徒然なる中・短編集(元おまけ集) (VISP)
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嘘予告第一弾 ×ゲート 自衛隊彼の地にて斯く戦えり 

或いはこんな結末と始まり


 

 

 

 もし、あの無限螺旋を「彼或いは彼女」が1人で歩き続けていたら…。

 

 

 

 

 彼は邪神の姦計渦巻く無限螺旋の只中に、何時の間にか巻き込まれていた。

 

 その中で、魔を断つ剣と出会い、彼らと共に長い間戦い続けた。

 

 だが、長い永い螺旋の果てに、心を壊された。

 

 もし彼が白と黒の王の様に、己が伴侶がいればこうはならなかったかもしれない。

 

だが、彼或いは彼女は決してそういう者を置かなかった。

 

 世界が巡れば全ては泡沫と消え去ってしまう、邪神の箱庭で。

 

 自分と同じ様な犠牲者を増やす事を良しとしなかったのか。

 

 それとも、単にそうするだけの気力すらも枯れ果てていたのか…。

 

 最早本人にすら、その理由は解らない。

 

 それでも、彼或いは彼女は、己が肉体を入れ替えながら、ただ惰性のままに無限螺旋を彷徨い続けた。

 

 

 

 そして、彼或いは彼女の旅路も、終わりを迎えた。

 

 

 

 パリン、という不意の破砕音に、視線を空へ向けた。

 そこにはつい先程まであった巨大な門の形を取った外なる神の一柱、ヨグ=ソトースがその門を閉じながら、虚空に消えていく様があった。

 

 「あぁ………。」

 

 全て終わったのだと、彼女は理解した。

 次いで、自分が結局は何も成せなかったのだとまざまざと見せつけられた。

 

 (結局、私/オレは単なる道化だったか…。)

 

 必死に生き延びる事だけを目指した初期。

 無限螺旋から逃げのびる事を目指した中期。

 自身の限界に気付き、それを打破しようとした後期。

 何もかもがどうでもよくなり、ただ流されるままに生きてきた終期。

 

 (もう、どうでもよいや…。)

 

 煌めく程に磨かれ続けた白の王。

 哀れな程に汚濁に塗れた黒の王。

 それらを掌で弄び続ける混沌。

 

 事の善悪は最早関係無かった。

 彼らの姿は余りにも大きく、遠く……そして、眩かった。

 それに追い付けない己がただ只管に小さく、弱く…惨めだった。

 或いは、彼或いは彼女にも半身たる相棒がいればそれが成し得たかもしれない。

 だが、最早全て終わった事だった。

 

 (あぁ、これで漸く……。)

 

 そして、彼女は堕ちていった。

 何処とも知れぬ世界の狭間、何処でも無い世界の隙間に。

 何処まで堕ちていくのか、それは混沌の邪神にすら解らなかった。

 

 

 

 

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 何時間か、何日か、何年か、何星霜か…。

 そうして堕ちた見知らぬ世界で、彼女は再び歩み始めた。

 平和な世界、平和な時代、人類相手の絶滅の危機の無い限定戦争だけの時代。

 そこで彼女はまどろむ様に過ごしている。

 何も知らなかった在りし日の様に無気力に。

 

 

 

 

 「今日は新刊の発売日、か…。」

 

 てくてくと、小柄な少女が銀座の歩行者天国を呑気に歩き続けている。

 真っ白な薄手のワンピースを纏った銀髪碧眼の美少女。

 親や供の影もなく、てくてくと彼女は歩いている。

 小柄な体躯にはやや大きめな肩掛けカバンには、彼女が自身の魂を除けば唯一持ちだしてきた魔道書が納められている。

 

 今現在、少女の姿を取っている彼或いは彼女だが、普段は向こうで培った一部の技術の特許等を用いて健康的かつどっぷりオタクな趣味を開発しながら生活している。

 この世界に堕ちてきた当初は無気力過ぎて殆ど深山に籠る仙人の様な生活をしていたのだが、とある人物が彼女のいた領域に迷い込んできたため、新たに現代人的な生活を始める事となったのだ。

 今現在、彼女はその人物とその妻の家の近所のマンションに1人暮らしをしているのだが…何かと面倒見の良い人達だったらしく、割と頻繁に訪問してくるため、何だかんだいって友好的な付き合いが続いている。

 オタク趣味が復活したのも、夫婦そろってオタクであるその人達の影響だったりする。

 

 平穏な日常と現代の日本での生活。

 嘗て彼或いは彼女が単なる彼であった頃を象徴する暮らしに、彼女はすっかり寛いでいた。

 だが、何故だか今日はどうにも「臭う」。

 嘗て彼或いは彼女が咽返る程に嗅ぎ続けていた戦乱の気配、濃厚な魔力の残り香。

 それが神秘の殆ど消えた時代の平和な日本で、何故か濃厚に感じられるのだ。

 そして、先程から魔術師として鍛えられた第六感が警鐘を鳴らし続けている。

 

 「来た。」

 

 だからこそ、突然確認した魔術行使の気配にも当然の様に受け止められた。

 突如銀座に現れた中世ヨーロッパ風の石造りの門。

 そこから現れ始めた怪異の群れは、平和ボケした彼女に嘗て捕らわれた無限螺旋での日々を思い出させるのに十分なものだった。

 

 

 

 

 

 休日を歩く銀座の歩行者達にとって、それは映画の撮影か何かにしか見えなかった。

 そして空を舞うワイバーンに騎乗した騎士達が呆然としながらもスマフォのカメラを向ける群衆へと馬上槍を向け、上空から突撃を開始する。

 その矛先が哀れな犠牲者に到達するまで既に3秒とかからないだろう。

 ここで坐して見ていれば、異世界の軍隊による銀座への侵攻作戦、その犠牲者はあっと言う間に増える事だろう。

 現に目前の得物に勝手気ままに襲い掛かっている怪異達により、既に死傷者が発生している。

 既に血は流され、双方ともにただ退く事は許されない。

 きっと、今流されていた血が一滴に見える程の膨大な血が流される事態となるだろう。

 

 ここで彼女が何をした所で、二つの世界の歴史は大きな変化は無いだろう。

 だが……彼女の脳裏に過ぎる2人の姿が、彼女の心を決して離さない、離してくれない。

 

 それは堕ち続けた彼或いは彼女が見た幻影。

 世界の狭間、何処でもない場所。

 そこで永劫に戦い続けている最も新しき旧き神の姿。

 

 それは堕ちた今もなお、彼或いは彼女の心を捕えて離さない。

 自分が決してソレに成れない事を知っているのに、ついついその背を眼が追ってしまう。

 そして、気付けばその真似事をしてしまうのだ。

 嘗ての様にリーアを名乗り、今は少女の体を取っているが、混沌としての己のルーツを知った彼或いは彼女は、基本的に不定形の存在である。

 即ち、何にでも成り得るのだ。

 だが、それは彼或いは彼女が善なる存在だという事ではない。

孤独と絶望と諦観に擦り切れた精神では、強靭すぎる肉体へと追従する事は出来なかった。

 だから、彼女の心は空っぽだ。

 ただ嘗ての経験を元に模倣しているに過ぎない生き人形。

 余りにも眩い姿に憧れ、しかし心折れてしまった弱い怪物。

 己が願いを持たない、しかしガラス細工の様に美しく磨かれた無色の王。

 

 

 

 だから、降下してくる竜騎兵の槍を弾いたのも、所詮は昔からの習慣に過ぎなかった。

 

 

 

 コンマ1秒未満の速さで鍛造したバルザイの偃月刀を、突き出される馬上槍に切り上げる形で叩きつける。

 次いで、鍛造したデザートイーグルを連射する。

 並外れた動体視力と霊感により、射出された3発の0,54インチ弾は狙い違わずワイバーンの強固な頭蓋と騎士の兜ごと、その中身を貫徹、撒き散らした。

 そして、脳を失いながらも残った身体は、その勢いのままに

 

 

 ドガッシャァァァンッ!!

 

 

 路肩に停車していたトラックへと轟音と共に衝突した。

 余りにも非現実的な光景に、一瞬の静寂が門の前に広がる。

 だが、そんな事態を理解できない怪異達が人を殺し、その血肉を喰らい、興奮のまま突き進み始め…リーアに当たり前の様にその首を無骨な刃で刎ねられ、或は銃撃によって頭蓋を吹き飛ばされていった。

 一拍遅れ、噴き出した鮮血や肉片が自身に掛かった事で、群衆は漸く悲鳴と混乱と共に我先に逃げ出していった。

 

 

 かくして、この時より人類史上初となる異世界間戦争と地球初の魔導師が公的に認知される事となった。

 

 

 この時、後に特地と呼ばれる異世界に長く伝えられ続ける伝承が生まれる事となる。

 怪異を砕き、龍を屠り、神々すら殺戮する魔女のお伽噺。

 悪でも善でもない、曇り無きガラス細工の様な白痴の魔女の童話。

 その存在は地球と特地、双方において大きな波紋を広げていく事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人物紹介

 

○ リーア・アシュトン

 御存知「助けて旧神様!」の主人公のIfの姿。

 悪堕ちではなく、「自分では何も変えられなかった」という無気力と諦観、絶望に支配されている。

 劣化マスターテリオンかと思いきや、無限螺旋からの解放すらどうでも良くなり、ただ惰性のままに嘗ての憧憬に従って行動している。

 基本的に自己の願望というものが希薄で、誰からの頼みでも他人に迷惑がかからないものならホイホイと受ける。

 その結果、助けた相手が不幸になろうとも配慮はしない、限り無く無色の願望器。

 ぶっちゃけアポクリのジークフリードに近い。

 だが、他の願いと矛盾するものだった場合、基本的に先に願った方を叶える。

 この世界の富士の樹海に堕ち、そこで異界を形成して10年近く眠りに就いていたが、特殊作戦群の訓練のために訪れていた伊丹耀司(標的にされる前に逃げ出してた)が発見した事から目覚める。

 以後、戸籍の無いリーアを伊丹が養子として引き取って現在に至る。

 当初はリーアも遠慮していたのだが、可愛いものに目が無い梨紗による着せ替えや同人誌作成の手伝いにより既に彼方に消え去っている。

 それでも最後の遠慮として特許取得後は別宅に暮らし、養育費(高校から通信制に入学)も自分で払い、余り伊丹宅に居着かないようにしている(≒夫婦の時間への配慮)。

 平和な日常においては伊丹夫婦を最優先で行動しているが、魔術や人外と対した場合や他人に助けを求められた場合はそちらを優先している。

 ただ、あんまりじれったいというか距離のある伊丹夫婦を見て、食事に軽めの媚薬(後遺症無し)を仕込んだりと余計な事もしている。

 

 日本国政府が最重要機密として保護しており、国外からは最重要確保目標として目の敵にされている。

 だが、本人の武力が一国を単独で殲滅できる程なので、刺客の類は今の所ほぼ独力で撃退に成功している。

 なお、門を勝手に開いて騒乱を起こしたハーディをきっちり締め上げている。

 

 

 

○ 伊丹耀司

 「ゲート 自衛隊彼の地にて…」の主人公にして、リーアの養父にあたる。

 富士演習場での特殊作戦群の演習中にリーアの構築した異界に紛れ込んでしまい、彼女を目覚めさせてしまってから今日まで面倒を見ている……のだが、親子ではなくどっちかってーと同年代か年上の同性を相手にしている気分にさせられている。

 二条橋の英雄としてやっぱり有名になってしまったが、それ以上に養女が世界的有名人となってしまい、彼女の身柄の安全確保に四苦八苦する事となる。

 特地において、三人娘+1にフラグを立てる事になるのだが、養女からの監視と何だかんだで待っていてくれる妻の存在があり、今の所靡いていない。

 が、+1こと皇女が淡々と重婚の準備をしているので、油断は一切できなかったりする。

 

そして再開通後、何時の間にか子持ちになっていた伊丹はほぼ強制的に重婚への道を歩ませられることとなる。

 

 

 

○ 伊丹梨紗

 耀司の後輩にして妻であり、同人誌作成や西洋人形等の可愛いものが大好きな生産系オタク。

 夫がいきなり養女を連れてきた事に大層驚き、誘拐を疑ったものの、結局リーアの可憐さに全てを投げ出してOKしてしまった。

 最近の趣味はリーアを着飾る事、一緒に同人誌を作る事。

 なお、リーア本人はBL系は忌避している事もあって、最近ではロボット系作品の非18禁同人誌を書いてたりコト○キヤ製プラモを作成してたりする。

 何気に伊丹が一度休暇で特地から帰還した際に妊娠しており、閉門騒動後に出産、一児の母となってたりする。

 なお、養育費は何時の間にか振り込まれていたリーアの恩返し資金と耀司の4年分の給料から出ていたりする。

 

 再開通後、凄まじい修羅場を展開する事になったりならなかったり。

 

 

 

 



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嘘予告第二弾 ×Fate/Zero

冬木市壊滅間違いなし


 

 

 

 

 「来たれ、天秤の守r「キリツグー、お母様―!イリヤも混ぜてー!」

 「「「あ」」」

 

 

 

 

 「サーヴァント・セイバー。聖杯の寄る辺に従い参上した。貴方が私のマスターですか?」

 「サーヴァント・キャスター。召喚に応じ参上した。君が私のマスターか?」

 

 

 

 

 遠坂の系譜でもないのに「うっかりの呪い」が発動したアインツベルン家から物語は始まる。

 

 

 

 

 「で、私が呼ばれたという訳か?」

 「えと、その、ごめんなさい…。」

 「まぁ良いさ。完全に偶発的なものなら、子供の君を責めるのはお門違いだ。で、この先どうするのか考えているかな?」

 「???」

 (ダメだこりゃ…。)

 

 

 

 

 「では私は切嗣らと共に先に冬木入りする。次は現地で会おう。」

 「えぇ、私達は後からね。キャスター、くれぐれもあの人をお願い。」

 「了解。そちらも気をつけてな。観光も良いが…食いすぎて太るなよセイバー?」

 「な!?なんでそこで私を見るのですかキャスター!と言うかサーヴァントである我々は太りません!謝罪と賠償のお菓子を要求します!」

 (そんなだからだと思うわよ、セイバー…。)

 

 

 

 

 そして遂に、全ての英霊が一堂に会した。

 

 

 

 

 「聖杯に招かれし英霊共は!今!此処に集うが良い!なおも顔見せを怖じる様な臆病者は、この征服王イスカンダルの侮蔑は免れぬものと知れ!」

 

 「サーヴァント・キャスター。呼び掛けに応じて参上した、が……私もその誘いは受けられんな。これでも一途な方でね。」

 「なんと!お主程の美女がのぅ…是非マスター含め、余と轡を並べてほしいものだが…。」

 「我が主を見つけ出し、口説いてみせろ。話はそれからだよ。それに…これでも子持ちでね。」

 ((え、キャスターって結婚してたの?))

 

 

 

 

 斯くして、物語は正史から外れ、明後日の方向へと向かい始めた。

 

 

 

 

 (さて、取り敢えずアイリの体は出来上がったが…。)

 「キャスター、アサシンの動向は?」

 「やはり情報収集に徹しているな。数で言えば100未満だが…全てのマスターを殺し切る位は朝飯前だろうな。」

 「余裕か?それとも何か策が…。」

 「見た感じ、アーチャーを最後に残すつもりなんじゃないか?」

 「有りと言えば有りだが…あのアサシンを抱えてか?」

 「通常の山の翁なら兎も角、あれでは折角の物量も宝の持ち腐れだな。」

 

 同時刻、何処かでうっかり優雅がくしゃみをしていた。

 

 

 

 

 「ほぅ、魔術師風情と考えていたが…半神にして我と同じく奴らの敵対者であったか。良い、良いぞ。汚泥に塗れながら、それでもお前の美しさは一片の曇りも無い。その磨き抜かれた魂…我の下に侍る事を許そう、半神にして神殺しの魔導士よ。以後、その意思の全てを我のみに向けよ。」

 「口説き文句としては評価対象にすらならんよ、古代ウルクの黄金王。原初の英雄ギルガメッシュ。私は私だ。神々が相手だろうが、他の誰にも奪わせん。」

 「その怒りも憎悪も、実に心地よい。が、主人に噛み付くのは頂けんな。」

 「使うつもりは無かったが、止むを得んな…アーリ!」

 「あいあいさー!」

 

 

 

 「「永劫!時の歯車、裁きの刃、久遠の果てより来る虚無!

   永劫!汝より逃れ得る者は無く、汝の触れし者は死すらも死せん!」

 

 

 

 

 今宵、冬木市は壊滅する(確信

 

 

 

 

 「で、なんで召喚に応じたん?」

 「いや、子供が助けを求めてると思ってつい…な?」

 「全員独り立ちしたからって、それは無いんでない?

 

 どうやらリーアさんは子供に甘い様です

 

 

 




続きません、続きませんからね!(威嚇

前の方の感想はすみませんが削除させて頂きます(土下座








おわびに×ゲート自衛隊の方を近日中に更新します。


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嘘予告第三弾 ×地獄堂霊界通信

今日たまたま古本屋で地獄堂霊界通信のコミック版を読んだので執筆。

原作版は小学生の頃に隣町の図書館に自転車で30分位かけて行ったなぁ(遠い目
香月日輪先生の作品は今も私のバイブルの一つです。
あの人の作品、面白いだけでなく色々考えさせてくるから好き。


 

 

 

 

 これは何時かの何処かであったかもしれない物語

 

 

 

 

 「朝早くからすまんが、店主はいるかな?注文の品を受け取りに来た。」

 

 

 

 

 これが、上院町の悪ガキ三人組と半神にして神殺したる彼女の出会いだった。

 同時に、上院町が恐怖のどん底に陥る事件の幕開けだった。

 

 

 

 

 「すっっっげぇぇぇぇぇぇぇ美人だったぜ!髪も銀色で手足もすらっと長くて!」

 「かーちゃん達みたいな優しい感じもした!後おっぱいもでかかったよ!」

 「銀髪碧眼の美女を絵に描いた様な感じだったね。」

 「ひっひっひっひ、そらそうよ。あれは子持ちだし、人ではないからの。」

 (((あ、やっぱこっち関係のモノなのね。)))

 「あれは半神よ。それも随分と質の悪い奴とのな…ひっひっひっひ!」

 

 

 

 

 時同じ頃、上院町で連続行方不明事件が発生する。

 上院小の生徒にも被害者が出た時点で、遂に悪ガキ三人組が事件解決に向けて活動を開始する。

 その時、彼らが見たモノとは…

 

 

 

 

 「テケリ・リ。テケリ・リ。テケリ・リ…」

 「てけりりてけりりてけりりてけりり…」

 「くそ!りょーちん目を覚ませ!」

 「ダメだてっちゃん!りょーちんは今正気じゃない!」

 「魔刃、鍛造!」

 

 

 

 

 「あれはショゴスと言う奉仕種族の一つだ。椎名君は聞いた事ないか、クトゥルー神話って。」

 「じゃぁ、りょーちんがこうなったのは…。」

 「狂気に魅入られたからだな。まぁこれ位なら治療は可能だ。」

 「でも、他の人たちは違うんだろ。」

 「あぁ。奴らを召喚した者を撃破しなければ、この事件は収束しないだろう。」

 「オレらはどうすりゃいい?」

 「良次君と椎名君は治療が完了次第、霊視を行ってほしい。奴らの大本を突き止める。無論、今度はさっきの様な事が起こらない様に精神防壁を張ってだが…きついぞ?」

 「やる。今回はもうりょーちんがやられてる。このまま黙って見てらんない。」

 (あれ?オレ今回役立たず?)

 

 

 

 

 そして、悪ガキ3人組と神殺しは上院町郊外の廃墟へと向かう。

 そこで彼らが目にしたものとは…!

 

 

 

 

 「「「「「テケリ・リ。テケリ・リ。テケリ・リ…」」」」」

 「成程。やはり此処が正解だったか。」

 「ど、どーすんのこいつら!?」

 「くそ、火も雷も効きやしねぇ!」

 「いや、こいつら弱点あるから大丈夫だろ。」

 「「え?」」

 「うむ、椎名君が正解だな。と言う訳で、エルダーサイン!」

 

 

 

 

 「いいか、3人とも。君達が深淵を覗けば、深淵もまた君達を覗いているんだ。その歳で一端の術者を名乗るなら、その事を心に刻め。そして、決して私らの様に踏み込み過ぎてはいけない。戻れなくなってしまう。」

 「うん!お姉さんありがとう!」

 「あんたは良いのかよ?またどっかで戦うんだろ?」

 「今現在ダメな例の大人が言っても説得力無いよね。」

 「お前ら少しは意見統一しろよ…。」

 

 

 

 

 地獄堂霊界通信 外伝「悪ガキとフルートの戦慄」

 

 始まりません!

 

 

 

 






 Q.なんで地獄堂に行ったの?

 A.イブンカズィの粉薬とか材料確保すんの面倒なんだよ…。




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×ゲート 自衛隊彼の地にて斯く戦えり 第二話 後書き追加

 

 

 事態が変化する始まりは、一つの斬撃からだった。

 

 突如現れた異界からの門、その向こうから目にも止まらぬ速さで疾走して来た影が、リーアへ鋭く弧を描く斬撃を放った。

 

 ギャリィン!

 

 頑丈な金属同士が擦れ合う音と共に、疾走してきた影の動きが一瞬止まった。

 豊満な肢体を白いボロボロのドレスから零れそうにさせている美女。

 だが、その全身に爬虫類の様な鱗と尾、そして竜の様な翼を備えた美女が初めて見る神気を放ちながら、大振りの処刑鎌で切り掛かってきた。

 これはもう彼女が人間や獣人の類ではないし、この事態を引き起こした、或は利用している側だと証言しているに等しい。

 対するリーアは一瞬にして鍛造した丸形の何処か奇妙なデザインの盾で鎌の刃を防ぎ、今もギチギチと音を立てながら鍔迫り合っている。

 

 『てめぇが何か知らねぇがなぁ…!』

 

 そして、均衡が崩れた。

 

 『主上さんの邪魔すんじゃねぇぇぇぇ!』

 

 翼による推進力、尾を地面に叩き付けた反動を勢いに変えながら、竜の様な美女が大鎌を強引に振り抜いた。

 同時、背後に跳躍する事で衝撃の殆どを逃がしたリーアは後方に吹き飛ばされながらデザートイーグルを発砲した。

 

 ガゥン!

 

 轟音と共に竜女の左顔面を吹っ飛ばした、が…

 

 『いってぇぞコラぁ!!』

 

 左顔面を吹き飛ばされ、大きくその顔を仰け反らせた竜女は、しかし、死ななかった。

 それどころか、傷口が泡立たせながら再生していく。

 明らかに物理法則を凌駕した光景だった。

 だが、それは彼女達にとっては大した事ではない。

 不死性も、自己再生も、転生も、彼女達にとっては極々当たり前のものに過ぎないのだ。

 

 ドガシャァン!

 

 吹き飛ばされたリーアは一切の減速無しに近くにあったカフェテラスに背中から突っ込み、瓦礫と埃を巻き上げた。

 そして、数秒後には何の変化もなく立ち上がる。

 否、先ほどまで血に染まった白のワンピースとは対照的に、丈の短い黒いドレスの様な衣装へと変化した。

 単なる布地と侮るなかれ。

 見る者が見れば、これそのものが一級の魔術霊装となる程の神秘を有している事が分かるだろう。

 

 『ガアアアアアアア!!』

 

 竜女が全くダメージを見せないリーアに突貫する。

 下より彼女は信仰する神より不死を賜った身であり、躊躇する様な思考も精神も持ち合わせていない。

 全ては彼女の信ずる神が欲するままに。

 それが彼女の信仰である故に。

 

 「アトラック=ナチャ!」

 

 対するリーアは左手首から翡翠色に輝く糸を上に向けて射出、アンカーの様に伸縮させる事で、竜女の突進を上空に飛び上る事で回避する。

 

 『逃げんなぁ!』

 

 次いで、竜女もその翼を羽ばたかせて飛翔、追撃に移行する。

 

 

 こうして、銀座事件は次の事態へと移行していく。

 

 

 

 

 …………………………………………………

 

 

 

 

 自国の首都が何の前触れもなく異世界ファンタジーな軍勢に攻められるという驚天動地の事態に対し、日本国の対応は普段のグダグダっぷりから考えるに予想以上に早かった。

 と言うのも、異世界軍が攻め寄せてきたのが、市民の避難経路として使用されている江戸城、つまりは皇居である。

 もう一度言う、皇居である。

 皇居、つまり畏きお方のお住まいである。

 排他的経済水域やらガス田やら北方領土やらでは及び腰になる日本の、食糧関係と並ぶ、否、それにすら勝る最大の逆鱗に、彼らは触れてしまったのだ。

 一時間としない内に警察と自衛隊の出動が決定された。

 首都圏の署が全て厳戒態勢に入り応援を派遣し、国内の自衛隊ならび情報を受け取った米軍基地も速やかに戦闘配備となり、出撃準備が行われていく。

 後にこの日から続く一連の事件を振り返り、これまで日本に高圧的だった諸外国の殆どはこう呟いたという。

 

「異世界の連中は日本の地雷を踏み抜いた」と。

 

 斯くして、銀座事件は第二幕へと移行していく。

 

 

 

 

………………………………………………………

 

 

 

 

 都心のビル街を、銃声と金属同士の衝突音を伴って二つの人影が飛び交っていく。

 これが地表ならそれ程違和感は無かっただろう。

 だが、今彼女達が居る場所は高層ビルが多く立ち並び、それ以外のものが無い場所。

 即ち人の身で空を飛んでいるのだ。

 ただ、自前の翼を持つ竜女と異なり、リーアの方は少々趣が異なる。

 両の手首から延びる翡翠色の糸をビル等に伸ばして接続、伸縮と振り子運動を用いて立体的な機動を可能としていた。

 無論、自由度ならばどちらが勝るかは言うまでもない。

 だが、リーアには態々不利になってまで相手の目を釘付けにする必要があった。

 

 (こいつが他にいけば、犠牲が増える…!)

 

 リーアは霊装のあちこちに切れ目を入れながら、それでも一歩も譲る事なく銃撃を続けていた。

 この世界の地球は未だ魔術やオカルトが表に出ていない。

 或は遠い昔に廃れ、それ以来文化としてのみ継承されている。

 そんな彼らが不死殺しの業や対策のノウハウなど持っている訳がない。

 だからこそ、彼女はこうして一時間近く時間稼ぎに徹している。

 絶妙に相手が僅かなりとも有利であり、もう一手で止めを刺せると思えるような、そんな状態を維持するのはかなり神経に負担がかかる。

 だが、幸いにも地表では反撃が始まりつつあり、現状を維持するだけで凡そ事態は収束するだろう。

 

 (だが、この事態の原因となった神格の介入も気になる。現状、手下を遣しただけとは言え、油断は…ッ!)

 

 『余所見してんじゃねぇ!』

 

 だが、懸念に思考を割いた影響か、動きが僅かに鈍った処に竜女の大鎌が迫る。

 真下から急上昇して上へ振り抜く形故に威力は乗らない。

 しかし、その一撃は振り子運動を行っているリーアにとって、躱した処で糸を切断される軌跡であり、どの道隙を晒す事となる。

 

 「自、切!」

 

 故にすかさず糸を切断、慣性の法則任せに上方から竜女へと切り掛かる。

 

 ギャリン!

 

 『お、らぁ!』

 

 そして、当たり前の様に弾き落とされた。

 膂力なら兎も角、体重と翼による推進力を生かされては例え上と取っていても競り勝つのは難しい。

 

 「チィッ!」

 

 落下しながら鍛造したAKMを連射する。

牽制目的でばら撒かれた7.62x39mm弾は正確に目標を捉え、傾斜した鱗に当たり弾かれたものを除き、その全てが目標に着弾、貫徹した。

 

 『が、ああああああああああああああぁぁッ!』

 

 だが、不死身の狂信者という厄介極まりない者を押し留めるにはストッピングパワーが足りなかった。

 

 「ぐぅぅ!?」

 

 大鎌の一撃がリーアを捉える。

 如何なる金属で鍛えられたのか、この時代のMBT(主力戦車)の主砲の直撃にすら耐え得る霊装が切り裂かれ、盛大に血飛沫が上がる。

 

 「アトラック=ナチャ!」

 

 故に即効で対処を行う。

 もう数秒程度でコンクリートの地面に激突するという状況で、翡翠の糸が四方八方へと延びて蜘蛛の巣を形成、大きく撓みながらリーアの小躯を受け止め…次いで、トランポリンの様に高く跳ね上げた。

 

 「はぁぁぁぁぁ!」

 『おらぁぁぁぁ!』

 

 ギャァン!

 

 轟音と共に、火花が散る。

 人ならぬ両者は一寸も引かずにぶつかり合うが、今回はそれだけで終わらない。

 先ほどからずっと装備していた左腕の丸盾、その表面にあった「中心から伸びる5本の針」、それがザクザクザクザク!と何かを刻む様な音と共に回転していき…

 

 「ド=マリニーの時計よ!」

 『な…!?』

 

 全ての針が停止した瞬間、その盾の様な時計から光線が発射された。

 その一撃は幸いにもビルや飛行物にぶち当たる事こそ無かったが、相当の熱量と光量を放ったらしく、近辺にいた人間や怪異の目が眩む程のものだった。

 

 『ぎゃあああああああああああッ!?』

 

 無論、そんなものの直撃を受けた竜女がただで済む筈もない。

 ほぼ全身の皮膚が焼け爛れ、内部の水分が沸騰して眼球が白濁し、盾の前にあった右半身の殆どが蒸発し、全身が脳へと激痛をがなり立てている。

 竜女も不死とはいえ五感が存在する身では即座に立て直せず、絶叫と共に空中で身悶えた。

 

 「バルザイの偃月刀、多重召喚!」

 

 無論、その隙を見逃すリーアではない。

 再び落下しながらも、決め時と見て本気で仕掛け始める。

 召喚された12本もの偃月刀が一斉に飛翔、加速、竜女の残された手足と翼を一斉に貫通、引き裂いた。

 

 『■■■■■■■■ッ!!!!』

 

 文字化出来ない様な絶叫と共に、竜女は落下していく。

 そして、その行先は…

 

 「本来、こちらの方が正しい使い方でな。」

 

 簡単に逃げ出せると思うな。

 言外にそう告げながら、リーアは落ちていく竜女の姿を見据えていた。

 

 

 

 

 …………………………………………………

 

 

 事態は収束しつつあった。

 門から押し寄せた帝国軍は、しかし、初期の足止めのため、史実よりもその行軍は遅く、犠牲となった者の数も減少していた。

 また、史実同様に皇居警察の装備と練度、皇居の城壁を前にして攻めあぐね、とうとう自衛隊、機動隊の出動というタイムリミットを迎える事となる。

 

 

 だが、もう一つの勢力である「門を開いた側」からすれば、看過できない事態も起きていた。

 自らの手駒である使徒、竜人ジゼルが捕えられた事。

 しかも、捕えた者は他の見慣れない装備や服飾の人間達と異なり、明らかに自分達の様な神々と戦う術を持っている。

 現に、未熟者とは言え使徒であるジゼルが手加減をした状態で翻弄され、捕えられてしまった。

 そしてもう一つ、捕えた者の魂の輝きだ。

 人の身に収めるには余りに高い、高すぎる純度と輝き。

 寧ろ使徒の類と言われた方が納得のいくそれに、冥府の神である彼女は直ぐに魅せられてしまった。

 

 『あの娘が欲しい。』

 

 捕えて、愛でて、ぐちゃぐちゃのとろとろになるまで混じり合いたい。

 以前から目をつけていた狂気の神も使徒ロゥリィも相当なものだったが、あの娘は更に別格だった。

 

 『でも、今はまだ時期じゃないわね。』

 

 あの実力、下手に手を出せば火傷では済まない。

 ならどうする?

 簡単だ、準備万端に整え、自分の領域に引きずり込み、確実に捕える。

 

 『その前に、うちの子を返してもらうわね?』

 

 そう呟きながら、冥府の神ハーディは深淵の中でにんまりと微笑んだ。

 

 

 

 

 ……………………………………………………

 

 

 

 

 「ッ!?」

 

 周囲の銃声や悲鳴、怒声、衝突音、爆発音。

 そういった戦闘音が遠ざかった中、捕縛結界の維持に集中して一人佇んでいたリーアが不意に霊感の囁きのまま全周囲を警戒した。

 直後、門から遠く離れたこの場所でありながら、突如「空中」に黒い穴が出現し、そこから大量の翼竜に似た生物が湧き出し、リーア目掛けて襲い掛かった。

 

 「チィ!」

 

 咄嗟に背後へ跳躍しつつ魔銃鍛造によりM-16を鍛造、弾幕を形成する。

 が、黒い穴、あの銀座の門と同質の神気を感じるそれらは合計4つあり、弾丸の量よりも翼竜の出てくる数の方が多い。

 そして、現状これら全てを消し飛ばすのは、それこそ「本気」で暴れざるを得ない。

 だが、翼竜達はこちらに殆ど攻撃もせず一分としない内に元の穴へと戻っていき、穴も即座に塞がった。

 だが、その目的はもう分かっていた。

 後には翼竜の死体しか残っておらず、先ほどまであった結界への魔力供給が途絶えている。

 つまり、先ほど捕えた竜女の奪還こそが敵の目的だった。

 

 「やってくれる。だが、次は無い。」

 

 武装を解除し、日が陰り始めた頃。

 リーアの気配、それは殺戮者でも英雄でも王でもない。

 黒の王の如く只管続く繰り返しに飽いて濁り、しかし白の王の様に一抹の希望を抱く

既に嘗ての無限螺旋のそれへと戻っていた。

 

 

 

 

 




 後書き

 よーく考えれば、畏きお方に直接危害加えようとしたら、日本国民ガチ切れですよねと。
 だからこそ、原作初期の虐殺に近い圧倒的戦果(帝国軍並び連合諸王国軍合わせ軽く10万オーバー)出した訳だろうし。
 となると、日本が利益出すにはゲートの開閉&移動技術が必須であり、国家のメンツ的に帝国にどうケジメつけさせるかが大事になる訳だが…はてさて。



 今回の元ネタ

 糸使った立体機動…スパイダーマン、進撃の巨人。

 ド=マリニーの時計…実はデモベじゃなく原作の方で持ち主を防衛するため、光線発射する機能があったりする。

 リーアの霊装…白部分が黒く反転したホムホムの魔法少女コスチューム。時間操作できる丸盾と銃火器といい、結構似通ってます。

 




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×ゲート 自衛隊彼の地にて斯く戦えり 第三話

今回は攻め込む前の準備段階。
そして今回、リーアさんがまーたやらかしますw


 銀座襲撃事件から一か月。

 日本は何とか凡その事態を把握し、収容した捕虜達の扱いに四苦八苦しながら、異世界と繋がる門の扱いに悩んでいた。

 と言うのも、全ては事情聴取のために任意同行(という名の保護&監視)してもらった魔法使いことリーアから驚くべき情報を入手したがためであった。

 用心のため、その場には保護者でもある伊丹二尉(銀座事件後に昇進)も同席し、改めてその出自と能力や人格、事件時の行動等に関して事情聴取を行った。

 

 なお、「どうして最初から言わなかった!」という声もあったものの、伊丹二尉の「正直に言いましたけど信じられませんでしたのでカバーストーリー作りました」という身も蓋もない言葉でお咎め無しとされた。

 

 それはさておき、リーアが明らかに荒唐無稽エロゲ世界出身である事、単騎で同質量の核弾頭を超える鬼械神を召喚できる事、自衛を除いて人類間の戦争には関与しない事などが明らかになったが、最大の情報はやはり銀座の門に関するものだった。

 

 「アレ、空間を捻じ曲げて無理矢理繋いでるからな。長期間開けてるとゴムみたいに揺り戻しで空間が弾けるぞ。」

 

 より具体的な被害で言えば、一か月以内に門を閉じない限り、門を中心とした空間震が発生、結果として双方の世界が全宇宙規模で一切の減衰無しに振動すると言う。

 約半年間門を閉じなかった場合、震度4以上の揺れが地球全土を襲う。

 その一言は日本及び自衛隊の首脳部、そしてスパイ及び売国奴や外交チャンネルを通じて世界各国へと広がっていった。

 

 ここで一つ疑問がある。

 何故リーアの言葉がここまで信用されているのか?

 それは情報化社会かつ平和ボケ国家日本であったからだった。

 

 「銀座に異世界の軍勢現る」

 「魔法少女(物理)VS異世界軍隊IN銀座」

 「リアルほむほむ2Pカラー」

 「魔法少女VS半竜美女」

 

 こんな題名がついた動画が連日世界中で再生されているからだ。

 既に全世界で再生回数3億回を突破しており、今現在も増え続けており、ニュースや新聞、各種情報雑誌でも取沙汰されており、最早秘匿とか隠蔽とかどうしようもないレベルだった。

 つまり、形はどうあれ人類は魔法の実在と異世界からの脅威を知ったのだ。

 そして、ここまで有名になった人間を不当に拘束すれば、どれだけ現政権が批判されるか分からない。

 また、魔法使いという現在唯一無二の貴重なスキルを持った人材である事も相まって、その扱いは極めて丁寧になっていた。

 それに加え、彼女が地球人類に対して一切の危害を加えていない事、彼女が現役自衛官にして二条橋の英雄の養子という事も大きい。

 そしてもう一つ、彼女が告げる内容はどれも無視するには余りに重要だった。

 

 「それにあの門は事実上何処にでも繋げられる。明日にはホワイトハウスかモスクワか北京かロンドンか…最悪、真空や深海に繋げられた場合、即座に破壊するしか手は無い。」

 

 こればかりは門の向こうに行って首謀者を取っちめるしかない、と渋面で告げた少女の言葉は一週間以内に先進国首脳部へと漏れていた。

 そして、今までにない速さで各国は動いた。

 未知の世界、未知の人類、未知の技術、そして未知の脅威。

 国が動くには十分すぎた。

 

 こうして世界各国から巨大な圧力をかけられた日本だが…実は割と知ったこっちゃなかった。

 既にこの一件で皇居が攻撃を受けた事実、自国の一般市民(外国人含む)の虐殺、そして元寇に連なる歴史上2度目となる侵略戦争に、異例の国会総一致で軍備増強と例外措置としての自衛隊の完全装備での門の向こうへの派遣、そして史実ではもう10年程かかるであろう憲法改正が決定した。

 これに関しては国内でも反対の声が多かったものの、遺族らの根強い運動に加えて莫大な利益と巨大な国難を察知した政財界と諸外国の後押しにより可決される事となった。

 更に内閣は国外に対しては米国との親密性をアピールする事で国際社会へと対抗した。

 無論、見返りとして非公式ルートで捕獲された非人類(オークやゴブリン等)の一部の身柄、現在判明している門の情報の譲渡を行う事となったが、嘗てからの国防上の障害が消えた事に比べれば些細なものだった。

 現状、門を開き続ける事のデメリットを考えると、門の向こうに関する知識等は殆ど泡銭扱いだった事も大きい。

 

 そして銀座事件から約3ヵ月後の現在。

 自衛隊は門の確保及びその向こうに展開していた軍勢を順調に殲滅しながら、日本の国益の確保ならびケジメを付けて地球を救うべく門周辺の土地を確保、重要拠点として整備する事に腐心していた。

 なお、後詰として増員した自衛隊員だけでなく、在日米軍までまだかまだかと控えているので帝国側はどーやっても勝ち目は無かったりする。

 

 

 

 

 

 「では始める。」

 

 奇妙に折れ曲がった樹木が立ち並ぶ薄暗い森が生い茂る地。

 その中で数少ない土だけの地面が露出した此処は富士火力演習場の程近い場所にある。

 既に魔法少女コスに変身したリーアの魔術により、僅か10分程度で周辺一帯は平地に均されており、上空から見れば直径1kmの範囲がぽっかりと空き、そこに巨大で複雑な魔法陣が描かれているのが分かるだろう。

 更にその周辺を囲む様に、自衛隊の特殊作戦群を皮切りに選び抜かれた精鋭達が蟻の子一匹逃がさぬとばかりに警戒している。

 それはここで今日、極めて重要な、それこそ人類史に残る程の作業が行われるからだ。

 だが、彼らは決してその中心には近づかない。

 そう命じられたから、と言えば簡単だが、それだけではない。

 彼らは優れた軍人であるが故に何処か本能的に理解しているのだ。

 ここから先に進めば無事では済まない、と。

 不意にリーアの手の中に一冊の古びた書物が現れた。

 語学に通じる者が見れば、その題名がラテン語で記されていた事、そして同時にその本が悍ましい邪悪な知識が記されている事が分かるだろう。

 その書の題名は「エイボンの書」。

 象牙の書とも言われる、大魔導士エイボンが記した古代ヒューペルボリア時代およびそれ以前の暗黒の知識を集めた魔道書、そのラテン語訳だ。

 

 「ンガイ・ングアグアア・ブグ=ショゴク・イハア、ヨグ=ソトース、ヨグ=ソトース――。」

 

 そして紡がれるのは異界の言語。

 常人にとってはただ聞くだけで精神の均衡を崩し、その魂を汚染する言霊。

 決して耳にしてはいけない禁断の呪文。

 その中心にいるリーアの役割は巫女だ。

 此処とは異なる次元に存在する超常の存在たる邪神の力のごく一部を借り受け、自らの用意する魔力を持って現実を侵し、犯し、冒す。

 魔道の本質は、通常の物理法則を歪ませる事にある。

 

 「外なる虚空の闇に住まい者よ。今一度大地に現れる事を、我は汝に願い奉る。時空の彼方に留まりし者よ、我が嘆願を聞き入れたまえ。」

 

 そして詠唱は続いていく。

 この時、既に周囲の隊員達からはリーアの姿が歪んで見えていた。

 

 「門にして道たる者よ。顕れ出でたまえ。汝の下僕が呼びたれば。」

 

 別に彼女自身が人外の姿となった訳ではない。

 周囲の空間が歪曲し、可視光線すら歪ませてしまっているのだ。

 

「顕れよ、顕れ出でよ。聞き給え。我は汝の戒めを破り、印を投げ棄てたり。我が汝の強力な印を結ぶ世界へと、関門を抜けて入り給え。」

 

 遂に詠唱が佳境へと入った瞬間、空間の歪曲がこれまでで最大限となる。

 この場の誰もが知識が無くとも確信していた。

 この世ならざるものが顕現しようとしている、と。

 

 「顕れ給え、門にして鍵なる神よ!顕れ給え、全にして一、一にして全なる神よ!顕れ出でたまえ…我が叔父上よ!」

 

 そして、空間が泡立つ様にして破裂した。 

 

 それは球体だった。

 変質した世界から発生した、虹色の球体。

 世界が極彩色に染められていく。

 全ての色は虹色に、全ての物質は球体に。

 全てが、虹色の球体となっていく。

 虹色の球体。

 虹色の球体。

 虹色の球体。

 球、玉、珠。

 

 球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球球。

 

 悍ましい程の数の球体が集積する。

 それは原初の粘液の泡立つ、触覚のある不定形の生物。

 全にして一、一にして全。

 それは静止した現在。

 それは流動する過去。

 それは蓄積した未来。

 それは門。

 それは鍵。

 それは それは――

 

 無数の球体はあらゆる物理法則を無視した軌跡で飛び回り、空間を虹色に染め上げる。

 そして、その全てが空に消えたと思った瞬間、虹色に爆発し、異界の光で周囲を照らし、遂に異界の光が結晶化し、実体を結んだ。

 

 「扉…?」

 

 誰かの零した声が夜の平地に響く。

 旧支配者ですら遠く及ばない程の厳かで忌まわしい神気を放つそれは、扉の属性を持つ神格なのだ。

 

 

 

 但し、その門は30cm弱だった。

 

 

 

 ≪小っせ―――!?!?≫

 

 その時、その場にいた自衛官達の思いは一つとなった。

 それから約10分後、日本に二つ目のゲートが開く事となる。

 

 

 

 




 Q どうやってリーアさんはヨグ=ソトースさん呼んだん?

 A ヨグさんとこの息子さんと割と仲良しだったし、一部では混沌とも血縁とされるから。

 以下、その時の会話内容

 ヨグ「やぁこんにちは。」
 リーア「申し訳ございません、この様な窮屈な呼び方をしてしまい…。」
 ヨグ「いいよいいよ、うちの子と親しいみたいだしね。あの子も漸く彼女から解かれたみたいだし。」
 リーア「喜ばしい事かと。」
 ヨグ「今は新婚さんだし、もう少ししてから顔出すと伝えてね。その代り、注文された門はこちらでしっかり作っておくから。」
 リーア「ありがとうございます。二人には私の方から伝えておきますので。」
 ヨグ「うんうん、じゃぁまた機会があればよろしく。」

 ※ここでの「もう少し」とは外なる神の基準≒星の寿命よりは短い位。
 なお、ヨグさんの作った門は一切のデメリットはありません。
 但し、位階の低い魔術師や普通の人間が弄ろうとすれば魂が砕けるか発狂します。



 Q2 なんでこんな事になったの?

 A2 特に大きな神殿も生贄も無いんだから、呼べただけでも普通は奇跡。



 次回から特地編に移行。
 また日記形式、しかも伊丹視点でいきます。




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東京喰種ネタ その1

活動報告で上げてたネタをSS化。
大分手抜きですがご容赦を。


 

 

 2、神様転生して風見のうかりん(夜は幽香)ルート

 

 

 この世界に転生して、もう20余年となる。

 

 

 幸いと言うべきか、ギリシャ系の匂いがする神からもらった特典は希望通りでとても有用で、しかし、それ故に目立ってはいけないと考えさせられた。

 この世界の名は東京喰種、サスペンスホラーダークファンタジーバトル漫画にして某絶望の物語ばりに救いようのない難易度ルナティックな世界である。

 だが自分の種族は人間、グール対策さえ気を遣えば大丈夫、問題ない…!(自己暗示

 取り敢えず、将来は東京から離れる道を選ぶとしよう、うん。

 

 

 時は飛んで10歳から母方の田舎の実家で暮らし始めた。

 八王子の更に奥の方、辛うじて東京都と言う場所で、現在の私は祖父母と共に土を耕し、野菜を育てながら暮らしている。

 と言うのも10歳になる前に両親が出先で餓えた喰種に襲われて他界したからだ。

 既にその喰種は駆逐されたものの、両親が帰ってくる訳でもない。

 喰種対策局ことCCGのアカデミーへの入学も打診されたが、祖父母が是非にと言ってくれたので、そちらに引っ越す事になったのだ。

 私もこれ幸いと祖父母の家に移り、二人と共に大好きな農業に励んでいる。

 

 だが、学校生活で問題が起き始めた。

 

 私の転生特典の影響により、私の中の嗜虐願望が急激に強まり始めたのだ。

 自分に逆らう相手を捻じ伏せたい、踏み躙りたい。

 草花や作物を大事にしない糞の様な連中を八つ裂きにしたい。

 そいつらの腹を裂き、臓物を飾り立て、鮮血を撒き散らしたい。

 そんなドS願望、本来の私には縁の無いものの筈だった。

 これも私の転生特典、風見幽香の容姿と能力の副作用によるものと考えられる。

 このままでは私の夢見る長閑ならぬ農家な生活から遠ざかってしまう。

 態々植物系能力を持った強者を選んだのに、このままではいけない。

 唯でさえ物騒なこの世界、そんな実力者なんていたら直ぐに目を点けられてしまう。

 ならばこんな時こそ転生チートの出番と、私は私なりに古書店や怪しげなサイトを巡回して、ある程度魔法の知識を仕入れ始めた。

 元々活字中毒の気もある私にはさしてきつい行動ではなかったが、そうして得た知識を更に選別して試して使い物にするのは中々に骨が折れた。

 幾ら種族は人間として生を受けたとは言え、風見幽香の本質は花の妖怪にしてUSC、それが早々に消える事はない。

 ならば逆に彼女が出来る事は能力だけでなく、彼女の代名詞の一つとして有名なあの技の様な事も研究次第によっては可能だと考えたからだ。

 幸いにも祖父母が老人らしく早寝早起きだからこそ見つからずに済んだが、これがもし両親が生きていた頃で考えると背筋が寒くなったものだ。

 うっかり家に呼んでしまった霊を全力でぶん殴ったら消えたのをきっかけに妖力の扱いを覚えたのは今も記憶に新しい。

 そうして私は、自分を切り替える術をモノにした。

 昼は植物全般を愛し、農業に励む暢気な農香として。

 夜は花と暴虐を愛し、虐殺(畑泥棒や害獣相手に)を嗜む幽香として。

 

 それからの8年間は本当に平和だった。

 朝は畑に出て、三人で朝食を食べてから登校し、昼は学校で友人達と過ごし、帰ってからは夕飯作りか畑や田んぼに出て、夜は術や妖力の扱い方の練習をしてから眠る。

 そんな忙しくも充実した日々は、祖父の死と共に終わった。

 高校を卒業し、本格的に農業に従事するようになった頃、祖父は眠る様に自室の布団で亡くなっていた。

 祖母は薄々感づいていたのか、泣いて悲しみながら粛々と葬式の準備をした。

 私と言えば、愕然として暫く何も出来なかった。

 ただ惰性で農業を続けてたが、この時期にもし祖母がいなかったらと思うとゾッとする。

 恐らく、そこらへんの木っ端喰種であろうと殺されていただろうからだ。

 更に祖父の二回忌と合わせる様に、祖母も亡くなった。

 祖父と同じ様に布団の中で眠る様に穏やかに息を引き取っていた。

 今度は何とか近所の人の手を借りながら式を全うできた。

 こういう時の地域の結束というのは本当にありがたかった。

 やはり幼少時からご近所さんとお互い融通したりお手伝いしてたのと、祖父母の人徳によるものだな、うん。

 

 さて、一人になった私だが、それまでと同じく農家は続けるつもりだった。

 祖父母の家と墓の世話もあるし、都市の方に行かずともネット通販を使えば近くのコンビニで大抵のものは手に入る。

 食料?自給自足と物々交換でどうにかなります。

 ただ、どうせだから祖父母がいた時には気になっていたものの手間の関係から止めていたものに手を出した。

 

 それは果物だった。

 

 これなら販売は大通りに面した無人販売所でも良いし、田んぼ程人数が無くてもやっていく事が出来る。

 楽かと言えば厳しいが、田んぼをするのは流石にコスト面できついのだ。

 大型の作業機械を一人の収入で維持・保守整備・運転するにはコスト的にきついし、手作業が多めな果樹園は幸いにもこの幽香ボディなら負担にならないし、何より楽しい。

 それに能力と術を用いて植物への実験を大がかりにする事も出来るのも嬉しい。

 土地の方は田んぼを埋めて果樹園にすれば良い。

 上手くいけばコストも手間も大幅に減らす事が出来るだろう。

 問題なのはその辺りのノウハウが私にあんまり無いのと土の購入と埋め立ての依頼、役所への手続き諸々だったりする。

 まぁ時間はあるのだし、遺産も結構な額がある。

 気長に頑張って、天国の祖父母と両親を安心させてみせよう。

 

 そして三年目にして漸く果樹園が軌道に乗った。

 と言うのも果樹は果樹でも何を育てるか色々と試行錯誤した結果だったりする。

 桃にリンゴ、梨に葡萄、更に祖父の所有だったという里山にアケビや山葡萄、柿にキウイ等も植えた結果、収拾がつかなくなったのだ。

 しかも今メインで育てているものはそれらとはまた別であり、ハウスまで建てて一から自分の満足のいくものを育てだしたのだから差もありなん。

 その育てたいものなのだが…何分国内では難易度が高いので、比較的日本でも育てやすそうなものを見繕って能力で促成栽培→人工交配、更に幾つかの苗から良さげなものを見繕って促成栽培→人工交配を繰り返し、更に日本の気候でも元気に育つようにと私の魔力と能力でブーストをかけた逸品である。

 文字通りこの世に一つしかない種類なのだ。

 

 「すいませーん、コーヒー豆小袋で一つとコーヒーの実大袋で三つお願いしまーす!」

 「はーい!今行きますー!」

 

 そう、私が苦労して育てているのはコーヒーノキ。

 この世でただ一つの栄養豊富なコーヒーチェリーが成る、日本で唯一のハウス無しで自生可能な品種「四季」は只今大人気発売中なのだ。

 …まぁ風や虫除けの網はしているのだが。

 

 事の起こりは私が気晴らしに都内の方を散歩しにいった時。

 偶然目に入って入店した喫茶店のコーヒーが、あんまりにも美味しかった上に、そこの店長さんが亡くなった祖父程ではないにしろ素敵なロマンスグレーだったのだ。

 混んでない時間帯とは言え、ついつい二杯もおかわりした上に話し込んでしまった、 その日の出会いは何をメインで育てるか悩んでいた私の心を完璧に方向付けるものだった。

 あの時のコーヒーの銘柄も聞き、自宅で何度も練習したものの、美味く淹れる事が出来なかった。

 よろしい、ならば豆から拘ってくれる。

 何処で思考が逸れたのか、そこからは持ち前の熱意で暴走し、気づけば苗木を育てるためのビニールハウスを立て、各銘柄の種を取り寄せていた。

 そこからは後は先に言った通りだ。

 そして努力の結果、固定客も大勢ついてくれた。

 今では埋めた田んぼ全てをコーヒー畑にしても足りない程で、近所のご老人達をバイトとして雇って手伝ってもらっている。

 作業を少し教えただけ、流石は元祖農家と言うべきか、私よりも素晴らしい手つきで作業してくれた。

 それでもまだ足りないので、苗と私の妖力を含んだ上で成分調整した肥料も売りに出している所だ。

 とは言え、直で妖力を注いでいる分、どうしても自分で育てた方が質が高いので詐欺商売とも言えるのだが…うん、まぁ原理が解明されてないって事で!(目逸らし

 にしても、やたらと売れ行きが良いな。

 国産品って事でもの珍しさから買うのかな?いや、味は十二分に良いけども。

 やっぱり例の喫茶店で店長に宣伝お願いしたのが効いたのだろうか…。

 

 

 現在、東京都内の喰種業界(と言うのもおかしいが)であるコーヒーの噂で持ち切りになっている。

 その噂はある20区の喰種が経営する喫茶店で出すとあるコーヒーが、人肉でも喰種の肉でもないのに、大変美味な上に喰種の栄養にもなり、一杯でも飲めば数日は空腹とおさらばできるという、人間を捕食する事に抵抗のある喰種にとっては正に福音となる特別なコーヒーなのだとか。

 当初、それは余りな内容に笑い飛ばされていたのだが、実際に平和で知られる20区の喰種がただでさえ少ない捕食を殆ど行わなくなり、他区の喰種が実際にその喫茶店に行って実証した事で噂は野火の様に広がっていった。

 それは勿論、喰種の中で名家や有力者と言われる者達も含めてだった。

 

 

 うむむ…最近、コーヒーの売れ行きに比例して作物泥棒が増えてきた。

 収穫した傍から売れるのは良いのだが…コーヒーばかりに狙うのだ、それも喰種が。

 確かに喰種の数少ない嗜好品であるコーヒーを求めるのは解るが、何でまたうちばかり?

 まぁそんな連中は大抵夜にやってくるので、USCこと幽香の出番である。

 彼ら或は彼女らはかなり頑丈であるため、幽香の嗜虐心を程好く満たしてくれるとても便利な存在だ。

 散々楽しんで、序でに動けない様にした後、CCGに電話すれば引き取ってもらえる。

 昨夜も5人程の喰種の手足を骨が粉々になる程度に殴った後、タコの様に関節の無くなった手足を固結びにして放置してやった。

 実に良い声で鳴いてくれた…が、直ぐに真夜中に近所迷惑だったので喉の辺りを砕いて静かにした。

 最近はあんまりに多いので、CCGの人達が定期的に巡回してくれるのだが…今度から監視カメラでも設置するかね?

 後、CCGからの勧誘がウザい。

 この前調査協力してから調子に乗ってるのか、私との専属契約とかコーヒー独占売買だとか言ってくる。

 五月蠅いわボケ死ね。

 まともな経営が出来ると思うな?おk、んじゃ今後あんたらとその関係者とは取引中止な。

 第三者機関なんざ通しても調べれば分かるからなお役所さんよ。

 翌日、調子に乗った馬鹿とその上司の上司の上司が菓子折り持って連座で土下座に来た。

 な、なにを言っているのか(ry

 取り敢えず、価格はそのままだけど量は3割減って事で手打ちになりました。

 

 

 あぁ、月山君も彼女の話が聞きたいの?

 うん、他からも依頼されててね。

 はいコレ、例のコーヒーの実と豆だよ。

 おや、流石の月山君もコーヒーチェリーは初めてだったんだ。

 うん、やっぱり私が食べても美味しいし、月山君も気に入ったんだ、良かったね。

 あー…流石に常食にするには厳しいか、月山君って舌が肥えてるもんね。

 え、軽食や非常食にもなるからもっと買ってくる?

 んじゃ後は使用人さんにお願いしてね。

 後、くれぐれも彼女を怒らせないでね?

 あれ多分死神と同じで、明らかに人類の規格超えてる類の人種だから、幾ら月山君達でも危ないよ。

 うん、それじゃ気を付けてね。

 

 

 その頃、喰種対策局ことCCGでは東京都を中心とした捕食事件の減少に頭を悩ませていた。

 それ自体は喜ばしいのだが、その原因がとある農家の女性一人によるものだと言う事が彼らの矜持に多大なるダメージを与えていた。

 風見幽香、国籍日本人、性別女性、年齢22歳、独身、職業コーヒー農家。

 緑がかった黒髪と色素が薄いのか、喰種程ではないが赤みがかった瞳、そしてグラマラスなボディを持つ美女だ。

 そのプロフィールは大まかな点において極普通の一般人だ。

 しかし、絡んできた暴力団員を再起不能にしただの、お礼参りに現れた暴力団員を事務所ごと潰しただたの、逃走中の喰種を生身で制圧しただの、修学旅行先で遭遇したヒグマを殴り殺しただの、某ブラックロック特別捜査官を彷彿とさせるエピソードを大量に持つ辺り、彼女もまた逸般人なのだろう。

 現在、昼は暢気なお百姓さん、夜は害獣駆除に精を出す無慈悲な女王様として切り替えているらしい。

 それはさておき、問題は彼女が栽培しているコーヒーにあった。

 品種改良により、日本国内という四季がはっきりと存在し、夏には高温多湿となる温帯において自生するコーヒーノキを作り上げ、栽培に成功し、特許を保有している。

 これだけなら精々少しだけお茶の間を騒がすだけだが、このコーヒーが問題だった。

 なんとこのコーヒーノキから採れる実と種は人と喰種の肉とは全く関係ないのに摂取すれば喰種の栄養となるのだ。

 とは言え、人肉よりもエネルギー効率は悪いのか、保っても精々1週間程らしいが、それでも今までの対喰種研究からすれば常識外の出来事だった。

 事の次第を捕獲した喰種の証言から気づき、更に実証する事で完全に把握したCCGは即座に件のコーヒーを予算が許す限り購入した。

 コソコソと人肉を集めるより、このコーヒーを購入した方が安く、職員の精神安定にも良かったが故の即断即決だった。

 そしてCCGとしてはもしもの事を考え、即座に彼女の確保に動いたのだが、余りにも性急に事を進めようとしたため、逆に彼女からの警戒を煽ってしまい、一時は危うく全面取引停止にされる寸前になってしまった。

 これにより、CCGとしては彼女との取引をしつつ周辺を監視する事で身辺警護をし、更に取引をしているであろう喰種を割り出す予定になった。

 本来なら全面協力を頼みたい所だが、下手に刺激して取引停止は勘弁して頂きたいのが本音だった。

 なお、彼女は驚いた事に自分のコーヒーが喰種にとって栄養となる事は知らない。

 今も彼女にとって、喰種とは畑を荒らすコーヒー泥棒でしかない。

 もし彼女が喰種側に行ったとしたらゾッとする事態になっていただろう。

 栄養は彼女のコーヒーで摂取し、捕食行動は単なるスリリングな狩りとなり、個体毎の調査の難易度は遥かに跳ね上がる事が予想される。

 何せ餓えて一定期間毎に襲うのではなく、完全な娯楽として襲うのだ。

 証拠隠滅もタイミングも場所も時間も万全の準備の上で可能となる。

 更には人間を積極的に襲わない喰種の発見率もまた極端に低くなる事だろう。

 犠牲者が減る事は嬉しい、だが素直に喜ぶ事は出来ない。

 それがCCGの本音であった。

 だが、ある意味で現在の人類と喰種同士の終わりなき戦いに終止符を打つ可能性の高い発見である事は事実であり、CCG内の研究所ではクインケやRc抑制剤の開発等と共に、このコーヒーの苗木と肥料を元に解析が進められる事が決定された。

 

 

 取り敢えず様子見と研究を決定したCCGに対し、喰種業界では件のコーヒーに関する扱いは荒れた。

 13区を始めとした治安の悪い区に住まう喰種の間では、件のコーヒーで栄養を取る事は軟弱者、臆病者、人に阿る馬鹿扱いされ、大規模な喰種のグループでは件のコーヒーは負傷時の非常食扱いとして重宝された。

 それに対し、所謂穏健派の喰種にとってこのコーヒーは正に福音となった。

 人間の4~7倍程度の身体能力と捕食器官たる赫子を持ち、通常の物理攻撃では極めて効きづらい喰種と言えども近年の技術革新によって生まれたクインケを持った捜査官らの相手は困難であり、現在も多くの喰種が狩られてきた。

 だが、喰種が危険なのはその能力に加え、人しか食えないという点に集約される。

 単に優れたるだけならばまだやりようはあったが、食人という最大の汚点が人間との共存を阻む。

 しかし、あのコーヒーのお蔭でそれがチャラ、定期的に入手さえできれば人の間で穏やかに暮らす事が出来る。

 こうして、主に子持ちの一家や年寄り、女子供を中心とした戦闘が不得手な、或は人の中で生きる事を望んだ喰種は増々20区に、格安で件のコーヒーを提供してくれるあんていくを目指した。

 だが、余りの人数にいくら数日から一週間は保つとは言え、店の規模とコーヒーの量は少なすぎた。

 幸い、コーヒーそのものに関してはこの件の中心である女性から格安で提供してもらっているため、切らす事は滅多にないのだが、それでも連日大量にやってくる人数に従業員もグロッキー状態だった。

 また、他区から流入した中には狩りが出来ずに極度の栄養失調になった者もいたため、変わらず自殺者の死体集めは続ける事になった。

 取り敢えず店長の指示により応急措置として、従業員向けにしていたコーヒーチェリーもメニューとして出す事である程度負担を減らしたものの、それでもまだまだ負担は大きい。

 古参店員の元部下達にもローテーションで手伝ってもらっているが、そもそも店の処理能力を大幅に超える客足に疲労が溜まり始めていた。

 

 「このままではいけない。やはり、例の計画を実行しよう。」

 「例の…あぁ二号店ですね。」

 「既に十分な資金はある。この状態だと余り喜べないがね…。」

 「あはは…そっちは誰に任せます?何ならこの魔猿が」

 「いや、そちらは四方君に任せる予定だ。残りの人員は信用のおける者を何人か選別するとしよう。」

 「それは良いですけど…店長も少しはお休みしてくださいね。もう御歳なんですから。」

 「ははは、まだまだ現役でいるつもりさ。」

 (とは言え、このままでは誰か過労で倒れるだろうな…。)

 

 この時期から店長がもしもの時のために二号店(ただし別名)の設立を決意したという。

 こうした二極化した対応の中、寧ろ商売のために独占契約を結ぼうと考えた者達、寧ろその農家の女性を捕えて利用しようとした者達もいたが…そうした者達の殆どが、彼女によって死ぬよりも辛い、コクリアばりの拷問を受けた後にCCGへ連行される事となった。

 彼女の暴虐ぶりは、まるで嘗て暴れ回った隻眼の梟を彷彿とさせるものであり、多くの喰種は彼女との交渉は平和に行う方が賢いと悟る事となった。

 

 「素晴らしいですね、このコーヒーは。」

 「はい、観母様。苗と肥料も入手できましたので、現在総力を挙げて栽培しております。」

 「ですが、やはり彼女の育てたものに比べ、味も栄養も落ちている様ですね。」

 「申し訳ございません。」

 「いえいえ、松前君。何も私は怒っている訳ではないですし。」

 

 さて、喰種界きっての富豪である月山グループはと言うと、跡取り息子の友人により逸早くこの情報の真偽を確かめ、行動に移っていた。

 とは言え、それはあくまで穏便な手段でだが。

 

 (まさかあの黒磐特等以外に野良とは言えそれなりの喰種の首を片手で握り潰す人類が存在するとは…。)

 

 命からがら帰ってきた部下の言葉に半信半疑だった松前も、その後に己の目で見たとあっては流石に信じざるを得なかった。

 

 「習君のお友達には私がとても感謝していたと伝えておいて下さい。」

 「畏まりました。」

 「くれぐれもこの波に乗り遅れない様に。また同時に転ばない様に細心の注意を払ってください。」

 「はっ。」

 

 

 

 ある夜の事だった。

 私が久しぶりに本気を出したのは。

 相手は恐らく女の子、年の頃は解らないが、随分と小柄で幼児体形だった。

 顔は全身を覆うフードと包帯によって隠されて分からない。

 だが、片目だけが赫眼の彼女が今まで出会った事が無い程に手練れである事は解った。

 

 「こんばんは、良い夜だね。」

 「こんばんはお嬢さん。所で何の御用かしら?」

 「あは、散歩を兼ねた視察かな?」

 「ごめんなさいね、今の時間は開いてないの。」

 「ううん、こっちこそごめんね。」

 「あら、単なるお散歩なら歓迎よ?」

 「お散歩以外だったら?」

 「そうねぇ…。」

 

 悪い子にはお仕置きが必要よね?

 

 刹那、双方はほぼ同時に人類処か高位の喰種の知覚すら凌駕する速度で互いに踏み出した。

 大気の壁すら重く感じる領域で、私と彼女は拳とトーテムポールの様な不思議な赫子で殴り合った。

 10、20、50、100と、互いに一度の衝突だけで衝撃波を撒き散らすこの世界の怪物同士は、しかし互いに手札を切らない故に互角の様でいて、しかし当人達はしっかりと互いの有利不利を悟っていた。

 力は兎も角リーチと速度は共に負けると、幽香は瞬時に悟っていた。

 なら別の手を考えよう。

 何時ぞやの喰種から奪った鞄を手に取り開封、まるで傘の様な外見をしたクインケを取り出して振るう。

 型も何もあったもんじゃない。

 ただ只管に圧倒的な身体能力によって暴威を成す。

 

 「…君、本当に人間?」

 「さぁ?ま、どっちでも良いじゃない。」

 「そうだね、うん、その通りだ。」

 

 動きが止まった所で傘の先端に極光が収束、真昼の様に周囲を照らし始めた。

 

 「さぁ、豚の様な悲鳴を上げなさい。」

 「うん、やっぱ君、人間じゃないわ。」

 「さっきも言ったけど、どっちでも良いでしょそんなの。」

 

 直後、傘の先端から極太のビームの様に妖力を発射、流石にヤバいと思ったのか慌てて包帯フードの女が回避に移る。

 彼女の持つ反射神経ならこの程度は余裕で回避できる。

 だがそれは、彼女が何時も通りならであり、閃光に身を竦ませたが故に、一瞬遅かった。

 その足に、幾重にも草木が絡みついていた。

 そりゃどんな聡明な人間でも、視界を埋め尽くす程のゴン太ビームが目の前から迫ってきたら慌てるってもんである。

 そして、彼女は光の中に消えていった。

 

 「…っで、たまるかー!」

 

 だから、直線状に抉られた地面の下からぼっこりと彼女が出てきた時は驚いた。

 

 「あらそう。所で貴方、綺麗な声をしてるわね?」

 「あの、この場でそれ聞く意図が分からんのですが。」

 「ふふふ、それはね、貴方に大きくて綺麗な声を出してほしいの。」

 「あ、もう遅いんで帰りますねーさよならー。」

 「ウフフ、逃がすと思う?」

 

 再度四方八方から伸びる植物の根や蔓を、しかし、エトは赫子でそれらを振り解きながら、先程のゴン太光線の跡地を通る事で植物の妨害の薄い場所を走り抜けていった。

 

 「……退いたか。後で連絡と畑の手直しが必要ね。」

 

 だからこれを使うのは嫌なのよ。

 独り言が空しく荒れた夜の畑に響いた。

 

 

 

 

 

 そして一年後のある日、幽香はお気に入りの喫茶店である少年と出会う事になる。

 

 「あら?貴方隻眼なの、珍しいわね。」

 「え、あ!?ごめんなさい!」

 「言わないわよ別に。この店はお気に入りなの。間違っても閉店させるような事はしないから、安心なさいな。」

 「は、はぁ…。」

 「それよりも注文よろしいかしら?」

 「あ、はい!」

 

 物語はその在り様を大きく変え、新しい道を進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




うーむ、これじゃない感が。
やはり短編でやるには題材が難しい。
原作沿いで某境ホラTRPGみたく、キャラと能力値、ルートだけ大まかに決定して中編で連載すべきか…。
いやしかしメカニカルもそのつもりだったのにうっかり長編になってるしなぁ(汗


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転生美神による横島忠夫改造計画

一応続く予定の試作品の一つ


プロローグ的短編

 

 

 

 その出会い自体は些細なものだった。

 自分の事務所に職員募集の広告を張る彼女と、それを見た少年。

 些細なそれは、しかし当人とその友人知人、そして何より三つの世界全てにとって、重大なものだった。

 

 

 「生まれる前から愛してましたー!!」

 「シッ!」

 「ごべふぅっ!?」

 

 

 少年が美女に奇声と共に飛び掛かり、美女の拳打によって撃墜された。

 二人の始まりはそんなコメディ&スプラッタだった。

 

 

 

 

 「馬鹿だが商才とやる気有り。成長の余地は霊能・人格共に有り…。よし、横島、君を雇用しよう。」

 「ま、マジすか!?」

 「但し、時給250円な。」

 「んな!?それじゃ小学生の小遣い並じゃないすか!」

 「ダメかな…?」微笑みながら上目遣い&指先で横島の顎下を擽りながら

 「この横島忠夫、全身全霊を尽くさせて頂きます!」

 「うむ。では早速明日から頼もう。」(今のままじゃアホな事に使うし、別口に貯金しておくか。後、親御さんとも連絡取らんとな。)

 

 

 

 

 「初日!初日からなんでこんなたくさん霊がいるトコなんすかー!?」

 「今日の仕事は逃げ回り、生き延びろ。それではミッション開始。」各種除霊装備持ちつつ

 「いややー!ワイは美人のねーちゃんの胸で死にたいのやー!」

 「お、あそこに生前は美人だった霊がいるぞ。」

 「生身!ちゃんと生身で!ってゲフゥ!?」

 「逃げないと死ぬぞ。そら走れ走れ。」(まぁ服の裏地にお札仕込んだからこの程度の雑霊じゃ死なんが。)

 

 

 

 

 「………。」瞑想中

 「………ッ。」視姦中

 「………横島。」

 「はいッ!」

 「見るなとは言わんが、煩悩をもっと霊力に変換しろ。勿体無い。」

 「はいッ!!」許可が出たので齧り付き

 (い、良いのかなー?)事務所の外付け良心担当

 

 

 

 

 「ほぅ。狙撃と高機動を両立した中級魔族とは…厄介な。」愉しそうにニヤリ笑い

 (アカン!おキヌちゃん、逃げるんや!美神さんの阿修羅スイッチが入ってもーた!)

 (です!戦術的撤退に入ります!)

 「何をしている。こんな時でも役に立て、肉盾(横島)。」

 「いややー!敵も味方も美人だけどぼか死にたくないー!」

 

 

 

 

 「横島。この依頼、おキヌと一緒にやってみろ。手段は問わず、予算も道具もこちらで出してやる。出来なければ首だ。」

 「そ、そんな!やり過ぎですよ美神さん!」

 「いややー!首はいややー!」

 「成功すれば一緒に入浴してやろう。」

 「ぼかーやりますよ美神さん!大船に乗った気持ちでいてください!」

 「横島さん…。」心底呆れ中

 

 

 

 

 後日

 

 「さて、今日は完全にオフだ。楽しむとしよう。」

 「何故や…何故皆でプールに…ワイの努力は…。」

 「正確には温水プールだ。現に外国では混浴では水着着用が義務付けられている国もあるからな。これも入浴の一つだ。」

 「それでも…それでもワイは、美神さんの裸が見たかったんや…ッ!!」

 「横島さん…」呆れ中

 「んー…私よりも稼いでみせたら考慮せんでもないぞ。」

 「「なん…だと…?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以下、プロットのみ

 

 

  

 GS横島 美神令子に転生

 今更ながらGS転生もの。

 道具使いとしての本質はそのままに、Fateの女バーサーカーことバゼット女史並に地力も鍛えた男前クール系美女となった現実転生系美神。

 露出の多いハイレグではなく、自作の耐霊・防弾・耐炎・耐刃素材かつ肩や拳、膝、足裏を装甲化した特注のプロテクターライダースーツ+自作霊具で武装している。

 横島との出会いの際、飛び掛かって来たのを殴り倒したが、訴えない代わりに丁稚として奉公(例の時給250円)する事で決着とした。

 しかし、影ではしっかりと身辺調査した上でご両親に連絡を取り、今のままの横島では金をやってもつまらない事に使用するだろうから、独立か退所する際に纏めて支払う事を確約し、事務所に雇う事となった。

 これにより、横島専用の秘密貯金は通常時給5000円、依頼中は2万円という形でガツガツ増えていく事になる。

 また、原作知識により横島の成長を知る美神は横島に基礎の基礎からしっかりと教育していく。

 基礎体力に始まり、GSとしての基礎知識や教養だけでなく、学校の勉強まで教えていく。

 また、将来事務所を開くための事務処理関係や業界の裏側のヤバい事なんかも徐々にだが仕事の一環として実地で教えていくという、至れり尽くせりぶりで。

 横島、クール系美人(頑張ったら頑張った分だけ素直に褒める)の美神に夢中になり、その期待に応えようとスイッチが入り、学校と事務所、私生活においても張り切る。

 美神も美神でその様子に満足し、徐々に時給を引き上げていく。

 また、食事に関しても仕事帰りにリーズナブルながら穴場のお店を二人で行ったり、御裾分けと称して結構な量の食材を渡しているので、食糧事情も大きく改善する事となった。

 最終的に、これなんてオレTueeeeeeeeee!系?な横島が爆誕、凡その原作の悲劇を美神と共に覆したものの、何とルシオラとくっ付かなかった。

美神は驚きつつも「まぁ将来は解らんし」と静観するが、高校卒業と同時に半人前卒業&自分の事務所開設の許可を出した所、「美k…いえ、令子さん!オレと結婚を前提にお付き合いして下さい!」「…はい?」と公衆の面前で告白され完全にフリーズ。

その後、あれよあれよと言う間に、外堀も埋められ、美智恵や横島夫妻からの許可も降り、更に美神の事務所の稼ぎを横島が倍にした事で、美神本人も「物好きな奴め…」と呆れながらOKした。

但し、「お前が私とくっつくと泣く女が多いからな。ちと戸籍を弄って重婚可能にするぞ。」「へ?」という爆弾付きで。

結果、原作ヒロイン勢の殆どが立候補し、「互いにいがみ合わない&忠夫の不利になる事は絶対しない事」を正式に呪術契約し、横島ハーレムが完成した。

 

「い、いいんすか?だって…」

「寧ろ必要だ。お前と言う個人を守るためにはな。」

 

こうして、三界が取り合う人材である横島忠夫は人界有力者と神魔デタント派の連合勢力により囲われ、何だかんだ騒がしくめ平和に生を全うしましたとさ。

 

 

 

 



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横島忠夫改造計画2

今更GS系ss でもネタが湧いたので書きます!


 第一話 出会い=コメディ&バイオレンス

 

 

 

 

 念願の東京での一人暮らし。

 親や家からの制約もなく、顔馴染みも一人もいない土地での高校生活。

 強いて不自由していると言えば外国に仕事で長期出張している親からの仕送りが少ないので、どうしてもバイトする必要がある事位。

 だがしかし、根っからの根性無しである自分では、短期のバイト位しか出来なかった。

 勉強も運動も特に努力していない。

 気軽で楽しく過ごせれば良い。

 そして機会があれば美人のねーちゃんと一発やりたい。

 そんな堕落の限りにあった少年はある日、最近通学路の傍に出来た建物へと何気なく視線を向けた。

 すると、そこにいたのだ。

 今まで見た事が無い程の美人のねーちゃんが!

 ポンッキュッポンのナイスバディに凛々しさを感じる顔立ちとパンツスタイルのスーツ!

 何処か男性的なストイックさを感じる、正に出来る女って感じのねーちゃんが!

 そしてリビドーが弾けた。

 

 

 「生まれた時から愛してましたー!」

 「シッ!」

 「ごべふぅ!?」

 

 

 …のだが、それはどうやらお気に召さなかった様だ。

 少年、横島忠夫と師にして相棒となる女性との出会いは、有体に言って最悪なものだった。

 

 

 

 

 ……………………………………………………

 

 

 

 

 GS美神の世界に銭の亡者にして魔族や神族からすらもえげつなさで恐れられた美神令子に転生して早2(ピー)年。

 目の前で土下座する少年の姿に「あぁこいつが真の主人公か」と感慨深く眺めていた。

 思えばここまで色々あった。

 目が覚めれば自分は美神令子で、母親は物心つく頃には自分を捨て、父親は知人であった唐巣神父の下に自分を預けるだけ預けて以来、顔も見ていない。

 まぁ時間遡行者で娘を助けるために死力を尽くしてる美智恵からすれば、自分の娘の魂と人格が異世界出身の成人済み男性と融合?統合?とか、アイデンティティの一つや二つ崩れて育児放棄もするわな。

 それから唐巣神父の下で霊能を鍛え、高校からは六道霊能女学院に入学、卒業後はGS資格試験を即効で合格し、自分の事務所を開業して今に至る。

 

 「堪忍、堪忍してつかぁさい…!警察だけは勘弁を…!」

 「分かった分かった。取り敢えず、顔を上げろ。」

 「いいんスか!?」

 「泣くな。うっとおしい。」

 

 なんだかなー、こいつは。

 女として見たら変質者そのものと言うかエロガキなんだが…行動に性欲はあっても悪意が無い。

 性犯罪者とかになると、性欲以外にも悪意や狂気と言った負の感情が満載なんだが、横島にはそれが一切無いのだ。

 流石将来スケコマシになるのが確定しているだけはある。

 

 「今、私はバイトを探していてな。」

 「やります!荷物持ちでも皿洗いでもなんでも仰って下せーませ!」

 「ん?今何でもって言ったな?」

 

 言質は取った。

 魔神とか上級魔族の相手とか、正直私一人じゃ手に負えなかったので、これからみっちり鍛えさせてもらうとしよう。

 

 「じゃ、君は今日からGS見習いだ。続きは事務所で話そう。」

 「へ?GS?」

 

 こうして、私と横島忠夫のGS生活はスタートした。

 

 「じゃ、じゃぁ手取り足取り!」

 「落ち着け。」

 「へぼぉ!?」

 

 …先ず、「待て」を覚えさせよう、うん。

 

 

 

 

 三日、それが横島がGS見習いとして正式に働き出すまでの時間だった。

 書式を整え、GS協会に提出し、念のために私立探偵を雇って横島の経歴を洗い、更に海外のご両親と電話でだが話を通すのにここまでかかった。

 結果、分かっていたとは言え、問題らしい問題も無かったので正式に見習いとしてスタートする事となった。なってしまった。

 先ずは基礎体力の確認と言う事で事務所内のトレーニング設備を使って体力測定を行う。

 なお、当事務所は原作初期の雑居ビルではなく、立地から風水的にも拘った4階建てのビルであり、一階に受付及び事務所、二階に倉庫兼資料室、三階に私室と研究室、四階にトレーニング施設(プール・シャワー完備)がある。

 勿論、悪霊や妖怪、魔族対策に結界や式神、更に近代兵器(一応GS向けカスタム品なので合法)で殆ど要塞化されている。

 これ位は必要経費の範疇であり、勿論もしもの時のために抜け穴や別の拠点なんかも用意してある。

 そこで横島の基礎体力を図ったのだが…

 

 「ヒュー…ヒュー…。」

 「多少は打たれ強いな。」

 

 まぁ煩悩が絡まないならこんなもんだよね、と言うスペックだった。

 

 「ふむ…横島。」

 

 シュルと、ネクタイを緩め、第一ボタンを外す。

 

 「ふおおおおおぐげ!?」

 「そこまでだ。」

 

 床に倒れていたのが、カサカサと生理的嫌悪感を煽る感じで近づいてきたのをカウンター気味に顔面に足裏を当てて止める。

 

 「自己ベスト出せたら手料理を作ってやろう。」

 「やったろやないけー!」

 

 ここで奢るんじゃなく、女、それも美女()の手料理と言うのが味噌だ。

 まぁ自分の夕飯も兼ねてるし、一人分作るのも二人分作るのも手間としては差は殆どない。

 この程度で釣れるなら儲けものだ。

 

 「」

 「全て自己ベスト更新とは…やるな。」

 

 結果、流石の煩悩と言うか…こいつはどうしてそれを別の方面に…いや、横島じゃなくなるな、それは。

 特別に昨日買った高級和牛ですき焼きでもしてやろう。

 鍋ならいくらでも簡単に出来るしな。

 

 

 

 

 …………………………………………………

 

 

 

 

 美神さんに雇われてから一週間、漸く依頼に出る事が許された。

 この一週間、基礎体力の向上と基礎知識の習得として学校が終わったら即効で事務所に来てトレーニングと座学に打ち込む日々だった。

 だがしかし、それが学校と違って美人のねーちゃんが隣にいるとなればその価値は計り知れない…!

 その上、学校の勉強もさせてもらったので、成績の関係上有り難くもあった。

 それはさて置き。

依頼とは言ってもオレがするのは単なる荷物持ちだが、初仕事となれば気合を入れるべきだろう。

 

 「では横島、これより除霊作業に入る。」

 「あの、ちょっと聞いていいスか?」

 「何だ。」

 「何故にそげな重装備?」

 

 何処の紛争地帯か正規軍人かと言う程に、今の美神さんは重装備だった。

 テレビで見た軍人が着る様な服の上にヘルメットとバイザー、防弾ベストや弾倉、手榴弾、そして小銃を装備した姿は明らかにGSと言う世間一般のイメージから離れていた。

 

 「今回の依頼は建設現場に溜まった雑霊の掃除だが、数が多い。こちらで確認した所、数は約30。数だけは多いが、大半が空に浮いている。銃の方が効率が良いんだ。」

 「理屈は解りますけど…オレは?」

 

 そう、そうなのだ。

 この重量物を持って、そんな現場に逝くの?オレが?単なる素人のオレが?

 

 「横島」

 「はい!」

 

 にっこり笑顔の美神さん。

 でも解る。この笑顔は無茶振り前のアレだと、この一週間程で理解した…!

 

 「私の後ろから離れるなよ。死ぬぞ。」

 「了解っす!」

 

 真顔で宣う美神さんに、オレは漸くGS見習いになった事を後悔した。

 

 

 

 

 結果的に言えば、オレは死ななかった。

 美神さんは本当に効率よく、建設現場に浮遊していた雑霊達を掃討していった。

 連射される弾丸は対霊用に加工されたものらしく、雑霊は抵抗も出来ずに強制成仏、消えていった。

 勿論、中にはこっちに向かってきた奴もいたが、そいつらは何も出来ずに撃たれて消えた。

 時間にして一時間も掛かっていない。

 だけどオレは、初めての実戦で完全にビビっていた。

 戦闘中、オレは殆ど情けない悲鳴を上げながら、美神さんの後ろについて回った。

 

 「横島。見鬼君で残りがいないか確認しろ。」

 「は、はい!」

 

 ふざけた外見の見鬼君だが、性能自体は本物なのはこの一週間の勉強で分かっている。

 結果は0。この近辺に霊はいない。

 

 「四方の札も張ったから、後は最後の仕上げだけだが…横島、初陣はどうだった?」

 「どうって…メッチャ怖かったッスけど…。」

 

 もしオレ一人だけだったら、あの大量の霊に間違いなくあっと言う間に殺されていた。

 それを美神さんは装備もあったとは言え、苦も無く片付けてしまった。

 優秀とは聞いていたが、漸く実感した。

 

 「あれらが元は人間だ、と言っても怖いか?」

 「え?…あ。」

 

 そう、どの霊も元は人間、乃至生き物だった。

 今は死んで肉体を失い、更に擦り切れて怪物染みた姿へと成り果ててはいるものの、それでも彼らは以前は確かな個我を持つ生者だった。

 

 「忘れるな。我々GSはこうした死者の存在の上に成り立つんだ。」

 「はい…。」

 

 正直、理屈で習いはしても実感した事は無かった。

 祖父母はオレが生まれる前に亡くなったし、両親は外国で元気だ。

 だから、身近な所に死が無いオレでは実感として生き死にを経験した事が無い。

 だけど、死とはこんな身近な所にも転がっていたのかと、今日漸く思い知らされた。

 

 「横島、バックの底の方に経本があるから出せ。」

 「ウッス!」

 

 気を取り直して、バックの底から取り出すのは、御坊さんとかが持ってる折り畳み式のアレだ。

 法事やお盆の時に触れた事があるが、それ以外だと初めてだった。

 

 「私に続いて唱えろ。しっかり集中してな。」

 「はい!」

 

 そして、静かになった建設現場で読経だけが朗々と響き渡る。

 霊相手の依頼の時、美神さんは必ずコレをやるんだそうだ。

 他のGSはやらないけど、習慣とか戒めみたいなものなんだそーな。

 

 「死人とは言え人に暴力を振るったのだから、これ位はしてやっても罰は当たらんさ。」

 

 例え死んでも人間は人間で、美神さんはその辺りの職業意識というか仁義というか…兎も角、そういった所が高い人なんだという事だけは理解できた。

 

 「後は帰って寝るだけだが…明日は特別に休みだ。ゆっくり休め。」

 「うっす!お疲れ様でした!」

 

 取り敢えず、この人の後ろにしっかりついていこうと、改めてそう思えた。

 

 

 

 

 ……………………………………………

 

 

 

 

 ふぅ、しんどかった。

 

 今日の依頼は工事現場に湧いた大量の雑霊を薙ぎ払う事だった。

 何でも近くの要石がつい最近壊れてしまったらしく、そちらは別のGSが複数雇われ、殉職者を出しながら対処に当たったそうだ。

 私?弟子の育成に入ったから面倒な依頼(しかもGS協会を経由していない)は基本パスである。

 

 協会を経由した場合、依頼料の5%を手数料として引かれるが、依頼内容と事前情報の齟齬がある場合や所謂「騙して悪いが…」な偽依頼、モグリGSの関わった違法案件等で危険性が高いと判断されれば、依頼として受け付けないし、依頼料金の引き上げや依頼そのもののキャンセル、果ては依頼人の逮捕等が発生したりする。

 

 件の依頼は古い祠(道祖神の類)を壊して強引にビル建設を行った建築会社及び発注した企業が依頼を出したもので、無許可の宗教施設の破壊はオカルト全盛のこの世界では完全に違法であり、既に責任者は逮捕令状が出ているそうな。

 こちらの依頼はその余波であり、全うな会社からのものだと確認されているので、依頼内容もB程度なため、Sランクの私としては足手纏いを勘案しても大した問題にもならない。

 とは言え、暫くは横島の育成に掛かり切りになるので、早々大きな依頼を受ける事は無いだろう。

 逆に、横島に経験を積ませる意味で、割と簡単だがバリエーションを増やすためにも色々な依頼を受けてみるべきだろう。

 これらに対し、妖怪や幽霊をこちらに引き入れたり、騙したり、罠に嵌めたりと、原作以上の柔軟かつ多様な対応をする事で、横島自身の柔軟性を伸ばさせる方針で行きたい。

 

 それは兎も角として、先ずは基本の基本として体力と知識、そして霊的抵抗力の強化だな。

 では横島、先ずは筋トレと座学だ。

 マンツーマンでやってやるから寝るなよ?

 

 

 

 

 ………………………………………………

 

 

 

 

 美神さんに雇われてから、オレの生活は激変した。

 と言っても悪い方じゃない。寧ろ恩恵の方が多い。

 

 昼間は学生として、夜はGS見習いとして、一般の学生に比べたらかなり密度の濃い人生が始まった。

 GS見習いの訓練は主に基礎体力と知識の確保、それらを定着させるための実技、総復習としての依頼の三段階に分けられている。

 基礎体力は普通の筋トレやランニングの他、プールで冷水を浴びながらの読経や詠唱の練習であり、これが中々に辛い。

 全身に水を浴びながら(少しは温くしてある)、練習は数時間に及ぶ。

 低体温症+極度の疲労で、それをやった直後は温かい飯を食った直後に力尽きた様に眠る日々。

 おかげでここ数週間で体重が一気に減った。

 ただ、最近ではこれをしてるとあっと言う間に時間が過ぎるので、それ程苦痛ではなくなってきた。

 座学は霊能の正しい在り方と邪道としての使い方から始まり、霊や魑魅魍魎の種類や各種対処法、果ては神魔族の存在について語られる。

 そして、実技ではその直後にやった座学を実地で復習させ、身に付いたかテストさせられ、最後に依頼となる。

 ここまでそれぞれ一日ずつ使い、身に付いてないと判断されたら振り出しに戻る。

 

 後、給料は超少ないながらも支払われている。

 その額、なんと時給250円。

 無論、抗議したのだが、目の前で電話を取って「もしもし警察ですか?実は痴漢に合いまして…」と言われたら、どうしょーもない。

 だって、だってしゃーないやんか!あないなねーちゃんと身近に生活して覗くななんてオレにはでけへんのや!

 それに、覗くのだって命がけだ。

 美神さんの事務所兼自宅であるこのビルは4階建てであり、その中で居住スペースは3階にある。

 つまり、覗くには三階の窓、それも浴室にはベランダも出窓もない。

 最近鍛え始めた身体能力と自作の道具で辛うじて壁に張り付き、曇りガラスを僅かに開けて、湯煙の向こうを見なければならない。

 最初は道具無しだったのでやばかったが、今では黒子の恰好で命綱もつけてトライしている。

 

 「出直せ。」

 「ごはぁ!?」

 

 が、普通にバレて迎撃される。

 だがオレは諦めん!

 こういうご褒美があるからこそ、この仕事を止められへんのや!

 

 まぁ給料低いからって食いっぱぐれる事だけは無いのもある。

 美神さんは割と毎回の様に夕飯奢ったり作ってくれるし、食材なんかもくれたりする。

裁縫も出来るので服とかも偶に繕ってくれるし、衣食に関してほぼ完全に満たされてる。

 それを美人のねーちゃんがしてくれるんやで?金に換算できん価値がある。(断言

 

 しかし、普通のねーちゃんと違って、警察に本気で通報したり、キャーキャー騒ぐ事も無い。

 泰然自若というか、割り切り方が凄いというか…。

 だがしかし、何時かはあのねーちゃんを身も心もワイのもんにしたる。

 そのためにも今は次のミッション(覗き)に向けて準備を…!

 

 「真面目にやれ。」

 「ウッス」

 

 なお、学業の成績が落ちそうになると、監視付きで強制的に勉強が始まる。

 んで、確認テストで正答しないとリピート。

 それは辛いので真面目に勉強させてもらいやす、はい。

 

 

 

 

 ………………………………………………………

 

 

 

 

 正直、よくもそこまで欲望に正直に生きられるものだと思う。

 自分があの位の頃だったら、精々エロ本を読み耽る程度だったが…。

 うむ、流石は横島、煩悩の化身。

 そこに痺れもしないし憧れもしない。

 しかも、段々と覗きの手段が巧妙化している。

 最初は普通に入り口からこっそり→割と本気の打撃で撃退だったのが、窓からの覗きへと移り、更に暗闇に紛れる黒子の衣装+命綱と、他でその力を発揮しろよと言いたい。

 

 だがこいつの場合、やる気≒煩悩なので、これで正しいっちゃ正しい。

 しかも、しっかりと鍛錬と依頼の方でも成果が出てる辺り、流石としか言いようがない。

 うーむ、そろそろ雑霊とでも一騎打ちさせてみるかね?

 

 なお、横島の真の給料(時給5000円+依頼中は時給1万円、出来高でボーナス有り)は順調に溜まっており、細かく連絡を取ってる横島母も生活改善と併せてにっこりしている。

 

 『ほんまにねぇ、美神さんにはお世話になってばかりで。』

 「私は所詮、原石を磨いているだけです。才能や下地は本人とご両親の教育の賜物です。これで成果を誇ったら、私は単なる道化ですよ。」

 『でも、原石を磨くのも職人技よ?その点は誇って良いし、私達も感謝してるんだから。』

 「とは言え、今後は本人のやる気次第。今後もこれが続くかは解りません。」

 『あら?何かやるなら思いっきりね。そろそろ天狗になってきてるだろうから。』

 「鋭いですね。実は近々依頼を一つ任せようと思っています。」

 『で、あの馬鹿の根性を見る、と?』

 「この程度で折れるなら、別の専門家に任せるつもりです。」

 『その辺はお任せしますわ。あ、やるなら徹底的で。』

 「勿論です。」

 

 と言う事で、人骨温泉の依頼を受ける事が決定した。

 頑張れ横島。

 成功報酬は家事も出来る上に将来有望な美少女の幽霊(蘇生予定)だぞー。

 

 

 

 

 

 …………………………………………………………

 

 

 

 

 美神さんの事務所で働き出してから丁度一か月、今回は人骨温泉と言う観光地に来ていた。

 何でも、温泉に出てくる幽霊をどうにかしてほしいそーな。

 ランクはC、出発は金曜の午後なので、そのまま土日はそこで過ごすと言う半ば旅行である。

 しかも、しかも!美人のねーちゃんと一緒の温泉旅行である!

 

 と思ったら、やっぱりオチがあった。

 

 途中、俺は現場の確認という事でバスから降りて強制的に徒歩(荷物有り)である。

 依頼のあった旅館はまだ遠く、山地だからか酸素も薄くて苦しい。

 そんな時、俺は彼女、オキヌちゃんと出会った。

 

 

 

 

 …………………………………………………… 

 

 

 

 

 結果だけを見れば、鍛えた横島にほぼ全てを任せたものの、凡そ原作どおりに事は進んだ。

 まぁこの件に関しては介入する余地が極端に少ないのだが。

 とは言え、のんびりと話し合う横島とオキヌの二人を横目で見ながら、悪友に対植物妖怪撃滅用の細菌を注文しておく事を心に決めた。

 幸い、こちらは原作よりも戦力は多いし、地脈にいる本体に関しても、今回の件で地脈の結節点にセンサー代わりの術を施し、あの草女が動き出した時点で十分対処は出来る。

 

 「ついでにバンカーバスターでも頼んでおくか…。」

 「へ?いきなりどうしたんです?」

 「何でもない何でもない。」

 『あ、お菓子なら飴玉がありますよー。』

 

 さて、美神事務所メンバー3人が揃った所で、これからも頑張りますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 この美神令子、素手の強さが型月のバゼット女史に並ぶと思ってください。
 バゼットよりも道具使いとして汎用性が高く、全距離対応型のオールラウンダーです。

 そして原作でも美神ってがめたパーツ組んでカオスフライヤー二号とか作ってるんですよねー。
 
 後は私のssの傾向から解りますよね?(にっこり


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FGO短編 安珍が逝く

間違って削除してしまったので再投稿しました。


 自分は転生者だ。

 とは言え、特にチートだとかそういったものを持っている訳ではない。

 精々が田舎の祖父母のおかげで野草に詳しく、簡単な手当て等が出来るだけだが、それとてこの時代、平安の頃の人々にとってはあって当たり前程度のものでしかない。

 一応庄屋?村長?の三男なので、近くの寺である程度学ぶ機会があり、この時代の文字の読み書きは過不足なく行える。

 前世知識でチート?この迷信と神秘溢れる時代に下手な事をすれば物の怪に憑かれたとか何とか騒ぎが起こって最悪殺されるだろう。

 村長の家とは言え、三男なぞそんなものだ。

 そんな自分は寺で経の読み書きや掃除をする時を除くと、村で野良仕事の手伝いをしたり、怪我人や病人の手当て等をしたりする。

 無論、この時代ではまともな医療知識も道具も無い。

 救えぬ命の方が多いし、精々が苦しみを和らげる程度のものだ。

 とは言え、村人からは感謝されてるし、両親や兄弟、寺の和尚等からの受けもよいので、変える気は無いが。

 しかし、一応気を付けていたのだが、どうにもならぬ事もある。

 流行り病。

 こればかりは一介の薬師擬きではどうにも出来なかった。

 病そのものが何なのか直ぐに分かった。

 結核。

 21世紀に至るまで根絶されずに多くの人々を死に追いやってきた感染症だった。

 予防も難しく、咳や唾、痰の飛沫によって空気感染する。

 この時代、栄養状態の良い人間は殆どおらず、一度感染すれば抗菌剤も無いので数年以内に死に至る。

 感染を防ぐには患者の隔離位で、後は汚染物の消毒(この時代では焼却)しか思い浮かばない。

 その事を父である村長を始めとした村の重役達に話すと、全員が重苦しい雰囲気に包まれた。

 既に村にも数人ながら感染者がおり、近隣の村々でも被害が出ている。

 この事が他に漏れれば、先ず間違いなくパニックになり、感染者とその疑いのある者は殺されるだろう。

 

 「三太、どうすりゃ良いと思う?」

 「…隔離しかない。ただ、何もやらずに飢え死にさせるんは忍びねぇ。森の中で家作って、そこで暮らしてもらう。足りないものはオレが纏めて届ける。他にも増えたらそっちに移す。」

 「すまん、頼んだ。」

 「良いさ。親父や和尚、村の皆には世話になったからね。」

 

 これしか手は無かった。

 その後、村に新たに感染者が出ると、森の中の家に移され、そこで暮らす事になった。

 無論、それを嫌だと泣き、暴れる者もいたが、何とか皆で抑え付けて連れて行った。

 そうしなければもっと危被害が広がるからだ。

 そう自分に言い聞かせながら、オレは行動するしかなかった。

 

 ………

 

 そうして隔離生活が始まって3年、この家で6人が死んだ。

 早めに対処したのが良かったのか、他に感染者は出なかった。

 苦しみ続ける6人を、オレは本人らの同意を得た後、最後は眠り薬と毒薬を使って、安楽死させた。

 遺体は穴に入れた上で火葬にし、結核菌が残らない様に気を付けた。

 胸にぽっかりと穴が空いた気分だった。

 老いも若きも、男も女も、何の区別もなく死んでいった。

 中には稼ぎ時の父親や嫁入りしたばかりの娘もいた。

 この時代の命の軽さは解っていたが、それでもやり切れず、悔しくて悲しくて涙が出た。

 でも、6人も家族から離して死なせたせいだろうか、6人目の葬儀が終わった頃にはオレも感染の疑いがあった。

 そのため、オレは村に帰る事もせず、必要な荷物を纏めた後、森の中の隔離小屋に火を点け、置手紙ならぬ板を残して立ち去った。

 出来るだけ人目につかぬ様にしながら、この時代に既に有名だった熊野へと参拝に向かったのだ。

 目的はオレが死なせてしまった6人の冥福と…まぁ懺悔だ。

 誰かにこの事を話さないまま死ぬとか、もうある種の拷問だったからだ。

 罪は裁かれねばならない。

 罪悪感を持つ者にとって、裁きと言うのはある種の救いにも感じる。

 口元を粗末な布で隠し、勝手に剃髪し、一人称も「私」に変えて、偽名として安珍と名乗った。

 対外的には偽名の私度僧と言う奴だが、この時代、寧ろそうした者の方が多い位だった。

 況してや真面目に寺で経を学んだお蔭で、大抵の者よりも仏教に詳しくなっていたがために尚更バレる事もなかった。

 他者への感染に細心の注意を払いながら、オレは人気の少ない道とも言えない道を選びながら熊野を目指した。

 道中の盗賊には病持ち(感染の可能性あり)と話せば大抵は去り、時には有り金を渡せば納得してくれた。

 この時代に絶滅していない山野の獣に関しては、毒草や蓼等の劇物一歩手前の草から作った獣除けが効果を発揮してくれたので大丈夫だった。

 他にも明らかに物理法則を無視した様な物の怪とか天狗とかにも会ったが、前者は逃げたり経を読んで退散させ、後者は暢気に世間話したり呑み会したりと世話になってしまった。

 流石平安日本、幻想が生き生きとしていやがる…!(戦慄

 

 ………

 

 さて、熊野と言えば21世紀にも知られた観光名所であり、この時代でも既にそうだった。

 そのため、どうしても熊野近辺は何処に行っても人気が多くなり、紀伊国に入ってから仕方なしに街道から少し外れた場所の宿を取る事にした。

 その時、偶々同じ宿に泊まっていた貴族の妻が体調を崩したと耳にした。

 それだけなら他の者に任せるのだが、他の医者らしい者は別件で捕まらないとも聞いてしまい、口元を隠す布に気を付けながら、貴族の従者の一人に薬師としての心得もあるから自分に診せてほしいと頼み込んだ。

 この際何でも良いとの事で診察した所、貴族の妻(細身で色白、お多福ではない美人)は激烈な腹痛を患っていた。

 何でも、道中に山の渓流で釣った魚を食べたとの事。

 寄生虫の疑いから、一先ず手持ちの薬草で副作用の少ない痛み止めと虫下しの丸薬を飲ませた所、半刻程で痛みが引き始め、疲労により気絶する様に眠った。

 感謝した貴族から報酬に結構な額の金子を提示されたが、宿代を払ってもらうだけで良いと告げ、そのまま自分の部屋へと戻ろうとした。

 

 「あ、あの!」

 

 そんな時、彼女に声をかけられた。

 

 「私、清と申します。先程はありがとうございました、安珍様。お蔭で母の具合も良くなりました。」

 

 先程の奥方によく似た、色白だが子供特有のふっくらと健康的な印象のする美少女だった。

 

 「いえいえ、仏門の者として当然の事をしたまでです。寧ろ御父君から報酬を貰ってしまった事の方が恐縮ですよ。」

 「あの、出来れば私と少しだけお話を…。」

 「いえ、残念ですが、もう夜分遅くです。今日は床について、明日もう一度奥様の様子を診ますので、その折にでも時間を取らせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 「はい!お待ちしております!」

 

 こうして、私は彼女と約束をした。

 これが果たされない事になろうとは、この時の私は思いも因らなかった。

 

 翌朝、私は日がまだ登り切らぬ内に出発した。

 宿の者に追加の薬と所用が出来たため、早めに出立するとの伝言を置いてきたので、ギリギリ無礼にはならないだろう。

 出来ればあの美少女とはお話してみたかったが、生憎とそういう訳にも行かなかった。

 昨夜、唐突に胸の苦しみを覚えたと同時に吐血したからだ。

 幸いにも、口元の布のお蔭で血は零れなかったが、出来るだけ進行を抑制してきたのがここに来て限界を迎えつつあった。

 それに、長々と彼女と一緒にいれば、感染のリスクも高まってしまう。

 力の入らない身体を引き摺る様にして、私は熊野詣へと急いだ。

 この時、後の事を思うと少しだけでも時間を取るべきだったと思うが…後悔先に立たずとはよく言ったものである。

 

 ………

 

 漸く熊野詣を終え、旅の目的が済んだ私は来た道を引き返し始めた。

 とは言え、故郷には恐らく辿りつけないだろう。

 何処か人気のない場所で、身体を火葬出来れば良いのだが…。

 命数の殆どを使い果たし、最早軽く感じられる身体を動かしながらそんな事を考えていると、上野の里の辺りであの貴族の娘と再会する事になった。

 

 「安珍様…何故、またお会いしてくれなかったのですか…。」

 

 おどろおどろしい気配を纏った清と再会したのだ。

 

 「私を…お嫌いになったのですか…?」

 「そんな事はありません。あの時は急いでいまして…。とは言え、今は時間もあります。先ずは身を清めてから、改めて話しましょう。」

 

 見れば、清は裸足で歩いてきたのか足袋も履物もないし、素足が結構見えていて(この時代の人としては)かなりはしたない事になっていた。

 気付いて赤くなった清を直ぐに近くの宿に入れ、念入りに身支度する様に金子と共に言いつけておいた。

 

 (正直、もっと早くに出会ってればなぁ…。)

 

 彼女はまだまだ若い身空、こんな死に体の男と付き合って、最悪病にかかる事も無いだろう。

 既に自分の身体は全体にガタが来ており、今横になってしまえばそのまま二度と動けなくなるだろう。

 今何とか動けているのも、蝋燭の火の最後の輝き、火事場の馬鹿力、死に瀕して肉体が苦痛を感じなくなっているからだ。

 

 (何とか道成寺まで辿り着かないと…。)

 

 あの寺の住職には以前世話になった事があり、こちらの事情も知っている。

 既に手紙で自身が亡くなった時は火葬してほしい旨を伝えているので、自身の体調を鑑みて、何とか間に合いそうだった。

 だが、それは今から動いて本当にギリギリ間に合うかどうかであり、清と歓談する時間は取れそうになかった。

 既に口元を隠す布の内側は己の血で真っ赤に染まっており、刻々とタイムリミットが迫っているのを告げていた。

 また、この場で死のうものなら、宿の者達にも風評被害が及ぶ可能性が高い。

 そのため、私は宿の者に清への言伝を頼むと、そのまま宿を後にした。

 

 (熊野権現様、どうかあの子が思い詰めて私を追いかけてきませんように。どうか良縁に巡り合えますように。)

 

 念のため、先日も熱心に患者の冥福を祈った相手に再び祈る私だった。

 

 ………

 

 日高川を渡り、何とか道成寺に着いた頃、既に全身の感覚が麻痺していた。

 今自分が歩いているのか倒れているのかすら判断出来ず、寺の住職達も既に伝えていた手紙で末期を迎えるのを理解してくれていたので、火葬の準備は着々と進んでいた。

 先程から吐血が続き、口元の布も既に外から見ても真っ赤に染まっており、畳や寝具を血で汚すのも忍びないので、辛うじて準備が終えるまで鐘に寄り掛からせてほしいと伝える。

 もう満足に手足は動かず、今にも意識を失いそうだった。

 とは言え、今まで自分が看取って来た人達と同じで、今度は自分の番が来たと言うだけだと思えば、そう恐ろしくもなかった。

 ただ、まともに話す機会を設けられなかった清の事だけが少々ならず心残りだった。

 

 ………

 

 日もとっぷりと暮れ、所謂逢魔が時と言われる頃、不意に境内が騒がしくなった事に気づき、億劫に思いながらも瞼を開けた。

 すると、視界一杯に白い鱗が入って来た。

 何とか頭を上げると、やせ細った自分の胴を安々と超える程の太さの胴を持った白い竜が鎌首をもたげてこちらを見下ろしていた。

 

 「何とまぁ…見事な…。」

 

 不意に口をついて出た感想はそんな暢気なものだった。

 だが、瞬きをした時には白竜の姿は消え、代わりに何故か角を生やし、髪色も淡い若草色へと変じた清が立っていた。

 

 「安珍様…?そのお姿は…。」

 

 心配そうな、しかし変わってしまっても可愛らしい彼女の姿に、これは末期の幻だと思った。

 何せ、彼女には「もし自分に怒りを抱いているのなら、どうかこのまま帰って親元で幸せになってほしい」と言伝を頼んでいたからだ。

 裏返せば「もし自分を好いてくれるなら、どうかこのまま追ってきてほしい」と言っているのだが…まぁ貴族の娘さんにそんな根性も行動力も無いだろう。

 素直そうな彼女なら、文字通りの意味を取ってくれると思ったのだ。

 

 「あぁ…これは失敬。御夫人にお見せできる姿ではありませんね…。」

 

 そう言えば、彼女と話したかった事を思い出すと、これも末期の幻なのだしと考え、私はポツポツと彼女に今までの事を語った。

 

 村長の三男として生まれ、近くの寺で学び、薬師紛いの事をしていた事。

 流行り病で手を尽くしたが何人も死なせてしまい、自分も感染した事。

 自分が死なせてしまった人達のためにも高名な熊野詣をしたかった事。

 清が可愛くて話す時間を設けたかったが、長居してしまえば病気が移ってしまうかもしれなかったので出来なかった事。

 土葬では病気が移るかもしれないので、念入りに火葬してくれるように道成寺の住職に頼んだ事。

 何か余計な事を言ったかもしれないが…死にぞこないの戯言として忘れてしまってもらっても構わない事。

 

 言いたい事を言い終えると、急に眠くなってきた。

 最早、清の幻すら私には見えなくなっていた。

 

 「安珍様…」

 

 なんですか?

 

 「安珍様はお疲れの様ですから、どうかごゆっくりお休みくださいませ。」

 

 よろしいのですか?

 

 「えぇ。後の事は私にお任せくださいまし。」

 

 そうですか。

 

 「はい。」

 

 では、休ませていただきます。

 ありがとうございます、清。

 

 「…っ…お休みなさいませ、安珍様。」

 

 

 

 

 ……………………………………………

 

 

 

 

 轟々と、道成寺の境内が燃え盛っていた。

 白い大蛇の様な身体を持った竜がその口から灼熱の炎を吐き、鐘に身体を預けていた安珍の遺骸を灰も残さぬとばかりに焼いていた。

 

 『安珍様、貴方様の願いは私が叶えます故…。』

 

 清は、安珍に惚れていた。一目惚れだった。

 高い知性を感じさせる面差しに、優しげな瞳。

 口元こそ布で包んで隠していたが、それを考慮しても僧にしておくには勿体無い程の美形であった。

 だが、母を助けてくれた恩人の上に彼は僧であり、夜這い等とても出来なかった。

 それでもまた会う事を約束してくれた彼を、清は信じて待った。

 だが、二度も安珍はその約束を破った。

 一度目は急用を偽り、二度目は身支度を長引かせる事で。

 更には熊野権現に祈り、神通力で己を縛って動きを封じもした。

 それでも清は驚く程の執着と情念と怒りで以て、安珍を追い続けた。

 だが、追いついた時の安珍は、今にも息絶えそうに血を吐いて美貌を汚し、自ら立ち上がる事すら出来そうになかった。

 その安珍の口から辛うじて聞かされた事もまた、驚きの連続だった。

 それは安珍の人生そのもの。

 小さな村の村長の家の三男として生まれ、寺で学を得て、薬師として生計を立てていた事。

 しかし流行り病で村人を死なせてしまい、自身も流行り病にかかってしまった事。

 最後に死なせてしまった村人の成仏のため、態々熊野詣を行った事。

 そして、そして…本当は清とゆっくり話をしたかった事、でも病を移してはならないと自戒して会わずに去った事。

 清の事を憎からず思っていた事。

 万が一にも病が広がらない様にこの寺の住職に自分を火葬してくれる様に頼んだ事。

 本当に、嘘偽りなく、全てを語ってくれた。

 

 そして、安珍は清に礼を告げると、眠る様に息を引き取った。

 

 

 「                 ッ!!!」

 

 

 番を失った雌竜の咆哮が境内を超え、近隣一帯に響き渡った。

 初めて見た時から心惹かれた。

 執念の余りに変じてしまった姿すら見事と言ってくれた。

 自分に病を移さぬ様にずっと身を案じてくれた。

 最後には、こんな化生に礼まで言って事切れた。

 そんな人が、もう自分では決して手に届かぬ所に逝ってしまった

 最早人間の可聴域に留まらぬソレは溢れる程の悲哀と悲嘆が込められ、境内にいた僧侶達も先程までの怯えも忘れ、一様に顔を曇らせた。

 

 『ガァァァァァァァァァッ!!』

 

 そして、白竜が炎を吐いた。

 安珍の願い通り、彼を火葬していく。

 その余りの火勢に、鐘を吊り下げていた釣鐘堂は焼失し、真っ赤になった鐘と石造りの土台だけが残っていた。

 

 『安珍様、私も貴方様の下まで参ります…。』

 

 そして、白竜となった清もまた天へと飛び立ち、日高川へと身を投げ、入水した。

 

 

 

 

 この一連の事件は事情を知っていた道成寺の住職らによって書に写され、当時熊野詣を軸とした悲恋の代名詞「安珍・清姫伝説」として語り継がれて、多くの講談や創作の元とされた。

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 2004年、炎上汚染都市冬木

 

 「ど、わぁっと!?」

 

 寸前まで迫ってきた刃を必死に飛び退いて回避する。

 

 「くそ、本当にここ日本か、よっと!」

 

 先のレイシフトに巻き込まれた関係か、どうやら自分も2004年の冬木市に跳ばされた様だが…なんだ、このマッポー都市(汗

 文明崩壊直後の有様でしょうかね?(滝汗

 

 

 事の始まりはまーた転生してしまった事だ。

 但し、今度は平安時代じゃなくて懐かしの20世紀の日本にだ。

 そして、今度は魔術師なる面妖な家に生まれてしまった。

 とは言え廃れて久しいらしく、他の家の様に根源への到達に血道を上げると言う事はなく、ライフワーク兼医学研究(特に薬学)の一環として魔術を研究している家だったが。

 だが、二度も転生した影響か、どうも魔術回路(チャクラと言うか経絡の一種)が人より多めらしく、研究と後学のためと称して時計塔と言うイギリスの魔術の名門大学(と言うか三つしかないのだが)へと入学する事になった。

 んで、ここで家の治療技術が目に留まったのか、アニムスフィア家の現当主からお声がかかったのだ。

 結果、給与及び研究環境(魔術師が毛嫌いする科学技術も利用可とか地味に凄い)を考慮して人理継続保障機関カルデアへと所属する事となった。

 いやぁ給与も良いし、ネットも出来るし、上司のロマン氏は素晴らしいしで万々歳だなぁ!と思っていたのだが…。

 

 「これは無い、な!」

 

 強化の魔術を使いながら、必死こいて逃げる逃げる!

 この骸骨共、多すぎる!

 

 カルデアからの救援は期待できない。

 初の大規模レイシフトの実施につき、現地での医療担当として第二陣の一番後ろで待機していたオレは、辛うじて爆破工作の被害を免れた。

 そう、工作だ。

 爆心点が明らかに所長がいた位置の真下だった事から、あの爆発は事故なんかじゃなく、相手は明らかに所長に、カルデアに害意を持った何者かなのは明白だった。

 

 「っ…!」

 

 そろそろヤバい。

 強化魔術によって常人の倍近い身体能力を持とうが、30人近い骸骨の化け物なんて捌き切れるものじゃない。

 そして、助けが来てくれる可能性は絶望的だ。

 

 「えぇいクソ!使いたくなんてなかったんだけどなぁ!」

 

 だから、この窮地を突破できる戦力を確保するしかない。

 懐に忍ばせていた、金色の札を取り出す。

 呼符と言われる、カルデア印の使い捨て礼装だ。

 これの効果は一つ、術者側には一切の消費無しの英霊召喚だ。

 だが、英霊以外ではなく、元となった冬木の聖杯戦争の術式に縁のある礼装も召喚の対象となってしまうため、デメリットもある。

 しかし、現状どう足掻いても詰んでるのなら、礼装でも英霊でも良いから、状況をひっくり返す要素が欲しかった。

 最悪、制御不能のバーサーカーでも囮に出来るし、礼装でも何かの足しになるだろう。

 ごめんナマ言いましたお願いだから誰かボスけて!

 

 「誰でも良いから来てくれぇー!!」

 

 誰も聞く筈のなかったこの叫びを、しかし、聞き届けた者がいた。

 

 「はい、畏まりました。」

 

 轟、と炎が走り、周囲を囲んでいた骸骨達が灰となり、燃え尽きていく。

 英霊召喚の残滓たる黄金の粒子、即ちエーテルが舞う中、一人の少女が炎を纏いながら、英霊の座からやってきた。

 

 「サーヴァント清姫、こう見えてバーサーカーですのよ?」

 

 炎を背にうっとりと微笑む懐かしい彼女の姿に…

 

 「どうか末永くよろしくお願いしますね、安珍様?」

 

 オレは、どうしようもなく見惚れてしまった。

 

 

 

 

 



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FGO短編 フンババが逝く

副題「ぼくのかんがえたさいきょうのしんじゅう」


 私と言う意識が生まれてから、一体どれ程の年月が過ぎただろうか?

 

 大地が蠢き、海が凍り、嵐が吼え、雷が降り注ぎ、火山が吼え、津波が迫る原初の地獄たる地球において、私は生まれた。

 地球そのものであるガイア、そこから派生した神霊を除けば、恐らく私は最も古い生命体だった。

 まぁ特に仲間とかもいなかったので、基本的にボッチで住処も転々としていたのだけど。

 唯一の癒しは何故か燦々と程好く日光を向けてくれる太陽位のものだった。

 なんでそんな存在がこうして複雑な思考や知識があるのかって?

 それはあれだ、私が所謂転生者とか言う存在だからだ。

 とは言え、特に特典とかがあるわけじゃない。

 原初の生命と言っても、出来る事は極端に少ない。

 精々が地獄の様な環境に適応する様に生き続ける位しかね。

 

 その内に地球上に多くの原始的生命体が誕生し、その後は爆発的な進化を遂げて、竜の楽園とも言うべき状態になった。

 ここまで来ると自分に匹敵とは言わないまでも同サイズの生命が多く存在し、彼らの姿を見続ける事で、随分と退屈を紛らわす事が出来た。

 しかし、ガイア及び神々による知的生命体の創造と共に、竜達の中でも特に古い個体(自分から見れば若輩だが)の多くは世界の裏側へと去って行き、残った個体はどれもそれ程強くはない者達だった。

 だが、未だ人間の文明も碌に発達していない現在(四大文明成立以前)、そんな彼らでも十二分に強者であり、国や民族と言う程ではないが、それに成り得る群集団を絶滅させる事位は簡単。

 そして、それでは知的生命体の創造が出来ないとして、神々が人間の生活に手を貸し始めた。

 それにより確かに知的生命体としての人類は成長し、同時に神々から多大な迷惑を受けつつも文明としての成長を始めていった訳だ。

 

 そうして漸く文明が形に成り出した頃、自分の下にある神がやってきた。

 その名をエンリル。

 現在のメソポタミア文明世界において、地球そのものたるガイアを除いた神々における最高神だった。

 嵐そのものが輝きを纏い、その中心に人型の本体を持つ彼は、私にある頼み事をしてきた。

 曰く、香柏の森の番人となってほしい。

 この森は神々の領地であり、元々自然の猛威や魔獣、疫病等の災いを封じるためのものだが、森の少ないこの辺りの土地ではうっかり人間や神々が伐採しかねないので、腕の立つ番人が欲しいのだとか。

 まぁ基本的にボッチで定住地がある訳でも無いし、時々で良いから食べ物をくれる事、自分に名前を付けてくれる事を条件にして引き受ける事にした。

 なお、食べ物は基本趣味です。

 だって大気中の魔力?とか吸ってればそれだけで健康で過ごせるから、娯楽以上の意義が無い。

 まぁ身体が嘗てよりかなりデカいから、大雑把なものしか作れないんだけどね…。

 そもそも過酷過ぎるサバイバル生活は既に飽きていたので、そろそろ平和な森で静かに暮らしたい。

 そして名前だが、フンババと付けてもらった。

 意味は恐怖で、森を侵す者だけでなく、近づく者にすら恐怖を振りまいてほしいとの事。

 それ、名前としてはどうなんですかね最高神…。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 神々は安堵した。

 特に問題も無く、フンババが番人の役を引き受けてくれた事に。

 全てはフンババが強すぎたが故だった。

 現在の世界を治める天上の神々をして、フンババの存在は危険だった。

 あの獣はこの世界で最も古くに生まれ、今なお生きている唯一の生物だった。

 原初の地獄だった星の環境に適応して生き延び、その力を身に宿すあの獣は、神々すら恐れる程の実力を持っていた。

 本人?が温厚であるから今まで問題になってこなかったが、何らかの首輪をつけなければオチオチ安心する事も出来ない。

 かと言って、目の前に立つ事すら生半可な神では出来ず、仕方なく最高神エンリルが出張ったのだ。

 結果だけ言えば上々であり、神々も一先ずの安心を得る事が出来た。

 また、フンババ自身も懐かしい気配のする香柏の森を気に入っており、今後は余程の事が無い限り彼が森から出る事も外界に関わる事も無かった。

 

 しかし、それは神々自身の手によって破られる事となる。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 この森を任されてから、長い長い時間が過ぎた。

 人間達の文明が発達し、村や街だけでなく、国々が生まれ、神々へとより多くの信仰(どっちかって言うと荒魂への鎮魂に近い)を捧げる頃、ウルクに一人の王子が生まれる。

 名をギルガメッシュ。

 後に、人類史の開始者にして、英雄王と讃えられる男だった。

 彼は聡明であり、天才であり、生まれながらの英雄だった。

 王位に就き、幼き頃は正に名君だった。

 しかし、徐々に鬱屈が溜まっていったのか、ギルガメッシュは暴君となり、民に圧制を敷き、近隣の国々と争うようになっていった。

 更に、神々から定められた役目、人間と神々を繋ぐ「天の楔」をも放棄している事から、神々はある決断を下した。

 即ち、「天の鎖」たるエルキドゥの地上への投下だった。

 ギルガメッシュに対抗するため、天空神アヌの命により、創造神アルルが泥から作った人形。

 自身を自在に変化させ、神性に対して絶対の優位性を持つエルキドゥは、即座に地上に投下された。

 だが、彼?は辛うじて人型に近い形態を取っているだけで、使命に対する義務感も何もない。

 つまり、ハードは完璧でも、ソフトに致命的な欠陥があったのだ。

 しかも、投下された場所が問題だった。

 そう、そこは香柏の森。

 フンババの守護する原初の災いの隔離領域だった。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 “ふむ…。”

 

 巨大な獅子の頭に巨人の身体を持つフンババは思案した。

 先程天から森に落ちてきたこの存在をどうするべきか、と。

 彼の職務からすれば排除すべきなのだが、一切の攻撃意思が無く、しかも天上から降ってきたとなれば、それは此処に自身を配置した神々の思惑の上である可能性がある。

 迂闊に手を出すべきではない。

 

 “人形よ、一先ず貴方を排除する事はしません。但し、この森の秩序を乱す様な事は禁止します。破れば殺しますが、それさえ守れば好きにしなさい。”

 

 泥人形の反応も見ず、フンババは踵を返した。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 ちゃんと言葉を聞き、理解していたエルキドゥは、取り敢えず、森で獣達と混じって暮らす事にした。

 獣達は素朴であり、純粋であり、無垢だった。

 故に、彼が心を、精神を、魂というものを学習するにはこれ以上ない教材だった。

 獣に混じって暮らす彼は、欠落を知らない故に満たされていた。

 そこにはフンババも含まれており、森の番人にして主である彼から、多くの知恵や獣達の生態、自然の働き等を学んでいく。

 時折フンババによる原初の地球講座~あの日、自分はどう生き残ったか~が愚痴混じりで開かれる事もあったが…エルキドゥは穏やかに森での日々を過ごしていた。

 

 しかし、そこにギルガメッシュからの王命によって神殿娼婦シャムハトがやってきた事によって、その日々は終わった。

 彼女と出会い、彼女から知恵を授けられ、彼女と一時的に身体を繋げた結果、エルキドゥは人としての形を得た。

 そして、エルキドゥが人としての形を得た事を、悲し気に見つめていた者もいた。

 

 “エルキドゥ、先ずはおめでとうと言っておきましょう。”

 “だが、ここは人が踏み入ってはならぬ隔絶された地。”

 “人となってしまった者は、この森にいてはなりません。”

 “特別に二名とも見逃す故、此処を立ち去りなさい。”

 

 己の職務上、告げるべき事を告げたフンババの姿は悲し気だった。

 何せ、彼からすれば久方ぶりの客人達であり、友人でもあったからだ。

 引きこもり生活によるボッチは仕方ないとは言え、それでも知性ある他者との関わりは楽しいものだった。

 この七日間、シャムハトが食料に困らず、外敵に襲われなかったのもフンババのお蔭であり、彼なりの友情だった。

 

 「ありがとう、フンババ。今までありがとう。」

 「無遠慮に踏み入ってしまい、誠に申し訳ございませんでした。食料までお世話になって…」

 “君達は君達の役目を果たし、また果たそうとしているだけ。この森に立ち入るだけなら許そう。でも、もうこの森に来てはならないよ。その時は殺さねばならないから。”

 

 二人を森の境まで見送った後、フンババはそう言い残して森の奥へと消えていった。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 それから幾年かの年月が経った。

 フンババは変わらず、己の役目を果たした。

 森は変わらずそのままで、原初の記憶のまま。

 だが、少しだけ、ほんの少しだけ、エルキドゥがいた日々が恋しかった。

 子供の様になんにでも興味を持ち、多くを学んでいく彼が好きだった。

 無論、男女間のそれではなく、純粋な好意だったが。

 エルキドゥとの日々は原初の地獄より一人だったフンババにとって、生に飽きた彼にとって、とても良い刺激に満ちた日々だった。

 だが、そんな益体の無い日々は終わりを告げた。

 他ならぬエルキドゥが、またこの森にやってきた事によって。

 

 

 

 

 …………… 

 

 

 

 

 “人は立ち入ってはならないと言った筈ですよ、エルキドゥ。”

 

 気まずげな顔をした友人に、私は告げた。

 確かにまた会えた事は嬉しいが、出来ればそれは叶わないでほしかった。

 それは即ち、彼と戦う事を意味していたからだ。

 

 「ほぅ、これは確かに恐れられるだけはある。我が朋友が来たがらぬ訳だ。」

 

 金色の人と神の混じった者がいた。

 それが恐らく音に聞こえたギルガメッシュ王なのだろう。

 うん、確かに傲慢で足元疎かで上から目線だ。

 下手に優秀で力を持っているのが余計に質が悪い。

 

 「この森の香柏はこの大地において大きな価値がある。この地の財、我がウルクのために貰いうけるぞ。」

 

 その言い様に呆れつつ、私は無言のまま口を開き、息を吐いた。

 途端、口から炎が噴き出て辺りを舐め、焼き尽くす。

 何時しか出るようになったこの炎の吐息は出が早い上に威力もそれなりなので、割と重宝している。

 が、あくまでそれは不意打ちが有効な相手に限られる。

 見れば、炎を遮る様に幾つもの盾がギルガメッシュとエルキドゥを守っている。

 恐らく、あれが暴君が掻き集めた財宝とエルキドゥの一部が変化したものなのだろう。

 

 「ハッ!行儀が悪いな番人!」

 “………。”

 

 その言葉に何も返さない。

 そもそも、この男と何かを話そうとは思っていない。

 ただ殲滅すべき相手に、一体何を語ろうとも無駄でしかない。

 

 「やっぱり分かってたけど…怖いなぁ…。」

 「何、その方が戦う甲斐があると言う物だ!」

 

 だが、まぁ、エルキドゥが恐怖しながらもずっと彼と離れないのは、少しだけ羨ましかった。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 フンババは、原初の獣である。

 この星の最も過酷な環境だった原初の時代を適応する事で生き抜き、神代においてもなお最強を謳われた存在だ。

 獅子の頭に巨人の身体を持ち、その口は死、その吐息は炎、その咆哮は洪水と言われ、「恐怖」の具現として人にも神々にも恐れられた。

 また、100リーグ先(約300~700km)の音も聞き分ける耳を持つ。

 そして、最大の特徴として「七つの輝き」を持っている。

 これこそが彼が原初の地獄を乗り越えるために獲得した能力であり、外見上は七色の鬣の様に見える。

 原初の地獄と同化、或は相殺するためのものであり、七種類の原初の環境を再現した力を持つ。

 溶岩地帯なら氷雪の輝きを、砂漠地帯なら海原の輝きを、氷山地帯なら灼熱の輝きを持って、その環境に打ち勝つ。

 逆に環境が強ければ、自分自身をその環境に同化させ、後にその力を得る事も出来る。

 即ち、フンババと相対すると言う事は、再現された原初の地獄に再び挑む事に他ならない。

 それは神々が整える前、ただ一つの例外を除いて一切の生物の存在を許さぬ地獄。

 地球の最も荒々しい頃の姿こそ、フンババのホームグラウンドに他ならない。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 この後の戦いを、世界最古の英雄譚であるギルガメッシュ叙事詩ではこう語られている。

 

 「まるで、世界が終わり、また生まれ変わったかの様だった。

  フンババはギルガメッシュとエルキドゥの二人を相手にしても、微塵も恐れずに襲い掛かり、二人を幾度も打ちのめした。

  二人は諦めずに挑んだが、フンババの持つ七つの輝きには手も足も出なかった。

  七つの輝きとは即ち、この大地の始まりからある七つの力である。

  それは地震であり、吹雪であり、嵐であり、雷であり、炎であり、津波であり、呪いである。

  二人の英雄はその輝きを破る事が出来ず、もう止めを刺されるだけにまで至った。

  しかし、それをエンリル神を除いた天上の神々の多くは良しとしなかった。

  二人にはまだまだやるべき事があったからだ。

  そして、神々は嵐を巻き起こし、フンババから七つの輝きを奪い去ろうとした。

  しかし、フンババは七つの輝きの内、嵐の力を使って、神々の起こした嵐を打ち消してしまった。

  自分に森の番を任せていた神々の裏切りにフンババは怒り、雷を起こして天上からこちらを見ていた神々を攻撃した。

  これに神々は大いに驚き、恐怖し、次いで神々の持つ最も強い神獣であるグガランナを降ろし、フンババにぶつけた。

  フンババは怒りのままに、ギルガメッシュとエルキドゥを放置して、その身体を獣のものへと変えてグガランナと戦った。

  これに怒ったギルガメッシュは、激しく戦い続ける二体の背後に忍び寄り、チャンスを伺った。

  二匹の戦いは先程の戦いよりも遥かに凄まじく、大地は割れ、川は干上がり、山は砕け、雲は消し飛び、余波だけで神々も魔獣も恐れ、逃げ惑った。

  その果てに、フンババは七つの輝きの内六つを剥がされてしまったが、グガランナの首に食らいつき、そのまま噛み千切ろうとした。

  しかし、それ好機と見たギルガメッシュが剣でフンババの首を斬りつけた。

  これにはフンババも驚き、グガランナに食らいつきながら、最後の呪いの輝きで抵抗したが、そのままギルガメッシュに首を切り落とされた。

  この時、フンババの最後の輝きである呪いによって、ギルガメッシュは決して死の運命から逃げられない事が定められてしまった。

  それを見ていたエルキドゥは死に行くフンババに別れを告げ、後に丁寧に葬ったと言う。

  こうしてギルガメッシュとエルキドゥのフンババ退治は終わり、香柏の森の木々は彼らのものとなった。

  しかし、この件に対して神々含むフンババ討伐に与した者達を最高神たるエンリルは大いに怒り、神々はそれぞれ一時的にその財産を没収された。また、地上では森に封じられていた多くの災いが解き放たれる事となり、ギルガメッシュとエルキドゥはそうした様々な災害を相手に戦い続ける事となる。」

 

 確かにギルガメッシュ王はウルクに多くの良質な材木を得る事が出来たが、今度はそれによる多くの災害(森の消失による狩猟対象の減少や土壌の流失、保水地が無くなったための洪水や地滑り等)の対策に追われる事となり、結果としてウルクに災いを招き、余計な問題を抱える事となってしまった。

 この事から、後世では世界最古の環境破壊と言われ、森林や河川、山地の乱開発等における警句として「フンババの森」が用いられる事となる。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 別に、長生きとかしたかった訳ではない。

 ただ只管に必死だっただけだ。

 原初の地球では自分以外誰も頼れず、厳しすぎる自然だけがあったから。

 それに恐怖し、抗い続けて必死に生きる内に、随分と遠くまで来てしまった。

 最早嘗て人間だった頃の記憶も薄れ、それでも誰も傷つけたくなくて、森で静かに暮らしているつもりだった。

 だが、長く生き過ぎた弊害か、或は人と関係を断ち切っていたせいか、こんな最期になってしまった。

 

 「すまない、フンババ。出来れば、君にも色んなものを見てほしかった。」

 

 友人の悲し気な顔に、こちらこそ申し訳なく思ってしまう。

 自分は結局の所、単なる怪物になっていたのだ。

 人と交わらず、森に潜む事を選んだ時点で、自分は何れ討たれる運命だった。

 それに長く生き過ぎた故の諦観や刹那的な価値観に支配されもしていた。

 最初から勝って生き延びるつもりなら、最初の一撃で七つの輝き全てを使っていた。

 要するに、ボケていたのだ。

 ボケて周囲の迷惑となってしまっていたのなら、倫理観も育ってないこの時代ではこんな結末も仕方ない。

 意識はゆっくりと白くなっていき、既に痛覚も視覚もない。

 そんな中で、最後の未練だけを思う。

 あぁ、願わくば、また嘗ての様に…

 

 “わたしも…ひととして…”

 

 いきて…みたかった…な……。

 

 

 

 

 

 その思考を最後に、フンババの意識は途絶えた。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 英霊の座と言われる場所には時間の概念は無い。

 そこでフンババは眠りに就いていた。

 人に呼ばれる事も、抑止力に使われる事もなく、永劫に時の狭間で揺蕩っていたフンババの意識が唐突に浮上した。

 英霊召喚、しかし英霊と言うには大分外れた存在である自分が呼び出される事に疑問を抱きながら、そのまま流れに身を任せる。

 そして、呼び出された場所は、実に懐かしい空気に満ち溢れていた。

 

 「ここは…メソポタミアですか。」

 

 そこまで言ってハッと気づく。

 自分の喉が獣の形ではなく、人の形だったのだ。

 

 「あー↗…あー↘…うん、どうやら本当に人間っぽいですね。」

 

 さて、召喚時に与えられた知識では…魔術王ソロモン?が聖杯を人類史の分岐点に配置して、人理を焼却して。

 それを覆すためにカルデアなる2016年の人類の組織が時間遡行しながら人理を修復して回っている、と。

 うーん、何というか、

 

 「面倒ですね。あぁ引き籠りたい…。」

 

 昔の様に何も考えずに香柏の森に引きこもりたい。

 だがしかし、これはチャンスでもある。

 

 「今のこの姿なら、もしかしたら人間の中で暮らせる可能性がワンチャン?」

 

 人間の姿なら、ぼっち&引きこもり脱却が出来るかもしれない。

 人跡未踏の森でウジウジしてるよりも、世間の荒波に揉まれつつ、様々な刺激の中で生きる方が刺激があるし、ボケ防止にもなる。

 となれば、先ずは人のいる場所を目指さねば。

 だが…

 

 「えーと…ここは何処かの山の中ですかね?」

 

 明らかに人気の無い場所だった。

 が、割と近くに何か悪趣味な建物があるので、そこを目指す事にした。

 

 

 

 

 この後、泣き叫ぶイシュタルを宥めつつ、何とか道を聞き出してウルクに向かう。

 すると北壁にいた魔獣達が一斉にフンババの方向を見つめるや否や、あっと言う間に潰走して逃げ去った。

 その後、ウルクで賢王ギルと会い、盛大に驚かれる事になる。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 真名 フンババ(フワワ)

 身長 可変/約50m(真獣形態)

 体重 可変/計測不能(真獣形態)

 出典 古代メソポタミア神話

 地域 メソポタミア

 属性 中立中庸

 容姿 ストレートロングの金髪金眼、エルキドゥが成長した様な姿と服装

 性別 なし

 クラス適正 狂・騎

 

 設定

①穏やかな口調、優し気な仕草からは想像できない程に苛烈な戦闘能力を持った地球上最古の知的生命体。

 メソポタミア文明において、神々や英雄王ギルガメッシュと朋友エルキドゥすらも最強の一角と認めた香柏の森の番人。

 地獄であった原初の地球を適応する事で生き延びた唯一の生命であり、単体で完結しながらもそれを厭った獣。

 

②ギルガメッシュ叙事詩に語られる世界最古の獣。

 本来なら伝承通りの獅子頭の巨人か巨大な獅子の姿だが、人類と言う環境に適応するために弱体化する事を承知で敢えて人の形を取った。

 現在の姿は友であったエルキドゥに出来るだけ近づけたもの。

 状況に応じて、宝具でもある「七つの輝き」と言う原初の地球の七種の環境を極少再現した権能同然の力を振るい、外敵を根絶する。

 七つの輝きとは即ち、地震であり、吹雪であり、嵐であり、雷であり、炎であり、津波であり、呪いである。

 特に呪いは魔術的なものだけでなく、嘗ては死の呪いとされた数多の疫病をも含む。

 

③戦闘力は最盛期のギルガメッシュとエルキドゥ二人組を凌駕する。

 叙事詩では、二人と戦い消耗した上で、天上の神々を雷で攻撃し、更に天の雄牛とも連戦して七つの輝きが剥がれた所を、ギルガメッシュが不意打ちする事で漸く仕留める事が出来た。

 フンババと戦うとは即ち原初の地球を克服する事であり、最低でも天地創造や国造りの権能やそれに近い力でなければ太刀打ちできない。

 地上に神々が現れて天地創造を終え、環境が落ち着いた頃、エンリル神に乞われるままに香柏の森の番人となったため、カテゴリー上では神獣とされている。

 

 その精神は長すぎる年月によって擦り切れ、老成し、刺激に飢えており、刹那的な思考や諦観が目立つ。

 だが、性格は基本的に穏やかで誠実であり、のんびり屋である。

 初対面のエンリル神からの頼み事もあっさりと引き受け、森に落ちてきたエルキドゥを保護した事もある。

 なお、普段の暮らしぶりは専ら日向ぼっこしつつお昼寝か縄張り内のお散歩なので、やたら年寄りくさい。

 

④戦闘時は苛烈にも見えるが、それは単に「手早く終わらせる」ためでしかない。

 或は狩りの時間であり、無駄な消耗は極力避け、争いの無い穏やかな時間を好む。

 自分以外の生命達には基本的に寛容かつ受動的で、大抵の無礼は笑って受け流す。

 しかし、番人としての仕事や自身の生命に関わる事となると容赦は消える。

 

 人間に対しては「変化と個体差に富み、見てて決して飽きない者達」として、要観察対象として見ている。

 が、弱いのに無茶ばかりしている(フンババの主観で)ので、ヤンチャで危機感の無い孫を見るお祖母ちゃんの様に割とハラハラしながら見守る。

 

⑤スキル面では、そう多くはないが強力なものが揃っている。

 怪力A++ 天性の肉体(偽)A 環境適応EX

 天性の肉体は努力によって後天的に得たもの。

 環境適応は原初の地獄である地球環境を生き延びる程であり、人類絶滅級の大災害でも問題なく生存可能。

 

 宝具「原始惑星・七大罪」セブン・オブ・ディザスター

 ランク:EX  種別:対界宝具

 地獄の様な原初の地球環境に適応した結果として身に着けた、メソポタミアの神々をも超える権能同然の力。

 本来は防御宝具なのだが、それを真の姿である巨大な獅子の姿で解放し、一斉に鬣から放出することで攻撃する技。

 それは原初の地球環境の再現であり、あらゆる生命の存在を許さぬ地獄である。

 

⑥第七特異点攻略後に開放

 フンババは獣である。

 通常は獣の道理で動くが、人の間にある内は人の道理に合わせて動く。

 そのため、狂化は評価規格外のEXとなっている。

 そこには人の営み、生き様への憧れがあり、それに触れたいと思っている。

 だが、それをうっかり壊しかねないと恐れてもいる。

 マスターとの友好度は高いが、獣と人の道理の間に立っているので、その辺を配慮する必要がある。だがそれ以上に、基本的に燃費が悪いので、通常の魔術師では維持は不可能である。

 好きなものは料理とお昼寝、日向ぼっこ、人間観察。

 嫌いなものは自分勝手かつ人の話を聞かない奴、環境破壊。

 

 

 

 レア度…☆☆☆☆☆

 ステータス…筋力A 耐久A 敏捷B 幸運D 魔力D 宝具EX

 

 スキル

 怪力A++…攻撃力UP(3T)

 天性の肉体(偽)A…自身の弱体化耐性UP(3T)+HP回復

 七つの輝き…自身に無敵状態を付与(3回)+防御力UP(3T)

 

 宝具「原始惑星・七大罪」B

 敵全体にバフ解除後に防御力無視の強力な全体攻撃(OCで攻撃力UP)。

 

 クラススキル

 狂化EX

 環境適応…弱体化耐性が大幅にUP

 

 カード構成

 B2 A2 Q1

 

 イラスト

 第一段階 白い貫頭衣に金の長髪と金眼の中性的な人物(20代後半?)

 第二段階 獣の牙の首飾りが追加

 第三段階 服に七色のラインが追加

 最終イラスト 満月の夜の森で空を見上げる巨大な獅子の姿

 

 セリフ集

 召喚時「初めましてマスター。私はフンババ。嘗て香柏の森を守護していた者です。」

 レベルアップ「もぐもぐ…」

 霊基再臨1「わ、進化とはまた違うんですね。」

 霊基再臨2「あれ?燃費が悪くなってますね。」

 霊基再臨3「あらまぁ、無理しなくてよいんですよ?」

 最終再臨「生前にはまだ遠いですが…まぁマスターが無理をしないで済む程度には働いてみせましょう。」

 スタート1「狩りの時間ですね。」

 スタート2「早めに終わらせましょう。」

 スキル1「ちょっと本気を…。」

 スキル2「手加減はいりませんね?」

 コマンド1「お任せを。」

 コマンド2「はい。」

 コマンド3「急ぎましょう。」

 宝具カード「終わらせます。」

 アタック1「……。」 

 アタック2「シッ!」

 アタック3「いただきます。」

 エクストラアタック「ガアアアッ!」

 宝具「これぞ原初の星の姿。私が育った地獄…『原始惑星・七大罪』!」

 ダメージ1「…?」

 ダメージ2「あいた」

 戦闘不能1「魔力切れですか…。」

 戦闘不能2「ふふ、懐かしい感覚…。」

 勝利1「あぁ終わった…。」

 勝利2「ご馳走様でした。」

 

 会話1「くぅ…くぅ…。」

 会話2「私は基本的に貴方に口出しはしません。短い人生、自分の思うままに生きてみて下さい。」

 会話3「少し待っててくださいね。今料理が出来上がるので。」

 会話4「あら?あの子達がいるのですか。」ギルガメッシュ・エルキドゥ所属時

 会話5「あら?これは…あんまりな様子だったら、お灸を据える必要がありますね。」イシュタル所属時

 

 好きな事「そうですね…料理にお昼寝、日向ぼっこに…人間観察でしょうか。彼らの営み、生き様は煌めく星々の様で好ましいです。」

 嫌いな事「あー…自分勝手で人の話を聞かない人に、環境破壊ですね。もう少し後先考えて行動してほしいものです。」

 聖杯「願望器ですか…あんまり変な事に使っちゃダメですし、環境再生でもお願いしましょうか。」

 

 絆lv1「余り無理しちゃダメですよ?」

 lv2「戦闘は得意と言う訳では…。」

 lv3「私は獣ですし、余り人としての欲は無くて。だから、何をすれば良いのか…。」

 lv4「人と獣、その間に立つ私は結局どちらなのか…。」

 lv5「よし!うじうじ考えても仕方ないので、取り敢えず貴方と一緒にいる内は人と共に生きてみましょう!そして貴方が寿命を迎えてから判断しましょう!」

 

 イベント中「あら?何か聞こえますね。」

 

 誕生日「あら?マスターの祝い事でしたか。では直ぐに準備しますね。」

 

 

 評価

 性能としては☆5バーサーカーの中では最大のHPを持ち、スキルも相まって初期から場に居続けられる。

 運用方法はクー・フーリン・オルタに近いが、こちらはバフ解除付きの全体宝具なので、弱体化耐性が高い事もあり、厄介なスキル持ちに強い。

 全体火力としては理論上最大火力を発揮できるが、バーサーカーなのでスター発生もNPチャージも低く、介護の必要性が高い。

 耐久力を生かしつつ、如何に宝具を撃つ準備を整えるかが肝になる。

 

 




書いてて思った。
シンゴルゴーンと殴り合わせてぇ…!
第七章の難易度がまた上がるな!

そして先日、何故かピックアップでアサシン+その他で回したらゴルゴーンがいらっしゃった(震え声
書くと出るは真実だったのか(驚愕


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艦これ短編 深海工廠艦が逝く

オリ主、オリ設定、深海側主人公につき注意


 このご時世には珍しく、海で溺死なんてしたのがいけなかったんだと思う。

 

 仕事は辛く、友人はおらず、相談相手もいない。

 家族はそれぞれの仕事で滅多に顔を合わせず、家には常に誰もいない。

 何とか寂しさとストレスを紛らわそうとゲームや漫画にのめり込もうとしていたが…結局、一部を除いて長続きしなかった。

 そんな生活をするようになってから暫くして、海や山、川と言った場所に出掛けるようになった。

 多少のストレス発散にはなったのだが…次第に目的が変わっていった。

 ここでは目立つ、ここでは見つかる、ここでは駄目だ。

 ストレスが溜まり続けるに連れて、次第に死に場所を求める様になっていた。

 やがて、数年来の職場を止めて、船に乗った。

 ただ遠くに行ってみたかったのだが…先日の台風で波が荒れていた事もあって、不意に海に落ちた。

 少し酒が入っていた事もあって、そのまま沈んでいった。

 特に苦痛も感じる事もなく、ただ暗闇の中にゆっくりと沈んで…眠る様に逝けたと思う。

 

 

 だが、唐突に意識が戻った。

 

 

 海底から見る海面は綺麗で、時折嵐や曇り空で濁るものの、その輝きはとても眩かった。

 やがて、周りにも海面を見上げる者達がいる事に気付いた。

 自分を含め、誰も彼もが黒く靄がかった姿だが、確かに大勢がいた。

 そうした人々?はどんどん増えていき、やがて海底を埋め尽くしていく。

 完全に海底の泥が見えなくなった頃、不意に誰かが言った。

 

 ウラヤマシイ

 キレイダナ

 ネタマシイ

 

 それに次々と賛同の声が上がる。

 斯く言う自分もそうだった。

 

 ナンデワタシタチハココニイルンダロウ?

 アッチニイキタイ

 ワタシタチモアカルイバショデイキタイ

 

 それが切っ掛けだった。

 人影達で飽和状態だった海底から、次々と人影達は海面を目指して立ち上がり、上へ上へと泳ぎ、昇っていく。

 次々と、次々と、こんなにいたのかと思う程、膨大な数の人影が昇っていく。

 生者への羨望と嫉妬を胸に、彼女達は海面に見える命の輝きへと引き寄せられていった。

 

 此処に来て、漸く思い出し、気づいた。

 深海に棲きる、生者に羨望と嫉妬、憎悪を持つ艦達。

 そう、彼女達は深海棲艦。

 人類の天敵にして、新しき海の覇者達であり、自分はその誕生と遭遇したのだと。

 此処は嘗て自分がファンだったゲームの世界なのだと。

 

 

 他の人影達が次々と海面を目指す中、自分を始めとした一部の者は海底に残り続けていた。

 海面の嘗ていたであろう世界に興味がない訳ではない。

 ただ、他の連中の様な熱狂を自分は持っていなかったからだろう。

 冷めている、と言っても良い。

 なので、残った他の人影達と時折話すだけで、そのまま海底から海面を見つめるだけの日々だった。

 

 だがしかし、暇は暇なので、有意義な使い方をする事にした。

 幸いと言うべきか、資源は船の残骸等が種類も大きさも新旧も様々で大量にあるので、色々作るには困らない。

 具体的には必要無いのに家屋っぽいものとか、家具を並べて自宅気分に浸ったりとかだ。

 そうこうする内に、周囲にいた暇してた同類達と一緒に遊ぶようになり…必然的に、遊びの規模も大きくなっていった。

 

 結果、始まってから約一年程で海底なのに乾ドッグ的なものが出来上がっていた。

 

 うん、オタクの様な凝り性かつやり込み大好きな者達に、自由にやらかせる状況を与えるべきではないね。

 ただまぁ、そのお蔭で海底なのに人間同様に快適な生活をおくれるようになった。

 乾ドックと言っても、艦娘?(いるらしいが見た事はない)における入梁施設の様なものなのだが、艦娘らのそれとは違い、こちらは温水プール風になっている。

 また、同類達と共に施設は拡張を続け、海底に出戻りしてきた者達を招いての宿泊施設の様な扱いになってきた。

 食堂に運動公園、図書館(電子書籍のみ)や訓練施設、更には宿泊用の個室かカップル向けの部屋、低価格の雑魚寝部屋等、様々な施設が要望と必要に応じて多数増築されている。

 まぁタダではなく、利用者には相応の資源と引き換えなのだが。

 

 で、皆で快適に過ごしていると、一部の戦争狂の連中が横槍を入れてきた。

 

 曰く、深海棲艦として海上の奴らの撃滅に協力せよ、との事だった。

 私達はシャーネーナーと思いつつ、ドッグを利用してある深海棲艦を開発、その連中の下へと送ってやった。

 具体的には浮きドッグ、戦地における補給と修理、整備を可能とする深海棲艦であり、その名も海上船渠鬼と言う。

 外見は多数の駆逐イ級が二列分連結した様な艤装に、雷巡チ級(但し完全人型)が乗っている。

 外見から分かる通りに既存艦の継ぎ接ぎであり、そのお蔭で鬼級でありながら割と生産性も高く、コストも低い。

 ドッグ機能を使用する場合、二列の間に折り畳まれていた軟質のビニールプール染みた簡易入梁施設が多数広がり、そこで修理を受けられる。

 外見は生体パーツ多めなのでグロいが、艦娘と同様の高速修復剤等も装備しており、回数制限はあれど、即座に修理完了する事も出来る。

 無論、多数の資材を搭載しているので、補給拠点としても機能する。

 また、イ級部分には自衛用に駆逐艦級の火器を装備しており、最低限の自衛も出来る。

 自身の戦闘力こそ鬼級の中では最低と言って良いが、コイツが戦線にいるだけで自軍の戦線復帰までの時間が大幅に短縮できる。

 下級の艦は殆ど使い捨てにしている深海棲艦だが、上位の艦は一度沈むと復活するまでどうしても時間がかかるので、こうした戦闘ではない支援面に特化した艦は今までいなかった。

 この深海のドッグにいる自分を始めとした技術者にとって、中々の出来だったと思う。

 が、当然ながら打たれ弱いので、是非とも頑張って足手纏いを守ってほしい(ゲス顔

 

 そして、この深海船渠鬼の存在は、人間達にとって多大な脅威となった。

 

 唯でさえ艦娘よりも物量に勝る深海棲艦、その最大の武器の一つである物量を補助する鬼級など、人間達にとっては悪夢でしかない。

 無論のこと、見つけ次第優先して殲滅する対象となったのだが、逆にそれを囮として包囲殲滅されたりと、酷い被害を受ける事も多々あった。

 かと言って、無視すれば物量で磨り潰される事になるので、人類側は頭を抱えつつも対処する羽目になった。

 

 そして、頭を抱えるのは自分達もだった。

 余りにも便利だったので、戦争狂連中が船渠鬼の量産を指示してきたのだ。

 無論、資源は捥ぎ取ったのだが、鬼級らしからぬ比較的簡易な構造の艤装もあって割と生産ラインの確立は上手くいったのだが…作れば作る程、もっと作れと言われるのだ(なお、一度完成したラインの運用・維持はグロ可愛い妖精さんがやってくれる)。

 人間と艦娘が優先対象としているだけあって、こちら側にも相応の被害が各所で出ており、作った傍から撃破されているのだ。

 で、各戦線で充足率がさっぱり上がらないのだ。

 結果が、自分達のブラック業務である。

 資源があり、生産ラインがあり、施設が十分にあっても、人手が圧倒的に足りないのだ。

 宿泊施設業務は半ば以上セルフサービス化しているので何とか回っているが(清掃・料理・設備運用等の労働も施設利用費代わりにした)、それでも人手が足りないのだ。

 三日徹夜がザラになり、何とか注文分を作り終えて一斉に倒れる様に眠ろうとした瞬間に追加注文が来るようになった時、自分達はキレた。

 

 「…ドウスル?」

 「逃げる。」

 「ドウヤッテ?」

 「前に緊急時向けに作った機能があっただろう?」

 

 一応プランだけだったのだが、この施設の緊急事態向けの機能を使えば、この施設ごと逃げられる。

 

 「タシカニソレナラバイケルデショウケド…。」

 「もう義理は十分に果たした。アイツらだけでも自前の方法で量産できるだろう。」

 「…ソウネ。ソウシマショウ。」

 

 とは言え、今まで試運転しかしていなかった機能をいきなり使うのは不安が過ぎるので、入念な点検を行ってから使用する事となった。

 なお、逃亡に合わせて「リニューアルに付きご利用できません。」の告知で、お客様には退避してもらう予定だ。

 そして一ヵ月後、何とか注文を裁きながらも時間を作って計画を進めた自分達は、遂に逃亡を決行した。

 

 「ゼンキカン、セイジョウニカドウチュウ。」

 「カクブ、モンダイナシ。」

 「では…全艦、離床開始!」

 

 太平洋、フィリピン海溝の底から、遂に全長1kmにも及ぶ巨大な艦が離床、航行を開始した。

 

 「ソウイエバ、ナマエハドウシマショウ?」

 「ア。」

 「ッテイウカ、リーダーノナマエモナイワヨネ?」

 

 そう言えばそうだった。

 自分についてきている彼女達は潜水級三種をメインに、軽巡・重巡・輸送なんかで構成されているメンバー達だが、自分は既存の深海棲艦には無い外見をしているらしく、分類できないし、名前も無かった。

 一応、この船も自分の艤装と言う扱い(一応艦の操作だけなら自分だけでも出来るが、内部の施設維持とかには人手がいる)だが、名前が無いのは恰好が付かない。

 

 「じゃぁ…深海工廠鬼とかどうかな?」

 「イインジャナイカシラ?」

 「サンセイ!」

 「デハ工廠鬼艦長、ゴウレイヲドウゾ。」

 

 「よし!深海工廠鬼艦隊、目標地点に向け全速前進!」

 「「「アイサー!」」」

 

 この時、自分は知らなかったのだ。

 憩いの場と折角の工廠を無くした深海棲艦達が追ってくる事を。

 剰え、人間達にすら自分達の存在を知られてしまい、戦略上超重要な攻略目標とされてしまう事を。

 自分が男のままで、周囲の部下達から虎視眈々と貞操を狙われている事を。

 自分は、まだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 以下、解説

 

 ・海上船渠鬼

 戦争大好き、生者大っ嫌いな深海棲艦達の注文により、深海工廠鬼とその部下達が生み出した、海上ドック艦としての機能を持った深海棲艦の一種。

 外見は完全な人型になった雷巡チ級が、5隻から10隻程度の駆逐イ級を二列曳航している様に見える。

 戦闘能力こそ、最低限の自衛用(10cm連装高角砲相当)を駆逐艦部分に一つずつ装備しているだけで、装甲も駆逐艦並に低いが、その真価は浮きドックとしての機能にある。

 背面にある大型の艤装、つまり二列の駆逐イ級を左右に展開すると、その間に生体軟質素材で出来たビニールプールの様なものが多数広がっている。

 ここを艦娘が使用しているものに酷似した液状の修復剤で満たし、そこに破損した深海棲艦を入梁させる事で修復する。

 また、大型艦としての容量を生かし、多量の資材を格納しており、修復だけでなく補給も可能。

 この艦の登場により、元より物量に優れていた深海棲艦における上位艦種の生存性が飛躍的に向上した事(特に鬼・姫級が攻略作戦中に修復される事)から、現在では鬼・姫級とはまた別枠に、最も厄介な存在として認識されている。

 破損した傍から次々と修復し、確認された中では最大で10隻も入梁させる事が可能な個体も存在していた事から、現在人類の海上戦力からは最優先で撃破すべき対象となっている。

 

 現在、各戦線における深海棲艦の指揮官である鬼・姫級は最低でも一隻はこの艦を指揮下に置いている。

 

 

 

 ・深海工廠鬼

 深海棲艦きっての変わり者にして、唯一の技術者。

 基本的に海底で、白い鯨にも似た巨大な艤装の中で過ごしており、未だ人類とは遭遇していない。

 その技術力は本物であり、工廠として高い生産・開発能力も有している上に、白鯨型艤装を海上に浮かべてメガフロートの様な海上拠点としても使用できる。

 艤装内部には高級とは言えずとも、レジャー施設程度の宿泊施設と工廠機能を有しており、嘗ては多くの深海棲艦達から唯一の癒しの場所として愛されていた。

 しかし、人類との戦争が激化すると、戦争に熱中した他の深海棲艦の指揮官らから協力を命じられ、仕方なく内部の工廠機能を用いて、海上船渠鬼を作り出した。

 急造ながら中々の自信作となった船渠鬼だが、それ故にひっきりなしに注文が相次ぎ、遂にはブラック業務にキレて新天地を求めて逃げ出した。

 現在、深海棲艦からは多額の報奨金と共に情報・身柄共に捜索対象となっている。

 また、船渠鬼を開発・量産した様に、新たな艦種を一から開発する事も出来、その存在が知れた場合、人類からも船渠鬼を遥かに超える戦略上の超重要目標として狙われる可能性が高い。

 戦闘能力として、巨大な白鯨艤装に魚雷発射管並び生産・格納した多数の一般的な深海棲艦達を内蔵しており、それらを艦載機ばりに射出して戦わせる。

 だが、自身を改装する事で、更なる戦力UPも可能なので、今後はどんどん武装が増えていくと思われる。

 そして船渠鬼以上の修理・補給能力を持っているので、資源と内部の人員さえあれば、他の姫・鬼級とは別の形で一つの戦線を支える事も出来る。

 なお、人型の外見は中学生程度の黒髪・黒目・黒短パンに白長袖シャツの男の娘。

 深海棲艦唯一の男性個体として、艦内の部下達からは日々性的な視線を向けられている。

 

 

 

 

 続きません。




最近、日間その他ランキングでちょくちょく乗る。
何故こんなニッチな短編集が受けるんだろう?


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艦これ短編 深海工廠艦が逝く2

なんか好評なので続けてみました。
皆さん、毎度感想ありがとうございます。


 戦場には多くの噂がある。

 謂わば都市伝説の類なのだが、ジンクス等と同じく、最前線の兵士達は割とこういった事を信じる者が多い。

 曰く、たった一機の攻撃機に戦車大隊が壊滅した。

 曰く、ムーミン谷には白い死神がいる。

 曰く、日本兵士は片腕だけになっても狂った様に戦い続ける。

 と言う様な、一見信じられないものも多いが、こういった形で広まる話は割と結構な割合で警句でもあり、それ故に馬鹿にならない。

 これは深海棲艦と言う人類の天敵を相手とした戦争において、艦娘と言う特殊過ぎる半ば以上オカルトな兵器が主流となりつつある頃に流れた噂だった。

 

 曰く、ポリネシア諸島の何処かにある無人島で、深海棲艦が平和に暮らしている。

 曰く、そこでは野良や脱走した艦娘達も大勢暮らしている。

 曰く、そこでの暮らしはまるでこの世の極楽の様だ。

 

 信憑性は一切ない。

 しかし、最前線にいる事に倦み疲れた艦娘の間で、この噂は実しやかに囁かれ続けていた。

 

 

 だが、その噂の出所となった場所では責任者が「どうしてこうなった」と頭を抱えていたのだが。

 

 

 ……………

 

 

 深海工廠鬼率いる工廠艦隊(仮称)は、現在ポリネシア諸島某所に存在する大きさ約3㎢程度の無人島に滞在していた。

 

 「此処をキャンプ地とする!」

 「「「(ノ・ω・)ノ オオオォォォー!」」」

 

 公共の電波を違法受信した事で急速なネット文化の汚染を受けている工廠艦隊だが、やる事は極めて真面目だ。

 即ち、この無人島を自分達に住みよい物へとする事だ。

 とは言え、小さな無人島である。

 取れる資源は限られ、北側の岩場に軍港を建設する事を計画しつつも、何とかサバイバルをする必要があった。

 資材だけで生きられる深海棲艦と言えど、それ以外の食べ物を美味しく食べたいと言う欲求は当然ながら存在する。

 しかし、そのための食材等はやってきたお客様からのもので殆どを賄っていたため、貯蓄はあれども作物や家畜の生産プラント等は用意していなかった。

 暫くは通常資源(鋼鉄や燃料、ボーキ等)で腹を満たしつつ、何とかやり繰りする事が決定した。

 とは言え、最低限の家屋等は深海工廠鬼の白鯨型艤装から持ち出した組み立てキットで即日で出来たので、割と順調な滑り出しと言えた。

 

 到着して二日目、最初に取り掛かったのはこの島周辺の詳細な測量と資源調査だった。

 周辺には此処よりも大きな無人島は無く、或るのは岩礁より多少はマシ程度の浅瀬だった。

 何よりも収穫だったのは、海底資源が割と豊富であると言う事だった。

 海底熱水鉱床と言って、高温のマグマが海水で冷却され、その中の鉱物資源が海底に堆積する形で出来る鉱床の事だ。

 これが割と近場に幾つもあり、金属資源に関しては困る事は無いと判明した。

 海底を主として活動する工廠艦隊にとって、急なマグマの活動さえ注意すれば、この場所は宝の山だった。

 だが、このままでは石油や弾薬に関してはこの辺では得られない事が分かった。

 まぁゲームがおかしいのであって、そう簡単に無人島とかに原油やボーキサイトが湧いて出る訳が無いのだが。

 とは言え、弾薬に関しては施設さえあれば、鉄と水素に窒素を用いたハーバーボッシュ法でアンモニアを合成してから火薬を生成できるし、何なら肥料を作る事も出来る。

 そして石油だが…こちらは近場のオセアニア方面に海底油田が分布しているので、そちらに潜水艦で構成された分艦隊を派遣、資源調査する事になった。

 海底油田であっても、海底で作業する深海棲艦なら割とどうとでもなるだろう、と言う楽観混じりの考えだったが…海底油田の詳細な分布が判明後、輸送ワ級を海底資源採取用にした資源作業ワ級改及び海底に設置した石油汲み上げ装置を合わせて、安定した供給を実現してみせる事となる。

 

 さて、島の大改造だが、こちらは深海棲艦の膂力と工廠艦隊特有の技術力を用いて、割とあっさりと進んでいる。

 岩や岩盤は素手で容易に砕け、どうしても駄目なら砲撃で除去し、工事はどんどん進んでいった。

 半年もする頃には凡その形が出来たものの、どうしてもコンクリートの消費に生産が追い付かず、島の要塞化とまでは出来ずとも、港湾設備は形にする事が出来た。

 

 そこで問題が起きた。

 否、判明したと言うべきか。

 

 人手が足りないのだ。

 確かに嘗て白鯨型艤装内でやった様な、南国バカンス向けの宿泊施設やレジャー施設の建設及び弾薬の作成、海底から採取した各種資源の精製等が出来る工業設備も揃えた。

 だが、それを維持・運用するだけの人手で精いっぱいであり、全員が求めていた快適な生活には程遠いブラック環境だった。

 どれだけローテーションを見直しても、人手不足だけはどうにもならず、艤装内の深海妖精達(黒くて二頭身の駆逐級3種の頭を持った掌サイズのSD人型)を他の深海棲艦の残骸から回収して増やしてはいるものの、どうしても人手が足りない。

 しかも、そうなるともしもの時の防衛時に物量で磨り潰される可能性も高くなってくる。

 例え百発百中の砲が一門あっても、百発一中の砲が百門あれば負けるのだ。

 既に作成済みの武器はどれも前世で言う所のレア以上であり、強力なものなのだが…如何せん疲労が溜まっている上に、艦種が自分を除けば軽巡・重巡・雷巡・潜水艦・駆逐艦・輸送艦・ついでに船渠鬼のみなので、ある程度島に設置された砲台からの支援を受けられる近海を除けば、正面戦力に不安があった。

 もしこちらの対処能力を超える人類勢力及び深海棲艦側の主戦派の大艦隊が来襲してきた場合、この島を放棄するしか選択肢が無かった。

 

 そんな難題に頭を抱えていた時だった。

 この島の近海に生きた艦娘が漂流してきたのは。

 

 その艦娘を近海を哨戒していた軽巡率いる駆逐艦隊が曳航してきたのは、未だ昼前の事だった。

 通信で知らされて30分も前から軍港に待機していた工廠鬼並び護衛の重巡部隊は、実際には初めて見る艦娘に興味と共に警戒を抱いていたのだが…一目見て即座に入梁させる事を決意した。

 その艦娘は当然と言うべきか、沈没寸前であり、虫の息だった。

 直ぐに鉄くず同然の艤装を外し、念のために手錠足枷等を嵌めた上で高速修復剤入りの修理施設へと叩き込んだが、修理には高速修復剤を使っているのに、数時間はかかりそうだった。

 さて、この艦娘だが、その素性は直ぐに分かった。

 と言うか、襤褸切れ状態だが元は黒い制服に赤いネクタイと白いスカーフ、セミロングの黒髪は後ろで三つ編みにされ、何処かボーイッシュさを感じる小中学生程度の少女の外見をした艦娘、と言う辺りで凡そ当たりが付いた。

 そう、白露型駆逐艦2番艦、その容姿と一人称からよくガンキャノンや男の娘と言われ、何故かヤンデレ枠にされてる時雨である。

 

 三日、それが彼女が目覚めるのにかかった時間だ。

 高速修復剤を使用して、損傷こそ治ってなお、彼女の体はとても衰弱し、疲弊していたからこそかかった時間だった。

 そして当然と言うべきか、深海棲艦に囲まれ、拘束された状態なのに、目覚めて直ぐに彼女は激しく暴れ出した。

 なので、慰めるのもやり方分からんし、燃料もほぼ0、艤装も無しなので、大人しくなるまで放っておく事にした。

 無論、舌を噛み千切られては証言が取りづらくなるので、最初から猿轡を嵌めていたからこそなのだが。

 で、結局一時間もしない内に静かになったので、重巡二名に様子を見にいってもらった所、すっかり落ち着いていた。

 そして、空腹と言う事なので、こちらの食糧を与えつつ、話を聞いた所…酷かった。

 

 時雨は、元は日本の鎮守府に所属し、仲間達と共に深海棲艦と戦っていた。

 大日本帝国海軍ではなく、自衛隊から日本国防衛隊と名を変えても、彼女の戦意に些かの陰りもなかった。

 問題が起こったのは、政府野党と過激な人権団体が「艦娘脅威論」を唱え出した時からだった。

 それまでの艦娘への扱いは法律上、日本国民と同じ扱いだった。

 見目麗しい乙女が、国を守るために命がけで戦い、しかも給料の一部はしっかり税金として納めているのだ。

 これ以上の資格があるだろうか?

 しかし、深海棲艦という酷似した性質を持った化け物にシーレーンをズタズタにされ、国土の一部を蹂躙され、大勢の国民を殺された人々は違った。

 違ったが、それは極一部の過激な人々の話であり、東アジア地域を中心とした人類の生存圏を守っている艦娘を排斥する訳にはいかない。

 しかし、提督と言う特殊な人々の一部はそう考えなかった。

 この時代の提督、と言うのは単に海軍の将校と言う意味ではない。

 妖精さんと言われる、深海棲艦に対応可能な武器及び艦娘を生み出す事が出来る唯一の存在がいる。

 的が小さい癖に第二次大戦中の水上艦艇並の装甲を持つ深海棲艦に対し、核兵器含む大抵の精密誘導兵器が余り有効とは言えない現状、その価値は測り知れなかった。

 そして、提督とはそんな妖精さんの姿が見え、触れる事が出来、ひいては艦娘と常人よりも遥かに友好に接触できる人種を指していた。

 その適性は誰にあるか一切不明なので、日本では国中を艦娘と妖精さん達と共に虱潰しに探し、見つけ次第片っ端から提督として強制徴用されていた。

 そう、強制なのだ。

 何せ適正を持つ者は少なく、極めて貴重なのだ。

 しかし、そんな事情は将来に自分なりの目標や夢を持ち、それに精一杯努力してきた者達には意味がない。

 提督適性があるからと言って、高校生以上かつ任務遂行困難な傷病を持たぬ限り、全ての人間が徴用された。

 これに対し、提督らの矛先は艦娘へと向かった。

 だが、それで暴力沙汰になる事は殆どなかった(艦娘を人力で殴っても怪我するだけなので)。

 だが、時雨の提督は違った。

 詳しい話は知らないが、後少しだった子供の頃からの夢を提督と言う仕事によって潰され、その怒りのはけ口を艦娘達に求めたのだ。

 直接的な暴力ではなく、それとなく理屈をつけて艦娘達に無理を重ねさせ、撃沈させていったのだ。

 軽い時は編成やローテーションの唐突な変更、酷い時には大破進撃や無休憩・無補給出撃等、本当になりふり構わず艦娘を殺そうとしていたと言う。

 無論、その事を大本営や憲兵に告げた所で、一見「多少人員の入れ替わりの多い鎮守府」としか見られないのだ。

 戦果はしっかり出しているし、証拠らしい証拠もなく、何より大本営からの指示に提督が従順だった事が災いした。

 そして、艦娘と言う資源と設備さえあれば量産可能な戦力を使い潰すのは、一部では寧ろ人間の兵士を使い潰すよりも人道的だと言われてすらいる。

 この様に軍内部でも様々な意見がある事から、艦娘は余計な混乱を避けるために原則的に鎮守府で缶詰であり、外との交流が極端に少ない閉鎖空間住まいだった。

 これが所謂ブラック鎮守府が表に出る事が無い原因だった。

 しかし、提督と言う貴重な人材を運用するためにも、使い捨ての効く艦娘の待遇は無視される傾向があったのも事実だった。

 こうして時雨の提督はそれなりの戦果を挙げつつ、多くの艦娘を自身の怒りのはけ口として沈めていった。

 本当に、嫌になる程陰湿で狡猾な提督だった。

 そう、過去形だ。

 その提督はもういない。

 相棒にして姉妹だった夕立が自分を庇い、深海棲艦に沈められた直後の帰投で、時雨は旗艦としての報告を行うその足で提督を殺害、何とか物資を補給(=強盗)して逃げ出したのだと言う。

 この時雨は、提督(=上官)殺しだった。

 無論、捕まれば死地に送られるか、解体は免れない。

 だからこそ、彼女は海の果てまで逃げ続け、遂には人界の果てまで来たのだ。

 

 お前雪風並の幸運はどうした、と言うドン引きな話だった。

 これに対し、工廠鬼らは特に罪を問うつもりはなかった。

 っていうか、深海棲艦が出現しなければ起きなかった話だし、此処で問題起こさなければどうでも良い話だった。

 問題は、人類側がこれでは自分達の様な戦争反対派(暫定)が白旗振っても撃沈される可能性が高いと言う事だ。

 まぁ、自分達は彼らから見れば侵略&虐殺した側なので仕方ないのだが…。

 

 さて、そこで時雨の扱いだが、取り敢えず暫くはこの島にいてもらう事にした。

 人手が足りないし、食い扶持と消費した資材分は働いてもらいたかったと言うのもある。

 そして、ある程度こちらに馴染んだら、彼女の様な脛に傷を持っている者や野良の艦娘を集める勧誘員として働いてもらいたかった。

 行き場のない者達なら裏切りの心配も少ないし、この島から米国よりの海域はハワイを中心に深海棲艦が日本近海以上に大量に湧いており、此処が行き止まりと言って良い。

 そんな人界のどん詰まりと言う場所だが、近隣の島々にはこれといった深海棲艦もおらず、この島の開発が終了次第、近隣の島々の開発に着手する予定なので、上手く行けば大規模な泊地とする事も可能だ。

 しかし、それにはやはりマンパワーが足りない。

 数こそ力の深海棲艦だが、生憎とぽこじゃか量産できるのは駆逐艦に限る。

 駆逐艦については資源と設備さえあれば、それこそ日産100を超えるのだが、生憎と深海棲艦の駆逐艦は知能が低く、手も無いのでとことん作業に向かないのだ。

 どちらかと言うと、無人兵器に近い。

 翻って、次に低コストの軽巡だが、こちらは日産10程度で、10倍近い差がある。

 日々食い扶持と資源を消費し、娯楽として食料を消費する日々。

 しかも、建造したばかりの艦は経験が足らず、即座に複雑な作業が出来る訳ではない。

 その辺りは初期の工廠艦隊の様に、年単位で機械弄りするとはいかずとも、時間をかけて教えていく必要がある。

 なので、艦娘と言うある程度経験を持った人員増加の機会は見過ごせなかった。

 経験の少ない野良であっても、艦時代の経験は生かせるので、一体辺りの質は深海棲艦よりも上なため、野良でも脱走兵でも、揉め事を起こさずに仕事をしてくれるなら大歓迎だった。 

 

 「デハ、シグレハオキャクサマトイウコトデ。」

 「あぁ、お願いするよ。」

 

 そういう事になった。

 

 

 ……………

 

 

 さて、そんなこんなで時雨を客人として迎え入れたのだが…一週間とせずに馴染んだ。

 元々人懐っこい性格なのだろうが、最早無くすものなど無いという意識が彼女に積極性を持たせていた。

 また、日本人?として「働かざる者食うべからず」が身に染みているのか、その働きぶり(主に炊事・洗濯・清掃等の雑用)は実に真面目で細やかだった。

 一週間目を節目に、労わりとして皆で砂浜エリアでバーベキュー(魚介類と海藻、栽培に成功した少量の野菜のみ)した後、入梁施設と兼用の入浴施設で遊び倒した。

 そこで全員が艤装を外して水着姿になったのだが…海パンのみの工廠鬼に初めて男だと気づいた時雨が大騒ぎする一幕があったが…まぁ些細な事だろう。

 この様に十分に仲良くなったみたいなので、もう良いかな?と一ヵ月目にして、こちらの狙いを説明した。

 

 「成程ね…良いよ、その任務受ける。」

 「随分あっさりだね?」

 「命の恩人の頼みだし…似た様な思いをしている娘も多いだろうし、ね…。」

 

 故郷の行く末は心配なのだろうが、時雨には最早古巣への愛着など感じられなかった。

 やはり、夕立が味方の筈の提督の采配で沈められたのが響いているのだろう。

 

 「じゃぁお願い。ある程度噂を広める事が出来たら、成果が無くても帰ってきて良いからね。」

 「うん、分かってる。また皆でバーベキューしようね。」

 「そうだね。その時はお肉やお酒も皆で楽しもう。」

 

 そう言って、工廠艦隊一同は指揮官殺しの時雨を見送った。

 

 

 そして、一ヵ月と経たず、徐々にブラック鎮守府から離脱したという艦娘達が島の近海までやってくるようになった。

 彼女達は皆疲弊し、ボロボロの状態だったが、提督殺しの時雨から直接、或は噂で間接的にこの島の話を聞く事で、この島を一縷の希望と共に目指してきた者達だった。

 それを工廠艦隊は快く迎え入れ、回復次第労働を対価として島に受け入れた。

 この頃、深海工廠鬼は時雨の流したであろう噂を聞く事となった。

 

 (極楽て…そんな大層なものじゃないんだけどなぁ。)

 

 しかし、時雨と同じ様に行き場を無くした艦娘達にとって、深海棲艦だが人類の敵ではなく、自分達を快く受け入れてくれるこの島は確かに現世での極楽だった。

 しかし、所詮は小島、深海棲艦と艦娘の人数が200を超える頃には随分手狭に感じるようになった。

 

 「しゃーない。周辺諸島も開発しよう。」

 

 幸いと言うべきか、駆逐艦から重巡を中心に既に200を超える人員がいるため、人手不足は解消されていた。

 この人員を生かし、周辺の10余りの小さな諸島の制圧を開始した。

 とは言え、いるのは駆逐艦から軽巡だけの小艦隊程度で、後は時折前線である日本近海を目指して移動する有力な艦隊が通りがかるだけで、制圧自体は艦娘らのおかげもあってあっさり済んだ。

 そして、今まで艦娘らにも秘匿していた工廠鬼の白鯨型大型艤装(約500m)を海面にあげ、各種工具や資材等の運搬を即日開始、日没の頃には全ての搬出を終えて、また海底に戻っていった。

 

 翌日から始まったのは、岩礁よりも多少マシ程度の小島の開発だった。

 本島を守るための支城とするため、各島はコンクリートで補強され、前線拠点としての機能を付与されていく。

 武装としては漂着した艦娘の艤装を利用した各種砲台があり、大和級とはいかないが、比較的数のある金剛級、扶桑級の主砲と多数の10cm連装高角砲を改良して深海棲艦側の妖精達で運用可能としたものを設置した。

 更に回収した軽空母の飛行甲板を利用し、艦娘や深海棲艦によらず、妖精達だけで航空機を運用可能とした。

 外見は可動式の台座の上に艤装の一部だった飛行甲板が据え付けられ、その上に小さいながらも巻き糸式のボーガンを設置したもので、艦娘の艦載機だけでなく、深海棲艦の艦載機もパチンコの要領で発艦させる事が出来、普段は哨戒任務のみだが、敵が来れば各島の制空権防衛の任に就く。

 他にも地下には弾薬や燃料を始めとした各種物資の貯蔵庫を設け、他の島々との連携が途絶えてもある程度持ち堪えられるようになっている。

 これに本島との間に地下通路を掘削する予定もあったが、地下の熱水やトンネル内への海水流入の可能性が高いため、却下されてしまった。

 

 

 ともあれ、何とか人員を確保した工廠艦隊は順調にその規模を拡大させていった。

 

 しかし、今度は拡大したが故に通信量の増大と制海・制空権確保の成功から、深海棲艦の注目を集める事となってしまった。

 

 

 

 



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艦これ短編 深海工廠鬼が逝く3

 さて、通信量の増大と指揮下の深海棲艦が沈んだ事で、北米よりの太平洋海域を最大拠点とする深海棲艦の主戦派が戦艦・正規空母を多数含む100隻近い有力な艦隊を派遣した。

 とは言え、これは所詮小手調べであり、威力偵察に過ぎない。

 例え全滅させた所で、次は本国艦隊が動くだけなのだ。

 しかし…

 

 「ゼンカンガショウソクフメイダト…?」

 「ハイ…。」

 

 全滅したなら分かる。

 しかし、消息不明となると意味が分からない。

 一応、直前の通信では何の異変も無かったから尚更に。

 

 「イミガワカラン。」

 「カイイキゼンタイガツウシンショウガイデ、サクテキキモミキカンデス。」

 「イチオウ、ショウキボノテイサツカンタイヲダシテオケ。ソレデダメナラシュリョクカンタイヲゾウキョウシタノチ、サイコウゲキヲカイシスル。」

 「リョウカイシマシタ。」

 

 これにより、深海工廠艦隊は暫くの時間稼ぎに成功した。

 

 

 ……………

 

 

 で、現地では何が起こったのかと言うと…

 

 「アァ~イキカエル…。」

 「ヤッパリオフロハヨイモノネ…。」

 

 深海工廠艦隊の本領、即ち接待攻勢で侵攻してきた深海棲艦は全艦休暇に入っていた。

 海域に到達早々「Welcome to 工廠艦隊レジャー施設!」「リニューアルオープン!」とデカデカと幟を上げた艦に、以前常連客だった現地指揮艦があっさりと付いていき、残りの艦達もそれに追従したが故の結果だった。

 元々、主戦派と言っても冷や飯食いな連中(だからこそ捨て駒扱いだった)なので士気も低く、彼女達としては嘗て消えてしまった癒しが再び戻って来たので、いっそ此処に移住するもの有りかなぁ…とすら考えていた。

 駆逐艦達ですら、丁寧な整備と良質なご飯に、既に飼い主として工廠艦隊の面々を登録していたりするので、責める事は出来ないだろう。

 

 「我々の敵がイタリア並だった件…。」

 「しっかりしてくれ長門。纏め役の君は強制的に現実を見なければいけないんだから。」

 

 余りの事態に、元野良で現艦娘組の纏め役である長門が遠い目をしていた。

 しかし、工廠艦隊旗艦として、その辺をしっかり情報収集済みだった工廠鬼としては理想的な結果に胸を撫で下ろしていた。

 最悪、嘗ての常連客達と殺し合いをする羽目になっていたのだから、その分安堵も強かった。

 

 「でも、実際に戦闘にならなくて良かったよ。」

 

 実際、諸島全体の迎撃施設の完成度は未だ低く、試験運用なら兎も角、実戦でいきなりとなると不安も大きかった。

 また、深海棲艦と艦娘、更にそれぞれの妖精がちゃんと連携を取れるか不安も大きかった。

 

 「まぁ、おいおい訓練を積み重ねていくしかあるまい。」

 「とは言え、そう時間は無いよ。あっちの指揮艦は基本的に脳筋だし、米帝ばりに数揃えて殴れが深海棲艦の基本戦術だしね。」

 

 幸いと言うべきか、今回侵攻してきた艦隊はあっさりとこちらに寝返りそうだが(というか勧誘しなくてもこっちに就くと思う)、次はガチの主力艦隊で侵攻してくるので、その前にどうにかしたい所だった。

 

 「まぁチマチマ僕の艤装も改造してたし、一度位なら確実に撃退できるよ。」

 「とは言え、それは保険だ。お前無しでもどうにか出来ねば、我々に未来はない。」

 

 何とか物資も遣り繰り出来てるし、新兵器まで開発している。

 しかし、根本的なマンパワーと土地不足はどうにもできない。

 

 「一応、うちの潜水艦隊を使って情報収集はしてる。けど、次が来る前に確実に対処できるようにしないと…。」

 「そのための迎撃機の配備か?」

 

 先日、工廠艦隊ではとある迎撃用戦闘機の配備を開始した。

 それは現在日本の艦娘が搭載可能な艦載機と比較しても、通常型の烈風に匹敵する程の性能を持っていた。

 

 「艦娘側の艦載機開発のデータが無ければ出来なかったものだけどね。」

 「その辺りはブラ鎮出身の連中に感謝すべきだな。」

 

 ブラック鎮守府出身で、長い事抑圧されていた艦娘は、時に反乱を起こす。

 無論、憲兵艦隊所属の陸上戦と対艦娘向けの訓練を積んだ艦娘に問答無用で撃破されるのだが、中にはそれを知るが故に素早く逃げる者も多い。

 その中で、艦娘の中でも比較的冷静な者達が開発系の資料をドサクサに紛れて入手し、手土産としてここまで持ち込んだのだ。

 

 「既存の艦載機よりも平坦だな?」

 「本当はステルスジェット機が良かったんだけどねぇ…。」

 

 あくまで推進方式等は既存のものだが、生物型の構造を可能な限り減らし、艦娘側の妖精達でも運用できる様に改良したものだ。

 とは言え、陸上の滑走路からしか出撃できないので、艦娘達には余り連携の機会はないが。

 

 「ま、大体わかったし、次はもっと良いのにするよ。」

 「で、各砲台群の方は?」

 「そっちはもう装甲化も終わったから、いつでも行けるよ。」

 

 諸島を守る各砲台群、それは基本的に対海上用だが、対空用の散弾や時限信管等は準備済みなので、新型迎撃戦闘機も合わせれば、そう簡単に制空権を失う事は無いだろう。

 

 「うーん…もしもの時は回天君達使っても良いからね?」

 「余り気が進まんが、了解した。」

 

 回天君、それは深海棲艦の駆逐艦を改装して作った、自走追尾式特攻兵器である。

 駆逐艦の武装を全て取っ払い、前面と上面の装甲を強化しつつ、側面の装甲を限界まで削った。

 これにより結果的だが軽量化により運動性・加速性が上昇し、その速力を生かして内部に積載した爆薬により、敵陣奥深くで自爆させる事を主目的とした兵器だ。

 艦娘や妖精でやっていたら反乱を起こされてもおかしくないが、ちょっと休めばまた復活する深海棲艦の駆逐艦なので、余り問題視されなかった。

 なお、威力の方は長門に試させてもらった所、「3発が限界だな」との事で、主力戦艦クラスでも3発も直撃すれば沈む程度には威力もあった。

 コスト的にも手間的にも安く、練度が低い個体や反抗的な個体を中心に改装していく事が決定した。

 

 「後、火力面に関しては心強い娘が近々完成するから、そっちに期待しててね。」

 「楽しみにしている。」

 

 そう言ってニヒルに笑う長門の事を、工廠鬼は美人さんだなぁとほっこりしながら見ていた。

 そして、そんな幼気な工廠鬼の様子を、長門は表情に一切出さずにデレデレしつつ見ていた。

 

 

 ……………

 

 

 さて、この深海工廠艦隊の拠点周辺には、割と漂流物が多い。

 その多くは深海棲艦か艦娘の残骸、時折それ以外の艦艇の残骸等だが、稀に生きた漂流物も届く。

 それは例えば磁場の影響で方位を見失った海生哺乳類だったり、日本の艦娘だったり、深海棲艦だったりする。

 なので、その漂流物が発見された時、工廠艦隊は騒然となった。

 残骸となっているが、大和型等の超大型戦艦に匹敵する程の巨砲を備えた艤装。

 綺麗な金の長髪に我が儘ボディ、そして白人種特有の綺麗な白い肌。

 そして極めつけは殆ど破けて残っていないが、星条旗模様のサイハイソックス。

 そう、アメリカ合衆国が誇る戦艦アイオワ級のフラッグシップ、アイオワ。

 祖国のため、孤軍奮闘を続けている筈の彼女が、何の因果か艦娘と深海棲艦の寄り合い所帯のこの島に流れ着いてしまったのだ。

 

 「……どうすべ?」

 「うーむ…。」

 

 すっかり相談役となった長門と共に、工廠鬼は頭を悩ませていた。

 はっきり言って、厄種である。

 彼女はその強烈な愛国心と不屈のヤンキースピリットで胸を一杯にしながら、日本側の救援が来るまで戦い続ける筈だった。

 しかし、この世界線では何の因果か、彼女は重傷を負い、こんな人界の果てまで漂流してきた。

 正直、米帝が完全に制海権を失った可能性を考えると、頭が痛い。

 

 「今まで両アメリカ大陸に張り付けていた戦力がこちら側に来る可能性があるな…。」

 「そうなりゃここも終わりかな?」

 

 余りの事態に、責任者二人は頭を抱えた。

 だって、そんな事になってたら本当に困るんだもん。

 

 「そうなったら、連れ戻されてまたブラック業務に…。」

 「ブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だブラ鎮は嫌だ…。」

 

 二人して虚ろな目になってブツブツと何事か呟きながら俯く。

 だって、務めるならホワイト環境の方が良いんだもん。

 

 「取り敢えず、アイオワには入梁してもらおう。回復次第事情を説明してから、改めて行動を決めてもらおう。」

 「止めんのか?」

 

 意外な工廠鬼の言葉に、長門が目を丸くした。

 艦隊旗艦として、時に冷徹な判断を下す、見た目だけなら少年の鬼級は、しかし、フルフルと首を振った。

 

 「彼女の信念には応えたい。何せ僕らはそれを無くしたり、元々持ってなかった連中だからね。」

 「…良かろう。」

 (まぁ、戦争終わった後のために、米帝様との橋渡し役として恩を売っておきたいのもあるんだけどね。)

 

 この様にして、事態は新たな局面に向かう事となった。

 

 

 

 

 

 



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艦これ短編 深海工廠鬼が逝く4

 日本政府、正確に言えば海上自衛隊を元とする海上国防軍はここ数ヵ月に連続して発生する鎮守府での反乱や脱走騒ぎに頭を痛めていた。

 

 元々、深海棲艦との戦争に対し、既存の精密誘導兵器はそのサイズ故に当たらず、機関砲の類では火力が足らず、更に掌サイズの無数の艦載機に人型サイズなのに何故か戦艦クラスの威力を持った主砲を持った怪物が、海を埋め尽くす程の物量で攻め寄せてくるのだ。

 何とか高高度からの飽和爆撃や、戦車部隊等の上陸時の飽和攻撃によって、辛うじて国土への侵入を防いでいる状態だった。

 無論、撃墜の至難な艦載機による攻撃で、沿岸部の人口密集地の多くは壊滅し、滅亡までの時間を長引かせているだけなのだが。

 そんな時に偶然鹵獲できた深海棲艦を解析した情報を元に、実用化されたのが艦娘だった。

 艦娘は提督と言われる「妖精が見える性質」を持った人間と契約して指揮下に入り、深海棲艦と同じ性質を持った、唯一の対抗可能な兵器だった。

 しかし、提督の適正を持った人間は少なく、生存圏奪還及び確保のためには適正を持った人間を官民問わずに強制徴用してもまだ足りない位だった。

 故にどんな経歴であっても、どんな年齢であっても、どんな状態であっても、(職務に支障を来さない範囲で)徹底的に狩り出し、提督とした。

 これには提督適正を持った人間の身内を中心に、国内から多くの反発があったものの、「提督及び艦娘の運用に関する法案」の一部として可決された。

 提督となった事で人生を滅茶苦茶にされた人間は大勢いる。

 しかし、同時にそうせねば今日の日本は防衛圏の確立すら儘ならず、他の国々同様に深海棲艦に滅ぼされていただろう事は想像に難くない。

 

 そんな訳で、艦娘に憎悪を抱く提督は珍しくない。

 なにせ艦娘はほぼ全員が人格と容姿、能力に恵まれた美女、美少女だらけであり、一定期間を共に過ごせば、憎悪を飲み込む者が大半だったからだ。

 しかし、中には憎悪を抱き続けた者もいる。

 そうした提督は艦娘を積極的に使い潰し、時には意味も無く嬲り殺していく。

 無論、やり過ぎれば大本営や憲兵隊に検挙され、最前線の更に先の未探索海域で地獄の偵察コース(死亡率9割超)行きにされる。

 そのため、現在生き残っている反艦娘派の提督は戦果を出しつつ、艦娘を鎮守府運営に支障のない範囲で嬲る事を覚えていた。

 また、艦娘を単なる物言う兵器として扱い、徹底的に使い潰しながら戦果を上げる者もおり、こちらは主に防衛大や一流大学・企業出身者等が多い。

 この様な提督が上に立っている鎮守府は艦娘と良好なコミュニケーションを取り、就業時間等も明確に定めて、健全な運営を行っている鎮守府と比較して、ブラック鎮守府と言われる。

 

 最近、そんなブラック鎮守府で反乱や脱走が相次いでいた。

 中には貴重な高性能艦載機等の装備品の設計図や資源、軍事情報等を持って脱走する者もおり、数少ない提督が死亡した例も多く、大本営でも問題視されていた。

 そんな中、とあるブラック鎮守府の提督が反抗的な艦娘の艤装に発信機を仕掛け、その反応を追跡した所、驚くべき事が判明した。

 それは脱走した艦娘の多くが一つの海域を、即ちポリネシア諸島周辺海域を目指している事だった。

 これにより、大本営は脱走した艦娘達が深海棲艦の下へと向かっていると理解した。

 だが、向かって何をしているのかまでは不明だった。

 追跡していた艦娘はそこまでで通信が途絶え、未帰還となった。

 この事態に対し、大本営は目標海域が未探索海域と言う事で、威力偵察も兼ねて大規模な偵察艦隊の編成、出撃を決定した。

 

 ……………

 

 その頃、工廠艦隊もといホワイト環境希望組はと言うと…

 

 「えぇ~かき氷、かき氷は如何ですか~。」

 「ミッツクダサイ!オオモリデ!」

 

 太陽の照り付ける砂浜、その一角にある浜茶屋で威勢の良い艦娘の掛け声に、深海棲艦が笑顔で注文する。

 何せ赤道付近の南国、暑さも相当なもので、冷たい飲食物の売れ行きは絶好調だった。

 反面、煮物や鍋物等は一部を除いて余り売れていない。

 

 「なんでまたバカンス続行なんだ…。」

 「仕事はしてるから良いじゃない。」

 

 何気に強制水着姿の長門と、海パン一丁の工廠鬼の責任者コンビだった。

 

 「次の深海棲艦側の艦隊はもうすぐ準備が終わるらしい。そいつらを撃退するまでは暫くお預けだし、まぁ多少はね?」

 「全く…。」

 

 呆れる長門だが、しかしその恰好では説得力も無い。

 そして、工廠艦隊が今もなおローテーションで武器弾薬、深海棲艦の開発と備蓄に励んでいる事も知っているので、余りとやかく言う事は無い。

 

 「あ、長門。僕肌弱いからサンオイル塗ってー。」

 「お前、仮にも鬼級だろう…。」

 

 実際、深海棲艦らしく青白い肌をしている工廠鬼は元が生粋のインドア派なので、余り日光で焼きたがらない。

 長門は表向き呆れつつも、その身体は欲望に忠実であり、そそくさとオイルを塗る準備をしていく。

 

 (工廠きゅんの生肌…茹で卵みたいにすべすべ…お尻もプリンプリンで…。)

 

 もし内心がバレたら逮捕不可避なビック7であった。 

 

 ……………

 

 さて、アイオワである。

 彼女は漂着後三日で目覚めたが、日本の艦娘と深海棲艦が一緒にいる光景に混乱し、暴れ出しそうになったが、長門を始めとした腕自慢達に抑え込まれながら、この諸島にいる者達の事情を聞かされた。

 曰く、ブラック業務に倦み疲れた艦娘と深海棲艦達の楽園。

 曰く、年中バカンスしながら外敵を迎え撃つ日々。

 曰く、此処以外に行く所が無い。

 曰く、喰っちゃ寝最高だけど偶には働かなきゃ…。

 一部突っ込みどころはあったが、取り敢えず事情を理解したアイオワは自身の目的を果たす所存だった。

 それは祖国防衛のため、日本とコンタクトを取り、救援要請を出す事だった。

 無論、祖国を直接的に防衛し続ける事も大事だが、しかしアメリカの艦娘は現在自分1人であり、どうやっても数が足りない。

 物量を誇る米国が物量で押し負けると言う事態に、アイオワは何とか抗い続けた。

 しかし多勢に無勢、彼女は大破しつつも周囲の深海棲艦を撃滅し、その後は沈没手前の航行すら不可能な状態で漂流していたのだ。

 その間、彼女が無事だったのは奇跡としか言いようがない。

 そんな彼女が至った結論が救援要請であり、自身の実用化のための技術情報の一部を齎してくれた日本との接触だったのだが…

 

 「どうしようかしら…。」

 

 此処にいる者達は深海棲艦からも、日本からも離脱した平和を望む艦達だ。

 自身の行いで、彼女達の存在が外部に漏れる事は避けたかった。

 祖国を思えば一刻も早く彼女達を説得するか、或はここを出発するかだが、そのどちらも難しい。

 なにせ自身の艤装は未だボロボロで、アイオワの艤装に合う砲弾も今現在一から作っている最中であると聞く。

 無論、解析もしているのだろうが、どの道今は自分からアクションは出来ない。

 

 「かき氷いかがですかー?ソーダもありますよー。」

 「Oh…Statesには悪いけど…今はVacationを楽しみまショー!」

 

 しかし、その悩みも今はどうする事も出来ないと悟るや否や、彼女はあっさりとこの環境に順応した。

 流石はアメリカ人、中々の合理主義かつ豪快さである。

 

 ……………

 

 深海工廠鬼艤装内 深海棲艦開発・建造部

 

 「うふ、うふふふふふふふふ…。」

 「ツイニセイコウシタワネ明石。」

 

 そこには海上船渠鬼と明石の姿があった。

 二人はここでアイオワの艤装から入手した最新鋭戦艦娘の情報を元に、ある深海棲艦の開発を任されていた。

 それは工廠鬼肝いりの計画であり、原作のゲームを知る彼故にその重大さを知っていたからだ。

 そのため、この計画は艦娘の情報を普通の艦娘以上に知り尽くした明石(人体ならぬ艦娘実験が行き過ぎて解体行きになって脱走)と工廠鬼直々に技術的手解きをされた海上船渠鬼が担当していた。

 

 「アイオワさんのお蔭で、遂に完成しました。」

 「コレナラ人間ニモ、戦争ズキナバカドモニモマケナイワ。」

 

 ゴポリと、二人の目の前の培養槽の中で気泡が昇っていく。

 その中には、一体の深海棲艦が胎児の様に身体を丸めて浮いていた。

 巨大な尾を持つ、幼気な容姿を持ったその深海棲艦は、未だ目覚めていない。

 

 「主力戦艦級の火力とそれ以上の装甲、更に重雷巡級の魚雷、正規空母級の艦載機運用能力。おまけに対潜能力まで…。うふふふふふふふふふふふ!これぞ正に『わたしのかんがえたさいきょうのせんかん』ですね!」

 「ソノブン、コストモスゴイケドネ。」

 

 深海棲艦、そして人類を相手に二正面作戦を行う事態に陥った場合、物量に勝る敵勢力を確実に粉砕可能な「量産型姫・鬼級」の開発。

 後にレ号計画と称される開発計画の結実が、この深海棲艦だった。

 工廠鬼の肉体や各地の船渠鬼から入手した情報を元に開発は進み、汎用性を確保しつつも戦闘に特化した鬼・姫級として開発が進められたソレは、艦娘と言う多様な装備を換装可能な兵器の情報、特に最新鋭戦艦のアイオワのデータを参考にする事で完成した。

 そこまで漕ぎ着けるだけでも、既に戦艦数十隻分の資源を消費していた。

 今後この艦を量産するとなれば、如何に資源を自給自足できるホワイト環境希望組と言えど、財政破綻待ったなしである。

 となれば、少数生産の上で要所要所で打撃を行ってもらうエース部隊としての活躍が期待された。

 少なくとも、相手が全艦大和型とか言う基地外編成でもない限り、正面から負ける事だけは無いだろう。

 

 「じゃぁこの子の名前だけど…レ級ちゃんにしましょう。」

 「マァヨインジャナイ?」

 「よろしくねレ級ちゃん。早く目覚めてね~。」

 

 後に深海棲艦と人類双方から魔王の様に恐れられる深海棲艦と艦娘の相の子は、未だに目覚める気配が無かった。

 

 

 



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東方短編 白狼天狗が逝く

オリ主、転生、原作キャラとの恋愛注意。


 転生した。

 しかも、割と殺伐系な設定で知られる東方世界に。

 しかも、種族的には余り強くない白狼天狗に。

 

 鍛えなきゃ。

 

 そう決意した10歳の頃から、自分を鍛え続けた。 

 始めは辛かった。

 しかし、これも群れに貢献するため、と心配する両親に言って修行に取り組んだ。

 幸いと言うべきか、他の群れの仲間達からは好意的に受け取られ、直ぐに大人達に訓練を付けてもらった。

 その際、上位者である烏天狗の皆さんともお会いする機会もあったのだが…何あれ?

 よく反乱起こされないなって言う位には性根が腐った、或はひん曲がった連中が多かった。

 その時点で、自分にとっての群れの仲間は白狼天狗であり、烏天狗は除外される事となった。

 とは言え、仕事は仕事である。

 自分の好悪で命令に違反する事は無い。

 鍛錬し、仕事をし、休み、鍛錬し、仕事をし、休む。

 そんな日々を何十、何百年と繰り返していく内に、次第に技も肉体も強く成っていった。

 そうそう、程度の能力が自分にもあった。

 その名も「千里を走る程度の能力」。

 未だ生まれていないが、同じ種族の犬走椛の「千里先を見通す程度の能力」とよく似ている。

 自分はこれを単なる速力強化だけでなく、スタミナと脚力の強化も含むものであり、ある程度速度を変えられるとも考えている。

 何せ千里と言う距離は書いてあっても、完走するまでの時間は書いていない。

 つまり、その時間は三日でも一日でも、一秒でも構わないのだ。

 千里=4000kmであり、これを24時間かけて走るとすると、時速約166kmとなる。

 高速道路でも早々見ない様な速度だ。

 そして、これをもし一秒で走ったとするなら時速1440万kmとなる。

 音速が時速1225kmなのだから、理論上瞬間最大速度だが、音を超える事が出来るのだ。

 無論、そんな真似をしたら空気抵抗で一瞬でバラバラになるので、それに耐え得る肉体強度なり装備なりを持たねばならないが。

 ならば、更なる鍛錬を課すのみである。

 何時からか始めた感謝の正拳突きならぬ、感謝の素振り1000回。

 その時間が短縮される毎に、更に1000回増やし、今はもう1万回振っても日は暮れない。

 修行を始めて既に200年、未だ我が剣速は音を置き去りに出来ていない。

 ならばと今度は日に1000回の蹴りを放つ。

 徐々に1000ずつ増やしていき、やはりこちらも何時しか1万回やっても日が暮れなくなった。

 そして、蹴りに関しては何とか音を置き去りに出来るようになった。

 これは恐らく、能力との相性もあったのだろうが、素振りも蹴りも止める事は無かった。

 二つとも終えた後は、やはり瞑想する。

 自分では未だ心の師匠たるネテロに至れないのなら、それ以上の鍛錬を課すしかないからだ。。

 瞑想の最中、思うのは仲間達の事だ。

 同年代の仲間達は戦で死んだ者もいれば、嫁を取り、子供どころか孫までいる者もいる。

 しかし、自分だけは未だ少年の姿で嫁を取っていない。

 無論、嫁を取らないかと言われた事もあるが、こんな自己鍛錬と仕事位しか興味の無い雄に嫁いでくれる者もいる筈もない。

 只管に仕事と鍛錬、そして瞑想。

 娯楽の少ないこの時代(時折見かける人間の服装等から未だ火縄銃のない戦国時代初期か、それ以前の様だ)、それ位しかする事が無かった。

 

 その頃だった。

 天狗が住まう山に鬼がやってきたのは。

 

 「各員、全速で撤退しろ。殿はこちらで引き受ける。」

 「しかし、隊長は!?」

 「足手纏いだ。行け。」

 「ご武運を!」

 

 彼我の戦力差は全員が即座に看破した。

 何せこちらは哨戒天狗が一小隊に対して、鬼達は50近い。

 そして、種族的な性能を加味すれば、比較すら烏滸がましい。

 

 「おいおい、逃がす訳ないだろう?」

 「遅い。」

 

 大将格の鬼が声をかけてくる。

 だが、その動作は余りにも遅く、隙だらけだった。

 轟、とその場で旋回する様に足を振るう。

 それだけで周囲を囲んでいた霧は消え、鬼達は放たれた豪風によって一瞬だが目を瞑り、視界を閉ざす。

 それで十分だった。

 

 「ご、が…ッ!?」

 

 時速にして凡そ100km。

 それだけの加速を付けた状態で、やや大柄な女の鬼を遥か彼方へと蹴り飛ばす。

 これで暫くは戻ってこれない。

 次いで、周囲の鬼達へとやや減速しながらも突撃、その頑丈な首を分厚い鉈の様な剣で刈っていく。

 丸ではなく逆三角形のカイトシールドを構え、時に先端での打撃やシールドバッシュも入れるが、自慢の健脚により捕えられる事は無い。

 

 「この野郎が!」

 

 しかし、流石は日本妖怪の中で最強の種族と言うべきか。

 10秒も経つ頃にはこちらの速さにもある程度対応する者達が出始めた。

 中には口から広範囲に炎を吐く者もおり、仲間への被害なぞ気にしていない様子だ。

 否、その程度の火力では燃えないのか、少し体毛が焦げただけで同士討ちと言う程の被害は出ていない。

 

 「ちと硬いな。」

 

 しかし、その程度の硬さは意味がない。

 炎よりも、風よりも、時には音よりも早く駆ける自分には遅すぎる。

 故に既に刃が欠け始めた剣に代わり、その足で以て心臓を突き抜ける様に蹴りを放つ。

 

 「ごぁ!?」

 

 胸に大穴を開けて、火を噴いた鬼が絶命する。

 その様に、鬼達の表情が明らかに驚きの形になる。

 あぁ、そんな風に硬直してしまえば死ぬだけなのに。

 

 「か」

 「ぺ」

 

 足刀で二体、山の方へ進もうとしていた鬼の首を刈る。

 ポンと飛ぶ様は、退治屋の人間の時と然して変わらなかった。

 

 「……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!」

 

 鬼達を翻弄し、こちらを遠くから見る視線に注意しながら時間を稼いでいると、絶叫と共に最初に遠くに蹴り飛ばした鬼が戻ってきた。

 額に星の印が付いた一本角、金の長髪に女性にしては高い身長と全身の筋肉、そして体操着にも似た上着に丈の長いスカート。

 あぁ、そういえばコイツは星熊勇儀だったか。

 鬼の四天王の一角、「怪力乱神を持つ程度の能力」に剛力と剛体を持った、鬼らしい堂々たる女性だ。

 

 「そいつに手を出すんじゃないよ!アタシの獲物だ!」

 

 うーす、と大将の声に鬼達が従う。

 こちらとしても、あの数相手に駆け回り続けるのはちと辛かったので良しとする。

 それに、一騎打ちの方が時間を稼げる。

 

 「アタシは星熊山の星熊勇儀だ!アンタは強いが、あの程度でやられたと思われちゃ鬼の名折れだ!アタシと仕合ってもらうよ!」

 「是非も無し。お相手しよう。」

 

 そして、先程よりも早く、鋭く、貫く様な蹴りを放った。

 それを勇儀はギリギリの所で視認し、心臓を庇う様に両手を交差させる。

 当然命中するが、しかし根を張った巨木の様に、その姿が揺らぐ事は無い。

 来ると分かっていれば、それは当然防がれる。

 ましてや鬼の大将格、その頑強さは当然ながら凄まじい。

 

 「オラぁ!」

 

 勇儀の拳が振り下ろす様に放たれるが、当然回避する。

 しかし、先程まで自分のいた場所がクレーターになるのを見ると、背筋が寒くなる。

 回避、回避、回避。

 急激なGをかけつつフェイントをかけ、脳を揺らす様に蹴りで顎先を揺らす。

 

 「う、お?」

 

 かくん、と膝を突いた勇儀の顔に、渾身の蹴りを放つ。

 先程まで相手をしていた鬼達なら、三体は一度に首どころか胴を両断される威力。

 それを勇儀は角で受け止めていた。

 身体が動かない?なら首から上を動かせばよい。

 普通は無理だが、流石は鬼、流石は四天王なのだろう。

 

 「か!イイねぇイイねぇ!」

 

 反撃が届く前に即座に離脱、先程と同じく繰り出される攻撃を回避しながら時折カウンターを入れる。

 ボディーブローの様に徐々に効きはしているのだろうが、鬼と言う体力馬鹿の権化みたいな連中の更に上澄み相手では削り切るのは至難の業だ。

 ならば、更に早く成ろう。

 この鬼達の事だ。

 つまらない戦い方をしようものなら、きっと暴れ出すに違いない。

 更に加速し、増速し、先へ先へと踏み込んでいく。

 

 「は、ハハハハハハハハ!」

 

 笑っていたのは勇儀か、それとも自分か。

 それすら分からない程に、自分は戦いに没頭した。

 

 ……………

 

 久しく無かった死闘に、ついつい冷静さを捨てていた。

 気づけば日が暮れ、勇儀と共に地面に倒れ伏していた。

 外から見れば勇儀の方が遥かにボロボロだが、無茶して加速し続けたせいでこちらの身体もボロボロだ。

 最早指先一つでも動かしたくなかった。

 

 「お前さん、凄いねぇ…。」

 

 しみじみと言った感じで、勇儀が呟いた。

 

 「他の天狗もこうなのかい?」

 「いいや。幾人か強い者もいるが、それ以前に数と連携で戦うのが天狗だ。」

 

 神通力を持ち、空を自由に駆ける山の民にして、山伏達の成れの果て。

 それが天狗の本質だ。

 鬼の様に絶対的な強さで闘争に生きるのではなく、隠者として生きる者達。

 その性質上、強さと言うのは余り重要ではない。

 無論、組織として一定以上の武力は絶対に必要なのだが、積極的にそれを行使する事も、増強する事もしない。

 まぁ、最大の敵は暇して組織内抗争ばっかりしてる身内なのだが。

 

 「しかし、負けは負けだ。」

 「確かにね。」

 

 しかし、軍配は鬼に上がった。

 総大将である伊吹萃香率いる主力が、天狗側の主力を打ち破り、降伏させたからだ。

 

 「んじゃ、攫わせてもらうよ?」

 

 鬼は気に入った人間を攫う。

 その後は食料にされるか、伴侶にされるかは分からないが、決して手放す事は無いという。

 それは時に人間以外の者も対象となる。

 

 「好きにしろ。」

 

 疲れた、が、本当に清々しく戦えた。

 修行に明け暮れ、しかし己の未熟さに悩むよりも、彼女との一時は逢瀬の様に楽しかった。

 

 

 ……………

 

 「それがお父さんとお母さんの馴れ初めなのね!」

 「うむ。」

 

 母に似た金の毛並みと自分に似た犬の耳を持った娘が、大層キラキラした瞳でこちらを見つめる。

 思えば、あれからもう千年近く経つと思うと、月日とは本当に早いものだと思う。

 

 「ただいまー。」

 「只今帰りました!」

 

 そして、妻となった勇儀と白い毛並みに二本の小ぶりな角を持った息子が帰ってきた。

 

 「お帰り。」

 「お帰りー!」

 「応!旦那に娘、今帰ったよ!」

 「色々買ってきました!」

 

 ここは旧地獄の一角。

 幻想郷の中にあってなお、隔離された妖怪達の住まう地下。

 勇儀に攫われた後、二人して蜜月を過ごして、何時しか夫婦になっていた。

 幻想郷が出来て、萃香の号令で天狗も鬼達もその地に住まい、しかし人間がまともに相手をしてくれないからと鬼達は幻想郷の地下、旧地獄へと移り住んだ。

 その際、既に娘を妊娠していた勇儀に自分は連行され(いや、付いていくつもりだったが)、こうして旧地獄に家族4人で穏やかに、時に賑やかに暮らしている。

 

 「どうだった?」

 「今度、地上の連中と会合を持つ事になったよ。そん時は私も護衛に行く事になった。」

 

 近年、地底の妖怪が地上に勝手に現れる事例が多発していた。

 捕えた妖怪の話では、地底から穴を掘ってきたのだと言う。

 無論、地底の責任者(を押し付けられた)である古明地さとりもこの件を把握しており、事態の収拾を試みたが、地底の妖怪達は勇儀や萃香達の統率している鬼はまだしも、他の妖怪達はいい加減に地上で暴れたいと考えており、幻想郷の安定を考える八雲の警戒を助長していた。

 この事態に対し、近年流行し始めた弾幕ごっこにより、妖怪側のフラストレーションを下げつつも人間との円滑なコミュニケーションを行えばよいという声が上がり、それについて改めて会合が持たれる事となったのだ。

 そして、さとりが護衛として選出したのがペット達ではなく、万年鴛鴦夫婦で有名な勇儀だった。

 確かに実力、人格、立場のどれを取っても申し分のない人材だが、夫である身としては余り危険な事に突っ込まないでほしいと思ってしまう。

 だが、結局は本人がそういう事が大好きなので、心配するだけ無駄になるのが常なのだが。

 

 「無傷でとは言わんが…。」

 「あぁ、必ず勝って帰ってくるさ。」

 

 ぎゅうと、自分より背の高い妻を抱き締める。

 すると、鼻に酒と汗と血と土、木くずの匂いが届く。

 白狼天狗故の鋭い嗅覚も、匂いの篭もり易いこの地底では余り役に立たないが、妻の匂い位数km先からでも嗅ぎ分けられるだろう。

 

 「あー!また二人ともイチャイチャしてるー!」

 「お父さんお母さん!僕も僕も!」

 

 抱き締め合う二人に、更に子供達が飛びついてくる。

 それを両親が笑顔で受け止め、ぎゅうと大事そうに、愛しそうに抱き締めた。

 

 「何だ何だ二人して。随分と甘えたさんだなぁこの!」

 「家の中で余りはしゃぐものではないよ。」

 「いいさ。元気がないよりはこっちの方が良い。」

 

 そう言って、愛し気に娘を抱き締める勇儀は、出会った頃とはまた違う魅力を放っていた。

 今の彼女は鬼であるが、鬼子母神だ。

 きっと、子供らに手を出されれば、それこそ噴火する様に怒り狂うのだろう。

 嘗てからは想像もつかないが、確かに自分も彼女も変わっていた。

 

 「これからもよろしくね、勇儀。」

 「何言ってんだい!末永くよろしく頼むよ!」

 

 旧地獄の地底の一角で、今日も賑やかな鬼と白狼天狗とその子供達が幸せそうに暮らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 なお、夫は外見合法男の娘なので、勇儀の犯罪臭が高い夫婦としても知られてる。
 後、夫の服装は椛のを大きくして、丈を長くした様な感じで書いてました。



 うーん、何かやっつけ感が強いな、没。


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嘘予告 デモベ×FGO 後書き追加

デモベSSの方に久々に感想が入ってたので書いてみました。


 それは地球より遥か彼方。

 光の速度でもなお640年を費やさねば届かぬ赤色超巨星ベテルギウス。

 そこで、人知及ばぬ死闘が繰り広げられていた。

 

 「オオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 深淵の宇宙において、なお漆黒の刃金が吼える。

 怒りと憎しみ、そして愛しさと悲しさで。

 

 『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!』

 

 それに対するは隻腕の刃金だ。

 巨大な赤き星を背に、白い装甲を自らの力で砕きながら、限界を超えて全てを破壊し尽くさんと吠え猛る。

 ただ殴り合い、ぶつかり合うだけで空間が逆行し、時間が歪曲し、神秘が発生し、物理法則が消失する。

 神代の神々ですら生存し得ない程の、余りにも激しく、甚大で、荘厳な戦いだった。

 

 「あああああああああああァァァァァァァァァァッ!!」

 

 黒の巨神と乗り手が泣き叫んだ。

 何故、何故、何故!?

 何故お前がそんな様になっている!

 

 『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!』

 

 それにもう一体の巨神は拳で語る。

 破壊する、破壊する、破壊する。

 全ての魔を、全ての邪悪を、全ての神々を!

 

 「馬鹿、野郎があああああああッ!!」

 

 黒の巨神は、泣きながら白い巨神に殴りかかった。

 

 

 嘗て、長い長い戦いがあった。

 無限螺旋と言う、邪神が作ったクラインの壺の中で、未来永劫過去星霜の果てまで、億を超える命が蟲毒の様に戦い、死に、生まれ続けてもなお続く戦いがあった。

 その中で求められ、生まれ、そして遂に螺旋を打ち破って生まれたのが白の巨神だった。

 白の巨神と二人の乗り手、三位一体を成す神殺しの剣にして無垢なる刃。

 それが巨神の在り方だった。

 それが嘗ての巨神だった。

 だが、戦えば戦う程成長していく巨神は、遂には神々を超えた。

 超え過ぎてしまった。

 無垢なる刃の力は世界からはみ出し、他の世界まで波及し…

 

 やがて、たった一つの世界を残して、何もかも壊してしまった。

 

 壊れて、壊れて、壊れて、その果てに

 最後に残ったたった一つの世界で、黄昏の女王が生まれ、世界を再生しようとした。

 それを白の巨神は感知していた。

 女王の目的は善だが、その力は悪であり、神のものだった。

 だからこそ、白の巨神は女王を殺そうと動き出した。

 だが、それを阻む者がいた。

 それは嘗て白の巨神と共にあった者。

 白の巨神の先達にして、生みの親の一人であり、戦友であり、師であった者。

 黒の巨神とその乗り手が、その身を無から顕現させ、立ちはだかった。

 元より黒の巨神は神々の血を引く者。

 神々の中でも変身に長ける一族故に、自らを無へと変え、誰にも気づかれる事無く、最後の機会が訪れるまで眠っていたのだ。

 そして今、白の巨神を相手に、黒の巨神が最後の戦いを挑んでいた。

 

 

 「天狼星の弓よ…」

 

 咆哮と共に、影の天狼が宙を往く。

 その名が指す様に、天体規模の莫大な光熱を放つ天狼が白の巨神を噛み砕かんと飛翔する。

 

 「散れ!」

 

 白の巨神がその手に召喚した偃月刀で天狼を両断する寸前、その姿が無数の光の矢へと分裂、白の巨神の全身を強かに打ちのめす。

 だが、既知の業など無意味とばかりに、地球の地表程度なら焼き尽くせる熱量を浴びながら、白の巨神は前に出る。

 しかし、そこにはもう黒の巨神はいない。

 だが、白の巨神の目は正確に黒の巨神を見ていた。

 

 白と黒、二体の巨神はとてもよく似ていた。

 それはそうだ、二人は兄弟であり、師弟なのだから。

 だが、黒の巨神は変身を得意とする。

 それは他者だけでなく、自分を含んだ世界の認識すら騙し通す程の変身であり、本物と全く変わらない程だ。

 

 「魔を断つ剣を討つのなら…この姿こそ相応しい。」

 

 まるで鋼鉄の棺桶の様な姿だった。

 或は翼を畳んだ蝙蝠か、今にも孵化せんとする繭か。

 姿を変えた黒の巨神は、上から白の巨神を見下ろしていた。

 

 『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!』

 

 白の巨神にとっても、その姿は見慣れたものだった。

 幾度死して生まれ直しても忘れられない程、怒りと絶望と共に魂に刻まれた姿だった。

 

 「吠えろ、リベルレギス。」

 

 棺桶の蓋が開く。

 翼が広がる。

 繭が孵る。

 そこから姿を現したのは、先とは別の、しかし同じ漆黒の鬼械神。

 法の書の名を持つ、人類の天敵であった者。

 

 「魔術機関エンジン、フルドライブ。」

 『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■…ッ!』

 

 既にただの鬼械神を彼方へと置き去り、軍神すら超越し、神々の領域へと辿り着いた二柱の巨神。

 その全力に空間が悲鳴を上げ、時間が絶叫し、宇宙が震える。

 既に両雄は神々すら恐怖し、逃げ惑う程の者となっていた。

 

 「ハイパァァァボリアァァァァ……!」

 『■■■■■■■■■■…ッ!』

 

 黒の巨神が右手に手刀を、白の巨神が左手に拳を掲げ、力を集める。

 これぞ必滅、正と負の無限熱量、嘗て地球上に存在した二つの大陸を滅ぼした災厄の再現。

 

 「ゼロドライブ――ッ!!!」

 『■■■■■ッ!!!』

 

 正と負、両方向の熱量の極致の衝突。

 それは宇宙誕生の爆発にも似た、人間では認識できない程の巨大な閃光と熱量の発生だった。

 そんな光と熱に飲まれ、二体の巨神はこの宇宙から消滅した。

 

 

 ……………

 

 

 「いやはや全く…見事としか言いようがないね。」

 

 何もない、光や時間すら存在しない虚数の海に、声が響いた。

 

 「私が生み出し、私が殺し、私が鍛え、私が育んだ我が子。」

 

 それは威厳ある男の声だった。

 

 「愛おしいよ、本当に。君は遂に九郎君すら超えて魅せた。」

 

 それは艶やかな女の声だった。

 

 「とは言え、このままでは消えてしまう。君は余りにも消耗してしまった。」

 「それはならぬ。貴様はまだまだ私を楽しませてくれる。」

 

 何処から聞こえているのか、何処から見ているのか、何処から響いているのか。

 何も分からない。

 だが、一つだけ分かっている事がある。

 

 「故に此処とは異なる世界線に。」

 「安心してほしい。君と女王の頑張りで、世界は既に再生した。」

 「「何の憂いもなく、旅立つと良い。」」

 

 この声の主に、激しい憎悪を抱いた事だ。 

 

 

 ………

 

 

 ずっと眠っている。

 国の、文明の、時代の始まりから終わりまで。

 そのどれよりも遥かに長く、永く、久く、眠り続けた。

 それでよい。

 この世界にとって、この星にとって、自身の知識、自身に流れる血は毒だから。

 もし、自分が表に出れば、それは自分の知る神々もまたこの世界に繋がりを持つという事。

 それは出来ない。

 決して平和とは言えないが、それでも確かに幸福や正義もある世界を徒に乱す事は避けたかった。

 人間の記録に残る事も無く、神々の目に触れる事もなく、ただこの星だけがソレを見ていた。

 だから、それは英霊ではない。

 死者でもなければ、伝承にのみ語られる存在でもない。

 この大地を除けば、誰もソレの存在を知らない。

 しかし、何にでもなれると言う性質を持ったソレは、言い換えればどんな状態であっても、星や人類の危機に現れる状態に変化し、その後に脅威を打ち払う状態になる事が出来ると言う事でもある。

 それはガイア/アラヤにとって、この上も無く都合の良い存在だった。

 

 

 ………

 

 

 特異点F 炎上汚染都市 冬木市

 

 「はぁ…はぁ…はぁ…!」

 

 走る、走る、走る。

 普段運動なんてしない身体では、そう遠くまで走れないと知っていても足を動かす。

 何せ、足を止められない理由があるのだ。

 

 ガシャガシャガシャガシャ

 

 背後から骸骨達が自分と言う生者を追って走ってくる。

 彼らは恐らく、嘗てはこの街の普通の住人達だった。

 それが、この都市の特異点化によって、アンデットとなって彷徨っているのだ。

 

 「う、痛!?」

 

 限界にきた足が縺れて転倒する。

 しかし、骸骨達はガシャガシャと、疲れを感じない故に止まらない。

 元より骨だけの彼らには自分の身の安全と言う考えもない。

 

 「こ、のぉ!」

 

 指を指し、呪いを飛ばす。

 ガントと言われる北欧由来の呪いの魔術。

 それを持って何体かの骸骨を吹き飛ばすが、それ以上に数が多い。

 

 「来ないで!来ないでよぉ!」

 

 涙声で叫びながら、オルガマリー・アムニスフィアが必死に魔術を行使する。

 

 (なんで、なんでこんな事になったのよぉ!!)

 

 彼女の人生は幸薄いものだった。

 魔術師の名門にしてロードである父の継子として、その期待に応えられる様に、誰かに認めてもらうために、自分を褒めてもらいたくて、必死になって努力してきた。

 しかし、そんな自分に父は一切の愛情も見せず、感心も持たなかった。

 剰え、正式に自分に当主の位を継がせる前に死んでしまった。

 だから、父の事業を継承し、時計塔の他のロードや国連の人間達と丁々発止のやり合いをしてまで、カルデアを維持し、指揮してきた。

 なのに、なのに、なのに!

 なんで大事な特異点へのレイシフトの時に限って爆発が起き、行く予定の無かった自分までレイシフトしているのか!

 

 「っ!?」

 

 頭上、ビルの三階から奇襲してきた骸骨に、何とか察知したオルガマリーが指先を照準、ガンドを撃つ…が外れた。

 骸骨はそのまま片手に持った欠けた剣を振り被り、この街の数少ない生者目掛けて振り下ろす。

 

 「いや、だって、私は!」

 

 不意に、オルガマリーのコートのポケットから光が漏れる。

 呼符と言う、英霊召喚のための使い捨ての礼装。

 それが光を漏らし、今にも発動しそうになっていた。

 本来、オルガマリーにはレイシフトと英霊召喚、その適正は一切ない。

 だが幸か不幸か、彼女は肉体を捨てた事で、その適正の軛から解き放たれていた。

 

 「まだ、誰にも褒めてもらってない…!」

 

 そんな、唯の寂しい子供の声に、応えた者がいた。

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!」

 

 呼符が輝きと共に消え去り、同時にオルガマリーの足元に英霊召喚の魔法陣が広がる。

 そこに表示されるクラスカードは大剣を持った獣頭の戦士、即ちバーサーカー。

 ゴッと魔力の発生によって大気がかき乱され、その反動で群がっていた骸骨達が吹き飛ばされる。

 直後、収束したエーテルが実体を結び、咆哮と共に一体のサーヴァントが召喚される。

 それは紺の装甲を纏った2m程の怪物だった。

 長くしなやかな尾、大きく張り出した肩のコンテナ、バイザーに隠された頭部と後ろに伸びる橙色の長髪。

 明らかに通常の英霊召喚では呼ばれない様な、イレギュラーな存在。

 しかし、この局面で最も重要なものを、そのサーヴァントは持っていた。

 

 「■■■■…!」

 

 戦闘力。

 両腕をガトリング砲へと変形させ、魔力を機関銃の様に両腕から放ち、背後から迫ってきた骸骨には尾の一撃で砕く。

 その弾幕、その威力に、脆弱な骸骨はあっと言う間に殲滅された。

 

 「あ、貴方…」

 

 それをオルガマリーは呆然と見ていた。

 

 「貴方、私のサーヴァントなのね!?」

 

 しかし、目の前の存在が何なのか分かるや否や、オルガマリーは喜色満面となった。

 

 「私の!私だけの!私を尊敬して私を守って私を褒めて私を認めてくれる私だけのサーヴァントなのね!?」

 「………。」

 

 もし周囲に人間がいれば、ドン引きしていただろう。

 オルガマリーが言っているのはそういう内容だし、本人も普段なら絶対に言わないのだが、この危機的状況に箍が外れてしまったらしい。

 

 「■■■■■…。」

 「痛っ!?」

 

 ベチン、と結構痛そうな音と共に、召喚されたサーヴァントはオルガマリーの額を指で弾いた。

 

 「な、何するのよ!?」

 

 サーヴァントはその言葉に応じず、黙って指先を横に向ける。 

 そこにはオルガマリーの部下の中でも特に若い二人が、気不味そうな顔で彼女達を見ていた。

 

 「みみみみみみ見たの!?見ちゃったの!?」

 「その…はい…。」

 「ごめんなさい…。」

 

 申し訳なさそうな二人に、オルガマリーは羞恥と怒りで顔を真っ赤にした。

 

 「き…」

 「「き?」」

 「記憶を失えー!」

 「「うわあああああ!?」」

 

 わぁわぁと騒ぐ三人に、バーサーカーはやれやれと肩を竦めて索敵に専念していた。

 

 (さて、何が何やら分からんが、取り敢えずこの三人と一緒に行くべきか。)

 

 現状、サーヴァントに擬態している彼女だが、それはつまりサーヴァントとしての在り方に拘束される事に他ならない。

 しかし、先程の叫びを聞いていたが故に、それに嫌悪を感じる事は無い。

 

 (うちの子らで子育ては終わりと思っていたんだが…まぁ仕方ないな。)

 

 そんな考えを一切表に出す事はなく、バーサーカーは未だぎゃあぎゃあ騒いでいる三人の下へと歩み寄った。

 

 

 

 

 

 

 嘘予告 デモベ×FGO(所長救済ルート予定) 続きません

 

 




 ちょい説明が足りなかったので補足。

 旧神様本編→ダインフリークス→FGOとなっております。
 なお、息子&娘は死亡済み。
 リーア&アーリと鬼械神の三位一体+這い寄る混沌由来の変身能力によって、上位神霊クラスの能力を持って相打ちで渦動破壊神を撃破した後、ナイアさんにFGO時空で「幸せにおなりノシ」されたお話です。

 なお、ルキウスもといベディヴィエールの様にサーヴァントに化けてますが、その気になれば何時でも普段のリーア&アーリになれます。
 但し、基本的なスタンスとして「この世界の事はこの世界の住人が解決すべき」として積極的に干渉しません。
 例外として、人理の滅びがほぼ確定した様な大災害がありますが、まぁそんな事ないやろと思ってたら見事に滅んで原因究明も兼ねてカルデアと共に冒険する事になった訳です。

 続きませんよ?


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艦これ短編 赤城が作る

 はい、赤城です。

 元は平和な日本で艦これやってたT督ですが、今は何の因果か赤城に転生しています。

 で、ですね。

 赤城ってゲームでは任務こなして貰える艦なんですけど、私は大破状態で漂流していたのをとある新米提督の鎮守府に拾ってもらった、所謂ドロップ艦なんです。

 幸いと言うべきか、艤装の使い方や戦闘は私の中の赤城としての記憶と艤装在住の妖精さん達のお蔭でどうにかなったんです。

 まぁこの鎮守府も戦闘の殆どない海域で、提督も戦果戦果と叫ぶよりものんびりしたいと考える方でしたので、轟沈の可能性はかなり低い場所でした。

 しかし、重大な問題があったのです。

 この鎮守府、基本駆逐艦ばかりで間宮さんも鳳翔さん、大淀さんすらいないのです。

 辛うじて明石さんはいますが、彼女は基本工廠に籠りっぱなしなので、殆ど顔を見せる事はありません。

 つまり何かと言うとですね…

 

 ご飯を作るのが得意な方がいません。

 

 間宮さんの喫茶店も、居酒屋鳳翔もない鎮守府なんて、鎮守府じゃない!

 これは深刻な問題です。

 ですので、お二人がこの鎮守府に着任するまで、暫くの間ですが、私が食堂に勤める事になりました。

 先ずは、提督に許可を貰う事からですね。

 

 ………

 

 提督から許可を貰いましたので、近場の中古ショップから業務用の家電を、業務用の生鮮食品店から食材を買いました。

 そして、近場の港の漁師さん達の護衛をする代わりにその日取れた物を譲ってもらったので、今日は明日の仕込みも含んだ大がかりな調理に入りたいと思います。

 とは言え、初日なので簡単なものにしましょう。

 私と明石さん以外は皆駆逐艦なので、子供の味覚に合わせた料理にしなければなりませんしね。

 という事で、海軍でもお馴染みのカレーとサラダです。

 材料のニンジン・ジャガイモ・豚バラ肉ブロックを一口大に切り、豚肉に塩と香辛料の類で下味をつけます。

 なお、深海棲艦のせいで胡椒等は輸入がほぼ途絶えているので、山椒や香草、唐辛子なんかが一般的な香辛料となっています。

 さて、野菜と豚肉を月桂樹の葉と水と共に圧力鍋にかけます。

 この間、玉ねぎを微塵切りと八等分に切り、微塵切りの方を飴色になるまで炒めます。

 よく言われますが、この方が甘味が出るんですよね。

 ただ、事前に冷凍させていた方が直ぐに飴色になるのですが、今は仕込んだ分が無いので仕方ありません。

 まぁ余った分は仕込んでしまいましょう。

 八等分にした方はそのままで、玉ねぎの食感を楽しむためのものです。

 そして、圧力鍋で十分に野菜と豚肉が柔らかくなったら、灰汁抜きのために穴あきお玉で具を攫い、次に普通のお玉で灰汁を攫い、最後に目の細かいザルを通して残りの汁から灰汁を取ります。

 取った具と汁は業務用寸胴鍋に入れ、先程の玉ねぎを加え、必要なら少しの水、好みでトマト缶、生クリーム等を加えます。

 そして弱火で具の全てに火が通るまで煮込みます。

 後はレタスとトマト、キュウリでサラダを適当に作り、火が通ったと思ったら、全体の三分の一だけを別の鍋に移し、ルーを別々にします。

 これで二種類のカレー、二種類の辛さを楽しむ事が出来る訳ですね。

 で、多い方には普通の甘口~中辛程度のルーを溶かした上で、練乳と蜂蜜を加えて甘口に仕上げます。

 少ない方にはルーの前に紙パックに入れた鷹の爪を加えて少し煮込んだ上で辛みを増し、最後に辛口のルーと蜂蜜を入れて仕上げます。

 なお、蜂蜜を入れるのはカレーの上面の塊が出来ないようにするためのものなので、それが好きな方は入れてはいけません。

いけません。

 そして、舌休めを兼ねたデザートに果物の缶詰(国内産の黄桃とミカン、リンゴのみ)を刻んで入れたフルーツヨーグルトを用意して完成です。

 

 で、出来ました、赤城特製甘口&辛口カレー!

 

 早速この日の夕飯に出してみました。

 お昼は朝に担当の子と作ったおにぎりとおかず少々にお味噌汁だけでしたので、帰港した駆逐艦の子達は突然の豪華なカレーに提督含めて驚いてくれました。

 評判も上々で、カレーの匂いに釣られたのか、明石さんや妖精さん達も工廠から出てきたので、こちらにもカレーとサラダを振る舞います。

 勿論、らっきょうの甘酢漬けと福神漬けも一緒で、最後に缶詰の果物と無糖のヨーグルトで作ったフルーツヨーグルトで舌休めです。

 結果、寸動鍋一個分のカレーと大きなボウル二つ分のフルーツヨーグルトが見事に空になりました。

 流石の食欲ですね…多めに炊いたご飯もすっかり空ですし。

 カレーは余ったら寝かせるかドリアにするつもりでしたのに…。

 

 「とは言え、皆さん満足の様ですし、良かった良かった。」

 

 さて、片付けが終わったら、明日の仕込みをしましょうか。

 今日もらった鮭が新鮮ですし、朝は塩焼き、夜は洋風に玉ねぎとマヨネーズで焼いてみるのも有りですね。

 

 ………

 

 「美味い…!」

 

 ガツガツガツガツ!

 そんな擬音が聞こえてきそうな程に、この鎮守府の駆逐艦達は大喜びで朝ご飯を食べていた。

 

 「そんな慌てなくても大丈夫ですよ。」

 

 ホケホケと、お祖母ちゃんの様な雰囲気を纏う赤城の言葉だが、それだけは頷けない。

 見れば、同僚達も少しでも多く!一口でも多く!とご飯をがっつき、おかわり!と元気に茶碗を突き出している。

 人参、胡瓜、トマトの浅漬けにワカメと豆腐、長葱の味噌汁、ほうれん草のお浸し、鮭の塩焼き、つやつやの麦飯、そして納豆と温泉卵、序でに焼き海苔。

 正に理想的な朝の和食だった。

 

 「美味い…。」

 

 しみじみと呟く提督に、駆逐艦達も内心で同意する。

 何コレ凄い美味い。

 

 「うふふー、舌に合った様で良かったです。」

 

 そう言って笑う赤城は、温泉卵とご飯に醤油、刻み海苔と炒り胡麻を散らした特製卵かけご飯でどんぶり飯を食べていた。

 

 「え、赤城、何それ?」

 「何って、卵かけご飯ですよ。今はティーケージーって言うんでしたっけ?」

 

 お祖母ちゃんが無理して横文字を使う様な発音だが、駆逐艦達はそれ処ではない。

 一斉に我も我もと真似をし始め、あっと言う間にご飯が消えていき、慌てて提督もそれに参戦するのだった。

 

 (あぁ、赤城が来てくれてよかった…。)

 

 午前9時頃、執務室で事務仕事しながら提督は思った。

 その腹は朝は軽く済ませる派の彼としてはあり得ない程に一杯で、何故か妙に気力が充実していた。

 

 (駆逐艦の皆も美味しそうに食べてたし、戦力として以外にも凄い助かってるな。)

 

 無論、赤城はこの鎮守府唯一の正規空母であり、出撃の頻度は多い。

 しかし、その合間合間に食堂に籠り、皆の食事を用意してくれる。

 また、出撃の日も必ずレシピを残してくれるし、非番の日には自発的に買い出しに行ってくれる。

 なお、お昼は多くの艦が出撃なりして揃わないので、各種おにぎりと朝食同様の浅漬けや甘い卵焼きに焼いたウィンナー等が食堂に置かれ、出撃組にはお弁当として支給される。

 士官学校出で、炊事は出来るが特に得意と言う訳でも無いし、異性で年下の駆逐艦達との距離感も今一掴めない。

 そんな時に漂流していた赤城を拾ったのは、この鎮守府にとって正に天運だった。

 

 「あぁ、ついつい食べ過ぎちゃいそう…。」

 

 暖かくなった懐もとい胃袋をさすりながら、提督は夕飯を楽しみにしていた。

 

 ………

 

 「今夜は鮭の洋風マヨネーズ焼きですよ。」

 

 赤い弓道着から胸当てや肩の飛行甲板、弓矢と言った艤装を外し、白い割烹着を着た赤城の宣言と共に出された料理に、一同が目を見張った。

 鮭と言えば日本では主に塩焼き、他にはホイル焼きやちゃんちゃん焼きにスモークが精々、後は寿司ネタが主な消費だが、洋風でかつマヨネーズとなると戦前生まれの駆逐艦達にとっては完全に未知の領域だった。

 

 「頂きます!」

 

 しかし、あの赤城が不味い飯を作る訳がない。

 そんな信頼と共に、駆逐艦娘達は一斉に箸を付ける。

 優しいコンソメ味の野菜スープ。

 ブロッコリーとベーコン、エリンギ入りのキッシュ(生地の部分は食パンを敷き詰めて代用)。

 そして、メインディッシュの鮭の洋風マヨネーズ焼き。

 特に反応が大きかったのは、やはりメインのマヨネーズ焼きだ。

 極普通の塩をふってある鮭の表面に香草類を摺り込み、フライパンに刻んだ玉ねぎ(長葱でも可)を敷き詰め、そこにマヨネーズ適量とレモン酢少々をかけて蒸し焼きにする。

 ムニエルやエスカベッシュよりも遥かに簡単(流石にマリネには劣るが)なその料理は、しかし一切の臭みもなく、最初は躊躇もあった艦娘も提督も妖精達も、一口食べてからは迷いなく箸を進めていく。

 最初はレモン酢の酸味であっさりかつマヨネーズでクリーミーだが、蒸した事で適度に塩分の抜けた鮭の美味さに驚き、次いで鮭の塩分と旨味を存分に吸い、蒸した事で甘味の引き立たされた玉ねぎに感動する。

 キッシュも食パンから出来たとは思えない程にパリパリとした食感とクリーム部分の濃厚さとボリュームに満足する。

 このキッシュ、パンは処分品、クリーム部分は安売りしていたクリームシチューの素で作った濃いめのシチューに卵を入れて作ったものだと信じられるだろうか?

 そして、酸味とクリームの濃厚さで疲れた所に、合間合間に小口大の野菜の入ったコンソメスープが癒し、口直しをしてくれる。

 質・量共に大食らいの艦娘(駆逐艦は成人男性並)達が大満足な夕食となった。

 

 「ふふ、デザートだってあるんですよ?」

 

 そして、これである。

 赤城が持ってきたのはプリンだ。

 それも、大きなラーメンどんぶり一杯に入ったプリンだった。

 グラニュー糖に卵、牛乳を混ぜ、レンジで加熱して作ったものだが、お玉で器に分け、そこにカラメルソースをかける豪快さはプリンとはとても思えない。

 しかも、お好みでホイップクリームと缶詰の果物、更に緩くして塩を少々加えたこし餡に抹茶粉等のトッピングまで用意してあった。

 

 「美味い…!」

 

 例え、例えデブったとしても、これを食い逃す事は出来ない。

 デザートの登場に目の色を変えた駆逐艦娘と妖精達に続く形で、提督もまたこの大雑把ながらも豪勢なプリンへと挑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 この赤城の食事攻勢は、半年後の鳳翔加入まで続いた。

 しかし鳳翔加入後、二人による美味しい食事合戦に発展し、鎮守府のエンゲル係数が更なる高まりを見せ、提督の健康診断で問題が発生、提督のみ特別ヘルシーメニューへと移行する事となる。

 

 なお、特別ヘルシーメニューも味見した艦娘の発言から結局大人気になり、他の艦娘達も喜んで食べる事となった。

 




書いてたら腹が減ったな…


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FGO×デモベ第2話

拙作「助けて旧神様!」とFGOのクロスです。


 『良し、繋がった!誰か、生きているなら応答してくれ!』

 

 三人の混乱が収まったのは、カルデアのロマニ・アーキマンからの通信が入ってからの事だった。

 

 「ロマン!?何で医療部門の貴方が!レフはどうしたの!?」

 『アイエエエ!所長!所長ナンデ!?』

 

 何故かSRS(所長リアリティショック)を発症したロマンを何とか落ち着かせて話を聞くと、色々ととんでもない事態が明らかになってきた。

 カルデアに起きた爆発事故、否、タイミングからして恐らく爆破テロにより、施設機能はその殆どを喪失、活動可能な生存者は医療部門を中心に30名程で、コフィンに搭乗していたマスター候補達も全員が重傷であり、危篤状態で、更には外部との通信も断たれ、救援は絶望的との事だった。

 辛うじてカルデアス等の超重要施設の稼働を維持するための動力炉であるプロメテウスの火は維持されているが、出力は大分低下している状態であり、その影響で通信も後数分で切断する程に不安定な状態だった。

 

 「直ぐにコフィンのコールドスリープ機能を使って!生存が最優先よ!」

 『えぇ!?しかし、コールドスリープの使用は本人の許諾が無いと…』

 「生きてれば言い訳のしようがある!急いで!」

 『は、はい!直ぐに取り掛かります!では所長、これにて通信を終了します!幸運を!』

 

 ロマンの激励で終わった通信の内容に、オルガマリーは頭を抱えたくなった。

 

 (なんでこんな事になってんのよぉぉぉォォォォォォォッ!!)

 

 出来れば全てを忘れてベッドに入り、ゴロゴロしたい気分だったが、それも出来ない。

 今、自分の傍にいるのは素人同然のマスターと本来よりも能力の下がっているデミ・サーヴァント、そして何かマスターに反抗的なバーサーカーのみ。

 下手に弱みを見せようものなら、士気の崩壊すら在り得たし、この状況でそれは死と=で結ばれる。

 

 (なんとか、なんとかしないと…!)

 

 ぐるぐると頭が空回りする。

 元々彼女は事務・研究向きの人材であり、後方で指揮を取る予定だったのだ。

 前線指揮など、経験もレイシフトもマスター適正も無い彼女は一切心構えが出来ていなかった。

 まぁ、元々が優秀なので、経験と覚悟さえ決まれば、やるべき事は出来るだろうが。

 しかし、時間も何もかも足りない現状では、どうしようもなかった。

 

 「…取り敢えず、一旦セーフゾーンを確保して、情報収集に努めるべきね。」

 「ですが、何処が安全か情報が…。」

 

 何とか絞り出した答えに対するマシュの疑問は当然の事だった。

 何せ特異点化しているとは言え、事前情報のあった冬木市と比べ、地形が消し飛んでたり骸骨がうろついていたりするので、何処に行けばよいのか見当もつかなかった。

 

 「市内で何か所か質の良い霊地があるから、その中で一番近い場所を目指し、障害があれば排除します。バーサーカー!」

 「………。」

 

 所長の声に、正体不明の鋼の狂戦士は黙って視線を向ける。

 その目はじっとオルガマリーを見据えており、明らかに知性の、値踏みの色が見えた。

 

 「護衛をお願いします。マシュはまだデミ・サーヴァントに成り立てで、戦闘に不安があります。現状、真名も解らない貴方に頼るのは怖いけど、それでもお願いします。」

 

 頭を下げる。

 魔術師が、使い魔でしかないサーヴァントに。

 それは魔術師の常識としては明らかな異常だったが、それでも必要な事だった。

 何せ、このバーサーカーに対する令呪を、オルガマリーは持っていないのだ。

 自分の呼び声に応えこそすれ、この英霊を打ち据える鞭も、嵌める首輪も、力強い後押しも持っていないオルガマリーには、頼む事しか出来なかった。

 

 「■■■■■■■。」(まぁ良いだろう。)

 

 それをバーサーカーがどう受け取ったかは定かではない。

 しかし、一度頷いた後、真っ直ぐ霊地へと歩き出した事から、この英霊がこちらの指示に従ってくれた事は間違いなかった。

 

 「凄い、扱いの難しいバーサーカーが…。」

 「さ、行くわよ二人とも!」

 「は、はい!」

 

 かくして、カルデアから来た2人とデミ・サーヴァント、そして呼び出されたバーサーカーは歩き始めた。

 

 

 ……………

 

 

 「………。」

 

 索敵を密にしながら歩き続ける4人を、遠方から見つめる人影があった。

 褐色の肌に白髪、黒い胴鎧に護拳の付いた弓を持った男だ。

 彼こそはこの地の聖杯戦争に呼び出された弓兵、アーチャー。

 彼は鷹の目と言われるスキルを持って、カルデア一行を正確に捕捉していた。

 

 「迂闊だな。地下鉄でも通るべきだった。」

 

 とは言え、街全体が延焼している現在、迂闊に地下に籠ろうものなら、窒息の危険もあったのだが。

 

 「まぁ良い。仕事だ。」

 

 いつの間にか右手に握られていた矢を番え、その先を数km先を歩くカルデア一行へと向ける。

 

 「―――――体は剣で出来ている(I am the bone of my sword.)。」

 

 詠唱の直後、音速の倍以上の弾速で矢が放たれた。

 

 

 ……………

 

 

 「!」

 

 最初にそれに反応したのは、最も戦闘経験の長いバーサーカーだった。

 彼女は察知と同時、素早く全身の耐久性及び装甲を強化し、オルガマリーと立香を背後に庇える位置についた。

 次に反応したマシュも、遅れてバーサーカーの防御範囲からやや外れる位置へと移る。

 僅か数秒にも満たない間隙で、そこまでの動きが出来たのなら、及第点は超えているだろう。

 

 「■■……。」

 「っく!」

 「うわ!?」

 「きゃああああ!?」

 

 雨霰と連射される矢弾に、マスター二人が悲鳴を上げ、サーヴァント二人は耐え凌ぐ。

 マシュはその大楯で、バーサーカーは強化された全身の装甲で受け止め、マスター二人には掠り傷すら負わせない。

 これで少なくとも、アーチャーからの狙撃には対応できていた。

 

 「ではライダー、任せたぞ。」

 

 無論、その程度で終わる訳が無いのだが。

 

 「■■■■■■■■■―――ッ!!!」

 

 咆哮と共に轟音が鳴り響き、一行の背後に当たる位置から進行上にあったあらゆる障害を砕きながら、ライダーが突撃してきた。

 騎兵として呼ばれながら、しかし聖杯の泥による汚染によって狂戦士と化したライダーが襲い掛かる。

 黒い肌に金色の入れ墨を彫り、骨で出来た戦車に乗った巨漢の真名をダレイオス三世と言う。

 本来の理性あるクラスなら、征服王の好敵手と知られた王らしく、威厳ある立ち居振る舞いをする男なのだが、今の彼は周囲のあらゆる者が倒すべき征服王に見えており、憎悪と狂気のままに振る舞う様になっていた。

 無論、そんな状態では連携など取れる筈はないのだが、偶々近くに来ていたのをアーチャーが敢えて轟音を立てる様に狙撃を行い、更にダレイオスに対しても矢を射かけて注意を引き、誘導してみせたのだ。

 

 「■■■!」

 

 その騎兵突撃に、バーサーカーは過たず反応してみせた。

 その両肩、四角いウェポンコンテナの上面が展開、気体が抜ける様な音が連続し、何かが白煙を引きながら垂直に発射される。

 その何かはある程度上昇すると一様に反転、地表を目指し、ダレイオス目掛けて突き進んでいった。

 

 「■■■■■■■■■■!?」

 

 VLSより発射された、地対地ミサイル。

 それらは狙い違わず全てがダレイオスへと命中し、その進路を大きく反らせ、道沿いにあった雑居ビルへと盛大に突っ込ませた。

 ほぼ同時、狙撃地点と思われる高層ビルの屋上が爆発した。

 

 「っち」

 

 舌打ち一つ残し、自身を狙う生き残りのサーヴァントを視界に収めながら、邪魔が入ったアーチャーは即座に撤退する。

 元より、焦る意味は無い。

 この戦いは時間稼ぎであり、どうあってもこちらが有利だったから。

 

 「■■■■■■■■■■■■――ッ!!!」

 

 だが、そんなものはダレイオスに意味は無い。

 周囲全てが怨敵に見える彼にとって、誰も彼もが倒すべき敵でしかないのだから。

 咆哮と共に再度戦車を走らせ、カルデア一行目掛け突撃してくる。

 命中すれば、カルデアの魔術師達は間違いなく彼が先程蹂躙してきたビルの様に砕け散るか挽肉にされるだろう。

 だがしかし、彼がそれをする事は出来ない。

 この場には、二体もの心強い護衛がいるのだから。

 

 「バーサーカーはアタック、マシュはカバー!」

 「はい!」

 

 オルガマリーの指示に、咆哮一つ漏らさぬ狂戦士と共に、盾の乙女が駆ける。

 敏捷の差でバーサーカーが前に出て、未だ装甲と耐久性を強化したままの状態で、骨の戦車を受け止めた。

 

 「■■■■…!」

 「■■■■■■■■■■■ー!!」

 

 盛大にアスファルトを削りながら、しかし10mと滑らぬ内に、戦車はその勢いを殺され、更に戦車を曳く骨となった馬を砕かれ、前半分を持ち上げられて、完全に死に体となった。

 

 「えぇい!」

 「■■■■!!」

 

 そこを狙って、マシュが盾を前に構え、側面からぶち当たっていく。

 元より、これで仕留められるとは思っていない。

 重要なのは、狂っているとは言え、ライダーを乗り物から叩き落した事だ。

 騎兵であるライダーは、基本的に宝具たる乗り物に依存している。

 無論、そんなものが無くても強いと言う英霊もいるが、それは少数派であり、更に言えばクラス補正を受けられる状態の方が有利を取りやすい。

 如何な巨漢と言えど、殆ど無防備な状態で重量物の突進を不安定な乗り物の上で受ければ、落馬するしかない。

 

 「■■■■■■■■!!」

 

 この程度で!

 そう言わんばかりに両手に斧を持ち、暴風の様に暴れ回るが、その威力は明らかに先程の騎兵突撃より落ちている。

 

 「バーサーカー!」

 

 誰かのお蔭でアーチャーが撤退した今、目の前のライダーを倒すのに一辺の迷いもない。

 主からの声に、狂戦士は十二分に応えて魅せた。

 

 「■■■■…!」

 

 先程までの防御一辺倒の姿から、元の機械でありながら有機的なしなやかさを持った姿へと戻る。

 否、その右手だけは更に変質していた。

 回転式の弾倉に杭を接続した様な、先程のミサイルの様なハイテクな武装ではなく、弾薬による爆発力で杭を打ち付け、その衝撃を目標へと叩き込む近接兵装。

 その名をパイルバンカーと言った。 

 

 「■■…!」

 

 背面の装甲が開き、魔力を放出する事で爆発的な推進力を得ると同時、バーサーカーは踏み込んだ。

 肉体とスラスターの完全な同期による神速に近い域での踏み込みに、理性を失ったダレイオスは迎撃を選択した。

 丸太の様に太い両腕で繰り出される斧の双撃は、しかし背面だけでなく、肩部コンテナの背面が開き、スラスターへと変形、更なる加速によって懐に潜られる形で回避されてしまった。

 となれば、後はその右手の杭打機を防ぐ術は無い。

 

 ゴ!!

 

 まるで大型トラック同士が正面から衝突した様な音と共に、バーサーカーの右腕の杭がダレイオスの胸部へと突き刺さる。

 胸筋を易々と貫いた杭はそのまま胸骨を砕き、心臓に突き刺さり、ダレイオスの3mを優に超える巨体を僅かに浮き上がらせた。

 これにより肉体の持つ弾性が失われ、この後の衝撃が余さず肉体内部へと伝達される準備が出来た。

 次瞬、十分に杭が食い込んだと同時、回転弾倉の撃鉄が下ろされた。

 

 ズドンッッ!!!!!

 

 炸薬の燃焼時の圧力を、杭は余す事なくダレイオスの心臓へと叩き込んだ。

 結果、心臓にある霊核をその胸部ごと吹き飛ばされ、肉片がその背後へと放射状に盛大に飛び散った。

 霊核を砕き、胸部の大半を消し飛ばす一撃に、戦闘続行を持つにも関わらず、ライダー・ダレイオス三世は断末魔を残す事すら出来ず、肉片共々黄金のエーテルとなって消えていった。

 

 「絶対食らいたくないわね…。」

 

 その光景を見ていたオルガマリーの感想に、マシュと立香の二人は顔を青くしながらコクコクと頷く事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキル・変化A

 

 本来の状態よりも弱体化しているが、それでもなお実質的には最上級のAランクを誇る。

 父である■い■る■■の能力を受け継いだもので、凡そ何にでも変化できる。

 現在は主に比較的簡単かつ低コストな機械や銃火器類に変化している。

 だが、十分な魔力さえあれば、質量保存の法則を無視した大型兵器や乗り物等にも変化できる。

 

 効果 防御力UP(3T)・攻撃力UP(3T)

 

 



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FGO×デモベ第3話

うむむ、まともに描写すると際限なく執筆する事に…某氏の様な300話とか心が折れる(確信

一応、予定では大差ない部分は全スルーして(例:イベント特異点)、主人公の存在による変化とオルガマリーとの交流を主軸に描写していく予定です。
一つの特異点につき5話前後で、一話辺りは最低三千字位かな?

なお、10話以上になったら個別連載枠にしますので、それまで応援よろしくお願いします。


 比較的被害の少ない海岸近く、その一角にある武家屋敷。

 辛うじて被災を免れたその場所は、元々は名も無き魔術師の工房であったらしく、簡易ながらも魔術的な警報が仕掛けてあった。

 とは言え、既に機能を停止していたので、オルガマリーは手早くそれを復活させ、更に人除けの結界を重ねた上で、漸く腰を下ろした。

 

 「取り敢えず、状況を整理します。」

 

 そう言って茶の間のテーブルに付くと、オルガマリーは端末から冬木市の地図を表示した。

 それは元は平常時の冬木市の地図を指していたものだが、今はデータを更新したのか、レイシフトで出現した新都(大橋より)から現在の旧市街地までは地形の変化が記録されていた。

 そこには隕石でも降ってきたかの様な巨大クレーターやビームで焼き払ったかの様な長大な破壊痕が記録されており、この都市の現在の異常性を如実に物語っていた。

 

 「現在、私達は特異点となった冬木市にレイシフト。戦力はこの場の四人のみで、カルデアは消火活動と施設復旧及び要救助者への対処で手一杯。」

 

 そして、テーブルの上に七つのペンを置く。

 

 「恐らく、此処を破壊し、住民を殺傷したであろうサーヴァント達の対処をしつつ、この地の特異点を解消しなければなりません。」

 

 サーヴァント。

 本来、制御など絶対できない英霊を人間でも維持・運用できる様に矮小化した最上位の使い魔。

 それは熟練の魔術師であっても完全に御し切れるものではなく、最上位のサーヴァントに至っては唯一の安全機構である令呪すら易々と突破してのける。

 攻撃力に至っては、個体にもよるが単体で主要国家の軍隊を壊滅する事も可能な、人類が現在まで運用可能な兵器の中では最強の存在だ。

 

 「この地における聖杯戦争と言われる魔術儀式によって召喚された七騎のサーヴァント。彼らがこの事態の原因なら、聖杯をどうにかすれば解決します。」

 

 サーヴァントを運用するには、主に三つのものが必要となる。

 一つ、マスター。

 二つ、術式。

 三つ、魔力。

 これらの内どれか一つが欠ければ、一部の例外を除いて、サーヴァントは現世に自身を維持できなくなる。

 

 「あの、聖杯って何ですか?」

 

 素人である立香が質問した。

 話の腰を折る形だが、彼は素人であり、当然の疑問でもあった。

 

 「聖杯って言うのは、莫大な魔力を秘めた願望器よ。一部例外があるらしいけど、凡そ人間の想像できる事なら、何だって願いを叶えられる。えーと…ロマニが見ていたアニメでは、ドラ〇ンボールが近いわね。」

 

 何やらおかしな単語が出てきたが、純粋なマシュと現在はバーサーカーであるリーア&アーリも沈黙を保っているため、ツッコミ役は不在だった。

 魔術師として研鑚を積んでいた筈の彼女に日本のサブカルを教える辺り、ロマンの業は深い。

 まぁ、本人としてはカルデアにいながら出来るお手軽な娯楽のつもりなのだろうが、それにしても酷い。

 

 「じゃぁ、聖杯戦争はそれを奪い合うって事ですか?」

 「そうよ。何でも有りのバトルロイヤル形式で、最後に残ったマスターとサーヴァントが聖杯を手にするの。」

 

 だが、そうなるとおかしい事がある。

 

 「じゃぁ、何であの狙撃手と黒い大男は協力してたんでしょうか?」

 「そこがおかしいのよ。聖杯戦争で同盟を組む事はあるらしいけど、あの大男に関しては完全に理性なんて無かった。単に利用されたのか、それとも確たる指揮系統が存在するのか。その辺りも探りたい所ね。」

 

 恐らく、その辺りがこの地が特異点化した理由なのだろうと、オルガマリーは予想していた。

 元々聡明な彼女は一先ずの拠点を得た事で、それを取り戻していた。

  

 (意外と優秀だね。ヘタレで未熟だけど。)

 (あぁ、これなら割と行けそうだな。要訓練だが。)

 

 誰にも聞こえない半身同士の会話でも、オルガマリーは良くも悪くも正確に評価されていた。

 

 「で、こちらの戦力だけど…。」

 

 そこで、オルガマリーの顔が暗くなる。

 まぁ常識的に考えて絶望的であるので仕方ない。

 

 「まともな魔術師は私だけで令呪無しのバーサーカー。残りは素人とデミ・サーヴァントに成り立てで宝具も使えない…。」

 「すみません所長。私の未熟のせいで…。」

 

 傍から見れば絶望的だった。

 未だに六騎はいるであろう他のサーヴァントとの戦闘を思うと、どうしても戦力が足りないのに、増援の気配は一切ない。

 いじめか?と問いたくなる状況だった。

 

 (まぁ、マシュに関してはそうしなければならなかったろうがな。)

 

 彼女の持つ大楯から、リーア達は正確にその真名を読み取っていた。

 円卓の13席にして純潔の騎士、ギャラハッド又はガラハッド。

 父である円卓最強と名高いランスロットを超える実力を持った、聖杯獲得の騎士にして、恐らくこの世で最も清らかな騎士だ。

 そんな英霊を受け入れれば、普通は人体がパンクする。

 デザインベビーであるマシュは何とか彼を収められる器を持っていた。

 だが、そのままギャラハッドが主導権を握れば、未熟な彼女ではそのまま魂も人格も記憶も、何もかも消えていただろう。

 だからこそ、こうして意識を最低レベルまで落とし込み、宝具の解放すら修練無しでは出来ない程に弱体化させる必要があったのだ。

 もし彼女が爆破工作によって致命傷を負わなければ、ギャラハッドはマシュの中で彼女が死ぬまで眠り続けただろう。

 

 「なので、可能な限り交戦は控え、目標を達成する必要があります。そのためにも、先ずは情報収集を行います。既に使い魔は飛ばしましたので、多少の収穫は…」

 「■■■■■。」

 

 不意に、表向き沈黙を保っていたバーサーカーが唸り声を上げ、視線を玄関の方へと向けた。

 

 「どうしたの?」

 

 まさか敵襲か?

 そう考えた一同が腰を上げた瞬間、ピンポーン、と極普通のチャイムが鳴り響いた。

 

 「「「「…………。」」」」

 

 一瞬、無言で顔を見合わせる一同。

 

 「バーサーカー、対応を。」

 「………。」

 

 無言で立ち上がり、玄関へと進むバーサーカー。

 だが、その背中からは闘争の気配がない。

 

 「マシュ、一応私と藤丸の護衛を。」

 「はい!」

 「藤丸はマシュの後ろにいなさい。絶対に前に出ず、マシュから離れないように。」

 「わ、分かりました。」

 

 そして、玄関では

 

 「ちーす。ちょっと話したい事があるんだが、時間いーか?」

 

 何かチャラそうな兄ちゃんが現れた。

 

 

 ……………  

 

 

 チャラそうな兄ちゃん、もといキャスターのクー・フーリンからの情報により、凡その事情は把握できた。

 曰く、この聖杯戦争は狂ってしまった。

 最優の騎士にして、清廉であったセイバーが突如属性反転し、未だ戦争が終わっていないのに聖杯を獲得した。

 更には他のサーヴァントに襲い掛かり、仕留めた傍から聖杯の力によって自身の手駒としていった。

 残った正常なサーヴァントは己のみであり、事態の解決を目指すなら協力を惜しまない。

 それがキャスターの言い分だった。

 

 「分かりました。その話、お受けします。」

 「話が早くて助かるぜ。こっちも一人じゃジリ貧でよ。」

 

 事実、キャスターも結構消耗しており、直ぐに危ういと言う程ではないが、宝具の使用は極力控えた方が良いと言うのが実情だった。

 

 「んで、そっちの戦力はどうなってるんだ?」

 「それなんだけど…。」

 

 オルガマリーは素直に大英雄に真実を話した。

 

 

 ……………

 

 

 キャスターとの合流から一時間程。

 武家屋敷での休憩を挟んだ後、一同は聖杯戦争の中枢である大聖杯がある、事件の首謀者と思われるセイバーの根城へと向かっていた…

 

 「さて、とっとと片さねーとドンドン来るぞー。」

 「は、はい!」

 

 のだが、今は大量のスケルトンを相手にマシュが戦闘訓練をしていた。

 

 「宝具ってのは本能だ。英霊なら誰だって使える。後付けだから自覚し辛いだけでな。」

 

 マシュはデミ・サーヴァントとして覚醒したものの、未だに英霊の真名も、宝具の解放すら出来ない。

 それはいけない。

 恐らく防御宝具であろう盾が無ければ、この先に待つセイバーに蹂躙されるだけだ。

 

 「つー訳で訓練だ。何、死なない程度にしてやるから安心しな。」

 「ちっとも安心できない!」

 

 立香の叫びはもっともだった。

 流石はケルト、戦に関しては修羅勢である。

 

 「なんで私にルーン刻むのよ!?」

 「いや、坊主だと自衛も出来ねぇだろ?」

 

 勝手に背中にルーンで厄寄せの魔術を刻まれたオルガマリーが憤慨している。

 まぁ立香にやって死亡しようものなら人理崩壊不可避なので仕方ない。

 

 「バーサーカー!頼むから守ってよ!?」

 「………。」

 「無視しないでよォォォォォォォォォ!!」

 

 絶叫するオルガマリーの横、あらぬ方向を見て直立する鋼の狂戦士は黙して語らない。

 まぁ狂戦士だしね、会話能力は無いからね、仕方ないよネ。

 とは言え、仕事をしていない訳ではない。

 

 (どうだ?)

 (通信回線は軍用も含めて全滅。生存反応は周囲数十km内には微生物を除いて無し。)

 

 頭部のブレードアンテナが内部構造を展開、この時代、この国からアクセスできるだろうあらゆる通信を感知しようとしているのだが……全く感知出来ない。

 辛うじて都市としての形骸が残っているこの冬木市でも、電波すら殆ど感知出来ない。

 それはつまり、この世界の人類はこの場にいる三人とカルデアにいるであろう面々を残して、絶滅したと言う事に他ならない。

 

 (こりゃまた根が深そうだな。)

 (後、雲の上のアレだけどさ…。)

 

 二人の目、最高位の千里眼に準ずる、極近い時間帯なら未来も過去も見える二人の目には、地表を睥睨する光の帯がしっかりと見えていた。

 

 (どうも焼いたのはアレじゃないみたいだ。)

 (何?)

 (あれ、焼けた地表の熱量を吸収してるぜ。此処はそこまで吸収されてないから、寒くはないけど。)

 

 つまり、あの光帯は手段であって、目的ではない。

 確保した熱量を持って、何かをするのが黒幕の目的なのだ。

 

 (…現状では情報が足りなすぎるな。)

 (だねぇ。)

 

 となれば、先ずは情報収集だろう。

 幸い、この三人の所属するカルデアなる組織は元々こうした事態のための組織らしく、態々異なる時間軸からこの時代の冬木市にやってきたらしい。

 事実、先程の通信は時間を遡って送られてきていたため、本当の事なのだろう。

 

 (恐らく、彼女達が事態の解決を図る英雄だな。)

 (となりゃー、アイツらについてくのが近道か。)

 

 この世界が所謂型月系列である事は以前から分かっていたので、その点に疑問は無い。

 強いて言えば、あの菌糸類が仕事したのかー、程度の感慨でしかない。

 

 (黒幕どつくのはまだまだ先って事か。)

 (とは言え、現地住民で対処できるなら、その方が良い。)

 

 型月の世界は厄ネタの宝庫であり、世界が滅びるのも極普通に在り得る。

 しかも、それを観測する上位存在が何体も確認されているため、下手な行動も取れないのだ。

 最悪の場合、鋼の大地へと至るまでもなく、アリストテレス全員との戦争になる可能性すらあった。

 

 (ま、気長に行こうや。)

 (だな。)

 「お願いだから無視しないでよォォォォォォォォォ!!」

 

 二度目の絶叫から目を反らしながら、この世界最大の異分子は静かに潜伏を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




漸くCCCコラボ全ミッション終了。

なお、ガチャ結果は二万課金して何とかキアラ以外のご新規を全員ゲット
オミヤ?彼は以前の新宿で当てましたので。


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FGO短編 フンババが逝く 遊星からの使者編

エクステリア遊んでたらネタが降りてきたので投下。
いつも通りネタバレ注意


 2017年 カルデアにて

 

 「ねぇ、フンババ。」

 「はい?」

 

 白い貫頭衣に金の長髪と金の瞳、エンキドゥに似た中性的な容姿を持った太古の怪物に、立香は問うた。

 本来なら全長50mもの獅子頭の巨人か、巨大な獅子の姿である原初の獣は、今はサーヴァントとしてカルデアの食堂で緑茶を啜っていた。

 

 「フンババは怒った事ってあるの?」

 

 基本的に温厚で、自分から誰かに突っかかる事も無く、突っかかられても普段は距離を取って近づかない位には争いを嫌うのがフンババだ。

 まぁ、それは無駄な消耗を嫌う獣としての性がそうさせているのだが。

 神話では森の番人をしていたため、逃げる訳にもいかなかったのだが、もし番人でもなんでもなかった場合、フンババは今もなおこの星の何処かで生きていたかもしれない。

 

 「ギルガメッシュ王との事は例外として…まぁありましたよ。大分昔の事ですが。」

 

 そんな原初の獣にも例外というものがあった。

 

 「あれはそう、この時代から1万4千年前の事でしたね。当時の私はガーデニングに凝っていて、それを邪魔されたんですよ。」

 

 

 ……………

 

 

 1万4千年前、地球へと超文明の被造物が飛来した。

 一見して彗星に見えるそれは、兵器だった。

 その名を捕食遊星ヴェルバーと言った。

 それは神の鞭とも言うべき存在だった。

 同格であるムーンセル・オートマトンが神の目であるなら、あらゆる者を執拗に破壊するその存在は、正しく神の鞭だった。

 当時の地球にあったあらゆる文明は焼き払われ、あらゆる生物は汚染され、肥大化し、自壊するまで駆け抜けて、更に汚染を広げた果てに死んでいった。

 執拗に、執念深く、念入りに、地球上のあらゆるものが焼き払われた。

 だが、地上に降り立ったヴェルバーの端末、32mもの女性型の巨人にして、他天体からの増援すら駆逐したセファールが、ある地域を焼いた時、唐突にその身体をくの字に曲げながら吹き飛ばされた。

 彼女が焼いた地域、そこはフンババが何年もかけて環境を整えた、己の庭だった。

 川を引き、湖を掘り、土を山盛りにし、好みの植物を丁寧に植え、動物達も暮らせる様にと頑張って作った、フンババの趣味の産物だった。

 ちょっとお昼寝(数か月単位)していたと思ったら、唐突に余所からやってきた妙なのが自分の趣味で作った成果物を焼いたのだ。

 許せる訳が無い。

 獅子頭の巨人形態であったフンババは状況を把握した直後、白いヴェールの様なものとウサ耳の様な突起を頭から伸ばしている馬鹿に全力で蹴りを入れた。

 

 「■■■……!?」

 

 この星に、自分を止められる存在はいない。

 それがセファールの認識だった。

 しかしどうだろう。

 今、巨神はこの降り立った星の土を舐めさせられていた。

 

 「■■■■■■■■■ッ!!」

 

 咆哮し、激情のまま起き上がり、その腕から魔力による刀身を形成し、自身へと無防備に近づいてきた獅子頭の巨人へと振るう。

 

 「■■!?」

 「………。」

 

 だが、通じない。

 巨体でありながら素早い挙動であったが故に、腕の一振りでそれこそ隕石の衝突クラスの威力である一撃は、しかし、七つの輝きを持つフンババには通じない。

 元より、原初の大気すらまともに存在しなかった地球では宇宙からの隕石などそう珍しくもない。

 その程度の威力では、フンババは小揺るぎもしない。

 

 「………。」

 「■っ!■!?■■!!」

 

 フンババは何も話さない。

 ただ自身の怒りのまま、目の前の馬鹿を殺そうと拳を振るい、防御しようとする巨神の両腕を、その防御の上から砕いていく。

 滅多にないフンババの怒り、それを前にして破壊する事しか知らなかった巨神は一方的に殴られた。

 術理も何もあったものではない。

 ただ圧倒的な性能差で、巨神のアルテラは滅多打ちにされた。

 

 「■、■■…。」

 

 この星の原種生命全ての天敵であった筈の遊星よりの使者は、今やもうその巨体を力無く地に伏せていた。

 魔力吸収による自己強化も、純粋な筋力による打撃を相手にしては意味を成さない。

 この星の、否、太陽系全ての生命にとっての天敵である筈のセファールは、此処に敗北した。

 知性らしい知性を戦闘に用いなかった、原初の獣を相手に、一方的に蹂躙されたのだ。

 

 「………。」

 

 フンババはセファールの頭部をむんずと掴み上げると、そのまま振り回し始めた。

 ブォンブォンと回転を始めたセファールは、ただでさえズタボロだった全身の構造体が更にバラバラになっていくが、そんな事はフンババの関知するところではない。

 

 「………!」

 

 ボッと、大気を引き裂きながら、32mもの巨人が彼方へと投じられた。

 50mもの巨体を持つフンババにとっては、多少大き目のゴミ程度に感じられるセファールは、その勢いのまま一切減速せず、山を越え、雲を突き抜け、成層圏、中間圏、熱圏を次々と突破し……遂には静止衛星軌道上で地球を観測していた遊星へと突き刺さった。

 その衝撃たるや、神の鞭たるヴェルバーにとって完全に未知のものだった。

 或は、星を滅ぼす程の大質量の隕石と正面衝突すれば、同程度の威力を観測できるかもしれない。

 問題なのは、遊星そのものが崩壊しかねない程の衝撃を受けたと言う事だった。

 この損傷により、遊星は一年間程活動を停止、月方面への侵攻も中止してまで、自身の修復へと注力し始めた。

 これによりムーンセル・オートマトンは自身の中枢を虚数空間へと移す事で、記憶領域への侵攻の完全阻止に成功した。

 

 

 ……………

 

 

 「あぁ、平和だなぁ…。」

 

 のんびりと、フンババは燃やされた庭を修復し始めた。

 自身の能力で植物の生育に最適な環境へと燃えてしまった土壌を変化させ、更に辛うじて燃え残っていた植物から種を採取し、それを撒いていく。

 変質してしまった動物達は泣く泣く殺処分したものの、無事だった者(人間・人外含む)は食料・住居を与えた上で、丁寧に世話をした。

 途中から知性を持った者達が積極的に協力してくれた事もあり、修復は思いの他順調に進んだ。

 そしてあの大馬鹿者の一件から丁度一年、フンババの感覚に何かが引っ掛かった。

 見上げれば、宇宙から隕石が降ってきた。

 直径だけでも50mを超えるソレにフンババは驚くと共に、既知感を感じ取った。

 別に隕石だけなら珍しくもない。

 大小無数の隕石など、原初の地球ではよく降ってきたものだ。

 問題なのは、あの一年前の馬鹿と同じ匂いがしていた事だった。

 

 「おし、殺そう。」

 

 フンババは即効で決意した。

 基本的に誰も憎まず、恨まない奴だが、縄張りを荒らす者は殺すのが獣としての流儀だ。

 

 

 ……………

 

 

 「■■■……。」

 

 隕石どころか既に小惑星サイズの巨石の中に身を隠し、攻撃の瞬間を待っていたヴェルバー02ことセファールは思った。

 即ち、もうやだ帰りたい、と。

 何せ今から自分が特攻する相手は、一年前に自分を散々に打ち破り、遊星本体へと大ダメージを与えた化け物なのだ。

 神の鞭たる自分が化け物呼ばわりとはアホな話だが、そうとしか言いようがない。

 だが、本体であるヴェルバー01には感情は無い。

 なもんで、定められた破壊を実行するしか能がなく、破壊し損ねたこの星の生命を今度こそ確実に破壊しようとしていた。

 止せば良いのに、この星ごと。

 大質量の小惑星と共に端末たるセファールを射出し、衝突の瞬間に最大火力を以て、あの獅子頭の巨人を撃破する。

 完全に捨て駒だが、これ以上の攻撃手段はそれこそ遊星本体を地表に激突させる位しかない。

 そして、一年かけて修復した遊星は強化したセファールに命じ、地球破壊作戦を実行したのだ。

 

 「■■■■■■■■■…。」

 

 だが、これでも駄目だったらしい。

 地表の巨人から、観測した事が無い程のエネルギーを感知しながら、セファールの心中を諦観が満たしていった。

 

 

 ……………

 

 

 「『原始惑星・七大罪』!」

 

 必殺技は叫ぶもの。

 そんなお約束と共に、フンババは自身の最強の火力を放った。

 それも普段使う様な全方位に広げる浸食型固有結界の様なものではなく、一方向に光線の様に照射する。

 それはこの星の神々ですら扱えぬ程の権能を超えた力であり、この星の系統樹に属さぬ異端の力であり、この星の力を一点へと集めたものだった。

 この星が最も力強く、ただ一つの例外を除いて一切の生命の存在を許さなかった頃の力を、更に収束させたものを前にしては、嘗て竜達を絶滅させたものと同程度の小惑星とて例外ではない。

 七色の地獄の具現たる光線は狙い過たずに大気との摩擦で赤熱化していた小惑星に命中、その質量の過半を消滅させた。

 残りは爆散し、各地へと降り注ぐだろうが…小惑星の衝突よりはマシだろう。

 

 「…まぁこれ位で許してあげましょう。」

 

 大き目の塊がモンゴル方面へと落着するのを確認しつつ、フンババは庭仕事へと戻った。

 …決して(ちょっとやり過ぎたかな?まぁ気は晴れたしこの辺で許してあげよう)とは思っていない。

 

 

 ……………

 

 

 「とまぁ、こんな事がありましたね。」

 

 ズズズ、とすっかり温くなってしまった緑茶を啜りながら、フンババは朗らかにそう言った。

 

 「そ、そう…。」

 

 対して、立香はドン引きしていた。

 どう考えても聞かなかった方が良いトンデモ系の話だった。

 正直、全貌を知っているであろう千里眼持ち達に話を聞きたいが、これ以上聞いたらもっとやばいネタに首突っ込む事になるぞ!と人理修復で鍛えられた直感が叫んでいたので、この話はここまでにしたかった。

 だって、話の途中で食堂に入ってきた月の聖杯戦争に参加したってメンバーは顔色真っ青、顔面引き攣り状態でこっち見てるんだもの!

 アルテラに至っては無表情はそのままに全身がガタガタ音を立てる位に震えてるし!

 

 「と、所で、アルテラに何か思う所はある?」

 

 ビクン!と大げさにアルテラが震えるが、これはマスターとしては聞いておかなければならない。

 場合によっては編成や今後のカルデアの運営に関わる事だった。

 インド兄弟や頼光と鬼娘二人の様に、顔を合わせれば直ぐに戦争する様では、それこそカルデアが吹き飛びかねないからだ。

 

 「あぁ、それなら大丈夫ですよ。あの時暴れたので、鬱憤は大分晴れましたから。」

 

 のほほんと語る様は、普段の日だまりで眠る猫の様に穏やかなフンババだった。

 

 「そっか…。」

 「でも…」

 

 安堵したと同時、不意にフンババの笑みの形となっていた目がギラリと光り、口元が耳まで裂け、口内の鮫の様な鋭くビッシリと生え揃った牙が剥き出しになる。

 

 「次は、ありませんよ?」

 

 笑顔とは本来攻撃的であり、獣が牙を剥く行為が原点である。

 

 「……!」

 

 フンババの本気の威嚇と警告に、立香はただ黙って頭をガクガクと頷かせるしか出来なかった。

 様子を見ていた英霊達は一様に顔を引き攣らせるか、警戒を露わにしているが、正直英雄王でも一対一では圧倒される様な怪物相手では、如何にカルデアの誇る英霊達でも分が悪かった。

 

 「まぁ、もう会う事も無いでしょうけど。」

 

 ズズズと、最後に残った緑茶を啜りながら、フンババはそう締めた。

 

 (フラグ乙。)

 

 だが、フンババのセリフはどう考えても立香にはフラグにしか聞こえなかった。

 

 

 なお、過去のトラウマが刺激されたのか、アルテラは気絶していた。

 

 

 ……………

 

 

 音もなく、暗黒の宇宙を一つの小惑星が進んでいく。

 それは既に地球上からの光学観測でも確認されており、計算上1万4千年前にも地球に飛来したと言われる大型の彗星だった。

 だが、地球上の人類は未だ知らない。

 その中に潜む、嘗てこの星の、太陽系の全生命体にとって脅威となった存在を。

 その存在が嘗ての敗北を忘れておらず、その対策を1万4千年もかけて行っていた事を。

 今はまだ、誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 




セファール「よし、何とか生き延びた…」
聖剣使い「|ω・`)ノ ヤァ」
セファール「」
聖剣使い「エクスッカリバーーー!」

以後、何とか逃げ延びたセファールは仮死状態となって癒えるまで休眠しましたが、ある程度回復すると使い魔(分体)を派遣して情報収集とかしてました。


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GS美神短編 政樹が逝く

鬼道政樹の転生SS
よく見ると、結構転生先として有望そうなキャラがたくさんいて、こうした作品を書くのが楽しいですね、GSって。


 気づいたら、GS世界に転生していた。

 

 何を言っているのかry

 と言うポルナレフネタは自重して、さてどうすべきだろうか?

 テレビからGSや霊現象等の単語、カレンダーの日付から、今現在が原作開始前のGS世界だと分かってしまった。

 或はパラレルワールドかもしれないが、それはそれとして色々考える必要がある。

 この世界、結構な厄ネタがゴロゴロ転がっており、主人公達GSがその多くを解決する訳だが、例え一般市民でもそれなりの確率で巻き込まれるのだ。

 魔神アシュタロス事件を筆頭に、妖怪死津喪比女による日本全域への花粉攻撃やバイパーの様な賞金首がかかった妖怪や悪魔等、一般市民が大勢巻き込まれる大事件も多い。

 となれば、自衛手段位は持っていた方が良いだろう。

 なら、霊能を鍛えた方が良いと思ったのだが…

 

 「よしよし、お前の名前は政樹にしよう。鬼道家の跡継ぎとして、立派に育つんだぞ。」

 

 ら〇ま二分の一の天道早雲の様な見た目のおっさんがまだ赤ん坊のオレを抱き上げて、そう告げた。

 鬼道政樹。

 それは原作において屑な父親と天然過ぎる幼馴染を持ったが故に人生を思いっきり歪ませられた青年の名だった。

 

 

 ……………

 

 

 物心ついた頃から訓練・修行・鍛錬の毎日だった。

 年頃の子供らしい遊びなんて出来なかった。

 まぁこの時代のプラモもゲームも、平成20年代のそれに慣れていた自分にも物足りないから別に良かったのだが。

 それに、霊能と言う物への探求が予想以上に面白かったと言うのもある。

 自分の家の霊能、つまりこの肉体に宿る霊的才能が式神の使役に特化しているだけあり、そっち方面の技術の一つである折り紙の鶴を折って、それを操る技なんて感動すら覚えた。

 父親の技は子供の自分とは異なり、確かに研鑚を感じさせるもので、その点に関しては素直に尊敬出来た。

 その点だけは、だが…。

 

 何せこの糞親父、女遊びやギャンブル、無軌道な投資や経営をやっており、霊能以外の才能は無いと言って良い。

 自覚して堅実な経営と節制に努めれば良いものの、半端に霊能だけは優秀なので、周囲の人間の言う事も聞かずに先祖代々が蓄えてきた財産を急速に食い潰していった。

 しかも、周囲の人間も諫言していた者は遠ざけられた事から見切りをつけ、優秀な人材は次々と去って行き、残ったのはおべっかを使うだけのイエスマンか密かに財産を懐に入れる様な者達だけで、最早どうにもならない状態だった。

 恐らく、自分が学校に入る頃には無一文かそれに近い状態になっている事だろう。

 

 (うん、見切りつけるか。)

 

 幸いと言うべきか、母親の方も不倫しまくりのビッチ(まぁ夫がこれじゃ仕方ない面もあるだろうが)なので、心置きなく見捨てる事が出来る。

 幸いにも、既に自分はこの家の最大の財産を持っており、一番大事な準備は出来ていた。

 そう、先祖代々から受け継がれた式神、夜叉丸である。

 通常は元服と共に式神の譲渡を行うのだが、何を思ったのか、糞親父は六道家の跡取り娘である冥子に対抗して、同じ時期に式神の譲渡を行ったのだ。

 現当主である六道冥那に対して糞親父が勝手に確執を持っているが故なのだが……まぁこの場合は助かったので良しとしよう。

 さて、この夜叉丸だが、男性の平安装束を来た人型の外見をしており、武器を使うだけの知能だけでなく、術者からの指示さえあれば、簡単なものだが術を使う事も出来る。

 明らかにただの式神ではなかった。

 実際、自分からの霊力の供給だけでなく、食事を分けたら嬉しそうに食べていた。

 特に見た目華やかな甘味の類を。

 だが、お酒の類は甘酒や果実酒を除いて、余り強いのは好きじゃないみたいだった。

 フルーツタルトをあげた時など、感動で震えてすらいた。

 式神として契約しているためか、感情の機微は伝わってくるのだが、夜叉丸から感じる霊力は明らかに式神としてはオーバースペックだった。

 恐らくだが、伝承にある役小角の前鬼後鬼夫婦の様に、本来なら名のある鬼や妖怪だったのだろう。

 それを調伏して式神としたのが、恐らく平安時代からそれより少し後位の鬼道家の先祖なのだろう。

 実際、家系図を見てみたら、平安時代後期辺りから記録が始まっていたので、恐らくだが元々は陰陽寮辺りで術を学んだ術者だったのだろう。

 こういった事例は古い家には割とありそうで、是非とも紐解いてみたいものだ。

 

 閑話休題/それはさて置き

 

 これにより、夜叉丸の正体が大体絞れた。

 丁度その辺りの時代に、夜叉丸かそれに近い名を持つ人物は3人いる。

 一人は坂上田村麻呂の家臣となった、犬神丸の手下である鬼人の夜叉丸。

 もう一人はあの平将門公の娘にして高名な呪術師でもある滝夜叉姫に仕えた夜叉丸。

 そして、少し違うのだが、二番目の夜叉丸の主だった滝夜叉姫だ。

 だが、そこで先に上げた食べ物の好みが出てくる。

 鬼と言う種族は、昔から強い酒を好む、力の強い種族だが、それに反する様に自分の式神は寧ろ細やかな霊力操作や甘味好きという事で、もうこれは間違いないだろうと思って声をかけてみたのだ。

 

 「ねぇ夜叉丸…ううん、五月姫って呼んだ方が良いかな?」

 「!!!」

 

 誰もいない森の中、事前に簡単な式を打って人払いをしていた場所で、自分は遂に我慢できずに夜叉丸の本当の名(恐らくだが)を呼んでみた。

 それに対する反応は劇的だった。

 ブワッと、風と共に押し込められていた霊力が式神としての殻を破り、結界内を急速に満たし、遂には突き破っていく。

 余りの密度と勢いに腕で顔を庇う。

 明らかに尋常ではなかった。

 その量たるや、名のある神社に行っても現代では早々感じる事の出来ない程のものだった。

 霊力が納まって顔を上げると、そこには美しい女性がいた。

 纏っている衣服や小さな双角こそ式神であった頃のままだが、その顔は人間同様の目鼻がある美人であり、本人すらその事に驚愕している様だった。

 

 「は、ははは…」

 

 ペタペタと、顔を触り、手足を確認すると、不意に滝夜叉姫は笑い出した。

 

 「あはははははははははははははははははははははははははは!!」

 

 うーん、早まったかもしれない。

 嬉しさと開放感に大爆笑する滝夜叉姫だが、そこには溜まり溜まった鬱憤が感じられた。

 感じる霊力もとてもではないが糞親父や自分でどうにか出来る範囲には無かった。

 シャーネー逃げるか、と思ったらグリンと滝夜叉姫がこちらを向き、ギラリと目を輝かせた。

 

 「礼を言うぞ政樹よ!よくも我が名を取り戻してくれた!これで妾は自由だ!」

 

 もうすんごい嬉しい!

 そんな感情を全身から放つ滝夜叉姫は一瞬でこちらに接近すると、あらん限りの力でこちらを抱き締めてきた。

 式神の頃とは違った豊かな感触に顔が自然と赤くなるが、それよりも確認するべき事が沢山あった。

 

 「して政樹よ。どうして妾の名が分かったのだ?普通、鬼の夜叉丸の方だと考えるものだが。」

 「いや、名を奪って、本来よりも格の低い名前を付けて弱体化させるのって、神話や伝承では割と普通でしょ?」

 

 実際、神話や伝承で名前を変えて古い神格を怪物や悪神として取り込む事はよくある事だ。

 ゾロアスター教や基督教、ギリシャ神話等がそれに当たるし、この世界の魔族とはそう言った存在が多い。

 

 「それとて可能性の話であろう?」

 「後、食べ物の好みが女の子だった。」

 「くは!まさかそんな事で気づかれるとはの!」

 

 呵々と優雅に笑う様は、確かに彼女が平家と言う皇族の血を継ぐ姫君である事を物語っていた。

 

 「それで滝夜叉姫様は…」

 「良い良い。滝夜叉と呼んで構わぬぞ。何せ其方は恩人だしな。」

 「え、でも…。」

 「ん?妾の決定に何か異議でもあるのか?」

 「イエナンデモアリマセン。」

 

 凄むと実力差もあって凄い怖いっすね。

 

 「それで、滝夜叉様は…」

 「んん?」

 「…滝夜叉はどうして式神なんてやってたの?」

 「それはのう…。」

 

 曰く、本来の滝夜叉姫もとい五月姫は既に死亡しているのだとか。

 だが、生前も美しい女人でありながら尼として過ごし、往生したのだが、東北の虐げられていた人々が持つ父への忠誠や朝廷への怨念はその娘である五月姫が尼となっても向けられた。

 何時しかそうした念は形を持ち、滝夜叉姫となって鬼達と虐げられた農民、更に朝廷に従わないまつろわぬ民をも率いて、朝廷とその民に災いを齎したのだとか。

 つまり、この滝夜叉姫はGS原作において道真公が神霊となる時に分離した怨念と同質の存在なのだ。

 で、当時の陰陽寮と日本仏教界の僧らが何とか封じてみせた。

 多くの鬼達は坂上田村麻呂と妻である鈴鹿御前に討たれながら、彼女だけは封じられた。

 しかしその後、立て続けの外敵によって脅かされた朝廷は弱体化、陰陽寮も当時の政治的混乱によって滝夜叉姫が封じられた呪具も行方不明となってしまった。

 それは当時陰陽寮に所属していた鬼道家の祖先の仕業で、その男は陰陽術を駆使し、滝夜叉姫の名を奪い、厳重に弱体化した後に己の式神とした。

 それ以後、滝夜叉姫はずっと鬼道家の式神として仕えてきた。

 しかし、その封印も時と共に徐々に綻んでいった。

 そして、平安から1000年の時を経た平成の世に成って、一番大事で強固な名前による弱体化と連動した式神としての契約だけが残った。

 蔵に残ってた資料には恐らくだがもう残ってはいまい(口伝レベルではあるかもだが)。

 だが、悪い事だけではなかった。

 確かに隷属させられた事には怒りを抱いたが、同時に彼女は長い歴史を見つめ続けてきた。

 それは朝廷から武士へ、武士から幕府へ、幕府から政府へと続くこの日本の呪術的側面からの貴重な光景であり、何より思念系の怨霊と言う厄介な存在であった彼女が達観を抱くには十分な経験だった。

 達観、即ち盛者必衰の理だった。

 あんなに権勢を誇った朝廷も、平家も源家も、大名や幕府、そして政府すら時の流れの中に滅んでいった。

 今更当時の生き残りが一人もいないこの時代に叛旗を翻した所で、誰も自分にはついてこないだろう。

 それが霊能の家と共に生きてきた滝夜叉姫の結論だった。

 

 「じゃぁ、今は何がしたいの?」

 「そうさな…お主と共に甘味巡りなどどうだ?」

 

 それは実に平和な願いだった。

 

 「なら、鬼道の家を出よう。あそこにいたって、貧乏暮らしになるのが目に見えてるし。」

 「だの。明らかに没落まっしぐらじゃよ、あの男は。」

 

 現状でも既に使用人への給与未払いが出始めており、明らかに没落寸前だ。

 あれ程傍若無人で愚かしいのは珍しいからのぅ、とは糞親父を子供の頃から見ていた滝夜叉姫の言。

 鬼道家の始まりから存在した彼女からして、あの糞親父は本当に酷いらしい。

 

 「じゃぁ、将来的には霊能生かしてGSをやろう。それならお金も沢山稼げるし、滝夜叉の好きなケーキもたくさん食べられるよ。」

 「それは良いな。」

 

 自分も酒よか甘いものが好きなので、滝夜叉の提案は嬉しい。

 しかし、その前にするべき事がある。

 

 「一応、あの糞親父との縁を綺麗に切っておかないと。その上で何処か成人するまで保護してくれる人を見つけるべきだね。」

 「ふむふむ…妾と共に売り込めば、そこそこ良い家に潜り込めるかの?」

 

 取り敢えず、完全に没落し切る前に抜け出す事が肝要だった。

 そして、保護してくれる家に関してだが、最適な家が既に存在していた。

 

 

 ……………

 

 

 半年後、自分は糞親父と共に六道家を訪れていた。

 この半年、滝夜叉に霊能を鍛えてもらった。

 家での修行と共に行うそれはとても厳しかったが、現代では失伝してしまった多くの知識を当時の一流の人物から直接教わるのだ。

 今の自分の知識と技術は霊能分野に限れば凄まじい価値を持っていると断言できる。

 とは言えまだまだ未熟なので、日々精進するのみだが。

 で、ガサガサと六道家の洋風の屋敷の庭を散策する。

 糞親父は館で六道当主との話し合いをしているが、付けていた折り鶴式神による盗聴ではマジで心抉る形で自身の失敗を指摘されまくっていた。

 うん…言葉の暴力って怖い…。

 そんなだから恨まれるんだよ冥那さん…。

 

 (政樹、いたぞ。)

 (分かった。)

 

 漸く見つけた。

 庭にいる自分と同じ位の女の子、六道家の一人娘にして跡取りの六道冥子だ。

 その性格は天然故に人の最も痛い所を意識せずに突き付けて抉ると言う、友達全くいない子の典型みたいな子だ。

 

 「あら~~?貴方はだれ~~?」

 「あ、僕は鬼道政樹。父さんと一緒に来たんだ。」

 「あ~お母様の昔のお友達の子ね~~?」

 「じゃぁ君が冥子ちゃんか。」

 

 本当にのんびりした子だ。

 此処まで頭緩くて大丈夫か?と、ちょっと本気で六道家が心配になってきた。

 将来GSになっても物件ごと更地にしたり破壊するだろうから、収支がとんでもない事になってそうだ。

 

 「じゃ~マー君って呼ぶわね~~。」

 「良いよ良いよ。渾名の方が気安いしね。」

 「ね~マー君のお父様って、昔お母様にフラれて、この前お父様の会社に事業で負けて失敗して、今日はプライド捨てて借金しに来たって本当~~?」

 「全部本当だね、当然の事ながら。」

 

 初対面でこんな事言われたら、そりゃ(10年以上恨んで)そう(式神奪おうとする)よ。

 原作の鬼道政樹君、君は何も悪くない…。

 悪いのは何時までも引き摺る君の親父だよ…。

 

 「冥子ちゃん、初めて会う人に嫌な話題を振っちゃ駄目だよ。自分の事を馬鹿にされてると思うし、その人に嫌われちゃうからね。」

 「そうなの~~…。マー君も私の事が嫌いになった~~?」

 「いや、僕は怒らないけどさ。次からは気を付けようね。」

 「は~~い。」

 

 天然の相手をする時は根気強く付き合い怒鳴らない。

 必ず理由を言って、自分の気持ちを正直に伝え、ゆっくりと時間をかけて矯正する。

 決して逸ってはいけないのだ。

 これは人の悩み相談なんかを請け負う尼僧としての知識もある滝夜叉姫からのアドバイスだった。

 

 「マー君~~どうせだから遊びましょ~~。」

 「いいよ。何する?」

 「ん~~じゃ~~皆で鬼ごっこしましょ~~。」

 「皆でかぁ…。」

 

 どうやら初手から危険度特大の御遊びになってしまったらしい。

 冥子ちゃんや、君はもう少し力加減とかを覚えてほしいよ…。

 

 「皆~~一緒に遊びましょ~~。」

 

 途端、冥子の影から12体もの完全に別種の式神が出現した。

 同種の式神を複数使役するのは探せばある程度の技能だが、全く別種の高位の式神を12体も使役するとなると天性の霊的な素養、キャパシティーが必要となってくる。

 いや、これはもしかしたら12神将と言う形で一つの概念としているのか?

 それで術者への負担を減らしている?

 まぁパッと見で式神の制御そのものが術者のセンスや意思に依存するらしく、制御が不安定な様だが。

 問題なのは、そんな強力な式神12体が冥子と言う術者本人のテンションに引き摺られて半ば暴走状態な事だ。

 

 「夜叉丸!」

 (話には聞いておったが、滅茶苦茶過ぎるわ!)

 

 名前を呼ぶ前から夜叉丸こと滝夜叉が飛び出し、自分を抱えて逃げ回る。

 真名を知って解放してからこっち、彼女はとても自分に協力的だが、正体がばれると危険なので、こうして人の目がある時は以前の式神としての名前で呼んでいる。

 十二神将に集られたらそれこそ重傷では済まないので、筋力と耐久、泳ぎは兎も角としても素の敏捷性は高い滝夜叉に抱えられて庭中を逃げ回る。

 

 「すご~~い!貴方も式神使いなのね~~!」

 

 正確には妖怪?怨霊?との直接契約者なのだが、それは言える訳が無いので黙って逃げる。

 すると、テンションが更に上がったのか、十二神将達の攻勢が激しくなった。

 丑のバサラの吸い込みでこちらの動きを阻害し、酉のシンダラがこちらの動きを監視し、寅のメキラが短距離転移で、卯のアンチラが小柄故の素早さで牽制し、残りが数任せで周囲の物体を破壊しながら追いかけてくる。

 正直に言って質が悪すぎる。

 

 (知っててやっているのなら、邪悪ってレベルではないのぅ。)

 (全部天然だとしても質悪すぎ。)

 

 そんな質の悪さが六道家の発展に繋がっているのかもしれない…。

 途中、使用人の人達の悲鳴が聞こえたので、この騒ぎも直に収まるとは思うが、それまではこうして逃げ続けるつもりだ。

 

 (政樹、このままでは追いつかれるぞ?)

 (デコイを打つ。牽制して。)

 (よし来た!)

 

 同時、夜叉丸の左腕から雷の術が放たれ、冥子達の目の前の地面に着弾、派手に火花を撒き散らす。

 これに冥子を乗せていた午のインダラが蹈鞴を踏んで停止してしまい、隙を晒した。

 

 「急急如律令!式神よ、我が似姿を取れ!」

 

 腰のポーチから自作のお札を取り出し、術を発動させ、札を投げる。

 意外と難しいお札投げを成功させた直後、それぞれの札が自分達二人の姿となって冥子達がいる方向を除いた全方向へと逃げ出していく。

 一応人気が無い方向を選んでいるが、自分が三日三晩寝たきりの重傷を負うよりはマシなので、六道家の人は是非とも我慢してほしい。

 恨むなら、ちゃんと教育されていない娘さんを恨んで頂きたい。

 

 「よし、三十六計!」

 (逃げるに如かず!)

 

 こうして、何とか僕達は冥子とその愉快な式神軍団から逃げ延びたのだった。

 背後で六道の屋敷が盛大に吹っ飛んでいたのを見ない振りをしながら…。

 

 

 ……………

 

 

 さて、その後の事を話そう。

 鬼道家への支援の話だが…なんと六道が融資してくれる事になった。

 とは言え、経営に関しては六道からの人材を相当数受け入れ、財政健全化していく形なので、殆ど先進国によるODA漬けと変わるまい。

 将来的には経済面だけでなく、家としても吸収されるのだろう。

 家は残らないが、名前だけは残ると思われる。

 まぁ借金塗れの生活から脱却できるんだから、是非もないよネ!

 

 (そう上手い話でもないと思うがの…。)

 

 げんなりとした滝夜叉の言葉に、内心で頷く。

 自分、なんと六道の家に預けられる事になりました。

 冥子ちゃんのお友達枠として。

 えぇ…と思うが、他の分家の子や同年代の子を持つ上流階級のご家庭には既に冥子ちゃんの暴走ぶりは有名らしく、友達らしい友達はいないのだとか。

 まぁ誰だって命の危機と日常を過ごしたくはあるまい。

 しかし、そこに命の危機を独力で切り抜けた、冥子と同じ式神使いの少年が現れた。

 家の方も没落してはいるが家格自体は大分高いものがあるため、冥子の友人としては申し分ない。

 序でに没落した家の方も吸収する形だが支援してしまえば、少年が逃げ出す事も無いだろう…と言うのはちと穿ち過ぎかもしれないが、まぁ六道から鬼道への取引は確実にあったと思われる。

 

 (当初の予定とは違うが…まぁ衣食住に困らぬのなら何でも良い。)

 (だね。僕も滝夜叉とスイーツ巡り出来れば取り敢えず問題ないし。)

 

 例え六道の子飼であったとしても、ちゃんと給料が払われる限りは従うつもりだ。

 まぁ問題と言えば…

 

 「マ~~く~~ん!遊びましょ~~!」

 「はいはい。冥子ちゃんは何したいの?」

 「え~と、お飯事~~!私が姑で~マー君がお嫁さんで~~。」

 (小娘…政樹は私のだぞ!!)

 (落ち着いてよ。十歳児に何をむきになってるのさ。)

 

 襲来してくる冥子と、それにイラつく滝夜叉を宥める事だった。

 更に式神を交えた遊びが始まると、即座に命の危機となる。

 これを乗り切るためには更なる修行が欠かせず、しかし冥子の襲来によって邪魔され、そして冥子のせいで命の危機に陥ると言う悪循環に悩まされるのは直ぐの事だった。

 

 

 ……………

 

 

 「ふぅ~~高い買い物だったわ~~。」

 

 庭でわいわい騒いでいる子供達を二階から見つめながら、六道冥那は思考していた。

 眼下の光景は普通ならただ微笑ましいものだったが、彼女には一人の少年が二人の異性から言い寄られ、対応に苦慮している姿が見えていた。

 

 (鬼道君の子は~~随分と優秀みたいね~~。)

 

 式神使いの大家にして歴戦の霊能者である冥那だからこそ分かる。

 あの政樹と言う少年と夜叉丸の間にある契約は、単なる式神と術者のそれではない。

 明確な意思のある神魔の類と人間の術者の、直接的な契約だと看破していた。

 しかも、先日この庭で使用した術も問題だった。

 

 (あの術式、明らかに陰陽寮の方でも失伝してた術よね~~。あの夜叉丸から習ったのかしら~~。)

 

 使用された幻惑の術は既に失伝し、僅かな記録の残る平安時代のものと酷似しており、現在は外部に漏れない様に極秘に調査を重ねている段階だ。

 先ず間違いなく、これ以外の多くの術も持っている事が予想される現状、あの少年とは今後も良い付き合いがしたい。

 場合によっては陰陽寮とも話し合う必要があるが、今はあの少年を囲い込むか、確実なパイプを作りたかった。

 

 (それに~~冥子のお友達だし~~余り酷い事はしたくないわ~~。)

 

 無論、こちらに味方してくれるのなら相応の利益は与えるし、将来的に独立してもそれまでにした融資がものを言う事になるので、既にどちらに転んでも鬼道政樹が六道と縁を切る事は出来なかった。

 また、政樹の父親である鬼道家当主は政樹の術の事を全く把握しておらず、融資の条件で政樹をこちらに寄越すのも人質程度の認識しかしていなかった。

 昔と全く変わらない呆れる程の無能だが、今はその方が都合が良かった。

 

 (問題は~~鬼道を捨てて国外に行く事だけど~~……。)

 

 庭を見る。

 今はまだ警戒が勝っている様だが、その内雪解けすれば、あの少年も年相応の笑顔を見せてくれるだろう。

 

 (冥子次第だけど~~将来的にはうちに入れるのもありかしら~~?)

 

 無論、本人同士の気持ちが大事だが、あの式神と少年は既にそれだけの利益が見込める。

 家の長としては、鬼道への多少の援助など些細な位に、あの少年は霊能業界全体にとって利益となる可能性があった。

 

 (まぁ~~今は子供同士で~~のんびりしててほしいわね~~。)

 

 家を大きくするための謀略家としてではなく、親として当たり前の事を冥那は思う。

 どうか、二人の子供達に幸せになってほしい、と。

 

 「わ~~い!皆出て来て~~!」

 

 ドカン!!

 ワーギャーワーギャー!

 

 「……………。」

 「奥様!お嬢様がまた十二神将全部を出して政樹様を追い回しています!」

 「直ぐに行きますね~~。」

 

 いつもの事に頭が痛くなるのを堪えながら、冥那は椅子から立ち上がり、またやらかしている愛娘を叱りに出た。

 

 

 

 

 

 

 

 続かない

 

 




 なお、将来的に冥子と滝夜叉、更に六道女学院で新設される男子部に入学してボーイミーツする予定です。


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GS美神短編 政樹が逝く2

 六道の運営する六道霊能女学院だが、下は中等部、上は高等部まであり、更に今年になって男子部まで追加された。

 無論、校舎は別なのだが、それでも近場だし、よく合同授業が行われる。

 それは勿論ながら、霊能関係の授業でも一緒だ。

 なお、クラスがABCDとなっており、Aから順番に歴史と格と実力のある家の才能ある子達で、そこから徐々に質が下がり、Cは一般出だが霊能を発現してしまった者達、Dに至っては霊能が殆どないが霊能関係の家に生まれた者達が集まっている。

 そのため、霊能の低い者は早々に見切りをつけて他の分野へと進むか、霊具作成等へと移っていく事が推奨されている。

 無論、そんな事も解らずに歴史と格だけをアイデンティティに威張り散らす者もいるが。

 なんでそんな詳しいかって?

 それはね、僕がその男子部に所属してるからなんだよ。

 

 「鬼道君は~~将来どうするの~~?」

 「家の事は父と六道夫人に任せて、GSやるつもりです。」

 

 だって、名家の仕来りとか面倒だし、ずっと冥子の面倒見るとか難易度測定不能だし…。

 

 (政樹、私も支えるからな。)

 

 影から相棒にして唯一の家族が励ましの声を送ってくる。

 癒しは本当に滝ちゃんだけだよ…。

 どうして僕の周りは一癖も二癖もある連中ばっかりなんだ…(白目。

 

 「も~~無視しないで~~。」

 「はいはい。」

 

 今も合同授業でボッチしてる冥子の面倒見ないといけないし。

 無論、これはあくまで自発的()な行動です(棒)。

 

 『冥子ちゃんを~~お願いね~~。』

 

 と自分の分の支出を別にまとめた帳簿を態々片手に持ちながら宣う夫人に、未だ収入0の自分ではどうにもならない。

 高校になればGS免許も取れるので、それで金を稼いで、過去の生活費全てを返済したら、何処か東北辺りの田舎でのんびり過ごしたいなぁ…(遠い目)。

 何としても穏やかな日常が欲しい。

 

 「おい鬼道!話を聞け!」

 

 なお、僕は現在Aクラスにいる。

 本来ならBクラスなのだが、冥子の面倒を見るために此処にいる。

 

 「ん、あぁ、何だって?」

 「なら改めて言ってやる!お前はこのクラスに相応しくない!とっと出ていけ!」

 「それ、理事長に言ってくれない?」

 

 ここの経営握ってるの冥那夫人なんだから、文句はあの人に言ってくれ。

 僕はあくまであの人に言われて入ったんだから。

 

 「…言える訳ないだろうが!」

 「分かってるなら言うなよ。」

 

 日本の霊能界における名家中の名家が六道であり、そのTOPが現当主である六道冥那。

 そして霊能以外の事業では夫が活躍し、家を盛り立てている。

 

 「分かってるんだったらその辺も飲み込んでくれ。僕だって好きでいる訳じゃない。」

 「…ッチ!」

 

 そう言ってどっかの家の長男君が足音荒く去って行く。

 お互い、嫌な家に生まれちゃったもんだね、うん。

 

 それからの中学生としての僕の日々は冥子の起こす式神の暴走を抑える事と=だった。

 他の家の跡継ぎとの仲立ち?

 (ヾノ・∀・`)ムリムリ

 家としての格がガチ貴族な連中もいて、それは大抵こっちより高い。

 所詮は野良陰陽師の生まれの鬼道家ではどうにもならないものがある。

 出来るのは尻拭いだけだし、それ以上をするつもりは無い。

 授業と修行の傍ら、暴走した式神を鎮圧する毎日だった。

 また、折角の土日や休日もあのお嬢様の我が儘で潰される事多々で、折角の修行の時間や滝ちゃんとのスイーツ巡りも潰されるせいで、滝ちゃんのご機嫌が悪い事悪い事。

 

 (滝ちゃん、ごめんね。)

 (…政樹が悪い訳ではない。だが、あの小娘は好かぬ。)

 

 

 ……………

 

 

 あれから5年、現在15歳、数え年で16歳となったので、遂に自分こと鬼道政樹は元服を迎えた。

 これにより、霊能面からは一人前と看做される。

 それは同時に、正式に鬼道家の家督を継ぐ事が出来る事を意味する。

 

 「いやイランですよ。」

 「そ~よね~~。」

 

 堅苦しい式が終わった後、六道冥那婦人とお茶を飲みつつ、今後の事を話し合った。

 

 「貴方は別に自由や富が欲しい訳でもなくて~~普通に生きれるだけの~~お金と立場があれば~~満足なのよね~~?」

 「です。」

 

 それ以上の事は勝手にやってくれ。

 あの糞親父も死ぬまで家督を手放そうとはしないだろうし、そもそもまだ高校生の自分では家の管理は無理だ。

 事業でも、霊能関連でも、自己鍛錬や霊具の作成なら兎も角、人を率いる才能と言うか、人を自分の意に沿わせる才能と言うのが自分には存在しない。

 何せ、そういった事の容量は全て滝ちゃんこと恋人の滝夜叉姫に向けられてるからな!

 考え方が古風で奥ゆかしくて清楚系で可愛いんだあの子。

 割とオレ様系に見えながら、目下の者への配慮も欠かさないし、思いやりのある良い子で、そんな彼女と一緒になりたいと思う事は罪か?いやそんな訳が無い。

 それはさて置き、人の動かし方を指導してくれる人間もいないし、何より覚えてもらっては困る人間もいる。

 特に鬼道家の人間は上も下も腐っていて、多くは既に六道から派遣された人間達にパージされるか、普通に汚職が判明して逮捕されている事もあり、その鬼道家の跡取り息子が管理職に就く事は誰も良い顔はしないだろう。

 無論、こちらを単なるイエスマンとしている六道は除くが。

 あの糞親父にいたっては、一応名目上の当主なのでそこまではされていないが、常に自身の能力をギリギリ超えない程度の仕事を過剰に与えられて遊ぶ暇も何もなく、文字通り忙殺されていた。

 まぁそれは事業の刷新に伴う一時的な事務量の増加なので仕方ないのだが、流石にげっそりと窶れ果てた姿は哀れみを覚えた。

 母親?海外の愛人宅に住んでるらしく、ここ数年顔も見てない。

 会話に至っては7年はしてないかな?

 

 「僕を六道家の養子って事にしてもらって、見返りに成人するまではそっちに管理してもらうのはどうでしょう?」

 「うちとしても~~将来的にも~優秀そうな子に~~頑張ってもらいたいのよ~~。」

 

 また六道で独占するとか、業界内から非難轟々で敵が更に増えるから、六道の意のままに出来る自分にまかせてリスク分散したい気持ちは分かる。

 今更とは言え、その辺りを意識するかしないかで大分差は出る。

 だが、こちらはあんな汚物の集積所みたいな家とはとっとと縁を切りたいのだ。

 

 「…僕が継いだ所で維持できない不良債権とか、本当にいらないんですけど。」

 「あらぁ~~それじゃ夜叉丸ちゃんはどうするの~~?」

 

 確かに夜叉丸は対外的には鬼道家付きの式神であり、鬼道家を継ぐ=夜叉丸を継ぐ事でもある。

 しかし、既に夜叉丸もとい滝夜叉姫とは個別に契約をしている状態なので、それは無意味だ。

 だが、やはりと言うべきか、既に夜叉丸と自分の関係性どころか、性別すら知っているらしい。

 流石に正体に関しては知らないだろうが、推測位は立てているだろう。

 いや、これは女の勘かな?

 どちらにしろ厄介な事には変わりない。

 

 「僕にとっては溝にでも捨てたい産業廃棄物を、貴方は有効活用できる。それ以上は求め過ぎでは?」

 「でもでも~~冥子のお友達を~~路頭に迷わせるなんて~~。」

 

 そこか、確かにそれは世間体としても不味い。

 

 「ご心配なく。近々GS免許試験に受かるつもりですので。」

 「そう言えば~~もうそんな時期だったわね~~。」

 

 韜晦する六道冥那夫人に、自分は冷めた視線を向ける。

 確かに育ててもらった恩はある。

 とは言え、それは自家の利益を最大限考慮した果ての、籍だけを鬼道に残した養子状態の自分を利用しようとしたまでの事。

 しかし、単なる置物としてなら兎も角、積極的に後ろ暗い事に関わらせようとするのは止めて頂きたい。

 GS免許さえ取れれば、自分達の食い扶持を自分達だけで稼ぐ事が出来る。

 まぁ、それすら出来ない様に圧力をかけると言うのなら、それこそ国外に出るまでなのだが…。

 一応、英語位はそこそこ出来るので、オカルトGメンに所属する事も可能だろう。

 

 「じゃぁ~~冥子ちゃんも出るから~~お願いね~~。」

 「その辺りは本人に言ってください。」

 

 八百長とかは絶対しませんからね?

 後、もしもの時のために修理費用意してた方が良いかと。

 

 

 ……………

 

 

 で、GS試験当日

 

 「冥子のお友達らしいけど…容赦する理由にはならないわね!」

 (何で美神さんの相手やねん。)

 (政樹、落ち着いて蹴散らすのだぞ!)

 

 順調に勝ち進んだ準決勝にして、神通棍を構えたJK美神令子を相手に、僕は何でこうなっちゃったかなーと遠くを見ていた。

 

 

 

 

 



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GS美神短編 政樹が逝く3 微修正

今回、ヤンデレ要素有り


 (政樹、経過は順調だな。)

 (うん。今の所はね。)

 

 試験会場の控室の一つでは、政樹を座禅を組み、霊力を高めつつ、影の中の夜叉丸もとい滝夜叉姫と話していた。

 

 (ここまでは何とか自力で勝てた。)

 (お主な…私の助けはいらんのか?)

 (ううん、そうじゃないよ。)

 

 だが、常に滝夜叉姫の助けが借りられるとは思っていない。

 寧ろ、原作での鬼道と冥子の決闘の様に何らかの方法で分断される可能性は常にある。

 例え滝夜叉姫が極めて強力な怨霊であろうと、ネクロマンサーの笛の様な特攻手段は存在する。

 

 (それに、好きな女性の助けを借り続けるなんて、男として恥ずべき事だろ?)

 (む、むぅ…確かに日本男児としては当然の事であるが…。)

 

 照れを滲ませた声音で、滝夜叉姫が口籠る。

 中等部に入った頃、僕は滝ちゃんに自分の気持ちを正直に告げた。

 それが今の関係を崩しかねない事であり、下手をすれば二度と彼女に会えなくなる事だと分かっていても、自分に嘘はつけなかった。

 

 「滝夜叉姫…ううん、五月姫。僕は貴方を愛してます。結婚を前提としてお付き合いしてください。」

 

 ピクニック先の山の山頂の夕暮れ時、或は逢魔が時とも言うべき時間帯で、僕は滝ちゃんに告白した。

 僕にはお金がなく、冥子を上手く稽古事に行かせ、六道の目が無い状況になって、僕は漸く夜叉丸ではなく、素の滝夜叉姫と一緒にいる事が出来る。

 それだけ名前を握ると言う事は重要なのだ。

 無論、自分が未熟であっても、滝ちゃんの霊格を思えば、そこらの術者では名を知っても縛れずに逆に呪い殺されるのがオチなのだが。

 

 「政樹よ、それがどういう意味か分かって言っておるのじゃな?」

 「うん、全部分かってるよ。」

 

 普段とは違う、本当に鋭い目付きに怯む事なく頷く。

 彼女と結婚し、婚姻関係になると言う事は、自分が人間ではなく、神魔へと近づく事に他ならない。

 肉体的に死亡すれば、場合にもよるが神魔へと転生する事になるだろう。

 より正確に言えば、人間ではなくなり、人間とはまた異なる柵に囚われる事を意味する。

 今の自分は鬼道と六道に繋がれている訳だが、それが神魔となればもう逃げ出すことは出来なくなる。

 そう、あのアシュタロスの様に。

 それは人間にとっては永劫に等しい時間であり、凡百の精神では耐えられずに擦り切れて人形の様に成ってしまうだろう。

 まぁ、それで滝ちゃんと一緒になれるのなら、それもまた良しだ。

 

 「私は政樹にそんな風になってほしくはない。」

 「でも、僕は滝ちゃんと一緒にいたいんだ。ずっと。」

 

 今世どころか、前世においても、家族を除いた誰かとずっと一緒にいたいと言う感情を、僕は持つ事が無かった。

 一人の方が楽だと言う事もあったが、基本的に人嫌いの自分は、だからこそ人でない者に惹かれるのだろう。

 

 「…ならば、政樹よ。お前の本当の名を差し出せ。」

 

 それは式神使いにとって、否、霊能者にとって、人間にとって最後の命綱だ。

 大抵の古い家の人間ならば、戸籍上の本名以外の名前である諱、又は忌み名といわれる真名を持っている。

 これを知られると言う事は、魂の一端を握られるに等しい。

 悪魔祓いにおいて悪魔の名を知る事で撃退する様に、滝夜叉姫が鬼道の祖先に使役された様に、例え格上の存在であっても格下の存在に良い様にされる事を意味する。

 況して相手が丑の刻参りの神と直接契約する程の優れた呪術師である滝夜叉姫であるならば、尚更の事だった。

 主従関係は完全に逆転し、自分は肉体どころか魂すら彼女に隷属する事になる。

 

 「真名じゃ意味がないから、僕の前世の名前で良い?」

 「うむ。」

 

 だが、もう止まらない。

 その程度で良いのなら、僕は既に差し出すつもりだった。

 滝ちゃんの一生、と言うには短い時間かもしれないが、それを貰うのなら、こちらにも代価は必要だった。

 

 「僕の本当の名前は■■■■って言うんだよ。」

 

 瞬間、僕と滝ちゃんの間にある契約の繋がりが、一気に太くなった。

 

 「ふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ…」

 

 同時に、今までは念話や霊力・呪力のやり取り程度だった繋がりから、感情が土砂の様に流れてきた。

 それは歓喜であり、驚愕であり、狂喜であり、狂気であり、悦楽であり、独占欲だった。

 それは、滝夜叉姫が自分に抱く感情だった。

 

 「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

 もう惚れた男は自分の所から消える事は無い。出来ない。

 10年も待ち続けたのだ。

 怨霊である自分と婚姻を結ぶ事は無いと言い聞かせ、今日まで我慢していた。

 あの子供が、あの少年が、己へと恋慕を向けてくれる事は知っていた。

 だから、ただ傍にいて、支え合い、笑い合い、共にいる事で満足しようとしていた。

 あの小娘が何時しかこの少年に恋慕の視線を向けているのに気づいてからは、ずっと不安だった。

 だが、こうなったのなら最早躊躇う必要は無い。

 

 ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと…絶対に、離さない。

 未来永劫、那由他の果てまで、この魂がある限り、永遠に別たれる事は許さない。

 

 常人なら怖気が奔り、恐怖し、命乞いをしそうな感情の波に対して、しかし僕の心は安堵していた。

 良かった、と。

 この気持ちは自分の空回りではなかったんだ、と。

 この世界で出会った、否、前世の家族を除けば抱いた事の無い、ずっと一緒にいたいと願ったこの気持ちは、確かに届いたのだと。

 

 「政樹様、不束者ですが、どうか幾久しくお傍において下さいませ。」

 「こちらこそ。未熟者ですが、どうか末永く一緒にいてください。」

 

 山頂の草原で、何故か互いに三つ指ついて頭を下げ合う姿は一種滑稽なものであったが、それでも二人の心は暖かだった。

 そして、二人はそのまま夜の山の中で一夜を明かした。

 そこで何があったのかは、二人は誰にも語らない。

 その夜、何があったのかを知るのは、森の中を飛び交う季節外れの蛍のみ。

 帰宅した時、冥子を始めとした六道家の人達に随分と心配させてしまったが、以前よりも柔らかな空気を、洗練した霊力を纏う政樹に、皆一様に言葉を失ったと言う。

 

 で、話は冒頭に戻るのだが。

 

 (我が背の君、あの様な小生意気な小娘に負ける訳がない。そうであろう?)

 (分かってる。君に恥じない戦いにするつもりだよ。)

 

 そう、最初から夜叉丸を試合で出すつもりは無かったのだ。

 

 (まぁ冥子の暴走が怖いから、その時だけは宜しくね。)

 (心得た。)

 

 後にこの時の事を政樹は思い返す。

 あれ、フラグだったんだなぁ、と。

 

 

 ……………

 

 

 六道女学院女子高等部2年所属、美神令子は次の対戦相手を最大限警戒していた。

 鬼道政樹。

 鬼道家の天才にして、六道家が敵対していた鬼道家を吸収した後に態々自家に招き、実質的な養子にする程に目にかけていると言うのだから、余程彼が欲しかったのだろうと霊能業界では言われている。

 現に、彼が六道家に所属してからは、六道はそれまで殆ど手を出していなかった陰陽寮系の遺失霊能技術の再現に挑み、六道と溝のあった陰陽寮との協力があったにしろ、これに成功している。

 これによりGS業界で鎬を削っていた六道と陰陽寮との仲が急激に修復され、それまで失伝したとされていた日本古来の呪符が市場に出回り始め、ザンスの精霊石内蔵霊具に市場を圧迫されていた日本霊能業界における生産職が息を吹き返し始めた。

 これにより所謂道具使いと言われるGSの出費が減り、即ちGS業そのもののバブル的高騰が抑えられ始めており、将来的には最もGSを必要としているであろう一般市民(突発的霊障)や財政の厳しい地方行政(地方にある怪異の封印の維持等)にも手の届く価格になるだろうと言われている。

 この功績の火付け役になった事から、後に六道家の跡取りの冥子との婚姻が予定されているのではないかと専らの噂であるが、令子の受けた印象は全く異なっていた。

 

 (冥子に対しては、あくまで職務上の従者としか認識してないわね。)

 

 そう思ったのは鬼道の目だ。

 あれは心底冥子の存在にうんざりしつつ、しかし仕方がないから相手をしているという口だろう。

 また、他の人間に向ける視線もまた、何処か無機物めいたものがあり、相手を人間として認識しているかすら怪しかった。

 実際、冥子が試験会場で式神全てを出しながら移動していたのを、周囲の人間が非難や畏怖、嫉妬の視線を向けていた事に気づきながら、注意すらしなかった。

 鬼道と仲良しだと思っている冥子なら、彼が注意すればすぐに従うだろうにも関わらずにだ。

 つまり、仕事上のお付き合いは兎も角、プライベートはNGと言う事だろう。

 そんな男が冥子と結婚し、一生を仕事とする訳が無い。

 

 (やり口もGSってよりも、ヒットマン染みた奴ね。)

 

 実際、この準決勝まで勝ち進んだ鬼道の戦い方は余りにもGSらしくなかった。

 一戦目は、相手に何かをさせる暇を与えず、霊力を足裏と背中で破裂させつつ踏み込み、ブースターの様にして高速で接近し、その勢いを霊力を込めた右拳を通して相手に叩き込んだ。

 その一撃で、霊能者が無意識に体に纏う霊力による保護は一瞬で消し飛び、まるでサッカーボールの様に一瞬して場外にまで吹っ飛ばされ、会場の壁に叩き付けられた。

 二戦目は、一戦目を見て警戒して防御を固める相手選手に対し、折り鶴の式神を試合開始直前に真上に配置、その後に即座に急降下、相手の後頭部付近で爆破し、意識が揺らいだ所を一戦目と同じやり方で倒した。

 三戦目は、令子と同じ汎用性の高い道具使いが相手であり、先程見せた折り鶴にも接近しての一撃にも警戒されたものの、今度は大量に出した折り鶴の式神の自爆特攻による飽和攻撃によって撃破された。

 つまり、四戦目の準決勝戦になってもなお、式神使いである彼が持つと言う夜叉丸が表に出てくる事は無かったのだ。

 これには観客席から相当なブーイングが出たものの、一切ルール違反をしていない事もあり、有効とされた。

 まぁ、ブーイングしている連中は古い家出身の、能力よりも家柄優先な連中なので、シカトで当然だとは思うが。

 同じ六道なので他の選手よりはデータはあるが、その詳細なスペックは本人しか知らず、更に当主である父親よりも優秀な術者である事は間違いないので、父親の頃のデータは役に立たない可能性が高い。

 

 (あーもーどうしろってのよ!)

 

 なお、六道女学院側からの支援は無い。

 事前に集められた情報も、自分で集めた学院内の目撃情報に加え、多くは師匠筋に当たる唐巣神父に頼んでのものだ。

 六道にとっては学院所属の新人が令子含む三人も準決勝に進出しているので、既に誰が勝っても美味しい状況が出来上がっているからだ。

 無論、実力で劣っている等、令子の中には毛頭ない。

 しかし、明確に勝利するためのビジョンが湧かないのだ。

 それだけあの鬼道と言う男は不気味なのだ。

 

 (まぁ悩んでも仕方ないし…出たとこ勝負ね。)

 

 そう決めれば話は早い。

 令子は控室で座禅を組み、精神を落ち着けると、改めて鬼道との戦闘をイメージし始めた。

 精神力が重要な要素となる霊能において、こうした精神統一の作法は常識、基礎の基礎だ。

 精神を落ち着け、無駄な力みを無くし、効率的に体力・霊力を使用するためにも、無駄な精神の昂りは抑えるなり御するなりする必要がある。

 しかし、昨今のGSは霊具と霊能を用いた派手な除霊が注目されがちで、若手には不人気な技術でもある。

 だが、将来はGSで食っていく事を真剣に考えている令子にとって、この手の技術は重要なものだった。

 

 (絶ッッッ対勝ってやるッ!!)

 

 まぁ、修めた技術が常に本来の趣旨のまま使用されるとは限らない訳で。

 勝利への執念に取り憑かれた令子にとっては、試合のための効率的なイメージトレーニングでしかなかった。

 

 

 ……………

 

 

 同時に行われた準決勝戦は、どちらも非常にハイレベルなものだった。

 

 「皆~~頑張って~~!」

 「この…舐めないでほしい訳!」

 

 式神使いの大家の跡取り娘にして式神:十二神将の契約者、六道冥子。

 ここ数百年では最高の呪術師としての才能を持つと言われる、小笠原エミ。

 この二者の戦いは終始冥子が優勢だったものの、エミも負けずに十二神将を捌きつつ呪術で応戦する等、不利な状況であっても抗戦し続けた。

 そしてもう一つの試合は、正に激戦と言って良いものだった。

 

 「厄介だな…!」

 「この美神令子に手抜きとか…命が惜しくないのね!」

 

 六道が鬼道家を吸収する原因となった天才、鬼道政樹。

 母親同様に天才と言われる才女、美神令子。

 本来なら式神の夜叉丸を使役して戦うと予想されていた政樹だが、彼は徹頭徹尾己の力だけで戦い続けた。

 それを侮辱と受け取った令子は神通棍を用い、我流に近い剣術で以て激しく攻め立てる。

 しかし、折り紙を簡易な式神として、盾にも、爆弾にも、剣にも、使い魔にも、地雷にも、目潰しにも応用して変幻自在の戦法を取る政樹に、令子は始終押される形となった。

 試合では同じ道具使いの範囲で戦っていたものの、折り紙一つで多様な戦い方が出来る鬼道に対し、持ち込み武器の制限(基本一つのみ)がある状態では持ち味を生かせない令子が後一歩で敗れかけた。

 

 だが、ここで予想外の事態が起きる。

 

 なんと、エミの呪術が不運にも顔面に直撃してしまった冥子が痛みと驚きにより式神の制御を手放してしまい、十二神将達がいつもの様に暴走を開始したのだ。

 始まった大破壊に巻き込まれる形でエミはリタイアしたものの、そんな事に気付く事もなく、冥子は暴走を続けていき、遂には観客や審判、建物そのものすら巻き込んで式神達が暴れ回る。

 

 「夜叉丸、鎮圧するぞ!」

 

 これには試合を一時中断し、政樹も鎮圧を開始した。

 既に勝手知ったるなんとやら、政樹と夜叉丸は手慣れた様に一体ずつ式神と冥子の繋がりを断ち、己のものとした状態で沈静化させ、終わり次第繋がりを断ち、冥子の元へと戻してく。

 12体全てが終わる頃には会場は大規模修理が必要な程に破壊されていたが、幸いにも死者は出なかった。

 しかし、この一件で冥子のGS試験は失格とされ、要再修業を言い渡された。

 エミは合格となったものの騒ぎの原因の一つでもあったので主席合格とはならず、政樹と令子は二人同時優勝となったが、政樹の方は冥子の式神鎮圧に貢献したため、GS協会から主席合格の認定及び感謝状を送られ、六道家は会場の修理費と怪我人の治療費等を支払う事となった。

 後に、この騒動が原因で六道家の当主夫妻を除いた面々から一方的に恨まれる事となり、政樹の六道離れが加速する事となる。

 

 (おめでとう、政樹。)

 (ごめんね。啖呵切ったのに、結局頼る事になっちゃって。)

 (構わぬ。アレはあの小娘が悪い。)

 (お礼に近くの喫茶店に行こう。そこのシュークリームが美味しいんだってさ。)

 (よし、案内せよ!)

 (ではエスコートしますね、お姫様。)

 

 他の3人が消化不良気味なのに対し、一組の恋人は悠々と試験会場を後にした。

 

 




次回、神田明神様にご挨拶

滝夜叉姫がヤンデレな訳ないって?
だって彼女、あの貴船神社とガッツリ縁がある女性だし、当然かなって。


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装甲悪鬼短編 無銘が逝く 微修正

ふと思いついた村正転生
改めて思うがニトロ+は本当に業が深いな!


 別に、正義なんてものに期待している訳じゃない。

 ただ、原作における「自分」が余計な真似さえしなければ、あの惨劇は起きなかった事を知るが故に、私は敢えて何もする事なく、自分を産み育ててくれた母親を見殺しにした。

 では、力を得てしまった自分は、劔冑となってまで残った自分は何をするのか?

 

 それは無論、一技術者として研鑚に他ならない。

 

 この世界の技術体系は歪だ。

 それは劔冑、と言うよりも金神の存在によるものなのだろうが、それにしても劔冑やそれに関連する技術には不思議が多い。

 所詮はエロゲーの世界、と言ってしまうのは簡単だが、それにしたって此処はニトロ+ワールドの一つ。

 絶望と奥の深さ具合ではFateとどっこいどっこいである。

 故にこそ、対策の構築と自己鍛錬に後ろ指さされる道理はない。

 

 ……まぁ、今となっては少々処ではなくやり過ぎたとは思うが。

 

 

 ……………

 

 

 湊斗景明には一つ悩みがあった。

 それは鉱毒病を患ってしまった妹にして娘である湊斗光の事でもない。

 いや、光関連の事ではあるのだが。

 

 「のーのー無銘よ。お前、蜘蛛の形をしているのだから、糸位出せんのか?」

 『出せるけど、無駄に熱量を消費するわよ?用も無いのに出したら置き場所にも困るし…。』

 「では、それを使って衣服を縫おう!頑丈そうだし、景明に贈ろう!」

 『そうね…今までは精々軟質装甲か緊急修理位にしか使ってなかったし、下手な金属製の鎧よりも頑丈になるわよ。』

 「よし!では先ずパンツから…」

 「止めろ。」

 

 それだけは止めてくれ。

 と言うか、劔冑の甲鉄に近い防御力を持ったパンツとか何処に需要があるのかと。

 確かに急所は守られるだろうが、それ絶対蒸れるし擦れるから。

 

 『仕方ないわね。じゃぁコートなんてどうかしら? 錆びず、頑丈で、全身を覆えるし、いざって時にパッと着れるし、裏地に断熱材でも仕込めば、防寒着としても完璧よ。』

 「まぁ、それなら。」

 

 この無銘の劔冑にしては穏当な提案に、景明も頷いた。

 以前、迂闊にも確認せずに許可を出した時など、何故か我が家の炊事場が最新式のシステムキッチン(熱量で稼働、現在も使用中)になった時などは激怒して光共々正座で説教したものだが、今回は割と穏当な結果になりそうだった。

 

 『単なるコートだと飾り気も無いし…御堂の母親に服飾を聞いてみようかしら。』

 

 訂正、デザインセンスが突っ張り方向の統に話を持っていこうとしている時点で、問題が発生する事が確定した。

 やはり、付きっ切りで監視しなければならないらしい。

 

 

 最終的に黒のトレンチコートに、セットで同色の山高帽が出来上がった。

 しかし、結局は景明の人相と合わさり、どう見てもヒットマンかマフィアのボス(しかも完全防備)にしか見えない風体となってしまい、結局箪笥の肥やしになる事が決定した。

 

 

 ……………

 

 

 祖父と母亡き後、三世村正と言われる筈の少女は朝廷に村正の名を残さない事と同時に、毒としての妖甲の機能を残したまま、劔冑となる事を提案した。

 無論、劔冑は朝廷の管理下に置く事を前提として。

 これは後の元寇の様な朝廷では対処が難しい、或は不可能な敵対勢力の発生や出現に備えたもので、所謂「毒を持って毒を制す」と言うものだった。

 勿論、かなり渋られた。

 しかし、これには代価として本来門外不出の村正一門の人化の術、そして転生チートで貰った技術チートによる数打作成技術を伝える事で許可が下りた。

 限定的な不老不死の方法と、今まで量産が不可能であった強力無比な兵器である劔冑の量産技術。

 南北朝の動乱、初代と二世村正の戦闘により、人口の一割を亡くし、疲弊していた朝廷は国体維持のために復興を優先させつつも、来たるべき時に備えた軍備増強を選択し、史実なら村正三世を名乗った蝦夷の言葉に乗った。

 無論、産業革命もまだな南北朝時代において、人化の術は兎も角、クローン作製及び記憶転写技術は極めて難航した。

 だが、ガワとなる数打の作成ノウハウによって更に高性能な劔冑の設計に成功した村正三世もとい無銘が劔冑となる事で解決した。

 本来なら磁力制御であった陰義だが、この世界ではなんと電磁制御、即ち電子と磁力の二つを制御するものであり、応用の幅が一気に広まったのだ。

 治療系の劔冑は既に発見されていたので、それによって採取した殺菌で密閉した状培養槽の中の受精卵を急速成長させた上で、無銘が電子制御によって無学習状態の脳に直接記憶技を転写(技術的・戦術的なもののみ)した事で、世界初となる数打の材料となるクローンではなく人造人間の作製に成功した。

 史実における数打、或はレッドクロスと言われる量産可能な劔冑は記憶転写したクローンを心鉄に作られ、制御機構も機械式計算機=CPUなのだが、後に大和式と言われる形式は人造人間を心鉄とし、制御機構は甲鉄化した生体式計算機=人造人間の脳を使用している。

 これにより、劔冑作成時に機械式計算機分の容量を必要とせず、そのまま他に使用できるため、同格の技術で作成した場合、大和式の方が力量(性能)で勝る事となる。

 この結果に満足した無銘は徐々に一線を退いていき、数打量産が完全に軌道に乗った事を確認すると、当初の約定通りに朝廷監視下の元、普通の劔冑として永い眠りに就いた。

 

 技術革新の旗手が抜け、大和の技術革新もややペースダウンしたものの、減速する事は無く、寧ろ比較的良心的なお目付け役を失った事で暴走を開始した。

 各地に遠征こそしなかったものの、開拓事業が大々的に行われ、近隣の東アジアの国々との交易もそれまで不安定だった船舶の技術革新により安定化し、より盛んになっていった。

 更に、世界初の量産式劔冑の開発成功を皮切りに、大和の技術革新は次々と進んでいき、それらを軍事以外の分野にも積極的に流用する事で、農業・工業・商業と言ったあらゆる分野が次々と発展していった。

 そして後世の黒船来航時、既に大英帝国を筆頭とした欧州勢に対し、劔冑を始めとした軍事面では技術力・戦力共に完全に優越しており、軍艦で首都に突入しようとした大英帝国使節団も相当に肝を冷やす羽目になった。

 だが、大英帝国からの欧州の情報(万年戦争状態)を警戒し、旧体制として負荷がかかっていた幕府制度を自主的に解体、大和皇国と改号し、国家制度を一新した。

 更には二度の世界大戦も大英帝国の要請により連合国側で参戦、欧州の地に大鳥獅子吼中佐(後に大佐に昇進)率いる精鋭部隊を派遣して統合独逸連邦率いる枢軸国と激しく交戦した。

 数打こそ鹵獲の危険から最新鋭騎ではなく、信頼性最優先の二線級のものだったが、それでも当時の欧州式数打よりも高性能であり、精鋭部隊だけあって大いに活躍し、無事に戦勝国の仲間入りを果たした。

 しかし、その活躍ぶりから黄禍論が欧州の地にして流行、露西亜帝国の南下政策との衝突(安全保障上及び近隣のアジア諸国の要請した保障占領のため)もあり、現在の世界は実質的に大英帝国(実質欧州全体)と露西亜帝国、そして大和皇国の三竦み状態となっていた。

 

 なお、これに対して事態の原因となった鉄蜘蛛の無銘の劔冑は以下の通りである。

 

 『なぁにコレ。』

 

 人間だったら、きっと白目だっただろう。

 

 とは言え、彼女が目論んでいた原作展開は完全に破壊されたと言っていい。

 ただ、その分鍛造弾が純粋な戦略兵器として大和皇国に降ってくる可能性が出来ていたが、その辺りを考えるのはお偉いさんの仕事なので、彼女には関係ないと考えていた。

 この時点までは。 

 

 病気の御堂、つまり湊斗光を嘗ての人造人間作製のノウハウを生かして治療し、序でに周辺住民も治療して一週間後に政府側の人間から接触され、来月には技術アドバイザーとして劔冑なのに強制参加させられる羽目になる事を、彼女はまだ知らない。

 

 

 ……………

 

 

 劔冑解説

 

 無銘/本来なら勢洲右衛門尉村正三世

 生産国:大和/伊勢國

 種別:真打/可変

 時代:南北朝末期

 兵装:野太刀、太刀、脇差、弩、鋼糸(両手首・頭部)、蜘蛛足

 仕様:汎用/白兵戦

 合当理:熱量変換型三発火箭推進

 仕手:湊斗光

 陰義:電磁制御

 待機状態:蜘蛛

 誓約の口上 - 義あれば剣を抜き、義なくば剣を置く=殺す・戦う理由が無いのに無暗に暴力を振るってはならないの意。そのため、仕手が虐殺等を正当な理由なく行えば仕手は自害させられるか、出来なければ高圧電流を流されて死亡する。

 

 力量…改修する度に変化する。

 甲鉄練度:4

 騎航推力:4

 騎航速力:3

 旋回性能:3

 上昇性能:2

 加速性能:3

 身体強化:3

 

 本来ならば深紅の妖甲として恐れられた真打。

 しかし、転生者によっておもっくそ歴史を歪められた結果、明後日の方向に進んだ大和皇国の技術を一部吸収しつつ魔改造されて誕生したどう考えてもオーパーツ的な劔冑。

 なお、中の人の人格は多分にMAD成分を多く含んでいるため、光と帯刀の儀を交わし、大和皇国へと引っ張られてからは自ら小改修を繰り返しており、力量が常に細かく変動しているため、仕手である光の好み(近接高機動白兵戦)と本人の好み(中遠距離高機動射撃戦)とで日々口論している。

 最終的に改修セットを常備し、その場で光好みのカスタムになる事で一応の決着を見た。

 

 大まかのデザインこそ史実三世村正のそれだが、細部はかなり異なっている。

 全体的によりほっそりとしつつ、頭部の角は真上に伸び、アンテナとして機能していたが、後の改修でデザインこそそのままだがより高性能かつ多機能型のブレードアンテナへと換装された。

  頭部側面から垂れる糸は両手首から射出可能な鋼糸と同質のものであり、緊急時にはこれを操作して近接迎撃やアンカーとして使用できる。

 背部の合体理はやや小型化したものの、両大腿部側面に小型の補助合体理があり、騎航時には加速性と旋回性能の強化だけでなく、被弾時の安定性にも寄与しているが、これの設置に伴い、母衣の位置は膝側面から足首側面となっている。

 また、背部の主合体理に接続された蜘蛛足はサブアーム兼スタビライザーとして機能し、それぞれを独立して可動できるが、煩雑な操作が必要なため、劔冑側から行う。

 関節を阻害する様な部位には鋼糸を用いた鎖帷子が採用され、可動範囲が向上、同時に近接戦闘時の自由度が上昇している。

 肩の垂直装甲(大袖)や母衣と言った肉体の無い部位は全てユニット化されており、損傷次第で即座にパージ、帰還後に直ぐ交換できる。

 陰義発動時、技術系頭脳チートの影響もあり、常に最小の熱量で最大の効果を発揮しつつ、素早い発動を可能としているため、従来の真打よりも陰義発動時でも感知され辛い。

 また、陰義の制御機構でもある各部位の金具も装甲内部に内蔵する事で、陰義使用時の被発見性を低下させている。

 武装面では史実の大太刀・太刀・脇差の他に、弩(モンハンの長銃身付きライトボウガンに似る)が左背面に追加され、文字通りの電磁加速砲として使用可能である。

 弾種は後部に四枚の安定翼の付いた総甲鉄製の矢を主に使用し、最大出力での発射で命中した場合、現状の主力竜騎兵(大和皇国基準)では追加装甲を二重に装備しても貫通されるため、実質真打の陰義でなければ防げないが、劔冑の接近戦の必要性を大幅に下げた上で熱量の消費も割と少ない(刀剣の加速よりも必要となる熱量が少ないため)おかげで、出力を下げれば連射も可能なので、余程カッ飛んだ実力者でなければ射程範囲内に入った時点で詰む。

 また、弾種も様々あり、弾頭の圧縮率を上げた貫通弾に、低出力時しか使用できない散弾があり、更に精度は下がるがサブアームだけでも使用可能なので、両手が空いたまま戦闘可能だし、背面にマウントしたまま発射可能なので、様々な場面で活用できる。

 なお、この電磁加速砲のデータを元に大和皇国では急速に数打仕様の電磁加速砲の開発が進んでいたりする。

 

 陰義においては原作同様の磁力制御に加え、電子制御も可能なため、大気中の電子の動きから周囲の変化をほぼ予知レベルで察知、極めて高精度の戦闘補助を可能とし、金打声ではなく、純粋なレーダーによる広範囲の索敵も可能であり、現在発見されている劔冑の中では最大の索敵範囲を誇り、電磁加速砲と合わせ、領域支配すら可能とも言われる。

 他にも、周辺の電子の動きをかき乱す事で、機械式計算機を採用した物は機能不全にする事が出来る等、広範囲のEMPを展開する事が出来る。

 また、ある程度は機械式計算機へのクラッキングも可能であり、情報奪取に加え、遠隔操作や命令の書き換え等、ただの機械から欧州式数打にまで行える等、極めて応用範囲が広い。

 反面、制御には専門知識が必須であり、現在の仕手である光ではどう足掻いても使いこなせないので、陰義の操作は専ら劔冑側が行っている。

 更に、村正系列の持つ精神汚染・精神攪乱もあるものの、これらは勅令により禁止されている。

 人化の術は技術顧問に召集されてからは割と頻繁に使っており、関係者を無意識に誘惑してたりもする。

 人化時は史実と同じ姿だが、家事は人並みに出来るし、人当たりも良い人格者。

 仕手である光にはややお姉さんぶる傾向があるが、景明他湊斗家一同とは良好な仲であり、殆ど家族の一員となっている。

 なお、もしもの時のためとして、食事や性交によってある程度熱量を補給可能となっている。

 

 総じて、極めて高性能だが、同時に発展性も大きく残された劔冑と言える。

 この点に関しては、宮本武蔵の五輪の書の「真の兵法とは戦闘経験の蓄積の果てに出来る」に対して、「優れた兵器とはあらゆる環境に対応可能で、誰でも使用可能で、それらを満たしつつ量産可能でなければならない」と言う信念による。

 数打を量産し、各種状況へ対応した派生騎を作り、訓練した者なら誰でも騎乗できるようにしたのは、このためだ。

 同時に、そういった数打では対処不可能な災厄に対応可能な劔冑を彼女は求めた。

 それが常にアップデート可能でありながら、応用性の高い陰義を持つ、極めて高性能な劔冑だった。

 これにより、騎体性能の陳腐化を避けつつ、来たるべき災厄(原作展開への揺り戻しや金神の欠片を利用した劔冑や鍛造弾等)への対策とした。

 最悪の場合、史実における銀星号の様な自己の複製すら視野に入れる等、自己進化・自己再生・自己複製を最大限生かした最終兵器案すらあったのだから、彼女がどれだけこの世界の負の方向性を恐れていたかが理解できる。

 

 結果として、そうした最終安全機構を使用する様な状況は大和皇国のお蔭で来そうになくなったため、彼女は現在お座敷劔冑生活を満喫している。

 

 

 

 

 なお、時折景明とToloveるして光にボコられたりする。

 

 

 



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ワンパンマン転生 魔法使いが逝く 修正

原作が大事な方に注意
サイタマさんの苦戦シーンがあります


 「はいはいテンプレテンプレ。お好きなチート持って適当な転生してくださいねー。」

 

 そんな白昼夢を見たので、ついつい注文してしまった結果、私は後悔しまくっています。

 

 魔法使いになりたい。

 それが私の夢であり、チートだ。

 チチンプイプイでもピーリカピリララでもいあいあくとぅるふふたぐんでも構わない。

 私は魔法使いとなって魔法を使い、その道を究めてみたかった。

 元より人よりも凝り性な私は、いつもゲームでは廃人とか攻略厨とか言われる程度にはやり込んでいたので、それをリアルに持ち出したいなんて考えてしまったのだ。

 無論、後悔する羽目になったのだが。

 あの白昼夢の時に聞いた『適当な転生』と言う言葉。

 それは嘘でもなんでもなく、貰ったチートに応じた適当な世界へと転生すると言う事。

 例えば、Fateで有名な直死の魔眼や無限の剣製なら、それらが最大限発揮される型月世界へと転生させられる。

 逆に、黄金律とかの武力とか以外のチートなら、経済系の漫画やドラマ等の登場人物が多数登場する様な世界で、幸運にも得た自分の財産を守り通さなければならないと言った具合だ。

 要はチートで他人よりも有利な分、転生する世界の物騒さ加減で帳尻を合わせられるのだ。

 つまり、本当に平穏に生きたければ、何のチートも選ばない方が良かったのだ。

 気づいた時には後の祭りだったのは言うまでもない

 

 

 ……………

 

 

 私が生まれたのは確かに地球なのだが…少々、否、かなり変わった世界だった。

 怪人や魔物、サイボーグやロボットと言った常識的に在り得ない筈の存在が世界中に跋扈し、世界中の人々を脅かしていた。

 とは言え、私が生まれた場所は平和な隠れ里であり、そんな外界の騒動とは無縁だったのだが。

 私が生まれた場所、そこは魔法使い達の隠れ里だった。

 元は欧州の魔女狩りから逃れてきた人達が当時の欧州世界にとっての正真正銘の地の果てである日本へと辿り着き、そこの人々と協力し合う形で生活を開始したのが始まりだ。

 しかし、文明開化と共に、魔法なんて非科学的な代物は徐々に淘汰されていき、居場所がなくなった果てに、外界との繋がりを断つ事になった。

 今では最低限の情報収集と生活物資の買い付け位が外界との繋がりだった。

 とは言え、お家芸である魔法以外は里の外の学校で学び、近隣で就職する辺り、割と普通な面もある。

 近隣の小学校を順調に優秀な成績で卒業した後、私はかねてより計画していた事を実行に移した。

 本来なら公立の中学へと進学する所を、奨学金制度を利用して、都内の中学校へと進学したのだ。

 何故そんな事をしたのかって?

 魔法を合法的に大勢の前で使う機会を得たかったと言うのも勿論ある。

 でも、本当の理由は別だ。

 

 だって、里ってテレビとラジオは兎も角、インターネットが出来ないんだもん。

 

 当時、西暦201●年、インターネットと共に育った世代にネット環境が無い実家は耐えられなかったのだ。

 

 

 ……………

 

 

 都内の私立中学とは言っても、そこまで高偏差値ではない。

 精々が大学までは行きたいが将来の展望は特にない、或は本命に落ちた際のセーフティ代わりに利用される様なレベルの学校だ。

 しかし、インターネットがあり、興味ある分野を積極的に学べる環境と言うのは、前世でも思ったが、実に有意義に感じられる。

 失って初めて本当に大切な日々だったのだと実感できる。

 だがまぁ、魔法使いなんてものになったせいで、そんな平穏に浸れる訳もなく。

 

 ある日、唐突に校内で怪人が発生した。

 

 「クークックック!オレは試験怪人ペンシール!試験に落ちた怒りとストレスで怪人となった!さぁ分かり難い試験ばかり考える教師共を血祭に上げてやる!」

 

 多分鉛筆が大切な友人だったのであろう文房具の集合体みたいな怪人が現れ、生徒達が逃げ惑う。

 あの説明調のセリフは兎も角、解析魔法によればあれでも羆程度には高い身体能力を持っているらしく、一般人にはかなり危険だ。

 

 『○○中学校内にて、怪人が発生しました!災害レベルは虎!付近の市民は速やかに避難してください!付近のヒーローは速やかに駆け付けて下さい!』

 

 こうした放送に違和感を持つのも何度目か。

 この世界特有のシステム、多くの災害への迅速な対応のためについ半年程前に設立されたヒーロー協会。

 国家・都市間の利害を超えて活躍する彼らは、多少の問題を孕みつつも、凡そ順調に多くの災害から人々を守っている。

 つまり、この世界はしょっちゅう危険な事態が発生するワンパンマンの世界と言う事になる。

 成程、魔法なんて単なる技術の一つに過ぎない訳だ。

 

 「ひ、ひぃ…!」

 「クークック!お前は以前、自分がテストで高得点取った事を自慢し、オレを馬鹿にしたなぁ!見せしめにしてやろう!」

 

 内心では怪人の言葉に激しく同意しつつも、流石に目の前で起きる惨劇を見過ごす理由も無かった。

 

 「戦闘用分体を作成、性能は高めに設定。」

 

 この場にいるのは逃げ遅れた生徒と自分、そして怪人一人。

 なので、魔法を使っても問題はないと判断した。

 作成した分体は一つ、十代半ばに届くかどうかといった愛らしい少女の容姿に綺麗な赤毛のロングストレート。

 スタイルこそ年齢が年齢のためスットンだが、フリルや装飾が多く付いたカラフルなとんがり帽子と衣装、手に持った三叉の槍を持った姿は、確かに魔法少女だとこの国の人々なら納得するだろう。

 

 「こらそこ!堅気に手ェ出してんじゃないわよ!」

 「なにぃ…?何者だ、お前は!」

 

 「私は魔法少女ハロウィン☆エリザ!趣味で魔法少女をやってる者よ!」

 

 

 此処に痛々しくも可愛らしい魔法少女が爆誕したのだった。

 うん、自分でやっといてこれは痛い。

 ほら、分体も羞恥で涙目だし。

 良かった、最初は分体で試す事にして。

 

 その後、怪人は数撃で撃破に成功し、被害者?の生徒も回復魔法で事なきを得たが、分体の心には致命的な傷が発生しました。

 その後も事件を感知すれば分体ことエリザを空間転移で派遣する事が続き、何時の間にか魔法少女ハロウィン☆エリザは市民権を確保する位に活躍し、ヒーロー協会へと所属し、順調に出世していくのでした。

 なお、その間私は視覚同調で観戦しつつも普通に学生してました。

 うむむ、高校卒業と同時に本格的にヒーロー稼業に専念すべきか、収入も凄いし。

 

 

 ……………

 

 

 世間に痛々しくも登場したハロウィン☆エリザは、その容姿と強さもあって、瞬く間にお茶の間の人気者になった。

 とは言え、特に取材とかを受けた訳ではない。

 魔法少女というものが大好きな、大きなお友達たちの活躍によるものだ。

 彼らはアイドルに粘着するドルオタの様に、否、そのものとなってあちこちに偏執的な監視網を設置し、とある地域で怪人が登場すると殆ど間を置かずに現れる場所を特定し、これを利用して魔法少女ウォッチングを開始したのだ。

 まぁヒーロー相手でも多かれ少なかれ同じ様な連中がいるので、そう珍しくもないのだが。

 問題なのは、その中に狂信的と言っても良い魔法少女厨が多数存在した事であり、更にその中に自らも魔法少女に成りたいと言う年頃の娘さん達がいた事だろう。

 そうした少女たちは皆一様にニチアサや絶望物語その1とその2の魔法少女に深く感銘を受けており、どうにかエリザに接触し、弟子入りなりマスコットキャラとの契約なりをさせてもらい、自らも魔法少女になろうと画策していた。

 

 そんな彼女に対して逸早く接触に成功したのがヒーロー協会だった。

 なにせそのシステム上、強いヒーローは幾らいても足りない協会にとって、彼女の様なメディア受けしつつ実力もある存在は貴重だった。

 実力も既にSランクと言って良いし、何より人格面でも問題ないのが良い。

 また、保有する魔法能力も攻撃・防御と言った基本的なものから、空間転移に広域探査、回復に強化と言った幅広い用途があり、尚且つ素の本人もAランク程度ならあしらう程度には実力があるのだ。

 他のヒーローと組ませても良いし、単独で動かしても大丈夫で、尚且つ一般人への被害を気にしてくれるのだ。

 問題児だらけのヒーローを相手にする協会の事務方としては、(無能な上層部を除いて)全員が所属を歓迎していた。

 そして、収入源にもなるし、情報支援を受けられると判断したエリザは本体の許可の下、最初はAランクでヒーロー協会へと所属する事となった。

 結果、ものの一ヵ月程でSランクへと昇格し、童帝の次に年少のSランクとして活躍していく事となり、またもや狂信的なファンが増える事となった。

 

 

 ……………

 

 

 そんな世間の動きは露知らず、エリザベートの中の人は中学卒業後、Z市の高校へと進学し、現在は学業と併せて各種資格取得のための勉強をしていた。

 彼女の外見は黒髪おさげを背に垂らし、前髪を少し長めに伸ばし、更に眼鏡をかけた知性を感じさせる美少女だった。

 しかし、本人が勉強好きだった事もあり、恋愛には興味を示さずに灰色の学生生活であったが、それでも本人は満足していた。

 在学中は外で分体のエリザがヒーローとして活躍し、本体である少女は学生としての生活を送る。

 で、エリザが得た戦闘経験はそのまま記憶共有により本体である少女もまた、同様の経験値を持っている。

 そのため、以前よりも魔法の練度も上昇し、肉体の成長も相まって更に強くなっている。

 しかし、現状は彼女にとって不満だった。

 何せ今現在の彼女にとって災害ランク竜の大型兵器や怪獣、巨人の類ですら安全距離から魔法で一撃死させられるのだ。

 魔法を使う事で得られる達成感も何もあったものではない。

 一応、遠距離魔法無しの身体強化魔法のみで鬼級を何体か相手取った事もあったが、数回で肉弾戦でのやり方も覚え、達成感を得られなくなった。

 金銭においても、既に十分な額を稼ぎ、その上でそれらを運用・増加させるための分体を態々作り、金策に奔走させているため、お金は増える一方だった。

 幸い、税金に関してはヒーロー協会を通して満額収めているため、特に捕まる様な事はしていないが、そういった方面でも既に手を出しているため、今更他の何かをする気も起きず、ただ日々を過ごしていた。

 今現在、彼女達はヒーローとしての生き方にも余り意義を見いだせずにいた。

 

 それはつまり、目の前のこの禿頭の男と同じと言う事になる。

 

 一目見てその存在を思い出した少女は、ふと今の自分ならこの男に敵うのではないだろうか、と思ってしまった。

 思い上がってしまった結果、彼女はサイタマにちょっかいを掛けると言う血迷った事をしようと考えてしまった。

 無論、後から冷静になって考えなおせば、それはこの世界の法則そのものに喧嘩を売る事であり、どう考えても自殺行動であったのだが、その当時の彼女はそれすら頭に無かったのだ。

 勿論の事、話の相手であるサイタマ氏には事が終わり次第に土下座を敢行し、謝罪を行った。

 後、壊してしまったサイタマの家財とかの弁償も。

 斯くして、この世界最強の一撃男と転生チート魔法使い(女)との戦いはそんなグダグダな経緯で始まった。

 

 

 ……………

 

 

 初めてサイタマがそれを認識したのは、彼が間もなく自宅のアパートへと着くと言う時だった。

 恰好はお馴染みの白いマントに黄色いスーツ、そして赤いグローブとブーツと言う何時もの恰好。

 丁度己の強さに飽き飽きし、ヒーローとしての自身の在り方に疑問を覚えていた頃の事だった。

 不意に、本当に久々に、稲妻の様な悪寒が奔った。

 それは自分の頭にまだ髪があり、今となってはデコピン一つで倒せる怪人にも四苦八苦していた頃には良く感じていたもの。

 即ち、生命の危機に対する直感である。

 

 「ッ」

 

 上体を反らす事で頭を下げると同時、鼻先を何かが掠めていく。

 直後、自身の背後にあった電柱が綺麗に切断された。

 

 「誰だ、お前。」

 

 目の前に立っている、如何にも怪しい黒いフードの人物に、サイタマは問い掛ける。

 これが怪人や悪人の類なら、名乗り返してくるものだが、どうやら目の前の相手は違うらしい。

 

 「………。」

 

 無言のまま、指先をついと動かす。

 それをサイタマは跳躍する事で回避する。

 先程と同じ、鍛え過ぎた自分の身ですら危うい斬撃が宙を奔り、また街の一部を破壊する。

 こと此処に至って、サイタマも腹を括った。

 元より戦場に身を置く者である、その決断は早かった。

 

 「多少手加減はしてやる。」

 

 相手が何者か分からない以上、殺して良い相手かも不明だからこそ、サイタマは手加減を選択した。

 そして、彼にとってはジャブの一撃、しかし他者にとっては一撃で五体を砕き尽くす拳が放たれた。

 

 「ッ」

 

 だが、多くの敵を無感動に刈り取っていった一撃を、フードの人影は危なげなく回避した。

 それを見て、サイタマは自身の中で何か熱いものが滾り始めたのを感じた。

 お返しとばかりに謎のフードはその周囲に幾つもの魔法陣を展開、光の弾丸を雨霰と放ってきた。

 それは人気の少ないZ市のゴーストタウンであるからこそ人的被害は出ていないが、一般人では肉片になるしかない程の威力を持った砲弾の制圧射撃だ。

 だが、その程度の攻撃など、サイタマにとっては単なる目晦まし以下にしかならない。

 勿論、サイタマの実力を知っている相手にとって、それは単なる目晦ましなのだが。

 

 「フッ!」

 

 ズドン、と腹を大きな衝撃が通り抜けていく。

 空中だったために踏ん張りの効かなかったサイタマはそのまま吹き飛ばされ、数km先の廃ビルへと頭から突っ込んでいく。

 だが、互いにダメージは無い。

 当たり前だ、この程度は互いに序の口に過ぎない。

 

 「ん?」

 

 ガラリ、と瓦礫から何のダメージも感じさせないままにサイタマが身を起こす。

 同時、何やら少し動きにくい。

 見れば、自分の全身に光の環の様なものが絡みつき、自分を拘束している。

 

 「なんだこんなもん。」

 

 無論、サイタマにとってはそれ単体では意味は無い。

 しかし、それに注目したが故に、サイタマは瞬時に空間転移してきたフードの人物に気付くのが遅れた。

 

 「空間切断術式、並列、八重展開。」

 

 先程出会い頭に向けられたサイタマの耐久力を突破可能な魔法が8、それぞれ異なる軌道で放たれる。

 空間から僅か0.01mm程度の空間を引き抜く事で斬撃とするその魔法は、単純な防御や耐久力では防げない。

 幸い、ほんの僅かしか干渉しないため、空間に断続的な負荷をかける事はないが、その分発動の速さと術式の容量がその威力と貫通力の割りに極めて軽いため、こうして連射や一斉射撃に用いる事もある。

 回避するしかないその八撃に、サイタマが取った手段は簡単なものだった。

 パターンを読むとか、上手く隙間を潜り抜けるとか、安全地帯に陣取るとかそんなものではない。

 

 「必殺マジシリーズ…」

 

 ただ圧倒的な身体能力に基づいた、超高速の回避である。

 

 「マジジャンプ。」

 

 サイタマは全力でその場から真上よりやや後ろへと跳躍した。

 そんな単なるジャンプは、しかしサイタマが本気でやれば、踏台となった地面は一瞬で陥没、崩落し、超音速域の挙動により周辺に衝撃波をばら撒きつつ、その身を一気に安全圏へと離脱させてみせた。

 それをフードの人物は一瞬唖然として眺めたが、不意に口元を愉し気に歪ませると、自身もまた空間跳躍で以てサイタマを追跡した。

 

 (さて、どーすっかなー。)

 

 こっちはこっちで何だか楽しくなってきたサイタマは、あのフードの人物が次はどうしてくるかを考えていた。

 

 (あれ、確か魔法って奴だよな?本物は初めて見たけどスゲーなやっぱ。)

 

 何せモーションが一切読めないし、自身にダメージがありそうな攻撃をバカスカ撃ってくるのだ。

 あのフードの人物が手練れである事を勘案しても、強力であると断言できる。

 

 「よっと。」

 

 軽い言葉と共に、サイタマが郊外の山へと着地する。

 無論、音速を軽々と超えていた物体が着弾したせいで山肌は大きく抉られたのだが、そんな事を今のサイタマは気にも留めない。

 何故なら、目の前に自分を楽しませてくれるかもしれない敵が現れたのだから。

 

 「フッ!」

 「おっと。」

 

 とは言え、流石にタダで食らってやる訳にはいかない。

 先程と同様の出会い頭の接近戦での一撃を今度は回避する。

 その類稀な身体能力は、勿論動体視力にも当てはまる。

 サイタマは超高速で展開される格闘技の殆どを防ぎ、或は回避していく。

 普段なら棒立ちかある程度距離を保ち続けるのだが、先程の斬撃を飛ばす魔法を警戒して、サイタマは決して当たらない様にしていく。

 

 「甘い。」

 

 その動きから正確にサイタマの狙いを理解したフードの人物は、滑る様に宙を奔りつつ次なる魔法を放つ。

 それを見たサイタマは、直感の告げるままに横っ飛びに回避する。

 直後、サイタマが先程までいた空間が球体状に歪み、その球体の中にあったものが粉微塵になった。

 空間の一部を引き抜くのではなく、破砕する。

 これならサイタマの耐久力なら辛うじて対応可能かもしれないが、それでもダメージは免れないだろう一撃だ。

 

 「あっぶねーなー……?」

 

 その光景に冷や汗を流したサイタマだが、不意に頭から感じる痒みに手を当てた。

 ヌルリとした感触に、手を前に持っていくと、そこにはグローブとはまた違った赤が付着していた。

 

 

 ……………

 

 

 (これも避けるか。)

 

 それを見て、フードの人物もといハロウィン☆エリザの中の人は感心していた。

 流石は原作主人公、流石はワンパンマン、桁違いだ、と。

 先程から行っている解析魔法によるステータスの解析でも、未だサイタマのスタミナや生命力の1割も削れていない事が分かる。

 世が世なら、彼こそが主人公に倒されるラスボスであり、その気になればこの星すら壊しかねない程の力をその五体に宿している。 

 

 (ん?)

 

 そんな彼女が発動していた遠視魔法が、不意にサイタマの異変を捉えた。

 

 「は、ははははは…」

 

 傍目から見れば、それは自身の久方ぶりの出血に恐怖を感じて動けないかの様にも見える。

 しかし彼はヒーローであり、戦士である。

 この程度で怖気づく訳が無いと断言できる。

 

 「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」

 

 ブワッと、その余りに大きな声量に周辺の瓦礫が巻き上げられ、吹き飛んでいく。

 その姿を見て、その脅威を感じて、その武力を理解して。

 

 「く」

 

 フードの人物は、口元が歪むのが抑え切れなかった。

 

 「偽装解除。」

 

 此処から先に偽装なんて無粋だと、柄にもなく判断した彼女は、その本当の姿を晒した。

 眼鏡を外し、黒の三つ編みを解いてストレートにし右手には先端に槍の穂先の様な深紅の結晶体のある杖を持ち、その腰元のブックホルダーには怪しげな魔道書が収められている。

 惜しげもなくその美貌を晒し、妖艶でありながらも知性を感じさせ、その上で圧倒的な力強さも内包する彼女は、正しく御伽噺における魔法使い、魔女の姿だった。

 不意に遠視ごしに目が合った。

 

 「普通のパンチ。」

 

 直後、大気を強引に引き裂きながら、高笑いを止めたサイタマが接近してくる。

 その拳の一撃を、拘束具でもあり、魔力養成ギプスでもあったローブを纏った時では出せなかった対物理特化の防御魔法、その200重並列展開で防ぎ切る。

 ただの一撃でその過半を砕かれた事に驚きつつも、それ以上に笑いが止まらない。

 見れば、目の前のサイタマもそうだった。

 楽しくて楽しくて仕方ない。

 そんな悪童染みた笑みを、顔全体で浮かべていた。

 

 「連続普通のパンチ。」

 

 次いで放たれた致命のジャブの嵐を、魔女は更に防御魔法を1000以上展開する事で防ぎ切る。

 あぁ、やはり自分の目には狂いは無かった。

 魔女はこの男に挑んで良かったと、今初めてそう思った。

 

 「身体は温まったかしら?」

 「あぁ、もう十分だ。」

 

 互いに笑みを浮かべて告げる。

 目の前の同類に、眼前の宿敵に対して、二人は漸く確信した。

 あぁ、こいつなら自分と戦えるのだと。

 何の意義も感じられない弱い者いじめではない、本当の戦いが出来るのだと。

 

 「第一種戦略級攻撃魔法、三重装填。」

 「必殺マジシリーズ…」

 

 弾かれた様に互いに距離を取った両者は、互いに出来る最大の攻撃手段を躊躇なく選択する。

 魔女は国家単位ではなく、大陸すら破壊可能な戦略級魔法を放つべく、その正面に10m超の魔法陣を展開し、生成した時点であらゆる物質を消滅させる物質を弾頭へと加工していく。

 サイタマは普段は決して使用しない全力の拳撃を放つべく、右腕を引いた。

 

 「反物質生成完了…アンチマテリアルカノン、発射ぁッ!!」

 「マジパンチ。」

 

 

 その後の展開を詳しく描写する事は出来ない。

 何故なら、この二人の戦いは人知れず始まり、人知れず終わったからだ。

 残ったのは僅かな瓦礫の山と荒れ地のみ。

 

 この日、Z市のゴーストタウンは完全に更地となり、地図が書き換えられる事が決定した。

 これに対し、Z市議会はヒーロー協会に対して事態の調査を要請したものの、残っていたのは辛うじて何者かが戦闘したと思われる痕跡だけであり、事態の究明に繋がる事は無かった。

 

 

 ……………

 

 

 一ヵ月後

 

 「サイタマさーん、ご飯できましたよー。」

 「おーう、今行くー。」

 

 Z市内で辛うじて被害を免れた地に、二人は引っ越していた。

 元々家財には余り執着しない性の二人は、今では同居して生活している。

 

 何故こんな事になったのか、それはまた、別の機会に語る事にしよう。

 

 「お、今日は鮭か。いいねぇ。」

 「偶々近くのスーパーで安かったんです。さ、冷めないうちに食べちゃいましょう。」

 

 嘗て鬱屈のままに殺し合った二人。

 しかし、今の二人はどう見てもバカップルにしか見えないのを、周囲の人間達だけが分かっていた。

 だが、そんな事はどうでも良いとばかりに、二人は今現在の幸せを噛み締めていた。

 

 

 

 

 

 

 




何か以前の東方転生と同じく迷走した感が強い(汗
取り敢えず、日常編でもう一話やる予定です。

ヒーロー協会関係で微修正しました。
若い組織とは思ってたけど、予想以上に若かった件


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ワンパンマン転生 魔法少女が逝く2

 私の名前は魔法少女ハロウィン☆エリザ!

 皆に夢と希望を魅せるヒーロー協会のアイドルよ!

 

 まぁ本体が人嫌いの気があるから、あんまり誰にでも甘い顔してるって訳じゃないけどね…。

 と言うか、根本的に根暗な本体の影響をガッツリ受けている身としては、魔法少女として明るく振る舞うのは正直きついわ、マジで。

 一応、モデルとなった英霊の人格や技能面のみを召喚して憑依させてる訳だけど、この肉体に関してはマジで本来のものよりもチートスペックなのよね。

 英霊、っていうかサーヴァントにおけるステータスが幸運を除いて殆どA、しかも本体の影響もあって魔法に関してはメディアとかのガチ優秀な魔術師にも負けないくらいだし。

 まぁこの世界じゃスペックだけなら探せばいる程度なんだけどね!

 それは兎も角として、本体がサイタマさんと戦ってから一週間が過ぎた。

 その間、私達分体は殆ど動けなかった。

 と言うのも、本体が生命維持に支障が出る位に魔力が枯渇したものだから、逆に私達の方から供給していたからだ。

 その間、私と金策担当の分体は魔法の使用を控え、ずっと待機していた。

 それは魔力の消費を抑え、少しでも多く供給するためのものだが、それ以前に本体のやらかしを咎めるためでもあった。

 少なくとも、本体が死ねば分体である私達は問答無用で死ぬのだから、怒るのは正当な権利だ。

 んで、本体が目を覚ましたのを感知した同時、すっ飛んでいった。

 

 「それでさー」

 「そうなんですか?」

 

 「」

 

 私が何を目撃したと思う?

 病室のベッドの上で包帯であちこちを固定した本体(悔しいが、本当にスタイルの良い美少女で羨ましい)が、この世界で紛れもない最強の男と親しげに話している場面。

 この世全てを蔑んでいた様な目をしていた本体が恋する乙女の様な、否、真実恋する乙女となって禿頭の男と病室で会話してる所よ!

 

 (おうちょっと本体、話聞かせないよ。)

 (ん?あぁエリザじゃない。ごめんなさいね、今手が離せなくて。)

 

 知ってるよ!

 っていうか病室の外で待機してるよ!

 ほら、今お前の事監視してるもう一人の分体も呆れてるよ。

 

 (ニハハハハ、まさか本体がこんな事になるとは…このウィル子の目をry)

 (節穴ネタは置いといて…で、何があったのよ?)

 (じゃぁ記憶共有するから、二人とも見ててね。)

 

 そして、本体からのフィードバックを受け………ウエェェェェェェェェェェェェェェ!?

 

 (あんた、何ワンパンマンに喧嘩売ってんのよ!?しかもZ市壊滅してるし!)

 (いやー薄々予想してましたけど、これは酷いですねー。)

 

 いや、本当に酷い。

 ストレスがっつり溜まってるからって、何でサイタマさんにそれをぶつけて解消するって斜め上の答えに至る訳!?

 それじゃあの傍迷惑な宇宙人の親玉と一緒じゃない!

 

 (いやぁ)

 ((いやぁじゃない!))

 

 そして何でサイタマさんとそんな親しそうなのよ!

 こっちが毎日仕事で死ぬ思いしてんのに、ストレス溜める位ならあんたもこっち来て手伝いなさいよマジで!

 

 (でも、収穫はあったよ?)

 ((だろうね!))

 

 何せサイタマさんと凄い親しくなってるしね!

 正直、原作ファンとしてはそこ代われと言いたくもある!

 

 (で、何処まで行ったんですか~?)

 

 ウィル子がニヤニヤと擬音が聞こえそうな声音で念話してくる。

 しかし私も少女、他人の恋バナは是非とも聞いてみたい。

 

 (えと、その、そういうのはまだ早いかなって…)

 ((子供か!?))

 

 って、そういや前世含めてこいつ恋愛経験無いんだった!

 経験値的に見れば完全に子供だった!

 

 (まぁ取り敢えず理由は解りましたから、本体はゆっくり養生するとよいのですよー。)

 (そうね、それじゃあ二人は通常業務に戻ってもらうわ。ただ、私が本調子に成り次第、分体をもう二人作るから、それは覚悟しててね。)

 

 驚いた。

 現状、分体の作成はこれ以上するつもりはない予定だったのだが、どんな心境の変化があったのだろうか?

 いや、恋心を覚えるとか、本体にとっては驚天動地なのだろうけど。

 

 (分かったわ。こっちは取り敢えず通常業務に戻るから、そっちは安静にしてなさい。)

 (了解なのですよ~。でもでも、何時かは私達も紹介してほしいのですよー。)

 (分かってる。退院して時間が出来てからね。)

 

 そう告げて、その場は解散した。

 

 「ん?あの二人、知り合いだったのか?」

 「あ、気付いちゃいました?すみません、仕事の関係で…。」

 「良いって良いって。お前が何か大変そうなのは分かってるし。」

 「サイタマさん…。」

 

 気づかれてた事に驚けば良いのか、早速イチャイチャが始まっている事に驚けば良いのか、本当にこの二人と来たら……。

 

 

 なお、本体は退院までの一週間、見舞いに来てくれるサイタマさんとイチャイチャし続けた事を此処に明記しておく。

 

 

 ……………

 

 

 Z市壊滅から二か月後、引き続き調査に当たっていたSランクヒーローの一人である魔法少女ハロウィン☆エリザから一つの報告書が提出された。

 内容は簡単なもので、「名も知れぬ科学者がZ市のゴーストタウンで反物質に関する研究を行っていた」と言う内容だった。

 当初、これに対してヒーロー協会上層部は信憑性が薄いとして調査の続行か打ち切りかを考えたが、続く報告に度肝を抜かれる事となる。

 

 「私の師匠が簡単に魔法少女になれるアイテムを作れる人材を連れてきたんだけど…配って良い?」

 

 人材の確保に四苦八苦していたヒーロー協会上層部は、心臓が止まる程の驚きに包まれた。

 一部の職員は本当に止まりかけたが、それでも気合で復活して渡された資料に目を通す辺りは流石と言える。

 内容はハロウィン☆エリザの師匠が育てた魔法の道具、礼装の作成に特化した人材が作成した専用礼装についてだった。

 この礼装は簡易ながらもAIの様な人工知能としての機能を持ち、同時に持ち主の魔法の才能を引き出し、持ち主に最適な魔法を行使する補助を行う。

 その結果、持ち主はその補助礼装の恩恵により、適正さえあれば、簡単に魔法を使う事が出来ると言うものだった。

 この補助礼装の存在に、上層部も流石に頭を抱えた。

 ヒーロー協会としては是が非でも人材は確保したい。

 そのため、本音で言えば手っ取り早く人材を確保できる手段は諸手を上げて受け入れたい。

 同時に、適正さえあれば「誰でも」と言うのが癖者だ。

 文字通りの意味なら、犯罪者や悪党、怪人にも補助礼装は反応してしまうと言う事だ。

 また、適正が高いからと言って、年少者や傷病者、高齢者に殆ど荒事と言うヒーローの仕事を任せるには不安が大きいと言う声もあった。

 そのため、ヒーロー協会はこの補助礼装の作成者と師匠を協会所属のヒーローへの勧誘と同時に、補助礼装を渡す相手はヒーロー協会へと試験を受けにやってきた満16歳以上60歳以下の女性への適性検査を実施し、本人の希望があった場合のみ補助礼装を貸与する事を条件に決定した。

 これに対し、ハロウィン☆エリザは条件付きで承諾した。

 それは師匠と礼装作成者、更にもう二人をSランク待遇でヒーロー協会で迎える事だった。

 師匠と礼装作成者ならまだ分かるが、もう二人の実力に関して疑問を掲げる上層部に対し、エリザは「師匠と同等の実力者。単体戦闘能力のみ抜き出せば、確実に師匠よりも上。後、師匠の良い人。おまけに私の妹弟子。」と言う発言に、大体の事情を察した上層部は色々とツッコミたいのを飲み込んで、その条件を全て了承した。

 

 結果、翌月のヒーロー協会主催のヒーロー採用試験はハロウィン☆エリザの人気にあやかり、満16歳の少女達の記念受験者が大量に溢れ、各支部の職員が連日デスマーチを熱唱する羽目になった。

 

 

 ……………

 

 

 「ヴィータさん!また追加発注です!」

 「またか!?えぇい何時まで経っても終わらねーじゃねーか!」

 

 師匠と言われる女魔法使いの派遣した三人目の分体、礼装作成に特化した三体目の分体であるヴィータは汗だくになって工具を振るいながら職員へと叫び返した。

 

 (作られてからこっち、休む暇がない!)

 

 給料が高いのも、仕事がたくさんあるのも良い。

 しかし、多すぎるのは良くない。

 魔法少女希望者の書類選考で地獄を見ている事務方と共に絶賛デスマーチ中のヴィータは顔を引き攣らせた。

 それが役目であり、やりがいのある仕事だとしても、ブラック労働環境は今すぐ止めてほしかった。

 

 (とは言え、こちらの想定以上の量だな。これなら本体も満足するだろ。)

 

 現在作成している補助礼装、外見は掌サイズのガラス玉だが、通常の才能開花や防具形成、形態変化を始めとした機能がある。

 特に重要なのが何重にも設けられた安全機構だ。

 一つ、分体及び本体に対しての敵対行動の禁止。

 二つ、分体及び本体の任意で機能を停止可能。

 三つ、心身に重度の支障がある場合、機能の停止、或は緊急帰還機能の強制発動。

 代表的なものとしてはこれらであり、他にも所有者の体調管理に魔法行使時の演算補助等が挙げられる。

 そして、本体と分体達しか知らない機能として、魔力及び魔法の徴収が存在する。

 前者は使用した魔法の0.1%を常に礼装を通じて集められ、一度ヴィータを通して「毒見」した後に本体へと供給されていく。

 これにより、本体は更なる魔力源を得た訳だが…

 

 (あんまり意味がないんだよなぁ…。)

 

 これは本体が利益を得るためのものではない。

 寧ろ、緊急時には本体の方から逆に魔力を送り込むための機能なのだ。

 元々、第二魔法とか言う並行世界から魔力を持ってくる事も、第二種永久機関ばりに自身の放った魔力をまた集める事も可能な本体に、この程度の些細な魔力供給源は必要性が薄いのだ。

 だが、後者は違う。

 前世で見た各作品の魔法や超能力、或はそれらを組み合わせたものを魔法で再現して使用する本体だが、その想像力には限界がある。

 となれば、若く柔軟な発想を持つ者達からアイデアを拝借した方が遥かに多様な魔法を生み出す事が出来ると考えたのだ。

 これには補助礼装、暫定呼称「デバイス」が使用者の才能と適正から、最適な固有の魔法を生み出すと言う性質もあり、大いに役立っている。

 実際、既に100人近い魔法少女が誕生しているが、彼女達の持つデバイスに登録された固有魔法は次々と本体のライブラリに登録されている。

 魔力と魔法、唯でさえチート級に強いのに今なお上を目指し続ける。

 その研鑚には敬意を表するが、動機が不純…否、或る意味純粋過ぎるのがヴィータには困りものだった。

 

 (『サイタマさんに失望されたくないから…』とか言われてもさぁ…。)

 

 すっかり恋する乙女となった本体の言動に、ヴィータは口の中が甘くなる錯覚を味わってしまう。

 自己鍛錬だけでなく、こうした点でサイタマとの実力差を埋めようとするのは感心なのだが、理由が余りにもアレ過ぎる。

 

 「よし、第27発注分はこれで完了だ。次の材料を持ってきな!」

 

 それは兎も角、自分は自分の役目をすべきだと槌を振るった。

 

 「ヴィータさん、また追加発注です!」

 「…ちょっと待て…少し休憩する…。」

 

 でもこれは無いんじゃね?とヴィータは思った。

 

 

 ……………

 

 

 「はいそこ!魔法使用時はちゃんと周囲の安全確認!射線上に民間人がいるわよ!」

 

 ヒーロー協会の支部の一つ、その訓練用設備でハロウィン☆エリザは成り立ての魔法少女達へと訓練を課していた。

 

 「は、はいぃ!」

 「よし、そのまま射線がぶれない様に、しっかりと標的を意識しなさい!細かい照準は礼装がしてくれるから!」

 

 体力面は時間をかけて鍛えていくしかないが、戦闘における心構え等は直ぐにでも鍛えるしかない。

 戦闘時、体力も魔力も武器も技術もあっても、精神面が伴っていなければ、そいつは戦場で役に立つ事は無い。

 某白い魔王の様なメンタルを持てとは言わないが、もしもの時に民間人を守れる程度には精神面が成長してほしい。

 そう考えたエリザは持ち前の汎用性を生かして、特化型の多い魔法少女の教導役に就いていた。

 とは言え、彼女自身には教導の才能なんて無いので、専ら本体が幼少期に培った魔法使いとしての基礎訓練のみなのだが。

 だが、それでも魔法少女の卵達にとっては自分は憧れの相手であり、訓練内容もまた初めてのものであり、戸惑う姿が多く見られる。

 

 (ま、それも今の内だけよね。)

 

 未だ精神が熟していない16歳と言う多感な時期に魔法と言う自分の思うままに出来る超常の力を手にする事。

 それがどれほどの中毒性を彼女達に与えるのか、それを考えると少々頭が痛くなる。

 

 (中毒になるのは仕方ない。でも、それに溺れてもらうのは困るのよ。)

 

 調子に乗って犯罪行為に走る様なら、その時点で補助礼装から警告が本体と分体に届き、別命あるまで強制停止される。

 それにより、各種魔法の使用も不可能になるので、簡単にお縄に出来る。

 なお、犯罪行為の規定に関してはこの国の法律と地域の行政がほぼそのままである。

 

 「よし、次は模擬戦行くわよ!ターゲットの召喚獣を出すから、皆頑張って捕まえて!」

 「「「「「はーい!」」」」」

 

 

 ……………

 

 

 その日、ヒーロー協会職員一同は新たにSランクに入る三人を見た時、一様に言葉を失った。

 否、三人ではなく、エリザを加えたその一行に、その一行の中心にいる黒い魔女の姿に言葉を失う程に見惚れていたのだ。

 黒い装束に身を包み、その右手に水晶の様な穂先を持った杖を携え、腰には重厚な革の装丁の魔道書の嵌まったブックホルダーを提げている。

 外見年齢は20代前半、しかしあのエリザの師匠と言うからにはその外見すら当てにならない。

 黒い艶やかな長髪に同色の瞳、白磁の肌に女性らしい凹凸と柔らかさに富んだ肢体。

 口元に施された真紅のルージュは薄目の唇を華麗に彩り、強固な意思を感じさせる瞳は見る者すべてを魅了する妖艶さを放っていた。

 無論、本人に周囲を誘惑するつもりは一切ない。

 ただ(サイタマさんに私の頑張ってる所を見てもらいたい!)と言う乙女思考の下、色々と気合を入れて化粧しただけだった。

 まぁその時使ったものに魅了効果を持つものが多数含まれていたため、職員らが目を奪われるのも致し方なかった。

 

 「失礼、アポイントを取っていた者ですが…」

 「は、はい!たたた只今ご案内致しますです!」

 

 直々に声を掛けられた職員は慌てふためき、時々躓きながら何とか案内していった。

 それを咎める者はいない。

 何せ、自分が声を掛けられても魂消て何の反応も返せないだろうからだ。

 

 

 ……………

 

 

 「サイタマさーん、ご飯できましたよー。」

 「おーう、今行くー。」

 

 Z市の外れにある高級賃貸住宅の一室にて、同居人の作った夕飯の香りを感じながらサイタマは思う。

 どうしてこうなった、と。

 

 『すみません、私の我が儘に付き合わせてしまって…。』

 『いや、良いよ。オレだって楽しかったし。』

 

 あの戦いの後、満身創痍のまま疲労困憊で気絶した女魔法使いを病院へと連れていき、自分もそのまま入院した。

 しかし、自分はものの三日で全回復したが、一緒に入院した女、否、寝顔を見るに少女の方は一月も昏々と眠り続けた果てに漸く目を覚ました。

 彼女は一方的に戦いを仕掛けた事、そして家財の一切合切及び街を破壊してしまった事を詫びた。

 そんな彼女にサイタマは問うた、どうしてあんな事をしたのかと。

 

 『私は…自分が一番強いんだなって思ってました。だから、この世界にはもう私と楽しく戦ってくれる人はいないんだって。これからは戦っても何も得られないんだって、そう思ってました。』

 『そんな時に、貴方の事を見つけたんです。』

 『初めて見た時はびっくりしました。私よりも強いんじゃないかって人に、初めて会いましたから。』

 『この人なら私と楽しく戦ってくれるんじゃないかって、そう思ったんです。』

 『そこからはもう止まれませんでした。貴方と戦う事ばかり頭に浮かんで消えなくて…もう我慢できませんでした。』

 

 その感情には、自分も身に覚えがあった。

 自分は強くなった。

 弛まぬ鍛錬の果て、自分は強く成り過ぎた。

 それこそ誰も敵わず、虚しさを覚える程に。

 嘗て目指した理想すら、霞んでしまう程に。

 サイタマはすとんと納得した。

 彼女の抱く悩みは、自分も抱えるものだった。

 成程、あの戦いがあんなにも楽しかったのは、互いに互いの虚しさを解消できた故だったのだ。

 

 『そっか。』

 

 一度納得したと頷き、

 

 『でも、悪い事は悪い事だ。これからは償いをしろよ。』

 『はい!』

 

 しかし、ヒーローとしての言葉を口にした。

 それが大人として、自分で課したヒーローとしての在り方だったから。

 そして、彼女もまた肯定した通りに行動した。

 実際、退院後の彼女の動きは迅速であり、部下?の少女二人に命じてZ市の復興費用を捻出したり、焼け出された被害者へと迅速に支援物資を送り届けたり等、如才なく償いを行っていった。

 

 『あ、そう言えば名前。』

 『名前…あぁ!そう言えば名乗ってませんでしたね!』

 『オレばっか知られてちゃ不公平だろ。』

 『そうですね。私の名前は倉土灯です。よろしくお願いしますね、サイタマさん!』

 『おう、よろしく。』

 

 そして、あれよあれよと言う間に、彼女は自分がフロアごと借りている高級マンションの一室にサイタマを住まわせてしまった。

 巧みな話術に乗せられてしまったサイタマであったが、相手が卒業間近の高校生と言う事もあり、何とか一線を保ったまま生活をしていた。

 まぁ衣食住を世話になっている時点で、かなり浸食されているのだが…。

 

 (リアル女子高生に手ぇ出すとか洒落にならねぇぞ…。)

 

 サイタマの悩みはこれに尽きた。

 マンション内では学校に行く時と同様の三つ編みに眼鏡だが、学校の制服ではなくラフな私服の上に可愛らしいエプロンを纏い、すれ違うと何かよく分からない良い香りをさせている美少女。

 どう考えても二十代半ばの成人男性と一緒に暮らすべき存在ではない。

 況してや相手はこちらに純粋ながらも熱烈な好意を向けている、限りなくOKに近い存在だ。

 正直、何時理性が敗北するか気が気じゃない。

 

 「はい、今日は肉じゃがと揚げ出し豆腐ですよ。」

 

 満開の笑顔で自分を迎えてくれる彼女を見ると、どうしても今の生活を壊したくない、そう思ってしまった。

 

 

 

 自分並に強く、美しく、気立ての良い家庭的な女性。

 この世界の何所を探してもいないであろう女性に、恋愛事に耐性のないサイタマは早々に絆されていった。

 

 

 

 

 

 




サイタマがちょろい?
いや、自分の悩みを理解してくれる気立ての良い家庭的な女性がこっちを好意全開で見てるんだよ?
こんな据え膳どころかフルコース、どんな草食系だってぐらぐらきますがな。


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ワンパンマン転生 魔法少女が逝く3

本日は二回投稿してます


 魔法少女の募集を開始して一月、ヒーロー協会に所属する魔法少女の数は100を超えた。

 それはデバイスと言う補助礼装の利便性の高さ故であり、この世界の人類の元々の才能の高さ故であり、既に魔法少女として公の場で活躍していた者達がいるが故だった。

 魔法少女の草分けにして、公的には初めて存在を確認された魔法少女であるハロウィン☆エリザと、同格のドヴェルク・ヴィータとWill.CO21、そして彼女達の師匠。

 ハロウィン☆エリザは人格・能力共に分かり易い魔法少女であり、善良な少女だ。

 ドヴェルク・ヴィータはやや取っ付きづらい印象だが、やはり善良であり、今日も槌を振るってデバイス作成に精を出している。

 問題なのは残りの二人だった。

 Will.CO21、彼女は電子戦に特化しており、自らの身体を電子へと変化、ネットの海に潜り、世界中の情報を収集している。

 だが、彼女は極めて厄介な事に悪戯好きであり、特に理由もなくサイバー犯罪を起こしたりもする。

 無論、悪戯で済まされる範囲で済んでいるのだが、被害が無い訳でもない。

 とは言え、そこまで深刻ではないので、大して問題視されてはいない(単に他に問題児が多数いると言う声もあるが)。

 

 問題なのは、彼女達三人の師匠にして、その経歴の一切が謎に包まれている女性だ。

 次元の魔女、とも言われる彼女は、他の三人が少女であるのに対し、成熟した若い女性の姿をしている。

 しかし、そのカリスマ、美貌、貫禄たるや、ヒーロー達の中でも群を抜いて…否、はっきり言って人を支配する力と言う面では、アマイマスク以上のものを持っていると言っても過言ではない。

 本人が世界に対してそこまで強く関心を持っていない=たった一人の男性ヒーローにご執心な事はヒーロー協会関係者なら誰しも知っているため、問題らしい問題は出ていないが、既に彼女は100を超える魔法少女達のTOPに立つ者であり、相応の責任と言うものがある。

 それはフブキ組やタンクトップマスターの舎弟達の様な、質の悪い存在となる可能性だった。

 軽犯罪程度ならまだ良いが、他のヒーローを潰し、人員を無駄に減らされる様な事態は避けたい。

 なまじ、訓練を終え、魔法の習熟さえ終われば、即座にC~B程度の実力を発揮できる魔法少女を多数抱え、今後も増加する見込みの高いがために、他のヒーロー達との諍いや内部での主導権争いの発生する可能性は高く、ヒーローの健全な活動を期待しているヒーロー協会にとって、魔法少女組の動向は気がかりだった。

 そこで、ヒーロー協会はその懸念を初期メンバーにおいて最も人当たりの良いハロウィン☆エリザにそれとなく聞いてみた。

 それに対し、人の上に立つ者としての教育も受けているエリザはあっさりと答えた。

 

 「それはもう対策済みよ。基本的なルールは実際の法律に基づき、魔法をむやみやたらに使用しない。これが魔法少女の絶対条件。態々デバイスに簡易的な式神としての機能を持たせたのは、そういったおバカさん達対策よ。少なくとも、言い訳のしようのない犯罪を犯した時点で、デバイスは機能を停止、魔法少女の資格は剥奪されるわ。」

 

 それは今現在も増加する魔法少女達にとって、どれ程の衝撃となるか、見当もつかない事実だった。

 だが、必要な措置でもあった。

 未だ夢見る年頃の少女達が、ある日突然不思議な力を手にするのだ。

 しかも、彼女達の持つ魔法は殆どがオンリーワンの固有なものであり、中には空間移動やヒーリングなど、戦闘には向かないが、それでもとてつもなく便利なものもある。

 例え訓練をしたとしても、そう言った力に溺れないと誰が断言できるだろうか?

 否、確実に誰か溺れる者が出ると、そちらの方が断言できる。

 

 「でも、デバイスを停止しても、一度習得した魔法は消える訳じゃない。単に演算を始めとした補助をデバイスがやっているから使えなくなるだけ。そういった事を含めて、本当の意味で魔法使いとなった連中はデバイス無しでも魔法を使えるようになる。勿論、そう簡単に使える訳じゃないし、より厳しい訓練が必要よ。」

 

 その情報に、ヒーロー協会は慌てた。

 唯でさえ強力な者が多い魔法少女に、まだ上がある?

 しかも、そいつらはデバイスの停止と言う鬼札が効かない?

 それはもう魔法少女と言うよりもタツマキの様な超能力者に近い。

 流石にSランク程ではないだろうが、それだけの人員を監視・運用する手間を考えると頭が痛くなった。

 

 「あ、ちゃんともしもの時用の抑止力もいるわよ?」

 

 へ?と間抜けな声を上げる職員に、エリザはちゃんと丁寧に説明した。

 曰く、師匠の直弟子は自分を含めて5人いるのだと。

 自分と言う汎用特化、ヴィータと言う作成特化、ウィル子と言う電子戦(と言うか情報戦)特化に対して、最後の二人は完全な戦闘特化なのだと。

 また、二人は師匠がやらかした時に止めるための役割も持っており、基本的に正規のヒーローとしては活動する事は無いのだとも。

 

 「あの二人に関しては本気で私も解らないわ。ウィル子なら何か知ってるでしょうけど、絶対に言わないだろうし…まぁ気にしても仕方ないわよ。」

 

 言うべき事を言って、エリザは教導へと戻っていった。

 その細い背中と揺れるしなやかな尾を見送った協会職員はこう思った。

 どれだけ引き出しがあるんだよ、と。

 

 

 ……………

 

 

 「黒、白、行きましょう?」

 「「………。」」コクコク

 

 ある日、復興の進んだZ市の商店街に、品の良い若妻と二人の子供が並んで買い物を楽しんでいた。

 若妻は眼鏡に三つ編み、野暮ったい服装が残念だが明らかに容姿が整っており、二人の子供はそれぞれ母親と言うにはやや若すぎる位の女性と手を繋ぎながら、穏やかに商店街を歩いていく。

 

 「おーい、終わったぞー。」

 「あ、サイタマさん。」

 

 そこに、禿げ頭の男が合流すると、母親は本当に綺麗な笑顔で歓迎した。

 その手にはスーパーの買い物袋があり、彼が会計をしていた事が伺える。

 

 「すみません、私が並ぶつもりでしたのに…。」

 「いいって。二人を連れてちゃ他の人の邪魔になるしな。」

 

 大好きな父親が合流したため、子供二人は白と黒がそれぞれ母と父の隣へと並ぶ。

 決して二人の間には立たない。

 何せ、そこは二人が手を繋ぐための空間であり、子供である自分達でも入るべきではない場所だからだ。

 

 「…サイタマさん、肩車ー。」

 「…お姉ちゃん、手つなごー。」

 「おう、いいぞー。」

 「はいはい。」

 

 夕暮れの商店街を四人がのんびりと歩いていく。

 それは何処にでもある、なんてことの無い、しかし尊い幸せの形だった。

 

 

 

 

 

 

 「ギギギギギギ……。」

 「なんであんなハゲが…。」

 「モゲロモゲロモゲロモゲロモゲロ…。」

 

 だが、夫婦間の容姿が余りにもかけ離れているため、周囲から殺意の波動を向けられていた。

 

 

 

 

 

 「白子、黒子、お仕事はどう?」

 「…無かった。」

 「…暇。」

 「そう、なら今日はもうゆっくりしましょうね。」

 「「はーい。」」

 

 二人の子供の名は、栗光白子と黒子。

 やたら無表情な白髪と青い目、黒髪と赤い目を持った二人の幼女は四体目と五体目の分体であり、本体にすら届き得る可能性を持ったイレギュラー、ドミナント、運命の破壊者である事を、今はまだ誰も知らない。

 

 

 

 

 序でにサイタマ含むこの四人が夫婦ではなく、単なる同棲相手である事も、誰も知らない。

 

 

 

 



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FGO×デモベ 第4話

本日二度目の投稿です


 何とかマシュが宝具の疑似展開に成功した後、泣きじゃくるオルガマリーを抱えながら、一同は大聖杯の眠る山、円蔵山へと到着した。

 そして、大聖杯とセイバーのいる洞窟へと向かおうとしたのだが、山頂の寺へと続く石段を登ると、一人のサーヴァントが待ち構えていた。

 サーヴァント・アーチャー。

 セイバーに敗れ、彼女に付き従う正体不明ながらも強力な弓兵のサーヴァントだ。

 

 「よぅ、相変わらずあのセイバーを守ってんのかい?」

 「口が減らん輩だな、貴様も。槍が無い身で勝てるとでも?」

 

 既知なのか、二人は軽口を叩く。

 しかし、その目は油断なく互いの隙を見出そうとしており、この会話すら戦闘のための駆け引きだった。

 まぁ、旧知の間柄だからというのもあるのだが。

 

 「とは言え、流石に私も多勢に無勢ではな。」

 

 瞬間、オルガマリーの後頭部目掛け、石段の入り口付近から黒塗りの短剣が飛来した。

 

 「所長!」

 

 それに気づいたマシュは空かさず盾で短剣を弾いた。

 だが、急な一投に態勢を崩した彼女の主へと、空かさず大量の鎖が触手の様に伸びていった。

 

 「■■■!」

 

 それをバーサーカーが右腕をガトリング砲へと変形、迎撃する。

 飛来する無数の銃弾に、鎖はその全てが撃ち抜かれ、砕け、力無くエーテルへと消えていく。

 

 「テメェ…!」

 「おいおい。まさか自分達だけだと思ったのか?」

 

 物量差が覆し難いのなら、増援を呼べばよい。

 不意打ちで一人も落ちなかったのは残念だが、サーヴァントの数の上では互角なら問題はない。

 

 「ではクー・フーリン、決着を付けようか。」

 「嬢ちゃん!お前はマスター達の護衛に徹しろ!」

 

 瞬間、アーチャーが大量の剣を虚空へと投影、そのまま射出する。

 それは目の前のクー・フーリンにも放たれるが、矢避けの加護を持つ彼は当然回避する。

 だが、その一部は後方のマスター達へと襲い掛かる。

 

 「っ、前後を挟まれてる!このままじゃ不利よ!」

 

 事態の解決を急いだ余り、敵戦力の集結を許し、挟撃されてしまった。

 完全に指揮官であるオルガマリーの失態だったが…

 

 「がはぁ!?」

 

 鮮血と共に、虚空から断末魔の叫びが漏れ出た。

 見れば、そこには伸長したバーサーカーの尾の先端に生えた無数の棘により、串刺しにされた白骨の仮面を被った黒装束の男、山の翁の一人であるハサンの姿があった。

 

 「ば、かな…。」

 

 シャイターンに呪われた右腕による霊核への直接攻撃をこそ宝具とする呪腕のハサンは、しかし最後には何も成せぬままにその腹を貫かれて消えていった。

 

 「………。」

 

 自らの尾を地面へと刺し、掘り進ませ、不意打ちで暗殺者を仕留めてみせたバーサーカーはアサシンを屠った事にも関心を示さず、ただ淡々と自分の成すべき事を行っていく。

 具体的には両腕をガトリング砲へと変化させ、自分達の登って来た参道全体を満たす様に弾幕を形成した。

 

 「くっ!」

 

 その弾雨を前にして、霊体化していたランサー・メドゥーサが慌てて実体化する。

 

 「やってくれますね!」

 

 発射され続ける弾丸、それらは全て対霊弾頭であり、実体を持たない存在、既に死してこの世にいない存在には格別に効く。

 先程まではストッピングパワーを優先した通常弾であったのだが、耐久力はそこまで高くないメドゥーサ相手なら、こちらの方がよく通る。

 とは言え、最速の槍兵で現界したメドゥーサは、その悉くを回避していく。

 被弾を前提とすれば接近も可能だが、相手は正体不明の狂戦士と未熟なれど盾兵の二人、迂闊な接近は避けたかった。

 その辺り、狂化で理性の落ちていたアサシンに比べ、自己保存と言う点では彼女はマシだった。

 まぁそれは女神としての気位の高さに由来するものなのだが。

 

 (それに、私はあくまで時間を稼げばよいですしね。)

 

 そう、自分は本命が此処に到達するまでの足止めに過ぎない。

 終わればすたこらさっさと撤退せねば、巻き添えを食いかねない。

 

 (遠方から接近する反応を確認。これは…)

 (バーサーカー、それもヘラクレスか。)

 (シャドウサーヴァントだから宝具は無くても、対界宝具並の身体能力は劣化してても脅威だし、ここで仕留めるべきじゃね?)

 (だな。仕方ないが、火力で一掃する。)

 (アイ・サー。)

 

 ガコン、とバーサーカーの肩部コンテナの上面が開き、VLSからミサイルが次々と発射され、ランサーへと降り注いでいく。

 無論、高い敏捷性によって回避されるのだが、狙い通りにばらけたミサイルは広範囲に爆風を発し、僅かながらランサーの機動を制限する。

 それで十分だった。

 

 「■■■。」

 「ガッ!?」

 

 バーサーカーの右腕、三本のレールから成る開放型のバレルへと変化したそれから弾丸が発射される。

 紫電を撒き散らしながら音速の12倍で飛翔する弾丸は発射音を置き去りにして、動きが僅かに鈍っていたランサーの左足を消飛ばした。

 

 「こんな、所で…。」

 

 足が死に、盾も無い槍兵の死に体を見逃す程、バーサーカーは耄碌していない。

 続く左腕のガトリング砲により、あっさりとランサーは挽肉へと加工された。

 

 「■■■■■■■■■■■―――ッ!!」

 

 ビルを突き破り、僅かに残っていた肉片を踏み散らして、冬木のバーサーカー、ギリシャ最大の英雄たるヘラクレスが参道へと到着した。

 

 「敵アーチャー、撃破しました!」

 「バーサーカー、時間を稼いで!」

 

 その危険性を見抜き、状況が動くや否や、オルガマリーはあっさりと自身のサーヴァントを捨て駒にした。

 強力だが足手纏いである自分達を気にしてバーサーカーに防戦させるよりも、此処は一時分散し、キャスターとは言えクー・フーリンとマシュの二人で騎士王に挑む事を選択した。

 

 「よし、行くぞ嬢ちゃん達!此処はデカ物同士に任せな!」

 「は、はい!行きましょう、マスター!」

 「バーサーカー、頑張って!」

 

 そして、カルデアの一行はそのまま参道を逸れ、この冬木市の大聖杯へと続く洞窟へと向かっていった。

 

 

 ……………

 

 

 「「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーー!!」」

 

 轟、と果ての無い斬撃と打撃の応酬に、既に参道は見る影もない程に砕け散り、吹き飛んでいた。

 冬木のバーサーカー、ギリシャ最大の英雄、ヘラクレス。

 カルデアのバーサーカー、青銅魔人、■■タク■ン。

 ヘラクレスはその斧剣と五体で、青銅魔人はプラズマブレードへと変形した両腕に尾で。

 互いに一歩も譲らずに、高いステータスのままに攻撃を繰り出し、繰り出された攻撃を弾き返す。

 自然、発生した衝撃波は周囲へと飛び散り、余波だけで周辺の森の木々がなぎ倒され、地面が耕されていく。

 

 (どうする?とっとと終わらす?)

 (いや、あくまでチクタクマンとしての機能のみで戦おう。覗きが気になる。)

 (あいあい。)

 

 遥か遠く、時間と空間を飛び越えて、こちらを監視する者がいる事を、二人は察知していた。

 無論、生半可な霊視では自分達の本質を掴むなんて事は不可能だ。

 況してや千里眼の類にしてはやや精度が低い事もあり、偽装する事は難しくはない。

 

 (態々覗き屋に見せてやる必要も無い。)

 (んじゃーこのままグダグダ?)

 (いや、とっととケリをつける。K粒子の使用を求む。)

 (マージで?)

 (どうせなかった事になるんだ。はっちゃけても構うまい。)

 (一応、合流した時の事を想定して、終了したらすぐに浄化措置するからな?)

 (あぁ、それで良い。)

 

 ガキン、と内部で歯車が変わる。

 ガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキッ!!

 それを皮切りに、次々とその構造が、形状が、設計思想が、運用方法が、性能が切り替わっていく。

 そして、ものの数秒程でその姿は大幅に変化した。

 槍か甲殻の様に前へと突き出た胸部、両肩前面の排熱器官、鋭く伸びた脚部、全身を覆う艶やかな装甲とブースター群。

 夜闇に溶け込む様な漆黒の装甲、夕日色のカメラアイが光を持った複眼式のカメラアイ。

 全身から翠色の粒子を漏らし始めたそれは、まるで西洋の甲冑の様であり、生物の様でもあり、万人に死を与える程の戦闘能力と汚染源を持った兵器とはとてもではないが思えない程に美しかった。

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!」

 「五月蠅いぞ。」

 

 振り下ろされた狂戦士の斬撃を、しかし夜色の刃金は素早い挙動であっさりと回避、そのまま上空へと飛翔する。

 十分な距離を取れたと同時、右背面に装備された大型砲が、腕部に保持した実弾と熱線のライフルが、肩に装備されたロケット砲が展開され、それを自身を見上げる地上を這うケダモノへと向けられる。

 

 「ファイア。」

 

 夜空に盛大な爆音が響き渡り、同時に参道全体が余りの威力に残らず消し飛んだ。

 

 「■■■■■■■■■ーッ!?」

 

 それ程の威力が直撃してもなお、未だ狂戦士は生きていた。

 見れば、斧剣が砕けており、既に持ち手しか残っていない。

 恐らくだが、弾丸や砲弾を迎撃し切れず、盾として使い切ったのだろう。

 

 「中々だが、無意味だ。」

 

 ガコン、と夜色の刃金は球体を開放型バレルで連結した様な武器が左背面から展開される。

 そこに翠色に輝く粒子が集い、一点へと収束し、同時に機体本体からも粒子を吸収していく。

 狂戦士は悟った。

 あれは不味い、あれは撃たせてはならない。

 

 「■■■■■■■!!」

 

 狂戦士は跳躍し、刃金に近い位置まで飛び上がる。

 しかし、高度を上げる事で、刃金はあっさりとその剛腕から逃げ切ってしまう。

 

 「■■■…!」

 

 苦し紛れに投擲された柄も、しかしあっさりと翠色の粒子によって構成された障壁によって弾かれてしまう。

 

 「チャージ完了、ファイア。」

 

 先程の一斉射撃とはまた違う、翠色の猛毒の光が膨大な熱量と共に放たれた。

 だが、それを防ぐ術も避ける術も地へと落ちていく最中の狂戦士には無かった。

 そのまま、あっさりと貫かれ、爆散した。

 

 (コジマ粒子の回収と非活性化開始。)

 (モードを通常へ移行。合流するぞ。)

 

 嘗て世界を破滅させた力をしまい込み、己の力の過半を封じて、灰色の王はその場を去った。

 

 

 




 色々と小ネタのある回でしたw
 今回変形したのはAC4、ACFA出典の03-AALIYAHです。
 武装はライフルにレーザーライフル、肩ロケットに背面のグレネードキャノンとコジマキャノンです。
 


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FGO×デモベ 5話

 「おや、まだ気づいていなかったのかい?」

 

 「君は肉体を無くした事で、初めてレイシフトとマスターとしての適性を得たんだよ。」

 

 「私からの最後の手向けだ。せめて君の大切なカルデアスに直に触れさせてあげよう。」

 

 冬木の大聖杯、墜ちた騎士王を倒したカルデア一行の前に現れたのは、彼らも知っている顔だった。

 正体を現したカルデアの副所長にして技術部門のTOPであるレフ・ライノール・フラウロス。

 彼の手にした立方体、この冬木へと落とされた聖杯によって、オルガマリーは空間を繋げた先のカルデア、そこにあるカルデアスへと接触させようと動かされ、オルガマリーの身体は浮かび上がり、近づいていく。

 

 「止めてレフ!カルデアスなのよ!?それに触れたら…」

 「その通り。これは地球そのもののモデル。ブラックホールか太陽か…何れにせよ、人間が触れれば分子レベルで分解される。」

 

 それは明確な処刑宣告。

 

 「生きたまま、無限の死を味わい給え。」

 「イヤぁぁァァァァぁァァァァーー!!」

 

 本当に、本当に愉しそうに告げるレフに、オルガマリーは絶望を叫ぶ。

 彼女を助ける者はいない。

 マシュは疲弊し、素人の立香は無力だ。

 

 「いやいやいや!誰か助けて!死にたくない!」

 

 カルデアスまで後10m。

 

 「私、まだ誰にも褒めてもらってないのに…!」

 

 カルデアスまで後5m。

 

 「助けて…」

 

 カルデアスまで後3m。

 

 「助けて、バーサーカー!」

 

 後1m。

 その時、その叫びに、漸く応える者が現れた。

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」

 

 岩盤を直上から蹴り破り、オルガマリーの元へと刃金の狂戦士が駆け付ける。

 

 「な、サーヴァント!?」

 

 オルガマリーを腕に抱くと同時、バーサーカーは即座にカルデアスから距離を取る。

 が、既に超質量の引力に捕えられていたオルガマリーは中々離れず、寧ろバーサーカーすら引き込まれかける。

 

 「ハハハハハハハハ、馬鹿め!死体が増えr「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」なッ!?」

 

 バーサーカーの全身の装甲が展開し、その周囲へと何らかの力場が形成され、その姿が歪んで見える。

 同時、嘲笑していたレフの顔が驚愕に歪む。

 何故なら、バーサーカーは力場の形成とほぼ同時に、カルデアスから離脱したからだ。

 その腕に所長を抱えたまま、バーサーカーは安全圏へと着地した。

 

 「あうぅあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ…!」

 

 隠す事もなく、嗚咽を上げて泣くオルガマリー。

 それも仕方ない。

 例え魔術師と言えど、彼女は今しがた予想だにしない方法で死にかけていたのだから。

 

 「ふん、興醒めd」

 

 嫌悪に顔を歪めたレフが、そのセリフを吐き切る事は無かった。

 何故なら、次の瞬間に彼の全身が風穴だらけにされたからだ。

 

 「■■■…。」

 

 怒りの感じられる唸り声と共に、バーサーカーの右腕から弾丸が間断なく発射される。

 発射されるのは先程までのガトリング砲ではなく、大口径の散弾砲だ。

 残ったのは単なる挽肉であり、それがレフだった証拠は辛うじて原型を留めている彼の被っていた帽子だけだった。

 その惨状に、今日一日戦いづくめだったマシュと立香の顔も青ざめている。

 

 『って、不味い!特異点の崩壊が始まる!皆、意識をしっかり持っていてくれ!』

 

 衝撃の展開と惨劇から、辛うじて復帰したロマンが警告する。

 だが、それはあくまで立香とマシュに向けたもの。

 肉体を無くしたオルガマリーは、カルデアに帰還した所で死は免れない。

 崩れていく洞窟の中、徐々に加速していく崩壊の中にあっても、バーサーカーは動揺しない。

 ただ、腕の中で震える女性の声を待っていた。

 

 「たすけて…」

 

 涙を流し、恐怖に震え、それでも生存を諦められないオルガマリーは、先程命を助けてくれた己の従者へと縋った。

 

 「たすけて、わたしまだしにたくないの…!」

 

 それはただの幼い子供の声だった。

 

 「………それは、」

 

 降り注ぐ瓦礫の中、無言を貫いていた刃金の戦士が口を開いた。

 

 「それは、これから先もっと恐ろしい事、悲しい事があると分かっていてもか。」

 「それは…」

 

 狂戦士である筈の者の腕の中で、オルガマリーは問われていた。

 

 「それは、多くの困難から逃げられない事になると、分かっているのか。」

 

 世界が崩壊していく中、それでも二人の間は静かだった。

 ただ静かに、狂戦士は己が一時の主へと問い掛ける。

 そこから先は地獄だぞ、と。

 

 「…分かってる。」

 

 涙に濡れた顔をごしごしと行儀悪く袖で拭き、オルガマリーは狂戦士を見据えた。

 その目からはもう先程までの恐怖は薄れ、使命感に燃えた一人の人間が居た。

 彼女達が大好きな、恐怖を抱きつつも、しかし困難に挑もうとする人間が居た。

 

 「でも、私はカルデアの所長なのよ。部下達が逃げず、素人だって頑張ったのに、TOPでプロの私が逃げ出す訳にはいかないわ。」

 

 それは何処まで意地っ張りで、虚勢だらけの言葉だった。

 

 「そうか。なら、私は君の願いを叶えよう。」

 

 周囲は何時の間に静かになっていた。

 それはそうだろう。

 そこには既に何もない。

 光も空気も何もかも。

 そこは既に虚無、正真正銘何も無い空間なのだから。

 完全に崩落し、特異点ですらない虚無に、二人は浮かんでいた。

 

 「だが、覚えておいてほしい。君はこの先の恐怖と脅威と困難に相対し続ける事になる。」

 

 そして、バーサーカーの身体が解けていく。

 オルガマリーはその先に銀糸の様な輝きを見た気がした。

 

 「それでなお、諦めを踏破するのなら…」

 

 一流である筈のオルガマリーですら理解できない程に複雑かつ精緻で高度な魔術現象が起きている。

 それしか分からない彼女は、しかし魔術師としてでなく、一人の人間として、その言葉を聞いていた。

 

 「私もまた、君に力を貸そう。」

 

 そこにいた者は

 そこに存在した者は

 そこに顕現していた者は

 

 「この■の王の力。既に舞台を降りた身だが、今を生きる者が望むなら、求めるままに力を貸そう。」

 

 そこで、オルガマリーの意識は途絶えた。

 

 

 ……………

 

 

 「フォウ?」

 

 目が覚めた時、オルガマリーの視界を埋めていたのは、カルデア在住の謎の珍生物のドアップだった。

 

 「フォウ?」

 「………。」

 「フォーウ?」

 「フォウ?」

 「フォウフォウ!」

 

 未だ頭が覚醒しないオルガマリーは、つい聞こえた音を繰り替えしてしまう。

 すると、横でカタリと物音がした。

 

 「プークスクス…!」

 「ダ・ヴィンチちゃん、笑っちゃ駄目だよ…。」

 

 そこにはハンディカメラを構えた万能の天才(モナリザ)と素人にして暫定マスターの立香の姿があった。

 

 「あー…」

 「「あー?」」

 「取り敢えず、正座。」

 

 その後、二人は10分程医務室の床に正座したまま説教されました。

 

 

 ……………

 

 

 「で、何があったの?」

 

 仁王立ちしたままのオルガマリーは呼び出したロマンとマシュも加えて、医務室で検査を受けつつ情報収集を開始した。

 

 「あの後、立香君とマシュと一緒に、所長はレイアウトして帰還しました。」

 「肉体は?私、死んでた筈だけど…。」

 「それに関してはこっちを見てくれ。」

 

 そう言ってダヴィンチが持ってきた資料に目を通す。

 同時、すぐさま眉根を寄せる。

 

 「これ、人形?」

 

 一部の人形使いと言われる魔術師が使うもの。

 その中でもかなり精密に見えるものだった。

 

 「あぁ。だがこれには一切の魔術は使われていない。いや、君の魔術回路を再現するために一部の構造は変化しているが、これは完全に科学技術による高性能な肉体だ。義体と言うべきだね。」

 「つまり、これが今の私な訳ね…。」

 

 告げられた言葉に頭が痛くなってきた。

 医者も認める程精密な人体模型を初めて見せられたらこんな気分になるのだろうか?

 つまり、このレントゲンで撮影された人型機械こそが今の自分の肉体であると言う事だった。

 

 「で、バーサーカーは?」

 「あぁ、彼なら…」

 「■■■■■。」

 

 霊体から実体化したのか、バーサーカーが姿を現した。

 しかし、その姿は妙に威圧感が少ない。

 

 「なんか、消耗してない?」

 「えぇまぁ…。何せ所長が意識不明の一週間、彼は施設の復旧と改良に尽力してくれてましたから。」

 「バーサーカーなのにアーチャーもびっくりの単独行動ぶりだよ。お蔭で職員への負担はかなり減ったけどね。」

 

 成程、よく見れば医務室の医療機器も購入した覚えのないものに置き換わっているし、先程まで自分が横になっていたベッドにも様々な精密機器が繋げられており、逐次データを集め、容態を見ていた事が分かる。

 だが、言いたい事は山ほどあった。

 

 「そうね、取り敢えず先に言っておくわ。ありがとう、バーサーカー。」

 

 にっこりと、自分でも思わず褒めたくなる程の会心の笑みを浮かべる。

 それを見て、マシュと立香とロマンが怯えた様に数歩後退する。

 実に失礼な反応だが、ニヤニヤしてるダ・ヴィンチよりはマシだろう。

 

 「でもね…」

 

 顔を俯け、次への力を溜める。

 このバーサーカー、会った時から自由過ぎた。

 そもそも、令呪が無いとは言え、マスターに強烈なデコピンかまして正気に戻すとかサーヴァントの風上にも置けないし、マスターの危機を放置するとか本当ならチェンジものである。

 しかし同時に命を助けてもらった上、こうして新しい体まで作ってくれた。

 

 「マスターの指示なく勝手に動きまわってるんじゃないわよ、バカ―――――ッ!!」

 

 言うべき事は言うべきだと、オルガマリーは声を張り上げて怒鳴りつけた。

 

 

 

 

 

 

 こうして、本来の道筋とは大いに異なる形で、この世界線の冠位指定は始まりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 以前も言いましたが、ヒロインは所長を予定しております。

 が、プロット見直したらどう見てもヒロインじゃなくヒーローになるぞコイツ。
 アレェー?


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IS転生 三組代表が逝く

くそ、予定の半分もいけんとは!
次回以降はIS学園での生活になります。


 「テンプレテンプレ、転生特典何がほしーの?」

 

 そこで迷わずオタクな自分は「ライダー」になりたい、とか言っちゃったのが駄目だった。

 次の瞬間には、やべ退かれたかな?と思ったのだが、既に後の祭り。

 

 「おkおk。んじゃライダーにしてあげるー。転生先はランダムだけど、それに合わせたげるから。」

 

 その内容を詳しく聞く事も出来ず、気付けば私は転生していた。

 この後に自分が直面する事態も知らずに。

 

 

 ……………

 

 

 転生した私が生まれたのはよく見知った現代の日本、その極平凡な家庭だった。

 若干残念ではあるが、それでも衣食住の安全が確立している状況は喜ばしい。

 私は子供の演技をしながら、この二度目の生を平和に生きていた。

 しかし、それは唐突に崩される事となる。

 何の前触れもなくハッキングされた世界中の軍事基地から核ミサイルが日本へと発射されたのだ。

 その事態に対し、自衛隊はその総力で以て抗ったものの、余りの物量に日本消滅かと本気で危惧された。

 しかし、それはたった一機の兵器によって覆された。

 その名もインフィニット・ストラトス。

 元は宇宙開発用の多目的パワードスーツだ。

 それによって日本本土へと着弾する筈だったミサイルは全て撃墜された。

 だが、それはあくまで本土だけだ。

 本土に到達できずに墜落したミサイルにより、諸島や航空機、艦船に多大な被害が発生し、万単位の死傷者が発生した。

 その中には、私の父の名もあった。

 

 

 ……………

 

 

 日本はこの事態に対し、世界各国政府を非難すると同時に、その辺りを軸に交渉し、復興費用を各国からの基金と言う形でゲットすると言う外交的勝利を得た。

 が、余りにもデカい被害に頭を抱えつつ、センセーショナルなデビューを果たしたISについての対応も考えねばならなかった。

 と言うか、速攻で開発者を確保する事に成功したものの、知れば知る程に量産には不向きなものだと判明し、頭を抱えた。

 ISの中枢であるISコア。

 量子CPUであり、大出力の発電装置であり、慣性制御装置であり、量子変換による物質保管能力を持った、正にSFの産物だったのだ。

 当然、政府が抱える御用学者では解析し切れず、国内のあらゆる科学者がその頭脳を結集してもなお完全な解析は出来ていない。

 況や、それを量産するとなると現時点では不可能だ。

 劣化品の生産すら目途が付かない現状に、日本国政府は頭を抱えた。

 在日米軍は頑張ってくれたが、その米国からすらミサイルが飛んできた現状、日本は世界を相手に自衛できるだけの戦力を欲していた。

 しかし、単騎でそれを叶える戦力の量産は不可能だ。

 となれば、開発者には頑張ってコアを量産してもらわなければならない。

 幸いと言うべき、ガワの方は何とか出来そうな目途が立ったので、暫くの間はパイロットの少女に国防に参加してもらいつつ、開発者の基地外少女にはコア部分のみだが量産してもらう運びとなった。

 無論、報酬は個人に払うものとしては法外な額を出した。

 まぁ既存の兵器を量産し、武器弾薬まで自前で揃えるよりは遥かに低コストなのだが。

 ついでに次も同じ事態が起こった時のために、と自衛隊を国防軍にする事も出来たので、防衛組からは装備の大規模更新もあって万歳三唱された。

 しかし、これにISの存在に危機感を抱いた各国が「うちらにもISコアを寄越せ」と強請り始めたのだ。

 此処から本気モードの終わってしまった日本のグダグダが始まり、後に国立IS学園設立の運びとなる。

 

 

 ……………

 

 

 さて、そんな国際政治は(現時点では)関係の無く、この世界が漸くIS世界だと気づいた私の下に、父の訃報が届いた。

 出張先からの帰りの便の旅客機がミサイルで撃墜されたのだ。

 無論、国からは多額の見舞金が贈られたが、父を熱愛していた母はそれで夢の国の住人となり、ベッドへと移住した。

 そして私は小学校低学年にして一人暮らしを送る破目になった。

 私みたいな転生者でもない限り、絶対精神を病むぞコレ。

 何とか近所の人や先生方の助けにより一人暮らしをしていた私だが、それもある時を境に終わる。

 ある日、日本全国で緊急の健康診断が年代を問わず行われたのだ。

 十中八九、ISコアの適正検査だ。

 実際、各検査場では妙な球体に触れさせられたとネットでも話題になっていた。

 んで、私の適正値だが……なんとAランクだった。

 実質織斑千冬以外では専用コアを使わない限り生じる事のないSランクを除けば、最高の値だった。

 そう言えば、言い忘れたが、私のチートは騎乗スキルの最上位と言うべきか、乗り物と認識さえすれば、何でも運転できると言う所だ。

 それこそ、下は竹馬、上は最新鋭戦闘機まで。

 そこにはISすら例外ではない。

 そして、政府としては現状数少ない高い適正持ちなのに、幼女が独り暮らしとか狂気の沙汰であるし、下手しなくとも誘拐の危険が高いと考えられた。

 なので、ある日役人が現れ、住み慣れた我が家から強制的に孤児院へとお引越しとなり、同時に小学校も転校となった。

 それだけならまだ良かったのだが、住み慣れた我が家は売り払われ、母の入院費にされた。

 ふざけんな!と思った私は悪くない。

 そして、孤児院から国立の学校に通い、小学校としては相当高度な教育(IS関連)を受けつつ、孤児院に帰ったら帰ったでIS関連の講義を家庭教師(強制)から受けさせられる。

 噂の要人保護プログラムよりはマシかもしれんが、前世一般人で平和に暮らしてた20代後半としては殺意しか湧かない。

 あの家、両親の思い出の品がたくさんあった上に、苦労してネット環境揃えてたんだぞ!

 しかも近所の人達と料理の交換し合いも楽しみにしてたのに!

 何時か絶対に訴えてヤラぁァァァァぁァァァァ!!

 そんな殺意を抱えつつ、私は只管IS関連の知識を詰め込み続けた。

 あ、そうそう。

 二回程オリンピックみたいなIS競技が行われ、一回目が日本優勝、二度目が不戦勝でアメリカが優勝でした。

 

 そして、中等部に進学した頃、とある人物に出会った。

 眼鏡をかけた、水色の髪の、オタク特有の気配を纏った美少女。

 そう、あの更識簪だ。

 それとなーく、映画やアニメ、漫画の話題等を振りつつ様子を窺うと、よー食いついてくる。

 あれだ、少数民族の悲哀と言うか、オタク趣味を持った人間でオープン気質ではない者は常に同胞を探しているもので、簪もその例に漏れなかった。

 なんで知ってるかって?言わせんなよ恥ずかしい。

 と言う訳で、私は簪と速攻で仲良くなった。

 その伝手でダボダボ袖ののほほんさん、もとい布仏本音さんとも仲良くなれた。

 ゲーム・アニメ・漫画好きな同士(私は特に型月系、簪さんは戦隊・メタルヒーロー等の特撮系)であり、趣味を共有できる相手として、互いに直ぐに仲良くなった。

 とは言え、最新アニメとかどうしても住んでるのが孤児院なので見れないのだが、その辺りは簪が密かに持ってきた小型端末を借りて見る事が出来た。

 人格・容姿・趣味、どれをとっても得難い友人を得る事が出来たのが、この学校に来て最大の成果だった。

 なお、時々笑みはそのままに鋭い目でこちらをじっと観察しているのほほんさんはちょっと怖かった事を明記しておく。

 後、在学中にIS学園が正式に設立、稼働を開始したので、私も簪ものほほんさんも進学先はそちらになりました(強制)。

 

 

 ……………

 

 

 「で、なーんでバトルロワイヤル形式の模擬戦かなぁ…。」

 

 倉土灯は死んだ目をしながらISを纏い、宙に浮かんでいた。

 ここは日本国国家代表候補生選抜試験の実技会場であり、そこに灯は最近量産の始まったIS打鉄を纏って参加していた。

 他の候補生達(簪含む)は強化ガラス越しにこちらを見ており、会場の反対側には同じ年ごろの少女がISを纏って宙に浮かんでいる。

 あちらが対戦相手であり、二機のISを用いた総当たり戦が今回の内容だ。

 確かに効率的なのだが、絶対に日本国政府のためには働きたくない私としては、代表候補なんて糞喰らえだった。

 だが、下手な事をすれば母親の身が危ないかもしれないし、未だガキの身では食い扶持を稼げない。

 なので、学んだ知識を生かしつつ、国家代表以外の就職先、例えば企業のテストパイロット辺りが狙い目だと思っている。

 とは言え、目の前の課題に手抜きして取り組んでは相手にも失礼だし、経歴に汚点として残りかねない。

 なので、全力を出す事にした。

 

 

 ……………

 

 

 (ふふふ、あんな気の抜けた相手なら楽勝ね。)

 

 私は勝利を確信していた。

 私の家は元々防衛関連に関係があり、父も祖父も自衛隊(祖父は警察予備隊、父は今は国防軍だが)出身で、私も将来的に国防軍所属のISライダーを目指している。

 そのためにも、この国家代表候補生選抜試験で良い成績を残す必要がある。

 幸い、相手は本当に一般人であり、こちらの様に軍事的な手解きを受けている訳ではない。

 無論、初めてのIS装着と言う事で戸惑いがあるが、それは相手も同じ条件だ。

 なら、私が負ける道理はない!

 だが…

 

 『これより模擬戦を開始します。3、2、1…」

 「逝く。」

 「え?」

 

 そんな自信、否、驕りは一瞬で砕かれた。

 イグニッション・ブースト(瞬時加速)。

 熟練者にとっては必須の移動技術、自分でも未だ使えない技を、目の前の相手は使ってみせた。

 その動きをISのハイパーセンサーによって辛うじて捉えながら、しかし、私は驚きの余り動きを止めてしまった。

 ほぼ同時、衝撃が自分を襲う。

 武器を出す間もなく、ISのエネルギーシールドが干渉し合う程の距離での打撃に、私は漸く正気に戻り、次いで怒りを抱く。

 素人相手に、この私がしてやられた!

 その怒りと共に、こちらも殴り返すべくISの拳を振るう。

 しかし、相手は初体験とは思えない動きでヒラリとこちらの拳は宙返りする事で回避、次いでバススロット(拡張領域)から量子変換で呼び出されたアサルトライフルを手に距離を保って射撃してくる。

 空かさずこちらもその場から回避し、アサルトライフルを呼び出し、応射する。

 だが、そこは第二世代ISの中で最も信頼性と耐久性、精密動作に優れる打鉄である。

 互いに非固定浮遊部位である大型の物理シールドを構えつつの射撃となれば、必然的に地味な削り合いとなる。

 相手は三点バーストで、こちらはセミオートで互いを狙い、円状の回避機動を取りながら撃ち合う。

 それはさながらサークル・ロンド(円状制御飛翔)にも似た硬直状態だったが、それは30秒もしない内に均衡が崩れる。

 

 (、上に!)

 

 一瞬だけフルオートで射撃してこちらを牽制した後、相手は即座に上昇して頭上を取ってしまう。

 こうなると、重力の関係上こちらの方が受けるダメージが大きくなってしまう。

 

 「こ、の…!」 

 

 もう素人相手と言う慢心は無かった。

 ただ、負けられないと言う闘争心ばかりが身を動かしている。

 こちらも後を追う様に上昇を試みる。

 しかし、相手はそのままこちらへと頭を向けると、正面から突っ込んできた。

 その手には何処か日本刀にも似た片刃のブレードが握られ、肩に置く様に構えられており、一発で狙いが分かる。

 

 (ならこっちもブレード!)

 

 だが、こちらがブレードを展開する前に、相手はこちらにブレードを振り下ろしてきた。

 

 (重い!)

 

 咄嗟に 二枚の物理シールドで防いだが、刃が深くめり込み、こちらが一方的に押し負けてしまう。

 同じ機体、同じ出力の筈なのに、どうしてこうまで差があるのか?

 それに疑問を感じつつ、しかしこのまま負けてはやれないと物理シールドを強制排除、これで相手はブレードを使えない。

 

 「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 次いで、右手に呼び出したブレードで切り掛かる。

 だが、相手は予想以上の手練れだった。

 切り掛かるこちらの右手へと瞬時に呼び出したハンドガンで至近距離から発砲、腕部ではなく、指を正確に狙い撃ちした射撃に因り、ブレードがすっぽ抜けてしまった。

 

 「な」

 「じゃあね。」

 

 そのまま腕を掴まれ、逃げられなくされた後、眼前の至近距離へと向けられた銃口から、連続してマズルフラッシュが放たれた。

 

 「こ、のおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 だが、このままでは負けられない。

 私はもう意地だけで拳を振り回し、相手へと殴り掛かる。

 最早勝利は不可能だが、それでもこれ以上の無様は晒せなかった。

 

 「残念。」

 

 しかし、だ。

 何処の業界であっても、天才と言うのはいるらしい。

 まぁ、このISすらそうした天才の生み出した発明なのだから、当然と言えば当然だが。

 物理シールド、特に打鉄のそれは僅かながら自己修復機能を持った第二世代ISの装備において最硬の盾だ。

 なので、そんなもので拳を反らされた後、カウンターでドタマに叩き込まれようものなら、減少していたシールドエネルギーは当然の様に底を突いた。

 

 『そこまで! 勝者、倉土灯!』

 

 こうして、私の初めてのISの実機操縦は散々な目に遭う事で終わってしまった。

 

 

 

 

 なお、今回の代表候補生合格者は私とあの倉土の他、簪と言う子の三人だけだった事を明記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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IS転生 三組代表が逝く2

 さて、卒業試験も終わり、次は入学試験だ。

 とは言っても、進路に関してはIS学園のみ(強制)なのだが。

 …この件、どれだけの人が関与してるのやら。

 まかり間違って代表になった後、全部公表してやったら防衛相幹部の首切りとか内閣総選挙とかにならないかなーと密かに期待してたりする。

 

 それはさておき、入学試験である。

 筆記は終え、内申点も一応代表候補生と言うことで言う事は無し、後は実技試験のみ。

 そしてにこやかに出てきた侍ウーマンに、私と簪と本音は顔を引き攣らせた。

 え、なんでアンタが出てくんの?ここは山田先生でしょ?

 

 「私が今回代表候補生の実技試験を受け持つ織斑千冬だ。各員、全力を尽くす様に。」

 

 付き添いの本音は兎も角、日本の代表候補生三人(先日私と簪以外に合格した一人)とイギリスからの留学生であるオルコットも揃って顔を青ざめさせた。

 

 「安心しろ。手加減はしてやるから。」

 

 にっこり、と微笑む生きた伝説を前に、私達の顔は引き攣るばかりである。

 そりゃそうだ。

 誰が好き好んでルーデルや船坂、ヘイへと同類の人類の規格外を相手にしたいと思うだろうか?

 結果は当然ながら、全員負けた。

 イギリスのファンネルは全部切り払われた後にズンバラリン。

 簪も打鉄で善戦したが、最後は盾ごとズンバラリン。

 私は撃墜こそされなかったけど、エネルギーを消耗し過ぎて判定負け。

 うん、無理だなこれは!

 相手が錆びついてて専用機じゃないってのにこれじゃ、こっちが専用機でメタ戦術と装備してやっと、って所か。

 なお、今回の私と簪の機体は相変わらずの打鉄です。

 簪の方は倉持技研から打鉄弐式が受領される筈だったが、何処かの馬鹿がIS適正持ちだと言う事が判明したため、倉持の研究リソースがそちらに割り振られた影響で開発がポシャった。

 本人はもう打鉄である事すら止めて、コアから自分好みのISを作るんだと寧ろやる気を出している事が救いだが、一応暗部の家を実質敵にして倉持は大丈夫なのだろうか?

 国産の次期主力機の開発で大コケとか企業としても洒落にならない失敗なので、このまま衰退する可能性はかなり高いのだが。

 そうなると打鉄の補修パーツとかの生産の目途すら……まぁいっか!私が気にする事でも無し、企業は他にもあるしね!

 

 とまぁ、何とか入学できたが、クラス分けは全員が見事に分かれてしまった。

 簪は4組、私は3組、本音は1組。

 序でにオルコットは1組だそうだ。

 そんな訳で、私達のIS学園生活はスタートした。

 座学・実技問わず基礎教養を除けばIS一色なので、幼少時からそればかり学習させられてきた身としては楽に感じる。

 無論、苦労して合格してきた一般受験組もクラスには勿論いるので余計な事は言わないが。

 後、クラス代表選出もあっさりと決まった。

 他薦された私の他、三人程自薦した生徒がおり、総当たり戦となったのだが……お前ら、そんな腕で何がしたかったの?と言うレベルであった事を此処に明記しておく。

 結果は当然私の勝ちだったが、これでは弱い者虐めでしかない。

 まぁ企業関係者でもIS搭乗経験が少ないんだから、しょうがないと言えばそうなのだが。

 だからと言って、突撃して一瞬でカウンター決められてリタイアは無いだろう。

 

 それは兎も角、簪と本音とは相変わらずの付き合いが続いている。

 基本、整備室の一角で缶詰状態の簪の下に私と本音が差し入れをしてあげるのだが…お前、偶には休めよと言いたい。

 人間としてのボーダーは堅守してるが、女子としてのボーダーは余裕でアウトしてるぞ。

 いや、ファッション方面全滅状態の私が言う事じゃないが。

 化粧品とか最低限肌・髪荒れしない程度で良いと思うし、衣服も同様。

 水着?流石に前の学校の指定の奴しかないので、新調しなければならんが、それとて態々お高いのを買う気はない。

 で、一応代表候補生で時折雑誌に乗ったり、結構な収入がある筈なのに、なんでそんな金遣いが渋いのかと言うと、貯金してるからだ。

 また何時何か変事が起こるか分からないので、現金ではなく純金に換金して貯蓄している。

 まぁ、簪に借りっぱなしの映像機器とかDVD乃至ゲーム類なんかは代表候補生になってから揃えたが。

 後、食生活も孤児院暮らしの時よりも各段に良くなった事を明記しておく。

 

 

 ……………

 

 

 久々に天才、と言う人種を見た。

 世界中から優秀な人材の集まるこのIS学園において、地元で天才扱いされていた者は多いが、大抵は此処に来て心を折られていく。

 それは私、織斑千冬であったり、ISと言う最先端技術に触れたが故にであったりと枚挙に暇がない。

 斯く言う私自身、本当の天才と言う者に会ったのはモントグロッソ等の国際大会を含めてほんの数回程度だ。

 まぁ、基準が我が腐れ縁の大馬鹿なので仕方ないのだが。

 今年の生徒は例年になく粒揃いなのだが、それでもなお群を抜いていると言って良いのが倉土灯だ。

 無気力な瞳、適当に切り揃えられた髪、大抵猫背で歩く姿はお世辞にも綺麗とは言えないが、彼女の真価は日常生活には無い。

 ただでさえ忙しい入試や入学試験が愚弟のせいで例年の倍以上の手間がかかった。

 正規の試験が終わった後でも各国・企業・団体からの編入希望が大量に届き、更に愚弟の保護やら教育やらのせいで人手が足りなくなり、私まで実技試験の方に駆り出される事となった。

 とは言え、代表候補生のみなので楽なものだと思っていたのだが…予想外の存在に出会った。

 それが倉土灯だ。

 奴は三人の候補生の中で一番最後に乗ったのだが、乗った途端雰囲気が変わった。

 それ位なら割といるし、試合前のマインドセット等スポーツでも常識の範囲だ。

 だが、こいつの場合はレベルが違う。

 今までの無気力さが嘘の様に、静かな闘志に満ち溢れ、如何に追い詰めようとも必ず勝機を窺い続ける不屈さを示してみせた。

 その上、代表候補生の選抜試験以来乗っていないと言うのに、学園の貸与した打鉄を自在に操ってみせた。

 私の乗る打鉄と条件は同等ながら、奴には私を相手にする動揺も恐怖も無かった。

 鋼の精神、そして勝機を探り続ける戦術眼に確かな技能。

 間違いない、こいつは鉄火場を経験している。

 そこらのひよっこ共と一緒には出来ない。

 なので、錆びついた身ではあるが、途中からはそれなりに本気で斬りかかった。

 だが、それすらも倉土は回避してみせた。

 消耗したライフルを捨て、ブレードを三枚目の盾とし、只管にこちらの斬撃を回避し続ける。

 とは言え、回避に徹する事しか出来なかったが、経験の浅い身で良くぞそこまで動けるものだと感心した。

 しかも、戦いが長引くにつれ、動きからぎこちなさが消え、スラスターの出力もリアルタイムで調節しているのか、徐々に無駄な消費が少なくなっていく。

 良い、実に良い。

 こいつは実に鍛え甲斐がある。

 最後は楽しくなってしまってつい全力で斬りかかってしまったが、それでも倉土は耐え凌いでみせた。

 特に最後の一刀をボロボロのシールド二枚を使い、切り裂かれる途中で捻る事でこちらの刀身を折ってみせたのは見事としか言いようがない。

 だが、弾薬も武装も尽き、エネルギーを9割近く消耗した状態ではもうどうしようもなく、そのまま大破判定を受けた。

 入学時でこれなのだ、実に面白い。

 久々に鍛え甲斐のある生徒に出会った。

 

 と言う訳で教員諸君、彼女は私の一組に編入する。

 異論は…ある、だと?

 よく言った。

 ではいつも通り公平に行こう、ジャンケンでな。

 今年も教員間の呑み会では奢ってもらうぞ…!(生徒を出汁にした賭博はいけません。)

 

 そして、私は最後まで残ったものの、最後の最後で負けてしまい、倉土を3組に持っていかれてしまった。

 おのれラトロワ…!

 既婚で子持ちのリア充の分際で、もう少し弁えろ…!

 実に残念だが、合同授業の時にでも扱いてやるとしよう。

 くっくっくっく、今から楽しみだなぁ?

 

 

 

 

 

 そう言えば、奴の瞳が一瞬だけ鱗の様な…いや、虫の複眼の様に見えたのは気のせいだったのだろうか?

 




漸くIS学園入学。
しかし、主人公sとの絡みは次回以降。
一応、後3話でIS転生は終わりの予定です。


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IS転生 三組代表が逝く3

 突然だが、今日はクラス代表対抗戦である。

 文字通り、クラス代表となった生徒で行う総当たり戦だ。

 これで各クラス代表の顔売り、及びクラス間の実力差なんかを図るのだが…ぶっちゃけ、一年だと誰もが入学したばかりなので、そこまで差がないので意味がない。

 専用機持ちとそれ以外の訓練時間の差が顕著になるのは二年からなので、入学したばかりのこの時期の一年は全員がひよこに過ぎない。

 無論、時折例外はいるのだが。

 

 『それでは今年度第一回目の公式戦、クラス代表対抗戦、一年の部を始めます!第一試合の選手はピットから離陸してください!』

 「頑張ってね、灯。」

 「うん、簪もね。」

 「いってらっしゃ~い。」

 

 数少ない友人に見送られながら、私はいつもの打鉄で出撃する。

 そう、なんの因果か、私の出る試合は一試合目なのだ。

 転入早々二組のクラス代表を捥ぎ取った貧乳チャイナ娘ではなく、三組代表の私なのだ。

 あれー?と思うが、これはあれか、転生神が私にはっちゃけろと言う神の御意思なのか?

 確か、無人機が乱入してきて、両腕のビーム砲を撃ちまくるんだったか。

 んで、チャイナの砲撃をエネルギーに転換した瞬時加速の亜種を使ってワンサマーが倒す、はず。

 何分濃い人生送ってたから、ラノベの内容が抜けて久しい。

 取り敢えず、テロリストや不明機は皆殺しでも問題ないよね、自衛の範囲なら。

 あ、でもワンサマーはどうしよう?

 簪関連で多少の恨みはあるけど、全殺しする程じゃないし、一応代表候補としては彼に見せ場を作るべきだし、それに容赦なく殴って良いのは当人の簪だけだし、そもそも打鉄弐式の事は倉持が元凶だし…。

 まぁテキトーに舐めプしてりゃ良いか。

 

 

 ……………

 

 

 オレ、織斑一夏がそいつを見た時、随分生気の無い奴だな、と思った。

 死んだ魚の様な目、と言うべきそいつは、こちらに視線を向けていても、緊張も、戦意も、誠実さすら無かった。

 ただ、倦怠感のみがあった。

 そして、試合開始が宣言されたのと同時、そいつは在ろう事か「欠伸」をしやがった。

 試合中、全力で挑むべき場所で欠伸。

 それはつまり、こちらが徹頭徹尾舐められている事に他ならない。

 

 (野郎…!)

 

 落ち着き・思慮が足りないとはよく言われるけど、これは男なら仕方ないだろ?

 相手はこっちを敵としてすら見ていないんだから。

 なもんで、完全にオレは熱くなっていた。

 絶対に吠え面かかせてやる、一泡吹かせてやるって感じで。

 だから、スタートと同時に、瞬時加速で突貫したんだ。

 まぁ白式じゃ元々そうするしかないんだけどさ。

 近接特化のブレオン機体、それが白式だ。

 千冬姉の暮桜の直系の後継機であり、同じ武装である雪片弐型のみを装備している。

 直撃すれば、現行のISじゃ一撃二撃で落とせる威力のソレを、唐竹割りに振るう。

 しかし、あいつは半身になるだけであっさりと回避し、続く切り返しの二撃目も後退するだけで再度回避する。

 はっきり言おう、掠りもしていない。

 ISのエネルギーシールドすら展開せず、ただ一寸先を見切り、僅かな挙動だけで回避する。

 それはこちらが一刀放つ度、徐々に短くなり、20回目になる頃には文字通り紙一重で回避されていた。

 観客も、解説も、司会も、この異様な試合に気圧されて無言だ。

 オレ?オレはもう何て言うか…恐怖しかなかった。

 最初の負けん気なんか何処かに吹っ飛んでた。

 もういっそ終わらせてほしかったが、相手は一切攻撃をしてこない。

 どころか、武装すら出していない。

 なのに、こちらは元々の燃費の悪さもあって既にシールドエネルギーは6割を切る程だ。

 千冬姉でもここまで意地の悪い真似なんてしない。

 そう思うと、オレって随分甘やかされてたんだなって、今更ながら自覚した。

 そんな時だった、急に警報が鳴り出したのが。

 

 

 ……………

 

 

 警報の直後、アリーナを覆うバリアの天辺を大出力のビームが貫き、そこから奇妙なISが侵入し、試合会場へと着地した。

 茶褐色の全身装甲、一部のISを除けば旧式として採用されない構造の機体。

 両腕に大口径のビーム砲を装備したそのISは、こちらを視認し、その右腕のビーム砲を…

 

 向ける前に斬り飛ばされた。

 

 仮にも試合では手加減したが、侵入者でテロリスト、おまけに無人機にかける情けは無い。

 そう言わんばかりに、倉土灯は圧倒的だった。

 完全に掌握したISコア、それの持つPICを完全にマニュアルで操縦し、競技用リミッターをカットした上で、打鉄では本来出来ない筈の、機体への負荷を一切顧みない高効率の多重瞬時加速。

 その速さを完全に乗せた斬撃は無人機の反応速度を遥かに超え、その右腕を何も出来ぬままに斬り飛ばした。

 その一撃で一夏向けの手加減モードが解除されたのか、カメラアイが赤く光り、戦闘機動を開始しようとするが、既にこちらの間合いだ。

 量子変換、その機能は本来バススロット(拡張領域)への装備の収納と保管、任意の取り出しによるISの機能の拡張だ。

 これには登録した物品しか格納できず、今現在において生物の格納には成功していない。

 では、無理矢理触れた相手の一部を強引に自身の拡張領域へと引き込めばどうなるのか?

 傍目には、単なるテレフォンパンチに見えた事だろう。

 

 だが、その拳は不明ISの胸部をまるっと刳り貫いた。

 

 ISコアを格納する部位ごと抉り取られては流石に無理だったのか、それで不明ISは機能を停止した。

 同時、ブザーが鳴る。

 試合結果を告げる掲示板は、倉土灯の敗北を告げていた。

 余りに無茶な機動、本来想定していない機能の活用により、第二世代中最高の信頼性と耐久力を持つ打鉄が、全身から火花を散らし、ただの一戦で大破、ダメージレベルDに到達していたのだ。

 その結果、相手の自爆と言う形で、織斑一夏は勝利した。

 

 『き、緊急事態です!職員は直ちに対処してくださーい!』

 

 遅れて、山田教諭の声が沈黙の満ちたアリーナへと響いた。

 

 

 ……………

 

 

 「やり過ぎだ馬鹿者。」

 

 一夏への対応もそこそこに、千冬は目の前の天才的問題児と向き合っていた。

 現在いるのは学園の地下、機密区画だ。

 そこで何故あの様な行動をしたのか、どうやってしたのかを休憩と軽食を挟みながら尋問の体で倉土灯は質問されていた。

 それに彼女は実に正直に答えた。

 

 「PICは最初の内はオート任せだったけど、物足りなくなってマニュアルで操作した。」

 「量子変換機能を収納だけに使うのは勿体ないと思った。今では反省している。」

 「乗るなら今後も打鉄かそれ以上の耐久性の高い機種。ラファール?オプション豊富なのは良いけど、華奢ですぐ壊れるのでNG。」

 「あ、侵入した無人ISのコア、打鉄の拡張領域の中にありますから、回収してくださいね?」

 

 と言う、尋問していた教員の方が頭が痛くなってくる発言のオンパレードに、学園側は頭を抱えた。

 マニュアル制御はまだ良い。

 機体が全損なのは問題だが、それは新しい機体を購入するか、専用機を与えれば良い。

 問題なのは、全てのISが持つ共有機能を使って、全く新しい戦い方を生み出し、しかもそれがISの絶対防御を貫通しかねない事、そしてIS委員会に未登録のシリアルナンバーの存在しないISコア手元にある事が問題だった。

 これでは競技用リミッターの意味もなく、操縦者側の胸三寸で死人が出かねない。

 まぁ、実際はPICどころかISコアそのものを完全に掌握した状態で操作する必要があるので、そこまで心配する事は無いのだが…。

 更に、あの大天災しか作れないISコアが各国で把握されていない所で新規に作られたと言う事実にはもう頭を抱えるしかない。

 これ以上の事を聞かされては発狂しかねないと言う事で、尋問はこの事態への陣頭指揮を取っていた織斑千冬へと急遽バトンタッチされた。

 そして、倉土灯は冒頭のその言葉にげんなりした様子で口を開いた。

 

 「現状、弟さんの鼻を折る必要があると思いまして。」

 「必要は認めよう。」

 「序でに、今朝から何か良くない視線を感じてました。」

 「ふむ?」

 「こういう時は、父が亡くなった時と同じで、大抵何かあるので朝から警戒していました。」

 「…更識妹と布仏妹が「妙にピリピリしていた」と言っていたのはそれでか。」

 

 額を抑えて千冬は呻く。

 この生徒、倉土灯は結構な異常さを持っているが、それでもあの事件における被害者だ。

 それも父親を亡くし、母親の心を壊され、更にその後に拉致監禁同然の真似をされ、憎い筈のISの操縦者として教育され、今目の前に父の、家族の仇と共にいる。

 無論、あの事件に関しては千冬だって全貌を把握している訳ではない。

 ただ、学会に馬鹿にされ、怒り心頭だった親友がやらかした惨事に、その被害者に思う事はある。

 

 「弟さんの心は折れましたか?」

 「ぽっきりとな。今は篠ノ之が何とか慰めているが…」

 

 正直、あいつが女の胸の中で泣くとは思わなかった。

 同室で幼馴染の誼なのか、一夏は不器用でコミュ障ながらも慰めようとしてくれる箒に愚痴を吐き、思いの丈を吐き出し、その胸に縋りつきながら泣いた。

 そして、そのまま眠ってしまった。

 それを箒は姉に翻弄される自分を思い出し、箒もまた同情と愛情、庇護欲と母性、似た境遇による仲間意識が複雑に入り混じった感情を抱きながら、一夏を抱き締め続けた。

 

 『オレは…手加減されて…あいつ一人で侵入者も倒して…相手どころか眼中にも無かった…!』

 

 それが悔しい、なんで自分はこんなに弱いのか、こんな所にもいたくない、家に帰りたい、友人に会って馬鹿をやりたい、穏やかに暮らしたい。

 そんな当たり前の事を望む叫びを箒は全て黙って聞き、抱き締め続けた。

 それを廊下から聞いていた千冬もまた心折れそうだったが、それでも持ち前の精神力もあって、何とか耐え凌いでここまで来た。

 

 「これでそのままで終わる質ですか?」

 「いいや、それはない。」

 

 負けん気だけは一人前だからな、と告げるのは唯一の身内故か。

 千冬はその点だけはあいつを手放しに誉めても良いと思っていた。

 

 「それで、私の今後の扱いは?」

 「先ず間違いなく専用機は貸与される。」

 

 何せ打鉄の限界性能の更に先を引き出したのだ。

 機体が自壊した事こそ問題だが、開発元の倉持なぞは良いデータが取れたとホクホク顔で「是非彼女の専用機を我が社で!」とか抜かしてきた。

 無論、本人に言うまでもなく断ったが。

 千冬とも縁深い企業だが、如何せんやらかした事がデカすぎるので残当だった。

 更に言えば日本政府も「是非正式に国家代表に!」とか言い出してきたので、未成年である事を理由に断った。

 なお、未成年で日本人なのに現ロシア国家代表な生徒会長はロシア政府から灯の情報を取ってくる様に言われて頭を悩ませていたりする。

 

 「どこの企業で?」

 「幾つか候補はあるが、それはお前が決めろ。」

 

 バサリ、と千冬が渡した部外秘と判の押された冊子には幾つかの企業の概要と貸与予定のISのスペックと概要が載っていた。

 

 「キサラギ、桐山重工、有澤重工、明日香・インダストリー、篠原重工、豪和インスツルメンツ…。」

 

 よし、最後のは無しだな!と灯は思う。

 だって人体実験に供される光景しか思い浮かば無いし。

 似た様な意味でキサラギもそうだが、有澤は重装甲過ぎて機動性が皆無になりそうだ。

 だって、全身装甲はまだしも何故かタンク形態への変形機構が付いてるし(汗)

 航空兵器に該当するIS、しかもPIC持ってて空力特性が余り意味のないとは言え、タンクて(滝汗)

 明日香・インダストリーは…ナデシコの漫画版で大活躍してた方か。

 とは言っても、あそこってネルガル吸収するまでは機動兵器部門は未知数だし、載ってるISも打鉄の改良型だしなぁ…。

 篠原重工は新型だけど、第三世代兵装も無いし、パッとしないから却下で。

 となると以前は国産戦闘機の開発競争に参加してて、現在も補修パーツ作ってる桐山かなぁ?

 でも、漫画版とアニメ版で差異があり過ぎる何れ社長になる英二君の問題があるし…うん、何処も問題あり過ぎだな!(白目)

 

 「取り敢えず、担当の方から説明を受けたいと思います。」

 「そうした方が良いだろうな。」

 

 色々と問題は山積みだが、それだけは決めた灯だった。

 

 

 




ふぅ…やっと時間取れたぜ。
次は対魔忍だな!


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IS転生 三組代表が逝く4

 さて、専用機を担当する企業だが…

 

 「一度皆さんの推す機体に試乗させてからにしてください。」

 

 灯のその一言で、取り敢えず各社の中で直ぐに試作機なり現在ある程度形になっている機体をIS学園に持っていく事になった。

 無論、難色を示した企業もいたのだが…

 

 「では今回はご縁が無かったと言う事で。」

 

 即行で切られてしまい、以後一切話を受け付けなくなりそうだったので、各企業は慌てて態度を翻した。

 何せ相手はかつて織斑千冬がそうであった様に、現在の日本国代表候補生筆頭なのだ。

 もし代表に就任せずとも、優秀なISライダーの卵と関係を持っていて悪い事は無い。

 その様な思惑もあって、結局は全ての企業がこのコンペに参加したのだが……その結果は散々なものだった。

 

 「死屍累々だな。」

 

 急遽開かれた国内IS産業参加企業による合同コンペは、なんと全滅と言う結果だった。

 

 「皆脆過ぎです。」

 「馬鹿者。お前がやり過ぎなんだ。」

 

 徐々に己の力の何たるかを把握しつつある灯にとって、現在のISは脆過ぎた。

 まぁ常人向けの機械に、いきなり人類外の身体能力持ちをぶっこめば、そりゃ内側からぶっ壊れるってもんである。

 

 「我が有澤の霧積であってもこれではな…。」

 

 現状、辛うじて原型を保っているのは有澤重工製の霧積のみだった。

 全身装甲による運動性の低下に対し、高い信頼性と堅牢性を持ち、高出力のロケットブースターで強引に動かす機体なのだが、それでも機体全体にガタが出る程であり、たった数十分の搭乗でオーバーホールを余儀なくされていた。

 

 「有澤さんは良いですよ。うちの迅雷なんて開始一分でお釈迦ですよ?」

 

 がっくりと肩を落としているのは桐山重工の社長の息子である英二だ。

 桐山重工が持ってきた迅雷は航空機開発メーカーの一角である事を生かし、脚部と腕部、それに非固定浮遊部位に安定翼兼推進翼としての機能を内蔵させた高機動仕様なのだが、如何せん華奢であったために即行で大破した。

 他にも同じ様に大破判定を受けた試作ISがゴロゴロ転がっており、豪和インスツルメンツ製の人工筋肉搭載モデル等は装甲も薄く、ご自慢の人工筋肉すら破断して、バラバラになっていたりもする。

 

 「反応速度はうちのを専用機化して漸くってレベルとか…完全に規格外ですねぇ…。」

 

 そう言うのはヤガミ重工の担当者だ。

 持ってきた新型の高機動型ISは専用のスーツと併せる事で真価を発揮し、極めて鋭敏な筋反応センサーと専用OSによる高い反応速度と運動性を併せ持つのだが、機体の強度は並程度であり、連続戦闘時の関節部の摩耗対策が不十分であった事からやはり大破してしまった。

 

 「あー、取り敢えずヤガミさんと桐山さんと有澤さん。分野は違えど凄い所があったので、第一次コンペは合格で。他の人はすみませんが、不合格と言う事で。」

 

 灯のその言葉に合格した三社以外はずーん…と暗い雰囲気が漂う。

 何せ自分達の御自慢の最新鋭試作ISがお釈迦になった上、現状日本代表候補生の筆頭格の専用機コンペに落ちたのだ。

 そりゃー国内企業としてのプライドはズタズタだろう。

 

 「質問よろしいかな?」

 「はいどうぞ。」

 

 そんな中、めげずに挙手したのは白衣を纏ったキサラギの社員だった。

 大出力ブースターを内蔵した高機動機体を持ってくるものの、やはり強度不足でぶっ壊れて落ち込んでいたのだが、何とか精神を立て直したらしい。

 

 「今後も試作機の作成時にこの様な機会を作ってもらっても良いでしょうか?」

 「んー…。」

 

 ちらりと灯が織斑教諭に視線を向けると、眉根を寄せたブリュンヒルデの姿が見えた。

 

 「先生、ここは許可すべきかと。」

 「理由を述べろ。」

 「他の生徒にも今後開発・量産される予定のISに触れる機会を与えるべきかと。」

 「むぅ…。」

 

 実際、現在のコンペにも多数の生徒が見学に来ており、整備課の中には携帯端末に何やら打ち込んでいる者もいれば、自身の推す機種について熱心に話し合う者もいる。

 

 撮影こそ禁止されているものの、気合の入った者なら擦り抜けてくるだろうし、各社もその上でコンペに合意していたので、その点は問題ない。

 まぁ全機壊されるとは思ってなかったが。

 

 「あー、取り敢えず暫くの間は打鉄乗りますんで、急いでどうにかしてください。」

 「了承した。我々が責任を持って君の専用機を完成させよう。」

 

 こうして、IS学園における第一回日本代表候補生筆頭の専用機コンペは企業側の大敗に終わったのだった。

 

 

 ……………

 

 

 『どう思う?』

 『現状の我が社の技術では短期間の実用化は無理ですね。』

 『うちもです。まさかあれ程とは…。』

 『流石はブリュンヒルデの再来と言われるだけはありますな。』

 『ならば…。』

 『えぇ、あの話、お受けします。』

 『我々4社による合同のIS開発ですか。また面白い事になりそうですな。』

 『とは言え、余り我を張ってはいられん。テロによる襲撃もあったばかりだ。最低限、先行試作型を早急に作成する必要があるだろう。』

 『多少不格好でも、彼女の動きに壊れずに済む機体。その運用データを取ってから、彼女の動きに追従できる機体を。』

 『その果てに、彼女に応えられるだけの機体を。』

 『胸が躍るな。この様な難題は実に久しい。』

 『技術屋としての腕がなりますな。』

 『では有澤さんは装甲とフレーム部分を。ヤガミさんはOSと駆動系を。うちは推進系を。キサラギさんは…』

 『それなら武装とFCS関連を担当しましょう。丁度面白いのが研究中でして。』

 『では…』

 『えぇ、4社でのIS共同開発計画、スタートです。』

 

 

 ……………

 

 

 「倉土、専用機が完成するまでは打鉄の改修機になるが良いな?」

 「それしか乗れないので、それでお願いします。」

 

 結局失敗したコンペの後、私は織斑先生から連絡を受けた。

 打鉄の改修機、とは言っても学園の整備課の教師と生徒、更に友人である簪らによる改修であり、そこまで大仰なものではない。

 量産型ISの専用化リミッターを解除して専用機化した上で、各関節部を最新の部材に変更する事で強度を30%UPし、OSを高機動戦向けにカスタマイズして反応速度を向上させている。

 とは言え、あくまで付け焼刃の改修に過ぎない。

 なので、全力の戦闘機動ではなく、それ以外の方面を暫くは鍛えていく事になるだろう。

 

 『………。』

 

 与えられた専用機の収納状態、Gショックに似た腕時計のそれを見る。

 先程から何かを訴えている様な気がするが、その内容を聞き取る事は出来ない。

 やはり、コアとの対話も必要か、と考えるが、方法が分からないのでは…。

 

 「話を聞け。」

 「っと。」

 

 風を斬って振るわれる出席簿を頭を傾けて回避する。

 当たればかなり痛そうなものに当たってやる義理は無い。

 

 「暫くは壊さん様に気を付けろ。それとこの書類に目を通し、全て記入しろ。」

 「うわお」

 

 渡された分厚い書類に口元が引きつる。

 これ、厚さだけでも30cm近くありません?

 

 「規則は規則だ。それ全てに目を通して記入しておけ。」

 「了解です。」

 「ISはどう言い繕った所で力だ。なら、厳正に管理せねばならん。」

 

 そう告げる織斑千冬の目には、複雑な感情があった。

 何せ目の前の少女こそが管理されぬ暴力によって全てを失い、また今もその暴力に縛られているのだから。

 未だ彼女をそうした勢力の調査は終わっていない。

 しかし、何れ尻尾を掴んでみせる。

 少なくとも、目の前の彼女が学園で保護できる内にケリをつける必要がある。

 それが、せめてもの償いだと千冬は思った。

 

 「先生?」

 「っと、すまんな。では来週中にラトロワか私に提出する様に。」

 「分かりました。では失礼します。」

 

 去って行く少女の背を、千冬はその場で見送る。

 その背が何故か年相応よりもか細く見えるのは、きっと単なる感傷だと知りながら。

 

 

 ……………

 

 

 「……………。」

 

 自室で座禅を組み、目を瞑り、精神を集中する。

 同居人は今現在部活で出払っており、一人静かに寮の一室瞑想を続ける。

 外界からの情報を遮断し、己の内側へと神経を集中する。

 自分は未だ弱く、装備でそれを補う事も今は無理だ。

 ならば、もう一つの自分の力を鍛えるべきだ。

 「ライダーになりたい」。

 それが自分のチートであり、範囲の広すぎるそれはランダムで転生する世界ごとに最適化されると言う。

 この世界におけるライダーとは、即ちISライダーとなる。

 では、どうやって最適だと判断しているのだ?

 それは恐らく、自分の認識を用いてだ。

 このIS世界における最も必要とされるのはISライダーだと、私が判断したからだ。

 そして、最高のISライダーとは誰かと言われると、それは織斑千冬に他ならない。

 つまり、今の自分は彼女並の適正と操縦技能を持っている事となる。

 無論、経験や彼女の持つ剣士としての技量は持っていないので、このまま戦った所で当然負けるのだが。

 しかし、自身をISライダーとして最適化しておきながら、自転車やスクーター、果てはセグウェイに乗っても他人よりも遥かに上手く扱えた。

 これは偏にFateにおけるライダーのクラススキルのお蔭であり、本来ならこの世界にないものだ。

 ならば、きっと出来るのだろう。

 

 あの仮面のヒーロー達の力を借りる事が。

 

 底へ、底へ、底へ。

 自身の中、前世の記憶でもなく、今世の記憶でもなく、その二つの間。

 あの名も知らぬ超越存在と出会った時の事、その直後の何も感じられない虚無。

 自身の存在すら曖昧な、自身の認識できない所で何かを加えられた時の事を。

 

 「………………ッ。」

 

 そして、目を開ける。

 その右手を前に伸ばし、意識を切り替える。

 同時、その右手が特撮の怪人の様に人間以外のものへと変質し、ものの数秒で昆虫や甲殻類の様な外骨格を備えたものへと変身した。

 

 「これが、仮面ライダー……。」

 

 その日、私は戦慄と興奮を抑えられず、殆ど眠れなかった。

 

 

 

 

 




そりゃ(子供の頃憧れたヒーローになれたんだから)そう(興奮して眠れなくもなる)よ。


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IS転生 三組代表が逝く5

 さて、クラス代表=クラス委員としての細々とした業務と専用機保持のための大量の書類への記入を終えれば、部活に入っていない私は必然的に暇になる。

 なので、大抵は簪が入り浸っている整備科の一室へと向かい、手伝いをする。

 無論、整備科ではないので本格的な設計開発の手伝いなど出来ないのだが…

 

 「簪いるー?って、また散らかして。」

 「ごめんね、今良い所だから…。」

 

 基本的に一極集中型の簪は、一つの事に集中すると周囲の事に疎かになる。

 なので、必然的に灯や本音がそのサポートをする事になる。

 

 「本音は今日は生徒会があるから来れないから。夕飯は何か私が適当に持ってくるね。」

 「うん、お願い。」

 「リクエストがあれば早めにね。」

 「うん。」

 

 一切こちらを振り向かず、漸く機体本体が出来上がりそうなISに向き合う彼女は、元男の自分が言うのも何だが、女としてはちょっと落第状態だった。

 着ているジャージが汚れているのは仕方ないとして、何度も徹夜しているためか、その髪も目元もくすみ、肌もケアしていないのでガサガサだ。

 無論、若いからちゃんと休養を取れば数日で回復する程度のものだが、それでもこれは色々と酷い。

 

 「簪、朝ご飯は食べた?」

 「…ううん。」

 「お昼は何食べた?」

 「…おにぎりセット。」

 

 おにぎりセットとは食堂の軽食の一種で、おにぎり二個(日替わり)とお新香(日替わり)、そして味噌汁(日替わり)のセットであり、主に昼休みに練習を行ったりする生徒達向けのメニューだ。

 まぁどうやっても栄養バランスは偏るのだが。

 

 「今からサンドイッチ持ってくるけど食べる?」

 「食べる。」 

 「分かった。ちょっと待っててね。」

 

 ひょいひょいとゴミを拾いつつ、灯は一旦食堂に向かうのだった。

 

 (いい加減、休ませないと駄目だなありゃ。)

 

 明らかにランナーズハイになっている。

 こうなると、一端何か別の方に目を向けないと倒れるまで走り続けるだろう。

 が、一先ずは食事が優先である。

 

 「簪ーサンドイッチ持ってきたよー。」

 

 なお、どう見ても足りてないビタミンを補うために、サラダチキンとBLTサンドの二種だ。

 新鮮なお野菜たっぷりなので、これで多少はマシになるだろう。

 

 「…ありがとう。置いといて。」

 

 が、駄目。

 簪の意識は完全に目の前の機体へと向いている。

 だが生憎とこちらには秘策がある。

 実はサンドイッチの他にもう一つ、自分向けのものを確保してあったのだ。

 それはウィンナーソーセージたっぷりのポトフ。

 コンソメスープで柔らかく煮込まれた野菜と汁気たっぷりながらも皮の食感が失われていないウィンナーの絶妙なコラボ。

 それを簪の背後から手で仰ぎ、寝不足&不摂生で疲れが感じにくくなっている簪の鼻孔へと香りが届く。

 途端、簪の細いウェストからぐ~と言う小さな音が響いた。

 

 「…それは卑怯。」

 「こうでもしないと食べないでしょ。ほら、早く食べる。」

 「ん。」

 

 そしてモソモソとポトフとサンドイッチを咀嚼し始める。

 その勢いは普段のゆっくりとした食事風景とは全く異なり、やはり空腹だった事が窺える。

 

 「で、何処まで進んだの?」

 「ん…機体本体はほぼ完了。武装回りはまだ。」

 

 となると、一応今度やる予定のタッグトーナメントには参加できる訳か。

 これでもクラス代表、そういった話は自然と入ってくる。

 

 「簪、タッグトーナメントに出ない?」 

 「えぇ…。」

 「えーじゃなくて。このまま進んでも、どうせ何時かは機動試験が必要なんだし、公式試合もまだ量産機でしか出てないんでしょ?ここらで一度乗って、問題の洗い出しとかして、それから武装に行っても遅くはないでしょ?」

 

 実際、このまま自分や本音の目の届かない場所で開発が進んだら、絶対に事故が起こる。

 体調を疎かにして既にこの様な状態になっている様では、この先絶対にケアレスミスが起こる。

 ならば、一度休養を取らせるべきだ。

 

 「ねぇ簪。武装も決まってないんだったら、外装もそうよね。」

 「? そうだけど…。」

 

 よし、突破口は見えた。

 

 「じゃぁ、こんな外装はどう?」

 「? ……これはッ!?」

 

 ガタン、と先程まで静かだった簪が椅子から勢いよく立ち上がる。

 まぁ仕方あるまい。

 オタだったら誰だって興奮する、自分だって興奮する。

 

 「武装は量産機のを使うから、必然的にこっちを使うし、どうせ武装が決まったら外装はそれに合わせて弄るのだし…なら、少しくらいはっちゃけても大丈夫じゃない?」

 「う、そ、それは…。」

 

 ふむ、まだ羞恥心が残ってるか。

 ならば倍プッシュだ。

 

 「私が企業に専用機を依頼したのは知ってるわよね?」

 「…まさか。」

 

 簪の目が期待に輝いている。

 そうだよね、君なら期待するよね。

 

 「まぁ最初の試作機はここまで趣味的じゃないけど、最終的には外装は私の趣味をぶっこむつもり。」

 

 何のための全身装甲だって?

 そんなもん、趣味に費やすために決まってるだろうがッッッッ!!!

 ISの全身装甲が余り有効じゃないなんて知ってんだよ!

 これでも入試の成績は4位だったから当然だ!

 だが付ける!

 そして自分好みのデザインにするのだ!

 

 「さぁさぁ簪、どうする?このはっちゃけ、期間限定だよ?今位しか出来ないよ?やりたくない?」

 「う…うぅ…!」

 

 簪が葛藤する。

 常識と自制、欲望と解放の狭間で揺れ動いている。

 よろしい、ならば止めの一撃だ。

 

 「簪と趣味的な外装でタッグマッチ、出たかったなぁ…。」

 「う!」

 

 わざとらしい落ち込んだ演技と溜息、そして発言に簪が呻く。

 くくく、貴様がタッグマッチの相手をまだ決めていないのは把握済みよ!

 

 「出たかったなぁ…。」

 「ううう…。」

 「仕方ない。本音に頼むか。あの子ならノリも良いし、付き合ってくれるよね。」

 「や、やる…」

 「ん~聞こえんなぁ~?」

 「私がタッグマッチ、灯と一緒に出る!この外装で!」

 

 普段は大人しく声を荒げない簪が、顔を羞恥で真っ赤にしつつ叫んだ。

 

 「その言葉が聞きたかった。じゃぁ申請出しとくね。」

 「あ…。」

 「ところで簪、使用する機体名はどうする?」

 「…この外装のままじゃ駄目かな?」

 「まぁフレームから新規だしねぇ…良いんじゃない?」

 

 こうして、私は首尾よくタッグマッチの相手の確保及び趣味へと走る事に成功した。

 

 

 

 

 

 「ところで、灯の最初の試作機ってどんなの?」

 「仮のスペック表ならこれ。」

 「…………うわぁ…。」

 「どう思う。」

 「これ作った人達、話合いそう。」

 「うん、簪なら言うと思ったよ。」

 

 

 ……………

 

 

 さて、タッグマッチ・トーナメントである。

 本来、学年ごとのトーナメント形式なのだが、今回は前回妨害があった事を踏まえ、二人一組にする事で事務負担の軽減と問題時に対処可能なISの稼働数を増やすために急遽タッグマッチ形式で開催される。

 そして記念すべきその第一回戦が…

 

 「まぁた一回戦かぁ…。」

 「だ、大丈夫だから、ね?」

 「頑張って~あかり~ん。」

 

 タッグ相手である簪と応援担当の本音に励まされながら、私は企業から渡された試作品一号を纏っていた。

 自分の機体と簪の機体を見て、多少テンションが回復したが、それでもいやーな気分になる。

 何せ前回が前回である。

 第一回戦から突然のテロリストもとい無人機の乱入、しかも衛星軌道上から強襲である。

 更にこっちは結果的に試合に負けている。

 面白い筈もない。

 

 「ま、この子達のデビュー戦だし、頑張りますか。」

 

 相手はあの暴力侍娘こと篠ノ之箒とコミュ障厨二合法ロリことラウラ・ボーデヴィッヒだ。

 撲殺系掃除道具は打鉄なので兎も角として、厨二ロリの方は安定性の高い防衛よりの第三世代機だ。

 特に初見殺しと言っても良いAICは脅威の一言だが……そんなもん既にばれているのでどうとでもできる。

 厨二ロリは自分が担当するとして、簪には掃除道具を担当してもらうとしよう。

 

 「私が厨二をやるから、簪は掃除道具をお願い。」

 「…それ、本人達に聞かれないようにね?」

 「モッピーもラウラウも怒りそーだねー。」

 

 おっといかん、口に出てたか。

 それはさて置き、そろそろ出撃だな。

 

 「じゃぁ簪、私が先にピットに出るから、そっちは最後にね。」

 「うん、お先にどうぞ。」

 

 設置されたカタパルトに乗り、加速のためのGと共にピットから射出される。

 Gの圧力と風を斬る感覚を心地よく思いながら、アリーナ内へと打ち出されれば、視界は満員の観客と整備されたアリーナ内のグラウンド、そしてエネルギーシールドに閉ざされた空が見える。

 視線を相手側のピットに向ければ、既に二体とも出撃を完了しており、装備を構えて滞空している。

 

 『おい、もう一人はどうした?逃げたのか?』

 

 軍人崩れが何か言っているが、意に介さない。

 何せ、これから始まる事に比べれば、そんな挑発にすらならないヤジ等、一々意に介していられないからだ。

 

 『更識簪、MS-06S、出ます!』

 

 突如、全方位通信に短い言葉が乗る。

 その内容に多くの人間が疑問符を乗せるが、自分が先程出てきたピットから出てきた機体を見て、誰もがあ然とした。

 何せ、その機体の外見は余りにも有名だったからだ。

 

 全体的に丸みを帯びた全身装甲に塗られているのは赤、と言うよりもワインレッドとピンク。

 右肩の逆L字型シールド、対照的な左肩の球体に近いスパイクアーマー。

 頭部もまた例に漏れず丸みを帯びた装甲に覆われ、特徴的なモノアイがレールに沿って可動し、周囲を睥睨する。

 そして、最大の特徴であるその額にある一本の角の様なブレードアンテナ。

 そう、その姿は日本どころか世界的に有名なとあるアニメに登場するライバルの専用ロボット…否、モビルスーツ。

 その名も…

 

 『シャア専用ザクⅡ、だよ!』

 

 正確には指揮官用ザクⅡなのだが、それは置いといて。

 

 「「「「「「「「「「『ウゥオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!?!?!!』」」」」」」」」」」

 

 会場に来ていた観客、企業の重役やスカウトマン、政府関係者の内、一定以上の年齢の者達を中心に猛烈な歓声が沸き上がった。

 分かる…その気持ち、実に分かるぞ!

 だって私だって叫んでるし!

 ISのカメラ機能全開で録画と静止画どっちもガツガツ撮ってるしな!

 あ、向こうさんはこの事態に大いに戸惑ってる。

 まぁ分からないとついていけないよねぇ。

 

 『掴みは上々!後は予定通りに!』

 『うん、この外装の提案ありがとうね、灯。』

 『いいさ。私も見たかったし。』

 

 私は私で将来的にはっちゃける予定だしね。

 

 『それでは第一試合、開始してください!!』

 

 歓声が止まぬ中、進行役の山田先生の放送で、向こうも戦闘態勢に入った。

 よし、簪の雄姿も見たいし、さっさとブチころがすか。

 

 

 

 

 




大分駆け足+原作ワンサマー勢が全然出ない(汗
次回以降はそっち方面の描写入れる事にします


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IS転生 三組代表が逝く6

少し短いが許してほしい。
明日も早いのだ…


 さて、片方がシャアザクと言う余りのインパクトで霞みがちだが、灯の搭乗する試作型ISもまたかなりネタ枠と言って良い。

 装甲面積こそ一般的なISに比べて多いものの全身装甲ではない。

 そのため、一見しては普通のISの様に見える。

 しかし、知っている者は知っている。

 生物的な丸みを一切持たず、直線で構成された無骨な兵器然とした灰褐色の装甲に、濃いブラウンの額当て。

 その全身に設置された多数のハードポイントによる、バススロット(拡張領域)を使わない別種の多用途性。

 そして何故か踵へと設置されている折り畳み可能な無限軌道。

 

 ぶっちゃけ、フレームアームズガールの轟雷だった。

 

 装甲とフレーム作ったのが有澤だから、こんな風に出来ない?と注文つけた灯も灯だが、実現する変態企業群もアレだと思う。

 シャアザク程の知名度は無いものの、それでも知っている連中はいるらしく、アリーナの一部では爆笑と感動と興奮の嵐が起きている。

 なお、版権に関してはブキヤとバン〇ムに宣伝行為として許可を貰っている。

 後日、インタビューやイベントに参加せねばならないが、それは必要経費と割り切れるし、イベントには寧ろ参加したいので良し。

 

 『渋い…渋いよ灯…!』

 

 簪が感動した様に通信してくる。

 気持ちは分かる。

 しかし、ここから先は気を引き締めよう。

 

 『簪、分かってるね?』

 『うん。シャア専用なんだから、無様な真似は許されないよね。』

 『じゃぁ掃除用具は任せたよ。』

 『せめて名前で呼んであげようよ…。』

 

 だが断る。

 あんな人格破綻者共、絶対にお近づきになりたくない。

 

 『じゃ、背中は任せたよ相棒。』

 『うん、任せて!』

 

 こうして、IS史上最強のネタ枠と後に言われるコンビの初の公式戦が開始された。

 

 

 ……………

 

 

 (さっさと片づけなければな。)

 

 ラウラにとって、この試合は織斑一夏を敗北させるための過程に過ぎなかった。

 多少観客が煩いのが気になるが、そんな事は興味の範囲には無い。

 彼女にとっての世界は基本的に織斑千冬と自分と、後は精々部隊の部下や副官のクラリッサ程度で完結している。

 他は眼中にも無い。

 なので、自分の方に向かってくる見慣れない灰褐色のISを見て、更にその相手が武装を一切出さずに接近してくるのを見ても、何の警戒もしていなかった。

 当然だろう。

 彼女の乗るISは第三世代の中でも屈指の完成度を誇り、更に彼女自身の実力も同年代の中では頭一つ飛び抜けている。

 彼女が特に警戒せず、徐にレールガンを発射したのも特に間違った選択でもない。

 ただ、後の展開を知っていたならば……彼女は、此処で全力で応戦すべきだった。

 

 

 (な…!)

 

 放たれた三発のレールガン。

 牽制、追い込み、本命の三射は狙い違わず発射され、しかし目標へと至る途中で爆散した。

 相手をよく見れば、何時の間にかその右手にアサルトライフルが構えられ、銃口から僅かな硝煙が燻っている。

 つまり、相手は一瞬で武装を展開した後、早撃ちの要領で音速を遥かに超えるレールガンの砲弾を迎撃してみせたと言う事だ。

 馬鹿な、と思う。

 自分でも通常では出来ず、ヴォーダン・オージェを使って漸く出来るかどうか五分と言う程の神業だった。

 だが、そんな世界大会でも滅多に見ない様な神業を披露した相手は、何の緊張も見せぬまま、ライフルの銃口をこちらに向け…!

 

 「ッチィ!」

 

 咄嗟にその場から後退して離脱するが、エネルギーシールドが突破され、僅かながら機体が損傷する。

 幸いにもシールドで大半の威力が削がれた様だが、対IS用徹甲弾と思われるそれは早々当たりたくはない。

 

 「舐めるな!」

 

 ならばと第三世代兵装、AIC(慣性停止結界)を発動する。

 光学兵器や多数を相手にしては効果が薄いが、こうした一対一の状態ならば反則ともいえる程に効果的だ。

 だが、ラウラはまだ知らなかった。

 世の中には彼女の尊敬する千冬の様に、そんな常識など知った事かと我が道を行くバグキャラが存在する事を。

 

 「落ちろ!」

 

 AICの発動直後、敵の動きが止まり、空かさずレールガンを連射する。

 発射するのは高速徹甲弾、例えある程度動けて迎撃できたとしても、アサルトライフルよりも遥かに大口径のレールガンの砲弾、それも高速徹甲弾なら先程の二の舞にはならないと踏んでの選択だ。

 この行動にラウラは敵の必殺を確信していた。

 

 「えーと、こうか。」

 

 至極あっさりと、敵はその場から動き、レールガンの砲撃を見てから回避した。

 

 「は?」

 

 余りに常識外の行動に、思考が一瞬の空白を産む。

 しかし、これは仕方ないだろう。

 なにせAICは完全に発動し、相手は確かに捕えられていた。

 なのにあっさりと自由になり、混乱しながらも牽制として発射されるレールガンを適宜回避と迎撃を繰り返している。

 

 『いや、そんなに驚かなくても。』

 

 相手からの全方位通信に、つい耳を傾けてしまう。

 それだけ今のラウラは動揺していた。

 

 『AICって言っても、所詮はPICの応用でしょ?ならさ…』

 

 迫り来るレールガンの砲弾を、しかし相手は迎撃せず…

 

 『完全にマニュアルで動かせれば、PICでもその真似事程度は出来ると思わない?』

 

 その場でピタリと静止した。

 同時、アリーナにいたISに詳しい者達は戦慄を覚えていた。

 AIC、高い技術力を持つドイツが散々に苦労して漸く実用化した第三世代兵装。

 それは勿論PICの応用だが、その制御と使用には呆れる程の技術的蓄積と機体側からの補助、そして優れた操縦者による思考制御があってこそ初めて実戦で使用できる。

 それを、目の前のコイツは単なるマニュアル操作だと言い切った。

 それはつまり相手選手、即ち倉土灯が乗る限り、どんな機体であろうと最低限ISとしての機能を持っていれば、AICの使用も、拡張領域を利用した防御無視攻撃も可能だと言う事に他ならない。

 ラウラとて、箝口令が敷かれた事件の詳細までは知らない。

 しかし、その事件の最中に使用されたISの技は以後禁じ手とされ、競技中には絶対使用禁止とされた事は聞いていた。

 ラウラは漸く確信した。

 IS学園を襲撃したテロリストのISを、禁じ手とされた拡張領域の攻撃的使用によって一方的に撃破したと言う事件の当事者。

 それが目の前のコイツだと言う事に。

 

 『ま、いいけどね。そろそろ簪の方をゆっくり見たいし…』

 

 目の前?

 気づけば、相手は既にISにとって一挙手一投足の間合いへと入っていた。

 何と、撃ち過ぎてレールガンが弾切れになっていた。

 普段なら絶対にしないミス。

 しかし、度重なる驚きに、心が隙だらけになっていた。

 自身への罵倒を後回しにし、ラウラは必死に起死回生の一手を探る。

 レールガン…間に合わない。そもそも効かないし、弾切れだ。

 AIC…同上。

 ワイヤーブレード…間に合わない。

 となれば、後は接近戦用のプラズマブレードしかない。

 起動させ、両手を構える。

 しかし、しかしだ。

 

 「終わらせる。」

 

 目の前の、こちらを物を見る様な視線を向けてくる化け物に、敵う気がしなかった。

 事実、プラズマブレードを構えた時点で、身体が動かない。

 これは知っている。

 AIC、自身が扱う慣性停止結界によるものだ。

 

 「意外と便利ね。けどつまんない。」

 

 そしてバッサリと、ラウラの乗るシュバルツェア・レーゲンは灯が取り出した実体ブレードによって逆袈裟に切り裂かれた。

 

 

 



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IS転生 三組代表が逝く7

 さて、ラウラをぼこぼこにした後、私は止めも刺さずに簪ウォッチングに精を出していた。

 何せリアルシャアザクである。

 自分も大概だが、彼女の乗るISもまたロマンに溢れている。

 それを勘違いした厨二女の相手をして見過ごす等あってはならない。

 一応、原作通りに発動させてドイツ軍の弱みを御開帳させるためにも敢えて止めはさしていないが…何故か斬りかかってこない。

 はて、機体の調子を見るためにもお喋りとかしてそこそこ手加減してやったのだが…もしかして心が折れたのか?

 だとしたら軟弱過ぎるぞドイツ軍人。

 と言うか、軍事教練って心を折って上官の命令に絶対服従の殺戮マシーンを作るのが目的だろうに(偏見)、何をこの程度の苦境で折れているのか。

 まぁ良いか。

 このまま折れるのなら、所詮はその程度で、こっちの視界に入らない分には別に気にしないし。

 それよりもリアルシャアザクを見るのが大事だ。

 さっきから動画と静止画で既に7G分は撮っているが、こういうのはやはり生で見るのが一番だしね。

 

 

 ……………

 

 

 「く、そ…!」

 

 打鉄を纏う箒は何とか対戦相手の赤い機体へと接近しようと積極的に前に出ようとする。

 しかし、未だイグニッションブーストすら使えない彼女では、専用機持ちに勝てる訳もない。

 一方的に一定の距離を保ったままマシンガンによる射撃を加えられ、ジリジリとシールドエネルギーが減っていく。

 それを見て焦りばかり募り、結果として無理に前に出て、また余計な損害を出す事を繰り返している。

 この辺り、本人の精神の不安定さ故だろう。

 得意な接近戦に拘らず、取り敢えず射撃しつつ打鉄の物理装甲で防御を固めれば、ここまで無様な状態にはならなかっただろう。

 だが、箒にはそこまでの柔軟さと余裕が、そして接近戦のみで打ち勝つ技量と経験、そしてセンスが無かった。

 これが一夏なら姉譲りのセンスで割とどうにかなったのかもだが、生憎と箒にはそんなものはなく、何よりメンタル面で問題が多すぎた。

 だからこそ、この結果は当然のものだった。

 

 『そこ!』

 

 また無理に前に出ようとした瞬間、相手がラピッドスイッチ(高速切り替え)によって装備したバズーカから砲弾が放たれ、直撃こそ免れたものの爆風によって煽られ、出鼻を挫かれる

 

 「こ、のぉ…!」

 

 遂に箒は主義主張を降ろして、ライフルを呼び出し、射撃する。

 しかし、本人の技量が低い事もあり、当然の様に回避される。

 いや、きっと一年では射撃において最も技量の高いセシリアであっても回避されただろう。

 

 『当たらなければどうと言う事は無い!』

 

 何せ、相手はあのシャアザクなのだから。

 箒とて日本人、真面目に視聴した事こそ無いものの、ガンダム位知っているし、その有名なライバル機も然りだ。

 最高速こそ打鉄の1.3倍の筈の敵がその技量によって、まるで3倍にも感じられる。

 傍から見れば、完全に勝負は見えていた。

 

 

 ……………

 

 

 ラウラは呆然としていた。

 機体ダメージは既にC判定であり、辛うじてまだ動けるが、それとて敵が敢えて見過ごしているからこそだ。

 今自分が損傷した機体で何をした所で、あの化け物には届かないと確信を持って言えた。

 あの最後の一閃、あれは臨時教官であった千冬が未だISライダーとして現役だった頃のそれに近いものだった。

 無論、それそのものではないし、千冬のそれはもっと鋭く、美しい。

 だが、同じ領域であると思わせるものがあった。

 それ故に、ラウラは挑もうとは思えなかった。

 

 【力が欲しいか?】

 

 だが、不意に聞こえた声で意識が彼岸から戻ってくる。

 それは典型的な悪魔の誘いだった。

 

 【力が欲しいか?】

 

 視線を数m先で仲間への応援に声を上げている敵を見る。

 きっと何不自由なく生きてきて、なのに親兄弟もなく、千冬だけが味方だった自分を踏み躙った灯を。

 そう思うと、何処からか動く気力が湧いてきた。

 

 (貴様は…そこまで多くのものを持っておきながら…そのためだけに生まれた私よりも強くありながら…!)

 

 それは良いものではないと直感的に分かる。

 しかし、その感情に抗うには、彼女は余りに幼く、拠り所が無さ過ぎた。

 

 【力が欲しいか?】

 (寄越せ!奴を打倒し、私の存在を証明できるだけの力を寄越せ!)

 【欲しければくれてやる!】

 

 そして、ラウラの意識は黒に呑まれて消えた。

 同時、中破状態だったシュバルツェア・レーゲンの姿がブクブクと消え、片手に剣を持った歪な女性を模した姿へと変貌した。

 

 【コード認証確認。VTシステム・アクティブ。戦闘モードへ移行。】

 

 こうして、紛い物の戦乙女は立ち上がった。

 

 

 ……………  

 

 

 (お、漸くか。)

 

 敵に背を向けながら、灯は背後でラウラがVTシステムに呑まれたのを視認していた。

 元より、ISのセンサーやレーダーは全方位に対して作用している。

 例え操縦者が眼球を失った所で、機体から送られるデータを処理できれば戦闘続行は可能なのだ。

 だが、それでもISの戦闘において不意打ちや死角と言うものが発生するのは、人間の方がISからの情報を消化し切れいていないからだ。

 しかし、それはあくまで常人の話だ。

 常人よりも遥かに高い改造人間とサーヴァントとしてのスペックを発揮できる灯にとって、そんなものは最初から克服できている。

 だからこそ、背後で立ち上がり、こちらに向けて踏み出したVTシステム、織斑千冬の紛い物にも当然ながら気づいていた。

 

 (とは言え、余り早く片付けちゃ駄目だしね。)

 

 瞬殺すれば、それだけドイツ側への弱みが無くなってしまう。

 それは代表候補生としても、原作展開でも駄目だ。

 あれが無ければ天災が本腰入れてドイツのマッドサイエンティスト共を殲滅しなくなってしまうし、その後厄ネタの一人となったラウラを学園で保護できなくなる。

 自分が悪くはないものの、織斑先生からの悪感情はなるべく買いたくは無い。

 

 「まぁ、食らってやる義理は無いんだけどさ。」

 

 そう言って、背後から袈裟切りをしてきたVTシステム、その剣を持った両手を背後へと逆サマーソルトの形で蹴りつける。

 その動きは織斑千冬を模しているだけあって確かに早いが、それだけで特に脅威は感じられなかった。

 その際、踵部の無限軌道を展開し、リーチを伸ばす事で相手の剣が届くよりも早く蹴りを当てる事で、こちらへのダメージは殆ど無い。

 

 【■◆!】

 

 合成音声が漏れ出て、空かさず二の太刀を振り被ってくるが、そこまで付き合う義理は無い。

 二撃目が来る前に、灯はさっさとその場を離脱し、接近戦の間合いの外、アリーナの反対側の壁の近くまで瞬時加速を使ってまで後退した。

 

 「やっぱり、ノンアクティブか。」

 

 その辺りは原作通りらしく、距離を取ったらVTシステムは動かなくなった。

 つまり、態々近接を挑まずとも良いし、狙撃やただの砲撃なら迎撃の可能性もあるが、それではどうしようもない攻撃をすれば楽に仕留められる事を意味する。

 もしこれがアクティブだったら、その時はこちらも本気を出すつもりはあった。

 しかし、既に先程の無茶な逆サマーソルトで関節部へ結構な負荷がかかっている。

 本気を出していれば、この機体も直ぐにお釈迦になっていただろう。

 

 『簪ー今大丈夫?』

 『どうしたの?こっちは余裕だけど。』

 

 余裕と来たか。

 原作よりも遥かにメンタルが安定しているため、友人としては実に頼もしい。

 

 『なんかこっちで問題発生。最大火力で鎮圧するから、タイミング見て私の背後に退避して。』

 『最大火力って…あれ使うの?』

 『うん。お披露目するには良いかなって。』

 

 無論ロマン兵器なのだが、秘密兵器っぽくってついつい装備してきたのだ。

 お蔭で拡張領域が第二世代相当の筈の轟雷でもマシンガンと予備マガジンとブレード一本でカツカツだがな!

 

 『分かった。そっちが準備終わったら行くね。』

 『うん、頼んだよー。』

 

 そして、通信を終えた灯は拡張領域からあるものを取り出した。

 それは余りにも巨大かつ複雑な機械で、灯の纏う轟雷本体よりもデカかった。

 

 「よい、せっと。」

 

 それを背面に装着し、FCSが武装を認識し、機体の人工音声が状態を告げる。

 

 【試作兵装が接続されました。システムに負荷が掛かっています。使用の際は可能な限り安全対策を取ってください。】

 

 折り畳まれていた機械が、徐々にその本来の姿へと戻っていく。

 轟雷本体もまた、脚部の無限軌道が展開して地面に接地し、足裏にある不整地用クローが展開し、機体を固定する。

 真横を向いていた三重に折り畳まれた砲身が正面を向いてから真っ直ぐ伸びていき、その砲弾に見合う発射機構が砲身と接続され、次に5発の砲弾を格納した弾倉を繋げ、最後に各部にロックが掛かり、完全に固定されると、5秒程かかった変形は漸く終わった。

 

 【老神、展開完了。】

 「初弾装填。」

 【了解。】

 

 ガコン、と重々しい音と共に弾倉から艦載兵器サイズの砲弾が装填される。

 狙うのはこちらを視認しつつも何の動きも取らない欠陥品だ。

 精々1km程度の距離、ISのセンサーがある上に標的は静止状態、外す理由はない。

 

 『こっちは準備完了。』

 『了解!行くよ!』

 

 通信とほぼ同時、簪のシャアザクが掃除用具の腹部を加速を乗せたまま強かに蹴りつける。

 元々消耗していたのか、掃除用具は身体をくの字にして大地へと叩き付けられ、そのまま浮かんでこない。

 そして数秒とせぬ内に、灯の背後に簪のシャアザクが着地した。

 

 「凄い…これがOIGAMI…!」

 

 有澤製IS用重グレネードカノン、その試作モデルたるOIGAMI。

 ISの武装としては余りに無骨で巨大なソレは命中率とコスト、整備性・生産性の悪さ故に完成前からお蔵入りが決定し、今日まで倉庫の隅で埃を被っていたロマン・オブ・ロマン。

 それをもしかしてあるかなぁと本社施設を探検し、期待通り見つけた灯が無理を言って持ってきたのがこれだった。

 

 「変形シーンの撮影は?」

 「ばっちり!後で見ようね!」

 「宜しい。ならば後は実射だ。」

 

 既にロックオンは済ませている。

 だが、一応こちらが官軍だと示すために、教員たちがこちらへ踏み込もうとする中、灯は敢えて一手間かけた。

 

 「ラウラ・ボーデヴィッヒに告げる。そのISは違法だ。直ちに武装解除して投降せよ。」

 『………。』

 

 だが、当然ながら意識の無いラウラがそれに返答する事は無い。

 別に構わない。

 それならそれで、彼女が凄惨な体験をするだけなのだから。

 

 「勧告はした。ではな。」

 

 そして、灯は躊躇いなく、150mm専用砲弾をラウラを取り込んだVTシステム目掛け、轟音と共に発射した。

 

 

 

 

 

 




やりきったぜ…(汗拭いながら


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IS転生 三組代表が逝く8

 「やり過ぎだ馬鹿者共。」

 

 スパパーン!と快音が響いた。

 

 「「ごめんなさい。」」

 

 普段は回避する灯も、簪同様に甘んじて出席簿の一撃を受ける。

 衝撃が徹っているのか、やたら痛い。

 しかし、その程度で済めば御の字と言う程度に今回の騒ぎは被害と影響が酷かった。

 

 先ず第一にラウラの乗るISに搭載されていたVTシステム。

 これはドイツ本国への照会及び国際IS委員会からの強制査察が即座に行われる事となったが…ラウラを作成したデザイナーズベイビーの研究施設ごと、関係者は文字通り消滅させられていた。

 他、ドイツ政府及び軍の一部高官が謎の死を遂げた事で、事件は迷宮入りとなった。

 なお、千冬の携帯には「アホな連中は掃除しといたから誉めて-♪」なるメールが入っていたりと、各国は頭を抱えつつ、ボロボロになったドイツを更に責めて落し所を探っている。

 次にラウラ自身の処遇だ。

 デザイナーズベイビーであり、軍所有の兵器扱い(表向きは士官学校向けの教育を受けている事になっている)である彼女は、今回の一連の事件によって原隊であるシュヴァルツェ・ハーゼと共にドイツ国内に居場所がなくなってしまった。

 一応副隊長のクラリッサは正規の軍人であるが、彼女一人でIS部隊全員の面倒を見る事が出来る訳もなく。

 既に今年の転校枠も一杯なので、部隊の適齢者は来年度受験してIS学園に来る事となっている。

 それ以外の者は正規の方法で士官学校入りなり就職口を探す事となるが、デザイナーズベイビーであり、軍事方面に偏れど十分な教育を受けている事もあり、まぁ大丈夫だろうと見られている。

 なお、ちゃんと給与は適正額+賠償額が払われる予定だ。

 そして、我らがバグキャラこと灯の処遇である。

 試合であり、違法ISの強制停止措置のためとは言え、過剰な攻撃を加えた事は当然ながら問題視された。

 しかも、その攻撃は最新技術で構成された150mm砲による直接砲撃である。

 例え相手が違法なシステムを搭載したISであっても、過剰火力過ぎた。

 また、アリーナに与えた被害も洒落にならなかった。

 何せ試合会場の3割がクレーターと化したのだ。

 幸いにも死人も怪我人も出なかったが、アリーナのエネルギーシールドが飽和しかけ、危うく観客に被害が出る可能性もあった。

 幸い、緊急時用の安全機構(エネルギーシールドを上面のみ解除して上空へ逃がすシステム)が働いたため、飽和する事は無かったのだが。

 また、直接砲撃こそ命中しなかったものの、爆風によって篠ノ之箒の打鉄はD判定を受けて大破よりの中破、一方簪は対ショック姿勢及びシールドエネルギーに余裕のあったためC判定で済んだ。

 しかし、砲撃が直撃したシュバルツェア・レーゲンはVTシステム発動中だったとは言え大破、ラウラもシステムの起動と強制停止による反動で気絶して検査入院する事になった。

 そして、やらかした本人の轟雷もPICを全て砲撃の反動の中和に割いていたため、機体及び搭乗者保護が疎かになっていた事もあり、爆風でシールドエネルギーが切れたと同時に溜まっていた駆動系や関節ダメージも合わさり、D判定どころか完全に大破、本人も首がむち打ち状態になって、数日間は安静&謹慎を言い渡された。

 こんな状態になっては再試合など出来る筈もなく、後日改めて開催される運びとなった。

 本来、ここまでやらかしたら両者とも相応の処分(代表候補生資格及び専用機の取り上げ)になる可能性も高いのだが、本人らの技量が同年代の中でも特に高く、中でも倉土灯の純粋な量産型ISによる第三世代兵装の再現は世界的にも高く評価されており、おいそれと処分する事は出来なかった。

 まぁ資格とコアを取り上げられた所で変態企業群が確実にコアを貸し出して抱え込もうとすると思われるので、余り意味がないとも言うが。

 

 とは言え、お咎め無しは流石に無理なので、ガチおこ状態の織斑教諭によるお説教&反省文の提出、更にクレーターとなったアリーナの整地をさせられる事と相成ったのだった。

 

 

 ……………

 

 

 「ねぇ灯。」

 「んー?」

 

 アリーナに出来たクレーター、その埋め立てのためにロードローラーを人力で動かす灯に、アリーナのエネルギーシールドの状態を確認していた簪が声をかけた。

 

 「灯が織斑君達が嫌いなの、私のせい?」

 

 それは簪にとって負い目だった。

 自分の専用機の開発が打ち切られたのは、織斑一夏の専用機を倉持技研が用立てようとしたからだ。

 その分の開発リソースを次期国産第三世代ISである打鉄弐型のチームから持ってきたため、打鉄弐型の開発は事実上停止、簪の下にはコアだけが残った。

 その事を理由に、簪は織斑一夏に対して悪感情を持っているが、それが親友に伝播しているのではないかと危惧していた。

 

 「違うよ。」

  

 だが、灯はそれは違うと断言した。

 何せ彼女にとって、織斑一夏とその周辺はキャラクターとしてならば兎も角、こうしてリアルで見ると実に自分勝手で人格破綻な連中だからだ。

 ISと言う事実上の兵器を纏いながら、それを法律で規制されているにも関わらず、平然と日常的に異性に対して暴力を目的として振るう。

 お近づきには絶対になりたくない。

 それがIS学園にやってきてから彼・彼女らを観察して至った灯の結論だった。

 なまじ簪が良い子であったため、どうしても彼・彼女の事が何段も劣って見えると言う事もあったのだが……それにしたって酷いとしか言い様が無かった。

 

 「まーそー見えちゃうのは仕方ないけど、これは私の感情由来だから、簪が気にする必要は無いかなぁ。」

 「そっか。」

 「うん。でもまぁ、そうじゃなくても簪が何かされたら怒るよ。友達だからね。」

 

 そういって少年の様にニッと笑う様は、まるで悪童のそれだ。

 以前はもっと鋭く、笑うと言う事も余りしなかった親友の笑顔に、簪は釣られた様にクスクスと笑った。

 嘗て出会った頃、灯は寄らば斬るとでも言うべきか、本当に殺気立っていた。

 それが父を失い、母と故郷から勝手に離されたが故である事はもう知っているが、その頃に比べると本当によく笑うようになった。

 序でにノリも良くなったと思う。

 

 「じゃぁ、さっさと終わらよっか。」

 「ごめんね、手伝わせて…。」

 「いいよ、友達だもん。」

 

 夕暮れの放課後、二人は仲良く片付けを続けた。

 

 

 

 

 

 「かんちゃんは私のお嬢様なのに~……」

 

 一方その頃、簪と同室の本音は嫉妬でギリギリ言っていた。

 

 

 ……………

 

 

 『まさか、即日でお釈迦とはな…。』

 『オタクのせいでしょ、アレは。』

 『ぬぅ…まさか本当に使うとは。』

 『とは言え、データはこれ以上無い程揃いました。おまけにドイツのAICとその再現データまで。』

 『これ使えば、次期主力機も作れそうですね。』

 『専守防衛の日本らしい機体になりそうだな。』

 『で、次の機体は?』

 『あ、うちが前言ってた第三世代兵装を装備したのが出来てます。』

 『やけに早いな?』

 『機体本体のフレームは予備パーツから、装甲は今回は桐山君にお願いしました。』

 『機動と火力の両立した、全く新しいISです。これはもう第四世代と言っても良い。』

 『では急ぎ送るとして…もう一人、彼女の友人への勧誘は?』

 『データの共有と資材の融通は確約できました。』

 『彼女も極めて優秀な人材だ。代表候補生で終わらせるのは勿体ない。』

 『うむ。とは言え、何処か一社が独占するには余りにも惜しい。』

 『では…?』

 『共同開発計画を一歩進め、多企業による合同連合を設立し、そこに所属してもらう形にする。』

 『で、こっちに引き抜く準備は?』

 『二人とも凡そ仕込みは完了だ。来月には爆発するだろう。』

 『順調、と言った所ですか。』

 『…所で、バン〇イとコ〇ブキ屋からなのだが…。』

 『あの二社が何か?』

 『全面的に協力するから、是非とも色々やってくれと。』

 『序でに詳細な資料も送られてきました…。』

 『流石過ぎるな。』

 

 

 ……………

 

 

 タッグトーナメントは簪が普通の打鉄、私が以前練習用に使っていた打鉄改(IS学園仕様)により順当に一年の部で優勝した。

 それに関しては思う所は無い。

 ただ、現状の一年の練度ではこの辺が妥当だ、と思う位だ。

 なお、厨二病少佐は部下共々軍務を解かれ、普通の代表候補生になったのだとか。

 来年度以降は適齢の部隊員達も受験するらしいが、特に関心は無い。

 後、目覚めた後に私のいる教室を訪ねてきたが…絡まれると面倒なので霊体化して消えていた。

 はっはっは、サーヴァント・ライダーとしての機能も使えるようになったんだよ。

 まぁ一番習熟が進んでるのはやっぱり仮面ライダー系だが。

 だって結城丈二さん始め一号二号の頭脳とか、めっちゃ役に立つんだもん。

 なので、その気になれば自分でIS組めちゃいそうだけど、それはしない。

 そっちは企業の人に任せてあるし、あの人達の作るISは面白いからね。

  

 で、タッグマッチトーナメントから一週間程で次のISが届いた。

 はえーよホセ、と言いたい所だが、受領したISの外見にもびっくらこいた。

 全体が丸みを帯びた形状。

 通常の人型とは乖離した、四肢と追加装甲の様な非固定浮遊部位へと内蔵されたプラズマ砲。

 両肩辺りにある非固定浮遊部位は特徴的な甲殻類の様な印象を持った、丸みのある形状。

 

 うん、レイダオの改良機ですね、本当にありがとうございます。

 またフレームアームズかよ、しかも今回はガールじゃなくてガチな方なのかよっ。

 今回は汎用性を捨てて、第三世代兵装の試験機であるらしい。

 以前の轟雷のフレームを更に改良したものを使用しているので、前回の様な大口径グレネードにでも当たらない限りは壊れないそうだ。

 まぁ昭和ライダースペックとか発揮したら一瞬で破裂するんだろうけどね!

 なお、名前もそのままのこのレイダオだが、本来は胸部にある追加装甲が二つになった上で非固定浮遊部位となり、脚部も細いものではなくジイダオのややずんぐりしたそれだ。

 そして、非固定浮遊部位と腕部、序での脚部(脛)に搭載された6門のプラズマ砲が主兵装となっている。

 これ、実はプラズマ砲兼プラズマブレード兼プラズマ推進器を任意に切り替える事が出来るのだとか。

 そのため、素の状態で高機動型ISに匹敵する機動性を持っており、その辺りは正に脱帽と言っても良い。

 反面、武装への被弾時には爆発して一気に被害が出るとか、一機当たりのコスト・整備性が轟雷よりも高い等の問題もあるそうな。

 まぁ当たらなければどうとでもなるので、一端これで良しとしよう。

 

 

 

 

 

 そしたら、何故か簪から模擬戦を申し込まれたでござる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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IS転生 三組代表が逝く9

 『いきなりでごめんね。』

 

 アリーナ内で、二体のISが模擬戦の開始を今か今かと待っていた。

 それは多数いる観客たちも同じで、一年だけでなく、他学年や教員達も時間がある者は多くが観客席にいた。

 今回はタッグマッチで組んでいた機体同士であり、更に公式戦ではないので堂々と食堂の食券を用いた賭博が行われていたりもする。

 一体はレイダオ。

 試作型とは言え第三世代兵装である多目的プラズマ砲6門を備えた機体であり、一見重装甲でありながら軽量であり、プラズマ砲を高機動モードにして使用した場合、現状公式で記録されているISでは最大の推力を誇る重機動タイプだ。

 それに対峙するのは第二世代に入る、シャア専用ザクⅡS型だ。

 先日、学生お手製の機体でありながら活躍した事で一躍注目を浴びた本機だが、今回はフレーム素材を有澤重工製のより堅牢なものに交換し、更に胸部に近接防御用のバルカン、左腕部にバルカン内蔵式の追加装甲を増設し、スラスター数を増加させたオリジン仕様だった。

 

 『いいよ。いきなりだったけど、簪ならいつでも歓迎だし。』

 『そっか…。』

 

 どこか微笑ましいやり取りでありながら、既に両者の動きは互いの隙を探り合っている。

 

 『じゃぁカウントするよ~。さーん…』

 

 管制室から本音のカウントがアリーナ内に放送された。

 途端、ジャキリと簪が武装のセーフティを外し、灯はプラズマ砲のチャージを始める。

 

 『に~』

 

 既にここは互いにとって一挙手一投足の間合いであり、何時何があってもおかしくはない。

 

 『い~ち』

 

 ふと、灯と簪の視線が全身装甲を纏いながらも、目が合った気がした。

 それで相手の感情が読めたのか、灯は楽しむ事を止めた。

 簪の本気が伝わったからだ。

 

 『ぜろ~!』 

 

 だから、初手で終わらせるつもりで、6門のプラズマ砲を全て推進器として、一瞬で音速の数倍へと到達した。

 その手を、灯のやり方を知るが故に、簪は見抜いていた。

 

 『『ッ!!』』

 

 突撃してくるレイダオを見越して、シャアザクは上昇する事でその突撃を回避する。

 それに灯は驚きを、簪は呻きを漏らす。

 何せ、今の挙動はそれだけ特別だったのだから。

 

 『ふっ!』

 

 両肩に浮かんでいた非固定浮遊部位、多目的プラズマ砲を内蔵した追加装甲の砲門を直上にいるシャアザクへと発射する。

 牽制目的で放たれたそれは通常のそれではなく、拡散し、広範囲・短射程に熱量をばら撒くものであり、上手く距離を空けない限りは大なり小なり被弾する。

 だが、それをシャアザクは先日のタッグマッチでも見せなかった高機動性で以て掠りも許さず回避してみせた。

 それを見て、灯は先程の違和感と併せて、核心へと至った。

 

 『簪、貴方…!』

 

 灯の声から焦りが漏れる。

 何せ、簪がしているのはそれだけ危険な事だからだ。

 

 『うん、フルマニュアル、こんなに難しいんだね。』

 

 何処かぎこちない声に、あぁやはりと灯は思う。

 確かに、PICのマニュアル操縦は熟練者なら大なり小なりやっている事だ。

 しかし、フルマニュアルとなると話は違う。

 ISと言う高機動を宿命づけられた兵器で機動戦を行いながら、下手なCPUよりも高度な演算を行う事で始めて可能となるのだ。

 勿論ながら、搭乗者への負担は極めて大きい。

 灯がそれが出来るのは、頭脳も肉体も人間の範疇に無いが故だ。

 しかも、今の挙動を見る限り、灯と同じくPICの搭乗者保護機能の割合をかなり減らすか無くしてまで機動性へと割り振っている。

 確かに使えれば強いだろう、確かにそうしなければ勝てないだろう。

 だが、それは諸刃の剣に他ならない。

 機体が大丈夫でも、中身の人間が持たないのだ。

 確かに簪は戦場でリアルタイムで大量のミサイルを個別の標的にマニュアルで誘導させる様な情報処理能力を持っているが、肉体強度は鍛えた人間限度でしかない。

 最悪、ガルドさんの「伝説の5秒」後みたいな事になる。

 

 『直ぐにPICを通常状態に戻して!死にたいの!?』

 

 それを思えばこそ、灯は簪に制止の言葉をかける。

 だが、返答はマシンガンによる銃撃だった。

 

 『駄目、だよ…!』

 

 Gに歯を食いしばりながら、それでも簪は戦闘機動を止めない。

 それに釣られて、灯もまた戦闘機動を止める訳にもいかない。

 何とか観客席にいた教員達が管制室に入り、通信で戦闘停止を呼びかけるも、簪は止まらない。

 焦りだけが募っていった。

 

 

 ……………

 

 

 「貴方が更識さん?ふーん…」

 

 初めて会ったのは、中学の入学式の事だった。

 教室に入ってすぐ、本音と合流できていない時に、偶々隣の席だったのが灯だった。

 初印象は悪いもので、怖い人と言うのが本音だった。

 しかし、彼女はとっつき辛い様に見えて、その実とても世話焼きだった。

 本音以外にはまともに話す事も出来なかった私が、家族や使用人以外に初めて話せる人だった。

 お父様もお母様も仕事で殆ど家にいないし、お姉ちゃんとは疎遠になってしまった。

 そんな時に出会ったのが灯だった。

 一応、家の習慣として背後関係を調べたが…正直、知りたくなかった。

 父は殺され、母は心を病み、故郷から引き離されてこの学校に入れられた。

 それもこれも、IS適正が高く、孤児同然だったからと言う理由だけで。

 だが、彼女は折れなかった。

 寄らば斬ると言う雰囲気も、自分と出会ってからはゆっくりと薄れ、年相応の笑顔を見せるようになっていった。

 そんな人が、自分の親友だ。

 本音の様な家の関係があったが故のそれでなく、純粋に対等な人間関係。

 それが簪にはとても尊かった。

 だが、徐々に簪はある疑問を感じていた。

 それは、自分は本当に灯の友人に相応しいのか、と言う問いだった。

 灯の成績は政府や財界の要人の子息や関係者が多くいる中学校の中でも、全科目で常にトップ集団に食い込んでいた上、孤児院の年下の子供達からもよく懐かれ、世話を焼いていた。

 振り返って、自分は学業を除けば常に趣味に全力投球であり、時折寝食を忘れて本音に救助される程度には不健康な生活ぶりだった。

 これでは、本音とはまた別の形で自分の心を救ってくれた灯と共にいる事はとてもではないが相応しいとは思えない。

 とは言え、そんな面倒で傲慢な考え、常識的な簪は捨て置いた。

 だが、日本代表候補選定試験において、その疑問は遂に破裂した。

 

 このままでは、自分は灯と共にいられない。

 

 それは灯の適正が自分より高く、尚且つ今日初陣を迎えながらも日本代表候補生筆頭となってみせた彼女の圧倒的な実力を見せつけられたからだ。

 それこそ、天才と言われた自分の姉の様だった。

 だからこそ、簪は思った。

 

 もう置いていかれたくない。

 

 両親は遠く、姉とは疎遠で、従者はいるが、友人らしい友人は一人だけで、その友人もまたこのままでは近い内に自分の元からいなくなってしまうだろう。

 それを簪は許容できなかった。

 だからこそ、無理をしてでも親友の隣にいようとした。

 対等の実力であろうとしたのだ。

 そのために、簪は迅速に行動した。

 実家を出てから殆どしてなかった訓練に加え、コアだけとなった愛機の開発、そして灯が得意とするPICの完全なマニュアル制御による高機動戦闘。

 流石に量子格納による防御無視攻撃は短期間ではどうにもならなかったので後回しにしたが、PICのマニュアル操作に関しては元々の処理能力の高さもあり、ある程度OSを自分向けに改良する事で難易度を下げ、どうにか習得できた。

 

 そして、自分は今その親友と対峙している。

 自分は貴方の隣にいるのに相応しいのだと。

 決して足手纏いではないのだと示すために。

 簪は、今までの人生で嘗てない程の努力と覚悟の上でこの場に来た。

 

 それは、憎悪を熾火の様に燻らせつつも、チートを生かして結果的には自分の好きな事ばかりしている灯には無いものだった。

 

 

 ……………

 

 

 (とっとと終わらせるしかない!)

 

 簪が覚悟を決めてこの模擬戦に、否、戦いに挑んできたのはこれで分かった。

 だが、友人として彼女を止めるべきだとも思う。

 それは正面から戦い、決着を付けたい、勝ちたいと言う思いと同等なもの。

 ならば、答えは決まっている。

 

 (正面から最速で撃破する!)

 

 幸いにも、一見重量級に見えるこのレイダオは実際は高機動砲戦型だ。

 簪の乗るシャアザクはやや近接よりの汎用機だが、どう足掻いた所で競技用の第二世代だ。

 スペックはこちらが有利と言える。

 しかし、小回りの点では大型機であるこちらよりは上だし、何より燃費においては第二世代だけあって向こうの方が上だ。

 かと言って、乾坤一擲の突撃をしようものなら先程の焼き直しになるだけだ。

 

 (撃ち合いはプラズマ砲のこちらが有利。でも継戦時間は向こうが上か…。)

 

 つくづく第二世代ISの完成度と言うものは厄介だ。

 下手に武装の方に思考制御を割いていないだけ反応速度が良いし、燃費も良ければ、各部の信頼性も高い。

 乗り手次第で幾らでも化ける辺り、下手な武装を追加した上でそれを主軸に開発されている第三世代ISよりも遥かに安定性がある。

 

 (とは言え、向こうも長引けない筈。)

 

 実戦でのPICのマニュアル操作、それも8割からフルとなると、搭乗者への負担は大きすぎる。

 それこそ簪の様な高い処理能力を元々持っているか、灯の様に人間をやめているかしないとまともに扱えるものではない。

 必然、簪もまた短期決戦を挑まざるを得ない。

 

 (そら来た。)

 

 そして、直上からシャアザク(オリジン仕様)がトマホーク(ヒート無し・元は打鉄のブレードの端材)を振り被って急降下してきた。

 それを右腕部のプラズマ砲をブレードモードに設定、1m程の刀身とし、迎え撃つ様に振るおうとして…

 

 「ッ!」

 『惜しい!』

 

 プラズマブレードを突き抜けてきたトマホークに、胸部装甲を浅く斬られた。

 寸での所で身を反らしていなければ、そのまま胸部装甲を完全に破壊されていた。

 

 (普通の物理ブレードなら溶断できる筈。)

 

 即座に距離を取り、出力を落としたプラズマ砲で牽制射撃を行い、先程の出来事を考える。

 ヒートソードでもないし、ビームサーベルでもないので元々鍔迫り合いなんて出来ない。

 だが、ただの物理ブレードならこちらが勝つ筈だし、あの斧には熱源も特にないと言う事は特殊な機能は無いと言う事。

 となれば話は簡単、電源を必要としない様な工夫を施してあるのだ。

 

 「対熱コーティング!」 

 『当たり。』

 

 機体を掠る形で命中しそうになるプラズマ砲の射撃を、簪は先程の斧を盾にする形で無傷で遣り過ごす。

 成程、こちらの機体の情報は簪とも共有していたし、彼女であれば一週間もあれば仕込める。

 

 「いいね、本当。すごくいい。」

 

 ニィと、女子としては止めた方が良い笑みが浮かんでしまう。

 ISに乗って、こういった高揚感を覚える事は今までなかった。

 実力の近い相手と不利な状況ながらも全力で戦い、勝利を得ようとする。

 奪われ続けた今生では、試合では余裕で勝ち続けていたが故に、この様な闘争本能を身近に感じるのは本当に珍しい。

 闘争心、或は勝利の希求。

 目の前の敵を蹂躙し、撃破し、己の方が強いのだと周囲に証明する行動。

 当たり前の様に行っていたそれが、この時ばかりは難易度が高くなっている。

 それがとても嬉しい。

 

 「ははははは……。」

 

 チート故に強敵に恵まれない身に、簪の覚悟と気迫、戦術はとてつもなく貴重だ。

 全て味わい尽くし、堪能したい。

 

 「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」

 

 友情と闘争心と興奮。

 それらを綯い交ぜに胸に抱えつつ、灯は心底愉快そうに嗤いながら全身のプラズマ砲をブースターモードへと変更し、同時にフルマニュアルを活かして搭乗者保護機能を完全にカット、簪と同じ条件になった後、ドッグファイトを開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 




FGOイベントと執筆の時間が取れない…
くそ、これだから繁忙期は…!


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IS転生 三組代表が逝く10

 戦いは膠着状態にあった。

 互いに競技用リミッターをつけた状態でありながら、高機動用の超高感度仕様でなければ捉える事も出来ない程の速度で、二体のISが戦闘をしていた。

 片や重機動型の第三世代レイダオ。

 片や汎用白兵型の第二世代シャアザク。

 どちらも完全に高機動とは言えない。

 なのに、どうしてそこまでの機動性を発揮できるのか?

 例えば、競技用リミッターの無い軍用ISのPICの出力を100とし、通常はそれを機体の機動性と搭乗者保護に50ずつ割り振っている。

 競技用の場合はリミッターによって発揮できる出力は50で、機動性と搭乗者保護に25ずつ割り振っている。

 しかし、マニュアル操作をしている二人は搭乗者保護の分を0にし、機動性に50全てを割り振っているのだ。

 確かに強力だし、競技用ISでも軍用のそれに迫る事は出来るだろう。

 しかし、しかしだ。

 航空機でやれば機体が空中分解する様な機動を平然と行う中で発生するG、それを一切軽減する事なく受けるとなれば、普通に命の危機である。

 瞬間的なものならISスーツの機能によってはまぁ何とかなるかもしれないが、継続的に受け続ければ骨折や毛細血管の破裂に臓器不全、果ては内臓破裂からのショック死や出血死に至る可能性も捨てきれない。

 そんなリスクを灯が侵すのは、それがリスクにならない程の頑強さを持っているからだ。

 しかし、簪は違う。

 年頃の少女としてはよく鍛えられているが、言ってしまえばそれだけだ。

 既に戦闘開始から3分が経過している。

 未だ両者ともミスらしいミスはしていない。

 しかし、ここから先は明らかに灯/レイダオが有利となる。

 基礎となる身体能力が違い過ぎるが故に。

 だが、灯はあくまで早期の決着を望んで果敢に攻め立てる。

 機体の燃費が良くない事もあるが、何よりも親友が傷つくのを恐れるが故に。

 何より、ここまでの覚悟を魅せてくれた親友に報いるためにも、つまらない幕引きなぞさせたくなかったのだ。

 だからこそ、灯は全力で簪を撃破しようとレイダオを駆る。

 だが、単純なIS乗りとしての技量に関しては、二人は互角と言える。

 何せ肉体・頭脳の違いこそあれど、自分自身のスペックの高さで勝っている様な二人である。

 搭乗時間にもそう差は無いのだから、必然的に互いの隙やミスが出るタイミングを伺い続ける。

 故に決着はつかず、双方がアリーナを所狭しと飛翔しながら弾薬とエネルギーを消耗し続けていく。

 時間と共に機体面では灯が、肉体面では簪が不利となっていく。

 それでもなお、二人は一切気を緩める事無く、機が訪れるのを待っていた。

 

 

 ……………

 

 

 試合を見守っている教師陣は難しい顔をしている。

 正直に言えば、今すぐにでも割って入りたい所だが、この試合の行方は二人のメンタルに大いに影響を与えるとして、迂闊な手出しは控えていた。

 無論、どちらかが生命の危機に瀕した場合は即座に救助する用意はしていたが。

 

 「山田先生、更識のバイタルは?」

 「危険な数値です。辛うじてイエローをキープしてますが…。」

 「レッドになった時点でIS装備の教員は突入を。倉土が仕掛けてくるようなら墜とせ。」

 『織斑先生、それはやり過ぎでは?』

 

 そう言って通信を繋げてきたのは灯の担任であるラトロワだ。

 夫と一人息子を持つ既婚者で、教員達の中では数少ないリア充の一人だが、元はロシア国家代表を務めた事もある才媛だ。

 

 「頭が闘争本能で一色のアホにお灸を据える良い機会だ。それに油断すれば喰われるぞ?」

 『ゾッとしないな。まぁ仕事はこなすとしよう。』

 

 千冬にクールに返す様は正に歴戦と言った風格だが、これで家に帰れば夫と息子にダダ甘いのだから人間って分からないものである。

 

 『で、どちらが勝つ方に賭けるんだ?私は当然倉土だが。』

 「あ、私も倉土さんで。」

 「お前達…。」

 

 こんな時にも茶目っ気を忘れない同僚達に、千冬は呆れた様に嘆息した。

 

 

 ……………

 

 

 息もつかせぬ高機動戦闘の最中、その隙を簪はものにした。

 撃ち過ぎたプラズマ砲の冷却のためのインターバル。

 それ自体は幾度かあったが、他のプラズマ砲を使用するか距離を取る、或は不利と悟ってもなお接近戦を仕掛ける事で消していた。

 しかし、此処に来て極限の状態における射撃兵装管理の失敗による数秒間の射撃不能時間を、簪は正確に読み取っていた。

 

 (ここ…!)

 

 灯の駆るレイダオの背後、そこに簪の駆るシャアザクが滑り込む。

 攻撃し辛い位置にいられるのを厭ってか、レイダオは6門の多用途プラズマ砲を全て推進モードへと設定、六重瞬時加速による圧倒的な速力で以てその場を離脱しようとする。

 しかし、ここで灯は更なるミスを犯してしまった。

 人体の構造上、背後はどうしても死角となる。

 だが、通常は全方位を知覚するハイパーセンサーにより問題らしい問題は出ない、と思われている。

 しかし、人間の脳ではその情報を100%生かす事は出来ないし、上手く利用したとしてもどうしても肉眼とハイパーセンサーの使用には切り替えのための僅かな隙が存在する。

 しかも、それが常に存在する場所がある。

 肉眼の視界限界とハイパーセンサーの感知範囲の境界線上。

 そここそが、ISにとって最も知覚し辛い場所なのだ。

 推進モードの推力を遺憾なく発揮できる態勢を取った故に、灯はその境界線上に簪を入れてしまった。

 これでは極端に攻撃し辛くなる。

 それでいて、簪はなおも攻め手を緩めなかった。 

 

 「強制排除!」

 

 簪の声に応え、シャアザクは破損した装甲を全てパージ、機体を軽量化させる。

 逆L字型シールドも、スパイクショルダーも、胸部装甲も、モノアイが特徴的な頭部すらも。

 残ったのはフレームとバックパック、そして手足のみ。

 この大幅な軽量化及び省エネ化により、運動性・加速性・燃費が向上し、何とかレイダオに追いすがれる状態になる。

 

 (後、一歩…!)

 

 音速を突破して離脱しようとするレイダオに、シャアザクは辛うじて追随する。

 直線の加速、それなら圧倒的にレイダオが勝る。

 しかし、此処はアリーナ、限られた空間だ。

 レイダオの加速力が如何に高くとも、それを活かせる直線コースには限界がある。

 これが屋外であったら確実にレイダオに有利だが、限定された閉鎖空間では小回りの利くシャアザクの方が有利だった。

 だが、此処まで来るのに払った代償は大きかった。

 ギギギギギ…と、限界を迎えつつある機体各部から徐々に悲鳴が上がっている。

 既に各関節はイエローゾーンで、装甲もギリギリでの回避が多かったため、パージしていなくとも、溶解しかかっている部位も多いし、シールドエネルギーも既に1割を切っている。

 そして、簪自身の体力も限界だ。

 これが最初にして最後のチャンスだと、簪は悟っていた。

 だが、灯とてこのまま詰ませるつもりは無い。

 6門の内2門を迎撃に向け、連射・単射・拡散・照射と手を変え品を変え、簪の追撃を振り切ろうと躍起になって攻撃を繰り返す。

 しかし、思い出してほしい。

 元々燃費の良いとは言えない新型の第三世代機が度重なる高機動戦闘の後、6門の多用途プラズマ砲を全て加速乃至攻撃へと使用し続ければ、一体どうなるのだろうか?

 その答えを示す様に、レイダオが加速を停止、急激に減速していく。

 

 (来た!)

 

 それを見た簪は、迷わずに前に出た。

 残っている武装は耐熱コーティングを施した斧、そして高速徹甲弾を装填したライフルのみ。

 既に敵は死に体で、こちらは燃費の差もあってまだ動ける。

 後はこのまま確実に詰むだけだと。

 

 そう思わせる事が灯の策なのだと、簪は理解していた。

 

 そして、簪が十分に接近し、ライフルを構えた瞬間、エネルギー切れだと思われていたプラズマ砲6門が起動、その砲口から最大出力の砲撃を放った。

 それを簪は危うい所で回避するも、しかし余りの熱量にライフルの弾薬に引火、寸での所で手放したものの爆発、武装は斧一本となってしまう。

 

 「ううん、十分だよ。」

 

 徐々に減速し、下降していく灯に対し、簪は上昇の後に反転して急降下し、重力を味方にして加速を付ける。

 それを見て狙いを悟ったのか、灯はプラズマ砲を連射し、何とか止めようとする。

 しかし、エネルギー不足で出力の低下したプラズマ砲では、今の簪にとっては脅威足り得ない。

 何せ、今からする事を思えば、恐怖で足を竦める訳にはいかないからだ。

 身体を丸め、くるりと回転、最適なタイミングで身体を伸ばし、伝統的な跳び蹴りの態勢を取って、雲を引きながらレイダオへと迫る。

 それは簪が、灯が、日本の特撮好きなら誰もが知る仮面のヒーロー達の技。

 上空高く飛び上がり、落下の勢いを最大限に込める跳び蹴り。

 その足裏には今回最も活躍したであろう斧を張り付けており、最早レイダオに、灯にその雄姿を止める術は無い。

 故に、灯は心底愉快そうに笑いながら、両腕を広げて親友を歓迎した。

 

 「やっぱり必殺技は…」

 『キックに限る。』

 

 そして、今年のIS学園一年生における最高の名勝負と言われた模擬戦の決着は、簪の勝利で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 




ねむい ねる


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IS転生 三組代表が逝く11

非難轟々だが、二次創作ってそんなもんだしね。



 模擬戦後、簪は入院した。

 肋骨3本に罅が入り、内臓にも負荷がかかっており、更に体力・気力を消耗し過ぎて、ISを脱いだ途端に気絶したからだ。

 適切な措置の後、準備されていた医療ポッドに入れられた簪の意識が戻るのは翌日の昼過ぎの事だった。

 その間、灯は教師陣に拘束された後、ISを一時取り上げられた後に事情聴取を受け、自室での謹慎処分を受けた。

 無論、本当に悪いのは無茶をした簪なのだが、ここで灯の側に何のお咎めも無しだと、何らかの禍根が残る可能性があったためだ。

 まぁPICのフルマニュアルが危険行為である事もあり、この事件を機に漸く学園側が重い腰を上げたと言うのもあるのだが…。

 PICのフルマニュアルに関しては、今後は機動への割り振りを最大8割までとし、残り2割の出力は搭乗者保護に割り振る事が義務付けられた。

 危ない事をしたのだから罰せられる。

 この基本的な事を周知させるための生贄とも言えた。

 

 「あー………だるーい……。」

 

 だが、本人は自室でダラダラとくつろぎ腐りながら映画鑑賞(簪お勧めの特撮もの)をしていた。

 その姿、正にニートである。

 これこそ堕落の頂点と言わんばかりに寝そべりながらポテチとストローを刺した炭酸ジュースと氷の入ったカップが目の前に置かれており、その姿は女子高生と言うよりも堕落し切ったおっさんのそれである。

 

 「あんた、もう少しシャキっとしなさいよ。一応謹慎中でしょ?」

 

 咎めるのはこれから授業に行く同室の生徒だ。

 以前、代表候補選抜戦でぼこぼこにした第三位の女子であり、簪と灯に次いで三位を取った辺り優秀なのだが、現役時代の山田先生よろしく、上二人が異常過ぎてさっぱり注目されていない悲しい生徒だった。

 

 「織斑先生からも「すまんが涙を飲んでくれ」って言われてるからさー。」

 

 もし今後、似た様な事態が起きた時、当事者を一切罰さないとなれば、それこそ大きな問題に発展しかねない。

 そのため、芽の内に「罰則を与えた」と言う前例を作る事で、それを防止しようと言う事だった。

 これには灯は納得していたし、何よりあの模擬戦では自分を見つめ直すには良い機会だったので、これ幸いと承諾したのだ。

 

 「ま、良いけどね。行ってきまーす。」

 「いってらー。」

 

 そして、同室の生徒が出ていった後、灯はだらけきった顔を引き締め、自身の意識を内側へと埋没させていく。

 内容は「先日の模擬戦の問題点」について。

 既に数度行ったものだが、それでも自己を見つめ直す意味では何度でも必要な行動だ。

 

 敗因1、機体性能について。

 自身の乗ったレイダオは未だ慣熟しておらず、最低限の調整のみ行った状態であった。

 また、機体性能についても第二世代最後発であるラファール・リヴァイブに匹敵するシャアザクに対し、性能は兎も角として燃費面で問題のある多用途プラズマ砲を採用したレイダオとでは長期戦において不利だった。

 また、シャアザクはレイダオ対策に耐熱処理を施したシールドとホークを装備する等のメタを張られていた。

 

 敗因2、自身のライダー能力について。

 基本的にサーヴァントか仮面ライダーの力を引き出すのに使っているのだが…実は本格的な変身が未だ出来ていない。

 と言うのも、灯には「正義を愛する心」や「理不尽に対する怒り」と言った感情が人並み以下しかないからだ。

 どっちかってーとシラカワ博士ばりに「自由を愛する心」を持っているので、手前勝手な理由で自分に喧嘩売ってきたり、WinWinではなくただ利用しようとする輩への憎悪しか特筆すべき感情が無いのだ。

 そのため、仮面ライダーと言うある種の憧れを抱く存在とはかけ離れているのだ。

 一番適正があるのがショッカーライダーな辺り、他のライダーへの適正はあ(察し)レベルである。

 そもそも、変身するにはISが邪魔であり、眼球等の一部を変質させるのなら兎も角、戦闘機動中でのライダーへの変身はこの能力がばれる点でも出来ない。

 では、サーヴァント・ライダーへの変身だが…これをやると容姿や人格も変身先のソレに変化するため、下手な英霊には変身出来ないと言う欠点がある。

 以前、ライダー・メドゥーサへと変身した際、何故か普段はそこまで好きではないロリショタ系の同人誌を食い漁る様に見てしまい、半日程経った時点で漸く飢えが満たされ、変身を解除できたと言う事があったのだ。

 結論:能力は迂闊に使用できない。

 まぁ今現在やっている様に、英霊個人のそれではなく、ライダーのクラススキルなら無条件で発動可能なので、今後も修練はしつつも必要が無ければ使わない方針で行くべきだろう。

 

 そして敗因3、簪の美しさについて。

 あの時、あの瞬間、プラズマ砲の弾幕を掻い潜り、こちらへと突撃してきた簪の姿は、余りにも美しかった。

 自分の様なチートではなく、ただ友人に勝ちたいと努力して獲得した技量と意志力、そして覚悟。

 それを以て己に相対し、遂には凌駕してみせた彼女は、その容姿と精神性のどちらにおいても、余りにも美しかった。

 そんな彼女に見惚れてしまい、隙を晒してしまった自身の未熟を呪いこそすれ、簪へと怒りを抱く事は灯には出来なかった。

 

 結論:負けて当然。

 

 うん、まぁ分かってた事だった。

 何度も考えて、その度に同じ結論に至っているのだから、こればかりはもうどうしようもない。

 さて、考えも纏まった所で、さっきから殺気を向けてくる(誤字でもギャグでもない)無礼なお客さんの相手でもするかね?

 幸い、理不尽な怒りをぶつけてくると言う点で条件は満たされているので、例えIS使ってきても、問題なく相手は出来る。

 まぁ最悪の場合は目撃者は消さなければならないけど…ま、偶にはいっか。

 

 こうして、灯は無意識に溜まっていたストレスを吐き出す相手に、シスコン生徒会長を選んだのだった。

 

 

 ……………

 

 

 更識楯無は今、授業もボイコットしてある部屋の前に来ていた。

 相手は愛しい愛しい簪ちゃんを双方合意の模擬戦とは言え負傷させた相手。

 だが、相手の糞ビッチに何ら違法性が無い事も確認している。

 しかし、それはそれとして、姉として妹を傷つけた相手には然るべきケジメをつけさせねばならない。

 例え、簪ちゃんが嫌がったとしても、だ。

 家としても、此処で何もしないと言う選択肢は…まぁ無い訳ではないが、最低限釘を刺しておく必要はある。

 そして、私は今も標的が寛いでいる部屋へと侵入する。

 幸い、鍵は生徒会長権限で持ってきている(学園長に小言は言われたが)。

 本来なら、標的が外出中に部屋で待ち伏せていたいのだが、標的が謹慎中と言う事もあり、一切部屋から出る事が無いので、こちらから行かざるを得ないのだ。

 そして、私は鍵を差し込もうとして…

 

 「そこで止まれ。」

 

 完全に不意を突かれる形で、背後を取られていた。

 

 「…倉土灯さんかしら?」

 

 全身からぶわりと湧き出そうになる汗を必死に驚きと恐怖を抑制する事で防ぐ。

 気配は完全に感じなかった。

 だが、暗部の当主なんてものをやっている自分をして、彼女は完全に不意を突いてきた。

 明らかな異常だった。

 

 「生徒会長、でしたっけ?一応謹慎中なので、訪問はまた後程でお願いします。」

 「私もそうしたかったのだけど…一応私はあの子の姉なの。だから今日は私的な理由で来たわ。」

 

 意外と常識的な言葉に安心どころか警戒しつつ、相手の罪悪感を呷る形で有利に話を進めようとする。

 既に楯無は当初予定していたOHANASHIプランは完全に瓦解し、自身の身の安全の確保を最優先にした行動していた。

 それ程に、自分の背後に立つ者は脅威に過ぎる。

 先程確認した時には、確かに室内にいた。

 なのに、今は暗部として高度な訓練と経験を積んだ自分の背後をものの数秒で取ってみせるだけの身体能力と技術を披露してみせた。

 背後関係は全て把握していたとは言え、ISだけでなく、素でもこれ程の能力を持っている事は、全くの想定外だった。

 恐らく、織斑先生等と同類なのだ。

 単体で世界を相手に戦える規格外、或はそれに成り得る素養を秘めた者。

 少なくとも、ISありきとは言えど、敵に回すには余りにも損な人物だった。

 

 「んー、単なる肉体言語だったら、相応に歓迎したんだけど…」

 

 やはりデッドライン上にいたらしい。

 楯無は先程から冷えていた肝が更に冷えて零下になりつつあった。

 

 「簪は家族とは疎遠だって言うし、私が迂闊に交流するのも悪いと思いますよ?」

 「そ、それは……」

 

 スッとは背後から気配が離れて安心するのも束の間、言葉の槍に胸を貫かれ、楯無は胸を抑えた。

 

 「それに、例え私的な理由だとしても、一応謹慎中ですので。生徒会長なんですから、その辺りのルールはきちんと守ってください。」

 「うぅぅ…どうしてもダメ?」

 「後日、日を改めてなら考えますが。」

 

 よし、言質は取った。

 一応ゆっくりと振り向くと、そこには確かに先程まで部屋にいた妹の友人の姿があった。

 やはり、眼を離した僅かな間にこちらの背後を取ったのだ。

 

 「では後日、また改めてお話しましょう。」

 

 お馴染みの扇に「また来週!」と表示させ、口元を隠す。

 自分と最愛の妹の命を握られていると言う恐怖を微塵も出さず、生徒会長更識楯無として傲岸不遜にして唯我独尊な振る舞いを維持してみせる。

 そうでなければ、今すぐにでも全身から脂汗が出て、膝から力が抜けそうだから。

 

 「良いですけど……部屋に勝手に入ってきたりしたら怒りますからね?」

 

 呆れを込めたその言葉は、しかし実際は警告だ。

 次にアホな真似をすればタダでは済まさないと、言外にそう言っている。

 だが、既に楯無にはそのつもりはない。

 彼我の戦力差、そして相手の立場を思えば、互いに迂闊な真似は出来ない。

 

 「えぇ、えぇ、次からは普通にノックするから、その時は歓迎してね?」

 「お茶位なら出しますよ。茶菓子は期待しないでください。」

 

 こうして、楯無(シスコン姉)と灯(妹のガチ親友)の初邂逅は表向き平穏ながらも、その実極めて物騒な形で終わった。

 

 

 

 

 

 

 (チッ、暴れそこねた。ネトゲでもやろっと。)

 (久々に死ぬかと思った…!)

 

 

 

 




灯「霊体化からの実体化でステルス余裕です。」

なお、まだ変身を残している模様。





何時か仮面ライダーへの変身を描写したいけど…明らかにヤッテも良い相手じゃないといかん(汗
それでいて誰にも見られない状態となると…うーむ(汗


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IS転生 三組代表が逝く12 微修正

ふぅ…さて寝るか(徹夜明け


さて、謹慎も解け、レイダオが毎度の如く大破して修理に出された後、灯は放課後に入院中(と言っても学園内の医療施設。下手な病院よりも遥かに設備が整っている)の簪の元に訪れ、頼まれた特撮やアニメのDVD、漫画や小説等を差し入れる日々を送っている。

 ISの方は開発チームが過労でダウンしている事もあり、打鉄の修理と細かいアップデートと調整位なもので、他には然したる変化はない(但し、それでもIS学園1年生の中ではぶっちぎりで最強なのだが)。

 だが、そんな彼女にも遂に大きな変化が、人生の転機が訪れた。

 

 「本当ですか!?」

 

 企業連との定期連絡会にて、灯は待望の知らせを聞いていた。

 

 『無論だ。約束通り、君の母君の身柄は保護した。』

 『病状に関しては安定しているし、面会も一応は可能だけど…。』

 「大丈夫です。もう覚悟済みですので、様子だけでも。」

 『分かった。とは言え、馬鹿共が君に何かしでかす可能性は大いにある。既に新しいISは完成し、後は実機試験を待つだけだ。』

 『コアは君の持つ打鉄改のを使うから、今週末にでも有澤の試験場に来てほしい。迎えは人を出すから。』

 「ありがとうございます。では、今週末にまたお会いしましょう。」

 

 そう言って、通信が切れる。

 だが、灯の心の中では、沸々と喜びが湧き出ていた。

 漸く残された最後の家族と会える。

 自分を縛る人質にされていた母が解放される。

 それを思うと、どうしても喜びが出てしまう。

 とは言え、9年以上離れ離れだったのだ。

 精神が崩壊していた事もあり、最早母は自分を認識する事は出来ないだろう。

 それでも自分を慈しみながら産み育ててくれた人は大切であり、嘗て受けた愛情を忘れない程度には、灯はまだ人間だった。

 

 (まぁ、その前にケジメは必要だよね。)

 

 だが、忘れてはいけない。

 9年前から愛情と共に育てられていれば芽生えなかったであろう彼女の中の感情。

 即ち、怒りは10年前から一切弱まる事無く、轟々と燃え盛っていると言う事を。

 この時はまだ、彼女以外の誰もがそれを知らなかった。

 

 

 ……………

 

 

 週末、灯はとある町に訪れていた。

 白いワンピースにサンダル、そして青いリボンを巻いた帽子に肩からバックを提げると言う彼女らしからぬ女性らしい装いで、灯はここまで来た。

 IS学園のモノレールから電車を乗り継ぎ、鈍行電車に5時間程揺られて着いたのは、嘗て彼女が家族と共に暮らしていた小さな町だ。

 住所は分かっていても、監視と母親の安全のために決して近づく事の出来なかった第二の故郷。

 10年前までは母と父と自分、家族三人で平和に暮らしていた場所。

 そこに彼女は漸く訪れる事が出来た。

 先ず最初に行ったのは地元のスーパーで、そこで花と線香、マッチを購入し、檀家になっているお寺へと向かう。

 目的は墓参りだった。

 

 「……………。」

 

 夏ももうすぐのこの時期、綺麗に晴れ渡った今日、灯は花と線香を供えると、墓前で静かに祈り始めた。

 倉土の家系の墓、そこには当然灯の父親の遺骨も収められている。

 朴訥な、何処にでもいる優しい父親だった。

 娘を愛し、妻を愛し、家族を愛し、良き夫、良き父であろうと頑張っていた人だった。

 断じて、断じて、あんな死に方をして良い人ではなかった。

 

 「……………。」

 

 ギチリと、奥歯を噛み締める。

 その気になれば今すぐにでも人間を止める事も出来る身だが、そんな灯にも父を敬う気持ちは、家族への愛は確かにある。

 故にこそ、それを理不尽に奪われた怒り、憎悪、復讐心は根深い。

 例え10年経ったと言えども、それを癒す時間を与えられなかった彼女にとって、枷の外れた今、心の中では黒い炎が燃え盛っている。

 それこそが彼女の原点。

 倉土灯が正義の戦士になれず、反英雄達へと変身できる理由。

 

 「さようなら、お父さん。」

 

 5分程祈り続けた後、灯はあっさりと墓前から去った。

 今日来たのは、一歩踏み出す前のけじめのためだった。

 これから先、自分はきっと綺麗ではなくなる。

 そう分かっているからこそ、灯は今日この時に9年ぶりの墓参りをしたのだ。

 

 

 ……………

 

 

 灯は一日中、町を散策し続けた。

 見覚えのあるもの、見覚えのないもの。

 見覚えのある人々、見覚えのない人々。

 そう言った些細な変化が、本当に9年もの歳月が流れたのだと物言わずに灯に示していた。

 嘗て通っていた保育園や小学校、よく訪れていた近所のスーパーや公園、友人や知人の家。

 そして、お世話になった近所の人の家々に、嘗て自宅のあった場所。

 既に更地になった嘗ての帰る家を見ると、何とも言えない郷愁を感じてしまう。

 あぁ、最近は楽しい事が多かったが……やはり転生して若返ると、年相応に涙腺が緩くなるらしい。

 ぽろぽろと涙を零しながら、灯はそれを拭う事もなく、流すままにしていた。

 

 「さようなら…。」 

 

 もう小娘らしく泣くのはこれで最後だと決意しながら。

 最早戻らないであろう第二の故郷に、灯は別れを告げた。

 

 

 ……………

 

 

 灯は密かに付けられていた学園側の監視を振り切ると、人気の無い山奥へと進んでいた。

 辺りに人影はない。

 しかし、確かにいるのだと灯は気付いていた。

 そして、昇り始めてから20分程で山の頂上へと辿り着いた。

 そこからは、夕暮れで赤く染まった町が一望できた。

 自分が生まれ、育ち、幼少期を家族と共に幸せに過ごせた場所。

 父が死に、母が施設に入居した後も自分を支えてくれた暖かい場所。

 それを今日一日かけて改めて目と記憶に焼き付けた。

 きっと、二度目の死を迎えたとしても、今日見てきた光景を、自分はきっと忘れないだろう。

 そして、この後起きるであろう惨劇も。

 

 「倉土灯だな?」

 

 不意に、周囲の空間から三機ものISが滲み出す様に姿を現した。

 IS打鉄、その日本国防軍仕様だ。

 だが、どの機体も部隊章等の所属を示すものはなく、現れた位置も灯を中心に三方向へと分散しており、例え誰か一人が襲われようとも即座に鎮圧、否、射殺できる様な構えだった。

 

 (おお、マジの非正規部隊仕様とは。割と警戒されてるな。)

 

 これで通常の国防軍仕様だったら、精々が競技用リミッター無しの独自カスタム仕様機なのだが、外見は同じでも非正規部隊仕様となればどれ程の性能になっているか予想も付かない。

 

 「一緒に来てもらおう。」

 「イヤだと言ったら?」

 

 隊長格と思われる人物の言葉にそう返した途端、灯の身体に40cm程の四脚の機械が3機も組み付き、その身体を拘束する。

 更に展開しようとしていた打鉄改の実体化がキャンセルされ、ISコアが隊長格の手に奪取された。

 四脚の機械、その正体は原作にて亡国機業が使用したリムーバー(剥離剤)だ。

 決まれば初見に限るものの、確実にISを無効化できると言う、使い処を間違えねば極めて強力な兵器だ。

 

 「無用な抵抗はするな。貴様は既に生身だ。」

 

 無論、リムーバー(剥離剤)は一定時間でその効力を無くすのは原作通りだ。

 しかし、それを知らない者からすればISと言う自身の絶対的な力の象徴を奪われ、更に三対一であり、相手はプロの軍人かそれに相当する者達となれば、普通は交戦意欲を失う。

 そう、普通ならば。

 

 「ふ、ふふふふふ………。」

 

 だが、此処にいるのは普通ではなくなってしまった。

 異常を隠し、普通に埋没しようとしながら、異常に引き摺りこまれた者だ。

 そして今日、彼女は普通に戻る事を諦めてきた所だった。

 

 「隊長?」

 「構わん。気絶させて連行する。」

 

 その様子に気でも狂ったと判断した隊長機は部下にそう指示を出す。

 だが、彼女達は間違えていた。

 彼女達は全速で逃げるべきだったのだ。

 目の前で今、生まれようとする怪物から、羽化しようとする化生から、産声を上げる反英雄から。

 だが、ISと言う力と今まで多くの非正規作戦に従事し、成功させてきた経験が、彼女達から撤退の二文字を奪い去ってしまった。

 

 「変身。」

 

 その言葉と共に、地獄が始まった。

 

 

 ……………

 

 

 IS非正規部隊の隊長は、それを見ていた。

 捕獲対象である少女の情報は知っており、その戦歴から自分だけで対等な状況下でなら先ず確実に苦戦すると思える程度には手練れだった。

 しかし、こちらは軍人で、向こうは十代の少女である。

 事前に勝つための手段を模索し、実行に移せば、それだけで済む。

 捕まえた少女がその後、どうなるのか等は知らない。

 知った所で意味は無いし、興味もない。

 ただ、碌な事にはならないのだろうと、経験則から考えてはいた。

 だが、そこから先は考えない。

 ただ与えられた任務を遂行するだけの歯車。

 そう隊長は自己を定義していた。

 だがこの日、彼女はそんな自分の在り方に初めて揺らぎ……そして、後悔も懺悔も覚える暇すら与えられなかった。

 

 「  。」

 

 捕獲対象がリムーバーによって拘束された状態で何かを告げる。

 それをISのセンサーで観測していた隊長はその言葉の内容を明確に理解する。

 即ち、変身と。

 だが、ISコアはこちらの手の中にあり、捕獲対象はそれ以外の武装は無い。

 なのに、軍人として培った勘が撤退を叫ぶ。

 しかし、それすらも目の前の非常識な光景によって目を奪われてしまい、彼女達は最後の生きて逃げる機会を無くしてしまった。

 少女の腹部から機械的なベルトが浮かび上がり、その中央に嵌められた鮮緑の結晶体が光を放つ。

 直後、少女の全身が昆虫の外骨格とも機械とも取れる白い装甲に覆われる。

 頭部はまるでバッタの様なデザインをしており、あたかも彼女達も知っている特撮ヒーローの様な姿だった。

 だが、単なる着ぐるみやアクタースーツだとは隊長は思わなかった。

 故に、迷いなく自身もその手にライフルを呼び出しながら二人の部下に告げる。

 

 「撃て!」

 

 直後、三機が三方向から射撃する。

 例え重装型のISと言えど、この至近距離からの射撃ではダメージは必至だ。

 だが、それは相手がISに限れば、と言う前提があっての話だ。

 ゾンと、視界一面を赤い光が駆け抜けた。

 直後、自分の視界がゆっくりと斜めにずれていく。

 そして、漸く自分が地面に倒れたと気づいた時、自分の両足がISの脚部ごと両断されている事に気付いた。

 

 「あ、がああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!!?!!」 

 

 激痛に悶えながら叫び回り、地面をのたうち回る。

 見れば、部下達は自分と異なり、首を両断され、切断面から盛大に赤い噴水を上げながらゆっくりと倒れていく所だった。

 

 (ISの絶対防御を抜いただと!?)

 

 無論、エネルギー切れに追い込めば、そんな事も起こり得る。

 しかし、今まで戦闘らしい戦闘もしていなかった彼女達のISのエネルギーはほぼ満タンだった。

 なのに、今では稼働状態すら維持できない程にエネルギーを消耗し、リミットダウン(具現維持限界)を迎えていた。

 見れば、目の前に立つ白い装甲服の少女の手には、鮮血の様な赤い刀身の剣が握られており、あれで自分含む3名を一刀の下に斬り伏せたのだ。

 

 (ISの絶対防御を発生させつつ、一撃で消耗させる程の威力だと言うのか…!)

 

 激痛に苛まれながらも、しかし辛うじてISの搭乗者保護機能によって失血死を免れながら、隊長は生き残るための算段を整える。

 

 (殺さなかったと言う事は、最低限利用価値を認めていると言う事。なら、何とか生き延びて…!)

 

 しかし、隊長のそんな必死な思いは叶わなかった。

 目の前に立っていた白い死神が、彼女の髪の毛を掴み上げ、その顔を無理矢理に自分の顔の高さへと持っていったのだ。

 

 「ぎ、ぎゃああアアアあああッ!!」

 

 無論、両足を失った彼女にそんな事をすれば、失った両足を除いた全体重が毛根にかかる。

 ブチブチと頭皮の一部が髪の毛が鮮血と共に抜ける。

 しかし、今や世紀王でもある灯にとって、目の前の虫けらがどう鳴こうが喚こうが、知った事ではない。

 だが、その知識、情報には価値があると分かっていた。

 

 「キングストーンフラッシュ。」

 

 その時不思議な事が起こったと度々ネタにされる技。

 しかし、敵対すればこれ以上なく厄介なキングストーンを用いた、オカルト的な側面から言えば万能の願望器と言えるソレの発動は、難なく成功した。

 

 「ふむ…成程、こういう事か。」

 

 目の前に掴み上げた女の脳から必要な情報を入手すると、仮面ライダーホワイトはあっさりと女の頭蓋を握り潰した。

 自らの起こした惨劇に一切の関心を抱かず、仮面ライダーホワイトはその場を後にする。

 怪しまれずに学園に戻るまで後一日。

 それまでに自分を縛りつけて利用しようとしてきた者達を絶滅させる。

 その意思を胸に、創世王候補は、世紀王は、悪の仮面ライダーはその右手に血に濡れたサタンサーベルを握りながら、その場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 翌日、多数の国防軍並び与野党幹部並び企業重役等が惨殺される事件が発生し、日本国政府は総力を挙げて犯人グループ(個人とは到底考えられない規模だったため)を捜査したものの、証拠らしい証拠はなく、事件は敢え無く迷宮入りする事となる。

 

 

 

 




仮面ライダーホワイト(初期型シャドームーン)

 仮面ライダーブラックと共にゴルゴムによって改造された元人間であり、外見もブラックとの色違い。
 ブラックとは創世王の座を賭けて争うライバルになる筈だった。
 しかし、改造時に深刻なダメージを受けたため、原作では長い間目覚める事なく、よく知られるメタリックなシャドームーンへと強化改造される事で復活する。
 スペックはブラックと同様であり、腰のベルトには月のキングストーンが嵌められている。
 また、創世王候補として、ゴルゴムにとっての聖剣にして王権の証であるサタンサーベルを召喚、使用できる。

 パンチ力:3トン
 キック力:9トン
 ジャンプ力:ひと跳び30メートル
 潜水時間:10分



 Q.つまり?
 A.まだ変身が残っていると言う事だ。(CV堀内孝人)


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IS転生 三組代表が逝く13

お盆なんて消えてしまえ!(繁忙期続行中


 行方を暗ませ、消息を絶った翌日の日曜、その深夜にひょっこりと、何食わぬ顔で倉土灯はIS学園に帰って来た。

 寮監である千冬は、特に気配も殺していない灯を即座に補足したが……一目見た瞬間、本当に本人かと疑った。

 

 「おい、倉土。」

 「あ、織斑先生こんばんわ。」

 

 悪びれる事なく挨拶してくる姿は普段のそれだ。

 しかし、根っこの部分で何かが変わっていると確信する。

 元より知性よりも動物的直感にこそ重きを置く千冬にとって、その差異は余りにも顕著だった。

 余りにも濃厚な、それこそ戦場跡地か紛争地帯でも早々お目にかかれない様な、夥しい程の死臭。

 それが、己の生徒であった少女から漂っていた。

 

 「何人やった?」

 「数えてません。」

 

 その返答を聞くや否や、千冬は灯の首元に懐に忍ばせていたナイフを突き付ける。

 それを、灯はただ平然と眺めていた。

 何せ、今の灯にはその程度の刃物は通らないからだ。

 

 「どうします?殺しますか?」

 「チッ…。」

 

 舌打ち一つして、千冬はナイフを懐に戻した。

 出し入れの速度は灯をして見え辛いものだった。

 

 「証拠も何もない現状、貴様を罰する事は出来ん。」

 「ですか。じゃ、帰りまーす。」

 

 そう言って背を向けて寮の自室へと向かう灯。

 しかし、その肩を千冬は逃がさずに掴み止めた。

 

 「だが、門限を超えた馬鹿を罰するのは私の寮監としての務めだ、なぁ?」

 

 そう言って威圧感たっぷりに告げる千冬は、地獄の閻魔の様だったと後に灯は証言している。

 その後、灯は千冬の寮監室で一週間を過ごす事となり、余りの汚部屋ぶりに顔を真っ青にし、自主的に掃除洗濯炊事を行い、訪れた一夏を驚愕させたと言う。

 

 

 ……………

 

 

 政府及び国防軍の幹部多数が殺害された一連の事件において、日本国政府は頭を抱えていた。

 何せ、非正規戦に使える実働戦力の過半が消滅したのだ。

 それも、たった一日で、だ。

 被害を免れた幹部達の毛根と胃壁がマッハで消費される中、それでも彼・彼女らは御国のために頑張った。

 具体的には被害者の共通点から凡そ犯人の動機を割り出す事に成功したのだ。

 そもそもの切っ掛けは、この事件と同時に余り関係がないと思われていた人物が不審死していた事だ。

 具体的には過激な女尊男卑団体の中でも国外、取り分け特亜と繋がりを持っている団体に企業の重役、それに今現在は孤児院に務めている筈のIS学園卒業生の存在だ。

 前者は恨みを持つ者がいる事はまぁ分かる。

 しかし、捜査担当者は後者の方に疑問を持った。

 そして、件のIS学園卒業生が勤めていた孤児院を捜査していく中で、驚くべき事実が浮上してきたのだ。

 それは言ってしまえば青田買いだった。

 対象は身寄りのない子供、その中でも特にIS適正に優れている児童。

 ISの登場した核ミサイルハッキング事件、通称白騎士事件の一年後とは言え、行政も民間も大きな混乱から未だ脱却し切れていない頃から、この事件は始まっていた。

 ISと言う女性のみ、その中でも特に高い適正を持つ者に個人としては大き過ぎる力を与える兵器。

 それに搭乗し、自在に操るには天性の才能か、長い訓練を必要とする。

 それこそ織斑千冬クラスの才能と適正が無い限り、どの国もノウハウを持たない当時、搭乗者に関しては完全に手探りだった。

 幸い、日本は開発者と初の搭乗者を確保する事に成功していたので、他国よりも遥かにスタートラインに差があったが、日進月歩の最新技術の開発競争において、そんなものは安心し切れる要素ではなかった。

 そのため、当時の発足したばかりの国防軍幹部と政治家が計画し、更に過激なIS先進派や女尊男卑主義者を扇動して人手を確保し、更に密かに接触した特亜に対しても高いIS適正者を「輸出」するためと言う名目で資金を確保して、計画はスタートした。

 しかも、その輸出先には近年活動が活発化していると言う国際的テロ組織「亡国機業」すらリストアップされていたのだ。

 この時点でもう真っ黒過ぎる上に放射線まで放っているが、無論、彼・彼女らがここまでやったのは切実な理由があった。

 当時、世界中から核ミサイルを撃ち込まれた日本の国防軍幹部や政治家の多くは、他国に対して激しい不信感、警戒心を持っていた。

 まぁ、国家丸ごと皆殺しにされかけたのだから、当然と言えば当然だろう。

 そして、自衛のために激しいIS開発競争が始まったのだが、彼・彼女らはそれだけで満足しなかった。

 また同じ事件が起きた時、織斑千冬が、篠ノ之束が、白騎士が間に合うとは限らない。

 そのためにIS開発競争を支援もしたが、それは他国も同じ事をしており、もし国土防衛戦が発生した場合、安心できる保証は無い。

 もしかしたら、今度こそ核ミサイルが国土に着弾するかもしれない。

 故にこそ、彼・彼女らはそんな強迫観念に突き動かされ、遂には禁じ手に手を出す。

 それが高いIS適正を持つ身寄りのない子供達を集め、高度な教育を施し、織斑千冬に負けぬ程のIS搭乗者へと育てる計画だった。

 無論、本当に身寄りがなく、結果的とは言え保護した子供達がいた事も確かだが、それと同じ程度には住み慣れた故郷や保護者の元から離された者達も少なくない。

 特に、最近若手最強の声も名高い倉土灯は、その典型だった。

 父を核ミサイルで殺され、母がその衝撃で廃人となり、住み慣れていた故郷と壊れた母から引き離された。

 成程、恨む理由は十二分であり、彼女の腕前なら200人以上の人間を殺傷する事は出来る。

 しかも、国防軍の非正規部隊所属のIS三機が丁度彼女の故郷にて、搭乗者含め完全に破壊されている事が確認されている。

 現役の国防軍所属ライダーとなれば、嘗てのWACよりも更に厳しい適正を潜り抜けた猛者達だ。

 それを屠れる程の腕前なら、その程度は簡単だろう。

 しかし、それは不可能だと国防軍の技術部から声が出た。

 単純に言えば、日本全国津々浦々にいる被害者全員を一夜の内に殺害するには、例えISであっても、特に競技用リミッターを噛ませてある機体では移動だけでエネルギーが枯渇すると言うのだ。

 例え織斑千冬よろしく全ての戦闘を実体ブレードによる近接戦闘で済ませても、それは不可能だ。

 況してや、被害者の多くの死因が高エネルギーとも実体とも付かない近接兵器による斬殺となれば、犯人と断定できる要素は動機以外には無くなる。

 捜査の進捗はこの時点で一度止まった。

 だが、政府の歩みは寧ろ進んでいた。

 そして、この事件の関係者の背後の洗い出しが密かに行われ、後に国防軍設立時に立法された国家安全保障法(スパイ防止法)の下、徹底的な狩り出しを開始、国内に巣食う犯罪者や他国の非正規部門にテロリストの撲滅へと注力していく事となる。

 

 しかし、国防軍および日本国政府首脳陣の中で、倉土灯の名はこの事件における最重要人物としてデカデカと記される事となってしまった。

 

 

 

 

 

 




ちと短いが区切り良いのでこれだけ
来週は投下とか無理だす…(白目


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SRWOG転生 テンザンが逝く1

最近流行ってるようなので、自分もチャレンジ。
最近は鬱系が多かったので、ライト感覚で行ってみます。

※TS要素ありの予定


 気付けば転生していた。

 幸いにもそこそこ裕福な家庭だったらしく、両親が殆ど家にいない事を除けば、悠々自適な生活だ。

 両親は二人とも、それぞれに仕事があり、尚且つ愛人が別にいるらしいが…まぁ仕方ないと諦めよう。

 オレの両親は嘗てのオレの両親であり、こちらの二人は愛情の無さもあってとてもではないが両親とは思えないので丁度良い。

 さて、オレが転生したこの世界だが……新西暦、地球連邦政府、コロニー統合府、リクセント公国等の単語から答えは一つ。

 

 

 オレ、スパロボ世界、それもOGに転生しちゃった☆

 

 

 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!(白目

 なんでこう、もっと平和な世界に転生出来ないかなぁ自分…。

 しかもスパロボ世界でも屈指の物騒な世界であるOG系って…(白目)

 更に言えば、自分の名前も問題だった。

 ナカジマ家のテンザン君だった。

 もう一度言うと、ナカジマ家の、テンザン君だ。

 そう、あの典型的なヤラレ役にして踏台なテンザン・ナカジマだ。

 終いにはEXAMもかくやのゲイムシステムで壊れて死んだと思えば、バルマーに回収されて改造人間として再登場しちゃう等、お前そんな出番多くて良いの!?とちょっと思うテンザンだ。

 死ぬ(確信)

 このまま原作開始を迎えたら絶対に死ぬ。

 となれば、どうにかして死にたくないと思うのが人間と言うものだ。

 幸いにも、ネームドだけあって、テンザンとしての自分の素のスペックはブーステッドチルドレン?とかで高い筈。

 なら、死ぬ気で鍛えて生き残るために戦うのみだ。

 先ずは身体を良く動かし、何か武道でもやるべきだろうな。

 あ、バーニングPTが稼働し始めた時に備えて各種ゲームもやっておかないと。

 ロボットに、人型機動兵器に乗りたい思いは本当だし、スパロボも全シリーズとは言わないけどやってる身だし、そこは気合入れないとね、うん。

 

 

 ……………

 

 

 さて、色々と身体を鍛え、ゲームもやり込みまくっていた頃、ようようやっとバーニングPTの稼働が開始された。

 それも世界規模で、ネットワーク対戦ありありで、更に最大50VS50での大規模対戦すら可能な状態で。

 いやさ、試供品のβ版もプレイして、色々意見書出したけど、気合入れすぎじゃないですかねDC?

 もっと言えばビアン博士。

 あんた絶対仕事のためってよりも趣味的な理由でノリノリで作ってただろ!と声を大にして言いたい。

 そんな事はさて置き、ゲームに関しては廃人かその一歩手前程度までやり込む事を第一としている今生、オレは早速バーニングPTも熱心にやり込んだ。

 とは言え、このゲーム、ゲーセンの大型筐体でプレイするため、プレイ時間=やり込みのための時間そのものが確保し難い。

 なので、販売元(恐らくDCのペーパーカンパニー)に問い合わせ、何とか個人用に売ってもらえないか打診した。

 無論、相応のお値段(三桁万円+結構な電気代)がかかるが、背に腹は代えられない。

 ここで経験値を少しでも詰んでおかねば、後で死ぬ事になるからだ。

 で、正直無理かなーと思ってたのだが、案外すんなりと話が通り、一週間程で筐体が家に届いた。

 それも家庭用と言う事でコインの投入口とか色々と機能をオミットしたりした奴が。

 ただ、条件として定期的にプレイデータの提出が義務付けられた。

 これには社員の人間が来るらしいが…うん、まぁ良いか!

 どうせ逃げらんないしね仕方ないネ!

 

 

 ……………

 

 

 家庭用バーニングPTは自分の買った奴を叩き台に結構な数が売れてるらしい。

 まぁ簡易版とは言え、元々は軍用シミュレーターなのだ。

 新西暦とは言え、生半可なゲームよりも遥かにやり込み甲斐があるだろうし、予想通りと言える。

 だが今は既に184年、水面下では色々と動いている事を思うと、胃がキリキリしてくる。

 とは言え、今現在のオレには大学とジムに通いながらバーニングPTをする位しか手の打ちようがない。

 幸いにも、ネットワーク対戦含めてスコアは順調に伸び、現在は20位にランクインしている。

 何れは世界ランキング第一位も夢ではないだろう。

 そんな日々を過ごしていると、唐突にオレは予期しない出会いに遭遇した。

 自宅への帰り道で、行き倒れに遭遇したのだ。

 面倒にならない長さで切ったボサボサの髪をした、中学生程度の少年が、ヤ〇チャポーズで。

 

 「おい、おい、意識はあるか?」

 

 少し強めに肩を叩きつつ、声をかける。

 何かの持病の可能性もあるため、迂闊な振動は与えられないし、直ぐにでも救急車や警察に連絡する必要があるかもしれない。

 本来なら、こんな予定にない事なんて放っておけばよいものを、ついつい助けてしまうのは前世での教育のお蔭だろうか?

 

 「あ……ぅ……。」

 「んん?」

 

 身体を横向きから仰向けにすると、少年が呻き声を漏らすが、オレはその少年の顔にデジャビュを感じて思わず動きが止まる。

 すると、少年は口からぼそりと何事かを呟いた。

 

 「お腹…減った…」

 

 同時、ぐぅ~…となった腹の音が、人気の少ない高級住宅街に響いた。

 

 

 ……………

 

 

 「ガツガツガツガツガツ!!」

 

 一心不乱に家政婦の作った料理を貪る様は、高校生らしい食欲に溢れていた。

 先程までの元気の無さは消えているため、こちらとしては随分とホッとした。

 何でも、彼はバーニングPTがやりたいがためにこの街まで来たのだと言う。

 自分の街には無いため、態々バーニングPTがあるこの街のゲーセンへと通っていたのだとか。

 しかし、金の無い学生がそんな事をすればあっと言う間に金欠になるのは当然だった。

 移動費を電車から自転車に代え、食費を切り詰めても、それでもなおバーニングPTのプレイ料金は高いものがある。

 テンザンである自分の様に収入があるか(スポーツ大会等の賞金やゲームの賭け試合等)、又は悠々自適の高等遊民でもない限り、バーニングPTは高すぎる。

 既存のハードを用いた家庭版とかでもない限り、あのデカい筐体でのプレイはそれはもうお金がかかるのだ。

 だが、この少年の持つ情熱はとても共感できる。

 こちとらスパロボ歴の長いのロボオタである。

 無論、それ以外も好きだが、ロボ物が特に好きなのは変わりない。

 彼と同じ状況になったら、多少生活が苦しくなろうが、同じような事をするのが目に見えている。

 

 「なぁ坊主、どうせだからうちの筐体使うか?」

 「へ?」

 「実はオレ、家庭用のを持ってるんだわ。何時もは無理だが、ある程度は融通してやれるぞ。」

 「ほ、本当ですか!」

 「つっても、あくまでリアル優先だ。学生なんだろ?勉強もしっかりやるのが条件だ。」

 

 と言う訳で、ロボ好きの先輩として、後輩にえぇ格好しいをするのだった。

 

 「あ、ありがとうございます!ご飯だけじゃなくバーニングPTまで!本当に何て言って良いか!」

 「いいさいいさ。ただ、条件はきっちり守れよ?」

 「はい!あ、そう言えば名前言ってませんでしたっけ?」

 「だな。オレはテンザン・ナカジマ。バーニングPTでも結構な腕自慢だぜ?」

 「あはは、僕はリョウト・ヒカワです。バーニングPTは先月から始めたら嵌まっちゃって…でも周りじゃあんまりやってなくて。話せる人と出会えて嬉しいです!」

 「おう。んじゃ飯食ったら筐体に案内するからな!」

 「はい!よろしくお願いします!」

 

 この時のオレの驚きは、もう言葉に出来なかった。

 幸いにも、一周回って落ち着いたから何とか返事も出来たし、怪しまれる事も無かったが。

 

 (おいおいどうなってんだこりゃ…。)

 

 リョウト・ヒカワと言えばご存じスーパーロボット大戦αのリアル系男主人公だ。

 シリーズでも最高峰の念動力者であり、四人の男性主人公の中でも最も格闘・射撃が高いと言う素晴らしいスペックを持っており、ファンからの人気も高い。

 OGではビアン総帥に直々にスカウトされるが、所属したDCのAM部隊では当時は弱かった事もあり、捨て駒にされた所を鋼龍戦隊に拾われる事となる。

 まぁ原作でもテンザンはリョウトとゲームを通して面識はあったため、そこまでおかしな事ではないだろう。

 だが、余り仲良くなりすぎるのも問題が出る可能性がある。

 何せ彼は後々DCから地球連邦軍へと移籍し、マオ社へと出向する事になり、テストパイロット兼技術者として多くの功績を果たしている。

 特にヒュッケバイン(エクスバイン)とオプションのAMシリーズ開発で重要な役割を果たしている。

 しかも、パイロットとしても念動力者の力を活かして大活躍するのだ。

 下手に仲良くしてDC側に残られても問題がある。

 しかし、彼の技術が自分の側で生かされるとなれば、それは自分の生存率向上に大きな助けとなる。

 無論、DCにいた頃のリョウトはパイロットとしても技術者としても覚醒していないので、色々と助けは必要だろうが。

 喜々としてバーニングPTの筐体に乗り込む彼を見ると、今から色々仕込んでおけば行けるんじゃね?とも思うのだった。

 

 

 

 ……………

 

 

 原作まで後一年と言う頃、オレことテンザンとリョウトの仲は良好だった。

 この歳になっても原作と違ってさっぱり背丈の伸びないリョウトを弟分の様に可愛がりながら、週に二度は訪れるリョウトを歓迎し、共にバーニングPTをやり込む日々を送っていた。

 途中、リョウトの4人の姉達や道場主であると言う父親が訪れた時もあった。

 どうにもリョウトは家族とは距離があると考えているらしいが、家族からすれば可愛がり方が少々ずれているだけで、きちんと愛情あっての事らしい。

 まぁ嫌がるリョウトに似合うからと女の子の恰好をさせたり、機械弄りやゲームが大好きな子に跡継ぎとは言え空手を無理に仕込めばそりゃ嫌われると思う。

 しかも、中学生になったばかりの年頃の子となれば思春期も重なり、家族と距離を置きたいと考える事もある。

 要は互いに適度な距離感を持つ事が出来なかった訳だ。

 それがオレの家と言う避難場所を得た事で、リョウトは家族と適切な距離感を持つ事が出来た訳だ。

 また、オレに依存されても将来困る事になりそうなので、きちんと学校や家庭にも力を入れ、オレの家に来るのはストレス発散のためにする様に、と約束していたのだ。

 そのお蔭か、リョウトは特に出禁になる様な事もなく、あの行き倒れな出会いからずっとオレの家に来てはゲーム三昧&寛ぎタイムを貪っている。

 ご家族からはくれぐれもよろしく頼むと言われているが、時折勉強も見ていたりもするので、今はそれで勘弁願いたい。

 その内、嫌でも高給取りになるだろうからさ。

 

 ……あぁホント、自分の都合でこいつを巻き込む算段を立ててる自分に腹が立つ。

 

 

 ……………

 

 

 その青年が注目を集め始めたのは、或る意味で当然だった。

 成績優秀、スポーツ万能、文武両道。

 原作であった様な小太り、傲慢さと享楽主義な所が抜け、己の身体を鍛えた彼は力士体形とも言える姿となり、見る者に威圧感を与えるも、本人の真面目さと誠実さがそれを補う。

 それだけ見れば探せばまぁいるかもしれない程度の人間なのだが…おかしいのはそこから先だった。

 青年、テンザン・ナカジマは何故か人を理解する事に長けていた。 

 そうした才能がその少年にはあった。

 しかも、どういう理由なのか、独特の脳波まで発しており、念動力者とはまた別種の異能の可能性が高かった。

 更に素のパイロットとしての技能もまた民間人どころか軍人でも類を見ない程だった。

 そんな稀有な才能をDCが見逃す筈もなく、彼は自身の知識と予想通り、DCへパイロットとしてスカウトされる事となる。

 

 ビアン・ゾルダーク総統直々に。

 

 更に言えば、それは何時も一緒にいた少女(・・)も含めての事だった。

 

 

 

 

 

 




誤字修正しました。


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SRWOG転生 テンザンが逝く2 改訂・加筆

うーむ、文字数が順調に増えてる(汗


 ビアン総帥直々のスカウトにより、原作のバーニングPTの大会よりも早くDCに所属する事となったテンザンだが……初っ端から躓いていた。

 

 「帰れ。」

 「イヤです。」

 

 このブンむくれてる弟分の説得に。

 

 「お前なー、オレと違って家族仲も良いんだから、こんな危ない職業に就かなくてもだな…。」

 「イヤです。」

 

 きっぱりと言い切るリョウトに、オレは頭を抱えたくなった。

 こうなったコイツは梃でも動かない。

 普段はオレの後ろをちょこちょこと子犬の様に付いてきて、その手の趣味の者なら悶え転げそうな可愛さを放っているのだが、一転してこうなるともう頑固になる。

 こうなればこいつの実家の姉さん方でも途方にくれるのだから相当だ。

 

 「…オレに付いて来たいって理由なら止めとけ。死ぬぞ。」

 

 普段よりも数段低い音を意識して出すと、少しだけリョウトが怯んだ。

 本当なら、此処でこいつを扱き使って連邦側に適当な所で回収させるか、或は丁寧に指導なりして部下として扱うべきなのだが、どうにも情が移ってしまったらしく、こいつには堅気の道を全うに生きてもらいたいと思ってしまう。

 

 「イヤです。それを言ったら、テンザンさんだって同じです。」

 「オレは良いんだよ。お前と違って成人してるし、ロボ乗るためなら魂も売るさ。」

 

 これは本音だ。

 少なくとも、オレは見も知らぬ誰かのために戦う事は出来ない。

 精々が身内の安全と些細な個人的欲によるもので、それ以上でも以下でもない。

 そんな奴が辿る末路は一つだけだ。

 やり込んだゲームのセリフで言うならば「好きな様に生き、理不尽に死ぬ。」と言う事だ。

 

 「良いか、リョウト。お前はまだ18歳、親御さんの庇護下で学生やってる年頃だ。此処に来るなとは言わん。だが最低限でも卒業と成人してからにしろ。」

 「ごめんなさいテンザンさん…。」

 

 シュンとするリョウトに漸く納得してくれたか、とホッとする。

 しかし、現実は非情と言うか非常識だった。

 

 「実は学校に関しては飛び級して卒業しちゃいました☆」

 

 てへぺろのポーズをしながら取り出された卒業証書の写しに、オレは愕然とした。

 

 「後、家族には許可貰ってます。好きな様にしなさいって。」

 「…………………………マジかよ…。」

 

 こうして、オレの説得は失敗に終わった。

 

 

 ……………

 

 

 さて、初っ端から躓いたが、DC所属二日目からオレ達二人はシミュレーターをほぼ一日中やり込んだ。

 流石は軍用品だけあり、購入したバーニングPTの家庭用筐体よりも遥かに高性能かつ多機能だ。

 また、回線を使って同期すれば最大百単位での大規模会戦も可能なのだとか。

 登録されている機体も既に旧式化の兆しがあるゲシュペンストやその亜種ではなく、最新鋭機であるリオン系列機だ。

 とは言え、未だバレリオンやガーリオンはなく、装備強化型のタイプFに機動性強化型のタイプV、索敵・管制型のレドーム装備や精々コスモリオンやシーリオン、ランドリオンと言った共通のフレームの機体のみだ。

 ただ、ミサイルランチャーやレールガン、大型レールガンにミサイルポッド、強襲用ブースターと言った各種オプション等は幾らでもカスタマイズできる。

 なので、ついついゲーマーの性としてやり込んじゃった☆

 途中でリョウトはばてたので、半分程一人でやりながらひたすらにシミュレーターを楽しんだ。

 無論、事前にマニュアルを読み込んだ上でだ。

 それで分かった事は……オレはゲシュペンスト系よりもAM系の方が向いていると言う事だ。

 原因はテスラ・ドライブの存在だ。

 重力制御と慣性質量を個別に変動させることが出来る装置であり、現在地球で最先端の推進装置だ。

 こいつのお蔭で今まで鈍いと思ってたのがかなり素直に動いてくれる。

 とは言え、未だに自分の反応速度に完全に付いて来れてはいないので、その辺りは上に要望を上げておくべきだろう。

 さて、このシミュレーターだが、ゲーム機に流用されるだけあって、ある機能がある。

 それは…

 

 「乱入機、か!!」

 

 直感に任せ、搭乗していたリオン(タイプV+強襲用ブースター付)の軌道を強引に曲げると、そのまま進んでいたであろう空間をレールガンの射線が貫いていく。

 こうした乱入が、既に今日だけでも20回は起こっている。

 だが、オレはその全てを歓迎し、正面から打倒してきた。

 テンザン風に言われせれば、「どいつもこいつもやり込みが足りない」。

 新兵器故仕方ないのだろうが、今後のDC処か地球圏全体の主力機たるAMへの理解が足りないのはダメだろう。

 

 と言う訳で、シミュレーターに限るが、とことんブチのめさせてもらおう。

 

 これを機に民間人上がりに負ける自分の実力を反省して、もっとAMへの理解を深めて腕を上げてもらいたい。

 なので、容赦なく撃墜させてもらう。

 乱入してきたのは7機、一度に来た有人機としての数は今日で一番多いが、特に脅威には感じない。

 右腕部に装備したランドリオンの大型レールガンを使い、相手の未来位置へと偏差射撃、一撃でコクピットを貫通して撃破。

 味方機が早速墜とされて動揺して動きが単純になった機体に左腕部のレールガンで射撃、撃破。

 こちらへと集中するレールガンとマシンキャノンの射撃を跳ねる鞠の様な機動でランダム回避しながら更に射撃。

 それだけで更にもう一機撃破され、慌てて散開する敵機。

 残った数は既に4機。

 だが、その中で一機、レドーム搭載の指揮官機だけは動きが良い。

 なので、迷わずブースターを点火、指揮官機を狙う。

 

 『ッ!?』

 

 慌てて指揮官機が肩部のマシンキャノンで弾幕を張り、遅れて他の敵機もそれに倣うが……遅い。

 最初から半数が墜とされる事を織り込んで、全機でマシンキャノンとミサイルをばら撒きながら突撃してくれば、一発程度は被弾しただろうに。

 やはり、こいつらもやり込みが足りない。

 両腕に装備したミサイルランチャーからミサイルを発射しようとするが、ミサイルの弾速では加速状態のこちらに当たる事は無いし、そもそもロックする暇も与えない。

 結果、その前にこちらの左腕のレールガンの銃口が指揮官機の腹部を貫いて撃破。

 そして、動揺した上に統率の乱れた残りもものの数秒で撃破する。

 ……多分、リックドム相手に一方的に敵を撃破したアムロもこんな気分だったんだろうなーとか思ってしまう。

 

 「まぁこんなもんか。」

 

 良い頃合いなので、今日は此処までで終わりにした。

 

 

 ……………

 

 

 「ねーテンザンさん。随分スコアを伸ばしてましたけど、何かコツとかありました?」

 

 DC本部内の士官向け食堂で、とある少女の声が響いた。

 その内容に、陰鬱とした雰囲気を纏っていた士官達、取り分けAMパイロットの面々は耳を欹てた。

 今日一日で、彼らの殆どは民間人出のパイロットなんぞに負けるか!と挑み、そして無様に敗れ去った。

 最初はただのリオンや時折その派生機だったが、徐々に好みの装備が決まったのか、最後は親衛隊を中心に配備されている高機動型のタイプVに強襲用ブースター、ランドリオン用の大型レールガン装備へと固定されてからは一発の被弾すら無く、最後には丁度来ていたテンペスト・ホーカー中佐が泣き付かれて仕方なく参戦した所、ものの見事に撃破されてしまった。

 今ではゲンドウポーズを取りながら食堂の片隅で落ち込んでいるが、部下達とのデブリーフィングには参加している様なので、その内持ち直すだろう。

 さて、そんな異常な戦績を初日から叩き出す奴が語るコツとは一体?

 気に入る気に食わないは兎も角、誰もが興味はあった。

 そんな異様な空気に気付きつつも、テンザンは食券と交換してきた野菜炒め定食(大盛)を食べながら、リョウトに語る事にした。

 なお、リョウトはリョウトでその年齢を考えれば異常な程の腕前である事を追記しておく。

 

 「んー……元は戦闘機乗りが多いってのもあって、テスラ・ドライブへの理解が薄い、かねぇ。」

 「どういうことです?」

 

 確かに新兵器と言う事もあり、その辺りの理解が薄い者も多い。

 しかし、その辺りしっかりと教練を受けている者がこの二人を除いた全員である状況では少し疑問符が付く。

 

 「戦闘機だとどうしても直線的な機動になるだろう?航空力学的に。」

 「ですね。」

 「それだとダメなんだよ。AM同士ならテスラ・ドライブ積んでて機動がかなり自由で、そんで互いに一撃で墜とせる火力がある。なら、後はどう先に当てるか、だ。」

 

 通常リオンに搭載されている武装はどれも一撃でリオンを墜とせるだけの火力がある。

 一番低いマシンキャノンと言えど、当たり所が悪ければそうなのだ。

 ミサイルは言うに及ばず、レールガンに至っては一番装甲の厚い胴体部だろうと貫通する。

 

 「すると、ひたすら動き回って、敵に射撃して当てるのが一番大事な訳だ。」

 「あぁ、だからあんなボールみたいな機動なんですね。」

 

 あの機動、前世の記憶を参考にしたもので、要は機動戦艦ナデシコの傀儡舞のそれに近い。

 無論、元が戦闘機由来のリオンなので直線加速は兎も角、機体のサイズ差もあってあそこまでの運動性は発揮できないが。

 ガーリオン辺りならガンダム的な機動、AMBACを用いてもっと細かく動かせるのだが、現状のリオンでは無理だ。

 リオンの、と言うかAMの操縦系統は「学習オートマトン利用によるEOTと従来型機位制御との統合」システムであり、要は従来の戦闘機の発展系+ガンダムみたいな学習型CPUとの複合型だ。

 で、これはTC-OSを搭載した完全人型のPTとは違い、登録されたモーションは既存戦闘機のドッグファイトのそれに近い。

 そのため、人型・準人型のロボット同士でのモーションの登録が少ないのだ。

 そのせいで白兵戦距離になると、余りオートマトンからの支援が受けられないし、登録されているモーションも少ない。

 なので、手練れや才能のあるパイロットの乗ったPT相手ではその時点でかなり不利になる。

 並のパイロット同士なら、空を飛べる分AMの方が遥かに有利で、余り問題視されていないのだが。

 しかし、一旦白兵戦の距離へと入れば、連邦所属のPTであるゲシュペンスト系統の得意とする間合いで戦う事と=であり、更に言えばゲシュペンスト乗りは極少数ながら優秀なパイロットが多い。

 即ち、近づかれればその時点でリオンの特性を活かせずに撃破される可能性が高いのだ。

 

 「AM同士の戦闘ならそれが顕著だ。だから、直線機動なんて取ってる奴は恰好の的になる。予測位置に弾を置けば良いんだし、滞空できるからって止まってる奴なら尚更な。折角テスラドライブなんて積んでるんだ。宇宙並に自在に動いて、贅沢言えば亜音速を維持して照準を絞らせずに射撃してりゃその内当たる。」

 「その割に命中率が8割超えですけど…。」

 「その点はオレの腕前だな。」

 「ア、ハイ。」

 

 やっぱコイツ常人じゃねぇと周囲から畏敬の念を覚えられつつ、テンザンは更に突っ込んだ話をする。

 

 「つっても、これはあくまでリオン同士の戦闘だからな。今後は新型も出るだろうし、それによっては多少変わってくるだろう。」

 

 とは言え、これは運用データの蓄積が成されれば、その内ある程度はマシになる。

 だが、ガーリオンと違って、元々リオンは射撃戦重視なので当然と言えば当然なのだが。

 その辺りをある程度改善したタイプVでも、蹴りなんざしようものなら脚部が捥げるので、ガーリオンの配備を気長に待つべきだろう、というのがテンザンの意見だった。

 

 「んー、それで集団戦するにはどうしたら良いんですか?」

 「接敵したら散開しつつ連携しながら射撃だな。最低でもツーマンセルは崩さずにな。」

 

 音速域に近い戦闘速度を保ちつつ、的にならない様に散りながらも連携を行う。

 言うのは簡単だが、全く未知の領域の戦闘に、流石に困惑した空気が流れる。

 

 「そこまでする必要ってあるんですか?」

 「何れ連邦だってこっちの機体の鹵獲なり残骸なりからテスラ・ドライブに行きつく。或はテスラ研辺りを接収するかもな。そうすりゃこっちのアドバンテージは一気に減る。」

 

 その言葉に、分かっていても嫌な空気が流れる。

 誰だって、聞かなければならないとは言え、景気の悪い話は聞きたくないものだ。

 

 「そん時になってから慌ててちゃ遅すぎる。世界を相手に喧嘩を売って、その果てにこの星を守るんなら、その程度の事は当然出来なくちゃいけねぇ。」

 

 そう言うテンザンの目には物騒な光が宿っている。

 どうやら彼は彼なりにこの世界への愛着があるらしい。

 

 「テンザンさんは真面目ですねぇ。」

 「そりゃな。折角ロボに乗せてもらってんだ。その分程度は働くさ。」

 

 ムシャムシャと野菜炒めを食べるテンザンを、リョウトは優し気な目で眺めていた。

 

 

 ……………

 

 

 「行くぞ。奴の機動データも参考にしながら、対テスラ・ドライブ搭載機戦術を構築する。」

 

 テンペスト中佐が部下達を引き連れて食堂を後にする。

 新戦術・新概念の発見と構築、その対処法の考案は嘗て教導隊に所属していた彼にとっては十八番でもある。

 それを彼よりも二回りは年下の青年に指摘されたのだ。

 公人としても、私人としても、それに対応せざるを得ない。

 

 (成程、総帥の気まぐれかと思えば…目が眩んでいたのは私だったか。)

 

 妻子を殺されてからは、復讐だけが全てだった。

 それ以外はどうでも良かった。

 一人でも多く、少しでも長く、妻子を奪った地球連合に復讐し続ける。

 それで思考の幅が狭まっていなかったかと言えば嘘になる。

 しかし、確かに育っている若い世代からの意見を汲まぬ程、テンペストは耄碌していなかった。

 

 (テスラ・ドライブ搭載機故の新戦術・新概念。今後地球全土に普及するだろうテスラ・ドライブの事を考えれば、必ず必要になる。)

 

 復讐のためにも、DCの掲げる地球守護の大義のためにも、それは確かに必要となる力だった。

 それを悟って早々に、テンペストは部下達を連れ、すべき事をしにまたシミュレーター室へと足を向けた。

 こうして、テンペスト・ホーカーは史実よりも少しだけ前向きになったのだった。

 

 

 

 




正直、テンペスト中佐はもう少しスポット当たっても良いと思う。
後、航空機由来だからって、あんな直線機動してたら、宇宙世紀だとバカスカ墜とされると思う。>リオン


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IS転生 三組代表が逝く14

臨海学校前の一幕
なお、本作は臨海学校編+夏休み編で完結の予定です。


 間もなく夏休みを控えた状態で、来週には校外学習の一環として臨海学校がある。

 とは言え、余り関係ないと言う連中もいたが。

 

 「海かー……行かないといけないんだよねぇ…。」

 「だねー。仮にも企業所属だし。」

 

 簪と本音の部屋でだらだらと特撮ものを見ながら寛ぐ灯と簪、この二人である。

 日本企業連合に所属する二人は、その性質上どうしても試作装備等の試験を行う必要がある。

 まぁ二人とも新型をまた受領する予定になっているので、原作と違ってどうしても行く必要があるのだが。

 

 「私の高機動型ザクⅡ、楽しみ…。」

 

 うっとりと微笑む簪の脳裏には、先日マニュアルを受け取った企業連製の専用機の姿が、最近有名になったリユースPデバイス装備高機動型ザクⅡの姿があった。

 とは言え、轟雷のフレームにザクの皮を被せて、バックパックにラファール・リヴァイブの拡張コネクタの様な機能を持つサブアーム付きバックパックに交換し、更にフルマニュアル操作向けに各部を調整した仕様だ。

 言ってしまえば灯の運用データをフィードバックした結果からでっち上げた代物だが、日本でも有数の企業達の技術部が作成するだけあって、そのスペックは天才レベルとは言え個人の間に合わせでしかないシャアザクよりもあらゆる面で優れている。(天災兎は除く)

 無論、実機に乗り込んでの調整は必要であり、簪にとってはそのための臨海学校でもあった。

 

 「水着ねぇ…何が楽しいんだろ?」

 

 素で疑問符を浮かべているのは灯だ。

 まぁこいつの場合、そういった行楽とは無縁な10年を過ごしていたから仕方ないのだが。

 

 「あー…そう言えば水着買わないと…。」

 「面倒だから去年ので良いや…。」

 「はい?」

 

 そして、灯の言葉にさしもの簪も凍り付いた。

 今この親友は何と言ったのか?

 

 「灯、本気?」

 「サイズは特に変わってないし、良いかなって…。」

 

 ぐだぐだだるだると堕落の限りを尽くす姿からは嘘は感じられない。

 つまり本当なのだ。

 灯の女子としては致命的過ぎる言葉は。

 

 「……本音。」

 「此処に。」

 

 簪と言う主の呼び声に、本音が音も無くスルリと現れる。

 いつもとは全く違う雰囲気に灯だけは目をパチクリとしているが、簪と本音はそれ処ではない。

 

 「聞いたね?」

 「はい。」

 「言いたい事は分かるね?」

 「はい。」

 「じゃあ行動あるのみ。」

 「畏まりました。」

 

 そしてまた音も無く本音が消え、彼女の生体反応が生身の人間としてはかなり高速で離れていくのを感じながら、灯は簪の方を向き……後悔した。

 

 「灯、水着、買う。」

 

 頼みでも命令でもなく、ただ確定事項として告げる簪。

 その姿を見て灯は思う。

 あ、これあかん奴や。

 

 「女の子としてサイズ変わってないからって水着買わず、剰え去年ので済ますとかあり得ないから。」

 

 だから買おう、ついでに自分のも。

 言外でそう付け足しながら、簪は爛々と今まで見た事が無い程の意思を込めながら灯の肩を掴みながら告げた。

 

 「ア、ハイ。」

 

 その眼差しに、灯は抗う術を持たなかった。

 

 

 ……………

 

 

 「かえりたい……。」

 

 数時間後、灯はぐったりとした様子で近場の大型ショッピングモール内の水着売り場にいた。

 

 「うーん、やっぱり暖色系は合わないねぇ。」

 「えー、このピンクのフリルとか良くないかなー?」

 「流石に勘弁して…。」

 

 もうかれこれ一時間以上此処で灯は簪と本音の着せ替え人形と化していた。

 何せこの灯、今までファッションを習った事が殆ど無いのだ。

 精々が国家代表候補の用事の時に正装+ナチュラルメイク程度で、それ以外は基本学校の制服やジャージ、僅かな私服のみだ。

 その私服にしても流行とかガン無視であり、本人の美的センス(質実剛健・実用美)のみで選ばれている。

 

 Q つまり?

 A 今の女子から見ればNGだらけ。

 

 と言う訳で、灯は簪と本音によるコーディネートを受けていたのだった。

 時折簪が自分用のものも買っている辺り、彼女は彼女なりに楽しんでいるのだろうが、元男の感性を持つ灯にしては簪や本音の着飾る姿を見るならまだしも、自分がされる側となればこんな時間は苦痛でしかない。

 しかし、親友である二人の意思をきっぱり断る訳にもいかず、こうして人形に徹しているのだった。

 幸い、収入に関しては灯も簪も既に企業連所属と国家代表候補と言う事で結構な額を貰っているので問題はない。

 

 「ねーねーかんちゃん。これなんてどー?」 

 「わ、凄い。これなら灯も…」

 「待って。待って(迫真)。」

 

 ねぇ君達。

 そんなフリッフリのフリルとパレオ付きの白ビキニ見て何をするつもりなの?(震え)

 

 

 ……………

 

 

 「ふー……女性の買い物ってホントに長いなぁ…。」

 

 来週に控えた臨海学校の準備のため、友人(オール女子)らと共にショッピングモールへと買い出しに出掛けた一夏だったが、早々に皆の水着攻勢と余りの時間の長さに辟易していた。

 これが千冬なら決めたものをパッと買うから食料品の買い出しなんかに回れるのだが、生憎と箒や鈴、シャルロットやセシリア、序でにラウラも足した女子達にはそんな事は期待できず、既に水着選びが始まって一時間は経過していた。

 なお、ラウラは着せ替え人形化しており、一夏同様に死んだ目でシャルロットに弄られている。 

 

 (もう昼だし、そろそろ何か食いたいなぁ。)

 

 手洗いと言う理由をつけて、一度脱出に成功した一夏だが、此処で抜け出せば後で厄介な事になるのは目に見えている。

 此処で何かハプニングが起きればそれを理由に切り替えたりも出来るのだが…。

 

 「えぇい付き合ってられるか!私は帰るぞー!」

 「あ、ちょっとラウラ!」

 

 すると、我慢の限界だったのか、ラウラが死亡フラグ的な叫びと共に水着売り場から飛び出してきた。

 その姿は黒いフリフリのたくさんついたビキニであり、可愛いらしさを強調しつつラウラの人より白い肌によく映えていた。

 流石はシャルロットの見立てだなぁと一夏は思いつつ、ラウラに言うべき事を言った。

 

 「会計はしとけよー。」

 「ぬ、確かにそうだな。カウンターは…。」

 

 そこで突然、ピタリとラウラの動きが止まる。

 視線の先にある服飾売り場のカウンター、そこにいる人物の姿が目に留まったからだ。

 

 「あいつ…。」

 

 一夏も何度も目にし、試合や練習では毎度苦渋を飲まされる相手。

 そう、IS学園一年三組代表にして日本国家代表筆頭候補である倉土灯だ。

 今の彼女はやたら草臥れているが、楽しそうな友人二人と共に会計をしており、先程までラウラと似た様な境遇であった事が伺える。

 

 「今度こそ…!」

 

 そこに目の色を変えたラウラが素早い動きで近づいていく。

 ラウラは以前、機体に仕込まれていたとは言え、自分のやらかしを止めてもらった恩義から、灯に感謝を伝えようとしていた。

 しかし、どうにも避けられているらしく、今の今までそれを伝える機会に恵まれなかったのだ。

 そのため、この目の前に転がって来たチャンスを逃せないとばかりに行動したのだ。

 可愛い水着姿のままで。

 

 「……ま、いいか。」

 

 疲れ果てた一夏は鈍った頭でそう判断した。

 

 

 ……………

 

 

 「倉土灯!」

 「んん?」

 

 名前を呼ばれ、灯が振り返る。

 別に接近する誰かに気づいていなかった訳ではない。

 ただ、殺気も何も感じなかったし、不意打ちされようとどうにでも出来るし、最悪キングストーンで蘇ると言う認識がある故だった。

 

 「私だ、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

 「あぁ、先日の。何か用?」

 

 小首を傾げながら、灯はラウラに問い掛ける。

 彼女の原作知識からすれば、ここでラウラなら突っかかってくるだろうと思って、既にISの兵装のみの呼び出しは何時でもできる様に準備しながらだ。

 

 「先日は私の暴走を止めてくれて礼を言う。ありがとう。」

 

 ぺこり、とラウラは以前のつんけんとした様を感じさせない程に素直に頭を下げた。

 おや、と灯は目を丸くした。

 彼女の知識では考えられない程に丸くなっていた事に驚くと共に、その切っ掛けになったであろう人物をピックアップする。

 

 「…どうして礼を言うの?あれは貴方個人が原因じゃないでしょう?」

 「だが、実際に起こしたのは私だ。故にこれは当然の事だ。」

 

 ふむ、と灯は考える。

 別にこいつがどうなろうか構わないが、それでもちゃんと謝罪してきた事は評価しなければならない。

 

 「分かった。謝罪は受ける。以後はくれぐれも気を付けてね。」

 「ありがとう。それと今後の事なのだが…。」

 

 そこまで言って、急にラウラはもじもじとらしくなく恥じらい始める。

 今日は驚く事が多いな、と思いつつ、灯は辛抱強くその先を待つ。

 

 「お姉様、とお呼びしても…」

 「却下。」

 

 流石にそれは勘弁願いたい。

 

 

 

 

 

 「所でラウラ、水着のまま帰るの?」

 「あ…会計してくる!」

 

  

 

 

 

 特に山も落ちもなく終わり

 

 

 

 



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SRWOG転生 テンザンが逝く3

今回、軽くR描写あり。


 さて、DC本部への顔出しも終わり、自宅のバーニングPTも軍用シミュレーターに改装し、家政婦のお菊さん(58歳)も抱き込んで機密もばっちりにした状態で、テンザンは日常生活に戻った(無論監視付きだが)。

 予定としては、来月行われるバーニングPTの大会に出た後は直ぐに本部に直行なのだが。

 では何故態々戻って来たのかと言うと、テンザン個人の用事があったからだ。

 それも極めて個人的なものだ。

 それは、リョウトのご家族への説明である。

 流石に今年で漸く18歳になる少年が長期で家を留守にするには何の説明も無しでは不義理に過ぎる。

 となれば、テンザンは直にヒカワ家に顔を出してあの怖い親父さんと心抉るのが得意な四姉妹を相手にする事になる。

 可愛い末っ子で長男で跡継ぎをつい目を離してたらテロリストに就職させちゃいました☆とか殺されても文句は言えない。

 

 「あ、もう連絡しましたから大丈夫ですよ。」

 「はえーよ」(震え声)

 

 色々と覚悟決めてたら、何かリョウトが勝手に終わらせてました。

 

 「父さんからは自由にしろって言質取ってますし、姉さん達もまぁ…。」

 「マジかー……。」

 

 親父さんは兎も角、あの四姉妹が認めたのを意外に思いつつも横にやり、シミュレーターは兎も角として軍事教練で疲れた身体を癒す事にして、テンザンはその辺りのやり取りを聞かずにその話題を終了してしまった。

 してしまったのだ。

 

 

 

 

 

 「…これを機にテンザンさんをちゃんと捕まえるって言ったら、喜んで許可してくれましたよ♪」

 

 誰も聞いていない場所で、少女はうっとりと微笑みながら呟いた。

 

 

 ……………

 

 

 そんなこんなで、あっと言う間に一ヵ月が経過した。

 テンザンはバーニングPTでは相変わらずのランキング1位を更新しつつ、DC側とはシミュレーター越しに情報のやり取りをし、挑んでくる兵達を返り討ちにする日々。

 多少時差があって辛いが、オタク趣味なだけあって夜型人間なので、その辺は余り苦にならない。

 最近は対エース戦術が出来上がってきたのか、被弾する事が多くなっており、テンザンとしてはスリル満点でとても楽しい。

 傍らで見ていたリョウトはその戦闘映像を引き攣った顔で見ていたが、彼女自身も対エース戦術を身に着け始めているDC兵(全員エリート相当に強化)一個中隊(12機)を相手に互角に渡り合っているので大概化け物なのだが。

 

 「あ、テンペスト中佐の部隊も来てる。」

 「おし、本気出す。」

 「あ(察し)」

 

 兵装もミサイルを減らし、対高機動戦闘を意識してか、頭部も通常の指揮官アンテナ増設仕様にしてあるリオンで、テンペストとその部下達がシミュレーションに乱入してきた。

 その数は一個中隊であり、ただのDC兵ならリョウトでも頑張れば倒せる程度の数だ。

 しかし、此処にいるのはDC兵の中でも親衛隊であるラストバタリオンの一員であり、更に言えば指揮官であるテンペスト・ホーカー中佐によるテスラ・ドライブを始めとした先進戦闘技術の対策・研究部隊としての色を濃くした連中だ。

 その技量と経験、何よりDC及び指揮官への忠誠心故に戦力比は同装備の一個大隊に匹敵する。

 そんな連中が相手では今のリョウトでは些か以上に厳しいものがある。

 だが、それをテンザンは笑って歓迎した。

 

 「いッッッくぜェェェェェェェェェェェェッ!!」

 

 レーダー識別圏内に反応を確認したと同時、お馴染みの強襲用ブースターを最大まで噴かせて一気に加速する。

 以前なら遠距離からの狙撃で何機か墜とせていたのだが、今の彼ら相手では弾薬の無駄にしかならない。

 それを分かっているからこそ、テンザンは敵の只中に飛び込む事で乱戦へ持ち込もうとした。

 だが、既にそれで幾度も痛い目を見ている彼らはそれをさせじと小隊単位で散開、肩部マシンキャノンによる濃密な対空砲火で迎え撃つ。

 以前はここで分隊単位のツーマンセルに分かれたのだが、あっと言う間に瞬殺され、時間稼ぎすら許されなかった事から、敢えてやや行動が縛られる小隊単位を選んでいる。

 それをテンザンは攻撃的な笑みを浮かべつつ、慣れた様に切り込んでいき、最寄りの小隊一つへと踊りかかっていく。

 接敵と同時、一機が左腕のレールガンに貫かれて爆散。

 接敵から1秒後、一機の影から接近戦(と言う名の特攻)をしかけた一機の頭部(=コクピットの直上)を右の大型レールガンで射抜いて撃破。

 接敵から4秒後、逃げ切れないと悟った残りの二機が全兵装を形振り構わず発射し、一発でも被弾させようと弾幕を張るが、大型レールガンの発射時の反動すら利用した独特の機動で回避しながら立て続けに撃破する。

 立て続けの撃破にパイロット達の練度を疑うが、これでもまだ最初期に比べれば遥かに伸びているのだ。

 最初はレーダー識別圏外からの狙撃で部隊の半数が沈められ、次に先が読めていると言わんばかりの偏差射撃によって一秒で数機が撃破されていたのだ。

 寧ろ、この異常なテンザンを相手によく心折れずにここまで食らいついてくるものだと感心すらされている。

 現にDCの一般パイロット達の中では既に心折られている者も多い。

 そんな彼らはテンザンと言う大き過ぎる壁に挑み続けるラストバタリオンの面々を心底尊敬し、組織内の結束を高めているのだから皮肉なものである。

 

 『各機、フォーメーションC1!』

 

 指揮官機であるホーカーの声に反応し、各機が一斉に後頭部に増設されたコンテナからミサイルを発射する。

 これもまた唯のミサイルではない。

 テスラ・ドライブ搭載機同士の戦闘を意識して作成された空対空ミサイルであり、威力こそやや低下しているものの、今まで採用されていたミサイルとは一線を画す機動性と誘導性を持っている。

 一機当たり6発、合計48発もの高機動型ミサイルが発射され、ド派手な黄色に塗られたテンザン機目掛けて殺到していく。

 

 「ハッハッハーッ!」

 

 それをテンザンは最高だと言わんばかりに正面から突っ込む。

 両肩のマシンキャノンで迎撃し、三割近いミサイルを迎撃しながら、残りのミサイルをまるで曲芸飛行の様なターンと加速、停止、急降下で撒き、或はミサイル同士を衝突させ、窮地を難なく潜り抜けていく。

 

 『次、C2!』

 

 だが、ミサイルばかりにかまけてはいられない。

 テンザンの予測進路目掛け、大量の砲弾が発射され……それら全てが着弾前に炸裂、無数の散弾となって降り注いだ。

 対空散弾と言う、大昔の戦争で使用された戦艦の対空用砲弾だ。

 これをミサイルに気を取られてやや機動が単調となったテンザン目掛け、残った三個小隊全機で発射したのだ。

 だが、テンザンとてそれで黙ってやられる程度なら、此処まで来れはしない。

 

 「まだまだぁ!」

 

 遊びは終わりと言わんばかりに、左腕部のレールガンとマシンキャノンで一気に残ったミサイルを全機撃墜、散弾砲弾が炸裂するのとほぼ同時、予測進路周辺からブーストを最大に吹かしつつ、置き土産とばかりに右腕部の大型レールガンで狙撃し、一機を撃墜しながら安全圏へと離脱してみせた。

 

 「今のはヤバかったぜ!」

 『よく言う!』

 

 もし最初に一小隊撃墜していなかったら、散弾ミサイルの包囲網から逃れる事はできなかっただろう。

 もしもの可能性に背筋を冷たいものが走るが、一戦ごとに手強くなっていくホーカー中佐とその部隊に、テンザンは惜しみなく称賛しながら、何時もの様に勝ちにいった。

 

 

 ……………

 

 

 「あー……流石に疲れた…。」

 「ふふ、お疲れ様です。」

 

 ホーカー中佐らとの濃密なシミュレーターを終え、バーニングPTの大会を二日後に控えた事もあり、テンザンは今日明日は早めに切り上げる事にした。

 なお、家政婦のお菊さんは夕飯を作り終えた後、既に帰宅し、テンザン邸には既に二人だけである。

 

 「はい、アイスティーですよー。ミルク入りですけど。」

 「応、ありがとな。」

 

 気を利かせてくれたリョウトに礼を言いつつ、テンザンは何の疑いもなく底にやや沈殿物のあるアイスミルクティーをがぶがぶと飲む。

 シミュレーター後に入浴し、ずっと水分を取っていなかった事もあって、実に美味そうに飲んでいく。

 それが自分の人生の墓場逝きを決める行動になるとは、一切知らず。

 

 「ふー……」

 「良い飲みっぷりですねー。」

 「応。やっぱ疲れてたみたいだわ。今夜は早めに寝るよ。」

 「はい、お休みなさい。」

 

 そう言って、そそくさとテンザンは自室へと引っ込む。

 そんなテンザンを、リョウトは注意深く観察していた。

 そう、例えば立ち上がる時、テンザンが妙に引け腰だったり、ズボンの前が突っ張っていたりした事を。

 

 (もう少ししたら頃合いかな?)

 

 コップを片付け、この後の見繕いの算段を考えながら、リョウトは誰にも見せない様なニンマリとした、それでいて艶っぽく上気した笑みを浮かべた。

 

 

 ……………

 

 

 何故かやたらムラムラしたので自室で自家発電して就寝した後、テンザンは夢を見た。

 小柄な少女を抱いている夢だ。

 何故か相手の顔形がよく分からない。

 が、夢なんだし、そんなもんだろうと納得しておく。

 ただ、自分が感じる感覚に関しては結構リアルな夢だなと思いつつ、夢なんだし色々やってみるかと好奇心と興味の赴くまま、その少女の身体を思うが儘に貪り続けた。

 その少女も最初がぎこちない動きだったが、徐々に積極的になっていき、今では結構な体格差があるにも関わらずこちらに合わせてくる。

 寧ろ、こちらに合わせる形で、自分自身の気持ちの良い動作や体勢を探っている様にも見えた。

 でまぁ、よい夢だったものの、夢とは覚めるのが道理な訳で。

 気づけば、自室のベッドの上で、テンザンは目を覚ました。

 

 「ぁ……?」

 

 何か身体がヤケに怠いし重い。

 それに運動した後の様に汗を始めとした色々と濃い匂いが漂っている。

 はっきり言うと臭い。生臭い。

 そして、右腕が何故か動かないし、やたらと温い。

 

 「…?」

 

 まだ寝ぼけたままの思考で振り向くと、そこにいたのは夢の中で見た少女だった。

 だが、夢の中とは違い、その少女は現実の存在だった。

 そして、とてもとても見覚えのある顔をしていた。

 具体的に言うと、自分の弟分として可愛がっていたリョウトだった。

 だが、その身体は少女のものだった。

 その事実が頭の中で結びつかず、テンザンは暫く硬直していた。

 

 

 

 

 




TSリョウト≒秋山殿(一見着やせだが出るとこは出てる)

なお、起きた時点で既に10時を回っており、第一発見者の菊代さんには知られている模様。


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転生モーさんが逝く 1 前書き追加

某スレ主さんの許可の下、「親バカモルガンとTS転生モーさん(タンク型)」のネタを拝借させて頂きました。


 何かモーさんことモードレッドに転生した。

 しかも、原典の奴じゃなくFateの滅亡直前のブリテンに。

 飯マズで蛮族山盛りで内乱ばっかな円卓と騎士王様が治める国に。

 逃げなきゃ、と思ったとしてもしょうがないと思う。

 でも出来なかった。

 

 何故かって、こっちを満面の笑みで愛おしそうに世話焼いてくれるお母さんことモルガンを残してはいけないとうっかり思っちゃったからだ。

 

 前世では家族に恵まれず、孤独な人生を歩んでた自分だが、二回目なんだから自分を愛してくれる母親に孝行くらいしたかったんだ。

 とは言え、自分に出来る事は少ない。

 何せこの国は千里眼持ちたるマーリンが滅びを「確定」させてしまった国だ。

 故に、滅び以外の未来は無い。

 だからこそ、あの騎士王が何とか穏やかな滅びに軟着陸させようとして、しかし失敗してしまった魔境なのだ。

 まぁ世界そのものがこの国の滅びを求めているのだからしょうがないと言えるのだが。

 

 さて、話を本題に戻すとしよう。

 要は親孝行がしたい、と言う話だ。

 父親、と言うか種元はマーリンの魔術で「生やした」騎士王なのだろうが、母親は間違いなくモルガンこと母さんだ。

 その点は先ず間違いない。

 何せ自分の二回目の記憶は寝室で産婆さんに取り上げられた所から始まっているからだ。

 その時の母の言葉を、「無事に生まれて来てくれてありがとう」と、心から誕生を祝福してくれた事を、自分は決して忘れる事は無いだろう。

 その一事だけで、自分は母に生涯尽くす事が出来る。

 で、父親こと騎士王は自分の存在なんて予言もあって目障りだろうし、特に自分から触れる事はしない。

 が、このままだとブリテン諸共破滅ルート、と言うか痴情の縺れによって他の兄弟達によって殺されるのが確定してる母だけは何とかしたい。

 となると、必要なのは安全かつ確実にブリテンの外へと行ける手段、そしてブリテンの外での拠点の確保の二つだろう。

 これさえ出来れば、母を連れてブリテンから脱出し、そこで暮らす事も出来る。

 問題なのは、余り時間が無いと言う事だろう。

 母ははぐらかしていたが、自分の成長はやけに早い。

 生後一年程で、既に幼児の姿になっている事からも、通常の三倍は早いだろう。

 即ち、普通の人間ではなく、ホムンクルスだろうと言う事だ。

 恐らく、母の子宮をフラスコとして、母の地母神としての血と騎士王の龍種の因子を併せ持った、対騎士王打倒のための兵器。

 それが自分が当初作られた理由だと思われる。

 しかし、今の母にはそんな様子は微塵も見られない。

 

 「はい、モード。あーん。」

 「あーん。」

 

 今だって、もう一人で食べられると分かっているのに、態々自らの手でミルクで伸ばした芋を食べさせているのだから。

 

 「あむ。」

 「そうそう、ゆっくりよく噛んでね?」

 「おいしいです、ははうえ。」

 「ふふ、良かった。」

 

 この母の笑顔を、自分が守らねば(使命感)。

 そんな使命感に突き動かされるまま、自分は食後のお昼寝の後、夕食まで母と共に魔術の勉強をする。

 既に読み書き(英語の発音や文法が面倒だったが)と計算は出来るため、今ではぺーぺーながらも簡単な魔術も使える。

 今はそんなものだが、何とかしてこの優しい母を逃さねば。

 将来的には自分も逃亡予定だが、態々滅亡するブリテンに置いていくつもりは無い。

 

 この時、私はそれがせめてもの親孝行だと信じて止まなかった。

 

 そして、生まれてから5年後。

 肉体年齢がようやっと15歳になった頃、遂にキャメロットへの登城が決まった。

 武術と魔術の修行が終わってパーティーを開いた後、パッと決まったのは流石は妖妃モルガンの手腕と言う事だろうか。

 まぁ騎士王の種違いの姉なので、権力があるのは当然と言えば当然なのだが。

 

 「頑張ってね、モードレッド。辛くなったら何時でも帰ってきてよいからね!?」

 「母上、行って参ります。必ずや母上のご期待に沿えてみせます。」

 「もう、そんな事より無事に帰ってきてね?モードレッドの武勇伝、期待してるから。」

 

 そうして、私は母の居城を後にし、キャメロットへと向かったのだった。

 

 

 

 「あ、そうそう!念のために鎧と兜の方は超頑丈にして再生するようにして、寿命対策に持ち主を常に健康にするようにしたから!」

 「凄いですね!?まるで王の鞘の様だ!」

 「でも、その代り凄く重くて動きが鈍くなるの。」

 「それ、まともに戦えるんですか…?」震え声

 

 後日、生体ゴーレム式の馬を与えられ、騎乗すれば何とか戦場に間に合う様になりました。

 

 

 ……………

 

 

 さて、出だしから躓いたモードレッドだが、キャメロットに着いてからも問題が出た。

 騎士王との謁見を始めてすぐに、騎士達が騒ぎ出したのだ。

 曰く、「王の前で兜を外さないとは無礼だ!」との事。

 だが、それはこの王似の顔を隠す以外にも、理由があったりするのだ(白目)。

 

 「申し訳ありません。この兜、脱げないんです。」

 「は?そんな訳は無かろう!」

 「馬鹿にしているのか!?」

 

 誰にも信じてもらえず、そんな罵声を浴びせられる。

 だが、無理なもんは無理なのだ(白目)。

 マイマザー曰く、「うちの子の顔見てトチ狂う奴がいるかもしれないし…そうだわ、兜で顔を隠してしまいましょう!」。

 結果、不貞隠しの兜は母本人しか外せなくなった。

 代わりに耐久力が大幅UPしたが、それ以上に普段生活し辛くてたまらないのですが(白目)。

 

 「ふーむ、どうやら本当っぽいけど…ガウェイン、ちょっと試してくれないかい?」

 「マーリン、突然何を言い出すのですか。」

 

 唐突に、王の傍に控えていたマーリンがそんな事を言い出し、王に諫められる。

 だが、このド外道半夢魔がそんな事で止まる訳がない。

 

 「そうしないと誰も納得できないだろう?それに、日中のガウェインなら大抵の呪いの道具なんて意に介さないからね。」

 

 日中、正確には午前9時から正午までの3時間と午後3時から日没までの3時間にその力が三倍となるガウェインなら、余程頑丈かつ強固な呪いの道具でない限り、問題なく外せるだろう。

 ただ、勢い余って中身を【自主規制】とか【スイカ割り】、【見せられないよ!】な事にしてしまう可能性もあるにはあるが。

 

 「いだ!?いだだだだだだだだだだ!!」

 「我慢して下さい!これも貴方のためなのです!」

 「捥げる!捥げちゃううううううぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 そして始まった兜割り、もとい外し。

 だが、どれ程頑丈なのか、三倍となっているガウェインの膂力をして兜は外れもしなければ壊れもしない。

 ガウェインもあの手この手で頭から兜を引っこ抜こうとしたり、縁に手を入れて引き裂こうとしたりするのだが……結局、一時間近く粘っても無理だった。

 最終的にはガラティーンでカチ割ろうとしたので、慌てて他の円卓の騎士が止める事となり、以後、モードレッドの兜はしょうがないとしてスルーされる事となった。

 そんなこんな事を挟みつつ、何とか叙勲式は進み、モードレッドはキャメロットの騎士(円卓ではない)の一人として、騎士王の臣下となったのだった。

 

 「王よ。我が忠義、このブリテンと王へ捧げます。」

 「我が騎士モードレッドよ。その忠誠を受けます。証として、この剣を贈りましょう。」

 

 夕日の差し込む謁見の間にて、多くの騎士達が見守る中、新参の騎士へと王が叙勲すると言う厳かな絵画の題材にもなりそうな光景がそこにあった。

 が、内心は大いにかけ離れていた。

 

 (何とか早く出て行って、母さんとフランスやローマ辺りに脱出しないと…。)

 (あのモルガンの子…マーリンは予言の子の可能性もあると言っていたが……この眼で見極めるまでは迂闊に排除できないか…。)

 

 こうして、モードレッドはキャメロットの騎士としての一歩を踏み出したのだった。

 

 

 

 

 

 「頂きます……。」

 

 (何だこのマッシュ&マッシュの山は…塩すら満足にないなんて……。)

 

 なお、目下最大の問題は食事の不味さだったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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転生モーさんが逝く 2

 キャメロットの騎士のお仕事は割と単純である。

 1、領内の治安維持。

 2、戦時での出撃。

 3、災害時の救助活動

 お仕事にすればこれである。

 が、功績や地位に見合った他の役職の兼務や与えられた領地の運営等もあるため、一概に楽とは言えない。

 また、モーさんの場合はまだ入ったばかりと言う事もあり、治安維持のための警邏で顔見せも兼ねてあちこちに盥回しにされる事となる。

 まぁ何時の世も新入りは何がしかの洗礼を受けると言うのは変わらないと言う事だろう。

 とは言え、戦時下である。

 他の地域から流れてきた(とはとても思えない)蛮族達への対応で、そんな穏やかな任務の日々は即座に打ち切られた。

 来る日も来る日も蛮族蛮族蛮族また蛮族。

 突如始まった蛮族の大侵攻。

 終わりのない攻勢は一月近く続き、その結果として兵士達は戦力にならぬ程に疲労困憊となり、騎士達も円卓とそれに類する一部の手練れ以外は軒並みダウンしていた。

 

 「あー怠いー。」

 

 が、モーさんは割と元気だった。

 何せこのモーさん、素の耐久力が日中三倍のガウェインと互角な上、鎧による再生能力を持っている。

 そのため、この様な状況での継戦能力においては、鞘と聖剣を持つ騎士王の次に秀でているのだ。

 だがしかし、素早さに関しては普段のガウェインの半分以下しかない。

 その上、現在は機動性を補佐するための馬型使い魔が想定以上の酷使によって遂に破損し、実家にメンテナンスに出しているため、疲労困憊で後方に下がった騎士達と物資集積所の防衛に当たるしかないのだが。

 

 「しゃーない。馬以外の礼装でも作ってみよ。」

 

 以前から思っていたのだ、馬だと扱いづらい、と。

 こちらは自動車全盛の時代を生きた転生者。

 馬の扱いなんてさっぱりなのだ。

 無論、我が母モルガンの指導の下、そこらの騎士以上に修める事は出来たが、キャメロットの中でもそう上手いと言う訳ではない。

 なので、ここらで自分向けの移動用礼装を作るべきだろう。

 勿論、母上の作ってくれた馬型使い魔に文句はないが、やはり手段は多いに越した事は無い。

 しかも、今回は材料もある。

 蛮族達の血肉と武器の数々だ。

 あの蛮族達はブリテンに飛来するだけあって、神秘の多い土地でしか生きられないらしい。

 そのため、世界の後押しもあって、神秘の最後に残る地であるブリテンへと襲来してくるのだ。

 そんな性質もあって、蛮族達の血肉は下位の幻想種並には素材として優秀だったりする。

 

 「これをこーして……あ、車輪どうしよ。ゴムなんてないし、うーん…。」

 

 ゴムの様な性質を持った素材でないと、衝撃を吸収し切れない。

 無論、バネの様なパーツは作れたので、サスペンションとかは問題ないのだが。

 

 「あ、そうだ。タイヤじゃなくてホバーなら良いんだ。」

 

 そこで発想の転換である。

 タイヤが作れない?

 じゃぁタイヤの要らない乗り物にすれば良いじゃないかHAHAHA!

 

 「よし、構想は完全に出来た。後は作るのみ!」

 

 なお、周囲の兵士や騎士達は気味悪がって遠巻きにしていたりする。

 

 「おや、面白そうな事をしているね?」

 

 そこに、ブリテンの屑オブ屑、昆虫系半夢魔が興味津々な様子で現れた。

 

 

 ……………

 

 

 「ガウェイン!間もなく日没だ!突出するな!」

 「いえ、出来ません!」

 

 騎士王の指示に、しかしガウェインは下がらない。

 否、下がれない。

 

 「ここで私が下がれば不利です!どうかこのままで!」

 

 毎度ながら呆れる程の物量を持つ蛮族に対し、騎士王率いるブリテン勢は聖剣等の対軍・対城宝具の真名解放の後の騎兵突撃により、現状はどうにか数の利が活かし切れない乱戦へと縺れ込ませる事に成功している。

 しかし、既に一ヵ月近い戦いにより騎士も兵士も疲弊し、今では円卓の中からも戦闘不能で後方に下げる者まで出ている。

 辛うじて円卓でも屈指の戦闘能力を持つガウェインやランスロット、ぺレノア王等の活躍により、致命的な士気崩壊こそ起きていないが、このままではもたない。

 特にガウェインの担当する戦域は圧されており、彼が引けばそこを起点に他の戦域も崩壊するだろう。

 

 (後一手、後一手あれば…!)

 

 そう思う騎士王だが、それは出来ない。

 彼女の方も宝具の真名解放が出来ない程に圧されており、不死身を生かして薙ぎ払おうにも近くや射線上の味方を巻き込んでしまう。

 

 「ヒャッハー!!」

 

 そこに、この戦場のダークホースが現れた。

 

 「な、モードレッド卿!?」

 

 奇妙な乗り物、足も車輪もなく、浮遊して移動する絡繰り仕掛けに騎乗して、特徴的な兜を被った騎士が不意を打つ形で蛮族の集団を絡繰りの先頭についた衝角で弾き飛ばしていく。

 

 「ハッハー!蛮族風情がブリテンを荒らしてんじゃねぇぇぇ!!」

 

 更に、魔力放出(雷)を生かして近づく蛮族の戦士達を寄せ付けない。

 また、弓矢や弩、投石器による遠距離攻撃も、頑丈過ぎる鎧によって空しく弾かれていく。

 何とか物量によって圧していた蛮族達もこれには動揺し、急ぎモードレッドを排除しようとする……が、その殆どは先程の二の舞とばかりに轢かれていく。

 そこにこれ以上はさせじと蛮族達の中でも特に大柄な戦士がモードレッドの進路上に躍り出る。

 全身を重厚な筋肉に覆われた戦士は、明らかに他の蛮族とは異なる。

 

 「…面白いッ!」

 

 良い度胸だと言う様に、モードレッドはホバーバイク型礼装に更に魔力を注ぎ込み、限界まで加速を命じた。

 

 「ガアアアアアッ!!」

 ゴガッシャ―ンッ!!

 

 盛大な衝突音と叫び声と共に、蛮族とホバーバイクに乗ったモードレッドが衝突する。

 だが、先程の様な結果とはならなかった。

 ホバーバイクの衝角を両手で受け止め、地面に二本の削られた跡を刻みながら、それでも大柄な蛮族はホバーバイクの突撃に耐えているのだ。

 

 「ツ・カ・マ・エ…!」

 「私が、お前をな。」

 

 だが、両手が塞がり、動きの止まった蛮族に容赦する様な騎士はブリテンにいない。

 バリリと、肩に背負った剣が赤雷を纏う。

 よく見れば、その剣は片側が開いた奇妙な鞘に納められており、鞘自体にも赤雷が奔っている。

 

 「磁装・蒐窮(エンチャント・エンディング)。」

 

 ブリテンでは誰も見た事のない、剣を鞘に納めた状態からの剣技。

 

 「蒐窮開闢(終わりを始める)。」

 

 それに魔力放出と魔術によって再現された電磁誘導。

 

 「終焉執行(死を行う)。」

 

 鞘を銃身に、剣身を弾丸に見立て、再現された電磁誘導によって剣身を加速させ、高速で抜刀する。

 

 「虚無発現(空を現わす)。」

 

 電磁誘導により超音速域に到達する剣身を剣撃と完全に同期させる事で、初めて実現する対人魔剣の一つ。

 その名も…

 

 「電磁抜刀―――禍。」

 

 災いの名を持つ超音速の赤雷を纏う斬撃は、一刀の下に蛮族の戦士を両断した。

 だが、ここでモードレッドの動きは完全に停止、更に周囲へと放出していた赤雷も止まっていた。

 

 「コロセ!コロセェェェ!」

 「ギギギギギ!」

 

 そこに殺到するのは一山幾らもしない蛮族達。

 足の止まった騎兵等、雑兵に狩られる的でしかない。

 だが、そんなものはモードレッドとて承知している。

 

 「緊急脱出!」

 

 その言葉と共に、蛮族の刃が届く寸前、モードレッドはホバーバイクから、直上へと空高く「座席」ごと射出された。

 それを蛮族だけでなく他の騎士達までもが「えええええええええええええ!?!?!?!!」と驚愕の叫びを上げながら見上げる。

 

 「そして自爆!」

 

 次の瞬間、殺到していた蛮族を道連れに、ホバーバイクは盛大に爆発した。

 

 「よっと!」

 

 蛮族達が爆発で盛大に動揺する中、今度はその中心へと着地すると、モードレッドは大きく声を張り上げた。

 

 「我が名はモードレッド!キャメロットの騎士が一人!さぁ我が首を獲らんとする者はいないのか!!」

 

 そして、先程の復讐とばかりに、再度蛮族達が殺到する。

 今度は妙な乗り物も魔術も使ってない。

 小柄な騎士一人、この人数ならどうとでもなる。

 そんな思いと共に、蛮族達はそれぞれの得物を手に取り、兜の騎士へと我先に向かっていき、刃を突き出した。

 だが…

 

 「すまん。効かんわ。」

 

 カキーンと、安っぽい音と共に、蛮族達の持つあらゆる武器は弾かれた。

 モードレッドの鎧兜を合わせた耐久力、ランクにすれば実にA+。

 また、そんな頑丈過ぎる鎧兜を駆動させる筋力もまた、ランクにして同じくA+。

 世界で最も有名な怪物の一つたるミノタウロスもといアステリオスとも正面から殴り合えるステータスである。

 如何に蛮族達と言えど、正面からそれを突破するには余りに酷だった。

 

 「でりゃあああああ!!」

 

 お返しとばかり今度はバッコーン!と冗談の様に一撃で蛮族達が吹き飛ばされ、その陣形が大きく乱された上に、先程までの勢いが急速に萎んでいく。

 その分、敏捷性に関しては「あ(察し)」レベルなのだが、敵の密集地帯ならば何の問題も無い。

 

 「さぁ来い!」

 

 そして、味方の只中にいる特記戦力を前にして、如何に蛮族と言えど動揺は免れない。

 モードレッドに引き寄せられた分、他の戦域の密度は下がり、徐々に戦況が逆転していく。

 これが本来のモードレッドならもっと機動性を生かして遊撃するのだろうが、生憎とこの転生モーさんにそんな常識的なスペックは無い。

 兎に角硬くて強いんだから、取り敢えず殴れるだけ殴ろう。

 なーに多少の負傷や疲れは鎧が癒してくれるさHAHAHAHAHA!

 と言う感じで互いに揉みくちゃになりながら乱戦に次ぐ乱戦を繰り広げたのだ。

 だが、これが結果的に囮の役割と果たし、各戦域は盛り返し、最終的に魔力放出でモードレッドが離脱したと同時に再度対軍・対城宝具の一斉解放による掃討によって、今回の大規模侵攻は終息した。

 この時の戦果により、モードレッドは目出度く円卓の騎士に叙される事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さてモードレッド卿、何故持ち場を離れたのですか?」プチオコ

 「えっと、その…マーリン卿が『此処は僕が担当するから、君は王達の応援に向かうと良い』って…。」

 「……アグラヴェイン、あいつは何処に?」頭痛を堪えつつ

 「つい先程『じゃ、仕事終わったから、僕は花街に行ってくるね☆』と言って消えました。」

 「…………。」怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒

 (こ、怖い。王様が本気で怒ってる…!)

 

 が、それはそれとして、論功行賞の場では、モードレッドの独断専行(と言う名のマーリンのやらかし)はしっかりと釘を刺される事となった。

 

 

 

 



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艦これ短編 赤城が作る2

筆が乗り過ぎてえらい長くなった(汗


 皆さんお久しぶりです。

 開設したばかりの当鎮守府(規模的には警備府)にて料理当番を務めている艦娘の赤城と申します。

 最近は駆逐艦以外の艦種も揃いつつあり、私も漸く空母として任務に出る事が出来ています。

 しかし、前世が人間だった記憶と艦だった頃の記憶を持つ私は、実は艦載機の運用が他の空母・軽空母の運用に比べて下手です。

 辛うじて及第点とは私に稽古をつけてくださった龍驤さんの言です。

 ただ、純粋な弓での砲撃戦では満点だそうです(41cm単装砲相当)。

 この火力を生かして、高火力の戦艦や重巡が揃う前までは結構な数の敵艦を沈めたものです。

 確かに生前は弓道部に所属していましたが、そこまで優秀ではなかったのですが……まぁ、それは今は置いておきましょう。

 

 「では赤城さん、暫くは私と共に訓練をしましょうね。」

 「はい、よろしくお願いします。」

 

 そんな訳で、私は絶賛日本航空母艦の母たる初代航空母艦である鳳翔閣下直々に訓練をして頂ける事になりました(白目)。

 

 「取り敢えず、艦載機の発着艦を1000回行ってください。一度でも失敗すればカウント0からやり直してくださいね。」

 「はい、了解しました!」

 

 鎮守府沖の海上で、矢筒から艦載機へと変化する矢を抜き、射法八節に則って弓矢を引き、構え、放ち、残心する。

 そしてすぐさま次に移るが、決して一射一射を疎かにしない。

 自分が放つ矢の一つ一つには艦載機妖精さん達が、嘗ての英霊達が宿り、力を貸してくれているのだ。

 彼らに顔見せできない様な射をする訳にはいかない。

 それだけを胸に、私は必死になって射を続けました。

 

 「はい、そこまでです。」

 

 訓練を続け、時間の感覚がとっくの昔に消えた頃。

 既に時間は日没寸前でした。

 幸い、鎮守府近海での訓練なのですが、今から急いでも日没は過ぎてしまうでしょう。

 となると、残念ながら食堂の利用時間は過ぎてしまう。

 

 「今日一日で、かなり無駄が削れましたが、まだ粗さがあります。暫くはこの形式で訓練しましょう!」

 「はい!ありがとうございます!」

 

  

 ……………

 

 

 私達二隻が鎮守府に帰投し、補給を済ませた頃にはすっかり日も暮れて20時、食堂の利用時間もとっくに終わっていました。

 今日は他の艦が食堂担当だったから問題ないが、これでは暫く私が担当する事は出来ないでしょう。

 

 「すっかり遅くなってしまいましたね。」

 「すみません、付き合わせてしまって…。お詫びに何か簡単なものでも作りますね。」

 「あら、それでは一緒に作りましょうか。」

 

 と言う事で、鳳翔さんと一緒に台所に立つ事になりました。

 とは言え、時間的にそう凝ったものは作れない。

 精々、残り物を組み合わせた簡単なものしか無理でしょう。

 

 さて、冷蔵庫を覗いてみると、そこには今夜のメニューであったスパゲッティミートソースの残りがありました。

 麺は皆食べ尽くしたのか残っていませんが、これだけでもパンやご飯と合わせれば十分です。

 また、昨夜揚げ物の付け合わせに出された千切りキャベツも少量ですがあります。

 それと、買い出しで処分品が大量にあったために買った食パンも。

 そう言えば、先週雪風が近所の商店街に買い出しに行った際、福引でホットサンドメーカーを当ててましたね。

 丁度良いので、今夜は有り合わせのホットサンドにしましょう。

 

 「出来ました。」

 「はい、こちらも出来ました。」

 

 見れば、鳳翔さんが作ったのは冷蔵庫に残った大根や人参の尻尾、ハムの残り等を細かく刻んでコンソメで煮込んだスープでした。

 うむむ、主婦の技が光る様な一品です。

 冷凍してあった家庭菜園のパセリを散らしてあるのもポイント高いです。

 

 「流石ですね。」

 「ふふ、そう言う赤城さんもホットサンドなんてお洒落ですね。」

 「いえいえ、単に食いしん坊なだけですよ。」

 

 ミートソースと千切りキャベツを二枚のパンで挟み、ホットサンドメーカーで挟んで焼く。

 程好い焼き目が付いたと確認した所で外し、お好みの形で切る。

 この時、パンの耳を切り落としたりする人もいるが、私としては香ばしさと歯応えを楽しむためにもそのままをお勧めします。

 しかも、今はスープだってあるので尚更です。

 

 「結構量が作れましたので、遠慮なく食べてくださいね。」

 「ですね。では…」

 「「頂きます。」」

 

 こうして、私達の遅い夕食の時間は穏やかに……

 

 

 「あー!二人だけ美味しそうなもの食べてるー!」

 「何ー!?あたしらも混ぜろー!」

 

 過ぎていかなかった。

 ツマミを求めて食堂にやってきた足柄と隼鷹と言うこの鎮守府の二大飲兵衛に発見されてしまい、私達の穏やかな夕食は一転、飲兵衛二人の宴会に巻き込まれる事になってしまったのでした。

 

 

 ……………

 

 

 さて、あの鳳翔さんの訓練開始から一ヵ月。

 本日は珍しく食堂担当です。

 そして、今日は金曜日です。

 即ち……カレーの日です!!

 海軍カレーと言われる多くの名作のカレー達が存在しますが……生憎と本鎮守府の台所事情的に、カレー粉及び各種スパイスから作ると大赤字になるので、市販の安売りしていたカレールーを使用したいと思います。

 とは言え、手間を惜しむつもりはありません。

 先ず、業務用スーパーで購入した豚のすね肉20㎏をぶつ切りにし、塩胡椒と牛乳で揉んで寝かせておきます。

 その後、定番とも言える人参、玉葱、ジャガイモを小口大の二倍以上のサイズで切り、ジャガイモは水に浸しておきます。

 更にここで季節の野菜なんかも加えたら、季節感も出て来てとても良いのでしょうが、今回は久々のカレーと言う事で、敢えてオーソドックスにしたいと思います。

 この時、玉葱のみは三分の一程別にし、一個当たり16等分を目安に切り、別に取っておきます。

 そして、小さく切った玉葱以外の材料を圧力鍋に入れ、水がヒタヒタよりもやや少ない位(7割程度)まで入れ、此処にコンソメ一個とケチャップ大匙1、月桂樹の葉(ベイリーフ)3枚を加えて煮込みます。

 この時、辛さを出したいなら、通常の洋風の香辛料ではなく、敢えて七味を入れてみると良いでしょう。

 通常の香辛料だと、煮込むと辛さや香りが散る事もありますが、圧力鍋で七味や一味等を煮込むと辛さがより引き出されます。

 また、ものが和風のものなので、ご飯にもよく合います。

 香りを出したかったら七味、辛みを出したかったら一味がお勧めです。

 今回は余り辛くてもいけないので、七味を少量のみ入れます。

 煮込む時間は凡そ一時間半、それで豚すね肉を含めた全ての食材がトロトロになります。

 圧力鍋は余程使い方を間違えない限り、焦がす事も無いので、煮込み料理にはお勧めです。

 但し、注意書きをよく読む必要があります。

 加熱して圧力を逃さない状態で無理矢理開けると、圧力が一気に解放されて爆発して大火傷を負う危険性が高いからです。

 おっと、話が逸れてしまいましたが、煮込んでいる間に付け合わせのサラダや福神漬け等を用意しておくと、時間の無駄になりませんよ。

 

 さて、トロトロになった鍋の中では玉葱はほぼ水分となり、具がヒタヒタになる程に水分が増えています。

 此処に残った玉葱を加える事で、溶け切った玉葱と形の残った玉葱両方を味わう事が出来る訳です。

 ある程度追加した玉葱に火が通った事を確認したら、ルーを投入します。

 家庭用の鍋なら一箱か一箱半あれば大丈夫です。

 業務用のものだと一箱当たりの量が多いので、量等もよく読んでから使いましょう。

 最近ではたくさんのカレールーがありますので、好みのものを複数掛け合わせるのもありです。

 個人的なお勧めはゴール〇ンカレーとバーモン〇カレーですが、この二つは高いので、それら一箱に無印良品のルーを半箱加えるのが大抵の私のレシピですね。

 さて、弱火でしっかりルーを溶かしつつ、火が通ったのを確認したら必ず味見です。

 これは作る側の特権にして最終確認ですので、決して欠かす事の出来ない工程です(断言)。

 

 「うーん…少し辛いかもしれませんね。」

 

 いえ、私には丁度良い位なのですが、当鎮守府は駆逐艦の子達が大半なので、極端に辛いものや苦いものはダメなのです。

 なので、こういう場合はミルクチョコやココア、ジャムに蜂蜜、すりおろし林檎等を加えて甘味とまろやかさを出すのですが、私はちょっと変わったものを使います。

 

 「じゃーん、練乳です。」

 

 意外に思うかもしれませんが、チョコよりも液状の分混ざりやすいし、甘味とまろやかさも上で使い易かったするのでお勧めです。

 カレー八皿分に大匙位が適量らしいのですが…子供舌の多い我が鎮守府です。

 駆逐艦以外の人達のために半分程を別の鍋に取り分けてから、残った分に容赦なく練乳を投下していきます。

 大匙とかそんなめんど…げふんげふん!駆逐艦の子達のためにも、チューブを握り、割とドバドバと入れます。

 そしてお玉で混ぜて味見をして…よし、辛みは消えました。

 

 「さぁ、赤城特製甘口&中辛カレーの完成です!」

 

 なお、お米は玄米と七分搗き白米を五対五で、水を8割程度で炊いたものがお勧めです。

 

 

 ……………

 

 

 提督が事務仕事を終えて食堂に顔を出したのは、午後7時前の事だった。

 この時間帯、食堂は最も混むため、大抵はもう少し後に来るように心がけているのだが……どうしても今日は早く来たい理由があった。

 そう、今日は金曜日。

 即ち、海軍(正確には日本国国防軍海上防衛隊対深海棲艦対策本部付実働部隊)所属である当鎮守府でも、今日はカレーの日なのだ。

 昼間は仕事が山積みでおにぎりで済ませたが、食堂から漂うカレーの匂いは常に提督の胃袋と脳髄を刺激して止まなかった。

 そう、提督は大のカレー好きだった。

 酒も煙草も博打も女もやらない提督だが、カレーだけは絶対に止められないのが彼だった。

 

 (これ、絶対美味い香りだ…!)

 

 食堂に一歩近づく度に強くなる芳醇な香りに、そう言えば今日は赤城が担当だったと思い出す。

 余所の鎮守府と違い、腹ペコ勢ではなく、飯ウマ勢なうちの赤城には何時だって感謝している。

 彼女のカレーもそう言えばここ一ヵ月は食べていなかった事も思い出し、更に腹が減っていく。

 そして、食堂に近づくと、不意に違和感に気付いた。

 食堂が随分と静かなのだ。

 はて、比叡や磯風が飯テロでも起こしたか、にしては異臭はしないなと疑問符を上げながら、食堂に入り……先程の疑問が解消した。

 皆、一心不乱に食べていたのだ。

 大皿に盛りつけられたカレーを。

 駆逐艦も、軽巡も、軽空母も、重巡も、重雷装巡も、戦艦も、潜水艦も。

 たった二人の例外を除いて、皆が一心不乱にカレーを食べて…否、貪っていた。

 

 「お冷です。」

 

 フラフラと空席に付くと、空かさずお冷が出た。

 出したのは割烹着を纏った鳳翔。

 相変わらず、女将とかお母さんとかつい呼びたくなる雰囲気が漂っている。

 

 「辛口と甘口、並と大、付け合わせにサラダがあります。」

 「両方、並で。」

 

 メニューは一つ、カレーしかない。

 そして、甘口と辛口、どっちも食べる。

 片方を食い逃すなんて出来ない。

 

 「はい、では少々お待ちください。」

 

 下がった鳳翔さんを待つ間、周囲を観察すると、色々な食べ方をしているのが分かる。

 駆逐艦達の多くが甘口と思われるカレーを美味しそうにパクついているのに対し、一部は辛い辛い言いつつもそれを楽しみながら間にサラダや麦茶、水や牛乳なんかを多めに取りながら食べている。

 重巡や軽巡なんかは様々で、辛さもまちまちだ。

 那珂ちゃんはサラダと交互に食べているが、神通はお手本の様に行儀よく、川内は生卵を落して黄身と白身を別々にカレーとご飯と絡めて食べてたりする。

 重巡や軽空母の一部は辛口のカレーと辛口の焼酎なんかで一杯やっている。

 戦艦勢は…パーティー用の大皿に好みのカレーとご飯、更に福神漬けを盛ってガツガツ食っている。

 

 「お待たせしました。甘口と辛口の並です。」

 「おぉ…!」

 

 出された二皿の並盛のカレー。

 片方は焦げ茶に近く、もう片方はやや白みがかっている。

 これは確かに以前にも食べた事のある赤城のカレーだった。

 その時は甘口のみだったが、やはり辛口のもあったのだ。

 

 (いざ…。)

 

 最初は敢えて白みがかった甘口の方だ。

 ぱくりとご飯と共に口にすると、濃厚な豚と野菜の旨味、スパイスの香り、乳製品特有のまろやかさと優しい甘さが口いっぱいに広がる。

 噛むと煮崩れ寸前の野菜が口の中で簡単に崩れ、やや固めのご飯とよく絡む。

 よく噛んで飲み込み、更にもう一口食べると、今度はゴロっとした豚肉に遭遇する。

 

 (柔らかい…!)

 

 しかし、その肉塊は先程の野菜以上に柔らかく、舌に乗せただけでホロホロと崩れていき、ルーと共にご飯と絡み合い、脂の甘味を感じさせる。

 付け合わせのサラダ(レタスに胡瓜、トマトだけのシンプルなもの)を食べて舌を一旦リセットする。

 ドレッシングはお好みだが、カレーと言うこれ以上ない程のドレッシングがあるので、敢えて何もかけないのもありだ。

 そして、今度は辛口のカレーを食べてみる。

 

 (お、意外と辛くない…?)

 

 具材自体は甘口の方と大差ない。

 精々が中辛位かと思っていたら…

 

 (ん!後味が辛いな!)

 

 タバスコや辛子、ワサビ等の様に口に入れた瞬間に来る辛みと違って、後味が辛い。

 だが、何処か馴染みのある辛さであり、駆逐艦達と違って大人の味覚を持つ提督には程好い程度の辛さだ。

 

 (まろやかさや甘味は少ないが、これも良いな。)

 

 そこからはもう夢中だった。

 辛口辛口甘口辛口甘口甘口辛口辛口辛口甘口辛口辛口…。

 時折舌が疲れたらサラダか麦茶を挟みつつ、次々とカレーをスプーンで運ぶ。

 辛さと熱さで沸々と汗が噴き出てくるが、それすらも快感だ。

 あぁ、オレは今カレーを食ってる!

 スパイスの香り、肉と野菜の旨味、甘口の優しさ、辛口の厳しさ。

 それらが渾然一体となって、自分の味蕾を刺激して止まない。

 そうだ、これだ、これが欲しかったのだ!

 気づけば皿の中身は空となっており、僅かにサラダが残るばかりだった。

 だが、足りない。

 全然足りない!

 カレーの虜となった自分に、この程度のカレーでは物足りない!

 

 「お代わり!」

 「はい、さっきと一緒で良いですか?」

 「お願いします!」

 

 こうしてまた一人、無言でカレーを食す者が食堂に増えたのだった。

 

 

 

 

 

 翌朝

 

 「炊き立てのご飯で溶かしながら食べる二日目の冷えたカレー……これに勝る贅沢はそうそうありませんね。」

 「赤城さん!オレにもそのカレー下さい!」

 「ごめんなさい、これ最後の一杯なんですよ。」

 

 後日、提督以下有志の嘆願により、二日目のカレーが別口で用意される事となった。

 

 

 

 




あぁカレーが食べたい…美味しいカレーが…
→よろしい、ならば己で作ろう。
→現在の作者(毎週必ずカレー作成)

皆も手作りカレーを作ってみよう!
なお、作り過ぎて家族に怒られても、当方は一切の責任を負いかねます。


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転生モーさんが逝く3

ふぅ…やはりストレスをぶつけるにはSS書くのに限る


 先の大侵攻の論功行賞の結果、モードレッド卿は円卓の騎士に加えられた上、領土を与えられた。

 モードレッド個人としては円卓に加えられた事もあり、母に胸を張って報告できると思っていたのだが…与えられた領地が予想以上に問題だった。

 何とその領土、以前の蛮族の侵攻によりペンペン草も生えない状態にまで荒廃していたのだ。

 無論、領民も全滅か逃散して0である。

 そして、本来なら与えられる部下も多くの者が拒否したため、騎士(知識を持った軍人・貴族階級)は0と言う目も当てられない状態だった。

 辛うじてモードレッド個人に助けられたり、他に行き場のない兵士達なんかが一緒に来る事になったが、早くも領地経営には暗雲がかかっていた。

 

 「よろしい。ならば私に任せなさい。」

 

 その情報を聞くや否や、半ば以上キレたモルガンが本気を出した。

 具体的には、彼女に仕える従者や家来たちの中から魔術も使える人材を選出し、モルガンの与えた礼装や魔術により、限定的なものだが領地の緑化に成功し、大麦やライ麦、蕎麦と言った荒廃に強い救荒作物の栽培に成功したのだ。

 流石はブリテン古来よりの地母神の系譜にして優れた魔術師である。

 そして、ある程度生育環境を整えたのならば、後はマンパワーである。

 幸いにも、元は単なる農民だった兵士達なので農作業には慣れている。

 また、土が肥えて常識的に生育する作物があるのなら、実らない道理はない。

 こうして、長期的に見て、何とか領地だけでも喰っていける土壌は出来たのだった。

 とは言え、短期的にはやはり慢性的な食料不足のブリテンで、更に酷い場所だけあって、木の根すらない。

 

 「よし、何か見つけてくるか。」

 

 こういうや否や、モードレッドは三日ほど姿を消し、周囲を大変に慌てさせた。

 そして、戻って早々に母モルガンの下に赴き、彼女を仰天させる事となる。

 

 「貴方…これで何処で見つけてきたの!?」

 「いや、世界の裏側って少し捲れば行けるって聞いたから…。」

 

 どんな確率か、或は神代最後の地である影響か、モードレッドは食料探しに世界の裏側、幻想種の住まう神代へと行っていたらしい。

 その時に見聞きしたものはモルガンのみが知り、口外を禁止されたため、誰も知る事は無いが、それ以後モードレッドは三日に一度程度の割合で姿を消し、狩ってきた巨大な鹿や見た事の無い馬とも象とも付かない獣等の肉を兵達やモルガンが派遣してきた従者達と共に分け合い、作物が収穫されるまでの間の飢えを満たす事に成功した。

 さて、何とか軌道に乗った領地経営の他にも、地方領主となったモードレッドの仕事はある。

 だが、書類関係に関してはそもそも本人が苦手だし、余所と交易できる様な生産物もまだ無いし、観光地とかも無いので、内政関係の仕事はほぼ無い。

 故に、仕事は食料関係の他には領地防衛及びキャメロット関係しかない。

 とは言え、今は小規模な蛮族の襲撃が時折ある程度の小康状態なので、キャメロットへの直々の呼び出しは少ない。

 まぁモードレッド本人も用も無いのにキャメロットに長居する質でもなければ、態々自分を嫌っている他の騎士達の所にいるつもりも無いので、呼ばれない限りは外様らしく領地にいるのだが。

 それは兎も角として、モードレッドの主な仕事は領地防衛&治安維持である。 

 しかし、蛮族一人は通常の兵士五人分の戦力を持ち、小規模でも100を余裕で超えている上、村々を襲う場合は根こそぎ殺して奪うので、見つけたら絶対に殺す必要がある。

 お前らもう少しローマに集りにいった騎馬民族を見習えと言いたいが、それはさて置き。

 問題なのは兵達の機動性である。

 度々騎士王が軍を動員する度に食料を徴発して干上がらせたり、襲われている村を見捨てたりとしているが、そんな事が必要な程にブリテンは貧しいし、軍を動かすには時間と費用がかかるのだ。

 この問題はモードレッドにも当然圧し掛かるのだが…

 

 「よし。なら兵達を早く動けるようにしよう。」

 

 お綺麗な騎士王とは違うのだよ!(モルガン並感)

 と言う訳で、以前自分がでっち上げた魔術式ホバーバイク礼装を再設計、母の最終チェックを経た後に、遂にそれの量産化に着手した。

 何せ材料は戦場跡を探せば幾らでも転がっているし、次から次へと新しいのがやってくるのだ。

 材料の供給と言う点では、これ以上無い程に恵まれていた。

 そして、一台完成する毎に兵士達に運転方法を教えていく。

 最初はおっかなびっくりだったものの、取り敢えず寝起きしている領主の館兼宿舎(放棄された砦の改装品。防衛拠点としては及第点)から畑へと移動するのに随分楽かつ荷物も積めると分かると、使い出す者が増えていき、次々と運転方法を覚える者が出始めた。

 兵達全員に行き渡る頃には既に皆運転を覚えており、農作業から戦場への出撃、そして戦闘においても積極的に使用されるようになっていた。

 何せタイヤ式と違って地面の凹凸に影響されず、常にスムーズな乗り心地が約束され、かつ馬力も大気に漂う神秘=真エーテル及び乗り手の魔力を使用しているため、馬と違って飼い葉要らずで一度乗り方を覚えれば簡単だ。

 更に言えば、タイヤの様な摩耗しやすいパーツも使っていないため、整備は基本的に普通の乗用車並みにメンテフリーだったりする。

 流石蛮族(の鎧兜)製、ものが違うぜ!

 そんなこんなで、割とモードレッドの領地経営は上手くいっていたのだった。

 

 「ふむ、やはり早いな。此処は一つ、手を打ってみるか。」

 

 だが、好事魔多し。

 その様子を、花の魔術師は千里眼で仔細に渡り視ていた。

 ブリテンの繁栄、キャメロットに集った栄光の騎士王と騎士達。

 人類史と言う名のキャンバスに描かれた美しい模様をより長く見るためにも、マーリンとしてはそれを終わらせる定めにあるモードレッドとモルガン、そしてランスロットは邪魔者でしかない。

 無論、彼彼女らにも人理における役割と言うものがあるので簡単に排除したりはしないが、代わりの役目を持つモノが見つかれば、あっさりとそれは覆るし、余りにオイタが過ぎれば相応の対処をする事となる。

 そして、今回モードレッド達が行った事は、彼に多少の行動をさせるには十分だった。

 決して排除する訳ではない。

 国外、故国であるフランスに領地を持つランスロットを除き、普通の領地よりも栄えているから、相応に増税しようと王に進言するだけだ。

 だが、軽くない負担を経営の始まったばかりの領地に早々に課すと言う事は、含むものがあると思われてもおかしくはない。

 別にそれで良い。

 その程度の事で早々に馬脚を現わす程度なら、その時が来るまで上手く遣り過ごせるだろうと言う考えもあった。

 しかし、千里眼保持者であっても、時にはポカを冒す。

 具体的に言うと、マーリンは進言をした後、モードレッドらの様子を見る事を怠った。

 例え最高峰の千里眼保持者と言えど、否、だからこそ能力のオンオフが効く。

 故に、見る事を怠った場合のリスクは大きい。

 千里眼による確定を止めた、人類史上の不確定な領域。

 無論、他の千里眼保持者が視てしまえば確定するのだが、幸か不幸、この時のみ、他の千里眼保持者達も偶然視線を他に向けていたのだ。

 そのため、事の次第を知ったマーリンは久々に本気で驚く事となる。

 

 モードレッドの領地にいる兵士達、彼らがブリテンを襲う蛮族を超えた蛮族、即ちスーパー蛮族に成長した事を。

 

 

 ……………

 

 

 時は少し巻き戻って未だ領地が食料難の頃、モードレッドは書物を紐解いたりしながら、何とか食料を工面できないか悩んでいた。

 が、お綺麗な騎士王様が鞘が無ければ確実にストレスで心を病んだり禿げたりしそうな程悩んでも解決できない問題を、転生者とは言えモードレッドが一朝一夕で解決できる訳が無い。

 

 「となると、やっぱ他から持ってくるしかないよなぁ。」

 

 現状、ブリテンの民が辛うじて餓死していないのはランスロット卿の領地から食料を輸入しているからだ。

 ローマ?内乱&内紛&内輪もめの果てに分裂して、それでもなお揉めてて使えないので、元植民地である筈のブリテンから逆侵攻受ける程度には弱体化しているので食料の輸入先としては敵国でもあるので無理だったりする。

 まぁそれでも流石はローマと言うべきか、この時代にしては驚く程の秩序を保っているのだが。

 だが、それも所詮は小康状態と言うだけで、それはブリテンも同様だ。

 遠からず、破滅の時は来るだろう。

 

 「そーいえば、ブリテンが滅ぶのはここが神代最後の地だからだっけ。」

 

 世界から神秘が急速に失われ、単なる物理法則の方が幅を利かせるようになる。

 今はその過渡期、その終わりの頃に当たる。

 これは星そのものの新陳代謝の様なもので、ブリテン島は最後に残った日焼けの皮みたいなものだ。

 それを無理矢理聖槍ロンゴミニアドで縫い止めている様なもので、多少時を稼いだ所で滅びる定めは覆す事は出来ない。

 それこそ世界を滅ぼすつもりでやらなければ、ブリテンは滅び去るだろう。

 

 「ま、そんな真似しないけどな。」

 

 正直、興味が無い。

 万物は何れ滅びる。

 故にこそ生死を尊ぶ事が出来るし、永遠に生きた所で待つのは魂の腐敗であり、そうなる前にスパッと終わらせたい。

 転生者故にモードレッドの死生観はさっぱりとしたものだった。

 

 「あれ?そう言えば、聖槍で隔てた向こう側って、幻想種とかが沢山いるんだよな?」

 

 具体的に言うと、神秘の満ちる幻想側の世界は要はウルクの様なものだと考えれば良い。

 神々やそれに勝る魔獣等が跳梁跋扈し、人々を頻繁に脅かし、安心して暮らす事もままならない。

 そこまでのものではないにしろ、それでも人類よりも遥かに強大な幻想種が多数、普通の動物の様に生息しているのだ。

 具体的には、真正の竜種と言われる(には成り立ちから疑問符が付く)ファヴニール級の竜種がちょっと人里離れた森で探せば見つかる程度と言えばどれ程狂ってるか分かるだろうか?

 近い世界があるとすれば、それこそモン〇ンみたいな世界しかない。

 で、この幻想側の世界だが、通常の物理法則世界からテクスチャ(表面の模様等)を一枚剥がせばすぐそこに存在すると言う。

 即ち、間違いなくブリテンよりも肥沃な自然環境が割とすぐ傍にあると言う事になる。

 

 「よし、行ってみよう。」

 

 運が良ければ、何がしかの食糧が見つかるだろう。

 危険性とかもっとよく考えろと言いたいが、決意してからの行動は早かった。

 フル装備に身を固め、母の寄越してくれた従者たちに一声かけてから、人目の付かない場所で煩雑かつ制御の難しい空間干渉系の魔術で色々と試行錯誤していく。

 はっきり言って徒労となる可能性の方が大きいが、何もしないよりはマシだろう。

 そんな考えで色々弄り回していた時の事だった。

 

 「あ、やべ、ミスった。」

 

 ついうっかり。

 本当に初歩的かつ些細なミス。

 だが、この時代のブリテン島と言う神秘的に不安定な環境で空間干渉系魔術の失敗は、極めて危険だった。

 

 「う、わ!?」

 

 パタンと、まるで空間が隠し扉の様にひっくり返り、モードレッドを向こう側へと引きずり込んだのだ。

 これがモードレッドが三日もの間、誰にも気づかれずに行方を眩ませる事の出来た真相だった。

 こうして、偶発的に幻想世界へと渡る術を見つけたモードレッドは三日に一度程度の割合で、食糧確保のために渡航もとい渡界するようになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うわぁ、でっかいドラゴンなりぃ…。」

 「Grrrrr……!」

 

 初遭遇した現地生物は大型の竜種だった模様。

 

 「ドラゴンの肉、獲ったどー!」

 

 そして、初狩りした現地生物もその竜種でした。

 なお、竜種の血を浴びた上にその肉を喰らったためか、原典よりもやや低かった魔力がスキル:竜の心臓により劇的に上昇する結果となった。

 

 

 

 



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転生モーさんが逝く4

 何とか栽培に成功した穀物類の全てを増税によってキャメロットへと納める事となったモードレッド以下兵士達だが…当然と言えば当然だが激怒した。

 兵士達の中には、元々騎士王の政策でそれしか手が無いとは言え、故郷である村や町を切り捨てられた者、或は徴発による飢饉で全滅した者が多くいた事もあり、この行動に本気で怒りを燃やしていた。

 それと同じ位モルガンもまた妖艶な笑みを浮かべてマジギレしており、キャメロットを騒乱に陥らせる様な騒ぎの種を早速ばら撒いていた。

 そして、我らがモーさんはと言うと…

 

 「まー、当然だよな。」

 

 騎士王達からすれば、モルガンと仲の深すぎるモードレッドとその麾下の兵士達(殆どは身寄りの無い者か騎士王に恨みを持つ者)が一致団結し、ブリテンに勢力を築くとか面倒くさ過ぎる展開はごめんなのだ。

 何とかヴォーティガーンを討ってブリテン島を統一し、喧嘩を売ってくるローマを殴り、襲い来る蛮族に手を焼きながら対処しているのが今のブリテンだ。

 更に慢性的な飢饉、滅亡の確定された未来、終わりの見えない戦乱と、亡国フラグが林立している状況で、それがもう一つ増える様な事はあってはならない。

 そんな事せずに普通にコミュして厚遇でもすれば芽は潰えるのだが、そんな余裕は騎士王とその義兄、後マスター・アグラヴェインには無く、唯一それを出来る余裕と視点を持つ半夢魔はやる気が無い。

 そもそも食料が慢性的に不足しているので、ある所から持っていくのは当然と言えば当然なのだが。

 と言う訳で、モードレッド個人としてはそこまで恨みは無いものの、それでも立場上良い顔が出来ないのだった。

 

 「ま、食糧はまた取ってくれば良いし、うじうじしないで頑張ろう!」

 「「「「「うーすっ!!」」」」」

 

 穀物が無ければ肉を食べれば良いじゃない。

 そんな感じで、今まで三日置きだった世界の裏側での狩猟を、モードレッドは二日に一回に増やした。

 また、一度当たりに獲ってくる獲物の量も多くなり、少々だが他の素材(Not食料)等も入手し、モルガンを始めとした魔術師らを狂喜させた。

 

 「もーこの子ったら!これ以上私の好感度を稼いでどうするつもりなのかしら!」

 

 流石うちの子は違うわね!と大喜びしているが、他の子供達は眼中にない辺り、この人も大概である。

 さて、モードレッド自身はと言うと……何か妙な事になっていた。

 ファヴニールを討伐したジークフリートは悪竜の血を浴びた事により身体が鋼鉄よりも硬くなり、更に鳥や獣の言語を理解できるようになったと言う。

 では、元々龍種の因子を持ったホムンクルスたるモードレッドが竜種を殺し、その血を浴び、血肉を喰らった場合、どうなるのだろうか?

 結果として、モードレッドは大幅に強化された。

 鎧と合わせての防御力はジークフリート同様になり、生身であっても今までの鎧と同等。そして、あらゆる鳥獣の言葉を理解できるようになった。

 そして、今までは機能していなかった竜の心臓が稼働を開始、騎士王よりも劣っていた魔力面の不備が此処に来て同格になったのだ。

 だが、それはあくまで最初の一頭の結果に過ぎない。

 モードレッドは二日置きに世界の裏側でのリアルモンハン的狩猟を行う際、必ずドラゴンを狩り、その血肉をその場で焼いて喰らい、その血肉の匂いで集まった他の幻想種を狩って持ち帰っていた。

 即ち、ほぼ毎回一頭の竜種、それも最も栄養価と魔力が籠った内臓を好んで食べていた。

 と言うのも、臓物は狩人だけが食べられる栄養豊富かつ傷みやすい部位である事を知っていたので、母や部下達の分を多くするためにも、内臓のみを多く食べていたのだが。

 毎回粗塩と香草を振り掛け、ウェルダンになるまで焚火で焼く頃には、程好く他の獲物がやってくるので、時間の有効活用でもあったりする。

 で、そんなしょっちゅう竜種の肉を喰うとか魔術師なら卒倒する様な事をしていたモードレッドだが……

 

 何故か肉体が急成長していた。

 

 年の頃、十代半ばか、下手すると前半に見られていた身体(それでも実年齢よりも上)が、なんと十代後半程度にまで成長していったのだ。

 なお、バストサイズもアップしたが、母モルガンの様な豊満なそれではなく、並サイズの美乳だった。

 ホムンクルス故に早熟=短命であるとは言え、流石にこの成長スピードはおかしいと思ったモードレッドは、急遽モルガンの邸宅に戻り、診察してもらった。

 結果、体内で竜の因子が急激に活性化したため、肉体が全盛期目掛けて急成長したとの事だった。

 これは、モードレッドが竜種を食べ過ぎたことによる因子の活性化、そして肉体の神代への適応によるものだった。

 ブリテン人は消えゆく神代最後の地に住まうだけあって、真エーテルに対して高い耐性を持つが、それは正真正銘の神代の人間のものに比べれば低い位だ。

 故に、普通のブリテンの民が世界の裏側にいった場合、そのまま適応できずに衰弱死するだろう。

 現代人?普通の魚が深海で生きられるとでも?

 しかし、竜の因子を持つ騎士王やモードレッドは例外としてそのまま生活できる。

 だが、それはあくまで生活できると言う範囲で、決して竜種の肉を常食するなんて非常識な真似をしてもOKと言う訳ではない。

 そんな無茶振りにモードレッドの肉体、正確には大量に蓄えられた竜の因子は応えてみせたのだ。

 この成長により単純なスペックの向上のみならず、神秘的な面においても貯蓄量が大幅に上がり、より竜種に近づいたと言える。

 

 「わぁ、母上に似てきましたね!」

 「えぇえぇ、本当に私に似て可愛らしいわ!これならどんな男でも振り向くわよ!あ、でもキャメロットにはロクデナシばっかりだからダメね。」

 「そうだ、母上。鎧や服を新調しないと。もうサイズが合わなくて…。」

 「服の方は仕立て屋に任せるとして…鎧の方はもう一から作っちゃいましょうか?」

 

 モードレッドの鎧、持ち主の傷を癒す超頑丈かつ重量も凄まじいこの一品は元々前の体格のモードレッドに合わせたもの。

 現在の手足がスラリと延びた活発さを感じさせる美少女となったモードレッドにはどうやってもサイズが合わなかった。

 

 「母上、この図面見てくれます?」

 「あら、これは……へぇ……新造するんじゃなくて作り直すのね?」

 「今の鎧は竜の血を何度も浴びて頑丈になってますから、放置するのも勿体ないじゃないですか。だから打ち延ばして主装甲部分に使って、他の部位はもっと軽めの鱗状装甲にしようと思うんです。」

 「ちなみに素材は?」

 「竜の鱗!他諸々です!」

 (世の魔術師が見たら発狂するわね…。)

 

 モードレッドの鎧、それは持ち主同様幾度も龍種の血を浴び、対竜特防とも言える特性を獲得していた。

 また、モルガンが施していた癒しの力も強化され、鞘程の出鱈目ぶりではないとは言え、鎧の一部を持っているだけで傷が癒え、更に鎧そのものにも弱いながらも自己修復機能を獲得していた。

 

 「あ、剣は新調しましょう。ほぼ毎日使い捨ててますし。」

 

 最初に使っていた騎士王から叙勲式で授けられた騎士剣は、基本的に使わずに執務室で飾られている。

 今現在使っているのは蛮族の使用するそれをある程度鍛え直しただけのもので、モードレッドの膂力で龍種を始めとした幻想種の肉へと振られると、一時間もせぬ内に折れてしまうのだ。

 そのため、聖剣クラスとは言わないが、頑丈な武器が欲しかった。

 

 「そちらの方は私が考えておくから、今は鎧に専念しましょうか。」

 「はい、母上にお任せします!」

 

 そして、鎧の再設計へと入った。

 正確な採寸と図面を作成した後、今までの鎧を打ち直して各パーツへと成形、更に合間に入れる鱗状装甲や内当て等の作成に入っていく。

 

 「…やっぱり角は嫌?」

 「頭重いからやです。」

 「そう…。」

 「だから軽くて頑丈なのにしましょう。」

 「!」

 

 「うーん…私の身体が丈夫過ぎて、鎧の意味があんまり無い…。」

 「モードレッド、逆に考えるのよ。防具以外の用途を加えれば良いって。」

 「!」

 

 「これ、劣化品でも良いからある程度量産できませんかね?」

 「部下達に配るの?」

 「えぇ、行く行くは世界の裏側に皆で行けるようになったら良いなと思うんですよ。向こうに逃げ込めば誰も追って来れないし。」

 「!」

 

 こうしてMAD過ぎる母子の魔改造により、唯でさえオーバースペック気味だった鎧は新たにものごっつい宝具として生まれ変わった。

 

 「完成です!これは後の時代にまで語り継がれる事間違いなしです!」

 「えぇえぇ!これならのあのキャメロットのロクデナシ共も驚くでしょうね!」

 「ふふふふふふ!領地に戻ったらこれで早速蛮族退治&神代ハンティングです!」

 「貴方が嬉しそうで良かったわ…でも…。」

 「はい?」

 「先ずは寝ましょう…。」

 「はい…。」

 

 さて、MADな母子の手によって生まれ変わった鎧、その名も「竜達の骸鎧(アーマー・オブ・ダイナソー)」は……はっきり言っておかしかった。

 サイズこそ変わっているが、全身を以前と同じく白銀の地金を持つ装甲で覆い、そこに主の再生や自己修復の付与魔術をかけられているのは同じだ。

 オリックスの様な捩じれた細い角が額の辺りから正面に向けて生えているのが正面から見た際の一番の違いだろう。

 背面から見ると、そこには妙な箱型のユニットが付いており、それから横に伸びる様にマントの様な板状の装甲が延びている。

 また、一見分かり難いが、スカート状のサイドアーマーの内側には背面のユニットを小型化したものが内蔵されている。

 この時点で分かる人もいるだろうが、敢えて説明すると……この鎧、鎧?は飛べるのだ。

 元はホバーバイク(材料:蛮族)の機能を持たせようとしたのだが、「それよりも飛びましょう。そっちの方が早いから。」と言うモードレットの我が儘により、ホバー機能を発展させた魔力式ジェット噴射機構(大気中・使用者の魔力・真エーテルを吸収した後に術式を通して推進力へと変換)の実用化、そして安定翼及び予備の小型エンジンの搭載により、今まで魔力放出で無理矢理カッ飛んでいたのに対し、遥かに効率的な高機動化に成功したのだった。

 また、出力の調整により、地表付近をホバー飛行する事も出来る。

 無論、再生や自己修復等の鎧そのものの今までの機能も損なっていない。

 だが、最大の問題が一つある。

 

 「母上…。」

 「何?」

 「兜、私の意思で外したりは…。」

 「ダメよ。悪い虫が付くわ。」

 

 この後、無茶苦茶説得して、何とか許可を捥ぎ取ったモードレッドだった。

 

 

 ……………

 

 

 さて、モードレッドがモルガンの下で装備の更新を行っていた頃、領地では兵士達がホバーバイクと共に額に汗しながら土を耕し、蛮族を狩っていた。

 彼らにとっては最早ルーチンワークの日常だが、それでも飢える事の無い日々を約束されている点に関しては、ブリテンの他の地域よりは遥かにマシだし、治安も(犯罪者がいないと言う意味で)良かった。

 そんな彼らだが、モードレッド程ではないにせよ、多くの幻想種の肉を喰っているため、その身体は徐々にだが神代の環境に対する耐性を身に付けつつあった。

 もしこのままいけば、何の備えもない状態であっても、世界の裏側へと潜り、モードレッドと共に幻想種ハンティングをこなせるようになれるかもしれないが、それはまだ先の事だ。

 

 「兄貴、また蛮族共が現れやした!」

 「何ぃ!?てめぇら、急いで支度しな!三分で出るぞ!」

 「「「「「へい兄貴ぃ!」」」」」

 

 だが、彼らが日々の農作業と蛮族退治、そして栄養(神秘)豊富な食事により、急速に汗の匂いでむせ返る程の体育会系マッチョメン集団になっている事を知る者は、直接の上司であるモードレッドとモルガンの派遣した従者達を除いていない。

 

 

 




モーさんの口調

対モルガン…基本敬語だが、偶に子供っぽくなる。
対部下達…腕白坊主。
対キャメロット…敬語のみ。余計な会話はしない。


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転生モーさんが逝く5

 さて、何とか畑を維持して育てた作物をキャメロットに総取りされながらも、蛮族を見つけ次第皆殺しにして素材に変換し、領地経営のための書類仕事をしつつ、二日おきに世界の裏側に潜ってモンハンする生活が続く中、唐突にモードレットはキャメロットへの呼び出しを受けた。

 はて、指定された税はきっちり納めている筈だが…。

 そう思いつつ、急ぎと書状にあったため、鎧の機能を生かして飛行したモードレッドは最速でキャメロットへと向かった。

 だが……

 

 「ん?よっと!」

 

 キャメロットの方角から、唐突にカマイタチの様な実体の無い刃が音速で飛来してきたのだ。

 それもかなりの精度で連射する形で。

 モードレットはそれを手からガンドを放って迎撃し、その余波と反動で多少揺れたものの、飛行に支障の無い範囲で収めた。

 やがてキャメロット上空に到達すると中庭に着陸しようと急減速、そのまま真下へと重力降下し、魔力放出で降下速度を殺しながら着陸した。

 だが、着陸した当の中庭はというと、多くの騎士達によって殺気立っていた。

 

 「皆、どうかしたのですか?」

 「いや、これは卿が原因だろう。」

 

 殺気立った騎士達に割り込む様に現れたのは円卓の双璧たる湖の騎士、NTRで有名なランスロット卿だった。

 

 「突然城目掛けて正体不明の存在が飛んできたら、誰だって迎撃します。だから私は悪くない。」

 

 ポロローンと無駄無しの弓ことフェイルノートを弾きながら現れたのは、先程見事な地対空狙撃を披露してみせた円卓のNTR騎士その2ことトリスタン卿だ。

 

 「あぁ!先程の見事な狙撃はトリスタン卿でしたか!こちらこそ驚かせてしまい申し訳ありません。急に王よりキャメロットへ帰参せよと書状を受け取り、こうして急いできたのです。他の方々も申し訳ありません。ですが、今はどうか王への謁見を優先させて頂きたく存じます。」

 「そのために私が来たのです。さぁモードレッド卿、王がお待ちです。」

 

 こうして、モードレッドの飛行鎧の初のお披露目は徒らに多くの騎士達を刺激する形で終わった。

 

 

 ………………

 

 

 急遽召集されたモードレッドだが、その会合はあっという間に終わってしまった。

 と言うのも、モードレッドがやらかした?からだ。

 

 「大規模な蛮族の軍勢が迫っています。○○のルートから…」

 「あ、すいませんベディヴィエール卿。それさっき蹴散らしてきました。」

 

 王の執事役を務める円卓一の良心たる女顔の隻腕の騎士の説明を、しかし最年少のNew兜の騎士がとんでもない言葉でぶった切ってきやがった。

 

 「モードレッド卿、それはどういう意味か?」

 「ここに来る途中、蛮族の群れと遭遇したため、見逃す訳にもいかず、これを撃滅しました。」

 

 報告が遅れてしまい、申し訳ありませんと頭を下げるモードレッドに、謝罪とか良いからとアグラヴェインが報告をせっつくと、トンでもない内容が飛び出てきた。

 曰く、一々切り結ぶのも面倒な数だったため、雲の高さから自身を矢弾として加速し、ぶつかっていったのだ、と。

 如何に異常な生命力と物量、そして敵を殺すためなら喜んで死ぬと言う死生観を持った蛮族と言えど、隕石に等しいモードレッドの突撃に対抗する術は無かった。

 しかも、一度だけなら多少数が減るだけだが、それが幾度も自力で再上昇し、また落ちてくるとなればもうどうしようもない。

 着弾点で待ち構えようにも、それ即ち隕石の衝突を直に食らう事であり、辛うじて被害範囲の外から攻撃しようにも、余程の素早さかつ膂力を併せ持たねば、下手な竜種よりも遥かに頑丈な今のモードレッドに有効打を与える事は出来ない。

 しかも、鎧も肉体も時間経過と共に回復する鬼畜仕様だ。

 蛮族達にも聖剣の様な対軍・対城宝具があればワンチャンあったかもしれないが、そんな都合の良いものがある筈も無い。

 そう言う訳で、ブリテンに襲来する筈の蛮族の大規模攻勢は頓挫したのだった。

 

 「…………事情は分かりました。モードレッド卿、貴方には後日然るべき恩賞を与えるので、今日の所は部屋の居室に下がっていてください。」

 「は!それでは下がらせて頂きます!」

 

 部屋の空気を読まず、否、読んだからこそモードレッドは直ぐに円卓の間から立ち去った。

 その後、騎士王は呆然とした円卓の騎士の面々を前にして、困惑を表に出した顔で問うた。

 

 「…それでは、今後どうするべきか意見を募りましょう。」

 

 如何に騎士王でも、今まで自分達が散々梃子摺ってきた相手があっさりとたった一人に壊滅させられると、吉報であるにも関わらず、困惑を隠す事は出来なかった。

 

 

 ……………

 

 

 丸々一晩程の会議の結果、モードレッドは幾つかの尋問を挟んだ後、騎士だけでなく貴族としての号を正式に送られ、また今後一年の減税及び所領の拡大(無人の荒野のみ)、そして領民(壊滅した村の生き残りや身寄りを無くした老人や子供、戦傷者等)を預かる事となった。

 もしモードレッド麾下の者達が一人でもここにいれば罵声を浴びせていた事だろうが、それ以上におかしいのは最大の戦功者に対して尋問を行った事である。

 そう、捕虜等に行う尋問だ。

 無論、武装解除等はせず、貴賓室でそういった事の得意なアグラヴェインがモードレッドに問い、モードレッドも特に隠し立てなく答えたために特に問題が起きる事も無かった。

 しかし、これから内政に注力していくに辺り、モードレッドが最大の武功を上げた事は大きな問題に発展する可能性があった。

 と言うのも、モードレッドはモルガンに近すぎる。

 モードレッドの影響力の拡大=モルガンの影響力拡大であり、今まで虎視眈々と王位簒奪(モルガンからすれば奪還だが)を目論んで来た相手の勢力が増す等、騎士王とその忠義の者達にとっては問題にしかならない。

 本人達に既にそんな気が無いとしても、騎士王側としては警戒しなければならない事案だった。

 そのため、この様な褒賞とはとてもではないが言えない様な中身の無い所かマイナスなものとなったのだった。

 正直、ここまでしたら刺されても文句は言えないと思う。

 だがしかし、このモードレッドは正史のそれではなく、ニューアーマードモーさんである。

 

 「は!了解しました!今後も忠勤に励みます!」

 

 そんな理不尽な事を言い渡されても、それだけ言ってあっさりと引き下がったため、寧ろそんな対応をした騎士王に疑念の視線を向ける騎士達も多くいた。

 今後を見据えてのものとは言え、騎士王は論功行賞を怠った。

 それ即ち、他の騎士達にも「自分達にもまともな報酬が与えられないのではないか?」と言う疑念を植え付ける事となった。

 この疑念は後に、ランスロットと王妃の不倫の際に盛大に爆発する事となる。

 

 

 ……………

 

 

 さて、さくっと褒賞(と言う名の嫌がらせ)を受けたモードレッドは事の次第を全て気の許せる者達に話した。

 結果は、静かなものだった。

 兵士や従者達の中から既に騎士王とブリテンへの忠義は失われており、褒賞等何所吹く風で、既にキャメロットに対して何の期待も抱いていなかった。

 そして、モルガンはもっと酷かった。

 完全な能面、無表情で、静かにモードレッドに事実確認をした後、漏れ出る怒気にビビリあがったモードレッドを下がらせた。

 で、下がらせたと同時に、モードレッドが生まれてから今まで控えていたブリテン滅亡計画を本格的に再始動する事を決意した。

 そんなブリテン滅亡フラグがビンビンに乱立し始める中、モードレッドは領主としての仕事、即ち領民を食わせるために仕事を始めた。

 新しい領民達が来るにはまだ時間があり、幸いにも減税によって多少の余裕が出来たので、モードレッドはこれを機に肉体が神代の真エーテルに慣れてきた兵士達を連れて世界の裏側へと狩りに出かける事を決意した。

 そうでもしないと領民らを食わせる事は出来ないと判断したのだ。

 蛮族もほぼ駆逐されたので、最低限の治安維持・領地防衛の出来る面々を残して総出で狩りに出、農作業は新しく来る民達に任せる予定だ。

 なお、事務仕事の出来る人員は増えていないので、従者らは暫くデスマーチになる予定だ。

 さて、世界の裏側に潜るに辺り、兵士達の装備の更新を行う事となった。

 現状の装備のままでは行っても死ぬだけだからだ。

 先ず、外道ホバーバイクは今までの蛮族製ではなく、装甲を下位の竜種(ワイバーンやレッサードラゴン)の素材を用いたものに交換、外部の神秘を吸収する機能も神代に合わせて調整した。

 また、一人を操縦手、一人を射手として二人乗りにしたニケツ仕様も作成し、用途を広めた。

 兵達の鎧も下位の竜種の鱗を用いたスケイルアーマーに更新し、兜はフルフェイスのガスマスク型になった。

 これには勿論訳があり、竜の因子を持つモードレッド程には彼らは真エーテルへの適応性を持っていない。

 そのため、それを少しでも補うために呼吸する際に吸ってしまう真エーテルを少しでも減らすための礼装がこのガスマスク型兜なのだ。

 また、ちょっとした趣味として全体的なカラーリングは森林迷彩だが、隊長のみ右肩が赤く塗られ、兜に通信機能が追加されている。

 武器の方も竜の牙や幻想種の角等を用いた投槍や弓矢、大型の弩等を用意し、攻撃力を大きく上昇させている。

 そして、モードレッドも取り敢えずの間に合わせとして、巨龍の角から削り出した大剣を担ぎ、準備は整った。

 

 「よし、全員揃ったな。これから我々は世界の裏側、神秘の息づく幻想世界へと足を運ぶ!」

 

 今日、これからモードレッド率いる兵士達は遂に世界の裏側へと突入する。

 

 「向こうではどんな不調が起きるか分からん!何かあれば即座に報告せよ!良いか、獲物を担いで凱旋するまでが遠征だ!それまではくたばるんじゃないぞ!」

 「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」」」

 「よし、しゅっぱーつ!」

 「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」」」

 

 こうして、彼らは遂に本格的に幻想薄れ行くブリテンの民から、神秘渦巻く神代の住民へと成ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 なお、モーさん所の兵士一人につき蛮族10人分に匹敵する模様。


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転生モーさんが逝く6 後書修正

 「ふぅ……。」

 

 領地からキャメロットへの道中、飛行中に積乱雲に遭遇して落雷を受け、鎧が不調を来したためにモードレッドは急いで緊急着陸を行った。

 とは言え、雲の上から地表に突撃して無事なモードレッドなので、命に別状はない。

 ただ、鎧の方が装甲は兎も角、術式の方に若干影響が出たので、少し調整しないと飛行が安定しないが。

 そして、一仕事終えた後、近くにあった湖で汗を流す事にした。

 急げば半日で到着するが、時間はもう夜であり、飛ぶのは夜が明けてからの方が良いと判断し、また術式の調整で集中して作業したら結構汗をかいてしまったので流したかったのだ。

 

 「あ~~お湯に入りた~い。」

 

 前世の様に気軽に熱い湯に入る事は出来ない。

 頑張ればできるが、そこまでの手間をかける位だったら、桶に湯を用意して、浸した布で身体を拭いた方が良い。

 なので、こうして身体を水に浸からせるのは本当に久しぶりだった。

 そんな気を抜いてリラックスしていた時だった。

 不意に、がさりと繁みから音がした。

 

 「!」

 

 咄嗟に近くにあった短剣を手に取り、繁みの中の何者かへと飛び掛かる。

 暗殺者か賊かの判断はつかないが、兜の下の顔を見られたからには記憶消去、最悪は口封じもあり得る。

 だが、繁みの中にいた相手は何の抵抗もせず、モードレッドにされるがままに押し倒され、馬乗りの体勢になった。

 

 「何か言い残す事はあるか?」

 

 視線に乗せた暗示の魔術が効かない事から、かなり高い対魔力の持ち主だと分かる。

 加えて、筋肉の付き方や豊富な魔力からも相当の実力者である事が伺える。

 この場で逃せば、どんな災いになるか分からない。

 酷だが、この場で消す事を決意しながら、最後の問いを投げかける。

 せめて少しでも未練を残さずに逝けるようにとの、彼女なりの配慮だった。

 

 「美しい……。」

 「え…。」

 「貴方は、本当に美しいのだな。」

 

 それが円卓最後にして最高の騎士との出会いであると、この時はまだ知る由も無かった。

 

 

 …………… 

 

 

 蛮族の大規模攻勢は、あの一戦(と言う名の虐殺)から無くなり、ブリテンには漸く平和が訪れた。

 そして、そこからは楽しい楽しい()内政タイムである。

 すると、今まで戦時だからとスルーされてきた処々の問題が浮き彫りとなり、更に問題ばかり起こす騎士と言う職業軍人兼貴族もまた内政を担当する文官達と衝突し、即ちランスロットやトリスタン等の円卓問題外組と内政を担うケイやアグラヴェイン等とそれを慕う者達との対立が深まっていった。

 そんな中、最後の円卓の騎士となる少年がキャメロットへとやって来た。

 その名をギャラハット。

 この世で最も清らかな騎士、そして最高の騎士の称号を持つ数少ない者の一人であり、ランスロット卿の実の息子でもあった。

 

 (荒れてるなぁ。)

 

 兜の中で誰も分からない事を良い事に、モードレッドは溜息を吐いた。

 自分がこのキャメロットへと連れてきた少年が今、この常よりもギスギスした空気に関係しているかと言うと少々複雑な気分になる。

 あの夜、自分の事を綺麗と言った少年を結局殺す事が出来なかった。

 初めて自分に向けられた言葉に面食らい、ついつい殺気が散ってしまったのだ。

 その後は素っ裸である事を思い出し、急いで衣服と鎧を纏い、この場で見聞きした事は他言無用として別れたのだった。

 今思えば、あそこでギャラハットを殺していれば、歴史は不可逆の変化を迎えていただろうが…そんな事をすればどんな揺り戻しが来るかも分からない。

 元よりこんな国と心中するつもりは無いので、適当な所で離脱する予定なのだ。

 この国には是非自分以外の要因によって勝手に滅びて頂きたい。

 何より、今の自分は嘗て母と己一人を心配すれば良かった頃と違い、多くの命を背負っている。

 それは一国の重みとそう大した差は無い。

 少なくとも、己の命を賭けるに値するとは思っている。

 

 だから、そんな縋る様な目をするんじゃない!

 お前の面倒まで見てられないんだよこの覗き魔!

 え、王の命令?マーリンも賛成した?

 そんなー。

 

 と言う訳で、ギャラハッドは王からの課題を熟しつつ、モードレッド預かりとなったのだった。

 

 

 ……………

 

 

 そして、ものの数ヵ月で全ての課題をクリアし、騎士王より「最高の騎士」の称号と最後の円卓の席を与えられ、ギャラハッドは晴れて父親であるランスロットと並んだ。

 しかし、両者の仲は遅々として縮まらなかった。

 まぁ当然だろう。

 認知した場合、あの明らかに精神が向こう側に逝っちゃってる姫ことカーボネックのエレインと結婚する羽目になる。

 それは王妃と不倫関係にあるランスロットとしては絶対に避けたい事態だろう。

 更に言えば、今現在ランスロットはキャメロットにいない。

 王妃に盛大な罵詈雑言を受けて発狂、今現在全裸で森にて野生動物みたいに過ごしており、従兄弟のボールス卿が捕獲に苦労しているらしい。

 その事にギャラハッドはかなり落ち込んだものの、「やる事無いな?無いか。よし、領地に戻って内政するぞ。手伝え。」とモードレッドに首根っこを猫の子の様に掴まれ、領地へと連行されていった。

 

 「あの、モードレッド卿?もしかしてこのまま飛ぶんじゃ…」

 「勿論だ。大丈夫、お前なら行ける行ける頑張れ頑張れやればできるやればできる自分を信じろ私が信じるお前を信じろ。(ワンブレス)」

 「それ絶対ダメな奴じゃないですか!?やっぱり普通に地上から行きましょうよ!僕だけ後から行きますから、飛ぶのはモードレッド卿だけにして」

 「口開くな、舌噛むぞー。」

 

 この様に、世間知らずのお坊ちゃまは順調に世間の荒波に揉まれていきました。

 何とか魔術で空気抵抗を減らし、刻一刻と奪われる体温をモードレッドに抱き着いてその熱を貰う形でどうにか5時間近くの飛行を終えたギャラハッドだが、彼の苦難はこの程度では終わらない。

 

 「領主!食糧の配給が一部で滞ってます!早急に食料の確保を!」

 「よし、レッドショルダー隊はハンティングに行くぞ!総員準備しろ!10分以内だ!」

 「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」」」

 「あの、僕は…」

 「あぁ?お前も参加に決まってんだろ。ほら携帯食料と毒消しと解体用セット一式だ。これ持って付いてこい。」

 「あの、こんな大人数で何処に…」

 「ハンティングだ。」

 「ア、ハイ。」

 

 そして、ギャラハッドもまた世界の裏側にて洗礼()を受ける事となった。

 

 「何でこんな大量に幻想種がいるんですかー!?」

 「お、今日は大量だな。各員、連携を崩すなよ!飲み込まれるぞ!」

 「あぁもう!後で説明してくださいね!」

 

 だが、流石は若年とは言え円卓の騎士。

 ギャラハッドは敢えて幻想種の群れの中へと飛び込み、ヘイトを稼ぐ事に成功、手に持つ盾で攻撃を凌ぎ続け、他の面々が状況を逆転させるまでの時間を稼ぎ切ってみせた。

 この行いが評価され、初の狩りでありながらもその日のMVPとして選ばれ、モードレッドから景品が贈られる事となった。

 

 「さぁMVPにゃ一番栄養あって足の早い部位を喰う権利がある。」

 「いやあの、これ竜の心臓だよね?食べて大丈夫なの?」

 「つべこべ言わず食えやオラぁ!」

 「もがごッ!?」

 「どうだ?」

 「…驚いた。普通に切って焼いたものより、丸焼きにした方が肉汁や風味(=旨味)が逃げてなくて美味しい。それに独特の食感も楽しい。」

 「それに加えて厳選した香草と岩塩使ってるからな。今のブリテンじゃ絶対食えない贅沢品だぜ。」

 「そっか、こういうの食べてたからあんな綺麗に育って…」

 「死ね。」

 「ごめんなぐはぁ!?」

 

 そして、皆で獲物を担いで戻ってからは領民達と共に無礼講な焼き肉パーティーとなる。

 男も女も、老人も子供も、怪我人も病人も、この時ばかりは皆笑顔で二日に一度の贅沢を楽しむ。

 なお、病人や胃腸の弱い者には果物やスープ、煮物等が振る舞われる。

 そのどれもが幻想世界から材料を確保したもので、今のブリテンの民では絶対に出来ない贅沢な食事だった。

 

 「モードレッド、君はいつもこんななのかい?」

 「まぁな。」

 

 少し喧騒から離れた場所で、円卓の騎士二人は黄金の林檎で作った果実酒を嗜みながら寛いでいた。

 

 「何故ここまで?アーサー王とて、ここまで民のために心を砕きはしない。貴方が彼らを死なせたとしても、それは仕方のない事とも取れると思うが…。」

 「じゃぁギャラハッド。お前はこの光景が間違いだって言えるか?」

 

 大きな焚火を囲んで、領民や兵士達、従者達が皆料理や酒を片手に笑顔で騒いでいる。

 中には酔っ払って喧嘩までしているが、それとて殺し合いの雰囲気ではないし、皆がヤジを飛ばしながら観戦している。

 静かに酒を楽しんでいる者も、自分達の様にこの光景を見ては嬉しそうに目を細めている。

 

 「いいや、例え間違いがあったとしても、彼らの笑顔は、幸福は本物だ。」

 「だろう。何時かは終わるかも知れんが、それでも今この瞬間の幸せは本物だ。」

 

 だったら、それで良いんだよ。

 難しい理屈なんていらないんだ。

 そう呟いて、モードレッドは果実酒をストローで啜る。

 

 「って、モードレッド。君、さっきから結構飲んでるけど大丈夫?」

 「だいじょーぶだいじょーぶへーきへーき。」

 「うん、もうそこまでにしようか?ほら、お水上げるからそのお酒こっちに寄越して。」

 「ぐびー」

 「一気!?倒れちゃうよ!?」

 「おえー。」

 「そして流れる様に吐瀉!?あわわわわ誰かー誰かー!?」

 

 直後、何とか兜を外して顔と口を洗って寝台に叩き込んだ模様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、ギャラハッドは騒がしくも暖かなモードレッドの領地へと溶け込んでいった。

 それは幼少期の恵まれない生活とは全く違う、人の温もりに満ちた暮らしで。

 そんな中に自分がいる事が出来るのは、泣きそうな位に嬉しかった。

 だが、幸福は何時までも続かない。

 この生活が半年を迎えた頃、遂に終わりの始まりが告げられた。

 ギャラハッドへと、王命が下ったのだ。

 

 曰く、「聖杯を探索し、キャメロットへと持ち帰れ。」

 

 ギャラハッドはただ一人、これが自分の運命だと諦めながら、最早戻れぬ旅路に出たのだった。

 

 

 

 

 




ギャラハッド=天然・ラッキースケベ・エロ&恋愛耐性無し・箱入りお坊ちゃま
モードレッド=TSチョロイン・ガキ大将・MAD・エロ&恋愛耐性無し

現時点では互いに自覚してる相手への感情は「気の置けない友人」です。
だがしかし、失いそうになって初めて本当の思いを自覚するのって……良いと思わない?


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転生モーさんが逝く7

 聖杯が発見された、と言う噂が広がった時、キャメロットの騎士達は誰もが自らがそれを獲得する栄誉を得ようと遮二無二出発した。

 結果、一部の内政組を除いた殆ど全ての騎士達が聖杯探索に赴き、キャメロットの軍備がガタガタになると言う事態に陥った。

 これに対し、騎士王は急遽、実力があり、尚且つ後からでも騎士達に追いつける速さを持つモードレッドを招集、騎士達にキャメロットへと戻る様に伝えさせた。

 同時に、最年少でありながら最高の騎士の称号を持ったギャラハッドに聖杯探索の任務を正式に伝えた。

 聖杯探索の目的、それは聖槍によって癒えない傷を負ったぺレス王の治療及びブリテン救済のための手段だった。

 命令を受託した二人はキャメロットの騎士達を探しながら、聖杯探索へと赴いたのだった。

 とは言え、既に二人ともキャメロットには含むものがある事もあり、出会った騎士達は強制送還するのではなく、あくまで騎士王の言葉を伝えるに留めた(面倒臭かったとも言う)。

 

 「トリスタン卿、騎士が誰もいなくなって王が困っています。急ぎ帰還を。」

 「私は悲しい。騎士たる者、栄誉を求めて何が悪いのか…それにあなたも王へ含む事はあるでしょうに。」

 「その点は否定しませんが…まぁ確かに伝えたので、もし他の騎士達に会ったら、王が帰ってくる様に言っているとお伝えください。」

 「分かりました。モードレッド卿も、ギャラハッド卿も、道中お気をつけて。」

 

 こんな感じで、大半の騎士は伝言を伝えると帰ったものの、ごく一部の騎士はそのまま独自に聖杯探索を続行した。

 しかし、彼らの誰一人として資格はなく、故に聖杯へと辿り着く者はいなかった。

 何故なら既にただ一人、聖杯を獲得する資格を持った者がいたから。

 

 

 ……………

 

 

 モードレッドとギャラハッドの二人に加え、パーシヴァルとボールズを加えた一行はもう間もなく聖杯を獲得すると言う所まで来ていた。

 と言うのも、道中にギャラハッドが入手した盾が原因だった。

 この盾は白地に赤い十字が描かれており、資格無き者が持つと白騎士を召喚し、殺すか一生ものの傷を負わせられると言う呪いの盾だった。

 旅の途中にギャラハッドがこの盾に出会い、丁度今までの盾が草臥れていた事もあって手に取った。

 すると、現れた白騎士がギャラハッドに「その盾は貴方のものだ、この世で最も清らかな騎士よ。その盾の導くままに進みなさい。」と告げて消えた。

 それ以来、盾の赤十字の中心から方角を指し示す様に光が放たれ、ギャラハッドとモードレッドはその方向に進んだ。

 導かれるまま、二人は乙女を塔へと拉致監禁する7人の騎士を殺害して乙女達を解放し、パーシヴァルやボールズと合流、塔から解放されたパーシヴァルの妹であるディンドランも交えて旅を続けた。

 その際、ディンドランは魔法の船や生命の木の苗を譲り渡し、そして自らが天使より告げられた託宣を4人に告げた後、自らの髪を材料に態々傷んでいたギャラハッドの剣の帯を作って贈った。

 更に進むと、癩病にかかった夫人のいる城に到着、城の住人より治療のために処女の生き血を要求されるも「それよりも先に私に治療させろ!」と怒るモードレッドにより夫人の治療開始、更に他にも感染者がいないか調べられ、疑いのある全員に激マズの治療薬が投与され、余りの不味さに悶絶する者が多数出たが無事解決した。

 そして、実は自分の生き血を提供しようとしていたディンドランにモードレッドが怒った。

 

 「追い先短いバーさんのために、お前みたいな子が命を散らす必要は無い!パーシヴァルだって泣くだろうが!自己犠牲が常に正しいなんて事は無い。特に病気なんて、適切な知識と技術があればどうにだって出来るんだ。」

 

 これにディンドランは謝罪し、一行は更に進んだ。

 そして、遂に盾が示す最後の場所、ギャラハッドの故郷であるカーボネック城へと到着したのだった。

 だが、此処で事態は急変した。

 一行が漁夫王ことぺラム王(ギャラハッドの曽祖父)の招きで城の広場へと入った時、不意に部屋全体に、否、城そのものに仕込まれた魔術が起動したのだ。

 

 「ぐ、アアアアアアアアアアアッ!!」

 

 同時、その中心にいたギャラハッドが苦痛の叫びを上げ始める。

 

 「ッ!どういうつもりかぺラム王!一体我が友に何をした!」

 「何、君達の目的を叶えようと思うたまでの事。」

 

 癒えぬ傷を負い、心まで病んだぺラム王は骸骨の様に落ち窪んだ眼窩からぎょろりと目を動かし、自身の曽孫が苦しむ様を見ていた。

 

 「我が祖が獲得した聖杯。しかし、祖は悪用を恐れてそれをこの土地に封じた。ただ一人の例外、神の子本人を除いてそれを得られぬ様に…。」

 

 朗々と妄執に塗れた老人が、種明かしの様に経緯を語り始めた。

 

 「だから、我ら一族は聖杯を手にするため、神の子に並ぶ聖なる者を生み出そうとしたのだ。何代も、何代も掛けて。そして完成した母胎に相応しき騎士の種を注いで完成したのが『この世で最も清らかな騎士』だ。」

 

 術式から発せられる魔力が増大し続けている。

 超弩級の魔力塊が顕現しようとしているのだ。

 ギャラハッドを器にして!

 

 「だが、聖杯とは神の子の死した時の血を受けたが故に聖杯となった。それに贋作故に血を受けただけでは足りぬ。『この世で最も清らかな騎士』を贄にしてこそ聖杯は降臨するのだ。」

 

 ガギン!

 そこまで聞けば十分だと言う様に、モードレッドは漁夫王へと剣を振るったが、それは寸前にボールス卿によって防がれた。

 

 「成程、貴様はそちら側か。」

 「…ブリテンには聖杯が必要だ。」

 

 つまり、キャメロットの連中は、少なくとも首脳部は全て知っていてこの旅に向かわせたのか、とモードレッドは判断した。

 実際はそんな事はなかったのだが、この時ばかりは割と視野が広く温厚なモードレッドをして、焦りと怒りで早合点してしまった。

 

 「ハァッ!」

 「ぬ!」

 「パーシヴァル卿!」

 「急いでギャラハッドを助けろ!時間は私が稼ぐ!」

 

 そして、背後で剣戟が響く中、モードレッドは何とか魔力の奔流を掻き分けながら、ギャラハッドのいる術式の中心地点へと辿り着いた。

 

 「ギャラハッド!待っていろ、直ぐに助ける!」

 

 だが、既にギャラハッドの変質は致命的な時点まで進んでいる事は、魔術に詳しいモードレッドには一目で分かってしまった。

 父親に似た薄紫の髪の毛は色素が抜けて白く、肌も血の気が消えて病人の様に白く、その瞳もまた色素を失って血の様な赤となっていた。

 そして、手足の末端から徐々にエーテルとなって解けて…否、無機物へとゆっくり変質していた。  

 

 「いや、もう無理だろう…。」

 「諦めるな!お前がこんな所で死ぬ筈がない!」

 (糞、変質が止まらない!どんだけ強固な術式を組んでやがる!)

 「一つだけ、一つだけ伝え忘れてたんだ…。」

 「言うな馬鹿!それは死亡フラグだ!」

 

 ゆっくりと、ゆっくりと、唯の器物へと変化していく中、既に苦痛を感じる機能すら無くなったギャラハッドは、しかし消える寸前の灯の最後の煌めきとばかりに、本当に伝えたかった事を口にした。

 

 「僕は、君と、ずっと一緒にいたかった……恋人に、夫婦になりたかったんだ…。」

 

 その言葉を聞いた時、モードレッドは兜の下で唇を噛み切る程に歯を食いしばった。

 

 「馬鹿野郎!そんなのは、二人っきりの時に言え!」

 

 肉体の変質はもう手遅れだ。

 これは間違いなく、最初からそうなる様に作られていたのだ。

 嘗ての自分と同じ様に。

 こいつは、本当の意味で自分と同じ者だったのだと。

 こいつに感じていた言い様のない近しい感覚はこれが原因だったのだと。

 此処に来て、モードレッドは漸く気づいた。

 

 (なら、魂だけは持って帰る!)

 

 聖杯が顕現しようとしている。

 それは一つの神話の集大成にして、莫大な星の魔力の受け皿であり制御機構だ。

 そんなものから発せられる魔力の奔流に、人では抗う術は無い。

 だが、此処にいるのは円卓の騎士が一人、既に父である騎士王を超える性能を獲得し、数多くの竜種を始めとした幻想種を屠り、食らってきた人型の竜種。

 この程度の魔力、この程度の圧力、この程度の脅威で、

 

 (お前を、諦められるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!)

 

 頑丈な筈の鎧が砕け、再生が追い付かない。

 最も頑丈な兜すら割れ、全身から出血する。

 過剰過ぎる魔力に当てられ、体内に過剰なまでに蓄積された竜の因子が暴走を開始し、身体が竜化していく。

 だが、止まらない。

 術式へと介入し、ギャラハッドの魂を儀式の材料ではなく不純物として認識させ、その部分のみを奪い去る。

 元より聖杯が顕現すれば消え去る定め。

 認識の改竄を行い、本来なら干渉できない第二要素たる魂を聖杯の顕現によって溢れる魔力を逆手に取って干渉に成功する。

 そして、聖杯が完全に顕現する直前、

 

 「獲ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 城中が光に包まれる中、確かにモードレッドの声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




アインツベルン家は皆ホムンクルス
→大本の製作者は誰?
→聖杯関連で、聖杯がめっちゃ欲しいだろう連中の可能性
→そう言えばギャラハッドの実家連中が色々やらかしてるし怪しいな
→せや、こいつら悪役にしてネタに使お!

と言う訳でカーボネック勢は悪役になってもらいました。
ギャラハッドは元々聖杯獲得のための生贄たるホムンクルスorデザインベビーって事で。
こうするとマシュと益々共通点が出来るし、後世のアインツベルン家がカーボネックから分派した連中だとすれば色々辻褄が合うと考えた結果です。


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転生モーさんが逝く8

 聖杯の降臨と共に瓦礫となったカーボネック城の跡地で、二人の人影があった。

 一人は円卓の騎士が一人、パーシヴァル。

 もう一人はほぼ全ての装備を喪失した円卓の騎士だった者、モードレッド。

 二人は自分達以外が死に絶えた場所で、今後の事を話し合った。

 

 「良かったのか、ボールス卿を逃がして。」

 「奴には奴の役割があるし、聖杯は取り上げた。ここで殺しても良い事は無い。」

 「卿がそう言うのなら信じるが…失敗だったのか?」

 「いや、ギリギリ成功、かな。」

 

 そう言って、鎧を失った素の手で、己の下腹をなぞる。

 その手つきには慈しみが感じられ、まるで母親が己が胎の中の子を労わる姿にも似ていた。

 

 「あの瞬間、何とか私の中にギャラハッドの魂を封じ込めた。」

 「おお、それでは何とか蘇生も…。」

 「いや、無理だ。」

 

 悲しさと悔しさを込めて、モードレッドは首を横に振った。

 

 「私が取り返せたのはあくまで魂だけ。肉体も精神も無い状態じゃ、その人格と記憶を復活させる事は出来ない。」

 「それでは……。」

 「あいつは、死んだ。オレの最高の親友は、此処で殺された。」

 

 ポトリと、不意にモードレッドの顔から何かが零れた。

 

 「モードレッド卿…。」

 「オレは今日まで、何時か王はオレに叛意が無いと分かってくれると、何時かは他の円卓の騎士達と同じ様に遇してくれると、本当に信じていたんだ…。」

 

 パーシヴァルは心底の驚愕を感じながら、しかし、何も声をかけてやる事が出来なかった。

 いや、何と言えば良いのか分からなかった。

 王とよく似た容姿の、しかし王よりも成長した女騎士。

 鎧を砕かれ、半裸に近い姿になっても、彼女から艶やかさを感じる事は無い。

 何故なら、今彼女は大事な人を喪失した事実に悲嘆し、止め処なく涙を流していたからだ。

 

 「だが、もう信じはしない。あの王はオレを信じる気等端から無かったのだ。国を生かす事だけが大事で、臣下や民がどの様な思いを抱えてようと構いはしない。奴の言うお綺麗な奴らだけが生き、それ以外の生き死には利用する事しか考えていない。」

 

 それは違うと、パーシヴァルは言えなかった。

 何せ彼の知る騎士王とは、基本的に必要と判断すればどれ程冷徹な判断でも下せる王で、それでいて自分は決して怒りも何も表に出さないからだ。

 そして、下手に外敵が消えた昨今、王の眼は内側に向いている事も知っていたために。

 

 「オレはキャメロットには二度と戻らない。もう二度と、オレは奴の騎士となる事は無い。」

 「そうか…だが、私はまだキャメロットの騎士だ。」

 

 ギロリ、とモードレッドの眼光がパーシヴァルを射抜く。

 その瞳孔は爬虫類の様に縦に裂け、人間のそれとはとても思えない。

 異形への変化は全身にも広がっていた。

 四肢には鱗と爪が生え揃い、鋭利な刃を形作っている。

 尻からはしなやかな尾が生え、警戒する様に左右にゆっくりと振られている。

 そして、背中からは鎧の残骸を貫く様に竜の翼が生え、第二の腕の様に構えられている。

 

 「待て待て。争う訳じゃない。どの道誰かが事の次第を報告する必要がある。」

 「…その後はどうするつもりだ?」

 「私とて此度の事には思う所がある。私の思い焦がれた円卓は既に無いと分かった。報告を終えた後、機を見てキャメロットを去るよ。」

 「そうか…。」

 

 パーシヴァルは生粋の貴族であり、父は円卓にも属したぺレノア王で、母も大貴族の出だが、既にどちらも亡くなっている。

 そして妹は聖女と言っても良い清らかさと強さを持ったディンドラン。

 だが、彼の家族は最早誰もいない。

 父は親殺しの仇としてガウェインに殺された。

 母は病気で、妹は先程の崩壊で。

 如何に礼儀正しく温厚温和なパーシヴァルとて、いい加減に我慢の限界だった。

 聖杯等に掛ける漁夫王や騎士王の妄執によって、二人は大事な人を失ったのだ。

 

 「それはそうとモードレッド卿。」

 「卿はよせ。オレはもう円卓を抜けた身だ。」

 「そうか、では只のモードレッドよ。お願いだからそろそろ服を着てくれ。」

 

 爆心地の中心にいたモードレッドは先も言ったが半裸だ。

 竜へと変化しかけた部分を除けば、騎士王とモルガンに似た妙齢の美女(処女・美乳・男勝り)の裸など、円卓の女好き連中(ランスロット・トリスタン・マーリン等)がいたら一も二も無く飛び掛かってくださいと言っている様なものだった。

 

 その後、瓦礫の中から布やら食料やらを漁ってから、それぞれモルガンの居城とキャメロットに行くために別れ、そして二度と会う事は無かった。

 

 

 …………… 

 

 

 事の次第を全て聞いた時、モルガンは無表情だった。

 全ての激情を飲み込んで、その上で彼女は己の最愛の娘に問うた。

 

 「モードレッド、貴方はどうしたいの?」

 「殺す。惨たらしく殺す。確実に。」

 

 そして、その娘たるモードレッドも、一度泣いてすっきりしたから、感情に任せて暴れ回る様な事は無かった。

 母親と同じ様に全ての感情を飲み込んで、その上で己が目的をはっきりさせ、それを実現するためのプランを冷徹に練っていた。

 

 「そう、ならもう容赦はしなくてよいわ。私がお膳立てしてあげるから、貴方はお腹の子の事に集中しなさい。」

 「へ?」

 

 お膳立ては分かる。

 こと謀略と言う点に関してはモルガンはブリテン島一と言って良い。

 だが、お腹の子に関しては何かおかしい。

 

 「人形を作れって事ですか?」

 「モードレッド……いえ、気付いてて現実逃避してるのかしら?」

 

 はて、うちの娘はこんな鈍かったか?とモルガンは思ったが、そう言えば自分と違って恋愛経験とか一切無い、本当に初心な箱入り娘だったわね、と思い直した。

 あの親とは似ても似つかない程に誠実かつ温厚篤実なギャラハッドならばうちの子の花婿にギリッギリ合格だったし、余りにもじれったい程ゆっくりと思いを育んでいたから余計な茶々も入れなかったが、これはもう少しそっち方面の教育もしておくべきだったか、と今更ながらモルガンは後悔した。

 

 「貴方が浴びたのは大本から零れたものとは言え、真正の聖杯の中身よ?貴方が身体の中に退避させたギャラハッドの魂は、その際に半ば受肉したわ。」

 「それって……。」

 「そう、処女懐胎よ。」

 

 基督教の最も有名なエピソードの一つ、聖母の処女懐胎及び受胎告知。

 聖母マリアが聖霊によって神の子をその胎内に宿した時、三大天使ガブリエルが現れ、それを告げる絵画は世界中に幾つもある。

 この時代では後世の話だが、あのレオナルド・ダ・ヴィンチも受胎告知を題材にした絵画を描いている。

 

 「元々貴方は私と言う地母神の系譜に連なる訳だから、こうした生命を生み出す神秘とも相性が良いのでしょうけど……それに加えて、魂は神の子の劣化コピーであるギャラハッドのもの。状況としては十分ね。」

 「 マ ジ か よ 。」

 

 つい礼儀作法も忘れてモードレッドの口から驚愕が零れた。

 何せ漸く淡い恋心(小学生並)が芽生えたと思ったら、いきなり母親になりました☆である。

 そりゃー驚きもするだろう。

 まぁ確かに状況としてはこれ以上は無い程に揃っている。

 加えて言えば、基督教は既存の神話や伝承の良い所取りな合成神話である。

 唯一神たる聖四文字も、元はしがない山の神とも言われるが、そこから多くの要素が融合して現在の基督教の唯一神となった。

 となると、この時代に存在する既存の各神話・伝承・伝説の内側にある地母神の系譜たるモードレッドが、魔法使いの釜を元祖とする聖杯の魔力を浴び、その体内に匿ったギャラハッドの魂を赤子として受胎してしまう、と言うのも割とあり得る話だろう。

 無論、そんな要素を持った者達が一同に会した上、高濃度の魔力を浴びたり、清らかな魂を体内に入れたりする状況等、人類史を見渡しても殆ど在り得ない訳だが。

 

 「と言う訳で、貴方はこれから暫く狩りも鍛錬も禁止。ギリギリ魔術の研究と執務はして良いから、子供が生まれるまで大人しくしてなさいな。」

 「うぅ、分かりました…。」

 

 どーすんだこれ…とモードレッドは頭を抱える事となった。

 その後、兜も鎧も剣も全損したので作り直し、生まれてくる子の名前や産着なんかも用意する必要があるので、悩む暇は無くなったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃の蛮族兵士さん達

 

 「何、大将が妊娠!?」

 「やる事やってたのか…。」

 「バッカおめぇギャラハッドの坊主と一緒に旅してたんだから、そらそういう事もしてたんだろうよ。」

 「だが、あの坊主は殺されちまったらしいな…。」

 「やっぱりキャメロットの連中か…。」

 「聖杯を取るための生贄だとさ…。」

 「おい、滅多な事は言うんじゃない。」

 「だがよぅ、あのあんちゃん、大将の隣で笑ってたじゃねぇか。お綺麗な事しか出来なかったのが、大将と一緒になって怒って笑って生きてたじゃねぇか。オレらの半分も生きてねぇのによぅ…。」

 「泣くな、泣くなよ…。」

 「…泣く暇があれば、狩りに出るぞ。オレ達の仕事はそんだけだ。」

 「隊長…しかし…。」

 「それで、大将のお腹の子が元気に生まれてすくすく育つ様に獲物を狩ってくる。」

 「「「!」」」

 「オレ達は学が