良さそうに寝息を立てるアトランタ

 

「きっと、マーカス君が落ち着くのよ」

 

無言のまま背中をポンポンと軽く叩くと、アトランタは目を覚ました

 

「寝起きの顔怖いわね…」

 

「怒ってるみたいだな…」

 

アトランタの寝起きの顔は凄く怖い

 

機嫌が悪くなった時に見るあのジト目だ

 

アトランタはしばらくジト目のままその辺をハイハイで歩き回り、俺はもう少しだけ横になる事にした…

 

 

 

 

「朝ごはん出来たわ‼︎」

 

子供達が起き始めたが、皆俺を起こさずにいてくれていた

 

「アトランタ⁇マーカスお兄さん起こしてくれる⁇」

 

アトランタは今日から離乳食

 

その前にマーカスお兄さんを起こさなければ、全てがパーになる

 

アトランタは言われた事を理解したのか、ハイハイで俺に近付き、頭の上に来た

 

そして、いつもの様に人差し指で俺の頭を撫でる

 

「アトランタか…」

 

目を覚ますと、アトランタの顔がドアップで映る

 

「朝ごはん出来たわ‼︎」

 

「分かったっ‼︎よいしょっ‼︎」

 

貴子さんの言葉とアトランタのクリクリで目を覚まし、いつもの朝を迎える…



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特別編 金剛バナナワニ園(1)

今回のお話は特別編です

金剛の所に向かう榛名

金剛の居場所は台湾

そこで金剛は何をしているのか…⁇


ある日の昼下がり…

 

「貴子さん。補給を受けたいダズル‼︎」

 

「あらっ、はるちゃん‼︎いらっしゃい‼︎勿論よ‼︎そこに座って‼︎」

 

突然榛名が補給を受けに来た

 

「いやぁ〜、ちょっくら台湾まで行かなきゃなんね〜ダズル‼︎」

 

非番でたまたま食堂にいた俺は、榛名の言葉にあの日のタナトスの言葉を思い出した

 

“金剛さんのバナナワニ園に連れてくといいでち‼︎”

 

「金剛の所か⁇」

 

「そうダズル‼︎リシュリューと一緒にチマチマチマチマ開墾してたんダズル‼︎」

 

今日はやたらとテンションが高い榛名

 

「そんなに金剛さんに会いたいの⁇」

 

「合法的にワニ叩けるからダズル‼︎」

 

「「なるほど…」」

 

榛名ならやりかねんな…

 

何にせよ、榛名は嬉しそうだ

 

「んじゃ、行って来るダズル‼︎貴子さん、ありがとうダズル‼︎」

 

「気を付けて行くのよ〜‼︎」

 

「バナナイッピー持って帰るダズル〜‼︎」

 

よほどワニを叩けるのが嬉しいのか、榛名は全速力で台湾方面に向かって行った…

 

 

 

 

 

数時間後、台湾

 

「来た来たマイク‼︎」

 

「お待たせダズル‼︎」

 

一足先に港で待っていた霧島が榛名を見付け、台湾に入国

 

「入国審査マイク」

 

まずは入国審査

 

「ウッセェ‼︎とっとと通らせるダズル‼︎とか言ったらダメマイク‼︎」

 

「へ〜へ〜。任せるダズル」

 

「Business or pleasure⁇」

 

「Business Dazzle」

 

「Where is your workplace⁇」

 

「Kongo “Banyanya” crocodile Farm Dazzle」

 

それを聞くなり入国審査官は慌てた表情になり、榛名、そして霧島のパスポートにスタンプを押した

 

「一発ダズル」

 

「バイリンガルなのを忘れてたマイク…」

 

「これ貸してやるダズル。これで言葉が分かるダズルよ」

 

榛名は振袖からきそリンガルを取り出し、霧島に渡す

 

霧島はそれを耳に付け、いざ金剛のバナナワニ園を目指す

 

 

 

「そこのお姉さん‼︎タクシー乗らないかい‼︎」

 

「海外に在り来たりな陽気なタクシーのにーちゃんダズル」

 

「折角だから乗るマイク」

 

「ありがとうございまぁーす‼︎」

 

二人はタクシーの後部座席に乗り、運転手がエンジンを掛けた

 

「どちらまで行かれますぅー‼︎」

 

「とりあえず出すダズル」

 

「かしこまりー‼︎」

 

タクシーが走り出し、榛名が目的地を告げる

 

「コンゴーバナナワニ園まで行くんダズル」

 

そう言うと、タクシーのにーちゃんが冷や汗を流し始めた

 

「お、お客さん…あそこは今はあんまり近付かねー方がいーです…」

 

「命が惜しけりゃ、前向いてアクセルダズル」

 

「は、はいぃ‼︎」

 

タクシーに乗っている間、榛名は外を眺めたりと静かにしている

 

「メガネのお姉さんも“コンゴー様”の所へ⁇」

 

「そうマイク。私達の姉マイク」

 

「ひ、ひぃ‼︎丁重にお送り致します‼︎」

 

タクシーのにーちゃんは更にしっかりとハンドルを握る

 

「コンゴー様ってなんダズル」

 

「コンゴー様は、私達に仕事が無い時に私達を雇ってくれます。あのお方が来てから、この街は潤いましてねぇ」

 

「アイツも役に立つダズルな」

 

「DeathDeath言ってるだけじゃないマイク」

 

「ですが、ここ最近悪人共を雇ったみたいで…貴女達が普通の女性だったら、行かせはしませんがねぇ…それで最初に断りを入れたんでさぁ」

 

「そいつらを更生させに来たんダズル」

 

「最悪、ワニに食わせてやるマイク」

 

「さ。ここでさぁ」

 

話している最中、目的地に着いた

 

「幾らダズル⁇」

 

「やー‼︎結構でさぁ‼︎コンゴー様には世話になってまっし‼︎」

 

「んじゃ、帰りも頼むダズル」

 

「来なきゃワニの…」

 

「ぜぜぜ絶対来まさぁ‼︎ははは…」

 

タクシーのにーちゃんを脅し、二人は入口前に立つ

 

入口には

 

“Kongo Banana crocodile Farm”

 

と、アーチが作られており、辺りには熱帯雨林にありそうな草木がある

 

「来てくれたDea〜th‼︎」

 

建物の入口から、久方振りに見る金剛が出て来た

 

「久方振りダズルな」

 

「元気にしてたマイク⁇」

 

「元気もなにも、売り上げ好調‼︎お金ザクザクDeath‼︎」

 

「大丈夫そうダズルな」

 

「ま〜ま〜、上がって一服するDea〜th‼︎」

 

金剛に背中を押され、榛名も霧島も建物に入る

 

建物は木造建築であり、ここは事務所兼小さな休憩所

 

霧島は普通に、榛名はハンマーを壁に置き、足を組んで椅子に座る

 

「榛名〜‼︎葉巻吸うDeath⁇」

 

「ヤベェのじゃなきゃ欲しいダズル」

 

「バナナの葉の葉巻Dea〜th‼︎」

 

金剛から投げ渡された葉巻を榛名が取り、口に咥えて、机の上にあったライターで火を点ける

 

「基地じゃ中々吸えないマイクね…」

 

「こういう時にっ…ブハァ…吸っろくもんらるる‼︎」

 

葉巻を咥えた榛名は、久方振りの紫煙を楽しむ

 

しばらく口に溜め込み、一気に吐き出す

 

「…ブハァ〜…ウメェダズル‼︎」

 

「榛名が葉巻咥えると更にハクが付くマイク…」

 

「んで⁇榛名達を呼んだ理由はなんダズル⁇」

 

「ま〜ま〜、ちょっと待つDeath。バナナジュースでも飲むDeath‼︎」

 

金剛はバナナジュースを乗せたお盆を榛名達の前に置き、それぞれの前に置いた

 

「頂くダズル」

 

「頂くマイク」

 

バナナ100%のジュースを流し込み、一旦喉の乾きを潤す

 

「話は聞いてると思うDeath」

 

「先の件の軍人ダズルな」

 

「一応は言う事は聞くDeath」

 

「奴等はバナナの方ダズルか⁇ワニダズルか⁇」

 

「ワニの方Death」

 

それを聞いて、榛名の目は嬉々とした

 

「霧島。オメェバナナの方担当ダズル。いいな⁇」

 

「そっちの方が楽そうマイク。オッケーマイク‼︎」

 

「んじゃ榛名はワニダズル‼︎よ〜し、盛り上がって来たダズル‼︎」

 

榛名は葉巻を灰皿に押し付け、バナナジュースを飲み干した

 

「あぁ、榛名‼︎葉巻持って行くDeath‼︎」

 

「こりゃあ中々旨かったダズル‼︎」

 

金剛から葉巻が5本ほど入ったケースを受け取り、榛名は振袖にしまう

 

「さ〜て、ワニと野郎の更生タイムダズル‼︎」

 

榛名は腕を回した後、ハンマーを手にする

 

「ワニ園はここを出て左に曲がって、ずっと奥Death‼︎看板通りに進むDeath‼︎」

 

「最悪ワニの二、三匹倒しても良いダズルな⁇」

 

「あんまり倒したらダメDeathが…それ位ならオッケーDea〜th‼︎」

 

「むっふふふ…」

 

興奮でウズウズする榛名

 

普段ゲーセンで培ったワニ叩きの技術を、遂に活かせる日が来たのだ‼︎



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特別編 金剛バナナワニ園〜ワニ小屋エリア〜(2)

バナナワニ園のワニエリアに来た榛名

早速ワニを叩き始めます


「ん〜と…次は右ダズルな」

 

看板通りに進む榛名

 

「ひぃ‼︎嫌だ‼︎」

 

「助けて‼︎誰か‼︎」

 

「こっちダズルな」

 

悲鳴が聞こえる方に行けば、ワニ園に行ける

 

「着いたダズル…おっ…」

 

ワニ園に着いた時、誰かが来たので建物の影に隠れて様子を伺う…

 

「く、来るな‼︎誰か来てくれ‼︎」

 

職員が一人、ワニに詰め寄られている

 

「うおりゃ‼︎」

 

榛名は急に飛び出し、ハンマーでワニの上顎を叩いた

 

ぷべら‼︎みたいな鳴き声を出した後、ワニは榛名に恐れをなしたのか、ワニ小屋に戻って行った

 

「あ、ありがとうございます‼︎」

 

「オメェは物分かりがいいダズルな⁇」

 

「自分はコンゴー様の元で働かせて頂いている者です」

 

「最近来た奴等はどこダズル」

 

「あの宿舎」

 

目先には、木造の宿舎がある

 

「おしゃ」

 

榛名は早速、宿舎の扉へと向かう

 

「開けるんダズル‼︎」

 

しかし、返答は無い

 

「そ〜かそ〜か。なら粉砕ダズル‼︎おりゃ‼︎」

 

たった一撃で扉は外れ、中には三人の男性が居た

 

「何の用だ‼︎」

 

「お前の居場所なんかここにはない‼︎」

 

「ちょっとオメェらにお灸をすえなきゃならんダズル。まずはオメェからダズル‼︎」

 

「人を殴りたいなら他所でやれ‼︎」

 

「榛名は殴らんダズルよ⁇」

 

榛名はそのまま、一番近くに居た男性を縄でぐるぐる巻きにし、外へと連れ出す

 

「今からオメェをそこにくくりつけるダズル」

 

「何をする…やめろ‼︎お前には道徳が無いのか‼︎」

 

「悪人共に向ける道徳なんざねぇダズル‼︎」

 

榛名は本当に表に刺さっていた棒に男性をくくりつけた

 

「やめろ‼︎喰われる‼︎喰われる‼︎」

 

「次はオメェダズルな‼︎」

 

「嫌だ‼︎反省してます‼︎反省してますから‼︎」

 

「はいはい。能書きはいいダズル」

 

こうして、三人はワニ小屋の真ん前で身動き取れずに野晒しにされた

 

「榛名がワニ小屋開けたらどうなるダズル⁇」

 

蒼龍並の“ニタァ”と笑った顔を、三人へと向ける

 

榛名の手は、今ワニ小屋の扉に掛かっている

 

「ま、真面目に働いてる‼︎」

 

「本当だ‼︎」

 

「反省してますから‼︎」

 

「んなこたぁ、榛名は知らんダズルな。ほれ‼︎」

 

ガラガラガラ‼︎と少しだけワニ小屋を開け、そして締める

 

「やめて下さい‼︎」

 

「こんな所で死にたくない‼︎」

 

「もうあんな事絶対しませんから‼︎」

 

「あははははは‼︎傑作ダズル‼︎」

 

三人共、怯えた顔を榛名に向ける

 

「もう絶対しねぇダズルな⁇」

 

「「「絶対しません‼︎」」」

 

三人声を揃えて、二度と同じ過ちをしない事を誓う

 

「まぁ、許してやるダズル。君、外してやるダズル」

 

「分かりました‼︎」

 

先程の職員が、三人の拘束を解いた

 

「いいか。榛名の言った言葉の返事は、はいかイエスダズル。分かったか‼︎」

 

「「「はい‼︎」」」

 

「よしゃ。んじゃ榛名はワニの調教に入るダズル。各々の仕事をするダズル」

 

「「「はい‼︎」」」

 

完全にはいしか返事をしなくなった三人は、ワニ小屋の周辺を掃除し始めた

 

「あ、えっと、ハルナ‼︎」

 

「あ⁇」

 

「自分、ポコ言います‼︎」

 

「そうダズルか。ま、ちょっと待ってるダズル」

 

「え⁉︎ハルナ‼︎嘘でしょ⁉︎」

 

そう言って、榛名はハンマー片手にワニ小屋へと入って行った

 

 

 

 

「うひゃ〜‼︎」

 

ワニ小屋に入った榛名は大興奮

 

至る所に、ワニ、ワニ、ワニ

 

デカイのから小さいのまで沢山いる

 

「なにガン飛ばしてんダズル」

 

口を大きく開けて威嚇する、榛名の近くにいた中くらいのワニ

 

榛名はわざとらしく、ハンマーを床に置き、ドンッと音を出した

 

中くらいワニは一瞬ビクッとなるが、威嚇はやめない

 

「ガン飛ばしてんならかかって来いダズル‼︎」

 

榛名の言葉が分かったのか、中くらいワニは榛名に向かって来た‼︎

 

「うおりゃあ‼︎」

 

榛名は中くらいワニをサッと避け、ボディに強烈な一撃を加えた‼︎

 

中くらいワニは痙攣し始め、榛名の足元に倒れた

 

「た、たまらんダズル…」

 

ワニを叩いて、超御満悦な榛名

 

しかし、それを良しとしないワニ小屋のワニ達

 

既に榛名の近くのワニ達は、口を開けて威嚇しているか、ゆっくりと榛名に近付いている

 

「な〜に見てるんダズル」

 

榛名も榛名でワニ相手に挑発する

 

再びそれに気付いたのか、榛名を中心に扇状に展開したワニ連合は一斉に榛名に襲い掛かった‼︎

 

「オラオラオラオラオラ‼︎」

 

榛名も榛名で、ハンマーの殴打でワニを叩き返す

 

数匹が宙を舞い

 

数匹は壁に叩き付けられ

 

また数匹は榛名の足元で気絶

 

「ハンッ‼︎ヘボダズルな‼︎ボスを出すダズル‼︎」

 

ゾーンに入った榛名に敵は無い

 

ボッコボコにされたワニ達は、榛名を見て後退りし始めた

 

「お…」

 

そんな中、プールの中から巨大なワニがのっそりと出て来た

 

「そうそう‼︎こういうのダズル‼︎」

 

明らかにボス格の巨大ワニ

 

異質なのか、長年の争いがそうさせたのか、体長は5mを越し歴戦の猛者なのか、体には大量の傷がある

 

「オメェ相手には、ハンマーふたつダズル」

 

ダブルハンマーハルナVSボスワニの戦いが始まる‼︎

 

先手を取ったのはボスワニ

 

ボスワニは榛名に向かって行きつつ、口を開ける

 

「甘い甘いダズル‼︎おりゃあ‼︎」

 

榛名は最初のパターンと同じく、横に避け、今度は上顎にキツイ一撃を加えた

 

が…

 

「中々根性あるダズルな‼︎」

 

皮膚が厚いのか、ボスワニはゆっくりと榛名の方に向き直した

 

「今度はこっちの番ダズル‼︎」

 

榛名はまず左手のハンマーでワニのボディに一撃を入れ、間髪入れずに右手のハンマーでもう一度上顎に打撃を与える

 

「ほほぅ⁇」

 

普通なら一発だけでもかなりのダメージが入る榛名のハンマーを三発も耐え、あまつさえ睨み返している

 

「ぐわ‼︎」

 

ボスワニは榛名の一瞬の隙を突き、榛名の左手のハンマーの柄に噛み付き、へし折った

 

「な、中々やるダズルな…」

 

ボスワニは強さを見せびらかすかの様にハンマーの柄をボリボリと鳴らせた後、その辺に吐き出した

 

「そろそろ本気で行くダズル」

 

おそらく、次の一撃で命運が決まる

 

榛名がエサになるか…

 

ボスワニの痙攣か…

 

そして、ボスワニが榛名に向かって走り出した…

 

 

 

 

「ハンッ‼︎榛名に勝とうなんざ五百年早えぇダズル‼︎」

 

榛名の眼下には仰向けにひっくり返り、痙攣するボスワニの姿がある

 

榛名は立ち向かって来たボスワニの脳天に対し、本日最高威力の一撃を振り下ろしたのだ

 

「やっぱり榛名が一番ツエーんダズルな‼︎はっはっは‼︎」

 

「は、ハルナ‼︎これは一体‼︎」

 

「死んじゃあいねぇダズル」

 

ワニの餌を持って来たポコが目にしたのは、気絶しまくり、痙攣しまくりのワニ達の姿

 

ポコからすれば、榛名は超が付くヤバイ人間に見えた

 

なんせ銃火器の類も無しに数十匹はいたワニを全滅させたからである

 

「オラ、いつまで痙攣してるダズル‼︎飯ダズル‼︎」

 

榛名が手をパンパンと叩くと、痙攣していたワニも気絶していたワニも我に返った

 

起きないとまたハンマーによる一撃が来ると、本能で察知したワニ達は、ポコが持って来た鶏肉の前に来た

 

「一列に並ばなきゃハンマーダズル」

 

榛名が手振りで“一列に並べ”と促すと、ワニ達は一列に並び始めた

 

「ハルナ‼︎どうやって芸教えた⁉︎」

 

「本能で分からせたダズル」

 

ポコは驚きを隠せない

 

しかも、ワニ達はキチンと一匹一匹鶏肉を受け取り、ほぼ全員に鶏肉が行き渡った

 

一匹を除いて…

 

「ほれ、オメェも食うダズル」

 

ボスワニは負けた事を理解したのか、端っこの方にいた

 

「オメェはよく戦ったダズル」

 

榛名に賞賛され、体を撫でられ、ボスワニは鶏肉を口にした

 

「ワニ達いいダズルか‼︎人間食ったら、榛名がオシオキするダズル‼︎ちゃんと言う事を聞いたワニは、沢山お肉が食えるダズル‼︎」

 

勿論分かって無いワニの方が多い

 

が、ボスワニだけは何となく理解してくれた気がした榛名

 

「そうだハルナ。ここでは放し飼いのワニ見るワニクルーズある。そこのワニ、ちょっと凶暴。ハルナ出来るか⁇」

 

ポコが言うには、放し飼いされているワニはワニクルーズを目的に来る人が居るが、若干凶暴らしい

 

「やってや…あ⁇どうしたダズル」

 

ボスワニが榛名に着いて来た

 

「このワニ、外でも最強」

 

「連れてっていいダズルか」

 

「まぁ…」

 

ボスワニとポコと一緒に、榛名は外に出て来た

 

「げっ‼︎」

 

「やめて下さい‼︎なにしてるんですか‼︎」

 

「早くしまって下さい‼︎」

 

表にいた三人はボスワニに慌てふためく

 

が、ボスワニは見向きもせず、川に向かって歩き始めた

 

「す、凄い…」

 

「我々はなんて人達を相手にしていたんだ…」

 

「ま、真面目に生きよう…」

 

ボスワニが表に出て来た事より、榛名の強さに感服した三人はこれ以降、真面目に働き、精を出したと言う…

 

 

 

「そっから行くんダズルか」

 

二人と一匹の前には、思っていたより遥かに綺麗な川があった

 

ボスワニは川沿いの砂が多い辺りに着いた途端、足を止め、榛名の方を見た

 

「よ〜し、良い子ちゃんダズル‼︎潜ったらダメダズル。いいな⁇」

 

ボスワニは一度瞬きをした

 

それは“分かった”との相槌にも見えた

 

「よっこらせダズル」

 

榛名がボスワニの背中に乗ると、ボスワニは視線を川の方に向け、川に向かって歩き始めた

 

「ハルナ‼︎気を付ける‼︎」

 

何となく、ポコは榛名なら出来そうと踏んでいた

 

それに、ポコは金剛から聞かされていた

 

榛名が来たら、ワニを調教するだろうから、後は逆らわずに任せれば良い、と…



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特別編 金剛バナナワニ園〜ワニクルーズエリア〜(3)

ボスワニを打ち倒した榛名

そのワニに跨り、ワニクルーズエリアにいる悪いワニの退治に向かいます


「さ〜てさて‼︎ワニちゃんクルーズダズル‼︎」

 

“本物のワニクルーズ”を堪能しつつ、榛名とボスワニは悪いワニを探す

 

しばらく行くと、浅瀬に来た

 

そこには大量のワニがおり、太陽を浴びたり、群を作っているワニもいる

 

ボスワニと榛名が近付いた途端、そこにいたワニ達は一斉に敵意を向けて来た

 

「一丁オシオキダズルな…」

 

榛名は葉巻に火を点け、ハンマーを握り直す

 

「ガン飛ばしてんじゃねーダズル‼︎オラァ‼︎」

 

ワニと目が合うや否や、榛名はワニをなぎ倒して行く

 

「榛名に従わねー奴は粉砕ダズル‼︎」

 

またしても宙を舞うワニ達

 

嬉々としてワニを叩きまくる榛名のその姿は、まさに鬼神

 

ものの数分もしない内に、悪いワニ連合は壊滅

 

ほとんどが腹を向けて水面に浮いているか、逃げ出すワニが続出

 

逃げ出したワニに対しても榛名とボスワニは追撃をやめず、見つけ次第ハンマーによる一撃を加え、宙を舞まさせる

 

「ハンッ‼︎ザコダズルな‼︎」

 

榛名は短くなった葉巻を人差し指で弾いて、ワニ達の前に捨てた

 

「おしゃ。こんなモンダズル。後は一周したら、お家に帰るダズル」

 

制裁を加えたので、榛名達は浅瀬を去ろうとした

 

「お。何ダズル」

 

倒されたワニ達が起き上がり、榛名とボスワニの周りを同じ方向に泳ぎ始めた

 

どうやら、新しいボスと思っている様子

 

「連れてってやるダズル‼︎」

 

榛名とボスワニは、群の中心になり、まるで輪形陣の様な形で川を一周し始める…

 

 

 

 

川を半周程行くと、前方に船が見えた

 

言っていたワニクルーズの船だ

 

「クルーズ船ダズル‼︎お行儀良く行くダズルよ‼︎」

 

ワニ達は輪形陣の様な形のまま、クルーズの近くまで来た

 

「な、何だあれは‼︎」

 

「人がワニに乗ってるぞ‼︎」

 

クルーズ船の客の視線を集めたのは、目的のワニではなく、一番巨大なワニに乗っている榛名

 

「神様だ‼︎神様がワニに乗って現れたぞ‼︎」

 

「違う違うダズル‼︎榛名はそんな良いモンじゃねーダズ…」

 

「はは〜…」

 

「ありがたやありがたや…」

 

クルーズ船の客は、榛名にお辞儀をしたり、手を擦り合わせている

 

「…まぁいいダズル。思い込みも大事ダズルな」

 

この後、このワニクルーズは

 

“神様が見えるワニクルーズ”

 

として、多方面から愛されるアトラクションとなるのは、また別のお話…

 

 

 

榛名達は川を一周した後、元の場所に戻って来た

 

川にいたワニ達は、榛名達が着いたのを見届けると、川の流れに沿って泳いで行った

 

ボスワニとのお別れの時間…

 

「これからも良い子ちゃんにするダズルよ⁇」

 

榛名がボスワニの頭を撫でると、ボスワニは何度か榛名の顔を寂しそうに見た後、ワニ小屋に戻って行った…

 

「いやぁ〜‼︎気分爽快だったダズル‼︎」

 

散々ワニを叩き、若干神様を崇められ、榛名はご機嫌なまま、金剛達の元に戻って来た

 

「お帰りなさいDea〜th‼︎」

 

「おかえり‼︎榛名‼︎」

 

「お疲れさマイク‼︎」

 

霧島とポコもおり、皆夕食の準備を進めている

 

「ハルナ凄い‼︎ワニ手懐けた‼︎」

 

「ついでにアイツらにも制裁を加えたダズル‼︎」

 

「榛名は強いDea〜th‼︎さ‼︎ごはんにするDeath‼︎」

 

「腹減ったダズル‼︎」

 

晩御飯はチキンカレーとバナナ料理だ

 

「明日はバナナ売りに行くDeath」

 

「叩き売りマイク」

 

「榛名は横で見とくダズル」

 

晩御飯が終わり、榛名と霧島はしばらく葉巻を燻らせた後、眠りに就いた…



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特別編 金剛のバナナの叩き売り

バナナワニ園でのお仕事を終えた榛名

最後のお仕事は、金剛のバナナの叩き売り

榛名は横で金剛を眺めます


次の日

 

「さ〜さ〜‼︎バナナ積むDea〜th‼︎」

 

朝ごはんのバナナ多めのバナナシェイクを飲んだ後、金剛はトラックにバナナを大量に積み込み始めた

 

「誰が運転するんダズル⁇」

 

「任せるDea〜th‼︎」

 

金剛が右手の親指を立てる

 

「私は荷台で様子を見とくマイク‼︎」

 

「榛名は助手席ダズル‼︎」

 

「行ってらっしゃ〜い‼︎」

 

ポコに見送られ、バナナ満載トラックは街に向けて出発

 

その車内で榛名はまた葉巻に火を点けていた

 

「気に入ったDeathか⁇」

 

「気に入ったダズル。それと、吸ってしまわないと帰ったら吸えないダズル」

 

「赤ちゃんがいるらしいDeathね⁇」

 

「吹雪がいるダズル。そうだ。たいほうがオメェに会いたがってたダズル」

 

たいほうはずっと金剛のファンでいる

 

基地のテレビで時折流れる金剛が出演するCMを見てニコニコしているのを、榛名は見逃していなかった

 

「たいほうちゃんは可愛いままDeathか⁇」

 

「可愛いダズルよ。今も素直で優しい子ダズル」

 

「今度そっちに帰る用事があれば、お土産持って顔見せるDeath‼︎」

 

そうこうしている内に、金剛は人が集まる場所にトラックを止めた

 

「降ろして下サイ‼︎」

 

「了解マイク‼︎」

 

いつもそうしてるのか、金剛は降りてすぐに手際良く叩き売りの台を組み立てて行く

 

そこに並べられて行く、食べ頃バナナ達

 

「さーさー‼︎寄ってらっしゃい‼︎見てらっしゃい‼︎」

 

金剛はハリセンの様な物をテンポ良く机に叩きながら声を上げる

 

通行人の何人かが足を止め、金剛の前に来た

 

「今日は絶好バナナ日和‼︎バナナと言えば叩き売り‼︎最初は高いが終わりは安い‼︎高く買えば自慢が出来る‼︎安く買えば節約出来る‼︎さぁさぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい‼︎」

 

また人が集まって来た

 

「さてさてこのバナナ、生まれも育ちもここ台湾‼︎美味しくなるまで数ヶ月‼︎ようやく貴方の所へいざ参る‼︎栄養満点‼︎テストも満点‼︎これを食べれば頭も回る‼︎こいつが一房たったの100元‼︎さぁ‼︎買った買った‼︎」

 

「面白いダズル‼︎」

 

いつもの語尾のDeathが消え、饒舌にテンポ良く啖呵を切る金剛

 

榛名からすれば、そのバナナが高いかどうか分からないが、金剛の叩き売りの仕方は中々面白い

 

そんな中、一人のお客が金剛の前に来た

 

「ありがとうございマース‼︎あ、ちょっと待つDeath‼︎霧島ー‼︎」

 

「はいマイク‼︎」

 

「これ、オマケDea〜th‼︎」

 

霧島が持って来た袋の中には、二房追加でバナナが入っていた

 

「さぁさぁ一つ売れた‼︎残りはいいかな⁇今ならあれだけオマケが来るよ‼︎」

 

金剛がそう言うと、あの量でその値段は安いのか、三人程買いに来た

 

「さぁさぁ‼︎も少し安くしようじゃないか‼︎その前に少しは話を聞いとくれ‼︎」

 

買う予定の無い榛名は、値段より金剛の話の上手さに聞き入っていた

 

「さてさてこの金剛‼︎産まれはイギリス‼︎育ちは日本‼︎好きなのやっぱりここ台湾‼︎そこで出会ったこのバナナ‼︎朝食昼食夕食おやつ‼︎何処に入れてもバッチグー‼︎さぁさぁ本日お買い得‼︎こいつが一房80元‼︎さぁ‼︎買った買った‼︎」

 

「おぉ〜‼︎」

 

榛名は自然と拍手を送っていた

 

お買い得なのか、金剛の前には沢山の人が集まる

 

そして、一人一人にバナナが二房入った紙袋を渡して行く

 

「さぁ‼︎残りのバナナは後少し‼︎しかし金剛売り切りたい‼︎さぁさぁ寄ってらっしゃい‼︎最後の仕上げだ‼︎」

 

「…」

 

生唾をのみ、行く末を見届ける榛名

 

「誰かが買わなきゃ妹が‼︎ワニ園吊るされ妹が‼︎餌にされるぞ妹が‼︎ヒェーヒェーと鳴くけれど‼︎アンタが買わなきゃワニの餌‼︎買った買った持ってけドロボー‼︎30元デース‼︎」

 

ここでほとんどの人が金剛の前に並び始めた

 

そして、榛名は現地の人の言葉を聞き逃さなかった

 

「いつもの値段でこの量はかなり多いな‼︎」

 

「お買い得だよ‼︎」

 

「金剛さんの所のバナナは美味しいからね‼︎」

 

台湾の言葉ではあったが、バイリンガルの榛名の耳にはしっかりと入っていた

 

バナナが30元になってから、ものの10分もしない内に、トラックに積み込まれたバナナは空になった

 

「一旦戻るDeath‼︎」

 

金剛はこうして暇があれば何処かしらでゲリラ的にバナナの叩き売りをし、中々の量の小銭を集めている

 

この日、計三度バナナの叩き売りをし、全て完売した…

 

 

 

 

「そろそろ榛名達は帰るダズル」

 

「またお小遣い欲しくなったら来るDeath‼︎はい‼︎」

 

金剛からお土産のバナナが入った段ボールと、お金の入った茶封筒を渡される榛名と霧島

 

「小遣いレベルじゃないマイク…」

 

計2日間金剛バナナワニ園に応援に行った二人は、金剛からそれぞれ3万程を手渡された

 

「そうだ。お金を出すから、貴子さんの基地の分と、トラックさんの所に送るバナナ欲しいダズル」

 

「ふふふ…お金は要らないDeath‼︎持って行くDea〜th‼︎ポコー‼︎」

 

「はい、コンゴー様‼︎」

 

金剛はポコに頼み、榛名と霧島にもう一つずつバナナが入った段ボールを持たせてくれた

 

「タクシーが来たDeath‼︎」

 

「また来るダズル‼︎」

 

「バイバイマイク‼︎」

 

「ハルナ、キリシマ、また来る‼︎」

 

「ワニを頼んだダズル‼︎」

 

金剛バナナワニ園を後にし、榛名と霧島はタクシーに乗り、港を目指す…

 

 

 

「どうだった‼︎コンゴーバナナワニ園は‼︎」

 

帰りのタクシーは、勿論行きと同じタクシーのにーちゃん

 

「オメェ、暇があるならワニクルーズに行って来るダズル」

 

「ワニクルーズかぁ‼︎妹が今担当してるんでさぁ‼︎」

 

「ポコダズルか」

 

「おっ‼︎会いましたか‼︎」

 

この陽気なタクシーのにーちゃん

 

実はワニ園にいたポコのお兄さんだった

 

「結構可愛い子ダズルな」

 

「自慢の妹です‼︎後は嫁ぎ先が決まりゃあ、問題ないんすがねぇ‼︎ははは‼︎さぁ‼︎着きました‼︎」

 

多少はウザかった陽気なにーちゃんだが、いざ別れになると急に名残惜しくなる

 

「今度来た時も乗せて欲しいダズル」

 

「また来るマイク‼︎」

 

「勿論でさぁ‼︎」

 

タクシーが走り去り、榛名達は港に振り返る

 

「来た来た‼︎榛名さ〜ん‼︎霧島さ〜ん‼︎」

 

「イカさんダズル‼︎」

 

港に停泊した高速艇の前で、煙草を吸っているイカさんが手を振っている

 

迎えに来てくれたみたいだ

 

榛名達は早々に出国審査を終え、高速艇に乗り込み、帰路に着いた…

 

 

 

 

その途中、貴子さんのいる基地に寄り、たまたま居合わせた衣笠にお土産のバナナを渡し、榛名達は単冠湾へと帰って行った…




タクシーのにーちゃん…タクシーのにーちゃん

外国によくいるであろう陽気なタクシーのにーちゃん

金剛バナナワニ園に詳しく、いつもなら観光にオススメしてくれる

結構安く乗せてくれるので、人気がある



ポコ…褐色のねーちゃん

金剛バナナワニ園のワニエリアで働くお姉さん

動きがちょこちょこして可愛い

たまにワニ小屋からワニを出しちゃうのがたまにキズ

タクシーのにーちゃんとは兄弟


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269話 オランダからの来訪者(1)

さて、268話、そして特別編が終わりました

今回のお話は、突如として現れた謎の艦娘のお話です

どうやらここに来たのには訳がある様子で…


「あの方が建築士の方ですか⁇」

 

「そうよ〜。牧場に色々造ってくれるの」

 

親潮と横須賀が、牧場の片隅でお昼ご飯のサンドイッチを頬張りながら建設中の施設の視察をする

 

少し離れた場所で、金髪の女の子がレンガを積み上げている

 

「数日前に建築士として派遣されて来たのよ」

 

「何を建てるのでしょう…」

 

「完成してからのお楽しみよっ‼︎さっ‼︎次は学校の視察よ‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

横須賀と親潮はお昼ご飯を片付け、学校の視察に向かう…

 

 

 

 

「たまにはこうしてビビリと出掛けないと、アークもヤバい‼︎」

 

時同じくして、繁華街では俺とアークが“チキンランド・ミズホ”に来ていた

 

俺は横須賀から直轄の視察依頼

 

アークは一般向けに対しての視察依頼

 

どちらも正式な視察依頼に変わりはない

 

が、今回はアークの方が大切そうだな

 

「ストレスがマッハか⁇」

 

「たまにはアークがビビリを独占してもいいだろう‼︎」

 

そう言うアークの口元は、チキンの衣まみれ

 

普段子供達の口を拭く立場にあるアークは、基地では凄く丁寧に食事を取る様になった

 

だが、今日は通常のアークでいるため、食い方も通常に戻っている

 

「どれ‼︎ビビリ曰くモーモーさんとガーガーさんでも見に行こう‼︎」

 

手と口を拭いたアークは立ち上がり、俺に早く立てと目で訴える

 

「…分かったっ」

 

一生言われるんだろうなぁ…

 

「瑞穂のチキン、どうでしたか⁇」

 

いざ立ち上がった時、店主である“瑞穂”が此方に来た

 

「美味かった‼︎確かにフライドチキンは繁華街にはなかったな‼︎」

 

「これは美味かったぞ‼︎衣もサクサクしていてしっかり味が付いていた‼︎アークも見習わなければな‼︎」

 

「ありがとうございます。濡れティッシュをどうぞ」

 

瑞穂が両手に持っていたお盆には、濡れティッシュが乗っている

 

「また来るよ‼︎」

 

「今度は子供達も連れて来よう‼︎」

 

「お待ちしておりますね」

 

出る前に濡れティッシュで手を拭き、脂っ気を無くして牧場に足を向ける

 

 

 

 

「見ろビビリ。脱走ガーガーさんだ」

 

「どっから出て来たんだ…」

 

牧場に着く寸前、目の前から小さめのアヒルが脱走しているのが見えた

 

もうすぐ大人になるサイズなので他と比べてまだ小さいこのアヒル

 

柵かなんかの隙間から出たんだろう

 

自然とその場で屈み、寄って来るのを見計らって手を伸ばす

 

「よいしょっ」

 

アヒルは簡単に俺に抱き上げられ、背中を撫でながら立ち上がる

 

「ビビリはガーガーさんの子供にも懐かれるのか‼︎」

 

「どうだろうなぁ〜」

 

背中を撫でられているアヒルは、口を半開きにして気持ち良さそうなご様子

 

「マーカスさん」

 

「おぉ‼︎山風か‼︎」

 

牧場の方から来た山風は、俺の目を見た後、アヒルに目をやる

 

「あのね、柵の間から逃げちゃったの…」

 

「そうかそうか」

 

「マーカスが直してくれるらしいぞ‼︎」

 

元からそのつもりだったが、アークに先に言われた

 

「デート中なんじゃ…」

 

心配してくれているのか、山風は俺とアークを交互に見る

 

「いいんだ。それがデートになる。な⁇アーク⁇」

 

「そうだぞヤマカゼ‼︎アークはな、マーカスが動いている背中を見るのが大好きなんだ‼︎」

 

「ありがとう。こっち」

 

山風にアヒルを渡し、その後ろを俺とアークが着いて行く

 

「出ちゃダメだよ。いい⁇」

 

鳥小屋に置かれたアヒルは、小屋の中を歩き始めた

 

「来て」

 

小屋の中にある用具入れから工具箱を取り、山風に着いて行く

 

「ここ」

 

「こりゃあ出れるわな…」

 

誰かが何かをぶつけたのか、柵の一部分の足元に中くらいのアヒルなら簡単に出入り可能なサイズの穴が開いてしまっていた

 

「塞げそうなのを探して来るから、ちょっと待っててな⁇」

 

「うんっ。ありがとう」

 

何かしらの板がいるな…

 

いや、あそこの柵だけ張り替えるか…

 

「見ろマーカス‼︎ピヨちゃんフェスティバルだ‼︎」

 

さっきあれだけ俺の背中が好きだと言っていたアークは、既にヒヨコの大群に夢中になっている

 

「そこに居ろよ⁇すぐに戻る」

 

「ほ〜ら、豆だぞ〜」

 

ダメだ、聞いてない

 

用具入れの中なら何かあるだろうと、もう一度来た

 

「え〜と…」

 

木の板、ワイヤー…

 

そうだ、四角辺りに穴を開けてワイヤーを通したら行けるか

 

これなら釘とかも飛び出す心配も怪我もないな

 

早速作業に取り掛かる…

 

 

 

 

「アークさん、ヒヨコちゃん好き⁇」

 

「小さいのは大体好きだ‼︎」

 

アークと山風はピヨちゃんフェスティバルに夢中

 

「段々とここも色々建ち始めたな⁇」

 

「次はどんなの来ると思う⁇」

 

「そうだなぁ…羊かヤギ、なんてどうだろう⁇」

 

「羊はとても良い案ですね‼︎ゴトも素敵だと思います‼︎」

 

柵の向こうから急に話し掛けて来たのはゴトランド

 

「貴様は弁当屋の娘か‼︎」

 

「そうそう。ゴトランドですっ‼︎羊を飼うのはとても良い案です‼︎」

 

「貴様…さてはあれだな⁇羊フェチだな⁇」

 

「羊は良いですよ〜…ゴトは大好きです」

 

「目が怖い…」

 

羊の話をした途端、ゴトランドの目は一点見つめでにやけ顔

 

山風がアークの服の裾を摘んで背後に隠れるレベルだ

 

「知っていますか⁇世の中には最強の黒い羊がいるんですよ⁇」

 

「ほぅ…羊界にもウィリアムの様な奴がいるのか」

 

「黒い羊…何か怖い…」

 

「そんな羊の毛を刈ってセーターにしたら、最強の力を身に纏う事が出来ます」

 

「ゴトー‼︎行くよー‼︎」

 

「ガッキーだ‼︎またね‼︎」

 

「奴もデートか…」

 

アークは見逃さなかった

 

高垣がゴトランドを呼んだ時、女の顔になったのを…

 

「よ〜し、終わった‼︎」

 

「マーカスだ‼︎」

 

「お〜お〜、ホントにヒヨコちゃんフェスティバルだな⁉︎」

 

さりげなく山風の頭を撫でた後、工具を仕舞いに小屋の中に入った

 

「マーカスさん、ありがとう」

 

「これくらいならいつでもっ‼︎」

 

「マーカスはあれだな。医療とかこういうちょっとした時はいつでも‼︎と返すな⁇」

 

「人の生き死にに、特に死に関わるよりウンとマシだからな‼︎」

 

実際、こういう事をしている方が本当は気が楽でいい

 

まぁ…結局は空に戻るんだがな…

 

「そういえば、新しい施設を造ってるんだって」

 

「何処にだ⁇」

 

「あそこ。レンガがいっぱいあるよ」

 

山風が指差す方向を見る

 

そこには一人で、実に楽しそうに作業をしている金髪の女の子がいた

 

「げっ‼︎」

 

「初めて見る子だな⁇」

 

初めて見る顔の子だと思っていた矢先、隣でアークが冷や汗を流している

 

「知り合いか⁇」

 

「知っているもなにも‼︎何故奴を横須賀に呼んだ‼︎」

 

「俺は初耳だ‼︎」

 

「私も‼︎」

 

「うぬぐぐ…そうだった…と、とにかくだ‼︎奴を止めるぞ‼︎」

 

アークは何故かレンガを積み上げている女の子を止めに入った

 

「おい貴様‼︎何を建てる気だ‼︎」

 

「風車だパース。風車いっぱい造るパース‼︎」



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269話 オランダからの来訪者(2)

アークの怒号を一瞬聞き、またすぐにレンガを手にした、語尾に特徴のある女の子

 

放っておくとマズイ気がする…

 

「おいコラやめろ‼︎」

 

アークが背後から羽交い締めにして、女の子はジタバタし始めるが、レンガの積み上げは一旦終わる

 

「なにするパース‼︎パースは横須賀にいっぱい風車建てるんだパース‼︎」

 

「それがいかんと言っているんだっ‼︎」

 

「まぁまぁ。アーク、ちょっとは落ち着け」

 

「マーカス‼︎このパースに風車を幾つ建てるか聞いてみろ‼︎」

 

女の子の名前はパース

 

金髪で顔立ちも良いが、語尾が全てをダメにしている

 

 

 

 

 

「ウエックショイ‼︎うぅ…にゃろう…どっかでメッチャバカにされた気がするダズル…」

 

 

 

 

 

アークに言われた通り、パースに聞いてみる

 

「パース。横須賀に風車を幾つ建てるんだ⁇」

 

「120個位パース」

 

「し、執務室に連行しろ‼︎今すぐだ‼︎」

 

「任せろ‼︎そりゃ‼︎」

 

ひ、120だぁ⁉︎

 

そんなに造られたら横須賀中風車だらけだ‼︎

 

「だーっ‼︎何でだパース‼︎正直に言ったパースゥ‼︎」

 

パースは更にジタバタするが、遂にはアークに担がれ、身動きが取れなくなった

 

「ダメだパース‼︎貴様は横須賀にしょっ引いて貰う‼︎」

 

「横須賀さんに頼まれたんだパース‼︎」

 

「一個だけだろうが‼︎アークは貴様の全てを知っているからな‼︎」

 

「うぎぎ…離すんだパース‼︎」

 

しかしアークは絶対パースを離さない

 

ガッチリホールドされたまま、パースは執務室に連れて来られた

 

執務室に着き、無線で横須賀を呼ぶ

 

「横須賀。何処にいる⁇」

 

《あらレイ‼︎今から執務室に帰る所よ⁇》

 

「大至急来い‼︎話は後だ‼︎」

 

《分かったわ‼︎》

 

無線が切れた後、後ろを振り返ると、グルグル巻きにされて床に正座させられているパースがいた

 

「パースは何も悪い事してないパース」

 

「ダメだ‼︎貴様は放っておくとすぐに風車を造る‼︎」

 

パースの前では、アークが胸の下で手を組み、パースが逃げない様に見張っている

 

「来たわよ‼︎」

 

「ただいま戻りました‼︎」

 

横須賀と親潮が帰って来た

 

「ジェミニ貴様か‼︎パースに風車を頼んだのは‼︎」

 

「えぇ…どうかしたの⁇」

 

「言ってみろ、パース。幾つ造るつもりだった」

 

アークの眼力が怖くなり、パースに向けられる

 

「たった120個位パース‼︎」

 

「ひ、120個ですって⁉︎」

 

「そんなに建てたら、横須賀の基地中風車だらけです‼︎」

 

「パースは風車造りたいんだパース‼︎離せー‼︎」

 

再びジタバタし始めるパース

 

若干だが、可哀想になって来た

 

よっぽど風車が好きなんだろうな…

 

「ジェミニよく聞くんだ。このパースはな、イギリスの盆地に山ほど風車を造って有罪になり、オランダに島流しになった奴だ‼︎」

 

「あら…」

 

「オランダも風車だらけにしてやったプァ〜ス‼︎」

 

憎たらしい顔をするパースの反対側で、親潮が何かを調べている

 

「ジェミニ様、創造主様。アーク様の言葉は本当の様です。現在、オランダでは乱立された風車の解体作業に手を焼いている様子です」

 

「パースを島流しにするからこうなるんだパース‼︎ははははは‼︎」

 

やばい奴だ…

 

そこにいた誰もがそう思っていた…

 

アーク以外は

 

「こ、の、や、ろー‼︎」

 

「ひれれひれれ‼︎アーク‼︎いらいふぁーす‼︎」

 

アークがパースの両頬を伸ばす

 

「反省したか‼︎」

 

「風車は良いパース‼︎パースは風力発電も出来る様にしてるパース‼︎」

 

「そうか。反省しないんだな」

 

「しないパース」

 

「女王陛下に直訴しよう。そうしような。言う事聞かない奴は女王陛下に言って貰って大変な目に遭ってもらう」

 

「心を入れ替えたパース‼︎」

 

「本当だな‼︎次風車造っているのを見かけたら、パンツァーシュレックで粉砕してやるからな‼︎」

 

「女王陛下はマズイパース…」

 

いきなりシュンとしたパースを見て、アークも少し言い過ぎたと感じたみたいだ

 

「そだ‼︎代わりにピザ窯を造りたいパース‼︎」

 

「一桁前半の数字を出せ」

 

「二つ造りたいパース‼︎パースはピザ焼けるパース‼︎」

 

「どうだろうかジェミニ…」

 

ようやくアークが横須賀の方を向いた

 

「いいわよ⁇それと、風車も一つだけならいいわよ⁇」

 

「やったパース‼︎これ解くパース‼︎」

 

嫌々パースの拘束を解くアーク

 

パースはどうも本気で反省している様子ではあるが、まだ素性は分からない

 

「そう言えばパース⁇貴方行き場所は⁇」

 

「ないパース。オランダから99年間入国禁止を言い渡されたパース‼︎」

 

「イギリスはどうしたんだ」

 

「オランダに島流しにされた時点で国民の権利が無くなったパース」

 

「初めてみたぞ…無国家って奴…」

 

「ど、どこから来たの⁇」

 

「オランダから来たパース。オランダから半永久的追放されて、路頭に迷ってた時にここに来たパース」

 

「…本当の様です。数週間前、オランダから出国した後の消息がありません」

 

親潮が履歴を調べてみた所、オランダから半永久的追放をされたのは間違いないみたいだ

 

「とりあえずピザを作ってみて頂戴。それから話は決めるわ」

 

「お任せパース‼︎」

 

アークに縄を解かれたパースは、一目散に牧場へ

 

「ここまで言ってなんだが、根っからの悪人では無いんだ」

 

アークが呆れ顔で口を開く



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269話 オランダからの来訪者(3)

マーカスぼっちゃん


「風車が好き過ぎるんだ。何か大罪を犯した訳では無い。いや、風車の建て過ぎの大罪は犯してはいるが…」

 

「言いたい事は分かるわ」

 

「建築のセンスはズバ抜けているんだ。そこは賞賛してやってくれ…じゃないと哀れで哀れで…」

 

アークは呆れ顔と嘘泣きを始める

 

行き場所も職も失ったパースを見て、本気で哀れに感じているのだろう

 

「よくそんなパースの事を知ってるな⁇」

 

何故かは分からないがアークはやたらパースに詳しく、またパースもアークを知っている様子

 

「そうか。マーカスは知らないな」

 

「初めて見たよ」

 

「アークが姫の侍女なのは知っているだろう⁇」

 

「知ってる」

 

「パースも同じだ」

 

「う〜む…手っ取り早い説明だ…」

 

「侍女とは言え、パースはそれはそれはポンコツでな…真面目な顔して、やる事はあんな感じだ」

 

「ちょっと気になるじゃない」

 

横須賀がパースの過去に興味を持った

 

「マーカスが産まれたての時にな、姫が授乳するだろ」

 

「するわね」

 

「あのパースは授乳と聞いて自分の乳をマーカスに飲まそうとした」

 

「う〜む…」

 

「マーカスが赤ん坊の時、アークと姫が用を済ませていた時にパースに任せるとな、マーカスそっちのけでパースは一人で積み木をしていた」

 

「う〜むマヌケだ…」

 

聞けば聞くほど、出るわ出るわパースのマヌケエピソード

 

「だがなマーカス。パースが居たからアーク達は助かった」

 

「どういう事だ⁇」

 

「パースが屋敷に残って、アーク達は脱出出来たんだ。まぁ…その後屋敷もやられて、奴は路頭に迷ったんだろう。良い所もあるんだがな…悪い部分が目立ち過ぎる」

 

「ねぇアーク、レイ。私、ちょっと考えがあるんだけど」

 

「何だ⁇」

 

横須賀の言葉に、俺は無言で顔を向ける

 

そして、横須賀の考えを聞く

 

「奴はマヌケだぞ…果たして覚えているかどうか…」

 

「恩は恩で返さなきゃ、だな⁇」

 

「そういう事っ‼︎」

 

「親潮は危険が無いように創造主様の背後で見張っていますね‼︎」

 

「オヤシオは出来た子だ。パースに見習って欲しい…あぁ言うのを本物の侍女と言うんだ」

 

「お褒め頂きありがとうございます、アーク様‼︎」

 

アークは親潮に微笑み、横須賀の言った考えを実行に移す…

 

 

 

 

「パース、パース、パース、ピザ窯造るパース」

 

牧場でせっせこピザ窯を造るパース

 

「おいパース」

 

「アーク。姫は元気パース⁇」

 

「やはり覚えていたか。一応礼は言っておく」

 

アークは今から積み立てられるレンガの山に腰掛け、膝に両肘をつき、動き回るパースを眺める

 

「パース。何故オランダであんな事をした」

 

「内緒だパース」

 

「誰かを探しているんじゃないのか」

 

アークがそう言うと、パースは一瞬手を止めた

 

「さぁ…何の事か分からんパース」

 

「オランダにいればその人は探せない。戦火がある程度収まった今なら安全にその人を探せる。違うか⁇」

 

「アークは昔から勘繰り深いパース。さ、そのレンガ使うから向こう行くパース」

 

「…最後に一つ聞いていいか」

 

「一個だけパース」

 

「もしその人がパースに命を出したら、言う事を聞くのか⁇」

 

「勿論聞くパース。姫に拾って貰ってから、あの人に仕えるのがパースの生き甲斐パース」

 

「聞いたかんな‼︎やっぱり無しはないかんな‼︎分かったかパース‼︎」

 

「これだけは嘘吐かないパース」

 

「お〜い‼︎」

 

アークに呼ばれ、二人の元に行く

 

「この人がマーカス様だ」

 

「知ってるパース」

 

「なら何故言う事を聞かん‼︎」

 

「マーカス“ぼっちゃん”の言う事は嘘偽りなく答えてるパース‼︎」

 

「ぼっちゃん…」

 

そうか…

 

赤ん坊の時に俺の面倒を見ていたとなれば、そりゃあ年上だわな…

 

「言われてみればそうだな…マーカス様が言った事には嘘偽りはない…」

 

ここに来てアークが押し負ける

 

「マーカスぼっちゃんが止めろと言えば、パースは止めるパース」

 

「いいさ。その代わり、120はダメだぞ⁇」

 

「畏まりパース‼︎ささ、ぼっちゃん‼︎パースが美味し〜ピザ焼いてあげるパース‼︎もうちょっと待ってるパース‼︎」

 

「わ、分かった…」

 

これ以上邪魔をしてはいけないと思い、アークと共に鳥小屋付近まで戻って来た

 

「マーカスぼっちゃん」

 

「…」

 

アークの顔を見ると、物凄いニヤケ顔をしている

 

「マーカスぼっちゃ〜ん」

 

「分かった。分かったよアーク」

 

「ふふふ」

 

一生言われる案件が一つ増えた…

 

パースがピザ窯を造るまで、今しばらく掛かりそうだ…

 

後は放っておいても大丈夫だろう

 

 

 

次の日…

 

「レイ…あ、いやいや、マーカスぼっちゃん‼︎」

 

「うぐぐぎぐ…」

 

横須賀にまで煽られ始める始末

 

そして何故か、俺も横須賀も視線を送るのは親潮

 

俺は歯ぎしりをしながら

 

横須賀はニヤケ顔で顔の前で手を組みながら

 

「え⁉︎えと‼︎そっ、ぞっ‼︎」

 

いつもの様に“創造主様‼︎”と言ってくれようとしているが、親潮のクライアントは横須賀

 

ここは俺の感情ではなく、横須賀の威圧の方を執行しなければならないが、親潮の良心がそれを阻んでいる

 

そして決めては、横須賀の無言ガン見攻撃

 

「まっ‼︎マーカスぼっちゃん‼︎」

 

親潮の良心は負けた

 

「良い子ね親潮」

 

「よくぞ横須賀の意思を汲み取った‼︎」

 

今しばらく言われるんだろうなぁ…




パース…風車マニアちゃん

突如として横須賀に現れたオランダからの来訪者

オランダで風車を乱立した為に半永久的に国外追放となり、横須賀に辿り着く

実は昔、アークと同じ侍女であった為、アークとも知り合い

スパイトに拾われてから赤ちゃんのマーカスの面倒をみるも、すさまじいポンコツっぷりを発揮

戦争が始まった際に散り散りになってしまったが、マーカスの面倒を見る、という使命は忘れていない

作中唯一、マーカスの事を“マーカスぼっちゃん”と呼ぶ

すごいね


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270話 第三居住区建設区画視察(1)

さて、269話が終わりました

パースはまたすぐに出て来ます

今回のお話は、少し前のお話で奪取した敵基地を第三の居住区にする為、その前段階として“怖いおじさん達”が視察に向かいます


ある日、横須賀に俺と隊長が招集された

 

会議室に案内され、中には既にラバウルの連中がいた

 

「今回の報告は早いわよ‼︎」

 

スクリーンに映し出される計画

 

いつもなら直前か当日に肝心な事を言う横須賀が珍しく事前通達ありにして来た

 

このまま癖も治れば良いのだが…

 

「第三居住区建設、か」

 

「そっ。一応計画はこっちで通したわ。ここには最高の建築士がいるからね」

 

恐らく涼平の事だろう

 

「今はまだ彼等が数十人在籍しているけれど、立ち退き要請が出た瞬間退去して貰うわ」

 

「どうしますか⁇更地にでもしますか⁇」

 

ラバウルさんがサラッと怖い事を言う

 

「エドガー。私達が言うと洒落にらなん」

 

「ふふっ。そうでした」

 

ここ最近、ラバウルさんはこうして冗談を言う様になっているらしい

 

が、いかんせん今の様に本気なのか冗談なのか分からない

 

「どの様な居住区になるのですか⁇」

 

今度は健吾が話す

 

「今の所は居住区画、それと、漁業組合を現司令部に作る案が上がってるわ⁇」

 

「ナイスな案だな」

 

アレンも納得の案

 

あの司令部施設は潰すには惜しい

 

なら、何らかの施設として利用した方が良い

 

「一応この居住区は完成次第、味方深海棲艦に手配していこうと思ってるの」

 

「その為の漁業組合か⁇」

 

「そっ。あの子達も日銭は欲しいはずよ。それに…ここから本格的に共存が始まると私は踏んでる」

 

「珍しく横須賀の案に反対が出ないな…」

 

隊長ならいつも横須賀の案に何らかの追加や指摘をしてくれるが、今回は無い

 

「この計画は既に各所の反対派の提督、司令部に届いてるわ」

 

「俺達は何をすればいい⁇」

 

「現地の最終チェックをお願いしたいの。隊長とラバウルさんには、レイとアレン、健吾を使用する許可を頂こうと」

 

「今の所、私は計画自体に反対は無い。何かあれば、私達も支援に伺う」

 

「私はウィリアムと同じ意見です。後は彼等次第ですね」

 

「よし‼︎そうと決まれば早速行こう‼︎」

 

「ちょっくら見て来ますか‼︎」

 

「善は急げ、ですね‼︎」

 

俺達三人は立ち上がり、すぐに向かおうとした

 

「あー‼︎ちょっと待って‼︎向こうには滑走路が無いのよ‼︎高速艇か何かで行って頂戴‼︎」

 

「分かった‼︎」

 

容易に高速艇を運転可能な面々がいるので、そんな事は問題なかった…

 

 

 

 

「イカさーん‼︎」

 

高速艇発着場で待機しているイカさんに、健吾が近付く

 

「これは中尉‼︎お疲れ様です‼︎」

 

「空いてる高速艇ありますか⁇」

 

「確か今日は三号艇が…」

 

イカさんは内ポケットから手帳を取り出し、今日空いている高速艇を調べてくれている

 

「そうですね、三号艇が今日は非番です」

 

「借りて行きます‼︎」

 

「どうぞどうぞ‼︎」

 

「アレ〜ン‼︎レイさ〜ん‼︎オッケーだよ〜‼︎」

 

「よっしゃよっしゃ‼︎」

 

「ちょっと待ってろ‼︎」

 

俺とアレンは工廠から荷物を入れた箱を持ち、高速艇の所に向かう

 

「よ〜し、ビスケットは持ったか‼︎」

 

「持ちました‼︎」

 

「水筒にお茶は入れたか‼︎」

 

「三人分入れて来た‼︎」

 

「なんだかよく分からんが武器は入れたか‼︎」

 

「いっぱい詰め込んだ‼︎」

 

「よ〜し‼︎健吾、錨を上げろ‼︎」

 

「アイアイサー‼︎」

 

「お気を付けて‼︎」

 

「「「行ってきまーす‼︎」」」

 

イカさんの見送りに返事をし、高速艇のエンジンを吹かした後、一気に現地へと向かう

 

 

 

 

「さてさて。着いたぞ」

 

「先客がいるみたいだな」

 

埠頭にはもう一隻、高速艇が停泊してあった

 

俺達より先に現地入りした人がいるらしい

 

高速艇を停めた後、アレンは内ポケットから紙を出した

 

「俺は司令部施設、健吾は兵器格納庫だな」

 

「俺は研究施設か…」

 

「全員、何かあったら連絡し合おう。健吾、レイ、タブレットの回線を常に開いとけ」

 

「オッケー‼︎」

 

「何も無い事を祈ろう」

 

三人散り散りになり、俺はケースを持ち、研究施設を目指す…



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270話 第三居住区建設区画視察(2)

「ここだな」

 

着いた場所は鋼鉄製の扉がある、如何にも厳重に造られた研究施設

 

いざ扉に手を掛けた時、直感で何かを感じる

 

あぁ、こいつはヤバい場所だ…

 

サラの地下研究施設と同じ匂いがした…

 

腰からピストルを抜き、左手に構えながら扉を開ける…

 

ゆっくりと中に入り、後ろ手で扉を閉めた後、辺り一帯にピストルを向ける

 

どうやら人は既に出払った様だ…

 

「研究施設に人は居ない。数個の端末…後は何らかのサンプルが散乱してる」

 

急いで出た後、誰も入らなかったのだろうな…

 

《レイか。ジェミニ曰く、奴等がそこで何をしていたか知りたいらしい。何か持ち帰れそうなデータかサンプルがが残っていないか⁇》

 

通信先から聞こえて来たのはアレンの声

 

「了解した。親潮でも連れて来たら一発だったな…」

 

《待て、通信だ》

 

誰かが通話に割り込んで来た

 

《レイ君‼︎大淀さんじゃダメかね‼︎》

 

「博士か‼︎今どこにいる⁇」

 

《司令部施設の資料室だね。今から研究施設に行くよ‼︎》

 

「頼んだ。博士がいるなら解析も早い‼︎」

 

会話が終わった直後、大淀博士は走り始め、すぐに荒い息遣いが聞こえて来た

 

「そんな急がなくてもいいさ」

 

少し鼻で笑いながら、大淀博士の通話に耳を傾けつつ、目の前にある端末を弄る

 

《好きな人には走って逢いに行きたいものさレイ君‼︎》

 

《そういうもんだぞ、レイ》

 

《そうですよ、レイさん》

 

「分かりましたよ〜」

 

軽くあしらわないと、この三人は更に追い討ちをかけて来るからな…

 

大淀博士が来るまでの間、端末を弄り続ける…

 

「ほとんど削除されてるか…」

 

ふと端末の端を見ると、人影が映った

 

「ピストル向けないでくれよ⁇」

 

「もうしないさ。レイ君を倒しても良い事ないからね」

 

無音でいつの間にか俺の背後に立っていた大淀博士

 

「ささ、レイ君。端末データの復元は大淀さんにお任せあれ‼︎」

 

「手持ち無沙汰になった」

 

「奥の部屋の探検して来ていいよ‼︎」

 

大淀博士にとって、端末データの復元なんざ朝飯前

 

俺より遥かに早く的確に復元可能だ

 

きっと、ピクニック感覚で来たんだろうな…

 

奥の部屋に入り、探索を続ける

 

 

 

大淀博士のいる部屋から更に奥に行った部屋に入り、また一帯にピストルを向ける

 

研究施設の重鎮が居たのだろう

 

ここだけ執務室に近い作りになっている

 

「…」

 

今度は壁際に人影が見えた

 

白衣を身に付けているので、ここの研究員で間違いないだろう

 

「止まれ」

 

後頭部にピストルを当てると、研究員は大人しく両手を上げた

 

右手には何かが握られている

 

「何でこんな所にいる」

 

「見逃した方がいいぞ」

 

余裕がある対応をして来たこの男

 

それに対して、此方も同じ対応を返す

 

「俺の気が変わらない内に言った方がいいぞ」

 

「分かった…」

 

彼が椅子に移動した後、壁に何があるか見えた

 

鍵とかを掛けて、扉を閉められるタイプの奴だ

 

研究員が握っているのも鍵だろう

 

「此方を」

 

研究員が握っていたのはカードキーだった

 

何処のカードキーかは分からないが、とりあえず手に取った

 

「これは何処のカードキーだ⁇」

 

「地下に秘匿の研究室がある。その入り口を開ける為の物だ」

 

「…何の研究室だ」

 

「深海の研究さ」

 

「早めに言った方が身の為だぞ。あっさり引くからな」

 

今度は眉間にピストルを当てると、研究員は真顔のまま…ほんの少しだが、口角を上げつつも、冷や汗を流し始める

 

「だーっ‼︎レイ君ストップストップ‼︎」

 

大淀博士が割って入って来た

 

「大淀博士か…」

 

研究員は安堵のため息を吐く

 

「知り合いか⁇」

 

「棚町君の所の工作員さ。レイ君は初見だからね」

 

「味方か⁇」

 

「勿論です。提督に貴方方のフォローをしてくれと指令を受けましてそれで今しがたようやく地下にある秘匿研究室のカードキーを見つけた瞬間でした」

 

「すまん…」

 

「しかし、丁度良かったです。私一人では行く勇気が無くて…」

 

工作員はここに来て急に弱気になる

 

俺だって、正体不明の地下施設に足を踏み入れるのは怖い

 

現に、横須賀にあったサラの地下施設に足を踏み入れた時にもピストルを構えていたくらいだ

 

「俺だって無い」

 

「大淀さんも無いよ‼︎」

 

「まっ…少し待ってくれ」

 

アレンと健吾に連絡を繋げ直す

 

「アレン、健吾、聞こえるか⁇地下に秘匿研究室があるのが分かった」

 

《了解した。そっちで行けそうか⁇》

 

《応援に向かいましょうか⁇》

 

「そうだな。嫌な予感がするんだ」

 

《オーケー、了解した。少し待っててくれ》

 

《了解です。急行します》

 

ここで一旦通信が切れた

 

アレンと健吾が来るまでの間、大淀博士が修復したデータの内容を話し始める

 

「修復したデータだけど、どうもここは深海の艤装や生態を独自に研究、開発していた施設みたいだね。あぁ、横須賀にはもう送信してあるから大丈夫だよ‼︎」

 

「ありがとう。だからイーサンの体の爆弾も…」

 

「恐らく、爆弾の素材にアビサルケープを使ったんだろうね…」

 

「やってくれるな…」

 

「来たぞ‼︎」

 

「お待たせしました‼︎」

 

アレンと健吾が到着

 

大淀博士は二人にも事情を説明し、二人は首を縦に振った

 

「なるほど…とにかく、レイの悪い予感はよく当たる」

 

「探しましょう、その地下室を」

 

五人で地下室を探し始める…



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270話 第三居住区建設区画視察(3)

「ないな…」

 

五人で探し回るが、それらしき場所は見当たらない

 

「地下にある、とまでは大湊側でも情報を得たのですが…」

 

「仕方ない…最強のコンシェルジュに頼ろう」

 

横須賀に通信を繋げる…

 

《親潮。この基地の地図を出せるか⁇》

 

《先程、大淀博士から伝達を受けてスキャニングをしているのですが…ジャミングの影響でしょうか、その施設に地下室は見当たりません》

 

「なら別の場所か…⁇」

 

考えろ…

 

何処にある…

 

俺なら何処に地下室を置く…

 

「あ…」

 

「何か案がありましたか⁇」

 

「工廠だ」

 

サラは工廠の隅に地下室の入り口を置いていた

 

工廠なら限られた人間しか入れないし、秘匿にはうってつけだ

 

「ここに無いと言われればそれきりですものね…行ってみましょう」

 

棚町が派遣した工作員と共に、工廠を目指す

 

「そういえば、名前を聞いていなかったな」

 

「申し遅れました。小林と申します、オルコット大尉」

 

「俺の名前は知ってるのな…」

 

「職業柄、自分の素性は露見せずに相手側を調べる事が多いもので…」

 

「そうだな…その気持ちは良く分かる」

 

良く似た事を昔していたからこそ、彼の言っている事は良く分かる

 

「…少し、関係の無いお話をしても⁇」

 

「楽しいのを頼むぞ」

 

「森嶋は元気ですか⁇」

 

「お。知り合いか⁇」

 

小林は工廠に着くまでの間、森嶋の名前を出して来た

 

「彼がSPをしていた時に知り合いになりまして…私の良き理解者です」

 

何故そのタイミングで森嶋と知り合いになったか、何となく想像が出来た

 

「彼が居なければ、私は本当に今ここの研究員だったのかも知れません」

 

粗方想像と合っているだろうが、ここは詮索しないでおこう…

 

「今度、結婚と出産祝いを持って行ってやるといい」

 

「分かりました」

 

この小林、飲み込みが早い

 

「さて…」

 

いざ工廠に着くと、再び五人が集まる

 

《創造主様。聞こえますか⁇》

 

丁度集まった所で、親潮から通信が入る

 

「どうした⁇」

 

《一部分はジャミングの影響下にありますが、大凡の基地一帯のスキャニングが完了しました。やはり地下施設は工廠にある模様です》

 

「ビンゴだ。誘導出来るか⁇」

 

《畏まりました。正面の扉から、一番奥に向かって下さい》

 

親潮の誘導で、俺達は工廠の一番奥に向かう

 

「爆弾だ…」

 

大淀博士の目線の先には、工廠で作られたまま放置されていたのは、イーサンに巻き付けられたのと同型の爆弾

 

「あっちは深海の主砲です」

 

健吾の前には、深海の艤装…その中でも人が携行可能なサイズの主砲がある

 

「地獄絵図だな…」

 

そう発した直後、大淀博士が俺の左側に来た

 

「今はレイ君の“助手”になるよ‼︎」

 

《創造主様。右の角にフェンスがございませんか⁇》

 

親潮の誘導で右を見るとフェンスがあり、カードキーとパスワードを打ち込む機材があるのが見えた

 

「ある。カードキーを通せば良いか⁇」

 

「大淀さんがハッキングしよう」

 

《待って下さい。その扉は、カードキーを通した後にパスワードを打ち込まなければ解錠出来ません。それに、一度間違えるとそのカードキーでは開かないシステムになっています。創造主様、通信を切り替えますね⁇》

 

親潮に何かを言おうと思った瞬間には、もう通信が切り替わった

 

《アタシがパスワードをハッキングして打ち込んだげるわ。いい⁇ちょっとでも力で開けようとしたら、もう開かないわよ⁇》

 

「ヘラか。助かる」

 

「見ておこっと…」

 

切り替わった無線の主はヘラ

 

ヘラなら電子施錠の機材をハッキングする位簡単だ

 

大淀博士はヘラの実力を見たいのか、パスワードを打ち込む機材を見始めた

 

《カードキーを通して頂戴》

 

ヘラに言われ、カードキーを通す

 

緑のランプが点き、パスワード入力画面になる

 

「よし、通した」

 

《待ちなさい》

 

あっという間にパスワードが打ち込まれていく…

 

《さ。開いたわ。気を付けて行きなさい》

 

「ありがとう、ヘラ」

 

《これ位いつでもっ。じゃあね》

 

ヘラとの通信が切れ、大淀博士とアレンがニヤケているのが見えた

 

「ヘラちゃんの早さにも関心したけど、やっぱりレイ君の子だね〜」

 

「ちゃんと意思は継がれてるな⁇」

 

「有り難い事だ。さぁ、行こう」

 

《そのフェンスの先に、地下に続く階段があります。そこから向かって下さい》

 

「地下には何がある⁇」

 

《現状は不明です。此方でも解析は進めていますが、地下がジャミングの影響が一番強いです》

 

「未知との遭遇、だな⁇」

 

《創造主様。どうかお気をつけて…》

 

「了解した。行って来る」

 

いざ地下へと足を踏み入れる…



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270話 第三居住区建設区画視察(4)

「…」

 

地下へと続く階段を見た瞬間、生唾を飲んだ

 

そして、ピストルを構える

 

相変わらず暗い地下に足を踏み入れるのには慣れない…

 

こんな所で襲われたらひとたまりもない…

 

「オバケはまだ怖いかね」

 

「正体不明だからな…」

 

ライターで火を点けながら、ゆっくりと下に向かう…

 

《電波状…が安定…ません》

 

親潮との無線も途切れ途切れになる

 

「おっ…」

 

階段が終わる

 

《創造主……ますか⁇》

 

「辛うじてな」

 

《生…反応が……数……ます‼︎》

 

「生体反応⁇」

 

辛うじて聞こえて来た親潮の無線

 

親潮は明らかに“生体反応”と言った

 

「ブレーカーがありました‼︎点けます‼︎」

 

健吾の合図で地下に照明が点く

 

「これは…」

 

「何て事を…」

 

俺達が今まさにいる場所

 

そこは、深海を閉じ込めておく為の牢屋になっていた

 

「ダァレ…」

 

一人の深海が俺に気付く

 

「助けに来た‼︎少しだけ待っててくれ‼︎」

 

立ち上がる力も無いのか、座ったまま鉄格子を持ちながら俺に話し掛けて来たのは、まだ若い女性の深海だ

 

「タスカッタノ…⁇」

 

「あぁ‼︎すぐに出してやるからな‼︎」

 

「アァ…」

 

彼女は下を向き、安堵の溜息を吐いた

 

「ヌァァァア‼︎」

 

「大胆に行くな…」

 

俺の背後で健吾は両手をDMM化し、鉄格子の隙間を広げている

 

「レイさん達はスマートに行って下さい‼︎自分はっ‼︎これデッ‼︎」

 

「少し離れてくれ」

 

「ン…」

 

鉄格子の向こうの彼女にそう言い、鍵部分をピストルで撃ち抜く

 

「レイ君も大胆だねぇ…」

 

「よしっ。もう大丈夫だ‼︎」

 

牢屋は6つ

 

既に健吾が2つを破壊

 

もう1つは俺がピストルで破壊

 

「行きますよ‼︎」

 

「よしっ‼︎」

 

アレンと小林が協力し合い、1つの牢屋の鍵をこじ開けた

 

「ではでは大淀さんはスマートに〜」

 

大淀博士は先程上で拾った針金を使い、いとも簡単に牢屋を2つ開けた

 

「さぁ、行こう‼︎」

 

「アリガトウ…」

 

彼女に手を差し伸べ、立ち上がらせる

 

その場に居た六人の深海の子達は、大淀博士達に連れられ、一足先に上へと避難した

 

「…ん⁇」

 

先程の深海の子の牢屋の中に、何かの紙が落ちているのに気が付いた

 

何故かそれが気になり、牢屋の中に入って手に取った

 

「…」

 

手に取ったのは、一枚の写真

 

その写真を見て、息が詰まりそうになる

 

「タイセツナモノナノ…」

 

先程の深海の子が戻って来て、俺に手を差し出す

 

「あぁ。すまない…」

 

「ン…アリガトウ…」

 

彼女は愛おしそうに写真を見た後、頬擦りをし、胸ポケットにしまった

 

その写真には、見覚えのある顔が写っていた…



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271話 Try Again With You(1)

話数、題名は変わりますが前回の続きです

見覚えがある顔が写っていた一枚の写真

誰かの“あの日”が少しだけ、終わりに近付きます


地上に戻り、工廠から出て来た

 

「ガンビアだ‼︎」

 

港にガンビアが停泊しているのが見えた

 

「大尉‼︎傷病者をガンビアへ‼︎」

 

港で地下にいた深海の子達を担架に乗せている作業に混じっていたヴィンセントが来てくれた

 

「さ、もう大丈夫だ」

 

「アノ…」

 

「なんだ⁇」

 

「コレ、アリガトウ…」

 

担架に寝かされた彼女は、先程の写真が入った胸ポケットに手を当てる

 

「大切な人なのか⁇」

 

「ウン…トッテモ…コレヲミテ、キョウマデコレタ」

 

「きっと会えるさ。すぐにな」

 

「ン…」

 

彼女を見送る…

 

誰かの“あの日”が、ほんの少し終わりに近付く…

 

俺が出来るのは彼女達の治療と、もう一つ…

 

「さー‼︎データも集まったし、横須賀に帰ろー‼︎」

 

「そうですね‼︎アイスでも食べたい気分です‼︎」

 

「伊勢に連れて行ってやるよ。レイも来るだろ⁇」

 

「俺はもうひと踏ん張りしなきゃならん。急ぎの案件でな。すぐに追い付くから心配するな‼︎」

 

「そっか…早く来いよ‼︎」

 

荷物をまとめ、俺達は横須賀に戻る…

 

 

 

「あまり無理するなよ⁇」

 

「心配するな。すぐに終わるさ」

 

アレンとハイタッチした後、別々の道を行く

 

アレン達は繁華街へ

 

俺は空母寮へと向かう…

 

 

 

「あらマーカス‼︎一人は珍しいわね⁇」

 

空母寮の前に来ると、イントレピッドがパツパツのエプロンを来て玄関を掃いていた

 

「涼平はいるか⁇」

 

「いるわ‼︎リョーヘー‼︎マーカスがお呼びよー‼︎」

 

「すぐ行きます‼︎」

 

食堂に居た涼平はすぐに来た

 

「隊長‼︎お疲れ様です‼︎」

 

「出るぞ」

 

「は、はい‼︎」

 

涼平を連れて格納庫に向かう道中、工廠から医療道具一式を取る

 

この足でガンビアまで向かうつもりでいる

 

格納庫に着き、涼平をF6F-5Nの前に置く

 

「乗った事は⁇」

 

「いえ…リチャード中将の機体では⁇」

 

「なら良い経験だ。俺をガンビアまで連れて行ってくれ」

 

「り、了解です‼︎」

 

緊張感を露わにする涼平

 

震電で連れて行ってやりたいが、着艦フックがメンテナンス中だ

 

グリフォンでも構わないが、俺の着艦技術を見られたくない‼︎

 

なので、涼平にF6F-5Nを操縦して貰う事にした

 

「出ます‼︎」

 

二人を乗せたF6F-5Nが横須賀を発つ…

 

 

 

 

「ガンビアが見えて来ました」

 

「よし、着艦だ。落ち付いて行くんだぞ⁇」

 

「はいっ。こちらサンダース隊ファイヤフライ。ガンビア・ベイII、マーカス大尉をお連れしました。着艦許可を求めます」

 

《了解、ファイヤフライ。着艦を許可する》

 

無線を切った後、涼平は深く息を吐く

 

「進路適正、速度を落とすんだ」

 

「了解です」

 

涼平の着艦は、それは綺麗に決まる

 

俺みたいに歪んでいない

 

「よ〜し、上出来だ‼︎100点満点の着艦だ‼︎」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「ガンビアの艦内に入ったら、俺が呼ぶまで艦内を見学していてくれないか⁇」

 

「了解です‼︎」

 

涼平と共にF6F-5Nを降りると、すぐに艦内から出て来た男性に話し掛けられた

 

「大尉、先程の傷病者の容体は安定しております。診察をお願いしますと艦長からのお達しです」

 

「場所は⁇」

 

「医務室に一人。個室に五人です」

 

「分かった。涼平、行こう」

 

「はい、隊長」

 

涼平と共にガンビアの艦内に入る…

 

 

 

「この一角だな…」

 

“簡易傷病者病室”と手書きされた表札があり、後に数字が振られている

 

「隊長はいつもこの様な事を⁇」

 

「そうだな。艦娘達からはこっちの方が似合うって言われる。涼平はどう思う⁇」

 

「自分は医者の隊長も好きですが…パイロットの隊長の方が好きです‼︎」

 

「お前は良い子だっ。呼ぶまで艦内を見学していてくれ」

 

「おっ‼︎マーカスと涼平か‼︎」

 

タイミング良く親父が来た

 

「親父。涼平にガンビアの中を案内してやってくれ」

 

「オーケーオーケー‼︎さぁ行こう‼︎」

 

「はい‼︎中将‼︎」

 

涼平は目をキラキラさせたまま、親父に連れられて行った

 

「さて…」

 

手始めに1番と書かれた病室をノックする…



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271話 Try Again With You(2)

「後は横須賀に着くまでじっとしていれば大丈夫だ」

 

「アリガトウゴザイマス…」

 

深海の子達の問診をした後、その場で治療出来る傷は手当てし、病室の全員に点滴を施して行く

 

内容物はカプセルの溶液と良く似た成分

 

体の自然治癒力を高める所までは同じだが、この点滴には精神安定の効能もある

 

「アノ、オイシャサン…」

 

「どうした⁇」

 

最後の病室にいた子が、俺がいざ出ようとした時に引き留めた

 

「イムシツニイルコ…ヒドイコトサレテタ…」

 

「今は休め。落ち着いたら、ゆっくり話を…」

 

「ミンナ、アカチャンウマサレタ…」

 

「…」

 

その言葉を聞き、言葉を失う

 

「セータイジッケン…」

 

「分かった…辛いのにありがとうな…」

 

「ウン…」

 

最後の医務室を出て、息を吐く

 

聞けば聞く程、あの基地の悪行が出て来る

 

最後に医務室にいる子の元へ行く…

 

「調子はどうだ⁇」

 

「ダイブヨクナッタ」

 

医務室にいたのは、先程写真を持っていた彼女

 

既にベッドの縁に座っており、深海特有の自然治癒力で少し肌に張りが戻り、まだ若い体をしているのがよく分かった

 

「問診と軽い診察をしよう」

 

「オネガイシマス」

 

問診を聞き、彼女が何をされたか分かった

 

耐久実験と称された、集団による暴行

 

生体実験と称された、集団による性的暴行

 

投薬実験と称された、薬物投与

 

「よしっ。問診は終わりだ」

 

聴診器を耳に掛けると、彼女はすぐに服を捲り上げた

 

特に何も思わないが、診て来た中で一番若く、張りのある体をしているのは彼女だ

 

恐らく、奴等は一番彼女を辱しめたのだろう…

 

「よしっ、ありがとう。内部機関に特に問題は無い。一応念の為、横須賀に到着次第カプセルに入ろうな⁇」

 

彼女は無言だが、少し微笑んで頷いた

 

「そうだ。もう一度写真を見せてくれないか⁇」

 

「ハイ」

 

彼女から写真を受け取る

 

先程も見たが、楽しそうな彼女と、もう一人写っている

 

「数分だけ、借りてもいいか⁇」

 

「…ウン」

 

余程大事なのだろう

 

答えと表情は真逆を示している

 

「オマケを付けて返す。必ずだ」

 

「ワカッタ。ヨコスカニツイタトキニ、カエシテホシイ」

 

「それまでに返せる。すぐに返しに来るからな」

 

彼女が無言で頷いたのを見届け、医務室を出た

 

医務室を出た後、俺は食堂に来た

 

あれから一時間…

 

涼平を呼ぶならそろそろだ

 

タブレットを取り出し、涼平に通信を繋げる

 

「涼平、食堂に来てくれ」

 

《了解です‼︎》

 

涼平が来るまでにもう一度写真を見た後、それを封筒に入れて涼平を待つ…

 

 

 

 

「お待たせしました‼︎」

 

涼平と親父が来た

 

親父は涼平と俺に手を振った後、すぐに食堂を出た

 

「ガンビアはどうだった⁇」

 

「凄く広かったです‼︎設備も凄くて、それに、中将御二方がどれだけ凄いか再認識しました‼︎」

 

「それは良かった。そうだ涼平、医務室にいる子にこれを渡して来てくれないか⁇中身は見ずにな⁇」

 

涼平に封筒を渡す

 

「あ、はい。自分が行っても大丈夫ですか⁇」

 

「横須賀に着くまで自由時間にする。彼女達をもう少し広く知れるチャンスだ」

 

「分かりました‼︎行って来ます‼︎」

 

医務室に向かう涼平の背中を見届けた後ろで、壁にもたれていた親父がいた

 

「粋な事をするじゃないの‼︎」

 

「人の恋路に踏み入っちゃいかんからなっ‼︎まっ‼︎後は涼平次第さっ‼︎」

 

「先に戻るのか⁇」

 

「あぁ。二人きりにした方がいい。これで二人の時間が戻る訳じゃないが…今は、な⁇」

 

「涼平は丁重に横須賀に送ろう。お疲れ様だな、マーカス」

 

「いつでもっ」

 

さて、俺も伊勢でアイスを食べますか‼︎



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271話 君ともう一度やり直す(3)

Try Again With You…君ともう一度やり直す


「ここだ」

 

医務室の前に到着した涼平

 

「失礼しますね」

 

ノックをした後、涼平は中に入る

 

「大尉からこれを預か…」

 

涼平の時間が止まる…

 

「…リョーチャン⁇」

 

涼平の事をリョーチャンと呼ぶのは、この世でただ一人

 

「“シュリさん”…」

 

名前を呼び合い、無言で抱き合う

 

涼平に“シュリ”と呼ばれた空母棲姫

 

涼平と相思相愛の仲の深海の女性が、今目の前に居る

 

「死んだかと思ってました…」

 

「オイシャサンニタスケテモラッタンダヨ…⁇」

 

「隊長だ…だから自分にこれを渡して…」

 

額を合わせあい、互いに笑顔を見せる

 

「リョーチャン、モウベツノヒトミツケチャッタカナ⁇」

 

「とても大切な人は出来たよ」

 

「ウフフ。フツーハウソツクノニ」

 

「空軍は嘘をつかないんだ。シュリさん、自分達の基地に来て下さい」

 

「リョーチャンノタイセツナヒトハ⁇」

 

「きっと分かってくれます」

 

「ジャア、ソノヒトモスキニナル‼︎」

 

涼平は何となくだが、分かっていた

 

タシュケントがそんな奴じゃない事を

 

「リョーチャン、ココニイテ⁇」

 

「勿論です」

 

それから横須賀に着くまで、二人はほとんど話す事はなかった

 

空いた時間を埋めるかのように、横須賀に着くまでの長い間抱き合う

 

それだけで良かった…

 

涼平の“あの日”が、ほんの少しだけ終わりを迎える…

 

 

 

 

「中将‼︎お疲れ様です‼︎」

 

「おっ‼︎美味そうだな‼︎」

 

リチャードがコックが持って来た料理を見る

 

スープとパンや、ちょっとしたお肉がトレーに乗っている

 

「今から医務室の彼女に運ぼうかと」

 

「ちょっと来い…」

 

コックに耳打ちするリチャード…

 

「おぉ〜。それは邪魔してはなりませんね‼︎」

 

「だろ⁉︎」

 

「中将、召し上がられますか⁇」

 

「うむっ‼︎ありがたく頂戴するっ‼︎」

 

コックから食事を貰い、リチャードは医務室前の廊下に腰を下ろして食べ始めた

 

「んまいんまい‼︎」

 

「お前はまたそんな所で食って」

 

「おっ‼︎ヴィンセント閣下ではないか‼︎」

 

「はいはい。一緒していいか⁇」

 

「本当なら美女がいいんだが…ここはヴィンセント君で我慢しようじゃない」

 

いつもの事なので、ヴィンセントは鼻で笑った後床にトレーを置き、腰を下ろして同じ物を食べ始めた

 

「すまないヴィンセント。私の我儘に付き合わせて」

 

急に真面目な顔をして、ヴィンセントに頭を下げたリチャード

 

「今すぐ頭を上げろ。お前の我儘じゃない。私はここに“ドライブ”に来ただけだ」

 

頭を上げたリチャードの開いた口が塞がらない

 

「お前が冗談を言うとは…」

 

「誰かのおかげで気が楽になってるのかもな⁇」

 

「隊長、同伴しても宜しいですか」

 

「お〜お〜来い来い‼︎みんなで食う飯は美味いからな‼︎」

 

リチャードの僚機のパイロットも来て、段々とそこには人が集まる

 

リチャードは何故か人を引き寄せる力があり、それはヴィンセントにも感化している

 

「んで⁇ガンビアさんとはどうなんだ⁇」

 

「隔週でデートしてるよ。お前にバレない場所でな⁇」

 

「ヴィンセントはこういう奴だからな‼︎分かった⁉︎」

 

「ははは‼︎了解です、隊長‼︎」

 

ヴィンセントは少し目線をズラして微笑み、リチャードと僚機の彼は笑い合う

 

 

 

 

数時間後、ガンビアは横須賀に着いた

 

治療が必要な子達から先に降ろされ、リチャードもヴィンセントもそれを手伝う

 

「来たか」

 

「行くか」

 

「わぁ…」

 

伊勢でケーキを食べていた俺達は、ガンビアの入港を見て、俺とアレンが本気の顔に変わる

 

その姿を見て、健吾が驚く

 

「どうした⁇」

 

「初めて二人が同時に本気になるの見たな…って」

 

どちらか片方…とくにアレンが医者に変わる瞬間は何度か見たている健吾だが、同時にその顔になる瞬間は初めて見た

 

「俺達はいつだって本気だぞ‼︎」

 

「そうだぞ健吾‼︎常に本気じゃなきゃ、俺は今頃コロちゃんにプレスされてる‼︎」

 

「あ、そっか‼︎」

 

俺もアレンもそれで気が楽になり、健吾を連れて治療に向かう

 

カッコいい兄貴の様な存在二人だが、健吾はたった一つだけ思っていた

 

口元がクリームまみれじゃなきゃ、もっとカッコ良かったのに…と

 

 

 

 

「内臓裂傷…及び機能低下、と。君はしばらくカプセルに入ろうな⁇それで内臓機能は元に戻る」

 

「君も念の為小一時間カプセルに入ろうな」

 

「包帯を巻きますね‼︎」

 

医療にあまり詳しくない健吾だが、消毒や包帯を巻いてくれたりと出来る限りを手伝ってくれている

 

「さてっ…」

 

「ア、オイシャサン」

 

一番最後は、先程医務室に居た一番美人の深海棲艦

 

相変わらずベッドの縁に座り、他の深海の子達を見ている

 

「アリガトウ…スゴク、ウレシイ」

 

「オマケを付ける約束だったからな⁇」

 

カプセルに移動する為、彼女は横になりながらその返答に笑みを返す

 

「リョーチャンニアイタカッタ。ダカラ、ガンバレタ」

 

「涼平はリョーチャンね」

 

「ウンッ」

 

俺なら一生煽られるんだろうなぁ…

 

「君は少し長い時間カプセルに入って欲しい」

 

「ウン、リョーチャントヤクソクシタ。チリョーウケル」

 

「良い心意気だ…涼平は好きか⁇」

 

「イチバンスキ‼︎」

 

彼女は本当に涼平が好きな様子

 

涼平の名前を出すと、顔が明るくなる

 

「新品サラピンで涼平に返してやる。涼平を頼んだぞ⁇」

 

「ガンバル‼︎」

 

「シュリさん‼︎」

 

カプセルに入れようとした時、涼平が工廠に来た

 

「リョーチャン‼︎」

 

「隊長…本当にありがとうございます‼︎」

 

「アリガトウゴザイマス‼︎」

 

「頑張ってる奴は報われるんだ。シンプルだが、大切な事だ。」

 

「カプセルから出たら、話したい事がもっとあるんだ‼︎」

 

「ン…タノシミニシテル。リョーチャンノオモイビトモ、ミテミタイ」

 

シュリと呼ばれた彼女は、愛おしそうに涼平の頬を撫でる

 

「隊長も、ここの人達も、みんな信頼出来る人だ。何度も救って貰った」

 

「フフフ。イマモ、ダヨ」

 

「シュリさん、で良いのか⁇」

 

「シュリデイイ」

 

「涼平がシュリさん、だから、俺もシュリさんにする」

 

「ン」

 

シュリさんは小さく頷く

 

「涼平は君とした事を、誰かの為にしてくれている。治ったら、手伝ってやってくれないか⁇」

 

その問いにシュリさんは髪を揺らして首を縦に振る

 

「モチロン‼︎」

 

シュリさんはそう言い、カプセルに入った…

 

「これで安心だ」

 

「自分は今から、タシュケントに全てを説明して来ます」

 

「その必要は無いよ‼︎リョーヘー‼︎」

 

全てを聞いていたのか、いつの間にかタシュケントがいた

 

「いいよ、リョーヘー。ただ、ボクも傍に居させて欲しいな⁇本国に帰れなくなっちゃったんだ‼︎」

 

「勿論です‼︎」

 

「本国に帰れなくなっただと⁉︎」

 

「ライコビッチに言われたんだ。君は一ロシア軍人ではなく、横須賀の艦娘だ。君はそっちで幸せになりなさいって‼︎ここに派遣将校で来た時にね‼︎」

 

「護る者が増えた奴は強いぞ⁇」

 

健吾は無言だが、微笑みを見せて頷く

 

「あっ、そうだ‼︎横須賀には指環を二つ貰えるシステムがあったよね⁇」

 

タシュケントはあからさまに知っているが、それでも意地でも“私は知らないよ⁇聞いた話だよ⁇”とでも言わんばかりに、人差し指を顎付近に当て、ニヤつきながら天井を見ている

 

「それの一つをボクにくれたら嬉しいんだけど〜、リョーヘーはどうだろうか⁇」

 

「最初から貴方に渡す予定でしたよ」

 

「ハラショー‼︎これで安心だ‼︎じゃあボクはこれで‼︎あぁ、リョーヘー、心配しないで。シュリさんとは仲良くやれそうだから‼︎」

 

タシュケントはクールに去る

 

見た目より、遥かにタフな様だ

 

治療も順調に進んでいる

 

…後は二人にした方が良さそうだ

 

「涼平。シュリさんをしっかり見ていてくれよ」

 

「了解です‼︎」

 

シュリさんの入ったカプセルの前から離れ、アレンと健吾のいる場所に戻って来た

 

「アラ、カワイイボウヤ」

 

「ぼ、ぼぼぼ坊やじゃないです‼︎」

 

健吾が逆ナンにあっている

 

「タベチャイタイクライダワ」

 

「ツマミグイシマショウ」

 

「ぐわー‼︎アレーン‼︎レイさーん‼︎」

 

「羨ましいぞ健吾‼︎」

 

「そうだそうだ‼︎黙っててやるから身を委ねろ‼︎」

 

健吾に逆ナンしているのは、ちょっと大人な深海のお姉さん二人

 

彼女達は軽症であり、内臓機能も良好な為、健吾が手当てしていた二人だ

 

そんな二人に逆ナンされている光景を見た俺とアレンは、血涙を流す

 

「そんなー‼︎」

 

「オイデボウヤ。イッショニヨコニナリマショウ⁇」

 

「ボクチャン、カラダヲラクニシテ⁇」

 

「うぅ…」

 

口では否定するものの、体は正直になった健吾

 

すぐに横にされ、前後で添い寝して貰う

 

「「おっ…」」

 

すると、健吾はすぐに寝息を立て始める

 

「コノコ、スゴクツカレテル」

 

「キット、ナニカナヤンデル」

 

深海二人は健吾をつまみ食いしようとはせず、二人で頭を撫でて健吾を休ませる

 

「…しばらくそうさせてやってくれないか⁇」

 

「ヤスマセテアゲマショ」

 

「アトハマカセテ。ダイジョウブ、タベタリシナイ」

 

「幸せそうに寝てるな…」

 

健吾もこのままの方が良さそうだ

 

健吾は普段、大和の事で気苦労が絶えない

 

口では大丈夫だと言っていても、耐えられない事もある

 

俺達には理解出来ない光景を何度も見たのだろう

 

女で負った傷は、女でしか癒せない、か…

 

 

 

「ようやく一段落か」

 

「急に手隙になるのも参ったもんだな」

 

アレンと港で咥えタバコをしながら立ちションをする

 

「いたいた。レイ、アレン」

 

「二人で立ちションですか」

 

「た、隊長⁉︎ちょっと待ってくれ‼︎」

 

「キャプテン‼︎ちょっと待ってて下さい‼︎」

 

運悪く隊長とラバウルさんが来た

 

「そのままでいい」

 

「「ヤダよ‼︎」」

 

流石に情けないので、ちゃんとし終わってから二人の方を向く

 

「此方側で第三居住区設立の話は進めておいた。お疲れ様だな、二人共」

 

若干渋ると思っていた話が既に終わっていた

 

「ど、どうやって話を⁉︎」

 

「私が言ったのです。従わなければバナナワニ園のワニのエサに。従えばオランダの風車解体業を与えると言えば、後者を選びましてね…」

 

「あってない様なモンだからな…」

 

「仕事があるだけマシか…」

 

「それと、条件が飲めなければ即空爆とも言ったか⁇」

 

「たかだか数十発の爆撃、私達にとって朝飯前ですからねぇ」

 

笑顔でとんでもない事を言う、隊長二人を前に、俺達は戦慄する

 

「…隊長達には絶対逆らわないでおこうな⁇」

 

「…サラっととんでもない事言ったからな」

 

「さぁ、帰ろう‼︎貴子がハンバーグを作り直してくれた‼︎」

 

「すぐ帰ろう‼︎アレン、またな‼︎」

 

「おぅ‼︎」

 

こうして、長い一日が終わる…

 

 

 

 

その後、健吾は一晩寝続けたのち、快眠だったと彼は語る…




シュリさん…ギャル空母棲姫ちゃん

何処かの基地で実験体にされていた深海棲艦

見た目はギャルだし、スッゴイバインボインなのに一途で可愛い

しかもかなりの強さを持っているらしい

涼平の思い人であり、涼平の生まれ故郷である離島で一緒に暮らしていた

涼平が焚き火が趣味なら、彼女は一人でミュージカル調に歌うのが趣味

涼平に建築の楽しさを教えた張本人であり、涼平を深海にした女性でもある

作者の別の作品に良く似た人が出ているらしい





戦艦棲鬼姉妹…アダルトネーチャン

シュリさんと同じ基地で実験体にされていた戦艦棲鬼の姉妹

ボウヤと言う方が姉

ボクチャンと言う方が妹

シュリさん程ではないが、この二人もかなりバインボイン

シュリさんと違うのは、アダルティな大人のお姉さんの貫禄がある事

物凄いショタコンに見えるが、つまみ食いとかせず、純粋に子供が好きなだけ

つまり健吾は子供に見られている

二人にサンドされて眠りに就いた者は、次の日快調になる

すごいね


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272話 君の左腕(1)

さて、271話が終わりました

再建されて行く第三居住区

人、艦娘、妖精、そして深海…

それぞれが再建のお手伝いをします


ここ数日、横須賀がドタバタしている

 

引っ切り無しに輸送船が出入りし、資材が積まれて行く

 

「第三居住区の設立開始か」

 

子供達が出払った執務室の窓際でタバコを吸いながら、その引っ切り無しに動く人達を見る

 

「そっ。しばらく涼平借りるわよ⁇」

 

「本人は何て言った⁇」

 

「二つ返事だったわ⁇シュリと一緒にするんですって‼︎」

 

「良い答えだ」

 

あの後、敵基地は即時解体

 

残す施設は数棟だけになった

 

妖精の手を借りれば、建設も解体も早い

 

「妖精を使える人材を探してるんだけど⁇」

 

半笑いで横須賀が俺を見る

 

「高速艇か⁇」

 

「ううん。滑走路を造ってくれたから、グリフォンで迎えるわ⁇」

 

「分かった。行って来るよ‼︎」

 

「赤城と親潮が港で手伝ってくれてるの。見かけたら褒めてあげて⁇」

 

「言われなくてもするさっ」

 

横須賀が小さく振った手を振り返し、まずは港を目指す

 

 

 

 

「これ」

 

俺より先に散歩がてら、ジュースを飲みながら港に来た赤城と親潮

 

赤城はみんなが運ぶコンテナが気になる

 

「これはコンテナです。コンテナは重いですよ⁇」

 

親潮が言う前に、赤城は既にコンテナを持ち上げている

 

コンパクトな軽自動車に近いサイズのコンテナを持ち上げた赤城を見て、周りから歓声が上がる

 

「おぉ〜…」

 

「赤城さんスゲェ…」

 

赤城はコンテナを軽々と持ち上げ、リフトやクレーンで運んで行く男達の後を着いて行く

 

「赤城さ〜ん‼︎ここにお願い出来ますか‼︎」

 

「こんてな、もってく」

 

「では、親潮はこれを‼︎」

 

親潮も小さいながらもコンテナを運ぶ

 

小さいとは言え、普通の段ボールのサイズより大きいサイズを親潮は軽々と持ち上げている

 

「流石は大尉と元帥の娘だ…」

 

二人が“遊び半分”で介入した事により、一隻の輸送船が予定より早く積み込みが終わる…

 

 

 

「素手では結構疲れますね…」

 

「おやちお、つかれた」

 

「少しだけ疲れましたね…」

 

「親潮‼︎赤城‼︎」

 

貨物船を見送った後、貨物船の船員にお礼のジュースを貰った二人は、港に座ってそれを飲んでいた

 

「おとうさん」

 

「創造主様‼︎お出掛けですか⁇」

 

「第三居住区の応援に行って来る。二人は休憩だから、執務室に戻って来いってさ‼︎」

 

「こんてな」

 

「赤城も親潮も、良く頑張ってくれたな⁇」

 

「じゅーす、もらった」

 

「親潮も頂きました‼︎」

 

二人の手元には、リンゴジュースの缶が握られている

 

内心、安い時給だ…とは思ったが、そこは横須賀だ

 

人を動かすなら金だとよく分かっている

 

後で二人の貯金箱か口座に入れるだろう

 

「よ〜し‼︎ほらっ、これで横須賀と間宮行って来い‼︎」

 

久々に使う時が来た間宮券

 

しかし、二人は首を横に振る

 

「おかあさん、いっぱいもってる」

 

「引き出しに束でありました‼︎」

 

「じゃあ、これはいつか使うといいさ‼︎」

 

二人に間宮券を握らせると、親潮はすぐにポケットにしまったが、赤城はマジマジと見ている

 

「まみや、かれーらいす」

 

「そっ‼︎カレーライスと唐揚げの所だ‼︎」

 

「ありがと」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

赤城はしっかり間宮を覚えてくれている

 

「俺は今から第三居住区の建設の手伝いに行って来る。みんなを頼んだぞ⁇」

 

「たにちゃん、きーちゃん、はーちゃん、がんぐーちゃん」

 

「では親潮はジェミニ様と朝霜様と磯風様を」

 

親潮は赤城に合わせるのが上手くなった

 

それに、赤城の中でまだ子供としての認識がある四人

 

それを護るとの認識も産まれているみたいだ

 

有り難い話だ

 

親潮と赤城と別れ、格納庫で補給を受け終えたグリフォンに乗る

 

《大淀博士がお待ちかねだよ‼︎》

 

「いないと思ったら向こうか…」

 

グリフォンと会話しつつ、第三居住区を目指す…



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272話 君の左腕(2)

「リョーチャン、ジョウズニナッタネ‼︎」

 

「みんなのおかげさ‼︎横須賀に居たら、元帥も隊長達も頼ってくれるんだ‼︎よいしょっ‼︎」

 

妖精達と共に行動するのが似合って来た涼平は、ちょこまか動き回る妖精達と共に木材や生コンをあくせく運ぶ

 

シュリはそんな涼平を見るのが大好き

 

汗をかきながら動く涼平を見るのが、ずっと好きでいた

 

シュリは涼平よりも多い木材を抱え、妖精達の指示で組み立てていく…

 

 

 

 

「着いた着いた‼︎」

 

「レイはどうする⁇大淀さん探す⁇それとも、涼平君探す⁇」

 

「涼平だな。ちょっと様子を見るだけでいい」

 

「オッケー‼︎」

 

自然と右手できそと手を繋ぎ、涼平を探す

 

「オイショー‼︎」

 

「ヨイショー‼︎」

 

戦艦クラスの艤装だろうか

 

二体いる彼等は片手には木材、もう片方では鎖付きのコンテナを運んでいる

 

「こっちにお願い出来ますかー‼︎」

 

「「ワカッター‼︎」」

 

「うはは‼︎すご〜い‼︎」

 

きそが驚いている

 

それもそのはず。その戦艦クラスの艤装の彼等は、俺やきそより遥かに大きい体をしている

 

「大尉‼︎」

 

その場にいた作業員がこちらに気付いた

 

「順調か⁇」

 

「えぇ‼︎彼等のおかげで急ピッチで進んでいます‼︎」

 

「涼平を見てないか⁇」

 

「少尉なら彼方に‼︎」

 

作業員の視線の先を見ると、深海の子達と作業している涼平の姿が見えた

 

物凄く楽しそうな顔をしている…

 

あのままにしておいた方が良さそうだ

 

「涼平はしばらくあのままにしておこう」

 

妖精達も言う事を聞いてそうだしな

 

「僕はちょっと色々見てこようかな‼︎レイはどうする⁇」

 

「大淀博士を探して来る」

 

「オッケー‼︎」

 

きそと別れ、俺は大淀博士を探す…

 

 

 

 

「えーと…」

 

横須賀に一応手渡された地図をみながら、現在位置を確かめる

 

先程戦艦クラスの艤装の子達が居た場所は居住エリア

 

俺が今立っているのは繁華街エリア

 

なんとなくだが、店舗の様な建ち方をしている建設途中の建物が軒を連ねている

 

「んっ‼︎これは美味しい‼︎」

 

「タカコサンノフライト、タルタルソースヲハサンデミタノ」

 

美味そうに何か食っている大淀博士が見え、後ろ姿だが、スラリとした女性が大淀博士の前に立っている

 

「博士‼︎」

 

「んお‼︎レイ君‼︎これすっごく美味しいんだよ‼︎」

 

「アラ、マーカスサン‼︎」

 

「ルーナ‼︎」

 

後ろ姿の美人の正体はル級のルーナ

 

手にはハンバーガーが乗ったトレーがある

 

「イーサ…イエ、アラシヲホントウニアリガトウゴザイマシタ」

 

「俺は…」

 

イーサンの話になると言葉が詰まる

 

それにルーナにとって、ここはイーサンを殺された地

 

憎んでいるに違いない

 

「レイ君‼︎これ食べようよ‼︎とっても美味しいんだ‼︎」

 

イーサンの名前を出され、返す言葉に詰まっていた俺に対し、大淀博士は明るくハンバーガーを勧めてくれる

 

「ドウゾ〜」

 

ルーナの持つトレーからハンバーガーを取り、一口頬張る

 

「美味い‼︎」

 

少し前に東京で食べた時より、遥かに美味しくなっている‼︎

 

「オニクモアルノ。デモ、マダシサク」

 

「試作…良い響きだねぇ…」

 

大淀博士は昔から試作やプロトタイプの様な言葉が好きだ

 

一度聞いてみた事がある

 

ロマンだよロマン‼︎と、返された覚えがある

 

「嵐は元気か⁇」

 

「スゴクゲンキ‼︎オレハセイバーガール‼︎ッテ、ミンナノマエデヤッテルノ‼︎」

 

「今や橘花☆マンの主演だもんね〜」

 

大淀博士が話す横で、俺はハンバーガーをパクつく

 

「ワタシハコレクライデ。ガンバッテクダサイネ⁇」

 

「ありがとう‼︎店はここに構えるのか⁇」

 

ハンバーガーを飲み込み、ルーナがここに来てくれるか聞いてみた

 

「ワタシハシバラクハアッチ。ココガデキタラ、ヨーグルガクルノ」

 

「また向こうに行ってもいいか⁇」

 

「イツデモ‼︎」

 

そう言って、ルーナはトレーを抱えて東京方面に向かって行った

 

「レイ君も忙しい人だ、アトランタちゃんの一件が落ち着けば、次は居住区のお手伝いとは…」

 

「おかげで暇しないさっ。そうだ、今日赤城が素手でコンテナを運んでたんだ‼︎」

 

「おぉ‼︎」

 

大淀博士も驚く、赤城の腕力

 

だが、大淀博士は何かを知っていそうだ…



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272話 君の左腕(3)

「博士。聞きたい事が一つあるんだ」

 

「大淀」

 

「あ、大淀…」

 

二人きりの時は大淀と呼ぶ約束だったな…

 

「なんだいレイ君」

 

「赤城の記録には、自壊とあったんだ」

 

「あまり大きく動くと心配かい⁇」

 

「まぁな…」

 

俺がそう言うと、大淀博士は優しく笑う

 

「その心配は無いよ。赤城の骨格には、マークと一緒に造ったアーマーと同じ素材を使ったんだ。あれなら、赤城が自壊する心配は無いよ」

 

「ありがとう」

 

「新しい人生を歩もうとしてる赤城にプレゼントさ‼︎あ、レイ君、そうなると新しい人生を歩もうとしてる大淀さんにもプレゼントあげないとねぇ‼︎」

 

「何がいい⁇」

 

「そうだねぇ…頬の裏側の細胞か、髪の毛数本…いや、ここは遺伝子情報が多いせい…」

 

「だ、ダメだダメだ‼︎な、何するんだ‼︎」

 

大淀博士は俺のDNAを取ろうとしている‼︎

 

「冗談冗談‼︎プレゼントも嘘嘘‼︎」

 

「おっかねぇ…」

 

「そうだ‼︎なら、一つヒントが欲しいね」

 

「答えられる範囲なら」

 

そう返すと、大淀博士は真面目な顔に変わる

 

「“あの薬”…三本ある内の一本が無くなってた」

 

「すまん。どうしても救わなきゃいけない人に使わせて貰った」

 

「そっか。レイ君が使ったのなら良かった」

 

「すまん」

 

「い〜のい〜の‼︎悪用されてたらどうしようと思っただけさ‼︎」

 

大淀博士は、とある薬の存在を知っている

 

この世に三本しかなく、それは“人を完璧な深海棲艦に出来る”薬だ

 

深海になれば、死ぬ以外の傷は一瞬で治せる

 

今でさえカプセルがあるが、その人はカプセルでは生命の維持が難しい状態にあった

 

俺は体を強化する為に、その内の一本を使った

 

どうしてもその人だけは救わなければならないと感じたからだ

 

「誰に使ったかは聞かないでおくよ」

 

「すまん」

 

「ヤバッ。大淀さん、地雷踏んだ⁉︎」

 

先程から「すまん」しか言っていない為か、大淀博士は口元に手を当てた

 

「そんな事は無いさ」

 

「…優しいねぇ、レイ君は」

 

大淀博士は優しく微笑む

 

そんな大淀博士の顔を見て、俺も微笑み返す

 

「あーっとぉ‼︎大淀さんはこれを試しに来たんだったぁー‼︎」

 

大淀博士の足元にジュラルミンケースがあるのに気付いた

 

「なんだそれ⁇」

 

「これかい⁇これはね…」

 

大淀博士はジュラルミンケースを開け、中にある物を取り出した

 

「ジャーン‼︎大淀さん特製の‼︎運搬補助ガントレットー‼︎」

 

「おぉ‼︎」

 

大淀博士の手にあるのは、恐らくアビサルケープで作り上げた左手専用のガントレット

 

大淀博士は性能もそうだが、外見に凝る

 

近未来的で、中々カッコイイデザインだ

 

「プロトタイプだよレイ君‼︎ロマンだよね‼︎プロトタイプって響き‼︎」

 

「それを試すのか⁇」

 

ゴト…

 

カチャカチャ…

 

「ジェミニちゃんは横須賀でも試していいって言ってくれたんだけど」

 

カチャカチャ…

 

「どうせ試すなら、ここならこの子もちょっとは活躍出来るかな、ってね‼︎」

 

カチャン

 

「どうだい‼︎」

 

「おぉ〜‼︎」

 

滑らかに動くガントレットを見て声を出す

 

こんなに出来の良いガントレットは初めて見た‼︎

 

「これで赤城にちょっとは近付けるかね‼︎」

 

「一つだけ聞いていいか⁇」

 

「ん⁇なんだい⁇」

 

「物凄い自然に俺に着けたな⁉︎」

 

そう。着けたのは俺

 

最初の方のゴト…は、倉田甲冑“山城”を外して、ジュラルミンケースの中に置いた音だ

 

「しっかしまぁ…これっ…重いねぇ…」

 

大淀博士は人の話を聞いていない

 

ジュラルミンケースに倉田甲冑“山城”をしまった大淀博士だが、持ち上がらないでいた

 

「仮にも深海の艤装だからな⁇」

 

「ちょ、ちょっと待って…レイ君、四六時中こんなの着けてたのかい⁉︎」

 

「まぁな。そいつがあれば、子供達を傷付ける心配は無いからな」

 

「どこまで優しいんだレイ君は…でだ、レイ君。着け心地はどうだい⁇」

 

「凄い滑らかに動く‼︎」

 

重い倉田甲冑を外したのもあるが、ガントレットは本当に滑らかに動いてくれている

 

「それには電極が組み込まれているんだ」

 

「電気で動くのか⁇」

 

「レイ君の体温で勝手に充電してくれるよ‼︎凄いでしょ⁉︎それでね、左腕に痛みが出たら、微弱な電気が発生して、痛みを緩和してくれるの‼︎」

 

「すご…」

 

凄いと言おうとして、大淀博士の顔を見た

 

そこに居たのは、大淀博士ではなく大淀

 

その顔を見て、このガントレットは俺の為に作ってくれたと理解した

 

「…ありがとう‼︎」

 

「こっちはどうしよっか⁇」

 

ジュラルミンケースの中に入れられた倉田甲冑“山城”

 

「それも大切な物だ。横須賀で保か…」

 

「言うと思ったよ。てな訳でレイ君、これはジェミニちゃんに渡しておくよ‼︎」

 

「ありがとう」

 

「いえいえ〜、じゃあレイ君。ちょっと試してみよっか‼︎」

 

「よしっ‼︎」

 

大淀博士と共に、涼平達がいる場所へと向かう…



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272話 君の左腕(4)

「あ‼︎隊長‼︎」

 

「おっ‼︎涼平‼︎どうだ、上々か⁇」

 

涼平はすぐに見付かった

 

シュリや深海の子達が周りにおり、その姿は様になっている

 

「はいっ‼︎自分がやりたかったのはこれなんです‼︎」

 

いつもより更に生き生きとした涼平の目

 

隣にシュリもいる影響なのだろうな

 

しかし、気になるのは妖精

 

奴等はまとめ役がいなければ、大半言う事を聞かない奴が多いが…

 

「妖精はどうやって動かしてるんだ⁇」

 

「それが、図面を見たらすぐに動いてくれまして…集まって下さいと言っても、何人かは集まりませんし…」

 

「ふっふっふ…任せろ‼︎」

 

ようやくここに来た理由が来た

 

腕を胸の前で組み、足を開けて息を吸う

 

「野郎共‼︎集合〜‼︎」

 

俺が呼ぶと、作業をしていた妖精達は一瞬で手を止め、俺達の周りにゾロゾロと集まった

 

“なんやなんや‼︎”

 

“マーカスさんや‼︎”

 

“どないしたらえぇんや⁇”

 

「いいか‼︎居住区建設の為に集められたプロ達‼︎ここにいる涼平の言う事をしっかり聞いて作業した物には、一日の終業時にビスケットとジュースを一人分丸々贈呈しよう‼︎」

 

“おっしゃ任しとき‼︎”

 

“何でも聞いたるで‼︎”

 

“破格や破格‼︎”

 

「す、凄い…」

 

「と、まぁ後は涼平に任せた方が良いだろう‼︎」

 

「ありがとうございます‼︎よーし‼︎頑張るぞ‼︎」

 

「オイシャサン、アリガトウ‼︎」

 

「涼平を頼んだぞ⁇」

 

「ウンッ‼︎イッテキマス‼︎」

 

シュリも作業に戻り、俺と大淀博士がその場に残る

 

「レイ君、その鉄板をガントレットで掴めるかい⁇」

 

「どれっ…」

 

近くにあった鉄板を、大淀博士は持ってくれと頼んで来た

 

「よいしょっ…はは‼︎行けるぞ‼︎」

 

余裕で持ち上がる鉄板

 

それもまだまだ行けそうだ

 

「うんうん‼︎パワーもちゃんと制御出来てる‼︎レイ君‼︎もう降ろしていいよ‼︎」

 

ドガァン‼︎と鉄板を落とし、手を払う

 

「気に入ったよ‼︎これくれないか⁉︎」

 

そう言うと、大淀博士は目をキラキラさせて頷いた

 

「うんうん‼︎レイ君にあげる‼︎レイ君なら、その子を平和的に使ってくれそうだしね‼︎」

 

「博士のなら安心して使えそうだしな⁉︎はは‼︎こいつは良いや‼︎」

 

「そうそう‼︎手袋を着けても大丈夫だからね⁇」

 

「流石に風呂はマズイよな⁇」

 

「レイ君はカプセルの作業が多いからね‼︎耐水性にしてあるよ‼︎」

 

全部見透かされている気がする…

 

「さてさてレイ君、帰ろっか‼︎」

 

「そうだな。涼平はしばらくあのままの方が良さそうだしな」

 

「レイそれ何⁉︎」

 

丁度きそも帰って来た

 

やっぱり気になるのはガントレット

 

「大淀博士から貰ったんだ‼︎」

 

「カッコイイなぁ‼︎僕も欲しい‼︎」

 

「きそちゃんにはまた別のを作ってあげよう‼︎」

 

「ホント⁉︎」

 

滑走路に着くまできそを真ん中に置き、俺は左手、大淀博士は右手できそと手を繋ぐ

 

「博士、足はあるのか⁇」

 

「高速艇で来たからね。返さないと怒られちゃう‼︎」

 

「分かった。気を付けてな⁇」

 

《また来ようね‼︎》

 

「オッケー‼︎大淀さん、楽しみにしとくよ‼︎」

 

大淀博士の見送りを受け、グリフォンは第三居住区を後にする…

 

 

 

「これも家族の形だね…ふふっ‼︎」

 

大淀はきその手を握っていた手を見て微笑み、ジュラルミンケースを持って高速艇で横須賀へと戻って行った…



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273話 パースの美味しい試作ピザ

さて、272話が終わりました

今回のお話は一話だけですが、パースが基地に試作のピザを持って来ます


ある日の休日

 

俺は基地のテレビの前で子供達と遊んでいた

 

今日は貴子さんと隊長は別々の理由で基地を離れている

 

貴子さんはたいほうや照月達と共にタウイタウイモールへ

 

隊長はれーべとまっくすとで第二居住区へ橘花☆マンの撮影に送って行くのと、後はお買い物だ

 

「アトランタのお昼ごはんは何だろうな⁇」

 

相変わらずアトランタはパースィーを持っているが、ここ最近投げてはいない

 

打撃武器には利用するがな…

 

「ぼっちゃんぼっちゃんぼっちゃんぼっちゃーん‼︎」

 

港から聞き覚えのあるヤバい声が走って来た

 

「アークに任せろ‼︎」

 

アークが腰を上げ、港側の窓に立つ

 

そして、窓を閉めた

 

「ぐへぇ‼︎」

 

何かを抱えたパースは、ものの見事に窓ガラスに直撃

 

しかし窓ガラスは特殊強化ガラス

 

パイロットの必須科目の“ダイナミック☆”でさえ、傷一つ付かない

 

「アーク‼︎酷いパース‼︎」

 

「子供が居るんだぞ‼︎ビビリに猛突進したら怪我をする‼︎」

 

「うぐぐ…すまんパース…」

 

「何をしに来た」

 

対応するアークの目は、物凄く冷たい

 

「ピザが出来たから、ぼっちゃんに一番最初をあげようと思って来たパース」

 

「そうか。手を洗ってから上がれ」

 

アークの誘導に従い、パースはちゃんと手洗いうがいをしてからまた食堂に来た

 

「ささ、ぼっちゃん‼︎パースのピザパース‼︎」

 

「どれどれ…」

 

パースは抱えていたカバンから紙のケースに入れたピザを3つ取り出し、食堂の机の上で開けた

 

「おぉ〜‼︎」

 

一つ目はソーセージピザ

 

二つ目はチーズたっぷりのピザ

 

最後は少し大人向けのサラミや香辛料を効かせたピザ

 

どれも美味そうだ

 

「ぼっちゃんはどれが好きパース⁇」

 

「じゃあ、まずはこの香辛料の効いたピザを」

 

「どうぞパース‼︎」

 

既にピザは食べやすいサイズに切ってあり、そこから一つ頂く

 

「頂きますっ」

 

子供達、アーク、そしてパースが見る中、ピザを口に入れる…

 

「美味いな‼︎」

 

「ふっふっふ…パースは風車造るのとピザ焼くのは上手いパース」

 

「アークはチーズだっ‼︎」

 

「とお〜いとおとお‼︎」

 

「ちぇだ〜ち〜ずれす‼︎」

 

ひとみといよの視線を受けながら、アークはチーズピザを口にする

 

「美味い…」

 

「三種類のチーズが入ってるパース。チーズは横須賀のモーモーさんのミルクを使ったパース」

 

「ほぅ…パースの分際で凝っているな⁇」

 

「分際は余計パース‼︎」

 

「しかしまぁ、これだけ美味けりゃ横須賀も納得するだろ⁇」

 

「ほうらな。うまいひな」

 

俺よりアークの方がピザを気に入っている

 

確かにパースのピザは美味い

 

「ぼっちゃん。この子達は食べれるパース⁇」

 

「あ、あぁ‼︎いよ以外は辛いのじゃなければな⁉︎」

 

「いよこえにすう‼︎」

 

いよが手に取ったピザは、やっぱり辛いピザ

 

現在、基地にいる子供は

 

ひとみ、いよ、霞、叢雲、きそ、ジャーヴィス、松輪

 

天霧と狭霧は貴子さんと一緒に出掛けている

 

ゴーヤ、はっちゃん、しおいはバンボー族村へ

 

はまかぜは夕飯の下ごしらえ中

 

母さんは母さんで親父とデート

 

なので、今執務室に座っているのはグラーフだ

 

「ジャーヴィスチーズにすル‼︎」

 

「おらもチーズにするだ‼︎」

 

ジャーヴィスと松輪、そしてボーちゃんはチーズピザ

 

「私はこれにしようかしら」

 

「ひとみもこえにすう‼︎」

 

霞とひとみはソーセージピザ

 

「僕はこれにする‼︎」

 

「じゃあお言葉に甘えて頂くわ」

 

きそと叢雲は大人向けのピザ

 

そして…

 

「おっ‼︎アトランタも食べたいな⁇」

 

子供達が食べているピザを見て、アトランタがキョロキョロし始め、ひとみの持っているピザを指差した

 

「タカコに聞いてやる。ちょっと待ってろ」

 

アークは早速貴子さんに無線を繋げる

 

「アトランタはどのピザが食べたい⁇」

 

アトランタを抱き上げ、ピザを見せる

 

一旦全部のピザの方を向いたアトランタは、ソーセージピザの方を向き、俺と交互に見始めた

 

「ママがいいよ〜って言ったら食べような⁇」

 

「是非頼むとのお達しだ」

 

アークが帰って来るのを見て、アトランタはいつものチャンピオンポーズをする

 

「おっ‼︎やったなアトランタ‼︎」

 

余程嬉しいのか、おしゃぶりを取ってアトランタをカーペットの上に座らせても、ずっとピザや俺達を見て、今か今かと待っている

 

「よ〜し、アトランタ。これはピザだ」

 

大人や子供達よりもう少し小さく切ったピザを、アトランタに渡す

 

「こうやって、カムカムして食べるんだ」

 

俺の食べ方を見てアトランタはピザを噛み、少しだけ口に入れる

 

ちゃんとピザを口の中で噛んでいる

 

三回程噛んだ辺りで、アトランタに変化が現れる

 

「そうかそうか‼︎美味しいか‼︎」

 

カムカムは続いているが、アトランタの目がキラキラし始めた

 

アトランタは両手にピザを持ち、それはそれは美味しそうに頬張る

 

「よっぽど美味しいんだな…」

 

「それだけ美味しそうに食べてくれたら満足パース‼︎」

 

アトランタは小さいながらも三切程ピザを食べ終えた

 

ピザが気に入ったのか、まだ口の中をモゴモゴさせている

 

「ごちそうさまでした‼︎」

 

俺が手を合わせると、アトランタもちゃんと手を合わせる

 

「おくちふきふきしあ〜す‼︎」

 

「ふ〜きふ〜き‼︎」

 

いよに口元を拭いて貰い、アトランタは目をパチクリさせる

 

「あいっ‼︎れきまちた‼︎」

 

「くふふっ…」

 

口元を拭いてくれたいよの頭を、俺にするのと同じ様に人差し指でクリクリする

 

「パースはこれで帰るパース」

 

「ありがとうな⁇」

 

「ぼっちゃんがお呼びならいつでも飛んで来るパース‼︎」

 

パースは目的を果たすと、すぐに基地を出た

 

「いつもあぁなら助かるのだがな…」

 

「パースは良い奴さ。じゃなきゃ、子供達に切り分けたりしない」

 

「だと良いのだが…」

 

アークはみんなの分を入れたピザの容器を冷蔵庫に入れたり、空の容器を片付け始め、俺は再び子供達と遊ぶ…

 

 

 

 

夕方

 

「おかえりなさいウィリアム‼︎よいしょっ‼︎」

 

「ただいま。持つよ」

 

基地の港で、ほぼ同タイミングで帰って来た貴子さんと隊長がいた

 

「マーカス君が、今日はアトランタは任せてくれって言ってくれたの」

 

「ボコボコにされてない事を祈ろう…」

 

貴子さんと隊長達が工廠側の出入り口から帰って来た

 

「ただいま‼︎」

 

「おかえり‼︎ほら、アトランタ、パパとママが帰って来たぞ‼︎」

 

貴子さんと隊長が帰って来たのに、アトランタは俺の背中で何かに夢中

 

「アトランタ⁇マーカス君は作業台じゃないのよ⁇」

 

アトランタは俺の背中に乗って、いつもとは違う何かをしている

 

うつぶせになっている俺の周りには、何本かのクレヨンが落ちている

 

アトランタは初めてのお絵かきを俺の背中の上でしている様子

 

「どれっ‼︎アトランタは何描いてるんだ⁇」

 

隊長がしゃがみ込み、アトランタの描く絵を見る

 

するとアトランタは隊長に気付き、クレヨンを俺の背中に置き、絵を描いた紙を隊長の前に出した

 

「おっ‼︎アトランタはピザ食べたのか‼︎」

 

俺には見えないが、隊長にはアトランタがピザを食べたと伝えていないのに、隊長はアトランタの絵を見てピザと答えた

 

「私にも見せて‼︎」

 

「ほらっ‼︎」

 

貴子さんにも絵が見せられる

 

「あらっ‼︎上手に描けたわね‼︎」

 

貴子さんも嬉しそうに微笑む

 

「俺も見たい‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

貴子さんが目の前に絵を出してくれた

 

「ほんとだな‼︎」

 

アトランタが初めて描いた絵は、本当にピザだと分かった

 

茶色の円の中にあるいくつもの赤い丸、そしてその隙間を埋めるように黄色をふんだんに使ってある

 

「今度パパともピザ食べに行こうな⁇」

 

すると、アトランタは急に冷蔵庫を指差した

 

貴子さんも隊長も、そして俺も視線がそっちに行く

 

「何か入ってるの⁇」

 

貴子さんが冷蔵庫を開けに向かう

 

「なるほどなるほど…ふふっ‼︎」

 

「何があった⁇」

 

「ピザよ‼︎みんなの分って書いてあるわ‼︎」

 

あの瞬間、アトランタはひとみといよと遊んでいたはず

 

なのにアトランタは冷蔵庫に余りのピザがある事を見抜いた

 

「晩御飯食べてから、お夜食にしましょうか‼︎」

 

「アトランタも食べ…ふっ」

 

隊長が笑う

 

アトランタは既にクレヨンを片付け始めている

 

アトランタは余りのピザを食べたい訳ではなかった

 

美味しいピザが冷蔵庫にあるから、みんなも食べてね、と伝えたかった様子

 

「明日、パースに言っておくよ。アトランタのお気に入りになったって」

 

「開店したらアトランタを連れて行くって言っておいてくれ‼︎」

 

「私も行くわ‼︎」

 

後日、パースのピザ“パース・ピザ”が開店した時、親子揃って行く事になる…



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274話 ピザとニューティーチャー(1)

さて、272話が終わりました

今回のお話は、横須賀に遊びに来たひとみといよ、そしてその裏で行動するマーカスのお話です

牧場で遊ぶひとみといよ

その裏でマーカスは誰かに捕縛され…


ある日の横須賀…

 

「パース、パース、パース、ピザこねるパース‼︎」

 

「こねうぱ〜す‼︎」

 

「こえこえ〜‼︎」

 

絶好のお天気日和のその日、表でパースがピザ生地をこねていた

 

ひとみといよは今から牧場でアヒルと遊ぼうとしていた矢先、絶好の遊び相手を見付けて一緒にピザを作っている

 

「次はソースを塗るパース‼︎」

 

「とあとそーす‼︎」

 

「ちーず‼︎」

 

ひとみはトマトソース、いよはチーズをピザ生地に乗せる

 

「最後はトッピングパース‼︎」

 

「さあみ‼︎」

 

「べーこん‼︎」

 

「焼くパース‼︎」

 

ピザ生地の上にトッピングを乗せ、パースによってピザ窯にインされる

 

「ぼぁー‼︎」

 

「あっちっち‼︎」

 

「美味しく出来上がると良いパース‼︎」

 

ピザが出来上がるまで、三人はピザ窯の小窓を見て時間が来るのを待つ

 

しばらくすると、いよが地べたに座って何かを作り始めた

 

「たいまつ‼︎」

 

「あぉー‼︎」

 

いよはバンボー族村辺りで覚えたのか、松明の作り方を覚えていた

 

「松明で何するパース⁇」

 

「ばんぼーっておどう‼︎」

 

「うっほ‼︎うっほ‼︎ってすう‼︎」

 

まだ火が点いていない松明片手に、ひとみがバンボー族の踊りを披露する

 

そんな矢先、一人の女性がパース達の元に来た

 

「美味そうな匂いがすると思ったらここかぁ‼︎」

 

「れた‼︎」

 

「がいばうでー‼︎」

 

「げ‼︎アンタらは‼︎」

 

たまたま前を通りがかったガリバルディが三人の前に来た

 

この二人、未だにガリバルディが嫌いで仕方ない

 

ガリバルディもひとみといよが苦手

 

パースは板挟みに遭い、ガリバルディと二人を交互に見る

 

「げ‼︎ってあんや‼︎」

 

「ひーつけうれ‼︎」

 

「はんっ‼︎今日はそうは行かねーぜ‼︎」

 

ガリバルディが意気揚々とひとみといよに胸を張る目の前で、二人が行動に出る

 

「いたいめにあってもあいましぉ」

 

「ぼっ‼︎」

 

一旦ピザ窯の方を向いたいよは、松明に火を点けてガリバルディの方に向き直す

 

「危ないパース‼︎」

 

「えいしゃんぶっこおいちようとちた‼︎」

 

「あぶなかた‼︎」

 

「それはダメパースな」

 

一撃でパースを味方に付けたひとみといよ

 

「ろーすう⁇」

 

「こえでがいばうでーのけつにひーつけうか⁇」

 

「つけう‼︎」

 

「ま、待て‼︎分かった‼︎悪かった‼︎やり方がエゲツないって‼︎」

 

ガリバルディはジリジリと引き下がる

 

「まて‼︎どこいくんあ‼︎」

 

「ケツに火は良くないだろ‼︎」

 

「ちにはしましぇん」

 

「ちぉっとやくだけです」

 

そう言って、二人はガリバルディに火を近付ける

 

「あちゃちゃちゃちゃ‼︎」

 

「このくあいにちときあしぉ‼︎」

 

「にげうなお。やくかあな」

 

「わ、分かったよ…」

 

いよに釘を刺され、ガリバルディは二人の背後で待つ

 

いよの方がガリバルディを嫌いな様子

 

「ささ‼︎出来上がりパース‼︎」

 

「れきああり〜‼︎」

 

「おいししぉ〜‼︎」

 

木で作られた机の上にピザが置かれる

 

三枚共美味しそうに焼き上がっており、ひとみといよは長椅子の上に立ってそれらを見ている

 

「がいばうで〜」

 

「な、何だよ…」

 

「ここすあって」

 

「わ、分かったよ…」

 

ひとみといよの圧に負け、ガリバルディはひとみといよの対面に座る

 

「あいっ‼︎」

 

「いいのか⁉︎」

 

あれだけガリバルディを嫌っていたいよが、ガリバルディの前に切ったピザを差し出した

 

「こえひとみの‼︎」

 

「これはパースのピザパース‼︎」

 

トサトサとガリバルディの前の紙皿に三枚のピザが置かれる

 

「何であたしなんかに…」

 

「みんなれたえましぉ‼︎」

 

「たのち〜です‼︎」

 

「そそ‼︎ご飯はみんなで食べた方が楽しいパース‼︎」

 

「なるほどな…じゃあ、頂きます‼︎」

 

「「いたあきます‼︎」」

 

三人がピザを食べ始めるのを、パースは少しの間眺める

 

「ち〜ずびぉ〜んてちてう‼︎」

 

「あちあちち‼︎」

 

「ははは‼︎」

 

ひとみといよがチーズに苦戦するのを見て、ガリバルディが笑う

 

それを見て微笑んだパースは小さく手を合わせ、ピザを口に運ぶ

 

「そういや、今日は二人で来たんか⁇」

 

「えいしゃんちけんていってた‼︎」

 

「試験⁇」

 

「かといしぇんしぇ〜‼︎」

 

「ぼっちゃんが試験だから、その間パースとピザ作ってたパース‼︎」

 

「ぼっちゃん…」

 

「パースはぼっちゃんのメイドみたいな感じパース」

 

「ほ〜ん…」

 

「がいばうでー、おいちい⁇」

 

「お⁇あぁ‼︎美味いぜ‼︎」

 

それを聞いて、いよはご満悦

 

その場に居た二人は気が付かなかった

 

この日、ひとみといよは自分達なりにガリバルディと仲良くなろうと本気で思っていた事を…



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274話 ピザとニューティーチャー(2)

一方その頃俺は…

 

「マーカス君⁇今日は真面目にお願いしますね⁇」

 

「チェーン取ったら考えてやるよ‼︎」

 

相変わらず俺はチェーンで雁字搦めにされた上での試験

 

しかも今回は御丁寧にワイヤーまで絡めて来た‼︎

 

ここに入る時に所持品は没収されたしな…

 

「いいかババア‼︎俺は今のポジが良いの‼︎」

 

「昇進したら良い事が沢山ですよ⁇給料アップ、威厳もアップ、アレン君に命令も出来ますよ⁇」

 

「う〜ん…やっぱり最後は魅力的だ…」

 

何度聞いても最後のは魅力的だ

 

仕方ない。ここは違う場所から攻めるか

 

「あ〜ぁ‼︎ババアが試験官じゃあやる気でねぇなぁ〜‼︎」

 

「そう言うと思ってアメリカから試験官を読んでありますよ⁇」

 

「そっちに頼みたいね‼︎」

 

香取は眼鏡をクイッと上げて不敵に微笑んだ後、試験会場となっている教室から出る

 

「では、お願いしますね⁇」

 

「畏まりました。お任せを」

 

「おせーぞ‼︎」

 

「ごめんなさいね…」

 

「おぉ…」

 

入って来たのは金髪ボブカットのネーチャン

 

物凄い美人だ‼︎こう言うのを待ってたんだ‼︎

 

「ちゃんとテストが終わったら、先生がご褒美をあげますよ⁇」

 

「よし…」

 

しかも色っぽいと来た‼︎

 

「貴方のお名前を聞かせて下さいな⁇」

 

「マーカス・スティングレイ。大尉だ」

 

「私は重巡“ヒューストン”アメリカでは先生をしてるの。宜しくね⁇」

 

「よ、宜しく…」

 

「始めましょうか。よーい、スタート‼︎」

 

試験が始まり、取り敢えずは真面目に問題を解いて行く

 

「ん⁇」

 

急に左肩に重さが来た

 

それも絶妙に柔らかい重さだ…

 

「大尉は勤勉ですね⁇先生も良く分からない所があるのに…」

 

「…」

 

ここは試験に集中しよう

 

多分このヒューストン先生…

 

かなりの天然だ‼︎

 

「先生、いっぱい勉強出来る子は…だ、い、す、き…」

 

耳元でささやかれ、鉛筆を机に置く

 

「…いつもそんな感じなのか⁇」

 

「どうでしょう…先生は普通にしているだけですよ⁇」

 

「なるほど…こりゃあ生徒もいちころな訳だ」

 

「このチェーン、どうしたの⁇」

 

「毎回逃げるから縛られてるんだ」

 

「それはいけないわ…先生が解いてあげますね⁇大尉は解答を続けて下さい」

 

そう言うとヒューストンは俺の股間部の前に屈み、チェーンを外し始める

 

「…」

 

ヤバい…バレる…

 

実はとっくに外してあるのに…

 

「解けませんね…」

 

ヒューストンは顔を近付けてチェーンを解こうとしてくれている

 

「んー…余計に絡まりました…一本一本隙間から抜かないとダメですね…」

 

「なんだと…」

 

「マーカス君‼︎はしたない‼︎なんて事をさせてるのですか‼︎」

 

「へぇ⁉︎」

 

様子を見に来た香取先生が急に怒鳴った為、気の抜けた声が出る

 

「試験会場で…しかも教官にその様な事を…欲求不満ですか⁇」

 

「何の話だ⁇」

 

「ふぅ。やっと一本抜けました‼︎」

 

「大尉‼︎」

 

「だから何の話だ‼︎」

 

「ヒューストンさん⁉︎貴方大尉に何を言われたのですか⁉︎」

 

「香取さん。私は大尉に何も言われてませんよ⁇自主的にしていただけです」

 

香取先生の方を向いたヒューストンの手には、一本のワイヤーがあった

 

「あ、あら⁇先生、何か勘違いをしていたみたいですね⁇」

 

「なにと勘違いしてたんだ⁇」

 

「そのままですよ、マーカス君」

 

香取先生に言われ、目線を下げる

 

俺の視線に気付き小さく笑い、小さく首をかしげるヒューストン

 

そして、香取先生の後ろにある教室の窓ガラスを見る

 

「あっ」

 

そこでようやく気付いた

 

そう見られても可笑しくない構図が窓ガラスに映っていたからだ

 

「ヒューストン‼︎離れてくれ‼︎」

 

「どうしてですか⁇」

 

「傍から見たらヤバい構図になってるんだ‼︎」

 

「先生は気にしませんよ」

 

「俺が気になるっての‼︎離れてくれー‼︎」

 

ヒューストンが近付けた顔を退けようと頭を持つ

 

が、その構図も非常にヤバいものとなる

 

「マーカス君。答案用紙は⁇」

 

「とっくの昔に終わってらぁ‼︎持ってってくれ‼︎」

 

「もう少しです…もう少しだけジッとしていて下さいね⁇」

 

「マーカス君⁇本当はもう解いているのでは⁇」

 

香取先生が答案用紙を見ながら俺に話す

 

「ヒューストンが絡めたんだよ‼︎」

 

「何ですって⁉︎それはいけません‼︎先生も手伝います‼︎」

 

香取先生もヒューストンの作業を手伝おうと俺の前で屈む

 

「来るな‼︎頼むから‼︎ワイヤーカッターを持って来てくれ‼︎」

 

「分かりました‼︎ヒューストンさん、行きましょう‼︎」

 

「最初からそうすれば良かったですね」

 

香取先生とヒューストンが部屋から出て行く

 

「だいぶ天然だな…危ねぇ危ねぇ…」

 

二人が出てからすぐにチェーンとワイヤーを自力で解き、帰って来る前に試験会場から脱走した…

 

十分後…

 

「マーカス君‼︎持って来ま…」

 

二人が帰って来るが、そこに俺はおらず

 

「大尉、いませんね⁇」

 

「やられた…大尉は脱走癖があるの…」

 

「ヤンチャですね⁇」

 

香取先生が歯軋りをする横で、ヒューストンはのほほんとしている

 

「貴方なら大尉を手懐けられるかも知れませんよ⁇」

 

「頑張ってみますね‼︎」



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274話 ピザとニューティーチャー(3)

何故マーカスが頑なに昇進しないか、遂に明らかになります


「ハァ…ハァ…ここまでは来ないだろ…」

 

逃げて来たのは広場の中心

 

ベンチに腰掛け、ようやく一服にありつく

 

「お。レイ」

 

「隊長‼︎」

 

隊長が横に腰掛け、タバコに火を点ける

 

「試験はどうだった⁇」

 

「昇進はまだ先みたいだ…」

 

そう言うと、隊長は鼻で笑う

 

隊長は何故俺が昇進しないのか、薄々勘付いている様子

 

「この前、香取先生が言っていたぞ⁇レイは四回くらい昇進を逃してるって」

 

「このポジが気に入ってるんだ」

 

「艦娘の子達が命令出来るものね⁇」

 

「横須賀‼︎」

 

今度は横須賀が来た

 

手には缶コーヒが握られており、話しながら俺と隊長に渡してくれた

 

「何となく理由はあるとは思っていたよ」

 

「艦娘の子達の初期の階級は私達の言う少佐レベル。つまりレイが大尉で居続ける限り、艦娘の子達は有事の際レイに命令を下す事が出来る…そうでしょ⁇」

 

「おっといけない‼︎試験の結果を聞きに行かなきゃな‼︎」

 

横須賀が勘付いた事を言い始めたので、タバコを灰皿に捨てて立ち上がって繁華街の方へと行こうとした

 

「さっきシスターを見たぞ」

 

「あ〜らよっとぉ‼︎」

 

マズイ名前を聞き、180°回転

 

今度は牧場の方を向く

 

「そっちの方でガリバルディとパースがいたわ⁇」

 

「も、もう一本吸おうかな⁉︎」

 

どちらに行ってもヤバい予感しかしない

 

致し方無くもう一度座り、もう一本タバコに火を点ける

 

「ありがとね、レイ」

 

「すまないな、レイ」

 

「違う違う‼︎俺は今のポジがいいの‼︎戦闘機にも乗れるし、研究やら開発も出来る‼︎昇進したら出来なくなるだろう⁇」

 

「別にいいわよ⁇」

 

「構わないんじゃないか⁇」

 

今まで護っていた強力な盾が、一撃で砕け散った‼︎

 

「だ、ダメだダメだ‼︎俺はこのままでいい‼︎このままがいいの‼︎」

 

「じゃあ命令にするわ⁇」

 

「そうだな。レイにもそろそろ昇進して貰おう」

 

「ヤダ‼︎」

 

一人でゴネていると、隊長と横須賀が内ポケットから紙を出して来た

 

「読んで」

 

「えー…なになに…推薦状…」

 

「こっちもだ」

 

「総理大臣推薦状…」

 

二人の手元にあったのは、俺を昇進させる為の推薦状

 

横須賀の方には艦娘の名前と各基地の提督の名前が

 

隊長の方には総理の名前がある

 

「これだけの人がアンタを推してるのよ⁇」

 

「期待を裏切る事になるぞ⁇」

 

「それでもイヤだ‼︎」

 

「あ。レイさん‼︎」

 

「怒られてるのです‼︎」

 

タイミング良く雷電姉妹が来た

 

これは逃げる絶好のチャンスだ‼︎

 

「丁度良かったわ‼︎レイが昇進しないって言うのよ‼︎」

 

「説得してやってくれないか⁇」

 

雷電姉妹は隊長と横須賀のニヤける顔を見て自分達もニヤけ始める

 

「レイさん。私達、ずっと知ってるわ⁇」

 

「電達がレイさんに命令出来る事も知ってるのです」

 

「うっ…」

 

この姉妹には全部見透かされてる気がする…

 

「私達が怪我した時の為なんでしょ⁇」

 

「痛い痛いになったら、レイさんを呼ぶと絶対助けてくれるのです‼︎」

 

「その為にレイは…」

 

「なるほどな…」

 

雷電姉妹の話を聞いて、ようやく二人は納得してくれた

 

「そ、そう言う事は早く言いなさいよ‼︎」

 

「ずっとそうだったのか⁉︎」

 

「艦娘の子達には、何かに拠り所が必要だと思ってるんだ。俺が大尉のままで居続けたら、艦娘の子達は俺に命令と言って治療させたり、話を聞く事位は出来ると思うんだ」

 

「そんな重要な事、何で言わなかったのよ」

 

「黙っているのも優しさだ、横須賀」

 

「隊長まで‼︎」

 

「でもレイさん、一人で悩まないで欲しいのです」

 

「そうよ‼︎私達にドーンと言って頂戴‼︎」

 

胸を張る二人を見て、一番最初に笑ったのは隊長

 

「そうだぞレイ‼︎上官に相談するのは大切な事だぞ‼︎」

 

「よーし、なら一丁聞いて貰おうか‼︎」

 

タバコを捨ててベンチから降りてしゃがみ込み、雷電姉妹に目線を合わせる

 

「話して頂戴‼︎」

 

「聞くのです‼︎」

 

雷電姉妹はニコニコ

 

隊長と横須賀は、互いに目を見合って頷く

 

「横須賀が寝っ転がってシュークリーム食う癖をどうにかしたいんですが⁉︎」

 

「それは治らないわ…」

 

「残念だけどどうしようもないのです…」

 

「ははははは‼︎」

 

「レイっ‼︎」

 

「あだっ‼︎」

 

横須賀に後頭部を平手打ちされた

 

雷電姉妹と隊長はケラケラ笑っている

 

「私達は駄菓子屋に行って来るわ‼︎」

 

「小遣いあるか⁇」

 

「寝っ転がってシュークリームを食べるお嫁さんから貰ったのです‼︎バイバイなのです‼︎」

 

「コラ‼︎待ちなさい電‼︎」

 

「さようなら〜‼︎」

 

「またお話しするのです〜‼︎」

 

雷電姉妹はそそくさ逃げて行った

 

「…この後にレイのケアが入るって訳ね⁇」

 

「言われっぱなしじゃ士気に関わるからな⁇」

 

横須賀も理解してくれたみたいだ

 

「確かにレイは艦娘の子達と話してる所を頻繁に見るな⁇」

 

「何でもコミュニケーションは必要さっ」

 

「居ました居ました‼︎マーカス君‼︎試験結果が出ましたよ‼︎」

 

香取先生とヒューストンが来た

 

「隊長。彼女はヒューストン。アメリカから来て、香取と一緒に新人の子達を教育します」

 

隊長とヒューストンは初対面

 

横須賀が隊長を紹介し、ヒューストンは隊長の方を見る

 

「お名前は存じ上げております、ウィリアム大佐。ヒューストンと申します」

 

「よろしくな」

 

「マーカス君⁇良かったですね⁇二階級アップですよ⁇」

 

「辞退しまーす‼︎バイバーイ‼︎」

 

そう言い残し、ダッシュでその場から離脱

 

「コラ‼︎待ちなさい‼︎マーカス君‼︎」

 

香取先生は追おうとするが、香取先生は足が遅いので追うのを止めた

 

「いつかまとめて昇進させてやればいいさ」

 

「そうですか…最終階級は凄い事になりそうですね…ふふふ…」

 

香取先生の眼鏡が光る

 

いつもは香取先生をババア扱いする隊長でさえ、この日は身震いしたと言う…



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275話 ベイビーギャルと鯉


さて、273話が終わりました

今回のお話は、ようやくパース・ピザが開店するお話です

まずはその日の午前のお話です

パースのピザ屋が開店する一報を聞いた隊長

約束通り、アトランタを連れて横須賀に向かいます


ある日の朝…

 

「レイ。パースのピザ屋がオープンしたらしい」

 

「おっ‼︎」

 

朝方の物資の供給ついでに来る、横須賀基地の報告書の束

 

通称“チラシ”

 

毎朝隊長が新聞を見る前に目を通し、その後ほとんどが子供達の遊び道具になる

 

その中に“パース・ピザ 本日オープン‼︎”と書いてあるチラシが入っていた

 

「アトランタ‼︎パパとピザ食べに行くか⁇」

 

アークの膝の上に座っていたアトランタは、隊長が持って来たチラシを見て指を差す

 

どうやら行きたいご様子

 

「よーし‼︎ママも一緒に行こうな‼︎」

 

「たまには家族でどうだ⁇」

 

「いいのか⁇」

 

「勿論さ‼︎基地は俺に任せてくれ‼︎」

 

朝ご飯を食べた後、隊長は高速艇を呼び、四人で出掛けて行った…

 

 

 

 

横須賀に着いた私達は繁華街を目指す

 

「パパとおでかけひさしぶりだね‼︎」

 

「すまんなたいほう。ずっと遊べなくて」

 

「だいじょうぶ‼︎たいほうみんなとおでかけするから‼︎」

 

今日のたいほうは久々に私の肩に乗り、アトランタは貴子に抱っこされながら繁華街を見てキョロキョロしている

 

「よしたいほう‼︎おもちゃ買ってやる‼︎」

 

「やったね‼︎」

 

「良かったわねたいほう‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

高雄の部屋に行き、たいほうをおもちゃコーナーに降ろして選ばせる

 

「ウィリアム⁇私はアトランタの帽子見て来るわ⁇」

 

「頼んだ。ちょっと日照り強いからな⁇」

 

貴子はアトランタと帽子を選びに行った

 

「みちみちにしたら、あとらんたがすてぃんぐれいになげるかな⁇」

 

「どうだろうなぁ⁇」

 

たいほうの手に握られているのは、ミチミチフィギュアシリーズの“動物シリーズ”

 

たいほうはみんなで遊べるおもちゃを選ぼうとしてくれている

 

「たいほうが欲しいのはどれだ⁇」

 

「たいほうあれほしい‼︎」

 

たいほうが指差す方向には、壁に掛かった細長い何かがある

 

「うなぎのまふらー‼︎」

 

そこにあったのはおもちゃではなく、ウナギの形をした子供用のマフラー

 

「これにするか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

ウナギマフラーとミチミチフィギュアの箱を持ち、貴子達の所に来た

 

「アトランタはどの帽子がいい⁇」

 

壁に掛かっている帽子を見て、アトランタはすぐに一つの帽子に手を伸ばして取ろうとする

 

「これ⁇」

 

貴子が手に取り、アトランタに被せてみる

 

脇に“51”と刺繍された黒い帽子だ

 

「良く似合ってるわ‼︎」

 

アトランタはこの帽子が気に入った様子で、被せた後はジッとしている

 

「よしっ、レジ行こうか‼︎」

 

四人でレジに行き、高雄の所に向かう

 

すると、レジには一人の男性が居た

 

「結構売れたな⁇」

 

「好評ですよ⁇一般の方がご購入されるのも多いです」

 

「良かったわねアレン‼︎」

 

「商談か⁇」

 

「大佐‼︎お疲れ様です‼︎」

 

レジの前に居たのは、販売するアクセサリーの商談に来たアレンと愛宕

 

「珍しい組み合わせですね⁇」

 

高雄にそう言われて気付いた

 

私とアレンの組み合わせは結構珍しい

 

アレンはエドガーかレイの横に

 

私はレイが横にいる方が圧倒的に多いからだ

 

「アレンといると、他の皆といる事が多いからな⁇」

 

「自分はレイといる事の方が多いですから…」

 

「今度暇になったら、たまには二人で横須賀で飲もう」

 

「勿論です大佐‼︎では、自分はこれで‼︎」

 

「また遊びに来てね⁇」

 

「今度またお料理教えて下さい‼︎」

 

「勿論よ‼︎みんな連れていらっしゃい‼︎」

 

貴子の言葉に愛宕が反応し、アトランタとたいほうにウィンクをしながら手を振りながら店から出た後、高雄におもちゃを渡す

 

「アトランタの被ってる帽子も頼めるか⁇」

 

「畏まりました。全部で1500円です」

 

「これで」

 

財布から千円札を二枚出し、高雄にお釣りを貰う

 

「今日はお出掛けですか⁇」

 

「たまには家族でな⁇」

 

「アトランタ⁇こんにちは〜って‼︎」

 

貴子がそう言うと、アトランタは高雄に小さく手を振る

 

「ふふっ‼︎こんにちは〜‼︎」

 

アトランタに挨拶を済ませ、店を出て来た

 

パースのピザはお昼に食べるとして、たまにはたいほうと遊んでやりたい

 

「たいほうは何して遊びたい⁇」

 

「たいほうつりぼりいきたい‼︎」

 

「つりぼりか‼︎」

 

「けーひんもらえるんだって‼︎」

 

私の頭の上で、たいほうはチラシを広げている

 

たいほうの案内通りに進むと、イクの居るプールの横に、小さいながらも新しい施設が出来ていた

 

どうやらここの様子

 

「たんすいぎょがたくさんなんだって‼︎」

 

「やってみるか‼︎」

 

「アトランタはママと一緒に…」

 

「いらっしゃいませー‼︎」

 

「まりちゃんだ‼︎」

 

釣り堀に入った途端、居住区にいるはずのまりが出迎えてくれ、たいほうは頭から降りた

 

「おぉ、隊長さんじゃん‼︎今日は家族団欒⁇」

 

「久々に休暇が取れてな。たまにはたいほうと遊ぼうと思ってな」

 

「貴子さん‼︎お久しぶりです‼︎」

 

「まりちゃん‼︎久しぶりね‼︎」

 

まりは貴子を見た途端、頭を下げた

 

「私とアトランタはその辺見て来るわ⁇」

 

貴子がそう言うと、アトランタは貴子の胸を押し“戻れ‼︎”と訴えかける

 

「その子もお魚見たいんじゃないですかねぇ⁇さぁさぁ‼︎見るだけでも楽しめますからー‼︎」

 

「いいの⁇」

 

「勿論ですともー‼︎隊長さんとたいほうちゃんのおそばでごゆるりと〜‼︎」

 

「アトランタ⁇ありがとうは⁇」

 

アトランタはいつものチャンピオンポーズを取る

 

「おおっ‼︎アトランタちゃんは元気いっぱいだね‼︎」

 

まりはその後、たいほうに目線を合わせる為に前屈みになる

 

「さっ‼︎たいほうちゃん‼︎隊長さんと釣りしよっか‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

「此方へどうぞ〜‼︎」

 

まりに案内され、釣り堀の席に案内して貰う

 

「30センチを越えたら3点、30センチ未満は2点、5センチ以下なら1点、貯まった得点は後で景品と交換出来るからね⁇ほいっ、頑張ってね‼︎」

 

まりから釣竿と餌を貰い、たいほうと横並びで釣りを始める

 

「…あの〜、貴子さん⁇」

 

「ごめんなさいね…迷惑でしょ⁇」

 

「あいやいやいや‼︎とんでもない‼︎喉とか乾いてませんかね〜⁉︎ドリンクがサービスであるんですよ〜‼︎」

 

「いいの⁇」

 

「勿論ですよ‼︎何がいいですか⁇」

 

まりは貴子にメニューを見せ、貴子は一つを指差す

 

「じゃあ…これを‼︎」

 

「畏まりましたー‼︎」

 

貴子は遠慮しているが、まりは貴子に良くしてくれている

 

「まりちゃんは私の学生時代の後輩なの」

 

「そうだったな」

 

「あの頃からまりちゃんは良くしてくれるの…何故か分からないけど…」

 

「貴子さんには何度も助けられてますからね〜、はいっ‼︎どうぞ〜‼︎」

 

タイミング良く、まりがジュースを持って来てくれた

 

「ありがとう‼︎」

 

貴子はまりが持って来てくれたメロンソーダを飲み始める

 

アトランタが欲しそうにジーッと見ている…

 

「きた‼︎」

 

たいほうの竿に魚が掛かり、たいほうは引っ張り上げる

 

「でかいきんぎょ‼︎」

 

「2点だな⁇」

 

私が金魚の針を外した後、たいほうは基地でやっているのか、ネリエサをちゃんと付けてから釣り堀に投げた

 

「よいしょっ‼︎アトランタもお魚見てみよっか‼︎」

 

貴子が立ち上がり、釣り堀近くにアトランタを近付ける

 

「お魚さんいるかな⁇」

 

貴子がそう言うと、アトランタは指を差す

 

その方向にはそこそこのサイズの錦鯉がいた

 

「おっきな鯉さんよ⁇」

 

アトランタは次にネリエサが入ったバケツに目線を移し、指を差す

 

「ダメよアトランタ。あれはお魚さんのご飯よ⁇」

 

「貴子さん‼︎パンあげます⁇」

 

まりが持って来てくれたのは、ちぎった食パン

 

「これならアトランタちゃんが投げても大丈夫です‼︎」

 

「アトランタ⁇ありがとうは⁇」

 

アトランタはいつもの様に手を伸ばし、まりの頭を人差し指で撫でる

 

「おぉっ⁉︎」

 

「アトランタなりのありがとうみたいなの…」

 

「そっかそっか‼︎じゃあ、はいっ‼︎ポイッと‼︎投げてみよっか‼︎」

 

まりからパンくずを貰ったアトランタは、まりがやっているやり方を見た後、パンくずを投げる

 

すると、一匹の鯉が食らい付き、水飛沫を上げた

 

「全部投げていいよ‼︎」

 

「まりちゃん、ありがとね⁇」

 

「いいんですよ‼︎アトランタちゃんがこうしてくれると、隊長さんとたいほうちゃんの所に来ますし‼︎」

 

「なるほどね…」

 

「ささ‼︎隊長さんの横でっ‼︎」

 

貴子が私の横に座り、その膝の上でアトランタがパンくずを投げ続ける

 

私とたいほうは大物こそいないが、数もそこそこに釣れている

 

「コラコラ、アトランタ⁇危ないわよ⁇」

 

しばらくするとアトランタが縁に乗り出してパンくずを釣り堀に浸し始めた

 

貴子がしっかりお腹を掴んでいるが、普段のレイの様子を見ていれば分かる

 

アトランタはやりたいと思ったら言う事を聞かない

 

我が強い所はやはり貴子に似ているな…

 

アトランタがパンを水面に浸して数十秒後…

 

バシャバシャビチビチ‼︎

 

アトランタのパンに何かが食い付き、アトランタは一瞬ビクッとした

 

そして…

 

「コラ‼︎アトランタ‼︎」

 

アトランタの手には、アトランタの身長位の錦鯉の下顎が握られていた‼︎

 

自力で引き揚げたのか⁉︎

 

アトランタはゆっくりと私達の方を向き、少し上に錦鯉を突き上げる

 

どうだ‼︎デカイだろう‼︎なのか…

 

お魚取れたよ‼︎なのか…

 

ビックリしたのと私達に見て欲しい思いを目をパチクリさせながら伝えるアトランタは、私を見つめている…

 

「デカイの取れたな‼︎」

 

「おっきいのとれたね‼︎」

 

たいほうも反応し、アトランタは私の前に錦鯉を突き出す

 

デカイのが取れてないから恵んでやるよ‼︎とでも言いたそうな目に変わっている…

 

「アトランタ⁇鯉さんはお家に帰りたいよ〜って言ってるわよ⁇」

 

貴子にそう言われて、アトランタは貴子を見た後、鯉を放した

 

…私のバケツに

 

そしてアトランタは再びパンを手に取り、水面に浸す…

 

「鯉好きなのかしら…」

 

「帽子にも書いてあるしな…」

 

アトランタの帽子には“51”の数字

 

5…こ

1…い

 

とも読める…

 

「パパ、あとらんたすごいね⁇」

 

「たいほうも凄いぞ⁇私より沢山釣ってる‼︎」

 

「きんぎょたくさんだね‼︎」

 

貴子がアトランタの相手をしている横で、私はたいほうとお話をしながら釣りを続ける…




まりちゃんを知らない方へ

まりちゃんは元鈴谷です

今回はとあるウィルスのせいで学校が休校になった為、横須賀にアルバイトに来ています

何のウィルスかはよく分からないパースな


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275話 ベイビーギャルと釣り堀

題名は変わりますが、前回の続きです

手掴みで鯉を引き上げるのをやめないアトランタ

果たしてアトランタは何をしたいのか…


「ア'' ド ラ'' ン'' ダーッ‼︎」

 

錦鯉を捕まえてからも、アトランタは取るのを止めずにいる

 

貴子が何度引っ張ろうが抱き上げようが、アトランタは踏ん張っているのか、絶対止めない

 

バシャバシャ‼︎

 

「コラ‼︎」

 

再びアトランタが鯉を捕まえる

 

「放して欲しいよ〜ってしてるわよ⁇」

 

貴子が言うのを聞いているのかいないのか、アトランタは鯉を放す

 

…私のバケツに

 

「あとらんた、パパとたいほうのまねしてるのかな⁇」

 

「そうかも知れないな…」

 

「アトランタ⁉︎いつかハマるわよ⁉︎」

 

貴子の声に一旦は顔を向けるが、アトランタは再びパンを釣り堀に浸す

 

「あはははは‼︎貴子さんに似てますね‼︎」

 

「まりちゃん⁇」

 

貴子の視線がまりに向く

 

「ひぐっ‼︎あいやいやいや‼︎そう言う訳じゃなくてですね‼︎」

 

「アトランタ⁇まりちゃんにパンありがとうは⁇」

 

「こっちにしよっか‼︎ほいっ‼︎」

 

まりが持って来たのは、子供用の釣竿

 

糸の代わりに紐になっており、針も無く安全仕様

 

「ここにパンをくくって…ほいっ‼︎」

 

パンを付けて貰い、アトランタはまりから釣竿を受け取る

 

「まりちゃんにありがとうは⁇」

 

アトランタはまりの方を見て、釣竿を持っていない方の腕でチャンピオンポーズをした

 

「まりちゃん、ホントにありがとね⁇」

 

「いえいえ‼︎おっ‼︎隊長さんもたいほうちゃんも釣れてるねぇ‼︎」

 

「でかいきんぎょたくさんつれたよ‼︎」

 

「良かった良かった‼︎隊長さんは鯉二匹じゃん‼︎凄い凄い‼︎」

 

「その、まぁ…な⁇」

 

まさかアトランタが取ったとは言えまい…

 

まりがカウンターに戻り、アトランタはようやく鯉の生け捕りを止めた

 

たいほうの言う通り、私達のマネをしていただけみたいだ

 

アトランタは釣竿を持って貴子に膝に乗せられ、釣り糸を垂らす

 

時々魚か何かがパンを食べてバシャバシャとすると、アトランタは指を差して貴子を見る

 

貴子はメロンソーダを飲みながら、アトランタを見てようやくニコニコし始めた

 

数十分後…

 

「いっぱいつれたね‼︎」

 

「そろそろ終わりにするか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

釣れた魚が入ったバケツを持ち、まりのいるカウンターに来た

 

「おっ‼︎沢山釣れたね‼︎」

 

「なんぽいんとかな⁇」

 

まりがたいほうの持って来たバケツの中にいる魚を数える

 

「25ポイントだね‼︎好きなのと交換出来るよ‼︎」

 

「やったね‼︎」

 

たいほうは早速お菓子のコーナーに向かう

 

「隊長さんはデッカいの釣れたねぇ…」

 

「アトランタが手掴みで…その…」

 

「あははははは‼︎やるじゃんアトランタちゃん‼︎48ポイントだね‼︎いいよ、分かり易く50ポイント分で‼︎」

 

「ありがとう」

 

さて、何と交換しようか…

 

アトランタに視線を向けると、何かを指差している

 

「鯉のぬいぐるみか」

 

どうやらアトランタは鯉のぬいぐるみが欲しい様子

 

「パパ‼︎あれならあとらんたが、すてぃんぐれいたたいてもいたくないよ‼︎」

 

お菓子を選び終えたたいほうが戻って来て、レイの為にも鯉のぬいぐるみを選べと言う

 

「それは何ポイントだ⁇」

 

「これは20ポイント‼︎」

 

50ポイントなら後30ポイント余るな

 

「たいほうは何が欲しい⁇」

 

「たいほうぴんばっちほしい‼︎」

 

たいほうの目線の先には、鯉をデフォルメしたメタルピンバッチがある

 

「これはこの釣り堀限定のピンバッチなんだ‼︎15ポイントだよ‼︎」

 

「じゃあ、それを二つと、鯉のぬいぐるみを」

 

「ほいほい。まずは、ピンバッチ‼︎」

 

カウンターにピンバッチが二つ置かれる

 

「ぬいぐるみはどれにしよっか‼︎」

 

まりは数種類ある鯉のぬいぐるみをカウンターに置き、アトランタに見せる

 

色は、赤、黒、赤白の迷彩の三種類

 

「これかな⁇」

 

まりはまずは、赤色の鯉のぬいぐるみをアトランタの前に出す

 

「コラ‼︎」

 

貴子が怒る

 

アトランタは差し出された赤色の鯉のぬいぐるみを手で弾いた

 

「じゃあこれかな⁇」

 

次は黒色の鯉

 

「おぉっ⁇これかな⁇」

 

アトランタは黒色の鯉のぬいぐるみを手に取った

 

が…

 

「コラ‼︎」

 

「おりょ〜‼︎」

 

また貴子が怒る

 

アトランタは数回黒色の鯉のぬいぐるみを見た後、カウンターの向こうに放り投げた

 

「激おこかな⁉︎じゃあこれだね‼︎」

 

最後に渡された、赤白の迷彩の鯉のぬいぐるみ

 

アトランタはそれを手に取り、ぬいぐるみを回してマジマジと見始める

 

「…どうだっ」

 

「アトランタ⁇」

 

貴子がアトランタを呼ぶと、アトランタは嬉しそうに手にした鯉のぬいぐるみを上下に振る

 

「良かった良かった‼︎それが欲しかったんだね‼︎」

 

「たいほうはピンバッチでいいのか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「これからお昼ご飯⁇」

 

「パースのピザ屋に行こうって話をしていたんだ」

 

そう言うと、まりはカウンターから身を乗り出す勢いで話し始めた

 

「メッチャ美味しいよ‼︎オススメはソーセージピザ‼︎なんてったって具が絶妙なサイズなんだ‼︎」

 

「たのしみだね‼︎」

 

「よしっ‼︎行くか‼︎まり、ありがとうな⁇」

 

「また遊びに来てね‼︎」

 

「まりちゃん、ありがとうね⁇アトランタ⁇ありがとうは⁇」

 

アトランタは一応まりの方に向き、片手で鯉のぬいぐるみを掲げる

 

「よっぽど嬉しいみたいで良かった良かった‼︎貴子さん、次は釣りしに来て下さいね⁇」

 

「その時はちゃんと真面目にするわ⁇」

 

まりに見送られ、釣り堀を後にする…



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275話 ベイビーギャルと念願のピザ

題名は変わりますが、前回の続きです

ようやくパースのピザ屋に来た隊長達

アトランタは待ってましたと言わんばかりに、ピザを頬張ります


繁華街に来て、早速目的の店を見付ける

 

「ささ‼︎チーズピザパース‼︎」

 

別のお客にピザを運んでいる見慣れない子が見えた

 

彼女にはすれ違いばかりで、中々会えずにいた

 

「君がパースか⁇」

 

「はい‼︎私がパースパース‼︎ぼっちゃんの隊長さんパースね‼︎」

 

「ウィリアムだ。よろしくな」

 

「よろしくパース‼︎ささ、此方の席にどうぞパース‼︎」

 

パースに案内され、店の前の席に座る

 

「これがメニューパース‼︎」

 

テーブルにあったメニューをパースが取り、私達の前にて出してくれた

 

「ソーセージピザを一枚と…貴子は⁇」

 

「ホットチリピザを五枚‼︎これ美味しかったの‼︎」

 

「畏まりパース‼︎飲み物はどうするパース⁇」

 

「私はサイダーを。たいほうは⁇」

 

「たいほうもさいだー‼︎」

 

「コーラをピッチャーで‼︎」

 

「畏まりパース‼︎少々お待ち下さいパース‼︎」

 

パースがピザを作りに向かい、貴子はようやくアトランタを子供用の椅子に降ろし、アトランタの手を濡れティッシュで拭く

 

「たいほうはウィリアムと分けるの⁇」

 

「うんっ‼︎パパとたべるの‼︎」

 

「私のは食べられないものね…」

 

「こんどはパパとたべるの。たいほう、いっつもママにつれていってもらってるから‼︎」

 

「そっか‼︎じゃあ、ウィリアムの事お願いね⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

母娘の会話が終わると、アトランタは貴子の服の裾を掴んで引っ張り始める

 

「どうしたの⁇」

 

アトランタが貴子を引き寄せて訴えたのは、隣の客のピザ

 

早く食べたいご様子だ

 

「お待たせパース‼︎」

 

パースがピザと飲み物を運んで来た

 

「アトランタちゃんはこれパース」

 

アトランタの前に、子供用のコップに入ったリンゴをすり潰したジュースが置かれる

 

「あら‼︎ありがとう‼︎」

 

「それはサービスパース‼︎ソーセージピザと、ホットチリピザ5枚パース‼︎」

 

「よしっ‼︎切ってやるからな‼︎」

 

たいほう、そしてアトランタが見る中、私はピザカッターでピザを切る

 

「これはたいほうの分な⁇」

 

「いただきます‼︎」

 

先にたいほうにピザを切り分けると、アトランタはたいほうが今まさに口にやろうとしているピザに手を伸ばす

 

なんでテメェが先なんだ‼︎

 

そいつを寄越せ‼︎

 

と、でも言わんばかりにたいほうのピザを横取りしようとする

 

「アトランタの分だぞ‼︎」

 

アトランタの前にもピザを置く

 

すると、視線がそちらに行き、アトランタはおしゃぶりを取ってピザを手に取った

 

「んん〜っ‼︎おいひ〜‼︎」

 

貴子がホットチリピザを堪能する横で、アトランタはソーセージピザを口にした

 

私はアトランタが自分の手で何かを食べる姿を初めて見た

 

「あとらんた、おいしそうだね⁇」

 

「ホントだな…」

 

アトランタの前に長方形に切ったピザを三切れ程置いたが、口に入れているのは既に二切れ目

 

余程パースのピザが好きらしい

 

口の周りにケチャップやらチーズを付けて食べるアトランタを見て、胸を撫で下ろす

 

普段の大半はマーカスに乗っている為、こうして大人しいアトランタを執務室や今を見ると心底ホッとする

 

やっぱり、まだまだ甘えたい盛りの女の子なんだな…

 

「はぁっ‼︎美味しかったぁ‼︎」

 

貴子がごちそうさまをするのを見たアトランタは、三切れ目の一欠片を置き、貴子と同じくごちそうさまをする

 

「お腹いっぱいになったか⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

たいほうがアトランタにピザを近付けるが、アトランタはあさっての方を向く

 

そして、自分が食べ残したピザの欠片の前に、先程の鯉のぬいぐるみを置いた

 

「あらっ‼︎鯉さんにもご飯あげるのね⁇」

 

アトランタはトリケラトプスやレイにしている様に、鯉のぬいぐるみの頭も人差し指で撫でる

 

「たいほうは行きたい所あるか⁇」

 

「たいほうつりぼりいった‼︎」

 

「お土産買って帰りましょうか‼︎」

 

その後、貴子は子供達の為に大量の持ち帰りの食べ物を買い、私とたいほう、そしてアトランタは、そんな貴子を眺めていた…



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275話 走れ‼︎ベイビーギャルの錦鯉‼︎

題名は変わりますが、前回の続きです

基地に帰って来たアトランタ

どうやらアトランタは鯉のぬいぐるみを別のおもちゃと思っており…


基地に帰り、アトランタは手洗いをしてからテレビの前に降ろされた

 

「いい⁇アトランタ。暴れちゃダメよ⁇」

 

カーペットの上に降りたアトランタが一目散に向かって行った先には、俺がいる

 

「おっ‼︎アトランタ‼︎ぬいぐるみ買って貰ったのか⁇」

 

ハイハイで目前まで来たアトランタは、俺の目の前で座り、鯉のぬいぐるみを掲げた

 

「良かったな‼︎アトランタもぬいぐるみ欲しかったんだな⁉︎」

 

カーペットの上には、ひとみといよのイルカのぬいぐるみもある

 

そのひとみといよはお風呂に行き、今カーペットの上にいるのは俺とアトランタだけ

 

「おっ」

 

カーペットの上に置かれたイルカのぬいぐるみの横に、アトランタは鯉のぬいぐるみを置く

 

どうやら並べたかったみたいだな

 

数秒並べた後、アトランタはオモチャ箱をガサゴソし始める

 

…奴か⁇

 

…奴を出すのか⁇

 

「アトランタ⁇パースィーは良くな…」

 

アトランタが持って来たのは相変わらずパースィーだが、今回は様子が違う

 

昼間ひとみといよ達と遊んでやり方を覚えたのか、器用にパースィーの電源を入れる

 

アトランタの手元でシャカシャカし始めると、パースィーをカーペットの上に置いて走らせ始める

 

パースィーが壁に向かって走り始めたのを見て、アトランタは鯉のぬいぐるみを手に取る

 

パースィーにそうした様に体を反転させ、何かを探す

 

目当ての物がなかったのか、アトランタは俺の方を向いて鯉のぬいぐるみを差し出した

 

パースィーの様に動かせ‼︎と、目で訴える

 

「鯉さんは走らないぞ⁇こうやって、撫でてあげるんだ」

 

それでもアトランタは鯉のぬいぐるみを押し付ける

 

何とかして走らせろ‼︎と…

 

「コラコラ、アトランタ」

 

隊長に抱き上げられたアトランタ

 

「鯉のぬいぐるみは走らないぞ⁇」

 

アトランタなりに分かっているのか、隊長には鯉のぬいぐるみを押し付けない

 

俺はアトランタに期待されているみたいだな…

 

いいだろう…その期待に応えてやる…

 

俺はみんなが寝静まった後、工廠に篭った…

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「おはようマーカス君‼︎」

 

貴子さんが工廠まで呼びに来てくれた

 

「おは…もうそんな時間か⁉︎」

 

「忙しかった⁇」

 

「ふっふっふ…たまにはおもちゃでも作ろうかと‼︎」

 

「そっかそっか‼︎マーカス君は将来おもちゃ屋さんの道もあるのね。そっかそっか…」

 

貴子さんが笑い、俺も笑う

 

「朝ごはん、こっちに持って来よっか⁇」

 

「もう完成したので行きます‼︎」

 

「行きましょ‼︎」

 

机の上に置いた“それ”をポケットにしまい、貴子さんの後ろを着いて行き、食堂で朝ごはんを食べる…

 

 

 

朝ごはんを食べ終えた後、俺は夕方の哨戒任務まで子供達と遊ぶ

 

「アトランタはこっちだぞ」

 

隊長に抱き上げられ、アトランタは執務室に連れて行かれる

 

ひとみといよは既に執務室に行った

 

「アーク。ちょっと任せていいか⁇」

 

「ウンチッチか⁇」

 

「違わい‼︎」

 

「ここはアークに任せろ‼︎」

 

アークに食堂にいる子供達を任せ、俺も執務室に向かう

 

「隊長。入っていいか⁇」

 

「いいぞ」

 

執務室のドアを開けると、隊長は机に向かって書類仕事

 

執務室の中心では、ひとみといよ、そしてアトランタが電車の模型で遊んでいる

 

「びう‼︎」

 

「れぱ〜と‼︎」

 

レールの先にはビルとデパートがある

 

アトランタはレール先端から、装甲列車を構えている

 

「「すた〜ろ‼︎」」

 

ひとみといよの掛け声と同時に、アトランタは装甲列車を発進

 

「ろっか〜ん‼︎」

 

「ばあばあです‼︎」

 

ビルもデパートも見るも無残に大破

 

「…今日はまだマシだな」

 

隊長が恐ろしい事を呟いている…

 

「普段そんなにヤバいのか⁇」

 

「あぁ。この前は村を丸ごと轢き逃げしてたからな…」

 

「う、う〜ん…」

 

実に子供らしい遊びだが、もうちょっと可愛く遊んで欲しい

 

ので、俺は一晩掛けてとある物を作っていた

 

「ひとみ、いよ、アトランタ‼︎」

 

「あいっ‼︎」

 

「ど〜しあしたか‼︎」

 

ひとみといよが反応し、それと同じくアトランタも俺に目を向けた

 

「この子も友達にしてくれないか⁇」

 

三人の前に屈み、ポケットから作っていた物を取り出す

 

「いうかしゃんら‼︎」

 

「くえうの⁉︎」

 

取り出した物は三つ

 

二つは電動で走るイルカ

 

これはひとみといよの分

 

そして、もう一つを見たアトランタは目をキラキラさせた

 

「走る鯉さんだ‼︎」

 

三人共早速それらを手に取り、レールの上に走らせる

 

「いうかしゃんれっつお〜‼︎」

 

「いけ〜‼︎」

 

先に走らせたのはひとみといよ

 

アトランタはイルカが行ったのを見た後、走る鯉の模型をレールの上に置いた

 

レールの上を走る鯉は非常にシュールだ…

 

アトランタはそれを見て、お腹の前で拍手を送る

 

「えいしゃんあいあと‼︎」

 

「あいがと‼︎」

 

「仲良くな⁇」

 

三人の頭を撫でて食堂に戻ろうとした

 

「おぉっ⁉︎どうした⁉︎」

 

その時、アトランタが物凄い力で俺の足を掴み、もう一度屈ませる

 

すると、アトランタは俺に抱き着き、胸板に頬を擦り付けた

 

「えいしゃん、あいあと〜って‼︎」

 

「あとあんた、あいがと〜って‼︎」

 

「珍しいな⁇私か貴子にしかしないんだぞ⁉︎」

 

普段から人差し指で撫でてくれたりはするが、こうしてスリスリしてくれるのは初めてだ

 

「ドッカーンしちゃダメだぞ〜⁇」

 

アトランタのスリスリを堪能した後、俺は食堂に戻り、いつもの日常へと戻った…




テレビの前に降ろされる度に貴子さんに釘を刺されるアトランタ


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276話 届かない、貴方への想い

さて、275話が終わりました

今回のお話は一話しかありませんが、ローマの心情が語られます

誰にも悟られてはならない感情を抱いているローマ

唯一分かってやれるのは、身近に居た彼でした


蒸し暑くなって来たある日の深夜の基地…

 

「あっちぃ…」

 

暑くて目が覚め、誰もいない食堂に来た

 

「アイスコーヒーでも作るか…」

 

冷蔵庫を開けようとノブに手を掛けた時、誰かが俺の腕を全力で握って来た

 

「ひぎぃ‼︎」

 

飛び上がる位にビビる

 

忘れた頃にやって来るオバケの恐怖

 

「あたしが淹れてあげるわ」

 

腕を掴んで来たのはローマ

 

何故かローマは俺がコーヒーを淹れようとすると全力で止める

 

「アンタがコーヒー淹れるとロクな事が無いのよ」

 

「確かにそうかもしれんな」

 

言われてみればロクな事がない

 

大体不味いし苦いし、その後大体凄い問題が起こる

 

ここはローマに任せよう

 

ソファーに座ってテレビを付け、ローマのアイスコーヒーを待つ

 

「最近どうなの⁇」

 

「この間かなり動いてから、それからはまたいつもの日常さっ。哨戒に飛んだり、学校の見回りに行ったり、診察したり」

 

「頼りにされてるのよ、それだけ。艦娘にはアンタが必要だわ」

 

「そう言ってくれるとありがたいね」

 

「さ、出来たわ」

 

ローマがアイスコーヒーを持って来てくれた

 

「あたしも飲むわ。いいわね⁇」

 

「どうぞっ」

 

ローマは俺の横に座り、アイスコーヒーを飲む

 

「…アンタが羨ましいわ」

 

アイスコーヒーを半分程一気に飲み干したローマは、ため息混じりで話し始めた

 

「どうしてだ⁇」

 

「兄さんに振り向いて貰えるからよ」

 

ローマはずっとずっと複雑な感情を抱いている

 

それは、表には出せない愛情

 

だが、俺は何となく…

 

本当に何となく…

 

ローマの気持ちを分かってやれる気がしている

 

だけどそれは、俺にとっても表には出せない愛情

 

二人しか知り得ない、永遠の秘密だ

 

互いに抱える事柄は違えど、問題は同じに思えた

 

「兄さんは時々、リベッチオと遊んでくれてるらしいの」

 

「きっと気付いちゃいけないんだろうな…」

 

「だからこそ、見て見ぬ振りをしてるわ」

 

この間たいほう達とピザを食べに行った様な事を、本当はローマもしたいのだろう

 

「アンタなら、何となく分かってくれてるでしょ⁇」

 

「何となく、な⁇」

 

そう返すと、ローマはうっすら微笑む

 

そして、俺の左肩に頭を置く…

 

「しばらくこうさせて。いいわね⁇」

 

俺は何も言わずにアイスコーヒーを口にする

 

「アトランタはようやくアンタに懐いて来たわね⁇」

 

肩に頭を乗せたまま、ローマは話す

 

「隊長曰く、隊長に似てないらしいな⁇」

 

「タカコに似たのよ、きっと…」

 

「お⁇」

 

ふと、足元に違和感を感じる

 

ズボンの裾を誰かが引っ張っているような感覚だ

 

こんな時間に起きて来るのは、ひとみといよだろうと、足元を覗き込んだ

 

「アトランタ‼︎」

 

いつの間にか、寝起きで目付きの悪いアトランタが起きて来ていた

 

「どうやって来たんだ⁉︎」

 

みんなの部屋に続く食堂の出入り口を見ると、ローマが開けっ放しにしたのか、ドアが開いていた

 

アトランタも暑くて目が覚め、食堂に行けば誰かがいると思い起きて来たのだろう

 

アトランタは俺の飲んでいるアイスコーヒーを目付きの悪いまま指差している

 

「ちょっと見て来るわ。アトランタをお願い」

 

「すまん」

 

左肩から頭を離したローマは、再びキッチンに立った

 

「よいしょっ…」

 

アトランタを抱き上げて隣に座らせると、まだ眠いのか、俺にもたれて来た

 

「アトランタも暑かったか⁇」

 

アトランタは俺にスリスリする

 

一見否定に見えるが、これは肯定っぽいな

 

「出来たわ。アトランタ、グレープジュースよ」

 

氷をいくつか入れた、ストロー付きのコップをローマが持って来てくれた

 

中にはグレープジュースが入っており、ローマもアトランタの横に座りながらそれを渡す

 

アトランタはそれに気付き、早速手を伸ばしてストローを口に含む

 

「あ」

 

よっぽど喉が渇いていたのか、アトランタはグレープジュースを飲み、小さく声を出した

 

「そうかそうか‼︎美味しいか‼︎」

 

「全部飲んでいいわ⁇」

 

俺とローマの間に座ったアトランタは、チゥチゥ音を立てながらグレープジュースを飲む

 

アトランタがグレープジュースを口にするのを見るローマは、いつものツンツンした彼女と違い、あぁ、母親なんだな…と思わせる優しい顔になっていた

 

「ちゃんと飲めたわね」

 

「喉乾いてたんだろうな」

 

アトランタは飲んだ後のコップをローマに渡し、いつものようにお腹の前で手を合わせる

 

「ごちそうさま、ね⁇」

 

ローマがコップを流しに置きに行ってくれた直後、アトランタは俺の太ももに頭を置いて仰向けになったので、近くにあったタオルをアトランタに掛けた

 

「どうした⁇」

 

アトランタは俺の左手を掴み、自身の胸に置く

 

「眠たくなったんだな。よしよし…」

 

一瞬急に胸に置かれて驚いたが、ポンポンしてくれの合図だった

 

アトランタをポンポンしながら、俺は肘掛けに置いた右手で簡易の枕を作る

 

「あら、寝ちゃった⁇」

 

戻って来たローマに、アトランタは一瞬目を開ける

 

が、ローマと分かってすぐ、また眠りに入る

 

「どうしたらそんなに懐くのよ…」

 

「倒される事だな。顔面にパースィーが来たり、線路になったり、だな⁇」

 

「ふふっ。何かアンタらしいわね…」

 

「そりゃどうもっ」

 

ローマと話しつつも、アトランタへのポンポンは止めない

 

そんな時、アトランタが急に目を覚まし、再び俺の腕を掴む

 

「悪い悪い」

 

ポンポンの位置がズレて来たので、胸の位置に直す

 

どうやら、ここをポンポンされると心地良いらしい

 

「ローマは寝…」

 

アトランタの胸をポンポンする横で、先程と同じく俺の方に頭を置いて、ローマは眠りについていた

 

こうなるともう動けない

 

…どの道、アトランタが手を掴んでいて離してくれないからな

 

この状況に身を任せて、俺も目を閉じる…

 

 

 

 

朝…

 

「アトランタ‼︎」

 

寝室にアトランタがいないと気付いた貴子さんが飛び起きて来た

 

しかし、俺達三人は寝息を立てている

 

「あぁ…良かった…マーカス君の所にいたのね…」

 

アトランタの胸に手を置いたまま、眠りについた俺

 

「ありがとね、マーカス君…」

 

寝ている俺にお礼を言いながら、貴子さんはアトランタを剥がそうとする

 

「…あらっ⁇んっ⁇」

 

しかし、アトランタは剥がれない

 

俺の手をガッチリ掴んだまま、アトランタは心地良さそうに寝ている

 

「…ごめんなさいマーカス君…美味しい朝ごはん作るから、もうちょっとこのままでお願い…」

 

貴子さんは俺の頭を撫でた後、ローマの寝顔も見て同じ事をした後、台所に立った…




マーカスがコーヒーを淹れさせて貰えないのは、淹れたら本当にロクな事が起きないからです 笑


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277話 シマエナガクリーナー(1)

さて、276話が終わりました

今回のお話は、小さなクリーナーが再び登場します‼︎

空母寮のお掃除をお願いされた小さなクリーナー達

まずはイントレピッドに預けられます


「ヒトミとイヨは任せて‼︎」

 

「頼んだ‼︎また夕方迎えに来るからな⁇」

 

「き〜つけてな〜‼︎」

 

「はよかえってこいお〜‼︎」

 

ひとみといよをイントレピッドに預け、俺はサンダース隊の航空演習へ

 

今日はひとみといよはパイロット寮でお仕事らしい

 

「ヒトミ‼︎イヨ‼︎始めましょうか‼︎」

 

「あかった‼︎」

 

「おしぉ〜じ‼︎」

 

この日はパイロット寮の大掃除

 

クリーナーの素質があるひとみといよが召集され、まずはエントランスから始める

 

「かべつうつうにしあす‼︎」

 

いよが自動で壁をツルツルにする装置を取り付ける

 

「いよちゃん、るんたのった⁇」

 

「のった‼︎」

 

「しぅっぱ〜つ‼︎」

 

「おしぉ〜じかいち‼︎」

 

「行ってらっしゃーい‼︎」

 

イントレピッドに見送られ、ひとみといよのお掃除が始まる

 

 

 

 

「きえ〜れす‼︎」

 

「なんにもありあしぇん‼︎」

 

普段イントレピッドやサムがいるので、空母寮はかなり綺麗に掃除されている

 

しかし、ひとみといよはルンタ君に乗りつつ、ガーゼを付けた棒で床と壁の境目をしっかり掃除して行く

 

あっと言う間に綺麗になり、ひとみといよはエントランスから出る

 

「つい‼︎」

 

「おはよ〜ごじゃいあす‼︎」

 

「おぉ‼︎ヒトミとイヨか‼︎」

 

ひとみといよが開けた扉の先に居たのはヴィンセント

 

ここは執務室だ

 

「かえつうつうにしあす‼︎」

 

ひとみが全自動壁ツルツル装置を取り付け、執務室を掃除開始

 

「ジバサミでゴミを取るのか⁇」

 

「ひとみはもえうほう‼︎」

 

「いよはもえないほう‼︎」

 

「なるほど‼︎ちゃんと分けてるんだな⁇偉いぞ‼︎」

 

ひとみといよはカゴを背負っており、ひとみが燃えるゴミ、いよが燃えないゴミをジバサミで掴んでそこに入れる

 

今はまだ少ないが、互いにチョロチョロ入って来ている

 

「ヒトミ、イヨ…その…カーペットを頼みたいんだが…」

 

「あかった‼︎」

 

「できう‼︎」

 

ヴィンセントに案内され、執務室の中心にある机の下のカーペットの所に来た

 

「これなんだが…ガンビアがコーヒーひっくり返してな…」

 

そこには、ベージュのカーペットに溢れてシミになったエリアがあった

 

「おまかしぇ‼︎」

 

「まっててくらしゃい‼︎」

 

ひとみといよはルンタ君から降り、自動にする

 

まずはひとみがティッシュを取り出し、霧吹きで少し濡らし、シミ部分に置く

 

「おりぁ‼︎」

 

「うりぁ‼︎」

 

二人で掛け声と共に、軽くティッシュを叩く

 

すると、ティッシュにコーヒーのシミが移り始めた

 

「もういっかい‼︎」

 

「しぉ〜めんかあだ‼︎」

 

同じ行為を二、三回繰り返すと、シミは見えないくらいにまで薄くなる

 

「しあげです‼︎」

 

「ふいかけれす‼︎」

 

いよが“せんざい”と書かれたボトルを取り出し、シミ部分にふりかけ、もう一度濡らしたティッシュを乗せる

 

「でゅくし‼︎」

 

「りゅくし‼︎」

 

先程よりほんの少し強めに数回叩いた後、ひとみといよはティッシュを取った

 

「あいっ‼︎」

 

「できまちた‼︎」

 

「おぉっ⁉︎凄いじゃないか‼︎」

 

カーペットは元通りの綺麗さを取り戻していた‼︎

 

《お掃除が完了しました》

 

「あいっ」

 

タイミング良く壁の掃除も終わり、ひとみは装置を取った

 

「す、凄い…ピカピカだ…」

 

「ついいきあす‼︎」

 

「おじぁあしあした‼︎」

 

「あ、あぁ‼︎ありがとうな‼︎」

 

ひとみといよは次の部屋に向かう

 

「凄いな…ピカピカだ‼︎」

 

いつの間にか窓拭きや棚のガラス部分もピカピカに磨かれている

 

ヴィンセントは大変ご満足して頂けたみたいだ



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277話 シマエナガクリーナー(2)

ジョンストンに異変が‼︎


「ろこいく⁇」

 

「いんとえしゃんのとこいく‼︎」

 

執務室を出て、ひとみといよが目指すはイントレピッドの所

 

次の目標を聞きに来たのだ

 

「あら‼︎もう終わったの⁉︎」

 

イントレピッドはエントランスで机を拭いていた

 

「おあった‼︎」

 

「つぎどこしあすか‼︎」

 

「そうねぇ…じゃあ、二階にある廊下だけお願い出来るかしら‼︎」

 

「あかった‼︎」

 

「いってきあす‼︎」

 

「待って待って‼︎階段だから連れて行ってあげるわ‼︎」

 

ひとみといよはイントレピッドに抱き上げられ、二階へと運ばれる

 

二階に運ばれたひとみといよは早速壁に装置を取り付け、イントレピッドがルンタ君を持って来るのを待つ

 

「はいっ‼︎どうぞっ‼︎」

 

「あいあと‼︎」

 

「いってきあす‼︎」

 

ルンタ君に乗り、二階の廊下掃除スタート

 

「ひとみ、いよ」

 

スタートしてすぐ、ひとみといよはジョンストンに出会う

 

「よんすとん‼︎」

 

「いよとひとみちゃん、おしぉ〜じちてうの‼︎」

 

「ジョンストンもやる」

 

「あいっ‼︎」

 

いよが持っていた溝を掃除する棒を貰い、いよ本人は雑巾を取り出す

 

「こ〜あってすうの‼︎」

 

「うん」

 

いよにやり方を教えて貰い、ジョンストンも床と壁の境目を掃除開始

 

ひとみといよはルンタ君から降り、廊下の中心に二台並べ、右側はいよが雑巾でスタンバイ

 

これで廊下自体は綺麗になる

 

後はひとみが左側の溝を、ジョンストンが右側の溝を担当

 

端っこからスタートし、向こう側に着いたら廊下がピカピカになっている寸法だ

 

「すた〜と‼︎」

 

三人とルンタ君が動き出す

 

ジョンストンも中々楽しいようで、ひとみといよに追従して遊ぶかの様に掃除を終わらせて行く

 

事件はその矢先に起こった

 

「も〜ちぉっとれす‼︎」

 

「ふぁいと‼︎」

 

「おりゃ」

 

三人同時にゴール‼︎掃除終了‼︎と、思った矢先だった‼︎

 

バキッ‼︎と音がした時には、時すでに遅し

 

ドンガラガッシャーン‼︎

 

「うぁぁぁあ‼︎」

 

「ぐぁぁぁあ‼︎」

 

「あーーーっ」

 

床が脆かったのか急に抜け落ち、三人は一階に落ちた‼︎

 

「へっ⁉︎アウチッ‼︎」

 

抜け落ちた床が、一階にいた女性に当たる

 

「いんとえしゃーん‼︎」

 

「おたしゅけー‼︎」

 

「落ちるーっ‼︎」

 

「ほっ‼︎はっ‼︎よっ‼︎」

 

たまたま下にいたイントレピッドが三人を受け止めてくれた

 

「だ、大丈夫⁉︎脆かったのね…」

 

「はぁ…はぁ…ちぬかとおもっら…」

 

「たしゅかいまちた‼︎」

 

流石のひとみといよが命の危機を感じている中、一人だけ反応が違う

 

「くくく…」

 

ジョンストンだけは肩を揺らしていた

 

「ジョンストン⁇アーユーオーケー⁇」

 

「あはははははは‼︎」

 

「あっはっはっは‼︎」

 

「あたまうったか⁇」

 

「ジョンストン⁉︎マーカスに診て貰いましょ‼︎」

 

イントレピッドが焦る

 

きっと、ジョンストンは落ちた際に頭を打っておかしくなったと思った

 

ジョンストンはピンピンしているが、それが逆に怖い

 

「ジョンストン‼︎しっかりなさい‼︎」

 

「あははははは‼︎違うの‼︎びっくりしちゃって‼︎」

 

ジョンストンはずっと爆笑したまま、三人の前にいる

 

「ジョンストン⁇」

 

「どうした⁉︎凄い音が聞こえたぞ‼︎」

 

流石のヴィンセントも気になって執務室から顔を出す

 

「ヴィンセント‼︎ジョンストンが頭打ってクルクルになったのよ‼︎」

 

「私は大丈夫‼︎ビックリしただけだから‼︎」

 

「一応大尉に診て貰おう‼︎大事になるといけないからな‼︎」

 

一応掃除が終わったので、ひとみといよのお仕事も終わり

 

二階の床は妖精達が急ピッチで直している

 

「大尉に連絡を入れるからな⁇」

 

「大丈夫だって‼︎ホントよ⁇」

 

「ジェミニ。ヴィンセント・マクレガーだ。マーカス大尉に繋いでくれ」

 

ケラケラ笑うジョンストンを尻目に、ヴィンセントはまずは中継である横須賀に繋げる

 

《どうした⁇》

 

マーカスはすぐに無線に出た

 

「ひとみといよとジョンストンが二階から落ちて、ジョンストンが頭を打ったんだ。診てくれないか⁇」

 

《了解した‼︎演習終了‼︎》

 

「すまない…」

 

マーカスはすぐに演習を切り上げてくれ、緊急事態の為、一番最初に降りて来た

 

「さ、ヒトミ、イヨ、ジョンストン‼︎行こう‼︎」

 

「もぅ…大丈夫だって…」

 

口では嫌がるジョンストンだが、ヴィンセントが腕を広げるとちゃっかり抱き着く

 

「ヒトミとイヨは私と行こっか」

 

ひとみといよはイントレピッドに抱き上げられ、マーカスのいる工廠に向かう…



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277話 シマエナガクリーナー(3)

他人事いよちゃん


「来た来た‼︎」

 

工廠では、俺ときそがスタンバイ

 

「ジョンストンちゃんは僕の所へ‼︎」

 

ジョンストンはきそがいるベッドに横になる

 

「ひとみといよはこっちな⁇」

 

ひとみといよは俺のいるベッドの上に座る

 

「すまないマーカス…私が目を離した隙に…」

 

「気にする必要はないさ。ひとみ、いよ、一応スキャンするからな⁇」

 

「すきぁん‼︎」

 

「すけすけです‼︎」

 

まずはひとみにきその作った手に巻き付けるタイプのレントゲン装置を近付ける

 

「どっか痛い所はないか⁇」

 

「おなかすいた‼︎」

 

レントゲンも特に異常はない

 

「一応、カプセルに少しだけ入ろうな⁇」

 

「こえ⁇」

 

ひとみの指差す方向には、カーテン付きの浴槽型のカプセルがある

 

貴子さんが入っていたのと同じ、カプセルの派生型だ

 

「そうだっ。いよも入るから、先に入って待っててくれるか⁇」

 

「あかった‼︎」

 

ひとみが先に浴槽型のカプセルの周りのカーテンを閉め、先に入る

 

「次はいよだな」

 

「えんとげん⁇」

 

「そうだっ。あのモニター見てるか⁇」

 

「みう‼︎」

 

いよをモニターの方に向け、レントゲン装置を近付ける

 

「すっけすけ‼︎」

 

「痛い所はないか⁇」

 

「のどかあいた‼︎」

 

いよにも異常は見られない

 

「よしっ‼︎いよもちょっとだけお風呂入ろうな⁇」

 

「あかった‼︎」

 

いよも浴槽に向かう

 

問題はジョンストンだ…

 

 

 

 

「どれどれ〜…」

 

きそも同じ装置をジョンストンに近付ける

 

きそは脳神経のプロフェッショナル

 

もし異常があれば一発で見抜いてくれる

 

「特に異常は無いみたい…あ〜っと、これだこれだ‼︎」

 

きその手が一定箇所で止まる

 

「頭を打ったのはホントみたいだね」

 

「治せるか⁉︎」

 

ヴィンセントが焦る目の前で、きそは頬を掻く

 

「治すと言うか、治ったが近いのかな⁇」

 

「どう言う意味だ⁇」

 

「ジョンストンちゃんは、何らかの影響で感情の神経が詰まってたんだ。それが今、衝撃で流れたって言えば分かりやすいかな⁇」

 

「凄い分かり易いな…」

 

「オッケー‼︎診察終了‼︎ひとみちゃんといよちゃんが上がったら、ジョンストンちゃんもお風呂入っておこうね‼︎」

 

「分かったわ‼︎キソ、ありがとう‼︎」

 

「いつだって‼︎」

 

ヴィンセントとイントレピッドが肩を落とす

 

三人共、特に異常はなかった

 

それどころか、ジョンストンに至っては詰まっていた神経伝達が流れ始めるというプラスまで産まれた

 

「また借りが出来ました、大尉」

 

「この間来てくれたお返しさっ‼︎」

 

ヴィンセントはほんの少し微笑みながら、軽く頭を下げた

 

俺も同じ行為をヴィンセントに返す

 

「さっぱい‼︎」

 

「ふっかつ‼︎」

 

「ヒトミ、イヨ‼︎お礼にランチ作ってあげるわ‼︎みんなで食べましょう‼︎」

 

「あんちたえる‼︎」

 

「おにく‼︎」

 

後はジョンストンが上がるのを待つだけだ…

 

数分後…

 

「サッパリしたわ‼︎」

 

「よかった…」

 

ピンピンしているジョンストンを見て、ヴィンセントは安堵のため息を吐いた

 

「ランチにしましょう‼︎」

 

「俺ときそは片付けたら行くよ‼︎」

 

「分かったわ‼︎美味しいの作るからね‼︎」

 

ヴィンセント達がパイロット寮に戻り、俺ときそは後片付けをする

 

「ビックリしたね⁇」

 

「床と屋根は抜けるもんだぞ⁇」

 

「そういやレイも落ちてたね⁇」

 

「あれはビビったな…よしっ‼︎片付け終了‼︎」

 

「行こ‼︎」

 

きそと共に、イントレピッドのランチに向かう

 

 

 

 

パイロット寮に着くと、キッチンではイントレピッドとサムがいた

 

ヴィンセントはジョンストンと、サンダース隊の一部の連中とポーカーか何かをしている

 

ひとみといよ、そして涼平がいない

 

「おかえりなさい‼︎ヒトミとイヨ、洗濯物干しに行ってくれたのよ‼︎」

 

「あの二人の日課さ‼︎どれっ、ちょっと様子を見に行くか…」

 

きそは既にポーカーに参加中

 

俺はひとみといよの様子を見に行く事にした

 

 

 

 

「れかい‼︎」

 

「いんとえしゃんの⁇」

 

「そうだよ‼︎」

 

何故か所々スレているイントレピッドの巨大な黒いブラジャーを、ひとみといよは二人掛かりで運んで、洗濯バサミで挟んで干す

 

その横には涼平がおり、二人を見ていてくれている

 

「いんとえしゃんのもういちつあう‼︎」

 

「でか〜い‼︎」

 

やっぱり所々スレているイントレピッドの巨大ブラジャー

 

今度は紺色を協力して干す

 

「隊長‼︎大丈夫でしたか⁇」

 

「あぁ。特に問題はなかった」

 

空の洗濯カゴを抱えた

 

「イントレピッドさん、あぁ見えて反射神経凄いですからね…」

 

「それでか…」

 

つまり、激しい動きをするから擦れるらしい

 

…そう言う事にしておこう

 

「おしぇんたくおわい‼︎」

 

「あんちにしあしぉ‼︎」

 

ひとみといよが戻って来たので、涼平と共に戻る事にした

 

「ヒトミ、イヨ‼︎ありがとうね‼︎」

 

「またよんれくらしゃい‼︎」

 

「いつでもきあす‼︎」

 

「さぁっ‼︎ランチにしましょう‼︎」

 

 

 

俺の前にもハンバーガーが置かれる

 

ひとみといよ、そしてジョンストンは床にマットを敷き、その上でイントレピッドのハンバーガーを頬張る

 

イントレピッドのハンバーガーはボリュームがあって美味しい

 

一度ジョンストンが作っているのを見たが、乗せ方を“パン・パン・肉”と間違っていた

 

あれは可愛かったな

 

「そう言えばマーカス⁇今週末教会でダンスパーティーがあるでしょ⁇」

 

「聞いてないぞ‼︎」

 

イントレピッドに言われ、また横須賀を疑う

 

「あ‼︎レイ‼︎いたいた‼︎」

 

匂いに誘われて入って来たかの様に横須賀が来た

 

「今週末、教会で仮面舞踏会をするのよ。また後で基地にも届くと思うけど…これね」

 

横須賀に紙を渡される

 

艦娘合同立食仮面舞踏会

 

少し前にやった舞踏会と違い、今回は仮面を付けてやるみたいだ

 

「今日配ってるのか⁇」

 

「そうよ。なぁに⁇また疑ってたワケ⁇」

 

「んな事はないさ。ないない」

 

「まぁいいわ。アンタの仮面はこっちで準備したから、絶対来て頂戴よ⁇」

 

「分かった」

 

この舞踏会でまた一波乱あるとは、誰も予想だにしなかった…



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278話 魔性の夜、仮面は踊る(1)

さて、277話が終わりました

今回のお話は、前回の最後に少し話していた仮面舞踏会のお話です

今夜だけは誰でもない、好きな人に良く似た人と踊り、想いを打ち明けられる魔性の夜

艦娘達、思い想いの時間が始まります


舞踏会当日、夜…

 

俺と隊長、貴子さん。そして子供達数人が横須賀に着く

 

子供達の誰が参加しているかは、後々明らかになる

 

「来た来た‼︎とりあえずこれね‼︎」

 

まずは執務室に行き、言われていた仮面を受け取る

 

横須賀は既に真紅のドレスに着替えており、親潮も黒のゴシック調のドレスに着替えている

 

「後は正装に着替えて頂戴‼︎」

 

貴子さんと子供達は別室へ

 

俺と隊長は執務室で着替えに入る

 

「仮面舞踏会ねぇ…」

 

横須賀の意図が未だに分からない

 

前回の舞踏会も中々楽しめたが、今回の仮面付きと言う仕様の意味はなんだろうか…

 

「着替えが終わったら、私達は名前を変えなきゃならんな‼︎」

 

「隊長は何にするんだ⁇」

 

互いに鏡を見つつ、話を続ける

 

「そうだなぁ…着くまでに考えて、入った瞬間に自己紹介として言おうか‼︎」

 

「オーケー‼︎」

 

始まる前から楽しい夜だ

 

きっと、今夜も長い夜になるだろうな…

 

「どうだ⁇似合ってるか⁇」

 

「バッチシだ‼︎」

 

隊長も俺も、少し長めのタキシードに着替え終わる

 

「レイも似合ってるな‼︎よし、行こう‼︎」

 

執務室を出て来た俺と隊長

 

「お着替えは終わりましたか⁇」

 

「あぁ、終わった。横須賀達は⁇」

 

執務室を出ると、既に仮面を付けて準備万端の親潮らしき少女が待ってくれていた

 

「今日はレディがお誘いする日、と仰っていました‼︎」

 

「これは待たせてはならんな‼︎」

 

「よしっ‼︎行こう‼︎親し…」

 

流れで親潮と言いそうになる

 

「おっ‼︎そうか。目の前にいるのは親潮じゃないな⁇」

 

「ウィリアム様らしきお方の仰る通りです、創造主様らしきお方⁇」

 

親潮らしき少女は順応が早い

 

ここは俺も順応しよう

 

「失礼レディ。お名前をお聞かせ願えますか⁇」

 

親潮らしき少女の前で跪き、手を前に出す

 

「クラウディアマスク、そうお呼び下さい」

 

「では参りましょう、クラウディアマスク」

 

俺と隊長の間にクラウディアマスクが入り、俺達二人で教会までエスコート開始

 

「繁華街も大繁盛だな」

 

「今日は上座も下座も関係がなくなる日だからな」

 

いつもならこの時間は繁華街は夕飯時…もしくは食後のデザートを食べに来る艦娘や人員で繁盛する時間帯だが、今日は更に繁盛している

 

隊長の言う通り、今日は誰が誰だか分からない

 

もし分かったとしても、知らないフリをしておくのが紳士の礼儀だ

 

「はっ。貴方のお名前を聞いていませんでした‼︎」

 

クラウディアマスクが気付く

 

俺達二人共名前を教えていない

 

「教会に着いたら教えますよ、クラウディアマスク」

 

「畏まりましたっ‼︎」

 

教会では立食パーティーも行なわれる

 

繁華街では何も食べず、教会へと向かう

 

「クラウディアマスクは踊りますか⁇それとも立食パーティーに⁇」

 

「まずは立食パーティーに参加しようかと。その際にダンスの情報を得ます」

 

「ダンスは雰囲気で踊るのです。後は相方が合わせてくれますよ」

 

「隊長っぽい人が言う通りですよ」

 

「頑張ってみます‼︎」

 

話をしていると、教会の前に着いた

 

「あら⁇貴方は何処かで…」

 

香取先生らしき人が今正に教会に入ろうとしている

 

「これはこれはレディ。お名前をお聞かせ願えますか⁇」

 

「私は“カトリーヌ”と申します」

 

「クラウディアマスクは私と共に。カトリーヌをお願い出来ますか⁇」

 

「宜しくお願い致します、ウィリアム様らしきお方‼︎」

 

雰囲気に気付いた隊長らしき人に言われ、俺はカトリーヌの前で膝を降ろす

 

「私がお相手で宜しいですか⁇」

 

「宜しくお願い致します…」

 

カトリーヌの手を取り、隊長が教会の扉を開ける…



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278話 魔性の夜、仮面は踊る(2)

まずは自己紹介から

ボインマスクも出るよ‼︎ 笑


「お母さん‼︎来たぜ‼︎」

 

「どれどれ…」

 

朝霜に言われ、横須賀が食べる手を止める

 

「私はジェットマスク‼︎純白の招待状を受け、馳せ参じた‼︎」

 

「私はクラウディアマスク‼︎案内人を務める為、馳せ参じました‼︎」

 

会場から拍手が上がる

 

純白の招待状…あの案内用紙の事か…

 

「隊長さんカッコイイな‼︎」

 

「うぬ‼︎い〜ちゃんもそう思う‼︎」

 

「次はレイね…」

 

隊長がかなりカッコイイ入場をした為、プレッシャーがかかる…

 

「行きましょう‼︎私も考えがあります‼︎」

 

「よしっ…」

 

カトリーヌを横に置き、俺も教会に入る

 

「我が名は怪盗噴式仮面‼︎今宵、皆のダンスの相手を奪いに馳せ参じた‼︎」

 

「私はカトリーヌ‼︎ダンスが分からぬ者は私の前へ‼︎」

 

会場から再び拍手が上がる

 

今夜、俺はマーカスではなく、噴式仮面となる

 

誰もその存在を知らない一人の怪盗、噴式仮面

 

我ながらなかなか良いネーミングセンスをしたと思っていた次の瞬間だった

 

「私の名は橘花☆マン‼︎悪を滅する正義の剣‼︎乙女の呼び声、確と聞き届けた‼︎」

 

「俺の名はメッサーシュミッター‼︎悪と光の狭間に生きる戦士‼︎俺の正義は、橘花☆マンと共に‼︎」

 

目のマスクではなく、本物の橘花☆マンの口元だけのマスクを付けた健吾らしき人物とアレンらしき人物が教会に来た途端、駆逐艦の子供達がキャーキャー言っている

 

あんなの来たら無理だろ‼︎勝てる訳ない‼︎

 

「流石はあの二人だな…名前を隠さなくても、芸名があるからな…」

 

柏木梨紅と、アレンはシュミッターとかのあだ名か…

 

「その内ジェットマスクにも来ますよ」

 

「一度でいいから、ウィリアムと言う男が出たいと言っていたな」

 

「奇遇ですね…レイと言う男も出たいと言っていましたね…」

 

ここからはラッシュが始まる

 

「カサカサマスクでーす‼︎」

 

「スイーツボンバー‼︎だっ‼︎」

 

衣笠らしき女の子と、トラックさんらしき男性が来た

 

衣笠らしき女の子は普通の目元マスクだが、トラックさんらしき男性は、ショートケーキの配色の目元のマスクをしている

 

「ゴトゴト仮面‼︎参上‼︎」

 

「やぁみんな‼︎きんぴらくんだよ‼︎」

 

ゴトランドらしき女の子と、恐らく高垣であろう男性が来た

 

きんぴらくんとはいえ、目元のマスクの色がきんぴらゴボウに似ているだけだ

 

ゴトランドらしき女の子は、目元のマスクもかなり似合っていて、何処となく怪盗っぽさがある

 

そして、ここで爆弾が放り込まれる

 

「怪人‼︎リチャードマスクだっ‼︎」

 

「その相棒‼︎怪人ヴィンセントマスクだっ‼︎」

 

「ボインマスクよ‼︎」

 

三人来た内の二人は全く正体を隠さない清々しさ‼︎

 

そしてイントレピッドらしき女性が名乗るはボインマスク‼︎

 

この高官っぽい三人がこんな登場をした為、会場は一気に爆笑ムードに包まれた

 

「レ…噴式仮面⁉︎マイクを頼むわ‼︎」

 

真っ赤なドレスを着た、横須賀っぽい女性がマイクを渡して来た

 

「任されましたっ‼︎レディースアーンドジェントルメン‼︎今宵、横須賀教会にて開かれた仮面舞踏会に、ようこそおいで下さいました」

 

マイクを受け取った後ろで、メッサーシュミッターときぬらしき女の子が演奏の準備を始める

 

「今宵は上座も下座も関係の無い特別な時間。愛する人、片想いの人、そして高官に想いを伝えられずにいる部下の方々、今夜はそんな思いをお伝え出来る魔性の時間でございます」

 

会場を見渡すと、それぞれが思い思いの相方の横にそれとなく付いているのが目に見えた

 

「それでは今宵の時間、思い思いの方法でお楽しみ下さい。私も参加致しますので、どうかお声掛けを宜しくお願い致します」

 

少しだけ後ろを向き、メッサーシュミッターに対して頷いた

 

メッサーシュミッターはきぬらしき人物と頷き合い、曲が始まると同時に、仮面舞踏会の幕が上がる



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278話 カトリーヌの夜

題名は変わりますが、前回の続きです

カトリーヌのお誘いを受けた噴式仮面

踊る最中、カトリーヌから悩みを打ち明けられます




噴式仮面…マーカス君っぽい人

カトリーヌ…香取先生っぽい人


「さて…」

 

途中で演奏を交代してやらねば

 

メッサーシュミッターもきぬらしき女の子も参加したいだろう

 

「噴式仮面さん‼︎」

 

マイクを置いて皆が踊る中に入ろうとした時、声を掛けられた

 

胸元をザックリと見せたベージュのドレスを着た女性だ

 

「これはこれはカトリーヌ。お相手をお願い出来ますか⁇」

 

「此方から宜しくお願いします」

 

差し出されたカトリーヌの手を取り、ゆっくりと踊る

 

「噴式仮面さん…私、少し好きになったお方がいるの…」

 

「ほぅ…それは一大事です…何方のお方でしょう、お呼びして参ります」

 

手を繋いだまま踊るカトリーヌが後ろを向いた時、その手が強く握られる

 

「貴方に良く似たお方です…貴方と違って口がとても悪いのですが…とても紳士的なお方です」

 

「では、今宵は私をそのお方とお思い下さい」

 

「ありがとうございます…」

 

仮面越しの向こうにいるカトリーヌは、俺の知っている口煩い教師に似ている

 

こうして見ると、カトリーヌはまだまだ若く、普段誰かがババアと言っている誰かを引っ叩いてやりたい…

 

男を落とすのに十二分な美貌の持ち主である事に、当の本人は未だに気付いていない

 

「あの…噴式仮面さん…」

 

顔を見合って手を取り合った時、カトリーヌは一人の少女に戻る…

 

「何でしょう」

 

「…私の内心を語っても構いませんか⁇」

 

「勿論です。どうか、遠慮なさらず」

 

顔を見合ったまま、小さく揺れながら、ダンスは続く

 

カトリーヌに合わせて俺が踊り

 

俺に合わせてカトリーヌが踊る

 

そんな事を繰り返し、見つめ合っている内に、ほんの少し“愛おしい”との感情を互いに抱いていた

 

「私、彼の事を鎖で縛ったりしてしまったの…酷い女でしょう⁇」

 

「…」

 

その彼に覚えがある為、少しの間口を閉じ、カトリーヌの答えを待つ

 

「私の教え子なの、その人は…だから、絶対に抱いちゃいけない感情なのです…」

 

「…気付くのが遅かった、ですか⁇」

 

泣き出しそうな顔でカトリーヌは頷く

 

「彼は許していますよ。貴方を好きでいなければ、ランチに誘ったりしないはずです」

 

それを聞いて、カトリーヌはほんの一瞬いつもの見知った教師に戻る

 

「…また誘って頂けるかしら⁇」

 

「彼に伝えておきましょう」

 

曲が終わりに近付く…

 

「ありがとう…噴式仮面さん。夢の様な時間でした…」

 

普段見ている力強い女教師はそこにはおらず、そこにいたのは一人のか弱い女性だけ

 

「此方こそ、カトリーヌ」

 

曲が終わり、カトリーヌが手から離れる…

 

カトリーヌは最後の最後まで今にも涙が零れそうな表情のまま、手から離れていった…



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278話 貴方を愛した一人の少女

今度はスパイトっぽい人からお誘いを受けた噴式仮面

ところが、二人の様子は少し違いました…



噴式仮面…マーカス君っぽい人

レディ・ゲルダ…スパイトっぽい人


「おっ…」

 

タキシードの裾がクイクイ引かれる

 

振り向くと、小さく首を傾げた母さんらしき女性がいた

 

「フンシキカメンさん。この私と踊って下さる⁇」

 

車椅子に座ったままの母さんらしき女性は、自身と俺をジワリジワリと壁に寄せて行く

 

「勿論です。お名前は⁇」

 

「貴方のお好きに呼んで下さい」

 

「では“レディ・ゲルダ”参りましょう」

 

レディ・ゲルダの顔がパァッと明るくなる

 

「待って‼︎フンシキカメンさん‼︎」

 

レディ・ゲルダは車椅子から立ち上がり、俺の手を握る

 

「無理はしていませんか⁇」

 

「大丈夫。私、貴方と踊りたいの‼︎」

 

「ではレディ・ゲルダ。参りましょう」

 

「はいっ‼︎」

 

会場の真ん中に立ち、俺達は踊る

 

「あの…フンシキカメンさん」

 

「何でしょう」

 

「私、貴方に似た人とずっとこうする夢を見てたの…」

 

目の前で左右に揺れ動くレディ・ゲルダを見て、俺は“あの日”握った手を思い出していた…

 

「それは奇遇ですね。私も貴女と良く似た“少女”とこうしたかった…」

 

「…」

 

なんの不思議な感じも無く、ごく自然にレディ・ゲルダは俺の胸に頭を近付ける

 

上目遣いで微笑んだレディ・ゲルダを見て、そっと腰に手を回す

 

「あの日と同じ…今度は素敵な時間ですね…」

 

レディ・ゲルダは一人の少女ではなく“ゲルダ”という本来あるべき姿へと戻って行く…

 

「あの日は炎の中でこうして貰ったわ…」

 

「二度と離さない…私がそう言ったら、レディ・ゲルダ。貴女はどうしますか⁇」

 

「ずっと待ってるわ…」

 

クルクル回るレディ・ゲルダ

 

手を伸ばし、彼女を引き戻す

 

その時、本当に二度とこの手は離してはならないと感じた…

 

 

 

 

「おい、見ろ。オトンとおばあ様を」

 

「お⁇」

 

踊らずに立食パーティーに参加していた、磯風らしき女の子“いーちゃんマスク”が、朝霜らしき女の子“モーニングマスク”の肩を叩く

 

「おばあ様が小さく見えるぞ」

 

「んなアホな…」

 

モーニングマスクは目をゴシゴシした後、もう一度二人を見た

 

「…見えるな⁇」

 

二人の目にもきっちり映る、自分達の祖母らしき人物がうら若き少女に戻っている姿を

 

「乙女になっているな」

 

「愛だな、愛‼︎」

 

後に語られる、本物の魔性の時間

 

そこにいた誰もが、彼女が少女に戻っていたと語る…

 

 

 

 

「もうすぐ曲が終わるわ…」

 

「心配する事はありません。貴女の思い人は、常に貴女のお傍に…」

 

曲のクライマックスのその瞬間、レディ・ゲルダは俺に抱き着くかの様な体勢を取る

 

「また、踊って下さる⁇」

 

「勿論です、レディ・ゲルダ」

 

レディ・ゲルダの鼓動を感じる…

 

あの日に戻っていたんだな…俺達は…

 

レディ・ゲルダを車椅子に座らせ、目の前で膝を曲げて手を握る

 

「素敵な時間をありがとう、フンシキカメンさん‼︎」

 

「此方こそ。次のお相手はお決まりですか⁇」

 

「そうね…」

 

「おっ‼︎いたいた‼︎」

 

やって来たのはリチャードマスク

 

レディ・ゲルダの顔がほんの一瞬、いつもの見知った母さんらしき女性に戻る

 

「お名前を教えて頂けますかな⁇」

 

「貴方のお好きに呼んで下さい、リチャードマスクさん」

 

「では、スパスパマスクさん‼︎この私と踊って頂けますか⁇」

 

「エスコートして下さる⁇」

 

スパスパマスクと命名された母さんらしき女性は、俺と踊った時と違い、頑なに車椅子から降りようとしない

 

「ではレディ、私はこれで」

 

「またお逢いしましょう‼︎」

 

少し離れるまで様子を見ていたが、意地でも降りようとしない母さんらしき女性を見て、少しだけ微笑みを送り、本物の魔性の時間は終わりを告げた…




私自身も結構お気に入りなお話になりました


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278話 美人姉妹は知らずに落とす

同時刻、教会に訪れた美人姉妹

扇情的に誘う姉

人の話を聞かない妹

そのどちらも魅力的であり、自動的に男を落とす

そんな中、一人の少女まで…


同時刻、教会前広場

 

「遅れてしまいましたね…」

 

「出来るレディは、ほんの少しだけ華を持たせるのよ⁇」

 

姉が微笑み、妹もうっすらと微笑みを返す

 

「参りましょう、姉さん」

 

「行きましょう‼︎」

 

二人の女性が教会の扉を開く…

 

 

 

「この雰囲気…久し振りだわ‼︎」

 

「姉さんはダンスが好きですものね」

 

「ダンスは雰囲気、そして楽しむ為にあるのよ⁇」

 

突如として現れた、双子の美人

 

会場で立食を楽しんでいた若い男性達の視線が一気に其方に向く

 

「誰だ…⁇」

 

「凄い美人だ…」

 

目元にはフワフワ素材の黒いマスクを付けている二人は、若い男性の視線を一瞬で集める

 

黒いドレス、主張する胸元、足元のスリット

 

そのどれもが魅力的な女性としてのポイントを抑えており、今すぐにでもダンスの相手に誘いたくなる

 

「さぁ‼︎楽しみましょう‼︎」

 

「えぇ‼︎姉さん‼︎」

 

「うふふっ…貴方にき〜めたっ‼︎」

 

「が、頑張ります‼︎」

 

姉が誘ったのは涼平らしき青年

 

「貴方、お名前は⁇」

 

「け“ケンチクン”です‼︎」

 

「そう…良いお名前ね⁇固くならないで…楽しみましょう⁇ねっ⁇」

 

「あっ…」

 

姉は蟲惑的な言葉を使う中、仕草は子供という、非常に厄介かつ男性の落とし方を熟知している

 

彼女はケンチクンの手を取り、クルクル踊る

 

「クルクルしましょう⁇これだけでも楽しいわ⁇」

 

「あの…お名前を伺っても…」

 

「あら、ごめんなさい⁇そうね…“謎の女13番”…これでどうかしら⁇」

 

「じ、じゃあ謎の女13番さん、よろしくお願いします…」

 

「ふふっ…お願いするのはどっちかしらね⁇それっ‼︎」

 

「あっ‼︎」

 

ケンチクンをクルッと回し、謎の女13番はすぐにケンチクンを受け止める

 

「女性にエスコートされるのはお好き⁇」

 

「慣れていますっ‼︎」

 

倒れかかったケンチクンを謎の女13番は腰を支えて受け止めた為、程良くダンスの体勢になる

 

「さぁっ‼︎クライマックスよ‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

ケンチクンは体勢を直し、謎の女13番と手を繋ぎ、くっついたり離れたりを繰り返す

 

「姉さん、張り切ってますね…」

 

「貴方もですよ“怪盗14番さん”」

 

怪盗14番と呼ばれた妹の方も、姉に負けず劣らずの踊りを見せる中、謎の女13番の方は踊りを終える

 

「素敵でしたわ、ケンチクン⁇」

 

「ありがとうございました‼︎」

 

「素敵な夜を‼︎」

 

謎の女13番が去り、怪盗14番が彼女に寄る

 

「姉さん。立食パーティーに行きましょう」

 

「そうね。お酒飲んじゃダメよ⁇貰っちゃったら、近くの大人にあげなさい⁇」

 

「姉さん‼︎りんごジュースがありました‼︎」

 

この怪盗14番

 

小さい頃から人の話を聞かない癖は大人の体になっても治っていないが、行動力があるのは相変わらず

 

彼女が言う事を聞く人物は少なからずいるのだが…

 

それに反して謎の女13番は、大人らしき対応はするが、仕草や行動に何処と無く幼さが未だに残っている

 

それがまた絶妙にアダルトな男性を狂わせる

 

「おぉ⁉︎スゲー美人の人がいるぞ‼︎」

 

「本当だな。りんごジュースを飲んでいる」

 

立食パーティーの見回りをしていたモーニングマスクと、い〜ちゃんマスクが二人の存在に気付いた

 

「何だろな…アタイ、どっかで会った様な感じがするんだ…」

 

「貴方、お名前は⁇」

 

モーニングマスクがブツブツ呟いていると、謎の女13番が来た

 

「へっ⁉︎アタイ⁉︎アタイはモーニングマスクさ‼︎」

 

「それ、一つ頂けるかしら⁇」

 

「お⁉︎おーおー‼︎どぞっ‼︎」

 

謎の女13番が手に取ったのは、モーニングマスクの近くにある小エビが乗ったクラッカー

 

「…」

 

謎の女13番がクラッカーを食べる姿を、モーニングマスクはつい魅入ってしまう

 

なんて美人なんだろう…

 

食べる姿でさえ綺麗だ…

 

謎の女13番はそれに気付いたのか、テーブルにあったタオルで指を拭いた後、モーニングマスクに近付いて来た

 

「へぁっ⁉︎あ、アタイに何か…」

 

謎の女13番はモーニングマスクの前で屈み、彼女の頬を撫でた

 

甘い髪の香りが鼻をくすぐった時、モーニングマスクは声を出す

 

「ひっ‼︎」

 

「流石はあのお方の娘。貴女もきっと美人さんになるわね」

 

「あ…ありがとうございます‼︎」

 

「ふふっ。次は一緒にお菓子でも食べましょう⁇」

 

謎の女13番は別の人とのダンスに向かう

 

「ほぁー…」

 

謎の女13番の虜になり、放心状態になっていたモーニングマスク

 

「おい‼︎しっかりしろ‼︎い〜ちゃんマスクの作ったエビのボイルを食うか⁉︎」

 

「だ、ダメだダメだ‼︎」

 

我に返るモーニングマスク

 

そして、ふと気付く

 

「あの人の髪の毛の匂い…ありゃあ子供用のシャンプーの匂いだったなぁ…」




謎の女13番…どことなくひとみっぽい、おっぱいのデカイ姉の方

怪盗14番…なんとなくいよっぽい、足が綺麗な妹の方


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278話 白黒付けよう、今夜だけは

会場で子供達の相手をしていたジェットマスク

少し休憩を取ろうとしていた時、語尾に特徴があるあの子にお誘いを受けます

ジェットマスク…パパっぽい男性

ハルナイト…ダズールでござーる


「メッサーシュミッター。演奏を代わりましょう」

 

「すまない。俺も踊りたい女性がいるんだ」

 

メッサーシュミッターと演奏を代わり、バイオリンを手に取る

 

「貴女のお名前は⁇」

 

「“おにぎりちゃん”です‼︎」

 

「私は“マリナイト”おにぎりちゃん、貴女も是非ダンスにご参加を」

 

「ありがとうございます‼︎行って来ますね‼︎」

 

ラバウルさんらしき男性がピアノの前に座る

 

「さて…噴式仮面さん。私とのセッションをお願い致します」

 

「畏まりました」

 

マリナイトとの演奏が始まる…

 

 

 

「おぉ…」

 

横須賀の駆逐の子達とのダンスを終え、次の相手を待つ中、演奏が噴式仮面とマリナイトのものに変わる

 

「おい‼︎」

 

誰かに呼ばれ、其方に振り向く

 

この呼び方、恐らく彼女だろう…

 

「オメェ、手隙なら“ハルナイト”と踊るダズール」

 

そこにいたのはダズル迷彩の目元マスクを付け、白と黒を基調としたフリル付きのドレスを着た榛名らしき女性

 

「喜んで。私はジェットマスク」

 

「んっ‼︎」

 

ハルナイトは手を出し、エスコートをしろと無言の圧力を私にかける

 

私はその手を取り、ダンスに向かう

 

 

 

 

「お、おぉ、おとと…」

 

「ゆっくりで構いませんよ」

 

ハルナイトの足は少しおぼつかない様子

 

転げないように彼女の手をしっかり握る

 

「オメェ、女の扱いもウメェダズール」

 

「何事も経験でございます。さぁ、右足を出して…」

 

「こ、こうダズール⁇」

 

私の合図で、ハルナイトは足を動かす

 

「そうです。では、次は左足を前に」

 

「ん…」

 

少しずつだが、ハルナイトも要領を掴み始める

 

「お上手です。では、右足で一歩下がって下さい」

 

「こうダズール⁇」

 

「最後に左足を一歩後ろに」

 

「…」

 

「これを繰り返すだけで、随分とダンスは楽しめますよ。もう一度やってみましょうか」

 

「ん…」

 

ハルナイトの口数が少なくなる

 

何やらダンスを本気で覚えたい様子だ

 

少しずつ慣れて来た所で、ハルナイトと顔を見合う

 

「…たか…あいや…“天婦羅美人”もこうして落としたダズール⁇」

 

「どうでしたかね…随分昔の事ですから、忘れてしまいました」

 

「オメェとこうしていると、天婦羅美人がオメェに惚れた理由が分かるダズール」

 

「それを知りたくて、私をお誘いに⁇」

 

「文句あるダズール⁇ハルナイトはこう見えてウブダズール」

 

マスクの向こうで、ハルナイトは悪戯に微笑む

 

「それは失礼を」

 

「ははは‼︎冗談ダズール‼︎」

 

ダンスを踊るハルナイトは、私が知る限りの豪快な彼女ではなく、本当に一人のウブな少女になっている

 

「サンキューダズール」

 

曲が終わり、ダンスも終わる

 

ハルナイトは手から離れ、私の知るいつもの彼女に戻る

 

「お次は誰と⁇」

 

「ちょっと休憩ダズール。ワンワン仮面とも踊ったし、小腹が空いた頃合いダズール」

 

「良い夜を、ハルナイト」

 

「そっちもダズール」

 

ハルナイトと別れ、私は次の相手を探す…



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278話 貴女を知りたい、少しだけ

演奏を代わったメッサーシュミッター

彼はある事をどうしても知りたいが為、一人の女性を探します

メッサーシュミッター…アレンっぽい人

オーヨドン…大淀っぽい人


「いないな…」

 

メッサーシュミッターは一人の女性を探す

 

どうしてもその女性と踊ってみたい

 

そう思い、今日はここに来た

 

その女性と踊れば、俺は満足だ

 

「おや。君は一人かね」

 

その女性は壁にもたれ、シャンパンを飲んでいた

 

俺から声を掛けようと思ったが、先に彼女から声を掛けてくれた

 

いつもと変わらぬ服装だが、目元のマスクはキチンとしている

 

「名前は⁇」

 

「ヤボだねぇ。君がメッサーシュミッターなら、私も同じさ‼︎」

 

「踊ろう。それだけだ」

 

「おっ‼︎いいよ‼︎」

 

彼女の手を取り、皆が踊る輪に入る

 

「若干役入ってるかね⁇」

 

「そうでもしなきゃ、まともに話せないからな」

 

「そうかいそうかい」

 

彼女の手を握り、腰を抱き寄せ、踊る

 

俺は知りたい

 

最高の親友であり、相棒であり、永遠のライバルであるあの男が、何故彼女に惚れたのかを…

 

「何か知りたげだねぇ」

 

「君は彼を好いているのか⁇」

 

目線を彼女から演奏の舞台にズラす

 

彼女も目線をズラすが、すぐに俺に戻す

 

「好きだよ…とっても…」

 

彼女の顔が赤くなる

 

これ以上の確証は無いだろう

 

「そっか…深く聞かないでおこう」

 

「聞いてご覧よ。君の知りたい事が聞けるかも知れないよ⁇」

 

「何故彼に惚れた⁇」

 

「家族を教えてくれたからさ。彼は母親にならせてくれたんだよ…」

 

「彼なら出来るな…」

 

「それに、いつだって止めてくれる…ダメな事をしたり、しようとした時、いつだって…」

 

彼女の言う通りだ

 

あの男は、いつだって私達を救ってくれる

 

今までも、これからも

 

それを分かっていて好きになるのは、簡単そうに見えて理解に苦しむ

 

あの男は…色々と背負い過ぎているからだ

 

それを今目の前にいる彼女は、全て理解してくれる

 

互いに惹かれ合うのに、隔たりは無いと気付く

 

「まぁあれだよ‼︎貧乳に興味は無いと一蹴りされたけどね‼︎」

 

「今の話を聞いて、なんとなく理解したよ。ありがとう」

 

彼女の長く、黒い髪からほんの一瞬香る煙草の匂い

 

女性特有の香りと混じり、何処と無く誘惑に負けそうになる

 

彼女は強いはず

 

だが、何故だ⁇

 

心の何処かで、彼女を護らなければ…そんな感情に苛まれる

 

「シュミッター。君には還る場所があるはずだよ⁇」

 

彼女が優しく微笑んだ時、彼女の顔がピントから外れ、壁際に目をやる

 

そこには、俺の愛する人が待っていた

 

「君はその人を護ってあげるんだ」

 

彼女が手から離れる…

 

「あ…あの…」

 

「メッサーシュミッターは弱気になっちゃダメだ。子供に夢を与えなくっちゃ」

 

「“オーヨドン”‼︎」

 

俺が踊っていたのは、大淀博士らしき女性

 

俺は知りたかった

 

俺が知っている限り、レイのタイプとは真逆の彼女に何故惚れたのか…

 

オーヨドンは悲しく微笑み、首を傾げてその場を離れた今、その意味が分かった…



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278話 君の手を握って

オーヨドンの手を離した後、目の前には最愛の妻に良く似た女性が一人

彼はもう一度、彼女に恋をします


メッサーシュミッター…アレンっぽい人

ヤッタネルソン…ネルソンっぽい人。様子がおかしい


「きっ、きさっ、貴様がメッサーシュミッター、だなっ⁉︎」

 

緊張しまくっているネルソンらしき人物が、ルージュのドレスに身を包んでそこにいる

 

「いかにも」

 

「う、うぬっ‼︎では、こここの“ヤッタネルソン”と踊って貰おう、かっ‼︎」

 

しかし、気高さは忘れたくないヤッタネルソン

 

あくまで誘うのは自分で行きたいスタンスらしい

 

「では、ヤッタネルソン。エスコートを」

 

「んまっ、任せておけっ‼︎」

 

ヤッタネルソンと共に、再びダンスを踊る

 

「緊張しなくていい。ゆっくりと…」

 

「ききき、緊張などしておらんっ‼︎」

 

俺の知っているいつもの女性は跡形も無く消え、今は何故かカチコチになったダンスを踊るヤッタネルソン

 

「あ、あれ、あれあれ…んんっ⁉︎」

 

俺と良く似た男の名を言いそうになり、人差し指で塞ぐ

 

「メッサーシュミッター。メッサーでいい」

 

「めっ、メッサー‼︎貴様っ、余に似た嫁がおらんかっ⁉︎」

 

「ヤッタネルソンに良く似た嫁がいるな」

 

「やっ、奴の事をっ、どどど、どう思うっ⁉︎」

 

妻の事を聞いたヤッタネルソンは、もっと硬くなる

 

声はうわずり、気が動転しているように見える

 

「俺は良い嫁を貰った。面倒見も良くて、家事もやってくれる。リードもしてくれるしな。コロッケも美味しい。長年、待った甲斐があった」

 

「そうかっ‼︎うむっ‼︎」

 

彼女の威勢がようやく戻った

 

ヤッタネルソンとは初対面だが、妻と似ている彼女には、これが似合う気がする

 

「ヤッタネルソンの旦那はどんな人だ⁇」

 

「うむ。余はな、メッサーと良く似た男の尻を追い掛けて、半ば押し掛け女房のような形になってしまってな…」

 

「どうしてそこまで彼の事を⁇」

 

妻には長い間聞けなかった事を、ようやくここで聞いた

 

ヤッタネルソンも、ヤッタネルソンに似ている俺の妻もかなりの美人だ

 

今まで数多の男がアプローチをかけただろう

 

「余に初めて面と向かって好きと言った男でな。今までそんな事を言われた事がなかった」

 

「そんなに美人なのにか⁇」

 

「はは、世辞が上手いなメッサー。噂はなんと無く聞いていた。私と付き合いたいと言う男も居たが、面と向かっては言っては来なかったなっ」

 

「彼はどんなアプローチを⁇」

 

「一目惚れした奴をランチに誘いたいと言ってなっ。話が終わると誘われたのは余だった」

 

「楽しかったか⁇そいつとのランチは」

 

「楽しくなければ、今頃嫁になっておらん」

 

ヤッタネルソンとの話は続く…

 

聞けば聞く程、俺と良く似た奴がヤッタネルソンを口説いた言葉があられもなく出る

 

「ビールを飲みたいんだが、一人じゃ寂しい。美人が横に居てくれれば、美味しく飲めそうなんだが⁇とかなっ‼︎」

 

「回りくどい男だ…」

 

「ふふっ‼︎」

 

しかし、その度にヤッタネルソンは少女の様に笑う

 

普段は高貴な雰囲気を放っており、知らない奴は少し近寄り難い彼女

 

そんな彼女が時折放つ少女の笑顔を見て、いつの日かの俺は、また彼女好きになった

 

曲が終盤に入り、ヤッタネルソンは少しずつ体を密着させ、胸板に自慢の巨大な胸が当たる

 

「ふ…」

 

ヤッタネルソンの早い鼓動が聞こえる…

 

「余をこんな状態にする男でな…困った奴だっ…」

 

「彼に伝えておく事があれば伝え…」

 

話し終える前、そして同タイミングで曲が終わると同時に、熱いキスを受ける…

 

曲が完全に終わるほんの少し前、ヤッタネルソンはキスを終える

 

「次に余を見たら、同じ事を返しに来い。そう伝えてくれないかっ」

 

「りっ、了解したっ…」

 

最初と立場が逆転した所で、ヤッタネルソンが手を離した

 

そうして俺は、また一つ彼女を好きになった…




このお話もかなり好きな一話になりました

叶う事の無い恋愛、今目の前で再び始まる恋愛

書いていて本当に楽しかったです


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278話 もう一度、本気で誰かを愛したい

目線がエドガーに切り替わります

ロリコンで有名なエドガーさん

彼が誘ったのは、かなり意外な人物でした


「マリナイトさん‼︎ありがとうございました‼︎」

 

「此方こそ、楽しい時間を」

 

エドガーらしき男性、マリナイトはおにぎりちゃんとのダンスを終える

 

私には、もう一人だけ踊りたい女性がいた

 

その人を探しつつ、少しシャンパンを飲む

 

こんな時位しか彼女と話せないからだ

 

「どう⁇美味しい⁇」

 

「美味しいぜ‼︎あんがとな‼︎」

 

貴子さんに非常に良く似た女性“天婦羅美人”が、モーニングマスクに天ぷらを食べさせている

 

目的の人物を見つけた私はシャンパンを飲み干し、いざ彼女の元へ向かう

 

「そこのレディ⁇」

 

「へっ⁉︎あっ、あたしっ⁉︎」

 

「そうです」

 

天婦羅美人の方に向かってはいたが、私が近付いた瞬間、別テーブルに天ぷらを置きに行った

 

私が探していたのは、その近くでオードブルを食べていた女性

 

「私と踊って頂けませんか⁇」

 

「やったじゃん“ちよちよ”‼︎」

 

姉に煽られ背中を押される女性

 

横須賀にいる千代田に非常に似ている女性だ

 

紺色のドレスを身に纏っていても、主張が多い胸が目立っている

 

「ほっ、本当にあたしで⁉︎」

 

「えぇ。探していたのです」

 

「よ、喜んで‼︎ちょ、ちょっとだけ待ってて下さい‼︎」

 

ちよちよは急いで口周りや手を拭く

 

「頑張りなさいよ⁇」

 

「おおおお姉‼︎あたし、行って来るっ‼︎」

 

「“ちとちと”でしょ⁇ほらっ、待たせちゃダメよ⁇」

 

「わわわ分かった‼︎お願いします‼︎」

 

「参りましょう‼︎」

 

ちよちよは急いで私の手を取り、最後の魔性の時間が始まる…

 

 

 

 

「あ、あのっ、どうして私を⁇」

 

「初めて見た時に好きになってしまった…それでは理由になりませんか⁇」

 

「いっ‼︎いい‼︎いい‼︎」

 

ちよちよは頭を左右に振る

 

ちよちよはまさか自分が意中にいたとは思いもよらずにいた

 

今まで、そんなに話す機会もなかった

 

それもそのはず。今ちよちよの前にいるのは、恐れ多くもラバウルの航空隊の長

 

皆が恐れ、敬意を抱く、横須賀屈指の二羽の親鳥

 

それも怖い方だ…

 

それに、彼に対しては明確な理由があった

 

「あ、貴方…小さい子が好みじゃ…」

 

「私にとっての“あの日”は、この間終わりを迎えましてね…それに、恋愛で一度自分に正直になってみたかったのです」

 

それを聞いて、テンパっていたちよちよの顔がゆっくりと穏やかな顔付きに変わる

 

「そっかぁ…色々あったんだね⁇」

 

「ふふっ。皆さん、私を幼女趣味と思いがちですが、本来は違います」

 

マリナイトは何処で覚えたのか、独特な踊り方を披露する

 

ちよちよは何故かそれに追従して行く

 

体は全く知らない踊りであるはずなのに、ちよちよは何故かその踊り方を知っていた

 

そして、踊りが緩やかになった所で、ちよちよが話を続ける

 

「じゃあ、本来は⁇」

 

「喜怒哀楽がしっかりしている方です。私は元来、この様な性格ですので…」

 

「なにそれ‼︎あたしが怒りっぽいって言うの⁉︎」

 

「そう言う貴方だからこそ、好きになりました」

 

「あっ…すっ、すみません…」

 

ちよちよに良く似た女性も喜怒哀楽が激しい

 

エドガーに良く似た男性、マリナイトは喜怒哀楽の起伏が少なく、皆に感情を捉われにくい

 

自分と相反する女性である為、いつの日かのマリナイトは一目見ただけで好きになっていた

 

「貴女に意中の方は⁇」

 

「いっ、今出来たわ…」

 

ちよちよの顔が真っ赤に染まる

 

それを見たマリナイトは優しい微笑みを送る

 

「踊りましょう、ちよちよ」

 

「えぇ‼︎」

 

二人の夜は流れて行く…




マリナイト…エドガーっぽい人

ちよちよ…千代田っぽい人


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278話 時の傍観者

目線がとある人物に切り替わります

彼女を見た正義の拳を持つ男性は、ダンスのお誘いをします


沢山の思いを乗せ、チクタク回る時計

 

伝えられない思いを交差させ、クルクル回る二人組

 

それを羨ましそうに眺める、時の傍観者が一人

 

眺めているのかいないのか

 

ボーッとしながら、皆を眺める

 

「早霜も…いつか踊れますか…⁇」

 

「おっと。では、少しだけ自分と踊りましょう」

 

早霜の近くにいたのは、園崎らしき男性扮する“パンチアウター”

 

顔面フルフェイスマスクだが、筋肉が隆々なのですぐに園崎と分かる

 

筋肉隆々なのは、園崎扮するパンチアウター…

 

もしくは少し遠くで“ドラゴンマスク(緑)”に振り回されている“スイーツボンバー”しかいない

 

「お願い…します…」

 

「此方こそっ」

 

早霜は天婦羅美人と料理を作っていた為、マスクの類を着けていない

 

なので、早霜だけは早霜で良い

 

パンチアウターの手を取り、早霜は雰囲気だけでも味わう事にした

 

 

 

 

「お。早霜だぜ‼︎」

 

「なんで割烹着を着ている」

 

早霜はドレスさえ着ていない

 

あの日、マーカスとギザギザ丸と出会った百貨店の食堂と同じ割烹着を着て、早霜は踊る

 

 

 

 

「すみっこで申し訳ありませんね…」

 

「いえ…」

 

身長差のある二人

 

早霜がパンチアウターを見ると、どう足掻いても上目遣いになる

 

「あの…」

 

「どうしました⁇」

 

「やまし…ティーチャーマスクとは…」

 

「今だけはやめましょう⁇」

 

「そうね…」

 

早霜は大人びた返事を返す

 

時々見かける山城先生

 

自分達の姉が通っている学校の先生が、何故彼を好きになったのか

 

子供ながらにそれを察していた

 

人生をやり直すと決めた女

 

その拳を正義の為に使うと誓った男

 

互いに何かに惹かれ合う

 

その間柄は、決して誰にも邪魔をされない、してはいけないという事を…

 

それでも優しいパンチアウター

 

小さいながらも、早霜とクルクル踊る

 

その二人の姿は、いつの日か早霜が絵本で見たシンデレラの物語に近い物があった…

 

 

 

「ありがとう…ございます…」

 

「此方こそ。貴女の料理、美味しく頂きましたよ⁇」

 

「あっ…その…」

 

最後まで紳士的かつ、どこか子供扱いを残したパンチアウター

 

その対応は、ダンスが終わった後でさえ早霜を緊張させた

 

早霜は彼を好きになった訳では無い

 

早霜が一番好きなのは自分の父親。それに、山城との間には入れない事を理解していた

 

ただ、背中を見送る時、彼に対して感謝の気持ちを送っていた…

 

「上手だったぜ‼︎」

 

「うむ‼︎い〜ちゃんマスクもしっかり見たぞ‼︎」

 

「ありがとうございます…朝霜姉さん…磯風姉さん…」

 

そう言って、早霜は会場から出て行った…

 

「割烹着で踊るってのも映えるものだな‼︎い〜ちゃんマスクも次は割烹着で来よう‼︎」

 

「まぁなんだ…男からすっと、グッと来るモンがあんだろうな⁇」

 

「おや。随分な美人さんだ。私と踊ってくれるかい⁇」

 

「はいっ…橘花☆マン…‼︎」

 

二人の横で、誰かが橘花☆マンに誘いを受ける

 

「貴女の名前は⁇」

 

「ミス・ハヤシライス…です…」

 

「行きましょう‼︎」

 

早霜に良く似た少女“ミス・ハヤシライス”が黒のドレスを身に纏い、会場へと駆けて行く

 

「あ、あれ…さっき居たよな⁇いつの間に着替えたんだ⁇」

 

「あれだ、モーニングマスク。親潮の服のデータをだな」

 

「あり得る…か⁇んまぁ良いさ‼︎食おうぜ‼︎」

 

二人は一瞬気に掛けたが、今日はそんな野暮な考えはしない事に決めた…

 

 

 

 

 

「ふふっ…朝霜姉さん…やっぱり、勘の良いお方っ…」

 

誰も居ない港で、時の傍観者はひっそりと消えた…




時の傍観者…時々出て来るあの子。早霜に非常に良く似ている

パンチアウター…園崎っぽい人


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278話 親友二人と魔性の夜

目線がマーカス、アレンに切り替わります

曲が最後になり、代わるがわる踊る二人

そんな中、アレンは不思議な女性と出逢い…


舞踏会もクライマックス

 

“最後ぐらい踊っといでさ‼︎”

 

“演奏は任せとき‼︎”

 

突然妖精達が来た

 

「おま…貴方達は宜しいので⁇」

 

“かまへんで‼︎”

 

“ぎょーさん食べたさかい‼︎”

 

「では、お言葉に甘えて。メッサーシュミッター」

 

「君達、頼んだよ」

 

妖精達に演奏を任せ、メッサーシュミッターと二人でダンスの相手を探す…

 

 

 

メッサーシュミッターはやはり子供達に人気があり、てんてこ舞い

 

最後はどうやら入れ替わり立ち替わりのダンスになりそうだ

 

「おとうさん」

 

まずは最初は赤城らしき女の子

 

赤い目元のマスクを付け、背中をチョンチョンして来た

 

「今は噴式仮面ですよ」

 

「ふんちきかめん」

 

「そうです。貴女のお名前は⁇」

 

「あかぎーぬ」

 

「では、あかぎーぬ。少しばかりお相手を」

 

「うん」

 

アカギーヌなのか、あかぎ犬なのか、どちらかは分からない

 

親潮辺りが付けたのだろう…

 

あかぎーぬは何処で覚えたのか、それなりに踊って見せてくれている

 

「ふんちきかめん」

 

「どうしまし…おっと‼︎」

 

あかぎーぬに肩を持たれ、クルッと回された

 

「ひゅぷのす」

 

振り返らされた先にはヒュプノスらしき少女が、白いゴスロリ調のドレスを着て待っていた

 

「噴式仮面さん、ごきげんよう。私は“眠り姫”お相手して下さらない⁇」

 

「もう少々おま…」

 

「ひゅぷのす、おどる」

 

今度はあかぎーぬに背後から肩を持たれ、動きを止められた

 

「あかぎーぬはいいの⁇」

 

「からあげ、たべたい」

 

あかぎーぬは目線を横にズラし、てんこ盛りのからあげいつものように指を小刻みに揺らす

 

「畏まりました。あかぎーぬさん、ありがとうございました」

 

「ありがと、ふんちきかめん」

 

あかぎーぬは本当にからあげの所に行ってしまった

 

「気を遣わせてしまったわね…」

 

「好意に甘えましょう。さぁ‼︎」

 

「ふふっ…」

 

眠り姫の手を取り、踊る

 

「素敵よ、噴式仮面さん⁇」

 

「貴方もですよ、眠り姫」

 

「ふふっ‼︎それっ‼︎」

 

眠り姫は俺の娘に非常に良く似ている

 

その娘には“絶対防御”と呼ばれる回避機能が備わっている

 

それを今使っているのか、絶妙に誘ってはヒラヒラと逃げる様な踊りを見せてくれている

 

「捕まえましたっ‼︎」

 

「あらっ…捕まっちゃったわ⁇」

 

手を取り合い、今度は緩やかに踊る

 

「噴式仮面さん⁇踊りたいお方はいないの⁇捕まえて来てあげるわ⁇」

 

「貴女と踊りたいと言えば、どうなりますか⁇」

 

「ふふっ‼︎それは聞けないお願いね⁉︎それっ‼︎」

 

眠り姫が俺を離す

 

「おっと‼︎」

 

「噴式仮面様⁉︎」

 

俺の最後の相手が決まる

 

「これはこれは。クラウディア・マスク…」

 

「最後のダンス、ご一緒にお願い出来ますか⁇」

 

「私で良ければっ」

 

始まりもクラウディア・マスク

 

終わりもクラウディア・マスク

 

俺のラストダンスは、クラウディア・マスクで終わりを迎える…

 

 

 

 

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「此方こそありがとう‼︎」

 

メッサーシュミッターは子供達とのダンスが落ち着き、最後は女性と踊ろうかと思い、会場の真ん中をウロチョロしようとし始める

 

「あれ…いないな⁇」

 

ふと気が付く

 

橘花☆マンがいない

 

おそらく疲れて外の空気でも吸っているのだろう

 

「あ、あの…」

 

服の裾をクイクイ引かれる

 

引く位置的に子供かスパイトさんと思い、振り返って目線を落とす

 

「お⁉︎」

 

しかし、目線の先にはコルセット

 

どうやら大人の女性だ

 

「お…わ、私と踊って頂けませんか⁉︎」

 

「お⁉︎おぉ‼︎勿論だっ‼︎」

 

互いに焦りつつ、手を握り合う

 

黒い髪のショートカット

 

目元のシンプルな黒いマスク

 

ディアンドルに近い、白とベージュのドレス

 

中々の美人だ

 

最後のダンスに相応しいお相手だ

 

「わ、私の事は“ミス・リック”と‼︎」

 

「オーケー、ミス・リック」

 

ミス・リックはカチカチになっていた体を徐々に落ち着かせ、メッサーシュミッターに動きを合わせる

 

「あ、あの…メッサーシュミッターさん⁇」

 

「ん⁇」

 

「ずっとお慕いして、います…」

 

「…それはメッサーシュミッターとして、か⁇」

 

「り、両方です‼︎」

 

ミス・リックはまた緊張し始める

 

「俺は君を知らない…」

 

「いいんです、知らなくて…今夜は想いを伝えられる魔性の時間…私はそれに身を委ねてみたかったのです…」

 

ミス・リックは緊張しながらも微笑む

 

その微笑みは、何処か見覚えのある微笑み方だった…

 

 

 

 

「おやおや。メッサーシュミッターは最後は女性ですかっ」

 

「ほぅ⁇」

 

立食パーティーに来ていたマリナイトとヤッタネルソン

 

マリナイトは壁に持たれ、シャンパンを飲んでおり、ヤッタネルソンは彼の近くでからあげを食べている

 

「あの小娘、何処かで…」

 

ヤッタネルソンの目線の先には、顔を真っ赤にしながらも微笑むミス・リックがいた

 

「少し妬きますか⁇」

 

「あ、いや…それがだな、いつもなら少しは妬くのだが、あの小娘は何故か妬かないんだ…」

 

「ふふっ…後でメッサーシュミッターに言っておきましょう」

 

「マリナイト。それは妬く」

 

「畏まりましたっ。黙っておきます‼︎」

 

マリナイトとヤッタネルソンの立食は続く…

 

 

 

「ありがとうございます、メッサーシュミッターさん」

 

「此方こそ」

 

遂に舞踏会が終わる

 

ミス・リックは手を離れ、少し泣きそうな顔を見せながら教会を後にした…

 

「誰だったんだ…」

 

ミス・リックの謎を残し、魔性の時間は終わりを迎えた…




あかぎーぬ…赤城っぽい子。多分アカギーヌが正解

眠り姫…イクっぽい子




ミス・リック…謎の女性。中々出る所出てる結構美人の女性だが、誰だか分からない

ミス・リックは今回を含め二度しか出ていない。

なに、前回もいなかった⁇一回も出てない⁇

前回は浴衣を着ていましたよ


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278話 高官三人の官能的な夜

目線が、リチャード、ヴィンセント、イントレピッドの順に変わります

題名の通り、ちょっぴりエッチな内容です 笑


「さーてぇ⁉︎最後の相手はだーれかなぁー⁉︎」

 

それぞれが最後のダンスを迎える中、リチャード・マスクのお相手は…

 

「もし⁇そこの方‼︎」

 

「おっ‼︎来た来た‼︎」

 

リチャード・マスクは振り返る

 

「“リシュークリーム”が相手になってあげます」

 

彼の息子が好きそうなブロンドの美女がリチャード・マスクの最後のお相手

 

リシュークリームも目元のマスク

 

彼女に良く似合う赤だ

 

「んっ‼︎光栄だ‼︎」

 

「エスコートして頂戴。いい⁇」

 

「勿論勿論‼︎」

 

リチャード・マスクは最後のダンスに向かう…

 

 

 

「ありがとうございます、ヤッタネルソン」

 

「うぬ。此方こそありがとう。余はこれから少し立食に参加しようと思う」

 

「畏まりました」

 

少し前にヤッタネルソンとのダンスを終え、もう潮時かと思っていたヴィンセント・マスク

 

「ヴィンセント‼︎」

 

「ぐほぁ‼︎」

 

背後からいきなり首根っこを掴まれ、誰かに引き寄せられる

 

おぉ、ジョンストンよ…

 

私はこんな過激な抱き上げ方をしていたのか…

 

バチが当たったと思いつつ、引き寄せて来た相手の顔を下から上へと視線を上げつつ見る

 

中々の巨乳…

 

ボリュームのあるツインテールの金髪…

 

子供っ気が残った顔…

 

「ヴィンセント‼︎“ベイベイ”と踊るの‼︎」

 

「よ、よし‼︎」

 

ヴィンセント・マスクが最後に踊るは、自分の妻に非常に良く似た女性、ベイベイ

 

いつもなら控えめで引っ込み思案な可愛くて堪らない妻

 

だが、今目の前にいるのはそんな庇護欲をくすぐる妻ではなかった‼︎

 

「アッハハハハハ‼︎回って回ってヴィンセント‼︎」

 

「おおおおお…」

 

横須賀の駆逐達がたまに遊んでいる“コマブレード”よろしく、ヴィンセント・マスクはベイベイに回される

 

「ベイベイ‼︎酔ってるのか⁉︎」

 

「ベイベイ酔ってない‼︎ホラァ‼︎踊ろうヴィンセント‼︎」

 

ベイベイは既にヴィンセント・マスクとも呼ばず、ただヴィンセントと呼び、彼を子供の様に振り回す

 

「ホーラ、ヴィンセント‼︎もっとガッ付かないと、ベイベイ逃げちゃうよ‼︎」

 

挙句の果てには、胸元を見せて挑発しだす始末

 

「クソォ…」

 

何気無くヴィンセントは時計を見た

 

時間は既に午前0時を少し過ぎた所

 

「あ」

 

「フッフゥー‼︎」

 

ヴィンセント・マスクの前でテンション高くステップを踏むベイベイ

 

そこに居た誰もがいつもと様子が違う彼の妻に酔っ払いを疑うが、実はコレ、正常である

 

彼の可愛い幼な妻は、午前0時を過ぎると何故か暴れん坊になる

 

彼の息子は知ってか知らずか、いつも彼女を午前0時には寝かせる様に動いてくれていた

 

それが今、ヴィンセント・マスクの前で白日の下に晒されている

 

「そうかい。この猛獣め‼︎」

 

「アッ‼︎」

 

ヴィンセント・マスクはベイベイの腰を抱きかかえ、グルっと二周回転する

 

「いいよー‼︎好きなだけ回して‼︎」

 

ヴィンセント・マスクは分かっていた

 

こうなれば、もう自分に勝ち目が無い事を

 

ヴィンセント・マスクはベイベイの耳元に口を寄せ、呟く

 

「暴れるとアレンの兄弟を作る事にな…うっ‼︎」

 

全部言い終わる前に、ベイベイはヴィンセント・マスクに胸を押し付ける形で抱き着いた

 

「いいよぉ。アレン、下の兄弟欲しがってたしー、ベイベイがポンポーンて産んだげるー‼︎」

 

ベイベイはグイグイヴィンセント・マスクに言い寄る

 

「うっ…」

 

「ホラホラァ。ヴィンセント、たまにはベイベイと寝たいでしょ⁇」

 

完全に狩人の目になったガンビア

 

「い、今は踊ろう‼︎」

 

「今逃したらしばらくないよー、ヴィンセントー」

 

ヴィンセントは英断を委ねられた

 

「し、しかしだ…」

 

「イッパイヨシヨシしてあげる‼︎」

 

「…行こう」

 

ヴィンセント、誘惑に負ける

 

あの真面目で有名なヴィンセントが、この日人生で二回目の敗北を喫した

 

一回目は言わずもがな、妻がアレンを身篭った時

 

たまにはヴィンセントも甘えたい時もある…

 

そんなこんなで、ヴィンセントの魔性の夜は終わりを迎える…

 

 

 

 

「楽しいね‼︎ケンチクン‼︎」

 

「はいっ‼︎タシュケンちゃん‼︎」

 

この日、一番屈託無く純粋にダンスを楽しんでいたカップルナンバー1の、タシュケンちゃんとケンチクン

 

ケンチクンは謎の女13番とのダンスを終えた後“ミセシュリ”と美しいダンスを披露

 

ミセシュリはケンチクンとのダンスを終えた後、自分は満足したと言い、未だ騒がしい繁華街へと向かって行った

 

「はぁっ‼︎ケンチクンもモテるねぇ‼︎」

 

「今日だけですよ…ふぅ…」

 

二人共、心地良い疲れが体に来た

 

「じゃあ、ボ…タシュケンちゃんはミセシュリと約束があるから、繁華街に行くよ」

 

「今日もありがとうございました‼︎」

 

「うんっ‼︎此方こそ‼︎」

 

タシュケンちゃんは教会を出た

 

「ソー…レッ‼︎」

 

「うひぁ⁉︎」

 

ケンチクンの首筋に、非常に柔らかい巨大な物が当たる

 

しかも背後から抱き締められており、身動きが取れない

 

「ケンチクン‼︎最後はボインマスクと踊りましょう‼︎」

 

「は、はいっ…」

 

ケンチクン達の寮母、イントレピッドに良く似た“ボインマスク”

 

ケンチクンの最後のお相手は彼女になりそうだ

 

「さぁっ、ケンチクン⁇手を握って⁇」

 

「はいっ」

 

流石に三人も相手をすれば慣れて来たケンチクン

 

「お、おと‼︎」

 

だが、ボインマスクのダイナミックな動きにはまだ追従出来ていない

 

「ふふっ…私の可愛い子供っ…」

 

「うっ…」

 

ボインマスクも狩人の目に変わる

 

しかし、ボインマスクはベイベイと違い、様子が違う

 

「お酒入ってますか⁇」

 

「ケンチクン⁇入りたいのは貴方の方じゃなくて⁇」

 

「ぐうっ‼︎」

 

ダンスをするフリをして、皆が憧れる巨大なお胸に顔を押し付けられる

 

「正直になりなさい⁇私を一晩自由に出来るかもしれないわ⁇」

 

「お、俺、俺俺…」

 

流石のケンチクンも本能が勝りかける

 

彼女には皆がお世話になっている。多分これからもなる

 

正直、ケンチクンはこのまま身を委ねたい。独り占めにしたい

 

魔性の夜を言い訳にして、彼女を…

 

と、本能が彼女を…と思った時、ふとボインマスクの背後が目に入った

 

「みんな‼︎」

 

ボインマスクの背後には、サンダースのみんな、そして数人の工兵が鼻血を出して倒れていた

 

「ケンチクンもあぁなるのよ。ふふ…いつまで持つかしら…」

 

「あわわわわ…」

 

ケンチクンはここから逃げようと踏ん張る

 

が、狩人&猛獣になったボインマスクからは逃げられるはずもなかった…

 

「あぁっ…」

 

ケンチクンは意識を失いかける

 

今意識を失えば、かなり気持ち良くなれるんだろうなぁ…

 

「知ってるわよ、ケンチクン。みんな私をどう見てるか」

 

「ひぃ‼︎」

 

急にニヤリ顔になるボインマスク

 

彼女は普段、彼等からどう見られているか分かっていた

 

それを分かった上で、サンダースのみんなを鼻血大噴出させて気絶させたのだ

 

「今は貴方だけのモノよ…好きにしていいわ⁇」

 

「…ほ、本当に、ですか⁇」

 

「終わりにキスくらいしましょうか」

 

誘いが強いボインマスク

 

ケンチクンの理性が、遂に死にかける

 

あぁ、きっと絶対柔らかいんだろうな…

 

今ずっと当たってる胸だってこんなに柔らかいんだし…

 

もうバレてるなら、いっそ身を任せよう…

 

ケンチクンが最後に目にしたのは、誰かが呼んで来てくれた自分達の隊長と、その親友の男性がみんなの治療にあたり始めたのを最後に、ケンチクンは呼吸困難となり、意識不明になった…

 

 

 

 

「おーい、大丈夫かー」

 

「はっ‼︎」

 

気が付いたのは数分後

 

噴式仮面に起こされた

 

「ボインマスクめ…12人意識不明を出しやがって…」

 

「そんなにですか…⁉︎」

 

「羨ま…いやいや…貧血と呼吸困難だ」

 

ケンチクンが体を起こすと、既にサンダースのみんなはいなかった

 

「酸欠には少しは慣れているつもりでしたが…」

 

「彼女は胸で真空空間を生み出せるらしいな…それより、寮に行った方がいい」

 

「片付け手伝いますよ‼︎」

 

と、ケンチクンは立ち上がるが、噴式仮面はそれを止めて出入り口の方に向かせた

 

「行かなきゃ一生後悔するぞ。もう何が起こるか分かってるだろ」

 

ケンチクンはゴクリと生唾を飲んだ

 

「隊長なら…行きますか⁇」

 

「真面目にか⁇」

 

「はい」

 

「真面目にでも、バカをしてても飛び付くな。好機でしかない」

 

「で、では‼︎行って来ます‼︎」

 

「頑張って来いよ‼︎」

 

ケンチクンの背中を見送る噴式仮面

 

この後、ボインマスクが美味しく頂きましたになるのか…

 

それとも、ボインマスクは美味しく頂かれましたになるのか…

 

ヤボな事は考えないでおこう

 

多分、ボインマスクには勝てないだろうしな…




リシュークリーム…リシュリューっぽい女性

ベイベイ…ガンビアっぽい女性

ケンチクン…涼平っぽい人

タシュケンちゃん…タシュケントっぽい女性

ボインマスク…イントレピッドっぽい女性。胸で真空空間を生み出せる事が判明。被害はケンチクン含め13人


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278話 真紅のドレスと踊る

仮面舞踏会も遂にお開き

しかし、噴式仮面には最後に踊る相手が…


サンダース隊の連中の治療も終わり、後はお片付けの時間

 

魔性の時間は終わり、夜は開けて行こうとしていた

 

「噴式仮面さん」

 

ふと、最後に呼ばれる噴式仮面の名

 

教会の中心を見ると、自分の妻に良く似た女性がいる

 

「貴方の最後のお相手は私よ⁇」

 

いつもより少しだけ可愛く見えた彼女の誘い

 

受ける、受けないを悩む最中に、体は彼女の方に向いていた

 

「私で宜しければ。お名前をお伺い願えますか⁇」

 

「横須仮面。そう呼んで頂戴」

 

「畏まりました」

 

横須仮面の手を取ろうとした時、彼女の表情に気付く

 

あぁ、ドレスと同じ、頬が真っ赤だ

 

「どうしてなのかしらね。貴方と良く似た人の手を握ると、この世で一番安心するの」

 

「私も同じ思いです」

 

ほとんど人が居なくなった教会の中心で、ラストダンスを踊る二人

 

曲の中盤に差し掛かり、動きは激しいものになる

 

「私と結婚してどう⁉︎幸せ⁉︎」

 

「分かりきっている事を‼︎聞かないで‼︎貰いたい‼︎」

 

口調も少しだけ、いつもの二人に戻る

 

「そんな答えを返すのね‼︎貴方らしくないわ‼︎」

 

「幸せじゃないと言ったらどうしますか‼︎」

 

「そんなの‼︎」

 

横須仮面はグルグル回り、俺の手元まで来て、ゆっくりな踊りへと切り替えた

 

「そんなの、私が貴方をもっと幸せにすれば良いだけの話よ」

 

「横須か…面…」

 

俺は本当に良い妻を貰った…

 

そう再認識させられた

 

あぁ…今見せられている“一人の少女に戻った妻”を見せられては、どうしようもない

 

心底彼女を好きなのだな、俺は…

 

「噴式仮面⁇幸せよ、私…」

 

「私もです…横須仮面…」

 

曲が終盤に差し掛かり、最後は二人でクルクル回る

 

「魔性の夜が終わるわ…」

 

彼女の一言で、夜の終わりが近い事にようやく気付く

 

「最後に何か、私に出来る事があれば」

 

「いつも貴方の妻が言ってる事、私にして頂戴」

 

二択だ

 

俺の妻が言っている事は二つ

 

「キスでもしたらどうかしら⁇」

 

もしくは

 

「コラーーーーーッ‼︎」

 

あって無いようなものだが、少しだけ後者を選んでみたくなった後、曲の終わりと同時に前者を選んだ

 

「ふふっ…抱き寄せちゃって」

 

「離したくないと言ったらどうする⁇」

 

「やぁよ。お片付けがあるもの」

 

最後に少しだけ横須賀に戻った彼女を堪能した後、二人は仮面を外す

 

「よーし‼︎ちゃちゃっとやるか‼︎」

 

「そうね‼︎パパッと終わらせておやすみしましょう‼︎」

 

こうして、二人の夜は流れて行く…

 

 

 

 

次の日、俺とアレンは再びてんてこ舞い

 

理由は、パイロット寮で脱水症状の連中が多数出たからだ

 

パイロット数名が点滴を受ける中、イントレピッドは何故かいつもの倍元気があった

 

ツヤツヤのイントレピッドを見る限り、昨晩はお楽しみだったようだ…




横須仮面…横須賀らしき人。何故かこれ見よがしに若い人がダンスに誘っていた為、噴式仮面とは最後に踊った


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279話 駆けて行く、貴方の胸に落ちて行く(1)

さて、278話が終わりました

今回のお話は、物語がまた進みます

ある日を境に、サンダースの一人宛に届き始めたお弁当

それを届けていた人物とは…


パイロット寮の一室…

 

写真を眺めている彼は、名前が明かされていないサンダース隊最後の一人

 

サンダース隊の隊員は、何らかの理由で横須賀に来ているのがほとんど

 

涼平は当初は復讐の為

 

園崎は救われた恩を返す為

 

森嶋は当初は横須賀にいるしかなかった為

 

そして、高垣は壊滅したとある部隊の生き残り

 

少しだけ高垣の話をしよう

 

今ではその部隊は散り散りになり、味方もいれば敵もいる

 

高垣はトラックさんの推薦でここに来た

 

実はサンダースで一番のキャリアがある高垣

 

反攻作戦の前からトラックさんとは面識もあり、トラックさんに良くして貰っていたとの記録がある

 

そして、そのキャリアに目を付けたリチャードが引っ張って来た

 

それ以上の記録はほとんど残っていない

 

後は高垣がいつか話してくれるのを待てばいい…

 

 

 

 

そして、最後の一人

 

彼にはキャリアも無く、ここに来た理由も明かされていない

 

そんな彼が今、動き出そうとしていた…

 

「涼平、いるか⁇」

 

彼がドアをノックしたのは、サンダース隊副隊長の涼平の部屋

 

涼平はサンダース隊の中で一番最年少なのにも関わらず、副隊長に抜擢されている

 

それも、サンダース隊の隊長満場一致で…

 

彼の強さは空戦もそうだが、器の大きさにあったからだ

 

「あ、はい。どうしました⁇」

 

「少し話したいんだ。いいかな」

 

「勿論ですよ‼︎どうぞ‼︎」

 

涼平の自室に入り、彼は机の前の床に腰を落とした

 

「コーラでいいですか⁇」

 

「すまん、ありがとう」

 

涼平にペットボトルのコーラを貰い、それを開けて一口飲む

 

「どうしたんですか、急に」

 

「実はな、これを見て貰いたいんだ」

 

彼は机の上に一枚の手紙を出す

 

涼平はそれを手に取り、内容を見る

 

「親愛なる“櫻井様”へ。お弁当を作って参りました。お口に合うよう、丹精を込めてあります。どうかご賞味下さい…ですか」

 

「それがこれだ」

 

最後の彼の名は“櫻井”

 

そんな彼が持って来たのは、手紙に書かれていたお弁当

 

風呂敷に包んである重箱だ

 

「何処で受け取ったんですか⁇」

 

「公園と繋がっているゲートで受け取ったらしいんだ」

 

「開けてみましょう…」

 

涼平が重箱の上の段を取る…

 

「うは〜…」

 

開けた本人がため息を漏らす

 

「美味そうだな…」

 

下に入っていたのは、お肉を中心にバランスの取れた惣菜が入っていた

 

「上はおにぎりです」

 

上の段はおにぎり

 

形が整っており、これもまた美味しそうだ

 

「「…」」

 

二人で生唾を飲む

 

「一応、毒とかの件も考えたんだ…」

 

「自分達を狙いますかね…」

 

「普通なら大尉とかを狙うはず…」

 

「つまり…」

 

「「食べていいんだ‼︎」」

 

答えが一致し、涼平は早速小皿を取りに向かう

 

その時、ドアがノックされる

 

「は〜い‼︎開いてますよ〜‼︎」

 

「失礼しますっ、と。涼平‼︎櫻井さん‼︎飯行かな…おっ⁇何だ、弁当か⁉︎」

 

入って来たのは、お昼ご飯を誘いに来た園崎

 

「丁度良い‼︎園崎にも見てもらおう‼︎」

 

「何だ⁇」

 

涼平と櫻井に案内された園崎は、お弁当の前に座り、あの手紙を読む…

 

「は〜…なるほど。皆目分からん‼︎」

 

すっかり丸くなった園崎は、こうしてサンダースの皆と話す事も多くなった

 

「俺もそうなんです…」

 

「櫻井さんは何か検討は⁇」

 

「自分も無いんだ…」

 

「自分は筋肉担当だからな…」

 

心を開き始めた園崎は、こうして時たま冗談も言うようになっている

 

そんな筋肉担当を自負する園崎だからこそ出た答えは…

 

「とりあえず、このお弁当を食おう‼︎自分にもくれるか⁉︎」

 

「勿論さ‼︎」

 

「みんなで食べましょう‼︎」

 

結局、三人は謎のお弁当をものの数分で平らげた…



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279話 駆けて行く、貴方の胸に落ちて行く(2)

「よ〜し、これで自分は一飯の恩が二人に出来た訳だ‼︎」

 

「助かるよ、園崎」

 

「たまには協力させて下さい。じゃあ、手始めはどうしようか…」

 

「とりあえず、ゲートでお弁当を受け取った人に話を聞いてみましょう‼︎」

 

「そいつはいいな‼︎」

 

「早速行こう‼︎」

 

臨時お弁当チームがパイロット寮を出る…

 

 

 

今日は高垣はトラックさんの所で演習

 

森嶋は大湊で書類の提出と見学

 

つまり、サンダースは三人しかいない

 

そんな三人のチーム、お弁当チームはゲートに着いた

 

「あぁ。確かに受け取ったよ」

 

櫓に居た男性が教えてくれた

 

「朝方ゲートに来て、これを櫻井様に、と」

 

「どんな方でした⁇」

 

「少しだけふくよか…いや、肉付きが良いと言うか…可愛い事には変わりはなかったな」

 

「櫻井さんも隅に置けないってのしか分からん‼︎」

 

「じ、自分もです…」

 

「まさかとは思いますが、この方では⁇」

 

櫻井はいつも眺めている写真を取り出した

 

妻がスイカを持っている、あの写真だ

 

「いや、この人じゃない」

 

即答され、次の質問がなくなる

 

「あ、そうだ。お弁当箱を洗って来たのですが…」

 

涼平の手元には、再度風呂敷に包んだピカピカになったお弁当がある

 

「そこのボックスに入れて下さい。次に来られたら返しますので」

 

「ありがとうございます」

 

「あ‼︎ちょい待った‼︎櫻井さん、ここに手紙を付け返すってのはどうすか⁉︎」

 

急に園崎がナイスな提案を出した

 

「ナイスだ園崎‼︎」

 

「紙とペンはここに‼︎」

 

「ボックスの上を使っていいですよ」

 

「ありがとう‼︎」

 

櫻井は早速お礼の手紙を書く

 

櫻井の書く手紙を、涼平も園崎も背後から眺め、そして櫓に居た男性もチラチラ見る

 

「よしっ‼︎出来た‼︎」

 

「へへ…こいつは自分からのお礼っ…と」

 

園崎は手紙と一緒にチョコレートバーを

 

「自分はこれを…っと」

 

涼平はシュリに貰った、包み紙に包まれたドロップを数個、互いに手紙と共に上段のお弁当箱に入れた

 

「しかし、明日来るとは…」

 

「その時は出して貰う事は…」

 

「ふふっ、了解です」

 

話の分かる見張りで良かった

 

その日はそれ以上の成果は無く、次の日の朝を待つ事になった…

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「では、引き継ぎを終了します」

 

「よろしく頼…ちょっと待て」

 

櫓の見張りを交代しようとした時、彼女はやって来た

 

「あの‼︎これを櫻井さんに‼︎」

 

下から櫓に向かってお弁当を掲げる彼女

 

「あ、あぁ‼︎分かった‼︎すぐに降りる‼︎」

 

昨日の昼下がり、お弁当チームを相手していた彼がゲートに取り付けられたドアから出て来た

 

「此方を櫻井さんに」

 

「畏まりました。それと、櫻井少尉からお弁当箱の返却がありました」

 

彼女は目を丸くしながらお弁当を受け取った

 

「お手紙が…」

 

彼女は手紙を開けた

 

 

 

“お弁当、ありがとうございました

 

一人では食べきれなかったので、同期と共に完食致しました

 

失礼を承知の上でお聞きします。貴方のお名前を教えて頂けませんか?

 

今度、個人からお礼致します

 

櫻井少尉より”

 

 

 

「何か櫻井少尉にお伝えする事があればお伝えしますよ」

 

「す、少しだけお待ち下さい‼︎」

 

彼女は屈み込み、膝の上で何かを書き、それを新しいお弁当箱の風呂敷に挟んだ

 

「お願いします‼︎」

 

「畏まりました。お名前をお伺いしても⁇」

 

「ん…その…」

 

彼女は胸元で両手を組み、目線を逸らし、伝えたくないような雰囲気を出す

 

「櫻井少尉に危害が無い内は受け取りますよ」

 

「大丈夫です‼︎“絶対気付いてくれます‼︎”」

 

この時、彼女はニコニコしながらガッツポーズをした

 

その姿を見て、見張りの彼は不思議な彼女にもう少し付き合おうと考えていた…

 

 

 

見張りを終了すると同時に、彼はパイロット寮を目指す

 

見張りが終わったのは明朝5時

 

見張りの彼は仮眠を取る前にお弁当を渡しに来た

 

イントレピッドが朝食を作っている最中なのか、キッチンから美味しそうな匂いが漂っている

 

「すみませーん」

 

「はーい‼︎Good Morning‼︎」

 

相変わらずパツパツのエプロンを着けたイントレピッドが玄関に来た

 

「おはようございます。櫻井少尉に此方を」

 

彼はお弁当が入った風呂敷をイントレピッドに渡す

 

「昨日の子ね‼︎OK、分かったわ‼︎貴方は朝食は⁇」

 

「自分は今から仮眠を…」

 

「そっか…ありがとうね⁇」

 

「失礼します」

 

お弁当を渡した彼は自室に戻り、仮眠に就く…



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279話 駆けて行く、貴方の胸に落ちて行く(3)

お弁当の内容物を見て、櫻井は昔の事を語ります


「今日はありますかね…」

 

「どうだろう…」

 

「信じようじゃない」

 

お弁当チームの三人は朝食を食べながら今日もあのお弁当が来るのかを予想する

 

「サクライ‼︎これを貴方にって‼︎」

 

「「「来た‼︎」」」

 

三人は机に置かれた風呂敷を開ける

 

今日は手紙が二枚ある

 

その一枚を櫻井は手に取った

 

 

 

“完食ありがとうございました

 

私の事は、じきに誰か分かるかと思います

 

その時を待ちわびています”

 

 

 

謎が謎を呼ぶ…

 

櫻井はもう一枚の方を見る

 

 

 

“今日は貴方の好きな山菜ごはんのおにぎりを二つ握りました

 

からあげと、かぼちゃの天ぷらもありますよ

 

もし食べたいものがあれば、お手紙で書いて下さい”

 

 

 

「へー。櫻井さんて山菜ごはん好きなんすか⁇」

 

「かぼちゃの天ぷらって書いてあります」

 

「地元が田舎でな。よく山菜が取れるんだ。いつか遊びに来てくれ」

 

二人に微笑みかけ、二人共微笑み返す

 

そして、三人同時に重箱に目をやる

 

「開けるぞ…」

 

「お願いします…」

 

園崎は生唾を飲む…

 

櫻井の手により、重箱が開けられる…

 

「おぉー‼︎」

 

「こいつが山菜の…」

 

「…」

 

涼平と園崎が反応を示す中、櫻井は口を開けてお弁当を見ている

 

「…昼飯は決まりだなっ‼︎」

 

「また頂いてもいいですか⁇」

 

「自分も‼︎」

 

「勿論‼︎」

 

昼ごはんを楽しみに待ちながら、三人は訓練へと向かう…

 

 

 

 

《謎の女性と謎のお弁当ねぇ…》

 

訓練が終わる頃合いに、サンダースの皆がお弁当の一件を無線によって知る

 

《ファイヤボール。お弁当と言ったらファイヤフォックスが詳しいんじゃないか⁇》

 

《ファイヤクラッカー‼︎》

 

園崎の無線で全員が笑う

 

《いや、案外合ってるかも知れんぞ⁇》

 

《ケプリまで‼︎》

 

教官機をしていたリチャードも話に入る

 

《ゴトランドは食材にやたら詳しい。もしかすると、弁当にヒントがあるかも知れん》

 

《なるほど…ファイヤボール、それなら自分も協力します‼︎》

 

《ありがとう。助かるよ‼︎》

 

《さぁっ、お家に帰るまでがピクニックだ。降りるぞ》

 

この辺りの切り替えが上手いリチャード

 

サンダースの全員が機嫌良く“了解”と返事を返した…

 

 

 

 

「なるほど…ちょっと見せてくれる⁇」

 

着陸後にサンダースの皆が訪れたのは、勿論ゴトゴト弁当

 

ゴトランドに事の経緯を説明すると、お店から出て来て、広場で早速協力してくれた

 

「は〜…凄い上手なお弁当…ちょっと味見してい⁇」

 

「どうぞ‼︎」

 

ゴトランドは割り箸を割り、迷う事なく山菜ごはんおにぎりに箸を入れ、少しだけ口に運ぶ

 

「フキとゼンマイが美味しい…ちゃんと少し芯を残してある…相当な人だ…」

 

「…」

 

充分に咀嚼した後、ゴトランドは飲み込み、口を開く

 

「確かこの質の山菜があったのは岐阜県だね」

 

「わ、分かるのか⁉︎」

 

「うんっ‼︎ゴト、こういうの得意なの‼︎」

 

開いた口が塞がらない櫻井の他全員から“凄ぇ…”と漏れる

 

「櫻井さん、そこと何か縁ありますか⁇」

 

園崎が聞いた言葉に、櫻井は少し間を開けて答えた

 

「…自分の生まれ故郷だ」

 

「そりゃあ山菜が上手い訳だ‼︎」

 

「あそこは自然が綺麗と聞いた事があります‼︎」

 

何か思いがありそうな櫻井とは真逆の明るい返答をくれた園崎と涼平

 

「しかし、岐阜県から毎晩ここまで来るのは不可能だぞ⁇」

 

森嶋が言うのもごもっとも

 

自分達の様に航空機にでも乗っていない限り、毎晩横須賀に来るのは不可能に近い

 

「誰か協力者がいるか、もしくは近場にいるか…」

 

高垣の推理を聞き、櫻井はまた考える

 

これだけ自分の事を考えてくれる同期であり友人になら、自分が何故ここに来たのかを話しても良いと思った

 

「…みんな、自分の部屋でこれを食べよう‼︎」

 

「待ってました‼︎」

 

「あ、ちょっと待って‼︎」

 

ゴトランドは一旦お店に戻り、手にビニール袋を持って戻って来た

 

「五人じゃ流石に足りないでしょ⁇余り物で悪いけど、ちょっとしたフライとかあるから、みんなで食べて⁇」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

ゴトランドからフライも貰い、五人は櫻井の部屋へと向かう

 

 

 

 

「やっぱウメェ〜‼︎」

 

「かぼちゃの天ぷらもサクサクです‼︎」

 

「おにぎりの梅干し凄い美味いな⁉︎」

 

「からあげも絶品だ‼︎」

 

サンダースの皆が、謎のお弁当に舌鼓を打つ中、櫻井だけはお弁当を見つめて口にしない

 

「あれ、櫻井さん。食わねぇんすか⁇」

 

「…みんな、話がある。食べたままでいいから、聞いて欲しい」

 

全員が食べながらも目線を櫻井に向ける

 

その中で一人だけ食べる手を止め、櫻井の話を聞く園崎

 

園崎は自分が山城と繋がった時、サンダースの中で唯一の既婚者である櫻井が良く話を聞いてくれたのを忘れていなかった

 

「自分は…ここに逃げて来たのです」

 

それを聞いて、全員の食べる手が止まる

 

「自分には、大鯨と言う妻がいるのを話しましたよね⁇」

 

「あ、はい。スイカを持った人ですよね⁇」

 

「そうです。大鯨と自分は、親同士が決めた結婚でした」

 

「許嫁って奴…ですか⁇」

 

高垣の言葉に、櫻井は頷く

 

「しかし、その時自分には恋人がいたのです」

 

櫻井は胸の内にずっと隠していた思いを全て話した…

 

 

 

櫻井と大鯨は親同士の決めた許嫁

 

しかし、当時の櫻井には恋人がいた

 

櫻井はその恋人と共に遠くに駆け落ちをした

 

大鯨が嫌いだとかの感情ではなく、ただ反発したかったのだ

 

駆け落ちをしていたほんの数ヶ月、櫻井は人生で一番幸せに過ごした

 

何もかも新しい新天地で全てをやり直し、ようやく恋人が妻になろうとしていた時、両親に見つかる

 

恋人を見たのは両親が迎えに来た時が最後

 

櫻井は連れ帰られ、大鯨と結ばれる

 

それから櫻井と大鯨は両家の農家を手伝いながら、生計を立てて暮らしていた

 

恋人の事を少し忘れようとした頃、大鯨を好きになった

 

恋人の事を考えるのをやめた頃、娘が産まれた

 

大鯨は櫻井にこれでもかと思う程尽くしてくれた

 

櫻井はそんな大鯨にどんどん惚れて行った

 

そんな幸せな矢先に、大鯨も娘も行方をくらます

 

しばらく考えた後に出た答えは、因果応報…

 

自分が大鯨にした事が、倍になって返って来たのだ

 

櫻井は生まれ故郷を出た

 

大鯨と娘を探す為、長い旅路へと出た

 

しかし、それは言い訳に過ぎない

 

因縁の場所でもあり、幸せを育んだ場所の生まれ故郷に、櫻井は居たくなかったからだ

 

そして、いつの間にか行き着いた先は…

 

 

 

 

恋人と共に駆け落ちした横須賀だった

 

 

 

 

 

「そこで自分はスカウトされたのです。ご飯もあるわよ〜、お給料と住む場所もあるわよ〜と」

 

「「「元帥だ…」」」

 

三人の返答に、ようやく場が綻ぶ

 

「それに、元帥は自分が妻と娘を探しているのを知ってくれています。ま…中々見つかりませんが…」

 

「何でんな事もっと早く言わないんだよ‼︎」

 

「園崎⁇」

 

櫻井の話を聞き、目頭を熱くしていた園崎

 

「友達だろ‼︎もっと頼ってくれよ‼︎」

 

「友達…」

 

後に櫻井はここで、この先の人生で親友と呼べる人物を手に入れたと言う

 

「そうですよ‼︎もっと話して下さい‼︎」

 

「自分達の情報網も中々のモンですよ‼︎」

 

「自分、大湊に今から飛んで聞いて来ますよ‼︎櫻井さん、話してくれてありがとうございます」

 

「ありがとう…ありがとう…」

 

下を向いて感情を露わにする櫻井

 

「おーい、サクライ‼︎開けてくれー‼︎」

 

リチャードが部屋に来た



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279話 駆けて行く、貴方の胸に落ちて行く(4)

お弁当を櫻井に渡していた人物は…


「…開いてます‼︎」

 

櫻井は涙を拭いて呼吸を整え、リチャードに返事をする

 

「しっつれー‼︎おっと‼︎お弁当中だったかぁ‼︎」

 

櫻井が立ち上がろうとした瞬間、リチャードは肩を抑えて櫻井を座らせた

 

「お邪魔しに来たのは俺の方だ。座ったままでいい」

 

「了解です。どうされました⁇」

 

「サクライ、今晩任務に当たってくれ」

 

「了解です。何処へですか⁇」

 

ここでリチャードの顔が本気に変わる

 

その顔を見て、サンダースの皆に緊張が走る

 

「本日夕食後、2200から0500までの間、第二ゲート見張員の護衛任務だ。任務時間内にとある人物から物資が届く。その物資を受け取り、コミュニケーションをはかる事。出来そうか⁇」

 

その場に居た全員が理解した

 

リチャードは全てを理解した上で、櫻井とどうしても時間の合わない二人をどうにか逢わせようと“任務”と言う形で二人を逢わせる様にしてくれた

 

流石はリチャードだ…

 

「…了解です‼︎」

 

「よーし‼︎良かったぁ‼︎断られたら伝家の宝刀“上官命令”を使う所だった‼︎はっはっは‼︎あぁ、因みに明日と明後日は休みにしておいた。もしかすると、物資を届けてくれた人と何かするかも知れないしな‼︎じゃあねー‼︎バイビー‼︎」

 

リチャードはそれだけ伝えると、すぐに出て行った

 

「流石は中将だ…」

 

「う、器が違う…」

 

「自分はあぁなれるだろうか…」

 

お弁当チームが小さく呟き、櫻井はしばらく皆と会話した後、仮眠に入る…

 

 

 

「お疲れ様です、キャプテン。簡単な昼食を準備してますよ‼︎」

 

「おっ‼︎やったね‼︎」

 

食堂に戻ると、彼の二番機のパイロットがキッチンにいた

 

「キャプテン、どうして貴方はそこまでするのですか⁇」

 

リチャードは彼の背後を通り、飲み物を取りながら今正に彼が作っている料理を見る

 

「いいか⁇」

 

リチャードは彼と肩を組む

 

「人の恋路は邪魔するもんじゃない。作るもんさ」

 

「作るもの…」

 

「楽しい顔見てる方がこっちも嬉しくないか⁇」

 

「確かに…しかし、自分が知りたいのは、どうしてあの様にすぐにやるべき事が分かるかの所です」

 

「お前が今正に俺にしてくれてる事じゃないか⁇」

 

彼が手元で作っていたのは、リチャードの好きな味付けのハンバーガー

 

「良く食べたいものを見抜いたな⁇」

 

彼は半笑いで目を閉じた

 

彼はリチャードと付き合いが長く、何となく食べたいもの位は分かる

 

彼はふと思い出していた

 

あぁ、元からこの人の懐に勝てる訳ないのか…

 

自分の素質を見抜いて、ここまで引っ張ってくれた人だ

 

「それにな、園崎も感謝してたぞ⁇」

 

「園崎が、ですか⁇」

 

「おかげでボクシングが強くなれてるってな」

 

彼の手が一瞬止まり、少しだけ微笑む

 

「もし感謝される事が自分にあるとすれば、私も貴方に感化されているのでしょう」

 

「ヴィンセントみたいな事言って〜、ほら、食おう‼︎ありがとうな⁇」

 

「はい、キャプテン‼︎」

 

 

 

 

午前5時前…

 

ほんの少し外が白んで来たが、まだまだ外は暗い

 

「…」

 

第二ゲート付近にある、休憩する為の屋根付きベンチに座る男が一人

 

 

 

 

午前4時過ぎ頃…

 

「そろそろでしょう。あそこにある、屋根付きの円形ベンチで待機していて下さい」

 

「見張りは良いのですか⁇」

 

「あそこで見張りをして欲しいのです」

 

見張り員もリチャードの意思を汲む

 

「…ありがとございます」

 

「後は宜しくお願い致します」

 

 

 

 

ザッ、ザッ、と足音が聞こえる

 

「よいしょっ…」

 

何かを持ち直したのか、軽く物がぶつかり合う音が聞こえる

 

彼はベンチから立ち、外側を向いてタバコに火を点けた

 

「はぁっ…あら⁇おはようございます。朝早くにご苦労様です」

 

一人の女性が来た

 

一旦ベンチに荷物を降ろし、休憩しているみたいだ

 

「あ…横須賀の方ですか⁇」

 

「そうです」

 

「あの…もし宜しければ、これを櫻井と言う方にお届け願えませんか⁇」

 

そう言って、彼女は持って来た風呂敷包みの重箱を差し出す

 

「一つ、聞かせて頂けませんか」

 

「あ、はい」

 

「何故、彼が山菜が好きと⁇」

 

それを聞いて、彼女は一旦風呂敷包みを自身の横に置いた

 

「櫻井さんは…私の採った山菜をいつも美味しいと言ってくれました…」

 

「何故彼にお弁当を⁇」

 

「ん…その…」

 

彼女は胸元の上で手を組み、視線をズラす

 

それを横目でチラリと見た彼は、タバコの灰を落としながら微笑む

 

あぁ…

 

変わっていない…

 

あれは困った時にする仕草だ

 

変わっていない

 

癖も、性格も、何もかも…

 

「彼とほんの少しだけ一緒にいたんです…それでは理由になりませんか⁇」

 

「その時間は幸せでしたか⁇」

 

「は、はい‼︎とても‼︎じゃないと、横須賀にもう一度来ません‼︎」

 

それを聞いて、とうとう答えを出してしまう

 

「迅鯨さん」



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279話 駆けて行く、貴方の胸に落ちて行く(5)

「櫻井さん‼︎」

 

十数年振りに叶った逢瀬を前に、“迅鯨”と呼ばれた女性はすぐに櫻井に飛びつく様に抱き着いた

 

「逢いたかったぁ…」

 

今まで周りが繋がって行く中、自分だけなかった櫻井は、ここに来てその思いを迅鯨にぶつけるかの様にキツく抱き締める

 

「覚えていますか⁇迅鯨さんが最後に自分に残した手紙を」

 

「必ず横須賀でお会いしましょう、ですよね⁇」

 

その問いに、櫻井は無言で頷く

 

「あは…安心したら腰が…」

 

「おっと…」

 

急に迅鯨の腰が砕ける

 

抱き締められて余程安心したのだろう

 

抱き止められた迅鯨は、涙をたっぷり貯めた目を櫻井に向けつつも顔は笑顔を見せ続けている

 

「櫻井少尉‼︎彼女を医務室に運びなさい‼︎命令ですよ‼︎」

 

櫓の上からメガホンでリチャードが叫ぶ

 

「あ、はいっ‼︎了解です‼︎」

 

櫻井は迅鯨を背負い、手に風呂敷を持つ

 

「櫻井さん…また一緒になれますか⁇」

 

「自分からお願いしますよ。よいしょっ…」

 

「良かったぁ…」

 

そう言って迅鯨は櫻井の背中で安心しきり、目を閉じる…

 

 

 

 

 

「疲労と緊張から来るものだ。少しカプセルで休ませた」

 

「隊長、ありがとございます…」

 

「俺とアレンが鳳翔で飲むと、第二ゲートで何かが起きるな⁇」

 

「ははっ、まぁなっ…‼︎」

 

この日、たまたまいた俺とアレンの二人

 

前回もアレンと鳳翔で飲んでいた時、谷風が搬送されて来た

 

そして、今回は迅鯨さん

 

「どうする⁇傍に居てやるか⁇」

 

「二時間少しかかる」

 

「傍に居てやっても良いですか。十数年振りなんです」

 

「よし、なら俺とアレンは朝食に行く‼︎」

 

「朝飯だぁ‼︎」

 

十数年振りの逢瀬に横槍を入れるのはヤバすぎる

 

ここは朝飯を食おう

 

間宮に向かう道中、アレンと話す

 

「あの建造ドックの中も、じき完成か…」

 

間宮に向かうまでの間、大型ドックが一つ

 

過去にタナトスが修復を受けていたりしていたドックだ

 

「俺、レイ、深海の完璧な合作か…」

 

「それと、今までの戦闘データもだ」

 

「「絶対素晴らしい…」」

 

同じ答えを出した後、間宮に向かう…

 

 

 

 

その日の朝…

 

「迅鯨さん」

 

「櫻井さん‼︎」

 

カプセルから出た迅鯨と呼ばれる女性が、再び櫻井と抱き合う

 

「おいししぉ〜‼︎」

 

「くじあしゃん‼︎」

 

「ひとみちゃん‼︎いよちゃん‼︎」

 

ムードをぶち壊すかの様に何処からともなく来たひとみといよが重箱のフタを開ける

 

「この子達は⁇」

 

「さっきの男性の娘さんです」

 

「ひとみ‼︎」

 

「いよ‼︎」

 

「私は迅鯨です‼︎せっかくなので四人で食べましょう‼︎」

 

事が決まれば迅鯨の行動は早い

 

「えと…さっきの所にしますか⁇」

 

「広場で食べましょうか‼︎」

 

「うぁ〜」

 

「あぅ〜」

 

二人にとっては返事の様に聞こえる、ひとみといよが初対面の人にする謎の音波発信

 

「さぁ、行きましょう‼︎」

 

「行きましょうか‼︎」

 

「いく‼︎」

 

「おべんとしゃん‼︎」

 

ひとみといよは何のためらいもなく、迅鯨と手を繋ぐ

 

そして迅鯨も何のためらいもなくひとみといよと手を繋ぐ

 

人懐っこいひとみといよだが、初対面でこれだけ懐くのも珍しい

 

「うぁう〜」

 

「あぅ〜」

 

迅鯨の腕にぶら下がるかの様にくっ付きながら、ひとみといよはまた謎の音波を出す

 

「ここです」

 

「これを広げましょうね‼︎」

 

「し〜とれす‼︎」

 

「おいしぉ〜‼︎」

 

四人で四隅を持ち、シートを引く

 

重箱が真ん中に置かれ、三人は迅鯨からお皿を貰う

 

「ひとみ、こえあう‼︎」

 

「いよも‼︎」

 

ひとみといよが取り出したのは、スプーンとフォークのセット

 

赤城が使っているのとはまた違う柄だ

 

「こえたえてい⁇」

 

「いよもこえにすう‼︎」

 

二人が気になるのは、いつもと違う色のしたおにぎり

 

「どうぞっ‼︎迅鯨の山菜おにぎりですっ‼︎」

 

「たんと食べて下さいね⁇」

 

「いたあきあす‼︎」

 

「いただきあす‼︎」

 

ひとみといよが食べ始るが、櫻井も迅鯨もお弁当を口にせず、二人を微笑みながら眺めている

 

二人共、考えている事は同じ

 

もし二人がずっと一緒だったならば、これ位の子供が今頃いただろう…と

 

「食べましょう‼︎櫻井さんっ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

櫻井と迅鯨はこれから先ずっと続く小さな幸せの連続の記念すべき第1個目を堪能しつつ、お弁当を突き始める…



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279話 駆けて行く、貴方の胸に落ちて行く(6)

スカイラグーンに行く事になったマーカス達

このお話では、マーカスと迅鯨さんのお話になります


「おいちかったれす‼︎」

 

「ごちそうさあでした‼︎」

 

「また一緒に食べましょうね‼︎」

 

ひとみといよは迅鯨に笑顔を送ると、視線を櫻井に向けた

 

「すかいあぐ〜んいきたい‼︎」

 

「つえててくらしゃい」

 

「珍しいですね…」

 

櫻井が言う珍しいとは、ひとみといよが急に何処かに行きたいと言った事

 

普段たまに接する機会はあるが、ひとみといよは何処かに行きたいと言うばかりか、二人で何処かに行く

 

それを今日、初めて明確に連れて行って欲しいと言った

 

「よしっ‼︎今日はお休みですから、高速艇で行きましょうか‼︎」

 

「じんげ〜しゃんもいこ‼︎」

 

「宜しいのですか⁇」

 

「あそこは中立だ。スカイラグーンなら、二人きりで過ごせる」

 

「隊長‼︎」

 

アレンとの朝食を終え、ひとみといよを探しに来た俺は、たまたま話を耳にした

 

散々親潮に盗み聞きは良くないと言っているが、どうも俺の遺伝らしいな…

 

「ひとみといよは連れて行こう。二人でゆっくりな⁇」

 

「えいしゃん、じんげ〜しゃんさきつえてて‼︎」

 

「さくあいしゃんといく‼︎」

 

「今日はどうしたんだ⁇」

 

ここで俺もひとみといよの異変に気付く

 

「何か話したい事があるのでしょう。隊長、私はお二人と共に高速艇で向かいます」

 

「分かった。迅鯨さん、此方へ」

 

「ありがとございます‼︎」

 

俺と迅鯨さんは秋津洲タクシーで

 

ひとみといよと櫻井は高速艇でスカイラグーンへと向かう…

 

 

 

「あの…今回はありがとございました」

 

「気にするな。良かったじゃないか、好きな人にまた会えて」

 

「はいっ‼︎」

 

二式大艇の操縦席に座り、バックミラーで迅鯨さんを見ながら離水する

 

スカイラグーンに着くまでの間、迅鯨さんは昔の事を話してくれた

 

 

 

迅鯨さんと櫻井は幼馴染

 

お互いに相思相愛で、結婚も考えていた頃、迅鯨側の親族が櫻井を養子に貰うと言い出し、迅鯨と櫻井は着の身着のまま、身一つで見知らぬ土地へと駆け落ちをした

 

そこが、戦争が始まる前の横須賀

 

幸せも束の間、迅鯨は実家へ連れ戻され、別の誰かと見合いをさせられる

 

が、迅鯨はそれを断り、ずっと櫻井と再会出来るのを待っていた

 

そして、今に至る

 

 

 

「もう忘れられてしまったのかと少し不安にもなりました…お子さんも一人居ると聞いています」

 

「忘れていたらあんな笑顔にはならない。大丈夫さ」

 

「ん…」

 

胸の前で手を組み、悩んでいるのか照れているのか、半々の表情をする迅鯨さん

 

「さぁ、着いた‼︎ひとみといよに朝ごはん、ありがとうな⁇」

 

「あ…あぁ‼︎いえ‼︎美味しく食べて頂けたので‼︎」

 

少しだけ迅鯨さんに微笑み、手で出口を指す

 

迅鯨さんが二式大艇から降り、俺もベルトを外す

 

「何か壮絶かも…」

 

「あの二人なら大丈夫さ。修羅場は終わった」

 

「かぁ〜っ‼︎レイさんは言う事が違うかも‼︎」

 

「ふふ…俺はスカイラグーンの機体の様子を見てくるよ。喫茶ルームでランチでも食べて待っててくれ」

 

「了解したかも‼︎」

 

秋津洲に見送られ、二式大艇を降りる…



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279話 駆けて行く、貴方の胸に落ちて行く(7)

このお話は、ひとみいよ、櫻井サイドのお話です

何故急にひとみといよはスカイラグーンに行きたいと言い出したのか…

少し重たい流れを遮る為、ひとみといよの略奪行為も見られますよ‼︎ 笑


高速艇の中では、ひとみといよが櫻井の両サイドに座っていた

 

「およめしゃん⁇」

 

「そうです。大鯨と言います」

 

櫻井が見ていた写真入れに、ひとみが反応する

 

「ほかにもあう⁇」

 

「えぇ。見ますか⁇」

 

櫻井の両太ももに対面状態で座るひとみといよの前に写真を出した

 

「たいげ〜しゃん‼︎」

 

「こっちもたいげ〜しゃん‼︎」

 

櫻井の写真入れには、ほとんど大鯨の写真ばかり

 

スイカを持つ大鯨

 

川で遊ぶ大鯨

 

いろりで鍋を作る大鯨

 

櫻井が大鯨を好きであると言うのにも、何ら間違いはない

 

そして、一枚の写真に目が行く

 

「むしゅめしゃん⁇」

 

「そうです。まだひとみちゃんといよちゃん位でした」

 

「あえうとい〜え」

 

「そうですね…いつか、必ず探します」

 

その時、櫻井は気付かなかった

 

ひとみといよが、ほんの一瞬顔を見合わせ、頷き合っていたのを…

 

「あえ⁇こえは⁇」

 

「こ、これはあれです‼︎」

 

今度はいよが、写真の後ろにもう一枚写真があるのに気付く

 

「…誰にも言いませんか⁇」

 

「いいましぇん‼︎」

 

「いよもいいましぇん‼︎」

 

「私も見なかった事にします‼︎」

 

運転手のイカさんまで言ったので、櫻井は渋々写真を出した

 

「じんげ〜しゃん‼︎」

 

「かあい〜‼︎」

 

出て来たのは、迅鯨がセーラー服を着ている写真

 

何度も見返したのか、少しボロボロになっている

 

「おちちでかい‼︎」

 

「おっぱいれす‼︎」

 

「ふふ…」

 

ひとみといよは迅鯨の写真を見て何かを察したのか、急にいつものひとみといよに戻り、写真入れにしまう事を促した

 

「さぁ‼︎着きましたよ‼︎」

 

「たすかいあした‼︎」

 

「あいがとござます‼︎」

 

「ありがとうございました‼︎」

 

三人がスカイラグーンへと足を降ろす…

 

 

 

 

ひとみといよは櫻井を喫茶ルームに置いた後、別の箇所に向かった

 

「こんにちあ‼︎」

 

「おじゃあしあ〜す‼︎」

 

「マーカスノムスメカ。ドウシタ」

 

ひとみといよが来たのは、PT派遣の集積地さんの所

 

「このひとちってう⁇」

 

いよの手には、いつの間にか抜き取った櫻井と大鯨の写真があった

 

「ぱくった⁇」

 

「ちぉ〜だいちた‼︎」

 

ひとみといよがケラケラ笑い合う中、集積地さんは目を見開き、いよの手から写真を奪う様に取った

 

「ありぁ…」

 

「コレヲどこデ…」

 

「さくあいしゃんかあ、ちぉ〜だいちまちた‼︎」

 

「はんしぇ〜ちてましぇん‼︎」

 

ひとみのツッコミを聞くに、一応罪の意識はあるらしき二人

 

何故二人が急にスカイラグーンに行きたいと言い出したのか…

 

それは、先程のお弁当の恩を返す為…

 

「このヒト…シッテイる‼︎」

 

「やっぱいれす‼︎」

 

「お〜あたい〜‼︎」

 

どうやらひとみといよは、集積地さんが櫻井と迅鯨さんに何かしら関わりがあると勘付いていたらしい

 

なので迅鯨さんに対して二度も音波を発信していた

 

「ドコにいるんダ‼︎」

 

「きっしゃう〜む‼︎」

 

「いきあすか⁇」

 

「アトでカリを返す‼︎」

 

「いってあっしぁ〜い‼︎」

 

「がんばってくらしゃ〜い‼︎」

 

ひとみといよは、いつもマーカスをお見送りするのと同じ様に、出入り口付近で手を振って見送る

 

「おかちくったえ‼︎」

 

「じぇんぶちょ〜だいちましょ‼︎」

 

集積地さんのオフィスに置いてあった、お茶菓子が乗ったボウルに手を付けるひとみといよ

 

どこからともなくパンダの巾着を取り出した後、ボウルを机の上にひっくり返した

 

「い〜っひっひっひぃ‼︎」

 

「うぃ〜っひっひっひぃ‼︎」

 

まるで盗賊の顔になったひとみといよのパンダの巾着にパンパンになるまで入れられるお茶菓子…

 

ひとみといよは本当にお菓子を全部頂戴した上で、ボウルに置き手紙を置き、どこかに消えた…



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279話 駆けテイク、アナタノムネニ落ちテイク(8)

題名のカタカナじゃない所を繋げて見てね‼︎


ウソジャナイトイッテホシイ…

 

ナンネンモアエナカッタンダ…

 

集積地さんは走る

 

アッテ、アヤマラナキャ

 

ジンゲイハ、コンナオモイヲモットタエタンダ

 

サクライサンハ、まだ…

 

まだ、私を愛してクレルダロウか…

 

走る度に、集積地さんの体に亀裂が入る

 

亀裂は喫茶ルームに着くまでに、ポロポロと地面に“集積地さんだったもの”のカケラを落として行く

 

階段を上がり切る頃には、ほとんど集積地さんとしての形はなく、今手元に持っている写真に写っている“自分”と同じ姿に近付いていた…

 

カラカラカラン‼︎と、いつもより激しめにカウベルが鳴る

 

「うぉ‼︎何だ‼︎集積地さん…か⁇」

 

「ハァ…ハァ…」

 

異変に気付く潮

 

「どうしたの⁉︎それにその体…」

 

扶桑さんも異変に気付く

 

しかし、集積地さんはそれどころではなかった

 

「婿殿‼︎」

 

その言葉に一人の男が反応し、集積地さんの方に振り向いた

 

「…大鯨⁇」

 

「大鯨さん‼︎」

 

迅鯨さんも反応し、二人は立ち上がる

 

集積地さんの正体は、長年行方不明になっていた大鯨だった

 

大鯨はすぐに櫻井に走り寄り、飛び付く様に抱き着いた

 

「ごめんなさい…私、方向音痴で…」

 

「いいんだ…いいんだ…」

 

櫻井も大鯨を抱き締め返す

 

「ん…」

 

その傍らでどうして良いか分からず、迅鯨は胸元で手を組み、少しだけ視線を二人からズラす

 

扶桑さんと潮でさえ、今目の前で繰り広げられている物語の結末に手出し出来ないでいた

 

大鯨への祝福も、迅鯨の肩を持つ事も、何方も介入してはならなかった

 

「迅鯨さんも見付けたのですね…」

 

「横須賀で出会ったんだ。つい最近さ」

 

「迅鯨さん。私、貴女の気持ちが良く分かりました…こんなにも辛かったなんて…」

 

「いいんです大鯨ちゃん‼︎誰も悪くないんです‼︎ねっ‼︎櫻井さん‼︎」

 

櫻井は迅鯨の方を向き、無言で頷く

 

大鯨も迅鯨を嫌いではなく、迅鯨も大鯨を嫌いではなかった

 

それどころか、この世で同じ男性を愛し、同じ思いをした唯一無二の二人となる

 

この日、二人きりのデートの予定が三人とのデートになった…

 

 

 

 

櫻井にはもう一つの物語の結末がある

 

それは、少しだけ悲しい別れのお話…

 

 

 

 

ひとみといよが向かった先は俺の所

 

「えいしゃ〜ん‼︎」

 

「きまちた‼︎」

 

深海の戦闘機のエンジンを見ていた時、ひとみといよが帰って来た

 

「おっ‼︎来たか‼︎どこ行ってたんだ⁇」

 

「しぅ〜しぇきしゃんのとこお‼︎」

 

「PT達と遊んでたのか⁇」

 

「わすえもおあたちてた‼︎」

 

いよが言うには、集積地さんに忘れ物を渡していたとの事

 

「そっかそっか。ちゃんと渡せ…」

 

ちゃんと渡せたか⁇と聞こうとした時、いよに写真を見せられた

 

「…そう言う事か」

 

その写真を見て、全てを理解した

 

「おわかえ⁇」

 

「お別れじゃないさ‼︎いつだって逢える‼︎」

 

「またあえう⁇」

 

写真を俺に見せた事で、その子に二度と逢えないと思っているひとみといよ

 

「絶対、また逢える‼︎横須賀に住む事になるからなっ‼︎」

 

「あかった‼︎」

 

「おうちかえう‼︎」

 

「んっ…帰ろうなっ…」

 

心配を掛けさせたくない為に口ではそう言うが、本当は帰りたくない

 

いや…

 

本来あるべき所に帰るだけだ

 

考えるな…俺…

 

グリフォンに乗る足も遅くなるものの、俺達は基地に戻って来た…



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280話 君の背中を見送る(1)

話数、題名が変わりますが前回の続きです

櫻井と大鯨の子供の正体を知ったマーカス

本来の“自分の役目”を思い出す中、情が湧いてしまったマーカスは…


「たらいま‼︎」

 

「かえってきまちた‼︎」

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい‼︎三人のお昼あるわよ‼︎」

 

ひとみといよが手を洗いに向かった所で、貴子さんが俺の異変に気付く

 

「マーカス君⁇何かあった⁇」

 

「…一人、親が見つかった」

 

それを聞いた貴子さんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに母親の顔に戻る

 

「そっか…寂しくなっちゃうわね…」

 

「みんなを集めてくれませんか⁇俺は少し話して来ます」

 

「んっ。分かったわ」

 

俺も手を洗った後、執務室のドアをノックする

 

「隊長、俺だ」

 

「開いてるぞ〜」

 

執務室に入ると、隊長はいつも通り足元にアトランタを置き、アトランタは電車のオモチャで遊んでいた

 

そして、隊長に全てを話す…

 

「そうか…私達に出来る事は、環境が整うまでここが帰る場所と教えておく事だな」

 

「隊長」

 

「返したくない、か⁇」

 

隊長は全てを察してくれていた

 

「…まぁな。情が移った。ひとみといよにはまた逢えると言ったんだが…」

 

「お前は良くやった。必ず伝わってるさ」

 

「…話してくるよ」

 

「私が行こうか⁇」

 

「いいんだ…俺にやらせてくれ…」

 

俺は隊長とアトランタに見送られ、執務室を出た

 

 

 

重い気のまま子供部屋に来た

 

「…」

 

深呼吸をした後、子供部屋を開ける

 

子供部屋には一人の少女が俺を待っていた

 

あの写真に写っていた、櫻井と大鯨の子供の正体…

 

それは…

 

「レイさん。おらをおよびか⁇」

 

 

 

 

松輪だった

 

 

 

 

「松輪は、この場所好きか⁇」

 

「んだ‼︎みーんな好きだ‼︎おら、ここにきてよかっただよ‼︎」

 

「あのな、松輪」

 

「んだ」

 

「お父さんとお母さんが見付かったんだ」

 

「おらのか」

 

「そうだっ」

 

「レイさんとも、ぼ〜さんともおわかれか⁇」

 

「すぐに会えるさ。松輪は横須賀で、お父さんとお母さんと暮らすんだ」

 

「またあえるって、やくそくしてくれなきゃいやだ」

 

松輪は小さな小指を出した

 

松輪の小指に、俺の小指を絡め、指切りげんまんをする

 

「絶対に約束する。それに、何かあったらすぐに戻って来ていい。松輪の家は、ここにもあるからな⁇」

 

「わかっただよ」

 

重い足で、松輪と一緒に食堂に向かう…

 

「レイ、松輪」

 

その道中、隊長に執務室に呼ばれる

 

「少し考えたんだがな…しばらくはここと横須賀を行き来したらどうだ⁇」

 

「松輪はどうしたい⁇」

 

「おらは…」

 

気丈に振舞っていた松輪は、隊長の提案を聞いて、ここに来てようやく揺らいだ

 

「迷うならそうしようか⁇な⁇」

 

「んだ」

 

「それがいい。私も急は寂しいからな」

 

俺と松輪が先に食堂に向かい、隊長は少し遅れて食堂に来た



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280話 君の背中を見送る(2)

昼食が終わり、みんなが集まっているこのタイミングで話を切り出す

 

「みんな、聞いてくれ」

 

子供達も大人も、皆俺の方を見る

 

「松輪の家族が見付かったんだ」

 

「やったね‼︎」

 

一番初めに祝福してくれたのはたいほう

 

「良かったじゃない」

 

「て事は、松輪は家族の所に⁇」

 

まっくすの言葉の後に続いたれーべの問いに、俺は頷く

 

「今日はとりあえずは会いに行くだけさ。しばらくは横須賀とここを行き来する事になる。悲しむ必要はないぞ‼︎松輪は横須賀で暮らすからな‼︎いつだって会える‼︎」

 

“(´-`)”

 

ほとんどが家族の元に帰るのを祝う中、ボーちゃんだけはあまり嬉しくなさそうだ

 

それもそうだ

 

松輪に一番近かったのは、俺達や子供達でも無く、ボーちゃんだ

 

「ぼ〜さん」

 

“(._.)”

 

いつもなら少しは話すボーちゃんだが、余程辛いのか顔文字しか出さない

 

「ぼ〜さん。また学校で会えるだ」

 

“_φ(・_・”

 

ボーちゃんはチラシを取り、何かを書き始めた

 

《マーカスさん。松輪ちゃんをお願い》

 

「あ、あぁ…分かった」

 

少しボーちゃんは放って置いた方が良さそうだ…

 

松輪を送る為、グリフォンへと向かう

 

松輪をPCの前に座らせ、グリフォンの無線機を取る

 

「横須賀。聞こえるか、俺だ」

 

《はいはい。どうしたの⁇》

 

繋げた先は横須賀

 

もう少し早く報告すべきだろうが、あまりにもてんてこ舞いだった為に遅れてしまった

 

「松輪の両親が見付かった。櫻井の娘だ」

 

《さっきこっちに帰って来て報告を受けたわ。妻と同居したい旨と、迅鯨さんの部屋はないかって。迅鯨さんがその気なら、こっちで何かしらで雇うわ⁇》

 

「そうか…」

 

横須賀の方が先だったみたいだ

 

《誰も責められないわね…大人のエゴと言うか…》

 

「まぁな…とにかく、松輪を連れて行きたい。櫻井とお嫁さんを間宮かどっかに引っ張り出せるか⁇」

 

《任せて‼︎命令って事にするわ‼︎》

 

「…ありがとな」

 

《あまり考えちゃダメよ⁇いつものレイでいいの。ねっ⁇》

 

「分かったっ」

 

無線機を置き、松輪を呼ぶ

 

「行こうか」

 

「んだ」

 

《松輪ちゃん》

 

一本の触手に丸めた紙を持ったボーちゃんが来た

 

《はいこれ》

 

「おらにくれるのか」

 

《うん》

 

松輪は丸めた紙をボーちゃんから受け取り、中身を見た

 

「おらだ‼︎」

 

そこには松輪の似顔絵があった

 

まるで生き写しかの様に上手い…

 

《また学校でおえかきしようね》

 

「んだ‼︎おら、もっとぼ〜さんとあそびたいだよ‼︎」

 

松輪は小さい手で、ボーちゃんは触手で、今しばらくのお別れの握手をした後、いざ横須賀へと飛び立つ…

 

 

 

 

横須賀に着き、松輪を降ろす

 

そのまま抱っこしたまま、近くで待っていた横須賀の所に来た

 

「間宮で二人を待たせてあるわ」

 

「おら、一人で行くだ」

 

松輪が手から離れた

 

「松輪」

 

「んだ」

 

呼び止めたは良いが、言葉が見つからない

 

本当は近くまで一緒に行こうとしたが…

 

いや、家族団欒を邪魔しちゃいけないな

 

「…行って来いっ‼︎」

 

「行って来ますだ‼︎」

 

見付かった言葉は、拙い言葉

 

繁華街に向かって行く松輪の背中が小さくなるまで、俺はずっとその場に立ち尽くしていた

 

「…レイっ‼︎」

 

沈黙を破ったのは、横須賀が俺を呼んだ声

 

「…コーヒー、飲まないか」

 

「いいわよ。アイスにする⁇」

 

「フロートにする」

 

横須賀が左腕に付いて来た時、我に返る

 

「大丈夫。大丈夫…」

 

愛おしそうに左腕に頬を付ける横須賀

 

その顔を見て、涙が込み上げて来たが、ここは堪えた

 

これで良かったんだ

 

これが俺の役目なんだ

 

“元いた場所に戻す…”

 

それで良いんだ

 

「…どうせならケーキ食うか‼︎」

 

「そうしましょう‼︎アンタ取って来てね‼︎」

 

互いにいつもの自分に戻る

 

俺達はこの日、小さなデートをした後、互いの家へと戻った…

 

 

 

 

 

「婿殿、久々ですね‼︎」

 

「田舎に居た時は中々出来なかったからな‼︎」

 

櫻井と大鯨が横須賀の命令で間宮の無料券を使い、パフェを食べていた

 

迅鯨は早速仕事を貰っている

 

横須賀の子供達に料理を教える役目だ

 

「婿殿。大鯨の苺、ちょっと食べますか⁇」

 

「どれどれ…」

 

「そ〜っと…」

 

大鯨は櫻井が自分の苺パフェにスプーンを入れている時に、櫻井のチョコパフェにスプーンを入れる

 

この大鯨、幼妻…良妻賢母の外見とは裏腹に、かなりのイタズラ好き

 

そのギャップが、櫻井を惹きつけていた

 

「間宮はここだ」

 

そこへ、一人の少女が間宮に入店

 

何の気なしに櫻井の視線は其方に向いた

 

「松輪⁇」

 

「とうちゃん‼︎」

 

櫻井を見かけるなり、松輪は櫻井に飛び付く

 

「松輪‼︎良かったぁ…」

 

大鯨も松輪を抱き締める

 

「今まで何処に居たんだ⁇」

 

「レイさんの所だよ‼︎おら、お友達も出来ただ‼︎」

 

「レイさん…婿殿の隊長さんですか⁇」

 

「そう。私の尊敬する人だ。そっか…また隊長に借りが出来たな…」

 

その日、櫻井は人生で一番幸せな日を迎えた

 

この世で一番愛している人に再開し

 

この世で一番大切な家族とも再開した…

 

 

 

 

「レイ、そう言えば名前は決まった⁇」

 

「候補は上がってるんだがなぁ…」

 

フロートとケーキを食べながら、ある事に悩む

 

「搭載するAIの名前は⁇」

 

「そいつは候補は二つまで絞れた」

 

「なぁに⁇聞くだけ聞かせて⁇」

 

 

 

 

「“シーナ”か“ヨナ”にしようと思うんだがなぁ…」




松輪が基地と横須賀を行き来する様になりました



迅鯨…セーラー鯨ちゃん

十数年かけて櫻井を探していた一途な女性

その正体は櫻井の昔の恋人であり、幼馴染

結婚を約束していたが、とある理由で破棄になり、櫻井と共に駆け落ちした過去がある

とりあえずおっぱいもお尻もデカい

後実家は代々続く鵜飼。すごいね




大鯨…エプロン鯨ちゃん

櫻井のお嫁さん

幼妻な外見なのに行動は良妻賢母

イタズラ好きな一面もあり、そこが可愛い

実は鬼嫁との噂があり、櫻井の事を「婿殿‼︎」と呼ぶ

実家は農家。山菜も採るよ

おっぱいがデカい。すごいね


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281話 金髪美女とガンビアさん(1)

さて、お話が少し進んだ280話、281話が終わりました

今回のお話は、ラバウルに突如現れた金髪の美女のお話です

コロちゃんはとある理由で大喜び‼︎ 笑




「ガンビアさん、今日も横須賀⁇」

 

「そうらしいな。たまにはパパと居たいんだろう」

 

アレンが朝食のコーヒーを愛宕から貰う

 

ここ数日、ガンビアがラバウルに居ない

 

特段珍しい訳でもなく、ヴィンセントと居たいのだろう…位の認識しかないラバウルの皆

 

食堂のカウンターにはアイちゃんと健吾、カウンターの向こうにはラバウルさんがいる

 

「ガンビアさんも大変ですからね…憩いは必要です」

 

「普段美味しい料理作ってくれますからね‼︎」

 

「IowaとColoradoと遊んでくれるワ‼︎」

 

「ジェーナスがスリーピンする時、絵本読んでくれるヨ‼︎」

 

聞けば聞く程、ガンビアを褒める言葉しか出て来ない

 

「おいアレン‼︎ガンビアさんがヒルゴハンを食べたら帰って来るぞっ‼︎」

 

無線を取っていたネルソンが食堂に来た

 

「言ってたらか‼︎」

 

「じゃあっ、皆のお昼を作らなきゃねっ‼︎」

 

「うぬっ‼︎余も手伝おう‼︎」

 

愛宕とネルソンが厨房に入る

 

大和は朝食を終えた後、洗濯物を干している

 

気付いたら入ってくれるだろう

 

「そうだアレン。オミヤゲがあるらしいぞっ‼︎」

 

「それは楽しみだ‼︎」

 

皆が何かしらで動きながら、ガンビアの帰りを待つ…

 

 

 

 

昼食後…

 

「高速艇です。迎えに行きましょうか」

 

ガンビアを乗せた高速艇がラバウルに着く

 

アレンとラバウルさんが出迎える為に、発着場に来た

 

「おや、もう一方いらっしゃいますねぇ…」

 

「ママの知り合いでしょうか…」

 

「ただいま‼︎アレン、エドガー‼︎」

 

ガンビアが高速艇から降りて来た

 

「おかえりなさいませ。其方のお方は⁇」

 

「この子は“Hornet”‼︎私の…」

 

「へぇ〜、綺麗な人だな…」

 

降りて来たもう一人は、スラリとした金髪の女性

 

英語の先生をしていそうな外見をしており、かなりの美人だ

 

この時のアレンとエドガーはこう思っていた

 

ガンビアさんには、美人の知り合いが多い…と

 

「わたしはホーネット。よろしくおねがいするわ」

 

「此方こそお願いするよ」

 

何故かラバウルさんではなく、先にアレンに手を出すホーネットさん

 

「冷たい飲み物でも飲みましょう。此方へどうぞ」

 

ラバウルさんの案内で、ガンビアとホーネットさんが基地に入る…

 

 

 

「Oh‼︎Beautifulな方ね‼︎」

 

「Grandmaの知り合い⁇」

 

「そうらしいな⁇」

 

アイちゃんとコロちゃんは、ホーネットさんに興味津々

 

三人は何故か食堂のカウンターをドアの角から覗き見ている

 

食堂のカウンターにはガンビアとホーネットさんがおり、カウンターの向こうにはラバウルさんと何故か日進がいる

 

三人は耳を澄ませてカウンターの話を盗み聞きする…

 

「承知致しました‼︎確かに書類を受け取りました‼︎私は少々この場を離れます。日進さん⁇少し宜しくお願いしますね⁇」

 

「了解じゃ‼︎」

 

「良かったね、Hornet‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

今の会話では、何が何だか分からないが、ラバウルさんは喜んでいた

 

「またMamaがヤキモチやいちゃうわ⁇」

 

「Coloradoの子分が出来るのね‼︎」

 

「アイちゃん、コロちゃん。歳いくつだと思う⁇」

 

この親子三人、ロクな事しか考えていない

 

「き、来た…」

 

ガンビアとホーネットさんが此方に来たので、三人は近くの部屋に逃げる

 

そこは健吾の部屋…

 

「健吾見たか⁉︎スッゲー美人の来客だぞ‼︎」

 

「ホント⁉︎」

 

健吾はドアを少し開け、廊下を見る

 

「何かの先生じゃないかな…」

 

「Papaのツマミグイ治しに来たのよ‼︎」

 

コロちゃんが胸を張って言う

 

アレンのつまみ食いを治しに来たのだ‼︎と

 

「それは良い案です‼︎」

 

「Very GoodなIdeaね‼︎」

 

「うぐ…何も言えんのが辛い…」

 

散々な言われ様をされながらも、健吾が淹れてくれた冷たい麦茶を飲む三人

 

「あら‼︎三人お揃いで‼︎」

 

昼食後の片付けを終えた大和が健吾の部屋に来た

 

「大和、見た⁇ガンビアさんの知り合いの人‼︎」

 

「見ました‼︎教師みたいなお方でしたね‼︎」

 

「ヤマトは何のTeacherだと思う⁇」

 

「そうですね…」

 

大和は口元に手を当て、アレンをチラっと見る

 

「俺を見るな…」

 

肩を揺らながら、引きつった笑顔でアレンは反応する

 

「冗談です‼︎きっと、ガンビアさんのお友達ですよ‼︎お茶菓子を出しますね‼︎」

 

その後、二人を邪魔してはいけないと思った五人は、今しばらく健吾の部屋でお茶菓子を堪能する…

 

 

 

「みんな、紹介するね。この子はホーネット」

 

おやつの前に、ガンビアから皆にホーネットを紹介して貰う

 

「私の…」

 

「今日からここで生活するのです」

 

ガンビアが小さく何かを言おうとした時、タイミング悪くラバウルさんがホーネットはここにいるとの旨を皆に伝える

 

ガンビアは特に気にする事もなく、小さく頷いた

 

「オヤツにしましょう‼︎」

 

コロちゃんがトレーに乗せたマフィンを持って来てくれた

 

「Thank you」

 

まずはガンビアが取る

 

コロちゃんはホーネットの方を向き、トレーを前に動かす

 

「二つ取っていいわ‼︎」

 

「これと、これを。Thank you」

 

コロちゃんは何かを企んでいるのか、若干ニヤケ顔で残りのマフィンを配る

 

アレンもマフィンを貰い、何気無しにホーネットの方を見て見た

 

ガンビアがボソボソ言いながら、ホーネットにマフィンを見せている

 

ホーネットはガンビアの手元を見た後、マフィンを食べ始めた

 

何か不思議な感覚だ…

 

どう表して良いか分からないが…



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281話 金髪美女とガンビアさん(2)

マフィンを食べ終えると、ホーネットはガンビアの部屋に入った

 

そして変わらず、アレン、アイちゃん、コロちゃんの三人はドアを少し開けて中を伺う

 

「オモチャで遊んでるわ…」

 

「Coloradoのオモチャじゃない…」

 

ホーネットの手元には、コロちゃんが普段トラップに使用するオモチャがある

 

「鼻も垂らしてるな…」

 

三人の中に少し疑惑が産まれる

 

もしかして、ホーネットはまだ子供なんじゃないか⁇と…

 

 

 

 

「なにっ⁉︎アレンのツマミグイを矯正しに来たのではないのかっ⁉︎」

 

三人が次の会議場に選んだのはネルソンとアレンの自室

 

「ネルソンまでそう思ってたのか…」

 

「冗談だっ。しかし、そうなると気になるのは出生だなっ…」

 

ネルソンは口元に手を置き、悩む

 

「どう産まれたってAll lightよ‼︎気にしないわ‼︎」

 

「Coloradoの子分に変わりないもの‼︎」

 

「うぬっ‼︎そうだなっ‼︎余達のFriendに変わりはないっ‼︎」

 

そして、それは夕飯の時にまた少し明らかになる

 

 

 

 

「イタダキマス‼︎」

 

夕飯を皆で食べる

 

ホーネットは変わらずガンビアの横にいる

 

「Umuuuuu…」

 

コロちゃんがアレンの横で唸りながらホーネットを見ている

 

コロちゃんはスプーンをグーで握って食べる

 

そして、ホーネットも同じ様な持ち方で食べようとしている

 

「こうやって、持つの」

 

「こう⁇」

 

「そう‼︎」

 

ガンビアにスプーンの持ち方を教えて貰うホーネット

 

ホーネットはスプーンを持ち直し、ガンビアから二、三回あーんして貰う

 

「Hornet。あの人は、アレン」

 

「アレン」

 

「あの人は、アイちゃん」

 

「アイチャン」

 

アイちゃんはニコニコしながら手を振る

 

ホーネットは鼻をすすりながら、ラバウルのみんなの名前を覚える

 

まるで赤ちゃんの様にガンビアから色々教えて貰っている

 

その様子を、皆が見守る様に眺める…

 

「Papa、Bath行きましょ‼︎」

 

「おっ、分かった‼︎」

 

夕飯を食べ終えたコロちゃんを抱き上げ、お風呂に向かう…

 

 

 

「あの人、Babyみたいね」

 

「そうだなぁ…もしかすると、何か事情があってあぁなっているのかもな⁇」

 

コロちゃんと露天風呂に浸かりながら考える

 

「でも、きっと良い子だわ‼︎」

 

「コロちゃんがそう言うなら大丈夫だな‼︎」

 

いつの間にか頼もしくなったコロちゃん

 

この後、コロちゃんがホーネットの一番最初の友達になるのを、まだ誰も予知していなかった…

 

 

 

「Good night、Hornet」

 

ホーネットはガンビアの部屋で眠りに就いた

 

アレンはネルソンと共に寝る前のカフェラテを食堂で飲んでいた

 

「多忙な一日だったなっ‼︎」

 

「ありがとう。助かったよ」

 

ネルソンと愛宕は、ホーネットの為にご飯や寝床、着替え等、ガンビアが手一杯な箇所を手伝ってくれた

 

「キオクソーシツではないか⁇」

 

「分からん…だけど、ママはホーネットに付きっ切りで何かを教えてる」

 

「アレン」

 

そんな時、ガンビアが来た

 

「お疲れ様だなっ‼︎」

 

「Thank you」

 

ガンビアにもカフェラテを渡すネルソン

 

「ホーネットとは何処で知り合ったのだ⁇」

 

ネルソンは俺が聞きたい事を聞いてくれた

 

「えと…一週間前…⁇」

 

「結構最近だな…」

 

「ウン。スッと産まれて、くれた」

 

「そっか」

 

「うぬ。そうか」

 

話が一段落付き、三人は一斉にカフェラテを口に付ける…

 

「「ブッ‼︎」」

 

そして、アレンとネルソンが吹き出す

 

「な、何だって⁉︎」

 

「う、産んだだと⁉︎」

 

ガンビアの衝撃の発言

 

ホーネットはガンビアが産んだ子

 

つまり…

 

「アレンの、妹」

 

「ホーネットがか…」

 

あまりにも突然の告白に、アレンは気持ちの整理が付かず、ネルソンは口を半開きにして硬直している

 

「つまりだっ。アレンの妹かっ⁇」

 

「そう。海の家で、約束した」

 

「覚えてたのか…」

 

「アイちゃんも、おっきくなったって、聞いた」

 

「そうだな…」

 

「コロチャンも成長が早いなっ」

 

前例が多い為、ホーネットが一週間前に産まれてアイちゃんと同じ位の身長があってもおかしくはない

 

「園児部にも、行ったよ」

 

「て事は、ジェーナスとは先に会ったのか⁇」

 

「うん。ジェーナス、いい子」

 

どうやらホーネットは園児部に一日二日いた模様

 

「明日、また園児部に行くの」

 

「連れて行くよ。ママは少し休むんだ」

 

「そうだなっ。明日は余に任せて貰おう‼︎」

 

明日はネルソンに任せ、ホーネットを園児部に送る事になる…



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281話 金髪美女とガンビアさん(3)

次の日の朝…

 

「ホーネットのニーチャン⁇」

 

「そう‼︎オニーチャン‼︎」

 

ガンビアに身支度して貰うホーネットを見て、ようやくホーネットがまだ産まれたてだと実感するアレン

 

「驚きましたか⁇」

 

「実感が湧かなかっただけです。では、行って参ります‼︎」

 

「お気を付けて。今日は帰り次第、チェスをしましょう」

 

「了解です、キャプテン‼︎」

 

ラバウルさんとガンビアに見送られ、アレンとホーネットは高速艇に乗る…

 

 

 

 

「ニーチャンもホーネットと一緒の所⁇」

 

「ニーチャンは横須賀でお仕事があるんだ。後で迎えに行くからな⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

ホーネットはそれを聞くと、外を眺め始めた

 

「園児部では何するんだ⁇」

 

「お歌歌って、ジェーナスと積み木して、マッチャンとお絵かきして…後、シチュー食べる‼︎」

 

「相変わらずシチューか…」

 

園児部では変わらずシチューが出されている

 

が、流石にそこは学んだ榛名

 

最近ビーフシチューの作り方を覚えたらしく、給食にも出ているらしい

 

…大して変わらない気もするが

 

「ニーチャン」

 

「ん⁇」

 

「海の上に人がいるよ」

 

「どれっ…」

 

ホーネットと同じ目線にするアレン

 

その先には、照月と涼月がいた

 

「あ‼︎アレンさんだぁ〜‼︎」

 

「おはようございますっ…‼︎」

 

アレンに気付いた二人は、高速艇に寄って来た

 

「ニーチャンのお友達⁇」

 

「そっ。照月ちゃんと、涼月ちゃん‼︎」

 

「よろしくね‼︎え〜と…」

 

「あたしホーネット‼︎」

 

ホーネットは元気よく自己紹介する

 

そんなホーネットを見て、照月とアレンはたいほうを思い出していた

 

たいほうも普段は自分の事を「たいほう」と言う

 

そして、誰かに自己紹介する時は「あたし」になる

 

「今日はね‼︎迅鯨さんと大鯨さんって人が、い〜っぱいご飯作ってくれるんだぁ〜‼︎」

 

「レイも横須賀にいるのか⁇」

 

「うんっ‼︎アレンさん、照月達が着くまで護衛してあげるね‼︎」

 

「助かるよ‼︎」

 

照月と涼月は少しだけ離れ、横須賀に着くまで高速艇の両サイドで護衛をしてくれた…

 

 

 

 

横須賀に着き、照月達は広場へ

 

俺とホーネットは園児部へと向かう

 

「ニーチャン、Hand‼︎」

 

「おっ‼︎そうだな‼︎手繋いで行こうな⁇」

 

アレンとホーネットは手を繋いで学校の門の前に来た

 

「マーカスさん‼︎おはようだぜ‼︎」

 

「行って来ます‼︎」

 

「おっ‼︎嵐‼︎谷風‼︎行ってらっしゃい‼︎」

 

学校の門の前にレイがいた

 

「おーやおやおやおやアレン君‼︎随分マブい女性と腕を組んでいるではないか‼︎」

 

一番ヤバい奴に気付かれた…

 

「やぁやぁレイさん‼︎今日は蒸し暑いですなぁ‼︎」

 

「あたしホーネット‼︎」

 

「マーカス・スティングレイ。大尉だ」

 

ホーネットとレイは握手する

 

「高等部辺りの先生か⁇」

 

「まぁ、中に入ろう」

 

レイはアレンとホーネットの少し後ろを歩く

 

「俺は園児部に用があるんだ。後でアイスコーヒーでも飲もうや」

 

「奇遇だな。俺もだ」

 

「ほほぅ。園児部の先生だな…」

 

何も知らないレイを見て、ニヤリとするアレン

 

「おはようございます‼︎」

 

「Good Morning‼︎」

 

「あ、おはようございます、アレンさん、ホーネットちゃん」

 

「じゃあホーネット⁇また後で迎えに来る…」

 

アレンの目の前で、既にジャーヴィスと一緒に積み木をし始めたホーネット

 

アレンがレイに視線を戻すと、目を見開いて口も半開きになって驚いているレイがいた

 

「すまん。お前の娘とは…」

 

「妹だ」

 

「…アイスコーヒー飲むか‼︎」

 

「そうしよう‼︎」

 

互いの妹を園児部に置き、二人の兄は学校を出た

 

 

 

 

いつもなら灰皿付きのベンチで缶のアイスコーヒーを飲むのだが、流石に今日は間宮に入る

 

「いらっしゃいませ〜‼︎」

 

中に入ると伊良湖が出迎えてくれた

 

これだけ暑いと間宮も大盛況だ

 

「二階の喫煙室空いてるか⁇」

 

「空いてますよ‼︎」

 

「アイスコーヒーを二つ頼む」

 

「畏まりました〜」

 

間宮の二階は個室になっており、喫煙室しかない

 

たまに艦娘と短時間の逢引をする為にここを利用する人が増えて来た

 

二階に上がり、アレンと個室に入った途端に互いにタバコに火を点ける

 

俺は窓際に立ち、港とアレンの半々を見る

 

アレンは机を挟んだ向こうに座っている

 

「決まったか⁇新しい潜水艦の名前とAIの名前」

 

「AIは決まったぞ‼︎」

 

「どんなだ⁇」

 

「“ヨナ”だ。あの子にはヒュプノスの絶対防御、親潮の適応変化機能が搭載されている。常に次の攻撃と敵の位置を把握しているんだ」

 

「正に預言者、だな⁇」

 

「そういう事さっ」

 

「潜水艦の名前は⁇」

 

「そうだな…あの潜水艦は“タナトス級の後継艦”になるんだ。級番が変わるらしい。それで悩んでる。とはいえ、二つには絞れた」

 

「どんなだ⁇」

 

「一つは“ワタツミ級”日本の海の神様だな」

 

「いい名前だな」

 

「もう一つはスカーサ…」

 

二つ目の候補を言おうとした時、部屋がノックされた

 

「アイスコーヒーお待たせしました‼︎」

 

伊良湖にアイスコーヒーを置いて貰い、早速口にする

 

「後でヨナに会ってくれないか⁇」

 

「勿論だっ‼︎」

 

今しばらく二人してアイスコーヒーを堪能

 

俺がタバコを三本吸った後、間宮を出る…



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282話 ウェルカムヨナナス

題名は変わりますが、前回の続きです

間宮から出た後、建造ドックに来た二人

そこには横須賀がおり、三人でヨナと名付けられたAIに会いに行きます


横須賀、建造ドック前

 

「立派なモンだな…」

 

「正に良いトコ取りさ」

 

俺達の前には、まだ名前も付いていない新型の潜水艦が処女航海前の最後の整備に取り掛かっている

 

「あらレイ、アレン」

 

新型潜水艦の前に横須賀がいた

 

「最終チェックか⁇」

 

「艦首爆雷投射装置を見てたのよ」

 

横須賀の目線の先には、タナトス級から受け継がれた主兵装の艦首爆雷投射装置がある

 

「増設したのね⁇」

 

「そっ。タナトス級は改装後で4門、この子は6門。背部機銃は同じ数だが、背部対空ミサイルにはガリバルディのミサイルを搭載してある」

 

「絶対防御だな…」

 

横須賀の目の合図で、潜水艦の中へと向かいながら話を続ける

 

「アレンの複合サイクルエンジンを搭載してある。船体はデカイが、実に静かでクリーンなエネルギーで動くんだ」

 

「無人航空機はどうなったの⁇」

 

「4機艦載出来る。Flak 1が3機、クラウディアが1機。航空戦になった場合はクラウディアが航空戦闘指揮を執る」

 

「発艦方法はタナトス級と同じか⁇」

 

「そこは同じだ。外殻を付けてブースターで点火して打ち出す。一定の高度まで上がれば外殻とブースターを投棄して主翼を展開…後は航空戦だ」

 

話しながら歩いているとメインルームに着いた

 

横須賀とアレンは別々のモニターを見始める中、俺はインカムを付ける

 

「おはよう、ヨナ」

 

俺がそう言うと、メインモニターが作動する

 

《おはようございます、創造主様》

 

ヨナの声に二人が反応し、俺の横に来た

 

「この人は横須賀。この人はアレンだ」

 

メインモニターのカメラが左右に動き、横須賀とアレンがメインモニターの隅に映る

 

《ヨナはヨナです。よろしくおねがいしますね》

 

「此方こそよろしくおねがいするわね⁇」

 

「礼儀正しい子だっ‼︎」

 

《創造主様》

 

「どうした⁇」

 

《名前は決まりましたか⁇》

 

ヨナは早く名前を決めて欲しい様子

 

ここまで引っ張っていた俺が悪いんだがな…

 

「もう一日だけ時間をくれないか⁇」

 

《構いません。ヨナはどんな名前でも、創造主様に付けて頂いたのなら嬉しいです》

 

「そっかっ」

 

「ね、あたしも話したいわ‼︎」

 

「ほらよ。いつも通りで良いが、ヨナはまだ色々覚えたてだ」

 

横須賀にインカムを渡すとすぐに付け、ヨナと話す

 

「そう言えば、名前は何文字まで行けるの⁇」

 

「本人が覚え易いように五文字までだ」

 

「もしレイが“あああああ級”とか付けたら、それでもいいの⁇」

 

ニヤケ顔の横須賀に、ヨナは答えを返す

 

《創造主様は適当に名前を付けるお方ではないと、タナトス様からお聞きしました》

 

「言われてみればそうね…」

 

ヨナに言われ、何故か横須賀は悩み出す

 

「レイは自分の娘に、ギリシャ神話の名前を付ける事が多いの」

 

《タナトス…ヒュプノス…確かにギリシャ神話です》

 

ヨナはモニターにそれぞれの名前の元となった者の検索結果を出す

 

「レイは良い名前を付けてくれるわ。私みたいに、あああああなんて付けないから、心配しないで⁇」

 

横須賀の話を小耳に挟み、俺の考えている名前は二つ共ギリシャ神話ではない事を言いそうになる

 

ヨナは確か預言者の名前

 

この潜水艦にも、その名に恥じない名を付けてやりたい

 

「そう言えば、この潜水艦の艦種は何になるんだ⁇」

 

エンジンルームのモニターを見ていたアレンが良い質問をしてくれた

 

「艦種としては潜水空母になるな。まっ、臨機応変に艦種が変わると思ってくれればいい。ヨナ、クラーケンでこの潜水艦の全体像をデスクに出してくれるか⁇」

 

《畏まりました》

 

中心にあるデスクにこの潜水艦の全体像が立体で映し出される

 

それを見た横須賀とアレンがデスクの周りに来た

 

「この潜水艦はタナトス級のウリである攻撃力の高さを最大限に受け継いだ水上戦闘、アルテミスから受け継いだ隠密性能による潜航がメインだ。しかし、ある時は空母、ある時はレーダー艦にもなれる」

 

《もう一つあります》

 

「あら、なぁに⁇」

 

「なんだ⁇」

 

「…」

 

ヨナは全体像をズームし、内部を見せる

 

横須賀とアレンが立体映像を眺める中、俺だけは黙っていた

 

《この潜水艦には医療用カプセルが6基搭載されています。入院設備も搭載されており、病院船としても運用可能です》

 

「あら…つまり出張治療が出来る訳⁇」

 

《創造主様は“過去の教訓を活かした”と仰っていました》

 

「レイ…」

 

「今後、民間人に被害が及んだ時でも、この潜水艦に放り込めば治せる」

 

「そっか…」

 

横須賀もアレンも勘付いてくれた様子

 

《創造主様。当潜水艦内は禁煙です》

 

俺は内ポケットからタバコを出そうとしていた

 

ヨナはそれにすぐに気付き、俺に注意を促す

 

「固い事言うな。モテないぞ⁇」

 

半笑いで火を点けながらヨナのメインカメラを見る

 

《ヨナ。放っておくでち。創造主はタバコだけは言う事聞かんでち》

 

《ヨナ、学びました》

 

「良い子だ、タナトス」

 

いつもの事情を知っているタナトスがヨナに助言をしてくれた

 

《ヨナ。創造主はタバコ吸ってる方が冴えるでちよ》

 

《では、創造主様だけは艦内喫煙を可能にします》

 

「俺が吸ったらどうなるんだ⁇」

 

アレンがヨナのカメラにタバコを見せる

 

《ヨナは艦内の酸素を抜きます》

 

《はは‼︎タナトスよりマシでちな‼︎タナトスは太平洋の真ん中に放り出すでち‼︎》

 

ヨナは優しいAIだ

 

一番最善の方法で、物事を処理する

 

「ねぇ。これなぁに⁇」

 

横須賀の目線の先には、何かのマシンがある

 

《すみません。ヨナ、忘れていました》

 

ヨナがそう言うと、そのマシンは動き出した

 

「あらっ‼︎何か出て来たわ‼︎」

 

マシンからネリネリ出て来る何か

 

横須賀はそれを見て、一発で食べ物だと見抜く

 

《ヨナ特製の“ウェルカムヨナナス”です。スプーンは此方にございます》

 

使い捨ての紙スプーンと共に、バナナのヨナナスが横須賀の前に出された

 

「頂くわね‼︎」

 

《アレンさんもどうぞ》

 

「ありがとう‼︎」

 

アレンにもヨナナスが振る舞われ、俺は二人がヨナナスを食べるのを眺める

 

《創造主様。そちらのヘルメットは⁇》

 

ヨナナスを作ってくれているヨナを横目に、俺はヘルメットを着ける

 

「ヨナにヨナナスが如何な物か、教えてやろうと思ってなっ‼︎」

 

きそに借りて来たヘルメットを着け、いざヨナナスを口にする

 

《ほわぁ〜…》

 

ヨナが反応を示す

 

「どうだ⁇」

 

《甘くて、冷たくて…とっても美味しいです。ヨナ、好きになりました‼︎》

 

「ふふ…近々また教えてやるよ」

 

この時、自分は気付かないでいたが、横須賀とアレンは気付いていた

 

また、レイが父親の顔に戻っている事を…

 

 

 

 

「よしっ。今日はこれ位にしよう」

 

《ヨナ、皆さんをもっと知りたいです》

 

「私もよ、ヨナ‼︎」

 

「俺もだ‼︎」

 

「そうだヨナ」

 

《はい、何でしょう》

 

出る前に一つヨナに宿題を与えようと思い、再度メインモニターの前に立った

 

「ここに二つの名前がある」

 

カメラに向けて、二つの紙を見せる

 

そこにはこの潜水艦の名前の候補が書いてある

 

「読んでくれるか⁇」

 

《“ワタツミ”…“スカーサハ”…》

 

スカーサハ…ケルト神話の預言者の名前のハズだ

 

ヨナも預言者の名前

 

名前に恥じないハズだ

 

「どっちが良いか、ヨナに決めて貰おうと思ってな」

 

《どちらも良い名前です。創造主様、ヨナは創造主様が付けて下さるのならどんな名前だって構いません》

 

「実はな…俺はずっと迷ってるんだ。どっちも良い名前だと思う。だからこそ、ヨナに初めての宿題にしようと思ったんだ」

 

《観艦式の日には必ず御報告致します》

 

「んっ。もし嫌なら、ヨナが決めていいからな⁇」

 

《あああああ級にしましょう》

 

「横須賀‼︎」

 

「わ、私は悪くないわよ⁉︎」

 

何故俺の産み出すAIはジョークを言うのが早いのか…

 

大淀博士の議題に上がりそうだ…

 

《冗談です。ヨナ、片方を気に入りました》

 

「観艦式の日に聞こう。まっ…あと数日しかないがな⁇」

 

観艦式まで数日

 

ヨナは何方の名前にするのだろうか…



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283話 あたしのチャンピオン(1)

さて、282話が終わりました

今回のお話は、新しい子が出て来ます

一般開放日の日、突然現れた謎の少女

横須賀で働きたいと言うが…


ある日の一般開放日…

 

「今日も盛況です‼︎」

 

「海開きもしたから、帰り際に寄る人も多いのよ‼︎いらっしゃいませ〜‼︎」

 

横須賀と親潮は入口付近で一般客に向けて一本100円のラムネを売っている

 

「あの」

 

「はいは〜い‼︎ラムネかしら⁇」

 

横須賀を呼んだ声は、少し様子が違った

 

「どうしたの⁇」

 

横須賀と親潮の前には、一人のボーイッシュな女の子

 

ラムネを買いに来た訳ではなさそうだ

 

「ここに来れば雇ってくれると聞いたんだ」

 

「お父さんとお母さんはなんて言ったの⁇」

 

「東京で…その…」

 

横須賀はまずい事を聞いたと直感で感じた

 

東京は地図上では存在するが、現状見ての通り水没してしまっている

 

この子の両親も恐らくそこで…

 

「そ、そっかそっか‼︎貴方お名前は⁇」

 

「“ありさ”」

 

「分かったわ。朝霜‼︎」

 

「んぁ⁇」

 

近くで露店をしていた朝霜にラムネの店をついでに任せ、ありさと呼ばれた女の子と執務室に向かう

 

「申し訳ないけど、一旦貴方の経歴を調べさせて貰うわ」

 

「分かった」

 

全身の写真を撮り、親潮と横須賀は経歴を出す

 

「ありさ様が仰っている事は全て事実のようです」

 

「そう…今までどうやって暮らしてたの⁇」

 

「親戚の家を転々として来た。だけど、向こうももう余裕が無いと言われて…」

 

ありさは目線を横須賀達からズラす

 

「そこの方々はどうされたのですか⁇」

 

「君は横須賀に行くんだ。そっちの方が幸せになれるって言われた」

 

「そう…薄情な親戚ね。良いわ、雇ってあげる。貴方には命を掛けて貰うけれど、衣食住とそれなりの給金はあげるわ」

 

「ありがとう‼︎あたし、頑張る‼︎」

 

「親潮、ありさ連れて工廠に行きましょうか」

 

「畏まりました。きそ様にご連絡致します」

 

親潮がきそに連絡を入れ、三人で工廠へと向かう

 

 

 

「あぢゅい…」

 

「クーラー入れっぞ‼︎」

 

流石のきそもへばる暑さ

 

この暑さじゃコーラ一本じゃ割に合わない

 

「ひとみちゃんといよちゃんが羨ましいよぉ…」

 

《めっちぁつえたいれす‼︎》

 

《きしぉもくうか⁇》

 

俺ときその会話を聞いていたひとみといよが無線を繋いで来た

 

「後で入ろうかな…」

 

「どうだひとみ、いよ。海は快適か⁇」

 

《かいてきれす‼︎》

 

《いじぉ〜もないです‼︎》

 

ひとみといよは海水浴場の水深の深い所に迷い込んで来た熱帯魚をつついたり追い掛けて遊んでいる

 

しかし、ひとみといよはしっかり仕事をしている

 

たまに沖に流されかけたり、溺れかけている海水浴客を見付けては砂浜に連れ戻している

 

それに、ひとみといよは人命に関わる事があればしっかり連絡を入れる

 

横須賀も俺も何も言わないのはその為だ

 

「きそ‼︎レイ‼︎」

 

「来た来た‼︎」

 

「よしっ、始めるか‼︎」

 

横須賀と親潮が連れて来た女の子の診察を始める

 

 

 

「あたし、艦娘になるのか⁇」

 

「嫌なら普通の作業を斡旋するわ⁇」

 

「いや‼︎是非なりたい‼︎」

 

横須賀が俺の顔を見る

 

横須賀が言いたい事は伝わった

 

しかし、このありさと言う女の子は何故艦娘になりたいのか…それが分からない

 

「どうして艦娘になりたいんだ⁇」

 

「どうせ帰る所もないんだ。最後に寄ったのがここだったんだ…」

 

シンプルな答えが返って来た

 

「そっか…分かった。なら、君が帰る場所は今日からここだ。だけど、一日待って欲しい。君を疑う訳じゃないが、色々調べなきゃならないんだ」

 

「分かった‼︎」

 

「横須賀、空いてる部屋あるか⁇」

 

「えぇ、あるわ。きそ、ありさを親潮の所までお願い。ちょっとだけレイと話があるの」

 

「オッケー‼︎じゃ、行こう‼︎」

 

きそがありさを連れて行き、横須賀がその場に残った

 

「何か気付いたみたいね⁇」

 

「あの気丈さは危ない。何処かを小突かれたら崩れる…」

 

「艦娘にしていいのかしら…」

 

「突然現れて艦娘になりたいだからな…もしなったにせよ、何か心の支えがあれば良いんだが…」

 

「そこは聞いてみるわ。ありがとね⁇」

 

「気にすんな。これ位いつでもっ」

 

あの子の支え、か…

 

何故か分からないが、今回は俺ではダメな気がする…



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283話 あたしのチャンピオン(2)

次の日…

 

「そっか…精神的なイビリか…」

 

「あたしは大丈夫‼︎どうせ一人だ‼︎失うもんはないからな‼︎へへっ‼︎」

 

横須賀と間宮で朝食を食べながら、ありさは過去を話す

 

遠回しに出て行けと言われたり、ご飯が自分の分だけなかったり

 

典型的なイジメだ

 

「好きな事は何かある⁇」

 

「ボクシングの試合見る事‼︎」

 

ありさは即答で答えた

 

「そうだ‼︎ここにはボクシングジムがあるの‼︎ちょっと行ってみましょう‼︎」

 

「行きたい‼︎」

 

朝食を食べ終え、横須賀とありさは早速ボクシングジムに向かう

 

 

 

 

「ここがボクシングジムよ」

 

「おぉー‼︎」

 

中ではリチャードやその他パイロットが体力作りの為にトレーニングをしている

 

「元帥‼︎お疲れ様です‼︎」

 

ランニングを終えた園崎が戻って来た

 

「お疲れ様‼︎今からトレーニング⁇」

 

「はいっ‼︎後小一時間程サンドバッグをして、山城さんと散歩に参ります‼︎」

 

「あ…あ…」

 

「その子は⁇」

 

ありさの様子がおかしい

 

園崎もそれに気付くが、どうして良いか分からないでいる

 

「園崎さんですよね⁉︎」

 

「そうです、私が園崎です」

 

「うわぁ〜…‼︎」

 

ありさの目が輝く

 

「あ、あの‼︎試合中継全部見ました‼︎」

 

「おっと…ファンか…久々に会った気がするよ…」

 

「21戦21勝全K.O.勝ち‼︎」

 

「そこまで見てくれていたんですか…」

 

園崎は久々にファンに出会って嬉しいのか、膝を折ってありさと話し始めた

 

「2014年の5.12の試合‼︎マルセラ・マッソ戦が一番好きです‼︎」

 

「あの試合は5Rかかりましたからね…」

 

「私よく分からないわ…」

 

「園崎さんは無敗のボクサーなんだ‼︎」

 

ありさの一言で横須賀は全て理解する

 

「いつでも覗きに来てください。強い自分を見れる訳ではありませんが…」

 

園崎は立ち上がり、ジムへと入って行った

 

「あたし、艦娘になる‼︎園崎さんみたいに強くなりたい‼︎」

 

ありさが艦娘になりたい理由はよく分かった

 

だが、何故そこまで彼女の心を動かすのだろうか…

 

その答えはすぐに出る事になる

 

 

 

 

その日の夜…

 

「横須賀」

 

「レイ。お疲れ様」

 

俺は診察結果とありさの過去のデータを持って来た

 

当のありさや子供達は既に寝ており、執務室にいるのは俺と横須賀だけ

 

「彼女の言っている事は本当だ。両親は東京で死亡、その後、親戚の家を転々としていたのも本当だ」

 

「親戚に返した方が良いかしら…」

 

「ここにいた方が良い。虐待を受けていたのも本当だ」

 

「そう…」

 

俺は無言で診察結果を横須賀の前に置いた

 

「これ、本当なの⁇」

 

「本当だ。本人には隠したい事もあるだろう…か、お前が聞いていないだけかもな⁇」

 

「聞いてないかも…」

 

「明日の朝、聞いてみよう。艦娘にはなれなくても、治療位は俺に任せてくれ」

 

この後、俺は少しだけ鳳翔で飲んだ後、自室で明日に備える事にした

 

 

 

次の日の朝…

 

「おはようございます‼︎」

 

「おはよう‼︎今日は診察結果ね‼︎」

 

「きっと大丈夫‼︎」

 

この日も横須賀はありさを連れ、工廠へと向かう

 

いつも俺が治療に使っている区画に二人が来た

 

「おっ‼︎来たか‼︎そこに座ってくれ‼︎」

 

横須賀はありさを座らせた後、そっとその場から離れた

 

“後は任せたわ”のアイコンタクトを読み取り、結果を伝える

 

「君の言っている事に嘘偽りはなかった」

 

「ん…」

 

彼女の話を聞く顔は真剣そのもの

 

「ボクシングが好きらしいな⁇」

 

「凄くカッコいいんだ‼︎スマートで、力強くて‼︎見ていてスカッとする‼︎」

 

「園崎は強いのか⁇」

 

「21戦21勝全K.O.勝ちなんだ‼︎」

 

「そんなに強かったのか…どの試合が一番好きだ⁇」

 

「2014年の5.12の試合‼︎マルセラ・マッソ戦‼︎」

 

「その試合、何処で見たんだ⁇」

 

この後の答えを知りたい

 

そして、思惑通りの答えがありさの口から出る

 

「病院のテレビ‼︎」

 

「…そっか‼︎」

 

何の躊躇いもなく話すと言う事は、横須賀は聞いていないのだろう

 

「あたし、病気なんだ」

 

「言わなくていい。一時間後には治るからな‼︎そこにカプセルがあるだろ⁇きそに服貰って、入ってくれ」

 

「…うんっ‼︎」

 

ありさは一瞬口を開けて驚いていたがすぐに理解し、きそに着替えを貰いに行ったのを見て、俺はバインダーを机に放り投げた

 

そこには彼女の診察結果が書かれていた

 

“骨肉腫”

 

小児がんの一つだ

 

親戚が遠回しに追い出したのは、恐らく医療費の為

 

病院で園崎の試合を見たのは、その日入院していた為

 

彼女は最初から何ら嘘を吐いていなかった…

 

「じゃあ、一時間後にね⁇」

 

「きそさん、でいいのか⁇」

 

「どうしたの⁇何か心配⁇」

 

「いや…ありがとう‼︎」

 

「それは終わってから言おうよぉ…」

 

「へへ…そうだな‼︎」

 

ありさは笑顔でカプセルに入った…



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283話 あたしのチャンピオン(3)

ありさがカプセルに入ってしばらくして、執務室に一本の無線が入る

 

《元帥。ありさという女の子がここに来ていないかと男性が訪問しています》

 

「通して頂戴。瑞雲に案内して」

 

《了解》

 

「さて…一仕事ね…」

 

横須賀は瑞雲に向かう道中、一応護衛を付けたくなった

 

「初月‼︎」

 

「はっ‼︎」

 

天井裏から初月が来た

 

「ちょっと私の護衛をお願い」

 

「分かった。僕に任せろ」

 

初月と共に瑞雲に向かう…

 

 

 

「隊長」

 

「園崎か。心配か⁇」

 

「何となく放って置けなくて…」

 

園崎のファンである彼女を、当の本人も無碍に出来ないのだろう

 

「彼女には申し訳ない事をしました…」

 

「スカートでもめくったか⁇」

 

園崎は口元は笑っているが、顔は本気

 

自分だけの秘密を抑え込んでいる顔だ

 

「しっかし、プロとは知らなかった。強いはずだな⁇」

 

「…そこなんです。隊長、聞いて頂けますか⁇」

 

「…親父には話したか⁇」

 

園崎の場合のみ、一番最初に言うのは俺ではなく親父だ

 

もしこの返事がノーなら、親父に先に言うべきだ

 

「はい」

 

どうやら親父には話してある様子

 

「言いたくなくなったり、途中で辛くなったらすぐ止めるんだぞ⁇」

 

「ありがとうございます」

 

園崎は重い口を開く…

 

「自分は…八百長の試合で引退させられたのです」

 

「…」

 

園崎の話を耳にしながら、カプセルの方を見る

 

「この試合に負けてくれ。さもなくば義援金は無い…と」

 

「…」

 

今度は少し、園崎の方を見る

 

「義援金とはなんだ⁇」

 

「病気の子供の治療の為に、ファイトマネーを少し其方に回していたんです」

 

「そっか…初耳だ」

 

「義援金を送ると決めた日は、今でも覚えています…」

 

園崎は内ポケットをガサゴソし始めた

 

「マルセラ・マッソ戦の三日前、小児病棟へ慰問に行った時です」

 

園崎は内ポケットから折り紙の裏に書いた手紙を出した

 

「これは…」

 

折り紙で作られた金メダル

 

その裏に“あたしのちゃんぴおんへ”と書いてある

 

「そこに行った時…“今そこに居る彼女”から頂いた物です。数日前出会った時は随分成長していて分かりませんでしたが…」

 

園崎とありさは、数年前に出会っており、園崎はその日の事をしっかりと覚えていた

 

「後、半時間ほどですね…」

 

「プロテインでも作るか⁇」

 

「ふふっ‼︎少し外の空気を吸って来ます‼︎」

 

話して何か吹っ切れたのか、園崎は良い顔をして外に出ようとした

 

「レイ‼︎」

 

横須賀が飛び込んで来た

 

「ありさの親戚の人が迎えに来たのよ‼︎」

 

「どうもっ」

 

勝手に工廠に入って来ては、近くにあった椅子に足を組んで座る男

 

「どういう了見だ」

 

「その子を返して貰えますか⁇」

 

「返す⁇虐待していた分際で返せだと⁇」

 

「そっちがどうであれ…立派な誘拐ですわ‼︎」

 

急に威圧的になる男

 

「横須賀、下がってろ」

 

「早くしろ‼︎」

 

机を蹴り飛ばされ、バインダーやらが床に落ちる

 

「…おい」

 

「あ⁇」

 

俺の声ではない

 

声を出したのは園崎だ

 

「おやおやおやおや‼︎負け犬の園崎君‼︎軍隊に逃げたのかい‼︎」

 

「お前…彼女を見捨てた分際で…」

 

「負け犬は黙ってて貰えるかなぁ⁇」

 

「隊長。ここは自分に」

 

俺と男の間に園崎が割って入る

 

「イキるなよ…園崎…」

 

「また八百長でもするのか⁇島…」

 

「やったろやないか‼︎」

 

殴り掛かって来た島と呼ばれた男の拳を、園崎は顔色一つ変えずに受け止める

 

「お前…八百長までして、俺達ボクサーのルールも忘れたのか」

 

「ちっ…」

 

「隊長。セコンドをお願い出来ますか。5秒で終わらせますから…」

 

園崎の目は本気

 

だが、一瞬目元が動いた

 

…殺る気だ

 

「オーケー‼︎」

 

四人はジムへと向かう…

 

 

 

園崎と島がリングへと上がる…

 

「園崎。それは何⁇」

 

横須賀の前で園崎がグローブを着けている

 

「これは本気の時にしか使わないと決めているグローブです」

 

手入れはしてあるが、所々ボロが見える園崎のグローブ

 

「マッソから頂いた物です」

 

「無理しちゃダメよ‼︎いい⁉︎」

 

「ご心配なさらず」

 

園崎の目が本気に戻る…

 

「準備はいいか⁇」

 

「泣き面かかせたるわ‼︎」

 

「島。一つ言わせてくれ」

 

「聞いたるわ」

 

「前歯四本か…今謝って帰るか…二択だ」

 

俺も横須賀も、園崎の気迫に負けそうになる

 

これが王者の風格か…

 

「だ、誰が謝るか‼︎」

 

「そうか」

 

島の返答を聞き、ゴングが鳴る

 

「は、はが…」

 

鳴った直後に吹っ飛ばされる島

 

「そ、そのじゃき…ほまえ…」

 

「言っただろ。前歯四本と」

 

園崎の目は怒りよりも、哀れみを島に送っている

 

「試合終了ー‼︎園崎の勝ちー‼︎」

 

終了のゴングが鳴ると同時に、園崎は右手のグローブを取りながら島の元へ向かう

 

「ひゃ‼︎ひゃめろ‼︎悪かった‼︎」

 

島は咄嗟に身を守る

 

が、目の前には園崎が差し出した右手がある

 

「試合が終われば、敵味方関係ない」

 

「…」

 

島は最初は渋ったが、王者の威圧と慈愛に負け、手を取った

 

「島。お前がやった事は水に流す。ただ、一つ約束して欲しい」

 

「う、うんうん…」

 

「お前は悪事に手を染めなければ、経営は上手い奴だ。だから、これからも慰問や慈善試合は続けてくれ」

 

「わ、わかっひゃ‼︎」

 

「八百長はするなとは言わない。しないと信じてるから」

 

それを聞き、島は膝から崩れ落ちる

 

「俺は…なんて奴を敵に回したんや…」

 

「島‼︎」

 

島は半分泣いた顔で園崎を見上げる

 

「試合が終われば、敵味方関係ないと言っただろ」

 

「すまん…許ひてくれそのじゃき‼︎」

 

「あの子はここで面倒を見るからな」

 

「幾らか仕送りするから‼︎そのじゃき、頼んだ‼︎」

 

園崎は最後に島の肩を二度叩き、リングを降りた

 

「つ、強過ぎるわね…」

 

「アンタ…一応治療してやるよ…」

 

「ほんま…ほんますんましぇん…」

 

結局島も半時間程カプセルに突っ込み、前歯を治した…

 

 

 

 

島が出て来るのと同タイミング…

 

「あたし…治ったのか…」

 

「第二の人生だね‼︎」

 

ありさの方が少しだけ先にカプセルから出て来た

 

そして、前歯が復活した島も出て来た

 

「あ…」

 

「あ、ありさ。あのな…これからここに居るんや」

 

後に聞いた話だが、この島と言う男

 

八百長試合を少しは反省していたのか、居場所をなくしたありさを引き取り、自分の元に少しだけ置いていた時期があった

 

ありさは少しは恩を感じてはいるが、八百長試合をやった本人なので、嫌いなものは嫌いらしい

 

「分かった」

 

「その子はありさじゃないよ」

 

二人の間に割って入ったのは、ドックタグを持ったきそ

 

「はい‼︎」

 

「これは⁇」

 

「君の名前は“有明”。いい⁇有明だよ⁇」

 

「有明…んっ、気に入った‼︎」

 

「後、有明の身元引受人の人がいるよ‼︎」

 

「きそちゃん…照れますよ…」

 

「この子ね⁇」

 

現れたのは園崎と山城

 

「有明。今しがた、自分達はケッコンして来た」

 

「私達の子供にならない⁇」

 

有明は少し照れ臭そうに頬を掻く

 

「え、えと…あたし、園崎さんに憧れて…」

 

「だからこそ、子供になって欲しい‼︎」

 

「私達は歓迎するわ⁇」

 

「…よろしく頼むぜ‼︎」

 

有明は園崎に飛び付き、園崎は有明をギュッと抱き締める

 

「園崎…俺、やったるさかいな‼︎見とけよ‼︎」

 

「あぁ‼︎頼んだぞ‼︎」

 

長年のわだかまりが園崎の許しで終わり、友人へと戻った園崎と島

 

数ヶ月後、慈善試合を行い、相変わらず悪人顔のまま表彰状を貰う島が新聞に載っていた

 

そしてこの先、園崎と山城、そして有明は家族として幸せを築いて行く…




有明…ボクシングファンちゃん

ある日突然現れた謎の少女

その正体は、元はありさと言う病弱な少女

有明が来たその日は病状が安定した為、外出許可を貰ってここに来た

それと、有明自身が持っていた持ち前のガッツさもある

親戚に八つ当たり的な虐待や体を触られる等の行為をされていた

現在は園崎夫妻の養女としてようやく幸せと健康な体を手に入れる

脱ぐと相当おっぱいがデカイ。すごいね


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284話 ヨナの方舟(1)

さて、283話が終わりました

今回のお話は、ヨナと新型潜水艦の観艦式になります

“自分を見に来た”と言われたヨナは…


遂に観艦式の日…

 

「相変わらず似合わないわね…」

 

「革ジャンは流石に暑いからな…これも一緒だけどな⁇」

 

やっぱり似合わない俺の正装姿

 

横須賀に言われながらも会場へと向かう…

 

 

 

「見ろ矢崎‼︎新型潜水艦にタナトス級二隻だぞ‼︎」

 

「圧巻ですね…流石にこれは分かります…」

 

既に総理が来ており、一人ではしゃいでいる

 

港に停泊しているのは三隻

 

今日は普通に来ているタナトス

 

総理を送る為に来たアルテミス

 

そして新型潜水艦

 

三隻が横並びになるこんな光景は滅多にない

 

「ホントに圧巻ね…」

 

横須賀でさえその光景を見てため息が出る

 

「おっと…」

 

タブレットに通信が入る

 

“よ”

 

その文字を見て、何となく誰かをすぐ理解した

 

「どうした⁇」

 

《人が沢山います‼︎》

 

通信の先はヨナ

 

初めて見た人の多さに驚いている様子

 

「今日はヨナのお披露目会だ。みんな、ヨナを見たくて来てくれたんだ‼︎」

 

《ヨナのお披露目…》

 

「ヨナ⁇」

 

ヨナとの通信は繋がっているが、ヨナ本人がいない

 

「様子が変だ。ちょっと見て来る」

 

「総理と話してるわ‼︎」

 

横須賀に総理や参加者を任せ、ヨナを探しに新型潜水艦に入る

 

 

 

 

「ヨナー」

 

メインルームに来たが、ヨナの反応はない

 

しかし、システムは正常に動いている

 

つまり、まだヨナはシステム内にいる

 

ハッキングはされない様にしてある為、外部からの攻撃は考えられない

 

ヨナを探す為、いざメインモニターの下にあるキーボードを弄ろうとした時だった

 

ウィィィイン…

 

「ひっ‼︎」

 

急に何かが動き始めた

 

ガシャコン…

 

「び、びっくりした…」

 

音の正体はウェルカムヨナナスを作る音

 

ピーチヨナナスだ

 

ガシャコンはスプーンを出す音だ

 

…改良の余地があるな

 

《創造主。何してるでち⁇》

 

タナトスから通信が入り、メインモニターに表示される

 

「ヨナが急にいなくなったんだ。今、何処にいるか探してるんだがな…」

 

《ヨナに何て言ったでち⁇》

 

「今日はお前のお披露目会だって」

 

すると、タナトスも急に黙り始める

 

「タナトス⁇」

 

《…治療室を見るでち》

 

「治療室…どれ…」

 

治療室の情報を出す

 

「何で一番が使用中なんだ⁇」

 

誰も入っていないはずの艦内なのに、何故かカプセルが一つ使用中になっている

 

《行ってみたらいいでち‼︎多分オバケでち‼︎ははは‼︎バイバイでち‼︎》

 

「待て‼︎この‼︎薄情な奴め…」

 

タナトスは通信を切る

 

確認しに行くか…

 

もしかすると、何処からか侵入して来たスパイかも知れない

 

俺が入って来たから、たまたま近くにあったカプセルに入って身を潜めてるとか…

 

…ありえそうだ

 

治療室のドアが開き、中を見る

 

「いない…」

 

1番カプセルの中を見るが、既に空っぽ

 

カプセルが溶液の入れ替え作業を行っている最中だ

 

後ろ首に嫌な冷たさが走る…

 

普通に考えれば停泊中にクーラーが効いているだけなのだが、この時はすぐに腰に手が行った

 

背後に誰かいる…

 

「ひぃっ‼︎」

 

腰に置いた手に小さな手が重なる

 

下を向くと、そこには小さな女の子がいた

 

「あ、あの…ヨナを見に来たと言ったので…」

 

「…ヨナ⁇」

 

「はいっ。ヨナです」

 

ヨナの方を向き、その場に屈む

 

「みなさん体を持っていたので。ヨナも持ってみました。いかがですか⁇」

 

「可愛いじゃないか‼︎服買って来てやるから、メインモニターの前で待っててくれ‼︎」

 

確かに可愛い外見だが、ヨナは服を着ていなかった

 

「ありがとうございます、創造主様」

 

外に出て高雄の部屋に走る



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284話 ヨナの方舟(2)

高雄の部屋に着き、ヨナのサイズに合いそうな服を選ぶ

 

シャツ、上着、そしてパンツとズボン

 

靴はサンダルにした

 

「お急ぎみたいですね⁇」

 

「素っ裸で待たせてるんだ」

 

「それは一大事ですね‼︎全部で、えーと…2500…いえ、2000円で良いです‼︎」

 

「ありがとう‼︎次はもうちょい連れて来るからな‼︎」

 

「お気を付けて‼︎」

 

買った物を抱え、急いで潜水艦の中に戻って来た

 

「これは何ですか。タナトス様」

 

《それは創造主のグラサンでち。目に付けるんでちよ》

 

「こうですか⁇」

 

《そうでち‼︎》

 

メインモニターの前でヨナはタナトスと会話しながら俺のグラサンで遊んでいた

 

「グラサン気に入ったのか⁇」

 

「前があまり見えません。ヨナ、困りました」

 

「こうすれば見える」

 

グラサンを頭の上に付け、ヨナの着替えをキーボードの横にあるコーヒー等を置くスペースに服を置く

 

「まずはシャツからだ。ばんざーいってしてごらん⁇」

 

「ばんざーい」

 

俺が両腕を上げると、ヨナも両腕を上げた

 

その隙にシャツを通し、一旦は素っ裸ではなくなった

 

「次はこれだ‼︎」

 

ヨナに上着を見せる

 

赤と白の迷彩柄っぽいアロハシャツだ

 

ヨナにアロハシャツを渡した後、俺は軍服の上着を脱いで着方を見せる

 

「ここにこうやって、腕を通すんだ。やってごらん⁇」

 

「こうやって…」

 

ヨナは見よう見まねで袖に腕を通す

 

「おっ‼︎似合ってるな‼︎最後はパンツとズボンだ‼︎」

 

今度もヨナに渡してやらせてみる

 

「ここに足を通すんだ」

 

「こうですか⁇」

 

「そうだっ‼︎」

 

ヨナはパンツもズボンもキチンと履いた

 

《中々奇抜なシャツでち》

 

「緊急事態だったからな。手近に選んで来たんだ」

 

シャツには胸元に“鉄”とプリントされており、ヨナに着せるにはセンスが無い

 

「ヨナ、これ気に入りました」

 

挙句の果てにはグラサンを気にいる仕末

 

可愛いナリをして、外見は厳つくなってしまった

 

「タナトス。お前もシャツ欲しいか⁇」

 

《可愛いの頼むでち》

 

「ヨナのお披露目会です」

 

「そっ。みんなでヨナをお祝いするんだ。今日はヨナのお誕生日だからな⁇」

 

「お誕生日…」

 

《産まれて来てくれてありがとうの日でち》

 

「創造主様に感謝をする日ですか⁇」

 

《創造主がヨナに感謝する日でち》

 

「ありがとう、ヨナ。産まれて来てくれて」

 

ヨナは言葉を返さなかったが、笑顔で頷いてくれた

 

「さっ‼︎お披露目会だ‼︎タナトス、外にごちそうがあるぞ‼︎」

 

《早く行かないと無くなるでちな‼︎》

 

ヨナを抱き上げ、潜水艦の中から出て来た…

 

 

 

 

「あらっ‼︎可愛い子ね‼︎」

 

表に出ると、早速横須賀の目に止まる

 

「私はジェミニ。みんなから横須賀さんって呼ばれてるわ⁇」

 

「ヨナはヨナです」

 

ヨナが自己紹介をすると、横須賀は目を見開き、俺の目を見る

 

「可愛い子で産まれて来たのね‼︎」

 

そう言いながら、手を広げた横須賀の腕に渡るヨナ

 

「いっぱい食べましょうね〜‼︎」

 

横須賀はそのままヨナを連れて食事がある場所に行ってしまい、急に手持ち無沙汰になった

 

「横須賀さんはお母さんでちな」

 

横須賀と入れ替わるようにゴーヤが来た

 

「シャツ買いに行くか⁇」

 

「行くでち‼︎」

 

お披露目会は横須賀がなんとか繋いでくれるだろう

 

ゴーヤと手を繋ぎ、高雄の部屋に舞い戻る…

 

 

 

高雄の部屋に着き、ゴーヤは早速服を選ぶ

 

「ヨナみたいなのが良いのか⁇」

 

「ゴーヤはあのラジコン娘みたいなのが欲しいでち」

 

「ラジコン娘…」

 

頭の中で思い描く

 

ラジコン娘とは…

 

“これはだいはつちゃんでありますな”

 

“やはりらじこんはさいこーであります”

 

いた…

 

神州丸だ…

 

神州丸を思い出していた時、タイミング良く神州丸を肩車した森嶋が表を通り掛かった

 

「森嶋‼︎」

 

「隊長‼︎観艦式の方は⁉︎」

 

「今は横須賀に任せてある。神州丸も元気か⁇」

 

「元気であります、大尉殿。この神州丸“どろーん”なる物を買って貰ったであります」

 

よく見ると神州丸の前方の頭上にはドローンが浮いている

 

「たなとす殿は立派などろーんをお持ちと聞いたであります」

 

「どんな形であろうと、みんな立派さ‼︎」

 

神州丸は嬉しそうに笑う

 

「隊長、自分も観艦式を見に行って来ます‼︎」

 

「すぐに行く‼︎」

 

森嶋と神州丸の背中を見送る

 

そして、神州丸のパーカーの背中部分に“死”と書いてあるのが目に入った…

 

「あれメッチャカッコいいでち‼︎」

 

ゴーヤのセンスは俺と大して変わらない事に気付いた…



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284話 ヨナの方舟(3)

結局ゴーヤはヨナと色違いのアロハシャツを買った

 

ゴーヤは白色だ

 

それを着て、観艦式の会場に戻って来た

 

「創造主、ありがとうでち‼︎」

 

「また買ってやるからな⁇」

 

ゴーヤはお腹が空いていたのか、立食へと向かう

 

俺はようやく観艦式に参加、メインであるヨナを探し始める

 

「ふぁーく」

 

「ファーク」

 

「すーぷん」

 

「スープン」

 

赤城の膝の上にヨナがいた

 

赤城にフォークやら食べ方を教えて貰っている

 

「これは何ですか⁇」

 

「はんばぐー」

 

「ハンバグー。ヨナ、覚えました」

 

赤城の膝の上に座ったまま、ヨナは細切れに切って貰ったハンバーグを口にする

 

赤城は至って真面目

 

だが、何かがズレている為、実に微笑ましい光景になっている

 

「おとうさん」

 

赤城が俺に気付いた

 

「ヨナに教えてくれてるのか⁇ありがとうな⁇」

 

「よなちゃん、いいこ」

 

赤城はヨナの頭を撫でる

 

「創造主様はお食べにならないのですか⁇」

 

「俺も今から食べるよ。ヨナも赤城も、沢山食べて大きくなるんだぞ⁇」

 

「うん」

 

「はいっ、創造主様。ヨナ、大きくなります」

 

ヨナと赤城の頭を撫で、その場を離れる

 

立食のテーブルは二つに分かれている

 

片方は赤城とヨナが食べていた洋食が多いテーブル

 

横須賀、ヴィンセント、そして総理がいる

 

もう片方は和食が多いテーブル

 

今目の前で迅鯨さんがせっせこせっせこおにぎりを運んでいる

 

「しゃんしゃいおにいりれす‼︎」

 

「たくしゃんありあす‼︎」

 

聞き覚えのある舌ったらずな声が聞こえたので、和食のテーブルへと向かう

 

「待ってました‼︎」

 

「頂きます‼︎」

 

「飽きねぇんだよなぁ、これ‼︎」

 

サンダースの連中が早速山菜おにぎりに手を付ける

 

一番最初に手を出したのは、お弁当チームの、涼平、園崎、櫻井の三人

 

「来た来た‼︎」

 

「美味いんだよな、これ‼︎」

 

続いて森嶋と高垣もおにぎりを手に取る

 

「いよこえにすう‼︎」

 

「ひとみこえにすう‼︎」

 

最後にひとみといよがおにぎりを手に取り、山菜おにぎりはテーブルに着いて約20秒で全滅

 

「あっ‼︎隊長さん‼︎」

 

「隊長‼︎お疲れ様です‼︎」

 

皆が挨拶をしてくれている俺は、その噂の山菜おにぎりを手に取ろうとしていた

 

「え⁉︎もうないの⁉︎」

 

「ひとみさんといよさんも作ってくれたんです。すぐ無くなってしまいました…」

 

「おいち〜れす‼︎」

 

「あいっ‼︎ひとくちど〜じぉ‼︎」

 

「どれどれ…」

 

いよが山菜おにぎりを向けてくれたので、屈んで口にする…

 

「おいち⁇」

 

「こりゃあ美味いわ…」

 

一口食べて分かる、素朴な味

 

山菜の絶妙な味付け、シャキシャキ具合、後味にエグ味も無く、フワッと山菜独特の旨味が来る

 

あぁ、お袋の味とはこの事なんだな…と一口で理解出来た

 

「ヴィンセント中将が三つ食べて、まだ足りないと言ってた位です」

 

俺は山菜おにぎりを口にした時からボーッとしていた

 

「隊長⁇」

 

涼平が呼ぶ声で我に返る

 

「のどかな田園風景が見えてた…」

 

そこに居た全員に笑われる

 

「あっちあ、おしゃかな‼︎」

 

「もっくもくです‼︎」

 

ひとみといよに言われた方を見る

 

誰かが煙の中で必死に団扇を仰いでいる

 

「ウェーッホエッホッホ‼︎」

 

「ゴホゴホ‼︎」

 

「ゴフッゴフッ‼︎」

 

「けほけほ‼︎」

 

親父、アレン、ジョンストン、そして大鯨さんが煙に塗れて咳き込んでいる

 

「リチャード‼︎なにしてるの⁉︎」

 

俺より先にイントレピッドが来た

 

「き、来たぞ‼︎おっぱいオバケだ‼︎エッホ‼︎」

 

「これでも喰らえ‼︎ゴフッ‼︎」

 

「ちょっ、二人共っ‼︎ゲッホゲホ‼︎」

 

リチャードとジョンストンが団扇の風をイントレピッドに向けるが、その先にはアレンもいた

 

アレンは即座に煙を避ける様に横移動

 

大鯨さんも既にアレンの対面側で煙を回避中

 

「スゥゥゥゥゥ…フゥゥゥゥウ‼︎」

 

「ぐわー‼︎」

 

「ぎゃー‼︎」

 

イントレピッドの肺活量マックスの息で煙は逆行

 

親父とジョンストンは煙をモロに喰らい気絶した

 

「アレン‼︎私にもやらせて‼︎」

 

「あ、はいっ‼︎こうして、火の調整をしてですね…」

 

アレンは教えるのが上手く、イントレピッドはすぐに覚えた

 

「いいか、ジョンストン。気付かれない様に全煙をイントレピッドに向けるんだ…」

 

「オーケー、リチャード…」

 

親父とジョンストンはすぐに起き上がり、イントレピッドの対面に屈んで火を仰ぎ始めた

 

「…」

 

「…」

 

「ムッ…」

 

親父とジョンストンは真顔でイントレピッドを見ながら煙をイントレピッドに向ける

 

「…それっ‼︎」

 

イントレピッドの団扇の一撃により、全煙が一気に二人に向かう

 

「パワァ‼︎」

 

「ボワ‼︎」

 

親父、ジョンストン、再び気絶

 

「わぁ‼︎凄い‼︎とても美味しそうに焼き上がりましたよ‼︎」

 

石で円を作り、その中心で串刺しにした魚を焼いていたみたいだ

 

大鯨さんが魚を取り、テーブルへと運んで行く

 

「クソ‼︎何なんだあの威力は‼︎」

 

「強過ぎるわ…‼︎」

 

「まだまだ甘いわお二人さんっ‼︎さぁっ‼︎ここは私に任せて、食べていらっしゃい‼︎」

 

「よーし、行くかジョンストン‼︎」

 

「オーケー‼︎イントレ、サンキュー‼︎」

 

イントレピッドは団扇片手に笑顔で二人を送る

 

ここは任せた方が良さそうだ…

 

 

 

 

「おっ‼︎マーカス‼︎」

 

洋食のテーブルに戻って来ると、総理に声を掛けられた

 

「いやぁ、見事な艦だ…」

 

新型潜水艦を見ながら、総理は嬉しそうに深く息を吐く

 

「何級になるんだ⁇」

 

「搭載したAIに宿題として選ばせたんだ。中を案内するよ」

 

「本当か‼︎」

 

潜水艦の内部を見れると聞いて、総理は持っていた皿をテーブルに置く

 

「矢崎も行こう」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「創造主様。ヨナも参ります」

 

四人で新型潜水艦へと入る…



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284話 ヨナの方舟(4)

「おぉぉぉお‼︎」

 

「これは凄い…」

 

メインモニター前に来た総理と矢崎は艦内の広さに驚く

 

「たっ、堪らん…」

 

「もっともっと狭いものだと思っていました…」

 

「この新型潜水艦は臨機応変に戦い方や行動を変えられる。ヨナ‼︎」

 

二人にウェルカムヨナナスを渡しながらヨナを呼ぶ

 

「此方をご覧下さい」

 

中心にあるデスクに、この潜水艦の全体像が立体映像で映し出される

 

「航空戦になれば無人機を射出、水上戦では、背部に備えられた機銃、短距離対艦ミサイル、対空速射ミサイル、そしてメイン装備である艦首爆雷で攻撃が可能です」

 

「正に敵無しか‼︎」

 

「潜航中は外部の景色と外殻装甲を同調し、光学迷彩に近い事が可能です」

 

「総理。これは私にも分かります。普段お世話になっていますのでね」

 

ヨナが言った光学迷彩に近い防御システムは、アルテミスに搭載されている物に非常に似ている

 

が、アルテミスはそれに特化しているので、光学迷彩だけ言えばアルテミスの方が上だ

 

それでもこの光学迷彩はかなりの意味がある

 

「もう少し内部を案内しよう。行こう‼︎」

 

「待ってくれ‼︎これ食べてから…」

 

「このヨナナスも美味しいです‼︎」

 

「気に入って頂けて幸いです。ヨナ、嬉しいです」

 

「あっ‼︎そうかぁ‼︎」

 

ここで総理が気付く

 

「君はゴーヤちゃんと同じ、この潜水艦のAIだな⁇」

 

「はいっ。ヨナはこの“スカーサハ級潜水空母1番艦”のAIです」

 

三人共、ヨナの方を向く

 

今サラッと自分の級番を言ったからだ

 

「預言者の名前か…良い名前じゃないか‼︎」

 

一番最初にヨナを褒めたのは俺ではなく総理

 

「ヨナも預言者、スカーサハも預言者の名だ。この潜水艦には相応しい名前だな‼︎」

 

俺より潜水艦の誕生を祝ってくれる総理に、ヨナは嬉しそうに微笑む

 

「行こう。見せたい物があるんだ」

 

「おっと‼︎そうだったな‼︎」

 

「お待たせしました‼︎」

 

再び四人で、とある区画をに向かう

 

 

 

「入院施設じゃないか‼︎」

 

「診察室、治療室…これは凄い…」

 

総理も矢崎も驚く

 

「ここでなら傷病人を手当て出来る。それと…」

 

最後はメインホール

 

開けた区画になっており、ここも時と場合によって臨機応変に対応が可能だ

 

「傷病人の数が多い場合は、この場所で治療をする。そうじゃない場合は…」

 

俺がヨナの顔を見て頷くと、ヨナはメインホールに目をやる

 

「おぉぉぉお‼︎」

 

床から会議用の円形テーブルと椅子が出て来た

 

「ここで会議も出来る。総理、いつかここを使う時があれば言ってくれ。スカーサハ級を出す」

 

「凄い使いたい…」

 

総理は椅子に座り、また嬉しそうに深く息を吐く

 

「マーカス。代わりにこの艦は私が責任をもって“病院艦”として皆に銘打って置こうじゃないか」

 

「それは助かる‼︎」

 

スカーサハ級が新型潜水艦となれば、好戦派が狙ってくる可能性もある

 

だか、病院艦となれば見向きもしないだろう

 

「自慢してやるんだ。俺は最高の友人を持ったとな‼︎」

 

「アメリカがタナトス級を欲しがる理由がよく分かりました…」

 

矢崎は最後まで感服しっぱなし

 

その後、総理と矢崎がスカーサハ級から降り、俺は少しだけ艦内に残った

 

「スカーサハの方を選んだか‼︎」

 

「ヨナ、最初からこっちと決めていました」

 

「今度、タナトスと一緒に基地の周りをグルッとして、ちょっとだけ装備を試そうな⁇」

 

「はい。ヨナ、楽しみにしています」

 

ヨナは艦内に残り、俺だけスカーサハから降りた

 

 

 

「スカーサハ級ね‼︎良い名前だわ‼︎」

 

洋食のテーブルに戻り、皆に報告する

 

「正直内心、あああああにされたらどうしようかと思ってたよ…」

 

「しゅか〜しぁは⁇」

 

「たあとすちがう⁇」

 

ひとみといよも早速名前を覚えてくれている

 

「あっちがタナトス級、こっちがスカーサハ級だ‼︎」

 

「創造主」

 

ゴーヤも来た

 

さっき買ったアロハシャツを着ている

 

「またタナトスに乗ってくれるでち⁇」

 

「なんだ⁇心配か⁇」

 

「一人は嫌でち…」

 

ゴーヤは、スカーサハ級が完成したから、もうタナトス級には乗ってくれないのかと心配している

 

「ゴーヤ」

 

「何でち」

 

ゴーヤの前に屈み、目線を合わせる

 

「俺が悪魔と呼ばれた時に、一番力を生かせる艦はどれだ⁇」

 

「そりゃあタナトスしかいないでち‼︎タナトスは死神でち‼︎」

 

「これからも頼むぞ⁇」

 

「分かったでち‼︎」

 

俺の肌に一番合っているのはタナトスだ

 

これからもタナトスには乗る事になる。必ず

 

「お披露目も終わったし、挨拶も済んだし、そろそろお開きにしましょうか‼︎」

 

「創造主が大して食ってないでち‼︎」

 

「後で繁華街に行きましょ‼︎ゴーヤも来なさい⁇ヨナも呼びましょ⁇」

 

「分かったでち‼︎」

 

横須賀もゴーヤの扱い方が分かって来ている

 

会場の後片付けがある程度終わった後、俺達三人は横須賀の誘いで繁華街に向かい、観艦式は幕を閉じた…



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285話 アバンギャルドな娘(1)

さて、284話が終わりました

今回のお話は、また新しい艦娘が出て来ます

ヒューストンが急に有給を欲しいと言った理由とは…


「元帥さん」

 

「あら、ヒューストン。どうしたの⁇」

 

この日、横須賀の執務室にヒューストンが来た

 

「娘が夏休みで、こっちに来たいと言ってるんですけど…」

 

「子供がいたの⁉︎」

 

ヒューストンが既婚者なのは知っていたが、子持ちだとは知らなかった横須賀

 

「すみません…御報告が遅れて…」

 

「あ…いいのいいの‼︎どうする⁇有給にしようかしら⁉︎それと、娘さんがしばらく滞在する部屋を取りましょうか⁉︎」

 

「有給を少しだけ…娘は私の部屋に呼んでも構いませんか⁇」

 

「いいわよ‼︎それでいいの⁇」

 

「勿論です‼︎久々に会えますから‼︎」

 

「分かったわ。丁度一週間有給があるのよ。前日位に言ってくれれば使えるようにしておくわ⁇」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

ヒューストンは執務室を後にした

 

「ヒューストン様の娘さん、ですか⁇」

 

「きっとヒューストンに似て、お上品な子よ‼︎」

 

数日後、そのヒューストンの娘は横須賀に来た…

 

 

 

「バトルチョップ‼︎」

 

「「あとうちぉっぷ‼︎」」

 

「バトルチョップ‼︎」

 

「バトルチョップ〜」

 

全員の瓶からラムネが噴き出す

 

その日、足柄の駄菓子屋でゴーヤとヨナにラムネを買っていると、プール教室に来ていたひとみといよが来たので五人でラムネを飲んでいた

 

「シュワシュワです。ヨナ、これ好きです」

 

「後でビー玉取ってやるでち‼︎」

 

ゴーヤはヨナの隣におり、ずっと何かを話している

 

その光景を、三人で眺める

 

「れっち〜、よなしゃんのとこいう」

 

「でっち〜、よなしゃんだいじ⁇」

 

「そうだなぁ…ゴーヤからすれば自分の力を受け継いだ子だからな⁇気になってるんじゃないか⁇」

 

「あんかきた‼︎」

 

いよの指差す方向には、青い髪をした女性がいた

 

「こっちきた‼︎」

 

「こ〜あみたい‼︎」

 

こっちに向かって来た女性の髪色は、俺ときそがたまに飲むコーラのエンブレムの色に良く似ている

 

「うぁ〜」

 

「あぅ〜」

 

「ヒューストンって人を探してるんだが、知らないか⁇」

 

「ヒューストンの知り合いか⁇」

 

「あぁ‼︎娘だ‼︎」

 

「ヒューストンの娘だぁ⁉︎」

 

ほんわかお上品なヒューストンからは考えられない、超☆アバンギャルドな外見をしている

 

「昼ごはんでも食べてるんじゃないか…」

 

「そんな時間か…よしっ、アタシも先に昼ごはんにするか‼︎じゃあな‼︎」

 

ヒューストンの娘は自己紹介も無しに繁華街に入って行った

 

「こ〜あのよ〜しぇ〜⁇」

 

「わからん…」

 

「ホントにコーラの妖精かも知れんな…」

 

開幕一番にいつもの音波発信をしていたが、ひとみといよは“よ〜分かりません”と言いたそうな渋い顔をしている

 

しかし、焦る様子がない所を見ると敵ではなさそうだ

 

「ついててみう⁇」

 

「やう‼︎」

 

「よし。ひとみ、いよ。何かあったらすぐに報告だぞ⁇」

 

「あかった‼︎」

 

「ごちそうさあです‼︎」

 

ひとみといよはラムネの瓶を置き、ヒューストンの娘を追跡開始

 

「創造主。ヨナを繁華街に案内してくるでち‼︎」

 

「おっ‼︎頼んだぞ‼︎」

 

ここはゴーヤに任せた方が良さそうだ

 

ゴーヤとヨナが繁華街に入って行くと、早速タブレットに連絡があった

 

ひ> ぱんけ〜きたえてう

 

い> いしぇ

 

ひとみといよはステルスを使っているのか、真正面からヒューストンの娘を撮影している

 

ひとみはヒューストンの娘を

 

いよはパンケーキを

 

俺は二人に返信を返す

 

リヒター> 上手く行ってるか⁇

 

ひ> こ〜あのまへんな

 

い> こ〜あのまへん…

 

二人はヒューストンの娘をコーラ会社のスパイか何かと思っている

 

い> こ〜あのいんぼ〜です

 

ひ> まちあいないれす

 

いよはどこで覚えたのか、陰謀と言って視線を上に向ける

 

リヒター> 気をつけて行くんだぞ

 

い> あかった

 

ひ> ついていきあす

 

「大尉、こんにちは〜」

 

「ヒューストン‼︎」

 

ヒューストンの娘の様子を伺っていると、ヒューストンが来た

 

「娘を見ませんでしたか⁇一発で分かる外見をしているのですが…」

 

「あー、伊勢の方に歩いて行ったぞ⁉︎」

 

「そうですかぁ‼︎ありがとうございます‼︎」

 

「なんて名前何だ⁇」

 

「“サウスダコタ”です。ちょっとアバンギャルドなティーンエイジャーですけどっ‼︎」

 

ヒューストンは久々に娘と会えるのか、楽しそうに去る



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285話 アバンギャルドな娘(2)

「なんかいやがんな…」

 

(ひーっ‼︎)

 

(ばえてうんとちあいますか‼︎)

 

ステルスを使っていた二人だが、サウスダコタにその方向を直視される

 

理由は数分前にさか上る…

 

 

 

 

「美味いなぁ‼︎ここのパンケーキは‼︎」

 

サウスダコタがパンケーキとアイスを頬張る

 

ひとみといよの前で切られては口に放り込まれるパンケーキ

 

(おいししぉ〜)

 

(ぱんけ〜きたえたい)

 

そんな時、サウスダコタがジュースを入れに立った

 

(いまや‼︎)

 

いよが机を乗り出し、切られたパンケーキをふた切れ手にして元に戻る

 

(こえひとみちゃんの)

 

(あいあと)

 

「よっこらせ‼︎」

 

ひとみといよがパンケーキを頬張りながら、サウスダコタの方を見る

 

「ん〜⁇何か減ってんな…」

 

(へってましぇん‼︎)

 

(たべてましぇん‼︎)

 

ステルスを使いながら思いっきりパンケーキを頬張るひとみといよ

 

それでも二人は食べていないと言い張る

 

目の前に置いて行ったから頂戴しただけだ

 

「何かいやがんな…」

 

サウスダコタはひとみといよのいる場所を見て、目を細める

 

(ひーっ‼︎)

 

(ばえてうんとちあいますか‼︎)

 

「ま、いっか‼︎」

 

ここはバイキング

 

減って来れば、また取りに行けばいい

 

サウスダコタはまたパンケーキを頬張る

 

(こ〜あのんら‼︎)

 

(こ〜あのよ〜しぇ〜です‼︎)

 

サウスダコタが持って来たのは、ひとみといよのご希望に沿ってコーラを持って来た

 

「は〜‼︎食った食った‼︎」

 

「ダコタ‼︎」

 

誰かに呼ばれ、サウスダコタよりひとみといよの方が先に振り向く

 

「ママ‼︎」

 

サウスダコタはすぐに立ち上がり、ヒューストンに飛び付く様に抱き着いた

 

「朝ごはんは食べた⁇」

 

「今食べてる‼︎ママも食べよう‼︎」

 

「そうね、一緒に食べましょう‼︎」

 

サウスダコタの向かい側にヒューストンが座る

 

(ぐあ〜‼︎)

 

(くんな〜‼︎)

 

ヒューストンが座った両サイドにひとみといよがバラけてしまった

 

二人にとって退路が断たれた非常にマズイ状況

 

「アタシ、何か取って来るよ‼︎」

 

サウスダコタが再び立ち、バイキングに向かう

 

「ふふふ」

 

ヒューストンがひとみといよの後頭部を撫で上げる

 

((ぬあ〜‼︎))

 

ひとみといよは同じ悲鳴を上げる

 

何故かヒューストンには二人の存在が見えていた

 

「大尉の娘さんですね〜」

 

(でこれす‼︎)

 

(にぁ〜にぁ〜‼︎)

 

「そんなに可愛く鳴く猫ちゃんはいませんよ〜」

 

再び撫で上げられる後頭部

 

((ぬあ〜‼︎))

 

「パンケーキとチョコレートソースだ‼︎」

 

「ありがとう‼︎」

 

サウスダコタが来る少し前に、ヒューストンは二人から手を離した

 

(さいなあれきましぇん‼︎)

 

(にげあれましぇん‼︎)

 

逃げる事が出来なくなったひとみといよは、結局二人が食べ終えるまでヒューストンに封鎖線を食らっていた…

 

 

 

「そうだママ。ここにはジムはあるのか⁇」

 

「えぇ‼︎行ってみましょうか‼︎」

 

サウスダコタとヒューストンはようやく立ち上がり、ひとみといよは一目散に伊勢の入り口まで逃げる

 

「ぞあ〜ってさえた‼︎」

 

「ひろいめにあいまちた…」

 

「じむいく⁇」

 

「いく‼︎」

 

ひとみといよは二人の前にジムへと先回り

 

ちゃんと俺に行き先を伝えてあるので大丈夫だろう



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285話 アバンギャルドな娘(3)

「ここがかぁ‼︎」

 

(きた‼︎)

 

(むっきむきのしぇいくです‼︎)

 

いよはボクサー達が飲んでいるプロテインが気になる様子

 

たまに照月が飲んでいるので、それが何となく筋肉増強の為の物だと分かっている

 

「ヒューストン先生⁇」

 

「ハローソノザキ‼︎この子はサウスダコタ。Summer Vacationなの」

 

「そうでしたか‼︎私は園崎と申します‼︎」

 

「そっか‼︎ママ、アタシ、ミスターと話がある‼︎」

 

「いいかしらソノザキ」

 

「構いませんよ」

 

「あまり迷惑かけちゃダメよ⁇」

 

「分かってるっ‼︎」

 

ヒューストンはジムから出て行く

 

(みいれす‼︎)

 

(ひだいです‼︎)

 

ひとみといよはサンドバッグにぶら下がり、トレーニングをしている人がサンドバッグを打つ度に揺れる動きで遊んでいる

 

※危険ですのでマネをしないで下さい

 

ヒューストンを見送るサウスダコタは、クルリと園崎の方を見る

 

「やっと見つけたぜ…」

 

「おわっ‼︎」

 

サウスダコタからのいきなりの右ストレートをを瞬時に受け止めた園崎だが、後ろにズリ退がる威力をそのまま受けた

 

「ど、どうされました⁉︎」

 

「アンタのせいでな‼︎パパは…パパはあんな事に‼︎」

 

「ちょっ‼︎待って下さい‼︎」

 

サウスダコタは吠えながら勇み足で園崎に寄る

 

「ぱ、パパ⁉︎」

 

「そうだ‼︎こんなに若い奴に…」

 

「あいっ」

 

「ここであ、こえつけあす」

 

いつの間にかステルスを解いたひとみといよがグローブを持って来た

 

「あぁそうだな…」

 

「だ、ダメですよ‼︎事情がないのに女性は殴らない主義です‼︎」

 

園崎は拳に誇りを持っている

 

ここに来てから二度女性に拳を向ける事があったが、一度目はフレッチャーの時で事情あり

 

二度目はイントレピッドに鍛えて貰うので事情あり

 

サウスダコタには拳を向ける理由がない

 

それに、どうやら園崎を恨んでいる様子

 

サウスダコタはそんな園崎を尻目にグローブを着け、リングに上がる

 

「来いよ‼︎ビビってんのか⁉︎」

 

「ダメな物はダメです‼︎ウエイト差もあります‼︎」

 

「アタシはパパからボクシングを習ってる。そんじょそこらじゃやられねーぞ‼︎」

 

「いよがおあいてしあす‼︎」

 

啖呵を切らしたいよがグローブを着ける

 

「いよちゃんはもっとダメです‼︎」

 

「だめですかー‼︎ぐぁー‼︎」

 

園崎はいよを抱き上げ、いよをリングから離れた場所に置いた

 

「…分かりました‼︎少々お待ちを‼︎」

 

「へへ、来いよ」

 

園崎はグローブを着け始めた

 

「すまないマッソ…今から女に手をあげる…」

 

園崎はマッソから貰ったグローブを着け、リングに上がる

 

「へぇ⁇まだ持ってたんだ⁇」

 

サウスダコタは園崎のグローブを見て、見覚えがある様な言い方をした

 

「試合を見てくれたのですか⁇」

 

「勿論‼︎アンタは強いからな‼︎行くぜーっ‼︎」

 

「すたーとれす‼︎」

 

ひとみがゴングを鳴らし、試合が始まる

 

「オラ‼︎」

 

サウスダコタの先制攻撃から始まる

 

園崎は中々必死にパンチを避ける

 

「どうしたどうしたぁ‼︎かかって来いよ‼︎」

 

「くっ…」

 

思っていた以上のサウスダコタの猛攻

 

右フックが来たコンマ数秒後には左フックが来る

 

園崎は何度も直撃のパンチが当たる

 

「うぐっ‼︎」

 

左フックが園崎のこめかみに入り、若干フラつく

 

「どうした‼︎かかって来いよ‼︎」

 

「…懐かしい」

 

「「あ」」

 

ひとみといよが気付く

 

園崎の体勢が変わった事に…

 

「ダコタ‼︎何してるの‼︎」

 

ヒューストンが戻って来た

 

異変に気付いたヒューストンはリングの外からサウスダコタを止める

 

「はっ‼︎止めて見やがれ‼︎」

 

「ソノザキ…ごめんなさい、どうか手加減を…」

 

「手加減は要らない相手だ…はは、来いっ‼︎」

 

「だいにらうんどれす‼︎」

 

いよも二人を煽る

 

「ちんぱいいりあしぇんお」

 

「ヒトミ…」

 

何故かヒューストンは二人をリングに入って止めようとせず、ひとみといよを両脇に置いて二人の試合を見始めた

 

「強ぇえ…なんてタフな野郎だ…」

 

サウスダコタのスタミナが切れ始める

 

「まだ行けるぞ」

 

「うっ…」

 

打たれ過ぎて昔の感覚が戻っている園崎の眼光を見て、サウスダコタは怯む

 

「どうした。打って来い」

 

「何なんだ…アンタは…」

 

「君の父親の親友だ」

 

その言葉を聞き、サウスダコタはリングに膝を落とした

 

「パパと同じ事言うのか…負けたよ…」

 

「かんかんか〜ん‼︎しぅりぉ〜れす‼︎」

 

ひとみの口ゴングを聞き、ヒューストンはようやくリングに入った

 

「Thank youソノザキ‼︎貴方一度も打たなかったわ‼︎」

 

「…サウスダコタ」

 

「パパは強かったか⁇」

 

「あぁ。身も心も最強のボクサーだ」

 

「ソノザキ…貴方、マッソを知ってるのね⁇」

 

「ライバルですから」

 

このヒューストン母子、園崎がずっと言っているマッソの妻と娘

 

園崎は開始数分でサウスダコタがマッソの娘と気が付いた

 

戦い方がマッソと同じだった為、園崎は感覚を取り戻していた

 

「マッソに何かありましたか⁇」

 

「パパは…」

 

「ソノザキ‼︎俺とアメリカに行くぞ‼︎」

 

重い雰囲気を断ち切るかの様にリチャードが来た

 

「えっ⁉︎あっ、アメリカ⁉︎」

 

「ソノザキに有給が降りた。確かめに行くなら絶好のチャンスだ」

 

「しかし足が…」

 

「秋津洲‼︎長旅は覚悟出来てるな⁉︎」

 

「おっ…オーケーかもぉ‼︎」

 

リチャードに散々詰められたのか、お札とお菓子が服の至る所に詰められた秋津洲が来た

 

袖なんてパンパンになっている

 

「ヒューストンもアメリカのが良いだろう。さ、行こう‼︎」

 

「ダコタ…来たばかりだけど良いわね⁇」

 

「あぁ‼︎目的は果たしたかんな‼︎」

 

「中将、宜しくお願いします」

 

「よ〜し、出発だぁ‼︎ソノザキ、グローブ持って来いよー‼︎」

 

「あ、はい‼︎」

 

四人は本当に秋津洲タクシーに乗り、アメリカへと向かって行った…

 

 

 

 

「なにぃ⁉︎園崎と親父がアメリカに行っただぁ⁉︎」

 

執務室に呼ばれ、園崎がアメリカに行った説明を横須賀から受けていた

 

「あめいかいった‼︎」

 

「あ〜め〜いか〜あ〜ん‼︎」

 

ひとみといよが足元で歌って踊っている

 

「有給が出たのよ。それと、向こうでライバルと会うみたいよ⁇」

 

「んっ‼︎有給なら仕方ないなっ‼︎」

 

この日はゴーヤとヨナは横須賀に残り、俺とひとみといよは基地に戻った…

 

 

 

 

秋津洲タクシーの中では、リチャードとヒューストンは既に就寝

 

起きているのは秋津洲と園崎とサウスダコタ

 

サウスダコタはずっと園崎の手元を見ている

 

「そんなにパパと会うのが楽しみか⁇」

 

園崎の手元にはマッソから貰ったグローブがある

 

「楽しみです。あんなに楽しい試合はありませんでしたから…」

 

今も園崎の脳裏に残るあの試合…

 

マッソと園崎の試合は、互いに小細工等一切効かず、ただただ力と力のぶつかり合い

 

「パパも言ってた。ミスターソノザキとした試合が一番楽しい試合だったって」

 

「今でも体が震えるくらいです…」

 

園崎は武者震いしている

 

普段何に立ち向かおうが持ち前のガッツで跳ね除けていた園崎が震えるくらいの相手、マルセラ・マッソ

 

二人が再開するまで、後数時間…



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286話 あの日の遺産

題名と話数が変わりますが、前回の続きです

アメリカへと渡ったリチャード一行

園崎はヒューストンと目的地へ向かう中、リチャードは久々に自分達の上官の元へと行きます


「さー‼︎着いたかも‼︎」

 

途中、スカイラグーンで補給を済ませた後、サンフランシスコ軍港に着いた秋津洲タクシー

 

「レクター‼︎ドラ息子が帰ったぞ‼︎」

 

「うるさい奴が帰って来おったか…」

 

執務室で執務をしながら、リチャードの声を聞くレクター

 

口ではそう言っているが、顔は嬉しそうにしている

 

「迎えに行ってやってくれんか」

 

「OK‼︎Admiral‼︎」

 

元気ある声でレクターに返事をした女性は、リチャードを迎えに行く…

 

「では中将。私達はこっちへ行きます」

 

「気を付けてな‼︎ソノザキ‼︎めいっぱい楽しんで来いよ‼︎」

 

「了解です‼︎」

 

ヒューストンとサウスダコタ、そして園崎はジープを借り、ヒューストンの運転でマッソのいる場所を目指す

 

リチャードはその場に留まり、降りてくる秋津洲を待つ

 

「アメリカには中々来れないかも‼︎」

 

「良い所だぞ⁇景色は綺麗‼︎遊ぶ所もいっぱい‼︎」

 

「Hello‼︎」

 

「おっ‼︎早速お迎えだ‼︎」

 

レクターが向かわせた女性が来た

 

亜麻色の髪に、少々眠たそうな目をしているが、元気いっぱいの子だ

 

「貴方がリチャードね⁇」

 

「いかにもっ‼︎元帥の側近か⁇」

 

「はいっ‼︎アドミラルレクターの秘書の“ヘレナ”と申しまーす‼︎さぁさぁ‼︎執務室へ‼︎」

 

「秋津洲、行くぞ」

 

「了解かも‼︎」

 

レクターに会いに行く道中、ドックの近くを通る

 

「おっと…」

 

リチャードの目に入る、二隻の巨大な空母

 

「片方は横須賀のアドミラルジェミニからの依頼で、現在修復中です‼︎大きいですよね‼︎」

 

「アメリカは艦娘の開発が遅かったからな…まっ、こっちで賄う事は出来た」

 

「なんて名前かも⁇」

 

「建造中の空母にまだ名前はありませんが、修復中の空母は“アークロイヤルbis”です‼︎」

 

アークロイヤルbis…

 

ジャスティスブレイク作戦でサンダーバード隊率いる航空戦隊が応戦に入った大規模海戦で大破した空母だ

 

中にアークがセイレーンシステムとして投入されていたと聞いたが、マーカスが取り出したらしい

 

「開口一番に聞いてやらぁ‼︎」

 

「着きましたー‼︎どうぞー‼︎」

 

執務室に着き、レクターの前に通される

 

「久々じゃな、リチャード」

 

「相変わらずお元気なこった‼︎」

 

「その子は付き添いか⁇」

 

「そっ。秋津洲だ」

 

「遠路遥々ようこそアメリカへ」

 

「どうもどうもかも‼︎」

 

互いに頭を下げ合う二人

 

「ヘレナ。アキツシマさんに基地を案内してくれるか⁇」

 

「OK‼︎Admiral‼︎」

 

レクターはヘレナに何枚かのお札を渡し、秋津洲にも同じ分をくれた

 

「わぁ〜‼︎外国のお金かも〜‼︎」

 

秋津洲は初めて見るドル札をマジマジと見る

 

「お小遣いだ。さ‼︎楽しんで来なさい‼︎」

 

「行って来ます‼︎」

 

「行って来ますかも‼︎」

 

ヘレナと秋津洲が執務室から出て、リチャードとレクターは対面のソファーに座る

 

「俺には小遣いなしですか‼︎えぇ⁉︎」

 

「葉巻があるが、どうだ⁇高級品だ。ヘレナの太ももで巻いたな」

 

レクターは葉巻を咥えながらニヤついている

 

高級な葉巻ではあるが、ヘレナの太ももで巻いた訳ではない

 

「これはこれは。ありがたく頂戴します…」

 

葉巻に火を点けつつ、リチャードの目付きが変わる…

 

「アークロイヤルbisがいた」

 

「気になるか⁇」

 

「ありがとう」

 

「ほぅ。お前の口から感謝の言葉が出るとはの」

 

「感謝は万国共通だ」

 

二人して鼻で笑いつつ、窓からアークロイヤルbisを眺める

 

「こっちが貰い受けるのか⁇」

 

「いや。横須賀に渡す。通常以上の資金を横須賀から頂戴している」

 

「艦長は誰が⁇」

 

すると、レクターは葉巻を咥えながらリチャードの方を向いて笑う

 

「やってみるか⁇」

 

「俺はいい‼︎もっと適任がいるだろ‼︎」

 

「お前は口はうるさい、素行も最悪。だが、部下に好かれるのと指揮能力はわしが見て来た中でトップだ」

 

「褒めても艦長にはならん‼︎」

 

「まぁ、いつか艦載機にはなってやってくれ」

 

「それは喜んで‼︎」

 

レクターは分かっていたかの様に頷き、もう一隻の空母を見た

 

「本国は確かに艦娘の開発には遅れをとったな…」

 

「こっちで賄ってるからいいさ」

 

先程からリチャードが“こっちで賄ってる”と言っているのは、造船技術の事

 

アメリカは艦娘の開発が他の国より遅れている分、非常に強力な軍艦を同盟国に寄与、若しくは修復の依頼を請け負っている

 

代わりに今の横須賀とサンフランシスコの関係の様に、サンフランシスコが有事の際は、横須賀がそれらを使って応援に入ると言う関係だ

 

「あの空母の名前は⁇」

 

「“タイコンデロガ Ant”AntはAnotherの略だ」

 

「タイコンデロガAntねぇ…」

 

見た所、甲板は装甲化されており、何らかの最新鋭の技術が投入されている

 

「これで横須賀に正規空母が三隻か…」

 

「イントレピッドdau、アークロイヤルbis、タイコンデロガAnt…良い名前じゃろ⁇」

 

「良い名だっ…」

 

リチャードとレクターは今しばらく窓の外を眺めていた…



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287話 変わり果てた強敵(1)

題名と話数が変わりますが、前回の続きです

ライバルの元へと向かう園崎を乗せたジープ

その道中、何度も同じ事を聞かれ…


「ソノザキ。本当にマルセラと会う覚悟は出来た⁇」

 

「後で後悔しても知らないかんな⁇」

 

「そんなに…ですか⁇」

 

秋津洲タクシーの中では武者震いをしていた園崎だが、ここに来て二人に散々覚悟は良いか⁇後悔しても知らない‼︎と言われ、一抹の不安を抱く

 

もしかするとマッソ…いや、マルセラは体の何処かを悪くしているのでは…

 

「着いたわ」

 

「行くぞ」

 

着いた場所はそこそこ大きな会場

 

それを見て、園崎の不安は少し軽くなる

 

会場に連れて来られたと言う事は、マルセラは体を悪くしている訳ではなさそうだ

 

ヒューストンに連れられ、会場の入り口に来た

 

「ヒューストンです〜」

 

「これはこれは…マルセラのファミリーですね。その方は⁇」

 

気の抜けたヒューストンの声とは裏腹に、厳つい顔をしたチケット売り場の男性

 

ヒューストンの顔はここでは行き渡っている様で、すぐにマルセラの家族だと分かって

 

「この方はミスター・ソノザキだ」

 

「ほぅ⁇マルセラの永遠のライバルが何故ここに⁇」

 

「遠路遥々マルセラに逢いに来たの」

 

「良いでしょう。席を三つ用意します」

 

チケット売りの男性はしばらくPCを弄った後、一番最初にヒューストンに、その次にサウスダコタ、最後に園崎にチケットが渡される

 

「ありが…」

 

園崎がチケットを取ろうとしたが、グッと握られる

 

「…マルセラに会う覚悟は出来たのか⁇」

 

「喧嘩をしに来た訳じゃないです」

 

「…今のマルセラを見て、同じ事を言えると良いな」

 

「…」

 

「ま、楽しんで下さい」

 

チケットが離され、睨む園崎と真顔で手をヒラヒラさせる男性

 

「行くぜー」

 

サウスダコタに呼ばれ、園崎は会場に入る…

 

 

 

会場に入ると、既に席は満席に近い状態

 

中央にはリングがあり、何らかの試合がある事には間違いはない

 

皆試合が始まるのを今か今かと待ち構えている

 

「もう一度聞くわ。今ならまだ、マルセラを見ずに帰れるわ⁇」

 

「ここまで来たんだ。覚悟は出来てます」

 

「…」

 

サウスダコタはベンチに座って前屈みになり、太ももに肘を置いて口元に手をやりながらリングを見始めた

 

「ご来場の皆様‼︎本日はお集まり頂き、誠にありがとうございます‼︎」

 

「始まったわ…」

 

「…」

 

会場にアナウンスが入り、ヒューストンと園崎は身構える

 

「こんな真昼間から血の気の多い奴がこんなにも集まったぁ‼︎リングに上がる二人も血の気が多いぞ‼︎早速入場だぁ‼︎赤コーナー‼︎デーーース‼︎ウルーーーフ‼︎」

 

「はぇ⁉︎」

 

園崎は気の抜けた声を出す

 

煙が上がり、狼のマスクを着けた選手が入場して来た

 

「がおー‼︎」

 

「デスウルフ‼︎今日のコンディションはどうだ‼︎」

 

マイクを渡され、デスウルフは反対側の入り口を指差す

 

「出て来い‼︎今日こそこのデスウルフが始末してやる‼︎がおー‼︎」

 

「デスウルフの挑発が入ったぁ‼︎さーぁ会場のちびっこ諸君‼︎みんなで彼を呼んでおくれ‼︎せーのっ‼︎」

 

「「「スーパーマルセラー‼︎」」」

 

声の幼さに気付き、園崎は会場を見渡す

 

よく見ると家族連れが大半を占めている

 

しかも子供の割合が多い

 

「むっ‼︎子供達の声が聞こえたぞ‼︎」

 

デスウルフの反対側の入り口から煙が上がる

 

「はっはっは‼︎」

 

手を振りながら現れたのは、赤いマスクを着けた筋骨隆々の男性

 

園崎の永遠のライバルであり、親友の男がそこに居た

 

「とうっ‼︎」

 

ジャンプでリングに上がるスーパーマルセラ

 

「マルセラ‼︎コンディションはどうだ⁉︎」

 

「うむっ‼︎今日も絶好調だ‼︎デスウルフ‼︎よろしく頼むぞっ‼︎」

 

「がおー」

 

スーパーマルセラはデスウルフと握手をする

 

「手が離れた所で試合開始‼︎」

 

ゴングが鳴り、試合が始まる

 

「マルセラエルボゥ‼︎」

 

「あーっとぉ‼︎開始早々デスウルフにマルセラのエルボーが入ったぁ‼︎立てるかデスウルフ‼︎」

 

「マッソォ…」

 

サウスダコタと同じ体勢になる園崎

 

皆が散々言っていた覚悟は出来てるか⁇の答えは、マルセラはプロレスラーに転向していたからだった‼︎

 

「頑張ってダーリーン‼︎」

 

ヒューストンだけは大盛り上がり

 

サウスダコタと園崎は、全く同じ体勢でズーン…としている

 

「…な⁇だから言ったろ⁇」

 

「…いつからしてるんだ」

 

「…アンタに負けた一年後からだ」

 

園崎との試合で負けたのが完全に影響している

 

「今じゃあ子供に大人気のプロレスラーだ…」

 

「俺が悪いのかマッソォ…」

 

サウスダコタも園崎も、笑いを堪える半分、申し訳なさ半分で肩を小刻みに揺らす

 

「いいのよダコタ‼︎」

 

「…まぁなっ‼︎」

 

「マルセラは昔の様な王者の風格は無くしたわ…でも見てソノザキ‼︎マルセラは楽しんでるわ‼︎」

 

「…確かにっ‼︎」

 

自分とした試合とはまた違う、試合を楽しむマルセラの目、顔

 

あの日見たマルセラの顔は、鋭く自分を見つめる眼光が印象的

 

今のマルセラは、満面の笑みでこれでもかと白い歯を見せながらプロレス技を華麗に繰り広げている

 

数十分間試合は続き、デスウルフがスーパーマルセラのチョークスリーパーの腕をペチペチ叩いた

 

「試合終了ー‼︎勝者、スーパーーー‼︎マルセラァァァア‼︎」

 

会場から歓声が上がる

 

それに答えるスーパーマルセラは会場を見回しながら手を振る

 

「ありがとう、デスウルフ」

 

「ありがとう、スーパーマルセラ」

 

「あっ…」

 

数十秒前までリングでいがみ合っていた二人が固い握手を交わす

 

試合が終われば敵味方関係ない

 

両者共互いに讃え合い、試合は終わる

 

園崎のモットーをマルセラは確と受け継いでいた



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287話 変わり果てた強敵(2)

更新が遅れて申し訳ありません

自分では投稿したつもりでいたのですが、投稿出来ていませんでした

申し訳ありません


「控え室に行きましょう‼︎」

 

興奮冷めやらぬヒューストンに連れられ、園崎とサウスダコタは立ち上がる

 

「サウスダコタ」

 

「何だ⁇」

 

その道中、園崎はサウスダコタに気になる事を聞いてみた

 

「自分が憎い…ですか⁇」

 

少し塞ぎ気味に園崎は言う

 

「いんや⁇だってあぁでも言わないと、アンタの力が分からなかったからな‼︎」

 

「そう、ですか…」

 

「あ。パパがあぁなったの、気にしてんのか⁇」

 

「一握りは自分の所為です」

 

「気にしなくていいわソノザキ」

 

その話を聞いて、ヒューストンが返す

 

「マルセラは元からプロレスラーになりたいと言ってたのよ。だけど、どんなレスラーになっていいか分からずのまま、素質があったボクサーになったのよ」

 

「そうなんですか⁉︎」

 

園崎も知り得なかった、マルセラの内情

 

「そうよ〜。だって家族しか知らなかったもの。今この時までね⁇」

 

「ま‼︎そう言うこった‼︎アンタが気にする事じゃないさ‼︎」

 

「それに、ソノザキと試合をした後、ようやく方向性が決まった‼︎って大喜びしてたのよ⁇」

 

「そうだったんですね…」

 

園崎はずっと気になっていた

 

マルセラは良きライバルだ

 

だけど、きっと自分を憎んでいる…と

 

「さ、着いたわ‼︎」

 

園崎が心の準備をする間も無く、ヒューストンは控え室のドアを開けた

 

「ダーリン‼︎グッドファイトだったわ‼︎」

 

「ヒューストン‼︎帰って来てたのか‼︎ははっ‼︎」

 

マルセラは飛び付く様に抱き着いて来たヒューストンを抱き締め、嬉しそうにしている

 

「パパ‼︎カッコ良かったぜ‼︎」

 

「サウスダコタ‼︎バケーションは楽しんでるか⁉︎」

 

「あぁ‼︎」

 

「そうかそうか‼︎パパも楽しんでるぞ‼︎」

 

マルセラはサウスダコタも抱き締める

 

本当に良き父親だ

 

「ダーリン⁇今日はゲストがいるの‼︎」

 

「ゲスト⁇」

 

「あそこだ‼︎」

 

サウスダコタに言われ、マルセラはドアの付近にいた園崎の方を向いた

 

「…」

 

ヒューストンとサウスダコタを置き、無言で園崎に向かうマルセラ

 

園崎の前で止まり、肩で息をしている

 

「…」

 

園崎も無言でマルセラを見返す

 

マルセラはマスクを取り、園崎の肩に手を置き、顔をまじまじと見た

 

そして、マルセラは園崎をきつく抱き締めた

 

「痩せたな…ブラザー…」

 

「元気そうだな…兄弟…」

 

マルセラは園崎を微塵も恨んだりしていなかった

 

恨むどころか、マルセラにとっても対等に渡り合えた唯一のボクサー

 

互いにとって唯一無二の好敵手であり、友人であるのに変わりはなかった

 

「ヒューストン、サウスダコタ。すまない、今日はソノザキとディナーを食べたい」

 

「勿論よ‼︎その為に連れて来たの‼︎」

 

「アタシとママはパパより良いもん食ってくんぜ‼︎」

 

ヒューストンとサウスダコタはそのまま控え室を出た

 

「さぁソノザキ‼︎ディナーに行こう‼︎」

 

「よしっ‼︎行こう‼︎」

 

園崎とマルセラは街へと駆け出す



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287話 変わり果てた強敵(3)

「そうかぁ‼︎イントレピッドさんがいるのか‼︎」

 

園崎とマルセラは個人経営のレストランに行き、ステーキを頬張る

 

「向こうは強い人ばっかりだ。マッソ並にな⁇」

 

「いやぁ〜、イントレピッドさんの手解きを受けているなら、ソノザキにはもう勝てないなぁ‼︎」

 

イントレピッドはここでも名の知れたボクサー

 

店内には当時のイントレピッドのポスターが貼ってあり、二人はそれを眺める

 

「今はどんな感じなんだ⁇」

 

「ここに写真が…」

 

園崎は免許証入れから集合写真を出した

 

「はは、ポチャってるな‼︎」

 

「誰がポチャってるですって⁇」

 

「イントレピッドさんだよ‼︎見ろよ、あのポスターと全然違う‼︎」

 

「ま、マッソ…」

 

「ん⁇」

 

マッソが振り返ろうとした時、肩をグッと掴まれた

 

園崎からは肩を掴んだ女性の顔が見えていた

 

「マルセラ⁇誰がポチャですって⁇」

 

「い、いやぁ〜…その〜…あの〜…」

 

「はは‼︎イントレ、その辺にしておけ。お前の豊満ボディ、俺は大好きだ‼︎」

 

「私もリチャードの女たらし、嫌いじゃないわ⁉︎」

 

「全く…ほら、何食う⁇」

 

「皆さん‼︎」

 

そこに居たのはイントレピッド、リチャード、ヴィンセントの三人

 

「ど、どうしてここに⁉︎」

 

「どうして⁇面白い事を聞くな、ソノザキ‼︎」

 

「ここは私達の地元だ」

 

「マークも来てるんだけど、レクターと夕食をしながら話があるみたいだから三人で来たの‼︎」

 

「おおお…」

 

マッソは三人を見てから様子がおかしい

 

「そ、ソノザキ…あの三人に教えて貰ってるのか⁇」

 

「そう。みんなに鍛えて貰ったから、強くなれ…」

 

マッソはソノザキの肩を掴み、自分の方へ引き寄せた

 

「…リチャードさんとヴィンセントさんって言えば、この辺で最強のヤンキーだったんだぞ…」

 

「…マジか」

 

「…あぁ。あの二人だけで数十人が倒れる。この辺りではかなり有名だぞ⁇性格が真逆のコンビが、この辺りの治安を一気に良くしたってな」

 

「マッソ」

 

「はいっ‼︎リチャードさん‼︎」

 

リチャードに呼ばれ、マッソは立ち上がる

 

「街は平和か⁇」

 

両手で雑誌を持っているヴィンセントがマッソに問う

 

「たまに暴走族らしき輩が走っておりますが、大体平和であります‼︎」

 

「だとよっ⁇」

 

「君が居てくれる限りこの街は平和だ。よろしく頼んだぞ、マルセラ」

 

マルセラの名前を言うと同時に雑誌を閉じ、マルセラの目を見るヴィンセント

 

いつもの優しい目の裏に、当時の強さがある

 

「はいっ‼︎ヴィンセントさん‼︎」

 

「ふふっ‼︎カッコいいわよヴィンセント‼︎」

 

「…やめてくれ。恥ずかしいんだぞ…」

 

珍しくヴィンセントが照れを見せた

 

どうやらこのメンバーが集まると、全員素に戻れるらしい

 

「…あーもー‼︎リチャード‼︎イントレ‼︎それとソノザキとマルセラ‼︎好きな物食え‼︎」

 

「よーし‼︎ここはヴィンセント君の意思を組んで物凄く高いカベルネとか言う奴を頼んでやろうじゃないの‼︎」

 

「私も‼︎」

 

結局、この日の会計は全てヴィンセント持ちになったが、そこはやはり地元の人間

 

安くて美味い店を知っていたので、ヴィンセントの懐に大打撃が入る事はなかった…

 

 

 

 

「じゃあまた明日、レクターの所でね⁇」

 

「すまん、ヴィンセント」

 

「気にするな。スパイトさんにも言わない。ゆっくりな⁇」

 

リチャードとイントレピッドはモーテルに消えて行った

 

「私は基地で休むが、ソノザキは宿はあるか⁇」

 

「一晩飲み明かそうかと」

 

「そうか、有給だったな。私はこれで失礼するよ」

 

ヴィンセントも去り、ソノザキとマッソは一晩飲み明かすために、夜の繁華街へと消えた…

 

 

 

 

次の日、ソノザキとマルセラは親友として、日が暮れるまで遊びまくった

 

ドライブをし、ボウリングをし、美味い飯を食い、最後に釣りをした

 

そしてサンフランシスコ軍港に戻る…

 

「楽しかったぞ、ソノザキ‼︎また遊びに来てくれ‼︎」

 

「必ずまた会いに来る‼︎」

 

マルセラは寂しそうに頷く

 

またしばらく会えなくなる

 

それに、園崎は立派な軍人だ

 

いつ死ぬか分からない

 

いつ二度と会えなくなるか分からない

 

「…ソノザキ。ヒューストンを頼んだぞ」

 

「頼まれるのはこっちさ‼︎」

 

「マルセラ‼︎」

 

「パパ‼︎」

 

ヒューストンとサウスダコタが帰って来た

 

「またな、マッソ」

 

「またな、ソノザキ‼︎」

 

二人は別のルートを行く

 

園崎は基地に

 

マルセラは家族の元に

 

互いに背中は見送らない…

 

帰りは秋津洲と二人で、秋津洲タクシーに乗って帰る

 

「何か行きより静かかも」

 

「中将が居ませんからね…」

 

マルセラとの一時の再会を胸に残し、園崎もまた、愛する家族の元へと帰って行った…



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288話 シマエナガのアルバイト日記(1)

さて、287話が終わりました

今回のお話は、二人の鯨の所でアルバイトをするお話です

ひとみといよは普段掃除以外で、どうやって小遣いを稼いでいるのか…


ある日の横須賀、牧場エリアの隅…

 

「よし…あいつらはいねぇな…」

 

ガリバルディは牛舎の陰から牧場を確認しながら牧場エリアに足を踏み入れる…

 

「どわっ‼︎」

 

「ん⁇何か声がしたパース⁇」

 

石窯で試作のピザを焼いていたパースは声は聞こえたものの、目線はまたピザに戻る…

 

「チクショウ…何でンナ所に落とし穴があんだよ‼︎おーい‼︎」

 

ガリバルディは落とし穴にハマり、出られなくなっていた

 

それも中々深い落とし穴

 

到底ガリバルディ一人では出られそうにない

 

「おーい‼︎誰かーっ‼︎おーい‼︎」

 

比較的近くにいるパースは石窯に集中していて聞こえない

 

牛舎で搾乳作業をしている峯雲にも聞こえていない

 

「どうすりゃいいんだ…」

 

「あにちてんの⁇」

 

「がいばうで〜ばちあたた⁇」

 

「ヒトミ‼︎イヨ‼︎」

 

異変に気付いてくれたのは、ガリバルディの宿敵であるひとみといよ

 

穴の縁から顔を覗かせ、ガリバルディを見ている

 

「あなおちた⁇」

 

「そうなんだ‼︎一人で上がれないんだ‼︎」

 

「かあいしぉ〜に」

 

「がんばってくらしゃい」

 

ひとみといよは助ける素振りを微塵も見せず、煽るだけ煽り、穴から離れようとした

 

「だーっ‼︎おいおいおい‼︎助けてくれよ‼︎」

 

「たすかいたい⁇」

 

「お菓子買ってやるから‼︎なっ⁉︎」

 

「ろ〜しゅう⁇」

 

「しけてう‼︎」

 

「かえりあ〜す‼︎」

 

ひとみといよは本当に穴から離れた

 

「1000円やるから‼︎な⁉︎」

 

「しぇんえんあって」

 

「しぁ〜ないです」

 

「よし‼︎いい子だ‼︎」

 

1000円でひとみといよを買収したガリバルディは、ようやく穴から出られると安堵した

 

「お〜ぷもってくう‼︎」

 

「おねがいしあす‼︎」

 

ひとみがその場を離れ、ガリバルディを上げる為のロープを探しに行った

 

「いっひっひ…」

 

「な、何すんだよ…」

 

いよは実に悪そ〜な顔をして、ガリバルディを見る

 

「だーっ‼︎コラやめろ‼︎」

 

いよは穴の上からヨダレを垂らし、ガリバルディに向けて落とし始めた‼︎

 

「汚ねぇ‼︎やめてくれ‼︎」

 

「ほ〜え‼︎」

 

「危ねぇ‼︎」

 

ガリバルディは間一髪で避ける

 

穴に落ちても泣かなかったガリバルディだが、ヨダレ攻撃で恐怖を覚えて涙ぐむ

 

「もってきた‼︎」

 

「がいばうで〜まってて‼︎」

 

「あ、あぁ…ふぅ…」

 

いよの攻撃が終わり、準備が整うまでガリバルディは一息つける

 

「いくれ‼︎」

 

「あぁ‼︎」

 

「こ〜か〜‼︎」

 

体にロープを巻き付けたいよが降りて来た

 

「あいっ‼︎」

 

ガリバルディに安全装置を渡し、いよはロープを取る

 

「上手いもんだな⁇」

 

「たかこしゃんにおちえてもあった‼︎」

 

ひとみといよは貴子さんに降下術を教えて貰っており、人命救助の仕方もある程度覚えていた

 

ただ、相手がガリバルディなので嫌なだけである

 

「よし、付けた‼︎」

 

「だっこちて」

 

「よいしょ…」

 

ロープを付けたガリバルディは、いよを抱き上げる

 

「あげてくらしゃ〜い‼︎」

 

「いきあ〜す‼︎」

 

ロープがゆっくりと上に上がる

 

ガリバルディは思う

 

こうしていれば、いよもひとみも本当に可愛くて頼りになる

 

凶暴だけど、まだまだ抱っこして欲しい年頃なのだな…と

 

「先に上がるんだ」

 

「きってい⁇」

 

「やっぱ一緒に上がんぞ‼︎」

 

ちょっとでも可愛いと思うと、すぐに痛い目に遭う

 

助けて貰えるだけ、ガリバルディはまだマシなのだ

 

「ありがとな‼︎」

 

ガリバルディといよが穴から上がり、いよが地に降ろされる

 

「きぉ〜らけれす‼︎」

 

「つぎあ、ないです‼︎」

 

「…まぁいいさ‼︎そういや、どこ行く予定だったんだ⁇」

 

「たいげ〜しゃんのとこ‼︎」

 

「そこまで行くよ。落とし穴があると危険だかんな」

 

ひとみといよは、どうもお手伝いに行く前にガリバルディを見つけた様子

 

大鯨さんの所に着くまでに、ヒヨコでも見に来たのだろう

 

三人でパイロット寮に来ると、丁度櫻井が出て来た

 

「婿殿‼︎」

 

「むころの‼︎」

 

「むこどろ‼︎」

 

「な、何ちゅう呼ばれ方だ…」

 

三人は櫻井を追って出て来た大鯨を陰から見る

 

「今日の夕食は如何なさいますか‼︎」

 

パイロットスーツを整えながら、大鯨は今日の夕食の話をする

 

「今日は大鯨の得意なきのこの味噌汁がいいです」

 

「畏まりました‼︎」

 

「あえつくう」

 

「おこづかいもあう」

 

「アタシもやれっか⁇」

 

「よこしゅかしゃんにきいてみう‼︎」

 

「いいわよ。ガリバルディ、やってみなさい⁇」

 

「「よこしゅかしゃん‼︎」」

 

いつの間にか横須賀が背後にいた

 

「レイは婿じゃないから呼べないわね…」

 

横須賀がブツブツ何かを企む横で、ガリバルディは横須賀の横顔を見る

 

「さっき二人に助けて貰った‼︎」

 

「あらっ‼︎ガリバルディ助けてくれたの⁇」

 

「いたちかたなくれす‼︎」

 

「がいばうで〜ないてた‼︎」

 

「な、泣いてなんか…泣いてたな…」

 

「あなあいてた‼︎」

 

「がいばうで〜、おちてばちあたた‼︎」

 

「焼却炉にする為の穴ね」

 

どうやら焼却炉用にする穴に落ちていたガリバルディ

 

ひとみといよは穴を掘っておらず、別の誰かが掘ったらしい

 

「ひとみといよちゃん、あなほいちたあ、ちくちくつけあす‼︎」

 

「がいばうで〜いちげきれす‼︎」

 

「…やりかねない所が怖い」

 

ひとみといよは穴を掘ったら下に針を置くと言っている

 

「「いってきあす‼︎」」

 

「行ってらっしゃい‼︎」

 

そんな事を言いつつも、しっかりガリバルディと手を繋ぐ二人

 

決して懐いていない訳ではないのだ

 

「ひとみさん、いよさん、おはようございます‼︎」

 

寮の前にいた大鯨の所に来ると、大鯨が先に挨拶をしてくれる

 

「よおしくおねあいしあす‼︎」

 

「がんばいあす‼︎」

 

「よろしく頼みます‼︎」

 

大鯨と共に、ひとみといよとガリバルディのご飯作りが始まる…



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288話 シマエナガのアルバイト日記(2)

同じ頃、執務室では…

 

「穴掘り終わりました‼︎」

 

「ありがとう‼︎一人落ちたわ⁇」

 

「それは申し訳ない事を…」

 

ガリバルディと良く似た女性が横須賀の前に立っている

 

ガリバルディより髪が長く、女性らしい印象を持てる彼女

 

彼女が穴を掘ってくれた人物である

 

「イタリアで艦娘を引退したのね⁇」

 

「はい…妹がかなりご迷惑をお掛けしたので、私は責任を持って除隊致しました」

 

「ど⁇もう一回艦娘としてやってみる⁇」

 

横須賀にそう言われ、彼女の顔が明るくなる

 

「宜しいのですか⁉︎」

 

「いいわよ⁇その代わり、妹にも釘を刺してあるけど、次変な真似をしたら死ぬより恐ろしい事が待ってるわよ⁇」

 

「死ぬより恐ろしい事…」

 

彼女が少し震えているのを見て、親潮が口を開いた

 

「それはそれは恐ろしいです。生きたまま胸を貫かれたり、突然半月板を左右同時に叩き割られたり、寝る間も無く手榴弾を何処からともなく投げ込まれたり…」

 

「後は海に引き摺り込まれて秒で死ぬわ」

 

「ひぃ…だ、大丈夫です‼︎皆様を裏切る様な真似は絶対にしません‼︎それに、貴方がたはご恩があるお方です‼︎」

 

「嘘よ、う〜そ‼︎」

 

「そんな怖い人はこの基地には居ません‼︎」

 

「良かった…」

 

そう…

 

“この基地にはいない”だけである

 

 

 

実は全てを行って来た人物がいる

 

生きたまま銛で胸を貫き…

 

突然半月板を魚雷で左右同時に叩き割り…

 

何処からともなく手榴弾…もといウニを投げ込み…

 

悪い輩を海中に引き摺り込んで秒で抹殺している、非常に恐ろしい仕事人が…

 

そんな仕事人はと言うと…

 

 

 

「ち〜たけ‼︎」

 

「椎茸はこうやって、細く切ってみましょう‼︎」

 

「ちめじ‼︎」

 

「しめじは、まずは根元を切ってみましょう‼︎」

 

ひとみといよはグラーフに繕って貰ったエプロンを着け、大鯨に教えて貰いながらきのこを下処理して行く

 

大鯨の教え方は非常に上手

 

子供でも扱えるプラスチック製の安全包丁を二人に渡し、横で同じ行程をしながら教えて行く

 

「え〜と…鶏肉をタレに漬けて揉む…か」

 

ガリバルディは竜田揚げの下準備をしている

 

タレが出来上がり、袋に入れて鶏肉を放り込む

 

普段の言動とは真逆で、結構上手に竜田揚げを作って行くガリバルディ

 

「はいっ‼︎これできのこさんの下準備は完了です‼︎」

 

普段基地で下準備のお手伝いをしているからか、ひとみといよは中々の腕前の切り方できのこの下準備を終えた

 

「ほ〜ちぉ〜おきあす」

 

「あいっ」

 

ひとみといよは絶対包丁を振り回したりしない

 

基地でもそうだが、包丁を使っていいのはキッチンだけ

 

作業が終わればその場に置き、大人が包丁を片付ける

 

そうすれば、貴子さんが喜んでくれるからだ

 

「では、今日はこれでおしまいです。よく頑張りましたね⁇」

 

「あいがと〜ごじゃいあしたっ‼︎」

 

「またおねあいしあすっ‼︎」

 

大鯨のお料理教室は、少しずつやって教えて行く

 

大鯨自身もそこそこ助かっており、それに大鯨は二人に借りがある

 

旦那と再び逢わせてくれた事を、ずっと感謝している…

 

 

 

 

パイロット寮を出た三人は、駄菓子屋に来た

 

「そうだそうだ‼︎思い出した‼︎ヒトミ、イヨ、好きなん買えよ⁉︎」

 

「あににすう⁇」

 

「たっかいあつ‼︎」

 

いよはそれを聞き、足柄の所に行く

 

「嫌な予感がすんぜ…」

 

「はげのちぉこえ〜と、はこでくだしゃい‼︎」

 

「箱で下さいだぁ⁉︎」

 

「ちょっと待っててね〜…よいしょっ…あたた…」

 

足柄がカウンターから立ち上がり、奥に向かう

 

「ひとみこえにすう‼︎」

 

ひとみが持って来たのは、飴玉が沢山入ったプラスチックのケースを二つ

 

一個500円だ

 

「案外安いな…よしっ‼︎ヒトミはこれだな⁉︎」

 

「いよちゃん、これかな⁇」

 

「そえ‼︎」

 

帰って来た足柄がダンボールで抱えていたのは“世界のお坊さんカードチョコ”

 

いよは何故かこれが好きだ

 

駄菓子は外部から仕入れているのだが、バイヤーでさえ「案としては奇抜で良いのですが、まぁ売れないでしょう」と、呆れ半分笑い半分で置いて行った

 

まさかここにファンがいるとも知らず…

 

「幾らだ⁇」

 

「50円が20袋入ってるから1000円ね‼︎」

 

「良かった…」

 

「もひとついくか⁇」

 

「今日は一つだけだ。じゃあこれ」

 

ガリバルディは千円札を二枚足柄に渡した

 

ひとみは両脇に飴玉の容器を抱え、いよは何処から出したか分からない紐で中々綺麗に背中に結ぶ

 

「ヒトミとイヨはこれからどうすんだ⁇」

 

「もひとついきあす‼︎」

 

「こえ、よこしゅかしゃんのとこおいてかあ‼︎」

 

そう言って、ひとみはガリバルディに飴玉の容器を一つ渡した後、ガリバルディと手を繋ぐ

 

いよも何も言わずにガリバルディと手を繋ぎ、執務室を目指す



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288話 シマエナガのアルバイト日記(3)

「あらっ、お帰りなさい‼︎」

 

「たらいま‼︎」

 

「ここおいとかちてくだしゃい‼︎」

 

執務室には横須賀がいた

 

ひとみといよは荷物を置き、次の仕事先に行く前に休憩を取る

 

「ガリバルディに買って貰ったの⁇」

 

「うん‼︎」

 

「はげのちぉこえ〜と‼︎」

 

ひとみは飴玉を一つ口に放り込む

 

いよも早速世界のお坊さんカードチョコを一つ開ける

 

「…」

 

何故かガリバルディがいよのチョコレートをずっと見ている…

 

「気になるの⁇」

 

「まぁ…初めて見るチョコレートだかんな…」

 

「世界のお坊さんのカードが入ってるのよ⁇」

 

「だろうな…」

 

いよの手元で袋が開けられる

 

「へぇ⁇中々美味そうなチョコレートだな⁇」

 

中から出て来たのは、50円の割にそこそこ大きい板チョコ

 

「か〜ど‼︎」

 

いよはチョコレートを食べながら、出て来たカードを見る

 

「ちんねんです‼︎」

 

いよの手元には、本当にお坊さんの写真がプリントされているカードがある

 

「この前は“玄 白杉”だったわね⁇」

 

「げ、げんぱくすぎ⁉︎」

 

「すごいえあいはげ」

 

「へぇ〜…面白いもんだな⁇」

 

なんだかよく分からない魅力に取り憑かれつつあるガリバルディ

 

「それ、戦えるのよ⁇」

 

「戦えるだぁ⁉︎」

 

よく見ると、いよの手元にあるカードの右下に“説法力500”と書かれている

 

「その、さっき言ってた奴のパワーはなんだ⁇」

 

「玄 白杉は5500よ⁇」

 

「なるほど‼︎このパワーで偉いお坊さんかどうかが分かるのか‼︎」

 

実はこのお坊さんカードチョコ、非常に分かりやすい

 

説法力が大きい程偉大な事をしたり、現在でも由緒が続くお寺のお坊さん

 

生写真のお坊さんカードだと、現状見習いの人が多い

 

が、やはりそこはお坊さん。イケメンもいるのでなんやかんや売り上げが伸びており、製作会社の駄菓子業者がどうしていいか分からず、良い意味で頭を悩ませている

 

「おちごろいってきあす‼︎」

 

「気を付けてね⁇」

 

「いってきあ〜す‼︎」

 

ひとみといよは口を拭いた後、次の仕事に向かう為に執務室を出た

 

「ガリバルディ。ひとみちゃんといよちゃんを見ててくれない⁇」

 

「分かった‼︎行ってくるよ‼︎」

 

ガリバルディは意気揚々と二人の所へ向かう

 

「ふふっ…なんだかんだ気になるのね⁇」

 

 

 

ひとみといよが来たのは港

 

「あ。ひとみさん、いよさん、此方です‼︎」

 

港に停泊していた小さな船の上にいたのは迅鯨

 

「あましゃん⁇」

 

「う、か、い〜‼︎」

 

いよは急にその場に倒れてピクピクしだした

 

「ほらほら、お仕事だろ⁇」

 

ガリバルディに立たせてもらういよはケラケラ笑っている

 

「がいばうで〜、おしゃかなしゅき⁇」

 

「あぁ、好きだぜ‼︎」

 

「そこれあってて‼︎」

 

「楽しみにしてんぜ‼︎」

 

ひとみといよは迅鯨の船に乗り、近くの海まで移動する

 

そこはガリバルディでも目視出来る範囲であり、ガリバルディは船の方を眺める…

 

 

 

 

「れきた⁇」

 

「じぅんびできた‼︎」

 

背中に銛を背負ったひとみといよ

 

「何かありましたら、これを引っ張って下さいね⁇すぐに引き上げますから‼︎」

 

ひとみといよの体には、危険が迫った時に引くロープが巻いてある

 

普段から素潜りやら、気付かない内にライフガードをしている二人には必要の無い物だが、いざという時の体験も兼ねて今日は二人は鵜になる

 

「しぅっぱ〜つ‼︎」

 

「いってきあ〜す‼︎」

 

「お気を付けて‼︎」

 

ひとみといよが海に潜り、迅鯨は釣りを始める

 

「さてさて…」

 

迅鯨の隣には、鈴付きのロープがあり、ひとみといよの何方かがこれを引けば、迅鯨は即座に引き上げる

 

ポチャン…

 

迅鯨の釣りが始まる…

 

 

 

「くあえー‼︎」

 

「うりぁー‼︎」

 

潜って早々、銛で魚を突き始める二人

 

ひとみが一撃でウツボを仕留める後ろで、いよはクロダイを仕留める

 

二人共一度船まで上がり、銛で突いた魚を降ろす

 

「魚が来ませんね…」

 

迅鯨の方は全く動きが無く、ボーッとウキを眺めている

 

ドンッ、ゴトッ

 

ビチビチビチ‼︎

 

「ひっ‼︎」

 

何の前触れもなく、船にウツボとクロダイが投げ込まれた‼︎

 

「ビックリした…ふぅ…」

 

驚きはしたものの、迅鯨は慣れた手付きで船の中にある小さな生簀に二尾を入れた

 

そしてまた、釣竿の前で待つ…

 

 

 

「しぉこっ‼︎」

 

「かんがえがあまいです‼︎」

 

ひとみといよは正に水を得た魚状態であり、適材適所に来た二人は敵無し同然

 

今度はカレイを二尾仕留め、また船まで上がる

 

「エサを換え…」

 

ビチビチビチビチィ‼︎

 

「ひうっ‼︎」

 

それはもうビッタンビッタン暴れるカレイ

 

「櫻井さんが喜びそう‼︎煮付けにしましょう‼︎」

 

意気揚々とし、迅鯨は生簀にカレイを放り込む

 

「がいばうで〜あにしゅき⁇」

 

「ぷいぷいしぅいんぷ‼︎」

 

ひとみといよはガリバルディの為にデカいエビを獲る事を決意

 

「あえにすうか⁇」

 

「あえにすう‼︎」

 

二人の眼下には、舐め腐った泳ぎ方で海底を行く伊勢海老

 

「あいっ、じゃんねんですえ」

 

挙句の果てには素手で伊勢海老を掴むいよ

 

「あ〜いとえた‼︎」

 

ひとみの両手にはアワビが二つ

 

「もっかいらけすう⁇」

 

「もっかいちておわう‼︎」

 

取り敢えず手に持った獲物を船へ上げる…

 

「こんなに来ませんか…」

 

迅鯨は待てど暮らせど全く魚が来ない

 

「おいちぉ‼︎」

 

「こえもいえといてくだしゃい‼︎」

 

「あ、はい‼︎」

 

伊勢海老とアワビを船へ放り込み、最後にもう一勝負潜る…

 

「れかいのいこ‼︎」

 

「あえにすう‼︎」

 

最後はデカいのを狙う腹積もりの二人

 

いよの目の前に丁度良いサイズのハマチが来たので、いよは銛を構えて仕留めに掛かる

 

「あえにしゅる…」

 

ひとみは海底を泳ぐ生物を狙う…

 

 

 

「いつもは来るはずなのに…」

 

迅鯨は小一時間待ち惚け

 

その理由が明らかになる

 

「まてこあーーー‼︎」

 

「あ」

 

迅鯨の目線の先には、海面から飛び出て来たいよ

 

どうやら食べ頃サイズのハマチを追い掛け回しているのだが、ハマチも必死に逃げ回る

 

迅鯨は付ける餌や釣り方を間違えていた訳ではない

 

その海域にひとみといよが投入された時点で、海中生物は生きる為に必死に逃げ回り、餌を食べている場合ではなくなっているからだ‼︎

 

「くあえー‼︎」

 

いよの一撃がハマチに入った

 

「ど〜だ〜‼︎いよのかちですえ‼︎」

 

いよは銛の先にハマチを付けたまま泳ぎ、迅鯨の所に戻って来た

 

「はまちとえた‼︎」

 

「お帰りなさい‼︎激戦でしたね⁇」

 

いよが仕留めて来たのは、いよの体と同じ…下手すれば少し大きいサイズの食べ頃ハマチ

 

「たこれす‼︎」

 

ひとみも帰って来た

 

手には中くらいのタコがいる

 

「とってくらしゃい‼︎」

 

「大きなタコさんですね‼︎はいっ‼︎」

 

ひとみの手からタコが取られ、二人は船へ上がる

 

「じんげ〜しゃんつえた⁇」

 

「ん〜…今日は調子が良くないみたいです」

 

「くうくうちて‼︎」

 

ひとみに言われるがまま、迅鯨はリールを巻く

 

「まぁ‼︎」

 

釣竿の先には何故か鯖が付いていた

 

 

 

いよがハマチと激戦を繰り広げている最中…

 

「たことえた」

 

体重を掛け、急速潜行したひとみの銛はタコにクリーンヒット

 

「あ。しぁあ」

 

タコを手にしたひとみの目の前を、優雅に鯖が泳いで来た

 

「とりあしたっ」

 

ひとみは鯖を手で取り、軽く握って気絶させた

 

「ここつけとく」

 

それを迅鯨の釣竿に付けた後、ひとみはタコを手に船へ上がって来た

 

 

 

「美味しそうな鯖ですね‼︎」

 

「こえくあいにちときあすか⁇」

 

「そうですね‼︎」

 

「かえいあ〜す‼︎」

 

三人は御満悦で横須賀へと戻る…

 

 

 

 

「おかえり‼︎沢山とれたか⁉︎」

 

港ではガリバルディが待ってくれていた

 

「たことえた‼︎」

 

「はあち‼︎」

 

「そうかそうか‼︎」

 

「ただいま戻りました‼︎よいしょっ…と…」

 

迅鯨は魚を入れた小さな生簀からクーラーボックスに入れ替え、それを担いで降りて来た

 

「持つよ‼︎」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

この日、パイロット寮の夕食は海鮮祭りとなった

 

ひとみといよは横須賀からお小遣いとタコを貰い、基地に帰って貴子さんにタコ焼きにして貰った…




世界のお坊さんチョコレート…チョコレートとお坊さんのカード

いよが好きな駄菓子の一つ

板チョコと世界各国のお坊さんの写真付きカードが入っており、何故か人気

中に入っているカードはバトルが可能であり、由緒正しいお坊さんはパワーもとい説法力が強い

1個50円


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289話 ベイビーギャルとお買い物(1)

さて、288話が終わりました

今回のお話は、貴子さんとたいほう、そしてアトランタがお買い物に行きます

アトランタは横須賀に着くなり行きたい場所がある模様…


夏の暑さが少し終わり、秋の肌寒さが時折感じられる

 

そんな日の朝…

 

朝ごはんを食べ終えたアトランタは窓際に座っている

 

「アトランタ⁇何見てるの⁇」

 

貴子さんが傍に寄ると、アトランタは斜め上を指差す

 

「あれはトンボさんよ⁇ちょっと見に行こっか‼︎」

 

アトランタを抱っこし、貴子さんは表に出て来た

 

「いっぱい飛んでるわね〜」

 

アトランタの手には、おもちゃ箱から持って来た緑の兵隊が一つ

 

トンボを目で追い、アトランタは一匹に向かって緑の兵隊を投げた‼︎

 

「コラ‼︎」

 

アトランタの投げた緑の兵隊はトンボに直撃し、アスファルトの上に落ちた

 

アトランタはすかさず緑の兵隊とトンボを指差し、貴子さんの顔を交互に見る

 

「アトランタ⁇トンボさんも生きてるのよ⁇見るだけにしなさい⁇」

 

貴子さんは緑の兵隊を拾い上げながらアトランタに注意する

 

アトランタは貴子さんの顔を見て理解したのか、緑の兵隊が手元に戻った後、ポケットに入れた

 

「あら、トンボさんも怒ってるわ⁇」

 

アトランタの鼻先にトンボがとまる

 

アトランタはすかさずトンボを獲った

 

「コラ‼︎トンボさんは食べられないわよ‼︎」

 

アトランタは掴んだトンボを口に入れようとしていた

 

食べられないと分かり、アトランタはキッチンの方を見て、貴子さんにトンボを見せる

 

「天ぷらにしてもトンボさんは食べられないわ⁇」

 

そう言われたアトランタはトンボを離す

 

アトランタの手から離れた途端、トンボは一目散に遠くに飛んで行った…

 

「まだお腹空いてるのかしら…」

 

テレビの前に戻って来たアトランタはカーペットの上に降ろされる

 

「暴れちゃダメよ⁇」

 

アトランタはカーペットに座り、貴子さんを見ている

 

貴子さんはキッチンで赤ちゃん用のおせんべいをプラスチックのお皿に入れて戻って来た

 

「これ食べて大人しくしてるのよ⁇」

 

おせんべいを2枚貰い、アトランタは大人しく食べ始める

 

朝ごはんを食べ終えてしばらくしたこの時間、食堂から人が消える

 

よくある事なのだが、数分間だけだ

 

その内誰かがテレビでも見に来る

 

「アトランタ⁇今日はおでかけするのよ⁇」

 

アトランタはおせんべいを食べるのに夢中

 

「よ〜し、アトランタ‼︎アークとお着替えをしよう‼︎」

 

アークが食堂に来た

 

アトランタの着替えを取りに行っていたみたいだ

 

「ありがとね、アーク‼︎」

 

「アークにお任せだ‼︎」

 

アトランタは自分の着替えを見て、おせんべいをお皿に置いた

 

アークに着替えをさせて貰う間、アトランタは大人しく終わるのを待つ

 

「よ〜し‼︎おしまいだ‼︎アークと遊ぼうな‼︎」

 

着替えが終わり、アークはおもちゃ箱の方に

 

アトランタは残ったおせんべいを食べる

 

「じゅんびできた‼︎」

 

リュックサックを背負ったたいほうが食堂に来た

 

「よしっ‼︎じゃあ行こっか‼︎」

 

「こっちはアーク達に任せろ‼︎」

 

アークに見送られ、三人は高速艇で横須賀に向かう…



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289話 ベイビーギャルとお買い物(2)

「すてぃんぐれいいるかな⁇」

 

「もしかしたら空にいるのかもね…」

 

横須賀に着き、貴子さんとたいほうは空を見上げる

 

たいほうは既に貴子さんの肩に登っており、アトランタはパースピザがある繁華街に目をやっている

 

空では五機編成の震電が編隊飛行をしているが、他の航空機は見当たらない

 

「あらっ。どうしたのアトランタ⁇」

 

急にアトランタが指を差し始める

 

その行先は空。震電が来た方向とは逆

 

「マーカス君だわ‼︎」

 

港を比較的低い高度で通り過ぎて行くグリフォン

 

「あとらんたすごいね‼︎すてぃんぐれいすぐにわかった‼︎」

 

たいほうの言葉を聞かず、アトランタはグリフォンを見続ける

 

「ダメよアトランタ」

 

気付かない内にアトランタの手に握られていた緑の兵隊を、貴子さんはそっと抑えた

 

今日は三人はスーぴゃ〜マーケットにお買い物に来た

 

しかし、アトランタの行きたい場所は違う

 

「今日は釣り堀じゃないの」

 

貴子さんを釣り堀のある方に服を引っ張るアトランタ

 

釣り堀がダメと分かると、また別の方に引っ張る

 

「ピザは後よ⁇」

 

アトランタはこれだけは譲れないのか、貴子さんの服を更に引っ張り、指を差して戻れ‼︎ピザを食わせろ‼︎と意思表示をする

 

「お買い物が終わったらピザ食べるのよ⁇」

 

「あとらんたいいこだから、もうちょっとまとうね⁇」

 

貴子さんの頭の上から、たいほうがアトランタをなだめる

 

すると、アトランタは大人しくなる

 

たいほうの言う事は聞くアトランタ

 

たいほうが姉というのを、何となく分かって来たのだろうか…

 

スーぴゃ〜マーケットに着き、貴子さんはアトランタをカートに置く

 

「暴れちゃダメよ⁇いい⁇」

 

ここに来ても貴子さんに釘を刺されるアトランタ

 

アトランタは初めてスーパーに来たので目移りするのか、周りをキョロキョロしている

 

「今日の夜は何にしよっか⁇」

 

「おにくがいい‼︎」

 

頭に乗ったままのたいほうの食べたい物はお肉

 

「生姜焼きにしよっか‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

豚肉を大量にカゴに入れる貴子さん

 

アトランタは入れられる度に目で追い、指を差す

 

「ふふっ‼︎みんな一緒ね⁇」

 

ひとみといよも同じ事をするので、貴子さんは子供は同じと微笑む

 

「おやさい‼︎きゃべつのせんぎりだよ‼︎」

 

キャベツの千切りのパックもカゴに入れて行く

 

「たいほう⁇そこにあるタレ取ってくれる⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

「ありがとう‼︎」

 

貴子さんは背が高いのだが、たいほうにも頼る

 

少し高い位置にある商品だが、貴子さんが手を伸ばせばすぐに取れる

 

つまり今のたいほうの目線と同じだ

 

「お菓子見に行こっか‼︎」

 

「やったね‼︎」

 

お菓子コーナーに着き、たいほうはすぐにビスケットの箱を探す

 

「あった‼︎」

 

「たいほうはこれね⁇」

 

いつものビスケットを貴子さんに取って貰い、カゴに入れる

 

「アトランタは何にしよっか⁇」

 

食材のコーナーより色とりどりで更に目移りするアトランタ

 

その辺を見渡しては、指を差しまくる

 

「一個だけよ⁇」

 

貴子さんにそう言われ、アトランタは貴子さんの方を向き、指を二本立てた

 

「あらっ‼︎覚えたのね⁉︎じゃあ今日だけ二個よ⁇」

 

アトランタは早速指を差す

 

「これね⁇」

 

貴子さんが手に取ったのは“ガンビーちゃんラムネ”

 

プラスチックの筒にラムネがロケット鉛筆方式で入っており、蓋の部分に困り顔のガンビアがプラスチックで描かれている

 

一個120円の割に量が多いのと、ガンビアの顔が面白いので一般開放日にお土産で買って行く人も多い

 

アトランタは手で持っていたいのか、ガンビーちゃんラムネを貴子さんの手から取り、カシャカシャ振り始める

 

「もう一個は⁇」

 

次にアトランタが指差した先には玩具菓子があった

 

「これね⁇」

 

貴子さんの手には航空機のオモチャが入っているお菓子

 

「あら、これ良いわね⁇」

 

一個300円だが、横須賀所属の航空隊の機体が中に入っている

 

・サンダース隊仕様 震電

・ガブリエル隊仕様 F6F-5N

・SS隊仕様 Su-57

・サンダーバード隊仕様 F-15S/MTD SQ

 

これだけでも凄いラインナップだが、シークレットもシークレット

 

 

・サンダーバード隊仕様 XFA-001(シークレット)

・SS隊仕様 XFB-002(シークレット)

 

シークレットが現状世界中に横須賀に一機ずつしか無い機体だ

 

これは航空機好きには堪らないはず

 

「あら。どれが当たるか分からないのね⁇」

 

すると、アトランタは箱が並んでいる所を指差す

 

「これ⁇」

 

貴子さんも指差すと、アトランタは奥‼︎と指を動かす

 

「これ⁇」

 

もう一度アトランタは指を動かす

 

「これかしら⁇」

 

目当ての箱を見つけて貰うと、アトランタは指を降ろした

 

「ふふっ‼︎アトランタは誰の戦闘機が欲しいのかしら⁇」

 

貴子さんは自分も欲しいのか、箱を二つカゴに入れ、レジに向かう

 

「ぴゃ〜‼︎赤ちゃんだぁ〜‼︎」

 

「アトランタ⁇こんにちはは⁇」

 

レジに来ると酒匂がおり、アトランタは酒匂にガンビーちゃんラムネを渡す

 

「はいっ‼︎ありがとぉ‼︎」

 

「前にウィリアムが来たでしょ⁇」

 

貴子さんは何度もスーぴゃ〜マーケットに来ているのだが、酒匂にはタイミング悪く会えずにいた

 

「はいっ‼︎いつも帰りに寄ってくれます‼︎」

 

「ほら、えっと…バックヤードに逃げた時…」

 

「気にしないで下さい‼︎たまに他の人も来ますから‼︎」

 

「他の人…」

 

酒匂が言うには、ウィリアム以外にもバックヤードに逃げる人物はいる模様

 

「この前はリチャードさんがリットリオさんに追い掛け回されてました‼︎」

 

「ちょっと気になるじゃないの」

 

「なんでも、リットリオさんのパスタ屋さんでナポリタンを頼んで「やっぱり本場のパスタは違うわー‼︎」と言ったらリットリオさん、ブチギレて…」

 

「パパとすてぃんぐれいいってたよ。りっとりおのところで、なぽりたんたのんだらしぬって‼︎」

 

たいほうも知っている情報を、リチャードは踏み抜いたのだ

 

「ありがとうございました〜‼︎また来て下さいね〜‼︎」

 

アトランタは手を振る酒匂に手を振り返す

 

スーぴゃ〜マーケットを出て、三人は一休み

 

自販機でジュースを買い、アトランタは紙パックのジュースをストローで飲む

 

「あ、そうだわ。アトランタって、ジュース飲むとお話するらしいの」

 

「たいほうみたことない」

 

「ママも見た事ないの…」

 

そんな二人をよそに、アトランタはニンジンの絵が描かれた野菜ジュースを飲む

 

「あ」

 

「ホントだわ…」

 

「おいしいね‼︎」

 

たいほうがそう言うと、アトランタは野菜ジュースを掲げる

 

 

 

ジュースを飲み終え、先に荷物を港付近にある冷蔵ロッカーに預けてからパースピザに来た

 

「あ‼︎いらっしゃいパース‼︎」

 

「ホットチリピザを三枚と…たいほうは何にする⁇」

 

たいほうが何かを言う前に、アトランタはソーセージピザを指差す

 

「そーせーじのぴざください‼︎」

 

「畏まりパース‼︎」

 

三人でピザを待つ

 

「クソッタレがぁ‼︎」

 

誰かが酔っ払って暴れているのが見えた

 

手に持ったビール瓶をゴミ箱に投げ入れ、叫びながらもう一本のビールを飲んでいる

 

「たいほう⁇ちょっとだけアトランタお願いね⁇」

 

「わかった‼︎」

 

貴子さんが酔っ払いに近付く…




ガンビーちゃんラムネ…顔付きのフタ

スーぴゃ〜マーケットで売っている棒状の筒のラムネ

フタが

>∞<

みたいなガンビアの困り顔になっており、結構面白い

120円で容量も中々多く、お土産にも需要がある

アトランタはこれを誰かに押し付けて痕を見るのがマイブーム


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290話 ATAGO(1)

話数と題名は変わりますが、前回の続きです

酔っ払いを介抱する貴子さん

彼には酔っ払った理由があり…


「ほらほら、どうしたのアレン君」

 

酔っ払いの正体はアレン

 

普段真面目一筋を描いた様な人物だからこそ、こんなに酔っ払うのは非常に珍しい

 

「へっ…先の大戦でっ、世界なんか吹っ飛びゃ良かったんだよ…」

 

既にアレンはヘロヘロ

 

何処からどうみても様子がおかしい

 

ゴミ置場に倒れ込むも、まだビールを煽っている

 

「どうしちゃったのよ…そんなに酔っ払っちゃってるし、そんな事言うし…ほらほら」

 

貴子さんに支えられるも、アレンはフラつく

 

「誰を信じていいかっ…分からなくなったっ…」

 

「ほら、ちょっと飲むのやめなさい。マーカス君と喧嘩したの⁇」

 

「あいつは良い奴だっ…喧嘩した所でっ…何も生まないっ‼︎俺の親友さっ…」

 

発端はマーカスではない

 

普段何やかんや言い合う場面は多々見るが、喧嘩は見た事がない

 

必ずどちらかがすぐに折れるからだ

 

「ピザ食べない⁇私の一枚あげるわ⁇」

 

「いや、いい…死んでやろうと思ってなっ…」

 

「ちょっと…」

 

本当にアレンの様子がおかしい

 

普段絶対にこんな事は言わない

 

「何があったの⁉︎アレン君⁉︎」

 

「そうすりゃっ…”愛宕は寂しくない”だろ…一緒に地獄でも何処へでも行ってやるさっ…」

 

「愛宕と喧嘩したのね…」

 

どうやら愛宕と喧嘩して、悪酔いをしている様子

 

「…」

 

「…アレン君⁇」

 

「んがっ…」

 

疲れたのか、アレンは急にイビキをかいて眠ってしまった…

 

「よいしょ…たいほう‼︎ちょっとそこで待っててね‼︎ママのピザはお持ち帰りって言っておいてくれる⁉︎」

 

「わかった‼︎」

 

貴子さんはアレンを背負い、医務室に向かう…

 

 

 

「アレンは何処行ったの⁉︎」

 

「それが、行方をくらませていて…」

 

その頃、横須賀ではアレンを大探ししていた

 

そんな中、貴子さんが医務室のある棟に来た

 

「ごめんくださーい‼︎」

 

「あ、はーい‼︎」

 

明石が飛んで出て来てくれた

 

「アレン君、ちょっと酔っ払っちゃってて…」

 

「あー‼︎いたー‼︎此方へどうぞ‼︎」

 

ベッドに案内され、アレンをそこに寝かせる

 

「珍しいわね…彼がこんなに酔っ払うなんて…」

 

「あぁ…良かった…彼、少しおかしくなかったですか⁇」

 

「酔っ払う事自体おかしいわね」

 

「あ‼︎貴子さん‼︎ありがとうございます‼︎」

 

息を切らした横須賀と親潮が飛んで来た

 

「明石、親潮‼︎アレンをお願い‼︎貴子さん、ちょっと此方へ…」

 

「了解です‼︎」

 

「畏まりました‼︎」

 

貴子さんを医務室から出し、横須賀はアレンが酔っ払った理由を説明し始める

 

「現状、詳細は不明ですが…愛宕が敵である可能性が非常に高いのです…」

 

「そう…」

 

「あまり驚かないのですね⁇」

 

「今更驚かないわ」

 

貴子さんは数多の出会いと別れに苛まれる人々を見守って来た

 

今更敵だと言われても、あまり驚かないのはその為だ

 

「マーカス君に頼んでみたらどうかしら⁇」

 

「もう訓練飛行は終わっていますので、此方に来るように伝えました」

 

「待ちましょう」

 

マーカスが来るのを二人で待つ…

 

 

 

 

「アレンが悪酔いか。分かった‼︎」

 

その一報はすぐに俺の所に来た

 

医務室に入る寸前、貴子さんと横須賀がいた

 

「来てくれたわ‼︎」

 

「レイ‼︎ちょっと大変なのよ‼︎」

 

横須賀から事の本末を聞く

 

「アレンはそれを何処で知った」

 

「第三居住区の解体作業中に書類を見付けて、元いた人に聞いたらしいのよ…」

 

「分かった」

 

いざ、アレンのいるベッドに近付く…

 

「どうした⁇お前が酔っ払うとは」

 

アレンは目を覚まし、俺の方を向いた

 

「…誰を信じていいか、分からなくなった」

 

「少し話を聞いたよ。俺が調べて来る」

 

「夫婦の揉め事に関わるとロクな事ない。俺が何とか…」

 

アレンは立ち上がろうとしたが、未だフラフラ

 

アレンの肩を抑え、ベッドに戻す

 

「お前の口から答えが聞けて良かった」

 

「…」

 

「死ぬなよ。死んでも何度でも蘇らすからな」

 

「…分かったっ」

 

このまま放っておくと、本当にアレンは愛宕と心中しかねない

 

「どうだった⁇」

 

「しばらくアレンに見張りを付けてやってくれ。貴子さん、隊長に少し出掛けると言っておいて下さい」

 

「分かったわ」

 

横須賀と貴子さんと別れ、ジープの発着場に向かう

 

「さてっ…」

 

ジープを借り、横須賀基地から離れる…



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290話 ATAGO(2)

《分かった。レイもアレンも、重荷を背負うな…》

 

「私達は、マーカス君の帰る場所に居ればいいと思うの」

 

《レイは時々帰る場所を見失うからな…まぁ、今回は大丈夫だろう》

 

「今から帰るわね」

 

貴子さんと隊長の通信が終わり、貴子さんはたいほうとアトランタを連れて高速艇に乗り込む…

 

 

 

 

高速道路をジープで走り、タバコを咥えながら考えていた

 

もし愛宕の事が知りたいならば、愛宕がいたカプセルがあった場所しかない

 

随分昔の事の様に思えるが、未だ解体作業が終わっていない研究所跡地にジープを停めた

 

「部外者は立ち入り禁止です」

 

開幕早々、検問で止められる

 

「横須賀からの使者だ」

 

「と、言われましても…」

 

「中に用事がある。通してくれ」

 

「部外者は通せません」

 

「そうか。一度やってみたかった事がある。それを今からやるが、構わないな⁇」

 

「余所でお願いします」

 

腹立たしい対応をされ、既に頭に来ている状態の俺を更に苛立たせた

 

一度ジープに戻り、エンジンを入れてタバコに火を点ける…

 

「言う事聞かねー奴にはオシオキだ…」

 

 

 

 

「お疲れ様です‼︎はい‼︎お通り下さい‼︎」

 

検問では、俺には一切しなかった応対が取られている

 

手のひらを返したかの様だ

 

「オラァ‼︎強行突破だぁ‼︎」

 

検問を猛スピードで突き破り、バーを粉砕して敷地内に入った

 

「バーカ‼︎」

 

「侵入者だ‼︎」

 

ジープを停め、ようやく研究所跡地に足を降ろす

 

「おっと…」

 

ジープを降りた途端、周りをグルリと囲まれ小銃を突き付けられる

 

「待て‼︎その人は味方だ‼︎銃を降ろせ‼︎」

 

「ようやく話の分かる奴が来たか」

 

小銃を降ろす様に命令してくれたのは、総理の補佐の矢崎

 

「申し訳ありません大尉‼︎侵入者と勘違いしまして‼︎」

 

矢崎は頭を下げる

 

「…多分俺だから気にしないでくれ。バーは弁償する」

 

「は、はぁ…」

 

「検問の担当変えた方が良いぞ。人によって態度を変えてた」

 

「すぐに手配します‼︎」

 

「少し調べたい事があるんだ。邪魔しない程度に動かせてくれないか⁇」

 

「畏まりました。B小隊‼︎オルコット大尉の護衛に着いてくれ‼︎」

 

矢崎がそう言うと、数名の隊員が俺の周りを囲んだ

 

「護衛は我々にお任せを」

 

「助かるよ。地下研究室に用事がある」

 

「先導します‼︎」

 

俺の様に言う事聞かない奴じゃなく、立派な部隊だ

 

これなら任せても安心そうだな…

 

 

 

「大尉。その…」

 

「どうした⁇」

 

「榛名さんを見た事はございますか⁇」

 

「おい。任務中だぞ」

 

隊長らしき人物が注意する

 

「気にするな。そう言う話をしてくれた方が気が楽になる。榛名は友達だ。何だ⁇榛名のファンか⁇」

 

「はいっ。一度一般開放の日に見まして…それから…」

 

「今度サインを送っといてやるよ。他はいいのか⁇」

 

全員真面目な顔をしている中、注意をした隊長が何か言いたそうな顔をする

 

「サインくらいなら頼まれる。今のお礼だ」

 

「…トラックの飛龍さんを」

 

「任せろ‼︎」

 

ボソッと言った場所が、全員の耳には届いており、皆クスクス笑う

 

「良い部隊だな⁇」

 

「えぇ。前の総理ならこうは行かなかったでしょう…今の総理なら、我々は命を掛けて守る意味が見出せますからね」

 

部隊長と話しながら、地下研究室に着いた

 

「我々にはサッパリなので、ここで待機します‼︎」

 

「んっ‼︎良い回答だっ‼︎」

 

部隊に入り口を任せ、カプセルの前に来た

 

ほぼほぼ壊れているが、内部に秘匿されていたデータを回収する位は出来そうだ

 

「どれっ…」

 

建造データを開示する…

 

建造履歴

・基地防衛機能付与型 戦艦大和

 

・侵入型情報伝達艦 駆逐艦暁

 

ここまでは理解出来た

 

そして、一番最後にここに来た理由の艦娘の名があった

 

・潜伏型情報収集艦 ATAGO

 

この個体は潜伏型情報収集艦として使用

 

マーカス・スティングレイ、若しくはアレン・マクレガーを対象とし、潜伏を試み情報の奪取を主目的に建造された個体

 

マーカス・スティングレイの場合、建造カプセルの設計図、及びタナトス級潜水艦の設計図を奪取。若しくはそれに準ずる情報を収集

 

アレン・マクレガーの場合、複合サイクルエンジンの設計図、及び重巡航管制機“妲己”の設計図を奪取。若しくはそれに準ずる情報を収集

 

実験1

我々の命令を第一遂行させる為に教育を開始

 

ATAGOは知能が低い

 

何を言っても「ぱんぱーか」と返答する為、更なる教育が必要

 

実験2

個体を残す為に生殖実験をする

 

ATAGOが身籠もる事は無い

 

実験3

教育課程が終了

 

実技として新人に情報を握らせ、ATAGOを使用して情報を吐かせる

 

三日後、ATAGOは情報を収集して帰還

 

潜伏型としては申し分無い情報量を収集

 

以降、上記2名の所在の確認が取れるまで待機とする

 

 

 

「なるほど…」

 

カプセルに残された情報をUSBに移す

 

どうやら愛宕は敵で間違いない

 

しかし愛宕が酷い扱いを受けていたのも、これで確認が取れた

 

後は愛宕に幾つか確かめたい事がある

 

一度横須賀に戻らなければ…

 

「よ〜し‼︎お仕事終了‼︎」

 

「戻りましょう、大尉」

 

帰りもB小隊に護衛されながら戻る

 

「ここは対深海の為に造られたと聞きました」

 

帰り際に隊長が聞いて来た

 

「そっ…俺の開発を悪用してなっ…」

 

「自分は…」

 

「言いたくなければ言わなくていい。誰にだって負い目はある」

 

「…ありがとうございますっ」

 

今は総理直轄の部隊だが、恐らく隊長はこの研究所と関わりがあった組織にいたのだろう

 

 

 

 

地上に上がり、ジープに乗る

 

「お気を付けて、大尉」

 

「サインは矢崎宛てに送るよ」

 

隊員達と別れ、元来た道をジープで走る…

 

その途中、横須賀に通信を入れた

 

「横須賀、俺だ」

 

《お疲れ様。どうだった⁇》

 

「横須賀に愛宕とボーちゃんを呼んでくれないか⁇」

 

《分かったわ。ボーちゃんは保育部にいるのよ。愛宕は呼ぶわね⁇》

 

「了解。少しだけ時間を置いて戻る」

 

通信を切り、ジープに乗っている最中の最後のタバコに火を点ける…



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290話 ATAGO(3)

横須賀に着き、ジープを返す

 

「また元帥に言われますよ⁇」

 

「これ位しか吸うタイミングがないんだ。見逃してくれ‼︎」

 

「ふふっ‼︎了解です‼︎」

 

普段真面目にするとこう言う時に便利だ

 

「レイ君は真面目なのかヤンキーなのか分かんないね〜」

 

発着場付近で待っていてくれたのは大淀博士

 

「愛宕の秘密は分かったかい⁇」

 

「分かるもなにもっ、最初から答えは出てる」

 

途中で買ったホットコーヒーを大淀博士に奪われながら、俺達は執務室に向かう

 

「もう確証を得たんだね⁇」

 

「行く前から既にな。後は出生を知りたかったのと、愛宕本人に聞くだけだ」

 

「大淀さんはまだ分かんないや」

 

話しながらコーヒーを返そうとする大淀博士だが、俺が軽く顎を前に出すと、そのまま飲み続けた

 

「大淀さんに出来る事は⁇」

 

「愛宕に話を聞いている間、赤城を探しといてくれ」

 

「オッケー‼︎任せて‼︎」

 

大淀博士が赤城を探しに行き、俺は執務室に入る…

 

 

 

「お帰りなさい」

 

「ただいま。おっ、愛宕‼︎」

 

「こんにちは〜‼︎マーカスさん‼︎」

 

《お帰りなさい、マーカスさん‼︎》

 

「松輪と会えたか⁇」

 

《ウンッ‼︎粘土したよ‼︎》

 

横須賀のデスクの上のボーちゃんを撫で、愛宕の方を見る

 

「愛宕。先に言っておく。信用しない訳じゃないんだ」

 

「分かってる‼︎」

 

「私は席外すから、終わったら教えて頂戴」

 

横須賀が執務室から出て、愛宕をソファーに座らせる

 

「すまない」

 

ボーちゃんを持ち、愛宕の頭に乗せる

 

「謝らないで⁇私が悪いもの。もっと早く言うべきだったわ…この子を頭に乗せればいいの⁇」

 

《ボクが愛宕さんの考えてる事を言うんだ‼︎》

 

「ふふっ‼︎宜しくね‼︎」

 

愛宕が目を閉じ、尋問が始まる…

 

 

 

「愛宕。自分がいつからスパイだと知っていた⁇」

 

《最初からよ。最初は本当にビックリしたわ⁇目標であるアレンが私を保護したんだもの》

 

「本部との通信を遮断した理由を知りたい」

 

《アレンはきっと、私が必要なんだと思ったの。みんなが心の拠り所や、目標を持ってるのに、アレンは無いように見えたの。だから、私の為に戦って欲しいって言ったの》

 

「どのタイミングで遮断しようと思ったんだ⁇」

 

《アレンと基地の外でお昼を食べた時ね。あぁ、私はこの人を利用するんじゃなくて、この人の傍に居て支えてあげなきゃ…そう思ったの。完璧に遮断したのは、アレンが将来私とアクセサリーショップをするって言った時ね。あぁ、私、別の生き方をしても良いんだって思えたの》

 

「本部に情報を伝達した事はあるか⁇」

 

《ないわ。だけど、収集していたのは事実よ⁇アレンの部屋で、アレンが開発していた設計図を勝手見たもの。だけど、アレンは私に見せてくれて、自分の夢を教えてくれたの》

 

「アレンはどんな奴だ⁇」

 

《私を鳥カゴから救ってくれて、私を必要としてくれる旦那さんよ⁇》

 

「アレンは愛宕と夫婦でいたいらしい」

 

《こっちからお願いするわ‼︎》

 

「最後の質問だ。少し話はズレるが、俺は最初から愛宕を疑っていたと思うか⁇」

 

《思わないわ。マーカスさんなら、艦娘は愛した人じゃないと子供を身籠もらないと分かっているはずだもの。私はアレン以外に身籠もるつもりはないわ》

 

「OK。ありがとう」

 

ボーちゃんが外れ、愛宕は目を開けた

 

「どうだったかしら⁇」

 

「色々申し訳ありませんでした…」

 

幾らボーちゃんの力とはいえ、洗いざらい出て来た挙句、アレンにゾッコンと来た

 

疑っていないとは言ったが、ほんの少しは疑っていたからこんな事をした俺が申し訳ないくらい、愛宕はアレンを心底愛している

 

それに、アレンもだ

 

出る前に「“夫婦”の揉め事に関わるとロクな事ない」と言った

 

愛宕が敵であると疑いが出た奴が言う言葉ではない

 

それに、愛宕は最後に俺が愛宕が敵ではないと確証していた事を答えてくれた

 

艦娘は愛した人じゃないと子供を身籠もらない

 

愛宕はアレンとの間にアイちゃんを産んでいる

 

愛宕がアレンを愛していなければ、アイちゃんは産まれなかったはずだ

 

「アレンが酔っ払いになってるんだ。行こう」

 

愛宕はボーちゃんを胸の前で抱えながら、医務室に向かう

 

「幸せなポジションだな⁇」

 

《このボディで良かったと思う‼︎》

 

ボーちゃんは愛宕のお腹辺りで抱えられ、頭には愛宕の胸が乗っている

 

「ふふっ‼︎変態さんにはオシオキよ‼︎」

 

ボーちゃんは愛宕の胸を更に乗せられる

 

《マーカスさん‼︎これがマーカスさんの言ってる幸せな死に方⁉︎》

 

「そうだっ。是非とも場所を代わって頂きたい‼︎」

 

焦っているが、ボーちゃんは実に幸せそうな悲鳴を上げている

 

「マーカスさんはジェミニさんにして貰ってね〜⁇」

 

「あいつの場合は本当に死にかけんからな…」

 

「《して貰うんだ》」

 

愛宕とボーちゃんの意見が合う

 

「さ、着いた」

 

「流したわね」

 

《流したね》

 

医務室に着くと、親潮と横須賀がアレンにごはんを食べさせていた

 

「マクレガー大尉、口を開けて下さい‼︎」

 

「そうよアレン。美味しいわよ⁇」

 

「じ、自分で食う‼︎」

 

アレンの前にはチャーハンがある

 

親潮がレンゲで掬ってアレンの口元に持って行っているが、アレンは照れているのか口を開けず、横須賀に同じ行為をされて自分で食うと言っている

 

「ちゃんと食べて下さいね⁇」

 

「じゃないと磯風の作った焼き魚食べさせるわよ」

 

「磯風ちゃんの作った焼き魚も食べてみたいもんだ」

 

「磯風‼︎あら‼︎お帰りなさい‼︎」

 

「愛宕…」

 

ようやく俺達に気が付いた三人

 

アレンは気まずそうにしているが、横須賀と親潮は既に分かっている様な顔をしている

 

「さ、親潮⁇磯風に焼き魚を頼みに行きましょう‼︎」

 

「はいっ‼︎ふふ…」

 

「後は任せるわ」

 

そう言って、横須賀は俺のポケットに間宮の券を入れて医務室を出た

 

「すまん、レイ」

 

「気にするな。俺とお前の仲だ。それに、謝るのは俺の方だ。夫婦の喧嘩に横槍を入れた」

 

アレンのチャーハンの横に調べて来た資料を置く

 

「後は夫婦のお話だな。ボーちゃん、行くぞ〜」

 

《オッケー、マーカスさん‼︎》

 

愛宕の手からボーちゃんを受け取ると、ボーちゃんは俺の肩に移動する

 

「バイビーアレン‼︎」

 

《バイビー‼︎》

 

「ありがとう、レイ」

 

医務室の扉を閉じ、今度は調理室を目指す…

 

 

 

 

「すまん…愛宕…」

 

「言わなかった私が悪いの…許してなんて言えないわね…」

 

「いいんだ…」

 

「敵だったのは本当よ。そこに書いてあるのも、全部本当…」

 

アレンは資料を隅に置き、愛宕の目を見た

 

「また、俺と夫婦でいてくれるか⁇」

 

「勿論よ‼︎さっ‼︎チャーハン食べたらデザートに行きましょ‼︎はいっ、あ〜ん‼︎」

 

「あ〜」

 

愛宕のあ〜んには素直に口を開けるアレン

 

「帰ったら、ネルソンにも説明するわね⁇」

 

「言いたくなければ言わなくていい。俺達だけの秘密があってもいいじゃないか⁇」

 

すると、愛宕は顔をしかめる

 

「ネルソンとは対等でいたいの。隠し事もなしよ。ネルソンはそんな所を突いて来る人じゃないでしょ⁇」

 

「そうだなっ」

 

「さっ‼︎行きましょ‼︎」

 

二人は繁華街へと向かう

 

この後、二人はラバウルに帰ってネルソンに事実を話すが、ネルソンの返答は…

 

「そうか…辛いのによく話してくれたっ‼︎余はいつであれ愛宕の味方だっ‼︎愛宕がそうしてくれたから、んなっ‼︎これを聞いたからと関係が崩れる事はない‼︎心配するなっ‼︎」

 

それどころか、ネルソンの昔話まで話してくれた…

 

 

 

俺とボーちゃんが調理室に向かって30分後に、アレンがいたベッドに運ばれた話は聞かないで欲しい…




愛宕…アレンの嫁

ラバウルにいるアレンの、良く出来た金髪のお嫁さん

何処かの組織に潜入特化に造られてアレンの元に行くが、アレンに愛されてスパイを止める

何処かの組織に所属していた際は“ATAGO”と呼ばれていた

A…Attack
T…Target
A…Assassin
G…Grace
O…Other

の、略

本来は目標に接近し、攻撃及び暗殺を行う気品のある人類とは別の存在として造られるが、潜入して情報を奪取する方が向いていた為、潜入特化型となった

今では可愛いお嫁さん

ネルソンは綺麗なお嫁さん


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特別編1話 和平があった、その島に

さて、290話が終わりました

今回のお話は特別編になります

毎話題名が変わりますが、お話は続いています

とある島で平和に暮らす一人の少年

彼は海から来た美しい女性と出会い、少しずつ思いが変わります…


第三居住区の再建もかなり進んで来た

 

横須賀をモデルにした繁華街が完成し、居住区画もそれなりに建ち始めた

 

「ココカラヤリナオスンダネ、リョーチャン」

 

「うんっ。あの日みたいにね…」

 

シュリさんと涼平は、出来て行く街を見ながら手を握り合う…

 

 

 

十数年前…

 

三重県志摩市にある、とある離島

 

昔は女性が多く滞在していた島だが、少しずつ観光名所になりつつあったこの島で、涼平は生まれ育った

 

島民は少ないし、設備もそれほど無い

 

それでも涼平は幸せだった

 

「行って来まーす‼︎」

 

島にあった家で、いつもの様に学校に向かう涼平

 

この頃涼平は高校生であり、卒業と同時に島で漁師か養殖でもしようと考えていた

 

毎日連絡船で学校に通い、帰って来ては漁師の手伝いをして小遣いを稼いでいた

 

そんな彼に異変が訪れたのは夏休みに差し掛かる頃…

 

ニュースで海に現れた何らかの生命体…それも、人間の女性に近い者に対して大規模な反攻作戦が行われ、自衛隊が大敗を喫した事が報じられた

 

島民は皆言う

 

「こんなちっぽけな島、襲うはずがないだろう」と

 

涼平は念頭に置きつつも、いつもの日常を送る

 

そして、涼平は出会う…

 

自転車で買い物に向かう、いつもの道中

 

「えっ…」

 

海岸で見た事の無い人影が何人も立っていたのが見えた

 

この島に観光に来る人は連絡船に乗って来るはず

 

それに、一人は倒れている様に見えた

 

涼平は自転車を降り、人影に近寄る

 

「どうしました⁉︎」

 

「コノコ、ケガシテル…」

 

そこに居たのは数人の女性

 

一人が倒れているのが涼平の目に見えた

 

「分かりました‼︎病院に案内します‼︎」

 

近くにあったリヤカーを持って来て、怪我をした人をそこに乗せ、島に一つしかない病院へと向かう

 

「おぉ涼ちゃん。どうしたんだ」

 

年老いた男性だが、腕利きの医者がそこにいた

 

「急患なんです‼︎お願い出来ますか⁉︎」

 

「おぉ、分かった‼︎」

 

彼はすぐにリヤカーに乗せて来た人の診察に入る

 

涼平はリヤカーを戻す為、海岸に戻って来た

 

「ボクチャン、アリガトウ」

 

「オネエサンタチ、タスカッタワ」

 

「あ…いえ、自分は…」

 

髪の長い女性二人にお礼を言われ、涼平は顔を赤くする

 

「ボクチャンノトシジャナインジャナイ⁇」

 

そんな中、一人の女性が涼平の前に来た

 

比較的涼平と歳が近そうな白髪の女性であり、左手を腰に当てながら涼平の前に来た彼女は、俗な言葉で言うなら“ギャル”が似合う

 

「キミ、ナマエハ⁇」

 

「綾辻涼平と言います」

 

「ソッ。ジャア“リョーチャン”ネ」

 

これが涼平と深海との出会い

 

「皆さんの名前は⁇」

 

「ワタシタチ、ナマエハナイノ」

 

「イツカダレカガヨンデクレルノヲマッテルノ」

 

「そう、ですか…」

 

涼平はギャルの様な彼女を見る

 

「ワタシモナイ。ヨバレルツモリモナイ」

 

名前も無い、ただ呼ぶならば一番最初に頭によぎった“ギャル”としか呼ぶしかない彼女は、冷たく涼平をあしらう

 

「えと…雨風凌げる場所がいりますよね⁇」

 

「アルトイイノダケド…」

 

比較的話の分かる黒髪の女性二人

 

後はギャルと、今病院に運ばれて行った女性

 

「あ、そうだ‼︎少し待ってて下さい‼︎」

 

涼平は自転車に乗り、何処かへと行ってしまう

 

「ショセン、ニンゲンナンテソンナモノヨ…ドウセニゲタンデショ」

 

「ソンナコトイワナイノ。タスケテクレタンダカラ」

 

ギャルは岩に腰掛けて足を組み、ツンとした顔で海を見続ける…

 

 

 

「よいしょっ…」

 

「涼平。バイトか⁇」

 

「あ‼︎マサ兄‼︎」

 

自転車を降りた涼平に声を掛けたのは、頭にタオルを巻いた、涼平より歳が少し上の男性

 

マサ兄と呼ばれた彼は涼平の幼馴染でもあり、この島で数少ない若い男性の漁師

 

涼平の良き相談相手でもある

 

「それで、空き家になった旅館を使いたいと」

 

「ダメ、かな⁇」

 

涼平の前には、随分前に廃業になった旅館があった

 

「集会所の横にプレハブの休憩所があるだろ⁇あそこはどうだ⁇ここは埃っぽい」

 

「大丈夫かな…ちょっと事情がありそうなんだ。大人が反対しそうで…」

 

「一旦は大人には説明しとく。早く案内してやれ」

 

「分かった‼︎」

 

涼平は元来た道を戻る

 

 

 

 

海岸に着くと、皆そこで涼平を待っていた

 

「キタワ」

 

「…」

 

話の分かる黒髪の女性に事情を話す涼平

 

「ソウ…アリガトウ。ニドモスクワレタワ⁇」

 

「気にしないで下さい。ここはただでさえ島民が少ないんです。昔はその休憩所も使われていたんですが、今はめっきり…時々誰かが掃除をしに行く位です」

 

「イコウ」

 

「…ウン」

 

ギャルは最後まで渋る様子を見せたが、黒髪の女性に言われ、後ろを着いて来た

 

「ここです」

 

涼平に案内され、プレハブの前に来た

 

中は思っているより広く、真ん中にストーブ、入口右側に台所、外にはシャワールームが一つある

 

「冷えてますよね。ちょっと温めましょうか。灯油は確か…」

 

「ほらっ」

 

「マサ兄‼︎」

 

先程涼平と話していたマサ兄が、灯油が入ったポリタンクを持って来てくれた

 

「何か腹に入れておかなきゃな…涼平、外で貝と魚焼こうか」

 

「うんっ‼︎」

 

マサ兄は知ってか知らずか、魚介類を持って来てくれていた

 

プレハブの近くには倉庫があり、そこから網を持って来て、コンクリートのブロックで簡易のコンロを作り、そこでサザエや魚を焼き始めた

 

「確かに訳ありだな」

 

「うん…マサ兄は何処から来たと思う⁇」

 

「涼平は気付いてるだろ⁇」

 

「…ニュースでやってた、深海って人なのかな⁇」

 

「俺もそう思う」

 

マサ兄はタバコに火を点けながらそれらを焼いて行く

 

「だけど、何にもしないまま見過ごしたくなかったんだ」

 

「そうだな。それに、見た限り敵意は無いみたいだしな」

 

匂いに釣られたのか、黒髪の女性の片方がプレハブから出て来た

 

「休んでいて下さい‼︎」

 

「もうすぐ出来る」

 

「コレハ、ドウヤッテスルノ⁇」

 

涼平より先にマサ兄が驚いた顔を見せた

 

「これはだな…」

 

マサ兄はタバコの火を消し、黒髪の女性に焼き方を教え始める

 

サザエは少し待ってポコポコして来たら良いだとか、他の貝は開いてしばらくしたら醤油を垂らして食べるだとか

 

すぐにもう一人の黒髪の女性もプレハブから出て来て、貝を焼き始める

 

プレハブの中には、ギャルが一人だけ

 

「もう一人はどうした」

 

「アノコ、ヒトガアマリスキジャナイノ…」

 

「そうか、詮索はしない。すまない」

 

マサ兄は何も聞かなかった

 

彼は元来そういう性格なのか、あまり人に踏み込もうとしない

 

「ンーン。タスケテモラッタノニ、アイソガナクテ、ゴメンナサイ…」

 

「…さ、これなんか食べ頃だ。熱いから気を付けてな⁇」

 

「アリガトウ」

 

「イタダキマス」

 

黒髪の女性は出来上がった魚介類を手掴かみで行こうとした

 

「熱いぞ。これを、こうして使うんだ」

 

マサ兄は片方の黒髪の女性にお箸の使い方を教え、涼平はもう片方に教える

 

この時点で二人共、彼女達が特殊な存在だと気付いた

 

「コウ⁇」

 

「そう。こうやって食べた方が美味しい」

 

「コウ⁇」

 

「そうです。これでヤケドしませんよ」

 

それでも何の躊躇いもなく、二人はお箸の使い方を教え、粗方覚えた所でそっと黒髪の女性からほんの少し距離を置いた

 

黒髪の女性二人を見ながら、マサ兄は離れた場所に座り、タバコに火を点ける

 

涼平は紙皿に乗せた貝と魚を持ち、プレハブに入る

 

「焼き立てで美味しいですよ‼︎」

 

「…アリガト」

 

助けて貰った礼なのか、ギャルは涼平の手から紙皿とお箸を取った

 

そして、ギャルは貝にお箸を刺して口に運ぶ

 

「これはこうやって使うんですよ」

 

「…」

 

眉間にシワを寄せながらも、ギャルはお箸の持ち方を覚える

 

「モチニクイ…」

 

「ヤケドしませんよ」

 

「…ン」

 

お箸の持ち方を覚え、ギャルは美味しく貝や魚を頂く

 

 

 

皆が食べ終えた頃合いに、黒髪の女性が口を開く

 

「ナニカオレイヲシタイ」

 

「気にしなくていい。帰る場所はあるか⁇」

 

「ソノ…」

 

黒髪の女性に帰る場所を聞いた途端、返答に渋ったのを見て、涼平もマサ兄も理解する

 

遭難じゃない。何処からか逃げて来たのだ、と

 

「分かった。なら、しばらくここで暮らせばいい。ここはどうせほとんど使ってないしな」

 

「ナニカデキルコトハ⁇」

 

「今は体を休めて下さい」

 

「もしその気なら、また話を付ける」

 

その日はそれで、彼女達と別れた

 

 

 

帰り道、涼平とマサ兄は歩きながら話す

 

「あの人達、栄養取ってないんじゃないかな⁇」

 

「あぁ…灰色と、真っ白な肌だったな」

 

プレハブに来た女性は皆、見た事のない肌の色をしており、それを二人共、単に栄養不足と捉えていた

 

「あ、そうだ。病院に行かなきゃ‼︎」

 

「薬でも貰うのか⁇」

 

「一人病院にいるんだ‼︎」

 

「…急ごう」

 

病院に急ぐ二人

 

何か嫌な予感が頭を過ったからだ



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特別編2話 焚き火が上手い理由

彼女達が深海と気付くが、敵対意識がないと主張する涼平

彼は良き理解者と共に、大人達を説得に向かいます


「あぁ…」

 

「…チッ」

 

病院の前には人集り

 

二人の嫌な予感は的中した

 

狭い島だ

 

噂が広まるのも早い

 

「ちょっとすみません‼︎」

 

「通してくれ」

 

人集りを掻き分け、二人は病院に入る

 

「おぉ、涼ちゃん。さっきの子なんだがな…」

 

「何だこの騒ぎは」

 

老人の先生が何かを言おうとしたのを遮り、マサ兄が口を開く

 

「マサ君か。それがだな、さっきの子はどうも報道されていた“深海”らしいんだ…」

 

「治療は終わったのか」

 

「怪我はどうなりました⁉︎」

 

そんな事より、二人が気になるのは怪我の具合

 

「それは何とか…何せ、自然治癒が早くてな…」

 

「そうか。どっかの奴が見て噂して騒いだんだろ…」

 

「すまんな、二人共…」

 

「ここにいるより、向こうの方がいいかな⁇」

 

「その子は歩けるのか⁇」

 

「アルケ、マス…」

 

当の本人が奥から出て来た

 

片側の髪をロールした、まだ幼く見える女性だ

 

「先生、一晩だけ頼みたい」

 

「そりゃあ構わんが…」

 

「この騒ぎじゃ連れ出せない…明日、必ずみんなの所に連れて行く」

 

「アリガトウ…アナタモ、アリガトウ…」

 

「涼平。説明しに行こう」

 

「うんっ」

 

あまりにも事が大きくなってしまった為、急遽島の中心にある集会所で会議が開かれた…

 

 

 

「あれは敵だぞ‼︎ニュースで見た‼︎」

 

「国の機関に報告した方が良いんじゃないか⁇」

 

「いや、自衛隊が先だろう‼︎」

 

「涼ちゃん、何処で拾ったんだ⁇」

 

大人達が正論をぶつけ合う中、矛先が涼平に向く

 

「海岸で倒れてたんだ。助けない訳には行かなくて…」

 

「人を見てから助けなさい。涼ちゃん、君は良い子過ぎるよ…」

 

「敵意はなかったんだ‼︎それに、ニュースで見たみたいに武器なんて持ってなかった‼︎きっと、事情があってここに来たんだよ…」

 

「隠してるかもしれないぞ‼︎」

 

「そうなれば俺も、涼平も、今ここに居ないはずだ」

 

責め立てられた涼平のカバーに入ったのはマサ兄

 

マサ兄の一言で、大人達は一瞬黙ってしまう

 

「俺は理解のある大人と話がしたいんだ。頼む、分かって欲しい」

 

「いや…しかしだ…」

 

「幾らマサ君が言ったとはいえ…」

 

「…分かりました。自分が責任を持ちます‼︎」

 

涼平はマサ兄が反論しているのを見て、腹を括った

 

「自分は今日から夏休みです。彼女達と一緒に暮らします。もし何かあれば、自分が真っ先に死にます。それでどうか…」

 

「涼ちゃんまで…」

 

「よっしゃ涼ちゃん‼︎そしたら、島の反対側を使いなさい‼︎」

 

そう言ったのは、団扇片手に話を傍聴していた漁師の一人

 

「島の反対側はホントに使われてない‼︎あそこなら、使ってもえぇやろ‼︎なぁ‼︎」

 

そう言うと、渋々頷く大人が何人かいた

 

「しかしだ、涼ちゃん。お前も男なら、最後までやる事‼︎えぇな⁉︎」

 

「分かりました‼︎」

 

「マサ‼︎お前もやぞ‼︎」

 

「勿論」

 

「よしっ‼︎そしたら、ワシらは約束する‼︎誰にも言わん‼︎これでえぇんちゃうか‼︎」

 

「分かりました‼︎」

 

「よしっ‼︎そしたら涼ちゃんが男を見せた祝いに、ごちそうや‼︎」

 

結局宴会の様な形になってしまい、夜は更けて行く…

 

 

 

朝、涼平は一番早く起き、プレハブに向かう

 

「…」

 

集会所の畳の上で横になっていた、昨日鶴の一声をくれた漁師の男性が、その姿を感じ取っていた…

 

涼平は一晩、自分なりに考えた

 

まずは最初は何から手を付けようか

 

雨風凌げるプレハブ以外の何かを作ろうか

 

それとも、水や食べ物とかのライフラインが先だろうか

 

それよりもまず、皆手伝ってくれるだろうか…

 

涼平が不安を抱きながらプレハブの前に着くと、何かが擦れる音が聞こえた

 

「コウ⁇」

 

「そっ‼︎そうやってっ、木を切るんだっ‼︎」

 

プレハブの前では、黒髪の女性二人がノコギリで木を切っていた

 

美人に似合わない力仕事なのだが、妙に上手く、涼平は数秒間だけ立ち尽くして魅入ってしまう

 

「涼平。涼平はあの人と材料を作ってくれないか⁇」

 

「マサ兄、ありがとう‼︎」

 

「乗った船だ。出来る事はやろう」

 

涼平はマサ兄の反対側にいた、ギャルの所に来た

 

「どうやってするの⁇」

 

「コレヲマゼルノ。オモシロイヨ」

 

ギャルの手元には木の棒があり、鉄の缶に入った何かの材料を混ぜている

 

「コレヲ、コウヤッテスルノ」

 

涼平はギャルに教えて貰いながら、材料をかき混ぜ始める

 

昨日と打って変わり、ギャルは少し楽しそうにしている

 

「これなんだろうね⁇」

 

「ワカンナイ。デモオモシロイ」

 

一時間、二時間と材料を混ぜる涼平とギャル

 

その反対側では材木が出来上がり、マサ兄が軽トラックで何処かに運んで行く

 

「何処行ったんだろ…」

 

「サァネ」

 

マサ兄が帰って来るまでの間、ギャルは黒髪の女性の所に行き、木を切るのを手伝い始める

 

「リョーチャン、ヤロ」

 

「うんっ」

 

ギャルに言われ、ギャルに教えられ、涼平は木を切り始める…

 

 

 

昼になり、休憩の時間

 

「おっ‼︎おったおった‼︎性が出ますな涼平さん‼︎」

 

「タツさん‼︎」

 

昨日鶴の一声をくれた男性が来た

 

タツさんと呼ばれた男性は軽トラックに何かを乗せて来た

 

「昼飯食わそう思てな‼︎涼ちゃん、焼けるやろ⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

タツさんが持って来てくれたのは、お肉とお魚

 

涼平は早速準備に取り掛かり始める

 

「タツさん」

 

そこにマサ兄が帰って来た

 

「ちょっと様子見に来ただけや‼︎すぐ帰え…」

 

「食べて行って下さい」

 

マサ兄の手には人数分より少し多い数の飯盒があった

 

マサ兄は木を何処かに持って行った後、何処かでご飯を炊いて持って来てくれた

 

「松阪牛ですか」

 

「今朝本土に行ってな。ま、気分や‼︎」

 

「食べて行って下さい」

 

「甘えさせて貰おうか‼︎」

 

マサ兄が頑なにタツさんを場に留めたのには理由があった

 

「ほ〜…なるほど…」

 

「これを穴に流して地盤を固めようかと」

 

「ホンマにやる気やな…よっしゃ‼︎手隙の奴向かわせたる‼︎ど突かれたら言うんやぞ‼︎」

 

「助かります」

 

タツさんはまさか二人がここまでやる気とは知らず、本気で彼女達を思っているのを今知った

 

涼平も薄々気付いていたが、この材料、家を建てるつもりだ

 

それも、まずは小さな家を一つ

 

「よしっ‼︎焼けた‼︎食べましょう‼︎」

 

涼平の言葉で、皆が集まる

 

涼平は火の扱いが上手く、普段漁師達が魚介類を獲って来ると涼平が美味しく調理してくれ、お酒のつまみになっている

 

「コレハナァニ⁇」

 

「これは牛のお肉や‼︎」

 

昨日覚えたお箸を使い、皆器用に食べる

 

「病院にいる子を迎えに行って来る。涼平、行こう」

 

「うんっ‼︎」

 

ご飯を食べ終え、作業を任せて軽トラに乗る

 

タツさんも同時に軽トラックに乗る

 

「面白い事になりそうやな‼︎」

 

「タツさん。ありがとうございます」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「涼ちゃんの言う通り、困ったら助けないとな‼︎ほな‼︎」

 

タツさんと別れ、涼平とマサ兄は病院へと向かう

 

 

 

 

「コチラヘドウゾー」

 

「…」

 

「オネツヲハカリマスネー」

 

「…」

 

白衣を着て、患者を案内する片方ロール髪の少女

 

涼平もマサ兄もまさかの事態に黙って目で追う

 

「…馴染んでるな⁇」

 

「…馴染んでるね」

 

「おぉ‼︎涼ちゃん‼︎マサ君‼︎いやぁ助かるよ‼︎昨日のお礼がしたいと言ってくれてな‼︎」

 

「型に嵌ってるな」

 

診療所の先生であるおじいさんの先生は、昨日と打って変わって顔が明るい

 

「あの子さえ良ければ、ウチに居てくれないもんかね…勿論それなりの給金は出すし、何かあればここならある程度は見れる」

 

病院の先生であるこのおじいさん

 

子供がおらず、何年か前に妻に先立たれ、今は一人

 

もしかすると、子供が欲しかったのかも知れない

 

「昨日はどうかと思ったけど、診療所が明るくなったねぇ」

 

「そやなぁ。おってくれた方がえぇなぁ」

 

患者の老人達でさえ、彼女を認めてくれ始めている

 

この島は噂が広まるのも早ければ、馴染むのも早い

 

「ア、オニイサンタチ」

 

彼女が二人に気付いた

 

「君はどうしたい⁇」

 

「迎えに来たんだけど、ここに居たい⁇」

 

「ミンナハ…」

 

「皆の心配は要らない。俺達と動いてる」

 

「ワタシ、ココニイタイ」

 

「分かった。先生、頼みます」

 

「此方こそ‼︎」

 

「また顔を見に来るからな」

 

「ウンッ‼︎」

 

彼女はここに置いておく事にした

 

馴染んだ場所に身を置くのは大切な事だ

 

プレハブに戻って来ると、大量に材料が出来上がっていた

 

「は、早いな…」

 

「僕達じゃ無理だね…」

 

彼女達と出会ってから、驚く事ばかりだ

 

スピードもパワーも自分達より桁違い

 

これなら早く家が建ちそうだ

 

「彼女なんだけど…診療所に馴染んでいたんだ」

 

「ソッカ。イバショヲミツケタンダネ」

 

「アリガトウ、リョーチャン、マサクン」

 

マサ兄は小さく頷いた

 

その時、涼平は初めてマサ兄が笑う顔を見た…



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特別編3話 彼女を好きになった日

深海の皆と楽しく暮らし、流れて行く最高の時間

涼平は、一人の深海の事を好きだと理解します


それから半月程、皆作業を続けた

 

木を切っては運び、何かの材料を混ぜては運び、どんどん家が建って行く

 

「オフロニシマショウ‼︎」

 

「サッパリシマショウ‼︎」

 

いつの間にかプレハブで作業する事が少なくなり、建設中の家の近くにテントを張り、そこで三人と二人は作業を続けていた

 

余った材木でマサ兄と涼平は木のお風呂と衝立を作り、そこにお湯を入れて三人はシャワーをしたり湯船に浸かる

 

水は今の所タツさんが回してくれた貯水タンクから出ているが、もう少しすれば簡単な水道も引けそうだ

 

「ノゾカナイデネ‼︎」

 

「大丈夫だ。ゆっくりな」

 

「行ってらっしゃい‼︎」

 

ギャルがお風呂に向かい、マサ兄が涼平に寄る

 

「覗くなと言われたら覗くのが性じゃないのか」

 

「マサ兄…なんか変わった⁇」

 

「ちょっと丸くなったかもな。行くぞ…」

 

そっとお風呂に忍び寄り、窓から中を覗く…

 

「オリャ」

 

「ぶっ‼︎」

 

「ホリャ」

 

「ぶへぇ‼︎」

 

手で作った水鉄砲を喰らい、窓から離れる

 

「ヤッパリソコカラキタ」

 

「やるな…」

 

「カンガエガアマイ‼︎」

 

ピシャ‼︎っと締められる窓

 

結局ギャルの覗きはやめ、また資材を作り始める…

 

「もう少しでこれも完成だな⁇」

 

「ログハウスだったんだね」

 

目の前には、規模は小さいが中々立派なログハウスが出来上がりかけていた

 

「涼平。お前、恋してないか⁇」

 

「へっ⁉︎」

 

マサ兄から突然投げられた言葉に、涼平は戸惑う

 

「最近、あの子と一緒にいる事が多いからな」

 

涼平は作業をする時、ギャルと一緒にいる事が多くなっていた

 

理由は色々あるが、ギャルが涼平に聞きに来る事が多いからだ

 

ギャル自身も歳が近そうな涼平といる方が良いのだろう

 

「一緒にいると楽しいんだ。こんな気持ちになったの、初めてかも知れない…」

 

「この夏は良い思い出だな」

 

「うんっ‼︎すっごく良かった‼︎」

 

まだ夏真っ盛りだが、涼平にとって忘れられない夏となっていた…

 

 

 

 

一週間後…

 

「よっしゃ‼︎完成‼︎」

 

「ヤッタ‼︎」

 

「ワタシタチノオウチ‼︎」

 

夏も中盤の頃、ようやく彼女達の家が完成した

 

黒髪の女性二人が喜ぶ後ろで、涼平とギャルは家を見ている

 

「リョーチャン、モウコナイ⁇」

 

ギャルは寂しそうに涼平に問う

 

「君が嫌なら、もう来ないかな⁇」

 

涼平は少しのイジワルと、彼女に逃げ道を与えた答えを返す

 

「コナイノ」

 

ギャルにジト目で見られ、涼平は小さくなる

 

「き、来ます…」

 

「ヤクソクダヨ。コナイナラ、コッチカライクカラ」

 

「分かった‼︎絶対来るって約束する‼︎」

 

ギャルは微笑み、そっと涼平の手を握る

 

涼平は少し彼女を見た後、その手を握り返した…

 

お互い、見つめ合う事も無いまま、しばらく家を眺めていた…

 

 

 

その日、建築祝いに小さなパーティーが家の前で開かれた

 

そこにはタツさんもおり、マサ兄と一緒に魚介類を焼いている

 

「いやぁ‼︎隠れ家みたいでえぇな‼︎」

 

「私も気に入りました」

 

二人はようやく一息入れ、近場の椅子に座る

 

「せや。これ、マサが言ってた奴やけど…」

 

タツさんはポケットから紙を取り出した

 

「昔使ってた奴を使ってもえぇのを見付けて来た。それと、海女の許可と」

 

「何から何までありがとうございます…」

 

「あの子らはもう島の人間やろ⁇」

 

「理解がある人がいて助かります」

 

淡々と返すマサ兄だが、内心凄く感謝していた

 

「コレハナァニ⁇」

 

「カイ⁇」

 

「おっ‼︎興味あるか‼︎」

 

タツさんの周りに彼女達が集まり、説明を聞く

 

「ワタシタチニデキル⁇」

 

「ヤッテミタイ‼︎」

 

「ワタシ、アマサンシテミタイ」

 

「よっしゃ‼︎そしたら明日、場所だけ見に行こ‼︎」

 

 

 

 

 

数日後…

 

「とれましたかー‼︎」

 

「オサカナトレタワ‼︎」

 

「ワタシハアワビ‼︎」

 

黒髪の女性が一人と、ギャルが海女さんをしている

 

涼平はもうすぐ学校が始まるので色々準備をしながらもタツさんやマサ兄に教えられながら、小さなボートを運転して海女になった彼女達の手助けをしていた

 

「リョーチャン、モウスグガッコウ」

 

「ガッコウッテナァニ⁇」

 

ボートに上がって、お魚や貝を仕分けながら、二人は学校に興味津々

 

「お勉強をしたり、夢を決める所なんだ‼︎」

 

「リョーチャン、ユメナァニ⁇」

 

「この夏決めたよ」

 

「「キカセテ」」

 

二人に言われ、涼平は夢を言う

 

「みんなと一緒に家を建てた時に、図面がある程度分かる様になったんだ。だから、次は図面を描いてみたくなったんだ」

 

「オウチタテルノユメ⁇」

 

「うんっ。設計士になりたくなった」

 

「セッケーシ」

 

「そっ。いつか、自分が設計した街を見て見たいんだ‼︎」

 

「スゴイスゴイ‼︎」

 

「リッパナユメ‼︎」

 

二人に拍手を貰い、照れながらも涼平は港に戻る…



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特別編4話 残りの人生、君に捧げる

涼平とギャル、二人きりでお魚達を焼く

そんな時、ギャルはある事を涼平にお願いします


「タダイマ‼︎タクサントレマシタ‼︎」

 

「コッチガオサカナ、コッチガカイ」

 

「おかえりなさい〜。ぎょうさんとれたねぇ」

 

「コッチハウル、コッチハミンナノゴハン」

 

彼女達はすぐにここに馴染んだ

 

彼女達を否定する者がここにはおらず、彼女達もそれに答えるかの様に働いてくれる

 

少しお金が手に入り、彼女達は商店街に買い物に来る為、島の物流も微力ながら動かしてくれている

 

彼女達は、島の人間として定着し始めている…

 

 

 

 

「敵の基地が見付かった⁉︎」

 

「三重県志摩市にある、この島です」

 

「本当に敵の基地なのか⁇」

 

「既に深海が占領しています。どうか御決断を…」

 

「…隼鷹。行けるか」

 

何処かの基地から、一人の少女が放たれる…

 

 

 

 

その日の夜、涼平はログハウスの前でギャルと二人、獲って来た物を焼いていた

 

「リョーチャン」

 

「ん⁇」

 

「…ワタシノナマエ、ツケテホシイ」

 

ギャルにとって、これは“絶対的な信頼を貴方に寄せています”の合図

 

結婚やプロポーズのそれに近い

 

「僕が付けてもいいの⁇」

 

「ウンッ」

 

涼平は少し考えた後、貝をひっくり返しながら答えを出した

 

「シュリさん」

 

「シュリ⁇」

 

「そっ。シュリ。こう書くんだ」

 

涼平は木の枝を使い、地面に漢字を書く

 

“珠里”

 

「“真珠の古里”って意味なんだ。どうかな⁇」

 

「イイナマエ。モウイッカイヨンデ⁇」

 

「シュリさん」

 

「ン…」

 

二人は長年待ったかの様に、目の前にある焚き火の様に熱く口付けを交わす

 

涼平には、夢も守りたい人も出来た

 

そんな小さな夢を壊す日が、もうそこまで迫っているとも知らずに…

 

 

 

次の日の早朝

 

「ワタシハヨーショクジョーヲミテクルネ‼︎」

 

「ワタシハオサカナノオシゴト‼︎」

 

「ワタシハキョウハオリョウリ」

 

いつもの日常がそこにある

 

涼平はいつもの様に、いってらっしゃい‼︎後で行くからね‼︎と、見送った

 

なのに…

 

「おっと‼︎」

 

「ワッ‼︎」

 

ログハウスが揺れた

 

それも大きな揺れだ

 

「地震だ‼︎高台に行こう‼︎」

 

涼平はシュリの手を取り、ログハウスを出た

 

「な…」

 

「カジ‼︎イカナキャ‼︎」

 

涼平の目に止まったのは、朝方見送った彼女達がいる方にある港付近で、火が上がっている光景

 

「違う‼︎シュリさん待って‼︎様子が変だ‼︎」

 

「イソガナイト‼︎」

 

涼平はこれが自然的な災害ではないと見抜けた

 

だって…

 

なんで、島の中心部からも火が上がってるんだ…

 

「あっ…」

 

涼平の頭上を掠めて行く、一機の航空機

 

「リョーチャン‼︎」

 

シュリはすぐに涼平に近付き、その場に伏せさせる

 

「あれは…」

 

「ニゲヨウ‼︎ココニイチャアブナイ‼︎」

 

シュリに手を引かれ、皆を救う為に港付近に来た

 

 




このお話で1000ページを超えました

ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございます

これから先、少しずつ物語の謎に触れつつ伏線を回収したり、アトランタ回の様なほのぼの日常も書いて行きます

これからもどうかよろしくお願い致します

苺乙女


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特別編5話 死んでもこの手を離さない

突如として空爆を受けた涼平達

逃げ回る先々で涼平は別れを繰り返します


「ドウシテ…ドウシテコンナ…」

 

「ネェオキテ。オネガイ…」

 

黒髪の女性二人はすぐに見付かった

 

「あぁ…」

 

「…」

 

二人の目の前には、下半身がなくなった、昨日話していた海女のおばあさんがいた

 

黒髪の女性二人は必死に起こそうとしているが、もう目を覚まさない

 

「イコウ‼︎ミンナデニゲヨウ‼︎」

 

「ゴメンナサイ…」

 

「ユルシテクダサイ…」

 

涼平はその光景を見て、拳を握り締めるも何も言えずにいた

 

「何やってんだ‼︎早く来い‼︎こっから出るぞ‼︎」

 

マサ兄が軽トラックを引っ張って来てくれた

 

「涼平‼︎隣に乗れ‼︎みんなは荷台に‼︎」

 

全員軽トラックに乗り、港付近から出た

 

「何なんだあの飛行機は‼︎あいつが爆弾を落としてやがる‼︎」

 

「マサ兄、病院だ‼︎病院に行って‼︎」

 

「よし…」

 

軽トラックは病院に向かう…

 

 

 

「涼平」

 

「…嘘、だよね」

 

病院に近付くにつれ、雰囲気で分かってしまう

 

「見たくないのは分かる…」

 

無い

 

「昨日まであったよね…」

 

何も無い

 

あったはずの病院が無い

 

「ジジイ‼︎出て来い‼︎」

 

いつも冷静なマサ兄でさえ、声を荒げる始末

 

「先生‼︎何処ですか‼︎」

 

瓦礫を退ける二人を見て、荷台の三人も手助けを始める

 

「先っ…」

 

「ジジイ…馬鹿野郎…」

 

先生は瓦礫の下にいた

 

自分の“娘”を庇ったまま、お互いに目を開けた状態で絶命していた

 

「コノコ、アサゴハンタベテタノネ…」

 

黒髪の女性がそう言い、少女の手を見ると、子供用のスプーンを手に持ったままこの世を去っていた

 

「許してくれ…」

 

「オヤスミナサイ…」

 

マサ兄と黒髪の女性は二人の瞼を閉ざした

 

「…行こう」

 

声を震わせるマサ兄

 

軽トラックに乗り、何処かへ向かう

 

「あそこの漁船で湾に出る」

 

マサ兄が来たのは作業する港ではなく、少し離れた場所にある漁船の停泊場…

 

 

 

「おっ。深海み〜っけっ…」

 

外洋では、島を爆撃した航空機を出した少女が一人佇む

 

航空機から送られて来た地獄絵図と化した島の航空写真を見て、口角を上げる…

 

 

 

「よしっ、行くぞ」

 

軽トラックから降り、皆をいざ漁船の所まで連れて行こうとしたマサ兄

 

「チッ…」

 

航空機に目を付けられたのに気付き、マサ兄は黒髪の女性二人を庇う

 

「ソンナ…」

 

「ウソデショ…」

 

一瞬の出来事だった

 

ほんの数発放たれた機銃の弾が、マサ兄の体を抉る

 

「涼平…運転出来るな…⁇」

 

「嫌だ…嫌だよマサ兄‼︎」

 

「行け…お前達だけでも…」

 

マサ兄は涼平に何かを渡し、涼平はそれを確と受け取る

 

「ワタシ、ココニノコル…」

 

「ダイジョウブ。イッショヨ…」

 

「行けと言って…」

 

「シヌトキハ、イッショ…」

 

「マサクン、ワタシタチヒトリニシナカッタ」

 

「アナタハイキナサイ‼︎イキテイキテ、イキノコルノ‼︎」

 

「…オワカレハイワナイ」

 

「リョーチャン、バイバイ…」

 

「バイバイ、リョーチャン…」

 

涼平はただただ頷き、涙を拭いてシュリと共に漁船へと向かう…

 

 

 

「涼平は…行ったか…⁇」

 

「イッタワ…」

 

「そっ、か…」

 

「ダメダメダメ‼︎マサクンオキテ‼︎」

 

「メヲアケルノ‼︎」

 

「名前…決まったんだ…」

 

「…イッテ‼︎イッテオキテ‼︎ネェ‼︎」

 

「マサクン‼︎」

 

「“セイレーン”と…“シレーヌ”…だ」

 

 

 

 

「来たか‼︎涼ちゃん‼︎こっちや‼︎」

 

「タツさん‼︎どうなってるんですか‼︎」

 

「分からん‼︎とりあえず逃げぃ‼︎」

 

タツさんに言われた船に涼平とシュリが乗り込む

 

「タツサン‼︎イコウ‼︎」

 

「早よ行け‼︎」

 

「タツさん‼︎何言って…」

 

「ハヤク‼︎」

 

タツさんは口角を上げる

 

それを見て、涼平は何かを察した

 

タツさんは腹巻きに手を入れたまま、ずっと涼平の顔を見ている

 

「…」

 

「リョーチャン⁇」

 

涼平は船のエンジンを入れた

 

「リョーチャンモドッテ‼︎」

 

「もう死んでる…」

 

「エ…」

 

涙を流しながらも舵をとる涼平

 

シュリは船の後ろでタツさんを見る

 

タツさんは船のあった場所をずっと見つめている…

 

とっくの前に背中を抉られていたタツさんは、何とか二人だけでも救おうとここで待っていてくれた

 

そして気力だけで耐え抜き、二人が島を出るのを見送ってその生涯を終えた

 

十数分運転を続けた涼平は、自動操縦に切り替え、その場に膝を落とす

 

「リョーチャン…」

 

「…」

 

抱き付いて来たシュリを無言で抱き締め、涼平は水平線を睨む

 

遠く離れた海上に、紫色の髪をした女が航空機を回収しているのが目に入る

 

その姿は罪の意識の無い様に見えた

 

睨む涼平の左目が赤く染まっている事に、シュリでさえ気付いていない

 

ましてや、本人もそれに気付いていない

 

いつの間にか、涼平の体には深海の素質が出来ていた

 

ずっと深海の傍に居たからだろうか…

 

シュリと体を重ねたからだろうか…

 

今しがた見た女性に対する復讐の念だろうか…

 

そのどれもが正解であり、間違い

 

正しい答えはただ一つ

 

涼平はシュリを護りたいが為に人としての体を捨て、深海の素質を手にした

 

その瞬間が今、自分自身に起こっているとも知らずに…

 

 

 

「一隻漁船が島から脱出したよ。そっちで追えるかい⁇」

 

《了解、隼鷹。イージスを出す》

 

 

 

「イッショニイヨウネ…」

 

「ン…」

 

シュリは愛おしそうに涼平に擦り寄る

 

数秒目を閉じた涼平の目は、次に開けた時には元の目に戻っていた

 

何もかもを失った少年と少女

 

ほんの一瞬の出来事だが、二人は幸せな時間を過ごせた…

 

「鳥羽の方面に設定したんだ。あそこなら、船をつけられる」

 

「ン…」

 

「そしたら、水族館に行こう…後は、イルカを見て…夫婦岩を見て…」

 

「タクサンイコウね」

 

そこで涼平はマサ兄から最後に受け取った物に気付く

 

マサ兄がずっと使っていたオイルライターと、ずっと嗜んでいたタバコ

 

「ちょっと休もう。疲れちゃった」

 

「ウンッ…」

 

涼平は船の背後に行き、タバコに火を点ける

 

あの紫色の髪の女は既に見当たらず、涼平は紫煙を吐きながら逃げ切れたと安堵する

 

もう島へは帰れないのだろうか…

 

あの一瞬で、本当に何もかもを失った…

 

残りの人生、シュリさんと何処かで細々と暮らし…

 

乾いた音が響いたと思った瞬間、涼平の胸に激痛が走る

 

「リョーチャン‼︎」

 

「そこの漁船、止まりなさい」

 

一隻のイージス艦が放った銃弾が、涼平の胸を貫いていた

 

「リョーチャン…リョーチャン…」

 

シュリは必死に倒れた涼平を操舵室に引き寄せ、抱き寄せる

 

「止まれと言っている‼︎」

 

「シュリ…さん…」

 

「ダイジョウブ…ツギハワタシガタスケルカラネ…」

 

そう言って、シュリは涼平の頭に右手をかざす

 

「貴重なサンプルだ‼︎丁重に扱え‼︎」

 

「マニアッテ…」

 

シュリは涼平に何かをしようとしており、涼平の体が本格的に深海化が始まる…

 

後に判明するが、シュリは涼平に“乗艦式”をしようとしていた

 

マーカスとたいほう

 

リチャードと瑞鶴

 

特別な関係になった二人は、女性側が男性側を妖精に出来る神聖な儀式

 

それを行えば、涼平はシュリに妖精にされ、とりあえずは生命を維持出来るからだ

 

「手を上げろ‼︎」

 

遂には横に付けられ、乗り込まれた

 

「リョーチャン…」

 

「民間人に手を出すな‼︎」

 

「ソッチガウッタンデショ‼︎コノコハカンケイナイノニ‼︎」

 

「殺さない程度に撃て」

 

乗り込んで来た隊員に撃たれるシュリ

 

「イタイ…デモ、ダイジョウ…」

 

そんなシュリの最後の願いを通じぬまま、右手が吹き飛ばされる

 

「アァ…」

 

シュリに痛みは大して無い

 

右手程度吹き飛ばされた位なら、また再生出来るからだ

 

だが、乗艦式はこれでもう出来ない

 

シュリは成す術をなくし、怯んでいる所を確保される

 

「リョーチャン‼︎オキテ‼︎オキテイツカタスケニキテ‼︎」

 

「来い‼︎」

 

「民間人はどうします⁇」

 

「我々が誤射したとなれば処分は必須だ。分かるな⁇」

 

「はっ‼︎」

 

涼平は放置され、シュリだけが何処かに連れ去られてしまう

 

「そこのイージス艦‼︎所属を述べよ‼︎」

 

たまたま警備に当たっていたイージス艦が、シュリを乗せたイージス艦に近付く

 

「行くぞ‼︎」

 

シュリを乗せたイージス艦は反応を示す事無く、その場から逃げる様に去る…

 

「民間人がいる。岩井、救助に向かえるか⁇」

 

「了解です、艦長」

 

「此方イージス艦“きくづき”。横須賀基地、応答願う」

 

《此方横須賀基地。きくづき、どうしました⁇》

 

この頃の横須賀はまだジェミニが提督をしておらず、無線の向こうから聞こえて来た声は壮年の男性の声

 

「島から脱出した民間人の漁船がイージス艦に攻撃を受け、民間人の男性が負傷。現在、救助に当たっている」

 

《艦長‼︎深海化の兆候があります‼︎》

 

「深海化の兆候が見られる。処置を頼みたい」

 

《了解。此方で引き取る。きくづき、ご苦労だった》

 

「民間人の救助、終了しました」

 

「応急処置を頼む。この民間人は横須賀でしか処置出来ない」

 

「はっ‼︎」

 

涼平はきくづきに救助され、当時はそこでしか診られなかった横須賀へと搬送される…

 

「よく頑張った…あの島で何があったのだろうか…」

 

「現在判明しているのは、呉より出撃した軽空母隼鷹による爆撃とあります」

 

「深海が居たからと揉み消されるのだろうな…済まない事をした…」

 

「横須賀から電文。横須賀に入港した後、そのままきくづきの改修に入る。との事」

 

「決戦は近い、か…いや、民間人に発砲する位だ。既に雌雄は決しているか…」




コキチャン…ナースちゃん

涼平の生まれ故郷の島にある診療所でナースになった深海

仕事は真面目だが知能はまだまだ子供で、診療所の先生であるおじいさんに子供の様に可愛がられていた

空襲の朝、子供用のスプーンで朝ごはんを食べていた所を空襲を受ける


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特別編6話 街を眺めるあの日の二人

一昔前の横須賀に保護された涼平

この先、何が待ち受けるのか

この先、何が始まるのか

彼の新しい人生が始まります


涼平の身柄は横須賀に保護された

 

「貴重なサンプルだ‼︎必ず君を救うからね‼︎」

 

黒髪でメガネを掛けた女性にカプセルに放り込まれる

 

「深海化の影響が深刻だ…抑え込めるといいけど…」

 

その女性は口元に手を当て、ジッと考える

 

「こんな時にレイ君がいたら一発なんだけど…」

 

《レ…イ…》

 

一命を取り留めた涼平が、カプセルの中で目を覚ます

 

「あぁ‼︎おはよう‼︎だけど、今はゆっくりお休み⁇」

 

《レ…イ…》

 

「レイ君はこの“大淀”の助手さ‼︎とっても良い子なんだけど…ちょっと出払っててさ‼︎あはは…」

 

《…》

 

涼平はすぐにまた目を閉じた

 

「…君の身に何があったんだい」

 

貴重なサンプルとは言ったものの、大淀博士は涼平を丁重に扱う

 

その姿は一人の研究者ではなく、涼平がいつか未来で出会う事になる一人の医者の姿に似ていた

 

大淀博士は何日も涼平の治療に向かい合う

 

試行錯誤を繰り返し、ようやく涼平の深海化が落ち着きを見せた

 

「よしっ…これでゆっくりとだけど、君の深海側の血を抑えられる」

 

涼平は眠ったまま目を覚まさない

 

「大淀博士」

 

「なんだい⁇」

 

一人の研究員が大淀博士の所に来た

 

「自衛隊が“セイレーン・システム”を開発しました」

 

当時、セイレーン・システムは唯一深海に対抗出来る手段と考えられていた

 

深海は今まで経験した事のない強力な攻撃、そして強固な装甲を誇る

 

セイレーン・システム自体に攻撃力は無い

 

が、深海の明確な弱点を探し出すのに非常に有効な手段と考えられた

 

問題は、艦艇に搭載したカプセルに入る人命が必要な事だ

 

それも、適合した者しかカプセルに入れない

 

「そっか…名前はなんだい」

 

「“セイレーン”そして…“シレーヌ”です」

 

研究員から写真を見せられる

 

まだまだ小さい女の子が二人

 

まるで赤ん坊の様だ

 

「横須賀はこれを許可したのかい⁇」

 

「きくづきが自衛隊所属艦艇でありまして、それに搭載予定との事です」

 

「行くも地獄…か…」

 

大淀博士は深い溜息を吐く

 

「しかしまぁ…これだけのスピードで自衛隊も造れたものだね⁇」

 

「それが…先の件で鹵獲した深海二名から採取した卵子を使い…」

 

《ウ…グァ…》

 

涼平が目覚めかける

 

恐らく今の事を聞かれたのだろう

 

「あちゃちゃちゃ‼︎この話は終わりっ‼︎大淀さん、用事が出来ちゃった‼︎」

 

「失礼します」

 

研究員が部屋から出て、大淀博士は涼平のいるカプセルに近寄る

 

「大丈夫…君は助けるよ…」

 

 

 

一ヶ月後、皆の脳裏に焼き付く反攻作戦が開始される

 

その前日…

 

「君はここにいるんだ」

 

《博士…》

 

「ん⁇なんだい⁇」

 

涼平のカプセルは横須賀の地下にある部屋に移送された

 

涼平はカプセルの中にいなければ、未だ体が深海の血に負けてしまう

 

それを抑えられる様になるにはもう少し時間が掛かるが、会話位なら出来る様になっていた

 

《自分は…》

 

「君には戦う力、護る力、奪われない力…それを与えた。それをどう使うかは自由だ」

 

《なら、自分も行きます》

 

大淀博士は薄っすらと反攻作戦の事を涼平に話していたので、本人も理解している

 

涼平の思いに、大淀博士は首を横に振る

 

「…君は今、きっと葛藤しているだろ⁇君が戦うべき相手は深海⁇それとも人間⁇」

 

《それは…》

 

「君の強さは、その優しさにある。葛藤する男の子は、みんな優しくて強いんだ‼︎大淀さんは知ってるよ‼︎」

 

《自分は何をすれば…》

 

その言葉に、大淀博士の目が優しく、悲しい目に変わる

 

「…いつか、レイ君が君を救いに来る。レイ君じゃないかも知れない。だけど、何となく大淀さんは分かるんだ…その先にレイ君がいるって」

 

《恋人、ですか⁇》

 

「本人はもっと胸がある子が好みなんだ。酷い話だ、難しいね」

 

大淀博士は少しふっくらとした胸元に手を当て、涼平の方を向く

 

「もし、だ。君がレイ君と出逢ったなら…その時は、レイ君に着いて行くといい。あの子は答えを知ってる。君の手を引いてくれる」

 

《レイ…》

 

「絶対分かるよ…それじゃあ…またね⁇」

 

《…》

 

涼平は目を閉じ、次に目が覚めるときを待つ…

 

「…君は良い子だ…いつかもう一度、大淀さんが手を貸してあげよう…」

 

 

 

 

「あった。これだわ‼︎」

 

数年後、涼平はカプセルから出る事が出来た

 

反攻作戦で埋まってしまった地下施設が発見され、そこでカプセルに入っていた為に生命維持が出来ていた涼平が保護される

 

「おはよう」

 

一人の女性の声で目覚める

 

「目覚めの気分はどう⁇」

 

「ここは…」

 

白い軍服を着た、小柄な割に主張が強い胸を持つ女性がそこに居た

 

「ここは横須賀よ⁇貴方、名前は⁇」

 

「綾辻、涼平です…」

 

「そっ。他は何も聞かないであげるわ。行く宛がないならウチで働きなさい」

 

「あ、はい…」

 

「歩けそうなら、ちょっと案内するわ⁇」

 

涼平は何年か振りに外に出た

 

久々に浴びた太陽

 

懐かしい海風

 

騒がしい人々

 

久々に感じたはずなのに、涼平はあまり感動しなかった

 

何かが引っ掛かっている様な…

 

何かを忘れている様な…

 

そんな複雑な気持ちを涼平は抱いていた

 

「あっ…」

 

「おっ⁉︎お目覚めか⁇」

 

革ジャンを着た若い男性が来た

 

会った事も、見た事も無いはずなのに、涼平は彼が誰かすぐに分かった

 

「彼が貴方を助けてくれたのよ⁇」

 

「レイさん、ですか⁇」

 

「俺の名前も有名になったもんだ‼︎」

 

この人が後に涼平の手を引いてくれる男

 

大淀博士の言っていた、レイさんだ

 

「レイはこんな性格だけど、良いパイロットなのよ⁇」

 

「こんな性格とはなんだ‼︎お前だってサボリ魔だろうが‼︎」

 

「サボリ魔とは何よ‼︎あれは神聖なる休憩よ‼︎」

 

「いいか涼平。執務室で職務中にリクライニングを倒してロールケーキ食ってるのを神聖なる休憩とは言わん‼︎」

 

「いいえ‼︎神聖なる休憩よ‼︎」

 

「ほ〜⁇なら今から行こうと思っていた間宮は何になるのかなぁ〜⁇」

 

「それは上官命令よ」

 

「ぐっ…」

 

「さっ、涼平⁇食べれそうな物食べましょうか‼︎」

 

「は、はい…」

 

後に涼平は語る

 

この二人の間にいると、まるで二人の子供になった様な気分になる…と

 

 

 

現在に戻り、涼平とシュリ

 

「あ‼︎いたいた‼︎」

 

「大淀博士‼︎」

 

二人の背後から、ビニール袋を持った大淀博士が来た

 

「お腹空いちゃってさ‼︎食べようよ‼︎レイ君も呼んだんだ‼︎」

 

「今、大淀博士の事を話してたんです」

 

「大淀さんは美人で気立ても良いって⁉︎」

 

「ンフフ‼︎ホボイッショ‼︎」

 

「そうかい‼︎幾ら出そうか‼︎」

 

大淀博士はポケットから財布を取り出すフリをする

 

「あーらよっとぉ‼︎」

 

「イテッ‼︎」

 

大淀博士の頭にホットコーヒーが置かれる

 

「あっ‼︎レイ君‼︎ありがとう‼︎」

 

「涼平はサイダー‼︎」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「シュリさんはピーチティー‼︎」

 

「アリガトウ、オイシャサン‼︎」

 

マットを敷き、四人で昼食を頬張る

 

涼平とシュリ

 

マーカスと大淀博士

 

これも、大淀博士の言う、もう一つの“家族のカケラ”…

 

「ここの再建も近いな⁇」

 

「ミンナデスムノ。ヨーショクジョーツクッテ、アマサンモスル‼︎」

 

「自分は色んな方を手助けしたいと思います‼︎」

 

「んっ‼︎良い夢だっ‼︎」

 

大淀博士は何も言わず、珍しくマーカスではなく涼平を見て優しい顔をする

 

涼平はずっとずっと先で、シュリさんを見付け出してくれたのは、大淀博士だと知る…




乗艦式…神聖な儀式

艦娘や深海が男性と互いに信頼関係に置かれた時に可能になる儀式

特に空母艦娘に多く、たいほうとマーカス、リチャードと瑞鶴が可能

手を頭にかざされた男性は、矢になる若しくは妖精になり、艦娘や深海に収納される

その際、原理は不明だが男性側の体の傷が癒える

シュリさんはこの原理を使い、涼平を救おうとしていた





涼平の住んでいた島⁇

何処かな⁇

題名にヒントがあるかもね


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291話 本気の侍女(1)

さて、290話と特別編が終わりました

今回のお話は、パースが如何にヤバイベビーシッターかを垣間見るお話になります

久々にグロテスクなシーンがありますので、その際は注意書きをします


「第三居住区の連中の振り分け⁇」

 

「そっ。金剛のバナナワニ園行きか、蒼龍送りかを仕分けるの」

 

ある日、横須賀に呼び出された俺と隊長は、パースのピザを食べながら話を聞いていた

 

「隊長とレイにもお願いしたいの」

 

横須賀に書類を渡され、仕分け方を説明される

 

分かり易く言えば、危ない研究をしていたり敵対行動を指示、もしくは実行していたとなれば蒼龍送り

 

その他は反省の余地が見られれば蒼龍送りは免除、晴れてバナナワニ園に就職になる

 

「なるほど、分かった」

 

隊長はやる気満々だ

 

「全部蒼龍送りだな‼︎」

 

「それでもいいわ⁇」

 

冗談半分で話していると、牧場の方向から、ガリバルディみたいな女性が来た

 

「これは大佐‼︎挨拶が遅れました‼︎」

 

男勝りなガリバルディも良いが、お上品なガリバルディも良い…

 

が、一つ気になる点があった

 

「君の名前は⁇」

 

「はっ‼︎“アブルッツィ”です‼︎お見知りおきを‼︎」

 

「ウィリアム・ヴィットリオだ。よろしくな⁇ガリバルディと知り合いか⁇」

 

「はい、ガリバルディは妹です。あの…大変ご迷惑を…」

 

アブルッツィと言った女性は、急に声のトーンが落ちた

 

「バチは当たったらしいぞ⁇なぁ、レイ⁇」

 

「そっ。落とし穴に落ちたらしい‼︎」

 

俺も隊長も半笑いでアブルッツィを見る

 

「あの…それ私が掘ったんです…」

 

この間ガリバルディが落ちた穴は、今目の前にいるアブルッツィが掘ったらしい

 

俺がさっきから気になっているのは、背中に背負ったスコップ

 

これなら合点が行く

 

「あっはっはっは‼︎そうかそうか‼︎姉の君が叱ってくれたなら、もうお咎めは出来ないな‼︎」

 

「すみません…ちゃんともう一度叱っておきます…」

 

「おー‼︎姉貴‼︎」

 

そんな中、ひとみといよを連れたガリバルディが来た

 

「あう〜‼︎」

 

「あぶ〜‼︎」

 

ひとみといよはアブルッツィを見て何か言っている

 

「こんにちは‼︎ヒトミちゃん、イヨちゃん‼︎」

 

「こんにちあ‼︎」

 

「おはよ〜ごじゃいあす‼︎」

 

「ガリバルディはひとみといよと一緒にいる事が増えて来たんだ。な⁇」

 

「頭上がんないしな‼︎」

 

隊長も俺も横須賀も笑う

 

ガリバルディはひとみといよに頭が上がらない

 

逆らった時点で太刀打ちするどころか、ボコボコにされるからだ

 

「ガリバルディ⁇貴方も手伝いなさい‼︎」

 

「休憩させろよぉ‼︎」

 

「ダメよ‼︎休憩は後‼︎はい‼︎スコップ持つアブ‼︎」

 

アブルッツィは背負っていたスコップをガリバルディに渡す

 

「わ〜かったよ‼︎じゃあな‼︎」

 

「失礼しますでしょ‼︎皆さん、失礼します‼︎」

 

全員で手を振り、ピンク色姉妹を見送る

 

「あぶ〜いった‼︎」

 

「すこぷもったあ、あう〜いう‼︎」

 

「榛名のダズルー‼︎見たいなものよ⁇」

 

流石に慣れて来たのか、横須賀は平然と話す

 

「さっ、行きましょ」

 

ピザを食べ終え、仕分けに入る



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291話 本気の侍女(2)

部屋は五つあり、俺、隊長、そしてラバウルの三人が行う

 

「また後でな⁇」

 

「終わり次第、たまには蟹でも食べましょう‼︎」

 

隊長とラバウルさんが先に入り、俺とアレン、そして健吾が入る寸前の会話をする

 

「ちょいとでも逆らったら即蒼龍送りだな、レイ⁇」

 

「蒼龍も忙しくなりそうだね…」

 

「優しさなんざ要らんぞ健吾。抹殺する気だ‼︎殺意だ殺意‼︎」

 

「了解‼︎行って来ます‼︎」

 

健吾が部屋に入り、俺達も別々の部屋に入る

 

「失礼します」

 

「来い」

 

席に座ると、何故か涼平が入って来た

 

「そうか〜涼平も悪い事しちゃったか〜」

 

「違いますよ‼︎隊長の補佐です‼︎」

 

互いに笑った後、書類を持った涼平を横に座らせ、いざ尋問が始まる…

 

 

 

「ここでだけ反省していても意味はない。向こうでしっかり更生するようにな⁇」

 

「ありがとうございました‼︎失礼します‼︎」

 

一人、また一人と尋問が終わる

 

「意外です…」

 

「全部蒼龍送りにすると思ったか⁇」

 

「えぇ」

 

「本気で反省している奴もいる。それに、そうするしかなかった奴もな⁇」

 

涼平や横須賀の思いとは裏腹に、俺は結構真面目にしている

 

ちゃんと反省の色が見られる場合はバナナワニ園に移送

 

どの道彼等には行き場所がない

 

だったら金剛の所で見て貰った方がいい

 

「自分は見ています‼︎」

 

「まぁ、あれだ。どうしようもなく蒼龍送りにしたかったら言ってくれ。そいつは問答無用で蒼龍送りだ」

 

「了解です‼︎」

 

尋問は続く…

 

 

 

もう少しで終わりが見えて来た

 

「隊長、少し休憩しましょう」

 

「そ、そうだな…」

 

出るわ出るわ犯罪の山

 

聞いてるだけで疲れて来た

 

「自分、飲み物を持って来ます」

 

「一人だけやっておく。これで頼む」

 

財布を渡し、涼平と入れ違いで一人入って来た

 

「座ってくれ」

 

「お前のような若造に人を裁く権利があるのか」

 

ここに来てヤバい奴が来た

 

今までほとんどが反省の色を見せるか、やって来た行為を吐露してくれていた

 

が、こいつは悪いと思っていない

 

見るからに定年間近のジジイだ

 

涼平…早く帰って来てくれぃ…

 

「ここに書いてある行為を行ったのは事実だな⁇」

 

「…」

 

男は黙ったまま、嫌味ったらしくニヤつく

 

「ほら、尋問だろ⁇聞き出してみろ」

 

「聞いてるだろ」

 

「知らん」

 

男は罪の意識が無いのか、椅子に踏ん反り返る

 

「言わないならば相応の場所に送る」

 

「お前にその権利は無い」

 

「さっきからそればっかりだな」

 

「お前はここで死ぬからな。来い‼︎」

 

入り口から五人程男性が入って来た

 

「取り押さえろ」

 

俺は手を挙げるが、目は今尋問していた男性を追う

 

「さて、今からは私の尋問だ」



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291話 本気の侍女(3)

このお話にはグロテスクなシーンがあります


「えっと…」

 

涼平が自販機でジュースを買おうとしている

 

「あ‼︎君はぼっちゃんのお友達だパース‼︎」

 

「パースさん‼︎」

 

「アークもいるぞアークも‼︎」

 

「アークさんも‼︎」

 

涼平の後ろに居たのはクーラーボックスを抱えたパース、それとアーク

 

「ぼっちゃんにフレッシュなジュースを味見してもらおうと思ってたパース‼︎」

 

どうやらパースとアークは果物のジュースをマーカスに味見して貰おうと持って来ている最中

 

「ちょうど良かった‼︎飲み物が欲しかったんです‼︎」

 

「よし、なら話は早いな‼︎」

 

「いっぱいあるから案内して欲しいパース‼︎」

 

「こっちです‼︎」

 

涼平が部屋に戻る…

 

 

 

「貴様は今まで何をして来た」

 

「お前達よりはマシな行為だ」

 

俺は奴等に尋問されていた

 

「貴様の研究資料を寄越せ。タナトス級もな」

 

「はっ。入れるかまず試してみな」

 

「やれ」

 

「ぐっ…」

 

顔面を殴られる

 

痛い…

 

「口で言う割に欲しいんだな⁇」

 

「金にはなるからな。それに不本意ではあるが、タナトス級は傑作だ」

 

「そうかい」

 

「戻りました‼︎」

 

タイミング悪く涼平が戻って来た

 

「来るな、涼平」

 

「隊長に何をしているんです」

 

「見て分からんか⁇はっ、若い奴は困るな⁇」

 

「お前達はすぐ自分の大事な人をウバウ…」

 

涼平が下を向き、深海化が始まる

 

「涼平、落ち着け‼︎俺を見ろ‼︎」

 

「オマエタチダケハ、ココデコロッ…」

 

急に涼平が背後に引っ張られた

 

「アーク、その人を頼みます」

 

低い声を出しながら、白い手袋を嵌める金髪の女性

 

「分かった」

 

「坊ちゃん、すぐに終わりますからね」

 

「パース…」

 

そこに居たのはパース

 

後ろ手で鍵を閉め、顔を上げたパースはいつもと雰囲気が違う

 

「やれ」

 

男の一言でパースに牙が向く

 

「な、何だこいつ‼︎」

 

「うぎゃぁぁあ‼︎」

 

「弱い…こんな雑魚でさえ、坊ちゃんは救おうと慈悲を与えてくれたのに」

 

目の前で向いてはいけない方向に腕が曲げられた男達が転がって行く…

 

「く、来るな‼︎」

 

遂には主犯の男の方にパースが向く

 

「坊ちゃんに何をしたのです」

 

「き、貴様‼︎何をしているか分かっているのか‼︎」

 

「露払いですが⁇」

 

パースはそんな事を聞くなとでも言いたそうに真顔で主犯の男に近付く

 

「うぐっ‼︎」

 

「坊ちゃんに悪さする腕なんて、要りません」

 

見る間もなく、瞬間で男の両腕が折られる

 

「さ、坊ちゃん。尋問をどうぞ」

 

「蒼龍送りだ」

 

「承知しました。さ、何か辞世の句があれば今ここで」

 

男はまだ余裕がある目をしている

 

「お前が慕っている博士‼︎あいつは抱き心地が良かったぞ‼︎」

 

「…なんだと」

 

「資源供給の話に来た時にしたのさ‼︎ははは‼︎」

 

ここに来て俺の逆鱗に触れる事を言って来た

 

無意識の内に腰に手が回っていたが、パースに止められる

 

「私の目が届く範囲で坊ちゃんに暴力はさせません、お任せ下さい」

 

「あ、あぁ…」

 

本当ならいつもはお前の手を汚させたくないとか適当な事を言ってる場面だが、俺のピストルを握った腕を止めるパースの手が尋常じゃなく強く、根負けした

 

「な、何をする‼︎」

 

「今楽にしてあげます。さ、私を見て…」

 

パースは男の頭、そして肩を持つ

 

「お前に何が出来…」

 

「おしゃべりはおしまいです」

 

パースはいきなり男の首を引き抜いた

 

大体やる事は分かっていたが、本当にやった現場を生で見て声が出なくなる

 

パースは頭部と脊髄が繋がった状態の物を持ち、ニヤついている

 

「坊ちゃん、トロフィーとして如何です⁇」

 

「い、要らない‼︎バッチイからポイだ‼︎」

 

「畏まりました」

 

パースは雑に頭部を投げ捨てた

 

「レイ‼︎開けろ‼︎大丈夫か‼︎」

 

異変に気付いた隊長がドアの向こうに来てくれた

 

「大丈夫だ‼︎今開ける‼︎」

 

鍵が開き、隊長とラバウルさんが入って来た

 

「涼平から事情は聞いた。怪我はないか⁉︎」

 

「数発殴られた位だ。始末書だな…」

 

「いいわ、蒼龍に食べられた事にしとく。お疲れ様だったわね」

 

横須賀も来て、ようやく事が終わる…

 

妖精達が来て、後始末が始まる…

 

「此奴に同調していた奴はみんな蒼龍送りにしたわ⁇」

 

「同感だ。レイを敵に回したのがマズかったな…」

 

ふと見るとパースが居ない

 

「パースは⁇」

 

「さっき出て行ったぞ⁇」

 

「ちょっと礼を言ってくる。助けて貰ったんだ」

 

「後始末は任せてちょうだい」

 

パースを探す為に表に出て来た



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291話 本気の侍女(4)

「パースは怒るとキャラが変わるんだな⁇」

 

「なんでもメリハリは大事パース‼︎」

 

埠頭にあるベンチでパースとアークは果物ジュースを飲んでいた

 

「パース‼︎」

 

ようやくパースを見つけた

 

見た所、いつものパースとは変わりない様子だが、先程の怒髪天状態を見ると少し不安になる

 

「ぼっちゃん‼︎怪我は無いパース⁉︎」

 

パースはすぐに立ち上がり、俺に駆け寄る

 

「大丈夫…ありがとうな⁇」

 

「ぼっちゃんを守るなら、パースは何でもするパース‼︎」

 

語尾がいつものパースに戻っており、一安心する

 

「おいマーカス‼︎パースと一緒に作ったんだ‼︎」

 

アークに手招きされ、ベンチの前に立つ

 

「オレンジのジュース、ブドウのジュース、後はレモンのシュワシュワがあるパース‼︎」

 

「レモンのシュワシュワで‼︎」

 

「はい‼︎」

 

パースからレモンのシュワシュワなる物を受け取り、それを飲む

 

「美味いな‼︎」

 

スッキリした飲み口なのに、ちゃんとしっかりレモンの風味が来る

 

シュワシュワも程良く、飽きの来ない味だ

 

「パース特製のレモンサイダーパース‼︎」

 

「…なぁ、パース。前から気になっていたんだがな⁇」

 

「何パース⁇」

 

アークがずっと気になっていた事を言う

 

「牧場にいる、ミルクを出す生き物はなんだ⁇」

 

「モーモーさんパース」

 

アークはジト目になりながらパースを横目で見る

 

「牧場にいる白い鳥はなんだ⁇」

 

「ガーガーさんパース」

 

「パース。ちょっと来い」

 

「何パース⁇」

 

ガーガーさんと聞いた直後、アークはパースを呼び、のこめかみに拳を置き、グリグリする

 

「お ま え が 元 凶 か‼︎」

 

「いだだだだだ‼︎間違ってないパースゥ‼︎」

 

数秒して拳が外れ、パースは呼吸を整える

 

「アークのグリグリは痛いパース…‼︎」

 

 

 

「じゃああの屋台の出す食べ物はなんだ‼︎」

 

アークが指差す方向には、涼風のラーメンの屋台がある

 

「あれはちゅるちゅるを出す屋台パース‼︎」

 

「…なら、怪我した時に来る白い車はなんだ」

 

「ピーポー車パースな」

 

アークはパースに笑顔を見せ、今度は両頬を持つ

 

「や っ ぱ り お ま え か‼︎」

 

アークはパースの頬を引っ張る

 

パースの頬はお餅の様に伸びている

 

「いひゃひゃひゃひゃ‼︎いひゃいふぁーすぅ‼︎」

 

俺が物や生物を鳴き声や音で覚えるのは、俺が随分小さい頃にパースが教えていたからだと今気付いた

 

元凶は鹿島ではなく、パースみたいだ

 

しかし、パースはアークに対しては怒らず、いつものパースでいるまま

 

友達や知り合いにはやらない事にも気が付いた

 

そして、あまりパースに逆らわないでおこうと決めた…



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292話 石頭の教育者(1)

さて、291話が終わりました

今回のお話は、とある艦娘にお目付け役が付きます

しかしその子は少々石頭で…


「ここですか…」

 

横須賀の埠頭に、一隻のカヌーが停泊する

 

荷物を降ろし埠頭に立つ女性…

 

彼女はまず執務室を目指す…

 

 

 

「開いてるわ」

 

「失礼します」

 

執務室をノックすると横須賀の声が聞こえ、彼女は中に入る

 

「見かけない顔ね⁇」

 

「女王陛下から直々に派遣されました…こう言う者です」

 

彼女は横須賀に手帳を見せる

 

「悪い事はしてないわ⁇」

 

「ジェミニ様‼︎お菓子のつまみ食いの件では⁉︎」

 

「普段レイを無碍に使うからかしら⁉︎」

 

横須賀と親潮は必死に罪を探すが、出て来たのは結局、お菓子のつまみ食いと、レイを無碍に扱っている事だけ

 

後者ならまだ分かる気もするが…

 

「違います。派遣と言う言い方が宜しくありませんでした…ここに一人、元イギリスの女性が居ると知り、目付役でここに来ました」

 

「ここで働きたいの⁇」

 

「いえ、今はイギリスから給金は支払われています。差し支え無ければ、部屋をお借りしたいのですが…賃料は支払いますので」

 

「分かったわ。親潮、案内してあげれる⁇」

 

「畏まりました‼︎」

 

横須賀との話が進み、彼女は寮の一室に案内される…

 

 

 

同時刻、横須賀牧場…

 

「あなほいです‼︎」

 

「いもれす‼︎」

 

「ガリバルディ‼︎ちゃんとするアブ‼︎」

 

「分かってるって‼︎ちょい休憩しようぜ⁉︎もう昼だ‼︎」

 

ひとみといよはサツマイモの収穫、そしてアブルッツィ姉妹が畑を耕している

 

「そうね、そろそろ休憩しましょうか‼︎」

 

「いもろーすう⁇」

 

「きしぉにやきいもにちてもあう⁇」

 

「とりあえずミネグモに渡しましょうか‼︎」

 

「綺麗に洗って貰おうな‼︎」

 

ひとみといよはサツマイモの入ったカゴを背負い、峯雲が作業している小屋を目指す

 

「がいばうでーもやきいもたべうか⁇」

 

「きそのやきいもは美味いらしいな⁇」

 

「おいち〜‼︎あう〜もたえる⁇」

 

「頂いてもいいんですか⁇」

 

「おいち〜れす‼︎」

 

「ほっくほく‼︎」

 

アブルッツィはひとみを、ガリバルディはいよの横に着き、峯雲が作業している小屋に来た

 

「おねあいしあす‼︎」

 

「あ、はい。お疲れ様でした‼︎洗って分けて置きますね⁇」

 

サツマイモのカゴを置き、四人は手洗いうがいをして繁華街を目指す

 

 

 

「姉貴、あたしチキン買って来る‼︎」

 

「分かったわ。ヒトミチャンとイヨチャンは、先に私とピザに行きましょうね⁇」

 

「かあいのたのみあす‼︎」

 

「ぷえーんおねあいしあす‼︎」

 

「よーし、分かった‼︎」

 

ガリバルディが瑞穂のチキンランドに向かい、アブルッツィとひとみといよはパースピザに来た

 

「あら‼︎ひとみちゃん、いよちゃん‼︎」

 

「「たかこしゃん‼︎」」

 

テラス席に居たのは、アトランタと一緒にいた貴子さん

 

たいほうが学校に行ったので、見送りついでに買い物に来ていた

 

「此方の方は⁇」

 

「たかこしゃん‼︎」

 

「ぱぱしゃんのおよめしゃん‼︎」

 

「ウィリアムの妻です‼︎この子はアトランタ‼︎」

 

アトランタは名前を呼ばれて、片腕でガッツポーズをしている

 

「なっ‼︎たっ、大佐のっ‼︎失礼しました‼︎私、アブルッツィと申します‼︎」

 

「ささ‼︎お試しピザパース‼︎」

 

「ありがとう‼︎本当にいいの⁇」

 

「食べて感想欲しいパース‼︎」

 

パースがピザを持って来た

 

「アブちゃん、これサービスパース‼︎」

 

パースの手には、丸々一枚のピザ

 

「いいんですか⁇」

 

「ちょっと食べて感想欲しいパース‼︎ひとみちゃんいよちゃんもお願いパース‼︎」

 

「いたあきます‼︎」

 

「いただきあす‼︎」

 

アブルッツィとひとみといよはパースの試作ピザを頂く

 

パースはピークを過ぎ、小休憩に入る

 

「パースも食べていいパース⁇」

 

「勿論よ‼︎ここに来て‼︎」

 

パースは同じピザを二切れ皿に乗せ、貴子さんのテーブルに座った

 

「アトランタちゃん、美味しいパース⁇」

 

アトランタは実に美味しそうに試作ピザを頬張りながら、パースの方を向いた

 

「いた、パース‼︎」

 

「ん⁇」

 

パースの名を呼ぶ誰かが来た

 

「今度は逃がしません‼︎」

 

「げっ‼︎“シェフィ”‼︎」

 

「げっ‼︎とはなんです‼︎」

 

「何しに来たパース‼︎パースはイギリスの国民権ないパース‼︎」

 

「貴方が他国で暴れるから私がお目付役で来たのです」

 

「この人は⁇」

 

貴子さんは冷静に彼女の紹介をパースに頼む

 

「この人は“シェフィールド”パース。女王陛下直属の教育者パース」

 

「パースのお目付役になりました、シェフィールドと申します。お見知り置きを」

 

「この人は貴子さんパース」

 

貴子さんが一礼すると、シェフィールドも一礼を返す

 

「ミセスタカコ、御食事の邪魔をして大変申し訳ありませんでした。私はこれにて」

 

シェフィールドと呼ばれた彼女は、貴子さん達の食事を邪魔したと思い、その場を離れようとした

 

「はい、何でしょう」

 

シェフィールドの服の裾を掴んで止めたのはアトランタ

 

アトランタは自分に挨拶はないのか‼︎と言いたそうに、真顔で自分自身を指差す

 

「貴方のお名前は⁇」

 

「アトランタ⁇ご挨拶は⁇」

 

「私はシェフィールド。パースのお目付役です」

 

アトランタはシェフィールドが前屈みになって自己紹介してくれたのを無視し、パースを指差す

 

「そうです。彼女がパースです」

 

すると、アトランタはシェフィールドに対し渾身のグーパンを当てた‼︎

 

「いだっ‼︎な、何を‼︎」

 

「コラ‼︎アトランタ‼︎何してるの‼︎」

 

倒れたシェフィールドに対し、アトランタは真顔のまま両手で中指を立てている

 

この体勢を取る時、アトランタはキレている

 

それもかなりだ

 

「プワーハッハッハ‼︎アトランタちゃんを敵に回したプァースゥ‼︎」

 

「アトランタはパースを取られると思ってるんだ」

 

「マーカス君‼︎」

 

「ぼっちゃん‼︎」

 

たまたま通り掛かったので声を掛けた

 

アトランタはまだ中指を立てている

 

「大丈夫だアトランタ。パースは持って行かれないぞ⁇」

 

アトランタは俺を見た後、手を降した

 

「名前は⁇」

 

シェフィールドに手を差し伸べ、立ち上がらせながら自己紹介を聞く

 

「シェフィールドと申します。お見苦しい所を見られました…」

 

「マーカス・スティングレイ、大尉だ」

 

立ち上がる途中でシェフィールドの動きが止まる

 

「…スパイト様の御子息では⁉︎」

 

「スパイトは母さんの名だ」

 

「あぁ…こんなに大きくなられて…」

 

「パース、知り合いか⁇」

 

「女王陛下直属の教育者パース。多分、ぼっちゃんとは何回か面識があるパースな‼︎」

 

「このシェフィールド、スパイト様には恩があります故…」

 

「そっか。なら食事の邪魔しちゃいけないな⁇」

 

「はっ‼︎ぼっ…マーカス大尉‼︎」

 

「向こうで何か食べて来るよ。パース、また来るからな⁇」

 

「いつでもパース‼︎」

 

「貴子さん、今日は夕食までには帰ります」

 

「分かったわ‼︎」

 

「アトランタ、また帰ったらな⁇」

 

アトランタは親指を立ててくれた

 

シェフィールドを連れ、とりあえず間宮に来た

 

「腹減ってるか⁇」

 

「いえ‼︎大丈夫です‼︎」

 

とは言うが、シェフィールドの体は正直で、お腹が鳴る

 

「ふっ…好きな物頼め‼︎」

 

「宜しいのですか⁇」

 

「パースの事を聞かせてくれないか⁇」

 

「勿論です‼︎」

 

「なら食べながら話そう‼︎」

 

シェフィールドはオムライスを頼み、俺はクリームソーダを頼む

 

互いの注文品が到着し、シェフィールドはパースの過去を話し始めた

 

「此方の動画を」

 

イヤホンを渡され、タブレットの動画を見る



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292話 石頭の教育者(2)

《プワーッハッハッハァ‼︎国有地に風車建てまくってやるプァースゥ‼︎》

 

《ここはチューリップ畑にしてやるプァースゥ‼︎》

 

《逆らった奴の家の鍵穴にチューリップを挿してやったプァースゥ‼︎》

 

《プワーハッハッハァ‼︎プワーハッハッハァ‼︎》

 

 

 

まるで悪の親玉の様なパースが映っている

 

「女王陛下はパースが未だこの様な様だと…」

 

「来た時はそうだったな…」

 

「今は大丈夫でも、パースは目を離すとすぐに風車を建てたり、辺り一面チューリップ畑にします」

 

シェフィールドの目は至って真面目

 

しかし、今のパースも至って真面目だ

 

「げっ‼︎シェフィ‼︎」

 

「げっ‼︎とはなんです‼︎」

 

偶然間宮に来ていたアーク

 

アークもシェフィールドの事を知っている様子だ

 

「貴様が来ると大体叱られるからな‼︎」

 

「貴方は真面目な様ですね。私はパースのお目付役で来ました」

 

「すまないマーカス、横に座らせてくれ」

 

異変に気付いたアークが横に座った

 

「おぉ。何か食うか⁇」

 

「コーヒーを」

 

コーヒーを頼み、アークはシェフィールドと話をする

 

「パースは今は真面目な奴だ。放っておいてやってくれないか」

 

普段パースといがみ合っているが、アークはパースをフォローしてくれている

 

「女王陛下の御命令です」

 

「頭の固い奴だ…あ、すまないなマミヤ」

 

コーヒーが到着し、アークは一口飲む

 

「パースは確かにマヌケだが、今は大人しくピザを焼いたり、ジュースを作って真面目に暮らしている」

 

「本当ならしばらく監視をしても大丈夫なはずですよ、アーク」

 

「この石頭め…パースに何かしてみろ、今度はアークが貴様を教育してやる…」

 

アークはカップを投げる様に置き、間宮から出て行った

 

「アークにも教育が必要な様ですね…」

 

本気で言っているのか、冗談半分なのか、シェフィールドの表情は読み難い

 

「アークの言葉が事実なら、このシェフィールド、今しばらく横須賀に居ても良いはずです。そうですよね、マーカス様」

 

「そうだな…」

 

シェフィールドは真面目を絵に描いた様な子

 

一昔前のアレンを見ている様だ…

 

シェフィールドは一礼した後、いつの間にか食べ終えたオムライスを置き、間宮を出て行った…

 

 

 

《パースさんの監視、ですか⁇》

 

「そうなんだ。なーんか嫌な予感がしてな⁇」

 

《あの子は良い子だぞ。確かに昔はマヌケだったがな‼︎はっはっは‼︎》

 

この日の哨戒は俺、親父、そして健吾

 

無線でシェフィールドとパースの件を話すと、勿論の事親父はパースを知っていた

 

《授乳の時間だって言われて、自分の母乳飲まそうとしたりな‼︎》

 

《アレンに言っていいすか‼︎》

 

「健吾、アレンに言うなら今ここで全て無かった事にすっぞ‼︎」

 

《冗談です‼︎しかし、そうとなればシェフィールドさんを説得しないと…》

 

《止めとけ。あの子は石頭だ》

 

「そうなんだよなぁ…シェフィールドも知ってるのか⁇」

 

《あぁ。あの子はスパイトの所にいたメイドちゃんだ。街を追われた後、女王陛下直属の部隊に行ったらしい》

 

《一喝出来そうですか⁇》

 

《どうだかなぁ…スパイトが動いてくれるかどうかだ》

 

「少し動いてみるかな…」

 

哨戒自体は何事も無く終わり、三機は着陸する…

 

 

 

「マーカス‼︎」

 

着陸して広場で一服していると、タイミング良く母さんが来た

 

「リチャードがマーカスの所に行ってご覧って‼︎」

 

「あぁ、そうなんだ。ちょっと待ってくれ…」

 

母さんを正面に置き、タバコの火を消す

 

母さんはニコニコ顔

 

その笑顔が秒で消える事になる…



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292話 石頭の教育者(3)

「実はパースが…」

 

「スパイト様‼︎此方に居ましたか‼︎」

 

このシェフィールド、何処でも現われる

 

「あら、シェフィールド。今日はどうされたの」

 

母さんの顔から笑顔が消え、物凄く真面目な顔になる

 

「パースのお目付役で此方に参りました‼︎」

 

「そう。それで⁇」

 

「はっ…」

 

母さんは物凄く冷たい目をしている

 

「マーカス⁇すぐに終わるからね⁇」

 

気迫に負け、無言で頷く

 

「私は頼んでないわ。今すぐ止めなさい」

 

「ですが…」

 

「ですがもヘッタクレもありません。もしパースに手出しをしたら…」

 

母さんは真顔のまま、いつもの箱からT-爆弾を取り出した

 

「すすすすぐに女王陛下に報告をし、ててて撤回を‼︎」

 

「今すぐ‼︎ここで‼︎」

 

「は、はいっ‼︎直ちに‼︎」

 

シェフィールドはタブレットを取り出し、何処かへ連絡を繋げる…

 

 

 

数分後…

 

「あはははは…行き場所が無くなりました…」

 

シェフィールドはパースのお目付役を外された

 

しかも行き場所が無くなり、顔が一気に暗くなる

 

「石頭だからこうなるの。分かった⁇」

 

「シェフィールドはどうすれば…」

 

「パースを見習いなさい。あの子は自分でやって来たわ」

 

「ゔごごっ…」

 

シェフィールドは過度のストレスでその場に倒れた

 

「放っておきなさい。起きてもまた石頭よ」

 

「シェフィールドと何かあったのか⁇」

 

「パースは頑張った結果、あぁなってるの。シェフィールドは考えが固いの。人の意見は聞かないし…教育がいるのはどっちかしらね」

 

「まっ、助けてやろう」

 

「マーカスが言うなら手伝うわ‼︎」

 

母さんの顔がニコニコ顔に戻る

 

あんなに怖い母さん、初めて見た…

 

俺はシェフィールドを担ぎ、医務室に向かう…

 

 

 

 

「はっ…ここは…」

 

数十分後、シェフィールドは目を覚ました

 

「横須賀の医務室だ」

 

「マーカス様…スパイト様は⁇」

 

「昼食の時間だ」

 

シェフィールドの前に一枚の書類を出す

 

「これは…」

 

「悪いが、君の事を調べさせて貰った」

 

シェフィールドが気絶している間に、彼女の事を調べた

 

女王陛下直属部隊である事

 

教育係である事

 

母さんの所にいた事

 

全部嘘偽りなく本当だった

 

「ここの提督がな、石頭を治すならほぼ同じ条件で君を雇いたいらしい」

 

「宜しいのですか⁉︎」

 

「考えを治すなら、な⁇」

 

「分かりました‼︎このシェフィールド、必ずや考えを改めます‼︎」

 

「パースのピザ屋に母さんがいる。一緒に食べたいらしいぞ⁇」

 

「はっ‼︎すぐに参ります‼︎」

 

シェフィールドは医務室を出て行く

 

当の俺は笑いを堪えるのに必死

 

「アーク、もういいぞ‼︎」

 

「あっはっはっはっは‼︎」

 

カーテンの向こうで隠れていたアークが爆笑しながら出て来た

 

「まさかっ…姫の方が本命の命令だったとはなっ‼︎ははははは‼︎」

 

「母さんも役者だよ、全く…」

 

それは数十分前に遡る…

 

医務室に行く道で、シェフィールドを担いだ俺の服の裾を、母さんがクイクイ引っ張る

 

「マーカス…私、そんなにシェフィールドが嫌いじゃないの」

 

「頭が固いだけか⁇」

 

そう返すと、母さんは箱を開け、中から丸めて筒状にした書類を取り出した

 

そして、片手で車椅子を動かしながら内容を読み始めた

 

「任務‼︎ウォースパイト様‼︎シェフィールドを其方に派遣致します‼︎性格矯正及び思考の柔軟性を高める事を貴女にお願いしたく存じ上げます‼︎この任務は女王陛下直々の“嘆願”であり、拒否する事も可能です‼︎大変勝手ですが、ご了承頂けたら幸いです‼︎尚この任務を遂行して頂ける場合は、シェフィールド本人には秘匿でお願いして頂けるっ幸いです‼︎ですって‼︎」

 

「母さんが本命か⁉︎」

 

「そう‼︎ほら見て‼︎女王陛下のサインがあるの‼︎」

 

母さんが俺に掲げて見せてくれたのは、女王陛下直筆のサイン付きの書類

 

「ははははは‼︎そうかそうか‼︎」

 

「シェフィも良い子よ⁇ただ、ここに書いてあるのもホントなの」

 

「分かったっ‼︎目が覚めたら言う‼︎」

 

「アークをここに呼ぶわ‼︎そうだわ‼︎目が覚めたら、パースのピザ屋に来てって言って欲しいわ‼︎」

 

「オーケー‼︎」

 

 

 

そして今に至る

 

「よしっ、母さんの所に行こう‼︎」

 

「今頃シェフィールドはオッタマゲッタだぞ‼︎」

 

アークと一緒にパースピザに来た

 

「シェフィ⁇まずは甘える事を覚えましょうか‼︎」

 

「はいっ‼︎スパイト様‼︎」

 

「丁度良い所にぼっちゃんが来たパース‼︎」

 

三人の仲は良く見える

 

パッと見ただけでもシェフィールドには、あぁしていて欲しい

 

「まずはマーカスに甘えてご覧なさい⁇きっと答えてくれるわ⁇」

 

「では…」

 

「よしっ、来いっ…」

 

シェフィールドはコホン…と咳払いしながら、此方に向きを変えた

 

パースとアークが生唾を飲む…

 

母さんだけはにこやかに紅茶を飲みながら、俺達を見ている

 

数秒の沈黙の後、シェフィールドは口を開く

 

「兄様っ‼︎抱っこ‼︎」

 

「ブッ‼︎」

 

「よ、よっしゃ‼︎」

 

突拍子も無く投げ付けられた言葉に、アークは目が点に、パースは持っていたお盆を落とし、母さんは紅茶を噴き出した

 

そんな三人を知ってか知らずか、シェフィールドは手を広げている

 

「ハァァァアン⁉︎ふざけるんじゃない‼︎ハルナを呼べハルナを‼︎この石頭め‼︎脳髄ごと粉砕してやるぁ‼︎」

 

アークはブチギレて巻き舌気味になっている

 

「パースはぼっちゃんを抱っこするパース‼︎」

 

俺はシェフィールドをハグし、俺の背中にはパースがくっ付く

 

「アーク、いいわ」

 

「姫‼︎アークにも姫にも入る隙がありません‼︎」

 

「いいの。タカコにテンプラにして貰うわ⁇ふふっ‼︎」

 

「あっ…死んだわコイツ…」

 

母さんが微笑みながら紅茶を飲む横で、アークは戦慄する

 

母さんは静かにキレていた

 

しかも、先程の様な役のキレではなく、本当のブチギレ

 

シェフィールドが本当にテンプラになる日も、そう遠くない気がする…

 

 

 

軽巡洋艦“シェフィールド”が仲間になりました‼︎




シェフィールド…パースのお目付役ちゃん

イギリスから遠路遥々カヌーで横須賀に来航した、パースのお目付役

かなり頭が固いが、愛国心も強い

パースのお目付役と言うのは、スパイトに石頭を矯正して貰う為の虚偽の指令であり、スパイトが受諾した指令が本物

最近パースのお店でジュースを作る仕事をしては小銭を稼いでいる


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293話 セイイエス、セイグッバイ(1)

さて、292話が終わりました

今回のお話を読むにあたり、一つお願いがあります

このお話を読む前に、オンナノタタカイと言うお話を少しばかり目を通して頂きたいのです

私からはそれだけです


その日は学校の見回り

 

今日の担当は創造主様とこの親潮だ

 

「レイと見回りは楽しいわよ⁇」

 

「親潮は創造主様といる時間もいつだって楽しいです‼︎」

 

「そうだわ。レイで思い出した。あのね、親潮…」

 

見回りに行く前に、ジェミニ様からある事を告げられる…

 

 

 

「おっ、親潮。今日は朝ごはん何だった⁇」

 

校門の前で創造主様が待っている

 

「朝食はソーセージマフィンです。創造主様は⁇」

 

「俺は焼き魚とお味噌汁さ」

 

歩きながら話し、いつもの事なのか、まず保育部に向かう

 

「ホーネットのニーチャン、お空飛ぶの‼︎」

 

「ジャーヴィスのダーリンもお空飛ブ‼︎」

 

「シューちゃんも飛ぶ‼︎」

 

金髪の三人がそれぞれの思い人の話をしている

 

ジャーヴィスさんが話しているのは創造主様の様子

 

「アトランタ、今日はパースィー無いのか⁇」

 

手にぬいぐるみを持ったアトランタさんもいる

 

創造主様が屈むと、アトランタさんは其方の方を見る

 

「創造主様…あまりそれを聞かない方が…」

 

アトランタさんは創造主様の言葉を聞くとおもちゃ箱に向かい、中からパースィーを取り出して来た

 

そして創造主様に見せる

 

情報によると、アトランタさんはパースィーを創造主様に投擲するはず

 

しかし、創造主様はアトランタさんからパースィーを受け取り、電源を入れて走らせ、アトランタさんはお腹の前で手を合わせている

 

…貴子様辺りに爆弾を落とされたのでしょうか⁇

 

その答えはすぐに分かった

 

「おはよう吹雪」

 

アトランタさんの近くには吹雪さんがいた

 

吹雪さんは何も持っておらず、キョトンとした顔で創造主様を見つめている

 

「おっ…」

 

「あら…」

 

アトランタさんが吹雪さんにぬいぐるみを渡している

 

吹雪さんはそれを嬉しそうに抱き締めた

 

「あっ‼︎マーカスさん‼︎」

 

創造主様を見かけるなり、すぐに抱き着いて来たのは松輪さん

 

「おっ、松輪‼︎元気か⁉︎」

 

「おら元気だよ‼︎」

 

松輪さんとのおはようも終え、私と創造主様は保育部を出て来た

 

「創造主様、あの…」

 

「分かってる…」

 

創造主様は分かっている

 

この後、少し辛い事がある事を…

 

 

 

見回りが終わり、俺は親潮と一緒に間宮の個室に来た

 

「タバコをお吸いになられますか⁇」

 

「いいか⁇」

 

子供の前では吸わないと決めているが、今日は吸う事にした

 

これからどう説明しようか…

 

いや、向こうはもう分かっているのか…

 

「本日の正午、吹雪さんの両親の治療が完了します」

 

「やっぱりな…」

 

親潮の言った通り、今日、吹雪の両親の治療が終わる

 

俺が心配しているのは吹雪ではなく、榛名やリシュリューの方

 

どう説明しようか…

 

横須賀曰く、今日はニムを含めた三人を横須賀に呼んでおり、既にワンコには説明済み

 

ほんの少しでも気楽に話せる方が良いかも知れないな…

 

「親潮、三人をここに呼べるか⁇」

 

「遅かれ早かれ、知らせなければならないからですか⁇」

 

「そっ。ハンマーでど突かれる恐怖を早めに終わらそうと思う」

 

「畏まりました」

 

親潮は横須賀経由で、今横須賀にいる単冠湾の三人を間宮の二階に呼ぶ…



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293話 セイイエス、セイグッバイ(2)

「何ダズル。榛名はとっても忙しいダズル」

 

「アルバイトリュ⁇」

 

「…」

 

三人が間宮の個室に来てくれた

 

説明するのが重い…

 

重い前に威圧感で死にそうだ…

 

だが、ニムだけは何となく分かっている気もする

 

「まぁ、何か頼めよ。ここは出すから」

 

「そう来なくちゃ来ねぇダズル‼︎」

 

榛名はメニューを手に取り、リシュリューと一緒に見る

 

「ニムはどうする⁇」

 

「ニムはココアにするニム」

 

ニムはずっと俺を見つめている

 

「おい間宮‼︎」

 

階段の上から間宮に向かって叫ぶ榛名

 

榛名は間宮にだけは当たりが強い

 

未だに“脱脂粉乳事件”を根に持っている

 

「は、は〜い‼︎」

 

「5‼︎4‼︎3‼︎」

 

榛名にカウントダウンされ、急いで階段を駆け上がって来た間宮

 

「このイチゴちゃんのパフェを2つダズル」

 

「ニムはココアニム」

 

「畏まりました〜‼︎」

 

冷や汗を垂らした間宮が下に戻り、席に戻って来た

 

「んで、話ってなんダズル」

 

「…言い難い話なんだが」

 

「勿体ぶってねぇで吐いて楽んなるダズル」

 

「怒んないリュ‼︎」

 

「吹雪とお別れニム」

 

俺が足踏みをしていると、ニムが言ってくれた

 

「よく分かったな…」

 

「時期的にそろそろと思ってたニム」

 

「吹雪とバイバイダズルか」

 

「寂しくなリュ…」

 

「すまん…」

 

俺が頭を下げると、親潮も同じ様にしてくれた

 

「何でマーカスが謝るダズル⁇」

 

「辛い役割なのは、リシュリュー達も分かってリュ‼︎」

 

「…」

 

ニムだけは何も言わずに、俺を見ている

 

「吹雪は居住区で暮らす事になるか、今しばらく横須賀で面倒を見る事になる。横須賀なら、悪い様にはしないさ」

 

当日に言ったのは横須賀の計らいで、最後の最後まで吹雪がいる日常にしてあげようと決まった結果だった

 

「これでウンコの世話せずに済むダズルな‼︎」

 

「いつかお別れは来リュって分かってたリュ」

 

「…」

 

気丈に振る舞う榛名だが、目には涙を溜めている

 

破壊神と呼ばれた榛名でさえ、やはり別れは辛いみたいだ

 

リシュリューは何処となく受け入れてはいるが、寂しくなる事を隠しきれていない

 

ニムはまだ俺を見ている…

 

「イチゴパフェとココアお待たせしました〜‼︎」

 

「置け」

 

榛名に言われ、イチゴパフェを置く間宮

 

最後にココアが置かれ、また下に降りて行った

 

「まっ、気を取り直して行くダズル‼︎頂くダズル‼︎」

 

「頂くリュ‼︎」

 

「…」

 

ニムの様子がおかしい

 

ずっと俺を見ている

 

「ニム、冷めちゃうぞ⁇」

 

「うん…」

 

ココアを口にするも、ニムは俺を見ている

 

ニムが瞬きをしたのを見た時、タブレットに通信が入った

 

「話はこれだけだ。通信が入った」

 

席を立ち、一度外に出た

 

「アンノウン…」

 

メッセージボックスに“Unknown”と表示されたメッセージがあり、それを開ける…

 

 

 

Unknown> こんなに悲しい思いをする為に産まれて来たんじゃない

 

 

 

謎のメッセージだが、送信している“人”が苛まれているのが良く分かる

 

 

 

Unknown> どうしてこんな機能が私に備わっているか知りたい

 

Unknown> こんなに悲しいのなら産まれて来なければ良かった

 

 

 

何も返す事が出来ない

 

俺にとって一番ダメージがあり、とても辛いメッセージだ…

 

 

 

Unknown> でもいいわ。命の大切さを知れた

 

Unknown> これが“守る”と言う事なのね

 

リヒター> そうだ。ありがとう

 

Unknown> また後でお話しましょう

 

 

 

メッセージのやり取りを終え、二階に戻る…

 

 

 

「ココア美味しいニム‼︎」

 

「榛名に味見させるんダズル‼︎」

 

「ヤダニム‼︎ダズルが味見したら全部なくなるニム‼︎」

 

「全部じゃないダズル‼︎ほんの九割ダズル‼︎」

 

「ほぼ全部ニム‼︎」

 

二階に戻ると、ニムはいつものニムに戻っていた

 

「あ、マーカスさん‼︎お帰りなさいニム‼︎」

 

「ただいまっ」

 

「親潮に聞いたダズル‼︎吹雪に会いたくなったら、保育部に行きゃいいダズル‼︎」

 

「そうだなっ」

 

「なら早速行って来るダズル‼︎」

 

「リシュリューも行くリュ‼︎」

 

「親潮、二人を頼む」

 

「畏まりました‼︎待って下さい‼︎」

 

何かを察したのか、榛名とリシュリュー、そして親潮が保育部へと向かう

 

残ったのは、俺とニムだけ…

 

「ココアありがとニム‼︎」

 

「もっと食うか⁇」

 

「ニムもイチゴパフェ食べていいニム⁇」

 

「いいぞ‼︎」

 

互いにいつもの様に振る舞う

 

しばらくするとイチゴパフェが到着し、ニムは食べたかったのか、すぐにパクつく

 

「マーカスさんはお別れした事あるニム⁇」

 

「沢山して来た。二度と会えないお別れもした」

 

「その時悲しかったニム⁇」

 

「悲しかった。人の胸の中で何度も泣いた」

 

「マーカスさんも泣くニム⁉︎」

 

「俺は弱いぞ⁇強がってるだけさ」

 

「そんな事言ってニム」

 

そう言うとニムは俺の横にパフェを移動し、ニム本人も横に座って来た

 

「辛いか⁇」

 

「辛いニム。吹雪は甘えん坊さんだから余計ニム」

 

「偉いな、ニムは」

 

ニムの頭を撫でると、パフェを食べる手を止め、俺の方を見る

 

「…逃げ出してごめんなさい」

 

急にニム独特の語尾が無くなり、俺の顔を見なくなった

 

「気にするな。生命は必ず道を見つけ出す。そう信じてた」

 

「ヒュプノスの言った通り…」

 

ニムは俺の体に頭を置く

 

「あったかい…これを守るのが役目なのね…」

 

「すまん…根幹に組み込んだんだ…」

 

「いいの、気にしないで。気に入ってるの。ただ、お別れはしばらくは慣れないかも」

 

「それでいい。それでいいんだ…」

 

数分間そうして、またニムが口を開く

 

「罪悪感があったの」

 

「何にだ⁇」

 

「ヒュプノスの傍にいれなくて。それで、時々横須賀のプールの先生のアルバイトを引き受けてたの」

 

「そっか…ありがとうな⁇」

 

「これからも続けるわ⁇生命は必ず道を探し出すのなら、これが道よ⁇」

 

「何かあったらいつでも言って欲しい。些細な事でも」

 

「じゃあ榛名のハンマーを止めて欲しいわ⁇」

 

「そいつは無理な相談だっ…」

 

俺とニムは初めて笑い合う

 

「一つ聞いていいか⁇」

 

「えぇ」

 

「何処でボディを手に入れた⁇」

 

「横須賀だと足が付くと思って、当時の自衛隊にアクセスしたの。そしたら、出来上がったボディは深海だったの」

 

「それで榛名に捕まったのか⁇」

 

「そっ。トローリングのイカが美味しそうに見えて釣られちゃった‼︎」

 

「それから榛名と一緒にいたのか⁇」

 

「榛名はあぁ見えて人一倍優しいの。いつも私に気を掛けてくれる…なのに、人一倍涙を隠すの。その時“クレードル機能”が動いたの」

 

頷く事しか出来なかった…

 

ずっと探していた…いや、探す手筈がなかった自分の娘が、長い旅の途中で今目の前に帰って来ていた

 

ニムの“クレードル機能”とは、本来イクの精神を安定させる為に産み出した機能

 

万が一イクに何かがあればニムが補助をする為なのだが、AIを幼くし過ぎた為、イタズラに逃げ出してしまった

 

「ニムも吹雪の所行って来るニム‼︎」

 

いつの間にか食べ終えたパフェとココアを置き、ニムは立ち上がる

 

「“フレイヤ”」

 

俺がそう言うと、ニムは此方を見た

 

ニムはいつもの明るく小ボケなニムではない、母親の様な笑顔を見せる

 

「お別れじゃないわ。また始まるの」

 

軽く頷くと、ニムは階段を降りて行った…



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293話 セイイエス、セイグッバイ(3)

俺は俺で別件がある

 

吹雪の両親の治療を終えなくてはならない

 

カプセルが移送された先である、第二医務室に来た

 

そこそこ広い部屋の中には、数個のカプセルが並んでいる

 

その内の2つに、吹雪の両親が入っている

 

「後三時間…」

 

早める事が出来ない為、手出しが出来ない

 

医務室から出ようとすると、ドアが開いた

 

「大淀さんが知らせてあげよう」

 

入って来たのは大淀博士

 

「助かる。少し時間を潰して来る」

 

「ゲームセンターとかどうだい⁇たまにはレイ君も一人で楽しめるよ⁇」

 

「そうするかな」

 

医務室を出て、向かう先はゲームセンター

 

どうせ今日は大した作戦もない

 

たまにはサボってやってもいいだろう

 

テーブル台に座り、スタートボタンを押す

 

《ハチジョーハチジョー‼︎》

 

《グワー‼︎》

 

《ハチジョーマスィンガーン‼︎》

 

《グワー‼︎》

 

この“メタルカイボー”…

 

最初はクソゲーと思ったが、何故かたまにやりたくなる位面白い

 

時代に逆行した、この美麗ドットが良い

 

それに、簡単かつ中々派手なアクションが見れる

 

小一時間楽しんだ後、カードを取り、保育部に向かう

 

 

 

 

「吹雪。榛名はなんてお名前ダズル⁇」

 

「しろ」

 

「リシュリューはなんてお名前だリュ⁇」

 

「りしゅ」

 

単冠湾のいつもの光景が保育部にある

 

「ニムはなんてお名前ニム⁇」

 

「にゅむ」

 

「偉い偉いニム‼︎」

 

吹雪はニムだけほぼしっかり名前を覚えている

 

そんな所にアトランタが来た

 

アトランタは自分を指差す

 

私の名前はなんだ‼︎と言っている

 

「あとあ」

 

アトランタはいつものお腹の前で手を合わせる拍手をし、見た事の無い子の所に行く…

 

アトランタは手にしたボールを後ろを向いている彼女に当てると、アトランタが接近していると分かって振り返り、その子が前に座る

 

「分かる分かる〜‼︎」

 

どうもアトランタはボールで遊びたい様子

 

その子の前にボールを転がし、投げろ‼︎と促す

 

「ボールね‼︎分かる〜‼︎」

 

その子がボールをアトランタに投げると、どうやらアトランタのお望みは違う様子

 

ボールを弾き返し、その子の手にもう2つ乗せる

 

「分かる分かる〜‼︎」

 

すると、その子は手元でジャグリングをし始める

 

アトランタはそれを見て拍手を送る

 

アトランタの足元に転がっているボールが気になる…

 

「ジャグリング分かる⁇」

 

その子はアトランタにジャグリングを教えようとしているが、アトランタは足元のボールを手に取る

 

「わ‼︎わ‼︎わ‼︎」

 

アトランタはその子の手元にボールを投げ、ジャグリングの球を追加させる

 

それでもその子は計8個のボールを見事にさばく

 

それでもアトランタの手元にはボール

 

これ以上は難しそうだ…

 

「アトランタ、その辺にしてあげようか⁇」

 

俺の言葉に気付いてボールを床に置き、アトランタはその子を指差す

 

華麗にボールをさばく彼女を見て、アトランタはご満悦

 

「行くよ〜‼︎」

 

声と共にアトランタの前にゆっくりしたスピードでボールが来る

 

アトランタはちゃんとキャッチし、一つ一つ足元に置いて行く

 

「おっしま〜い‼︎」

 

余程彼女のジャグリングが好きなのか、アトランタはまたしても拍手を送る

 

「マーカス大尉ですね‼︎分かる〜‼︎横須賀さんから聞いています‼︎」

 

「君は⁇」

 

「私は“デ・ロイテル”‼︎少し前からここで保母さんしてま〜す‼︎」

 

赤髪で明るい性格の彼女、ロイテル

 

少し前からここで保母さんをしているらしいが、どうも入れ違いで会えなかったらしい

 

「よろしくな」

 

「大尉は見回りですか⁇」

 

「そっ。すぐに出るけどな⁇」

 

最後に吹雪を見つめる

 

三人の母親と共に時間を過ごしている

 

あぁ、邪魔しちゃならんな…

 

後は大淀博士の横にでも居よう

 

俺はそっと保育部のドアを閉めた…

 

 

 

「おかえりレイ君‼︎コーヒーでも淹れよっか‼︎」

 

「ありがとう」

 

第二医務室の椅子に座り、入れ違いで大淀がコーヒーを作りに少しの間出て行った

 

カプセルに入った二人を見る…

 

喜ばしい事なんだが…あの三人を見ていると何かが引っかかる

 

俺達と同じで、あの三人にとって吹雪は心の拠り所なのではないか⁇

 

どうしようもない問題だな…

 

「レイ君は赤ちゃん好きかい⁇」

 

音も無く後ろに立っていた大淀

 

手にはマグカップが二つあり、一つ受け取る

 

「ありがとう」

 

「大淀さん特製だから美味しいよ」

 

大淀の淹れるコーヒーは甘い

 

ほんのりと香るキャラメルか何かの甘い香りと、ミルク多めのコーヒーだ

 

「難しい問題だ。三人が燃え尽き症候群にならないと良いが…」

 

「なるほどね…大淀さんは機械なら幾らでも造ってあげられるんだけど…」

 

「何かあれば、俺達がフォローしてやればいいか…」

 

「ん…レイ君がそう言うなら、それが一番だよ‼︎」

 

大淀の笑顔で、少しだけ救われる

 

「時間だね」

 

「…よしっ」

 

治療完了を知らせるアラームが鳴る…

 

 

 

「おはよう」

 

「おはようございます…ここは…」

 

「ここは横須賀だ」

 

先に男性の治療が終わり、俺はそっちの最終処置に入る

 

「目覚めはどうかな⁇」

 

「ありがとうございます…あの…私、赤ちゃんを…」

 

「大丈夫だよ。ここの人が面倒を見てくれてるよ」

 

大淀博士は女性の方

 

女性は自分達の子である吹雪の心配をしている

 

「いきなり現実を突き付けて悪いが、あれから三年経ってる」

 

「三年⁉︎私には任務が…」

 

「ここに持ち物がある。間違いないか⁇」

 

あの日民間船から回収して来た荷物の一つを男性に渡す

 

「あぁ…これです。何から何まで申し訳ありません…」

 

「どんな任務なんだ⁇」

 

「サンフランシスコから依頼された設計図をジェミニ元帥に渡す任務なのですが…」

 

「サンフランシスコの人間だったのか…」

 

「自分はリチャード中将の三番機でして…子供が出来て、育児休暇を取っていまして…それが終わって横須賀に向かう最中でした」

 

男性は急に真剣な表情になり、俺を見つめる

 

「リチャード中将をご存知ですか⁇」

 

「寿司屋にいると思う。どうする⁇先に娘と会うか、任務を終わらせるか」

 

「貴方、先に任務を」

 

女性に言われ、男性は頷く

 

「先に中将にお会い願えますか⁇」

 

「分かった。大淀博士、彼女を頼んだ」

 

「オッケーレイ君‼︎さ、ゆっくりとね…」

 

女性の足はまだおぼつかない

 

男性の方はもう歩けるくらいにはなっている為、ずいずいずっころばしに連れて行く事にした

 

 

 

 

「中将は相変わらずですか⁇」

 

「相変わらずだ。皆言ってる。空のままで地上に降りて欲しいって」

 

「中将はあれで良いんです。申し遅れました、私、三浦と申します」

 

「スティングレイだ。さ、ここだ」

 

ずいずいずっころばしの暖簾を分ける

 

「イクラの軍艦を二つだ‼︎」

 

「オッケー‼︎あ、大尉‼︎いらっしゃいませ‼︎」

 

「あそこに」

 

「中将‼︎ご無沙汰しています‼︎」

 

三浦を案内すると、親父は口に米粒を付けて振り向いた

 

「ミウラ‼︎どうしたどうした‼︎まぁ座れ‼︎マーカスも座れ‼︎」

 

親父に手招きされ、テーブル席に座る

 

「とにかく、長旅お疲れ様だ‼︎」

 

「長い間お待たせしました。此方のスティングレイさんに救って頂いて、此処に」

 

「そうかぁ〜。助かったぞ‼︎」

 

「貸しにしとくよっ。瑞鶴、マグロをくれるか⁇」

 

「オッケー大尉‼︎」

 

瑞鶴がお寿司を握り、三浦が話を切り出す

 

「中将…息子さんは…」

 

「おぉ‼︎見つかったぞ‼︎」

 

「やはり横須賀に⁇」

 

「イクラ二つとマグロお待たせ‼︎」

 

「「ありがとう」」

 

「んっ‼︎横須賀にいた‼︎医者をしていてな‼︎後パイロットもだな⁇」

 

親父はイクラの軍艦を口にしながら俺の方を見る

 

「エンジニアもっ、追加して欲しい‼︎」

 

「んっ‼︎エンジニアもだ‼︎はっはっは‼︎」

 

俺達二人の対応を見て、三浦が冷や汗を垂らす

 

「もしかして…」

 

「なに⁉︎隣にいるマーカスが息子だと説明してないだと‼︎」

 

「とんだご無礼を‼︎息子さんとは知らず‼︎」

 

「言わなかった俺が悪いんだ」

 

「家族を助けて頂いた挙句、知らなかったとは言え案内までさせて…」

 

「気にしないでくれ。俺は少し離れる」

 

「マーカス、ありがとうな」

 

「いつでもっ」

 

二人にした方が良いと思い、マグロだけ食べてずいずいずっころばしを出た

 

「良い息子さんです…」

 

「俺に似てか⁇」

 

「そうですっ」

 

「よ〜し良い子だ‼︎食え食え‼︎」

 

 

 

本日再三目の保育部のドアの前に立つ

 

「レイ⁇大丈夫⁇」

 

保育部の入り口には横須賀が立っていた

 

「大丈夫さ」

 

中を見ると既に吹雪しかおらず、三人が周りにいる

 

「一緒にいてあげる」

 

「すまん…」

 

横須賀と共に保育部に入る…

 

「おっ。時間ダズル」

 

「さっ、お家帰リュー」

 

「いっぱい遊んだニムね‼︎」

 

俺と横須賀を見て、三人はすぐに勘付く

 

リシュリューが吹雪を抱き上げ、三人が此方に来た

 

「案内頼むダズル」

 

俺も横須賀も言葉を返さず、笑顔で頷く

 

皆でずいずいずっころばしの方に向かう道中、吹雪は何度も三人の顔を見る

 

その度に三人は吹雪に笑顔を送り、頬や頭を撫でる

 

その度に吹雪は嬉しそうにしている

 

ずいずいずっころばしの前まで来て、リシュリューが足を止める

 

「…やっぱり嫌だわ」



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293話 セイイエス、セイグッバイ(4)

「痛いくらい分かるダズルよ」

 

「大丈夫ニム‼︎」

 

リシュリューだけいつもの語尾がなくなっている

 

「りしゅ」

 

「ん…」

 

リシュリューが泣きそうになっている事に気付いた吹雪は、必死にリシュリューの顔に手を伸ばす

 

「りしゅ」

 

「そうよっ…リシュリューよっ…」

 

リシュリューはポロポロ涙を零す

 

吹雪がリシュリューに懐いていたからこそ、余計別れが悲しい

 

ここに来て、リシュリューはようやく感情を露わにした

 

「貴方にごはんを作るの…楽しかったわ…」

 

リシュリューが吹雪をギュッと抱き締めた後、ずいずいずっころばしに入る…

 

「待ってたわ‼︎」

 

「貴方…」

 

「あ…」

 

三浦夫婦がリシュリュー達に気付く

 

「ふぶ…」

 

吹雪は自分の親と気付いたのか、自分の母親に必死に手を伸ばす

 

気付かぬ内にリシュリューが吹雪を抱く腕に力がこもる…

 

「そう…そうよね…」

 

それでも吹雪は向こう側に移ろうとしているのを見て、リシュリューは力を弱めた

 

「この三人が面倒を見てくれていたんだ」

 

「本当にありがとうございます‼︎あぁ‼︎」

 

愛おしそうに吹雪に頬擦りする母親を見て、榛名とニムは嬉しそうにする中、リシュリューだけは放心状態

 

「あの‼︎お名前を‼︎」

 

「榛名ダズル」

 

「ニムはニムニム‼︎」

 

「…」

 

「あの…」

 

三浦に言われ、リシュリューは我に帰る

 

「…リシュリューよ」

 

「この御礼は必ずお返しします‼︎」

 

「その子なんて名前ダズル⁇」

 

「この子の名前は…」

 

「貴方がたが付けて頂いた名前はなんですか⁇」

 

三浦の妻が話に割って入る

 

「その子は榛名達は吹雪って呼んでたダズル。雪の様に綺麗で、吹雪の様に力強い子になって欲しいって意味ダズル」

 

「吹雪‼︎良い名前だわ‼︎貴方、吹雪よ‼︎」

 

三浦の妻の計らいで、吹雪は本当に吹雪と言う名前になった

 

「まっ、寿司でも食おう‼︎」

 

「あまり食欲がないの。ごめんなさい…」

 

リシュリューは後退りしている

 

「少し一人にさせて頂戴」

 

リシュリューだけ、ずいずいずっころばしから出て行ってしまう

 

「一人にさせてやるダズル」

 

「吹雪はリシュリューに一番懐いてたニム」

 

「そうでしたか…」

 

俺はリシュリューが出て行くのを見て、すぐに皆の輪に視線を戻した…

 

 

 

 

「…」

 

リシュリューが来たのは埠頭

 

ここなら一人になれる

 

今日は貝殻を探す気にもなれない

 

本当なら、別れの際までいてあげるのが一番正解なのだろう

 

ただ、見ていられなかった

 

あれだけリシュリューに懐いていた吹雪は、一瞬で自分の母親の所に行ってしまったからだ

 

「…カーラ」

 

「‼︎」

 

自分の名前を呼ばれ、横を向くリシュリュー

 

「マーカス…」

 

「座っていいか⁇」

 

「貴方なら良いわ」

 

見ていられなかったのは俺だってそう

 

あんな顔をされたら放って置けなかった

 

「本当の母親にはなれなかったわ…」

 

「なれたさ。カーラがいなければ、吹雪は生きていない。これ以上ない母親だ」

 

「見たでしょ…自分の母親の手に移る時…」

 

「気にする事はない」

 

「気にするわ。長い間一緒だったのよ⁇それがあんな…」

 

「また赤ちゃんの世話したいか⁇」

 

少しだけ話をズラす

 

これが大人なら“所詮そこまでの奴だ”と言ってやるのだが、人間の本質的に求める愛情には、俺にもリシュリューにもどうする事も出来ない

 

「しばらくはいいわ…まっ、貴方がどうしても‼︎と言うなら、引き取ってあげてもいいわ⁇」

 

「それでこそリシュリューだ‼︎」

 

「何かゴホウビは無いのかしら⁇」

 

「本当に腹は減ってないか⁇」

 

「空いてるわ。何処か連れて行って頂戴」

 

「行こう‼︎」

 

「あ…ちょっと‼︎」

 

リシュリューと共に基地からこっそり抜け出す…

 

「ジープで何処行くつもり⁉︎」

 

「愛の逃避行さ‼︎」

 

「それはいいわね‼︎」

 

高速道路を走り、第二居住区へと向かう…

 

 

 

 

「いらっしゃい‼︎」

 

「二人だ‼︎」

 

エレベーターを上がると、陽炎が出て来た

 

「ご案内しまーす‼︎」

 

やって来たのは焼肉かむかむ

 

昼間から焼肉とは実に贅沢だ

 

「こんなお店があったのね⁇」

 

「知らなかったか⁇」

 

「結構来るのだけど、ここは知らなかったわ⁇」

 

「このコースを二人前で」

 

「畏まりました‼︎コース二つ‼︎」

 

陽炎と不知火がお肉を持って来て、それを焼いて行く

 

「美味しい‼︎久々だわ、こんなにお肉を食べるの‼︎」

 

「いっぱい食えよ⁇」

 

目の前でリシュリューが子供に戻る

 

焼肉に舌鼓を打つリシュリューを見ながら、不知火特製のグレープジュースを飲む

 

「こうして二人きりも悪くないわ⁇」

 

「光栄な事だっ」

 

焼肉を食べ終え、都市型居住区を二人で歩く…

 

 

 

夕暮れ時になり、辺りに電気が灯り始める

 

俺達はベンチに座り、コーヒーを飲む

 

「今日は色々あったわ⁇」

 

「気は紛れたか⁇」

 

「そうね…」

 

街を眺めるリシュリューの顔は、まだ浮かない顔をしている

 

「今日はここにいるか⁇」

 

「ん〜ん、帰るわ。夢は時折見るから良いの」

 

「…帰ろう‼︎」

 

「そうね‼︎」

 

ジープに乗り、帰路に着く…

 

 

横須賀に着くと、日は落ちていた

 

「またお相手して頂戴、いいわね⁇」

 

「俺で良ければっ‼︎」

 

最後の最後にリシュリューはようやく笑ってくれた

 

一応横須賀に報告に行く為、執務室に向かう

 

「おかえりなさい、あの、レイ…」

 

「ただいま。どうした⁇」

 

執務室に入ると、横須賀がソワソワしているのが目に入った

 

「落ち着いて聞いてね⁇」

 

「分かった」

 

横須賀が言い難そうに言う…

 

「谷風なんだけど…」

 

その名前を聞いて、背筋が凍る

 

普段なら楽しそうに話す横須賀だが、今日に限って違う

 

ましてや子供の事だ

 

何かあったのだろうか…

 

「谷風、お父さんとお母さんの所に返そうと思うの」

 

「正気か⁇」

 

横須賀の座っている椅子に座り、タバコに火を点けようとしたが、しゃがんでいた親潮がいたので止めようとした

 

「気にしないで下さい。此方を‼︎」

 

が、親潮がライターを出してくれたので笑顔で受け取り、火を点けた

 

「一度谷風を殺した奴だぞ」

 

「あ、そっちじゃないわ」

 

「じゃあ生きてたのか⁉︎」

 

横須賀は頷く

 

俺が心配したのは、あの日基地に来た仮初めの親二人の元に返すと思ったからだ

 

「どんな人だった⁇」

 

タバコを咥えながら、横須賀の引き出しからお菓子を取り出す

 

「三浦さんよ」

 

その名前を聞いた瞬間動きが止まり、タバコの灰が机に落ちる

 

「…マジか」

 

「今、谷風が会いに行ったわ⁇」

 

「ただいま‼︎」

 

「おかえり‼︎」

 

「おかえりなさい‼︎」

 

話している矢先に、本人の谷風が帰って来た

 

「良かったな‼︎」

 

「うんっ‼︎な…谷風は幸せ者さ‼︎なんたって、お父さんとお母さんが二人もいんだもんね‼︎」

 

先程まで本名である“なな”と呼ばれていたのか、谷風はななと言いかけた

 

「あら、嬉しい事言うじゃない⁇」

 

「にひひ…お年玉が二倍貰える‼︎」

 

「ありゃあお前に似たなっ…」

 

「…悪かったわ」

 

谷風の返しに、俺も横須賀も鼻で笑う

 

「谷風はどうしたい⁇」

 

「どうしよう…」

 

数秒前までのポジティブが消え、谷風は悩む

 

「とりあえず、一週間ずつこっちに来るのはどう⁇」

 

「いいの⁇」

 

「勿論よ‼︎」

 

「じゃあそうする‼︎」

 

トントン拍子で話が決まる

 

谷風の両親が見つかったとはいえ、日常はあまり変わらなさそうだ…

 

こうしてようやく、長い一日が終わった…



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294話 叔父と父親のララバイ(1)

さて、293話が終わりました

今回のお話は、リベッチオ・パスタに新しい子が来ます

仲睦まじい親戚模様を見てマーカスは…


ある日の休みの日…

 

「いでででで‼︎噛まないでよぉ‼︎」

 

食堂のテレビの前で子供達と遊んでいたきそがアトランタに頭に齧り付かれている

 

「コラ‼︎アトランタ‼︎きそちゃん噛んじゃダメでしょ‼︎きそちゃん、ごめんなさい…ちょっと見せて⁇」

 

貴子さんがすぐに止めに入り、きそに付いた噛み傷を見る

 

「僕は大丈夫だよ‼︎アトランタも随分歯生えたね⁇」

 

「困ったものだわ…」

 

「んがっ…」

 

「マーカス君も疲れて寝ちゃってるし…アトランタ⁇暴れちゃダメって言ってるでしょ⁇アトランタ‼︎」

 

アトランタは貴子さんの言葉を無視し、俺の背中に乗る

 

「あぁもう…」

 

「そっとしといた方がいいかも…」

 

「大丈夫かしら…」

 

「レイは怒んないよ」

 

貴子さんときその心配をよそに、アトランタは俺の服を捲り上げ、背中に何かを押し始める…

 

 

 

数十分後…

 

「さっ‼︎お昼出来たわ‼︎アトランタ⁇マーカス君から降り…コラ‼︎」

 

アトランタの手には、あの日買ったガンビーちゃんラムネの蓋がある

 

俺の背中に押していたのは、その蓋の表面

 

>∞<

 

の様な痕が背中に大量に出来ている

 

「ウィリアム‼︎ウィリアム来て‼︎」

 

貴子さんが隊長を呼びに行った声で目が覚めた

 

「ん…アトランタ…今日は何して遊んだんだ⁇」

 

このタイミングでは珍しくアトランタが背中から降り、俺の顔の横に来た

 

「抱っこだなっ…よいしょっ‼︎」

 

起き上がり、アトランタを膝の上に置く

 

「あだっ…」

 

膝の上に置いた直後、アトランタは俺の額に手を伸ばし、何かを押し付けた

 

「そうか‼︎楽しいか‼︎ははは‼︎」

 

アトランタは普段中々見せない満面の笑みを見せている

 

余程何か楽しいらしい

 

「ウィリアム…」

 

「コラ‼︎アトランタ‼︎レイにごめんなさいは⁉︎」

 

「どうしたんだ⁇」

 

「マーカス君…その…背中、鏡で見て⁇」

 

アトランタをカーペットに降ろし、鏡で背中を見る…

 

「うわ‼︎な、何だこれ⁉︎ガンビアさんだらけじゃないか‼︎」

 

背中一面ビッシリに付けられている“>∞<”マーク

 

「マーカス君…その…おでこにも…」

 

「おおお…」

 

額の中心にも同じ痕が付いている

 

「アトランタ⁇マーカス君はスタンプ台じゃないのよ⁇」

 

「ごめんなさいしなさい」

 

隊長と貴子さんに叱られたのが分かったのか、アトランタは俺の所に来て座る

 

「楽しかったならそれでいいさっ‼︎」

 

アトランタは満面の笑みを浮かべながら、俺の手の甲にも痕を付けた

 

「アトランタ‼︎ごめんなさいでしょ‼︎」

 

貴子さんに呼ばれたアトランタは貴子さんの方を向く

 

が、手は俺の太ももに置こうとしている

 

「コラッ‼︎これは没収だ‼︎」

 

隊長が没収しようとするが、アトランタは離そうとしない

 

それどころか、ポケットに入れて無かった事にしようとしている

 

「アトランタ⁇誰が悪い事したんだ⁇」

 

隊長は優しく怒っている

 

が、アトランタは俺を指差す

 

「レイが悪いのか⁇」

 

アトランタは俺を指差し直す

 

「食堂で寝ていたレイが悪いのか⁇」

 

アトランタは更に俺を指差し直す

 

あたしは悪くない‼︎

 

こんな所で寝ていたアイツが悪い‼︎

 

と、でも言いたそうだ

 

「アトランタ⁇寝ている人を攻撃するのはズルいぞ⁇」

 

アトランタは隊長を見ている

 

「起きてる時に攻撃しなさい‼︎」

 

「そうじゃないわよウィリアム‼︎」

 

貴子さんが言いたいのは根本的な攻撃行動をやめさせろ、だと思う

 

が、言う事を全く聞かないどころか、責任転嫁しているアトランタを見て、隊長は方向性を変えた

 

「よ〜し、アトランタ‼︎起きてる時ならしていいぞっ‼︎」

 

「マーカス君まで…」

 

アトランタがハイハイで俺の所に来るまでの間、隊長は口パクで

 

“本当に申し訳ない”

 

と、申し訳なさそうに言っている

 

お昼ごはんが並ぶまで、俺はアトランタと遊ぶ事にした…

 

 

 

お昼ごはんを食べ終わると、横須賀から連絡が来た

 

《あらレイ‼︎隊長いる⁇》

 

「アトランタと遊んでる。代わろう」

 

《お願いするわ》

 

「隊長、横須賀からだ」

 

「ありがとう」

 

隊長は無線を取り、しばらく横須賀と会話する

 

「そうか‼︎なら今から行く‼︎」

 

隊長が無線を置き、俺の方を見る

 

「リベッチオ・パスタに付き合ってくれないか⁇ジェラート食わせてやるから、なっ⁇」

 

そう言って笑顔で俺の肩を叩く隊長の手は震えている

 

恐怖の根源はリベッチオではなく、リットリオの方だろうな…

 

「よし、行こう‼︎」

 

「…今日は度々すまん」

 

「…ジェラートでチャラよ」

 

「ウィリアム⁇帰りにお好み焼き買って来てくれない⁇」

 

「お⁇おぉおぉ‼︎買って来るさ‼︎」

 

「マーカス君⁇しっかりウィリアムに奢って貰ってね⁇晩御飯は美味しいの作るから‼︎」

 

「よっしゃ‼︎行って来ます‼︎」

 

俺達二人は横須賀に向かう…



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294話 叔父と父親のララバイ(2)

繁華街に着き、隊長はまず遠方からリベッチオ・パスタの様子を双眼鏡で偵察する

 

「今日の厨房は…おっ‼︎ザラだ‼︎」

 

余程リットリオが怖いらしい

 

「こいつは安心だ‼︎昼飯後なのが残念だな‼︎」

 

「珍しいな⁇向こうから呼ぶなんて」

 

「新しい子がいるらしい。どれどれ…」

 

隊長は再び双眼鏡でリベッチオ・パスタの中を見る

 

俺も新しい子を探す為、双眼鏡を手にする…

 

「…隊長‼︎隊長‼︎」

 

「ん〜⁇いたか〜⁇」

 

「2時方向にリットリオが…」

 

「さっき見たぞ⁇いる訳…」

 

俺と隊長が双眼鏡で見た先には、右手の指の隙間にフォークを持ったリットリオが笑顔で此方を見ている姿

 

「いるぅぅぅう‼︎」

 

バリィィイン‼︎

 

隊長が叫び、双眼鏡を降ろした瞬間、隊長の双眼鏡の右側にフォークが刺さった‼︎

 

隊長は開いた口が塞がらない

 

「…我々は紳士だ。いいな、レイ」

 

「勿論です、ウィリアム」

 

一気に紳士モードに変わり、いざリベッチオ・パスタに入店

 

「いらっしゃいませ‼︎」

 

店に入ると、案内してくれたのは先程双眼鏡で見たザラ

 

「二人だ」

 

「窓際の席へどうぞ‼︎」

 

ザラに言われ、窓際の席に座る

 

「兄さん、マーカスさん、いらっしゃいませ〜」

 

リットリオがメニューを持って来てくれた

 

「ナポ」

 

「ぶっ飛ばすぞ…」

 

隊長が冗談でたった二文字放っただけでリットリオは即座に反応

 

目付きもいつもの優しい顔から悪魔に変わる

 

「ジェラートを2つ。このチョコレートのを」

 

「はいっ、兄さんっ‼︎」

 

リットリオは笑顔で厨房に戻って行った

 

「ナポって言っただけであれだ…」

 

「親父もやられたらしいな…貴子さんに聞いたよ…」

 

「リットリオには逆らえ…」

 

ガシャン‼︎

 

急に机にジェラートが置かれ、俺も隊長も肩を上げる

 

「チョコレートのジェラートお待たせしました〜」

 

「「あ、はい…」」

 

一言もリットリオの事を口にしてはいけないみたいだ…

 

「しかし、味は美味いな⁇」

 

「パスタもジェラートも本場仕込みなんだろうな⁇それに安いし‼︎」

 

ジェラートは前に少し食べたが、良い方向に味が変わっている

 

味が少し濃くなったと言うか、とにかく更に美味しくなっている

 

リベッチオ・パスタは安くて美味しい

 

だからこそ人気があり、開放日でも繁盛している

 

「それで、新しい子は⁇」

 

「丁度良い。マエストラーレ‼︎」

 

「あ、はーい‼︎」

 

マエストラーレが近くに居たので、隊長が呼んだ

 

「あ、叔父様‼︎いらっしゃいませ‼︎」

 

「新しい子が来たみたいだな⁇」

 

「はいっ‼︎“グレカーレ”です‼︎彼方に‼︎」

 

厨房を見ると、女の子が一人

 

台座に乗ってジェラートを作っている

 

「私の妹なんです‼︎ちょっと呼んで来ますね‼︎」

 

マエストラーレはグレカーレを呼びに厨房に入って行った

 

「もう一人姪っ子が増えたって訳か⁇」

 

「どうもそうらしいな⁇リットリオに似てなきゃいいが…」

 

「兄さん⁇」

 

たまたま横を通りすがったリットリオがガン見している

 

「リットリオに似て優しい子だと良いな‼︎」

 

「そうだな‼︎間違いないさ‼︎」

 

隊長は年下の女性の気迫に弱い

 

今、そう再認識した

 

「この人が叔父さん⁇」

 

「そう‼︎ウィリアム叔父様と、マーカスさん‼︎」

 

「グレカーレか‼︎」

 

イタズラ好きそうな少女が来た

 

肌は貴子さんに似た褐色で、髪の毛は金髪

 

「叔父さん、話は聞いてるよ。凄いパイロットなんでしょ⁇」

 

「どうかな⁇私本人では分からん」

 

「ウィリアムは凄いパイロットだ。世界を駆け巡って、勝利を導いて来たお方だ」

 

「マック‼︎」

 

リベッチオ・パスタの一角で、親戚一同が軽く集まる

 

「にひひ‼︎叔父さんの膝座〜わろ‼︎」

 

「ふふ。いいぞ‼︎」

 

グレカーレが膝に座って来ても、隊長はほとんど応じずにいる

 

それより、ここまで来ると俺は邪魔そうだ…

 

「隊長、ちょっと出掛けて来るよ。晩飯までには帰る」

 

「レイ、今日もすまないな…ジェラートしか奢ってやれなかった」

 

「気にしないでくれ‼︎グレカーレ、またジェラート食べに来るからな⁇」

 

「美味しいの作って待ってる‼︎」

 

イタズラ好きそうに見えたが、礼儀はなっているグレカーレ

 

リベッチオ・パスタを出て気付く

 

今日は非番だ

 

 

少し、逢いたくなった子が出来た

 

そう思った時には、高雄の部屋に足を運んでいた

 

「いらっしゃいませ大尉」

 

「子供が好きそうな物を見繕って欲しい」

 

「そうですね…」

 

高雄に見繕って貰い、それを抱えてジープの発着場に来た

 

「大尉、お出掛けですか⁇」

 

「非番だからな。たまには一人でドライブよ‼︎」

 

「何番にします⁇」

 

「2番を寄越してくれ‼︎」

 

「行きますよ‼︎」

 

「サンキュー‼︎」

 

受け付けからキーを投げて貰い、2番のジープに乗り、エンジンを点ける

 

「一応業務なんで聞いときますけど‼︎何処に行かれます⁉︎」

 

エンジンの音で受け付けの男性二人の声が聞こえづらい

 

「東京方面だ‼︎」

 

「分かりました‼︎」

 

「そういやぁ、ジョンストンとはどうだ‼︎上手くやってるか‼︎」

 

「時々ヴィンセントさんに許可を入れて基地内で遊びます‼︎もっぱらスイーツ巡りですが‼︎」

 

「なら良かった‼︎バイビー‼︎」

 

「行ってらっしゃい‼︎」

 

「お気をつけて‼︎」

 

いつかのお祭りの日、ジョンストンに絡んでいた二人は基地の外で自動車整備士をしていた

 

横須賀はあれから二人に対してナンパの罪はジープのオイル点検だけで済まし、尚且つ日払いの賃金を与えた

 

そしてその腕を買われ、ついでの様に二人共横須賀に雇われた

 

二人共融通も冗談も中々効く良い奴だ

 

それに、仕事に誇りを持っているらしい

 

俺はジープで横須賀を出た…



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294話 叔父と父親のララバイ(3)

マーカスが逢いに来た人物は…


タバコを吸いながら、東京方面に向かう

 

《創造主様。今どちらに⁇》

 

下道を走っていると、親潮から通信が来た

 

「首都高に乗るか迷ってらぁ‼︎」

 

《現在首都高速道路は復旧作業が完了していない区間があります。あまりオススメはしません》

 

「目的地は国会議事堂だ。行けそうか⁇」

 

《単独戦闘もオススメしません‼︎攻撃ならグリフォンによる空爆を強くオススメします‼︎》

 

「違う違う‼︎人に会いに行くんだよ‼︎」

 

《あっ…申し訳ありません、取り乱して…では、500m先のインターから首都高速道路に入って下さい》

 

親潮は俺が一人クーデターを起こすと思っていたらしい

 

首都高に乗り、一発目の料金所に近付く

 

《現在料金所は機能していません。バーは降りていますか⁇》

 

「ぜーんぶ降りてらぁ」

 

料金所全てに、立ち入り禁止のバーや料金所自体のバーが降りている

 

《左から2番目の料金所、右側のバーが脆いです》

 

「踏み倒しだな‼︎よし‼︎」

 

バーを破壊し、料金を踏み倒す

 

「あ〜らら…」

 

《う〜らら、ですか⁇》

 

「たまにはちょっと上から見る街も良いモンだなってな」

 

防音壁が所々破壊されており、久方振りに軽く上から東京の街を見れた

 

未だに所々復旧が終わっていない街…

 

倒れかかったビル群…

 

街ごと水没したエリア…

 

復旧なぞ、無理な話なのだろうか…

 

《首都自体は機能している様子です。昔の様には行きませんが、人は活気を取り戻しています》

 

「…」

 

《創造主様⁇》

 

「何でもない。考え事をしてただけだ」

 

《そうですか。次のインターで降りて下さい。料金は踏み倒しでお願いします》

 

「どのバーが柔らかい‼︎」

 

《お好きなのを。オススメは正面突破です‼︎》

 

親潮も相当俺を分かって来てくれている

 

首都高を降り、国会議事堂に近付く…

 

 

 

「ここは無事だったんだな」

 

《記録によると、国会議事堂だけは守り抜いた様子です》

 

「止まれ‼︎」

 

国会議事堂前で止められた

 

「この先は一般人立ち入り禁止区域だ‼︎」

 

「友達に逢いに来たんだ。通してくれ」

 

「ご友人の名前は」

 

「アクィラだ」

 

「確認を取ります」

 

数分足止めをされ、返答が来る

 

「申し訳ありませんマーカス・オルコット様‼︎アクィラ様及び総理の了承が取れました‼︎」

 

そう言って貰い、内心ホッとした

 

なんせいきなりの訪問

 

跳ねられる可能性の方が高かったからだ

 

「誘導に従って真っ直ぐ向かって下さい‼︎」

 

「ありがとう」

 

誘導に従ってジープを進ませ、駐車区域でジープを停めた

 

紙袋を持ち、国会議事堂の中に入る…

 

 

 

「マーカスが直々に来るとは…矢崎‼︎コーヒーと羊羹を‼︎」

 

「はっ‼︎直ちに‼︎」

 

「総理、マーカス大尉が此方に来ると連絡を受けました」

 

アクィラが総理の所に来た

 

「何かあったのだろう…丁重にもてなしてくれないか」

 

「畏まりました」

 

アクィラが一礼した時、総理のいる部屋がノックされた

 

「開いている」

 

「失礼しますっと…」

 

紙袋を抱えた俺を見て、総理とアクィラは生唾を飲んだ

 

「すまない、急に顔を見たくなっただけさ」

 

「まぁまぁ座ってくれ‼︎今矢崎にお茶を淹れさせている‼︎」

 

「アクィラ、るいちゃんは⁇」

 

「いるわよ‼︎るいちゃ〜ん‼︎」

 

「あ〜い‼︎」

 

隣の部屋から声が聞こえた

 

ドアが開き、るいちゃんが来た

 

「あっ‼︎パーパ‼︎」

 

飛び付く様に俺の所に来たるいちゃんを抱き締める

 

「すまないな、ずっと逢えなくて」

 

「るいちゃん大丈夫‼︎マーマも、ソーリも、ヤザキもいるの‼︎あとフミちゃんとホーショーさん‼︎」

 

「そうかそうか‼︎パーパな、るいちゃんにこれ買って来たんだ‼︎」

 

るいちゃんに持って来た紙袋を渡した

 

隊長とグレカーレを見ていると、急にるいちゃんに逢いたくなった

 

「お人形さんだ‼︎パーパ、ありがとう‼︎」

 

紙袋の中身は、文月とるいちゃんの分の着せ替え人形と服のセット

 

それと申し訳程度のお菓子

 

「遊んでおいで‼︎」

 

「うんっ‼︎パーパも来てね‼︎」

 

るいちゃんは部屋に戻って行った

 

「用事が済んだので、本官は帰投します‼︎」

 

「マーカス、茶位付き合ってくれ」

 

「ではお言葉に甘えて…」

 

「アクィラ、君もな⁇」

 

「ありがとうございます」

 

総理、アクィラ、矢崎と共に、少しだけ小さなお茶会が開かれる

 

もっぱら潜水艦の話ばかりだったが、俺は今日、話せて良かったと思う位有意義な時間を過ごせた…

 

 

 

「俺はそろそろ帰るよ」

 

「いつだって来てくれ。マーカスなら歓迎だ‼︎」

 

「今度は皆の分の土産も買って来るよ」

 

ジープに乗り、また首都高に戻る…

 

 

 

帰り道、無人のパーキングエリアにジープを停めて街を見下ろして見た

 

《創造主様、心拍数が上昇しています》

 

「色々思い出してな…」

 

東京にはあまり行った事がないが、こうも都市部が破壊されているのを見ると胸が痛む

 

《創造主様の帰る場所に似ていますか⁇》

 

「そうだな…ちょっと似てるかもな…」

 

親潮に言われて気付く、この胸の痛み

 

自分が帰る場所と重ね合わせたからだ

 

「どう言って良いか分からないんだ…その街に当てる感情ってのが…」

 

《創造主様の現在の思考を検索した結果、“恋愛”のそれに非常に近いものがあります》

 

「なるほどっ…いつか連れて行ってやるよ。良い街だぞ」

 

《楽しみにしています》

 

ジープを出し、横須賀へと戻る…

 

 

 

横須賀に着くと、隊長が発着場で待っていてくれていた

 

「すまないなレイ」

 

「気にしないでくれ‼︎よいしょっ‼︎俺も逢いたい人に逢って来た‼︎」

 

ジープから降りながら隊長と話を続ける

 

「今しがたサンフランシスコから連絡があってな、向こうでようやく艦娘が完成したらしい」

 

「ほ〜⁇そいつは楽しみだ‼︎」

 

広場の喫煙所を目指しながら会話を続ける

 

「こっちに来るらしいぞ、アークロイヤルbisと一緒にな⁇」

 

その名前を聞き、背筋がヒヤッとする

 

「…セイレーン・システムか⁇」

 

アークロイヤルbisに搭載されていたセイレーン・システム

 

もしあれが未だに造られているのならば、またややこしい分離作業をしなければならないかも知れない

 

「どうも違うらしい。カプセルに入れられた状態で到着するみたいだ。その辺りはレイの方が詳しいだろ⁇」

 

「見てから判断しろって事か…」

 

タバコに火を点け、ほんの少しだけ考える

 

今しばらくは安心出来なさそうだ…

 

話を変えよう…

 

「グレカーレはどうだった⁇」

 

「見た目と同じさ。イタズラ好きな子だが、礼儀は正しい」

 

「隊長、レイ‼︎」

 

横須賀が来た

 

「レイ、隊長から話は聞いた⁇」

 

「アークロイヤルbisの話か⁇」

 

「そっ。カプセルも一緒に到着するから、面倒を頼みたいらしいのよ」

 

「俺一人じゃ無理だ。手伝って欲しい」

 

そう言うと、隊長も横須賀も笑って頷いた

 

「任せて‼︎何人見て来たと思ってんのよ‼︎」

 

「きっと良い子だ、心配するな‼︎」

 

二人に微笑みを返すが、新しい子が来る事に不安はある

 

どんな子が来るのだろうか…



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295話 サンフランシスコからの贈り物(1)

さて、294話が終わりました

前回のお話の終わりに少し話したアークロイヤルbisが修復完了し、横須賀所属となります

中には見慣れない艦載機や、サンフランシスコからの贈り物があり…


「マーカス君、電話よ‼︎」

 

「ありがとう」

 

朝がた、基地に横須賀からの無線が入る

 

貴子さんから無線を貰い、貴子さんはその足で洗濯物を干しに行った

 

「どうした⁇」

 

《アークロイヤルbisから連絡が来たわ。特に異常はないけど、一応カプセルを見に来て欲しいらしいわ》

 

「了解した。着艦の許可を入れておいてくれ」

 

《…一人で出来るの⁇大丈夫⁇》

 

急に母親の様な声を俺に当てる横須賀

 

言われた俺もいじらしくなり、少し反発してみる

 

「カプセルの一つや二つ見れらい‼︎」

 

《違うわよ‼︎カプセルの心配なんかしてないわよ‼︎着艦よ着艦‼︎アンタヘタクソもヘタクソでしょうが‼︎》

 

「うひっ‼︎」

 

無線の先で怒鳴る横須賀

 

つい耳から無線を離す

 

「きそを連れて行くさ‼︎」

 

《きそなら大丈夫ね。きそは今何してるの⁇》

 

「…アトランタに齧られてる」

 

相変わらずきそを見るとつむじ辺りに齧り付くアトランタ

 

最近きそもきそで慣れて来たのか、テレビを見ながら後頭部にいるアトランタの頭を撫でているレベルになっている

 

アトランタはアトランタで必死に歯を立て、口をモゴモゴさせている

 

「とりあえず出る。グリフォンに座標を送っておいてくれ」

 

《分かったわ‼︎》

 

無線を置き、きそとアトランタの所に来た

 

「きそ、アークロイヤルbisの中にあるカプセルの見学に行くぞ‼︎」

 

「分かった‼︎」

 

「アトランタはこっちだぞ〜」

 

きその頭からアトランタを離そうとするが、ガッチリ噛んでいて離れない

 

「アトランタ‼︎アトランタの好きなムースだぞ‼︎」

 

アークが抹茶のムースを見せるとアトランタはきそを齧るのをやめ、アークの所に向かった

 

「今の内だ‼︎」

 

「行って来る‼︎」

 

「行って来ます‼︎」

 

アトランタがムースを食べている間に、グリフォンを出し、アークロイヤルbisを目指す…

 

 

 

 

数十分後、眼下にアークロイヤルbisが見えた

 

「此方サンダーバード隊、ワイバーン。着艦許可を求む」

 

《了解ワイバーン》

 

《僕がやるよ‼︎》

 

「きそ…今日は俺がやる。横須賀にヘタクソと言われたからな‼︎」

 

《マニュアルに切り替えるよ‼︎いい⁉︎》

 

「大丈夫だっ‼︎」

 

未だにきそにさえ心配される始末

 

あーだこーだ言われながらも着艦体勢に入る…

 

《ワイバーン、着艦。ようこそ、アークロイヤルbisへ》

 

「どーだい‼︎」

 

《80点位じゃないかな‼︎》

 

《2点よ2点‼︎》

 

《30点だな》

 

《マーカスの着艦なら、75点でしょう‼︎いつもより上手ですよ‼︎》

 

《レイの着艦を踏まえてなら95点だな‼︎》

 

「どいつもこいつも酷評しやがって…にゃろう…」

 

きそが中継を回していたらしく、横須賀、アレン、ラバウルさん、隊長から総評が入るが、クソカス言われる始末

 

どうせ歪んでますよ〜だ‼︎

 

《バリケード着艦しない事だけは褒めたげるわ⁇》

 

《それ踏まえてなら50点だな‼︎》

 

《ほうほう…では85点ですね‼︎》

 

《マーカスがバリケード無しか…感慨深いものだ…》

 

「…」

 

ここまで言われると、残る行動は肩を揺らして笑う事のみ

 

《言われようが凄いや…》

 

「…いいかきそ」

 

《は、はい》

 

「これから空母は基本撃沈するモンとする。いいな⁇」

 

《あ、はい…》

 

そうだそうだ

 

よく考えれば俺は今まで空母を何隻か撃沈して来た

 

傭兵時代は空母を潰せばボーナスが貰えたしな

 

やっぱり空母は嫌いだ‼︎

 

多方面から言われながらも、アークロイヤルbisに降り立つ

 

「大尉‼︎お疲れ様です‼︎」

 

「岩井‼︎」

 

海風が吹く中、迎えに来てくれたのは岩井

 

「仮ですが、横須賀に入港するまで急遽自分が艦長を務める事になりまして‼︎」

 

「そうか‼︎あんたなら安心だな‼︎」

 

「そう言って頂けると光栄です‼︎さぁ、中へ‼︎」

 

岩井に案内され、艦内に入る…

 

 

 

「すごーい‼︎」

 

艦内に来てしばらくし、きそが驚く

 

格納エリアにはF/A-18、F-35が所狭しと格納されている

 

「レクター元帥曰く、無料オプションらしいです」

 

「そうかぁ、そうだよなぁ…艦載機はオプションだよなぁ…」

 

そんな中、奥の片隅に鎮座する一機の艦載機が目に入った

 

「こいつは…」

 

一機だけ別格のオーラを放つ存在を前に、自然と背筋が整う

 

黒い塗装を施されたF-14がそこに居た

 

美しいまでに佇むその姿は、旧式の艦載機と思わせない何かを放つ

 

「横須賀でこの機体を注文された方がいるみたいです」

 

俺ときそはその風格の前に言葉を出せずにいる

 

「何だろ…敵わない気がする…」

 

「時代を引っ張った機体だ。パイロットも歴戦の強者だな…」

 

この言葉は後に現実のものとなる…

 

「カプセルの所に案内します」

 

「そうだったな‼︎」

 

「一瞬忘れてた‼︎」

 

主目的を忘れてしまう位、機体に魅入ってしまった

 

岩井に着いて行き、カプセルの場所を目指す…

 

 

 

「此方です」

 

カプセルが設置されている部屋に入ると、すぐにその姿は見えた

 

「可愛らしい子だ」

 

「もふっとしてるね‼︎」

 

銀色の髪の少女が溶液の中に入っている

 

きその言った通り、毛量が多いので見た目はもふもふしている

 

「バイタルは安全値…溶液の濃度は⁇」

 

「80%、安全値だね‼︎」

 

「横須賀に入港するまでこの数値を継続してくれ」

 

「了解です」

 

カプセルのチェックはものの数分で終わる

 

「それと、此方がジェミニ元帥の分の報告書、此方が大尉宛ての報告書です」

 

「補給がてら渡してくるよ」

 

「助かります。せめて飲み物だけでも如何です⁇」

 

「ならサイダーを」

 

「僕も‼︎」

 

「畏まりました」

 

岩井がサイダーを取りに行っている間、甲板に戻って来た

 

「可愛い子だったね‼︎」

 

「次は懐いてくれよ…」

 

サンフランシスコの基地が俺達に任せたいのは恐らく教育

 

あの子が懐いてくれるのが一番手っ取り早いが…

 

「どうぞ‼︎」

 

「「ありがとう」」

 

きそと共にサイダーを飲み、一息つける

 

「書類は向こうで見るよ。残りの航路、気を付けてな⁇」

 

「大丈夫です、ほらっ‼︎」

 

岩井が左舷の水平線に目を向ける

 

「ア‼︎マーカスサンダ‼︎」

 

「オシゴトモラッタ‼︎」

 

そこにいたのはヌ級の子供と、ママヲ級

 

あの二人なら反対派の深海だし、任せても大丈夫だ

 

「頼んだぞ‼︎何かあったらすぐに来るからな‼︎」

 

「ハジメテノオシゴト‼︎」

 

「ガンバリマース‼︎」

 

徐々に増えて行く、反対派の深海との共同作業

 

こういう光景を見ると、このまま残る好戦派の連中とも和平の席に座れれば良いんだがな…



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295話 サンフランシスコからの贈り物(2)

マーカスの悩みを解決するのは横須賀ではなく…


横須賀に着き、アークロイヤルbisから物資が降ろされて行く

 

「僕はカプセルが降りるまで近くにいるよ」

 

「頼んだ。横須賀に報告して来る‼︎」

 

きそが積み降ろしの近くに待機し、俺は執務室に来た

 

「お疲れ様。どうだった⁇」

 

「カプセルのチェックは済んだ。これが報告書だ」

 

「ありがとっ」

 

横須賀は早速報告書の確認に入る

 

「何か望みはある⁇」

 

「ヲ級の親子が初仕事してくれた。美味い物でも食べさせてやってくれ」

 

「それはするわよ。アンタは無いの⁇」

 

「お前の淹れたコーヒーが飲みたい」

 

「仕方ないわね…」

 

横須賀はすぐに椅子から立ち上がり、キッチンに向かった

 

「親潮は調べ物か⁇」

 

いつもの横須賀の隣の席に座り、PCを操作している親潮

 

今はアークロイヤルbisの荷降ろしのチェックをしながら、何か調べている

 

「ジェミニ様に少しお話をお聞きしました。創造主様の帰る場所を少し見学しています」

 

親潮の後ろに回り、PCを見る

 

PCには実際にその場に立っている様な地図が表示されている

 

「よしっ、これで可能なはず…創造主様、此方を装着して下さい‼︎」

 

「どれどれ…」

 

「目を閉じていて下さいね」

 

「分かった」

 

親潮に渡されたきそヘルメットを着ける

 

「クラーケン、起動」

 

クラーケンが起動され、親潮がキーボードを叩く音が数回聞こえる

 

「よしっ…これでっ‼︎創造主様、目を開けて下さい‼︎」

 

親潮に言われ、目を開ける…

 

「…」

 

「如何でしょう⁇」

 

「…」

 

「何も見えませんか⁇」

 

「…」

 

親潮のPCには、今のヘルメットの中の状態が中継されている

 

何も無いならば動かないはずだが、PCの画面の中では視点が右往左往している

 

「創造主様⁇」

 

「感無量なのよっ」

 

お盆にコーヒーを置いて持って来た横須賀が戻って来た

 

執務室の中心に投射されたクラーケンの中心に、辺りを挙動不審に見回す俺がいるのを見て、横須賀はすぐに勘付いた

 

「何か探してるわ」

 

「創造主様。左腕だけ接触の際の感触があります。何かに触れて確認して見て下さい」

 

「…」

 

親潮のPC、そしてクラーケンの中で俺は街の中心に立つ

 

「どうしたのかしら…」

 

「止まってしまわれました…」

 

懐かしい光景が目の前にある

 

親潮は左腕だけなら何かに触れられると言っていたが、もう既に感じている

 

懐かしい風、懐かしい空気が左腕に当たっているからだ

 

「動いたわ」

 

「ツーテン・カークを見ています」

 

街のシンボル、ツーテン・カークもある

 

帰りたい…この街に…

 

いや、まだ帰れない

 

今はまだ、時折行くだけでいい

 

今は、それでいい…

 

あるはずもない、感じる事も出来ないが、俺はヘルメットを取る前に深く息を吸った…

 

何と無くだが、懐かしい空気が肺一杯に入った気がした…

 

「ありがとう、親潮」

 

ヘルメットを取り、親潮に返す

 

「少し気は紛れましたか⁇」

 

「随分楽になったよ」

 

「ふふっ‼︎優しい顔んなったわ‼︎ほら、コーヒー淹れたわ‼︎」

 

横須賀からコーヒーを貰い、それを口にして現実に戻る…

 

苦い…

 

めちゃくちゃ苦い…

 

「あ、砂糖とミルク入ってないわよ。自分で入れて」

 

「にゃろう…」

 

砂糖とミルクを入れ、飲みやすくなったコーヒーを飲みながら、書類の再確認に入る

 

「この後最終チェックに入って明日の朝カプセルから出す、でどう⁇」

 

「そうだな。最後に一日安定させてからの方が良いな」

 

「なら話は終わり‼︎お疲れ様‼︎」

 

《レイ‼︎カプセルが降りるよ‼︎》

 

「よし、行こう‼︎」

 

「親潮も来なさい‼︎」

 

「親潮はここで連絡の受けを致します」

 

「助かるわ‼︎明日、一緒に行きましょうね⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

「ありがとうな、親潮」

 

「親潮も少し試してみました。親潮も良い街と思います」

 

親潮を見て無言で小さく数回頷いた後、カプセルが降りる現場に向かう…

 

 

 

「工廠に搬入してくれ」

 

「了解です‼︎」

 

銀色の髪の少女が入ったカプセルが工廠に入って行く…

 

搬入はあっと言う間に終わり、俺と横須賀、そしてきそがカプセルを眺める

 

「パースィー投げられないといいね⁇」

 

「齧られないといいな⁇」

 

「大丈夫よ。きっと良い子だわ⁇」

 

俺ときそはそのまま残り、横須賀は執務室に戻って行った

 

 

 

貴子さんに晩御飯は要らない連絡を入れた後、俺はその日の晩、きそと共に工廠にこもった

 

「大丈夫そうだね」

 

「明日の1000にカプセルから出る様に設定した。少し休もう」

 

「ふぁ…僕はここで寝るね…おやすみ〜」

 

きそがPC前の椅子で仮眠を取り始め、俺は大淀博士の椅子に座り、カプセルを見ながらタバコに火を点ける

 

「不安かい⁇」

 

「頼むから気配を消すな」

 

「男女の関係にサプライズは付き物だよ、レイ君」

 

音も無く現れ、俺の首に手を回す大淀博士

 

感覚が冴えていても、ほぼ0距離まで分からないから怖い…

 

「彼女の書類を見させて貰ったよ。素体は戦艦らしいね」

 

「らしいな。それと、知識が恐らく0の状態だ」

 

「いつも通りでいいよ、レイ君。肩を楽にして…ねっ⁇」

 

大淀博士は俺の肩を軽く揉む

 

「誰にも言わないから、レイ君の気持ち、吐いてご覧…」

 

「…また、俺から離れて行くんじゃないのか⁇」

 

大淀博士の前では素直になれた

 

こんな事、誰にも言わないはずなのに、大淀博士の前では簡単に自分を出せた

 

「レイ君は立派なお父さんだ。産まれて来る喜びも、手から離れて行く哀しみも全部知ってる。だからこそ、皆レイ君を慕うんだ。大淀さんもそうだよ⁇」

 

「この子に俺は必要なのか⁇」

 

大淀博士はすぐに答えを返した

 

「必要だよ。レイ君は全て理解してくれる。この子の一番の理解者に、もうなってるじゃないか」

 

「そんなつもりは…」

 

「この子の事でこんなにも心を痛めてるんだ。そんな人が、理解してない訳ないよ⁇」

 

その言葉を聞き、タバコの火を消して、首に回された腕に少しだけ体を傾けた

 

「すまない…」

 

「いいよっ…君が誰かに気を委ねるのも必要さっ…」

 

横須賀や貴子さんとはまた違う別格の包容力を、大淀博士は持っていた

 

「ひとみちゃんといよちゃんに聞いたよ⁇レイ君はアトランタちゃんに一度も怒った事がないって」

 

「散々隊長やら貴子さんが叱ってくれてるからな。俺は別に怒らなくていい」

 

「優しいねぇ、レイ君は…」

 

大淀博士は俺が眠るまでこうしてくれていた…

 

「おやすみ、レイ君。また明日っ…」

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「レイ〜っ‼︎起きて〜っ‼︎」

 

「んあ…」

 

「朝ごはん行こう‼︎」

 

きそに起こされ、目が覚める

 

「どこ行きたい⁇ふぁ…」

 

「瑞雲で雑炊食べようよ‼︎」

 

「そうだなっ…ん〜っ‼︎」

 

背伸びをし、ようやく完璧に目が覚める

 

昨日は良く眠れた…

 

夢も何も見なかったが、とにかく目覚めが良い

 

きそと一緒に、瑞雲に向かう…

 

 

 

「美味しい‼︎」

 

「半分だけおかわり‼︎」

 

かなり良い睡眠が取れたのか、食欲もかなりある

 

「さっき連絡があったよ⁇アトランタが大人しいんだって‼︎」

 

「大人しいのも怖いな…」

 

アトランタが大人しいのは逆に怖い

 

普段貴子さんに散々釘を刺されても言う事をほぼ聞かないアトランタ

 

俺ときそが居ないと大人しいのだろうか…

 

「食べた食べた‼︎ごちそうさま‼︎」

 

「腹いっぱいだ‼︎ごちそうさま‼︎」

 

「また来てくれ。今度は鍋でも突きにな」

 

日向にお礼を言い、工廠に戻る

 

工廠では既に横須賀と親潮が待っていた

 

「来ました‼︎」

 

「始めましょうか‼︎」

 

「よしっ…行くぞ」

 

一度深呼吸をした後、カプセルを操作する…

 

溶液が抜かれて行き、それと同時に少女も目を覚ます

 

「…」

 

目を開け、口をへの字にして少女は俺達を見回す

 

「おはよう“ワシントン”」



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295話 はじめてがいっぱい

話数は変わりませんが、題名が変わります

サンフランシスコから送られて来た新型艦、ワシントン

まだまだ覚え盛りのワシントンは、沢山の物、人を見て覚えて行きます

その裏で赤城とアトランタは…


「…」

 

ワシントンと呼ばれた少女は起き上がった後、もう一度辺りを見回す

 

「俺はマーカスだ」

 

「私はジェミニよ⁇」

 

「…」

 

俺達二人を交互に見るワシントン

 

「あー、えっと…お父さんと、お母さん‼︎」

 

きそが分かりやすく説明し、俺も横須賀も一瞬きそを見る

 

少女はきその言葉に顔を向けるが、恐らく分かっていない

 

「パパ、ママですよ、ワシントンさん」

 

「ぱぴー、まみー」

 

「そうだそうだ‼︎」

 

「偉いわね‼︎」

 

「此方をどうぞ‼︎」

 

親潮から服を貰い、俺はワシントンを拭いた後に着替えさせる

 

「ぱぴー」

 

「ん〜⁇どうした⁇」

 

ワシントンの目線の先には、きそがいる

 

「あの人はきそだ」

 

「きっそ」

 

次は親潮に目線が行く

 

「あの人は親潮だ」

 

「おやちお」

 

それを聞いて、俺と横須賀は微笑む

 

「はいっ‼︎おやちおですっ‼︎」

 

「よしっ‼︎ワシントンの朝ごはんは何にしようか‼︎」

 

ワシントンはジーッと俺を見ている

 

「ワシントン、いーってしてご覧」

 

「いー」

 

俺が歯を見せると、ワシントンもマネをして歯を見せた

 

パッと見た所、しっかり乳歯が生え揃っている

 

「よしっ‼︎じゃあ、間宮で初めての朝ごはんだな⁇」

 

ワシントンの手を取り、地に足を付かせる

 

立って分かったが、たいほうより少しだけ身長が高い位だ

 

「立てるか⁇」

 

口を尖らせてジーッと床を見た後、視線を俺に戻すワシントン

 

「おてて繋ごうな⁇」

 

「てておてて」

 

「そうだっ」

 

「きそと親潮は私と繋ぎましょうね⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

ワシントンと手を繋ぎ、工廠を出る

 

 

 

 

外に出たワシントンは口をへの字に閉じたまま、ジーッと空を眺めている

 

「あれは飛行機だ」

 

「ひこーき」

 

「あれはお船だ」

 

「おふね」

 

ジーッと見てはいるが、色々目移りするワシントンに色々教えて行く

 

赤城同様、まずは簡単な事からだ

 

「ここは間宮だ」

 

「まみー」

 

間宮に着いたので紹介をすると、ワシントンは横須賀の方を向いた

 

「どうしたのワシントン⁇」

 

「ふっ…ワシントン‼︎レストランだ‼︎」

 

間宮と教えると、ワシントンは横須賀をマミーと呼ぶので間違える

 

ここはレストランと教えた方が正解だな

 

「れすとらん」

 

「そうだっ。ご飯を食べるんだ」

 

「ごはん」

 

「いらっしゃいませ〜‼︎」

 

伊良湖に出迎えて貰い、入って右側のいつもの席に座る

 

「きそと親潮は何にする⁇」

 

「僕はクリームソーダ‼︎」

 

「親潮はクリームココアを‼︎」

 

「私は久々にチョコレートケーキとホットコーヒーを‼︎」

 

「ワシントンはどれにしようか⁇」

 

ワシントンの前にメニューを広げると、メニューの写真を見始めた

 

「おー」

 

「ドリアにするか⁇」

 

「どりあ」

 

ミートソースが乗ったドリアなら、ワシントンも食べられそうだ

 

伊良湖に注文し、ドリアが来るのを待つ…

 

「ぱぴー、まみー、きっそ、おやちお」

 

ワシントンはちゃんと名前を覚えており、俺達を順番に見ながら名前を言って行く

 

「おっ⁇もう覚えたのか⁇」

 

ワシントンは俺の顔を見る

 

「ひこーき、おふね、どりあ」

 

「偉いぞワシントン‼︎きっそとおやちおは、ぱぴーとまみーの娘だ‼︎」

 

先程まで少し気を張っていたきそと親潮の顔が綻んでくれた

 

「むすめ」

 

「ワシントンもよ⁇」

 

「むすめ」

 

「お待たせしましたー‼︎」

 

注文した物がテーブルに並んで行く

 

「わしんとんのどりあ」

 

「そうだっ。スプーンを使うんだ」

 

ワシントンの前にもドリアが置かれ、俺ももう一つのドリアを一緒に食べる

 

「こうやって掬って、ふーふーして食べるんだ」

 

「おー」

 

ワシントンはスプーンを握り締め、俺のマネをしてドリアを冷ました後、口に入れる

 

「かむかむ」

 

「かむかむ」

 

「ごっくん」

 

「ごっくん」

 

「美味しいか⁇」

 

「おいすい⁇」

 

「ドリアを沢山食べたいと思ったら、美味しい、だ」

 

「おいすい」

 

「よしよし‼︎」

 

ワシントンは実に美味しそうにドリアを食べる

 

ほとんど目線はドリアだが、時々俺の顔を見てはまたドリアに視線を戻す

 

「いよいよ父親の貫禄ね…」

 

「主夫が板に付いて来てるよ…」

 

「これでまた一つ道が開けましたね…」

 

正面では、恐らく俺の悪口を言っている親子三人がいる

 

「そう言えば、赤城はどうした⁇」

 

「赤城は今日は保育部で赤ちゃんを見てるの」

 

「赤城がか⁉︎」

 

「由良に教えて貰ってるらしいわ⁇」

 

「赤城さんが赤ちゃんに手を上げたりしている所を見た事ありませんよ⁇」

 

「レイに似たんじゃない⁇」

 

きそがイタズラに笑う

 

「大淀博士の議題に上がりそうだ…」

 

俺がそう言って頭を抱えると、ワシントン以外が笑う…

 

 

 

その頃、赤城のいる保育部では…

 

「おいで」

 

赤城の前にはアトランタ

 

アトランタは赤城にプラスチックのボールを顔面に投げ、赤城を否定する

 

「おいで」

 

しかし赤城は瞬き一つせず、いつもの笑顔のまま、アトランタにジリジリ寄る

 

アトランタはそれを見てゆっくり後退する

 

「おいで」

 

おいでしか言わない赤城に恐怖を覚え、アトランタは更にボールやおもちゃを赤城の顔面に当てる

 

「おいで」

 

それでも一度の瞬きもせず、両手を広げて近寄って来る赤城に、アトランタは遂に追い詰められた

 

「だっこ」

 

「くんな」

 

防御本能で遂にアトランタが初めての言葉を口にした‼︎

 

「しゃべった」

 

「くんな」

 

「かなしい」

 

そうは言いつつ、赤城はアトランタを抱き上げる

 

抱き上げられたアトランタは案外大人しく、ご飯を食べる椅子に座るまでジッとしていた

 

赤城にご飯を置いて貰い、スプーンとフォークを渡される

 

「すーぷん」

 

「…」

 

赤城は一生懸命説明してくれるが、アトランタは赤城を一点見つめ

 

「ふぁーく」

 

「ふぁっ○」

 

「かなしい」

 

アトランタは分かって言ってるのか、言っていないのか…

 

それでも赤城は怒る事なく、アトランタと一緒にご飯を食べる…



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295話 双眼鏡の向こう側

話数は変わりませんが、題名が変わります

ワシントンはパピーことマーカスにオモチャを買って貰います

果たして何を選ぶのか…


「おいすい」

 

「お皿が綺麗になったら、ごちそうさま、だ」

 

「ごちそさま」

 

「そうだっ」

 

ワシントンは綺麗にドリアを食べた

 

物覚えも早い

 

後はワシントンが興味を示す物が分かれば良いのだが…

 

「高雄さんの所は如何でしょうか⁇」

 

「なるほど、あそこならオモチャもあるな‼︎」

 

完璧に親潮に思考を読まれ、俺達は間宮を出て高雄の部屋に向かう

 

高雄の部屋に着き、きそと親潮は先に入る

 

俺と横須賀はワシントンをオモチャコーナーに連れて行く

 

「おー」

 

「ワシントンはどれが好きだ⁇」

 

カラフルなオモチャを目の前に、ワシントンは口を三角にし、目を輝かせる

 

「ぬいぐるみもあるわよ⁇」

 

横須賀の手には可愛いクマのぬいぐるみ

 

「みーぐるみ⁇」

 

「ぬいぐるみにするか⁇」

 

「んー」

 

ワシントンは下を向いて迷っている

 

どうやら興味はぬいぐるみではないみたいだ

 

「お服もあるぞ⁇」

 

「んー」

 

ちょっとずつワシントンが分かって来た

 

ワシントンの「んー」は、どうしようか迷っているか、好きでは無いみたいだ

 

ワシントンは色々見て回る

 

音の出る絵本、飛行機の模型、ぬいぐるみ、フィギュア、ラジコン…

 

中々の量がある中、ワシントンは中々決めない

 

「どうした⁇」

 

急にワシントンが壁に掛かっている何かを見始めた

 

「これは“双眼鏡”だ。軍人の人が使うんだぞ⁇」

 

「ぱぴー、つかう⁇」

 

「ぱぴーも使うぞっ。遠くを見る時に使うんだ‼︎」

 

双眼鏡が気になっている様子なので、見本の双眼鏡を持たせてみた

 

「こうやって使うんだ」

 

俺の手元でも見本の双眼鏡を持ち、ワシントンの前で使って見せた

 

「こう」

 

「ははは‼︎反対だ‼︎」

 

ワシントンは双眼鏡を反対に見る

 

逆にさせた後、もう一度ワシントンは双眼鏡を見る…

 

「おー」

 

「何が見える⁇」

 

「きっそ」

 

恐らくワシントンの目には、ドアップのきそが映っている

 

「気に入ったか⁇」

 

「これおいすい」

 

ワシントンは欲しいや好きの表現を、全部美味しいと思っている

 

「楽しい気持ちになったら、好きって言うんだ」

 

「これすき」

 

「よしっ‼︎じゃあこれにしような‼︎」

 

双眼鏡を高雄の所に持って行ったタイミングで、きそと親潮も何かを持って来た

 

「これでいいか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

きそは充電式電池パック、親潮は観光地図を持って来た

 

「何か欲しいか⁇」

 

最後に一応横須賀にも聞く

 

「そうね…このクッションにしようかしら⁇」

 

横須賀には珍しく、安いクッションを選んで来た

 

「これでいいのか⁇」

 

「えぇ」

 

お金を払い、高雄に袋に入れて貰っている最中に気が付いた

 

…クッションでサボる気だ

 

だが、今更気付いても遅い

 

高雄から袋を受け取り、高雄の部屋を出た…

 

 

 

 

執務室に戻り、ワシントンはカーペットの上に腰を降ろした

 

「ここがワシントンのお家だ」

 

「おうち」

 

「みんなでご飯を食べたり、おやすみする所だ」

 

「おー」

 

「ただいま‼︎おぉ‼︎可愛い子だな‼︎」

 

「いーちゃんも気に入ったぞ‼︎」

 

朝霜と磯風が帰って来た

 

「アタイは朝霜‼︎」

 

「いーちゃんは磯風だ‼︎」

 

「あたい、いーちゃ」

 

「そうだそうだ‼︎物覚えのいー子だ‼︎」

 

朝霜は子供の扱いが上手い

 

アトランタでさえジッとしている位だ

 

「ただいま」

 

「ただいま‼︎」

 

「帰って来た‼︎」

 

赤城が谷風と福江を連れて帰って来た

 

「あかちゃん」

 

「わしんとん」

 

赤城はワシントンを見るなり、両手を広げる

 

「おいで」

 

ワシントンは赤城に寄って行き、抱き上げられる

 

「かわいい」

 

「日頃からあの様な感じです、創造主様」

 

「なるほどなるほど…良い事だ‼︎」

 

「もう少ししたら、食堂に行きましょうか。清霜と早霜もそこに居るみたいなの」

 

「分かった。ワシントン、よく見えるか⁇」

 

「ぱぴーみえるよ」

 

ワシントンは双眼鏡をしたまま、俺の方を向いた

 

「嬉しそうだなぁ⁇大事にすんだぜ⁇」

 

「だいじ⁇」

 

朝霜が大切な事をワシントンに教える

 

「そっ。宝物は、大事に使うんだ‼︎みんなにも宝物があるんだぜ⁇双眼鏡がなくなったら、悲しいだろ⁇」

 

「かなすい」

 

「ワシントンは良い子だから分かってくれんな⁉︎」

 

「わかた」

 

口はへの字のままのワシントンだが、ちゃんと朝霜の顔を見て返事をしている

 

「おとうさん」

 

「おっ、どうした赤城」

 

「あとらんたちゃん、しゃべった」

 

赤城が急にアトランタが喋ったと言い出した

 

「ホントか‼︎なんて喋ってた⁉︎」

 

「くんな、ふぁっ○」

 

「アトランタぁ…」

 

流石に頭を抱える

 

第一声目は飲み物を飲んだ後に発する「あ」だが、自分の意思で発した第一声目が罵声とは…

 

基地に帰ったらどうなるのか…

 

俺はその日の夜を横須賀で過ごし、次の日の明け方、基地に戻った…



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296話 小さなギャルの独占欲

さて、295話が終わりました

今回のお話は一話しかありません

基地に帰って来たマーカス

赤城の言った通り、アトランタは少し話せる様になっており…


「ただいま〜…みんな寝てるか…」

 

忍び足で食堂に入り、手洗いうがいをしてから冷蔵庫を開けてサイダーを取る

 

食堂のソファーに座り、サイダーを飲んで一息つける

 

「あら…マーカス君。おかえりなさい」

 

「起こしましたか⁇」

 

貴子さんが起きて来た

 

「ん〜ん…ちょっと目が覚めただけ…」

 

随分眠たそうな顔をした貴子さんは、キッチンで水を飲むとまた寝室に戻って行った

 

今日はここで寝よう…

 

サイダーを飲み干して床に置き、そのままソファーで横になった…

 

 

 

「マーカス君‼︎朝ごはん出来たわ‼︎」

 

「んぁ…」

 

貴子さんの声で目が覚める

 

ソファーから起き上がり、子供達が目に入った

 

「おきまちた‼︎」

 

「えいしゃん、おなかすいた⁇」

 

ひとみといよが朝ごはんの準備のお手伝いしている

 

「お腹空いた‼︎よしっ、食べよう‼︎」

 

子供達がいるテーブルに着き、手を合わせる

 

俺はいつも通りに座ったはずだった

 

だが、それは子供達が何気無しに“いつもここに俺が座るだろう”と思って開けてくれていた席

 

隣にはアトランタがいる

 

「アトランタ、美味しいか⁇」

 

「おいしい」

 

「ホントだっ…」

 

アトランタは何食わぬ顔でコーンフレークを頬張っている

 

俺の後ろでは、大人連中が一斉にアトランタの方を向いている

 

貴子さんと隊長に至っては、食パンを咥えたまま停止している

 

ついでに子供達も何人か停止している

 

「アトランタ⁉︎いつからお話出来る様になったの⁉︎」

 

「今話し始めたのか⁉︎」

 

「ごはんたべたい」

 

「そ、そうね‼︎」

 

「後にしような‼︎」

 

アトランタは黙々とコーンフレークを頬張る

 

心なしか、体も成長した気もする…

 

 

 

ごはんを食べ終え、夕方の哨戒任務の時間まで食堂で子供達と過ごす事にした

 

アトランタはたいほうから借りたのか、お魚のフィギュアをカーペットに並べている

 

「アトランタはどのお魚が好きだ⁇」

 

「ねて」

 

俺に気付いたアトランタは俺の足を押し、横になれと促す

 

「よいしょっ…」

 

横になった途端、お魚のフィギュアを持ち、俺の背中に手を掛ける

 

「へぐっ‼︎」

 

乗って来た瞬間、朝ごはんが出そうになった‼︎

 

ダメだ‼︎やっぱりデカくなってる‼︎

 

「あ''…あどらんだ…」

 

「おさかな、おさかな、かお」

 

アトランタはいつも通り俺の背中にオモチャを置いて遊んでいる

 

「うごいちゃだめ」

 

後頭部にお魚のフィギュアを置かれた

 

こいつが床に落ちると酷い目に遭う…

 

が、どうやら先に俺がダメそうだ…

 

「いぎでぎない…あぁ…」

 

アトランタは絶妙に呼吸が出来なくなる位置に座っている

 

俺はそのまま意識を失った…

 

 

 

数十分後…

 

「おさかなぐんたい、みどりぐんたい」

 

俺の背中は戦場と化した

 

「ありぁ、えいしゃ〜ん」

 

「おきお〜」

 

しかし俺は気絶している

 

「きぜつしてあす」

 

「たかこしゃんよんれくう‼︎」

 

ひとみが貴子さんを呼びに行き、いよが俺を呼び続ける

 

「えいしゃ〜ん、おきてくだしゃ〜い」

 

「すてぃんぐれいねんねしてるの⁇」

 

たいほうも来て、俺を呼び続ける

 

「すてぃんぐれい⁇どうしたの⁇」

 

「マーカス君⁉︎」

 

ひとみが貴子さんを連れて来て、たいほうも異変に気付く

 

「アトランタ‼︎降りなさい‼︎マーカス君‼︎マーカス君しっかり‼︎」

 

しかし反応は無い

 

「どうした⁉︎」

 

隊長も来て、気絶した俺が目に入る

 

「きそ‼︎酸素マスクを‼︎」

 

「分かった‼︎」

 

子供部屋に居たきそを呼んだ隊長はきそに酸素マスクを頼む

 

「アトランタ‼︎降りなさい‼︎マーカス君死んじゃうから‼︎」

 

「しなない」

 

「死んじゃいそうなの‼︎降りなさい‼︎」

 

「持って来たよ‼︎」

 

酸素マスクを当てられると、ようやく呼吸が出来た

 

「はっ‼︎」

 

「おきまちた‼︎」

 

意識が戻るが、アトランタはまだ乗っているので起き上がれない

 

「アトランタ…潰れちゃう…」

 

「つぶれない」

 

「アトランタ…」

 

食堂の空気が一気に強張る…

 

「たたた貴子…」

 

隊長が焦っているのが見える

 

「いけましぇん‼︎」

 

「まだこどもです‼︎」

 

ひとみといよが貴子さんの足に付いて止めている

 

「ひとみ‼︎いよ‼︎来い‼︎」

 

「「ぐわー‼︎」」

 

隊長に抱えられ、ひとみ、いよ、たいほうが退散

 

きそは俺に酸素マスクを当て続けている

 

「退けと言っているのが分からんのか…」

 

「あっ…」

 

貴子さんが武蔵に戻っている‼︎

 

「だ、ダメだ貴子さん‼︎それだけは‼︎」

 

「あたしのだもん」

 

「マーカスはアトランタだけのものではない‼︎退かないなら、娘だろうと拳で退ける‼︎」

 

「おさかなぐんたい」

 

貴子さんがマジギレしているにも関わらず、アトランタはまた遊び始めた

 

「ぬんっ‼︎」

 

貴子さんがノーモーションでアトランタにストレートを向けた‼︎

 

すると、アトランタは俺の首根っこ部分の服を掴み、貴子さんのストレートに俺の顔面を向けた

 

「あああアトランタ‼︎良くない‼︎良くないって‼︎ぐわぁぁぁぁあ‼︎」

 

パガァン‼︎

 

バリィィィイン‼︎

 

俺は本日二度目の気絶をしながら、窓の外へと吹き飛んだ…

 

 

 

 

「顔面粉砕骨折、鼻骨骨折、歯が上下合わせて計12本粉砕、胸部圧迫、後脳震盪だね」

 

「う〜む…見事にボコボコだぁ…」

 

あの後、ひとみといよがぴ〜ぽぴ〜ぽ言いながら担架を持って来てくれて、隊長とローマが担架で俺を工廠のカプセルに搬送

 

後はきそが処置をしてくれた

 

「マーカス君…」

 

顔面が青ざめ、物凄〜く申し訳なさそうな顔の貴子さんが来た

 

「申し訳が立たないわ…」

 

「気にしないでいいさ‼︎これ位の生傷、しょっちゅう受けてる‼︎」

 

「大怪我じゃない…」

 

「気にしないでいいさ‼︎よいしょっ…俺はこの通り生きてますし‼︎」

 

立ち上がって、貴子さんに元気な姿を見せるが、貴子さんの顔は浮かない

 

「私、しばらくアトランタと基地を出るわ…」

 

「貴子さん」

 

「…」

 

「二度と言わないでくれ、その言葉」

 

「アトランタが迷惑かけるわ…」

 

「かけていいんです、何度だって」

 

「レイの言う通りだよ‼︎何なら、僕が何度だって治すから‼︎」

 

「ありがとう…」

 

「お願いだ…二度と出て行くなんて言わないでくれ…俺はそっちの方が嫌なんです」

 

「大丈夫、二度と言わないわ⁇その代わり、今回の件も絶対にお詫びをさせて。お願い…」

 

貴子さんの言葉に、一度だけ頷く

 

「さ、戻ろう‼︎」

 

「歩ける⁇」

 

「そらもうピンピンよ‼︎」

 

きそを横に置き、食堂に戻る…

 

丁度お昼ご飯が終わった位で、アトランタがカーペットの上にいた

 

「おこられた」

 

「アトランタ悪い事してないもんな⁇」

 

「うん」

 

アトランタに反省の色は無いように見えるが、散々貴子さん辺りに怒られたのか、乗ろうとして来ない

 

アトランタの前で肘をついて横になるが、乗って来ない

 

「乗らないのか⁇」

 

「のらない」

 

そう言って、俺の目の前にお魚のフィギュアを並べて行く

 

「おさかな」

 

アトランタはお魚のフィギュアを横一列に並べて行く

 

「アトランタはどのお魚が好きだ⁇」

 

「こいつ」

 

アトランタが腋に抱えていた鯉のぬいぐるみが、単横陣に置かれていたお魚軍隊の背後に置かれる

 

「ぜんぶてんぷらいき、ふぁいや」

 

お魚の軍隊はアトランタの手により、おままごとセットの鍋に入った

 

「緑の兵隊さんはどうするんだ⁇」

 

「あれぜんさい」

 

「前菜かぁ…」

 

しばらく遊んだ後、アトランタは俺の近くで鯉のぬいぐるみを枕にして横になり始めた

 

「まーかすおじさん…」

 

「どうした⁇」

 

俺の手を取り、いつも通り胸元に置かれる

 

「ごめんなさい…」

 

「いいんだ。アトランタは何にも悪くない」

 

アトランタも艦娘

 

成長が急激に来る時がある

 

恐らくアトランタは今なのだろう

 

「ねむたくなってきた…いつものやって」

 

「分かったっ…」

 

アトランタがかなりの力で握る俺の腕は胸元をゆっくり叩く

 

数分もすると、アトランタは眠った…

 

「マーカス君」

 

「ありがとう」

 

アトランタにタオルケットを掛けた後、貴子さんがコーヒーを淹れてくれた

 

「朝方はあんな事あったけど、あんなに懐くのマーカス君だけなの…」

 

「良かった…」

 

正直、周りからも言われてずっと気になっていた

 

アトランタは俺に懐いているかどうかだ

 

「多分なんだけど、アトランタの愛情表現は私と一緒なのよ…」

 

「どんなですか⁇」

 

コーヒーを飲みながら貴子さんの方を向くと、左手をコキコキ鳴らしていたのですぐに気付く

 

貴子さんもアトランタも、愛情表現が少し過激なのだと

 

「そろそろ哨戒ね⁇」

 

「行って来ます‼︎」

 

「ちょっとアトランタに教えておくわ‼︎気を付けてね‼︎」

 

マグカップを置き、哨戒に向かう…



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297話 黒い影(1)

さて、296話が終わりました

今回のお話は、突如として現れた黒いF-14を隊長達が追い掛けます

謎に包まれた黒いF-14…

そのパイロットの正体は…


《そう言えばレイ、報告書を見たんだが、アークロイヤルbisにF-14が載っていたらしいな⁇》

 

霧のようなモヤのようなものが少しだけ出ている最中、無線から隊長の声が聞こえた

 

「あぁ。凛とした佇まいだったよ…あれこそ空の猛者だってすぐに分かった」

 

《横須賀に配備されたなら、その内見たんだがなぁ…》

 

《前方から高速で味方機接近中‼︎》

 

クイーンから警告が入る

 

《レイ‼︎隊長‼︎避けて‼︎》

 

続けてグリフォンからも入る

 

レーダーには12時の方向から高速で接近する味方機が一機表示されている

 

《よっと》

 

「あっ…‼︎」

 

機体を左に傾けながら接近して来た味方機は、俺達を弄ぶかの様に二機の間を通過して行く

 

「隊長‼︎今のが例のF-14だ‼︎」

 

《速いな…乗ってるのは誰だ⁇》

 

《現在検索していますが、情報が遮断されています》

 

《敵対意識は無いみたいだよ⁇》

 

「…何のつもりだ」

 

《分からん…》

 

黒く染められた謎のF-14は俺達が哨戒の最中、ずっと背後を取って来ている

 

《哨戒終了、帰投しよう》

 

「了解」

 

隊長が哨戒終了の合図を出すと、黒いF-14は再び高速で横須賀方面へと帰って行った…

 

「何だったんだ…」

 

《F-14が無人機にはなるまい…》

 

《情報が遮断されている所を見ると、極秘任務に就いているのではないでしょうか⁇》

 

クイーンの言葉が一番正解に近そうだ

 

《それはあり得るな…》

 

「無線も一切聞かない…誰なんだ、アレは…」

 

敵ならばまだしも、あの機体はIFFの表示も味方…

 

余計に謎は深まるばかり…

 

 

 

 

補給の為に一度スカイラグーンに寄る

 

「アレは一体何だったんだ⁇」

 

「久々に血が滾るか⁇」

 

「まぁなっ‼︎よいしょっ‼︎」

 

グリフォンから降り、半笑いで待っていた隊長と共に喫茶ルームで飲み物だけ貰おうと思った

 

「トムキャットと戦ったか」

 

潮が麦茶と一粒チョコレートをお皿に置いてくれた

 

「あいつは何なんだ⁇」

 

「知ってるか⁇」

 

「イや、潮もここから見てただけだ。物凄く早イな⁇」

 

ここはあくまで中立

 

深海も反対派もここで補給をする為に情報が集まりやすいのだが、普段そこにいる潮でさえ、あのF-14の正体は知らないと言う

 

「こう言う時はだな、レイ。直談判だ‼︎」

 

「オーケー‼︎」

 

「まぁ待て、私がしよう」

 

隊長が横須賀に無線を繋げる…

 

俺と潮にも聞こえる様に子機をテーブルに置いてくれた

 

「こちらサンダーバード隊、イカロス。クラーケン、応答せよ」

 

《こちらクラーケン、隊長、どうされました⁇》

 

無線の先から横須賀の声が聞こえた

 

「哨戒飛行中に横須賀基地の味方機、F-14が援護にあたってくれた。当該のパイロットを教えて欲しいのだが」

 

《F-14⁉︎親潮、離陸記録を見て。私は着陸記録を見るわ》

 

《ジェミニ様、F-14ならば艦載機の可能性もありますが》

 

《分かったわ。離着陸の記録は私が見るから、親潮は空母の発着艦記録を見て頂戴》

 

《畏まりました》

 

《隊長、味方機ですよね⁇》

 

「あぁ。IFFの反応は味方だ。それに、発砲もして来なかった」

 

《発着艦記録にF-14はございません》

 

《横須賀の離着陸記録にも無いです。隊長、F-14は引退したはずでは⁇》

 

「だからこそ私もレイも驚いたんだ。あのパイロットは並のパイロットじゃない」

 

《こちらでも調査をします。哨戒任務、お疲れ様でした。オーバー》

 

「了解。頼んだぞ、オーバー」

 

無線が終わるが、余計に謎は深まった…

 

「明日はエドガーと第三居住区に行くんだが…」

 

「俺が護衛に就こう」

 

隊長も俺も一抹の不安を抱えたまま、その日は基地に戻った…



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297話 黒い影(2)

次の日の朝、俺達は第三居住区に行く前に横須賀に飛んだ

 

「グリフォンとクイーンから航空写真を貰ったわ」

 

執務室の横須賀の机に写真が置かれる

 

例の黒いF-14が写っている…

 

「コードネームは“シャドウブラック”この機体に邂逅した場合、発砲しないで頂戴」

 

「…見た事ないエンブレムだ」

 

横須賀の話を聞いている途中、航空写真の一枚にボンヤリとだが尾翼にエンブレムが見えた

 

金髪の女性がクッキーか何かを焼いている立ち絵のエンブレムだ

 

「そのエンブレムも分からないのよ…レイ、アークロイヤルbisで見た時は無かったのよね⁇」

 

「あぁ。新品に近かった」

 

「アークロイヤルbisってのが引っかかるな…」

 

「アークロイヤルbisにも発着艦記録を送信して頂きましたが、F-14が発着艦した記録はありませんでした」

 

「幻でも見たのか…私達は…」

 

「ちょっと霧があったしな…」

 

「とにかくレイ、第三居住区まで隊長の直掩に入って頂戴」

 

「了解した‼︎」

 

「隊長、今日は宜しくお願いしますね⁇」

 

「任せておけ‼︎」

 

いざ、第三居住区へと向かう…

 

 

 

「しっかし、シャドウブラックねぇ…」

 

《“黒い影”か…昨日背後をずっと取られていたからな。バッチリな名前だ》

 

「今日は出ない事を祈るよ…」

 

《…お客さんだっ》

 

「了解っ」

 

隊長が右に機首を向ける

 

それに追従して行くと、三機編成のF-2が見えた

 

《こちらサンダーバード隊隊長イカロス。所属不明機に告ぐ…》

 

《雷鳥め…貴様のせいで‼︎全機、雷鳥を落とせ‼︎》

 

わざわざ繋げて来た無線の先で、敵対意識を向けるF-2パイロット

 

恐らく第三居住区にいた、もしくはここ出身で何処からか帰って来たのだろう

 

《了解っ…ワイバーン、発ぽ》

 

《後方から味方機接近‼︎速いです‼︎》

 

隊長が発砲許可を出そうとした時、後方から味方機が一機、高速で接近して来るのをレーダーが捉えた

 

「シャドウブラック…」

 

俺と隊長の間を通り抜けて行き、ものの数秒でF-2がレーダーから消えた

 

その光景を見て、隊長はすぐに無線を繋ぐ

 

《第三居住区、聞こえるか。敵機が海上に落ちた。救助を求む》

 

《リョーカイ、タイチョーサン》

 

シュリさんの声が聞こえ、すぐに深海の駆逐の子達が救助に向かってくれるのが見えた

 

《ワイバーンよりF-14パイロットへ。援護に感謝する。第三居住区に着陸出来るなら、補給を受けてくれ》

 

《私からも礼を言いたい》

 

シャドウブラックからの返答はないが、機首が第三居住区の滑走路の方に向いた

 

これで奴の正体が分かる…

 

 

 

「味方機なのは確かだったな…」

 

「降りて来ねぇな…」

 

隊長と二人、滑走路付近でシャドウブラックを待つ

 

「「あ」」

 

俺達の目の前をシャドウブラックが離陸して行く

 

「待ってくれー‼︎」

 

「何なんだ…一体…」

 

シャドウブラックは一瞬で空の向こうに消えて行く…

 

 

 

 

《甲板にいる乗組員に告ぐ。“キングバード”着艦準備。繰り返す…》

 

アークロイヤルbisの艦内放送で、聞き慣れない名前がスピーカーから出る

 

乗組員は一斉に甲板へと上がり、着艦する機体を拝見に向かう

 

数分後、キングバードと呼ばれた機体が着艦する

 

その機体は横須賀でシャドウブラックと呼ばれていた黒いF-14

 

アークロイヤルbisの艦載機で間違いは無かった

 

そして、問題のパイロットが降りて来た…

 

《無線の調子はどうだ、キングバード‼︎》

 

艦橋にいる壮年の男性が、キングバードと呼ばれた同じく壮年の男性に無線で問う

 

「ダメだ‼︎発艦してしばらくしたら無線は聞こえるが、こっちから話せん‼︎今は聞こえるがな‼︎」

 

ヘルメットを着けたまま、キングバードは艦橋にいる男性に無線を返す

 

《了解した‼︎新しい無線に変えよう‼︎お疲れ様だな‼︎》

 

壮年の男性同士が話す

 

彼はマーカス達の無線を無視していた訳ではなく、無線の調子が芳しく無かったのだ

 

「誰だ…」

 

「パイロット誰だ…」

 

乗組員でさえ、キングバードの正体を知らない

 

そのパイロットは乗組員のボヤきに気付き、そちらの方を向いた

 

そして、両腕でガッツポーズをしながら乗組員に近付き、艦内に入って行った

 

「「あ」」

 

キングバードの正体に気付いた乗組員達の顔が綻び、皆後を追う様に艦内に入って行った…

 

 

 

「あっ‼︎出ました‼︎これです‼︎」

 

横須賀では、アークロイヤルbisに発着艦記録が打ち出された

 

「パイロットは⁉︎」

 

「此方を」

 

親潮はPCを横須賀の方に向けた

 

「あっ…了解したわ‼︎」

 

横須賀と親潮もパイロットが分かり、顔が綻んだ…



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297話 黒い影(3)

シャドウブラックと呼ばれるF-14を追い掛けるマーカス達

そんな中、別の新型機との演習に入ります


第三居住区では、ラバウルさんとアレンが到着

 

「ほうほう…F-2を三機、ですか」

 

「私じゃない。F-14が瞬きしてる間に掻っ攫って行った」

 

「ウィリアムとマーカスから横取りとは…余程の手練れですねぇ…」

 

隊長とラバウルさんはタバコを吸いながら、深海達に救助されたF-2のパイロット達を横目で見て行く

 

「サ、アタタカイヨ」

 

「…ありがとう」

 

シュリさん達が魚介類のスープを持って来て、パイロット達に与えている

 

が、周りはしっかりと深海の姫級達が固めているのにパイロット達は気付いていない…

 

「これで自分達は終わりです…」

 

「さぁ、好きにして下さい…」

 

「ごちそう様でした…」

 

三人は既に諦めムード

 

「ドウシヨッカ」

 

「タベチャイマショウカ」

 

俺達は分かっているが、何も知らないパイロット達は姫級達のニヤケ顔が恐怖で仕方ない

 

パイロット達はそのまま深海達に連れて行かれた…

 

「サテッ‼︎オイシャサン‼︎」

 

「どうした⁇」

 

事が終わったシュリさんが四人の所に来た

 

「キョウヨンダノハ、モギセンヲシテホシイノ」

 

「どの機体だ⁇」

 

「ンフフ、トンデカラノオタノシミ‼︎ソノコハツヨイヨ‼︎」

 

シュリさんも俺達も準備に取り掛かる…

 

 

 

「ワイバーン、発進‼︎」

 

三機が離陸した後、俺も離陸する

 

《話を聞いてると、シュリさんの艦載機みたいだな⁇》

 

「あの子は空母だからな。元に戻っただけさっ」

 

《今日はやたらと新しい奴に会うな⁇》

 

《お次は何でしょうかねぇ⁇》

 

四機編成でシュリさんの艦載機を待つ…

 

《前方、所属不明機一機確認。模擬戦闘を開始します》

 

クイーンの言葉で模擬戦が始まる…

 

《ソノコガワタシノカンサイキ‼︎》

 

《全機、散開しろ》

 

四機が散開する

 

バラバラに分かれた四機はそれぞれの位置から白い震電を確認する

 

「なんだ…あの機体は…」

 

《白い震電…》

 

前方から来た機体は真っ白な塗装に、赤い線が数本入った震電

 

見た事のないカラーリングだ…

 

《速い‼︎》

 

アレンの横を素通りして行く白い震電

 

すぐに反転して、俺の背後を取る

 

「おーおー‼︎狙って来る、なぁっ‼︎」

 

宙返りをして白い震電の背後を取ろうとした

 

「やるじゃねぇの…」

 

白い震電もそれに追従し、再び俺の背後を取る

 

《援護してやる‼︎》

 

アレンが白い震電の背後を取る

 

《クソッ‼︎ロックオン出来ない‼︎》

 

白い震電の速度は尋常ではなく、追い付けなくなったアレンが一度離脱

 

白い震電はこれでもかと俺を狙う

 

《レイ、私に任せろ‼︎》

 

《動き続けていて下さい‼︎》

 

隊長とラバウルさんも援護に来た

 

が…

 

《な、なんなんだ…》

 

《見向きもしませんでしたね…》

 

水面スレスレを飛ぶ白い震電

 

隊長とラバウルさんに見向きもせず、俺に向かって来る…

 

《レイ、あの震電は小回りとスピードが速い代わりに、スピードを自身で制御しきれてないみたいだ。オーバーシュートを狙って‼︎》

 

「オーケー…おらっ‼︎」

 

急ブレーキを掛け、白い震電を前に出す

 

「おしまいだ‼︎」

 

《やっぱり隊長には敵いませんか…残念っ…》

 

白い震電に撃墜判定が出た瞬間、無線から声が聞こえた

 

《「涼平‼︎」》

 

白い震電に乗っていたのは涼平だった

 

そう言えば、今日は涼平を見ていない気がする…

 

この白い震電に乗っていたのか…

 

《今、よく分かりました。経験の壁とはこれなのだと…》

 

《いや、よくやった。エドガーとアレンの援護を振り切るのは至難の技だ》

 

《貴方は雷鳥と呼ばれる対空の王を振り切ったのです。誇りに思って下さい》

 

《俺もまだまだって訳かっ…》

 

隊長達は口々に涼平を褒める

 

未だに敵を逃した事がない隊長…

 

狙った獲物は全て歴史から消して来たラバウルさん…

 

見えない位置から殺すアレン…

 

歴戦の鳥達から涼平は勝利を収めた

 

《そう言えば、さっき見慣れない機体を見ました》

 

涼平の言葉で空気が変わる…

 

《シャドウブラックか…》

 

「謎は多い…か…」

 

《横須賀に帰投命令が出ています。皆さん、帰りましょうか‼︎》

 

《イエス、キャプテン》

 

「涼平は一旦着艦か⁇」

 

《補給が終わり次第すぐに追い付きます‼︎》

 

「了解。また後でな⁇」

 

涼平と別れ、俺達は横須賀へと戻る…



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298話 乗艦式

さて、297話が終わりました

今回のお話は、乗艦式の謎が少し分かります

一体どの様に行われるのか…


横須賀に着き、執務室に来た

 

「涼平はどうだった⁇」

 

「強かったぞ⁇隊長とラバウルさんを振り切ったからな‼︎それと、あの機体が気になる」

 

「これ見て」

 

横須賀から紙を貰う

 

そこには涼平が乗っていた白い震電の写真や資料が書かれていた

 

 

 

震電(綾辻搭乗機)

 

サンダース隊員である綾辻涼平が空母棲姫と“乗艦式”を行い生産された機体

 

速度、火力共に通常の震電より高いスペックを誇る

 

特筆すべきは、何らかの深海の力を得て機体が白くなった事。原理は不明

 

コードネームは“White Bell”

 

軽量なら爆装可能だが、搭乗員である綾辻は当機に無誘導噴進弾を好んで積載する為、爆装はこれとする

 

 

 

「いい名前だな⁇」

 

「ホワイトベルならちょっと可愛いでしょ⁇」

 

横須賀に微笑みながら、一文を見直す

 

「…乗艦式か」

 

「アンタも出来るでしょ⁇」

 

乗艦式は一握りのパイロットと艦娘にしか出来ない

 

俺はたいほう

 

親父は瑞鶴

 

そして涼平とシュリさん…

 

艦娘がパイロットを妖精や矢にし、空へと飛ばすのは同じなのだが、未だに原理が分かっていない

 

それに今回、涼平は深海と行った

 

これは初だ

 

「大淀博士が記録を取ったらしいのよ」

 

「これは興味深いな…俺も原理を知りたい」

 

横須賀に促され、大淀博士の研究室に向かう…

 

 

 

「やー‼︎おかえりレイ君‼︎」

 

「ただいま。涼平の乗艦式の記録があると聞いた」

 

「あるよ‼︎ちょっと待ってね‼︎」

 

大淀博士は早速PCを弄り、一本の動画を流し始めた…

 

 

 

涼平がシュリさんの前に跪いている

 

シュリさんが涼平の頭に手をかざす

 

“この命、海征く貴方に捧げます…”

 

“コノイノチ、アマユクアナタニササゲマス…”

 

互いに言葉を掛け合い、涼平の体が一瞬深海化した後、シュリさんの手に収まる白く小さな矢に変わる…

 

その光景は神を信じていない俺でさえ、神聖と言う言葉が似合うと思っていた…

 

「他の深海の子達が言ってたんだけど、深海の人達にとってこの乗艦式は結婚式のそれに近いんだって‼︎」

 

「だろうな…」

 

言葉を失う、本当に美しい光景…

 

「あ、そーだレイ君‼︎アークロイヤルbisに来いってさ‼︎」

 

「分かった、すぐに向かう。ありがとうな⁇」

 

「お礼はハグでいいよ‼︎」

 

大淀博士をハグした後、アークロイヤルbisに向かう…

 

 

 

執務室では…

 

「シャドウブラックの正体があの人なら納得だな‼︎」

 

「これで合点が行きましたね‼︎」

 

「道理で強いはずです‼︎」

 

隊長、ラバウルさん、アレンの三人が横須賀と共に笑う

 

「レイにはちょっと驚いて貰うらしいです‼︎」

 

「名案だなっ⁇」

 

「えぇ‼︎これは驚くでしょう‼︎」

 

「どんな反応するかな…」

 

 

 

 

「マーカス‼︎貴方も呼ばれたの⁇」

 

「そっ。俺だけ召集っ‼︎」

 

アークロイヤルbisに乗ろうとした時、イントレピッドがいた

 

「ふふっ‼︎きっと良いもの見れるわ‼︎行きましょう‼︎」

 

既に目の前に良い物はある気がしながらイントレピッドに腕を組まれ、アークロイヤルbisの艦内に入る…

 

 

 

「オルコット大尉及び、イントレピッドさん、到着しました」

 

「甲板に呼んでくれ。私もすぐに向かう」

 

二人の到着の知らせを受けたヴィンセントは、甲板へと向かう…

 

 

 

「イントレピッド…その…」

 

「ヨメとどっちが大きいかしら⁉︎」

 

「やめてくれよ…」

 

「ふふっ‼︎冗談よ‼︎」

 

この人と二人きりになると気が狂いそうになる…

 

好きな人が多いはずだ…

 

「さっ‼︎着いたわ‼︎」

 

甲板に着いたが、露天駐機以外の機体は見当たらない

 

「そう言えば黒いトムキャットを見たわ⁇マーカスはなんて呼んでるの⁇」

 

「シャドウブラックだ。奴は手練れだ」

 

「そちらに変えた方が響きは良さそうですね」

 

「ヴィンセント‼︎」

 

背後からヴィンセントが来たので、イントレピッドから離れようと腕を振るが、イントレピッドはニヤケ顔をして離そうとしてくれない

 

「大尉、貴方には色々恩があります」

 

「俺は何も…」

 

「その一つを、今返そうと思いましてね…」

 

「ジッとして…マーカス…」

 

「や、ヤダ…何か嫌な予感がする‼︎」

 

二人は意味深に微笑む

 

イントレピッドに至ってはニヤケ顔でガッチリホールドしている

 

ジタバタしていると、ヴィンセントの背後からヘルメットを着けたままの男性が来た

 

「はっ…」

 

感覚で分かる…

 

こいつがシャドウブラックだ…

 

すると、イントレピッドが俺をホールドする手が解かれた

 

シャドウブラックは俺の顔を見た後、イントレピッドの方を向き、ヘルメットを外した…

 

「親父⁉︎」

 

シャドウブラックの正体はリチャード…つまり親父だった

 

俺とヴィンセントに歯を見せて笑ったあと、親父は真剣な顔をしてイントレピッドの前に跪いた…

 

 

 

「My wings to you who loved me…(愛した貴方に我が翼を…)」

 

「Give my life to you who I loved…(愛した貴方に我が人生を…)」

 

 

 

目の前で乗艦式が行われる

 

親父は一瞬で黒い銃弾に変わる…

 

「…」

 

「どっ⁉︎ビックリした⁉︎」

 

イントレピッドはウインクしながら、いつの間にか手にしていたライフルに黒い銃弾を装填する

 

俺は言葉が出ないでいた…

 

「ジェミニ元帥達の言うシャドウブラック…我々で言う“キングバード”…」

 

「リチャード‼︎ロックンロール‼︎」

 

イントレピッドは空にライフルを放つ

 

黒いF-14が美しく上昇して行く…

 

「リチャードがその正体です」

 

愛された人間は強い…

 

今正に目の前で見せられている光景が、その言葉が正解だと語り掛ける…

 

「リチャード‼︎帰って来なさい‼︎」

 

数分後、キングバードはアークロイヤルbisに着艦した

 

「今後、緊急時以外の発着艦はアークロイヤルbisで行います」

 

「リチャードがね⁇みんながヤキモチ妬いちゃうだろーって‼︎」

 

「だろうな…」

 

「まだ放心状態だわ‼︎」

 

「ギューしたら戻るかしら⁇」

 

「ずっと放心状態でいたくなるからやめてくれ‼︎」

 

「ふふっ‼︎良かった‼︎」

 

その時、あまりにも自然にイントレピッドがまた腕にくっ付いているのに気が付かなかった…

 

 

 

 

その日の夜、パイロット寮…

 

「リチャード」

 

「んぁ⁇」

 

気の抜けた返事をしながら、イントレピッドが淹れてくれたカフェラテを飲むリチャード

 

「マーカス、昔のリチャードに良く似てるわ⁇」

 

「欲しいってか⁇」

 

鼻で笑いながら返すリチャード

 

しかし、イントレピッドは黙ったまま、リチャードを見る目は本気

 

「…マジか」

 

「昔のリチャードと重なっちゃったぁ…」

 

イントレピッドの目が一人の少女に戻る…

 

リチャードは察する

 

あぁ、これは本気なのだと…

 

「お前もまだまだ乙女って事だな‼︎はっはっは…はっ‼︎」

 

いつの間にか目の前から消えたイントレピッド

 

「ふふっ…聞いた私がバカだったわ〜‼︎グッナイ‼︎リチャード‼︎」

 

気付いた時には既に遅し…

 

「はぐっ‼︎」

 

リチャードは一撃で落とされ、ベッドに放り投げられた

 

「リチャードが悪いのよ…貴方が振り向かないから…バカッ…」



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299話 おでかけワシントンちゃん(1)

さて、298話が終わりました

今回のお話は、双眼鏡を持ってお散歩に行きたいワシントンのお話です

目線が横須賀になり、一緒にお散歩に出向きながら双眼鏡片手に色々な人と出会います


「そうがんきょ」

 

「お出掛けするの⁇」

 

双眼鏡を首からぶら下げたワシントンが私の所に来た

 

「おでかっけ」

 

「マミーとお出掛けしよっか‼︎親潮、ちょっとだけお願いするわね⁇」

 

「畏まりました‼︎」

 

椅子から立ち上がってワシントンと手を繋ぎ、執務室を出る

 

 

 

「何が見える⁇」

 

「んー」

 

外に出たワシントンは早速双眼鏡で景色を見る

 

右手は私の手、左手で双眼鏡

 

双眼鏡の先にはひとみといよ、そして迅鯨がいる

 

「あの子はひとみちゃん、いよちゃん、迅鯨さんよ⁇」

 

「ひとみちゃ、いよちゃ、じんげーさ」

 

ワシントンは最後の“ん”だけ言わない癖がある

 

「あれはお魚よ⁇」

 

「おさかな」

 

三人はとれたての魚を串に刺し、いつも涼平が海岸で焚き火をしている場所で焼いている

 

「ぼーぼーぼわー」

 

「火でお魚を焼いて食べるのよ⁇」

 

「おー」

 

「あ‼︎よこしゅかしゃん‼︎」

 

「おしゃかなやいてう‼︎」

 

ひとみといよが私達に気付いた

 

実に美味しそうなお魚が五匹焼かれている

 

「あっ、元帥さん。丁度良かったです。お召し上がり下さい」

 

「頂くわ‼︎」

 

迅鯨から焼き魚を貰い、焚き火の前に座る

 

「ワシントンも食べてみよっか‼︎」

 

「どりあ⁇」

 

「これは焼き魚よ⁇」

 

「やきざかな」

 

「うぁ〜、あむっ」

 

「あぅ〜、がぶっ」

 

目の前ではひとみといよが器用に身を食べている

 

どれどれ、私も頂こうかしら…

 

「はむっ…」

 

私の食べる姿を、ワシントンは片手に魚の串、片手に双眼鏡を持ちながらジーッと見ている

 

私の食べ方を見て分かったのか、ワシントンも魚を食べ始める

 

「もっ、もっ、もっ」

 

「おいし⁇」

 

「おいふぃ」

 

ひとみがワシントンに言うと、食べながら頷いた

 

「ごちそうさあでちた‼︎」

 

「美味しかったですね‼︎」

 

「おくちふきふき‼︎」

 

ひとみは基地でいつもそうしているのか、ワシントンの口を拭いてくれる

 

「ありがとう、よ⁇」

 

「ありがと、ひとみちゃ」

 

「わちんとんしゃん⁇」

 

「そっ‼︎新しい子よ⁇」

 

「「おぉ〜」」

 

ひとみといよは驚いている

 

そう言えば珍しいわ⁇

 

いつもならひとみといよは赤ちゃんの相手をしてくれるのに、今日はあまり教えてくれない

 

ワシントンは苦手なのかしら…

 

「いよとひとみちぁん、じんげ〜しゃんとおりぉ〜りしあす‼︎」

 

「たいえ〜しゃんもいあす‼︎」

 

「今日は揚げ出し豆腐なんですよ⁇」

 

二人はこれから迅鯨と大鯨と共に料理を作るみたいね

 

三人はちゃんと火を消し、後片付けをした後、パイロット寮に入った

 

「おさかな、おいすい」

 

「また食べましょうね⁇」

 

「うん」

 

いざ立ち上がろうとした時、ワシントンは双眼鏡を見る

 

「あたい」

 

「あら‼︎覚えたのね⁉︎」

 

工廠から出て来て背伸びしている朝霜が見えた

 

折角なので朝霜の所にも行ってみる

 

「おー‼︎母さん‼︎ワシントン‼︎」

 

「あたい」

 

「覚えてくれたのか‼︎ありがとな‼︎」

 

朝霜は朝霜でワシントンを可愛がってくれる

 

今も膝を曲げ、ワシントンの目線に合わせてくれている

 

「母さんとお散歩か⁇」

 

「おでかっけ」

 

「そうかそうか‼︎アタイはもうちょい工廠にいるかんな‼︎」

 

「ん」

 

ワシントンは朝霜の事を良く聞く

 

工廠に戻る朝霜をワシントンは見送っている

 

その目線の先には、銀色に輝く朝霜の髪

 

あぁ、そっか

 

ワシントンも銀色、朝霜も銀色

 

どこか通じる物があるのね⁇

 

「ぱぴーのとこ」

 

「今日はどこかしらね…」

 

ひとみといよがいるって事は、レイは横須賀にいるはず

 

「可愛らしい子ね⁇」

 

「この子がワシントンちゃんだね‼︎」

 

「ヒュプノス‼︎大淀博士‼︎」

 

レイが言っていたけど、この二人は足音も無く人に近付ける

 

「私はヒュプノスよ。イク、でもいいわ⁇」

 

「いくちゃ」

 

「大淀さんは大淀さんだよ‼︎」

 

「おおよどさ。わしんとん」

 

「偉いわ⁇お父様はヨナの所にいるわ。きっと遊んでくれるわよ⁇」

 

レイからそう教わったのか、ヒュプノスも膝を曲げてお話をしてくれる

 

一時のヒュプノスの事を思うと、随分母性に目覚めている…

 

「…これもレイ君の影響だよ⁇」

 

目の前で話すワシントンとヒュプノスを見ながら、大淀博士は話す

 

「レイの⁇」

 

「そっ…レイ君の傍に居る子は、母性に目覚めるのがとても速いんだ」

 

「例えば⁇」

 

「今目の前にいるヒュプノス…それとタナトスのAIであるゴーヤちゃん…叢雲ちゃんもそうだね」

 

「言われてみればそうだわ…」

 

この時、大淀博士は二人を見る私を横目で見て優しく微笑み、小さく呟く

 

「…君もそうだよ、ジェミニちゃん」

 

大淀博士は気付いていない

 

当の本人の大淀博士もその影響を受けている事を…

 

「さっ、行きましょう。お腹空いたわ⁇」

 

「そうだね‼︎ヒュプノスの好きな丹陽で担々麺食べよっか‼︎」

 

「嬉しいわ。じゃあね、お母様。お母様もまた行きましょうね⁇」

 

「約束よ‼︎」

 

ヒュプノスは微笑んだ後、大淀博士と手を繋ぎ、繁華街に入って行った…



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299話 おでかけワシントンちゃん(2)

「ここね⁇」

 

「おー」

 

タナトス級が補給を受けている横で、出番を待つスカーサハ級

 

ヨナの所にいるとの事なので、恐らくここだわ⁇

 

「おふね」

 

「そうよ。これは潜水艦よ⁇」

 

「せんすいか」

 

やっぱり“ん”を言わない

 

でも、自己紹介する時の“わしんとん”は言うわね…

 

何が違うのかしら…

 

《ようこそスカーサハへ、お母様》

 

「ありがとっ」

 

ヨナが気付いてくれて、ハッチが開く

 

「おー」

 

自動で開くハッチを見て、ワシントンはビックリしている

 

「パピーはいるかしら⁇」

 

「いた」

 

いつもレイがいるメインルームに自然と足が向かい、そこにはレイ、ヨナ、そしてゴーヤがいた

 

「おっ‼︎ワシントン‼︎マミーとお出掛けか⁉︎」

 

「おでかっけ」

 

ワシントンは早速レイに抱き着く

 

「あら、お食事会⁇」

 

「そっ。ひとみといよ達が迅鯨ととって来たらしいんだ‼︎」

 

テーブルの上には三匹の焼き魚

 

今正に三人が食べようとしている

 

「やきざかな」

 

「おっ‼︎ワシントンも食べたか⁉︎」

 

「おいすいやきざかな」

 

「ヨナも楽しみです」

 

「あの二人がとったのはオイスイでちよ‼︎」

 

ゴーヤはワシントンに合わせて言葉を変えてくれている

 

「この人はゴーヤちゃん、あの人はヨナちゃんよ⁇」

 

「ごーやちゃ、よなちゃ」

 

「物覚えが良い子でちな‼︎」

 

「ヨナも覚えたてです。一緒ですね⁇」

 

「よなちゃ」

 

ヨナとワシントンは色々覚え始めた同士

 

何処か波長が合うのかも知れない

 

「あ。そうだわレイ…」

 

私は少し気になった事を聞いてみた

 

さっきのひとみといよの件が、やっぱり引っかかる

 

「あぁ、大丈夫だ‼︎」

 

「ひとみといよは邪魔しちゃダメな時は来ないでち‼︎」

 

「基地でもそうなんだ。貴子さんがアトランタを見ている時、ひとみといよは寄らないんだ」

 

「お母さんが教えてるのを邪魔しちゃダメって分かってるでち」

 

「ひとみちゃ、いよちゃ」

 

「ひとみといよが焼き魚くれたのか⁇」

 

「おくちふっき」

 

「そっかそっか‼︎心配しなくても大丈夫だ‼︎」

 

心配して損をした

 

そうだわ。あの子達は困った時に必ず手を差し伸べてくれる子達

 

…目の前にいる男と一緒で、優しい子だったのを忘れてた

 

「おいすいです‼︎ヨナ、これ好きです‼︎」

 

ヨナは気に入っているのか、レイに買ってもらったあのアロハシャツを着ている

 

レイはレイでいつもの革ジャン

 

ゴーヤは変わらずスクール水着と、今日はチャックが付いたパーカーを羽織っている

 

「ねりねりね」

 

いつの間にかワシントンはヨナナス製造機の前に移動して、出て来るヨナナスを見ている

 

「お召し上がり下さい。今日はイチゴのヨナナスです」

 

「いちご」

 

「ワシントン⁇マミーのもお願い‼︎」

 

「んっ」

 

ワシントンはちゃんと二つヨナナスが入った容器を持って来てくれた

 

「ワシントン⁇これは覚えた⁇」

 

「すぷー」

 

「ふふっ‼︎」

 

ここまで来ると面白くなって来た

 

癖なのか意地なのか、絶対ワシントンは最後の”ん”を言わない

 

「おいすい」

 

ワシントンはヨナナスを食べていてもへの字口を直さない

 

顔を見ているだけでは感情が掴みにくいわね…

 

「おさかな」

 

スプーン片手にワシントンはモニターに目が行く

 

モニターには水中の映像が映し出されている

 

「おー」

 

モニターに映る魚群を目で追っている

 

「どれっ、外に行ってみような⁇」

 

「うん」

 

レイがワシントンを抱っこし、五人でスカーサハから降りる

 

降りてすぐの埠頭でワシントンと一緒にレイは海を見る

 

「おさかな」

 

「ワシントンにこんにちは〜って言ってるぞ⁇」

 

「こんにちわ」

 

海中でキラキラしている魚群に挨拶するワシントン

 

「んー」

 

早速双眼鏡で魚群を見始める

 

「きらきら」

 

「ワシントンはキラキラ好きか⁇」

 

「きらきらすき」

 

「あらっ」

 

少しだけだけど、ワシントンは初めて笑ってくれた

 

ほんの少し口角を上げただけだけど、やっぱり笑ってくれると嬉しい

 

それと、レイもつられて笑っている

 

やっぱり私、この光景が好きなのね…

 

「よしワシントン。マミーに繁華街でお菓子買って貰うか‼︎」

 

「おかすぃ」

 

「ヨナもゴーヤも行くわよ‼︎」

 

私の周りに子供達を置き、レイはいつも通り少し後ろを着いて来る

 

足柄の駄菓子屋に着き、子供達はワシントンを連れてお菓子を選び始める

 

「んー」

 

「悩んでるでち」

 

ワシントンはまだ文字が分からない

 

見た目だけでお菓子を判断するのは難しいみたいね

 

「ワシントンはどんな食べ物が好きだ⁇」

 

「どりあ」

 

「そうかそうか。そしたら…」

 

レイがワシントンのお菓子を選ぶ

 

おせんべいとミルクパンを選んだ

 

「おせんべいと、ミルクパンにしようか‼︎」

 

「おせんべい、みるくぱ」

 

ワシントンはお菓子の名前を繰り返した後、二度小さく頷いた

 

「ヨナはこれにします」

 

ヨナが選んだのは缶のドロップとラーメンスナック

 

ゴーヤは既に私の所に持って来たラムネ菓子がある

 

「いらっしゃい‼︎新しい子ね⁇」

 

レジに行くと足柄が待っていてくれた

 

「アメリカから来たの。ね⁇ワシントン⁇」

 

「私は足柄‼︎お菓子屋さんなの‼︎」

 

「あしがらさ。わしんとん」

 

ワシントンは足柄を少し見た後、丁度ワシントンの目線にある何かを見続ける

 

「ぱぴー」

 

「どうした⁇」

 

私がお菓子を買っている最中、レイはワシントンの横で膝を曲げ、それを見る

 

「きらきら」

 

「それはマジカル☆ジェミニだな⁇」

 

ワシントンとレイの目線の先には、マジカル☆ジェミニのシールがある

 

キラキラ加工がしてあるそれは、ワシントンが見ても綺麗に見えるのね

 

「可愛い、だな⁇」

 

レイは普通に教えてくれたのだろう

 

だけど、ちょっとドキッとした…

 

「かわいい」

 

「それの指人形もあるんだぞ⁇」

 

レイとワシントンの右側にある、箱のお菓子

 

その中にマジカル☆ジェミニの指人形があった

 

「おー」

 

「これはパピーが買ってやろうな⁇ゴーヤとヨナはどうする⁇」

 

「ならゴーヤはこれにするでち‼︎」

 

「えと…ヨナもこれを」

 

ゴーヤとヨナはレイの手にマジカル☆ジェミニのシールくじを置いた

 

外に出てベンチに座り、子供達はお菓子を食べ始める

 

「あが、あが、あが」

 

ワシントンはおせんべいに悪戦苦闘中

 

への字口を止め、何とかおせんべいを齧ろうとするが、噛み方が緩いのか、ただ歯を立てているだけになっている

 

「ぐーって噛むでち‼︎」

 

「あが」

 

おせんべいを咥えたまま、ゴーヤの方を見るワシントン

 

「んー」

 

ゴーヤの言っている事が分かったのか、ワシントンは目を閉じて噛む力を強める

 

パキッ

 

「ふぉ」

 

「かむかむでち」

 

ゴーヤに言われた通り、ワシントンは口の中でおせんべいをバリバリ噛む

 

「おいふぃ」

 

「良かったでち‼︎」

 

ヨナはレイの横でラーメンスナックを食べるのに必死

 

そんな子供達を、レイはずっと見ている

 

私は子供達を見るレイに自然と目が行っていた…

 

 

 

執務室に戻り、レイは工廠に向かい、私は席に座る

 

「まじかるじぇみに」

 

「行くよ‼︎」

 

ワシントンはレイに買って貰った指人形を清霜の車のラジコンに乗せて遊んでいる

 

「ワシントン。今日はマーカスと何して遊んだのだ⁇」

 

膝に早霜を乗せたガングートがワシントンに話し掛ける

 

「おせんべいたべた。おさかなみた。まじかるじぇみにかった」

 

「そうかそうか‼︎」

 

「ジェミニ様」

 

「どうしたの親潮」

 

今の何気無い会話で親潮がふと気付く

 

「ワシントンさんは、創造主様を認識しています」

 

「あら、分かるの⁇」

 

「今、ガングートさんが仰りました。マーカスと何して遊んだのか、と。それに対してワシントンさんは創造主様の事を仰りました」

 

「…ホントだわ。ガングート‼︎」

 

「何だ⁇」

 

ガングートに寄り、少しだけ耳打ちする

 

「分かった‼︎ワシントン‼︎」

 

「ん」

 

ガングートが呼ぶと、ちゃんとガングートの方を見るワシントン

 

「ジェミニとは今日は何して遊んだのだ⁇」

 

「やきざかなたべた。おでかっけした」

 

「ジェミニ様も認識しています‼︎」

 

「ワシントン‼︎覚えてくれたのね‼︎」

 

「まみー」

 

ワシントンの頭を撫で、また席に戻る

 

少しずつ、ワシントンは色々な事を覚えて行く

 

感情はもう少し先になりそうだけど、それもレイといると早まっている気がする

 

明日はどんな成長をするのかしら…



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300話 小さなお姉ちゃんと大きな妹

さて、299話が終わりました

300話です‼︎ 笑

ここまで読んで頂いた方、これから読んで頂く方、どうかまた宜しくお願い致します


今回のお話は、御多分に漏れず成長したアトランタ

凶暴性はちょっとは緩和されたが…


哨戒から帰って来ると、工廠で珍しく隊長がPCの前に座っていた

 

「う〜む…これは何だ…」

 

《頼むわよ、ホント》

 

「珍しいな⁇」

 

「おっ‼︎お帰り‼︎私も勉強さっ…」

 

PCの中にはヘラがいる

 

「アトランタに言われてな。ちょっと隠れて勉強さっ」

 

《丁度良いわ。アンタ、これは何⁇》

 

PCには赤いモンスターが表示される

 

絵面的に子供向け番組のキャラクターの様だが…

 

「んだコイツ…」

 

《勘でいいわ。ヒントは主人公ポジションよ》

 

「分かった‼︎キングマスターだ‼︎」

 

《…》

 

隊長が言った瞬間、ヘラの感情メーターが“母性”から“呆れ”に変わった為、多分違う

 

「もうちょいヒント無いのか⁇」

 

《そうねぇ…みんなと仲が良いわ⁇》

 

「みんなと仲が良い…つまり、みんなのまとめ役…まとめ役は…」

 

《…》

 

またヘラの感情メーターが“母性”に変わる

 

「キングジェネラルだ‼︎」

 

《もぅ…》

 

ヘラに呆れられた

 

《ウィリアム、アトランタからこの話を放られたら話を逸らしなさい》

 

「了解した‼︎」

 

《アンタは手を洗ってうがいをしなさい》

 

「了解っ‼︎」

 

ヘラは決して俺達を馬鹿にする事なく、母性をもってヒントを教えてくれた

 

 

 

 

ヘラに言われた通り、手洗いうがいをして食堂に来た

 

「ただいま‼︎」

 

「おかえりなさい‼︎もうすぐご飯出来るからね‼︎」

 

「おかえり、マーカスおじさん。おっぱいもむ⁇」

 

「へ⁉︎」

 

何と魅惑的な癒しを提供してくれるのだろう‼︎

 

しかし、言ったのは貴子さんでは無い

 

同じキッチンにいるはまかぜでもない

 

視線をテレビがある方に向け、そのあと下を見る

 

「アトランタ‼︎」

 

そこに居たのはアトランタ

 

いつの間にか立ち上がっているのに今気付いた

 

「も、揉まない‼︎」

 

「そっか」

 

「昼間からずっとその調子なのよ…」

 

「どうしちゃったんだ⁇ん⁇」

 

「なんにもないよ」

 

アトランタは微笑んだ後、テレビの前に戻る

 

心なしか、またデカくなった気がする…

 

「さ‼︎出来たわ‼︎」

 

貴子さんが晩御飯を運んで来た

 

「今日は山菜ご飯よ‼︎」

 

「おっ‼︎」

 

子供達のテーブルに山菜ご飯が並べられ、みんなで食べる天ぷらも置かれる

 

今日はひとみといよは横須賀と一緒

 

子供達が開けていてくれたのはやはりアトランタの横

 

「いただきます」

 

ずっと前からそうだが、アトランタは食べている時は非常に大人しい

 

「アトランタ」

 

「なぁに⁇」

 

「みんなの名前言えるか⁇」

 

「うん。れーべ、まっくす、かすみ、ぷりんつ、あきづき、てるづき、あまぎり、さぎり…」

 

粗方子供達の名前を言った後、残りは二人

 

「ぐみ」

 

「僕はグミかぁ…」

 

「うそうそ。きそ」

 

つい最近まで齧っていたのは、やはりきそは食べ物との認識だったみたいだ

 

最後にたいほうを見る

 

「たいほうおねーちゃん」

 

「やったね‼︎」

 

感慨深いな…

 

二人共つい最近まで子供だと思っていたのにな…

 

「ひとみといよも」

 

「おっ‼︎忘れてなかったな‼︎」

 

「うん。あそんでくれるの」

 

晩御飯が終わり、アトランタはたいほうの近くにいる

 

後ろから横並びの二人を見て、アトランタがもうたいほうと同じ位の身長になっている事に気付く

 

こうなると行く所までの成長は早い

 

明日の朝にはまた少し大きくなるのだろうか…

 

「寂しいかしら⁇」

 

「ありがとうな、レイ」

 

寝る前のコーヒーを持って来てくれた叢雲

 

同時に前に座った隊長が来た

 

「乗られないと思うとちょっと寂しいな⁇」

 

「まっ、これ飲みなさい」

 

「ありがとう」

 

叢雲からコーヒーを受け取り、口にしながらテレビの前で座る二人を見る

 

「明日の朝、また少し成長する可能性が高い」

 

「どれ位になると思う⁇」

 

「きそ位だろうとは思うんだけどなぁ…」

 

きそと言った途端、三人の頭の中では数日前までのアトランタが描かれる

 

「成長したら噛み千切られるわよ⁇」

 

「さっきもグミと言ってた位だからな…」

 

叢雲の言葉で隊長が頭を抱え、何故かキッチンを見た

 

「血の気が多いのは貴子の血だろうな…」

 

「また吹っ飛ばされるわよ⁇」

 

俺と叢雲はクスクス笑う

 

「さっ‼︎お布団敷いたわ‼︎アトランタ‼︎たいほう‼︎おやすみなさい‼︎」

 

「おやすみ‼︎」

 

「おやすみ」

 

たいほうがアトランタを連れ、子供部屋に入る

 

「確かにアトランタは血の気が多いわね⁇」

 

「…」

 

隊長は冷や汗を流す

 

貴子さんに背後に立たれて肩をほぐされ、隊長は机に両肘をついて顔の前で組む

 

“しまった…”とでも言いたそうな顔をしながら、申し訳なさそうに黙る隊長

 

「叢雲ちゃん⁇」

 

「は、はひぃ…」

 

「マーカス君⁇」

 

「は、はい…」

 

貴子さんは隊長の肩に手を置いたまま、俺達を見て微笑んだ

 

「おやすみなさい⁇」

 

「「おやすみなさい‼︎」」

 

俺と叢雲は食堂から逃げる様に去った…

 

 

 

次の日の朝…

 

「おはようレイ」

 

「おはよう…大丈夫だったか⁇」

 

「あれ位慣れたさ‼︎」

 

隊長はピンピンしていた

 

「おはよう、マーカスおじさん」

 

「おはよう、アトラン…タ…」

 

昨日より成長したアトランタが食堂にいた

 

思惑通り、やはりきそ位の身長で止まっている

 

が…

 

「あれは貴子譲りだろう…」

 

「だな…」

 

目を見張るのは、子供の身長ながらも主張の強い胸

 

相当デカイ貴子さんの血を継いでいるとしか思えない

 

「ん⁇どうしたの⁇おっぱいもむ⁇」

 

アトランタを見ているのがバレ、貴子さん曰くアトランタの口癖を言う

 

「揉まない。お手伝いしてくれてるのか⁇」

 

「うん。もうちょっとまってね」

 

アトランタは貴子さんが作った朝食をテーブルに並べている

 

すぐに準備は終わり、俺達は朝食を食べる…

 

 

 

 

朝食を食べ終え、また二人を見る

 

「おねぇちゃん。なにしてるの⁇」

 

「えほんよんでるんだよ‼︎あとらんたもよもうね‼︎」

 

微笑ましい光景の中、少し面白い事が見られた

 

「これは⁇」

 

「これはがーがーさんだよ‼︎」

 

アトランタがたいほうを膝の上に乗せ、絵本を見始めたのだ

 

小さな姉と、姉よりデカい妹

 

まるでアトランタが姉のような形だが、間違えてはいけない

 

膝の上にいるたいほうの方が姉だ‼︎

 

普段の光景とは逆の光景を見て、少し笑った…



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301話 軍楽隊

さて、300話が終わりました

今回のお話は1話しかありませんが、かなり重たいお話になります

悪夢にうなされるマーカス

目覚めたマーカスは横須賀の埠頭で一人考えます

重たいお話ですが、伏線を回収していますので是非ご覧下さい


ある日の深夜…

 

「…」

 

横須賀の埠頭にあるベンチで一人座っていた

 

悪い夢を見て目が覚めた

 

夜風に当たりながらタバコをふかし、夢の内容を思い出す

 

“あの日”の夢だ

 

まだ、手が血で汚れている気がする…

 

いや、元からか…

 

「ここにいたのか」

 

一人の女の声で、遂にその時が来たと悟る

 

「この日を待ったよ…一人になる時を…」

 

「そうか…」

 

俺は女の顔を見ずにいた

 

誰がそこにいるか、分かっている

 

女が手に握るのは、あの日と同じピストル

 

それをゆっくりと俺の方に向ける

 

「撃て。お前は俺を撃つ権利がある」

 

「…その前に教えてくれ」

 

女は撃つのを躊躇った

 

「見たんだろ、最期を」

 

「あぁ」

 

「教えて欲しい」

 

女も俺も、淡々と話す

 

「あの日、俺達は勝った。勝ったはずだったんだ…」

 

あの日、あの時、何があったかを話す…

 

 

 

十数年前…

 

「どうしたスティングレイ。興味あるのか⁇」

 

“あの街”を護る為に大規模な増援が配備され、その中に俺もいた

 

皆が神経を尖らせる最中、楽器を演奏する男達の姿が目に入った

 

「あれは軍楽隊だ。少しでも皆の癒しになる為に、今も演奏してくれている」

 

隊長に説明を受け、その日初めて楽器に興味を持った…

 

「どうした少年。軍楽隊に興味がおありかな⁇」

 

「俺はパイロットだ」

 

「そうかいそうかい。興味があるなら、また見においで」

 

ここでの滞在期間は一ヶ月程と聞いた

 

訓練が終わると、彼等は楽しそうに楽器を演奏し始める

 

その度に、俺は少し足を止めて演奏を聞いた

 

「名前は⁇」

 

「マーカス・スティングレイ」

 

「ではマーカス、此方に…」

 

軍楽隊の隊長さんだろうか

 

その人に椅子に座るように促され、座ると同時にギターを渡される

 

「私達が合わせます」

 

渡されたギターを弾く…

 

その場にいたそれぞれが俺に合わせて演奏を始める…

 

ほんの数分の出来事だったと思う

 

だけど、その数分間だけでも戦いを忘れられた

 

この力は何なのだろう…

 

残り少しの滞在期間、俺はそれが知りたくなった

 

それぞれに少しずつ、楽器を習った

 

時間は刻一刻と迫る中、それでも知りたかった…

 

そして、その日は来た

 

“あの街”を護り抜いたあの日だ

 

街も基地も祝賀ムード

 

俺達は勝った

 

後に教科書にも載る、歴史を覆した一戦だ

 

だけど、教科書にさえ…

 

歴史の片隅にも記されていない出来事があった…

 

「スティングレイ‼︎今回の小遣いは凄いぞ‼︎」

 

「あぁ‼︎楽しみだ‼︎」

 

俺も隊長も祝いの席に座っていた

 

ラバウルさんやアレン、そしてグラーフや横須賀

 

俺達の身内はちゃんと生きて勝利を収めた

 

そんな矢先に、不幸は起きる

 

「マーカスさんでお間違いないですか⁇」

 

数人の兵士が俺達の席に来た

 

「マーカスは俺だ」

 

「この場では話せませんので…どうか廊下へ…貴方はマーカスさんの隊長さんですね⁇」

 

「そうだ。今はヤボは無しだぞ⁇」

 

「私の口から説明を…」

 

隊長が説明を受ける中、俺は廊下へ連れ出される

 

「軍法会議なら行かないぞ⁇」

 

「違います…」

 

案内されたのは音楽室

 

軍楽隊の人達が一緒に演奏しよう、そう言ってくれるのだろう…

 

そんな甘い考えで音楽室の前まで来た

 

「軍楽隊の方々がお話があると」

 

「分かった」

 

音楽室のドアを開けようとすると、案内してくれた兵士に手を止められた

 

「本当は、貴方を呼ぼうかどうか迷ったのです…」

 

「どう言う事だ⁇」

 

「…これだけの祝賀ムードの中、彼等が演奏していないことにお気付きですか⁇」

 

あの時程、恐怖を覚えた瞬間は無い

 

それでも、このドアは開けなければならない気がした

 

意を決し、ドアを開ける…

 

「マーカスか…すまないな、お楽しみの最中…」

 

「…構わないさ‼︎」

 

そこでは、軍楽隊の人達が俺を待っていてくれていた

 

 

 

ボロボロの姿になって…

 

 

 

 

足が無い人、片腕を吹き飛ばされた人、出血が止まらない人、両目を失った人…

 

そして、俺に優しく接してくれた人は、腹部が抉れていた…

 

初めて間近で見た、瀕死の人間…

 

だけど、俺はドアノブに手を置いたその時、中では気丈にいようと決めていた

 

「すぐに良くなるさ‼︎そうだ俺、あの曲覚え…」

 

胸元に何かを置かれる…

 

「嫌だ…それだけは…」

 

胸元に置かれたそれは見ずとも分かった

 

気丈に振る舞うと決めたはずの意識が折れた瞬間でもあった…

 

「頼む…マーカス、君の手で楽にしてくれ…」

 

「助かるさ…だからこんな物…‼︎」

 

「マーカス頼む…君の手で死ぬなら本望だ…」

 

「…」

 

呼吸も、鼓動も、全てが乱れる…

 

「覚えておいておくれ…私達の事を…」

 

「…演奏を聴かせてくれないか」

 

震えた声で、最期のお願いを言う…

 

「よしよし…」

 

演奏が始まる…

 

 

 

 

「恐らくは…」

 

「何て事を…ジェミニ‼︎グラーフ‼︎スティングレイを止めるぞ‼︎」

 

「我々も参りましょう」

 

隊長達、そしてラバウルさん達が音楽室に急ぐ…

 

 

 

「…」

 

演奏の最中、一人の前に立つ

 

彼は片手でトランペットを吹きながら、震えた手で俺に敬礼を送る…

 

乾いた音が一つ…

 

微笑みを送られ、また一つ…

 

手を振られ、また一つ…

 

一つ、また一つ、最期の演奏が終わって行く…

 

そして、最後の一人…

 

「ありがとう…」

 

彼は演奏をしながら、口角をゆっくり上げた

 

「またな、マーカス…」

 

五回目の乾いた音…

 

全てが終わり、胸元に置かれたそれを床に落とした

 

「あぁ…あぁ‼︎」

 

「スティングレイ‼︎」

 

「おっ…俺…俺がっ…あっ…あ…」

 

言葉にならなかった

 

俺はパニックを起こしていたのだろう…

 

「よしよし…」

 

「うわぁぁぁあ‼︎」

 

隊長の胸で泣いた

 

血塗られた両手を見て、またパニックになる

 

何度も夢に出て来る程、あの日の出来事は頭から離れずにいる…

 

 

 

 

「これが最期だ」

 

あの日の裏側の話が終わり、俺はベンチから立ち、女の目を見る

 

「兄さんの何処を撃った」

 

「ここだ…」

 

女が手にするは、あの日俺が手にしていたのと同じリボルバー

 

それを眉間に合わせる

 

「救えなかったのか‼︎兄さんを‼︎」

 

「救えなかった。だから、二度とあんな目に遭わせない為にカプセルを造った」

 

「…」

 

銃口を眉間に置いたまま、女の名前を呼ぶ

 

「さぁ、撃て。撃って終わらせてくれ…“ガリバルディ”」

 

女の名前はガリバルディ

 

あの日、俺に優しくしてくれた軍楽隊の隊長さんの妹だ

 

「…真相を知りたかっただけさっ」

 

ガリバルディはリボルバーを降ろし、腰に直す

 

俺もガリバルディもベンチに座り、もう少し話す

 

「いつから気付いていた⁇」

 

「お前が来た日からさ。大方、俺を狙ってたんだろう⁇」

 

「御名答だっ…」

 

ガリバルディが横須賀に来たあの日、ミサイルの標準は基地では無く、俺に向けられていた

 

俺には、ガリバルディに殺される理由があり過ぎるからだ

 

「兄さんを見送ってくれて、ありが…」

 

「言うな、それ以上…頼む…」

 

「…んっ」

 

「明日は早いのか⁇」

 

「明日はあれだ‼︎ヒトミとイヨと料理すんだ‼︎アンタにも食わせてやんよ‼︎」

 

ガリバルディの顔が、いつもの明るい顔に戻る

 

「あぁ心配すんな‼︎ヒトミとイヨにあーだこーだ言わねぇよ‼︎」

 

「すまん」

 

「勝てっこねーもん…マジで…」

 

ガリバルディがボソッと言った言葉で、俺もようやく笑う

 

「アブルッツィにどう説明すっかな…」

 

「姉さんは知ってる。アンタが兄さんを救ったのを。アタシはあんま知らなかったからな」

 

「またいつでも聞きに来てくれ」

 

「いんやっ‼︎もうねぇなっ‼︎」

 

ガリバルディは立ち上がり、背伸びをする

 

「次に会う時は、美味いもん食いながら楽しい話する時だ‼︎おやすみ‼︎」

 

「おやすみ、ガリバルディ」

 

ガリバルディは自室に戻って行った…

 

朝日が昇る…

 

夜明けか…

 

俺ももう少しだけ、眠るとしよう…



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302話 許す力(1)

さて、301話が終わりました

今回のお話は、第三居住区の試食会に訪れたマーカス達

そこには涼平がおり、マーカス達を案内します


第三居住区の建設がかなり仕上がって来た

 

今日はここで試食会が行われるらしく、俺と横須賀も第三居住区に来た

 

「このエリアは海産物の販売、反対側は飲食店、出入り口付近にスーぴゃ〜マーケットの支店を設置しました‼︎」

 

「凄いな…」

 

「よく再現出来たわね…」

 

「皆さんのお陰です‼︎」

 

涼平が設計した第三居住区繁華街エリア

 

設計図と現場を交互に見るが、瓜二つに仕上がっている

 

「今日は海産物の試食会なんです‼︎」

 

涼平は意気揚々としている

 

「生簀の許可も取れたし、深海の子達に一定量の海女と漁を許可してからどう⁇」

 

「二人共来て下さい‼︎」

 

子供のように目を輝かせながら俺達の手を引く涼平

 

その後を着いて行くと、養殖場に着いた

 

「左がハマチと鯛の養殖場、真ん中が貝類の養殖場、右が新しい養殖場です‼︎」

 

「新しい養殖場⁇」

 

ハマチと鯛の養殖場も、貝類の養殖場も、小さな小屋が近くにあるだけでメインは生簀

 

しかし一番右の養殖場だけ、少し大きな施設がある

 

「どうぞ‼︎」

 

涼平に案内され、その施設に入る

 

「コレハドウカナ⁇」

 

「稚魚にはなりましたからね…後は成長過程がどうな…いらっしゃいませ‼︎」

 

「再就職か⁇」

 

「はっ‼︎此方でまだ確認されていない魚の養殖法を発見する方が無難であります‼︎」

 

そこに居たのは、少し前にF-2でここに来たパイロット達

 

F-2に乗っていた時より顔が生き生きしている

 

「今ここではサンマの養殖を研究しています。後はまだ養殖法が確認されていない魚を数種類程」

 

「これは⁇」

 

目の前の水槽では、ギリギリ目で確認出来る位の小さな何かが泳いでいる

 

「伊勢海老の幼体です。養殖可能になれば、美味しくて安い伊勢海老が食べられます‼︎」

 

「お腹空いて来たわ‼︎」

 

「行きましょう‼︎」

 

また涼平に連れられ、今度は広場に向かう…

 

 

 

試食会ともあり、各所の皆が集まっている

 

「マーカス‼︎」

 

「今日はありがとう‼︎」

 

一番最初に声を掛けてくれたのはトラックさん

 

遠くに衣笠と蒼龍が見える…

 

「此方こそ呼んでくれて‼︎魚介類は私は専門外な物で…勉強して帰ります‼︎」

 

「いつも食べさせて貰ってるからな‼︎」

 

「お久し振りです、大尉‼︎」

 

「呉さん‼︎」

 

今度は呉さんが挨拶に来てくれた

 

「涼平が隼鷹を連れて来てくれと…」

 

「涼平がか⁇」

 

「えぇ。一応連れては来ましたが、あそこで護衛をしていると聞かなくて…」

 

呉さんの目線の先に視線を合わせる

 

港でポツンと一人佇む隼鷹が見えた

 

「サァサァ‼︎タベテクダサイ‼︎」

 

そうこうしている内に試食会が始まり、俺と呉さんも向かう

 

 

 

「ここはこうやって切るんだ」

 

「コウ⁇」

 

「そっ、上手だ」

 

隊長は俺達より早く来ており、深海の子達に魚の捌き方を教えている

 

「おっ‼︎レイ‼︎呉さん‼︎ちょっと食べて見てくれ‼︎」

 

「どれっ、いただきます」

 

「いただきます」

 

呉さんと共に、厚切りの鯛の刺身を食べる

 

美味い…

 

食感がコリコリしていて甘さも良い…

 

「美味い…」

 

「このクオリティが出るのですか⁉︎」

 

「刺身、寿司、海鮮丼、ここならどれもその厚さと美味しさ、それと中々の安さで出せるぞ‼︎」

 

「これならお客は集まるでしょう‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

隊長のお刺身ゾーンは忙しそうなのでこれ位にし、次は貝類のエリア

 

「ア、オイシャサン‼︎」

 

「シュリさんか‼︎」

 

貝を焼いていたのはシュリさん

 

昔涼平とやっていたのか、焼き方がテクッている…

 

絶妙なタイミングで醤油をかけたり、バターを入れている

 

「ハイ‼︎オイシイヨ‼︎」

 

シュリさんからお皿に乗ったサザエとホタテを貰う

 

「「いただきます‼︎」」

 

俺達は早速それを頂く

 

「白いごはんが欲しい…」

 

「自分は少しだけ飲みたくなって来ました…」

 

それだけ美味い

 

段々と言葉のボキャブラリーが減って来る程、舌鼓を打つ

 

「そういや涼平はどこ行った⁇」

 

「アソコ‼︎」

 

シュリさんが指差した方を見る…



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302話 許す力(2)

「…」

 

隼鷹はずっと港にいた

 

涼平と顔を合わせたくないのではない

 

二度と彼の居場所を奪われる事がないよう、そこで見張っていた

 

「隼鷹」

 

「あっ…りょっ、涼平君じゃないか‼︎あははは‼︎」

 

涼平の両手には、試食会で振る舞われている魚介類が紙皿に乗っている

 

「あたしのとこより会場に行きなよ‼︎ねっ⁉︎」

 

「隼鷹にも食べて欲しいんだ」

 

隼鷹をベンチに座らせ、涼平は魚介類を渡す

 

「い、良いのかい⁇」

 

「酒は出ないよ」

 

「ん…いただきますっ」

 

割り箸を割り、隼鷹も試食にありつく

 

「美味いなぁ…あたしはこんな…」

 

「何も言わなくていい。全部分かってる」

 

「…」

 

隼鷹はそれを聞き、少し鼻をすすりながら食べ進める

 

「お腹一杯になりましたか⁇足りないならもっと…」

 

「もうお腹一杯だよ。ありがとう、涼平君。さぁ、もうお行き。あたしが憎いだ…下がってな‼︎」

 

「隼鷹⁉︎」

 

泣きそうな顔だった隼鷹の顔が凛々しく変わる

 

《こんな所にいたのか、隼鷹》

 

隼鷹と涼平の無線に通信が入る

 

「…」

 

無線を聞いてから隼鷹の様子がおかしい

 

「第三居住区、絢辻です。其方は⁇」

 

《答える義務は無い。その基地、我々が貰い受ける》

 

無線が切れ、水平線を見る

 

巡洋艦二隻、イージス艦が一隻、離れた場所に見えた

 

「涼平君は戻りな‼︎あたしがやるから‼︎」

 

「すぐに戻っ…」

 

涼平が戻ろうと一緒隼鷹から目を離した時、背後で爆発が起こる

 

「隼鷹‼︎」

 

イージス艦からのミサイルだろうか…

 

隼鷹は吹き飛ばされた後、コンクリートの上に倒れていた

 

涼平はすぐに隼鷹に駆け寄る

 

「何してんだい…早く行きな‼︎」

 

「隼鷹、足が…」

 

攻撃の影響で隼鷹の左足が折れていた

 

「爆発のダメージはないけどっ…吹き飛ばされた衝撃で…はは、因果応報かぁ…」

 

隼鷹の体が持ち上がる

 

「ちょっと…何考えてんだい…」

 

「逃げるよ」

 

「…」

 

隼鷹をお姫様抱っこで抱え、皆がいる広場を目指そうとした

 

「うわっ‼︎」

 

二発目の着弾が目の前に落ちる

 

「涼平君‼︎」

 

「…隼鷹、前…見えますか⁇」

 

「あんた…目が…」

 

破片を食らったのか、涼平の目からは血が流れていた

 

隼鷹は両目が見えなくなった状態の涼平を見て、あの日の自分の愚かさを実感した

 

「…真っ直ぐ走って‼︎」

 

涼平を誘導し、広場を目指す…

 

 

 

広場では港で起きた爆発と、近くにいる敵艦の処理で慌ただしく動いていた

 

「涼平‼︎」

 

「隼鷹‼︎」

 

「真っ直ぐ…真っ直ぐだ…」

 

隼鷹を抱えた涼平が戻って来た

 

「良く頑張った涼平‼︎」

 

「隊長…」

 

涼平は両目をやられており、すぐにでもカプセルに放り込まなければいけない

 

「何で放っておかなかったんだい…」

 

「そこにいるんですか…隼鷹…」

 

「いるよ…ここにいる‼︎」

 

隼鷹は折れた足を引き摺り、涼平の手を握る

 

「死んだら…終わりなんです…」

 

「そうだね…」

 

「言ったでしょう…二度と大切な人を奪わないでくれって…」

 

「言った…だから今日…」

 

「誰かが終わらせなきゃダメなんだ…負の連鎖は…自分は許します…だから隼鷹、隼鷹も大切になった…」

 

「…‼︎」

 

「とりあえず涼平をカプセルに放り込む‼︎呉さん‼︎隼鷹を‼︎」

 

「分かった‼︎」

 

涼平と隼鷹は今では病院施設になった元研究棟で、隣り合わせのカプセルに入れられた

 

互いに一部分のみの損傷なので、比較的短時間で治療は終わりそうだ

 

問題は敵艦だ…

 

表に出て、対策を練らねば…

 

「て〜て、てって〜、ててててっ〜ん‼︎準備は宜しいかな⁉︎」

 

「準備完了だっ‼︎」

 

互いにタバコを咥えた親父とヴィンセントが何かを構えている

 

「てれっててって、てってて〜‼︎」

 

「その歌どうにかならんのか‼︎」

 

「お前も歌え‼︎てててって〜‼︎ロックオ〜ン‼︎」

 

「…て〜て、てって〜‼︎終わりだぁ‼︎」

 

二人の標準が定まり、真剣な顔になる

 

「「Check Mate‼︎」」

 

二人が手にしていたのは、俺の知る限りスティンガーか何かのランチャー

 

二発の弾は巡洋艦二隻へと向かう…

 

「お〜お〜‼︎良く燃える燃えるぅ‼︎」

 

二発共見事に着弾し、一度爆発を起こした後、何故か異常に燃え上がる

 

「流石は何十隻も撃沈しただけはあるな⁇」

 

「燃料庫に貫通弾を撃ち込めば艦船でも燃える燃えるぅ‼︎フゥ‼︎」

 

「あのイージスも一発かますか⁇」

 

「いんや。孫に任せるとしよう‼︎」

 

親父は全てを見透かしているかの様に、タナトスとスカーサハが浮上するのを知っていた

 

「ゴーヤちゃん、ヨナちゃん。こっちまで曳航出来るか⁇」

 

《お任せでち‼︎》

 

《お任せ下さい、リチャード様‼︎》

 

親父とヴィンセントは咥えタバコをしたままハイタッチをし、広場に戻って来た

 

「召し捕ったりぃぃぃい‼︎」

 

親父は敵を撃退した事の喜びを全身で表現

 

ヴィンセントは照れ臭そうだが、スティンガーを持っていない左手を天に掲げた

 

「「「オォォォオ‼︎」」」

 

深海の子達が親父とヴィンセントの姿を見て歓喜する

 

「さっ‼︎尋問は彼女達に任せて‼︎治療は…治療だ‼︎マーカス、涼平と隼鷹は‼︎」

 

「大丈夫だ‼︎助かったよ‼︎」

 

「大尉…その…今の私の姿はガンビアには内密に…」

 

ヴィンセントはまだ照れ臭いのか、目線を逸らし、スティンガーを背中に回した

 

「分かったっ。ガンビアさんには、旦那は勇猛果敢だって言っとくよ‼︎」

 

「それは参りました‼︎では‼︎」

 

「ほら食うぞ‼︎」

 

どうやら親父達は到着して間近で異変に気付いてくれたらしい

 

二人のお陰で怪我人は出たものの死者は無く、最小限で収められた…



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302話 許す力(3)

「どうだ⁇見えるか⁇」

 

「凄い…もう見えます‼︎」

 

「リョーチャン‼︎」

 

目が治った涼平に飛び付くシュリさん

 

隼鷹は少し前に完治してカプセルから出ている

 

「オイシャサン、アリガトウ‼︎」

 

「いつでもっ」

 

「ア、ソウダ。ソトデサッキノフネノノリクミインガイルヨ」

 

「どれっ…ちょっと見物に行くか」

 

乗組員がいる場所はすぐに分かった

 

周りに深海やら艦娘が集まり、縛った乗組員を囲っている

 

「殺せ‼︎」

 

「貴様等の施しなど受けん‼︎」

 

「アラアラ、アバレンボサン」

 

「タベチャイマショウカ」

 

戦艦棲姫の姉妹が来た

 

「…」

 

「タベラレルトワカッタラダマルノ⁇」

 

「我々にも意思がある‼︎」

 

「ドウシテワカリアオウトシナイノ⁇」

 

「ここは我々の基地だ‼︎」

 

「ナラ、ヤリナオシマショウ。イッショニ」

 

戦艦棲姫の姉妹は手を差し伸べた

 

「やり直す⁇一緒に⁇は。笑わせるな‼︎我々の基地だと言っているのが分からんか⁇」

 

「選択肢は無いわよ」

 

そこに横須賀が来た

 

イージス艦の艦長らしき人物の前に腕を組んで立つ

 

「貴方達に与えられたのは生きるか死ぬかじゃない。死しかないの。私は部下を傷付けられた。この子達は貴方達に酷い目に遭わされた。選択肢は死しか残ってないの」

 

「此奴等は敵だぞ‼︎裏切り者が‼︎」

 

「私からすれば貴方達が敵なの。いい⁇置かれた立場を分かって。私は貴方を絶対に許さない。だけど…」

 

久々に見る、横須賀の冷たい目

 

今は滅多に見なくなったサディスティックな表情で、イージス艦の艦長の背後に回り、後ろから頬を撫でる

 

「この子達はあれだけ酷い目に遭わされたのに、貴方達と和解しようとしているの…」

 

「…」

 

イージス艦の艦長の顎を掴み、戦艦棲姫の方に向けた時、彼の頭から冷や汗が流れた

 

「…殺せよ」

 

「ワタシタチハシナイ」

 

「コロシテドウナルノ」

 

「あら。彼処にスティンガーを持った怖〜いおじさんが見えるわね⁇」

 

イージス艦の艦長は目を背けようとしたが、再び横須賀が顎を掴み、其方に向ける

 

その方向には、厳つい目をした親父とヴィンセントがスティンガー片手に立っている

 

「簡単には死なせないわ。一番痛〜い方法で…ゆ〜っくり、じ〜っくり…貴方達を“解体”してあげる…それとっ…貴方の部下はもっともっと酷い方法で…」

 

「魔女め…」

 

イージス艦の艦長は震えだす

 

「膝を砕いて動けなくされて、体中に毒針を刺されて、心臓を貫かれても意識はあるの…ふふっ…呼びましょうね⁇」

 

「わ、分かった‼︎降伏する‼︎」

 

「なんて言うの」

 

「す、すまない‼︎」

 

「ウラギッタラ、ヨコスカサンノトコツレテク」

 

「イケスノオサカナノゴハンニシチャウ」

 

「ですって」

 

「わ、分かった…」

 

「契約書を持って来るから、ここで今しばらく手伝いをなさい」

 

「分かった…おい‼︎聞いたな‼︎降伏だ‼︎」

 

彼の言葉に全員が俯く

 

「命があっただけまだマシだ…逆らうべきではなかったのだよ…」

 

「…了解です」

 

一人がそう言うと、連鎖反応で皆が頷く

 

「さっ‼︎これでおしまい‼︎二人共ありがとうね⁇」

 

「イイノイイノ‼︎」

 

「ミンナトナカヨクスルノガイチバン‼︎」

 

「ねぇ…どうしてそんなに優しいの⁇」

 

横須賀はずっと疑問に思っていた

 

シュリさんは涼平がいるから分かるが、この戦艦棲姫姉妹は特に友好的

 

「タイセツナヒトト、ヤクソクシタノ」

 

「ケンカシナイ、イガミアワナイッテ」

 

「そう…」

 

悲しそうに、しかし優しく微笑む二人を見て、横須賀はそれ以上聞かない事にした…

 

 

 

「絢辻少尉…」

 

まだ横になっている涼平の所に呉さんが来た

 

シュリさん達は表にご飯を食べに行っており、今は二人きり

 

「涼平、でいいです」

 

「涼平、ありがとう…」

 

涼平は呉さんの感謝の言葉に少し微笑んだ後、真剣な表情に変わる

 

「自分は全てを知りました。だからこそ、隼鷹も救われるべきなんです」

 

「申し訳ない…君には頭が上がらない…」

 

「隼鷹は逆らえなかったのでしょう⁇」

 

呉さんは無言で何度も頷く

 

涼平は全てを知った

 

あの日隼鷹は逆らえずにいた

 

逆らう事すら出来なかったのかも知れない

 

何処の人かも分からぬまま連れ去られ、体を弄られ、戦場に放り込まれた

 

失敗すれば体に教え込まれた

 

それを全て知った上で、涼平はあの日の事を許そうと思った

 

「しかし涼平…やった事は事実だ。君の家族を…」

 

「自分には、家族と呼べる人がいませんでした…」

 

「…」

 

涼平には家族がいない

 

あの島で涼平はずっと一人でいた

 

だけど、周りの皆が涼平の面倒を見てくれていたのだ

 

「今は呼べます。ここの皆が、自分をそう言ってくれる限り」

 

「そうだな…涼平、何かあったら何でも言って欲しい。小遣いが欲しいでもいい」

 

「ならっ、皆が作った料理を食べて来て下さい‼︎」

 

「分かったっ‼︎後で隼鷹にも御礼を言わせに来ても構わないか⁇」

 

「楽しい話ならいつでもと言って下さい‼︎」

 

呉さんの笑う顔を見て、涼平も笑顔で呉さんを見送る…

 

 

 

 

「涼平君…」

 

「傷は治りましたか」

 

数分後、隼鷹が涼平の所に来た

 

「ありがとう…今までは助ける側だったから…その…」

 

涼平の前でモジモジする隼鷹

 

隼鷹はこの体になって以降、救う事はあれど、救われる事は少なくなった

 

なので、こう言った時にどう礼をして良いのか分からなくなっていた

 

「いつもの気さくな隼鷹に戻ってくれませんか」

 

「ん…分かったっ‼︎」

 

「それがいいです」

 

涼平が隼鷹を見る目はとても真面目な目

 

設計図と向き合っている時に垣間見えるのと同じ、真剣な目だ

 

「そ、そ〜だ‼︎何かお礼しなきゃな‼︎近々、一晩付き合おうじゃない‼︎」

 

「お酒ですか⁇」

 

「涼平君。あたしが言えた事じゃないけど…涼平君もあたしに対して軽くでいいよ」

 

それを聞いて、涼平が頭に思い浮かべたのはマーカスとリチャード

 

彼等ならどう返すだろうか…

 

「分かったっ‼︎なら、一晩隼鷹をベッドの上でメチャクチャにしてやる‼︎」

 

涼平は二択の選択を誤った

 

ここはマーカスを選ぶべきだった

 

マーカスなら

 

“お前が眠るまで横にいてやるから、ここ一番のおめかしで来いよ⁇”

 

と、粋な事を言ってくれる

 

此方を取るべきだったのに、涼平は選択ミスをした‼︎

 

その結果…

 

「よしっ‼︎分かった‼︎」

 

隼鷹は二つ返事で快諾してしまう

 

「良くない良くない‼︎冗談だよ‼︎」

 

「あたし、綺麗におめかしして来るから‼︎じゃっ‼︎」

 

「待って隼鷹‼︎あー‼︎」

 

隼鷹は行ってしまう

 

涼平は目が点のまま、叫び声に気付いたシュリさんが来た

 

「ジュンヨーナンテイッテタ⁇」

 

「後日、一晩付き合ってあげるって…」

 

「ヨカッタ‼︎」

 

「怒っていいんですよ、シュリさん…」

 

シュリさんはこう言う所が天然

 

シュリさんの中では、涼平と隼鷹が仲直りしたと思っている

 

が、現実はロマンチックに言うならば一夜の逢瀬

 

「コレデジュンヨーヲベッドデコロセル‼︎」

 

ニヤケ顔のシュリさんが右手でガッツポーズをする

 

この二人、ちょっと思考も近いので互いに惹かれあった節もある

 

「行きませんよ‼︎」

 

「ワタシハイッテホシイ。ソレデ、マタハジメテホシイ」

 

「何をですか⁇」

 

「サイショハコロシアイ。ダケド、ココカラハジマルノ、ワタシタチノオトモダチガ‼︎」

 

シュリさんはちゃんとした考えを持っていた

 

「リョーチャンエライ‼︎アッパレ‼︎」

 

「…分かりましたっ‼︎なら、行ってみます‼︎」

 

後日、涼平と隼鷹は会う事になった

 

それは互いの陣営にとっても、長い一夜となる…



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303話 まみーとおやちおのおりょうり

さて、302話が終わりました

今回のお話と、次のお話は1話だけです

晩ごはんの為にキッチンに立つ横須賀

親潮の手引きとワシントンのお手伝いを貰いながら料理をするが…


ある日の横須賀…

 

「おりょうり⁇」

 

「そうよ〜⁇パピーを喜ばせるのよ⁇」

 

横須賀がキッチンに立っている

 

カウンターの向こうには、物珍しさに着いて来たワシントンが座っている

 

「ジェミニ様、今日は此方にしましょう‼︎」

 

親潮がレシピが書かれた書類を持って来た

 

「ワシントンさんもしてみますか⁇」

 

「ぱぴ〜、うれすぃ⁇」

 

「嬉しいわよ‼︎」

 

「ん」

 

ワシントンはカウンターの前に座りながら、親潮が切った具材を使って行く事になった

 

「まずは野菜を切りましょう」

 

「よいしょ…よいしょ…」

 

「にんじんさ、とん、とん、と」

 

ワシントンに見て貰いながら、横須賀と親潮は野菜を切り進める

 

「次は鶏肉です。一口大に行きましょうか」

 

「切りにくいわね…」

 

「とりにくさ、とん、とん、と」

 

親潮側のまな板で軽快に切られて行く食材を見て、ワシントンは軽く首を振りながら眺めている

 

「いいですかジェミニ様。ここからは落ち着いて、です」

 

「えぇ」

 

「ワシントンさんは、親潮の分を一緒にしましょうね⁇」

 

「ん」

 

親潮曰く、問題のパートに入る

 

「では、牛乳を1カップ入れます」

 

「1カップね‼︎」

 

「かっぷ」

 

「このカップの、ここまでミルクを入れて下さい」

 

「ん〜」

 

やる時はちゃんと黙るワシントン

 

ちゃんと親潮に言われた分量のミルクをカップに注ぐ

 

「いれた」

 

「ありがとうございます。ジェミニ様‼︎それはカップの分類に入りますがジョッキです‼︎」

 

横須賀が注いでいたのは計量カップではなく、ビールジョッキ

 

しかもそれを今まさにボウルに入れようとしている

 

「多いですってぇ‼︎だぁーっ‼︎」

 

「だぁ〜」

 

「レイは沢山食べるわ‼︎」

 

時既に遅し。ボウルに大量のミルクが注がれた

 

「ここまではセーフにしましょう。では、鍋に移し替えて加熱して行きます」

 

「料理は火力よ‼︎」

 

「まずは中火で‼︎だぁーっ‼︎」

 

「だぁー」

 

開幕早々、中華料理屋並の火柱が横須賀側の鍋から上がる

 

「おー。ぼーぼーぼわー」

 

「よいしょ…中火でゆっくり、です」

 

「分かったわ‼︎」

 

親潮は横須賀のコンロを中火に戻し、棚から塩を取り出す

 

「お塩をひとつまみ入れましょう。熱いので気を付けて下さいね⁇」

 

「ぱらぱらおしお」

 

ワシントンはちゃんとひとつまみ入れる

 

「ジェミニ様‼︎それはひとつかみ‼︎だぁーっ‼︎」

 

「だぁー」

 

横須賀は塩を鷲掴みにし、鍋に放り込んだ

 

「レイは味が濃い目が好きなの‼︎」

 

「…」

 

親潮は一瞬哀れな物を見るかの様な物凄いジト目で横須賀を見たが、すぐに視線を鍋に戻す

 

「最後にとろみを付ける為に片栗粉を入れましょう‼︎」

 

「かたくりこっこ」

 

「ここにあるわ‼︎」

 

「ではグラムを計りましょう‼︎」

 

「開けるわね‼︎」

 

親潮は思った

 

あぁ、ジェミニ様にどうして粉系を任せたのだろう…

 

親潮よ…普段のジェミニ様の行動パターンを予測するのです…

 

執務室でポテチの袋を開ける時、34%の確率で破裂させます…

 

ジェミニ様の今の開け方で中身が破裂する確率は…

 

「そ〜れ〜‼︎」

 

「ジェ〜ミ〜ニ〜さ〜ま〜‼︎」

 

「か〜た〜く〜り〜こっ〜こ〜」

 

親潮の時間が緩やかに流れる

 

袋の中がぶち撒けられるのもスローモーション

 

そして、勢い良く飛び出た片栗粉が落下する先には横須賀の鍋が

 

「だぁ〜〜〜っ‼︎」

 

「だぁ〜〜〜」

 

コンロに触発され、引火する片栗粉

 

軽く粉塵爆発が起こる

 

「ぶへっ‼︎」

 

「ぼわっ‼︎」

 

「ぼがー」

 

怪我人が出なかったのが幸いだが、三人は粉まみれ

 

「ジェミニ様…次からは粉系列は親潮が…」

 

「そうね…任せるわ…体洗いま…ワシントン‼︎ごめんね‼︎粉まみれじゃない‼︎」

 

「こなこなかたくり」

 

一番酷い有様になっていたのはワシントン

 

横須賀と親潮は顔とエプロンに被害を受けた位だが、ワシントンは全身真っ白になっていた

 

「どうした‼︎大丈夫か‼︎」

 

「レイ‼︎」

 

爆発音を聞き付けたレイが来てくれた

 

「片栗粉が引火しまして…」

 

「怪我は無いか⁉︎」

 

「親潮は大丈夫です。ジェミニ様は⁇」

 

「大丈夫よ‼︎粉落としたいの。レイ、先にワシントンお願い出来る⁇」

 

「分かった‼︎ワシントン、パピーとお風呂行こうな⁇」

 

「おふろしゃわー」

 

「そうだっ。こなこな落とそうな⁇」

 

レイと手を繋ぎ、ワシントンは先にお風呂に向かった

 

 

 

「ぱぴー。まみーおりょうりしてた」

 

「頑張ってたか⁇」

 

「うん」

 

ワシントンの頭を洗いながら、先程の話を聞く

 

「まみー、ぱぴーうれすぃて」

 

「そうだなっ。パピーは、マミーの作るお料理が好きだ‼︎」

 

「おやちお、だぁ〜いってた」

 

「親潮がか⁇」

 

「お〜いですて、だぁ〜」

 

「ははは‼︎また分量間違えたんだな‼︎よしっ、後はあそこに浸かろうな⁇」

 

「あひるさ」

 

アヒルのオモチャが浮かんでいる湯船に浸かるワシントン

 

「ぱぴーはいる⁇」

 

「パピーはまた後でだな⁇」

 

「あひるさ、ぶくぶく」

 

「あら、これは大尉」

 

香取先生が大浴場に来た

 

マズイ…出なければ…

 

「お気になさらず。香取で良ければ是非…」

 

「…あの人は香取先生だな⁇」

 

「かとりせんせー」

 

「ふふっ、話は伺っています。ごゆっくりと、ワシントンさん‼︎」

 

香取先生は少し離れた場所で体を洗い始めた

 

「お子様ですか〜大尉⁇」

 

「足柄か‼︎」

 

今度は足柄が来た

 

「新入りなのです‼︎」

 

「マーカスさん、横須賀さんと…」

 

足柄が連れて来たかのように、雷電姉妹も来た

 

「まぁ、そんな所さっ‼︎もうそんな時間か…」

 

大浴場は引っ切り無しに艦娘達が来る

 

考えてみれば、もう夕方

 

皆風呂に入って、ご飯を食べて、後は寝る準備をするだけだ

 

「大尉、のぼせないでね⁇」

 

「のぼせたらキャーキャー言うのです‼︎」

 

「よく考えてみれば堂々と覗きだわ‼︎」

 

「今更気付いたのか…」

 

雷電姉妹はケラケラ笑う

 

三人は俺の後ろで体を洗い始める

 

「そうだ大尉、この間のお会計の時に釣り銭を渡しそびれちゃったの。後で持って行くわ⁇」

 

「今度ワシントンが駄菓子を買いに行った時に割り引いてやってくれ。それに、湯冷めすると風邪引くぞ⁇」

 

「ふふっ…堂々と覗きをして、私の体の心配⁇」

 

「降参だっ」

 

「冗談よ冗談‼︎」

 

俺と足柄は笑う

 

ここまで何の抵抗も無しに女湯に入れる俺もどうかと思うが…

 

普段真面目にしているからと思っておこう‼︎

 

「よしっ、あがろうな‼︎」

 

「からだふっき⁇」

 

「そっ‼︎体ふっきして、ご飯食べような⁇お邪魔したな‼︎」

 

「いつでも乱入するのです‼︎」

 

「変な事したらその時は返り討ちにするわ‼︎」

 

大浴場を出て、ワシントンの体を拭く

 

「ぱぱぱぱぱぴぴぴぴ」

 

「どうした⁇」

 

頭を拭いていたので、ワシントンの声が震える

 

「あたい、は〜すごい」

 

「ははは‼︎朝霜は歯ギザギザだな‼︎」

 

「がじがじ」

 

ワシントンは朝霜の歯が好きなのか、歯を噛み合わせて、朝霜の歯が如何に凄いかを俺に伝えてくれる

 

「さっ‼︎ご飯食べような‼︎」

 

体を拭き終わると、ワシントンは手を繋いで来た

 

「どりあちがった」

 

「何だろうなぁ⁇」

 

爆発があったので内心怖いが、親潮側がどうやら基礎に従った料理らしい

 

いざ、キッチンに戻る…

 

 

 

「いただきますっ」

 

「いただきます」

 

横須賀に来ても、座る場所はやっぱり子供の横

 

右にワシントン、左に清霜がいる

 

「これはシチューだ」

 

「しちゅー」

 

どうやら横須賀が作っていたのはシチュー

 

見た目は美味そうだが、果たして…

 

「おいすぃ」

 

「…」

 

「美味しい‼︎」

 

ワシントンも清霜も美味しそうにシチューを食べる

 

二人はあっという間にシチューを平らげ、執務室に戻った

 

「どうでしょうか⁇」

 

「美味いな…優しい味だ」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

この反応を見る限り、今食べているのは親潮のシチュー

 

「親潮、横須賀のシチューも入れてくれないか」

 

「畏まりました」

 

キッチンには俺と親潮の二人

 

「どうぞっ」

 

親潮がよそってくれたシチューを見る

 

具材は無骨な切り方

 

シチューも片栗粉を入れ過ぎたのか、所々塊になっている

 

…あいつらしいな

 

「…」

 

一口運んで、ゆっくり飲み込む

 

「親潮」

 

「はい」

 

「横須賀はどうだった⁇」

 

「随分と楽しそうでした。創造主様に食べて貰うのだと」

 

「そっかっ…」

 

きっと、あいつなりに真面目に作ったのだろう

 

あいつなりに、喜んで貰おうとしてくれたのだろう

 

このシチューを見ればすぐに分かった

 

「どんだけあるんだ⁇」

 

「えと…その…塩が大量に入ってしまったので、それを薄める為に…」

 

親潮の目線の先には、鍋にミチミチに入ったシチュー

 

「親潮のシチューはもうないのか⁇」

 

「親潮のは皆さんが食べて頂いたのでもう…」

 

「そっかっ。親潮はもう寝るのか⁇」

 

「いえ、執務室で少し作業をしてから…」

 

「俺はもう少し食べてるよ。行っておいで」

 

「ありがとうございます」

 

親潮がエプロンを外し、執務室へと向かう

 

俺は一人、キッチンにあるテレビを見ながら深夜までそこにいた…

 

 

 

 

「おはよう、レイ」

 

「おはよう…ふぁ…」

 

執務室で親潮とソファで寝ていたが、横須賀が来て目が覚めた

 

「昨日のシチューはどうだった⁇」

 

「美味かった。まぁ、もう少し煮込むんだな⁇」

 

「あら、親潮に失礼よ⁇」

 

「…」

 

「親潮⁇どうした⁇」

 

「創造主様には勝てません…」

 

「どうしたの⁇」

 

「こ、これが愛…」

 

「あっ‼︎思い出した‼︎朝からうどん食うんだった‼︎じゃあな‼︎」

 

親潮に勘付かれたので、急いで執務室を出た

 

「ジェミニ様、創造主様の腹内で消化音が聞こえました」

 

「よっぽど親潮のシチューが美味しかったのよ‼︎」

 

「分量が違いました…」

 

親潮は絶句している

 

「何か夜につまんだのよ‼︎ちょっとキッチンで飲み物飲んでくるわ‼︎親潮は何がいい⁇」

 

「では牛乳を‼︎」

 

横須賀がキッチンに向かう

 

「さてとっ…あら⁇」

 

横須賀は気付いた

 

昨日自分が作ったシチューを入れた鍋が綺麗に洗われていた

 

中身は捨てられた形跡が無い

 

つまり、誰かが食べてくれたしか考えられない

 

鍋の中には紙が一枚

 

「レイ…ありがとっ…」

 

その紙に書かれた文字を見て、横須賀は微笑む

 

 

 

“次はもう少し塩辛くないのを頼む。ありがとう”



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304話 抱き上げ式コロちゃん

さて、303話が終わりました

誰からでもヒョイっと抱えられるコロちゃん

大人連中は勿論、アイちゃん、あまつさえ自分より年下のホーネットからも抱き上げられます


「フフフ…これでパパも一撃だわ…」

 

ラバウルの子供部屋でコロちゃんが一人、悪そうな顔をしてトラップを作る

 

「コロチャン‼︎」

 

「ホーネット‼︎ナイショよ⁉︎いい⁉︎」

 

突然現れたホーネットにビビるコロちゃん

 

目の前にはワイヤーで作られたトラップがある

 

「これはニーチャンの飛行機‼︎」

 

「そ、そうね…」

 

ホーネットはコロちゃんの話を聞いていない

 

手には、アレンの乗る刑部の模型がある

 

「ニーチャンはお空飛ぶの‼︎ンフフ‼︎」

 

「危ない危ない…」

 

コロちゃんの背後で遊び始めたホーネット

 

バレたと思って出た冷や汗を拭きながら、コロちゃんはトラップを作り続ける…

 

「ホーネット‼︎コロちゃん‼︎ご飯よ‼︎」

 

「アタゴンだ‼︎ハーイ‼︎」

 

「あっ‼︎ちょっと‼︎」

 

ホーネットは模型を置き、コロちゃんを抱き上げて食堂に向かう

 

来た時から既にコロちゃんの身長を追い抜いていたホーネットは、ここ最近ネルソンのマネをしてコロちゃんを抱える様になっていた

 

「降ろしなさいよ‼︎ちょっと‼︎」

 

「ホーネットと行こ‼︎」

 

「もう…」

 

最初はジタバタしていたコロちゃんだが、ホーネットの無邪気さに負け、大人しく抱えられる事にした

 

 

 

 

食事が終わり、コロちゃんは再びトラップを作ろうと部屋に戻ろうとした

 

「Colorado‼︎IowaとTrainingしましょう‼︎」

 

「あっ‼︎」

 

アイオワにも抱えられるコロちゃん

 

トレーニングルームに連れて行かれ、食後の運動をさせられる…

 

「な、なんでColoradoがこんな目に…」

 

「…」

 

ゼェハァ言うコロちゃんをよそに、アイオワは薄っすら微笑みながらエアロビをする

 

運動が終わり、ようやっと子供部屋でトラップ作りを再開しようとした

 

「コロチャン‼︎汗をかいた、んなっ‼︎余と風呂に入ろう‼︎」

 

「グワー‼︎」

 

今度はネルソンに背後から抱えられ、コロちゃんはお風呂に向かう

 

「ム〜…」

 

コロちゃんはネルソンに無理矢理体を洗われた後、露天風呂に浸かりながらブクブクする

 

「コロチャン。アレンがな…」

 

「パパがナニ‼︎」

 

散々抱えられたコロちゃんはちょっと拗ね始める

 

「コロチャンにオミヤゲがあるらしいぞっ‼︎」

 

「パパが⁉︎」

 

「うぬっ‼︎」

 

まだまだ子供のコロちゃん

 

お土産があると分かるとやっぱり嬉しい

 

お風呂から上がり、体を拭いてアレンのいる食堂に戻る

 

「おっ‼︎コロちゃん‼︎」

 

「オミヤゲってナァニ‼︎」

 

「これだ‼︎」

 

アレンの手にはキックボード

 

何処かに行った時に買ってくれたそれは、コロちゃんの身長でも乗れる様に長さが調整出来る物になっている

 

しかし問題が一つ…

 

「これは作らなきゃいけないんだ」

 

「任せて‼︎」

 

アレンにカーペットの上に箱を置いて貰い、早速開ける

 

「ン〜…」

 

説明書と睨み合い、テキパキ作るコロちゃん

 

「早い、んなっ‼︎」

 

「Papaの血を継いでるわ‼︎」

 

ネルソンとアイちゃんもコロちゃんの手際の良さを見て驚く

 

「出来た‼︎」

 

ものの十分でキックボードは完成

 

「ちょっと試して来るわ‼︎Thank You‼︎」

 

「気を付けてな⁇」

 

折り畳んだキックボードを抱え、コロちゃんは廊下に来た

 

「アハハハ‼︎速い‼︎」

 

回廊式の廊下をキックボードで回るコロちゃん

 

何周かした後、子供部屋の前に戻って来た

 

「速さが足りないわね。ンー…」

 

しばらく悩み、キックボードを折り畳んで工廠に向かう

 

 

 

「コロラドさんはどうしました⁇」

 

騒がしかった廊下が急に静まり、不安になったラバウルさんが食堂に来た

 

「キックボードで遊んでるハズです」

 

「さっきまで廊下で居たのですが…」

 

「居ないんですか⁉︎」

 

アレンが廊下に向かうが、コロちゃんの姿はない

 

「何処行ったんだ…」

 

「コロラドさんは言う事を聞く子です。海岸等の危険な場所には近付かないハズですが…」

 

「ちょっと見て来ます‼︎」

 

不測の事態が有り得るので、アレンが表に出て来た

 

 

 

「ココをこうして…ンー、後はコレを…」

 

「コロちゃーん‼︎」

 

「マズイ…パパだわ…」

 

工廠でアレンの余りパーツが入っている箱をひっくり返し、地べたに座って何かを作っているコロちゃん

 

アレンにバレると当然叱られるので、息を潜める…

 

「コロちゃ…ここだな⁇」

 

一発で居場所がバレた

 

地べたにひっくり返したパーツが散らばっていたのを見たからだ

 

「何してるんだっ⁇」

 

「な‼︎何にもしてないわ‼︎ネジは綺麗ねパパ‼︎」

 

「…どれっ」

 

「Angryなんでしょ…」

 

「コロちゃんが素直に出したら、絶対怒らないぞ⁇」

 

屈んだアレンが手を前に出す

 

コロちゃんは素直に背中に隠していたキックボードを出した

 

「速さが足りないから、パパのエンジン作ろうと思っただけよ‼︎」

 

「な、何だと⁉︎」

 

キックボードの後ろ部分に、既に完成間近の小型エンジンが二基取り付けられている

 

「こ、コロちゃんが作ったのか⁉︎」

 

「そ、そうよ‼︎パパの本棚の設計図見たのは謝るわ‼︎」

 

「…」

 

アレンは怒るどころか絶句したかのように口が開いたままになり、そのエンジンをまじまじと見ている

 

「よく作れたな…」

 

「Waterで動くの。Gasoline使っちゃNoなんでしょ⁉︎」

 

「み、水でか…」

 

アレンの複合サイクルエンジンは、初期動作のみ、どうしてもガソリンやそれに近い物が少なからず必要になる

 

が、コロちゃんの作った複合サイクルエンジンは初期動作は水で行う

 

「どんな原理なんだ⁇」

 

「教えないわ‼︎キギョーヒミッツよ‼︎」

 

「そっかっ。なら、出来たら見せてくれないか⁇」

 

「OK‼︎」

 

それから小一時間、コロちゃんは工廠にこもる…

 

 

 

「ほうほう、コロラドさんが…」

 

「驚きました…自分よりクリーンなエネルギーですから…」

 

食堂のカウンター席に座り、ネルソンのコーヒーを飲みながらラバウルさんに事の顛末を話す

 

「さ‼︎オヤツ出来たわ〜‼︎」

 

「今日のは美味いぞ‼︎」

 

愛宕&ネルソン特製のクッキーが出来上がった

 

「パパ‼︎出来たわ‼︎」

 

コロちゃんが外に続く引き戸のガラス扉から来た

 

「そうかそうか‼︎先にオヤツ食べようか‼︎」

 

「そうするわ‼︎」

 

ネルソンが食堂の机にクッキーを置きに来たタイミングで、コロちゃんは手を洗いに来た

 

「よいしょ〜‼︎」

 

「Thank You アタゴン‼︎」

 

愛宕に抱き上げられ、コロちゃんは手洗いうがいをする

 

「頂くわ‼︎」

 

早速コロちゃんはクッキーに手を付ける

 

コロちゃんが座った席の右にはホーネット、左にはアイちゃん、正面にジェーナスと日進がいる

 

コロちゃん抱き上げメンツが両サイドにいるのに気付いていない

 

ホーネットは両手で一つのクッキーを持ち、美味しそうに頬張る

 

しかし、アイちゃんは違った

 

「このChoco Chipの…」

 

舌を出して身を乗り出しながら、机の中心にあるクッキーてんこ盛りのお皿に手を伸ばすコロちゃん

 

アイちゃんは左手でクッキーを食べながら、コロちゃんのお尻を右手で支える

 

何気無しに心配しているのは、実はアイちゃんだったりする

 

コロちゃんは数枚クッキーを食べた後、アレンの所に来た

 

「パパ‼︎行きましょ‼︎」

 

「ちょっと待っててくれ‼︎すぐに行く‼︎」

 

アレンは自室に何かを取りに行った…

 

 

 

数分後…

 

「フフフ…これよ‼︎」

 

コロちゃんの横には、小型の複合サイクルエンジンが付いたキックボードがある

 

「一応安全の為にこれしような⁇」

 

アレンが自室から持って来たのはゴーグル

 

「Coloradoにくれるの⁇」

 

「一生懸命作ったご褒美だっ‼︎」

 

「Thank You‼︎ンー…よいしょ‼︎」

 

ゴーグルを付け、コロちゃんはキックボードに乗る

 

「行くわ‼︎」

 

「見とくよっ‼︎」

 

水を入れた小さなプラスチックのボトルをエンジンに差すと、しっかり動き出した

 

「Bye Bye〜‼︎」

 

コロちゃんが持ち手を捻ると、キックボードは中々の速度で走り出した‼︎

 

「アヒャヒャヒャヒャー‼︎快適だわー‼︎」

 

コロちゃんは狂ったかの様に叫びつつ、風を浴びる

 

「コロちゃーん‼︎ブレーキはあるかー‼︎」

 

「あるわー‼︎」

 

かなり遠くの方にいるコロちゃんだが、ちゃんと止まってアレンに手を振っている

 

「凄ーい‼︎ちゃんと考えて作ったのね‼︎」

 

「おーおー‼︎流石は父上の血を引く子じゃのう‼︎」

 

洗濯物の追加を干していた愛宕と日進がコロちゃんを見ている

 

「よかったじゃないアレン‼︎これで後継者が出来たわねっ⁉︎」

 

「父上は心配しとったからのぅ」

 

「よかった…本当に…」

 

アレンはずっと考えていた

 

いつの日か自分の後継者が出て来た時、その子にこのエンジンをあげようと

 

勿論レイだって使ってくれる

 

だが、やはりこうして子供が後継者になる瞬間を見るのは嬉しい様子

 

「ンーッ‼︎これはケッサクよ‼︎」

 

帰って来たコロちゃんはちゃんとエンジンを切り、ゴーグルを外した後にアレンに抱き着いた

 

「よくやったな‼︎」

 

「凄いわ‼︎」

 

「素晴らしいの‼︎」

 

「フフフ‼︎」

 

三人にたっぷり褒めて貰い、コロちゃんは物作りの良さをどんどん理解して行く

 

「でだ、コロちゃん。これは⁇」

 

日進の手には、あの超☆危険なトラップがある

 

「これはパパイチコロトラップよ‼︎あっ…」

 

「どんな原理だ⁇ん⁇」

 

「ントー‼︎ンー‼︎Colorado忘れちゃったかなー‼︎」

 

コロちゃんの目が泳ぐ

 

「言わないならホーネットがコチョコチョするらしいぞ⁇」

 

「エットォ〜…パパを〜、アタゴンの所にDiveさせて〜、その後にママの所にもDiveさせるトラップだった気がするわ‼︎」

 

「危ないんだな⁇」

 

「とってもデンジャーです…はい…」

 

「よしよし」

 

コロちゃんはちゃんと反省した為に許された…

 

 

 

 

このトラップが有効利用されるのは、また別のお話…




話を書いていて気付きましたが、このお話のホーネット、アイちゃんやコロちゃんからすれば“ホーネットおばさん”なんですね 笑笑


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305話 愛の交差点(1)

さて、304話が終わりました

今回のお話は、少し前のお話で言っていた隼鷹と涼平のお話です

横須賀で会う事になった二人

しかし、裏側では心配で心配で仕方ない連中が見張りをします


「よし、隼鷹。しっかりとな⁇」

 

「んっ‼︎」

 

朝早く、呉さんに身嗜みを整えて貰う隼鷹

 

隼鷹はいざ、横須賀に向かう…

 

 

 

横須賀では…

 

「よ〜し涼平‼︎良い感じだぞ‼︎」

 

「ジェントルマンに仕上がったな‼︎」

 

リチャードとヴィンセントが涼平の最後のチェックをする

 

此方もおめかしした涼平がいる

 

今日は隼鷹と涼平が会う日

 

双方の上司が互いの部下及び嫁の身嗜みを整える

 

「後は薔薇でも咥えて行くか‼︎」

 

「リチャード⁇」

 

後ろにいたイントレピッドにニコやかに怒られる

 

「冗談さっ。涼平、万が一の為にこれをあげよう‼︎」

 

「こ、これは‼︎」

 

涼平の胸ポケットに何かを入れたリチャード

 

「そいつは伝説の防具‼︎伝説の勇者達はこれを用いて強敵と立ち向かった‼︎その名もコンドぐほぁ‼︎」

 

「さーリチャード⁇私とオネンネしましょうね‼︎」

 

チラシを丸めた奴でイントレピッドからの一撃を喰らい、リチャードはイントレピッドに連れて行かれた

 

「涼平‼︎頑張ってね‼︎」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

涼平はパイロット寮を出た…

 

 

 

「りょ、涼平、君…」

 

「行きましょうか」

 

カチカチの隼鷹を前に、涼平のエスコートにより夜の逢瀬が始まる…

 

繁華街には、万が一の為に涼平を止められる連中が要所で配置している

 

 

 

繁華街エリアA(駄菓子屋足柄エリア)…隊長

 

繁華街エリアB(蟹瑞雲エリア)…アレン

 

繁華街エリアC(POI’s ミュージック前)…俺

 

繁華街エリアD(スーぴゃ〜マーケット前広場)…ラバウルさん

 

繁華街エリアE(繁華街裏高雄の部屋前)…健吾

 

繁華街エリアF(ザラ遊技場内)…園崎、高垣

 

繁華街全域偵察…櫻井、森嶋

 

作戦本部(横須賀執務室)…横須賀、親潮、呉さん

 

これだけのメンツで、二人の様子を伺う

 

取り越し苦労である事を祈りたい…

 

 

 

《遊技場に来ました》

 

最初に二人が訪れたのは遊技場

 

《了解したわ。ザラに話を通してあるから、離れた位置でパチンコかUFOキャッチャーでもして頂戴》

 

《了解》

 

園崎と高垣との無線は繋がったまま、二人はパチンコを始める

 

互いに火を点ける音が聞こえ、パチンコが始まる

 

《ビリヤード開始》

 

《了解。二人はどう⁇》

 

《“ラベンダー”がエスコート中》

 

《分かったわ。そのまま続けて頂戴》

 

ラベンダーと言われたのは、隼鷹の事

 

髪の毛の色がラベンダーに似た色なので、今夜に限りこの名が付いた

 

園崎と高垣はパチンコをしながら、横目で二人を見る…

 

 

 

「ここはこうして、だ‼︎」

 

「よしっ…」

 

隼鷹にビリヤードを教えて貰う涼平

 

隼鷹は涼平の背中に体を密着させるが、涼平は大した反応をしていない

 

それよりも、目先のビリヤードを楽しんでいる

 

1ゲーム目は涼平にやり方を教え、2ゲーム目は隼鷹と勝負になる

 

「どうだい涼平君。私が勝ったら、後で涼平君のとっておきを一杯飲ませてよ‼︎」

 

「自分が勝ったら⁇」

 

「その時はチュー位してやろうかね‼︎」

 

「分かりました…知りませんからね‼︎」

 

そこにいざこざは無く、二人は純粋にビリヤードを楽しむ…

 

 

 

十数分後…

 

「あたしの勝ちぃ‼︎」

 

「ぐっ…」

 

涼平は膝から崩れ落ちた

 

涼平はこの短時間でかなり上達していたが、普段からやっている隼鷹からすれば赤子同然

 

最初から隼鷹の手の平の上でゲームは続き、接待プレイで絶妙に負けた…

 

「さぁ涼平君、観念しな〜‼︎」

 

「あ、あのあの‼︎お酒パワーが入った時にでふぐっ‼︎」

 

「はいはい、黙る黙る‼︎ん〜…」

 

力んでいた涼平の肩から力が抜ける…

 

「どうだい⁇ちょっとは好きんなったかい⁇」

 

「つ、次行きましょう‼︎」

 

「オッケーオッケー‼︎」

 

目線を逸らしながら、涼平は先に次の場所に向かう…

 

 

 

《移動開始。エリアA方面に向かいます》

 

《了解しました。ウィリアム様、アレン様、創造主様は引き続き待機を。櫻井様、森嶋様、出番です‼︎》

 

《任されましたっ‼︎》

 

《了解っ‼︎》

 

繁華街全域偵察の櫻井と森島がジュース片手に向かう…

 

 

 

「涼平君、喉乾かない⁇」

 

「何か飲みましょうか‼︎」

 

二人が向かった先は駄菓子屋足柄前の自販機…

 

《目標、駄菓子屋足柄前に向かいます》

 

《了解。二人を確認した》

 

隊長の周りには雷電姉妹をはじめ、複数の子供たちがいる

 

無線の先から子供達の声が聞こえて来る

 

「おっ‼︎ウィリアムさんだ‼︎」

 

「大佐‼︎お疲れ様です‼︎」

 

「涼平もデートか⁇」

 

隊長の周りには雷電姉妹、れーべ、まっくす、嵐がいる

 

この五人は隊長の説明を受けている、いわばエキストラ

 

「隼鷹さんなのです‼︎」

 

「久しぶりね‼︎」

 

「雷電姉妹じゃないか‼︎」

 

隼鷹は雷電姉妹を知っている

 

何度も作戦で同じ部隊になったからだ

 

「隊長、ボクはまっくすとお菓子見てくるよ‼︎」

 

「嵐も行こう」

 

「行って来ます‼︎」

 

「決まったら言うんだぞ‼︎」

 

れーべ、まっくす、嵐の三人は邪魔してはいけない雰囲気に気付いたのか、駄菓子を見に行った

 

本来いつもの隊長なら移動するのだが、今日は秘匿作戦中

 

動くに動けない

 

「飲みながら行こうか‼︎」

 

「そうですね。大佐、失礼します‼︎」

 

「楽しんでな⁇」

 

二人はいざ繁華街に入る…



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305話 愛の交差点(2)

涼平の性癖が明らかに‼︎ 笑笑


「アレン、レイ、聞こえるか。そっちに向かった」

 

《了解、此方でも確認しました》

 

《了解した。隊長、POI'sミュージックで昭和の曲特集してるぜ⁇》

 

「よし、後で行こう‼︎」

 

 

 

「隼鷹はどんな曲好きですか⁇」

 

「あたしかい⁇そうだねぇ…1970年代から80年にかけての曲が全盛期だったから…色々あるな‼︎」

 

「絹のハンカチ、とかですか⁇」

 

「あれは流行った‼︎良く知ってるね⁇」

 

「自分もその時代が好きなんです。と言いますか…その辺りの時代しか知らないと言いますか…」

 

「周りが聞いてたからかい⁇」

 

「そうです。あ、ほら‼︎この曲とか‼︎」

 

話をしていると、たまたま流れていた曲

 

POI'sミュージック前まで辿り着いていた二人は、店から聞こえてくる曲に耳を傾ける

 

「北条秀樹じゃないか‼︎」

 

「ポーラァ‼︎」

 

「ポォラ…」

 

「「え」」

 

二人は顔を見合わせ、店内に入る

 

「凄いっぽーい‼︎あ‼︎いらっしゃいませっぽい‼︎」

 

夕立の前にはちょっとしたステージがある

 

マイクを握っているのは、俺ともう一人

 

「うぉっ⁉︎翔子ちゃん‼︎」

 

隼鷹が驚く

 

俺の横で歌っているのは翔鶴もとい翔子ちゃんだ

 

「ワイン、も〜‼︎お酒、も〜‼︎」

 

「この、ウォッカァ〜も‼︎捧げるぅ〜‼︎」

 

「おぉ〜…」

 

「凄い…」

 

俺はたまにバーで歌っているが、翔子ちゃんの生歌は中々聞けない

 

涼平も隼鷹も、たまたまそこに居合わせた横須賀勤務の人も、パチパチと拍手を送る

 

「ありがとう‼︎ありがとう‼︎」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

俺と翔子ちゃんはステージを降り、新作CDを見始める

 

涼平と隼鷹は昭和のCDがあるコーナーを見始める…

 

「思い出話でしょうか…」

 

「涼平も古い曲好きだからな…」

 

「も…」

 

「俺と隊長もさっ…」

 

翔子ちゃんの顔が笑顔になる

 

隊長の話をすると、翔子ちゃんは翔鶴という一人の女に戻る

 

まるで昔の歌謡曲の歌詞の様だ…

 

 

 

隼鷹と涼平は何かのCDを買い、POI'sミュージックを出た

 

「スーぴゃ〜マーケット方面に向かった」

 

《了解致しました。此方には心強い援軍がいますよ、マーカス⁇》

 

「誰だ…」

 

《忘れちゃ困るわ⁇》

 

イタズラなその声を聞き、翔子ちゃんと共に笑う…

 

 

 

「釣り堀が出来たらしいですよ⁇」

 

「どれっ、涼平君は上手くなったのか見ようじゃないか‼︎」

 

「わ‼︎」

 

隼鷹に腕を組まれて連れて行かれ、涼平は釣り堀に入る…

 

 

 

 

「いらっしゃい‼︎二名様ね⁇」

 

「貴子さん‼︎御無沙汰しています‼︎」

 

釣り堀の受付にいたのは貴子さん

 

まりちゃんは学校なので、スーぴゃ〜マーケットでお買い物をした後、手隙な貴子さんが来てくれた

 

「たっ、たかっ‼︎な、何でここにっ⁉︎」

 

「私も横須賀所属なのよ⁇はいっ‼︎」

 

たいほうと同じ掛け声で釣竿とエサを渡される

 

二人はそれらを受け取り、貴子さんから離れた場所に座る

 

「あの人はマジで強い…砲なんか枷になっちまう…」

 

「噂では敵を天ぷらにして食べてるとか…」

 

「涼平君⁇」

 

「は‼︎はひっ‼︎」

 

急に貴子さんが横に来た

 

「ジュースどれがいい⁇」

 

持って来たメニューを開け、涼平に見せる

 

「あ、えと…自分はコーラを‼︎」

 

「あたしはジンジャエールを‼︎」

 

「待っててね‼︎」

 

貴子さんが戻って行くのを見て、隼鷹は前を向いた

 

「やめよう、この話は…」

 

「そうですね…」

 

二人が釣りに集中する斜め右に、此方も男女のペアが座る

 

「どうですか、涼平さん」

 

「釣れてるかしら⁇」

 

男女のペアはラバウルさんとヒュプノス

 

「ラバウルさん‼︎」

 

「アンタは確かSS隊の⁉︎」

 

「いかにも」

 

「ほらっ。フィアンセが横にいるのに、他に首向けちゃダメよ⁇」

 

「ごもっとも…」

 

ヒュプノスは涼平と隼鷹に微笑み、ラバウルさんにエサを付けて貰う

 

ラバウルさんとヒュプノスは恋仲ではない

 

ラバウルさんは幼女の扱いは120点満点なのだが、大人の女性の扱いが究極に下手

 

その点ヒュプノスは甘える事と、教える事が上手い

 

手取り足取り、ラバウルさんに教えてくれる

 

「あら、お魚さんだわ⁇取って⁇」

 

「畏まりましたっ。よいしょっ…」

 

ラバウルさんがヒュプノスの竿から魚を外す

 

「ありがとっ」

 

「いつでも言って下さい」

 

見ていて微笑ましい…

 

親子といえば親子

 

恋人といえば恋人

 

現実は一人の教師と歴戦を潜り抜けたパイロット

 

実に有り得そうなカップルだ

 

「よっしゃ‼︎」

 

「ウナギですね」

 

隼鷹の竿にかかったのはウナギ

 

この釣り堀ではレア枠に入る

 

「涼平君は何欲しい⁇」

 

隼鷹の目線の先には、貴子さんの背後にある景品群

 

「そうですね…さっき見たのですが、ライターがありました」

 

「よっし‼︎それを目指そう‼︎」

 

やる気に応えるかの様に、隼鷹の竿にはポコジャカ魚が掛かる

 

ラバウルさんとヒュプノスの竿にもポコジャカ掛かる

 

が、涼平の竿はピクリとも動かない

 

「何故‼︎」

 

竿を上げてエサを見るも、キッチリ付いている

 

コーラを飲みつつ、啖呵を切らした涼平は煙草に火を点ける

 

「意外だねぇ」

 

「…煙草がですか⁇」

 

「あたしが子供に見ていただけかも知れない…」

 

「ずっと吸ってますよ。自分にはこれ位しか娯楽がなかったので…」

 

ただでさえ娯楽が少なかった、産まれ育った島

 

涼平は煙草やお酒を覚えるのも早かった

 

「来た‼︎」

 

ようやく涼平の竿にアタリが来た

 

「な、何だそれ‼︎」

 

「かわったお魚さんね⁇」

 

「タウナギではありませんか⁇」

 

涼平が釣り上げたのは、ひょろ長いヘンテコな魚

 

ウナギに近いが、何かが違う…

 

「蒲焼きにすると美味いんですよ‼︎」

 

「貴子さ〜ん‼︎何点ですか〜‼︎」

 

「その子は30点よ〜‼︎」

 

「「「おぉ〜」」」

 

この釣り堀で30点と言えば、かなりの点数

 

中々大きなお菓子と替えたり、そこそこの釣り堀限定グッズとも替えられる

 

「よ〜し‼︎涼平君も釣れたし、移動しようか‼︎」

 

「分かりました‼︎」

 

「私達はも少しここでお魚さんと遊んでるわ⁇」

 

「良きデートを」

 

ラバウルさんとヒュプノスと別れ、貴子さんのいるカウンターに来た

 

「沢山取れたわね‼︎え〜っと…」

 

隼鷹のバケツにはわんさかいるが、涼平はタウナギ一匹

 

「合計で80ポイントね‼︎」

 

「涼平君。言ってたライターってどれだい⁇」

 

「あのライターです‼︎ほら‼︎女子高生が釣り竿持ってる絵が彫ってある‼︎」

 

「ほほぅ…涼平君は女子高生趣味…っと…」

 

「違います‼︎」

 

ニヤケ顔の隼鷹と、焦る涼平

 

貴子さんの背後には、本当に女子高生が釣り竿を持っているオイルライターがある

 

「この子は私の知り合いなのよ⁇」

 

涼平の欲しいものに気付き、貴子さんはそれを涼平の前に出した

 

「フィッシング・まりちゃん…」

 

「ここでアルバイトしてるの。今日はお休みだから、私が代打ってわけ‼︎」

 

彫刻されたまりちゃんは、見た目も中身も女子高生

 

釣竿を持ったまりちゃんの頭上に、アーチ状に“フィッシング・まりちゃん”と彫刻されている

 

実は涼平、ちょっとしたギャルがタイプ

 

言われてみれば、シュリさんも中々のギャルだ

 

「これは何ポイントですか⁇」

 

「これは丁度80ポイントね。ここの限定グッズだから、すぐ無くなっちゃうかも知れないわ⁇」

 

「じゃあそれを‼︎」

 

「隼鷹は選ばなくていいんですか⁇」

 

「いいのいいの‼︎甘えときなっ‼︎」

 

「…ありがとうございます‼︎」

 

「気を付けてねー‼︎」

 

二人が釣り堀を出た後、貴子さんは違和感を感じていた

 

「貴方もですが、貴子さん」

 

「あの子も苦労人ね…」

 

「勘違いだと良いけど…」

 

ラバウルさんとヒュプノスは、バケツてんこ盛りのお魚を貴子さんに出し、大量のお菓子を持って釣り堀を出た…

 

 

 

「高雄の部屋方面に向かいましたよ」

 

《了解》



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305話 愛の交差点(3)

職人アレン君


「隼鷹、ありがとう」

 

「どう致しまして‼︎」

 

「あ、そうだ。自分も何か隼鷹に‼︎ちょっと待ってて下さい‼︎」

 

「ほぅほぅ…」

 

そう言って涼平が向かうは高雄の部屋

 

「いらっしゃいませ。あら少尉」

 

「あの、イヤリングは何方に…」

 

「此方です」

 

「あっ…すみません…」

 

数種類のイヤリングが乗ったケースを持って来てくれたのは高雄ではなく、見た事のないショートヘアの黒髪の女性

 

それも飛び切りの美人だ

 

「A&A maidの品になります」

 

「安くて質が良いからすぐ売り切れになるって有名な…」

 

「ありがとうございます」

 

「えと…」

 

涼平はその女性が持ったケースの中を見る

 

「これ…」

 

涼平は一つのイヤリングを手に取る

 

「お目が高いです」

 

隼鷹の色と同じ、紫色に輝く宝石が入ったイヤリングだ

 

「幾らですか⁇」

 

「2000円になります」

 

「ホントに安い…これで‼︎」

 

「サービスで此方の箱に入れて置きますね」

 

「ありがとうございます」

 

黒髪の女性が指環を入れる箱にイヤリングを入れている最中、涼平は彼女を見ていた

 

ふと気付く

 

彼女とは、何と無く会った事がある気がする…と

 

「あの…どこかでお会いして…」

 

「いけませんよ。逢瀬の最中に他の女性に目をやっては」

 

彼女は話を遮る様に言葉を返す

 

「すみません…」

 

「ふふっ…もう出来ますよ」

 

彼女はクスリと微笑む

 

笑った顔でさえ、男ならほとんどが落ちてしまいそうになる

 

「どうぞ」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「お気を付けて」

 

涼平は嬉しそうにイヤリングの入った箱を持ち、高雄の部屋から出た

 

 

 

「繁華街に戻りました」

 

《了解っ。後は飯だろうな》

 

 

 

 

繁華街に戻って来た二人は、ようやくご飯を食べる事になる

 

「あ、そうだ涼平君。あたし、ここの鍋食べてみたいんだ」

 

「自分もです‼︎行きましょう‼︎」

 

思惑通りなのか、たまたまなのか、二人は蟹瑞雲に入る…

 

 

 

「よく来たな。二名様で良いかな⁇」

 

「二名です」

 

「アレン君、ご案内を」

 

「へいっ‼︎」

 

「大尉⁉︎どうしたんですか⁉︎」

 

出て来たのは何故かアレン

 

しかも職人の格好をしている

 

「色々あったんでごわす‼︎」

 

「事故とはいえ、私の胸に顔を埋めてな。そのお詫びらしい」

 

「じ、自己申告制なんですか⁉︎」

 

「とても良い思いをさせて頂いたでごわす‼︎ささ‼︎お客人‼︎此方へ‼︎」

 

アレンに案内され、二人は個室に入る

 

「当店は蟹鍋と雑炊があるでごわす‼︎」

 

「蟹鍋で‼︎」

 

「がってんでごわす‼︎お酒はいかが致しましょ‼︎」

 

「涼平君は⁇」

 

「後で飲むので今は…」

 

「んじゃ無しで‼︎」

 

「がってんでごわす‼︎少々お待ちを‼︎」

 

アレンが厨房に戻る…

 

 

 

「その…なんだ。大尉」

 

「へい‼︎」

 

厨房に戻っても、アレンの態度は変わらない

 

「貴様も大変だな⁇」

 

「俺の部下である事に変わりはないさ。あ、変わりないでごわす‼︎」

 

一瞬いつものアレンに戻ったのを見て、珍しく日向が笑う

 

「ふ…よし、持って行ってくれるか」

 

「へいっ‼︎」

 

 

 

「美味ぁぁぁあい‼︎」

 

「こんなに美味しいんですね‼︎」

 

蟹鍋は一つで三人前分がある

 

隼鷹も涼平も、蟹を食べ進めて行く

 

「…」

 

「どんなの飲もうかね〜‼︎」

 

ふと涼平は気付く

 

隼鷹はいつも通りの振る舞いをしている

 

が、手元では蟹の殻を剥いては、さり気なく涼平の前に置いてくれている

 

涼平は“きっと子供にする癖だろう。自分もまだ子供に思われている”程度の認識でいた

 

その癖か思いやりか分からない隼鷹の行動に、今は甘える事にした…

 

 

 

「いやぁ‼︎食った食ったぁ‼︎」

 

「また来ましょう。美味しかったぁ…」

 

「おっ⁉︎いいねぇ‼︎また誘っとくれよ⁇」

 

隼鷹も涼平も満足行く結果で、蟹鍋を平らげた

 

「仕上げはお酒か⁇」

 

「そうだな‼︎涼平君が奢ってくれるらしいし⁇」

 

「そうです。バーでお気に入りを見つけたんです」

 

「んで、後はあたしはめちゃくちゃにされるって訳さ‼︎」

 

「貴様も隅に置けないな、少尉」

 

「あ、あれはその場の勢いと言いますか…」

 

「さぁ、早く行くんだ。バーはすぐ混むぞ」

 

「「ごちそうさまでした‼︎」」

 

二人は蟹瑞雲を出た



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305話 愛の交差点(4)

「各員に通達。仕上げに入った。繰り返す、仕上げに入った」

 

アレンの無線に対し、全員から“了解”との通信が入る…

 

 

 

「涼平君のお気に入りかぁ〜」

 

「甘いお酒は好きですか⁇」

 

「好き好き‼︎大好き‼︎」

 

今日一番の隼鷹の笑顔を見て、涼平はBAR 那智に入る…

 

 

 

「いらっしゃい少尉。今日は如何しよう」

 

「“ホワイトベル”を二つお願いします」

 

「畏まりました」

 

涼平は自分の二つ名と同じ名前のカクテルを那智に注文

 

「ホワイトベル…何か可愛い名前だねぇ」

 

「自分の二つ名と同じ名前なんです」

 

「ほほぅ…」

 

隼鷹の目が真剣なものに変わる…

 

酒と戦闘に関しては一切の妥協を許さない隼鷹

 

それが例え涼平であっても、不味ければ不味いと言うだろう

 

「ホワイトベル二つ、お待たせしました」

 

カウンターの向こうから、那智がつまみのピーナッツと共にカクテルを出す

 

白をメインにしたそのカクテルは、涼平の乗る機体と同じ色合いであり、アクセントとして赤い苺のソースが少しだけかけられている

 

「頂きます」

 

先に隼鷹が口にする…

 

「ん…」

 

少し飲んだ後、もう一度飲む

 

「どうですか⁇」

 

「…」

 

隼鷹はカクテルを置き、涼平を見る

 

「美味しいよ‼︎カルアミルクと苺のソースは合うんだねぇ‼︎」

 

隼鷹は上機嫌にホワイトベルを飲む

 

「これ、あたしが来ても飲めるのかい⁇」

 

「残念だが、ホワイトベルは少尉と同伴しなければ飲めない隠しメニューなんだ」

 

ホワイトベルはBAR 那智の隠しメニュー

 

涼平と同伴しない限り、このカクテルは絶対に飲めない

 

ここには同伴しなければ飲めない隠しメニューのカクテルが多い

 

マーカスは“スカイバレット”

 

アレンは“狐の生き血”

 

等々…パイロットの特徴に合わせたカクテルがある

 

因みにガンジスの淀みは通常メニューにある

 

「つまり、涼平君と来れば飲めると…ふふ、良い口実が出来たよ‼︎」

 

涼平はカウンターに肘をつきながら、隼鷹の顔を見ている

 

「もう一杯下さい‼︎」

 

「畏まりました。少尉はどうする⁇」

 

「隼鷹の顔でも見てます…」

 

実は涼平、酒にめちゃくちゃ弱い

 

カクテル一つで一撃で酔ったのだ‼︎

 

「そっかぁ…自分はこんな美人と今日一日一緒にいたのか…」

 

「今更気付いたのかい⁇」

 

「自分はギャルが好きなはずなのに…どうしてでしょう…」

 

「ほらほらどうした〜⁇あたしをめちゃくちゃにすんだろ〜⁇」

 

「しませんよ…元から抱く勇気なんてないです…」

 

「そうかいそうかい‼︎ならあたしが‼︎そらっ‼︎」

 

隼鷹は涼平を思い切り抱き寄せ、頭を撫でる

 

「良い子だねぇ…よしよし…」

 

「お待たせしました」

 

「おっ‼︎ありがとう‼︎」

 

涼平を抱き寄せながら、隼鷹はもう一杯ホワイトベルを飲む

 

「どうだい涼平君‼︎あたしの胸は心地良いだろ⁇ん⁇」

 

「少尉⁇」

 

突然涼平の姿が消えた‼︎

 

数秒前までは隼鷹の胸の中に居たはずなので、急に何処かに消える余地は無いはず

 

「さーてさてさてぇ‼︎今日も一杯飲んで寝ますかぁ‼︎」

 

「那智‼︎いつもの‼︎」

 

タイミング悪く、俺とアレンがバーに来た

 

「大尉‼︎少尉が消えたんだ‼︎」

 

「隼鷹‼︎お前まさか…涼平をつまみに…」

 

「食べない食べない‼︎何処行ったんだよぉ‼︎」

 

「いつまでいた⁉︎」

 

「ほんの数秒前まで、酔っ払ったから抱き寄せてたんだよぉ‼︎」

 

「それは私も見ていた‼︎気付いたら消えていたんだ‼︎」

 

「外を探して来る‼︎レイ、バーの中を頼む‼︎」

 

「…いや、そこにいる」

 

俺の目線の先には、つまみのピーナッツが乗った小皿

 

”ピーナッツってこんなデカかったっけ…”

 

「「涼平‼︎」」

 

「涼平君⁉︎」

 

「少尉⁉︎こんなに小さくなって…」

 

涼平は妖精化しており、自分の体より少し小さなサイズのピーナッツを食べようとしている



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305話 世界で一番愛しい君

題名は変わりますが、前回の続きです

何故涼平は妖精化してしまったのか…

それはとても簡単で、二人にとってとても難しい理由でした


「乗艦式だと…」

 

「あれは互いに相思相愛じゃなきゃ出来ないはずだぞ⁇」

 

「…」

 

“あ、隊長〜自分、こんなちんまりサイズになりました〜”

 

ピーナッツを両手に持ちながら、酔っ払った涼平

 

「涼平は隼鷹好きか⁇」

 

ここまで来たら単刀直入に聞くしか無い

 

“隼鷹ですか〜⁇隼鷹は〜、好きとかじゃない気がするんですよ〜”

 

「憧れとか、尊敬か⁇」

 

“違うんです〜。その〜あの〜、求めてたのが隼鷹と言いますか〜”

 

酔っ払った涼平は話になっていない様で話はちゃんと聞いて返事をしている

 

「求めてたのが隼鷹…」

 

“ビリヤードの時に〜、おでこにチューして頂いたり〜、ギューってして頂いたり〜、好きじゃなくて〜、して欲しかったと言いますかぁ〜”

 

「…そっかっ」

 

涼平には親と呼べる存在がいない事を知っている

 

島の皆が涼平を育てたのも知っている

 

涼平が隼鷹にして貰ったのは、涼平が本来母親にされるべき行為だったものばかり

 

好き、のベクトルが違うと言ったのは良く分かった

 

「隼鷹、その…涼平がこうなったからには…」

 

「あ…あぁ‼︎そうだな‼︎」

 

涼平が妖精化してしまっては、デートにならない

 

「しっかしまぁ…どう戻すか…レイ、分かるか⁇」

 

「乗艦式は他人が入っちゃならんからな…」

 

俺とアレンが悩む中、ふと隼鷹の横顔に目が行く

 

「…」

 

「あっ…」

 

見た事がある…

 

妖精化した涼平を見る隼鷹の目は、女の目ではない

 

…優しい母親の顔だ

 

隼鷹のその顔を見て、いつか横須賀が同じ顔をして恨みを抱いた日を思い出した

 

「…アレン、涼平を寮に連れて行けるか⁇イントレピッドなら見てくれると思う」

 

「分かったっ‼︎涼平‼︎帰るぞ〜‼︎」

 

“あ〜い”

 

涼平はアレンに摘まれ、バーを出た

 

「隼鷹」

 

「…」

 

「…まぁ、座ろう。那智、いつものを」

 

「畏まりました」

 

隼鷹は下を向いたまま、先程まで座っていたカウンター席に腰を降ろした

 

「言いたくなけりゃ言わなくていい。今から俺が言うのは、憶測でしかない。タバコ、吸っていいか」

 

「いいよ」

 

タバコに火を点け、言葉の前に紫煙を吐き出す

 

「俺はあの日、涼平のそばにいた訳じゃない。だからこそ、憶測でしかない」

 

「あの日、涼平君を殺せただろ⁇かい⁇」

 

「何故見逃した」

 

「一人や二人、見逃しても誰も責めやしないと思っただけさ…」

 

「お待たせしました」

 

俺と隼鷹の前にガンジスの淀みが置かれる

 

「まぁ飲めよ」

 

「ありがと。頂くよ」

 

「決して責めてる訳じゃない。ただ、涼平があぁなった以上、此方側も戦力が削がれている」

 

「“あの子”にあれ以上、重荷を背負わせたくないんだよ…」

 

「それが答えだな」

 

グラスを置き、頷く隼鷹

 

「あの子は母親を求めてたのに、あたしは…」

 

「今からでもやり直せるさ…よく耐えたな…」

 

そう言って、隼鷹の背中をさする

 

今までずっと隠していたのだろう

 

本当は旦那である呉さんに背中をさすって貰うべきなのだろう

 

それでも、隼鷹は栓が外れたかの様に涙を流す

 

「俺の口からは涼平には言わない。ま…隼鷹が頼むなら、間に立つ位はするさ」

 

「ありがと…ありがと…マーカス…」

 

「泣き止んだら、また呼ぶといい。俺にしか吐けないなら、いつでも飛んで行く」

 

「へへ…アンタが言うと本当になるからやめときな‼︎」

 

人差し指で涙を払い、笑う隼鷹

 

「俺はアレンと飲み直して来る。今日は俺のツケで好きなだけ飲め」

 

「いいのかい⁇」

 

「すまない。それ位しかしてやれなくて」

 

隼鷹は小さく首を横に振ったのを見て、俺はアレンと飲み直す為にカウンター席から立ち、出入り口に向かう

 

「あぁ、そうだ隼鷹」

 

「なんだい⁇」

 

BAR 那智から出ようとした時、足を止めて隼鷹の方を向いた

 

「…良い“息子”を持ったな」

 

言葉さえなかったが、隼鷹は笑顔で頷いた…



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305話 男二人と女将

題名は変わりますが前回の続きです

涼平を寮に置いて来たアレン

その時の様子をレイに伝えるが…


「まぁ…言いたくない事も隼鷹にもあるだろう」

 

俺は居酒屋鳳翔でアレンと飲み直していた

 

「すまん、アレン」

 

「誰にも謝る筋合いはないさ。いつか、隼鷹が腹を割って話してくれる日を待とう」

 

アレンの言葉を聞き、熱燗を飲む

 

「珍しいですね、大尉が熱燗なんて」

 

「たまには別の趣向さっ。ありがとう」

 

鳳翔に熱燗を注いで貰う

 

今は俺達以外に客はおらず、鳳翔も一仕事終えてのんびりとしている

 

「問題は涼平だな…どうだった⁇」

 

「イントレピッドの谷間に収納されてた…」

 

「な、なんだと⁉︎羨ましい‼︎」

 

「つまりだ‼︎妖精化すればイントレピッドで挟まれるって訳だ‼︎」

 

「ふふっ…」

 

鳳翔が満面の笑みでこちらを見る

 

「んんっ…女性がいる前では、良くないなっ‼︎」

 

「そ、そうだな‼︎我々は決して巨大なバストに埋まりたい等考えておりません‼︎」

 

「お二人がイントレピッドさんに憧れているのは良く分かりましたよ〜」

 

「どうか‼︎どうかご内密に‼︎」

 

「男の性なんですぅ‼︎」

 

久々に俺達の必殺技“男泣き”が出そうになる

 

「誰にも言いませんよ。ここはそう言った折り入ったお話をする場でもありますからね」

 

男泣きを発動せずに済みそうだ…

 

「こんばんわ」

 

出入り口の扉がガラガラと開く

 

「いらっしゃいませ。お迎えですよ、大尉」

 

「おっ‼︎ワシントン‼︎」

 

迎えに来たはワシントン

 

「鳳翔、オレンジジュースを頼む」

 

「畏まりました」

 

「ワシントン。この人はアレンさんだ」

 

「あれんさ」

 

「この子が言っていた子か…よろしくな⁇」

 

「わしんとん」

 

「はいっ、どうぞ〜」

 

「ありがと」

 

ワシントンは俺の横に座り、鳳翔に出して貰ったオレンジジュースを飲む

 

「この人は鳳翔さんだ」

 

「ほっしょさ」

 

「ふ…そうだっ」

 

「おいすぃ」

 

ワシントンはオレンジジュースを飲むのに夢中

 

何故だろう、こういった場所で頼むオレンジジュースは別格に美味い気がする

 

「ぱぴ〜、あれんさ。まみ〜、かえってこいよいってた」

 

「そうだなっ。そろそろ行くか。ごちそうさま‼︎」

 

「ごちそうさま‼︎」

 

「ありがとうございました。またお越し下さいね⁇」

 

「ごちそさまでした」

 

「ワシントンちゃんもまた来て下さいね⁇」

 

「ん」

 

居酒屋鳳翔を出て、ワシントンを抱き上げて執務室に向かう…

 

 

 

「涼平が妖精化ね…」

 

「シュリさんに頼むのも考えたんだが、シュリさんの乗艦式はまた違う」

 

すぐに考えたのは、シュリさんに戻して貰う事

 

しかし、ふと映像で見たのを思い出した

 

シュリさんは涼平を妖精化するのではなく、一度深海化させていた

 

乗艦式でもやり方が違うらしい

 

「隼鷹が戻せないと来たらどうするか…」

 

「別の子に頼む方法もある事にはあるが、恐らく無理だろうな…」

 

「今晩中にリストに上げておくわ。とにかく、今日はありがとうね⁇」

 

ここは横須賀に甘えて、今晩は休もう…



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305話 双子のシマエナガと白いパイロット(1)

題名は変わりますが、前回の続きです

翌朝になってもやっぱり戻らない涼平

パイロット寮に遊びに来たひとみといよに連れられ、元に戻る方法を模索します


次の日の朝…

 

“元に戻らないんですぅ‼︎”

 

「ちらん‼︎」

 

「あめちぁんたべうか⁇」

 

朝からパイロット寮に来ていたひとみといよと一緒にいる妖精涼平

 

パイロット寮の前でシートを広げ、今から遊ぼうとしている

 

ひとみには知らん‼︎と言われているが、当の本人達はケラケラ笑っている

 

「いんとえしゃんむいれちたか⁇」

 

“イントレピッドさんは何度も試してくれたんです…”

 

「ほなむいですえ」

 

“そんなぁ…”

 

ひとみといよは涼平をおちょくるが、いよが頭に涼平を乗せた

 

「ずいずいのとこいってみう⁇」

 

「いってみう‼︎」

 

“ありがとうございます‼︎”

 

「いいんれすお」

 

「ばいにちて、かえちてもあいあす」

 

ひとみといよはずいずいずっころばしに向かう…

 

 

 

「いらっしゃいませー‼︎おっ⁉︎二名様⁇」

 

「しゃんめいれす‼︎」

 

「ここにもひとい‼︎」

 

“どうも…”

 

「どうしちゃったの⁉︎」

 

「もどちてくだしゃい‼︎」

 

いよの頭にいる涼平を見た瑞鶴は、すぐにカウンターから出て来てくれた

 

「ちょっと待ってね…」

 

瑞鶴は涼平に手をかざす…

 

「どあ⁇」

 

「ん〜…私じゃダメみたいね…」

 

「おいないしゃんさんつくらしゃい‼︎」

 

「分かったわ‼︎」

 

ひとみはすぐに切り替え、ここにはあくまで客として来た事にする

 

一応テーブル席に座り、瑞鶴がいなり寿司を作るのを待つ

 

「はいっ‼︎おいなりさん3つね‼︎」

 

いなり寿司が3皿ではなく、一つの皿に3つ乗って来た

 

「いたあきあす‼︎」

 

「いただきあす‼︎」

 

ひとみといよはいなり寿司をお箸で切る…

 

「こえくあい⁇」

 

「もうちぉっと⁇」

 

“いいんですか⁇”

 

「あいっ‼︎」

 

「げんきだちてくだしゃい‼︎」

 

“頂きます‼︎”

 

二人から食べられるサイズに切ったいなり寿司を貰い、涼平は早速食べ始める

 

「あとだえおう⁇」

 

「まなしゃん‼︎」

 

まなちゃんと聞き、涼平はいなり寿司を吹く

 

そうだ…まなちゃんこと、蒼龍は妖精化が出来る…

 

「たいほうしゃんもれきう‼︎」

 

「ぐらふ〜もいけうか⁇」

 

今パッと思い付くのはこの三人

 

「いってみう⁇」

 

「いってみう‼︎ごちそうさあれした‼︎」

 

「またきあす‼︎」

 

「はーい‼︎ありがとうね‼︎」

 

ひとみといよはちゃんとテーブルに100円玉を二つ置いてずいずいずっころばしを出た

 

 

 

ずいずいずっころばしを出て、ひとみといよは学校方面に向かう

 

とりあえず幸先良く会えそうなたいほうの所に向かおうとしている

 

「あら⁇ひとみ‼︎いよ‼︎」

 

「「よこしゅかしゃん‼︎」」

 

送り迎えを終えた横須賀がひとみといよに気付いて此方に来た

 

「あら、涼平連れてくれてるの⁇」

 

「たいほうしゃんのとこいく‼︎」

 

「ずいずいのとこいった‼︎」

 

「そっかそっか…私も今調べてるの。もう少し、涼平をお願いしていい⁇」

 

「おまかしぇくらしゃい‼︎」

 

「がんばてみあす‼︎」

 

横須賀はひとみといよに感謝していた

 

自分達は日常通りの生活を送りつつ、涼平を元に戻さないといけない

 

そんな中、ひとみといよが本来大人がやるべき事をやってくれているのだ

 

「ずんよ〜ど〜なってあすか⁇」

 

「あら、知ってるの⁇」

 

「りぉ〜へ〜しゃんからにおいしゅる‼︎」

 

「ずんよ〜のにおい‼︎」

 

「隼鷹はまだ寝てるわ⁇きっと昨日疲れちゃったのよ…」

 

「わかりあした‼︎」

 

「たいほうしゃんのとこいきあす‼︎」

 

「待って‼︎私も一緒に行くわ‼︎」

 

横須賀と手を繋ぎ、たいほうのいる小学部を目指す…

 

 

 

「よこすかさんだ」

 

「たいほうちゃん。ちょっと…」

 

「たいほうさん。横須賀さんが呼んでいますよ⁇」

 

「いってきます‼︎」

 

たいほうが窓際の席にいたので、横須賀は山城に目で合図を送り、たいほうを外に出してくれた

 

「よこすかさんどうしたの⁇」

 

「実はねたいほうちゃん…」

 

横須賀がたいほうに事情を説明する…

 

「たいへんだね…たいほうやってみるね⁇」

 

「ありがとっ」

 

「あいっ‼︎」

 

いよから涼平を受け取り、たいほうは涼平の頭を撫でる

 

「あのね、こうするとすてぃんぐれいちいさくなったり、おっきくなるの」

 

“心地良いです…”

 

「ならないね…」

 

「やり方があるのかしら…」

 

「ぐらーふもやりかたいっしょなんだよ⁇」

 

たいほう曰く、妖精化にはそれぞれのやり方があるらしい

 

「りょうへいさん、どうやってちいさくなったの⁇」

 

“隼鷹にギュッとされて…”

 

「ぎゅっとされたの⁇」

 

“はい”

 

「まなちゃんどうかな⁇まなちゃん、ぎゅっとするとね、ちいさくなるの」

 

「なるほどね‼︎ありがとねたいほうちゃん‼︎」

 

「なおるといいね‼︎」

 

たいほうはとても分かり易くヒントをくれた

 

乗艦式にはやり方があり、それに適応した乗艦式でないと行えない事

 

そして、非常に近い乗艦式を行う艦娘がいる事

 

たいほうとグラーフは、男性の頭を撫でる事

 

瑞鶴とイントレピッドとシュリさんは、跪いた男性の頭に手を掲げる事

 

そして隼鷹と蒼龍は、相手を抱き締める事

 

近いやり方だと、元に戻る事も可能かも知れない…

 

問題の蒼龍だが…

 

 

 

「今日はらじこん日和であります」

 

「朝ごはん食べましょう‼︎」

 

「「「いた‼︎」」」

 

普段中々横須賀に来ない蒼龍が、この日神州丸を連れてたまたま来ていた

 

蒼龍が作ったおにぎりを広場で頬張りながら、神州丸はラジコンを操作している

 

「そ、蒼龍⁇」

 

「横須賀さん⁇お久し振りです‼︎」

 

「実はちょっとお願いがあって…」

 

横須賀は蒼龍に事情を説明する…

 

「上手くいったらどこ齧らせてくれます⁇」

 

“わ、脇腹で…”

 

「涼平さんは肩が一番美味しそうです」

 

“じ、じゃあ肩で‼︎”

 

「あいっ‼︎」

 

蒼龍はいよから涼平を受け取る…

 

「それっ‼︎」

 

「やったわ‼︎」

 

「やりあした‼︎」

 

「やったねうしぉん‼︎」

 

蒼龍が涼平を胸元に抱くと、涼平は大きくなった‼︎

 

が…

 

「何か小さくないですか⁇」

 

「小さいでありますな」

 

「おぉ…」

 

蒼龍と神州丸は気付く

 

「中学生位かしら…」

 

「はんぶんくあい⁇」

 

「もっかいちてくらしゃい‼︎」

 

「それっ‼︎」

 

もう一度蒼龍に抱き締められる涼平

 

しかし…

 

「戻んないわね…」

 

「これじゃあ齧れませんね…残念…」

 

「蒼龍さん、ありがとうございます‼︎」

 

「失敗みたいなものですよ⁉︎お礼なんて良いです‼︎」

 

中学生位にとりあえずは戻れた涼平

 

「自由に動ける様にはなりましたから‼︎」

 

「なら良かったです‼︎」

 

「お礼は何が良いかしら⁇」

 

「大きくなったら齧らせて貰いますから、今はいいです‼︎」

 

「分かりました‼︎何とか早く元に戻れる様に頑張ります‼︎」

 

四人はその場を離れ、今正に方法を調べてくれているレイと大淀博士のいる研究室を目指す…



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305話 双子のシマエナガと白いパイロット(2)

「ひとみさん、いよさん、ありがとうございました‼︎」

 

「まられす‼︎」

 

「あたまど〜れしたか⁇」

 

「とても乗り心地良かったです‼︎」

 

ひとみといよは涼平に良く懐いている

 

普段涼平がレイと一緒にいるから、護ってくれてるのね

 

「つきあした‼︎」

 

「えいしゃ〜ん‼︎」

 

研究室のドアが開き、中にレイと大淀博士がいた

 

「おぉ。来たか‼︎どうした涼平⁇ちょっと戻ったのか⁇」

 

「蒼龍さんに半分だけ戻して貰いました‼︎」

 

「やっぱりだよレイ君‼︎」

 

レイと大淀博士が微笑む

 

「さっき分かったんだが、乗艦式には個別にやり方が存在するんだ」

 

「たいほうちゃんに教えて貰ったわ⁇」

 

「たいほうは頭を撫でる、隼鷹は抱き締める。色々やり方があって、それに準じたやり方じゃないと、乗艦式は行えない」

 

「まなしゃん、ちぉっとれきました」

 

ひとみが言う通り、隼鷹と蒼龍は乗艦式のやり方が抱き締める事

 

「同じ乗艦式のやり方の艦娘なら、半分だけの性能が発揮されるんだ」

 

「よく分からないわ…」

 

「色々条件はあるけど、簡単に言えば、同じ乗艦式のやり方と、何方か一方が片思いや憧れを持っていると、乗艦式は半分だけ性能が発揮される…と言えば早いかね⁇」

 

まとめるとこうだ

 

同じ乗艦式のやり方の艦娘がいる

 

片方は普通に行え

 

もう片方は半分だけの性能が発揮される

 

そのもう片方は、艦娘かパイロットが片思いや憧れを持たなければそれも発揮されない

 

つまり、涼平は蒼龍に片思いか憧れを持っている事になる

 

「蒼龍さんは憧れですよ‼︎自分が初めて演習に参加した際に物凄く強い相手だったんです‼︎」

 

「すきちあう⁇」

 

「おちちでかいで⁇」

 

「えと…ど、どう言えば…」

 

涼平はひとみといよのイタズラな質問に対し、大人三人に視線を送る

 

「ひとみ、いよ⁇涼平の事好き⁇」

 

そこで膝を曲げて答えたのは横須賀

 

「「しゅき‼︎」」

 

「じゃあ、レイの事は⁇」

 

「「しゅき‼︎」」

 

「そっ。ひとみといよがレイと涼平のどっちも好きみたいに、涼平も蒼龍の事も好きなのよ⁇」

 

「あかりあした‼︎」

 

「いいことです‼︎」

 

横須賀の説明は分かり易い

 

「ありがとうございます、元帥」

 

「ふふっ、感謝なさい‼︎」

 

「問題は隼鷹だな…」

 

後は隼鷹が起きてくれれば、涼平は元に戻れるはず…

 

 

 

 

「…」

 

ひとみといよ、横須賀は早めのお昼ごはんに向かった

 

俺と大淀博士と涼平は研究室におり、涼平は第三居住区の設計資料と睨み合っている

 

「し、失礼します‼︎」

 

「来たか」

 

ようやく隼鷹が来た

 

「ホントに小さいじゃないか‼︎済まない事をしたよぉ…」

 

「気にしないで下さい。中々楽しかったですよ⁇」

 

「そらっ‼︎」

 

隼鷹はすぐに涼平を抱き締めた

 

「ん〜、何度見ても良い物だねぇ…」

 

「愛が成せる事かっ…」

 

隼鷹に抱き締められてすぐ、涼平は元の姿に戻れた

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「あたしが悪いんだよ…ありがとうなんて、言わないどくれ…」

 

「あ、そうだ‼︎自分はこれから航空演習なんです‼︎」

 

「行けるか⁇」

 

「はいっ‼︎勿論です‼︎行って来ます‼︎」

 

涼平はすぐに研究室を出て行った

 

その背中を見送る隼鷹の顔は、やはり母親の顔をしている

 

「隼鷹」

 

「なんだい⁇」

 

俺は隼鷹に一つの封筒を渡す

 

「後で一人で中を見てくれ。何なら、今ここででもいい」

 

そう言うと、隼鷹は封筒を開けた

 

「あぁ…」

 

ため息を漏らす隼鷹の手には“遺伝子情報酷似、親族及び親子の可能性大”と、書かれた書類が握られている

 

「紛れも無い息子だ」

 

「良かった…」

 

「あ…えと…」

 

「涼平‼︎」

 

「「涼平君‼︎」」

 

研究室の入り口はいつの間にか開いており、そこに涼平が立っていた

 

「第三居住区の設計図を忘れちゃって…」

 

「聞いたか、今の」

 

「隼鷹は…自分の母なんですか⁇」

 

隼鷹は小さく頷く

 

俺と大淀博士は小さくだが、既に臨戦態勢に入っている

 

涼平がこの事実を知って、DMM化しないとは言い切れない

 

俺はさり気なく腰の後ろに手を回し、麻酔銃を

 

大淀博士は立ち振る舞いは普通に見えて、腰に下げた同じく麻酔銃を手に掛けている

 

「何で…」

 

「涼平…」

 

涼平の手に力がこもる…

 

あの日、隼鷹を襲おうとした時と同じだ…

 

「何でもっと早く言ってくれないんですか‼︎」

 

「あたしは…」

 

「もっと早く言ってくれれば…いや、でも最初はやっぱり同じか…」

 

全員がズッコケる位に涼平は急に冷静になった

 

顎に手を置き、悩む素振りを見せる涼平を見て、俺も大淀博士も臨戦態勢を解除する

 

「でも…すぐには母さんと呼べないかも知れません」

 

「いいんだ…ずっと呼ばなくてもいいよ…」

 

「分かりました‼︎何か言われて腹立つので言いますね‼︎行って来ます、母さん‼︎」

 

「い、行ってらっしゃい‼︎」

 

涼平は設計図を取り、今度こそ航空演習に向かった

 

「あれでこそ涼平君だね‼︎」

 

「普段はもっともっと素直で良い奴なんだぞ⁇」

 

それを聞き、隼鷹は笑う

 

多少誤算はあれど、後はこの二人次第だ…

 

 

 

 

「ソッカ」

 

航空演習が終わり、二人はパンを食べながら埠頭で座って話をする

 

涼平が最初に説明した相手は、航空演習で発着艦したシュリさん

 

「ヨカッタ‼︎リョーチャンカゾクイタ‼︎」

 

「うんっ…」

 

底抜けに明るい表情を見せるシュリさん

 

涼平は少し悩んだ

 

自分の母親とは言え、シュリさんの仲間を殺した人が、旦那の母親で良いのか…と

 

「リョーチャン⁉︎」

 

「は、はひ‼︎」

 

シュリさんにブニュっと両頬を持たれ、口が尖る涼平

 

「イガミアイハ、オワリ‼︎ワカッタ⁇」

 

「わ、わかりまひた‼︎」

 

「リョーチャンガスキニナルナラ、ワタシモジュンヨースキニナル‼︎」

 

「ありがとごじゃいまふ‼︎」

 

「フフフ…コンドマヨッタラ、ハキューニタベテモラウカンネ‼︎」

 

「「「リョーチャンタベタイ‼︎リョーチャンオイシソウ‼︎」」」

 

足元の海では、いつの間にかいた三体のハ級が跳ねたりバシャバシャして涼平を見ている

 

「ふふっ…」

 

涼平は持っていたパンを小さく千切り、ハ級達に投げる

 

「「「キャー‼︎パンダー‼︎」」」

 

それはもうガボゴボ言いながらパンを食べるハ級達

 

涼平とシュリさんは苦笑いしつつも、互いに残っていたパンをハ級達に与えた

 

「サ、オウチカエルヨ‼︎」

 

「「「オウチカエル‼︎」」」

 

シュリさんがそう言うと、ハ級達は海岸に向かい、陸へと上がる

 

「カエロウ‼︎リョーチャン‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

シュリさんに差し出された手を取り、涼平は第三居住区へと戻って行った…



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306話 気になるあの子の秘密(1)

さて、305話が終わりました

今回のお話は、とある人物のヒミツが明らかになります

お話の中でちょくちょく登場していた謎の美女

それはある悩みを抱えていた一人の子でした


この日、哨戒任務を終えた健吾は横須賀に来ていた

 

「さぶっ‼︎」

 

たまには一人で遊びたい気分の健吾

 

温かいうどんを食べに来たのだ

 

早速ずいずいずっころばしに入る

 

「いらっしゃいませ‼︎」

 

「一人です。あの、うどんってありますか⁇」

 

「オッケー、うどんね‼︎うどん一丁ー‼︎」

 

「はーい‼︎」

 

瑞鶴にうどんを注文し、カウンター席に座る

 

「頂きます‼︎」

 

「頂くであります」

 

テーブル席には、蒼龍と神州丸がいる

 

お昼時の為か、二人もうどんを食べている

 

「可愛いよね、神州丸ちゃん」

 

「えぇ。あのお箸の持ち方…ふふ…」

 

神州丸のお箸の持ち方は、まだまだぎこちない

 

それが瑞鶴と健吾には堪らなく可愛い

 

「はいっ、うどんお待たせ‼︎」

 

「頂きますっ‼︎」

 

健吾もうどんを啜り始める

 

「はぁっ…」

 

冷えた体に温かいうどんは身に染みる

 

「あ、そうそう。涼平君大丈夫だった⁇」

 

「えぇっ…あれからっ…何時もより強くなった気がします‼︎」

 

健吾はうどんを啜りながら、瑞鶴と話す

 

「良かった‼︎戻れたんですね‼︎」

 

反応したのは蒼龍

 

「蒼龍さんにお礼を言っていました。後日、何か送りますと」

 

「いいんですいいんです‼︎健吾さんの一部分を頂きますから‼︎」

 

蒼龍は立ち上がり、ジワリジワリ健吾に近付く…

 

「背に腹は変えられません…分かりましたっ‼︎」

 

健吾は目を閉じる…

 

「うっ…」

 

椅子を回転させられ、蒼龍の方に向けられる

 

「ちょっとちょっと‼︎店内でスプラッシュはダメだよ⁉︎」

 

「あ〜…‼︎」

 

時既に遅し

 

蒼龍は健吾をしっかりホールドし、肩に噛み付いた‼︎

 

「くっ…」

 

「あ⁇ん〜…何か微妙れす…」

 

「…」

 

肩に歯を立てられただけで、ちょっと痛い位で済んだ

 

「ん〜、男の子だと思ってました」

 

「ゔっ…」

 

「え⁉︎中尉って男の子でしょ⁉︎」

 

「あ、あのあの‼︎」

 

「違いますよ‼︎胸ありますし‼︎ほら‼︎」

 

「だっ‼︎」

 

蒼龍は健吾の背後から胸部を触る

 

普段から分厚いシャツを着ているので中々分からないが、こうするとそこそこ胸があるのが見える

 

「あー…えと、その…人間、隠したい事も、あるよね‼︎」

 

「えと…あの…」

 

「黙ってるから、大丈夫よ⁇」

 

「そうだったんですか…ごめんなさい…」

 

「い、いいんですいいんです‼︎あはは‼︎」

 

健吾は顔を真っ赤にしつつも、蒼龍を許した

 

「お詫びに今日は私が出しますから、ねっ⁇」

 

「じゃあ…お寿司食べていいですか⁇」

 

「勿論‼︎」

 

「お腹いっぱい食べてね‼︎」

 

健吾はお寿司を頬張り始める…

 

 

 

 

その頃、アレンも横須賀に来ていた

 

「マクレガー大尉」

 

「柏木さん⁇」

 

刑部から降りたアレンは、ダイダロスの艦長である柏木さんに招かれ、ベンチに座ってコーヒーを飲み始めた

 

「すまない、足止めして」

 

「構いませんよ。自分も話したかったので」

 

温かいコーヒーを飲みながら、先に口を開いたのは柏木さんの方

 

「その、マクレガー大尉。息子…いや娘…息子…う〜ん…」

 

「健吾の事ですか⁇」

 

柏木さんは健吾の父親

 

ラバウルさんや隊長、横須賀辺りは薄っすらと分かっているかも知れないが、その事実を完璧に知っているのはアレンしかいない

 

「そっか…今は健吾と名乗っていますか」

 

アレンはコーヒーを飲むのを辞め、柏木さんの方を見た

 

「どう言う事です⁇」



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306話 気になるあの子の秘密(2)

「これを言って、健吾を嫌いにならないでくれますか⁇」

 

「嫌いになる所が健吾にはありません。大丈夫です」

 

「ん…なら、君には話そう…」

 

柏木さんは重たそうに口を開く…

 

「あの子は、その…二つ性別を持っているんだ…」

 

「…」

 

「産まれた時から体に二つの性があるんだ。私はあの子が産まれてから娘として扱っていたんだが…あの子は男として生きて行きたかったのでしょう」

 

実は健吾、体に両方の性別を備えている

 

女性特有の器官もあり、男性特有の器官も体に備わっている

 

「確かに風呂に入った時は付いてました」

 

「バスタオルを胸まで巻いていなかったか⁇」

 

「どうだったか…男の体をそこまで凝視しませんので…」

 

アレンは健吾が両方の性別を持っていると知っても特に反応はせず、元から少し知っていたかの様な反応を見せる

 

「ははは。健吾でいるならば、私はそれで構いません。ただ、マクレガー大尉…もし、あの子が助けを求めた時は…」

 

「分かりました。私からも一つ伺っても⁇」

 

「勿論」

 

「もしかして、本名は名前は梨紅ですか⁇」

 

「そうです。よくご存知で」

 

「橘花☆マンの芸名やら、ペンネームが梨紅だったので」

 

「そうでしたか…」

 

悲しそうな声を出す柏木さんだが、顔は嬉しそうな顔をしていた…

 

 

 

「ごちそう様でした‼︎」

 

健吾は数皿お寿司を食べた後、手を合わせた

 

「それだけで良いんですか⁇」

 

「はいっ‼︎お腹いっぱいです‼︎」

 

蒼龍はこれだけで良いのかと店を出るまで何度も聞いてくれた

 

健吾はお腹いっぱいになったと返し、店を出た…

 

 

 

「うぅ…マズい…」

 

蒼龍に弄られた時に着ているものがズレたのか、くっきりと形を見せている胸を隠しながら、健吾は人目の付かなそうな工廠へと向かう

 

工廠の一角にはカプセルが備えられており、その近くに着替える為のカーテンで仕切られた空間があるのを覚えていた

 

「おっ‼︎健吾‼︎」

 

「あ、アレン⁉︎」

 

こんなタイミングで知られたくない相手に出くわす

 

「どうした⁇」

 

「あ、いや、何でもないよ⁉︎」

 

「…」

 

片手で胸元を隠しながら、空いた手で何でもない事を表現するが、アレンには逆効果

 

「ほらっ」

 

アレンはその場に屈み、健吾をおんぶしようとしてくれている

 

「い、いいよ…大層な事じゃないよ」

 

「早くしないと雷電姉妹が乗りかねない」

 

「…」

 

意を決した健吾は胸元から手を離し、アレンの背中に乗る

 

「何処に行こうとしてた⁇」

 

「工廠のカーテンの所…あそこなら着替えれる」

 

「よっしゃっ‼︎」

 

健吾を背負い、アレンは工廠に向かう

 

「…アレン」

 

「何も言うな。ちょっと前から知ってる」

 

「…いつ位から⁇」

 

「背中に中々の感触があるって気付いた時位からだな⁇」

 

「アレンらしいや‼︎」

 

「ふっふっふ…」

 

「あ‼︎ぱっぱして貰ってるのです‼︎」

 

「怪我したの⁉︎」

 

アレンの予想通り、雷電姉妹が来た

 

「そうなんだ。工廠のドア開けてくれないか⁇」

 

「お任せなのです‼︎」

 

「先導するわ‼︎」

 

レイが言っていた

 

雷電姉妹は口は悪いが、本当に頼りになると

 

何でもまずはコミュニケーションだな…

 

工廠に着き、健吾をカーテンの向こうに降ろす

 

「ま、待って、アレン」

 

「おっ…」

 

アレンはようやく気付いた

 

服の裾を掴む癖

 

あの夜は位置的に子供かスパイトさんかと思っていた

 

…そっか

 

あれはお前だったのか…

 

「その、えと、あ、ありがと…」

 

顔を赤くしてアレンに礼を言う健吾、もとい梨紅

 

アレンは目の前にいる年下の親友の頭をグッと撫でる

 

「気にするな。着替えたらビリヤードでも行くか⁇」

 

「…アレンはどっちと行きたい⁇」

 

「好きな方で来い。どっちも扱いは変わらないさ」

 

そう言うと、健吾はジト目で笑う

 

「知らないかんね」

 

「さて、先に雷電姉妹に礼をしなきゃな‼︎」

 

アレンはそのまま工廠を出た

 

工廠を出てすぐにアレンは膝を曲げて二人に目線を合わせる

 

「二人共、ありがとな⁇」

 

「高く付いたのです‼︎」

 

「私達はご飯に行くわ‼︎」

 

「ちょっと待て‼︎えっとだな…」

 

アレンは内ポケットに手を入れた

 

「間宮の券なら要らないのです‼︎」

 

「もう束であるわ‼︎」

 

誰も間宮の券とは言っていないのに、間宮の券を大否定

 

普段横須賀が腐る程与えているのが良く分かる

 

「甘いな‼︎足柄の500円のおもちゃ券だ‼︎」

 

「「おぉ〜‼︎」」

 

やはりそこはまだ子供

 

まだおもちゃと言う言葉に弱い

 

「これは試験段階の代物だ。これからお手伝いしてくれた子には色々な値段が出…」

 

「「わ〜い‼︎」」

 

既にアレンの手元におもちゃ券はない

 

しかも数枚あったのに根刮ぎ持って行かれた

 

「ありがとなのですーっ‼︎」

 

「アレンさん‼︎お菓子も買えるーっ⁉︎」

 

「お菓子も買えるぞー‼︎」

 

雷電姉妹は駄菓子屋足柄に猛スピードで向かって行った…

 

「全く…根刮ぎ行くかぁ…」

 

そう言いつつも、微笑みながらアレンは立ち上がる

 

「アレンっ‼︎」

 

「おっ…」

 

立ち上がった目の前には満面の笑みを見せながら後ろで手を組み、ちょっと前屈み気味の健吾…もとい梨紅がいた

 

惜しげも無く曝け出したボディラインは、そんじょそこらの女性に負けない体格をしている

 

しかもアレンのジャケットを着ている為、アレン自身何かグッと来るものがあった

 

「美人だったんだな…」

 

「そうかな⁇でも、本当はこっちの方が良いかも知れない‼︎行こっ‼︎」

 

いつもはアレンをはじめ、皆の二歩後ろを着いて行く健吾

 

しかし梨紅になった途端、それが反転してリードするタイプになる

 

二人は遊戯場でビリヤードを楽しむ…

 

 

 

 

ビリヤードが終わり、基地に帰る時間になる

 

梨紅は健吾に戻り、帰る前に朝方柏木さんといたベンチでコーヒーを飲む

 

「これを知ってるのは、本当に限られた人だけなんだ…」

 

「例えば⁇」

 

「まりとりさ、ワンコは知ってる。知ってる上で、俺を健吾として扱ってくれる。後、あみさん」

 

「んじゃ、俺はそん時に合わせますかな‼︎」

 

「…ネルソンがアレンを好きになったの、今分かった‼︎」

 

「レイっぽくなるからあんま言いたくないが、俺が本気を出すとモテて暇がなくなるからなっ‼︎」

 

ポーズを決めて健吾を見つめるアレン

 

本人はバカをやっているつもりだが、中々にカッコ良く、言葉はあながち嘘ではないのを物語る

 

「あはははは‼︎アレンらしいや‼︎」

 

「よしっ、帰ろう‼︎今日はおおいのご飯らしい‼︎」

 

「分かった‼︎」

 

アレンと健吾は、ラバウルに戻る…

 

こうして二人の秘密の逢瀬は、一回目を終えた…




柏木梨紅…健吾の本名

クールで誰かの背後を着いて行く健吾と変わり、ちょっと気が強くて引っ張るタイプ

本来の性格は快活な梨紅の方で、普段の性格は戦場で生きる為にわざとそうしている

産まれた頃から両方の性別を体に備えており、今尚その事で悩んでいる

黒髪のショートカットで、アレンやレイより頭一つ分小さい

しかし出る所はそこそこ出ており、アレン曰く笑うと可愛い

最近梨紅の姿でアレンのジャケットを着るのが趣味

全然腕が足らない為、必然的に萌え袖になる。すごいね

お祭りの回で振り回されていたのと、舞踏会でミス・リックの名で登場している


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307話 画伯と空飛ぶ医者(1)

さて、306話が終わりました

今回のお話は、突如として横須賀に現れた謎の画伯

マーカスは診察を依頼されるが…


「大尉大尉大尉‼︎大変ですよ‼︎」

 

「アンタが本当に大変な時は俺に命令するだろ⁇何だ⁇」

 

書類をワキに挟んで横須賀の執務室に行こうとした俺を、香取先生が止めて来た

 

「かの有名な秋雲さんが横須賀に着任するんです‼︎」

 

「秋雲…」

 

香取先生が言う位なら、相当な手練れの子なんだろう…

 

執務室に向かいながら、香取先生を横に付けて歩く

 

「今までは何処に居たんだ⁇」

 

「今までは一般人ですよ‼︎」

 

「ほぅ…それが急に横須賀に⁇」

 

「そうなんですそうなんです‼︎あぁ、どうしましょう‼︎」

 

香取先生を見る限り、秋雲と言う存在に恐怖を抱いている素振りは無く、何か別の楽しみがあるみたいだ

 

「それで大尉にお願いが」

 

香取先生の顔がシュッと変わる

 

「身体検査をお願いしたいのですが…」

 

「分かった。いつ頃になるか、また連絡してくれ」

 

香取先生は足を止め、満面の笑みを見せる

 

「ふふ‼︎この後すぐです‼︎」

 

「ったく…コーヒー買って表で待っててくれ」

 

「了解です‼︎」

 

何だかよく分からんが、面倒に巻き込まれる予感がする…

 

 

 

「俺だ」

 

「開いてるわ」

 

執務室に入ると、横須賀と親潮がPCに向かっていた目を俺に向けた

 

「航空演習の結果。それと、ここ最近撃墜した敵機の情報がある」

 

「ありがと。助かるわ」

 

「俺は今から診察があるから、何かあったら来てくれ」

 

「頼むわよ‼︎ほんっと凄い子なんだから‼︎」

 

急に大声を出したので、親潮がビクッと肩を上げた

 

「秋雲…だったか⁇」

 

「そう‼︎有名な漫画家よ‼︎」

 

「そ、そっか…」

 

親潮は特に知らなさそうだが、香取先生や横須賀の反応を見る限り、売れっ子の漫画家らしい

 

漫画家ねぇ…

 

 

 

「大尉、こっちです」

 

外に出ると、両手にコーヒーを持った香取先生がいた

 

「大尉はこっちです」

 

「ありがとう」

 

香取先生からアイスコーヒーを受け取り、診察する為に工廠に向かう

 

「漫画家なのか⁇その秋雲って子は」

 

「そうです‼︎」

 

「どんな漫画だ⁇」

 

「…」

 

香取先生は上目遣いで俺を見ている…

 

「うっ…」

 

「そこは大尉自身でお知りになって下さいっ。いいですね⁇」

 

「分かったよ…」

 

あれか…

 

隊長が年下の押しに弱いなら、俺は年上の押しに弱いみたいだな…

 

横須賀も年上、貴子さんも年上、香取先生もバリバリ年上…

 

そうか、アークもか…

 

工廠に入り、いざ診察を始める…

 

 

 

白衣に着替え、彼女が待っているカプセルがある区画に向かう

 

「初めまして、だな⁇」

 

「初めまして初めまして大尉‼︎お初にお目に掛かります、秋雲と言います‼︎」

 

いきなりポニーテールの少女に手を握られる

 

この子が秋雲らしい

 

「お⁉︎まぁ座ってくれ‼︎」

 

「ではお言葉に甘えて…」

 

秋雲は丸椅子に座り、ジッとし始める

 

聴診器を当て、目や舌を見る

 

「ちゃんと栄養摂ってるか⁇」

 

「あはは…ちょいと忙しくて〜」

 

「ここに来たからには、しっかり三食食べて貰う。栄養ドリンクだけ飲むのは、あまりよろしくないからな」

 

「何で分かったのさ‼︎」

 

「何で分かると思う⁇」

 

「大尉⁇質問を質問で返してはいけません。まずは与えられた質問を答えなさいっ」

 

同伴している香取先生に怒られた

 

「何人も艦娘を診て来た。それ位すぐ分かる」

 

「…ホントにお医者さんなんだ」

 

「空飛ぶお医者さんなんですよ⁇」

 

カルテを書きながら二人と話を続ける

 

「ここに来た理由は⁇」

 

「えと…開放日にここに来て、いい所だなぁ、って…」

 

「そっか。栄養不足以外に目立った疾患はない。動機も中々だ。後は少し過去を調べさせて貰う。いいか⁇」

 

「あ、あの‼︎引かなければオッケーです‼︎」

 

「…」

 

何故か秋雲は急にテンパったので、少し目を見る

 

あまり見過ぎると、横に居る末恐ろしい女教師に、少女相手に“眼”を使うなと言われそうだ…

 

「大丈夫です‼︎悪い経歴は無いんで‼︎」

 

「心配するな。先生、秋雲を寮へ案内して欲しい」

 

「分かりました大尉。では秋雲せ…秋雲さん、此方へ」

 

「ありがとうございましたっ‼︎」

 

秋雲と香取先生が工廠を出たのを見送った後、スカーサハに向かう

 

「ヨナ、開けてくれないか」

 

《いらっしゃいませ、お父様》

 

スカーサハに入り、メインルームに来た



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307話 画伯と空飛ぶ医者(2)

《お勉強でちか⁇》

 

メインルームに入って準備をしていると、艦内をウロチョロしているヨナより先にゴーヤがモニター越しに反応してくれた

 

「そっ。ゴーヤも来るか⁇」

 

《こっから見てるでち。今巡回中でち》

 

「ありがとな」

 

「いらっしゃいませ、お父様」

 

ヨナがメインルームに来た

 

よほど気に入っているのか、アロハシャツを着ている

 

「この人の過去を一緒に調べて欲しいんだ」

 

「畏まりました。ヨナにお任せを‼︎」

 

出したバインダーをヨナはすぐに手に取ってくれた

 

ヨナはバインダーとモニターを交互に見る…

 

「出しますね」

 

「頼んだ」

 

秋雲の経歴がモニターに打ち出されていく…

 

 

 

《だーっはっはっは‼︎こら傑作でち‼︎》

 

「斜め上から来たな…」

 

ゴーヤはモニター越しに腹を抱えて笑い、俺は机に肘を置いて悩む

 

香取先生と横須賀がピーキャー騒いでいたのはこれか…

 

「お父様。このじゅうはちき…」

 

「ヨナ⁇あのだな…」

 

《あれでち、ヨナ。大人向けの漫画屋さんでち》

 

出るわ出るわ秋雲の経歴

 

それもちょっとディープな経歴だ

 

決して犯罪に加担している訳ではないが、これは…

 

「大人向け…ヨナは読んではいけませんか⁇」

 

「そうだな…ヨナが大きくなったら読んでもいいかもな⁇」

 

「ヨナは絵本好きです。ジェミニ様にも読んで貰います」

 

「今度は一緒に読もうな⁇」

 

「はいっ、お父様」

 

「…忙しくなるな、こりゃ」

 

 

 

スカーサハを出ても頭を抱える

 

「どうしたレイ。二日酔いか⁇」

 

たまたまアレンが通り掛かった

 

「新しい子が来てな…」

 

アレンに今しがた出た結果を言う…

 

「ははははは‼︎そいつはいい‼︎初めてじゃないか⁉︎」

 

「さっき診察したんだが、決して悪い奴じゃないんだ…そこが、な⁇」

 

「まぁいいさ‼︎一緒に行こう‼︎」

 

アレンも爆笑し、一応横須賀に報告する為に執務室に来た

 

「どぞどぞ‼︎お近付きの印に‼︎」

 

「ぐへへ…これはこれは…」

 

「ヤバ…」

 

「何だ、今の悪寒は…」

 

執務室に入ろうとした瞬間に久々に聞いた、横須賀のぐへへ声

 

アレンでさえドアノブに手を置くのを躊躇っている

 

「んふっ…とても素晴らしいです…」

 

タイミング良く香取先生が何かを読みながら来た

 

「…やるか⁇」

 

「…あぁ」

 

執務室から少し離れ、角に隠れる

 

「んんっ⁉︎」

 

「随分隙だらけだな」

 

隙だらけの香取先生の口元を抑え、角に引き込み、お腹に手を回して抱き留める

 

「香取先生、頼みがある」

 

口を抑えているので香取先生は頷くしか出来ない

 

「デカイ声出さないか⁇」

 

再び香取先生は頷く

 

「ぷは…あっ…」

 

手を離すと、香取先生は身震いした

 

「今暴れられると厄介だから、しばらくこうしてる」

 

「あ、あの…ずっとでも…」

 

「先生、頼みがある」

 

「二人掛かりで…な、なんなりとっ…」

 

アレンが前に回り、事の事情を話す

 

「今、執務室でヤバい取引をやってる。ドアを開けて欲しい」

 

「先生にお任せを」

 

「よし…」

 

香取先生を前に置き、執務室の前に戻って来た

 

「…頼む」

 

「…行きますよ」

 

香取先生がゆっくりとドアを開ける…

 

「いやぁ〜、まさかこの秋雲さんのファンとは〜‼︎」

 

「おほっ‼︎おほほ‼︎これいいわね‼︎」

 

「どれっ」

 

「「あっ‼︎」」

 

横須賀が読んでいた本を手に取り、中を見る

 

「…」

 

「…」

 

何というか、とりあえず凄い

 

「程々にな」

 

「怒んないの⁇」

 

「俺達だってグラビアは見るからな⁇」

 

「そっ。人の趣味をあれこれ言う趣味はない」

 

「あの、ありがと…」

 

「大事なんだろ、それ」

 

「うんっ」

 

横須賀に本を返すついでに、診察結果と経歴の結果を渡す

 

「スケベブックの作家だってな⁇」

 

「あ、はい…」

 

秋雲は有名な同人誌作家

 

今チラッと絵を見たが、内容はさて置き、絵は凄く上手い

 

「被写体にする時は一言言ってから描く事、終わったら見せる事、それだけだ」

 

「では早速大尉を〜」

 

「一つ答えたらな」

 

「何でも聞いて下さいよ〜」

 

「何故艦娘になろうと思ったんだ⁇」

 

まだ秋雲が艦娘になりたい理由の本質を聞いていない

 

被写体や目の保養になる子が多いから〜とかと思うが…

 

「小さい頃から夢だったんです」

 

急に秋雲の雰囲気が変わる

 

真面目な空気だ

 

「小さい頃に大尉の写真…あの広告の写真を見て、いつか大尉の近くに行きたいなぁと…」

 

「あれね」

 

執務室の壁に額縁入りで飾られてある、傭兵時代に使われた広告塔の写真

 

「イケメンだしな、うん」

 

「あぁいう人よ、レイは」

 

「大尉と知ってるのは、ここに来た時に聞いたからです」

 

「ならいいさ。宜しくな⁇」

 

「宜しくお願いしますっ‼︎」

 

 

 

 

「やっと逢えた…」

 

夜、一人になり、秋雲は思い出す

 

自分が本当に小さい時、家族を救ってくれたパイロットの事を

 

数年前、自分の乗った旅客機を敵の航空機から守ってくれたパイロット

 

当の本人は数多の戦いの中の一つの作戦に過ぎず、窓越しに見た少女の顔なぞ覚えているはずも、見えているはずもない

 

だけど、秋雲の目には鮮明に映っていた

 

バイザーを外し、此方に手を振ってくれたあのパイロットの顔を…



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308話 画伯はなんでもお見通し(1)

さて、307話が終わりました

今回のお話は、秋雲がお近付きの印に各々に配っていたケシカランブックのお話です

マーカスが貰ったのは…


「大尉〜‼︎」

 

「お、秋雲か。どうだ調子は⁇」

 

ある日の昼、パースピザのテラスでお昼ご飯を食べようとしていると秋雲が来た

 

「大尉にこれを〜」

 

「どれっ…」

 

秋雲に大きめの茶封筒を渡され、中を見る

 

どうやら薄めの本みたいだ

 

「これはっ…‼︎」

 

すぐに茶封筒に直し、周りを見る

 

「本人には許可取りました‼︎大尉にならと‼︎」

 

すぐに茶封筒に直した為によくよく確認しなかったが、とても素晴らしい物が見えた気がする…

 

机の下でもう一度表紙を確認する…

 

ムチムチ…

 

寮母…

 

続きはなんだ‼︎いや‼︎表で開ける内容じゃない気がする‼︎

 

「どうです⁇」

 

「けしからんのでぼっしゅうします」

 

「何で棒読み⁉︎」

 

「これはわたしがせきにんをもってしょりします」

 

「あ、はいっ…」

 

秋雲は何となく察してくれたみたいで、歯を見せている

 

「なるほどなるほど、ぼっちゃんはそういうのが趣味パース⁇」

 

いつの間にかピザとジュースを持ったパースがいた

 

「違うんだパース‼︎これは責任を持って処理する‼︎」

 

「別の処理パース⁇」

 

「そうだっ‼︎いや違う‼︎」

 

両手にお盆を持ちながら余裕の表情で煽って来るパース

 

「ささ‼︎パースオリジナルパース‼︎」

 

トマトソースとチーズ、そしてふんだんに敷かれたサラミが美味しそうなシンプルなピザだ

 

「おっ‼︎美味そうだな‼︎秋雲も食うか⁇」

 

「ではお言葉に甘えて〜」

 

「ぼっちゃん」

 

「ん〜⁇」

 

パースが急に左耳に顔を近付けて来た

 

「…ぼっちゃんなら、パースがいつでもお相手するパース」

 

最近パースの扱いにも慣れて来た為、左手を回し頭を撫でた

 

パースは満足したのか、店内に戻って行った

 

「ぼっちゃん〜って言ってましたけど、昔からの知り合いなんですか⁇」

 

「そっ。俺のベビーシッターだ」

 

「んふ…閃いた‼︎ごちそうさまでした‼︎」

 

「これ、ありがとな⁇」

 

「いえいえ‼︎きっと大尉のお気に召しますよ‼︎」

 

これは食べてから確認せねばならんな…

 

 

 

その日の深夜…

 

「おやすみ、ビビリ」

 

「おやすみ、アーク」

 

今日に限ってアークが寝付けないと言い出したので、眠るまで横にいた

 

廊下に誰もいない事を確認した後、自室の机の前に座る…

 

「さてっ…」

 

いざ茶封筒の中身を見る…

 

ムチムチ寮母ママのサービスタイム…

 

パイロット寮の寮母の人に非常に似ている…

 

「…」

 

生唾を飲み、いざページをめくる…

 

「…」

 

それはそれはもうけしからん内容

 

これはちょっと横になって見た方がいいな…

 

いざベッドに移動しようとした時、机にあるPCに通信が入った

 

《何てもん見てんでち‼︎》

 

通信先はゴーヤ

 

PC辺りのカメラを同期させたのだろう…

 

「いいかゴーヤ。これは検閲だ‼︎」

 

《ほ〜、検閲でちか。いいご身分でちな⁇》

 

モニター先でゴーヤはしたり顔を見せる

 

今から何をするか分かっている上でおちょくっているんだな…

 

「頼む…内緒にしててくれ…」

 

《創造主に御褒美をあげようと思ったのに、要らないでち⁇》

 

「何だ⁇」

 

《そのヘッドホン付けるでち》

 

「これか⁇」

 

ゴーヤが言ったのは、カメラ付きのヘッドホン

 

内容を見て来る気だ‼︎

 

…まぁいい

 

ここはゴーヤに従うしかない

 

こんな情けない姿をバラされたら終わりだ…

 

ヘッドホンを付け、再びページをめくる…

 

《創造主。一旦全部のページを見せて欲しいでち》

 

「何だか分からんが分かった‼︎」

 

ゴーヤに言われるがまま、ページをめくって行く…

 

一旦内容はほとんど見ず、最後のページまで来た

 

《いやぁ、けしからんでちな》

 

「ゴーヤもそう思うか⁇」

 

《創造主がそういうのが好みと分かったでち。あ‼︎巡回しなきゃでち‼︎》

 

「…ゴーヤ」

 

《冗談でち》

 

ゴーヤと話していると、何かのファイルが送られて来た

 

“T-Voice Data”と名付けられたそれは、どうやら音声ファイル

 

《それが御褒美でち。創造主のお気に召すかは、創造主次第でち》

 

「分かった。今聞いてみるよ」

 

《だーっ‼︎ダメでち‼︎こいつは一人で楽しんだ方がいいでち‼︎じゃ‼︎》

 

急にテンパり出したゴーヤは急いで通信を切った

 

「どれ…」

 

何かゴーヤが作ってくれた音声のようなので、せっかくなので聞いてみる事にした

 

《あ、り、が、とっ‼︎ギューしてあげるわ‼︎》

 

《ず〜っと見てたんでしょ⁇コ、レ‼︎》

 

《凄いわ…こんなに…》

 

「…」

 

ページのセリフに合わせて、パイロット寮の寮母に非常に似た声が聞こえる…

 

何処かで音声を拾って繋げたのだろうが、不自然な点が無く、本当に耳元で囁かれているみたいだ…

 

反則だろ…こんな…

 

身震いした後、じっくり堪能する事にした…



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308話 画伯はなんでもお見通し(2)

次の日…

 

「おはよう‼︎」

 

「おはよう‼︎いつもより元気ね⁇」

 

「快調快調‼︎ははは‼︎」

 

何て快調なんだろうか‼︎

 

朝ご飯を少しのコーンフレークで済ませ、横須賀に行く準備をする

 

今日は非番だ。ゴーヤに礼を言わなきゃな‼︎

 

「行って来ます‼︎」

 

「行ってらっしゃい‼︎気を付けてね‼︎」

 

 

 

 

横須賀に着き、停泊しているタナトスの前に来た

 

「開けてくれ」

 

タナトスのハッチが開き、艦内に入る

 

メインルームに行くと、ゴーヤがモニターの前にいた

 

「ゴーヤ、昨日はありがとうな‼︎」

 

「どーでち‼︎ゴーヤはあぁ言うのも出来るんでち‼︎」

 

「素晴らしいな‼︎それで、これはお礼だ‼︎」

 

中心の机の上に大量のお菓子が入ったビニール袋を置く

 

「ゴーヤにくれるんでち⁉︎」

 

「全部やる‼︎」

 

「わぁー‼︎ヨナと一緒に食べるでち‼︎創造主、ありがとでち‼︎」

 

ゴーヤは嬉しそうにお菓子を手に取っては表紙を見ている

 

「一人で食べてもいいんだぞ⁇」

 

「ならこっち半分はゴーヤ、こっち半分はヨナと食べるでち‼︎」

 

楽しそうにお菓子を分けるゴーヤを見て、大淀博士の言葉を思い出した

 

レイ君といると、AIの子達が母性に目覚めるのが早いんだ

 

破壊と殺戮の為に産んだ、皆から死神と呼ばれ喜ぶこの子が今、ヨナに対して愛情を見せている

 

愛情自体は少し前から見せているのかも知れないが、これだけ如実に目の当たりにしたのは初めてだ

 

「これが母性、でちか⁇」

 

「そうだ。本来お前は優しい子だ」

 

思考を読まれた…

 

ゴーヤは何が母性かまだ分かっていない様子

 

「きっと創造主はこうすると思ったでち」

 

「俺なら一人で食うな。横須賀に食われる前にな⁇」

 

「それは一理あるでち…」

 

そう言いつつ、ゴーヤは“ヨナ”と書かれた箱にお菓子を入れている

 

「そういや、朝から香取先生がうっさいでち。一発かましても…」

 

「あの人は年がら年中うるさい。どれっ、様子を見に行くか…位置は分かるか⁇」

 

「少々待つでち…」

 

ゴーヤが目を閉じるとモニターが動く

 

「現在間宮で朝食をとっています」

 

「ちょっとやかりに行くか‼︎」

 

「体温が上昇状態にあります。お気を付けて下さい」

 

香取先生なら何か食べさせてくれるので、ちょっと顔を見せに行こうとしたが、今のタナトスの言葉で足が止まる

 

「体温が上昇状態…」

 

「発情してんじゃねーでち⁇」

 

「…」

 

「ははははは‼︎行きたくねー‼︎って顔してるでち‼︎」

 

いつものゴーヤに戻り、腹を抱えて笑われる

 

「うぬぐぐ…見てろ‼︎このマーカス・スティングレイの勇姿を‼︎」

 

「はいはい、死にゃしないでちよ」

 

ゴーヤに見送られ、タナトスを出て間宮に向かう…

 

 

 

「いらっしゃいませ〜‼︎」

 

「一名だ」

 

間宮に入るといつも通り伊良湖が案内してくれる

 

いつもの席は…そこにいんのかよ…

 

「大尉⁇どうぞ此方へ‼︎」

 

眼鏡を外した香取に手招きされ、いつもの入ってすぐのテーブル席に座る

 

「どうもっ。コーヒーをくれるか⁇」

 

「畏まりました‼︎」

 

伊良湖が厨房に戻り、香取先生に目線を合わせる

 

「大尉、秋雲さんの検査、ありがとうございました」

 

「これ位ならいつでも言ってくれ」

 

「つまらない物ですが、これはお礼です…」

 

またもや茶封筒を渡される

 

あまり好きではないデカさだ…

 

恐らく紙幣が入っている

 

「俺がそんなシケた金で動くと思うか⁇」

 

「思いませんよ⁇貴方はそんな子じゃないと先生は知ってます」

 

それでも茶封筒を机の上に滑らせて来ると言う事は、中身はお金じゃない

 

「信じるからな…ありがたく頂戴する」

 

茶封筒を受け取って中を見ようとした

 

「ダメです‼︎後で開けて下さい‼︎」

 

「わ、分かった…」

 

止められたので、茶封筒を内ポケットに仕舞う

 

「コーヒーお待たせしました‼︎」

 

「ありがとう」

 

ミルクと砂糖を二つ入れ、香取先生がモグモグしている姿を見ながらコーヒーを飲む

 

こうして見ると童顔なんだな…

 

大人しくしてりゃ、美人でウケも良いんだが…

 

いかんせん、口がうるさくてかなわん

 

「香取先生」

 

「何です⁇」

 

香取先生の額に手を置く

 

「あっ…」

 

「熱は無いみたいだな。口開けて」

 

「あ〜…」

 

「扁桃腺も大丈夫だ。何か嬉しい事でもあったか⁇」

 

「今ありましたよ…」

 

「うぐ…」

 

ダメだ、話を変えよう…

 

「香取先生は誰がタイプだ⁇」

 

「そうですねぇ…最近男性は増えましたからね…やはりヴィンセント中将が固いですね⁇」

 

「やっぱ年上好みか…」

 

「大尉も好きですよ⁇頑張り屋さんで、皆のお兄さんの様な大尉が」

 

「しかし若過ぎると⁇」

 

「はいっ‼︎青二才です‼︎」

 

「ふっ…酷い言われ様だ…」

 

そう言うと、香取先生も笑う

 

「俺は用があるから行くよ。ありがとな」

 

「此方こそ、楽しかったです」

 

一応デートらしき事をしたので伝票を取ろうとした

 

「何してるの。置いて行きなさい」

 

香取先生に腕を掴まれ、止められた

 

「モーニングプレートだろ⁇それ位なら…」

 

「あら、普段ババアババア言っているのに、こう言う時だけ女性扱いですか、大尉⁇」

 

「ダメか‼︎」

 

「一生私の事をババアと言わないなら、喜んで奢られますが⁇」

 

それを聞いてすぐに手を離す

 

それはそれはもう速かった

 

自分でもビックリする位のスピードで伝票から手を離した

 

「それでこそ大尉です」

 

「まっ…あれだ。またパスタでも食いに行こう」

 

「喜んで‼︎」

 

今日はババアと言うのは控えてやろう…



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308話 画伯はなんでもお見通し(3)

間宮を出て、何となくだがイントレピッドの顔を見たくなった

 

決して昨日の晩に見た薄い本のせいじゃない

 

決してな‼︎

 

「Good Morning‼︎あらマーカス‼︎」

 

パイロット寮の入り口で掃除をしていたイントレピッドがいた

 

「親父は⁇」

 

「今執務室にいるわ⁇」

 

「ありがとう」

 

「ンフ…マーカス⁇」

 

イントレピッドは口元を抑えて微笑む…

 

「…はい」

 

この人もあれだ。背後に置くとヤベェタイプか…

 

イントレピッドは俺の背後から胸元に手を回し抱き寄せた後、耳元に唇を近付けた

 

「…あ〜、り〜、が〜、とっ。ギューしてあげるわっ…」

 

「ならんならんならん‼︎」

 

忘れてた‼︎

 

イントレピッドに許可を入れたとか言ってたな秋雲は‼︎

 

「フフッ‼︎さっ、行ってらっしゃい‼︎」

 

ようやく離され、パイロット寮の執務室を目指す

 

「危ない危ない…」

 

「あら⁇マーカスさん⁇」

 

「ジョンストンか‼︎今執務室に誰がいる⁇」

 

デカイジュースのペットボトルと、紙コップ二個を携えたジョンストン

 

今執務室にいる誰かと飲むのだろう

 

「今はヴィンセントがいるわ‼︎」

 

「顔見に来ただけなんだが、邪魔になるなら帰るよ」

 

「大丈夫‼︎ヴィンセント‼︎お客さんよ‼︎」

 

ジョンストンがドアを開けてくれた

 

「大尉‼︎いらっしゃいませ‼︎まぁ掛けて下さい‼︎」

 

「コップ持って来るわ‼︎」

 

「顔見に来ただけさっ」

 

「いいんですいいんです‼︎丁度良かった、イントレピッドのオヤツが出来る頃です‼︎」

 

ヴィンセントも一息入れる時間の様で、ソファーの前にある机に灰皿を置いてくれた

 

室内に入ったので革ジャンを脱ぐ

 

「そうだ。ちょっと失礼…」

 

香取先生から貰った茶封筒が内ポケットに入れてあるのが目に入った

 

「お金なら受け取らないと言ったら、別の品だと言われて…」

 

「割引券か何かですかね⁇」

 

「はい、どうぞ‼︎」

 

「ありがとう」

 

ジョンストンは紙コップを持って来てくれた後、ヴィンセントの横に座る

 

「どれっ…」

 

茶封筒から中身を取り出す

 

中身は外側からも予想が付いた紙の何か

 

「…」

 

「何、それ⁇」

 

出て来たのは俺が黙るレベルの内容の券

 

「これだったら金を寄越せと言うんだった…」

 

それはそれはもう欲しくない物が出て来た

 

何かしらの引き換え券だとは思ってはいたが、これは…

 

「大尉。もし差し支えなければ、私に頂けませんか⁇」

 

「いいんですか‼︎」

 

「彼女とはあまり関わりがありませんでしたからね。これを機会に是非」

 

思ってもみない提案に、俺はその券をすぐにヴィンセントに渡した



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309話 憧れの恋、ため息一つ(1)

お久振りです

長い間待たせて申し訳ありませんでした

実は途中まで書いていたマスターデータを紛失致しまして、また一つ一つ書いていました

梅雨の季節に入り、古傷も痛む中、少々痛手でした




何かのチケットを受け取ったヴィンセント

そこで待っていたのは…


数日後、香取先生は待ち合わせ場所である広場で待っていた

 

あの券の裏には日にちが書かれており、その日は御丁寧に俺の非番の日

 

しかしその日、非番なのはもう一人いた…

 

「遅いわね…あ、いえ。私が早く来過ぎたのね…」

 

集合時間の一時間前には香取先生は到着していた

 

そこにある男が近付き、横から香取先生の前にあの券を出す

 

「来ましたね大尉‼︎待っていましっ…」

 

「このチケットは私でも使用出来ますか⁇」

 

現れたのはコートを着こなし、ズボンも丁寧にアイロン掛けされてピシッと上下黒で決めたヴィンセント

 

「えぇ⁉︎えぇぇえ⁉︎」

 

「私では使えませんか⁇」

 

「い、いいんです中将‼︎その…ご迷惑でなければ…」

 

「ではカトリ、参りましょう」

 

ヴィンセントが左手を差し出す

 

「はわ…」

 

俺が来ると思って、多少おちょくる準備をしていたであろう香取先生

 

まさかの自分の憧れの男性が来て、エスコートされる

 

「今日は一日、貴方の物です、カトリ」

 

「どどどどうしましょう…」

 

カトリはとりあえず手を取り、二人は繁華街へ向かう

 

 

 

「お腹、空きましたか⁇」

 

「は、はい‼︎ヴィンセント中将の好きっ…」

 

カトリの口元ギリギリに、ヴィンセントの人差し指が来る

 

「ヴィンセント、です」

 

「ヴィ、ヴィンセントのオススメは…」

 

「貴女の行きたい所に行きます。私がワガママを言うのは、最後だけにします」

 

「わかっ、り、ましっ、た‼︎」

 

ガチガチになったカトリは、とりあえず間宮にヴィンセントをエスコートする

 

「オメェまたこれ脱脂粉乳じゃねぇか‼︎おい‼︎カウンターから出て来るんダズル‼︎」

 

「間違えました‼︎すぐにお持ちしますので‼︎」

 

「ならん‼︎何回間違えたら分かるんダズル‼︎今日こそブン殴ってやるダズル‼︎」

 

「あーっ‼︎」

 

間宮の中では、脱脂粉乳を出されて遂にブチギレた榛名がいた

 

物を投げたり殴ったりはしていないが、今にも榛名はしそうである

 

間宮は必死に宥めるが、榛名は数回目の事なので遂に堪忍袋の緒が切れた

 

何故間宮はこれだけ言われても脱脂粉乳を置くのか…

 

「…余所にしましょうか」

 

「…そ、そうですね」

 

間宮を後にし、ケーキバイキング伊勢に来た

 

「いらっしゃいませ〜‼︎」

 

「二名です」

 

「お好きな席にどうぞ‼︎」

 

二人は先にケーキを取り、空いている店内の真ん中辺りに腰を降ろす

 

「ヴィ、ヴィンセントは、甘い物は、好き、ですか⁇」

 

「えぇ。朝はいつも少しばかりアイスクリームを食べる位です」

 

「何か願掛けですか⁇」

 

カトリはチーズケーキを食べつつ、ヴィンセントの事を知りたくて堪らない

 

そんなヴィンセントはバニラのアイスクリームをクロワッサンに乗せて食べている

 

「この仕事は、いつ命を落とすか分かりません。なので、朝に自分の一番好きなアイスクリームを少し食べて後悔をしない様にしているのです」

 

「なるほど…それ、美味しいですか⁇」

 

「失礼、嫌でしたか⁇」

 

「ち、違います‼︎ホントに美味しそうなので‼︎」

 

カトリの焦った顔を見て、ヴィンセントは立ち上がってバイキングに向かう

 

すぐに戻り、皿の上には同じバニラのアイスクリームとクロワッサンが乗っている

 

「頂きますね」

 

ヴィンセントと同じ様に、スプーンで掬って、千切ったクロワッサンに乗せて口に運ぶ

 

「あら…美味しい‼︎」

 

「それは良かった」

 

ヴィンセントはブルーベリーチーズケーキを食べながら、カトリの顔を眺める

 

「貴方は歴戦の空母乗りとお伺いしました」

 

「運が良かっただけです。優秀な部下、優秀な同僚、信頼出来る友人がいたから、ここまで来れました。カトリは様々なパイロットの教官と聞きましたよ⁇」

 

「私は基本を教えただけです。後はあの子達が如何に生き残るか…それだけです」

 

「その基本を教えたと言うパイロットはエースばかり…ふふ、カトリも鼻が高いはずです」

 

「後は二人ほど昇進してくれれば、私は隠居出来るのですがね…理由があるのでしょう。あの二人は特に…」

 

そう言うと、カトリは微笑む

 

昇進して欲しい二人の内一人は、今目の前にいる憧れの彼の息子

 

昇進しない理由は、当の本人達にしか分からない…

 

「行きましょうか」

 

「はいっ」

 

緊張も解れた所で、二人は繁華街に戻る…



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309話 憧れの恋、ため息一つ(2)

「ヴィンセント。私、ちょっと行って見たい場所があるのですが…」

 

「行きましょう」

 

今日だけはヴィンセントはカトリの男

 

ヴィンセントの腕に、カトリは自身の腕を絡める…

 

「ここです」

 

カトリが来たのは牧場

 

その一角のアヒルさんエリア

 

「かとりせんせー」

 

「かとりせんせいだ‼︎」

 

「こんにちは。アヒルさんの面倒見てくれているのですね⁇」

 

柵の向こうには、ワシントンとたいほうがいた

 

「が〜が〜さ」

 

「がーがーさんもあさごはんなんだよ‼︎」

 

アヒル達は朝ごはんの真っ最中

 

まだ小さめのアヒル達がワシントンとたいほうの手からキャベツを食べている

 

「可愛い‼︎見て下さい‼︎」

 

ヴィンセントは微笑みを返し、可愛いと言ったのは何方か探っていた

 

「おっとと…」

 

ここのアヒルはよく脱走する

 

その度にパイロット達や艦娘に捕まえられるが、今日はヴィンセントの足元に一羽来た

 

「よいしょっ…カトリ、行きましょう‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

脱走アヒルを持ち上げたヴィンセントは、カトリと一緒に柵の向こうに入る

 

「きゃべつさ」

 

小さめのアヒルがワシントンの手からキャベツを食べているのを見て、カトリはちょっとしたくなる

 

「ワシントンさん、私にも出来ますか⁇」

 

「んっ」

 

「ありがとうございます」

 

ワシントンから数枚のキャベツを受け取り、カトリはそれを与えてみる

 

すると、小さめのアヒル達はすぐに寄って来て、カトリの手からガツガツキャベツを食べる

 

「ちょっと触っても大丈夫ですかね…」

 

「こう」

 

ワシントンはキャベツに夢中なアヒルの背中を指二本で優しく撫でる

 

「かわい〜あひるさ」

 

相変わらず感情の起伏が分かりにくいワシントンだが、口角が少し上がっているのをカトリは見逃さなかった

 

「ふふっ…フワフワですね⁇」

 

「ふわっふわあひるさ」

 

カトリもワシントンを真似てアヒルを撫でる…

 

「よしよしっ‼︎よく食べる子は育ちます‼︎」

 

「すごいね‼︎がーがーさんすごいかず‼︎」

 

「あら…」

 

「ぼわ〜」

 

空母の艦長である為に鳥に好かれやすいのか、ヴィンセントの周りにはこれでもかとデカいアヒルが集まる

 

「あひるさ、うんどう」

 

「食べたら運動ですね⁇」

 

「わしんとんもうんどう」

 

ワシントンは後ろに小さめのアヒル達を着け、柵の中をグルグル歩く

 

その横をカトリも歩く

 

「かとりせんせー」

 

「どうしました⁇」

 

「が〜が〜さ、おねむ」

 

「まあっ…ふふっ‼︎」

 

ワシントンが見ている先には、何羽かうつらうつらしながら着いて来ていた

 

その姿は堪らなく可愛い…

 

「食べて寝たら牛になりますよ‼︎もう少しです‼︎」

 

すると、うつらうつらしていたアヒル達は目を覚まし、カトリとワシントンに再び着いて来た

 

「かとりせんせー、つよつよ」

 

「ふふっ、可愛い子はいつの時代も手が掛かるのですよ⁇あらっ‼︎」

 

ワシントンはようやく笑う

 

さっきの様にちょびっと口角を上げただけでなく、誰が見ても笑っていると取れる

 

アヒル達は小屋に帰り、少しおやすみ

 

「ためぃご」

 

「んふっ…」

 

ワシントンが手に取ったのは、アヒルのタマゴ

 

発音は絶対違うのだが、ワシントンはちゃんとカゴを使ってタマゴを集めている

 

「ワシントンさん、このためぃごはどうするのですか⁇」

 

「ほっかほかごは」

 

「なるほど…」

 

「ちいさいが〜が〜さ」

 

「なるほど…分けているのですね⁇」

 

「うん」

 

ワシントンは孵化する為の台に数個のタマゴを乗せ、残りはカゴに乗せて峯雲に渡す

 

「おねがします」

 

「はいっ、ありがとうございますっ‼︎」

 

「あらっ…ふふっ‼︎」

 

ワシントンはタマゴを渡した後、ごく自然にカトリの手を握る

 

いつも誰かにそうして貰っているのだろう…

 

それがカトリからすれば、可愛くて堪らない

 

「手を洗って戻りましょうね⁇」

 

「てておてて」

 

水道に向かうまで、カトリはふと考える

 

もう随分“家族”と言う関わりから離れた気がする…

 

妹は新しい家族を持った

 

私は新しい家族を持つ事を、この仕事に就く時に捨てた

 

でも、ほんの少し…

 

ほんの少しだけ、今、家族を持ちたくなった…

 

…そう言えば、少し前に大尉に関するレポートを目にした

 

大淀博士が書いたレポートだ

 

大尉の周りにいる人、艦娘は母性に目覚めるのが早くなる

 

…私もその範疇に居たって事なのかしら⁇

 

「せっけ」

 

考えていると、ワシントンは石鹸で手を洗い始めている

 

参った…この私がこんな小さな子にこんな感情を抱くなんて…

 

カトリも手を洗いながら、ワシントンの顔を見る

 

相変わらずへの字口だけど、心なしか、やっぱり笑っている

 

「かとりせんせー」

 

「どうしました⁇」

 

「たいほーちゃ」

 

「たいほうさん⁇」

 

ワシントンの目線の先には、ヴィンセントと手を繋いで来たたいほうがいる

 

「ゔぃんせんとさん‼︎ありがとうございます‼︎」

 

「此方こそ、やはり触れ合いは大切ですね⁇」

 

「かとりせんせー、ありがと」

 

「…いえっ、私も楽しかったです‼︎」

 

たいほうとワシントンは次の遊びでもするのか、牧場を離れた

 

「私達も行きましょう」

 

「そうですね。とても楽しめました‼︎」

 

 

 

 

横須賀基地は色々な施設がある

 

休日になれば丸一日暇を潰せるレベルで娯楽施設もある

 

だが、行き着く先は大体おなじ、遊戯場

 

「ビリヤードでも如何です⁇」

 

「あら、私強いですよ⁇」

 

ヴィンセントはカトリの目が変わるのを見て微笑む

 

「分かりました。もし負けたら、後で何か差し上げましょう」

 

「私もそれで」

 

いざビリヤードが始まる…



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309話 憧れの恋、ため息一つ(3)

「な…」

 

「ふふっ、どうです⁇」

 

「参りましたね…まさか一撃で負けるとは…」

 

そこはパイロットの教官

 

偏差射撃や角度計算を瞬時に行わなければならない職業

 

カトリからすれば、ビリヤードの角度計算なんて戦闘機の機銃を当てるより遥かに簡単

 

「ではボウリングを」

 

「分かりましたっ‼︎」

 

いざボウリングが始まる…

 

が…

 

「そこっ‼︎」

 

「おぉ…」

 

「えいっ‼︎」

 

「…」

 

後半、ヴィンセントはただただカトリのプレイに魅入る

 

ちょっと前に敗北は分かっていたので、既に勝負は捨てた

 

「ど、どうやってそんなカーブを…」

 

「戦闘機のミサイルをイメージするのです」

 

「教えて頂けますか⁇」

 

「此方へ」

 

カトリは気付いていない

 

いつもの教官である自分に戻っている事を‼︎

 

「球を構えて、前だけを見てください…」

 

カトリはいつも教えている様に、体を密着させ、手首を握りながらヴィンセントに体幹を教える

 

「はっ‼︎ご、ごめんなさい‼︎いつもの癖で‼︎あのっ‼︎」

 

ここでようやく気付く

 

自然と肌に触れ、挙句胸を背中に置いていた事を

 

「それっ‼︎」

 

ヴィンセントが投げた球は少しカーブを描き、ストライクを取る

 

「お、お上手です‼︎」

 

「流石は教官です」

 

カトリは顔が真っ赤になっている

 

ふと、時計が目に入る

 

「嘘…もうこんな時間⁉︎」

 

もう夕方だ

 

自分が如何に楽しい時間を過ごしたかよく分かった

 

「少し早めに夕食にしましょうか」

 

「あ、は、はい‼︎」

 

カトリは再びヴィンセントと腕を組み、最初に行こうとしていた間宮に来た

 

「いらっしゃいませー‼︎」

 

「二人です」

 

「お好きな席にどうぞ‼︎」

 

伊良湖に言われ、入って右の列の一番奥に座る

 

「此方、オススメのディナーセットのメニューになります」

 

伊良湖が置いたのは新しく始めたディナーセット

 

メインはステーキ、後はポテトやライスが付いている

 

「なら、私はこれで」

 

「私もこれで‼︎」

 

「畏まりました‼︎」

 

伊良湖が厨房に向かい、カトリは気になる事を聞いた

 

「あの…ヴィンセントのワガママとは…」

 

「ディナーの後で、です。御心配なく、何かを求める訳ではありません」

 

「分かりましたっ」

 

どうやら何か考えてくれているらしい

 

しばらくすると、伊良湖がディナーセットを運んで来た

 

「ディナーセット二つです‼︎お熱いのでお気を付け下さい‼︎」

 

「「ありがとうございます」」

 

熱々のステーキを二人は頂く

 

「あら、美味しい…」

 

「良い味ですね…」

 

ステーキは中々に美味しい

 

付いているデミグラスソースととても良く合う

 

柔らか過ぎず、固過ぎず、絶妙に噛み応えがある

 

「ヴィンセントは向こうでステーキ食べてました⁇」

 

「えぇ。これと良く似た物を。いやしかし、これは美味しい…」

 

「ホントですね…」

 

日中来た時に脱脂粉乳を出していた店と同じと思えない

 

普段マナーを守って食べるカトリが、ナイフとフォークを動かす手が早くなるレベル

 

ヴィンセントが舌鼓を打つのには理由がある

 

実はこのステーキ、園崎がアメリカに渡った際にヴィンセントに食べさせて貰ったあのステーキを模した物

 

園崎はその味が忘れられず、どうしても食べたくなった為、間宮に頭を下げて何とか作って貰った

 

それを間宮がディナー限定セットにした所、非常に人気が出た

 

そう、脱脂粉乳さえ出さなければ間宮は非常に腕利きなのだ

 

「お腹いっぱい…美味しく頂けました…」

 

あっと言う間にペロリと平らげたのはカトリの方

 

ヴィンセントは半分程食べた所で、自分の地元のあのレストランの味を思い出し、噛み締めていた

 

「美味しそうに食べますね⁇」

 

「懐かしい味です…」

 

ここでもカトリは気付く

 

誰かの食べている顔を見るのが好きな事を

 

今までだって、振り返ればそうだ

 

特に大尉二人

 

あの二人がマナーガン無視、私が教えたテーブルマナーの一つも聞かないでパン一個取り合っているあの光景…

 

あぁ、何で注意しなかったか分かった…

 

もっと見ていたいからだ…

 

好きなんだ、私。あのうるさい光景が…

 

カトリは深く息を吐きながら微笑む

 

「何か思い出しましたか⁇」

 

いつの間にかヴィンセントは食べ終えており、机に肘をつきながらカトリの顔を見ていた

 

「あっ、いえ‼︎」

 

「少し飲みましょうか」

 

「はいっ‼︎」

 

ヴィンセントはいつもの癖なのか、伝票の上に代金を置いた

 

「私出します‼︎今日付き合わせっぱなしなので‼︎」

 

「構いませんよ。行きましょう」

 

「ありがとうございましたー‼︎またのお越しをー‼︎」

 

「「ご馳走様でした」」

 

間宮を出て、二人はバーを目指す…



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309話 Love Has Just Gone

題名は変わりますが、前回の続きです


「あら⁇夜間哨戒かしら…」

 

バーに行くまでの間、三機の戦闘機が頭上を通過して行く

 

「今日はリチャードが先頭ですね」

 

「えぇ…」

 

リチャード、彼の二番機、そして涼平…

 

ここに来て、カトリはようやく一機の強さを理解する

 

鮮やかに、緩やかにカーブをし、飛び去って行く真っ黒な影の様なF-14…

 

まるでその一機だけが、本物の鳥の様に振る舞うその姿は、長年教官を務めているカトリでさえ息が詰まる

 

美しいまでの姿を見せた後、三機は夜空に紛れ、獲物を狙う…

 

「ふふ…地上に降りてからもあの威厳を保って欲しいのですがね…」

 

「あら⁇そう言う割には嬉しそうですよ⁇」

 

「これはこれは…失礼っ」

 

二人は本物の恋人の様に笑いながら、バーに入る

 

 

 

「いらっしゃいませ中将、香取先生」

 

「何かオススメを二つ頂けますか⁇」

 

「畏まりました」

 

そうヴィンセントが頼むと、いつものピーナッツを出され、それを食べながらお酒を待つ

 

「ここは人によって違うカクテルが出るとお聞きしました」

 

「私、あまり来た事がなくて…いつも鳳翔さんの所で一人で飲んでいるので…」

 

「あれだけ慕われているのにですか⁇」

 

「…あれは慕われていると言えません‼︎」

 

イタズラにヴィンセントは微笑む

 

「お待たせしました。カラメルコマンダーになります」

 

「あら…」

 

「頂きます」

 

カラメルコマンダーと名付けられたそのカクテルは、本体は黄色、表層にカラメルがかけられている

 

「甘い…はぁっ…」

 

カトリは美味しさにため息を吐く

 

本体の味はプリンを彷彿させる卵やミルクの甘い味わい

 

その後にほろ苦いカラメルの味がやって来る

 

「今朝採れたての卵を使用しています」

 

「ふふっ…美味しいですっ」

 

採れたての卵と聞いて、ワシントンの事を思い出す

 

あの子は産まれてまだ間もない

 

色々な事を覚えている最中だ

 

卵の事をためぃごと言うのを聞いて、初めて子供に対して生徒ではなく別の感情を抱いた

 

それでも、自分の事をかとりせんせーと覚えてくれている

 

如何に自分の教え子がアンポンタンで、優しい男の子か良く分かった

 

「もう一杯だけお願いします…」

 

珍しくカトリはワガママを言った

 

ヴィンセントは微笑みを返し、それに無言で付き合う…

 

 

 

ほろ酔いでバーを出て、ヴィンセントは公園に来た

 

防波堤の上を歩き、若いカップルの様に海を眺めながら火照った体を冷ます

 

「そう言えばヴィンセントのワガママを聞いていませんね」

 

ヴィンセントはカトリの背後に回り、手で目を覆う

 

「あら…」

 

「少しだけ上を向いて頂けますか」

 

カトリは目を覆われた状態で上を向く

 

数秒した後、ヴィンセントは手を離した

 

「あっ…」

 

低空で背後からバラバラの戦闘機が五機現れ、カトリの髪が風で揺れる

 

カトリがずっと言っている、楽しかった時代のアカデミーの生徒が五人、夜空を駆けて行く…

 

ウィリアム、エドガー…

 

アレン、健吾…

 

そしてマーカス…

 

「貴女の育てた子供達です」

 

「…」

 

カトリはその光景を見て言葉を失う

 

時間通り、夜空をよぎって行く五機を見つめたままの香取に、ヴィンセントは優しく語り掛ける

 

「マーカスは言っていました。生きる為には、貴女の教鞭が必要だと」

 

「大丈夫です…あの子達には、誰かが喝を入れなければなりませんから…発光信号です」

 

五機が一斉に発光信号をカトリに送る

 

「バ、バ、ア…ふふっ‼︎あんな事を言う子達です‼︎お陰で引退も出来ません‼︎」

 

「良かったです…」

 

最後にカトリは無言でワガママを追加する

 

ただ、一線は超えない様、体をヴィンセントに寄せる

 

ヴィンセントはそれに応え、カトリを抱き寄せた…

 

 

 

 

「あの…今日はありがとうございました‼︎」

 

「此方こそ。また休暇の日にお逢いしましょう」

 

「宜しいのですか⁉︎」

 

「いつの時代もコミュニケーションは大切ですよ。では、また」

 

カトリを寮の前まで送り、ヴィンセントも帰路に着く

 

「楽しかったようで」

 

「大尉」

 

偶然なのか狙って来たのか、たまたまマーカスが来た

 

「あれは大尉の為に作ったんですっ‼︎」

 

「俺誘いたきゃ一言言えばいい。デートしてくれと。断わった事ないだろ」

 

「あっ…」

 

言われてみればそうだ

 

このマーカスと言う男の子は、誘えば必ず来てくれる

 

「何で俺を誘えてヴィンセントを誘えないんだよ…」

 

「そ、それはあれです‼︎貴方は生徒であってですね、最悪命令と言う形にすれば…その…」

 

「まっ‼︎あれだ‼︎次からは全部お断りするかな‼︎ははは‼︎」

 

「…」

 

カトリは泣きそうな顔でシュンとする

 

「…冗談さ。そうだ‼︎またあのお茶屋に連れて行ってくれないか⁇一人で行く勇気が無くて…」

 

「イタズラな子は連れて行きませんっ‼︎」

 

「悪かったよ、先生」

 

「もぅ…また手が空いたら誘ってあげますっ‼︎代わりに、先生にコーヒーでも奢って下さいね⁇分かりました⁇」

 

「はいはい」

 

「はいは一回‼︎」

 

「…はいっ‼︎」

 

二人で寮の前で笑い合う

 

こうして、カトリはまた香取に戻る…

 

 

 

「うむぅ…」

 

余程悔しかったのか、後日ヴィンセントが度々ビリヤードやボーリングに勤しむ姿が何度も確認される事になる




重ね重ねお詫びを申し上げます

投稿が遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした

もう少ししたらまた新しいお話を投稿出来るかと思います


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310話 Sea Mom's

さて、309話が終わりました

今回のお話は一話だけです

第三居住区の外れで何かを見ているリチャード

リチャードの目線の先にいたのは…


第三居住区…

 

一日の作業が終わり、皆が広場で持ち寄った材料でご飯を作ってるダズル

 

「こいつはどうするんダズル⁇」

 

「コレハ、ヤイテタベルノ‼︎」

 

面白半分とアルバイトで来ていた榛名も食事に誘われたダズル

 

「リチャードはどうしたダズル⁇」

 

「ホントダ、ドコイッタンダロ…」

 

今日一緒に作業していたリチャードが見当たらねぇ

 

F-14はまだあるので、第三居住区の何処かにいるはずダズル…

 

 

 

その頃…

 

「…」

 

私は研究所の壁にもたれながら煙草を吸っていた

 

本当は食事に誘われたので、広場に行こうとした

 

だが、戦艦棲鬼の姉妹が埠頭に立ったのを見て、少しだけ留まっている

 

「ランララ〜ラランララ〜」

 

「ソラハ〜ララ、ララ〜」

 

美しい歌声だ…

 

この間、スティンガーを撃った時もこの声が聞こえた

 

歌声が聞こえた時、何故か撃つ場所が目に見えた

 

不思議な力があるのだろう…

 

「ここに居たダズルか」

 

「よっ」

 

一瞬榛名に目をやった後、壁の向こうにいる彼女達の方向に顔を戻す

 

「何見てるんダズル⁇」

 

「見てるんじゃない…聞いてるんだ…」

 

榛名の目にも移る、戦艦棲鬼姉妹が海に向かって歌う姿

 

いつもの榛名ならガン見するはず…

 

そんな榛名でさえ、リチャードと同じ様に身を潜めて聴き入る…

 

「見ちゃいかん気がするダズル…」

 

「奇遇だな…」

 

普段おちゃらけのリチャードでさえ、この二人の時間は邪魔してはならないと気付く

 

埠頭はステージ…

 

海は観客…

 

手振り付きで歌うその姿は、あたかもそこにマイクがある様に見える…

 

そして気付く

 

リチャードも榛名にも、胸に刺さる歌声と歌詞…

 

「随分古い曲ダズル…」

 

「良く知ってるな⁇私の世代だぞ⁇」

 

「知ってちゃいかんダズルか」

 

「いんや…名曲と呼ばれる歌は、時代も世代も国境も越えて愛される」

 

「榛名は古い曲好きダズルよ」

 

二人が歌う曲は、リチャードの世代に一世を風靡した曲

 

きっと、何処かで優しい奴が聞いていたか、歌っていたのだろう…

 

「あれは弔いの歌だ」

 

「誰に向けてんダズル⁇」

 

「榛名」

 

「何ダズル」

 

「人には他人が触れちゃならん傷がある。きっと、あの子達の抱える傷も、触れちゃならんのだろうな…」

 

歴戦を潜り抜けて来たリチャードの言葉は、榛名にも響く

 

「なるほどなるほどダズル…榛名なら、山城ぶっ飛ばした事ダズルな」

 

「お前のその素直な所、結構好きだぞ」

 

「へっ。スパイトさんの相手は御免被りたいダズル」

 

戦艦棲鬼の姉妹は歌を終える

 

広場に戻って行くのを二人で見届け、榛名も戻ろうとした

 

が、リチャードに腕を取られる

 

「ほら」

 

「これはこれは…良いんダズル⁇」

 

リチャードが榛名の前に出したのは煙草の箱

 

榛名は吹雪が来てから、単冠湾の基地では煙草を吸わなくなっていた

 

「今戻ると盗み聞きしたと怪しまれるからな‼︎」

 

「へへ…んじゃ、お言葉に甘えて頂くダズル‼︎」

 

本当はずっと我慢していたのだろう

 

榛名はリチャードが差し出す煙草の箱から一本取り出し、火を点けて貰う

 

深く深く息を吸い、今まで溜めた分を吐き出すかの様に煙を吐いた

 

「好きな銘柄は⁇」

 

リチャードは壁にもたれ、榛名は屈んで煙草を吸う

 

「ミルドセブンダズルな。あのシンプルにガツンと来るのが堪らんダズル」

 

「今度会う時は準備しとくさ」

 

リチャードの吸っている銘柄は、榛名の言うミルドセブンではなく、鳥のマークが描かれた紺色の箱

 

「ピザ作ってそうな銘柄ダズルな」

 

「“パース”だからなぁ…」

 

「…あれダズルな」

 

「何だ⁇」

 

「スパイトがリチャードに惚れた理由が、ちょと分かったダズル」

 

「あいつは惚れてなんかいないさ」

 

珍しくリチャードが悲しい顔をする

 

「あいつが惚れてるのは別の男さっ…惚れてるのは出会ってからずっと、私の方だっ…」

 

話を終えると同時に、リチャードは指で吸い殻を飛ばし、海へと落とす

 

「ん〜、そゆとこダズルな。リチャードに惚れる女は。うんうん」

 

榛名も同じ様に吸い殻を捨てながら、このリチャードと言う男を少しだけ理解した

 

ずっと前から知っていたが、この男は絶対に一線を越えない

 

良く考えてみれば、相方がいない艦娘ばかりだ

 

心の奥深くでくすぶっている闇を、この男は癒せるんだ…

 

今の話で分かった。全て自分のせいに出来る優しい男と、榛名は思っていた

 

「何だ⁉︎」

 

「鯉みたいな奴がいるダズル‼︎」

 

二人の投げた吸い殻辺りで急にガボガボ言い始める

 

「ア‼︎リチャードサン‼︎」

 

「おっ‼︎ハ級の坊主‼︎」

 

その正体は、たまたま施設の前を泳いで来たまだ小さい駆逐ハ級の群

 

「何でオスって分かるんダズル‼︎」

 

「こいつにはガッツがあるからさ‼︎それに、自分でオスと言ってたしな‼︎」

 

「ア、ハルナサンダ‼︎」

 

「一仕事終えて一服してるんダズルな」

 

「ご飯だぞ〜って言ってたぞ⁇」

 

「オナカスイタ‼︎」

 

「オシゴトオワリ‼︎」

 

「オサカナタベヨウ‼︎」

 

ハ級達が海からゾロゾロ上がる

 

それぞれが頭に数個のサザエを乗せている

 

「ははは、何か可愛いダズルな‼︎」

 

リチャードと榛名より圧倒的に小さいハ級達は、単縦陣の状態で広場に向かって行く

 

「あの子達と一緒に行こうか‼︎」

 

「腹減ったダズル‼︎」

 

二人も広場へと向かう…




ハ級の群…チビハ級

第三居住区の近海でサザエをメインに小さな漁をしている三体のハ級

時々漁の最中に貝を食べちゃうけどご愛嬌

煙草の吸い殻を良く食べるが、特にハ級に害は無く、それどころか好物らしい

良い子は絶対に真似しないでね‼︎


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311話 消息(1)

さて、310話が終わりました

今回のお話は少し長いお話です

突如として消息を絶ったとある艦娘

大湊も捜索をする中、横須賀からも捜索隊が出ます


ある日の朝、横須賀に一本の電話が鳴る

 

「横須賀基地です」

 

横須賀は電話を取り、いつも通りに応対

 

「分かったわ。此方でも捜索します」

 

電話を切り、横須賀は多方面に電話を入れ始める…

 

 

 

「ばーばりばばりー‼︎ばばりばりー‼︎」

 

「ばーばりばばり、ばばりばり」

 

工廠の外で作業している夕張

 

今日は静電気でホコリを吸着するホウキを試している

 

その横でワシントンはお手伝い中

 

「ゆーばばりばさ」

 

「夕張ですっ‼︎」

 

変な歌を歌っていたので、ワシントンの記憶はゴッチャになっている

 

「せいでんき、ぴりぴり」

 

「そうです‼︎電気は素晴らしいですよ‼︎電気があれば何でも出来る‼︎」

 

「でんきっき」

 

「おっ、夕張‼︎ワシントン‼︎」

 

「ぱぴー」

 

横須賀から連絡を受け、たまたま繁華街でご飯を食べていたので工廠の前を通った

 

「静電気か⁇髪の毛立ってるぞ⁇」

 

「ゆーばりばばりばさ」

 

「ははは‼︎そうだっ‼︎夕張はバリバリ言ってるな⁇そうだ夕張」

 

「何でしょう‼︎」

 

「ここ最近、加賀を見なかったか⁇」

 

「いえ、最近どころかしばらく見ていません。艤装点検票見ますか⁇」

 

「頼む。カプセルの使用履歴にもないんだ」

 

夕張は何かあった時に、大体何も聞かずに協力してくれる

 

「よしワシントン‼︎ちょっとだけ中見に行こうな⁇」

 

「こうしょ」

 

「おっ‼︎覚えたか‼︎さ、行こイッテェ‼︎」

 

ワシントンを抱っこしようとした瞬間、溜まっていた静電気が一気に来た

 

「せいでんきさ、ぴりぴり」

 

「わ、忘れてた…」

 

「う〜ん…改良の余地ありですね…ワシントンちゃん‼︎これ貸してあげますっ‼︎」

 

「ありがと」

 

「これはキーホルダーだ」

 

「きーほるだ」

 

夕張は静電気除去のキーホルダーをワシントンに渡し、静電気は収まる

 

工廠に入り、夕張にここ数ヶ月の艤装点検票を見せてもらう

 

「ありませんね…一応ご確認下さい」

 

「助かるよ」

 

夕張は横で二重チェックをしてくれている

 

「かがさ⁇」

 

「そっ、加賀さんだ。いなくなっちゃったんだ」

 

「お年頃ですからね…あ、駆け落ちとかじゃないです⁇」

 

「考えられる線は潰しておきたいな…よしっ、ありがとう」

 

「此方でも明石さんと一緒に各所に連絡を取り合いますね‼︎」

 

「すまない。俺は横須賀の所に行ってから、大湊に行って来る」

 

「ばりばりばー、ぼがー。ははは」

 

ワシントンは独り言を言って笑っている

 

「ワシントン、マミーのとこ行こうな⁇」

 

「おいすぃどりあ⁇」

 

「そっ。お腹空いたな⁇夕張、ありがとアダァ‼︎」

 

抱っこしようとしたが、やっぱりワシントンから静電気が来る

 

「あはは‼︎また来て下さいね‼︎」

 

工廠から出ても、ワシントンはキーホルダーを弄っている

 

「びりびりちゃ」

 

「今度遊びに行った時に返そうな⁇」

 

「びりびり、ぼがー」

 

「うぉっ‼︎」

 

ワシントンが手にしているのは静電気除去のキーホルダーなのだが、今ぼがーと言いながら出たのは明らかに電流

 

当たった壁は少し焦げている

 

「ばばりゆーさ」

 

ちょっとずつ夕張の名前がバグっていっている…

 

「これ、ぼわーってなる」

 

「人に向けたらダメだぞ⁇」

 

「んっ」

 

ワシントンは静電気除去キーホルダーが気に入った様子だが、これは危険だ…

 

 

 

「おうちついた」

 

「お帰りなさい‼︎なにして遊んでたの⁇」

 

「ほうきっき、びりびりした」

 

「誰かと一緒にいたの⁇」

 

「ばーばりあんさ」

 

「バーバリアン…」

 

「夕張だっ。艤装点検票を見せて貰ってたんだが、加賀の形跡はなかった」

 

「そう…悪いけど、大湊で事情を聞いて来てくれる⁇」

 

「加賀の所属は呉だろ⁇」

 

「消息を絶った時に出撃したのが大湊なのよ。一週間、派遣で向かわせたのに帰って来ないのよ」

 

「分かった。ワシントン、また今度駄菓子買いに行こうな⁇」

 

「ぱぴーおしごと⁇」

 

「そっ。マミーの事頼むぞ⁇」

 

「んっ」

 

加賀の行方を聞くため、大湊を目指す…



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311話 消息(2)

「レイ‼︎いらっしゃい‼︎」

 

大湊に着陸すると、早速鹿島が迎えに来てくれた

 

「棚町に話をしに来た。コーヒー頼めるか⁇」

 

「わっかりました‼︎美味しいの淹れて持って行きますね‼︎」

 

鹿島が中に入って行くのを見て、タブレットの通信を繋げる

 

「親潮、聞こえるか」

 

《はい、創造主様》

 

「ゴーヤとヨナと協力して、そっちでも加賀の動向を調べてくれ」

 

《畏まりました。創造主様、創造主様はどうお考えで⁇》

 

「どうだろう…加賀は歌手をしているからな。伝達ミスであって欲しいな…それと、加賀は若い。もしかすると駆け落ちかもしれない」

 

《駆け落ちの場合、どうされるのですか⁇》

 

「彼女が選んだ道だ。俺が棚町を説得してやればいい。それだけさっ」

 

《その言葉を聞けて良かったです‼︎それでは調査を始めます。何か分かり次第連絡を入れます》

 

「頼んだ」

 

親潮との通信を切り、俺も執務室がある建物に入る…

 

 

 

「俺だ」

 

「マーカス‼︎入ってくれ‼︎」

 

執務室に入ると、既に棚町が対面のソファを準備して待っていてくれた

 

「加賀が行方不明だと⁇」

 

「はい。それが、一週間前から消息を絶ちまして…此方でも捜索をしたのですが、一向に見つからず…」

 

「最後に連絡したり見たのはいつだ」

 

「一週間前、要人護衛の為に太平洋に遠征に行った際の通信が最後になります。此方を」

 

棚町から録音機器を受け取り、それを聞く…

 

 

 

《要人を乗せた船舶を目視で確認。護衛を始めるわ》

 

《了解。周辺海域及び対潜哨戒を可能な限り行ってくれ》

 

《分かったわ》

 

 

 

 

特に何ら変哲のない通信

 

「やはり、年頃の女性なので色々考えたのですが…加賀は連絡はキチンとする子ですので…」

 

「要人とはどこの要人だ」

 

「視察に来た国会議員と聞きました。此方を」

 

棚町から遠征の記録を受け取る

 

「こいつに直接聞こう」

 

「ま、マーカス⁉︎」

 

「友達がいるんだ」

 

「議員にですか⁉︎」

 

「まぁなっ。ちょっと電話を借りる」

 

「此方を‼︎」

 

こうなれば話は少し前に進む

 

俺は総理に電話をかける…

 

「総理。マーカスだ」

 

《おぉマーカス‼︎どうした⁇》

 

「一週間前に太平洋で視察をした“海堂”と言う奴を探しているんだ。少し話を伺いたい」

 

《奇遇だなマーカス。此方でも調査中なんだ。彼は一週間前の視察から未だに帰っていない》

 

「言いたかないが…乗っていた船舶の撃沈の可能性は⁇」

 

《ちょっと待て…いや、その報告は受けていない。もし撃沈となれば、此方に連絡が入るハズなんだ。しかしこの船舶は突如として消えている。マーカス、君の見解はどうだ⁇“護衛船団ごといきなり消える”なんて有り得るか⁇》

 

「有り得るとしたら海域ごと巻き込む兵器を使う…しかし、そんなモノ使えば必ず何処かの基地が察知するハズだ…」

 

《この事は何か裏がある。マーカス、力になれる事があるならいつでも言ってくれ》

 

「ありがとう。助かるよ」

 

電話を切り、棚町に顔を向ける

 

「まさか総理大臣と顔見知りとは…」

 

「娘の面倒を見て貰ってるんだ。この事件、何か引っかかる…加賀は何かに巻き込まれた可能性が高いな…」

 

《創造主様》

 

「親潮、どうだった⁇」

 

親潮から連絡が来たので、机にタブレットを置き、棚町と共に見る

 

《加賀様が消息を絶った地点はここ》

 

タブレットの地図の太平洋にポインターが出る

 

《近場の基地はここ》

 

「旧自衛隊の基地…」

 

親潮が示したのは旧海上自衛隊の基地

 

「行ってみる価値はありそうだな。親潮、タナトスを寄越してくれ」

 

《もう来てるでち。グリフォンはきそが帰らせたでち》

 

「棚町、待っててくれ。必ず連れ戻す」

 

「すまない、マーカス…感謝する」

 

《それとお二人様。ここ数日“とある方”が頻繁にこの基地に出入りしています》

 

タブレットに出された顔写真を見て、尚更行く理由が出来た…



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311話 消息(3)

執務室を出ると、ニコニコした鹿島がコーヒーを持って来てくれていた

 

「あ…レイ。もうお出掛けですか⁇」

 

俺の顔を見るなり、シュンとしてしまう

 

今廊下にいるという事は、もう基地から出るからだ

 

「急ぎの要件が出来た………ちょっと、時間が掛かりそうだ。ありがとうな」

 

鹿島の手から少しぬるめのコーヒーを取り、一気に飲み干す

 

相変わらず、飲んだ後に甘いナッツの味がする

 

鹿島のコーヒーだけはブラックで飲めるんだよな…

 

「行ってらっしゃい‼︎」

 

後ろ姿で右手を上げ、タナトスに向かう…

 

 

 

「目標地点を設定します。到着まで、1時間28分」

 

「潜行状態のまま当該地点まで航海を頼む」

 

「了解しました。んで⁇加賀が駆け落ちでちか⁇」

 

タナトスが目標地点を設定した後、すぐにいつものゴーヤに戻る

 

「どうだか…もし駆け落ちならそれでいいんだがな…」

 

「ま〜ぁ⁇創造主の悪い予感は大体当たるでち。加賀も隅に置け通信が入りました。モニターに出します」

 

「ふ…ありがとう」

 

ゴーヤが何か言おうとした途端、通信が入りタナトスに戻る

 

《レイ、親潮からデータを貰った》

 

通信先は隊長

 

何か焦っている顔をしている

 

「隊長、どうしたんだ⁇」

 

俺にとってはいつも通りの確認に行くだけ

 

ただ、何となく航空機で行くのはマズイと直感が言っている

 

その予感は、ゴーヤの言う通り当たる…

 

《そこは少し前に武蔵が破壊した敵基地なんだ》

 

「ここがか…」

 

今から行く基地は、貴子さんが武蔵だった頃に破壊した敵基地

 

データや書類でしか見た事はないが、そこそこの規模のハズ

 

《今からそっちに当時のデータを送る。何かの役に立てばいいが…》

 

「助かるよ。後、大雑把でいい、どんな兵装があった⁇」

 

《無数のトーチカ、固定銃座、高射砲、護りに徹するには申し分ない設備だ。それとな、あの基地には艦娘や深海を狂わせる音波装置の様な物があった》

 

「音波装置…」

 

《あの時破壊したのが最初で最後ならいいんだが…レイ、今一つ言えるのは、グリフォンで行かなかった事は正解だ》

 

「俺の直感は当たるからな‼︎よし、ちょっくら様子を見て、晩飯までには帰るよ‼︎」

 

《何かあったらすぐに言うんだぞ。エドガー引っ張り出して助けに行く》

 

「了解っ‼︎」

 

隊長との通信が終わり、メインモニターの前に座りなおす

 

「隊長からデータを受け取ったでち」

 

ゴーヤがモニターに受け取ったデータを表示する

 

そのデータには、当時何処に何があったのかが事細かに書かれていた

 

そして、気になる事が一つ…

 

「離島棲姫、か…」

 

兵装の羅列の中に離島棲姫との名前が一つ

 

今は確信が何も持てないが、俺の中でそれに近い物が持てた…

 

 

 

 

「目標地点まで、後20分。退艦の準備を始めて下さい」

 

「よし…」

 

タナトスのアナウンスが入り、装備品を見る為に兵装庫に向かおうとした

 

「通信を受信しました。繋げても宜しいですか」

 

「こっちの位置は把握されてるか…よし、繋げてくれ」

 

《所属不明潜水艦に警告する。貴艦は当基地の領海に進入しようとしている。直ちに反転せよ》

 

「此方横須賀分遣隊。現在、行方不明になった味方の捜索の最中だ。連絡をくれたお礼に、そちらの基地に挨拶に行きたい。構わないか」

 

通信はしばらく返って来ず、背後で何か小声が聞こえる

 

しばらくして、返答が返って来た

 

《了解した。港を開けておく》

 

「ありがとう」

 

通信が終わり、兵装庫に向かう…

 

 

 

 

「よし…」

 

《手荒な真似しなくて良かったでちな》

 

兵装庫で準備をしていると、ゴーヤが部屋のマイクを使って話し掛けて来た

 

「暴れたかったか⁇」

 

《そりゃあ暴れれるなら暴れたいでち。スカッとするでちよ、悪人爆破は‼︎》

 

「まだ悪人と決まった訳じゃないさ。それとっ、爆破チャンスは恐らく来る」

 

《そんときゃ創造主ごと爆破してやるでち‼︎》

 

「困った娘だっ…」

 

《あっ…》

 

急にゴーヤが黙る

 

「どうした⁇」

 

《…まぁ創造主の爆破はやめとくでち‼︎》

 

「どうしてだ⁇」

 

《創造主のクソさは爆破しても治んないでち‼︎》

 

「ほ〜ん⁉︎言ってくれるじゃねぇか‼︎」

 

マイクの向こうのゴーヤは笑っている

 

それに釣られて俺も笑う

 

少し固くなっていた気持ちが、少し解れた

 

《ピンポイントで爆破してやるでち。何だっていいでち。邪魔な奴がいたら、タナトスに言って欲しいでち‼︎》

 

「了解したよっ」

 

《当該地点に到着しました》

 

いざタナトスを降りる…



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311話 消息(4)

その頃目標地点の基地の中では…

 

「横須賀基地が潜水艦を出して来た‼︎」

 

「横須賀基地の潜水艦と言えばタナトス級…」

 

「マズイな…反感を買う前に丁重にもてなしてお帰り願おう。もしタナトス級ならば、この基地は一隻で終わる…」

 

「来たか、マーカス…」

 

周りが慌てふためく中、不敵に微笑む男が一人…

 

その男は基地内の人間が気付かぬ間に何処かへ姿を消した…

 

 

 

「お疲れ様です。貴方のお名前は‼︎」

 

「マーカス・スティングレイだ‼︎」

 

基地に足を降ろす

 

異様な雰囲気だ…

 

何故迎えが男一人しかいない…

 

それとも、あの銃座の群の影に潜んでいるのか…

 

「此方へ‼︎」

 

基地内に案内され、三歩遅く着いて行く…

 

《反応しなくていいでち。銃座、トーチカの内部やら死角に山程いるでち》

 

やはり勘は当たった

 

食堂に案内され、椅子に座る

 

「今、飲み物をお持ちしますね」

 

男が飲み物を取りに背を向けた

 

「この辺りで行方不明になった味方の捜索を依頼されたんだ」

 

「深海の仕業では⁇」

 

「輸送船団ごと消えたんだ。その中に国会議員もいる」

 

「…此方を」

 

飲み物を出されたが、口を付けないまま話を続ける

 

「横須賀からの令状だ。ここを調査させて貰う」

 

横須賀から預かった令状を机を滑らせるかの様に見せる

 

「丁重にお断りします。我々は貴方方の管轄下ではない」

 

「疑わしい事がないならここを視察しても構わないハズだ」

 

「…」

 

「悪いな。此方も味方が行方不明になって躍起になってる。アンタの気も分かるが、こっちの気も分かってくれ」

 

「…此方へ」

 

何かに怯えた顔を見せながら、男は案内を始める…

 

 

 

 

「何故ここが疑わしいと⁇」

 

「この近くで輸送船団ごと反応が消えたからだ。そんな事有り得るか⁇」

 

「確かに…まずは此方へ」

 

案内されたのはデータ管理室

 

「…申し訳ありません」

 

いざPCに手を伸ばそうとした時、入り口を固められたのに気が付いた

 

「いつもの事だ。慣れてる」

 

そう言いつつ、PCを弄りながら男の方に少しだけ目を向ける

 

「…死にたくないなら一歩前に出ろ」

 

そう呟くと、案内してくれた男は一歩前に出て俺に寄った

 

それを見て男を引き寄せ、反対側で抱き留める

 

次の瞬間、集中砲火が始まる

 

「よし、もういい」

 

五人余りから喰らった集中砲火の矛先は勿論俺

 

しかし、その間には案内をしてくれた男がいた

 

こいつごと巻き込んで俺を消す腹積もりだったのだろう

 

「痛いじゃないか」

 

「ば、化物が…」

 

「いつもなら足で済ますんだが…今虫の居所が悪くなった」

 

二度と悪さをしない様に、今回は手を撃ち抜く

 

「大丈夫か⁇」

 

案内をしてくれた男に手を差し伸べる

 

「何で助けた…」

 

「目を見れば分かる。アンタ、根っからの悪人じゃない。それに、さっき手が震えてた」

 

「…私を助けたとしても、何も語らないぞ」

 

「それでもいい。名前は⁇」

 

男の名前を聞きながら手を取り、立ち上がらせる

 

「坂元だ…」

 

「坂元、何でアンタはここに⁇」

 

「…言えば私は消される」

 

「消されるのはあっち、アンタじゃない」

 

そう言うと、坂元は何かを決した顔を見せた

 

「…妻を人質に取られたんだ」

 

「その人は何処にいる」

 

「海堂の側にいる…」

 

「分かった」

 

「救ってくれるのか⁇」

 

「どうだか⁇まぁアンタが命を賭けてまで護りたい人だ。大層な美人さんなんだろ⁇そのお顔を拝んでから決めても遅かない」

 

坂元は鼻で笑いつつ、口角を上げた

 

「マーカス、と呼べばいいか⁇」

 

「マーカスでいい」

 

「私は君に何も言っていないし、教えてもいない」

 

そう言いながら、坂元の目線の先には基地内の見取り図がある

 

地下一階の施設に大きく赤い丸がしてある

 

「そう言えば、一週間前にクールな女性をこの基地で見かけました」

 

「加賀か…」

 

「加賀…はて、私は女性を見ただけです」

 

男の顔は笑っている

 

「私は今から部屋を出ます」

 

「…」

 

「それだけです」

 

俺は坂元の背後を着いて行く…

 

その部屋には監視カメラがあったのに二人共気付いており、小声で話してはいたが、その仕草は尋問を受けているだけの姿

 

坂元は要所で声を荒げ、自分は尋問されてはいるが何も話していないアピールをしていた

 

 

 

地下一階に向かうエレベーターに乗り、少しだけ体を休める

 

「坂元、一つだけ聞かせてくれ」

 

「何です⁇」

 

「加賀で何をするつもりなんだ」

 

坂元はすぐに答えを言った

 

「量産型を製造し、各基地を襲撃させるのです。ずっと欲していましたからね、100%自国生産の艦娘を」

 

「まだ間に合うか⁇」

 

「海堂が余計な事を考えていなければ、ですが…」

 

エレベーターが着く…

 

「止まれ」

 

着いた瞬間、またしても出口を塞がれる

 

「おっ…」

 

坂元をスイッチのある死角に追いやる

 

「や〜だね〜‼︎フンッ‼︎」

 

一番近い男の顔面に右ストレートを当て、小銃を奪う

 

「死ぬぞ」

 

「構わん‼︎撃て‼︎」

 

「そうか。なら、残念だ…」

 

10秒もしない間に、ドサドサと倒れる男達

 

「急ぎましょう」

 

坂元と共に加賀の元に走る

 

「二度救われましたね‼︎ここです‼︎」

 

「気にするな‼︎これでチャラだ‼︎」

 

ドアを蹴破ると、中にはカプセルが設置されているのがすぐに見えた

 

それもかなりの量だ

 

「坂元…裏切りやがって…」

 

総理に貰ったデータの中にあった写真の男、海堂がカプセルの前にいた

 

中心には巨大なカプセルがあり、そこに加賀が入っている

 

これで確信が持てた

 

「元から貴様の言う事を聞くつもりなぞない‼︎」

 

「ならばお前の妻はどうする」

 

「妻はそれ位の覚悟は出来ている‼︎」

 

「それはお前のエゴだろう⁇必死に懇願していたよ、助けて下さい、何でもしますからとな‼︎」

 

「…海堂‼︎」

 

「次はアンタが助けて下さいの番だな」

 

「いつの間に…うぐっ‼︎」

 

坂元が海堂と話していた隙に横に回り込み、海堂の口を塞ぐ

 

「脇腹は痛いか」

 

「ううっ‼︎」

 

海堂の左脇腹にはナイフが刺さっている

 

「二つ質問に答えろ。そうすれば治してやる。いいな」

 

流石に命の危機が迫ると折れたのか、すぐに頷いたので、口の手を離す

 

「一つは加賀で何をするつもりだ」

 

「かっ、加賀のデータを使って、量産型を造り、各所の基地を奪還しようとしているんだ‼︎」

 

「二つ、坂元の妻は何処にやった」

 

「へっ…言えんな…あれは良い女だ。こいつの女にするのは勿体ない‼︎」

 

海堂の左脇腹に刺さっているナイフを抉る

 

「分かった言う‼︎言います言います‼︎横の部屋だ‼︎」

 

「坂元」

 

「あぁ‼︎」

 

坂元を向かわせ、俺は尋問を続ける

 

「簡単に死ねると思うな。お前には生き地獄を味わって貰わねばならん」

 

「は、話しただろう‼︎」

 

「お前のエゴのせいで何人が苦しんだ」

 

「弱者は強者に、喰われる‼︎それが、自然の摂理だろ‼︎」

 

「弱肉強食⁇は…机の上で居眠りこいてるお前が言えた立場か」

 

反論して来たので再びナイフで抉る

 

「うぐぐ…」

 

「こんな時なんて言うんだ」

 

「頼む…後生だ…」

 

「子供でも出来るぞ」

 

「ご、ごめんなさい…反省します…」

 

「良く言えました」

 

「ぬぐっ‼︎」

 

ナイフから手を離す

 

「見せな」

 

「ひぃ…ひぃ…」

 

海堂からナイフを抜き、塗り薬を塗る

 

「痛みが…」

 

「お前を横須賀に連行する」

 

「分かった…」

 

海堂は力無く両手を出した

 

手錠を付け、一旦柱に括り付ける

 

「加賀の頭に付いてる装置、あれは何だ」

 

「あれは此方の命令を聞く様に付けられた装置さ。簡単に言うなら、洗脳装置さ」

 

「アンタらが造ったのか」

 

「いや、ここにあったんだ」

 

「ワタシガツクッタノヨ」

 

突然聞こえた、か細い少女の声

 

「ズットマッタワ。コノシュンカン」

 

「離島棲姫…」

 

黒いゴシック調の服に身を包んだ少女、離島棲姫

 

彼女は何処からともなく現れた

 

「アラ、ゴゾンジナノ⁇ウフフ‼︎ウレシイワ‼︎」

 

「こいつが造ったんだ‼︎」

 

離島棲姫は海堂に目を向けたかと思うと、一瞬で海堂の腹に穴が開いた

 

「アンタハモウヨウズミ。タノシメタデショウ⁇」

 

「お前…」

 

「ワタシガヨウガアルノハアナタ」

 

俺がPCを弄る前に座り、離島棲姫は俺の頬を撫でる

 

「オスガタノシンカイ…トッテモキチョウ…ネ、ワタシトコドモヲツクリマショウ⁇」

 

「加賀‼︎」

 

離島棲姫の誘いを無視し、加賀をカプセルから出す

 

「ありがとう、大尉」

 

「さ、帰ろう」

 

「チョット‼︎ワタシガサソッテルノヨ‼︎」

 

「大尉。私の複製が横須賀に行ったわ」

 

「何だと…」

 

「恐らくそこに…」

 

「ワタシガサキヨ‼︎」

 

離島棲姫は敵だ

 

本当はやりたくないが、仕方ない…

 

「アグゥッ‼︎」

 

メインモニターの下にあるキーボードの上に、離島棲姫の肩を掴んで押し倒す

 

「貧乳に興味はない‼︎分かったかこのガキ‼︎」

 

「ハァ…ハァ…ス、ステキ…タクマシイワァ…モットシテ‼︎」

 

「うっ…」

 

今の所、手を出されてはいないので敵とも味方とも取れない

 

だが、何だか嫌な予感はする…

 

「マーカス‼︎ありがとう‼︎」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「なるほどっ…助けたくなる訳だっ…」

 

坂元が抱えているのは自分の妻

 

俗に言う普通に美人な女性だ…

 

「…」

 

離島棲姫が此方を見ている

 

「加賀、二人をタナトスまで連れて行けるか⁇」

 

「えぇ。任せて頂戴。行きましょう」

 

「マーカス、君は⁇」

 

「ガキとはいえ、レディの誘いは受けるんだ」

 

「すぐに会おう。君には恩が出来たからな」

 

坂元を見て頷くと、加賀は二人を引き連れてタナトスまで走り始めた

 

「お前、ずっと一人だったのか」

 

「ンフフ、イワナ〜イ」

 

やはり見た目同様クソガキが入ってやがる…

 

今の反応を見て、もう一度試したくなった

 

「離島棲姫」

 

「ンフ。ワタシハナンニモオシエテアゲナ…」

 

もう一度離島棲姫を押し倒す

 

「ヒヒヒヒトリデスゥ‼︎」

 

押し倒した瞬間、離島棲姫はすぐに口を割る

 

「何故洗脳装置を造った」

 

「ハァ…ハァ…オトモダチガホシカッタンデスゥ‼︎」

 

「いいか」

 

「ハヒィ」

 

離島棲姫を座らせ、目線を合わせる

 

何故か離島棲姫はヨダレを垂らしている

 

「人を操って出来た友達なんて、友達とは言わない」

 

「ダッテ…コウデモシナイト、ダレモミテクレナ…」

 

今度は離島棲姫の頭を寄せ、顔を近付ける

 

「ワワワワカリマヒタァ‼︎」

 

「そんな事しなくても、俺がお前を一人にさせない場所に連れて行ってやる」

 

「エ…」

 

「悪さしないと誓え」

 

「シマセン‼︎」

 

離島棲姫の答えを聞き、右手を差し出す

 

「行こう。ここはじき終わる」

 

「ハ、ハヒッ…ヒウッ‼︎」

 

離島棲姫が手を取った瞬間、彼女の軽い体を抱き上げ、エレベーターに向かう

 

その瞬間、基地が揺れる

 

「ナニナニ‼︎ナンナノ‼︎」

 

「外で君を助けようとしてくれてる人がいる」

 

「ナンデ…」

 

「利用されてたんだろ」

 

「…」

 

黙ってしまったので、離島棲姫を少しだけ強く抱き寄せる

 

「ニニニンゲンニイロイロツクレトイワレテマヒタ‼︎」

 

「良い子だ」

 

「ハァ…ハァ…モ、モットシテクダサヒィ…」



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312話 地獄の騎士(1)

話数、題名共に変わりますが、前回の続きです

旧自衛隊基地でとある機体を見つけたマーカス

“彼”に乗り、基地を脱出します


離島棲姫はしっかりと俺に掴まり、エレベーターの到着を待つ

 

「大丈夫、心配するな」

 

「ハ、ハヒ…」

 

エレベーターが地上に着く…

 

「タナトスより砲撃‼︎」

 

「三番トーチカ群‼︎被害甚大‼︎」

 

「ウヒャ…エグゥイ‼︎」

 

離島棲姫の言う通り、外はタナトスの襲撃により穴だらけになり、倉庫群は炎上している

 

「その子は敵よ、大尉」

 

タナトスまで向かう途中、二人を送って引き戻してくれた加賀がいた

 

「気にするな。今しがた約束したんだ、一人にしないって」

 

「そう…ならいいわ。もう出航するみたいよ」

 

「分かっ…」

 

その時ほんの一瞬、格納庫から声が聞こえた気がした

 

何となくだが、俺はそこに行かなければならないという気になる…

 

「…加賀、その子を連れてタナトスに行け」

 

「貴方はどうするの」

 

「少し用事が出来た」

 

加賀に背を向けた瞬間、加賀の手から離島棲姫が離れる

 

「どうした⁇」

 

「ツイテッテアゲル‼︎」

 

満面の笑みで答える離島棲姫を見て、いつも子供達にそうされている様に手を繋ぐ

 

タナトスからの砲撃が止まない中、格納庫に向かう…

 

 

 

重い格納庫の扉を開ける…

 

《お呼びしてすみません…》

 

「そうか…お前がここにいるって事は、あいつもいるんだな…」

 

「コノキタイ、モトモトシンカイノコネ」

 

「そっ。立派な戦士だ」

 

格納庫には一機の機体が鎮座していた

 

鹵獲されたのか、はたまた自分の足でここに来たのか…

 

「あいつはどうした⁇」

 

《加賀さんの艦載機に》

 

「お前はどうしたい」

 

《“高山さん”を止めたい…》

 

機体の正体はイェーガー

 

ター坊をここまで運んで来てくれたのだろう

 

あいつは加賀の恋人だ

 

こんな辺境の基地まで、身一つで探しに来たのだろう…

 

《あの人の願いは貴方を倒す事…私の願いを聞けば、貴方に危険が…》

 

「横須賀まで俺を乗せられるか⁇」

 

《はい。ですが、貴方と交戦状態になります。私は、貴方に危害を加えたくありません》

 

「俺だってお前と戦いたくないさ…だが、あいつを地獄から救ってやるには、俺とやるしかない」

 

《ありがとう…ごめんなさい…》

 

イェーガーのキャノピーが開く

 

「アナタパイロットナノ⁇」

 

「そっ。空は初めてか⁇」

 

「ノセテクレルノ⁇ホントウニツレテイッテクレルノ⁇」

 

「空軍は嘘をつかないんだ。さ、行こう」

 

離島棲姫に手を差し伸べると、すぐに手を取った

 

「よし、イェーガー。目指すは横須賀だ‼︎タナトス‼︎良い機体を見付けた‼︎横須賀まで三人を頼む‼︎」

 

《了解でち‼︎交戦終了、急速潜航。目標地点、横須賀基地に設定完了》

 

タナトスに帰投を頼んですぐ、イェーガーを格納庫から出す

 

《敵のレーダーを掻い潜る為に、極めて低い高度を飛びます》

 

「オーケー…イェーガー、発進‼︎」

 

イェーガーに乗り、旧自衛隊秘匿基地から脱出する…



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312話 地獄の騎士(2)

「イェーガー、マニュアルに切り替えられるか」

 

《可能です。ですが、貴方ともう一人の女の子が…》

 

「心配するな。ちょっとドライブさっ」

 

イェーガーの操縦がマニュアルに切り替わる…

 

「ハヤーイ‼︎」

 

「加賀だ…」

 

加賀らしき人物が海上に立っているのが見えた

 

カプセルと同じ数の、量産型の加賀だ

 

「イェーガー、横を一気に通過する。覚悟はいいな」

 

《了解》

 

「さて…何体いるか…なっ‼︎」

 

加賀の頭スレスレを、煽る様に飛んで行く

 

「8体に見えたな‼︎」

 

「ハチニンイタ‼︎」

 

《量産型加賀、8体です》

 

8体の加賀は一斉にイェーガーが飛び去った方向を見る

 

が、発艦はして来ない

 

横須賀を一気に攻める気なのか…

 

いや…信じよう…

 

《横須賀基地、目視で確認》

 

「横須賀基地、応答せよ‼︎此方ワイバーン‼︎緊急着陸したい‼︎」

 

《了解ワイバーン。二番を開けるわ》

 

「サンキュー」

 

二番滑走路に着陸し、イェーガーから降りる

 

《…マーカスさん》

 

悲しそうな声一つ

 

地獄まで相棒を迎えに来た、立派な奴の声だ

 

「お前は戦士だ。誰かの為に命を張って地獄まで迎えに来た、立派な戦士だ」

 

《ありがとう…ごめんなさい…》

 

「いいんだ…いいんだ、イェーガー…」

 

イェーガーのボディを撫でる…

 

イェーガーは戦いを嫌っている

 

そんな奴に、もう一度制空権争いの空を飛ばせたくない

 

…だが、イェーガーも分かっているのだろう

 

何方かが止まる事があるなら、何方かが墜ちるまで、と…

 

「すまない…もう一度槍を持たせて…」

 

《マーカスさん。貴方の言葉にはずっと“悲しみ”が込められています》

 

「ヘンナコ…セントーキナノニ、タタカイタクナイノネ⁇」

 

離島棲姫の言っている事もごもっともだ

 

戦う為に造られた、それが戦闘機

 

それでもイェーガーは皆より倍、平和な空を望んでいる

 

《私には、悲しみと言う感情があまり分かりません》

 

「ずっと分かってるさ。じゃなきゃ、地獄まで相棒を迎えに来ない」

 

《…加賀さんを人質に取られたのが、高山さんがあの基地に出向くきっかけでした》

 

「…話してくれるのか」

 

《独り言として捉えて下さい》

 

無言で頷くと、イェーガーは話を続ける

 

《私は棚町さんの命令に背き、あの基地に向かいました》

 

「何と言われたんだ⁇」

 

《心配なのは分かるが、君まで失ったら私は…と。その時、妙な感情が産まれました》

 

「どんなだ⁇」

 

《怒り、です。加賀さんに対しての。私は少し、彼女に嫉妬していたのかもしれません》

 

「相棒を取られてか⁇」

 

《きっと、そうなのでしょう…お恥ずかしい…》

 

「人間らしいな、イェーガー」

 

《それで、あの基地に向かいました。そして、高山さんと加賀さんを返して欲しければ実験体になれ、と》

 

「…加賀はヤバい機体を積んでるのか⁇」

 

《貴方を狩る為には最適な機体だ、と》

 

「…」

 

その時、横須賀が向こうから走って来た

 

「レイ‼︎話は聞いたわ‼︎隊長がもうすぐ来るから、ラバウルの四機と一緒に飛んで頂戴‼︎」

 

「了解した。横須賀、この子を頼む」

 

「あら…連れて来たのね⁇」

 

屈んだ横須賀に対し、離島棲姫は俺の背後に隠れる

 

「大丈夫よ。ここには深海の子も沢山いるわ⁇」

 

「…ホント⁇」

 

「ホントよ⁇ほら、あそこにも‼︎」

 

横須賀が目線をズラす

 

「リョーチャン、キヲツケテネ‼︎」

 

「危なくなったら、すぐに逃げて下さいね‼︎」

 

目線の先には、今正に乗艦式を行っているシュリさんと涼平

 

涼平を矢に変えると、シュリさんは此方に気付いた

 

「アラ、カワイイコ‼︎」

 

「シュリさんって言うのよ⁇」

 

「ヨロシクネ。イマチョットタイヘンダケド、ココナラダイジョウブダヨ⁇」

 

離島棲姫を撫でるシュリさん

 

その姿は離島棲姫にはカッコ良く、そして綺麗なお姉さんに見え、言葉に詰まる

 

「俺は準備するよ」

 

大規模な空戦を前に、一旦その場を離れる…

 

 

 

 

《そっか…》

 

グリフォンに事の顛末を話す

 

「もしだ…もし、あいつと交戦になったら、すぐにマニュアルに切り替えろ」

 

《分かった》

 

あいつへの手向けが出来るのならば…

 

あいつが戦闘機である内に…

 

あいつが誇りある戦士である内に落とすしかない…

 

《隊長とラバウルさん達が来たよ‼︎》

 

《ワイバーン、聞こえるか》

 

無線に切り替わり、隊長の声が聞こえた

 

「聞こえる‼︎サンキュー隊長‼︎」

 

《大規模な空戦と聞いてな‼︎補給の為に一旦着陸する、その間、ラバウルの連中と一緒に援護を頼む‼︎》

 

「了解‼︎グリフォン、行くぞ」

 

《オッケー‼︎》

 

グリフォンが空に上がる…

 

 

 

 

その頃、横須賀繁華街…

 

「司令官さん、美味しいですか⁇」

 

「んっ‼︎美味しい‼︎上手に作れたじゃないか‼︎」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

繁華街から少しだけ離れたベンチ

 

そこは繁華街で買った物や少し休憩する為のベンチ

 

そこにはトラックさんと鳥海がいた

 

作ったサンドイッチを頬張るトラックさんを眺めながら、嬉しそうに語らう鳥海

 

《横須賀基地全域に注ぐ。空襲警報発令。繰り返す、空襲警報発令。待機中の艦娘及び戦闘可能な人員は配備して下さい。繰り返します…》

 

「空襲警報⁉︎鳥海、行こう‼︎」

 

「司令官さん。鳥海も参ります」

 

トラックさんはいつもと雰囲気が違う鳥海に動きが止まる

 

和かに佇む鳥海だが、目の奥に怒りがこもっている…

 

「そうだったな…」

 

「叩きのめして参ります。後で繁華街をご一緒に回って頂けませんか⁇」

 

「勿論さ‼︎」

 

それを聞いた鳥海は一度微笑んだ後、海の方を向く

 

「司令官さんは安全な場所に移動して下さい」

 

「…分かったっ‼︎」

 

トラックさんを見送った後、鳥海は皆が集まる場所に向かう…



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313話 Hell Knights Destruction(1)

話数、題名共に変わりますが、前回の続きです

旧自衛隊基地から出た量産型の加賀が向かう先は横須賀

先んじて横須賀に着いたマーカス達は戦闘を避けられない為、再び空へと上がります

その眼下で、一人の艦娘が本来の力を発揮します


《緊急につき、全員海上及び上空で聞いて頂戴》

 

加賀の迎撃の為、上空には戦闘機、海上には艦娘が集まる

 

空母二隻が大湊に停泊しているので、今は俺達で何とかするしかない

 

残っているのはイントレピッドDau

 

だが、まだ艦載機数が足りない

 

《敵量産型加賀が8体、本基地に向かって進行中。大規模な空戦及び、海戦が予測されます》

 

横須賀の単刀直入な説明で、現場に出た者はすぐに理解出来た

 

《他の敵艦船やら航空機はいないか

⁇》

 

隊長の言葉を聞き、ほんの少し間を開けた後、再び横須賀の声が聞こえる

 

《クラーケンでの索敵では現状見られません。ですが、充分に注意して下さい。万が一量産型加賀及び量産型加賀加賀艦載機以外の敵性勢力と会敵した場合は発砲を許可します。作戦名は“ヘルナイツディストラクション”いいわね⁇》

 

《よ〜し、全機聞いたな‼︎動く加賀と俺達以外の艦載機は皆敵だ‼︎》

 

サンダースの皆に無線でそう伝えると《了解‼︎》と返信が入る

 

《見えました…サイクロップス、交戦》

 

ラバウルさんの合図で、量産型加賀との戦いが始まる…

 

 

 

 

「あら、貴方は」

 

「ここから先は通しません」

 

海上では横須賀の艦娘達が奮闘する中、一人異質の存在がいた

 

その存在は量産型加賀も反応し、目を向ける

 

「司令官さんと昼食を頂いていたのに…」

 

「これは戦争よ。貴方が何をしていようと、戦いは戦い。甘い事言わないで」

 

「そう、ですか…」

 

その艦娘は、先程トラックさんといた鳥海

 

「…私の計算では、量産型加賀が横須賀に到着するまで後5分…」

 

「何をブツクサ言っ…」

 

下を向いて独り言を呟いていた鳥海

 

量産型加賀の一体が挑発を続けた瞬間、胸が抉られる

 

「…一人頭、45秒なら‼︎」

 

 

 

《スプラッシュワン。サンダースの援護に入ります》

 

《二機撃墜。F-35か…考えは良いが、腕が未熟だな》

 

隊長とラバウルさんがF-35相手に一方的に優勢を取る

 

《ワイバーン‼︎隊長‼︎》

 

《どうした⁇》

 

無線の先は涼平

 

《6時方向‼︎所属不明機接近‼︎》

 

《はっ…》

 

横須賀方面から所属不明機が来た瞬間、F-35のレーダー反応が二機分消える

 

《何度も言ったよな。人の食事を邪魔すると怒りを買うって》

 

《シャドウブラックめ…》

 

所属不明機の正体は親父の乗るF-14

 

余程大規模な空戦になっているのだろう、向こうの艦載機の無線が一瞬聞こえた

 

《諸共根絶やしにしてやる。来い》

 

親父が加勢し、制空権は徐々に此方側の物となりつつある…

 

 

 

「なに、あの艦娘」

 

「これで2つ‼︎」

 

海上では、鳥海が猛攻を続ける

 

不意打ちで胸を主砲で抉った一体

 

殴り倒して主砲で頭部を潰したのが一体

 

量産型とはいえ、空母相手に重巡のボディの鳥海が二体仕留めたのを見て、残りの量産型加賀が鳥海に視線を集める

 

「潰しておかないと不味そうね」

 

「貴方の相手はこっちよ‼︎」

 

「余所見してんじゃねぇのです‼︎」

 

雷電姉妹が二体を足止め

 

「オメェの相手はこっちダズルな」

 

応援に駆け付けた榛名が一体の相手

 

残り三体の量産型加賀は、鳥海の所に向かう

 

「もう沈みなさい」

 

加賀が放った矢が、俯きながらほんの少し首を傾けた鳥海の髪を揺らす

 

鳥海の背後で航空機に姿を変えた直後、サンダースの震電に機銃を受け撃墜される

 

「…官さんが、見てるんです」

 

「なんですか」

 

「司令官さんが‼︎見てくれて‼︎いるんです‼︎」

 

いきなり足に主砲の直射

 

手に付けた主砲の装甲部分で打撃を与え

 

最後に顎に主砲の接射の三連撃を寄って来た一体に与える

 

「うふふ…」

 

深海並の力を持つ鳥海の目は、量産型加賀にとって悪魔の様に見えた

 

「…後2分。間に合わせる‼︎」



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313話 Hell Knights Destruction(2)

一体に向かって走り出し、飛び掛かる様に跳ねた後、鳥海は主砲を構える

 

「ぐっ…」

 

ダンッダンッ

 

飛び掛かり、海上に倒れた量産型加賀を容赦無く主砲の接射で仕留める

 

最後の一体に振り向こうとした瞬間、風切り音が鳥海の耳に入る

 

「くっ…」

 

風切り音の正体は、最後の一体が放った、航空機になる前の矢

 

鳥海はそれを右手でギリギリ受け止める

 

「終わりよ」

 

「…しまった‼︎」

 

瞬間、鳥海の右手から大爆発が起きる

 

量産型加賀が放ったのは特攻機

 

直接では敵わないと判断した最後の一体は、鳥海に向けて特攻機を放ち、刺し違えを狙った

 

「痛い…痛い痛い‼︎」

 

鳥海は海上に膝から崩れ落ちた

 

右手は吹き飛び、右の腹も抉れ、出血を起こす

 

鬼神の様に暴れた鳥海は、ここに来て普通の少女の様に涙を流す

 

「そんな物なのね」

 

量産型加賀が近付く…

 

「殺してやる…この模造品が‼︎」

 

「終わりよ」

 

先程仲間内をやった様に、鳥海の頭に力一杯引かれた弓矢が来る

 

「今です‼︎」

 

鳥海の合図で、海中から何かが飛び出す

 

「くあえーっ‼︎」

 

「ばいばいっ‼︎」

 

後頭部と膝裏を同時に砕かれる量産型加賀

 

放たれた矢は一番最悪のポジションである、ウィリアム、エドガー、リチャードの三機の前に弾き出され、一瞬で爆散させられる

 

「うふふ…この程度、すぐに修復可能ですから」

 

鳥海がやられていたのは確かだが、これ位の怪我なら鳥海は自分で修復出来る

 

しかし、それにはほんの少しだけ時間が必要だった

 

そんな時、量産型加賀の背後の海面からひとみといよが一瞬顔を出し、鳥海に笑顔を送った事で鳥海は合図を出し、修復の時間を得る事が出来た

 

「貴方…もしかして…」

 

「冥土の土産に教えましょうか⁇」

 

「えぇ…」

 

ダンッ

 

倒れた量産型加賀に容赦無く主砲を撃つ

 

「嫌ですっ」

 

今のが最後の一体

 

「状況確認に移ります」

 

鳥海は目標を仕留めた後、必ず追い打ちを掛ける

 

少しでも動こうものなら、再び至近距離での主砲を当てる

 

「…いないみたいですね」

 

残っているのは、上空で追い掛け回されて今も正に数を減らしている加賀の艦載機を減らすだけ

 

「上空の皆さん‼︎海上は私達がどうにかしました‼︎後は制空権をお願いします‼︎」

 

《了解した。ありがとうな、鳥海》

 

《鳥海‼︎鳥海⁉︎》

 

「司令官さん‼︎」

 

《損傷を受けたと報告を受けた》

 

「司令官さんを護るのなら、この鳥海、この身を捨ててでもこの場を死守します‼︎」

 

《鳥海、帰投して欲しい》

 

「はい、司令官さん‼︎」

 

鳥海はトラックさんの言う事を絶対に聞く

 

「かえいあすか⁇」

 

「えぇ。お二人共、ありがとうございました‼︎」

 

「いっちょにかえいあしぉ‼︎」

 

鳥海を護る様に、ひとみといよは横須賀まで両脇に着きながら泳ぐ…

 

 

 

 

量産型加賀撃退の数分前…

 

《こんな規模の空戦、久々だな》

 

《鈍いのぉ‼︎こんなもんかえ⁉︎》

 

アレンの乗る刑部からの無線が入る

 

《横須賀から一機離陸した。アンノウンだ》

 

隊長の無線が入り、気が引き締まる

 

「来たか…」

 

《マニュアルに切り替えるよ》

 

「頼む」

 

グリフォンの操縦がマニュアル操作に切り替わる

 

《此方ワイバーン。アンノウン機との接触は俺に任せてくれ》

 

《イカロス、了解》

 

《サイクロップス、了解。今しばらく狩りを楽しませて頂きます》

 

《サンダース、了解。サンダース全機、隊長の所にライトニングIIを行かせないように‼︎》

 

《そっちは任せたぞ‼︎個々は弱いが、数が多い‼︎》

 

無線には余裕がある奴しか返答が無かったが、俺がアンノウン機と接触する事は伝わった

 

《マーカスさん…》

 

反応はまだアンノウンだ

 

互いに発砲出来ない

 

刻一刻と、互いに近付いて行く…

 

「今ならまだ引き返せる」

 

《私の役目は、あの人の道を作る事…もし、これで恩を返せるなら…私は喜んでこの身を差し出す‼︎》

 

「分かったっ…なら…」

 

アンノウン反応から、敵性反応に変わる…

 

「お前は敵だ。イェーガー…」

 

ヘッドオン状態で機銃を放ちながら、イェーガーが突っ込んで来た

 

互いに交差し、回避行動を取る

 

《分かってます…分かっているんです…だけど…もう…》

 

「…」

 

《イェーガー、落ち着いて‼︎レイなら助けてくれるってば‼︎》

 

《あの人の暴走を止めるには、貴方を倒すしかないんです…》

 

グリフォンが説得に入る

 

AI同士の会話が続く中、空戦は続く…

 

《お願いです、マーカスさん…落ちて下さい》

 

《力を見誤っちゃダメだよ‼︎思い出してよイェーガー‼︎君は戦いが嫌いなんでしょ‼︎》

 

「グリフォン、もういい。お前の気持ちは十二分に伝わった」

 

《レイはいいの⁉︎イェーガーは味方なんだよ‼︎》

 

「戦いが嫌いなあいつが望んだ道だ。分かってやれるのは、俺達しかいない」

 

《はっ…そっか…そうだよね‼︎》

 

何かに気付いたグリフォンは、全火器のコントロールのロックを外した

 

イェーガーと会敵してから機銃しか使わなかった

 

火器コントロールが外れたと言う事は“今から本気で殺す”との合図だ

 

「イェーガー、遊びは終わりだ。本気で行かせて貰う」

 

《手を抜くつもりは最初からありません》

 

数十秒ドッグファイトが続いた後、イェーガーの背後を取る

 

《ごめんなさい、ありがとう…》

 

「…謝るのは、こっちだ」

 

トリガーを引いた瞬間、世界から音が消える

 

ロックオンの音…

 

ミサイルが発射された音…

 

アラートの音…

 

俺が何かを呟いた声…

 

何もかも、音が消えた…

 

次に耳に入った音は、イェーガーが爆散する音

 

《レイ、大丈夫⁇》

 

「まだ一人残ってる」

 

《レイ、聞こえる⁉︎航空機一機、戦闘空域に向かってるわ。恐らく手練れよ》

 

横須賀の無線が聞こえ、少しだけ我に返る

 

「了解した。俺に任せろ。隊長達はどうだ⁇」

 

《粗方片付いて来たわ。レイ、無茶しちゃダメよ⁇》

 

「心配するな。来る奴は分かってる。IFFを敵機に切り替えてくれ」

 

《分かったわ。交戦を許可するわ》

 

皆が戦っている空域に戻る…

 

 

 

《よしっ、残りは疎らだ‼︎》

 

《バッカス、オルトロス、私の横に着いて下さい。一気に行きます》

 

あれだけいたF-35も、もう疎らにしかいない

 

《愚か者めが‼︎》

 

目の前で親父のF-14が遊んでいるかの様にF-35を落として行く

 

《来たか、マーカス》

 

異様なF-35が一機、こっちに猛スピードで向かって来る

 

《お前を狩るには丁度良い代物だ》

 

「パピヨン、一度だけ言う。イェーガーに謝れ」

 

《決着と行こうか、マーカス》

 

高山は俺の言った事を聞かず、イェーガーと同じヘッドオン状態で向かって来た

 

《被弾⁇この俺が⁇》

 

すれ違い様に放たれた機銃が、高山のF-35の左主翼に穴を開ける

 

《は…ここまでしても、敵わんか…》

 

「終わりだ」

 

背後からミサイルを二発、F-35に叩き込む

 

《瞬殺…あれが、隊長の本気…》

 

俺の姿を横目で目にした涼平

 

生唾を飲む音が無線から聞こえた

 

《ベイルアウトしたよ》

 

「あいつを狂わせた奴だけ壊せば、それでいい。誰か救助に向かってくれないか‼︎」

 

《レイさんに手出す奴なんか助けたくないのです‼︎》

 

すぐに電から無線が返って来たが、答えは救助拒否

 

「後で駄菓子買いに行こうか‼︎」

 

《今回だけなのです‼︎オラ‼︎来るのです‼︎》

 

高山の救助は何とかなった

 

《こいつでラストだ》

 

最後の一機のF-35が落ちる

 

《量産型加賀及び、艦載機の撃退成功‼︎各員、帰投して‼︎》

 

横須賀の無線を聞き、全員がそれぞれ《了解‼︎》と返す

 

俺を除いて…



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313話 羽をたたむ潮時

題名は変わりますが、前回の続きです

戦闘が終わり、マーカスは基地へと戻ります

鳥海達の治療をする中、一人のライバルがマーカスの所に来ます


「博士、そっちはどうだ⁇」

 

無線を繋いだ先は大淀博士

 

《ギリギリだったよ‼︎》

 

「話は出来るのか⁇」

 

《出来るよ‼︎ほら、レイ君から‼︎》

 

《マーカスさん、ありがとうございます》

 

無線の先から聞こえて来た声はイェーガー

 

撃墜の寸前、大淀博士が遠隔でイェーガーのAIを抜き取った

 

そして今、戦闘機のボディより遥かに小さなPCにまとまっているらしい

 

「お前にあのボディは似合わん。まぁ少し考えてな、新しいボディをな」

 

《高山さんは…》

 

「あいつはしぶとい奴だ。それに、まだお前に謝ってない」

 

《いいんです…彼は私の相棒ですから》

 

「ダメだ。悪い事をしたら謝るんだ。いいな」

 

《了解、マーカスさん》

 

《レイ君、後で大淀さんの所に来てね‼︎》

 

「飛んで行くさっ」

 

大淀博士との無線を切り、もう一度戦闘のあった空域、そしてその下の海を見る

 

《量産型加賀かぁ…》

 

「残りはいるか⁇」

 

《生体反応はあるけど、これじゃあ動けないね》

 

「ガンビアだ」

 

ようやくガンビアが到着した

 

《大尉、遅れて申し訳ありません‼︎》

 

「敵は片付いた。量産型加賀のボディの回収を頼みたい」

 

《了解です。横須賀からも同じ指令を受けました》

 

「任せた」

 

回収をガンビアに任せ、俺は横須賀に戻った…

 

 

 

 

「お疲れ様、レイ」

 

着陸すると、横須賀が出迎えに来てくれていた

 

「こっちの損害は⁇」

 

「特に無いわ。ま…強いて言うなら、イェーガーと鳥海かしらね」

 

「鳥海がか⁇」

 

参加していたのは上からチラッと見えていたが、損傷を受けたのは分からなかった

 

「今大淀博士が診てくれてるわ」

 

「分かった。行って来る」

 

「報告は僕が送っておくよ‼︎」

 

「頼んだ。ありがとな」

 

きその頭を撫で、大淀博士の研究室に向かう

 

 

 

「やー‼︎おかえりレイ君‼︎」

 

「ただいま」

 

「鳥海ちゃんは大丈夫だよ‼︎」

 

「ご心配をお掛けしました…」

 

既に鳥海は立っており、心配はなさそうだ…

 

「ここか…トラック基地の有村です」

 

「どうぞ〜、開いてますよ〜」

 

「失礼します‼︎」

 

鳥海を迎えに、トラックさんが来た

 

「鳥海‼︎怪我はもう大丈夫かい⁉︎」

 

「はいっ‼︎司令官さん‼︎鳥海は治りました‼︎」

 

トラックさんを見るなり、鳥海の顔が明るくなる

 

「しっかし驚いたねぇ…君の自然治癒力は異常に強い。どうしたらそうなるんだい⁇」

 

「司令官さんがお作りしてくれるごはんが美味しいからです‼︎」

 

「「なるほど…」」

 

鳥海の答えに、俺達二人は納得する

 

トラックさんの作るごはんは、ボリュームも栄養も満点でかなり美味しい

 

鳥海の異常な自然治癒力がそれと言われれば、ちょっと分かる気がする…

 

「司令官さん。お二人にならお話しても大丈夫でしょうか」

 

「大丈夫。二人は信頼出来る友人だよ⁇」

 

「他に何か秘密があるのかい⁇」

 

「やっぱスイーツか⁇どれもこれも絶品だからな…」

 

「自衛隊で産まれたんです。実験体として」

 

「おや…そうだったのかい…」

 

「そっか…」

 

「あの日、司令官さんに救出して頂いてから、この体の使い方が少し分かりました。決して悪い事をする為に産まれたのではない、と」

 

「それから鳥海はトラックで演習艦を勤めてくれているのです」

 

「トラックに行くと練度が異常に上がるのは鳥海が教えてたからか…」

 

「蒼龍さんや衣笠さんもいますよ。鳥海は横にいるだけです。ね⁇司令官さん⁇」

 

鳥海の問いに、トラックさんは笑顔と頭を撫でる事で返事とした

 

「ありがとう、聞かせてくれて。大淀さん達、内緒にしとくよ」

 

「これからもよろしくな⁇」

 

「此方こそ宜しくお願いします」

 

「あっ‼︎レイ君、男女の時間を邪魔しちゃダメだ‼︎」

 

「おお、そうだな‼︎何か体に異常があったら言ってくれ、すぐに行く」

 

「ありがとう、マーカス」

 

「ありがとうございます、大尉」

 

トラックさんと鳥海は研究室を後にした…

 

「さて、今日は来客が多いね…」

 

「隠れてないで来いよ」

 

大淀博士と俺は勘付いていた

 

「完敗だ…」

 

入口の向こうで隠れていたのは高山だ

 

「鳥海の話は聞かなかった事にしろ。それが俺が折れる条件だ」

 

「分かった…」

 

「何で俺を落とす事に固執する」

 

「それだけは聞かないでくれ」

 

「…まぁいい。次があるなら、本気で殺す」

 

「もうないさ。俺は降りるよ…」

 

「そうか。でだ…」

 

「そ、それだけかいレイ君‼︎」

 

「それだけだ。でだ…」

 

「問い詰めないのか⁇」

 

「問い詰めても話さないだろ。でだ…」

 

「言いたいんじゃないかなレイ君」

 

「聞いた所で変わらん。でだ…」

 

「鹿島と仲が良いお前が憎かった…それだけだ」

 

「そうか。でだ…」

 

「そんな反応なのか…」

 

「話をさせろ‼︎いいか、今聞きたいのはお前の過去の恋愛事情じゃなくて謝罪だ‼︎いいな‼︎」

 

「わ、分かった…」

 

ようやく話を聞く体制になった高山の前のモニターに、イェーガーのAIを表示する

 

《加賀さんはどうしました》

 

「今しがた報告を受けた。こっちに向かってるらしい」

 

《そうですか…良かったです》

 

イェーガーはちょっと冷たく高山に返す

 

それでも相棒の思い人である加賀の身を案じる

 

「イェーガー…すまなかった」

 

《気にしないで下さい。私が勝手にした事ですから》

 

「助けに来てくれたのに…俺はお前に…」

 

《高山さん。私はどうもここ辺りで潮時のようです》

 

「…」

 

《消える訳ではありませんよ。もう戦えなくなっただけです》

 

「…降りろ、か」

 

話が深刻になって来たので、大淀博士と共に研究室の外に出て来た

 

《貴方もこの辺りでどうでしょう。人を恨む旅は終わりを迎えました》

 

「何をすればいい…俺には、空しかなかった」

 

《…私はもうじき、別のボディを作って貰います。どうでしょう、私と一緒に探してみませんか⁇》

 

イェーガーがそう言った時、一人の女性が研究室に入る

 

「もう一人いるの、忘れないで欲しいわね」

 

今しがた到着したばかりの加賀だ

 

「無線で話は聞かせて貰ったわ。ごめんなさいね」

 

「すまなかった…」

 

「この後鹿島さんを追い掛けるか、今貴方を好いている私の傍にいるか、選んで頂戴」

 

加賀は澄ました顔で高山に問う

 

「加賀の傍にいるよ…」

 

高山の返答は即答

 

あってない様な問い掛けだったからな…

 

「なら、何処か戦いが無い場所でゆっくり過ごしましょう。一から始めましょう」

 

高山は加賀の言葉に二度頷いた

 

「イェーガーも来てくれるか⁇…イェーガー、どうした⁇」

 

「何かしら」

 

イェーガーからの反応は無い

 

二人は研究室の中で慌てふためく

 

そろそろ頃合いか…

 

「さ、行って来い」

 

「マーカスさん。ありがとうございます」

 

「今度は感謝から始まるんだね‼︎さ、行っておいで‼︎第二の人生だ‼︎」

 

俺と大淀博士の前には、茶髪の女の子がいた

 

ここに到着したばかりの彼女は、数分前に生を受けたばかり

 

一秒でも早く相棒の傍に行きたいが為、本来なら迎えに行くはずが、彼女は此処に来た

 

彼女は研究室のドアが開くと、二人の元に行った

 

「男の子じゃなくて良かったかな⁇」

 

「元々女の子だったんじゃないか⁇」

 

「そっちかぁ…レイ君は凄いねぇ…」

 

「どうだかな…」

 

大淀博士は頭を抑え、俺は大淀博士を横目で見て笑う

 

彼女はイェーガーがボディを持った姿

 

俺もイェーガーは男の子だと思っていたが、世の中は広い

 

元々女の子だったのか…

 

はたまた、第二の人生は別の形で歩みたかったのか…

 

その真相は、彼女しか知らない…

 

ただ、今は見守るのみ

 

開いたドアの向こうから、壁にもたれて三人を見る…

 

「名前は“若葉”らしいよ⁇」

 

「若葉ね…良い名前だっ」

 

あの三人の笑った顔を見るのは、久しぶりかもしれない

 

この先もきっと大丈夫だろう…

 

 

 

 

後日、高山は除隊

 

それと同時に、加賀も除籍になった

 

今は一旦、居住区で三人で暮らしている

 

近い内に、今度は本当の友人として会えるといいな…



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314話 あの日のパンの味

お久し振りです、苺乙女です

今しばらく時間を開けてしまい、申し訳ございません

ここ数ヶ月色々な事があり、精神的にも身体的にも参ってしまっていました

読者の皆様に心配をかけるような事になってしまい、大変申し訳ございません

そんな精神状態で書いたお話ですが、お楽しみ頂けたら幸いです



今回のお話ですが、パースの過去のお話になります

パースは果たしてどこで産まれたのか…

過去に何を忘れて来たのか…


「朝霜ちゃーん‼」

 

「んぁ??パースさんか!!どした??」

 

この日、珍しくパースは工廠に来ていた

 

「ぼっちゃんいるパース??」

 

「すぐ戻って来んぜ!!ちょっとそこで待ってんだな!!」

 

パースは朝霜の指差した方向にある椅子に座り、マーカスの帰りを待つ

 

朝霜は少し離れた位置でマーカス含めた三人分のコーヒーを淹れ始める

 

「そいや〜、パースさんは父さんのベビーシッターだったっけか??」

 

「そうパース‼赤ちゃんの頃のぼっちゃんはパースによく懐いてくれてたパース!!」

 

「父さんも幸せモンだなぁ〜…美人のベビーシッターが二人かぁ〜」

 

「…上手くやれたかは、パースにも分からないパース」

 

パースは急に真面目な顔になる

 

「何の心配してんだ??」

 

何の心配もないと朝霜は言うが、パースには一つ気掛かりがあった

 

「パースは、あんまりおかーしゃんの記憶がないパース…」

 

「そ…そか…んまぁあれだ!!父さんがほら!!人に優しく出来てるって事はだ!!」

 

まずい事を聞いたと思い、朝霜は話を切り替えようとした

 

「でもでも!!パースはちょっとだけ、おかーしゃんに愛して貰ったパース!!」

 

「大丈夫さっ。父さんには、ちゃんと伝わってんぜ」

 

コーヒーをパースの前に置きながら、朝霜は自身の物を飲む

 

「これは何パース??」

 

「これか??これは…」

 

朝霜が言う前にパースが言う

 

「このダイヤルは何パース??」

 

「それは行きたい時間に合わせるとその時代に行けるんだ。内緒だかんな!?」

 

「ほへ〜…すっごいパース…」

 

朝霜は、パースなら悪さしないだろうと少し目を離した

 

「もしホントなら…これで…パースもおかーしゃんと…」

 

………

 

朝霜がパースに目を戻す

 

「パースさん!?」

 

数十秒前までそこにいたパースが、忽然と姿を消した

 

「どうした朝霜??」

 

「父さん!!」

 

タイミング良く帰って来た俺に、事の経緯を話す…

 

 

 

「つまり、パースはタイムマシン使ってどっか行ったと…」

 

「そゆ事だ…タイムマシンのスペアはあっけど、問題は何処に行ったか何だよな…」

 

「何か手掛かりになりそうな事がありゃいいんだが…」

 

考えるが、如何せんいつもあの調子のパースだ

 

過去にあった美味しい物を食べに行った〜なら良いのだが…

 

「そいやぁさっき、お母さんに会いたいとか言ってたな…」

 

「パースの母親か…」

 

「あんまアタイの口から言うのも良くねーからさ…あ!!ほら!!おばあちゃんならどうだ⁉」

 

「ちょっくら聞いてみるか…」

 

朝霜の口が堅い事を知った後、母さんに無線を繋げる

 

「母さん、俺だ」

 

《どうしたのマーカス》

 

「母さん、パースと何処で出会った??」

 

《ウィットビーよ??》

 

「いつ位の話だ」

 

《いつだったかしら…マーカスが産まれる3年位前に、そこで空爆があったのよ。その後ね》

 

「分かった。ありがとう!!」

 

無線を切り、時間を合わせる…

 

「ウィットビー…ウィットビー…あった、これだ!!」

 

PCで、過去に起きた空戦の記録を出す

 

その中に、数十年前に起きた空爆の記録が確かにあった

 

その時間に、タイムマシンを合わせる…

 

「分かったんか!?」

 

「あぁ。恐らくパースはっ…この街で何かあったんだ。ちょっと迎えに行って来る」

 

「アタイも行く!!」

 

「来るな!!空爆の最中を行く!!」

 

「ちょっ!!マジか!!父さん!!」

 

朝霜の静止虚しく、俺は過去へと戻る…

 

 

 

 

「いでっ!!ここどこパース??」

 

パースは見知らぬ街の外れに着いていた

 

「あ…」

 

記憶には無いだけで、ここで暮らしていたのは確か

 

だからこそ、パースは何となくこの街を覚えていた

 

「パースー!!お家帰るわよー!!」

 

「あ、はーい!!」

 

自分を呼ぶ声に反応し、街を見るのを止めて振り返る

 

「パース!!」

 

「えっ…」

 

パースが振り返った先に居たのは、紛れもなくパースの母親

 

「お…おか…おかあしゃ…」

 

「おかあしゃーん!!」

 

パースが母親の所に行こうとした時、少女が母親に抱き着いた

 

「あっ…」

 

「あら??貴方は??」

 

「な、何でもありません…」

 

いつものパースが消え、真面目なパースになる

 

「貴方お家は??もう暗くなるわ??」

 

「私が分からないのですか…」

 

「えっと…」

 

「私は…私はずっと覚えていたのに…どうして…」

 

「お腹空いたのかしら??一緒にどう??大した物は無いけれ…」

 

「お前なんか…お前なんか!!母さんじゃない!!」

 

涙だけは見せるまいと、パースは親子から離れた

 

「おかーしゃん。あの人なぁに??」

 

パースの母親は、小さい頃のパースの頭をにこやかに撫で、街へと戻って行った…

 

 

 

 

「私はずっと覚えていたのに…母さんは私が分からないんだ…」

 

街からもう少し離れた場所に一本の木があり、パースはその下で腰を下ろした

 

「…ま、いいや。どうせこの後街は一度焼かれる…ははっ、私を覚えてない母さんなんて、どこかに行ってしまえばいいんだ」

 

そうすればパースの中から、ほんの少し残っている母親の記憶は炎と共に消えて行く

 

だったら早く、なくなってしまえばいい

 

自分を忘れた母親も…

 

自分を待っていた故郷も…

 

「親孝行はしとくもんだぞ」

 

木の裏側で声がしたので、パースは覗いてみた

 

「坊っちゃん!!どうしてここに!?」

 

「とりあえずこれは預かる」

 

パースが背中に挿していたタイムマシンバットを取る

 

「母親には会えたか??」

 

「さぁ…母親と言えるのかどうか…」

 

「そう言うな。どれだけ変わろうが、母親は母親だ」

 

「私の事が分からなかったのです。私は…ずっと覚えていたのに…」

 

「パース」

 

「スパイト様は立派です。どれだけ坊っちゃんと離れていようが、坊っちゃんとすぐに分かりましたから…」

 

「パース、あのな??」

 

「何です」

 

人の話を聞かずに話し続けるパースをようやく遮る

 

「小さい自分の娘がいるのに、いきなり大人になった娘の姿を見たらどう思う??」

 

「あっ…」

 

ここに来て、やっぱりパースはパースなんだと良く分かった

 

「では本当にタイムスリップしたのですか!?」

 

「それも数十年前にな」

 

パースは街を見直す

 

あの人は本当に自分の母親であるならば…

 

「…坊っちゃんには、話しておきます」

 

パースから経緯を聞く

 

ここで産まれた事

 

ここで育った事

 

この後、戦火に巻き込まれる事…

 

「母親とはここで別れたんだな??」

 

「はい」

 

「そこで待ってろ」

 

「私も行きます‼」

 

「今から空爆が始まるんだろ??」

 

「その後兵隊が乗り込んで来ます!!今この時代で坊っちゃんを守れるのは私だけ…」

 

「今も未来も、だ。行くぞ」

 

「はいっ‼」

 

パースと共に、ウィットビーの街に入る…

 

 

 

「空爆までの時間は分かりますか??」

 

「残り一時間って所だ。家はどっちだ??」

 

「あそこのパン屋さんです」

 

パースの実家はパン屋さん

 

母親がパンを焼き、ちょこちょこ動くちいさいパースがいる

 

「いらっしゃいませ〜!!」

 

「お、おか…」

 

「あら、貴方はさっきの!!」

 

「このパンを2つ貰えるか??」

 

パースの母親が売っている"カリェーパン"を2つ貰う

 

「ありがとうござ…」

 

紙袋に入れて貰って此方に渡してくれた瞬間、彼女の腕を掴んで頭を寄せた

 

「…じき空爆が始まる。娘を連れて逃げろ」

 

「…本当ですか??」

 

「…今アンタを見ている女は、アンタを救う為にここに来た。ありがとう!!美味そうだな!!」

 

彼女を離し、早速パンを頂く

 

カリェーパンと書いてあったが、想像通り甘口で美味しいカレーパンだ

 

「おかーしゃん。逃げましょう」

 

「貴方一体…」

 

「今は分からなくて良いです。とにかく行きましょう!!」

 

「パース!!行きましょう!!」

 

「おかーしゃ」

 

小さいパースが母親の所に寄ろうとした瞬間、爆弾が落ちて来た

 

「ちっ‼」

 

パースが小さいパースを抱き締め、何とか事無きを得る

 

「今ので分かったでしょう!!早く!!」

 

「わ、分かったわ!!」

 

「こわいよー!!」

 

「大丈夫。"私が生きてる"なら、貴方も生きてる」

 

もしここで小さいパースがやられれば、俺の知ってるパースは無かった事になる

 

「坊っちゃん行きましょう!!」

 

「さっきの所まで避難するぞ!!」

 

パースは小さいパースを抱き上げ、丘の上まで走る

 

それに合わせて母親も走る

 

俺は母親の横で一緒に走る

 

投下された爆弾に気付き、避難を始める市民が大量に出始めた

 

「どけ!!」

 

「あっ!!」

 

市民に押され、パースの母親が転けてしまう

 

「「おかーしゃん!!」」

 

「ほら!!立…」

 

二人のパースが振り向き、俺も振り向く

 

たった少し離れた距離のはず

 

俺の届く範囲にいた

 

母親とパースを割くかの様に、爆発と瓦礫が隔たりを作った

 

「おかーしゃん!!おかーしゃんが!!」

 

「パース!!行きなさい!!その人の手を離しちゃダメよ!?」

 

瓦礫の向こうで母親の声がした

 

「嫌だ!!おかーしゃん!!」

 

小さいパースは、パースの腕の中でもがく

 

「行ってはダメです!!貴方まで!!」

 

パースはそれを何とか抑えようとする

 

「嫌だ!!おかーしゃんのとこ行く!!」

 

「…坊っちゃん」

 

「おかーしゃーん!!」

 

俺は何とかパースの母親を助けようと瓦礫を退ける

 

「坊っちゃん…お願いがあります…」

 

「何だ!!」

 

「私の母親を…救って頂けませんか…」

 

「分かった!!その子を連れて行け!!」

 

「申し訳ありません…!!」

 

小さいパースの手を引き、パースは丘の上に走る

 

本来、自分が護らなければならない人…

 

その人を危険に晒して自分の母親を救って貰う事に、パースは今まで感じた事の無い罪悪感を抱いていた…

 

 

 

 

考えろ…考えろ俺…

 

「ゲホッ…も、もう、行って下さい…ありがとう…」

 

「諦めるな!!」

 

「もうっ…ゲホッ…火がそこまでっ…パースをお願いしますっ…」

 

この期に及んで瓦礫の向こうで自分の娘を心配するパースの母親

 

「…待ってろ、すぐに戻る」

 

俺はバットを元の時代に合わせ、地面を小突いた…

 

 

 

「父さん!!」

 

「すぐまた戻らなきゃならん!!」

 

待っていてくれた朝霜を横目に、過去に戻る準備をする

 

「ほんの少し後に戻れるか⁉」

 

「まぁ誤差程度の時間差ならな!!」

 

必要な物をバッグに詰め、バットで床を叩く

 

「あんま時代変えんなよ!!」

 

「分かった!!」

 

パースの母親を救う為、再び過去へとさかのぼる…

 

 

 

 

「ゲホッ…ううっ…」

 

「こいつは上玉だな…」

 

「怪我してるが、まぁいい。連れて行け」

 

「やめてっ…離して…」

 

空爆の後、すぐに敵が乗り込んで来た

 

敵兵二人はパースの母親を見つけ、連れ去ろうとする

 

「ヘヘ…来」

 

「おい!!何っ」

 

敵兵二人の意識が急激に遠のく

 

誰かが後頭部にストレートを入れ、二人はしばらくの間気絶

 

「しばらく大人しくしててくれ」

 

「貴方は…」

 

「これ付けてろ。3時間は酸素と鎮静剤が出る」

 

元の時代から持って来たのは、新しく開発した酸素マスク

 

3時間は酸素が出続け、必要ならば鎮静剤が口腔内に散布される物だ

 

「痛っ…」

 

パースの母親は腹部に瓦礫の破片が刺さっており、そこから出血していた

 

「説明は後だ。アンタを連れて行く。掴まってろ」

 

「…」

 

鎮静剤が作用したようで、パースの母親は眠ってしまった

 

…今日はよく動く

 

いや、今日なのかさえ、定かじゃないな…

 

 

 

「えーんえーん!!」

 

「すぐに戻って来ますから…私の坊っちゃんは強いですよ??」

 

丘の下に広場があり、避難した市民はそこに集まっていた

 

「おにーしゃーん!!」

 

「パース!!よいしょっ!!」

 

「はっ!!坊っちゃ…」

 

戻って来た俺の腕に、パースの母親はいない

 

小さなパースの前で膝を折り、目線を合わせる

 

「お嬢ちゃん、名前は??」

 

「パース…」

 

「そっか。俺はリヒター、あの人は…」

 

パースの顔を見た瞬間、ほんの少し左目を閉じた

 

過去で自分の名前を明かすのは、時代が大きく変わってしまう

 

パースは俺がリヒターと言った時点でそれに気付いてくれた

 

「う…ウェンディです」

 

「おかーしゃんは??」

 

「君のお母さんは治療を受けてる。心配しなくていいよっ」

 

小さなパースの頭を撫でると、ようやく泣き止んでくれた

 

「ホント??」

 

「ホントさ!!空軍は嘘付かないんだ!!そうだ、パースは何が好きかな??」

 

「パースは…パンが好き…」

 

「そっかそっか。ウェンディお姉ちゃんと一緒に作ってあげるからな??」

 

「やったぁ!!」

 

「ウェンディ、手伝ってくれるか⁉」

 

「はいっ、坊っちゃん」

 

パース改めウェンディと共に、小さなパースに食べさせるパンを探す…

 

「焼け野原です…」

 

ウェンディと俺の目線の先には、見るも無惨に壊滅した街がある

 

空爆と上陸して来た敵兵の第一波が過ぎ去っただけで、まだ街に戻るには危険が多い

 

「どっかの家にパンの一つ二つあるだろ…」

 

「過去の私に灰まみれのパンを食べさせるのですか」

 

「うっ…」

 

「ふふっ、ここは"ウェンディお姉ちゃん"にお任せを」

 

「一生言われそうだ…」

 

パースは瓦礫の中から必要な物を集め始める

 

「坊っちゃんはレンガを沢山お願いします。私はパンに必要な物を集めて来ます」

 

「まだ敵兵がいる。大きく動くなよ??」

 

「畏まりました」

 

俺はパースに言われた通り、レンガを集める…

 

 

 

 

その頃…

 

「貴方ですか、私の母親に手を出したのは」

 

「何だこのアマ!!」

 

「殺せ!!」

 

「坊っちゃんは生かしたみたいですが…ふふっ、私相手に」

 

パースは腰からナイフを抜き、敵兵のつむじに突き刺した

 

「慈悲はありませんよ」

 

つむじからナイフを抜き、敵兵を見ずにそのままの勢いで鳩尾を貫く

 

再び引き抜かれたナイフは真っ黒に染まった刃をしている

 

元から黒かったのか、それとも、今日に至るまで生き血を吸って来たのか…

 

パースはナイフを仕舞い、パンの材料を集めて皆が待つ場所に戻って来た

 

 

 

「戻りました」

 

「こんなもんでいいか??」

 

パースが帰って来た頃には、ある程度のレンガが集まっていた

 

「ありがとうございます。これでっ…良い物が作れます」

 

パースが集めていたのは小麦粉等パンを作る材料

 

「ふふっ…見ていて下さい」

 

パースのパン作りが始まる…

 

3時間後…

 

「これで出来上がりです。皆さん、召し上がって下さい」

 

市民に出来上がったパンを配るパース

 

「ありがとうお嬢ちゃん」

 

「どうぞ」

 

一人の老人がパンを受け取る

 

パースは普通に渡している

 

「ウェンディおねーしゃん!!美味しいパンありがとう!!」

 

「どういたしまして。即席ですが、この窯は残しておきますので」

 

小さいパースも喜んでくれた

 

「坊っちゃん、ライターを拝借出来ますか」

 

「ほらっ」

 

パースにライターを渡すと、そこかしこにある焚き火に火を灯し始める

 

「これで一晩は超えられます」

 

最後に火を灯したのは、俺と小さいパースの前にある焚き火

 

火に当たりながら、小さいパースを横にさせて休ませる

 

「坊っちゃん、これを」

 

「ありがとう」

 

パースにブランケットを被せて貰い、片手を火に当てる

 

「パースの分はどうした」

 

「私は構いません」

 

「来いっ」

 

そう言うと、パースは俺と同じブランケットに入った

 

「これが…私の過去です」

 

「何も言うな…」

 

「酷いですよね…私…街も母もいなくなれって…」

 

「もういい…自分を責めるな」

 

「私は坊っちゃんを危険に晒して…」

 

「もういい」

 

火に当たっていない手で、パースを抱き寄せる

 

「貴方に好かれる事なんて!!私にはもうないんで、うっ…」

 

パースをキツめに抱き寄せる

 

「優しい人…坊っちゃんはいつもそうです…」

 

「次言ったら、口を塞ぐからな」

 

「塞いで下さい。ずっとお待ちしています」

 

「うっ…」

 

パースは既に受けの体制

 

「坊っちゃん」

 

「俺には妻が…」

 

顔を逸らした瞬間、物凄い力で顔を持たれ、唇を合わせたパース

 

「この時代は、まだ坊っちゃんは未婚のはずです。スパイト様のお腹にハナクソもない時期です」

 

「言ってくれるな…」

 

「いつの間にか…私は抱かれる方になっていたのですね…坊っちゃんを背負っていたのが、つい先日の様なのに…」

 

パースは俺に頭を寄せる

 

「ごめんなさい…今はこうさせて下さい…」

 

何も言わず、パースの肩を抱く…

 

パースの甘い匂いに、いつの間にか俺もまぶたが落ちて行く…

 

 

 

坊っちゃんにブランケットを被せ、私は立ち上がる

 

ごめんなさい、坊っちゃん…

 

私には、やり残した事があるのです

 

二人の所からそっと離れ、別の焚き火に向かう…

 

一人の男が寝ているのを揺さぶって起こす

 

「何だ…」

 

私は無言のまま、笑顔で胸を両手で持つ

 

「おぉ…」

 

「あちらでどうですか…」

 

男を誘い、街の離れの崩壊した建物の裏に来た

 

「いいのかこんなっ…」

 

パースは背後から男の口を塞ぎ、左胸にナイフを突き立てていた

 

「老人の分際で…貴方が母を突き飛ばすから…」

 

「ゔっ…!!」

 

先程パンをいけしゃあしゃあと受け取っていた老人の男は、ここで歴史から消える

 

「食うにも足らない奴…」

 

汚したのは貴方だと言わんばかりに、男の服で血を拭い、カチン…と、ナイフが仕舞われる

 

 

 

次の日の朝、老人の一件は敵兵のせいにされた

 

どうやら元からあまり良い人間ではなかったらしい

 

「いいですか私」

 

「なぁにウェンディおねーしゃん??」

 

「じき、貴方を拾ってくれる人に出逢います」

 

「うん…」

 

小さなパースは不安そうにうつむく

 

「大丈夫…」

 

パースは小さなパースを抱き締める

 

「その人は貴方を実の娘の様に可愛がってくれます…」

 

「ウェンディおねーしゃん、どこかに行くの??」

 

パースは何も答える事が出来ず、ふと俺の方を見る

 

俺はパースの後ろで二人を見ていた

 

「リヒターお兄さんは好きですか??」

 

「うんっ!!リヒターおにーしゃんすき!!」

 

「ふふっ…私と同じ…私もリヒターお兄さんが大好きです。護って頂けますか??」

 

「なにを??」

 

「今は分からなくていいです…」

 

パースは小さなパースの頭を撫でる

 

 

 

あぁ、思い出した…

 

私、この日から坊っちゃんが好きだったんだ…

 

 

 

空襲から助けてくれて…

 

美味しいパンを焼いてくれて…

 

一緒に寝てくれて…

 

 

 

ごめんなさい…護られていたのは私の方なのに…

 

 

 

「帰ろう、ウェンディ」

 

「はい、坊っちゃん」

 

「まって!!おにーしゃん!!おねーしゃん!!」

 

帰ろうとした時、小さいパースが寄って来た

 

「ごめんなさい…貴方を連れて行けないの…」

 

「パースおいてかないで…」

 

パースも情が湧いてしまったのか、小さいパースを抱き締めた

 

俺も小さいパースを抱き締め、二人で小さいパースを慰める

 

「そうだパース。おまじないをしよっか」

 

「おまじない??」

 

「そっ」

 

俺は腰の後ろから、シースごとナイフを取り出した

 

「お兄さんがお友達から貰った宝物だ。いつかお兄さんに会ったら、返しに来てくれるかい??」

 

そっか…このナイフ、坊っちゃんから…

 

パースは思い出した

 

この使い古したナイフは、あの日未来から来た坊っちゃんから貰った物だと…

 

「それをどう使うかはパース次第だ。料理に使うのも、誰かを護るのも…なっ??」

 

最後にパースの頭を撫で、バットで地面を小突いた

 

「おにーしゃん!!おねーしゃん!!ありがとー!!」

 

俺もパースも、ちょっとだけ微笑みながら小さなパースに手を振る…

 

 

 

 

「父さん!!パースさん!!」

 

「ただいまっ」

 

「戻ったパースゥ!!」

 

元の時代に戻って来た

 

パースはいつものパースに戻っている

 

「んとびっくりしたぜ…」

 

「すまなかったな。俺はちょっとやる事があるから行って来るよ」

 

「いってらっしゃ~い!!」

 

俺が工廠から出た後を、パースはちょこちょこ着いて来た

 

俺がまず来たのは工廠の裏

 

事が終わったので一服したくなった

 

「坊っちゃん」

 

「疲れたか??」

 

パースは俺を見るなり、自身の腰の後ろを弄くり始めた

 

「お返しに参りました」

 

パースの手には、数十年前に彼女にあげたはずのナイフがシースごとあった

 

「やるよ」

 

「お返しする約束です」

 

「どれ…」

 

シースをパースに持って貰い、ナイフを引き抜く

 

随分と黒くなった刀身がすぐに目に入った

 

「これはアビサル・ケープで造った、深海の子達からの贈り物なんだ」

 

「その様な大切な物を…」

 

刀身を見た後、シースにナイフを仕舞う

 

「やるよ」

 

「ですが坊っちゃん」

 

「なら預かっていてくれ」

 

「畏まりました」

 

やると言うと受け取らず、預かってくれと言えば、パースは再び腰にシースを着けた

 

パースはどうしても聞きたかった事を俺に聞いた

 

「…母の最期はどうでしたか」

 

「美人な人だな、パースの母さんは」

 

「もう殆ど忘れていました…」

 

俺はパースに気付かれない様に時計を見た

 

「予定があるんだ。一緒に来るか??コーヒーを淹れて欲しい」

 

「はいっ、坊っちゃん!!」

 

パースと共に来たのは医務室の前

 

「ぼっちゃんも大変パース。いーっつもあくせく動いてるパース!!ささ!!どうぞパース!!」

 

パースがドアを開けてくれたので、先に中に入る

 

そしてすぐに足を止める

 

「パース」

 

「どうしたパースぼっちゃん??」

 

「親孝行って…良い響きだよな??」

 

「キツいですよ…坊っちゃん…」

 

本来のパースに戻ったのを背中で感じ、パースの方に振り返る

 

「悪かった。何かお詫びをしなきゃな…」

 

そう言って、そっと横に逸れた

 

「…パース??パースなの!?」

 

「お、おかっ…」

 

そこにいたのはパースの母親

 

「おかあしゃーーーん!!」

 

すぐに母親に走って行き、飛び付く様に抱き着く

 

「凄い凄い!!ぼっちゃんが助けてくれたパース!!」

 

「ごめんなさい…最初貴方と気付かなくて…」

 

「おかあしゃん、おかあしゃん…」

 

「マーカスさん、ありがとうございま…」

 

「ぼっちゃん??」

 

既に俺はそこにはいなかった

 

最初の親孝行の邪魔をしてはならないと思い、横に逸れたと同時に医務室を出ていた

 

「そういえば、マーカスさんがこれを…」

 

パースの母親には、手紙を渡して置いた

 

パースと共に、手紙を開ける…

 

 

 

パースへ

 

すまない。こうするしかなかった

 

君の母親は、過去で行方不明になっている

 

未来に連れてこれば、過去では同じ行方不明になる

 

君の未来を奪ってしまってすまない

 

 

 

 

"パメラへ"

 

パースは俺のベビーシッターです

 

俺は彼女にまだ恩を返していません

 

もし、これが最初の恩返しになるのなら、貴方に親孝行する事だと思い、未来に連れて来ました

 

こんな私が言うのもですが、どうかこれからパースと共に第二の人生を歩んで下さい

 

私はいつでも、貴方達の手助けをします

 

 

 

 

「そっかそっか!!パースは良い人に会ったのね??」

 

「うんっ!!ぼっちゃんはとーっても良い人パース!!」

 

パースは母親にたっぷり撫でて貰い、二人で医務室を出て来た

 

「んと美人さんだなぁ…」

 

たまたま外にいたのは朝霜

 

「アタイは朝霜!!マーカスの娘さぁ!!これ、父さんから!!」

 

「これは…」

 

パースの母親は、朝霜からドックタグを受け取った

 

「それ持ってっと、ここで暮らしてます〜って証明になんだ!!んじゃ!!後は母さんが説明すっから、今は楽しんでくんな!!」

 

ドックタグだけ渡すと、朝霜はそそくさと帰って行った

 

「行っちゃったわ…」

 

「おかーしゃん!!パースのお店見て欲しいパース!!」

 

「あらっ!!パースお店持ってるの??どれどれ〜??」

 

 

 

パースの母親は

 

"Pamela Victorious"

 

と打たれたドックタグを首から掛け、パースの後を追って行った…




ヴィクトリアス…パースママ

数十年前に行方不明になったはずのパースの母親

過去の世界ではそのままにしておくと行方不明になっていたが、そこを突いてマーカスが未来に連れて来た

未来に連れて来ても影響のない人なので、特に変わった事も無かった

当時の年齢のままの美人な顔で活発で良く笑うので、横須賀にいてもかなりモテる

普段はパースのピザ屋におり、ピザを焼いたりとパースと楽しく生活を送る



余談
怒ると"冷凍バラクーダ"なる物でぶん殴って来る

横須賀の繁華街には血気盛んな女性陣が多いが、ヴィクトリアスもその一人になってしまう日も近い


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315話 40年後の告白

314話に続き、もう1話タイムスリップのお話です

バットの話を聞き、リチャードは一つだけ後悔をしていると言います

果たしてその後悔とは…


パースの一件からしばらくした日…

 

「ほほ〜、これがそのタイムマシンか!!」

 

「ちょちょちょちょ!!あんまやっとすぐ飛ぶって!!」

 

リチャードは朝霜にコーヒーを淹れて貰いながら、改良途中のバットを手に取る

 

「私も一つ、後悔してるんだがな…」

 

リチャードは一瞬、バットの底を見て真剣な顔になった

 

「…戦争の最中に行くのはダメだぜ。色んな人の生き死にがあって、アタイ達は生かされてんだ」

 

「良い事言うじゃないか!!流石は私の孫だ!!がっはっはっは!!…ほれっ!!」

 

いつの間にか時間を合わせ、床を小突いたリチャード

 

「だーっ!!やっぱじゃねーか!!」

 

「クソデカエテ公の映画の公開日だよーん!!」

 

「ったく…事前告知があっただけマシか…」

 

朝霜は思い出した

 

この親子は一瞬たりとも目を離しちゃいかんって、母さんが言ってた…

 

 

 

「イダッ!!」

 

ざわつく街の中心に着いた

 

街の人間の服装が少し古い

 

「ホントに来たのか…??」

 

目の前には映画館がある

 

映画館の表にはデカいゴリラのポスター

 

朝霜に言った、クソデカエテ公の映画の封切り日だ

 

「どうもマジだな…こりゃあ…」

 

リチャードがどうしてもこの時代に来たかった理由はここにあった

 

映画が始まるまでまだ時間がある

 

「大人一枚だ」

 

チケットを買い、一旦その場を離れる

 

「さてと…おっ…」

 

リチャードの目に入ったのはレコードショップ

 

店頭のポスターには、女性二人のボーカルグループとロックバンドグループのポスターが貼ってある

 

どちらも新曲を出した、その販促だ

 

「…」

 

レコードショップに吸い込まれる様に入り、ポスターのレコードを探す

 

「私こっちが聞きたい!!」

 

「俺はこっちだ!!」

 

カップルがどちらのレコードを買うか、ちょっと揉めている

 

彼女は女性ボーカルグループの"ダンシング・プリンセス"

 

彼氏はロックバンドグループの"ホテル・グランドキャニオン"

 

私は二人に見つからない様、微笑ましい光景を時折眺める

 

「あったっ…」

 

2枚ともレコードを見付け、紙袋に入れてもらって外に出て来た

 

そろそろ映画の時間だ…

 

 

 

「ポップコーン、如何ですか??」

 

一番後ろの、真ん中の席に座ると、黒髪の女性にポップコーンを勧められた

 

「一つ貰おうか」

 

ポップコーンを手渡されると、女性は私の耳に口を近付けた

 

「お気を付けて…おじい様…」

 

「はっ…」

 

黒髪の女性は私の口を人差し指で止める

 

「ありがとう、ございました」

 

言わぬが吉の様だな…

 

電気がゆっくりと暗くなり、スクリーンに映画が投写される

 

「始まってる始まってる…」

 

「早く早く…」

 

私の前に、先程のカップルが座る

 

ポップコーン片手に一瞬だけカップルを見た後、少しだけ口を上に上げ、スクリーンに目を戻す

 

映画の最中、時折カップルの背中を見る

 

女性が男の肩に頭を寄せながら映画を見ては、時折男の横顔を覗き込む

 

映画を見ているのか、最愛の人を見ているのか分からぬまま、大きなゴリラはビルの上に登る

 

男はそのシーンを見て、目を輝かせる

 

スクリーンに目を戻すと、複葉戦闘機である"ヘルダイバー"が出演していた

 

それを見る男の目はまるで、空に思いを馳せる少年の様な目をしている

 

女性はその目を見るのが堪らなく好きなのだろう…

 

映画が終わり、私はポップコーンの容器をゴミ箱に捨て、紙袋を持ってカップルの後ろを着いて映画館を出た

 

「う〜ん…」

 

映画館を出た私は、タバコを吸いながら再びレコードショップのポスターを見る彼女を横目で見る

 

「次の給料日に買おっか。なっ??」

 

「そうしましょう!!私、お料理して待ってますから、時間を置いて来て下さいね??」

 

「ゲーセンにでも行って時間潰して来るよ!!」

 

彼女と彼氏は、真逆の道を行く

 

こちらに来たのは彼氏の方

 

「一緒にいた方がいいぞ」

 

「なんだよ…彼女が手料理作ってくれんだよ!!」

 

すれ違いざまについ、声を掛けてしまった

 

「そうか、すまなかった…」

 

彼氏はそのまま行ってしまった

 

何も分かっていないな…

 

いや…分かるはずなんざ、ないんだ…

 

これは"私の"後悔

 

"お前の"後悔じゃない

 

彼氏がゲーセンに入ったのを見て、私は走った

 

 

 

 

「よい、しょっ…」

 

小さい体で紙袋を抱える彼女が見えた

 

今から自宅で彼氏の為に手料理を振る舞うのだろう

 

…今から自分の身に、何が起こるかも知らずに

 

彼女は信号を待っている

 

信号が青に変わり、いざ横断歩道を渡ろうとした

 

「あっ…」

 

横断歩道を渡ろうとした寸前で、彼女を抱き寄せた

 

その瞬間、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来た

 

「ありがとうございます…えと…」

 

「何も言うな…お願いだ…」

 

「…」

 

「すまない…君の後ろに回るまで、40年も掛かった…」

 

「もう…さっきそこで別れたばっかりでしょ??大丈夫??」

 

「そうだな…そうだったな…」

 

彼女の頭に、二粒涙が落ちる

 

「振り返るな…この先の人生、前だけを見てくれ。お願いだ…」

 

「分かったわ…」

 

「愛してる…"ブレンダ"…」

 

「私もよ…」

 

彼女から手を離す

 

彼女はそのまま前を見て横断歩道を渡り、渡りきった後、先程の所を振り返る

 

そこにはもう、私はいなかった…

 

 

 

 

「よしっ…戻ったぞ!!」

 

「おかえり。映画は楽しめたか??」

 

戻った直後、マーカスがいた

 

未来は結局、代わり映えしないか…

 

「何買って来たんだよ。見せてくれ」

 

「やーだねー!!ちょっと用事があるからバイビー!!あ、マーカス!!」

 

「なんだ!?」

 

「朝霜に礼を言っといてくれ!!」

 

「分かった!!」

 

私は紙袋と共に、再び走る…

 

「おかえりなさいリチャード!!」

 

パイロット寮の玄関を掃いていたイントレピッドが迎えてくれた

 

「ただいま。リビングの蓄音器って、まだ使えたよな??」

 

「使えるわよ??レコードでも買ったの??」

 

「懐かしいの見つけてな!!」

 

「あんまりおっきな音出しちゃダメよ!!」

 

「分かってるって!!」

 

心臓が鼓動を速める…

 

生きていてこの鼓動を感じるのは…

 

後にも先にも、あの日と今日だけだ

 

手洗いうがいをし、冷たい水で顔を洗って鏡を見る

 

「しっかりしろ、リチャード…」

 

鏡の中の自分に言い聞かせ、リビングに向かう…

 

 

 

リビングの蓄音器にレコードをセットする

 

ポスターの女性ボーカルグループの曲が流れるまでに、キッチンに入る

 

"ダンシング・プリンセス"と言う、一世を風靡した曲が流れ始めると同時に、キッチンにいた女性を背後からゆっくり抱き締める…

 

抱き締めた瞬間、女性は肩を上げた

 

「本当に40年掛かりましたね…」

 

彼女はこの日が来るのを知っていたかの様に、おたまを置いて私の腕に手を重ね、愛おしそうに頭を置く

 

「すまない…遅刻してしまった…」

 

「ふふっ…やっぱり貴方だったのね…リチャード…」

 

「ブレンダ…許してくれ…」

 

「覚えてくれていたのですね…もう、忘れられたのかと思ってました…」

 

「忘れる訳ないさ…あの後君がいなくなって、私は荒れに荒れた。酒に溺れて罪を犯した…」

 

「振り返らないで…この先の人生は、前だけを見ていて下さい。お願いです」

 

あの日彼女に当てた言葉を、丸々返された

 

40年、互いに片時も忘れていなかった…

 

「踊りましょう!!リチャード!!」

 

「よしっ!!」

 

私は踊る

 

あの日に戻ったかの様に、リビングの空気が変わって行く…

 

私は20歳の時に…

 

彼女は"17歳"の時に…

 

 

 

その日の夜、私は彼女と一緒に自室であのでかいゴリラの映画を見た

 

あの日、私の前にいたカップルは私達自身

 

レコードショップの時も、映画の時も、私は過去の私の後ろで青春の影となっていた

 

映画が終わり、彼女は私の横で眠っていた

 

タオルケットを掛け、前髪をかき上げ、キスをする

 

「おやすみ…"フレッチャー"…」

 

私もその横で眠りについた…

 

その日、私達は夢を見た

 

あの日の続き…彼女の手料理を食べる夢だった…




ダンシング・プリンセス
一世を風靡した女性ボーカルグループの名曲

最近久方振りにアルバムを出した



ホテル・グランドキャニオン
ダンシング・プリンセスとほぼ同時期に流行ったロックバンドの曲

サビの入り方がメチャかっこいい


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316話 Even if you are reborn, beside you again… (Past Stranger Side)

ふと思い付いたので、もう一話タイムトラベルのお話を

周りの皆が過去を取り戻して行く最中、ある人物が過去を取り戻したくなります


「最近ヴィンセントの様子がおかしい??」

 

「そうなのよ。何かあったのかしら…」

 

ある日の夜のキッチンでイントレピッドが切り出したその言葉は、女であるからこそ分かった、小さな男の変化

 

リチャードから見たらヴィンセントの変化は特に無い

 

「リチャード、止めなくて良いから原因を調べて欲しいの」

 

「分かった。奴がいなくなると暇になるからな」

 

「何を話してたんだ??」

 

当の本人がコーヒー片手に前に座る

 

「ヴィンセントがイケメンになったなって思ってな!!」

 

「最近イキイキしてるわ!!」

 

「そうだろう!!そろそろアンチエイジングしないとな!!」

 

「でだ、ヴィンセント君。どれ!!」

 

リチャードは右手を三叉の槍の様な形にし、ヴィンセントの前に出す

 

「おやすみ、リチャード??」

 

ヴィンセントはリチャードの指を手で隠し、いつもの笑顔を見せ、執務室に戻った

 

「うーむ…」

 

「何か様子変わったでしょ??」

 

「いつも通りといえばいつも通りなんだがなぁ…」

 

イントレピッドの頼みな故、リチャードは断る事も出来ず、ヴィンセントの様子を伺う事にする

 

 

 

 

午前0時を知らせる時計が鳴る

 

ヴィンセントは仕事を終え、座ったまま伸びをする

 

そして、何かを見た後立ち上がり、何処かへ向かう…

 

その顔はいつもの凛々しいヴィンセントの顔ではなかった

 

イントレピッドが言っていた予感は当たっていたのだ

 

 

 

 

ヴィンセントは工廠に来た

 

ジュラルミンのケースを開け、ため息を吐き、手を合わせた後、何かを握る

 

カリカリ…と、何かを回す音がする

 

しばらくするとその音が止まり、また先程の様な顔を見せる

 

そして、ヴィンセントの姿は消えてしまう

 

が、数十秒後には戻って来た

 

楽しいのか、悲しいのか…

 

どちらも混ざった様な、優しい顔をしていた…

 

 

 

 

 

ヴィンセントは時折夜中に居なくなり、同じ様な事を繰り返した

 

帰って来た時に目を閉じ、深く息を吐く時もあれば

 

目の周りを赤くして帰って来る時もあった

 

「ね…ヴィンセント泣いてなかった??」

 

「奴にも抱えるモンが多いかんな…」

 

それは次第に、私生活にも少しだけ影響が出始める

 

イントレピッドが気付いた様に、次の日の朝まで目を赤くしていたり

 

執務が終わって、誰かが声を掛けるまでボーッとする事が増えた

 

「びんせんとさ」

 

執務室でボーッとしていると、ワシントンが遊びに来た

 

「あぁ…ワシントンか‼遊びに来たのかい??」

 

「おさんぽっぽ、いこ」

 

「よし!!行こう行こう‼」

 

ヴィンセントがワシントンに連れられて外に出た

 

「良かった‼ワシントンが連れ出してくれて‼」

 

「ははっ、奴も子供には負けるさっ!!」

 

食事を食べる場所で煙草を吸いながら新聞を見ていたリチャードは、ヴィンセントが一瞬見せた横顔から目を離さなかった…

 

 

 

 

「美味いか??」

 

「おいすぃ」

 

ヴィンセントとワシントンは間宮に行き、チーズバーガープレートを頬張る

 

親子の様な光景を周りに見せながら、ワシントンはヴィンセントの前で口の周りを汚しながら美味しそうにチーズバーガーを頬張る

 

「ぽてぃと」

 

「覚えたのか??」

 

「ぽてぃと、ちーずばがー」

 

「ふふっ…」

 

ワシントンがいつもの様に少し笑うと、ヴィンセントは優しい顔を見せる

 

そのヴィンセントの姿は"何かをやり直している"様にも見えた

 

間宮を出て、ヴィンセントはワシントンを執務室に送る 

 

「びんせんとさ」

 

「どうした??」

 

「だっこ」

 

「よしよし…よいしょっ‼」

 

すっかり治った抱っこの仕方で、ワシントンを抱き上げる

 

それと同時に、ヴィンセントはワシントンの前髪をかき上げ、額に軽く唇を当てる

 

ワシントンはご飯を食べて眠たくなったのか、抱っこされてすぐにヴィンセントの胸に頭を置いて眠ってしまった

 

ワシントンを抱っこしたまま、執務室のドアをノックする

 

「ヴィンセント・マクレガーです」

 

「どうぞ、開いてます」

 

ヴィンセントが執務室に入る

 

「あらワシントン!!ごめんなさい!!」

 

「本そこまで起きていたのですが…一緒に散歩して疲れたのでしょう…」

 

「そうでしたか…ワシントン、起きて」

 

「ん…まみ〜」

 

ワシントンはヴィンセントの手から横須賀の手に移る

 

その時のヴィンセントの顔を、そこに居た朝霜は見逃さなかった…

 

 

 

 

その日、ヴィンセントは珍しく午前0時になっても工廠に行かずにいた

 

執務室の椅子で煙草を吹かしながら天井を見つめ、時折何かを見てはまた天井を見つめる

 

「ヴィンセント!!たまにはお夜食しましょ‼」

 

「差し入れしに来てやったぞ!!」

 

「あぁっ…ありがとうっ!!」

 

ヴィンセントはすぐに姿勢を直し、長机の所に来た

 

イントレピッドが持って来てくれたポテトとオレンジジュースを三人で摘む

 

「…」

 

「…やっぱおかしいな」

 

「…ボーッとしてるわ」

 

「聞こえてるぞ」

 

「あ!!嫌だヴィンセント!!そういう事ね!?」

 

「心配して損したぞ!!」

 

いつもの冷静なヴィンセントに戻っていた

 

リチャードとイントレピッドはヴィンセントの左右に座り直し、ポテトを頬張る

 

「…なぁ」

 

「ん??」

 

「ろうひた??」

 

「私は疲れてるのか??」

 

ヴィンセントのまさかの問い掛けに、二人は口を開ける

 

「そ、そうよヴィンセント‼ずっと頑張って来たもの‼疲れてるのよきっと‼」

 

「どうしたんだお前らしくない!!」

 

すると、ヴィンセントは急にポロポロと涙を流し始めた

 

「お、おい…」

 

「ヴィンセント…??」

 

「駄目だ…分かってるんだ…でも、もう…」

 

「よしよし!!」

 

「よく頑張ったっ!!なっ⁉」

 

イントレピッドもリチャードも、ガッシリとヴィンセントに抱き着き、背中を擦る

 

「うっ…ぐっうっ…」

 

こんなに弱ったヴィンセントは、二人でも初めての事

 

きっと、何かあったに違いない

 

イントレピッドの予感は当たっていた

 

イントレピッド"の"予感は…

 

 

 

 

次の日、ヴィンセントは休憩

 

朝早くからヴィンセントはいない

 

イントレピッドとリチャードは、何とか解決策を探そうとしていた

 

「やっぱり疲れちゃったのかしら…」

 

「…なんとなくだが」

 

「ん??」

 

「なんとなくだが…奴は何かやり直そうとしてるんじゃないか??」

 

「おじいちゃん!!」

 

「おぉ!!朝霜!!朝飯食ったか!?」

 

二人で話していると朝霜が来た

 

「何の話してんだ!!」

 

「リチャード。隠し事は良くないわ」

 

「…最近、ヴィンセントの様子が変なんだ」

 

「それはアタイも思った」

 

朝霜がそう言うと、二人は目線を朝霜に向ける

 

「その…なんてんだ??大した事じゃないな〜とは思うんだけどさ??ワシントンを抱っこしてて、母さんに返したんだ。その時、ほんの一瞬見せたヴィンセントさんの顔…いつもの堅気なヴィンセントじゃなかった」

 

「やっぱりな…」

 

3人の予感は一致する

 

昨日、二人にしか見せてはいないが、あれ程の涙を流したのには訳があるのだろう

 

「…それで何だけどさ??」

 

「うん??」

 

「アタイの予想だけで言っちゃ悪いんだけどさ…今日ここに来たのは、誰かタイムマシンいじってないかなって…」

 

リチャードの顔が本気のリチャードに戻る

 

「飛んだのか、奴も」

 

「あぁ。それもここ何日かずっとだ。一定の場所と時間に間隔を開けて飛んでる」

 

「何かヒントがあるかも知れない。朝霜、一緒に行ってくれるか??一つ気になる事がある」

 

「その気になる事を言ったらいいぜ‼」

 

「朝からヴィンセントがいない。つまりだ…奴は…」

 

リチャードの言葉を聞き、朝霜は青ざめた

 

「いいい行くぜ‼」

 

「すまん、長旅になりそうだ‼」

 

「リチャード‼」

 

イントレピッドの呼び掛けに、リチャードは振り返る

 

「いいリチャード??貴方が帰る場所はここよ??ちゃんと帰って来るの。いい??」

 

「分かった。行って来る、ここは任せたぞイントレ」

 

「アサシモちゃん‼リチャードをお願いね‼」

 

「あかった‼」

 

リチャードと朝霜は工廠に走る…

 

 

 

「開けんぜ…」

 

タイムマシンバットが入っているジュラルミンのケースを開ける…

 

「やっぱりだ…」

 

そこにバットは無かった

 

代わりに、名前のない置き手紙が一枚

 

 

 

"1960年、7月

 

私は大きな間違いを犯してしまった

 

皆を見て、羨ましくなってしまった

 

私の人生で最初で最後のワガママを、どうか放っておいて欲しい

 

そっとしておいてくれ"

 

 

 

 

「…」

 

手紙を読むリチャードの顔を、朝霜は下から覗く様に見る

 

その顔は怒る訳では決してなく、何処か悲しげな顔をしている

 

心を許した親友から出た最初で最後のワガママを、リチャードはどうして良いか分からないでいた

 

「…行こう」

 

「あぁ‼」

 

リチャードは内ポケットに手紙を仕舞い、朝霜が持って来たスペアのタイムマシンバットで床を小突いた…

 

一つだけ、確かな事がある

 

それは、現代にヴィンセントが帰って来ていない事

 

タイムトラベルは向こうでどれだけ過ごしても、飛んで来た時間に合わせれば元の時間に戻れるからだ

 

それなのに、ヴィンセントは帰って来ていない

 

その事実は、ヴィンセントが"未来を捨てた"と、リチャードと朝霜だけが分かった…



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316話 Even if you are reborn, beside you again… (Wander Stranger Side)

ヴィンセントの、最初で最期のワガママ


「よいしょっ…」

 

「よっ、と」

 

タイムトラベルにも慣れた二人

 

着地にも慣れて来た

 

「どこだここは‼」

 

「…ユニオンスクエアだ」

 

リチャードの地元から少し離れた街に降りた

 

この街の何処かにヴィンセントがいるはずだ

 

「マズい…何の手掛かりもない…」

 

リチャード自身、何度もここに来た事があるが、ここには身内がいない

 

つまり、手掛りがない

 

「片っ端から行くっきゃねーだろ‼」

 

「…そうだなっ‼」

 

リチャードはリチャードで、朝霜の背中を見て思う

 

誰かを救おうとする意志は、息子譲りなのだ、と…

 

 

 

 

「どこいんだ~‼」

 

「ったく…」

 

本通りから外れた住宅街まで来た

 

この街はかなり広い

 

もしかすると、たまたまここに来ただけで、ヴィンセントは違う所にいるのではないかと疑い始める

 

「ま…待て朝霜…ちょっと休憩だ…」

 

「そ、そだな…」

 

これだけ動き回れば流石に喉も乾く

 

手押し車タイプの露店でジュースを2本買い、近くの公園のベンチで休む

 

「…ぷは‼綺麗な公園だな‼」

 

二人がいたのは緑溢れる公園

 

辺りには家族連れやカップルが大勢いる

 

「カップルも家族も、ここで憩いの時間を過ごすんだ」

 

「未来にはあんのか??」

 

「どうだろう…このままとは行かないだろうが、残ってはいるだろうな…」

 

今、目の前の光景は、リチャード曰くアメリカの絶頂期の姿

 

人も街も経済も活気に溢れていた時代

 

今のアメリカも大好きなリチャードだが、やっぱりちょっと昔のアメリカが好きだと朝霜に語る

 

そんな時代だからこそ、ヴィンセントはこの時代、この街に何かを忘れていったのだ…と

 

「おっしゃ行くか‼」

 

「よしっ、行こう‼」

 

ジュースの瓶を捨て、ヴィンセントの捜索に戻る

 

朝霜とリチャードの捜索は夕方まで続いた

 

「ダメだ…見つかんないな…」

 

先程の公園に戻り、芝生の上で二人大の字になる

 

「腹も減ったな…どうだ朝霜、この辺で一旦そこのレストランで飯でも」

 

「名案だな‼」

 

立ち上がろうとした時、何処からかうっすらとレコードが流れて来た

 

距離が空いているのか音は小さいが、リチャードの青春時代の曲だ

 

「…朝霜」

 

「なんだ??」

 

リチャードの目線が、一つの家の窓際に集中する

 

「あっ‼」

 

窓際で女性と踊るヴィンセントがいた

 

「近付くぞ…静かにな…」

 

「あかった…」

 

ヴィンセントがいる家に、こっそりと近付く…

 

 

 

 

「…」

 

「あぁっ…」

 

家に近付き、ヴィンセントの表情が見えた

 

朝霜はため息を吐き、リチャードは真剣な顔でヴィンセントを見つめる…

 

「あんな穏やかな顔をしたアイツ…初めて見た…」

 

「よっぽど嬉しいんだろな…んで、どうす…」

 

朝霜も初めて見た

 

普段明るく振る舞っている印象しかない自分の祖父が、声もなく、ただ涙を流している姿を…

 

「アタイが行って…」

 

朝霜が動こうとした体を、リチャードは手を前に出して止める

 

「…なぁ、朝霜」

 

「ん…」

 

「…」

 

涙で震えた声を出すのを堪えているのか、リチャードは一瞬黙った後、言った

 

「…放って置いてやろう」

 

「ななな何いってんだ…」

 

「奴が…ヴィンセントが"還る場所"は、元からここだったんだ…」

 

朝霜はヴィンセントと女性を見直す

 

愛おしそうに女性を抱き締め、ホッとした顔をするヴィンセント

 

それに答えるかのように、顔を近付けて甘える女性

 

それを見て"あぁ…なんて美しい恋愛なのだろう…"と、朝霜も胸を締め付けられ、祖父と同じ様に涙を零す

 

「疲れたんだよ…ヴィンセントは。戦いに、疲れたんだ…もう休ませてやろう…」

 

「うぅっ…」

 

「歴史はまた動き出す。違うか??」

 

「そうっ…だけどっ、さっ…」

 

リチャードは無言で朝霜の頭を撫でる

 

「誰も咎めちゃならん…アイツの…最初で最期のワガママだ」

 

「…うんっ」

 

リチャード以上に泣いてしまった朝霜を、何とか宥めて、いざ現代に戻ろうとバットを出した

 

 

 

 

 

「嬉しいわヴィンセント…」

 

「私もだ…」

 

互いに穏やかな顔をし、ダンスは続く…

 

ヴィンセントがここに来て、もうどれだけ経ったのかも分からない

 

長い時間が経ったのかもしれない…

 

もしかすると、たった数時間なのかもしれない…

 

でも…ここに来て良かった…

 

時間なんて、どうでも良かった

 

彼女といれば、それだけで幸せだった…

 

ずっと一緒にいたい…

 

そうだ、居ればいいんだ…

 

もうずっと、ここに…

 

「ヴィンセント、お友達みたいよ??」

 

「いいんだ…もう…」

 

「そっかっ…」

 

何もかもを失い、そして今、何もかもを捨てた男

 

そして、それを全て拾い上げ、一人の男の止り木となった女

 

リチャードの言った通り、誰も咎めてはならない愛が、カーテンの向こうで揺れる…

 

「ヴィンセント…未来の私達は結婚してるの??」

 

「…何も言わないでくれ」

 

「んっ…」

 

「そうだ、プレゼントのペンダントがあるんだ…」

 

「結婚したら受け取ってあげるわ??」

 

「…それもそうだな」

 

「あら…ちょっと眠たくなって来たわ…」

 

「今日は休もう…」

 

ヴィンセントは女性を抱き上げ、ベッドへと降ろす

 

「おやすみなさい…ヴィンセント…また踊ってね…」

 

「勿論さ」

 

「愛してるわ…ヴィンセント…」

 

「私もだよ…ずっと、この先もずっと…」

 

女性の前髪をかき上げ、額にキスをする…

 

彼女の手に数度頬擦りをし、寝顔を見た後、手離した…

 

 

 

 

ヴィンセントは物悲しそうに、家を出て来た

 

「いいのか、お前はそれで…」

 

木陰で後ろ姿のリチャードが待っていた

 

「これでいい…楽しかったよ…」

 

「お前を置いて帰る道もあった」

 

「いいんだ…酷い事をしたんだ…あの日、帰って来たら彼女はいなかった…病気でな…」

 

「…お前の本来の人生だ。今引き返すなら、私は止めない。背中を押す」

 

「ありがとう…充分だ…」

 

「帰ればまた、戦いの最中だ」

 

「この時代も同じだ…ベトナムで戦争があった」

 

「お前の為に泣くのは…これで最後にしてくれ…」

 

「分かった…ありがとう、待っていてくれて」

 

「泣くな。また来ればいい。誰も来れないなんて言ってないだろ。いつだって、辛くなれば戻ればいい。その時は、俺が見送ってやる」

 

「…そうだなっ‼」

 

リチャードは木陰からバットを持った手を出す

 

「お前の手で、俺も帰らせてくれ。道を見失ったからな」

 

「操舵手はいつも私かっ…」

 

「そういう事だ」

 

「ふっ…了解っ」

 

ヴィンセントはバットを持つ

 

時代を現代に合わせ、いざ帰ろうとした

 

「ヴィンセント!!」

 

「待て‼」

 

リチャードがすぐにタイムドライブを止める

 

彼女が走って来たと同時に、ヴィンセントに飛び付くように抱き着く

 

「ありがとう‼ありがとうヴィンセント…とっても楽しかったよ…」

 

「すまない…すまないすまないすまない!!」

 

互いに想い切り抱き締め合う

 

こんなに涙を流して…

 

こんなに叫ぶ親友を初めて見た…

 

あぁ…そうか…お前、人生をここに置いてきたんだな…

 

「ヴィンセント…生まれ変わっても、また貴方の傍に行くわ…」

 

「私も必ず行く…その時にペンダントを渡すよ‼受け取ってくれるか!?」

 

「えぇ‼忘れないわ‼死んでも忘れない‼」

 

彼女に抱かれながら…

 

一人の男は、幸せなまま、未来へと戻る…

 

「ありがとうっ…私の最愛の人…さようならっ…」

 

 

 

 

 

ヴィンセントは彼女を抱いた状態の姿勢のまま、現代に戻って来た

 

「ありがとう…何もかもが夢のようだったよ…」

 

「2つ程、聞いていいか??」

 

先に戻っていたリチャードが淹れたコーヒーを受け取り、それを口にしながら、工廠の冷めた椅子に座る…

 

「何だ??」

 

「お前は罪を犯してない。大丈夫だ」

 

「…黙っててくれるのか??」

 

「いかんせんっ、人間って生き物は隠し事が多いらしい。俺も…お前もな??」

 

いつものリチャードらしく、冗談をほのめかす語りでヴィンセントに"全てを話すな"と言う

 

「すまん…」

 

「もう一つ、聞いていいか??」

 

ヴィンセントはリチャードの方を向き直す

 

「お前が今流してる涙…拭けるのはガンビアさんじゃないな??」

 

ヴィンセントはしばらく時間を開けた後、無言で、ほんの小さく数度頷いた

 

「良かったな。行ったのが口の固い私と朝霜で」

 

「ヴィンセント‼おかえりなさい!!来て‼今日はみんなでパーティーよ‼」

 

「ほら行くぞ‼みんなお前の帰りを待ってたんだ‼」

 

リチャードが差し伸べた手を"いつもの様に"受け取るヴィンセント

 

「行こう‼」

 

「んーっ、男の顔に戻った‼」

 

パイロット寮の前でバーベキューをしているのがパーティー会場

 

「おかえりなさいヴィンセント‼」

 

「おかえり、ヴィンセント‼」

 

「おかえり、パパ‼」

 

「…ただいま戻りました‼」

 

「さ‼食べましょ‼」

 

ジェミニ、ガンビア、アレンに迎えられ、ヴィンセントは会場に足を踏み入れる

 

ヴィンセントはガンビアに抱き着かれ、嬉しそうに背中をポンポンと叩き、皆の輪に入る

 

「お疲れさんだな、おじいちゃん」

 

「これで良かったんだろうか…」

 

「どうだろな…」

 

「びんせんとさ」

 

ワシントンがヴィンセントの所へとバーベキューを持って来た

 

その様子を、リチャードと朝霜は嬉しそうに見つめる…

 

「はい。わしんとんやいた」

 

「おっ‼ありがとうワシント…」

 

2つ持っていた串を一つヴィンセントに渡した後のワシントンの行動で、ヴィンセントの時間が止まる…

 

朝霜は開いた口が塞がらずにいたが、リチャードは何かを察して、傍観者の一人でいる事にした

 

ワシントンが、ヴィンセントの目元に残っていた涙を親指で拭ったのだ

 

それは、ガンビアでさえ分からなかった、小さな小さな涙の一滴…

 

その行動が、全ての答えだった

 

「ただいま、ワシントン…」

 

「おかえり、びんせんとさ」

 

ヴィンセントはワシントンをギュッと抱き締める…

 

そしてワシントンもまた、ヴィンセントをギュッと抱き締める…

 

誰も咎めてはならない愛が、今度はバーベキューの煙の向こうで揺れていた…

 

「こっからまた始まんのかな??」

 

「年の差婚って、いい響きじゃないか??」

 

「開き過…いんや‼野暮だなっ‼」

 

「うーむ、流石は私の孫‼物分りが早い‼」

 

たった3人しか知らない、幻の様な恋模様

 

あの日、カーテンの向こうで踊っていた"銀色の髪"

 

その物語の続きが、また始まろうとしていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数年前…

 

「後はDNAのベースがあれば素体が出来上がる…」

 

「これではダメか」

 

「ヴィンセント中将…これは…毛髪ですか??」

 

「恋人の毛髪だ。ここからDNAのベースは採取出来ないか」

 

「か、畏まりました‼」

 

………

 

……

 

 

「素体が構築されたぞ‼」

 

「…」

 

「ヴィンセント中将‼ありがとうございました‼」

 

「いいんだ…私は…罪を犯したな…」

 

「名前はどうします??」

 

「"ワシントン"だ」

 

「ワシントン…良い名前です!!」

 

「彼女の出身地だ…」

 

「ヴィンセント。その子を頼んだぞ」

 

「はっ、レクター元帥」

 

「リチャードではなく、貴様に懐くといいな??」

 

「彼女が答えてくれるのを待ちます」

 

「それは??」

 

「いつか…彼女が大きくなったらプレゼントしようかと」

 

「ん、良いペンダントだ」



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317話 取り残された遺産

長い時間が開いてしまい、申し訳ございません

昨今の事情を鑑みて、本来書くべきお話をかなり書き直していました

根幹から書き直していたので、かなり時間を要しています

小説なんだから気にせず書けば良いんじゃないか??と言われてしまえばそれっきりですが、自分の理に反するので書き直していました

その代わり、今回のお話は榛名が出ます 笑

それと、1話丸々貼って欲しいなぁとのご意見がありましたので、しばらくお試しで1話丸々貼るの試してみようと思っています


加賀の一件から数日後…

 

今日は涼平と共に第三居住区に来ている

 

「お米、ですか⁇」

 

「そうだ。嫌ならいい」

 

少し前にここを奪還しに来ていた、あの融通の効かない艦長が、俺と涼平がイカを焼いている時に来た

 

「あ‼︎櫻井さんと峯雲さんに聞いて見ましょうか‼︎自分は農業はからっきしな物で…あはは…」

 

「貴様にも弱点はあるのだな…」

 

そうは言う艦長だが、涼平が笑うと共に口角を上げている

 

「隊長、少しだけ離れますね‼︎」

 

「頼んだぞ‼︎」

 

涼平が連絡を取りに向かうと、艦長が此方を向いた

 

「あの基地を潰したそうだな」

 

「人質を取られたんだ。取り返しただけさ」

 

「…一度しか言わないぞ」

 

彼はため息を吐いた

 

俺はそれを受け、イカを焼きながら聞く

 

「あそこは、セイレーン・システムの開発研究所だ」

 

「…なんだと」

 

「私の話を信じるか信じないかはあんた次第だ。だが、もし信じてくれるのならば、もう一度念入りに調べた方がいい」

 

「ありがとう」

 

艦長は一瞬驚いた顔をした後、少し微笑む

 

「…あの子は部下か⁇」

 

「そっ。優秀な部下さ。本当はずっとここに居させて、平和な事をさせてやりたい」

 

艦長は涼平を見ている

 

「…あんたを信じよう」

 

「おっ…」

 

胸ポケットから折り畳んだ紙を出し、俺の前に出した

 

「私が言った事にはしないでくれ。私が落とした紙を“拾った”それだけだ」

 

「助かる…どれ…」

 

艦長が渡したのは、旧海上自衛隊基地内部の地図

 

「セイレーン・システムが開発されていたのは二人。恐らくカプセルの中だ。あんたなら、開けられるだろ⁇」

 

「いいのか⁇こんな重要書類を…」

 

「いいか…」

 

艦長は俺の肩を掴む

 

「私は今からコシヒカリ農家の“横井”だ」

 

「よし、分かった…」

 

俺はその書類を胸ポケットに仕舞い、戻って来た涼平と共に三人でイカを食べる

 

その時は気付かなかったが、横井の背後で戦艦棲鬼姉妹、そしてシュリさんが睨みを利かせていた…

 

「分かったわ」

 

横須賀に戻り“拾った”横井の書類を横須賀に見せる

 

内部は現状調査が続いているが、どうも秘匿された区画があるらしい

 

「一旦スカイラグーンで補給をしてから向かって頂戴。一人で大丈夫⁇」

 

「何かあればすぐに無線を入れるさ」

 

調査に必要な最低限の道具だけアタッシュケースに入れ、とりあえずはスカイラグーンを目指す…

 

《ホント、アンタって暇の無い男ねぇ⁇》

 

スカイラグーンへ向かう道中、急に無線が入る

 

「ヘラか。どうした⁇手伝ってくれるのか⁇」

 

《やぁよ。アタシはアタシで忙しいもの。どっかの誰かさんが拾った地図を把握しないとね。データ、受け取っていいかしら》

 

「すまない、助かる」

 

《まっ、精々頑張んなさい。電子ドアくらいならまた遠隔で開けたげるわ。じゃあね》

 

今来た無線は叢雲なのかヘラなのか

 

今日はグリフォンに俺以外は乗っていない

 

きそはアトランタの相手を、ゴーヤとはっちゃんはヨナとちょっとしたお勉強

 

そしてヘラは多分基地にいる

 

そうこうしている間にスカイラグーンに着き、燃料の補給が終わる少しの間、タバコと飲み物を頂く…

 

「あ‼︎マーカスさんニム‼︎」

 

「オメェまた任務ダズルか⁇」

 

喫茶ルームには、遠征終わりの榛名とニムが補給を受けていた

 

「そっ。今からこの間の基地の調査だ」

 

「何か大変そうニム。一人ニム⁇」

 

「手隙が俺しかいないんだ。ま、すぐに終わるといいんだがなぁ…」

 

「しゃーねーダズルなぁ。どれ、一丁護衛に着いてやるダズル‼︎」

 

「ニムも行くニム‼︎」

 

「いいのか⁇」

 

「晩御飯の担当はリシュリューダズル。さ、どこダズル⁇」

 

榛名とニムに地図を見せ、海図には無い場所に丸を付ける

 

「大体分かったダズル。んじゃ、先に行って待ってるダズル‼︎」

 

「お先に行くニム〜‼︎」

 

強力な護衛を手に入れ、俺も秘匿基地に急ぐ…

 

「よし、着いた…」

 

秘匿基地に着き、一度呼吸を整えた後、キャノピーを開け、グリフォンから降りる

 

「大尉、お疲れ様です‼︎」

 

秘匿基地は横須賀が言った通り、既に横須賀や大湊の人員による調査が進められ始めている

 

「榛名とニムは⁇」

 

「あちらに」

 

「二人共、ありがとうな⁇」

 

「今聞いたダズル。人の命が掛かってんなら、尚更ダズル」

 

「さ‼︎探検開始ニム‼︎」

 

「あぁそうだ。高速艇の手配を頼む」

 

「了解しました‼︎」

 

俺達は入り口から基地に入る…

 

中は調査中とはいえ薄暗く、疎らに作業している人員がいるだけ

 

アタッシュケースを左手に持ち、右手で一応ピストルを構える

 

俺の背後で榛名はいつものハンマー

 

ニムは何故かゴルフクラブを持っている

 

「造って貰ったのか⁇」

 

「四番アイアンニム。ニムも打撃武器欲しかったニム」

 

そこでふと気付く

 

ひとみといよもそうだが、ニムも何処からとも無く武器を取り出す

 

ひとみといよに至っては、右向いて左向いたらもう魚雷を握っている時がある

 

たまに気になるが、あの原理は何なのだろうか…

 

《レイ君、秘匿基地にいるのかい⁇》

 

今度はタブレットに大淀博士からの連絡が入る

 

「フィアンセダズルな」

 

「美人さんニム」

 

「そうだ。セイレーン・システムの回収だ」

 

《奴等、まだそんな非人道的実験をしてたのかね…》

 

「ひとみといよが強過ぎたダズルか⁇」

 

《あの二人で終わるはずだったんだ…子供を放り込むのは、大淀さんも見るに耐えない…》

 

大淀博士はセイレーン・システム自体は昔から知ってはいるが、ずっと反対している

 

それでも尚、ひとみといよが懐くと言う事は大淀博士は二人が嫌いな訳では無い

 

「博士、ここがセイレーン・システムの開発研究所ってのは本当か⁇」

 

《さっき地図を受け取って今スキャニングをしてるんだけど、間違いはなさそうだね。いいかいレイ君、榛名ちゃんニムちゃん。セイレーン・システムは二心一対、二つで一つなんだ》

 

「つまり簡単な話、ヤベェと思ったら引き剥がせばいいんダズルな⁇」

 

《そゆこと‼︎ひとみちゃんといよちゃんみたいに、力を正義に使ってくれるといいんだけどねぇ…いかんせん、自衛隊の産み出したものだ、良くも悪くも、君達次第なのかもね⁇その辺はレイ君の方が知ってるんじゃないかな‼︎》

 

榛名とニムの視線を感じる…

 

視線を受け、少し微笑む

 

「難しい問題じゃない。抱き締めてやればいい。それだけさっ」

 

《榛名ちゃん、ニムちゃん。大淀さんがレイ君好きなの、今ので分かったかい⁇》

 

「ずっと知ってるダズルよ」

 

「最初からずっと優しい人ニム‼︎」

 

《今ヘラちゃんがここにいるんだ‼︎進行ルートの電子ドアは先んじて開けて行ってくれるよ‼︎》

 

「すまない、助かる」

 

《何かあったらすぐに言ってね‼︎》

 

無線が切れ、俺達は目的の区画を目指す…

 

「大淀の言う通り、ひとみといよは良い子ちゃんダズル」

 

「この前お料理してたニム‼︎」

 

二人のお褒めの言葉を受け、その場が少し和む

 

「ここだ…」

 

明らかに様子が違う電子ドアの前に来た

 

《レイ君、その先にセイレーン・システムの反応がある。そのドアはコッチからじゃ開けられないんだ…物理的なカードキーか何かないかい⁇》

 

「物理的に開けりゃいいんダズルな⁇」

 

一旦ハンマーを置き、舌を出して腕を回し“待ってましたダズル‼︎”と言わんばかりにハンマーを握り直す榛名

 

「ニム、おいで」

 

「ニム」

 

「うおりゃ‼︎」

 

ニムを軽く抱き寄せた後、榛名は一撃でドアを粉砕した

 

「やはり暴力ダズルな、うんうん」

 

「助かったよ。ちょっと見張りを頼んでいいか⁇」

 

「こっから先は榛名はからっきしダズル。ニム、ちょっと中で色々頂戴するダズル‼︎」

 

「またそんな事言ってニム…」

 

俺に続いて榛名が中に入り、ニムが後に続く…

 

「あった…」

 

カプセル自体はすぐに見つかった

 

セイレーン・システムと言われていた様に、カプセルは二つあり、それぞれに赤ちゃんが入っている

 

「マーカスさん、これいるニム⁇」

 

ニムが持っていたのは、今正にカプセルに入っている二人の情報が書かれた資料

 

「ありがとう。どれ…」

 

ニムから資料を貰い、内容を見る

 

“TS-01及びPS-203について”

 

TSとは、テスト中のシステムを指す

 

PSとは、テストを終え試作段階のシステムを指す

 

TS-01はセイレーン・システムのテスト中であり、現在知識教育を施している最中

 

髪色が茶髪の方がTS-01

 

テストが終了次第、TS-01は“行動制御識別側”になる予定

 

知識教育をしている最中ではあるが、TS-01は私達を親と認識していない可能性が高い

 

自己防衛なのか捕食活動が活発で、研究員三人が怪我をしている

 

赤子の見た目をしているが、捕食活動が活発な為か、ごく僅かではあるが二次性徴が見られる

 

「捕食ニム…⁇」

 

「食われるって事だ…」

 

「なんか地球外生命体みたいな言われようダズルな」

 

いつの間にか榛名も目を通してくれており、次の資料に移る

 

PS-203はプロトタイプのセイレーンシステムを指す

 

此方は“火器制御側”になる予定

 

TS-01と共に知識教育を進めているが、感情抑制が上手く働いておらず、表だって表情が分かり辛い

 

また、言語機能も着底しておらず、同じく感情が読み辛い

 

電子制御型速射砲実験において、命中しなかったもののセイレーンシステムによる遠隔砲撃を行う

 

テスト完了後は両者共に速やかにカプセルに投入し、行動を抑制する事

 

また、知識教育時のみ行動抑制を解除出来るものとする

 

「まだ赤ちゃんだぞ…」

 

「…お父様とは大違いね」

 

突然ニムが元の人格に戻り、目付きが変わる

 

俺を見て、優しい目をしている…

 

「大丈夫ニム‼︎ニムが面倒見てあげるニム‼︎」

 

ニムはいつものニムに戻り、カプセルの中と俺の顔を交互に見る

 

「よしっ‼︎榛名‼︎手伝ってくれ‼︎」

 

「おっひゃ‼︎まかひぇるらるる‼︎」

 

口をモゴモゴしながら榛名はカプセルの前に来た

 

「…何食ってんだ⁇」

 

「何食べてるニム⁇」

 

榛名は二、三回咀嚼した後、口の中の物を飲み込んだ

 

「あれダズル‼︎」

 

榛名の目線の先には缶詰がある

 

「赤飯の缶詰ダズルな。まぁまぁだったダズル‼︎」

 

「まぁいい。受け止められるか⁇」

 

「受け止める位しかしてやれないダズル」

 

「ギュってしてあげるニム‼︎」

 

「それだけで充分さ‼︎」

 

少しの間、近くのPCを操作する…

 

「お。起きたダズル‼︎」

 

「ガン見してるニム‼︎」

 

二人の嬉しそうな顔を横目で見ながら操作を続ける…

 

「よし、出来た‼︎三つ数えたら出すからな‼︎」

 

「バッチコイダズル‼︎」

 

「準備万端ニム‼︎」

 

「3、2、1‼︎」

 

カプセルの中を取り出すボタンを押す

 

「そっちか‼︎」

 

「あらぁー‼︎どーこ行くんダズル‼︎」

 

「転がって来たニム‼︎」

 

正面から出て来ると思っていた二人は、蓋が開いた途端、思っていたより下の方から出て来た

 

二人は前転するかの様にコロコロ転がり、二人の股下を潜り、少ししたら止まった

 

「ははは‼︎おめめグルグルダズルな‼︎」

 

榛名は軽く首を回して目が回っている茶髪の子の方を抱き上げた

 

「痛かったニム‼︎よしよし‼︎」

 

ニムは水色の髪色をした子を抱き上げる

 

「あは‼︎笑ったダズル‼︎」

 

茶髪の子は目が回り終えるとすぐに榛名を認識し、笑顔を見せた

 

「いでででニム‼︎」

 

水色の髪色の子は無表情だがニムの顔を見ると頬を引っ張り始めた

 

「よし、長居は無用だ。先に上に戻っててくれ」

 

「オメェはどうするダズル」

 

「こいつにお礼を言わなきゃ」

 

俺の背後には、自衛隊が造ったカプセルがある

 

「そうダズルな。ニム、先に上がるダズル」

 

「すぐ来てニム‼︎」

 

四人が先に上に上がり、カプセルに目を戻す

 

「すまない…こんな筈じゃなかったよな…」

 

カプセルに詫びを入れながら、爆弾を設置する

 

二度とここから…ここで生命が産み出されない様に…

 

エレベーターに入り、地上に戻る時にスイッチを押す

 

エレベーターの外でしっかりと爆発音が聞こえた

 

「…」

 

上に上がる時に、ニムから渡された資料を見る

 

「なるほど…そういう訳かっ…」

 

アタッシュケースに資料を入れ、榛名達の所に戻る…

 

「詫びは入れたダズルか⁇」

 

「あぁ。ありがとうな⁇」

 

「気にするこたぁねぇダズル」

 

そうは言いつつ大淀に言われた通り、ちゃんと二人を引き剥がしている榛名とニム

 

「しっかしこの子はさっきからずっと笑ってるな⁇」

 

「外に出たのが嬉しいんダズル‼︎」

 

榛名に抱っこされたTS-01は、カプセルから出てからずっと笑っている

 

笑っているのが標準なのか…⁇

 

「おっ…」

 

「いい子ちゃんダズル‼︎」

 

そうは思いつつ、頬を人差し指で撫でると更に笑った

 

笑っているので間違いは無いみたいだ

 

「今日からお外だぞ〜⁇イデェ‼︎」

 

資料に書いてあった事も忘れ、早速TS-01の捕食行動の餌食になる

 

「こ、これか…捕食行動って…」

 

「満面の笑みで噛んでたダズル‼︎」

 

「さぁ、もうここに用は無い事を祈ろう」

 

「この子達どうするダズル⁇」

 

「先に第三居住区に連れて行きたいんだ。会わせたい奴がいる」

 

「よっしゃ‼︎ニム‼︎第三居住区行くダズル‼︎」

 

「分かったニム‼︎」

 

待っていた高速艇に二人が乗り、俺はグリフォンで第三居住区に向かう

 

今の所、あの二人が暴走する事はなさそうだ

 

仮に暴走したとしても、彼女達を抱っこしている二人が止めてくれる

 

《マーカス様、今どちらに⁇》

 

今度ははっちゃんが通信をくれる

 

「今から第三居住区に向かう所さ。ヨナはどうだ⁇」

 

《とても情報の飲み込みが早いです。今日は色んな食べ物を三人で学びました》

 

「よし、帰ったら聞かせてくれ。一つ仕事を頼んでいいか⁇」

 

《なんなりと‼︎今ここにはプロフェッショナルが三人もいます‼︎》

 

急にはっちゃんのテンションが上がる

 

「横須賀に届いてるんだが、TS-01とPS-203の栄養補給方法を調べて欲しいんだ」

 

《畏まりました。TS-01は柔らかい固形物なら可能、PS-203は流動食です》

 

「早いな…」

 

《まぁ大体創造主が聞くだろうと思ってたでち》

 

《流動食って何ですか⁇》

 

ゴーヤの声が聞こえてすぐ、ヨナの声が聞こえた

 

《流動食ってのは、ドロッとしたご飯の事でち。ヨナナスがそんな感じでちな‼︎》

 

《「おぉー」》

 

俺とはっちゃんが同じリアクションを取る

 

三人と会話しながら、第三居住区へと向かう…

 

「よし、着いた」

 

第三居住区に降り、榛名とニムが着くのを待つ

 

「あんたも忙しい男だな…」

 

「戦争以外なら何だって飛んで行くさ」

 

埠頭で待っていると、隣に横井が来た

 

手に持った二つある缶ジュースを一つ手渡され、それを飲みつつ二人を待つ

 

「すまない。夕食の準備がある」

 

「ありがとうな」

 

「…あんたの口からありがとうと出るとはな」

 

「経歴を見させて貰った」

 

横井は戻ろうとしたが、それを聞いて足を止め、振り返った

 

「人の過去は見るものじゃない」

 

「アンタ、ここしばらく発砲していないな」

 

「見間違いじゃないのか」

 

「いいや、見間違いじゃない。ある日を境に、アンタは発砲を止めてる」

 

「ほう。いつからだ⁇」

 

「自分がよく分かってるんじゃないのか⁇」

 

そう言って、横井の目線から外れる

 

「…」

 

横井は持っていた缶ジュースを落とす

 

「榛名、ニム」

 

「分かったダズル」

 

「分かったニム」

 

榛名とニムに二人を渡され、横井はすぐに二人を抱き締める

 

「良かった…」

 

「はは〜ん⁇これで分かったダズル‼︎」

 

「何がニム⁇」

 

榛名が目線を赤ちゃん二人に向ける

 

ニムが見たのは、自分達に抱き上げられていた時より笑顔になるTS-01

 

そして、横井の顔をずっと見ているPS-203

 

「お腹空いたか⁇ははは、よしよし…私が作ってやろうな」

 

横井は二人を抱っこしたまま、居住区の中へと向かう

 

榛名とニムも横井の背後を着いて行く

 

俺は五人に背を向けたまま、タバコを吸って一息つける

 

今、あの三人に必要なのはあの赤ちゃん二人だ

 

横井が発砲を止めたのは、あの赤ちゃん二人に会って以降だ

 

何か思う所があったのだろう

 

そして榛名とニムは、吹雪で出来た穴を、あの二人で埋めようとしている

 

そこに俺は必要ない

 

何かあれば、手助けしてやればいいだけだ…

 

「もうすぐ出来るからな〜」

 

横井がキッチンに立ち、何かを作っている

 

TS-01は余程お腹が減っているのか、榛名達の所におらず、料理を作っている横井のズボンの裾を満面の笑みで齧っている

 

「捕食行動ってあれニム⁇」

 

「マーカスも噛み付かれてたダズル」

 

TS-01のそれは、格好良く言えば捕食行動

 

優しい言い方をすれば、噛み癖だ

 

「よ〜し、出来た‼︎」

 

「おっ」

 

「あ」

 

榛名とニムの近くにいたPS-203が反応を見せた

 

先程からびっくりする位大人しくしていた彼女だが、横井が持って来たご飯に対して急に動き始めた

 

まるで普段からそうしているかの様に、横井は足にTS-01を付けた状態でちゃぶ台まで来た

 

「鮭のほぐした奴の雑炊だ」

 

「へぇ、美味そうダズルな‼︎」

 

「…」

 

ニムはこの時、二人が“こういう物を食べている”としっかり記憶していた

 

いつの間にかTS-01は横井の横に座っており、PS-203も、ずっと鍋の方を見ている

 

「PS-203をお願いしてもいいか」

 

「分かったダズル」

 

「さ‼︎ご飯ニム‼︎」

 

榛名が雑炊をよそい、ニムがPS-203に前掛けを着ける

 

「二人共、まだ自力では食べられないと思う。あそこでは、誰も教えなかったからな」

 

「どれ…」

 

榛名がスプーンをPS-203に渡すも、ちょっと見ただけで、すぐに雑炊が入った鍋に視線を戻す

 

「あ〜んダズル」

 

榛名が言うと、PS-203はちょっとだけ口を開ける

 

美味しいのか、美味しくないのか、PS-203の表情からは分からない

 

ただ、横井の手から食べているTS-01を見るとバクバク食べているので、きっと美味しいのだろう

 

「美味いか⁇」

 

横井の問いに、TS-01は変わらず満面の笑みを返す

 

横井はTS-01に食べさせながら、話をし始める…

 

「あの日、私はこの子達を見たんだ」

 

「攻撃をやめる前ダズルか」

 

「あの日私は“こんな子達”に頼る様ではこの戦いは負けると思ったんだ。痛い‼︎違うんだ‼︎悪口じゃないさ‼︎」

 

「なはははは‼︎噛まれとるダズル‼︎」

 

まるで気付いたかの様に、横井の指に喰らい付くニコニコ顔のTS-01

 

榛名達の横では雑炊が一瞬寄越されなくなったPS-203がいるが、非常に大人しく待っている

 

「あ。そうダズル。TS-01とか、PS-203とかみたいな呼び方ダメダズルな」

 

「言われてみればそうだな…そうだ、助けてくれたんだ。君達が付けてあげてくれないか」

 

「この子は“フミーちゃん”にするニム‼︎」

 

「フミー、か。可愛い名前だな」

 

「今日からフミーちゃんニム‼︎」

 

元PS-203は、自分の事をフミーだと分かったのか、これ以降フミーと呼ばれるとちゃんと反応する様になる

 

問題はTS-01

 

未だに雑炊をバクバク美味しそうに食べている

 

「んじゃオメェは“白露”ダズル」

 

「白露⁇」

 

榛名のネーミングセンスは、パッと決めた様に思えていつもかなりしっかりしている

 

「白いご飯粒いっぱい頬っぺたに付けて食べる子は頑丈に育つんダズル。それと、白露は雨露みたいにまん丸な顔してるダズル。きっと美人になるダズル」

 

「良かったな、白露」

 

元TS-01、白露は多分分かっていない

 

言われても満面の笑みで横井の雑炊をよそったレンゲを自身の方に向けているからだ

 

「マーカスは何処に行ったんだ⁇何も礼を言っていない」

 

「二人の登録に行ったニム」

 

「なーんで分かるんダズル」

 

「3、2、1…」

 

ニムが急に数を数えると、榛名のタブレットが震えた

 

「何ダズル」

 

《榛名か‼︎今横須賀で二人の登録をしてるんだがな‼︎》

 

榛名は通話を続けながら、ニムを見る

 

ニムは白露と良く似た満面の笑みを榛名に送る

 

《二人の名前が決まったら、俺か横須賀に言ってくれないか⁉︎それで登録が終わる‼︎》

 

「決まったダズル‼︎オメェを噛んだ方が白露‼︎大人しい方がフミーダズル‼︎」

 

《そうか‼︎良い名前だ‼︎また意味を聞かせてくれ‼︎》

 

「今度会ったら聞かせてやるダズル‼︎」

 

《ありがとうな、三人共》

 

「いつだって飛んでくニム‼︎」

 

「ぶっ壊すなら呼んで欲しいダズル‼︎」

 

「…ありがとう、マーカス」

 

横井もここでようやく礼を言えた

 

《横井の口からその言葉を聴けるとはな‼︎じゃあな‼︎》

 

マーカスとの通話が終わる

 

「オメェなーんで分かったダズル」

 

「マーカスさんがしそうな事ニム」

 

「…彼は、いつもあぁなのか⁇」

 

「マーカスは困った奴がいたら、何処にだって来てくれる奴ダズル」

 

「後お医者さんニム‼︎」

 

二人のマーカスの話はしばらくの間尽きる事は無かった…



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318話 フミーの栄養補給日誌

前回のお話に引き続き、白露とフミーのお話です

バックバク食べる白露とは正反対で、ほとんど物を食べないフミー

フミーが食べない原因とは…


あれから数週間後…

 

「お勉強の時間ダズルな‼︎」

 

単冠湾に配属になった二人は、榛名達とお勉強の時間

 

リシュリューの膝の上には白露が

 

ニムの膝の上にはフミーがいる

 

「世界最強超絶美人艦娘は誰ダズル⁇」

 

「初っ端から難しいわね…」

 

「フミーちゃんは誰だと思うニム⁇」

 

フミーは真顔でニムの顔を見た後、榛名を指差す

 

「そう‼︎偉いダズル‼︎」

 

「白露は誰だと思…ンフッ‼︎」

 

リシュリューが笑う

 

白露は満面の笑みで自分を指差していた‼︎

 

「ゼッテー白露ツエー子になるダズルな…」

 

続いて榛名は、空き缶を二人の前に置く

 

「元気の出るジュースはどっちダズル⁇」

 

空き缶はジュースとどう見てもビールの空き缶

 

「榛名さん、見られてるわ⁇」

 

「榛名の元気の出るジュースニム‼︎」

 

二人が瞬時に指差したのはビールの空き缶

 

「こいつはマズイダズルな…あ‼︎榛名の好きなのはどっちダズル‼︎」

 

榛名が二人の前に置いたのは、くまのぬいぐるみとタバコの空箱

 

白露は満面の笑みで

 

フミーは真顔で

 

瞬時にタバコの空箱を指差す

 

「榛名、ヤバいニム‼︎見られてるニム‼︎」

 

「二人の好きな物〜、なのに、榛名の好きな物ね⁇」

 

「い、いやぁ〜…本日より行動を改めにゃならんダズルな‼︎」

 

ビールは夜に二人が寝た時に何度か飲んだが、タバコだけは吸っていないはずの榛名

 

だが、二人には何故か筒抜け

 

「ご飯できましたよ〜」

 

HAGYが朝ご飯を持って来てくれた

 

白露はリシュリューに抱っこされ、ご飯の席に

 

フミーはニムに抱っこされ、同じ様なご飯の席に座る

 

HAGY特製の離乳食が置かれ、白露の目線は早速それに行く

 

「あ〜んっ‼︎」

 

リシュリューにスプーンを口に入れて貰い、バクバク食べる白露

 

しかし…

 

「美味しいニムよ⁇」

 

フミーは口を一文字にし、全く食べようとしない

 

「美味しいダズル‼︎」

 

榛名が食べて見せるが、一瞬榛名を見るだけでやっぱり食べない

 

「まだここに慣れてないのかな…」

 

ワンコも心配になる

 

フミーは中々ご飯を食べない

 

白露は心配は無い

 

「リシュリューの指はご飯じゃ無いわ‼︎」

 

離乳食が無くなったら、満面の笑みでリシュリューの指を齧っている

 

問題はフミーだ…

 

その日の昼…

 

「マーカスおじさん、ありがと」

 

今日はアトランタを連れてパースピザに来た

 

「ママと来たら、ママすっごい食べるの」

 

「貴子さんは良く食べて良く動いてるからな…その分栄養が必要なんだ」

 

「ぼっちゃん‼︎アトランタちゃん‼︎パースピザパース‼︎」

 

「「ありがとう」」

 

俺はSのピザを一枚

 

アトランタはLのピザを二枚

 

「これはサービスのリンゴのシュワシュワパース‼︎」

 

「ありがと」

 

「パースのシュワシュワは美味しいんだぞ⁇」

 

アトランタは早速リンゴのシュワシュワを飲む

 

「ホントだ。美味しい」

 

「あ、マーカスさん‼︎」

 

「おぉワンコ‼︎悪いな、デート中だ‼︎」

 

「ダメだよ。ワンコさん用事」

 

ピザをモゴモゴしつつ、アトランタは俺をワンコの方に向ける

 

「ならちょっとだけ…」

 

アトランタが見える範囲の席に移動し、ワンコと話す事になる

 

「すみません、デート中に…」

 

「どうしたんだ⁇」

 

「実は、フミーが全然ご飯を食べなくて…」

 

それを聞いて、真面目な顔に切り替える

 

「そいつは話が別だな。いつから食べてない」

 

「ずっとです。三人が何とか口に入れているのですが…」

 

「こんな所で話すのも何だが、ちゃんと食ったら出てるか⁇」

 

「はい。それは三人が確認しています。でも、一食でスプーン三杯食べたら、もう食べないんです…」

 

「分かった。半日程待ってくれ」

 

すぐに席を立ち、アトランタの所に行こうとした

 

「あの‼︎自分が言うのも何ですが、デートは⁉︎」

 

「子供の事だ。アトランタも納得してくれ…」

 

「そう。あたしより他の女を優先するんだ」

 

全てを聞いていたアトランタ

 

「い、いや〜…その〜、アトランタさん…」

 

アトランタは少し笑って返す

 

「いいよ。でも、また近い内に連れて来てね」

 

「アトランタはこれからどうするんだ⁇」

 

「時間まで駄菓子屋にでもいる。ママには言っておくから。頑張ってね」

 

一気に大人らしくなったアトランタ

 

おちょくり方も貴子さんに似て来ている

 

「…これでアトランタにシバかれたらお前の所為だからな」

 

「じ、自分が受けますぅ…」

 

アトランタはご存知の通り、貴子さんの血を色濃く受け継いでいる

 

気迫もそろそろ同じ様になってきた…

 

ワンコは横須賀で買い物を済ませ、一旦単冠湾に戻った

 

俺は横須賀の工廠と研究室を行き来する

 

「おや。飲み物の開発かい⁇」

 

本棚の資料を見ていると、ヒョッコリ顔を見せてくれた大淀博士

 

俺が見ているたった一ページで何を作ろうとしているか把握した

 

「そっ。赤ちゃんでも飲めて、栄養取れる奴をな…俺の作った経口摂取型の修復剤じゃちょっとキツ過ぎてな…」

 

経口摂取型の修復剤なら、既に完成している

 

あれは赤ちゃんでも栄養を補給出来るが、赤ちゃんが摂取し過ぎると栄養過多になり易い

 

どうにかして、もう少し栄養価を下げれれば良いが…

 

「赤ちゃんねぇ…あ、そうだ‼︎」

 

大淀博士は一旦別の本棚に行き、別の資料を持って来た

 

「これ、大淀博士が経口摂取用に作った資料なんだけど、レイ君が作ったのが高性能だからオジャンになったんだ」

 

大淀博士から資料を受け取り、中を見る

 

「手伝ってくれないか⁇」

 

「勿論‼︎」

 

大淀博士と原材料を集めに向かう…

 

原材料とは言え、普通にスーぴゃ〜マーケットで手に入る

 

「よしっ‼︎とりあえずこれでオッケー‼︎」

 

カートに置かれたカゴには、野菜やら普通は料理に入れるスパイスが入っている

 

「後は一つだな」

 

「ここが問題だね…」

 

スーぴゃ〜マーケットで買った原材料から成分を抽出するのは大淀博士がやってくれる

 

問題は“その母体になる水分”が市販製品では合わない事

 

理由は簡単。何らかの添加物が入っているからだ

 

「大淀さんは成分の抽出をしてるから、レイ君は水分を探してくれるかい⁇」

 

「分かった。ありがとな⁇」

 

「レイ君の為ならいつだって‼︎」

 

大淀博士と別れ、母体である水分を探し始める…

 

添加物が入っていない水分か…

 

横須賀には確かに飲み物が多いが、それら全てが市販製品か、フミーの口には合いそうに無い物

 

コーヒーなんて飲ませたら成分的に危ない

 

炭酸系は赤ちゃんには少々キツイ

 

となると…

 

「ぼっちゃん⁇」

 

必然的に足が向かっていたのはパースの所

 

「パース。炭酸の無いジュースあるか⁇」

 

「いっぱいあるパース‼︎」

 

パースの背後にある大型冷蔵庫から、ジュースが入った容器が幾つも出て来た

 

「ブドウのジュース、オレンジのジュース、リンゴのジュース、後はぼっちゃんが望むなら“生搾り”するパース‼︎」

 

そう、パースの作るジュースは無添加

 

不純物も無く、果肉が入っていたりとかなり評判が良いのに安い

 

「リンゴのジュース、リッターでくれるか‼︎」

 

「あ、ならこれがあるパース‼︎」

 

パースは冷蔵庫からもう一個容器を出してくれた

 

その中にはリンゴのジュースが一リットル程入っている

 

「幾らだ⁇」

 

「ぼっちゃんにプレゼントするパース‼︎」

 

「…今度、みんなを連れて食べに来る」

 

「んふふ‼︎いつでも待ってるパース‼︎」

 

ここはパースに甘えよう

 

有り難くパースからリンゴジュースを頂戴し、店を後にする

 

「坊ちゃん。このパースは、坊ちゃんがお困りの際いつでもお手を貸しますよ」

 

「この成分配合はこうして…あ、ビタミンを補う為にこれを…」

 

研究室では、大淀博士が成分調整を始めていた

 

「良いのが手に入った‼︎」

 

「なるほど‼︎パースちゃんのジュースならピッタシだ‼︎」

 

小一時間もすれば、試作品が完成

 

ちょっと俺達で飲んでみることにした

 

「美味い‼︎」

 

「これなら行けそうだ‼︎」

 

早速哺乳瓶に入れ、夕方にまた横須賀に来るワンコを待つ…

 

夕方…

 

「大淀さん、今日は第三居住区で夜ご飯を食べるんだ‼︎」

 

「ありがとな、忙しいのに」

 

「ん〜ん。平和の為に動いてるレイ君見てる方が、大淀さん好きなんだ‼︎じゃね〜‼︎」

 

大淀博士は高速艇に乗り、第三居住区へと向かう

 

大淀博士を見送った後、ワンコとの待ち合わせ場所である間宮に来た

 

ワンコはまだ来ていない

 

「おい‼︎」

 

「は、はい‼︎」

 

「アイスミルクとアイスココアを寄越すんダズル‼︎」

 

「はい‼︎直ちに‼︎」

 

カウンター席に榛名とニムがいた

 

「白露は元気か⁇」

 

「おーマーカス‼︎白露はバクバク食うんダズル‼︎」

 

「フミーが食べないニム…」

 

フミーのお付きは大体ニムがしているのか、ニムはちょっと落ち込み気味

 

「んなぁに気にする事はねぇダズル‼︎」

 

「ニムゥ…」

 

榛名がニムの頭を撫でたり、背中を摩る

 

「マーカスさん‼︎お待たせしました‼︎」

 

ニムに何か言おうとした時、フミーを抱いたワンコが到着したので、俺達は席をテーブルに移す

 

「俺はアイスコーヒーにするけど、ワンコはどうする⁇」

 

「自分も同じので‼︎」

 

伊良湖にアイスコーヒー二つを頼み、本題に入る

 

「もしかしたら、フミーはまだ離乳食を食べれないかも知れないんだ」

 

「横井の雑炊は食ってたダズル」

 

「普段もちょっとは食べるニム」

 

「そこでだ。とりあえずはこれを準備した」

 

クーラーボックスから、大淀博士と作った経口摂取用の栄養剤が入った哺乳瓶を出し、ワンコに渡す

 

「ほらフミー、ご飯だよ〜」

 

ワンコがフミーの口元に哺乳瓶を近付ける…

 

「あは‼︎」

 

「やったニム‼︎」

 

フミーはチゥチゥと音を立てながら、哺乳瓶の中に入った栄養剤を飲む

 

「やっぱり…フミーは本来”母乳”で育ってる段か…」

 

何故今の今まで気付かなかった…

 

しまった、盲点だった…

 

「どうしたんダズル⁇」

 

「母乳だ…何で今まで気付かなかった‼︎母乳だ‼︎母乳が答えか‼︎」

 

「た、大尉…店内であまり母乳母乳叫ばれますと…」

 

「す、すまん…ありがとう」

 

間宮がそれぞれの飲み物を持って来てくれたタイミングで、母乳母乳と連呼したらしい

 

「おい‼︎」

 

「わ、私は出ません‼︎未婚です‼︎」

 

榛名の「おい‼︎」で気付く間宮も大概だな…

 

「しかし、母乳…ですか」

 

「ここに来てレアアイテムニム‼︎」

 

母乳が“出そうな”艦娘はいるが、実際出せるとなると手の平もいるのかどうか…

 

「とりあえず出そうな奴を当たろう」

 

その問題は、案外簡単に終わる事になる…

 

「横須賀」

 

「なぁに⁇」

 

「母乳出るか⁇へぶっ‼︎」

 

執務室で吹っ飛ぶ俺

 

横須賀は顔を真っ赤にして、俺にこれでもかと渾身のビンタを机の向こうから当てた

 

「さんめーとる」

 

「な、何聞いてんのよ‼︎アンタそんな性癖あった⁉︎」

 

「違う‼︎俺の聞き方が悪かった‼︎」

 

俺の吹っ飛んだ距離を図っているワシントンを撫でながら、事の事情を説明する

 

「なるほどね…最初からそう言いなさいよ」

 

「まぁ俺が飲みたいのもあるからな」

 

「あーそう‼︎ならレイは赤ちゃんな訳ね‼︎ママでちゅよ〜‼︎ん〜、よちよち‼︎」

 

横須賀が背伸びして頭を撫でて来た

 

「…ちょっといいな。じゃない‼︎とにかく、フミーを連れて来る‼︎」

 

執務室を出てすぐの所でワンコに抱っこされていたフミーはすぐに横須賀の胸元に行く

 

「榛名、ニム、来なさい。男衆は出る‼︎」

 

執務室を追い出され、フミーが母乳を飲み終わるまで待つ

 

「母乳とは気付かなかったな…いやぁ参った参った…」

 

「中々出る方いませんものね…」

 

「こう、なんだ。景気良くドバーッ‼︎と出る子はいないもんかな…」

 

「それこそおっぱいソムリエみたいな方が居ないと…」

 

「…いる」

 

そう、俺達には最強のおっぱいソムリエがいる

 

その人なら、誰が母乳が出るか把握しているかも知れない

 

「とりあえず、今日は横須賀に泊まれ。俺はちょっとおっぱいソムリエに享受して貰いに行く」

 

「い、いるんですか⁉︎」

 

「まぁ見てな‼︎」

 

ワンコを横須賀に置き、そのままグリフォンで飛び立つ…

 

「ただいま‼︎」

 

「おかえりなさい、マーカス君‼︎もうすぐお夕飯よ⁇」

 

貴子さんに迎えて貰い、そのおっぱいソムリエに会いに行く

 

そのおっぱいソムリエはテレビの前にいた

 

「たいほう‼︎」

 

「おかえりすてぃんぐれい‼︎」

 

そう、たいほう

 

たいほうは大人顔負けのおっぱいソムリエ

 

たいほうなら誰が母乳が出るか分かるかも知れない

 

「たいほう。頼みがあるんだ」

 

「たいほうに⁇」

 

たいほうにも事の事情を説明する…

 

「あら、マーカス君。たいほうとおっぱいのお話⁇」

 

ご飯の準備をしながら、貴子さんが俺達の話を聞いていた

 

「そうなんだ。一人赤ちゃんを保護して、その子がまだ母乳を飲んでて…」

 

「なら私も出るから、何かあったら言ってね⁇」

 

「ありがとう‼︎」

 

「おっぱいがでるひとはね、らばうるのあたごさん、ねるそんさん、がんびーさん」

 

たいほうはすぐに答えを出した

 

「くれのぽーらさんとじゅんよーさんはだめだよ。おさけのんでるから」

 

それを一人一人書き留めて行く…

 

「とらっくのまなちゃん、おおみなとのかしまさんと、ぼす」

 

「まだいそうか⁇」

 

「すぱいとさんとママとよこすかさん」

 

「横須賀にはいそうか⁇」

 

「たいげーさん、ひゅうがさん、りっとりおさん」

 

「結構いるもんだな…」

 

「さらとがさんと、いんとれさんはでないよ。でそうだけどね」

 

たいほうはずっと真顔

 

真剣に考えてくれてる

 

「ありがとな、たいほう‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

ワンコが行きやすい範疇を考えると、やはり横須賀で探すべきなのか…

 

いや、それとも今後の事を考えて皆に頭を下げるべきなのか…

 

夕食を終え、タバコを咥えて自室で一人で考える

 

「マーカス、私よ」

 

「開いてるよ」

 

母さんが来たのでタバコの火を消す

 

「母乳で悩んでるみたいね⁇」

 

「まぁな…果たして皆が聞いてくれるかどうかだ…」

 

「ふふっ‼︎」

 

急に母さんが笑い出す

 

「母乳の事を考えるなんて変態だってか⁇」

 

「オーヨドンが言ってたわ⁇マーカスが真剣に悩む横顔、世界で一番好きなんだって‼︎」

 

「真剣に悩んでるからな…」

 

「私も好きよ‼︎マーカスの真剣な横顔‼︎」

 

「ありがとう」

 

「それに、こうも言ってたわ⁇その顔をしたマーカスに、絶対間違いは無いって」

 

「大淀と話すのか⁇」

 

「えぇ‼︎ジェミニもオーヨドンも、マーカスが好きだって良く分かるわ‼︎」

 

意外だな…

 

母さんは大淀博士とあまり接点が無いと思っていたからだ

 

「大丈夫よマーカス。オーヨドンの言った通りになるわ⁇」

 

「レイ、ちょっといいか⁇」

 

「開いてる」

 

次に入って来たのは隊長

 

「おっとすまん。家族の時間か…」

 

「気にしないでくれ。相談に乗って貰ってたんだ」

 

「手短に言う。さっきたいほうから聞いて、今リットリオに連絡を取ってみたんだが、協力してくれるそうだ」

 

「ホントか‼︎」

 

「兄さんが祖国に反旗を翻さないなら、だと…」

 

「ナポリタンは封印だな⁇」

 

「私が作るわ‼︎Thank you、ウィリアム‼︎」

 

「普段こう言った事はマーカスに任せっきりだ…すまんな、動かしてばかりで」

 

「こっちの方が好きなんだ‼︎好きでやってるから気にしないでくれ‼︎よしっ、後は明日、横須賀でも一応聞いてみるか‼︎」

 

次の日…

 

「兄さんから聞きました。私で良ければいつでも‼︎兄さんが反旗を翻さない内は‼︎」

 

「そうか。てっきり大尉が飲むのかと。そういう事なら喜んで協力しよう」

 

「それは大変ですね…分かりました‼︎大鯨で良ければいつでもお声掛け下さい‼︎」

 

横須賀の母親達はスッと理解してくれた

 

後はワンコの所と頻繁に関係があるとすれば大湊とラバウルだ

 

まずはラバウルに連絡を取った

 

本来なら自分の足を運んで頭を下げるべきなのだが、いかんせん今日は忙し過ぎる

 

その旨を伝えた上で、ラバウルの母親達に頼む

 

《いいわよ〜‼︎いつでも言ってね‼︎》

 

《赤子か‼︎うむっ‼︎なら協力せねばならん、んなっ‼︎》

 

《私も頑張るね‼︎》

 

ラバウルの母親達にも許可が取れた

 

思っていたよりスムーズに行けている

 

やはり普段の行いが良いからだな

 

後は大湊…

 

大湊はワンコの所に物資やら資源を搬入する為、関わりが深い

 

俺は大湊へと飛ぶ…

 

「レイ‼︎いらっしゃい‼︎」

 

「いらっしゃいマーカス‼︎ゆっくりして行って下さい‼︎」

 

執務室には棚町と鹿島がいた

 

横須賀の時の失態を繰り返さないよう、まずは事の説明に入る

 

「実は単冠湾に赤ちゃんがいるんだが…その、まだ母乳で育つ過程なんだ」

 

「それは協力せねば。鹿島」

 

「はいっ‼︎レイ、どうしましょうか‼︎」

 

「時々でいい。その…真空パックか何かを横須賀から送る。それに入れて大湊に配達して欲しいんだ。勿論謝礼はする‼︎」

 

「タンカーで輸送して大丈夫ですかね…」

 

「こっちが頼んでるんだ。配達位はやらせてくれ」

 

「分かりました‼︎しかしマーカス。貴方も大変な人ですね…」

 

「戦争よりは遥かに楽さっ」

 

「いつでもここに来て下さい。お待ちしていますから」

 

「ありがとう」

 

後はボスの所に行って終わりだ

 

執務室を出ると、今日は鹿島が来ないのに気が付く

 

鹿島はこう言った時に絶対邪魔をしない

 

俺がまだ行く所があると察してくれたのだろう…

 

ボスの居場所はすぐに分かった

 

「おやマーカス」

 

「忙しいか⁇」

 

ボスは厨房で運良く一息つけている最中

 

「とりあえず一日はこれで持つかい⁇」

 

ボスの手には、真空パックに保存された母乳があった

 

「もう聞いてたか…」

 

「来て貰ったのに悪いねぇ‼︎昨日横須賀に物資の輸送をした時にジェミニから聞いてね‼︎しっかしマーカスも大変だ、赤ちゃんの為に戦闘機で飛び回るとは…」

 

「俺に出来るのはこれ位しか無い。病気やら怪我ならすぐに治してやれるんだが…」

 

「アンタみたいな父親が、もっと世にはびこる事を願うねぇ」

 

「ふふっ…俺は父親じゃないさ。とにかく、ありがたく頂戴するよ」

 

真空パックを貰い、いざ厨房から離れようとした

 

「アンタは立派な父親だよ、マーカス‼︎赤ちゃんの母乳の為に、どんな世界にでも飛んで行く奴は立派な父親さぁ‼︎」

 

「…ありがとう、ボス‼︎」

 

後はトラックだな…

 

「赤ちゃんが…マーカスさんもお盛んですねぇ⁇」

 

「そうなんだ。それで、協力をして欲しいんだ」

 

「良いですよぉ〜‼︎蒼龍ので良ければいつだって‼︎」

 

「マーカス。何なら、私が離乳食を作ってパックしましょうか⁇」

 

トラックさんも話に入る

 

「助かる‼︎もう一人は途轍もなく食うんだ‼︎お礼は必ずする‼︎」

 

「勿論‼︎食事の事ならいつだって‼︎」

 

これで母乳と離乳食が手に入った

 

数日後…

 

「これ‼︎榛名の手は食いもんじゃねーダズル‼︎白露はピラニアダズルか‼︎」

 

「これすっごい美味しいリュ‼︎」

 

「良い子良い子ニム‼︎」

 

単冠湾はようやく落ち着いた

 

相変わらず白露はバクバク食べているが、トラックさんの離乳食が来てから更に拍車が掛かっている

 

フミーも母乳と栄養剤を交互に飲む様になった

 

「いでっ‼︎今はこれでおしまいニム‼︎」

 

フミーは余程母乳や栄養剤が美味しいのか、それとも白露の様にピラニアの素質があるのか、終わりと分かるともう少しとニムの腕の肉を摘んでせびる様になっている

 

「こりゃしばらく大変ダズルな‼︎」

 

「白露⁇食べたらダイエットリュ‼︎」

 

「フミーも運動ニム‼︎」

 

白露とフミーをカーペットの上に置き、三人は距離を取る

 

「イッチニーダズル‼︎」

 

「頑張れリュー‼︎」

 

「ヨチヨチニム‼︎」

 

三人の母親達は、二人の子供をハイハイで手元に向かわせる

 

ワンコはその光景を見て、安堵の溜息吐き、少し微笑んだ…



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319話 ゆりかごを持った死神

白露とフミーの生活がようやく安定したのも束の間

マーカスは"行きたくなかった"場所へと足を向ける羽目になります


「いいか白露!!ジッとしてるんダズル!!」

 

「フミーも大人しくしてるニム〜!!」

 

この日、白露とフミーは第3居住区に預けられていた

 

第3居住区にいれば、横井や涼平が相手をしてくれる

 

…そう思っていた

 

「二人共、今日はこっちかい??」

 

白露は横井の声に気付き、ハイハイで寄る

 

フミーは座ってジッと横井の顔を見る

 

「朝ごはんは食べ、アダダダダ!!」

 

満面の笑みで横井の足に噛み付き、歯を立てる

 

「わ!!分かった!!ご飯にしような‼」

 

預かっていた離乳食は2食分

 

朝ごはんとお昼ごはんだ

 

夕ご飯は単冠湾で食べるので無い

 

「何か悲鳴聞こえましたよ!?」

 

「すまん涼平!!剥がしてくれ!!」

 

「白露ちゃん!!僕と遊ぼっか!!」

 

悲鳴を聞き付けて駆け付けた涼平に、白露を剥がして貰う

 

「まるでピラニアだな…いったた…」

 

「歩けますか??」

 

「こんなの傷の内に入らないさ…ちょっと任せていいか??」

 

「了解です‼」

 

横井が離乳食を作っている間、二人は涼平に任せられる事になった

 

「フミーちゃんは何持ってるのかな??」

 

フミーの手には榛名に買ってもらったぬいぐるみが抱かれている

 

「白露ちゃんはどれが好きかな??」

 

第3居住区にあるおもちゃ箱をいじる涼平

 

その背後に忍び寄る白露

 

そして…

 

「白露ちゃん、危な…ぎゃぁぁぁあ!!」

 

背中によじ登ったと思った次の瞬間には、涼平のつむじに歯を立てる白露

 

「涼平‼大丈夫か‼白露!!ご飯出来たぞ‼ほら‼」

 

ご飯に気付き、白露はつむじから歯を離す

 

フミーもご飯に気付き、横井の近くに寄る

 

「涼平…その…」

 

「は、はい…」

 

「つむじから血が出てる…」

 

「どんな感じですか…」

 

「噴水みたいに…」

 

「ははは…」

 

「涼平!!誰かーっ!!」

 

満面の笑みで涼平は貧血を起こし、その場に倒れた…

 

 

 

 

「リョーチャン、ダイジョーブ??」

 

「末代まで言われそうです…」

 

「ツムジカラチガ、ピョロロロー‼ッテデテタ!!」

 

治療が済んだ涼平は、シュリさんに抱えられて医務室から出て来た

 

「涼平‼すまなかったダズル‼」

 

「申し訳ないニム‼」

 

医務室から出て来た瞬間、榛名とニムが頭を下げた

 

「気にしてませんよ!!頭上げて下さい!!」

 

「リョーチャン、ダイジョーブダッタヨ!!」

 

「榛名達の教育の致す所ダズル…」

 

「一生の不覚ニム…」

 

「あ、そうだ榛名さん、ニムさん。ならちょっとお願いがあるんです!!」

 

「スケベな事ダズルか!!」

 

「大体の事はするニム‼」

 

「行きましょう!!」

 

「キテ!!」

 

榛名とニムはシュリと涼平の後ろを着いて行く…

 

 

 

 

「ウメェダズルな??」

 

「甘くて美味しいニム!!」

 

涼平とシュリが連れて来たのは、第3居住区の繁華街に作られている途中の喫茶店

 

「潮がお試しに来てイる」

 

「今日はラグーンの方は任せてあるの。ゆっくりして行ってね??」

 

扶桑と潮が出張に来ていた

 

「ど、どうです…」

 

「中々ウメェコーヒーダズルな」

 

「いちごミルクも美味しいニム!!」

 

その後、涼平は二人に聞いた事をしっかりとノートにまとめて行く

 

その横でシュリさんは涼平の横顔を見ていた…

 

 

 

 

「ご飯食べたら、お昼寝しような??」

 

フミーは食べて背中を叩いて貰った後、すぐに寝た

 

問題は目の前にいるピラニア、もとい白露

 

横井は自身の膝を軽く叩き、白露を誘導する

 

「白露、おいで。いだーーーっ!!」

 

今度は差し出された手に満面の笑みで齧り付く白露

 

「白露っ!!離しなさい!!いだだだだ‼」

 

「だーっ!!これ白露!!何してんダズル‼」

 

「大丈夫ニム!?」

 

榛名が来て、何とか白露を引き剥がす

 

「これが俗に言う噛み癖か…」

 

「白露の歯はヤバいダズル…ほれ、イーしてみるダズル」

 

榛名が歯を見せると、白露は笑ったまま歯を見せる

 

「ギッザギザだな…」

 

「噛まれたらイテェはずダズル…」

 

白露の歯は朝霜以上にギッザギザ

 

そんなものに涼平や横井は齧り付かれていた

 

痛いに決まっている…

 

「こうなりゃ艦娘の医者に見せるダズル」

 

「マーカスにか??」

 

「呼んで見るニム」

 

 

 

一時間後…

 

「被害が二人、と」

 

「見るダズルこの歯!!」

 

榛名は膝の上に置いた白露の口を、後ろから指で端を軽く開けた

 

「これは凄いな…」

 

朝霜以上にギザギザ感が増している歯がミッシリ生えている

 

「どれ、見せてみな…あーん、だぞ〜‼」

 

俺が口を開けると白露は笑顔で口を開けたので、舌圧子で中を見ようと頬の内側に置いた

 

「そんなモン突っ込んだらダメダズル!!」

 

「何!?」

 

バキン!!と音がしたと同時に、折れた舌圧子が引き抜かれた

 

「し、白露!!ペッしなさい!!」

 

「ペッ!!するんダズル!!」

 

榛名が白露の前に手を出すと、白露は折れた舌圧子を吐き出した

 

「このままじゃピラニアダズル」

 

「しかも噛み癖もあると」

 

「その内フミーも噛んじゃいそうダズル」

 

白露が榛名の膝から離れた

 

俺と榛名は白露を目で追う

 

「「フミー‼」」

 

行ったのはフミーの所

 

フミーはお昼寝をしている

 

そのフミーの左腕に、今にも歯を立てようとしている

 

そして…

 

「痛い痛いダズルな??」

 

「びっくりしたな??」

 

ほんの一瞬の出来事だった

 

いざ白露が噛もうとした瞬間、フミーは右手で白露のつむじにゲンコツを落とした

 

白露は満面の笑みでつむじを抑えて痛がっている

 

「フミーはフミーで強いダズルな…」

 

「ちょっと気になる事が出来た」

 

「何ダズル??」

 

「白露が嫌いなものってあるか??」

 

「しいたけをあんま食べないダズルな」

 

「丁度いい。今日のここの昼飯はしいたけのお味噌汁が出た。余ってるなら持って来る」

 

数分後、しいたけのお味噌汁を片手に戻って来た

 

「そーら白露!!お味噌汁だぞ〜!!」

 

大根やにんじん、さといもはバクバク食べる

 

豚肉もバクバク食べる

 

問題のしいたけを口に持って行く…

 

「食わないな…」

 

どれだけ口に持って行こうとしても、笑顔のまま顔を左右に動かして食べようとしない

 

「白露、ほ〜らさといもだ!!」

 

さといもはバクバク食べた

 

大体分かって来たぞ…

 

「白露の嫌いなおもちゃあるか??」

 

「あのヘビのガチャガチャ言うやつダズル」

 

どうもヘビが嫌なのか、おもちゃを嫌がるらしい

 

まずはぬいぐるみを試してみる

 

「これは白露のぬいぐるみか??」

 

白露の前で振って見せるとすぐに手に取り、抱っこしながら齧り始める

 

「これは白露のか??」

 

白露にヘビのおもちゃを見せると、榛名に体を寄せる

 

「なるほど…これで大体分かった。白露の噛み癖は愛情表現じゃないか??」

 

「嫌いなものは噛まないダズルな」

 

「何かコミュニケーションが取れると良いんだがな…」

 

 

 

 

数日後、横須賀保育部…

 

「今日はひとみといよもいるのか??」

 

「そっ‼時々お手伝いに来てくれるのよ??」

 

横須賀はエプロンを着て、吹雪達の相手に向かう

 

今日は白露とフミーもいるが、二人は持って来たぬいぐるみを抱っこしたり噛んだりしている

 

「こんにちあ!!」

 

「おはよ〜ごじゃいあすっ!!」

 

白露とフミーの前にひとみといよが行く

 

それに反応したのは白露の方

 

「くるる…くる、くるる…」

 

白露は笑顔のままぬいぐるみを噛みつつ、低くうなる様に声を出した

 

「うぁう〜、あ〜うぁ〜…」

 

工廠で作業をしようと思っていたが、ひとみが反応を示し始めたので、悪いとは思いつつ立ち聞きを始める

 

「くる、くるる…くるるる…」

 

「うぁう、うぁ〜、あぅあ〜…」

 

「おや、セイレーン・システムで会話かね」

 

ドア付近で立ち聞きしていた俺の横に来たのは大淀博士

 

両手に大きめの機械を持っており、それを床に降ろした

 

「それは??」

 

「セイレーン・システムの翻訳機を作ってみたんだ‼ちょっと試していいかい??」

 

屈んで翻訳機を弄り始めたので、俺は大淀博士の後ろに移動する

 

「どれどれ…」

 

 

 

白汁

朝早いはクリーム小麦とOrange飲み物です

 

目はとうもろこし粉末でした

 

白汁

これを食べる事を私は出来ますか

 

いけません。それはCatです。ぬいぐるみです。目が何か食べ物を探します。空腹

 

白汁

死竹だけは食べられないです。体が本能的にそれを求めません

 

由来先師に聞いてきます

 

 

 

「なーんか、そのー…」

 

「あはは‼起動実験だからね‼翻訳ソフトがまだオネムなんだ‼」

 

大淀博士のセイレーン・システム翻訳機の翻訳は、どことなく狂ってはいるが、本質は掴めている内容の翻訳

 

「ゆあしぇんしぇ〜!!しあつうしゃん、はあぺこれすお〜いってう!!」

 

「分かりました。ひとみさん、これを渡してくれますか??」

 

「わかいあちた‼」

 

ひとみは由良から3枚クッキーを渡してもらい、白露の所に戻って来た

 

再び翻訳が始まる…

 

 

 

 

白月

これは食べられますか

 

仁美

食べられます。美味しいCookieです

 

白月

このCatは何も食べる事がありません。死ですか

 

仁美

ぬいぐるみは愛を食べます。愛される事をすると満腹になります。撫で。どうぞ

 

白月

ありがとうサンキュー

 

仁美

美味しいですか

 

白月

美味しいです。ありがとう仁美

 

仁美

どういたしました

 

 

 

「ふっ…」

 

「仁美かぁ…う〜ん、レイ君、ちょっとやってみてよ!!やり方教えるから!!」

 

大淀博士に代わり、俺が翻訳機の前に屈み、イヤホンを着ける

 

「あむあむ、あむ」

 

「あぅ〜、うぁう〜」

 

「今度はいよちゃんの方だ。そのレバーでレーダーを向けて…」

 

「こうか??」

 

「そっ‼そしたら、その調整ツマミで翻訳の精度を調整するんだ!!」

 

「オーケー…」

 

 

 

異様

踏みはどんな食用を好みますか

 

踏み

隣国が好みです。真っ赤な果物

 

異様

それはなんですか

 

踏み

これはシラツを倒す為のスネクです

 

異様

スネクは好きですか

 

踏み

長芋のは好きです。異様はどんな動く物が好きですか

 

異様

異様はいるかが好きです。PP

 

踏み

いるかを見た事がありません

 

異様

これはいるかの小さな模型です

 

踏み

キュートです

 

異様

PP泣く動く物です。PP

 

踏み

もっと教えて下さい異様

 

 

 

「ちゃんと会話してるんだな…」

 

「PPかぁ…調整がいるねぇ…」

 

大淀博士が後ろで顎に手を当てて考えにふける中、今度はひとみの方を翻訳してみる

 

 

 

ひふみ

喉は乾燥していませんか

 

白汁

喉が乾燥しています

 

ひふみ

ひふみとteaを飲みますか

 

白汁

飲みますありがとう

 

 

 

「ふふ…」

 

ひとみは白露の分と自分の分の2つ、お茶を入れたコップを持って来ている

 

「レイ君!!大淀さん、もう一つ試したい事があるんだ‼ひとみちゃーん‼」

 

大淀博士がひとみを呼ぶとすぐに気付き、こっちに来た

 

「あいっ、なんれすか??」

 

「一つお願いがあるんだ‼」

 

大淀博士はひとみと話しながら、ポケットから500円玉を出し、ひとみの手に載せた

 

「あにすう??」

 

「あそこに赤ちゃんがいるでしょ??ちょっとお話してあげてほしいんだ‼」

 

大淀博士の目線の先には、見知らぬ赤ちゃんがいた

 

「何処の子だ??」

 

「分かんない…今日から入ったみたいなんだけど、由良ちゃんとかが付きっきりで面倒見てるのを見ると、産まれたてじゃないかな??」

 

「いってきあす‼」

 

ひとみが向かい、俺と大淀博士は翻訳機の前に座る

 

「こんにちあ‼」

 

「あうあうあ…」

 

「うぁう〜…」

 

「あうあ…」

 

 

 

ひとみ

こんにちは

 

玉波

お姉さん誰??

 

ひとみ

私はひとみだよ。君は何てお名前かな??

 

玉波

たまなみ

 

 

 

「通じてる…」

 

「オッケーオッケー…」

 

先程とは違い、翻訳機が普通に翻訳機をしている

 

「うぁう〜うぁう〜あぅ〜…」

 

「あう…あうあ…う〜…」

 

「あぅ〜うぁう〜、うぁ〜う…」

 

「う〜うっうっ‼えーん‼」

 

 

 

ひとみ

たまなみちゃんはお腹減ってないかな??

 

玉波

お腹減ってる…お母さんが来てくれないの…

 

ひとみ

ひとみが何か持ってきてあげるから、一緒に食べよう‼

 

玉波

ヤダヤダ‼おっぱい飲みたい!!えーん‼

 

 

 

「なかちてちまいまちた」

 

物凄く反省した顔のひとみが戻って来た

 

「大丈夫、ありがとな??」

 

「おっぱいのみたいお〜いってた!!」

 

「ちょっと待ってくれるか??」

 

園児部に入り、冷蔵庫と簡易コンロの前に立つ

 

「あっ、大尉…」

 

「なんだ??」

 

冷蔵庫からパックされた母乳を出し、コンロで温めている中、由良が来た

 

「少しだけ明石さんと大淀さんにお任せしました」

 

「どうした??」

 

「あの子、玉波さんと言います」

 

ひとみが相手しに戻った赤ちゃん、玉波

 

誰の子かも未だに不明だ

 

「今朝、捨てられていたんです。基地の隣の広場に…」

 

「そうか」

 

「親も分からず、この置き手紙だけ…」

 

由良から手渡された手紙を、火を前にしながら見る…

 

 

 

この子を拾ってくれた心優しい人へ

 

この子は玉波と言います

 

私はどうしてもこの子を置いて行かなければならない理由があります

 

どうか、この子を育ててあげてください

 

 

 

 

「見た」

 

由良に手紙を返す

 

「どう、思いますか??」

 

「どう思うも何も、答えは出てるだろ」

 

由良の表情を見る事はないが、息遣いで伝わってくる、荒く、焦った息

 

「大尉さ…」

 

「俺に構ってる暇があったら、玉波の相手を頼む」

 

「はい、大尉」

 

由良が子供達の所に戻った後に、横目で由良を見る

 

此方を何度か見ている

 

しばらくして、人肌に冷めた母乳を入れた哺乳瓶を玉波の所に持って来た

 

「ちょっとごめんな…よいしょ」

 

玉波は空腹なのか、寂しさなのか、俺に抱かれてもグズっている

 

「お腹空いたな。ほーら、お乳だぞ」

 

哺乳瓶を口に持って行くと、玉波は泣き止み、母乳を飲み始めた

 

「おいち〜おいち〜いってう」

 

俺の肩に登り、肩から玉波の様子を伺うひとみ

 

「うぁ〜…」

 

肩から音波を使い、玉波の感情を読むひとみ

 

「何て言ってる??」

 

「うんちち〜もれたいってう」

 

「くっ…ひとみ、横須賀には内緒だぞ??」

 

「あかった!!」

 

何故俺が赤ちゃんを抱くと、赤ちゃんはウンコするのか…

 

哺乳瓶が空になり、玉波の背中を軽く叩く

 

「げぶっ…」

 

「えっぷちまちた」

 

「よしよし…オムツ替えような??」

 

「あいっ‼」

 

いよがオムツ替えのセット一式を持って来てくれた

 

「みててい??」

 

「いいぞ。二人共覚えておこうな??」

 

「あかった‼」

 

「みてあす‼」

 

ひとみといよ、そしていつの間にか見ていた大淀博士の前で、玉波のオムツ交換をする

 

「こうやって、優しく拭いてあげるんだ。そしたら、新しいのに替えて、よしっ」

 

「あむあう…」

 

「すっきいちまちたいってう‼」

 

「ふふっ…」

 

玉波はハイハイは出来るみたいだ

 

オムツを替えた直後、ハイハイでひとみに抱き着きに行った

 

「かあい〜かあい〜たあないしゃん‼」

 

「ねんねちましぉ‼」

 

ひとみといよが玉波を寝かせ、子守唄を歌い始める…

 

それを見た後立ち上がり、園児部を出た

 

「レイ君」

 

「どうした??」

 

「上手く言えないけど…大淀さんと赤ちゃん作るかい??」

 

「上手く言えてるよ…腹減ったな、昼飯でも食うか??」

 

「そうしよう‼あ、大淀さん、間宮のオムライスにしよっかな‼」

 

 

 

死んでも言えなかった…

 

この世で一番愛した彼が、あんなに悲しい背中をしながら赤ん坊の世話をしていたなんて…

 

それを隠しきれていない彼を見るのも、女はまた好きになって行っている事を…

 

 

 

 

「話は聞いてるわ」

 

昼食を終え、横須賀の所に来た

 

「一人増えた所で変わんないわよ??」

 

「そうか」

 

「レイ」

 

「なんだ」

 

「玉波の検査をお願いしたいの。いいかしら??」

 

「言われなくても」

 

俺は執務室を出た

 

「あっちゃ〜…」

 

「…」

 

執務室に取り残された大淀は、出て行った男の背中を見ていた

 

「レイはまた背負うわね…」

 

「あんな顔するんだ、レイ君…」

 

「大淀さん。少し話しませんか??」

 

「いいよ。何話そっか」

 

横須賀は、過去にレイに言われた事を大淀に話す…

 

「レイは私にこう思ってるの。赤ん坊を抱かせてやれなくてすまない。その事でずっと後悔してるって…」

 

「そっか…産まれて来る子は成長が早いからね…」

 

「レイもきっとそうなのよ。本当は赤ん坊を抱っこしたり、お世話したりしたいのよ」

 

大淀は無言で頷く

 

「だからこそ、玉波の親が許せないのよ…自分が小さい時に親が傍に居なかったのも、今自分の赤ん坊を抱っこ出来ないのも…」

 

「ごめん…返す言葉がないよ…」

 

「貴方にも、色々背負わせてしまうかも知れない…」

 

「いいよ。大淀さん、レイ君のためだったらなんだってする。あ、レイ君のお嫁さんに言う言葉じゃないか!!」

 

「ありがとう、大淀さん」

 

「ありがとう、ジェミニちゃん。大淀さん、レイ君の"帰り道の傍に行って来る"ね??」

 

その言葉を聞いて、横須賀はハッとする

 

いつか自分が言った言葉を思い出した

 

あの子は時々、帰り道を見失う

 

その道案内を今、この問題に直面して、先導ではなく傍を歩けるのは

 

彼の殆どを知った妻ではなく、彼の全てを知り尽くした一人の女だと気付いた…

 

 

 

 

「ほ〜ら玉波、あ〜んだ…」

 

工廠の横の医務室で玉波の検査をする

 

玉波はビックリする程言う事を聞く

 

俺が口を開ければ、同じ様に口を開ける

 

検査もスムーズに済んでいく…

 

「ここにねんねしような」

 

診察台に寝かせ、服を捲って聴診器を当てる…

 

「…」

 

少し消化不良を起こしてる位か…

 

聴診器で聞いている限り、目立って悪い所は無さそうだ

 

「もうすぐ終わるからな??」

 

そういうと、玉波は突然俺の手を握って来た

 

聴診器を当てたまま玉波の顔を見ると、口をモゴモゴ言わせながら笑っていた

 

その顔を見て、俺も笑顔を返す

 

「よ〜し、終わったぞ。いい子ちゃんにしてたな??」

 

服を戻し、玉波を抱き上げる

 

「キャッキャッ!!」

 

抱き上げると、玉波は嬉しそうにする

 

「憎いだろう…捨てられたんだぞ…」

 

「キャッキャッ!!うー!!」

 

「心配するな…俺が艦娘にしてやる。もう誰にも…捨てられない様にな…」

 

俺は玉波を抱いたまま、カプセルの前に立った

 

「お前は俺みたいになるな…誰も憎むな…憎む位なら…消してしまえばいいんだ」

 

カプセルを開け、玉波を溶液に浸そうとした

 

「はっ‼」

 

溶液に映る、自分の顔

 

その顔はいつの日か、人を殺める時に窓ガラスに映った時の顔をしていた

 

あぁ…イーサンの時か…

 

そうだ…そうだったな…

 

「レ〜イ君っ!!」

 

「お…大淀…」

 

横から大淀が出て来て、俺の手から玉波を取った

 

「今、また少し分かったよ…AIの子達が、何故君を護ろうとするのか」

 

「俺は…」

 

玉波を抱く大淀もまた、母親の顔をしている

 

「涙を流すからだよ。君はいつだって、誰かの為に涙を流す…AIの子達は、君が涙を流すのが許せないんだ」

 

「…」

 

「大丈夫。大丈夫だよ…レイ君」

 

「つかまえた」

 

「良い子だ赤城!!」

 

赤城の声がしたので、声のした方に顔を向ける

 

赤城は男女をヘッドロックで捕まえていた

 

「レイ君の前に離したげて‼」

 

「ぽい、ぽい」

 

ドサドサと床に落ちる男女

 

「申し訳ありませんでした!!」

 

「玉波は私達の子供です!!」

 

「ゆるすまじ」

 

どうやら二人は玉波の親だ

 

「何故…玉波を捨てた…」

 

「こうするしかなかったんです…」

 

「私が誘拐されて…旦那は私を探す為に…」

 

「本当だろうな」

 

「本当です。拾って頂いて、嘘をつくなんて…」

 

「信じて下さい!!」

 

「どんな奴だ」

 

「軍人でした…妻が北海道に連れて行かれると聞いて…」

 

「どうする気だい、レイ君」

 

「嘘だったら玉波を貰う。それだけだ。アンタ達、しばらくここにいろ。赤城、この人達をお母さんの所に連れて行ってくれるか??」

 

「こいあほ」

 

赤城は玉波の両親を抱えて連れて行った…

 

「赤城も同じさ。君が涙を流すのが許せないんだ」

 

「いいだろう分かったよ…貴様等はどうしても…俺を空に返したいんだな…怒らせたのは貴様等の方だからな…」

 

「レイ君、もういいよ。君がやらなくても」

 

「なら誰がやるんだ!!」

 

大淀は優しく、不敵に微笑んだ

 

「大淀さんもね…レイ君が涙を見せるのが許せないんだ…うふふっ…」

 

「…」

 

悪寒が走った

 

「クラーケン!!クラーケン聞こえるかクラーケン!!」

 

《どうしたの??》

 

「広域レーダーを見ろ!!早く!!」

 

《クラーケンを展開して!!》

 

数秒後、横須賀から連絡が入る

 

《特に何も無いわよ??》

 

「北海道上空だ!!網走!!網走だ!!」

 

《北海道上空にレーダー照準!!範囲索敵開始!!》

 

数秒後、また連絡が入る

 

《上空に反応は無いわ??》

 

「地上は‼」

 

《あるわよ??》

 

「良かった…」

 

肩と膝を同時に落とす

 

大淀博士が「こんなトコいらなーい!!バイバーイ!!」と言って、スナック感覚でえげつない威力のミサイルでも撃ったと思った…

 

「レイ君、どうして網走なんだい??」

 

「あそこは…あそこには、大勢実験で連れ去られた人がいる…北海道で動いているなら、網走しかない」

 

「どうして知ってるんだい??」

 

「…」

 

言いたくなかった

 

あの日を思い出してしまうからだ

 

「レイ君が傷付くなら、大淀さんは聞かないでおこう!!」

 

「…貴子さんが実験体になった場所だからだ」

 

「そっか。貴子ちゃんが…それが聞けて良かったよレイ君」

 

「あそこは潰すな。罪のない人が大勢いる」

 

「潰さないよ??今はね??ただ、大淀さんが潰さなくても、別の誰かが潰すんじゃないかな??ま〜結果的に大淀さんのスッゴ〜イミサイルでボッカーン!!すると思うよ??」

 

「助け出してからだ!!今からでも行く!!」

 

準備に入ろうとした俺を、大淀博士は玉波を抱いたまま、俺の胸に手を置いて止めた

 

「君がしなくてもいいよ、今日くらい良いじゃん」

 

「止めてどうする気だ」

 

「君の部下は本当に優秀だね」

 

「何??」

 

「手が塞がってるんだ。大淀さんのタブレット、取って欲しいな」

 

大淀の尻にあるポーチからタブレットを取り出す

 

《博士!!ビンゴです!!やはり刑務所跡地を利用して実験施設になっていました!!》

 

タブレットの向こうに居たのは高垣

 

「高垣!!今どこにいる!!」

 

《隊長!?申し訳ありません、勝手な行動を…》

 

「そんな事はいい!!大丈夫なのか!!」

 

《大丈夫です!!丁度良かった隊長、ここに多数のカプセルがあります》

 

「違法に鹵獲されたカプセルだ。全部ぶっ壊せ!!」

 

《良いんですか、貴方の研究の成果では…》

 

「二度と悪事に利用されない様に、壊す事が手向けだ」

 

《了解です。あぁ、少し代わります》

 

「言ったでしょ??君がやる必要はないって」

 

「高垣を巻き込むな…バカ」

 

大淀はようやく笑顔を見せてくれた

 

《大尉、お久し振りです》

 

「矢崎か!!」

 

今度は矢崎が顔を見せた

 

《少しだけ場所を変えます》

 

矢崎が歩き、適当な個室に入った

 

《高垣少尉は、元自衛官とご存知ですか??》

 

「知ってる」

 

《実は、しばらく自衛隊と横須賀を行き来していたのです》

 

「スパイって事だよ、レイ君」

 

《自衛隊は少尉を自衛隊側のスパイとして横須賀に送っていましたが、少尉は有村大佐と出会って、横須賀からのスパイになったんです》

 

「トラックさんが…??」

 

《有村大佐は元々戦車乗りなのはご存知で??》

 

「それは知ってる」

 

《反攻作戦の時、孤立した有村大佐の部隊を命令違反を犯してまで退路を築いたのが高垣少尉です》

 

「そんな事聞いてないぞ…」

 

《高垣少尉は一度、墜落事故を起こした事がありまして…その際に救助に来たのが有村大佐だったと記録されています。それから少尉は、大佐だけは必ず護ると》

 

「そうだったのか…」

 

《とにかく安心して下さい。落ち着き次第、視察をお願い出来ますか??》

 

「了解した!!」

 

通信が終わり、居ても立っても居られないので、準備を始める

 

「レイ君はホント忙しい男だ…カプセル、破壊しちゃうのかい??」

 

「また造ればいい。今度はっ、平和に利用してくれる奴にやる事にする。奴等が使ったカプセルは、まとめて破壊したい。じゃなきゃ、また誰かが悪用する」

 

「一つお願いがあるんだけど、いいかい??」

 

「何だ??」

 

「破壊する前に、カプセルからデータを抜き出せるかい??そしたら、大淀さんが解析してあげよう‼」

 

「何かに使うのか??」

 

「悪い事には使わないよ。言ったでしょ、大淀さんは、レイ君が悲しむのが一番嫌なんだ」

 

この大淀の目は本気だ

 

「一つ、確かめたい事があるんだ…」

 

「何も言うな。分かったよ、ありがとう」

 

「玉波ちゃんは大淀さんに任せて‼ちゃんと両親に返してあげる‼」

 

大淀に見送られ、ジュラルミンケースを持ち、基地を発つ…



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320話 血塗られたリボルバー

網走監獄跡地に到着したマーカス

内部はとても見れるものではなくなっており、行きたくなかった理由もそこにありました…


《あら、何処か行くの??》

 

グリフォンには何故かヘラが乗っていた

 

「ちょっと網走までな??一緒に行くか??」

 

《なぁに??アンタ捕まった訳??》

 

「行ってスキャンすりゃ分かるさっ」

 

《冗談よ。もう分かってるわ、アンタにゾッコンな博士が、アンタを助けてやって欲しいってね‼》

 

「そりゃどーもっ‼出るぞ‼」

 

《ワイバーン、出るわ‼退きなさい‼》

 

横須賀から網走に向けて飛び立つ…

 

 

 

 

《網走ねぇ…奴等も上手く隠したモンねぇ??アンタ、何で爆撃しなかった訳??》

 

「あそこには一般市民が大勢いるんだ。それも、何処からか連れて来た奴をな…」

 

《アンタのカプセルもそこにあるって訳ね??》

 

「どっかの病院が売り飛ばしたんだろう…あれは"貸出"なんだがな」

 

《貰ったと勘違いしてんのかしら??》

 

「恐らくな。どうもっ、あのカプセルは高く売れるらしい…自衛隊はあのカプセルに目を付けて、病院から買収して、各基地に配置したんだろう」

 

《その病院はどうなったの??》

 

「さぁな。そこに住む市民を裏切ったんだ。潰れたんだろ。それか、誰かが圧をかけたか…」

 

《なるほどねぇ…北海道に入ったわよ》

 

「オーケー…そのまま網走まで特急だ!!」

 

俺の言葉に応じ、ヘラはバーナーを吹かす…

 

 

 

 

「大尉のグリフォンだ。着陸誘導を頼めるか??」

 

「了解です‼」

 

網走刑務所跡地は滑走路が作られている

 

おおよそ、航空機でここに市民を連れて来るためだろう

 

「ワイバーン、聞こえますか??」

 

《聞こえるわ。アンタ、総理お抱えの子ね??矢崎だったかしら??》

 

応答したのはヘラだ

 

「そうです。今、高垣少尉が誘導に向かいました。網走刑務所跡地付近に滑走路があります」

 

《そっ。分かったわ。女満別辺りに着陸しようと思ってたけど、そっちに行くわ》

 

「…ヘラさん。少しだけ、大尉にお願い出来ますか??」

 

《私じゃ不満なのね??》

 

「そう言う訳では‼」

 

《ヘラじゃ不満か??》

 

俺に切り替わり、矢崎に応答をする

 

「大尉…今しか聞けないので、少しお聞きしておこうかと」

 

《なんだ??》

 

「三重県のある島で空爆があったのはご存知ですか??」

 

三重県のある島、そして空爆…

 

今日に至るまで、報告が上がっているのは一箇所しかない

 

《知ってるよ。今、正にやり直す第一歩が始まった所だ》

 

「その島で、戦艦棲鬼の姉妹がいた記録がありませんでしたか??」

 

《…何故知ってる》

 

その次の言葉で、心臓の鼓動が高鳴った

 

また、物語のピリオドの先が描かれる、と

 

「私の妻なんです…"セイレーン、シレーヌ"と名付けて、セイレーンと妻になりました」

 

《なるほど…はは‼これで全部、合点が行ったよ‼》

 

「もし、生きているのなら…やり直せるのなら…」

 

《手を貸して欲しい、と??》

 

「謝礼は必ずします」

 

《事が済んだら、視察目的で第三居住区に来い。あそこは深海の子が多い。話が聞けるかもしれない》

 

「ありがとうございます、大尉‼」

 

《女の前で女の話ねぇ??》

 

不機嫌MAXのヘラがようやく答えた

 

「申し訳ありません‼」

 

《違うんだヘラ‼そんなつもりは‼》

 

《ま、いいわ??大事な話しそうだったし、矢崎、感謝なさいよ??アンタが聞いた男は、きっと良い方向に持ってってくれるわ??》

 

「ありがとうございます、大尉、ヘラさん‼」

 

《感謝は第三居住区に着いてからにしてくれ》

 

《着陸するわよ‼》

 

《隊長、誘導します‼》

 

高垣の誘導で、網走に降り立つ…

 

 

 

 

網走に降り立ち、高垣のジープに乗り込む

 

「ヘラさんは??」

 

「先に行って待ってるらしい。しっかし寒いな…」

 

ここは北海道

 

数度しか来た事がないが、雪に覆われた大地だとは知ってる

 

こんな場所に、奴等は一般市民を連れて来たのか…

 

「大尉は寒いのは苦手ですか??」

 

「そうだな‼真夏にサーフィンする方がよっぽど好きだ‼あー、タンクトップもう一枚着てくるんだった‼」

 

「一緒ですよ…」

 

ジープの助手席で体をさすっていると、高垣は涼しい顔をして運転しているのに気付いた

 

「お前は平気そうだな‼」

 

「ここの産まれですからね。寒いのはある程度は慣れてますよ」

 

「今度高垣君を南国に研修に行かせよう…」

 

「ふふっ、喜んでお受けします‼さ、着きました」

 

「ありがとな」

 

ジープから降りると、網走刑務所跡地の入口が目に入った

 

「何度見ても恐怖が勝ちます…」

 

「行こう」

 

「了解です」

 

ジュラルミンケースを持ち、高垣が前に着いた状態で網走刑務所跡地に入る…

 

「静かだな…」

 

「えぇ…こんな所で奴等は実験を重ねていたんです」

 

コツン…コツン…と、二人の足音が廊下に響く位、施設の中は静かだ

 

「高垣」

 

「どうされま…うおっ!?」

 

「止まれ」

 

高垣を後ろに回し、ピストルを構える

 

「助…け…」

 

女性が一人、助けを求めた直後、その場で膝を落とした

 

すぐに駆け寄り、彼女を起こす

 

「ここで何があった‼」

 

「連れ去られて…実験されて…」

 

「これだな…」

 

彼女の左手は深海化が進んでいる

 

重巡タイプの主砲だ…

 

「待ってろ。高垣‼カプセルまで誘導してくれ‼」

 

「了解です‼」

 

「嫌です‼あそこにはもう入りたくない!!」

 

「アンタを救う。必ずだ」

 

深海化が進んでいない彼女の右手を握り、目を見る

 

「信じて下さい。彼なら貴方を必ず救えます」

 

「うぅ…」

 

「よし、行くぞ」

 

高垣が頷き、カプセルまで誘導してもらう

 

「隊長‼此方に‼」

 

「よし…」

 

彼女を診察台に寝かせた後、辺りにあった薬品で鎮静剤を作る

 

「すぐに良くなりますから…落ち着いて下さい…」

 

「嫌です‼カプセル入りたくない‼」

 

「出来た‼抑えててくれ‼」

 

「少しだけ我慢して下さい‼」

 

「いやぁぁぁあ‼」

 

彼女を抑えて貰い、鎮静剤を打つ

 

「フーッ‼フーッ‼」

 

「大丈夫。必ず救う」

 

「フゥッ…フゥッ…」

 

「麻酔を打ったら切除手術をする。手伝ってくれるか??」

 

「自分は医療の知識が‼」

 

「深海化すると、鎮静剤の効力が薄い。暴れ始めたら抑えてくれ」

 

「りょ…了解です‼」

 

「手伝うわ‼」

 

到着が遅いと気付いたヘラが手伝いに来てくれた

 

「頼む。高垣と一緒に、暴れたら抑えてくれ」

 

「分かったわ」

 

彼女の服を脱がせ、他に侵食域が無いか確認する

 

「左腕及び左腋リンパ腺に深海化…よし、切除手術を開始する」

 

二人が頷き、手術が始まる…

 

 

 

 

「左腕深海部切除完了。続いて深海化リンパ腺切除及び再生に入る」

 

「こいつだな…」

 

ステンレストレーに深海化したリンパ腺を落とす

 

「簡易縫合の後、後ろのカプセルに入れるからな。手伝ってくれ」

 

「了解です」

 

「分かったわ」

 

「よし!!終わり!!カプセルに入れてくれ‼」

 

高垣とヘラがカプセルに彼女を入れ、俺はマスクを取り、カプセルをいじる

 

「ふーっ…終わった…」

 

「凄い…」

 

「アンタ…ホントに医者だったのね??」

 

「ありがとな、助けてくれて」

 

「良いもの見せて貰ったわ??」

 

「大尉が凄い人と再認識しました…」

 

「3時間程すれば、また人として生活を送れる。さ、行こう」

 

「待って下さい‼ちょっと休憩して下さい‼」

 

高垣が引き止める

 

緊急とはいえ、時間にして一時間程の手術だ

 

「矢崎の顔拝んだら、矢崎に俺を休憩させる様に説得してくれるか??」

 

「なら良いですが…」

 

長い一日になりそうだな…

 

 

 

 

「大尉‼ありがとうございます‼」

 

「現状は??」

 

「はっ。カプセルが20基、民間人が30人、そして…」

 

「深海化した奴だな」

 

「…はい。4人が体の一部分に深海化の兆候が見られます」

 

「やれやれだな…ヘラ、高垣を頼む」

 

「アンタどこ行くのよ」

 

「監獄のお散歩さ。ちょっとだけな」

 

「「ダメって言ってるでしょ‼」」

 

「いでっ‼」

 

ヘラと高垣の意見が一致し、両肩を抑えられ、元いた椅子に座らされた

 

「いいですか隊長‼今手術終えたばっかです‼休憩して下さい‼」

 

「ちょっと‼そこに突っ立ってんならコーヒー位入れなさいよ!!」

 

ヘラはその辺にいた自衛隊に向かって吠える

 

「はっ!!た、直ちに!!」

 

「いい!?アンタ頑張り過ぎなの‼自分を大事にしなさい!!アンタが居なくなったら、治せるものも治せないの‼分かった!?」

 

「タバコでも吸って下さい‼」

 

「うぐ!!」

 

「はい!!火‼」

 

高垣に口にタバコを捩じ込まれ、ヘラに火を点けて貰った

 

「待って下さい大尉、今手術を終えたとは!?」

 

「一人脱走してたから、そのまま手術したんだ…ふぅ…おかげでここに来るのが遅くなった。すまなかった」

 

「謝るのはこっちですよ…そうとは知らずに開口一番無礼を…」

 

「てな訳で、ちょっと休ませてやんなさい。アタシも多少の処置位なら手伝うから」

 

「いいですか隊長。コーヒー飲むまで休憩ですよ!?」

 

「は、はい…」

 

二人にメチャクチャ注意され、俺と矢崎だけが部屋に残った

 

「残り3人か??」

 

「えぇ。今、医療班が鎮静剤を打って寝かせています」

 

「侵食部位は」

 

「こちらを」

 

医療班が書いたカルテを矢崎から受け取り、タバコの灰を落とす

 

「右腕…胸部…」

 

最後の一枚が厄介な手術になると、一目で分かった

 

「頭部か…」

 

「自分達の腕と技術では、進行を抑えるのが精一杯です…」

 

カルテを机に置き、タバコを咥え直す

 

「他の民間人は??」

 

「大尉…それが…」

 

矢崎の顔色が青く変わる…

 

「保護した民間人以外は…」

 

「言いたくないなら、後でそこまで案内してくれ」

 

「了解しました…」

 

どうしても口にしたくないらしい

 

「さて…一服もした事だ。一人目に入ろう」

 

「も、もうですか!?」

 

「手術用具はあるか??」

 

「ご案内します‼」

 

手術室に案内され、準備に取り掛かる…

 

「本当に連れて来ても大丈夫ですか??」

 

「10分したら連れて来てくれ」

 

「了解です‼」

 

鏡の前に立ち、自分の姿を見る

 

大丈夫、いつも通りの俺だ

 

たった3人だ。3人救えば、それで終わる

 

その後はカプセルを爆破して…

 

その後は…

 

「しっかりしろ…怒りに身を任せるな、マーカス…」

 

そう自分に言い聞かせた後、一人目の鎮静剤を作る…

 

 

 

3時間後…

 

「こいつで全部だな??」

 

「はい‼ありがとうございました‼」

 

頭部の手術は多少厄介だったが、全員の切除手術はどうにかなった

 

ゴム手袋をゴミ箱に投げ入れ、椅子に座ってタバコに火を点ける

 

「ふーっ…矢崎」

 

「はい、大尉」

 

「三人の回復が終わり次第、カプセルを爆破する。それまで二時間ある」

 

「今の疲労している状態では…」

 

「一服が終わったら案内してくれ。とっとと済ませたい」

 

「了解です」

 

どうせもう使われない施設だ…

 

タバコを床に捨て、踏んで火を消し、立ち上がる

 

「大尉…その…」

 

「分かってる…分かってるさ…」

 

「…行きましょう」

 

矢崎の後に続き、廊下に出る

 

通路を行く途中、当時のまま使われている牢屋エリアに来た

 

「へっ‼ようやくお父ちゃまがおでましだ‼」

 

「今更来たって遅いんだよ‼」

 

「元はと言えばお前が元凶だよ‼」

 

牢屋からは、この施設で実験に関わっていた連中が一時的に収監されている自衛隊の奴等の罵声が聞こえて来た

 

酷い言われ様だ…

 

だが、事実である事に変わりはない

 

俺があのカプセルを作らなければ、こんな被害は出なかったはずだ…

 

「大尉…」

 

「本当の事だ。気にするな」

 

「くっ…」

 

矢崎は俺の為に奴等を睨んだ

 

「同じ職と思いたくない…こんな奴等…」

 

「もういい。行こう」

 

「は‼逃げるのか‼いつまでも逃げ続けろよ"死神"が!!」

 

左にある牢屋から、そんな罵声が聞こえて来た

 

足を止め、声がした左の牢屋の方を向く…

 

「今何と言った」

 

「ひっ…」

 

牢屋に近付き、中にいる男の目を見る

 

「今何と言ったか聞いてる」

 

「は…はわ…」

 

「た、大尉…はっ…あ…」

 

矢崎が止めに入るも、矢崎の動きも止まる

 

「どうした。言ってみろ」

 

「はっ‼ばっ‼はぁー‼はぁー‼」

 

牢屋に居る男は呼吸困難に陥る

 

「鍵」

 

「はっ、はい‼」

 

震える矢崎から鍵を受け取り、牢屋の鍵を開け、鉄格子をスライドさせて中に入る

 

「はっ‼はっ‼はっ‼はぁっ‼」

 

「もう一度言ってみろ」

 

「しっ‼ししっ‼しにっ‼」

 

男は小便を垂れ流しながら、必死に呼吸を整えるも、言葉になっていない

 

鉄格子の一本を持ち、それを引き抜くと、丁度いい感じの鉄の棒になった

 

「やめて‼やめて下さい‼」

 

それを男の頭に振りかざす

 

コンクリートが砕ける音がし、砂煙が立つ…

 

「はっ…はっ…はっ…」

 

「どっちが死神かよく考えろ」

 

男の目の前で、鉄の棒と化した鉄格子を左手で曲げる

 

「…」

 

男が気絶したのを見て、鉄格子を閉め、鍵を閉め直す

 

「直しておいてくれないか」

 

「はっ‼」

 

「すまない」

 

監守代わりに居た矢崎の部下に、元に戻した鉄の棒を渡した

 

「鍵、ありがとうな??」

 

矢崎から借りた鍵も返す

 

「い、いえ…大尉が怒るのも当然です」

 

「そろそろ短気の子を直さんとなぁ…う〜む…」

 

矢崎は階段を降りて行く

 

余計に静けさが増して行く中、いつもそうしている様に腰に手が回る

 

この先に何かがある…

 

それも、今までより凶悪な何かが…

 

「ここです、大尉…」

 

「ありがとう」

 

「お待ちを…」

 

いざドアを開けようとした時、矢崎は俺の手を止める

 

「私は中を見ました…あまりにも酷い惨状です…」

 

「どのみち見るんだ。なら、早めに見た方が良い」

 

「了解です…行きますよ」

 

重いドアが開く…

 

 

 

 

「何だ…ここは…」

 

腰に掛けてあるピストルを握る

 

一発で分かった

 

ここで人の生き死にがあった事が…

 

「廃棄場…いえ…焼却炉…でしょうか…」

 

「人のか」

 

俺の足元には、人の死体がある

 

それも、また子供だ

 

体の一部が深海化している

 

恐らく、体がその変化に耐えられなかったのだろう

 

「えぇ…適性が無かった人間や、失敗した者はここで…」

 

「すまない…」

 

その場で屈み、子供の目を閉じさせる…

 

「こうならない為に、戦ってたんだがな…」

 

「大尉…大尉に何の責任もありませんよ…悪用したのは奴等です」

 

「ありがとう…そう言ってくれるだけで、少し楽になったよ…」

 

「ギャァァァァ‼ギャァァァァ‼」

 

「はっ‼」

 

奥の方から声がした

 

矢崎の方を振り向き、頷き合った後、声の方に向かう

 

「よーしよし‼もう大丈夫だ‼」

 

「もう大丈夫ですよ‼この人はお医者さんです‼」

 

「イダイィィィィイ‼グルジイィィィィイ!!」

 

台の上にいたのは、まだ小さい子供

 

ここにいるという事は…

 

矢崎が俺の顔を見た

 

俺は、小さく首を横に振った…

 

「大丈夫だ…大丈夫だぞ…」

 

「私達が助けますから…」

 

俺が抱き締め、矢崎が声を掛け続ける…

 

「イダイィィ…グルジイ…」

 

「よしよし…もう頑張らなくていいぞ…」

 

俺が抱き寄せると、子供は俺を抱き返す

 

「オド…ザン…」

 

「良い子だ…ゆっくりおやすみ…」

 

子供の腕が落ちる

 

「ごめんな‼助けられなかった‼俺のせいで‼こんな痛い事‼うわぁぁぁぁあ‼」

 

「たっ…大尉…」

 

子供の亡骸を抱き寄せた時、涙が止まらなくなった

 

体が耐えられなかったのか、子供の下半身は溶けていた…

 

恐らく、目も見えなかっただろう…

 

それでも最期に、俺を父親と勘違いした…

 

あまりにも残酷過ぎる最期だ…

 

「ようやく父親のお出ましか」

 

階段を降りて来た、見知らぬ中年の男性

 

「あんたは…‼」

 

矢崎が拳銃を構える

 

「君は矢崎一佐だね??どうも、私はここの責任者の田淵だ」

 

「海の幕僚長が何の用だ‼」

 

「ここを知られたからには、君達を消さねばならんのだよ」

 

田淵は拳銃を持ち、俺に向ける

 

「大尉‼クソッ!!」

 

「すまない…俺がせめて…」

 

「君を殺せば、あのカプセルの権限が我々に移る。国の発展の為‼資本主義の為に!!どうか死んでく」

 

「田淵ぃぃぃぃい!!」

 

ズドン‼と、鈍い音が矢崎の耳に入る…

 

「大尉!?」

 

「ぐっ…痛いじゃないかっ…」

 

田淵が構えていた拳銃が弾かれた

 

「聞き飽きたよ…その文言…」

 

左腕で子供の亡骸を抱き寄せ、右手でピストルを撃った

 

「国の発展の為…資本主義の為…いつも犠牲になるのは弱者だ…」

 

子供を寝かせて立ち上がり、田淵と呼ばれた男に近付く…

 

「はっ…君の口から弱者と出るとはな‼何が弱者だ‼今まで人を殺してのし上がって来た君の‼どこが弱者だ‼君なら分かるだろう‼我々の研究が‼」

 

「あれは人を救う為の装置だ…実験の装置じゃない…」

 

「君が元凶だという事は変わらん‼」

 

「そうだな…それだけで良いか」

 

「はい??」

 

「言い残す事はそれだけで良いのか」

 

田淵の眉間にピストルを向ける

 

「はっ‼撃ってみろ‼そんなだから死神と呼ばれるんだよ‼君は‼」

 

何の躊躇いも無く、引き金を引いた

 

カチン…と、弾切れの音が出た…

 

「はははは‼死神にも見放されたなぁ‼」

 

田淵は内ポケットから別の拳銃を取り出そうとする

 

「子供は良い被検体になったよ‼マーカス・スティングレ…」

 

田淵の眉間にピストルが当たる

 

「な…何だ…まだ持ってたのか…」

 

無言で田淵を見つめ、片手で箱からタバコを咥え、火を点ける

 

俺の手には"血が付いたリボルバー"が握られている

 

「死ね‼こ…」

 

パンッ…と、乾いた音が響く

 

田淵の眉間に穴が開き、その場に倒れた

 

「お前は2つ過ちを犯した。俺の"息子"を悪用した事…」

 

「…」

 

革ジャンの内ポケットにリボルバーを仕舞い、もう一度子供の亡骸に寄り、頭を撫で、部屋を出ようとした

 

「た、大尉‼…もう一つは何です!?」

 

「事情は分かった。ここから出るぞ」

 

普段使っている方のピストルの弾を装填しながら、今度は階段を登る

 

「大尉…」

 

「ありがとう、救ってくれて」

 

「もう一つとは…」

 

「チッ…拳銃持ってたな??」

 

「えっ??えぇ、一応…」

 

「弾こめろ。このドア開けたら敵がいる。結構ワンサカだ」

 

矢崎は拳銃の弾を装填し、俺はドアの向こうの様子を伺う…

 

「後ろから援護してくれ。ちょっと頭に来てる」

 

「了解」

 

「左を任せる…行くぞ、3、2、1!!」

 

思い切りドアを開け、向こうが気付かぬ内に発砲開始

 

「マーカスだ‼撃て‼」

 

無言のまま、敵対する自衛隊を撃ち抜いて行く

 

「どっから湧いて来た貴様ら!!」

 

「裏切り者が‼貴様も死ね‼」

 

矢崎の拳銃の腕は高く、小銃やら自動小銃相手に拳銃一丁で優勢に出る

 

連射能力で負ける前に撃てば良いだけだ

 

「よし…何とかなったな…」

 

「B小隊!!此方"アクィラナイト"!!援護してくれ!!」

 

《了解、アクィラナイト‼》

 

「今、部下を此方に向かわせました」

 

「矢崎‼」

 

「はっ‼」

 

矢崎を抱き寄せ、背後に回す

 

その瞬間、榴弾が飛んで来た

 

「ぐっ…‼」

 

異様に威力が高いっ…なんだこの砲弾は!!

 

「ほぅ…私の砲弾を耐えるか。貴様、ただ者ではないな」

 

砂煙の中から出て来たのは、涼月と良く似た顔付きをした少女

 

「ここに来て艦娘か…矢崎、B小隊を引かせろ」

 

「了解です!!B小隊‼持ち場に戻れ‼現在、自衛隊開発艦娘と会敵中!!接近を禁ず!!繰り返す、接近を禁ず!!」

 

《了解アクィラナイト‼持ち場に戻る!!》

 

「懸命な判断だ。私に少々の武装は無意味だからな」

 

「ここに連れて来られたのか、それとも、ここで生まれたのか、どっちだ」

 

「私を倒して聞いてみるんだな!!」

 

正体不明の艦娘からの砲撃が再開

 

装備された機関銃で俺と矢崎を狙う

 

「クソッ!!」

 

俺と矢崎は互いに正体不明の艦娘に発砲し返す

 

「ははは。ぬるいな!!」

 

「矢崎!!行け!!」

 

「大尉は!?」

 

「奴と話がある!!」

 

「2発目は耐えれるかな!!」

 

彼女は先程放った榴弾砲を構える

 

向いている先は勿論俺

 

あんなもの、至近距離で喰らったら流石にマズイな…

 

「こっちだ!!」

 

彼女の艤装に銃弾が当たる

 

「豆鉄砲が…私にその攻撃は効かん!!」

 

「隊長!!逃げて!!」

 

そこには何故か、ピストルを構えた涼平が居た

 

「邪魔をするな!!」

 

彼女は銃弾を弾きながら、榴弾砲を涼平に向ける…

 

「まずは貴様からだ!!」

 

「涼平!!」

 

制止虚しく、彼女は涼平に向けて榴弾を放った…

 

「うっ…」

 

榴弾は涼平に直撃したかに見えた

 

「大丈夫か??」

 

「矢崎さん…何やって!!」

 

間に立っていたのは矢崎

 

腹に直撃したはずなのに、矢崎は何故か立っていた

 

「"次は"護って見せるさ。大尉の援護をする。奴の砲を狙えるか??」

 

「りょ…了解です!!そうだ。これを使って下さい!!」

 

涼平は背中に挿していたライフルを矢崎に渡す…

 

 

 

「次は貴様だ!!」

 

彼女の砲が、俺の方に向く

 

やらねばならんのか…

 

普段使いのピストルでは、奴の装甲を貫けない…

 

だが"もう一つの方なら"、貫通力がある…

 

すまない"マリオ"…今日はそっちに送る奴が多くなりそうだ…

 

分かってくれ…俺はまだ、ここでは死ねない!!

 

俺は彼女に向けて、リボルバーを構える…

 

「隊長!!伏せて!!」

 

「まだ生きてたか!!」

 

涼平の声の後に、ライフルの銃声が2発

 

それと同時に、彼女の榴弾砲が破壊される

 

 

 

救えと言うのか…

 

殺すなと言うのか…

 

助けられると言うのか…

 

………

 

良いだろう…!!

 

 

 

「クソッ‼死に損ないが!!」

 

「おい」

 

「はっ!!ぐぁぁぁぁあ…!!」

 

渾身の左アッパーが彼女に当たり、軽く宙に浮く

 

「憎いか」

 

アッパーを当てた状態のまま、彼女を睨む

 

「あぁ憎い!!全てが憎い!!誰が産んでくれと頼んだんだ!!誰が…こんな体で産んでくれと…」

 

「思いの丈をぶつけてみろ。殺すつもりで来い。ここからは…手加減シナイ…」

 

左手の手袋を取り、深海化が始まる…

 

「隊長!!くっ…!!」

 

深海化が始まった俺を止めようと、涼平が止めに入ろうとする

 

「待て…大尉に賭けよう。あの人なら出来る気がする」

 

矢崎はライフルを構えたまま、涼平を止める

 

「分かりましたっ」

 

涼平も再びライフルを構え直す

 

「はは…貴様も同じか!!」

 

破壊された砲を捨て、彼女も身軽になる

 

「コイ」

 

「ふんっ!!」

 

彼女は俺に殴り掛かる

 

振りかぶっての右ストレートが俺の胸に当たる

 

「なっ!!」

 

彼女の手を取り、左頬にビンタを当てる

 

「いっ…た…」

 

殴られた頬を抑え、こちらを見ている

 

「ソレハ、サッキノホウゲキノブンダ」

 

「はは…おらぁ!!」

 

今度は俺の左頬に右フックが当たる

 

「な…何で…ごふっ!!」

 

今度は鳩尾に左手で掌底を当てる

 

「ソレハ、リョウヘイトヤザキヲウッタブンダ」

 

「何だよ…何なんだよ!!」

 

敵わないと感じたのか、両手で無闇矢鱈なパンチを繰り出す彼女

 

「はぁ…はぁ…」

 

「オワリカ」

 

「まだまだぁ!!」

 

何十発もの拳の応酬が俺の体に当たる

 

「はぁ…はぁ…」

 

最後の一発が、胸にトン…と力無く当たる…

 

「な…」

 

彼女の頭に手を置き、掴む様に撫でる

 

「やめろ…やめろ!!離せ!!」

 

「モウイイダロ」

 

「はぁ…はぁ…離せぇ…」

 

力尽きたのか、彼女は膝から落ちた

 

「よく、頑張った…」

 

深海化を戻し、彼女を抱き寄せて胸元に頭を置かせる

 

「生きたい…」

 

「大丈夫、俺が救ってやる…心配するな…」

 

「は…そうか…貴様だな、艦娘の医者ってのは…」

 

それが分かると、彼女は意識を失った

 

「帰ろう…帰ろうな…」

 

「帰りましょう、大尉」

 

「行きましょう!!」

 

彼女をお姫様抱っこし、最初に矢崎がいた部屋に戻って来た

 

「隊長、大丈夫ですか??」

 

「すまないな…お前にもっ‼色々背負わせてしまったなっ‼よいしょっ‼」

 

「そんな…」

 

涼平と話しながら、彼女をカプセルの溶液に浸す…

 

「隊長は…いつもこんな場面を見て来たのですね…」

 

「悪い事ばかりじゃなかったさ。涼平、そのコンセント挿してくれるか??」

 

「あ、はい」

 

「これでよしっ…」

 

《名前は何だ…教えてくれ…》

 

カプセルの中で彼女が目を覚ます

 

「マーカス・スティングレイ。君は??」

 

《ここでは"FG.A型"呼ばれていた…その辺に資料があるはずだ》

 

「どれ…」

 

《待て…私が眠るまで、行かないでくれ…》

 

「自分が探します‼少々お待ち下さい‼」

 

涼平が資料を探してくれている間、俺は彼女を見る

 

「一つだけ聞かせてくれ。どこから来たんだ??」

 

《私はここで産まれて、一度ここから逃げた深海…戦いが嫌になって、とある島に行ったんだ。そこで、一人の老人と出逢って、面倒を見てもらっていた》

 

それを聞き、涼平は持って来ようとした資料を落とした

 

「コキちゃん…??」

 

《そう呼ばれていた時もあったな…だけど昔の話だ…老人が爆撃で死ぬ前に、私は仮死状態にされた。気付けば、またここだ…》

 

「そんな…あの時連れて行けば…」

 

《気にするな涼平。さっき恨みは返した》

 

「ごめん…では済まないよね…」

 

《おいマーカス》

 

「何だ??」

 

《眠るまで、彼と話していいか。私の恩人と…》

 

「分かった。一つ約束しておく。目が覚めたら、君は横須賀で面倒を見る。いいな??」

 

《分かった》

 

「搬送を頼んでおく。涼平、後は任せた」

 

「了解です‼」

 

涼平とコキちゃんを残し、俺は部屋を出た…

 

 

 

 

「大尉、何から何まで…」

 

「そこにジュラルミンケースがある。中には時限式の爆弾が入ってる。事が済んだら、涼平と話してる子が入っている以外のカプセルを破壊してくれ」

 

「了解です。大尉は何処に??」

 

「少し疲れた…手術の後に戦闘はっ…神経を削る。外で一服させてくれ。叢雲!!」

 

「どうしたの??」

 

「矢崎を手伝ってやってくれ」

 

「えぇ…いいけど…アンタ、大丈夫??」

 

「心配するな」

 

億劫な空間を後にし、外へと出る…

 

 

 

 

一面雪景色が広がる

 

網走監獄からほんの少し離れた場所にベンチがあり、そこに腰を下ろし、タバコに火を点ける

 

「君も色々背負うね…」

 

「涼平に連れて来て貰ったのか??」

 

「君が心配でね…」

 

横に座ったのは大淀博士

 

涼平が使っていたライフルで何となく察しは付いていた

 

「随分精神も身体も摩耗したみたいだ…」

 

「そうだな…少し疲れた…」

 

連続した手術、度重なる戦闘、そして深海化…

 

今回ばかりは少し疲れた…

 

「広いな…ここは…」

 

「北海道は広いよ??雪景色が多いけどね??」

 

大淀博士は俺が話しながら渡した物を受け取る

 

カチン…と音がした後、シリンダーの中を見る

 

そして、内ポケットの中からシガーケースの様な小さな入れ物を取り出し、その中から銃弾を取り出し、装填する

 

渡したのはあのリボルバー

 

あの日、ガリバルディの兄を殺めた物だ

 

改造を施してはあるが、パーツはほとんどそのまま

 

威力の高い弾を撃ち出せる様にしてあるが、銃弾は大淀博士にしか精製出来ない

 

深海の外装甲を用いたアーマーピエッシング弾だ

 

「君はいつも誰かの為に戦う…見てられないよ…」

 

話しながら、大淀はリボルバーを俺に返す

 

「いつもの事さっ…」

 

リボルバーを革ジャンの左ポケットに仕舞う

 

「そのマテバを使う日が来るとはね…二度と使わないと思ってたよ」

 

改造を施してあるとはいえ、このリボルバーの名前は"マテバ"

 

"ここでこいつを仕留めねばならない"時しか、使わないと決めている

 

「…艦娘に向けてしまった」

 

「いいんだよレイ君…君が助かれば、それでいい」

 

「俺がカプセルを造ったから…俺が造らなければ…」

 

「もういいよレイ君…それ以上言わないでよ…」

 

「助けられたハズだったんだ!!子供も!!ここに連れてこられた人も!!」

 

「もういい!!」

 

大淀に顔を掴まれ、唇で言葉を塞がれる…

 

肩の力が抜け、大淀に身を任せてしまいたくなる…

 

「随分精神を摩耗したんだね…」

 

大淀は唇を離し、俺の顔を掴んだまま、目を見る

 

「こんなレイ君…見たくないよ…」

 

「いつもの大淀でいてくれ。頼む…」

 

「ん…そうだね…ごめんね、レイ君…」

 

大淀は俺の左腕に、自身の体を寄せ、しがみ付く…

 

二人で一緒に、代わり映えしない雪景色を眺める…

 

「レイ君…」

 

「ん…」

 

「逃げちゃおっか…」

 

「どこにだ??」

 

「ちょっとだけだよ…??ちょっとだけ、逃げちゃおっか…」

 

「どこに行きたい??」

 

「沢山だよ…レイ君の行きたい所に…」

 

 

 

 

それは、彼女の精一杯の引き止め方だった

 

彼はいつか必ず戦場に、誰かを救う為にまた戻ってしまう…

 

ただ…今だけは、自分が引き止められる…

 

自分にしか、引き止められない…

 

精神も身体もボロボロになった、世界で一番愛した男がそうなっているのを、見ていられなかった…

 

「行こっ、レイ君!!」

 

その男は少し笑い、女の手を取った

 

女はずっと、男の手を握り、雪の中を走った

 

男はそれに、身を委ねる事にした

 

二人のその姿は、まるで脱獄の様

 

現実と戦いからの脱獄だった…

 

 

 

 

「よし、爆破!!」

 

網走監獄ではカプセルが爆破され、退去準備が始まっていた

 

「隊長は??」

 

「大淀博士もいないな…少し通信を…」

 

矢崎が通信を入れようとすると、涼平はそれを止めた

 

「なんとなく…なんとなく、です。二人でいる気がするんです…」

 

涼平の言葉に、矢崎は通信の手を止めた

 

「…そうだな!!よし、帰ろう!!」

 

「はいっ!!」

 

多数の市民の死傷者は出たが、ようやく主要の実験施設が破壊された

 

一行は、横須賀へと戻る…

 

 

 

 

「そう…レイと博士がいなくなったのね??」

 

横須賀に戻り、涼平はジェミニに事の説明をする

 

「通信を繋げましょうか??」

 

「どうせ繋がらないわ。やめときなさい」

 

通信を繋げようとした親潮を止め、ジェミニは涼平の手から網走監獄で手に入れた資料を貰う

 

「レイは精神的にやられたのよ…レイは他の誰かを治す事が出来ても、自分を治す事が出来ないの」

 

「今回は特に残酷な光景でした…」

 

「きっと私じゃ治せない。一時なら体でも何でも使って治った様には見せられる…だけど、完璧には無理よ…」

 

「元帥…申し訳ありません…自分は…」

 

「いいの涼平。気にしないで!!いい??レイが帰って来たら、いつも通りにするの。それだけでいいわ??」

 

「了解です。では」

 

「後でお礼するわね」

 

涼平は一礼した後、執務室を出た

 

「嫉妬心が見えます」

 

「そうね…だけど、心の補填を出来るのは大淀博士しかいないわ…今は大淀博士に賭けましょう??」

 

「畏まりました」




FG.A型…フリートガール.エアブレイク型

自衛隊が建造した"対空艦娘"

空を砕くをコンセプトに建造が進められたが、一隻しか完成しなかった


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321話 網走で、君の手を握って…

心身共に疲弊してしまったマーカス

彼を癒せるのは、ジェミニではなく、彼をこの世界で一番愛しているたった一人の女

網走で逃避行が始まります

このお話は、目線がマーカスから大淀に代わります


俺は逃げた

 

この世で一番愛した女の細い手を握って、果てのない旅路かの様な雪景色へと踏み出した

 

罪悪感が勝つのか

 

安心感が勝つのか

 

そんな事すら考える力も、俺には残ってなかった

 

 

 

僕は逃げた

 

この世で一番愛してる男の優しい手を握り返して、ほんの少しだけ、彼を一人占めする為に、真っ白な世界を走る

 

恋心が勝つのか

 

母性が勝つのか

 

どっちにせよ、僕の心はいつだって彼でいっぱいだ

 

 

 

 

「美味しいね、レイ君‼」

 

「美味いな…体が温まるよ…」

 

二人はまず、味噌ラーメンをすする

 

冷たい監獄での戦闘

 

凍える最中の手術

 

当てられる、無慈悲な言葉

 

ラーメン一杯で心の補填が出来るハズがない

 

だけど、お腹に何か入れなきゃ、考えだって悪い方向に行っちゃう

 

「大淀さん、ちょっとにんにく入〜れよ!!」

 

「俺のも頼むよ」

 

「この位かな!?」

 

「ありがとう」

 

この味噌ラーメンは濃くて美味しい

 

だけど、きっと味なんてしないんだろうね…

 

「行こっか‼」

 

「うん」

 

ラーメンを食べて、お腹も一応は満腹

 

体も温まってる

 

だけど、ずっと雪景色を見てる

 

心ここにあらず、か…

 

「レイ君は何見たい!?」

 

「そうだな…ここには民族がいたと何かで見た。少し見てみたい」

 

「行こっ!!」

 

彼の腕にくっつき、隣を歩く

 

あぁ、何て幸せだろう…

 

ずっとずっと、こうしたかった…

 

こんな形で叶っちゃったのは、少し残念…

 

「ここからバスに乗って行こっか!!レイ君??」

 

彼は急に腕から離れた

 

「ん」

 

「ありがとっ‼」

 

温かい缶コーヒーを2本持って、また戻って来た

 

それを飲んで、バスを待つ…

 

 

 

バスに乗って民俗資料館を目指す最中、彼はずっと外を見ていた

 

「何見てるの??」

 

「鳥だ…見た事ない鳥…」

 

「なんだろうね??」

 

本当は知ってる

 

彼は本物のハクチョウを見た事が無かった

 

彼に合わせて、知らないフリをする

 

「世界を見て来た気でいたんだが…広いな。日本でもまだ知らない鳥さえいる…」

 

「世界は広いよ??レイ君の知らない事も、大淀さんの知らない事も、まだまだ沢山あるんだ」

 

「民族資料館前〜」

 

「着いた!!」

 

「行こう」

 

バスを降りて、資料館に入る

 

 

 

 

「面白いね、レイ君‼」

 

「ためになるな」

 

資料館には、当時の狩りの仕方や食べ物が展示されている

 

動物の剥製があったり、民族衣装があったり

 

「チチタプだったかな…」

 

「おっぱいのたたきみたいな??」

 

「それを言うならチタタプじゃないのかい??」

 

「神威??どうしてここに…」

 

アイヌの権化みたいな女性が来た

 

確かこの人は大湊にいた神威ちゃんか…

 

「私の生まれはこの先でね。時たま帰ってるのさ!!」

 

「そっか」

 

「マーカス…アンタ、何かあったかい??」

 

「たまには民族文化に触れたくなっただけさ」

 

「そっか…北海道は冷えるから、ちゃんと暖かい格好するんだよ!?」

 

神威ちゃんは何かに気付いて、その場を離れようとしてくれた

 

「あ、あの神威ちゃん!!」

 

「なんだい??」

 

「チタタプの作り方、分かる!?」

 

 

 

 

夕方になり、神威は近くのキャンプ場にテントを立ててくれた

 

彼はテントを立てた後、近くの川で神威ちゃんに渡された釣竿で釣りをしている

 

「大淀ちゃん…でいいかい??」

 

「ありがと、神威ちゃん…」

 

「アタシ、いちゃいけないだろう??」

 

その言葉に、頭を横に振る

 

この神威と言う、アイヌの権化みたいな女性は、凄く気遣いが上手だ

 

この鳥のチタタプを教えて欲しいと言ったのは僕なのに…

 

「大淀さんは…レイ君がしたい事をしてあげたいんだ…」

 

「そっか…好きなんだね…」

 

「ずっとずっと好きなんだ…レイ君は振り向いてくんないけどね!!」

 

「釣れた」

 

「おっきいねレイ君!!凄いや!!」

 

「凄いじゃないか!!」

 

彼は大きな魚を3匹釣り上げて帰って来た

 

その時、ようやく彼は薄っすらとだけど、笑ってくれた

 

「魚を焼いたら食べような!!」

 

「レイ君、それ作ったのかい??」

 

「釣れなかったからな…その辺である奴で作った」

 

彼の手には、先端を尖らせた太い木の枝が握られていた

 

「これ位しなきゃ生きられなかったからな」

 

「レイ君は強いね!!」

 

また少し、彼の目に光が戻る

 

こうやって、少しずつ…

 

また元の優しい彼に戻っていく…

 

「さ!!もうすぐ出来るよ!!」

 

「美味しそうだね、レイ君!!」

 

その時、神威ちゃんはお味噌を鍋に入れた

 

それを見て、彼は少し笑う

 

「どうしたんだい??味噌が不思議かい??」

 

「初めて日本に来た時…日本の人はヤバイものを溶いたスープを飲んでると思った」

 

「あっはっはっは!!そうか!!外国からすれば確かにそうだ!!あっはっはっは!!」

 

暖かいお味噌汁と、美味しい郷土料理を食べて、彼は一人焚き火に当たる

 

「涼平が焚き火当たる気持ちが分かるな…」

 

「それは友達として??戦士として??」

 

「友達として、だ」

 

「アタシは帰るよ。テントはそのままでいいからね??」

 

「今度、お礼に行くよ」

 

「ふふ!!楽しみにしてるよ!!」

 

神威ちゃんは帰る時、僕の傍に寄って耳に口を寄せる

 

「次に見る時は、元気な彼で頼むよ…」

 

僕は頷く

 

彼はいつだって、誰だって、助けを求める手を握り返す

 

神威ちゃんもまた、その内の一人…

 

「レイ君、明日は何処に行こっか??」

 

「一つ行きたい所が出来たんだ」

 

「どこだい??」

 

「ふふ…明日のお楽しみさ…おやすみ、大淀」

 

「おやすみ、レイ君…」

 

彼を横に置いて、テントの中で眠りにつく…

 

明日は何処に行こっか

 

明日ももっと、君を好きになれるといいな…

 

 

 

 

 

朝になって、日がテントに射し込む

 

「おはよう、大淀」

 

「おはようレイ君…早いねぇ…」

 

まだ少し眠たいや…

 

目を擦りながら、焚き火で料理をする彼の所に行く

 

飯盒でご飯と、獲って来た鳥を焼いている

 

「凄いねレイ君!!朝から獲って来たの!?」

 

「味は分からんがな。食える鳥ってのは知ってる」

 

彼の横に座る

 

彼の横には、いつの間にか作った手製の弓矢が置いてある

 

「墜落した時の為に教えて貰ったんだ。それで鳥を獲った」

 

「そっかそっか‼上手いねぇレイ君‼」

 

…血の匂いだ

 

夜中に何かあったのかな…

 

「鳥を捌く時にな」

 

「そ、そっかそっか‼」

 

でも、彼の目の光は、また少し戻っている

 

「いただきますっ」

 

「いただきまーす!!」

 

焼いた鳥の足と、ホカホカのご飯を食べる…

 

 

 

 

「奴は一人だったぞ…何故ここまで…」

 

「我々に敵う相手じゃないのか…銃も使わずに…」

 

昨夜、二人の所に網走の残党が来ていた

 

目立った所で襲ってしまうと、仲間を呼ばれる可能性があった為、機を計らってマーカス若しくは大淀を襲おうと目論んでいた

 

神威と大淀が料理をしていた時に気付き、マーカスは気付かぬ所で弓矢を作製

 

深夜、襲って来た連中に対して影からそれを放ち、撃退した

 

銃の類を使ってしまえば、大淀が起きてしまう為、マーカスは一人で弓矢片手に奮闘していた

 

血の匂いはその時に付いたものだ

 

"殺さないでおいてやる。だから頼む、撤退してくれ"

 

その部隊の隊長は、怯えた顔で首を縦に振り、部隊を下げた

 

後にその隊員は語る

 

"我々は死神を敵に回してしまった。それも、ゆりかごを持った死神にだ"

 

と…

 

 

 

 

 

「アタシだ。少し気分が落ち込んでるね」

 

《ごめんなさい、神威。こんな真似させちゃって》

 

神威は横須賀と電話を繋げる

 

マーカスが北海道で消息を絶ってすぐ、近場にいたのは神威しかいなかった

 

横須賀は悪いと思いながらも、神威を使って二人の様子を伺っていた

 

「なぁに、世話になってるお礼さ。しっかし、彼にあれ程のサバイバル能力があるとはねぇ??」

 

《昔教えて貰ったのよ。一人でも生きていける様にって。その場にある物で何か作るの好きなのよ》

 

「そうかい…それと、横にいた女性だけど…」

 

《大淀ね》

 

「よっぽど彼を好いてるみたいだ。ずっと横にいた。それに…」

 

《それに??》

 

「ずっと彼を護ってる。アタシが彼と話していた時、物凄い圧を感じたんだ。それで、彼女を見たら…」

 

《やっぱり、レイに特別な感情あるのかしら??》

 

「いんや…あれは恋愛感情やら度が過ぎた愛情のレベルじゃないね。好きを通り越した先にいるんだろうね、きっと…」

 

《私は大淀にはなれない…》

 

初めて聞く、いつも気丈な女の弱音

 

酷い言い方をすれば、彼が今やっているのは不倫だ

 

だけど"今すぐに治療が必要な彼の横に居られる人物"は、大淀しかいないのも事実

 

神威は勿論、横須賀でさえ、傷を負った彼を抱き止めてあげる事は出来ない

 

今彼を治せるのは、彼を十二分に知り尽くし、彼の欲しい物を無条件ですぐに与えられる大淀だけ…

 

神威も横須賀も、今まで戦い、治療に心血を注いだ彼の事をそれ位は理解するのは容易い事だった

 

「大丈夫さ!!アンタにはアンタにしか出来ない事あるさ!!」

 

《胸かしら??》

 

「あっはっはっは!!それもあるだろうね‼だけど彼の横にいて、彼の事をもっと楽しませよう、喜ばせようとするのはアンタだけだろう??そう感じてるよ、アタシは…」

 

《ありがと。ちょっと楽んなった!!》

 

「その気があるなら、帰って来た時に自慢の物を押し付けたらいいさ!!」

 

《ふふっ!!そうさせて貰うわ!!ありがとっ!!》

 

「じゃあ、アタシはしばらく休暇を頂くよ。いつでも頼ってくんな!!」

 

横須賀は電話を切った

 

神威は少しだけ不安を抱いていた

 

本当は、怖かったのは大淀の圧じゃない…

 

あんなに悲しい目の奥に殺意を抱いていた、男の目が怖かった…

 

そして、彼の目が展示物の弓矢に目が行っていたのも神威は覚えていた…

 

 

 

 

 

彼と一緒にバスに乗る

 

僕は横に座って、彼と一緒の景色を見る

 

何処に行くのかな??

 

しばらく揺られていると、おっきな湖が見えた

 

「降りよう」

 

彼と一緒に、バスを降りる…

 

「おっきいね~レイ君!!」

 

「来てみたかったんだ…」

 

「「あそこにボートがある」」

 

二人して同じ事を言い、彼は優しく笑う

 

二人、言葉を交わす訳でもなく、ボートを借りて湖に出る…

 

「綺麗だ…」

 

「お魚いるよレイ君!!」

 

「どれっ…」

 

マスの類のお魚が、ボートの近くを泳いで行く

 

それも、おっきな奴だ

 

お魚から目を離し、太ももに肘をつきながら、彼の顔を見る

 

僕の大好きな横顔だ…

 

「大淀さん好きだなぁ…レイ君の横顔見るの…」

 

「…ありがとう」

 

彼は右手で後頭部をぐるりと掻く

 

その素直さと照れ方は、小さい時から変わんないんだね…

 

「レイ君はこういうとこ好き??」

 

「たまには喧騒から離れたくなる時もある」

 

「もし隠居になったら…こういう所で暮らしたい??」

 

「そうだな…自給自足もっ…良いかも知れないな…」

 

「おいで、レイ君」

 

彼はオールを止め、僕の膝に頭を置く

 

頭を撫でると、くすぐったそうにする

 

「二人きりだね、レイ君」

 

「もう少しこのままでいたい…」

 

「いいよ…レイ君がそう言うなら、いつまでも…」

 

彼は僕の膝で、ようやく眠りについた

 

昨日の寝れていないからじゃなくて、長年戦って来た彼がようやく穏やかな顔をして寝息を立てる事が出来た束の間の一休み

 

また一つ、僕は彼を好きになっていく…

 

「歌の通りだね…」

 

湖の周りに霧が出始める

 

それはまるで彼を守るかの様にボートを包み込む…

 

「綺麗…」

 

霧は水面に立ち込め、僕は雲の上にいるみたいな感覚に陥る

 

「こんなに綺麗な場所…まだこの世界に残ってたんだね…」

 

…違う

 

きっとこの景色は僕一人で見たら、少し見て終わってしまう…

 

…そっか

 

彼と一緒にいるから、景色が全部綺麗になってるんだ…

 

…いつか、彼と暮らせたらいいな

 

自給自足でも、何だっていい

 

彼といるだけで、僕はご飯が何だってごちそうに見える

 

彼といるだけで、僕は景色がこんなにも綺麗に見える

 

あぁ、そっか…

 

"あの日"、彼と繁華街に行った時、自分で答えを出していたんだ…

 

切れかけたネオンでさえ、僕はとっても美しい風景に見えたんだ

 

…幻みたいな風景のまま、時間が止まってしまえばいいな

 

もっともっと遠くへ、彼と一緒に行きたいな…

 

 

 

 

小一時間、彼は僕の膝の上でぐっすり眠った

 

「はっ」

 

「よく眠れたかい??」

 

僕の顔を見上げたので、笑顔を返す

 

すると、彼はいつもの様に笑った後、僕の頬を撫でた

 

僕は知ってるよ

 

"この手"が何を意味するのか…

 

大丈夫、ちゃんと"ここにいる"よ

 

ちゃんとここにいるかどうか確かめる為に、信頼を寄せた人の頬を撫でる癖…

 

子供によくやっているのを、僕は時折見る

 

甘えてくる子もいれば、噛み付く子もいる

 

どっちも生きてる証拠だと、君はいつだって笑う

 

僕がまだ彼と一緒に研究をしていた時に、彼にやっていたからかな…

 

ちゃんと覚えてるんだね…

 

「すまん。世話になった」

 

「いいよ!!大淀さん、どっちのレイ君も大好きだからね!!」

 

"君"の目に光が戻った

 

"私"はどっちの君も好き

 

優しいレイ君

 

死神のレイ君

 

今、死神は再び眠りにつき、いつもの優しい君に戻った…

 

 

 

 

一度だけ、内緒で君を検査した事がある

 

もしかして、多重人格ではないのかと

 

優しい時と、怒った時の差が激し過ぎる

 

だけど、何をどう検査しても優しい君しか出てこなかった

 

死神と化した君を検査しても、それは同じ

 

"誰かを救わねばならない"

 

その思いだけで、君はいつだって動いている

 

昔も…今もね…

 

 

 

「凄いな…ちょっと寝てたらこうとはな…」

 

「凄いよね…」

 

レイ君は起きてすぐ、周りの光景に気が付く

 

霧は未だに湖面に立ち込めている

 

「〜♪」

 

レイ君は鼻歌を歌いながら、ボートを漕ぐ

 

「随分懐かしい歌だね??」

 

「いい歌は時代も世代も越えるのさ」

 

レイ君の鼻歌を聞きながら、船着き場を目指す

 

君の心は、この湖と一緒

 

探ろうとすると、霧で心を隠してしまう

 

君のためになら、私はいつだって壊れてもいい

 

そう言うときっと、君は壊れる位に抱き締めてくれるのだろう

 

この旅が終わる前にもう一度だけ、君に抱き締めて欲しい…

 

「ほらっ」

 

「ありがとレイ君っ!!」

 

君の手に掴まり、ボートを降りる

 

あぁ…楽しかった…

 

二時間余りの時間が、数分に思えた

 

次は何処に行こうか…

 

 

 

 

 

またバスに乗る

 

「そういえば大淀」

 

「なんだい??」

 

「タブレット、どうした??」

 

「君と一緒にいるんだよ!?仕事じゃないのにタブレットなんかいらなーい‼」

 

「出た出た。ははっ!!」

 

君は僕の「いらなーい!!」が、昔から好きだ

 

僕はタブレットを置いて来た

 

そう。最初から君とこの旅をするために…

 

「涼平に預けたのか??」

 

「うん‼中に入ってるゲームしていいよって言ったら、早速してたよ!!」

 

 

 

 

「ど、どうなってんだ!?」

 

「強過ぎるだろ!!」

 

「涼平‼右だ‼弾!!」

 

「「「あーっ‼」」」

 

横須賀に戻った涼平は、ホントに大淀のタブレットでゲームをしていた

 

やっているのは何世代も昔の様なゲームで、横スクロールアクション

 

反射神経抜群の園崎がやろうが、丁寧な操作をする櫻井がやろうが、結果は一緒

 

敵の弾が高速で飛んで来たり、見えなかったりとまるでクソゲー

 

挙げ句の果てには体当たり

 

「博士が帰るまでに絶対クリアしてやる…」

 

 

 

《プワーップワップワップワッパァー!!姫は頂いたプワースゥー!!》

 

《何すんのよ!!》

 

《待て!!ヘルプァース!!》

 

《プワーッパッパッパァ!!行け!!レッドアーカシー!!騎士マーカスを倒すプヮース!!》

 

 

 

 

「どう見ても隊長何だよな…」

 

「パースさん…だよな??」

 

「レッドアーカシーを何とかせんと通れんぞ…」

 

大淀達が帰るまで、三人の騎士がジェミニ姫を助けるお話は続く…

 

 

 

 

「都会に出たねレイ君!!」

 

君は大きな街に来た

 

寒い大地が続いていた中、ここは何だか懐かしい気分がする

 

「そこに行ってみたかったんだ」

 

「おっきい時計だねぇ」

 

街の中にあったのは、大きな時計がある施設

 

中に入ると、君はすぐに展示物に夢中になる

 

小さい時から変わらないね…

 

君は夢中になったら、いつも真っ直ぐだ

 

「ここは学校だったんだな…」

 

「タイムスリップしたみたいだねぇ…」

 

展示物の中に時折出て来る、戦争の断片

 

それを見て、君は何を思うのかな…

 

「レイ君、2階に行こうよ!!」

 

「2階に見たいものがあるんだ」

 

2階に上がると、そこはホールになっていた

 

長椅子があって、君の好きな楽器の演奏でも出来そうな空間だ

 

「これだ‼」

 

君の声でその方を見る

 

そこには、ローマ数字で記された大きな時計があった

 

「レイ君時計好きだっけ??」

 

「ちょっとそこに立っててくれ!!」

 

僕を時計の横に立たせ、君は取り出したカメラを離れた位置で準備する

 

「いつ買ったんだい??」

 

「ボート乗り場の売店さ」

 

「撮りましょうか??」

 

来てくれた職員にカメラを渡し、君は僕の傍に来た

 

「はい、チーズ!!」

 

君も僕も、この旅の最中でようやく二人して心から笑う

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとう」

 

カメラを返して貰い、また内ポケットに仕舞う

 

「焼き増しして欲しいな!!」

 

「出来たらすぐに届けるよ」

 

「汽車に乗ってかい??」

 

「ふっ…スケボーだっ」

 

君にくっついて、施設を出る…

 

 

 

 

 

その後、僕達は少しだけ消息を断った

 

痕跡を消すなんて簡単さ

 

ただ、僕は人生で一度だけ、ワガママを言いたかった

 

1日だけ、誰の目にもつかない場所へ、君と何処かに行きたかった

 

ただ、普通の事がしたかった

 

君と一緒に繁華街を歩いて…

 

君の顔を見ながらご飯を食べて…

 

笑う君とおしゃべりして…

 

ただ、普通の事がしたかった…

 

 

 

 

1日後、僕達は北海道の南側に来ていた

 

傍から見たらきっと、大移動をしたんだと思う

 

だけど、本当に一瞬だった

 

こんなに短い3日間を過ごしたのは、人生で初めてだ

 

「楽しかった!!」

 

「大淀さんもだよ!!」

 

埠頭で缶コーヒーを飲みながら、3日間を振り返る

 

本当に楽しかった

 

ずっと、今日が続けばいいのになぁ…

 

だけど…

 

「水上機だ…何でこんな所に??」

 

埠頭に停められていた水上機に、君は寄る

 

空に魅入った男は、また空に帰ってしまう…

 

いつの日か君は言っていた

 

"罪の意識など…そんなもの、空に棄てて来た"

 

今まで色んな方程式や難解な問題でも僕は解いて来た

 

だけど…君の心だけは本当に分からない

 

きっと、分かっちゃいけないんだろうね…

 

君といると"だけど"や"きっと"みたいな、曖昧な答えが増える

 

「涼平が置いて行ってくれたのか…大淀、これで帰…」

 

「大好きだよ、レイ君…」

 

置き手紙を見ていた君の背中に抱き着く

 

「いつでもいい…君がどうしようもなくなった時だけでもいい…その時は、また大淀さんと何処かに行こっ…」

 

君の肩の力が抜けた

 

「…ありがとう」

 

「…帰ろっか!!」

 

君から離れると、君は右手を出した

 

僕はそれを握り、また戦いの日々へと戻って行く…

 

 

 

 

数日後、レイ君がスケボーで研究室に来た

 

机の上に置ける様な小さな写真立ての中には、あの日一緒に撮った時計と大淀さん達の姿があった

 

その写真と写真立ては、大淀さんにとって一番の宝物になった…




このお話には色々隠してあるネタがあります

探してみてね‼


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322話 君の故郷(1)

お久し振りです、苺乙女です

久し振りの更新になります、大変お待たせしました

今回のお話は、2度目の水没地域調査のお話です

地の利が唯一ある涼平を連れ、とある場所へと向かいます



少し前に、マーカスはナイフを過去に置いて来ました

その代わりの武器が今回手に入ります


「あ、レイ‼アンタ暇??」

 

「暇だったらここにいねぇっての!!何だ‼」

 

工廠でPCをいじっていたレイに資料を渡す

 

レイは手を止めて資料をめくる

 

「水没地域調査か…」

 

資料をめくる度に、レイの目が真剣な物に変わっていく…

 

「まだ調査が進んでないのよ…お願い出来る??」

 

レイは資料を見ながら口を開く

 

「分かった。ここの地理に強い奴がいればいいんだがな…」

 

「涼平!!ちょっと!!」

 

「あ、はい!!」

 

たまたま通りがかった涼平を捕まえた

 

ちょっとは知ってるとは思うのだけど…

 

「涼平、ちょっとこれ見て頂戴」

 

「はい」

 

涼平も資料をめくっていき、途中で目が真剣な物に変わる

 

「なるほど…この辺りは数度だけですが、行った事があります」

 

「数度でも知らないより遥かにマシよ!!レイのナビお願い出来る??」

 

「了解です!!」

 

「あ!!そうだわ!!終わったら1日休暇をあげるわ!!終わったら好きなとこ行ってらっしゃいな!!」

 

「ホントですか!?」

 

レイより早く反応したのは涼平の方

 

いつも目が輝いている子だけど、いつも以上に輝いてる気がする…

 

「隊長!!行きましょう!!」

 

「よ、よっしゃ!!なら準備だ!!」

 

涼平は意気揚々と準備に取り掛かる

 

「レイ、お願いがあるの」

 

「なんだ??」

 

「休暇は、あの子に付き合ってあげてくれないかしら??」

 

「涼平が嫌じゃなきゃな??」

 

「多分涼平から誘うわよ‼さ‼頼んだわよ‼」

 

「分かった」

 

「あ、レイ」

 

レイが足を止めて振り返る

 

「アンタの傷は癒えたのかしら??」

 

「もう大丈夫だ…心配掛けたな??」

 

「いい、レイ??辛いと思ったり、抱え込む前に、頼れる人には頼んなさい!!それが女でもいいわ??」

 

私はレイに体を寄せて、軽く押し付ける

 

「私じゃ、アンタが現地であぁなった時に居られない時がある…その時は、誰でも良いから頼って」

 

「すまん…」

 

「謝んないで!!いい!?最後に私の横にいればそれでいいの!!分かった!?」

 

「はいはい分かりましたよ!!」

 

「はいは一回!!」

 

「はい!!必ず帰ります!!」

 

「んっ、いいわ!!行ってらっしゃい!!」

 

レイは涼平と一緒に水上機の準備を始める

 

「その…ジェミニちゃん…」

 

「大淀さん…見ました??」

 

いつの間にか大淀が背後の壁の後ろにいた

 

「ごめんなさい…3日も連絡しないで…」

 

「ありがとう…レイを連れ帰って来てくれて」

 

「その、大淀さん…」

 

私は大淀にも寄る

 

「謝んないで。レイがあぁなった時に傍に居てくれたじゃない…私じゃ出来なかった。お願い、またレイがあぁなった時、大淀さんに頼った時…」

 

「大淀さんで良いならいつだって!!ジェミニちゃんも、大淀さんも、レイ君の味方だよ⁉」

 

「うんっ…」

 

「えっと、その…あっ!!パフェ食べよっか!!大淀さん、ちょっと甘い物食べたくて!!」

 

「行きましょう!!」

 

私と大淀は間宮に向かい、パフェを食べる事にした

 

 

 

 

 

「隊長、行きましょう!!」

 

「涼平、そこに立て」

 

「へっ!?は、はい!!」

 

涼平の腰にベルトを回す

 

「水没地域調査とはいえ、敵がいない訳じゃない。こいつをやる」

 

「良いんですか??隊長の銃じゃ…」

 

「俺はこっち」

 

俺の腰に下げてあるマウザーを見せる

 

涼平の腰にも同じマウザーが下げられる

 

「お前なら、この銃の使い方が分かるはずだ。そうだろ??」

 

「探してみます…隊長の"剣"の意味を…」

 

「良い答えだ。さぁ!!いざ現地へ!!」

 

涼平の操縦で、朝霜から"頂戴"した強風が飛び立つ…

 

「んぎ〜!!まーた勝手に乗って行きやがったな!!」

 

飛び立つ瞬間に気付いた朝霜は、その場で地団駄を踏み、歯軋りをする

 

「それだけ良い機体って事さ!!はっはっは!!アサシモ、おじいちゃんとボーリングに行くか!!」

 

「やった!!」

 

朝霜はリチャードと共に遊戯場へと向かった…

 

 

 

 

 

 

強風の中で涼平が問う

 

「隊長は三重の方はあまり行った事はありませんか??」

 

「良く知らないだけだ。上からは見た事があるんだがな…」

 

「そうでしたか…」

 

「…ここは??」

 

目的地に着くまでに、多数のボートが眼下に見えた

 

軍艦ではなく、漁船だ

 

「ここ一体はハマグリがよく採れるんですよ。結構綺麗な街ですよ??」

 

「漁船に強風…何世代も前の光景だな??」

 

「ははっ!!違いないです!!」

 

ハマグリが名産品の場所を通り抜け、目的地を目指す…

 

 

 

 

「この辺りか??」

 

「えぇ。着水出来る場所を探します」

 

目的地が見えて来た

 

前回の様にボートで行けばもっと楽なんだが、今回は少し様子が違う

 

「あそこにしましょう!!」

 

涼平は強風を着水させる

 

着水させたのは比較的高めのビルの横

 

地盤が沈んだのか、それとも崩れたのか、ビルの大半は海に浸っており、強風を停めておくには丁度良い場所になっている

 

「よい、しょっ…」

 

「…」

 

足を降ろした場所で気が付いた

 

ここはビルじゃない…

 

…駐車場だ

 

「隊長、自分、ボートか何か探してきますね??」

 

「涼平…」

 

「はい??」

 

「目的地は…ここだ…」

 

「はっ…」

 

涼平もその事に気付く

 

「"スターバレー"が…こんな事になってたなんて…」

 

足を降ろした場所はビルではなく、立体駐車場の屋上

 

横須賀から渡された資料にも書かれていた

 

目標はここ、ショッピングモール"スターバレー"

 

深海の棲み家になっているらしく、調査を頼まれた

 

「行こうか」

 

「は、はいっ…」

 

涼平は生唾を飲む…

 

俺はジュラルミンケースを持ち、立体駐車場からショッピングモールへと足を踏み入れる…

 

「ボロボロだな…」

 

スターバレーの内部は海水の影響もあり、ドアやエスカレーターは錆び付いて動かない

 

電気も通っておらず、エレベーターも動かない

 

ただ、商品を陳列している棚だけは、放置されたまま残っている

 

所々に値札があり、まるっと商品が残っている場所もある

 

…時代を感じるものだがな

 

「隊長、すみません。自分、建て替えられる前のここには来た事があるのですが…」

 

「そうか、俺も初めてだ。心配するな」

 

「あ、待って下さい!!これ!!」

 

涼平の目線の先には、館内の地図があった

 

所々掠れてはいるが、状況を見る限り、行けない場所の方が多そうだ

 

これで充分だろう

 

涼平は2、3枚写真を撮り、俺の所に来た

 

「この先は雑貨エリアみたいです」

 

「オーケー…何も出ない事を祈ろう…」

 

俺達の前には防火扉がある

 

ここが浸水した時、防火扉で防ごうとしたのだろうか…

 

これを何とかしない限り、先には進めないだろう

 

もしくは迂回するか…

 

「隊長!!行きましょう!!」

 

「あっ、はい…」

 

真剣に考えていた最中、涼平は防火扉の横に備えられた小さな扉を見つけ、既に向こう側に行こうとしていた

 

涼平の後に続き、扉をくぐる…

 

「わぁ…」

 

「はは…」

 

扉をくぐった先にあったのは…

 

「イラッシャイ、ニンゲンサン!!」

 

「イラッシャイマセェー!!」

 

思っていた以上に明るい深海の子達がそこに大勢いた

 

俺達に気付いて迎えてくれたのは、涼平と歳が近そうな深海の女の子二人

 

「ここはなんですか??」

 

「ココハ、ブツブツコーカンヲシタリ、ゴハンヲタベタリ、オサカナヲソダテタリスルトコロ!!」

 

「ホトンドブツブツコーカンスルトコロダケドネ!!」

 

「少し覗いて行っても良いか??絶対悪さしない!!」

 

「モチロン!!タノシンデイッテネ!!」

 

「マッタネー!!」

 

若い深海の女の子は、奥へと行ってしまった…

 

「何か持ってこれば良かったな…」

 

「ふっふっふ…隊長、これ、差し上げますよ!!」

 

涼平は背負っていたリュックサックの中からチョコレートバーを2本取り出した

 

「隊長、わらしべ長者ですよ‼」

 

「チョコレートバーが最終何に変わるか、か…」

 

「元帥に査定して貰いましょう!!」

 

「言うじゃねぇか…良いだろう!!」

 

調査とはいえ、俺達は今この場を楽しむ事にした

 

 

 

 

物々交換の場所に代わったショッピングモール"スターバレー"

 

まずは俺達が来た入り口に一番近い場所の店から探索を始める

 

「イラッシャイマセー、カンブツダヨー!!」

 

「乾物か…どれっ…」

 

俺はイ級が店番をしている乾物屋の前で足を止め、イ級と目線を合わせるために屈む

 

「アラ、ボウヤ…オカイモノ??」

 

「はい、ここは物々交換出来る場所と聞いて…」

 

涼平はル級っぽい美人な深海の前で足を止めた

 

「チョコレートバーと何か交換出来ないか??」

 

「ン〜ト…ア!!コレハドーカナ!!オダシガトレルヨ!!」

 

イ級が渡してくれたのは、チョコレートバーと同じ位のサイズの鰹節

 

「オーケー、ありがとな??」

 

「ナニカトカエルノ??」

 

「どうだかな??この鰹節は美味しそうだ。俺がそのまま持って帰るかもな??」

 

「コノサキデモイッパイブツブツコーカンデキルトコロアルヨ!!」

 

「ありがとな。ちょっとっ、行ってみるよ!!」

 

立ち上がって、次のめぼしい店を探す…

 

「オニーサン、オニーサン!!」

 

駆逐タイプの姫級であろう子に呼び止められる

 

「ここは??」

 

「ココハ、トケーヤサン!!」

 

「鰹節があるんだが」

 

「スキナノトコーカンデイイヨ!!」

 

「どれっ…」

 

先程のイ級の乾物屋と同じく店内に商品があるというより、店の軒下にシートを敷き、その上に商品を並べ、中に入ってはならない雰囲気がある

 

後ろにある商品は言えば取ってくれるのだろうか…

 

「あの時計を見たい」

 

「チョットマッテネ…ハイッ!!」

 

彼女の手から耐水性に特化した腕時計を受け取る

 

「付けてみても良いか??」

 

「イーヨ!!」

 

腕時計を右腕に付ける

 

本来なら左腕だが、大淀に造って貰った義手が放電する可能性もあるからだ

 

「似合うか??」

 

「ニアウ!!ソレニスル??ソレ、ウゴカナインダケド…」

 

「なに、帰って修理するさ!!」

 

彼女は笑った後、少し鼻で息を吸う

 

「オニーサン、タバコスウノ??」

 

「あぁ。タバコも交換出来るのか??」

 

「サンボンデドウ??」

 

「オーケー、良い取引だ!!」

 

内ポケットからタバコの箱を出し、3本出して彼女に渡す

 

「ンフフ、アリガト!!ココデハ、タバコハキチョーヒンナンダ!!」

 

「良い事を聞いた!!」

 

「アー、デモ、ソノカツオブシモキチョーヒンダヨ??オイシーカツオブシハ、アノコシカツクレナイノ。モットオクニイクト、カツオブシトコーカンデキルキチョーヒンモアルカモ!!」

 

「ありがとな??」

 

「マタキテネ!!」

 

時計屋を離れ、また少し奥に進む…

 

今手元にある交換品は

・鰹節1個

・タバコ12本

 

全部何かしらに換えてから帰りたいんだがな…

 

 

 

 

少し進むと、フードコートと思わしき、だだっ広い場所に出て来た

 

机も椅子もボロボロになっているが、所々座れそうな場所がある

 

肝心の店もまばらにしか開いていないが、

"ドンブリ""ジュース"等の看板が店に掲げられている場所もある

 

「アイスクリームドーデスカー!!」

 

チ級だろうか…クーラーボックスを持ってアイスクリームを売りに来た

 

「タバコ何本だ??」

 

「タバコモッテルノ!?イッポンクダサイ!!」

 

「ほらっ!!」

 

「アリガトーゴザイマス!!ハイ!!」

 

カップのアイスクリーム(バニラ)とスプーンを貰い、階段の一番上に腰を降ろし、それを食べる

 

「うまいな…」

 

アイスクリームを食べながら、階段の向こうにある景色を眺める…

 

階段には踊り場があり、2階へと続いている

 

が、海水はもうそこまで来ている

 

窓も割れた部分があり、ここが何かに巻き込まれたと物語る…

 

窓の向こうには、港湾付近にある大型のクレーンが何基も見える

 

その下には、浸水した街…

 

人が生きていた形跡がある街だ…

 

「ここにいましたか」

 

涼平が横に座る

 

「どうだった??」

 

「見て下さいコレ!!」

 

涼平が取り出したのはシガーケース

 

「深海の方達が作った物らしくて、中に浸水しないようになってるんです!!隊長は??」

 

「俺はこれとこれだ」

 

涼平に鰹節と腕時計を見せる

 

「どうやって2つも!?」

 

「タバコも物々交換出来る。貴重品らしいぞ??」

 

「自分、後3本しか…」

 

「そのシガーケース寄越せ」

 

涼平は素直にシガーケースを俺に渡す

 

そこにだいたい半分の数の6本タバコを入れる

 

「ほらっ」

 

「わぁ‼ありがとうございます!!」

 

「その貴重品を俺はここで吸ってやる」

 

アイスクリームを食べ終え、そのままの状態でタバコに火を点ける

 

「随分と変わりました…この街は…」

 

タバコを吸いながら、海を見つめる涼平の横顔を一瞬見た後、海に視線を戻す

 

「…随分昔にここに来た事がある。あそこにコンテナ上げるクレーンあるだろ」

 

俺の指差す方向には、大型のクレーンがある

 

「はい。何基か破壊されてますが…」

 

「あれとコンテナを破壊する任務で、ここの空を飛んだ」

 

「あれ隊長がやったんですか??」

 

「どうだかな。随分昔の話だ。立て直してるかもな??」

 

「コンテナの中身は何だったんです??」

 

「さぁな。当時は言われた事をやるだけさ。中身なんざ、知る必要も無かった…ま、産廃だったって事は知ってる」

 

「隊長がした訳ではないですよ。ここは地盤沈下のせいで海に沈んだんです」

 

「その後に治療に降りたんだ」

 

俺の言葉で、涼平の顔付きが変わる…

 

「言われたよ。死神だってな…破壊した奴に治療されたくないとも言われた。ごもっともな話だっ!!俺だってそんな奴に診られたかないっ!!」

 

足は階段に降ろしたまま、その場で寝そべり、天井を見る

 

所々崩れていたり、雨漏りしている所があるが、それがまたこの場所を際立たせている…

 

「隊長…」

 

「まっ、俺だって診たくもなかった。産廃運んで、海に沈めようとした連中の体なんてなっ」

 

「その産廃って…」

 

「核廃棄物だよ。それに気付いて、クレーンだけ破壊した。今思えば、あの時コンテナごとやっとけば良かったよ」

 

「隊長は死神なんかじゃないです。自分も大淀博士と思いは一緒ですが…隊長はいつだって命を最優先にします!!」

 

「ふふふ…大淀はなんて言ってた??」

 

涼平は咳払いした後、大淀のマネをする

 

「大淀さんはね!!優しいレイ君も深海になったレイ君も大好きなんだ!!どっちもカッコいいよね!!」

 

「ははは!!言いそうだっ!!」

 

「やっと笑ってくれました…」

 

「すまん、心配をかけたな…」

 

「じゃ、隊長!!自分はあのお姉さんに相手して貰いまーす!!」

 

「オイデ〜ニンゲンサン!!」

 

「待て涼平!!詳しく聞かせろ!!おい!!」

 

涼平は最初に案内してくれた女の子の所に行ってしまった…

 

しみったれた話は終いだ

 

俺ももう少し、交換に勤しむとしよう

 

 

 

 

「ここは…」

 

フードコートを抜けると、ふと通りの真ん中に吹き抜けがある事に気付いた

 

下を覗いてみると、もうそこまで海水が来ていた

 

「おぉ…」

 

今俺達がいるのは地図上3階

 

1階、2階部分は海に沈んでいる

 

太陽が差し込み、1階部分まで様子が伺えた

 

このショッピングモールは今、自然へと還ろうとしている…

 

海に沈んだ1階2階には、潜水タイプの深海が泳ぎ、ここに迷い込んで来た魚をとっている

 

「!!」

 

一人海から上がって来たが、俺に気付いてまた潜ってしまった

 

「おいで。敵じゃない…」

 

海水に手を入れると、今しかだ潜ってしまった潜水タイプの子が指でつついて来た

 

海水に手を入れたまま、手招きする

 

すると、潜水タイプの子は顔を見せた

 

「お魚とってたのか??」

 

「…」

 

ザバッと音を立て、右手に握った網を見せる

 

中には魚や昆布、貝が入っていた

 

「ここで交換するのか??」

 

すると、潜水の子は頭を横に振り、指を差す

 

「丼にするのか…そっか、邪魔したな??」

 

潜水の子は再び頭を横に振り、海水から上がる

 

メリハリのある、スタイルの良い体が見えた

 

水中からはあまり分からなかったが、胸も結構大きい…

 

「オニー、サンッ!!」

 

「おっと!!」

 

潜水の子をガン見していると、涼平を相手している子とは逆の子が腕について来た

 

「オニーサン、パイロットサン??」

 

「そっ。横須賀から来たんだ」

 

「ヨコスカッテイエバ、シュリサンガイルトコロ??」

 

「知ってるのか!?」

 

ここに来て知り合いの名前が出てくるとホッとするな…

 

「ウンッ!!シッテル!!シュリサン、トーッテモツヨインダヨ!!ヤサシイシ、カッコイイシ!!デモ、オコルトトーッテモコワインダヨ!!」

 

「い、いいか!?今すぐあの子を止めるんだ!!行くぞ!!」

 

「ドドドドウシタノ!?」

 

「涼平はシュリさんの恋人なんだよ!!」

 

「ヤバーイ!!」

 

俺と深海の少女は、涼平を相手している子の所に向かう

 

「涼平!!涼へーーーい!!」

 

「ダメーーーッ!!」

 

「ニンゲンサンッ…キモチイッ??」

 

「気持ち、良いですっ…」

 

「涼平…あぁ…良かった…」

 

「ソノニンゲンサン、シュリサンノコイビト!!」

 

「エ!?エェーッ!?シュリサンノ!?」

 

深海の少女はマッサージの手を止めた

 

「シュリさんのっ、知り合いですか!?」

 

「シュリサン、イマヨコスカニイルッテキイタ…」

 

「ワタシタチ、シュリサンニタスケテモラッタ…」

 

「どこでだ??」

 

「ワタシタチ、ジエータイニトラエラレテ…ソノトキニシュリサンニ…」

 

「シュリサン、ワタシハイーノ!!ワタシハタスケヲマッテルカラ!!ッテ…」

 

「帰って話しておきますよっ!!あの時の人達は、ちゃんとここにいるって!!」

 

「ウンッ!!」

 

「ア!!モシカシテ、リョーチャンッテコノヒト!?」

 

「涼平。お前も一生言われる奴だ!!」

 

「くうっ…」

 

言葉ではそう出るが、顔は少し嬉しそうにしている

 

「テイチョーニオモテナシシナイト!!」

 

涼平は人を否定しないその性格もあってか、深海の子にモテる

 

ここまで数多の深海に話を聞いて来たがシュリさんはかなりの猛者

 

普段は優しいが怒ると激恐なのは伝わっている

 

「…涼平」

 

「えぇ…聞こえました…」

 

俺も涼平も、険しい顔になる

 

今日ここに来たのは水没地域調査

 

既に人がいないのに、生体反応が確認されている地域の調査になる

 

俺はこのショッピングモールの中にいる彼女達の反応と思っていた

 

だが、どうやら違うみたいだ…

 

「キタ…」

 

「小型のモーターエンジンです…」

 

深海の子達が店を閉め始める…

 

恐れているのか…??

 

いや、違う

 

嫌がってるんだ…

 

「人か??」

 

「ウン…トキドキダレカツレテッチャウノ…」

 

「一言でいい。君達にとって敵か??」

 

「スキジャナイ…オウヘーダモン」

 

「充分だっ…涼平、行けるか??」

 

「いつでもっ!!」

 

「君達は隠れてろ。ここは俺達が相手する」

 

二人の深海の少女は頷き、店の奥に隠れる

 

小型のモーターボートがショッピングモールに停泊した…

 

「なんやなんや!?まーた店じまいか!?」

 

「しょーもないのぉ!!オラ開けぇ!!」

 

入って来るや否や、言った通り横柄な態度で店じまいしたシャッターを蹴り飛ばす男衆

 

手には銛やら猟銃を携えており、明らかに武装集団に見える

 

「涼平、何人いる…俺には6人に見える…」

 

「自分も同じです…」

 

男衆はまだ此方に気付いておらず、群れたままシャッターを蹴り飛ばす

 

「開けろ言うとるやろがい!!」

 

「イ…イラッシャイマセ…」

 

「遅いんじゃボケ!!」

 

シャッターを開けたのはイ級の乾物屋

 

「開けんの遅かったなぁ!!」

 

「イマハボクノオミセハミセジマイシテテ…」

 

「うっさいんじゃボケ!!」

 

「イタイ!!」

 

「黙って物換えりゃぁ良いんだよテメェは!!」

 

男衆の一人がイ級の顔面を蹴り飛ばした

 

「おい」

 

「あ??何だテメ…ぐぶぇ!!」

 

イ級にした事と同じ様に、男の口元に蹴りを当てる

 

「すまんすまん。お前達の挨拶と思ってな」

 

「舐めてんのかテメェ!!」

 

銛を持っていた男が俺に向ける

 

「やってみろよ」

 

「んだとゴラ!!」

 

「どうした」

 

「くたばれや!!」

 

銛を突き込まれた

 

「なんっ…」

 

銛は刺さる事無く、男がどれだけ力を入れようとも、それ以上行く事は無い

 

「次はこっちの番だ」

 

銛を取り上げ、男に向ける

 

「ひ…人殺し!!」

 

その言葉で、何かが切れた

 

「そうさ!!人殺しさ!!そんなもの分かりきってんだよ!!」

 

「うぎぁ!!」

 

男の足に銛を突き刺す

 

みるみる内に床に血が溜まって行く…

 

「痛いか??痛いだろうな!!」

 

「抜け!!早う!!」

 

「お前達は俺が嫌だと言って辞めてくれたか!?どうなんだ!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁあ!!」

 

銛で傷口を抉ると、男は更に悲鳴を上げる

 

「おい兄ちゃん。その辺にしといた方がえぇんとちゃうか??」

 

「嫌だと言ったらどうする」

 

「死んで貰おかなぁ!!」

 

「ヨケテ!!」

 

銛から手を離し、横に避ける

 

その瞬間、猟銃の発砲音が響く

 

「うっ、が…」

 

当たったのは、足に銛を突き刺した男

 

その場に倒れるも、猟銃を撃った男は何の罪悪感も無さそうだ

 

「オニーサン!!コッチ!!」

 

戦艦ル級っぽい深海の女性がシャッターを開け、顔を出して手招きしている

 

彼女の店はアクセサリーを物々交換していたハズだ

 

誘われるがまま、彼女の元へ走る

 

「オニーサン、コレヲ」

 

戦艦ル級っぽい女性から手渡されたのは、チェーンの先に小さな錨の様な鋭利物が付いた物

 

一番近い物で言うならば"鎖鎌"だろうか

 

「ナイヨリカハマシ??」

 

「ありがとう、十二分だ!!」

 

「オラ出て来いガキ!!」

 

店から出て、チェーンを構える…

 

奴との距離は少しある…

 

「こっちへ来い…この能無しが…」

 

「あーあー!!聞こえん分からんなぁ!!」

 

その言葉を聞き、口角が上がる

 

「Get Over Here‼」

 

チェーンの先にある錨を持ち、男に向かって投げる

 

「イッデェ!!」

 

錨は男の肩に刺さり、チェーンを思い切り引き寄せると、男の体ごと俺の足元に来た

 

「日本語分からないんだろ…えぇ??世界共通語の英語はどうだ??」

 

肩に刺さった錨を踏み、傷を深くする…

 

「イデェー!!」

 

「答えろよ」

 

グッ、と踏み込み、錨を食い込ませる

 

「な…なんて言ったんだ!!」

 

「こっちに来い、だ。冥府でちゃんと学んどけよ??」

 

「ま、待て!!悪かっ」

 

内ポケットから取り出したマウザーで男の頭を撃つ

 

「ひ…ひぃ…」

 

弾は間一髪男の頭を逸れた

 

「人に銃弾撃ったらどうなるか…分かったか??」

 

「わ、分かった…」

 

「ごめんなさいはどうした」

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

「最初からそうしろ…」

 

錨を抜き、足を降ろす

 

「隊長、どうします??こっちは3人足撃ちましたけど…」

 

「どうせこの辺りに病院はない。あっても機能していない」

 

「待て…何でっ…知っとるんや…」

 

「どうしてだと思う」

 

「お前…まさかあん時の!!」

 

「死神なんだろ??なら、俺は面倒見る必要も無い。涼平、帰るぞ」

 

「はいっ」

 

「ま、待て!!待て待て!!悪かった!!頼む!!」

 

男は足にしがみつき、仲間内や自分の傷を治してくれと懇願する

 

「俺があの時…お前達に死神と言われてどう思ったか…知ってるか??」

 

「謝る!!すまんかった!!」

 

「死神で結構だ」

 

「うぉっと‼」

 

男を外し、革ジャンを着直す

 

涼平はこの瞬間の俺を基地に帰って「カッコいい!!」と言ってくれた

 

「一つ、良い事を教えといてやる」

 

「な、なんや…」

 

「お前達患者が医者を選べる様に、医者も患者を選べる…忘れるなよ??」

 

「こ、こいつっ…」

 

「オニーサン、アリガト…」

 

蹴り飛ばされたイ級がお礼に来た

 

「食っていいぞ。腹壊すなよ??」

 

「オイシクナサソウ…」

 

「ここで食っておかなければ、あいつらはまたここに来る」

 

「ギャァァァァア!!やめろ!!やめてくれ!!許してくれ!!」

 

奥で涼平が足を撃ち抜いた男が深海の子達に襲われている

 

余程普段から酷い扱いを受けていたのだろう

 

でなければ、悲鳴も血飛沫も飛ばない

 

「…お前は優しい子だ」

 

イ級の頭を撫でる

 

懐かしい、ツルツルの撫で心地だ…

 

「イヒヒ…」

 

良かった…次は救えた…

 

「オニーサン、タスカッタワ??」

 

ル級っぽい深海の女性も来た

 

「助かったよ。これ、ありがとな??」

 

「アゲル。タスケテクレタオレー」

 

「有り難く頂戴するよ」

 

「リョーチャン!!マタキテクレル??」

 

「コンドハアソビニイッテイーイ!?」

 

「是非来て下さい!!美味しいご飯もありますよ!!」

 

涼平は涼平で、あの深海の女の子に捕まっている

 

実に羨ましい…

 

「オニーサン、キズヲオッテルノネ??」

 

「大した事は無いさっ!!」

 

「ココロ」

 

ル級っぽい深海の女性に見抜かれる

 

まだ、心の何処かで死神と呼ばれる度に傷付いて行くのを…

 

「大丈夫さっ…誰かの為になるなら…俺はいつだって死神になる」

 

「ヤサシインダネ…」

 

「オニーサン、マタキテネ??ソノトキ、オレーシタイ!!」

 

「また来るよ。空軍は嘘を吐かないんだ!!」

 

「シュリサンニヨロシクネ!!」

 

「マタキテネー!!」

 

俺達はまた、強風に乗り込む

 

「涼平」

 

「はい??」

 

「自然と操縦席に座ったな??」

 

「あぁ…あっはっは!!何となく自分かと!!」

 

「よーし、涼平君にドライブして貰おうか!!」

 

「了解ですっ!!」

 

涼平が操縦する強風は、スターバレーを後にする…

 

 

 

 

「涼平」

 

「はい」

 

「久々に一般市民を手に掛けた…」

 

先程のチェーンを腰の左側に着け、それを手に取って眺めながら、強風を操縦する涼平に話し掛ける

 

「それでいいんです。隊長、貴方がいなくなったら、誰が艦娘のケアをするんですか」

 

「そうだな…俺で終わらさなきゃならん…」

 

「隊長。一つ言わせて下さい」

 

「何だ??」

 

「艦娘の人達や、深海の人達が居なければ、今の自分はありません。自分は横須賀に居て、産まれて初めて友達が出来ました」

 

「また別の人生もあったかも知れないぞ??」

 

「自分がもし、あのままの人生を歩んでいれば、シュリさんやタシュケントの様な美人な方と出会ってませんよ」

 

「…すまん、ありがとう」

 

「気に入ってるんです。今が」

 

「前も言ってたな??そんなに好きか??」

 

「えぇ!!第二の人生は、普通じゃ経験出来ない事ばかりですから!!」

 

その言葉に、また救われる

 

涼平が何故サンダースの副隊長に任命されたか、こういう時によく分かる

 

確かに涼平は他のメンバーより経験が少なく、そして一番若い

 

航空自衛隊でF-2パイロットだった高垣でさえ、涼平を副隊長に指名した

 

涼平と同期で香取アカデミーを卒業した園崎でさえも、涼平を指名した

 

櫻井と森嶋もそうだ

 

皆、口を揃えて

 

「涼平を副隊長に指名したい」

 

そう言った

 

涼平の本当の強さはパイロットの技術じゃない

 

懐の大きさなんだ

 

涼平のパイロットの腕を信用していない訳じゃない

 

そうじゃなきゃ、今強風を運転させていない

 

「今どこに向かってるんだ??」

 

「寄りたい所があるんです。付き合って頂けますか??」

 

「楽しい所を頼むぞ??」

 

「了解ですっ!!着水しますよ!!」

 

話していると、涼平は強風を港に停めた…




ほぼ一年お待たせしてしまい、大変申し訳ございませんでした

昨今の事情、世界情勢を踏まえて、書き進めていたお話や、この先の設定を全て書き直していました

これからもまた少しずつ投稿して参りますので、またゆっくりと読んで頂ければ幸いです!


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322話 君の故郷(2)

前回のお話の続きです

水没地域調査が終了し、マーカスと涼平は有休に入ります

涼平に任せてジープを走らせた先にあったのは…


「ん〜っ!!」

 

涼平は一足先に港に足を降ろすと、大きく背伸びをした

 

いつもとは少し雰囲気が違う涼平

 

今でさえ若いが、少し若返った気もする

 

そうか、涼平の故郷の近くか!!

 

「さっきとは雰囲気が違うなっ??」

 

「ここは海苔と真珠貝の養殖が盛んなんです!!」

 

涼平の見ている方向を見ると、第三居住区でも見た事がある、よく分からない物が海面に見えた

 

「海苔ってあれか??朝ごはんに付いてくる黒い奴か??」

 

「そうです。あそこに海苔の原料になる海藻が沢山付くんです。それを天日干しにしたりして、醤油を塗って完成です!!」

 

「手間かかってんだな〜…よし、次からはもうちょい感謝して食おう!!」

 

涼平に着いて行くと、一件の食堂の前に来た

 

「隊長、お腹空いてません??」

 

「何も食ってないからな…」

 

「食べましょう!!ここ、美味しいんですよ!!」

 

涼平に連れられ、食堂に入る

 

「いらっしゃい。あら!!涼平ちゃん!!」

 

「久し振りおばちゃん!!」

 

どうやらここの食堂のおばちゃんと涼平は知り合いの様子

 

「いつものでいいかい??」

 

「覚えててくれてるんだ!!それで!!」

 

「お連れのお兄さんはどうしますかい??」

 

「彼と同じ物をっ」

 

「"伊勢うどん"2つ〜!!タバコでも吸って待っててや!!」

 

おばちゃんが厨房に向かい、真ん中に置かれた灰皿を見て、タバコに火を点けた

 

涼平もタバコに火を点けた

 

「涼平」

 

「はい」

 

「高校からタバコ吸ってるのか??」

 

ふと思った

 

涼平がここを離れたのは高校の時と聞いた

 

涼平は長い間カプセルに入っていたので歳が止まってはいるが、食堂のおばちゃんの言う所を聞くと、どうも涼平は高校の時からタバコを吸っていたらしい

 

でなければ、灰皿を出さない

 

「いい、いや〜…自分、娯楽がなくて…悪い事とは分かってたんですが〜…」

 

「ふっ…いいか涼平。俺は今で言う中学の時に知った。内緒だぞ??」

 

「は、はいっ」

 

「はいっ、伊勢うどんお待ちどう!!」

 

「ありがとう!!いただきまーす!!」

 

「ありがとう」

 

涼平の食べ方を見て、割り箸を割り、うどんをすする

 

「美味いな…」

 

「好きなんです、これ…」

 

俺も涼平も、黙々と伊勢うどんをすする

 

太いうどんで、舌と口の上で簡単に切れるほど柔らかい

 

なのに、味は濃くて少し甘辛くて美味しい

 

少量かけられたタレは、甘辛過ぎず、少し濃い目でこれまた美味しい

 

たまに涼平がずいずいずっころばしでうどんをすすっているのを見るが、どうもうどんが好きみたいだ

 

「涼平、うどん好きか??」

 

「はいっ、うどん、好きですっ」

 

よっぽど食いたかったのか、ズルズルすする

 

「はぁっ!!美味しかったぁ!!」

 

「美味そうに食うなぁ…」

 

そういう俺も、いつの間にか伊勢うどんを食べ終えていた

 

「おっと…」

 

通信が入り、ポケットからタブレットを取り出す

 

通信の相手は横須賀だ

 

《調査は終わったかしら??》

 

「あぁ。今涼平とうどん食べ終わった所だ」

 

《強風は漁港に停めたの??》

 

「そうだな。近くに漁船が数隻あった」

 

《なら話が早いわ??涼平なら分かると思うんだけど、漁港の駐車場にジープを置いといたわ??》

 

「涼平。漁港の駐車場分かるか??」

 

「はいっ!!いつもそこから学校に行っていたので!!」

 

「すまん、助かる」

 

《終わったら回収するから、その駐車場の敷地内に置いといていいわ!!あ!!キーは灰皿の中にあるから!!じゃあね〜!!》

 

横須賀との通信が終わると、いつの間にか涼平はうどん代を払っていた

 

「すまん涼平!!後で何か買ってやるからな!!」

 

「気にしないで下さい!!おばちゃん、ごちそうさま!!」

 

「涼平ちゃん、また来るんだよ!!」

 

「今度はもっといっぱいで来るよ!!」

 

店を出て、涼平に着いて行く

 

涼平は久々に伊勢うどんを食べて腹いっぱいなのか、ずっと機嫌が良さそうだ

 

「あ、あれですね!!」

 

横須賀でいつも見るジープが置いてある

 

涼平は何の気無しに、フツーに運転席のドアを開けた

 

「いいのか??」

 

「付き合って貰うんですから!!」

 

「キーはここっ!!」

 

灰皿を開けると、キーが出て来た

 

相変わらず灰皿には、

 

NO SMOKE

 

と、シールが貼ってある

 

が、俺も涼平も早速タバコに火を点ける

 

俺達は多分、禁煙!!ではなく、タバコを吸わなければこの車には乗れない!!と思っている

 

「それでっ、何処に行くんだ??」

 

「志摩の方に水族館があるんです。ちょっとそこに行きたくて!!」

 

涼平に運転を任せ、久々に潮風を浴びる

 

普段はこんなに穏やかな気持ちで潮風を浴びる事はない

 

「そういえば隊長。隊長はいつも革ジャンですね??」

 

「本当は横須賀から支給された軍服があるんだがな…昇進しない代わりに、これを着させて貰ってる」

 

涼平は涼平でいつも横須賀支給の軍服を着ている

 

作業するのも、何処へ行くのも軍服だ

 

他のサンダースの連中は私服を着る事も多い

 

特に園崎はタンクトップ一丁でいたり、ロードワーク用のジャージを着ている

 

「涼平は着ないのか??」

 

「ある事はあるんですが…中々着る機会が無くて…隊長は革ジャンの方が良いです。隊長だってすぐ分かるので!!」

 

「そう言ってくれると助かるよ」

 

「この前深海の子が言ってたんです。「アノカワジャンヲキテルヒトガ、オイシャサンダヨ」と」

 

「待て。目印になってるのか!?」

 

「はい。なので、着ていて貰った方が助かるんです。緊急時すぐ分かるので!!」

 

後日、横須賀に頼んで艦娘にアンケートを取って貰ったが

 

"困ったら革ジャンを目印に行くと大体解決してくれる"

 

"逆に着ないと大尉が何処にいるか分からず、治療の際困る"

 

との結果が出た…

 

 

 

 

「着きまし…た…」

 

涼平が運転席でゲートを見ている横で、俺はジープから降りる

 

「ここにマンボウのモニュメントがあったんですが…」

 

「閉館したのか…」

 

閉館が信じられない涼平もジープから降り、ゲートに近付く

 

「シュリさんと来る約束をしていたんです…」

 

「…」

 

涼平が背中で語るのをよそに、タブレットを見る…

 

「閉館していたとは…隊長、ごめんなさい…」

 

「涼平。中に入った事は??」

 

「何度かは…」

 

「どれっ、涼平君に案内を任せようじゃない、かっ!!」

 

ゲートを飛び越え、水族館の境内へと入る

 

「隊長!?」

 

「年に一回位ワルしとけ!!ほら!!行くぞっ!!」

 

「は、はい!!とうっ!!」

 

涼平もゲートを飛び越え、いざ水族館に入る…

 

 

 

「中に生体反応があるんだ…閉館しているなら、この反応はおかしい」

 

タブレットを見ていたのは、閉館したはずの水族館内から幾つかの生体反応が出たからだ

 

それも、人と別に何かがいる…

 

「なるほどっ…任務としてなら!!」

 

「任務じゃない、デートの下見さっ。いいな??案内頼むぞ??」

 

「はいっ!!」

 

 

 

 

 

「ここにペンギンがいっぱいいたんです!!」

 

「こっちはシオマネキとか、ハゼとかいました!!」

 

案内役を始めた涼平は、第三居住区で見せる笑顔を見せながら、俺の3歩先を行く

 

表にあったのはペンギンの水槽と、干潟にいる生物がいたであろう場所

 

俺もにこやかに涼平の後を歩く

 

「入り口です」

 

「案内頼むぞ。今みたいにな??」

 

館内に入ると、マンボウのデカフィギュアのお出迎え

 

どうやらここはマンボウがいた水族館だったみたいだ

 

「そこにはウミガメがいました。今は空ですが…」

 

館内に入ってすぐ、左右に分かれた道の真ん中

 

見下げる形で水槽があった

 

今は空だが、カメがいたらしい

 

「左行くぞ」

 

どうやら左は一旦行き止まり

 

此方から回った方が良さそうだ

 

「ここは昔、古代魚とか、化石の展示があったんです」

 

そのコーナーの真ん中には培養槽の様な水槽が数個あり、壁際には古代魚の展示物があったらしい

 

培養槽の様な水槽の中は何も入っていないが、内部からぶち破った形跡もない

 

…こういう水槽を見ると、内部からぶち破って来るとの考えは改めないといけないな

 

「これは??」

 

「カブトガニが飼育されてた水槽です。何かいますね…」

 

手で触れる範疇に水槽があり、そこに敷かれた砂が何やら動いている

 

バシャバシャ!!と、一気に手を突っ込み、動いている生物を捕まえる

 

「捕まえたっ‼」

 

「カニですね」

 

俺の手には、小振りのカニがいた

 

こんな小振りじゃ食えないな…

 

「誰かいるのか…??」

 

「先に進んで見ましょう!!」

 

涼平に着いて行くと、右のルートに入った

 

「そっちが正規ルートか??」

 

「えぇ。熱帯魚やこの辺の近海の魚が展示されてました」

 

コツン…コツン…と、二人の足音だけが、トンネル状の館内に響く…

 

「栄えてたんだろうな…分かるよ…」

 

「楽しかったですよ…良い場所でした」

 

魚が展示されていた水槽は皆空になっていた

ただ、名札と少しばかりの説明は、未だ客を待っている

 

それを見て、あぁ、ここにはこいつがいたのか…と、空の水槽を眺める

 

「隊長。そこの水槽に触れてみて下さい」

 

「どれ…冷たっ!!」

 

突き当りにある水槽に触れてみると、異常に冷たく、すぐに手を離す

 

「ふふっ、そこは冷たい海で採れた魚や甲殻類の水槽です」

 

「未だにクーラーが機能してるって事は、何かいんのか…」

 

コンコンと水槽を軽く叩く

 

涼平も指でツンツンする

 

ガボ!!

 

「うっ…」

 

「何です…これ…」

 

気泡が現れ、中に何かがあるのが見えた

 

「艤装だ。深海のな…」

 

拘束された深海の艤装がそこに居た

 

…あれは拘束か??

 

俺達で言う、ギプスじゃないだろうか…

 

…誰かがここにいて、艤装の修理をしているのか??

 

「隊長。少し写真を撮っていいですか??」

 

涼平はリュックからカメラを取り出していた

 

「格好良く撮ってくれよ??」

 

「こっちですっ!!」

 

「冗談だよ!!」

 

涼平は、甲殻類エリアにあった説明を写真に収める

 

今、第三居住区で飼育されているエビの資料を集めているのだろう

 

「次はあまえびか??」

 

「隊長、何か食べたいのあります??」

 

パシャパシャとシャッターボタンを押しながら、フラッシュが光る

 

水槽の中にいた生体艤装が、ギプスを嵌めていない方の手でピースサインをしていたのは、現像してから気付く事になる…

 

 

「この地域に、酒でエビ酔わせて食う奴あったろ??」

 

「あっ、はい‼あります!!」

 

「いつでもいい。やれそうか??」

 

「帰ったら第三居住区で食べましょうよ!!」

 

「そりゃあいいな!!」

 

「これでよしっ、行きましょう!!」

 

コツン…コツン…

 

また足音が綺麗に響く通路を歩く

 

独特の空間、独特の匂い…

 

少しだけ、まだ磯の香りが残っている…

 

「ここはアマゾンとか、淡水熱帯魚のエリアです」

 

「朝霜みたいな魚がいるぞ!!」

 

「怒られますよっ」

 

水槽の中にはもういないが、写真が残っていたその魚

 

朝霜の様なギザ歯を持ったアマゾンの魚、ピラニアだ

 

「世界は広いな…世の中には、知らない鳥も魚も、こんなにいる…」

 

大淀と逃避行をしたバスの窓から見た、見た事のない白い鳥…

 

そして、今パネルの中にいる熱帯魚達…

 

俺の知らない世界が、まだそこにある

 

「えぇ。まだ発見されていない魚だって沢山います」

 

「いつか新種でも見つけるか??」

 

「その時は自分の名前を付けます」

 

この何気ない会話は、ずっとずっと先で現実の物となる…

 

 

 

「隊長。次は自分が一番好きなエリア何です!!」

 

「楽しみだな」

 

「こっちです!!」

 

俺も涼平も、螺旋階段を登る

 

涼平のはしゃぎ具合を見る所、余程好きなエリアみたいだ

 

「わぁ…」

 

「おっと…」

 

360°、ぐるりと見回せる水槽が、そこにはあった

 

「ここは回遊魚が飼育されてたんです」

 

「小さい駆逐が泳いでるな…」

 

水槽の中では、回遊魚の代わりに何百もの深海駆逐が泳いでいた

 

「あっ…」

 

水槽の中に一人の女性が入った

 

「あれがアマサンか??」

 

「そうです…大丈夫なんですかね??」

 

「いっぱい寄って行ってるぞ…」

 

俺も涼平もアマサンに寄る

 

「大丈夫みたいですね??」

 

「どうやって手懐けたんだ…」

 

「あ、こっち見てます」

 

「…」

 

アマサンが俺達に気付き、手を振ってくれた

 

俺達も振り返すと、アマサンは指の形を変えた

 

「プチョヘンザ!!してますね…」

 

「陽気な人だ…しかしまぁ…涼平が好きなのも分かるな…」

 

パノラマ水槽の前に備えられた長椅子に、俺も涼平も腰を降ろす

 

「海中にいるみたいだ…」

 

360°見回しても水槽

 

よく作ったと思う…

 

 

 

「遠足も、デートもここでした」

 

「…」

 

「ホントはあの後、シュリさんとここに来ようと思ってたんです」

 

「…ここに置いてきたんだな、青春を」

 

「隊長にもありますか??青春を置いてきた場所…」

 

「大阪に置いてきた。いつか帰ろうと思ってる」

 

「自分もいつか、この街に戻って…」

 

「その第一歩を今から調査再開だ。頼むぞ??」

 

「はいっ!!」

 

螺旋階段を降りると、涼平は一角に入っていった

 

「隊長!!ここ凄いです!!」

 

「ここは??」

 

「ここは昔、イベント会場でした。魚に触ってみたりとか、展示物があった所です」

 

「…そっかっ!!」

 

そこには、お祭りで金魚すくいをするプラスチックの桶を大きくした様な物の中に横たわった深海駆逐の子が居た

 

隣には研究員らしき若い女性がバインダーを持って立っている

 

「触っても大丈夫ですか??」

 

「大丈夫ですよ。今、鎮静剤を打った所です」

 

「良い子…」

 

涼平は膝を曲げ、イーサンを撫でる時と同じ様に、ツルツルの頭部を撫でる…

 

「状況は??」

 

「数日前に定置網に引っ掛かって怪我をしていたんです…地元の漁師さんから連絡を受けてここに搬送されて来ました」

 

「どうして定置網の近くに行っちゃったんだ??

 

「リョーシサンノオテツダイシテタラ、グルグルーッテナッタ!!」

 

「頑張り屋さんなんです、この子。地元の漁師さんからも愛されてます!!」

 

「はっはっは!!手伝ってくれてたのか!!そうかそうか!!どれっ、見せてみな??」

 

俺も膝を曲げて治療に当たる

 

深海駆逐の子は、体をぐるんを回転させ、俺に腹部を見せる

 

定置網に絡まった時に擦ったのか、少し擦り傷がある

 

「擦ったんだな…ジッとしてろよ…」

 

ポケットから塗り薬を出し、フタを開ける

 

「ソレナァニ??」

 

「塗り薬ですよ!!」

 

涼平の顔を見ている隙に、深海駆逐の子の腹部に塗り薬を塗る

 

「ギモヂイイ〜」

 

「頑張り屋さんはな、報われなきゃ駄目なんだぞ??」

 

「モシカシテ、マーカスサン??」

 

「俺も有名になったな??」

 

「ミンナ、マーカスサンシッテルヨ。オイシャサンダッテ!!」

 

「そうかいそうかい!!よ〜し、よく頑張った!!後はこのお姉さんの言う事聞くんだぞ??」

 

「アリガトウゴザイマシタ!!」

 

「ありがとうございます!!助かりました!!」

 

「腹部の装甲がまだ成長しきっていない。2日3日怪我の具合を見て、傷が治ってる様なら、海に返してやってくれ」

 

「おまかせ下さい!!」

 

涼平と一緒に立ち上がり、一旦外に出て来た

 

 

 

 

「外だ!!」

 

「ここはゲームコーナーでした。あ、ほら、そこに名残が」

 

涼平の言うとおり、年代物のゲームの筐体が隅に置いてある

 

スロットマシンに、UFOキャッチャーがある

 

「どれ、ちょっと動かしてみるか」

 

「動かせるんですか??」

 

「女より単純さっ!!」

 

10分後…

 

「これでっ…」

 

スイッチを入れるとUFOキャッチャーが動き始めた

 

「凄いです!!ちょっとやっていいですか!?」

 

「景品あるのか!?」

 

「はい!!」

 

「取れるまでこのスイッチを押すんだぞ??」

 

「分かりました!!」

 

基盤を元に戻し、数回スイッチを入れるとクレジットが入り、涼平はUFOキャッチャーをやり始める

 

「俺はスロットを…」

 

基盤の切れた部分をタバコで一瞬焼き、瞬時に繋げて、またタバコで焼く

 

「どれ…」

 

スロットが動き始めた

 

10分後…

 

「取れました!!」

 

涼平の手には、古いオイルライターがあった

 

この水族館のオリジナルの物だろうか、マンボウの柄が彫ってある

 

「そろそろ行くか!!」

 

「はいっ」

 

俺達は別館に足を踏み入れる…

 

「ここはマンボウが飼育されていた水槽です」

 

「深海の潜水艦がいるな…」

 

水槽を掃除しているのは、深海の潜水艦の子だ

 

それも二人いる

 

涼平は手を振ってみた

 

潜水艦の子は涼平に気付き、手を振り返してくれている

 

コツコツ…

 

「ん??」

 

俺の所にも一人来た

 

ベチャ、ベチャと、水槽の向こう側で胸を押し付けてこっちに見せ付けてくれている!!

 

「そうだ!!もっとおっぱいを押し付けろ!!そう!!

 

聞こえたのか、もう少し力を入れて押し付けてくれた

 

「うーむ。これだけでも来た価値が…」

 

ふと、視線に気付く

 

涼平と、もう一人の潜水艦の子がこっちを見ている…

 

二人共まるで"何してるんですか…"とでも言いたそうな顔で!!

 

「見ないでくれ!!」

 

コツコツ…

 

涼平が何かを言おうとした瞬間、涼平の方にいた潜水艦の子が水槽を軽く叩く

 

「あ、はい」

 

ベチャ…ヌリヌリ…と、俺の前で起こっている光景と同じ事が起こる

 

「隊長…」

 

「生きてて良かったろ??」

 

「はいっ!!あの、シュリさんには内緒に…」

 

「俺達二人の内緒だ…」

 

ジーッ…っと、深海の潜水艦の子は俺達を見続けている

 

余程客が不思議らしい

 

フリフリと手を振られたので、俺達も振り返し、巨大な水槽を後にする

 

「ここは深海魚のエリアです」

 

「ノコギリエイ…か…」

 

今は空っぽだが、ここにはノコギリエイがいたらしい

 

エイと聞くと、どうしても反応してしまう…

 

「あれ、砂の中掘るためらしいですよ??」

 

「どう考えてもチェインソーなのにな??」

 

「ノコギリエイからチェインソーの発想が産まれたみたいです」

 

※諸説あります

 

「そいつは初耳だ。ちょっと実物見てみたくなったな」

 

さっきの巨大な水槽が終わると、また少し長い廊下が来る

 

「ホントは、ここにリュウグウノツカイと足がたくさんあるタコの展示物があったんです」

 

涼平曰く、ここには展示物があったらしい

 

「リュウグウノツカイか… 」

 

「見たら不吉の予兆らしいですよ??」

 

「俺がコーヒー淹れるのとどっちがヤバい??」

 

涼平はカメラを降ろし、水槽の中を見ながら答える

 

「リュウグウノツカイです。隊長はいつだって跳ね除けて来ましたが、リュウグウノツカイは天変地異です」

 

「そういや、ゴーヤが見たことあるって言ってたな??」

 

「いつか飼育できる日が来るんですかね??」

 

そんな話をしながら歩くと、とうとう終わりが見えて来た…

 

「ここで終わりか…」

 

外に出てすぐ、涼平は別の方向を見ている

 

「隊長、ちょっとこっちに」

 

涼平と一緒に、横にあった階段を登る

 

「綺麗だな…」

 

涼平が連れてきてくれた展望台

 

人と海が密接して暮らしている風景が、そこから見えた

 

「おっ、あれは第三居住区にもあるな!?」

 

「アワビとかアコヤ貝の養殖いけすです!!」

 

「あれはなんだ!!」

 

「あれは定置網です!!その向こうにあるのは海苔です!!」

 

俺の質問にも、涼平はカメラを構えながらすぐに答える

 

余程、この場所…

 

いや…"一度目の青春を過ごした街"を愛している証拠だ…

 

「はぁ〜…凄いもんだな…」

 

「お土産コーナーに行きましょう!!」

 

「何か買って帰ろう!!」

 

俺達の水族館探検はここで一旦終わりを迎える

 

涼平は涼平で館内のデータや、当時の展示物の名残を撮れて満足そうだ

 

「ふーっ…涼しい…」

 

「連絡を受けました!!マーカスさんと綾辻さんですね!?ご協力、ありがとうございます!!」

 

入店した俺達に気付き、店員…もとい職員が来た

 

「涼平…お土産コーナーは??」

 

「当時のお土産コーナーを改装して、今はこうして事務所になってます」

 

と、職員が説明してくれたが、納得が行かない涼平

 

「ないんですか」

 

「…はい」

 

「ほら、あれだ!!水族館やら動物園にあるぬいぐるみ位はあるだろ!!」

 

「ないです…」

 

「お魚の形したお土産のクッキーは」

 

「…ないです」

 

「さ、帰ろう」

 

「そうですね!!お土産コーナーには用はありましたが、皆さんに買おうと思ってましたが、別の所にしましょう!!」

 

「ちょちょちょちょ‼アイスコーヒーでも!!」

 

お土産コーナーが無いと分かると、すぐに踵を返した俺達をすぐに職員が止めた

 

「やったぜ!!」

 

「そういえば喉乾きましたね!!」

 

せっかくなのでアイスコーヒーを頂いて行く事にした

 

 

 

 

「ここは数ヶ月前からジェミニさんが買い取って、深海の子達の療養所になっているんです」

 

「それでパノラマ水槽にいっぱいいたんですね!!」

 

「…」

 

涼平は職員と話し、俺は棚にあった記録を見る

 

「何か気になる事があれば仰って下さいね??」

 

「あの水槽にいた潜水艦の子のバストサイズでも聞こうか??」

 

「私も当人達に聞いた訳ではありませんが、計測によると…結構ありますね??」

 

「よし涼平!!もっかい見に行くぞ!!」

 

すぐにファイルを閉じ、もう一回あの水槽に行こうとする

 

「後でブロマイドを差し上げますよ!!」

 

「自分も頂けますかっ!!」

 

「も、勿論ですよ!!少々お待ちを!!」

 

「…」

 

涼平は大人しく待ち、俺は再びファイルを開ける

 

「姫級…」

 

ファイルの中には"姫級"の文字がある

 

そして、もう一つ気になる文字が…

 

「鬼…」

 

成人女性に非常に近い深海の治療記録がそこにあった

 

どうやらここで簡易な義足を造って貰ったみたいだ

 

「ありましたありました!!どうぞ!!」

 

「隊長っ!!」

 

「どれどれ…」

 

指でページを抑え、持って来てくれたブロマイドに目をやる

 

「幾らだ」

 

「差し上げますよ??」

 

「本当にいいのか??」

 

「えぇ」

 

こんな素晴らしいブロマイド、とてもとてもジェミニ様には見せられない逸品だ

 

秋雲が実に捗りそうなブロマイドだ!!

 

「ありがたく頂戴する」

 

「自分もっ!!」

 

「マーカスさん…貴方は医者だと伺っております」

 

「俺は医者だが…どうした??」

 

「実は折り入ってお願いがありまして…」

 

職員が立ち上がり、ペンギンがいたプールに案内される

 

「おーい!!出してあげてー!!」

 

「了解ですー!!」

 

職員と共に出てきたのは、一体の深海の子…

 

もとい、姫級の艤装だ

 

その子を見て、すぐに駆け寄りたくなる

 

「中に入りたい!!」

 

「此方へ!!」

 

ペンギンプールの中に案内され、その子に触れる…

 

「よーしよし…痛かったな…」

 

「イデェ…オレヂマッダ…」

 

低い声だが、今、確実に折れたと言った

 

「俺が治してやる!!誰か医療キットあるか!!」

 

「すぐお持ちします!!」

 

「いい子ですね…」

 

涼平に撫でられ、深海の子は呼吸を落ち着かせる…

 

「どうしちゃったんだ??」

 

「ジエーダイ…イッバイウッデギダ…オレ…ミンナマモッダ…」

 

「その子は漁師の船を護ってくれたんです。此方を!!」

 

医療キットを受け取り、手術の準備を始める

 

「そっかっ!!よしっ、俺が治してやるから、心配するな!!」

 

「ズマネェ…アリガド…」

 

 

 

 

一時間後…

 

「これでっ…よしっ!!良く頑張ったな!!」

 

涼平を助手に付け、なんとかその場で手術を終えた

 

「オォ〜…ズゲェ。ウデ、ウゴイダ!!」

 

深海の子は動いた腕で、俺と涼平の頭を撫でる

 

「ふふっ…最後に鎮痛剤と高速修復剤を打っておいた。一週間したらギプス外して、しばらくは無理をしない様に動いてくれよ??」

 

「アリガド、マーガズザン!!リョーベーグン!!」

 

「ありがとな、護ってくれて」

 

胸が痛い…

 

人としての心を持っているのは、果たして何方なのか…

 

確かにこの子達は異形で、攻撃もした

 

人が許せないのも十二分に分かる

 

ただ…ここに来てそんな子ばかりを見た

 

人を護って傷を負った

 

人を愛して傷を負った

 

潜水艦の子達だって、誰かに酷い扱いを受け、そして誰かに救われた

 

ここに連れて来てくれる様な愛してくれる奴もいれば、見ただけで攻撃する奴もいる

 

強風の中で涼平に言った自分の言葉が、胸に刺さる…

 

終わらせられるのか…

 

「ダイジョーブ。オレノヂリョー、オワッダ。イヅガゴノダダガイモオワル!!」

 

心を読まれたかっ…

 

「…そうだなっ!!」

 

「自分達が必ず終わらせますよっ!!」

 

「アーッ!!ワタシノペット!!」

 

甲高い声がした方向に、俺達は振り向く

 

「グーボズイギヂャン!!」

 

「はっ…!!」

 

ファイルにあった子だ…

 

この子が空母水鬼…

 

足からカン、カンと金属がぶつかる音を出しながら、自身の艤装に走り寄る

 

「ヨカッタァ〜!!ナオシテモラッタノネ!!アリガトウハイッタ??」

 

「アリガド!!マーガズザン、リョーベーグン!!」

 

「羨ましいからそこを代わって欲しい!!」

 

「よ、良かったですね!!ねぇ!!隊長!!」

 

「ン〜!!イイコ!!チュッチュッ!!」

 

空母水鬼は自身の艤装の顎の下を撫で、頬にキスをしている

 

「今すぐそこを代われ!!俺もチュッチュされたい!!」

 

「ダーメーでーすーっ!!隊長ーっ!!」

 

深海の子に歩み寄った俺を、涼平がなんとか羽交い締めにして抑える

 

「だぁぁあーーー!!離せーーーっ!!チュッチュされたいーーー!!」

 

「チョットマッテテネ…」

 

空母水鬼がこっちに寄って来た

 

「オナマエハ??」

 

「マーカスだっ!!チュッチュしろ!!」

 

「アナタハ??」

 

「涼平ですっ!!」

 

「マーカスッ、アリガトッ!!」

 

頭を軽く抑えられ、額にキスされる

 

「リョーヘーモッ、アリガトッ!!」

 

涼平の額にもキスを施される

 

「いつでも言ってくれ!!」

 

「あっ、は、はひっ…」

 

「アレ…チョットゴメンネ??」

 

空母水鬼は突然涼平の額に自身の額を合わせる

 

涼平の目の前にはそれはそれは大きなおちちが来る

 

「どどどどうされたんですか!?」

 

「ウ、ウソ…シュリサンノ!?」

 

額を外してすぐに空母水鬼は怯え始める

 

「お知り合いですか??」

 

「ゴゴゴゴメンナサイ!!チョーシニノッテ!!」

 

「大丈夫ですよっ!!」

 

「シュリサンノカレシトハシリマセンデシタ!!」  

 

空母水鬼はすぐに膝を落とし、床に頭を落とす

 

「涼平、あれだな??キスに免じて黙っときます、だな??」

 

「そうですっ!!とっても良かったです!!」

 

「シュリサンハネ…トッテモツヨイノ…ワタシタチジャ、ヒャクニンアツマッテモカテッコナイノ…」

 

「確かに自分はシュリさんとお付き合いさせて頂いてます」

 

涼平は空母水鬼の前に屈む

 

「シュリさんは優しいですよっ。自分が毎日一つずつ、またシュリさんの好きな所が増えて行っている位ですからっ!!」

 

「シュリサン、ヤサシイ??」

 

「えぇ!!とっても!!」

 

「シュリサン、イマナニシテルノ??」

 

「聞いてみましょうか!!」

 

涼平はタブレットを取り出し、第三居住区に繋げる

 

《第三居住区、横井だ。涼平か。どうだ、調査は進んでるか??》

 

テレビ電話に出たのは横井だ

 

「今志摩にいます!!シュリさんいますか??」

 

《ちょっと待ってな…おーい!!シュリさーん!!》

 

数秒するとシュリさんの顔が映る

 

《ア!!リョーチャン!!》

 

「シュリさん、今何してますか??」

 

《イマ??イマハネ、オセンベーヤイテルヨ!!ホラ!!》

 

シュリさんがタブレットを持ち上げ、別方向に向けると横井が映る

 

深海の駆逐達に囲まれ、焼き上がったおせんべいを口に放り込んでいる

 

「ナニココ!!スッゴイ!!」

 

《クーボスイキチャン??》

 

「ハッ、ハヒィ!!」

 

空母水鬼はすぐに前屈みの体制から直立不動になる

 

《リョーチャントッタラヤダヨ??》

 

シュリさんは何かを感じたのか、ヤバいオーラを出している…

 

「トリマセントリマセン!!」

 

《マタアソビニキテネ!!》

 

通信が終わる…

 

「コ、コンド…アソビニイカサセテイタダキマスゥ…」

 

「その時はごちそうを準備してます!!」

 

空母水鬼はカチコチの動きのまま、ペンギンプールから出て行った…

 

「さてっ、俺達も行くかっ!!」

 

「はいっ!!」

 

ペンギンプールから出て、ジープに乗る

 

「あの!!またいつでも来て下さい!!」

 

「次はもうちょい水槽に魚入れといてくれ!!」

 

「また再建する日を楽しみにしてます!!」

 

研究員とも挨拶を交わし、先に駐車場にいた空母水鬼が手を振っているのが見え、俺達も振り返す

 

「アリガトー!!マタアオウねー!!」

 

「「はっ…」」

 

俺も涼平も振り返る…

 

一瞬聞こえた、空母水鬼の声変わり…

 

「愛されてる証拠だっ…」

 

「いつか、彼女も艦娘になるのですかね…」

 

涼平の運転で、水族館を後にする…

 

 

 

 

 

涼平はしばらく車を走らせる

 

「おっ…何か雰囲気良い場所だな??」

 

駅があり、ちょっとノスタルジックな場所に出る

 

右向きゃ整備された観光地

 

左向きゃ昭和が残っている

 

「ここは鳥羽です。まだ施設が残ってると良いのですが…」

 

涼平は運転しながらキョロキョロしている

 

「あっ!!まだやってます!!」

 

涼平は吸い込まれる様に駐車場に入り、ジープを停める

 

「隊長、お土産買って帰りましょう!!」

 

「さっき買えなかったからな!!」

 

ジープを降り、施設の中に入る…

 

 

 

 

「す〜…は〜…」

 

施設に入ってすぐに涼平は深呼吸する

 

涼平を見て、俺も深めに息を吸う

 

何だろう…古い匂いがする…

 

嫌な匂いじゃない、何なら好きな位だ

 

店にある電化製品…

 

地元の名産品や懐かしさを感じる商品…

 

電球と天井…

 

欠けた床…

 

くすんだ色合いの壁、シワシワポスター…

 

絶妙に昭和の匂いだ…

 

あまり嗅いだ事もないのに、何故か懐かしい…

 

「こういった所の空気、何だか良いですよね…」

 

「懐かしい気持ちになるな…」

 

涼平の後ろを歩き、連ねられた土産物屋を物色する…

 

「隊長隊長、これ美味しいですよ!!」

 

「どれっ…」

 

涼平に試食品を口に突っ込んで貰う

 

サザエのなんかだ

 

「これは櫻井さんに買って帰りましょう!!後は、え〜と…」

 

涼平はサンダースの皆のお土産を買っている

 

俺は何にしようか…

 

「何だこいつは…」

 

俺の目線の下には、鳥のおもちゃ…もといぬいぐるみ

 

問題は頭の所に"押す"とシールが貼ってある

 

涼平を見ると、今度はお菓子のコーナーに行っている

 

どうしよう…凄く気になるな…

 

恐る恐る、鳥のぬいぐるみの頭を指で押して見る…

 

「グァ」

 

ツンツン…

 

「グァ、グァ」

 

「ふっ…」

 

頭を押す度に鳥の鳴き声が出る

 

どうやら歌を歌ってるみたいだ

 

ツンツンツンツン…

 

「グァグァグァグァ」

 

こいつにしよう、気に入った!!

 

ひとみといよ辺りが連打しそうだ…

 

…念の為2つ買っておこう

 

ぶっ壊しそうだしな…

 

後は涼平が言ってたお魚ビスケットやら、おまんじゅうを買ってレジに持って行く

 

「いやぁ〜、たまにはいいですね!!」

 

「そうだなっ!!たまには横須賀以外で買い物もっ!!いいもんだなっ!!」

 

ジープの後部座席に荷物を乗せ、一旦一服する

 

「あれは何だ??」

 

ふと目に入ったフェリー乗り場

 

看板にはイルカのマークが描かれている

 

「あれはイルカ島に行く為のフェリーです。帰りにちょっと上飛んで見ましょう!!」

 

「もう一つは何だ??」

 

「もう一つは真珠島に行く為のフェリーです。ここの名産品なんです!!」

 

「落ち着いたらもう一度来たいな…良い場所だ…」

 

「今度はもっと案内します!!」

 

俺達は帰路に着く…

 

 

 

 

「さてっ!!帰りますか!!」

 

荷物を詰め込み、強風が出る

 

「あれは何だ??」

 

眼下に見えた、離島に建っているそこそこ巨大な建物

 

ビーチがあるようにも見える…

 

「あそこにはホテルがあったんです。良いホテルでしたよ…廃業してから、ずっとそのままなんです」

 

「ジェミニが買い取りそうな感じがする…」

 

「ははは!!もしそうなら、自分が最初のお客さんになりますよ!!あ、ほら隊長!!イルカ島ですよ!!」

 

涼平に言われ、また眼下を眺める

 

イルカがピョンピョン跳ねているのが見える

 

見送ってくれているのだろうか…

 

また来よう、この街に…

 

 

 

 

「調査報告書だ」

 

横須賀に帰り、報告書を出す

 

「ありがとっ。どうだった??」

 

「楽しかったよ、久々に」

 

「あら、何それ」

 

横須賀は俺の腰に掛かっているチェーンを見ている

 

「深海の子に貰ったんだ。そこに書いてある」

 

横須賀は報告書をめくる…

 

「そう…人がいたのね、水没地区に…」

 

「一般人だったが、武装していた」

 

「ん、分かったわ!!で、これ食べて良いわけ??」

 

「食えよ…」

 

報告書より、ずっと真珠のおまんじゅうに目が行ってる横須賀

 

「いただきまーす!!」

 

「ちったぁ真面目に報告書見ろよ!!」

 

「見ふぇるはよ!!ひふれーな!!」

 

「ぐっ…!!」

 

そんなモグモグさせて見られても嬉しかねぇ!!

 

「お土産があるから、今日は基地に戻る」

 

「ありがとね、レイ」

 

「何がだ??」

 

「ちゃんと涼平連れて帰ってくれて。行ってからちょっと思ってたのよ…もしかしたら帰って来ないんじゃないかって…」

 

「大丈夫さっ。涼平は今、第二の人生を楽しんでる」

 

「なら良かった!!これおいひ〜わね!!」

 

「人が真面目に話してんのにコイツは…」

 

口ではそう言うが、お土産に満足してくれて良かった…

 

 

 

 

「ただいま!!」

 

「おかえりなさい!!もうすぐ晩御飯出来るからね!!」

 

手洗いうがいをしてから、子供達がいるテレビの前に座る

 

「おかえりすてぃんぐれい!!」

 

「ただいま!!これ、みんなにお土産だ!!」

 

あの頭シールの鳥のぬいぐるみをカーペットの上に置く

 

「みて、かわいい!!」

 

「といしゃん!!」

 

ひとみといよも抱っこしたり眺めたりしている

 

俺の予想は当たるのか…

 

「おすってかいてあう」

 

いよがシールを発見して、口元がニヤつく

 

「おりぁ!!」

 

「グァ」

 

「くぁいった!!」

 

「たいほ〜しゃんも!!」

 

「つんつんつんつん!!」

 

「グァグァ、ゲグァ」

 

「「「あっ」」」

 

俺の予想は外れた

 

ぶっ壊すのは当たっていたが、タイミング悪くたいほうがぶっ壊した!!

 

「がーがーさんつんつん!!」

 

「ゲ、グェ」

 

「も、もう一つ買って来たんだ…」

 

ひとみといよにもう一つのぬいぐるみを渡す

 

「おりぁおりぁおりぁおりぁ!!」

 

「グァグァグァグァバ」

 

「ひとみもすう!!」

 

いよに持ってもらい、ひとみも頭を押す

 

「いーこいーこ!!」

 

とは言うが、結構な力で頭を押す

 

「グァプペァ」

 

「ぷぺぁいった!!」

 

やはりぶっ壊されたか…

 

しかも数分しか持たなかった…

 

後にこの鳥のぬいぐるみは、別の歌を歌っていただけでぶっ壊れた訳では無かった事に気付く…



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特別編 ウクライナ奪還作戦〜準備段階〜

作者の苺乙女です

投稿が遅れてしまい、大変申し訳ございませんでした

昨今の世界情勢を鑑みて、今後の作中の進行具合を全て書き直していました

今回のお話は特別編になります



先んじて言っておきます。このお話は世界情勢を鑑みた結果

"作中の中での戦い"になります

この特別編の中には、現実にも出て来る言葉も勿論ございます

逃げている、ここは全然違う、お前は世界情勢を見ていないのか

このお話を見て頂いた読者の方々の意見も多様にあるかと思います

ただ、この作中の中での戦いという事は忘れないであげて下さい

正直に言ってしまうと、このお話はあんまり世界情勢や政治になるべく触れない様な内容にするようにして来ました

それを忘れるが為に見て下さっている読者の方も多いと思います

触れないでそのまま自分のお話を書けば良いよ、と言われてしまえばそれっきりです

逆もまた然りで、お前世界がこんな事になってるのに不謹慎だろ?と言われてもそれっきりです

なので今回、色々な事が私の回りであった結果、自分の出来る事は

"忘れないでおく、何処かしら頭に入れておく"

という結論に至りました

向こうの人に届くかどうかすら分かりません。ただ、忘れない為にここに書いておきます

というのが、この長い停滞期間に出した答えです



このお話を書いたきっかけは

"作中だけでもいいので、タナトスをウクライナに送ってあげて欲しい"

との感想とメールを頂いた事が始まりでした

色々ひっちゃかめっちゃかな部分はあると思います



そろそろお話に行きましょうか!!

今回のお話は上記でお話した通り、ジェミニの元に支援要請が入ります

やはり動くのは医者であるマーカス

そしてお話の先に、ロシアに個人的な怨恨があり、とある人物の出生の謎が明らかになります



一つ、ここでお願いがあります

途中、今まで本編に登場していなかったキャラクター"マキシモ"という人物が出て来ます

お話の都合上、此方の方で先に出させて頂きました

それも踏まえて読んで頂けると幸いです

前置きが長くなりましたが、ここからがお話になります

前書きをお読み頂き、ありがとうございました!!


「おい、イデオット…」

 

ある日、執務室を出ようとするとガングートに引き止められた

 

「どうした??」

 

「その…だな…今、私は複雑な気分だ」

 

「…」

 

ガングートの言いたい事は大体分かる

 

彼女の故郷が戦争状態になっているからだ

 

それも、宣戦布告した側だ

 

「私はどうすれば良いのだろうか…」

 

「ここにいろ。ここが家だろ??」

 

「うむ…」

 

簡単な答えのはずが、互いにどうしても言葉に詰まる

 

「すまない、頭を撫でてくれないか…」

 

「よしよし…」

 

ガングートが帽子を脱ぎ、俺は頭を撫でる

 

いつも何かしてくれたらこれをしているのだが、彼女が口にして求めるのは今回が初めてだ

 

「心配するな、要請があったらすぐに動く。それまでガングー…」

 

「貴様も行ってしまう気がしたんだ」

 

震えた声、震えた体でガングートは言う

 

「祖国は強い。そして残酷だ…頼むマーカス、行かないでくれ…」

 

「…久々に名前を呼んでくれたな」

 

こんなに小さかったか…ガングートは…

 

元々小さい子だとは思っていたが…

 

「大丈夫、心配するな…」

 

ガングートは無言で、一度だけ頷いた

 

ガングートの後ろにあるテレビでは、連日連夜その報道が流れている

 

嫌でも分かった…

 

だけど、直接的な被害が横須賀にある訳では無く、酷い言い方をすれば対岸の火事だ

 

…だけど今、俺の心で何かが揺らいだ

 

「もし…もしだ…俺が行くとなったら、ガングートはどうして欲しい??」

 

「私は…」

 

ガングートの答えを聞き、俺はもう一度ガングートの頭を撫でた…

 

 

 

 

戦争の話は艦娘やパイロットの連中にも伝わっている

 

「隊長!!」

 

工廠に行くと、作業をしていた涼平が手を止めてこっちに来た

 

「今日はこっちか??悪いな、動かしまくって」

 

「第三居住区に持って行く資材を積んでいたんです!!」

 

「…タシュケントはどうだ??」

 

俺がそう言うと、いつもの明るい涼平から少し覇気が消える

 

「…やっぱり、良くないです。祖国に帰ろうかとも言っていますし…」

 

「もし…俺達に要請があったら…涼平はどっちにつく??」

 

「隊長の行く所に着いて行きます」

 

「涼平の意志が聞きたい」

 

責めるつもりはないが、涼平が目を丸くする

 

「故郷が無くなる辛さは、自分も良く分かります…」

 

涼平は故郷の島を焼かれている

 

だからこそ、今消える可能性があるタシュケントの気を分かってやれるのだろう…

 

「戦争を始めたのは悪い事です。市民も巻き込んで、子供も赤ちゃんも…もしそれが自分達の手で止められるのなら…自分は彼女の故郷を焼きます」

 

「すまん…」

 

「な、何で謝るんですか!!始めたのは向こうです!!隊長は何も…」

 

俺は涼平の前に一枚の紙を出す

 

「俺に要請が出た」

 

「はっ…」

 

「横須賀じゃなく、俺にだ」

 

「ま、待ってて下さい!!」

 

涼平は資材を置き、ボールペンを持って戻って来た

 

「何をする…」

 

「貸して下さい!!」

 

初めて涼平が俺に反発したのを見た

 

「自分が一緒に行きます!!」

 

涼平の名前が書かれた要請書を返される

 

「隊長の医療の補助なら、自分が少しは出来ます!!それに、向こうに簡易病院を作る時に自分が役に立ちます!!」

 

それを聞いてホッとする

 

涼平は戦争に行くのではなく、治療に行くと言い張る

 

「すまん…本当にすまん…」

 

「隊長…お願いです。二度と一人で悩まないで下さい…」

 

今度は俺が涼平に無言で一度だけ頷いた…

 

 

 

 

 

執務室に戻ると、隊長とラバウルさんがいた

 

「レイ…クリミア半島に行くらしいな??」

 

「病院建てるだけさ、すぐ戻る」

 

「マーカス、私も行きます」

 

「ラバウルさん…」

 

「私は別働隊ですが…マーカス、私は少し向こうに用があるのです」

 

「誰かがここに残らなきゃダメだ!!」

 

「隊長、横須賀に残って下さい」

 

急に入って来た横須賀が、隊長は横須賀に残れと言った

 

「隊長には少しお願いしたい事があるのです」

 

「レイを一人で行かせる訳にはいかん」

 

「一人で行かせない為にも残って下さい」

 

「信じるからな…ジェミニ…」

 

「空軍は嘘をつきません。レイ、エドガー、作戦概要を伝達するわ、座って。親潮、地図をクラーケンで出して頂戴」

 

「はい、ジェミニ様」

 

椅子に座り、クラーケンが起動し、立体地図が机に浮かび出す…

 

「レイはクリミア半島のセバストポリに向かって頂戴。場所はタナトスに送信したわ」

 

「ジブラルタル…ダーダネルス…ボスポラス…三回海峡を抜けねばならんか…」

 

「快諾してくれたわよ、喜んで海峡を開けるって」

 

「なら問題は無さそうだな…」

 

「エドガー隊は後に来るサンクトペテルブルクに集結する艦隊の指揮を…ヴィスビューの空港に許可が降りました。ここで補給を受けて下さい」

 

「どうやってスゥエーデンと??」

 

「スゥエーデンから来たお弁当売りがたまたま横須賀に在席していたので、連絡を取って貰いました」

 

ゴトランドがピースしている立体映像が出る

 

「「ゴトランドか…」」

 

「資材の積み込みはタナトスに完了、エドガー隊はこのままヴィスビューに向かって下さい」

 

「畏まりました」

 

「行って来る」

 

「相手が敵意を見せたら発砲を許可するわ」

 

「そのつもりです」

 

「了解した」

 

ラバウルさんと共に執務室を出る

 

「ありがとう、付き合ってくれて」

 

「構いませんよ。ようやく恨みを晴らせますから」

 

ラバウルさんの返答に、背筋が凍る

 

「…その為に??」

 

「理由としては真っ当なはずですよ??」

 

「なら、渡したい物がある」

 

「おや…遂に私もマーカスの武器を頂けるのですか??」

 

「欲しかったのかよ…」

 

「えぇ!!マーカスの武器はとても性能が良いと評判ですから、一度頂けない物かと!!」

 

今日のラバウルさんの声は嬉々としている

 

その声を聞き、また背筋が凍る…

 

一度工廠に向かい、横に長いケースを取り出す

 

「マーカス、私はライフルの扱いは…」

 

ラバウルさんの思惑を聞き、ケースを開ける

 

「渡そう渡そうとは思っていたんだが…」

 

「ほう…これは…」

 

「最初は主人の手で持って欲しい」

 

「では…お言葉に甘えて…」

 

ラバウルさんの手でケースから取り出されたのは、風景をその身に映し出す程磨かれた一振りの刀

 

「天龍の刀をベースに、アビサルケープのコーティングを施してある」

 

「斬れ味を試したいのですが…」

 

ラバウルさんが視線をずらした先に、たまたま離れた場所で準備をしていた涼平がおり、急に両手を上げる

 

「じ!!自分は一閃しても美味しくないです!!」

 

「はははは!!」

 

ラバウルさんの高笑いを耳にし、俺も涼平も体が固まる

 

「しませんよ!!涼平さんの様な優しい人は!!」

 

「ならこれはどうですかっ!!」

 

外に涼平がコロコロ転がして来たのは、廃棄予定の中に水が入ったドラム缶

 

「構いませんか??」

 

俺は微笑んだ後、手をドラム缶に向ける

 

「では…」

 

ラバウルさんがドラム缶の前に立ち、刀を構える…

 

俺と涼平は固唾を呑んで見守る…

 

「フッ!!」

 

ラバウルさんが一瞬で息を吐いた瞬間、ドラム缶は横一閃で真っ二つになり、右と左に斜めに斬られ、地面に落ちた

 

「こ、怖ぇ〜…」

 

「斬られなくて良かったです…」

 

「刃こぼれ一つすらありません…マーカス、本当に頂いても??」

 

「お、俺達を斬らないなら!!」

 

「斬りませんよ…私が斬るのは…」

 

エドガーが鞘に刀を納める…

 

「少女を泣かす悪人だけですよ。ではマーカス、このお礼は必ずやお返しします。有り難く頂戴致しますね」

 

俺は壊れたオモチャの様に頭を高速で縦に振る

 

「ではマーカス…今度はあちらで会いましょう。涼平さん、マーカスを頼みますよ??」

 

「は、はいっ!!」

 

「行こうか」

 

「了解ですっ」

 

俺達はタナトスに向かう…

 

 

 

 

「隊長、自分も連れて行って下さい!!」

 

タナトスの前にいたのは園崎

 

「他の三人は??」

 

「元帥から待機を命じられました。自分は二人の護衛を!!」

 

「分かった。頼む」

 

本当は連れて行きたくないのだが…

 

今回は空戦じゃない、どこまで護ってやれるか分からない

 

「艦娘はサンクトペテルブルク方面の別働隊に向かっている。俺達はタナトス一隻で正面突破し、セバストポリに入る。いいな??」

 

「「了解!!」」

 

「そうだ、ちょっと立て園崎」

 

「は、はいっ!!」

 

「お前にこれを預ける…」

 

園崎の腰に涼平と同じピストルを巻く

 

「隊長、良いんですか??」

 

「それで涼平を護ってやってくれ。手が回らんかも知れん」

 

「了解です、隊長」

 

「お揃いだぞ??」

 

「ホントだ!!」

 

涼平と園崎はその場で抜かずに、ホルスターに入ったまま互いに見せ合う

 

さぁ行こう、セバストポリに…

 

 

 

 

「向こうはもっと寒いわ??ちゃんと暖かくしないと…よいしょっ!!」

 

エドガーは出撃前に、千代田にマフラーを巻いて貰っている

 

「一つ…お願いがあります」

 

「これでよしっ!!なぁに??」

 

「一度だけ、抱き締めて頂いても構いませんか…」

 

「もぅ…おいで!!」

 

少女趣味と思われていたエドガーがこの日、一人の男に戻った

 

千代田の胸に抱かれ、深く呼吸を吐く

 

千代田はエドガーの頭を母親…それとも姉の様に撫でる

 

「ありがとうございます…」

 

「ちゃんと帰って来て、千代田とデートしてよ…いい!?」

 

「私が人殺しになって帰って来ても、ですか??」

 

「人殺しになって帰って来ても、よ??」

 

エドガーはいつもの細目で千代田に笑顔を送り、マフラーで口元を隠す…

 

あぁ…見送る恐怖とは、この事なのだ…

 

千代田はエドガーの背中を、機体に乗るまで見送っていた…



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特別編 ウクライナ奪還作戦〜上陸と爆撃〜

数日後…

 

先に到着していたのはエドガー

 

ヴィスビュー空港の中で数日過ごし、タナトスからの連絡を待っていた

 

「さて…そろそろ出番ですかっ…」

 

「ここから武運を祈っています、エドガー!!」

 

「世話になりました…今度はバカンスでお邪魔しても構いませんか??」

 

「勿論ですよ!!ここには観光地が沢山ありますから是非!!」

 

エドガーは機体に乗る

 

「ジブラルタルを抜けましたか…タナトスの速度なら、ダーダネルスまで1日掛かりません…」

 

エドガーもタナトスのスピードは知っている

 

大型艦でありながら、高速化を実現したあのエンジン…

 

彼の言う通り、タナトスのスピードならジブラルタルからダーダネルスまで1日…仮に何らかの補給で掛かっても1日半だ

 

「楽をさせてあげますかっ」

 

ヴィスビュー空港から、爆装を引っ提げたSu-57が離陸する…

 

本来爆撃に向いていないSu-57が爆装をしているのには意味がある

 

「聞こえますか"ウクライナの勇士達"」

 

彼等が今向かっているのはウクライナ

 

エドガーにはウクライナを救う理由があった

 

《誰だ、アンタは!!》

 

ウクライナ側からの無線の返答が来る

 

まだ若そうな男性の声だ

 

「貴方方の味方です。赤黒いSu-57を見たら撃ち落とさないで頂きたい」

 

《了解した。もしかして…ヨコスカから来たのは貴機か??》

 

「いかにも。コールサインはサイクロップス…では…エンゲージ!!」

 

エドガーの前にMig-29が3機立ち塞がる

 

「遅い!!」

 

瞬く間に3機は堕ちて行く

 

ミサイルの一本さえ使わず、エドガーはまるで"恨みを晴らすかのように"機関砲でコックピットだけを撃ち抜いて行く

 

「久方振りです…こんなに武者震いしているのは!!」

 

《すまないサイクロップス!!対空砲を君の援護に回せない!!戦車部隊を補足した!!》

 

「お任せを」

 

Su-57のレーダーにも、エドガーの目にも戦車部隊が目に入る

 

「投下」

 

高高度から小型の投下爆弾が数発落とされる

 

眼下で無惨に大破炎上して行くロシアの戦車部隊

 

それを見て、エドガーはほくそ笑む

 

「ロシアの戦車部隊が見えたら、補給車を狙って下さい。奴等の戦車は燃費が悪いので、それ以上動けなくなります」

 

《了解した!!ありがとうサイクロップス!!助かったよ!!》

 

「私はこれからキーウに向かいます。どうかご無事で…」

 

《戦車部隊の彼等もキーウを目指す!!サイクロップス!!必ず会おう!!》

 

無線を切り、エドガーはキーウを目指す…

 

 

 

 

「派手にやってくれましたね…」

 

キーウに到着したエドガーの目に入ったのは、建物が瓦礫と化した街並

 

ロシアからの地対地ミサイルが何発も着弾したのか、燃えている箇所もある

 

《キーウに到着したようだな、サイクロップス》

 

「えぇ…見るも無惨ですが…」

 

《我々は今、逼迫した状況下にある…サイクロップス、君さえ良ければ手を貸してくれないか??》

 

「勿論ですよ。敵性反応を此方にも回して下さい」

 

《了解した!!データを転送する!!》

 

エドガーのSu-57に敵性反応のデータが転送される

 

戦車部隊が交戦中…

 

その後ろから航空機と爆撃機の編隊…

 

「なるほど…了解しました」

 

《サイクロップス。ボルィースピリ国際空港は死守されている。そこに連絡を入れておく、補給が必要なら着陸してくれ!!》

 

「了解しました。少しばかりですが、冥府に送り出して来ます」

 

《グッドラック、サイクロップス!!》

 

エドガーは自身の乗るSu-57のバーナーを吹かす…

 

「投下」

 

再びエドガーの高高度からの爆撃が来る

 

《何処からやられた!!》

 

《何だ…あの機体は…》

 

地上からの無線で、驚いた声が入る

 

ロシア戦車が何処からともなく落ちて来た爆弾で、いきなり目の前で使い物にならなくなったからだ

 

「聞こえますか、ウクライナの勇士達」

 

《あ…あぁ、聞こえる…》

 

「対空車両はいますか??」

 

《2両いるが、どうした??》

 

「爆撃機がそっちに向かっています。最悪撃ち漏らしたら、そちらで対処をお願いしたいのです」

 

《りょ、了解した!!》

 

「さて…護衛を相手にしますかっ!!」

 

 

 

 

 

同時刻、セバストポリ

 

「荷降ろし始めっぞ!!」

 

「はい!!」

 

「力仕事は任せて下さい!!」

 

タナトスは艦内で待機し、俺達で荷降ろしを進める

 

「いくれ!!」

 

「あいっ!!」

 

五人でのバケツリレーの様な荷降ろしで、セバストポリの港に物資が荷降ろしされて行く…

 

ん…五人…??

 

「ちょっと待て…五人だと??」

 

「そ…そう言えば…」

 

「出た時は三人だった様な…」

 

「点呼してみよう。1!!」

 

「2!!」

 

「3!!」

 

「よんつ!!」

 

「ごつ!!」

 

いつの間にかひとみといよがそこにいた!!

 

「「「いつからいた!?」」」

 

「よこしゅかでうときかあ、じゅ〜っといた!!」

 

「おとなちくちてあした!!」

 

「くぅ…」

 

流石に頭を抱える

 

ひとみといよにステルスを使われては、何処にいるか分からない

 

タナトスですら感知出来なかった所を見ると、何処かに隠れていた様だ

 

「ご飯はどうしてた??」

 

すると、ひとみといよはいつものリュックからチョコレートバーの包み紙を取り出す

 

「こえたべてた!!」

 

「いちにちさんつ!!」

 

「あ…隊長!!荷降ろし終わったら何か食べましょうよ!!」

 

「ウクライナの郷土料理でも食いましょう!!」

 

「そ、そうだな!!そうしよう!!ひとみもいよも、もうちょっとお仕事出来るか??」

 

「できう!!」

 

「れきう!!」

 

これでもかと言う位素晴らしい返事をされ、呆れ半分、頼もしさ半分で頷き、荷降ろしに取り掛かる…

 

 

 

 

二時間後…

 

「終わり!!飯にしよう!!」

 

「お腹空きましたね!!」

 

「いやぁ、いい汗かいた!!」

 

俺達がまぁまぁヘタってる前で、ひとみといよはまだまだ元気そうだ

 

「あにたべう??」

 

「あしょこにえすとあんあう!!」

 

ひとみの目線の先にはレストランがある

 

「あぁ、あそこにしよう、よっこらせ!!タナトス、飯食いに行くぞ!!」

 

タナトスに連絡を入れると、無線の先からは咀嚼音が聞こえて来た

 

《あそこの店は美味いれち…コトレータもパンプーシュカも…美味いれち!!》

 

「…デリバリーで食ったな??」

 

《玄関先の配達にして、支払いは創造主にしといたでち》

 

「くっ…おっ…」

 

《美人な人が持って来てくれたでち》

 

「よし、すぐ行こう!!」

 

無線を切り、五人でレストランに向かう…

 

 

 

「いらっしゃいま…ようこそお越しに!!」

 

「五人だ」

 

「伺っております!!遠路遥々ありがとうございます!!さ、こちらへ!!」

 

何故か歓迎され、席に案内して貰う

 

「あにたべてうの??」

 

「おいち??」

 

「これはボルシチ!!とっても美味しいよ!!」

 

ひとみといよは隣の席にいた女性のボルシチを見て、美味しいかどうか聞いている

 

ガングートに作って貰った事が何度かあるが、あれは味が濃くて美味い

 

しかし、ここはタナトスが言っていた奴を食ってみよう

 

「コトレータとパンプーシュカを」

 

「自分もそれを!!」

 

「くっ…わ、分からん…」

 

園崎はメニューとにらめっこしている

 

勿論の事、全部ウクライナ語で書かれたメニューだ、正直俺も分からん…

 

「これは穀物のお粥、こっちは餃子みたいなパンでしょ…後は…」

 

「待て、分かるのか??」

 

「あ、はい。タシュケントに少し教えて貰ったので!!」

 

「じゃあ、そのお粥と餃子みたいなパンで!!」

 

「カーシャとヴァレーニキを!!」

 

「畏まりました!!貴女達はどうする??」

 

「あえくだしゃい!!」

 

「ぽるちし!!」

 

二人が指差す先には、隣の女性のボルシチ

 

「はーい!!畏まりました!!」

 

注文を受け、女性は厨房に向かう

 

「園崎、タバコ吸いたい。ちょっとひとみといよを頼む」

 

「了解です!!」

 

「涼平、行くぞ」

 

「はいっ!!」

 

涼平と表でタバコに火を点け、ようやく一服する

 

「後は簡易病院の建設ですね、隊長」

 

「そうだな。強いて言うなら、俺達の移動手段がありゃ良いんだが…」

 

「いざ戦闘になった時、ですか??」

 

「そっ。滑走路まで行きゃ、俺達は何とか戦闘機に乗って戦える。ミグでも払い下げのスホーイでも乗ってやらぁ」

 

「そう言えば、隊長はスホーイに乗ってたんですよね??」

 

「今のこの状況で言うのもなんだが、良い機体だ…パワフルで、スマートで、力強い…」

 

「自分が乗れるのありますかね…」

 

「小型が良いか??大型が良いか??」

 

「自分は小型が良いです!!」

 

「ふふ…空軍の基地にファルクラムがあったら頂戴してやるよ!!」

 

「お客さーん!!出来ましたよー!!」

 

「行くか」

 

「はいっ」

 

互いにタバコの火を消し、席に戻る…

 

 

 

 

「「いたあきあす!!」」

 

「「「頂きます!!」」」

 

ひとみといよに促され、俺達は異国の地でもちゃんと頂きますをする

 

先にコトレータを頂いてみる…

 

「うんまい!!」

 

「美味しい!!」

 

コトレータは肉がジューシーで、薄い衣が付いていて、噛む瞬間に肉汁が出る

 

「…」

 

俺と涼平が美味い美味いと言う中、園崎はずっと静かに食べている

 

「美味い…」

 

静かに口を開いた園崎は、何処か感動している様に見える

 

「こいつを減量メニューに入れよう!!えーっと…これ何だった??」

 

「カーシャ!!」

 

「カーシャ、カーシャっと…」

 

園崎はメモを取り、またカーシャを口にする

 

その後も美味そうにヴァレーニキにかぶりつき、至福そうに昼食にありつく…

 

よほど美味いのか、ひとみといよも静かに食べている

 

「うみゃいうみゃい!!」

 

「ごちしぉ〜さあでちた!!」

 

「ホントに美味しかったですね!?」

 

「これが郷土料理か…美味かった!!」

 

「隊長…一つ確認したい事が…」

 

ひとみといよ宜しく、口元に何かしらを付けまくった園崎が言った

 

「こんな美味いものが、無くなるかも知れないのですよね…」

 

「そうだ。必ず護ろう」

 

涼平も園崎も、静かに頷く

 

ひとみといよも小刻みに頷いている

 

「ごちそうさま。勘定を頼む」

 

「もう頂いておりますよ??」

 

「誰から!?」

 

既に勘定が支払われており、戸惑う

 

ウクライナに今の所知り合いはいないはずだ…

 

「先程"女性"が、貴方方のお勘定を回してくれと仰られまして…」

 

「…もし会ったら、今度はこっちが出すと言っておいてくれ」

 

「畏まりました!!またのお越しを!!」

 

謎を残しつつ、レストランを後にする…

 

俺達は俺達で、ここから簡易病院を建設しなきゃならない

 

「隊長!!航海の途中で設計図描いてみたんです!!」

 

「どれっ!!」

 

園崎と一緒に、涼平の描いた設計図を見る

 

そしてそれを元手に簡易ながらも病院を建て始める…

 

 

 

 

数時間後…ボルィースピリ国際空港

 

《そっちに行った味方機にありがとうと伝えておいてくれ!!赤黒いSu-57だ!!》

 

《赤黒いSu-57に助かったと報告しておいてくれ!!》

 

《味方機のSu-57が補給に来たら、俺達の分も補給してやってくれ!!》

 

「なんだなんだ!!何があったんだ!!」

 

四方八方から入る無線

 

そのどれもが、特定の機体に搭乗しているパイロットに対する謝礼を伝えてくれと言う

 

《サイクロップスよりボルィースピリ国際空港。補給を受けたいのですが…》

 

管制塔に無線が入る

 

サイクロップス…一つ目の怪物の名だ

 

独特の高音が聞こえる…

 

無線の先の連中が言っていた一つ目の怪物が、この空港に着陸を要請している

 

「ボルィースピリ国際空港管制塔"オーレニ"了解した。2番滑走路が開いている、誘導を開始します」

 

《了解》

 

着陸後、エドガーの周りにすぐに人が集まる

 

「サイクロップスはアンタか!?」

 

キャノピーが開くや否や、声を掛けられる

 

「そうです!!補給を頼めますか!!」

 

「もう手配してある!!サイクロップス、アンタも補給してくれ!!」

 

タラップを降り、エドガーは椅子に座らせて貰う

 

「遠路遥々すまないな…もてなしてやりたい所だが…」

 

「構いませんよ。今は奴等を追い返すのが先です」

 

「そうか…すまないな…」

 

「こちらを!!」

 

「ありがとうございます」

 

トレーに載って来たビスケット数枚と、水を頂く

 

「ありがとう…生き返りました」

 

「もう補給が終わる。サイクロップス、いつでも降りてくれ!!」

 

エドガーは小さく頷くと、Su-57に乗り込む…

 

《サイクロップス!!聞こえるか!!緊急入電だ!!》

 

「どうしました??」

 

 

 

 

数時間前、セバストポリ…

 

「出来ましたね!!」

 

「疲れた!!限界!!休憩!!」

 

「な…何でそんなタフなんだよ涼平…」

 

ほぼ半日ぶっ通しで簡易病院の建設をしていた

 

幾ら現地の人間や妖精の支援があるとはいえ、半日ぶっ通しの建設は身に堪える…

 

何故かは分からないが、涼平はピンピンしている

 

「ヨコスカの兵隊さん、少しは休んでくれ…」

 

現地の人が温かいレモンティーを勧めてくれた

 

「そうだぜ…流石に少し休もうぜ涼平…」

 

「そうだな…タバコでも吸おう…」

 

「そうですね!!あ、そう言えば、さっきこんなの貰いましたよ!!」

 

焚き火の周りにある倒木をベンチ代わりにし、俺達はそこに腰を下ろす

 

涼平はポケットからタバコとお菓子を取り出した

 

ウクライナ産のタバコと、お魚の形をしたビスケットだ

 

「隊長…」

 

「ん??」

 

「涼平のポケットって…何でも出て来ると思いませんか…」

 

「言われてみれば…」

 

涼平のポケットは何でも出て来る気がする…

 

タバコ、お菓子に始まり、適材適所でいつも何かを出してくれる

 

「多分あれですよ…異次元に繋がってるとか…」

 

「聞いてみよう…涼平、ストローあるか!?」

 

「あ、はい。此方に!!」

 

「「あるぅ…」」

 

「何話してるんですか??」

 

「涼平のポケットってよ…何でも出て来るなぁって…」

 

「そ、そうかな??」

 

「すみません、栓抜きありますか??」

 

現地の人がビールの栓抜きを貸してくれと俺達の所に来た

 

「ちょっと待って下さいね…はいっ!!」

 

「「あるぅ…」」

 

やっぱり異次元に繋がってるとしか思えない…

 

「たまたまですって!!ビスケット美味しいですよ!!」

 

三人でレモンティーを飲みながら、お魚ビスケットを食べる

 

「さっきのお勘定を払ってくれた女性…誰なんでしょうね…」

 

「ここいらの人が奢ってくれたと思っておこう」

 

「うぉっ!?」

 

園崎が持っていたお魚ビスケットの袋が急にガサガサガサ!!と動く

 

「ひとみ、いよ、ジュース飲むか??」

 

「のむ!!」

 

「のどかあいた!!」

 

ステルスを切ったひとみといよが園崎の前に現れる

 

「び、びっくりした…」

 

ひとみといよにも温かいレモンティーを淹れると、園崎の膝の上に座って飲み始めた

 

「おしゃかなのやつくらしゃい!!」

 

「おしゃかなびすけっろ!!」

 

「はいっ!!」

 

ひとみといよは早速お魚ビスケットをサクサク食べ始める

 

「ヨコスカの兵隊さんは貴方方か!?」

 

焦った様子のウクライナの兵士が来た

 

「すまない、挨拶が遅れた」

 

「か、構わないさ…はぁ…こっちに女の子二人が来なかったか!?」

 

「い、いない…」

 

いつの間にか膝の上から消えていたひとみといよに園崎は恐怖する…

 

「何かあったのか??」

 

「礼が言いたいんだ!!我々の艦の援護に入ってくれたんだ!!」

 

「援護に入ったのか!?」

 

「ロシアのミサイル艦を二隻大破まで追い込んでくれたんだ!!」

 

「後で言っておくよ。もし何処かで会ったら、褒めてやってくれないか??」

 

「了解した!!それと…来てくれてありがとう!!」

 

「友達だろ??いつだって来るさ」

 

そう言った後ろで、ミサイル艦が爆発を起こす

 

「いいぞ!!」

 

「やったぞ!!」

 

ウクライナの兵士が歓喜する

 

俺達も立ち上がり、海の方を見る…

 

埠頭の先でひとみといよがウクライナの兵士と共に何かを海に向かって撃っている…



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特別編 ウクライナ奪還作戦〜治療と報復〜

数分前…

 

「えっほ、うっほ」

 

「えっほ、あいっ!!」

 

「これは??」

 

二人で頭上で抱えて何かを持って来た

 

「こえ、お〜よろえぷちぅ〜ん!!」

 

「むちゃつよぼんば〜!!」

 

ひとみといよが持って来たのは小型化された地対艦ミサイル、ネプチューン

 

横須賀に所属する"博士"がひとみといよに持って行って欲しいと持たせた物だ

 

「こ〜あってもつ!!」

 

「こうかい??」

 

「そう!!」

 

ひとみ、いよ、ウクライナの兵士が3基のランチャーを肩に構える

 

「ここおちたあ、うつ!!」

 

「いくれ!!」

 

「おりぁ!!」

 

「いけ!!」

 

「い、いけ!!」

 

ひとみといよに追従して、ウクライナの兵士もネプチューンを放つ

 

ミサイル艦一隻に三発着弾し、ミサイルにも誘爆し始める

 

「おっしぁ!!」

 

「つぎいくれ!!」

 

「す、凄い…!!」

 

ひとみといよはもう二隻目の撃沈態勢に入っている

 

「うってくうまえにつぶすれ!!」

 

「あかった!!」

 

「センテヒッショーか…よし!!」

 

「「「おりぁ!!」」」

 

こうして、二隻目も大破まで追い込む…

 

「きぅ〜け〜!!」

 

「しょのままもっててえ!!いくれ!!」

 

「よ、よし!!」

 

感知されると分かっているのか、二発放ってそそくさとその場を離れる

 

「君達がヨコスカから来た子達かい??」

 

「そう!!」

 

「ひとみちゃんといよがくえば、も〜だいじぉ〜ぶれす!!」

 

「我々は女神を味方に付けたみたいだな…感謝するよ!!」

 

「おしぁ。つぎここにすう」

 

「ちぉっときぅ〜け〜しあす」

 

ひとみといよが選んだのは、港に建てられた建物の中

 

「かうえてて!!」

 

「しゅぐもどう!!」

 

「了解した。ここで待ってる」

 

そしてマーカスの所に行き、一旦補給をしてまた戻って来た

 

 

 

ビスケットと紅茶を補給し、三隻目への攻撃態勢に入る

 

「おっしぁいくれ!!」

 

「あいっ!!」

 

「装填よし!!」

 

三人が窓から構えた先には、ミサイル艦ともう一隻確認できた

 

「く〜ぼいう!!」

 

「といあえず、みしゃいるのあつねあう!!」

 

「了解した!!」

 

「「「おりぁ!!」」」

 

三隻目は撃沈出来た

 

問題は空母だ

 

「しゅき〜のあつついてう…」

 

「あえく〜ぼか??」

 

「あれはアドミラル・クズネツォフだ…何でこんな所に…」

 

「ひこ〜きだせう??」

 

「あぁ…出せる…報告しよう!!」

 

「てったい!!」

 

「さいなあすう!!」

 

三人はランチャーを置き、その場から離れる…

 

 

 

 

「えいしゃ〜ん!!」

 

「たいへ〜ん!!」

 

「どうしたどうした!!」

 

「ヨコスカの兵隊さん!!く、空母が!!」

 

「空母だと…」

 

「あいっ!!」

 

ひとみから双眼鏡を貸して貰い、海の方を見る…

 

「アドミラル・クズネツォフじゃねぇか…何でこんな所に…」

 

「隊長、今自分達は戦闘機が!!」

 

「らんちぁ〜あるれ!!」

 

「ぼか〜んできう!?」

 

「ファランクスに撃墜されると位置を把握される…考えろ…空軍に連絡は入れられるか!?」

 

「はい!!セバストポリ国際空港が死守されています!!」

 

「すぐに連絡を入れて迎撃機を寄越すように言ってくれ!!」

 

「はっ!!」

 

「涼平、園崎!!対空砲に着け!!」

 

「了解しました!!」

 

「了解!!出番だ!!」

 

「ひとみといよちゃん、ねぷちぅ〜んもってくう!!」

 

「もひとつあるれ!!」

 

いよが急にもう一つあると言い出した

 

「とってくう!!」

 

「まっててえ!!」

 

数分後…

 

「えっほ、うっほ、あいっ!!」

 

「ぱとりおっろ!!」

 

小型化されたパトリオットミサイルランチャーを頭の上に抱えて持って来た

 

「こえはいっぱつこっきりれ、これっきりら」

 

「お〜よろしゃんとくしぇ〜だかあ、しゅっごいつおいお!!」

 

「大淀の武器か…」

 

博士の正体は大淀博士

 

あの人の造る武器の火力はヤバい…

 

良く狙って撃たねば…

 

一発こっきりとか言いつつ、四発も入ってやがる…

 

《隊長!!配置に着きました!!》

 

《こっちも着きました!!》

 

「ひとみといよは隠れてるんだ!!」

 

「きおつけてくらしゃい!!」

 

「まってうで!!」

 

ひとみといよはステルスを使い身を隠しつつ何処かに隠れた

 

俺は一番近くにある高めの建物の屋上に向かう…

 

 

 

 

背中にランチャーを背負い、はしごを登り、屋上に来た

 

「クソッ…聞こえるか!!発艦を始めた!!各自迎撃態勢に入れ!!」

 

《了解しました!!》

 

《了解っ!!》

 

「来るぞ…」

 

ランチャーを構え、サイトを覗く…

 

Su-33が2機発艦している…

 

落とすなら今の内だな…

 

「行けっ…!!」

 

ランチャーのトリガーを引く

 

「えっ」

 

一回引いただけなのに、四発全部出て行った

 

二発はすぐさま二機のSu-33に向かう

 

残った二発は発艦準備中の別のSu-33に向かっている

 

そして…

 

「うっ!!」

 

一瞬空が光り、その後すぐ衝撃波が来る

 

「くっ…なんちゅう威力だ!!」

 

《何ですか今のは!!隊長!!園崎!!無事ですか!?》

 

《な、何だ何だ!?スゲェ衝撃波だ!!》

 

「す、すまん!!俺のランチャーだ!!」

 

《跡形も無く消し飛んでますよ!!》

 

《ぼが〜なった!!》

 

《しぉ〜めつ!!》

 

各方面から連絡が入る

 

《マーカス!!マーカス!!聞こえますか!?》

 

「サイクロップスか!!聞こえる!!」

 

《あぁ…良かった。空母が急に爆発したので、貴方方も巻き込まれてしまったのかと…》

 

「大丈夫だ…はぁ、ビックリした…」

 

《対艦用の爆弾を積んで来たのですが、取り越し苦労のようで》

 

「はは…まさかこんな威力とは思わなかったさ…」

 

《ではマーカス、近々また》

 

「すまないサイクロップス。ありがとう!!」

 

エドガーはそのまま引き返して行った…

 

 

 

 

これで港に補給が届きはじめる

 

タナトスもいるからな…

 

しばらくは海は大丈夫だ

 

空になったランチャーを背負い、はしごを下る

 

「ヨコスカの兵隊がやってくれたぞ!!」

 

「ははは!!やったな!!」

 

「女神はどうした!!あの子達もやってくれたぞ!!」

 

セバストポリの街は少し活気を取り戻している

 

戦争でもなんでも士気は大切だ

 

「えっほ!!」

 

「うっほ!!」

 

「ヨコスカの兵隊さん、ありがとう!!」

 

ひとみといよも帰って来た

 

ちゃんとランチャーを担いでいる

 

「しゅき〜のく〜ぼ、ぼが〜なった!!」

 

「あえく〜お??」

 

「ロシアの主力空母さ!!大手柄だ!!」

 

「よく見つけてくれたな!!ありがとな!!」

 

ウクライナ兵の足元でランチャーを担いだまま話すひとみといよの頭を撫でる

 

「「くふふっ…」」

 

「名前を聞くのを忘れていた。私はボリス、少佐だ」

 

隊長より若く、俺より年上の感じがする…

 

「マーカス・スティングレイ、大尉だ」

 

「マーカス!?君か!!昇進しない大尉は!!」

 

「国を跨いで有名になってるとは…」

 

「ヨコスカから聞いたんだ。昇進しない大尉がいると。彼は必ず貴方方に手を差し伸べてくれるから、手助けをしてあげて欲しいと!!」

 

ボリスの言葉に、彼の目を見て頷く

 

「必ず救う。約束だ」

 

「よろしく頼む、マーカス」

 

ボリスと握手を交わす

 

「隊長!!空母に乗っていたロシア兵が港に運ばれて来ます!!」

 

「ウクライナサイドに被害は??」

 

「先手を打ったので今の所ありません。どうしますか??」

 

「初仕事が喧嘩を売って来た側とは皮肉なもんだな…よし、治療に当たる。涼平、ウクライナの兵士に傷病者が出たらすぐに教えてくれ!!」

 

「了解です!!あ、自分は綾辻涼平です!!少尉です!!」

 

「ボリスだ!!少佐だ!!よろしく頼むよリョーへー!!」

 

涼平とボリスも握手を交わし、涼平は傷病者のチェックに向かった

 

「ボリス、頼みがある」

 

「なんだ??」

 

「ロシアを恨むのは俺にも分かる…ただ、患者は患者だ。暴れたら抑えて欲しい」

 

「勿論だ!!」

 

俺とボリスは簡易病院に着き、器材を持ち出す…

 

 

 

「クソ野郎が!!」

 

「触るんじゃねぇ!!」

 

「黙ってて下さい!!血が出ますから!!」

 

「テメェが撃ったんだろうが!!」

 

港では涼平と園崎が必死に応急処置に当たっている

 

「くたばれ…」

 

ロシア語でそう言われた

 

反応したのは俺ではなく、涼平

 

罵声を吐いたロシア兵は左足に怪我を負っている

 

「触るな豚野郎!!」

 

涼平は怪我をした左足に消毒液を吹きかける

 

「お前を助けようとしてるんだ…黙ってろ!!お前のトップはここまでしてくれるのか!!」

 

「!!」

 

ロシア語で返した涼平に少し安堵したのか、罵声を吐くのを止めた

 

「死にたくなければっ…黙ってろ!!国に肉壁にされて終わっちまうぞ!!」

 

「…」

 

涼平を睨みさえするものの、罵声と抵抗を抑え、大人しく応急処置を受ける

 

「涼平、ありがとう。代わるよ」

 

「ありがとうございます!!もう大丈夫ですよ…」

 

涼平と代わろうとした瞬間、そのロシア兵は涼平の胸倉を片手で掴んで引き寄せた

 

耳元に口を寄せ、ボソボソと呟き、涼平は少し目を見開く

 

「隊長…」

 

「どうした??おーい!!もう心配するな!!絶対助けてやるからな!!」

 

「助けてくれ…と、言ってました…」

 

「よし…これでお前は大丈夫だ、少しここで休め。すぐ戻って来るからな」

 

「もう大丈夫ですよ!!」

 

「隊長!!隊長ー!!助けてくれ!!こいつヤバい!!」

 

「よしよし!!涼平、通訳頼む!!」

 

「了解です!!」

 

園崎が応急処置していたロシア兵の治療に当たる

 

「母さん!!母さん!!助けてくれ!!」

 

「もう大丈夫だからな!!しっかり気を持て!!」

 

「すぐにお母さんの所に帰れますから!!ジッとしていて下さい!!」

 

腹部からの出血が酷いが、これ位何とかなりそうだ

 

後はコイツが"安心しなければ…"

 

「あぁ…天使がいたんだ…母さん…」

 

「ダメだダメだダメだ!!起きて!!」

 

「起きろ!!家に帰るんだろ!!」

 

すぐに心臓マッサージを始めるが、ギリギリのラインかも知れない…

 

「隊長!!電気ショック行きます!!」

 

「頼む!!涼平、離れろ!!」

 

園崎が持って来たAEDで蘇生を試みる

 

「呼吸回復しました!!」

 

「心拍確認…よし、成功だ!!」

 

「良かった…」

 

その後も何十人と治療に当たる

 

途中で意識を失った奴

 

安心して心拍停止を起こした奴

 

感謝を述べて治療された奴

 

罵声を吐き続けた奴

 

皆、何とか救う事が出来た

 

だが、まだ安心は出来ない

 

治れば暴れる奴も出て来るだろう

 

「マーカス」

 

「ありがとう、ボリス」

 

「なに、礼を言われる事じゃないさ。それより、また女神に礼を言わなければ…」

 

「そう言えば何処に!?」

 

「じっとしとけあほ!!」

 

「おるぁ!!」

 

「へげぇ!!」

 

暴れるロシア兵に二人がかりでモルヒネシレットをつむじに打っている

 

※良い子は絶対にマネしないで下さい

 

「ひとみ!!いよ!!それはここに打つんだ!!」

 

「ここちあう??」

 

「しずかになりあした!!」

 

「次からはここに打つんだ」

 

ひとみといよ、そしてボリスの前で、もう一人いたロシア兵の太ももの裏にモルヒネシレットを打つ

 

「スパシーバ…スパシーバ…」

 

感謝の言葉を述べ、安心したかの様な深い息を吐いた

 

熱を見た後、肩を叩いて立ち上がる

 

「暴れていたのを3人ほど仕留めてくれたんだ」

 

「あそこでグデってるのか…」

 

3人疲れ切った様に眠っているロシア兵がいる

 

「あばえうほうがわうい!!」

 

「ちぁんとやりあした!!」

 

「次からは太ももの裏に打とうな??ありがとうな??」

 

「ふとももおぼえた!!」

 

「ここ!!」

 

二人共しっかりと打つ場所を覚え、ひとみが自身の体でちゃんと打つ場所を指差している

 

「マーカス、本当に少しでもいい、休んでくれ」

 

「そうだなっ…ん〜っ!!少し休もうか!!」

 

いつの間にか夜になっている

 

先程の焚き火の場所に戻り、タバコに火を点ける

 

「少し待っててくれ!!今温かい物を淹れてくる!!」

 

「ありがとう」

 

焚き火に当たりながらタバコを吹かす…

 

「こえでがいばうで〜のけつにひ〜つけうか??」

 

「いきてうかあ??」

 

焚き火を見てガリバルディを思い出し、そして勝手に殺しているひとみといよ

 

「二人共、ガリバルディ好きか??」

 

「けつにひ〜つけたいらけ!!」

 

「あちゃちゃちゃいう!!」

 

笑っている所を見ると、ガリバルディの事を心配はしているみたいだ

 

…勝手に殺してるがな

 

「隊長、戻りました!!」

 

「戻りました!!そこで晩飯貰いましたよ!!」

 

「おっ!!どれどれ!!」

 

園崎と涼平がトレーに乗せて来たのは、カーシャと数本のソーセージ

 

「マーカス!!酒はどうだ!!紅茶もあるぞ!!」

 

「紅茶にする!!二人に酒あげてくれ!!」

 

「頂きます!!」

 

「頂きますっ!!」

 

6人は小さいながらも、一日の終わりの祝杯をあげる…

 

 

 

 

次の日…

 

「これで良しっ…」

 

「スパシーバ…」

 

朝から傷の処置の続きをしている

 

やはり浮かない顔ばかりだ

 

「マーカス。ロシア兵の措置は此方に任せてくれないか??」

 

「頼む。俺はからっきしなんだ!!」

 

「隊長、そろそろお腹に物入れませんか??」

 

「もうそんな時間か…よしっ、何か食うか!!」

 

涼平に誘われ、白衣を脱いで席を立とうとした

 

俺より先に、ボリスと涼平が銃を構えた

 

軽症で済んでいたロシア兵の一人が急に診察室に入って来たからだ

 

ただ、そのロシア兵はすぐに両手を上げる

 

「頼む、銃を下げてくれ…」

 

「何の用ですか??」

 

涼平がロシア語で返答を返す

 

「そこの医者に用がある」

 

「だったらそのまま仰って下さい」

 

数回言葉を交わした後、涼平もボリスも銃を下げる事は無かったが、ロシア兵は敬礼をした

 

「涼平、敬礼は無しだと伝えてくれ」

 

「ここは病院です。敬礼はしないで頂きたい」

 

「無礼を済まない…敬意を表すのには、これしか見当たらなかった…」

 

ロシア兵はすぐに敬礼を下げた

 

「我々を救助して頂いた事、感謝を述べます、異国の医者」

 

「隊長に感謝を述べています」

 

「理由があったのだろう。感謝してくれるなら、俺達に理由を話してくれないか??」

 

俺が言った事を、涼平はそのままロシア語で通訳し、返答する

 

「分かった…救われた命だ、ここで使う」

 

「マーカス…涼平…すまない!!」

 

ボリスは銃を降ろし、ロシア兵に近寄ると、いきなり頬に一発、右フックを入れた

 

「この場は一発で済ませてやる…」

 

「すまない…こうするしかなかったんだ…」

 

「お前は今からロシアの裏切り者だ。ただな…我々ウクライナの人間は、降伏した人間を丁重に扱う」

 

「よく聞いている…」

 

「マーカス…すまない…」

 

「よく一発で済ませた。そうだ涼平、飯だったな??」

 

「あ、はいっ!!美味しいのが出来ました!!」

 

「コイツの分も頼むよ」

 

「了解ですっ」

 

涼平はようやく銃を降ろし、診察室を出た

 

「ま…座ってくれ」

 

「すまない…」

 

「まず名前を教えてくれないか??」

 

「ニコラス。少将だ」

 

「俺はマーカス。大尉だ」

 

「私はボリス、少佐だ。よろしく頼む」

 

ニコラスは被っていた帽子を脱ぎ、胸に置いて一礼した

 

「この度は重ね重ね、船員の救助を敢行して頂き、誠に感謝する…」

 

「全員を救えた訳じゃない…それに、俺は感謝を言われる筋合いはない」

 

「…」

 

「ボリス…申し訳ない。言い訳にしか聞こえないだろうが、我々も来たくてここに来た訳ではないんだ…」

 

「それを聞きたいんだ。是非話して欲しい」

 

「持って来ました!!」

 

「おっ!!すまんな!!」

 

涼平はトレーにポトフとパンを置いて持って来た

 

「熱い内にっ!!さっ、ボリスさんもっ!!」

 

「ありがとう、リョーへー!!」

 

「えっと…お名前は??」

 

「ニコラス。少将だ」

 

「ニコラスさん。自分は綾辻涼平、少尉です。さ、どうぞ…温まりますよ??」

 

「ありがとう、頂くよ…」

 

ニコラスはポトフにがっついた

 

余程何も食べていなかったのか、俺達が見入ってしまう程、美味そうに食べている

 

そんなニコラスを見て、口を開いたのはボリス

 

「ロシアは…そんなに食料事情が危険なのか??」

 

「若い者はほとんど食べれていない。私が知っている限り、栄養失調の状態で戦場に出されて…」

 

「出されて…何ですか…」

 

涼平のスプーンが止まる…

 

「帰って来なくなる…」

 

俺とボリスは余所を向き、ため息を吐く

 

「我々がここに来たのは、大統領命令で行かざるを得なかった…断れば家族を殺される…そう脅しを掛けられて、船に乗ったんだ…」

 

「宣戦布告をしたのもロシアの大統領でしたね…」

 

「そんな内部事情なのか??」

 

「あぁ。行くも地獄、残るも地獄…家族を救うには、行くしか道は残されていなかった…」

 

「まだ…戦いますか??」

 

涼平の問いに、ニコラスは頭を横に振る

 

「空母も失った…今帰ればどの道殺される…なら、最後に救われた貴方方に従うべき…いや、恩を返すべきだと私は考えている」

 

「いいのか??俺達がここに来たのは、最終的にアンタの国の頭を執るつもりだぞ??」

 

「頼む。奴の暴走を止めてくれ!!」

 

ニコラスのその目に濁りや企みはなかった

 

悲しみと怒りに満ちている目だ…

 

「分かった。なら、そうさせて貰う。代わりに、アンタには生きて貰うからな」

 

「恩に着る、マーカス」

 

「今のロシアに必要なのは、アンタみたいな愛国心のある奴だ」

 

「私の愛国心??」

 

「治療の最中に聞いた…ニコラス、部下に相当好かれているな??」

 

「どうだろうか…地獄に引っ張り出してしまったからな…」

 

「まだ意識がある奴は口を揃えて言っていた。艦長がまだ残ってる、ニコラス艦長の手当てを、と」

 

「自分も聞きましたよ…」

 

「私も聞いた…」

 

三人からそう聞き、ニコラスは下を向く

 

床に涙が数滴落ちているのが見える…

 

「マーカス…ボリス…リョーへー…私は今から国を裏切る…」

 

「ウクライナはアンタの味方だ」

 

ボリスがそう言うと、ニコラスは内ポケットから革のケースを取り出した

 

「ここに、ロシアが計画している侵攻地図が入っている…頼む"キーウの亡霊"に何とか連絡を取って、これを止めてくれ!!」

 

「キーウの亡霊??」

 

「あぁ…今キーウ上空にロシアの航空機が侵入出来ないのは奴が存在するからだ」

 

「私が何とかしよう。ニコラス、よく話してくれた」

 

「すまない…私にはこれ位しか恩を返せない…」

 

「もういい…よく戦った…戦士として敬意を表す…」

 

ボリスがニコラスの肩に手を置く

 

「マーカス、リョーへー、私はこれを何とかキーウに伝える。そうだ!!ボルィースピリ国際空港が生き残ってると聞いた!!そこなら何とかしてくれるハズだ!!」

 

「頼んだ!!」

 

「任せてくれ!!」

 

ボリスが診察室を出てすぐ、ニコラスに目線を戻す

 

「ニコラス、少し休んでくれ。話してくれてありがとう」

 

「何かあったら言ってくれ、マーカス」

 

「隊長、自分は病棟を見てきます」

 

「待ってくれ、俺も行くよ!!」

 

再び白衣を着直し、三人で診察室を出た…

 

 

 

 

「病棟でもご飯の時間なんですが…」

 

「配膳は誰が??」

 

「園崎がしてくれてます」

 

「どれっ…」

 

病棟の扉を開け、中に入る

 

等間隔でベッドが並べられ、そこに負傷したロシア兵が横になっている

 

「くえ!!」

 

「スパシーバ…」

 

「ぐつぐつのしちぅ〜です!!」

 

「スパシーバ…スパシーバ…」

 

ひとみといよが台車にシチューの大釜と木のボウルとスプーンを乗せ、配膳を手伝ってくれている

 

二人にシチューを貰い、祈るポーズをした後に感謝を述べているロシア兵もいる

 

「食えるか??」

 

「すまない…待て…アンタ、ソノザキじゃないか??」

 

「あ、UFO」

 

「何っ…ぐへぇ…」

 

園崎はその隙にロシア兵の後頭部を小突き、気絶させた

 

「あっぶねぇ…」

 

「気絶させるだけだぞ??」

 

「あ!!隊長!!お恥ずかしい所を…」

 

「ソノザキ??ソノザキって言えば、ニホンのボクサーか??」

 

「はは…こんな所で無敗のボクサーに会えるとはっ…生きてみるもんだっ!!」

 

園崎がボクサーとして名を上げてるのは知っている

 

だが、ここまで有名だと思っていなかった

 

「隊長、全員気絶させても??」

 

「ほら園崎、お前もご飯食べろ!!ひとみ!!いよ!!園崎とご飯食べておいで!!」

 

「いきあしぉ!!」

 

「なくな!!しちぅ〜くえ!!」

 

いよは余程腹が立っているのか、ロシア兵の前にシチューを置いてはキレている

 

「いよちゃん、俺と行きましょう??」

 

「いく!!」

 

園崎が誘うと、ちゃんと手を繋いでご飯に向かった

 

「アンタ…あのソノザキを部下に付けてるのか??」

 

最初に園崎がボクサーだと気付いたロシア兵が話し掛けて来た

 

「俺には勿体無い部下さ。平和になったら、ボクシングでも教えてもらうといい」

 

「そうさせて貰う…それと、シチュー旨かった」

 

「…ロシアの食料事情、危ないのか??」

 

ニコラスに聞いた事と同じ事をもう一度聞いてみる

 

すると、彼は俺の目を見て、小さく何度か頷いた

 

「俺達はニコラス艦長の下にいたから持ったみたいなものだ。今ロシアの食料事情は、子供さえ食べれない状況なんだ…俺達のトップは、その状況を見てウクライナに宣戦布告した」

 

「なぁ、ドクター…」

 

彼の向こう側にいたロシア兵が俺を呼ぶ

 

「なんだ??」

 

「ドクターは腹が物凄く減った時…目の前で美味そうにステーキを食っている奴がいたら…どう思う??」

 

「たまらなく欲しくなるな…」

 

「そうだ…たまらなく欲しくなったんだ…賢い奴は、まずテーブルに座って少しでも良いから譲ってくれと頼む…だが、頭の悪い奴は奪ってしまうんだ…」

 

「そう言う事か…それに巻き込まれたんだな…」

 

「ありがとう、ドクター…そして、すまない…」

 

「いいんだ…お前は悪くない…」

 

彼はそう言うと、ようやく寝息を立てた

 

「休ませてやってくれ…そいつは戦士として立派に戦った…」

 

「鎮静剤が効いてきたんだ。さ、アンタも少し休むんだ」

 

「最初からアンタに着くべきだったな…」

 

「今からでも遅くないさ…」

 

「ありがとうドクター…そう言って貰えるだけで、気が楽になった…」

 

肩に手を置き、別のロシア兵の問診に向かう…

 

 

 

同時刻、キーウ上空

 

「了解しました。座標を送って下さい!!」

 

エドガーの機体に座標が転送される

 

《敵戦車隊の座標だ。地上も対応に当たっているが、数で押されそうだ!!頼めるか!!》

 

「了解、急行します!!」

 

赤黒いSu-57がバーナーを吹かす…

 

 

 

「航空支援はまだか!!」

 

「すぐに到着します!!」

 

「よし!!味方航空機に攻撃目標を転そ…」

 

地上のウクライナ兵が座標レーダーを照射しようとした瞬間、ロシア補給車がいきなり爆発を起こす

 

「なんだ…何が起こった…くっ!!」

 

続いて、連続して戦車が爆発を起こす

 

何の前触れも無く消え去った敵戦車に、味方であるウクライナ兵でさえ驚きを隠せないでいる

 

《まだ戦車はいますか??》

 

「誰だ!!」

 

《申し遅れました、サイクロップスです!!》

 

「隊長!!あれです!!」

 

「おぉ…」

 

雲の合間から垣間見えた、赤黒いSu-57

 

一瞬、ウクライナ兵達の時間が止まる…

 

その姿を目にした地上のウクライナ兵は、まるで自分達が巨大なドラゴンに立ち向かう兵士になった様な、得体の知れない恐怖に襲われる

 

ただ、そのドラゴンが愛国心の塊で、自分達の味方だと気付くまでに時間は掛からなかった

 

「さ…サイクロップスを援護しろ!!座標転送開始!!」

 

「了解!!」

 

「地対空ミサイル!!サイクロップスの周りのハエを叩き落とせ!!」

 

「了解です!!」

 

《座標を受け取りました!!爆撃開始!!》

 

今度は自走砲が爆撃の餌食になる

 

「サイクロップス!!輸送車が見えた!!弾薬を積んでる!!」

 

《少し大きい花火を上げます!!隠れていて下さい!!》

 

輸送車に着弾、辺りが一瞬眩しくなり、大爆発を起こす

 

残っていた数両のロシア戦車も爆発に巻き込まれ、使い物にならなくなる

 

「やった!!やったぞ!!サイクロップス!!ありがとう!!」

 

「やったぞーーー!!」

 

《後は任せましたよ、地上の勇者達》

 

「ありがとうサイクロップス!!祖国に栄光あれ!!」

 

《祖国に栄光あれ!!》

 

赤黒いSu-57は、手を振る地上のウクライナ兵の真上を飛び、キーウへと戻って行く…

 

 

 

 

その日の夜、セバストポリ…

 

「お疲れ様だな、マーカス」

 

集合場所になりつつある、焚き火の周りに倒木がある、簡易病院の横にある小さな場所

 

そこで寝転びながら、一日の終わりにマシュマロを焼いていた

 

「ボリスか。すまない、色々動かせてしまって…よいしょっ!!」

 

ボリスが何かを持って来てくれたので、倒木に座る

 

「何言ってるんだ!!マーカス、少し飲まないか!?」

 

「おっ、頂くよ!!」

 

ボリスが持って来てくれたビールを開け、軽く乾杯を交わし、半分程飲む

 

「くぁ〜!!美味い!!」

 

まさに体に染みる美味さ

 

傷に塗るアルコールがあるなら、酒は百薬の長と言われるアルコールなのがよく分かる

 

「気に入ってくれたか??」

 

「いやぁ〜美味い!!」

 

「そりゃあ良かった!!」

 

白い息を吐きながら、ボリスの後ろにある水平線を眺める

 

「はぁっ…ボリス、ウクライナは良い景色だな??」

 

「あぁ。色々観光地もある。ウクライナには城が多いんだ、それとな…」

 

ボリスから色んな観光地を聞く

 

その度に、このボリスがどれだけこの国を愛しているかよく分かる

 

「極めつけはな…トイレの歴史博物館だ!!」

 

「トイレって…あのトイレか??」

 

「そう、最初は少し抵抗があるんだがな、行ってみると意外に良い場所なんだ…これが」

 

「ただいま戻りました!!隊長、これも焼いてもいいですか??」

 

手に数匹の魚を引っ提げて涼平が戻って来た

 

「涼平か!!お帰り、魚か??いいぞ焼け焼け!!」

 

「ただいま戻りました、あっ!!涼平が先か!!」

 

「ぱん!!」

 

「おしゃけとじぅ〜しゅ!!」

 

園崎とひとみといよも戻り、今度はパンと飲み物を抱えている

 

「彼の手伝いをしていた。すぐ戻る…」

 

「待て待て待て、ニコラス!!お前はもうウクライナの一員だろ!!」

 

「いいのか、いても…」

 

ボリスに肩を持たれ、皆と一緒に倒木に座る

 

「今な、ウクライナの観光地の話をしていたんだ!!」

 

「次はニコラスの番だぞ??」

 

「私か…そうだな…」

 

ニコラスは嬉しそうに話す

 

「バイカル湖で釣りかぁ…」

 

「ふふ…良いものだぞ??この先、私が年老いた頃合いに湖の近くに家を建ててみたいもんだ」

 

「くましゃんのちぁりんこは??」

 

「おっと、それを忘れていたな。サーカスもある。女神が言った通り、熊が自転車に乗るんだ」

 

「サーカスで思い出した!!ロシアって言えば、美人が踊る奴もあった気がする…」

 

園崎がそう言うと、男性陣が一気にニコラスの方に向く

 

「ニコラス!!何だそれは!!」

 

「言え!!何だそのパーティーみたいなのは!!」

 

「美人が踊るって何ですか!!」

 

「ば、バレエだよ!!」

 

「バレエか…そう言えばバレエはロシア生まれか」

 

「違う。イタリア生まれだ。ロシアで広まって、伝統舞踊になった。マーカスはニホンから来たな??」

 

「横須賀から来た」

 

「Boom Danceみたいなものさ」

 

「ボンダンス…」

 

「「ちゃんかちゃんかちゃんかちゃんか!!」」

 

「盆踊りか!!」

 

ひとみといよが踊りだしたのを見て、ボンダンスが盆踊りと分かった

 

「ろしあのばえ〜きえ〜なひとおどう??」

 

「とても綺麗だぞ。踊れる審査もとても厳しい。だが…君達二人なら簡単に通るだろうな??」

 

「良かったな、ひとみ、いよ??」

 

「ひとみあ、しぉ〜らいおか〜しゃんになりあす!!」

 

「いよ、よこしゅかしゃんみたいになう!!」

 

「そうかそうか…その夢を忘れないでおくれよ??」

 

ニコラスは娘を撫でるように、ひとみといよの頭を撫でた…

 

そこで気付く

 

ひとみといよがニコラスに敵意を向けていない事を…

 

「…」

 

ひとみといよの頭を撫で、ニコラスは何かを考える…

 

「マーカス、ボリス、リョーへー、ソノ…君達に言わねばならない事がある」

 

 

 

 

 

ここに来てから一週間が経った

 

ロシア兵の面々も回復した者も多く、未だ悪態をついている連中はいるものの、ニコラスとボリスが宥めている現状だ

 

「ソノザキ、あのパンチを見てみたい」

 

「分かったよ…」

 

「あのパンチってなんです??」

 

「まぁ見てなリョーへー、凄いぞ??」

 

涼平はロシア兵の横に座り、園崎がトレーニングをする姿を見る

 

涼平はここに来てから比較的温和な姿勢を見せるロシア兵に更にロシア語を教えて貰い、段々流暢に話して来ている…

 

「フッ…!!」

 

スパパン!!と、サンドバッグ代わりに木から吊るされた土嚢から音が出る

 

三連撃が目にも止まらぬ速さで当たり、ロシア兵も涼平も拍手を送る

 

「あれがソノザキの必殺技だ。見た事ないか??マルセラ戦」

 

「やっぱり、凄いんですか??」

 

「そりゃあもう!!あれは凄かった…今まで見た試合で、一番最高だったよ!!」

 

「まさかあの伝説のボクサーがここにいるとはな…ほらっ」

 

「ありがとう」

 

「ありがとうございます!!」

 

ボリスが飲み物を持って来てくれたので、3人で倒木に座りながら飲む

 

「どうだ??ウチにはソノザキもいるぞ??」

 

「もう戦う気はないよ…どの道、俺達はニコラス艦長に拾われた、帰る家もない奴等ばかりさ…」

 

「そうか…」

 

「…」

 

涼平は何も言えずにいた

 

自分は隊長や大淀さん、それにあの日のきくづきに拾われ、命を救われ、そして第二の人生を手に入れた

 

この人達はどうなるのだろう…

 

戦争が終われば、どこに行くのだろう…

 

捕虜とはいえ、こんなにも話せたんだ

 

ウクライナの人達も優しい

 

きっと、お互いに良い方向に動くに決まってる

 

「よしっ…こんなモンにしとこう…ふぅ…」

 

「お疲れ様だなソノザキ!!ソノザキはこっちだ!!」

 

「ボリスさん!!ありがとうございます!!」

 

「ウズヴァールだ。疲労回復に良いぞ!!」

 

「頂きますっ!!」

 

「リョーへー、俺はルカだ」

 

「綾辻涼平です!!」

 

ロシア語をずっと涼平に教えていたり、ソノザキに一番最初に気付いて気絶させられたロシア兵の名前はルカ

 

まだ若い青年で、涼平とソノザキと大して歳は離れていないが、屈強そうな体付きをしている

 

「よーし!!一段落だ!!ん〜っ!!」

 

「「隊長!!」」

 

「マーカス!!お疲れ様だな!!ジュースもあるぞ!!」

 

ようやく一段落し、いつもの集合場所に来た

 

段々と、ここが捕虜収容所に近い形になっている

 

建物の建て直しも少しずつ進んでいる

 

比較的温和な兵は監視付きだが、それに従事してくれている奴もいる

 

「ありがとう、ドクター。大分良くなったよ」

 

「ま、もうしばらくの休養だな??ふぅ…」

 

タバコに火を点け、彼の話を聞く

 

「どうだ??ここの暮らしは」

 

「ロシアよりずっとマシさ。もう少し良くなったら、俺も何か手伝うよ」

 

「ふふ…ありがたい。ボリス!!良くなったら何か仕事がしたいらしい!!」

 

「おぉ!!山程あるぞ!!漁師はどうだ!!」

 

《創造主!!》

 

急にタナトスから通信が入る

 

「どうした??」

 

《ロシアから長距離ミサイルが来るでち!!そこから離れてタナトスに入るんでち!!》

 

「了解した!!園崎!!涼平!!タナトスに向え!!ボリス、俺と避難誘導を頼む!!」

 

「了解した!!立てるか!!」

 

「置いて行け。足手まといになるだけだ」

 

ボリスがそう言うと、涼平は彼の肩を持った

 

「行くぞ涼平っ!!」

 

「オッケー!!」

 

「やめろ…お前達まで死ぬぞ…」

 

「タナトス、弾着までどれ位ある!!」

 

《弾着まで3分でち。タナトスが何とか迎撃するでち…でも、量が量でち!!》

 

「了解した。何とかする!!二人共、彼を頼んだ!!」

 

「「了解です!!」」

 

彼は二人に任せ、病院の患者の搬送を急ぐ

 

もう歩ける奴がほとんどだが、数人はまたベッド生活だ

 

「話は聞いたマーカス!!こっちは任せろ!!」

 

残ったウクライナ兵と共に、ベッドの上のロシア兵の搬送する

 

「すまんっ…さぁ、行くぞ!!」

 

「置いて行け!!アンタらまで死ぬ事は無いだろ!!」

 

「黙ってろっ!!よっこらっ!!」

 

「…スパシーバ」

 

《弾着まで2分でち!!数十発落としたでちが、まだ来るでち!!》

 

「何撃って来たんだ!!」

 

「亜音速ミサイルだよ…ロシアの新型ミサイルだ…頼むドクター、置いて行ってくれ」

 

「ダメだ。必ず救う!!」

 

「…」

 

背中で泣いているのが聞こえた

 

このまま喉元を掻っ切られても構わない

 

今俺が背負っているのは、ロシア兵でもウクライナ兵でもない

 

一人の患者の命だ

 

「全員タナトスに避難しろ!!」

 

「さぁ行くぞ!!立って!!もう少しだ!!」

 

避難誘導をしつつ、タナトスへと向かう

 

《弾着まであと1分でち!!創造主!!》

 

タナトスの前に着く

 

「さぁ、行け!!」

 

「ドクター…ドクターはどうするんだ!!」

 

「すぐ行く!!」

 

「よく頑張った!!」

 

ウクライナ兵に中継し、タナトスの中へ避難させる

 

「待ってくれ!!ドクターが!!」

 

 

 

「あと少しです!!」

 

「もうひと踏ん張りだ!!」

 

3人で雄叫びを上げながら、彼を運ぶ

 

「よし!!よく頑張った!!入口まで誘導頼む!!」

 

「了解です!!」

 

「了解しました!!」

 

「よーし!!行くぞ!!」

 

彼を抱え、タナトスの入口寸前まで来た

 

「見えました!!」

 

「速い!!すぐ来るぞ!!」

 

《あれはデコイのミサイルでち!!本陣はすぐ来るでち!!》

 

タナトスがデコイ代わりの地対地ミサイルを迎撃している

 

《手が回らんでち!!早く!!》

 

「…」

 

「諦めるな!!」

 

「さぁ!!」

 

「…ありがとう、ドクター…リョーへー!!」

 

「うっ!!」

 

「あっ!!」

 

《防御形態に移行します》

 

「待て‼タナトス!!」

 

「ルカ!!」

 

涼平がルカと呼ばれた青年に手を伸ばす…

 

「ありがとうリョーへー!!最後の最後で…トモダチになってくれて!!」

 

今から死ぬと言うのに、ルカは優しく涼平に微笑んだ

 

その瞬間、タナトスの入口が閉められる

 

 

 

 

「ほえっ!!」

 

「いくれ!!」

 

「待っ…ゴボボ…」

 

「えっ…ガボボ…」

 

タナトスの入口が閉められた直後、何者かによって背中を蹴り飛ばされた二人…

 

 

 

「待って!!そんな!!」

 

外から爆発音が聞こえ、タナトスが揺れる…

 

《船体のダメージを計算中…ダメージ0。レーダーに敵影無し。放射能測定中…放射能汚染0。防御形態を解除します》

 

「隊長…ルカは…」

 

「…すまん」

 

「そんな…」

 

「ーい!!」

 

「誰だ??」

 

外から声が聞こえる…

 

外に出て、まだ熱い風を浴びる…

 

「おーい!!誰か引き上げてくれー!!」

 

「あ!?あっはっはっは!!涼平!!ロープ持って来てくれ!!」

 

「はは!!はいっ!!」

 

「待ってろ!!すぐに助けてやる!!」

 

海面にいたのは、ルカを抱えていたニコラス

 

「ほらよっ!!」

 

「よし…もう大丈夫だぞルカ」

 

「艦長…」

 

「彼等に着こう。我々を殺そうとした祖国より、我々を何度も救おうと命を張ってくれた彼等に」

 

「勿論です、艦長」

 

二人を引き上げ、タナトスの艦内に入れる…

 

「はっ!!ひとみ!!いよ!!」

 

「おるれ!!」

 

「あいっ!!」

 

ニコラスの両肩に乗って海中から上がって来た

 

どうやら、着弾寸前に二人を海へ突き落とし、海中で爆発を凌いでくれていたみたいだ

 

「はぁっ…良かった…何持ってるんだ??」

 

「こえ、ぶっさすあつ!!」

 

「こえ、しぉ〜ろく!!」

 

「そっか…ありがとな??」

 

「ドクター…市民はどうなった…」

 

《ロシアのヘナチョコミサイルは迎撃出来たでち。あの亜音速ミサイルだけ、タナトスにわざと誘導して被害を抑えたんでち》

 

「何なんだ…この戦艦は…」

 

《戦艦じゃねーでち!!一緒にすんなでち!!降りろ!!》

 

「タナトス!!そう怒るな!!ありがとうな??」

 

「タナトス…そうか!!この船が世界最強の潜水艦…」

 

「ほら、褒めてくれたぞ」

 

《今回だけは許してやるでち》

 

「待てマーカス。もしかすると…我々は破壊神を敵に回していたのか??」

 

《褒めても何にも出ないでち!!》

 

「だとさ。傷を見せてくれ」

 

ニコラスの傷を見る

 

どこも傷はなさそうだが、念の為診た方がいい

 

「そ、そうなると魔女を敵に回した事になる…」

 

「ジェミニの事か??」

 

「やめてくれマーカス…怖いんだ…ジェミニは魔女だ。何もかも破壊し、そして再生する…あれだ、昔話の絵本に出て来る魔女だよ…」

 

《だーっはっはっは!!魔女でち!!あーあ!!ニコラスも戦死でち!!》

 

「ふふ…妻が聞いたら怒りそうだ…」

 

「嘘だぁ…なぁ頼むマーカス。もう我々は二度と悪い事はしない。魔女にだけは言わないでくれ!!」

 

「言わないさ。もう仲間だろ??さ!!出来た!!」

 

「ありがとう…」

 

「良い事を教える…魔女は仲間になった奴には手を下さないらしいぞ??」

 

「ううっ…」

 

ニコラスは相当嫌なのか、半泣きで頭を横に振る

 

「だーいじょうぶだ!!な!!」

 

「そうだ。女神を呼んで来てくれないか…またあの二人に救われた。そう言えば、マーカスの娘か??」

 

「そうだ。ひとみ!!いよ!!」

 

「いちついっとくか??」

 

「こっちもあるれ!!」

 

二人が持っているのは、よほど気に入ったのかモルヒネシレット

 

こっちもあるで!!とは言っているが、両方共一緒だ

 

「言われてみればそうだ。目元とか、輪郭とか似ているな??」

 

「せあろ??」

 

「も〜っろほえていいれす!!」

 

「ありがとう。君達の御陰で命を救われた…」

 

「おっ…」

 

敵には容赦なく、触らせる事すらさせないひとみといよが、ニコラスに撫でて貰うために頭を前に出した

 

それは"この人が敵ではない"と認識している証拠だ…



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特別編 魔女の大鎌

ここから先は侵攻作戦になります

マーカス達のいるクリミア半島の裏側で、着々と準備を進めていた魔女と呼ばれる女

その魔女は他の魔女二人すらも配下に置きます


一方その頃魔女は…

 

「各方面に伝達。ロシアへの支援、輸出入、全部凍結。口座も凍結して」

 

「畏まりました」

 

親潮が一瞬で取引を停止する

 

すると、ものの数秒で電話が鳴る

 

「嫌なら戦争やめんのね」

 

「アンタのトップに言って頂戴」

 

「他のとこの契約もアウトね」

 

「じゃあねぇ〜」

 

「戦争終わったらまた続けたげる。だから待ちなさい」

 

ガシャン!!と受話器を置く

 

置いた途端に電話が鳴る

 

「あーもー何よ!!もしもし!?」

 

その電話はロシアからの電話ではなかった

 

「いつもお世話になってます〜!!あはい!!ご協力感謝します!!えぇ!!えぇ!!宜しくお願いします!!はい!!はい!!畏まりました!!ではまた!!」

 

今度はゆっくりと受話器を置く

 

「ロシアからではないようで」

 

「イタリアのす〜っごい財団よ??」

 

 

 

数日後、セバストポリ…

 

「また帰って来るんだぞ??」

 

「気に入ったよ、この街」

 

「すぐに戻りますから…どうかご無事で!!」

 

「まだやり残した事があります。必ず戻ります」

 

ボリスとしばらくの別れを告げる

 

俺達は一斉攻撃の一員となった

 

ここで一気に戦争を終わらせるつもりだ

 

「マーカス。後は頼んだぞ!!」

 

「一撃で仕留めて来てやるさ!!」

 

「リョーヘー、ソノザキ。君達とはもっと話をしたい。だから、必ず戻って来てくれ!!」

 

「自分ももっとお話したいです!!」

 

「それまでに元気になっていてくれよ??そしたら…俺で良ければ軽くボクシングを教えるから!!」

 

「ルカ、仕事が出来たな??」

 

「はいっ、艦長!!」

 

「三人共来てくれ。こっちに足を用意した」

 

ボリスに言われ、着いて行く

 

「奇跡的に残った奴なんだがな…乗れるか??」

 

「アメリカで死ぬ程乗ったさ!!」

 

「ささ、触っても大丈夫ですか!?」

 

「助けてー!!」

 

ボリスに案内された場所には馬が3頭いる

 

これで何とか近場の空港を目指す

 

「こうやって…撫でてやるんだ」

 

「ここ、こうですか??」

 

「いやーっ!!舐めるな!!ぐわーっ!!」

 

俺と涼平が馬の頭を撫でている横で、園崎がずっと騒いでいる

 

馬はおちょくるかのように厩舎から顔を出し、園崎の顔を舐める

 

「動物嫌いか??」

 

「で、デカいのは苦手なんです!!」

 

「い〜こい〜こ!!」

 

「いよとひとみちゃん、はこんでくだしゃいえ??」

 

いつの間にか園崎の乗る馬の鞍に乗っていたひとみといよは、馬の頭を撫でる

 

すると、舐めるのを止めて頭を擦り付け始めた

 

「ひとみさん、いよさんはここに居た方が…」

 

「みしぁいうきたあ、かあしてあげあす!!」

 

「ほんとれすえ!!」

 

「ここは頼ろう。よし、出るぞ!!」

 

「ひとみといよちゃんあ、おるぁー!!ちます!!」

 

「いくで!!おるぁ!!」

 

「待って!!ちょっと!!あらぁぁぁあ!!」

 

ひとみといよは園崎に手綱を持たせ、走らせると同時に左右の鞄の中に移動する

 

園崎とひとみといよが乗った馬が先に出た

 

「行くぞ。こうするんだ、そらっ!!」

 

「それっ!!うぉぉぉお!?」

 

「待ってるからなー!!」

 

ボリスに見送られ、ベルベク空軍基地を目指す…

 

 

 

 

「マーカス達は出たのか??」

 

「えぇ、出ました。後はお願いします"少将"…私とボリス…そしてルカの友人を守ってやって下さい」

 

「任せておけ。マーカスは友人だ。それに…奴に着いて行けば、ジュル…可愛い少女に囲まれ…いや、何でもない。とにかく任せろ」

 

 

 

 

「きーたきたきた!!」

 

馬を走らせていると、遠くからミサイルが飛んで来るのが見えた

 

「おまかしぇ!!たんぼえおとすれ!!あぅ〜…」

 

「うぁう〜…」

 

ひとみといよのお陰でミサイルはバランスを急激に崩し、その辺の田んぼか畑に落ちる

 

「クソッ…ここまで来てんのか…」

 

ロシア兵の歩兵が見えた

 

戦車も目視するだけで3両はいる

 

「どうします隊長!!」

 

「隊長!!運転中に鹿出て来たらどうします!!」

 

「は!!アクセル全開だ!!よーし!!全員ライフル構えろ!!突っ切るぞ!!」

 

「「了解っ!!」」

 

「いくれいくれいくれ!!」

 

「てんか!!」

 

「ぼしぅ!!」

 

「いたぞマーカスだ!!」

 

「救う事を考えるな!!撃ちまくれ!!」

 

先日のミサイル攻撃のせいで相当頭に来ている涼平と園崎は、それでも的確に武器を持っている肩にライフルの弾を当てて行く

 

「せんしぁ!!」

 

「おまかしぇ!!ほえ!!」

 

「うりぁ!!」

 

ひとみといよが爆弾の導火線に火を点け、すれ違いざまに戦車に放り投げる

 

「脱出しろ!!早く!!」

 

「爆発するぞ逃げろ!!」

 

2両の戦車の乗組員が慌ただしく脱出を図る

 

「何を焦っている!!機銃撃て!!」

 

「…」

 

「機銃放て!!何をしている!!」

 

既に仕留められた射手が肩を抑えて戦車から落ちる

 

「クソッ‼砲を奴に向けろ!!先頭の奴だ!!」

 

「さいなあっ!!」

 

「ばいびー!!」

 

戦車の下に一つ、爆弾を投げ込まれる

 

もう一つはチェーンを巻いた2発の爆弾

 

それが砲塔にグルグルと巻き付き、噛み合った瞬間に全てが爆発し、私達はそのまま走り去る

 

「何なんですかそれ!!」

 

「おーよろりうぺっと!!」

 

「ちぇ〜んぼんば〜!!」

 

どこから出したか未だに分からないが、ひとみもいよもまだまだ爆弾を持っている

 

しかも提供大淀と来た

 

互いに投げた合計3個の小型爆弾で、戦車が見るも無惨な姿になっている

 

「ひとみといよちゃんは、ここえいますえ」

 

「そりぁいけ!!」

 

ひとみといよは馬の左右に設けられた鞄の中に身を潜める…

 

 

 

 

 

「死神を敵に回したのか…我々は…」

 

残ったロシア兵が小銃を構えて俺達に向けて撃っている

 

「もういい!!やめておけ!!」

 

「ですが!!」

 

そこに居た隊長らしき人物が発砲を止める

 

「死神に鎌を突き付けられてる…奴に構うな、死ぬぞ…」

 

そう言ったと同時に、空から独特の音が聞こえた…

 

「サイクロップス…そうか…死神とサイクロップスは繋がっていたのか…」

 

隊長らしき人物は目を閉じた

 

彼が最後に耳にしたのは爆発音だった…

 

 

 

 

「よーし着いた!!」

 

ベルベク空軍基地に着いた

 

問題があるとすれば、乗れる機体があるかどうかだ…

 

馬をウクライナ兵に受け渡し、俺達は空軍基地に足を降ろす

 

「大尉!!お待ちしておりました!!」

 

「機体は‼一服したらすぐにでも出たい!!」

 

「それが…」

 

空軍基地にいたウクライナ兵に、ハンガーまで案内される

 

「残ったのはこれだけで…」

 

「ファルクラムか…」

 

残っていたのは、Mig-29ファルクラムが2機

 

「ほとんどが出払ってしまって…大尉達を送った後、我々も避難します」

 

「あれは??」

 

ハンガーの隣に、もう一つハンガーがあるのに気付いた

 

「あそこにも航空機はあるのですが…動かないんです」

 

「見てみたい」

 

「行きましょう」

 

タバコに火を点けながら、隣のハンガーに向かう

 

「此方です」

 

「なるほど…」

 

そこに"いた"のは、一機の戦闘機

 

「数年前にエイリアンの戦闘機がたまたま不時着しまして…ここに保管してあるのですが…いかんせんどうにも起動すらしないのです…」

 

「隊長、もしかして…」

 

「ふ…起きろっ…」

 

機体を撫で、軽く叩くと、赤くライトが光る

 

保管されていたのは、深海の戦闘機だ

 

それも、恐らく手練

 

何故不時着したのかは分からないが、何かあったのだろう

 

「大尉、これは…」

 

「俺は敵じゃない…お前を救ってくれた奴がピンチなんだ…」

 

「カエリ、タイ…」

 

赤く光り、敵意を見せていたライトが青く優しく光る…

 

「お前の故郷も無くなるかも知れないんだ…頼む、俺に力を貸してくれ…」

 

「イイヨ…マーカスサン…ガンバッテミル」

 

「知ってるのか??」

 

「リョーヘークン、シュリサンダンナ」

 

「そ、そうです!!自分が涼平で!!シュリさん旦那です!!」

 

「サカラウ、シ。ジョーホーモラッタ」

 

「ふふ…よしっ!!じゃあ行く前にお前のご飯にしような!!」

 

「大尉!!これに乗るのですか!?」

 

「乗り慣れてるんだ、こいつが良い。弾薬を積んでやってくれ!!」

 

「了解!!」

 

ウクライナ兵が行ったのを見て、機体の方に振り返る

 

「家はどこだ??」

 

「ココ。ハッチアケルカラ、ミテ」

 

ハッチが開き、機体に乗る

 

「どれっ…」

 

「ココ」

 

モニターには、ゴットランド島が表示されている

 

「終わったらここに送り届ける。約束する」

 

「ウレシイ」

 

「隊長〜!!」

 

「どんな感じなんですか〜!!」

 

「オトモダチ??」

 

「そっ。今から一緒に戦うんだ」

 

「ドウゾ、"イーディス"ノナカヘ」

 

流れる様に名前を言った

 

彼女の名前はイーディス

 

はぐれ艦載機だ

 

「イーディスって言うのか??」

 

「イーディス。ワタシノナマエ」

 

「し、失礼します!!」

 

「失礼しますっ!!」

 

「おぉ〜…」

 

「ひおい!!」

 

涼平と園崎、そしてひとみといよが来た

 

「イーディスハ、デンシセンキ。デモ、タイクーセンモトクイ」

 

「俺は偵察機のパイロットなんだ。メチャクチャ飛ばすぞ??」

 

「ソウツクラレテル。ダイジョーブ、ミンナマモル」

 

「自分は涼平ですっ!!」

 

「園崎だ!!よろしくな!!」

 

「ひとみ!!」

 

「いよ!!」

 

「ヨロシク、ミナサン。ソノフタリ、イイニオイ」

 

「せあろ??」

 

「いいこ!!いーですいーこ!!」

 

「凄い…自分達の戦闘機と全然違います…」

 

「隊長は深海の戦闘機を運転してたと聞きました」

 

「そっ。フィリップって言ってな…」

 

「フィリップ…キイタコトアル。メチャツヨ」

 

「イーディスは分かる子だ。良い子だ!!」

 

「アヤツジ少尉!!ソノザキ少尉!!機体にご案内します!!」

 

「隊長、自分達も行きます!!」

 

「すぐに追い付きます!!」

 

「よし、俺もすぐに出る!!」

 

涼平と園崎が機体へと向かう

 

外部カメラから見えるのは、涼平と園崎が話した後、拳を合わせて互いの機体へと向かっている映像だ

 

「マーカスサンノブカ。イーコ」

 

「あの二人は、今第二の人生を歩み始めたばっかりなんだ…」

 

「ナラ、チャントカエシテアゲナキャ」

 

「そうだなっ…イーディスもちゃんと帰るんだぞ??」

 

「オーケー」

 

「よし…ワイバーン、出る!!」

 

「ヒトミサン、イヨサン、シートベルトヲシマシタカ??」

 

「ちた!!」

 

「かちんちた!!」

 

ひとみといよは二人で一人の席に座っている

 

懐かしいな…フィリップと同じだ…

 

「行くぞっ!!」

 

「いけー!!」

 

「すたと!!」

 

イーディスが滑走路へと出る…

 

 

 

 

《ワイバーン、二人が上がった!!》

 

二機のMig-29が滑走路から上がり、着陸脚を収めているのが見える

 

「よしイーディス。上がったら一発だけ試射させてくれ」

 

「リョーカイ。ウェポンシステムキドウ」

 

「ワイバーン、出る!!」

 

イーディスも空へと上がる

 

《我々は退避する!!横須賀の勇士、来てくれてありがとう!!》

 

「奴等を叩きのめしたら、また遊びに来るさ!!」

 

《新婚旅行にでも来ますよ!!》

 

《今度はバカンスに来る!!》

 

涙声が聞こえた後《必ずまた会おう!!》との無線を最後に、ベルベク空軍基地との通信が終わる…

 

「テッキ、サン」

 

俺達の離陸に感付いたのか、ロシア機が来た

 

「イーディス。俺が本当に深海の戦闘機に乗っていたか…まだ信用してないだろ??」

 

「アナタノチカラ、ミテミタイ」

 

「ふ…分かった。二人は援護を頼む。さぁ…久し振りに一発かますぞ!!」

 

《左を貰います!!》

 

《オーケー、右は任せろ!!》

 

「ウェポン01!!」

 

イーディスの腹部ハッチに搭載されている武装が切り替わる

 

「ガンノシャテイナイ」

 

ウェポン01は強力な機銃

 

貫通力と命中力に非常に優れている

 

「一機やった。ウェポン02!!」

 

再び武装が切り替わる

 

「行けっ!!」

 

「トウシャ」

 

トリガーを引くと、涼平が追い掛け回していた敵機に緑色の発光物が放たれ、爆発する

 

「はっは〜!!ど〜だぁ!!」

 

《なんですか今の!!》

 

《一機撃墜!!レーダークリア!!》

 

園崎の方も敵機を撃墜し終わる

 

《何か緑の変なもん見えたんですけど!?》

 

「イーディスの武装さ。俺も昔、コイツに苦労させられたよ…」

 

ウェポン02はとにかく弾速が速い一撃必殺の砲の様な物

 

一度調査をしてみた時、特殊な火薬を用いている為に緑色に発光している様に見えると分かった

 

連射こそ出来ないが、しっかり狙えば対地対空何方でも可能な万能な武装だ

 

「スコシマエ、キイタコトガアリマス」

 

「何をだ??」

 

「ワタシタチハ、ムジンキ。デスガ、リカイシャガアラワレタトキ、ソノセイノウハコウジョウスル、ト」

 

「今上がってるのか??」

 

「ハイ。ムジンジョウタイヨリ、38%コウジョウシテイマス」

 

「ふ…ありがたい事だ。これで俺もお前も帰れる可能性が増えた」

 

「フタリノ…イエ、コノバニイルミカタガチカラヲアワセレバ、カエレルカノウセイハヒヤクテキニジョウショウシマス」

 

《俺もいつか乗れるのか…》

 

《どうしました??》

 

《俺もいつか深海の戦闘機に乗ってみたいんだ…カッチョいいよな??》

 

園崎の夢が急に語られる

 

横須賀に来てからどんどんと新しい事に挑戦したりしているのは知っていたが、深海の戦闘機に乗ってみたいとは知らなかった

 

近くに最強格の深海戦闘機に乗っている奴がいればそうなるか…

 

「カッチョイイ」

 

「スマートで強いって事だ」

 

「…」

 

イーディスは急に黙り込んでしまった

 

「てえてあす!!」

 

「はずかち〜!!っていってう!!」

 

「カンタイガシュウケツシテイマス」

 

「あれか…」

 

雲が途切れ、眼下に艦隊が見えた

 

《ワイバーンね!!聞こえる!?》

 

イントレピッドから通信が入る

 

艦隊の中にはイントレピッドDauもいるのが見える

 

「聞こえる!!凄い数だな!!」

 

《ここで一気に仕留めるわ!!一旦ヴィスビューで補給して!!そこに皆の機体もあるわ!!》

 

「了解した!!」

 

《ココニオイトク??》

 

《ソッ、リョーチャンタチガトリニクルノ!!》

 

《これが噂に聞いたホワイトベルか…なるほど、良い機体だな!!》

 

無線からシュリさん達の声が聞こえた

 

それと、聞き覚えのある声も…

 

今はとにかく着陸しよう

 

 

 

 

着陸し、涼平達がファルクラムから降り、それぞれが乗り慣れた機体へと向かう

 

「イーディス」

 

「ナンデショウ」

 

「ここで帰るんだ。家までの場所は分かるか??」

 

「ハイ。ソコニ」

 

イーディスに言われ、視線を前に向ける

 

そこにいたのは、古傷を負ったヲ級

 

「イーディス!!」

 

「オカーサン!!」

 

「おか〜しゃんいってう!!」

 

「よかったですえ!!」

 

「…」

 

後にひとみといよは語る

 

この時の俺は、いつもと同じ父親の顔をしていた…と

 

イーディスから降りると、すぐにヲ級が来た

 

「アリガトウゴザイマス!!アァ…ヨカッタ…」

 

「アンタの心配をずっとしてた。良い子を持ったな??」

 

「ウンッ…マーカスサン、アッチニキタイガアルヨ!!」

 

「知ってるのか??」

 

「マーカスサン、ユーメー。ココニモクルヨ、ジョーホー。アッチノヌキュー、ナオシテクレタ!!」

 

「あいつは良い奴だ。子供が好きでな…迷子を探してくれたり、はぐれた子と遊んでくれたりしてな??」

 

「イイキチナンダネ!!」

 

「いつか遊びに来い。さーて、一仕事終わらせるか!!」

 

「ヒトミチャン、イヨチャンハ、ワタシトイコーネ!!」

 

「しゅいしゃん!!」

 

「りぉ〜ちぁんのとこいく??」

 

ひとみといよはシュリさんの所に行き、艤装の上に乗る

 

「フタリハマカセテ!!リョーチャンヲオネガイシマス!!」

 

「任せたぞ!!」

 

「き〜つけてな〜」

 

「はよかえってこいお〜」

 

三人に見送られ、グリフォンに乗る

 

《久し振りの深海の戦闘機はどうだった??》

 

此方も久し振りの気がするきそ、もといグリフォン

 

ここ最近は勝手にヘラが乗っている事が多かったからな…

 

やはり、ここ一番はきそが良い気がする

 

《チンタラしてないで早く行くわよ!!》

 

目の前でYF-23が離陸して行く

 

《姫がお怒りだ!!行こう!!》

 

「よし。ワイバーン、出る!!」

 

俺達も離陸する…

 

 

 

 

《作戦概要を伝達するわ》

 

横須賀の声が無線から聞こえる

 

《制海権は此方側が奪取したわ。ここから制空権及びロシアの都市部に打撃を与えるわ》

 

「サンクトペテルブルクか…」

 

攻撃位置はクロンシュタット軍港とプルコヴォ空港に設定されている

 

先んじて偵察に行った連中が情報を手に入れたのか、軍港には多数の軍艦、空港には戦闘機が多数配備されている

 

俺達が攻撃するのは空港側だ

 

《航空隊は敵航空機の排除、及び地上の近接航空支援を。地上部隊はあのバカを探して引っ捕らえて。そしたら…私がテーブルに座るわ》

 

《ワシもおるからの!!二人で経済的にトドメを刺してやる!!はっはっは!!》

 

《誰だ…》

 

ばーちゃんみたいな話し方をする、まだ若そうな声が無線から聞こえた

 

《まぁ後で教えてやろう!!女は秘密が多い方が面白いじゃろ??》

 

「気に入ったぜ…」

 

《隊長、12時方向から所属不明機が…》

 

レーダーにギリギリ映る位置に所属不明機が1機表示される

 

《ワタシモイキマス》

 

現れたのはイーディス

 

「二人共いいな??」

 

《勿論です!!》

 

《へへっ!!了解っ!!》

 

「よーしイーディス、編成に入れ!!一気に叩きのめすぞ!!」

 

《リョーカイ、ワイバーン》

 

イーディスのIFFが味方に切り替わる

 

4機編成の状態で空港に向かう…

 

 

 

 

《軍港は始まってるみたいです》

 

《既に向こう側は何隻かやられてんな》

 

先手の空爆が成功したのか、ロシア側の軍艦の何隻かから黒煙が上がっている

 

「しかし…何でサンクトペテルブルクなんだ??」

 

《ここを取って、モスクワを射程圏内にするんでしょうか??》

 

《ウクライナ側から来たらハゲがうるせぇじゃねぇのか??アイツ、ただでさえ我々から攻撃していない〜とかまだ言ってんだろ??》

 

「《あり得る…》」

 

《12ジホーコー、ミカタキ、セッキン》

 

高速で接近する味方機が3機

 

《とっととぶっ潰して帰るぞ!!》

 

《久々の実戦だ。暴れさせて貰う》

 

《爆撃が終われば、私は少々地上によ…》

 

無線が途切れるレベルで高速でかっ飛ばして行く、F-14、F/A-18、そしてSu-57

 

どれもミチミチに爆装してやがる…

 

本気だな…

 

よし…こっちも行くか!!

 

「目標を視認した。交戦開始!!」

 

 

 

 

《滑走路はあまり爆撃しないで!!駐機中の敵機と上がったのをやって!!》

 

横須賀の無線が聞こえ、目の前で先発隊がハンガーに爆撃を開始しているのが見えた

 

《檻の中には熊がいっぱいだ!!はは!!燃えろ燃えろ!!》

 

《隊長、対空砲はおまかせを》

 

《邪魔だ!!》

 

先発隊の3機がかなりの武装や航空機を破壊してくれている

 

《道は開けたぞ!!駐機中の戦闘機を任せる!!》

 

「仕事の時間だ行くぞ!!」

 

()()!()!()

 

《リョウカイ、コウゲキタイセーニハイリマス》

 

4機は攻撃態勢に入る…

 

 

 

 

数時間前、ヴィスビュー…

 

「よっこらしょっ…と」

 

グリフォンや震電達を空母から降ろし終わり、きそはグリフォンから一旦出て来た

 

「お疲れ様。もぅ、手間の掛かる子ね…地球の裏側まで来るなんて…」

 

出てすぐに叢雲が待ってくれていた

 

「ホントは怪我した人を治しに来たんだ…」

 

「そうね…ならっ!!さっさと終わらせて、お家に帰るわよ!!」

 

きそは微笑んで歩いて行く叢雲を送る

 

「弾薬と燃料を詰め込んでくれ!!目一杯だ!!」

 

即座にグリフォン達の補給と点検が始まる

 

「ヴィンセントさん」

 

「きそさん」

 

大規模な作戦が始まる前に、ヴィンセントは一息ついていた

 

タバコを吸って、いつものクロワッサンとアイスクリームを食べている

 

「僕も終わったらそれ食べて見よっかな!!」

 

「美味しいですよ。一つどうです??」

 

「ありがとう!!」

 

ヴィンセントには一つ気になっている事があった

 

それは、とある人物の事…

 

「きそさん」

 

「なぁに??」

 

「この作戦で、ロシアは瀕死に陥ります…軍事的政治的、それと経済的にも…」

 

「経済的はお母さんがするんでしょ??」

 

「そうです。恐らく、政治的にもトドメを刺す事になります」

 

きそも分かっている

 

この作戦で、そのまま国の頭を取る事を…

 

「今、マーカスが何と呼ばれているかはご存知でしょう??」

 

「死神か悪魔だよね…レイは物凄く嫌うけど…」

 

「横須賀にはもう一人"執行人"と呼ばれる人物がいるのです」

 

「リチャードさんの事??」

 

ヴィンセントはきそを見たまま、首を横に振る

 

「彼の事情はよくは知りません。ただ、ロシアに対して強い恨みを持ち、恨みを返す為に今日この場にいます」

 

ヴィンセントの目線の先には、壁にもたれてタバコを吸っている男が見えた

 

横顔で海を見つめ、目を開いている彼

 

腰には、この時代に似つかわない"刀"を携えている

 

彼はきそ達より少し前にここに来て、ロシアに対して打撃を与え続けている

 

恐れる事はないのか…

 

それとも、敵とすら見ていないのか…

 

「彼が探しているのは、自分の人生を奪った根幹です…空港を奪取すれば、彼は地に降りるでしょう」

 

「僕が着いて行くよ」

 

「止めなくていいんです。ただ…護ってあげてくれませんか。執行人としての彼に戻ってしまえば、きっと帰る道を見失ってしまいます」

 

「帰り道見失う人の道案内は慣れてるよ!!」

 

「ありがとう…帰ったら、またこれを食べましょう、奢りますから!!」

 

「大丈夫、心配するな。だよ!!」

 

ヴィンセントは気付く

 

マーカスに近い艦娘程、この言葉を放つ

 

まるで合言葉の様に、口癖の様に

 

そしていつも、誰かを安心させてくれる

 

「頼む!!通してくれ!!」

 

「立ち入り禁止です!!」

 

ゲートの所が騒がしい

 

ヴィンセントもきそもそちらに目を向け、二人はすぐに立ち上がる

 

「どうした??」

 

「この女性がゲートの中に入ろうとして…」

 

「頼む!!戦わせてくれ!!私は艦娘だ!!」

 

「…離してやれ」

 

女性が離され、ヴィンセントの前に来る

 

止めていたヴィンセントの部下は、既に腰に手が回っている…

 

「すまない…ありがとう…」

 

「その気になれば跳ね除けられたでしょう??」

 

「そうだな…それより、私に砲を貸してはくれないだろうか…」

 

「何故です。艦娘とはいえ、激戦区の中においそれと放り込む訳には行きません」

 

「息子が戦ってるんだ!!だから…」

 

息子、という言葉にヴィンセントはたじろぐ

 

「大丈夫ヴィンセントさん。この人は敵じゃないよ」

 

「一応、横須賀に確認を取ります」

 

「うむ…すまない…」

 

ヴィンセントが連絡を入れている最中、きそは女性と顔を合わせる

 

「傷は大丈夫??」

 

「ん…限界は来ていたんだがな。しばらく戦わないと、体が鈍るんだ」

 

「旦那さんは??」

 

「元気さ。あれから世界を旅して、自分達の終の棲家を見つけた。そしたらこれでな」

 

「そっか…」

 

「許可が取れました。此方へ。きそさんもご一緒に」

 

三人でガンビアの中に入る…

 

 

 

「これをお使い下さい」

 

広い兵器庫の奥に鎮座していた、戦艦用の艤装

 

誰にも使われる事無く、ピカピカに磨かれた艤装は誰かを待っている様にも思える…

 

「大切な物ではないのか??もっと年期の入った物でも…」

 

「非常に強力な主砲です。ですが…貴方になら扱えるでしょう」

 

ヴィンセントは彼女の顔を見る事なく、艤装を見て砲の説明をする

 

「貴方にフィットするかは分かりませんが…使い熟せる事を祈ります」

 

「ありがとう…必ずここに返しに来る!!」

 

ヴィンセントは少し悲しそうに頷く

 

何か思い出がありそうな顔だ

 

彼女が艤装を装着している間、変わらずヴィンセントは何か悲しそうな目をする

 

「あの艤装に思い出あるの??」

 

「いやぁ…きそさんには見抜かれますかっ…」

 

きそはその目を見て気付く

 

あぁ…これはきっと、愛した人にあげるつもりだった艤装なんだと…

 

「よし…準備完了だ!!」

 

「良く似合ってますよ」

 

「良いね!!カッコいいよ!!」

 

彼女は一人の少女に戻った様に微笑む

 

元は艦娘、今は"老楽の恋"に身を委ねた女

 

義理とはいえ、息子の為に今一度戦火に身を差し出した

 

ヴィンセントときそは彼女と共にエレベーターに乗り、作戦を伝達する

 

「我々は長距離支援砲撃及び近接航空支援により、味方の援護に回ります。座標を送信しますので、適時砲撃をお願いします」

 

「了解した!!」

 

「見送ったら、僕はレイの所に行くよ!!」

 

「よし…戦艦"長門"出る!!」

 

彼女の正体は長門

 

長い旅に出て終の棲家を見つけたのだが、今こうして再び砲を握った

 

義理の息子、そして今の家を奪われないように…

 

「きそちゃん、私は艦橋に入ります」

 

「オッケー。僕もレイの所に行く!!」

 

きそはマーカスの所に行こうとした

 

ヴィンセントはきそを背中で見送り、ずっと長門の方を見ている…

 

「気になりますか??」

 

こっそり様子を伺っていた、刀を携えている男性

 

「そうだな…あれは大切な装備だ…」

 

「ふ…守る物が増えましたよ。ご心配なさらず。私が地に足を付く前に、貴方の元に送りますから」

 

彼は咥えていたタバコを指で弾いて海へと捨て、自身の機体へと向かう

 

「…エドガー」

 

彼の名前はエドガー

 

今、彼がここに立つ理由を知っている人間は少ない

 

「…奪われた物は取り返せません。ですが、償わせる事位は許されるでしょう…違いますか??」

 

「違う。エドガー」

 

「何です??」

 

「貴様が帰還する事が入っていない」

 

「ふふ…誰かに感化されましたか??」

 

「そうかも知れないな…」

 

「ご心配なさらず。言ったでしょう、守る物が増えました、と」

 

「必ず帰って来い。何があっても。終わってから吸え」

 

そう言って、ヴィンセントは右手とタバコを差し出す

 

「承知しました。ありがたく頂戴しますよ」

 

エドガーは左手でタバコを受け取り、ヴィンセントと腕を当て合う

 

 

 

エドガーの左手の薬指には、指環が付けられていた…



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特別編 魔女の手先

「よーし、後は下の連中に任せるぞ」

 

《了解です》

 

《了解》

 

《リョーカイ。ツイジューシマス》

 

空港は叩きのめした

 

後は下の連中が奪取してくれる

 

俺達は一旦ヴィスビューに戻ろう

 

《ワイバーン!!ワイバーン!!聞こえますか!?》

 

無線の先はイントレピッドDau

 

「此方サンダース隊ワイバーン。イントレピッドDau、どうした」

 

《イントレピッドDauに着艦してくれ!!クロンシュタット軍港にトドメを刺す!!》

 

「了解した。3機先に着艦させる。全機聞こえたな、イントレピッドDauに着艦しろ!!」

 

《隊長、その…》

 

《大丈夫、ですか??》

 

《おーやおーやワイバーン!!着艦出来ないのかなぁ!?》

 

《ほぅ…ワイバーンともなる猛者が、ですか》

 

「あばばばばクソォ…」

 

四方八方から散々な言われよう

 

その事を知っている涼平と園崎からも心配される

 

《ワイバーン》

 

「どうしたイーディス」

 

《サンキトイウノハ、イーディスモデスカ》

 

「そうだ。2機が着艦したら、なるべく奥に停めるんだぞ??」

 

《リョーカイ》

 

涼平も園崎も綺麗に着艦する

 

そしてイーディスも着艦、言われた通りちゃんと奥に停めている

 

《あはは!!見てレイ!!》

 

「舐められたもんだぜ…」

 

チクショウ、バリケード張ってやがる!!

 

「…グリフォン」

 

《なぁに??》

 

「…オートで頼む」

 

《あはは!!オーケー!!》

 

 

 

 

「ワイバーンがバリケード着艦じゃないだと…医療班!!医療班を回せ!!早く!!」

 

「隊長!!大丈夫ですか!?」

 

「何かありましたか!?」

 

「おい!!しっかりしろ!!」

 

「上手じゃないか!!」

 

オートで着艦しただけでこの言われよう

 

挙句の果てには俺ではないと疑われる始末

 

「ぐぬぬぬぬ!!うるせーーー!!」

 

「マーカス!!マーカス、あぁ…良かった…」

 

「ふふ…二度と着艦しねぇ…」

 

肩を揺らしながら、心配して来てくれたヴィンセントに話しかける

 

「状況は??」

 

「はっ。現在、長距離支援砲撃及び近接航空支援により軍港に打撃を与えている最中です」

 

「ラバウルさんは…いる訳ねぇか」

 

エドガーだけは陸から飛び立った

 

なのでここにはいない

 

「エドガーは既にプルコヴォに降り立っているとの連絡が入りました」

 

《レイ。急ごう。軍港を攻撃して、僕達もプルコヴォ空港に降りよう》

 

「了解した」

 

とはいえ、俺も休憩が必要だ

 

「こちらを!!」

 

「ありがとう」

 

乗組員に持って来て貰ったオレンジジュースを飲みながら、現状をモニターで確かめる

 

《凄い火力だね…》

 

「見た事無い艦だ…」

 

軍港を攻撃している中には、見た事のない軍艦もいる

 

《この海から叩き出せ!!一人残らずだ!!》

 

その軍艦からは、勇猛な女性の声が無線から聞こえる…

 

《よし、トドメを刺す!!ヴィンセント!!近接航空支援を頼む!!》

 

《了解。近接航空支援を出す》

 

「よし、出番だ!!各機出るぞ!!」

 

「「了解!!」」

 

《リョーカイ》

 

涼平、園崎、イーディスの順に発艦して行く

 

《ワイバーン、幸運を祈る!!》

 

「ワイバーン、出る!!」

 

イントレピッドDauから発艦し、軍港を目指す…

 

 

 

 

《無線切り替えるね》

 

「サンダース隊、ワイバーンだ」

 

《久方振りだなワイバーン!!私を覚えているか??》

 

「誰だ…」

 

《まぁいい。後で嫌でも思い出させてやる!!軍港にトドメを刺す!!ドッグを破壊してくれ!!》

 

「了解した!!」

 

《スモーク投射!!ワイバーン達の目印にしてやれ!!》

 

眼下に見える艦娘達がスモークを放ち、退避して行く

 

《データを送る!!任せたぞワイバーン!!》

 

「了解した、攻撃開始!!」

 

 

 

 

流星の様に流れて行く…

 

流星達が落として行った彗星は、瞬く間にドッグを破壊して行く

 

「懐かしい…な…」

 

異国の装備を付けた長門は、懐かしい光景を再び目にしている

 

本当は心躍る事なんざ、あってはならない

 

だが、どうしても胸の躍動は止められなかった

 

やはり私は艦娘

 

終の棲家を見つけても、心の何処かでこの破壊の景色を望んでいる

 

だから、これで終わる

 

私の戦いは今、幕を下ろした

 

「全艦、帰投するぞ!!」

 

私も帰路に着く

 

《よぉ、長門》

 

「マーカスか。久しいな」

 

無線の先はマーカス

 

私の息子の友人だ

 

《スモーク、ありがとうな》

 

「うむ…」

 

《一仕事頼みたいんだが、いいか!?》

 

「何だ??」

 

《1隻大破まで追い込んだんだが、取りこぼした。あと一発、戦艦が砲撃でも当ててくれりゃ沈むんだが…頼めるか!?》

 

彼の意図が分かった

 

ありがとう…ありがたく受け取らせて貰う!!

 

マーカスに送られた座標に、標準を合わせる

 

ロシアのフリゲート艦が一隻、ギリギリの状態で保っているのが遠くに見える…

 

《これが最期の一発だ!!思いっきり撃て!!》

 

「すまない!!全主砲、撃てー!!」

 

長門、最期の砲撃がフリゲート艦に当たり、沈んで行く…

 

《体を厭えよ、長門》

 

「うむ…世話になった、マーカス」

 

マーカスとの無線が切れる

 

「すっご〜い!!」

 

「どっかーんってなった!!」

 

一緒に戦っていた、まだまだ駆け出しの艦娘達が砲撃を見て驚いている

 

私は、誰かに憧れられていた日々をほんの少し思い出す…

 

「ふふ…さぁ、帰ろう!!」

 

「横に着きます!!」

 

「帰りましょー!!」

 

最期は護る側から護られる側になって、長門は戻って行く…

 

 

 

 

 

プルコヴォ空港に降り立つ

 

既に味方の物資が運び込まれ始めている

 

「お疲れ様です、大尉!!」

 

「何か武器ないか!!迎えに行く人がいる!!」

 

「こちらへ!!」

 

案内されながら、横目でハンガーを見る

 

…間違いない、ラバウルさんのSu-57だ

 

「隊長ー!!」

 

「どこ行くんですか!?」

 

「ラバウルさんを迎えに行く。お前達はここで待っていても…」

 

「ここからお好きなのを」

 

機体から降りて来た涼平と園崎も着いて来た

 

武器庫に案内され、中の物をあさる

 

「自分も行きます!!」

 

「どれが良いですかね??」

 

本当は待っていても良いのだが、二人は既に武器を選び始めている

 

「…ん??」

 

一つの木箱に目が行く

 

随分古そうな木箱だ…

 

木箱を開け、中を見る

 

「何ですか、それ…」

 

中身を見て、鳥肌が立つ

 

「タンクゲヴェール…対戦車ライフルさ!!はは!!こんなとこで見られるとは!!」

 

第一次世界大戦の対戦車ライフルが出て来た

 

「一発装填式でな、凄い威力を誇るんだ…まぁ、立って撃てない位の反動が出るんだがな…」

 

ライフルと涼平とを交互に見る

 

何故かは分からない

 

何故かは分からないが、このライフルが涼平の所に行きたがっている気がする

 

「涼平、持ってみろ」

 

「はいっ…」

 

涼平はライフルを慎重に持つ…

 

それとは裏腹に、やはりこのライフルは涼平に似合う

 

「立って撃ったら涼平も吹っ飛ぶからな??いいか??必ずしゃがむか何かして撃つんだぞ!!」

 

「りょ、了解ですっ!!」

 

涼平に装填の仕方や撃ち方を教える後ろで、園崎はリュックに何か詰めている

 

「園崎は決まったか??」

 

「はいっ!!自分はもう単純な奴です!!」

 

園崎がリュックに詰めていたのは爆薬の類い

 

バズーカやら、手榴弾やら、とにかく沢山

 

「これは涼平、これは隊長の分です!!」

 

俺と涼平の分をウェストポーチに入れてくれていた

 

「すまん、ありがとう」

 

「ありがとうございます!!」

 

中を見ると、ちゃんと手榴弾が3つ入っている

 

しかし、爆薬だけでは些か不安だ…

 

何か撃ちやすい物があれば良いんだが…

 

手近にあった木箱を開けてみる

 

「園崎!!良いのがある!!」

 

中から出て来たのはステンMk2

 

これなら園崎でも撃ちやすい

 

「よし、リュックにマガジン入れといてやろうな」

 

「撃ち方、教えて欲しいです…」

 

「よしよし」

 

園崎は飲み込みが早い

 

そういう奴にこのステンMk2は相性が良い

 

「いいか??リロードしたら、一回マガジンの底を叩いてしっかり入れるんだ」

 

「こうですか??」

 

「そうだ。このレバーをここにすると一発ずつ、ここにすると引いたままいっぱい出る。ちょっとやってみろ」

 

「行きますっ…」

 

適当に置いたドラム缶を撃つ

 

元々肩が強い園崎

 

反動を抑えて射線も安定している

 

やはりステンMk2は相性が良さそうだ

 

「へへっ!!気に入りました!!」

 

「帰ったら良く似たのを作ってやる。だから、生き残るんだぞ??」

 

「了解ですっ!!」

 

「隊長はどうするんですか??」

 

「俺か??俺はこれだ」

 

壁に掛けられていた、使い慣れたウインチェスターを手に取る

 

「よし、行くぞ」

 

「大尉!!此方をお使い下さい!!」

 

手隙の兵がジープを持って来てくれた

 

「エドガーが何処に行ったか分かるか??」

 

「伝言があります。此方を」

 

兵から紙を受け取る

 

涼平も園崎もその紙を脇から見る

 

 

 

 

"死体を目印に来て下さい。その先に私がいます"

 

 

 

「了解した」

 

「行きましょう!!」

 

既に涼平が運転席に乗っている…

 

「園崎、助手席に乗れ。俺は銃座に行く」

 

「了解ですっ!!」

 

いざ出ようとした時、タブレットに通信が入る

 

《レイ??今大丈夫??》

 

「もう出る所だ。手短に頼む」

 

通信相手は横須賀

 

《ロシアに味方してる国の多数が落ちたわ。トドメを刺すなら今よ!!》

 

ジープに向かいながら話を続ける

 

「どうやった??」

 

《経済封鎖したの。これ以上続けると、ロシアと共倒れになって貰うわって》

 

「そ、そうか…経済はそんなに詳しくない。そっちは任せる」

 

《あ、そうだレイ。6時間でそこから離れて》

 

「何かあるのか??」

 

《深海の大規模な爆撃が始まるわ。それでおしまいよ》

 

「了解した。それまでには帰路に着くよ」

 

《気を付けてね》

 

横須賀との通信を終え、ジープに乗る

 

「よし!!出発!!」

 

ジープが街に向けて出る…

 

 

 

 

数十分前…

 

「落ち着け…ふふふ…」

 

エドガーは機体から降り、二振の刀の最終チェックに入る

 

「あぁ。申し訳ありません。ピストルを一丁頂けないでしょうか」

 

「あぁ…でしたら此方を!!」

 

近くにいた味方兵にピストルを貰う

 

今まで一発さえ発砲しなかったエドガーが内ポケットにピストルを入れる

 

「ついでにこれを…マーカスが来たら渡して下さい」

 

「了解しました。大佐はどちらに??」

 

「時間を取り返しに…では」

 

「そっちにはまだ戦車部隊が!!」

 

「先程ついでに潰しましたよ」

 

エドガーは一人、基地を出て行く…

 

十数分歩いた所で、ロシア兵と出くわす

 

「おやおや…やはり集まっていますね…」

 

「撃て!!」

 

出くわすと同時に自動小銃を放たれる

 

「相変わらず下手糞な撃ち方ですね…」

 

「いつの間に…」

 

「もっと肩の力を抜かないと…あぁ…既にありませんでしたか」

 

ドサドサと音を立ててロシア兵が倒れて行く

 

「これで目印になるでしょう」

 

「し、死神め…」

 

「その名は譲ったのですよ。それより、貴方方のお頭の居場所を教えて頂けませんか??」

 

「死んでも吐くか…」

 

「そうですか、さようなら」

 

倒れたロシア兵にトドメを刺す

 

「戦車ですか…」

 

異変に気付いた部隊が救援に来たのか、戦車のキャタピラ音が聞こえた

 

「さてさて…もう少し楽しみますかっ!!」

 

エドガーは笑う

 

まるで楽しむかのように、一振り一振りに笑う

 

譲ったとは言え、ロシア兵からすれば本物の死神

 

「う、撃て!!」

 

「しかし味方が!!」

 

「構わん!!ここで死神を止めろ!!」

 

戦車の砲身がエドガーに向けられる

 

「おやおや。貴方方ごと行くつもりですよ??」

 

「構わん!!ここで貴様を止める!!」

 

「いけませんねぇ…無駄に命を捨てるのは私、嫌いなのですよ…」

 

エドガーは腰にさしていたもう一振の刀を戦車に投げた

 

砲撃寸前で砲身に刺さり、戦車は誘爆を起こす

 

「なんとも脆い戦車です」

 

投げた刀はまるでエドガーの所に戻って来るかのように、足元の地面に刺さる

 

「死神の刀…」

 

エドガーは刀を地面から抜きながら、余っているロシア歩兵を睨む

 

「ふふふ…この刀は数多の戦場で血を吸ってます。私と共にね…さてさて、貴方方もその血になって頂きましょうか」

 

「わ、分かった…降伏する…」

 

「そうですか…」

 

降伏した者を斬るのはエドガーの理に反する

 

刀を鞘に戻し、柄に手を置く

 

「もう少し楽しみたかったのですが…ま、それも良いでしょう。それで、貴方方のお頭の居場所はどこです??」

 

「目立った所に奴はいない…隠れるなら…一般民家の中…それか、教会の中だ」

 

「なるほど…根は小心者の奴の考えそうな事です。分かりました」

 

「せめて名前を聞かせてくれないか」

 

「エドガー。貴方方ロシア兵に人生を奪われた者です」

 

「エドガー…ロシア兵を辿れ。その先に奴はいる」

 

「分かりました」

 

エドガーは再び歩く

 

「隊長、良いのですか」

 

「賭けてみよう…死神なら、どうにかしてくれるかもしれない…」

 

彼等も分かっていた

 

もう引くに引けない所まで来てしまった事

 

自国のトップを止める者が誰もいない事

 

もう死に体だと、自国の兵士が一番良く分かっていた…

 

 

 

 

「おや…」

 

深海の偵察機が、エドガーが見上げた上空を駆けて行く

 

直後に無線に信号が送られてくる

 

「ロシア兵、集結、広場、教会、周り…」

 

エドガーに信号を送った後、深海の偵察機はターンをし、戻って行く

 

「なるほど…ありがとうございます」

 

エドガーは教会に向かう…

 

 

 

 

「死体だらけだ…」

 

ジープの助手席に座っている園崎がそう呟く

 

「どれも一発で斬り裂いてる。こんな事出来るのは、ラバウルさんしかいない」

 

「そこの兵士!!止まれ!!」

 

「涼平、止まれ。様子が妙だ」

 

涼平はジープを止める

 

ロシア兵だが、武装は解除しているのが見えた

 

「貴様はあの死神の味方か??」

 

「刀振り回してたか??」

 

「そうだ。奴はこの先の広場に向かった。教会があるからすぐに分かる」

 

「いいのか??ロシア兵だろ、アンタ」

 

「君達に賭ける。もう引くに引けない所まで来てしまったんだ。どうか、俺達の母国を救ってくれ」

 

そういう彼の背後を見た

 

「…涼平、3分だけ時間をくれ」

 

「了解です」

 

銃座から降りる

 

礼には礼で応えてやらねば…

 

「おい、何をする!!」

 

「もう大丈夫だからな」

 

彼の背後に少し見えた、瀕死の兵士

 

腹を刺されているが、何とか耐えている

 

「Спасибо... вы настоящий синигами, не так ли?」

 

「そうだっ。皆からそう呼ばれてる…よし、これでもう大丈夫だ」

 

「Я обязательно верну эту услугу. не умирай, бог смерти…」

 

彼の肩を叩き、銃座に戻る

 

「よし、行こう」

 

残されたロシア兵は三人を見送りながら、考えていた…

 

「隊長…」

 

「ジッとしていろ、すぐに良くなる!!」

 

治療を受けた彼は、隊長である彼に何かの写真を渡す

 

彼は指でその写真を叩く

 

「貰おう…貰おうな…」

 

彼はそれを聞いて、鎮静剤が効いて来たのか目を閉じた…

 

隊長の彼は内ポケットに写真を入れ、教会の方を向く…

 

 

 

 

「こんなに集めたらバカでも気付きますね…」

 

深海の偵察機から送られて来た情報通り、教会の周りの広場に戦車や武器が固まって配置されている

 

「ラバウルさん…」

 

ようやくラバウルさんに追い付き、俺達も建物の陰に隠れる

 

「来ましたか。今から忙しくなりますよ」

 

「奴の居場所は??」

 

「どれ…一人掻っ払いましょう…」

 

エドガーは手近に居たロシア兵を後ろから物陰に引き摺り込んだ

 

「死にたくなければ奴の居場所を答えろ」

 

「答えるかよ、バカかテメェは」

 

「マーカス。二人を奥に」

 

「涼平、園崎、来い…」

 

二人を物陰に置いた途端、刺しまくる音が聞こえた

 

「教会っ…教会の、地下だっ…」

 

「そうですか。楽にさせてあげましょう」

 

「ゔっ…」

 

右胸を刺し、トドメを刺す

 

「もう大丈夫ですよ」

 

「場所は??」

 

「教会の地下です。ま…少々待っていて下さい」

 

エドガーは隠れながら時計を見る

 

「3…2…1…」

 

「砲撃だ避けろ!!」

 

エドガーが言った途端、長距離射撃が広場に落ちる

 

「園崎さん。私が合図したら、教会に強烈なノックをお願いします」

 

「了解ですっ」

 

「涼平さん。そのライフルで増援に来る戦車を叩きのめして下さい」

 

「了解ですっ」

 

「マーカス。このフレアで長距離支援砲撃を呼べます。貴方のタイミングで…私の援護をお願いします」

 

「了解した」

 

フレアを受け取り、内ポケットにしまう

 

「誘爆が終わります…行きますよ!!」

 

誘爆が終わり、四人は一気に広場に出る…

 

 

 

 

 

「クソっ!!魔女め!!」

 

「大統領…」

 

教会の地下では、一人の男が焦っていた

 

目の前まで迫っている敵兵士

 

それも魔女の手先ばかり…

 

「魔女がキエフに"亡霊"を放った時点で気付くべきだったんだ!!」

 

「大統領…どうか落ち着いて…」

 

「他の国はどうした!!トルコは!!我々の味方は何故応じない!!」

 

「経済封鎖をされて…魔女の手に…」

 

「たかが小娘一人に…」

 

その時、電話が鳴る

 

「私だ」

 

焦りは見せず、整然と電話に応える

 

《そろそろ私の名前を呼んでる頃かと思いまして》

 

「魔女が!!」

 

電話の先は、大統領の言う魔女その人

 

《いいんですよ私は。ロシアの名が世界から消えようがどうなろうが》

 

「…貴様だな、物資も何もかも切ったのは」

 

「えぇ、そうよ。世界は貴方を必要としていないのがよくお分かり??」

 

「…」

 

「あら、返事も出来ないですか??何処かにお返事を置いてきたのかしら??それでも大国の大統領??」

 

「…引くにひけんのだよ、魔女」

 

「年寄って意地張りがちよねぇ…まぁそこで座って、貴方の愛した国が崩れて行くのを見ていればいいわ」

 

「待て」

 

「…それとも、国じゃなくて国民を愛するかしら??」

 

「折り合いは付けられないか…」

 

「…いいわ。その代わり、この戦争は貴方が折れなさい。代わりに戦後救済はしたげる。折れないのなら、老人の意地に踊らされた国民が貴方の目の前で日がな死んで行く事になるわ」

 

「ぐっ…」

 

「もう一度言うわ。世界は貴方を必要としていない。私はロシアなんてどうなろうが構わない。だけど、一度だけ人としてチャンスを上げるって言ってんの、分かった??」

 

「分かった…折れよう。代わりに国民は救ってやってくれ」

 

「そっ、良い子。忘れちゃダメよ、アンタはいつだって、喉元にナイフが来てる事…じゃ、アンタが世界に向けてごめんなさいしたらもう一度お話しましょ、じゃあね〜」

 

魔女は電話を切る

 

 

 

 

「良いのですか??ロシアに手を差し伸べて」

 

「私は救いを与えたわ。私はね」

 

魔女の下僕は、改めて自分の主の力の偉大さを知る…

 

 

 

 

「増援が来る!!それまでに教会に入るぞ!!」

 

「スゥ、ハァー…」

 

涼平は手近にあった土嚢に身を潜め、対戦車ライフルを構える

 

独特な射撃音を響かせた後、すぐに場所を移動する

 

「隊長!!3時方向!!マンションの中!!スナイパー!!」

 

《オーケー、助かった!!》

 

スナイパーが処理され、次の射撃ポイントに着く

 

「ああっ、クソッ!!11時方向!!戦車!!援護します!!」

 

すぐに射撃体勢に入り、息を殺す…

 

マシンガン、アサルトライフルの音の中に、一発別の音が混じり、戦車が火を吹く

 

「9時方向に戦車!!魔女の手先を援護しろ!!」

 

「はっ…」

 

別のロシア語の無線が交じる…

 

自分達の応援に来たのは横須賀やウクライナの戦車ではなく、国旗のマークを塗り潰したロシアの戦車

 

「"白鳥"…??誰か白鳥のスポッターに着いてやれ!!」

 

無線を聞いていると、こっちに向かって来たロシア兵が見えた

 

「さっきの借りを返しに来たぞ、白鳥」

 

「ありがとうございますっ」

 

「よし、行くぞ!!」

 

 

 

 

みるみる内に戦車が破壊されて行く

 

涼平の射撃もあり、園崎の火薬もあり、そして、あの反旗を翻した戦車…

 

「よし…園崎さん、ノックをお願いします」

 

「離れて下さい!!」

 

園崎がバズーカを放ち、教会の扉が破壊される

 

「ここから先は私が先行します。マーカス、園崎さん。涼平さんを呼んで後から着いて来て下さい」

 

「了解した。涼平、こっちに来い。援護してやる」

 

《了解です、隊長》

 

 

 

 

「白鳥。気を付けろよ」

 

「ありがとうございました。その…復興が終われば、また会いましょう??」

 

「白鳥、お前に託したぞ」

 

白鳥が教会に走って行く…

 

「これで良いんですね、隊長??」

 

「これでいい…サイン、貰えないかもしれん。すまなかった…」

 

「一緒に戦えて光栄でした…あっちではお願いですから無茶しないで下さいよ??」

 

「分かったよ」

 

増援の戦車が近付く…

 

「さぁ…最後の戦いだ。行くぞ!!」

 

「了解です、隊長」

 

反旗を翻した小さな反ロシア兵達の集まりが、最後の戦いに赴く…

 

 

 

 

「さて…」

 

教会は何故か、もぬけの殻

 

逃げ出してしまったのだろうか…

 

いや、違う

 

兵達が逃げ出しただけだ

 

地下…その奥に本体がいる

 

「死神…悪いが、お前暴れ過ぎたな」

 

これが最後の兵。これが終われば、この向こうに…

 

「あの程度で暴れたと言われても困るのですよ」

 

いきなり口の中に刀を入れる

 

「そこを退け。もう腕もない癖に…」

 

「い…いでぇ…」

 

「今痛みが来ましたか??じっくり味わって下さい、激痛を。あぁ、もう声は出ませんよ。今しがた声帯を斬ったので」

 

口から刀を抜き、ドアを開ける…

 

「し…死神…」

 

「やっと見つけた…この腐れ外道がぁ!!」

 

 

 

 

「死体だらけです…」

 

「ダメです。こっちも…」

 

「ちったぁ加減してくれよ…」

 

エドガーの行く先行く先、死体が転がっている

 

お陰で居場所が分かり易い…

 

「ここが最後のドアです」

 

「園崎、ドアを…」

 

「あっははははは!!どうだ!!テメェのお得意のシステマで耐えろ!!」

 

その場にいた三人全員、狂気の歓声にたじろぐ

 

「爪剥がれたレベルでよぉ!!くたばって貰ったら困るんだわぁ!!…うおらぁ!!」

 

「Проклятые шинигами...」

 

男性のロシア語が聞こえ、何かが折れる音が聞こえる

 

「こんなもんで済むと思うなよ??次は生皮行ってみようか!!おらどうだ!!イテェか!!助け呼んでみろ!!大きな声で!!」

 

「что я тебе сказал...」

 

「知らねぇとかほざくなよクソ野郎…俺は助けを呼べと言ったんだぞジジイ!!呼べよ!!ほら!!」

 

「Помоги мне…」

 

「聞こえねぇなぁ!!ほらもっと大きな声で!!」

 

「Помоги мне!!」

 

「俺も!!母も!!姉も!!その言葉!!何度!!言ったか!!分かるか!!この!!老害!!ジジイが!!」

 

言葉を放つ度に、ピーラーで何かを剥く様な音が聞こえる

 

ドアの向こうから聞いていて既に悲惨な状況だ…

 

涼平も園崎も、さっきあれだけ勇猛果敢に戦っていたのに固まってしまっている

 

「隊長…開けましょう。エドガーさんが人である内に」

 

「園崎、行けるか??」

 

「了解です、フンッ!!」

 

園崎はパンチ一発でドアを開ける

 

「二人共下がってろ…」

 

「おい見ろ。まだまだ目玉は残してあるだろ??」

 

エドガーは男性の頭頂部の皮を掴み、俺の方に向ける

 

「助けて…くれ…」

 

「…」

 

言葉が出ない…

 

SS隊に捕まったら酷い拷問を受けるとは聞いていたが…

 

ここまで悲惨なのは初めて見た

 

「こ…コイツが…死神か…タナトス級の、生みの親か…」

 

「…」

 

返す言葉が無い訳では無い

 

恐怖で声が出ない…

 

「死神にご挨拶でもしたらどうだ??えぇ??今から世話になんだろ??」

 

「許して…くれ…」

 

「…執行人の許しは乞うたのか」

 

何とか声をひり出す…

 

「許してくれ…頼む…もう良いだろ…」

 

「えぇ構いませんよ。私の分は済みましたからねぇ。さぁ、次は私の母の分です」

 

「やめろ…もうやめてくれ!!」

 

瀕死の男性の口から、死に際の様な声が出る

 

「もう一度言いますよ。老人だから耳が遠くなって物忘れも激しくなりましたか??その言葉、私と母と姉が何度も言ったのですが??」

 

「隊長」

 

「うっ…」

 

二人が中に入って来た

 

「あぁ!!良かった良かった!!」

 

二人の目に映ったのは

 

返り血で真っ赤に染まった顔から、満面の笑みを魅せるエドガーがそこにいた…

 

「人の言う事聞かなかったり、悪さばかりするバカは!!」

 

「見るなっ…」

 

ギリギリで涼平と園崎の目を塞ぐ

 

「人の生き死には見る物じゃない…目を開けるな、一生後悔する…」

 

「は、はいっ…」

 

「了解ですっ…」

 

エドガーが言ったと同時に、男性の背中にナイフが刺さる

 

「こうやって!!」

 

「あがが…」

 

背中のナイフがゆっくり、ゆっくり下半身に向かって降りて行く

 

「罪を贖う事になるのですよ??」

 

男性の息はもう絶え絶えになってはいるが、そこはエドガー

 

死なない程度に刺したり剥いだりする

 

「母は貴方がたの前で裸に剥かれて、皆の前で散々犯されました…たった一つの理由でね」

 

「…」

 

「聞けよ、理由を」

 

頭を掴んで顔に寄せる

 

「なぜ…だ…」

 

「胸が大きかった…ただそれだけだ。だから私は…」

 

エドガーの言葉が止まる

 

「エドガー、帰ろう」

 

今しかないと思った

 

何かを考えて怯んだエドガーに話を続ける…

 

「人である内に…帰ろう」

 

「…出来ません」

 

「エドガー…」

 

「それより、二人の手を離してあげて下さい」

 

「もうしないなら外す」

 

「もう斬ったり刺したりしません」

 

二人の目から手を外す

 

「申し訳ありませんが、このバカが呼称していた名で呼ばさせて頂きます"処刑人さん"そこのタンクを取って下さい」

 

園崎の方を向く

 

「これですか??」

 

園崎は言われた通りに何かのタンクを取る

 

「"白鳥さん"ライターはありますか??」

 

「あっ、はい。これを」

 

「"死神さん"タバコを一本頂けませんか??」

 

「やるよ。帰り道にでも吸ってくれ」

 

もう数本しか入っていなかったタバコの箱をエドガーに投げる

 

「どうもっ。さて…」

 

エドガーは髪を上げた後、タバコを箱から取り出して咥える

 

ライターでタバコに火を点けた後、机の上に座る

 

「私はね…人を殺した後に吸うタバコがたまらなく好きなのですよ…でも、今回は特別です。これが何か分かりますか??」

 

男性の前にタンクを置く

 

「なんだ…それは…」

 

「貴方が良く知っているでしょう!!貴方が要らぬ事をしたおかげで値上がりした物ですよ!!さてっ…出ますかっ」

 

エドガーはタバコを床に捨て、足で踏んで火を消す

 

「先導して頂けませんか。私は後を行きます」

 

「了解した。行くぞ!!」

 

「了解ですっ!!」

 

「…これ、何ですかね??」

 

ふと涼平は隅にあったケースを見付ける

 

「持って帰った方がいいですよ。さ、お願いします」

 

涼平はそれを手に取り、俺達と一緒にエドガーの先導をする

 

「何を…するつもりだ…」

 

「…」

 

エドガーは黙ったまま男性を引き摺る

 

「表はどうなってますか??」

 

「待ってろっ…」

 

教会のドアを開ける…

 

「はは!!友軍だ!!」

 

「街の人も出てきてますよ!!」

 

「やったぜ!!」

 

「うぉぉぉお!!マーーーカァーーース!!」

 

「やったぜマーカス!!」

 

表は友軍の戦車部隊が教会を包囲してくれていた

 

何とかなったみたいだな…

 

「…街の人、ですかっ!!」

 

「マキシモさん!!」

 

「うぉぉぉお!!園崎ぃ!!」

 

外で待っていてくれたマキシモが、園崎を抱き締める

 

「よぉ」

 

「あ!!レイ君!!」

 

俺は俺で迎えに来てくれた大淀に抱き着かれる

 

「良かった…皆さんこれで安し…」

 

涼平の時間が緩やかになる…

 

返り血に塗れた満面の笑みで涼平を見ながら、エドガーが横切る

 

「ひっ!!」

 

あまりの恐怖で涼平が固まる

 

泣きそうになる…

 

全身がこわばる…

 

体が震える…

 

その恐怖は今までどんな航空戦でも味わった事が無く、ただ人間の本能的な恐怖を煽り立てる物…

 

これが人間の本来の"恐怖"の形というのを、今涼平は目の前で実感した…

 

そして、人間は本能的にその場で一番頼りになる人の名前を口にする…

 

「隊長ーーーーっ!!」

 

「はっ!!」

 

涼平の叫び声が聞こえ、教会に振り返る

 

そこには男性を引き摺り、余った片手にタンクを持ったエドガーがいた

 

「ははは…はははははは!!」

 

エドガーは男性を広場の中心に降ろし、タンクの蓋を開ける

 

「くそ…」

 

ザバザバと男性に液体がかけられる

 

市民が異変に気付き集まってくる

 

「どうせ放っておいても数時間で死にます。燃やすなり殴るなり、お好きにどうぞ。さぁっ!!寄ってらっしゃい!!貴方がたの国を崩壊させた元凶ですよ!!」

 

エドガーはそうとだけ言い、タンクを投げ捨ててこっちに来た

 

既に市民は棒で殴ったり蹴ったりし始めている…

 

「仕事は終わりました。帰りましょう」

 

「恐ろしい奴だ…」

 

「ふふっ…お互い様でしょう??」

 

俺とエドガーは微笑む

 

「コイツは何だぁ??」

 

マキシモの前に出されていたのは、最後に援護に入ってくれた反ロシア兵

 

体も震え、怯えに怯えきっている

 

「待って!!待って下さい!!」

 

そこに入ったのは涼平

 

「その人達は味方です!!」

 

「ほぅ。貴様命拾いしたなぁ!!はっはっは!!だ〜がぁ!!」

 

マキシモはもう一度銃を彼等に向ける

 

「俺はいけ好かねぇ!!」

 

反ロシア兵は目を瞑る

 

「ぐッ…お願い、ですカラっ…」

 

マキシモの銃を握ったのは、少し深海化した涼平

 

どうしても彼等を救いたいらしい

 

「貴様を殺すかもしれんのだぞ!!」

 

「それデモっ…それでも構いませンッ!!」

 

「う〜む…此奴が俺に楯突くのはヒジョーに珍しい…」

 

「終わったンデス…どうかッ…」

 

「はっはっは!!いいだろう!!命拾いしたなぁ!!はーっはっはっは!!」

 

「はぁ…」

 

「ありがとう、白鳥…」

 

「2度も救われたなっ…」

 

「後々殺すなら…今殺して貰えませんか…今ならその…カッコいいまま死ねますから…」

 

体力と神経を擦り減らし、最後に軽く深海化までした涼平は、ここに来てようやく力が尽きる

 

「よっ、と…」

 

「誰が殺すか…お前は何度も命を救ったんだぞ…」

 

反ロシア兵二人はすぐに涼平を抱え、地面にゆっくりと寝かせる

 

「ありがとう。後は俺が診よう」

 

「あと1両残ってるぞ!!」

 

誰かがそう叫ぶ

 

急いで振り返ると、砲がゆっくりと此方に向いているのが見えた

 

間に合わない!!

 

せめて涼平だけは!!

 

涼平に覆い被さった時、エドガーが走って行くのが見えた

 

「死に損ないが!!」

 

砲身に刀を振り下ろす

 

砲身が折れ、戦車が誘爆を起こす

 

「やったぜ!!流石執行人だ!!」

 

「お、お、おれおれ…」

 

戦車を撃破したエドガーの様子がおかしい

 

「涼平、ちょっと待ってろ」

 

「は、はひ…」

 

疲労が溜まっている涼平を休ませ、現状ヤバそうなエドガーに寄る

 

「お、おい、大丈…」

 

「折れたぁぁぁぁあ!!」

 

いつものエドガーらしくない取り乱し方だ

 

「ヤバいヤバいヤバいヤバい…ここここれは本気でマズいんです!!」

 

「刀ならまた俺が…」

 

「違うんですよぉ!!この刀が折れるのは本当にヤバいんです!!はぁぁぁあ!!どどどどうしましょう!!あ、そうだ!!帰らなければ良いのです!!私はここに国籍を置きますので!!どうかお元気で!!」

 

「ちょちょちょちょ待てって!!取り乱し過ぎだろ!!何がヤバいんだ!?」

 

「この刀を造った人ですよぉ!!はぁ、殺される…はっ!!いっそ殺されるなら少女に殺されるべきでは…その辺に少女はいませんか!!」

 

エドガーの目が泳いでいる

 

何をそんなに焦っているのか…

 

「そいつとこの国の頭とどっちが怖い」

 

「その人に決まってるでしょう!!何を言うんですか!!いいですか!?私はあんなハゲやカスを何十人と斬って来たんです!!この世に生きる価値もない奴の血を啜って生きて来たんです!!今更殺しにかけては怖くなんてありませんよ!!」

 

「わ、分かった…分かったよ…」

 

「…あのメス臭の中に突っ込むとどんだけ吐き気を催すか」

 

エドガーは刀の破片を集めた後、爪を噛みながらブツブツ言って帰路に向かう

 

…多分大丈夫そうだ

 

「さてっ、帰るかっ!!」

 

「後はお前だぁ!!お家に帰るぞぉ!!」

 

マキシモに呼ばれ、戦車に足を掛ける…



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特別編 魔女の手先と後始末

このお話で特別編はおしまいです




「そっ、良かった。空爆は中止するわ」

 

《そっちに何人か連れ帰るかもしれない》

 

「裏切ったりしないなら雇ったげるわ??」

 

《お前が怖いらしいぞ??》

 

「魔女って呼ばれてんでしょ??アタシ」

 

《まぁな…俺はっ、死神だしな…》

 

数時間前に通信をしたはずなのに、随分懐かしい気がするレイの声…

 

落ち着いたのか、後ろが随分うるさそうだ

 

「今何やってんの??」

 

《今か??俺は診察に当たってる。他の連中は…》

 

《ど〜だぁ!!美味いかぁ!!》

 

《美味い…これがワショク…》

 

《温まる…はぁっ…》

 

《がーはっはっはっは!!いっぱい食えよぉ!!》

 

《んまぁ飯中だ》

 

「アンタが帰って来ないと淋しいわ…」

 

《すぐ帰るさっ!!あっ!!ジェミニちゃん!!やっほ〜!!》

 

「大淀!!助かったわ!!レイ、大淀と代わって頂戴!!今何処にいるの??」

 

《今はヴィスビューだよ!!ここ良いね!!》

 

「レイは大丈夫そう??」

 

《今の所はね。診察したり治療したりでてんてこ舞いだけど、やっぱり嬉しそうだね!!》

 

「そう…根付いたらどうしようかと思ったわ??」

 

《大丈夫そうだよ??ちゃんと帰る計画も練ってるみたいだし、引き継ぎもしてるし、うんっ!!タナちゃんも迎えに行かないとね??》

 

「そろそろゴネてるかしら…」

 

《んな事でゴネないでち。こっちのご飯も美味しいでちよ!!》

 

急にタナトスとの通信が入る

 

タナトスは目と鼻の先にあるレストランにケータリングを頼み、ずっと艦内で食事をしている

 

「タナトス??帰ったら一緒にご飯行きましょうね??」

 

《帰ったら創造主におもちゃ買って貰うんでち!!》

 

時たま忘れそうになる

 

この子達はまだまだ子供

 

お金や美味しい食事より、おもちゃの方が喜ぶ

 

「そう言えば、タナトスはそこから動かないの??」

 

《ここなら最悪、創造主やらウクライナを全域守り切れるれち。また連絡するでち》

 

何かを食べているのか、シャクシャク音を立てながらタナトスは私の質問に答え、通信を切る

 

《タナちゃんも元気そうだね》

 

「そうね…早く戻って来て、いつもの生活に戻って欲しいわ…」

 

《すぐに帰るよ。心配しないで!!じゃ、また通信するね!!》

 

大淀との通信も終わる

 

通信機を置き、キッチンに向かう

 

「まみ〜きた」

 

「始めましょう!!」

 

「よしっ!!今日はちゃんと作るわ!!」

 

 

 

 

 

その日の夜…

 

ヴィスビューの港でタバコを吸う…

 

「ここはパースの生まれ故郷なんだ」

 

タバコを吸っていたら横に親父が来た

 

「ここも一度戦火に巻き込まれたんだな」

 

「そっ。だがまぁ…新婚旅行にはピッタリな街さっ!!」

 

「ドクター…」

 

最後に手を貸してくれた反ロシア兵が来た

 

恐らく彼は隊長か何かだ、貫禄が違う

 

「礼を言う。ありがとう、救ってくれて」

 

「帰る場所を奪ってしまった…」

 

「気にするな。どの道終わっていたんだ。遅かれ早かれな…」

 

「部下の怪我はどうだ??」

 

「二人共安定している。それでだドクター…ここまでして貰って何だが…一つ頼み事があるんだ」

 

「国を返せ以外だぞ??」

 

彼は一枚の写真を取り出す

 

「おっ、これは…」

 

親父が先に反応する

 

「部下に一人大ファンがいてな…隊長であるドクターに許可を貰いに来た」

 

「喜んでやってくれるハズだぞ!?」

 

「行ってみても構わないか??」

 

「勿論さ!!」

 

「ありがとう、すぐに行って来る!!」

 

彼は走って行ってしまった…

 

「良い隊長だな…」

 

「あぁいう奴が生き残ってくれて良かったよ…」

 

 

 

 

私の名前はイリッチ

 

最後に彼等の味方をした、元ロシア兵の隊長だ

 

半分捕虜としての扱いを受けているが、ドクターマーカス達のお陰で半ば自由に動けている

 

部下二人と前線に放り投げられ、部下は大怪我もしたが、彼等は救ってくれた

 

今はとある人物の所へ向かっている

 

「よしよし…食えるか??」

 

「あぁ…ありがとう、もう自分で食べられるよ」

 

「消毒しますよ!!」

 

「よし…頼、イデェ!!」

 

彼の部下二人が、病室を行ったり来たりしている

 

「ふぅ…よし、涼平。バトンタッチしようぜ!!」

 

「そうですね!!ふぅ…」

 

丁度休憩に入る二人が目に入る

 

とりあえず"白鳥"に礼を言わねば…

 

「白鳥。ありがとう」

 

「イリッチさん、もう怪我は大丈夫ですか??」

 

「大丈夫だ。君達がいなければ我々は死んでいた。必ずこの恩は返す」

 

「気にしないで下さい」

 

「彼は白鳥の友人か??」

 

「俺は園崎。よろしくな!!」

 

「イリッチだ。部下共々、感謝する」

 

握手を交わす

 

この男だ、気迫も握力も違う

 

手を離し、彼に一つのお願いをする

 

「ここまでして貰って何だが…折り入ってソノザキに頼みがある」

 

「俺に出来る事なら…」

 

私は彼の前に一枚の写真を出す

 

「実は部下がソノザキの大ファンで…ここにサインを頂けないものかと…」

 

私が探していたのはこの、ソノザキと言う男

 

あの時写真を預かったのは、部下の一人の夢でもあった

 

いつの日か、ソノザキにあってここにサインを貰うのだと…

 

「どっちだ??」

 

「手前の方だ。いいのか??」

 

ソノザキは既に部下の方に足を進めている

 

「ファンサービスは大事だからな!!」

 

「感謝する、ソノザキ!!」

 

「よっ!!」

 

ソノザキが部下の前の椅子に座ると、私の部下は顔を向ける

 

「ソノザキ…ありがとう、救ってくれて」

 

「ファンだったら先に言ってくれよ…どれっ…」

 

写真の片隅に、ソノザキはサインを入れてくれた

 

「嘘だろソノザキ…いいのか!?」

 

「ほらっ!!」

 

「はは…ありがとう!!わぁ…!!」

 

まるで子供の様に喜ぶ私の部下

 

彼が随分前に宿舎で同期と共にソノザキの試合を食い入る様に見ていたのを昨日のように覚えている

 

「貰えたか??」

 

「ドクター、ありがとう」

 

「隊長!!自分のファンがいました!!」

 

「良かったじゃないか!!どうだ??生きてみるもんだろ??」

 

「あぁ、ドクター!!言う通りだ!!」

 

ドクターマーカスも来た

 

彼の部下の扱いは、二人を見ていてよく分かる

 

優秀な部下が自分の意思で着いて行っている…

 

「でざ〜とで〜す!!」

 

「おいちかったれすか??」

 

「久々に美味い物を食べたよ。ありがとう女神のお二人さん??」

 

「せあろ??」

 

「あいっ!!ちゃいち〜ぷいん!!」

 

ドクターの娘かが、デザートを持って来てくれた

 

二人の前にもプリンが置かれる

 

「ちゃんと治ったら、美人があ〜んしてくれるぞ??」

 

「本当か!?」

 

「本当に生きてみるもんだな!!」

 

生きる活力を見出すのも、ドクターは上手い

 

「さっ、食ったらもう休め」

 

「おやすみ、ドクター。おやすみなさい、隊長…」

 

「おやすみなさい…」

 

「おやすみ。ゆっくり休むんだぞ」

 

二人共すぐに眠りについた…

 

私達は病棟を出て、タバコに火を点ける

 

「イリッチ。俺からも頼みがある」

 

「何でも言ってくれドクター」

 

ドクターは革ジャンの内ポケットから小さなケースを取り出す

 

「ロシアに知り合いがいてな…随分昔の事だが、俺にお菓子をくれた奴がいた」

 

ドクターは話しながらケースを開ける

 

中には葉巻が3本入っている

 

「吸うかどうかは分からないが、今それしか持っていない。そいつに渡して欲しい」

 

「どんな奴だ??」

 

「頭にアザがある爺さんだ。すぐ分かる」

 

私もその人物に覚えがあった

 

だが、その人物は既に…

 

「ドクター…その…彼はもう…」

 

薄々は察していたのか、ドクターはすぐに頷く

 

「なら、墓に置いてやって欲しい。長年お返しが滞って、すまなかったと…」

 

「了解した」

 

 

 

 

数日後、ドクター達は帰路に着く

 

部下二人は完治とまでは行かないが、後は安静にしていれば十二分に治る

 

本当は着いて行きたかったのだが…

 

私にはやる事が出来た

 

今度は私が自身の国をもう一度救う番だ…

 

 

 

 

 

 

「ボリス!!」

 

「マーカス!!無事だったか!!」

 

帰りにセバストポリにもう一度寄る

 

「もう一度ウクライナは再建だ!!さぁ!!忙しくなるぞ!!」

 

「…ありがとうボリス。世話になった」

 

「こっちのセリフだマーカス…必ずまた会おう!!」

 

ボリスと握手し、最後に全員でレストランに寄る

 

…タナトスが散々運ばせて食っていたツケを払いに来た

 

「タナトスが世話になった」

 

「此方こそ!!守護神がいる生活も中々良かったですよ??」

 

「幾らだ??」

 

財布を出そうとした時、まさかの答えが返って来た

 

「もう頂いておりますが…」

 

「…誰にだ??」

 

「ワシじゃマーカス!!」

 

レストランの席に座っていたのは一人の婆さん

 

「ウクライナを救ってくれた礼じゃ!!」

 

「いいのか??」

 

「やっすいもんじゃ!!わっはっは!!」

 

婆さんの割には若くて可愛い声をしている

 

「…アンタ、無線で聞こえて来た」

 

「んにゃにゃ!?んな訳なかろう…ワシは一般ピーポーじゃぞ…全く、これだからリチャードの息子は…」

 

「親父の知り合いか??」

 

「んんっ!!何でもない!!何でもないぞマーカス!!」

 

「何で俺の名前を知ってる」

 

「にゃっ!?そ、それはじゃな…んんっ!!女は秘密の多い方が良かろう!!ではな!!」

 

「うわ!!何すんだ!!ゲホゲホ!!」

 

謎の老婆はいきなり煙幕を投げて逃げ去った

 

…何だったんだ、全く

 

「とりあえずボルシチを」

 

「畏まりました!!」

 

「ったく…うっ!!」

 

座った途端に後ろから誰かに抱き着かれた

 

「よく頑張ったなマーカス!!お姉ちゃんが褒めてやろうな!!」

 

音も無かったぞ…

 

余程の手練れか??

 

「ん〜!!勇敢な弟は…お姉ちゃん大好きだ!!」

 

力強さの中に甘い声が混じっている…

 

何処かで感じた感覚だ…

 

あれか、ジェミニの声質と似てるのか…

 

考えろ…ジェミニは滅多に自分の事をお姉ちゃんとは言わない

 

俺の事を弟とも言わない

 

…しかし良い匂いだ

 

「私の元に来ないかマーカス…お姉ちゃんの所に…」

 

「やめろ…俺は落ちんぞ…」

 

とは言うものの耳元で囁かれ、身震いする

 

「見ろ。他の弟はお姉ちゃんに落ちたぞ」

 

「なっ!?涼平!!園崎!!」

 

涼平と園崎が既にヨダレを垂らして意識不明になっている!!

 

「さぁマーカス??お姉ちゃんの弟になろうな??」

 

「そこまでです」

 

俺と謎の女性の間に刀が置かれる

 

「マーカスは私の大切な友人でしてね。みすみす渡す訳には行きません」

 

エドガーが助けに入ってくれた

 

「ふっふっふ…粗暴な弟もお姉ちゃんは大好きだ!!」

 

謎の女性はエドガーに矛先を向ける

 

「うわ来るなやめうわぁぁぁぁあ!!マーカス助けて死ぬ!!」

 

「ほ〜らエドガー!!お姉ちゃんに好きって言ってみろ!!そしたら離してやるぞ??」

 

「吐く!!死ぬ!!オェ!!イヤぁぁぁあ!!」

 

普通はエッチな本で聞く声をエドガーが情けなく出す

 

普段の執行人の面影は一切ない

 

謎の女性はエドガーに抱き着き、離そうとせず、それどころかほっぺたをスリスリしている

 

「はぁ…ライコビッチ」

 

「マーカス!!ようやく気付いてくれたか!!」

 

謎の女性はライコビッチ

 

過去にアラスカの基地で世話になっている女性だ

 

「離せこのモノノケ!!」

 

「お姉ちゃんにその口答えはなんだエドガー!!罰としてチューしてやる!!」

 

「うわぁぁぁぁあ!!あっ…」

 

エドガーは急性ストレスの為、意識不明になってしまった…

 

「ぴ〜ぽぴ〜ぽ〜!!」

 

「きんきぅはんしぉ〜!!」

 

ひとみといよの担架でエドガーは運ばれて行く…

 

「あの可愛い妹はなんだマーカス!!」

 

「あの子はひとみといよさ。久々だな??」

 

「うむっ!!」

 

「お知り合いですか隊長??」

 

「あっぶねぇ…落ちかけた…」

 

「ライコビッチは良い奴だ。れっきとした横須賀の友達だよ。もしかして、道を開けてくれたのはライコビッチか??」

 

「うむ。アラスカの基地はアメリカとの共同運営だったのだがな…今回の件でロシアが弾かれたんだ…ま、最後の仕事さ!!」

 

「横須賀に来いよ。ガングートも待ってる」

 

「さっきジェミニから連絡があってな。私はリョーボになる!!お姉ちゃんではなく!!一気に母だ!!」

 

「そ、そっか…」

 

「緊急時には副司令官も任されるそうだ!!弟と妹の面倒を見れる!!ふへっ!!」

 

別の意味でヤバそうな奴だ…

 

ジェミニと良く似てるのか…

 

敵に回る心配はないが、なーんかやばい気がする…

 

「して…マーカス。エドガーをありがとう」

 

「心配か??」

 

「この世で唯一血の繋がった家族だ」

 

「それでか…」

 

何故かは分からないが、薄々は分かっていた

 

殺されたと思っていたエドガーの姉はライコビッチ

 

今の言葉で確信に変わった

 

「お待たせしました〜」

 

「ありがとう」

 

ボルシチが目の前に置かれる

 

「頂きますっ」

 

ライコビッチに見つめられながら、俺達3人はボルシチを頬張る…

 

「あ…あのぉ〜…」

 

「何だ??」

 

「今すっごい幸せな気分なんですけど〜…」

 

「そうだろう??」

 

いつの間にかライコビッチは後ろから涼平に抱き着いている

 

「ルカを救ってくれた礼だ…」

 

「は、はひっ…」

 

「次は貴様だなソノザキ!!」

 

「ちょっ、待っ、はぐっ!!」

 

ロシア兵の攻撃をひらりひらりと避けられる反射神経の持ち主の園崎が、先読みされてライコビッチの胸に置かれる

 

「貴様もルカを救ってくれたな…ありがとう…」

 

「…」

 

園崎のまぶたが落ちて行く…

 

疲れがここに来て一気に出たのか、ライコビッチの胸に頭を置いたまま、スプーンを落とした

 

「よしよし…良い子だ…」

 

「ぴ〜ぽぴ〜ぽすう??」

 

「つ〜じぉ〜はんしぉ〜!!」

 

今度は園崎が搬送されて行く…

 

「座っても良いか??」

 

「園崎のボルシチ食べてやってくれ」

 

「ん、頂きます!!」

 

今しがた弟!!妹!!と言っていたライコビッチは、意外にも上品にボルシチを食べている

 

「そう言えばライコビッチ。タシュケントはライコビッチが寄越したのか??」

 

「うむ。あの子も国に従事するのが常だと思ったのだがな…こうなる事を先読みして、安全な場所に置かせて貰ったんだ」

 

「そうだったんですか…」

 

「涼平が大切にしてくれてる。俺から見てもな??」

 

「そうか!!タシュケントの旦那か!!」

 

「はいっ、自分がそうです!!」

 

「やはり任せて正解だったか…リョーへーだったな??正式に私がお姉ちゃんになったぞ!!」

 

「まさか…」

 

「あぁいや違う。私は産んでいない。タシュケントはロシアで教師をしていたんだがな、適性が出て艦娘になった」

 

一言も産んだと言っていないのに、ライコビッチは産んでいないと答えた

 

俺が聞きたかったのは、エドガーと血が繋がっているのかどうかだったんだが…

 

「エドガーと血が繋がっているのは私だ」

 

「先読みされたか…」

 

「弟の考えは手に取る様に分かる」

 

ライコビッチがボルシチを口に運びながら何気なく言った言葉が、得体の知れない恐怖の様な感覚が俺の背筋を走った…

 

「よしっ…帰ろうか!!」

 

「はいっ。ごちそうさまでした!!」

 

「あの…また来てくれますよね??」

 

「勿論さ!!ここには友達も出来たしな!!」

 

俺達はウクライナを後にする…

 

 

 

 

物凄く長い間、ここに居た気がする…

 

一ヶ月程の期間だったが、本来の目的も忘れそうになる時もあった

 

また来よう…

 

今度は友人に会いに…

 

 

 

 

 

横須賀に着いてしばらくしたある日…

 

「そう…分かったわ。次は手の平返しちゃやぁよ??レイ??そこにいるわ、代わったげる!!」

 

子供達と遊んでいた最中、横須賀から電話を受け取る

 

《やぁ、ドクター!!》

 

「イリッチか!!怪我はどうだ??」

 

《すこぶる良くなったよ!!ドクターのお陰だ。今日は報告があって連絡を入れさせて貰ったんだ!!》

 

「聞かせて貰おうか」

 

《最初に伝えなきゃならないのは、言われていた物はモスクワにある墓前に供えて来た》

 

「ありがとう…手間、掛けさせた」

 

《それでだな!!》

 

イリッチの嬉しそうな声を聞き、話は続く…

 

 

 

 

 

同時刻、ウクライナ

 

「申し訳ない、サイクロップス。この様な場所で…」

 

「構いませんよ。この様な場所の方が私も肩肘張らずにいれますので」

 

「ん…ありがとう、サイクロップス」

 

「祖国の危機に駆け付けるのは普通の事ですよ、大統領」

 

エドガーとウクライナの大統領は病院の食堂で、少しだけ豪華な食事を取りながら話している

 

エドガーが帰還すると聞き、急いで来てくれたのだ

 

「…何故入院していた??被弾したのか??」

 

「軽い蕁麻疹です。後は急性ストレス性障害、嘔吐、痙攣、その他諸々」

 

「大変だったな…」

 

「えぇ。ロシア兵より女の方が敵です」

 

エドガーはあれから緊急入院措置になり、本日付でようやく退院出来た

 

「そうだサイクロップス。勲章を渡しに来た!!」

 

「丁重にお受けします。ありがとうございます」

 

大統領に勲章を付けて貰い、ようやくエドガーは"終わった"と実感する

 

「何か望みは??」

 

「ふふ…帰って妻のご飯を食べたいですね」

 

「結婚しているのか!?」

 

「私は生粋のロリコンだとアレンかマーカスからお聞きしましたか??」

 

「い、いや…ジェミニから…」

 

「そうですか…ジェミニなら仕方がありません…彼女は私の事を理解してくれますからね」

 

「彼女は復興の手配もしてくれた。ロシアは途轍もない女性を敵に回したんじゃないのか??」

 

「ふふっ…いつか彼女に会えば分かりますよ。ごちそうさまでした」

 

「サイクロップス、君の故郷はここだ。忘れないでくれ」

 

「えぇ、勿論です。では大統領、またいつの日か」

 

エドガーが敬礼をしないのを知っているのか、大統領は右手を出し、エドガーはしっかりと握り返した

 

 

 

 

次の日、エドガーは横須賀へと戻る

 

「淋しくなるな…」

 

飛び立つ少し前、ボリスが見送りに来てくれた

 

「その内また皆で来ますよ。今度は遊びに」

 

「ん…元気でな!!」

 

「ではっ!!」

 

キャノピーを閉め、赤黒いSu-57がウクライナを去り、魔女の元へと帰る…

 

 

 

 

横須賀の人員が全員引き上げた所で、俺達が介入出来る事は終わりを迎える

 

後は上手い連中がやればいい

 

俺達が出来るのは、ここまでだ…

 

この件で俺達はもう少し波乱があるのだが、それはまた別のお話…




ここまで読んで頂き、ありがとうございます

多種多様な意見は勿論あると思います

ただもう一度言うなら"作中の中での戦い"のお話になります

逃げていると捉えられても構いません。そうとしか私には言い様がありません



次回からはまた彼等の日常のお話になります

重ね重ね言わせて頂きます。ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました


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323話 脳筋戦車部隊

お久し振りです、苺乙女です

大変お待たせしました

20話分を書き直していましたが、そのほとんどが1から書き直しになってしまい、とんでもなく待たせてしまう事になってしまいました

ここに作者本人からお詫びを申し上げます


このお話は、特別編で登場したとある戦車部隊が合流するお話になります

リチャード曰く、とんでもない連中との噂…

果たして横須賀の連中は勝てるのか!!


「何!?アイツが本国から!?」

 

朝方、リチャードが新聞を読んでいると、ヴィンセントから同期が横須賀基地に配属されると聞いた

 

「らしいぞ??随分前に海から転属して、今じゃ戦車乗りだ」

 

「うぬぬぬぬ…!!誰か戦車乗りはいないのか!!開幕ぶっ潰してやるぁ!!」

 

「行っちゃったわよ??」

 

キッチンカウンターからイントレピッドが顔を出す

 

二人の目線の先には、チャンピオンポーズで戦車乗りを探しに行ったリチャードがいる

 

「放っておいた方がいい。奴とは仲が悪いわけじゃない。知ってるだろ??」

 

「ふふっ!!まぁね!!」

 

 

 

 

「う〜む…しかし、戦車乗りがそう簡単に見つかるか??」

 

リチャードがタバコを吸いながら考えていると、足にラジコンが当たった

 

「申し訳無いであります」

 

「君は…アキ…」

 

「神州丸であります」

 

「神州丸か。どれ、いい戦車を操縦してるな??」

 

タバコを咥えたまま、リチャードは屈んで足元にあるラジコン戦車を掴み上げる

 

「これはシャーマンであります。爺様が操縦していたであります」

 

「なに!?」

 

リチャードはすぐにタバコを消し、再び神州丸に目線を合わせる

 

「爺さんがシャーマンを操縦してたのか??」

 

「そうであります」

 

「これは良い事を聞いたお礼だ。取っておきなさい」

 

リチャードは神州丸のポケットに一万円を捩じ込み、すぐに立ち上がり、パイロット寮の執務室に走る

 

神州丸はシャーマン戦車のラジコンを胸に抱いて、リチャードを眺めていた…

 

 

 

「何!?今横須賀にいる!?どこだ!!分かった!!すぐに行く!!」

 

ガチャン!!と受話器を置き、コートを直す

 

「戦車乗りは見つかったか??」

 

「それがよ!!一人ヤバいのがいんだよ!!シャーマン乗りだ!!」

 

「ははは!!そいつは良かったな!!」

 

「よーし、行ってくる!!」

 

ヴィンセントはリチャードの子供の様にはしゃぐ姿を見て、微笑みながらタバコに火を点けようとした

 

「びんせんとさ」

 

「ワシントン!!」

 

入れ違いでワシントンが執務室に来た

 

あの日からヴィンセントは、ワシントンが来ると執務の手を止め、厳重に保管した後、ワシントンと遊ぶ

 

「今日は何するんだ??」

 

「これつくった。おいすぃよ」

 

ワシントンはリュックからクッキーを取り出し、ヴィンセントの所に持って来た

 

二人は執務室にあるソファーに座り、二人でクッキーを頬張り始めた…

 

 

 

 

「中将、どうなされました??」

 

繁華街では、森嶋と買い物をしていたトラックさんが居た

 

彼は元々戦車乗り

 

神州丸曰く、シャーマンに乗っていたらしい

 

「お願いだぁ〜!!本国からヤバい戦車乗りが来るんだ〜…頼むから護衛してくれぇ〜!!」

 

リチャードはトラックさんの足にしがみつく

 

「りょりょ、了解です!!そんなにヤバい人なのですか??」

 

「ヤバい!!スッゴイヤバい!!」

 

リチャードは足にしがみつくのを止め、トラックさんの前の椅子に座り、事を説明する

 

「奴はエイブラムスの戦車長だ」

 

「あれを相手にしろと…」

 

「中将。私も相手をします」

 

久方振りのトラックさんと共闘出来ると聞いて、森嶋が身を乗り出す

 

「ダメダメダメ!!ソイツはダスターで周りを固めてやがる!!」

 

「自走高射砲で固めてるとなれば、本当に手練ですね…」

 

「いいか森嶋。私達お空の鳥さんはお休みだ」

 

「了解です。しかし、何故その彼は自走高射砲を??」

 

「私に対抗意識を燃やしてるらしいんだ…いいか、今から真似をする!!」

 

リチャードは咳払いをした後、身振り手振り付きでモノマネをする

 

「ヌワッハッハッハ!!むぁーだ生きていたかぁ!!リチャードぉ!!きょー!!こそ貴様をぶっ潰してやるぁ!!」

 

「分かりやすいキャラクターのようで…」

 

「それに筋肉モリモリだからすぐ分かる。良い奴なんだか、脳味噌も筋肉で出来てるような奴だ。マジで見たらすぐ分かる!!」

 

「了解しましたっ!!しかし、戦車の方は…」

 

「持って来たシャーマンが一両だけある。そいつを使ってくれ。私はからっきしなんだ…」

 

「今見れますか??久々に見たいです」

 

「森嶋、お前も来い。後で埋め合わせるから」

 

「自分もですか??」

 

「じゃないとさっきみたいに足につくぞ!!」

 

「いいい行きます!!」

 

トラックさんも森嶋も、今のリチャードを見て

 

"やはり親子なんだな…"と、痛感していた…

 

 

 

 

「こいつだ」

 

リチャードが布を取ると戦車が現れた

 

「はぁ〜…」

 

トラックさんは久方振りの戦車に、ため息を漏らす

 

来たのはジープの発着場

 

ジープが大量に停めてある奥に、隠れるように一両の戦車があった

 

「これパットンですね」

 

「パ、パットンか…」

 

そこにいたのはシャーマンではなく、パットン

 

「大丈夫です、操縦した事ありますよ!!乗っても大丈夫ですか??」

 

「勿論だ!!」

 

「よっ、と…」

 

軽々とパットンに登り、ハッチを開けて中に入る

 

「あぁ…」

 

トラックさんは操縦席に座り、深呼吸をする

 

「"パトリシア"の乗り心地はどうだ??」

 

「懐かしいです。中将、後もう一人欲しいのですが…」

 

「も一人か…あ、マーカスが何か言ってたな…」

 

「マックさんですか??」

 

「そう!!その人はどうだ??」

 

「是非お願いします!!」

 

 

 

 

後日…

 

マックを招集し、砂浜で待つ

 

「来ましたよ!!到着まで30分!!」

 

様子見で行っていた神通が戻って来た

 

「来るぞ…」

 

「有村っ、今の内に外の風を浴びておこう」

 

「はっ!!」

 

「パトリシアってのは、いい戦車なのか??」

 

マックとリチャードが戦車のハッチ付近で話す

 

「いい戦車ですよ、中将さん。貴方で言えばF-14です」

 

「あらぁ!?どーしてそれを!?」

 

「あの日我々は、貴方にも救われたのですよ」

 

「よいしょっ!!森嶋の援護が来た後に、中将の機体が見えたんです!!」

 

「んなぁ、いいのいいの。仲間内だろ??」

 

「ヌワッハッハッハ!!むぁーだ生きていたかぁ!!リチャードぉ!!きょー!!こそ貴様をぶっ潰してやるぅ!!」

 

海の上からメガホンで声が聞こえた

 

「「来た…」」

 

リチャードは手元にあったメガホンを取り出し、海の上にいるであろう彼に向ける

 

「うるせぇ!!この筋肉ダルマ!!俺には最強の戦車がいるんだよ〜んだ‼ヴァーカ!!」

 

「ちょーっと待てぇ!!リチャードぉ!!貴様戦闘機を降りたのかぁ!?」

 

「お前は人の話聞かねーから未だに脳筋なんだよ!!」

 

「貴様だけには言われたくねぇ!!野郎共!!じゅーんびの時間だぁ!!」

 

リチャードはメガホンを置いた

 

「…本気っぽい」

 

「そんな夕立さんみたいな…」

 

「思考も筋肉、戦術も筋肉、見てろ…」

 

「どりゃー!!」

 

奴は揚陸艇で乗り上げて来た!!

 

それも六艇もある

 

「どーだぁ!!リチャードぉ!!観念したかぁ!!」

 

「じゃ!!後は頼んだ!!とうっ!!ここにいるパトリシアが貴様の相手だ筋肉ダルマぁ!!」

 

「行きましょう」

 

「はっ!!」

 

二人は準備に入る

 

リチャードは木陰に隠れながらメガホンで威嚇する

 

「どーこに行ったぁ!!まーぁいい!!パットンを倒してぇ!!貴様をぶっ潰してやるぁ!!野郎共!!攻撃ーっ!!」

 

「よし…頼んだぞ…」

 

リチャードの横にいた少女は小さく頷いた…

 

 

 

「相手はパットン一両だぁ!!野郎共、かる~く追い返してやれぃ!!」

 

「「「了解、アニキ!!」」」

 

砂浜と言う、互いにキャタピラが進み辛い中、パットンは上手く敵のエイブラムスの死角に入る 

 

どちらかに模擬弾が3発当たれば、模擬戦は終わる

 

「撃て!!」

 

パットンの模擬弾が放たれる

 

「ヌワッハッハッハ!!あいたぁ!!」

 

「命中だ!!マック、旋回して再度攻撃を仕掛ける!!」

 

「装填完了!!有村、奴の背後だ!!」

 

「甘いわ!!」

 

ドンッ!!と、エイブラムスの鈍い砲撃音と共にパットンに模擬弾が当たる

 

《はいはーい!!終わり終わり!!》

 

急にリチャードからの無線が、互いの戦車に入る

 

「な、何故!?」

 

「なーぜだリチャードぉ!!勝負はこれからだろーがぁ!!」

 

《外出てみろよーだ》

 

互いの戦車から、乗組員が顔を見せる

 

「あっ!?あっはっはっは!!」

 

「なるほどっ…これは…ふふっ…」

 

「ふふっ!!」

 

外にはリチャード

 

そして、リチャードに肩車して貰いながら、ラジコンを操縦している神州丸

 

神州丸はシャーマン戦車のラジコンを使い、パチン!!ポチン!!とBB弾をエイブラムスに当てていた

 

「あっはっはっは!!こいつは一本取られたぁ!!正面からでなく、この"マキシモ"の意表を突くとはぁ!!はっはっは!!」

 

「勝ったでありますか」

 

「神州丸の勝ちだ!!やったな!!」

 

「やったぁであります」

 

「思い知ったかこの筋肉ダルマ!!」

 

「良ーいだろうリチャードォ!!しかしこのマキシモ!!貴様にはいつか勝ーつ!!あっ、模擬戦、ありがとうございましたっ!!野郎共!!敬礼ー!!」

 

筋骨隆々の集団が、律儀に、それも綺麗に敬礼をする

 

マックもトラックさんも、そんな彼等に敬礼を返す

 

「おっとぉ!!貴様にはしてやらんぞぉー!!リチャードォ!!」

 

「俺は敬礼はしないスタンスでね。今日から配属だろ??案内してやるよ。致し方無くな!!」

 

「それは素直に受け取ろう!!」

 

「あらよっと!!あいっ!!」

 

リチャードはパットンの側面に掴まり、トラックさんに神州丸を渡す

 

「ありがとうございます、中将。よいしょっ…」

 

「神州丸の作戦だったんだ。私はこっそり、神州丸をカバーするしか出来なかった。神州丸、協力に感謝するよ」

 

「神州丸もいつか戦車に乗るであります」

 

リチャードは何かに気付いていた

 

今この砂浜に、何かが紛れ込んでいるのを…

 

「車庫に戻ってろ。ちょっとっ…一服してから帰るよっ!!」

 

「案内してくれぃ!!」

 

「はっ!!」

 

マキシモを引き連れ、トラックさん達は横須賀基地内へと戻る…

 

「さてっ…」

 

 

 

リチャードは足元の砂を見る

 

キャタピラの跡がある

 

自分の足跡がある

 

特に変わった所は無い

 

サクッ…

 

「誰だ…」

 

何処からか足音がする…

 

それも、リチャードの方に向かっている様子…

 

サクッ…ザッ、ザッ…

 

「な…何だ…」

 

この日、リチャードは珍しく後退りをする

 

足音だけが近付いてくるのだ

 

「とっても美味くはないぞ…」

 

リチャードがそう言った瞬間だった

 

サクッサクッサクッサクッ!

 

砂浜に足跡が出た!!

 

しかし、音と足跡のみで本体がいない!!

 

「ヤバいっ!!」

 

足を取られた!!

 

しまった!!2体いたのか!!

 

「しぇんしゃきた!!」

 

「ぼが〜!!どご〜!!いってた!!」

 

「はっ!!はぁ!!お、お前達か…!!」

 

リチャードの足を掴んでいたのは、恐らくステルスを使っていたひとみといよ

 

舌っ足らずな声、そして足に来てる重さ、十中八九そうだ

 

「いつからいたんだ??」

 

「ここじゅっといた!!」

 

「とりぁ〜!!ってしぇんしゃきた!!」

 

「その二人には適応変化機能が付いてるんだ」

 

ひとみといよを迎えに来た俺が来た

 

「ひとみ??いよ??もう切っても大丈夫だぞ??」

 

ひとみといよがステルスを切った

 

「う〜む…一本取られたな…足跡さえなかったぞ??」

 

「あちあとけす!!」

 

「こ〜あってけす!!」

 

いよはその場で足跡の消し方をやってみせた

 

ゆっくり一歩進み、足を横にスライドさせながら足跡を消し、少しずつ前に進む

 

「そういやぁ、二人は何してたんだ??」

 

「こえ!!」

 

ひとみが背中に挿していたのは金属探知機

 

「びび〜ってなう!!」

 

「随分前に作ったんだ。それ使って、親潮達が繁華街で小銭集めしてる」

 

「ちょっと貸してくれないか??」

 

「あいっ!!」

 

金属探知機を借りつつ、ひとみを肩に乗せる

 

いよは俺の肩に乗る

 

「こえおちて、おとちたら、あんかありあす!!」

 

「どれどれ…」

 

リチャードが金属探知機のスイッチを押すと、独特の音が出始めた

 

「これしながら帰ろう」

 

「あにあうかあ??」

 

「小銭あったらあげるからな!!」

 

リチャードはそのまま基地の方へと戻る

 

すると、途中で金属探知機の音が変わる

 

「おっ??」

 

「こじぇに!!」

 

落ちていたのは100円玉

 

「よっ!!ほらっ!!」

 

リチャードはそれを拾い、ひとみに渡す

 

「あいあと!!」

 

「えいしゃん、こえみて!!」

 

いよの手には、何か指輪が握られている

 

「砂浜で見付けたのか??」

 

「うん!!こえ、よこしゅかしゃんに、おとちもおですお〜ってすう!!」

 

「ありがとな??後でお小遣いあげような??」

 

「んっふっふ〜!!」

 

基地に戻って来ると、ひとみといよは二人の肩から降りた

 

「よこしゅかしゃんに、おとちもおとろけてきあす!!」

 

「こんだけでてきあした!!」

 

「「うおっ!?」」

 

いつの間にか、ひとみといよの手にはビニール袋が握られており、その中に落とし物であろう物が詰まっていた

 

「金属探知機は何処に直しておけばいいんだ??」

 

「あ〜しゃんにあたす!!」

 

「こえもおねがいちあす!!」

 

いよも背中から金属探知機を取り出し、横須賀の所に向かった

 

 

 

「後で返すとして、少しこれで遊ぼう!!」

 

「細かい金属にも反応するからな??」

 

そう言いつつ、パイロット寮の前に来た

 

「どれ、ちょっと試してやろう…」

 

「おかえりなさい!!レーゾーコにお茶があるわ!!」

 

親父はパイロット寮の前を掃いている女性の背中に金属探知機を近付けた

 

「…」

 

「リチャード??」

 

「イントレの背中から金属の反応がない…」

 

「そんなはずないだろ??貸してみろ!!」

 

俺もイントレの背中に金属探知機を近付ける

 

「おかしい…バグったのか??」

 

「さっきヒトミが肩に乗ってた時は100円玉に反応してたから、ぶっ壊れたって事はないな…」

 

「つまりイントレさんはノーブラって事か!?」

 

「いつもの事だ。ん!!次ぃ!!あだっ!!」

 

「イッテェ!!」

 

俺も親父も、イントレの手にあった箒の柄で小突かれる

 

「親子揃って人のブラジャー探知してるのね!?」

 

「ブラジャー着けてない方が悪い…ぞ…」

 

「ブラジャーどうしたん…だ…」

 

口を開くと柄を向けられる

 

「ははは…親父、どうすんだよ!!」

 

「こういう時は言う事は一つよ…」

 

「チャンスは一回よリチャード??」

 

イントレの笑顔がとっても怖い!!

 

「今日の色は何色だ!!」

 

「確かめてさせてあげるわ!!」

 

「いやーーーっ!!あーーーっ!!」

 

イントレは親父を軽々と持ち上げ、肩に担ぐ

 

「罰が重すぎると思います!!イントレさん!!ねぇ!!」

 

「昼間からするのもいいじゃない!!ねっ!?」

 

「ギャーーーッ!!」

 

無情にもパイロット寮の玄関は締められた…

 

 

 

「すみません!!そこの男性!!」

 

横須賀の所に行こうとすると、一人の女性に呼び止められ、周りを見渡しても、男は俺しかいないので反応した

 

「どうした??」

 

「あの…ここに戦車部隊が来ませんでしたか??」

 

俺を呼び止めたのは、金髪で眼鏡の女性

 

パッと見は鳥海にも似ている

 

「あぁ、さっきここに。知り合いか??」

 

「はい…心配でここまで来たのですが…」

 

「そっか…」

 

そういえば、戦車部隊の連中は報告書を見る限り男ばかり…それもザ・漢!!みたいな連中ばかりだ

 

筋肉を擬人化したような連中ばかりなので、案外モテるのかも知れない…

 

「もう…何処行ったのよあの人は…」

 

「模擬戦が終わって、発着場に行ってるんだと思うんだが…」

 

「あの…不躾ですが、発着場まで案内して頂けませんか??」

 

「行こう」

 

金髪の眼鏡の女性を連れ、発着場へと向かう

 

「貴方はここのパイロットですか??」

 

「そっ。それと案内人っ」

 

「ふふっ!!リチャードみたいな事言うのですね!!」

 

「親父の知り合いか??」

 

「息子さんですか!?これは失礼を!!自己紹介もまだでした!!私"ノーザンプトン"と申します!!え、えと…アメリカでは海軍兵学校の教官をしていまして!!」

 

眼鏡を直しながら、ノーザンプトンは慌てた口調で自己紹介を始める

 

「マーカスだ。ここのパイロットをしてる」

 

「やっぱり、血は受け継がれるのですね…」

 

「息子もパイロットだってか??」

 

「えぇ…あ、そうですマーカス!!貴方からもお願いして頂けませんか!!そろそろ船に乗れと!!」

 

「もう乗ってるみたいなモンだろ??」

 

丁度、親父が向こうから来た

 

「リチャード!!ここにいましたか!!」

 

「何度言っても俺は船には乗らん!!戦闘機のが性に合ってるんだよ〜だ!!」

 

「貴方のカリスマ性は海軍の船で活かすべきですっ!!」

 

「はいはい。あっちにいんぞ〜」

 

「いいですか!!今度申請書を送りますからね!!」

 

「着払いで送り返してやらぁ!!」

 

ノーザンプトンは発着場に入って行った

 

「あ〜もううるせぇネーチャンだ!!」

 

「知り合いか??」

 

「まぁなっ。レンジャーが海軍航空学校の教官なら、ノーザンは海軍兵学校の教官さ」

 

「海の向こうの教官は美人揃いか…」

 

ヒューストン、ノーザンプトン…

 

皆揃って美人だらけだ

 

「大尉??」

 

「うっ…」

 

ソーセージを両手に持った香取が来た

 

「今の言い方ですと、私は美人ではないと??」

 

香取も眼鏡を直しながら言う

 

「くっ…」

 

「アンタはアンタで別の意味での美人さ。小柄で??面倒見が良くて??それに、若い奴に慕われてる…十年早けりゃ、マーカスを婿に迎え入れれたかもな??」

 

「彼が十代の時に面倒を見たのですが??」

 

「…」

 

「…」

 

俺と親父の時間が止まる

 

この言い方だと、香取は俺を恋人にしてもおかしくなかったと取れる

 

「中将??その辺りはどうお考えで??」

 

「え"っ!?そ、そこはだな!?ほ、ほら!!と、当人同士でだな‼」

 

「大尉は年上の女性にモテますかは…はむっ…」

 

こう見ると童顔で可愛いんだがなぁ…

 

普段の言動と行動が怖すぎるんだよな…

 

「大尉??あまりわたひをおちょくると…はむっ…」

 

香取は俺と親父の目の前でソーセージに齧り付いた

 

そして、ソーセージを一気に噛み千切る

 

「こーなりまふ」

 

「「ひうっ!!」」

 

俺も親父も股間を抑える

 

「こ、今度ヴィンセントにデートの申請を要請しよう!!」

 

「そ、そうだな!!それが一番手っ取り早い!!」

 

「だめれふ。大尉とれふ」

 

「わ、分かった分かった!!ほ、ほら!!バー連れて行くから!!」

 

「楽ひみにっ…んっ…してますよ、大尉??」

 

俺は無言で頷くしか出来なかった…

 

香取はそのままソーセージを両手に持ったまま、教室がある棟に入って行った

 

「な、なんだ??ちょっと、可愛いな…」

 

「昔から抜けてる所あんだよ…そんな感じだから、未だに俺もアレンも慕ってる」

 

「そういやマーカスはちょっと抜けてる子が好みか??」

 

「どうだろう??抜けてる方が暇しなくて良いからかもな??」

 

言われてふと考える…

 

 

 

ジェミニはどうだ??

 

親潮に最初の教育した時、アメリカンドッグの最後のカリカリの所の食い方とか教えてたな…

 

大淀はどうだ??

 

たまに急に頭のネジ全部吹っ飛ぶな…

 

言われてみればそうなのか…

 

 

 

「マキシモ!!ここにいましたか!!」

 

「の、ノーザン!!」

 

ノーザンプトンの声がし、俺も親父も振り返る

 

「もう!!また貴方は先に行く!!」

 

「ち、違うんだノーザン!!先にノーザンの危険がないか見たんだぁ!!」

 

「ふふっ!!振り返り方一緒ね??」

 

もう一度振り返ると、両手にサイダーを持ったイクがいた

 

「はいっ、どうぞ??」

 

イクは俺達に手に持っていたサイダーを渡してくれた

 

「ありがとう!!」

 

「ありがとな??…今はどっちだ??」

 

「どっちか当てて??お父様??」

 

顔を傾けて、したり顔でこっちを見るあたりヒュプノスだ

 

「ヒュプノスはお散歩中か??」

 

「御名答っ!!発着場が騒がしくて、ちょっと様子を見に来たの。心配しなくて良かったみたいね??」

 

「新しい戦車部隊の連中さ。バカだがっ…良い奴ばかりさっ!!」

 

「見物に行こうぜ!!」

 

「行ってらっしゃい。あ、そうそうお父様」

 

「どうした??」

 

「そのサイダー、どっちか私が口を付けたわ??」

 

「よし。後で舐め回しておこうな」

 

「孫に言うか…」

 

「あら、舐め回してくれないの??」

 

「くっ…」

 

ヒュプノスと親父の目線が痛い…

 

「冗談よ!!お母様がそう言いなさいって!!じゃあ、また遊んで頂戴ね??」

 

「今度ご飯に行こうな!!」

 

ヒュプノスは別れ際にイクの笑顔を見せた

 

色気はあるが、あの笑顔を見るとまだまだ幼い

 

そろそろ本当にヒュプノスと時間を取らねばな…

 

 

 

マキシモとノーザンの所に行くと、マキシモはノーザンと話をしていた

 

「はい、ダーリン!!」

 

「おぉ!!ありがとうノーザン!!」

 

「何貰ってんだ…」

 

「袋みたいだな…」

 

ノーザンがマキシモに渡したのは何かの小袋

 

「あれだ。ヤバいブツの取引だ…」

 

「何入ってるか予想しようぜ…」

 

「親子で集まって何してるんだ??」

 

「さっき戦車がいっぱいいましたよ!!」

 

そこに隊長と涼平が来た

 

この二人の組み合わせも結構レアかも知れない…

 

「見ろ…あそこに筋肉ダルマがいるだろ…アイツの手に持っているのは何だと思ってな…」

 

俺達四人は建物の陰から様子を伺う

 

「種モミじゃないか…??」

 

「今日より明日、ですか??」

 

「よし、涼平。俺と聞きに行くぞ」

 

「了解ですっ」

 

 

 

 

「や、やぁ…」

 

「こんにちは…」

 

俺も涼平も、近寄っただけで筋肉の圧に負ける

 

何だこの筋肉は…スゲェな…

 

「むっ!!貴様はリチャードの息子では!!」

 

「そ、そうです…」

 

「こっちの坊主は…」

 

「わっ!!」

 

マキシモは涼平の体を触る

 

「ふむ…まだまだ筋肉が付きそうだ!!どうだろう!!このマキシモの部下になって筋肉を鍛えんか!!」

 

「すみません、ウチの旦那が…私はノーザンプトン。マーカスには済んでるから…後は君ね、坊や??」

 

「「奥さん!?」」

 

どう考えても釣り合わない

 

絵に書いたような美女と野獣…もとい筋肉

 

「あ…えと!!自分は横須賀所属サンダース隊の綾辻涼平ですっ!!」

 

「マーカス・スティングレイだ。医者をやってる」

 

「「リチャードの息子が医者!?」」

 

今度は二人が驚く

 

「あのっ、リチャードのかぁ!?」

 

「お嫁さんに似たのでは…」

 

「酷い言われようだぜ筋肉ダルマぁ!!」

 

「やーっと本人がきよったぁ!!」

 

親父とヴィンセントが到着し、すぐに喧嘩が始まる

 

「はんっ!!嫁さんは美人だが!!相変わらず脳味噌は筋肉で詰まってんな!!」

 

「素晴らしい事ではないかぁ!!脳味噌も筋肉!!つまり貴様より強い!!」

 

「それと!!マーカスはこの!!俺様に似たんだ!!博識で、勤勉で、何より人に手を差し伸べる!!違うか!!」

 

するとマキシモは急に考える

 

「…確かに最後のは貴様譲りかぁ」

 

「…だろ??」

 

「…うむ」

 

「お前が単純だが良い奴と言われるのはそこなんだよ、マキシモ。久々だな??」

 

「うむっ!!また貴様のケツを守ってやる!!」

 

口論はするが仲は良いみたいだ

 

「…昔、大喧嘩してからお互いに手を出さないと誓ってるのよ」

 

「…私ともそうだ」

 

「そ、そっか…」

 

「マーカス、涼平、二人は放っておこう。しばらく無理だ。ノーザン先生、我々と昼食でも」

 

「そうですね!!そうしましょう!!」

 

四人で間宮に入る…

 

二人からのマキシモの話で盛り上がる

 

マキシモの武勇伝は聞けば凄い物だった

 

数多の戦場を駆け抜け、勝利を掴んで来た

 

そして取り残された兵士に手を差し伸べ、必ず本国に返す

 

それがマキシモのやり方だ

 

手を差し伸べられた兵士の何人かは戦車部隊に鞍替えをし、未だにマキシモの部下として在籍している

 

ヴィンセント曰く"世界一ガラの悪い、世界一ピュアな戦車部隊"

 

ノーザン曰く"世界一バカで、世界一カッコいい戦車部隊"

 

「そう言えば、さっき何を渡してたんですか??」

 

涼平の言葉で、三人の視線がノーザンに向く

 

「あれはパンジーです」

 

「あぁ…そう言えば奴はガーデニングが趣味だったな??」

 

「私が彼と結婚した理由も、彼がタンクトップ1丁でお花に水やりをしていた姿を見たからなんです」

 

タンクトップ1丁と聞き、涼平が一瞬こっちを見た

 

「マーカスもタンクトップ1丁で治療してくれますよ??」

 

「隊長もタンクトップ1丁で色々します」

 

「見ましたでしょう!?あの筋肉!!清潔感が無いと言って頭部は永久脱毛!!暇があれば筋トレ!!そんな彼がジョウロを持ってガーデニングですよ!?意外過ぎて最初は別人を疑いました…」

 

「「「確かに…」」」

 

ノーザンの熱弁を聞き、三人共たじろぐ

 

「マーカスはほら、想像が出来ます。タンクトップ1丁でモルヒネを打ち、患者を安心させる言葉を吐く姿が。きっと革ジャンは誰かに被せたのでしょう」

 

「隊長がそれするのはすぐ想像出来ます…」

 

「現に私達は見てきましたからね」

 

「"アレ"がガーデニングするの想像出来ます??」

 

「「「アレ…」」」

 

言われてみれば想像出来ない…

 

頭の中でムッキムキのパンジーが咲いている花壇の前で高笑いしてるのが出て来た位想像出来ない

 

「戦車で荒らしてしまった土地を、いつかお花でいっぱいにする。そして自分がいつか廃業して、フラワーショップをするのが自分の目標と聞いて…ハートを打ち抜かれてしまって…」

 

「カッコいい…」

 

「フラワーショップか…」

 

「あの性格だ。客は付くだろうな…」

 

その数日後、マキシモの性格を知る事になる…

 

 

 

 

 

数日後の朝…

 

まだ朝霧が立ち込める中、マキシモはジョウロ片手に花壇の花に水をやる

 

「おはよございます」

 

「うむっ!!おはよう!!私はマキシモ!!君の名前は何だぁ!?」

 

「わしんとん」

 

ワシントンは早く起きたので一人で双眼鏡片手にその辺を散歩していた

 

その道中でマキシモを見かけた

 

「そうかぁ!!お花は好きかぁ??」

 

「おはなちゃ」

 

ワシントンは花壇を見る

 

花壇の花はまだ芽も出ていない

 

ワシントンはここにお花が咲く事をまだ分かっていない

 

「ふみふみだめ??」

 

「そうだなぁ…お花さんが泣いちゃうかも知れないなぁ!!」

 

「わかった」

 

「お花さんはなぁ、お水がご飯なんだぞぉ!!」

 

「おみず??」

 

「そうだぁ。やってみるかぁ??」

 

「うん」

 

マキシモに持ってもらいつつ、ワシントンはジョウロで水をやる

 

「満腹になっちゃうとおデブになって出て来なくなっちゃうんだぞぉ??」

 

「どれくらい??」

 

「土の色が変わる位だなぁ!!」

 

「ちょろちょろおみず。はよおっきくなれよ」

 

「よ~し!!朝はこの位にしてやろう!!」

 

「おはなちゃ、ごはんおわり」

 

「ワシントンちゃんもご飯かぁ??」

 

「わしんとんもごは」

 

「いっぱい食べて、いっぱい強くなるんだぞぉ!!」

 

「うん」

 

ワシントンは家族の元へと戻って行く…

 

「今の娘…いやっ!!そんな事はないっ!!」

 

「性が出るなマキシモ」

 

「ヴィンセントかぁ!!」

 

入れ替わりの様にヴィンセントが来る

 

「ヴィンセントぉ…そのだな…」

 

「…」

 

何かを隠す様に、ヴィンセントは帽子を深く被る…

 

「そうだ…お前の察してる通りだ…」

 

「やはりかぁ…」

 

「内緒にしてくれないか」

 

「ヴィンセントがロリコンだとは…」

 

「それでも良い」

 

マキシモのガーデニングの手が止まり、ヴィンセントの目を見る

 

帽子で隠れていない左目だけでマキシモを見返している

 

「まっ!!まぁあれだぁ!!人の恋路を邪魔する奴ぁロクな死に方しないからなぁ!!このマキシモ、応援させて貰うぞぉ!!」

 

「すまない…恩に着る…」

 

「うひぃ…貴様等から礼を言われると寒気がすらぁ!!邪魔するこたぁねぇから向こう行け!!」

 

「分かった。邪魔をした」

 

「いや…一つ聞かせろぉ、ヴィンセント」

 

「何だ」

 

帰ろうとしていたヴィンセントは、少しだけマキシモの方を向く

 

「やはりその…似ているから、か??」

 

「…本人だ」

 

「そ、そうだったかぁ!!よしっ!!男の約束だぁ!!墓まで持って行かぁ!!」

 

「ふ…お前に限っては世界で一番信用出来る言葉だ。ありがとう、マキシモ…」

 

「だぁ〜っ!!貴様等が礼を言うなぁ!!悪態をつけぃ!!寒気がすらぁ!!」

 

「分かった分かった…"デート"があるから、これで失礼する。待たせてるんだ」

 

「それは良くないなぁ!!とっとと行けぃ!!」

 

ヴィンセントが去り、今度はランニングしている連中が来た

 

「おはようございます!!」

 

「おはようございます!!」

 

ランニングしていたのは涼平と園崎

 

「おぉ〜!!おはよう!!朝から性が出るなぁ!!どうだぁ!!このマキシモの戦車部隊に入隊しないかぁ!!」

 

「いざマキシモさんの戦車部隊に入隊になった時の為に体力作りをしています!!」

 

「その内戦車の操縦も勉強します!!」

 

「素晴らしい心掛けだぁ!!よ〜し、行って来い!!」

 

二人は数日でマキシモの回避の仕方を覚えていた

 

頭まで筋肉で出来ているが、人の良さ故に大概の連中に声を掛けられている

 

 

 

 

人一倍仲間思いであるマキシモは、若い二人が"大規模な戦争"に参加せざるを得なくなってしまったのがどうしても許せなかった…

 

しかし、戦車ではどうする事も出来ずにいた

 

せめて出来るのは時期を待ち、向こうまで行って彼等を無事ここに送り届ける事

 

そしてその思いは二人に伝わり、ちゃんと戦車に乗って安全な場所まで帰って来た

 

 

 

 

と、ヴィンセントやリチャードは語ってくれているが、その実はどうにかしてこの若い二人を戦車部隊に引き入れるかしか考えていなかったのが事実である



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324話 怒りの矛先

323話が終わり、次のお話です

ある日、突然現れた1台の車が基地に許可無く入って来ます

中から降りて来た人物は少し事情があるようで…

※結構グロテスクなシーンがあります。ご注意下さい


「何だ⁇」 

 

ある日、ワシントンと親潮と駄菓子屋に来ていると、横須賀に見慣れない車が入って来た

 

「ちょっとここで待っててな⁇」

 

「わかった」

 

「畏まりました」

 

今日は外注の予約は無いはず

 

それに、仕入れなら何かしら横須賀に連絡が行くはずだ

 

それが無いとすれば…

 

ジープの発着場に停車したので、車のパワーウインドを軽く叩く

 

「何です⁇」

 

「ここの基地の者だ。今日は横須賀に面会の者は居ないんだが⁇」

 

「あぁ、抜き打ちですから。ちょっと邪魔です」

 

「おっと…」

 

いきなりドアを開けられたので、少し後ろに下がる

 

「行くぞ。降りろ」

 

「はいっ」

 

助手席には、まだ若そうな女性が一人乗っていた

 

「で⁇貴方は私にどの様な用事で⁇」

 

「あー…そうだな…自己紹介がまだだったな‼︎俺は…」

 

「結構。覚える気も無いので。では」

 

手を前に出され、お前の自己紹介は必要無いと言われ、そのまま発着場から出て行った

 

「なーんだいけすかねぇ‼︎ベロベロバー‼︎だ‼︎」

 

「何なんすか、あの失礼な奴」

 

「誰が停めて良いって言ったんだよ」

 

ジープの発着場に居た、整備士の二人も御立腹

 

「怪しいな…ちょっと様子を見てくる。このいけすかねぇ車、確保出来るか⁇」

 

「勿論‼︎お任せ下さい‼︎」

 

「タイヤにロックしときますよ‼︎」

 

車を二人に任せ、先程の二人の跡を付ける…

 

「どうも、ジェミニ・コレット」

 

「あら。今日は誰も面会の予定は無いはずだけど⁇」

 

先程の男は執務室に来ていた

 

「連絡を入れていませんからね。今から抜き打ちの調査をします」

 

「お断りします。何処の誰かも、自己紹介も組織も言わない奴に調査の許可はしません」

 

「“国税局”と言っても⁇」

 

「あら」

 

「横須賀‼︎」

 

「話の途中ですが⁇先程から貴方は何ですか」

 

「丁度良いわ。彼にも付き添って貰います」

 

横須賀は席を立ち上がり、同行する準備を始める

 

「…まぁ、良いでしょう」

 

「悪いけど、此方からも条件を出すわ」

 

「貴方の意見は一切通りません」

 

「なら調査はお断りするわ。さ、どっち⁇」

 

「…どうぞ」

 

国税局の男は機嫌の悪そうな顔をしつつ、横須賀の話を聞く

 

「もし、何も出なかったり、貴方がここで何らかの騒ぎを起こした場合、貴方もそれなりの責任を取って貰うわ⁇」

 

「ご心配なく」

 

「そ⁇ならいいわ⁇行きましょ」

 

「おっ…」

 

横須賀にいきなり手を引かれ、執務室を出る

 

「…なんなの、あのいけ好かない絶倫みたいな顔‼︎」

 

「…何か怪しいな」

 

「…それに、あの横にいる女の子は何⁇」

 

「…分からん。自己紹介もしない男だ」

 

「早くしてもらえますか」

 

「はいはい、こっちです〜」

 

ドアを開け、二人を案内する

 

「貴方、私より年下ですよね」

 

「まぁな…」

 

国税局の男は、ため息交じりで言った

 

「もう少し、目上の人に対しての言動を考えた方が良いかと」

 

「なっ…こんのっ‼︎」

 

「…レイっ‼︎」

 

「ごめんなさい…彼、いつもあぁなんです…」

 

男の後ろを着いて行っていた女の子が口を開いた

 

「さ、行きましょ」

 

「…ありがとな⁇」

 

女の子は小さく頷き、男の後ろを歩く

 

「これは固定資産税が…」

 

「あー、重量税ですね…」

 

「人数分の市民税も…」

 

出るわ出るわ税金の数

 

横須賀が全部「あっそう」としか返していないのが怖い…

 

「まだ回る場所がありますが…日も暮れて来たので」

 

「では、パイロット寮の一室をお使い下さい」

 

「どうも」

 

「貴方は此方に。女性のみの寮の一室がありますので」

 

「同じ部屋で結構です」

 

「お断りします。風紀に関わりますので。もし同じ部屋にするなら、それ相応の処置をしますが」

 

横須賀が無理に女の子を引っぺがした

 

「さ、行きましょ」

 

「…ありがとうございます」

 

「どうしてお礼を言うの⁇」

 

「あの…何処か個室はありますか⁇」

 

「えぇ」

 

横須賀はその女の子を連れて執務室の近くの来客用の部屋に向かう…

 

「こっちだ」

 

「言葉遣い」

 

「此方へどうぞ‼︎」

 

何様だと思いつつ、男をパイロット寮の前に連れて来た

 

「ひっ…‼︎」

 

「迅鯨⁇」

 

外で櫻井を待っていた迅鯨が、急に怯えて中に入ってしまった

 

その時、横顔で男の顔を見た

 

いや、見てしまった…

 

何かを見つけた時の恍惚の表情を一瞬見せたその横顔で、俺はパイロット寮に宿泊させるのをやめた

 

「パイロット寮は満室みたいだ、残念」

 

「いや⁇端の一室が開いている。そこでいい」

 

「隊長‼︎ただいま戻りました‼︎」

 

涼平と櫻井が哨戒から戻って来た

 

いや、戻って来てしまった…の方が近い

 

「駆け落ちした奴がこんな所に居たか」

 

「どういうつもりだ」

 

今まで一度たりとも怒った事がない櫻井が、今目の前で怒りの表情を見せている

 

察した涼平が既に臨戦態勢に入っている

 

「女の一人も守れない男が逃げた先はここか。は…御誂え向きだな⁇」

 

「なんだと。もう一回言ってみろ」

 

「あぁ何度でも言ってやる。駆け落ちして‼︎女の一人も守れない男が‼︎逃げた先はここなんだな‼︎」

 

「野郎‼︎武藤‼︎」

 

「落ち着いて‼︎櫻井さん‼︎」

 

「離せ涼平‼︎あいつだけは殺す‼︎」

 

「早く案内してもらえますか」

 

「謝れ」

 

「は⁇」

 

「何度でも言ってやる。謝れと言ってる」

 

「ごめんなさい。これで気が済みましたか⁇」

 

心にも思っていませんとでも言いたそうな謝罪を櫻井に向ける

 

「私は謝りました」

 

「隊長、良いんじゃないですか⁇パイロット寮に宿泊させて」

 

涼平のアイコンタクトが見えた

 

…何かするつもりだ

 

「分かった…」

 

武藤と呼ばれた男を連れ、パイロット寮に入ろうとした時、涼平に羽交い締めにされている櫻井に向かって武藤は呟いた

 

「ありがとう。これで迅鯨は私の元に帰る」

 

そう言って肩を二度叩き、パイロット寮に入った…

 

「涼平‼︎離せ‼︎あいつだけは‼︎あいつだけは殺す‼︎」

 

「隊長」

 

「いいぞ。ありがとな」

 

涼平が手を離し、櫻井を落ち着かせる

 

「迅鯨が危ない‼︎」

 

「涼平、迅鯨さんを頼む」

 

「了解です。櫻井さん、いざとなれば深海化してでも守ります‼︎」

 

「…涼平」

 

「なんです⁇」

 

「…すまない」

 

「何言ってるんですか‼︎友達じゃないですか‼︎では‼︎」

 

櫻井はハッとした顔をした後、俺の方を向いた

 

「話してくれるか⁇」

 

「分かりました…」

 

櫻井から全てを聞いた

 

もし、櫻井の言う通りになるのなら、深夜迅鯨は奴の部屋に行くはず…

 

いやらしい奴だ。自分からは決して行かない

 

全ては迅鯨の責任にするはずだ

 

そして、深夜…

 

「…」

 

迅鯨は武藤がいる部屋の前に来た

 

「来るのが遅い」

 

武藤はすぐに迅鯨を暗い部屋に入れ、鍵を掛けた

 

「ほ…本当に…櫻井さんの前に現れないでくれるんですね⁇」

 

「迅鯨次第だ」

 

「ひうっ…」

 

武藤は迅鯨を背後から抱き締め、うなじに鼻を当てる

 

「ずうっと待ってたよ、迅鯨…」

 

「やめて下さい…」

 

「櫻井が大事なんだろう⁇抵抗したらどうなるか」

 

「うぅ…」

 

「お前の主人は誰だ⁇迅鯨」

 

「…」

 

「はーいっ‼︎そこまででーっす‼︎」

 

嫌悪感に震える迅鯨に気付いたかの様に、いきなり電気が付き、ベッドにリチャードが座っていた

 

「迅鯨ちゃん‼︎カモン‼︎」

 

「はいっ‼︎あっ‼︎」

 

リチャードが指でこっちへ来いと合図し、迅鯨は武藤の手を振り解こうとしたが、武藤はそれを許さず、迅鯨の首元に手を回す

 

「私の妻に何か」

 

「人妻にそゆこと言う⁉︎私でも人妻はちょっと…ごめんなさぁいですね‼︎」

 

「それは奴が勝手に言っている話なだけだろう。そんなもの、すぐに揉み消せる」

 

「へーすごーい‼︎偉いねぇ君‼︎これで気は済んだか」

 

拍手の途中で、リチャードの顔が変わる

 

「その子の手を離した方が無難だぞ」

 

「書類上は私の妻だ」

 

「一応聞くけど〜、迅鯨ちゃんはどう思う⁇」

 

脅されているのか、迅鯨は荒い呼吸を吐きながら肩を震わせ、首を振らない

 

「いいか坊主」

 

リチャードが立ち上がり、ポケットに手を入れたまま近付く…

 

「何です」

 

「暴力で手に入れた愛なんざ、何の価値もねぇぞ。やめとけ。今の内だ」

 

「私は迅鯨の旦那だ‼︎」

 

「そうかい。なら、さよならだ。櫻井」

 

「武藤」

 

武藤の背後から、櫻井がチョークスリーパーを掛ける

 

「いいのか櫻井っ…軍人が一般市民に手を出してっ‼︎」

 

「今しがた櫻井は軍を辞めたが…」

 

リチャードの一言で、武藤は自分が置かれた立場が非常にまずい事に気が付く

 

「この絶倫野郎が…」

 

「さ、迅鯨ちゃんはこっち〜‼︎は〜い見ない見ない‼︎」

 

今度はリチャードが迅鯨の背後から目を隠し、出入り口に向かう

 

「あの…リチャードさん。ありがとうございました…」

 

「美人が助けを求めるのは断らない主義だ。迅鯨ちゃん。あいつと何があったか教えてくれるかい⁇」

 

「…櫻井さんには、言わないで頂けますか⁇」

 

「勿論‼︎」

 

迅鯨の目から手を離し、此方に振り向かせる

 

次に迅鯨の口から出た言葉で、リチャードは踵を返す…

 

「二度と私達に近付くな。いいな⁇」

 

「奪ったのはっ…どっちだかな‼︎」

 

櫻井がチョークスリーパーを外さないまま、武藤は反論を続ける

 

その時、リチャードが戻って来た

 

「櫻井。お前が手を下す必要はない」

 

「は、はい…」

 

この時櫻井はリチャードの何を見たのか、一瞬で腕を離した

 

「げほっ…ごほっ…暴行罪で訴え…ぎぁ‼︎」

 

武藤が喉の調子を整えている最中に、リチャードはいきなり武藤の右足に発砲

 

「痛いか」

 

「痛いに決まってるだろ‼︎何しやがぐぁ‼︎」

 

今度は右腕に発砲

 

「櫻井。迅鯨の所へ行け。私はこいつと話がある」

 

「は、はい‼︎」

 

櫻井が行ったのをドアが閉まる音で確認し、リチャードの目線は床でのたうち回る武藤に行く

 

途轍もなく冷たく、そして残酷な目をしたリチャード

 

先程櫻井はこの目のリチャードを見て、体が言う事を聞かなくなっていた

 

武藤の頭の上で無言で、そして武藤を一点で見つめながら、手元のピストルに弾を込める

 

「こんな事して…分かってあぎゃ‼︎」

 

今度は左腕に弾が当たる

 

「お前のした事は分かっているのか」

 

「知らん…」

 

「そうか」

 

今度は武藤を見る事も無く、窓の外を見ながら左足を撃ち抜く

 

「今度は何処に当たるか分からん。腹か、それとも心臓か」

 

「話せば、いいんだろ…」

 

「いいや、話さなくて結構。心からの反省の言葉が聞きたいんだよ、小僧」

 

「はっ。死んでも断る。この人殺しが…」

 

「褒めてもお前にはそれなりの責任を負って貰う」

 

リチャードにとって“人殺し”との言葉は褒め言葉でしかない

 

今、彼の足元でのたうち回っている男を殺そうが、どうとも思っていない

 

「失血死まで小一時間あるな。しかし、何故か両手両足は動けない。絶好の尋問の機会な訳だ」

 

「殺してみろ…それでも迅鯨は私の妻だ‼︎」

 

「いいだろう。言い分があるなら聞いてやる。さ、どうぞ」

 

リチャードはベッドの縁に腰掛け、煙草に火を点ける

 

武藤は話し始める…

 

櫻井が迅鯨と付き合っていた、昔の話だ

 

武藤はずっと迅鯨を好いていたが、迅鯨に振り向かれる事がなかった

 

そして二人の縁談の話が来る少し前、武藤は親の権力を使い、迅鯨の両親を強請った

 

二人の縁談は破談になった

 

それでも迅鯨と櫻井は愛し合い、共に逃げる事を選んだ

 

再び迅鯨の両親に強請りを掛け、遠く離れた場所で暮らしていた迅鯨を地元に連れ帰る

 

迅鯨はそこで、自分で書いた覚えのない婚姻届を提出させられていた事に気付いた

 

本来ならば許されるはずのない行為だが、この武藤と言う男の親は、その土地の権力者の様で、これが許された

 

しかし、迅鯨は武藤に体を一切許す事無く、二年の月日が経ったある日、迅鯨は地元から痕跡を消した

 

櫻井の居場所をようやく見付け、文無し、身包み一つでここまで来た

 

その時、その言葉とボロボロの迅鯨を見て匿い、基地の外に一時的に安心出来る場所を提供したのが、今武藤に銃口を向けているリチャードだった

 

何故ここに迅鯨が来たか…

 

基地で櫻井が迅鯨の写真を見ていたのに気付き、迅鯨を探し出して櫻井の居場所を密告したのがリチャードだ

 

「一つだけ、肩を持ってやる。確かに迅鯨は可愛い。初めて見た時、若い頃を思い出した」

 

「人の嫁に手を出さないんじゃないのか…」

 

「どうだか。迅鯨はまだ未婚だ」

 

「…見逃してくれ」

 

ここに来て、ようやく命乞いを始める

 

「なら小僧。はっきり嘘偽りなく言うんだ。迅鯨に固執する理由はなんだ」

 

「体だよ‼︎見りゃ分かるだろ‼︎」

 

「そうか。地獄でペルセポネに同じ事言うんだな」

 

乾いた銃声が一発響く

 

「終わりましたか〜⁇」

 

「おー‼︎終わったぞ‼︎失血死まで半時間はある‼︎麻酔打ったから運ぶぞ‼︎」

 

涼平に言われて来ていたので、ドアの前に来た瞬間に銃声が聞こえた

 

パッと見ただけでも分かるな

 

両足アキレス腱断裂、両腕の腱もやられてる

 

これじゃあ両腕両足動かんな…

 

こんな奴、治したくないんだがな…

 

一時間後…

 

「終わり‼︎終了‼︎エンド‼︎」

 

「中将、涼平。ありがとうございます…」

 

「気にしない気にしない‼︎ご飯食ったか⁉︎」

 

「そうですよ‼︎何か食べましょう‼︎」

 

「ここまでして貰ってなんですが…今日は迅鯨の傍にいてやりたいんです」

 

「そう言ってくれて良かったです‼︎」

 

「じゃなきゃ櫻井をパーン‼︎してたかもな‼︎ははは‼︎はばっ‼︎」

 

リチャードがパーン‼︎と言ったと同時に、雑誌を丸めてリチャードの頭にパーン‼︎したイントレピッドがいた

 

「どこ行ってたのよ晩御飯の連絡も無しに‼︎出掛ける時は言いなさいって言ったでしょ‼︎」

 

「いやあの〜ずっと寮にですね〜…」

 

「明け方までいなかったじゃない‼︎さ‼︎オシオキよ‼︎」

 

「ヤダー‼︎罰が重いーっ‼︎あーっ‼︎涼平‼︎助けあーっ‼︎」

 

リチャードはイントレピッドの部屋に連れて行かれた

 

「自分、お腹空いたので流石に何か口に入れて来ますね⁇」

 

「今度、必ずお礼をする。ありがとう、護ってくれて」

 

涼平は駆け足で櫻井の方を向き、笑顔を見せて手を挙げ、間宮の方に走って行った…

 

「目覚めは最悪か」

 

「お前は…」

 

嫌々カプセルで治療し、工廠の隅に仕切りを作り、そこに椅子に縛り上げた

 

「離せ‼︎」

 

「それを決めるのは俺じゃない」

 

俺の後ろに立っていた女性が姿を見せる

 

「大鯨…」

 

「自分の口から言うんだな。そうすれば、俺は許すよ」

 

「た、大鯨を売った‼︎娘も‼︎あいつが妬ましかった‼︎」

 

この男、迅鯨が振り向かないとなり、その向こう側で大鯨と仲睦まじく夫婦生活を送る櫻井を妬み、大鯨と松輪を研究機関に売っていた

 

「櫻井がどれ程…」

 

「櫻井さんがどれ程苦労されたか知っていますか」

 

大鯨が話し出す

 

「貴方に全てを奪われ、ようやく辿り着いたこの場所も奪われようとしている。分かりますか」

 

いつもイタズラ好きで、櫻井に婿殿‼︎と言っている印象しかない大鯨を、これ程冷たく睨ませる

 

「資本主義の社会だ‼︎金と権力が物を言うんだ‼︎」

 

「では…私達夫婦が全て悪いのですね…お金も大して無い、土地も無い、権力も無い…それでも仲睦まじく夫婦生活を送っていた櫻井さんと私大鯨が、全て悪いのですね」

 

「そうだ。金の無い奴に物言う権利は無い‼︎外せ、今なら許してやる‼︎」

 

「見なかった事にする」

 

大鯨は大きく頷き、手に出刃包丁を構えた

 

「最後に言っとく。見た奴が懐に仕舞えば、罪は罪で無くなる」

 

「待て‼︎待ってくれ‼︎ま、マーカスさん‼︎」

 

「死ね‼︎死んで詫びろ‼︎この‼︎この‼︎消えろ‼︎消えろ消えろ消えろ‼︎」

 

武藤が叫ぶ間も無く、大鯨が出刃包丁を振りかざし、叫ぶ

 

音で分かる…

 

何度も何度も執拗に刺し、抉る

 

女の恨みは怖いと言うが…これは仕方ないな…

 

「あちゃー‼︎もう終わったか‼︎」

 

遅れて親父が来た

 

「今真っ最中だ」

 

「どれどれ…」

 

涼しい顔して親父は中に入る

 

「オーケーオーケー…大鯨ちゃん…オーケー…」

 

「ハァッ‼︎ハァッ‼︎ハァッ‼︎」

 

大鯨の背後から出刃包丁を持った右腕を掴み、グッと抑える

 

荒い呼吸をしながらも、一旦は落ち着きを見せる大鯨

 

「貸してご覧⁇」

 

大鯨は無言で親父に出刃包丁を渡す

 

「たす、けて…」

 

「まだ生きてるね、大鯨ちゃん」

 

「こんな奴‼︎消えてしまえばいいんです‼︎」

 

「ダメだよ大鯨ちゃん。美人がそんな事言っちゃあ」

 

「…」

 

「美人にそんな事を言わす男は…ハ級のエサにしちまおう」

 

一瞬優しかった親父の顔が、冷たいものへと変わる…

 

「マーカス、お前も来い‼︎」

 

「なんだ⁇」

 

「いいか⁇人を苦しませて殺すにはな…ここを、ゆっくり刺すんだっ…」

 

親父は左胸にゆっくりと出刃包丁を刺す

 

「おーら痛いか坊主‼︎お前の罪は地獄でも消えんぞ耐えろ‼︎」

 

既に虫の息だが、ここまで生きているのも敵ながら天晴れだ

 

「これでっ…終わりだっ‼︎」

 

最後にグッ…と刺し込み、一瞬暴れた後、動かなくなった

 

「あの、私…」

 

「刺してない。私がやった。分かったな」

 

「ありがとうございますっ…」

 

「決まりましたリチャード選手‼︎渾身の俳句です‼︎」

 

「…」

 

終わっても大鯨の目は、これ以上にないくらい怒りに満ちた目をしている

 

「大鯨ちゃん。良い事を教えてやろう」

 

「何でしょう」

 

「悪い奴は中々死なせてくれない。これは私達パイロットでも同じだ、何故か知ってるか??」

 

「いえ…」

 

「死神は男とは限らん。優しい男なら、死神からもモテて早めにその手に落ちる」

 

「コイツが優しいとでも」

 

怒りの目が親父に向けられる

 

普段の大鯨では考えられない、怒り、そして殺意に満ちた目だ

 

「だがな、死神でさえ見捨てる悪い奴がいる。死神の手中に納めたくない無いからじゃない、関わりたくないからだ」

 

大鯨はチラッと俺を見る

 

俺は大鯨に首を傾げ、軽く笑みを送る

 

「俺は死神じゃない」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

「そんな死神でさえ見捨てた奴は誰が裁く??ま…知らなくてもいいのかも知れないな…」

 

「必ず誰かが鉄槌を下す、それだけさっ」

 

「これからの人生に幸あれ…」

 

「俺達からの遅めの婚約祝いだ…」

 

「ありがとう…ございますっ…」

 

殺されて祝われたこの男…

 

相当な悪人だったんだな…

 

大鯨の肩に手を置き、処理に入る…

 

 

 

 

「さてと…」

 

"事故"の処理も終わり、寮に戻るとお付きの女性がホールにいた

 

周りには親父やヴィンセントを含めた高官がいる

 

「本当にありがとうございます…どうかここで働かせて下さい…」

 

「まだ貴方を信じた訳じゃないの、ごめんなさいね」

 

ジェミニの言う事もごもっともだ

 

幾ら怯えていたとは言え、あの男が連れて来た女だ

 

何かあってもおかしくはない

 

「この基地に知り合いはいるか??」

 

「櫻井さんがいます!!姉の旦那さんです!!」

 

「櫻井を呼んでくれ」

 

「今日だけは許さん」

 

「…お前が言うなら分かった。元帥、マーカスは確か自白の手段を持っていたはずです」

 

「レイ、丁度良かったわ」

 

「ん」

 

"(`・ω・´)ゞ"

 

言われると思って、前もってボーちゃんを連れて来た

 

「行き場所が無いなら、とりあえずこの子抱っこしてみなさい」

 

「はいっ」

 

女性はボーちゃんを胸の下で抱く

 

《話しても大丈夫??》

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

《めっちゃ幸せかも!!》

 

「可愛いでちね〜、よしよし!!」

 

"(。>﹏<。)"

 

「じゃ、頭の上にそれ乗せて頂戴」

 

「こうですか??」

 

「自己紹介して頂戴」

 

《私は長鯨!!迅鯨の妹です!!》

 

「おぉ!!凄い!!」

 

長鯨は驚いているが、ジェミニは淡々と聞く

 

「どうしてあの男の横にいたの??」

 

《姉さんの行方が分からなくなって…大鯨さんもいなくなって…それで、櫻井さんまで…みんなを探そうと思っていた時に彼がコンタクトを取って来たんです》

 

「どうやって??」

 

《皆に会いたかったら、俺に従えと。それで半ば秘書の様な形で動く事になりました》

 

「そう…手を出されたりとかは??」

 

《私に興味が無い様子でした。とにかく迅鯨姉さんの事ばかりで…》

 

「分かったわ。ボーちゃん、ありがと。イントレさん、ジュースとお菓子あります!?」

 

「あるわよ!!出してあげるわ、待ってて!!」

 

《ありがとうジェミニさん!!》

 

「ちょっと待ちなさい。ここにお小遣い入れといてあげるわ」

 

ジェミニはボーちゃんの入れ物スペースに小銭を数枚入れる

 

《まつわちゃんと駄菓子屋行くんだ!!》

 

「そっかそっか!!はいっ、入れたわ!!」

 

《ありがとう!!》

 

お小遣いを貰い、ボーちゃんはお菓子にありつき、ジェミニは長鯨に視線を戻す

 

「良かったわね。ここにはそんな奴いないわ??」

 

「本当にありがとうございます…あの、姉さんと大鯨さんは…」

 

「迅鯨は今日はそっとしてあげて頂戴。大鯨は…」

 

「ここにいます。皆様、本当にご迷惑をお掛けしました…」

 

長鯨と共に大鯨は深々と頭を下げる…

 

「この借りは必ずや恩義で報います…」

 

「頭上げなさい。さてっ、忙しくなるわよ!!長鯨、アンタした事あったり、何かしてみたい事はない??」

 

「えっとえっと…一応料理の屋台とケータリングサービスの経験があります!!したい事は…」

 

「いいわ。とりあえず屋台で雇ったげる。涼平!!」

 

「はーい!!すぐ行きますぅ!!」

 

涼平が2階から降りて来た

 

「屋台の設計図ってあるかしら??」

 

「ちょっと聞こえてたのでここに!!」

 

涼平は机の上に設計図を広げる

 

完成したイラストを含めて相変わらず見やすい…

 

「作れる??」

 

「はいっ。何を作るかにもよりますが…こっちにプランがあります」

 

「この…赤チョーチンってのは、なんだ??」

 

「屋台は基本軽食と聞いたが、提灯を売るのか??」

 

親父とヴィンセントが赤提灯に興味を持つ

 

「これは軽くお酒を飲む所になります」

 

「よし長鯨ちゃん。これにしよう」

 

「いいか??ドック付近に建てるんだぞ??」

 

高官二人のせいで勝手に決まりそうになっている…

 

「待ってくれ!!鳳翔が商売上がったりになる!!」

 

「そいつは良くない…」

 

「あの女将は勿体無いな…」

 

「何作ってたの??」

 

「おでん作っていました!!他はお酒のおつまみを作るのが得意です!!」

 

「じゃおでんにしましょう」

 

「おでんで進めますね!!」

 

「待て涼平!!おでんの屋台ってのは…お酒は出るのか??」

 

「ホントそこだぞ」

 

「えっとですね…確かここに…日本酒とビール、後はチューハイ専用の冷蔵庫が付きます!!」

 

「よし進めるんだ」

 

「刺身と一品物は鳳翔で食おう、そうしよう」

 

満足したのか、親父とヴィンセントは二人で部屋に戻って行った…

 

「完成したら一度見せるわ。そしたら、そこでおでん作ってみて頂戴」

 

「はいっ!!ありがとうございます!!」

 

「さてっ。涼平、足りない物があったら遠慮は要らないわ。明日からお願い出来る??」

 

「了解です、元帥!!」

 

「俺は休みますかね…明日、朝一番に工廠に来てくれ。一度診察する」

 

「お医者さんなんですか!?」

 

「彼はマーカス大尉です。迅鯨もお世話になっているこの基地のお医者様です」

 

「これは失礼しました!!」

 

「よろしくな」

 

大鯨の紹介もあり、一波乱あった夜はようやく終わる…




長鯨…おでん鯨

田舎の悪い風習でとんでもない目に遭ってた迅鯨の妹

本職はおでんを作ってその辺で売っていた

ひとみといよがお気に入りだが、当の二人からはおちょくられている

鯨の一族よろしくとても大きな物を持っている。すごいね


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325話 心のカケラ

今回のお話は次話含め、2話構成になっています

今回はその前編となります

眠れない夜、ジェミニの部屋にマーカスが訪問します

夜のデートのお誘いをされ、二人は少しだけ空に向かいます



ある夏の夜…

 

「暑っついわね…」

 

暑くて寝れず、時刻も深夜になろうとしていた時、部屋のドアが開く

 

「ジェミニ、起きてるか??」

 

来たのはレイ

 

この寝室を開けられるのは、限られた人物しか無理だ

 

レイは普通に開けられる

 

「起きてるわよ…どうしたの??」

 

「水戦の発着場で待ってる」

 

「何よ…」

 

レイはそのまま部屋から出て行ってしまった

 

仕方無く準備をし、言われた通り水戦の発着場に足を運ぶ…

 

 

 

「外のが涼しいわね??」

 

「行くぞ」

 

「あっ…ちょっと…」

 

レイは強風に乗り、エンジンを入れる

 

私が後部座席に乗ると、しばらく海上を走った後に離水する…

 

「ね、どこ行くの??」

 

「内緒だ」

 

レイはずっと前だけを見ている

 

まるで逃避行だ…

 

逃避行…

 

「…大淀とした事、悪く思ってるの??」

 

「そうだな…」

 

「気にしてないわ。ね、そんなに私とデートしたかった??」

 

「…じゃなきゃ、お前を深夜に連れ出してない」

 

レイは右手で後頭部を掻く

 

なんとなくだけど、レイは照れている気もする

 

「着水するからな」

 

「分かったわ」

 

強風が着水し、レイが先に降りる

 

「よし、良いぞ」

 

「よいしょっ…」

 

レイの手を握り、強風から降りる

 

「手、繋いだままでいるから…しばらく目閉じててくれ」

 

「分かったわ…」

 

私は目を閉じて、手を引いてくれるレイに着いて行く

 

時間にして数分程した時、潮騒の音が近くに感じられた

 

「良いぞ」

 

レイに言われて目を開ける…

 

「わぁ…綺麗!!何これ!!」

 

 

 

海が青く光っている!!

 

波も、海の中も、そして砂浜も…

 

なんて綺麗な場所なんだろう…

 

 

 

「ひとみといよが見つけてくれてな。ずっと来たかったんだが、タイミングと休みが合わなかったんだ」

 

「見て!!貝も光ってるわ!!」

 

「聞いちゃいねぇ…」

 

私は既に波打ち際で足を海水に浸けている

 

「アンタも来なさいよ!!」

 

「分かったよ…」

 

レイも波打ち際に来た

 

「お魚も光ってんのかしら??」

 

「…知らなかったよ」

 

「何が??」

 

「世界には、まだこんな綺麗な場所があったなんて…」

 

「そうね…」

 

レイはずっと、革ジャンのポケットに手を入れて海の向こうを見ている

 

「あっちに"明かり"があるわね??」

 

「好きなんだ、あれ」

 

「どうして??」

 

「人が生きてる証拠だ。あそこには人生がある。今日も誰か知らない奴の人生が、家族が、あの灯の下にはある」

 

そこで思い出す

 

レイはずっと"普通の人生"を望んでいる

 

戦いのない空

 

静かで美しい海

 

誰も泣かない陸

 

今もずっと、それが叶うと思って戦っている

 

レイは今日も明日もこれからも、あの"灯の一つ"になりたがっている…

 

今、レイが見せている優しくて悲しそうな顔が全てを物語っている…

 

「戦争が終わったら、よ??」

 

「うん??」

 

「アタシ、お金出すから、アンタお医者さんする??」

 

「ここは本音を吐くべきか??」

 

「えぇ…アタシしか聞いてないわ…」

 

レイは本音を話した…

 

全てを言った後、私は何も言わずに…

 

いつも彼にそうさせてるのと同じ様に、彼の口を塞いだ…

 

「ありがと…話してくれて…」

 

「すまん…ここまで来て、また背負わせた」

 

「いいの…私達夫婦でしょ!!もっとコミュニケーション取らないとね!!」

 

レイは小さく何度も頷く

 

その目にまた、覇気が戻る…

 

 

 

 

「しっかし綺麗なとこね!!何か綺麗な石でもないかしら!!」

 

ジェミニが屈んで石を探し始める

 

誰もいない無人島の、青く光る砂浜

 

何もかも打ち明けてしまいたくなった…

 

今まで吐く事の無かった胸の秘事を、今吐いた…

 

「…なんだ、これ」

 

青く光る波が、足元の砂を連れて行く

 

砂の中から出て来たのは、見た事のない青く光る石

 

嫌な予感がして、すぐにその場から離れる

 

「大丈夫よ。放射能の類じゃないわ??」

 

「何で分かる!!」

 

「アタシの腕時計、改良したのよ。測定器入ってんの」

 

「そ、そっか…」

 

ジェミニにそう言われ、その石を手に取る

 

「アタシも見つけたのよ。何かしらね、コレ」

 

ジェミニの手にも、同じ楕円形の小さな石がある

 

ただ、俺の拾ったのは青色、ジェミニの拾ったのは赤色だ

 

「持って帰って検査して、大丈夫なら宝物にするわ!!」

 

「しっかし綺麗だな…」

 

俺の拾った石は、今の海の色と同じ色をしている

 

まるで、今この風景を切り取ったかの様だ…

 

「あら…もう朝ね??」

 

薄っすらと、朝日が水平線の向こうから上がって来る

 

「帰ろう。また連れて来てやるよ」

 

ジェミニはポケットに石を入れ、俺の手を握った…

 

 

 

 

横須賀に着くと、まばらに人が動き始めていた

 

また、いつもの日々へと戻って行く…

 

「今度はアタシがエスコートするわ??」

 

「楽しみにしてるよっ!!よいしょっ!!さてっ、俺は一休みしますかね!!」

 

「…ありがとっ」

 

レイはいつもの様に笑った後、工廠に入って行った…

 

さてっ!!アタシも少し休んで、書類とにらめっこでもしましょうか!!

 

 

 

 

「おはよーレイ君!!」

 

「おはよう。なぁ大淀、これ、何だと思う??」

 

工廠に来た大淀に、無人島で拾った石を見せる

 

今は光っていないが、変わらず透き通った青をしている

 

「レイ君…」

 

大淀は驚いた顔で俺の持っている石をまじまじと見る

 

「これが何かって聞いたね??」

 

「何かの宝石か??」

 

「これは深海の子…それも姫級の子が極々稀に持ってる石だよ。凄く強い子でも持ってる子は少ないよ…どこで手に入れたんだい??」

 

「無人島の砂浜に埋まってたんだ。最初はこの色だから放射能を疑ったんだが…そうじゃなかった」

 

「大淀さんも存在しか聞いた事がないんだ…あるかも分かんなかったからね…深海の子達でも、知ってる方が少ないんじゃないかな…」

 

「どこで知ったんだ??」

 

「直接聞いたんだ。深海の子達の中でもおとぎ話みたいなのないかい??って。そしたら、この石の話をしてたんだ」

 

「何か効果とかあるのか??」

 

「何か凄いパワーアップするらしいよ??現に大淀さん、胸だけ深海になってるもん」

 

見せ付けて来たので、大淀の胸に目をやる

 

確かにいつもと比べるとかなり大きくなっている

 

「何かに使えるといいんだが…」

 

「も少し研究した方がいいね…」

 

少しだけ分かったのは、深海の血に反応する事

 

大淀はバストアップ

 

俺は今気付いたが、胸の内をさらけ出した

 

これが何かに繋がるのだろうか…

 

「マーカスさん!!」

 

「おぉ、電か!!定期健診だったな??そこに座って待っててくれ!!」

 

電が来たので、ポケットに石を隠し、診察を始める

 

「あー…だ」

 

「あ〜…」

 

「お前にはまだチャリンコ買ってやれてねぇな…」

 

「いふらってひ〜のれす…」

 

舌鉗子を置き、触診に入る

 

「嵐の日、迎えに来てくれてありがとうな??」

 

「今日はやたら言うのです。何かあったのです??」

 

「ふ…色々とな??」

 

何故か今日は本音がスラスラ出て来る…

 

やはり、この石のせいか??

 

「よし、体も健康体だ!!行って来い!!」

 

「何かあったら言って欲しいのです」

 

「大丈夫さっ。ちょっと思い出してな、お礼言ってないって」

 

「今日はお休みなのです。遊んでくるのです!!」

 

「ん!!行っといで!!」

 

電が工廠から出て行き、またポケットから石を出す

 

「本音を言える奴なのか…これ…」

 

なら、大淀の胸が大きくなったのはなんなんだ…

 

良く分からん…

 

とりあえず、腹ごしらえでもしよう

 

またポケットに石を入れ、繁華街に向かう…

 

 

 

「あ!!坊っちゃん!!」

 

パースピザの前まで来ると、パースが表で食パンを切っていた

 

「パースお姉ちゃん。これは??」

 

「サンドウィッチを作るパース!!」

 

「幾らだ??」

 

「お金なんて要らないパース!!はいっ!!」

 

パースにタマゴサンドとハムサンドを貰う

 

「ありがとう。パースお姉ちゃん!!」

 

「んふふ!!美味しいパース!!」

 

「おはようございます、お医者さん!!」

 

ヴィクトリアスがバスケットにパンを入れて奥から出て来た

 

相変わらず美味そうな匂いがする…

 

「ヴィクトリアスは良い匂いするな…」

 

「そっ!?そうですかっ!?恥ずかしいですよもう!!」

 

「どわっ!!」

 

本音を語った俺を、照れたヴィクトリアスが軽く突き飛ばす!!

 

「マズい!!」

 

ドガァン!!と音を立て、向かいにあったずいずいずっころばしにそのまま入店した!!

 

「あいたたた…甘エビ2つ…」

 

「ダイナミック入店されると反応に困るんですけど!?」

 

「アマエビフタツ、カシコマリマシタ」

 

お寿司握りロボとお寿司を握っていた瑞鶴が、カウンターから乗り出し気味に話し掛けて来た

 

「ごめんなさいお医者さん!!まだその…力加減が余り分かっていなくて…」

 

すぐにヴィクトリアスが寄って来て、俺の体を起こしてくれた

 

「はは…良いんだっ!!パワータイプの美人はっ、慣れてるっ!!」

 

「そう言えば、さっきウェンディの事をお姉ちゃんと…」

 

「そんな事言ってたか!?」

 

ヴィクトリアスの言うウェンディとはパースの事

 

パースは母さんに拾われた時に"ウェンディ"との名前を貰ったらしい

 

ヴィクトリアスはその事を知っている

 

「こっちまで聞こえてたわよ??あっ!!そーかそーか!!マーカスさん、胸おっきい人好きだもんね??」

 

「貧乳に興味はねぇ!!」

 

これはいつも言ってる本音だ。石のせいじゃない

 

瑞鶴もその事を周知の上で煽って来る

 

「あれ??リチャードじゃない??」

 

「何話してんだ??」

 

親父が表で母さんと話している

 

何を言っているか分からないが、母さんは笑顔で親父を投げ飛ばした!!

 

「うぐぁぁぁあ!!」

 

本日二度目のダイナミック入店が、ずいずいずっころばしに放たれる

 

「あいたたた…へへっ、ネギトロ2つ…」

 

「「一緒…」」

 

「ソーリーズィーカク…ついカッとなって…」

 

「問題ないです!!はいっ!!」

 

「マーカス!!丁度いいわ、オスシ食べましょう!!」

 

「そ、そうだなっ!!」

 

親子で座る席は案外初めてかも知れない…

 

流れて来たマグロを食べながら、相変わらず口周りにシャリを付ける母さんを見る…

 

「今日も可愛いな、スパイト」

 

「えっ…そ、そんな…恥ずかしいわ…んふふ!!」

 

「マーカス…お前なんか辛い事あったか??」

 

「えっ!?無いさ!!」

 

しまった…あの石をポケットに入れたままだった…

 

「その…話、聞くぞ??自分の母親口説いてどうする…」

 

「じゃあ聞いてくれ。これなんだがな…」

 

机の上にあの石を置く

 

「クソデカサファイアがどうした??」

 

「コイツの影響で、俺は今本音しか言えない状態になってる」

 

「ほ〜ん!?なら今マーカスに色々聞くと本心が聞けるって訳だ!!お前の一番愛してる女は誰だ!!」

 

「おぉ…ジェミニさ。初恋の相手なんだ」

 

「この世界で一番愛してるのはだぁれ??」

 

「ジェミニだ」

 

「心底惚れてんだな…」

 

「…」

 

母さんは黙っている

 

自分の名前が出なかったから怒っているのだろうな…

 

本心が露わになっていたとしても、母さんの本当の名前は言えずにいた

 

「リチャード。買い物に付き合って下さらない??」

 

「勿論だとも!!マーカス、また飯食おうな!!」

 

「分かった!!勘定はしておくよ!!」

 

とは言ったものの、親父が済ませて出て行った

 

さて、困ったもんだ…

 

一旦工廠に置きに行くか…

 

「ありがとうございました〜!!大尉、また来てね!!」

 

「ごちそうさん!!」

 

ずいずいずっころばしを出て、工廠へと戻る…

 

今日は工廠で大人しくしていよう、そうしよう

 

 

 

 

「このケースにしまっておこう、そうしよう…」

 

こいつは危険だ。俺の心を全部露わにしてしまう…

 

頑丈なケースにしまい、倉庫に置く

 

「…」

 

しまおうとした時、ふと、ある少女を思い出す…

 

あぁ…こんな事も思い出すのか…

 

だが本心を吐けるとは言え、頭が押し殺してしまう…

 

「参ったな…」

 

忘れちゃいない、忘れる訳が無い…

 

せめて、ジェミニには話しても良いだろうか…

 

ジェミニはこの事を知っている

 

話してしまいたい…

 

そう思った時、内線に手が伸びていた

 

「俺だ…」

 

《なぁに??どうかした??》

 

「ちょっと話を聞いて欲しいんだ…」

 

《すぐそっち行くわ、待ってて》

 

数分もしない内にジェミニは来てくれた

 

「どうしたの??」

 

「…」

 

「…おいでっ」

 

椅子に座った直後、俺の様子がおかしい事に気付いたジェミニは、すぐに腕を広げた

 

何の躊躇いも無く、ジェミニに溺れる…

 

「やな事思い出したのね…」

 

「あの少女の事を思い出した…」

 

「そっかっ…ごめんなさい、私が箝口令なんか言っちゃったから…」

 

「…」

 

「大丈夫っ…大丈夫よ…」

 

まるで子供をあやすかの様に、頭を撫でられる…

 

そうされると、スッと心が軽くなる…

 

「アンタ言ってるでしょ??女で負った傷は、女でしか癒せないって…」

 

「…」

 

「ど??落ち着いた??」

 

「ありふぁとう…」

 

ジェミニに溺れたまま、返事をする

 

「ん…良い子…」

 

「よしっ、ありがとう。大分楽になった!!」

 

「なら良かったわ!!」

 

ジェミニから離れ、冷蔵庫からアイスコーヒーのボトルを取り出し、そのまま飲もうとした

 

「アタシも飲みたいわ、淹れて頂戴!!」

 

口を付けるのを止め、紙コップにアイスコーヒーを注ぐ

 

「ほらよっ」

 

「ありがとっ」

 

そしてしばらく、ジェミニと話す

 

なんて事はない、ちょっとした昔話だ

 

初めてデートをした日とか、初めて一緒に食事をした日とか…

 

楽しい時間を過ごせた

 

あぁ、この女に惚れて良かった…

 

心底そう思えた…

 

「アタシ、執務室に戻るわ??何かあったら、今日みたいに言うのよ??」

 

「今度からそうするよ、ありがとな??」

 

「分かってくれたらいいわ!!んふふっ!!」

 

「…ジェミニ」

 

「ん??なぁに??」

 

「か、可愛い、ぞ…」

 

「そ、そう??ありがとっ…」

 

ジェミニは何度か前髪を直して、工廠を出た

 

外は既に夕方…

 

俺もそろそろ基地に帰ろう…

 

「マーカス!!」

 

タイミングよく母さんが来た

 

「一緒に帰りましょう!!」

 

「帰ろう!!」

 

母さんと一緒にグリフォンで基地へと戻る

 

その機内で、母さんは口を開く…

 

「その…マーカス。オスシの時ね??」

 

「母さんの名前を言おうとしたんだが…流石に止まったよ…」

 

「違うのマーカス」

 

母さんが無言になっていたのは、自分の名前が上がらなかったからでは無かった

 

「あのね…あの時、マーカスはリチャードに返事をしたんじゃないと思ってるの…」

 

「…」

 

「違ったらごめんなさい…」

 

「いいや、合ってる」

 

「そう…これ以上は聞かないわ??」

 

「その女性で出来た傷を癒やしてくれたのがジェミニなんだ」

 

「そうなの??」

 

「そっ…ただ、その女性は何も悪くない。時代が悪過ぎただけさっ…」

 

「マーカス。ごめんなさい…もうやめましょう…私、ずっとしまっておくわ…」

 

「ありがとう…」

 

母さんと俺との秘密がまた一つ増え、1日が終わる…



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326話 人魚姫

題名は変わりますが、前回のお話から続き、後編になります

ある日、マーカスは第三居住区に向かいます

呼んだのは空母棲姫であり、涼平の想い人であるシュリさん

彼女の手には何かが握られていました



かなり重たいお話になります


「ア、オイシャサン!!」

 

「よっ」

 

その日、珍しくシュリさんに呼ばれて第三居住区に来ていた

 

「オイシャサン。コレ」

 

シュリさんから渡されたのは1枚のレコード、それに黄色い宝石の様な物

 

「レコード??」

 

「アト、メッセージ」

 

手渡された手紙を開ける…

 

そこにはたった一文、それと座標だけ…

 

 

 

"おさんぽ"

 

 

 

と記されたそれと、座標を見て気付く

 

「これは横須賀の座標だ…」

 

「レコードキイテミヨウヨ」

 

「そうだな…」

 

とは言え、レコードの再生機をこのご時世探すのは難しい…

 

「珍しい物持ってるな??」

 

たまたま来たのは横井

 

「横井、レコードの再生機なんて無いよな??」

 

「あぁ、あるぞ。来てくれ」

 

横井に案内された先はみんなが集まっている繁華街の中心にある広場

 

「ア、ヨコイサン!!」

 

「ポップコーンをくれるか??」

 

「ハイ!!」

 

ロ級の子がポップコーンを売っている…

 

口でレバーを回すと、どんどんポップコーンが生成されて行く…

 

「先に売り上げに貢献しておこうと思ってな…」

 

「良い考えだな」

 

「ハイ!!ドウゾ!!」

 

「ありがとう。すまんが、その再生機貸してくれないか??」

 

「ウン!!イイヨ!!」

 

ポップコーン生成機の横には、客寄せの為の音楽が流れるレコード再生機がある

 

ロ級は口で器用に今乗っているレコードを取る

 

「どうぞっ」

 

「すまん、ありがとう」

 

そこにシュリさんから預かったレコードを乗せ、針を置く…

 

「昔のアイドルの歌だな…ファースト・ラブか…」

 

「懐かしいな…」

 

「リョーチャンガキイテタ!!」

 

二人してすぐに誰の歌か分かる

 

一世を風靡した時のアイドルの歌だ

 

今でさえその名は語り継がれている伝説のアイドルのその歌は、何処か悲しい歌詞が書かれている

 

曲が終わり、シュリさんに問う

 

「このレコードは誰から??」

 

「オンナノヒト。コレヲアノヒトニッテ。キットオイシャサンナラワカルッテオモッテ」

 

「分かった…少し調べ物をしたい。たいほうと早霜を頼む、後で迎えに来る」

 

「ワカッタ!!」

 

「横井、ありがとう。残りは二人にやってやってくれ」

 

「了解した」

 

俺が第三居住区から離れると同時に、遊びに来ていたたいほうと早霜がシュリさん達の所に来た

 

「なにきいてるの??」

 

「早霜も…聞きたい…」

 

「オッケー!!オイデ!!」

 

たいほうと早霜はシュリさんの太ももの上に座る

 

「マーカスからだ」

 

「ありがとう!!」

 

「ありがとう…ございます…」

 

横井は二人にポップコーンを渡し、何となくそのレコードを二人に聞かせる

 

再び流れる同じ歌…

 

ポップコーンを食べながら、二人共レコードの再生機を見ている…

 

「コノウタシッテル??」

 

何気なくシュリさんが聞く…

 

「うん!!すてぃんぐれいがね、ねんねするときにうたってくれるの!!」

 

「早霜の…子守唄…」

 

それを聞き、シュリと横井が視線を合わせる

 

「コモリウタナノ??」

 

「うん!!」

 

「みんなに歌ってくれるのか??」

 

「みんなに歌う…みんな寝ちゃうの…」

 

子供の正直な感情は、大人にとって大きなヒントを与えた

 

今、再生機に入っているレコードの歌は彼の子守唄

 

それを持って来たという事は、この歌を歌って貰った記憶がある子だ

 

つまりは、子供という事になる…

 

 

 

 

俺は横須賀に戻って来た

 

「親潮。ちょっと通信機借りるぞ」

 

「此方をどうぞ」

 

親潮から通信機を借り、ある場所に繋げる…

 

「俺だ、マーカスだ」

 

《おや…マーカス。レコードは受け取りましたか??》

 

繋げた先は宗谷

 

一つ、考えられる事があったからだ

 

どうやら勘は当たったみたいだ

 

「受け取った。誰からあのレコードを??」

 

《名は分かりません…語らなかったので。ただ、どこもかしこもツギハギで、レコードを渡してすぐに何処かに向かってしまいました》

 

「ありがとう…それが聞ければ充分だ」

 

《マーカス。やはり貴方は深海に好かれる…その娘も貴方に思い入れがある様子でした。敵対する意識が微塵も感じられませんでした》

 

「ん…分かった。ありがとう」

 

《ではまた》

 

宗谷との通信を切る

 

「少し出掛けて来る」

 

「畏まりました」

 

俺が執務室を出て、すれ違い入れ違いの様にジェミニが執務室に入る

 

「親潮。レイ来た??」

 

「はいっ。入れ違いでつい先程出て行かれました」

 

「参ったわね…レイ、レコードがどうとか言ってなかった??」

 

「言っておられました。宗谷様に繋げて、それが聞ければ充分だと仰っていました」

 

「そっかっ…分かった、ありがと」

 

ジェミニは顔を抑える

 

「何かあったのですか??」

 

「ん…私も事情は良く知らないんだけどね…」

 

ジェミニはいつもの椅子に座る

 

お話が始まると思ったのと、少しの異変に気付いた親潮は自身の椅子をジェミニの方に向ける…

 

そして、ジェミニは語り始める

 

「昔ね??レイはある研究所に行ったの…」

 

 

 

 

 

話は数年前にさかのぼる

 

俺は自衛隊の研究所に視察に来ていた

 

そこでは艦娘の技術は勿論、深海の技術も開発研究されていた

 

「…」

 

言葉に出来ない程、惨いものもあった

 

後々気付く事になるのだが、深海や艦娘は大まかに2つに分けられる

 

人の手によって産まれた者

 

人によって後付けされた者

 

この研究所では、前者の人の手によって産まれた方を開発研究していた

 

苦しそうに自衛隊が造ったカプセルの中でもがく命…

 

肥大化したり、未熟な状態の四肢がある命…

 

体が崩れていた命もあった…

 

…見ていられなかった

 

そして行き着いた先は…

 

「そこはなんだ」

 

最後に辿り着いたのは、重圧そうな鉄の扉

 

「ここですか??見て楽しい物ではありませんよ…」

 

そう言われ、中を見せて貰う…

 

「…そういう事か」

 

「この扉からは人工的に造られた物を。天井からは適性がある者が失敗した際にここに"廃棄"されます」

 

その場に屈み、一人の手を取る

 

…もう冷たくなっている

 

体の一部が深海化しているのを見ると、彼の言った通り失敗のだろう

 

「おい!!」

 

急に扉が締められた

 

「残念だマーカス。どうやら分かって貰えなかったみたいだ」

 

「出せ!!」

 

「いいや無理だね。そこで死んで貰う」

 

「クソッ…」

 

命の残骸と共に、ここに閉じ込められた…

 

地下のせいか、通信機器も繋がらない

 

考えろ…どうすればいい…

 

「お前はよく頑張った…」

 

最初は辺り一面にある深海の一部分を探った

 

一部の深海の艤装は、生体エネルギーを用いているのを知っていたからだ

 

それがあれば…

 

 

 

 

何時間やったか分からない…

 

途中、何度か扉を開けようとしたが、何をしても開かない

 

使えそうな深海の部位は幾つか見つかった

 

だが、何もかも足りない…

 

生体エネルギーを用いた砲はあったが、こんなチンケな砲じゃ、あの扉を撃ち抜けない…

 

それに…この砲は深海の子が装備しなければ効果が出ない

 

最初考えたのは、俺が深海化してここから脱出するのが一番の得策だと考えた

 

だが、あまりにも失敗のリスクが大きい

 

ましてや体力を失って、ここで倒れるのだけは避けたい

 

なので艤装を探していた

 

鋭い槍のような部位

俺でも扱えそうなナイフの様な部位

生体エネルギーを用いた砲、小型の銃

そしてその砲弾、銃弾

 

これだけしか集まらなかった

 

せめて大淀と通信出来れば、弾の精製方法が聞けるのだが、それも無理そうだ

 

考えろ…どうすればいい…

 

あの扉、もしくは天井…

 

考えられるのは、入って来た扉だ

 

せめてあそこを"二人がかりで"開けられれば…

 

深海の力なら、二人がかりなら行けるハズだ…

 

だが、ここにあるのは命の残骸…

 

「…ダメだダメだ」

 

ふと、最悪の事が頭を過った

 

それだけはしてはダメだ…

 

何があっても…

 

 

 

 

一晩経った

 

時計は動いているので、時間は分かっている

 

ジェミニか大淀が気付いているといいのだが…

 

「…はっ」

 

急に天井が開く

 

近くにあった影に隠れ、様子を伺う…

 

「ここにマーカスを閉じ込めたんだろ??」

 

「その内死体に埋もれて死ぬさ。それか…もう死んでるかだ!!」

 

上から何かを落とす…

 

ドサッ…ドチャ…と、また失敗した命がここに来る

 

天井が締まるのを確認し、落ちて来た命の残骸を見る…

 

落ちて来たのは3体…

 

そのどれもが、まだ何処か温かい…

 

「あっ…」

 

3体の内の1体に触れた時、異変に気付く

 

まだ息があった

 

だが、もう治療をしても命を繋ぎ止めるのは難しいだろう…

 

体の至る所が欠損している

 

生体艤装を剥ぎ取られたのか、出血も酷い

 

それでも…

 

それでも、医者としてどうしてもこの子を救いたいとの思いが勝った

 

ここから出るのは後でも良い…

 

「スゥ…ハァッ…」

 

深く深呼吸をする…

 

何とか手に入れたナイフに近い部位を手に取り、命の残骸の山の前に立つ…

 

「すまん…許せっ…!!」

 

医者として、今から禁忌を犯す…

 

頭の中に過った、最悪の行為をする事になる…

 

 

 

 

俺は…

 

俺はその日…

 

 

 

 

死体から命を産み出そうとした…

 

 

 

 

 

「よし…」

 

ツギハギの少女の命が足元にある…

 

見繕った服も長いワンピースの様な布でしかなく、胸元までしか無い

 

肌の色も部位によって違う

 

だが、最低限これで動く事は出来るハズだ…

 

残りの問題は心拍が弱まっている事…

 

何か一撃で電気ショックを当てられる物があれば良いが…

 

動き出したとしても、持って30分か…

 

「やるしかない…」

 

腕時計のタイマーを30分にセットし、タブレットのバッテリーを取り出す

 

一撃しか電力は残っていないが、どのみちここにいる時点で通信は出来ない

 

解体したバッテリーに簡易ではあるが、電極を付け胸部分に付ける…

 

「ア、ガッ…!!」

 

体が跳ね上がり、呼吸が戻る

 

「すまない…お前に復讐の機会を与えてやる代わりに、少し手伝ってくれ…」

 

そう言って、手を差し伸べる…

 

言う事を聞いてくれるかどうかすら分からない…

 

だが、すぐに手を取り返して立ち上がってくれた

 

言葉もない、表情もない

 

ましてや自分の為だけに産み出した様なものだ…

 

地獄に引き戻したんだ…

 

許してくれなんて…言えなかった…

 

「よし…一気に開けるからな…」

 

言ってる事が分かるのか、少女は反対側に付いてくれる

 

「行くゾ!!」

 

深海化し、扉をこじ開ける

 

「なんだ!!」

 

「クソ!!緊急配置急げ!!」

 

「アケェェェエ!!」

 

鉄が潰れる音を出し、重圧な扉に人が通れる穴が出来る

 

「ヨしっ…出るぞ!!」

 

俺の声に気付き、少女は一度此方を向いたが、何かに気付いて一度元の場所に戻る

 

「そっかっ…そうだなっ…」

 

持って来たのは俺が何とか手に入れた艤装の類い

 

それを手にいっぱい抱えて戻って来た

 

「俺にくれるのか??」

 

俺の前に"取れ"とそれを突き出す

 

「俺はこれでいい。使い方は分かるか??」

 

ナイフの様な艤装を取り、残りは少女に預ける

 

すると、ぎこちなさそうにではあるがちゃんと手に持ってくれる

 

深海としての本能なのか、自分を殺した相手に対しての恨みがそうさせるのか…

 

「よし…行くぞ!!」

 

俺が先に出て、少女の手を取り、地獄から引き摺り出す

 

「マーカスめ…撃て!!」

 

「行けるか??」

 

少女は表情無く俺の顔を一度見て、砲を構える

 

「撃て!!」

 

俺の合図と共に、高火力の砲弾が撃ち出され、瞬く間もなく粉微塵になる

 

奴等が求めていた物に命を刈り取られる

 

因果応報とはこういう事を言うのだろうな…

 

たった30分の旅路だ…

 

この子に今与えられる事は、存分に復讐させてやる事だろう…

 

「行こう!!外にお迎えが来てる!!」

 

頷く事も言葉を発する事もなく、俺の方に着いて来てくれる…

 

 

 

 

 

「そっか〜、この基地で反応が消えたんだけどね〜」

 

「存じ上げませんね」

 

少し前、この基地に二人の女性と一人の男性が執務室に面談に来た

 

「分かりました。ただ、監査はさせて頂きます」

 

「お断りします。国家機密がこの基地には多数あるので」

 

男性の言葉に、国家機密を盾に断りを返す

 

「いいよそれでも。でも、レイ君がこの基地にいたって事が分かったら…その時は分かってるよね??」

 

「いないと何度言ったら分かる」

 

「エドガー、そっちはどう??」

 

《今地下に向かっています》

 

「何を勝手にしている!!」

 

一人の女性の無線器越しに聞こえた男性の声に、この基地のトップが反応する

 

「ここ出身の子が一人いましてね…帰省したいと申し出があったので連れて来たまでです」

 

「勝手な真似をするな!!」

 

「そう怒らないで下さい。だってここにはマーカスはいないのでしょう??なら監査であれ帰省であれ、焦る必要はないはずです」

 

「すぐ引き戻せ!!早くしろ!!」

 

「あ~も〜うるさいなぁ!!殺すよ??」

 

一人の女性の名は大淀

 

大淀はゴタゴタ言うトップに対して、途轍も無い速さで拳銃を引き抜く

 

「大淀、待って」

 

「いた瞬間殺すからね」

 

そう言って、大淀は右腰のホルスターに拳銃を仕舞う…

 

《エドガーさん、こちらです》

 

《ありがとうございます》

 

《行け!!撃て!!》

 

《おっと!!》

 

「エドガー??」

 

しばらくエドガーの声が聞こえなくなり、同時に発砲音、金属音、砲音が無線器から聞こえて来た

 

《あぁ…お気になさらず!!クリア!!》

 

《そちらで監視カメラを見れる方はいますか??》

 

ここで産まれたと言っていた少女が、もう一人の女性に問う

 

「大淀さんのタブレットがあるよ!!」

 

「動くな」

 

今度は男性が拳銃を取り出す

 

「こちとら部下の命が掛かってる」

 

「くっ…」

 

《待って下さいね…今接続します》

 

「ありがとうね鳥海ちゃん!!」

 

エドガーの道案内兼護衛をしている少女の名前は鳥海

 

ここで産まれて、今はトラックさんの所にいる重巡の艦娘だ

 

《普段お世話になっているので、これ位させて下さい。転送しました!!》

 

「どれどれ…」

 

大淀の手元のタブレットに監視カメラの映像が映し出される

 

「お〜お〜、誰か随分やってるねぇ!!」

 

「これを見ても身内の謀反と仰られますか??」

 

「うっ…」

 

女性がタブレットを彼に見せる

 

血だらけの研究室内

 

飛び散った血肉、四肢の類い

 

普通の人間が見たら吐き気を催す様な光景だが、今ここにいる三人、そして監査に向かった二人は見慣れた光景

 

《大淀さん!!3番カメラを!!》

 

「オッケー、了解!!」

 

鳥海に言われた通り、大淀はタブレットの画面を切り替える

 

《あの二人だ!!撃て!!表に出すな!!》

 

自衛隊の焦った声が聞こえた直後、聞き覚えのある声が聞こえた…

 

《構え!!砲撃開始!!》

 

その直後、カメラが砂嵐になる

 

「あ!!レイ君!!」

 

「答えは出ましたね」

 

「ま、待て!!頼む…謝罪はする!!」

 

「表でレイを待とう。治療が必要になる!!」

 

「了解です。私は緊急搬送の準備を!!」

 

「これは返して貰うよ」

 

「あっ…」

 

大淀はタブレットを彼から取り返し、腰のポーチに仕舞う

 

「あ、そうそう!!」

 

「まだ何かあ…」

 

直後、大淀の拳銃が彼の額に放たれる

 

「殺すって言ったでしょ??」

 

「大淀、行くわよ!!」

 

「オッケー、ジェミニちゃん!!」

 

今まさに目の前で起こった光景を、もう一人の女性であるジェミニは眉一つ動かす事無く見ていた

 

…誰かと全く同じ撃ち方

 

…誰かと同じ仕舞い方

 

そして、誰かと同じく目にも止まらぬ速さで拳銃を構えるあの仕草…

 

容赦の無さは大淀の方が上だが、自分の愛した人と同じやり方をする大淀を見て、ジェミニはほんの少しだけ嫉妬していた…

 

 

 

 

もう少しだ…もう少しで外に出られる…

 

「待て。ここは通さん」

 

一人の研究者、それと後ろに多数の自衛隊の連中が小銃を構えて立ち塞がる

 

「退け。時間がない」

 

「禁忌を犯した貴様を通す訳には行かんな」

 

コートのポケットの中で左手を強く握る…

 

言われなくても分かっているのに…

 

救いを与えなかったのは貴様等の方のハズなのに…

 

「殺せ」

 

少女が砲撃する

 

たった一撃で多数いた人間が木っ端微塵になる

 

「ははは…我々が欲していたのはその力だよ…」

 

下半身を失っても、未だ研究者だけは生き延びていた

 

地べたを後退る彼に向かって、少女は砲を向ける…

 

「…もういい」

 

砲に手を置くと、スッと下げてくれた

 

「貴様っ…本当に医者かっ??ゴフッ…死神じゃないのか…人の生死まで操って…」

 

血を吐きながらも最期の最期まで悪態を吐く彼の前に立つ

 

「眠れ…せめて安らかに…」

 

乾いた銃声が一発響く…

 

「さぁ!!出るぞ!!」

 

ようやく外に繋がる扉を開ける…

 

 

 

 

太陽が眩しい…

 

少女が先に出て、辺りをキョロキョロ見回している

 

「あ!!レイ君!!」

 

「レイ!!良かった…」

 

フラフラの状態で何とか外に出て来た…

 

大淀とジェミニに抱えられ、膝が落ちそうになる…

 

「あの子は何処にいる…」

 

「あの子って、一緒に出て来た子??」

 

「もう時間がないんだ。退け、退いてくれっ…」

 

「あっ…」

 

「ちょっとレイ!!」

 

二人を押し退け、少女に寄る…

 

「すまん…許してくれなんて…言えないよな…」

 

少女は海の方を見ている…

 

俺は背中から話し掛けるが、相変わらず反応は無い

 

「ゔっ…」

 

ここに来て体の限界が来る

 

「レイ君!!」

 

「しっかりなさい!!」

 

再び二人に両脇を抱えられ、何とか立ち上がる

 

「何も、させて…やれなかったなっ…」

 

それでも反応は無い…

 

「…はっ」

 

その時、持っていた砲が地面に落ちた…

 

「頼む…この子の前に回してくれ…」

 

「分かったわ…」

 

二人に抱えられ、少女の前に回る…

 

「許してくれ!!許してくれ許してくれ…」

 

少女の顔を両手で持つ…

 

少女は目を閉じ、既に事切れていた…

 

「まだ何もしてやれてないんだ!!」

 

「もういい…もういいのレイ…」

 

「何かしてやれないか…何でも良い…誰か教えてくれ!!」

 

「レイ君。抱き締めてあげるのはどうだい…人が一番最初に産み出して、一番愛情を伝えられる行為だ」

 

大淀にそう言われ、少女の亡骸を抱き締める…

 

「こんな事しかしてやれないのか…」

 

ツギハギの部分が落ちて行く…

 

命が一つ…また腕の中で落ちて行く…

 

腕も…足も…何もかも、腕の中で崩れて行く…

 

「…」

 

「…タナトスに行きましょう??」

 

「さ…行こう、レイ君…」

 

「…もう何もしてやれないのか」

 

「アンタが無理ならもう…」

 

「レイ君…一つ教えたげる…想いを遂げた艦娘や深海はね…死んじゃう事があるんだ…」

 

「この子は恨みを果たしたから…」

 

「違うわレイ」

 

「レイ君違うよ」

 

「頼む言わないでくれ!!頼む…」

 

「ダメ、言うわ。その子は恨みを晴らしたから死んだんじゃない」

 

その後の言葉はほとんど耳に入らなかった

 

そんなハズがない

 

あってはならないんだ、それだけは

 

俺は泣いた

 

それだけは聞きたくなかった

 

だから、泣いた

 

愛されてると分かったから

 

深海は愛してくれる人の所に行こうとする

 

最期の最期に、この子は愛された…

 

確か二人はそう語っていた…

 

俺は無理矢理タナトスへと放り込まれた

 

「タナちゃん。準備はいい??」

 

「創造主が心配でち…」

 

「ん…良い子だ。今はこの場を離れよう。レイ君が嫌な思いをずっとする事になっちゃう」

 

「…了解。目標無し、緊急出航」

 

タナトスが抜錨する…

 

俺は医務室でずっとあの少女を何とかしてやれないか悩んでいる…

 

…もう、打つ手はない

 

一度死んだ者を無理矢理動かしたんだ

 

とっくの昔に体も、脳も死んでいる…

 

俺にもきそにも、もう打つ手はない…

 

《隊長??》

 

艦内の無線が聞こえる…

 

声の主は涼平だ

 

あの基地に涼平の姿は見えなかったが…

 

《あぁ…涼平君かい??今どこにいるんだい??》

 

《タナトスの上空です。先程の基地の偵察に向かっていましたが、元帥から撤退を命じられたので帰投の最中です》

 

《そっか…なら、レイ君の事は聞いたね??》

 

《はい…隊長に伝えて頂けますか??もう一つ、してあげられる事があると》

 

涼平の無線を聞き、顔を上げる

 

《なんだい??》

 

《近くに自分の故郷があります。そこなら…一人じゃありません》

 

《あの島だね…オッケー、タナちゃん、目標設定》

 

《了解》

 

「涼平か」

 

ここでようやく無線を取る

 

《隊長!!やっと声が聞けました…》

 

「すまん…ありがとう…」

 

《自分にはそれ位しか思い付きません。せめてもの手向けになるのなら…》

 

「充分だ。ありがとう…」

 

《一度シュリさんの所に戻って、そっちに行きます》

 

「了解した」

 

涼平との無線を切り、また少女の所に戻る…

 

涼平は言ってくれた…せめてもの"手向け"と…

 

俺に今出来る、この子に出来る手向けは何だろうか…

 

少しだけ考えた後、白衣に着替えた…

 

 

 

「…」

 

手術台には、綺麗に接合された少女がいる

 

マスクとサージカルキャップを捨て、もう一度少女を見る

 

五体満足で送り出してやるのが、せめてもの手向けと考えたからだ

 

後は…

 

「…ジェミニ」

 

メインルームに内線を繋げる

 

《なぁに??》

 

「ちょっと来てくれ」

 

《分かったわ、すぐ行く》

 

一分もしない内にジェミニが手術室に来た

 

「どうしたの??」

 

「…」

 

声も出さずに、目で合図する…

 

「そっか…ちゃんと繋げて貰ったのね…」

 

何の抵抗も無く、ジェミニは少女の前髪をかき上げ、そして頭を撫でる

 

「"お父さん"に綺麗にして貰ったのね…」

 

ジェミニの一言で胸が抉られる…

 

「それで…私を呼んだのはなぁに??」

 

「お前、化粧得意か」

 

少女の横の台には、お粗末な化粧道具が置いてある

 

「分かったわ…さっ、綺麗にしてあげるわね…」

 

椅子に座り、ジェミニが化粧をする姿を眺める…

 

傍から見れば親が子に教える一番最初の化粧…

 

だがそれは、最初で最後の母と娘のおめかし

 

「レイ、そろそろ朝霜達にも化粧…レイ??」

 

 

 

 

「追って来たね…タナちゃん、警戒して」

 

「敵味方識別装置…アンノウン反応。合計2隻。フリゲート艦、掃海艇」

 

「ホワイトベル。そっちはどう??」

 

《無線と発光信号に応答はありません》

 

「そっか…了解。アンノウン反応2隻を…」

 

「アンノウン艦艇を敵艦反応に変えろ」

 

「レイ君!!」

 

艦長席に座り、足を組んでモニターを見る

 

「創造主…」

 

「追従する敵艦を撃沈する。攻撃態勢に移行」

 

「了解。攻撃態勢に移行」

 

「レイ君…君はまだ…」

 

「奴等にも手向けて貰う。砲撃開始」

 

「了解。砲撃開始」

 

背部ハッチから対艦ミサイルが放たれる

 

そのままの体勢でモニターを見る…

 

「敵性フリゲート艦、大破」

 

「掃海艇に速射砲を撃て」

 

「了解」

 

「ま、いっか!!」

 

「掃海艇、撃沈」

 

「鳥海。まだ敵艦は動けそうか」

 

《いえ。タービンを破壊されたので航行不能です》

 

「お前の分だ。それで許せ」

 

《は、はいっ!!》

 

「フリゲート艦の艦橋に無線を繋げろ」

 

「了解」

 

モニターの隅に音波グラフが表示される

 

「接続完了」

 

「不様だな」

 

《何故ここまでする…》

 

「お前達は何人命を無駄にした」

 

《国家プロジェクトなのだ…新しい物を産み出すには、犠牲がいるのだ…》

 

「命を部品にしたその時点で破綻していたんだ」

 

一呼吸、二呼吸置いて、無線の反応が戻る

 

《そうだな…国家プロジェクトを盾にしていたのかもしれない…》

 

「言い残す事はあるか。それ位聞いてやる」

 

《間際にそう言って貰えて良かったよ…死神。君に殺されるなら本望だ》

 

「俺はお前を恨んじゃいない…ただ…」

 

《…なんだ??》

 

「お前達はあまりにも恨みを買い過ぎた」

 

《死ね》

 

別の無線が入り、フリゲート艦の艦橋からの無線が途絶える

 

《…鳥海の想いはここで終わりました》

 

艦橋にトドメを刺したのは鳥海の砲撃だった

 

「戻れ鳥海。お前はまだやる事がある」

 

《何でしょう》

 

「お前の帰りを待ち侘びてる、俺の友達がいる」

 

《そうでした!!司令官さんの所に戻るのが鳥海の任務です!!》

 

「その前に…もう一つだけ手伝ってくれるか??」

 

《勿論ですマーカスさん。すぐに向かいます》

 

鳥海との無線も切れる…

 

「目的地まで操縦を頼む」

 

「レイ君はどうするの??」

 

「もう一つ、してやれる事が見つかった」

 

手術室に戻ると、ジェミニの化粧が終わっていた

 

「こんな感じかしら??」

 

「ありがとう…そういやお前、さっきお父さんって言ったな」

 

「そうね…傷付いたなら謝るわ…」

 

「…一つ、まだやれる事が残ってたよ」

 

少女の横に座り、お腹に手を乗せる…

 

そして、子守唄を歌う…

 

俺がもし…

 

俺がもし、父親としていられるのなら…

 

最後にしてやれるのは、この子を目一杯子供として見送ってやる事だ…

 

反対側ではジェミニが同じ歌を歌ってくれている…

 

…到着まで、あと少し

 

 

 

 

 

「創造主のメンタルが落ち着きを見せています」

 

「良かった…あんなパニック起こすレイ君滅多に無いからね??」

 

「にしても大淀。相変わらず淡白でちな」

 

「大淀さんはレイ君以外興味無いからね。敵が死のうがどうしようが知ったこっちゃない。だけど…もしレイ君が救いたいって言うなら、大淀さんはいつだって手を貸すよ??」

 

「…ホントにタナトスを造ったか疑うでち」

 

「そういやタナちゃんも母性が産まれてるね??大淀さん、そんなプログラムした覚え無いんだけど」

 

「創造主は放っておくと何するか分からんでち。最初は心配からこうなったでち」

 

「そっか。良い事を聞けたよ!!」

 

「論文でも書くでちか??」

 

「どうだろ。ただ、凄く興味深いよね??破壊行動しかプログラムしてないのに、どうして母性が発現するか…他の子もそうなんだ」

 

「守りたいって思うのは母性の特権でち。大淀、オメーもそうでち」

 

「大淀さんは…」

 

「死物狂いでも創造主を護る…これが母性と言わずに何と言うでち。ジェミニを見るでち。創造主を顎で扱ってても、護る時はちゃんと護るでち」

 

「ジェミニちゃんは凄いよね…大淀さんは真似できないや…」

 

「大淀…大淀がジェミニに勝てる事が1個あるでち。そこは決定的に違うでち」

 

「何かな!!」

 

「大淀は創造主をどこにいても連れ戻せるでち」

 

「好きな人にはいつでも会いたいじゃん??それだけだよ…」

 

「そういう事でち。そうでち!!よく考えれば!!あの巨乳好きの創造主を落としただけでも胸張って良いでち!!」

 

「そう…かな!!そうだよね!!」

 

「ま、この話は帰ってか目的地付近です」

 

「ふふふ!!タナちゃんは面白いなぁ〜!!」

 

「これどうにかならんでち??」

 

「なったとしても可愛いから変えたげな〜い!!」

 

 

 

 

 

とうとう着いてしまった…

 

「さ…レイ…」

 

「ん…」

 

簡易な布しかなかったが、ジェミニは手作りの布で作った花の髪飾りを少女に付けてくれている

 

服もまるでウェディングドレスの様にしてくれてある

 

「さ…行こうか…」

 

ジェミニと一緒に少女を担ぎ上げ、手術室から出る…

 

「よしよし…みんなでっ、送ってやろうなっ…」

 

「行きましょう…」

 

手術室から出ると、隊長とエドガーも担いでくれた

 

既に大淀は外にいる…

 

タナトスから出ると、皆が待ってくれている

 

「オイシャサン…タイヘンダッタネ…」

 

涼平と一緒にシュリさんがいる

 

大淀と鳥海が隣にいるのが見える…

 

「オイシャサン…コノコ、シンカイノコネ??」

 

「そうだ…俺が地獄から引き摺り出した…それなのに、救ってくれたんだ…」

 

「ソッカ…ガンバッタンダネ…」

 

シュリさんは少女に額を合わせる…

 

「オイシャサン。コノコ、スイソースル」

 

「水葬か…」

 

「ン…ハハナルウミニカエルノ。ソウシタラ、マタモドッテコレルノ」

 

「見送ってくれるか??」

 

「モチロン…」

 

タナトスの甲板に移動し、少女を降ろす

 

「最期よ…何か言う事があれば今の内よ…」

 

ジェミニの言葉に、少女の前で屈む

 

手を握って、言葉を掛ける…

 

「産まれて来てくれて、ありがとう…

 俺に父親をさせてくれて、ありがとう…」

 

その場にいた全員が、それぞれ「ありがとう」と言葉を掛ける…

 

最後はネガティブな言葉で送るのは辞めた

 

シュリさんの言った通り、またいつか戻って来るならば…

 

今度はもっと、父親でいてやりたいと願うよ…

 

そうして、少女の命は碧い海へと還って行った…

 

 

 

 

「その様な事が…」

 

「その後、その場にいた全員で決めたの。今日あった事は口外禁止。その場にいる全員に箝口令を命じたの」

 

「それで創造主様の口からも聞けなかったのですね…」

 

「そうね…余計苦しめたのかもしれないわ…」

 

 

 

 

 

 

………

 

……

 

 

少女は綺麗な装束を身に纏い、眠りに付いている…

 

「シンカイノコダ…」

 

一人の深海棲艦が、少女を見つける…

 

その深海棲艦はすぐに少女が死んでいる事に気が付いた

 

「ボクガツレテッテアゲルネ…」

 

口の中に少女を入れ、ある場所へと泳ぐ…

 

ずっとずっと泳ぎ、その場所に辿り着く…

 

重たい扉を開け、中に入り、広間の真ん中に立ち尽くす…

 

「おや…お客人ですか??」

 

階段から降りて来たのは一人の女性

 

「コノコツレテキタ」

 

その深海棲艦は口から少女を出し、床に落とす

 

「そうでしたか…ここは数多の命が眠る場所…よく連れて来てくれました…」

 

「ツギハギダネ…」

 

「どれ…」

 

女性は少女に額を合わせる…

 

「そうですか…彼に"救われた"のですね…最後の最期に、温かい記憶があります…」

 

「ココナラサミシクナイ??」

 

「淋しくありませんよ…さぁ…」

 

女性は少女を持ち上げ、泉に浸す…

 

「もし願うのならば、報復の無い海へ…

 もし叶うのならば、愛する人の地へ…」

 

「モシネガウノナラバ、ホーフクノナイウミヘ…モシカナウノナラバ、アイスルヒトノチへ…」

 

女性も深海棲艦も、同じ言葉を繰り返す

 

そうして少女は、皆のいる泉へと泡になって消えて行く…

 

「おや…これは珍しい…」

 

女性の足元に、黄色い宝石の様な物が転がっている

 

「ソレナァニ??」

 

「これは深海棲艦の心臓部…普通ならここに入った時に砕けてしまいますが…そうですか、残りましたか…」

 

「スゴイキレーダネ」

 

「これは深海の力を飛躍的に高める効果もあります…悪い者はこれを使って悪巧みをしますが…これを貴方が思う一番強い人に届けて下さい」

 

「ワカッタ」

 

「一番強い人と、これを全うに使う人は別です。ですが…最後は必ず全うに使ってくれる人に行き渡るでしょう。貴方も分かっているはずです」

 

「ウン。キットトドケルヨ!!」

 

「よろしくお願いしますよ。あぁ…一つ伺っても??」

 

「ナァニ??」

 

「どうして彼女を救おうと??」

 

「ボクモソウサレタンダ…ケガシタトキ、タスケテモラッタ」

 

「ふふ…きっと同じ人でしょう…では、頼みます」

 

深海棲艦は少女の代わりに宝石を口に入れる…

 

深海棲艦はそのまま女性のいた場所から離れる…

 

向かった先は…

 

「オカエリ。ズイブンオソカッタノネ??」

 

「タダイマ。コレ、アゲル」

 

第三居住区で待っていてくれた、深海のギャルの所へ宝石を届ける

 

「アラ、トッテモキレイ…ドウシタノコレ」

 

「イチバンツヨイヒトニアゲテネッテ」

 

「ソッカ〜イチバンツヨイヒトカ〜アリガトッ!!サ、オイデ、ゴハンデキテルヨ!!」

 

そうして、少女は父親の所へと戻って行った…

 

 

 

 

 

第三居住区に戻って来た

 

たいほうと早霜を迎えに来たついでに、一つ頼み事をせねばならない

 

「頼みがある」

 

「アラ、マーカスサン。ワタシタチニデキルコトナラ」

 

俺が来たのは戦艦棲鬼姉妹の所

 

理由があって、二人にお願いしに来た

 

「突然で悪いんだが…横須賀で歌を歌ってくれないか…」

 

「モチロン」

 

「ドンナオウタ??」

 

「これなんだが…」

 

横須賀から持って来たレコードプレーヤーにあのレコードを入れ、二人に聞かせる…

 

「ナツカシイワ…」

 

「オーネンノアイドルネ…」

 

「…一人、深海から帰って来る。その子はもしかすると道に迷ってしまうかもしれない。覚えているのはこの歌だけなんだ」

 

「ワカッタワ!!」

 

「マーカスサン、アリガトウネ」

 

「俺に出来るのは今はこれ位だ…ま、後は出来る事は山程ある!!」

 

「ソウトキマレバイキマショ!!」

 

「レッツゴー!!」

 

二人は早速準備の為に横須賀に向かってくれた

 

「いっぱいかいもらった!!」

 

「お家に帰って…焼いてもらうの…」

 

タイミング良く二人も戻って来た

 

「今日はな、横須賀で楽しい事があるからな??」

 

「ありがとうございました!!」

 

「ありがとう…ございました…」

 

「マタアソビニキテネ!!」

 

二人はちゃんと深海の子にお礼を言い、高速艇に乗る

 

「すてぃんぐれいはぐりふぉんでかえるの??」

 

「そっ。今日はてんてこ舞いなんだ!!」

 

「ヨイショッ…」

 

シュリさんも高速艇に乗る

 

「ワタシモイク!!」

 

「オーケー、二人を頼んだぞ!!」

 

「オッケー!!」

 

高速艇を送り、グリフォンに戻る…

 

「忙しいな、マーカス」

 

帰り際、横井が話し掛けて来た

 

「ふふ、暇しないのはっ…いい事さっ!!」

 

行く前に一服だけ済ませるため、タバコに火を点ける

 

「私はあのレコードの真相は分からない…だがな、マーカス」

 

横井の言葉に一度彼の顔を見る

 

「本気の貴様に、間違いは無いと思ってる」

 

「…横井」

 

「なんだ??」

 

「俺はある子に、初対面で酷い事をしてしまった…」

 

「…」

 

横井は黙って俺の言葉を聞く…

 

「今日、その子が横須賀に帰って来る…もう一度、やり直せるだろうか…」

 

「もう一度言っておく。本気の貴様に、間違いは無い。白露とフーミーを救ってくれた時から私はそう思ってる」

 

「そっか…そうだな!!」

 

「何度だってやり直せる。今お前は生まれ変わったんだ。そう教えてくれたのは貴様と涼平のはずだったんだが??」

 

「ありがとう…もう一回、頑張ってみる!!」

 

横井は少し笑った後、頷いてくれた…

 

 

 

 

 

横須賀に戻ると、海岸では慌ただしく準備が進められていた

 

「隊長!!」

 

海岸に来るとすぐに涼平が気付いてくれた

 

「元帥から聞きました。戻って来るんですね…」

 

涼平の言葉に頷く

 

「お腹、空かせて来ますかね??」

 

「何か作ってるのか??」

 

「たいほうさんと早霜さんが貝焼いてます」

 

「おいしそう!!」

 

「いい匂い…」

 

「モウチョットマッテネ!!」

 

涼平の視線の先では、涼平の焚き火が既に占領されており、そこで貝が焼かれている

 

「ここにマシュマロがある」

 

帰って来た時に匂いで気付いた

 

多分焚き火で貝か何か焼いてるのだと

 

なのでジェミニの引き出しから高級マシュマロを頂戴して来た

 

「…これ高い奴では??」

 

「ジェミニの引き出しから頂戴して来た。焼いて食べてみてくれ」

 

「何勝手にパクってんのよ!!高いのよそれ!!」

 

タイミング悪くジェミニが来た

 

「後で買ってやるから!!」

 

「仕方無いわね…今回だけよ!!てな訳で涼平、焼いて頂戴」

 

「了解です!!」

 

ジェミニと涼平は焚き火の所に向かった

 

「マーカスサン」

 

「ココデウタウノネ??」

 

戦艦棲鬼姉妹も到着

 

ステージを建てる時間もなく、簡易なマイクスタンドと小さな台が用意されている

 

「頼んだ。合図はこっちで送るよ」

 

「ワカッタワ!!」

 

「ココデタイキ!!」

 

簡単な料理も段々と集まって来ている

 

俺達はここで小さいながらもパーティーを開こうとしている

 

後は…

 

「あ!!レイ君!!おかえり!!」

 

艦娘に探照灯を配っている大淀の所に来た

 

「ただいま。すまん、かなり動かしたな」

 

「いいよ!!大淀さん、平和の為に動くレイ君大好きだからね!!それでだ、探照灯は3箇所と、ここに配備して…後はレイ君がどう動くかだ」

 

「ギリギリ足が付く範囲で迎えに行ってやりたい」

 

「オッケー、了解」

 

「あの子の位置は分かるか??」

 

「今クラーケンと同期してるから待ってね…来た来た!!これがあの子の位置だ!!」

 

大淀のタブレットを見ると、横須賀に向かっている人型の存在が映っている

 

「到着予想時刻は…1900だね!!」

 

「了解した。それまでここにいるよ」

 

「カプセルの配備もオッケーだ。アレ、持ったかい??」

 

「ここにある」

 

大淀に言われ、あの黄色い宝石のような物を見せる

 

「それとボディがあれば、非常に強力な深海か艦娘になる…覚悟は良いかい??」

 

「二度目のチャンスだ。無碍にはしない」

 

「良い心意気だ。大淀さん達は全力でレイ君を応援するから、心配しないで!!」

 

「最後の準備をしてくる」

 

最後の準備は工廠で行う

 

大淀がセットしておいてくれたカプセルの前に立ち、最後の仕上げをする

 

「俺の合図があったら、再構築プログラムを起動してくれ」

 

《了解しました。再構築プログラムの準備を開始します》

 

「これをベースに出来るか」

 

カメラの前にあの黄色い宝石をチラつかせる

 

《データを解析します。溶液の中に浸して下さい》

 

「オーケー、了解…」

 

宝石を溶液に落とす…

 

《解析開始します…マーカス様。誰かのお迎えですか??》

 

「そんな所だ。仲良くなれると良いが…」

 

《大丈夫、心配するな、です》

 

「ふ…」

 

アイリス…もといはっちゃんにいつも俺が言っているセリフを言われ、緊張が解ける

 

《緊張状態が21%に下がりました。やはりマーカス様の言葉は安心を生み出すとよく分かります》

 

「医者は患者を安心させる事からスタートだからな??」

 

《なるほど…ヒュプノスもマーカス様の言葉をよく使います。医者になりたいのでしょうか??》

 

「どうだろうな…俺の意思を継いでくれる奴がいつか見つかると良いんだがな…無理強いはさせたくない」

 

《…いつか、出逢えます》

 

「そう願ってるよ。じゃ、ちょっと行って来る」

 

《いってらっしゃいませ。お帰りまでに解析及び再構築プログラムを起動しておきます》

 

アイリスに任せ、工廠を出る…

 

 

 

 

海岸に戻り、大淀の所に行く

 

既に薄暗くなっている…

 

もうすぐ1900…予定の時刻だ…

 

「あ、レイ君!!」

 

「あの子は来てるか??」

 

「ちょっと道に迷ってるみたいなんだ…」

 

タブレットを見ると、人の影は横須賀に近付いてはいるが、あっちへ行ったりこっちへ行ったりしている

 

「戦艦棲鬼のお二人さん、頼んでいいか!!」

 

「マカセテ!!」

 

「イクネ!!」

 

二人の歌が始まる…

 

「「コイモサイショナラ〜、スコシハ、キレイニ〜」」

 

「探照灯!!二人を照らして!!」

 

海に向かって歌う戦艦棲鬼姉妹の背中を2本の探照灯が照らす…

 

「こっちに向いた!!レイ君!!後5分で着くよ!!」

 

「ここは任せたぞ!!」

 

波際に向かって走る…

 

もうそこまで、あの子は来ている

 

《レイ君。その子が見えたら探照灯でレイ君と一緒に照らすよ!!》

 

「了解した」

 

「「ダキシメテ〜、ツレテキテ、ミライゴト〜」」

 

歌がサビに入る…

 

《見えた!!探照灯!!目標を照らして!!》

 

大淀の合図で探照灯に明かりが灯る

 

一つは俺の背に

 

もう一つは海を照らす…

 

「あぁっ…」

 

安堵したため息が漏れる…

 

あの時のままの髪飾り…

 

あの時のままのドレス…

 

ほんの一瞬、少女が眩しそうにする姿が見えた

 

間違いない…あの時の子だ!!

 

「おいで!!」

 

足を海に浸け、両手を広げる

 

少女は俺の声と姿に気付き、こっちに向かって来た

 

そして…

 

「おかえり…おかえりっ…」

 

飛び込んで来た少女を思い切り抱き寄せる…

 

あの時と違い、今度はギュッと抱き締めても壊れたりしない…

 

「おっ…」

 

少女は俺の顔を両手で触れる…

 

少女の左手を取り、もっと顔を触らせる

 

「ありがとうな…」

 

あの日のまま、無表情のまま、声も出さないまま、少女は頭を横に振る

 

「おうちに帰ろう…なっ??」

 

そう言うと、頭を縦に振る

 

少女をお姫様抱っこし、海から上がる…

 

「オカエリナサイ!!」

 

「アラカワイイコ!!」

 

歌が終わった戦艦棲鬼姉妹が来てくれた

 

すると、少女は二人に手を伸ばす…

 

「ン??ナァニ??」

 

少女は戦艦棲鬼姉妹の頬を片方ずつ撫でる

 

「イイノ…キョーカラココガオウチヨ??」

 

「モウダイジョーブ!!」

 

手を離すと、少女は何度か頷く

 

その足で工廠へと向かう…

 

《解析及び再構築プログラム起動完了しています。溶液に浸して下さい》

 

「ありがとう、アイリス」

 

工廠に着くと、あの宝石の解析とプログラムの起動が終わっており、少女を溶液に浸そうとすると、俺を手招きした

 

「大丈夫…大丈夫…」

 

少女は最後に俺をぎゅっと抱き返し、溶液に体を預ける…

 

「今度は離さんからな…」

 

"この体でいる最後"も、無表情のまま頷く少女

 

少女が眠ったのを見届け、カプセルのフタを閉める…

 

《再構築プログラム開始》

 

「はぁ…」

 

緊張の糸が解れ、診察台の近くにある椅子に腰掛けてタバコに火を点ける

 

《マーカス様。冷蔵庫に大淀さんが作ったコーヒーがあります》

 

「どれっ…」

 

アイリスに言われた通り、冷蔵庫を開けるとマグカップに淹れたコーヒーが置いてある

 

すぐに手に取って口にする

 

「美味いな…」

 

《解析の結果、マーカス様が一番好きなコーヒーは大淀さんのコーヒーか別のコーヒーとの結果が出ました》

 

「そうだな…ジェミニには内緒にしてくれよ??」

 

《ジェミニさんの淹れるコーヒーは粉っぽいですからね》

 

「なんですって!?」

 

様子を見に来てくれたジェミニがタイミング悪く来た

 

《ジェミニさんの淹れるコーヒーはまた別で美味しいと話していました》

 

アイリスは何とか誤魔化そうとする

 

「アタシはコーヒー淹れないの。このボンクラが粉しかねーじゃねーか!!とか言うから淹れさせてんの!!分かった!?」

 

「《あっはい…すみません…》」

 

「親子でおんなじ答え方すんのね…」

 

《マーカス様の好きなコーヒーを御存知ですか??》

 

「知ってるわよ??鹿島のコーヒーでしょ??」

 

「し、知ってんのか??」

 

「知ってるわよ!!見りゃ分かるわよ見りゃ!!」

 

「その…何かすまん…」

 

「アタシのシチュー食べてくれたからイーブンにしたげるわ。それより…帰って来たのね??」

 

「今、体を再構築してる。その待ち時間さ」

 

「そっ。服脱いで」

 

「今ここでか!?」

 

「今よ??」

 

「いやぁ…はは、そのだなジェミニ…アイリスも見てるし…」

 

《カメラ機能をカプセル以外遮断します。ささ、お気遣い無く》

 

親子共々勘違いした結果、ジェミニの手元を見る事も無く要らん答えを出してしまう

 

「誰がここでヤるって言ったのよ!!アンタそのまま海入ったでしょ!!濡れてるから脱ぎなさいって言ってんの!!ほら!!着替え!!」

 

「あばば!!ありがとう!!」

 

投げ付ける様に着替えを渡され、全身着替える…

 

「ん、良い子」

 

「アイリス、カメラ付けていいぞ」

 

《畏まりました》

 

PCのモニターにカメラ映像が戻る

 

「アンタお腹減ってない??」

 

「そうだな…結構気張ってたから気にしてなかった」

 

「なら良かったわ。ここでちょっと食べましょうか!!」

 

《アイリスも食べたいです》

 

「勿論よ!!来なさい!!」

 

はっちゃんが来るのを待っている間に、ジェミニはマットを広げ、そこにタッパーを2つ置く

 

「作業は続行しています」

 

「さ、食べよう!!」

 

はっちゃんがマットに座り、タッパーが開けられる

 

「こっちはさっき焼いてた貝とお肉。こっちはおにぎりよ」

 

おにぎりの方のタッパーには、迅鯨が作ったであろう山菜おにぎりがある

 

「はっちゃん、この山菜おにぎり食べた事ありません!!」

 

俺達が美味い美味いと食べていたので、はっちゃんも気になっていたみたいだ

 

「食べて良いわよ!!」

 

「頂きます!!」

 

はっちゃんは早速手に取り、口に運ぶ

 

「美味しいです!!はむっ…」

 

俺もジェミニも、美味しそうに食べるはっちゃんを見て微笑む

 

「さ、問題よ。この中でアタシが作ったおにぎりがあんの。どれか分かる??」

 

「これだな」

 

一番形がいびつなおにぎりを取り、俺も口に運ぶ…

 

ちょっと塩っぽいが、十分美味しい

 

「なんで分かんのよ!!」

 

「一番俺に食って欲しそうな感じがしたからな??」

 

「そ、そう…」

 

いつもならはっちゃんが「照れています」とか言いそうなんだが…

 

「はむっ…はむっ…」

 

山菜おにぎりに夢中になっている…

 

「こっちも食べて良いわよ」

 

焼いた貝やお肉も食べる

 

「深海の子達の食事を再現したの」

 

「そういやそうだったな」

 

「横井が元農家なの」

 

「米作りたいとか言ってたしな…」

 

「もう二人農家いんのよ」

 

「うちにか!?」

 

あまり聞いた事がない

 

元々の職業の話は、本人が語らない限り聞かない事にしている

 

「隊長っ、如何ですか??」

 

「おぉ、櫻井!!ありがとな、手伝ってくれて!!」

 

櫻井が新しいタッパーを持って来た

 

「櫻井。アンタお米詳しいのよね??」

 

「あぁ、あっはは!!大鯨と農家していましたので、ある程度の知識しかありませんが…」

 

そう言えば涼平が横井と話していた時にポロッと言っていたな…

 

「もう一人は大鯨か…」

 

「そうです。大鯨はかなり詳しいですよ??」

 

「なら話は早いわ!!後日お願いするかも知れないから、そん時は頼むわ??」

 

「了解です、元帥。はっちゃん、こっちも良かったら!!」

 

「ありがと…ございますっ…」

 

モグモグしたままのはっちゃんはタッパーを受け取り、櫻井は工廠から出て行った…

 

「さてとっ…後はアンタに任せるわ??後の事は気にしないで??ちゃんと面倒見るわ??」

 

「ありがとう…」

 

「あ、そうだわ!!ちゃんと名前決めときなさいよ??じゃなきゃアタシが付けるわよ??」

 

「もう考えてあるんだ」

 

そう言うと、ジェミニもはっちゃんもこっちを向く

 

「どんな名前なの!?」

 

「どんな名前ですか!?」

 

「それはな…」

 

 

 

 

 

数時間後…

 

朝になった

 

タバコを消して、その時を待つ…

 

「んん〜っ…はぁっ!!おはよう!!」

 

「おはよう」

 

思ったより快活そうな少女が、伸びをしながらカプセルから出て来た

 

「あー…えっと…まずは"ありがとう"!!」

 

もっと違う言葉か、行動が返って来ると思っていた…

 

そうか…ありがとう、か…

 

「覚えてるのか??」

 

「ちょっとだけね??」

 

「ふ…」

 

カプセルの縁に背中を起き、そのまま少し話す

 

「どこから覚えてる??」

 

「貴方が泣いていた所から覚えてるわ??後、歌を歌ってくれたり…」

 

「そっか…そっかっ…」

 

再構築された彼女の体を抱き締める…

 

「あ…これこれ…覚えてる…ちょっとごめんね…」

 

彼女は急に俺と額を合わせる…

 

「そっか…ずっと後悔してくれてたんだ…」

 

「分かるのか??」

 

今の行動は深海特有の行動

 

額を合わせる事で何らかの意思を示したり、相手の記憶を垣間見る事が出来るらしい

 

「バカ達はアタシを深海として産んだからね。その能力はピッとだけあるの」

 

「そっかっ…」

 

「アイツ等、名前も付けてくれなかったし」

 

「それなんだがな…」

 

俺は3つのドッグタグを彼女の前に出す

 

「この中から選んでくれるか、それとも自分で好きな名前を付けるか、選んで欲しい」

 

「そうね…」

 

1つ目…"おしんこせっと"

2つ目…"ふらいどぽてと"

3つ目…"ぶるっくりん"

 

「これにするわ!!」

 

そう言って、彼女は2つ目のドッグタグに手をやろうとする

 

「フライドポテトにするのか??」

 

「やめといた方がいいかな…おしんこせっとよりは何となくマシかなって思ったけど…」

 

「おしんこせっとイヤ??おしんこせっと良いわよ??」

 

突然来たジェミニ

 

何故か強くおしんこせっとを推している

 

「私が考えたの!!」

 

「この人はジェミニ。ここのトップだ」

 

「お服作ってくれた人!!」

 

「そうよ…覚えてるのね…」

 

「どうしよっかな…どうしよっかな…」

 

ジェミニが来た事で、おしんこせっとが候補に戻る…

 

何だか分からないが、非常にヤバい気がする…

 

「これにするっ!!」

 

そう言って手に取ったのは3つ目のタグ

 

内心ホッとした…

 

これから先、おしんこせっと!!とか、フライドポテト!!とはヒジョーに言い辛い

 

「ぶるっくりん、ね。気に入った!!」

 

「よしっ。行こうか!!」

 

「今日からここで暮らすのよ!!」

 

「よろしく!!お父さん、お母さん!!」

 

そう言われて、俺とジェミニは一瞬驚いた後、小さく頷く…

 

ぶるっくりんは色々知能はあるが、まだまだ知識が足りない

 

いつも産まれて来る子と同じ様に「あれは何??これは何??」と、どんどん聞いて来る

 

その度に俺かジェミニが教えて行く

 

「この子は…」

 

「こんにちわ」

 

一人で駄菓子屋に来ていたワシントンがいた

 

「わしんとん」

 

「私はぶるっくりん!!」

 

「ぶるっくり」

 

真顔で頷きながらも、ワシントンはぶるっくりんを覚えてくれたみたいだ

 

その時、ワシントンのお腹が鳴る

 

「はんぐりーちゃ」

 

「あらっ、じゃあ一緒に行きましょ??」

 

「朝霜達はどうした??」

 

「んが〜、んごご〜、ぎりぎり〜」

 

ワシントンの再現によると、イビキがうるさく、歯ぎしりもあって目が覚めたみたいだ…

 

「目、覚めちゃったのね…」

 

「おなかへった」

 

「よしよしっ!!じゃあ4人で行こうな!!」

 

「ぶるっくり」

 

「ん??なぁに??」

 

ワシントンに呼ばれたぶるっくりんは、視線を合わせる為にワシントンの前に屈む

 

すると、ワシントンはぶるっくりんに手を伸ばす

 

「おててつなぐ」

 

ぶるっくりんは俺の顔を見る

 

一度頷くと、ぶるっくりんはワシントンの手を握ってくれた

 

「あっち」

 

「あっちね??」

 

ワシントンと手を繋いだぶるっくりん

 

その後ろを俺達二人は着いて行く…

 

ワシントンはちゃんと覚えている

 

ご飯を食べると言ったら、やはり間宮に入ろうとする…

 

「ここ」

 

「ここは何があるの??」

 

「どりあ」

 

それもちゃんと覚えているみたいだ

 

ワシントンが産まれて最初に食べた物だ

 

間宮に入り、四人でいつもの席に座る…

 

ワシントンもぶるっくりんも同じドリアを注文し、俺達は二人を見ながらホットコーヒーを飲む

 

「おいすぃ」

 

「おいすぃ!!」

 

ワシントンもぶるっくりんも、スプーンの持ち方がぎこちない

 

二人共、口元を汚しながらドリアを食べる

 

「ごちそさまでした」

 

「ごちそさまでした!!」

 

「こっちむく」

 

「ん??」

 

すると、ワシントンは不思議な行動をし始める

 

姉に当たる人物…特に朝霜だろうか

 

いつもそうして貰っているのか、紙ナプキンでぶるっくりんの口元を拭いてくれている

 

「できた」

 

「ありがとう!!」

 

相変わらずパッと見はワシントンは真顔だが、少し笑って小さく数度頷く

 

「お家に行きましょうか!!」

 

「どんなとこかな??どんなとこかな!!」

 

帰り際も、俺達は二人の背中に着いて行く

 

まるで小さい姉とデカい妹だ…

 

小さい姉と、デカい妹か…

 

「おいしいね!!あとらんたしぇいくすき??」

 

「うん。おねーちゃんと飲むの好きだよ。うわ、凄い付いてる。こっち向いて??」

 

遊びに来ていたたいほうとアトランタが瑞穂のフライドチキン屋の前でシェイクを飲んでいる

 

そっか、あの二人もそうだな…

 

身長もアトランタの方が遥かにデカい

 

胸もアトランタの方が遥かにデカい

 

「コロチャン!!お家帰ろ!!」

 

「あっ!!コラちょっと!!降ろしなさいってばー!!」

 

ホーネットとコロラドがスーぴゃーマーケットから出て来た

 

あの二人も小さい姉とデカい妹だな

 

コロラドはちょっとずつ大きくなっているが、ひとみといよよりちょっと大きい位

 

ホーネットは俺達大人組に混じっていても違和感が無い位身長が高い

 

パワーもコロラドと桁違い

 

コロラドをワキに抱え、逆の手でスーぴゃーマーケットの荷物を持っている

 

普段からそうしてるのか、こうなったらどう足掻いても無駄だと分かっているのか、それとも姉として諦めているのか

 

コロラドはジッとしてホーネットに運ばれる…

 

「これはなに??」

 

「かに。ちょっきんちょっき」

 

二人で蟹瑞雲のいけすを覗いている

 

「これは??」

 

「ねこ。あんこちゃ。かにねらってる」

 

当時のワシントンとぶるっくりんが逆になっている

 

「にゃ〜」

 

「にゃ〜」

 

黒猫のあんこちゃんがワシントンに鳴くと、ワシントンも真似し返す

 

「にゃ〜」

 

ぶるっくりんも真似して真似し返すと、あんこちゃんはカニのおこぼれを貰えないと察知したのか、何処かへ行ってしまった

 

「おや、ワシントンさん。おはようございます」

 

「おはよございます」

 

朝ご飯に蟹雑炊でも食べたのか、エドガーが出て来た

 

「この方が…」

 

エドガーはぶるっくりんを見る

 

「私はぶるっくりん!!」

 

「エドガーさ。さつまは」

 

「う〜む。ワシントンさんから見ると私は薩摩藩士ですか…」

 

「ちがう??」

 

「あそこまで猛々しくありませんよ…私の剣技は…靭やかに、そして軽やかにがモットーです」

 

「みたい」

 

ワシントンはおもむろにいけすのカニを鷲掴みし、エドガーに見せる

 

「いいですよ。マーカス、手を前に」

 

「あぁ…な、何するんだ??」

 

「ほりぇ」

 

ワシントンがエドガーに向かってカニを投げる

 

「…」

 

黙ったまま、エドガーは刀を抜く…

 

だが、その顔はほんの一瞬真剣な表情を見せる

 

そして…

 

「おおお…」

 

「凄いわエドガー…」

 

カニの足が俺の手に落ち、最後に頭部が落ちる

 

「そのまま茹でて食べても構いませんよ」

 

刀を拭いた後、鞘に仕舞う…

 

「かに、いちげき」

 

「あれはどうするの??」

 

「ゆでる」

 

「それはくれてやる。さ、エドガー、仕置だ」

 

いきなり現れた日向に、エドガーは捕まる

 

「チクショウ!!寄るな!!カニ代なら払…吐く!!」

 

「吐け。貴様は毎度毎度面白半分でカニを叩き割りやがって。私の商売の邪魔をするな。アレンと同じ目に合わせてやる」

 

「いやー!!」

 

エドガーは蟹瑞雲に連れ去られてしまった

 

「もう…ちょっと行ってくるわ??」

 

ジェミニが蟹瑞雲に入って行く横で、ふとワシントンを見る

 

面白かったのか、少し笑っている

 

「ぱぴー」

 

「いつもして貰うのか??」

 

「たまにみる。ばんごは」

 

「そ、そうだな…晩御飯にしような…」

 

その後、帰って来たジェミニと一緒に執務室に戻る…

 

 

 

 

これからぶるっくりんはここで暮らす事になる

 

ぶるっくりんとも一波乱あるのだが、次の機会に話すとしよう…




ぶるっくりん…ツギハギの人魚姫

ある施設から脱出する為に産まれた元深海棲艦

マーカスの所に戻り、艦娘として生まれ変わった

ワシントンと仲が良く、小さいお姉ちゃんとデカい妹枠が増えた

危うく名前がふらいどぽてとになりかけたが、案外気に入ってるらしい


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327話 人造の神

前回のお話で少し出て来た艦娘のお話です

ぶるっくりんが横須賀に"還って来る"少し前、マーカスは大淀から調査の依頼をされます

そこには、霧に覆われた古城がありました



横須賀研究室

 

そこには様々な設備が備えられており、カプセル、艤装、試作品の数々…

 

そして、世界の至る所の情報を受信可能な装置も備わっている

 

大淀さんとレイ君が良く座っているのはここだ

 

「出た…」

 

数時間前から、太平洋の一部分で濃霧が発生している

 

普通は偏西風で流れていくのだけど、留まるのは不思議だ

 

それに、これは今に始まった事じゃない

 

一年に数回、毎回同じ場所に濃霧が発生している

 

一体何だろうか…調査が必要かも…

 

しかし、そうとなると船じゃ間に合わない

 

突然現れては、突然消えて行くからだ

 

航空機を扱えて、尚且現地でそれ相応に対応可能な人員がいる

 

「博士」

 

「あっ‼レイ君!!」

 

2つ共兼ね備えた人員が来た

 

レイ君はすぐに大淀さんの見ているモニターを見た

 

「濃霧か…しかも定期的に同じ場所に出ると」

 

「調査をお願いしたいんだ。軍が意図的にやってるならいいけど…ここにも深海がいるかも知れない」

 

「分かった」

 

レイ君は早速準備に取り掛かる

 

「不思議な事が一つあるんだ」

 

「何だ??」

 

「生体反応があるんだ」

 

「そんないつ出るかも分からないのにか??」

 

大淀さんは過去のデータを出した

 

それでも数回分しかないけど、確かに何かいる反応を示している

 

「毎回そうなんだ。しかも年に数回出れば多い。今回が絶好のチャンスだ。生体反応の信号をキャッチする機器を貸したげる」

 

レイ君に生体探知機の小型タブレットを渡す

 

これなら数キロ圏内の生体反応をキャッチして、信号音でレイ君に知らせる事が出来る

 

「ありがとう。陸上機じゃない方がいいな。水上機を借りて来る」

 

「無線はずっと繋げておくから、いつでも言ってね??」

 

「オーケー。早速ちょっと借りる」

 

レイ君は大淀さんの前にある無線を手に取る

 

「マーカスだ。誰かいるか??」

 

《隊長??どうしました??》

 

繋げたのは工廠、出たのは涼平君だ

 

「涼平か。水上機を一機確保出来るか??」

 

《少し待ってくださいね》

 

数分開けた後、涼平が戻って来た

 

《良い機体がありますよ!!》

 

「よし。そいつの座席に医療キットを積んどいてくれないか??」

 

《了解です。座席の下に仕舞っておきますね!!》

 

レイ君が無線を置き、革ジャンを着直す

 

「あ…レイ君??」

 

「どうした??」

 

「う…ううん!!帰って来たら、大淀さんがお礼に何かご馳走するよ!!」

 

「今度こそパフェ食おう!!」

 

ホントの事は言えなかった

 

革ジャンを着直して本気の目に変わったレイ君を見た時、また好きになっちゃった事を…

 

 

 

 

「こっちです!!」

 

涼平が確保してくれていた水上機の所に来た

 

「強風か!!確かに良い機体だ!!」

 

工廠のドックには、いつでも出れる様に整備してある強風があった

 

「アタイのなんだぞ!!ちゃんと返せよ!!」

 

朝霜が来て、俺に歯を見せて威嚇する

 

「秋津洲さんに聞いて作ったんだぞ!!擦ったら父さんのグリフォン貰うかんな!!」

 

この強風は秋津洲と朝霜が作ったらしい

 

つまりニトロがある

 

「擦らないさっ。どれっ!!ちょっとお散歩に行きますかっ!!」

 

強風に乗り、医療キットを確認してハッチを閉め、大淀博士に借りたタブレットを機器の空きスペースに置く

 

「涼平、朝霜、ありがとうな」

 

《後で感想聞かせてくれよな!!》

 

《何かあったらすぐに行きます!!》

 

二人に見送られ、横須賀を発つ…

 

 

 

操作確認をしておこう…

 

とはいえ、大体は同じか…

 

「ゔっ…」

 

やっぱりある"ニトロ"ボタン

 

正直凄い押したい…

 

どうしてこう、心くすぐるボタンなんだろう…

 

《ワイバーン、此方クラーケン。聞こえる??》

 

「聞こえるよ。今緊急の調査に向かってる」

 

《大淀から聞いたわ。定期的に現出する濃霧ねぇ…》

 

「生体反応があるから尚更だ」

 

《何かあったらす…》

 

「クラーケン??クラーケン応答しろ、クラーケ…」

 

急に無線が切れ、同時に生体反応を知らせるソナー音に近い音がタブレットから出た

 

「来たか…」

 

いつの間にか濃霧が目の前に来ていた

 

どれ、まずは上から確認してやるか

 

軽く上昇し、真上から濃霧の中を確認する

 

…何も見えない、か

 

仕方ない、やるか…

 

いざ、濃霧の中へと入る…

 

「信号が近いな…」

 

タブレットから出る音の間隔が短くなり、霧が薄くなる

 

「何だ…アレは…」

 

霧が晴れ、同時に小島が現れる

 

小島には、小さな城の様な建造物がある

 

行ってみなければ分からない、か…

 

小島の小さな砂浜に強風を停め、機体から降りる…

 

「なるほど…」

 

空を見回すと、小さな城を囲む様に霧が発生している

 

霧がこの城を隠しているみたいだ

 

霧の原因も、この城にあるはず…

 

医療キットが入ったリュックを背負い、城に向かう

 

「やっぱり…」

 

城に入る手前で、タブレットの信号がここに生体がいると示す

 

タブレットを切り、リュックに仕舞う

 

ここにいるのは間違いないみたいだ

 

いざ、入り口の重い扉を開ける…

 

 

 

 

鉄が擦れる音と共に扉が開く

 

広間の中に一歩足を踏み入れ、ピストルを構える

 

ここから先は孤立無援

 

もし何かに襲い掛かられれば、自分で対処せねばならない

 

が、長い間使われていないのか、辺り一面ホコリが被っている

 

誰かが生活している形跡も、この広間にはない

 

広間を抜けると、両脇に階段がかかる大広間に来た

 

数歩、足を前にやる

 

パシャッ…ガボンッ…

 

足元に水があるのに気付く

 

それも、飲めそうなくらい澄んだ水だ

 

「…真水か??こんな所に??」

 

こんな海の上に建つ城の中に??

 

靴に影響はない…

 

毒やら酸の類いではないみたいだ

 

不思議に思い、屈んでピストルを持った手とは逆の左手で水に触れてみた

 

「違う…こいつは!!」

 

《レイ君!!あぁ良かった…やっと繋がったよ!!どうだい??》

 

「大淀…」

 

《何かあったかい??》

 

「あぁ…ここで何をしていたか分かった…」

 

立ち上がり、辺りを見回す…

 

「人はここで…"人造の神"を造ろうとしたんだ!!」

 

水質に気付いたと同時に、ピストルを左の階段に向ける

 

「貴方は母なる海に還るのですか」

 

杖なのか足音なのか、コツン…コツン…と音を立て、女性は階段を降りて来た

 

《レイ君!?今ピストル構える音聞こえたけど!?》

 

「話は後だ。用事が出来た」

 

通信を切り、階段を降りる彼女にピストルと視線を向け続ける…

 

「銃を降ろして頂けませんか。私は貴方の敵ではありません」

 

女性に言われた通り、ピストルを下げる

 

「ここは何だ??何故ここに修復液がある…」

 

「はて…修復液。この泉を満たしているのは、生命の源ですが」

 

「見てろ」

 

新調したナイフを取り出し、軽く手の平を切り、すぐに泉に手を浸す

 

数秒した後、泉から手を出して傷が塞がっているのを彼女に見せる

 

「これは俺が生成した液体だ」

 

「そうでありますか」

 

まるで他人事の様に返す彼女

 

「私はずっとここを見守っています。ある時は灯台として…ある時は母として…そして…」

 

彼女は膝を曲げ、泉の水に手を浸し、また泉へと返す

 

「ある時は、ここの墓守として…」

 

「ここで死んで行った奴がいるのか??」

 

「戦いに疲れた者…傷を負ってしまって治す術がない者が、この泉へと還ります」

 

彼女は手で水をすくっては、また泉へと返す

 

「空母…戦艦…巡洋艦…ここには数多の命が眠っています」

 

「はっ…」

 

よく見ると、壁の至る所に深海の艤装が掛けられている

 

そのどれもが美しいまでに佇んでいる

 

まるで、毎日誰かに手入れされているかの様に…

 

「これはアンタが…」

 

「私が出来る手向けですから。おや…」

 

泉の水に気泡が出始める

 

彼女も俺も、すぐにその方向に目を向ける

 

「おや、珍しい…」

 

「これは??」

 

「貴方はご存知では??」

 

泉の中から、小さな手が出て来た

 

「よいしょっ…」

 

出て来た小さな手を抱き上げる

 

「ピギャッ!!ピギャー!!」

 

「…」

 

泣いているのか、威嚇しているのか…

 

「良い子だ…」

 

彼女はそれを不思議そうに眺めている

 

「貴方に呼応して産まれたようです」

 

「俺にか??」

 

「この泉から産まれるのは、誰かに触れたい、話したい…そして、愛されたいと思った命です」

 

「ピギャー!!ピギャー!!」

 

「そっかっ…」

 

何処かで聞いたセリフを聞き、ここに来てようやく微笑む

 

手元でピギャーピギャー泣く、人なのか艦娘なのか…はたまた深海なのか…

 

それでも、そう思って産まれて来てくれたのには違いない

 

「それで、貴方は何を探しに」

 

ようやく本題へと移る

 

「年に数回、この城の周りに濃霧が発生するから、調査に来たんだ」

 

「風を浴びさせないと、城も遺物も朽ちて行きますから」

 

「なるほど…」

 

「あるとすれば…今日の様な出来事がある、特別な日、ですかね」

 

彼女は俺に産まれたての子を寄越せと手を前に出す

 

その子は彼女の手に行き、ゆっくりと揺さぶられる

 

「ここから命が産まれると言う事は、やはり貴方は何かの力をお持ちのはず…」

 

「…普段は産まれないのか??」

 

「滅多な事では。私がここを任されて以来、数度程しか…」

 

「どんな子だ??」

 

「はて…貴方は既にご存知のはずですが」

 

「俺がか??」

 

「はい」

 

ここから産まれ、そして俺の知ってる奴がいると言う

 

「一人、不可思議な子がおられるかと。出生も分からぬ子が、一人…」

 

「脛に傷持つ奴も多い。俺もそうだ。聞かない事にしてる」

 

「そうでありますか。そんな貴方だからこそ、彼女は貴方を信頼している…違いますか??マーカス・オルコット」

 

自己紹介をしていないのに、彼女は俺の名前を当てた

 

「何故俺の名前を??」

 

「ベルリンで貴方と同じでしたが…」

 

「そっ、か…」

 

それは知っていてもおかしくないな…

 

ここに来て彼処にいた奴と会うとは…

 

「忘れたとでも」

 

「忘れちゃいないさ…忘れちゃいない…」

 

彼女は赤ん坊を抱きながら、蔑んだ目で俺を見る

 

「アンタの名前は??」

 

「名前…私には名前はありません。ずっと、この先も…そう、この子には名前を付けて下さい」

 

「そうだな…帰るまでに考えておくよ」

 

「少しですが、飲み物とお茶菓子でも…どうぞこちらに」

 

彼女が来た階段を、彼女を先頭に上がり、扉に入る

 

「意外に俗世的なんだな…」

 

中は生活感がある、広めのスペースがあった

 

彼女がピギャーをベッドに寝かせると、すぐにシーツを握って眠り始めた

 

俺はその横に座り、背中をさする

 

「時折、誰かがここに物を置いて行ってくれます。深海なのか、それとも人や艦娘なのか…いつか礼をせねばなりません…」

 

彼女はコーヒーを淹れながら背中で語る

 

「マーカス。貴方も災難なお方…ベルリンを離れてから、戦士になったと風の噂でお聞きしました」

 

「そうだなっ…随分っ、遠くまで来た気がする」

 

座り直しながら、外の景色を眺める

 

まだ濃い霧が立ち込めてはいるが、海は青い

 

「あそこにいた子供達は、ほとんどが艦娘に…もしくは、ほとんどが兵士になりました」

 

「聞いたよ」

 

「あれは、シスターのはからいでした。あの後、あそこも戦場になり、今はもうありません。どうぞ」

 

「ありがとう」

 

「ふふっ…その子は随分貴方に懐いています」

 

いつの間にかピギャーは俺のズボンを握っていた

 

「私は知りたい…何故貴方は双方に好かれるのか…」

 

急に彼女が体を近づけて来た

 

「それが分かってるなら良かったんだがな」

 

臆せず彼女の目を見返し、コーヒーを飲む

 

「そういう所でありますな」

 

彼女は体を離し、お茶菓子を持って来た

 

「これくらいしか、ここでは出来ませんので」

 

木のボウルに入っているクッキーは、どうやら彼女が焼いた物

 

「ありがとう」

 

「ピ、ピギ…」

 

いつの間に起きたのか、ピギャーは俺のクッキーに手を伸ばしている

 

「お前はまだ早いぞ!?」

 

「ピギ…」

 

「クッキー」

 

「ピッギー…」

 

彼女の顔を見る

 

今ピギャーは確かにクッキーと言った

 

「誰かに言われた事はありませんか。貴方の横にいると、母性が芽生えたり、成長が早くなると…」

 

「あるな」

 

「私はそれが知りたい…この子はそれに呼応したのですから…」

 

「食べれるのか…」

 

俺の太ももをテーブルにして、ピギャーはクッキーを小さな口で頬張る

 

何口も何口もかかるが、食べさせていたら大人しい子だ

 

「…ベルリンを出た後、私は日本の軍隊の施設に行きました」

 

「…」

 

ピギャーの背中をさすりながら、彼女の話を聞く

 

「私はそこで艦隊化計画の手術を受け"観測艦"としての役割を頂きました」

 

あまり聞かない艦種だ

 

「なら、ここは奴等の基地か??」

 

「いいえ。ここはずっと昔に建てられ、そして放置された場所…艦隊化計画始動の際、ここを見付けました。深海の子達は、ここを一時住処にしていた様です。ここで産まれ、ここで終わる。そういった場所です」

 

「なら、あの液体は…」

 

「数多の深海が産み出した、次の命を産み出す場所です」

 

「やっぱり…」

 

今の会話で分かった

 

ここにある修復液は、数多の深海の死骸が作り出していた

 

「彼等は深海が産まれるとここに捨てて行きました。その中でも異質と言われたのが"艦娘"…艦隊化計画で産まれた艦娘は、数多の犠牲の上で産まれて来たのです」

 

「その中から産まれて来た艦娘がいると…」

 

「えぇ。貴方の良く知る艦娘が…」

 

「ピギ…」

 

ようやくクッキーを食べ終えたのか、ピギャーもう一枚欲しがる

 

「それ食べたらなにか飲もうな??」

 

木のボウルからクッキーを取り出し、もう一枚渡すと、すぐに食べ始めた

 

その間、ピギャーはずっと俺の太ももに上半身を置いている

 

「いつからここにいる」

 

「はて…長い命を与えられた日から、随分経った気がしますが…いつの日か数えるのを辞めました」

 

「もう一度聞きたい。どうやって霧を出した」

 

「私にも良く分かりません…ただ、時折こうして霧が出た日は、風に当たりたいのか、こうしてお客が来るかのどちらかです」

 

「普段はどうしてる」

 

「はて…気付いたら霧が出ていますので…」

 

どうやら霧の正体は、突然発生しては何かを隠している

 

「…おや。貴方をお迎えに来た子が」

 

「何処にだ??」

 

「先程の泉に。今日は客人が多いですね…参りましょう」

 

ピギャーは彼女に抱かれ、下に向かう

 

ピギャーの時と同じく、気泡が出て来ている

 

「ここを転送装置の代わりとして使いますか…」

 

「誰が来るんだ??」

 

「電子の海を征き、貴方を一番心配している子です」

 

電子の海と言っていたので、恐らくAIから産まれた子だ

 

「ふふっ…この感じ…やはり貴方は好かれている。艦娘や深海に"心配される"のは、貴方位では」

 

「何故知ってる」

 

最後の疑問を彼女に当てる

 

「私は観測艦…ずっと貴方を…いえ、深海を見ています。度重なる生と死、その中で数多の貴方の記憶を垣間見ました」

 

「予測も可能だってか??」

 

「深海の子達の貴方の記憶は優しくて温かいものばかり…愛を知らぬ子には愛を…救いを求める子には救いを…」

 

「…」

 

「最期に貴方に抱かれた記憶を何度も見ました。その度に貴方は涙を流した。あぁ、自分の為に涙を流してくれる人間が、まだいたのだと…幸せなまま、ここに還って来ました」

 

「そんなつもりはなかったんだがな…こうなるつもりもなかった…」

 

「こんなとこにいたのね??」

 

泉の中から艦娘が出て来た

 

見慣れた、優しい艦娘だ

 

「叢雲‼」

 

そっか、叢雲が一番心配してくれてるのか…

 

「どこほっつき歩いてんのかと思ったわ??もぅ…」

 

「おや…意外そうなお顔を」

 

「はは、いや…何となく予想はついてた」

 

「アンタの子達は、アンタが帰って来ると確信してんのよ。調査は終わったの??」

 

ジャバジャバと音を立てて近付き、俺の前に立つ叢雲

 

彼女が抱いていたピギャーに目が行く

 

「…アンタもお盛んねぇ??」

 

「違う‼」

 

「違います」

 

二人同時に答える

 

「ふふっ‼ま、いいわ??」

 

「…帰ろうかっ!!」

 

叢雲は頷く

 

対して彼女は少しだけ寂しそうな顔をする

 

「今度は私がピギャーと共に遊びに行きます」

 

「いつでも来いよ??"八幡丸"も連れてな??」

 

彼女はハッとする

 

名前を付けて欲しいと頼まれていたので覚えていた

 

「そう…八幡丸と言いますか」

 

「日本の弓矢の神様の名前だ」

 

「八幡丸、バイバイをするのです」

 

「ピギ…」

 

俺が手を振ると、八幡丸は俺を真似て右手をニギニギし返した

 

「アンタ、ピギャーじゃなくて良かったわね??私の"母親"に付けられたらピギャーだったわよ??」

 

「は…」

 

叢雲の口から何気なく出た言葉を聞き、適当に名前を付ける女を頭に思い描き、少しだけ笑う

 

それと同時に安心した

 

当初はどうしようかと思ったのだが…良かった…

 

「"宗谷"」

 

「私でありますか」

 

「そうだ」

 

「私は宗谷…なるほど…もう一度呼んで頂けますか」

 

「宗谷」

 

「しっかり覚えておきます。それと、このピギャー…もとい八幡丸は私がここで面倒を見ます」

 

「連れて行こうか??」

 

そう言うと、宗谷は愛おしそうに八幡丸を抱き、首を横に振る

 

「一人は寂しいですから…」

 

「基地の場所は分かるか??」

 

「…叢雲さん、貴方にもお茶をお出ししましょう。マーカス、貴方も」

 

先程の部屋に戻り、宗谷は再びお茶を入れる

 

「アンタも私とおんなじなのねぇ??」

 

「ピギッギッ」

 

八幡丸はベッドに置かれ、その近くに俺と叢雲が座る

 

八幡丸はすぐに叢雲に気付き、授乳スリットに手を伸ばす

 

「残念ね。お乳は出ないわよ??」

 

「ピッギッ…」

 

叢雲に膝に頭を置かれて優しく撫でられ、大人しくする八幡丸

 

「どうぞ」

 

「どうもっ」

 

叢雲は温かいお茶を飲み、一息入れる

 

「それで、基地の場所は分かるか??」

 

「大いなる師に聞いてみましょう…」

 

「「大いなる師…」」

 

「ピギー」

 

宗谷の言葉に、一同息を呑む

 

霧が出る城だ…

 

何か出て来てもおかしくない

 

俺も叢雲も、本能的に臨戦態勢に入る…

 

すると、宗谷はPCの前に座った

 

「…宗谷??」

 

「…察しなさいよ‼」

 

宗谷の言う大いなる師とは、PCの事らしい

 

「ふふっ…少しばかりのジョークですよ。場所は…」

 

「ここだ」

 

PCをいじり、横須賀を指定する

 

「安心して下さい。わた…宗谷は、マーカスを裏切る事はありません」

 

「そりゃあありがたいな。そうだ、一つお願いを聞いてくれないか」

 

「何なりと」

 

「泉の水を少し頂戴していいか??」

 

「構いませんよ。貴方なら、悪用する事はないでしょうから…行きましょうか」

 

八幡丸は再び宗谷に抱えられ、俺と叢雲は下に降りる

 

持って来たボトルに泉の水を入れ、蓋を閉める

 

「帰りは霧も晴れているでしょう」

 

「世話になったな」

 

ここに来て、ようやく宗谷は薄っすらと笑う

 

「ほら八幡丸。バイバイです」

 

「じゃあな、八幡丸??」

 

「ピギギ…」

 

先程と同じく、八幡丸は空で右手をニギニギする

 

「叢雲さん」

 

「なぁに??」

 

「彼を宜しくお願い申し上げます…」

 

「言われなくても分かってるわっ??レイは…一人にするとダメなのよ。誰かが横にいてあげないと…」

 

宗谷は叢雲にも小さな笑みを送り、小さく頷く

 

「また来るわ??じゃあね??」

 

「ピッギギ」

 

叢雲にも右手をニギニギする…

 

 

 

城から出ると、霧は晴れていた

 

「さて、帰るか‼」

 

「アンタの嫁が心配してるわよ‼」

 

「急ごう‼」

 

叢雲が後部座席に座り、俺達の乗った強風は、城を後にした…

 

 

 

 

「そっかそっか‼そんな所にあったんだ‼」

 

横須賀に戻り、大淀博士に事の報告をする

 

「サンプルを持って帰って来た。保管室に置いてある」

 

「新しい薬、作るのかい??」

 

「…どうだかっ??まだ原液の状態だ。何がどうなるか…」

 

「あ、そうだそうだ!!間宮ではまかぜちゃんが待ってるよ‼」

 

「行って来…博士」

 

一つ約束を思い出した

 

「何だい??」

 

「パフェ…近々でいいか??」

 

「覚えてくれてるだけで十分だよ、レイ君??」

 

「ちょっと行って来る‼」

 

「いってらっしゃ~い‼」

 

大淀に言われたので、間宮に向かう

 

 

 

 

「マーカスさん。おかえりなさい」

 

「ただいまっ。ホットコーヒーと…はまかぜは何食う??」

 

「では…このステーキセットを」

 

「ステーキセットを」

 

「畏まりました〜!!」

 

はまかぜはメニューを見る時以外、ずっと俺を見ている

 

「…タバコ、吸って来るよ」

 

「ここで吸って下さい。その為に喫煙席に座りました」

 

「は、はい…」

 

はまかぜに言われ、内ポケットからタバコを出して、火を点ける…

 

はまかぜは何かを言いたそうにしているが、言いたい事は何となく分かっていた

 

「言いたくなきゃ言わなくて良い。言っても変わらない。いつも通りのはまかぜのままだ」

 

「マーカスさんが…今日行った所で産まれて…私が深海でも…ですか??」

 

「そうだ」

 

「貴方が好きで…貴方の所に行った事もですか??」

 

「そうだ」

 

「ステーキセットとコーヒーです!!」

 

「ありがとう」

 

「ありがとうございます」

 

はまかぜの前にステーキセットが置かれ、俺の前にコーヒーが置かれる

 

「貴方の事が好きで…この体を持ったのに…食べ物が美味しくて美味しくて…ご飯に負けたのもですか??」

 

「そ…そうだっ!!冷める前に食べろ…」

 

「そうでしたか。いただきます」

 

数秒前の重い空気が一瞬で破壊されるかの様に、はまかぜはステーキにありつく

 

「はむっ…むぐっ…んんっ…」

 

デミグラスソースがかけられた、少し硬めの肉をナイフで切り、すかさずライスを口に入れるはまかぜ

 

はまかぜの食いっぷりはいつ見ても美味そうに食う

 

こっちまで腹減って来たな…

 

「美味いか??」

 

「んっ…はいっ、たまにはステーキも、いいですね!!」

 

「ふ…」

 

コーヒーを飲みながら、はまかぜがフォークで刺して渡してくれたデミグラスソースたっぷりのポテトを食べる

 

「もう一つ…言ってもいいですか??」

 

「良いぞ」

 

「マーカスさんのストックのお菓子、あるじゃないですか」

 

「うん…」

 

「あれ、全部食べました」

 

「そっか…え!?どこの!?」

 

真面目に優しく聞いていたつもりが、また一気に破壊される

 

菓子くらいいいんだ

 

「工廠のです…夜中にお腹が空いてしまって…」

 

「あ〜…ま、まぁいい!!帰りに買って帰ろう、な??」

 

はまかぜは一瞬でステーキもライスも胃に落とす…

 

「行こうか」

 

「はいっ。ごちそうさまでした、間宮さん」

 

帰り道、寄り道をしてスーぴゃ〜マーケットへと向かう

 

その道中、はまかぜが口を開く…

 

「人造の神、ですか…」

 

「聞こえてたか??」

 

「すみません。叢雲さんからお聞きしました…後、あの時近くに綾辻少尉も…」

 

「涼平が??」

 

「はい。貴方にもしもの事があった時、すぐに出れる様にと」

 

「あ、隊長!!」

 

丁度良く涼平がスーぴゃ〜マーケットから出て来た

 

「涼平、ありがとうな」

 

「あ、いえっ!!大淀博士から「レイ君連絡取れなくなっちゃった!!」って言われたので、一応待機してました!!」

 

「「上手い…」」

 

涼平の特技と言うか何と言うか…

 

人のモノマネと言うか、模倣のクオリティーが非常に高い

 

「叢雲は何て言ってた??」

 

「はまかぜさん、ちょっとこれを…」

 

「はいっ」

 

涼平は持っていた荷物をはまかぜに渡し、咳払いをする

 

「んもぅ…仕方無い子ねぇ??ま、いいわ、ちょっと行って来るわ!!本物の人造の神になってビビらしてやんの!!どんな顔するか楽しみだわ!!」

 

腰に手を当てて、片目を瞑る話し方…

 

これは叢雲だ…

 

「本当にこんな感じでした!!」

 

「メッチャ分かり易いぜ…」

 

「ふぅん??涼平君にアタシはそう映ってんのねぇ??ふぅん??」

 

「む、叢雲さん…」

 

またまたタイミング良く叢雲が来た

 

「叢雲もありがとうな」

 

「な、何改まって言ってんのよ…別にアンタの為にした訳じゃないから!!ほ、ほらあれよ!!人造の神って良い響きじゃない??信仰心の無いアンタが言う位だもの!!」

 

「「一番心配していました」」

 

はまかぜと涼平が声を合わせて言う

 

「なっ…し、心配なんかしてないわよ!!」

 

「とにかく、ありがとうな??」

 

「地球の裏側にいてもとりあえず行ったげるわ??じゃっ、アタシは先に帰ってるわ??」

 

叢雲は先に基地へと帰って行った

 

「さて、はまかぜ。好きなの買って良いぞ!!」

 

「ホントですか!!」

 

「好きなだけ持って来い。涼平、お前も好きなの買って良いぞ」

 

「ありがとうございます!!」

 

涼平とはまかぜにカートを押させ、俺はベンチで一息入れ、タブレットを弄る

 

 

 

リヒター> すまん。お礼をしてなかった

 

ヘラ> 気にしなくていいわ

 

リヒター> お菓子でもいいか??

 

ヘラ> ジュースも付けなさいな

 

リヒター> 了解した

 

 

 

「マーカスさん。決まりました」

 

「よしっ、なら買いに…おおお…」

 

はまかぜはカートにお菓子をてんこ盛り乗せて持って来た

 

「俺もちょっと買って来る、ちょっと待ってろ!!」

 

急いで叢雲のお菓子を決め、ジュースも手に取る

 

「よしっ、行くぞ…」

 

「涼平さん、お願いします」

 

「は、はいっ…フンッ!!」

 

「もう一つあんのか!!」

 

「ぴゃ〜…凄い量…」

 

「大尉!!矢矧の所に片方回して下さい!!」

 

カートは2台

 

両カート共てんこ盛りのお菓子

 

矢矧も応援に入るが、レジが終わるまで30分掛かった…

 

そして…

 

「39万8000円です!!」

 

「えっとだな…ちょっと待ってて下しゃい…」

 

流石に手持ちが無い、無さ過ぎる!!

 

「アタシが払うわ。小切手で良いわね??」

 

「ジェミニ…」

 

今度はジェミニが来た

 

既に谷間から小切手セットを出して金額を入れている

 

「な~んか騒がしいから来たの。矢矧、良いわね??」

 

「は、はいっ!!」

 

「じゃこれで」

 

「なんか…すまん…」

 

「いいのいいの!!はまかぜ、涼平、特別ボーナスの代わりね!!」

 

「「はいっ!!ありがとうございます!!」」

 

「はまかぜの分は明日の便で輸送させるわ??」

 

「ありがとうございます!!」

 

はまかぜは持てるだけのお菓子を持って、基地へと帰って行った

 

「さてとっ…お疲れ様ね、レイ??」

 

「あんな所があったんだな…」

 

「一応調べはついたわ。情報通り、自衛隊の使っていた艦隊化計画の廃棄場ね」

 

「廃棄場か…」

 

網走で見たあの光景よりマシか…

 

思い出したく無くて、タバコを咥える…

 

「にしても、アンタが言ってたのが気になるわね…信仰0のアンタの口から神ねぇ…」

 

タバコに火を点け、その答えを出す

 

「だから人造なんだよっ…」

 

「そう言う事ね、なるほどっ…」

 

そう言って、ジェミニは俺の左腕に手を絡める

 

「怖い??」

 

「あぁ」

 

廃棄場と言われ、未だあの光景が頭に過る…

 

「あらっ!!正直に言える様になったの〜!!えら〜い!!よちよち!!」

 

ジェミニは背伸びをして、俺の頭を撫でる

 

「なっ!!ぐっ!!」

 

「ちゃんと言えて偉いわレイ君??」

 

「がっ!!」

 

忘れた頃にやってくる、硬直コール

 

「39万8000円分の働きしましょうね!!」

 

「ヂグジョー!!」

 

ジェミニに引き摺られ、久方振りに二人きりの夜を過ごした…




宗谷…ケアテイカー

長年謎の古城でケアテイカーをしていた艦娘

深海棲艦が最期に還る場所をずっと守っており、遺された遺物の管理もしている

済ました顔してたまにドッキリを仕込んで来る

作者はずっと"そうや"じゃなくて"むねたに"と呼んでいたのは内緒



八幡丸…ピギャー

泉の中からマーカスに呼応して産まれて来た艦娘

まだ赤ちゃんだが言葉も分かるし、胸の大きい艦娘を見かけると母乳を飲もうとする

宗谷が暇潰しで焼くクッキーが好物



マーカスに呼応して産まれて来た為、大淀曰くマーカスに何らかの"惹き付ける能力"か"生きたいと思う気持ちを揺する何か"があると確信している

このお話に同じ状況で産まれて来た艦娘が出て来ているが、マーカス以外には語ろうとしないので、八幡丸が会話が可能になった場合、それが何か紐解かれるかもしれない



もしくは"深海の誰か"か、はまかぜが語るまで…


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328話 夢を運んだ客船

マーカス達がウクライナから帰って来て、そろそろ日常に戻ろうとしていたある日のお話です

マーカスの嫌いな物3大、そのトップを飾るオバケ

海流に乗ってずっと終わる事の無い航海をしている客船
"サント・アンナマリア号"

そんな所に調査をして来いと言われます

嫌々向かうマーカスに着いて行ったのは、ここぞとばかりにおちょくり倒すタイミングが来た艦娘でした

ちょっぴり悲しくて、ちょっぴりおちょくり倒すお話です


ウクライナから帰って来て数日後…

 

俺達はそろそろ普通の生活に戻ろうとしていた

 

一連の事柄を、粗方の人物に話し終えたからだ

 

ただ、その最中気になる事案を耳にした

 

それを言ったのはジェミニ、そして大淀

 

「アンタが行った後、幽霊船を確認したのよ」

 

「最初はどっかの国が攻めて来たー!!と思ったんだけどね…無いんだ、生体反応が」

 

その幽霊船は遠征帰りの艦娘が確認したらしい

 

航空偵察を送ったが、人がいる気配はない

 

ましてや生物の気配もない

 

しかし、潮の流れで未だに動いている

 

霧の中をずっと右往左往しているらしい

 

「そうか!!頑張れよ!!」

 

オバケは嫌なので、それを聞いて執務室を去ろうとした

 

「ちょっと調査に行って欲しいのよ」

 

「あイタタタ!!急に両足全部捻挫した!!」

 

「中にある物を確認して欲しいんだ。どうも数年前からずっと幽霊船みたいなんだ」

 

「至る所脱臼したから無理だなぁ…いやぁーすまんな!!じゃ!!」

 

両足全部捻挫、全身全部脱臼、これで行かなくて良いだろう!!

 

「必殺技使うわよ??」

 

「ダメです。嫌です。行きたくないです」

 

「レイ君しか現地で対応出来ないんだ…」

 

「嫌なものは嫌であります!!本官は職務中なのでこれで失礼しまーす!!ばいばーい!!」

 

「上官命令よ??」

 

「うぐぐぎぎ…」

 

ジェミニと大淀のニヤケ顔がムカつく…

 

 

 

 

「隊長…何なら自分が代わりに…」

 

「な~んで俺が幽霊船の調査に行かにゃダメなんだよ!!く~っ!!」

 

調査の結果、水上機なら横付けして乗船出来る部位がある事が分かった

 

可哀想に。涼平は命令に忠実に動き、既に水上機の整備を済ませてくれていたので、荷物を積み込み乗り込む

 

涼平君の素直な所を、本官も見習わなければならないな、うん

 

《私が着いてってあげるから、それで堪忍なさいよ??》

 

タブレットに入ったヘラが話し掛けて来た

 

「オバケは怖いの!!いいか!?弾は当たらん!!ナイフも当たらん!!ついでに言ったら会話も出来るかどうかだ!!」

 

《大丈夫よ、な~んにもいないって言ってたでしょ??ちょっと見て帰るだけよっ!!》

 

「隊長、幽霊船の右側に乗船入口が開きっぱなしになっている箇所があります。タラップにワイヤーを掛けて停めて下さい」

 

「分かった。すまないな、手伝ってくれて」

 

「いえ…本来なら自分が行けるのですが…現地で対応出来るのが隊長だとお聞きしたので…自分が出来る事は整備位です」

 

「充分さ。んじゃ、ちょっくら行って来る!!」

 

「お気を付けて!!」

 

涼平がタラップから降り、手を振る

 

「あ!!隊長!!ライフルは後部座席に置いてありますからー!!」

 

右手を上げて分かったと言い、強風で横須賀を発つ…

 

 

 

 

「オバケの住んでるお船〜…ははは…」

 

《ノイローゼじゃない!!もぅ…》

 

「どうすんだ??ワイヤートラップとかあったら…幽霊船だぜ!?そんなもんトラップだらけだ!!」

 

《映画の見過ぎよ。あんなのないから大丈夫よ。それに、トラップがあったら私が知らせたげるから》

 

「マーカス君は意識がありません、死ですか??」

 

《白露モードになったら、迎えに行ったげるから》

 

ヘラに全部返され、気が狂いそうな状態から少し楽になれた

 

この前メチャクチャ怖い映画を見たから余計に嫌だ…

 

「霧だ…」

 

《霧ん中をずっと回遊してるって聞いたわ??》

 

「見えた…」

 

霧の中に現れた、巨大な船体…

 

見た限り、豪華客船のようだ

 

「見た、何にもない、調査終了、閉廷、帰ろう」

 

見たし、何にもない。さ、帰ろう

 

怖い怖い、くわばらくわばら

 

幽霊船はいたね、終わり

 

調査終了!!

 

《着水しなさいな》

 

「どうしてもか!!」

 

《どうしてもよ!!》

 

「くぅ…」

 

それでも嫌なので、一度船体を見てみる

 

「デカいな…」

 

《サント・アンナマリア号…1998年に進水した豪華客船ね》

 

「あれか、涼平の言っていたタラップは」

 

《そうね。決心は付いた??》

 

「終わらないなら早めに終わらせるだけだ!!」

 

《良い子ね》

 

着水し、タラップにワイヤーを掛けて強風を固定する

 

《リュックは持った??》

 

「持った」

 

《ライフルは背負った??》

 

「背負った」

 

《気を付けて行きなさいよ??》

 

「行って来る。何かあったら知らせるよ」

 

《ずっとアンタの手元にいるから心配しないでいいわ??》

 

タブレットを内ポケットに入れ、幽霊船に入る…

 

 

 

 

「船内に入った」

 

左手にタブレット、右手にピストルを構える

 

《良い子ね。まずは上から調査しましょうか》

 

階段を上がり、甲板を目指す

 

「トラップはあるか??」

 

《無いわ。アンタの危惧してるワイヤーも、随分前に落ちちゃってるわよ》

 

床を見ると、潮風に当たって錆びたワイヤーが甲板に落ちているのが見えた

 

「甲板に誰かいる気配ないな…死体の類も無い」

 

《死体があったら分かるわよ。心配せずに行きなさい》

 

次は地下の貨物室だ

 

どうもここに何かある可能性があるらしい

 

「ここか…」

 

《生体反応はないけど、何かあるのは違いないわ》

 

「い、行くぞ…」

 

意を決して貨物室のドアを開ける…

 

貨物室の中は木箱が沢山あった

 

《缶詰か金塊入ってんのよ》

 

「さ、帰ろう」

 

ヘラに脅され、ドアを閉じる

 

《嘘よ嘘っ!!一個開けてご覧なさいよ》

 

「当たってたらメチャクチャキレるからな!!」

 

近くの木箱を一つ、ナイフで開ける…

 

「何だ…」

 

《何入ってたの??》

 

「お菓子だ…賞味期限もまだまだある…」

 

出て来たのは、まだまだ賞味期限があるお菓子の袋

 

振ってみるとカシャカシャ音が鳴り、中身も入っているのが確認出来た

 

《あら…じゃあその船に誰かいんのかしら…》

 

「こっちは…」

 

もう一つ木箱を開けてみる

 

「青リンゴだ…」

 

《アンタ幻でも見てんじゃないの??ちょっとカメラで撮んなさいよ》

 

タブレットでお菓子の袋と青リンゴの写真を撮る…

 

《あら、ホント。ホラーよりミステリーになってんじゃないの??》

 

「一気に大丈夫になった。よし、調査を続けよう!!」

 

今度は問題の客室

 

数が多いが、ここは必殺技を使おう

 

「ヘラ、客室内をレーダーで捜索してくれ」

 

《分かったわ。アンタ、客室のドアの前に行って頂戴。そしたらその部屋を調べたげる。何かあったら開けるのアンタね》

 

「分かった、頼む」

 

客室の探索が始まる…

 

 

 

一時間程し、探索は終わる

 

客室に異常は無い

 

何室か入ってみたが、誰かがいたとか、死んでいた等は無かった

 

ただ、一つ気になるとすれば…

 

《何でベッドシーツはキッチリしてあんのよ…》

 

「当時のままとは思ったんだがな…」

 

そう、ベッドメイキングだけはどの部屋もかなりしっかりしてある

 

まるで…ここに普段から"泊まりに来ている"様な…

 

《ブリッジに行ってみましょう》

 

「分かった…」

 

客室の探索を終え、ブリッジに向かう…

 

 

 

 

ブリッジに入り、レーダーを見る…

 

やはり動いていない

 

《アンタ付けれないの??》

 

「幾ら何でも電力がないとな…」

 

スイッチを弄るが、やはり反応は無い

 

強いていうならば、舵が不気味な音を出しているだけだ

 

どう見ても機能していないが、一応触れてみる…

 

「ダメだ、完全に潮の流れに乗ってるだけだ」

 

《上手い具合に乗ったわけ??》

 

「どうだろう…この船のみぞ知る…だ」

 

《お宝も無い、生体反応も無い、どっかの誰かさんが捨てて、ここに迷い込んだみたいね??》

 

「そうだな…」

 

《あと一つだから、そろそろ言うわよ??》

 

「何だ??」

 

動かないレーダーの前の椅子に座り、タバコに火を点けて、ヘラが送ってくれたタブレットの情報を見る…

 

《サント・アンナマリア号は、反抗作戦に巻き込まれてるわ》

 

「乗客は皆避難したのか??」

 

《そうみたいね。死傷者の記録はないわ》

 

「すまなかった…」

 

レーダーに手を置き、サント・アンナマリア号に一言お詫びを入れる

 

軍艦でもないのに、巻き込んでしまってすまない…

 

《乗客がいないのを分かってか、当時の深海も軍側もこの船を襲ってないわ??》

 

「だからこんなに綺麗なまま残ったのか…」

 

《そゆこと。さ、ラスト行きましょ!!とっとと帰るわよ!!》

 

「そうしよう!!」

 

残るはレストランだ…

 

 

 

《今レーダーで見てるけど、ここのレストラン広いわね…》

 

「内装も凝ってるのか??」

 

《えぇ、テーブルクロスまでぜーんぶ凝ってるわ??》

 

「それは楽し…み…」

 

急に船内が明るくなる…

 

《レイ??》

 

歩みが止まる…

 

タブレットを見ていた焦点をズラす…

 

「ヘラ…」

 

《どうしたの??》

 

「こんなに床…綺麗だったか…」

 

《レイ!?しっかりなさい!!》

 

「お腹すいた〜!!ご飯ご飯!!」

 

視線を上に戻す…

 

「はっ…」

 

子供とその親が、レストランに入っていくのがハッキリと見える…

 

《レイ!!しっかりなさい!!幻見てんのよ!!コラ!!》

 

「おっと失礼…」

 

誰かとぶつかる…

 

「あ…す、すまない…」

 

振り返ると、壮年の男性がいた

 

腕には同じ年齢位の女性がいる

 

「このレストランは初めてかい??」

 

「は、初めてなんだ…その…入るのに躊躇ってて…」

 

「一緒に行こう、さぁ!!」

 

《レイ!!戻りなさい!!レイ!!コラ!!行っちゃダメ!!様子が変よ!!》

 

壮年の男性と共に、レストランの入口まで来た

 

「彼も一緒に」

 

「どうぞどうぞ、お楽しみ下さい」

 

入口にいた男性二人に軽くお辞儀をされ、ドアを開けながら手で「中へどうぞ」とにこやかに誘導される

 

《幻見てんのよアンタ!!コラ!!戻りなさいっての!!もぅ…ジェミニに言うわよ!!》

 

ヘラの声が頭に入らない

 

声は聞こえはするのだが…体は何故か中に入ろうとする…

 

席に案内され、腰を降ろす…

 

壮年の男性は別の席に座っており、俺は二人がけの席に案内された

 

メニューの類はなく、まるで最初から注文していたかの様にすぐに目の前に料理が置かれる

 

「アンガス牛ステーキ、デミグラスソースです」

 

「頂きます…」

 

《コラレイ!!食べちゃダメよ!!何年前の船だと思ってんの!!コラーーーッ!!》

 

ジェミニの声がするが…出された料理を口にしたい…

 

ナイフで肉を切り、フォークで口に運ぶ…

 

《何食べてんのアンタ!!お皿は食べらんないわよ!!何かあったのね!?涼平!!すぐに幽霊船に向かって!!レイがおかしいわ!!了解です!!急行します!!》

 

「美味い…!!」

 

「それはようございました…スープをお持ちしますね」

 

お皿とナイフがカチャカチャと音を立てる

 

俺は今まで食った事がない位、あまりにも美味いステーキに顔が綻ぶ

 

「コンソメスープです」

 

「ありがとう」

 

スープに行く前に、机に灰皿がある事に気付き、タバコを取り出す

 

「どうぞ…」

 

「ありがとう…」

 

ウエイターに火を点けて貰い、ため息の様な紫煙を吐き出す…

 

「お客様。当レストラン自慢の演奏があります」

 

「演奏か…」

 

「あちらに…」

 

ウエイターが手を差し伸べた先を見る…

 

「はっ!!」

 

舞台の上を見て、息が詰まる…

 

「お客様のお知り合いでは??」

 

「ど、どうして…」

 

「…」

 

ウエイターはにこやかに、もう一度手を舞台の上に向ける

 

俺は何もかもを忘れ、荷物もタブレットも、ライフルも全部忘れ、席を立ち、舞台の上に上がる

 

「マリオ…!!」

 

そこにいたのは、あの日自分が殺めてしまった軍楽隊の面々

 

「さぁマーカス!!久々に一緒にやろう!!」

 

マリオが2度、指を差した方に向く

 

軍楽隊の中心に椅子があり、その前にバイオリンが置かれている

 

マリオに視線を戻し、呼吸が荒くなる…

 

「マーカス、君に合わせる。さぁ、思い出のある一曲にしよう!!」

 

「…うんっ!!」

 

目に涙が溜まる

 

マリオの顔も、バイオリンも、見えない位に

 

それを拭い、演奏が始まる…

 

 

 

 

その頃、横須賀…

 

「何??バイオリンの音??」

 

ジェミニの耳にもタブレット越しに入る、あの日舞踏会でマーカスが演奏していた曲だ

 

「はっちゃん、マーカス様の所に行かなきゃいけません」

 

心配になって横須賀に来て執務室にいたはっちゃんが反応を起こす

 

「ダメ、待ってはっちゃん!!」

 

「マーカス様が呼んでます」

 

「はっちゃん、大丈夫だよ。タナちゃん!!タナちゃんも大丈夫だからね!!」

 

《創造主が呼んでるでち…》

 

「タナトス!!ストップ!!」

 

分遣隊の基地の方でも、今頃ひとみといよ、しおいが反応を起こしているだろう

 

「お、親潮!!大佐に連絡して!!ひとみといよとしおいを止めて!!」

 

「私も行かなければなりません」

 

しまった、親潮もこの機能が入ってる!!

 

「あ、朝霜ー!!」

 

「あかった!!任せな!!」

 

「終わったら単冠にも連絡して!!ダメーッ!!はっちゃんっ!!親潮も行かないのーっ!!」

 

「ダメーっ!!行っちゃダメーっ!!」

 

ジェミニと大淀は、彼の娘達を必死に止める…

 

《ヨナ〜、お父様の所に行かないと〜》

 

「あぁ…行っちゃう…」

 

《よいしょー!!》

 

ヨナの方の無線から誰かの声が聞こえた

 

《大丈夫だよヨナ。僕が付いてるからね??》

 

《そうですか〜??ヨナ、行かなくても〜大丈夫ですか〜??》

 

《大丈夫!!タナトスも大丈夫だよ!!》

 

《きそには逆らえんでち…》

 

「きそ!!助かったわ!!」

 

現れたのはきそ

 

横須賀にいた所、異変に気付き、スカーサハに乗り込んでくれていた

 

《レイに何かあったの??》

 

「分かんないのよ!!それよりっ、みんなレイの所に行こうとすんのよ!!」

 

「きそちゃん!!何とかなるかい!?」

 

《レイの演奏か…僕が止められるのはタナトスとスカーサハだけだし…考えろ…》

 

「大丈夫よ」

 

「ヒュプノス!!」

 

騒ぎを聞きつけ、ヒュプノスが執務室に来た

 

「はっちゃん、大丈夫。お父様を信じなさい」

 

「マーカス様が呼んでるんです!!」

 

「私達のお父様は、貴女達を危険な目に晒した事があるかしら??」

 

はっちゃんと親潮の動きが止まる

 

「どうして…ヒュプノスには効かないのですか??」

 

「私??私も効いてるわよ??お父様の命令だもの、絶対優先よ??貴女が一番良く分かってるでしょ??」

 

「親潮も、はっちゃんも、創造主様の命令で体が動きました…」

 

「そう…それでいいの。とても立派な証拠よ??だけど、今は違う…お父様は夢を見てるの」

 

「どういう事??」

 

落ち着いたはっちゃんと親潮を離し、ジェミニがヒュプノスの話を聞く

 

「ヘラから映像を貰ったわ。お父様は今、一人にした方がいいわ??久々に懐かしい夢を見てるのよ…」

 

「涼平送ったんだけど…」

 

「そうね…涼平君が来た時が、夢から醒める合図ね。あの船は夢を運んでいたのよ」

 

ヒュプノスは語る…

 

何もないと思っていた船内にあった真新しい食材

 

美しく整えられたベッド

 

そして、今マーカスがいるレストラン

 

あの船、サント・アンナマリア号は、霧の中にいる事

 

そして今、マーカスは霧の中で迷っている事…

 

「迷ってる??」

 

「そう…夢から醒めないか、それとも、また私達のいるここに帰って来るか…大淀もジェミニも、お父様の想い人なら覚えてるでしょう??お父様が極度の方向音痴なのを」

 

「そうね…レイは時々帰り道を見失うわ…」

 

「だったら尚更誰かが迎えに行かないと!!」

 

大淀の体が動くが、ヒュプノスが止める

 

「言ったでしょ??夢を見てるって…誰にも邪魔されたくないの、きっとね…涼平君がきっかけになるわ」

 

「帰って来るかしら…」

 

「大淀さんが送っちゃったから…」

 

「大丈夫、心配するな。よ??」

 

ヒュプノスの一言で、その場に居た全員が我に返る

 

「さぁ!!お父様が帰って来たらお腹を空かせてるわ!!お母様、皆でお料理しましょう!!」

 

ヒュプノスがそう言い、皆厨房へと移動する…

 

 

 

 

サント・アンナマリア号の中では、今まさに演奏が終わった…

 

喝采の中で、俺はマリオの所に行く

 

「ありがとう、マーカス」

 

「マリオ俺は…艦娘に同じ事をしようとした…」

 

「マーカス…顔を上げてくれ」

 

俺は顔を上げた

 

「救おうとしたんだろう??」

 

目を閉じて溢れる涙を堪える…

 

「その涙が答えだよマーカス。いつでも君は誰かを救おうとしてくれる…何もっ!!」

 

マリオに引き寄せられ、抱き締められ、背中を優しく叩かれる…

 

「間違ってないっ!!私達はいつも見てるぞ!!」

 

「すまない…ありがとうっ…」

 

「何も抱えなくていいんだマーカス。ありがとう、楽しかったよ!!」

 

「マリオ頼む行かないでくれ!!」

 

マリオの体が消えかかっている…

 

また、お別れの時間だ…

 

「夢から醒める時間だ、マーカス…」

 

 

 

 

「…長!!隊……」

 

「は…」

 

「隊長!!はぁっ…良かった…」

 

目の前には涼平がいた

 

舞台の上で倒れていたみたいだ

 

「眠ってたのか…ここで??」

 

「心配しましたよ…立てますか??」

 

「あぁ…すまん…」

 

涼平の手を借り、立ち上がる

 

「ダイジョーブ??」

 

「大丈夫みたいですね…良かった…」

 

いつの間にか深海の女の子もいる

 

「オニーサン、ドーシテシンカイノレストランニイタノ??」

 

「ここはやっぱりレストランか…」

 

「ウンッ、タマニココデパーティースルンダ!!ダカラカモツシツニ、ゴハンガイッパイアルノ!!」

 

「…」

 

俺が座っていた席には、皿とナイフとフォークがある

 

ただ…皿には何も入っていない…

 

何ならホコリを被っている…

 

ナイフとフォークも、ホコリに俺の手形が付いている…

 

俺は夢の中であれだけ美味いものを食ってたのか…

 

「口ゆすぎますか??」

 

「大丈夫だ…食ってない…」

 

「帰りましょうか!!」

 

「オソトマデミオクルネ!!」

 

「待ってくれ…」

 

入口でレストランの方を振り返り、舞台を見る…

 

「ありがとう…またな…」

 

礼を言い、レストランのドアを締めた…

 

 

 

 

「ココハネ??ズーットマエニヒトガイナクナッテ、ステラレチャッタノ」

 

「今は深海の子達のパーティー会場か??」

 

「ウンッ!!キリモデテルシ、ワカリニクイカラピッタシナンダ!!」

 

「世話になったな…そうだ、涼平を案内してくれたお礼だ」

 

リュックからチョコレートバーを2本取り出し、彼女に渡す

 

「ワー!!チョコレートダ!!イイノ!?」

 

「今手持ちがそれしかなくてな…」

 

「アリガト!!ダイジニタベル!!」

 

「隊長〜!!エンジン入れましたよ〜!!」

 

「じゃあな!!ありがとう!!」

 

深海の女の子は、チョコレートバーを持った逆の手で俺に手を振る

 

「よく場所が分かったな??」

 

《この船に乗ってから、隊長はここにいる〜って声がしたんです》

 

「あの子が案内したんじゃないのか??」

 

《あの子って誰ですか??》

 

涼平はキョトンとしている

 

《そう言えば隊長、何かさっきから自分以外と話してませんか??》

 

「怖い事言うなよ…そこに深海の女の子が…」

 

俺が入口の方を指差す

 

涼平がそっちに顔を向ける

 

《誰もいませんよ…》

 

「アカン!!帰るぞ!!離脱!!りだーーーつ!!」

 

《は、はいっ!!で、出ます!!》

 

涼平のOS2Uが出て、俺の強風も離れる…

 

「トドメに爆裂オバケは駄目だって!!」

 

《じじじ自分が聞こえた声もおおおオバケですか!?》

 

「いいい言っただろ!?オバケはヤバイって!!これで分かったろ!!」

 

《オバケはもう嫌です!!》

 

《やーっと繋がったわ??大丈夫??》

 

無線からヘラの声がした

 

《「オバケ見た!!」》

 

《はいはい、分かったから。ご飯作って待ってるわよ??》

 

「信じてねーだろ!!マジモンだからな!?」

 

《ホント怖かったんですから!!》

 

《二人が言うならよっぽどなのね…で??幽霊船はどうなったの??》

 

「…ない」

 

《ないってどういう事よ!!》

 

《ホントにないんです…》

 

今しがた飛んだばかりなので、眼下にあるはずなのだが…

 

本当にいなくなっている

 

それどころか、霧も晴れている

 

《…》

 

「…」

 

《…》

 

最初に口を開いたのはヘラ

 

《…あったわよね、船》

 

「あったよ…今ねーんだよ…」

 

《わ、忘れましょう隊長!!ヘラさん!!》

 

「あ、哨戒飛行中だったな!!」

 

《そ、そうそう!!哨戒中よ!!ほ、ほらアンタ!!しっかり操縦桿握って!!涼平!!アンタもよ!!》

 

《「は、はいっ!!」》

 

俺達は基地に戻った…

 

 

 

 

 

サント・アンナマリア号について、横須賀基地では口外禁止とする

 

当事者に聞いてもビビり散らかして話にならないので聞かない事とする




サント・アンナマリア号…豪華客船

1998年からずっとアメリカと日本を行き来していた豪華客船

直前の夜にマーカスはメチャメチャ怖い映画を見ていたのでビビり散らかして調査に入るが、そんな事は一切ない

深海棲艦と人間が開戦したとほぼ同時に攻撃を受けるが、乗組員や乗客の被害は無かった

レストランではとても美味しい料理が提供され、素晴らしい演奏と共に食事を楽しむ事が出来る

今では至る所がホコリを被っているが、時たまここで深海の小さなパーティーが開かれるとの噂



レストランエリアに近付くと、一種の幻覚が見える事がある

この現象については明らかになっていないが、レポート上ではマーカスが"船に対して御礼をした"事で船自体がそれに対して応じた事になっている

ただ、何故か本物のオバケが出る。こわいね


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