学園黙示録~とんでもない世界に迷い込んだんですけど~ (富士の生存者)
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プロローグ

皆様、初めまして。
この作品を読んでくださいましてありがとうございます。
更新は2週間ごとを予定しております。



 主人公SIDE

 

 

 

 皆さんは運命というものを信じるだろうか?

 

 例えば、食パンをくわえた女子生徒が、道の曲がり角で男子生徒と偶然ぶつかってしまうという青春の始まりのような運命ではない。 

 

 例えば、ある日転校してきた女子生徒が異能力を使いこなしその戦いに巻き込まれる男子生徒の異能力バトル漫画のようなものでもない。

 

 

 まったく知らない学校のような場所で女子生徒に齧り付かれそうになり、その女子生徒の頭部を銃で吹き飛ばすなかなかバイオレンスな運命だ。

 

 

 そんな運命は迷わずゴミ箱に投げ込みゴミ箱ごと燃やしてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も企業戦士らしく仕事を終えて会社を後にする。

 

 電車に揺られながら今日の夕食をどうするかなど考えながら暇をつぶす。

 誰かに足を踏まれようが鞄をぶつけられようが持ち前のスルースキルで切り抜ける。

 

 そんな普通の生活を送っている俺の名前は、篠崎(しのざき)淳也(じゅんや)

 

 大手企業の下請企業で働く28歳。ちなみに独身。

 趣味は筋トレにシューティングゲーム。

 

 趣味の合間に人生を送っている。

 今のところそれほど自分の人生が嫌だとは思っていない。

 それなりの大学をそれなりの成績で卒業し、それなりに働いている。

 

 自分の身の丈にあった生き方をおくれているのだ。

 これ以上何かしらを求めたらいろいろと面倒になる事は目に見えている。

 それならいっそそれなりに生きた方がいい。

 

 家に帰り、簡単な夕食を済ませるといつもの様にテレビに向かい合う。

 インスタントコーヒーの入ったコップをテーブルに置き、テレビゲームの電源を入れる。

 

 プレイするのは、ファーストパーソン・シューティングゲーム―――通称『FPS』といわれるジャンルのシューティングゲームだ。

 『FPS』は、1人称の視点で実際に自分がゲームの中にいるような感覚で面白い。

 

 特に最近のFPSでは多種多様な兵器が使用できるようになっているので、様々なプレイスタイルができる。 

 

 タイトル画面を切り替えて装備を選択していく。

 

 どれだけこの時間を待っていたことか。

 画面には目だし帽を被った兵士が映し出されておりその兵士に装備する武器を選んでいく。

 このゲームは自分のキャラの細かな設定までもできるので人気の作品である。

 

 俺のキャラクターは人種が日本人。背が高く肩幅が広い。さらに胸板が厚く鍛え抜かれた鋼の筋骨であるのが一目で分かる身体。

 

傷跡が刻まれた顔は、削り出したかのような鉄の塊のように無骨にして精悍無比(せいかんむひ)。表情をまったく変えずに、ただ一点を向くように光る眼差しが、まるで精神自体を拳骨で殴られたかのような迫力がある。

 

 まさに歴戦の兵士だ。

 

 こんな人物と道であえば問答無用で視線が下がる。

 急降下してしまう。

 

 

 このゲームでは、どれだけ筋肉をつけようと身長をいじろうとパラメーターは変わらない。デブでもガリガリでも同じスピードで走りジャンプする。

 

 今回プレイしていくモードが一般の敵兵士に他にもゾンビが出現するモードなため長期戦を想定し、バランスのいい装備を整える。

 

 キャラクターの設定が終了し、いざゲームを始めようとすると視界が点滅する。

 視界が定まらないと同時に今までに体験したことのない頭痛が追い打ちをかけてくる。

 まさに頭が割れそうな頭痛というのはこういうものなのだろう。

 

 意識が遠くなっていき体が傾いていく。その際にテーブルの上のコーヒーも巻き込み盛大に倒れる。

 

 

「あ……」

 

 

 倒れる直前に見えた光景が、お気に入りの財布にコーヒーが容赦なく降りかかる光景だった。 

 

 ごめんよ、財布ちゃん。

 まだ、買ったばかりだってのにコーヒーをぶちまけちゃって。

 

 最後に自分が抱いたのは財布への罪悪感であった。 

 

 

 

 




ご意見やご感想があればよろしくお願いします。


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第1話 『とんでもない学園』

 

 主人公SIDE

 

 

 現在の状況を簡単に説明しよう。

 

 いざ目を覚ますとそこは自分の部屋の天井でもなく病院の天井でもなく限りなく青空の広がる場所であった。どうやらここはどこかの学校のようだ。

 なぜわかったのかというと、スーツを着た男性教師と思われる人物が制服を着た女子生徒と思わしき人物に首にかぶりつかれるというなんともショッキングなものを見てしまったからだ。

 

 食べたいほど女子生徒が男性教師を愛していたと思う程、自分は現実から目をそらしていない。

 

 あり得る可能性としては女子生徒が麻薬を使用していることだろう。

 

 実際にアメリカで麻薬の副作用によって幻覚をみて人を食べていた事件があったことを頭に思い浮かべながらその光景をみまもる。

 どうやらこの学校中で先ほどと同じ光景が繰り返されているようだ。

 

 最悪だ。

 しかも今の自分の姿にも問題がある。

 

 目だし帽(バラクラバ)に迷彩服、その上にプレート・キャリアーを着ている。プレート・キャリアーには弾倉がぎっちりと入ったマガジンポーチがつけられている。

 さらにアメリカ軍の正式自動小銃『M4 カービン』、太もものホルスターには45口径を使用する『Mk23』が収まっている。

 あれ? 

 この装備、確か俺がしていたゲームの装備だ。

 一体全体どうなっているんだ。

 

 

「きゃぁぁぁぁ!? やめて、食べないで!!」

 

 

 悲鳴を聞いた瞬間には自分の意志とは関係なく体は動き出していた。

 

 中庭で女子生徒を覆いかぶさり襲っていた太った男子生徒に照準を合わせ引金を絞る。

『M4 カービン』に装着された抑制機(サプレッサー)が発射時のマズルガスの一部を可能な限り抑えることで、『バスッ!』 とくぐもった音と共に男子生徒の頭に穴が穿たれる。

 

 女子生徒は何が起きたのかわかっていなかったが、動きを止めた男子生徒を退けるとそのまま中庭を走って後にする。

 

 自分の意志とは関係なく銃が使えることがさっそく証明された。

 ひとまず今後の計画は、「安全な場所の確保」、「可能な限りの情報収集」だ。

 

 順応性を高めなければ。

 

 さてひとまずここから降りよう。

 円形の天窓があるってことは天文台のようだ。

 

 確認しても下には…敵はいないようなので潔く飛び降りる。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 小室孝SIDE

 

 

 

 階段を勢いよく降りていく。

 廊下は走らない、というポスターに喧嘩を売るかの如く廊下を疾走する。

 

 非常階段でボンヤリ過ごしていたら校門にいた不審者が体育教師の一部を腕を食いちぎった。

 離れたところからでも血しぶきが見えた。

 

 そしたら倒れていた体育教師が突然他の教師の首に噛みついた。

 

 その瞬間に僕は全速力で廊下を走っていた。

 体が勝手に動いた。

 早く麗を連れて逃げなくては。

 

 授業中の教室に駆け込み、真っ直ぐ麗の机に向かう。

 教師が何か言ったがそんなことはどうでもいい。

 

 

「来い麗、逃げるぞ!」

「ッ! ちょっと、いきなり何ッ!」

「いいから、来い!」

 

 

 麗の腕を掴んで無理やり連れて行こうとする。

 そんな光景を見てクラスの中はざわめく。

 

 

『何考えてんだ、アイツ?』

『さあ、イカれてるんじゃね』

『あれって、告白?』

『超強引~』

 

 そうだ、僕は「元彼女」の麗を連れ出そうとしている。いまの彼氏は僕ではないに―――。

 麗を掴んでいる僕の腕を誰かが掴む。

 

 

「孝、麗をいったいどうするつもりだ!」

 

 そう今の彼氏は彼だ。

 井豪(いごう)(ひさし)。僕の同級生にして親友。

 頭脳明晰で空手の有段者、顔だちは整っており人当たりもいい、非の打ちどころのない好人物。

 それに比べ僕は不良というレッテルを張られた落ちこぼれ。

 小声で永には、校門であったことを話す。

 

 

「校門で殺人事件だ、ヤバいぜ」

「ッ! 本当なのか?」

「嘘をついてなんか得があんのか」

 

 

 話をしている時に少し麗の腕を掴んでいる力が緩み、手を振りほどかれる。

 

 

「ちょっと待ってよ!! ちゃんとした説明をしない限り、私は……」

 

 

 パチン!!

 僕は麗が言葉を言い終わる前に頬を叩いた。

 永と叩かれた本人()も驚いた顔をした。

 女子に手を挙げたことなんんてなかった。でも、それでもここから早く連れ出すために叩いた。

 

 

「「!?」」

「いいから言うことを聞け!!」

 

 

 僕らは先生の静止を振り切り教室を後にした。

 移動しながら校門で起こったことを話すと、永が武器をあったほうがいいと言った。

 

 僕は野球部の私物だろう掃除用具のロッカーの隣に置いてあったバットを拝借した。金属バットでなかなかの重量がある。麗は永が掃除用具のモップの先端を強引に捻じり取って作った、先の尖った槍を持っている。

 

 

「お前、武器はいいのか?」

「俺はこれでも空手の有段者だぜ」

 

 

 永は自分は空手の有段者だら大丈夫だと笑いながら言った。その時の僕は永なら大丈夫だろうと、楽観的な思考をしていた。いや、もしかしたら心のどこかでは思ってしまったのかもしれない。

 

 永が死んでくれれば麗の心は僕に向くのではないかと―――。

 

 その時、スピーカーから放送が入った。

 

 

『全職員、全生徒にお知らせします。現在、学園内で暴力事件が発生中です! 繰り返します。現在、学園内で暴力事件が発生中です! 生徒はッ!?』

 

 

 突然放送が途切れた。

 ……まさか。

 

 

『ッ!? やめてくれ! 助けて!? 痛い! あぁぁぁぁ!?』

 

 

 ブツン!!

 悲鳴と共に放送が終了した。

 

 生徒は放送から聞こえてきた悲鳴で混乱の渦にのまれた。

 我先にと教室に出入り口に殺到し、廊下に出る。転倒するもの、階段から落ちる者さまざまだ。

 

 僕は永と顔を見合わせ頷き、教室棟から外に通じる方とは別の出入り口に向かう。

 その際、現国の授業の担当の教師に遭遇した。

 

 足から出血しており、顔色は悪く、眼球が白く濁っている。

 さらには麗に襲い掛かろうとし、心臓を鋭利なモップの柄に突かれたのにも関わらず死なない。麗を助けに永が教師を後ろから羽交い絞めにして引き離す。しかし、教師の腕力は凄まじく羽交い絞めにしていた永は驚愕した。離れようとしようとするが制服をしっかりとつかまれており離れようにも離れられない。教師が標的を永にしその口が永の腕に噛みついた。永は引き離そうと必死にもがくが教師の歯はどんどん制服に食い込んでいく。

 麗と僕が必死で槍で突いたり、バットで殴るが一向に離れない。

 

 僕の3度目のバットが教師の頭を捉えた。

 手と腕に衝撃が走り痺れる。

 教師は右の眼球が飛び出し頭部をバットの形が付くほど凹ませようやく永から離れた。

 

 永は肉をそがれていた。

 

 教師は『死んでいるのに』動いていた。

 ありえないことだがそれ以外は考えられない。

 原理はわからないがあんな者を何体も相手にしていられない。

 

 教師が来た方向を見ると、服を血に染めたり、ひじから先がない腕をこちらに突き出しながら歩いてくる生徒、教師の姿があった。

 急いで一階に降りようとすると一階から女子生徒らしき悲鳴が聞こえてくる。

 まずい! まずい!

 

 

「屋上に立て籠もるんだ。救助来るまで……」

「立て籠もるっていったいどこに……」

「天文台がある!」

 

 

 その時、無理にでも外に出るべきだったのかもしれない。だけど、その時はそれが一番いいように思えたんだ。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

主人公SIDE

 

 

 さて、どうしよう。

 現在、俺はある問題に直面している。

 人間に遭遇した。

 

 天文台の中を物色し必要になりそうなものを拝借し、ずらかろうとしようとしたときに天文台に通じる唯一の階段から現れた、肩を支えられている男子生徒とその生徒の肩を支えている男子生徒。

 

 さて、どうする。

 

 

 ①銃を突き付けて脅して逃げる。

 

 ゲスいな。これはないな。

 

 ②何事もないようにスル―する。

 

 これも無理がある。俺の見た目でアウトだ。

 

 ③とりあえず助けて恩を売る。

 

 よし、これで行こう。

 

 

「きゃぁぁぁ! やめて!!」

「麗!」

「どいてろ」

 

 

 どうやらまだ仲間がいたようだ。しかも、今の悲鳴は女子生徒。

 すぐに走り出し階段にいる女子生徒に襲い掛かろうとしている男子生徒の頭を自動小銃で吹き飛ばす。男子生徒はそのまま階段を滑り落ちて階段を登ろうとしていた他のゾンビを巻き込んだ。

 女子生徒は、呆然と俺を見ている。

 当たり前か展望台から全身迷彩服の顔を隠した完全武装の人間を見れば。

 

 だけど、呆然とする余裕はないよお嬢さん。 

 手を掴んで無理やり立ち上がらせ階段を上っていく。

 

 

「部屋にテーブルがあるから急いで持ってきてくれ、バリケードを作る」

「…はいッ!」

 

 

 男子生徒を支えていたもう片方の男子生徒が次々と机を運び出してくる。

 

 時間稼ぎをしなきゃな。

 取りあえず5体ほど生徒の頭を自動小銃で吹き飛ばし。机を使いバリケードを築いていく。

 これなら数時間は持つだろう。

 

 この数時間が今の俺にとって何よりも大切である。

 

 さて、口下手な俺の尋問タイムが始まるよ~。

 

 

 

 

 

 

 




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第2話 『とんでもない第一印象』

 小室SIDE

 

 

 屋上に着いた僕たちは町を見て言葉を失った。

 町の至るところで黒煙が立ち上り、サイレンが鳴り響いている。さらにそれに混じって銃声のような音まで聞こえる。

 いったい何が起きてるんだ!

 

 自衛隊のヘリが頭上を通過していくが僕たちを助けようとはしてくれなかった。

 

 屋上に続く階段の扉は鍵が壊れており塞ぐことはできない。

 

 僕たちはすぐに展望台に続く階段に走る。なぜなら別の階段から大勢の血まみれの生徒が出てくるからだ。

 

 永に肩を貸しながら階段を上る。

 もうすぐそこまであいつらが来ている。  

 

 天文台に通じる階段をようやく上りきると銃口を向けられていた。

 銃口を向けているのは、軍で使うような迷彩服を着た人だ。

 鉄砲のことは、詳しくは知らないが人を容易く殺すことができるぐらいは知っている。しかも、その銃口が僕と永を向いており、心臓の鼓動が更に早くなる。

 

 相手は強盗がよくつける目出し帽を被っており表情はわからないがその鋭い視線が突き刺さる。

 一歩も動けない。隣の永も同じように体が硬直している。

 

 その硬直が突如、麗の悲鳴で終わる。

 

 

「きゃぁぁぁ! やめて!!」

「麗!」

 

 

 とっさに麗の方に向かおうとするが、それを遮るように先ほどまで僕たちに銃口を向けていた人物が遮る。

 

 

「どいてろ」

 

 

 その人は、麗に襲い掛かろうとする男子生徒に銃を向けて撃った。

 『バスッ!』といった音と共に男子生徒の頭から血しぶきが舞う。

 

 一瞬の事だった。

 脳味噌をまき散らした男子生徒は階段を転げ落ちて他の血だらけの生徒を巻き込んでいった。

 

 麗が謎の人物に連れられて階段を上がりきる。

 

 

「そこの君、部屋にテーブルがあるから急いで持ってきてくれバリケードを作る」

「…はいッ!」

 

 

 一瞬、何を言われたかわからなかったが僕は急いで天文台へと駆け込んでいき長机を運び出す。机でバリケードを作っている間は、迷彩服を着た人が奴らに向かって銃を撃って近づけさせないようにしてくれた。ようやくバリケードを作り終えたことにより少しの間休むことができる。

 

 僕は思わずへたりこんでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 主人公SIDE

 

 

 

 

 さて何から聞き出そうか……。

 

 

「あの…さっきはありがとうございました。助けてくれて」

「…いいや、気にするな」

 

 

 さっき助けた少女がお礼を言ってきた。

 なんていい子なんだ。

 最近の日本人は『すみません』はよく聞くが、『ありがとう』はあまり聞かない。

 そんな子から尋問しようなんてさっきまでの俺はバカだった。

 

 

「あの、あなたは自衛隊の方なんですか?」

 

 

 腕を怪我したイケメン君が質問してくる。

 

 

「いや、俺は自衛隊ではない」

「そうですか…」

 

 

 自衛隊ではないよ。ごめんね期待させちゃって。それはそうと君、大丈夫?

 顔色真っ青だよ。

 

 確実に感染しているよね。

 

 

「ガフッ! ゲホッ! ガハッ!」

「永! どうしたの! 孝、永が!!」

「なんでだよ、ちょっと噛まれただけだろ。なんでこんなに酷く…」

 

 

 思っているそばから、吐血してるよ。

 自動小銃の銃口を向けようとすると女子生徒が射線に入り込む。

 

 

「やめてください、永は感染してません! 永は奴らになんかならないっ」

 

 

 彼女と吐血している彼は恋人同士の様だ。

 おのれ彼女もちとは許すまじ。

 リア充は、俺が排除する。

 

 

「ぐふっ! よせ麗、映画と同じだ。噛まれただけで駄目なんだ」

「永!? でもっ!」

「僕は人間のまま死にたい。奴らになんかなりたくない! ガフッ! ゲホッ! ガハッ!」 

「永、しっかりして!」

「お願いです僕を撃ってください。みんなに襲い掛かる前に…」

 

 

 リア充……じゃなくて感染した少年の目には覚悟があった。しかし、少年を撃ち殺せば彼女から俺刺されるかもしれない。

 

 出来れば俺を巻き込まないでくれ。彼女、ヤンデレ化しちゃうよ…。

 

 仕方ない、ここは年上として悪役になろうか。

 

 

「…わかった。そこをどいてくれ」

「っ!? 嫌ですっ! どきません!」

「麗ッ! 退くんだ。永が決めたことだ」

「孝は、永が死んでもいいの!?」

「いいわけないだろ!!」

 

 

 早く、しなきゃ彼もゾンビになっちゃうよ。

 ここは強引にいくべきか。

 

 俺は女子生徒を無理やり押しのけて銃口を向ける。

 

 

「2人を…頼みます」

「わかった」

 

 

 彼との短いやり取りを終え、躊躇なく引き金を引いた。

 弾丸は少年の頭を撃ち抜く。

 

 

「いやぁぁぁぁ!」  

 

 

 天文台に少女の悲鳴と薬莢が転がる音が上がる。少女は撃ち殺した少年に縋り付き涙を流す。もう一人の男子生徒は少女を落ち着かせようと声をかける。彼女のことは彼に任せよう。

 

 はぁ…嫌われるのはわかっているが、やっぱり女の子に嫌われるのは答えるなぁ。

 豆腐メンタルがぁぁぁ。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第3話 『とんでもないメンタルダメージ』

連日投稿。
お楽しみください。


 

 

 

 小室孝SIDE

 

 

 

「人殺し! なんでッ、なんで、永を撃ったの!!」

「よせッ麗!」

 

 

 あらん限りの罵声を彼に浴びせる。

 だが彼は罵声を浴びせられてもその瞳には怒りという感情が見つからない。

 

 まるでなんの感情も持たない人形の様だ。

 

 彼は永の遺体に天文台にあったタオルケットをかけ手を合わせ祈る。

 

 

「彼の覚悟を無駄にはしたくなかった。ただ、それだけだ。恨んでくれて構わない。だが、彼が君の事を最後まで思っていたことは忘れないであげてくれ」 

 

 

 そうだ、永は自分が奴らになることがわかっていても僕たちの事を心配してくれた。なら、生き残らなくては永の覚悟が無駄になる。それだけは駄目だ。

 麗はようやく泣き止んだ。泣いたことで少し冷静になった彼女も彼の言葉を聞いて思うことがあるのだろう。話しかけようとするがなかなか言葉が出てこない。

 

 

「これからどうするんですか?」

 

 

 僕は意を決して話しかけた。

 

 

「ひとまず職員室に向かう。マイクロバスが駐車場に止まっているのは確認した。鍵があるとすれば職員室だろう」

 

 

 確かにここにいつまでもいるわけにはいかない。

 僕は金属バットを握りしめる。

 

 地獄はまだ始まったばかりなのだ。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 主人公SIDE

 

 

 

 

 

 

 覚悟はしてたけど面と向かって罵声を浴びせられるのは辛い。

 それも美少女なら5倍増しだ。世の中にはそれをご褒美と感じる危ない人もいるが俺にはそんな性癖がないと信じたい。俺はいたってノーマルだ。

 

 さて自分の世界に入っていた。俺に金属バットをもった少年が話しかけてくる。

 

 

「これからどうするんですか?」

 

 

 ごもっともです。取りあえず駐車場に駐車してあるマイクロバスのカギを取りに職員室あたりに繰り出さなくてはならない。しかし、それには階段でたむろっている団体をお相手しなければ。

 

 自動小銃でも片づけられるが数が多いそんな時はこれ。

 

 タクティカルベストから円形の物を取り出す。

 

 

『M67 破砕型手榴弾』―――スチール製の弾体は球体で形状から『アップルグレネード』とも呼ばれている。爆発時に破片効果をもたらすのは内側に細かい溝がある弾体自体である。弾体の溝は破片が広範囲に飛散するように設計されており、爆発地点より半径約5メートルは致死範囲、半径約15メートルは有効加害範囲になっている。

 

 

「2人は天文台の中に入っているんだ」

 

 安全レバーに付けられたクリップを外し、T字に折れた安全ピンを先を真っ直ぐに戻す。親指及び人差し指でスプリングを固定している安全レバーを押さえ、安全ピンを抜く。手榴弾自体は安全レバーが外れない限り爆発はしない。安全ピンを戻すこともできる。

 よく映画ではピンを口にくわえて引き抜くシーンがあるがそんな簡単には手榴弾のピンは抜けなくなっている。

 

 最後の安全装置でもあるレバーが外れる。

 

 心の中でカウントをする。

 手榴弾はレバーが外れて5秒後に起爆信管が作動する。

 

 1…2…3。

 

 

「爆破する!」

 

 

 手榴弾を投げるとすぐさま天文台の中に駆け込む。

 駆け込んだと同時に手榴弾の信管が作動し階段のところにたむろするゾンビの中央で炸裂する。駆け込んだ時に足が段差に引っ掛かり女の子に抱き付いてしまったのは事故だ。

 

 

「すまない」

「え、いえ……大丈夫です」

 

 

 しっかり謝ろうぜ俺。

 

 

「ついてくるんだ。離れるな」

 

 

 いざ、職員室へ突撃。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 宮本麗SIDE

 

 

 

 

 どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 数時間前まではいつも通りだったのに。

 

 

「水だ」

「え、あ、ありがとう…ございます」

「気にするな」

 

 

 水を差しだしてくれたのは迷彩服を身に着けた男性だ。彼は私が危ないところを救ってくれた。それに私の恋人永を人として殺した人。永が撃たれた時、私は彼にひどいことを口走ってしまった。

 

 

『人殺しッ!』

 

 

 最低だ、私……。

 彼は永を人として終わらせてくれたのに。

 

 そんな彼は、私に罵声を浴びせられても怒るでもなく無視するのでもなく真っ直ぐ聞いていた。そんな態度も永が死んだ直後の私には許せなかった。

 あれだけ罵り、罵声を浴びせかけたのにもかかわらず私のことを気遣ってくれる。涙が出なくなるくらい泣いた私はひとまず自分のしたことに気づいた。

 

 

 天文台から職員室にいくために階段にいる〈奴ら〉を手榴弾で吹き飛ばすという。

 私と孝は天文台に入り耳を塞いでいた。

 

 

「爆破する!」

 

 

 彼が天文台に飛び込んできたときと爆発は同時だった。

 振動が天文台だけでなく校舎を揺らす。

 思った以上の衝撃で驚きバランスを崩した私を彼が抱き留めてくれた。

 

 

 普段ならあまり知らない男性に抱き付かれたり、触られたりすれば嫌悪感があるが不思議とそれが感じられなかった。鼓動が早くなるのがわかる。

 

 

「ついてくるんだ。離れるな」

 

 

 彼は私のことをどう思っているのだろう。

 ふと、そんな思いがよぎる。

 

 

 

 

 

 

 




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第4話 『とんでもないツインテール少女と木刀少女』

この作品を読んでいただきありがとうございます。
鞠川先生SIDEを入れるか迷いましたが、結局は入れることにしました。
追々、見直していきます。





 主人公SIDE

 

 

 お食事中の皆様、ご注意ください。

 

 校内を完全武装の不審者が通ります。

 

 

 手榴弾で階段のゾンビを駆除した俺は生徒2人を連れて職員室を目指し、移動しながら感染者の頭を自動小銃で吹き飛ばしている。

 移動しながらの射撃はどうしても命中精度が落ちてしまうが俺のこのチートボディーがあれば難なくできる。

 

 恐るべき俺のチートボディー。

 

 

 後ろからは男子生徒と女子生徒が続く。

 

 しかし、どこも感染した生徒だらけだ。さらにいたるところに血がついているので滑りやすいしむせかえる匂いがする。|目出し帽(バラクラバ)越しでも感じられるほど強烈だ。

 

  

「きゃあぁぁぁぁ!」

 

 

 女性の悲鳴が廊下に響き渡る。

 

 

「職員室の方からです」

「急ごう」

 

 

 そういえば俺、職員室の場所知らないや。

 一応、方向は合っているようだ。

 

 

「そこの角を右に曲がって真っ直ぐ進めば職員室です」

 

 

 職員室の入り口に着くとそこではツインテールの少女が教師のゾンビに追い詰められていた。

 もう一人の男子生徒はくぎ打ち機を構え、ツインテールの女性生徒に迫る教師ゾンビに釘を撃とうとするがどうやら釘が切れてしまったようだ。

 

 ツインテールの女子生徒が床の袋を踏み尻餅を付く。

 そろそろ、不味いな。

 

 自動小銃を構えるが、何かがゾンビ教師を超えてこっちに飛んでくる。

 俺に飛来してきた物は、トロフィーだ。

 

 どうやら女子生徒が投げているようだ。

 

 

「くるなぁぁ!」

 

 

 ちょ!?

 お願いしっかり相手を狙って投げてくれ。

 俺に飛んできてるから!

 

 盾形のトロフィーの角が頭を直撃する。

 

 誰のかって?

 

 俺のだよ。

 でもヘッチャラさなんたってヘルメット被ってるから!

 

 次々と飛来するトロフィー。

 ヘルメットは『頭』を守ってくれる道具であって『顔面』は防衛外だ。

 

 目がぁぁぁぁぁ!

 顔面は無防備だからやめてぇぇぇぇ!

 

 

 自動小銃を下ろして山刀(マチェット)を抜き放つ。

 これ以上、平凡な顔からランクダウンした顔になりたくはない。

 何事も平凡が一番である。

 

 

 教師ゾンビの首めがけ振りかぶって、斬ったぁぁぁぁ!

 

 

 ゾンビ教師の頭部が壁に飛び、最後に投げられたトロフィーが俺の鼻を直撃。胴体は女子生徒の方に倒れる。

 

 

「いやぁぁぁぁ!!」

「(鼻があぁぁぁぁぁ!!)」

 

 

 女子生徒は首なし教師に悲鳴を上げる。俺は鼻の痛みで悲鳴を上げそうになるが我慢する。女子生徒の悲鳴でゾンビが集まってきてしまった。

 

 仕方がない、片付けよう。

 

 

「そっちの2体は、君達に任せた。こっちは俺が片づける」

 

 

 前言撤回!

 本当にすみません。押し付けます。

 

 

「はいッ!」

「わかりましたッ!」 

 

 

 やる気に満ち溢れた返事をもらったが、心の中では『あんたが、片付けろよ。持ってるモノ()はただの飾りか』なんて思われていることだろう。

 

 向こうに2体押し付けたはいいが…あれ?

 こっちのゾンビ増えてね?

 さっきまで1体だけでしたよね。

 

 それが、総数にして5体。

 さっそく押し付けた罰が下ったよ。

 

 

 諦めて近くにいた1体を片付けていると木刀(ぼくとう)を持った女子生徒ともう1人は女性教師だろうか、俺たちとは反対の廊下から現れる。

 

 

 木刀を持っている時点で見るからに剣士の女子生徒が繰り出す一撃はゾンビを無力化していく。

 女子生徒の木刀さばきは凄まじいの一言だ。しかも、表情がヤバい。一瞬であるがゾンビを葬る顔がまさに快感のような表情になっている。他の人間では気が付くのは難しいだろう。 

 

 中学、高校時代伊達に趣味で人間観察して過ごしていた訳ではない。

 

 言っとくがボッチではなかったぞ!

 本当に!

 

 

 ひとまず職員室で一時的な休息と自己紹介をすることになった。

 

 

 自己紹介と聞いて俺は今後の事が頭から消え去り、自己紹介の内容で埋め尽くされることになった。

 自己紹介、苦手なんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 高城沙耶SIDE

 

 

 本当に私って不幸!

 混乱に陥る前に教室を抜け出し、軍事オタクである男子生徒『平野コータ』と共に技術室で武器を手に入れたが今まさに窮地に追い込まれている。

 

 目の前には血を流す男性教師。

 見ただけでその男性教師が追っている傷は致命傷だということはわかる。

 

 人が人を食ってる。

 冗談じゃない!!

 

 

「くるなぁぁぁぁ!!」

 

 

 私は、明確な脅威を必死に遠ざけようとする。

 背後にあるトロフィーなどをひたすら投げる。

 

 焦ってしまいうまく当たらない。当たっても男性教師はこちらに近づいてくる。

 このまま私も食べられてしまうのだろうか。

 

 

 だれか助けて・・・・。

 

 男性教師の体が私に伸し掛かってくる。

 悲鳴を上げて体を押しのけようとするが先ほどと何かが違う。

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!」

 

 

 教師の体には『頭』がなかった。

 その時、なぜ頭がないのか理解ができなかったが視線を上げると大きな刃物を振りかぶった人物がいつの間にか私の前に立っていた。その人物の服装は、迷彩服を着ており装備している物も一般人とはかけ離れたものだ。

 体格からして男性であることはわかるが、どうしてこの場にいるのかわからない。

 

 

「そっちの2体は君達に任せた。こっちは俺が片づける」

「はいッ!」

「わかりましたッ!」 

 

 

 私を助けてくれた男性は誰かに指示を出し、集まってきた血だらけの生徒の方に向かう。指示を出したのは彼の連れだろう声に聞き覚えがあったが彼から目を離すことはできなかった。

 彼の姿には、危ういところはなく的確に近づいてくる血だらけの生徒の頭に刃物を突き入れ無力化していく。

 

 その場に3年の毒島冴子、保健医の鞠川静香先生が合流しひとまず職員室で休息と簡単な自己紹介が行われることになった。

 

 ようやく気持ちが落ち着いていろいろと考えることができるようになった。

 私を助けてくれた彼は恐らく軍関係者だろう。そうでなければ平和である日本で銃を所持できる訳はない。ならばこの異常事態についてなんらかの情報を持っているはず。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 毒島冴子SIDE

 

 

 

 

 剣道場にいた私は教室棟の混乱には巻き込まれずにすんだ。さらに愛用の木刀も手元にある。

 学校のいたるところで人が人を喰らうことが行われている。

 血まみれの姿でこちらに手を突き出してくる生徒の姿はどう見ても無事とは言えない。

 

 首の肉を大きくそがれ普通なら叫び出していても可笑しくない怪我を負っている。

 

 もはや人ではないのだろう。

 さらに力が恐ろしく強い。

 

 1体程度なら余裕をもって倒せるが、囲まれでもすれば勝機はないだろう。

 

 生存者を探していくなかで保健室で保険医の鞠川校医を助けることができた。しかし、鞠川校医を守って戦った男子生徒―――石井君は間に合わなかった。

 噛まれた彼は、私が人である内にとどめをさした。

 

 普通なら錯乱しても可笑しくないが、彼は最後に鞠川校医を守れたことで満足したのだろう。取り乱すことなくむしろ堂々とし満足した笑顔と共にその生涯を閉じた。

 

 保健室を出た私と鞠川校医は職員室に血だらけの生徒を避けながら進んだ。鞠川校医の車の鍵が職員室にあるのだ。

 

 

「職員室とは、全く面倒な」

「仕方ないでしょ、車の鍵があるんだから」

 

 

 職員室の近くまで来ると廊下に女子の悲鳴が轟く。

 どうやらまだ、生存者がいたようだ。

 

 職員室前に着くとそこには山刀を生徒の頭に叩き込む迷彩服の人間がいた。 

 私も身近にいた男子生徒の頭部に木刀を叩き込む。

 

 その時、迷彩服の人物から視線を感じた。

 ふと目を向けると視線が合った。

 鈍色(ガンメタル)のような瞳が私を捉える。目をただ見られた、というだけで感じるこの重圧。私がどれだけの人間であるかを誤魔化しようもなく見透かされているかのような感じがした……。

 その時の私には、それがどうしてなのかとても怖かった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 鞠川静香SIDE

 

 

 

 

 毒島さんに助けてもらったのはよかった。でもブランド物のスカートを破られたのは痛い。

 確かに走りにくい格好をしているけど、ブランド物も命も両方大事なのよ。

 

 

 職員室に着くと鉄砲を持った兵隊さんみたいな人がいたのは驚いた。

 

 最初は顔を隠して怖くてあまり話しかけたり近づくことができなかったが、彼は他の男性と違った。

 私は、どうしても男性が苦手だ。理由は、この身体にある。

 

 胸が異様に大きいのだ。

 親友の女の子にも言われるし自分でもそのことは自覚している。私を見る男性の目が胸に集中するのも理解はできるが、納得はできない。

 

 しかし、彼の視線が胸に集中することはなかった。彼は、私の目を見ていた。

 ただ、真っ直ぐに。

 

 彼なら信用できる。

 いくらお気楽そうな私でも誰かを簡単には信じたりしない。だけど、そんな私でも信用させる何かを彼は持っている。そう思えてしまう。

 

 はっきりとはわからない。

 

 女の勘、なのかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 




ご意見やご感想があればよろしくお願いします。


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第5話 『とんでもない自己紹介』

たくさんのお気に入り登録、貴重な評価をしていただきありがとうございます。
今作からは、女性陣のSIDEを何人かに分けて書いていきます。本当にすみません。
主人公SIDEは基本、毎話入れていきます。


 主人公SIDE

 

 

 

 職員室の扉に内側からバリケードを作り一時的に避難する。

 みんな疲れている、休息が必要だろう。

 

 一通りメンバーの自己紹介が行われる中、撃ちきって空になった弾倉(マガジン)にバラの弾薬を詰める作業をしているといよいよ俺の番が回ってきたようだ。最後の空の弾倉(マガジン)に弾を詰め終わり、ヘルメットと目出し帽(バラクラバ)を取る。

 

 頭からヘルメットの重りが取れ、目出し帽(バラクラバ)からの息苦しさから解放される。 

 

 俺が目出し帽を取ると全員の視線が顔に突き刺さる。

 そんなに平凡な俺の顔を見ないでください。

 

 平凡な顔が蜂の巣だぜ。

 

 まずは名前からでいいよね?

 

 

「…篠崎淳也だ」

 

 

 え、それだけ? 

 みたいな空気になっちまったどうしよう。

 

 だってしょうがないだろ。

 いつの間にか知らない学校の屋上にいて気づいたらこんな服装してたんだから。

 俺が一番知りたいよ自分の事……。

 

 とんでもない世界に連れてきた奴、最後まで責任とれよ。せめて、書置ぐらいだけでもいいから。

 

 

「それで、彼方はいったい何者?」

 

 

 ピンクツインテールの少女、高城沙耶(たかぎさや)さんからのご質問です。

 答え。

 

 

「……」

 

 

 沈黙しかないよ。

 嘘言うのもなんか嫌だもん。

 どんな質問にもだんまりはいけないんだ。何か答えなくては……。

 

 

「自衛隊ではない」

 

 

 よし、よく言えた俺の口!

 このことは屋上で、俺が頭ぶち抜いたイケメン君にも説明したことだ。

 やばい、屋上のこと思い出したらその時の槍術部の宮本麗(みやもとれい)さんに言われた罵声を思い出してしまった。あの時、一緒にいた男子生徒、小室孝君が彼女を止めてくれなかったらメンタルダメージを負いすぎて屋上からダイブするところだった。

 

 ありがとう、小室君。

 君はあの時、俺の(メンタル)(ライフ)を救ってくれたよ。

 

 

「それじゃあ、質問を変えるわ。いったいここで……この世界で何が起こっているの? 貴方なら何か知ってるんじゃないのそんなモノ()を持ってるんだから」

 

 

 まあとんでもないことが起こってるね。

 俺の今の状況もだけど。

 

 職員室のテレビで放送しているニュースも、このバイオな内容を暴動として放送している。確かに、いきなり人が人を食べてますなんて流せばさらなる混乱を生みかねない。世界中で同様のことが起こっているので既に大混乱なのだが。

 

 正直、ゾンビはゲームや映画だからこそ楽しめるがそれが実際に起こってしまうとたまったものではない。

 

 文明社会の崩壊だ。

 

 つまり文明であるゲームやアニメが打ち切りになってしまう!!

 好きな作品が途中で打ち切りになってしまうほど空しいものもない。

 

 

「残念だが、何が起こっているのか俺にもわからない(俺、自身の事も含めて)。だが、奴らを殺すには頭を破壊する以外ない」

「それは、既に証明しているわ。それに、連中は恐らく視覚、嗅覚がない。それに比べ聴覚は残ってるみたい。音には敏感よ。腕力も異常に強いわ」

「極力戦闘をさけ、静かに駐車場のマイクロバスまで移動し乗り込むしかあるまい」

 

 

 俺と同じことを考えていた剣道少女、毒島冴子さん。凛とした雰囲気が年長者である保険医の鞠川静香先生よりも大人びているように感じさせる。鞠川先生は、非常におっとりとしてマイペースなのだ。それが天然なのが、いいのか悪いのか。

 

 

「でもいくらマイクロバスでも何体も奴らを跳ねれば車体へのダメージは大きいです。最悪、走行できないダメージを負う恐れもあります」

 

 

 確かにそうだ。

 彼、銃器大好き太っている眼鏡男子生徒、平野コータ君が言ったように何体もゾンビを跳ねれば大抵の車は少なくないダメージを負ってしまう。

 

 なぜ、彼が銃器が大好きかわかるのかだって?

 

 そりゃあ、あんなキラキラした目で自動小銃や拳銃を見られたらね~。

 キラキラ度合いが半端ない。あのメガネにはそうゆう効果があるのかもしれない。

 など、バカなことを考えるうちにも話は進んでいる。

 

 

「家族の無事を確認し、どこに逃げ込むかが重要だな。とにかく各々(おのおの)が好き勝手に動き回っても生き残れまい。チームだ。チームを組むのだ」

 

 

 そんな毒島さんの提案でチームを組むことになったんだが、できれば別行動でもいいかな。

 

 だって、宮本さんは結構な頻度でこっちを見てくるし。高木さんは俺のことずっと睨んでいるし。毒島さんに至っては俺とあまり顔を合わせないようにしているし。

 

 正直、女子高校生に嫌われまくっているよ。

 

 何このおっさん。

 みたいなこと思われてるよ。

 

 凄くへこむ。

 

 いや、誰だって異性には好かれたいだろう。

 流石に女子高校生に手は出さないよ。

 

 もう、30ですし。

 

 鞠川先生は守備範囲内だが、世界がバイオな訳のわからない状況で恋愛をする余裕を持つなんて俺には無理だ。もれなくゾンビの仲間入りを果たすだろう。

 

 このチートボディーでゾンビになったら某バイオに出てくる『スターアぁぁぁぁズ!!』って叫びながらロケット弾を撃ったり何度もしつこく復活して出てくる存在になってしまうかもしれない。そうなる前に自分でかたをつけよう。

 

 自分のしでかしたことは自分で片づける。

 

 

 これ社会のジョウシキ。  

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 宮本麗SIDE

 

 

 

 

 ようやく無事に職員室にたどり着くことができた。

 これも、彼のお蔭だろう。ここに来るまでに何体もの〈奴ら〉と化した生徒に出くわしたが、彼が銃で頭を吹き飛ばしたり。大きな刃物で的確に頭を破壊していた。

 

 私と孝だけだったらなかなか職員室に辿り着けなかっただろう。

 

 そして、私たちのことも頼ってくれる。

 あまり〈奴ら〉の数が多くない場合は、私と孝が仕留めた。

 

 職員室の中に入り、一時的な休憩を入れることになった。

 確かに極度の緊張が続いて疲れがたまってきているのはわかる。

 

 ペットボトルの水を彼に配ると普通にお礼は言ってくれるがそれ以外のことは何も話さない。黙って銃の弾を込めている。

 

 少し落ち着いてから改めて自己紹介が行われた。

 私たちの自己紹介が終わり、みんなの視線が彼に集まる。

 

 彼は自己紹介をしている中でも弾を込めていた。ようやく全部の弾がつめ終わったのか視線を上げる。

 

 

 ヘルメットを外し、顔全体を覆っていた目だし帽をとった。

 

 整った顔。傷跡が刻まれた顔は、彼の性格そのものを表しているのかもしれない。

 少しも表情を纏わない顔。その、光る眼差しを向けられると私の鼓動が早くなる。

 

 恐らく年齢は20代後半だろう。

  

 

「…篠崎淳也」

 

 

 彼は名前だけを名乗った。それから他に言うことはないといった雰囲気が漂う。

 

 高木さんが彼―――篠崎さんに何者なのか聞いた。

 

 

「……自衛隊ではない」

 

 

 彼はすぐには答えなかった。

 篠崎さんが自衛隊でないのは既に屋上で聞いている。では、彼は本当は何者なのだろう。

 

 私の中で篠崎さんへの疑問と何とも言えない感情が大きくなっていく。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 高城沙耶SIDE

 

 

 

 

 ひとまず職員室に避難することはできた。

 さっきは危なく奴らに噛まれるところだったが間一髪でアイツ(篠崎)に助けられた。

 

 腐れオタ(平野)の釘打ち機は運悪く釘がきれてしまったのはどうしようもない。だが、周りをもっと警戒していれば違った対応もできたことだろう。警戒を怠ったのは私の落ち度だ。

 

 だけど、アイツ(篠崎)はいったい何者?

 服装、装備…どう見ても一般人でもない。だが、なぜこの学園にいるのだろう。

 

 どこかにの軍隊に属しているなら単独で動くことはないはず。

 

 正直、ここ藤美学園はただの私立の学校である。特に特別なものもない。

 

 それに、私の質問に一応、答えたがこれといった情報は聞き出せなかった。

 もし、個人で銃や装備を揃えていたなら…篠崎は私たちの知らない何かを知っている。

 

 まさか、自己紹介の時に目出し帽(バラクラバ)まで取るとは思わなかった。この騒動に関係しているのなら私たちに対し顔をさらす、リスクの高い行動は起こせるものではない。

 

 篠崎の顔はいかにも歴戦の兵士だった。顔にある傷跡がその印象をさらに大きくする。

 

 しかも、面影がどこかパパに似ている。

 

 私ともあろう天才がいったい何を考えてるの!?  

 

 確かに、命を救われて腰が抜けてうまく立ち上がれないときに手をかしてもらったけど感謝する以上に胡散臭さの方がうえでしょ!

 

 どうして、こんなに取り乱すの!!

 

 これも全部、アイツ(篠崎)が悪いのよ!

 

 

  

 




ご意見やご感想があればよろしくお願いします。
続きのツトックが切れてきたので、少し投稿が遅れるかもしれません。
皆様にはご迷惑をお掛けします。
申し訳ありません。


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第6話 『とんでもないセンコウ』

皆様、お待たせしてすみません。
今回は主人公SIDEに比べ主要キャラSIDEが短めになっています。



 

 

 主人公SIDE

 

 

 

 

 

 右のアサルトブーツの(かかと)がアスファルトを捉えた。

 その衝撃は骨を伝って、一気に脳天へ突き抜け足の裏がべったりと地面に張り付き足首と連動して体を前へと前進させていく。

 

 地面を蹴った左の膝を曲げ、右足を追い越しつつ、すぐに前へ蹴りだす。

 

 道を遮るゾンビを的確に仕留めていく。

 

 俺を含めた全員が同じ状況だ。

 全力で駐車場に止めてあるマイクロバスに走る。

 

 ゾンビは、走る食事に(俺たち)かぶりつこうとする。

 俺を食っても美味しくないよお嬢さん。

 

 女子生徒であったモノの頭を再装填した5.56mm弾で吹き飛ばす。

 

 まあ、わかってたけどね。

 何もなくたどり着くのは無理だって。

 

 

 

 思い起こせば数分前――――

 

 

 

 

 職員室で今後の計画を立て、息を整えた俺たちは途中、いまだに生き残っていた生徒を拾い正面玄関に辿り着いた。

 下駄箱の陰から正面玄関を伺うとそこには、かつて生徒だった存在がわんさかいた。

 

 

 結論…正面玄関からの脱出無理じゃね。

 

 

「奴ら見えてないから隠れることないのに」

 

 

 高城さんはそういうが、最近のゾンビ映画は視覚も残っている物が多い。もし見えてたらたまったものではない。念には念をだよ。

 

 

「校舎の中を進み続けて、襲われた時身動きがとれない」

「玄関を突き抜けるしかないのね」

「誰かが確かめるしかあるまい」

 

 

 毒島さんの言う通り誰かが生贄にならなければいけない。

 誰か……?

 

 あれ、この場合格好からして俺じゃね?

 あまり行きたくないな。

 

 誰だって行きたいとは思わないけど。

 ここは、小室君に助けを求めよう。俺はバックアップに徹しよう。

 バックアップは任せろ。

 

 

「よし、ここは僕が行こう」

 

 

 待ってたぞ、その言葉を!

 これで、俺行かなくていいでしょ。決まりでしょ?

 

 

「孝が行くより、私が…」

「私が先に出た方がいいな」

 

 

 え?

 何この流れ。

 みんなそんなに生贄になりたいのか。

 

 それじゃ年上の俺が行くよなんて言わなくちゃいけなくなるじゃん。

 死亡フラグは回避できないのか……。

 

 

「俺が行こう」

 

 

 結局こうなるのか。

 装備をチェックしレッグホルスターから拳銃を抜く。

 

『MK23』――45口径の弾薬を使用する拳銃である。装弾数は、薬室に1発入れた状態で

13発。装弾数は少ないがこの銃のいいところは消音器(サイレンサー)との相性がいいのと威力があるところである。

 

 銃身の突起(ラグ)消音器(サイレンサー)を取り付ける。

 もし、死体の視覚が残っていた場合、至近距離では自動小銃の大きさでは小回りが利かないため拳銃を選択した。

 

 

 目の前をゾンビが通過する。

 その距離20cm。

 

 ヤバい。怖くて漏れそうだ。

 

 心臓に悪いよ本当に。

 

 どうやら高城さんの説は正しいらしい。

 正しくなかったら貪り食われるところだ。

 

 床に落ちていたシューズを拾い、入り口とは反対の方に投げる。

 ほら、取っておいで。そして、戻ってくるなよ。

 

 壁に当たったシューズは、無事に玄関のゾンビを誘導することに成功した。

 これで問題なく通れるだろう。

 

 この時点までは順調だった。そう順調だったんだ。

 

 小室君を先頭に続々と入り口をくぐっていく。そして最後の1人がくぐった瞬間。

 

『カーン!!』と音が響いた。

 

 最後の男子生徒の持っていたサツマタが入り口の枠にぶつかった音だ。

 やってくれたなぁぁぁぁ!

 俺の勇気を一瞬で水の泡にした瞬間である。

 

 

 

 それで、冒頭にさかのぼる。

 

 

 

 マイクロバスの周りのゾンビは自動小銃ですぐさま掃除した。

 いち早くマイクロバスに乗り込みたいが、鍵は鞠川先生が持っているのだ。

 

 

「鞠川先生、鍵を」

 

 

 どんどんとゾンビが群がってくる。

 これは、長くは持たない。

 

 既に途中で助けた生徒が何人か食われた。

 正面のゾンビだけでも掃討しなければ。

 

 

「篠崎さん、全員乗りこみました!」

 

 

 ちょッ! 俺、最後かよ!

 

 

「道は作ったが長くは持たない」

 

 

 せっかく正面のゾンビを掃討したが、再び群がってくる。

 

 

「ま、待ってくれッ!」

 

 

 小室君がマイクロバスのドアを閉めようとすると校舎のほうから複数の生徒と教師らしき眼鏡をかけた男性が走ってくる。どうやら、まだ生存者がいたようだ。

 毒島さんは、男性教師を知っているらしい。

 

 

「3年E組の紫藤だな」 

「紫藤…!」

 

 

 毒島さんと宮本さんあの先生を呼び捨てにしたよ。男性教師なんてそんなもんか。だけど、宮本さんの顔がヤバい。

 まさに、阿修羅――――憤激と憎悪を糧とする闘争の悪鬼だ。

 眉間の皺から剥き出した白い糸切り歯に至るまで、強烈な鬼の形相が浮かび上がっていた。

 

 おいおいあの教師、宮本さんに何したんだよ。

 この顔は相当だぞ。

 セクハラか?

 セクシャルハラスメントか?

 

 阿修羅の表情のままの宮本さんが小室君と言い争っている。

 小室君よく話せるな。

 

 俺は回れ右してゾンビの集団に特攻したほうがましだ。 

 

 

「あんな奴、助けることなんてない! あんな奴、死んじゃえばいいのよ!!」

「どうしたんだ、麗!」

 

 

 再び、セクハラ(紫藤)先生一向に視線を向けると集団最後尾の眼鏡をかけた男子生徒が盛大にこけた。足を痛めたのか立ち上がることができない。セクハラ(紫藤)先生に助けを求めているようだ。

 

 それをセクハラ(紫藤)先生は、笑顔で眼鏡をかけた男子生徒の顔面をヤクザキックしやがった。

 少年は、顔の激痛から声を上げてしまい奴らの餌食になる。その間、紫藤先生は悠々とバスに乗り込んだ。

 

 とんでもないセンコウもいたもんだ。

 こいつなら宮本さんにセクハラとか本当にしてそうだ。

 

 いくら可愛いからって生徒に手を出しちゃいけないでしょ。

 警戒しておいたほうがいいな。

 

 こうして俺たちは、マイクロバスでゾンビが溢れる校舎を後にした。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 平野コータSIDE

 

 

 

 

 

 

 僕は、前の世界ではずっと我慢してきた。

 どれだけ馬鹿にされても愛想笑いを浮かべて耐えてきた。でも、もうそんなモノは何の意味もない。

 

 くぎ打ち機で生徒であったモノの頭に釘を撃ちこむ。

 そうだ、この世界が俺の世界なんだ。

 

 ここなら俺の居場所がある。

 そう思っていた。

 

 

 消音器(サイレンサー)で抑制された銃声が鳴り、目の前に出てきた〈奴ら〉が倒れていく。

 

 篠崎さん…彼は、僕の理想そのものだ。 

 重火器を自由自在に使いこなし、〈奴ら〉を倒していく。

 

 海外の民間軍事会社『ブラックウォーター』で銃の撃ち方の訓練を受けたけど篠崎さんの銃の扱いはとことん無駄を省いたものだ。 

 

 最小限の抑えた息継ぎだけを行い、身体の動きそのものには一切の乱れを生じさせない。

 不必要な激しさも、過剰な心情の発露なども感じられない。

 

 あくまでも機械的な美しさすら感じられる動作だった。

 

 

「リロード!」

 

 

 それでいて自身のリロードを報せる基本を省いたりしない。

 

 

「カバー!」

 

 

 すぐさま、篠崎さんが再装填を終えるまで僕が行き先に進み出てくる〈奴ら〉を撃つ。

 こんなすごい人に頼りにされるという嬉しさがこみ上げてくる。

 

 そうだ、僕が守るんだ。

 みんなを…高城さんを!

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 小室孝SIDE

 

 

 篠崎さんが銃で〈奴ら〉を倒しているから僕たちが相手にする数はそれほど多くはない。しかし、足を止めてしまえば囲まれ引き裂かれる。

 

 

「先生、キーを!」

 

 

 正門に繋がる道の〈奴ら〉は篠崎さんが撃ち倒している。かなりの距離があるのに1発撃つごとに1体倒れる。

 すごい、この距離で的確に頭に当てている。

 

 篠崎さん以外の全員がバスに乗り込んでから声をかける。

 いざ、バスの扉を閉めようとすると校舎の方から声が聞こえた。

 

 まだ、生き残っていた人がいたんだ!

 

 すぐさま助けようと外に出ようとすると麗に止められた。

 

 

「あんな奴、助けることなんてない! あんな奴、死んじゃえばいいのよ!!」

「どうしたんだ、麗!」

 

 

 いったい麗はどうしたのだろう。

 ここまで言うのは麗らしくない。

 

 僕たちが口論している内に紫藤がバスに乗り込んでくる。

 

 

「後悔するわ! 絶対に後悔する!!」

 

 

 僕にはどうしてここまで麗が言うのかわからなかった。

 永なら何か言葉をかけていただろう。だけど、僕にはなんて言っていいのかわからない。

 それを正しい言葉で示すことが、今の僕にはまだ出来そうにない。そして、正しくない言葉でこの気持ちを語りたくない。

 

 そうだ。

 好きな子の事なのに僕はわからないことだらけだ。

 

 わかる時が来るのだろうか、この世界で……。

 

 

 

 

 




ご意見やご感想があればよろしくお願いします。


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第7話 『とんでもない運転』

この作品を読んでいただきありがとうございます。
暑い日が続いています。皆さんもお体に気をつけてお過ごしください。


 主人公SIDE

 

 

 

 バスが大きく揺れる。

 

 初めて、人が潰れる姿をまじかで見たが。豆腐メンタルの自分にとってトラウマ物である。

 いや、豆腐メンタルでなくてもトラウマ物だろう。

 

 フロントガラスには、べっとりと血が付着している。

 俺は、助手席から運転席のワイパーレバーを操作しフロントガラスを綺麗にする。

 

 コンビニの前のゾンビを容赦の文字すら吹き飛ばす勢いで轢き殺したのは鞠川先生である。

 俺はもっと安全運転だ。小心者だからな。

 

 藤美学園を脱出し、街を目指しているがどこにでもゾンビがいる。

 

 

「なんで俺たちまで小室達に付き合わなきゃならないんだ? お前ら勝手に町に戻るって決めただけじゃねえか。寮とか学校で安全なところを探せばよかったんじゃねえか!?」

 

 

 見るからにヤンキーの男子生徒が具体的な解決策も示さないまま不平を喚き散らしている。

 こういう奴をなんて言ったっけかな…そうだ!

 

 DQNだ!

 

 DQNのおかげでバスの中の空気が悪くなる一方である。

 窓を開けても入ってくるのは火事になった家の焦げ臭いにおい。一向に良くなることはない。

 

 さらに低空で飛行しているテレビ局のヘリから人が落下するところまで見えてしまった。

 豆腐メンタルの俺にはつくづく合わない世界である。

 

 誰もいないところで静かにコーヒーを飲みたい。 

 

 

「もういい加減にしてよ! こんなんじゃ運転なんてできない!!」

 

 

 ついに鞠川先生がキレてバスを路肩に停車した。

 あの、のほほんとしている鞠川先生がキレたのだ。

 

 

「んだよォッ! 何見てんだやろうってのか!」

 

 

 え?

 俺のことか?

 いや、見てないよ。後ろの景色を見てたんだよ。

 

 

「ならば君はどうしたいのだ?」

「うっ……」

 

 

 『うるせぇ!』と言おうとしたのだろうが睨みを効かせる毒島さんの迫力で、DQNは言い淀んでしまう。

 確かにビビるよね。

 俺も知らず知らずのうちに銃の安全装置を外しそうになってるし。

 

 

「気に入らねぇんだよ。こいつが気に入らねぇんだ! なんだよ偉そうにしやがってッ」

 

 

 おい、せめてこっちを見て指を指してくれ。

 俺か小室君かわからない微妙な位置を指さすな。

 

 それに、そんなに俺は偉そうにしてないよ。事の成り行きを助手席から見守っているだけだけど。

 あっ、これが世間では偉そうにしてるっていうのかな?

 

 

「なにがだよ? 俺がお前に何か言ったよ?」

「てめっ!」

 

 

 ここは、部外者の俺が止めるべきだろう。

 穏便にすませよう。

 

 言葉は人類が生み出した最大の武器なのだから。 

 

 そういえば俺、喋るの苦手だった……。

 

 助手席を立ちあがりDQNを止めるため後ろに向かおうとすると段差に足を取られた。

 バランスを崩した俺は勢いよく小室君に近づいてきた男子生徒の腹部に踏み込みが入った、いいパンチをお見舞いしてしまった。

 

 やばっ!

 DQNがくの字になってセクハラ(紫藤)先生もろとも1番後ろの座席まで飛んでいく。

 

 どうしよう。

 直後に俺は猛烈な後悔に襲われた。バスの中の空気が音を立てて凍り付いたのが見えるようだ。

 足をもつれてDQNにパンチを入れてしまうなんて俺はなんてことをッ……。

 

 

「落ち着け」

 

 

 そう自分に言い聞かせることで精一杯の俺であった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 毒島冴子SIDE

 

 

 木刀に付いた血を篠崎さんから頂いた布でふき取る。

 恐らく彼は、私が彼の何かに恐れを抱いていることに気付いている。

 

 

 確かに篠崎さんの動きは、寡黙な機械の様に力強く、基本からぶれないスタイルでとても研ぎ澄まされたものだ。

 表情は目だし帽(バラクラバ)でうかがい知れない。

 

 〈奴ら〉を刃物で仕留めるのを見ていたが、流れるように眼球に刃物を突き入れ無力化していた

 

 恐れていても彼の事を目で追ってしまう。

 

 

 バスの中ではまだこの世界を理解しようとしない者達が喚き散らしている。

 具体的な案があるなら聞く耳を持つが、その生徒が言っているのはどれも不平ばかりである。

 

 

「ならば君はどうしたいのだ?」

 

 

 やはり、これといったことをその生徒の口から聞けることはなった。

 

 八つ当たりである。

 

 今までの平和な日常が突然、地獄へと変わってしまったことを誰かにぶつけたいのだ。

 

 誰もがストレスを感じてる中でその行為は、場の空気を悪くする他ならない。

 小室君がその生徒の言葉に食いついてしまった。

 

 このままでは殴り合いになるだろう。しかし、それを彼が見逃すはずはない。

 

 彼は、助手席から立ち上がり小室君に殴りかかろうとした生徒を後部座席まで吹き飛ばした。

 見た目は派手に見えるがそれほどの威力ではないことは、武道をたしなんでいる身としては理解できる。

 

 拳を入れた際に拳を踏み込みと共にそのまま突き出していくのではなく、拳を戻したことで威力を落とした。

 彼ほどの腕ならば骨や臓器にも大きなダメージを与えることができるだろう。

 

 

「落ち着け」

 

 

 彼の言葉でそれまで場を支配していた空気が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 鞠川静香SIDE

 

 

 

 拍手をしながら先ほど後部座席まで飛んで行った紫藤先生が先頭まで戻ってくる。

 大丈夫かしら。

 

 顔は笑っているけど体の動きがカクカクしてるわ。

 

 初めて人が殴られて飛ぶのは見たけど思ったほどダメージはないみたい。普通なら人が飛ぶような衝撃があればどこかの骨の損傷や臓器からの出血などがあるけど、見たところ篠崎さんに飛ばされた生徒は嘔吐しかしていない。

 あんな冷たい声をしてたのにしっかり手加減はしてるのね。

 

 

「こうして争いが起きるのは、私の意見の証明にもなってますね。我々にはリーダーが必要なのです!!」

 

 

 リーダー?

 それなら篠崎さんなんじゃないの。学校から脱出できたのも篠崎さんの助けがあったからだし。

 紫藤先生って何かしたかしら?

 

 

「それで、候補者は1人きりってわけ?」

「私は、教師ですよ高木さん。それだけでも資格の有無はハッキリしています」

 

 

 確かに有事の際に生徒を引率するのは先生の役目だけど、私も一応先生なのよね?

 でも、私にリーダーなんて絶対無理ッ。

 

 紫藤先生がリーダーになるのもなんか嫌なのよね。

 やっぱりここは鉄砲を持ってる篠崎さんになってもらうのがいいんじゃないかしら。

 

 

「…という訳で、多数決で私がリーダーになるということで決まりました」

 

 

 意見をいい出す前にいつの間にか多数決が取られていた。

 私も先生なのに……。 

 

 

「先生、ドアを開けてください! 私、降りる! 降ります!!」

 

 

 宮本さんが血相を変えて私に言ってきた。

 突然の事でどうしたらいいのか私にはわからなくて、そうしているうちに宮本さんは助手席のドアから外に飛び出した。

 

 

「行動をともにできないというのであれば仕方ありません」

 

 

 はやっ!

 紫藤先生は生徒を止めることもしないなんてッ。

 

 私が宮本さんを連れ戻そうとすると肩に誰かの手が添えられる。

 振り返ると篠崎さんが軽く頷き宮本さんを追ってバスの戸惑いなく外に出ていった。

 

 その時の私は宮本さんの事が少し羨ましかった。

 自分の考えがハッキリ言えて行動することもだけど、やっぱり知り合って間もないのに何の戸惑いもなく後を追いかけてくれる人がいることに。

 

 

 

 

 




SIDEのお話が短くて申し訳ありません。
静香先生のSIDEはなかなか難しくどうしても短いものになってしまいました。出来るだけSIDEのお話が長くなるように精進していきます。
ご意見やご感想があればよろしくお願いします。


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第8話 『とんでもないツーリング』

皆さん大変お待たせしました。
今回は主人公と宮本さんのお話です。



 主人公SIDE

 

 

 モトクロスバイクを颯爽と風の様に走らせる。

 後ろにはしっかりと俺の胴体を両腕でホールドし密着している宮本さん。

 

 7.62mm弾すら受け止める防弾ベスト(プレートキャリア)の鉄板が宮本さんの胸の感触を受け止めている。鉄板がなければ俺の豆腐メンタルは貫通していたことだろう。 

 

 抱き付かれ確かに嬉しいといえば嬉しい。しかし、現在は宮本さんと2人きりである。

 これは夢に違いない!

 そうだ、これは夢なんだ。

 

 今頃、マイクロバスの助手席で居眠りをしているんだ。

 目覚めろ俺!

 

 

 

 いや、待て。取り乱すな。

 冷静になれ。

 

 順を追って整理しよう。

 

 順番を考えるのは大切なことだ。

 それは、今に意味を与える行為なのだから。

 

 自分がこの状況からどこへ向かうべきなのか―――順番はすべてを教えてくれる。

 だから、ここで改めて順番を整理してみようと思う。

 

 どの様にしてこの俺が2人きりで宮本さんにホールドされるに至ったのか。

 

 

 全ては、セクハラ(紫藤)先生が悪いのである。

 

 いつの間にか多数決でリーダーになるという話になりそれによってなんとセクハラ(紫藤)先生がリーダーになってしまった。

 セクハラ(紫藤)先生の被害にあったであろう宮本さんは当然のことながら猛反発、マイクロバスから飛び出した。

 

 その時、助手席に戻ろうとしていた俺はまたもや段差に躓き鞠川先生に触れてしまった。

 最近では肩に手が触れただけでもセクハラにされてしまうシビアな世の中である。

 

 俺のチートボディーは段差すら躓くのか!

 もっと足上げて歩こうぜ!

 

 急いで鞠川先生に謝ろうと頭を下げようとすると鞠川先生の満面の笑みが見えた。

 見る人によっては女神の様に微笑んでいる様に見えるが、今の俺にとっては死刑宣告を下す死神の笑みであった。

 

 

『なに、人の肩勝手に触ってんだ。訴えるぞ。宮本さんが外に出ていったから追いかけろ。これ、お願いじゃなくて命令だから』

 

 

 そんな感じの事を言われたような気がしてすぐさまマイクロバスから飛び降り宮本さんを追った。

 

 

「宮本さん、バスに戻るんだ(俺の社会生命のために)」

「嫌です! あんな奴と一緒に居たくない!」

 

 

 確かにセクハラ(紫藤)先生と一緒なのは彼女にとって心の傷に触れることだろう。

 仕方ないセクハラ(紫藤)先生を縛って荷物入れにでも放り込もう。これなら宮本さんもバスに戻ってくれるだろう。

 セクハラ(紫藤)先生、君にはセクシャルハラスメントの容疑がかけられている。よって俺の社会生命を守るために犠牲になってくれ。

 

 

「わかった。それでは、こうしよう俺が……走れ!!」

「え!?」

 

 

 俺はすぐさま宮本さんを連れ走り出す。

 

 マイクロバスの後方の道から猛スピードの大型バスがこちらに向かってきているからだ。

 

 大型バスは路上に無造作に止められていた車輛を避けることなくそのまま突っ込み、宙を舞いながら横転し道を塞ぐ形でようやく止まった。

 マイクロバスは道の脇の少し開けた場所に止まっていて巻き込まれずに済んだが、道は大型バスから漏れ出た燃料に引火してしまい通ることはでいない。

 

 確かバイオなゲーム2でもこんな感じのシーンがあったな。

 

 こうゆう感じのアクシデントは主人公が遭遇すべき分岐点であって、俺の様に脇役Fあたりがいるべきではない気がする。

 

 しかも、爆発の破片が肩にぶっ刺さっているよ!

 流石、脇役Fのポジション分岐点で怪我を負うなんて。

 

 この先怪我じゃすまなくなりそうだ……。

 

 肩の破片を一思いに引き抜く。

 痛ッた!!

 

 痛いけど俺泣かない。だって男子だし。

 女の子の前ではカッコいいところを見せたいそれが男です。

 

 こうして俺と宮本さんは孤立したのである。

 

 

 すぐさま移動手段を確保し、集合地点まで向かっている。

 言っとくがちゃんとバイクの免許は持ってるぞ。

 

 ヘルメットは宮本さんに貸してしてないけど……。

 

 

 市街地に入ると道路にはゾンビは確認できなかった。

 その代り警察車両を見つけた。

 

 これ、俺アウトじゃないかな。

 目出し帽、防弾ベストに迷彩服。

 

 トドメには”銃”!!

 

 はい、銃刀法違反。

 ごめんなさい。

 

 いざ警察車両が停まっている交差点まで行くと、車体半分が大破していた。

 

 バイオなゲームでもよく目にする光景である。

 警察車両は、なんらかのアイテムが手に入る可能性が高い。

 

 救急セットやあわよくば拳銃、予備の弾を入手できる可能性がある。

 

 バイクから降りて警官がゾンビでないか確認をする。

 こういう場合は、警官が持っている鍵とか拳銃を拝借する際に動き出すんだよな。あの動き出しそうで怖いのが心臓に悪いんだよ。

 

 ナイフを目に突き立てるとか残酷だけど、自分がゾンビの仲間になるよりは100倍マシだ。

 

 自分だけで物色しようと思っていたが宮本さんが自分から手伝ってくれると自発的に動いてくれた。

 彼女は本当に勇気があるな。

 

 俺だったらできる限り誰かに押し付ける。

 もちろん男性限定で。

 

 女性が助けを求めていれば俺はすべてを投げ出しても助けに行くだろう。 

 豆腐メンタルだろうが関係ない。

 

 世の中の男性諸君、女性には紳士になるべし。

 

 見事、いろいろと調達することができた。

 警棒に手錠、さらには警察が正式配備している拳銃『M37 エアウェイト』が手に入った。

 

 『M37』は比較的反動も少なく小柄な女性でも難なく扱える銃である。

 装弾数は5発。弾丸は38スぺシャル弾という38口径の弾を使用する。俺が所持している銃には38口径を使うものがないので補給が効かないが。もう一人の巡査が持っていた拳銃の弾があるから10回は撃てる。

 

 簡単に宮本さんに銃の撃ち方を教えて持っててもらうことにした。

 俺は既に銃を持ってるし、もしもの時は宮本さん自身を守るために役立ててほしい。

 

 バイクの燃料もなくなってきたのでガソリンスタンドに来たのはいいが、財布を持ってない。

 

 強盗ミッション開始である。

 

 事務所でお金を拝借し、自動販売機で飲み物を購入する。

 間違って購入したトマトジュースを空いていたマガジンポーチに入れて事務所を後にした。

 

 事務所を出てそれは突然に起きた、突然の衝撃を胸に受けさらに耳を突き刺さってきた炸裂音が鼓膜を殴りつける。

 地面にうつ伏せで倒れて自分に何があったのかを知る。

 

 

 俺、誰かに撃たれたね。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 宮本麗SIDE

 

 

 

 ある出来事がその人の人生にとって偶然であるのか、それとも必然であるのか。当事者がどう捉えるかによってそれはまったく意味をちがえていくだろう。

 

 誰かに強制されたわけではない。

 ただ、抑えがたい不安を少しでも消化する代償めいた行為。

 彼に抱き付いた腕にさらに力を込める。

 

 

 私が飛び出したからだ。

 彼は私を連れ戻すためにバスから降り、怪我をし私と一緒に孤立した。

 

 私を追いかけてくれた。

 それが、嬉しかった。 

 

 破片で怪我をして孤立しても、彼は悪態をつくことなく今も真っ直ぐ前を見ている。

 

 

『仕方がない』

『君は悪くない』

 

 

 そんなに私に優しい言葉を掛けないで。

 私はあなたに優しくされる資格なんてないのに。

 

 抱き付いていると彼の暖かさがよくわかる。

 彼の体温が私の中の黒い何かを薄めてくれる。

 

 本当に彼に頼ってばかりだ私は……。

 

 

 ようやく市街地に入った。

 町には誰もいない。

 

 事故を起こした車両。

 滅茶苦茶になっている飲食店。

 道路には大きな血だまりとそこに落ちている子供用のバック。

 

 バイクのエンジン音だけが聞こえ、不気味なほどの静まり返っている。

 

 

「!? 篠崎さん、あれ!」

 

 

 交差点に見覚えのある車が見え私は指を指し示す。

 白と黒の色をした車体の上部に赤色灯をつけた車。

 

 パトカーだ。

 

 篠崎さんはゆっくりとパトカーのいる交差点までバイクを走らせ停める。

 

 

「そんな……」

 

 

 ここで私は世界の終わりを改めて気づかされた。

 

 パトカーは車体後部を大型トラックに押しつぶさていた。 

 前方の運転席、助手席はシートが前に押し出されそこに座っていた警官が圧死している。

 

 

 篠崎さんはバイクを降りるとそのまま大破したパトカーに近づいていく。そして、大ぶりナイフではなくシースーナイフを抜くとそれを息絶えた運転席の巡査の目に突き立てた。助手席の巡査も同様にナイフを突き立てる。

 

 

 彼はナイフで今度こそ、永遠に眠らせた巡査の腰のベルトから何かを取り外しボンネットに乗せる。

 それは、拳銃だった。

 

 

「私も手伝います!」

 

 

 私も気が付けば息絶えた巡査から拳銃と警棒、手錠などまだ使えそうなものを取っていた。

 篠崎さんの役に立ちたいそのことだけが今の私を突き動かした。

 

 結局、拳銃は1つしか手に入らなかった。

 もう1つは、持つ部分が折れていて使い物にならなかった。

 

 警棒や手錠は使えそうなのでそれぞれが持つことになった。

 篠崎さんは警官の拳銃を渡してきた。

 

 

「私なんかよりも篠崎さんが持ってたほうがいいんじゃ…」

「いや、君が持っているんだ」

 

 

 確かに篠崎さんは、既に自分の銃を持っている。

 簡単に銃の構え方、撃ち方を教えてもらいスカートのポケットに入れその場を離れた。

 

 途中バイクの燃料がなくなりそうになったためガソリンスタンドによることになった。

 そのガソリンスタンドはセルフ式で現金を入れなければ給油はできない。でも、篠崎さんも私も現金の持ち合わせがない。

 

 仕方なくガソリンスタンドの事務所のレジで現金を調達することになった。

 バイクは私が見ているから事務所のレジをお願いしたのだが、私も一緒に付いてくるように言われた。

 

 彼が言うには敵は〈奴ら〉だけではないらしい。

 

 私は彼の指示に従い、一緒に事務所に向かった。

 事務所の中は荒れていたが〈奴ら〉の姿はなかった。

 

 レジには鍵が付いたままだったので、大きな音を立てずにすんなり開けることができた。

 篠崎さんはどうもレジを操作することに慣れている気がする。私の気のせいなのかもしれないが……。

 

 自動販売機から買ったスポーツドリンクを受け取った。

 よく冷えていて、乾いた喉を潤してくれる。

 

 お金を持ってバイクに給油をしようと篠崎さんを先頭に入り口を出ようとするとスタンド内に銃声が鳴り響いた。

 響く銃声も、どこか現実感を失っていくようだ。

 

 

「え?」

 

 

 さっきまで私の前に立っていた篠崎さんが地面に倒れている。

 なぜ?

 

 彼の倒れている地面に赤い液体がたまっていく。

 目の前の現実を遠ざけるように、思考だけが異様なまでに冷静だった。

 

 

 

「嫌あぁぁぁぁぁぁ!?」 

 

 

 また、私は大切な人を無くしてしまうの。

 

  

 

 

 

 

 

 




ご意見やご感想があればよろしくお願いします。


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第9話 『とんでもないトマトジュース』

短めですがトマトジュースはこのお話で終わりです。
なかなかストーリーが進まなくてすみません。


 宮本麗SIDE

 

 

 

 篠崎さんが倒れてから物陰から一人の男が出てきた。

 手には拳銃を持って、銃口がこちらに向けられている。

 

 

「はははッ、1発でくたばったか! ラッキーだぜ!」

 

 

 そうか、こいつが篠崎さんを撃ったんだ。

 自分の中に敵意、殺意、害意、あらゆる黒い情念が精神の溶鉱炉に投げ込まれる。

 

 

「おっと、動くなよ。動くと撃っちゃうかもしれないよ。ひゃはははぁ!」

 

 

 篠崎さんの傷の具合を確かめようとすると男が銃で邪魔をする。

 視線だけを動かして確認すると篠崎さんの下の地面が赤く染まっている。

 

 男の様子はどう見ても異常である。

 荒い呼吸、焦点の定まらない視線。  

 

  

「武器を置いてゆっくり、こっちに来な!」

「お断りだわ。そっちに行くぐらいなら撃たれて死んだ方がまし!」

「なんだとてめぇ! 本当に撃つぞ!」

 

 

 男の指が引き金を引く瞬間、給油機の陰から作業着を着た〈奴ら〉と化した者が男に掴みかかった。

 

 

「くそッ! この化け物が!!」

「おおぁぁぁ!」

 

 

 男は、〈奴ら〉と化した作業員にともつれる様に倒れる。

 倒れる際に男の指が銃の引き金を引いたが、弾丸はガソリンスタンドの照明に当たった。

 

 男が〈奴ら〉を相手にしているうちに篠崎さんを事務所まで運ぼうとするが、私の方にも〈奴ら〉が既に間近に迫っていた。

 音を響かせ過ぎたのだ。

 

 私は近づいてくる奴らに向け篠崎さんから渡された拳銃を構える。

 

 アイソセレス・スタンスと呼ばれる構え方は、両腕をまっすぐ伸ばし、丁度上から見た腕の形が二等辺三角形(アイソセレス)に見えることからこの名がついたと言っていた。

 

 最もポピュラーで、汎用性の高い撃ち方。

 左右への移動が楽で、目標を瞬時に切り替える必要のある戦闘時に向いている。

 

 

「今度は私がこの人を守らなきゃッ!」

 

 

 〈奴ら〉の頭に向けて撃つ。

 初めの弾は狙った〈奴ら〉の後方に逸れてしまった。

 

『撃つ前には深呼吸をして落ち着いて狙うんだ、引き金を引いた時は目を閉じないで標的を見続けろ』

 

 脳裏に篠崎さんの言葉を思い出す。

 深呼吸をして再び〈奴ら〉の頭部を狙う。

 

 引き金を引く。

 

 今度は目を閉じずにしっかりと〈奴ら〉を見る。 

 

 2発目の弾丸は見事、〈奴ら〉の頭部を貫いた。

 続けて隣に照準して撃つ。

 

 あっという間に5発撃ちきってしまう。すぐさまポケットの予備の弾を入れようとするが焦ってポケットから落として地面にばら撒いてしまう。

 

 ここで終わるの……。

 

 ならせめてこの人と一緒に。

 

 

「ごめんなさい、篠崎さんッ」

 

 

 篠崎さんを庇うように上に覆いかぶさり目を閉じる。

 

 直後、耳を突き刺さってきた炸裂音にひるんだだけじゃない。目を開けると視線の先には、うつ伏せの状態で拳銃を構えた彼がいた。

 

 3発ほど発砲する。

 炸裂音と共にスライドが動き、金色の排莢(はいきょう)を拳銃が吐き出す。

 

 〈奴ら〉に視線を向けていないのに対してよどみない銃撃は、〈奴ら〉の頭部に1発たりとも外れることなく当たっていた。

 

 

「すまない、意識を取り戻すのに手間取った」

 

 

 そこには先ほどまで自らの血に身を沈めていた彼がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 主人公SIDE

 

 

 

 

 

 

 俺、このまま死ぬのかな。

 コンクリートの地面にうつ伏せに倒れながらそんな事を考えた。

 

 胸に走る衝撃。

 それに続くように銃声がした。

 

 その証拠に真っ赤な液体が俺の胸から地面を汚している。

 汚い花火だぜ……。

 

 

 これまでのことを考えると後悔しかないな。

 

 だけど最後の我儘いいかな。

 また、宮本さんにハグして欲しかったな。

 

 

「今度は私がこの人を守らなきゃッ!」

 

 

 目の前が暗くなり。

 音が聞こえなくなる。しかし、宮本さんの声だけが聞こえる。

 

 それに続いて銃声。

 

 彼女が戦っているのか?

 

 俺を守るために。

 

 それなのに俺は"痛み"もないのにただ寝てるのか。

 

 あれ、ちょっと待て、胸に穴が開いて"痛く"ないだと?

 閉じていた瞼を開き、視線だけを傷に向ける。

 

 

 これさっき間違って買ったトマトジュースだよな。

 それに俺の防弾ベスト(プレートキャリア)は後ろだけでなく前にも鉄板入ってるし。

 

 

 恥ずかしぃィィィィィ!!

 

 

 てっきり撃たれて死ぬのかと思ったよ。

 ネタ要員じゃないか。

 

 トマトジュースを血と間違えるなんて……。

 

 マンホールの蓋開けて飛び込みたい。

 赤いちょび髭のオッサンに会えたら愚痴を聞いてもらうんだ。

 

 緑のオッサンでもいいよ、この際。

 

 豆腐メンタルのやることじゃないよ。

 崩しに来てるね!

 

 俺の豆腐()を箸でなく、フォークでなぁぁぁ!!

 

 

 

「ごめんなさい、篠崎さんッ」  

 

 

 背中を再び襲う衝撃(二つの銃撃)

 この子を死なせるのか……。

 

 

 断じて否!!

 

 

 精密機械のようになめらかな動作はゾンビを視界に入れなくても倒せた確信があった。

 

 3連射。

 

 グローブ越しの手に衝撃が伝わる。

 

 豆腐メンタルがどうした!

 こちとら"下請け企業戦士"として戦ってたんだ。

 

 今更、トマトジュースで動揺してどうするんだ!

 

 

「すまない、(心の痛みで)意識を取り戻すのに手間取った」

 

 

 身体は酔ったように熱く、そして凍えるような悪寒に包まれる。

 

 自分の身体が自分の者ではないみたいだ。

 

 

 拳銃をホルスターに戻し、スリングベルトで吊っている自動小銃(M4カービン)を片膝立ちで構え、一挙動の内に安全装置の解除と連射を敢行(かんこう)

 

 銃が跳ねる。

 

 薬莢が飛ぶ。

 

 周りのゾンビを一掃している隙に宮本さんには、バイクへの給油をお願いする。

 

 残弾僅かとなったタイミングでタクティカルリロード。片手保持で空弾倉を収納嚢(ダンプポーチ)に落とし、予備弾倉を抜き機関部へ叩き込む。 

 

 焼けた銃身から陽炎が立ち上り始めてようやくひと段落ついた。

 

 どうやらこの付近のゾンビは粗方片づけた。

 

 俺を撃ってくれた野郎は、銃声を聞きつけて群がってきたゾンビに食い殺されていた。起き上がりそうだったので1発もらった分、10倍返しで返した。

 おかげで頭部が行方不明中だ。

 

 

 

 給油を終えたバイクに再び跨り、後ろに宮本さんが再びホールドしてくる。

 早くみんなと合流しよう。でないと俺のメンタルが本格的にもたない。

 

 

 こうしてガソリンスタンドを後にした。

 

 

 




暴漢さんは、トマトジュースを撃つという大切なお仕事を果たし2階級特進しました。
ご意見やご感想があればよろしくお願いします。


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第10話 『とんでもないオフィス街』

お待たせしました。
今回は短めで面白みが少ないです。
すみません。


 高城沙耶SIDE

 

 

 篠崎と宮本と別れてからは、集合地点である『床主東警察署』を目指しているが……。

 

 

「それぞれが勝手に行動するより、どこか安全な拠点を得たのちに行動すべきです」

 

 

 後ろでは紫藤先生のありがた~い演説の真っ最中である。

 その中で隣で居眠りをしているデブオタ(平野)に目を向ける。

 

 よくこの状況で眠ることができると感心する。

 でも、そろそろ私たちも行動を起こさなければいけない。

 

 後ろの連中は紫藤の思想に染まりつつある。そんな連中に私たちから何か言っても時間の無駄にしかならない。

 

 それよりどうやって、アイツ(篠崎)と宮本と合流するか……。

 平野を肘で起こす。

 

 

「あれ、高城さん。おはようございます」

「よく寝てられるわね」

「だって、これじゃ…」

 

 

 合流地点は『床主東警察署』だがこの渋滞状況では、今日中には合流は無理だ。

 どの道も街から避難する人で溢れかえっている。

 

 

「車だけが脱出の手段じゃないわ」

 

 

 視線の先には空港を飛び立った旅客機。

 

 

「あ、洋上空港か」

「そうよ。適切な対処が取られていれば恐らく目的地は、北海道、九州、沖縄あたりでしょうね」 

「僕らもそこにいきますか」

「遅すぎるわ」

 

 

 そう、既に手遅れだわ。

 自衛隊やアメリカ軍が〈奴ら〉を抑制できていても受け入れに厳しい方針を取り始めているだろう。

 他者との接触は〈奴ら〉の侵入を意味しかねない。

 

 それに、多数の避難者を受け入れても物資に限りがある。

 世界中がこの有様では工場が動いているはずはない。

 

 物資が不足すれば、今度は生きている者同士の生き残りを賭けた物資の奪い合いが始まる。

 

 

「そうなったらアンタはどううする?」

「引きこもります」

 

 

 まったくこれだからデブオタは、自分の事しか考えてない。

 

 

「世界中でそうなったら、生き残るのに必要な最小限のコミュニティを維持するために考えるようになれば……どうなるかわかるでしょ?」

「高城さんは、本当に頭がいいんですね」

「何言ってるのよ」

 

 

 それが、今私たちのバスの後部座席で出来上がってきているのよ。

 まったく、なんであんな奴らと同じバスに乗らなければならないのか。

 

 

「自分で気付いているか分からないけどアイツ(紫藤)は、そういうノリになってる。たった、半日でそうなのよ」

「追い出しますか?」 

「それよりも、これからどう生き残るか考えた方がいいわ。信用できる相手と…もう篠崎がいればいろいろ相談できるのに」

「高城さん、篠崎さんの事気になってますもんね」

「馬鹿言わないでよッ!」

 

 

 一息にそうまくしたてた。耳まで紅潮しているのが自分でもわかる。

 誰があんな不愛想な奴の事なんて気にするもんですか!

 

 論理的に考えてアイツ(篠崎)の持つ戦闘力(銃火器)があればこの状況下でのリスクを減らすことができるから気にするだけであって、断じてアイツ(篠崎)自身のことを気にしているわけではない。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 主人公SIDE

 

 

 

 目まぐるしく動く光と影。

 心臓を震わす爆発音。

 

 鼻孔のおくまで、血なまぐさい匂いと何かが焼ける匂いがが突き抜けた。

 

 普通ならサラリーマンやOLなどが行きかうオフィス街。しかし、そこは確かに掛け値なしの戦場だった。

 

 ルールなんて物は存在しない。

 その場に立つすべての者の命が、死という名の暴君の前では裸で曝されている現実があった。

 

 

 もちろん自分の命ですら。

 

 宮本さんの話では、どうしても集合地点に行くにはここからの方が早いということだ。

 できればこんなところに飛び込みたくはないが、どうやら既に手遅れの様だ。

 

 スキンヘッドの男がこちらを指さし何かを言っている。

 マークされたよ。

 

 それに反応するように、エプロンをつけた太ったオッサンとネクタイをしたサラリーマンがこちらにかけてくる。

 それぞれの手には肉切り包丁や猟銃が握られている。

 

 すぐさまアクセルを捻り危険地帯からの脱出を図りにかかる。

 

 

「掴まれ!」

「ッ!?」

 

 

 肉切り包丁を持ったオッサンをその包丁が降り下ろされる前に蹴りをお見舞いする。

 バイクのスピードで威力アップした蹴りは、オッサンを吹き飛ばすには十分だった。

 

 猟銃を持ったサラリーマンは、猟銃で撃たれる前に拳銃で迎撃する。 

 猟銃の弾が散弾だったら回避するのは難しい。

 

 2発、発砲。

 1発目が猟銃を捉え、2発目はサラリーマンの白いシャツを真っ赤に汚す。

 

 

「どうして!? 私たちは〈奴ら〉じゃないのに!」 

「関係ないんだ。彼らにとっては・・・・・・」

 

 

 人々は多くの文明の終焉時に、大きなパーティーを開いた。狂っていると思われるかもしれないが、もはや最後と思い詰めた人間は何をしでかすかわからない。

 

 橋に近づいていき橋の状況が見えてくる。

 

 橋は警察によって封鎖され大混乱になっている。

 これなら小室君たちの橋も同じだろう。

 

 小室君たちの向かった橋へバイクを走らせる。

 少し走ると見覚えのあるピンクのツインテールが視界に入ってきた。

 

 高城さんだ。

 どうやら無事に合流できたようだ。

 

 これで少し心に余裕が持てる。

 

 

  

 




ご意見やご感想があればよろしくお願いします。
次の更新は、リアル生活が忙しくなってきているので1カ月後を予定しています。


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第11話 『とんでもないバスト』

今回はとても短いです。



 

 

 主人公SIDE

 

 

 

 

 ようやく小室君たちと合流し、一時的に休める場所も決まった。

 鞠川先生の案内のもとバイクで偵察に出ているが、俺の背中には弾道ミサイルが着弾している。

 

 宮本さんの胸は防弾プレートで防げたが、鞠川先生の胸は大陸間弾道ミサイルだ。

 たかが防弾プレートで防げる代物ではない!

 

 ヤバい、ハンドル操作をミスりそうだ。

 

 

 鞠川先生の友人の自宅に無事到着した。

 途中事故らなかったのは奇跡だ。

 

 アパート駐車場にはなんと軍用ハンヴィーが停車しており、テンションが上がる。

 どうやら鞠川先生の友人の乗用車らしい。

 

 『ハンヴィー』 全世界70カ国の軍隊で使用され,小型軍用車のデフォルト・スタンダードとなっている高機動多用途装輪車両(こうきどうたようとそうりんしゃりょう)である。

 最大の特徴は,その驚くべき汎用性だ。

 基本型の人員・物資輸送に加え,救急車,誘導ミサイル搭載車,通信車,衛星通信車,地対空誘導ミサイル搭載車など,あらあゆる特殊なバージョンを同じシャーシから作り出している。

 

 俺がプレーしていたゲームでもお馴染みの車だ。

 幾度となく助けられ、一緒に吹っ飛んだものだ。

 

 いざアパートの中に入ると当然のことながら住人はゾンビとなっている。

 そうですよね。

 

 何事もなく避難所に逃げ込めるわけある訳ありませんよね。

 わかっていましたよ。

 

 銃を右構えで保持した。

 左手の指はハンドガードに。

 銃床の底部を肩に押し付け、安全装置を解除してから引鉄に指を掛ける。

 

 呼吸———光学サイトの光点に標的を重ね、頭部を狙って撃った。

 立射の姿勢は基礎通り。

 肩は丸め、肘と脇を内側に締める。

 銃床は胸に近い位置に当て、肩で固定し抑え込む。

 

 何発か撃ちながら照準を調整したあと、セミオートで連射した。

 連なる銃声。

 金色の空薬莢が立て続けに宙を飛び、反動が肩を殴りつける。

 

 あれ?

 俺、このとんでもない世界でゾンビとか危ない不審者とかしか戦ってなくね。

 

 ここまでその事になんの疑問も抱かなかった。

 俺もヤバい奴になりつつあるのかな……。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 鞠川静香SIDE

 

 

 

 篠崎さんの運転するバイクで警察SATに所属している友人―――南リカのアパートまで案内している。

 こんな世界になってしまってもバイクを走らせて受ける風は心地がいい。

 

 彼の上半身の周りには鉄砲の弾や無線機などゴテゴテした物が多くつけられている。その為しっかり捕まる必要がある。

 

 そうすると彼の背中に自分の胸を押し当てるようになりとても恥ずかしい。

 やっぱり男性は、胸の大きな女性の方が好きなのかしら。

 

 篠崎さんが胸の大きな女性についてをどう思っているのか気になった。

 先ほどからこれでもかと胸を押し付けているのに何も反応を示さない。 

 

 どうすれば彼は反応してくれるのだろう?

 

 そんなことを考えているとリカのアパートまで着いてしまった。

 よかった~。まだ、戦車みたいな車は止まっていた。

 

 少ししてから小室君たちも到着した。

 

 

 篠崎さんはアパートを覆っている塀の入り口を慎重に開ける。

 警戒しながら中に入るとそこには〈奴ら〉と化した元住民たちがいた。

 

 小室君と毒島さんが動く前に篠崎さんの鉄砲が〈奴ら〉を倒していく。

 動く〈奴ら〉がいなくなってもそれでもしばらく、彼は完全に緊張を解いてはいなかった。

 

 呼吸を整えて、アドレナリンを血管内に蓄え続けている。

 

 小室君たちと共にリカの部屋に入り彼は張りつめていた気を緩めた。

  

 さっきまでとても怖かった。

 

 機械のような人としての感情が何もないかのように。

 それなのに今はそんな感じがまったくない。

 

 顔を隠していた黒いマスクをとり、小室君たちに休憩をするよういろいろと指示を出している。

 

 普通の感情を持ち、機械じゃなく些細な優しさを知る人間なのだと・・・・・・確かに感じることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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第12話 『とんでもないアパート』

お待たせしました。
今回は主人公SIDE、冴子さんSIDE、麗さんSIDEをお送りします。



 主人公SIDE

 

 

 

 とんでもない世界に来て初めての夜を迎えることになった。

 

 自分の部屋でなく他人の部屋で夜を迎えるなんて思ってもみなかった。世界がゾンビだらけとなりつつあるのにお泊り会みたいとワクワクを感じている俺は既にこの世界に染まってきているのだろう。

 女性陣のキャッキャ、ウフフとはしゃぐ声をBGMに聴きながら銃を弄る姿は更にこの世界に染まりつつあることを確信させられる。

 

 散弾銃(ショットガン)―――『イサカ M37』の動作確認を行う。

 

 『イサカ M37』は、スライドアクション式の散弾銃(ショットガン)である。特徴は、薬室への弾薬の装填と空排莢の排出を同じポート(=機関部の底に開けられた穴)から行うことである。

 機関部側面に排莢口(エジェクションポート)が無い為、側面の強度が上がり更に細身で軽量化を実現することができた。

 

 

 両脇では男性陣の孝君とコータ君が弾倉(マガジン)にライフル弾を詰めているところだ。

 

 ここまで共にこの世界で生き残ったのだ。名字で呼ぶよりも、下の名前で呼ぶ方が団結を図ることができるといった考えだ。他の女性陣も同様に下の名前で呼んでいいか確認をして呼ばせてもらっている。

 

 

 

 それにしても静香先生のご友人―――南リカさんは今の俺ぐらいヤバい人だったな。

 

 一般住宅が密集しているアパートの一室に『散弾銃』は、まあクレー射撃や猟銃の資格を持ってれば納得できるが『軍用銃』を置いてあるのだからヤバいだろ。

 

 ロッカーの中身を某RPG勇者の如くいただいた訳だが……。

 

 コータ君のテンションが大変なことになった。

 なんか空中とか飛べそうなぐらい。

 本当に銃が好きなのだろう。

 何か自分の好きな事があるのはとてもいいことだ。嫌なことを一時ではあるが忘れさせてくれる。

 

 

 浴室の声がここまで響いてくる。だいぶ盛り上がっているようだ。

 羨ましい。

 せめて人生の最後は女性に見守られながら安らかに死にたいものだ。

 

 

「流石に騒ぎ過ぎかも」

「大丈夫だろう。橋の方がこっちよりも騒がしい」

 

 

 浴室の声を聞いたコータ君がそう言うと孝君がそれに答え、橋の方に視線を向ける。

 俺はバルコニーに出て自分の双眼鏡で橋の状況を確認する。

 

 酷いの一言を通り越して終わっている。

 避難者が出す音にゾンビたちが引き寄せられ避難者がゾンビに襲われゾンビとなり、また違う避難者を襲う。

 

 さらには、これは政府の陰謀などとシュプレヒコールを叫んでいる頭がお花畑の連中までいる。

 

 テレビを点けると丁度、橋の下で生中継を行っていた。

 橋を封鎖している警官の1人が頭がお花畑の連中のリーダーに解散する様に説得を行っているようだが、頭がお花畑の連中はそれを拒否した。

 

 警官は自然な動作でホルスターから拳銃を抜くと、リーダーの頭部に発砲した。

 

 テレビの中継も橋の混乱により止まってしまった。

 そろそろこの安全地帯(セーフゾーン)も不味くなってくるだろう。

 

 

「すぐに荷物をまとめるんだ」

「でも、暗いままでは〈奴ら〉にいきなり襲われた時に大変じゃないですか?」

 

 

 確かにコータ君の言うこともわかる。しかし、橋の方に引き付けられていたゾンビがこちらの方に戻ってくるかもしれない。そうなったら脱出は容易ではなくなる。

 

 

「ッ!?」

 

 

 いつの間にか後ろには静香先生がいた。

 しかも、バスタオル1枚という超軽装備で……。

 最初の犠牲者は孝君だった。

 

 静香先生は孝君の頬にキスをすると、次の目標に近づいてくる。

 

 

「じゅっんっやっく~ん」

 

 

 どうやら静香先生はお酒を飲んでしまったらしい。

 下の名前で君づけで呼ばれたのはいつ頃だろう。

 両頬に静香先生の柔らかな唇の感触を誤魔化すようにどうでもいいことを考える。

 

   

「あっ、コータちゃん」

「ちゃん? えと、あと、あは」

 

 

 嬉しそうだなコータ君。

 静香先生がコータ君の頬にキスをした瞬間。

 

 空中に鮮血が飛び散った。

 コータ君の鼻血だ。

 

 でも、量がヤバい。

 誰か、衛生兵(メディック)を!!

 

  

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 毒島冴子SIDE

 

 

 

 入浴を済ませた私はキッチンで夜食を作っている。

 

 隣の包丁で食材を切り分けている人物に視線がいく。

 彼は手際よく食材の下準備をしている。

 

 頼んでもいないのに料理を手伝ってもらっているが、それにしても彼は随分と料理が得意なようだ。

 

 

「お料理は、よくなさるのですか?」

「それほど料理はしないな」

 

 

 調味料を取ろうとして彼が代わりに取ってくれる。

 私がどの調味料を使おうとしているのかわかる事が彼が料理をよくすることの理由の一つでもある。

 

 

「いつまでそのままでいるつもりだ?」

「ん? これの事ですか?」

「…そうだ」

   

 

 私は今、彼のシャツを借りてその上からエプロンを着けている。下着は下しか履いてないが見えていないので大丈夫だと思う。

 

  

「だめ、でしょうか?」

「はぁ…好きにしてくれ」

 

 

 それにシャツを貸してくれたのは彼だ。鞠川校医を寝室からリビングに運んだ際に私の姿を見て嫁入り前の娘が肌を曝すのはよくないと言って貸してくれたのだ。

 私はエプロンだけの格好でもいいと言ったのだが。 

 

 あまり感情を表に出さない彼だが常に周りの事を気にかけてくれている。その中に私のようなモノが入っていると思うと複雑な気持ちになる。

 

 彼は私の心のもう1つの一面を知っている。

 それなのに接し方は変わらないままだ。

 

 彼なら理解してくれるのではないかと……思ってしまう自分は己惚れているのだろう。

 

 

「淳也さ~ん、聞いてくださいよ~」

 

 

 階段の方から宮本君の声が聞こえてくる。

 彼も気づいたようで料理の手を止めている。

 

「いってあげてください。ここは、私1人でも大丈夫です。女とは時にか弱く振舞いたいものです」

「…わかった。ここは、任せる」

 

 

 彼に何かを任せてもらうことに私の中にちょっとした満足感が生まれる。

 ここまで頼ってばかりなのだ。私たちも彼にほんの少しでもいいから頼ってほしい。

 

 まずは美味しいものを食べてもらうことからかな。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 宮本麗SIDE

 

 

 

 彼は、何も言わないで私の隣に腰を下ろす。

 料理をしていたのは知っていたがどうしても彼が近くにいてほしかった。

 沈黙が続く中で彼がそれを破った。

 

 

「…井豪(いごう)君の事を聞かせてくれないか?」

 

 

 彼は永の事について聞いてきた。

 その理由が彼が永を撃ったためなのか、私の恋人だったからなのかはわからなかったが、私は永の事を篠崎…淳也さんに話しをした。

 お酒を飲んでいた為、フワフワした気持ちになっていることもありいろいろな事を話した。

 

 八つ当たりの様な事を言っているのも判っているが、どうしようもできない。それでも淳也さんは黙って聞いてくれていた。 

 

 

「どうしてこんな事になっちゃったんですかね……」

 

 

 もう気持ちがごちゃ混ぜになって涙が出てくる。

 

 お父さんに会いたい。

 お母さんに会いたい。

 

 これが夢だったらどんなに良かっただろうか。

 

 

「ワン! ワン、ワン!!」

「わんこが吠えてる?」

 

 

 それもすぐ近くでだ。

 彼は鉄砲を手にして、すぐさま階段を駆け上がる。

 

 私は、彼に手を伸ばすが途中で止めてしまう。

 

 そばに居てほしい。

 そう思ってしまう私はやはり我儘なのだろう。

 

 あの人は掴んでなくてはどこか遠くに行ってしまいそうな気がする。 

 

 もう寂しいのは嫌ッ!

 

 もう誰かが死んじゃうなんてもっとイヤッ!!

 

 強くならなくちゃ……もう失ってばかりなんて御免だわ。

 

 

 




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第13話 『とんでもない貞操観念』

お待たせしました。
今回は主人公SIDEと久々の孝君SIDEです。



 主人公SIDE

 

 

 包丁で野菜を適当な大きさに切っていく。

 食材を切りながらどうしても視線が手元から隣の少女へと向けられてしまう。

 

 エプロンは、いいとしてその下が問題だ。

 シャツに下着といった軽装備……。

 

 冴子さん、君はもう少し自分が男性に与える影響を考慮したほうがいいよ。

 俺の予備のシャツを貸さなければ『伝説の裸エプロン』だったのだが、流石に問題があるので諦めよう。しかし、どうしても視線が行ってしまう。

 

 あぶねッ! 

 危うく指切りそうになった。

 

 しょうがないじゃん、こんなシュチュエーションなんて遭遇した時なんてないんだから。

 

 

「お料理は、よくなさるのですか?」

 

 

 確かに1人暮らしのためどうしても食事は自分で用意しなければならない。

 忙しいときは簡単にトーストとコーヒーなどですませてしまうが、時間があるときはしっかりしたものを作るようにしている。

 手の込んだものから簡単なものまで満遍なく挑戦している。

 自分の性格である何かに無駄にこだわるところが大きいのだろう

 

 本格的な料理もできるなんて言うのも恥ずかしいしここはそんなにやってないことにしよう。

 

 

「それほど料理はしないな」

 

 

 それにしてもいつまでシャツ、1枚のエプロン装備でいるつもりなのか。

 

 

「いつまでそのままでいるつもりだ?」

「ん? これの事ですか?」

 

 

 そうです。

 それのことです。

 

 

「…そうだ」

「だめ、でしょうか?」   

 

 

 効果は抜群だぁぁぁ!

 

 冴子さんに上目づかいで、『駄目でしょうか?』なんて言われた。

 ダメと言えないでしょ。

 

 しかたない諦めよう。   

 

 

「淳也さ~ん、こっちに来てくださいよ~」

 

 

 階段の方から麗さんの声が聞こえてくる。

 淳也さんご指名入りましたー!

 

 あ、俺のことか。

 どうしよう料理を途中で放り出すのは俺のポリシーに反するし、麗さんに呼ばれた以上はそちらにもいかなければいけないし。

 

 ここでモテ期到来なんて。

 こんな世界でなければ素直に喜べたが、現実は残酷である。

 

 

「いってあげてください。ここは、私1人でも大丈夫です。女とは時にか弱く振舞いたいものなのです」

 

 

 なるほど、勉強になる。

 あまり女性と関係を持っていなかったため、どう接すればいいのか基本あやふやだ。

 教科書とないのかな。

 少し高くても買うよ。

 

 

「…わかった。ここは、任せる」

 

 

 冴子さんにキッチンを任せて麗さんの元に向かう。

 麗さんも静香先生同様少し酔っているようだ。

 

 隣に腰を下ろす。

 麗さんの格好も冴子さんと同様に下着スタイルだ。

 

 この世界では貞操観念、これがデフォルトなのかな。

 俺が間違っているのかな。

 

 

「……」

「……」

 

 

 耐え難い沈黙が続く。

 何を話せばいいんだよ。

 

 好きな物は何ですか?

 みたいなことでいいのか。

 ここは、勢いだ!

 

 

「…井豪君のことを聞かせてくれないか?」

 

 

 ミスったぁぁぁぁ!

 なんでよりにもよって古傷を抉るような話題を出したぁぁぁ!

 

 麗さんが泣いちまったよ。

 いい年した大人が女の子を泣かすとか……。

 

 どうすればいいのかわからなくて、死にたくなる。

 

 これどうすればいいんだ? 

 

 死んで償えばいいのか?

 

 いや、まてよ。

 それより俺、死ねるのか……。

 

 死ねば元の世界の病院のベッドにいる可能性もある。

 普通の学校の屋上でもいいや。

 

 ゾンビがいない世界だったらなおよし。 

 

 そうだ、俺もそろそろこの世界から退場しよう。

 

 流石に2階から真っ逆さまに地面めがけてダイブして手榴弾で自爆するか、頭を拳銃でふっ飛ばせばチートボディーでも生命活動を停止するだろう。

 

 これでも無傷だったら……それから考えよう。

 

 早速実行に移すためホルスターから拳銃を抜き、階段を駆け上がる。

 

 まってろよ普通の世界!  

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 小室孝SIDE

 

 

 改めて思い知らされた。

 

 この世界が既に終わっていることを。

 

 僕らのいるアパートの前まで逃げてきた青年は持っていた銃を〈奴ら〉に目がけて撃つが、瞬く間に囲まれその命を散らす。

 

 

「くそッ! 酷過ぎるッ」

 

 

 僕は散弾銃を持って下に降りようとすると平野に止められる。

 

 

「小室ッ、撃ってどうするの?」

「決まってるだろ! 〈奴ら〉を撃って……」

「それは、駄目だ」

「「!?」」

 

 

 いつの間にか2階には淳也さんと冴子さんが来ていた。

 

 

「孝君、アイツらは音に反応する」

「淳也さんの言うとおりだ。そして生者は光と我々の姿を見て群がってくる」

 

 

 淳也さんが双眼鏡を差し出す。

 

 

「これが今の現実だ。俺たちには助けを求めるすべての人を助ける力はない」

「…淳也さんはもう少し違う考えだと思ってました」

「……」

 

 

 淳也さんから答えは返ってこなかった。

 

 

「外見る時はこっそりやってね」

 

 

 双眼鏡の先では地獄が広がっていた。

 

 生きたまま〈奴ら〉臓物を引き摺り出される男性。

 助けを求めてアパートの入り口に向かい扉を開けてもらえずそのまま背中から〈奴ら〉に食われる男性。

 

 これが今の現実。

 

 その中を走る男性。

 男性に手を引かれ、走る小さな女の子。

 

 男性の娘さんなのだろう。

 

 父親の男性が民家に助けを求め、必死で玄関の扉を叩いている。しかし、民家の住民は父親と女の子を家に入れる様子はない。この時にも〈奴ら〉が近くに迫ってきている。

 痺れをきらした父親は持っていた大型レンチで扉を壊そうと振り上げるが、大型レンチが扉を壊すことはなかった。大型レンチが振り下ろされる瞬間、玄関の扉が開いて棒が突き出される。

 

 父親も何が起こったのか初めは理解できなかったことだろう。

 自分に突き出された棒の先端に付けられた刃物が胸に突き刺さっているのを見て、初めて自分が刺されたことを認識し後ろに数歩下がり力なく倒れる。

 

 女の子は倒れた父親に急ぎ駆け寄る。

 

 そこに遂に追いついた〈奴ら〉が民家の門をくぐり抜けて倒れた父親と少女に迫る。

 それをただ無力と屈辱を噛み締め、これから親子に起こる残酷な結果を受け止める事しか僕には許されていなかった。

 

 〈奴ら〉の魔の手がとうとう親子に届きそうになった時、民家の敷地に入った〈奴ら〉は頭を吹き飛ばし倒れる。

 

 誰が〈奴ら〉を仕留めたのかはすぐにわかった。

 僕の足元に黒く煤けた金属が転がる。

 

 運命という名の暴君に打ち勝つ。

 不条理な運命に抗う為の必然の力……僕にとって、(淳也さん)が手にしている『銃』こそが『力』の象徴に思えた。

  

 

 

 

 

 

 




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第14話 『とんでもない誤射』

皆様、お待たせしました。
今回は主人公SIDEとコータ君SIDEをお送りします。
短めです・・・・・・。


 主人公SIDE

 

 

 へっくしゅ!!

 あー、くしゃみが止まらないぜ。

 誰か俺の噂でもしているのかな。

 

 ベランダから外を見る。

 流石、川沿いのメゾネットのアパートだけあるね。

 

 見晴らしがいい。

 ゾンビがたむろする道をこちらに向かって走ってくる青年もよく見える。

 

 人が人を食い散らかす地獄絵図は見たくはなかったが。

 

 

 

 

 

 青年がゾンビに向かって所持していた上下二連式の散弾銃を構えて発砲する。

 

 上下二連式散弾銃は、日本において広く普及している猟銃、競技用の散弾銃である。

 銃口が上下に2つ連なっている散弾銃だ。

 

 装弾数は2発。

 

 慣れた者なら再装填に時間を掛けず行うことができるが、あまり慣れておらず焦って装填しようとすると上手くはずはない。青年は、案の定弾薬(シェル)を落としてしまう。

 銃声を轟かせた青年がゾンビに囲まれ引き裂かれるのは必然だった。

 

 

 いざ、この世界からオサラバしようとベランダに来たが、孝君とコータ君がしっかりと見張りをしていたため俺の生まれ変わり計画を実行することができない。更にはアパート周辺にゾンビが溢れかえっている。

 

 酷くなる一方だな。

 

 孝君が生存者を助けに散弾銃を持って出ていこうとするがそれを止める。

 確かに助けに行きたい気持ちはわかるが、助けに行ってこちらが危険な状態になれば本末転倒だ。

 

 

 自動小銃の無倍率の光学照準器(ドット・サイト)をトリジコン社製のコンパクト兼堅牢な作りの望遠照準器(ACOG)に変えて外を警戒する。

 この『ACOG』―――通称『エイコグ』は照準線に放射線発光物質トリチウムを用い、10年以上も電源なしで使用することができる。もの凄い優れものである。

 

 

 孝君に自分の双眼鏡を進んで貸しておいてすぐ返してなんて言いにくいから仕方ない。

 

 望遠照準器(エイコグ)越しには映画のような光景が広がっている。

 

 ここで人を助ければヒーローになるだろう。

 ヒーローは基本面倒な立ち位置だ。

 

 俺のポジションではない。

 

 少し視界をずらすと父親と思われる男性に手を引かれ必死に走る小学生くらいの女の子が視界に入ってくる。

 すぐそこまでゾンビが迫ってきており必死だ。だが、小学生の子供を連れて逃げるには無理がある。

 

 父親もそれを理解しているらしく、ゾンビの集団からある程度離れて身近な明かりがついた民家に駆け込む。

 男性が必死で民家の入り口を叩いて入れてくれるように頼んでいるようだが入り口は開きそうにない。

 

 誰かを助けようとする余裕なんてありはしないのだから。

 

 ゾンビはそうしている間に着実に近づいてきている。

 仕方ない、ひとまず民家にゾンビが入らないように援護だけするか。

 

 民家の門に近づいてきたゾンビに照準を合わせ引鉄(トリガー)を絞ろうとする瞬間。

 

 

 へっくしゅ!!

 

 

 くしゃみで照準が大きくずれ、くぐもった音と共に薬莢が転がる。

 タイミング悪すぎだろう。

 

 改めて望遠照準器(エイコグ)をのぞき込むと、民家に助けを求めていた父親が胸を押さえながら倒れた。

 

 えっ!!   

 もしかして俺のか?

 俺の誤射なのか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 平野コータSIDE

 

 

 

 

 僕の役目は親子に近づく〈奴ら〉の排除だ。

 淳也さんが物凄い勢いで走って向かっていく。

 

 親子がいる民家までは100メートルも離れてはいないが、民家までの道には多くの〈奴ら〉がいる。

 辿り着くのは容易ではないだろう。

 

 

 淳也さんは僕たちのいるアパートの前の〈奴ら〉を瞬く間に排除した。

 銃も刃物も使わず―――シャベルを使って。

 

 シャベルは戦場において、特に第1次世界大戦では塹壕を掘る道具だけでなく白兵戦闘の際の打突武器としても使用された。

 重心が安定しているシャベルは、その重量と淳也さんの力で強力な武器に早変わりだ。

 

 

 それにしても淳也さんはどうしてあの親子を助けたのだろうか。

 小室には助けを求める生存者は冷酷に切り捨てると言っていたが、彼も心のどこかでは助けたいと思っていたのかもしれない。

 

 淳也さんの装備からして何処かに所属しているようだけどまったくわからない。

 

 何らかの任務を受けているのは確実だ。

 生存者の救出任務だった場合は、警察機関と協力するなどの対処ができるはずだがそれをしていない。協力できない理由がある可能性がある。

 単独で学校にいたのもその任務に関係しているのではないだろうか。

 

 考えれば考えるほど淳也さんについてはわからなくなる。

 

 でも淳也さんは僕たちを助けてくれた。

 

 立ち去り際、肩にかけた自動小銃(M4 カービン)のスリングベルトを外し、予備弾倉と一緒に僕へ手渡してきた。淳也さんから託された自動小銃(M4 カービン)に機関部に弾倉を叩き込み、ボルトを引き初弾を装填。薬室を確認してからセレクターを安全位置から切り替えた。望遠照準器(エイコグ)を覗き込み親子に近づく〈奴ら〉を射撃する。消音器(サイレンサー)を装着し、出来る限り銃声を押さえているが無音でない。それでも銃声を響かせるよりは静かだ。

 

 立射姿勢を固め照準、射撃―――消音器(サイレンサー)で抑制された炸裂音が空気越しに鼓膜と皮膚を震わし、〈奴ら〉を撃ち抜いていく。

 

 何発か継続して撃つ。

 

 残弾僅かとなったタイミングでタクティカルリロード。片手保持で空弾倉を収納嚢に落とし、予備弾倉を抜き機関部へ叩き込む。

 

 

 どんな事情があろうと彼にとって僕たちを見捨てた方が無駄にリスクを負わなくて済んだはずだ。そして、淳也さんは気づいているはずだ。

 

 僕たちは、信用はしているが本当は信頼していないことを……。  

 

  

 

 




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第15話 『とんでもないスコップ』

 高城沙耶SIDE

 

 

 静香先生の友達の部屋でようやく休める。

 

 さっそく女性陣で入浴をするため男共は、2階に移動させた。

 

 浴槽は女性陣全員で入るには少し狭いが、この際仕方ないだろう。

 

 

 みんなで入浴をしている中で、私はある話題を出した。

 詳しいことが何もわかっていないアイツ(淳也)の事だ。

 

 

「私たちは、得体の知れないアイツをどこまで信用するのか……」

「何処までって?」

「うむ、確かに淳也さんについてはいささか不可解な事もある」

「でも~、私たちのことを鉄砲で助けてくれたじゃない。心配することないんじゃないかな~」

 

 

 バスでは平野とアイツ(淳也)について話をしたが、生粋の軍オタである平野でも彼が何処に所属しているのかはわからないとのことだった。

 軍隊に所属しているのなら少数なら通常2~4人ほどで作戦行動を行う。映画の様に単独での作戦行動は滅多に行われない。

 

 アイツ(淳也)は本当に私たちの味方なのかどうか。

 

 確かにアイツ(淳也)には命を救われたが、所属も目的も分からない完全武装の兵士を信じられるほど簡単な頭の構造はしていない。

 

 宮本は、アイツ(淳也)が私たちに危害を加えないと言い張っているがその根拠がない。

 

 

「ひとまず、信用するが信頼はせずの姿勢を取りましょう。仕方ないけど……」

 

 

 入浴を済ませた私たちはそれぞれに休むことになった。

 制服は血や脳漿などで汚れ、昼間は気づかなかったが匂いも酷かったので洗濯している。そのため着る服がなく、今の服装はとてもラフなものになってしまった。

 

 こんな格好をアイツ(淳也)に見られるのは癪だ。

 とにかく気に入らない。

 

 

 静香先生から渡されたドリンクを飲んでから突然、睡魔が襲ってきた。

 こんな状況だ。精神的疲労はピークに達していた。

 少し休んでから今後の事を考えよう。

 

 

 男子共は見張りをしているから何かあれば知らせてくれるだろう。

 

 私は潔く睡魔に身をゆだねた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ありす父SIDE

 

 

 

 

 必死に娘の手を引き必死に走る。

 

 遅かった。

 それだけが心の中に重くのしかかる。

 

 この惨事が起こる前に既に兆候を掴んでいたのに行動できなかった。

 それがこのざまだ。

 妻とも合流できていない。

 

 

 1カ月前―――中東、アジアで原因不明の伝染病が発生したという情報を掴んだ。

 伝染病に感染したと思われる人間が凶暴化し、周囲の家族や友人に噛みつこうと襲い掛かったそうだ。

 

 この件を調べに、現地入りをした友人からはいつまでたっても連絡がなく。現地の日本大使館にも連絡がつかない。

 この時点で、何らかの尋常でないことが起きていたのだ。

 誰かにこのことを伝えていれば……と思ったが伝えたところでどうしようもないだろう。

 

 新聞記者をしていて感じたことは、言葉を伝えるのは酷く難しいことなのだろうということだ。

 結局のところ伝えたい言葉が偽物なのか本物なのか……その判断は受け取る側に委ねられる。

 

 

 

 橋での混乱からはなんとか巻き込まれずに逃げることができたが、死者たちからは逃げることができない。

 

 娘の体力にも限界がある。

 何処かの家に入れてもらうしかない。

 

 明かりがついた近くの民家に駆け込み、ドアを叩く。

 

 

「開けてください! 子供ずれで逃げられないんですッ」

 

 

 家からの反応はなかった。

 ここで諦められない。

 

 

「お願いです。開けてくださいッ!」

「くるなッ! よそへ行ってくれ!!」

「私はどうでもいいんです。娘をッ! 娘だけでも!」

 

 

 玄関の明かりが消える。

 どうあっても入れる気はないようだ。

 このままでは娘が……。

 

 

「クッ! 開けてくれなかればドアを壊す!! ドアを壊すぞッ!」

 

 

 娘を何としても助けたい。

 私は形振りかまわず、持っている唯一の武器である大型レンチを玄関の扉に振り下ろそうとした。

 

 振り下ろす直前、玄関が勢いよく開き長い棒が突き出される。

 胸に焼けるような痛みが走り、視線を向けて自分が刺されたことを理解する。

 

 体に力が入らずよろよろと後ろに倒れる。

 

 娘のありすが駆け寄ってくる。

 

 

「パパッ!」

 

 

 母親に似て優しい子に育った愛おしい私の娘。

 この子を残して私は死ぬのか。

 

 路上から多くの獣のうめき声が聞こえてくる。

 このままでは、アイツらが来てしまう。

 

 この子を1人残して死ねない。

 

 四肢に力を入れるが、自分の体が動くことはない。

 体が痺れ、突き上げてくる恐怖。

 

 自分の命が尽きるからではない。

 この地獄のような世界に娘を1人残していくことにだ。

 せめて最後に伝えなければ。

  

 

「ありす、よく聞きなさい。どんなに困難な状況にあっても・・・・・・周りの人間がすべて諦めて絶望してもそれでも立ちあがれる人になりなさい。隠れなさい、誰にも見つからないところに」

「嫌だよッ! パパ一緒にいる!!」

 

 

 酷い父親だ。

 これほど残酷な事しか最後に言えないなんて。

 アイツらがすぐそこまで迫っている。

 このままではッ!

 

 突然アイツらが宙に舞った。

 頭部は潰れ再び起き上がることはなかった。

 

 それを行った人物が姿を現す。

 

 自衛隊とは違う迷彩服の男性。

 覆面をしており顔はわからないが、彼が助けに来てくれたことはなんとなくわかった。

 

  

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 主人公SIDE

 

 

 

 

 

 ぎりぎりセーフ。

 誤射してしまったお父さん、まだ息してるよ。

 

 誤射した時点で俺の殺人未遂は確実だ。

 セクシャルハラスメントの他にも罪を重ねてしまうなんて。

 

 刑務所暮らし確定だぜ。

 

 刑務所が機能していればだけど。

 

 路上にいたゾンビ共をスコップで無双し、駆けつけたが間に合ってよかった。

 ひとまず一時的に安全を確保し、お父さんの傷の具合を確かめる。

 

 胸部に刃物によると思われる刺し傷……。

 

 あれ?

 銃創じゃないだとォォォ。

 

 よかったぁぁぁぁぁ。

 

 いや、不謹慎だな。

 瀕死の重傷の人の前で、『よかったぁぁぁぁぁ。』なんて言ってたら関係者にボコボコにされる。

 

 確かにセクハラに続き、殺人罪を重ねなくて済んだことは喜ばしいが。

 現状、喜んでいられない。

 

 

「いやだよッ! ありす、パパと一緒にいるぅぅぅ!」

「すまない、ありす」

 

 

 なんでこんなシリアス空間に来てしまったんだぁぁぁぁぁ。

 

 お父さんしっかりして!!

 お願いだから!

 俺と娘さんを2人にしないで、気まずすぎる!

 

 傷口を圧迫するが出血が止まらない。

 重要な血管が損傷している可能性がある。

 

 

「見ず知らずの…あなたに、お願いが…あります。どうか娘をお願い…します」

 

 

 お父さんは、俺の事は既に見えていないのだろう。その瞳は俺を捉えていなかった。

 だが、手は俺の腕をしっかりとつかんでいる。

 

 ここは、日本人的にNOとはいえない。

 まあ、誰であろうとここでNOなんて言える人は正真正銘の外道だ。

 

 そんな外道は俺がスコップで接待してやる。

 

 スライスか…クラッシュか。

 

 どちらがお好みかな。

 

 安心してくれ。

 墓もスコップでちゃんと掘ってやる。

 

 お父さんの手を握り返し。

 俺は誓った。

 

 

「わかりました。安心してください」

 

 

 俺の声が聞こえていたのかわからないが、お父さんは微笑み息を引き取った。

 

 

「パパぁぁッ!!」

 

 

 娘さんは父親の亡骸にすがり涙を流す。

 そうしている間にもゾンビ共はお構いなしに群がってくる。

 

 血だらけのスコップを肩に担ぎ直し路上に出る。

 お前たちに鉛玉は必要ない。

 

 親子の別れを邪魔するゾンビは、俺のスコップの錆びにしてくる。

 

 

 

 

 




ご意見やご感想があればよろしくお願いします。


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第16話 『とんでもない兵隊さん』

短めです。
すみません。
恐らく大々的に手直しが入ります。


 稀里ありすSIDE

 

 

 走りっぱなしで息が苦しい。

 足がもつれ転びそうになるが、パパが手を握っていてくれていたから転ぶことはなかった。

 

 

 

 今日は小学校にパパが迎えに来てくれた。

 パパは、急いでいる様でありすのお友達にも『さようなら』が言えなかった。

 

 パパに聞いたら遠くの方へご旅行に行くんだって。

 それで迎えに来たと教えてくれた。

 

 どこに行くのかな?

 

 お家に帰る道は凄い混んでてなかなかお家につかない。

 パパは、車を道の脇に停めてありすを連れて走る。

 

 走ってありすのお家がある橋の方に向かっていると、女の人の悲鳴や男の人の怒鳴り声が聞こえるようになった。

 何が起きたのかわからず、その場で動けなくなる。

 

 そんなありすをパパは、抱き寄せて抱きかかえるように走った。

 

 怖くてパパに必死にしがみつく。

 目をギュッと閉じて。 

 パパの声にだけ集中する。

 

 

「大丈夫だよ、ありす。パパがついてるからね!」

 

 

 私には何が起こっているのかわからなかった。でも、ありすの近くにパパがいてくれれば怖くない。

 

 

 

 

 

 

 知らない人のお家に入れてもらおうとパパが大きな声を出している。

 でも、どうしても入り口を開けてもらえない。

 

 パパは怖い顔で扉を壊そうとしたら、扉がいきなりあいて長い棒が突き出される。

 あれ、何でパパのお洋服が真っ赤なの?

 

 扉が閉まると、お洋服を真っ赤に染めたパパが倒れる。

 

 

「パパッ!」

 

 

 パパを染める赤いものがパパの血であることはわかる。

 たくさん血を出して痛いはずなのに、パパはいつもの様にありすに優しく微笑む。

 

 

「ありす、よく聞きなさい。どんなに困難な状況にあっても……周りの人間がすべて諦めて絶望しても、立ちあがれる人になりなさい。隠れなさい、誰にも見つからないところに」

 

 

 すぐ近くまであの怖い人達が来てる。

 でもッ!

 

 

「嫌ッ! パパと一緒にいる!!」

 

 

 パパと離れるなんて絶対イヤッ!

 怖い人たちがありすとパパを食べようと近づいてくる。

 

 パパにしがみ付く。

 怖い人たちがありすとパパのところに来ることはなかった。

 

 スコップを持った『兵隊さん』が助けてくれたから。

 

 

 兵隊さんは、スコップで怖い人たちをやっつけてくれた。

 パパの血がいっぱい出ているところを兵隊さんが押さえて血を止めようとするが、それでも一向に血は止まってくれない。

 

 

「見ず知らずの…あなたに、お願いが…あります。どうかッ、娘をお願い……します」

 

 

 パパは、苦しそうに兵隊さんの腕をしっかりとつかむ。

 兵隊さんは手袋を外してパパの手をとった。

 

 

「わかりました。安心してください」

 

 

 兵隊さんがパパにそう言うと、パパは微笑み動かなくなった。

 

 

「パパぁぁッ!!」

 

 

 パパにすがり付く。

 流れ落ちる涙は止まることはなかった。

 

 声が枯れるほど喉を震わせ、涙をこぼし続けるありすを兵隊さんは黙って優しく抱きしめてくれた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 主人公SIDE

 

 

 ゾンビの大掃除を終え、宮里ありすちゃんのパパのお墓をスコップで掘る。

 

 チートボディーをもってすればカップ麺の待ち時間すら上回る。

 目の前で父親が息を引き取ったのだ。そのショックでどうなるか分からない。

 

 ありすちゃんの心の大きな傷。

 

 ありすちゃんのパパとの約束ではありすちゃんを守るしか約束はしていないが、命だけを守っても心も守らなければならない。

 

 彼女の為にも。

 

 お墓は簡単なものだが、しっかりと花を添えてある。

 安らかに眠ってほしい。

 

 不謹慎な話ではあることだが、ありすちゃんパパはゾンビにはならなかった。

 死因が大量出血によるショック死なので、ゾンビにならなかったとみている。

 

 つまり、ゾンビになる条件が映画でも定番である、噛まれることによる感染だと考えられる。まだ、確定はできないがそうあってほしいと思う。

 

 これでありすちゃんのパパがゾンビとなって復活したら、俺は心を鬼にしてスコップで眠らせなくてはならなくなる。それも、ありすちゃんの目の前で……。

 

 無理だわぁぁぁ。

 

 気まずすぎて、ありすちゃんパパを眠らせたあとに自分の墓ほって眠りにつきそうだ。 

 

 さて、そろそろ移動を開始しなくてはいけない。

 表通りには先ほど大掃除したにもかかわらずゾンビが溢れていた。

 

 こいつらは、Gなのか?

 1体いたら数十体はいる認識でいいのかな?

 

 ありすちゃんを連れてのアパートへの離脱。

 背中に背負っているありすちゃんが、落ちないよう庭の物置から拝借したロープでしっかり固定する。

 

 正面の団体様を相手にするのは面倒だし。

 ここは裏に回ろうかな。

 

 別に無理に正面から出なきゃいけないわけでもないし。

 

 塀の上を行くのもいいけども踏み外したりしたら終わり。

 偶然、足をキャッチされても終わり。 

 

 リスク高すぎだろ。

 

 もう少し安全第一に考えよう。

 あれ、この世界に安全って言葉あるのか?

 

 表に視線を向ければゾンビの団体。

 元気に鉄の門を引っ張ったり、叩いたり、引っかいたり。

 

 

 前言撤回、安全なんて言葉は存在しなかった。

 

 

 

 

 




ようやく、ありすちゃんが登場です。
あれ、犬がいない・・・・・・。

次回の更新は少し間が空きます。
レポートが2つも出たためです。なんで1万字以上なんだろう・・・・・・。
合計2万字も、なに書けばいいんだろう・・・・・・。


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第17話 『とんでもない対象年齢』

皆様、お待たせしました。
無事レポートも終わり、更新することが出来ました。短めですが・・・・・・。
今回はオリジナルキャラが出てきます。


 主人公SIDE

 

 

 スコップを野球バットの様に持ってフルスイング。

 ゾンビが飛び、ゴミ置き場に突っ込む。

 

 更に近づいてくるゾンビにスコップを叩き込み、颯爽と路地を進む。

 

 退いてください!

 小学生を背負った兵隊さんが通りまぁぁぁす!!

 

 不審者から兵隊さんにランクアップ出来たことは素直に喜ばしい。

 

 

 背中に背負っているありすちゃんの手が迷彩服をがっしり掴む。

 

 そりゃあ怖いよな。

 小学生がリアルゾンビを目の当たりにすれば。

 俺が子供だったら泣き叫ぶか、気を失う。

 

 対象年齢が18歳以上なんてもんじゃないから。

 対象年齢皆無だよ!

 皆無!

 

 教育に悪すぎだろ。

 一応、仮の保護者だからこそ、そこのところはしっかりしたい。

 

 俺も嫁さんがいれば今頃この年頃の子供がいたのかな。

 

 ありすちゃんには念を押して目を閉じているように言ってあるが血の匂いと音はどうしようもない。

 アパートに着くまでの辛抱だ。

 

 既に麗さんと沙耶さんが荷物をまとめているはずだ。

 事前に自分が何をするかを誰かに伝えることは大事だよ。

 

 特に社会に出てからは……。

 

 報告、連絡、相談。

 これを徹底しとかなきゃ被害受けるのは、自分自身と上司だから。

 

 

 無事にアパートの入り口までたどり着けた。

 入り口には冴子さんが見張りについて、沙耶さんと麗さんが荷物の積み込みを行っている。静香先生は運転席に乗り込んで何やら戸惑っている。

 

 

「ご無事ですか?」

 

 

 冴子さんが料理の時の際どい格好のまま出迎えてくれる。

 無事だよ。無事だけど…。 

 

 エプロンのままなんだね。

 それに荷物の積み込みをやっている2人もとんでもない薄着だ。

 

 君たちの将来が心配だよ。

 

 

「もう少しで荷物を積み終わります。それと…」

 

 

 冴子さんから作業の進捗状況を聞いていると最後の方で口ごもる。

 何かあったのかな。

 

 

「どうかしたのか?」

「はい、孝君が……」

 

 

 これはまた仕事かな…。

 睡眠時間が恋しいな。

 

 

 

 

 ◆ 

 

 

 

 

 

 小室孝SIDE

 

 

 淳也さんが小さな女の子を無事助けていたころ僕は、歪んだ車のドアをバールで開けるのに必死だった。

 事の始まりは双眼鏡でアパートの周囲を警戒していた時だ。

 

 アパートの近くの事故を起こした車に向かって犬が吠えていたので気になりそちらのほうに双眼鏡を向けると必死に車の後部座席の扉を開けようとしている人を見つけた。

 路地の電灯ではその人の顔まではわからなかった。

 

 どうやら事故を起こしたときに後部座席の扉が歪んで開けられないようだ。

 

 今なら淳也さんが〈奴ら〉を片付けてくれたから問題なく行ける。

 平野は淳也さんへの援護で動けない。

 

 冴子さんには荷物の積み込みを守ってもらわなかれなばならない。

 

 

「僕が行くしかない」

 

 

 呟きには、この世界の理不尽さに対する怒り……そして、蹂躙されている無数の命に対する悔しさが滲み出ている。1人でも、多くの人を助けたいという熱意がこみ上げてくる。

 

 

 僕はすぐさま行動に移した。

 冴子さんに事情を説明し、事故車のほうへ向かう。

 懐中電灯を渡され、自分の命が危険だと思ったら救出は諦めてすぐに戻るように、と念を押され送り出された。

 

 無人の街路を移動する。

 自販機、遺棄された車両、電柱の陰や路地に注意して、駆け抜けていく。

 

 懐中電灯で車内を照らすと中には知っている人物が乗っていた。

 

 

中条(なかじょう)さん?」

 

 

 車内にいたのは、僕と同じ藤美学園の生徒だった。

 中条(なかじょう) 早苗(さなえ)

 

 大手企業、中条グループのトップを父に持つ彼女は生粋のお嬢様だ。 

 学校でも知らない者もいない高嶺の花。

 

 彼女は、生まれつき体が弱く度々学園を休んでいた。

 

 この騒ぎが起きた時も学園を休んでいたことで、あの混乱に巻き込まれずに済んだのだろう。

 

 

 お嬢様である彼女と僕は少しばかり関わりがある。

 関わりと言っても階段を下りている途中に、貧血で倒れそうになった彼女を保健室まで付き添った程度の事だ。

 彼女は僕の事は覚えていないだろう。

 

 懐中電灯の光を当てられ中条さんもこちらに気が付く。

 

 

「お願いです、助けてください!!」

「中条さん、落ち着いて。今出してあげるから!」

「ッ小室くん!?」

 

 

 意外な事に彼女は僕の事を覚えていた。

 

 

 素手では歪んだ後部座席の扉は開けることはできなかった。

 彼女の命の行方が、僕の働き一つにかかっている―――そう意識しただけで、息苦しさが襲ってきてやまない。

 

 持ってきていたバールを扉の隙間に差し込み体重をかけると少しではあるが隙間が広がった。

 これなら何とかなるかもしれないと思った。しかし、この世界は牙を剥いてきた。

 

 こちらに路地の放置車両を撥ね飛ばしながら猛スピードで向かってくる車が視界に移る。

 

 その車は青い色をしたゴミ収集車だ。

 車体をボコボコに凹ませながら直進してくる。

 

 恐怖で肌が粟立った。

 このままでは車に閉じ込められている彼女は車ごとゴミ収集車に潰されてしまう。

 

 バールに更に力をかけていく。

 冴子さんの言葉が頭をよぎるそれでも、僕には諦めることができなかった。

 

 

 

 

 

 




久々の孝君の登場でした。
オリジナルキャラ『中条 早苗』ちゃんについては、次のお話で中条早苗SIDEを予定しています。
ご意見やご感想があればよろしくお願いします。


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第18話 『とんでもないお嬢様』

今回はオリジナルキャラSIDEをおおくりします。
お気に入り数が3000件を突破しました。
皆さん応援ありがとうございます。
来年もよろしくお願いします。


 中条早苗SIDE

 

 

 

 

 車が追突した衝撃で身体が座席から浮き上がるがそれをベルトが押さえつける。

 空気が一気に抜け、強い衝撃が頭部を襲う。

 

 意識が朦朧とする中で見たのは人が人を噛みちぎっている非違現実的な光景だった。

 悪い夢でも見ているのだろう。

 

 この事故も外の光景もすべては夢の世界の出来事なのだろう。

 きっと目が覚めればいつものようにベットに寝ている。

 そう思い私は瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 生まれつき体が弱かった私は、学校も休みがちだった。

 私のお母様も体が弱く、私を産んでからすぐに亡くなりお父様が私を育ててくれた。

 

 お父様の名前は、中条(なかじょう) 清司(きよし)

 中条グループのトップであり日本の有数企業にまでした人だ。

 

 お父様は、お仕事が忙しく私が住んでいる家には住んでいない。でも、1カ月に1度は帰ってきてくれる。

 そんな生活が5年以上も続けば慣れてしまう。

 

 そんな忙しいお父様に褒めてほしくて、良い子だねと言われたくて我慢した。

 それは高校生になった今も変わらない。

 

 私立藤見学園――――現在、私が通う学校だ。

 

 この学園には、お父様が莫大な寄付をしている。

 そのこともあり私は、職員からは腫れ物を扱うかのようにされ一般生徒には、私と関わろうとする者はいない。

 一般生徒からは、妬みや嫉妬、羨望の感情しか向けられない。

 

 

「ワンッ! ワンッ、ワン!!」 

「うッ!」

 

 

 犬の鳴き声で沈んでいた意識が戻ってくる。

 頭に残る鈍い痛みのおかげで、あの惨劇は夢では無かったことが思い知らされる。

 

 車外は既に日が暮れていることから数時間は気を失っていたことになる。

 周りには人の死体や体の部位やおびただしい量の血痕が残されていたが人影はない。

 いったい世界に何が起こってしまったのだろうか。

 

 目が覚めたら世界が終わっていたなんて笑えない。

 ひとまず車からでなきゃ。

 

 車は事故を起こして運転席、助手席共に潰れ運転手の田中さんは見るも無残な姿になっている。フレームが歪んだのか後部座席の扉すら開けることができない。

 

 田中さんが亡くなってしまったのは悲しいが私が泣き叫んでも田中さんは生き返ることはないのだ。だったらさっさとここから逃げることを優先しよう。

 

 車の運転席や助手席からの脱出は不可能。私の力じゃ後部座席の窓を破る事も難しい。

 

 こんな状態になっている時点で望み薄ではあるが携帯も試してはみた。予想どおり何処にも繋がらない。

 回線がパンク状態なのか既にアンテナの施設が動く死体によって全滅したか。

 仮に連絡がついても人が人を食べている中で車に取り残された自分を助けに来てくれるほど余裕はないだろう。 

 結果、自分でどうにかするしかないのだ。

 

 再度、扉を開けようと試みる。その最中にこちらに近づいてくる人影に気が付いた。

 私は作業を一時中断し、生きている人間なのか確認をするため息をひそめる。

 

 突然、車内が光に照らされる。

 外からのライトによるものだ。

 

 どうやら生きている人間の様だ。

 

 

「お願いです、助けてください!!」

 

 

 この機会を逃すわけにはいかない。

 

 

「中条さん、落ち着いて。今出してあげるから!」

 

 

 私の事をしっている?

 それに聞いたことのある声であることに気が付いた。

 相手を確認すると学生服をきた知っている顔があった。 

 

 

「小室くんッ!?」

 

 

 まさか、彼だとは思わなかった。

 彼とは少しばかり関わりがある。

 

 貧血で倒れた時に助けてられた。

 小室君がいなかったら私は階段から愉快に転げ落ちていったことだろう。

 

 周囲からは不良として扱われていた彼だが今日は学園にいたはずだ。

 学園に居ればこのおかしなことが学園でも起こっていたことだろう。

 

 

 彼はバールを扉の隙間に差し込み梃子の原理を利用し開けようとする。

 少しずつではあるが隙間が広がっていく。これなら扉を開けることができる。

 

 そう思って少し心に余裕が持てた。

 こちらに猛スピードで向かってくる車が見えるまでは…。

 

 私は扉に蹴りをお見舞いする。

 この忌々しい扉が開かなかれば仲良く車ごとオシャカにされる。

 

 人間で一番強い力が発揮できるのは足である。

 常に自身を支えている足は腕力を超える。

 

 

「ふんっ!」

 

 

 ようやく私が出ることができる分の隙間が出来たのでそこに滑りこむように入り込む。

 小室君に手伝ってもらい急いで車外に抜け出す。 

 

 車が直進してくる道とは別の道に勢いよく躰を投げ出し、飛び込んだ直後に轟音と共に直進していた車と私がいた車がぶつかり宙を舞う。

 ガラスやら金属片が飛び散る。

 直進していた車は横転し見事道路を塞いだ。

 

 信じてはいなかったが、

 どうやらまだ神様は私のことを見捨ててはいないようだ。

 今感じている痛みもまだ自分が生きている証である。

 

 ふと横の路地から人影が現れる。

 その人影はふらふらと近づいてくると街灯に照らされ姿が露わになる。

 片腕がなく顔の半分の皮膚を喪失しながらこちらに歩み寄ってくる。

 

 前言撤回。

 神様を少しでも意識してしまった私は馬鹿だった。

 

 

 

 




短くてすみません。
ご意見やご感想があればよろしくお願いします。
それでは皆様、よいお年を。


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第19話 『とんでもない天気予報』

最近はいろいろ文章をどうするか悩みどころです。
主人公SIDEと原作キャラSIDE、複数をその1話分にまとめるか、一人分のSIDEに絞って1話分を書いていくかどうか・・・・・・。
ご意見などをいただけたら幸いです。



 主人公SIDE

 

 

 

 走りながら上下二連式散弾銃でゾンビ共を吹き飛ばし退路を確保する。

 今日は走り回ってばかりだ。それでも体力的な疲れはそれほど感じない。

 精神的には今にも気絶しそうだが……。

 

 散弾銃はアパートの近くで食い殺された青年の持ち物だ。

 手に入れたときは青年の血や手がついたままだったが、撃てそうだったので回収したのだ。しかし、何処かで本格的な整備をしなければ最悪、暴発する危険性もある。

 弾薬(ショットシェル)の12番ゲージも青年の上着のポケットから拝借している。

 

 これで職業が漫画家アシスタントだったらヒーローになれたかもしれない。

 

 やっぱり今のなしで。

 ゾンビが走ったり、飛び跳ねたりとんでもなくアグレッシブルな動きをするとか悪夢以外のなにものでもない。

 

 ゾンビを生み出したかの有名な映画監督は、動く死体は走ることはできないと言った。

 走ってしまったら足が折れてしまうよと―――。

 

 死体であるからこその脆さから走れないという訳の様だ。

 

 

 

 空になった弾薬(ショットシェル)が飛び出し、新たに弾薬(ショットシェル)を再装填しながら走る。

 そんな俺たちに並走する様に1匹の小型犬が続く。

 

 ふと、犬も感染するのかどうか疑問に思った。

 犬もゾンビになるのなら終わってる。 動きは早く、何処から現れるか分からない。

 銃で撃つのは困難を極める。

 

 ゲームではゾンビ犬を簡単に片づけているが、現実ではうまくいかないだろう。

 ゾンビ犬がいないことを祈ろう。 

 

 

「帰ってきたわね。急ぎましょう!」

 

 

 アパートの駐車場では、沙耶さんが出迎えてくれる。

 

 その意見には賛成だ。

 そして、君もそろそろ下着姿ではなく服を着てくれ。

 眼福ではあるがそろそろ罪悪感の方が大きくなってきた。

 

 

「静香先生、全員乗ったわ!」

「行くわよぉ!」

 

 

 ハンヴィーの210馬力のディーゼルエンジンが唸りを上げる。

 

 鞠川先生アクセル踏み過ぎ!

 広くない路地だからそんなにスピード出すと事故っちゃいます!!

 

 ハンヴィーが左右に曲がるたびに車内はこっちに行ったりあっちに行ったり、まるでジェットコースターだ。

 ただ、本物のジェットコースターと違うのがレールの上を走らずゾンビを撥ね飛ばしながら猛スピードでギリギリの道を駆け抜ける安全性ゼロなところだ。

 

 こうして俺たちはハラハラしながらアパートから脱出した。

 いつの間にか人数も増え、犬まで着いてきた。

 

 次の目的地は川を渡って距離的に近い沙耶さんの実家だ。

 

 沙耶さんの話ではご両親は右翼関係の人らしい。

 大丈夫だろうかこの先…。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 「漕げ漕げ漕げよ~、ボート漕げよ~、らんらんらん、川下り~」

 

 

 みなさん、おはようございます。

 朝のニュースのお時間です。

 絶賛眠りたくても眠れない篠崎がお送りします。

 

 陽気な歌と共に今日のお天気とニュースをお伝えします。

 

 今日も天気は晴れ。

 気温も暖かく、絶好の洗濯日和でしょう。

 ところによりゾンビが発生しておりますので自宅からの外出は控え、ドアや窓はしっかりと鍵を閉めてください。どうしても外出する方はスコップをお忘れなくお持ちください。

 

 それでは、初めのニュースです。

 四輪駆動軽汎用車輛ハンヴィーが現在、御別川を渡河しております。 一般の方はマネしないでください――――――と頭の中で変なテレビ番組をしていたがそろそろ現実に戻ろうか。

 

 むにゅ。

 むにゅ。

 

 両腕にあたる弾力と張りがあるモノ。

 眠ることができない原因だ。

 

 右に麗さん。

 左に冴子さん。

 

 腕にぶちあたる彼女たちの2つの無反動砲(ムネ)

 静香先生の胸は大陸間弾道ミサイルだが、彼女たちの胸は対戦車ミサイルだ。

 

 幸せだが精神力が削られる。

 こんな綺麗な女の子たちに胸押し付けられて何も感じないやつは男ではない。

 

 漢だ……。

 

 しかも、薄い下着でそれを数時間続けられるとか……新手の拷問か。

 近年の拷問は、幸せ攻撃で睡眠を与えてくれないらしい。

 

 耳元で”あなたの事教えて”なんて甘い声で囁かれれば何でも喋ってしまうだろう。

 

 ハニートラップ、ダメ絶対。 

 

 動こうにもガッチリ腕をホールドされている。

 無理に動いたら彼女たちを起こしてしまうかもしれない。

 

 気持ちよさそうに寝ているのだ起こすのは野暮だろう。

 

 徹夜とか企業戦士の俺にとっては日常茶飯事だ。

 頑張れ俺!

 

 

「みんなそろそろ起きて、もう少しで川を渡りきっちゃう」

 

 

 よし、起きようか。

 冴子さんの涎が服に染みこんでいた。

 

 よし、もうこの服は洗濯しないぞ。

 はッ!? 

 ヤバい、睡眠不足で思考が変な方向に行ってしまう。そして、麗さん。さらに胸を押し付けるのやめてくれません。精神力がゴリゴリ削り取られてるから。  

 

 

 岸に到着してようやく女性陣が服を着てくれた。

 女性陣が服を着替えている間にこちらもいろいろしておこう。

 コータ君にイサカM37の使い方を孝君に教えておくように頼み、これまで一度も使っていない無線機をいじくっている。

 

 壊れていないようだが周囲に繋がる無線機が無いのだろう。

 小型でコンパクトなのだが、出力が弱いようだ。

 

 ひとまず電源を入れた状態でいよう。

 移動している最中に何か受信できるかもしれない。

 

 タクティカルベストやニーパッドといった戦闘装備を着用していく。

 

 銃の作動状態を確認する。

 弾倉を機関部に叩き込んだ後、槓桿(こうかん)―――チャージングハンドルを引く。硬質な機械音を鳴らして遊底が動き、薬室に初弾が送り込まれる。

 

 安全装置(セーフティー)をかけてスリングベルトで背中に吊る。

 上下二連式散弾銃も薬室を確認し、弾薬(ショットシェル)を入れないで両手で持つ。

 

 散弾銃は稀に地面に落下すると衝撃で撃鉄が落ち暴発してしまうことがある。

 暴発は怖い。

 

 何事も安全管理が大事だ。

 

 

 

 




ご意見やご感想があればよろしくお願いします。


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第20話 『とんでもないスリップ』

 高城沙耶SIDE

 

 

 リビングのソファで寝ていた私は、誰かに肩を優しく揺さぶられ起こされた。起こしたのは黒い目出し帽(バラクラバ)を被っているアイツ(篠崎)だった。どこか焦っている雰囲気からして何かがあったようだ。少し眠気の残るなか事情を説明された。

 

 つまり現在の状況は御別橋での騒ぎが酷くなり、すぐに出れるように荷物をまとめろということだ。

 私たちが荷物をまとめている間にコイツ(篠崎)は近くの子供を助けに行くらしい。リスクが高いのは承知の上でだ。本人は、もし戻れなければ置いて行っていいとすら言った。

 事情を聞いた私はすぐに行動に移した。

 

 まずは、気持ちよさそうに寝ている静香先生を揺さぶり起こした。

 その静香先生の第一声が『もう朝ごはん~?』だ。私は寝惚けている静香先生の頬を引っ張って意識を覚醒させる。

 

 今後必要になる食料、水、衣服、医療品など、まとめ終えた物からアパートの門まで運んだ。

 門では警棒を手にした宮本と木刀を構える毒島先輩が通りの様子を伺っていた

 

 

「宮本、そこは毒島先輩に任せてあんたも手伝って」

 

 

 宮本に荷物を運び出す手伝いを頼み、静香先生にはひとまず服を着てもらうことにした。

 

 

「で、外の状況は!」

「今なら車に乗り込める。アパートの周りの〈奴ら〉は淳也さんが片づけたよ」

「よし! じゃ、手分けして静かに荷物を車に積み込んでいきましょ」

 

 

 なるべく音を立てないように荷物を車に積んでいく。

 〈奴ら〉はアイツ(篠崎)が惹きつけている。それにバルコニーでは小室と平野が、駐車場の周りは毒島先輩が見張っていてくれているから大丈夫だろう。

 静香先生に車の鍵を開けてもらい、宮本と一緒に3往復ぐらいしてすべての荷物を積み込んだ。

 

 荷物を積み終えたところで小室が近くの事故車から人を助けてくると言い、こちらの制止を振り切りアパートを出て行ってしまった。

 アイツ(篠崎)の行動に触発されたのだろう。

 確かに誰かを助けることはいいことだ。こんな状況で自分よりも他人を気遣えるのは・・・・・・。それでも相応のリスクがある。アイツ(篠崎)は助けた後の行動も視野に入れて行動している。救助者を一時的に助けてはい終わりではないのだ。

 もし、その救助者が1人では行動できない怪我を負っていた場合、手助けをしながらこちらまで戻ってこなければならない。満足に動けない状況で〈奴ら〉に取り囲まれでもすれば終わりだ。

 

 そんな危険を考慮したうえでアイツ(篠崎)は、もしもの時は見捨てろ(・・・・)と言った。

 あの厳粛な佇まいを思い出すと、言葉の意味を想像し寒気が這い上がってくる。

 アイツ(篠崎)は本気で言っていた。

 

 荷物を全て積み終わりバルコニーにいる平野に懐中電灯の光で合図を送る。

 あとは、アイツ(篠崎)と小室が帰ってくればいつでも出発できる。

 

 

(〈奴ら〉の人数が多すぎる!!)

 

 

 アイツ(篠崎)が向かった民家の前は、すでに〈奴ら〉によって埋め尽くされている。まさしく肉の壁だ。いったいどうやってここまで戻ってくるつもりなのだろう。

 それに平野は、ここまで降りてくるのにどれだけ時間かかってるのよ。

 

 平野を呼びに行こうとアパートの入り口に向かおうとすると突然黒い影が飛び出してきた。

 

 

「ひッ!」

 

 

 〈奴ら〉かと思い悲鳴を上げてしまったが、よく見るとアイツ(篠崎)の荷物を持った平野だった。 こいつがこんなにも生き生きして見えるのは気のせいだろうか。

 出発する準備が整って少しするとアイツ(篠崎)が小さな女の子を背負って向かいの塀を乗り越えて帰ってきた。〈奴ら〉がいる路地でなく民家の塀を乗り越えてこちらまで戻ってきたようだ。

 女の子を背負っても苦も無く、塀を越えてくる姿は疲労を全く感じさせないものだった。

 

 背中から女の子を降ろしているアイツ(篠崎)に、私は小室の事を話した。無理にでも止めなかったことを叱咤されると思ったがそれはなかった。助けた小学生くらいの女の子を私たちにあずけると血で黒ずんだ散弾銃を持ってすぐさま事故車がある場所まで走って向かう。

 こんな時に見送る事しか出来ないことがどうしても辛い。

 

 数十分過ぎるとアイツ(篠崎)が小室と見覚えがある女の子を連れて戻ってきた。

 そうだ、思い出した。彼女は中条(なかじょう) 早苗(さなえ)。クラスは違うが私と同じ学園に通う人物だ。

 日本の有数企業中条グループの一人娘であり、身体が弱くその為学園を休むこともよくあると聞いたことがある。

 

 3人が車に乗り込んですぐに静香先生がアクセルを踏み込む。

 道に出てくる〈奴ら〉を撥ね飛ばしながら私たちは御別川の上流を目指し、夜の住宅街を駆け抜けた。

 

 

 

 辺りが明るくなり始めた頃には、ようやくハンヴィーで御別川上流の渡河できそうな深さの所までこれた。ハンヴィーの車体が御別川に入水。向こう岸を目指す。

 ハンヴィーのルーフから上半身を出して周囲を双眼鏡で警戒する。

 

 平野は昨夜、アイツ(篠崎)が助けてきたちびっ子――希里ありすを自身の膝の上に乗せて

楽しそうに碌でもない替え歌を教えていたので注意してから車内に視線を向ける。

 車内ではアイツ(篠崎)に宮本と毒島先輩がもたれ掛かり眠りについていた。

 その光景を見ると何故か少しイライラする。

 イライラを平野で発散しつつ、対岸に到着する。

 

 寝ている人を起こして、車から降り各々が準備を始める。制服は洗濯したが血がこびり付いて落ちなかったので、静香先生の友達の部屋から持ってきた服に着替える。

 

 今後の事をひとまず確認し、一番距離が近い私の家に向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「次を左ッ!」

 

 

 車が大きく揺れる。

 初めのうちは〈奴ら〉を目にすることはなかったが、私の家に近づくにつれてどんどん〈奴ら〉が増えていく一方だ。道を徘徊する〈奴ら〉を目にしながら次々に道を変えているが、どこも〈奴ら〉で溢れかえっている。

 比較的広い道路も同様で〈奴ら〉によって埋め尽くされている。しかし、この道を行かなければ家には着けない。

 

 

「このまま押しのけて!!」

 

 

 〈奴ら〉の群れに突入し、さらに車の揺れが酷くなる。

 この道を真っ直ぐ行けば私の家まで目と鼻の先だ。

 

 

(もう少しでッ!)

 

 

 それに初めに気が付いたのはアイツ(篠崎)だった。

 アイツはいきなり静香先生が握っているハンドルを後部座性から乗り出して強引にきる。それにより車体は横滑りしながらアイツ(篠崎)が気づいたものにぶつかり悲鳴を上げる。

 

 

(ワイヤーッ!?)

 

 

 ぶつかってようやく気が付いた物は、道を遮るように張られたワイヤーだった。気づかずにあのまま進んでいたら車体が宙を舞っていたことだろう。

 車がぶつかってもワイヤーは一本も切れていないことから相当強固に作られている。

 車体を横にしたが勢いは止まらず滑り続ける。

 

 

「なんで止まらないの!?」

「血油よッ!」

「静香先生、タイヤがロックしてます! ブレーキ離して、少しだけアクセル軽く踏んで」

「ええッ!?」

 

 

 突然の急停車。ルーフに乗っていた宮本が前方にボンネットに背中を強打し飛ばされる。

 アイツ(篠崎)はすぐさま車から飛び出して近づいてくる〈奴ら〉に向けて鉄砲を撃った。

 小室も車から飛び降り宮本と〈奴ら〉の間に立ち鉄砲を撃つ。

 平野もルーフから身を乗り出し加勢する。しかし、〈奴ら〉の数が多すぎる。倒しても、倒しても終わりが見えない。

 毒島先輩も木刀で近づいてくる〈奴ら〉の頭を叩き割る。その毒島先輩をフォローするようにアイツ(篠崎)が死角から近づく〈奴ら〉の頭を吹き飛ばす。

 

 静香先生はエンジンをかけようと必死にキーを回すがエンジンがかかることはない。

 その時、小室が手放した鉄砲が目についた。

 

 

(私だってっ!)

 

 

 ドアを開けて車外に飛び出る。

 

 

「使い方わかりますか!?」

「当り前じゃない、私は天才なんだから!!」

 

 

 散弾銃を手に取ってスライドを引き、道路に散らばっている弾を込めていく。

 弾を込めるのに集中しすぎて〈奴ら〉が目の前に来ているのに気づくのが遅れた。

 

 

「フッ!」

 

 

 鋭く振りかぶられた木刀が私に迫っていた〈奴ら〉の頭部を破壊。脳しょうや肉片が私に降りかかる。

 せっかく着替えしたのにッ!

 

 

「アタシは臆病者じゃない。アタシは臆病者じゃない!!」

 

 

 自分に強く言い聞かせながら鉄砲を構えてトリガーを引く。強い反動が叩き付けてくる。

 それでも再び鉄砲を構えて撃つ。

 

 

「死ぬもんですか! 誰も死なせるもんですか!!」

 

 

 スライドを引いて最後の弾を撃つ。

 

 

「・・・・・・私の家はすぐそこなのよ!!」

 

 

 道にはもう予備の弾はない。すべて撃ち尽くしたのだ。

 緊張と動揺と焦燥と―――そして紛れもない恐怖が胃の底に沈む。もう逃げられないのだと、絶望と言うなの麻薬が流れ込んでくる。

 

 そんな私の〈奴ら〉の間に立ちふさがる背中がある。

 

 

「……篠崎」

 

 

 初めて名前を呼んだ。

 今も鉄砲を撃って、諦めていない。私たちをなんとしても守ろうとしてくれる人の名を……。

 

 篠崎は、ライフルから拳銃に持ち替えてさらに撃つ。

 撃つ。

 撃つ。

 撃つ。

 

 ライフル弾の薬莢が多く転がっている地面に拳銃弾の小さな薬莢が加わる。拳銃のスライドが後退して弾が無いことを報せている。

 敵の前進に対応して退がる足は、恐れでも怯えでもない。再び拳銃を再装填。戦闘を継続する不断の意志の証明だ。両手で拳銃を保持して押し寄せる圧力に対し、決して逃避はしないと決めた抵抗の意志。

 例え一歩ずつ後退を強いられようとも、奴らに背中は見せはしないのだという抵抗。

 

 少しずつ近づいてくる〈奴ら〉に 篠崎以外が死を覚悟した。

 

 その時、タイプライターを連打するような高速の炸裂音が鳴り渡る。粉々に砕けるコンクリート片と〈奴ら〉残骸で、視界が灰色と赤い霧によって視界が遮られる。

 

 立て続けの炸裂音が鼓膜を突き痺れさせる。〈奴ら〉に降りそそぐ死の弾雨。あたり一面で跳弾の粉塵が舞い上がった。炸裂音が(とどろ)き渡り、硝煙の匂いが立ち込める。広い道路の両脇の上方から連なる無数の紅蓮の銃火。それが閃ひらめく度に、数多の〈奴ら〉を葬っていく。

 死を覚悟した〈奴ら〉の群体は、統制された無敵の銃口を前に完全に撃破されていた。僅かに蠢く残骸も、ロープを使っての懸垂降下(ラぺリング)で降りてきた迷彩服の者達により頭を粉々に砕いていく。

 

 正体不明の者たちは、焼け付く寸前の銃身から激しく蒸気を立ち昇らせていた。

 

  




ご意見やご感想があればよろしくお願いします。


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第21話 『とんでもない部下たち』

皆様、お待たせしました。
現在、就職活動と言う名の戦争をしている為、投稿が遅れました。
これを投稿している時点で既に総力戦になりつつあります。
次回の投稿は、就職活動戦争が終結しだい投稿します。



主人公SIDE

 

 

 制服を着た少女が銃を持っているのは絵的にいいと思う。

 あくまで絵的にである。

 

 現実的に考えれば制服を着た少女が銃剣付きの銃を持っていた時点で俺は(ひざまず)いてホールドアップする。

 

 抵抗するプライドがないのか?

 

 だって、あれだよ。

 

 銃を持っている相手に素手で挑んでいくとか、アニメや映画の中だけだよ。

 殺されることが確実な状況で、ただ殺されるのを待つよりも何かしたほうがましだと思えるような、失うものがない場合に限り抵抗はする。

 それ以外は撃たれて痛い思いするよりは、ゴミ屑みたいなちっぽけなプライドは捨てましょう。

 

 

「淳也さん、こうですか?」

 

 

 そうそう、そんな感じ。

 それで、脇は締めて重心は前よりね。

 反動強いから気をつけてね。

 

 

 静香先生の友人のアパートから拝借した『スプリングフィールドM14』の扱いを着替えが終わった麗さんにレクチャーしている。その最中に身体が密着するドキドキがあり徹夜明けの眠気が吹っ飛んだ。

 そのドキドキが俺に翼を授けてくれる。

 

『スプリングフィールドM14』はベトナム戦争で登場したが、国土の大半を占めているジャングルでの戦闘には不向きだった。

 

 既に登場しているアサルトライフルと比較すると大きすぎ、重すぎ、大火力過ぎた存在だった為『M16A1』にアメリカ軍正式ライフルの座を明け渡すことになってしまった。しかし、昨今の戦闘ではゲームでも映画でもお馴染み、俺の『M4カービン』にも使用されている小口径高速弾―――5.56NATO弾の防弾装備に対する威力不足が問題視されてきており7.62NATO弾を使用するM14シリーズがその大威力と構造的信頼性の高さから再評価されてきているのである。

 

 アパートから持って来た『M14』は魔改造が施されたものだ。

 木製の物から強化プラスチック製ストックへの交換、光学照準器(ドット・サイト)、ピカティニー・レールにフォアグリップなどのカスタムチューンが施されている。

 

 見た目は近代的でとてもいいけど機関部はほとんど昔と変わらない。設計者の努力の結晶なのだろう。とてもしっかりとした銃なのだ。

  

 7.62NATO弾を使うので女性には反動が強い銃だ。銃口の真下に銃剣を取り付けられるので槍術部に所属していた麗さんなら槍替わりでも使えるだろう。

 

 孝君には『イサカM37』を渡している。彼への銃のレクチャーはコータ君にお願いした。

 ……決して野郎に教えるのが嫌だったわけではない。

 

 これで銃を撃てる人数が増えたので、ゾンビが少し多くても少し楽に対処できるだろう。

 

 各々が準備を整えて、春の心地いい日差しのなか目的地に向けて出発する。景色が流れる窓の外には住宅街が広がり、時折花が咲き誇る桜も視界に入る。 

 

 出会いの季節。恋の季節なんてことも聞いたことはあるが、春という季節に特別な思い入れはない。好きか嫌いかと聞かれたとしても『どちらでもない』と答えるだけだろう。でも毎年、待ちわびてもいる。俺にとって、春はそんな季節だ。

 

 冬の寒さが和らいで暖かくなってくるとか、人間が生活する中で最も理想的環境である。気候により花粉による無差別テロが起こるが……。

 

 静香先生の荒っぽい運転の下、沙耶さんの実家を目指している道中、孝君が助けてきた中条さんと簡単な自己紹介をした。

 

 それにしてもこの世界は美人、美少女率が高いのかな。まぁ、ゾンビが溢れた世界なのだから精神を休めるためにも美人、美少女は必須だな。

 綺麗、可愛いは絶対の正義である。

 これでバイオな主人公のように筋肉ムキムキのハイスペックな男がはびこっていれば人類は、ゾンビには負けないだろう。だってあの人たち同じ人種とは思えないよ……。

  

 孝君と麗さんは仲良くハンヴィーの屋根に乗っているので車内が少し広い。本来ならごちゃごちゃ装備を付けた俺が屋根に上がればハンヴィーの中も広くなる。だがいつどこで、どんな形でゾンビが現れるかわからない車外には出たくないでござる。

 

 そんなことを考えているそばから前方にゾンビの団体様だ。助手席の沙耶さんがすぐさま静香先生にルートを変更する様にナビゲートする。

 

 

 「次を左ッ!」

 

 

 ハンヴィーがスピードを出したまま曲がりタイヤがアスファルトの上をすべる。

 だからッ、静香先生曲がるときは減速してって。そんな、道路わきの溝に溝落とししてまで曲がるとか、静香先生は走り屋ですか! ここは峠じゃないよ!

  

 車輌がゾンビの集団がいる道とは別な道に曲がるが、ゾンビが途切れることはない。

 

 

「このまま押しのけて!!」

 

 

 どうやらゾンビを撥ねるのは避けられないようだ。

 広い道路で次々とゾンビを撥ねていく。

 

 視界悪いんだからそんなアクセル踏み込まないで静香先生ッ!

 

 アクセルを緩めるように伝えようと静香先生の方に身を乗り出す。するとひと際大きな衝撃がハンヴィーを襲う。デブゾンビを撥ねたようだ。

 

 乗り出そうとした俺の身体は、慣性の法則で身体が前に流れる。

 前に流れていく際にとっさに手が出てしまいその先を確認する。このままでは静香先生に触れてしまう。

 

 マイクロバスでの静香先生の俺を見つめる笑顔が脳裏を過る。根性でなんとか体を捻り手を突く位置を静香先生から修正する。

 

 最終的に俺の手が触れた物はハンドルだった。

 

 あっ…ヤバい。

 そう思ったが既に手遅れ。

 俺の手がハンドルを切る。急ハンドルによりハンヴィーの車体がゾンビを巻き込みながら横になり何かに引っかかる。

 

 何かに引っかかってもハンヴィーは止まることはない。

 そのまま真っすぐ歩道のほうへ向かっていく。その先は……壁だ。

 

 壁にぶつかる前に静香先生がブレーキを踏み込む。

 突然の急停車によって、ハンヴィーの後輪が浮き上がり、ルーフに乗っていた麗さんが前方に飛ばされボンネットに背中を強打、歩道に投げ出される。

 麗さんは頭部は打ちつけなかったようだが、投げ出されたダメージで起き上がる事が出来ない。

 俺はすぐさまハンヴィーの扉を開けて外に飛び出る。

 

 勢いで外に出たけど…これどうしよう。

 通勤時間の電車が事故で動いてない駅のホームみたいになってるやん。違いはみんな人間じゃなくてゾンビだけど。物凄く逃げ出したいが、そんなことはできるわけもない。 

 

 自動小銃を構え、一挙動の内に安全装置の解除と連射を敢行(かんこう)。先制の打撃を与えていく。

 

 非常によろしくない状況だ。

 ゾンビの数が多すぎる。倒しても、倒しても終わりが見えない。

 

 冴子さんも木刀で近づいてくるゾンビの頭を文字通り叩き割っている。

 死角から近づくゾンビの頭を吹き飛ばしフォローする。

 

 昔仲間とゾンビモードやってた時を思い出す。

 最後まで近接戦闘で戦い、見事な友軍誤射(フレンドリーファイア)で命を散らした仲間を俺は忘れない。

 

 

「ひょぉッー最高!!」

 

 

 うわぁぁぁ……孝君はトリガーハッピーのスイッチが入っちゃってるよ。

 アドレナリンがバンバン出てるね。

 

 映画でよく見るやられるキャラのパターンだよ。

 それにしても、このままじゃジリ貧だ。弾倉もだいぶ消費した。ここのゾンビを相手取るには弾薬の数が足りないな。

 

 最後の弾倉を叩き込み、ボルトストップを解除し初弾を薬室に装填した。

  

 

「死ぬもんですか! 誰も死なせるもんですか!!」

 

 

 沙耶さんが孝君が落とした散弾銃を使い、俺のカバーが間に合わない方面のゾンビをボロ雑巾にしていく。

 

 

「……私の家はすぐそこなのよ!!」

 

 

 沙耶さんが散弾銃の銃口を下げる。恐らく弾が尽きたのだろう。

 俺も再びボルトストップが作動し、弾切れを報せてくる。

 

 素早く拳銃を抜き、沙耶さんの前に出る。

 

 

「……篠崎」

 

 

 

 そう言えば、初めて名前を呼んでもらったな。

 ずっとアンタ呼ばわりだったから、嫌われていると思ってたがこの土壇場に来て好感度アップですか。

 

 好感度メーターが見えるようにならないかなこのチートヴォディー。

 

 場違いな考えが頭をよぎるが、近づいてくるゾンビに思考を切り替える。 

 コータ君がハンヴィーの上から援護してくれるが気休めにしかならない、孝君は弾切れ、冴子さんは木刀を奪われたらしく素手でゾンビをいなしている。

 

 この状況、詰んでない?

 

 

『これより、支援に入ります』

 

 

 突然、俺の持っていた無線から声が聞こえた。 

 今までうんともすんとも言わなかったのに。

 

 突然、連続した銃声と共にゾンビ共が愉快なぐらいなぎ倒されていく。

 銃声の元は車道の両サイドの上からの銃撃だ。

 

 軽機関銃による連射射撃。

 光の矢―――曳光弾が光の線を引きながら飛来する光景は幻想的にすら見える。

 

 俺たちの周囲が掃討されると"ポンッ"とワインのコルクを抜いたような音が聞こえ、身構えた直後にゾンビ後方に霰のようにグレネード弾が降りそそいだ。

 まるで絨毯爆撃(じゅうたんばくげき)のようだ。

 

 ロープを使っての華麗に懸垂降下(ラぺリング)―――降りてきた兵士たちはゾンビの残りを頭を粉々に砕いて完全に無力化していく。

 ゾンビとの戦いに慣れてるな。ゾンビはとてもタフなのだ。弾丸をこれでもかと浴びせて倒したゾンビでも頭部が無事なら起き上がってくる。兵士たちはそれを理解し完全に無力化している。

 

 こちらに近づいてきた兵士は、体の線からして女性のようだ。そこで、女性兵士のコンバット・チェストハーネスに見覚えがあるエンブレムが留まっていることに気が付いた。

 黒い犬―――ドーベルマンに鎖が幾重にも巻き付いた紋章。

 

 俺がゲームをプレイしていた時のエンブレムだ。

 

 

「お迎えに上がりました。隊長」

 

 

 その女性兵士は、俺の前に来て目出し帽(バラクラバ)を取ると纏まっていた黄金の髪が舞う。

 そこには、見覚えのある顔が、懐かしい顔があった。プレイしていたFPSでNPCとして俺が作成した『シェリー』が見事な敬礼をしていたのだ。

 

 

 




ご意見やご感想があればよろしくお願いします。

あと違う作品も書いているのでよろしくお願いします。
タイトルは、『空から見る終わり』です。
文章がどことなくこの作品と同じところがあるかもしれません。自分の語学力の無さが恨めしいです。これからもよろしくお願いします。


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第22話 『とんでもない空港』

この作品を初めて1年が経ちました。
早いですね。
就職活動と中間試験の勉強の息抜きでちょいちょい書いてきました。
今回は、SATである南リカさんのお話です。主人公の部下が合流する前に何をやらかしていたかについて触れさせていただきます。時間ができ次第、修正していきます。
※南リカさんの視点でお送りします。
※現在こういった内容の作品を出すのは不謹慎ではないかという不安があります。そのため何らかの問題があればこの第22話は消去します。


 この世界に神様という存在がいるとすればそれは碌な存在じゃないだろう。

 何を根拠に碌な存在じゃないのか―――伏せ撃ち(プローン)姿勢から狙撃銃のスコープ越しに見える光景がなによりもそれを証明している。

 

 

「嫌な、にやけ面」

「俳優だよ。床主市にロケに来ていた」

 

 

 既に生命維持に必要な機能を消失したのにも係わらず、我が物顔で闊歩している存在はもはや人間ではない―――怪物だ。この事態が起こり始めた当初、事態を重く見た日本警察機構はバイオテロの可能性を示唆し、空港の警備として私たちをここに配備した。

 

 

 床主市国際洋上空港(とこのすしこくさいようじょうくうこう)―――人口100万人に及ぶ地方都市である床主市の沖合に位置する全国でも珍しい洋上空港である。空港に来る手段としては、航空機を使った空路か船を使う海路しかない。

 

 

「……距離400.左右の風はほぼ無風。射撃許可、確認。いつでも撃て」

 

 

 隣で弾着観測用(スポッティング)スコープを覗いている相棒(バディー)観測手(スポッター)を務めている男は、田島(たじま) (つばさ)。警官としての正義感を持ちながらも自分の、出来る最善を尽くすことをモットーにしている。背中を任せられる信頼できる男だ。

 

 マットの上に二脚(バイポット)を立てた狙撃銃(セミオートマティック・ライフル)―――H&K社製PSG-1で標的を捉える。

 

 狙撃手―――度々、映画でも取り上げられる。警察と軍隊において狙撃手の運用は大きく違ってくる。警察の狙撃手が、射撃を許可されるのは通常、同僚警察官や一般市民、自分自身を守る場合である。もしくは、被疑者の暴力行為が危険と判断された時に限られる。

 

 接眼部を覗き込むが、目をつけるようなことはしない。発射時の反動でライフルが下がり目を切ってしまう。そうならないために念のため紫外線コーティングされた強化ゴーグルをしている。これは発射時の燃焼ガスによって舞い上がるチリからも目を守ってくれる。

 親指で安全装置を解除し、引き金に指を掛ける。

 軽めに調節されている引き金をきった。

 

 PSG-1が吠え、銃床(じゅうしょう)が肩に食い込む。銃口から炎と共に弾丸が吐き出され、薬莢が排出され金属音を立てながら転がっていく。

 

 弾丸は空気を切り裂きながら進む。

 

 弾道は標的との距離が長ければ長いほど様々な環境、状況によって影響を受ける。風、雨、気圧、気温、湿度……それらを経験で培った技術で読みとることで目標に弾を届かせる。

 怪物の頭部が弾けて脳髄が飛び散り倒れるのがスコープ越しに確認できた。

 

 

「命中。お見事」

 

 

 つかさず、弾着確認を田島が報告する。

 そこからは、スコープで捉えることのできる怪物の頭を吹き飛ばしていく。標的はただノロノロ動くだけなので鴨撃ちをしているようだ。弾倉を撃ち尽くす頃には滑走路の周辺は、すでに死屍累々だ。そこに、警察車両を先頭に滑走路に転がっている死体を片付ける防護服を着た隊員を乗せた空港移動用バスが走ってくる。

 

 怪物の狙撃が一段落し、立ち上がり同じ態勢を取り続けて凝り固まった身体を伸ばす。

 

 

「しかし、船でしか来れない洋上空港まで出るとは……受け入れ規制はしてるんだろ?」

「えぇ。政府の要人とその家族、空港の維持に必要な技術者とその家族…その中の誰かがなったのよ」

 

 

 滑走路の死体の片づけが終わり待機していた旅客機が飛び立っていく。

 目的地は、北海道、九州、沖縄。どこもここよりはマシだと思える程度だ。避難民を受け入れていればいつ落ちても可笑しくない。症状が出ているかどうかは確認をしているが、この事態が未だ未確認のところが多く確実な罹患者かどうかを見分けるのには初期症状からしか判断できない。

 

 

「弾も無限にあるわけでもないしな」

「逃げるつもり?」

「そのつもりはない、まだな」

 

 

 狙撃銃を肩に吊り下げ、飛び立った旅客機の先の黒煙を上げ続けている街を見る。

 

 普段はポアポアしてるけど、肝心な時は別人のようになる親友を思い浮かべる。今すぐ助けに行きたいが、それはできない。私は警官であり、ここには助けを求める人々がいるのだから。

 

 私が助けに行くまで無事でいてね、静香。

 

 

「サクラ、こちらダリア。第3滑走路の掃除は終了した。移動する。送れ」

『こちらサクラ、ダリア了解。第1滑走路の支援に入れ。送れ』

「ダリア了解。終わり。次のお仕事だ……残業手当とか出るのかね」

「出るわけないでしょ。さっさと済ませましょう」

 

 

 レック・ホルスターから自動拳銃――シグ・ザウエルP226を抜き移動を開始する。

 私が先頭に立ちP226を胸の前に構え小走りに第1滑走路に向かう。すぐ後ろには、機関けん銃――MP‐5を構えた田島が続く。MP5には素早い照準を可能にする光学照準器(ドッドサイト)が付けられている。

 

 途中、建物の影から血みどろの作業服を着た男が出てきたが、すかさず頭部に照準、発砲する。炸裂音と共にスライドが動き、金色の薬莢を拳銃が吐き出す。その行為を何度か繰り返し、第1滑走路が見渡せるポイントにいく為、建物に備え付けられているハシゴを登る。

 

 狙撃ポジションに着き、先ほどと同じようにマットを敷き狙撃銃を構える。

 

 

「こちらダリア。サクラ、ポイントに付いた。送れ」

『こちらサクラ。ダリア、現状をしらせ、送れ』

「今必要なのは、狙撃じゃなくて爆撃よ」

 

 

 思わず現状を見ると毒ついてしまう。

 第1滑走路は、洋上空港で一番大きなターミナルが隣接しており第3滑走路のターミナルよりも人が多く混乱が酷かった場所だ。

 

 

「こちらダリア。サクラ、現状は最悪なり。送れ」

『こちらサクラ、了解。ダリアは現配置を放棄、サクラに合流せよ。送れ』

「こちらダリア。了解。終わり。撤退だ」

「了解」

 

 スコープから視線を外し、安全が確保されているターミナルビルに建物をつたって移動を開始する。

 

 

 無事にターミナルビルに辿り着き、ロビーには避難してきた人が一様に暗い表情だ。泣いている者や頭を抱えている人間がほとんどで全員が怯え、憔悴しきっている。田島が警備についている警官に話しかける。

 

 

「もしかして全然なのか?」

「何度も館内放送をしているが、ちらほらと逃げてきただけだ。ビル全体で1000人もいない。信じられないよ、ここには職員だけで2万人もいるのに」

 

 

 空港では館内放送を常に流し、生き残りを出来る限り集めようとしているが上手くいってないようだ。

 

 

「関連施設の職員、旅客、避難民を合わせると1万人ぐらいかしら。全体で3万……ここにいるのは1000人」

 

 

 思考しながら黒の出動服のポーチからキューバ産の煙草を取出し、ジッポで火をつける。

 

 

「キューバ物かよ、良いの吸ってるなっておいッ! ここは禁煙だぜ!」

「そんなこと言ってる場合かよ」

「世界中がこの騒ぎだもの。吸うなら今の内よ」

 

 

 田島が思わず噴き出した。

 相手の警官のコメントがごもっともな意見だったからだ。

 こんなくだらないこともまだ言えるのだからまだ大丈夫だろう。こういう警官がいなくては避難民の不安が増してしまう。

 

 

 私たちの指揮官であり洋上空港で実質的指揮をとっている、石井班長に報告をしてソファーに座りながら空の弾倉にバラの執行実包を親指で押し込んでいく。

 ここは空港のターミナルビルの一室だ。

 私の周りのソファーと机には、執行実包が入った弾薬箱、89式自動小銃、MP‐5その他装備がずらり並んでおり完全に武器庫と化している。

 

 

「以外に数がありますね、狙撃(エス)支援班長?」

「空港署には非常事態に備えて予備の装備、弾薬がストックされていたからな。問題はむしろ……」

「……銃を扱える人数」

 

 

 空港で混乱が起きた時に民間人だけが犠牲になったのではない。警備についていた警察官たちも発砲許可が出ていなかったため対処が遅れたのだ。次々に豹変した民間人、同僚に噛まれ混乱を加速させた。

 

 

「南の言うとおりだ。ターミナルビルには俺たち(SAT)の他に空港署の所員、機動隊の特殊銃器隊。海上保安署には、特殊警備隊(SST)が。関税には麻薬Gメンもいる。緊急処置として旅客から射撃経験者も募った」

「その内、生き残っているのは何人です?」

 

 

 ある程度、予測はできていた。民間人から射撃経験者を募るぐらいだ。

 

 

「……50人弱だ。だから、お前たちにやってもらいたいことがある。通常、旅客機への給油は、地下にパイプを通したハイドラント式給油設備を使うが、緊急用にタンク式給油車も配備されている。いつでも使えるようにジェット燃料が満タンな状態で第1滑走路の車庫に停車してある事が関係者の証言から確認できている」

 

 

 班長の言わんとしていることはある程度、察することができる。

 幾ら銃火器があろうと弾薬にも限りがあり、それを使う人間も少ない。

 

 燃料を怪物が多い場所にまき散らし火を付けるということだろう。

 建物がない滑走路では火災による延焼の心配がなく怪物どもを焼き払うことが出来る。

 

 

 装備を整え、第1滑走路車庫に1番近い関係者通用口に向かう。

 屋上の仲間から通用口に怪物がいないということ確認。バリケードを退かし銃の作動状態を確認する。

 89式自動小銃の弾倉を一旦、外し目視で弾薬を確認。再び弾倉を機関部に叩き込んだあと、槓桿(こうかん)——チャージングハンドルを引く。硬質な機械音を鳴らして遊底が動き、薬室に送り込まれる。ダブルフィードと呼ばれる弾詰まり現象を起こしてないのを確認。次に、2次兵装(セカンダリ)である拳銃も同様にチェックする。

 

 

「問題ない」

「こっちもよ」

「私が右、あんたが左ね」

「了解。お先にどうぞ、レディーファーストだ」

 

 

 賽は投げられた。開け放たれた通用口からゆっくりと、外に出る。

 それぞれ銃口を警戒範囲に向け、安全確認(クリアリング)を行う。

 

 

「クリア……の反対」

「こっちもだ。無闇に撃つなよ連中、音に敏感だ」

 

 

 近くに止まっている軽自動車に乗り込み、エンジンをかけてアクセルを踏み込む。

 次々に、怪物どもを跳ねていく。

 

 

「くそったれな冗談だぜ。警官になって人を跳ねまくるなんてな!」

「……もう人間じゃないわ」

 

 

 ナビを見ながら目標の車庫を目指す。ワイパーを動かしてフロントガラスに付いた血を落とす。

 ここから1キロ先だ。

 

 

「左に約1000メートルの車庫よ。そのまま車庫の前に……ん? 田島、聞こえる?」

「何がだ? 連中のうめき声ならよく聞こえるぜ」

「ちがうわ。この音は……ッ!!」

 

 

 車の中に居ても聞こえる独特の重低音。

 仕事で聞きなれたヘリのローター音。それも複数。

 目的地の車庫の上を越えて7機のヘリが襲来する。ヘリ群は、私たちが乗る軽自動車を追い越しターミナルビルに殺到する。

 

 

UH-60(ロクマル)!!」

 

 

 自衛隊との合同訓練の際に搭乗したことがある。

 UH-60――通称『ブラックホーク』。 完全武装の歩兵1個分隊約11名の搭乗が可能だ。

 

 7機の内5機は、ターミナルビルの周りにホバリングして取り囲むとほぼ、同時に太いロープを2本ずつ地面に下ろし次々と完全武装の人間が降下してくる。金具を使用せず握力と挟んだ足の力に頼るファストロープと呼ばれる方法だ。自衛隊では、通常カラビナを使ってラぺリングで降下を行う。

 

 

「あいつら、何もんだ?」

「わからない。少なくとも友達じゃ無さそうね」

「戻るか?」

「えぇ。戻ればあいつらが何者かわかるわ」

 

 

 ……敵なのか、味方なのか。

 軽自動車をUターンさせ通用口に向かう。片耳に装着したハンズフリーマイクと一体化していたイヤホンから、応答はない。何かが起きている。

 先ほどまでいた通用口付近の怪物は視界に入る全てが頭部を破壊されていた。間違いなくヘリの連中の仕業だ。銃声が聞こえなかったのは抑制機(サプレッサー)を装着しているのだろう。

 誰もいない職員用通路をクリアリングしながら慎重に進んでいく。クリアリングというのは、前進と索敵を同時に行う侵入方法を意味する。 

 基本として、正面を向いたまま敵の待ち伏せを警戒しつつ、曲がり角や部屋の入り口を基点に扇状に意横移動を展開していく。この扇状の横移動技術は、カッティング・パイと呼ばれている。自身をコンパスに見立てるように、“切り分けたパイ”の外周軌道をなぞる事で、飛び込む先の視覚情報を通常より広く目視できるのだ。

 本部となっている部屋の前に辿り着くと入り口を挟んだ反対側の壁際まで移動する。銃を左構えにスイッチする――そして、突入。

 

 

「クリア!」

 

 

 標的、およびトラップが室内に無いことを確認して宣言する。室内には班長を含め、本部にいた隊員や職員が手を後ろでプラスチックバンドで拘束され転がされていた。

 

 

「班長!!」

 

 

 後方で警戒していた田島が部屋に踏み込んだ瞬間、何かがデスクの影から投擲された。

 

 

「フラッシュバンッ!!」

 

 

 完全にそれを視認するよりも早く、脊髄反射で躍動しうつ伏せになる。閃光から目を守ることは出来たが爆音で耳がやられた。

 特殊音響手榴弾(フラッシュバン)。爆発時の爆音と閃光により、付近の人間に一時的な失明、眩暈、難聴、耳鳴りなどの症状を起こさせる。訓練で実際に体験したがとても気分のいいものとはいえない。

 酷い耳鳴りで視界が定まらない中で自動小銃を構えようと立ち上がろうとするが、視界が定まらない状況で反応が鈍り何者かに勢いよく床に押しつぶされる。揺れる視界には次々とM4-カービンを構えた連中が入ってくる。

 他の隊員と同様、手を拘束される。

 

 空港のほぼすべての機能は連中に制圧されたようだ。

 特殊音響手榴弾(フラッシュバン)の効果がようやく収まってきた。連中、私たちを短時間で殺さずに制圧できたのだから並みの兵士ではない。それに、装備もしっかりしている。アメリカ軍かどこかの民間軍事会社か……。

 

 私たちの周りを囲んでいる武装集団から1人、前に出てくる。前に出てきた奴がヘルメットと目出し帽を取るとボブカットの黒い髪が宙を舞う。顔の作りから恐らく日本人。体型で分かっていたがやはり女か……顔は非常に整っており、兵士ではなくモデルの方が儲かるのではないかと思う。

 ひとまず相手の容姿を見て、呑気に口笛を吹いている田島を肩でどつく。

 

 

「これよりこの施設は我々が使わせていただきます。あなた達が抵抗しなければ、私たちが危害を加えることはありません。しかし、誰か1人でも抵抗すれば容赦なく射殺します」

 

 

 目の前の女はにこやかな口調で、そう断定した。

 そこに告げられた無機質な挨拶に、まともに答えることができなかった。それには一切の私情が挟まれていない。聞く者全てに理解できる声音。

 周囲の空気が帯電したように張りつめていく、独特の感覚が皮膚を通して伝わってくる。

 

 これは、恐怖だ。

 

 理屈ではないこの女への恐怖に、身体が竦む。おぞましさとで肌が粟立った。

 可憐なその容貌に厳粛な佇まいから言葉の意味を想像し、寒気が這い上がってくる。

 

 全身が凍り付いて動けない。血管に氷水が流し込まれたかのようだ。この女は、機械的な動作で『銃口』を逃げ惑う人々に自然に向けるだろう。

 

 こいつらは――この女は、どこまでも奇妙でズレている……まるで怪物そのものだ。外の怪物よりも質が悪い。

 

 私たちに向けられた黒い銃口が、いつ真っ白い銃炎に塗りつぶされるか。思わず目を背けてしまう。本能として、恐怖や嫌悪が頭を支配する。しかし、それでも敢えて目を向けて深呼吸と共に、緊張を吐き出した。

 

 

 

 




ご意見やご感想があればよろしくお願いします。


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第23話 『とんでもない家庭訪問』

お久しぶりです。

ようやく、1次選考、2次選考を無事に突破し最終選考が2日後に迫っている端部屋の生存者です!!

企業の人事の方との面接で、『趣味は何ですか?』と聞かれ『料理です』と答えたら爆笑されました。
やっぱり、ツキノワグマみたいなガタイしているからですかね?


 

 

 どうやらこの世界には、俺がFPSゲームで作成したNPC達が存在しているようだ。独自の意思を持って。シェリーの後ろには、見覚えのある装備をした兵士たちが周囲を警戒している。

 

 つまり、どういうことなのか……俺にもよくわからん。

 だって自分だけじゃなくて作成したNPCまでいるなんて思わないよ。

 

 

「後ろの“モノ“たちをどうしますか?」

 

 

 モノッ!?

 今、この子良い笑顔で孝君たちを〝モノ“呼ばわりしたよ!!

 コワッ!? こんな性格してたの!?

 

 それに後ろのNPC達も漏れなく銃口を孝君たちに向けているよ。

 

 

 銃口を向けるのやめいッ!!

 せっかくここまで上げてきた好感度が落ちるわ! 奈落の底まで落ちるわッ!!

 

 

「隊長がそうおっしゃるのなら」

 

 

 シェリーがハンドサインを出して銃口を下げさせる。

 これ本当に俺の部下であっているのか……。

 

 孝君たちにばれないようシェリーにこっそり聞いてみた。

 そしたらこんな回答をいただいた。

 

 

「もちろんです。何なりとお命じください」 

 

 

 忠誠心Maxやないかぁぁぁい!

 

 どっから俺への忠誠心が来ているのか知りたいよ。

 いやッ、やっぱり怖いからいいや。

 

 これで、調子こいて命令して撃たれるなんて嫌だよ俺……。

 

 装備を見ると衛生兵がいるようなので、ハンヴィーから落ちた麗さんを見るようにシェリーにお願いする。 

 

  

『こちらチャーリー。南側より人員を乗せた車輌が接近中、警戒せよ』

 

 

 ここまでうんともすんとも反応がなかった無線は絶好調のようだ。

 恐らく、何処かのビルの上から見張りについている狙撃手からだろう。周囲の警戒は基本だから。

 

 

「アルファ、了解。総員、配置に着け。ブラボーは引き続きその場で待機。チャーリー、合図を待て」

『ブラボー、了解』

『チャーリー、了解』

 

 

 テキパキとシェリーが指示を出していく。

 俺氏、唖然……。

 

 NPC達はハンヴィーを盾にしてワイヤーが張られた向う側に銃口を向ける。

 無線の報告通り、向こう側からトラックが近づいてくる。停車したトラックの荷台からゴーストバスターズのような恰好をしたオッサンたちが降りてきた。

 オッサンたちの持っている物は確か、消防の装備品である放水銃だった気がする。圧縮した水を勢いよく放出し、火災を鎮火する装備だ。

 なるほど、これなら銃弾を無駄にする事無くゾンビを牽制できる。音も銃声よりはマシだろう。

 

 オッサンたちは無数に向けられた銃口を目にして動きがピタリと止まる。

 そりゃ、そうだよね。

 

 オッサンたちが動けないなか、助手席からはしっかりした消防の出動服を着た人が降りてきた。

 この人がリーダーのなのだろう。

 

 

「そこで、止まりなさい。少しでも妙な動きをすれば射殺します」

 

 

 シェリーがよく通るきれいな声で、こちらに完全に近づく前に脅しをかける。 

 どうぞと言わんばかりにこっちにアイコンタクト送るのやめてほしい。 

 

 ここで、俺に振るのかよ……。

 

 

 こちらに敵対する意思はありません。この先に用があるだけです。

 

 妙な動きをしたら射殺しますなんて言っているのに、敵対する意思がないとか矛盾しすぎだろ。

 

 

「……敵対する意思がないなら銃口を下げていただけないかしら。それに、正体不明の敵か味方かわからない、武装集団を簡単に入れるわけにはいきません」 

 

 

 ヘルメットの所為で、声はくぐもっているが女性のようだ。

 

 確かにそうですよね。俺もそう思います。

 正体不明な武装集団じゃなきゃ入れてくれるかな。せめて孝君たちだけでも保護してほしいな。

 まぁ、最悪本気出すよ。俺が本気出せば土下座も靴舐めも余裕でできる。

 

 

 それでは、私がいま保護している民間人だけでもお願いできないでしょうか? 民間人を保護していただけるのなら我々はこの場を早急に去ります。

 

 

「……いいでしょう。民間人は私たちが保護します」

 

 

 ハンヴィーの影に屈んでいた孝君たちが姿を見せる。

 

 

「沙耶ッ!?」 

「え?」

 

 

 消防服の女性は、間違いなく沙耶さんの名前を呼んだ。沙耶さんも突然、自分の名前を呼ばれ反応する。

 女性は顔を覆うバイザー付のヘルメットを取りその素顔をあらわにする。

 紫の長い髪に優しそうな瞳が沙耶さんを捉える。

 

 

「ッ!? ママッ!!」

 

 

 沙耶さんのママさんでしたか……。

 確かに髪の色からして家族ってわかりますね。感動の親子の再会。いや~よかった。よかった。

 

 これで、めでたし、めでたしだね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 感動の再会から1日たった。どうやら親子の感動の再会でハッピーエンドなんてものは存在していなかったようだ。

 いろいろとあったが沙耶さんの自宅に孝君たちと俺+部下が、お世話になっています。

 

 孝君たちは沙耶さんの友人のため屋外の広い庭に張られた避難民用テントではなく、高城邸の部屋を宛がわれている。俺とシェリーは屋内の部屋に案内されたが、人数の多い部下は広い庭に張られたテントで過ごしている。

 

 ベットで寝ればHPもMPも全快だね。俺にMPがあるのか疑問ではあるが。

 それよりも、シェリーさんやあなたなんで俺のベットに紛れ込んでるんですかね? 

 あなたの部屋は隣でしょう。 

 

 とにかく服を着なさい。そんな生まれたままの姿でベットインしていたら他の人が誤解してしまう。

 俺が手を出したと思われる。思われてしまう。

 

 手だしてないよな俺……。

 手を出していたらそれは問題だが、こんな美女と夜を共にして手を出していなかったらそれはそれで問題があると思う。

 誰かに見つかる前に身支度を整える。

 

 正直、俺も警戒されているから屋外のテントで過ごすのかと思っていたが、沙耶さんと初期から行動していたから案外信用はされているのかなと思っていた時期もありました。

 常にスキンのオッサンが、見張りがついているのに気づいてしまったら、それは間違いだと気がつくね。

 

 部下がいるテントは、避難している人たちのテントから離れた位置に建てられており、目出し帽で顔を隠し自動小銃をぶら下げ、歩哨に立っている部下を避難民は恐る恐る見ているだけで近づこうとはしていない。

 

 

 なんでも沙耶さんの父親―――高城 壮一郎氏はかつて旧床主藩の藩主であり、憂国一心会と呼ばれるこの県の国粋右翼のトップを務めている。構成員も天道双厳流という壮一郎氏を師範とした流派を学んでおり極めて戦闘力は高い。

 消防の出動服を着ていた人が、高城 百合子さん。壮一郎氏の奥さんで沙耶さんの母親だ。独身時代は、ウォール街で有名な凄腕トレーダーだった。エグゼクティブの護身コースへ通っていた経験があり、銃火器の扱いに精通している模様。

 その他にも個人情報満載のタブレットをひとまず部屋にいるシェリーに返す。

 

 非常によろしくない状況だ。

 タブレットの中の個人の詳細な情報も問題だが、それよりも現在の問題はシェリーたちだ。

 

 シェリーは見るからに外国人。

 しかも、米国……。他の隊員も驚くことに日本人も数名いるが、ほとんどが外国人だ。

 

 部隊と国粋右翼は、例えるとすれば……。

 

 ――うなぎと梅干。

 ――検事と弁護士。

 ――嫁と姑。

 

 うおォォォォ!

 マッハで俺の胃が削られていく。

 

 それに、洋上空港を掌握した?

 パーデゥン? ゴメン、まだ耳が寝惚けているみたい。

 

 

「洋上空港は既に我々が掌握しました」

 

 

 ジーザス(まじかよ)……。

 

   

 




次の更新は、試験が続くので恐らく直ぐには載せられません。申し訳ありません。
同時に、オリジナルで連載しています『空から見る終わり』の方もよろしかったら見てください。
ご意見やご感想があればよろしくお願いします。


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第24話 『とんでもない飛び方』

お待たせしてしまいすみません。
皆様、メリークリスマス。リアルでいろいろとやる事と諸々のハプニングがあり更新が遅くなりました。
今回は宮本麗さんSIDEでお送りさせていただきます。
改めて考えてみると、ハンヴィーから麗さんが投げ出されて打撲だけで済んだのは奇跡ですね。
皆さんも車の上には乗らずにしっかり車内に入りシートベルトをしましょう。


 

宮本麗SIDE

 

 

 白い清潔なベットの上で目が覚める。

 昨日は、これまでの疲労と鎮痛剤によりすぐに眠りに付く事が出来た。

 

 ここは高城さんの家の部屋。私たちはやっと目的地にたどり着く事が出来たのだ。

 高城さんの両親はどちらも無事で、状況が悪くなる前にすぐに部下の人達をまとめて問題に対応し、被害を最小限にとどめる事が出来たようだ。

 

 軽い朝食をとりうつ伏せでベットに横になっている際に昨日の事が頭をよぎる。

 

 

 ……結局、私はあの人の足を引っ張ってしまう。

 

 

 一瞬の浮遊感、視界が反転した後にくる背中の激痛で顔が歪む。衝撃で肺から空気が強制的に吐き出される。立ち上がろうと手や足に力を入れようとするが上手く力が入らない。だが、視線だけは動かせる。

 ハンヴィーのドアを開けて勢いよく飛び出す人影。

 

 『パシュンッ!』空気を叩いたかのような音と共にアスファルトに金属の空薬莢が澄んだ音を立てて跳ねる。

 それに続いて『ドンッ!』と重い音とそれよりも軽い『バンッ!』という音。

 ようやくその音が銃声だと認識する。

 

 みんなが戦ってる。

 私も戦わなきゃ……。

 

 

「くッ!?」

 

 

 ようやく体を動かすが、態勢を少し変えただけで激しい痛みで視界が点滅する。身体は酔ったように熱く、自分の身体が自分の物ではないみたいだ。変な汗が私の額を流れる。

 

 目の前に広がるのは死者の波。それが着実に私たちを呑み込もうと迫っている。

 耳元で、銃声と空薬莢が路面で跳ねる硬い音が鳴り続ける。その中で自分の身体が引っ張られているのに気が付く。

 孝が必死にワイヤーの方に私を引きずっていく。

 

 追い詰められているのに私の体は、油の切れた機械の様に軋んで満足に動こうとはしてくれない。強く打ちつけた尾底骨から激痛が走る。けれど息が詰まったままなのは、痛みの所為なんかじゃない。

 

 こんな世界になって幾度も経験した死という現実。

 死者の波が、運命が定まったのだと嘲笑いもせず黙示しているかのようだ。

 

 淳也さんは、自動小銃から拳銃に持ち替える。

 右手で拳銃を撃ち、左のナイフを〈奴ら〉の目に突き刺す。それでも次々に押し寄せる死者の波は途切れることはない。

 目と鼻の先まで〈奴ら〉が迫ってくる。

 

 

 どうにもならないのだ。もう絶対に――――絶望にすべての感情を食い荒らされながら、心と体はただ『その時』を待つだけの諦めへと停止していく。

 

―――死ぬ。こんな所で、こんな不様に尻餅を付いた格好で。けれど、そんな最悪の状況だと言うのに……。

 恐怖よりも悔しさがこみ上げてくるのは、どうしてなの?

 

―――もう何をしても無駄なの?

 

 納得がいかない。

 ガソリンスタンドで味わったような自分の無力を矮小さを、もう一度噛み締めなければいけないことが。

 

 私は、最後まで足掻きたい!

 

 そう固く決意し、萎えた腕に力を込めてベルトで前に吊っているライフルを持ち上げようとするが構える事すらできない。

 

 諦めるもんですか!

 

 今度は淳也さんから預かっている拳銃を、腰のホルスターからなんとか取り出す。震える指先でハンマーを上げる。 私に近づいてくる〈奴ら〉の1体になんとか狙いを合わせる。

 

 引鉄を引こうとした瞬間―――〈奴ら〉がまるで透明な鉄槌を叩き込まれたかの如く吹き飛ぶ。

 

 それは、私達がやったものではなかった。

 連続して鳴り渡ったのは、目の前の空間自体が殴り付けてくるような炸裂音。

 

 死者の群れの後方が爆音と共に吹き飛び、爆発の衝撃で〈奴ら〉がドミノのように倒れる。そこに上の方から浴びせられる容赦ない弾丸の嵐。

 〈奴ら〉を倒したのはコンクリートの壁をロープで降りてくる人たちのようだ。

 

 自衛隊の人なのか警察の人なのか見た目では分からないが、これでみんな助かる。緊張の糸が緩み、再び痛みがぶり返して来る。

 ロープを使って降りてきた人たちは、〈奴ら〉の残りを頭を粉々に砕いて完全に無力化していく。その集団の中からこちらに近づいてきた1人の兵士は、体の線からして女性のようだ。 

 

 

「お迎えに上がりました。隊長」

 

 

 淳也さんの事を隊長と呼んだその女性兵士は、淳也さんの前に来て顔を覆い隠していた目出し帽を取る。纏まっていた黄金の髪が舞いその顔が露わになる。その人は、日本人ではなく目鼻立ちのきりっとした綺麗な顔をしていた外国人だった。

 続く彼らの行動に思わず、目を疑った。

 

 私たちに向けられた無数の陽炎が立ち上る黒い銃口。

 

 淳也さんの仲間ならなぜ私たちにその銃口が向くのか、私には分からなかった。周囲の空気が帯電したように張りつめていく、独特の感覚が皮膚を通して伝わってきた。孝と毒島先輩、平野君はとっさに動こうとしたが、その動きを阻害する様に淳也さんの仲間は、強く冷徹に睨み付けている。  

 

 その銃口から紅蓮の銃火が閃めけば私たちは呆気なく、なすすべもなく蹂躙されるだろう。

 だが、その時は訪れなかった。

 

 淳也さんが一言いうと全員が銃口を下げた。

 それから集団の中から1人私に近づいてくる。その人は、自分は衛生兵だと言い私の怪我の具合を確認した。

 

 意識ははっきりしているか、頭は打っていないか、どのような痛みなのかを聞かれ答えていく。

 衛生兵の人の話では最悪、骨が折れているかひびが入っているかもしれないという結果だった。ひとまず今すぐに命の危険はないと言われた。

 

 無線から何か連絡があったのか、淳也さんの仲間の人達が車を盾にするかのように道路に張られたワイヤーの向う側に銃口を向ける。私達は全員、ワイヤーの向こうから見えない位置に移動させられた。自力で動けない私は孝と高城さんに肩を貸してもらいなんとか移動する。 

 

 ワイヤーの向う側に荷台に人を乗せたトラックが停まり、助手席からは消防の服を着た人が降りてこちらに近づいて来るが、淳也さんの仲間の金髪の女性が動かないように警告を発するとその人物は動きを止めた。

 消防服を着た人に淳也さんは私たちを保護する様に交渉を進めていく。当然のことながらその保護する対象には淳也さんは含まれていない。

 

 相手を見る限りしっかりとした組織だった行動をしていることが伺える。そういった集団に保護されれば安全性は増すことだろう。

 

 

「……いいでしょう。民間人は私たちが保護します」

 

 

 淳也さんとその消防服を着た人の交渉は無事に終わった。

 これで、淳也さんとは別れることになる。私たちの事を思ってあの人たちに託そうとするのは頭では理解できるが、感情ではどうしても納得できない。

 綺麗ごとで異を唱えても、ならばと私が出来る事など何もなかった。しかし、運は私たちの味方だった。消防服を着た人は、高城さんのお母さんだったのだ。

 高城さんの説得で私達、全員が高城さんの家に辿り着く事が出来た。

 

 

 自衛の心配のない環境で私たちはこれまでの緊張を緩めていた。

 到着した次の日、お昼を過ぎると私が休んでいる部屋に淳也さんを除いたみんなが集まる。これから私たちがどうするかについて話し合うために集まったのだ。

 

 

「篠崎が私のパパと話し合いをしている間に私たちは選択しなきゃならないわ。……仲間のままでいるか、別れるか」

 

 

 私は―――私たちは、決断しなければならない。

 

 

 

 




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第25話 『とんでもない借金』

遅い挨拶ですが、あけましておめでとうございます。
今回は主人公視点です。


 主人公SIDE

 

 

 

 洋上空港を既に占領している告白で乱された心がなんとか落ち着いてきたので、このバイオハザードについてシェリー達が把握している事を聞いてみた。

 

 

「全世界で感染が確認されており、隔離処置などの対策は既に手遅れです。我々は重要地域に部隊を派遣、対処に当たっています。本部のラボでは、感染経路、感染源を目下調査中です。把握している詳細な資料はこちらに」

 

 

 またもやお出ましの個人情報満載タブレット端末。

 端末情報には人間がゾンビに至るまでの過程、ゾンビの能力と対処法などがまとめられていた。

 

 世界規模の感染爆発となるとゾンビとの戦いが長引けば長引くほど、どんどん人間側が不利になってくるな。

 

 大規模なゾンビを殲滅する為には組織だった行動が必要になってくる。噛まれたりすれば感染し、ゾンビは頭を潰さなければ死なない。これは映画やゲームでよく見られる。

 心配な事は、動物への感染や突然変異の個体、変異体などが発生するかどうかだ。某ゾンビゲームでは犬やカラスなどの動物に感染し主人公を苦しめる。突然、屋内に窓ガラスぶち割って入ってくるとか……心臓発作が起きる。さらに変異体と呼ばれる突然変異を起こした怪物が厄介になってくる。

 

 この世界でこれから動物への感染や変異体などが現れないという保証はないのだ。楽観的、油断という名の借金を背負いこみ、借金の利子がそのまま自分に牙を剥いて襲い掛かる事は避けなければならない。

 

 俺は借金をしたことはない。

 ないのだが、それに値する事なら結構な実績を誇っていた。

 

 そう例えばそれは、高校時代8月31日における夏休みの課題がそれだ。

 8月31日より以前の圧倒的な空白。簡単に終わるだろうと課題を楽観視していた過去の自分が、湯水のごとく浪費した時間の負債だ。時は金なりというなら、過去の自分たちが、8月31日の自分に押し付けた『借金』にこそ他ならない。

 

 結局、その日の昼休みは英文法との泥沼の死闘に消えた。そして午後は、空腹という新たな敵との長い長い撤退戦が演じられた真実は付け加えるまでもないだろう。授業は基本的に教科書に書かれた内容を読むのと、先生が黒板に書いた説明をノートに写すだけだ。楽と言えば楽な授業なのだけど戦友の中には空腹に耐えきれず日本史の教科書を盾として、悠々と弁当として持ってきていたカレーを食べようとする猛者もいたが……ルーを白米にかけた途端、弁当を没収された戦友を俺は決して忘れない。教室全体が爆笑に揺れた。先生はすべてを悟った賢者のような顔で、うんうんと頷いていたのを今でも覚えている。

 

 俺たちが背負った借金の利子は、かくも重かったのだった……。

 

 

 

「わかったわよ! いつだってママは正しいわ!!」

 

 

 懐かしの記憶を覗き込んでいた俺は、廊下に聞こえた沙耶さんのマジ切れ声で現実に帰還する。

 俺の部屋まで聞こえる程の大声だ。そうとう頭にきているのだろう。

 

 気になって部屋を出ると丁度沙耶さんとエンカウントする。タイミング的にドンピシャ。待ってましたと言わんばかりだ。

 沙耶さんは俺と判ると顔をそらす。その時、俺の動体視力は彼女の目元が濡れているのを見逃さなかった。

 

 何かあったのだろう。

 ここで、見て見ぬふりをするのも気が引けるし声を掛けてみよう。

 

 

 泣いてるのか?

 

 流石、コミュ障発動中の俺。

 他の聞き方もあっただろうに…。

 

 

「ッ!? うるさいッ、何でもないわよ!」

 

 

 俺はこれまでの経験上なんでもないと言って、本当になんでもなかった人間を見たことがない。

 聞き方の悪かった俺が悪いんだから、シェリーさんはナイフを元の位置に仕舞ってね。

 

 俺たちを庇った事を御両親から言われたのだろう。

 そりゃ、こんな怪しさMaxの連中を自宅に招くなんて文句を言われるよね。申し訳ない気持ちで窒息死しそうだ。ホントだよ。   

 

 人様の親子事情に首を突っ込むのはよろしくないが、原因が俺たちにあるのなら何とかしなければならない。

 

 

 両親の事か?

 

「……なんでもお見通しって訳」

 

 やっぱりそうだったか……。

 午後から総一郎氏との会談が予定されているので心配だ。こちらに対しあまりいい感情がなければ交渉は難航する。人と接する上で第一印象はどこの世界でも大事だ。

  

 

「あんたもママ達と同じ考えなんでしょ。この状況で自分の娘が生死不明で探しに行くのは無謀だから、部下とその家族を優先したこと…ええ、正しいわ! 生き残っているはずもないから即座に諦めたなんて!!」

 

 

 危惧している事と違ったけど別の特大の地雷を踏み抜いた!?

 地雷は沙耶さんの両親が、この状況で沙耶さんを優先してくれなかったことについてのようだ。

 

 賢い彼女の事だから両親の選択が、頭では理解できても、感情で理解したくはないのだろう。両親も部下を守らなければならない立場があり、悩み考え抜いた末に決断したのだと。

 

 移動中に俺に両親のことを話してくれた彼女はとても誇らしげに教えてくれた。そんな両親を尊敬している彼女からすれば裏切られた様に感じるのだろう。本当の気持ちは彼女にしか分からないが。そこにこれまでの日常ではなかった命の危機に曝されることによるストレスもその気持ちを加速させているのではないだろうか。

 

 両親への苛立ちを、会って間もない俺にぶつけてくれるのなら甘んじて受けよう。一時的なストレスの捌け口にもなろう。しかし、この苛立ちをまだ両親の安否が分からない同じように強いストレスを孕んでいる孝君たちにぶつけるのだけは駄目だ。

 

 普段の冷静な彼女なら気づくだろうが、人は感情的になっていると超えてはいけないラインを簡単に越えてしまう。それはいとも容易く今までの関係を壊すほどに……。

 

 

 沙耶さんの御両親の対応は組織を率いる者としては正しい。会って間もない俺が言うのも間違っているが、親として正しいとは思わない。助けられるものを助ける…正しい判断だろう。それでも唯一の娘を見捨てていい訳ではない。

 

 彼女の両親、彼女自身も心を痛めた。心理と感情は常にイコールなわけじゃない―――大切に思うからこそ傷つけてしまったのだと感じるのだ。

 

 

 やり方はどうあれその感情に整理をつけるのは周りじゃない君自身だ。

 結局のところ自分なりに受け止めなくては前に進む事は出来ない。

 

 

 俺ってホントにずるいな。

 結局、肯定も否定もして優柔不断なだけじゃん。

 

 

 

 

 




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第26話 『とんでもない濃いメンツ』

お待たせしました。
今回は短いです。


 主人公SIDE

 

 

 畳が敷き詰められた、日本独特の雰囲気を感じさせる部屋―――和室。

 高級日本旅館のような広い部屋には、4人の人間がいる。

 

 

 初めて会った時は思わず目を疑った。だって背後に『ゴゴゴゴッ』て見えるよ。絶対ゾンビなんかにやられないだろ。絶対スタンド使いだよ。

 鈍色(ガンメタル)の瞳の奥には殺気すら感じられる。

 何をしに来た、ここはお前の居場所じゃない。言葉以上の雄弁さで、目の色はそう語っている。

 

 この眼光を前にして揺らがずいるには、それに拮抗するだけの強靭さが必要。有体に言って、相応の覚悟が。

 

 目の前にいるお方が沙耶さんのパパ――高城壮一郎氏がおり、その後ろに沙耶さんのママ――高城百合子さんが控えている。

 俺の後ろには、百合子さん同様見事な正座でシェリーが控えている。

 

こんな濃い人たちと俺、これから話し合い?

 

 無理ッ!

 

 窒息してしまいそうだ。ああいっそ、気絶できたら楽なのに。こんな中で話し合いとか相応の度量と冷静な視点なしには話し合いなんて不可能な事だろう。

 今の俺の心情は、言ってしまえば旧型モビルスーツに乗った新兵パイロットが実弾装備でいきなり新型モビルスーツに乗ったベテランパイロットのビーム兵器と会敵した気分。理不尽すぎるだろ……。

 つまり―――最悪。

 

 お互い初対面のため簡単な自己紹介を行い本題に進んでいく。

 よかった自己紹介で総一郎氏が所持している日本刀で、『貴様の力を見せてみろ!』ってな感じでチャンバラはじまったらどうしようかと思った。

 

 部下がゾンビ化して大衆の目の前で首ちょんぱして今の世界がどうなっているのかについて演説しているの見てどう見ても修羅の国の方にしか見えないのだ。

 

 拙者、人切抜刀斎でないでござる。ただの流浪の傭兵でござる。

 このスコップで人が切れるでござるか?

 

 切れるでござるな……。

 

 

 

「まずは、娘をここまで連れて来てくれたことに礼を言わせてもらう。娘が世話になった」

「ここまで来れたのは孝君たちの助けもあったからです。むしろ俺の方がお世話になりました」

 

 

 沙耶さんにいろいろと疑問に思ったことは質問したからな。そしたらすぐに答えが返ってくるからとても助かった。絶対、こんなことも知らないのかとか呆れられているよ。

 

 

「それでは本題に入ろう。貴殿らはいったい何者で、何が目的だ?」

 

 

 あらぬ誤解が尾を引くと、かなりの問題が出てくる可能性があるため、なんとしてでもこの初期段階で潰しておかなければならない。

 

 

「そうですね。我々は、国家を持たない軍隊です。簡単に言ってしまえば傭兵になります。民族、宗教、思想などに囚われない者達。それが我々です」

 

 

 なんてカッコいいこと言っちゃってるんですが、実際俺も把握していません。

 どこのメタルでギアな集団なのだろう。

 

 俺は何ポジションなんだ?

 もしかして、伝説の傭兵なのか……。

 

 俺的にはリボルバー押しなんだけど。カッコいいじゃんリボルバー。

 

 大抵の人に存在する黒歴史。俺のリロードは革命(レボリューション)とかの時はまだ中二病チックだったが、歳をとると落ち着いてきてよかったね。俺だったら寝る前にとか、ふと昔の事思い出してベットの上で悶える事になると思うが。

 

 目的とか聞かれても学校で立てたひとまずの計画は、『安全な場所の確保』、『可能な限りの情報収集』だったのだ。現在はそのどちらも達成しているようなもの。では、ここで安全なシェリーの言う本拠地にヘリを使い戻るかと言えば即答はできない。ここまで行動を共にしてきた孝君たちのことがある。

 

 

「我々の目的は、この騒動についての出来る限りの情報の収集です。それと私と一緒にいた彼らの手助けですかね」

 

 

 ここまで共に来た孝君たちをここで『はい、さよなら』と放り出していくのも気が引ける。それに孝君たちの目的と壮一郎氏の目的は違う。彼らがそれに気づき、そのうえで決断した答えを待ってみようと考えている。それほど時間は残されていないが、どうにかなるだろう。

 

 

 

「ほう、傭兵と呼ばれている輩は金を払えばどれほどの汚れ仕事をも請け負う者達だという認識があった。彼らに肩入れし貴殿らが得をするとは思えんが?」

 

 

 確かに民間軍事会社は戦争をビジネスとし、国の軍隊が行えない汚れ仕事を行っていることは詳しく調べればわかることだろう。

 

 戦争は変わった。国家や思想の為ではない。

 

 国家の少数の兵士と金で雇われた傭兵部隊のテロとの果てしない戦争を繰り返す。命を消費する戦争は、国家のかじ取りをする者にとっては痛みのないビジネスへと変貌しているような節がある。

 

 

「確かに組織の事で言えば得はしません。ただの私個人としての我が儘です。この状況で彼らがどういった道を自分たちで考え、どのような決断をするのか……その答えを知りたいんです」

 

 

 




ご意見やご感想があればよろしくお願いします。


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第27話 『とんでもない警官と部下』

皆さま、お待たせしました。
今回はリカさん視点になります。
仕事のほうが忙しく、最近は点滴をしながら続けています。
点滴すると元気になりますね……。



 南リカSIDE

 

 

 

 狭く埃っぽい通気口を物音を出さないよう慎重に這って進んでいく。

 先を照らすのは、小型のペンライトのみ。

 

 

(空港で通気口を這って通った警官は日本では私が初めてかもしれないわね)

 

 

 そういえば、昔の映画でハゲの親父刑事もクリスマスに悪態を突きながら通気口を通っていたわね。

 そんな事を思いながら小型ペンライトで照らした通気口を黙々と進んでいく。 

 まだ、先は長そうだ……。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 闇に照らされた誘導灯が滑走路を明るく照らす。そこに墨を垂らすように、黒い滴が次々と空港に降り立っていく。深夜にも関わらず空港の滑走路には、大型輸送機が降り立ち。機体から車輌、武器弾薬を運び出されていく。

 

 

「真新しいものばかり。本当にアイツら何をしようとしているのかしら?」

「第3次世界大戦じゃないか」

「もう始まってるわ。化け物と人間との戦争が……」

 

 

 第1ターミナルの待機ホールでは、生き残りの武装解除させられた警察関係者、避難民と空港職員が集められて、監視されている。今やすべての施設はアイツらに抑えられた。まだ、水と食料は配られているということは、あいつらは私たちを殺そうとはしないようだ。

 

 相棒の田島とお酒を飲みながら外を眺める。

 国際空港だけあって第1ターミナル待機ホールは、広く様々なテナントが置かれている。酒はそこからくすねてきたのだ。

 

 いったいあいつらの目的は何なのか……。

 

 

(まずは、アイツらが何をしようとしているのか探ることから始めようかしら)

 

 

 3つ目の缶ビールの蓋を開けて一気にあおる。

 

 

(また、忙しくなりそうね)

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 通気口を物音を立てない様に這いつくばりながら進むのもだいぶ慣れてきた。

 通路は定期的に武装した兵士が巡回し、定時連絡を入れている。

 これでは兵士を無力化しても、すぐにバレてしまう。

 

 情報を得るためにはコイツ等の本部を探す必要がある。

 どこに本部があるのかは、アイツらが教えてくれる。警備が厳重な区画が本部として使われているはずだ。

 

 途中、通気口が三方向に別れており直感で選んだ方に進んだが、正解だったようだ。

 

 

(ビンゴ)

 

 

 そこは私たちが作戦本部で使っていた区画だ。

 アイツらによって持ち込まれた多くの機材が置かれ、中央のテーブル型のモニターには世界地図が映し出されている。

 ボブカットの黒い髪の女が空港の見取り図を見ながら無線で指揮をとっている。

 

 

「搬入を急ぎなさい。こんなことで時間を無駄にしてる暇はないのよ……あの女、私に面倒な事を押し付けて先行するなんて。どさくさに紛れて殺してやろうかしら」 

 

 

 どうやら既に市街の方に先遣隊が出ているようだ。

 それにテーブルの中央のモニターには世界地図の各地が赤で表示されており広がり続けている。

 

 世界で感染が拡大しているのだろう。

 これほどの情報を集められるコイツ等は間違いなくただの組織ではない。

 

 

「報告します。先遣隊は無事隊長と合流、ランデブーポイントを確保し待機するそうです。なお、生存者を移送する為、移送ヘリの要請がきています」

「それは隊長からの指示ですか?」

「はい」 

「わかりました。隊長の命令は絶対です。すぐにヘリの準備に取り掛かりなさい」

「了解しました」 

 

 

 市街地の方で動きがあったようだ。

 人の動きが慌ただしくなる。

 

 

(そろそろ、潮時ね)

 

 

 トップが市街地に入っており、生存者を移送するためにヘリの要請を行う。

 空港を制圧しておきながら、人道的な行為をする。

 

 まったくもって目的が分からない。

 来た道を引き返し、外を確認してから女子トイレの通気口から床に着地する。

 

 女子トイレから出ると、無数の銃口が私を出迎えた。

 

 

(クソッ!)  

 

 

 内心、悪態を突きながら両手を上げてひざまずく。

 目の前には先ほどまで本部にいたボブカットの女がいた。

 

 

「ただでさえ時間が限られているのに、面倒なことを……そんなに死にたいんですか?」

 

 

 ホールに集められている避難民にも銃口が向けられる。

 嫌な汗が背中を滴り落ちる。

 

 

「本当なら全員を処理して、これ以上面倒を起こさないようにするんですが……あの方があなた達を殺さないようにとおっしゃったので、今回は見逃しましょう」

 

 

 向けられていた銃口が下げられ、元の配置に戻っていく。

 危機は一旦過ぎ去ったようだ。

 周りから非難の視線が向けられるがそれを気にすることなく田島と合流する。

 

 

「何してんだよ。もう少しで俺たちは、全員仲良く蜂の巣になるところだったぜ」

「そうならなくて良かったわ。あの女、私に気付いた上で泳がせたのね……」

 

 

 避難民を移送するといっていたが、その中に友人もいるかもしれない。

 昔からどこか抜けているところはあったが、ここぞという時は頼りになる友人。

 

 隠し持っていた携帯を取り出して友人からの連絡がないかどうか確認する。

 

 

(着信は……ないわね。生きているんなら連絡ぐらいしなさいよね、静香)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ご意見やご感想があればお願いします。


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第28話 『とんでもないやり方』


この作品を読んでいただいている皆様、お久しぶりです。
更新が遅れてしまい申し訳ありません。ならびに感想を下さった皆様、お返事が出来なく申し訳ありません(;´д`)

私の仕事の忙しシーズンが過ぎても予想外に激務が続き、執筆時間を作る事が出来ませんでした。

仕事から帰り、洗濯、食事、睡眠を繰り返す日々。完全に仕事人間に創り替えられていく日々。
8度目の点滴を受けながらついに決意しました。
転職することにしました。

その為、ごちゃごちゃしてくるので次の更新も遅れるご報告をさせていただきます。
活動報告もあげれればしていくので、暇つぶしにご覧ください。

どうぞ短いですが、お楽しみください。


 主人公SIDE

 

 

 双方が把握している情報の交換を行い、壮一郎氏との会談もお開きになった。

 次があるなら、話し合いに胃薬服用で臨もう。

 

 孝君たちも今頃、沙耶さんに呼び出しを掛けられ集まって話をしていることだろう。

 俺もこれからテントに待機している部下と今後の方針を決めなければならない。

 

 テントに到着する頃には既に部下全員が、テントの前に整列していた―――完全武装で……。

 ひとまず壮一郎氏との協力関係を築いてきたのに、なんで君たちはこれほどやる気が感じられるのか。もとい、殺る気に満ち溢れているのだろうか。

 

 高城邸を警備している人たちも警戒しているじゃないか。

 

 揃った見事な敬礼を俺に向けてくれるのはうれしいんですが、俺の心の準備ができていないから。

 これはそろそろただの兵隊さんから、伝説の傭兵へと進化しなくてはならないか。

 ガツンと言ってならなきゃな!

 

 

「総員傾注。作戦内容を説明する――――シェリー、頼む」

 

 

 進化するとか思ってるそばからシェリーさんに丸投げしました。

 まだ、完全体に成れないじゃん。頭に角とか生やさないといけないし。左手を義手にしなきゃいけないし。完全体に成るのにだいぶ命削るな……。

 

 

「お任せください。各小隊は、周辺の索敵及び非常時の脱出経路の確保を行え。ヘリの到着までに不測の事態が起きた際の保険だ。奴らの侵入を許せば突発的な遭遇戦が予測される敵味方の識別、及び誤射に留意しろ」

 

 

 ヘリ?

 ヘリがここまで来るの?

 俺、初耳なんだけど。

 

 俺たち兵士と高城ファミリー、避難民を合わせると中々の大所帯である。

 ヘリは便利だが重量制限がある乗り物だ。ピストン輸送になりそうだな。

 

 恐らくヘリは占領した空港から飛んでくるのだろう。

 情報によると洋上にある空港で、感染は発生していたが全て鎮圧。念のため消毒まで行っているそうだ。

 

 洋上の空港に拠点を構えてこの事態に対処できればだいぶ活動しやすくなるだろう。

 空港の設備その物が使用できることが何よりも大きい。

 

 

 壮一郎氏にヘリの着陸場を作る許可をもらってくるから、君たち許可もなく手入れされた綺麗な庭を吹き飛ばすのは待ちたまえ。

 なにプラスチック爆弾を準備してるんだ。

 

 ここをさら地にするのかな?

 そんなことしたら壮一郎氏のスタンドに俺がオラオラされるだろうが。

 

 

 臨時着陸場を作ろうとする部下たちを止めて、総一郎氏を探しに行く。

 

 家が大きいと探すのにも苦労する。

 門下生に聞き込みをしながら探していると屋敷裏で、銃器を渡すようにコータ君が壮一郎氏の部下の方々に取り囲まれていた。

 

 学生のカツアゲを目にしているみたいだ。そこに壮一郎氏までもが介入しさらに気まずい状況に遭遇している。

 壮一郎氏が介入した時に俺がヤクザな人たちとコータ君の間に入ろうと歩みを進めていると。ベストなタイミングで現れた孝君パーティーがヤクザな方々に対しコータ君の文字通り盾となる。

 

 

「どうしようもないデブオタだけど、こいつがいなければ今頃、私は連中の仲間よ! コイツが私を守ってくれたの……パパじゃなくてねッ!!」

 

 

 コータ君自身が思っているほど孝君たちはこれまでのコータ君の事を見ていたのだ。壮一郎氏に対してもズバッと意見を言えるようになった沙耶さんも踏ん切りが付いたのだろう。

 壮一郎氏と百合子さんも沙耶さんの成長と掛けがえのない仲間が出来たことに嬉しそうである。

 

 

 ふと自分の孝君たちと同じ頃の学生時代を思い出した。

 俺の学生時代は、工業系の高校にいたため男子、女子の比率が9:1の状況だった。

 女子と関わりがないと男子は女子の良し悪しのハードルが下がる。

 

 他校ではそれほど可愛くない子でも、我々の目からは可愛い子に映ってしまうというマジック。

 彼女が欲しいと細々と思いながら過ごした3年間。友人とくだらない事で笑いあった3年間。そんな高校生活でも孝君たちのような厳ついヤクザな方々に囲まれた経験はない。

 

 そろそろいい頃合いだろう。

 一段落した現場に向かい壮一郎氏に臨時着陸地点を作る許可を貰わねば。

 

 よし気張っていくか。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 唸るエンジン、小規模な爆発音。

 

 豪邸が土木現場と砕石現場に早変わりだ。町の中では苦情間違いなしの騒音。

 唸るエンジン音と共に木が切り倒される。

 太い幹に括りつけられた爆薬が、その威力を発揮して大きな樹木を地面に叩き付ける。

 

 なんでもできる部下を持つと、自分が惨めに思えてくる。つられて仕事をしようという気にさせられる。 

 だが、仕事を手伝おうとするとシェリーに止められる。

 

 壮一郎氏から臨時着陸場を作る許可を貰ったのはいいが。

 こんな派手にやってよかったのだろうか……。

 

 もう少し…違ったやり方はなかったものか。

 

 そんな事を考えていても着々と着陸場が出来てくる。これなら雨が降り出す前にほとんどの作業を終える事が出来そうだ。

 

 しかし、ゾンビ物でヘリと言われればカ〇コン製のヘリを想像してしまう。

 カ〇コン製のヘリは、それはそれはよく落ちる。

 

 ここぞというところで落ちてくれるので、どこ製なのかシェリーに聞いてみた。少なくともカ〇コン製ではなかった。ひとまず安心していいのかな。 

 

 心配症の俺は廊下の窓から外を眺める。

 曇天の空から降りそそぐ雨は俺の心を表しているかのようだ。

 

 

「ん?」

 

 

 外を眺めていると正門から見たことあるマイクロバスが入ってきて知っている人物が降りてきた。

 

 あのスーツを着たメガネは知っているな。

 誰だっけ…えっと……そうだ! セクハラ(紫藤)先生だ!

 

 玄関前のホールに来ていた麗さんが、セクハラ(紫藤)先生に気付き。M14による銃剣突撃を敢行する。

 一難去ってまた一難。

 

 

 



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第29話 『とんでもないブラックホークダウン』

大変長らくお待たせしました。
更新する更新すると載せながらここまで長引きました。申し訳ない。
これ以降の更新は、教育隊に参加する為だいぶ先になるかもしれません。
だいぶ手抜きになってしまいましたが、お楽しみください。


 

 

 主人公SIDE

 

 

 

 視界が物凄い勢いで流れていく。

 ジェットコースターに乗ってもここまで酷くはない。

 

 何故なら安全バーがしっかりと体を固定しており安全が確保されているからだ。

 

 それに比べて今身体を固定しているのは自分のお手て。

 他の乗員も同じようにしがみつける場所にしがみ付いている。 

 

 

 多目的ヘリコプター―――ブラックホーク横のスライドドアは開け放たれており、そこから遠心力で飛びそうになる体を必死に取っ手を掴み耐える。

 このまま機体の外に投げ出されれば、地面で潰れたトマト状態になる事は間違いない。

 

 

「メーデー、メーデー、こちらホークアイ01!! 機器が全て死んだ!! コントール不能! 繰り返すコントロール不能ッ! 墜落する!」

 

 

 激しく振動する機体を機長と副操縦士が必死に制御しようとするが、どんどん高度が落ち地面が近づいて来る。

 

  

「ッ!?」

「衝撃に備えろッ!!」

 

 

 遠心力で飛ばされそうになる冴子ちゃんの手を掴み、引き寄せる。

 地面が目の前に迫った瞬間、衝撃から庇うように冴子ちゃんを抱き寄せる。

 

 緊急事態だからこれはセクハラではないと言い聞かせながら凄まじい衝撃の中、意識が途切れる。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 正面玄関前では騒然とした空気が漂っていた。

 サスペンスドラマで犯人が刑事によって最後に追い詰められるシーンのような感じ。

 

 麗ちゃんがM14エンフィールドの先に着けられた鈍く光る銃剣を突き付ける。

 

 突き付けられているのは、あのセクハラ(紫藤)先生だ。

 

 途中で合流した際になぜマイクロバスから離れたのか事のいきさつを聞いた。

 

 その場に居なくて良かったついつい奴のメガネ(本体)を破壊しているところだった。奴は麗ちゃんだけではあきたらず、静香先生にまでその魔の手に掛けようとしたらしい。

 

 銃剣の切っ先を突き付けている麗ちゃんの口からセクハラもとい紫藤を憎む理由が明かされる。

 あの大陸間弾道ミサイル(Jカップ)に手を出そうとするとはけしからん奴だとは思っていたが、麗ちゃんの話の内容を聞いていると、奴は麗ちゃんの成績をいじくって留年させたらしい。

 

 警察官である麗ちゃんの父親が紫藤の父親が行っている悪事について調べており、その報復、警告を留年という形で行ったらしい。

 

 その捜査も後僅かで紫藤もその父親も逮捕できるはずだったが、ゾンビ騒動が起こり逮捕どころではなくなってしまった。

 

 

「どんなことにも動じない人が、泣いて謝ったわ。自分の所為で私を留年させたって!!」

 

 

 彼女は留年をしたことにより周りからの心にもない中傷もあったことだろう。その元凶を知りながら彼女はいわれなき悪意と戦ってきたのだ。

 戦ってこれたのも父親の見せた涙があったから。

 父親を心から信じていたからだろう。

 

 

「お父さんの捜査が上手くいけばあんたも紫藤議員も逮捕できると聞かされていたから、私は耐えてきた! でも……もうッ!」

「さ、殺人をするつもりですか? 警察官の娘でありながら、犯罪者になるつもりですか?」

「あんたなんかに言われたくないわよッ!」

「ならば殺すがいい! その男の父親とはいくらか関わりはある。だが、それも今となっては無意味だ! 望むなら殺せばいい」

 

 

 壮一郎氏も加わりさらに事態は加速していく。騒ぎを聞いたのか周りにも避難民が集まりだした。

 口を挟もうとした避難民を壮一郎氏がひとにらみで黙らせる。

 

 

「無論、必要ならば私も殺す!」

 

 

 確かに俺もそうするだろう。こんな世の中だから危険になる存在は出来る限り排除する。

 紫藤が生きている限り決着をつける必要がある。彼女が進み続ける為に。

 

 第三者として考えれば、紫藤にも父親に従う何らかの理由があるのだろう。

 

 それは、家族愛かもしれないし、また違った理由かもしれない。しかし、俺にとってメガネよりも麗ちゃんの方が優先度は断然上である。それはここの避難民にも同じことだ。

 

 沙耶ちゃんの家族は壮一郎氏がいれば俺とか必要ないだろう。

 大勢を救うのは、何処かの正義の味方志望の主人公に任せる。

 

 俺は救いたい人を救えればいい。ヒーローになりたいとは思わない。

 ヒーローとは民衆にとっての奴隷であり、社畜なのだから。

 

 孝君が麗ちゃんを止めに入ろうとするが、冴子ちゃんに止められる。

 希に彼には主人公補正がかかっている様に思える。

  

 

「いいでしょう、殺しなさい! 命ある限り、その事実に苦しみ続けるがいい! それこそが教師である私が生徒であるあなたに与えられる最高の教育です!!」

 

 

 思わず笑いそうになってしまった。

 

 何が最高の教育だ。

 金〇先生、ご〇せん、G〇Oを見てから出直して来い。

 

 生徒の成績を細工し、助けを求める生徒にヤクザキックをかます教師は教師とは言わない。ただのクズか、バカだ。最後まで自分の言葉に酔っていたいらしい。

 

 そうした優越感を持つことでの、精神的な安定こそがメガネの狙いか。

   

 麗ちゃんの指は既に引き金にかかっており、すぐにでも撃てる状況だ。

 彼女は大きく息を吐くと踵を返して紫藤から離れていく。

 

 

「それが君の答えかね?」

「殺す価値もありません」

 

 

 その答えを聞いて俺は心の中で、壮一郎氏は声に出して大爆笑。

 

 彼女は答えを出した。

 

 紫藤は相当頭に来ている。

 力を入れ過ぎてプルプルしているのがまるわかり。

 

 さっさとお帰り頂こう。

 怒り心頭の紫藤をシェリーが顔面を銃床で殴打して、現実に引き戻す。

 

 それに続き、部下が銃口を突き付けて紫藤とそれに従っていた生徒をバスに詰め込み高城邸から追い出す。

 

 何が正しくて、何が間違っているのかなんて誰にもわからない。

 人それぞれだ。

 

 ようやく迎えも到着したようだ。

 

 徐々に大きくなる空気を切り裂くローター音。

 薄暮に覆われつつある空からヘリコプターの集団が舞い降りる。

    

  

 避難民はヘリコプターを見て助けがきたと歓喜する。

 これでこの地獄から解放される―――と。

 

 だが俺は知っている。

 それが死亡フラグであると―――。

 

 

 

 

 




ご意見やご感想がよろしくお願いします。
誤字脱字、ここの文章おかしいと思う箇所も多々あると思いますので報告お願いします。


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第30話 『自衛官』

お待たせしました。
短いかも・・・・・。


世界が崩壊している音は日に日に大きくなっていた。

普段の駐屯地ならば桜が咲きほこり、新隊員の駆け足の歩調の声が聞こえるが、その日は聞こえることはなく銃声、怒号、悲鳴などの喧騒が至る所から上がっている。

 

 迷彩服を赤い血で染めた自衛隊員に89式自動小銃を構えて狙いをつける。引き金をなかなか引く事が出来ない。

 これまで何度も人型の的を撃つ訓練をしていたが、実際に人に向けて撃つのは空砲ぐらいだ。

 

 駐屯地の警備を担当している警衛は、駐屯地警備の観点からある程度実弾を携帯している。現在所持している小銃は警衛についている隊員から調達したしろものだ。

 

 迷いがある中で引き金を引き絞った。

 安全装置は安全の『ア』から単射である『タ』にしてある。

 

 1発だけ銃口から吐き出された弾丸は隊員の鎖骨あたりをえぐり、体をよろめかせる。

 普通なら尋常ではない痛みが襲うはずが、隊員は片手を突き出してさらに近づいてくる。

 

「ッ!?」

 

 声にならない叫びをあげながら続けて引き金を引いていく。

 小銃を撃つ反動が体に響いてくる。

 

 何発撃ったのかもわからない。

 気づいたら相手は道路上に倒れていた。

 

 

『ダダダダダダッ!!』

 

 

 タイプライターの様に連続して聞こえる銃声で辺りを見回す。

 周りではまだ、この世の物とは思えない光景が広がっていた。

 

―――――――地獄は始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 駐屯地では無事な者たちが周囲にバリケードを築き死者を入れないように警戒が続いている。

 まだまだ世間に混乱が続いているなか駐屯地のグラウンドにはメインローターで砂を巻き上げているヘリが離陸準備に入っていた。

 

 情報が錯綜しており自衛隊が動こうにも動けない状態が続いていたが、駐屯地司令の命令で駐屯地で生き残っている部隊を発電所、変電所の防衛に送り出されることが決まった。

 

 予定の時間が近づいてきたので各火器の安全確認をし、ヘリに続々と乗り込んでいく。

 全員が乗るとへりが離陸を開始する。

 

 駐屯地が小さくなってくると視線を未だ黒煙を上げ続けている市街地に向けられる。

 

 地獄の上空をヘリが駆け抜けていく。

 

 時折、デパートや高層ビルの屋上に『SOS』などの助けを求める布が着けられている。進行方向の学校らしき建物の屋上には数人の人影も見える。人影は必死に手を振ってヘリに自分たちの存在を報せようとしているが、ヘリは止まることはない。

 

 建物を通り過ぎる瞬間、無意識に右手を伸ばしていた自分がいた。

 胸の中を、温度の低い感情が通り向けていく。自嘲めいた気分のまま、力なく右手は垂れた。

 

 今の自分たちには助けを求める人々すべてを救うことはできない。

 

 

 水力発電所上空に到達。ヘリが高度を下げて着陸態勢に入る。

 

 

『着陸地点に人影を確認。——―くそッ!? 感染者を確認! 着陸地点を確保する』

 

 

 ヘリの搭乗員がドアガンとして搭載している『MINIMI』を照準――――――フルオート射撃が行われる。

 凄まじい炸裂音が立て続けに鳴り渡り、跳弾の火花が目まぐるしく一面に飛び散る。

 

 

 駐車場に止められていた車両を感染者もろともズタボロにしていく。

 

 

『着陸地点を確保した!! 着陸する』 

 

 

 これから起こる未来のことは誰にもわからない……元通りの世界に戻るかもしれないし、そうじゃないかもしれない。俺たちにできることはこの地獄のような世界であがき続けることだけだ。

 

 

 

 

 

 




ご意見ご感想お待ちしております。


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