カメ子 レ級 (灯火011)
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第一章 我道を往く深海の船
1 第一回 変わったレ級の、とある一日


レ級が暴走してます。


「戦艦レ級」

 

深海棲艦と呼ばれる存在の中でも特に上位種に位置する艦種である。

 

数多くの艦娘を沈め、提督を苦しめている最悪の敵と言って良い。

なにせ、開幕の航空戦、そのあとの魚雷、そして砲雷撃戦、対潜戦闘と

全てにおいて高水準で纏まっている敵である。

 

 

「戦艦レ級」

・・・と呼ばれる彼女が真っ青な海の上、遠くを見つめながら、

一人でぽつーんと立っていた。

 

ただ、その装備は先に出た特徴とは一切合致しない。

 

航空機を持たず、魚雷を持たず、対潜装備も持っていない。

戦艦の最大の特徴である主砲すらも持っていない。

強いて言えば、服であるパーカーとビキニ水着が合致する程度だろう。

 

その代わりに、肩から左右に3つづつ、

計6つのホルスターがぶら下がっている。

 

そして、尾っぽの部分には、51cmの主砲、ではなく

人間世界でも高級品とされている大光量のサーチライトが4つ取りつけられていた。

 

そんな風変わりなレ級が動く。

遠くを見ていた瞳が、艦娘を発見したのだ。

 

「機関出力全開、最大戦速」

 

レ級の言葉と同時に、一気に加速するその体。

 

「今日ハ4人か、そうしタら、望遠で良イかナ?」

 

ぶつぶつと呟きながら、体の左右にあるホルスターから

あるものを引っ張り出す。

 

 

手元に引っ張り出したのは「デジタル一眼レフカメラ(ストロボ付き)」

装備してあるレンズは「70-200 F2.8ズームレンズ」

 

 

「ヌふふ。さぁ、今日ハ何が撮れるかナぁー!」

 

 

デジタル一眼レフカメラを手にしながら、レ級は艦娘に突撃するのであった。

 

 

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艦隊の旗艦である金剛は、その日、新人の育成も兼ねて鎮守府正面海域の哨戒を行っていた。

メンバーは金剛・暁・響・雷だ。

 

この海域は、波もさほど高くなく、たとえ深海棲艦が紛れ込んでも

精々主力艦隊が撃ち漏らした駆逐艦級程度と、育成には最高の条件だ。

 

 

「電探に感あり!対水対空戦闘用意!」

 

 

彼女の妖精が艦隊に電信を打つ。いつものことだ。丁度良い、戦闘の練習をさせよう。

そう思って目標を確認しようとした金剛だが、その目には、信じられないものが映っていた。

 

「戦艦レ級」

 

忘れもしないあのパーカー姿、そして、巨大な尻尾。

何度も大破撤退をさせられた記憶が甦る。

なぜ、あいつがこの海域に!?

なぜもっと、早く気がつかなかった!?

一瞬思考が止まりそうになるも、首を振って思考を再開する。

 

そこからの金剛の行動は、早かった

 

「敵戦艦、レ級を目視!いいですカ!?私が足止めをシマス!

 暁!響!雷!3人は即時撤退デース!」

 

新人の3人も、戦艦レ級がヤバイ、というのは情報として知っている。

指示が飛ぶと同時に、最大速度で鎮守府に舵を切った。

 

同時に、金剛は最大戦速でレ級に突撃していく。

 

(アレに勝てる可能性は・・・ないでショウ・・・

 せめて、あの子たちの時間を稼ぎマス・・・!)

 

そして、金剛の主砲の射程内にレ級が飛びこむと同時に

 

「ファイヤーーーーー!」

 

35.6cm砲、4基8門が、一斉にレ級に襲い掛かった。

 

 

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(ウってきたウってきた)

最大戦速で突撃するレ級に、金剛の砲弾が雨のように降ってくる。

 

だがその弾は当たることは無い。

装備は一眼レフカメラだけでも、その体はしっかりとしたレ級なのだ。

そして、金剛の砲撃を避けながらも、レ級はカメラのファインダーを覗く。

 

(オォ・・・なんて言ったっけ、コンゴウ?。凛とした表情が最高ダワー)

 

若干ニヤケながら、望遠レンズを着けた一眼レフで、金剛の姿を撮影していく。

 

 

カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ

 

 

1秒間に10枚以上という連射で、金剛の激しく、美しい砲撃の瞬間の絵を切り取っていく。

そして、金剛の移動するその姿も余すところなくファインダーに収め、撮影していく。

 

(こんなときに砲撃できれば、水しぶきの中の金剛とか撮影できるのにナァ)

 

残念思考を行いながら、レ級は更に金剛に近づき、撮影を行っていく。

 

金剛の後ろに一気に回り込み、金剛が振り向いた瞬間

流れるような金剛の砲撃

必死な金剛の表情

 

(あぁ、どれも最高ノ作品だ・・・・!)

 

余すところなく、「戦場の艦娘」を撮影していく。

 

作品作りに没頭するレ級であったが、燃料が残り少ないことに気づく。

 

(残念だナ。時間切れってか。)

 

砲撃を続け、必死に攻撃をしてくる金剛を撮影しつつ、鎮守府正面海域を後にする戦艦レ級・・・否。

 

戦場カメ子、レ級であった。

 

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追撃も無く悠々と、拠点に帰って来たレ級。

レ級は早速、今日の一番の写真を選定していた。

 

「違ウ・・・パンチラしてればいいってもんじゃない・・・」

 

記録媒体からWiFiを通して、タブレットに移し替えた写真を見ながら、一人残念思考をつぶやいていた。

 

「ウーン・・・コレアングルはいいけド、ピンボケちゃってるなぁ・・・」

 

「見返り美人のコンゴウもいいけど、これ、艤装入ってないカラ艦娘写真と言えるノカ?」

 

うーん、うーんと悩みながら次々と写真を吟味していく。

 

「やっぱりこの、正面からの一斉砲撃ガ、迫力あってイイナ!

 今日はコの、正面一斉砲撃のコンゴウがベスト写真ダ!」

 

---本日のベスト写真----

 

という名前のフォルダに、本日の金剛の写真が保存される。

凛とした顔で、こちらを射抜くような目線、そして砲撃の迫力。

そんな写真を見ながら、一人、レ級はニヤニヤしていた。

 

ちなみに、同名のフォルダの中には、既にここ1年分の艦娘の写真が入っていて、

フォルダの写真を次々と見ながら、彼女は満足げに笑みを浮かべる。

 

「撮り始めてからのコレクション増えたナ」

 

その中には、戦い、損傷をしている艦娘、逆に、敵を撃破している艦娘など

なまなましい写真も多く含まれている。

 

「今日みたイな美しい、凛とシた写真もいいけど

 戦場の臨場感のある写真モいいよナ。ヤッパリ。

 ・・・明日はどんな写真が撮れるカなぁ」

 

ベスト写真フォルダの写真を見ながら、

にんまりと笑みを浮かべつつひとり呟くレ級であった。

 

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2 深海棲艦のレ級

「戦艦レ級(カメコ)」

大火力をすべて捨て去り、その身体能力を艦娘撮影に全力で使う彼女。

深海の異端児である彼女は、深海棲艦にとってどんな存在なのだろうか。


「戦艦レ級」

 

深海棲艦と呼ばれる存在の中でも特に上位種に位置する艦種である。

 

数多くの艦娘を沈め、提督を苦しめている最悪の敵と言って良い。

なにせ、開幕の航空戦、そのあとの魚雷、そして砲雷撃戦、対潜戦闘と

全てにおいて高水準で纏まっている、深海棲艦である。

 

 

「戦艦レ級」

・・・と呼ばれる彼女たちの中でも、特に異端児とされるレ級がいる。

戦場の艦娘のシャッターチャンスを狙っている個体だ。

 

その装備と言えば、通常であれば兵器が入るべきスペースには

広角・標準・望遠のズームレンズと、

35ミリ、50ミリ、85ミリの単焦点レンズを装備した

デジタル一眼レフがホルスターに取りつけられ入っている。

 

更に、格納庫には各種充電設備と、記憶媒体、タブレットが鎮座し

51cm砲があるべき部分には、夜戦撮影用のサーチライトが取りつけてある。

 

つまりは、写真を撮るために全ての武装を外しているのである。

 

「戦えないレ級」

 

艦娘や人間を攻撃する深海棲艦の中では、相当な異端児である。

 

その行動だけみれば裏切り者にも近いが、

決して深海棲艦と敵対しているわけではない。

 

朝から出撃し、燃料が切れるまで艦娘の写真を撮りまくるこのレ級。

その量と言えば、一日に最低でも数百枚、ひどい時は数千枚を超えるのだ。

 

それだけの写真を撮るこのレ級は、シャッターチャンスを物にするために

 

「○○鎮守府所属の○○艦娘は錬度が○○で

 ○○を装備していて、かつ○○という戦術が得意。

 常に○○と行動し、いつも○○から○○を通り○○という航路を進軍する」

 

その戦術をほぼ把握しきっているのだ。

深海棲艦にとっては最高の情報源である。

 

しかも、その時々の写真まで存在しているため

 

「コノ艦娘ノ砲撃ハ強力、一番ニ狙ワナケレバナラナイ」

「コノ艦娘ハ夜戦ニモチコマレタラ、ヤッカイ」

「コノ艦娘ハ・・・新型カ!コチラモ開発ヲイソガネバ・・・・」

 

などなど、深海棲艦の情報共有にも非常に役立っている。

その情報能力の高さ、そして資料の有用さ故に

戦わなくても深海棲艦として認められているのだ。

 

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カシャカシャ

 

とある場所で、カメラのシャッター音が響く。

 

「ウーン・・・?どウもピンとが合わないナ、前ピンばっかりだ」

 

0400、レ級の拠点である。

レ級は今、作業台に向かい、椅子に座りながら

絶賛カメラの手入れ中であった。

どうやらレンズのオートフォーカスが狂っていたようだ。

 

「アジャストかけて・・・どレ、もう一回。」

 

 

測定用の器具にフォーカスを合わせシャッターを切る。

と、同時に、先程までとは違う、狙った場所にピントが合い

カリっとした映写をする写真がモニターには映っていた。

 

「おぉ・・いいねいいネ!イヨし、そレじゃあ、早速出撃ダ!」

 

彼女は椅子から颯爽と立ち上がり、ホルスターにカメラを収納していく。

その数は、6つ。

各種シチュエーションにこたえられるように、彼女が独自にチョイスしたレンズとカメラだ。

 

カメラ自体は6台とも同じもの。外部ストロボ付き。

レンズは各種ズームレンズ3本と、単焦点3本。

人間の価値にすれば、恐らく500万は下らない装備だ。

 

そんな高級なカメラ一式が入ったホルスターを無造作に肩にかけて

颯爽と拠点を後にするレ級。

 

今日も彼女は艦娘をビビらせながら、自分の好きな写真を撮るため、

戦場を駆けまわっていくのであった。

 

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3 第二回 水も滴るいい女

「戦艦レ級」
深海棲艦と呼ばれる存在の中でも特に上位種に位置する艦種である。

そんな彼女の、日常である。

(一人称、直しました)


0415、鎮守府正面海域。

 

戦艦レ級(カメコ)が夜の闇の中を

今回は85ミリの単焦点、

F1,2の明るいレンズを装備したカメラを構えながら、進軍していた。

 

海上は真っ暗なため、無線傍受を行いながら、艦娘を探していく。

 

≪こちら提督、了解した。領海内だが油断せずにな。

 最近はレ級の目撃例もある。

 護衛対象であるタンカーを守護しつつ、警戒を厳とせよ≫

 

レ級の無線機が、提督と艦娘の無線を傍受した。

 

「オ、領海ってコとは、あと1時間ぐらいノ場所だナ

 タンカーが通レル場所ってコトは・・・・・」

 

燃料や物資を運ぶタンカーとなると、航路も限られてくる。

撮影のためだけに、このレ級、そこらへんの知識を相当蓄えていた。

記憶と知識を頼りに、少しずつ航路を修正していくレ級。

 

 

その表情たるや、おもちゃを与えられた子供の如く

すっごい楽しそうな笑顔を浮かべていた。

なにせ、この時間帯の艦娘は、遠征や出撃で疲れている。

良い雰囲気というか、色気の様なゾクゾクする表情が撮れるのだ。

 

(今日は誰カなぁ?駆逐艦か軽巡洋艦ダトは思ウんだけどな)

 

わくわくしながら、恐らく艦娘がいるであろう航路に近づいていく

と、同時に、レ級のレーダーが

艦娘の護衛対象と思われる大型船の反応を捉えていた。

更にレーダーからの反応を細かく解析していくと、艦娘5人と思われる反応もある。

 

「オ!キタキタ!流石ワタシだ。」

 

レ級は、欲しいおもちゃを見つけた子供の如く

速力を上げ、撮影をするために更に艦娘に接近していく。

そして、レ級の無線が、更に艦娘の無線を傍受していく。

 

≪---電探に感あり。第六駆逐隊はそのまま護衛を継続。

 正体を確認してきます≫

 

どうやら相手の電探が、こちらに反応したらしい。

レ級からすれば、願ったりかなったりである。

レーダー上でも、ひとつの反応がこちらに接近してくることが判る。

相手のうち一人が、がわざわざこちらに出向いてくるらしい。

 

「そうかそうカ。5人全員の写真が撮れないのハ残念だけど

 1対1の撮影もまた乙だよナァ!」

 

そんなことを呟きながら、レ級はその艦娘にどんどん接近していく。

艦娘の反応も、どんどん近付いて行く。

 

そしてサーチライトの有効距離まで近づいたところで

 

「艦娘。ミィつけた。」

 

と叫ぶと共に、レ級は、闇夜に隠れていたはずの阿武隈を、

寸分たがわず、サーチライトで発見していた。

このレ級、高性能である。

 

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「0420 周囲に敵影なし。電探にも反応は無いわね」

 

本日の任務は海上護衛。タンカーを無事日本の横須賀まで送り届けることだ。

第六駆逐隊と、阿武隈は、その任務をあと少しというところで終えようとしていた。

 

≪こちら提督、了解した。領海内だが油断せずにな。

 最近はレ級の目撃例もある。警戒を厳とせよ≫

 

「了解。提督。」

 

鎮守府まではあと1時間の航路。そして、あと数十分で夜明けだ。

旗艦である阿武隈は、少し安心しながら護衛を続けていた。

 

(護衛もあともう少しね。

 ・・・・第六駆逐隊も遠征に慣れてきたようだし

 そろそろ攻略部隊に出しても良いころかもね)

 

電が揃う前の第六駆逐隊の面々は、演習中にレ級に遭遇した経験があり

当時は、遭遇したレ級のオーラとも呼べるものに

精神をかなり擦り減らされ、おびえてしまっていた。

 

それ故に、しばらくは遠征で空気に慣らさせ、

阿武隈の判断で改めて攻略部隊に配備していく

という方針をとっていたのである。

 

事実、戦場の空気に慣れてきたのか

今回の護衛任務でも、駆逐級2、軽巡級1と交戦したものの

タンカーに被害なく護衛を続けていた。

 

「あと1時間程度で鎮守府に着くわ。第六駆逐隊、改めて警戒を厳とせよ」

 

「「「「了解!」」」」

 

「うんうん、良い返事ね。あともう少し、頼んだわよ」

 

「「「「はい!(なのです!)」」」」

 

第六駆逐隊の面々は、タンカーを中心として輪形陣をとる。

 

(いい感じね・・・・ん?)

 

その時、阿武隈の電探に、反応があった。

 

(何かしら。今まで反応なんて無かったのに)

 

「電探に感あり。第六駆逐隊はそのまま護衛を継続。

 正体を確認してきます」

 

阿武隈は、その反応を確認するために、第六駆逐隊には護衛を続けるよう命じ

少し航路を外れて、電探の反応のある場所に向かっていった。

 

(反応は1隻・・・軽巡級までなら奇襲でいけるかな)

 

徐々に近づいていく電探の反応。

酸素魚雷と単装砲をすぐにでも撃てるように準備をし

姿勢を低くしながら、奇襲に備えて体制を整えていった。

 

と、同時に、視界が一気に光で満たされ、阿武隈の動きが止まる。

 

「うわっ・・・?何っ!?」

 

 

「艦娘。ミィつけた。」

 

にやりと笑いながら

大光量のサーチライトを大量に背負った、戦艦レ級がそこに立っていた。

 

「嘘っ・・・・!?冗談きっつ・・・!」

 

レ級の姿を視認するとともに、すぐに戦闘に入る阿武隈。

単装砲が火を噴き、魚雷発射管から魚雷が投下されていく。

その動きは流石、第1水雷戦隊の旗艦である。

 

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(今日ハ阿武隈!最近撮れて無かっタから、これは捗ル!)

 

早速、阿武隈の砲撃と雷撃をかわしていきながら、

カメラを構え、ファインダーをのぞいて構図を整えていく。

 

(あぁ、良い表情ダ。そうそう、徹夜明けの艦娘の顔はなんとも・・・)

 

このレ級、やっぱり残念である。

阿武隈からの至近弾を受けながらも、ファインダーを通して阿武隈を見続けるレ級。

 

そして、構図が決まったのか、レ級の一眼レフのシャッターが下ろされる。

 

カッシャカッシャカッシャカッシャカッシャ

 

昼間のように1秒に10枚とはいかないものの、それでも高速でシャッターが切られていく。

 

サーチライトで照らしつつ絞りを思いっきり開いて、背景をぶっ飛ばす。

顔にピントが合い、色っぽい表情を収めつつ更に接近していく。

近づくに従って、阿武隈の顔に、疲れに加えて絶望と恐怖が浮かぶ

 

(良い。その顔貰っタ。)

 

阿武隈に最接近し、その顔をアップで撮影していく。

 

「なんで当たらないのよっ」

 

そんな阿武隈の叫びを聞きながら、後ろに回りこみ

追従するように首を動かした阿武隈を更に撮影していく。

 

(ウン、どの艦娘も見返り美人ダ!)

 

艦娘の焦りの表情、そして、焦りと疲れ、恐怖と絶望の中でも

こちらに砲撃してくるその根性。

余すところなく、レ級は撮影を続けていく。

 

ある程度撮影をしたところで、レ級はふと

(水しぶき、ほしいなぁ)と思い立った。

だが、思い出してほしい、

このレ級、武装が一切ないのだ。

カメラなどの装備を海面に投げれば、水しぶきを作れるが

カメラを投げると言う事は、このレ級にとっては轟沈のようなもの。

(どうしようか。諦メたくないナァ)

ファインダーから目を離さず、砲撃を掻い潜りつつ

どうすれば水しぶきを作れるのかと、レ級は思考を続ける。

 

ファインダー上には、こちらに砲撃を行う阿武隈が映っていた。

 

(お・・・?そうカ!砲弾、あるジャン!)

 

次の瞬間、何を思ったかこのレ級

あろうことか阿武隈の発射した砲弾を素手でつかんだのである。

そして、その勢いのまま、体を一回転させ

砲弾を阿武隈の近くに投げ返した。

 

【自分が撃てなイなら、相手の砲弾を投げ返して

 着弾の水しぶきを作ればいいじゃない!】

 

思い立った考えを、実行に移したのである。

14センチの単装砲の弾丸にレ級の腕力が加わり

阿武隈の足元に、戦艦の砲撃の様な水しぶきを作っていた。

 

(これは、キタ!シャッターチャンス!)

 

レ級のテンションは最高潮だが、阿武隈はたまったものではない。

何せ、戦艦並みの至近弾をレ級から貰っているのだ。

そして、その精度、発射速度は、自分の単装砲に匹敵する。

戦艦レ級の強大さを、身にしみて体験していた。

 

「きゃっ!嘘でしょ!?」

 

足元に着弾し、全身がズブ濡れになる阿武隈。

更には着弾の圧力で、装甲が損傷、魚雷発射管が潰れていた。

有り程に言えば、中破判定である。

その原因、足元に着弾した弾が実は自分の放った弾丸、

レ級に投げ返されたものなどとは、全く思わない。

 

そして、レ級はそんな阿武隈の姿を、食い入るように撮影していた。

 

(濡れスケ濡れスケ濡れスケ濡れスケ濡れスケ濡れスケ・・・・否っ

 肌蹴て濡れスケ肌蹴て濡れスケ肌蹴て濡れスケ肌蹴て濡れスケ)

 

呪文のように頭の中で繰り返しながら、シャッターを連続で切っていく。

何せ、思うような水しぶきを作れた上に

水も滴る良い女が構図の中心に居るのだ。

艦娘の写真を撮りたいレ級に、この状況下で興奮を抑えろと言う方が無茶である。

 

(艦娘、サいコー!)

 

レ級、魂の叫びである。

 

そして、この阿武隈撮影会は、レ級の気持ちが落ち着く0530まで続けられた。

レ級、阿武隈共に直接的な被弾なし。ただ、阿武隈は至近弾のみで大きな損傷を受けていた。

 

1時間以上、レ級に嬲られ続けた阿武隈は、トラウマを植え付けられ、

疲労困憊になりつつも、なんとか鎮守府に帰還することとなる。

 

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戦艦レ級は、阿武隈撮影の後、補給のために一旦拠点に帰還していた。

燃料を呑みながら、作業台でカメラのメンテナンス中である。

 

「いヤぁ。大量、大量」

 

そして、片手間で手元のタブレットの阿武隈写真を見返していた。

 

夜戦に挑む彼女の表情といい、発砲の態勢、こちらを睨むその眼光

そして、後半に行くに従って、疲労困憊していき恐怖が浮かぶ表情

どれをとっても魅力的な一枚である。

 

「イイね。やっぱり、艦娘は、水が似会ウ。

 あー、次はどの艦娘が撮れルかなぁ・・・」

 

レ級はある一枚の写真をマジマジと見ながら、一人呟く。

その写真はというと

 

【水しぶきの中で、中破しつつも濡れスケになりながら、

 必死に砲撃してくる阿武隈の写真】

 

 

この渾身の一枚の出来を見ながら、

にやにやと素晴らしい笑顔を見せるレ級であった。

 

 

 

 

「戦艦レ級」

深海棲艦と呼ばれる存在の中でも特に上位種に位置する艦種である。

 

数多くの艦娘を沈め、提督を苦しめている最悪の敵と言って良い。

なにせ、開幕の航空戦、そのあとの魚雷、そして砲雷撃戦、対潜戦闘と

全てにおいて高水準で纏まっている、戦船である・・・ハズ。




細かく書いていこうとすると、難しいですね。


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4 深海棲艦のレ級 2

「戦艦レ級(カメコ)」

大火力をすべて捨て去り、その身体能力を艦娘撮影に全力で使う彼女。

深海の異端児である彼女は、深海棲艦にとっては必要な情報源。

では、その戦闘力、本来だったらどの程度の物なのか。少々見てみましょう。


「戦艦レ級」

 

深海棲艦と呼ばれる存在の中でも特に上位種に位置する艦種である。

 

 

「戦艦レ級」

と呼ばれる彼女達、もとい、深海棲艦は人類側の艦娘と同じように

定期的に演習を行っている。

意外かもしれないが、深海棲艦も意識が無いわけではないし

この戦争に勝利したいと言う意識もあるのだ。

 

特に、3カ月に一回深海の大規模演習なんていうものもある

この演習は、お互いの情報共有を行ったり、お互いの不足な部分を補うため

戦闘に参加していない深海棲艦も含めて、ほとんどの艦隊が参加する。

 

 

件のレ級も、姫の命令で演習に参加するために

というのは建前で

良い艦娘の情報が無いか、探りに来ていた。

 

演習場に向かう通路をレ級が歩いていると

 

「オシサシブリ。レ級」

 

親しげに話しかけてきたのは、知り合いのヲ級である。

 

「おぉ!お久シぶり!ヲ級!どこニいってたんダ?」

 

「ドイツ。アッチニモ艦娘ガ出テキタカラ。偵察シテタ」

 

このヲ級はレ級に新造艦の話や、どこでどの艦娘を見たよ?と情報をくれる一人である。

ヲ級は格納庫からタブレットを取り出し、ドイツの艦娘の写真と動画をレ級に見せていく。

 

「コレ。ドイツノ艦娘。キンパツデスタイルイイ方ガ戦艦。

 コッチノフラットニ近イノガ重巡洋艦。

 小サイノハ駆逐艦。ニホンノ艦娘マデトハイカナイガ、錬度ハタカイ」

 

写真をめくりながら、動画を見せつつレ級に説明していくヲ級。

そこには駆逐イ級を撃破せしてめいるドイツ艦娘の姿もあった。

 

「おぉぉおおおおオオオ・・・・ドイツの艦娘いイなぁ・・・・

 なァ、ヲ級。次私モ連れて行かないカ?」

 

レ級はその写真を見て、ドイツに行きたくなったようだ。

何せ、日本にはいない金髪である。そして、そのスタイルの良さ。

どうしても自分で撮影しなければ気が済まなくなっていたのだ。

 

キラキラと目を輝かせながら返答を待つレ級に

ヲ級は一瞬考えたあと、呆れた顔でレ級に話しかける。

 

「オ前ハ連レテイケナイ。ドウセマタ、

 ニンムホッタラカシテ写真シカトラナインダロウ?」

 

「ソんなぁ・・・楽しミが」

 

がっくりと肩を落とすレ級。

そんなレ級と肩を並べながら、ヲ級は演習場に向かうのであった。

 

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「レ級、演習ノジュンビハ問題ナイカシラ」

 

「姫。問題なイよ。実弾演習とハ聞いてなかったけどモね」

 

演習の控室。

そこには深海棲艦の最上位種の飛行場姫とレ級が並んで座っていた。

人間の尺度に合わせれば上司と部下の関係である。

 

「ソウカ、ソレデハ説明ヲオコナウ

 ・・・コンカイノ相手ハ、私トオナジ姫ダ。」

 

レ級の目を見ながら、今日の演習の項目を説明していく。

 

「レ級、オマエタチノ運用データヲモトニツクラレタ

 水母棲姫ガ、今回ノ御相手ダ。

 オマエタチ、レ級ヲコエル力を持ッテイル。

 実弾デ演習ヲ行イ、性能試験ヲ行エトイウコトダガ・・・

 正直、レ級、オマエデハニガオモイ。」

 

その顔は、少しだけ、苦渋の表情をしていた。

今回の演習は、水母棲姫の性能を試すがために、レ級は捨て駒の立場なのだ。

 

深海棲艦とはいえ、感情が無いわけではない。

部下への愛情もしかりである。

この写真を撮りまくるレ級に、飛行場姫は少なからず愛着を覚えていた。

 

「オマエガ嫌ダトイウノナラ。ワタシガ出ルコトモデキル」

 

レ級は少し考えた後、タブレットを取り出し、飛行場姫に押し付ける。

 

「飛行場姫。まタ、タブレット預けておくカら感想よろしク」

 

タブレットを押しつけられ、あっけにとられた顔で

レ級を見上げる飛行場姫に更にレ級は続ける。

 

「毎日艦娘ト遊んでいるンだ。ぽっと出てきた姫に負けるわけネーヨ」

 

そんな台詞を吐きながら、レ級は演習場へと消えていった。

 

闘技場に消える前に、飛行場姫が見たレ級の姿は

いつものカメラを持った艦娘ハスハスのレ級ではなく

目から蒼い光を滾らせ、全身からは金色のオーラを噴き出す完全武装のレ級の姿であった。

 

「戦艦レ級」 

数多くの艦娘を沈め、提督を苦しめている最悪の敵と言って良い。

なにせ、開幕の航空戦、そのあとの魚雷、そして砲雷撃戦、対潜戦闘と

全てにおいて高水準で纏まっている、深海棲艦の姿、そのものであった。

 

---------------------------------------------------------

 

演習場において、水母棲姫はレ級と対峙していた。

自分のプロトタイプ、ともいえるレ級に敬意を示しつつも

ひとひねりで勝てるものと思い込んでいた。

 

≪演習。カイシ≫

 

飛行場姫の合図とともに、お互いに水面を切っていく。

演習場はお世辞にも大きいとは言えないが

最大戦速で駆けまわっても支障が無い程度の大きさである。

 

(火力モ防御力モコチラガ上。レ級ナドトイウ旧戦艦トハチガウ

 私ノチカラ、アノレ級ヲヒネリツブシテ、他ノ姫ニミセツケルノダ)

 

内心で叫びながら、水母棲姫は艦載機の全てを頭上に放ちながら、

魚雷をレ級に向けて放っていく。

レ級も負けじと艦載機を頭上に放ちながら

魚雷を水母棲姫に向けて放っていた。

タイミングは互角、だが・・・

 

(わぁオ・・・新型の姫ってのは伊達じゃないんだナ。

 艦載機の数といい、魚雷の数トいい。負けてるじゃん)

 

レ級は内心、舌を撃ちながら対空防御を張っていく。

一機一機と確実に水母棲姫の艦載機を落としていくものの

とても防ぎきれたものではない。

数機の抜けてきた艦載機から、レ級に向けて爆弾が投下される。

 

「グフッ・・・・ヤるねぇ・・・!」

 

直撃弾。

頭部と左腕に損傷を受けたレ級は、苦悶の表情を浮かべながらも

水母棲姫をずっと見据えていた。

いつもの艦娘を撮影するときの様なニヤニヤして笑みではなく

凛とした、敵を見据えて攻略していくその姿は、宛ら艦娘のようである。

 

(こちラの艦載機と魚雷は全滅。空母棲姫ニ直撃弾なシ。厳しいナぁ。

 しかも攻撃は苛烈ナり。反撃もできなさそうダナァ)

 

水母棲姫の攻撃を避けながら、状況を冷静に見ていくレ級。

なにか対策ないかなぁと考えながらも、先の阿武隈撮影会の要領で

水母棲姫が放った弾丸を、直撃する前に素手で掴み、自身の腕力を乗せ投げ返す。

 

ガンッ!という音とともに、水母棲姫の顔面に直撃した弾丸は

そのまま水母棲姫の顔面で炸裂していく。

 

『ウッフッフ……イタイワ…レ級、ソノタチバ、ワカッテナイノネェ…!』

 

顔面から血を流しながら、壮絶な表情で叫ぶ水母棲姫。

 

「効いてルじゃないか!強がりハよくないよなァ」

 

レ級は叫びながら、次々と水母棲姫の弾丸を投げ返し、顔面に当て続けていく。

その間、レ級には砲撃によるのダメージは無い物の

水母棲姫の魚雷と航空爆雷によってダメージを確実に受けていくのであった。

 

---------------------------------------------------------------

 

「スゴイデスネ。本気ノ、異端レ級ハ」

 

外から試合を見ていた、深海棲艦の誰かが呟く。

今この場には、姫級と、フラッグシップ以上の深海棲艦しかいない。

その彼女らが、あっけにとられるレベルの戦闘を、二人は続けていた。

 

「エェ。何セレ級ノ中デ唯一、<フラッグシップ改>ニ至ッタ個体デスカラ。

 ソノチカラヲ、艦娘撃破ノ為ニ、使ッテクレテイタラ

 今、コチラノ海域を闊歩スル艦娘ハ

 悉ク壊滅サセルコトガ出来テイタデショウ」

 

【異端レ級】の上司である、飛行場姫は少し誇らしげな笑みを浮かべながら

その声に答えていた。

何せ、スペック上は埋まらない差があるレ級と水母棲姫である。

誰もが、レ級がなぶり殺しにされると思っていた中

攻撃を食らいつつも、確実に水母棲姫にダメージを与える姿は、誰も想像もしていなかった。

 

「スバラシイナ、君ノ部下ハ。

 ダガ、コノママデハ殺サレルゾ」

 

その声にこたえて、他の姫が呟く。

まさにその通りである。

水母棲姫は、レ級による弾丸投げ返しが顔面に直撃しまくっているため

顔からは大量に出血しているものの、その本体や艤装には一切被害が無い。

 

対して、レ級の左腕は既に潰れ、主砲・魚雷発射管・艦載機はほぼ大破である。

残った右腕と、僅かな対空砲火で攻撃をしのいでいるだけだ。

 

「レ級ハ、コロサレルカモ、シレマセン。デスガ・・・」

 

飛行場姫は少し間を置いて

 

「意外性ト、ソノ錬度ハ改二ノ艦娘ヲモ超エマス。 

 ナンダカンダ、カッテシマウト、思イマスヨ」

 

その場の全員に対して、笑顔で言い放った。

 

--------------------------------------------------------------------

 

水母棲姫は焦っていた。

 

演習開始から1時間。未だレ級は沈まない。

艤装は大破、全身からは血が流れ、左腕ももう動いていない。

何時沈んでもおかしくないレ級が水母棲姫の目には映っていた。

 

(マダ・・マダ沈マナイノカ)

 

それどころか、満身創痍の状態であるにも関わらず、

完全にこちらの爆撃、雷撃、砲撃を避けている。

逆に水母棲姫は、弾丸を確実に投げ返され、顔面は血だらけで

右目が潰されつつあった。

 

『チョコマカト・・・沈ンデシマエ・・・ホォーラ!』

 

その焦りからか、水母棲姫はレ級に向けて一斉射撃を行っていた。

全ての主砲から、魚雷発射管から、戦闘機から、レ級を殺すために

殺意が吐き出された。

 

その威力は凄まじく、レ級の立っていた場所が余すところなく爆風に巻き込まれ

衝撃波が演習場の外野にまで届くほどである。

 

誰もがレ級の敗北、死亡を確信する程度の爆発。

もちろん、それは水母棲姫も同じであった。

 

『フフ・・・カッタワネ・・・』

 

ついに獲物を捉えた。その喜びから、勝利を確信して気を抜く水母棲姫。

これで自分の性能が証明された。水母棲姫がそう思った次の瞬間。

 

ドゴンッ

 

という、船と船がぶつかった様な音と共に、視界が暗転し

気付けば、演習場の壁に艤装と体がめり込んでいた。

 

『ナ・・・ナニガ・・・・』

 

水母棲姫は訳も分からす、壁にめり込んだまま周囲を見渡していく。

すると、元々自分が立っていた位置に、レ級が佇んでいた。

そして、レ級は、一歩一歩。水母棲姫の方に歩みを進める。

 

「ぽっと出ノ姫サマ。甘イ甘ァイ」

 

ジャブ、ジャブと、一歩一歩確実に水母棲姫の方に向かっていく

全身を自身の血で染め、左腕が捥げかけ、武装を全て潰されているはずのレ級。

だが、その全身からは金色のオーラが揺らめき、目には蒼い火が灯っている。

 

(アレ・・ハ・・・マズイ・・・)

 

レ級を迎撃しようと、体を動かそうとする水母棲姫であったが、

何をされたのか、体は一切動かない。

 

(ナニガ・・・・オキテイル・・)

 

体と艤装の状態を確認しようとしていた時

ジャブ、とレ級の足音が不意に止まる。

水母棲姫がそれに気付き、意識を眼前に向けると

目の前にオーラをはためかせたレ級が立っていた。

そして、水母棲姫に顔を近づけ、囁くように喋り始めた。

 

「甘い、甘い。艦娘はあの砲撃を食らってモ。水母棲姫様。貴方に楯突く。

 これが演習でハなく、実戦だったら、水母棲姫様は、死んデいます。」

 

『ナ・・ニ・・・ヲ」

 

「今回ハ、私で性能を試す、ということデスネ。

 ソレデアレバ。覚えておいテ下さい」

 

そして、レ級は一歩下がり、拳を握りしめて、右腕を天高く上げ

 

「慢心と油断を捨て、目を覚まして艦娘と戦え水母棲姫様ァ!」

 

叫ぶと共に、水母棲姫の顔面に拳をたたき込むのであった

 

 

≪演習終了・・・・勝者、レ級!≫

 

---------------------------------------------------------------

 

その後、レ級は緊急でドックに担ぎ込まれた。

何せ、大破判定、轟沈寸前である。

 

そして、その隣には飛行場姫が寄り添っていた。

 

「姫。勝てタよ。」

 

「御苦労、レ級。ヨクイキテ帰ッテキタナ」

 

ニヤニヤと声をかけてきたレ級に、あきれ顔で返す飛行場姫。

 

「ソレニシテモ、良クカテタナ。特ニ最後ダ。

 水母棲姫ノ一斉射撃ヲドウカワシタンダ?」

 

そう、飛行場姫ですら見抜けなかった、レ級の最後の動き。

水母棲姫の一斉射撃からの流れるような逆転劇。

飛行場姫だったら防御してやり過ごすことができるが、

レ級ではそれが出来ない。出来る装甲が無いのだ。

 

レ級はニコニコしながら、飛行場姫の質問に答える。

 

「あイツの右目を潰したんですヨ」

 

ほぅ、と飛行場姫は相槌を打つ

 

「こちらの主砲を何発カ当てたんデスが、今一つ効果がナカったんで

 水母棲姫の弾丸を右目にアテ続けて、視力を奪ってミタんダ。

 そうしたら、水母棲姫が一斉射撃してきたから、水面下に一瞬潜って

 攻撃かわしながら、水母棲姫の死角の右目の視認範囲カラ様子をうかがってタ。

 そしたら、何か油断してる用だっタから、

 最大戦速でツッコンデ、全力で殴っタだけですヨ。うまくいってよかったよかった」

 

ニコニコと、レ級は自慢するように喋っていた。

反面、飛行場姫は驚愕する。

基本的に深海棲艦は、己の力を過信して戦闘に挑む。

それ故に、自分の武装しか使わないし、叶わない相手でも正面から挑んでいく。

作戦はあれど、戦略などあったものではないし、ましてや逃げの一手なども打たない。

 

それがこのレ級はどうだ、自分の武装が効かないと判るや否や

相手の武装を利用、そして、一斉砲撃で自分が危ないと見るや

逃げの一手を打ち、そして反撃に転じると言う戦略を使って見せたのだ。

 

このレ級は、私の遥か上位の存在ではないか、という考えが飛行場姫の中に浮かんでくる。

 

「運ガヨカッタナ。マァ、貴様ハヨクヤッタ。コノ演習ノ結果ニヨリ

 ヨリ強力トナッタ水母棲姫ガ戦場ニ出ル。今ハ休メ」

 

・・・とはいえ、この馬鹿な部下は、生き残ってくれたのだ。

ひとまずは、ねぎらいの言葉でもかけておこうか。

そう納得し、飛行場姫はこの場を後にするのであった。

 

なお、余談ではあるが、飛行場姫のお気に入りの写真は、先の夜戦で撮影した、

阿武隈濡れスケ写真だったようだ。

 

 

--------------------------------------------------------------------

 

「無茶シたなぁ。

 姫ももうちょっト早く実弾演習って言ってクれてればよかったのニ・・・・」

 

レ級は飛行場姫が去ったあと、自身の動かない左腕を見ながら一人ぼやいていた。

何せ、暫くは艦娘の写真撮影に、支障が出るのである。

いくらレ級とはいえ、片手で一眼レフを構えて「ブレ」ない写真を撮るのは難しい。

 

「うーん・・・仕方ナい、暫くハ・・・っと・・・」

 

ごそごそと、格納庫からあるものを取り出すレ級

 

「コノ、ミラーレスの一眼レフで我慢するカァ・・・手ぶれ補正強力ダシ」

 

ハァ、とため息を出すレ級の手元では

『一切ブレのない、右目を潰され、

 血を流しながらも一斉砲撃する水母棲姫の写真』が

ミラーレス一眼カメラのディスプレイに表示されていた。

 

そう、このレ級、あの実弾演習の中でも撮影してたのである。

その数たるや、数枚というレベルではない。

撮影した水母棲姫の写真を次々と眺めながら、

 

「ソレニシテモ・・・水母棲姫も良イ顔してるなァ。

 そういえば、姫様達の戦闘風景って、撮影したコト、ナイナァ」

 

ニヤニヤと笑いながら、一人、ドックで呟くレ級であった。




妄想、滾りました。


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5 少し昔のお話

レ級。(カメコ)

レ級の戦闘でも壊れず、海に出しても壊れず。

そのカメラは、一体、どこの誰が作ったものなのでしょう。



横須賀鎮守府、提督の職務室。

大淀、と呼ばれる艦娘が、手元にある資料を見ながら報告を行っていた。

 

≪各鎮守府近海に、戦艦レ級の遭遇報告あり

 幸いにも轟沈は一隻も出てはいないが

 先の会敵において、呉の阿武隈が大破された。

 今後、これ以上の損害を被る可能性もある。

 各鎮守府共に、警戒を厳とし、報告を密にせよ≫

 

 

「大本営からの通達は以上です。」

 

提督は椅子に腰かけながら、大淀に返答を返す。

 

「ふむ。レ級か。厄介な相手が近海に出現するようになったものだな。

 諒了解した。大本営にはそう伝えておいてくれ。」

 

それを聞いた大淀は、

 

「判りました。それではそのように。」

 

一礼を提督に行うと、そのまま提督室を後にしていった。

残されたのは、横須賀鎮守府の提督と秘書官である大和の2人。

少しの沈黙のあと、大和が口を開く。

 

「提督。やはり、レ級というのはあのレ級のことでしょうか・・・?」

 

「おそらくそうだろう。」

 

2人はため息を付きながら、当時のことを思い出していた。

----------------------------------------------------------------------

 

1年以上前のことである。

当時、そこそこの中堅となっていた提督は、

護衛対象であるタンカーに直接乗り込んで指揮を執っていた。

 

本来は陸路の運搬も考えられたが、時折本土に深海からの爆撃機が現れるため

それであればと、常に艦娘が護衛できる海での輸送を大本営は選んだ形だ。

 

護衛の艦隊と言えば、当時から秘書官であった、大和が旗艦を務め

隷下に武蔵、赤城、加賀、島風、雪風という深海棲艦の寝床を叩ける編成。

横須賀鎮守府の攻略部隊を護衛に着けるほど、重要な任務であった。

 

護衛対象であるタンカーには、パソコンやインターネット接続機器

無線設備等々の電子機器が満載に積まれている。

 

その中でも特に目立つのが、艦娘用の装備として開発された

「デジタル一眼レフ」と「タブレット」である。

これらは、艦娘の「装備」として扱われるため戦闘中でも壊れにくく

鋼材と燃料があれば、いくらでも修復できるすぐれものであった。

 

更に、デジタルカメラであるため、最前線の艦娘が撮影した状況などを

WiFIなどの無線技術を通して鎮守府や、他の艦娘と共有することが可能になる。

 

今回はその実地試験品を横須賀に運び運用することが主任務である。

 

内訳は、一眼レフ本体、ストロボ、レンズを各7台、動画撮影用のカメラを1台に

夜戦用の大型サーチライトを4台、それらをまとめる情報端末としてタブレットを2台。

 

これらの撮影装備を用いてより手広く、かつ迅速な情報共有システムを構築するのため

実際に物品を使用した戦術と作戦の立案を、提督は任されていた。

 

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呉から物資を受け取り、横須賀までの物資の運搬任務。

今のところは深海棲艦からの攻撃はなく、海そのものも静かなものだ。

護衛対象であるタンカーは精密部品を大量に搭載しているため、

ゆっくりゆっくりと横須賀へと歩みを進めていた。

 

そんなタンカーの司令室の椅子に座りながら、提督は大和達に通信を入れていた。

 

「あと2時間ほどで横須賀だ。

 今回のこの輸送任務が成功すれば、お前達艦娘達の負担を

 少しでも減らせるはずだ。あともう少し、気合入れてがんばってくれよ」

 

「「「「了解です!(けどタンカーおっそーい!)」」」

 

全員の士気を感じとれる返答を聞いた提督は、少し安堵の表情を浮かべていた。

自分の自慢の艦娘に守られているという安心感からだ。

そして、あともう2時間航行を続ければ自分の鎮守府である。

海域で言えば「南西諸島沖」から、「鎮守府正面海域」に入るところだ。

 

(いくら深海が出ても、この海域では軽巡洋艦がいいところだろう。

 それに今回は我が鎮守府きっての高錬度主力艦隊。

 まず、失敗はしないだろう)

 

この提督はそう考えつつも、慢心はしない。

その手元には、海図を開き、不意の敵襲に備えていた。

 

(深海棲艦は、鎮守府正面海域にある島影に隠れているかもしれないな。

 あぁ、あと対潜も厳としておかなければ)

 

そして、考えがまとまったところで、通信を再度入れる。

 

「そろそろ「鎮守府正面海域」に入る。

 各員、対潜、対水上戦闘に備えよ。

 鎮守府までの道中、最後の海域だ。より警戒を厳とせよ」

 

「「「「了解!(おっそーいー!)」」」」

 

島風の余計なひと言が聞こえるが、無視して計器と海図を睨む。

 

(本当に、何も無ければ良いのだがな)

 

若干の不安を抱える提督と、大和を旗艦とした護衛船団は

タンカーと共に「鎮守府正面海域」へと入っていく。

 

そして、その異変に気がついたのは、武蔵であった。

 

「ん・・・?」

 

そんな呟きと共に、武蔵はタンカーの後方の空を見る。

見事な快晴。雲ひとつないその空の中に、高速で飛来する弾丸を発見したのだ。

 

「なっ・・・!?回避運動!砲撃だ!」

 

武蔵の怒号の様な叫びに、全員が反応し、回避行動をとっていく。

だが、それをあざ笑うかのように

 

「きゃぁっ!誘爆を防いで!!・・・飛行甲板がぁ・・・」

 

「飛行甲板に直撃。そんな……馬鹿な。」

 

「ぎっ・・・・この私がやられるなん・・て・・・」

 

赤城と加賀、そして島風に直撃弾。

その被害たるや、赤城と加賀は飛行甲板大破。

幸いにも主機に被害は無く、弾薬や燃料に誘爆はしていないものの、

これでは艦載機はもう飛ばせないであろう。

島風に関しては、大破である。

一撃のもとに魚雷発射管と主砲、そして主機が潰されている。

沈みはしていないが、早い処ドックに入らないとまずい損傷だ。

 

そして、その状況をタンカーから見ていた提督は命令を飛ばす。

 

「大和と武蔵は現状確認を最優先。敵の位置を把握しろ!

 発見次第46センチ砲を叩きこめ!

 同時に雪風は、対潜警戒準備!

 赤城と加賀は島風を曳航して海域を離脱。鎮守府に応援を要請しろ!」

 

「「「「了解!」」」

 

赤城と加賀は火災を鎮火させつつ、動けない島風を連れて

最大戦速で海域を離脱し、鎮守府に駆けていく。

提督はそれを見届けると同時に、砲撃が飛んできた方角を睨みながら

現状把握を続ける。

 

(大和と武蔵の電探にも、赤城と加賀の警戒機にも引っかからない敵か。

 あの砲撃の精度と威力。最低でもフラッグシップの戦艦か)

 

慢心せずに作戦を立てていたのに、相手はその上をいくのか、と。

ギリ、と唇を噛みながらも現状把握を続けていた。

そして直後、提督は信じられないものを目にし、絶句する。

 

「うそだろ・・・」

 

提督の目に映ったもの、それは

腹に爆弾を抱えた、大量の深海棲艦の艦載機である。

少なくともその数は100を超え、赤城と加賀の空母をを失った艦隊では

どうあがいても対処が出来ない数であった。

 

大和と武蔵、そして雪風も提督と同じものを見ていた。

 

「何、あの数・・・」

 

「敵ながら、なかなかにやる・・・」

 

「あの数は、無理ではないでしょうか・・・・」

 

三者三様にブツブツと呟きながら、固まっていた。

一瞬で赤城・加賀・島風の3隻が大破撤退、

残った大和・武蔵・雪風の3隻の頭上には、高速で飛来する艦載機。

この状況下で、固まらない方が無理である。

 

艦娘が固まる中、提督は自分の顔を殴り思考を無理やり再開させる。

そして、固まっていた艦娘達に、激を飛ばしていた。

 

「あきらめるな!護衛対象は未だ健在だぞ!

 大和、武蔵、雪風!!回避運動!対空砲火ァ!」

 

その声にハッとして、対空砲火を行いつつ回避運動を行う大和達

 

だが無情にも、その姿は艦載機の爆撃により見えなくなっていくのであった。

------------------------------------------------------------------

 

『サァて、どうなったかなーと。』

 

レ級は艦載機を戻しながら、鎮守府正面海域を悠々と進軍していた。

 

今回の任務は、飛行場姫から命じられたタンカー奪取。

姫からは、「人間側がなにか面白いものを作っているから奪取しよう」という

突拍子もない話であったため、実のところレ級はほうっておくつもりだった。

だが、その話を裏付けるように横須賀の主力艦隊がタンカーを護衛していたため

最も艦隊が消耗し、気を抜くタイミングを見てレ級が攻撃を仕掛けたのだ。

 

つまり、重要任務のために艦娘を揃えたことが仇となり

レ級という化け物を鎮守府正面海域に呼び寄せてしまったのである。

 

艦載機を戻し終わったレ級は、目標であるタンカーを目指して速力を上げていく。

 

(飛ばした艦載機の180機中170機生存だったシなぁ。

 これ、艦娘ハ全員大破シテるんじゃないカ)

 

そんなことを思いながら、更に接近していくと

ボロボロになった艦娘達と、タンカーの上から銃を向けてくる人間達が見えてきた。

 

同時に、パァンという音と共に、レ級の顔面に弾丸が突き刺さる。

その衝撃でバランスを崩すものの、意に介さずレ級は歩を進めていく。

「効いてないぞ!」「化け物か」「もっと強力な武器を!」

などという声と共に、マシンガンやらRPGをどんどん放ってくる人間。

 

最初のうちは気にしていなかったレ級であるが

人間からの貰う弾丸が増えるに従って、徐々にレ級の顔が曇っていく。

通常の弾丸や火薬ではレ級にはダメージは無いが、

パシパシやられると非常にうざいのである。

 

『うルさいな。・・・・副砲。徹甲弾。装填ヨろし。 て!』

 

無造作にレ級は副砲でタンカーを狙い打つ。

ドゴォ!という音と共に、タンカーの艦橋は大破、炎上していた。

 

『イツでも沈メられるんダ。静かに、してイろ』

 

レ級がそう叫ぶと、先程までの銃撃が嘘のように止まったのであった。

そして、タンカーの直下まで来たところで、レ級は艦娘の状態を確認していく。

巨大な砲塔を背負った2人は、主砲、副砲、対空砲座大破。

小さな砲を持った1人は、主砲、副砲、対空砲座、魚雷発射管大破。そして気絶。

護衛船団は壊滅状態である。

 

(我ながラ。見事ダなぁ・・・

 どれ、邪魔者もいないし、タンカーを持って帰るとするかナぁ)

 

甲板上の人間と、艦隊娘をぐるり、と見渡すと

レ級は主砲をタンカーに向けこう言い放った。

 

『おぉ。人間の諸君!弾丸デノお出迎エ。御苦労!さぁさっさト脱出したまえよ!

 タンカーくれれば、人間も、艦娘も、命まではとらないカラさぁ!』

 

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その後、提督とタンカーの乗務員は脱出艇に乗せられ無事に生還。

大和、武蔵、雪風も、鎮守府からの増援により無事救出されていた。

 

だが、レ級により護衛対象であるタンカーが奪取された。

何より、積み荷の最新鋭の戦術システムがまるっと奪取されるという

人類と艦娘に大打撃を与えた一件である。

 

「我が艦隊の、主力艦隊が大破せしめられたあのレ級・・・

 他の鎮守府にも被害を与えていたとはな」

 

改めて当時を思い出しながら、レ級の存在を思い出していた。

 

「ええ、あの時の、爆撃の痛みは未だに忘れられません・・・・

 あのレ級がまだ近海に居るなんて・・・」

 

伏し目がちに言う大和。何せ大和単体で、80機ほどの艦載機から爆撃を受け、大破したのだ。

普通だったらトラウマになるところを持ちこたえたのは、流石戦艦大和というところか。

そんな大和を見ながら、

 

「ま、言っても仕方ない。俺達のやることは変わらないさ。

 何より、当時より錬度も装備も充実している。

 最新鋭の戦術システムもなんとか構築も出来た。

 気を抜かずに、何時でも対処できるようにしていれば、勝機はあるさ。

 ・・・・ただ、装備品として認識されるカメラ。

 あれだけは特注品だったらしく、同じものがない。

 カメラはあるが、装備品として認識されるカメラは、盗られた物だけだ。それだけが悔やまれる。」

 

「えぇ、最深部の深海棲艦の鮮明な画像を共有できれば、もっと戦術的にも楽になるのですけど。

 普通のカメラだと、最深部突入の頃にはどうしても壊れてしまいますからね・・・。

 ですが、そのレ級にやられっぱなしというのは大和として、横須賀の艦娘として納得いきません」

 

「それは私も同じだよ。大和。横須賀鎮守府を預かる提督として、やられっぱなしは癪に障る。

 次に出会ったときは、やり返すぞ」

 

提督と大和はため息をつきつつも、レ級に対してリベンジを誓うのであった。

 

 

-------------------------------------------------------------------

 

「ウェックシ!・・・・・ドックの水、冷タい」

 

くしゃみをしつつ、演習場のドックでタブレットをいじるレ級。

もちろん、艦娘の写真を見るためである。

 

「そうイえば、姫の命令デ、タンカー持って帰ってきテからダっけ、

 写真撮り始めタの」

 

忘れもしないあの日。

タンカーを奪取して中身を少しみてみたところ

「装備」として認識されるカメラがあったのだ。

珍しいもんもあるんだなぁ。と思ったレ級は早速装備をして、

タンカーを動かす前に、甲板上から艦娘写真を撮っていたのだ。

 

「手に伝わル、シャッターの感触にホレたんだッケなぁ。

 撮ることヲ意識シテなカったシ・・・今と比べチャうと、構図とか全然ダメだナぁ」

 

 

最初の一枚「大破した大和と武蔵」を見ながら、

苦笑を浮かべ、一人呟くレ級であった。




妄想捗りました。レ級さんは昔は真面目だったんです。多分。


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6 第三回 怪我の巧妙

「戦艦レ級(カメコ)」

大火力をすべて捨て去り、その身体能力を艦娘撮影に全力で使う彼女。

今日の撮影はサイレントに行うようです。


「戦艦レ級」

 

深海棲艦と呼ばれる存在の中でも特に上位種に位置する艦種である。

 

数多くの艦娘を沈め、提督を苦しめている最悪の敵と言って良い。

なにせ、開幕の航空戦、そのあとの魚雷、そして砲雷撃戦、対潜戦闘と

全てにおいて高水準に纏まっている深海棲艦だ。

 

そんな戦艦レ級と、艦娘達が本気で戦闘を繰り広げている海域がある。

 

 

南方海域の奥地にあるその場所は、大本営の戦力分析により

ほぼすべてがフラッグシップで構成され、

姫や最上位深海棲艦である、「戦艦レ級」が存在し

「深海棲艦の本拠地の一つ」とも言っていい場所であることが確認されている海域である。

 

それ故に、艦娘とそれを率いる提督は

「特殊攻略作戦」と呼ばれる作戦を大本営に打電し、

承認を受けて初めて足を踏み入れることが出来る。

 

今のところ許可を受けたことのある鎮守府は

横須賀、呉、佐世保、舞鶴の4か所のみである。

 

編成は空母を組み込んだ空母機動艦隊から、

戦艦と重巡、駆逐艦で構成された水上打撃部隊

潜水艦を主体とした雷撃部隊などなど、多岐に渡る。

そして今日も、一つの艦隊がその「地獄」とも言える海域に出撃していく。

 

天気は晴天。しかしながら、海は荒れていた。

 

「天気晴朗なれど波高し」

-----天気が良いので視界は良好射撃がし易い、

波は高くても訓練を積んでいるので艦が揺れても命中率は高い、勝利疑いなし---

 

勇気と希望を胸の内に秘める艦娘達は、少しでも深海棲艦の戦力を削ぎ、

人間と海の平和を得るために「特殊攻略作戦」に出撃していくのである。

 

 

-------------------------------------------------------

さて、そんな艦娘を、追いかける一つの影があった。

身を低くし、荒れている波間の間に身を潜めつつ艦娘に近づくその影。

 

ミラーレスの一眼カメラ、レンズは14-150ミリ(フルサイズ換算28-300ミリ)を片手に携え

パーカーとビキニだけを装備している妙な影である。

 

戦艦レ級(艤装修理中)である。

 

左手を先の実弾演習で潰され、体にも艤装にも大破判定の攻撃を貰ったレ級。

左手は軽く動くようになったものの、今現在でも、ダメージはしっかりと残っていた。

有体に言えば、体は中破判定、艤装に至っては未修理のままである。

 

今、この場に居るのは、タブレットに保管している写真を見るうちに気持ちが疼いてしまい、

傷も癒えぬまま艦娘の写真を撮りに来ているのためである。

 

 

「天気晴朗ナれどモ波高シ、って具合だナぁ。マ、見つかり難いからアリガたイけど。」

 

天気が良いので視界は良好観察と追尾がし易い、

波は高くても訓練を積んでいるので艦が揺れても写真は撮れる。

そして、うまいことその波に隠れながらの撮影もできる程度の錬度はある。

 

「最高のシチュエーション、疑いナし、ってナ!」

 

久しぶりの撮影に、人類の名言を勝手に改変するほど、

テンションが上がりきったレ級である。

ただ、いつものように突撃はしない。なにせ中破状態である。

波間に体を隠しながら、撮影の準備をしていく。

完全に動く右手でカメラを構え、動きにくい左手はレンズのズームリングに

そして、ファインダーを覗きながら荒海を進む艦娘達を捉えていく。

 

 

カシャシャシャシャシャシャシャシャシャ

 

ミラーレス一眼カメラの軽いシャッター音が周囲に響くと共に、

広角から望遠まで、あますところなく、艦娘の美しい姿が記録されていく。

 

6人の艦娘が、美しい隊列を組んで進軍していく様

艦載機を飛ばし、周囲警戒にあたる空母の凛とした表情

波しぶきを受けつつも、気を抜かずに進軍する戦艦の美しい姿。

 

カシャシャシャシャシャシャシャシャ

 

通信をするために、通信機に手を当てながら喋るその口元。

海風によってなびいた髪、ちらりと見えるうなじ

そして、時折互いに報告をするために近づき、会話を交わす艦娘達

 

負傷しているはずの左手を器用に操りながら、波間の隙間から確実に写真を撮っていく。

黒いパーカーを来て俊敏に、隠密に動く姿は傍から見るとゴキブリのようである。

 

(艦娘の日常風景ってノもオツだナぁ。いつもの砲撃シーンも捨て難いケど

 時々にはこういウ、戦闘以外ノ艦娘を撮影シてもいいのかモ)

 

シャッターを切りながら、レ級はそんなことを思っていた。

それもそうである。

なるべく近くで艦娘を撮影したいがために、いつもならば艦娘に突撃していくレ級。

そんなレ級に対して、当然、艦娘は迎撃を行い、撃退しようとする。

その時に撮影できるのは、以前の金剛や阿武隈の様な、戦闘中の写真である。

砲がこちらを向き、撃滅しようとする表情の艦娘も魅力的ではあるが・・・

 

(迫力ハつっこんで撮影した写真の方が上だケど・・・・

 こウいう、敵とマだ接触しテない写真もまた何とも言えない魅力がアるなァ)

 

日常回、ともいえるシチュエーションに、レ級は魅力を感じ始めていた。

もちろん、姿勢低く、隠れつつ、ファインダーを覗き、シャッターは切りながらだ。

 

(ウーん。次からこういう写真も狙って撮ってみようかなぁ・・・)

 

新たなシチュエーションを考えていたレ級。

ま、今考えても仕方ない、とりあえずは写真を撮るかと

艦娘に意識を集中した時に、遠くに赤いオーラの深海棲艦がいることに気づく。

 

(あァ、もうそロそろ、南方棲戦姫様の隷下の艦隊が出てくる海域だッタか)

 

良く目を凝らして見てみると、遠くには赤いオーラを纏った戦艦レ級(完全武装)の姿。

その周囲には、隷下のフラッグシップ艦隊が、艦娘を待ち構えていた。

艦娘もその姿を確認し、艦載機を飛ばし、主砲の照準を向けていく。

 

そして、思う存分艦娘の姿を写真に収めたレ級は、

カメラを格納庫に仕舞い、進路を拠点に向けていた。

 

(本当なラ戦闘風景を撮影したイ所だケど・・・アノ戦闘狂のレ級に、

「艦娘トノ戦闘ノ邪魔スルナ馬鹿ヤロウ!」とか言われそうだシ。) 

 

チラリ、と赤いオーラの戦艦レ級を見つつ、

レ級(カメコ)は戦闘に巻き込まれないように、そそくさと海域を後にするのであった。

 

-------------------------------------------------------------------

 

 

いつものように拠点に帰って来たレ級。

 

だが、そこにはいつもと違う事が一つだけあった。

上司である「飛行場姫」が般若の表情で立っていたのだ。

 

「モウシヒラキハ?」

 

仁王立ちで立っている般若の飛行場姫。

そう、このレ級、本来は完治までドックにいなければいけないところを

脱走してまで艦娘の写真を撮っていたのだ。

 

飛行場姫が激怒するのも仕方が無いことである。

 

そして、その正面で正座しながら反省しているレ級。

少し沈黙していたが、ぱっと顔を上げ、ニコッとした表情を飛行場姫に向け

 

「写真が撮りたかった。後悔はシていないヨ」

 

あっけらかんに言い放ったのである。

 

「ワカッタ。デハ・・・・ミナゾコニシズメ、コノ愚カ者ガ!」

 

飛行場姫は正座しているレ級の頭を掴み、強く床にたたきつける。

流石のレ級でも、飛行場姫の全力の一撃には耐えられず

レ級の頭部からは血が飛び散り、その体が動く様子は無い。

 

「フン、オマエノ怪我ガ完治スルマデ、私ノ拠点ノドッグデ拘束ダ

 無論、写真モカメラモ禁止ダ。タブレットモ取リ上ゲル」

 

そんなことをいいつつ、血まみれのレ級の頭を持ち、自身の拠点へと引きずっていく

 

(あァー・・・姫様の般若顔、写真ニ収めたかったなァ。

    デモ、写真禁止はヤりすギです姫様・・・のーふぉと、のーらいふ。)

 

レ級はそんなことを考えながら、ズルズルと、おとなしく引き摺られていくのであった。

 




妄想捗りました。


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7 深海棲艦のレ級 3

「戦艦レ級(カメコ)」

大火力をすべて捨て去り、その身体能力を艦娘撮影に全力で使う彼女。

その彼女、意外と誇り高きレ級なのかもしれません。


「戦艦レ級」

 

深海棲艦と呼ばれる存在の中でも特に上位種に位置する艦種である。

 

数多くの艦娘を沈め、提督を苦しめている最悪の敵と言って良い。

なにせ、開幕の航空戦、そのあとの魚雷、そして砲雷撃戦、対潜戦闘と

全てにおいて高水準に纏まっている深海棲艦だ。

 

そんな最悪の敵「戦艦レ級」の中でも、特に異端と呼ばれるレ級が1隻存在している。

ご存知、体の両脇に6つのカメラを携え、大型のサーチライトを搭載し

艦載機のスペースにはカメラ用品ガン積みの、非武装であり、カメ子のレ級だ。

 

人間と艦娘からは、「鎮守府近海まで現れ、確実に被害を出していく最悪の敵」、

深海棲艦からは、「頭が(変な方向に)ぶっ飛んでる高性能で残念なレ級」と

彼女の評価は敵、味方からと見境なく高い。

 

 

だが、ここに1人、ちょっと違う評価を下す人間が一人存在していた。

その人間は、深海棲艦の攻撃により沈められたタンカーに

航海士として乗っていた人間で、つい先日救助された。

仮に「A」と呼ぶことにする。

 

「A」からのカメ子のレ級の評価は「仁義を守るレ級」。

なぜそのような評価に至ったか。

それは、つい先日、物資輸送任務においての出来事がきっかけである。

 

---------------------------------------------------------------

 

「A」は、物資輸送任務のタンカーに乗っていた只の人間で

海外から国内へと重油を運ぶのが彼の日課である。

 

深海からの化け物が人類のシーレーンを潰してから

最も危険な仕事の一つとなっていた。

何せ、ヘタをすると、深海からの化け物に殺されるかもしれない。

だが、そんな仕事に「A」は、

「自分が人のために役立っている」

「自分の運ぶ物資が、国の明日のための糧となっている」

そんな気持ちから、誇りとやりがいを感じていた。

 

そして今日も、駆逐艦の艦娘4人の護衛をつけたタンカーは

駆逐級や軽巡級、偵察機や潜水艦といった

深海の化け物と遭遇しながらも、いつものように横須賀に到着する。

艦娘が護衛に付いていれば、タンカーが損傷することはあっても

轟沈することはない。

 

そのはずであった。

 

だが、その日に限って、襲ってきた敵の中に戦艦ル級と空母ヲ級がいたのだ。

艦娘はそれに気づき、援軍要請を打ちつつ、全力で戦闘をしたものの

やはり戦艦と駆逐艦では戦力差は歴然であった。

結果として護衛艦隊は全滅。そして、タンカーもヲ級の艦載機の爆撃を受け、轟沈。

 

「A」はそれを呆然と見ていることしか出来なかった。

 

すさまじい爆炎の中、タンカーの搭乗員はなんとか生き残ろうともがく。

救命ボートに乗り込む者、浮き輪を落とし、自らも海面に飛び込む者。

だが、追い打ちを掛けるように、深海の化け物の砲弾が、

艦載機からの爆撃が続いていく。

そして気づけば、タンカーの残骸にしがみつき、ただ一人

深海棲艦が闊歩する大海原に取り残されていたのである。

 

(これは絶望だな・・・)

 

残骸にしがみつきながら、「A」はただ一人大海原を漂っていた。

なにせ、着の身着のまま必死に生きようともがいていたのだ。

通信機器も、発煙筒も、何も持っては居ない。

 

目の前に映るのは、燃え盛るタンカーの残骸と艦娘の艤装の残骸。

そして、静かに近寄る深海棲艦達のみであった。

 

----------------------------------------------------------

 

戦艦ル級は、この護衛船団を徹底的に潰すつもりであった。

自分の隷下の駆逐艦隊が、艦娘に何度も避けられていたのである。

そして、目論見は見事に成功。艦娘は全て沈み、タンカーも轟沈である。

 

ジャブジャブ、と深海棲艦がタンカーの残骸の中を闊歩していく。

戦艦ル級エリートを筆頭に、空母ヲ級が2隻追従する形だ。

 

燃え盛る火の中を往く深海棲艦は、さながら地獄の業火の中を往く怨念のようである。

 

『艦娘ハ全テ轟沈ヲ確認。』

 

ル級は一人つぶやき、艦娘であった残骸を踏みつける。

 

『他愛モナイ。コノヨウナ雑魚ニ、我々ノ駆逐隊ハ撤退ヲ余儀ナクサレテイタノカ』

 

グシャ、と踏みつけていた足に力を込め、完全に艦娘を破壊する。

満足気な笑みを浮かべたル級は、更に周囲を見渡していく。

 

『ツイデ、ダ。人間ノ生存者ヲ探セ』

 

ヲ級に命令を下し、偵察機を飛ばさせるル級。

ル級自身も周囲を見渡し、生存者を探していく。

 

『・・・・見ツケタ』

 

ヲ級の一人が、ぼそりとつぶやく。

 

『北西ニ100メートル。残骸ニツカマッテイル人間ヲ発見』

 

ヲ級はル級に、詳しく場所を伝えていく。

それを聞き、にやりと口角を上げるル級。

 

『了解シタ。ヲ級、オ前達ハ攻撃ハ加エルナ。私ガ直々ニ殺ス』

 

ル級はヲ級に言い放ち、生存している人間の元に向かっていった。

そう、ル級は艦娘に何度も部下を蹴散らされた

「憂さ晴らし」のために生存者を探していたのである

 

----------------------------------------------------------

 

「A」は、近づいてくる深海棲艦を、呆然と見ていることしか出来なかった。

 

その姿は、タンカーの残骸に燃え盛る炎と相まって

「A」を迎えに、地獄から来た死神としか見えない。

 

そして、その姿が近づいてくるにつて、深海棲艦の表情も顕となってくる。

「ひっ・・・・・」

表情が見えた瞬間、思わず「A」は小さく悲鳴を上げる。

口角を上げ、獰猛な獣を思わせる表情。

そして、その目は一直線にこちらを射抜いていた。

 

(あぁ、俺は今日、死ぬのか)

 

「A」にそう思わせるほどの壮絶な笑み。

そして、「A」の目の前にたったル級は、おもむろに腕を上げ

「A」の頭をつかみ、持ち上げていく。

 

『人間風情ガ、海ヲ往クナド傲慢モヨイトコロダ

 ソノ思イ上ガリ、ソノ身ヲモッテ、後悔サセテヤロウ』

 

ル級はそう囁き、「A」の頭を持っている手に、力を込めていく。

ギリギリ、と、戦艦の馬力で頭を圧迫され

「あがああ・・・」と言葉にならない叫びを上げていく。

 

『フハハ、脆弱スギルゾ人間。ソノ程度ノチカラデ我等ニ楯突コウナド・・・!

 コノ海ノ藻屑トナルガイイ』

 

この程度の弱い生物と艦娘に、自分の艦隊が良いように掻き回されていたことに

怒りを覚えていくル級。そして、止めをさそうと、手に一層力を入れていく。

 

メキメキメキ、と「A」の頭が嫌な音を立て、

痛みで意識が暗転しそうになった時である。

 

「フザケたこと、シてるんじゃネーヨ。深海棲艦の面汚シが」

 

そんな叫びとともに、ドゴンと音が響き男は海面に投げ出された。

何事かと、男は痛む頭を抑えつつ周囲を見渡すと、吹き飛ばされ海面に倒れるル級と

この海域ではあまり見ない、パーカー姿と巨大な尾が特徴的な深海棲艦、「戦艦レ級」

が右手を前に出した形で静止していた。

 

 

何が起きたかといえば、レ級が人間を殺そうとしていたル級を、ぶん殴って

ふっ飛ばしたのである。

 

-------------------------------------------------------------------

 

戦艦レ級は、いつものように艦娘の艦隊に突撃し、美しい艦娘を撮影していた。

迫力のある写真や、美しい艦娘の表情、艦隊の美しい一斉射の写真を

ひとしきり収めたレ級は、燃料補給と写真の整理を兼ねて帰路へとついていた。

 

「今日のフソウは良かったナぁ。いつモと格好変わってたシ。」

 

タブレットを指でいじくりながら、今日のベスト写真である「扶桑改二」の写真を見ていた。

そんな時、遠くで砲撃音と爆撃音が響き、思わずレ級は足を止めた。

記憶の中で、通常通るはずの艦娘の種類と航路、そして深海側の作戦を思い出していく。

 

(お?戦闘ノ音カ?デモ、あの音ハ、戦艦級の砲撃音ダヨな・・・。

 オカシイナ。今日は私達も艦娘モ駆逐級ぐらいしかデテないハズナンだけどナぁ)

 

首をかしげながら悩むレ級。

レ級が写真を撮るために覚えた知識は、本物である。

なにせ、その記憶が間違っていれば、写真が一枚も取れないのだ。

死活問題にあたるため、日々、最新の情報を仕入れ、研究しているのである。

 

そのレ級を持ってしても、一切記憶に引っかからない戦艦の砲撃音。

んー?と悩んでいたレ級であるが、

 

(もしかして、新たな艦娘がこっちに出てキた・・!?)

 

ハッとした顔で、砲撃音のした方を向くレ級。

 

(これは行くシかない。燃料は・・・モツな!

 いよぉし!新しい艦隊の写真が待っているのダ。速力全開!)

 

レ級は、最大戦で砲撃音と爆撃音が聞こえてきた海域に向かいながら

流れるような動作で、一眼レフを手元に引っ張り出していく。

その顔は、新しいシャッターチャンスを見つけてか、ニッコニコである。

 

(誰かなァ。見たことのアる艦娘かなぁ・・・・?)

 

ワクワクとしながら進むレ級、だが、その目に写ったものは、

壊滅した艦娘達の残骸と、大破、轟沈したタンカーの残骸。

そして、負傷した人間の頭を掴み、持ち上げている戦艦ル級と、

後方に控える二隻のヲ級の姿であった。

 

(・・・・何だこりゃ、もう戦闘おわってたのカ。)

 

周囲を見れば、タンカーと思わしき物の残骸に火がともり

宛ら地獄のようである。

 

(艦娘も轟沈しているシ・・・こりゃあいても仕方ナいなぁ)

 

せっかく良い写真でもとれるかと思ったのに、と

そう思いつつ、レ級が海域を後にしようとしたときである。

 

『フハハ、脆弱スギルゾ人間。ソノ程度ノチカラデ我等ニ楯突コウナド・・・!

 コノ海ノ藻屑トナルガイイ』

 

ル級が、人間の頭を潰そうと力を込め始めたのだ。

 

それを見たレ級は、変貌する。

表情は、般若の如き怒りの顔に。

全身からは金色のオーラが吹き出し、目からは蒼い炎を滾らせる。

そしてカメラをホルスターに仕舞い、速度を最大まで上げながらル級に突っ込んでいった。

 

「フザケたこと、シてるんじゃネーヨ。深海棲艦の面汚シが」

 

叫ぶとともに、人間を殺そうとしたル級を拳でぶっ飛ばす。

ル級はレ級の拳をまともに食らい、顔面から血を吹き出しながら

ボロ雑巾の様に海面を勢いよく転がっていく。

タンカーの残骸に当たり、なんとか勢いが殺され止まったル級であるが

その体はピクリとも動かない。

その意識は、レ級の一撃で刈り取られていたのである。

 

あっけにとられる人間を尻眼に、レ級は更に叫ぶ。

 

「お前らさァ。船を失った者ハ、敵でも味方でモ助けルのが海で戦うモノの

 誇りってモンだロうが」

 

倒れ伏したル級と、立ち尽くすヲ級を見渡しながら、レ級は叫ぶ。

 

レ級にとって敵とは、あくまでも戦意のある者

そして、船を失っていないものだけなのだ。

 

---船を失った者については、敵味方関係なく、救助を行う---

 

それが、このレ級の一番の根っこである。

実は、他の深海棲艦にも通じる部分で、それ故に、大破撤退した艦娘は追わないし

船を失った人間も殺さない。

 

「そシてヲ級。お前らラも、船乗りトシテの誇りを汚シた責任。取ってもラウぞ」

 

レ級は叫びながら、呆然としていたヲ級に殴りかかっていく。

ヲ級はそんなレ級のオーラと眼光に魅入られ動くことができない。

 

「沈メ、面汚シ!」

 

ドゴン、ドゴンと、2隻のヲ級の顔面をレ級の拳が捉えていく。

ル級を一発で行動不能に持ち込んだ拳を、ヲ級が耐えきれるわけもなく

ヲ級は顔面から血を吹き出しながら海面を転がっていった。

 

----------------------------------------------------

 

「A」は、ル級とヲ級を軽くひねるレ級の姿にあっけにとられていた。

なにせ、深海棲艦に殺されると思った矢先に、別の深海棲艦に助けられたのだ。

 

(何がおこったんだ・・・?)

 

タンカーの残骸につかまりながら現状を把握していく。

目の前には、血塗れの拳を携え、立ち尽くすパーカー姿のレ級。

そして、遠くには、そのレ級に殴られ、大破している戦艦ル級と空母ヲ級。

 

(助かった・・・?のか・・・?)

 

そう考える「A」だったが、レ級がこちらを向くと同時に

全身から脂汗が吹き出し、歯はガチガチと音を立て、表情は恐怖に染まる。

 

(なんだあれは)

 

そのレ級は、蒼色の炎を目に滾らせ、全身から金色のオーラをはためかせ

般若のような表情で、こちらを射抜くように見つめていた。

その姿はタンカーの残骸の、燃える炎と相まって

死神、いや、「魔王」とも言えるような威圧感を放っていた。

 

そんなレ級が、一歩一歩「A」の元に近づいてくる。

ジャブ、ジャブと近づく様は、死刑執行人のようにも思えてくる。

そして「A」の前で静止し、手を伸ばしていくレ級

 

「あぁ、今日でやっぱり死ぬのかぁ・・・」

 

近づくレ級の手を見ながら、完全に死を覚悟し呆然とつぶやく「A」。

だが、レ級は「A」の目の前でその手を止め

 

「何をイッてるんだ?さっさ手ニ捕まレよ。

 今回ハ、救助スべき相手を殺そウとした、こちらノ船ニ落チ度がアる。

 詫びというわけじゃねーガ。

 鎮守府まデはいけないケど、艦隊が通る近クの島まではつれていってヤル」

 

般若の様な怒りの表情から一転、金色のオーラも、滾る蒼色のオーラも消え失せ

艦娘のようなにやけた顔で「A」に話しかけたのであった。

 

その後、「A」はレ級に背負われながら、鎮守府近海の孤島に到着する。

レ級から、発煙筒と少しの食料を渡され、助けられるという妙な体験をした「A」は

翌日、無事艦娘に救助されることとなる。

 

------------------------------------------------------------------

 

レ級は「A」と別れた後、燃料補給と写真整理のために拠点に戻ってきていた。

 

「フソウと時雨のツーショット。これが今日のベスト写真だなァ」

 

ニヤニヤとタブレットをいじくりながら、「今日のベスト写真」を決めていくレ級。

ふと、ペラペラと写真をめくっていた手が止まる。

 

「あノ人間、大丈夫かナ。」

 

その手元には、人間である「A」とレ級のツーショット写真が写っていた。

レ級がセルフで取った写真である。

ニヤリとするレ級に、困惑の表情の人間という、普通ではありえない写真であった。

 

「確か記憶だと、明日の昼ニ、別のタンカーの護衛船団が島の近くを通るはズだから

 大丈夫だトは思うんだけどナぁ」

 

呟きながらながら、「A」が救助されることを願う、カメ子 レ級であった。




妄想たぎりました。ちょっと毛色が違うかも。


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8 第四回 集合写真

「戦艦レ級(カメコ)」

大火力をすべて捨て去り、その身体能力を艦娘撮影に全力で使う彼女。

いつものように艦娘の写真を撮ろうとしたら、なにやら異変が起きていたようです。


「戦艦レ級」

 

深海棲艦と呼ばれる存在の中でも特に上位種に位置する艦種であり

提督と艦娘からは特に恐れられている船である。

 

さて、そんな戦艦レ級の中で異彩を放つ船が一隻。

一眼レフを携え、戦場を闊歩するレ級である。

 

最近は演習で大破したり、艦隊旗艦である飛行場姫に怪我が治るまで拘束されたりと

色々あって艦娘の写真を撮れていないレ級であったが

つい先日、ようやく体と艤装の修復が完了し、姫の許しも出て、大海原に舞い戻って来ていた。

 

「ひサしぶりノ娑婆の空気だぁー」

 

レ級は喜びのあまり金色のオーラを吐きだしながら波間を最大戦速で移動していく。

その手には、広角レンズ(16-35mmF2.8 PLフィルター装備済み)付きのデジタル一眼レフカメラを既に装備していた。

 

おもむろにレ級はファインダーを構え、雲ひとつない蒼い空と、透き通った蒼い海を撮影していく。

いつものように連射はせず、絞りとシャッター速度をマニュアルで変更していき

 

カシャッ カシャッ カシャッ

 

気にいった構図で、確実に一枚一枚、風景を切り取っていくレ級。

更に、PLフィルターを回し、光の反射を確実に消していき、

透明な海の写真や、より鮮やかになった空の青の色を撮影していく。

 

「あァー。これこレ。やっぱり一眼レフカメラが最高ダよナぁ

 やっぱり私はノーフォトノーライフ。写真無しじゃ、イキられないヨ」

 

ニコニコ顔でファインダー覗きながらレ級は呟いていた。

その姿は、純粋に写真を楽しむ人間のようであった。

 

----------------------------------------------------------------------

 

レ級が久しぶりに写真撮影を楽しんでいた同時刻である。

とある鎮守府の艦隊が、鎮守府の正面海域に出撃していた。

 

出撃メンバーは、旗艦に戦艦金剛、隷下に軽巡阿武隈、第六駆逐隊(暁・響・雷・電)の6隻である。

隊列を組んで乱れなく大海原を進む姿から、錬度は高いことがうかがえる。

だが、その高い錬度とは裏腹に、表情は誰ひとりとして晴れやかではなかった。

原因は、戦艦レ級である。

 

「鎮守府近海に現れる戦艦レ級と接触せよ、なんで無茶デース・・・・」

 

というのも先日

 

「鎮守府近海で、戦艦レ級に助けられた人間がいる、

各鎮守府は、近海に出現する戦艦レ級に攻撃せずに、まず接触を図れ」

 

という内容の伝令が全ての鎮守府に届いてた。

その命令を受けて鎮守府から「戦艦レ級」と接触したことのある艦娘が抜擢され

「戦艦レ級」捜索任務に駆り出されたのである。

 

「あのレ級とまた、戦うんですね・・・はぁ・・・」

 

顔に影が刺している阿武隈と、第六駆逐隊。もちろん、金剛もである。

戦艦レ級に対して、6隻とも全くいい思い出を持っていない。

 

金剛は、命を捨てる覚悟で行った全ての攻撃をかわされ、翻弄された挙句に燃料切れ。

阿武隈は、直撃弾は貰わなかったものの、1時間以上至近弾で弄ばれ大破。

第六駆逐隊は、艦隊のエースである2人が良いようにされる様を目の当たりにしている。

 

((((((出来れば、すぐに帰って寝たいなぁ(デース・・)))))))

 

6隻はそう思いながらも、以前2回もレ級と出会った海域である「鎮守府正面海域」を進軍し

レ級の捜索を続けていく。

 

「そういえば金剛さん。戦艦レ級の容姿って何か特徴あるんですか?」

 

阿武隈は金剛に話しかけていた。

今回、阿武隈以下駆逐隊は、「詳細は捜索をしながら金剛から聞け」と言われ、

いそぎ出撃をしたため「レ級を見つけに行く」という命令しか聞いていない

 

「Oh!そういえば説明してませんでしたネー!」

 

少ししまった、という顔をしながら、金剛は阿武隈の方を向き口を開いた

 

「基本的な容姿は変わらないようデース。パーカー姿に大きな尻尾があるとおもってくだサイ」

 

人差し指を立てながら説明していく金剛。

なんだ、それじゃあいつも資料で見る戦艦レ級と変わらないじゃないかと

阿武隈は首をかしげ、第六駆逐隊の面々もお互いの顔を見合っていた。

 

「不思議に思うのはわかりマス。でも、装備が違うらしいんデス」

 

「装備・・どう違うんですか?」

 

末尾にいた電が不思議そうな顔をして、金剛に訪ねていた。

阿武隈、暁、響、雷も気になり、金剛の方を見つめる

 

「普通のレ級は、多くの艦載機をはなってきてから砲撃をしてきマス

 つまり、攻撃用の装備をもっているということデス」

 

ふむ、金剛以外の全員が相槌を打つ。

 

「ですが、捜索対象は、『カメラ』と『サーチライト』を装備してるらしいのデス。

 その代わり、武装を一切装備していないらしいのデス」

 

「「「「「・・・・・はい?」」」」」

 

金剛以外の全員の目が点となり、進軍が止まる。

いままで最悪の敵と思っていたのに、武装を持っていないと言われたのである。

 

「オットット・・・固まる気持ちはわかりマースが、進軍を再開してくだサイ。

 この情報は、先日救助された人間からもたらされた情報なので、間違いではないはずデース」

 

そう言われ、進軍を再開していく金剛、阿武隈、暁・響・雷・電の6隻。

彼女達はどこか納得の行かない気持ちのまま、レ級を探索していくのであった。

 

 

-----------------------------------------------------------------------------------

 

ひとしきり風景写真を撮り終えたレ級は、拠点近くの海から離れ

鎮守府正面海域に進軍していた。

その手には、先程の広角レンズではなく、艦娘撮影用に望遠レンズを供えた一眼レフが握られている。

 

「さァて。今日はどの艦娘が来るかナぁ」

 

先程までの純粋な写真好きの姿から一転、艦娘の写真を撮りまくりたい気持ちを抑えられない

いつもの戦艦レ級(カメコ)に戻っていた。

そしてレ級は、

 

「今日は天気も良イシ、海も静かダシ、きっと新しい訓練をしている艦娘と出会えるかもしれないナぁ」

 

と、ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべ、艦娘を探しながら海上を移動していく。

 

「んー、なっかナかいないな。やっぱりココ数日間のブランクは大きいナぁ」

 

数日間で艦娘の種類や、航路はどんどん変わっていく。

修理のためとはいえ、数日間海に出られなかったレ級は情報が全く分からないのだ。

 

「デモ、なんとか一枚ダけでも撮りタいなぁ・・・!」

 

レ級は、艦娘を探しながら、更に進軍する速度を速め、

 

(ファインダーから遠くを見れば艦娘がいたりシて)

 

なんてことを考えながら、ファインダーを構える。

すると、遠くにではあるが、ファインダーの中央部に6隻の船が見えたのである。

 

「おっホぉ!ビンゴぉ!あれ艦娘だよナぁ。」

 

レ級は、ファインダーを覗いたその姿のまま、喜々とした表情を見せ、

その影に迷うことなく突っ込んでいく。

 

「イヤアアアアアアアアッフウウウウウウウウウ!」

 

レ級は久しぶりに見た艦娘にテンションがうなぎ昇りである。

どんどん近付く艦娘の姿であったが、その姿にレ級は違和感を感じ撮っていた。

 

(アレ?なんか砲撃してこないナ・・・?)

 

艦娘が砲撃してこないのである。

いつもであれば、これだけ接近していれば、砲撃の一つや二つ

雷撃の一つや二つが必ず飛んでくるはずなのだ。

 

(気づいテない?いヤ、そうじゃない)

 

砲撃はしてこないものの、6隻の艦娘は、レ級を見ていた。

「戦艦レ級」の存在に気づきはしているが、攻撃を加えてこない艦娘。

 

レ級にとっては初めての体験であった。

いくらなんでもおかしい、そう思ったレ級は進軍を止め、海上で制止していた。

それを見た艦娘側も、進軍を止める。

 

レ級のとって初めては体験は、このあとも続いてく。

艦娘は艤装の砲身をあさっての方向に向け、武装解除をしたのだ

 

レ級は目の前に事態に付いていけないのか、珍しく固まっていた。

そして、追い打ちをかけるように

 

「そこの手にカメラを持っている戦艦レ級に伝える。我々に敵意は無いデス。

 そちらも敵意が無いのなら、今から行う質問に答えてくダサイ」

 

(・・・・・・・・ヘアッ!?え?はイ!?)

 

艦娘の一人、レ級の中では「コンゴウ」と認識されている美しい艦娘に、話しかけられたのだ。

 

----------------------------------------------------------------------

 

「そこの手にカメラを持っている戦艦レ級に伝える。我々に敵意は無いデス。

 そちらも敵意が無いのなら、今から行う質問に答えてくダサイ」

 

金剛は武装解除を行った後、おそらく捜索対象であるレ級に話しかけていた。

 

(うー・・・・レ級を前に武装解除っていうは、落ち着かないデース)

 

本当であれば、全員でレ級を沈めるか、この場から逃げたいと思ってしまっている。

何せ、最悪の敵であるレ級が目の前にいるのだ。艦娘である以上、仕方のない事であった。

 

「聞こえていたら、返事をおねがいシマース!」

 

レ級は先程から、固まったまま動かない。

そういえば、と金剛は、レ級の装備を確認していく。

 

決して近いとは言えない距離ではあるが、尾っぽの部分に主砲を装備していない事と

艦載機を携えていないことがわかる。

 

そして何より、その手に持っている「モノ」。

 

あれは、人類が開発したはずの「一眼レフカメラ」ではないか。

 

「金剛さん・・・」

 

同じようにレ級の装備を確認した阿武隈が、少し呆れたような、複雑な表情で金剛に話しかけいていた

 

「武器なしで、カメラを持っている戦艦レ級、情報と一致、しちゃってますよね・・・?」

 

「して・・・マース・・・・ネ。目標発見デース・・・。」

 

金剛もまた、呆れたような、複雑な表情をしながら、阿武隈に返答していた。。

もちろん、第六駆逐隊の面々も、また複雑な表情を作っていた。

その時である

 

『キ・・・キコえてル、こちらモ、敵意ハ、なイ』

 

レ級が、まさかの返答を返してきたのである。

 

「「「「「「喋った!(デース!)」」」」」」

 

『ヒィッ!?』

 

思わず叫ぶ金剛艦隊の面々。そして、その声にビクゥとなるレ級。

 

いつもならば、レ級が驚かしていた艦娘に、逆に驚かされているレ級の、レアな姿であった。

 

------------------------------------------------------------------------------

 

鎮守府正面海域。それは鎮守府から一番近く、新人育成に最適な場所である。

そんな場所に、カメラと、タブレットを持ったレ級。

そしてそのレ級を取り囲むように布陣する艦娘。

 

傍から見れば、鎮守府に近づいてきたレ級を撃退する布陣に見えるが、実のところはそうではない。

いくつか質問を重ねるうちに、レ級は「写真を撮りたいためにここまできている。武装は無い」

と主張していた。金剛が「それならば撮影した写真を見せてみろ」というので、

レ級はおとなしくタブレットを差し出したのだ。

 

それから約30分。

 

レ級と艦娘は、タブレットを見ながら、写真談議に花を咲かせていた。

今見ているのは金剛の写真。砲撃を行う凛とした姿は、ここに居る誰もが美しいと感じている。

 

「わぁ・・・!よく撮れてマース!すごいですネ、レ級の写真の腕ハ!」

 

『そんナにほメても、何もデナイけど、この写真ノ金剛ガ綺麗で私は好キなんだよナぁ」

 

レ級はれながらも写真をめくっていき、「本日のベスト写真」と名付けられたフォルダの写真を

艦娘と見ながら写真談議を進めていく。

 

『ソうだ阿武隈、阿武隈のベストショットもアるヨ』

 

「え!本当!うれしいなぁ」

 

レ級はサムネイルの中から、一枚の写真をタップし、全画面に表示させる。

すると艦娘は一様に顔を赤くしていた

 

「Oh・・・・セクシーネ」

 

「大人のレディ・・・」

 

「ハラショー」

 

「なっ・・・阿武隈ってすごいのね」

 

「はわわわわわわ」

 

阿武隈以外の5隻が、写真を見て次々と感想を述べていく中

阿武隈だけは、顔を真っ赤にし、固まっていた。

そう、阿武隈に見せた写真は、先の

「濡れスケ中破砲撃シーン」の阿武隈の写真だったのである。

下着、あまつさえその下の肌まで見えている姿を仲間に見られたのである。

 

しかも、レ級の腕が良いのか、いやらしさはなく、色気に満ち満ちた写真に仕上がっていた。

 

「うわああああ!綺麗だけど!綺麗だけど!仲間に見せるのやーめーてーよ!」

 

阿武隈は叫びながら、レ級からタブレットを奪い取り、写真をサムネイルに戻していく。

 

『綺麗なんだケどなぁ・・・・。ダメだっタ?』

 

「ダメじゃないけど、ダメじゃないけどおおお!恥ずかしいの!」

 

阿武隈にとって、自分じゃないような綺麗で美しい写真である。

嬉しくないわけがないが、仲間がいるさなかで見せられる羞恥心のほうが勝っていた。

 

『そうイうものナのかぁ。わかった。キを付けル』

 

そういうレ級に、阿武隈はしぶしぶタブレットを返却しながら、

ふと気になったことを、レ級に尋ねていた。

 

「それにしても、この写真って、私がこの子達、第六駆逐隊を引き連れていた時の写真よね・・?」

 

少し赤ら顔の阿武隈ではあったが、その目は少し怒りが浮かんでいる。

何せ、いまだトラウマになっている1時間以上嬲られた夜戦時のことである。

レ級は顎に手を当て、少し考えた後

 

『多分、そうダと思う。あの時はドうしても着弾の水しぶきの写真の中にいる阿武隈がホシクて、

 阿武隈の弾を投げ返して水しぶきつくってたんだよなァ。1時間グライだったよナ。阿武隈」

 

レ級はニヤニヤとしながら、阿武隈をみて口を開いていた。

そして、阿武隈といえば、怒りで顔を真っ赤にしていた。

一時、レ級に嬲られたせいで、部屋から出れないほどの重度のトラウマを植え付けられた阿武隈である。

その原因が、「水しぶきの写真を撮りたいから」なんて言われたら、激怒するのも当然である。

 

「レ級」

 

『ン?なんだ阿武隈』

 

阿武隈はすっ、と息を吸い込むと、レ級に対して

 

「ふざけるなあああああああああああ!この馬鹿ああああああああああ!」

 

思いっきり叫んだのであった。

 

『ヒイイイイイイイイ!?ゴメンナサイゴメンナサイ!?』

 

阿武隈の圧力に思わずビビるレ級。

 

その後、レ級は海の上で正座されられ、阿武隈に長時間の説教を受けることとなる。

説教が終わったころには日が傾き、金剛艦隊に見守られながら、

レ級は魂が抜けたようにその場を去って行った。

--------------------------------------------------------------------------------

 

艦娘と会話し、そして説教を受けるという珍しい体験をしたレ級は

いつものように、拠点へと戻ってきていた。

 

「ひドい目にあった・・・・

 これカらは、阿武隈、怒らせないように、撮影しヨう・・・」

 

レ級は、ガシャガシャと、装備していたカメラとサーチライトを外して、

ふぃーと、ため息をつきながら、軽くなった体をほぐしていく。

 

「デモ、まサか艦娘と話スことが出来ルなんてなぁ」

 

今日一日の出来事を思い出しながら、しみじみと呟くレ級う。

レ級にとっては、艦娘は美しく、高みの存在であり

撮影することはあっても、交流することは無い。そう思っていた。

 

「意外ナ事って、起きるモンなんだなァ」

 

だが、今日の一日で金剛・阿武隈・暁・響・雷・電と知り合いになった。

しかも、海上で出会ったら、写真をとらせてくれるという条件付きだ。

 

「あぁそうだ、今日のベスト写真を決めなくちゃ」

 

レ級はそういうと、格納庫からタブレットを取り出し、データを確認していく。

最初は風景から始まる写真は、途中から、艦娘の「笑顔」の写真で埋め尽くされていた。

 

「日常風景・戦闘風景、どっちもいいけど、こういう笑顔の写真も、いいナぁ」

 

金剛の太陽の様な笑み、阿武隈の困った笑み、第六駆逐隊の天使の様な笑み

レ級はそれらの写真を見ながら、次から次へと写真をスクロールしていく。

そして、トン、とレ級の動きが止まり、一枚の写真を本日のベスト写真フォルダに移動させた。

 

「うン、今日の写真は文句なク、この写真だナ!」

 

その写真は、金剛、阿武隈、レ級、暁、響、雷、電で映った、集合写真であった。

阿武隈の説教で少しやつれているレ級に、艦娘の6人はその姿を笑いながら見ている写真。

艦娘と深海棲艦が判りあえる可能性を秘めた、奇跡の一枚である。

 

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

「以上がレ級との遭遇の報告デース」

 

とある鎮守府の提督室で、金剛と提督が向き合っていた。

 

「おそらくデスが。このレ級の固体は、写真を撮りたいだけに艦娘に近づいているダケデス。

 それに私達が過剰に反応し、無駄な被害。弾薬の無駄な消費を増やしてイルのだと思いマス。

 阿武隈だけは、水しぶきを作りたいと言う例外の理由でしたが、説教をしたので大丈夫デス」

 

だから、と一呼吸置いて、金剛は

 

「被害を少なくするためにも、カメラを持ったレ級には、好意的に接する。

 という通達を、大本営に進言するべきかと思いマス。」

 

提督に提言を行った。

その手には、とある写真が一枚握られている。

 

「そして、これがその証拠の写真デス」

 

写真は、金剛、阿武隈、レ級、暁、響、雷、電が映る集合写真。

その写真をみた提督は、驚きに目を見開く。

 

「彼女は本当に、写真を撮りたいのデス。

 装備は全てカメラ用品。武器も、艦載機もなかったデス。だから・・・」

 

金剛は提督を根気よく説得していく。

提督は、金剛の話を聞きながら、艦娘と深海棲艦が判りあえる可能性を感じとるのであった。



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9 深海棲艦のレ級 4

「戦艦レ級(カメコ)」

大火力をすべて捨て去り、その身体能力を艦娘撮影に全力で使う彼女。

ですが、今回は飛行場姫に拘束され、身動きが取れないようです。


「飛行場姫」

 

多くの戦船が沈んでいる「鉄底海峡」を拠点とする深海棲艦である。

ガダルカナル島のヘンダーソン飛行場が具現化した彼女は

化け物じみた圧倒的な耐久力と、392の艦載機を持ち

鉄底海峡に挑んだ提督達を地獄へと誘った姫の一人である。

 

そんな彼女が、拠点でタブレットをいじくっていた。

 

「良イ写真ヲ撮ルモノネェ・・・」

 

---今日のベスト写真---

---見返り美人写真集---

---戦場の艦娘---

---お気に入りベスト10---

 

などとフォルダ分けされているタブレットの中身。

トン、と指先でそのうちの一つのフォルダーを開き、写真を閲覧していく姫。

隊列を組み、波間を移動する姿の艦娘の写真や、深海棲艦を撃破する艦娘の写真、

中破を受けつつも、その目から闘志をたぎらせ反撃する艦娘の写真などなど。

その姿は、「敵である艦娘」というよりも、「美しい戦乙女」の写真と言えよう。

 

「美シイ。我々ニハナイ魅力ヲ、彼女達はモッテイルワネ」

 

次から次へと写真をスクロールさせながら、姫は独り言をつぶやいていた。

提督達を苦しめた彼女が、人類製のタブレットを操り、写真を見る姿は

なんとも奇妙な光景である。

 

さて、そんな飛行場姫の拠点には、今現在、とある船が拘束されている。

先日艦娘と交流を行い、集合写真まで撮っていた、戦艦レ級である。

 

姫により、鎖で全身をグルグル巻きにされ、拘束されながらも、

レ級は時折「ングゥー」とか、「ンンー」とか呻きながら体を動かすあたり、元気そうである。

 

その呻きに気付いた姫は、一旦写真を見るのを辞めて、ドックに近づいていく。

 

「ドウシタ、レ級。苦シイノカ?」

 

ドックのレ級(蓑虫)に、飛行場姫は声をかける。

 

「ングウンググンンーー。ンググゥー」(写真トリタイノー。暇ナノー。)

 

レ級は蓑虫状態のまま、姫に返答をする。

 

「何ヲイッテイルノカワカラナイワ。

 ダケド、我々ノ協議ガ終ルマデハ拘束ヲトクコトハナイワ。

 マァ、運ガ悪ケレバ、貴様ハ解体サレル」

 

そう言いつつ、レ級が入っているドックを離れていく飛行場姫。

 

「ングゥー・・・」(そんナぁ)

 

レ級は呻きつつ、肩を落とすのであった。

 

---------------------------------------------------------------------------

 

飛行場姫から見れば、人類が作ったろくでもない機械。それが一眼レフである。

だが、レ級が拘束されている間、監視についていた飛行場姫は

 

「確カニ、レ級ノ撮ル写真ハ美シイ。ダガ、ナゼソコマデシテ写真ヲ撮ルノカ」

 

そんな疑問を覚え、レ級のカメラを手に取っていた。

コレさえなければ、愛しい部下のレ級は写真にのめり込む事がなかったし

今回の様な「敵と写真を撮る」なんていう不祥事を起こさなかったはずである。

 

一眼レフカメラの見た目は真っ黒の箱。

そこに、ガラスがはめ込んである長いレンズ、今回手にとったカメラには

70-200ミリのF2.8の望遠レンズが装着されいた。

 

「バズーカ砲ノヨウナレンズナノネェ」

 

そう呟きながら、更にカメラを触っていく飛行場姫。

ふと、一枚、写真を撮ってみようか、という考えが頭に浮かび、電源を探していく姫。

 

「スイッチガ多スギルワネ。何ガ何ナノダカ・・・」

 

カメラ全体を見ながら呟く飛行場姫。それもそうである。

人間のプロカメラマンでも扱える一眼レフを元に作られた装備であるため

ボタンは通常のデジカメの何倍も設置されている。

 

レ級に関しては、感光モードとホワイトバランスを状況に合わせて事前に設定し

シャッター速度と露出、ISO感度を周囲の状況と被写体に合わせ変更して

サーボモードで親指AFをしながら、シャッターを切る、動きものに強い撮影スタイルをとっている。

 

そんな玄人向けのカメラを、飛行場姫が見ても、よくわからないのは当たり前であった。

 

「ON.OFFッテ書イテアルワネ・・・・?コレカシラ。」

 

カメラの背面部分に、ようやくスイッチらしい部分を見つけ、

飛行場姫は、少しドキドキしながら、OFFになっているレバーをONの位置に動かす。

すると、背面の画面には良く分からない数値が並び、本体上面右側の液晶には

撮影可能枚数らしき数字と、バッテリーのマーク、そして良くわからな数字が表示されていく。

 

「正解ノヨウネ。確カ、レ級ハ・・・・」

 

飛行場姫は、時折見ていたレ級の撮影方法を思い出しながら、見よう見まねでカメラを構えていく。

右手はグリップを掴み、人差し指はシャッターへと添える。

同時に左手はレンズを掴み、しっかりとカメラを抑えて、そのまま顔の前に持っていき、ファインダーを覗く。

 

「ソウソウ。コウヤッテイタワネ。・・・簀巻キノレ級ヲ、写真ニノコスノモ、面白イカシラ」

 

飛行場姫は、簀巻きになっているレ級にレンズを向け、

シャッターに添えてある右手人差し指を押し込んでいく。

すると、指に少し反発する感覚が来ると共に、

『ピピッ』っという音が鳴り、ピントがレ級の顔に自動で合致される。

 

「オオ、スゴイモノネ。サッキマデボケテイタノニ。直ニピントガ合ウノカ」

 

飛行場姫は、カメラの性能に驚きつつも、右手人差し指を更に押し込み、シャッターを切った。

 

【カシャッ】

 

気持ちの良い音と共に、手に伝わるシャッターの振動。

そして、ぞくぞくっと全身を駆け巡る感覚に、そのままの態勢で固まる飛行場姫。

 

「アァ・・・・・」

 

そう、理解してしまった。

レ級がはまっている世界を、飛行場姫は理解してしまったのである。

 

ファインダーを覗き、そして被写体を撮る。単純な動作。

だがその瞬間に、気持ちのいい音と、体の芯に響くようなシャッターの振動が響き、

それに応じるようにモニターに映る、撮りたい対象の美しい写真。

 

どれもが飛行場姫の中の歯車と噛み合い、そして融合していく。

 

「アァ・・・・。ソウカ、レ級ハ、コレニ。コレニホレタノカ」

 

当時、艦娘を撃破することが、唯一の楽しみだったはずのレ級が、急に

 

「姫様!私ハ写真を撮っテいきタい。自由行動シていいカ!?」

 

と飛行場姫に直談判してきたことがあった。

今さっき、シャッターを切るまで、「艦娘の情報を仕入れられればそれでよい」

などと思っていた飛行場姫であったが、シャッターを切った今なら

レ級の抑えきれない気持ちがよくわかる。

 

「写真ニ、カメラニ、ホレコンダノダナ・・・・バカモノガ」

 

飛行場姫は、手元にレ級のカメラを携えながら、呟いていた。

 

-------------------------------------------------------------------------

 

レ級が簀巻きにされ、拘束されたその理由は簡単である。

 

「艦娘ト交流ヲ図ッタ。アマツサエ一緒ニ写真ヲ撮ッテクルナド」

 

金剛艦隊と接触を図ったことが、複数の姫に露見し

レ級は裏切り者ではないかという疑惑が浮かび上がったのだ。

直属の上司である飛行場姫は、即、レ級を拘束し、そのまま監視に入り

他の姫はと言えば、南方棲戦姫を中心に、レ級の処遇を決める会議を開いていた。

 

「レ級ノ行動ハ問題ガアリスギル」

 

「人類ト艦娘ヘ我々深海ノ情報ヲ漏ラシテイルノデハ」

 

レ級への批判的な意見が積もりに積もっていく

完全にレ級の解体が決まりかけていた会議であったが

 

「今マデモ何回カハ、レ級ノ写真ヲ見テ、情報ヲ研究シタコトガアル。

 ダガ、ソノ時ハアクマデモ編成ト場所ノ研究ダケダ。

 良イ機会デモアル。一度中身ヲヨク確認シテ、精査シテミヨウ」

 

南方棲戦姫が、飛行場姫から提出された≪レ級のタブレットデータ≫のフォルダを開き、

他の姫と共にレ級の撮影した写真を確認していく。

何せレ級は、無意識とはいえ今まで莫大な情報を、写真により深海側にもたらしている船だ。

その情報を隅から隅まで、改めて確認を行っていく姫達。

 

「コレハ・・・」

 

姫達は、タブレットの画像を見ながら固まる。

驚くことに、タブレットには「艦娘」の写真しか入っていなかったのだ。

深海の写真は一枚も無く、その上、艦娘の写真は一枚一枚、完璧とも言える美しさを誇っていた。

レ級が、ここまで艦娘に固執しているとは誰も思っていなかったのである。

 

鉄底海峡では苦しめられた金剛、潜水艦隊が大打撃を受けている第六駆逐隊

キス島では苦渋をなめさせられた阿武隈、AL/MI作戦で航空戦を繰り広げた空母達などなど

多くの艦娘が、様々なシチュエーションで納めらられている。

 

(我ラニトッテハ、最悪トモイエル思イ出ダガ・・・

 レ級ノ写真ヲミテイルト、ソンナコトハ気ナラナイ。

 ムシロ、美シイトモオモエテクル、不思議ナ写真ダ)

 

南方棲戦姫がそう思っていると

 

「不思議ナ感情ヲ、覚エル写真デスネ」

 

姫の誰かが呟き、全員が首を縦に振り、同意の意を示していた。

そして、タブレットに入っている、美しい艦娘の写真を見ているうちに、

レ級への批判などは何処かへ吹っ飛び、静かになっていく姫達。

 

誰もが、レ級の写真の美しさに、見惚れていたのだ。

 

「・・・コレハ、レ級ノ処遇ニツイテハ保留、トイウ形デモイイノデハナイデショウカ?」

 

姫の誰かがぼそりと呟いた。それに同意するように、

 

「確カニ。コレダケノ艦娘ノ写真ヲ、情報ヲ撮ッテクル深海ノ船ハ誰モイマセン

 失ウノハアマリニモ惜シイ。

 ソシテ、タブレットニハ深海側ノ写真ハ一切ナイ。情報漏洩ノ危険性モ少ナイカト。」

 

「前々カラレ級ノ情報ニハ助ケラレテイマシタ。実際我ガ艦隊モ何度カ助ケラレテイマス。

 大目ニ見テモヨロシイノデハ」

 

「今回ハ艦娘ト一緒ニ写真ヲトリハシタガ、コチラノ情報ハ別ニ漏ラシテハイナイ。

 デアレバ、更ニ艦娘ト接近サセ、情報ヲ持ッテ帰ラセルノガ良イノデハナイカ」

 

タブレットの写真を見ながら、他の姫達も次々と発言をしていく。

そして、ころ合いを見た南方棲戦姫が、他の姫に問う。

 

「ソレデハ、時間モ差シ迫ッテイルコトデスシ。採決ヲトリマス。

 ・・・・レ級ハ危険分子トシテ、処分ガ妥当ト思ウ方ハ挙手ヲ」

 

問われた姫達は、誰ひとりとして、手を上げることは無かった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

南方棲戦姫はレ級の処分の結果を伝えに、飛行場姫の拠点の扉を開き声を掛ける。

 

「飛行場姫、レ級ハイル・・・カ・・・?」

 

南方棲戦姫の目に映ったのは、レ級の使っている一眼レフを手元に持ちながら

呆然と立っていた飛行場姫の姿であった。

反応が無い飛行場姫に、改めて声をかける。

 

「飛行場姫、レ級ノカメラヲモッテドウシタ、ナニカアッタカ?」

 

「・・・・ハッ!」

 

今度は南方棲戦姫の言葉に反応し、南方棲戦姫の姿を確認するや否や、直にカメラを置き

少し赤い顔をしながら、南方棲戦姫に体を向きなす。

 

「ドウシタノ、南方棲戦姫。急ニ現レルトハ。ビックリスルジャナイ」

 

そう答えつつ、先程までの呆然とした姿とは一転し、いつもの飛行場姫に戻っていた。

その姿を確認すると南方棲戦姫は、少し堅い顔をしながら

 

「飛行場姫、レ級ノ処遇ヲツタエニキタ」

 

飛行場姫の目を見据えてそう言ったのである。

 

(シカタナイカ、秩序ヲマモルタメ、異端ハ処分サレナケレバ。)

 

そう思い、愛着のある部下であるレ級の処分を覚悟した飛行場姫は

 

「ソウ。ヤハリ、艦娘ト交流シタカラニハ、イクラ、レ級トハイエ、処分カシラネ。」

 

少し顔を下に向けながら、簀巻きのレ級が入っているドックを見つつ、呟いた。

その姿を見た南方棲戦姫は先程の堅い顔とは一転、少し笑みを浮かべ

 

「トンデモナイ。条件ハアルガ。処分ナドハシナイ。

 ムシロ、コレカラハ積極的ニ写真ヲトッテモラワナケレバ困ル」

 

飛行場姫に対してそう言い放ったのである。

言われた飛行場姫は、一瞬呆然とした後、その言葉を理解したのか

 

「オォ・・・!アリガトウ。議会ノ寛大ナ心ニ、カンシャスル・。・!

 アレデモ、私ノ愛シイ部下ナノダ・・・!」

 

少し涙を流しつつ、かみしめるように南方棲戦姫に話しかけていた。

 

その姿は、艦娘と対峙する恐ろしい深海棲艦の飛行場姫とは一転、

部下を思う、優しい上司そのものであった。

 

なお、議会の結論としては

 

「お咎めなし。ただし、レ級は今まで数日に一回、数枚の写真を見せるだけだったが、

 これから毎日撮影した写真を、一枚残さず議会に提出すること。

 条件を守れば、今まで通り、際限なく艦娘の写真を撮ることを許可する」

 

ということであった。

 

というのも、改めてレ級の写真を精査した結果、

レ級の一日に数百枚から数千枚と撮る写真は、艦娘の種類、構成、航路などが、

緻密に判り、改めて作戦を立てる情報として有用であることがわかったからである。

そしてなによりも、

 

「レ級ノ撮ッタ写真が気ニイッタ」

「艦娘ハ嫌イダガ、写真ハウツクシイ。」

 

レ級が撮影する艦娘の写真を望む、一部の姫からの強い後押しがあったのだ。

 

「私達モ、レ級ニ撮影シテハモラエナイダロウカ」

 

そんな姫も中には存在するほど、レ級の写真の腕が認められたのである。

レ級の、1年以上、戦闘もせずに写真を撮り続けた情熱、それが認められた形である。

 

そして、涙を流しつつ、感謝の言葉を述べ続ける飛行場姫を見ながら、

 

(私モ一枚、レ級ニ撮ッテモラエナイダロウカ)

 

一人そんなことを思う、南方棲戦姫であった。

 

------------------------------------------------------------------

 

レ級は、飛行場姫のドックから拘束を解かれ、その体を解しながら

カメラのメンテナンスと、タブレットの調子を確認していた。

 

「姫様もヒドいよなァ。艦娘との写真をミせたらスグ拘束するんだもんナァ

 イヤ、でモ。敵対シてるから、艦娘との集合写真ハマズかったのカ・・・」

 

今回拘束された理由を思い出しながら、一人呟いていた。

 

『艦娘と内通しているのではないか』

 

そう疑われたのだ。

レ級にとっては、写真撮影の延長上の話なので、撮影した時は全く頭に無かったことである。

 

「やりスぎダッタかなぁ・・・・・。ウーン、これからは撮影を控えて

 前のよウに艦娘を攻撃シたほうが姫様のタメなのかなァ」

 

飛行場姫の事を思い出しながら、呟くレ級。

レ級を拘束した時の姫は、諦めと同時に、何か悲しそうな表情をしていたのだ。

姫の表情の印象が強く残っているレ級は、一人、深く反省していた。

 

そしてレ級は、カメラとタブレットのメンテナンスをしていた手をとめ、

 

(確かにカメラは、撮影は大好きダ。

 だケど姫様に、愛着のある姫様に迷惑をかけてマデは続けていらレない。

 カメラ、手放そうカなァ。)

 

一人考えにふけっていると、レ級の拠点のドアがいきなり開き、コツコツと足音が近づいてくる。

 

「お・・?ノックも無ク入ってくるナんて、ダれダロ?」

 

レ級は、首をドアの方に向け、その姿を確認すると同時に、硬直する。

 

飛行場姫が険しい顔で拠点に入って来たのである。

 

レ級は、直前まで考えていた人物が、拠点に入って来た衝撃に固まり、身動きが取れないでいた。

そんな固まっているレ級の前に立ち、飛行場姫は険しい表情のまま、すぅ、と息を吸い込み

 

「レ級、貴様ノショブンヲツタエル。

 写真ハイママデドオリ撮影シロ。タダシ、毎日ソノ写真ヲ、一枚余サズ議会ニ提出。

 ソレノ他ハ、イママデドオリダ。以上。」

 

飛行場姫は、これでもかという大音量でレ級にそう叫び、レ級の目を見る。

レ級は、驚きのあまりに、全く身動きが取れないままであった。

そんな固まるレ級を尻目に、にへらと、飛行場姫は表情を緩め、更に言葉をつづけた。

 

「貴様ノカメラ、触ラセテモラッタ。イイ、カメラジャナイカ。

 貴様ハ、ソノママ自分ノヤリタイコトヲ、ツキトオセ。

 私ガ応援シテヤル。」

 

笑いかけながらレ級に囁いて、踵を返し、レ級の拠点を後にしたのである。

 

そして、一人拠点に取り残されたレ級は、

 

「お、おォ?アレッ・・・?夢じゃナイよな。

 とりあエず。写真ハ今後モ撮りツヅけられるってことで、イイのかな?

 イヤ、ウン。あれェ。

 サッキまで、カメラ捨てなきゃイケナイとか考えてた、コの気持ちはどうスれば・・・・。」

 

飛行場姫の出て行ったドアを見つめ、微妙な表情を浮かべながら、一人呟くのであった。

 

 

「戦艦レ級」

 

深海棲艦と呼ばれる存在の中でも特に上位種に位置する艦種である。

 

数多くの艦娘を沈め、提督を苦しめている最悪の敵と言って良い。

なにせ、開幕の航空戦、そのあとの魚雷、そして砲雷撃戦、対潜戦闘と

全てにおいて高水準で纏まっていて、常にぶっ飛んだ思考を持っていると思われる

謎の生物である。

 




妄想、滾りました。


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第二章 趣味に走る船達
10 深海棲艦のNewカメ子とレ級 1


深海の姫君達から、公式に写真を撮ることを許された戦艦レ級。

テンションは天元突破し、今日も今日とてカメラを構える。

そして、一人、写真の魅力に取り憑かれた新たな深海の船が居るようです。

※絞りの解説を修正致しました。


レ級が深海の姫君達によって、公式に写真を撮ることが許されてから、

約一週ほどたった日のことである。

 

奮冷めあらぬレ級は、姫から拘束を解かれてからの一週間、

延々と艦娘達の写真を撮り続けていた。

一昼夜を問わず艦娘の写真を撮り続けた結果、気づけばタブレットの中には

1万枚に迫るほどの艦娘の写真が蓄積されていた。

もちろん、その中には、集合写真を撮影した艦娘達、

金剛、阿武隈、暁、響、雷、電の6隻の写真もある。

 

レ級は、戦場の艦娘の写真でいっぱいになったタブレットを見ながら、

(徹夜しナがら写真とっテたしナぁ。そろそろ拠点に戻って写真の整理ヲしよう)

そう思いたち、拠点へと戻ってきていた。

 

拠点についたレ級ではあるが、ドアから拠点に入る前に違和感を覚えた。

1周間程ではあるが、まともにレ級は拠点に帰っていなかったので

普通は埃の一つや、ゴミの一つでも落ちているはずである。

だが、今目の前にある自分の拠点は、ゴミも埃もなく

誰かが掃除していたような綺麗さだ。

 

「アッれ?一週間ぐらい放置して掃除してなかっタのに、拠点、随分綺麗だナぁ。

 誰か、気を利かセて掃除しテくれてたのかナ?」

 

レ級はそうつぶやき、拠点のドアに手をかける。

すると、鍵をかけていたはずの拠点のドアが、すんなりと空いたのだ。

 

(アレ、鍵がアいてる。泥棒かナぁ?イやでも、

 ココ姫様達ぐらいシか入ってこナイはずなんだけドな)

 

はて、と考えながらもドアを全開にし、拠点の中に入っていく。

そして、レ級はカメラとサーチライトを机に置くと、何か異常がないか周囲を確認していった。

 

「カメラ用品は私ガ持って行ったから被害ナし。他は、エート。

 武装はイツモの通りしまってアるし、工具ハ・・・全部アるな」

 

レ級は一人呟きながら、一つ一つ身の回りを確認していく。

 

「椅子と机周りハ、椅子ハあるシ、机の引き出シの中も変化ナシ。

 うーン。鍵ヲかけ忘れてたのかナぁ。私の勘違イだったのカ?」

 

更に周りを見ながら、異常がないか確認していく。すると

 

「アれ。ベッド、膨らんでル」

 

レ級のいつも寝ているベットに、明らかに誰かが寝ていたのだ。

それに気づいたレ級は、恐る恐るベッドに近づいていく。

 

「ダれだろう。姫様達は時々来るだけダし。新種の深海の船カ・・?」

 

レ級はそう言いながら、ベットの横に立った。

そして、ゆっくりと掛け布団を捲って行く。

すると、布団の中には

 

「ンン・・・・ナンダ・・・?帰ッテキタノカ、レ級」

 

そんなことを言いながら、目をこすり、起き上がるレ級の上司、飛行場姫の姿があった。

一瞬固まるレ級であったが、直に状況を飲み込み飛行場姫に問いかける。

 

「アレ、姫様。私のベッドで寝てるナンテ、何かありまシタ?」

 

すると、飛行場姫は、レ級の顔を向きながら

 

「イヤ、ナニ、オ前ヲマッテイタノダ、レ級。

 教エテホシイコトガアッテナ」

 

ポリポリ、と頭を掻きながら恥ずかしそうに口を開いた。

レ級は少し驚いた。というのも、飛行場姫とそこそこ付き合いが長い。

だが、飛行場姫が恥ずかしがる姿は、記憶の中でも初めてのことであった。

珍しいなぁ。と思いながら、レ級は飛行場姫に話しかける。

 

「姫様が私に聞きタいことですカ。珍しいでスね。一体なにヲ?」

 

レ級がそう言うと、飛行場姫は一瞬黙った後、少し目をそむけて

 

「アァ、イヤ、ソノナンダ。

 オ前ニカメラノ使イ方ヲダナ、教エテホシクテナ。

 デキレバ、貴様ノ様ナ写真ヲ撮ッテミタイノダ。

 イヤ、迷惑ダッタライイ。コチラデナントカスル」

 

更に恥ずかしそうに、小声になりながらぼそぼそと話していた。

そんな飛行場姫を見てレ級は、

 

「アァー。良いですヨ。せっかクですから、一台、一眼レフを貸しまスよ」

 

にこにこしがなら、24-70mm(F2.8通しレンズ)が装着された

一眼レフ(ストロボ付き)を飛行場姫に差し出すのであった。

 

-----------------------------------------------------

 

深海の姫である飛行場姫と、深海の上位個体である戦艦レ級。

片方はアイアンボトムサウンドの主、方や南方海域の主のような存在。

 

その二隻が、カメラを持って向き合っている様は、

事情を知らない第三者が見たら、思わず首をひねる光景だ。

 

だが、そんなことは2隻にとってはどこ吹く風。

当事者である飛行場姫はカメラを熱心に見ながら操作方法をレ級から教わり

レ級はレ級で、姫様相手のレクチャーということで、気合を入れて操作を教えていた。

 

レ級は飛行場姫の前に立ち、電源ボタンの入れ方から、実際に取った写真の見方や

ぶれない様な構え方等、基本技能を実際に見せて教えていく。

 

「電源ノ入れ方と、写真のとり方、写真の見方ハ判りましたネ?姫様。

 撮るダけなら、今のような形デ、この難しそうナ一眼レフカメラでも

 簡単に写真ガ撮レるんでス」

 

説明するレ級を尻目に、飛行場姫は、それを必死で真似しながら、

なんとかレ級の動きに追いつくように努力していた。

 

「アァ、写真ノ撮リ方ハ判ッタ。案外簡単ナノダナ」

 

レ級の言葉に、飛行場姫はカメラを握り、ファインダーを覗きながら呟く。

熱心にカメラをいじくる姫を見ながら、レ級は昔の自分を思い出していた。

 

(姫様楽しいだろうナぁ。私も最初ハ、カメラを触るダケでも楽しかったモンなぁ)

 

レ級は、人類から奪ったカメラを毎日飽きずに触り、

いじり、写真を撮り続けた日々を思い出していた。

そして、少し真面目な顔になりながら、飛行場姫の顔を見ながら説明を続けるレ級。

 

「そして、次なのでスが。ここから一眼レフというカメラのキモになりまス。

 写真の出来は構図も大切ナノですガ。その他ニも、

 レンズの絞り・カメラのシャッターのスピード、そしてISO感度で総合的に決まってキます。

 例えばですネ、この写真ヲ見てクださい」

 

レ級はそう説明をしつつ、タブレットに2枚の写真を映し出す。

飛行場姫は、カメラから一旦手を離して、レ級のタブレットの画像に注目し

 

「随分チガウ写真ダナ。同ジ機材デ撮影シタノカ?」

 

2枚の写真を見比べながら素朴な疑問を口にする。

 

1枚目の写真は、艦娘の動きや飛び出す主砲の弾、爆炎や水しぶきといった

 『肉眼で捉えきれない速度で動く物体が、完全に静止している』写真が映し出されていた。

2枚目の写真には、艦娘が勢い良く海面を滑る姿や、波しぶきや雲といった物体が

 『流れるように残像を残して写っている』姿が映し出されていた。

 

「同じ一眼レフでス。

 レンズも70-200ミリのF2.8の同じ物を使っテ撮っています」

 

レ級は写真を見ながら解説するが、飛行場姫からすれば、

これだけ違う写真を、同じ機材を使って撮れるものだとは信じられなかった。

 

「片方ハ、艦娘の一瞬の美しサを撮りたかったノデ、

 水しぶきの粒まで見えルぐらいに、シャッタースピードを上げてイます。

 設定は1/8000秒。瞬間を切り取って、カメラに記録シているノです。

  そして、もう片方は、艦娘の勢いのある写真を撮りたかったノで、

 シャッタースピードを1/150秒まで落として

 わざとウデとか、雲とか、波をブレさせて記録していマす。」

 

2つの写真を指差しながら、カメラの設定とシチュエーションを説明してくレ級。

飛行場姫は、シャッタースピードという一つの設定を変えるだけで

これだけ違う写真が撮れることに、素直に感心していた。

 

「ソウカ、光ヲセンサーニ当テル時間ヲ調整スルノガ、シャッターナノカ。

 ソノ設定一ツデ、ココマデ撮レル写真ガ違ウトハ。

 カメラトイウノハ、凄イモノナノダナ」

 

貸し出されたカメラを握りしめたまま、感心して呟く飛行場姫の姿に、レ級は笑顔になる。

自分の趣味が認められるのは、誰であっても嬉しいものだ。

飛行場姫は、そんな笑顔のレ級の顔を見ながら、疑問を口にする。

 

「レ級、ソウイエバ他ニモ「絞リ」トカ「ISO感度」トカ言ッテイタナ。

 ソレハドウイウモノナノダ。」

 

「あァ、少しマッて下さイ。これから説明シまス。

 ええト、今度はコの2枚を見てくだサい。」

 

レ級はタブレットを操作し、また別の2枚の写真を映し出す。

そこには、被写体と構図は一緒、被写体のブレも同じぐらいの2枚の写真が写っていた。

 

「コレハ、戦艦コンゴウノ砲撃カ。綺麗ナモノダナ。」

 

戦艦金剛、飛行場姫がアイアンボトムサウンドで苦しめられた艦娘であるが

写真を通してみると美しい戦乙女そのものであった。

レ級の撮影した写真を見つつ、感心する飛行場姫であったが、

2枚の写真をよくよく見比べると一点、明らかな違いがある事に気がついた。

 

一枚目の写真は、戦艦金剛を中心とし、『背景までピントが合っている』写真。

二枚目の写真は、戦艦金剛を中心とし、『背景のピントがボケ、金剛にだけピントが合っている』写真。

 

「姫様、気が付きまシた?

 一枚目の写真ハ、背景まで撮影して、『綺麗な背景とコンゴウ』を撮影したかったので

 「絞り」をF12まで絞ってとった写真でス。

 二枚目ノ写真は、『コンゴウの姿を主体』に撮りたかったノデ

 「絞り」ヲF2.8まで開けて、背景をボカしたのデす。」

 

2つの写真を指差しながら、先ほどと同じようにカメラの設定とシチュエーションを説明してくレ級。

飛行場姫はその説明を聞き、

 

「ナルホド、絞リヲ開ケレバ、ピントガ一部ニ合イ、

 背景ヤ前景ヲボカシ、対象を強調スルコトガデキルノダナ。

 逆ニ、風景ト対象ヲ撮リタイ時ハ、絞リヲ絞レバヨイ、トイウコトカ」

 

そう言いつつ、感心する飛行場姫。

なにせ飛行場姫は、艦隊の旗艦である。

頭の回転も早ければ、理解の速さもずば抜けているのだ。

 

「流石デスね姫様ハ。その通りデす。

 あとですネ、Fの数値が小さい時は、絞りを開くこトに、

 Fの数値が大きければ、絞りを閉めルということになりマす。

 F2.8とF12デは、F2.8のほうが、絞りを開けているということデす」

 

レ級は理解の早い飛行場姫を見ながら、背景をボカすか、ボカさないか

物体の動きを止めるか、止めないか。写真の基本的なところを細かく解説を続ける。

 

「おおよそこの、シャッタースピードと絞り、というモノで、写真は作られテいます。

 タダ、補足をスレバですが、シャッタースピードを上げたり、絞りを絞ると、

 センサーに入ってクる光量が減りますカら、暗い写真になりやすいでス。

 逆に、シャッタースピードを下げて、絞りを開けると

 センサーに入ってくる光量が増えて、明ルい写真になってイきます。」

 

その説明を聞いた時に、飛行場姫は一つの疑問を覚えた。

 

「レ級、シャッタースピードト絞リヲ調節スルト、写真ガカワルノハワカッタガ

 光量ガ少ナスギテ、真っ黒ニナル時ヤ、光量ガオオスギテ、真っ白ナ写真ニナル時。

 ソウイウ『光量ガ多イ時、少ナイ時』ハ、ドウスレバイインノダ?」

 

つまり、動きを止めたいが、夕暮れ時などで暗い場合などは

シャッタースピードを早くしてしまうと、光量が足りなくなり、黒く潰れた写真になる。

逆に日中で動きを出そうとすると、光量が多くなり、白く画像が飛んだ写真になる。

そういう場合はどうすれば適正な明るさで写真を撮ることが出来るのか、ということである。

 

レ級は、そんな飛行場姫の前に、腕を上げて人差し指を立て話しかける。

 

「その点ハご安心ヲ。そこで、ISO感度ノ登場デす。」

 

ほう、相槌を打つ飛行場姫にレ級はさらに説明を続けていく。

 

「ISO感度とイうのは、センサーが光を取り入レた時に

 どれだけ強い信号ヲだスか、という指針デす。

 この一眼レフだト、50が一番小さくて、204800が最高ですネ。

 ツマリ、光が足らなイ時は感度を上げると、明るく撮ることガ出来マす。

 逆に明るい所では、感度を下げれば、明るすぎることは少なくなりマス。

 ただ欠点としテ、感度を上げるにしたがっテ、

 電気信号が強くナってイくので、写真はノイズが多ク、荒い画像のものニなりマす」

 

写真を数枚見せながら説明していくレ級。

その写真は、ISO100から、ISO10000までの写真で、

確かにISO100の写真よりも、ISO10000の写真のほうにはノイズが走り

少し画質が落ちている。

 

「ホウ、ナルホドナ。ヒツヨウデアレバ、ISOデ明ルサヲ調節スレバイイノカ。

 タダ、ISO感度ヲアゲスギルト、理想ノ写真ヲトッタトシテモ、ノイズガ多クナル、

 トイウコトカ」

 

飛行場姫はレ級を見ながら、考察を口に出し、正しいかをレ級に問う。

レ級は腕をおろして、姿勢を正し、

 

「その通りです姫様。

 長くなりましたが、おおよそ説明ハ終わりでス。

 いろいろイイましたが、結局のところ、

 被写体と構図を決めて、シャッタースピード、絞りを調節して、

 更にそこで明るさを確認して、そのバランスを考えながらシャッターを押す。

 そして、写した写真が自分の理想の写真かを確認し、修正して

 また同じようにシャッターを押していけばいいのデす。

 まぁ、でもですネ、最初のウチは、難しいことを抜きにして

 カメラ任せで自分の好きな被写体を、好きに撮ればいいのデス!」

 

そう締めくくり、ニコリと飛行場姫に笑いかけるレ級。

その楽しそうな笑顔に、一瞬見惚れてしまう飛行場姫であったが

 

「ソウカ。ワカッタ。アリガトウナレ級。

 ソレデハサッソク、好キナモノヲ撮ラセテイタダコウ」

 

そう言いながら、カメラをレ級に向けて構える飛行場姫。

その姿を見たレ級は、慌ててベットに飛び込み、布団で体を隠していた。

レ級は、撮るのは好きだが、撮られるのは苦手なのである。

 

「姫様。私ヲトッテモ面白くなイですよ!

 もっと別のモノを撮るべきだと思いマす。」

 

隠れたベッドの布団から頭を出し、飛行場姫に意見をするレ級であったが

飛行場姫はニヤリと笑みを浮かべ

 

「上位命令デアル。レ級、姿ヲ見セ写真ニウツレ。

 セッカク写真ノ取リ方ヲ教ワッタンダ。

 レ級、オマエデ試サセテモラウワ」

 

飛行場姫の無情な命令が飛び、

仕方なく、レ級は飛行場姫の写真撮影の餌食になるのであった。

 

----------------------------------------------------------------------

 

飛行場姫が去ったレ級の拠点で、レ級は一人タブレットの画像を整理していた。

 

「姫様モ結局、3時間ぐラいずーっとカメラから手を離さナいんだもんナぁ。

 気持ちハ判ルけど。姫様モ楽しソウだったもんナぁ。あんな姫様ハジメテみた」

 

ぼそりと囁きながら、レ級の脳裏にはシャッターを押すたびにニヤニヤし

モニターで画像を確認するたびに、「ワァア!」とテンションが上がり

そんなこんなで3時間、ずーっと笑顔だった飛行場姫の姿が浮かんでいた。

 

その気持は痛いほど判る。

レ級自身も、一眼レフを持って、ファインダーを覗くと、

燃料切れまで延々と艦娘の写真を取り続けてしまう。

 

そして、一通りレ級を撮影した姫は、さり際に

 

『レ級、ワタシハマダ写真ガヨクワカラナイ。

 勉強ノタメニ、オマエガオモウ最高ノ一枚ヲエランデクレ』

 

と、無茶振りをして拠点を出て行ったのである。

 

レ級は困った。なにせ、「飛行場姫が撮った戦艦レ級」を

つまり自分自身が写った写真を選別しなければいけないのである。

 

「姫様も無茶言ウなぁ・・・・。んー、どうしようカ」

 

手元のタブレットには、

布団から顔を出すミノムシスタイルの姿や

不機嫌な顔をしながらカメラを見る姿、

フル武装で金色オーラを出した姿などなど、

レ級のあらゆる姿が収められていた。

 

(うワぁーお。これは恥ずかしい)

 

レ級はそんな自分の写真を見ながら一人顔を赤くしていた。

艦娘を撮ることはあっても、レ級自身が撮られることは今までなかったのだ。

 

(あ、コの写真の私、かわイいな・・・。かワいい!?)

 

レ級は自分の写っている写真を可愛いと思ってしまい、

恥ずかしさに身悶えながらも、次々と写真をスクロールして表示して行く。

 

(駄目だ、これ以上見テると、私の中の何かがおカしくな・・・る?)

 

ふと、ある一枚の写真のところで、レ級の手が止まる。

その写真は、飛行場姫が一番最後に撮った写真で、

ヤケクソになったレ級が、思いっきりポーズをしている写真だ。

 

「お、これなんかカッコいいし、これが一番かナァ。

 ウーン・・・自分が撮られるってこトなかったけド

 こういうノナラ、意外と撮られるのモいいのかモ」

 

レ級は、呟くとともに、タブレットに「姫様」というフォルダを作り

写真を保存していく。

 

その写真のレ級は、

金色のオーラを放ちながら、目には蒼いオーラを滾らせ

胸を張りながら、戦船ではありえない陸軍式の敬礼を行い、

ヤケクソ気味に飛行場姫に対し、獰猛に笑いかけている写真であった。




妄想捗りました。


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11 とある鎮守府の風景

各地の鎮守府と警備府に、御触れが流れたようです。

そして、ある写真も一緒に付いてあったそうです。

受け取った鎮守府に少し動きがあるようです。

(一部誤字修正致しました。ご指摘ありがとうございます)


大本営とは、艦娘の行動を決める最大の最高の統帥部である。

その大本営から、日本各地の鎮守府や警備府に、一つの命令書と一つの写真が送られた。

 

【 近海に現れる深海棲艦『戦艦レ級』には、

 攻撃をせずに交流を図ってくる個体が存在することが発覚した。

 確定ではないが、例外の戦艦レ級は、

 過去横須賀より深海側に奪取された「装備品」カメラを持ち

 艦娘の写真撮影を行っている模様である。

 

 その意図は、佐世保からの報告によると、

 『本当に写真を撮影したい』という話だが真意は不明だ。

 

 現状、攻撃をしてこない戦艦レ級に対して、先制攻撃は禁止とし

 交流を図ってきた場合は、情報収集を行い現状を逐次報告せよ】

 

という文言の命令書である。

【攻撃をしてこない戦艦レ級】とは

もちろんカメラを持った例のレ級のことだ。

そして、書類とともに、一枚の写真が添えられていた。

 

佐世保鎮守府の精鋭艦隊の旗艦である「戦艦金剛」

第一水雷戦隊を取りまとめる旗艦「阿武隈」

同水雷戦隊のエース「第六駆逐隊」

そして、深海棲艦の怪物「戦艦レ級」

 

この7隻が、揃った集合写真である。

 

--------------------------------------------------------------

 

横須賀鎮守府の提督室で、大和と提督が命令書を確認していた。

 

「レ級に攻撃するな、とは。とんでもない命令書ですね、提督。」

 

「あぁ、しかもトンでも無い写真付きと来ている。

 命令書だけを見たときは、大本営が狂ったかと思ったが・・・

 まさか佐世保の艦隊とレ級の集合写真付き、とはな。」

 

提督と大和は、佐世保鎮守府の最精鋭艦金剛と、戦艦レ級が通じているという事実に、

命令書と写真を見ながらため息をついていた。

 

「えぇ、佐世保の金剛さんは、深海棲艦を見かけたら必ず倒していた艦娘でしたから。

 正直この写真は信じられません。

 特に、アイアンボトムサウンドでの金剛さんは、鬼神とも言える姿でしたから。

 覚えていらっしゃいますか?提督」

 

「あぁ、そうだな。アイアンボトムサウンドを鎮圧出来たのは彼女の功績が大きい。

 『砲撃が通じないから殴ってきたデース』と言って海域突破の報を

 こちらに入れてきた彼女、忘れはしないよ」

 

そして、横須賀提督と大和はアイアンボトムサウンドの攻略作戦を思い出していた。

提督と大和の脳裏に映るのは、にこやかな笑顔と、活発な声で

 

『三式弾だけじゃ通じなかったのデ、拳で殴って倒して来たデース!

 飛行場姫は撤退したデース!このままアイアンボトムサウンドを制圧しまショー!」

 

と、血塗れの拳を天高く上げている金剛の姿である。

その姿は、連合艦隊旗艦である大和も、それを率いる提督も、思わず引くほどだ。

 

「鬼の金剛、それと同列に写真に写る深海の化物、か。」

 

提督は写真を見ながら、少し険しい顔をしながら呟いた。

 

(それにしても、我が隷下の艦隊が使うはずだった『装備品のカメラ』

 それをレ級が使っているとは。もしかすると、我が艦隊を襲ったレ級と同一の船か?)

 

写真に写るレ級の装備を見ながら、一人思う横須賀提督。

装備を奪取された当時は大いに慌てたものだが

今、同じような撮影機材、装備を揃えている横須賀鎮守府にとっては既に不要の長物ではある。

だが、それを深海側でどのように、誰が運営しているのかが気になっていた。

 

(そしてなによりだ。何故にその装備をもったレ級が

「鬼の金剛」と写真を撮影し、友好的になっているのか。

 少しばかり、興味が湧くな)

 

そんなことを思いつつ、提督は少し笑みを浮かべ、大和に指示を下す。

 

「大和。いいか、過去、戦艦レ級と出会ったことのある船、つまり

 武蔵、一航戦、雪風、島風の第一艦隊を引き連れ

 鎮守府近海でのレ級の探索を命ずる。

 レ級らしき姿を見つけたら、直に報告しろ。

 あの金剛が友好的に接する深海棲艦、一度確認してみたい。」

 

大和は、少しだけ顔に笑みを浮かべ

 

「判りました、提督。私も少々気になる点がありますので

 出来るだけ接触できるよう、隅々まで探索してまいります。

 それでは、早速出撃してきます。」

 

大和も、自分達を襲い、護衛対象のタンカーを奪取したレ級が

命令書にあるレ級と同一の船なのかが気になっていた。

丁度いい機会だと、提督の命令を素直に受け、出撃する大和であった。

 

-------------------------------------------------------------------------------

 

横須賀鎮守府、正面海域。

 

艦娘が駆逐級の深海棲艦を発見し、大海原を行きながら砲撃する。

ドーン、ドーンと大きな砲撃音が鎮守府近海に響いていく。

そして、ガゴォンと音と共に、弾丸に直撃した駆逐級が、何処かに誘爆したのか、ドォンと爆発し、沈んでいく。

 

深海棲艦と艦娘の戦いは鎮守府の正面という

人類に一番近い海域であるこの場所でも、未だ続けられていた。

 

カシャンカシャンカシャンカシャンカシャンカシャンカシャンカシャン

 

そんな場違いなカメラのシャッター音を、海域に響かせながら、

駆逐級と艦娘の戦闘を記録していく船が一隻。

手にはフィルムの一眼レフを携え、セーラー服が特徴的な姿の艦娘だ。

 

「いやぁー、第一艦隊の皆々さまが、駆逐級を破壊する姿。

 かっこよかったです!しっかりと納めさせていただきました!」

 

そんなことを言いつつ、にこやかに笑う巡洋艦「青葉」。

彼女が構えるカメラのファインダーには、大和が率いる第一艦隊が映っていた。

 

「それにしても珍しいですねぇ。大和率いる我が横須賀最大の第一艦隊の戦闘シーンを

 鎮守府正面海域で生で!生で見られるとは思ってもいませんでした!

 しかもまさかまさか!それを写真に収められるなんて!」

 

満面の笑みを浮かべながら、まくしたてるように話す、興奮気味の青葉である。

 

「青葉さん。興奮するのはそこまででお願いします。

 今、我ら第一艦隊は、鎮守府正面海域での作戦行動中です。」

 

大和は冷静な顔で、そんな青葉に話しかけていた。

何せ今は、レ級を探すと言う任務中である。

下手に騒がれては、レ級をとりにがす可能性もあるのだ。

大和の一言に、尋常じゃない空気を感じた青葉は冷や汗をかきながらも、

 

「あら、申し訳ないです。私としたことがうっかり。

 興奮しすぎてしまいました。」

 

何時の間にかカメラは仕舞われ、いつもの艦娘の姿に戻っていた。

 

「それにしても、珍しいですねぇ。

 鎮守府正面海域に我が鎮守府の最精鋭が出撃なんて」

 

大和以下、第一艦隊の面々を見ながら呟く青葉。

 

「えぇ、今回は大本営も絡んでいます。少しばかり重要任務ですから。」

 

大和から発せられた、大本営という言葉を聞いて、青葉は目をキラキラさせながら、大和に問いかけた。

 

「大本営ですか!大和さん、もし、差支えなければ、私もその任務に御同行したいのですが!」

 

大和は、青葉のその言葉を受けて、少し思案を巡らせていた、

 

(普段なら、駄目ですと突っぱねる所ですけど・・・・・。

 確か、レ級はカメラを持って、写真が趣味という話でしたっけ。

 この青葉は、カメラを持っていて、写真が趣味でしたね。

 もしかして、レ級と青葉、お互いに趣味が合うなんていうことは・・・・)

 

青葉は、横須賀鎮守府でちょっとした有名な船ではある。

というのも、戦場カメラマンよろしく、戦闘中の写真を撮っては

広報に報告するため、それが鎮守府の瓦版としてよく出回るのだ。

 

アイアンボトムサウンドや、ミッドウェーの写真もあるあたり、本物である。

 

(カメラ好きの青葉と、カメラを持ったレ級。2隻を引き合わす事が出来たのなら

 良い反応があるのかもしれません。試してみる価値はありそうですね。)

 

そう考えた大和は、青葉の同行を許し

6隻+1の7隻は鎮守府正面海域を

戦艦レ級を探して、進軍していくのであった。

 




妄想捗りました。



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12 第五回 海上撮影会(仮)

「戦艦レ級(カメコ)」

大火力をすべて捨て去り、その身体能力を艦娘撮影に全力で使う彼女。

今日はまた、艦娘と出会うようです。



横須賀鎮守府の正面海域。通称「始まりの海域」。

全ての提督が初めて船を運用し、戦闘を経験した海域である。

誰しもが、海域に流れ着いた深海の駆逐艦を倒すことによって、戦闘経験を積み

そして新たな海域へと進軍していった。

 

そんな新人提督御用達の海域に、彼らでは絶対に太刀打ちできない

とんでもない深海棲艦が一人、カメラを持って立っていた。

 

御存じ、残念な深海棲艦、「戦艦レ級(カメ子)」である。

 

レ級は、最近飛行場姫にカメラを教えたり、他の深海棲艦の姫から撮影を依頼されたりと、

なかなかフルタイムで艦娘を撮影することができなくなっていた。

そんなさなか、今日は一日何も予定が入っていなかったため

昂る気持ちそのままに、日本最大の鎮守府である横須賀の正面海域まで進軍していた。

 

「久しぶリの横須賀ダー!今日ハ誰が撮れるかナァー!」

 

叫びながら海の上を滑っていく戦艦レ級。

その手には、70-200ミリ、F2.8の通しレンズが装着された

デジタル一眼レフがしっかりと握られていた。

 

「お!第一艦娘発見なリってナァ!あレはー・・・・。」

 

レ級はそう言いつつ、波間に隠れながら、カメラを構えていく。

ファインダーには、深海の駆逐級と砲撃戦を続けている菊月が映っていた。

 

「菊月か!横須賀じゃ見なかったから、最近移動してキタのかな?

 ・・・・おぉ、オぉ!善戦してるナぁ!」

 

ドォン、ドォンと響く音と共に、続けられる艦娘と深海の駆逐級との一進一退の砲雷撃戦。

レ級はその姿を撮影するために、カメラを構えたまま、近づきつつ人差し指でシャッターを切る。

 

カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ

 

デジタル一眼レフの気持ちのよいシャッター音が周囲に響き

駆逐艦の艦娘、菊月の美しい姿が記録され行く。

 

深海棲艦の砲撃を紙一重でかわし、反撃を行う見事な姿。

砲撃を行った瞬間、綺麗な銀色の髪が舞い、なんとも言えない色気を醸し出す菊月の姿。

流れるように海面を移動する菊月、と同時に制服と髪が舞い、演武をしているような美しい姿。

 

そのどれもが際立った美しさを醸し出している。

 

「菊月はヤッパリいいナぁ。何か際立ツ美しさがアルなぁ。

 他の艦娘とはちょっと違うノかもしれないナぁ」

 

しみじみと呟きながら、撮影を続けるレ級。

そうしていると、深海の船が「ギャアアア」と叫び、真っ二つに折れ、深海へと沈んでいく。

それを見たレ級は、カメラを一旦仕舞い、胸の前で両手を合わせていた。

 

(決着カ。流石は艦娘だナ。このぐらいの我々でハ、全く歯が立たないンだなぁ。

 まぁ、憎しみも憤りも、後悔も全て忘れ、ゆっくり眠レ。駆逐級。)

 

レ級は、沈む深海の駆逐艦を見ながら少しだけ祈る。

両手を合わせる姿は、どことなく帝国海軍の軍人のようである。

 

(さて、それはそうとして。)

 

祈り終えたレ級は、カメラを構え、菊月にファインダーを合わせる。

ファインダーには。深海棲艦を撃破して、少し「ドヤ顔」をした菊月が映っていた。

 

「そのドヤ顔。いたダいた!」

 

レ級はそう叫び、カメラを構えたまま、菊月に突撃していく。

その顔は、楽しくて仕方が無いという、獰猛な笑みを浮かべていた。

 

--------------------------------------------------------------------

 

鎮守府正面海域で、一人の艦娘が深海棲艦を一隻沈め、一息をついていた。

 

「また、強くなってしまった」

 

沈んでいく深海棲艦を見ながら、一人呟く菊月。

その姿は、戦闘のためか、少し汗ばみ、衣類は着崩れ

何とも言えない色気を放っていた。

 

「それにしても今日は、深海棲艦の数が少し多いな。

 主力艦隊、撃ち漏らし過ぎじゃないのか?」

 

菊月は額の汗を拭きつつ、一人ぼやいていた。

最近横須賀鎮守府に移動してきた菊月は

その経験を買われ、鎮守府の正面海域の哨戒任務についていたのであるが

何時もなら日に2隻から3隻の深海の船が

なぜか今日は午前中で既に5隻を超えていたのだ。

 

「戦闘経験にはなるから、別段問題はないがな。

 だが、一度基地に戻らねば。

 弾薬が心もとない。」

 

呟きながら、提督に連絡を取ろうと通信機を耳に当てる菊月。

ふと、目の端に何かが映った。

 

(ん?また深海の船か?

 まぁいい、まだ一戦ぐらいなら弾薬は持つ)

 

そう思って、何かの方向に首を向ける菊月であったが

目標を確認した瞬間、驚愕のあまり、体が硬直してしまう。

 

『そのドヤ顔。いたダイたァ!』

 

戦艦レ級が、叫びながらカメラを片手に突っ込んできていたのである。

その姿を完全に確認するも、全く反応ができない菊月。

 

カシャカシャカシャカシャ

 

ドヤ顔のまま固まっていた菊月に、レ級は容赦なくシャッターを切っていく。

その音にようやく自我を取り戻した菊月であったが

自身を撮影する深海棲艦を見ながら、呆気にとられていた。

 

(こいつは・・・例の命令書にあった「カメラを持ったレ級」じゃないか!)

 

菊月は単装砲のトリガーに指をかけるものの、

「先手の攻撃は禁止」という命令を思い出し

慌てて照準をずらし、戦艦レ級を睨んでいた。

 

(写真を撮るばかりで、本当に攻撃してこないじゃないか。

 やりにくくて仕方が無い)

 

菊月は、少し苦しげな表情を浮かべていた。

写真を撮りまくり、攻撃をしてこないレ級。

その対処に迷っていたのだ。

 

(むぅ・・・第一艦隊に通信か?

 いや、アクションを何か起こして攻撃される可能性も・・・。

 かといってこのまま撮影されるのも納得いかぬ)

 

カシャカシャカシャカシャ

 

戦艦レ級は、その間も延々と、菊月の姿を撮影しつづけていた。

その顔は、好きなことにのめり込んでいる艦娘

赤城や大和の食事の時の顔のようだと、菊月には思えていた。

 

カシャ・・・

 

シャッター音が止み、それに気付いた菊月は改めてレ級を見る。

すると、レ級は撮影をやめ、菊月を見ながら、口を開いていた。

 

『ソコノ艦娘、ナゼ攻撃シテコナイ?』

 

そのレ級を見ながら、菊月は完全に固まり

 

「なっ・・・しゃべっ・・た・・・だと・・・」

 

ただただ驚愕のまま、呟くことしかできなかった。

----------------------------------------------------------------------

(菊月本当ニ綺麗だワー。どれだけ撮っても飽きナいわー)

 

菊月の周りを延々動きながら、撮影を続けていたレ級。

だが、その姿に一つの違和感を覚えていた。

 

(あれ?そういえばナンで逃げたり、攻撃してこないんだろ?)

 

頭の中では、必死に砲撃を続けてくる菊月を撮影したいなぁと

考えていたレ級である。

その菊月は、こちらを睨みはするものの、一切砲撃を加えてこない。

 

(ンー?あれ、コレ。金剛ノ時もそうだった気ガ・・・?)

 

脳裏に浮かぶのは、金剛艦隊との接触の時だ。

あの時も確か、近づいていったけど、何もされず

逆に話しかけられたのではなかったか。

 

(もしかして、コの状況ハ・・・)

 

レ級はそう考え、一旦撮影をやめ、カメラを仕舞い菊月に向き合っていた。

すると、菊月もこちらを見つめ、制止していた。

もしかして、と

 

『ソコノ艦娘、ナゼ攻撃シテコナイ?』

 

レ級は首をかしげながら、菊月に話しかけていた。

以前は金剛から声をかけていたが、今回はレ級から声をかけると言う逆の構図である。

 

「なっ・・・しゃべっ・・た・・・だと・・・」

 

などという小さな呟きが聞こえ、顔は驚愕に染まり

菊月の体は、より硬くなっていた。その姿を見て、レ級は

 

『ソコマデ驚クナヨ。コッチハ敵意ハナイ。

 ソレヨリモ、少シ話サナイカ?』

 

笑顔で菊月に向けて言い放った。

その手には、いつのまにか取り出したのか

写真がたくさん入っているタブレットが握りしめられていた。

 

------------------------------------------------------------------------

鎮守府正面海域で、菊月と呼ばれる艦娘と、戦艦レ級と呼ばれる深海棲艦が対峙していた。

一見すれば、絶望的な状況であり、戦艦レ級に菊月が沈められる、そんな状況である。

 

だがその2人は、実のところレ級のタブレットを持ちながら、談笑しているだけであった。

 

「おぉ・・・!レ級、貴様、良い腕をしているな。

 礼を言おう・・・!」

 

レ級のタブレットの写真を見ながら、呟く菊月。

そこには、先程撮影された「戦闘中の菊月」の写真が映っていた。

 

『イイダロイイダロ?菊月、オマエハ他ノ艦娘ヨリモ撮リガイがアルンダ!

 美シイ髪、ソシテ美シイ機動。ドレヲ撮ッテモ最高ダ!」

 

レ級はそう言いつつ、写真を次々とめくっていく。

そこには、海の上を滑るように進み、美しい銀髪をはためかせる菊月の姿や

赤く綺麗な目を輝かせながら、敵に砲撃を行う美しい横顔などなどが収められていた。

 

「ぐっ・・・・そこまで褒められると恥ずかしいな・・・。

 それにしても、だ。戦艦レ級、これだけの数を、いつのまに撮影していたんだ」

 

レ級のタブレットには、数十枚、数百枚に渡る菊月の写真が格納してある。

それを見た菊月が、疑問に思うのも仕方が無いことであった。

レ級はあごに手を当て、少し考えていたようであるが

 

『ンー。毎日毎日ウミデ撮影シテタラ、コンナニ撮影シテタ。

 スゴクタノシカッタヨ!今日モタノシカッタシ』

 

にこにこしながら菊月に答えたのである。

その笑顔に一瞬見惚れつつも、

深海棲艦がこれでいいのかと思う菊月であった。

 

「そういえば戦艦レ級。他の艦娘の写真もあるのか?」

 

菊月は呆れつつも、レ級の他の写真を見たくなっていた。

なにせ、レ級の写真は深海棲艦が撮ったとは思えないほど

美しく、引き込まれるものがあるのだ。

 

自分以外の艦娘の写真を見たくなるのも、当然である。

 

『アルヨ。エートネェ・・・・。

 コレコレ。一日一枚、私ガコレダッ!ッテ思ッタ写真ヲ集メタンダ』

 

レ級はタブレットを操作しながら、「今日のベスト」フォルダを開き

菊月にタブレットの画面を見せていく。

 

そこには、大和や武蔵をはじめとした、数多くの艦娘の写真がこれくしょんされていた。

 

進軍していく様、戦闘中の美しい姿、濡れスケ、

中破・大破し出血するも戦闘を続けている艦娘

そして、轟沈していく艦娘。

 

あますところなく「戦場の艦娘」が記録されいてた。

菊月はそれを見ると

 

「これはすごいな・・・・。」

 

ただ一言つぶやいて、レ級の撮影した写真に見入っていくのであった。

 

--------------------------------------------------------------------------

 

菊月とレ級が写真談議に花を咲かせているその頃。

鎮守府近海を進軍していた大和艦隊が、電探に2つの反応を見つける。

 

『電探に感あり!解析の結果、片方は駆逐艦「菊月」

 片方は・・・大型の深海棲艦と思われます!

 場所はかなり近いです!』

 

大和の電探の妖精から、艦隊に向けて報が届く。

旗艦である大和と、武蔵は互いに目配せを行い

 

「艦隊に告ぎます。我が第一艦隊と青葉は

 これより大型の深海棲艦へと進路を向けます。

 近くには菊月の反応があるため、戦闘中の可能性あり!

 各自、戦闘態勢を整え、警戒を厳とせよ」

 

大和は鋭い声で、隷下の艦隊に指示を下すのであった。

それと同時に、大和以下武蔵、赤城、加賀、雪風、島風、青葉が

電探の反応がある方向に、舵を切っていく。

 

(菊月が大型の深海棲艦といる。もしその反応がレ級というのであれば、

 件のレ級が本当にカメラ好きであれば、写真撮影されているだけなのでしょうが・・・

 もし、命令書がでたらめだった場合は・・・最悪ですね)

 

大和は最悪の状況、菊月が沈められているのではないか、

という事を考えながら、速力全開で電探の反応が合った場所へと向かう。

 

「赤城、加賀は偵察機で現状を空から確認してください。

 同時に、島風!あなたの速力で先行偵察を」

 

「「「了解!」」」

 

大和の命令で、赤城と加賀は艦載機を飛ばし、

島風は速力を上げ、艦隊から突出し現状を確認していく。

すると、赤城と加賀の艦載機が、菊月と戦艦レ級の姿を捉えた。

 

「大和さん。私と加賀さんの艦載機が菊月と「戦艦レ級」の姿を捉えました。

 ・・・特に戦闘は起こっていない模様です。

 ・・・え?なか良く話し合っているように見える・・・ですか?」

 

困惑の表情を浮かべながら、大和に状況を説明していく赤城と加賀。

大和もその報告を聞きながら、微妙な表情を浮かべていく。

 

そして、追い打ちをかけるかのように、島風からの通信が入った。

 

『大和聞こえますか。こちら島風でーす!駆逐艦菊月と、

 大型の深海棲艦を発見。艦種類は戦艦レ級です!』

 

「御苦労さま、島風。詳細の報告をお願いします。」

 

 『えーとですねー・・・・。あれっ、特に戦闘はしていません。

 もう少し近づいてかくにんしてみまーす!』

 

「気をつけて。相手は戦艦レ級です。戦闘が行われていないとはいえ警戒を厳としてください」

 

『了解でーす!」

 

島風と大和は通信を続けながら、現状を把握していく。

大和は更に微妙な顔になりつつ、武蔵に話しかけた。

 

「航空隊に続いて、島風からも報告です。

 特に戦闘はしていない、ということです。

 武蔵、貴女なら、どう見ます?」

 

話しかけられた武蔵は、手を組みながら思案し

 

「なんとも言えんな。

 状況からして、カメラを持ったレ級の可能性は大きいが

 正直情報が少なすぎるぞ。

 島風からの報を待たねば、なんとも言えぬ」

 

大和と同じような微妙な顔で、武蔵は大和にこたえていた。

すると島風から新たに通信が入ってきた。

 

『大和以下、みんな、聞こえますか?島風です・・・。」

 

若干疲れたような声を届けている島風。

そして、今回は大和だけでなく、隷下の艦隊全員に届くように通信を放っていた。

 

「視認距離まで来ました。その、えーとですね、驚かないでくださいね。

 現状は、菊月がポーズを取って、それを戦艦レ級が撮影しています・・・。』

 

「「「「「はぁ!?」」」」」

 

島風から報告を受けた6隻は、驚きのあまりに叫んでしまうのであった。

 

-----------------------------------------------------------------------

先程まで、写真を見ていたレ級と菊月ではあったが

 

菊月が「せっかくだからもう何枚か撮影してもらえないか?」

とレ級に頼み込んだ結果・・・・

 

 

「イイヨ!イイヨ!ソウソウ!単装砲ヲカメラニ向けテ、ソウ!

 モット鋭クニランデ、ソウ!」

「こうでいいのか・・・?」

 

カシャカシャカシャ

 

『次ハ海面ニ座ッテ、ソウソウ、アッ、女ノ子座リッテヤツデ、ソウソウ

 上目ニシテ、単装砲ハ股ノ間デ。イイヨイイヨー!』

「くぅ・・・恥ずかしい・・・」

 

赤くなる菊月。そして、それを延々撮りまくるレ級。

海上での1VS1の撮影会という、混沌とした空間が出来上がっていた。

 

鋭くカメラを睨みつけ、単装砲を向ける美しい顔。

女の子座りで上目づかいをする菊月。

赤い顔で見返り美人な菊月。

グラビアのように、4つんばいになり、女豹のポーズをとる菊月。

 

普段の戦闘では絶対にあり得ない写真が、タブレットに記憶されていた。

 

『フゥー。撮ッタ撮ッタァ!イイヨイイヨ!菊月ィ!』

 

レ級はあらかた思い通りの写真を撮ったのか、カメラを仕舞い、菊月へと近寄っていく。

その手には、今撮影したデータが入っているタブレットが握られていた。

そして菊月の前に立つと、おもむろにタブレットを差し出し

 

『コレ、コノ上目使イノ菊月ナンテ最高ダヨ!今日ノ一枚ニ決定ダ!

 アト、セッカクダカラ金剛トカニモミセテオクネ!』

 

レ級は笑顔で菊月に話しかけつつ、一枚の写真を見せていた。

その写真には「海面に女の子座りで座り、顔を赤くしながら上目づかいで笑顔を見せる菊月」

の姿が写っていた。

 

それを見た菊月は、

 

「ぐぬううう・・・なんなのさ・・・いったい・・・・!

 それと、頼む、頼むから、その写真は他の艦娘に見せるな・・・

 かわいい、とは思うのだが・・・・それよりも、恥ずかしい・・・!」

 

その瞳よりも顔を赤くさせて俯いたまま、呟やいていた

 




はかどりました。艦娘は誰しもがかわゆい。


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13 第六回 海上撮影会

「戦艦レ級(カメコ)」

大火力をすべて捨て去り、その身体能力を艦娘撮影に全力で使う彼女。

新たな艦娘と、出会い交流を行うようです。


カシャンカシャンカシャンカシャン

 

横須賀鎮守府海域に、フィルム一眼レフの音が響いていく。

大和艦隊の進軍を撮影する、青葉の一眼レフカメラの音である。

 

「いやぁ!みなさま絵になりますねぇ!

 特に大和さんと武蔵さん!横顔が最高です!」

 

青葉は、そんなことを言いながらカメラを構え、次々と写真を撮影していく。

その顔は、とっても良い笑顔だ。

 

「青葉、そろそろ戦艦レ級と菊月が会敵している場所の近くです。

 撮影も良いですが、そろそろ警戒を厳としてください」

 

大和はそんな青葉を見ながら、鋭い口調で命令を飛ばす。

青葉はそれを受け、カメラのフィルムを変えながら

 

「了解です!戦艦レ級の写真、間違いなく撮影します!」

 

青葉は更に良い笑顔で答えるのであった。

実際のところ、青葉の身体能力は実際かなり高い。

砲撃飛び交う最前線で「被弾無し」で帰ってくるのだ。

しかもしっかりと「最前線の艦娘」の写真を撮影している。

戦闘能力を「写真撮影」に全力で使用する艦娘、それが青葉である。

 

(そう言う事じゃないんだけど・・・。

 青葉の写真好きにも困ったものね。本来の身体能力は、戦艦にも劣らないくらいなのに)

 

大和は、喜々としてフィルムを変え、カメラを構えなおす青葉を見ながら

一人ため息をついていくのであった。

 

「おい大和よ。島風を目視確認だ。

 同時に、菊月とレ級らしき物体を確認。どうする、砲撃するか?」

 

武蔵の声にハッとして、前を見る大和。

その目の先には、先行偵察を命じていた島風が波間に佇み

その更に先には、戦艦レ級と菊月が2隻で海の上に立っていた。

 

「武蔵、一航戦、雪風、あと島風。あのレ級は深海棲艦ではありますが、

 命令書にあった戦艦レ級の可能性が大きいですから、こちらからの砲撃は厳禁です。

 ただし、いつでも発砲、発艦できる体制は整えておいてください」

 

「「「「「了解」」」」」

 

大和は隷下の艦隊に指示を下しつつ、島風と合流しながら、更に足を進めてレ級に近づいていく。

そして、完全に視認距離に来た所で、とんでもない光景が、大和艦隊の目に飛び込んできたのである。

 

菊月と戦艦レ級が争ってはいたのだが・・・・

方や真っ赤な顔をして、大声で何かを叫びながらレ級からタブレットを奪おうと、やっきになっている菊月に

方やニヤァリと良い笑みを浮かべて、菊月にタブレットを奪われまいとしている戦艦レ級の姿であった。

 

その姿を確認した大和艦隊は、呆気にとられ、気が抜けてしまっていた。

そして思わず武蔵が、大和に話しかけていた。

 

「大和よ、あれをどう見る?」

 

話しかける武蔵の顔は、苦笑というか、なんとも言えない表情をしていた。

 

「私に聞かれても困るんですが・・・・。

 えぇと、友好的なレ級、発見ということで、いいのではないでしょうか・・・・」

 

そう答える大和の顔も、同じように苦笑のような、なんとも言えない表情であった。

ふと、大和が艦隊を確認すると、他の艦娘達も、まったく同じような表情で固まっていた。

 

なにせ、戦艦レ級には何度も苦渋をなめさせられているのである。

航空戦、砲撃戦、雷撃戦、どれも高水準で、かつ高錬度で襲い掛かってくる敵だ。

何度も大破させられ、何度も仲間が沈められた悪魔の様な深海の船、「戦艦レ級」。

 

そんな敵が、カメラとタブレットを持ちながら、駆逐艦の菊月と

なにやら楽しそうにじゃれあっている姿を見てしまったのだ。

状況整理が追いつかず、固まってしまうのは仕方がないことだ。

 

「あー、、皆さん。とりあえずですが、このまま進軍し

 あのタブレットをもっている2隻に接触を図ります。

 安全が確保できるまでは、レ級に照準を向け続けてください」

 

大和は固まっている艦隊に指示を飛ばし、進軍していく。

その指示にようやく反応した隷下の艦隊も、大和に続き進軍を続ける。

 

そして、じゃれあっていた菊月と戦艦レ級は、

進軍する大和艦隊の姿に気がついたのか、視線を大和艦隊に向ける。

戦艦レ級の鋭い目が、大和艦隊を射抜く。

 

(くっ・・・戦艦レ級、その目は本物ですね。すさまじいプレッシャーです)

 

大和はレ級の視線に、体がこわばっていた。

隷下の艦隊も同じように、緊張が高まる。

 

(戦艦レ級、どう、でてくるんでしょうか)

 

大和は砲撃に備えながら、レ級の行動を観察していく。

すると、戦艦レ級と菊月は、大和艦隊から視線を外し、何やら話を始めていた。

 

(?とりあえず、攻撃はしてこないようですね)

 

大和艦隊はその光景を注意深く確認しつつ、更に接近していく。

お互いの顔がわかるところまで近づいた時、

あろうことか、戦艦レ級が右手を上げ、大和艦隊に向け、叫んだのである。

 

『ヨウ!オ前ラ私ニアイニキタンダッテナ!

 敵意ハナイカラ、ユックリハナソウゼ!』

 

左手にはタブレットが握られ、その顔はニッコニコのいい笑顔だったという。

それをみた大和達は驚きのあまり、7隻全員で、大声を上げてしまうのであった。

 

「「「「「「レ級が・・・しゃべったあああああ!?」」」」」」

 

『ヒッ・・・・!?ヤメテ、オオゴエハ、ビックリスルカラ、ヤメテ!』

 

そしてその声に、ビクゥっとする戦艦レ級の姿である。

---------------------------------------------------------------------

鎮守府正面海域。提督達の育成の場で

2隻の船が、タブレットを引っ張り合いながらじゃれあっていた。

 

「戦艦レ級。私は別に艦隊の人気物になりたいわけではない・・・・!

 お前の写真の腕が気にいったからもう少し、撮影して貰おうと思っただけでな!」

 

『イヤイヤ、コノ写真ハ皆ニミテモラウベキダッテ!

 菊月ゼッタイカワイイモノォ!モッタイナイカラ!ネ?ネ!?』

 

前回の撮影会で、写真を撮りまくった戦艦レ級と、写真を撮られまくった駆逐艦菊月である。

レ級が、「出来がすごいいから他の艦娘にも見せるね!」と言ったところ

菊月が全力で「いやそれむりだから、やめて、お願い、ねぇ、聞いてる?やめて!」

と断ったことが事の発端である。

 

「ぬぅぅぅ・・・・なんなのさ、いったい。」

 

菊月はタブレットの奪取に失敗し、赤い顔のまま、俯き呟いていた。

 

カシャカシャカシャカシャ

 

その菊月の姿に、戦艦レ級のカメラのシャッター音が容赦なく響き

菊月の恥ずかしがる姿がカメラに記録されていく。

 

『グフフ、菊月ノ、レアナ顔ゲット。赤イ顔モカワイイネェ』

 

菊月は、ハッとして顔を上げるが時すでに遅し。

戦艦レ級が、良い笑顔をしながらカメラを構えていた。

 

「おまっ、おまっ、おまえぇ!」

 

『菊月ガ、カワイイノガワルイ』

 

更に赤い顔で、口をパクパクさせながらうろたえる菊月。

更にその顔を容赦なく撮影していく戦艦レ級。

傍から見れば、混沌の極みである。

 

そして、戦艦レ級が、追撃とばかりに赤い顔の菊月を撮影しようとしたときである。

 

ファインダーの中の菊月の背中に、7隻の艦娘らしき姿が映ったのである。

戦艦レ級は、ファインダーから目を外し、その方向に視線を送る。

菊月もそんなレ級に釣られるように、自身の後方へと視線を向ける。

 

すると、菊月からは見慣れた艦隊である、横須賀鎮守府第1艦隊、通称大和艦隊と

重巡洋艦青葉が進軍してきていた。

 

『大和と、武蔵、加賀、赤城、雪風、島風、アト・・・青葉?

 スゴイ艦隊ダナァ。ウーン、流石ニアノ艦隊相手ニシタクナイシ

 ソロソロ撤退シヨウカナァ』

 

戦艦レ級は、大和艦隊を睨みながら呟いていた。

それを聞いた菊月は、レ級の方を向きながら、話しかける

 

「いや、その必要はないぞ。

 おそらくあの艦隊の目的は、戦艦レ級。貴様を発見することだ」

 

菊月の言葉に、思わず固まる戦艦レ級。

固まる戦艦レ級を横目に見つつ、菊月は更に言葉を続けていた。

 

「戦艦レ級、実は貴様には大本営から

 <交流を図れ>という命令が来ているんだ。

 最初は誰も信じなかったのだが、

 佐世保の金剛艦隊と映っている写真が同封されていたものでな。」

 

『エ、本当?』

 

と呟き、菊月を見る戦艦レ級。その顔は、呆気にとられていた。

 

「あぁ、本当だ。ついでに、どうせ知ることだから教えておくが、

 命令書はおそらく、全鎮守府に回っているぞ」

 

レ級の脳裏に浮かぶのは、金剛艦隊と撮った集合写真。

あの時、実は艦娘側のカメラでも、集合写真を1枚撮影していたのである。

「良い写真が撮れマーシタ!レ級!またどこかで会いまショー!」

右手を振りながら、いい笑顔で去っていく金剛の姿が、脳裏に浮かんでいた。

 

(オ?オ?エート。ン?ナンデダ?イヤイヤ、大本営ッテ。

 アレカ、モシカシテ、金剛トトッタ写真、アレカ!

 ッテイウカ、金剛カ!金剛ガ原因カ!)

 

思いだすと共に、戦艦レ級はハッっとして大和艦隊の方をみる。

 

(トイウコトハ、アイテニ敵意ハナイ、ハズ。

 ソレジャア、声ヲカケテミヨウカナァ・・・?)

 

戦艦レ級は、そう思うと、タブレットを左手に持ち、右手を高く上げた。

そして、その右手を左右に振りながら、大声で叫んだのである。

 

『ヨウ!オ前ラ私ニアイニキタンダッテナ!

 敵意ハナイカラ、ユックリハナソウゼ!』

 

すると、艦娘は驚いたのか、驚愕の表情のまま固まり、直後

 

「「「「「「レ級が・・・しゃべったあああああ!?」」」」」」

 

『ヒッ・・・・!?ヤメテ、オオゴエハ、ビックリスルカラ、ヤメテ!』

 

艦娘達の大声に、思わずビクゥとなってしまう、戦艦レ級であった。

 

「戦艦レ級、案外、ビビリなのだな・・・」

 

その隣で、ぼそりと囁く菊月。

レ級が赤い顔のまま、ハッとして菊月の顔をみると

菊月は「いいものを見た」と言わんばかりに

ニヤニヤと、良い笑顔を浮かべていた。

 

------------------------------------------------------------------

 

横須賀鎮守府、正面海域のとある場所。

 

そこに、横須賀鎮守府の最大戦力が揃っていた。

大和、武蔵、赤城、加賀、雪風、島風、青葉、そして菊月。

基本性能も、錬度も極限の彼女らは、深海棲艦の最深部すらも攻略できる能力を備えている。

 

さて、そんな彼女らがなぜか鎮守府正面海域に集結していた。

というのも、輪のように布陣している艦隊の中心には、

「戦艦レ級」という、最悪とも行っていい深海棲艦が存在しているのだ。

 

一見すると「8隻の艦娘が、1隻の深海棲艦を叩いてる」のだが

実際の状況は全く違う。8隻が、深海棲艦のタブレットを見ながら談笑していたのだ。

 

「はぁー・・・ため息が出るほど美しく撮りますねぇ。

 青葉、自信をなくしちゃいます・・・。」

 

カメラが好きな艦娘は少し落ち込みながらため息をつき

 

「武蔵、武蔵!私の写真もありますよ!

 ・・わぁ!この砲撃シーンなんか、かっこいいです!わぁ!

 あっ。武蔵、あなたのもありますよ!」

 

「ふむ・・・おお!これは良い!

 大和との同時砲撃をよくぞここまで捉えたな戦艦レ級

 賛辞に値するぞ!」

 

日本最大級の戦艦は大興奮して手がつけられない。

 

『イヤァ、褒メラレタ物ジャイナイヨ。

 結局ハ被写体ガ最高ダカラ、綺麗ニトレルンダ!』

 

戦艦レ級は、そういいつつ談笑する艦娘の姿をにっこにこしながら見ていた。

 

「戦艦レ級、私と、赤城さんの写真はないんですか?」

 

「あ!あったらぜひ見せてください!

 大和と武蔵さんばかりで、ずるいと思ったいたんですよ」

 

『オォ、加賀ト赤城ダナ!アルヨ!チョットマッテネ』

 

そう言うと、タブレットから「航空部隊」というフォルダを表示させ

1枚1枚写真をめくっていく。

 

そこには、発艦のために弓を構えていく赤城の姿、

残心が美しい加賀の姿、

敵の航空機の攻撃を避け、反撃とばかりに弓を弾く赤城と加賀の姿など

数多くの空母機動艦隊の写真が収められていた。

 

それを見た加賀と赤城は目をキラキラさせながら興奮気味に話していた。

 

「わぁあ!綺麗!加賀さん加賀さん、これなんか一緒に映っていますよ! 

 タイミングばっちりです!戦艦レ級。ありがとうございます」

 

特に、赤城は少し飛び跳ね、喜びを表している。

 

「流石にこれは・・・。気分が高揚しますね」

 

加賀も、判りにくくはあるが、少し笑顔になっていた。

 

『イヤァ、ソコマデ喜ンデクレルト、撮ッタカイガアルナァ」

 

レ級はそんな2人を見ると、少し照れながら、呟やく。

撮影した物を、本人に見せて喜ばれると、その嬉しさは、筆舌に尽くしがたい物である。

 

『ソウソウ、雪風ト島風ノ写真モアルヨ!』

 

そして、次から次へとタブレットに表示されていく写真に、

魅入られていく大和艦隊と青葉と菊月であった。

 

-----------------------------------------------------------------------------------

 

「そういえば、レ級、いくつか質問よろしいですか?」

 

写真に見入っていた大和であったが

任務の事を思い出し、戦艦レ級に話しかけていた。

 

『ドウシタ、大和。深海ノ情報以外ナラ、ナンデモ聞イテイイヨ」

 

話しかけられたレ級は、にこにこ顔でかえしていた。

それを聞いた大和は、改めてレ級を正面に据え、話し始めた。

 

「深海の情報は気になりますが、それよりもあなたのことです。

 艦娘を攻撃したり、沈めたり、そのようなことはしないのですか?」

 

大和の顔は真面目で、その声も静かでありながら、少し緊張を含んでいた。

レ級は首をひねりながら、少し考えたのち、口を開き

 

『ンー。私ハ別ニ沈メタコトナイナァ。沈メタイトモオモッテナイシ。

 カメラヲ手ニ入レル前モ、命令デ大破撤退サセルグライダッタシ。

 ソレヨリモ今ハ、コノ一眼レフデ写真ヲ撮ルコトガ大切カナ!』

 

一眼レフを見せびらかしながら、レ級は、大和に言い放った。

戦艦レ級の表情は、曇りのない笑顔で、大和達が思わず見惚れるほどである。

 

「そう、ですか。わかりました。戦艦レ級。写真が好きというあなたの言葉、信じましょう」

 

大和は戦艦レ級の表情を見て、普通であれば、深海の船を信じることのない彼女ではあるが、

戦艦レ級の裏表のない言葉に、その引き込まれるような笑顔にウソは無いと判断したのである。

大和以下、隷下の艦娘も同様なようで、大和の言葉にうなずいていた。

 

『ソウダ、大和、一ツタノマレテモラッテモイイカ?』

 

そんな艦娘を見ながら、戦艦レ級は大和に話しかけていた。

大和は、首をかしげながら、レ級に答える。

 

「なんでしょうか?私たちも、艦娘の情報は渡せませんが

 それ以外で出来る事なら何でもいいですよ」

 

『イヤ、ソコマデ大シタモンジャナイ。』

 

レ級は少し真面目な顔で、大和に向き合うと

 

『コノ艦隊ト、私デ、集合写真トッテクレナイカ?記念トイウカ、ウン、記念ダナ!』

 

笑顔で大和に言い放った。それを受けた大和は

 

「そうですね、記念、ということで1枚。写真に入らせていただきましょう。

 皆さんも、いいですよね?」

 

レ級と同じような笑顔で、答えるのであった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「以上、戦艦レ級との接触の全容です」

 

横須賀鎮守府の提督室で、提督と大和が対峙していた。

 

「なお、戦艦レ級の装備は、自分でタンカーから奪ったもの、との証言が取れました。

 確実に、私達を襲ったレ級と、今回のカメラのレ級は、同一の船です。」

 

「そうか、判った。

 それにしても、あの時のレ級が、今じゃ写真家とはなぁ・・・・」

 

提督は、はぁ、とため息をつきながら、大和の報告を整理していく。

 

要点をまとめていけば

・戦艦レ級は友好的。ただし、深海側の船であることは違いない

・戦闘行為はしない。写真を撮るために艦娘に近づいている。

・装備は過去横須賀より奪われたカメラそのものである。

・戦艦レ級の撮影する写真はどれも魅力的

というところである。

 

「それにしても、コノ写真を戦艦レ級が撮影したとは、ねぇ。

 美しく撮れてるじゃないか」

 

呟く提督の手元には、

「凛とした横顔が美しい、大和が砲撃をするシーン」の写真が握られていた。

ポスターにも出来るような見事な構図に加え、敵を見据えながら叫ぶ様

そして、砲撃の爆風で少しだけ髪が流れ、色気も醸し出している。

 

「えぇ、私もそれを見たときは、自分の写真とはいえ、思わず

 見惚れてしまいましたから。戦艦レ級の写真は、見事なものです。」

 

大和はその写真を見つつ、少し顔を赤くしながら提督に話していた。

 

 

-------------------------------------------------------------------

 

大和達と鎮守府正面海域で別れた戦艦レ級は、

自身の拠点へと戻り、カメラのメンテナンスを行っていた。

珍しく、飛行場姫もその隣に座り、同じようにカメラのメンテナンスを行っている。

 

『レ級、今日ノ撮影ハドウダッタノカシラ』

 

「とンでもない事にナってます。姫様。

 私ガ、なにやら友好的なレ級というコトニなっているみたいデす」

 

飛行場姫とレ級、2隻がカメラとタブレットをいじくりながら

会話する様はシュールである。

 

『ホゥ、ソレデ大和達ト集合写真ヲトッテキテイタワケカ』

 

「お恥ずカしながら。テンションあがってしマいまして・・・・」

 

レ級は、姫の言葉に小さくなりながら呟いていた。

脳裏に浮かぶのは、以前同じように艦娘と撮影をし、

処罰を受けそうになった時のことである。

 

(もしかして、また解体騒ぎになるのかなぁ)

 

と、レ級が小さくなりつつ考えていると

 

『何、小サクナルコトハナイ。貴様ノ写真ハ有用ダ。

 コノ集合写真ダッテ、精鋭ノ菊月ガ横須賀ニ移転シテイルトイウ

 貴重ナジョウホウデモアルノダ。気ニスルコトハナイワヨ』

 

レ級は、その言葉に顔を上げ、飛行場姫を見る。

飛行場姫は、そんなレ級を見ながら、

 

『レ級、前ニモイッタガ、オ前ハ好キナヨウニ写真ヲトレ。

 行動ニ制限ハナイ。私ガ保障シテヤロウ。

 ナニヨリ、ソノ写真ヲ待ッテイル姫モイルノダ。遠慮セズニ撮ッテシマエ。

 モシ、鎮守府ニ潜リ込メルヨウナ機会ガアレバ、遠慮セズニ行ケ」

 

穏やかな笑みを浮かべて言葉をかけていた。

 

「おぉー。寛大デすね姫様。判りまシた。

 好きなように撮らせていただキます!」

 

レ級は、にっこにこの顔で飛行場姫に言葉を返していた。

 

その手元のタブレットには、

「戦艦レ級をセンターに、大和・武蔵・一航戦・雪風・島風・青葉そして菊月が

 いい笑顔をしながら映る集合写真」が写されていた。

 




妄想滾りました。


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14 深海と艦娘のカメ子

「戦艦レ級(カメコ)」

大火力をすべて捨て去り、その身体能力を艦娘撮影に全力で使う彼女。

「巡洋艦 青葉(カメコ)」

火力をすべて捨て去り、その身体能力を艦娘撮影に全力で使う彼女。

似た者同士が何やら話しあっているようです。


 

横須賀鎮守府、正面海域。

最近、友好的なレ級が、よく出現している海域である。

 

そんな海域を、重巡洋艦である「青葉」は一人進軍していた。

目的は、鎮守府正面海域の中にある、一つの島である。

 

その島は、羅針盤を起動させ、進路を決定づけるための目印でもあるため

新人提督にとって、羅針盤の洗礼を初めて受ける場所である。

そんな島に、青葉は一人、単独で向かっていた。

 

何故かと言えば、青葉は先日、大和艦隊との集合写真を撮影した後に

「戦艦レ級さん!私、青葉っていいます!

 その、あなたと写真談議をしたいのですが、後日また会えませんか!?」

と、レ級に声をかけていたのだ。

レ級自身も別に悪い気はしなかったため

『イイゼ!ソシタラ、3日後ノ1200ニ

 鎮守府正面ノ大キナ島デ、オタガイ装備ヲモッテデ構ワナイカ?」

と答えていたのである。もちろん青葉は、レ級の言葉に対して

「もちろんです!青葉、こんな素敵な写真を

 撮る方とじっくり話せるなんて、感激です!」

良い笑顔をしながら、返答を返していた。

 

そして、今日がその3日後であり、時間は1130を過ぎたころである。

青葉は30分ほど前に、鎮守府正面の島の近くに到着していた。

 

(早くつきすぎてしまいましたか。まだ深海棲艦のレ級の反応はありませんね)

 

周囲を確認しながら、島へと上陸する青葉。

その手には、レ級との約束通り

「青葉が持っているフィルム一眼レフ」の装備が携えてあった。

 

「仕方が無いです。せっかく時間ができたのですし

 不備が無いように、カメラの手入れでもしていますか!」

 

青葉は手に持っている大型のカメラバッグから、2台のフィルム一眼レフと

6本のレンズを取り出し、一つ一つ、丁寧に布で拭いていく。

 

青葉の持っているレンズは、単焦点3本に、ズームの望遠レンズが3本である。

各レンズには、フラッグシップである印の、赤と金色の線が入っており

大きさも、普通のレンズとは違い、大きく、一見するとバズーカのようである。

 

「流石にフル装備は重いですねぇ」

 

青葉はレンズを拭きながら、鎮守府近海の島に一人座り、装備を整えながら呟く。

そして、レンズをカメラに装着し、構え、試し撮りをしようとしたときである。

構えたカメラのファインダーの先に、戦艦レ級が映っていた。

 

(お、戦艦レ級さんじゃないですか!本当に時間通りに来てくれたんですね!

 整備はここまでにして、お出迎えに向かいましょう!)

 

青葉はレ級を確認するや否や、整備していたカメラ一式をカメラバッグに仕舞い

戦艦レ級の方向へと向かっていく。

 

そんな青葉の姿を確認したのか、戦艦レ級は、減速しながら手を振り叫んでいた

 

『青葉ァ!オマタセ!1200ニハマニアッタヨナァ!』

 

「1150ですから、セーフです!お待ちしていましたよー!戦艦レ級さーん!」

 

手を振りながら、島に突っ込んでくるレ級に、

同じように手を振りながら、叫び返す青葉。

たった今、鎮守府正面海域の小さな島に、

戦闘よりも写真を愛する、残念な船が2隻、集結したのである。

 

そして、上陸するや否や、戦艦レ級は、

重巡洋艦「青葉」と改めて挨拶を交していた。

 

『改メテヨロシク。私ハ戦艦レ級ト呼バレテイル深海ノフネダ。

 ソチラノヨウニ、各船デナマエヲモッテイナイノデ、レ級トデモヨンデクレ』

 

「わかりました!レ級さん!

 改めまして私からも御挨拶をさせていただきます!

 私は日本帝国海軍所属の重巡洋艦「青葉」の艦娘です!

 私のことは青葉とお呼びください!」

 

青葉は、自己紹介をすると同時に、

ビシッと音が鳴りそうなほど綺麗な敬礼を行っていた、

対してレ級は自己紹介をするも、割とフランクな姿勢で

 

(青葉、デッカイバッグ持ッテルナァ

 アノナカニ、カメラノ機材ハイッテルノカナ)

 

そんなことを思いながら、青葉の手にある、大きなバッグを見つめていた。

レ級のバッグを見る視線に気づいた青葉は

 

「レ級さん、やっぱりこのカメラバッグ、気になります?」

 

笑顔でカメラが入ってる大きなバッグを掲げ、レ級に訪ねていた。

 

『ウン。ソリャア、キニナル。

 ダッテ、ソノナカニカメラ一式ガハイッテルンダロ?

 早速、オタガイノカメラ、見セ会オウゼ!』

 

レ級は6つのホルスターに入ったカメラを持ち上げ、青葉に言い放った。

それに答えるように、

 

「そうですね。時間がもったいないです。

 早速、お互いに、写真談議といきましょう!」

 

青葉はいい笑顔を浮かべながら、カメラバックから

フィルム一眼レフを取り出し、レ級に言い放つのであった。

 

----------------------------------------------------------------------------------------

 

鎮守府近海のとある島で、戦艦レ級と青葉が対峙していた。

お互いに「女の子座り」とか、「ぺたん座り」と呼ばれる体制で

青葉の用意したビーチシートの上に座っている。

 

傍から見れば異様な空間だが、当人たちは

艦娘写真をお互いに、レ級はタブレットを、青葉はアルバムを見せながら

カメラ談議に話を咲かせているのである。

 

 

「レ級さんの装備は、近距離用の装備なんですよねぇ・・・。

 よく200ミリまでのレンズで、これだけの迫力のある写真を撮れますね!

 青葉、感動しちゃいます!」

 

興奮しながら喋る青葉の手元には、レ級のタブレットが握られ

金剛の砲撃シーンや、山城扶桑といった

戦艦の砲撃シーンが大迫力で映し出されていた。

 

『ンー、ソウナノカ?

 私ハイツモ、艦隊ニ突撃シテ撮影スルカラ

 望遠ガ足リナイトハオモワナイナァ』

 

レ級は、興奮する青葉を見ながら、

艦娘に突っ込み、常に自分の好きな距離まで近づいてシャッターを切るという

自分の撮影スタイルを思い出していた。

 

「はぁー、なるほど、それは確かに、こんな迫力のある写真が撮れるわけです。

 足りない焦点分は足で稼ぐわけですね!納得です!」

 

納得しながら話しかけてくる青葉に、レ級は苦笑いで答える。

そして、レ級も青葉が持ってきた艦娘アルバムを見ながら、疑問を青葉にぶつけていた。

 

『ソウ言エバ、青葉。

 コノ、6隻ガ手前カラ奥ニ並ンデル写真ナンダケレド

 コレ、ドウシテ遠近感ガ少ナクナッテイルンダ?』

 

レ級の手元のアルバムには、「6隻の艦娘が縦に並んでいるが

奥行きがほとんど感じられない」写真があった。

それを見た青葉は

 

「あぁ!それは圧縮効果を狙って、このレンズで撮ったんです!」

 

青葉は600ミリ(F4)の単焦点レンズを取り出しながら、説明を続ける。

 

「レ級さんの最大の焦点距離は200ミリです。

 それでも同じような写真を撮れることは撮れるのですが」

 

ぺらぺら、と青葉はレ級が手にするアルバムをめくっていく。

 

「それだと、この写真のように、若干遠近感が無くなりますが

 まだ、普通の艦隊写真に見えますよね」

 

青葉の言葉に、レ級はうなずいて答える。

 

「それでですね、それだと物足りないので、600ミリのレンズで撮影すると・・・

 こんな「奥行きと手前の距離が短くなった」写真が撮れるわけです!」

 

青葉は、先程レ級が見ていたページの写真を見ながら、誇らしげに話していた。

 

『ナルホドナァ。機材ノ種類ニヨッテモ、撮レル写真ガマタ違ウンダナ。

 私ダケガヒトリデ撮影シテタラ、判ラナカッタコトダ。感謝スル、青葉!』

 

誇らしげに話す青葉の姿に、レ級は抜けるような笑顔でお礼を言っていた。

そのレ級の姿に、青葉は

 

(深海棲艦でもこんな笑顔ができるんですねぇ)

 

と思いながら、レ級に一つの提案を行っていた。

 

「レ級さん、丁度いいので、お互いの装備を確認しあいませんか?

 お互いのスタイルを知るためにも、いい機会だと思うんです!」

 

『オォ!ソウダナ。ソレジャア、マズハレンズカライクカ?』

 

「そうですね、私もレ級さんの装備しているレンズ、気になります!」

 

そういうと、2隻はお互いに自分の持っているレンズ、

レ級は、単焦点3本(35mm 50mm 85mm 1.4F)と、

ズームレンズ(16-35 24-70 70-200 F2.8通)を

青葉は、単焦点3本(200mmf2.8 400mmF2 600mmf4)と、

ズームレンズ(14-24 24-70 70-200 F2.8通)を

ビーチシートの上に並べていく。

 

お互いにレンズを見比べながら、観察していた2隻であるが、

 

『単焦点、ズイブン大キイナァ。コレ、ドノシーンデツカッテルンダ?』

 

巨大な単焦点に惹かれたレ級が、青葉に質問を投げていた。

青葉は顎に手を当て、少し考えた後

 

「そうですねぇ、先程の圧縮効果の時も使うんですが

 戦闘中の艦娘を撮るときにメインで使うレンズですね!」

 

青葉はそう答えながらレ級を見ると、レ級は首をかしげながら不思議そうな顔をしていた。

その表情を見ながら、青葉は一つのことを思い出していた。

 

(そういえばさっき、レ級さんは「つっこんで撮影」するとおっしゃってましたね!

 それでは確かに、巨大な単焦点の望遠レンズなんて使わないはずです)

 

と一人納得し、レ級に言葉を続ける。

 

「レ級さんのように、艦娘につっこんで写真を撮るのなら、

 確かにこの600ミリとかのレンズは不要です。

 ですが、私は艦娘ですから、レ級さんのように

 艦娘に突っ込んでいったところで、砲撃とか、戦闘中の写真は撮れません。

 深海棲艦と艦娘が戦う時でしか、戦闘中のシーンは撮れません。」

 

レ級は、ふむ、と相槌を打ち、静かに青葉の言葉を聞いていた。

青葉はその姿を確認し、更に言葉を続けていく。

 

「つまり、この600ミリとかのレンズは、一歩引いた所から、

 戦闘の邪魔にならないところから、「戦場の艦娘」を撮るための道具なんです。」

 

青葉は説明が終ったところで、ドヤ顔をしながら、レ級を見る。

 

『ナルホドナァ。タシカニ、私ダッタラ、

 ツッコメバ艦娘ハ砲撃シテクルカラ ソレダケデ戦場ノ艦娘ガ撮レル。

 失念シテタ。普通ハソウダヨナァ。

 普通戦闘シーンハ誰カト誰カガ戦ッテイル所ヲ撮影スルンダモンナ』

 

レ級は、そんな青葉の言葉に納得したのか、一人呟いていた。

 

「そうなんです!その点レ級さんはうらやましいです。

 艦娘に近づくだけでこれだけのシチュエーションを作れてしまうんですから!」

 

青葉が言うこれだけ、とは、「レ級を撃破しようとする必死なシチュエーション」である。

美しい艦隊娘が、表情に恐怖と焦燥を浮かべ、必死に砲撃し

海の上を滑る様など、普通はなかなか撮影できるシーンではない。

 

『ソウナノカァ。役特ッテヤツダナ!。

 ・・・・デモ青葉、ソレニツイテ気ニナッテイタコトガアルンダケド』

 

レ級は、写真談議をしていた時とは違い、真面目な顔で青葉に話しかけていた。

 

「どうしたんですか?レ級さん。急に真面目になって」

 

青葉はレ級を不思議そうに見つめ、首をかしげながら答えていた。

レ級はそんな青葉を見ながら、言葉を続ける。

 

『「レ級ハ友好的ッテイウ」命令書ッテ、艦娘全員ニトドイテタリスルノカ?』

 

「正確には鎮守府に、ですが、恐らく艦娘全員に届いてますねぇ」

 

『命令書ノ内容ッテ、詳シクハドウイウモノナンダッケ?』

 

「あぁ、えーとですねぇ。

 『近海に現れる戦艦レ級とは友好的に接し、先制攻撃は禁止とする』

 こんなところです」

 

そこまで言ったところで、青葉はあることに気づく。

命令書にあった、『先制攻撃は禁止とする』。この文言は

レ級の「突っ込んでいくと艦娘が必死に抵抗し、美しい砲撃シーンが撮れる」

というアドバンテージを潰しているのではないか、と。

 

青葉がそれに気づき、ハッとした顔でレ級をみると、

 

『ナルホドナァ、ダカラカァ・・・・。

 今日ココニクルトキ、艦娘ノ砲撃シーン撮ロウト思ッタラ

 普通ニ話シカケラレテサァ。良イ写真ハトレタヨ?ケド!ケドォ!

 ソノ、命令書ガ、艦娘全員ニマワッテルッテコトハダヨ?

 必死ナ表情ガ、砲撃シーンガ!

 コレカラハ全然撮レナイッテコトジャナイカ!』

 

そんなことを呟きつつ、レ級は地面に跪き、頭を垂れていた。

判りやすいほどの落ち込みようである。

 

というのも、レ級がいつもの調子で艦娘につっこみ、

美しい砲撃シーンを撮ろうとした時のことだ。

カメラを構えて突撃していったのだが、

そのレ級の姿に艦隊は驚くことも、慌てることもなくこちらを向き

 

「あら、あなたが噂のレ級さんなの? 

 私は村雨っていうの。こっちは時雨と夕立、よろしくね!」

 

手を振りながらにこやかに話しかけられたのである。

レ級にとっては、「あれ?またか?」という形で、友好的に接触されたのだ。

ポーズをいくつか取ってもらい、撮影した結果

喜んで貰ったのでレ級的には満足であったが

それがこれから毎日続くとなると、全く別の話である。

 

『ヌゥゥ。大本営、ヤッテクレタナァ。

 本物ノ戦闘デモイイケド、ソウスルト私ニ視線、コナイシナァ』

 

青葉は、ぶつぶつと呟き、落ち込んだままのレ級の姿を見ながら、一人考えていた。

 

(うーん、自分の好きな写真が撮れなくなった事に

 ショックを覚えるのには共感できてしまいます。

 レ級さんの気持ちをくみ取って、何とかできないものでしょうか)

 

青葉は、うーん、うーんと頭をひねっていく。

 

(任意の艦娘が、任意のタイミングで、戦闘を行えばいいはずです。

 となると、鎮守府正面海域での戦闘のタイミングをレ級に伝える?

 いや、でもそれだと不確定すぎます。

 それに、この方法だと深海側に出撃の情報を渡すことにも・・・・)

 

青葉の頭には、次から次へと案が浮かんでは行くものの

これだ!という案にはなかなかたどりつかない。

そして、その傍目には、未だに落ち込んでいるレ級の姿が映っていた。

 

(任意の艦娘が、任意のタイミングで、戦闘・・・何かありましたっけ。

 うーん、なおかつ、深海側にばれても、さほど影響のない・・・・あっ!)

 

何かに気づいた青葉は、落ち込んだままのレ級に顔を近づけ、小さな声で何かを囁いた。

その囁きを聞いたレ級は、一瞬固まったものの、ハッ!とした顔を青葉に向け

 

『ソレ、本当カ!コレカラソコデ写真トッテイイノカ!』

 

レ級の先程までの落ち込んだ姿とは一転、ハイテンションで青葉に話しかけるのであった。

それを受けた青葉は

 

「えぇ!もちろんです!

 ただ、提督の許可が必要となりますので、

 明日伺いを立てたのち、2日後の1200に、結果を伝えに来ます。

 また、この島に来てくださいますか?」

 

良い笑顔をしながら、レ級に再会の約束を取り付けるのであった。

そして、レ級は青葉に駆けより、ニコニコした笑顔で青葉に話しかける。

 

『モチロンクル!青葉!期待シテルヨ!』

 

「はい!あなたの写真は提督も気にいってますから

 大丈夫だとは思います!」

 

青葉とレ級、この二隻は何を約束したのか、お互いに固い握手をしたのち

そそくさと装備を仕舞い、お互いに拠点に帰っていった。

 

----------------------------------------------------------------------

 

横須賀鎮守府の提督室では、提督が、青葉からの報告を受けていた。

 

「以上がレ級との接触の詳細となります!」

 

「御苦労、青葉。それにしても完全に件のレ級は敵意が無いのだな」

 

青葉は、レ級のタブレットに入っていた写真を思い出していた。

その一枚一枚は、艦娘一人一人が美しく撮影され、雑さを感じさせない素晴らしい出来だ。

好きでなければ、あんな写真は撮ることができない。

そう考えた青葉は、迷いない瞳で提督を見つつ、

 

「はい!これ以上ないほど、純粋に写真を愛している深海の船です!」

 

迷いない言葉で、提督に言い放ったのであった。

 

「そうか、それであれば、大本営にはそう報告しておこう

 下がっていいぞ、御苦労、青葉」

 

提督は青葉に命令するも、青葉は直立したまま、口を開いた。

 

「実は提督、一つ、そのレ級絡みで御提案がありまして」

 

「何だ、青葉。言ってみろ」

 

青葉は少し緊張した面持ちで提督を見つめながら、言葉をつづけた

 

「実は、レ級を演習に招待してみてはどうかと思うのです」

 

「ほう、その心は?」

 

「まず、戦艦レ級に敵意は有りません。それ故に、演習に参加させ

 訓練に応じさせれば 我が艦隊の錬度が間違いなく上がります。」

 

「それはそうだな、だが、戦艦レ級は敵意が無いのだろう?

 どうやってやる気を出させるつもりだ」

 

「そこで次です。戦艦レ級は、「友好的なレ級」という命令書が各鎮守府に届いたため

 迫力のある砲撃シーンが撮れなくなったと、嘆いておりました。」

 

ほう、と相槌をうつ提督。それを確認し、青葉は言葉を続けていく。

 

「つまり、演習の間、好きなように写真を撮ってよい、ということを条件に

 演習の訓練に参加させるのです。そうすれば、レ級は迫力のある写真が撮れる

 我が艦隊はレ級相手に訓練ができる。というwin-winな関係になるのです。

 ちなみにですが、レ級からの了承は取り付けてあります」

 

青葉からの言葉に、提督は少し考えていた。

 

(確かに、レ級が演習に参加してくれるというのはありがたい話だが

もし敵意があった場合は、その場で全ての艦娘が沈められてもおかしくない状況だ。)

 

そこまで考えた所で、提督の脳裏には更に考えが浮かぶ。

 

(レ級の真意を確かめるためにも、一度、錬度の低い艦娘の演習に参加させ

 様子を見るもの「アリ」だな。もし敵意を見せ、艦娘を沈めそうになった場合は、

 鎮守府内の艦娘全員で袋叩きにすれば、対処は可能だろう)

 

そう考えた提督は、

 

「青葉、よろしい、貴様の案を採用しよう。

 レ級に演習に参加するよう伝え、こちらに来てもらえ」

 

ニヤリ、と提督は笑みを浮かべながら、青葉に命令を下す。

 

「判りました!とはいっても、次会う予定は2日後なので、その時に連れてまいります!」

 

青葉は元気な声で、返答を返すのであった。




妄想捗りました。上陸、レ級さん。


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15 深海棲艦のNewカメ子とレ級 2

重巡洋艦「青葉」の先導のもと、
艦娘との演習に参加し、写真を撮ることになったレ級。
レ級はいつもの様に、カメラを持ってウキウキとしているようです。

ただし、1隻、とんでもない船がレ級についていくようです。


日本にある帝国海軍基地の中でも、

最大級の規模であるのが、関東地方の南にある横須賀鎮守府だ。

深海棲艦に対する最大の軍事拠点でもある横須賀の街は、

常日頃から、一般、軍、商社などなど様々な人々と様々な船が行き来し、

普段から、艦娘や軍関係の人々は街に繰出し、周囲の商店で買い物をしたり

住民と交流を行ったりと、軍事関係の街としては、比較的穏やかな場所である。

 

だが今日、横須賀鎮守府、及び横須賀の街は異様な雰囲気を醸し出していた。

 

商人たちは、いつにもまして物資の搬入を急ぎ行い、

横須賀鎮守府の周辺には警備兵が多数配置され、一般人は閉めだされていた。

横須賀鎮守府内で何があるか、何か事件があったのかという

情報に関しても封鎖されている異常事態である。

普段街を闊歩している軍関係や艦娘達も、誰ひとりとして町中を歩いては居なかった。

 

そして、横須賀鎮守府の内部には、臨時の大本営が設置され

日本各地にある鎮守府から、各鎮守府の司令官や、上層部が次々と

横須賀鎮守府に入っていく。

 

周辺住民には特に予告もなく行われた情報規制と鎮守府の封鎖。

その様子に、

「何か大規模作戦でも行われるのか。」

「深海棲艦が攻めてくるのではないのか。」

「一体何が始まるんだ。」

等々不安な噂が広まっていた。

 

-----------------------------------------------------------------

 

横須賀鎮守府内部に設置された臨時大本営。

天皇を始めとした、陸海軍の将校がずらりと並ぶ。

その中には、横須賀・呉・大湊・佐世保といった

名だたる鎮守府の提督たちも同席していた。

そして、全員の着席を確認するとともに、

横須賀鎮守府の提督が、起立し、美しい直立姿勢のまま口を開いた。

 

「今回はお集まりいただき、誠に感謝致します。」

 

一礼を行うと、着席している提督や将校たちが応じ、会議の始まりを告げた。

 

「今回お集まりいただいたのは、電信でお伝えした通り

 件の「戦艦レ級」が我が鎮守府の演習に参加するという、

 前代未聞の事象が派生したからです。

 ただいま大和から資料を配らせますので

 各自、お受取りください。」

 

横須賀鎮守府の提督の言葉に、秘書官である大和は

着席している将校たちに資料を渡していく。

資料を受け取った将校たちは、驚愕の表情を浮かべたり

「これは面白い」と言わんばかりの笑顔を見せたりと

多種多様の反応を見せていた。

そして、全員に資料が渡ったことを確認し、

横須賀鎮守府の提督は口を開いた。

 

「資料の通り、本日1400より、件の戦艦レ級と

 我が横須賀艦隊の演習を行います。

 構成はまだ練度の低い駆逐艦2隻、望月と卯月

 我が艦隊の中核を担う空母を2隻、赤城と加賀

 そして、同様に中核を担う戦艦、長門と陸奥

 この6隻が今回、件の戦艦レ級と演習を行います」

 

その資料には、本日の演習内容と

呉と横須賀で撮られた、艦娘と撮られた集合写真と

青葉が撮影してきた、「熱心に青葉のカメラ一式を見るレ級」

そして、「青葉と共にカメラを手に持ち、砂浜で2人で笑顔で写るレ級の写真」

が印刷されていた。

 

「次のページから、件のレ級が、

 艦娘と映る写真が数枚印刷してあります。

 驚かれたでしょうが、この写真から察するに、このレ級には

 完全に敵意はないとみて良いでしょう。

 しかし、もしもということも有りますので、対処が出来るように

 本日は遠征艦隊と哨戒艦隊、そしてエスコート艦隊以外、

 大和以下横須賀鎮守府に在籍する全ての艦娘は、待機を命じております。

 そして、お集まり頂いた皆々様には、その状況をご覧頂き

 今後の件の戦艦レ級の処遇について

 精査をよろしくお願いしたく存じ上げます」

 

言い終わると同時に、横須賀鎮守府の提督は一礼をし、着席をする。

天皇以下、陸海軍の将校は、「艦娘と映る深海棲艦」の写真を見て

ヒソヒソと話し合いはするものの、

「戦艦レ級」が横須賀鎮守府に来ると言う事実に

誰一人として、大本営会議終了のその時まで言葉を発することが出来なかった。

-------------------------------------------------------------------

 

大本営の会議が沈黙を持って会議終了を告げた頃、

件のレ級こと、カメラを持った戦艦レ級は

重巡洋艦「青葉」との約束より早めに「鎮守府近海の島」へと到着していた。

 

「まーダ早かっタカナぁ」

 

浜辺へと上陸したレ級は、カメラを手に取り、機材の調子を確認していく。

いつもの武装無しの姿に、カメラのホルスターを5つぶら下げ

尾っぽにはサーチライトを4つ装着しているいつもの姿である。

 

「レ級、イツモ貴様ハコンナトコロマデ写真ヲ撮リニ来テイタノカ」

 

しっぽの上に、カメラを持った『飛行場姫』さえ座って居なければ、であるが。

 

「エェ。鎮守府近海とナれば、新しい艦娘ガ訓練してたリしますからネ!

 誰よりモ早く写真を撮りタいんでス」

 

レ級は、姫を見ながらにこやかに言う。

そんなレ級を見ながら、

 

「本当ニ馬鹿ダナオマエハ」

 

呆れ顔でそう呟く飛行場姫であったが

実は今回の飛行場姫も「やらかして」いる。

 

「そういウ姫様も、今回、『艦娘と演習して撮影する』

 って伝えたら『私も連れて行け、武装解除するから』トか言っテ

 ソレを本当に実行しちゃウとか、私トいい勝負ですよネ」

 

レ級も若干呆れ顔で、自身の尻尾に乗っている飛行場姫に言葉を返す。

そう、今回なぜ「飛行場姫」がこの場にいるのか。

しかもレ級の尾っぽに乗っているのか。その謎は至極簡単に解けるのである。

 

カメラにハマってしまった飛行場姫が艦娘の写真を撮りたくなったからだ。

 

ただし、過去に艦娘と2回戦火を交え

幾度と無く艦娘を撤退に追い込んだ経験がある飛行場姫だ。

どうしたって艦娘と軋轢がある。

 

それでもどうしたって、艦娘の写真を一度は撮りたい。

ということで、飛行場姫は

「レ級、ドウニカシテ艦娘ノ写真ヲトリタイノダガ」

レ級にそう尋ねたところ

「武装を完全ニ解除しテ、カメラダケでイケばイイんじゃないでしょうか。

 今度、艦娘の演習ニ誘われタので、ついてキマす?」

と、レ級から提案を受け、飛行場姫はそのまま実行に移したのだ。

 

完全に武装を取り払い、身一つで来るという暴挙。

艤装を完全に外したため、一人では海に浮かべなくなり

レ級の尾っぽに乗って、艦娘の写真を撮影するために

鎮守府近海のこの島まで、馳せ参じたわけである。

 

その手には「デジタル一眼レフ」(70-200mm望遠レンズ)が

しっかりと握られ、その表情は

隠し切れない喜びで、にこにこしていた。

そんな姫の姿を見ながら、レ級は一人考える

 

(んンー・・・・。思いがけズ本当ニついてくるなんてナァ。

 姫様、かなりの数の艦娘をボッコボコにしてたカらなァ。

 いくら姫様が非武装とハ言ってモ、

 流石に、鎮守府に姫様が行くのはまずいンじゃ・・・・

 青葉、びっくりして、帰っタりしない。ヨネ?)

 

海の向こうを見ながら、

迎えに来るはずの青葉が「飛行場姫」にビビって帰らないように

レ級は一人祈るのであった。

 

--------------------------------------------------------------

 

カメラを持って鎮守府近海を進軍する3隻の船。

重巡洋艦「青葉」、航空母艦「加賀」、戦艦「武蔵」は

レ級をエスコートするため、鎮守府近海の島へと向かっていた。

 

「いやぁー!楽しみです!

 戦艦レ級の写真撮影の風景を生で見れるなんて!」

 

戦闘を行く青葉は、にっこにこでカメラ片手に、最高潮に興奮していた。

その後ろには、「武蔵」、「加賀」と続く。

 

「青葉よ、興奮するのは判るが周囲の警戒を怠るな。

 レ級を迎えに行く前に、駆逐級の攻撃でダメージを受けるなど

 愚の骨頂だぞ」

 

「もちろんです!しっかりと警戒もしています!」

 

武蔵の言葉に反応し、しっかりと答えを返す青葉。

そんな青葉を見ながら、言葉とは裏腹に、その顔は少し綻んでいた。

 

(戦艦レ級の写真をまた見れるとはな。

 青葉には感謝せねばならんな)

 

武蔵は一人考えながら、青葉の後を追従していく。

 

「武蔵、大丈夫です。

 周囲警戒は私の艦載機が行っています。」

 

武蔵の言葉に反応したのか加賀が後方から声をかけていく。

口を開いた加賀も、心なしか顔が明るい。

武蔵は上半身を捻り、加賀の方を見ながら口を開いた。

 

「そうか、それならば安心だな。

 加賀よ、警戒は任せたぞ」

 

「もちろんです。1隻足りとも見逃しません」

 

加賀は弓を構え、新たな偵察機を発艦させていく。

警戒は厳、憂いなく、レ級の元へ向かっていた。

そうしていると、遠くに例の島が見えてきた。

 

「武蔵さん!加賀さん!島が見えてきました!

 おっ、レ級さんは既に到着しているようです!」

 

青葉は、額に手を当てながら、島の状況を確認していた。

島の上には、パーカー姿のレ級がカメラをもって待機していた。

その姿を、武蔵と加賀も確認していた。

 

「本当に来ていたんですね。

 少し疑っていた私が馬鹿でした」

 

加賀はそんなレ級の姿を見て、少し呆れ顔でつぶやいていた。

そして目をつぶり、戦艦レ級の上空を飛んでいた艦載機と意識を同調させ、

改めてレ級の姿を確認していく。

 

(改めて見ると、本当に武装が無いレ級ですね。

 手にはカメラ、体の両脇にはホルスター。

 尻尾にはサーチライトが・・・4つかしら。

 そして、尾っぽにはカメラを持った白い人影が乗って、

 ・・・・人影!?)

 

加賀はハッとして、目を開けた。

未だ島は遠く、肉眼でレ級の詳しい状態までは分からない。

「何かの見間違えかもしれない」

と、改めて加賀は目をつむり、艦載機との意識を同調させていく。

 

(件の戦艦レ級以外に、あんな物好きな深海棲艦は居ないはず。

 きっと見間違えでしょう・・・・。

 ええと、手にはカメラ、体の両脇にはホルスター。

 尻尾にはサーチライトが4つ。

 そして、尾っぽにはカメラを持った白い人影が乗っていま、すね。

 見間違えではありませんでしたか、しかし、レ級が連れてきたのでしょうか?

 それにしても、武装も、艤装も装備していませんね。珍しい。

 深海棲艦でしょうか?でも、白い深海棲艦なんてなかなか居ないはずですが・・・。

 はて、あの白い深海棲艦、何処かで見た記憶が・・・・・)

 

そこまで確認したところで加賀は目を開き、艦載機との同調を解除した。

そして、加賀は若干つかれたような表情を浮かべながら、青葉と武蔵に話しかけた。

 

「青葉、武蔵、良い知らせか、悪い知らせか判りかねますが報告です」

 

加賀の言葉に、青葉と武蔵は振り返り

 

「どうしました?加賀さん。そんな顔をして」

 

「どうした、加賀。急に疲れた顔をして」

 

2隻とも不思議な顔をして加賀を見ながら、訪ねていた。

その姿を見ながら、加賀は口を開いた。

 

「島に居る戦艦レ級を、艦載機から確認しました。

 カメラを装備して、非武装ですから、間違いなく件のレ級です。」

 

頷く青葉と武蔵。その顔は、「やっぱりな」と笑顔になっていた。

だが、加賀の次の言葉で、その表情は一気に凍りつく。

 

「それと同時に、戦艦レ級の尻尾に座る『飛行場姫』を確認しました。

 ただし、武装どころか、艤装を装備していません。」

 

「「はっ・・・!?」」

 

加賀を見たままの体制で、表情どころか、体も凍りつく青葉と武蔵。

そして、青葉と武蔵は一瞬の思考の後、同時にバッと島の方へ振り向き

島にいるレ級の姿をよく確認する。

 

そうすると、青葉たちの姿に気づいたのか、

ぴょんぴょん跳ねつつ、大きく両手で手を振るレ級の姿が目に入る。

 

「おぉーイ!青葉ァ!武蔵ィ!加賀ァ!」

 

レ級は叫びながら、笑顔で手を振っていた。

 

そして、ぴょんぴょん跳ねるレ級の尻尾に座りながら、

右手でカメラを持ち、青葉達を見ながら、左手をひらひらさせ、

涼しい顔をしている飛行場姫の姿があった。

 

----------------------------------------------------------

 

「おぉーイ!青葉ァ!武蔵ィ!加賀ァ!」

 

レ級は青葉たちの姿を確認すると、

ぴょんぴょん跳ねながら、大きく両手を振っていた。

 

「ホォ、本当ニキタノダナ」

 

飛行場姫は、揺れるレ級の尻尾の上で器用にバランスを取りながら

呟きつつ、青葉達艦娘に手を振っていた。

そんな姫の言葉に振り向き、

 

「ふふフ。青葉と私ハカメラの縁ガありますかラネ!」

 

レ級は、姫に対して自慢気に話していた。

姫もそんなレ級を見て、

 

「ソノヨウダナ。レ級、オマエハ予想ノウエヲ行クノダナ」

 

少し呆れつつも、やわらかな笑顔でレ級に話しかけていた。

レ級が少し照れながら、姫から視線を外し、艦娘達に振り返って

改めて手をふろうとした時である。

 

青葉、武蔵、加賀が、こちらを見ながら表情を固くし、文字通り固まっていた。

そして、先頭にいる青葉が、主砲をレ級に向けながら大声で叫んでいた

 

「レ級さーん!?その、武装はしていないようですがっ!

 尻尾に乗っている『飛行場姫』はどういうことなのでしょーかー!?」

 

レ級の「姫様が居て大丈夫だろうか」という予感が的中したのである。

青葉に続き、武蔵も主砲砲をこちらに向け、

加賀に関しては、爆装させた艦載機を発艦させていた。

その光景を見ながらレ級は

 

(アー・・・・予想通り、とイうか。姫様見タら、艦娘ってコウなるよナァ。

 んー、ドウシヨウ。何カ、警戒を解く良イ方法、無いかナァ)

 

顔を書きながら、一人打開策を考えていた。

飛行場姫に関しては、

 

「アー・・・ソウナルワヨネェ。撮影ハ無理カシラ」

 

とつぶやき、少し残念そうに艦娘を見ている。

そんな飛行場姫の姿を見たレ級は、覚悟を決めたように、

青葉達の方を向き、息を吸い込み、叫ぶ。

 

「青葉ぁー!飛行場姫様も、写真撮りタイっていうから、連れてきたァー!

 艤装も外しテ、カメラ一個ダケ装備してアるから、一緒に撮らセて上げテ!

 お願イー!」

 

変化球なしの直球で勝負を仕掛けたのである。

もしこれで、拒否されるのであれば、

レ級は一旦姫様を拠点に届けてから、改めて一人で演習に参加しようと考えていた。

 

すると、青葉たちは主砲の標準をレ級達から外し

 

「レ級さーん!上空から飛行場姫の武装解除は確認できましたー!

 レ級さんのお仲間ということでしたら、このまま鎮守府までお連れ致しますー!」

 

叫びながら、少し硬い表情ではあるが、

青葉、武蔵、加賀は島へと進軍を再開していた。

レ級はそんな青葉達を確認すると、飛行場姫へと顔を向け

 

「OKみたイですよ。姫様」

 

ニコニコした顔で、姫に話しかけるのであった。

飛行場姫も、そんなレ級を見ながら、

 

「ヨカッタワ。コレデ撮影ガデキル」

 

カメラをしっかりと両手で持ちながら、良い笑顔で一人、呟くのであった。




妄想捗りました。


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16 第七回 演習撮影会

「戦艦レ級(カメコ)」

大火力をすべて捨て去り、その身体能力を艦娘撮影に全力で使う彼女。

「飛行場姫(カメコ)」

装備を全て捨て去り、趣味に走った深海の姫君。

各々、好きなように、写真を撮るようです。


横須賀鎮守府の演習場で、ドォン、ドォンと言う音が響く。

大本営会議に参加した面々が見守る中、ついに演習が始まっていた。

 

長門・陸奥は主砲弾をレ級に撃ちこみ

赤城・加賀は艦載機で爆撃と雷撃を繰り返し、

駆逐艦である望月と卯月は、戦艦レ級に攻撃を当てようと

必死で雷撃と砲撃を繰り返していた。

 

「なんでうーちゃんの魚雷がぜんっぜん当たらないぴょん!?」

 

「うぁあ・・・全然あたらないじゃん。

 こうなったら、適当にばらまくしか・・・」

 

望月と卯月は焦った顔で次々とレ級に攻撃を加えていくものの、

レ級はそのすべてを避け、カメラを構えながらドンドン写真を撮影していく。

 

カシャシャシャシャシャシャシャ

 

一眼レフの気持ちのいいシャッター音が鳴り響くと共に

望月の気だるそうな動きの中でも、猛獣のように光る眼や

卯月の美しい桜色の髪の毛が風になびくさまなどなど

駆逐艦の美しい姿が記憶されていった。

 

『イイヨォ!2隻ともぉ!

 もっともっと、良い姿ヲ見せてオクレえー!』

 

叫びながら、レ級は駆逐艦の放った砲弾を、当たり前のように掴み

体を回転させ、勢いそのまま駆逐艦の足元へと力いっぱい投げ返していた。

望月と卯月の足元で、戦艦並みの砲撃の水柱が立ち

衝撃によりその服は一発でやぶけ、艤装は水圧によりダメージを受けていた。

 

「うわあっ!うへぇ・・・しんど・・・」

 

「ぅあっちゃぁ・・・あたたた・・・ったぁい・・・」

 

中破判定の2隻は、呟きながらも回避行動と攻撃を続けていく。

その姿に、レ級は

 

(駆逐艦の濡れ透けイヤッタアアアアアアアイ!)

 

脳内に何かがあふれ出る勢いで、写真を撮りまくっていた。

何せ、望月はメガネで濡れ透け。

卯月はサラシで濡れ透けである。

 

カシャカシャカシャカシャカシャ

 

レ級はファインダーから目を離さず、永遠と写真を撮り続けている。

肌蹴て恥ずかしいのか、顔を赤くして肌を隠す望月の表情

そして、サラシが濡れ透けて、その下の肌が若干見えている卯月。

 

「「冗談じゃない!(ぴょおおおん!)」」

 

戦艦レ級のカメラに自分のあられもない姿が撮られていると

自覚した望月と卯月は、これ以上恥ずかしい姿を撮影されまいと、

残った武装でより苛烈な攻撃をしかけていく。

 

同時に長門と陸奥も攻撃を加え、

赤城と加賀も艦載機で雷撃と爆撃を繰り返していた。

そんな戦艦と空母の頑張りようもむなしく、未だに無傷のレ級である。

 

『イヤッホオオオオオオオオオオオウ!

 甘いっ甘イッ!長門ォ!陸奥ゥ!赤城ィ!加賀ァ!

 ヌルイっ、ゾー!』

 

レ級はそう叫びながら、長門と陸奥の弾丸を掴み、空中へと投げ返していく。

投げた先では、赤城と加賀の艦載機が、次々と墜落していた。

 

「なんて化け物だ・・・!この私の弾を素手で掴むなど・・・!」

 

「あら・・あらら?」

 

そう言いながら、砲撃を続ける長門と陸奥であったが、その顔色はすぐれない。

錬度で言えば、大和と武蔵を超える2人であったが

戦艦レ級の前には、全くの型なしである。なにせ、自慢の主砲弾を掴まれ

延々と投げ返されているのだ。

 

「赤城さん、残りの艦載機は?」

 

「私はもう7割が落とされています。

 投げ返した長門さん達の弾丸でここまで落とされるなんて、信じられないわ。

 ・・・・加賀さんは?」

 

「赤城さんとほとんど一緒です。完全に動くのは2割程度です・・・。」

 

空母2隻も同じようで、その表情は苦しそうだ。

というのも、戦艦レ級に爆撃と雷撃を繰り返すものの

戦艦レ級は全くダメージを負わないどころか

長門と陸奥の砲弾をあろうことか、艦載機に投げ返していた。

しかもその精度がすさまじく高く、味方が砲撃する分だけ

赤城と加賀の艦載機は落とされ、搭載数がそこを尽きかけていた。

 

『苦しそうナ表情モイイネェ!

 もっと撮影させてオクレエエエエエイ!』

 

レ級は叫びながら、駆逐艦の撮影に満足したのか、

今度は戦艦と空母に向かって突撃していく。

その姿をみた長門と陸奥は

 

「ふざけるな!写真撮影ばかりしている貴様に負けてたまるか!」

 

「あらあら、流石に舐め過ぎじゃないかしら?」

 

近づいてくるレ級に主砲の照準を合わせ、戦艦2隻は一斉砲撃を繰り返していく。

だが、その砲弾はレ級の手の中に納まり、元々の勢いにレ級の腕力が乗せられ、投げ返される。

 

『ナガトオオオオオオ!陸奥ウウウウウウウウウ!

 濡れ透けニナレエエエエエ!

 ついでに赤城と加賀ァ!

 肌蹴て濡れ透けロオオオオオオオオ!』

 

レ級が魂の叫びと共に、長門と陸奥、赤城と加賀の足元に、砲弾を投げ返していく。

魂が入った投げ返しの水柱は、大和の主砲をも超える勢いである。

 

「っ・・・レ級、なかなかやるな・・・!」

 

「やだ・・・・至近弾でこんなに・・・もう」

 

「一航戦の誇り・・・こんなところで失うわけには・・・」

 

「そんな・・・馬鹿な。」

 

 

そんな大和レベルを超える至近弾を食らった4隻の船は

駆逐艦と同じように肌蹴、その顔を赤くしている。

赤城と加賀に限っては、飛行甲板も水圧で圧壊していた。

 

カシャカシャカシャカシャカシャカシャ

 

戦艦レ級は、すかさずカメラを構え、中破判定の4隻を余すところなく撮影していく。

元々制服の露出が大きい処に、服が破けてさらに露出度が増し、

着弾の水柱によりビショ濡れている長門と陸奥。

長門に関しては、演習開始前は凛とした表情のカッコイイ戦艦だったのに

今では顔を赤くし、乙女のようである。

陸奥も陸奥で、余裕のあったお姉さんから、

衣服が肌蹴て、ただの恥じらう乙女になっていた。

 

赤城と加賀も、袴の裾は破壊され、魅力的な太ももがあらわになり

更に上半身も胸元があらわになり、思わず顔を赤くしていた。

 

『イイヨイイヨー!その表情もらっタ!』

 

レ級はそんな4隻にに一気に近づき、連続でその表情を、姿を撮影していく。

その顔は、「もうたまらない」という気持ちの悪い笑みを浮かべていた。

 

「最高ダー!もっとモットォ!」

 

「ぐっ・・・ふざけるなぁ!レ級ううう!」

 

長門が恥ずかしさと怒りのまま叫び、残っている主砲でレ級に攻撃を加えていくが

また同じように、砲弾を掴まれ、足元に投げ返される。

すると、長門の上半身の服が、水圧に耐えきれなくなり完全に破壊された。

 

「あっ・・!なっ!?」

 

自身のあられもない姿に、顔を真っ赤にして固まる長門。

そして、そんな長門を一心不乱に撮影する戦艦レ級。

 

カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ

 

レ級が手にする一眼レフの、気持ちのいいシャッター音は止まらない。

そして、レ級自身も、ファインダーから一切目を離さず、長門達を撮影していく。

長門は、このあられもない姿が撮影されているという事実に

顔を更に赤くして、口をパクパクしていた。

 

「あ、あ、うわああああああああ!」

 

「演習終了!勝者!戦艦レ級!」

 

我慢の限界が来たのか、長門があまりの恥ずかしさに思わず

叫びながらその場に座り込むのと同時に

演習終了のコールが会場に響くのであった。

 

--------------------------------------------------------------------------

 

ドォン!ドォン!バシャアアアアアアアア!という音が横須賀鎮守府の演習場に響いている。

戦艦レ級が、長門・陸奥・赤城・加賀・卯月・望月と演習をしている音だ。

 

現状、横須賀艦隊が猛烈な勢いで攻撃を行っているが

レ級はその攻撃を全て回避し、全力でカメラで写真を撮影していた。

時折、レ級の一眼レフのシャッター音が響くあたり、妙に気が抜ける演習である。

 

「すげぇ・・・・」

 

そんな演習を見ながら、将校の誰かがぼそりと口にした。

将校達が驚くのも無理は無い。

卯月と望月は新兵であり、まだ仕方が無いとしても

日本でも屈指の錬度を誇る横須賀鎮守府のエース

長門・陸奥・赤城・加賀の猛烈な攻撃を受け

件の戦艦レ級は、写真を撮りながらも、至近弾の一発も受けていないのだ。

 

「飛行場姫殿、そちらの船の錬度は出鱈目ですね」

 

『イヤイヤ、ソウデモナイ。普通ノ深海ノ船デアレバ、スデニ沈ンデイルワ。

 アソコマデ動ケル深海ノ船ハソンナニ居ナイワ。レ級ガ特殊ナノヨ。』

 

横須賀提督と、飛行場姫は横に並び、演習を見ながら軽く会話をしていた。

人類の提督と、深海の姫君が並ぶ姿は、異様である。

 

『ソレニシテモ、ソチラノ船モヨクヤルワネ。

 レ級ガアソコマデ回避行動ヲトルナンテ。ミタコトガ無イワ』

 

カシャリ、カシャリと演習に興じるレ級と艦娘を

ズームレンズの200ミリの望遠端で撮影しながら

飛行場姫は、呟くように横須賀提督に話しかける。

 

「我々がさんざ苦労した飛行場姫に、お褒めの言葉を頂けるとは光栄です。

 して、飛行場姫殿、先程から撮影をしているようですが、良い写真は撮影出来ましたか?」

 

カメラを構え囁く飛行場姫を見ながら、横須賀提督は言葉を返す。

すると、飛行場姫は、ニッコニコの笑顔を横須賀提督に向け

 

『エェ、トレタワ。見テヨ。レ級ト長門ガ最接近シタコレ!

 オタガイノ顔ガ、フレソウナグライデ、砲撃ト回避ヲ繰リ返シテイルノヨ!』

 

そういいながら、姫はカメラのディスプレイに撮った写真を写し出し、

自慢げに横須賀提督に見せていた。

横須賀提督も写真を確認すると、目を見開き

 

「おぉ。以前レ級の写真を見たことがありますが

 これもそれに匹敵する一枚ですね。良い写真、撮りますねぇ」

 

飛行場姫と同じような笑みを返しながら、写真を見つめていた。

 

その写真には、「必死な表情の長門が砲撃を行い

ニヤリと犬歯をむき出しにして笑うレ級が砲撃を避け長門に最接近している」

そんな姿が映し出されていた。

 

飛行場姫の写真と、写真を自慢げに見せる素直な笑みに

見惚れていた横須賀提督であったが

ふと気付くと、長門達艦隊が、6隻ともに中破を受けていた。

空母は壊滅、他の船も武装が壊滅。戦闘継続は困難。

そう判断した横須賀提督はマイクを持ち

 

「演習終了!勝者!戦艦レ級!」

 

演習の終了を、告げるのであった。

 

------------------------------------------------------------------------

 

演習が終わった横須賀鎮守府は、混乱の極みにあった。

何せ、精鋭である艦隊が、武装を持たないレ級により壊滅したのだ。

大本営が臨時に会議を開き、艦娘が演習場に集結するのは仕方のない事である。

 

大本営はレ級と、飛行場姫の処遇について話し合っているようで、慌ただしく人が出入りし

時折「ふざけるな!」とか、「あの深海の船に勝つにはどうすればよいのだ!」

などなどの怒号が飛び交っていた。

 

そんなさなか

 

『大和ォ!写真撮らせテー!』

 

「構いませんが・・・」

 

『それじゃあそれじゃあ、鎮守府の建物の前ニ立っテもラッて

 振り返ってミて!』

 

「こう、でしょうか?」

 

『オォ!ナイスポーズ!大和!カワイイヨー!』

 

カメラ片手に、全くぶれない戦艦レ級の姿と

 

『雪風ト、島風。スマナイガ、並ンデ工廠ヲバックニ、一枚トラセテハモラエナイカ』

 

「ひっ・・・私たちですかっ!?」

 

『エエ、アー。オビエナイデ、ッテイウノハ無理ダロウケド

 今日ハ武装モナニモ無イカラ、写真ダケダカラ、少シダケネ?』

 

「そ、それならいいですよ、ねっ?島風」

 

「そう、だね。でも撮影するなら早くして!すごい緊張する!」

 

『ワカッタ、努力スル』

 

同じくカメラ片手に、艦娘に撮影交渉をしている飛行場姫の姿があった。

そんな彼女らを見ながら、艦娘と軍関係の人間、全てが

 

(((何この混沌とした鎮守府。目をそむけて部屋に戻りたい(ぴょん))))

 

と思ったのは、仕方のないことだろう。

 

そんな大本営と艦娘を無視して、レ級と飛行場姫は撮影を続けていた。

 

カシャカシャカシャカシャカシャカシャ

 

カシャン、カシャン、カシャン

 

レ級は相変わらずの連射、飛行場姫は相変わらずの単射で艦娘を撮影していく。

 

大和の見返り美人、魅惑の太もも、凛とした表情に、大きく映える艤装

雪風と島風の愛らしい姿、2人が近づき、手を組み合って向かい合う姿

 

お互いに最高の一枚を撮影するために、ファインダーを覗き

延々シャッターを切りながら、撮影に没頭していく。

 

「そう言えば!レ級さんと飛行場姫さんにお聞きしたい事があるのですが!」

 

すると、今まで静かにしていた青葉が、カメラとメモ帳を片手に2人に話しかけていた。

レ級と飛行場姫は青葉に振りかえり、ファインダーから目を外し、同時に首をかしげながら

 

『どうシたんだ?青葉?』

 

『ドウカシタカシラ、青葉』

 

青葉に対して口を開いていた。

それを確認した青葉は、良い笑顔で、言葉を続けていく

 

「いえいえ、簡単なことなのですが

 見る限りお二方ともカメラが好きそうですし、仲良さそうですし、

 レ級さんと飛行場姫さんの御関係は一体どういうものなのかなーって思いまして!」

 

レ級と飛行場姫は、青葉の言葉に、お互いに顔を見合わせる。

そして、目配せをした後に、飛行場姫が口を開く。

 

『ソウダナ。艦娘ノ基準ニ合ワセレバ、上司ガ私デ、部下ガレ級トイッタトコロダナ。』

 

飛行場姫は、青葉を見ながら返答を返していた。

青葉は、飛行場姫の言葉から更に疑問を持ち、真面目な顔をしながら更に言葉を続ける。

 

「ほほう、レ級さんは飛行場姫の隷下の船なんですねぇ・・・。

 となると、他に存在するレ級も、同様に飛行場姫の部下なんでしょうか?」

 

青葉は、件のレ級と、他のレ級の関係性と、

深海の指揮系統をさりげなく聞き出そうとしていた。

飛行場姫は一瞬目をつぶり、思考を行う。

 

(青葉メ、サリゲナク探リヲイレテキタカ。

 大本営トヤラノ入レ知恵ナノカモシレンナ。

 マァ、答エタ所デ問題ハナイダロウ)

 

そう考え、飛行場姫は苦笑しつつ、レ級を見ながら改めて口を開いた。

 

『コノレ級ト、他ノレ級ハ全クノ別物ダ。

 アト、私ガ担当シテイルレ級ハ、コイツダケダワ』

 

(なるほどですねぇ・・・。

 艦娘と同じように、深海の船も指揮系統がいくつもあるのですか!

 青葉、良い情報を仕入れました!)

 

青葉は飛行場姫の言葉を聞き、笑顔で考える。

そして、もうひとつ、気になることを、レ級と飛行場姫にぶつけていた。

 

「ありがとうございます。勉強になります!

 あとですね、もうひとつあるんですが。

 レ級さんって、写真を撮らないで戦った場合、

 強さってどのぐらいなんですか?」

 

『フム、レ級ノ強サカ』

 

飛行場姫は、青葉の言葉に、眉間にしわを寄せながら考え込む。

レ級自身も、飛行場姫と同じように、難しい顔をしながら考えていた。

 

(コイツノ強サカ、ドノグライナノダロウ。

 タシカニ、水母棲姫ニハカテタガ、アレハ水母ノ油断ガオオキカッタワケダ

 カトイッテ、弱イ訳デハナイ。フラッグシップ改マデ成長シタレ級ハ

 イッタイドコマデ通用スルノカシラ)

 

(私ノ強さカぁ。どのぐらイなんだろ。

 水母棲姫の時ハ、油断してたカら勝てたケど。

 飛行場姫様と一回喧嘩シたときは、一方的にボッコぼこニされたシなぁ)

 

青葉は、むむむ、と唸りながら考え込む姫とレ級を見ながら、

 

(お二人が悩むほど、レ級さんって強いのでしょうか・・・?

 もしかして、飛行場姫さんよりも強いのでしょうか!?)

 

などと、見当違いなことを考えていた。

青葉も深海の2隻と同じように、眉間にしわを寄せながら、思考を続けていく。

そして、飛行場姫が思考を終え、少し苦笑しながら青葉の質問に答えていた。

 

『ソウネェ、レ級ノツヨサハ、飛行場姫デアル私ヨリ少シ弱イクライカシラ。』

 

青葉は、飛行場姫の言葉に反応し、

 

「そうなのですか!いやぁ。お二人とも急に考え込むんですもん。

 もしかしたらレ級さん、飛行場姫さんより強いのかと思って、

 ひやひやしましたよ!」

 

ほっとした表情で、飛行場姫とレ級にに話しかけていた。

飛行場姫は、そんな青葉を見ながら、笑いながら口を開いた。

 

『アハハ、ソレハナイワ。レ級、私ニ喧嘩デ負ケテイルモノ。

 ソウイエバ、レ級ノ正式名ヲオシエテイナカッタワネ。』

 

「おぉ!深海の船に正式名称があるのですね!是非教えていただきたいです!」

 

『ソコマデ期待サレテモ、艦娘ノヨウナ固有ノ名前ハナイワ』

 

「あー、確かに、以前レ級さんから聞いた覚えがありますねぇ」

 

青葉は、首に手を当てながら、以前、レ級から自己紹介をされた時のことを思い出していた。

 

(『各船デナマエヲモッテイナイノデ、レ級トデモヨンデクレ』。

 レ級さんはたしか、そんなこと言ってましたねー。

 っていうことは、正式名称とは、いったい?)

 

飛行場姫は、そんな青葉を見ながら言葉を続けていた。

 

『レ級ノ正式名称ハ、「戦艦レ級フラッグシップ改」トイウノ。

 我々深海ノ船ノ、レ級トイウ艦種デハ、

 フラッグシップ改ニ辿リ付イタ唯一ノレ級デ、

 別名「異端ノレ級」トモヨバレテイルワ』

 

そういう飛行場姫の顔は、少し誇らしげであり、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「「戦艦レ級フラッグシップ改」ッ!?」

 

青葉は叫ぶと共に驚愕し固まった。そして、他の艦娘も同じように驚愕に固まっていた。

なにせ、今まで「戦艦レ級」は赤いオーラのエリートまでしか確認されていなかったのだ。

それが、目の前にいるカメラを持った、変なレ級が「フラッグシップ改」だというのだ。

青葉を含めた艦娘達が驚くのも無理は無い。

 

そして、青葉が恐る恐るレ級に訪ねていた。

 

「レ級さん、飛行場姫の話は、本当なんですか!?

 フラッグシップ改なんて、見たこと無いですよ!」

 

レ級は、そんな青葉の言葉に、態度を持って返答していた。

 

気付けば、レ級の目からは蒼い炎が滾り、全身からは金色のオーラが溢れ出ていた。

そして敬礼をしながらも、獰猛に、青葉を見据えながら、笑っていた。

 

青葉はもとより、他の艦娘も、レ級の姿に釘づけになり、誰も動けなくなっていた。

 

『戦艦レ級』

 

深海棲艦と呼ばれる存在の中でも特に上位種に位置する艦種である。

数多くの艦娘を沈め、提督を苦しめている最悪の敵と言って良い。

なにせ、開幕の航空戦、そのあとの魚雷、そして砲雷撃戦、対潜戦闘と

全てにおいて高水準で纏まっている敵であることを、認識させられた瞬間である。

 

だが次の瞬間、金色のオーラと、目の蒼い炎は霧散し

 

『青葉。ビビリすぎだナぁ!

 私は確かニ、そこそこ性能イイけど、ソレハ写真を撮るたメだけニ

 頑張った結果なんダヨ!艦娘ヲ沈めるナンて、ナンセンスダね!』

 

青葉を見据えながら話すレ級は、

にへらぁと、いたずらに成功した子供のような笑みを浮かべていた。




妄想捗りました。


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17 深海棲艦のNewカメ子とレ級 3

艦娘との演習という名の、写真撮影を終えたレ級+1隻。

その戦いっぷり、いったいどのような影響を与えたのでしょうか



船渠という場所は、艦娘がリラックスして疲れや傷をいやす場所である。

人間で言うところの、風呂や温泉に近い。

 

横須賀鎮守府の船渠では、先の演習でレ級に

敗北を期した長門達演習艦隊が疲れを癒していた。

本来であれば、演習で戦ったレ級についての感想や、動き方などについて

反省しつつも談笑しているはずだった。

 

だが、長門と陸奥は、表情を硬くし

赤城と加賀は、明後日の方向に顔を向け

卯月と望月は、青い顔をしながら下を向いていた。

 

今、この船渠では、艦娘は誰一人として口を開いてはいないのである。

原因は簡単だ。

 

『艦娘ノ船渠ハ快適ネェ・・・・ファア。自然トアクビガ・・・

 スゴク広クテ、温度モ丁度イイワァ』

 

そんなことを呟きながら、船渠の淵に腕を組み、

とろけた表情の顔を見せる飛行場姫と

 

『ですネぇ、姫様。フアアァー・・・。

 拠点ノ船渠、水、冷たイですもんネェ。

 アァー・・・・最高だナぁ』

 

頭に自身の尻尾のあごの部分を乗せ、恍惚とした表情で

肩までお湯につかるレ級が一緒に入渠しているからである。

 

なぜ艦娘と深海の船が一緒に船渠に入っているのかと言えば

演習が終わったあとに、艦娘の写真を撮っていたレ級が

 

『ウェックシィ!』

 

と、盛大にクシャミを放った姿を、横須賀の提督が見ていたのだ。

演習中、レ級は直撃弾は無くても、衣服が濡れていたため

体を少し冷やしたのである。

 

「せっかく出向いて頂いたのに、風邪でも引かれては海軍の恥だ。

 服はこちらで洗濯しておきますので、船渠で疲れを癒してください

 無論、飛行場姫殿もご一緒に」

 

と横須賀の提督が提案し、それをレ級達が受けていたのである。

そんなこととはつゆ知らず、長門達は

 

((((((どうしてこうなった(ぴょん…)))))))

 

船渠に入りながら、緊張したまま、そう思うのであった。

そんな緊張した面持の面々に、飛行場姫が柔らかな顔で、話しかけていた。

 

『ナガト、ムツ、アカギ、カガ、ソレト・・

 モチヅキ、ウヅキ、デシタッケ?

 確カニ、アイアンボトムサウンドデハ、艦娘ト殴リアッタ仲デスケド。

 今ハ趣味デココニキテイルカラ、ソンナニ固クナラクテイイワヨ?』

 

長門は、その言葉に少し反応し、飛行場姫に言葉を返していた。

 

「そうは言ってもな。飛行場姫よ。我が横須賀鎮守府、果ては全鎮守府が袋叩きにして

 ようやく撤退させた相手が、非武装とはいえ同じ船渠に入っているのは

 どうも落ち着かんよ」

 

長門の表情は固く、その瞳は飛行場姫を睨んでいた。

なにせ、長門自身も飛行場姫から爆撃を食らい、大破した身である。

自分を攻撃した相手と一緒に風呂に入り、リラックスできる者などなかなかいない。

そんな姿をみた飛行場姫は、

 

(ソウヨネェ。ソウナルワヨネェ・・・・。)

 

一人考えながら、困った顔で、顔を人差し指でぽりぽりとかいていた

そんなやり取りを見ていたレ級が、笑顔で口を開く。

 

『じゃア、私ハー?

 別に戦場でハ殴りあった事ないジャん』

 

「演習とはいえ貴様の実力を知った今では

 レ級、貴様も同じようなものだ」

 

長門は、レ級の言葉に、目をつむり、険しい顔で言葉を返していた。

そんな長門を見たレ級は、ごそごそと、尻尾の格納庫から

タブレットを取り出していた。

 

『ソんなこと言うナって、長門ォ。

 良い写真、撮れてるんだからサァ』

 

レ級はニヤニヤと笑いながら、タブレットの画像を長門に見せた。

すると、長門の険しかったが表情が一転し、

目は見開かれ、顔の色は一気に赤くなっていた。

その姿を不審に思った陸奥は、

 

「どうしたの?長門。そんな顔をしちゃって。」

 

そう言いながら、真っ赤になって固まっている長門の肩ごしに、レ級のタブレットの画像を確認する。

すると、そこには「濡れ透けな上に、上半身が裸の長門」が映っていた。

演習の一番最後、完全に長門の服が破けたときの写真である。

 

「あら・・・あらあら」

(確かに長門も真っ赤になるわけね。)

 

陸奥は、苦笑しながらもレ級に近づき、レ級が手に持っているタブレットの

長門の上半身が露わになった写真をよく観察していく。

 

(あら、良く見ると、そんなにいやらしくは無い写真ね。

 むしろ、美しいとか、綺麗という感じかしら。)

 

タブレットに映る長門の写真は、美しい長門の肢体と、

中破しつつも迫力のある艤装、そして長門の周囲を囲む水しぶきが混ざり合い、

上半身が裸ということを気にさせない、芸術の様な映りをしていた。

 

「レ級ちゃん。良い写真を撮るじゃない。

 長門は固まっちゃったけど、私はこういうの、好きよ?」

 

長門の写真が気に言った陸奥は、笑顔でレ級に話しかけていた。

レ級はそんな陸奥に

 

『オぉ!ありがトう陸奥!それじゃアさ、せッカくだし

 今日私ト姫様が撮影シた写真、皆で一緒ニみない?」

 

と、笑顔で問いかけていた。

陸奥は、「私と『姫様が』撮影した」という部分に、一瞬抵抗を覚えるも

 

「そうねぇ。疲れが癒えるまでやることもないし。

 せかっく撮ってもらったのなら、見てみたいわね。

 長門もそれでいいでしょ?」

 

にこにこと、レ級に返答を返すのであった。

 

「そレじゃあ、エエット

 赤城、加賀、卯月と望月モこっちニきテ!

 順番にみせていくかラ!

 

 ホラ、姫様もコッチコッチ」

 

艦娘達は、レ級の言葉に顔を見合せながらも一か所に集まっていき

姫も便乗して、艦娘達と輪を作っていく。

 

「ソれじゃあ!早速お披露目といきますネ」

 

トン、とタブレットを軽くたたくと、

陸奥以下演習艦隊の写真が表示された。

 

陸奥の腕を組みながら砲撃をする凛としつつも色気のある姿や

赤城、加賀の発艦時の美しい姿勢、

卯月と望月の波を切りながらの砲雷撃の姿など

 

演習でありながらも、実戦さながらの「戦場の艦娘」が

次々に表示されていく。

 

「レ級ちゃん、本当に良い写真を撮るのね」

 

写真を見ていた陸奥が、笑顔でぼそりと呟いていた。

そして、他の艦娘もうなづいている。

 

「うーちゃん、こんなに、かっこよかったぴょん?」

 

「うわぁ・・・こんな風に撮られるなら、もうちょっと頑張れば・・・」

 

自身の写真映りにびっくりする駆逐艦2隻である。

そして、赤城と加賀も同様で

 

「加賀さん加賀さん!これっ、この波間を切って発艦してる写真、見事です!」

 

「赤城さん落ち着いて、この写真・・・確かに。」

 

空母の2隻も写真の映りにびっくりしていた。

その姿を見たレ級は、

 

『イイダロイイダロ。お前達戦闘中の艦娘ハ

 本当にかっこいいンだよナぁ。』

 

そう呟きながら、自慢げな顔をして、

次々とタブレットの画像を切り替えていく。

長門も、写真を見ているうちにレ級の写真に引き込まれ

船渠に入っている艦娘で緊張している者は、誰ひとりとして居なくなっていた。

 

レ級の写真に見入っていた長門が、飛行場姫を見ながら疑問を口にする。

 

「あぁ、実に良い写真を撮るな、レ級。

 そういえば、飛行場姫。お前も写真を撮っていたようだが?」

 

『アァ、撮ッテハイルケド・・・レ級ホドノモノデハナイワ・・・。

 ソレニ、マダ見レルモノジャナイシ・・・』

 

飛行場姫は小さくなり、顔をそむけながら、長門に返答を返していた。

レ級はそんな飛行場姫の姿を見るや、タブレットを操作し

 

『タブレットにデータが入ってルから、姫様の写真も見てみヨウ』

 

と呟きつつ「姫様」というフォルダから、写真を表示させた。

飛行場姫はレ級の行動に呆気に取られつつも

 

『レ級!私ハマダ、コウイウトコロデ見セラレル写真ヲ撮レナイカラ!

 心ノジュンビガ!』

 

そう叫びながら、顔を赤くし、レ級からタブレットを奪おうとする。

だが、飛行場姫の写真を見た長門が、

 

「ほぅ・・・飛行場姫。貴様、良い写真を撮るじゃないか!」

 

というと、飛行場姫は、長門の予想外の言葉に文字通り固まった。

 

「何を固まっているのだ、飛行場姫。

 レ級とこの長門との攻防を写したこの一枚。見事じゃないか。

 何が『マダ見レルモノジャナイシ』だ。

 貴様の写真、迫力が合って非常に良いぞ」

 

長門は笑顔で飛行場姫に言い放っていた。

それを見たレ級は、タイミングよくタブレットで次から次へと写真を表示させていく。

 

そこには、レ級の投げ返しをうけつつも必死に抵抗をする卯月と望月の姿、

何とかしてレ級に直撃弾を当てようと、海上を滑りながら一斉射する長門と陸奥、

援護するように艦載機を発艦させる赤城と加賀の姿など

 

レ級の写真とはまた違った、迫力のある写真が記録されていた。

長門達艦娘は、レ級の写真以上に飛行場姫の写真にのめり込んでいく。

 

『姫様、やりマすねー。』

 

レ級も、飛行場姫が撮影した写真に思わず感動してしまい、

艦娘と同じように、写真にのめり込んでいた。

 

『ソ・・・ソウカ?アハハ、ソンナ写真デモ

 気ニイッテモラエタノナラ、嬉シイワ』

 

飛行場姫は、そんな部下と、艦娘を見ながら

少し上を向き、恥ずかしそうに顔をかきつつ、呟くのであった。

 

----------------------------------------------------------------

 

飛行場姫とレ級が、長門達と共に入渠し、写真を見ていたその頃。

横須賀鎮守府の大本営会議では、一つの重要事項が決まろうとしていた。

 

「あのレ級の戦力は、放ってはおけぬ。

 海軍からの報告では、あの戦艦レ級はカメラが趣味、友好的という事だが・・・・

 ふざけるな!

 いつ、その趣味を放り出して、我々に牙をむくのか判らぬのだぞ!!」

 

ギリッと唇を噛みながら、陸軍の将校が叫ぶ

その横で、海軍の将校が、冷静に呟いていた。

 

「それならば、我が海軍が誇る大和と武蔵、

 それに空母機動艦隊で、レ級が横須賀に上陸して居る今、飛行場姫ごと

 叩き潰せばいいではありませんか」

 

陸軍の将校が、海軍の言葉に更に反応し、大声をあげていく。

 

「そんなことをしてみろ!一般人に間違いなく被害が及ぶぞ!

 それに、深海の者がこの横須賀鎮守府に

 一気に攻め入るやもしれぬ。

 陸軍としては、海軍の意見に反対だ!」

 

「ではどうすると?あの戦艦レ級は、貴方がおっしゃった通り、驚異です。

 現在は友好的とはいえ、所詮は敵です。

 逼迫した状況下になれば、いずれ牙をむいてくるでしょう。

 かといって、その時に海上で奴を討てるかと言えば

 今日の演習をご覧になった皆様は、判るでしょう。

 ・・・結果は火を見るよりも明らかです。

 レ級がカメラを持っていたから、今日はあの程度の被害で済んだのです。

 

 もし実弾を撃たれていたのなら、確実に艦娘が全滅させられていたことでしょう。

 なんとしてでも、今のうちに、多少の犠牲が出たとしても

 対処せねばなりません」

 

「それはそうだが・・・。」

 

(確かに今、レ級と飛行場姫を全艦娘で、

 陸にいるうちにたたいてしまえば、間違いなく殺せるであろう。

 だが、それをしてしまうと、身内にも、一般人にも、艦娘にも確実に被害が出たうえに

 深海棲艦が横須賀に攻め入ってきてしまうかもしれぬ・・・

 何かいい方法な無いものか)

 

陸軍の将校は、眉間にしわを寄せながら、必死に考えていた。

一瞬静まる大本営の会議場だったが

 

「まぁ、ただし。」

 

と、海軍の将校が口を開く

 

「一般人に被害が出ることは我々も避けたいところです。

 ということで、代案を出したいわけですが、構いませんか?」

 

姿勢を変えず、海軍の将校が、静かに呟いた。

それを聞いた陸軍の将校が

 

「ほう、代案があるというのか。一般人に被害が出ず

 横須賀が狙われず、それでいてあのレ級と飛行場姫を沈めうる案があるのか!?」

 

まくしたてるように叫んでいた。

それを受けた海軍の将校は、涼しい顔で

 

「ありますよ。

 何、奴らはいくら強いと言っても、所詮は艦娘と同じ船です。

 燃料と弾薬なしでは、奴らも戦えない。つまりは・・・」

 

一旦言葉を区切ると、ドン、と机に拳を置き

 

「・・・戦艦レ級と飛行場姫、奴らの拠点を見つけ出し、そこを叩く。

 厳しい戦いが予想されますが、あのレ級を野放しにしておくよりはマシかと。」

 

そう言い放った海軍将校の眼光は、鋭く光っていた。

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

時間が1900を回ったころ、

レ級と飛行場姫が拠点へ戻ると言う事で

レ級は海面に立ち、飛行場姫はレ級の尻尾に座り

そんな姿を見送ろうと、横須賀の艦娘達と各鎮守府の提督達は

横須賀鎮守府の桟橋へと集まっていた。

 

「レ級さん!飛行場姫さん!今日はわざわざありがとうございました!

 演習風景もなかなか見れるものではなかったですし!

 それに!生でレ級さんの撮影風景をみれたのは、感動ものです!」

 

青葉が艦娘を代表し、挨拶を行っていた。

 

「何よりも最後に撮影した集合写真!

 素晴らしいものでした。また、お待ちしています!」

 

にこにこの笑顔で言いきり、手を振る青葉。

他の艦娘も、大きく手を振り、レ級と飛行場姫を見送っていた。

そして、横須賀に集まっていた、各鎮守府の提督たちも手を振り

横須賀鎮守府の提督が代表で挨拶を行っていた。

 

「飛行場姫殿!わざわざご足労頂き、提督を代表してお礼申し上げる!

 そしていい写真をありがとうな!レ級殿!次は我が艦隊、リベンジさせていただきますよ!」

 

それをみたレ級と飛行場姫も、笑顔で挨拶を返していた。

 

『青葉!それと、艦娘!こちらコそ良い写真を撮らせてもらって

 感謝してル!ありがとナぁ!!

 そシて提督殿!いくらでもかかっテきていいよ。

 またいい写真、撮らせてモらうから!

 そレじゃあ、今日はお邪魔しタナ!

 また演習あっタラ、教えテね!』

 

そういうと、レ級は自身の主機を全開にし、

 

『それジャあ!マタナー!

 気が向いたら撮りに来るカら!その時ハよろしクなぁー!』

 

加速しながら、手を振り大声で叫んでいた。

 

『マタネ。

 迷惑ダッタロウケド、私ハタノシカッタワ。

 今度会ウ時ハ戦場デショウケド、

 見知ッタ船ガイタラ、沈メナイヨウ手加減ハシテアゲルワ!

 ・・・アリガトウ!』

 

レ級の尻尾に座る飛行場姫も、両手で大きく手を振りながら笑顔で叫んでいた。

 

「こちらこそー!また遊びにきてくださーい!」

「レ級!今度はこの武蔵と演習をしてくれよな!また合おう!」

「レ級よ!この長門、負けたままでは済まさんぞ!いずれリベンジを果たしてやる!」

「飛行場姫!写真ありがとうー!また撮りにきてくださーい!」

 

艦娘達は、レ級達が見えなくなるところまで手を振り続け

飛行場姫とレ級も、艦娘が見えなくなるまで、同じように手を振り続けていた。

 

そして、横須賀鎮守府が完全に見えなくなった頃、

レ級と姫は、ぽつぽつと、会話をはじめていた。

 

『楽しカったですねぇ。姫様』

 

『ソウネェ。艦娘ニハワルカッタケド。

 楽シメタワ。モウイチド機会ガアレバ、撮影シタイモノネェ』

 

レ級はその言葉に苦笑を浮かべ

 

『駄目でス姫様。今回、艦娘ハ相当おびエてましたもン。

 人間たチも、かなり固くなってましタ。

 次、また姫様と演習に出たラ、艦娘ガ過労死シちゃいまス』

 

そう姫に対して言い放った。

飛行場姫は、レ級の言葉に苦笑しつつ口を開いた。

 

『ソウナノヨネェ。オ前ガキヲキカセテクレナカッタラ

 今日ダッテ、間違イナク、ギクシャクシテタモノネェ。

 マァソウネ、

 イイ故郷巡リガデキタトイウコトデ、

 コレカラハ、深海棲艦ノ本懐ニ殉ジルトスルワ。』

 

『それガいいと思イます。 

 マー、まタ、青葉ニさりげなく聞いてみて

 OKだったら、お連れしマすよ。姫様』

 

レ級は自身の尻尾に座っている飛行場姫を見ながら、

やわらかな笑顔で話しかけていた。

 

『ソウダナ。ソノトキハ、マタオネガイシヨウカシラ』

 

飛行場姫も、レ級と同じように穏やかな笑みを浮かべていた。

その手には、全員笑顔で写る

「レ級と飛行場姫を中心に、各鎮守府の提督達、横須賀鎮守府の艦娘が並んでいる」

嘘のような、奇跡の一枚である集合写真が握られていた。

------------------------------------------------------------

 

その裏で、提督達や艦娘

そしてレ級達も預かり知らぬ、一つの作戦が動き出す。

 

『19、8、58、401 行け』

『『『『諒解』』』』

 

ザブン、と音を少しだけ立て、潜航していく『海軍将校直属の潜水艦隊』。

海の中、鋭く光る8つの瞳には、闇夜に紛れる「戦艦レ級」の航跡が映っていた。




妄想捗りました。


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最終回 我道を往く戦艦レ級

「戦艦レ級(カメコ)」

大火力をすべて捨て去り、その身体能力を艦娘撮影に全力で使う彼女。

趣味に生きる彼女は、どこまでいくのでしょうか。


『海軍将校直属の潜水艦隊』。

19、8、58、401といった、イ号潜水艦で構成される潜水艦隊である。

その錬度は、極めて高く、特に隠密行動には長けている。

そして、大本営から、水艦隊は一つの命を受けていた。

 

≪戦艦レ級、及び飛行場姫の拠点を叩くため

 戦艦レ級の追尾および、拠点の位置を特定せよ。

 そして、特定は、攻撃をせずにすぐに帰還し、位置を報告せよ≫

 

命令通りに、イ号潜水艦達は、闇夜に流れるレ級の航跡を追い続けていく。

静かに、静かに。気配を殺す歴戦の潜水艦隊の追跡に全く気付かないまま

戦艦レ級と、飛行場姫は、アイアンボトムサウンドにある自身の拠点へと戻っていくのであった。

 

その姿を、僅かに顔を海面に出し、確認した潜水艦隊はお互いに小声で口を開いていた。

 

「追尾成功なのね・・・。レ級の拠点と、飛行場姫の拠点は

 ・・・過去に、激戦を繰り広げたアイアンボトムサウンドなのね。」

 

「そのようでち。早速戻って、大本営に伝えるでち。

 『レ級の拠点は過去大規模作戦が行われたアイアンボトムサウンド』

 で、いいでちね。」

 

潜水艦隊はお互いにうなずくと、トポン、と小さな音を立て、潜航していく。

 

潜水艦隊が去った後のアイアンボトムサウンドの海は、

恐ろしいほどに、静寂に満たされていた。

 

---------------------------------------------------

 

レ級が横須賀基地を出た翌日、1230。

横須賀の艦娘が、昼休みを取っているころ

横須賀基地の臨時大本営では、将校たちが58からの報告を受けていた。

 

「ソロモン諸島奥地の、アイアンボトムサウンド。

 過去の作戦では回りきれていなかった、島の一つが

 戦艦レ級と、飛行場姫の拠点だったでち。」

 

58は、地図を指さしながら、報告を続けていた。

報告を聞いた将校が、座ったまま腕を組み、58に話しかける。

 

「判った。下がって良いぞ。あとはこちらで作戦を決定する。

 ご苦労だったな。」

 

「とんでもないでち。また御用があれば、ぜひ我々をお使いくださいでち。

 それでは、失礼するでち」

 

58は敬礼をして、大本営の臨時会議場を後にする。

パタン、と扉が閉じると、会議場には独特の静けさが漂っていた。

 

「そうですか・・・あの、アイアンボトムサウンドに

 レ級と飛行場姫の拠点がありましたか」

 

海軍の将校が、顔の前に手を組みながら静かに口を開いた。

他の将校たちも、「あの地獄か」「とんでもない所に」など

独り言のように呟いていた。

 

「アイアンボトムサウンドといえば

 過去、貴君ら海軍が突破作戦を図った海域か?」

 

陸軍の将校は、険しい顔で海軍の将校に問いかけていた。

 

「ええ、地獄の様な戦いでした。

 艦隊は次々に大破させられ、沈む船すらいた。

 本来の作戦期間である20日では決着がつかず、泥沼の戦いでした。

 幸いにも、呉の金剛の活躍で、事なきを得ましたが」

 

ふむ、と陸軍の将校は相槌を打ち、更に海軍の将校に問いかけていく。

 

「『・・・戦艦レ級と飛行場姫、奴らの拠点を見つけ出し、そこを叩く。』

 昨日、貴様が言った言葉だ。実行は、可能なのか?

 可能であれば、事が事だ。我々陸軍も出来る限りは支援しよう。」

 

海軍の将校は、陸軍の将校の言葉に驚きつつも、返答を返す。

 

「驚きました。まさか陸軍からそのようなお言葉を頂けるとは。

 ・・・いいでしょう。結論からすれば「可能」です。」

 

ほうと、と陸軍の将校は相槌を打ち、海軍の将校は言葉を続ける

 

「以前のアイアンボトムサウンド攻略作戦の時は

 我々海軍の指揮系統の問題で、6隻までしか主力艦隊を運用できませんでした。

 ですが、今現在は「連合艦隊」のシステムが完成し

 主力艦隊12隻、支援艦隊が12隻、最大24隻の艦隊を運用できます。」

 

「それは心強くあるな。」

 

「加えて、鎮守府1つに付き、12隻です。

 今現在、鎮守府は4つ、他にも警備府、泊地を含めれば

 膨大な数の艦艇が参加可能です。」

 

ただ、と海軍の将校は言葉を続ける

 

「アイアンボトムサウンド自体は海域が狭い。

 故に海域の攻略自体は、6隻での突入となります。

 しかし、先にお話しした通り、直前の海域までは

 12隻+12隻、24隻で突撃できますので

 燃料や弾薬を温存したまま、アイアンボトムサウンドへと

 突撃が可能となるのです。

 勿論、船が増えた分、陸軍の兵も、多く輸送が可能です。」

 

「以前とは連れていける戦力、弾薬、人員がケタ違いに

 多くできると言う事だな。

 よろしい、陸軍は海軍に乗った。

 こちらからの要求は輸送船の護衛のみだ」

 

陸軍の将校は、そういうと腕を組み、目をつむった。

あとは海軍で自由にせよ、という意思表示だ。

 

その姿をみた海軍将校は、姿勢を正し、口を開き

海軍の将校は淡々と作戦内容を説明していく。

 

「了承しました。陸軍将校殿。護衛は出来る限り致しましょう。

 では、我々海軍は、アイアンボトムサウンドへの進攻作戦を提言致します。

 

 戦艦レ級、飛行場姫、そして、ソロモン諸島を攻略する反攻作戦と銘打ち・・・」

 

そして、各鎮守府に命令が下る。

 

 作戦名は≪第二次SN作戦≫。

 AL/MI作戦以降では、初の大規模作戦であり

 最低限の防衛艦艇を残し全艦隊をソロモンへと刺し向け

 周辺に存在する姫、鬼、フラッグシップを含め、

 ソロモン海域から深海棲艦を掃討せよ、という作戦である。

 

---------------------------------------------------

 

艦娘が大挙で押し寄せている。

そんな報が入ったのは、つい先程のことだ。

 

『確認デキルノハ、横須賀、大湊、呉、佐世保

 他ニモ警備府ニ配属サレテイル艦娘モ見エマス。

 作戦名ハ≪第2次SN作戦≫トイウソウデス。

 以前ノ時トハ艦娘ノ数ガ違ウ、全力デアタラナケレバ』

 

偵察していたヲ級から、報を受けた深海の姫君達は、

アイアンボトム近辺に駐留している総戦力で防衛作戦を準備していた。

 

駆逐棲姫、軽巡棲鬼、水母棲姫、飛行場姫、戦艦棲姫、空母棲姫、防空棲姫

名だたる姫達が、各隷下のフラッグシップ艦隊を引き連れ、艦娘を待ち構えていた。

 

そして、最深部直前の、アイアンボトムサウンドにあるレ級の拠点では、

レ級と、飛行場姫が向きあいながら、話をしていた。

 

「レ級、私ハ艦娘トノ決戦ニイドム。

 報告ニアッタ艦娘ノ数カラ恐ラク、

 私デスラ、生存デキルカドウカ、不明ダ。

 無理ニツイテクル必要ハ無イ。

 レ級、貴様ハ、ドウスル」

 

飛行場姫が、穏やかな顔でレ級に訪ねた。

レ級は、飛行場姫のその顔を、目を、姿をしっかりと見て、はっきりとした口調で

 

「飛行場姫様、愚問でス。」

 

静かに、口を開いていた。

それを見た飛行場姫も、レ級の顔を、目を、そして、その姿を目にしっかりと収め

 

「ソウカ、ソレナラバ、イイワ。」

 

そう一言、レ級を見ながら、かみしめるように呟いた。

一瞬上を向き、何かを考える飛行場姫であったが、

考えがまとまったのか、穏やかな顔で、体ごとレ級の方を向き、

飛行場姫から、レ級へと最後の命令を下した。

 

「飛行場姫ノ名ヲモッテ命ズル。上位命令デアル。

 レ級、貴様ハ、カメラヲ持モッテ、戦闘ニハ参加セズ全テヲ記録シロ。

 我々ニ構ワズ思イ通リノ写真ヲ撮ルガイイワ。」

 

飛行場姫は一瞬間を置き、少しだけ真剣な顔をレ級に向ける。

 

「そして、生キ残れ。貴様は我々の全てを残す語り部となるのダ。

 よろシイか、レ級。我々の、深海の船になってしまった者の想い。

 陸に、海に、空に生きる全ての人々に、貴様ノ写真デしっかリト伝えてくれ。」

 

飛行場姫は、レ級の目を真剣に見ながら、更に言葉を続けた。

 

「我々は沈められた、破壊された、殺された

 そんな恨みの、怒りの、憎しみの炎に包まれた身であり、

 感情に従うまま、多大な被害を、陸に、海に、空に

 生きる人々へ与えてしまった存在だ。 だが、だがな。

 祖国を思うこの『心』は、貴君らと同様、本物だと、しかと伝えてくれ。」

 

真剣に話すその口調は深海の船である飛行場姫でなく、人間そのものであった。

そして、飛行場姫は一瞬目を閉じると、また穏やかな表情に戻り

 

「・・・・正気を早いうちに取り戻し、

 それを維持している貴様にしか頼めんことだ。

 酷かもしれんが、しかと頼んだぞ、大尉殿」

 

と、レ級に語りかけるのであった。

飛行場姫のその姿に

 

「了承しました、姫・・・いえ、基地司令殿。

 貴君らの姿、しかと、撮影させて頂きます。」

 

レ級は、ただ一言そう返すと、静かに、敬礼を行った。

それを見た飛行場姫はひとときの『幻』から覚め

 

「よろしい、でハ・・・アトワカマセタワヨ。レ級。

 アァ、ソウイエバ北方棲姫ガカメラヲ習イタイト言イッテイタワ。

 気ガ向イタラ、声ヲカケテアゲテチョウダイ。

 ソレジャ、艦娘ヲ、軽クヒネッテクルワネ」

 

レ級と同じように敬礼を行い、拠点を後にしていった。

 

「その命令、必ずや。

 憎しみも憤りも、後悔も全て忘れ、安らかに、お眠りください。

 ・・・御苦ウ様、基地司令殿。イや、飛行場姫様。

 写真ハまかせテおいて下サイ。姫様が艦娘を避けたなラば、

 またコの拠点デ、一緒に写真を、見まシょうネ!

 それにシテモ、北方棲姫様モですカ。後でイってみますカァ」

 

レ級は、呟きながら、飛行場姫の背中に敬礼を続けるのであった。

レ級もひとときの『幻』から覚め、いつのものレ級の姿になっていた。

その目に、光るものがあったのかは、当人達だけが知るところである。

 

 

その後、≪艦娘側の第二次SN作戦≫は無事に成功。艦娘は無事に海域を突破し、

人類にとって脅威であった、非武装の戦艦レ級も、飛行場姫も、その姿を消した。

人類と艦娘はソロモン海域の制海権を得たのである。

後に、「深海と艦娘の勢力の機転」と呼ばれるこの戦いでは、

飛行場姫を含め、多くの姫や鬼が沈み

深海の勢力が大きく縮小することとなる。

 

件のレ級の拠点も、飛行場姫の拠点も破壊され、

戦場の海を、カメラを持って闊歩していた戦艦レ級は、 

SN作戦完了後、一切日本(・・)の艦娘の前に姿を現していない。

 

--------------------------------------------------------------

 

『戦艦レ級フラッグシップ改』

 

深海棲艦と呼ばれる「戦艦レ級」という存在の中でも最強の位置に君臨する艦である。

 

数多くの艦娘を沈めるだけの能力を持ち、提督を苦しめていた最悪の敵と言って良い。

なにせ、どれだけ砲撃を行おうと、どれだけ航空機で攻撃を加えようと

全く攻撃が当たらず、袋叩きにしたところで、全く持って攻撃が通じない。

逆にレ級の攻撃で、艦娘の艦隊が壊滅してしまうのだ。

 

全てにおいて、恐ろしいほどの高水準で纏まっている敵である。

 

≪戦艦レ級フラッグシップ改≫

・・・と呼ばれる彼女が真っ青な海の上、遠くを見つめながら、

尻尾に白くて小さい人型を乗せて、ぽつーんと立っていた。

 

ただ、その装備はレ級という艦種に合致せず

1基3門の41cm砲は装備しているものの

他の装備は、パーカーとビキニ水着、

そしてカメラだけという、シンプルなものである。

 

そして、尻尾に乗っている小さな人型が、

少し不機嫌そうな顔で、レ級に話しかけていた。

 

『ツイタ?ネェ、レ級ツイタ?』

 

『北方棲姫様。つきましたヨ。日本カらここまデ、長かっタですネェ』

 

レ級は、不機嫌そうに自身の尻尾に座る、「北方棲姫」に話しかけていた。

 

『長カッタ!デモ、レ級ガ一緒ダッタカラ、タノシカッタ!』

 

北方棲姫は不機嫌な表情から一転、にこにこ顔で戦艦レ級に話しかけていた。

戦艦レ級は、そんな北方棲姫を見ながら、ただ、笑顔を浮かべていた。

                                       

そして、尻尾に北方棲姫を乗せた、風変わりなレ級が動く。

遠くを見ていた蒼い瞳が、『金髪(・・)』の艦娘を発見したのだ。

 

『艦娘発見ッ!機関出力最大。最大戦速度、ヨーソロー』

 

『艦娘発見、ヨーソロー!』

 

レ級と、北方棲姫の言葉と同時に、一気に加速するその体。

北方棲姫はレ級の尻尾に座り、風うけながら、

不思議そうな顔をレ級に向けて、問いかけていた。

 

『レ級、艦娘、ミツケタケド、ドウスルノ?』

 

それを聞いたレ級は、少し真顔で考え

一瞬、装備されている41cm三連装主砲を見るも、

 

『そりゃあモちろん。コレですヨ!』

 

主砲から視線をはずし、笑顔で、北方棲姫に話しかけながら

一台のカメラ(24-70ミリ F2.8通しレンズ付き)を北方棲姫に手渡す。

 

『オォ!ワカッタ!』

 

カメラを受け取った北方棲姫は、ニコニコしながらカメラを構え、

ファインダーを覗き、艦娘にピントを合わせていく。

 

そして、レ級自身も、体の左右にあるホルスターから

カメラ(70-200mm F2.8通しレンズ付き)を取り出し

正面にカメラを向け構えると、2,3度シャッターを切り、設定を確認していく。

 

カシャン

 

レ級がディスプレイに表示された写真を見ると、

海と空が少し黒っぽく表示されていた。

完全に露出不足である。

 

『うーン、少シ、あんだー気味カなぁ・・・?』

 

ダイヤルをカリカリと回し、シャッタースピードと絞りを調節し

露出が+0.3になるように設定し、もう一度シャッターを切る。

 

カシャン

 

気持ちのいい音と共に、ディスプレイに表示される写真。

そこには、レ級の理想通りの、深淵まで蒼い海と、

抜けるような蒼色の空が映っていた。

 

『イヨォし!カメラの設定ハこれデいいな!

 ・・・・そレじゃあっ!』

 

レ級はカメラの設定に満足したのか、

カメラを下ろし、顔を上げて口を開いた。

 

『さぁサァ!!ようヤくドイツ(・・・)まで来れたンだ!

 遠慮なク!撮らせて頂こウかナァ!』

 

『オォー!ドイツドイツ!』

 

レ級と北方棲姫は、お互いに大声で叫び、ニイイイイっと凄まじい笑顔を作ると

デジタル一眼レフを両手に持ちながら、『金髪のドイツの艦娘艦隊』に突撃していった。

 

『イヤッホオオオオオオオ!ヲ級の言っテた通りの金髪だ!

 ナイスプロポーション!さぁ、北方棲姫様ァッ!艦娘を撮りまくルぞォ!』

 

『ワアアイ!レ級、突撃ィー!』

 

ドイツ艦娘の姿を確認したレ級と北方棲姫は、叫びながらも、その顔を喜びに染める。

そして、戦艦レ級はニコニコした顔で、ファインダーを覗き、シャッターを切る。

 

カシャン、カシャン、カシャン、カシャン、カシャン

 

(オォオオ!金髪サラッサラしてルじゃん!瞳も綺麗だナぁ。

 ドイツに来た甲斐があったナぁ)

 

撮影した写真を確認し、ニヤニヤするその戦艦レ級は、

趣味に生きる「カメラ小僧」そのものであった。

 

 

 

 

拠点がなくなろうと、飛行場姫が居なくなろうと、何処に行こうとも

彼女の生き方はどこまでも変わらない。

好きな写真を撮影し、ノリで行動し、そこで撮れた写真に満足し、更に良い写真を撮る。

 

ノーフォト、ノーライフが彼女の心。

そして、心の端っこに少しだけ帝国海軍の誇りを乗せてどこまでも進んでいく。

 

そんな『戦艦レ級フラッグシップ改』の写真生活は、

これからも、様々な船や人に出会いつつ、その身が沈まぬかぎり、ずっと続いていくのである。

 

 

蛇足であるが、後日、日本に着任した戦艦ビスマルクは

『ドイツ艦隊が一列に並ぶ砲撃中の大迫力の写真』と

『レ級と北方棲姫と映る、ドイツ艦隊』の写真を見せながら

 

「なんか尻尾に白いの乗せてるやたら友好的で、

 変な深海棲艦にこんな写真を撮られたんだけど、何か知ってる?

 攻撃してくるかなって思って砲撃したら、砲弾投げ返されて大破するし、

 本当に、散々だったわ。

 ま、ただ、その深海棲艦の撮る写真は見事だったけどね。」

 

と、日本の艦娘に相談したところ

 

「What!?・・・この写真の深海棲艦は間違いなくレ級デース!

 ビスマルクゥ!何処でその深海棲艦に会ったんデース!?教えなサーイ!今スグにっ!」

 

「おぉ・・・レ級さん・・・。見事に写真の腕が上がってますねー!

 それはそうとっ!ビスマルクさん!?

 その深海棲艦、金色のオーラ出してませんでしたか!?

 どこでお会いになったんですか!教えてくださいっ!」

 

などと、半分カタコトの戦艦や、カメラを持った巡洋艦から、

尋問の様な問い詰められ方をしたという。

 

カメ子 レ級 -完-




妄想 滾りました。

そして、今まで御覧頂きまして有難うございます。
本来は一発ネタ、1話短編で終わるはずのカメ子だったのですが
感想、評価を頂くうちに、ここまで続いてしまいました。

約一ヶ月弱、御覧頂きまして、どうも有難うございました。

初の小説ということで、至らぬ部分が多々あったと思いますが
楽しんで頂けたのであれば、幸いです。

今のところは、次回作品や続編などは考えておりませんが
またひょっこりと趣味に走った何者かが暴れに来るかもしれません。
その時はまた、お付き合いして頂ければ幸いです。


※誤字脱字等は、今後引き続き直して参ります。


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第三章 我が道を進む船達 アフター
101 蛇足編 カメ子 飛行場姫


完全なる番外・蛇足編です。


「飛行場姫」

大火力と耐久力を兼ね備え、艦娘と戦う海域の長。

レ級が金髪の艦娘を撮りにドイツに向かったさなか

第二次SN作戦後、彼女はどこにいったのでしょうか。


「静かな海になったわねぇ」

 

崩壊した拠点の残骸に一人、ぽつーんと座り、

艦娘の砲撃によって破壊された自分の艤装と

目の前に広がる青い海と、青い空を見ながら

飛行場姫は呟いていた。

 

「レ級も随分、私たちを撮影してたようだし。

 まぁー。私もこれから暫くは、隠居生活かしらねぇ」

 

その顔は、艦娘に拠点を叩き潰された割には

すがすがしい笑顔であった。

 

「それにしても、レ級も粋な事をしてくれるわね。」

 

飛行場姫は、呟きながら、戦闘中にレ級から投げ渡された

12-150ミリレンズ(フルサイズ換算24-300ミリ)装着済みの

ミラーレス一眼カメラをその手に握っていた。

 

『姫様ァ!撮る写真トったから!私ちょっとドイツまデ金髪の艦娘撮ってクルー!

 適当に帰ってクるから、コレで好きな写真とっといテ下さイ!』

 

そう言って笑顔で、尻尾に北方棲姫を乗せながら、カメラを投げてきた戦艦レ級。

飛行場姫は、そんなレ級の姿を思い出すだけで、顔に笑みを浮かべていた。

 

「あの馬鹿(レ級)のせいで、下手に沈みたくなくなったじゃない。

 あぁもう。早く艦娘の写真を撮りたいわぁ」

 

渡されたカメラには、飛行場姫を含めた多数の姫達の戦闘シーンが収められていた。

飛行場姫は再生ボタンを押し、次々と画像を見ていく。

 

駆逐棲姫のホバーで海上をしながらも砲撃を行う姿

軽巡棲鬼の美しく、妖艶な戦闘中の横顔

飛行場姫が腕を振り、それと同時に艦載機を一気に発艦させる姿

それに応じるように、赤城と加賀が艦載機を発艦させる姿。

戦艦棲姫と長門が真正面から殴りあう姿

空母棲姫が血まみれになりながらも、艦娘に最後の特攻を仕掛ける姿

防空棲姫が空を睨みながら、艦載機を次々と落としていく姿。

 

そして、防空棲姫が沈むと同時に、照月となって再誕する美しい姿。

 

余すところなく、戦場がカメラに記録されていた。

 

「フフ、いいわねぇ。 

 それにしても、何時の間にこれだけの写真を撮っていたのかしら。」

 

飛行場姫は首をかしげつつも、笑顔になりながら、レ級の写真に見入っていた。

そして、カメラの画像が一巡したところで、飛行場姫は空を見上げ一人呟く。

 

「まぁ、そうねぇ。それはそうとしてもねぇ・・・・

 これからどうしようかしら」

 

飛行場姫は、破壊された自身の拠点を見渡しながら途方に暮れていた。

何せ、艤装は完全に破壊され、自身の体にも多少なりともダメージが残っている。

そして、他の姫や深海棲艦は、艦娘により、ほとんどが沈むか、

より奥地の基地に撤退を余儀なくされているのだ。

 

つまり今、アイアンボトムサウンドに残されているのは飛行場姫のみである。

 

飛行場姫は、拠点の残骸を一瞥し

 

「ここにいても仕方ないかしらねぇ・・・・。

 そうだ、レ級の拠点にでも行ってみましょうか。

 何か使えるものがあるかもしれないしねぇ。」

 

呟きながら、レ級の拠点があった場所に向かうのであった。

 

---------------------------------------------------

 

飛行場姫は、艤装を失い、海上を移動できなくなっている。

そのため、陸地を遠回りしながら、

やっとの思いでレ級の拠点へとたどり着いていた。

 

だが、レ級の拠点も、見事に艦娘の砲撃によって破壊され、

レ級と2隻で写真を見ていた頃の拠点は、見る影もない。

 

「あらぁ。レ級の拠点も破壊されつくしてるわね。

 これじゃあ、何も期待できないかしら」

 

飛行場姫は呟きつつも、レ級の拠点だった場所の確認をしていく。

拠点の天井は完全に抜け落ち、上空から気持ちのいい太陽の光が差し込んでいる。、

更に、レ級がカメラのメンテナンスをしていた机も、木端微塵となり、

レ級がミノムシスタイルで、カメラに撮られたベッドも焼け落ちていた。

 

「艦娘も随分、徹底的に砲撃したわねぇ。

 敵の拠点とはいっても、やりすぎのような気もするわね」

 

飛行場姫は、レ級の拠点の惨状を確認しながら、

少し険しい顔で一人呟いていた。

そして、飛行場姫はジャリ、ジャリと一歩一歩、崩壊した拠点を歩く。

その姿は、飛行場姫の白い姿と、崩落した拠点が相まって

芸術品の様な美しさを醸し出していた。

 

「あら・・?これは」

 

ジャリ、と飛行場姫の足が止まる。

姫の目の前には、レ級がカメラを持ってから不要になっていた

レ級の武装が転がっていた。

 

(レ級は暫く帰ってこないし、武装を頂いていきましょうか。

 最悪、海に浮かべる装備があれば、なんとかできるかしらね)

 

飛行場姫は、使えそうな武装を漁っていく。

 

「レ級の主砲ね。3連装砲が2門と・・・あと艦載機が少し。

 ・・・・あら?それに、これは」

 

すると、武装以外にもとあるものを発見する。

 

飛行場姫はレ級の武装をどかし、その奥にあった

≪修復≫と書かれた、中身入りのバケツを取り出していた。

 

「あら。レ級ったら、いいものを持ってるじゃない。

 艤装に使えば、ひとまずは動けるようになりそうね」

 

少し笑顔で呟くと、飛行場姫は、両手に持てるだけの

レ級の武装と、修復バケツを持って、自身の拠点へと歩みを進めていた。

 

そして、拠点に戻る途中、飛行場姫はその歩みを少し止めていた。

 

「ハァ、ハァ、レ級の装備も、陸路で運ぶと、重いわねぇ・・・!」

 

飛行場姫は、飛行場とはいえ、船である。

陸路で物資を運ぶのは、相当な労働なのだ。

 

「はぁー。少し、休憩しようかしら」

 

飛行場姫は、肩で息をしながら、

レ級の装備と、バケツをその場に静かに置き、その場に座り込んだ。

 

「はぁー。はぁー。疲れたわぁ・・・・。

 それにしても、陸を行くのも、気持ち良いわねぇ」

 

座り込んだままの飛行場姫は、レ級のミラーレスのカメラを取り出し

丁寧に構え、ファインダーを覗き、シャッターを切る。

 

カシャン。

 

すると、ディスプレイには、抜けるような蒼い空と

深い色のジャングルが映っていた。

 

「あら、このカメラもいい色を出すのね。

 悪くないわ。うーん、良い風景だけに、誰かをモデルにして撮影したいわね」

 

綺麗な景色を撮影した飛行場姫は、この景色の中で写真を撮影したくなっていた。

何せ、静かな南の島だ。今は艦娘が闊歩する場所であるり、

深海の姫にとっては最悪の場所であるが

写真を撮るためのロケーションだけは最高である。

 

「あぁ、レ級がいればレ級をモデルに、一枚撮影するんだけどねぇ。

 うぅん。他の姫もいないし、諦めるしかないかしら」

 

飛行場姫は、少ししょんぼりした顔で、呟いていた。

そして、そろそろ休憩を終わりにして、

自身の拠点へと歩みを再開しようとしたときである。

 

『おや、もしや、そこにいるのは飛行場姫殿では?』

 

見たことのある人間が、傍らに大和を従え、飛行場姫に声をかけていた。

その姿をみた飛行場姫は、表情を硬くし、その人間に話しかけていた。

 

「あら、これは、横須賀の提督殿。それに大和。

 先の海戦では強烈な46cm砲をありがとう。

 ・・・・深海の船の掃討作戦中かしら?」

 

そう言われた横須賀の提督は、顔をぽりぽりとかきながら

困った顔で、飛行場姫に話しかけていた。

 

『えぇ、正解です。

 陸地に上がっている船がいる、という情報が上がって来ましてね。

 まさか、飛行場姫殿だったとは予想外でした』

 

「そう、それならば、私は艤装と武装を全て破壊されていてね。

 今、何もできないわよ?

 鹵獲するにしても、破壊するにしても、好きにしたらいいわ。

 提督殿、あなた達に私の命をゆだねるわ」

 

飛行場姫は、両手を広げ、提督と大和に話しかけていた。

それをみた大和と提督は、呆けた顔で少し固まった後

2人は目配せをして、提督が飛行場姫に、話しかけていた。

 

『そうですねぇ。本来であれば、知り合いという事で

 見逃すという選択もなきにしもあらず、なのですが

 飛行場姫殿をここで逃がすと

 後々、我が日本帝国海軍に多大な被害が生まれるでしょう』

 

ふむ、と飛行場姫は相槌を打ちながら

 

「間違いないわね。

 私はこれから艤装を直して、ほかの姫を合流しようとしているわ」

 

少し笑みをうかべつつ、提督にそう答えていた。

それを受けた提督は、少し険しい顔になりながらも、口を開いていた。

 

『そうですか、それでは見逃すわけには参りませんな。

 大和、飛行場姫を確保しろ。

 我が横須賀鎮守府まで連れ帰れ。』

 

大和は提督の台詞を受け、飛行場姫に近づき

手首に、縄を縛り付けた。

その間、飛行場姫は、おとなしく目を閉じ、

静かに大和に従っていた。

 

『飛行場姫殿。それでは、参りましょう。』

 

「えぇ、わかったわ。」

 

提督の言葉に、静かに答え、歩き始める飛行場姫。

その後ろ姿は、若干寂しそうであり、哀愁漂う姿であった。

 

------------------------------------------------------

 

横須賀鎮守府の演習場では、ドォンドォンという、艦娘が演習を行う音と

カシャンカシャンと、カメラのシャッターが切れる音が響いていた。

 

「大和ォ!甘いデース!砲撃で私を倒せるなんてナッシングと思ってくだサーイ!」

 

「出鱈目です金剛さん!46センチの砲弾を殴って弾くなんて!」

 

そんな叫び声が響く、演習場の近くの桟橋では、2人の人影が並んで話していた。

 

一人は横須賀鎮守府の提督であり、

もう一人はカメラを持った飛行場姫である。

 

飛行場姫はカメラを構え、ファインダーを覗きながらも、

横須賀の提督に話しかけていた。

 

「それで、なぜ私は演習の写真を撮影しているのかしら?提督殿」

 

『それは、まぁ、飛行場姫殿は、カメラをもっていますからな』

 

飛行場姫は提督の言葉に、ファンダーから目を外し

提督の顔を見ながら、口を開いた。

 

「そう。・・・それはそうだけどねぇ。でもね、私は敵の深海の姫よ?。」

 

『そうですな、ですが今、飛行場姫殿は、艤装もなにもつけておりませんからな』

 

「確かにそうだけどねぇ。でも、提督殿、私の処分は一体どうなっているのかしら」

 

『「カメラを持って写真を撮影し、艦娘の能力向上に協力せよ。」

 先もそう説明したではありませんか、飛行場姫殿』

 

「そう、世迷い事かと思っていたけれど

 聞き間違えではなかったのね。

 まぁ、そういうことなら。

 私も写真を撮れる分には、大きな不満はないわよ」

 

飛行場姫はそういうと、改めてカメラを構えて

ファインダーを覗き、シャッターを切っていく。

 

カシャシャシャシャシャシャ

 

気持ちのいいミラーレス一眼の音が演習場に響く。

 

大和と武蔵が、赤城と加賀の航空機の雷撃を避けつつも、46cm砲を撃つ様や

雪風、島風が波間を切って進んでいく勇ましい姿、

更に、呉から横須賀に出張し、演習に参加している金剛が、46cm砲の弾丸をぶん殴り

砲撃を避けていく鬼のような姿などなど

 

多くの写真が撮影されていく。

 

そして、横須賀の提督は、顔に笑顔を浮かべながら、

真剣に写真を撮影する飛行場姫に問いかけていた。

 

『お互いに利害が一致しているという事で

 まぁ、しばらくはおとなしく、

 横須賀に鹵獲されたままで過ごして頂けませんかね?

 あと、こちらの事情にはなるんですが

 貴方が前回の演習で撮影した写真なんですけどもね

 艦娘から評判良くてですね。

 飛行場姫とレ級を演習に呼んで、また撮影させろと、

 せがまれて困っているんですよね』

 

提督がそういうと同時に、演習場から

 

「ヘエエエイ!飛行場姫!良い写真とれてますカー!?

 ちゃんと撮ってくれないと、ノー!なんだからネ!」

 

という、金剛の元気な声が響いた。

飛行場姫は、ファインダーを覗いたまま、

 

「そうねぇ。まぁ、レ級もドイツにいってしまったし。

 拠点も無くなってしまったし、他の姫とも連絡とれないしねぇ。

 暫くはおとなしく、鹵獲されておいてあげましょう。

 ま、それに、私の写真の評判が良いというのであれば、

 しっかりと艦娘を、撮らせていただくわね。」

 

そう呟く顔は、穏やかな笑みを浮かべていた。

彼女もまた、写真に、カメラに魅入られた一人である。




ちょっとだけ妄想滾りました。



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102 我道を往く戦艦レ級+α その1

「戦艦レ級(カメコ)」

大火力をすべて捨て去り、その身体能力を艦娘撮影に全力で使う彼女。

趣味に生きる彼女は、どこまで辿り着くのでしょうか。


「戦艦レ級」

 

深海棲艦と呼ばれる存在の中でも特に上位種に位置する艦種である。

 

数多くの艦娘を沈め、提督を苦しめている最悪の敵と言って良い。

なにせ、開幕の航空戦、そのあとの魚雷、そして砲雷撃戦、対潜戦闘と

全てにおいて高水準で纏まっている敵である。

 

 

「戦艦レ級」

・・・と呼ばれる彼女が

「戦艦大和」

と呼ばれる、日本帝国軍最強の戦艦の脇で

横須賀の街の中、遠くを見つめながら

大和と共二隻でぽつーんと立っていた。

 

「迷い、ましたね」

 

「迷ったなぁ・・・・」

 

そうつぶやく二隻の手には、

○○○カメラと書かれた黒い紙袋が握られていた。

 

--------------------------------------------------

 

さて、SN作戦終了後、横須賀鎮守府ではとんでもない珍事が起きていた。

なんと、大和と横須賀鎮守府の提督が、敵の深海棲艦を鹵獲してきたのである。

しかもただの深海棲艦ではない。

 

「青葉。やっぱりお風呂はいいわねぇ・・。

 深海のドックとは大違いね。いつも海水に修復剤いれてたから。」

 

「あら、そうなんですねぇ・・・・!深海の秘密、また一つ知っちゃいました!

 それにしても、飛行場姫さんは御風呂に入る姿も様になってますねぇ!」

 

「・・・そうかしら?私は別にいつもの通りなんだけど」

 

「いやいやっ!長い手足に、白い肌っ!堂々としたそのお姿!

 そして長い白髪を束ねてアップにしているいつもと違う姿っ!

 ギャップも相まって最高です!」

 

「・・・そこまでほめても何も出ないわよ?

 ま、悪い気はしないけど」

 

飛行場姫という、深海棲艦の中でも特にぶっ飛んだ船を鹵獲してきたのだ。

しかも、全く敵意がないという、前代未聞の状況である。

もちろん、大本営にもその報はすぐに入ったが

 

『監視は横須賀鎮守府にて行う事。

 そのほかの処分も全て横須賀鎮守府に一任す』

(SN作戦で潰そうとしたのになんで生きてるの?

 もう無理。手におえないんで任せた)

 

という命令書が横須賀の提督のもとに届き

今では、飛行場姫は捕虜でありながらも

かなり自由に横須賀の土地を闊歩できる立場になっていた。

 

「それはそうと飛行場姫さん!

 次の演習、改装された5航戦と、歴戦の1航戦の航空戦らしいですよ!

 飛行場姫さんも腕が鳴るんじゃないですか!?」

 

興奮気味に、笑顔で飛行場姫に話しかける

青葉は飛行場姫とかなり仲良くなっていた。

何せ、同じカメラが趣味の船同士である。

深海棲艦だろうが、艦娘であろうが

意気投合するのは仕方がないことであった。

 

「そうなんだけどねぇ・・・」

 

飛行場姫は困ったように苦笑を浮かべながら口を開く。

 

「レ級が戻ってきたでしょう?しかも、気づけば、

 戦艦大和がカメラの魅力に取りつかれているんだもの。

 カメラマンが多くて、プレッシャーが半端ないわ」

 

青葉は飛行場姫の言葉に、がっくりと肩を落とし

 

「あぁー・・・。そうでした。

 しかも大和さん、飲み込み早いですよねー。

 なまじ耐久力と攻撃力と馬力があるので

 普通の艦娘では撮影できないような場所にもいってますしね」

 

しょんぼりとした表情を浮かべ、呟く青葉の脳裏には

 

『やりました!青葉っ!レ級の言うとおりにしたら

 こんな写真が撮れましたぁ!』

 

と、レ級のタブレットを持ち、自慢げに撮れた写真を青葉に見せる

戦艦大和の姿が思い出されていた。

しかも、タブレットに写っていた写真は

「血を流しながらも、凄まじい表情で拳を振りかぶるエリートレ級」

という前代未聞のド迫力写真である。

 

『一発、エリートのレ級に殴られたんですがっ!

 その直前にレ級さんのカメラで一枚撮れたんです!

 確認したらこんなに迫力のある写真がっ!』

 

青葉に凄まじい勢いで自慢してきた戦艦大和の姿を

思い出しながら、青葉は更にため息を付いていた。

 

「はぁー。飛行場姫さんに続いて、大和さんも写真を始めるなんて。

 レ級さんの影響、はんぱないですねぇ。」

 

飛行場姫は、肩を落としながら呟く青葉を視界におさめつつ

苦笑を浮かべながら、口を開く。

 

「まぁ、仕方ないわよ。レ級の写真を見たら

 『私もちょっと写真、やってみたいな』って思っちゃうじゃない。

 気を落さずにいきましょう。

 大和よりも、青葉の方が経験年数も場数も多いんだから。

 私は基本的に海に出れないから、戦闘中における

 いざっていう時の写真は、青葉、あなたが撮影するのよ?

 なにより、カメラ人口が増えるのは好ましいことじゃなくて?」

 

青葉は、飛行場姫の言葉に、顔を上げ口を開く。

 

「そう、ですよね!

 カメラ好きが増えるのはいいことです!

 ・・・私が出会えないシチュエーションに、

 出会える大和さんには、少し嫉妬しちゃいます・・・がっ!

 私は私の撮れる写真で勝負すればいいんですもんね!」

 

青葉の顔は、先ほどまでのしょんぼりした表情とは一変、

にこにこの笑顔に変わっていた。

 

「そうそう。それでこそ青葉だわ。

 ねぇ、青葉。そろそろきりも良いから、お風呂出ない?

 飲み物、おごるわよ」

 

飛行場姫はニコニコ顔の青葉を確認すると

風呂をあがろうと青葉に声をかけていた。

飛行場姫も、青葉も、よく見れば顔が赤くなり

少しふらついていた。

 

「本当ですか!一緒に出ましょう!

 あ、私はフルーツ牛乳でお願いします!」

 

青葉は、ザッバァ!と勢いよくお湯から出ると

早足で脱衣所へと足を向けていた。

 

「こらこら、青葉。体はちゃんと拭きなさい。

 フルーツ牛乳は逃げはしないわ」

 

「はぁーい!」

 

青葉は飛行場姫の言葉に、おとなしく体をふき始めていた。

そんな光景を眺めながら飛行場姫も、ゆっくりと風呂から体を引き上げる。

 

ザバァ

 

そんな音と共に、飛行場姫の裸体が露わになっていた。

きめ細やかな白い肌、絹のような白い髪、そして真紅の瞳。

芸術品のような逸品である。

 

「あぁ、あっついわ。

 浸かり過ぎたわね・・・。今日はコーヒー牛乳かしら」

 

体をふきながら、飛行場姫はそう呟きながら

ゆっくりと、白いおみ足を脱衣所へと向けていた。

 

横須賀鎮守府、風呂場。

鹵獲されている飛行場姫の、日常の一端である。

 

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横須賀鎮守府の風呂場で青葉と飛行場姫が風呂場に入っているころ

とある一隻の船、小柄でパーカー姿の色白の少女が横須賀の街に繰り出し

街中を歩いていた憲兵に声をかけていた。

 

「すいませーん。○○○カメラってどこでしょーかー」

 

「○○○カメラ?あぁ、この道を真っ直ぐ行けばあるぞ。」

 

憲兵は、少女の言葉に、指をさしながら言葉を返す。

 

「ありがとうございまーす!」

 

少女は、にっこにこの笑顔を浮かべながら、憲兵にお礼を言う。

憲兵は、少女の笑顔に、思わず笑顔になりながら口を開いていた。

 

「気にするな。気を付けてなー」

 

色白の少女はトコトコと道を真っ直ぐ進む。

すると、憲兵の言った通り、「○○○カメラ」と看板が掲げられた

カメラ専門店が見えてきた。

 

「おお。これが人類のカメラ専門店かぁ!」

 

店の前で叫ぶ色白の少女の声に、道行く人が視線を向ける。

色白の少女の外見は、黒色のパーカーを羽織り、

首元にはネックウォーマーを付け

パーカーの下には黒のインナーを着込んでいる少女である。

そこまでは良い。

 

特徴的な尻尾が、少女の背中から伸び

先端部分の頭と思わしき部分が、少女の頭に乗っかっているのである。

 

一般人から見れば「化け物」と見えかねない姿であるが

ここは艦娘が闊歩する最大拠点、横須賀の街である。

『あぁ、人類って言うってことは新しい艦娘かな』

『海軍がまた変なの作ったのか?』

『わぁ、髪さらっさらでかわいい』

『瞳が綺麗だなあ』

などなど、好意的な目で、色白の少女を見つめていたのである。

さながら「初めてのお使い」を見る大人たちの目線である。

 

そんな視線を無視して、色白の少女は○○○カメラの

案内板をじっくりと検証していた。

 

「ほうほう・・・地下1階がライカの専門フロアか。

 ビスマルク達がもってたなぁ。

 頑丈だったし、いい味だしてたなー。

 3階が、日本光學工業株式會社と榎本光学精機、

 あと理研感光紙株式会社と、旭光学工業株式会社か。

 何か聞いたことあるな。確か、大和の測距儀って

 日本光學工業株式會社だっけ・・・?」

 

日本光學工業株式會社。

レ級の脳裏に大和の名前が浮かぶ。

 

「そういえば、最近大和、自分のカメラ欲しいとかいってたなぁ。

 今日、大和非番だったし、もしかしたら店の中にいたりして!」

 

色白の少女は、案内板を横目に、笑顔で階段を昇って行く。

3Fまで来たところで、レ級はそーっと、店の中を覗いていた。

 

「大和、大和ぉっと」

 

色白の少女は、目を皿のようにして店の手前から奥まで索敵を行う。

するとよく見知った長身の女性が『D4』と書かれたカメラを手に、

 

「うーん、このカメラ、レ級の持っていたカメラに近いわね・・・」

 

ひとり呟いている姿を見つけたのである。

 

「おお!大和っ!本当にいたっ!」

 

長身の女性・・・大和の姿を見るや否や、色白の少女は

勢いよく動きだし、大和の横に立ち、声をかけていた。

 

「ううん、でも、こっちの『S』っていうのも・・・」

 

「大和ぉ!こんなところでどうしたぁ!?」

 

「わぁっ!」

 

大和はいきなり声をかけられた驚きから、

ビクっとしながら思わず叫んでいた。

 

「あははは!大和ぉ。びびりすぎだってば」

 

大和が声の主を知ろうと、少し怒った顔で顔を横に振る。

すると、そこにいたのは、良く見慣れた色白の少女であった。

 

「・・・レ級さんっ!?」

 

「あはははっ。大和ぉ、『うわぁっ!』って!あははっ!」

 

色白の少女・・・否、戦艦レ級フラッグシップ改は

大和の横で、涙を浮かべながら大声で笑い続けていた。

大和は、レ級からからかわれたと気づくと

顔を真っ赤にしながら、レ級に叫んでいた。

 

「レ級さんっ!そんなに笑わないでくださいっ!」

 

大和の叫びに、カメラ屋の中にいた他の一般人と店員が一斉に振り向く。

その視線に気づいた大和は

 

「あっ・・・す、すいませんっ」

 

更に赤い顔になりながら、周囲に頭を下げるのであった。

 

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「悪かったって、大和ぉ・・・・」

 

「知りませんっ」

 

戦艦レ級は、カメラ屋の中で気まずそうな雰囲気で大和につき従っていた。

 

「からかい過ぎたって。ごめんよぉ」

 

少し涙目になりながら、レ級は大和に謝り続けていた。

傍から見れば、大柄なお姉さんに謝る妹のような光景である。

大和は一つため息を付くと、レ級に顔を向き、口を開く。

 

「仕方ないですね・・・。それじゃあ、私のカメラ選び

 手伝ってくれたら、許してあげます」

 

「おぉ、本当かっ。大和ぉ!いくらでも教える!」

 

大和の言葉に、笑顔になるレ級。

その光景を傍から見ている一般人は

 

(あの姉妹、かわいいなぁ)

 

と、ほっこりしていたのは、完全なる余談である。

 

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妄想捗りました。


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103 我道を往く戦艦レ級+α その2

大和とカメラ専門店で出会った戦艦レ級。

レ級の過ぎたいたずらに、怒っちゃった大和のご機嫌取りに

カメラ選びの手伝いを行うようです。

(ほんのりとぼかして描いています。)


日本光學工業株式會社、通称「ニコン」。

九三式双眼や九七式狙撃眼鏡、

倒分像立体視式十五米二重測距儀といった

軍事産業の中核を担っていると言っても良い光学メーカーである。

 

特に、倒分像立体視式十五米二重測距儀は

戦艦大和・武蔵にも搭載され、その能力はかなり高い。

 

「私、ニコン製品の測距儀が搭載されてますので、できれば

 日本光學工業株式會社のカメラを使いたいのですが・・・」

 

『D4』を手に取りながら、大和はレ級に問いかけていた。

 

「んー、そうだなぁ。」

 

レ級は、大和の問いに、表情を曇らせながら上を向きつつ

じっくりと考えに浸っていた。

 

(私のカメラ、精機光学研究所の試験機って話ダシ

 大和、ずいぶん私のカメラの操作に慣れてたしなぁ。

 確か、ピントリングの操作が逆だし、

 あとピントの食いつきも違うんだよなぁ)

 

精機光学研究所、通称「キャノン」。

日本光學工業株式會社のレンズを用いて

国産初のレンジファインダーカメラを作った光学メーカーである。

 

余談ではあるが、現在、「ニコン」と「キヤノン」の

2大光学メーカーが、カメラ市場の

世界シェアの9割近くを占めていたりする。

 

「大和が何を求めるかによるなぁ。」

 

「私が、ですか?」

 

「そうそう。どんな写真を撮りたいか、っていうので

 選ぶ光学メーカーのオススメはかわってくるんだ。」

 

大和はレ級の言葉に、首をかしげながら言葉を続ける。

 

「そうなんですか?カメラって、どこでも同じなのでは・・・」

 

「あぁー、大和、それは違う。

 細かい所の性能で、結構各社特徴があるんだ」

 

レ級は、少し笑顔を浮かべながら

大和の顔の前に人差し指を立て、言葉を続ける。

 

「例えば、いま主流のデジタル。私の使ってるカメラだな。

 このタイプだと、私のカメラの中身は「キャノン」なんだ。」

 

「キャノン、ですか。このニコンとは違うのですね」

 

「違うんだなー。

 キャノンの特徴としては、動く相手に強くて

 白色が綺麗っていう感じだな。艦娘の肌とかすごい綺麗だぜ」

 

レ級はにやにやとしながら、大和の顔を見ながら言葉を続ける。

 

「で、ニコンはピントが正確で、黒に強いって言われてる。

 一回鎮守府でニコンの試作機借りて撮影してみたけど・・・・」

 

レ級はそういいながら、自身の格納庫からタブレットを取り出していた。

同時に、ささっと「ニコン」、「キャノン」というフォルダをタップし

「武蔵の砲撃の写真」を表示させていた。

 

「判りやすいのがこの写真だなぁ。

 同じ武蔵だけど。キャノンは肌が白くて綺麗だろ。

 ただ、艤装のディティールはちょっと甘い感じ。

 逆にニコンは、肌はそうでもないけど

 艤装とかのディティールや色味はすごく味がある感じ」

 

レ級は大和に説明しながら、タブレットの写真を大和に見せていた。

大和はまじまじと、レ級のタブレットに顔を近づけ、キャノンとニコンの

写真を見比べる。

キャノンは確かに、肌がきれいで美しい。

ニコンは逆に、髪の毛が美しく映写され、すごみがある写真と言える。

 

「確かに、かなり大きな違いがありますね。

 うーん・・・悩みます。」

 

レ級のタブレットを見ながら、大和は悩ましげに呟いていた。

写真の素人である大和からすれば、

どこのメーカーのカメラも同じように見えていたのだ。

そんな大和をみたレ級は、少し笑顔を浮かべ、大和に話しかけていた。

 

「まぁ、私は最初からキャノンの試作機しかなかったし。

 思い切って買いたいカメラ買っちゃうのがいいのかもしれないぜ」

 

「そう、ですね。

 それじゃあ・・・!」

 

大和は、目の前にあるカメラを手に取りレジへと足を向ける。

その手には、『D4S』と書かれたカメラと『35mm f/1.4G』のレンズが握られていた。

 

「ニコンにしたかぁ」

 

そうつぶやくレ級も、少し気になるカメラを、目の端に捉えていた。

 

「・・・?オリンパス、ペンF?」

 

世にも珍しい、ハーフサイズのカメラである。

そして、42mm F1.2という、大口径のレンズも、一緒になって販売されていた。

 

「なんだろう?買ってみようかなー」

 

レ級は、オリンパスのペンFを手に持つと、大和の後ろに続き

楽しそうな笑みを浮かべながら、レジに並んでいた。

 

深海に対する最大の戦力である横須賀鎮守府が鎮座する、横須賀の街。

そんな街を、深海の船がのんびり闊歩する、そんな日常である。

 

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横須賀の街が時間にして1900を過ぎ、照明が煌々とともっている頃、

 

「戦艦レ級」と呼ばれる彼女と

「戦艦大和」と呼ばれる、日本帝国軍最強の戦艦が

横須賀の街の中、遠くを見つめながら

大和と共二隻でぽつーんと立っていた。

 

「迷い、ましたね」

 

「迷ったなぁ・・・・」

 

そうつぶやく二隻の手には、

○○○カメラと書かれた黒い紙袋が握られていた。

 

実はこの戦艦レ級と戦艦大和。

お互いに、横須賀に来てからまだ日が浅い。

それ故に、鎮守府への帰り道で迷ってしまっていた。

 

「そういえばレ級さん。レ級さんもカメラ購入してましたよね?

 どんなカメラを買ったんですか?」

 

「お?そういえば見せてなかったっけ。

 えーっとねぇ」

 

ごそごそ、と黒い紙袋の中をあさり

緩衝剤に包まれたカメラとレンズを取り出すレ級。

そして、レ級は緩衝剤をカメラとレンズから全て取り外すと

カチリと、カメラ本体にレンズを嵌め、大和に手渡していた。

 

「オリンパスっていうところの、ハーフサイズのペンFっていうカメラらしいんだ。」

 

大和の頭の中に疑問が浮かぶ。

 

「ハーフサイズ・・・ですか?」

 

「そうそう。ハーフサイズ。

 ええっとねぇ。普通さ、フィルムって1コマに1枚の写真でしょ?」

 

大和はレ級の言葉に、頷きながら口を開く。

 

「そう、ですね。普通のフィルムのカメラはそうです。」

 

レ級は、大和を見ながら、笑みを浮かべつつ、更に口を開いていた。

 

「ハーフカメラは、1コマに2枚の写真を撮影できるようにしたカメラ、なんだ。

 だから、ハーフカメラっていう、みたい。

 36枚のフィルムだったら、72枚撮影できるって感じだなぁ」

 

「へぇ。便利なんですね。しかも。ちょっとかわいいですね」

 

大和はレ級の言葉に感心しながら、ペンFをレ級に返していた。

レ級はペンFを受け取ると、構えながらぼそりと呟く。

 

「だなぁ。手にすっぽり収まるし。」

 

ペンFのファインダーを覗いたレ級は、何かを思いついたような顔で

大和に勢いよく話しかけていた。

 

「あぁ、そうだ大和。せっかくだから、買ったカメラで

 横須賀の街並を撮影していこうぜ」

 

大和は少し考えるも、

 

(道に迷ってますし、そうですね。

 写真撮りながら、道を聞きつつ鎮守府に帰るのもありですね!)

 

そう納得し、レ級に対して、笑顔で口を開いていた。

 

「・・・いいですね!まだ今日は時間ありますし。

 帰り道を探しながら、撮影してみましょうか」

 

大和はごそごそと、黒い紙袋からカメラの箱を取り出すと

その場でセッティングを行い始めていた。

大型の四角の黒いカメラに、大口径レンズである35mm f/1.4Gを取りつけ

電源を入れる。

 

 

レ級は、そんな大和を尻目に、黒い紙袋の中から

リバーサルフィルムを取り出すと、素早い手つきで

ペンFにフィルムを取りつけていく。

 

フィルム室の裏ぶたを開け、フィルムをパトローネ室にセットし

ガイドレールに少しフィルムを引っ張り出していく。

そして、フィルムの先端であるリーダー部をスプールにセットし

数回、フィルムがまかれたことを確認するために

フィルム巻き上げレバーを動かし、シャッターを切る。

レ級は、無事にフィルムが巻き上げられていることを確認すると

ペンFの裏ぶたを閉じ、フィルムの感度を設定し、早速ファインダーをのぞく。

 

 

「ふふ、久しぶりにわくわくするぜー。

 おお、流石42mm F1.2。暗くなっても明るいぜー!

 さぁ、フィルムでしかもハーフサイズ、どんな絵がでるのかなぁ!」

 

「ふふっ。楽しそうですね。それじゃあ。私もっ!」

 

大和はそういうと、D4Sを構え、楽しそうに写真を撮るレ級に、

ピントを合わせシャッターを切っていた。

 

ガシャン。

 

重いシャッター音と共に、画像がカメラに記憶されていく。

そして、カメラのディスプレイに、プレビューとして写真が表示される。

 

『楽しそうな子供のような顔を浮かべ、

一心不乱にカメラを構える色白な可憐な少女。』

が映し出されていた。

 

そのレ級の美しさは、横須賀の夜景と相まって、

妖精のようである。

 

大和はその写真をカメラで確認すると、

 

「ふふ、やっぱり、写真を撮っている時の

 レ級さんはより一層、魅力的ですね。」

 

ぼそりと、満足そうに笑みを浮かべ、呟いていた。




妄想、久しぶりに捗りました。
時折短編で続けていくと思いますので、よろしければご覧ください。


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104 我道を往く戦艦レ級+α その3

前回、ニコンのカメラをゲットした大和さん。

そして、フィルムカメラのペンFをゲットしたフラレさん。

2人が、横須賀の街を闊歩しながら、鎮守府へと帰還を目指していくようです。



ガシャン、ガシャンガシャン。

 

カシャッ。カシャッ。

 

夜の横須賀の街、ドブ板通りに、2台のカメラの音が響いていた。

 

片方は、背の高い、美しい黒髪が特徴の

大和と呼ばれる艦娘が持つ

日本光學工業株式會社のデジタルカメラ「D4S」。

35ミリフィルムと同じ面積を持つ画像素子を持ち

同社の中ではフラッグシップに位置づけられるカメラだ。

 

そして片方は、パーカーを着こみ、尾っぽを頭に乗せている

戦艦レ級と呼ばれる小柄な色白な少女が持つ

「ペンF」である。

こちらは、35ミリファイルを半分に使うハーフサイズカメラでありながら、

フルサイズカメラにも匹敵するような写りをするフィルムカメラである。

 

「レ級さんのカメラとはまた違いますが、良いシャッター音です。」

 

D4Sを持つ大和は、ファインダーから目を離すと

再生ボタンを押し、撮った写真を確認していた。

 

「わぁ・・綺麗っ・・・」

 

すると、カメラのモニターに

夜の闇夜に光るネオンと、街灯が建物と地面を照らし

昼間の横須賀とは全く違う街の顔が映し出されていた。

 

レ級も、ペンFのファインダーから目を離し

大和が持つD4Sのモニターを覗きこんでいた。

 

「おぉ!すっごいなぁ。流石、日本光學工業株式會社。

 ふふふ、大和ぉ。これは腕をみがかないとなぁ・・・!」

 

にこにことしながらレ級は、大和に話しかけていた。

 

「えぇ、これだけいいカメラとレンズを入手できましたから

 レ級さんに負けないぐらいの、良い写真を撮って見せます!」

 

大和は片手をグッと握りながら、力強く言い放つ。

そして、改めてカメラを構え、ファインダーを覗くと

カメラをレ級に向け、シャッターを押していた。

 

「おおっ!?大和っ。私を撮っても面白くないぞ?」

 

大和の行動に、びっくりしてレ級は口を開いていた。

 

「レ級さん、そんなことないんですよ?

 夜景と相まって、レ級さん、すごくきれいです」

 

大和は笑顔でファインダーを切りながらも

優しい口調で、レ級に話しかけていた。

レ級は一瞬だけ呆然とするも、少し苦笑を浮かべながら

大和に対して、口を開く。

 

「あはっ、そうかそうか。まぁ、うん。

 恥ずかしいけど、そういわれると、嬉しいな」

 

大和のカメラに向けて、体を向き直し

笑顔を見せる戦艦レ級。

 

その美しさといえば、一瞬、大和はファインダー越しに見える

レ級の可憐な姿に見惚れて、シャッターを切ることを忘れてしまうほどであった。

 

 

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夜独特の怪しげな雰囲気とライトの明るさが相まって

昼間見る光景とはまた違う光景が広がっている。

 

大和は、そんな横須賀のどぶ板通りを歩きながら

次から次へとシャッターを切る。

 

ネオンが光るアメリカ風のバー、

軍事品を扱うミリタリーショップ

ジャケットに張り付けるワッペン専門の店

 

素晴らしい夜の街の風景を写真に収めながら

大和は更にシャッターを切っていく。

 

戦艦レ級がミリタリーショップにおいてある

ジャケットを羽織り、試着し笑顔になる姿や

ネオンの店をにこにこの顔で撮影するレ級の姿。

 

「大和、この通りおもしろいなー!」

 

「ふふっ。」

 

大和は、無邪気にはしゃぎながらどぶ板通りを闊歩するレ級を

笑顔になりながら、次々とファインダーに収めていた。

 

と、その時、大和は、ファインダーの端に

よく見知った人物の姿を捉えていた。

 

「あら・・・?あれは、大本営の将校、さん?」

 

その人物は、大本営に出入りできる将校の一人であり

SN作戦を立案した人物の一人である。

レ級と飛行場姫にとっては、拠点を潰した人物の一人であり

大和にとっては、信頼できる仲間の一人である。

 

そんな人物が、ボマージャケットを羽織りジーパン姿の

完全プライベートな姿で、どぶ板通りの

アメリカ風のバーに入っていったのである。

 

「・・・レ級さん、ちょっとちょっと」

 

「んぁ?どうしたの、大和」

 

その時ちょうどレ級は、刃物屋で大きなナイフを手に取っていた。

店のおばちゃんが、刃物を持つレ級を見ながら

「あらぁ、小柄なのに力持ちねぇ」というと、

レ級は笑顔を見せ「そぉ?」などとのんびりと話している。

傍から見れば、ノンビリとした光景である。

 

「あは、レ級さん。刃物似合いますね・・・。」

 

カシャリ。大和はD4Sのシャッターを切り、

刃物を構えながらおばちゃんと話すレ級の姿をしっかりと残す。

 

「いただきました、っと。

 いえ、先ほど知合いの将校さんがそこのバーに入っていきましたので

 私たちも追いかけて、鎮守府までの道を聞こうかと思うのですが」

 

「おぉお!大和ぉやるなぁ!

 それならさっそく追いかけようぜ。あぁ、おばちゃん!

 この大きなナイフ頂戴ー。」

 

「はいよー。3万円になるよ。」

 

「はーい」

 

レ級は格納庫から財布を出すと、おばちゃんにお金を手渡していた。

そのままレ級は手慣れた手つきで、背中にナイフを背負う。

 

「いよっし。いいナイフゲットだぜ。」

 

大和は、にっこにこのレ級を見ながら、不思議そうな顔で問いかけていた。

 

「レ級さん、そのナイフ、何に使うんですか?

 レ級さんであれば、砲弾を投げ返せば戦闘には支障ないでしょうに」

 

「あぁー。いやいや、戦闘に使うんじゃないんだ。

 ほら、これ、かっこいいじゃん?ついつい」

 

「そういうものですか」

 

「うんうん。」

 

大和とレ級の2人は、会話を続けつつ、ゆっくりとバーの扉を開く。

カランカラン、と鈴の音が響くと同時に

店の中にいた人の視線が、レ級と大和の2人に集中していた。

 

「あっ。将校さん。こんばんは」

 

大和は、その視線の中から、カウンターに座る将校を見つけ

駆け寄りながら、笑顔で声をかけていた。

 

「これはこれは、大和さんではありませんか。

 どうされました?こんな時間にこんな場所にいらっしゃるなんて」

 

将校は、ビールを煽りながら

ソーセージをぽりぽりと食べていた。

 

「いえ、お恥ずかしながら、カメラを買いに来たら

 道に迷ってしまいまして。ご迷惑じゃなければ、

 横須賀鎮守府までの道をお教え願いたいのですが」

 

そういうと大和は、将校の隣に座り、店のマスターに向けてビールを頼む。

 

「バドワイザーでいいか?」

 

「かまいません。缶のままでいいですよ?」

 

「そうはいかねぇよ。美人さんにはちゃんとしたグラスで出さないと、ばちが当たる」

 

「あら、御上手ですね」

 

「おうよ。それじゃあ少し待っててな。後ろのつれも同じのでいいな?」

 

大和は慣れた口調で、マスターと会話を続けていた。

そんな大和の姿を見ながら、

将校は、ビールを煽りつつ、マスターと会話する大和に向けて、口を開く。

 

「鎮守府への道、ですか。

 えぇ、かまいませんよ。といいますか、軽く一杯飲んだら

 鎮守府に戻る予定でしたし。

 それにしても、カメラですか。」

 

大和は、手にするD4Sを将校が見ていることに気づき

カメラを少し持ち上げ、将校へと口を開く。

 

「ええ。これを買ったんです。

 日本光學工業株式會社っていう所のデジタルカメラです。」

 

将校はぐいっとビールを飲みほし、店員にもう一杯と注文を行う。

そして、ビールを待っている間、大和と会話を続けていた。

 

「ほほう。これはこれは・・・良いカメラですね。D4Sですか。

 日本光學工業株式會社のフラグシップカメラですね。」

 

「あれっ、将校さん。カメラ見ただけで判るんですか?」

 

大和は意外そうな顔で将校を見る。

将校は、照れくさそうに頭をかくと

大和を横目に見ながら、言葉を続けていた。

 

「えぇ、例のレ級の演習騒動以来、大本営の中にも

 カメラ好きが広まってしまって。

 かくいう私も、日本光學工業株式會社のD810を購入して使っているんです。」

 

「あはっ。カメラを始めた動機、私と一緒ですね。

 私もレ級さんの写真を見てから、カメラにはまっちゃったんです」

 

「あはは、艦娘に人間にと、写真とカメラで魅力するレ級ですか。

 あのレ級フラッグシップ改は不思議な存在です。

 戦争せずとも、深海の船と分かり合えるような気がしてしまいます。

 ・・・正直、レ級と飛行場姫を潰すために

 SN作戦を発案した身としては、

 良いやら、悪いやら、複雑なんですが・・・・」

 

将校は少しカウンターに目を落とし、暗い顔で呟いていた。

大和はそんな将校に、少し笑顔で声をかける。

 

「んー、戦争ですから仕方ないと思いますよ。

 レ級さんも姫様も、別にSN作戦で被害を受けたことを気にしていませんし。」

 

将校は、大和の言葉に、意外そうな表情を浮かべ、顔を上げ大和を見ていた。

 

「そうなのですか。そこらへんの情報がなかなか詳しく入って来ませんでしたので

 正直不安もあったんですが、そういうことなら少し安心できますね」

 

将校がそこまで発言したところで、

将校から少し隠れて様子を見ていたレ級が、

「人間と艦娘」には片言で聞こえる

少し昔のしゃべり方で、将校へ話しかけていた。

 

「マァ。一発グライハ、拠点ツブサレタオ返し、トシテ

 殴ッテモ、イイカナートハ思ッテルケド」

 

将校は、その言葉にびっくりしたのか

勢いよく声のした方向に体ごと顔を向けていた。

そして、声の主がレ級とわかった瞬間、

 

「ブハッ、なんだとっ!?レ級!?」

 

吹き出しながら、思いっきり叫んでいた。

レ級は、そんな将校の姿が面白いのか腹を抱え、笑う。

 

「あはははは!びびりすぎっ!

 なんだよ。私達こんなびびりに拠点つぶされたのかよ!」

 

びびり、という言葉に反応し、将校は眉間にしわを寄せ

レ級に食って掛かって行った。

 

「びびりとはなんだびびりとは!」

 

レ級ももちろん負けてはいない。

にやにやとした笑顔を浮かべながら、将校へ言葉を返す。

 

「びびりじゃねーか!

 ただの戦艦レ級に声を掛けられてびっくりするんじゃねーよ」

 

大和は、2人のやり取りをおとなしく見ていたが

思わず、口を開いていた。

 

「いえ、レ級さん、戦艦レ級を見てびびるなと。

 それは無茶があるのでは・・・・」

 

将校とレ級は、大和の言葉に、一瞬動きを止める。

そして、じとっとした目で大和を見ると、同時に口を開いていた。

 

「えぇー。大和ぉ。そこは「将校さん、びびりですね」って

 乗るところじゃないかー」

 

「大和さん。判っていませんね・・・」

 

「えぇっ・・・!?」

 

大和は、レ級と将校のまさかの反応に

困惑の表情を浮かべ、思わず呻いていた。

 

「はいよ、ビール3つ。美人さんに免じてソーセージタダだ。

 将校さん、あとそこのガキ、美人さんを困らすなよ?」

 

その光景を見かねたのか、バーのマスターが

3人分のビールを持ち、3人の前に立っていた。

片手に3人のビール、片手に茹で上がって美味しそうな香りを出す

ソーセージのスタイルである。

 

「おぉ!マスターイケメン!ありがとねー」

 

「申し訳ありません。煩くした上におつまみまでいただきまして・・・」

 

「ありがとうございますマスター。

 じゃれあいみたいなものですよ。いつものことです。」

 

レ級、大和、将校は、思い思いの言葉をマスターにかけながら

ビールを各々受け取り、ソーセージを受け取っていた。

 

「それならいいがな。ほどほどにしておけよー。」

 

ひらひらと手を振りながら、別の客の注文をこなすマスター。

その姿を横目に見ながら、レ級は将校へと口を開く。

 

「ま、それはそうとして、将校殿、鎮守府までの道は教えてくれるんだろ?」

 

「えぇ、大和さんからのお願いですからね。

 レ級殿一人であれば放置の案件です。」

 

レ級は、将校の言葉に思わず顔を顰め

将校へと顔を向け、口を開く。

 

「うぇ、ひっどいなぁ。」

 

将校は全くレ級を見ずに、正面を見据えたまま言葉を続ける。

 

「ひどくないでしょう。我々をさんざ苦しめていた敵なんですから」

 

「そーだけどさー。私は直接やってなぁいでしょー?

 写真撮りまくってただけなのに、拠点潰したのそっちじゃーん」

 

レ級は、将校の言葉に間髪入れず反論していた。

実際、レ級からしてみれば、誘われて演習に出てみれば

その数日後にいきなり大群で拠点を襲われたのだ。

だが、実際のところ、その理由はレ級の演習の結果のせいでもある。

 

「仕方ないではありませんか。大和と武蔵を軽く手玉に取られては。

 レ級殿が強すぎたんです」

 

「えぇー・・・・写真撮るにはあの位アグレッシブじゃないと・・・」

 

レ級と将校はぶつぶつと言い合い、まだまだ続きそうな勢いであった。

そんな2人を見かねた大和が、一言、音頭を取る。

 

「まぁまぁ、今はとりあえず、ビールがぬるくなってしまいますから。

 乾杯しましょう?」

 

「おっ、そうだなー。」

 

「ええ、そうしましょうか。

 レ級殿、せっかくですし、音頭をお願いします。」

 

「おっ・・・おおっ!?おぅ。わかった。

 んんっ。

 ・・・それでは、何の縁か、

 深海、艦娘、人間がそろった記念としまして」

 

「「「かんぱーい」」」

 

そして、将校はビールを飲みながら、

一つ、気になることを大和とレ級に尋ねていた。

 

「そういえば、ここ数日、深海の船が横須賀の近海に現れませんが

 レ級殿、大和さん。何かご存知で?」

 

大和はビールを少し飲むと、頭をかしげながら口を開く。

 

「さぁ、私は特に何も。レ級さんは何か知ってます?」

 

話を振られたレ級は、ポリポリとソーセージを食べていた。

そして、ソーセージを食べ終わり、ビールをグイッと飲んだ後

大和と将校を見ながら、ゆっくりと口を開く。

 

「あぁ。知ってる知ってる。

 姫が最近『我飛行場姫。横須賀への進軍は暫く停止せよ』って

 横須賀鎮守府の近場に偵察に来てた駆逐艦に命令してたよ」

 

「「へ?」」

 

「ええとね、なんでそんなことするんですか?って聞いたんだ。

 そしたら、『実戦が多いと演習少なくなるじゃない。

 写真を撮りたいのに、実戦が多くなっちゃ仕方ないでしょ?』

 って言ってたよ。」

 

「「あっ、そうですか」」

 

レ級の言葉に、大和と将校は呆気にとられながら

反射的に言葉を発していた。

 

「大和さん。私、このカメラ好きのレ級が、なんでこんなに自由なのか

 今わかった気がします」

 

「将校さんもですか。私もわかった気がします」

 

そして、大和と将校は、いい笑顔を浮かべながら、同時に口を開く。

 

「「レ級の上が元々自由でやんちゃだったからですね!」」

 

レ級は、大和と将校の言葉に、少し眉を顰めつつ反論する。

 

「・・・いや、大和、将校殿。

 飛行場姫様は私と違って真面目だよ?」

 

間髪入れず、大和と将校も、言葉を発していた。

 

「「レ級さんが言っても、全く説得力がありません。」」

 

「むー、そんなことないんだけどなぁ。

 あっ、ビールもう一杯お願いします。」

 

「レ級さん、早いですね。っと、私も同じものをお願いします。」

 

「大和さんもレ級殿も早いですね。あぁ、私は次はハイボールで。」

 

横須賀の夜に集う、SN作戦の立案者、実行者、被害者の3名(隻)。

ビールを飲み交わしながら軽口を叩き合うその姿は、

昔からの中の良い馴染みのような姿であった。




妄想捗りました。レ級さんが横須賀になじみ過ぎて可愛い。


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105 レ級と金剛さん、ファイッ 1(?)

とある日、とある鎮守府
とある船と、レ級はタイマンで演習を行うようです。

※続くかは・・・・わかりません。

※ちょっと加筆。金剛さんの出どころを記入致しました。


横須賀鎮守府内部に設置された臨時大本営。

 

 

天皇を始めとした、陸海軍の将校がずらりと並ぶ。

その中には、横須賀・呉・大湊・佐世保といった

名だたる鎮守府の提督たちも同席していた。

 

過去、初めてレ級が演習を行った時と

ほとんど同じ状況ではあるが

臨時大本営に集う面々の顔はひきつり

陸軍の将校に至っては、冷や汗をかいている。

 

何故かと言えば。

 

「御集り頂きまして、誠に感謝いたします。

 深海の船を代表してお礼申し上げますわ」

 

まさかの「飛行場姫(鹵獲)」が同席しているからだ。

 

「皆さま、緊張せずに、というのは無理でしょうが

 今、私飛行場姫は、横須賀に鹵獲されている身。

 武器も艤装もありません。」

 

飛行場姫は、笑顔を浮かべたまま一礼する。

そして、横須賀の提督がフォローのために

椅子から立ち上がり、口を開いていた。

 

「武器も艤装もないのは、私、横須賀の提督が保障致しましょう。

 鹵獲後、約1カ月。人的、機械的損害もありませんので

 皆さま、緊張するとは思いますがどうぞ、ご安心なさってください」

 

横須賀の提督と、飛行場姫が一礼を行うと、

一瞬ざわめきが大本営を包んだものの

提督や将校たちが応じ、会議の始まりを告げた。

 

「さて、今回、再度御集り頂いたのは電信でお伝えした通り、

 カメラを持ったレ級フラッグシップ改と、

 我が帝国海軍最高錬度の戦艦、

 呉鎮守府所属である「戦艦金剛」の演習のためです。

 ・・・大和、飛行場姫殿、資料を皆様に。」

 

横須賀鎮守府の提督の言葉に、秘書官である大和と鹵獲艦である飛行場姫は

着席している将校と天皇に資料を配布していく。

特に飛行場姫から資料を受け取った天皇は

流石にその顔にひきつった笑みを浮かべていた。

 

「あら、天皇陛下。そんな顔を浮かべられると、悲しくなってしまいますわ。

 私も負の部分とは言え、日本帝国海軍の魂を持っていますので。」

 

飛行場姫の言葉に、天皇は表情を正し、飛行場姫を見据え直していた。

 

「ふふ、それでこそ我らの天皇陛下です。

 我らが命を捨ててでも仕えるべき方です。

 そのご尊顔を拝することが出来ただけでも、

 ここ横須賀に留まっている価値がありました。」

 

飛行場姫はそう小さな声で呟くと、他の将校へと歩みをすすめ

資料の配布を再開していた。

天皇は、飛行場姫の白く細い体を、ただただ見つめ続けていた。

 

----------------------------------------------------------

 

「さて、飛行場姫殿と大和から資料を受け取って頂いたと思いますが」

 

横須賀の提督は、資料が回ったことを確認すると

資料を手に持ちながら、硬い表情で口を開く。

 

「今回の演習は、資料の通り、実弾演習となります。

 戦艦金剛は、我が海軍最高峰の武器「51cm砲」を搭載し

 最高の武装状態です。

 対して、戦艦レ級は、艦載機は封じてありますが

 大和型ですら一撃で大破に持ちこむ「深海型41cm砲」を搭載し

 他にも副砲や夜戦用のサーチライトを装備してある武装状態です」

 

提督の説明に、将校達は思わずうめきを上げる。

只でさえ、手に負えない戦艦レ級を相手に、こちらの最高戦力を、

しかもタイマンでぶち当てようと言うのだ。

 

あまりの演習内容に、誰も言葉を発せずに居たが、

陸軍の将校は、少し眉間にしわを寄せ、

提督を睨みつけながら、ゆっくりと言葉を発していた。

 

「提督殿。陸軍から一つ質問が。

 もし、武装しているレ級が反旗を翻し

 我々に攻撃した場合はいかがするおつもりなのか」

 

提督は、将校の目を見ながら、一字一句くっきりと

全員に聞こえるように口を開く。

 

「御心配も最もです。

 ですが、今回の演習は、金剛とレ級、双方の希望の元に

 成り立っております。そして、あのレ級は

 今のところ一切、此方側に被害を与えてはいません。」

 

「それはそうであるが・・・万が一ということも」

 

「もしレ級が暴走するようであれば、私が命を持って止めるわ。」

 

合わせるように、飛行場姫も口を開いていた。

レ級の上司から「命を持って止める」と言われてしまっては

陸軍の将校も、黙るしかない。

 

「特に異議が無いようであれば、金剛、レ級共に

 戦闘準備が整っておりますので、早速演習を始めたいと思っております。

 ・・そして、前回、我々はレ級の強さを目の当たりにして、SN作戦を企て、実行致しました、

 が、我々は今回、野暮なことをせずに、経過と結果だけを見届けたいと思っております。」

 

-----------------------------------------------------------------------------------

 

横須賀鎮守府正面海域。

レ級フラッグシップ改と、戦艦金剛改二が

お互い、今現存する最高の装備を以て対峙していた。

 

「ウー。私から誘った実弾演習とはいえ、フル武装のレ級をみるト、

 思わず、怖気ずいてしまいマース・・・・」

 

金剛は少し青い顔で、レ級を見ながらぼそぼそと呟いていた。

 

「えぇー。びびりー?金剛びびりー?

 私がカメラを置いて武装するなんて、そうそう無いんだぜー。

 貴重なんだからさー。もうちょっと喜ぼうよー」

 

レ級は、カメラを鎮守府の姫に預け

艦載機以外のフルの武装である。

しかも、目からは蒼いオーラを発し

全身からは金色のオーラをたぎらせている状態だ。

 

いくら歴戦の金剛とはいえ、深海棲艦として力を完全に解放した

レ級の雰囲気に呑まれていた。

 

金剛は、オーラを滾らせるレ級を見ながら

青い顔になりつつ、小声でレ級に話しかける。

 

「びびりで良いデース・・・。

 ウウー。レ級ぅ。ヤッパリ、この演習なしってわけには・・・」

 

「いかないデース」

 

「デースかー・・・」

 

レ級に自身の口癖をまねされ、更に落ち込み、

肩を落とし顔を下げる戦艦金剛。

見かねたレ級は、金剛に語りかけるように、

敢えて、昔の口調で言葉を発する。

 

「金剛ォ。オマエサァ。私ヨリ強イ飛行場姫殴リ倒シタンダロォ?

 格下相手ニ弱気ニナルタァ。帝国海軍最強ノ名ハ嘘デ塗リ固メラレテンノカァ?

 流石大本営発表。嘘バッカリダナァ!」

 

レ級の、帝国海軍を舐め腐った言葉に思わず金剛は顔を上げる。

すると、金剛の瞳には、ニヤァリと、人を、艦娘を小馬鹿にするような笑みを浮かべ、

堂々と海面に立つ戦艦レ級フラッグシップ改が、しっかりと映っていた。

 

「はっ・・・。そんなことはないデース!

 私は帝国海軍最強の錬度を持つ金剛デース!大和にも負けまセーン!

 レ級ぅ!帝国海軍を馬鹿にしたその罪の思さ、

 その身にしっかりと叩き込んでさしあげマース!」

 

金剛は先程までの落ち込んだ弱気の姿勢から一転

眉間に血管を浮かべつつ、口角をニヤリと上げ、レ級に叫んでいた。

 

「クハハッ・・・!」

 

「ふふふあははっ!」

 

そして、二隻は同時に笑い声を上げる。

 

「金剛ぉ。そうだよ。そうこなくっちゃ。

 せっかくの私の全力だぜ?金剛が私の砲弾投げ返しマネしてんの知ってんだ。

 私からしっかり技術を盗めよぉ?」

 

「レ級ぅ。見っともないところみせマーシた。

 ですが、レ級。教官気どりデースかぁ?

 レ級こそ、私の動きを見てしっかりと勉強するといいのデース。

 レ級はまだまだ。動きが荒いのデース」

 

金剛とレ級は、お互いに目を見つめ

良い笑顔を浮かべながら、同時に口を開いていた。

 

そして、それと同時に、横須賀鎮守府提督の声が

横須賀鎮守府正面海域に、大音量で響いていた。

 

『金剛!レ級!準備は良いか?

 演習、始めるぞ!所定の位置へ着け!』

 

金剛とレ級は、良い笑顔のまま

お互いに背中を向け、約一〇〇メートルほど離れた位置に着く。

 

「レ級、先にいっておきマース。

 容赦はしまセン。全力で叩きのめして差し上げまショウ」

 

「はっ。それはこっちの台詞だ金剛ォ!」

 

お互いのボルテージが一気に上がる。

金剛からは煌煌(・・)がオーラのように立ちあがり

レ級のオーラは、一層その勢いを強めていた。

 

そして、その姿を確認した横須賀鎮守府の提督が

大声で、開始の合図を叫んでいた。

 

--------------------------------------------------------

 

『演習ぅ!開始ィ!』

 

開始の合図と共に、レ級と金剛は機関出力を最大にすると同時に

お互いの主砲に装填を行っていく。

海軍最新鋭の51cm連装砲と

深海の41cm三連装砲。

 

驚くことに、その装填速度はほぼ同時であった。

 

「51cm連装砲!」

「41cm三連装砲!」

 

「「一斉射ァ!テェー!」」

 

レ級と金剛の主砲が、同時に爆音を上げ

とんでもない熱量が2人を包んでいた。

 

そして、

 

「レ級うううううううううう!」

 

「金剛おぉおおおおお!」

 

金剛とレ級は、砲撃の爆発をもろともせずに、

機関最大出力のまま、お互いの距離を一気に詰める。

そして、互いに右腕を握り、引き絞ると

 

「「寝てろおおおおおおお!」」

 

と、完全なるクロスカウンターでお互いに

拳を顔面に叩き込んでいた。

 

ゴスン!!

 

鈍い音と共に、衝撃波が海を割り、

お互いの拳の威力で、お互いの顔から血が噴き出していた。

 

そして、その反動でお互いに後ろにのけぞった瞬間である

 

「「全砲塔、独立打方(・・・・)!ッテェー!」」

 

装填が完了していた主砲を、お互いに独立打方で全弾撃ち込んでいた。

 

威力で勝る51センチ砲、数で勝る41センチ砲。

お互いの胴体を捉え、同時に撃沈判定かと思った瞬間

 

金剛はレ級の放った41センチ砲6発(・・)

レ級は金剛の放った51センチ砲4発(・・)

 

両手で掴み、そして、投げ返していた。

 

ギャリイ!ギャリイ!ギャリィ!ギャリィ!

 

金剛が投げ返した弾丸は、レ級の投げ返した弾丸にぶち当たり

独特の金属音を上げ、威力が減衰され、ただの鉄の塊になっていく。

 

しかし、状況はここで代わる。

砲段投げ返しを行った場合、敵の砲弾が多いほうが

最終的に多くの手数を持てるのだ。

 

「レ級ぅ!とったぁデース!」

 

金剛はそう叫ぶと、レ級から発せられた41センチ砲弾の

5発目と6発目を掴むと体をひねり込み、

そのままレ級へと投げ返していた。

 

「チィッ!」

 

レ級は既に、金剛が撃った弾丸は、4発、全て投げ返しで

全て消費してしまっていた。

数で勝るレ級の41cm砲が仇になった形である。

 

だが、そこは戦艦レ級フラッグシップ改。

この程度のことで攻撃を食らう奴ではない。

 

レ級は、掴みも砲撃も、回避も間に合わないと見るや

自身の巨大な尾っぽを海面に思いっきり叩きつけ

海の水の壁を作っていた。

 

強力な戦艦の主砲といえど、水の壁には太刀打ちできず

金剛が投げ返した41cm砲の砲弾は、

レ級まで威力が残ったまま届くことは無かった。

 

そして、金剛とレ級は、そのまま一気に後退し

最初の位置まで戻っていた。

 

この間、僅か1分の出来事である。

 

「流石金剛ォ!他の艦娘トは違うナァ!」

 

「レ級ぅ!貴女も流石デース! 

 ここまで私の動きについてこれる艦娘、いないデースよ!」

 

お互いに壮絶な笑みを浮かべながら、大声で軽口を叩きあう。

深海の錬度最高峰と、艦娘の錬度最高峰の戦いの幕開けであった。

 

 

--------------------------------------------------

 

演習開始、わずか1分。

横須賀鎮守府の観覧席では、将校、艦娘、職員、提督。

誰も言葉を発せられないでいた。

 

艦娘の中でも最大錬度を誇り、大和ですら打ち負かす金剛。

その金剛と、対等に張りあう、カメラを持っていた変なレ級。

 

高速で繰り広げられた一瞬の攻防に、誰もが見惚れていたのである。

 

 

カシャカシャカシャカシャ

 

「いいわねぇ。レ級。戦う貴女も十分魅力的じゃない」

 

只一人、カメラを持って、熱心に写真を撮る

飛行場姫を除いて、ではあるが。

 

「・・・飛行場姫殿、冷静に写真を撮っていらっしゃいますが

 レ級殿、強すぎでは?」

 

横須賀の提督が、小声で飛行場姫に話しかけていた。

その顔は、何とも言えない、苦笑のような

バツの悪そうな笑みを浮かべていた。

 

「そうかしら。レ級はいつもカメラを持っていたけれど

 大体こんな動きよ?ただねぇ・・・。」

 

飛行場姫はそう言うと、懐から6台のカメラを取り出していた。

 

「レ級がカメラを全て持たずに、戦場に出るのは初めてだから

 私の知らない実力を見せてくれるかもしれないわね。

 私を殴り倒した金剛と、何処まで行くのかしら・・・。

 ・・・そうねぇ。提督殿。今回の演習。

 良い結果になるよう、祈っていますわ」

 

そう呟く飛行場姫の顔は、非常に良い笑顔をしていた。

 

「ははぁ、飛行場姫殿も知らないレ級の実力、ですか。

 それは少しばかり、興味ありますな。

 演習の方は、まぁ、心配はしておりません。

 レ級殿、金剛ともども、良くできた船ですから。」

 

横須賀の提督も、少し笑みを浮かべ、金剛とレ級を見据えていた。




妄想捗りました。そこそこ真面目なレ級さんと金剛さんも、いいものです。



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106 レ級と金剛さん、ファイッ 2+α

カメラを持った変なレ級と
呉鎮守府所属、よっぱなレ級ともお知り合いの金剛。

2人がガチで演習を行う中で、
ちょっとした出会いがあったようです。

※魚雷項目直しました。


横須賀鎮守府正面海域。

深海棲艦であるレ級と、艦娘である金剛が

全力で演習を行っている。

 

レ級は砲撃を行いつつ、自分の尾っぽで

水柱を作り、金剛の砲撃を避けながら金剛に肉薄し、

 

対する金剛は、水柱を諸共せずに砲撃を行いつつ

全速力でレ級に肉薄する。

 

そして、お互いに拳を握りこみ

お互いに同時に顔面に、腹に

みぞおちに、と、急所に次々と拳を叩き込んでいく。

 

「はっはあぁ!金剛ゥ!楽しいナぁ!」

 

「アハハハァ!デースねぇ!レ級ううう!」

 

ドゴォ!ドゴォ!と砲撃にも負けないレベルの

打撃音を拳からさせ、お互いに血まみれになりながらも

口角を上げ、獰猛に笑う2隻の乙女。

 

「沈めやああ!」

 

レ級が大音量で叫びながら、尾っぽを振りぬき、金剛に直撃させる。

 

金剛は、レ級の攻撃を咄嗟に両手でガードしていたが、

尾っぽの、威力と速度が乗った一撃は、

ガードの上からでも確実に金剛の体に

ダメージを与えていた。

 

「くうううううっあああああ!」

 

金剛は、体が持って行かれそうなレ級一撃を受け

思わず叫んでいた。

実際、普通の艦娘なら、一撃で轟沈レベルの攻撃である。

だが、彼女は帝国海軍最高練度の金剛である。

即死級の攻撃を受けつつも、その目はレ級を捉え続けていた。

 

「ぐうっ・・・レ級、貴女こそさっさと沈むデース!」

 

一瞬、金剛は体制を立て直しつつ、

吹き飛ばされる勢いを利用しながら

懇親の蹴りを、レ級のわき腹に叩き込んでいた。

 

「グギッ・・・!」

 

レ級はくの字になりながら、思わず呻く。

何せ、尻尾で思いっきり金剛を叩いた直後である。

防御などは出来る体制ではなかったため

金剛の一撃を直に受けたのだ。

 

飛行場姫を殴り倒した金剛の一撃を

レ級はまともに受けたのである。

 

レ級はなすすべもなく、口から血を吐き、

海面を切りながら、勢い良く転がっていく。

金剛も蹴りを放ったものの、レ級の尻尾の打撃の衝撃で

口から血を吐きながら、同じように海面を転がっていった。

 

----------------------------------------------

 

大和の砲撃ですら受け止める金剛が、

ボロ雑巾のように海面を転がっていく光景に、

 

「金剛!」

 

と、金剛が所属する呉の提督が、

手を握り込みながら叫びを上げていた。

他の鎮守府の提督や、大本営の面々は

金剛が海面を転がる光景に驚き、

全く言葉を発せないでいた。

 

対して、レ級の上司である飛行場姫は笑いながら

海面を転がるレ級をファインダー越しに見ながら

淡々とシャッターを切っていた。

 

「ふふっ。レ級ったら楽しんでいるわねぇ」

 

カシャカシャ、と、気持ちの良いシャッターの音が

周囲に響いていた。

 

金剛が美しいフォームでレ級に蹴りを直撃させている瞬間や

レ級が水しぶきの中砲撃を行う瞬間、

互いに殴りあう中で、服が徐々にはだけて行く様が記録を

しっかりと、記録している飛行場姫である。

 

飛行場姫は見事に、戦場の艦娘と深海棲艦を撮影していたのである。

 

「いいわねぇ。最高じゃない。」

 

カメラの写真を確認しながら、飛行場姫は笑顔でつぶやいていた。

 

-----------------------------------------------------

 

金剛とレ級は、海面を回転している最中に

ほぼ同じタイミングで体制を立て直し

海面に手足を付き、4つんばいにになりながら

海面を滑る勢いを殺していた。

 

そして、レ級と金剛は、4つんばいの体制で勢いを殺し終えると

何事もなかったかのように、血まみれのまま

2本の足で、海面を力強く踏みしめていた。

 

「・・・ッハァ!効いたぜ金剛ぉ!

 なんだその蹴りぃ!

 左腕折れちまったじゃねーかよぉ」

 

レ級は、口角を上げ、叫びながら

ぶらんぶらんと、左手を降る。

 

「レ級こそナイスな一撃デースねぇ!

 私も左の肩をやられマーシたよぉ!」

 

金剛も口角を上げ、叫ぶ。

その左腕は、力なくぶらん、と垂れ下がっていた。

 

「クククッ」

 

「あはははっ」

 

そして、金剛とレ級は、お互いに笑い合うと

 

「楽しいなぁ!金剛!」

 

「楽しいデースねぇ!レ級!」

 

猛獣のような笑みで大声で叫ぶと

更に口角を上げ、全く同じタイミングで、海面を蹴っていた。

 

レ級はそのさなか、海面に向けて

魚雷を10斜線、拡散させずに海へと落とす。

だが、レ級の魚雷は日本の酸素魚雷ではないため

航跡が白く表れていた。

 

そして、金剛は、レ級へと体を加速させながらも

しっかりと魚雷の航跡を見つけていた。

普通なら一旦退避するか、避けるところであるが

金剛は魚雷を全く気にせず、直進していく。

 

気づけばレ級と金剛との距離は残り10メートル。

魚雷は既に金剛の足元にあった。

 

「金剛ぉ!避けねーのかぁ!?」

 

レ級は最大戦速で突っ込みながら

金剛に大声で叫ぶ。

 

「魚雷ごときで私を沈めようなんて

 100年早い・・・・」

 

そう言うと、金剛はわざと左足で魚雷を踏み抜く。

すると、戦艦ですら沈めきる爆発が、金剛を襲った。

 

レ級は驚きのあまりに、思わず目を見開く。

そして、レ級の目の前では次々と魚雷が爆発し、

金剛にとどめを刺さんとしていた。

 

ように見えた。

 

が、次の瞬間、魚雷が爆発した水柱の一つから

金剛が勢い良く飛び出して来ていた。

 

「デエエエエエッッス!」

 

信じられないことではあるが

金剛は、レ級のはなった魚雷を

わざと踏抜き、巨大な爆発のエネルギーを

自身の推進力へと変えていたのだ。

 

だが、その代償は大きい。

魚雷を踏み抜いた金剛の左足の艤装は完全に破壊され

足そのものにも魚雷の爆風が届いたのか

肌が裂け、肉と骨が一部見えている。

 

「ナッ!?」

 

レ級はその光景に、完全にスキを見せてしまっていた。

そのスキを見逃すほど、金剛は甘くはない。

 

「フィニイイイイイイイッッシュ!」

 

金剛はそう叫ぶと、空中で体を捻り

ダメージが少ない右足で、

力の限りレ級の頭を蹴りぬいていた。

 

考えて頂きたい。

金剛が、爆発で得た速度は、おおよそ60ノットである。

戦艦が、60ノット(おおよそ100キロ)の速度を出しながら

懇親の一撃で、「戦艦」レ級を蹴り飛ばしたのだ。

 

言葉にするのも烏滸がましいほどの

大音量の衝突音が周囲に響き

その衝撃波は、鎮守府の建物の窓を揺らすほどであった。

 

結果として、レ級はなすすべもなく空中を舞う。

 

文字通り、血を撒き散らしながら、

海面に叩きつけられることも無く

長距離をふっ飛ばされていた。

 

そして、次の瞬間

 

ドッゴアアアン!

 

とてつもない大きな音が鳴るとともに

大本営、鎮守府の職員、見物人、そして提督、艦娘が

何事かと音のした方向に首を向けていた。

 

すると、鎮守府の建物、正確にはレンガ作りの工廠が一つ、

全て崩れ去っていた。

 

「あ゛ぁー!?工廠がぁー!?」

 

横須賀の提督が、思わず叫び声を上げていたが

状況が全くつかめていないのか、他の見物人は静まり返っていた。

 

工廠が崩れる音が鎮守府に響き渡る。

そして、完全に工廠が崩れ去ると、その中から

一つの人影が、ゆっくりと現れていた。

 

「グェェ・・・金剛め、容赦なくやりやがってぇ・・・。」

 

しゃがれた声で呟きながらも

工廠の崩れた瓦礫の中から、血まみれで

片目が完全に潰された、戦艦レ級が

瓦礫をどかしながら、ゆっくりと立ち上がっていた。

 

そう、レ級は金剛の蹴りにふっとばされ

工廠まで飛び込んできていたのである。

 

「イッテェなぁ。もう。ゲホッ。

 だけど、まだ、まだだぜ」

 

レ級呟きながら、工廠の瓦礫の中をユックリと歩き出す。

金色と蒼のオーラを纏い、血まみれで

所々肉と骨を見せながらも、ゆっくりと海に歩いて行く。

壮絶な光景を目にした、すべての人々の動きが完全に止まる。

 

そして、海の上では、レ級を蹴り飛ばした金剛が

満身創痍になりながらも、レ級に向けて再加速を行っていた。

 

「レ級ぅ!ワターシの渾身の一撃、良くたえマーシたねぇ!」

 

金剛はそう叫ぶと、砲塔をレ級へと向ける。

その顔は、凄まじく獰猛な笑みであったが

口からは鮮血が垂れ続けていた。

 

「・・・ハッハァ!あの程度で私を沈められるとか

 甘い事かんがえてんじゃねーよ!

 今度は私の番だぜ!金剛ォ!」

 

金剛の叫びに、レ級は同じように叫びつつ、

海へと飛び込みながら、砲塔を金剛に向ける。

一瞬海面下に沈むものの、直に浮上すると

金剛に向けてその体を加速させる。

しかし、ダメージは深刻であり

口と頭からどす黒い血を滴らせていた。

 

「レ級ううう!」

 

「金剛ゥウオオオ!」

 

お互いに叫ぶと、同時に主砲を打ち込む。

だが、その弾はお互いに当たることは無い。

満身創痍のためなのか、命中精度はガタ落ちであった。

 

ドバシャ!と、レ級と金剛の周辺に

戦艦の砲撃の水しぶきが立ちあがる。

直撃弾とは言わないまでも、超至近弾であったため、

金剛とレ級の艤装が、水飛沫による水圧で圧壊していく。

 

簡単に言えば、砲塔使用不可能。次弾装填装置破損である。

 

「ぎいい、金剛ォ!」

 

「がっ・・・ふっ、レ級ゥ!」

 

呻きながらも、金剛とレ級は、更に速度を上げ、肉薄する。

 

「いい加減に、沈めぇ!」

「いい加減にィ!沈むデース!」

 

そして、何度も繰り返したように、お互いに右手を握り込むと

体をひねり、体重を乗せ、相手の顔面へと拳を繰り出した。

 

バゴォ!

 

金剛の拳は、綺麗にレ級の顔面に。

レ級の拳は、綺麗に金剛の顔面に。

 

美しいくらいに、音までも、同時であった。

 

「あは、ハハハハァ。」

 

「うふふ、ふふふふ。」

 

そして、金剛とレ級は、お互いに不敵に笑いながら

口角を上げ、言葉を続けていた。

 

「レ級。しっかりと見させていただきマーシた。

 まだまだ動きが荒い、ですが。技、盗ませてもらいマーシタよ。」

 

金剛は、今回の演習で完全に砲弾投げ返しを完全に覚えていた。

にやりとする金剛に、レ級もにやりとしながら、言葉を返す。

 

「ハハハ。砲弾、まさか完璧に砲弾を投げ返されるとはナァ。

 だけど金剛ォ、勉強になったぜぇ。確かに私、無駄な動き、多いわぁ」

 

レ級も自分の動きの荒さを実感していた。

実際、尻尾を振りぬく時に、もっとコンパクトに鋭く振り回せれば

金剛の蹴りを受けていなかったのかも知れないのである。

 

「「はははは。楽し・・かったぁ・・・!」」

 

金剛とレ級は、そう呟くと

そのまま、海面へと倒れ込んでいた。

 

金剛とレ級の演習の結末は、ダブルノックダウン。

お互いに気持ちよさそうな顔で、海に浮かんでいた。

 

2隻の姿を確認した横須賀の提督は

マイクを手に取り、大声で叫ぶ。

 

『演習終了!引き分けとする!

 救護、急げよ!』

 

提督の演習終了宣言に、最初は静かであった観客席であったが

徐々に拍手が上がり始め、最終的には歓声が上がっていた。

 

-----------------------------------------------------------

 

「ふふふ。レ級ったら、私より、強くなってるじゃない。」

 

人間達が歓声を上げるさなか、

姫は嬉しそうな笑みを浮かべ、一人呟いていた。

何故かと言えば、金剛の実力は、

姫が拳だけで撤退を余儀なくされるほどである。

その金剛の拳を受けても怯まず、

そして拳の数倍の威力はあるはずの

スピードを乗せた蹴りすら耐えてしまったレ級の姿に、

飛行場姫は、満足していた。

 

(ふふ。本当、レ級が本当に、カメラを持たずに

 艦娘と戦っていたのなら、今頃深海の天下でしたでしょうに)

 

飛行場姫は考えながら、頭を横に振る。

 

(でも、それは無いわね。

 カメラと出会ってなければ、レ級はきっと

 エリートのまま、フラッグシップ化

 しなかったでしょうし。)

 

飛行場姫は、レ級のカメラの中でも

最大望遠の70-200mm F2.8の通しレンズが装着された

カメラを取り出すと、しっかりと脇を閉め

カメラを構え、ファインダーを覗く。

 

そして、海面にぷかぷかと仰向けで浮かぶ

金剛とレ級にピントを合わせると

 

カシャン

 

とだだ一回、シャッターを切る。

 

ファインダーが一瞬ブラックアウトし、センサーへと光が入る。

そして、カメラのディスプレイには、満足そうな笑みを浮かべながら

目を閉じ、海面に漂う、金剛とレ級の姿が映し出された。

 

「ふふ、本当、レ級はどこまで行くのかしらね」

 

飛行場姫は、ディスプレイに移された写真を見ながら

穏やかな笑みを浮かべ、呟いていた。

 

----------------------------------------------------------

 

『艦娘を撮影したい』

その情熱をもって、フラッグシップ改まで上り詰めた戦艦レ級。

 

レ級の影響は、別の深海の船と艦娘の関係にまで、影響を及ぼし初めていた。

 

(ヤベーッス。アレハヤベーッス。)

 

横須賀鎮守府、正面海域。

金剛とレ級が演習をするさなか

ただ一隻、深海の船がその様子を窺っていた。

 

(飛行場姫様ノ様子ミニキタノニ。

 ナンデ、カメラノレ級サント、艦娘ガ戦カッテンスカ)

 

つぶらな蒼い瞳。

つるつるの黒い肌。

白い手足。

そして、大きな口と歯。

 

提督誰しもが出会う、御馴染の深海の駆逐艦

「駆逐イ級」である。

 

ただし、このイ級は偵察固体であり

深海棲艦の中でも、最速の足の持ち主である。

 

(ウゥーン。コレハ上ニ報告ダナー。

 レ級フラッグシップ改ト、対等ニタタカエル艦娘アリ。

 艦種ハレ級ノ写真ヲ後日送付スル、ッテカンジカナ)

 

深海棲艦の基地のデータベースには

レ級が撮影した艦娘の写真データがしっかりと保管されている。

駆逐イ級は、後々に参照するために、

レ級と同等の力のある、金剛の顔をしっかりと脳裏に焼き付けていた。

 

(シカシスッゲーナー。アノ艦娘。

 レ級サントガチデヤッテ、レ級サント引キ分ケルナンテ)

 

駆逐イ級は、波間に隠れながらも

レ級フラッグシップ改と対等に殴り合った

金剛を称賛していた。

 

何せ、姫級でも苦戦する程度の実力を持っているレ級である。

そのレ級と対等に殴り合うなど、駆逐イ級からしても化物である。

 

(サーッテ、マ。鎮守府ガ御祭ニナッテルアイダニ

 撤退スッカナァ)

 

駆逐イ級はそう考えると、体を転進させ

鎮守府正面海域から、離脱しようと

機関出力を上げ、体を加速させる。

 

(サーテ、久シブリニ全力デカエルカー!)

 

駆逐イ級は、機関出力を最大にして、

波間をかき分け、その体が最高速度に達しようとしたとき

遠くから、鈴の様な声が、駆逐イ級の耳に入ってきていた。

 

「・・・・なにあれっ、あのイ級!はっやーい!」

 

その声に、駆逐イ級は視線を向ける。

すると、ミニスカ、うさみみ、そしてZ旗のパンツ。

見ようによっては、痴女のような艦娘の姿が、そこにはあった。

 

『・・・!?ヤッベェミツカッター!?』

 

駆逐イ級は、一気に距離を離そうと

艦娘とは逆へ舵をとっていた。

 

 

「まってー!そこのイ級ぅー!」

 

艦娘が、あろうことか駆逐イ級を追いかけてきたのである。

 

(ノオオオオオ!?私今日ハ戦ウ気ネーッテノ!)

 

だが、駆逐イ級は艦娘を無視して、更に体を加速させ

一気に水平線の向こうへと、撤退していった。

 

そして、残された艦娘は、驚きの顔のまま

呆然と立ち尽くしていた。

 

「・・・はっやーい。

 まさか、私が追いつけない、なんて・・・。

 ・・・あはは、次は負っけないからねー!」

 

帝国海軍、最速の足を持つ艦娘「島風」は、

駆逐イ級が消えた方向を見ながら、

笑いながら大声で叫んでいた。

 

最速の駆逐イ級と、最速の艦娘「島風」。

2隻が交流する日も、近いのかもしれない。




妄想捗りました。島風さん、イ級さん、相性いいかもしれません。


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107 レ級と金剛さん、ファイッ アフター

カメラを持った変なレ級と
呉鎮守府所属、よっぱなレ級ともお知り合いの金剛。

二人は無事、演習を終えたようですが
早速ドックへと叩きこまれたようです。


「どぉーしてくれんだーこれー!」

 

横須賀鎮守府の崩れ去った建物を前に

頭を抱えながら、横須賀の提督は叫んでいた。

 

「落ち着きなさい。まったく、みっともないわね

 ここで演習を許可したのは提督殿、貴方でしょう。」

 

その隣には、カメラを持った白い深海の姫、

飛行場姫が苦笑いを浮かべながら立っていた。

 

「いや、そうですけれどもね。

 まさか工廠が一つ潰れるなど想定外ですよ」

 

「本当にそうかしら?

 この程度の事、予測してたのではなくて?」

 

提督は、飛行場姫を一瞥すると苦笑を浮かべていた。

幸いにして横須賀には、艦娘を建造できる工廠は

4つ存在していた。今回はそのうちの1つが崩壊した形である。

 

「・・・まぁ、良いデータは取れましたよ。

 レ級の、深海の船の強さとか、新型主砲の威力データとか、ね」

 

提督は飛行場姫を横目に見ると、帽子を深くかぶり、

口角を少し上げながらゆっくりとした口調で一人呟く。

 

「それに、金剛程度の錬度があればレ級を、

 ひいては最上級の深海の船を打倒せしめる可能性があると判りましたので

 ・・・大本営の方々には、満足していただけたかな、と」

 

「あぁ、なるほどねぇ。

 前の演習では、レ級が大和を完封しちゃったから

 大本営の皆々様が危機感をおぼえちゃって、

 私たちのアイアンボトムサウンドの拠点が

 艦娘総力の攻撃で、潰されちゃったんですものね」

 

「えぇ。そういう上層部の行き過ぎた行動の防止策、ということでも

 今回、金剛とレ級は良い働きをしてくれましたよ。

 ・・・・・ま、本人達には関係ない事ですけどね」

 

飛行場姫と横須賀の提督は、ちらりと

目だけを脇に向ける。

 

そこには、艦娘に担がれながらも、

血を垂れ流しつつ、笑顔のまま気絶し

ドックへ運ばれるレ級と、金剛の姿があった。

 

「あらあら。レ級も金剛も、ひどい有様。

 でも、いい表情ね。うらやましいわ。

 それにしても・・・提督殿、御免なさいね。そちらの貴重な資源を

 レ級の修復に充てて頂けるなんて」

 

飛行場姫は、気絶したままま運ばれているレ級と金剛を見ながら

ぼそりと呟いていた。

提督は、そんな飛行場姫を見ると、口を開いていた。

 

「問題はありませんよ。

 何より今回は、我が帝国海軍の正式な演習です。

 弾薬の補充から、船体・艤装の修理は

 全てこちらでやらせていただくのが道理でしょう。 

 しっかりと高速修復材を使わせていただきますから、

 今日中には、艤装・体共に完治致します。ご安心下さいませ。姫様。」

 

飛行場姫は提督の言葉を受け、目を見開いて、

呆気にとられたような表情を浮かべる。

なぜなら、いくら公式な演習とは言え、

高速修復材まで使用して深海の船を修理するなどという

非常識な海軍の行動に、驚くのも無理は無い。

 

一瞬の沈黙ののち、飛行場姫は只一言、

 

「男前ね。」

 

と呟くと、提督に美しい笑みを向けていた。

提督は、より一層帽子を深くかぶると口角を上げ

 

「それほどでも。」

 

と、一言、飛行場姫に返していた。

 

--------------------------------------------

 

バシャン、バシャン。

 

横須賀鎮守府のドックに、2つの水音が響き渡っていた。

 

何の音かといえば、意識が飛んでいるレ級と金剛が

高速修復材が溶け込んでいる修復ドックに、乱暴に叩き込まれた音である。

 

「全く、この2隻は一体なにをしてるんだか。

 演習とは言え、ここまでやるとはな」

 

レ級をここまで運んできた艦娘の一人である「菊月」は

ドックに浮かぶ金剛とレ級を見ながら、思わず愚痴っていた。

 

実際、金剛とレ級の状況はかなり危ない。

良く言っても虫の息であり、特にレ級に限っては

片目が潰れ、頭はぱっくりと割れていた。

もう少し戦闘が長びけば、間違いなく轟沈してたであろうダメージだ。

 

「だけど、菊月。レ級と金剛は、あれだけの戦いをして、

 命を落とさないのは、流石というしかないわね。

 確実に、耐久力と精神力は、私達の様な普通の艦娘を凌駕しているわ。

 ・・・正直、私ではこの2隻に勝てないわね」

 

金剛を運んできたもう一人の艦娘、「加賀」は

愚痴る菊月の顔を見ながら、口を開いていた。

 

「あぁ、それは私も痛感している。

 だが、金剛やレ級の異常さに甘んじてはいけないぞ、加賀。

 このままでは、金剛に常に重圧を背負わせ続けてしまう

 ・・・我々も、金剛以上の錬度を持たなければな。

 日々精進、あるのみだ」

 

「ええ。そうね、菊月。」

 

菊月と加賀はお互いにうなづくと、

レ級と金剛の演習風景を思い出しながら

いつか、この最高練度の金剛に追いつくことを夢見ていた。

 

隣のドックに

気持ちよさそうな寝顔を浮かべて横たわる

戦艦レ級を、若干睨みながら、ではあるが。

 

そして、少しの間の後、

菊月は加賀の顔を見ながら、口を開く。

 

「ふぅ、と、それはそうとしてだ、加賀」

 

加賀も、菊月の顔を見ながら、返答を返していた。

 

「なにかしら、菊月」

 

すると、菊月は自身の体と加賀の体を指さし

眉間にしわを寄せながら、口を開いていた。

 

「服を着替えたい。

 金剛とレ級の血液まみれでは、生臭いし、落ち着かぬ」

 

加賀も、そういえば、と

自身の体と、菊月の体を見直していた。

 

「そうね、別に金剛とレ級が治るまで監視していろ、

 という命令を受けているわけでもないわ。

 一旦部屋に戻って、着替えてきましょうか」

 

加賀と菊月はお互いに、レ級と金剛を担いできていたため

その体は金剛とレ級の真っ赤な血で染まっていたのである。

 

「それじゃあ、早速。加賀、またあとでな。」

 

「えぇ。それじゃあ。菊月も。またあとで」

 

菊月と加賀は、そういうと

軽く手をお互いに上げ、自室へと歩みを進め始めていた。

 

--------------------------------------------------------

 

「んんんぉー?」

 

加賀と菊月が去り、静まり返ったドックで

戦艦レ級の声が響いていた。

 

「やっと起きマーシたか。レ級」

 

「おぉ?おぉ。金剛。おはよう?」

 

「ふふ、おはようございマース」

 

金剛とレ級は、お互いにドックの縁に顔を預けると

ぽつぽつ、と会話を続けていた。

 

「それにしても、レ級。やっぱり強かったんデースねぇ。

 いつも写真ばかり撮っているから、想像できなかったデース」

 

「あはは。そりゃあ私も、伊達にフラッグシップになってないよ。

 でも、金剛も強かった。

 艦娘なのに、深海棲艦の姫ぐらいのパワーあるじゃん。」

 

「まぁ、一応は改装を2回受けてマースからね!

 それにしても深海棲艦の姫と同じぐらいのパワーですか。

 私もコツコツ鍛えたかいがありマーシタ!」

 

金剛とレ級は、笑顔のままでお互いに褒め合うと

照れくさそうに、2隻とも、顔を朱に染めていた。

 

「ふふふ、褒められると照れくさいデース。」

 

「あはは。私もだ。深海だと滅多にほめらんないからなぁ。」

 

「オオゥ。そうなのですネー」

 

笑い合いながら、ドックでじゃれあう2隻であったが

金剛がふと、疑問を口にしていた。

 

「そういえばレ級。今回は完全にカメラ置いてマーシたね。

 一個ぐらい持ってくるものかと思ってました」

 

「んん?あぁー。確かに一眼レフはおいてったよー」

 

レ級は金剛の言葉に手をひらひらさせながら答える。

そして、自身の尾っぽをドックの水面から出すと

砲塔の一つを指差しながら、口を開いていた。

 

「でもね。最近は便利なカメラがあってさぁ。

 ほら、これ。砲塔にくっつけてあるの。」

 

「確かに、小さいレンズがついてマスね。

 ですが、一眼レフの大きな本体が無いじゃないデスか。」

 

レ級が指を指した砲塔には、確かにレンズが見えるが

レ級がいつも手に持っている一眼レフ本体はついていなかった。

 

「ふふふ。そこは帝国海軍の技術力の提供を受けてね。

 この、レンズの根本にちっちゃいの付いてるの、判る?」

 

金剛は、レ級の言葉に注意深く砲塔を観察する。

すると、砲塔とレンズの間に、見たこともない

小さな筒が取り付けてあった。

 

「・・・んー?

 あっ、もしかして、この小さな筒デースか?」

 

「そうそう、この小さな筒が、あの大きなカメラの代わりなんだ。

 まぁ、性能は低いけどね。手ブレ補正とかの機能は無いし。」

 

「なるほどデースねぇ。・・・でもこれ、ファインダーも無ければ

 モニターもないデスけれど。どうやって狙いをつけてるんデス?」

 

金剛は、首を傾げながら、レ級へと質問していた。

 

「あぁ、それはねぇ。

 このカメラ、私の砲塔の測量儀と連動してるんだ。

 砲塔が、金剛の姿を捉えている間は、ばっちり

 金剛の姿が撮れてるって寸法なんだ。

 なにより、測量儀と連動してるおかげで

 正確にピントも合わせられるしなー。」

 

レ級は、金剛に砲塔を向けながら、解説をする。

確かに、測量儀が動くと、レンズのピントが動いていた。

 

「なーるほどデースねぇ。

 でもですよ?一眼レフみたいに

 撮った写真、確認できませんよネ?」

 

「あぁ、うん。出来ない。

 でもまあ、どんな写真が取れたかって

 楽しみにするのもまた一興かなぁって思ってさ」

 

レ級はそう言うと、格納庫から

お馴染みのタブレットを取り出していた。

 

「ふふふ、一応このカメラ、WiFi積んでるんだ。

 体と艤装が治る間に、一緒に確認しようぜ。金剛。」

 

レ級は笑顔でそう言うと、流れるように

「オリンパス」と書かれたフォルダをタップしていた。

そして、金剛も、笑顔でレ級に言葉を返す。

 

「あは。いいですねー。

 私がどんな姿で写っているのか、楽しみデース!」

 

「あはははん。まー、期待されても困るけどね。

 何せ初めて使ったし。」

 

レ級はそう言うと、早速写真を画面いっぱいに表示させる。

すると、そこにはただの海面が写っていた。

 

「あっりゃ。一枚目は失敗かぁ。」

 

レ級は苦笑しながら呟くと

次から次へと画像をめくって行くが、見事にピンぼけや

流れる風景しか写っていない。

 

「ムゥゥ。レ級ぅ。このカメラ駄目駄目デースよ?」

 

「ううん、だなぁ。やっぱり一眼レフが一番いいなぁ」

 

レ級と金剛は、ぼやきながらも、次から次へと画像をめくっていく。

そして、その数が50を越えようとした時である。

 

「おっ!」「あはっ!」

 

2隻は、タブレットのスクロールを止め

一枚の写真に釘付けとなっていた。

 

その写真は、

「金剛が、拳を振り上げながら、服をはためかせつつ突撃する姿」

であった。そう、殴り合いのさなか、レ級はしっかりと

金剛の姿を、捉えていたのである。

 

「やったぜ。しかもこれ、かなりの迫力だなぁ」

 

「デースね!画質も綺麗ですし、ピントもバッチリ。

 ふふふ、レ級、ナイスデースよ!」

 

金剛は笑顔でタブレットを見続け、レ級へと声をかけていた。

レ級も、初めて使う機材で、ココマデ良い写真が撮れるとは

思っていなかったのか、笑顔でタブレットの写真を見続ける。

 

そして、自身の尾っぽについているレンズとカメラを撫でると

にやりと、口角を上げていた。

 

「・・・このカメラ、改良が進めば、

 もっとアグレッシブに写真撮れるジャン?

 ふふふ、撮影の幅、広がるぜ・・・!」

 

レ級は、金剛に聞こえないように呟く。

既にレ級の思考は、次の段階へと向かっているようである。

 

「ふふー、レ級、いい写真とってくれて有難うございマース。

 ・・・そういえば、そのカメラ、私の砲塔でも使えるんデースかね?」

 

「横須賀の提督が言うには、艦娘用の装備の試作品、らしいぜ?

 ただ、このカメラは、私用に調節されてるから無理って話だけど、

 提督とかに言えば、金剛も使えるようになるんじゃないかなぁ。」

 

レ級の言葉に、金剛は笑顔を浮かべ、口を開く。

 

「ワァオ!それは素晴しいデース。

 レ級、もしもカメラの申請が通ったら、

 写真教えてくだサーイね!」

 

レ級は、金剛からの申し出に

驚きながらも、笑顔で言葉を返していた。

 

「おおっ・・・!?

 金剛もかっ。いいぜー。そんときゃ声かけてくれれば

 いつでも教えるぜ」

 

「レ級っ。ありがとうデースよー!

 ふふふ、俄然やる気がでてきましたヨー!」

 

金剛の元気な叫び声が、横須賀鎮守府のドックに響き渡る。

レ級はそんな金剛を見ながら、新たなカメコ誕生の予感に、

にやにやと笑顔を浮かべるのであった。




妄想捗りました。しっかりとカメラを持ち込むカメコさん。
案外、本気は出していないのかもしれません。


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108 カメ子さんの日常 その1

横須賀鎮守府に現れると噂されれている戦艦レ級。
彼女の日常は、はたしてどうなっているのでしょうか。


「戦艦レ級」

 

深海棲艦と呼ばれる存在の中でも特に上位種に位置する艦種である。

 

開幕の航空戦、そのあとの魚雷、そして砲雷撃戦、対潜戦闘と

全てにおいて高水準で纏まっている深海棲艦であり、更に言えば

艦娘を見かけると、喜々として襲撃を仕掛けてくる厄介な敵だ。

 

が、ここに1隻、全く規格に当てはまらない戦艦レ級が居る。

 

そのレ級は、肩からカメラの入ったホルスターを6つほど下げ、

尻尾には、夜戦用の巨大なサーチライトが4つ装備されている。

そして、格納庫にはタブレットとカメラ用品を備えている戦艦レ級である。

更に言うと、艦娘を見つけると、喜々としてカメラで写真を撮影してくる。

 

そしてなによりの特徴は、金色のオーラである。

艦娘の姿に興奮しまくった時、本気で戦う時、

おふざけの威嚇の時などに纏うもので

この戦艦レ級が、ただの戦艦レ級ではなく

「戦艦レ級フラッグシップ改」ということを表している。

 

つまるところ、戦艦レ級フラッグシップ改の癖に

艦娘に全く敵意が無いどころか、完全に武装解除をしたうえで、

カメラガン積みの姿で、写真撮影をしてくるという

文章にすると訳のわからないレ級フラ改である。

 

 

しかも最近は、紆余曲折ありながらも

深海棲艦の中で唯一、横須賀鎮守府の一角に、

よりによって自室を与えられていた。

 

海軍や人間、艦娘に特に危害を加えない深海棲艦ということで

横須賀鎮守府どころか大本営も、勿論認知済みである。

 

 

戦艦レ級フラッグシップ改。

武装を持たず、カメラのみを装備して、日々陸と海を行き来する

生粋の写真好き。

 

そんな変な戦艦レ級は、私服姿でベッドに腰かけながら、

自室の窓から空を眺めていた。

 

「今日は空が蒼いのよー。写真びよりなのよー。」

 

私服と言っても、我々が知る私服とは少し違う。

女学生が一般的に着るセーラー服の姿で、

更に言えば、ニーソックスだ。

そして、髪にはヘアピンがキラリと光り

よくよく見れば、制服の端に「Ⅲ」というピンズがとりつけられている。

 

そう、何を隠そう、今レ級が着ている私服・・・もとい制服は

第六駆逐隊の正装なのである。

 

なぜ、レ級の私服がそんな恰好をしているのかといえば、

雷という艦娘と出会ったときに、

 

---パーカーしか持ってないの!?

  ・・・仕方ないわね!私の服を貸してあげるわ!----

 

と、無理やり押し付けられたものである。

 

「たーだーしー。今日は皆ではらっちゃってるしーぬぁー」

 

第六駆逐隊の恰好をしたレ級は、今日の艦隊の動きを思い出しながら

自室でのんびりとしながら、呟いていた。

 

「大和達と提督はサーモン海域北方いっちゃったし、

 姫様と菊月はなんか大本営行っちゃったし・・・・。

 他の艦娘はみんな演習と遠征いっちゃったしぬぁー」

 

鎮守府に入り浸って平和ボケしているとはいえ

レ級の頭脳は、本日の横須賀鎮守府の動きを完全に把握していた。

 

「金剛達呉の面々は暫く来ないっていってたシー。

 工廠の明石と夕張なんかは次の作戦の秘密兵器作るって、

 やばい笑みしてたから近づきたくないしー」

 

レ級は、演習が終わってしばらくした後に、

明石と夕張に迫られた事を思い出していた。

 

(・・・レ級さぁん?深海棲艦の航空機かしてくれないかなぁ・・・?)

(レ級さぁん?演習で使ってた41cm砲ちょっとバラさせてくれなぁい?)

 

---うわぁ・・・口角だけ上がって目が笑ってねぇ----

レ級はその時、明石と夕張のあんまりの剣幕に

ただただ、大人しく、明石と夕張に、

自身の航空機と主砲を渡してしまっていたのである。

 

「っていうか、私の航空機と主砲で新兵器開発されたら、

 深海棲艦ヤヴァイじゃん。・・・いやでも、とり返しに行くの怖いしなぁ」

 

レ級は、神妙な顔で呟いていた。

戦艦レ級の装備は、フラッグシップ改ということもあり

他の深海棲艦とは一線を画しているので、解析されると実はまずいのである。

 

「ま・・・・いいかー。私としちゃぁ、良い写真撮影できればいいし。

 うち(深海棲艦)も何か開発してるだろうしなー」

 

レ級は呟きながら、自分を納得させる。

なにせ、明石と夕張のもとにいけば、それこそ自分の艤装全てを解体される、

そんな予感がしていたのである。

 

「・・・まー、そうだな。せっかく晴れてるし。

 横須賀の街へとでも繰り出しますかねー」

 

レ級はそう呟くと早速立ちあがり、出かける準備を始める。

部屋の壁にかけてあるカメラの中から、

50ミリ、単焦点レンズが装着されている一眼レフを選ぶと、

早速カメラを肩にかけ、タブレットをかばんに仕舞いこんだ。

 

「標準単焦点レンズでスナップ、秋の横須賀の風景でも撮りますかぁ。

 ・・・あっ、そうだ」

 

レ級は思い出したように、自身の机の棚を空けると

牛革で出来た質素な財布を取り出していた。

そして、財布をタブレットの入っているかばんに押し込むと

かばんを背負い、靴をはき、ドアノブに手をかける。

 

「せっかくだから昼ごはんも外で食べてこよう。

 横須賀海軍カレーおいしいんだよねぇ」

 

呟くと同時に、レ級は自室のドアを開け、

早速、横須賀の街へと繰り出そうとしたときである。

 

「おや、レ級殿。お出かけですか?」

 

低い声で、話しかけられていた。

 

声の主は、中肉中背であり

拳銃を所持し、大きめの刀を帯刀していた。

横須賀鎮守府の警備隊、つまりは特警である。

 

レ級は、特警に顔を向けると、

にっこりと笑みを浮かべながら、言葉を返していた。

 

「うん。暇だからね。艦娘もいないし。

 ご飯食べて帰ってくる。」

 

レ級はカメラを特警に見せる。

 

「そうですか。ま、大丈夫だとは思いますが

 くれぐれも、人類に危害を与えないようにお願いしますね」

 

レ級は、制服のスカートに全く納まらない尻尾をぶんぶんと振りながら

特警に笑顔を向けながら、口を開いていた。

 

「大丈夫だよー。むしろ、こんな尻尾を持った化物に

 優しくしてくれる横須賀の街の人に感謝してるくらいだー」

 

特警はぶんぶん振られるレ級の尻尾を見ながら、笑顔で口を開く。

 

「はは、まぁ、横須賀の街は艦娘も闊歩しますからね。

 異形にも慣れているんです。あと、鹵獲されている姫様もおだやかですから

 深海棲艦への印象も変わってきてるんですよ」

 

「あははは。それだったら、深海棲艦で、

 私みたいのが何隻かいるからさ。

 人型の深海棲艦、案外話通じる連中多いよ?

 どっかで見つけたら、そのうち連れてくるよ。」

 

にやりと笑みを浮かべるレ級。

 

「・・・ううん、レ級殿以外となると正直怖いですよ。

 ま、そこらへんは、ほどほどにしておいてくださると助かります。」

 

特警は、冷や汗をかきながら、苦しげに呻いていた。

レ級は特警の姿を見ると、笑いながら口を開く。

 

「あはは、わかってるわかってる。冗談だって。」

 

「あなたが言うと冗談に聞こえませんから。

 ・・・そういえばその服、第六駆逐隊の物ですか?」

 

特警は、レ級の服装を見ながら、レ級に質問を投げかける。

レ級は自分の姿を確認しながら、質問に答えていた。

 

「あ、よくわかるねー。サイズもぴったりなんだよね。

 パーカーよりは目をひかないし、かわいいからいいなーって」

 

「確かに。パーカー姿のレ級殿は本当に異形ですからね。

 今の方がお似合いです。・・・といいますか」

 

「ん?何か気になる?・・・もしかして着方間違ってた?」

 

「いえ、こう落ち着いてレ級殿を見ていると、

 尻尾があるにせよ、雷に良く似ているな、と」

 

特警の言葉に、レ級は笑みを浮かべ、少し大声で口を開く。

 

「ああー!それ、提督殿にも言われたよ。

 でも確かに、似てるー。なんでだろうね」

 

レ級は笑顔のままで首をかしげていた。

特警も、同じように笑みを浮かべながら、更に言葉を続けていた。

 

「提督殿にも言われたのですか。でも、本当に雷にそっくりです。

 不思議なこともあるものです。・・・おっと、

 長く引き止めてしまいましたね。申し訳ない。

 それでは、横須賀の街、楽しんできて下さい。」

 

「ん。いいよいいよー。御気になさらず、特警殿。

 それじゃー行ってきます。」

 

レ級は、特警に手を振りながら、

鎮守府を後に、今度こそ、横須賀の街に繰り出すのであった。




妄想捗りました。カメ子さん。フリー。


そう言えばカメコさんのカメラ装備はこちら。

カメラ本体 1D  6個 em5 1個 A01 1個
ストロボ  600ex 6個 600r 1個
レンズ   16-35,24-70,70-200 F2,8通しズームレンズ
      35,50,85 単焦点
      14-150 ズームレンズ 12-80pro ズームレンズ
タブレット     3個
※カメラはWiFi改造仕様+格納庫内に各種充電設備完備
※あくまで目安です。

案外一般的かも。


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109 カメ子さんの日常 その2

横須賀鎮守府に現れると噂されれている戦艦レ級。
早速、横須賀の街を闊歩するようです。

※少々オリジナル艦娘っぽいものが入ります。



「戦艦レ級」

 

深海棲艦と呼ばれる存在の中でも特に上位種に位置する艦種である。

 

そして、提督からも、艦娘からも恐れられるはずの彼女は

カメラを一台首から下げ、横須賀の街を、

尻尾をゆらゆらと揺らしながら、堂々と闊歩していた。

 

「ンー。秋空の下は気持ちがイイネェ。」

 

ぐーっと伸びをするレ級は、いつものパーカー姿ではなく

第六駆逐隊の制服を着こみ、頭に雷のヘアピンを装備していた。

そして、レ級自身の青白い肌に、少し青みがかったさらさらの髪が、

それらの魅力を高めていた。

 

「それにしてもどこにいこうかねー。

 ドブ板通りはいつも行ってるしなぁ。」

 

ぶつぶつとつぶやきながらも、

レ級は笑みを浮かべつつ、

横須賀の街を楽しみながら、歩みをすすめる。

 

だが、横須賀の街を出歩くようになってから

レ級はまだ日が浅い。鎮守府から少し出た所で

レ級は観光案内板を目の前に、首をせわしなく動かしていた。

 

「んぉー。こっちには自衛隊の基地があるのかぁ。

 今世の金剛を見物しにいくのもありだよなぁ。

 おっ、こっちには三笠さんがいるのか。」

 

レ級は、顎に手を当てながら、目をつむり

少し考える素振りを見せる。

 

(そういえば、横須賀に来てから三笠さんに挨拶してなかったな。

 東郷さんにも挨拶してこよう。うん。そうしよう。)

 

レ級は笑みを浮かべ、早速、戦艦「三笠」へと足を動かしていた。

 

 

横須賀鎮守府から、約10分歩いた所に

戦艦三笠が保管されている、「三笠公園」はある。

 

レ級は400円を払い、早速戦艦三笠へと入っていく。

そして、戦艦三笠とはなんぞやといえば、

大日本帝国海軍の戦艦で、敷島型戦艦の四番艦である。

金剛と同じイギリスのヴィッカーズ生まれであり

これまた不思議な事に、金剛と同様、

連合艦隊旗艦を務めていた船である。

 

何より、東郷平八郎率いる連合艦隊が

ロシア海軍バルチック艦隊を破った日本海海戦で

旗艦を務めていたことが、何よりこの船の名声を高めていた。

 

そして、上部構造のほとんどがレプリカとはいえ

艦娘や深海棲艦のような人型とは違う、本物の軍艦である。

重厚な鉄や、巨大な砲塔、ちょっとやそっとじゃびくともしない装甲板。

レ級は、カメラを三笠の船体に向けて何枚も写真を撮影していく。

被弾した灯籠、三笠の砲弾、艦首から艦橋を見上げた写真などなど

戦艦三笠を、あますところなく撮影していった。

 

レ級は艦長室に入るまでは、それはもう余すところ無く

血眼になりながら、三笠の船体を撮影し続けていた。

 

が、艦長室に入り、撮影しようとカメラを構えた時、

レ級は真横からいきなり声をかけられ、撮影の手を止める。

 

「それで、人間でも、艦娘でもない君は

 ワタシの体に何をしにキたのかな?君は。

 君が所属している深海棲艦とは、人類の敵なのだろう?」

 

レ級は、声のした方向に首を向ける。

すると、古い軍服を着て、若干足元が透けている小柄な娘が佇んでいた。

 

レ級は、優秀な頭をフル回転させ考える。

 

(お?一発で私を深海棲艦と見ぬいた?

 この子どもすごいな。・・・いや、まてよ?

 今暁型の制服着てるし、私、普通に考えたら

 新型の艦娘と見られるんじゃないか?

 っていうか、今この子どもなんて言った?

 「ワタシの体に何をしに」って言ったよな。言ったよな?

 ・・・もしかして、この子ども・・・いや。艦娘は・・・!)

 

レ級はそこまで考えと、緊張した面持ちで

ゆっくりと口を開いていた。

 

「・・・イエ、海で戦う者として

 先人に敬意を払おうかと思いまして。 

 後、申し遅れました。私は深海棲艦のレ級と申します。

 ・・・あとカメラが趣味なもので、写真を、と。」

 

レ級はカメラを掲げながら、小柄な娘へと言葉を返していた。

すると、小柄な少女は、パァッと笑みを浮かべて

興奮気味に言葉を発していた。

 

「ほう、ワタシが見えるか!声が聴こえるか!

 人類にも艦娘にも私は見えないのだがな!

 ハハッ!深海棲艦とはいえど、殊勝な若者だ。

 それにしても、貴様ら今代の敵、深海棲艦は妙なものだ。

 人間の雰囲気も感じるし、船の雰囲気も感じる。

 ただ、日本人のような気もするし

 外国人のような気もする。君は不思議な存在だな。」

 

「・・・三笠さん、で宜しいんですよね?」

 

「あぁ、そういえば名乗っていなかったな。

 私は戦艦三笠の、まぁ、なんだ。艦娘ではないのだが

 そのようなものだな。」

 

レ級は姿勢を正すと、海軍式の敬礼を行い、口を開く。

 

「なるほど、なるほど。

 まさかお会いできるとは思っても居ませんでした。

 私は人類の敵である深海棲艦ですので、ヘタすると

 三笠に入れないとも思っておりました・・・。

 それにしても妙ですね。

 人と艦娘には見えず、深海棲艦だけに見えるとか。」

 

三笠はニヘラ、と笑みを浮かべ、

レ級をペタペタと触りながら口を開く。

 

「謙虚だのぉ。深海棲艦にしておくのは惜しいぞ。

 それにしても本当に、深海棲艦のお主にはワタシが見えるのか!

 まぁ、私が見えないことは、人間については仕方がないと思っているよ。

 なにせ彼らは船ではないからな。魂が違う。

 だが、ワタシと同じ艦の魂を持っているのに

 艦娘とやらは、なぜワタシが見えないのか不思議で仕方ない。」

 

そして、三笠は、レ級を触り終えると

少しレ級から離れ、レ級を見据えて更に言葉を続けていた。

 

「レ級とやら、何か原因は思い浮かばないだろうか。

 艦娘と深海棲艦、敵と味方以外に、何が違うのだろうか。」

 

「そうですね・・・。可能性、という話ではありますが。」

 

レ級は言葉を切ると、改めて三笠を見つめなおし

真面目な顔で口を開いていた。

 

「ここだけの話、私達深海棲艦は、

 船以外にも土地、人間、環境そのもの

 そこらへんの恨み辛みから生まれているような

 存在だと、私は思っております。

 それ故に、貴女のような艦娘ではない、思念のような物にも

 敏感に反応してしまうのではないかと。」 

 

「なるほど。それなら少し納得できる。なるほどなぁ。

 それにしても嬉しいものだ!何十年ぶりか!他艦と喋ったのは!」

 

三笠はレ級の肩をバンバンと叩くと、レ級のカメラを見て口を開いていた。

 

「・・・おっと、話しすぎたかな?

 君は確か、カメラでワタシを撮りに来たのだったな。」

 

「えぇ、船体を収めさせていただければな、と。」

 

「よろしい。好きなだけ写すが良い。

 私でよければ、先達の記憶、十分楽しんでいってくれ。」

 

戦艦三笠と呼ばれる娘は、そう言うと笑みを浮かべながら

すぅっと、その場から姿を消していた。

 

「モチロンですとも。撮影させていただきます。」

 

レ級は敬礼を行い言葉を紡いだものの

唖然とした顔で、少しの間、棒立ちをしていた。

 

「・・・・・何。幽霊?今の何?」

 

そして、周りを青ざめた顔でキョロキョロと見回すが

何も変わりない、観光客が沢山いる三笠の船体があるだけであった。

 

 

ちょっとした心霊現象を体験した戦艦レ級は

写真撮影を早々に切りあげ、昼食をとるために

横須賀中央駅まで足を伸ばしていた。

 

横須賀の目抜き通りが駅前にあるため

混雑する商店街の中で、レ級はその姿から、注目を集めていた。

 

なにせ、第六駆逐隊のセーラー服、ニーソを身につけ

青白いさらさらの髪をなびかせている。

これだけでも十分魅力的なのにもかかわらず

スカートから伸びる巨大な尾っぽが、更に人々の目を集めていた。

そして、レ級が歩くたびに、巨大な尾っぽがゆらゆらと揺れるため

スカートがちらりちらりとめくれ上がり、情緒的な感情を

思い浮かばせていた。

 

「あの子、可愛いな。声かけてみようかな」

「やめとけって、あれ、どうみたって艦娘だろう?

 提督にしか好意を向けないって話だぜ」

「まじかよ。諦めるか・・・ちくしょう。

 あんな可愛い子から好意を向けられるとか、

 提督って良い職業だな・・・」

 

若者たちの声もなんのその、レ級はごきげんにカメラを構えながら

横須賀中央駅目の前の商店街を闊歩していく。

 

そして、レ級は目的の店、「カレー本舗」を見つけると

笑顔のまま、店舗の2階へと足を進めていく。

 

「イラッシャイー。お一人様ですかー?」

 

すると、小柄な、小さなウェイトレスの少女から

レ級は声をかけられていた。

 

「はい。一人です。」

 

「お一人様ご案内しますー!

 それでは、中央のテーブル席にご案内しますね!

 それと、久しぶり、レ級!」

 

小柄な小さなウェイトレスは、ニコニコ声でレ級にをかけていた。

レ級も笑みを返しながら、小さなウェイトレスに言葉を返す。

 

「案内ありがとうございます。

 北方棲姫様、お久しぶりです。

 上手くやってるようで何よりです。」

 

「みんな優しいから!

 こちらにどうぞー。」

 

小さなウェイトレス・・・北方棲姫は

中央のテーブルの椅子を引くと、レ級を椅子へと座らせていた。

 

「それで、レ級、今日は何にします?

 おすすめは金剛カレーだよ!」

 

「おっ、北方棲姫様がオススメするのならそれで!

 美味しいんですか?」

 

北方棲姫はレ級に笑顔を向けて、叫ぶ。

 

「勿論!おいしいよー!

 まってて!すぐに持ってくるから!」

 

「はい。ゆっくり待ってます。」

 

レ級は普段使わない敬語で終始、北方棲姫に話しかけていた。

というのも、レ級はさり気なく気遣いができる船である。

一般人が居るさなか、姫級の深海棲艦とニヤニヤと話す事は無いのだ。

 

「むー、なんか言葉が硬いよ?

 いつものレ級のほうがいいのに。

 あと、どうしたのその服。艦娘みたい。」

 

「他人の目もアリますから。

 いつものように粗暴にすると不快になる方も居るでしょう。

 あと、これは雷からパーカーしか持ってない私を見て、頂いたものです。」

 

北方棲姫は納得したのか、にこっとした笑みをレ級に向けていた。

そして、にこにこしたまま、口を開く。

 

「あぁー!雷かぁ。ちっちゃいお母さんだね。

 確かに、誰にでも優しい彼女なら、レ級にだって優しいね!」

 

「えぇ、非常に助かってます。っと、それはそうと北方棲姫様。

 お仕事はよろしいので?」

 

レ級は穏やかな笑みを浮かべたまま、北方棲姫へと話しかける。

 

「アッ!そうだった!

 新規オーダーですー!金剛カレー1セット!」

 

北方棲姫はレ級の言葉にはっとしたのか、

焦りながら厨房へレ級のオーダーを通していた。

 

「んー、北方棲姫様も、

 ただただ艦娘を沈めていた頃に比べたら変わったなぁ。

 最初はどうなるかと思ったけど、横須賀に連れて来てよかったよかった。」

 

レ級は、そんな北方棲姫を見ながら、穏やかに笑みを浮かべていた。

 

海軍カレー本舗。

横須賀中央駅から歩いて5分にある店である。

 

旧海軍の船の名を関するカレーから、通常のカレーまで

幅広いメニューをカバーする、カレー専門店だ。

平日休日問わずに常に満席であることからして

この店の味の良さ、店の雰囲気の良さが伝わってくる。

 

そして、内装も旧海軍を意識してか、木造でシックにまとめられていた。

大型の木造テーブル、少し大きめの木造椅子

床も木造の板が敷き詰められ、軍艦のデッキのようだ。

 

更に、ウェイトレスの制服ははメイド服に近い燕尾服である。

イメージとしては、艦娘龍田のワンピースのような感じだ。

 

「ウェイトレスさんの服いいなぁ。

 美人さんだし。見てて飽きない。」

 

レ級はそんなカレー本舗の椅子に座りながら

ぶつぶつと笑顔で呟いていた。

 

「しかもカレーの新聞もあるのか。

 ランチマット代わりなんだろうけど、勿体無いな。」

 

レ級はテーブルに敷いてあるカレー新聞を読む。

そこには横須賀のカレーの歴史がずらりと並んでいた。

 

「ほぅほぅ・・・すごい昔からなんだねぇ。

 流石古からの軍港。全てにおいての歴史が違うなぁ。」

 

レ級は喉が渇いたのか、水をゴクリと一口飲む。

そして、グラスをコトリとテーブルに置いた、まさにその時である。

 

「レ級!お待ちどうさま!

 金剛カレー1セットですー!」

 

小さなウェイトレス、北方棲姫が出来立ての金剛カレーを

お盆いっぱいに抱えてきたのである。

 

「おっ!待ってました!」

 

レ級は笑顔で北方棲姫を迎える。

そして、北方棲姫はレ級の前に皿を置きながら

間髪入れずに、説明を続けていった。

 

「えぇと、まずコレがサラダー!

 あと、コレがご飯ね。あとこれがルー。

 あぁ、あと食後の紅茶と、あと食前の牛乳ね!」

 

「おぉ、かなりのセット内容ですね。

 それにしても、食前の牛乳ですか。」

 

レ級は首を傾げていた。

北方棲姫は、レ級を見ながら、笑顔で口を開く。

 

「うん!牛乳飲むと胃が荒れないんだ!

 あと、私個人的なおすすめは、

 フィッシュアンドチップスはまずルーをかけないで食べて欲しいかな!

 その後に、全体にルーをかけてみて!美味しいから!」

 

「ん、わかりました。姫様。

 それじゃあ、頂きます。」

 

レ級は片手を上げる事で、北方棲姫に応える。

 

「どうぞどうぞー!それじゃあ仕事に戻るねー!

 レ級ッ!何かあったらマタ声かけてねー!」

 

北方棲姫も、レ級に手を振りながら、仕事に戻っていった。

 

「ふむ、それじゃあまず、おすすめ通り、っと」

 

レ級は金剛カレーに乗っているフィッシュアンドチップスを

さくり、と口に含む。レ級はゆっくりと、

ほっくほくのじゃがいも、そしてさくさくの魚を堪能する。

 

「おふっ、揚げたて・・・うまっ」

 

噛むたびに広がる魚の旨味。

カレーと合わせたら、どれだけ美味しくなるのか

レ級は楽しみになっていた。

 

「よし、それじゃあ今度は、ルーをかけて・・・。

 っと、まずはルーとご飯を楽しまなくちゃ」

 

レ級はルーをご飯に掛け、ゆっくりと口に運ぶ。

スパイスの良い香りが、レ級の鼻を静かに刺激していた。

レ級は、一瞬カレーを口に運ぶ手を止め、思わず喉を鳴らす。

 

「にひひ」

 

にやりと笑みを浮かべたレ級は、勢い良く、カレーライスを

口の中に放り込んでいた。

すると、どうだろう。口に入れた瞬間は、まろやかな甘味のあるカレーだった。

だが、ひとかみ、ふたかみと味わっていくと、後から後から

しっかりとしたスパイスの旨味と、牛肉の旨味が効いてくる。

 

そして、十分カレーを楽しんだ後、

ゴクッ、とレ級は口の中のカレーを飲み込む。

 

「ふぅー・・・。あぁ、これは、旨い。」

 

しみじみと呟くレ級であったが

間髪入れずに、今度はフィッシュアンドチップスにカレールーを掛け

口の中に放り込んでいた。

 

「おぉ・・・!」

 

レ級は、口の中で生まれたハーモニーに思わずため息をつく。

魚の旨味と、カレーのスパイスが

ここまで合うものかと感動していたのだ。

しかも、噛むごとに旨味は増し、

スパイスと魚が更に融和し、レ級の口の中で昇華されていく。

 

そして、レ級はその後、カレーを最後の一滴まで堪能した後

長い溜息を付き、ただ一言、呟いた。

 

「あぁ、うまい。」

 

レ級、裏表なしの心からの言葉であった。

 

「レ級!今日はキてくれてありがとね!

 また一緒に艦娘の写真撮ろうね!」

 

レ級は会計をしながら北方棲姫と少し話をしていた。

 

「えぇ、ぜひぜひ。

 北方棲姫様の仕事が空いた時に鎮守府に来てください。

 事前に提督に許可は貰っておきますので。」

 

「うん!ありがとう!

 っと、えーと、1630円になります!」

 

レ級は、笑顔で革の財布から2000円を北方棲姫に手渡していた。

 

「いやぁ、北方棲姫様。それにしてもカレー美味しかったです。

 もっと早く食べに来ればよかったですよ。」

 

「あは、そう言ってもらえると働きがいがあるよ!

 そういえば、この後はどっか撮影にいくの?」

 

北方棲姫は首を傾げながら、レ級に今後の予定を訪ねていた。

レ級は、にやりと口角を上げつつ、口を開いていた。

 

「ヴェルニー公園にいこうかと。

 夕焼けの護衛艦を撮影するのも楽しいかなーって。」

 

「あは、楽しそう。いいなー。私もいきたい。」

 

北方棲姫は不機嫌そうな顔をしながら呟いていた。

レ級は呆れた顔で、北方棲姫へと口を開く。

 

「ダメでしょう、北方棲姫様。仕事中でしょうに。」

 

「うん、判ってるー。」

 

北方棲姫は不機嫌な顔から一転、笑顔でレ級に声をかけていた。

そして、レ級も笑顔になりながら、北方棲姫へと口を開いていた。

 

「あは。まー、それじゃあ北方棲姫様。私はそろそろ。

 お仕事がんばってくださいね。」

 

「うん。またね!レ級!」

 

レ級は北方棲姫に背を向け、カレー本舗を後にしようと歩みをすすめる。

そして、レ級の足が、階段にかかろうとした時である。

 

北方棲姫は、真面目な顔で、静かに、レ級に話しかけていた。

 

「ねぇ、レ級。一体あなたは、どこまで行くの?」

 

レ級は足を止め、北方棲姫へ体を向き直し

真剣な顔をして、ゆっくりと、しかし確かな声で

静かに北方棲姫に語りかける

 

「ふふ、どこまでも、行けるところまでですよ。

 折角、今一度、現世で大地を踏みしめることができたのです。

 楽しまなければ、損でしょう。姫、あなたも、そうでしょう?」

 

北方棲姫は目を閉じ、レ級の言葉をただ静かに、聞いていた。

そして少しの間のあと、北方棲姫は目を開き

いつもとは違う、妖艶な笑みを浮かべると

 

「ふふ、そうね。」

 

と、ただ一言、言葉を発したのであった。

 

 

レ級は北方棲姫が働くカレー本舗を後にすると

その足のまま、ヴェルニー公園へと、歩みを進めていた。

 

ちょうど時間は夕暮れ時。

ヴェルニー公園から見た護衛艦達は、夕日に照らされ

美しい艦影を、海へと落としていた。

 

カシャリ、カシャリ、カシャリ。

 

レ級は50ミリのレンズで、

その風景をしっかりと撮影していた。

 

「やっぱり夕焼けは映えるなぁ。

 波に反射した夕焼けもまた綺麗だ。」

 

レ級は、タブレットを取り出すと

いま撮影したばかりの護衛艦の画像を確認していった。

 

波間に揺られ、美しく夕日を受ける巨大な船体。

海に落ちる巨大な船体の影、そして、暗くなってきたからか、

各所にライトが灯った「護衛艦 こんごう」の姿。

 

どれもコレもが、美しい一枚である。

 

「今代の金剛も綺麗な艦だなぁ。

 確か、今代でも金剛型1番艦なんだっけな。」

 

レ級は、金剛の映る写真を見ながら、一人呟いていた。

 

「えぇ、先代に続いて、私も1番艦なんです。

 先代と仲の良い、深海棲艦さん。」

 

「・・・ん?」

 

気づけばレ級の隣に、全くレ級が知らない少女が立っていた。

レ級は、隣にたった少女を確認する。

明らかに海上自衛隊の服装ではあるものの

その姿は、まだ学生のような雰囲気であった。

 

レ級は、優秀な頭をフル回転させ考える。

 

(お?一発で私を深海棲艦と見ぬいた?

 っていうか何このデジャブ。

 この女の子、「先代に続いて私も1番艦」と抜かしよったか?

 抜かしよったよな?・・・ってことは、だ)

 

「・・・もしかして、護衛艦こんごうさん?」

 

「えぇ、そのとおりです。深海棲艦さん。

 いえ、戦艦レ級さんとお呼びするべきでしょうか。」

 

護衛艦こんごうは、綺麗な姿勢でお辞儀をする。

レ級は諦めたように、綺麗なお辞儀を返していた。




妄想捗りました。心霊体験、レ級サン。


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110 カメ子さんの日常 その3+提督さん。

横須賀鎮守府に現れると噂されれている戦艦レ級。
まさかの護衛艦娘との出会いを果たしたようです。
そして、レ級さんの人間関係が一つ。

※少々ヤンデレ+事情はいります。


ヴェルニー公園で、レ級は護衛艦、こんごうと共に

横須賀の夕日を見つめていた。

 

ゆらゆらと揺れる波間に、美しい夕日が跳ね返り

幻想的な雰囲気である。

 

「それで、護衛艦こんごうさん。

 一体、深海棲艦である私になんの用?」

 

レ級はこんごうを見ながら、無表情で声をかけていた。

レ級本人としてみれば、護衛艦は敵であり

深海棲艦である自分は敵として、護衛艦から

話しかけられる道理はないと思っていたのである。

 

「んー、そうですね。

 実のところは特に用はないんです。」

 

こんごうは苦笑をレ級に向けていた。

レ級は、ぽかんとした顔をこんごうに向ける。

 

「ふふ、深海棲艦もそんな顔をするのですね。

 あとは、そうですね。

 少しばかり、先代と仲良くする深海棲艦に

 お聞きしたいことがあるんです。」

 

こんごうは、苦笑を収めると、

真剣な顔をレ級へと向け、佇まいを正していた。

 

「お、おぉ?あー、うん。なるほど?

 んんー、聞きたいことってなに?」

 

レ級もこんごうに釣られて、背筋が伸びる。

 

「貴女はなぜ、敵である先代の金剛と仲が良いのですか?

 そして、深海棲艦なのに、人類の敵なのに。

 なぜ横須賀の街でおとなしく、過ごしているのです?」

 

こんごうは言い終わると、レ級の目を真っ直ぐと見つめていた。

 

「あぁ、なんだ。そんなことか!

 簡単なことだよ。私が、写真が好きで、

 それ以上に艦娘と人間が好きなだけだよ。」

 

レ級は間髪入れずに、笑顔になりながら即答していた。

こんごうはレ級の即答に、目を見開いて驚愕の表情を浮かべていた。

 

(このレ級、他の深海棲艦とは明らかに違うのですね。

 艦娘と人間が好きなんて、そんな深海棲艦、初めて見ました。)

 

「なるほど。レ級さんは人間と艦娘が好き、と。

 だからこそ、横須賀の街で、過ごしているのですか?」

 

「うん。あたりまえじゃん。」

 

レ級は更に即答で応える。レ級の表情に、全く迷いはなかった。

 

(面白い深海棲艦です。普通、人間や艦娘を見ると

 すぐに攻撃してくるのに。

 まったく、このレ級は、逆にやりづらい存在ですね。)

 

こんごうは目を閉じると、穏やかな笑みを浮かべていた。

そして、目を開け、レ級をまっすぐに見据えて口を開く。

 

「そういうことでしたら、全く問題はありませんね。

 ・・・実のところは、少々貴女を警戒していました。

 だからこそ、ここで真意を確かめようと、声をかけさせていただきました。」

 

「ほぉ・・?」

 

レ級はこんごうの言葉に、首を傾げていた。

こんごうは、そんなレ級を見つつ、言葉を続ける。

 

「もしも、ですが。敵意があって、スパイをしているようであれば。」

 

こんごうは一旦言葉を切ると、横須賀に停泊している自分の船体を指差す。

 

「私の主砲で、跡形もなく消し飛ばそうかと思ってました。」

 

こんごうの言葉に同調するように、護衛艦金剛の主砲が

レ級へと素早く向けられていた。

 

「うぉっ!?砲を向けるなって・・・!

 ・・・まぁ、疑われてもしゃーないよなぁ。

 基本的に私達深海は、護衛艦も沈めてるしな。」

 

レ級は、向けられた主砲に驚きながらも、顔をぽりぽりとかいていた。

そして、護衛艦こんごうを見ると、改めて口を開く。

 

「でも、私に限っては艦娘も護衛艦も沈めたことはねーぜ?

 輸送船はちょっとあるけど・・・・。それでも人は殺してない。」

 

レ級は、真っ直ぐな瞳で、こんごうに語りかけていた。

 

「そう、ですか。」

 

こんごうは、レ級の真っ直ぐな瞳を見つめ返しながら、ぽつりと呟く。

 

「それであれば、横須賀の街に貴方が居ても大丈夫でしょうね。

 それじゃあレ級さん。私はそろそろ船体へ戻ります。

 そのうち、またここに来てください。

 まだまだ話したいことは沢山ありますので。」

 

こんごうはそう言うと、すぅっと、その姿を夕闇へと溶けこませていた。

ヴェルニー公園に残るのは、カメラを持ったレ級、ただ一人である。

 

「・・・・わーお、三笠に続いて2人目?幽霊?」

 

レ級はヴェルニー公園をキョロキョロと観察するも

数組のカップルと、散歩をする数人の人間が

夕闇の中ゆっくりと過ごす姿しか見つけられなかったのである。

 

ただ、夕闇の海に浮かぶ護衛艦こんごうを見たレ級は

その目を、眩しそうに細めていた。

 

 

横須賀鎮守府、夜中の8時。

戦艦レ級は、提督とともに、

執務室のソファーに座りながら、酒を嗜んでいた。

 

「でさー、なんか護衛艦こんごうと、

 三笠の艦娘みたいな存在と会ってさ・・・」

 

レ級は、今日あったことを、逐一提督へと話していた。

その手に握られているのは、護衛艦こんごうの艦娘をとらえた

偶然の一枚が表示されているタブレットである。

そして、レ級の言葉につられるように、提督がレ級のタブレットを覗き込む。

 

「・・・なるほど確かに。」

 

うっすらと薄い姿で、護衛艦こんごうの上に立つ少女。

提督はタブレットを確認すると、思わず引きつった笑みを浮かべていた。

 

「レ級殿、とんでもない写真を取りましたね。

 護衛艦と三笠の艦娘など・・・・。

 世迷い事かと思いましたが・・・・・。」

 

提督はタブレットに映された写真をよく観察する。

遠方だったため、こんごうの艦娘の姿はうっすらとしか確認できないが

明らかに少女であり、自衛官ではない。

 

「護衛艦にも、艦娘のような存在がいるのですね・・・。驚きです。

 しかも、三笠にもいるのですか。我々も、艦娘も確認できないのに、

 深海棲艦であるレ級殿が気づくというのも、不思議ですね。」

 

「だねー。まぁ、これは三笠にも言ったんだけどさ。

 深海棲艦って、船だけの記憶だけじゃないからさ。 

 土地とか、人間とか、兵器とか、そこらへんの記憶も残ってるから

 三笠とか、護衛艦みたいな付喪神みたいなモンに反応できるんじゃないかなって。」

 

レ級は、苦笑を浮かべながら、提督へ話しかけていた。

 

「ただ、三笠さんからは好意的な感じで接してもらったんだけど

 護衛艦こんごうからは、まさかの吹っ飛ばす。っていう言葉を

 頂いちゃったよ。」

 

「おや、そうなのですか?」

 

「うん。スパイとかだったら吹っ飛ばす気だった。つって

 主砲を向けられた。流石に焦ったよー。」

 

レ級はケラケラと笑いながら、提督へと口を開く。

そんなレ級を自身の肩越しに見ながら、提督は思い出したように

酒に手をつけていた。

 

今日飲む酒は、スコッチウイスキー「バランタイン」。

口に含んだ瞬間は少し辛いが、その後に苦味や塩気、酸味、辛味と

畳み掛けるように味が舌に折り重なり、そして後味は少し甘い。

のんびりと飲むには、良い酒である。

 

提督は、バランタインを口に含むと、ゆっくりと燻らせながら味を楽しむ。

レ級も提督に習って、自身の肩越しに提督の顔を見ながら、バランタインを口に含む。

お互いにグラスをテーブルに置くと、レ級は提督に向けて、笑顔で口を開いていた。

 

「ん、バランタイン、初めて呑んだけど美味しいね。」

 

「それはそれは。

 レ級殿のお口に合ったようで何よりですよ。」

 

提督はレ級に笑顔を向けつつ、言葉を向けていた。

 

「それはそうと提督殿、今日は誰も居ないけど。

 大和とかはどうしたの?」

 

「あぁ、全員中破ですよ。海域突破は成し遂げましが、

 撤退途中、見たこともない深海棲艦がいましてね。」

 

「・・・見たこともない?横須賀の、歴戦の提督殿が?」

 

「えぇ。一見すると飛行場姫殿に似ていたんですが、ね。

 対応しようと思いましたら、

 多数の航空機と連装砲による砲撃をうけてしまいまして。

 全く、ままならないものですよ。」

 

レ級は、提督の言葉を聞きながら、バランタインに口をつけていた。

だが、その顔は、先ほどのような笑みではなく、

少しばかりしかめっ面である。

 

「んー・・・?撤退途中ってことは、ソロモン手前ぐらい? 」

 

「いえ、もう少し沖縄に近づいたぐらいですね。

 単体でいたものですから、油断もあったとは思います。が、」

 

提督は一旦言葉を区切り、バランタインを煽ると

真面目な顔でレ級を見つめていた。

 

「ですが、まだ燃料、弾薬、艦載機共に十分で

 かつ、士気も高かった状態です。

 我が大和艦隊がたかだか一隻の深海棲艦に

 全艦中破以上の損害をこうむるとは思えません。」

 

レ級は、提督を見つめ返しながら、口を開く。

 

「しかも、沖縄の近くということは

 人類の制海権の近くってわけだよね。

 ・・・そんなところに強力な深海棲艦?なんかおかしい。

 提督殿、何か特徴はなかったの?」

 

提督は口に手を当てながら、今日の戦闘を思い出していた。

海の上に佇み、遠くを見る小さな少女。

だが、その装備は横須賀で保管してある飛行場姫と酷似している。

大きな主砲、そして、一本の滑走路。更には、艦載機と思われる黒い物体。

そして、何よりの特徴を一つ、提督は思い出していた。

 

「基本的には飛行場姫の艤装に近いものですね。

 ただ、滑走路は飛行場姫の2本に対し、1本でしたね。

 最大の容姿の特徴といえば、、頭に翼のようなものがあることでしょうか。」

 

「つばさ、ねぇ・・・。」

 

レ級の拠点は人類によって破壊されてしまうまでは、元々ソロモンにあった。

そこではほとんどの姫、鬼、深海棲艦と顔見知りであったレ級だが

全くもって、覚えがなかったのである。

 

「ソロモンの拠点には、そんなのいなかったなぁ。

 話だけ聞くと、姫級か鬼級っぽいんだけどねぇ・・・。」

 

レ級は腕を組みながら視線を落としながら呟いていた。

 

「そうですか。レ級殿でも知らないとなると

 レ級殿がこちらにきてから生まれた新型と考えるのが宜しいですかね?」

 

「んー、それか」

 

レ級は指を立てつつ、提督に口を開く。

 

「ソロモンとは真逆、インドの方、セイロンから来た可能性もあるよ。

 あそこも確か我々の拠点の一つだったはずだし。 

 でも、だからといって、なんで沖縄まで出張ってきたんだろ・・・?」

 

「なるほど、セイロン沖ですか。

 確かにあそこには、我々はそれほど攻め込んではいませんね。

 ま、レ級殿が判らないのであれば、我々にはもっと正体不明の深海棲艦なのでしょう。

 今回は、轟沈艦がでなかったけ良しとしておきます。」

 

「ん、そっか。

 まぁ、なんか情報手に入れたら流すよ。

 大和たちに沈まれても面白くないし。」

 

レ級は腕を組んだまま、提督へと口を開いていた。

提督はそんなレ級を見ながら、笑顔で笑い声を上げる。

 

「はは、深海棲艦にあるまじき発言ですね。」

 

「そーかなー?

 敵でも好んだ相手は沈めたくないって思うのは仕方ないじゃん?

 だから提督殿も、私はともかくとして、飛行場姫を横須賀で鹵獲してるんでしょ?」

 

「ん、そう言われますと、確かに。

 彼女の写真は捨てがたいですから。もちろん、レ級の写真もね。」

 

「あはは。・・・っと、それはそうとして。」

 

レ級は提督へと体を預けると、上目遣いで提督へと口を開いていた。

 

「今日はどうするのさ。大和も武蔵も、赤城も加賀も、菊月も青葉もいないよ?

 姫様も大本営いってるし。ね?」

 

「そうですねぇ・・・・。」

 

提督はそんなレ級を片手で受け止めつつ、髪の毛を撫で始めていた。

 

 

一方その頃、大本営から帰ってきた飛行場姫と菊月は

提督の執務室のドアを少し開け、その隙間から、レ級と提督の事情を観察していた。

身長の低い菊月がドアの隙間の下、その菊月の顔の上に飛行場姫という具合である。

 

「菊月。提督の艦である貴女としてはどうなの?

 敵であるレ級と、提督が親密な仲というのは」

 

飛行場姫は、自身の下にいる菊月へと声をかけていた。

その顔は、笑みを浮かべるわけでもなく、真顔である。

 

「別段どうということはない。

 私は提督を敬愛してはいるが、愛しているわけではないからな。

 大和や加賀あたりがこの光景を見たら修羅場が始まるが・・・・。

 ただ、飛行場姫。そちらとしてはどうなんだ?

 自分の部下と、敵の司令官がこんな事情なのは。」

 

菊月は飛行場姫の質問に答えつつも、疑問を投げかけていた。

その顔は、飛行場姫と同じように、真顔であった。

 

「んー、そうねぇ。私も別段どうってことはないわね。

 私はもう鹵獲されてるから、上司云々ってわけでもないし。

 ただまぁ、深海棲艦としての私からすれば、少し複雑ではあるけれども

 あのカメラ一本で突き通してきたレ級の恋路というのであれば、

 一人の女として応援したいわね。」

 

「なるほどな。たしかに趣味一辺倒だったレ級が

 いまではあんな・・・おおっ・・・大胆な・・・。」

 

レ級と提督は顔を近づけ、明らかにくちづけを交わしていた。

しかも提督の腕は、ソファーに隠れて見えないが、

確実に服の中に入っていることが判る。

更に言えば、レ級は自身の尾っぽで、提督を抱き寄せていた。

 

「あら・・・ここ執務室だってこと忘れてないかしらあの二人。

 せめて私室に行ってから事に至って欲しいものね。」

 

菊月と飛行場姫は、少し呆れた顔になりながらも

興味津々に、レ級と提督の事情を、しっかりと目に納めていた。

 

「だな。燃えるのは勝手だが、時と場所をわきまえてもらわなねば。

 修羅場どころか、横須賀鎮守府の危機だ。

 提督へは私からさりげくフォローを入れておこう。」

 

「そうね。私もレ級にさりげなくフォローを入れておくわ。

 ・・・それはそうとして、菊月。」

 

飛行場姫は、苦笑を浮かべると、菊月へと視線を向けつつ、口を開いていた。

 

「なんだ?飛行場姫。」

 

「そろそろ覗くのやめない?人の情事、これ以上は見ていたらバチが当たるわ。」

 

菊月は目をぱちくりとすると、視線を飛行場姫へと向けていた。

 

「・・・そうだな。

 と、大本営でずっと立ちっぱなしだったから足がパンパンだ。

 飛行場姫、もしよかったら一緒に風呂でもいかないか?」

 

「あら、いいわね。行きましょう。せっかくだから、好きな牛乳をおごるわよ。」

 

「おぉ、なんと太っ腹な。ありがたく飲ませていただこう。」

 

菊月と飛行場姫は、ゆっくりとドアの隙間から顔を離すと

お互いの、少し赤くなった顔を見合いながら、口を開いていた。

 

「菊月、少し顔、赤くなってるわよ?

 ま、それじゃあ、お風呂行きましょうか。」

 

「飛行場姫こそ。真っ赤じゃないか。

 ・・・まぁ、行こうか。」

 

菊月と飛行場姫は、静かに提督室のドアを閉め

ゆっくりと、足音を立てないように、大和たちが治療を行っている

ドックへと向かっていった。

 

横須賀鎮守府、深夜2300。

平和な日常の一コマである。

 

 

提督の朝は早い。

朝4時にはベットから抜け出し、顔を洗い、服を着替え

5時までには当日の任務をすべて洗い出し、艦娘を出撃させる。

これが毎日のルーチンワークである。

そして、最近はその朝のルーチンの中に、一つの項目が加わっている。

 

朝4時前、提督は目を覚ます。

そして、自身の隣に眠っている少女、戦艦レ級の頭を撫でるのだ。

すやすやと、気持ちよさそうに眠る彼女の頭をなでてやると

「んー・・・・」と、更に気持ちよさそうな顔をするのだ。

 

深海棲艦を沈め、艦娘を運用し、人類の運命を担う。

すさまじいプレッシャーのなかで、この時が一番ほっとする時間である。

 

というのも、艦娘は鬼気迫る表情で大砲を撃ち、

血まみれで敵を倒してきたと思えば

無垢な笑顔でこちらに迫ってくるのだ。

常人では耐えられない。

もちろん、軍属である提督の心も、多少常人より強いとはいえ、耐えられない。

深海棲艦も深海棲艦で、どこからきているのかわからないプレッシャーに

あの人型の深海棲艦の声。悲しそうなその声に、提督の心は砕かれそうになる。

 

つまり、簡単にいえば、提督の心はギリギリであったのだ。

 

だが、そんな提督の前に現れたこの戦艦レ級は、戦場でも地上でも、

態度や表情はまったく変わらないどころか、

戦闘と言っても、誰も沈めず、写真をとるだけ。

そして、深海棲艦独特の悲しみに満ち満ちた声もなく、

普通の人間として提督へと接してくれているのだ。

 

提督が、そんな異端の戦艦レ級に傾くのは、仕方の無いことであった。

そう、提督は戦艦レ級に依存する事によって、心のバランスを保っているのである。

そうでなければ、いくら鹵獲艦の飛行場姫の部下とはいえ、

横須賀に、人類最大の防衛拠点に、深海棲艦を留まらせるわけが無い。

 

「あぁ、戦艦レ級。君は、愛しい。

 ・・・絶対に離すものか。君は私の物だ。」

 

戦艦レ級の頭を優しく撫でる提督の瞳は、黒く、そして濁っていた。

 

 

提督がベットに横たわる自身を置いて、執務に向かったことを確認すると

レ級はむくりと体を起こしていた。

そして、提督が寝ていた自身の隣を凝視しながらも、頭をフル回転させていた。

 

「・・・提督、なんか怖かったな。もしかして、ヤンデレ?」

 

そう、レ級は頭を撫でられながらも、起きていたのである。

 

「私、なんかやらかした・・?」

 

レ級は一糸まとわぬ姿で、頭をガリガリとかくと、

しかめっつらを浮かべててただ一言、呟いていた。




妄想捗りました。
戦時中の事情ということで、ひとつ。


そして次回予告
緊急指令:有明海域 E-0


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大規模イベント編
111 レ級、イベント海域「有明」へ


提督との事情もほどほどに、自室で寝ようとしていたカメコさん。
隣の部屋から、なにやらごそごそと、音がしてきたようです。



今日も提督と酒をのみつつ、大和達と会話をしていたレ級。

ただし、今日は早々と話を切り上げ、飛行場姫と共に、

横須賀鎮守府の自室へと戻っていた。

というのも、最近、提督のレ級を見る目が

尋常じゃなくやばいと気がついたのだ。

 

「最近提督の視線がやばいんだけども。

 どう思います?飛行場姫様。」

 

隣を歩いていた飛行場姫は、レ級に顔を向けると

苦笑を浮かべながら口を開いていた。

 

「まぁ、そりゃあ、ねぇ。

 最近、提督と夜もお盛んなんでしょう?レ級。

 大和達艦娘達と同じぐらい、執務室に出入りしてるじゃない。」

 

「んー、盛んっていうわけではないですよ。

 提督殿、案外ヘタレですからねー。

 未だに接吻以外は無しですよ。行くたびに提督の抱きまくら代わりです。

 あと、演習で撮影した艦娘の写真を見せるぐらいですかねぇ・・・」

 

レ級は飛行場費の言葉に、手を横に振りながら答えていた。

 

「あら、そうだったのね。

 うーん、そうねぇ。そうすると・・・」

 

飛行場姫は顎に手を当てながら少し考える。

 

(提督の視線、ねぇ。確かにレ級を見る目線には、熱はこもっているわね。

 ただ、何かしら、少しどす黒い感情が見えるような・・・)

 

飛行場姫は、はっとすると、レ級に向かって

ニヤリと口角を上げながら、言葉を続けていた。

 

「もしかしたら、レ級。提督に依存されているかもしれないわね。」

 

「・・・なんでそうなるんです?」

 

「いえね、この鎮守府でのレ級の立場を考えると、そうなるのよ。

 判らないのであれば、一緒に考えてみましょうか?

 まず、艦娘。一見綺麗な娘たちだけど、一回海に出たら戦姫になってその動きは鬼神よ。

 しかも、戦闘が終わったら、傷だらけの姿でほめてほめてと寄ってくる。

 そんな彼女たちと付き合っていたら、普通の人間であったら耐えられないでしょうね。」

 

「ふーむ・・・」

 

「そして、私含めた深海棲艦に関して言えば、常に人類への恨みつらみを吐くばかりでしょう?

 私も鹵獲されてるとはいえ、ソロモンでは随分と恨みをぶつけさせてもらったからねぇ。」

 

飛行場姫は言葉を区切ると、レ級の目を見据える。

 

「つまり、表裏がある艦娘でもなく、深海棲艦とも違って、

 裏表なし、戦わない、恨まない、普通に接する艦。それがあなたよ、レ級。

 しかも、あなた、提督とほどよく戦術の話とかもしてるじゃない?

 普通に話せて、戦術も十分に話せる女性。

 提督からすれば、身近に居ないタイプなのよねぇ。」

 

「はぁ・・・つまり、身近に居ないタイプの艦が急に出てきたから

 提督が私に依存してる、と飛行場姫様はいいたいわけですか?」

 

「えぇ、まさにその通りよ。更に言えばギャップもあるじゃない。

 深海棲艦、最強のレ級、でも、狂っていないどころか友好的。」

 

飛行場姫は一旦言葉を区切ると、にやりと笑みを浮かべてから

レ級へと言葉を続けていた。

 

「つまり、客観的に見て、

 レ級は提督に限らず、人間にとって魅力的なのよ。」

 

そう言われたレ級本人は、首をかしげていた。

本人としては、そんな気はさらさら無いのである。

 

「そんなもんですかねぇ・・・?」

 

「そんなもんよ。で、まぁ、レ級。提督とは上手くやりなさいね?

 あれは、こじらせると絶対に、厄介な男よ。」

 

「んー、判りました。姫様がそう言うなら気をつけます。

 っていうか、姫様の言うとおりなら、大和たちが怖いのかねぇ。提督。」

 

レ級は、首を傾げ、腕を組みながら飛行場姫へと言葉を返していた。

 

「えぇ、おそらくはね。

 しかも、私達のような人型の深海棲艦が横須賀にいて、

 なまじ中途半端に交流しちゃってるでしょう?」

 

飛行場姫は、指を立てながらレ級へと言葉を続ける。

 

「そうなると、よ。

 仲良くしている深海棲艦と同じ人型の深海棲艦を殺しておきながら、

 ・・・褒めてと駆け寄ってくる艦娘を、怖いと思うのは当然じゃないかしら。」

 

「あぁー。確かにそれはあるでしょうねー。」

 

納得、といったようにレ級は頷いていた。

そして、飛行場姫は、レ級の姿を見ながらも苦笑を浮かべて言葉を続ける。

 

「一番の解決方法は、大和達との距離感を提督が

 自分で決めることができればよかったのだけれど。

 レ級がいるから、そこに逃げちゃったのかしらねぇ・・・。」

 

「むぅ、っていうか、なんで提督殿は姫様ではなく、私に依存したんでしょうねー。

 普通に考えれば、鹵獲してきた姫様にいきそうなもんでしょ?

 私よりプロポーションいいし。戦略的な話もよりできるじゃん。」

 

「・・・それはまぁ、姫級で警戒しなくちゃいけなかったんでしょうし、

 もしかすると、レ級の体型が好みだった可能性もあるんじゃない?」

 

飛行場姫は、最近のレ級の服装を思い出しながらつぶやいていた。

提督の執務室にこもるときは、レ級は決まって「第六駆逐隊」の服なのだ。

レ級も飛行場姫と同じことを思い出したのか、苦笑しつつ、口を開く。

 

「・・・提督ってもしかして、駆逐艦が好きなんかね。」

 

「可能性はあるわね。ま、がんばりなさい。レ級。

 横須賀の平和はアナタにかかっているわ。

 それじゃ、私はこっちだから。」

 

「へーい。ま、私は何時もと変わったことする気はありませんけどねー。

 それじゃ姫様、また明日よろしくお願いします。」

 

レ級と飛行場姫は、お互いに手を振りながら、自室へと向かっていった。

横須賀鎮守府2400、深夜の出来事である。

 

 

横須賀鎮守府2500を回った頃、

レ級は、今日撮影した写真をタブレットで確認していた。

 

「んー、大和は相変わらず迫力あるなー。

 格闘戦も、砲撃戦も流石だぜ。」

 

タブレットには、演習で砲撃を行う大和の姿が

でかでかと映しだされていた。

 

「それにしても、提督殿が私に依存ねぇ。

 どうしたものかなー。ちょっと距離を置こうかな?

 よっぱの拠点に久しぶりに行くってのもいいな。酒飲む約束してたし。」

 

レ級は呟きながら、タブレットを指でなぞっていく。

すると、秋雲と夕張が、砲雷撃戦をしている写真が出てきていた。

 

「そーいや、夕張が演習してるの初めて見たなー。

 いっつも工廠にこもってんのに、どうしたんだろ。」

 

レ級はタブレットを操作しながら、秋雲と夕張の顔を拡大していた。

すると、レ級はとあることに気づいたのである。

 

「・・・ん?夕張の艤装、これ私の主砲によく似て・・・。

 あぁ!そうか。私の艤装から作った武装のチェックか!

 流石夕張、制作早いなぁ。」

 

レ級は驚きながらも、にやりと笑みを浮かべていた。

そして、更にそこから写真を観察していく。

 

「ふむふむ、基本的には私の装備そのまんま、だけど。

 工作精度はこっちのほうが良さそうだなぁ。

 んー、気になるし、あとでちょっと見せてもらお。」

 

レ級は呟きながら、今度は秋雲の顔を拡大させていた。

 

「秋雲もいい顔するよなぁ。確か絵を書くんだっけ。

 一回見せてもらいたい・・・ん?」

 

秋雲の顔をよくよく見るレ級。すると、秋雲の目の下に

隠しきれていない隈が見えたのだ。

 

「おや、秋雲、最近忙しい・・・わけないな。

 昼間の遠征で練度上げてるだけだから、

 こんなに隈あるのはなんか、変だなぁ。

 夜、何かやってるんだろうか・・・?」

 

レ級はそう呟くと、タブレットをよくよく観察していた。

隈以外にも、髪の毛がすこしボサボサだったり

肌がところどころ荒れていたりと、艦娘にとってはありえないことである。

 

「ンー?はて。どうしたんだろう?調子わるいんか?秋雲。

 後で提督にさらっと伝えておくかなぁ。」

 

と、レ級が呟いたその時である。

 

【ガタタッ!】

 

レ級の部屋の隣、噂の秋雲の部屋から、大きな音が響いてきたのである。

 

(秋雲ぉ!何してるのよー!)

(夕張さぁんごめんー!ぼぉっとしてたー!)

(あぁもう。コミケの原稿締め切りやばいんだって!わかってるでしょう!)

(ごめんって!急いで書きなおすから!)

 

「・・・?はて。何かあったんだろか。大丈夫かな?」

 

レ級はタブレットを置くと、ドアへと足を向ける。

そして、廊下へと足を運び、秋雲の部屋の前へと歩みを進めていた。

 

コンコン

 

秋雲の部屋のドアをノックするものの、全く反応がない。

 

「おーい、秋雲ぉ?なんかあったかー?」

 

レ級は心配になったのか、秋雲の部屋のドアを静かに開けていた。

すると、そこには、散らばった原稿と、

机に向かって必死に作業しながら、涙目になっている秋雲と夕張の姿があった。

 

「秋雲ぉ!ここ間違ってる!」

 

「うっそぉ!?うわっ、本当だ・・・」

 

「こっちの原稿のベタやっておくから、直しておいて!」

 

レ級はそんな光景に、ぽーかーんとした表情を浮かべ、立ち尽くしていた。

そして、何気なしに床の原稿を一枚拾って、目を通したのである。

 

(・・・漫画?)

 

レ級が拾ったのは、ネームと言われる原稿である。

まだ荒い線と、あらかたのコマ割りだけであり

それほど本を読んだことのないレ級にとっては、謎の存在であった。

 

(・・・そうか、漫画かいてたのか。締め切りってそういうことねー。

 でも、なんでセリフに「レ級!」と「提督!」って言葉があるんだろう・・?)

 

レ級はそんなネームの中に、不審な点をいくつか見つけていたのである。

まず、明らかに自分らしい姿のラフがかいてあること。

体の横に尻尾が書いてあるので、ほぼレ級の姿で確定であろう。

そして、更に言えば、なぜかセリフに「レ級!」「提督!」と書きなぐった跡があるのだ。

 

「なぁ、秋雲ぉ。忙しい所悪いんだけど、ちょっといい?」

 

「なにっ?忙しいのわかってるのならまたあと・・・で・・・?」

 

秋雲は、ここでようやく自分と夕張以外に、部屋に誰かがいると気づいたのだ。

そして、声のした方向に、ばっと顔を向ける。

もちろん、夕張も同様に、焦った顔で首をひねっていた。

 

「「ゲッ!?レ級!?」」

 

夕張と秋雲は焦ったのか、原稿を更に机の周りに散乱させていた。

そして、レ級はそんな散らばった原稿を一枚、拾い上げていた。

 

「「あっ!ダメ!見ちゃだめ!レ級うううう!」」

 

夕張と秋雲は、同時に原稿へと手を伸ばしていた。

だが、時既に遅し。

レ級は、原稿を見ると、顔を真赤にさせて、体をぷるぷると震わせていたのである。

そんなレ級を見て、秋雲と夕張は、顔を真っ青にさせていた。

 

「秋雲。夕張・・・・んなああああああああああああにこれええええええええ!」

 

「「ひいいいいいいいいいいい!?

  ごめんなさああああああああああああい!」」

 

レ級の手元にあった原稿。それは

通称コミケ、コミックマーケットに「サークル秋雲亭」として出す予定の本。

「レ級×提督」本の原稿だったのである。

 

 

「コミックマーケット?」

 

「「はい、コミックマーケットです。世界最大規模の素晴らしいイベントです。」」

 

「そこにこれを出そうと?」

 

「「はい、そのとおりです。」」

 

「なぜにこれを出そうと?」

 

「「提督と深海棲艦というニュージャンルが受けると思いまして」」

 

「・・・なぜに情事本?」

 

「「いやぁ、このまえレ級さんと提督がキスしてるの見ちゃいまして

  妄想が捗ったっていうか、筆が進んだっていうか!」」

 

「あはは・・・」

 

「「いいでしょう!」」

 

仁王立ちのレ級、正座のサークル秋雲亭(秋雲・夕張)である。

レ級の問に、秋雲と夕張は、まったく同時に、同じことを答えていた。

 

「それにしても、ワタシと提督をモチーフにした本、ねぇ。」

 

「えぇ、生々しく描けてると思いますよ?ねぇ、秋雲。」

 

「だねぇ。執務室で事に至る。燃えない?」

 

レ級は深くため息をつくと、夕雲達へと質問を投げていた。

 

「んまー、事実であるからそこまでは仕方ないとして。

 他の艦娘もよく提督と事情してるけど、そっちは描かないの?」

 

「あぁ、それはもう夏で描いたのよねー。」

 

「うんうん。もうそれこそ何回も。そろそろ違う本出したかったんだよねぇ。

 そんなとこにレ級と提督が飛び込んできたからさぁ!」

 

---ついつい描いちゃってたんだ!

 ほら、あとはベタ塗って整えれば出来上がりなんだ!---

 

秋雲と夕張は声を合わせながら、仕上げに入っている原稿を

レ級へと突き出していた。

レ級は原稿を手で往なすと、ゆっくりと口を開く。

 

「まー、うん。別に本についてはいいや。

 そこまで作ってたら、今更ダメっていうのも酷でしょ?」

 

秋雲と夕張は、思わずガッツポーズをとる。

 

「でも、その本を出す条件を一つ呑んでほしいんだけど。」

 

「なんでしょう?」

 

「そのコミックマーケット、連れて行ってくれない?

 さっき世界最大規模の素晴らしいイベントって言ってたじゃん。

 ちょっと写真撮ってみたいなぁって思ってさ。」

 

レ級は苦笑を浮かべながら、秋雲と夕張に言葉をかけていた。

秋雲と夕張は、レ級の言葉に、怪しく目を光らせると

ゆっくりと口を開いていた。

 

「ほほー。写真、写真ですね。

 確かに素晴らしい写真が撮影できますよ。」

 

「だねぇ。レ級ぅ。いいよー。サークルチケット1枚余ってるから

 一緒にいこう。この秋雲さんが手取り足取り教えるよー。」

 

レ級はそんな2人を見ながら、笑顔を見せつつ、口を開く。

 

「おー、いい写真撮れるの?

 サークルチケット・・?はよくわからないけど

 頼んだ、秋雲。夕張。」

 

「「任されたよ!」」

 

秋雲と夕張は、胸を張って答えていた。

そして間髪入れずに、夕張は、レ級を見ながら口を開く。

 

「あ、ただレ級さん、少し時間あります?」

 

「ん、明日は遅番だから全然時間あるよー。」

 

「それなら、少々お手伝い願っても宜しいでしょうか。

 実は明日締め切りなんです。原稿。このままだと間に合わない・・・!」

 

「・・・そうなの?あそこまで作っておいて?」

 

「「そうなんですよぉ!お願いしますっ!猫の手も借りたいんですぅ!」」

 

夕張と秋雲は、涙目になりながらレ級へと叫んでいた。

 

「おぉ、判った、判った。泣くなって、手伝うから。

 それで、私は何をすればいいの?」

 

レ級は首をかしげながらも、のんびりと構えていた。

 

「「流石レ級さん!それじゃあこっちの机に!」」

 

そんなレ級に、夕張はペンと原稿を手渡す。

そして矢継ぎ早に、レ級へと口を開いていた。

 

「それじゃあ早速!ええとですね、ここをインクで塗ってほしいんです。

 線からはみ出しちゃだめですよ!やり直しになっちゃいます!」

 

「おう、任された。こう見えて結構手先は器用なんだぜー。」

 

「流石ぁ!深海棲艦のエースは伊達じゃないねぇ!」

 

深夜の秋雲の部屋で、3人は淡々と原稿を仕上げていくのであった。

 

戦闘報告。

横須賀鎮守府の深夜、サークル秋雲艦隊。

新メンバーを加えて、イベント海域、哨戒戦、入稿を無事突破。

 




妄想捗りました。

次回予告
緊急指令:E-1 衣装と設営


※この小説を読んでる中にいるかは不明ですが。
 進捗、どうですか?皆様のご武運をお祈り致しております。


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112 有明海域 E-1

無事、コミケの原稿を完成させたサークル秋雲亭のメンツ。
今日は衣装を決めるようです。


 

入稿を終えたレ級と夕張は、のんびりと、間宮であんみつを食べていた。

 

「おいしいなぁ、夕張。」

 

「おいしいねー。レ級。秋雲も遠征じゃなければよかったんだけど。」

 

たっぷりとあんこが乗ったあんみつに、レ級と夕張は思わず笑みを浮かべる。

なお、サークル秋雲の代表、駆逐艦秋雲は、遠征に出てしまっているため

あんみつにありつけないでいた。

 

「まー仕方ねぇって。必要なことなんだろ?

 っと、それはそうとして、コミックマーケットについて詳しく教えてもらっていい?

 前は勢いで行くって言っちゃったけど、どんなところなの?」

 

レ級はもぐもぐと餡蜜を食べながらも、夕張に問いかけていた。

砂糖で煮付けられ、黒光りする黒豆がお気に入りのようである。

 

「そーねー。

 今月末に、有明のビックサイトで行われる同人誌の即売会よ。

 日本で一番大きな規模、かしらね。

 それでいて、他にもアニメとか漫画のキャラクターに仮装した人間がいっぱい来るのよ。

 写真を撮るっていうと、仮装がメインになるかしらね。」

 

「そうなんだ。同人誌っていうと・・・自費出版って考えていいのかな。」

 

レ級は首をかしげつつも、餡蜜を食べつつ夕張に問いかけていた。

 

「ええ、自費出版よ。漫画もあるし、小説もある。

 写真集もあるし、カタログもあるし、あとはグッズなんかもあるわね。」

 

夕張は、片手の指を立てながら、レ級に解説をしていた。

そう、コミックマーケットはほとんど何でもありの即売会である。

純文学から漫画、二次創作物、そして公式企業のグッズと見間違う

個人製作のグッズなどが配布される、とんでもないイベントなのだ。

 

「すっごいな。なんでもありの即売会なんだな。

 ・・・っていうか、写真は人間の仮装を撮る感じになるの?」

 

レ級は少し眉間にシワを寄せつつ、夕張に問いかけていた。

艦娘を撮影するのは好きだが、好んで人間を撮るわけではないのだ。

 

「えぇ、そうよ。

 ・・・でもレ級、人間を甘く見ないほうがいいわよ?

 怪獣とかロボットを100%再現する人もいるし、

 私達の艤装と服装を完全にコピーする人間も居るわ。」

 

「ほぉ?・・・あれ?艦娘の艤装って、情報開示してたっけ?」

 

レ級は首をかしげていた。

夕張はそんなレ級を見ながら、苦笑を浮かべつつ、口を開く。

 

「・・・してないのよねー。でも、彼らの艤装は毎回レベルアップしてきてるわ。

 まったく、どこから情報を仕入れてくるのかなぁ。

 ・・・っと、それはそうとして、それでいて、私達より美人だったり、可愛い人だったり

 私達艦娘から見ても、見惚れる人間がいるのよ。」

 

艦娘からみても美人

その言葉にレ級は反応し、にやりと笑みを浮かべていた。

 

「・・・ほっほぉ?そうなのか!

 それじゃあ気合入れていかなきゃなぁ・・・!」

 

「でしょう?去年ぐらいにいたんだけど

 金剛さんの仮装をしたハーフの人なんかは、本人と見間違うくらいの美しさだったわ。」

 

夕張はそう言うと、餡蜜を口に運ぶ。

こちらは餡蜜に乗っかっている、砂糖漬けのフルーツがお好みであるようだ。

 

「あっ、それはそうとして、レ級。

 私達も仮装するから、この後少し相談したいのだけれど、時間あるかしら?」

 

「お?・・・あるけど、私達も仮装するの?」

 

「えぇ。せっかくのイベントだからね!

 それに、私達の写真は普通に出回ってるから

 このままの格好で行くと、間違いなく混乱するのよ。」

 

夕張は苦笑を浮かべると、レ級に口を開いていた。

レ級は夕張を見つめると、ぼそりと口を開く。

 

「それなら、夕張は龍驤でいいんじゃないか?」

 

レ級の脳裏には、ぺったんの夕張が

ぺったんの龍驤の服を着ている光景が浮かんでいた。

 

「龍驤さんの仮装?確かにやったことないけど、どうしてかしら。」

 

「んー、体型的に?」

 

ふと、夕張は、自分の体型と、龍驤の体型を思い浮かべていた。

背こそ違えど、確かに、姿形は似ているかも、しれない。

 

「・・・あぁ、そういうこと?

 確かに私も胸ないし、そうえいば、龍驤さんはやったことないし・・・。

 うん、そうしようかな。じゃあ、早速龍驤さんの制服発注することにするわ。」

 

「おー、似合うと思うぜ。夕張明るいし。」

 

レ級はそういうと、ほうじ茶をすする。

 

「うん。っと、私の仮装は決まったわね。

 秋雲はまたあとで話すとして・・・・。

 レ級、貴女の衣装も決めなくちゃね。」

 

「私のもか?」

 

「えぇ。深海棲艦のまんま、っていうのも何かダメでしょう?

 艦娘のコスプレをしていけば、会場内も自由に動けるでしょうし。」

 

「あぁー、確かになー。

 私達の情報って、あんまり開示されてないんだったっけ。」

 

レ級と夕張は、お互いに考え込んでいた。

既に餡蜜は食べ終わり、お互いにほうじ茶をすすっている。

そして、思い立ったように夕張が声を発していた。

 

「そうだ、レ級。いつも横須賀の街を歩いている第六駆逐隊の服はどうかしら?」

 

レ級は夕張の言葉を受けて、少し考えるが

眉間にしわを寄せつつ、口を開いていた。

 

「確かにいいとは思うんだけど・・・ただ、さぁ。」

 

レ級はそこまで言うと、自身の尻尾を指差す。

 

「尻尾があるからなぁ。私。

 普通の艦娘の仮装ってきついんじゃない?」

 

「う・・・それ言っちゃうとほとんどの艦娘の仮装がだめじゃない・・・。

 ううん、どうしたらいいのかしら・・・。ねぇ、レ級、その尻尾取れたりしないの?」

 

夕張はダメ元でレ級に問いかけていた。

レ級は目を見開き、頬を引きつらせながら夕張に口を開く。

 

「い、いや、流石にこれは取れないって。

 尻尾の先まで神経繋がってるからね?」

 

「そっかー。どうしよう・・・・。」

 

「うーん・・・。深海棲艦の体が悩ましいぜ・・・。どうしよう?」

 

悩む夕張とレ級であったが、全く良い案が浮かばない。

尻尾を隠そうと思えば思うほど、良い仮装が思いつかないのだ。

 

 

「頭をすっきりさせるためにも、餡蜜でも食べましょうか。」

 

横須賀鎮守府の提督は、執務をあらかた片付け

独り言をつぶやきつつ、足取り軽やかに間宮へと足を運んでいた。

 

『レ級、それじゃあ空母になって尻尾を隠すのはどう?』

『いやぁー。甲板持ってる空母ってスタイルいいじゃん?厳しいって』

『あぁー・・・でも、ギャップもいいんじゃないかしら?』

 

間宮の前に来た所で、提督は足を止めていた。

というのも、レ級と夕張の会話する声が聞こえたからだ。

 

(おや、夕張とレ級とは。珍しいですね。

 せっかくですから、話にまじりに行きますか。)

 

提督はそう考えると、無遠慮に甘味処・間宮のドアを開くのであった。

 

 

「ギャップねぇ・・・。」

 

「そうそう、ギャップです。

 小さい赤城さんとか良くないですか?」

 

レ級と夕張は、未だにレ級の衣装について話し合っていた。

手元には、2杯めの餡蜜に加えて、ゼンザイまで置いてある。

そんな2隻の後ろから、提督がゆっくりと忍び寄っていた。

 

「レ級殿。夕張。なにの話をしているんですか?」

 

「おっ・・!提督殿。ちょっとコミックマーケットの話をしてるんだ。」

 

「あっ!提督!ちょうどアイデアに行き詰まってたんですよー。

 相談に乗ってもらえます?」

 

「かまいませんよ。夕張。

 それにしてもレ級殿、コミックマーケットですか。

 レ級殿もお出になるので?」

 

「んー、夕張と秋雲のお付き合いと、仮装の撮影にいこうかなーって。

 あれ?提督もコミックマーケット知ってるの?」

 

「えぇ、それはもう。

 私自身も、サークル秋雲の大ファンですから。

 ・・・夕張達が書いてる本、全て持っていますよ?」

 

「え”ッ!?・・・・・提督、もしかしなくても内容、読みました?」

 

「それはもう、隅々まで。」

 

一気に顔を青くする夕張。それはそうである。

何せサークル秋雲が出している本は、提督と艦娘の事情本だ。

そのうちの片割れ、本人が自分たちの本を全て読んでいたというのだ。

青くならないわけがない。

 

「ま、安心してください。そんなに私は気にしていませんよ。

 ご希望とあらば、私が直々にお話しましょうか?」

 

提督はにやりと夕張に笑いかけていた。

夕張は両手を前に出しながら、ぶんぶんと首を振る。

 

「い、いえいえっ、足りてます。じゃなくて!

 大丈夫です。問題無いです!」

 

「おや、そうですか・・・。

 それはもう生々しく隅々までお話しようかと思ったのですが。」

 

提督はにやりとした笑みを絶やさない。

そんな提督を見て、夕張は更に顔を青くしていた。

 

「て、提督?怒ってます?怒っちゃってます?よね?」

 

「あははは。怒ってはいませんよ。確かにモチーフは私なのでしょうが。

 漫画としては非常に面白いものです。この冬も期待していますよ?夕張。」

 

「あ・・あはは。わかりました・・・。」

 

提督はにやりとした笑みを浮かべたまま、夕張の顔を見つめていた。

夕張は苦笑を浮かべると、逃げるようにゼンザイを啜る。

 

「それはそうとして、夕張。

 私の事情のことではないとすると、相談とは何だったんですか?」

 

提督は夕張を見ながら、口を開く。

夕張はゼンザイを食べる手を止め、焦ったように口を開いていた。

 

「あっ、そうでした。」

 

夕張はゼンザイを置くと、提督へと顔を向けつつ、

ゼンザイを美味しそうにかっこむレ級を指差していた。

 

「レ級もコミケに連れて行きたいんですが、いまいち良い衣装がないんですよ。 

 どうしてもこの尻尾がジャマで・・・・。」

 

「あぁ、それならば、戦艦レ級として出ればよいのでは無いでしょうか?」

 

提督の何気ない一言に、レ級と夕張は動きを止めていた。

そして、全く同じタイミングで、叫び気味に言葉を提督に投げる。

 

「「えっ?でも、深海棲艦の情報って開示されてないんじゃ!?」」

 

2隻の言葉を受けた提督は、涼しい顔で返答を返す。

 

「あぁ、知らなかったのですか?

 最近写真と動画が開示されましてね。

 そこそこ深海棲艦の姿が広まりつつあるんですよ。」

 

「「そうだったの?」」

 

「えぇ、ですから、別にレ級がそのまま出て行っても

 『最近開示された深海棲艦のコスプレか』という具合で

 目立ちはしますが、混乱はしないと思いますよ。

 どうせ、夕張も他の艦娘の仮装をしていくのでしょう?」

 

提督は夕張を見つめていた。

見つめられた夕張は、提督を見返しながら、口を開く。

 

「えぇ、私は龍驤の予定ですが・・・・」

 

「それなら問題ないでしょう。

 深海棲艦と艦娘の仮装をしたサークル。

 それであれば問題無いと思いますよ。」

 

「なるほど・・・それならレ級。貴女はそのままでいきましょうか!」

 

「う、うーん。納得いくような、いかないような。

 でもまぁ、それでいいってんなら、このまま私は行くぜー。」

 

レ級は一瞬手をふると、笑みを浮かべ、言葉を返していた。

 

「決まったようですね・・・っと。すいません。

 私はそろそろ休憩時間が終わりますので、ここで失礼します。」

 

「提督、ありがとうございます。」

 

「提督殿、ありがとなー!っと、そういえば今日は誰と?」

 

レ級は何気なく提督に質問を投げていた。

提督は苦笑を浮かべると、頭を掻きながら、レ級へと返答を返していた。

 

「いえいえ、お気になさらず。同人誌と仮装、楽しみにしています。

 あぁ、今日は大和ですよ。最近放っておきすぎましたからね。」

 

提督はそう言うと、間宮を後にするのであった。

 

 

レ級と夕張は、提督が出て行った食堂で顔を見合わせ、大きく笑い声をあげていた。

 

「まさか提督がサークル秋雲亭のファンだったなんて・・・。あはは。」

 

と夕張、その顔は笑顔である。

 

「だなぁ。夕張と秋雲のサークルすげぇんだなぁ。

 そういえば、本って毎年どのぐらい配布するの?」

 

何気なしにレ級は夕張へ質問を投げかける。

夕張は首をかしげながら考えていたが、レ級の目を見据えてゆっくりと口を開いた。

 

「そうねぇ・・・。大体だけど、毎回8000部ぐらいは出るかしら。

 艦娘のリアルな事情を描くサークルって少ないしね。

 何より、本物の艦娘じゃないの?って噂になってるから、余計にね。」

 

夕張は苦笑を浮かべていた。

そう、何を隠そう、サークル秋雲亭は知る人ぞ知るサークルなのだ。

提督との情事をリアルに描く作品を毎度毎度常連のごとく配布し

それでいて、美人の作家2人が売り子であり、毎度毎度艦娘のコスプレをするのだ。

そして何よりも、実はこのサークル秋雲亭は

「艦娘」本人ではないかという噂も立っているのである。

 

「ほー、そうなのか。

 じゃあ今回からは、艦娘と深海棲艦が作っているサークルって噂立つかもなぁ。

 そうしたら、もっと配布数伸びるんじゃないのか?」

 

レ級は苦笑を浮かべる夕張を見ながら、笑顔で口を開いていた。

 

「うーん、私と秋雲からすると、そこで人気を高めたくはないのよ。

 艦娘じゃなくて、人間の作家として見てほしいの。

 作品が面白いって言ってほしいのよ。

 レ級だって、写真を褒められたいのに、

 レ級がとった写真だからすごい、って言われるの嫌でしょう?」

 

「あぁー、確かになぁ。

 褒められるなら色眼鏡なしでほめてほしい。

 まぁ、今の艦娘と深海棲艦の関係じゃ無理だろうけどねぇ。」

 

「それと同じようなものよ。

 私達サークル秋雲亭は、そんな艦娘のためのサークルなの。

 あぁ、だから、レ級。もしよかったらなんだけどさ。」

 

夕張は一旦言葉を区切り、レ級の目を見据えて口を開いた。

 

「今度、夏のイベント、レ級も本出してみない?」

 

「・・・私はイラストかけないぜ?」

 

「ふふ、そう言うと思ったわ。

 でも、さっきも言ったとおり、コミケって絵だけじゃないの。

 グッズもあるし、写真集もあるのよ。

 だからさ、レ級の撮った艦娘の写真を出すってのはどうかなって思ってさ。」

 

夕張の言葉に、レ級は目を見開いていた。

そう、レ級は初めて、深海棲艦の撮った写真というレッテルをはらずに

平等に写真を評価してくれる場を、見つけたのである。

 

「・・・ふふふ。いいなそれ!夕張ぃ!

 わかった、来年、私も本を出すぜ!」

 

「やった!レ級さん、期待してますよ!

 もし、製本するときにわからないこととかあったら、すぐに聞いてね。

 あぁ、それと、私達のサークルは18禁っていう扱いだから、

 過激すぎなければ、写真はほぼなんでもいけるわ。」

 

「へぇー。じゃあ、これは?」

 

レ級はそう言うと、タブレットを取り出し、

阿武隈の濡れ透け中破写真を夕張に見せていた。

夕張は一瞬顔を赤くさせるものの、まじまじと写真を観察する。

 

「んー・・・そうね、かなり肌蹴てはいるけど、具は出ていないから・・・

 問題ないと思うわ。ただ、これ以上の露出となると厳しいかなぁ。

 というかレ級さん、結構セクシーな写真持ってるんですねー。」

 

「ん、おぉ。砲弾投げ返し始めてから結構撮ってるぜ。

 他に金剛姉妹とか、第六駆逐隊とか・・・・。」

 

レ級はそう言いながら、タブレットを操作し、夕張に次々を写真を見せつけていた。

 

「わ、すごい。金剛さんもこんな・・・て、第六駆逐隊は完全に犯罪の匂いが・・・

 ってぇ!レ級さん、この写真はっ・・・!」

 

夕張は顔を真赤にさせ、一枚の写真に釘付けになっていた。

 

「あぁ、これか?この前の演習だぜー。

 模擬弾の至近弾食らって、夕張の上半身の服がふっとんだ奴。」

 

タブレットには、上半身が露わになり、

下半身のスカートも肌蹴ている夕張の姿が映し出されていた。

もちろん、濡れ透けどころか、ほぼ直球のヌード写真である。

 

「わー!わー!ここ食堂っ!写真隠してよ、レ級。早くっ。」

 

「あ、そうだった。ごめんごめん。」

 

レ級はそう言うと、タブレットの電源を落とし、格納庫へとタブレットを仕舞い込んだ。

夕張は真っ赤な顔のまま、レ級へと口を開いていた。

 

「まったく!いつの間にあんな写真を・・・確かにこの前の演習でああなったけど!

 ・・・って、もしかしてレ級さん、まさか写真集に

私のこの、半裸の写真を載っけるつもりじゃぁ・・・」

 

「あったりまえだろ?・・・今回、お前らは、私の情事本出すんだ。

 まさか嫌とは言わねぇよなー?」

 

レ級は夕張の言葉に、にやりと口角を上げながら、小さくつぶやく。

夕張は反論できずに、口をぱくぱくとさせるだけであった。




妄想捗りました。なんぞこれぇ。


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113 有明海域  E-2

ついにやってきてしまった大規模イベント。
物量が物量なために、サークル秋雲亭は、前日搬入を行うようです。

誤字修正いたしました。金金。


先の衣装の話し合いから数日。

ついに、運命の年末・・・冬のコミックサーケットが翌日に迫っていた。

そんなイベントの前日、サークル秋雲の面々は、鎮守府に無事届いた製本を検品し、

早速、前日搬入のため、鎮守府の車を借りだし、会場へと向かっていた。

 

「いんやぁ・・・秋雲、夕張。8000部の検品て鬼のよう・・・だなぁ。

 毎回こんなことしてるのかよぉ・・・」

 

レ級は夕張の運転する車の後部座席で、

思いっきり椅子を倒しながら、疲れた顔でつぶやいていた。

朝まで秋雲と夕張と共に、同人誌を検品していたレ級は、文字通り徹夜明けで疲れていたのだ。

そんなレ級を見ながら、秋雲と夕張は笑い声をあげていた。

 

「あははっ、何を言ってるの。今回3人だからすごく早かったのよ?」

 

「そうなんだぜぇ、レ級。いつもならもう2,3日は徹夜してるからな!あははっ」

 

「まじかよぉ・・・・。っていうか、お前ら本気で何者だよぉ・・・。

 なんで私より寝てないのに、お前らそんなに元気なんだよぉ。」

 

レ級は未だ倒した椅子に寄りかかりながらつぶやいていた。

なお、レ級は徹夜2日目、秋雲と夕張は徹夜4日めである。

普通であれば秋雲と夕張の体力が、レ級フラッグシップ改よりも先に尽きるはずであるのだが、

いま現状、レ級がつらそうな顔で椅子を倒し、秋雲と夕張はなんと普通に

隈一つ無い顔で、会話をしながら車の運転を交代で行っているのだ。

 

「えっ、コミケの前ってこんなもんじゃない?ねぇ。秋雲。」

 

夕張は笑顔で運転しながらも、口を開いていた。

そして、同意するように、秋雲も続けて、レ級を見ながら口を開く。

 

「そうだなぁ。月月火水木金金よりは全然ましだぜ?レ級。

 っていうかレ級さぁ、お前レ級フラッグシップ改とかいってなかったっけ?

 なんで私達、普通の艦娘よりも、体力ないんだよー。」

 

レ級はそんな2隻の言葉に、上半身を起こすと

呆れ顔で2隻を見ながら口を開いていた。

 

「いや、確かに私はフラッグシップ改だけど・・・。

 でもな?無理なことってあるんだぜ?」

 

「えー」

「ええー」

 

「えーじゃないって。無理なものは無理なんだ。

 4日徹夜とか深海棲艦でもできる奴いねーって・・・。」

 

「「あんなに強いのに、納得いかない」」

 

「いや、持続力はあんまり・・・うん、まぁいいや・・・」

 

レ級は呆れた顔で、秋雲を夕張を見つめると、ひとつ大きく伸びをしながら、

椅子の背もたれの位置を直し、改めて椅子に座り直していた。

そして、不思議そうな顔をしながら、秋雲と夕張に質問を投げかけていた。

 

「そういえば夕張と秋雲ぉ。今どこに向かってるんだ?

 近場とか言ってたけど。」

 

夕張は、運転を続けたまま、レ級の問に答えていた。

 

「えぇとね。有明。明日私達が本を配布する場所よ。」

 

レ級は首をかしげながら、更に問を投げる。

 

「ほぉ・・・?あれ、そこってどこだっけ?

 でも明日だよ?なんで今日、向かってるんだ?」

 

夕張は運転を続けつつも、笑顔になりながらレ級に話しかける。

 

「場所は国際展示場ね。通称ビックサイトよ。

 まぁ。本番は明日だけどね。なにせ部数が多いから事前に搬入するの。」

 

「あぁ、なるほどな。・・・確かに8千部あるもんなぁ。

 それで全部、無理やりこの車に詰め込んだわけね・・・・」

 

レ級はそう言いながら、トランクに朝、3隻で検品しつつ、

車に積みこんだ大量の段ボール箱を横目に見ていた。

そんなレ級を見ながら、今度は秋雲がレ級に口を開いていた。

 

「そーいうことだぜぇ。8千部もあるとな本当設営も大変だからな!

 ってことでレ級。今日と明日、よろしく頼んだぜ?

 8000部となると、そこそこ時間かかるから、3人で設営と配布しなきゃいけないからな!

 レ級初めてだからかもしれないけど、驚くぞー。トイレに行く暇もないんだから!」

 

「なるほどなぁ・・・。

 そっか、私も一緒に、トイレも行く暇もなく、

 8000部の設営の手伝いと、配布をするのかー。」

 

レ級はなるほど、といったように手を合わせていた。

そして、車の前席の、夕張と秋雲の間に顔をぐいっと入れると

ボソリと一言、つぶやいていた。

 

「つまりそれは、私、配布の終わりの時間によっては

 コスプレの写真撮れないって奴では?」

 

「「あっ」」

 

「あっ、じゃねーよ。」

 

レ級はため息をつくと、後部座席へと改めて座り直していた。

そして、腕を組むと、ゆっくりと口を開く。

 

「秋雲ぉ、夕張ぃ・・・。頼むぜー。私に相談なく決めないでくれよぉ。」

 

レ級の言葉に、秋雲と夕張は体を固くしつつ、青い顔をしながら、レ級を見つめる。

そして、レ級はそんな2隻を見ると、やれやれと、首を振りながら言葉を続けていた。

 

「・・・・ま、今回は私も聞くの忘れてたし、お互い様ってことで、いいけどさ。」

 

「「レ級さんの優しさに感謝いたします。本当っ!」」

 

夕張と秋雲は青い顔から一転、笑顔になりながら、車の前席で大声を上げるのであった。

 

 

レ級達を載せた車は、無事、国際展示場へと到着。

そして、搬入のために、東ホールのサークル設置場所の前まで、車を進めていた。

 

「うぉおお!!!すげぇー!秋雲っ、夕張!

 国際展示場ってでっけーなー!」

 

レ級は車から降りると、両手を大きく上げながら、叫んでいた。

そんなレ級に、当然の如く多数の注目が集まる。

 

そして更に、注目を集める事態が起きる。

 

「こら、レ級。迷惑になるから、大声をあげないの。

 さっ、早く搬入終わらせましょう。」

 

「そうだぜー。他の業者とかサークルもいるからな。

 さっさとおろしちまおう。」

 

夕張と秋雲が、私服姿で車から降りてきたのである。

はたから見れば、色白の少女(レ級)、そして健康的な肌色の少女(秋雲)と女性(夕張)だ。

全員顔立ちが整い、そしてなおかつ、

普段海で戦っているからか、無駄な贅肉など一切ない体である。

つまり、美人の3人の女性が車から降りて、設営を行っているのだ。

 

・・・コミックマーケットの壁際で。

 

コミックマーケットの壁際。通称:壁サークル。

最大手のサークルの証明であり、行列ができてもいいように壁際に配置されいているサークルだ。

更に言えば、この壁サークルのひとつであるサークル秋雲は、美人の2人が作者で

自ら艦娘のコスプレをしながら売り子をするということで有名なのである。

今日は更にそこに、なぞの色白の少女・・・なぜか尻尾が付いているが少女が、お手伝いをしているのだ。

 

「レ級!そっちのダンボールは右において。うん、そう。」

 

「ふおお・・・搬入もなかなか大変だなぁ・・・。」

 

夕張は自ら荷物を運びながら、レ級に指示を飛ばす。

レ級は器用に手と尾っぽてダンボールを運搬しながら、おとなしく夕張の指示に従っていた。

 

「秋雲、ビニール袋あったっけ?」

 

「大丈夫、夕張さん、もってきてるよ!

 片付け用のカート分と、あとポスターぐらいでいいんだよな?」

 

「それで大丈夫。あ、そうだ、今のうちにチラシまとめておきましょ。」

 

「へーい。」

 

秋雲はテーブルの上においてあったチラシを、

同じくテーブルの上においてあった大きな袋に詰め込んでいた。

コミケではサークル向けに、チラシが多数配られるため、

前日搬入の時に片付けてしまうのが楽なのだ。

 

「夕張ぃー。こっちのダンボールはどこにおけばいいー?」

 

レ級はそんな秋雲を尻目に、ダンボールを黙々と運び続けていた。

 

「そうね・・・それは壁際でお願い。」

 

「へーい。どんどん私を使っていいぜー。深海棲艦パワー!」

 

レ級はそう言いながら、尾っぽと腕で合計4つのダンボールを持つと

見事に夕張に言われたとおり、壁際にダンボールを置いていく。

 

『あそこ・・・サークル秋雲さんかぁ。いつみても可愛いなぁ。

 しかもあの搬入数・・・いつか追いつきたいな』

 

『いつも見ない子いるけど、誰かしら?

 明日、売り子するのかなぁ・・・。でも、見てると癒やされるなー。」 

 

そして、そんなサークル秋雲を見ながら、周りの同好の士達はすこしばかり

癒やされるのであった。

 

 

レ級達は無事に事前搬入を終え、国際展示場を後にしていた。

 

「レ級、助かったわぁー。いつも2人で時間ぎりぎりなんだよねー」

 

「本当。レ級がいたおかげで無事に事前搬入が終えられたわ。

 ありがとう。あとは明日の売り子もお願いねー」

 

レ級は車の後部座席で、椅子をおもいっきり倒し

首を後ろに傾けたまま、片手を上げると、ゆっくりと口を開く。

 

「うーい・・・。疲れたわぁ。

 徹夜明けであの運搬は、無いって・・・・眠ぃ」

 

8000冊の同人誌の入ったダンボールを運んだレ級は、くったくたである。

もちろん夕張と秋雲も運んだのではあるが、レ級はその数倍を一人で運んでいた。

戦艦レ級の、戦艦である馬力の無駄な有効活用である。

 

体力を使い果たしたレ級を見ながら、夕張は笑顔で口を開いていた。

 

「あはは、大丈夫。今日はゆっくり寝れるから。」

 

レ級は片手を上げた姿勢のまま、夕張に言葉を返す。

 

「んぉ・・・?そうなの?

 でも、鎮守府にはこっからじゃ結構かかかるんじゃねーの?」

 

「大丈夫だよレ級ぅ!私たちは毎年この時期にここにきてんだぜ?

 ホテルの一つぐらい確保してあるに決まってんじゃん」

 

「・・・そうなのっ!?」

 

レ級はそう叫ぶと、上半身を勢い良く起こしていた。

すると、秋雲がいい笑顔で、レ級にサムズアップしていた。

 

「朝0700に起きたって余裕でイベントに間に合うんだ。最高だろ?」

 

「最高だそれ・・・なんだよ0700って、がっつり寝れんじゃん!」

 

レ級はテンションを上げながら、笑顔で叫んでいた。

 

「ふふ、イベントの時だけの特権よ。

 それじゃあ、いざホテルへゆかん、ってね。」

 

夕張はそう言うと、アクセルを踏み込み、車を加速させる。

目的地は新橋泊地。最終海域直前の、憩いの場である。

 




妄想捗りました。

大規模イベント、足を運んでいただいた方。有難うございます。
またいずれ、機会があればしっかりとした本を描きます。


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114 有明海域  E-3 前哨戦

新橋泊地のホテルにINしたレ級達。
3人1部屋で、ゆったりと過ごすようです。


 

ホテルのチェックインを無事終えて、夕張、秋雲、レ級の面々は

無事に新橋泊地の部屋に到着する。

そして、早速レ級が、いの一番に部屋の中に突進していた。

 

「おぉ、すっげぇなー!鎮守府の宿舎より豪勢じゃん!」

 

「そりゃあそうよ。客人を迎える施設だもん。

 秋雲、レ級。明日の準備をして、寝る準備しましょ?」

 

「はいよー!よっしゃ、早速カメラのメンテナンスだー!。」

 

「わかったよ、夕張。それじゃーあたしは先に風呂はいっちゃうわー」

 

ホテルの部屋はふっかふかのベットが3つ。そして大きな窓に、姿見まで完備してあり、

更に、冷蔵庫の中には酒まで完備してあるという、一日過ごす分には、素晴らしい部屋である。

 

「いんやぁー、それにしても、疲れたぁー!」

 

レ級はカメラバックを床に置くと、大きく伸びをしていた。

数日前から徹夜をし、今日は朝から荷物を積み込み

自分の衣装と、カメラを運搬していたレ級である。

疲れるのも仕方がなかった。

 

そして、伸びを終えたレ級は、カメラバックから

カメラを2台ほど取り出していた。

今回、レ級がコミックマーケットに際し持ってきたレンズは

人物撮影ということで、潔く単焦点を2本だけ。

少し広角で撮るための35ミリと、

人物のバストアップよりもアップの写真を取るための85ミリのレンズである。

 

そして、そんなレ級を横目に、荷物を解き終わった夕張は、

ベットに腰掛けながらも、レ級のカメラに興味津々である。

 

「わぁ、レ級。すごいカメラ持ってきたわね。

 ちょっと見せてもらっても良い?」

 

「んぉ?いつも演習を撮ってるカメラだぜ?別にいつもとかわんねーけど。

 ま、いいぜ、なかなか見せる機会ないし。」

 

レ級はそう言うと、笑顔で夕張にカメラを渡す。

夕張は、少し緊張した面持ちでカメラを受け取っていた。

 

なにせこのカメラは、もともとが帝国海軍が威信をかけて作ったカメラであり

今ではレ級フラッグシップ改の宝物とも言えるカメラである。

落としたり、壊したりしたら、間違いなく切腹ものである。

 

「わ・・・結構重いのね。」

 

夕張はつぶやきながら、レ級のカメラを観察していく。

ほぼ真四角とも言える本体には、多数のボタンとダイヤルが配置され

カメラ素人である夕張には、何のことかはまったく不明だ。

巨大な水晶球のようなレンズには、おそらくピント合わせのためであろう数字と

真っ赤なラインが一本入っている。

 

「ボタンとダイヤルがいっぱいね・・・どう使うのか全然わからないわ。

 ねぇ、レ級。一回シャッター切ってもいいかしら?」

 

「あはは、だろーなー。だって、夕張カメラ詳しくないもんな。

 私も使いこなせてねーもん。ま、とりあえず電源はそこのレバーな。」

 

夕張はレ級に言われたとおりに、電源のレバーを爪ではねる。

すると、カメラの右上面にある液晶画面に、数字の羅列が表示される。

 

「何か液晶に数字がいっぱい出たけど・・・これで電源は入ったのかしら?」

 

「そうそう。それで電源入ったんだ。

 数字の意味とかはいろいろあるんだけど、ここで説明すると長くなるからな。

 とりあえず、それでシャッターは切れるぜ。シャッターのボタンは右上面のソレな」

 

夕張は言われたとおりに、シャッターのレリーズを人差し指で押し込んでいた。

 

カシャン!

 

カメラからシャッターが切れる音とともに、

夕張の手に、確かなシャッターの感触が伝わっていた。

 

「わぁ・・・!なにこの感触。何かくせになりそう!」

 

夕張はカメラを手に持ちながら、思わず笑顔で叫んでいた。

 

「あはは、夕張、良い反応するなぁ!いいだろ。

 私もそのシャッターの感触で、カメラに惚れちゃったからねー。

 どうだい、夕張。せっかくだし、カメラはじめてみるか?」

 

「んー・・・そうねぇ。私は写真!っていうよりも、絵を書きたいからパス。」

 

「そっかー。ま、確かに夕張の絵の腕すげーしなぁ。

 そうしたら、夕張。お互いもっと腕上げていこうぜ。」

 

「えぇ!そうね。あ、ただ、時々はカメラ触らせてもらってもいいかしら。

 時々はちょっと、その、シャッターの感触に触れたいっていうか。」

 

夕張は恥ずかしそうに顔を赤らめながら、レ級に口を開いていた。

レ級はそんな夕張を見ながら、笑顔で口を開く。

 

「いいぜ。もちろん。」

 

「あは、ありがとう。レ級!」

 

夕張はそう言うと、カメラをレ級に差し出していた。

レ級はカメラを受け取りながら、夕張の顔を見つめながら、口を開く。

 

「そういえば夕張。明日売り子って言ってたけど、私何すりゃいいんだ?」

 

「あぁ、そういえばあまり説明してなかったわね。

 えーと、まぁ、ブースの中で、本を手渡してもらえればいいわよ。

 お金の勘定とか、列の整理とかは私たちに任せておいて。」

 

「・・・渡すだけでいいのか?」

 

「えぇ。ま、渡すときに、ありがとうございます。またよろしくお願いします。って

 一言付け加えてもらえればいいわね。あとはいつものレ級で大丈夫よ。」

 

「そう?そのぐらいなら任せてくれ!

 っていうか、そうなると、本を渡すのは私だけ、か?」

 

「んー、そうなるかしらね。列は私が管理するし、お金は秋雲が管理するわ。」

 

「でもよぉ?夕張、それってさぁ・・・」

 

レ級はそこで一旦言葉を区切ると、少し赤い顔を夕張に向けていた。

 

「私の情事本、私が手渡すってことになるんだよな?

 それ、結構恥ずかしいんだけど。」

 

「あはは、何をいってるのよレ級!あなたが主役の本なんだから、

 あなたが売り子をすれば、みんな喜ぶに決まってるじゃない。

 ここまで来たんだから、少しぐらいの恥ずかしさは我慢しなさいよ。」

 

「うへぇ・・・。まぁ、ここまで来たしなー。

 OK,恥ずかしいのはちょっと置いといて、売り子がんばる。」

 

レ級はそう言いながら、カメラをカバンにしまい込むと、

頬を赤くさせたまま、ベットへと潜り込んでいた。

 

「あら、レ級、もう寝ちゃうの?お風呂はどうする?」

 

「ンー、先にねるー。

 流石にもう眠いって。朝風呂にでもはいるさー」

 

「あら、そう。まー、引っ張り回しちゃったしね。

 私は秋雲と明日の打ち合わせをしてから寝るから、ゆっくり休んでね。」

 

「んー。」

 

レ級はベッドから手だけを出すと、夕張の言葉に答えていた。

そして、その直後、レ級の規則正しい寝息がホテルの部屋に静かに響くのであった。

 

 

「いやぁー!ホテルの風呂はいいねぇ。」

 

秋雲は体から湯気を立ち上らせながら、

体をバスタオルで包んだ姿で部屋へと戻ってきていた。

 

「あら、お帰りなさい。秋雲。

 ちょっと明日の打ち合わせしない?」

 

「おっ、そうだなー。っと、その前にビールを一本っと・・・」

 

秋雲はそういいながら、ホテルの冷蔵庫を開け、中から缶ビールを取り出すと

プシュっといい音をさせながら、缶のプルタブを引き上げる。

そして腰に手を上げながら、勢い良く缶を口につけた。

 

ゴッゴッゴッゴッ

 

秋雲の喉からビールを流し込むいい音が聞こえ、次の瞬間

 

「っくぅー!コレだよコレ!風呂あがりの酒はいいねぇ!」

 

「秋雲ー。おっさんみたいよ?」

 

「いーのいーの。夕張さんしかいないんだから。

 他の駆逐艦たちがいたらできないけどねー。」

 

秋雲は缶ビールをひらひらと揺らしながら、ベットに腰を下ろすと

一口ビールに口をつけつつ、レ級が眠るベットを指差していた。

 

「あれ?レ級はもう寝ちゃった?」

 

「えぇ、2徹は辛かったみたい。」

 

「そっかー、ま、コミケ初参加だしな。

 それにしても、今更だけど不思議だよなー。

 敵である深海棲艦と一緒に、コミケに出れるなんて。

 しかも、話を聞くと、みんなから恐れられるレ級の最上級個体だぜ?」

 

秋雲はビールをぐいぐいと煽りながらも、言葉を続ける。

 

「そんなのが、写真を撮りまくって、なんかしらねーけど鎮守府に住み着いて。

 しかも深海棲艦の姫も2隻ついてきてる。レ級って本当何者なんだろーなー。」

 

「そう言われるとそうね。飛行場姫と北方棲姫も横須賀の街に馴染んでるし、

 敵意も何もないしね。まっ、その御蔭で、最高の売り子さんをゲットできたわけだけどね。」

 

「あはは、確かに。レ級本でレ級が売り子をするなんて、他のところじゃできないしな!

 くくくっ。私達の本を買いに来る同好の士の顔が楽しみだぜ・・・!」

 

「悪い顔になってるわよ、秋雲。

 ま、でも、確かに楽しみね。あ、あと提案なんだけど、明日昼回ったら

 レ級にコスプレ撮らせに行かせない?もともとそういう約束だし。」

 

夕張はにやりと笑みを浮かべていた。

 

「んー?別にいいけど。私達だけでも捌けるしな。

 でも、1人で歩かせたら危なくないかな?」

 

秋雲は不思議そうな顔を夕張に向ける。

それもそうである。レ級は初のコミケだ。

しかも、レ級は本人であるため、造形、衣装、全てにおいて、

コスプレというレベルを超えているのだ。

そんなのがキョロキョロと、コミケ会場を歩いていたらどうなるか。

 

「間違いなく危ないでしょうね。

 注目の的になるでしょうし、写真を撮りにコスプレのエリアにいこうものなら

 間違いなくレ級を撮影するために列や円ができること間違いなしよ。」

 

間違いなく、大混乱である。

しかも練兵ならば捌き方を知っているだろうが、

コミケにおいて、もう一度言うがレ級は初心者もいいところである。

 

「いや、夕張さん。やっぱりさぁ、

 流石にレ級を1人で歩かせるのはどうかと思うぜー?」

 

秋雲は、コミケを一人で歩くレ級を想像して、

夕張の案を止めに入っていた。

大混乱を起こし、そして、もしかすると本人とバレル可能性すらあるのだ。

 

「うーん、別にそうならないと思うけどなぁ。

 レ級も常識は弁えてるし、撮影も数こなしてるし、

 街にも繰り出してるから、全然大丈夫だと思うわよ?」

 

「んんー・・・夕張さんがそこまで言うなら、それでいいけど。」

 

「大丈夫よ。何かあったら私達がすぐに向かえばいいんだし。

 なにより、レ級って監視の名目で、

 いっつも横須賀の街にいつも閉じ込められてるでしょう?

 レ級にも純粋に、コミケを楽しんで欲しいからね。

 下手に拘束しておくよりも、自由に歩かせたほうがいいのよ。」

 

「なるほどー。夕張さんも考えてるんだなぁ。

 私はついうっかり、面白いことをおこしそうだから、

 レ級を野放しにするのかとおもってたわ。」

 

秋雲は笑みを浮かべつつ、夕張を見る。

すると、夕張は少しバツの悪そうな笑みを浮かべながら、口を開いていた。

 

「・・・実は半分ぐらい、何か起こってもいいかなーって思ってる。」

 

「どうせそんなこったろうと思ったよ!ま、確かにレ級、面白いこと起こしそうだしな!」

 

 

あはは、と夕張と秋雲は笑い合う。

コミックマーケット前日、新橋泊地での一幕であった。

 

 

----そして、同好の士、運命の日。

コミックマーケットは、深海棲艦との戦闘状態である今日も、

何事もなかったように、開幕を迎える。

 

有明海域 メインイベント、E-4。開幕である。




妄想捗りました。
次回、ようやくメインイベントです。

年越し前になんとか書き納めしたいところ。


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115 有明海域 E-4

描き納め間に合わず、描き初め。
あけました。おめでとうございます。

戦時中、深海棲艦との戦いの中でも繰り広げられるコミックマーケット。
人間の情熱と希望を、レ級は肌で感じるようです。


『「ただいまより、コミックマーケット○○を開催します」』

 

そんなアナウンスに合わせて、国際展示場全体から、大きな拍手が鳴り響く。

もちろん、サークル秋雲の3隻も、サークル秋雲に並ぶ先行列の人も同様に

笑顔を浮かべながら、拍手を続けていた。

 

---そして、次々と各サークルが配布を始めるさなか、

サークル秋雲亭も、配布をついに開始させる。

 

「新刊5冊に、既刊を各1冊づつお願いします!」

 

「はぁい!それじゃあお兄さん、合計で10冊ね!

 ええと、既刊が2500円に、新刊5000円で7500円よろしく!」

 

「8000円でお願いします。」

 

「はーい。それじゃあ5百円のお返しね。

 レ級、商品を渡してあげて。」

 

「おう。有難うございます。またよろしくお願いします。」

 

「こちらこそありがとう!いやぁ、新しい売り子さん、美人ですねー。

 レ級でしたっけ。最近情報公開されたのに、凄い完成度!」

 

「でしょー?あとでコスプレエリアにも行くんで、またよろしくね!

次の方はー!?」

 

「新刊5冊お願いします。」

 

「はーい。それじゃあ5000円です。ありがとね!」

 

「有難うございます。またよろしくお願いします!」

 

「こちらこそ!可愛いね!がんばってくださいね!」

 

「・・・おっ、おう!ありがとう!」

 

一般参加者の対応をする、第六駆逐隊のコスプレをした秋雲、

そして物品を手渡す、いつもの姿のレ級。

そして、

 

「最後尾はこちらでーす!

 あっ、お兄さん、そこは前列!

 サークル秋雲の最後尾はこっちでーす!」

 

「そこっ、ちゃんと守ってー!3列で!もっとつめてー!

 同人誌一枚分でも詰めてくれたらもっと並べまーす!」

 

「並ばないと艦載機で爆撃しまーす!

 嫌だったらちゃんとならびーやー!」

 

コミケスタッフに混じって、列の整理をする、

龍驤コスプレの夕張の姿があった。

 

(うわー、龍驤のコスプレの人かっわいいなー。 

 スタッフさんかな?)

(いや、スタッフ証つけてないからサークル秋雲さんのレイヤーさんじゃないかな)

(なんだお前知らないの?あれがサークル秋雲さんのイラストレーターの一人だよ。

 美人、絵もうまい、コスプレも可愛い。サークルの人気の原因のひとつだよ)

 

「そこっ!話もいいけれどちゃんと前を見てくださーい! 

 前を見て航行しないと艦首切断してしまいますよー!」

 

(かっわいいなぁ・・・)

 

一般参加者はそんな夕張たちを見ながら、ほんわかと癒やされていた。

サークル秋雲亭。今回のコミケでも、大人気である。

 

 

(すっげぇ・・・飛ぶように売れる・・・。

 すんげぇなぁ、秋雲と夕張って・・・・)

 

次々に消えていく在庫の山を尻目に見ながら

レ級は次々と同人誌を一般参加者に配布していく。

夕張に言われたとおり、渡すときに必ず

 

「有難うございます!またよろしくお願いします!」

 

と、参加者の顔を見て笑顔でハキハキと喋ると

一般参加者は笑顔で「がんばってね!」と声をかけてくれる。

 

(不思議な空間だなぁ。みんなルールを守ってどんどん機敏に動いていく。

 人間って、不思議な生き物だなぁ・・・。)

 

配布開始から未だ10分程度であるが、

既に300冊を超える本が捌けていた。

そして、レ級は次々に笑顔で本を更に配布していく。

 

「すっげー!完成度高いっすね!」

 

「あはは・・・ありがとうございます!

またよろしくお願いします!」

 

「次回も楽しみにしています!では!」

 

「レ級!次新刊5の既刊1冊全部!」

 

「あいよぉ!」

 

レ級は笑顔のまま、更に袋詰をする。

最初のうちは手慣れていなかったのか、少し戸惑っていたが

そこは深海棲艦の最高峰、レ級である。

わずか数分で袋詰と手渡すコツを覚えていたのだ。

しかも金銭のやり取りは秋雲が手早くやってくれているため

レ級は秋雲の言われたとおりに、袋詰し、手渡し、笑顔で送り出す。

その間わずか、一人に付き10秒とかからぬ早業である。

 

「またよろしくおねがいします!」

 

レ級は既に数十回と繰り返した挨拶を更に更にと繰り返していく。

戦艦の馬力、耐久力、持久力。全てを総動員した動きだ。

おそらく、金剛との演習や、写真撮影以上に精密に動いている。

 

(ふおおお!もう100人はいくぞ・・!

 ってまだ1時間たってねぇー!しかも行列なくなってねぇ!?

 はんぱねーよー!人間の情熱っ!コミックマーケットぉお!?)

 

レ級は内心で叫びながらも、変わらぬペースで同人誌をさばく。

少し額に汗を浮かべながら、笑顔で、一般参加者にどんどん同人誌をさばく。

 

(((この売り子さん、かっわいいなぁ・・・・!)))

 

同時に、確実に男性、女性関係なく一般参加者の心を笑顔で打ち抜いていくレ級。

自覚ないままに、確実にサークル秋雲亭と、

未だ数の少ない、ジャンル:深海棲艦のファンを増やしていくのであった。

 

夕張とスタッフ・・・、正確には龍驤コスプレの1人と1隻は、

列の最後尾についたまま、すこしばかり雑談をしていた。

 

「サークル秋雲亭、最後尾はこちらでーす!

 このまな板のサンドイッチ龍驤が目印でーす!」

 

最後尾、と書かれた看板を体の前と後ろに貼りだした夕張は

そう叫びながら、確実に列を形成させつつ

スタッフとともに、列をどんどんと送り出していく。

 

「いやぁ、それにしてもすごいですね、サークル秋雲亭。

 去年より列長くなってるじゃないですか。」

 

「あはは・・・。嬉しい限りなんですけれど・・・。

 これじゃあ、確実に、物がなくなっちゃいますね・・・。」

 

「あら、今回は何部持ち込んだんですか?

 ・・・ってそこー!横入りしなーい!

 単縦陣の中に入ったら衝突事故起こしますよー!

 確実に後ろについて隊列を守ってくださーい!」

 

さすがのスタッフ、少し雑談をしながらも、列の監視はバッチリである。

 

「流石ですねー。

 っと、今回は新刊8000に既刊が2000です。

 でも、この様子だと2時過ぎぐらいには完売かなぁ・・・。 

 はーい!こちらの列はサークル秋雲亭でーす!

 最後尾はコチラでーす!」

 

「おお、増えてる!8000かぁ、すごいなぁ。

 それでもこの行列じゃなくなりますね。

 次、1万とか用意したらいかがです?

 はーい!ここサークル秋雲亭の最後尾でーす!

 ダブル龍驤が目印でーす!並ぶときは確実に隊列を守ってくださーい!」

 

龍驤コスの2人と目印に、どんどんと更に列を作っていく一般参加者。

そんな参加者達をどんどんとまとめて行く夕張とスタッフ。

 

「1万かぁ・・・そこまでいくと仕事に支障が出ちゃうんですよね・・・・。

 うーん、どうしようかなぁ。」

 

「あぁ・・・ま、仕事に支障が出るならやめておいたほうが懸命ですねー。

 そういえば、今回随分かわいい子が売り子してましたけど、お知り合いですか?」

 

スタッフは夕張に小声で質問を投げかけていた。

夕張は苦笑を浮かべながらも、スタッフに言葉を返す。

 

「ん、えぇ。深海棲艦のコスプレをしたいっていう子がいたんで

 コミケとかのイベントに出たことはないって子を

 連れて来ちゃいました。売り物のこと言ったら恥ずかしがってましたけどね。」

 

「あはは、そういえば提督と深海棲艦が情事する漫画でしたっけ。

 なかなか酷なことをしますねー。

 でも、よくコミケ初参加で売り子を引き受けてくれましたね。」

 

「ここまで来たらやる!って意気込んでくれましたから。

 本当助かってます。おっと・・!そこ、もうちょっと横にずれてくださーい!

 広がっていると、通行人と接触して第四艦隊事件がおきちゃいまーす!」 

 

夕張とスタッフは、雑談を続けながらも更に更にと列を作り、さばいていく。

コミケ常連の壁サークル秋雲亭の夕張と、コミケスタッフは、さすがの練度であった。

 

 

コミケ開始から早2時間。サークル秋雲の行列は変わらずであったが

既に在庫の半分以上ははけてしまっていた。

 

「レ級、そろそろ売り子いいぜー?あとは私が捌いておくから。

 約束通り写真撮ってきなよ!っと、とりあえず新刊5冊な!」

 

タイミングを見計らって、秋雲がレ級に声をかける。

レ級は少し驚いた顔をしながら、秋雲に言葉を返していた。

 

「新刊になります。またよろしくお願いします!

 ・・・いいのか?まだまだ在庫あるけど。」

 

「いいっていいって。むしろここまで手伝ってもらったんだ。

 そろそろコミケを自由に見てきて欲しいんだ。

 いつもレ級、横須賀鎮守府ぐらいしか見れてねーだろ?

 時々はこういうイベントの空気、楽しんで来いって。」

 

レ級の顔が一気に笑顔になる。

そして、秋雲の手を握りながら、口を開いていた。

 

「おお!ありがとう秋雲っ!それじゃあ早速いってくるぜ!」

 

「うん、いってらっしゃい!カメラわすれんなよー!」

 

レ級は勢い良く席を立つと、カメラバックを片手に、

コミケの会場内へと繰り出していた。

 

そんなレ級の後ろ姿を見送りながら、秋雲は慣れた手つきでブースに座る。

そして、笑顔を見せながら、一般参加者の対応を始めるのであった。

 

「レ級はちょっと休憩にいきましたので、

 代わりにこの第六駆逐隊、電がお相手するのです!

 さっ、次の方、いかがします?」

 

 

レ級はコミケの人混みの中を、カメラを片手に堂々と闊歩していた。

見事な色白な肌、銀色の髪、そして真っ赤な瞳。

更に、背中から伸びる巨大な尾っぽを、ゆらゆらと揺らめかせている。

 

「おおー・・・すっげー。

 艦娘の漫画に、グッズ・・・。あっ、これ金剛の漫画だ・・・!

 ほぉおお!すっげ・・・!」

 

サークルを次々見て回るレ級。

そして、サークルの出品物を見るたびに、感嘆の声を上げていた。

 

サークル秋雲亭のように、漫画を置くサークル。

公式の資料のような、綺麗なカラーのイラストを置いているサークル。

ラフ絵ではあるが、魅力的な絵をおいてあるサークル。

 

そして、一風変わった艦娘の名前の湯呑みやタンブラー、

缶バッチやコップ、そして小説本と、レ級を飽きさせることがない。

 

「すっげー・・本当になんでもあるなぁ・・・。

 そういえば、夕張たちがここはコミケの中でも、艦娘とか深海棲艦の物が

 固まってる場所って言ってたっけ。」

 

コミックマーケットでは、ジャンル分けというものがなされている。

それは、一般参加者やサークルが混雑することを避けることが目的であり

同じジャンルは、東ホールの1、こっちのジャンルは東ホールの2,

などなどにわけられているのだ。

 

更に細かく言えば、そこから細かいジャンル分け

キャラ、イラスト本、漫画本、小説、物販などなどにわかれている。

 

そして、レ級はとあるサークルの前で足を止めていた。

 

「・・・・」

 

無言で見つめるサークル。

そこは、深海棲艦の本を扱うサークルである。

そしてさらに言うと、なんと、レ級のコスプレをした女性が売り子をしていたのだ。

 

(・・・Me?)

 

思わず英語で思考をしてしまうレ級。

当然だ。なにせ、自分を再現したコスプレをされているのだ。

髪型、髪色、肌色、そして服までも。

流石にしっぽは再現できていないが、それにしたって完成度はかなり高い。

さらに言えば、レ級フラ改は若干ロリである。

それに対して、コスプレのレ級は、なかなかの豊満ボディだ。

 

「・・・うわぁーお・・・・。まじかー。」

 

レ級は諦めたようにため息を吐きつつ、そのサークルに近づいていくと

他の一般参加者と同じように、一冊本を取る。

 

「これくださーい。」

 

「あっ、はーい!500円になります。

 レ級のコスプレされてるんですね!」

 

「う、うん!でもおねーさんもかなり完成度の高いレ級ですね・・・。

 っていうか、豊満ボディが羨ましい・・・・。」

 

「あは、ありがとう。でも、あなたもものすごい綺麗じゃないですか。

 しかも尻尾まで再現されて!うらやましいです!

 あ、すいません。こちらが新刊です!」

 

レ級のコスプレの女性は、レ級に新刊を手渡していた。

レ級は満足そうな笑みを浮かべながら、口を開く。

 

「あははっ、ありがとう。っと、新刊ありがとうございます、またー!」

 

「はいっ、ありがとうございました。またよろしくお願いします!」

 

お互いに手を振りながらも、レ級はサークルを離れていた。

本の内容は深海棲艦のイラスト本。しかもレ級がメインだ。

ぺらぺら、と本を軽く流し読むと、レ級本人ですらやったことのないポーズや

戦闘中の姿、さらに言えば、他の深海棲艦との絡みなどなどの絵が描かれていた。

 

(私こんなことしたことねーって・・・

 絵とはいっても、これだけのことを想像できる

 人間の情熱ってすげぇなー・・・)

 

そんなことを思いながら、レ級は周りをぐるりと見る。

するとレ級の目には、混雑の中並び、移動し、

購入する人間の情熱をしっかりと目に焼き付けていた。

 

(・・・すっげー。人間ってすっげー。

 っていうか、今、人間って私達深海棲艦と戦ってんだよなぁ?

 シーレーンを潰されかけてるのに、この活気は・・・)

 

レ級は人間の想像力と行動力に感心しながら、

それでもイベントを楽しみながら、コミケの会場を闊歩していくのであった。

 

 

レ級はしばらくコミケのサークルスペースを闊歩していたが

そろそろ人間のコスプレを撮影しようと、コスプレのスペースへと足を運んでいた。

 

「すっげー・・・。本当に艦娘みてーだ・・・。」

 

だが、レ級はカメラを構えることすら忘れ、

ただただ人間のコスプレに見入ってしまっていた。

 

というのも、本物かと見間違えるほどの金剛4姉妹。赤城と加賀の一航戦、

瑞鶴、翔鶴の姉妹、天龍、龍田の姉妹などなど、艤装の有り無しはあるが

全てにおいて本物か、それ以上の出来なのである。

 

「うおー・・・!艤装すっげぇ。」

 

吹雪のコスプレなんかは、艤装が完璧に作られていた。

そんな吹雪のコスプレをまとった人間がポーズを取ると、

レ級は思わず、演習での砲撃シーンを思い出してしまうほどの出来だ。

 

(すっげー、ってしか言えねーわこれー。

 なるほど、確かにこれなら・・・夕張と秋雲、驚くわなぁ・・・)

 

レ級はカメラを首から下げつつも、写真を撮らずにコスプレ会場を回遊する。

いつもは、艦娘を引っ掻き回し、自らの雰囲気に引き釣りこむレ級にとって、

珍しいことではあるが、コミケの雰囲気に飲まれていたのだ。

 

そして、更にコミケの空気は、レ級に牙をむく。

 

---すいません、そこのレ級さん。

 写真を撮らせてもよろしいでしょうか?---

 

「・・・私?えーっと、えーっと・・・いいです、よ?」

 

急に声をかけられ、カメラを向けられたレ級は

二つ返事で、己の写真を取ることを許可してしまったのだ。

 

さて、一旦状況を整理しよう。

このレ級フラ改。実は相当目立っていた。

というのも、まず風貌。事情を知らぬ一般参加者が見れば、

姿形が写真で公開された深海棲艦に非常によく似ていて、中の女性も含めて非常に完成度が高い。

更に、装備している服装から艤装にかけては、完全再現とも言っていいレベルだ。

 

そして更に言うと、サークル秋雲亭で売り子をしていたことが、

いい意味でも、悪い意味でも知名度を上げていた。

元々美人の作家さんが自ら売り子とコスプレをしているサークルで有名であり

同人誌が完売次第、すぐにコスプレ会場に移動をするサービス精神満載のサークル秋雲亭。

そんなところの新人売り子。マークされるのは仕方がないことなのである。

 

と、いうことを念頭に置くと、レ級が写真撮影について、一人のカメコに許可を出すということは

他のカメコの餌食になってしまうことを、意味していた。

 

---すいません、次こっちもお願いします!---

---こっちにもポーズお願いしますー!---

 

レ級が気づいた時には既に時遅し。

レ級の周りには、レ級を囲むように、カメコの輪が出来上がっていたのだ。

しかも全周を囲まれてしまったために、全く身動きがとれなくなってしまっていた。

 

(な。なんぞこれー!?)

 

フラッシュの渦の中、レ級は一人心のなかで焦りつつも叫んでいた。

まさかここまで撮影されるとは、一欠片も思っていなかったのである。

だが、そこは深海棲艦の中でもそこそこ常識があり

割と頼まれたことに対して断り切れないレ級さんである。

 

---こっちむいてくださーい!---

---レ級っぽく睨んでー!ポーズくださーい!---

 

(レ級っぽく睨むってなーにー!?

 っていうかポーズってなんだよぉ!?)

 

心のなかではかなり焦っているものの

表面上は焦りを出さず、なんとか要望に答えてしまっていた。

 

しゃがみながら、上目遣いのようにカメラのレンズを睨むレ級。

敬礼を行いつつ、笑みを見せるレ級。

拳を突き出しながら、尻尾をカメラに近づけるレ級。

ペタンと座りながら、フードを取り、無表情のまま上目遣いをするレ級。

 

何種類、何十種類とポーズを考え、そして実行し

そして目線を360度に配りながら、カメコ達に撮影されていくレ級。

 

(ふおおお!?な、なんとかこれでいいのかっ・・・?

 私なんかよりも完成度の高い仮装いっぱいいるのにっ・・・!

 っていうか、カメラの数へってねえ・・・どころか増えてるっ!?)

 

焦るレ級、止まらぬフラッシュ、増えるカメコ。

しかも、レ級は焦っているためか、若干の涙目である。

そんなレ級を撮影するために、更にカメコが増える。そして更に焦って、更に涙目。

悪夢のような悪循環が、レ級に襲いかかっていた。

 

---次こっちにおねがしまーす!---

---こっちにもポーズお願いします!---

 

「は、はいー!」

 

レ級は無駄に高い性能を駆使し、まだ撮影できてないであろうカメコに視線を向ける。

そんな細やかなサービス精神を駆使し、更にポーズを取る。

 

両手をカメラにむかって向け、口を開けて「がおー」というようなポーズ。

そして、腰に手を当てると、背筋を伸ばし、首をひねり、体のラインを出す。

更に四つん這いになり、女豹のポーズのまま上目遣い、などなど。

 

レ級が撮影する側だった時に、艦娘達にお願いしたポーズや

レ級自身が撮りたいなぁ。と思い浮かぶポーズを、

戦艦に由来する、高い身体能力を駆使しながら繰り出していた。

 

そして、そのまま円が無くならないまま約1時間、とあるカメコが、大声を出していた。

 

---すいません、レイヤーさんさっきからずーっと撮影されているので

 そろそろ休憩に入りまーす!カウント5!4!3!2!1!しゅうーりょー!---

 

一人のカメコがそう言うと、今までの円撮影がウソのように、人が一気に散っていった。

そして、心配そうな顔をしたカメコが一人、レ級に声をかけていた。

 

「レイヤーさん、大丈夫ですか?

 ずーっと撮影されてましたけど・・・・」

 

「・・・ありがとうございます・・・いつ終わればいいのかわからなくって・・・」

 

レ級は腰を下ろしたまま、息を整えながらカメコに言葉を返していた。

 

「あぁー・・・。もしかして初参加ですか?

 レイヤーさんすごい可愛くて出来がいいコスプレなんで、今みたいに強制的に切らないと

 ずーっと撮影されちゃいますよ。」

 

「そ、そうなんですか。ありがとうございます。」

 

「あはは、ま、頑張ってください。せっかく来たんですし、お互いに楽しみましょう。

 それでは、また。」

 

「ありがとうございます・・・!」

 

延々とレ級は写真を撮られ続けていたのであるが、

ようやく、レ級に救いの手が伸ばされ、ようやく撮影から開放されたのだ。

 

(ぱねぇ・・・ぱねぇ・・・。っていうか人間のカメコさん、マジ助かった。まじで・・・!

 しっかしなんだこのイベント・・・。艦娘に砲撃受けてたほうがまだ気が楽だわ・・・!)

 

レ級は内心で安堵しながらも、コミケに戦慄を覚えるのであった。

 




妄想捗りました。コミケってカオスですが楽しいですよね。


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116 有明海域 E-4(後編)

戦時中、深海棲艦との戦いの中でも繰り広げられるコミックマーケット。
人間の情熱と希望を、レ級は肌で感じまくるようです。
そして、最後に一つ、波乱も起きるようです。


 

「戦艦レ級」

 

深海棲艦と呼ばれる存在の中でも特に上位種に位置する艦種である。

 

数多くの艦娘を沈め、提督を苦しめている最悪の敵と言って良い。

なにせ、開幕の航空戦、そのあとの魚雷、そして砲雷撃戦、対潜戦闘と

全てにおいて高水準で纏まっている敵である。

 

そんな彼女、今現在、信じられないことに

午前中は艦娘が運営するサークル「サークル秋雲亭」の売り子として、

午後になると、カメラ片手に、人間の仮装を取るカメコとして、

いつもと変わらぬパーカー姿で、コミックマーケットに参加していた。

 

そして、更に言えば、ついさっきまでコミケの空気に流され

レ級は写真を撮らず、逆に写真を撮られまくっていた。

何せ一般参加者からしてみれば、エライ完成度の高いレ級がそこに居るのだ。

 

だが、なんとかレ級は人間のカメコ達を振り払いつつ

自分の撮りたい写真を取ろうと、コスプレイヤー達に話しかける。

 

「すいませーん!そこの金剛さん、一枚良いですかー?」

 

「あ、はーい。いいですよ。

 ポーズの指定ってありますか?」

 

レ級は一瞬、視線を上に向けて考えるも

特にいいポーズが思いつかなったようで

 

「んー、金剛さんにお任せします!」

 

と、笑顔を金剛のコスプレイヤーに向けつつ、カメラを構えていた。

 

「はーい。」

 

そして、レ級はコスプレイヤーがポーズを取ると、

連射で確実に撮影を行っていく。

 

金剛のレイヤーが、右手を斜め上げ、笑顔でポーズをする瞬間、

腰に手を当て、堂々とカメラを見つめる表情などなど

レ級は、数種類のパターンの写真を撮影する。

 

(すっげーな・・・。本当に艦娘みてーだなぁ。)

 

レ級はそう思いながら、10枚程度撮影したところで撮影を止めていた。

というのも、先に自分が撮られていた時に、長く撮影するカメコは

他のカメコの迷惑になっていると、観察して気づいていたからだ。

 

「いやぁ、金剛のコスプレ見事ですねー。

 可愛くて本物みたいです!」

 

レ級はレイヤーに近づくと、挨拶をしながら、カメラの画面を見せていた。

 

「あははっ、金剛の写真を見て研究しましたから! 

 艤装もほっとんど完璧なはずですよ。」

 

レイヤーはそう言うと、レ級のカメラの画面を覗く。

 

「わぁ・・・!綺麗に撮影して頂いてありがとうございます!

 それにしても、あなたもすごい綺麗なコスプレですね。

 確か・・・最近情報公開された、深海棲艦でしたっけ?」

 

「ありがとうございます。そうなんです。深海棲艦のレ級です。

 知り合いのサークルの売り子ついでに、コスプレしてみたんです。」

 

(まー、嘘はいってないよな、嘘は。私レ級だし。)

 

レ級は若干、苦笑を浮かべながら、レイヤーを見つめていた。

レイヤーは笑顔になると、興奮気味でレ級に口を開く。

 

「へぇー!すっごいですね!かわいいですね!

 そういえば、その大きい尻尾はどうやって再現してるんですか?

 何か、さっきは自然に動いてましたよね。」

 

レイヤーはレ級の巨大な尻尾を指差していた。

レ級は一瞬目を泳がせるも、笑顔で口を開く。

 

「内緒です。でも、結構頑張りましたよ。

 あっ、ってか、後ろ詰まってるんでそろそろ失礼します!」

 

「あは、内緒ですかー。そのうち教えて下さいね?

 ありがとうねー!」

 

「こちらこそ、美しい写真撮らせて頂いてありがとうございますー!」

 

レ級とレイヤーが手を振り合って別れようとした、その時である。

レ級の後ろに並んでいたカメコが、レ級と金剛のレイヤーに声をかけていた。

 

---すいません、金剛さんとレ級さん。2人で並んだところ撮影したいんですが---

 

「おっ・・?私と金剛さん?」

 

「あは、私は全然かまいませんよー。レ級のレイヤーさんが宜しければ、ですけれど。」

 

金剛のレイヤーさんとカメコは、レ級を見つめていた。

レ級は苦笑を浮かべると、カメラをホルスターに仕舞い込み、金剛のレイヤーの隣に並ぶ。

 

「いいですよ。せっかくです。さぁ、どんどん撮っちゃってください!」

 

----ありがとうございます!それじゃあ、ポーズはこんな感じで・・・・---

 

そう言いながら、カメラからフラッシュが焚かれる。

戦艦レ級フラッグシップ、なんだかんだで、コミックマーケットを楽しんでいるようであった。

 

 

一方その頃、サークル秋雲亭では、遂に、最後の一冊が配布されていた。

 

「最後の一冊なのです。1000円になります。」

 

「はい、1000円。完売おめでとうございます。

 毎年、流石ですね。また来年、買いに来ます。」

 

「ありがとうございます、またよろしくお願いいたします!」

 

秋雲が最後の一冊を袋に入れて手渡すと、

受け取った一般参加者は笑顔でサークル秋雲亭を後にする。

そして、次の瞬間、サークル秋雲亭の秋雲と夕張、そして

お手伝いをしていた人々から、歓声が上がっていた。

 

『8000部完売っ!お疲れ様でしたあっ!』

 

パチパチパチパチ、と近くのサークルからも拍手が上がる。

 

----おめでとうございますー!さすが秋雲亭さんです!----

----すっげぇ、朝にあったダンボールの山が一つもねぇ・・・----

 

次々と聞こえる言葉を流しながらも、夕張と秋雲は、笑顔でハイタッチをする。

 

「「いえーい!」」

 

そして、空になったサークル秋雲亭のブースを見ながら、安堵の溜息をついていた。

 

「いんやぁー、8000部、2時で配布完了!やったねぇ、夕張さん!」

 

「本当っ、不安だったけど、全部でてくれてよかったぁー!嬉しいなぁ・・・!」

 

夕張と秋雲はそう言うと、そそくさとフリップの準備をしていた。

「完売」を知らせるフリップを立てておかなくてはいけないのだ。

そして、それと平行して、コミックマーケットの運営会社に

完売報告をしなくてはならい。そしてその後、他のサークルに挨拶回りにいったりと

壁サークルは壁サークルで、大変なのである。

 

「っと、それじゃあ秋雲、私は完売報告してくるわ。

 後ついでに、西ホールに挨拶いってくるわね。」

 

「はーい。それじゃあ私は完売フリップ作った後に東に挨拶回りしてくるわー。

 それにしても8000部が2時で完売かぁ。次1万ぐらい作ったほうがいいのかねぇ・・・。」

 

「それはスタッフさんにも言われたわ。

 でも、ここから更に2000部増やすとなると、作業時間がたらないでしょ?

 何より、私たちは一般のサークルとはちょっと違うから、

 人を増やして対応するっていうこともできないし。次も8000部が限界じゃない?」

 

「だよなぁー。ま、それはまたおいおい考えよっかぁ。

 そういえば挨拶回り終わったらどうするの?」

 

「んー。コスプレ広場行きましょうか。 

 レ級は先に行ったんでしょう?合流してサークル秋雲亭の艦娘合わせと行きましょうよ。」

 

「おっけー、夕張さん。それじゃあまた後でー」

 

秋雲は人混みに消える夕張を見ながらも、フリップを作る。

「新刊、既刊、完売なのです。」と書かれた文字の横に、

電のようなキャラが黒い笑みを浮かべていた。

 

「よし、フリップはこれでいいかな。

 とりあえず見える位置に置いといてっ・・・と。」

 

秋雲はそう言うと、荷物を抱え、ブースから通路へと移動する。

そして、マップを片手に、知り合いのサークルへと足を向けていた。

 

「んーっと、ここから一番近いのは龍驤島の○○さんだなー。

 そのあと深海棲艦の島の○○さんとこいってくるかぁ。」

 

一人で呟きながら、人で溢れかえる通路を、

ゆっくりと、かつ素早く歩いて行く秋雲であった。

 

レ級は撮影する側でなく、珍しく撮影される側でコミケを楽しんでいた。

 

というのも、金剛のレイヤーさんと2人で写真に写り始めたのがきっかけで

他のレイヤーさんともどんどん交流が深まっていったのだ。

 

---次こっちにお願いしまーす!---

---ありがとうございました!---

---すいませーん!めせんくださーい!---

 

今、ここにいるのは金剛、榛名、霧島、比叡のレイヤーさん

そして、あろうことかレ級のレイヤーさんが1人、そして最後にレ級(本人)である。

 

今この5人+1隻は、金剛姉妹のレイヤーさんを中心に

左右にレ級とレ級のレイヤーさんを配置しているような形で撮影されていた。

 

---レ級さーん、こっち睨んでー!---

 

そんなカメコの言葉に、レ級はおもいっきり笑みを作りながらも

獰猛にカメラを睨みつける。

 

---ありがとうございまーす!---

 

にっこにこのカメコに、手を振ると、次のカメコさんに目線を合わせる。

それは他の5人も同じようであり、各々ポーズを取りつつ、目線を様々な方向に向けていた。

 

「そうしましたらすいませーん!レイヤーさんたち撮りっぱなしですので、

 カウント10でお願いしますー!」

 

一人のカメコがそう言うと、我先に一枚でも多く撮影しようと

より一層、フラッシュの嵐が巻き起こる。

 

「終了!一旦休憩ですー!」

 

カメコがそう言うと、今までの人だかりがウソのようにさぁっと引いていった。

そして、5人と1隻とカメコは、笑顔を浮かべながら、お互いに口を開きはじめる。

 

「いんやぁー・・・すごいですね。コミケって。

 こんなに人がいるなんて思ってもいませんでいた。」

 

最初に口を開いたのはレ級である。

完全にカメラを置き、腰に手を当てまっすぐに立つ姿は

かなりできの良い、戦艦レ級のコスプレイヤーと化していた。

 

そんなレ級に反応したのは、最初にレ級と肩を並べて撮影した金剛のレイヤーさんだ。

 

「あぁー、そういえばレ級さんはコミケが初めてなのでしたっけ。

 深海棲艦との戦いが始まって、少しだけ規模が小さくなりましたけど

 未だ日本最大のイベントですからねー。」

 

「ははぁー。皆様すごい情熱ですね・・・。

 そういえば実際、深海棲艦って敵って言われてますけど

 どんなイメージ持ってます?私はデザインはかっこいいなーと思うんですけど」

 

レ級はさりげなく、レイヤー5人へと質問を投げかけていた。

 

「んー、そうですねぇ。最近公開された姫とか、そういう人型のは

 私はかわいいと思います。ただ、人型以外のはちょっと・・・」

 

「私は嫌いです。なんで攻撃してくるかもわからないんですよね?

 ただ、人型は綺麗なんですよねー。コスプレはしたいです。」

 

「私も嫌いかなぁ・・・。気持ち悪いし。

 ただ、戦艦レ級とか、姫とかいうのは可愛いから好きかも。

 でも、艦娘を沈めたりするんでしょう?そう考えるとねぇ・・・。」

 

そういうのは、金剛、霧島、榛名のコスプレイヤーだ。

比叡のコスプレイヤーは意見さえ言わないものの、首を縦に振っていた。

 

(んー・・・ま、そりゃー人間からすればシーレーン破壊して

 タンカーとかも沈めてる化物だしなぁ・・・私達、深海棲艦が嫌いってのも仕方ねーかぁ)

 

レ級がそう考えていると、

レ級のコスプレレイヤーが、笑顔を浮かべながら口を開いていた。

 

「あ、でも私、横須賀鎮守府の艦娘さんが深海棲艦を鹵獲したって話聞いたことあるわ。

 確か・・・なんとか姫とかいってたような。

 すごく人懐っこいっていう話しもきいたことあるから、

 実はそんなに怖くないのかなーって思ってるの。」

 

レ級のレイヤーはそこで言葉を区切ると、レ級(本物)を見て、更に言葉を続けていた。

 

「だから私、最近公開された深海棲艦、戦艦レ級のコスプレをしてるんだ。

 かわいいし、なんか魅力的なのよね。

 貴女も、とはいわないけど、レ級ってかわいいよねー。

 っていうか、その尻尾ってどうやったの?かなり『本物』っぽいけど・・・」

 

そして、レ級のレイヤーはそう言いながら、自然にレ級の尻尾に触れていた。

レ級のレイヤーからすれば、材質やら何やらが気になるし

もし再現できるのであれば、同じような装備をして、次も挑みたいと考えるのが人間である。

 

「んー?あー、これねー。

 基本的にはゴムで作ってあって、中の部分はちょっと秘密。

 がんばって作ったから、まだ独り占めしたいなーっておもってるんだ。」

 

「えー、教えてよ~。

 あー、でもさわり心地いいなー、すべすべして、ひんやりしてて・・・。」

 

レ級のレイヤーがそう言うと、金剛姉妹のレイヤーも次々にレ級の尻尾に触り始めていた。

 

(うひひ、くすぐってぇ・・・!)

 

レ級はコスプレイヤーに怪我をさせないように気を使いながら、ゆっくりと尻尾を動かしていく。

そんな尻尾を追いかけるように、キャイキャイ騒ぎながら、

レイヤー達は笑顔で、レ級の尻尾を触りまくるのであった。

 

そして、レイヤーたちとの交流を楽しんだレ級は、

休憩が終わった後、また同じように金剛達のレイヤーや、深海棲艦たちのレイヤー

そして合流してきたサークル秋雲亭の夕張と秋雲たちと一緒に、コスプレスペースで

思う存分、ポーズを取り、写真に納められつつ、自らもカメラを持ち、写真を収めるのであった。

 

「レ級ぅ!次寝転んでー!

 そそっ、私に倒された、みたいな感じでさぁ」

 

「おっけー秋雲、あ、そしたらみんなで私の尻尾ふみつけてよ。

 こう、レ級とったりー!みたいな感じで!」

 

「いいこと思いつきますねー、レ級のレイヤーさん。

 それじゃあみんなでやっちゃいましょう!」

 

金剛姉妹、第六駆逐隊、空母軍団、全員がレ級の尻尾を踏みながら

思い思いのポーズを撮影する。撮影する側も、撮影される側も

もちろん戦艦レ級(本物)も、満面の笑みを浮かべていた。

 

 

・・・そして、楽しい祭りは、遂に、終焉を迎える。

 

『「只今の時間を持ちまして、コミックマーケット○○、閉会と致します!」』

 

 

アナウンスが流れるとともに、国際展示場の各場所から大きな拍手が巻き起こる。

 

「おつかれさまー!」

「たのしかったぁー!」

「いんやぁー、最高だったなぁ!」

 

そんな国際展示場の正面には、すでに私服姿となった夕張、秋雲、

そして、いつものパーカー姿のレ級が3隻で並んで歩いていた。

 

「ふふ、どうだった?レ級。」

 

夕張がカートを引きながら、笑顔でレ級に話しかけていた。

レ級は夕張と秋雲の顔を交互に見ると、満面の笑みで、口を開いていた。

 

「・・・最ッ高だったわー!

 正直人間舐めてた。もうちょっとしょっぼいかとおもってたけど

 こりゃー予想以上だ!コスプレも最高だったしなー!」

 

「そりゃあよかったよ、レ級!

 連れてきたかいがあったってもんだ!」

 

秋雲はそんなレ級を見ながら、満足気につぶやいていた。

 

「本当ありがとうな、秋雲、夕張ぃ!」

 

レ級はそう言うと、秋雲と夕張の少し前に出る。

そしてクルリと回転し、秋雲と夕張のに体を向けると

大きく両手を上に掲げた。

 

「秋雲、夕張、また今度あったら絶対声かけてくれ。

 また手伝わせてもらうぜ!」

 

夕張と秋雲は、レ級を見ながら、お互いに片手をあげていた。

 

「あはは、わかったわよ。」

「もちろんだぜ!レ級!」

 

夕張、秋雲、レ級達はそういうと、ハイタッチを行う。

パチン、パチン。

艦娘と深海棲艦の手が触れ、気持ちの良い音が周囲に響き渡っていた。

 

「あ、そうだレ級。この後って何か予定ある?」

 

「んぉ?なんだ夕張、藪から棒に。ま、別に何もねーぜ。どうかした?」

 

「んー、手伝ってもらったお礼も兼ねて、打ち上げをしようかなって。」

 

レ級はにんまりと笑みを浮かべると、迷いない瞳を夕張に向け、口を開く。

 

「いいぜ!行こうぜ打ち上げっ!

 お腹へってたんだ。いっこうぜー!」

 

「ふふふ、おっけー。秋雲、どこか行きたいお店あるかしら?」

 

「あー、それじゃあ焼き肉にでもいこうかぁ、夕張さんっ!」

 

「焼肉かぁ。いいね、そこにしましょ!」

 

『いっえーい!』

 

と、再度レ級と夕張と秋雲が、ハイタッチをしようとした、次の瞬間である。

急に巨大な爆音と、大きな火柱が、国際展示場の駐車場から立ち上ったのである。

 

思わずその光景に、ハイタッチも忘れ固まる夕張と秋雲とレ級。

そして、次の瞬間、思わぬアナウンスが流れ始めるのであった。

 

【深海棲艦からの襲撃がありました。

 国際展示場から、すみやかに避難をお願いします。】

 

アナウンスを聞いたレ級が、勢い良く首をひねり、海を見ると

確かに駆逐イ級が1隻、海上に鎮座していた。

どうやら、その砲撃が、駐車場に直撃したようである。

 

---うわああ!深海棲艦だ!逃げろおおお!---

---なんでこんな近海に!艦娘はいないのかぁああ!?---

 

人間たちは叫びながら、右往左往と走り回りながら、

なんとか国際展示場を後にしようとしていた。

 

そんな光景を見ながら、サークル秋雲亭の面々は、大きく、ため息をついていた。

 

「・・・はぁー・・・。祭りが終わった途端にこれかぁ・・。」

 

「うわぁー・・・。駐車場に直撃弾じゃん・・。

 これ、次回ちゃんと開催されるかなぁ・・・。

 どうする?夕張さん、レ級。いま、私達艤装ないし・・・」

 

「そうねぇ・・・とりあえず、避難誘導、手伝いましょうか。」

 

夕張と秋雲は、今完全にオフのため、艤装は横須賀鎮守府のドックである。

海の上にもたてず、砲雷撃もできない。であれば、避難誘導をするのが吉と

判断した形だ。

 

だが、ここに一人、オフでありながらも、艤装を完璧に持ってきてる船がいた。

 

「・・・・水ヲサシヤガッテ・・・・。」

 

そう、今日、本人ながらも、コスプレイヤーとして参加していた

戦艦レ級(本物)である。流石に砲塔は置いてきているが

コスプレのために、実際の艤装を持ち込んできていたのだ。

そんなレ級は、気づけば言葉はカタコトに戻り、

顔は真っ赤で、体をプルプルと震わせていた。

 

「・・・レ級?大丈夫?」

 

夕張がレ級を心配して声をかけると、

レ級は顔を上げ、大きく口を開いていた。

 

「駆逐イ級!テッメェ、ブッ殺シテヤァァァル!!!」

 

レ級はそう叫ぶと、勢い良く走り始めようとする。

が、それをみた夕張と秋雲は、レ級を羽交い締めにする。

 

「「レ級!?落ち着いて!

  深海棲艦のあなたが行くのはまずいって!」」

 

「離セ夕張ッ!秋雲ッ!

 ・・・駆逐イ級ー!テメー誰ノ姫ノ部下ダー!

 一般人ニ手ヲダスタァ!深海棲艦ノ風上ニモオケネーゾ!

 姫ゴトブットバシテヤアアアアアアル!」

 

レ級はそう言うと、全身から金色のオーラをたぎらせ、

夕張と秋雲の拘束を振りほどき、そのまま海へ飛び出ていた。

 

「ファアアアアアック!空気ヲヨメ!コノ馬鹿ヤロウドモォオオ!」

 

勢いはそのまま、国際展示場を襲撃した駆逐艦に一気に接近する。

レ級は怒りのあまり、周りを一切気にせずに、

般若のごとく眉間に皺を浮かべ、両目からは蒼いオーラを滾らせていた。

 

そして・・・

 

「死サラセヤ!ドアホウ!」

 

レ級はそう叫ぶとともに、見事な飛び蹴りを、駆逐イ級に繰り出していた。

すると、なんということでしょう。駆逐イ級は、戦艦レ級の飛び蹴りで

胴体から真っ二つになり、そのまま海底へと沈んでいくではないか。

 

「ケッ、姫ニツタエトケ。

 一般人に手をだすな、ってな。

 私達、深海棲艦は艦娘と戦争をしてるんだ。

 ルール無用の殺戮をしてるわけじゃーねぇんだからな!」

 

そしてレ級は、海底に沈んでいくイ級に聞こえるように、大声で叫んでいた。

・・・そう、叫んでしまっていた。

 

---すげぇ・・・深海棲艦をぶっ潰しやがった、あの女の子・・・!---

---艦娘ってすげぇ・・・!・・・あれ、でも今、私達深海棲艦って・・・?---

---げっ・・・じゃああれって、艦娘じゃなくて深海棲艦!?---

 

(・・・あっちゃー・・・熱くなりすぎた・・・。

 やっべー・・・やっべー・・・!)

 

レ級はイ級を蹴り飛ばした場所から、一切動けなくなっていた。

というのも、怒りに身を任せ、自分が深海棲艦と大声で暴露してしまったからである。

どうやらそれは人間たちも同じようで、

海上に立つレ級を見たまま、誰ひとりとして動けないでいた。

 

---あれっ、あの子って確かコスプレでレ級をしてた・・・・  

  えっ、あれっ!?あのこ本物だったの!?----

 

レ級はその言葉に、思わず反応していた。

そして、声のした方向を見ると、そこには

金剛のコスプレをしていた女性がいたのである。

 

(・・・あ。詰んだ。これ次回のコミケ詰んだ。)

 

見当違いな思考をしながら、視線を横に動かすと、夕張と秋雲が

真っ青な顔をしたまま、立ち尽くしていた。

 

(そーなるよねー。目立ちたくないって言ってたもんねー。

 いや、そうじゃなくって。

 サークル秋雲亭、ひいては人間が深海棲艦と交流あるって

 一般に知れたらエライことになるものなぁ・・・。

 っていうか、本当に、どうしよう・・・?)

 

レ級は自慢の頭脳を使い、高速で打開案を考えるも、何も思い浮かばない。

本来であれば、このまま立ち去ればいいところであるが

一部のレイヤーには、自身をサークル秋雲亭の売り子と説明しているため

下手に海に向かっては、夕張と秋雲に迷惑がかかる。

かといって、このまま陸上に戻れば、間違いなく深海棲艦ということで

地上に大混乱が起きるであろう。

 

(まっじで・・・どうし・・・ようか・・?)

 

秋雲と夕張にアイコンタクトを送り、助けを求るも、

秋雲と夕張も困っているようで「さっ」と目をそらされてしまった。

 

(・・・でっすよねー、そりゃー、目を逸しますよね・・・)

 

レ級、完全なる孤立である。

そして仕方なく、頭にかぶっていたパーカーを取り

改めて、人間達を見つめていた。

 

---・・・・----

「・・・・」

 

(むむぅ・・・とーっりあえず、今は逃げよう。

 んで、あとで横須賀に戻れば問題ない・・・かなぁ?)

 

お互いに無言のまま約1分。

レ級は意を決し、すぅっと息を吸い込む。

 

「・・・とりあえず攻撃してきた深海棲艦はぶっとばしといた!

 もう安全だぜ!悪いな!水挿しちまって!」

 

レ級はそう言って、海面下に沈降しようとしていた。

その時である。

 

---やっべーかっけー!---

---深海棲艦が私達を守ってくれた!?すごいわっ!

 あの深海棲艦かっこよすぎぃ!----

---私、私あのこと写真とったの!すっごいいい子だったわよ!

  あぁっ、ほらっ、私さっきいったでしょ!?

  やっぱり深海棲艦にも良い奴居るんじゃん!---

 

国際展示場が、歓声とともに、レ級を賛辞する声に満ち溢れたのだ。

レ級は目を丸くしていたが、とりあえず手を降ることにした。

 

---わぁ!手を降ってくれてる!かっわいいー!---

---すっごい、深海棲艦を生で見れるなんて!---

---えっ、でも襲ってきたのも深海棲艦なんじゃ・・・---

 

---何をいってるの、あの深海棲艦は私達を守ってくれたのよ!?

 それに、あんな可愛い子が敵なわけないじゃない!----

 

(・・・予想外の反応だーこれー!

 ・・・ええっと、とりあえず、沈降して逃げるのはナシかなぁ。

 うーん・・・このまま夕張と秋雲たちと、普通に帰ろうか、なぁ?)

 

レ級は歓声を聞きながらも、夕張と秋雲に目配せをする。

すると夕張と秋雲は、呆れたような顔を浮かべるも

次の瞬間、大声で叫び声をあげていた。

 

「レ級ー!ほらー!さっさと戻ってきなさい!

 コミケの打ち上げ、行くわよー!」

 

「レ級ぅ、ナイス飛び蹴りだったぜぇ!

 こうなったらいっちばんうまい焼き肉に連れてってやらぁ!」

 

「っしゃー!焼き肉だぜー!」

 

レ級はそう言うと、体を一気に加速させ、海面から飛び上がると

空中に弧を描きながら、一般人のど真ん中に着地する。

 

---わっ、目の前で見るとすっごいちっちゃい!かわいい!----

---すっげー、本物だ・・・!艤装えっぐいなぁ----

---わぁ、すっげ、尻尾すっげ・・・---

 

「ありがとう、深海棲艦!」

「レ級、ありがとう!」

 

急に飛び込んできたレ級に驚きの声を上げる人々であったが

みんな笑顔で、レ級にお礼を伝えていた。

 

レ級は顔をポリポリとかくと、ニイッと笑みを浮かべる。

そして、その笑みのまま、大声で叫んでいた。

 

「別に礼なんかいらねーって。私は気に入らないやつをぶっ飛ばしただけだからな!

 っと、それはそうとして、今日のコミックマーケット、楽しかったぜ!

 また次も絶対クルからな!それじゃあ、またなぁ!」

 

レ級はそう言うと、人混みをかき分けかき分け、夕張達と合流していた。

そして、歓声を背中に受けながら、サークル秋雲亭の面々は、ゆっくりと

国際展示場を背に、歩き出す。

 

「レ級、やるねぇ。かっこよかったぜ?」

 

「レ級。やるわねー。でも、これで私達のサークル、

 完全に軍関係者だってバレちゃったじゃない・・・」

 

夕張はレ級を見ながら、ぼそりと呟く。

レ級は夕張を見ながら、申し訳無さそうに口を開いていた。

 

「悪い悪い、一般人を狙うとか、深海棲艦の風上にもおけねー奴だったからさ。

 ま・・・そうはいっても、来年も出るんだろ?」

 

「あったりまえじゃない。こうなったら艦娘の知名度を利用して

 もっともっと配布してやるわ。だからレ級、必ず、次も手伝ってね。」

 

「おうよ。今回の件は私が悪いからな。

 4徹でも5徹でもしてやるよ。必要なら姫も引っ張りだすぜ!」

 

「「姫は流石に怖いので結構です。」」

 

「むっ、姫様怖くないのに・・・・。

 っとそれはそうとして、焼き肉どこいくんだー?」

 

「いやぁ、私達からしたら、姫ってだけで怖いってぇ・・・。

 っと、焼き肉は和牛の希少部位を出してくれる店だぜ!」

 

「ほっほぉ・・・いいねぇ。それじゃあ、タラフク食うぞー!」

 

レ級はそう言うと、笑顔を浮かべたまま、右手を高々と掲げていた。

そんなレ級を見ながら、夕張と秋雲も、笑顔を浮かべるのであった。

 

 

「フフフフアハハハハ!レ級、レ級ガココニイタノカ!

 オモシロイジャナイ・・・・オモシロイワネェ!」

 

国際展示場にイ級を送り込んだ姫は、高らかに笑う。

 

「アナタニ負ケッパナシッテイウノハキニクワナイノヨ・・・レ級!

 旧型ハ旧型ラシク、オトナシク、沈ムガイイワ・・・!」

 

水母棲姫、過去にレ級に演習で負を喫した姫である。

その瞳には、赤々と、復讐の炎が滾っていた。

 

ただし、その姿は普段の水母棲姫ではない。

黒一色の服装、ではなく、明るい色を基本とした着物を着こみ

下半身からは艤装を完全に外した上に、人間の足のパーツが取り付けられていた。

そう、この水母棲姫、まさかの瑞穂のコスプレをしていたのである。

 

「マ、でも、今回はいいかしらね・・・。」

 

そして、両手には大きな紙袋が2つ、

コミックマーケットの戦利品が、多数。

 

「レ級とガチでやると戦利品燃え尽きそうだし・・・。

 っていうかぁ、イ級め。勝手に発砲して・・・勝手にレ級に倒されて・・・。

 これじゃあ、深海棲艦に襲撃されたって事で、次回の開催危うくなっちゃうじゃないの!

 まったく、まったく、しかも、イ級が帰るための足だったのに・・・

 どうやって深海に帰れっていうのよ。・・・レ級の後、ついていこうかなぁ?」

 

水母棲姫は途方に暮れたまま、国際展示場の正面で、

レ級たちの背中を見ながら、立ち尽くすのであった。




駆逐イ級「姫の周りに一杯人間がいる!やばい!助けなきゃ!」

妄想、捗りました。好意から来る行動が、裏目に出ただけなんです。



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117 有明海域 エクストラステージ

コミケを終え、無事に鎮守府に帰還したレ級達サークル秋雲亭。
提督から、説教を受けるようです。




 

コミックマーケットが無事終わった数日後。

サークル秋雲亭の面々は、横須賀の提督の執務室に呼びだされていた。

 

「コミックマーケットの件、・・・申し開きは何か、ありますか?」

 

提督は、仁王立ちのまま、正座している秋雲、夕張、レ級を見つめる。

 

「「「・・・・・・いえ、その何も」」」

 

「・・・・・はぁー。いいですか?この新聞を見てください。」

 

提督は一枚の新聞を、レ級たちの前に差し出していた。

 

「「「げっ・・・!」」」

 

レ級達は思わず声を上げていた。というのも、その新聞に、イ級を轟沈せしめたレ級の写真が

一面にでかでかと乗っかっていたからだ。

 

ちなみに、概要はこうである。

---深海棲艦が人々を救う!

  ○月○日、コミックマーケットにおいて、深海棲艦からの攻撃があった。

  幸いにして人的被害はなし。駐車場の一部が破壊されるに留まった。

  さて、実は今回の事件、一つ大きな事実があるのだ。

  それは、深海棲艦が、深海棲艦を没せしめたという事実だ。

  

  ▲(写真)深海棲艦を沈めた深海棲艦【戦艦レ級】の写真(一般人撮影)

  先日海軍から、深海棲艦についての情報公開があったことは記憶にあたらしい。

  倒された深海棲艦は、どうやら駆逐イ級という艦種だそうだ。

  状況としてはこうだ。

  急に駆逐イ級が駐車場に砲撃。それを見た戦艦レ級が急に群衆から飛び出し

  駆逐イ級に攻撃を加え、あろうことかその船体を真っ二つにした。

  そして、群衆の声援に答えながら、国際展示場を後にした。

 

  ~中略~

 

  深海棲艦は敵だ、と我々は常々軍から通達されてきたが

  今回の事柄から、一部の深海棲艦は、友好的であるようだ。

  どうやら我々は、深海棲艦との付き合い方を、軍部の言いなりではなく

  自分たちの目で見て、肌で感じて、判断する必要性があるのかもしれない。

  

「・・・別に私はコミックマーケットに出るな、とはいいませんが、

 ここまでバッチリ目立ってしまうと、火消する此方が大変なんですよ。」

 

提督は深くため息をついていた。

そう、今横須賀鎮守府、ひいては全ての鎮守府や大本営は

今回の事件についての対応を迫られていたのだ。

 

「曰く、あれは本物なのか。

 曰く、軍部は何を隠しているのか。

 曰く、軍部は深海棲艦を陸に上げているのか。

 曰く、軍部は一体何をしているのか。

 曰く、軍部はアレとどんな関係があるのか。曰く、曰く、曰く・・・・。」

 

提督の言葉がどんどん長くなっていく。そして、提督の顔も、どんどんと険しくなる。

そのたびに、レ級達の顔は、真っ青になっていった。

 

レ級も実のところは、どれだけのことを自分がしたのかは判っていた。

カメラを持って常に艦娘を追っかけているレ級であるが、

腐っても、飛行場姫直属の最強のレ級である。

普通では、艦娘や人間と交流など、もってのほかだ。

そんな自分が、深海棲艦として横須賀鎮守府に入り浸っているという事実。

自分の無茶を許してくれている横須賀の提督、艦娘。そして横須賀の人々。

彼らの顔が、走馬灯のように、レ級の頭のなかを駆け巡っていた。

 

「・・・ま、とはいえ、です。」

 

愚痴を続けていた提督であったが、表情を緩めると、気楽な声を出し始める。

 

「いずれはレ級、そして飛行場姫の事は、公表せねばならぬ事象でしたからね。

 他の鎮守府や大本営を動かす良い口実になりましたよ。

 今回の呼び出しは、形式的なものですから、安心してください。

 いずれやることだったとはいえ、公表前にやらかしたあなた達に

 何もしませんでした、では、横須賀鎮守府の体裁が保てませんから。」

 

提督は先程とは一転し、笑みを浮かべていた。

 

「何より、今回のサークル秋雲亭の作品、素晴らしいですね。

 あぁ、あとレ級とあなた達のコスプレ写真もしっかりと頂きました。

 良い目の保養ですよ。」

 

提督はそう言うと、サークル秋雲亭の新刊と

どこから入手したのか、レ級たちのコスプレ写真をしっかりと手に持っていた。

 

「あっ・・・それっ!私達のっ・・・提督、本気で怖かったですよぉー。

 何言われるのかと・・・・。」

 

夕張はそういいながら、正座を崩し、笑顔を浮かべていた。

 

「提督ぅ、人が悪いねー。全く、本気でびびったじゃないか!」

 

その隣では、秋雲も同じように正座を崩し、笑顔で言葉を紡ぐ。

更にその隣では、正座のまま真剣な顔で、レ級が提督に口を開いていた。

 

「提督殿っ・・・・いいのかそれで。

 っていうか、私の事公表するつもりだったの?」

 

「いいんですよ。貴女は人類と、艦娘と、深海棲艦の新たな可能性なんですから。

 大本営も、他の鎮守府も、更に言えば、飛行場姫もそのことを十分に理解しているからこそ

 今、情報公開に向けて動いているのです。」

 

「飛行場姫様も、か。

 そっか。うん、そっか。ま、それなら、私は何も言わないよ。提督殿。」

 

レ級はようやく正座を崩すと、提督に笑顔を向ける。

 

「それじゃー提督殿。今後私は何をすればいいんだ?

 私の情報を公開するからには、何もしなくていい、ってわけじゃないだろ?」

 

「はは、相変わらず頭の回転は速いですね。レ級殿。

 えぇ、貴女にはこれから、多くの仕事が待っています。

 まず小手始めには写真に写っていただきます。

 広報誌と、一般向けの公開写真です。

 それに加えて、テレビ、ラジヲ出演。いろいろ待っていますよ。」

 

提督は笑顔を向けながら、レ級に説明を続ける。

レ級は若干眉間にしわを寄せながら、提督に口を開いていた。

 

「うっへぇ・・・なんかめんどくさそうだなぁ。

 ま、でも、楽しそうだからいいかぁー。」

 

レ級はそういうと、勢いをつけて立ち上がる。

そして、埃をはたくと、にやりと笑みを提督に向けていた。

 

「よかったじゃない、レ級。これからは大手を振って外を歩けるわね。」

「よかったじゃねーか。レ級。これで次のコミケも出られるな!」

 

そんなレ級を見ながら、秋雲と夕張は笑顔で声をかける。

 

「んぁー。そうだなー・・・。っていうか、提督殿。

 本当に私達、何もお咎め無し、でいいのか?」

 

「えぇ、先程も言ったとおり、今回の呼び出しは形式的なものです。

 書類上、執務室に呼び出して注意喚起を行った。というね。

 それとも、3隻とも、何か処罰がお望みですか?解体されたいとか。そういう。」

 

「「「いえ、提督殿の寛大なお心に感謝いたします。」」」

 

「よろしい。無駄な詮索はしないように。」

 

提督はそう言うと、レ級、夕張、秋雲を見ながら、にやりと笑みを浮かべるのであった。

 

 

◆ 

 

一方その頃、飛行場姫の私室では、飛行場姫が呆れ顔で一人の艦と話し合っていた。

 

「・・・いやもうその、レ級のことだから、別に何があっても驚かないのだけれど。

 なんで、あなたがレ級と一緒に鎮守府に来ることになってるのかしら・・・ねぇ?」

 

「わたしからすれば、なんで貴女が大人しく横須賀鎮守府に鹵獲されているかがわからないわ・・・。

 ねぇ?飛行場姫。確かに、ソロモン海域の拠点が壊されてから随分見ないと思ってたけれどねぇ。」

 

飛行場姫と対峠する艦は、長い黒髪そして、明るい色の着物を着込んでいた。

一見すると艦娘のようであったが、どうやら、深海棲艦のようだ。

 

「んー、私は艤装も何もかもを破壊されたのよ。しかも迎えに来たのが大和だったからね。

 深海棲艦として死ぬならば、中途半端に生きようかなと思っただけよ。

 身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、と言うじゃない?」

 

「それを言うなら生きてこそ浮かぶ瀬もあれ、じゃないのぉ?

 まっ、それはそうとして、無事で何よりよ。飛行場姫。」

 

「ふふ、そちらも。水母棲姫。改めて、横須賀鎮守府へようこそ。

 艤装が無いものどうし、仲良くしましょう?」

 

飛行場姫はそう言うと、水母棲姫へと手を伸ばす。

水母棲姫も同じように手を伸ばすと、固く握手を交わしていた。

 

「それにしたって、本当になんで貴女が陸に揚がっているのかしら?

 しかも瑞穂の仮装までして・・・。深海棲艦は方針でも変えたのかしら?」

 

飛行場姫は水母棲姫を訝しげに見つめていた。

水母棲姫は自分の格好を見ながらも、少し顔を赤くして、口を開く。

 

「瑞穂に見えるかしら・・・?

 ええとねぇ、別に深海棲艦の方針は変化ないわよぉ?

 力と数で押しつぶす。でしょぉ?貴女がいなくなってからもそのままよ。」

 

「・・・んん?それならば余計に判らないわね。

 私のレ級は例外としても、他の船が人間と交流するなんて、考えられないわ。」

 

飛行場姫の言葉に、水母棲姫は更に顔を赤くすると、

コミックマーケットの手提げ袋から、

あるものを一冊、取り出し、飛行場姫へと差し出していた。

 

「・・・水母棲姫、これは、なに?」

 

「コミックマーケットで人間達が作った本よぉ。

 いいから、一回、見てくれないかしらぁ・・・。」

 

飛行場姫は水母棲姫に差し出された本を受け取っていた。

表紙には「サークル秋雲亭」と銘打たれている、薄い本だ。

 

「『サークル秋雲亭』・・・?ふぅん。」

 

飛行場姫はそういいながら、薄い本をぺらり、ぺらりと一枚ずつ捲る。

 

「・・・・」

 

水母棲姫は、何をするわけでもなく、飛行場姫を無言で見つめていた。

 

「・・・・・・・・・なにこれ、面白いじゃない。」

 

そして、飛行場姫は薄い本を読み終えると、水母棲姫に本を返しながら、一言、呟いていた。

すると水母棲姫が、飛行場姫の肩を掴みながら、猛烈な勢いで叫び始めていた。

 

「面白いでしょぉ!面白いのよぉ!

 こんな本がイッパイあるのぉ!だから、だからね!飛行場姫、わかるでしょぉ!?」

 

「何がよっ!?」

 

「こんな本がいっぱいあるのよ!?上陸して、自分の手で手に入れたいじゃない!

 ただ、普通に上陸するとダメでしょぉ?だから私に似てる瑞穂の格好したのよぉ!

 でも、でもね!帰りの足のイ級がレ級に撃沈させられちゃったのぉ!

 ・・・・それでね、その・・・。だから今、仕方なく、ここにきたのよぉ・・・!」

 

 水母棲姫は途中から涙声になりながら、必死に飛行場姫に訴えていた。

内容は、間違いではない。楽しみにしていたコミックマーケットで

目的の本を手に入れた水母棲姫はさぞ、うっきうきであったであろう。

ただ、帰りの足を失い、それらを楽しむ事ができなくなったのだ。

その悲しみは、筆舌に尽くしがたい。

 

「・・・姫とあろうものが、情けないわね・・・。

 あぁもう・・・、私の周りって、なんでこんな変な艦ばっかり・・・。」

 

 飛行場姫は頭を抱えつつ、ため息をついていた。

それもそうである。よくよく考えれば、飛行場姫自体はまだ常識人だ。

だが、その周りに集まる人や艦が、非常識なのだ。

 自慢の部下であるレ級は、気づけばカメラ一筋で人間と艦娘と交流し、

世話になっている提督は、深海の姫君とエースを自身の鎮守府に入り浸らせ

終いにはレ級に好意を寄せている。

 そして更に、目の前には、同じ深海の姫君である水母棲姫が、コミケのために上陸し

帰りの足をなくした挙句、横須賀鎮守府へ乗り込んできたのだ。

 

「そんなこと言わないでよぉ。飛行場姫ぇ。

 なんとか、駆逐級でもいいから、足をちょうだあぁーい!」

 

水母棲姫はそう言うと、涙目に鳴りながら飛行場姫に抱きついていた。

飛行場姫は迷惑そうな顔で、水母棲姫を引き剥がしにかかる。

 

「あぁもう、うざったい!離しなさい!」

 

「いーやよぉ!足を用意してくれるまで離さなぁい!」

 

「あーもー!わかった、わかったわよ!

 提督殿に相談してみるわよ。姫を返していいかって、ね。

 ただ、私も鹵獲されている身よ?そこまで自由が効くかどうかは判らないわ。」

 

「それでいいわぁ!流石飛行場姫よぉ。

 帰れなくても、それまで部屋があればいいわぁ・・・。戦利品、楽しみたいのよぉ。」

 

水母棲姫はそう言うと、なんとも言えない、気持ちの悪い笑みを浮かべていた。

 

「ひっ・・・。水母棲姫、なんて笑みを浮かべるのよ。気持ち悪いわよ、それ。」

 

「あっ、いけなぁい。つい、気がゆるんじゃったわぁ。

 それはそうとして、交渉、お願いねぇ?

 最悪、帰れなかったら、貴女と一緒の部屋でいいわ。飛行場姫。」

 

「わかったわよ。それじゃあ、ちょっと提督に伺い立ててくるわね。

 ・・・おとなしくしてなさいよ?」

 

「だいじょうぶよぉ。大人しく本、読んでるわぁ。」

 

飛行場姫は、座りながら本を読み始めた水母棲姫を見ながら、大きくため息を一つつく。

 

(何か、厄介なことになったわねぇ・・・。

 しかもまた、提督殿に借り、作っちゃうじゃないの・・・。)

 

そして、頭を抱えながらも、飛行場姫は部屋を後にするのであった。




妄想捗りました。テレビデビュー。レ級&飛行場姫。ワンモア水母棲姫&ホッポちゃん。


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人類交流記
118 レ級 一般公開


コミックマーケットでイ級を轟沈せしめるという大正義をやらかし、一般人に知られることとなった、カメラを持った戦わない深海棲艦「戦艦レ級フラッグシップ改」。

そんな噂を聞きつけた記者達が、横須賀鎮守府に集まるようです。


横須賀鎮守府。

 

 関東地方の南部に位置する、海軍の最大拠点の一つである。

数多くの練度の高い艦娘が集まり、それに付随して、運営能力のある人間が多数所属している場所である。そして、横須賀鎮守府の臨時記者会見室の壇上には、提督と秘書艦娘である大和が立っており、会見室には、所狭しと多くの記者が詰め込まれていた。

 

「さて、本日記者の皆様にお集まりいただいたのは、他でもありません。先日ご連絡致しました通り、有明でイ級を轟沈せしめた、深海棲艦の情報を開示致します。なお、こちらの説明が終わるまでは、質問等は受け付けませんので、どうかひとつ、お静かにお願い致します。」

 

提督はそう言うと、記者たちを一瞥する。

そして、記者たちから何も異論がないことを確認すると、少し笑みを浮かべつつ口を開き始めていた。

 

「ご協力を感謝致します。それではまず最初に、有明という近場まで深海棲艦を侵入させてしまった事に対しましては、謝罪を申し上げます。」

 

提督と大和は、深くお辞儀を行う。記者達は、批判するわけでもなく、その姿を静かに見守っていた。そしてしばらくの沈黙の後、提督と大和は姿勢を正し、記者たちを見据えながら、口を開く。

 

「・・・さて、それでは改めまして、知らぬ方は居ないとは思われますが、改めて概要をお話させて頂きます。

 先日、有明にあります国際展示場に、深海棲艦の駆逐艦、イ級が現れ、国際展示場の駐車場に砲撃を加えた事象は、まだ皆様の記憶に新しいかと思います。」

 

記者たちは提督の言葉を聞いて、全員が頷いていた。

ここ数日は有明の国際展示場が深海棲艦からの攻撃を受けた、と、テレビで、ラジヲで、新聞で、報道が繰り返されているのだ。

 

「皆様御存知のようですね。

 ・・・さて、急に深海棲艦が現れ、そして人間を攻撃する。これは今まで通りの事象であります。ですが、今回の事象に置きましては、前例のない事態が起きたのであります。大和、スクリーンに写真を。」

 

提督の隣に控えていた大和は、スクリーンを天井から引き伸ばし、プロジェクターを起動させる。そして、プロジェクターに、一枚のネガフィルムを置いたのである。

 

『おおっ・・・!?』

 

スクリーンに映し出される写真を見た記者たちは、思わず驚愕の声を上げていた。

 

「皆様、スクリーンの写真が見えますでしょうか?後方の記者様も・・・大丈夫のようですね。それでは、説明を続けさせていただきます。」

 

提督はポケットから伸縮式の指示棒を取り出すと、写真に映るパーカー姿が特徴的な深海棲艦の顔を指していた。

 

「この深海棲艦が、驚く事に、国際展示場に砲撃を行った駆逐イ級を一瞬で轟沈せしめたのです。つまるところ、深海棲艦が人間を守る、という、前代未聞の事象が発生したのであります。」

 

提督がそこまで説明したところで、我慢できなくなったのか一人の記者が大声で叫び声を上げていた。

 

『提督殿!○○新聞ですが、その深海棲艦についての情報は・・・!』

 

提督は落ち着いた態度のままで、記者を静止する。

 

「最初に申し上げました通り、深海棲艦の情報を開示致しますので、今しばらく説明にお付き合い下さい。混乱を招きますので、質問は最後に受け付けます。」

 

『承知しました・・・。』

 

記者はそう呟きながら、提督を期待の眼差しで見つめていた。

 

「さて、今の記者様の質問でありましたが、これから人類を守った深海棲艦の情報を開示していきたいと思います。」

 

提督がそう言うと、スクリーンに写っていた写真が入れかわる。そこには、カメラを抱えた深海棲艦が写っていた。

 

『・・・カメラ・・?』

 

記者の一人が呟く。それに合わせて、他の記者達もなんとも言えない表情を浮かべつつ、隣の記者達と話を始めていた。

 

『先日公開された深海棲艦とは随分違うな・・・これは、カメラをかかえているのか?』

『深海棲艦がカメラ・・・?』

『しかも船としての武装が一切無いぞ。海軍のいたずらか何か、か?』

 

ガヤガヤと記者達の雑音が大きくなっていく。

 

「少々お静かに願います。・・・それでは説明を続けさせていただきます。

 この写真については、駆逐イ級が砲撃をした同日に国際展示場で開催されていました「コミックマーケット」で撮影された一枚です。ご覧のとおり、武装はなく、カメラのみを所持しています。」

 

提督は一度言葉を切ると、水を口に含み、喉を潤す。

 

「この深海棲艦は、我が横須賀鎮守府所属の艦娘とコミックマーケットに出店、そしていわゆるコスプレイヤーとして、このイベントを楽しんでいました。・・・そして、事情聴取を海軍で行った所によりますと、『祭りを邪魔された。だから蹴り飛ばした』と、言う理由で、人間を守った、とのことです。」

 

提督から発せられた非常識な言葉に、記者達は何も言えず、驚愕の表情を浮かべたまま、完全に硬直していた。だが、記者の一人が、大声を上げ、提督に食って掛かっていった。

 

『ちょ、ちょっと待って下さい提督殿!人類を攻撃せしめ、シーレーンを破壊し、生活を壊す全人類の敵。そんな深海棲艦が、人類を守っただけではなく「コミックマーケット」に艦娘と一緒に参加していたという話なのですか!?その場合、海軍とこの深海棲艦は、以前より繋がりがあったということですか!?』

 

提督は冷静に記者を見つめ、口を開く。

 

「えぇ、その通りであります。穏健派、と言うべき深海棲艦とは、公開はしていませんでしたが、以前より交流があったことは確かです。・・・大和。」

 

提督がそう言うと、大和はプロジェクターの写真を入れ替える。そこには、提督室でくつろぐ飛行場姫と、バイト先で働く北方棲姫の姿が映し出されていた。

 

「こちらの写真は、深海棲艦の最大の敵と位置づけていた、姫級と呼ばれる艦達です。現在、横須賀鎮守府にて鹵獲という形をとっていますが、敵対する意志は全く見て取れません。」

 

『なっ・・・提督殿、それはつまり!海軍は以前より、深海棲艦を鹵獲していたということですか!?しかも、最上級の深海棲艦を!?さらに、その鹵獲した、横須賀にいる深海棲艦は、全く敵意がない、と申すのですか!?』

 

一人の記者が大声をあげていた。他の記者達は驚愕の表情を浮かべ、固まったままである。

 

「えぇ、その通りであります。そして、恐らくでは有りますが、今の話が全く信じられない、という記者様も数多く居ることでしょう。

 ・・・と、いうことで、今回の会見には、とあるゲストを呼んでおります。」

 

提督は記者達に向けて、にやり、と良い笑みを作っていた。その笑みを見て、記者達は「まさか」と顔をひきつらせる。

 

『提督殿・・・・まさか、とは思いますが。写真の深海棲艦がゲスト、という馬鹿げた話では、ないですよね?』

 

「流石記者様です。勘が鋭い。それでは、ゲストをお呼びいたします。『飛行場姫』、『北方棲姫』、そして有明の海を深海棲艦から守った深海棲艦、『戦艦レ級』の三隻です。」

 

提督がそう言うと、大和が会見室の扉を開く。

そして、扉が開いた先には、白い肌、赤い瞳を持つ、艦娘とよく似た艦が3隻、にやりと笑みを浮かべて佇んでいた。

 

 

提督たちが会見をする裏で、飛行場姫、北方棲姫、戦艦レ級は、緊張した面持ちで「お披露目」の準備を整えていた。

 

「姫様方、ほんと、すいません、気づいたら姫様も巻き込んで会見することに・・・。」

 

戦艦レ級は、カメラを持ったいつもの姿で、飛行場姫と北方棲姫に声をかけていた。ただし、その表情は、自身のせいで姫まで人間の前に姿を表さなくてはいけないという落ち度からか、落ち込んだ表情である。

 

「別にいいっていったじゃない。私も人間が嫌いというわけじゃないし。それよりも、これから横須賀の街の外にも行ける、っていうのが魅力的じゃない?ねぇ、北方棲姫。」

 

「うん!カメラも買ったから、早く外で撮りたい!レ級、気にしちゃ駄目だよ!」

 

落ち込むレ級とは一転、飛行場姫と北方棲姫は、共に艤装は付けず、カメラを持ちながら談笑を続ける。

 

「それにしても飛行場姫。よかったの?この会見出ちゃったら、深海棲艦から裏切りと思われるかもしれないよ?」

 

「そうねぇ、そうかもしれないわねぇ。でも、それは北方棲姫、貴女も一緒じゃないの。貴女こそ良かったのかしら。あなたは全く私達と関係ないのよ?」

 

北方棲姫は飛行場姫の言葉を受けて、一瞬腕を組んで考えこむ、が、すぐに顔をあげると、レ級を見ながら笑顔で口を開いていた。

 

「北で艦娘を倒すよりは、今みんなで騒げるほうが楽しいから、私はいいの!」

 

「そ。ま、貴方がそれでいいなら私は何も言わないわよ。私も今の生活が楽しいから続けてるだけだもの。別に深海棲艦の敵になったわけでもないし、気が向いたら海に戻るだけだもの。だからほら、レ級、そんなに落ち込んじゃだめよ。」

 

飛行場姫は笑顔でレ級の背中を叩く。レ級は飛行場姫に背中を叩かれながら、少しづつ、姿勢を正していた。

 

「そうですかぁ。お二人がそう言うなら、気が楽なんですけどねー。そういえば飛行場姫様。提督から段取りって聞いてます?私はここで立ってろぐらいしか言われていないのですが。」

 

レ級はいつもの調子で、飛行場姫に問を投げていた。飛行場姫はうーん、と首をかしげながら、ゆっくりと口を開く。

 

「私も特に聞いてないわね。記者たちが会見場に入ったら、部屋の扉の前で3隻で待機しててくれ、としか言われてないわね。北方棲姫もそうでしょ?」

 

「うん。私も呼び出されてまっててくれーって言われただけだよ。」

 

3人は部屋の前で首をかしげていた。艦娘と深海棲艦側で全く打ち合わせが行われていなかったのだ。この状況にレ級は、呆れ顔を浮かべつつ、呟く。

 

「あらー。じゃあこれから何が起こるか知らずに、私達はここにいるってことですねー。」

 

「そうなるわね。ま、でも、私達はそのぐらいで良いんじゃないかしら。深海棲艦のくせして艦娘と人間と仲良くやれちゃう存在なんて、人間からしてみれば異端も異端でしょうからね。下手に段取りするよりも、行き当たりばったりで行動したほうが良い、とでも提督殿は思ったんじゃないかしら。」

 

「・・・そんなもんですかねぇ。まぁでも、私達のような深海棲艦はなかなか居ませんよね。他の鎮守府にでも誰かいないかなぁ・・・。」

 

レ級は手を顎に当てながら、ぼそぼそと呟いていた。そんなレ級を見ながら、飛行場姫は、笑顔を浮かべながら口を開く。

 

「ふふ。秘匿してるだけで、私達みたいなのが案外他の鎮守府に居るかもしれないわよ?確か別のレ級で、酒を飲んでるレ級がいたでしょう。アレなんかはタイミング次第で交流始めるんじゃないかしら?」

 

「・・・あぁー!港湾棲姫様の所のよっぱかぁ!確かにあいつならやりそうですね。人間艦娘ところかまわず引っ掻き回して酒飲んでそうだなぁ。」

 

「でしょう?港湾棲姫もあれで艦娘にそんなに執着してないしね。気づけば私達みたいに、どこかの鎮守府にお世話になっているかもしれないわよ。」

 

飛行場姫はそう言うと、頭の中で、常に艦娘に「来るな」と、めんどくさそうにつぶやいている白い深海棲艦の姫を思い浮かべていた。そんな姫が、人間と酒を酌み交わす光景。

 

(おもしろそうね。)

 

飛行場費は、そう考えると、穏やかな笑みを浮かべる。

 

「ま、この記者会見は全国放送だって言う話だし、もしかしたら、私達と同じような深海棲艦が横須賀に集まるかもしれないわよ。だからね、レ級。」

 

飛行場姫はレ級を見据えると、ゆっくりと口を開く。

 

「この会見しっかりやりなさいね。私達も出るけれど、主役は貴方なのだから。ね?」

 

「うっへぇ・・・。すさまじいプレッシャーですよそれー。っていうか、本当にヨッパが見てたとしたら・・・。下手に失敗したら、間違いなくヨッパの酒の肴だな・・・。」

 

レ級は一つ大きくため息をつく。そんなレ級を見て、北方棲姫と飛行場姫はクスクスと笑っていた。丁度その時である。

 

『流石記者様です。勘が鋭い。それでは、ゲストをお呼びいたします。『飛行場姫』、『北方棲姫』、そして有明の海を深海棲艦から守った深海棲艦、『戦艦レ級』の三隻です。』

 

どうやら、レ級達のお披露目のタイミングが来たらしい。扉が少し開く。その隙間から、大和が視線を送っていた。

 

「皆様、いけますか?」

 

北方棲姫と飛行場姫、そして戦艦レ級フラッグシップは、お互いに顔を見る。そして、お互いにアイコンタクトをすると、ニヤリと不敵に笑みを作る。

 

「あぁ、いけるぜー。」

 

「私も大丈夫!」

 

「ふふ、私も大丈夫よ。大和。ま、私達はいつも通り行かせていただくわね。」

 

大和は深海棲艦3隻の言葉を聞くと、扉をゆっくりと開放していく。そしてそのさなか、飛行場姫が密かに、レ級に声をかけていた。

 

「レ級、ここからまた、新しい一歩よ。今回の会見で、深海棲艦と人間がどうなるかは判らないけれど、レ級。貴女は貴女のやりたい事をしなさい。前にもいったけど、全責任は私が持つわ。」

 

「・・・了解。感謝します。それにしても、他の姫や深海棲艦がコレを知ったら、私達裏切り者になりますかねー。」

 

「あぁ、他の深海棲艦の事は気にしないでいいからね。北方には伝えてないけれど、これは他の姫も納得の上よ。」

 

レ級は驚きのあまり、飛行場姫の顔を見つめていた。

 

「な、なんで他の姫が納得してるんですか?」

 

「貴女が撮影したコスプレ写真、偵察のイ級に渡してたのだけど、南方棲戦姫を始めとした姫たちが気に入ってたわよ。もっと撮影してこい、ってね。」

 

「・・・えー!?ってことは、もしかして前の艦娘撮影がバレた時みたいに、何か条件、ついてます?」

 

「ご名答。ちゃんと表向きの命令も来てるから安心なさい。『飛行場姫及び北方棲姫、そしてレ級は人類の生態の解明をスベシ』ってね。」

 

飛行場姫はニヤリと笑みを作る。レ級は少し呆けた顔をするも、次の瞬間、同じように笑みを浮かべていた。

 

「ははぁーん。そうですか、そうですか。それなら遠慮無く、活動できますね。それなら今日の会見も、思う存分、やらかしますかねぇ・・・!」

 

そして、会見場の扉が開かれる。レ級達は、にやりと笑みを浮かべて佇み、それを見た記者達は皆驚き、驚愕のまま固まった。

 

『御覧ください!彼女たちが私達人類と深海棲艦の新たな可能性です!さぁ、ここからは質問を解禁いたします。好きなだけ、質問をお投げください。』

 

そして、したり顔の提督は、固まっている記者達に対して、大声を上げるのであった。

 




妄想捗りました。


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119 会見と、同好の士

コミックマーケットでイ級を轟沈せしめるという大正義をやらかし、一般人に知られることとなった、カメラを持った戦わない深海棲艦「戦艦レ級フラッグシップ改」。

彼女たちが会見を行うさなか、鎮守府ではちょっとした事件がおきるようです。


 

横須賀鎮守府の会見室では、未だ多くの記者が、レ級達に質問を投げかけていた。

 

『帝新聞社の矢尻と申します。

 深海棲艦の皆様には一つ、どうしても聞きたいことがあります。よろしいでしょうか。』

 

『えぇ、かまわないわ。ただ、代表として私、飛行場姫が答えるけど、問題ないかしらね。』

 

飛行場姫がテレビに映る。白い肌と髪、そして真っ赤な瞳。テレビ越しでも判る美しさである。

そして飛行場姫の隣には、カメラを持ったレ級と、同じようにカメラを持った北方棲姫が写り込んでいた。

 

『問題ありません。むしろ、最も強力な深海棲艦である姫級からお答えを頂けるのであれば、こちらとしても幸いです。・・・なにゆえ、深海棲艦は我々人間を攻撃するのでしょうか?』

 

会見場を、静寂が包む。おそらく、他の記者も同じことを聞きたかったのであろう。

飛行場姫は少し首をかしげると、記者に向かってゆっくりと口を開いていた。

 

『そうねぇ・・・。正直をいうと、本能みたいなものかしら。あなたたち人類を攻撃せよ、艦娘を沈めよ。強迫観念に近いものがあるのよねぇ。』

 

記者達は息を呑む。

 

『強迫観念・・・。と、いうことは、今ここに居るあなた方3隻も、

 他の深海棲艦同様、我々に対して攻撃を加える気があった、と考えてよろしいのでしょうか?』

 

『もともとは、ね。ま、今となっては、なんでそんな感情を抱いていたのか判らないわね。

 なぜあなた方を攻撃するに至ったか、その原因という点については、

 私達、深海棲艦の姫でもわからないことなのよ。

 気づけば流れに乗り、どうやればあなた方を潰せるか、

 どのように効率的に艦娘を潰せるか、と戦略を立てていたぐらいだからねぇ。』

 

『判りました。ありがとうございます。

 それにしても解せないのですが、なぜ敵であるあなた方が、海軍と手を組んだのですか?』

 

飛行場姫は首をかしげ、目を瞑る。そして少しの思考の後、記者を見ながら、口を開く。

 

『そうねぇ・・・。私の場合は鹵獲されたのよ。

 だから艤装は海軍に鹵獲されたままだし、別段やることもなかったのよ。

 ま、待遇も良かったし、提督殿も話しかけてくるから、暇つぶしにと世間話をしていたら、

 気づけばこんな所に立っていた、という話よ。』

 

記者達は、自前のノートに、一字一句間違いなく飛行場姫の言葉を書き込んでいた。

すべてがスクープである。そして、記者は更に言葉を続けていた。

 

『なるほど・・・ありがとうございます。

 そういえば、レ級さんと北方棲姫さんについては、なぜ海軍に?』

 

レ級は少し驚いた顔をすると、記者を見ながらゆっくりと口を開く。

 

『んぉ。私か。

 私と北方棲姫は、艦娘の写真撮りまくってたらここまで来たな。

 ・・・嘘じゃねーぜ?それに、誘ったのは海軍の方だしな。

 最初は海で艦娘と出会ったら写真撮りまくってたんだけど、

 攻撃しないで写真取る変なのがいるって噂になったらしくてさー。

 そっから交流始まって、演習に呼ばれて。

 途中で一悶着あったけど、今じゃ艦娘の広報用の写真、撮ってるぜ。』

 

レ級は矢継ぎ早に言葉を続けていた。

そして、記者達は明らかに「何をいっているんだこいつは」という顔で、レ級を見ていた。

内容は嘘ではない。それどころか、そのままの真実である。

 

『そうだよー!あっ、あとドイツとかもいったよ!むこうの艦娘も、今横須賀にいるよ!』

 

北方棲姫の一言で、記者達はレ級の言葉を、ノートに走り書く。

どうやら、姫の言葉でレ級の言ってることが、本当なんだと納得したようである。

 

『なるほど・・・。よくわかりました。ありがとうございます。

 あぁ、そういえばあとひとつ、支障なければ、レ級さん、撮影機材と、撮影した写真を見せていただいてもよろしいでしょうか?』

 

『ん、いいぜ。っても今装備しているのが全部だな。

 腰のカメラ6台と、尻尾のフラッシュ、あと、艦載機代わりにタブレットと充電設備。

 レンズは単焦点3本とズーム3本。ってところかな。』

 

レ級はそう言うと、格納庫からタブレットを取り出し「ベスト写真」フォルダから、自慢の一枚を表示させる。

 

『で、こっちが撮影した写真。これいいでしょ。私を撃破しようと必死になるから、

 すっごくいい写真が撮れてたんだよね。

 まぁ、今じゃ、カメラを持ったレ級は敵じゃないってみんな知ってるから、無理だけどねー。』

 

レ級のタブレットには、金剛が水しぶきを上げながら鋭くターンしながら、カメラを射抜き、砲撃をする美しい写真が表示されていた。

記者達は、写真の美しさに、思わず見惚れているようであった。

 

『素晴らしい写真ですね・・・。提督殿、一つ質問が。なぜ、横須賀鎮守府は深海棲艦を受け入れたのです?

 今の話によると、鎮守府側から声をかけたということでしたが。』

 

提督は記者の方を向くと、笑顔で口を開いていた。

 

『その答えは、みなさまの目の前にありますよ。美しい写真でしょう?

 最初は眉唾かと思っていたのですがね、実際会ってみるといい写真を取る上に、友好的でしたから。

 いくら深海棲艦とはいえ、戦わずにすむのであれば、こしたことはないですからね。』

 

『なるほど、納得です。それでは次の質問なのですが・・・・。』

 

(まだ続くのかこれー・・・!?もう2時間ぐらいたつのに。人間達も暇だねぇ・・・。)

 

レ級が内心、呆れ返っていいることなどはつゆ知らず、会見はまだまだ続くのであった。

 

 

横須賀鎮守府に存在する甘味処「間宮」。

甘味処とはいうものの、定食や酒なども出す、横須賀鎮守府の酒保である。

 

大きな机、大きな黒板、そして共用の大型テレビが据えられ、

艦娘のミーティングルームとしても使える場所である。

そして、テレビには普段であれば、海軍の心得などが流されているのであるが、

本日に限っては、レ級達の一般公開、記者会見が流されていた。

 

そんな甘味処の机には、今、大盛りのパフェが3つ、そして同様に船が3隻、並んでいた。

 

「なぁ、加賀。パフェとはいいものだな。ほっとする。」

 

「えぇ、そうね菊月。気分も高揚するし、腹も膨れるわ。

 提督には、戦闘食としてぜひ採用していただきたいものね。」

 

「・・・いや、それはどうかと思うぞ?

 生クリームとチョコレート、アイスが溶けてまずくなる。」

 

「クーラーボックスという便利なものがあるわ。」

 

「いや、そういう問題ではなくてな?」

 

菊月と加賀は、軽口を叩き合いながらお互いにパフェを口に運ぶ。

さっぱりとしたフルーツの甘さと、ほどよいコクの生クリーム、

そしてアクセントに冷たいアイスのパフェである。

一口、一口と食べるたびに、菊月と加賀の体に気力が充満していく。

 

「それにしても、だ。 

 あのレ級は馬鹿なのか?コミックマーケットに参加した挙句、自ら正体を明かすなど・・・。」

 

「本当ね。あのレ級のせいで、こちらの予定はあって無いようなものよ。全く・・・」

 

菊月と加賀は、はレ級の会見を見ながら、渋い顔でぼやいていた。

というのも、会見を開くにあたって、

レ級の正体を知る横須賀鎮守府の艦娘は、総動員で準備に取り掛かったのだ。

こと菊月と加賀は、レ級と姫君達の連絡員として働いたため、

ここ数日間は、働き詰めであったのだ。

 

「しかも私が担当した飛行場姫は、目を離した隙に、港でイ級と話していたのよ。流石に驚いたわね。全く。」

 

「・・・イ級と?というか、この鎮守府の足元までイ級が来ていたというのか?」

 

「えぇ、しかも、非武装のイ級よ。足が早いだけの子らしいのだけど。

 何をさせているの?と飛行場姫に尋ねたら、隠すわけでもなく、

 コミックマーケットでレ級が撮影した写真を他の姫に渡すって言ってたわね。」

 

「・・・どこから突っ込めばいいんだ。で、加賀。結局飛行場姫は何が目的だったんだ?」

 

加賀はパフェを食べる手を止め、菊月を真っ直ぐ見つめると、短くため息を付く。

そして、ゆっくりと口を開いていた。

 

「『他の姫もレ級の写真のファンだから、時折レ級の写真を送らないと苦情がくるのよ』と言っていたわね。」

 

菊月は頭を抱える。

深海棲艦は、レ級の写真を見たいがために、鹵獲されている姫に斥候を送った挙句、

写真が届かなければ苦情を言うというのか。

菊月の中の深海棲艦のイメージが、少し、崩れかけていた。

 

「・・・そうか、つくづく非常識な深海棲艦達だ。突っ込む気すら起きない。

 それでいて今会見に出てるカメラのレ級に至っては、金剛と同列の強さときている。

 全く、一体何の冗談だ。」

 

「そうなのよねぇ。飛行場姫の所のレ級ってぇ、

 本当に強いのよぉ?性能は私のほうが上なのに、こてんぱんにやられちゃったんだからぁ」

 

菊月に同意するように、水母棲姫がパフェを食べながら、相槌をうっていた。

菊月はギョッとすると、水母棲姫を見ながら、叫びを上げる。

 

「・・・で、今まで放っておいた、が!

 なんでお前がここにいるんだ!水母棲姫!

 しかもごく自然にパフェを食べてるんじゃない!

 お前は自室待機という話だろう!?」

 

「硬いこと言わないでよぉ。

 私だって甘いもの食べたいのよぉ!それに、加賀には許可もらったわよぉ?」

 

水母棲姫は笑顔で加賀を見る。

 

「・・・加賀ぁっ!?お前何をしているんだ!」

 

菊月は加賀を見る。すると、加賀は菊月の目線を受けないように、

首をあさっての方向に捻っていた。そして、そのまま、ボソリと呟く。

 

「寂しそうだったので。別に敵意は無いんですから。」

 

「流石加賀よぉ。話がわかるわぁ!あ、あとで加賀と提督の本、あげるわねぇ。」

 

「・・・約束ですよ?」

 

「もちろんよぉ!同好の士に嘘は言わないわよぉ。」

 

「ふふ、気分が高揚します。」

 

水母棲姫と加賀は、知らぬうちに、何かで繋がっているらしい。

菊月は加賀に呆れた視線を送りながら、口を開く。

 

「加賀ぁ。お前一体、何の話をしているんだ。本一冊で靡くなど、情けないぞ。」

 

菊月の言葉を受けて、加賀は少し、眉間にシワを寄せていた。

それもそうである。同好の士の一冊を馬鹿にされたのだ。

加賀は菊月を正面に見ると、真面目な顔で口を開いていた。

 

「そういうのなら菊月、あなたもこの後、

 水母棲姫の部屋に一緒に行きましょう。世界が、広がるわよ?」

 

「そうよぉ、菊月ぃ。あなたの本だって、いっぱい、あるんだからぁ!」

 

加賀と水母棲姫は一転、にやぁ、と、気持ち悪い笑みを浮かべる。

特に、普段の加賀からは、全くもって想像のできない、欲望溢れる笑みだ。

 

「ひっ・・!?い、いやっ。結構だ。私はそろそろ失礼する!」

 

菊月は、全身が粟立っていた。

加賀があのような気持ちの悪い笑みを浮かべることなど、いままで無かったことだ。

水母棲姫にきっと何かされたに違いない。

そう考えた菊月は、とりあえずこの場を離れるために、間宮を後にしようとする。

 

が、次の瞬間、菊月は右肩を加賀に、左肩を水母棲姫に掴まれていた。

 

「逃しません。」

 

「・・・ねぇ、菊月ぃ?逃がすと思ってぇ?ふふふ、さぁ、私の部屋にいきましょぉ?

 きっと菊月も、良い同好の士に、なれるはずよぉ?」

 

加賀と水母棲姫は、いい笑顔を浮かべたまま、菊月の肩を掴んだまま、ずるずると引きずる。

もちろん、目的地は水母棲姫の仮住まいである。

 

「いや、まて、加賀、水母棲姫。私は同好の士などというものに興味はない。

 まて、ちょっと待つんだ。なぁ?聞いているのか?なぁ!」

 

「うるさいわね。菊月。覚悟を決めなさい。貴女も、きっと、気にいるわ。」

 

「そうよぉ?じゃぁ、そうねぇ・・・。菊月はぁ、姉妹の同行の本から、はじめましょう?

 大手の同行の本で、いい本があるのよねぇ!」

 

「・・・いいアイデアですね、私も最初の一冊は、赤城さんと私の本でした。

 本当に、こんなものを生み出す人間は、素晴らしい生き物です。」

 

「なんだその姉妹との同行の本というのは・・・?というか最初の一冊とは何だ・・・?

 いや、そうではない。加賀、水母棲姫、いい加減肩から手を離せ!なぁ!?」

 

哀れ菊月、加賀と水母棲姫に肩を掴まれたまま、間宮を後にするのであった。

 

 

会見から数日前の、とある海。

 

「レ級ノ写真ハ相変ワラズ素晴ラシイナ。

 ・・・ソレニシテモ艦娘ト深海棲艦ノカッコウヲシテイル人間カ。

 美シイモノダナ。」

 

深海棲艦過激派の筆頭と言える南方棲戦姫は、ひとり、拠点で呟いていた。

その手には、横須賀に鹵獲されている飛行場姫が、イ級に持たせた写真が数十枚、握られていた。

 

「ヤハリ、レ級ニハ写真ヲトッテモラワネバナ。

 ソシテ、サラニ人間ト艦娘ノ生態ヲ知ルコトガデキレバ、

 非常ニ、有意義ダナ。」

 

南方棲戦姫はそういうと、控えていたイ級に視線を向ける。

 

「イ級。ゴクロウ。飛行場姫ト北方棲姫、

 ソシテレ級ガ健在ナノハワカッタワ。飛行場姫ニ伝令ヲ。

 『他ノ姫君ノ説得ハコチラデシテオク。

 貴君ラハヒキツヅキ自由ニウゴケ。時ガキタラ追ッテ連絡ス』」

 

「了解。ソウイエバ南方棲戦姫様。呉ノ港湾棲姫ハイカガシマス?」

 

南方棲戦姫は顎に手を当て、少し思案をしているようであったが、

イ級を見つめたまま、口を開く。

 

「アチラハ放ッテオイテカマワナイワ。」

 

「了解。ソレデハ出立致シマス。」

 

「マカセタワネ。飛行場姫ニヨロシク。」

 

イ級は南方棲戦姫の言葉を背に受けながら、ゆっくりと沈降していった。

そして、南方棲戦姫はイ級が見えなくなると同時に、拠点の戸棚から「ボウモア」を取り出し、口をつける。

 

「・・・はぁ。お酒は美味しい、写真は美しい。

 でもやっぱり、艦娘と人間とは仲良くしようとは思わないわね。」

 

コトン、とボウモアを机に置く。

そして、窓際まで移動すると、窓枠に頬杖をついていた。

 

「それにしても、飛行場姫、北方棲姫、港湾棲姫・・・そしてレ級、

 なぜ、貴方達は人間と艦娘が交流できるのかしら。不思議でしょうがないわね。

 ・・・私はダメだ。

 私の零は、私の船は、辿りつけなかった。あの無念、忘れることなど・・・。」

 

南方棲戦姫の目には、過去の情景が写っていた。

彼女の目に写るのは、250キロ爆弾を括りつけた

自身の零戦のコックピット、そして米軍の艦隊、

熾烈な対空砲火。体当たりする前に撃ち落とされる仲間。

そして、自身も撃ち落とされ、無残に海に叩きつけられたのだ。

辛うじて意識を保った彼は、自身が守るはずであった船が沈むさまを見る。

 

あぁ、無情。戦争とは、守りたいものが、こうもたやすく沈むのか。

 

「・・・いや、これは私の記憶ではない。「私達」の過去の記憶だ。

 感情に流されるなよ、私。一気に攻勢に出ては、我らは全滅だ。

 そう、機を狙うのよ。機を、狙う・・・。」

 

南方棲戦姫はぶつぶつと呟きながら、視線を落とす。

そこには、戦いとは無縁の、静かな海が広がるのであった。 

 

 

加賀は今、一人で、水母棲姫の部屋の前に立っていた。

 

『おまっ、こんなものを私に見せるなぁ!』

『そう言わないの、菊月。ほらぁ。あなたがこんなことを姉妹にしちゃって・・・』

『ばっ・・・やっ、いい加減離せぇ!水母棲姫、貴様っ!馬鹿力すぎるんだよ!』

『ふふふ、うぶ、ねぇ・・・。さぁ、まだまだ本はあるわよぉ?

 きっと、菊月も気に入るジャンルがあるからぁ。ねぇ?ふふふふいひひひ!』

『ひいいいいいいい!?加賀ぁ!どこいったぁ!助けてぇ!』

『残念、加賀はもう寝るそうよ。・・・さぁ、菊月ぃ?同好の士になりましょぉ?』

『やめろっ!私にそんなしゅ・・・って馬鹿!こんなものを見せるな!』

 

ドア越しに聞こえる菊月の断末魔をBGMに、加賀は合掌を行う。

 

「・・・ご愁傷様、菊月。でも、その壁を越えれば、素晴らしい世界が待ってるのよ。」

 

呟く加賀の手には、提督×加賀本が、しっかりと握られていた。

 

「それにしても、情事本以外にも素晴らしい本があるものね。」

 

加賀が手にする本は、日常系と呼ばれる同人誌である。

ストーリもしっかりとしていて、見ていて癒される逸品だ。

 

「私も提督とこんな関係が築けたら良いのだけれど。

 ・・・ま、秘書艦にもなれてないし、頑張るしかないかしらね。」

 

横須賀鎮守府の提督は、大和が秘書艦の立ち位置であり、加賀はあくまで所属艦娘だ。

だが、加賀も船であると同時に、一人の女性である。

恋愛に興味は大有りであった。

そんな加賀は、同人誌を読みながら、ふと、一つの疑問を思い浮かべる。

 

「そういえば深海棲艦も恋をするのかしら?

 ・・・あとで姫とレ級に訪ねてみましょうか。」

 

加賀はそう言うと、ゆっくりとした足取りで、自室へと戻っていた。

 

『加賀ぁあ!どこにいったんだっ!恨む、恨むぞっ!』

『はぁいはぁい、じゃあ次はこっちの菊月×提督の事情本を読みましょうねぇ・・・!』

『んなっ!?』

 

そして、菊月と水母棲姫の夜は、まだ始まったばかりである。




妄想捗りました。
菊月さん、加賀さん、仲間入り(予定)。


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120 レ級 カメラの更新①

コミックマーケットでイ級を轟沈せしめるという大正義をやらかし、一般人に知られることとなった、カメラを持った戦わない深海棲艦「戦艦レ級フラッグシップ改」。

そんな彼女のカメラですが、そろそろガタが来たようです。


横須賀鎮守府の会見から数日後。

件のレ級、レ級フラッグシップ改、カメラのレ級は、

いつものように、横須賀の自室でのんびりと

カメラの手入れを行っていた。

 

「んー、随分塗装が剥がれてきたなぁ。

 自分でメンテするのも、限界かなぁ?」

 

呟くレ級の手元には、確かに各所の塗装が剥がれ、

ところどころ、部品がかけ始めているカメラが握られていた。

 

というのも、装備品として認識するカメラではあるが

艤装が定期的に、オーバーホールを要する整備点検が必要なように

カメラについても、定期的なオーバーホールが必要なのだ。

 

「にしても・・・。我ながら随分使い込んだんだなぁ。」

 

レ級は6台のカメラを眺めながら、ぼそりと呟いていた。

 

特に、「70-200 F2.8ズームレンズ」をつけたカメラは

頻繁に撮影に利用しているためか、撮影には影響がないものの、

レンズそのものにも傷が入り、修復剤程度では直せない程度にまで、損傷を負っていた。

 

「んー、これは・・・出る絵には関係ないけど、カメラの耐久値的にもうぎりぎりかなぁ・・・。

 修理するっても、明石に頼んで出来ることなのかな。うーん・・・。

 でも、明石はカメラは専門外って言ってたし、どうしようかな?」

 

レ級はカメラを持ったまま考えていた。

すると、レ級の脳裏に、一人の人物が浮かび上がったのである。

 

「・・・・そうだ、提督殿に相談してみよう。もともとこのカメラ、海軍のだしなー。」

 

レ級はそう言うと、手早くカメラをホルスターに仕舞う。

そして、足早に、自室を後にするのであった。

 

 

「・・・カメラを直したい?」

 

執務室で書類整理を行っていた提督は、レ級の言葉に、怪訝な表情を浮かべていた。

 

「そーなんだよ、提督殿。修復剤でも治らなくなってきてさー。

 提督のツテとかで、精機光学研究所でオーバーホールとかシてもらえないかなーってさ。」

 

レ級はそんな提督に、笑顔を向けながら口を開いていた。

もちろん、片手には、傷ついたカメラを掲げている。

 

「精機光学研究所ですか、確かにツテはありますがね。

 レ級、一度、カメラを見せてもらっていいですか? 

 損傷度合いだけでも、確認しておきたいので。」

 

「ん、いいぜ。実際見てもらえば、限界が近いってわかるだろうし。」

 

レ級はそう言うと、カメラを提督に渡していた。

カメラを受け取った提督は、カメラを上下左右、様々な方向から観察する。

 

(なるほど確かに。随分コレは使い込んでありますね。

 ダイヤルに一部欠け、液晶モニターも少々不良、ですか。

 あぁ、しかもレンズに大きなキズが入っていますね。

 これは・・・精機光学研究所でも治すのは少々辛いのでは・・・)

 

提督は一旦視線をカメラから外し、レ級を見ながら、口を開く。

 

「これはなかなかダメージが大きいですね。

 そういえば、明石には相談をしてみましたか?」

 

レ級は頭をかきながら、提督に対して、苦笑を浮かべながら、口を開く。

 

「いんや。でも、明石はカメラは専門外だし、持ち込んでも直せないっていってたからさ。

 ここに持ってきた、ってわけ。」

 

「なるほど、納得です。それにしても、ここまで損傷がひどかったとは。

 確か、昨日も撮影してましたよね。全く気が付きませんでしたよ。

 装備品だからといって、油断できぬものですね。」

 

提督はそう言いながら、カメラをレ級に返していた。

レ級はカメラを受け取りながら、苦笑を浮かべていた。

 

「だよなぁ。私も気づいたのは今日だよ。

 いっつも修復剤で直してたけど、今日に限っては、損傷がそのままでさ。」

 

レ級はそういうと、一旦言葉を区切り、そして、改めて提督を見る。

 

「つーかさ。本当だったら、カメラなんて私の趣味だからさ。

 わざわざ提督とかの世話になりたくはないんだけどね。

 でも、写真を撮れなくなる方が私にとっては我慢ならないし。」

 

レ級は恥ずかしそうに、顔をぽりぽりとかいていた。

提督はそんなレ級を見ると、笑顔で口を開いていた。

 

「はは、お気になさらずに。

 それに、今は非常に良いタイミングですよ。

 修理のためにはどうしても外に出向かねばならない。

 でも、カメラに詳しくないものが行っても、問題しかないですし。

 ほら、カメラに一番詳しいレ級殿は一般公開され、

 大手を振って外に出れるわけですからね。」

 

提督は一旦言葉を区切ると、レ級を見ながら、人差し指を立てていた。

 

「で、レ級殿。一つ、提督としての、私からの意見です。

 レ級殿のカメラについてですが、正直、治すのは難しいと思います。」

 

「えっ、そうなの?海軍の特注品じゃないの?これ。」

 

「えぇ、特注品です。だからこそ、ですよ。

 民生品と違って、特注の部品を使ったカメラなんです。

 だから、修理といっても、部品がない可能性が大きいのです。」

 

更に、と提督はレ級を見ながら言葉を続ける。

 

「レ級殿が会見でカメラを見せてから、

 民生機の同型機である1DXが品切れが続いている、と精機光学研究所が発表していましてね。

 民生品から部品を流用しようにも、

 今現在、軍部向けの1DXですら発注できない状態なんですよ。」

 

そう、カメラを持ったレ級の影響は、殊の外大きかったのだ。

人間を守った深海棲艦が持っていたカメラ。

海軍の特注品だが、元となったのは精機光学研究所のカメラである。

会見後、民生品のカメラが、飛ぶように売れていたのである。

今も昔も、有名人と同じものを持ちたいという人間の心理は、変わらないようだ。

 

レ級は苦笑を浮かべると、提督を見ながら、ゆっくりと口を開いていた。

 

「そっかぁ。修理難しいかぁ。それなら仕方ないかなぁ。

 壊れるまで使って、どうしてもダメならニコイチにして使っていくことにするよ。」

 

レ級はそう言うと、提督室をあとにしようと、体の向きを変えていた。

だが、提督は、そんなレ級に、笑顔で言葉を投げていた。

 

「いえいえ、レ級殿。修理はできませんが、一つ、ご提案があるんです。」

 

提督の言葉に、レ級は不思議そうな表情を浮かべつつ、提督に視線を向けていた。

 

「提案?」

 

提督はレ級を見つつ、身振り手振りを加えながら、口を開く。

 

「えぇ、修理は確かに難しい。ですが、精機光学研究所に依頼して

 海軍の特注品のカメラを改めて仕立てることは、可能です。」

 

「えっ。・・・本当!?」

 

レ級はそう叫ぶと、提督を見たまま、固まっていた。

提督は苦笑を浮かべつつ、レ級に口を開く。

 

「本当です。まぁ、本来は青葉用となるはずだったんですが

 青葉本人が途中から『フィルムこそ写真なんです!』と言って、

 頓挫していたデジタルカメラの計画があったんですよ。

 ある程度ペーパープランは出来上がっていますので

 あとはレ級殿のお好きに手を加えてもらって構いませんよ。」 

 

レ級は提督の言葉に、満面の笑みを浮かべていた。

 

「お、おぉ!そうかっ。ありがとう、提督殿!

 で、早速なんだけど、そのペーパープランって、見せてもらっていい!?」

 

「えぇ、もちろんですよ。

 ・・・・とと、ありました、これです。

 草案は青葉ですので、おそらくレ級殿のご期待に添えるかと」

 

提督はそういうと、机の引き出しから、

数枚の紙束を取り出し、レ級に手渡していた。

レ級は紙束を一枚一枚めくりながら、ゆっくりと目を通していく。

 

『発 横須賀鎮守府  宛 精機光学研究所

 

 以前作成された、艦娘用デジタルカメラの後続機を依頼したい。

 おおまかな仕様は以下とする。

 

 以前のカメラよりも高画素、高レスポンス。

 現在の使用状況を鑑みるに、強度を増されたし。

 レンズは以前ものと同等で可能。ただし、強度を増されたし。

 ストロボも以前と同様で可能。同様に、強度を増されたし。

 

 各種詳細は次ページ。

 

 

 ◆1 カメラ本体について。

 マウントは精機光学研究所マウント。民生品と形状は同様で可能。

 ただし、強度と信号伝達速度は強化すること。

 更に、夜戦時でも撮影可能なように、高ISO時のノイズ低減を求む。

 その他にも、防水性や防塵性を持たせた一眼レフタイプを望む。

 なお、ローパスフィルターは、ONとOFFを選択可能に・・・・・・略』 

 

 

一通り目を通したレ級は、満面の笑みで、提督に口を開いていた。

 

「・・・いいねぇ!これっ!流石青葉!わかってるなぁ。

 ノイズ低減はいいなぁ。夜戦でもストロボ使わずに撮りやすくなるし!

 何より、月明かりで砲撃を行う艦娘って最高じゃん!

 ・・・ただ、まだちょっと足りないなぁ。」

 

レ級は仕様書を見ながら、首を傾げていた。

提督はそんなレ級を見ると、不思議そうな表情を浮かべる。

 

「ほう、足りない、ですか?」

 

そして、レ級は提督に人差し指を立てつつ、口を開く。

 

「うん。っていうのもさ、6つのカメラに6つのレンズっていうのがおかしいと思うんだ。

 せっかくのレンズ交換式カメラなんだから、カメラの個数以上にレンズを作って欲しいなぁって。」

 

提督は納得したように、手を合わせていた。そして、レ級に視線を向ける。

 

「あぁ、確かに。であれば、レ級殿が望むレンズを追加してみてください。

 予算との兼ね合いがありますが、可能な限り、レンズも作らせますから。」

 

「おっ、いいのかい、提督殿。」

 

レ級は意外そうな表情を、提督に向ける。

提督はにやりと笑みを作ると、ゆっくりと口を開いていた。

 

「えぇ、いつも良い写真を撮ってくれているお礼ですよ。

 ま、決まったら書類を持ってきください。

 今のところ会見の予定とかはありませんから、

 どうぞごゆっくり考えてください。」

 

「おうよー。っていうか、最初の会見以来、私表に出てないけど、本当にいいのかな?」

 

「えぇ、いいんですよ。オファーは多数ありますが、その殆どがキナ臭いですからね。

 もうしばらく様子を見て、大本営で許可が出たオファーに、レ級殿は出ていただきますから。」

 

「ん、そういうことならいいかなー。っと、それじゃあ私は自室に戻るね。

 提督殿!ありがとなー!」

 

「いえいえ、お気になさらずに。また後ほど。」

 

レ級は提督に手をふると、足早に、提督室を後にするのであった。

 

 

早速自室に戻ってきたレ級は、机に向き合いながら、

自分の理想のカメラと、レンズを考えていた。

 

「そうだなぁ・・・別に、今のカメラでも満足なんだよなぁ。

 少し物足りなかったカメラの強度と、

 ISO感度のノイズ低減については、草案でも書いてあるし・・・。」

 

レ級は自身の鼻にペンを器用に乗せながら、真剣にカメラの仕様を考えていた。

 

「基本的な構成としちゃあ、本体6台に、レンズ6台だろぉ?

 レンズはズーム3本に、単焦点3本。ここまでは基本形として・・・。」

 

トントン、と机にある草案を、ペンの後ろで叩きつつ、思案を続ける。

 

「ズームレンズはもちろん、広角、標準、望遠の2,8通しレンズで・・・。

 単焦点に関しては、F1.4かF1.2通しの24,50,85だろぉ?

 あ、でも・・・24を35にしてもいいか。悩むな・・・。」

 

ノートには、24or35、と走り書きがされている。

実際、レンズを選ぶときに、迷う焦点距離だ。

 

「で、レンズの設計は完全に新設計にしてもらって・・と。

 あとストロボは今よりも光量を増してもらって、チャージ時間を短くしてもらって、だ。

 ・・・追加レンズはどうしようかな?」

 

レ級は動きを止め、考え込んでいた。

というのも、レンズは非常に千差万別である。

近距離を撮影できる「マクロレンズ」

広角を更に広角に撮す「魚眼レンズ」

高層ビルなどを撮影する際、歪みを軽減させる「TS-Eレンズ」

比較的人間の目よりも広く撮影することが出来る「広角レンズ」

比較的人間の目に近い撮影が行える「標準レンズ」

人間の目よりも遠くのものが大きく写る「望遠レンズ」

そして、地上から月の表面を撮影することも可能な「超望遠レンズ」

 

などなど、一口にレンズといっても多数の種類があるのだ。

 

更に、その中にはグレードが有り、最上位グレードになればなるほど

ピントの速度、正確さ、そして移り方が上がっていくのである。

 

人、これをレンズ沼、という。

 

「そうだなあ・・・あ、そっか、これで単焦点をまずは・・・

 1,2通しで24,35,50、85、100、180って作ってもらえばいいか。

 で、100ミリと180ミリのレンズはマクロ仕様にしてもらって・・・。」

 

レ級の妄想は止まらない。人間の価値で言えば、間違いなく、

レンズ一本で数十万はくだらない代物である。下手をすれば一本100万超えだ。

そんなこととは露知らず、レ級は引続き、脳内の妄想を、紙に書き出していた。

 

「と、なると、あとはズームレンズか。

 まー、順当に11-24,24-70,70-200でF2.8通しがあればいうこと無いよなぁ。

 ・・・出来れば200-400のもほしいけれど、F2.8通しって作れるのかな・・・?」

 

レ級は次々にノートに、「ほしいレンズ規格」を書いていく。

その中には、カメラマンの憧れである300ミリF2.8、通称サンニッパ、

そして、400ミリF2.8のヨンニッパレンズも、入っていた。

 

「・・・まー、こんなもんかな?

 あとは、うーん。あ、そうだ。青葉が遠征から戻ってきたら相談するかぁ。

 一人で考えてても、どっか見落としがあるだろうし。」

 

レ級はそう言うと、机から離れ、そのままの姿で、部屋で横になる。

 

「うーん、それにしても、新しいカメラかぁ。わくわくするなぁ・・・!

 あ、でも待てよ、レンズ増えるってことは、レンズポーチも必要だよなぁ。

 ・・・おっ!そっか、これも依頼しておけばいいのか!」

 

満面の笑みで、呟くレ級。

自分が深海棲艦であることなど、全くもって、気にしていない様子であった。

 

 

 

一方その頃。水母棲姫と加賀、そして菊月はというと。

 

『・・・・・くふふふふ』

 

『ね?面白いでしょぉ?』

 

『あぁ、面白い・・・これは、面白いぞ・・・!

 ・・・そうか、皐月か、悪くない。』

 

『・・・菊月も本の良さが判るようになったのですね。

 なるほど、そうきましたか。気分が高揚します。』

 

事実だけを述べるとすれば、会見から数日たった今日、

加賀と菊月は自分の意志で、連日、水母棲姫の部屋に入り浸っている。




妄想捗りました。新たな武器を手に入ることが確定し、より一掃気合の入るレ級さん。
そして、腐海に轟沈させられた菊月(武勲艦)。なんぞこれ。

誤字修正致しました。


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121 レ級 カメラの更新②

自身のカメラについて、妄想をふくらませていた戦艦レ級。
そこに遠征から帰還した青葉も合流し、草案を作っていくようです。

そして、その裏で、海軍と陸軍の、共同作戦が動き出すようです。





戦艦レ級フラッグシップ改、

そして、遠征から帰還した重巡青葉は

横須賀のレ級の私室で、レ級の新しいカメラについて

お互いに案を出し合っていた。

 

「なるほどなるほど、ローパスフィルターのON、OFFをカメラ内で切り替えるようにしたいんですねー。」

 

青葉はレ級が欲しい機能をまとめた紙を見ながら、笑みをみせつつ、つぶやいていた。

レ級はそんな青葉を見ながら、笑顔で口を開いていた。

 

「そーなんだよー。今の写真でもいいんだけど、拡大した時にもっと解像度が欲しい時があるからさー。どうかな?」

 

「んー、私はおすすめできませんねー。なんせ、デジタルカメラとなると、内部で画像の処理をしますから、確か、間違っていなければ、ですけれども、ローパスフィルター有りと無しで、別々のプログラムを用意しないと駄目だったと思います。そうなると、プログラムでの不具合が心配になりますし、何より機械的な構造がカメラの中に増えますからね。レ級さんのように、海でアグレッシブに写真を撮影するスタイル、つまりは、日常的に衝撃を受け続ける撮影には向いてないと思います。」

 

「なるほどなぁ。確かに考えりゃそうかぁ。うん、やめとくー。」

 

レ級は青葉の説明を聞き、おとなしく、

ローパスフィルターのON,OFF機能を諦めたようである。

 

「ただ、そうなると迷うのが、ローパスフィルターの有り無しだなぁ・・・。青葉的にはどっちがいいと思う?」

 

「そうですねぇ・・・。私は有りのほうがいいと思います。確かに解像度は高くなると聞きますけれど、レ級さんの場合は、高解像度が必要な風景写真、というよりも、動きが多くて、早いピントが必要となる戦場を撮影するっていう感じですからね。撮影スタイルから言っても、そこまでの高解像度は必要ないと思いますよ?さらに言えば、逆に細かい艤装周辺に、偽色という、いわゆるノイズの一種が走りやすくなりますからね。」

 

「偽色・・・?」

 

「えぇ、偽色です。モアレ、とも呼ばれています。ほら、細かいチェック柄とか、髪の毛とかに、本来の色以外の色が写っていること、ありません?」

 

レ級は今まで撮影した写真を思い出していた。

確かに青葉の言うとおり、毎日艦娘を撮影している中で、

数枚、細かい柄や髪の毛といった場所に、

本来の色ではない、虹色のような色が発生していたのだ。

 

「・・・ああっ、そういえば、時々あったな。なんか虹色みたいな感じの。あれが偽色っていうのか!」

 

レ級は大きくうなずきながら、口を開いていた。

そんなレ級を見ながら、青葉はさらに言葉を続ける。

 

「ローパスフィルターを外してしまうと、今以上に偽色が現れる可能性がありますからね。あとは高解像度が欲しいか、、正しい色が欲しいかっていう、レ級さんの好みで選んでいいかと思います。」

 

「なるほどなぁ、それだったら、私は色を取ろうかなー。そんなに拡大することってないし。・・・・よっし!ローパスフィルターはついたままでいいかなぁ。」

 

レ級は自らの作った草案に、赤いペンで線を引く。

そして、目立つように「ローパスフィルター有!」と書き込んでいた。

 

「あ、でだ。青葉。あと相談しようと思ってたのが、レンズについてなんだ。

 せっかくだからカメラ本体より多くレンズを持っておきたくてさ。」

 

「おぉ、それはいいアイデアですね!確かにレ級さん、6台のカメラに6本のレンズでしたしね。一眼レフなのに、レンズ交換をしないというのが、常々もったいないなーとは思ってたんです。」

 

「だよなぁ!私もそう思っててさー。せっかくだから作ってもらおうかなーって。」

 

レ級はそう言うと、カメラの草案の中から、レンズの項目を青葉に見せていた。

青葉はレ級の草案を見ながら少し、思案していたが、

気になるところがあったのか、草案に指を当てつつ、ゆっくりと口を開く。

 

「基本のレンズ構成は今までのと一緒なんですね。16-35,24-70,70-200のF2.8通しのズームレンズに、あ、単焦点は増えてる。24,35,50,85,100のF1.2・・・1.2!?わ、まだ開発もされてないレンズじゃないですか!すごいものをレ級さん発注しようとしてますねぇ・・・!ええっと、それに加えて・・・400mm500mm,600mm,のF2.8レンズぅ!?」

 

青葉は、レ級の出した草案に、驚きを隠せないでいた。

何せ、今まで開発されていないレンズまで草案に出されていたのだ。

思わず、レ級の肩を掴みながら、大声でレ級に叫んでいた。

 

「いやいやいや、レ級さん、これはなかなか無茶だと思いますよ!?望遠でF2.8の大口径レンズは400ミリしかいまのところないですし!っていうか、さらっと書いてありますけど、100-400ミリのF2.8通しレンズっていうのも無茶すぎます!」

 

レ級は、青葉の剣幕に気圧され、引きつった笑みを浮かべていた。

 

(・・・あっれー?私そんなに無茶なこと書いてたの・・?)

 

深海棲艦の、人間の価値観からズレているレ級からしてみれば、

提督から「欲しいカメラとレンズの案出してね」と、

「そうすれば作ってあげるから」と言われたから、

気軽に草案を作っていたのだ。

だが、艦娘として海軍に昔から所属している青葉は違う。

カメラを海軍から依頼するということは、

カメラの開発費を全て海軍から出さなければならない事を、

青葉は知っているのだ。

 

特にデジタルカメラともなれば、機構は複雑になり、

軍用品として耐えうるよう、民生品とは違う、

タフなカメラを新規に、設計を行わなければならない。

時間もかかれば、金もかかるのだ。

 

「レ級さんっ、これ、今、規格に無いレンズ群なんですよ!ッて言うことはですよ?これ、海軍の品なわけで、つまり海軍から多額の開発資金を出さなければならないんです!確かにレンズが欲しいのは判りますけど。もうちょっと現実的な案にしましょうよ!」

 

相変わらず、すさまじい剣幕でレ級に詰め寄る青葉。

というのも、実際、レ級と同じように提督から、

青葉が使う新デジタルカメラについての話があった時には、

デジタルカメラのあまりの値段に、青葉は思わず話を断っていたのだ。

 

ただ、それでもレ級は諦めきれないのか、まくしたてる青葉に対して口を開く。

 

「・・・そうなの?うーん・・・。でも、欲しいし。実際、いくらぐらい、かかるものなの?」

 

「・・・そうですねぇ。カメラに関しては、新規開発で数億円からと言われています。レンズに関しても、数千万から数億円とかいう話ですよ!元々のノウハウがある会社とはいえ、それでもやっぱり、レンズ一本に対して数千万の出資をしなくちゃ駄目だと思います。」

 

数千万から数億。青葉の口から出た言葉に、さすがのレ級も驚愕の表情を浮かべていた。

 

「わぁぉ・・!?お、億までいっちゃうのか・・・。ってことはもしかして、私の持ってるカメラも・・・?」

 

レ級は今現在、自分が使っているカメラに視線を落としていた。

そう、新規開発であれば数億円。民生品でそれなのだ。

もし、それが、レ級がタンカーから奪った、

軍用品でワンオフものだったら、果たしていくらなのか。

 

「えぇ、もちろん、高価です。というより、海軍の新規ネットワークのための設備だったので、すべてが億単位です。レ級さん、深海棲艦でよかったですねー。もしそうじゃなければ、今頃とんでもない額が請求されてたと思いますよ。」

 

そう言い終えると、青葉はにやりと笑みを作る。

さすがのレ級も、苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「・・・うん、なんか海軍に相当迷惑かけてたみたいね・・・。おっけー。今回の新規のカメラ、もうちょっと現実的な案にしてみる。」

 

「判っていただけましたかー! とと、それじゃあレ級さん、私の持ってるレンズのリストとかを後でお渡ししますから、そこからほしいものをチョイスしてみてください!判らないことがあれば、また相談していただいて構いませんので!」

 

「あいよぉ。青葉、悪いなぁ。」

 

「いえいえ!カメラの構成を考えるのも楽しいものですから!と、それじゃあレ級さん、早速カタログをもって来ますね!」

 

青葉はそう言いながら、レ級の私室を後にする。

レ級は片手を挙げ、青葉を見送るのであった。

 

「・・・それにしても私のカメラが数億・・・?うん、うーん?姫様の命令で、タンカーから強奪したとはいえ、さすがに罪悪感が・・・うん。あれだね。私、いろいろな意味で、深海棲艦でよかった。」

 

レ級はそういうと、ファインダーをのぞき込み、

一度だけシャッターを押し込むと、

シャッターの気持ちの良い音が響く。

 

カシャリ

 

「・・・億のシャッター音って思うと、なんかまた違う、かなぁ・・?」

 

レ級はシャッターの音と、手から伝わる振動を感じると

改めて、自身のカメラを見つめるのであった。

 

 

 

レ級と青葉がカメラ談義をしていたその頃、

横須賀鎮守府に設置されている大本営で、

ひとつの重要な作戦が決まろうとしていた。

 

「・・・陸軍、この作戦書は真か?」

 

海軍の将校は、陸軍から提出された作戦書を見ながら、

陸軍の将校を見つめていた。

 

「えぇ、真です。我々陸軍は、全面的に海軍の支援を要請致します。

 先の会見で明らかになった、 貴君達が所持している、

 深海棲艦に対しても、協力を願いたい。」

 

陸軍の将校は、落ち着いた口調で事実だけを述べていた。

それを受けて、海軍の将校は、ため息をつきながらも

作戦書を熟読していた。

 

そして、あらかた作戦書を読み終えた海軍の将校は、重い口を開いた。

 

「なるほど、理解しました。戦艦レ級、飛行場姫の協力を取り付けたいわけですか。

 努力はしましょう。・・・だが、勘違いはしてもらっては困りますよ。

 人類に対しては友好的だが、彼女らは決して軍に従うわけではない。」

 

「承知の上だ。だが、やってもらわねばならん。海軍よ。

 我が帝国陸軍、5200名、いや、約8000名の命がかかっておるのだ。」

 

「・・・もちろんです。我々も協力は惜しまない。

 艦娘以外にも、軍艦を出す。

 だがそうなると、貴君らとの密な協力も必要となるが・・・。」

 

「もちろんだ。この期に及んで陸軍だの海軍だの言うつもりは無い。」

 

陸軍の将校は、海軍の将校の目を見つめたまま、間髪入れずに返答を返していた。

 

「判りました。陸軍将校殿。

 では、改めて作戦の内容を確認いたします。

 作戦名【アツ島、キス島撤退作戦】。

 アツ島約3000名、キス島約5000名、

 ・・・2島合計、約8000を超える陸軍兵を、

 誰一人残さず、本土へと帰還させるための大規模作戦です。

 ・・・異論はありませんか?」

 

大本営は沈黙をもって是の意思を表する。

 

「・・・異論は無いようですね。それでは、我々は案を煮詰めましょう。 その間に、横須賀鎮守府の提督殿には、レ級と姫の説得をお願いすることとします。」

 

今ここに、海軍・陸軍との共同作戦を行うことが決定したのである。

 




妄想捗りました。深海棲艦と人類の共同作戦、なるか。

レ級のもとのカメラは1DXでございます。
カメラ更新の話を書き始めたら新しい1DXが発表されて、
何その偶然とびっくりしたのはココだけの話。


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122 レ級 カメラの更新③

前回、レ級と飛行場姫に、まさかの協力を仰ぐことを決定した
日本帝国陸海軍。早速、その交渉のために、横須賀の提督がレ級の元へと出向くようです。


横須賀鎮守府の一室。

戦艦レ級フラッグシップ改が充てがわれた部屋には

部屋の主である戦艦レ級と、

レ級のカメラの弟子である飛行場姫が集っていた。

 

「いいわねぇ、レ級は。提督に気に入られて。

 私も新しいカメラ欲しいわね。」

 

レ級と青葉が作った草案を見ながら、

飛行場姫はぶつぶつと独り言を呟いていた。

 

何せ飛行場姫も、レ級の影響とはいいながらも

相当カメラを弄くり倒し、写真を撮影しているのだ。

 

ただし、そのカメラは飛行場姫の物ではなく

レ級のカメラを貸し出している形である。

 

そして、今日、なぜ飛行場姫がレ級の部屋に居るのかといえば

飛行場姫が、レ級からカメラとレンズを1セット、

借りようと思ったためである。

 

「まー、なんでしょう。あの提督はちょっと怖いですけれど、

 こういう時は仲良くなってよかったなーと思います。

 っていうか姫様。海軍から寸志出てるでしょうに。

 それで北方棲姫様と同じように、自分のカメラ購入したら如何です?」

 

レ級は、飛行場姫に対して、苦笑を浮かべつつ口を開いていた。

何せ北方棲姫は、あの会見の後、

自前の1DXの新型と、大三元F2.8レンズを携え

日本各地へと写真を撮りに、飛び回っているのだ。

 

曰く、

 

「せっかく上陸できたんだから、旅行して、遊んで、

 撮らないと損だよ、ねっ!」

 

だそうである。

 

そんな北方棲姫を思い出しながら、飛行場姫とレ級は

会話を続けていた。

 

「そうは言うけれどねぇ。あれはアグレッシブすぎよ。

 北方海域で引きこもっていた反動とは言え、

 私には真似できそうにないわよ。」

 

「あー確かに。そういえば、北方棲姫様が担当してた島って。

 アツ島とキス島でしたよねぇ。

 そういえば、今頃あの島どうなってるんですかねぇ?」

 

「大本営やら提督やらの話を聞いてると、

 北方棲姫があなたと一緒に世界を回ってた時に

 どうやら人類が確保したらしいわよ?

 まぁ、最近になって戦局が怪しくなってきたらしいけど、ね。」

 

飛行場姫はそう言いながら、レ級のカメラをいじくっていた。

カリカリと絞りとシャッター速度をいじる彼女の顔は

にこにこと笑みを湛えている。

 

「しっかし姫様も、カメラ好きになりましたよねー。」

 

レ級は自身のカメラを弄くり倒しながら、

笑みを浮かべる飛行場姫に思わず口を開いていた。

 

「・・・そうねぇ。私もここまでカメラに嵌る、とは思っていなかったわ。

 アノ時はまだ、レ級のカメラをかりればいいと思ったけど・・・。

 うーん、やっぱり自前でカメラ、揃えようかしら?」

 

そう言いながら、飛行場姫はカメラを構え、ドアへとレンズを向けていた。

すると、ちょうどそのタイミングで、レ級の私室のドアが開き

飛行場姫が覗くカメラのファインダーに、ドアを開けた人物の顔が

ドアップで映しだされていた。

 

「・・・あら、提督じゃない。急にドアをあけるなんて、

 無粋もいいところじゃない?」

 

飛行場姫は少し驚きながら、ドアを開けた提督に言葉を投げていた。

飛行場姫の言葉に、レ級はビクッと反応すると、ドアに視線を向けていた。

 

「・・・うおっ。提督じゃねーか!

 ノックぐらいはしてくれよー。」

 

レ級と飛行場姫の言葉に、提督は肩をすくめつつ、口を開く。

 

「はは、いきなりすいませんね。少々急を要していたもので。

 飛行場姫殿もいるとは丁度いい。---少々、お時間ありますか?」

 

提督はそう言うと、真剣な顔をレ級と飛行場姫に向けていた。

その雰囲気の変わりように、

レ級と飛行場姫は、姿勢を正しながら、口を開いていた。

 

「んお?別にいいぜ。どうしたんだよ。」

 

「時間は有り余ってるわよ。どうしたのかしら?」

 

提督は、姿勢を正した深海棲艦の2隻を見ながら

ゆっくりと、しかしはっきりとした発音で

大本営から命じられた言葉を、レ級と飛行場姫に伝えたのであった。

 

「・・・実は、お二人に、海軍と陸軍が合同で行う

 大規模撤退作戦に、参加いただきたいのです。」

 

「「・・・はい?」」

 

レ級と飛行場姫は、あまりの衝撃に、お互い見つめ合いながら

ようやく一言、発するのが精一杯であった。

 

 

ひとまず落ち着きを取り戻したレ級と飛行場姫は

提督から作戦書を手渡されていた。

 

「なるほどなるほどなるほど・・・。

 8000名を救うための大規模撤退作戦、ねぇ。」

 

「こりゃまた無茶な作戦を立てたなぁ・・・。

 しかもこれ、作戦書を見る限り

 なんか北方棲姫様以外の姫様っぽいのがいるっぽいし。」

 

作戦書を熟読しながらも、

感想をぽつりぽつりと述べていくレ級と飛行場姫である。

 

「・・・で、キス島撤退の旗艦は、阿武隈・・・阿武隈?

 阿武隈かぁ!久しぶりに撮れるなぁ。

 んで、アツ島撤退の旗艦は金剛・・金剛ぉ!?」

 

「撤退作戦なのに、快速である駆逐艦とか軽巡よりも

 高速戦艦である金剛を選ぶのね。なんでかしらね。」

 

「うーん、あ、姫様、ここの項目ですね。

 アツ島近くに姫級以下多数の深海棲艦を

 確認していると書いてありますね。」

 

「あぁ、本当ね。なるほど、深海棲艦が多数居て

 撤退が難しい、そのためのアツ島打撃艦隊、

 そのための旗艦金剛、というわけかしら。」

 

「そうみたいですね。で。私たちもどうやら

 アツ島撤退作戦の打撃部隊に編入されてるみたいですよ。」

 

「あら、本当ね。・・・了解もしていないのに、

 海軍と陸軍は、何を考えているのかしら、ね?」

 

「本当です、ね?」

 

飛行場姫と、レ級は、語尾に力を入れながら

提督へと、殺気を込めた視線を向ける。

 

するとそこには、顔からダラダラと冷や汗を流している

横須賀鎮守府を納める提督が、正座を持って鎮座していた。

 

「あら、どうしたのかしら提督。

 そんなに汗を流して。何か都合の悪いことでも?」

 

「本当ですねぇ。姫様。

 ねぇ、提督、何か都合の悪いことでもあったの?」

 

流石の提督でも、深海棲艦の上位艦種である姫君と

その部下であるレ級の殺気のこもった視線を受けては

冷や汗を流す他ないようである。

 

が、実はこの提督、この2隻の深海棲艦が

確実に動く文言を、隠し持っていたのだ。

 

「いえ、別に。それにしても残念です。

 その様子ですと、どうやら作戦には

 参加していただけないご様子ですね。」

 

「そりゃあ、そうでしょう。 

 これは深海棲艦に対しての裏切りに等しい行為よ?

 流石に首は縦にふれないわね。ねぇ?レ級。」

 

「そりゃそうでしょうね。

 流石に軍の進軍についていくとなると

 完全に人類の味方、ってことになっちゃいますし。」

 

「わかっています。

 ですので、今回の作戦においては、

 基本的には先導と警戒をお願いしたいのです。」

 

「なるほど、まぁ、それなら多少は、と言いたいけど

 それでも艦娘と人類を助けるということでしょう?

 しかも公の作戦で。流石に飛行場姫たる私でも

 その後の尻拭いは出来ないわよ。残念だけどね。」

 

飛行場姫はそう言うと、作戦書を手放し、

レ級のカメラへと手を伸ばしていた。

 

そんな姿に、提督は苦笑しながら、言葉を投げかける。

 

「・・・そうですか、残念ですね。

 今回の作戦が成功した暁には、

 陸軍から飛行場姫様へと、返礼の話があったのですが。

 新型のカメラとか。」

 

ピクリ、と飛行場姫の表情が動く。

 

「あぁ、それと、レ級殿も同様です。

 本来、カメラには多額の開発費がかかります。

 それを全て、貴女の思い通りの機材をそろえた上で、

 その資金全てを海軍で援助させていただく・・・

 手はずだったんですけどねぇ。」

 

今後はピクリ、とレ級の口元が動く。

 

「あぁ、残念ですね。

 既にカメラメーカー数社とも話をつけていたというのに。

 あぁ、全く、レ級殿と飛行場姫殿が作戦を拒否するのならば

 この話は、なかったことに・・・・。」

 

「「いや、早まらないで頂きたい提督殿。

  別に作戦に参加しないとは行っていない(わ)」」

 

残念そうに言葉を続けていた提督に、

レ級と飛行場姫は食って掛かっていた。

 

それもそうだ。先程までカメラ談義をしていたこの深海棲艦達は

お互いに、新しいカメラが欲しいのだ。

 

レ級は、カメラが壊れかけ、自分の望むレンズとカメラを。

飛行場姫は、あこがれの自分の、しかも専用品のカメラを。

 

それぞれが、本気で欲しているのである。

 

そんなさなか、まさかの軍からの支援の話。

対価としては海軍の作戦に参加するという、裏切り行為。

しかしながら、どうしたってカメラは欲しい。

 

作戦を断ろうとしていた2隻の深海棲艦の決意が揺らぐのも

しかたがないことであった。

 

「・・・ほう、それでは、参加して頂けますかな?」

 

提督は、にやりと笑みを浮かべ、レ級と飛行場姫に、問いかけていた。

レ級と飛行場姫は、お互いに顔を見合う。

そして、そのまま、小声で作戦会議を始めていた。

 

「・・・姫様、どーすんすかこれ。

 思わず声でちゃいましたけど。参加するんですか?」

 

「・・・どうしましょうか、レ級。

 流石に自由行動をしていいと命令を受けているとはいえ

 これは流石に厳しいと思うわ。でも、でもよ?

 カメラ、私にもくれるっていうじゃない!?

 何か、何かいい作戦を・・・。」

 

「確かにスゴク魅力的なんですよ。

 開発費まで出してくれるってことは、今までなかったレンズも

 私のために作ってくれるということで・・・。うひひ。

 そうですよ、姫。何か作戦を考えましょう。

 そう、深海棲艦に裏切りととられず、

 軍をうまいこと支援する方法。」

 

うーん、うーんと唸りながらも、

レ級と飛行場姫は頭をフル回転させる。

 

(水母の姫を出汁に使う?いやいやいやいや、だめよ。

 そんなことをシてしまっては、結局のところ

 横須賀鎮守府を悪者にしてしまうわけだし、それはだめよ。) 

 

(私だけならまだ「またレ級」の暴走かー!

 で済むんだけどなぁ?でも姫様もかぁ。 

 さー・・・どうしようか?)

 

その思考の速さといえば、

艦娘と戦う時よりも、しいて言えば

ソロモン海の戦いのときよりも、

さらに輪をかけて高速で考えを巡らせているのだ。

 

(・・・そうだわ、レ級を出汁に使えばいいんだわ。 

 ほかの姫達から何か聞かれたら・・・・

 いつもの「レ級が暴走した」で、そのあと

 武装した私が後ろからついていった。OK。

 少し苦しいけど、OK、OKよね。)

 

(・・・あれ?でも「またレ級」の暴走っていえば

 ほかの姫様達なんか納得しそうじゃね?

 っていうか、新しいカメラでこんな写真撮りました!

 って送り付ければ案外なんとかなるんじゃあ・・・?)

 

レ級と飛行場姫は考えがまとまったのか

同時ににやりと笑みを浮かべると、提督に向かって口を開いた。

 

「「・・・提督、カメラは確約で間違いないですか?」」

 

「えぇ、もちろんです。

 そのほかにも必要なものがあれば、

 最高の逸品を用意しましょう。」

 

提督の言葉に、飛行場姫とレ級は満面の笑みを浮かべる。

 

「・・・それなら問題ないわ。

 仕方ないわね。それなら、そう。

 善意で、善意で、作戦につき合わさせてもらうわ。」

 

「いいねぇ。私はもちろん参加だぜ。提督。

 カメラ、思う存分高いのを頼むから覚悟しとけよー?」

 

「えぇ、もちろんですとも。」

 

提督はいったん言葉を区切ると、

表情を真剣なものに切り替え、レ級と飛行場姫に口を開く。

 

「その代わり、お二人とも、確実に作戦の遂行を願います。

 我々海軍と陸軍があなた方に望むのは、

 ひとつ、深海棲艦の最も少ないルートの選定。

 ひとつ、深海棲艦がもっとも少ない日の選定。

 ひとつ、艦隊の護衛、及び偵察。

 ・・・そして最後に、有事の際は、艦娘と撤退する人員を

 一人残らず護衛し、無事に帰還せしめること。

 

 ・・・以上の事柄を完遂していただければ、我々はあなた方の望むまま

 返礼を致す次第であります。全ては、あなた方にかかっておるのです。

 

 改めて、ご協力、感謝、申し上げます。」

 

提督は深く礼をする。

 

「それにしても・・・本当によろしいのですか?

 裏切りととられると、先ほど申されてましたが。」

 

提督は体を直しながらも、神妙な顔を

飛行場姫とレ級に向けながら、口を開いていた。

その姿を見たレ級と飛行場姫は、苦笑を浮かべていた。

 

「別にいいわよ。私たちもカメラが貰えるなら善意で動くわよ。

 ま、いざとなれば、レ級が暴走したって言えばいいのよ。

 そうすれば、たいていのことはなんとかなるわよ。」

 

「なんだ、姫様も同じこと考えてましたか。

 私が暴走したっていえば、大体のことはなんとかなりますからね。

 ま、だから提督は気にすんなって。

 レ級たる私がついてんだぜ?大船に乗った気でいろって!」

 

レ級はそういうと、提督の背中をばんばんと叩いていた。

 

 

そう、つまりは、キス島、そして、

史実では全滅と相成った島であるアツ島。

この2島からの撤退作戦に、今、

深海棲艦が参加することが決定したのである。




妄想はかどりました。

レ級さん、飛行場姫様、カメラのために裏切り容認。
仕方ないですよね、趣味ですから。


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123 レ級 北へ その1

前回、人類が行う「アツ島・キス島撤退作戦」に参加を決めたレ級と飛行場姫。
作戦立案をしつつ、彼女たちは艦娘とともに、
北の拠点、幌筵泊地へと足を運ぶようです。

(少しだけ別作「自由なエリレ」さんが噛んできます。)


朝4時。

日がまだ水辺線の下に沈んでいる早朝に

横須賀鎮守府の近くにある三笠公園に

2人の女性の姿があった。

 

いや、正確に言えば、1隻と、1人、

と言った方が正しいのかもしれない。

 

「・・・てなわけで、キス島とアツ島撤退作戦に

 参加することになってしまったんです。

 正直荷が重いと云いますか・・・・。」

 

「なるほどのぉ、敵であるお主が、人類の味方をのぉ?

 ま、別にお主が決めたのならば、私はなにも言わんよ。

 その行動は、我々が守護するべき人間に、有益であるわけだしの?」

 

一人は、古い軍服を着て、若干足元が透けている小柄な娘であり

今現在、なぜかレ級にだけ姿が見える「戦艦三笠」の艦娘のようなもの。

 

「そうは言うんですけどねぇ。

 三笠さんの言うとおり、腐っても私は敵なんですよね。

 カメラという点を差し引いても、なぜ私が人類の味方をしようとしたのか、

 未だに自分でもわからないんです。」

 

一隻は、蒼白い肌に、金色の眼をもち、巨大な尻尾を持つ少女。

深海棲艦とよばれる人類の敵の代表格、「戦艦レ級」である。

 

「敵と味方、どちらかの立場で揺れるとは、

 やはり今代の敵、深海棲艦は・・・いや、お主は、妙なものだ。

 明確な敵というわけでもない。

 かといって、明確な味方というわけでもない。

 うぅむ・・・・。」

 

三笠は少し考え込んでしまう。

何せ、このレ級は敵であるものの、妙に人間と艦娘に好意を抱いているのだ。

更に言えば、なぜか三笠の姿が見えるのは、艦娘でも、提督でもなく

この深海棲艦のレ級ただ1隻である。

更に言えば、なぜかその深海棲艦が、わざわざ早朝の三笠公園に出向いて、

三笠と話をしたいと持ちかけてきたのだ。

 

(なぜ相談するのが私なのだ・・?)

 

戦艦三笠が、頭を抱えてしまうのは仕方が無い事である。

 

「悩ませてしまって申し訳ありません。

 ですがその、我々の大先輩である三笠さんに

 何か助言をいただければ、吹っ切れるかな、などと思いまして・・・。」

 

レ級は申し訳無さそうな顔を、三笠に向けていた。

 

「ふーむ。そう言われれば助言せぬ訳にもいかぬわなぁ。

 時にレ級。お主、なぜ今回、作戦に参加しようと思ったんじゃ?

 カメラ抜きで、答えてみせよ。」

 

三笠はそう言うと、レ級の眼を、まっすぐと見つめていた。

レ級は三笠の眼を見返すと、ゆっくりと口を開く。

 

「・・・カメラ抜き、となればただひとつです。

 あの鎮守府の艦娘(馬鹿共)と、提督(馬鹿野郎)と一緒に海で戦いたくなったから、です。

 ですが、私は敵ですから、この気持が正しいのかなんなのか・・・・。」

 

レ級は言葉を切る。そして、目をつぶって下を向いた。

三笠はそんなレ級を見ながら、笑みを浮かべ、レ級に言葉をかける。

 

「なんじゃ、お主、答えは出ていたのじゃな。

 それならば私がかける言葉は一つ。

 「やるだけやってみろ」。以上だ!

 敵とか味方とか、立場に縛られるのではなく、

 貴様の気持ちの赴くままに動いてみろ。

 さすれば、そこに道がある。」

 

三笠はそこで言葉を区切ると、レ級の頭に手を載せ

ぐしゃぐしゃと、レ級の頭を撫でていた。

 

「なに、気負いをするな。深海棲艦のレ級。

 私も海の上にあるころに、提督とともに道を歩んでいたら

 こんな場所で人類の営みを見守るという大役を仰せつかったのだ。

 貴殿の前にも、いずれ良い道ができようぞ。」

 

レ級は三笠をちらりと見ると、顔を上げる。

そして、三笠の腕をはねのけると、にやりと笑みを浮かべた。

 

「ガキ扱いすんじゃねーよ。

 ま、そっか、うん、やるだけやってみる。

 ありがとうございます。三笠殿。」

 

レ級はそう言うと、三笠へと礼をする。

 

「はは。なに、気にするな。

 誰かと話せるだけでも、私は楽しいのだ。

 また何かに迷ったら、気軽に来ると良いぞ。若いの。」

 

三笠はそう言うと、その姿を、闇夜に溶かしていた。

レ級はその姿を見送ると、自身も体を翻し、横須賀鎮守府へと足を向けていた。

 

 

朝7時。天に日が昇った頃である。

横須賀鎮守府の桟橋には、

加賀、武蔵、菊月、レ級、飛行場姫の5隻が集められていた。

 

「ご苦労様です。さて、事前に命令書が届いているとは思いますが

 我々はこれから、幌筵泊地へと足を向けます。」

 

そして、それらの船の前には、横須賀鎮守府の提督が

命令書を片手に持ちながら、作戦の説明を改めて行っていた。

 

「幌筵泊地にて、呉鎮守府の精鋭である金剛、

 そして、キスカ島撤退作戦の主力である阿武隈、第六駆逐隊と合流します。

 なお、幌筵泊地には既に横須賀から雪風が着任し、陣頭指揮を取っていますので

 呉鎮守府、横須賀鎮守府、そして幌筵泊地の駆逐艦5隻を以って、

 キスカ島周辺に霧が出次第、アツ島、キスカ島へと突入。

 両島合計8000名の撤退を貫徹するものとします。」

 

「提督よ、一つ訪ねても良いか?」

 

片手を上げ、口を挟んだのは武蔵だ。

 

「なんでしょう?」

 

「レ級と飛行場姫が参加するのは良い。

 だが、飛行場姫の移動手段はどうするのだ?

 こいつは確か、陸上型の姫だったはずだ。」

 

「あぁ、それについてはご心配なく。

 飛行場姫殿、ご解説願えますか?」

 

「えぇ、勿論。武蔵の心配はごもっともでしょう。

 でも、大丈夫なのよ。今回、アツ島撤退作戦を指揮する護衛艦

 「あぶくま」っていう船がいるんだけれどね。

 ええと、あれね。」

 

飛行場姫は一隻の護衛艦を指差していた。

艦種には「232」と番号が銘打ってある船。

護衛艦「あぶくま」である。

 

「私がアレを基地として棲むわけ。そうすれば、あれが移動すればいいわけでしょ?

 陸上に棲むよりは性能が落ちるけれど、ま、それでも他の姫には負けはしないわよ?」

 

確かに阿武隈の甲板を見れば、飛行場姫の艤装が据え付けられていた。

 

「ということです。武蔵。心配はいりませんよ。

 何より海上はレ級がいるのですからね。

 加賀を温存するために飛行場姫には常に警戒機を飛ばして頂き、

 更には、足りない航空戦力の援護をしていただくわけです。」

 

「なるほどな・・・。あれならば確かに、最高の戦力だな。納得した。

 それならば問題ないな。加賀はどうだ?」

 

「問題ないわ。飛行場姫の航空戦力は確かですから。

 ・・・それよりも、一つ気になる点があるのだけれど。」

 

加賀はレ級を指差しながら、口を開く。

 

「レ級がカメラを持っていないのだけれど。」

 

確かにレ級を見れば、普段のカメラを一切持ってきていなかった。

外見はごくごく普通の「武装をしたレ級」である。

 

「あぁ、そりゃーなー?。

 私だって真面目と真面目じゃない時ぐらいの区別は出来るっての!

 今回は命がかかってるわけだし、遊び気分入れちゃ駄目、だろ?」

 

レ級は自身の艤装を動かしながら、加賀をみつつ口を開いていた。

 

「・・・確かにそうですね。判りました。

 あなたもそこまで本気なのですね。」

 

「あったりめーよ。」

 

「それならば、私も特には。・・・菊月はどう?」

 

加賀はいつもの無表情のまま、目線だけを菊月に向ける。

 

「別に問題はない。むしろだ、レ級と肩を並べて戦えるのが少し楽しみだ。

 私がどこまで、強くなれたかが判るからな。」

 

菊月はちらりとレ級を見ながら、口を開いていた。

レ級は菊月を見返しながら、にやりと笑みを作りながら、口を開く。

 

「ほぉー?「肩を並べる」ってか?いいぜ。

 私は並大抵の艦娘じゃついてこれねーんだぜ?」

 

「判ってるさ。艦娘の中でついて行けるのは

 限られた一握りだ。金剛型しかり、大和型然り、な。

 だが、駆逐艦である身でそれに食いついてこそ、意味がある。」

 

菊月はレ級にまけじと、笑みを返しながらレ級に拳を差し出していた。

 

「はっ、そこまで言ったんなら、ついてこいよ?」

 

レ級はそう言うと、拳を作る。

 

「なんだ菊月。水臭い。」

 

「私も混ぜてもらおうかしら。」

 

レ級と菊月のやりとりと見ていた加賀と武蔵も拳を作ると、

レ級と共に、自身の拳を、菊月の拳へとこつんとぶつけるのであった。

 

「提督殿。士気は高いわね。」

 

「えぇ、頼もしい限りですよ。」

 

飛行場姫と横須賀の提督も、お互いに拳を作り、コツンとぶつける。

アツ島攻略部隊の士気は、相当に、高い。

 

「それでは皆様、いざ北へ向かいましょう。

 ひとまずは、呉鎮守府からの派遣隊と、幌筵泊地の部隊と合流して

 改めて作戦を確認し合いましょう。」

 

「「「了解!」」」

 

「あいよー。」

 

「判ったわ。提督殿。」

 

「それでは飛行場姫殿は私と共にあぶくまへ。

 武蔵以下攻略部隊は、抜錨してあぶくまの後方を追従するように。」

 

提督はそう言うと、飛行場姫と共に、桟橋を後にするのであった。 

 

 

一方そのころ、キスカ島撤退作戦を担う旗艦、軽巡阿武隈は

呉鎮守府にて、朝食を摂っていた。

 

「・・・美味しいんだけどなぁ・・・。」

 

阿武隈が食べるのはカキフライ定食。

朝食から重いご飯ではあるが、これから幌筵泊地まで出向くのだ。

それなりのものを食べなければ、腹が持たないのである。

 

「・・・美味しいなぁ。でも、納得いかないなぁ・・・・。」

 

何が納得いかないのか。

それは、今阿武隈が朝食を食べている

「居酒屋 鳳翔」のメニュー表を見れば、その原因が窺い知れる。

 

「どうされました?カキフライ、お口に会いませんでしたか?」

 

鳳翔が、微妙な顔をしている阿武隈を見ながら、口を開いていた。

 

「ううん、そういうわけじゃないんです。

 ・・・その、この美味しい牡蠣が、深海棲艦が運んできたって考えると・・・。」

 

「あぁ、港湾棲姫さんとレ級さんの特選品ですから。

 美味しいのは間違いないことです。ですが、確かに少し、悩んでしまいますよね。」

 

鳳翔は苦笑を浮かべていた。

そう、阿武隈が食べているカキフライ定食。

その食材提供者が、最近呉鎮守府に現れ始めた

酒を呑む深海棲艦「港湾棲姫」と「戦艦レ級(よっぱ)」なのだ。

 

つまり、深海棲艦の差し入れを朝食として食べているのだ。

なお、毒があるわけではなく、栄養満点であり、食事としては最高の逸品である。

 

「そういえば、鳳翔さん、この食材提供したレ級達、まだ来てるんですか?」

 

阿武隈はサクリサクリとカキフライを食べながら、鳳翔へと口を開いていた。

 

「そういえば・・・最近は差し入れがあるだけで

 お酒を呑みに来ていませんね。何かあったんでしょうか?」

 

鳳翔は皿を拭きながら、牡蠣の入っていた発泡スチロールを見ながら

ぼそりと呟いていた。

 

「・・・鳳翔さん、港湾棲姫とレ級がお店に来るの、楽しみにしちゃってます?」

 

阿武隈は、苦笑を鳳翔に向けつつ、口を開く。

 

「えぇ、もちろんです。あれだけ美味しそうにお酒を呑む方、提督以外に知りませんからね。」

 

鳳翔は笑顔で、阿武隈の問いに答えるのであった。

広島、呉鎮守府。こちらもこちらで、そこそこ、士気は高いようである。




妄想捗りました。


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124 レ級 北へ その2

カメラに釣られ、人類の作戦に参加してしまった
駄目深海棲艦、レ級+飛行場姫のコンビ。

彼女らは、北の泊地で作戦を再度確認しつつ
少しだけ、平和な時間を過ごすようです。

(最後に酔っぱらいのレ級さん、ちょっとだけ出ます。)


◆誤字直させていただきました。ご指摘感謝です。


北方、幌筵泊地。

今、この泊地には、日本全国の鎮守府より

多数の艦艇が集められていた。

 

「キス島周辺が、濃霧に包まれる瞬間を狙い

 自衛隊の揚陸艇にてキス島の撤退を開始する。

 阿武隈よ、この作戦どうなんだ? 

 貴様は一度、キス島撤退作戦を指揮していたはずだが。」

 

武蔵は阿武隈に口を開く。

 

「いいと思うわ。相手は容赦なく電探を使ってくるでしょうけど、

 このキス島周辺は岩礁が多くて、電探の反応があったとしても

 目視しないと岩か船か分からないのよ。

 だから、逆にいうと、相手の見張りの目を潰す、

 濃霧の発生に頼るしかないのよね。

 それに自衛隊の力を使えば、大発で撤退させるよりも、

 よっぽど速いでしょうしねー。」

 

キス島徹底作戦を担当する阿武隈は、

ミーティングで受けた作戦内容を思い出しながら

武蔵に口を開いていた。

 

「ま、でも、今回は相手が人間じゃないだけやりやすいわね。

 それに、アツ島も今回は助けられるチャンスがあるわけだし。」

 

「あぁ、確かにな。相手は化け物だからな。

 気兼ねなく私の主砲をぶっ放せる。

 ・・・アツ島に潜む深海棲艦が、どの程度の

 力を持っているのか、測れないのが不安だがな。」

 

「確かにそうですよねぇ。」

 

はぁ、と阿武隈と武蔵は同時にため息をついていた。

結局、相手が人間ではないだけで

相手の思考や、相手の戦略が読めているわけではないのだ。

 

なんとなく、相手が過去に起きた海戦にしたがって

戦力を貯めているからこそ、こちらも対応ができる。

実際問題、その程度の諜報能力しかないのが現状である。

 

「2隻して、なーに悩んでんだ。」

 

そんな悩む2隻のもとにやってきたのは

人類に味方する深海棲艦(カメラに釣られた馬鹿野郎)である、

「戦艦レ級フラッグシップ改」である。

 

「レ級か。何、今回の深海棲艦の強さを測りかねていてな。

 ま、いつものことなのだが、毎回は撤退作戦も兼ねているからな。

 余計、鬱になりそうになっているのさ。」

 

武蔵はそう言いながらも、はぁ、と溜息をこぼしていた。

阿武隈も同じように、はぁ、と溜息をこぼしながら、口を開く。

 

「そうなのよねぇ・・・。キス島撤退作戦だけでも気が重いのに。

 武蔵達のアツ島攻略、撤退作戦のことまで考えると・・・。うぅん・・。」

 

阿武隈は完全に頭を抱えてしまっていた。

レ級や金剛に振り回され、いつも痛い目を見ている阿武隈であるが

第1水雷戦隊の旗艦を任されるほどの実力と知識を有しているのだ。

 

そんな彼女が、頭を抱えてしまうほど、今回の作戦は難しいのである。

 

何せ、キス島だけならまだしも、

深海棲艦の防備が厚いアツ島も、

濃霧に紛れて撤退しなくてはならないのだ。

 

片方だけの撤退は出来ない。

なぜなら、深海棲艦に感づかれてしまえば

片方の島に敵が集中してしまうからだ。

 

作戦の流れは、アツ島の深海棲艦に打撃を与え

そのすきにアツ島に揚陸艇を上陸させ、

人員を引き上げる。

同時期に、キス島にも揚陸艇を上陸させ

同じように人員を引き上げなければならない。

 

気候条件、タイミング、そしてこちらの戦力と相手の戦力。

全てが揃っていなければ、成功しない作戦である。

 

(厳しいなぁ・・・)

 

阿武隈はシュミレーションをしながらも

頭を抱え続けていた。

だがしかし、そんな阿武隈に、レ級が特大の爆弾を落とす。

 

「んー、アツ島にいる最大戦力だけでも判れば

 少しは気が楽になるんかな?」

 

「そりゃーねー。

 ボスが判ってるか判ってないかで言えば

 情報があったほうが、数段気が楽になるわよ。」

 

「ほっほう。そんな阿武隈に、私、

 レ級からのプレゼントがあったりします。」

 

レ級は笑顔を見せながら、阿武隈に一枚の手紙を渡していた。

 

「・・・なに、この手紙。」

 

阿武隈はレ級から手紙を受け取ると、表と裏をよーく観察していた。

特に海軍のマークもなく、ただひとつ、表に㊙と書いてるだけの手紙。

 

「開けてみろって。」

 

にやにやしながらレ級は、阿武隈を見つめ続けていた。

阿武隈は、そんなレ級に少しだけ違和感を覚えながらも

ゆっくりと手紙をめくり始める。

 

するとそこには、驚くことなかれ

キス・アツ島の航路図と

その近辺に存在する深海棲艦が、

所狭しと描かれていたのだ。

 

「・・・んなっ!?」

 

阿武隈はそのことを理解すると、レ級と地図を交互に見つめていた。

 

「信憑性はまぁ、そこそこ、かな?

 今朝、姫様から渡されたやつだから、

 大体この地図通りに動いてると思う。」

 

「なななな、なんでこんなものが!?」

 

「ま、ウチの姫は飛行場姫って言うぐらいだからな。

 偵察行為はお手の物よ。」

 

レ級はそういいながら、笑顔で阿武隈を見つめていた。

 

 

飛行場姫が棲みついている、アツ島撤退作戦の旗艦、あぶくま。

その司令室では、飛行場姫と金剛が、最後の作戦の打ち合わせを行っていた。

 

「偵察の結果はこのルートがおすすめというわけですか。

 なーるほどデースね・・・。」

 

「そ。ただ、アツ島近辺に、確かに姫・・・のような反応を感知したわ。

 おそらく、港湾型の姫だとは思う、のだけれどね。」

 

金剛は、歯切れの悪い飛行場姫の言葉に、首を傾げつつ口を開く。

 

「港湾型の姫、デース?それは港湾棲姫ではないのデースか?」

 

「うーん・・・ちょおっと違うのよねぇ・・・。

 港湾棲姫にしては、艤装が大きすぎるのよ。

 それに、こんなところまで出てくる姫じゃないし。」

 

飛行場姫はそう言うと、はぁ、と溜息をついた。

 

「・・・もしかすると、私の知らない改良型の港湾棲姫かもしれないわね。

 そうなると、かなり厄介ねぇ・・・・。」

 

「むう。飛行場姫が知らないとなると、私達なんかはお手上げデースよ。」

 

金剛と飛行場姫は、お互いに肩をすくめつつ、ため息を吐いていた。

なにせ、今回の金剛の任務は、アツ島撤退という、

過去の帝国海軍では行われなかった作戦である。

誰もが、緊張と重圧を感じていた。

 

「それにしても、まさか飛行場姫が味方に来てくれるとは

 思ってもいませんデーシた。・・・というか、沈んでなかったんデスね。」

 

金剛は、自分の拳を見る。

間違いなく、金剛は、自らの拳で、飛行場姫に引導を渡したはずなのである。

 

「あー・・・。あなたの一撃はすごく痛かったわねー。

 ・・・ま、私も意地汚く生き残るために、全力を尽くしたってことよ。

 ま、それにカメラももらえるっていうし・・・・。」

 

最後の「カメラ」に関しては、ぼそり、と喋ったつもりであったが

ばっちりと、金剛の耳に入っていたようで、

 

「・・・飛行場姫ぇ。まさか、今、カメラがもらえると、いいましたカ?」

 

「・・・なんのことかしらね。」

 

飛行場姫は、顔を少しだけ赤くして、金剛から視線をそらしていた。

と、次の瞬間、金剛は飛行場姫の肩に手を回すと、耳元に顔を近づけ

にやり、と悪い笑みを浮かべた。

 

「飛行場姫ぇ・・・カメラのために深海棲艦を裏切ったんデースかー?

 ・・・馬鹿じゃないんデスか?正気なんデースか?」

 

「・・・うるっさいわね。自分でも馬鹿だなぁとは思ってるわよ。

 っていうか近いわよ。離れなさい。」

 

飛行場姫は赤い顔で苦笑しつつも、金剛を突き放していた。

 

「あははは。冗談デースよ!

 それにしても、レ級も貴女も本当非常識デースよねぇ。

 カメラが欲しいために、私達の作戦に参加するなんて。」

 

「ま、さっきもいったけど、自覚はしてるわよ。

 でも、仕方ないじゃない。ほしいものはほしんだから。」

 

飛行場姫は、あっけらかんとした態度で、金剛に言葉を返していた。

金剛は少しだけ、驚きに目を染める。

飛行場姫の姿が、何処か、

カメラが大好きな戦艦レ級と被って見えたのだ。

 

「あはは。飛行場姫もかなりレ級に染まってマスねー。」

 

金剛は笑みをうかべつつ、飛行場姫の肩を叩いていた。

 

(レ級といい、飛行場姫といい、

 深海棲艦とかいつつ、ほとんど艦娘デース・・・。

 こんな深海棲艦が増えれば、きっと戦いはなくなりマースよねぇ!)

 

ちょっとした未来への希望を見つけた金剛は

肩を叩き続け、「ちょ、痛いわよ」と

飛行場姫から小言を受けるが、気にせずに、笑顔を見せていた。

 

「っと、そういえば飛行場姫に聞きたいことがありマース。

 ・・・作戦開始の日時についてなんデスが、あなたの指示を受けて

 今海軍では2月初頭を、明後日を作戦開始日時として動いています。

 飛行場姫の最終判断としては、どうなのですか?」

 

「そうね・・・気象状況、艦載機からみた海上の状況から見るに

 間違いはないわ。キスカ島、アツ島共に、濃霧に包まれるはずよ。

 あとは、港湾型の姫さえどうにかすることができれば

 無事、撤退作戦はなんとかなると思うわ。」

 

「そうでーすか。判りました。情報、感謝デース。」

 

金剛は用がすんだ、とばかりに、司令室を後にしようとする。

飛行場姫は、立ち去ろうとする金剛に向かって、口を開いた。

 

「ま、それに、よ?

 貴方達人間と艦娘だけ逃がすことを少しだけ考えているわ。

 安心しなさい。貴方達は、間違いなく成功する。」

 

「・・・なんデースか?それは。

 囮になるとでも言うのデス?」

 

今後は神妙な顔になりながらも、飛行場姫に口を開いていた。

 

「えぇ、最悪の場合は、ね。

 ・・・なによ金剛、私だって変な事いっている自覚はあるわよ。

 私とて横須賀で暮らしているうちに、

 艦娘と人間に愛着ぐらい持つようになるわよ。

 ま、だから貴方達は、安心して作戦を遂行しなさい。」

 

「わかりました。デモ、飛行場姫、いいデスか?

 我々も全力で行動しますから

 ・・・そうならないように動いてくだサイ。

 せっかく話せる深海棲艦に出会ったのに

 お別れするのは悲しいデースから。」

 

「えぇ、私達も生き残るつもりよ。」

 

「了解デース。お互い、生き残って日本に戻りまショウ」

 

金剛はそう言うと、今度こそ、司令室を後にする。

 

「全く、金剛も過保護なものね。

 ま、ともかくとして、私、飛行場姫は

 人間と艦娘が生き残ることを第一として、動きます。

 たとえそれが、私の死を伴うものだったとしても、ね」

 

誰にも聞こえないように呟いた飛行場姫。

その真意は、誰にも分からない。

 

 

一方その頃。

北の海に、とある深海棲艦が、2隻姿を表していた。

 

「姫様、サムイナー。」

 

「サムイワネー。レ級。」

 

片方は、赤いオーラの戦艦レ級。

そしてもう片方は、港湾型の姫である。

 

「ソレニシテモ姫様、楽シミデスネェ。」

 

「フフ、私モ本気ヨ」

 

彼女たちはそう言うと自身の艤装を展開させる。

レ級は対潜装備、港湾型の姫は、対潜哨戒機である。

 

そして、港湾型の姫は、レ級へと、指示を飛ばすのであった。

 

「レ級。ワタシノ艦載機ニ、ソナーヲノセテオイタカラ、

 海中ニナニカガイレバ直ニツタエルワネ。」

 

「オッケーデス。ソシタラワタシガ、ソコマデ進軍シテ

 爆雷落トシテ漁ヲスレバイイワケデスネ。」

 

2隻の深海棲艦は、そう叫びながらも、

じゅるりとヨダレを垂らしていた。

 

「ソノ通リヨ。サァ。マッテナサイ鮭!」

 

「オッシャー!目指セ!キングサーモン!」

 

・・・カメコのレ級と、飛行場姫の様な存在が

どうやらもう1組、存在するようである。




妄想捗りました。


私の話は頭の中で妄想が捗りまして
レ級達が勝手に動くさまを描いているのですが、

最近、ストーリー進めようとするとこう・・・・。
唐突に頭の中でレ級達の宴会が始まって、どうにもならなくなります。

自由なレ級共に、個人的にぐぬぬしております。


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番外編:腐海棲艦 水母棲姫

横須賀鎮守府にて鹵獲されている水母棲姫。

同人誌に憧れ陸に上がった彼女の、行動を、少しだけ見てみようと思います。


水母棲姫。

 

開幕の航空戦、そのあとの魚雷、そして砲雷撃戦、対潜戦闘と

全てにおいて高水準で纏まっている、戦艦レ級のような深海棲艦の姫である。

 

ただし、今現在、横須賀に鹵獲されている水母棲姫は

その特徴に全く当てはまらない。

 

何せ、艤装を外し、単身でコミックマーケットに同人誌を買いに来た挙句、

帰りの足をカメラ好きな戦艦レ級に轟沈させられた挙句、

どうにもならなくなって、横須賀鎮守府に自ら身を寄せた

非常識極まりない、深海棲艦の姫君なのだ。

 

その非常識っぷりといえば、

真面目で気が利き、それほど人を馬鹿にしないはずの、

横須賀鎮守府の提督に、渋い顔で

 

「貴女、馬鹿ですね」

 

と、ストレートに言われるほどである。

 

「馬鹿でいいのよぉ?私は同好の士のホンがよめればいいのぉ」

 

と言い返す水母棲姫に、さすがの提督もため息をついたとかなんとか。

 

さて、今日はそんな腐ってしまった深海棲艦・・・否。

腐海棲艦の姫君、水母棲姫の一日を、追ってみようと思う。

 

3月のとある日。

 

普段、同人誌を夜遅くまで読みあさり、

10時頃に目を覚ます水母棲姫であったが、

今日に限っては、水母棲姫の朝は早かった。

 

朝3時には目を覚まし、4時には既に、身支度を整え

車の運転できる艦娘、夕張と共に、鎮守府を後にしていたのである。

 

「真っ暗ねぇ。夕張。」

 

「真っ暗ねー。でも、この時間に出ないと

 絶対駐車場あいてないからねー。」

 

「あら、そうなのねぇ。うーん、本当は私の準備がもうちょっと

 早ければよかったのだけどぉ・・・。」

 

「仕方ないですよー。水母さんの準備、時間かかりますもん。

 違和感あっても大事になりますしねー。」

 

運転席には夕張。そして助手席には水母棲姫という

異色のコンビを乗せた車は、深夜とも、早朝とも言える

横須賀の街を後に、高速道路を走っていた。

 

なお、ここで2隻が言う身支度というのは、水母棲姫の足である。

普段は巨大な腕と、口が付いている艤装を下半身に装備し

海上を移動していたのであるが、

彼女はコミックマーケットを楽しむためだけに、

それらの艤装を深海棲艦の拠点に、置きっぱなしにしてきたのだ。

 

それ故に、今、彼女は下半身なしの深海棲艦である。

 

ではどうするかといえば、驚くことなかれ、

彼女は陸上艤装として、人間の足の艤装を作ったのである。

 

今回は、出発する前に、その艤装の調整と装着に、

1時間ほどかかってしまったのだ。

 

「この足、というか艤装は便利なんだけどねぇ。

 いかんせん、調節に時間かかっちゃうのよねぇ・・。

 ねぇ夕張ぃ、何か改善できないかしらぁ?」

 

水母棲姫は苦い顔をしながらも、夕張に声をかける。

 

「そうですねー。見せて頂けるのならおそらく、

 少しは改良できると思いますよ。

 あ、ただ条件として、いくつかあるんですけど。」

 

夕張はハンドルを握りながらも、ちらりと水母棲姫を見る。

 

「なにかしらぁ?」

 

「海軍でも同じような艤装作らせていただきたいんですよ。

 義足や義手で、水母さんの使ってる、思い通りになる艤装が

 人間や艦娘に転用できれば、日常生活に役立つかなぁって。」

 

水母棲姫は一瞬固まったものの、柔らかい笑みを浮かべつつ

夕張の横顔を見ながら、口を開いた。

 

「あぁ、そういうことぉねぇ。いいわよぉ。

 夕張にはいつもおせわ(同好の士)になってることだしぃ。

 それにぃ。ここでポイント稼いでおけばぁ。

 コミケいけるかもしれないしぃ。」

 

水母棲姫の答えに、夕張は思わず苦笑を浮かべつつ、口を開く。

 

「あはは。水母棲姫さんらしいですね。

 それじゃあ。帰ってきたらいじらせてもらうわね。」

 

「分かったわぁ。あ、そうだ。今日は夕張はコスプレはするのかしらぁ?」

 

夕張は一瞬考えるものの、苦笑を浮かべつつ、

水母棲姫に顔をちらりと向ける。

 

「あー・・・。したいことはしたいですけれど。

 今日はアニメがメインのイベントじゃありませんからね。

 美味しいもの食べて、声優のイベント楽しもうかなぁって。

 水母さんはどうするんですか?」

 

「私もコスプレはしないわぁ。ただでさえ目立つみたい、だしぃ?

 ま、ただ。カメラは買ったからぁ。

 コスプレイヤーはバシバシ取ろうかと思ってるわよぉ?」

 

水母棲姫はにやりと笑みを浮かべながら

手元から「6D」と銘の入ったカメラと共に

2本のレンズ、50mmF1.2と、24-105F4を取り出していた。

 

「ふふふ。今日の為に買ったのよぉ。

 フルサイズのデジタルカメラぁ。」

 

「気合はいってますねー。

 私は、カメラの準備忘れちゃって、

 今日はスマートフォンのカメラだけですよ。あぁー・・・」

 

夕張はそう言うと、ため息を付いていた。

どうやら、カメラを完全に失念していたようである。

水母棲姫はにっこりと笑みを浮かべると、夕張へと声をかける。

 

「あら、そうなのぉ。

 それなら、あとで撮った写真のデータ、あげるわねぇ。」

 

夕張は水母棲姫の言葉に反応し、笑みを見せる。

そして、勢いよく、口を開いた。

 

「本当ですか!?

 それは助かりますよー!

 俄然、やる気が出てきました。

 さぁ、それじゃあ飛ばしますよー!」

 

「えぇ、わかったわぁ・・・。

 ねぇ、夕張、せっかくだからあの掛け声、やらなぁい?」

 

「お!いいですねぇ。それじゃあ、

 大洗の後に、続けて言いましょうか。」

 

「わかったわぁ。それじゃあ、せーのぉ・・・」

 

夕張と水母棲姫は、右手を構える。

そして、その右手を突き出すと同時に、大声で声を発するのであった。

 

「「大洗、海楽フェスタへ向けて、Panzer vor!」」

 

彼女たち、艦娘と深海棲艦が向かうのは

神奈川県の横須賀鎮守府から遠く、茨城県の大洗港である。

 

なぜ、彼女たちはそんな場所まで、

しかも朝はやくから車を飛ばして向かっているのか。

 

それは、ここ数年、大洗町で行われている春の祭り、

「海楽フェスタ」に参加するためである。

 

大洗町は海の町だ。

新鮮な魚介類を始めとする、美味しい食事、

他にかき小屋で生牡蠣や海鮮焼きを楽しんだり

あんこう料理を楽しめるのである。

 

確かに、美味しい魚介、あんこう鍋というのは、非常に魅力的である。

どこぞの酔っぱらいの深海棲艦であれば、日本酒を持参して

お店に突撃していることであろう。

 

だがしかし、夕張と水母棲姫、艦娘と深海棲艦が

このお祭りに参加する理由は他にもあった。

 

先ほど、彼女たちが発した言葉を思い出していただきたい。

 

「「大洗、海楽フェスタへ向けて、Panzer vor!」」

 

【Panzer vor】(パンツァー・フォー)

ドイツ語で、「戦車、前進」という意味だ。

 

なぜ、彼女たち海の船が、大洗の祭りに行く掛け声に

陸軍、しかもドイツ陸軍の言葉を使うのか。

 

その理由こそが、彼女たち、夕張と水母棲姫が

大洗に行く最大の理由でもあるのだ。

 

 

さて、事は数日前に遡る。

水母棲姫は、いつもの如く、同人誌を読み漁りながら

自室で気持ちの悪い笑みを浮かべていた。

 

「くふふふ・・・」

 

同人誌のタイトルはもはや語るまい。

ただし、その内容は、事案ものだ。

 

「へへへ・・・いいわねぇ。

 あぁ。それにしても、秋雲先生がまさか・・・

 艦娘の秋雲だったとはねぇ・・・。

 それに、夕張もサークル秋雲のメンバーだったなんて・・・」

 

水母棲姫は、自身の手にある本を見ながら、感慨深く呟いていた。

 

「深海棲艦として戦えないのは少々厄介だけどぉ。

 秋雲先生と同じ場所で生活できるなんてぇ。

 あぁぁ。なんて幸せなのかしらぁ。」

 

深海棲艦の職務よりも、

同人作家である秋雲との暮らしに幸せを感じるあたり

この水母棲姫、完全にダメなのかもしれない。

 

さて、水母棲姫が感慨にふけっていたときである。

不意に、水母棲姫の部屋の扉がノックされたのだ。

 

「水母さんー。いますー?

 ちょっと一緒にでかけませんかー?」

 

水母棲姫は、ずるり、と腕を使って床を移動する。

そして、ドアノブに手を掛けると、少しだけ、

ドアを空けつつ、口を開いた。

 

「・・・誰かしらぁ?」

 

「あ、すいません。夕張ですー。

 ちょっと映画のチケットが余ってまして

 勿体無いのでどうかなーって。」

 

「あら、夕張。

 出かけるの、私は構わないわよぉ。

 でも、提督は良いのかしらぁ?

 私これでも、鹵獲されてる身なのよぉ?」

 

水母棲姫は、眉間にシワを寄せていた。

いくら同人が好きで腐っていたとしても

自分の立場を間違ったりはしない。

 

どこぞのレ級とは違い、多少の常識はあるのである。

 

夕張は苦笑をしつつ、水母棲姫へと口を開いた。

 

「鹵獲されているのは知ってますよ。

 ですが、水母さん、引きこもってばっかりじゃないですか。

 提督からの命令でもあるんですよ。

 『あの引きこもりを少しばかり外に連れ出せ」って。」

 

「あら、そうなのぉ?

 提督からもそう言われてるのねぇ・・・。

 わかったわぁ。それじゃあ、準備するわねぇ。

 あ、夕張、手伝ってもらっていいかしらぁ?」

 

水母棲姫はそう言うと、ドアを開けたままで

ずるりずるりと、クローゼットへと這って行った。

 

夕張も水母棲姫に続いて、部屋の中に入ると

ドアを閉めて、水母棲姫の準備を手伝っていた。

 

「よいしょぉ、っと。」

 

「水母さん、髪の毛はどうします?」

 

「そうねぇ・・。適当にお願い。

 どうせ車いすでしょう?

 地面にこすらなければいいわぁ。」

 

「判りました。服はどれを出します?」

 

「シャツとスカートでいいわよぉ。」

 

「じゃあ・・・色はこれでいいかしら?」

 

「いいわよぉ。」

 

「えっと、それじゃあ、水母さん。車椅子にのせますねー。

 よいしょ・・・っと」

 

「悪いわねぇ。・・・んっ。」

 

「ポジション大丈夫ですか?」

 

夕張は手慣れた手つきで、水母棲姫の身支度を整える。

どうやら、彼女たちにとっては、普段の光景のようだ。

 

「問題ないわぁ。さぁて。

 それでぇ。どこに、何の映画を見に行くのかしらぁ?」

 

水母棲姫は、笑顔を見せながら、夕張へと声をかけていた。

夕張は、車椅子を押し始めつつ、水母棲姫へと口を開く。

 

「水母棲姫さんは、ガールズ&パンツァーって知ってます?」

 

「戦車と女の子のアニメーション、でしたっけぇ?

 名前だけなら。知ってるわよぉ?」

 

「その劇場版を、立川まで見に行こうかと思ってまして。」

 

「あらぁ。そうなのぉ?

 そういえば、加賀とか菊月が見たって言ってたわねぇ・・・。」

 

「加賀さんと菊月が?」

 

「えぇ。すごくよかった、って言ってたわぁ。

 でも、内容を聞くと、ただ一言しか言ってくれないの。

 『ガルパンは、いい。』。どういうことなのかしらねぇ・・・。」

 

水母棲姫は首を捻りながら、渋い顔をしていた。

ガールズ&パンツァーの映画版をみた加賀と菊月に

何度感想を聞いても

 

「ガルパンはいい。」

「水母棲姫も漫画とアニメが好きならば、

 というか、私達と同じ兵器ならば見に行かなければ嘘だ。」

「立川だ。立川。」

「あら、私は4DXがおすすめよ?」

「加賀、そうは言うが水母は車椅子だ。」

「・・・そうでした。では立川ですね。」

 

と、何度聞いても、容量を得ないのだ。

 

「あはは・・・確かに、ガルパンを知らない人に

 感想を聞かれたら「ガルパンはいいぞ。」というしかありませんから。」

 

夕張はそう言うと、苦笑を浮かべていた。

水母棲姫はそんな夕張を不思議そうに見ながらも

ゆっくりと口を開く。

 

「・・・夕張がそういうのなら、そうなのかしらねぇ?

 それにしても、その、ガールズ&パンツァーって面白いの?」

 

「えぇ。私と秋雲が保証しますよ。

 水母さんも、アニメが好きであれば、絶対に楽しめると思います。」

 

「そうなのねぇ。それじゃあ、楽しみにしようかしら。

 それにしても、立川って、遠いじゃない。そこまで行く価値あるのかしらぁ?」

 

「・・・あります。後悔はさせませんよ。」

 

夕張はそう言うと、にやりと、不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

 

大洗町、マリンタワー、朝7時。

そこに、私服の夕張と、水母棲姫の姿があった。

 

「そういえば、ガルパンとの出会いは、

 夕張と行った立川だったわぁ・・・。

 最高だったわねぇ・・・。」

 

水母棲姫は、あんこう汁をすすりながらも、

映画の感動を思い出していた。

 

主人公たちの活躍、王道ストーリーながらも

飽きさせない展開。そして、立川劇場の爆音。

 

すべてが絡みあい、水母棲姫の心を震わせたのだ。

 

「それにぃ、こんな美味しいあんこう汁を

 劇中の街で食べられるなんて最高よぉ・・・!」

 

そして、大洗の街は、劇中に何度も登場していたのだ。

劇中で戦車戦が行われた街、そして、主人公たちの街ということで

大洗町は、ある意味「2,5次元」にあると言っていいのかもしれない。

 

「いいわよねー。アニメで見るだけじゃなく、

 実際に来てみても楽しめる街っていうのは、

 なっかなかないわよ。だから、大洗は最高なのよ。」

 

水母棲姫の隣では、同じようにあんこう汁をすすりながらも

イカ飯を食べる、夕張の姿があった。

 

「それに、今日は商店街でも出店でてるみたいだし。

 あとで一度行ってみましょう?」

 

「賛成よぉ。夕張ぃ。

 あぁ、それにしても、あんこう汁、本当に染み渡るわぁ。

 ・・・って夕張、あれ、あれみてよぉ!」

 

「水母さん、どうしました・・・?」

 

夕張は水母棲姫に言われたとおり、首をひねる。

すると、そこには、モックアップではあるが

実物大の戦車が、鎮座していたのだ。

 

「わ!すごっ!水母さん、早く食事すませちゃいましょう!

 戦車見ますよ!」

 

「もちろんよぉ!夕張もイカ飯はやくだべちゃいなさいよぉ!」

 

夕張と水母棲姫は、勢い良くあんこう汁と、イカ飯をかっこむと

早足で、戦車のモックアップの前に、移動するのであった。

 

「うわぁ・・・すっご!」

「これはぁ・・・いいものよぉ・・・!」

 

水母棲姫は早速、新規購入したカメラ、6Dを引っ張り出し

戦車の実物大の模型、あんこうチームの4号戦車、

知波単学園のチハ、そして、アンツィオ高校のカルロ・ベローチェを

静かなシャッター音を響かせながら、撮影していくのであった。

 

「・・・ガルパンは、全部ひっくるめて、いいわよぉ・・・!」

 

そして、水母棲姫は、戦車を撮影しながらも

心の奥底から、そう、思うのである。




妄想というか日記に近いものです。
続かない。


海楽フェスタは最高でした。
露天風呂から見えた花火がこれまた綺麗でした。


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125 レ級 北へ その3

北の海へ、キス島撤退のために向かう、戦艦レ級と艦娘達。

そして、鮭を捕るために北へ向かった戦艦レ級と港湾棲姫。

彼女たちが、遂に合流したようです。


戦艦金剛、戦艦武蔵、空母加賀、駆逐艦菊月。

そして、戦艦レ級と飛行場姫は、濃霧の中を

揚陸艇と護衛艦を従えながら、足早に進んでいた。

 

既に、キス島撤退作戦の阿武隈達とは別れ

今現在は、アツ島撤退・攻略作戦へと移行している。

 

(阿武隈のほうは・・・。今、我ら深海棲艦が、

 キス島から引いてるから撤退は問題ないでしょう。

 十分な霧も出ているし・・・ね。)

 

飛行場姫はあぶくまの甲板に立ちながら

現状をよくよく整理していく。

 

(だけれど、こちらのアツ島撤退作戦は微妙ね・・・。

 私の索敵能力をもってしても把握が難しい姫が1人。

 おつきの深海棲艦が2隻。おそらくこれは戦艦級。

 ・・・難しい戦いになりそうね。)

 

飛行場姫はそう考えながらも、自らの艤装から

次々と索敵機を上空に上げていった。

 

ちなみにではあるが、飛行場姫の戦闘機のモデルは

基本的に米軍の戦時中の戦闘機である。

その中には、八木アンテナを装備した索敵機もあるのである。

 

それ故に、飛行場姫の索敵機は、

この濃霧の中でも、余裕、とまでは言わないが

十分に、発艦、索敵、着陸が可能なのだ。

 

もちろん、艦娘である加賀としては面白く無い。

ときおり飛行場姫の装備を物欲しそうに見ていたり、

自らも発艦させようかと、弓を握る。

 

だがしかし、未だここは濃霧の中。

加賀が有する、レーダー技術のない艦載機では

発艦及び索敵は、難しいのだ。

 

「どうしたのかしら、加賀。

 そんな目でコチラを見て。」

 

加賀の視線に気づいた飛行場姫は

不思議そうに口を開いていた。

 

加賀は一瞬しまった、と目を見開くが

次の瞬間、いつもの無表情の顔で、口を開く。

 

「いえ、貴女の索敵機が羨ましいなと思いまして。

 この濃霧の中で発艦できるというのは、

 素晴らしいものです。」

 

「あぁ、ま、深海棲艦にはそういう機体もあるということよ。

 貴方達風に言えば、電探搭載機、と言ったところかしら?」

 

加賀は驚きのあまり目を見開いていた。

 

「深海棲艦は、電探を航空機に積んでいるのですね。」

 

「そうよ。電探で地形を把握し、敵を発見し、艦に戻る。

 それだけの話しよ。だから、目視できない今でも

 発艦、索敵、着艦が可能なのよね。」

 

「なるほど・・・あとで我々の艦載機にも電探が積めないか、

 提督に進言してみます。」

 

加賀の言葉に、飛行場姫は首を傾げる。

 

「うーん、どうかしらねぇ。

 横須賀の大本営ですら、未だに根性論がまかり通ってるし。

 電探なんかに頼るのは日本の恥だ!なんて言われそうじゃない?」

 

「・・・確かに。否定はできませんね。」

 

「ま、とはいえ、私の存在が、これから

 海軍の体制を変えていくとは思うわ。

 私自身、結構高性能な電探を積んでるし、

 他の姫も、同じような電探を積んでるしね。」

 

飛行場姫はそう言いながら、加賀を見つめなおす。

 

「それに対して、艦娘の電探の性能ったら・・・。お粗末よ。

 ま、だからこそ、貴方達の動きって、

 私達深海棲艦からしてみれば、安全にトレースしやすいのよね。」

 

「・・・確かに、海軍製電探の性能不足については、私も自覚があります。

 電探を積んでいても、島か船かわからないことがありますから。」

 

「でしょう?ま、そこら辺の技術は

 私が自ら協力して、これから発展していかせるわ。

 何より、電探とかの装備は私達深海棲艦が優っているけど

 熟練度では人間と艦娘のほうが優っているわ。

 今後、装備開発が勧めば、いずれはいい形に収まるんじゃないかしらね。」

 

「なるほど。それにしても、飛行場姫。

 いいのですか?先程から聞いていれば、艦娘に協力する、と

 言っているように思えるのですが。」

 

「あー。まぁ。間違いじゃないわよ。

 それに、協力じゃないわ。私はあくまで鹵獲されてるの。 

 ろ、か、く。無理やり技術を絞りととられるの。

 そこを間違ってもらっては困るわ。」

 

飛行場姫はそう言うと、正面を向き、索敵に集中する。

 

「了解しました。」

 

加賀もその姿を確認すると、飛行場姫から視線を外すのであった。

 

 

索敵に集中する飛行場姫に、声をかける一人の人間がいた。

 

「どうでしょうか。飛行場姫殿。首尾は。」

 

管内巡検を終え、飛行場姫の元へやってきた

今回の作戦を指揮する、横須賀鎮守府の提督である。

 

「今のところは特に問題は無いわね。

 ただ、この先にちょーっと大きな姫の反応はあるわね。

 今、そこに向けて索敵機を向かわせているところよ。」

 

飛行場姫はそう言いながら、体を提督へと向ける。

 

「承知しました。それにしても本当助かります。

 この濃霧では、我らの艦載機では索敵がままなりませんからね。」

 

提督はそういいながら、飛行場姫へと笑みを向けていた。

飛行場姫はそんな提督を見ながら、大きな溜息をつき、口を開く。

 

「そういうのであれば、もう少し貴方達人間は

 艦娘の装備をしっかり開発しなさい。

 いつまでも精神論では、この戦は戦えないわよ?」

 

「はは・・・耳が痛いです。」

 

提督はバツがわるそうに苦笑を浮かべていた。

と、その時だ。飛行場姫の偵察機が、

姫級の深海棲艦の反応の上空へと到着したのだ。

 

だが、飛行場姫はそこで信じられないものを見たのだ。

そこには、自身の部下ではないレ級と、港湾棲姫の姿があったのだ。

しかも、その行動は、なぜか爆雷を投下しつつ、

移動を繰り返していたのである。

 

「・・・妙ねぇ?」

 

飛行場姫は疑問を浮かべながら、自身の艦載機へと意識を集中させる。

 

「・・・艦娘の潜水艦なんていないわよねぇ・・?

 何をしているのかしら。・・・本当、妙ねぇ・・?」

 

飛行場姫が首をかしげていると、提督から声がかかる。

 

「どうされたのですか?」

 

「いえ、ね。姫級の反応がいたのだけれど

 どうも、行動が怪しいのよねぇ・・・?」

 

「怪しい、と申されますと?」

 

「そうねぇ、艦種はレ級と港湾棲姫なのよね。

 まぁ、北方海域に潜む深海棲艦としては、十分な戦力よ。

 ただ・・・・。」

 

飛行場姫は言葉を区切り、口をつむぐ。

 

「ただ・・・?何かあるのですか?」

 

提督は飛行場姫の様子に、怪訝な顔をしながら、質問を投げていた。

飛行場姫は一瞬、言い淀んでいるようであったが、

提督の質問に、おずおずと、静かに語り始める。

 

「それがね・・・こちらの艦載機に気づく様子が一向に無いのよ。

 姫級であれば、まずそれは絶対にあり得ないわ。

 相当何かに集中しているか、大破していない限りは、

 こちらの偵察機に気づくはずなのだけどねぇ・・・?。

 更に言えば、時折海中に爆雷を投げ込んでいるのよねぇ・・・。」

 

そう、相手が港湾棲姫なら、既に気づかれていてもおかしくはない、

というか、距離で言えば気づかれていなければ行けないのだ。

 

基地型の深海棲艦であれば、その索敵の広さも、艦の比ではないのである。

 

だが、そんな基地型の深海棲艦である港湾棲姫が、近寄る艦娘に一切目をやらず

自分の頭上を飛ぶ艦載機にも気づかない。これは異常なことである。

 

「こちらに気づかない?更に爆雷を?

 確かこの海域、我が海軍の潜水艦はいないはずですが・・・。

 なんでしょうね?また妙な行動をとってますね。

 飛行場姫殿、その港湾棲姫とレ級について、何かご存知ですか?」

 

「おそらく、ね。

 レ級を連れているし、もしかすると、

 知り合いの港湾棲姫かも知れないわね。

 ・・・ま、私と同じでかなり異端な姫よ。

 基本的には人間と艦娘を襲うわけでもなし、

 かといって深海棲艦と敵対しているわけでもなし。

 ・・・そんな感じかしらね。」

 

「ほほう、ということは、もしかすると

 貴方達のように、友好的な深海棲艦の可能性もある、と?」

 

「もしかしたら、ね?

 ま、他の船の可能性もあるから、油断はできないけれどねぇ。」

 

飛行場姫はそう言うと、レ級へと無線で指示を飛ばすのであった。

 

・・・そして、その無線から数十分後。

レ級達、アツ島攻略作戦の面々は、

なぜか、港湾棲姫と、レ級を引き連れて

旗艦である護衛艦「あぶくま」に乗艦していたのである。

 

あぶくまの提督の部屋では、非常に珍しい光景が広がっていた。

なにせ、横須賀鎮守府の提督と、戦艦レ級2隻が

同じ部屋に存在していたのだ。

 

「・・・・レ級殿、こちらの、レ級は、お知り合い、ですか?」

 

あぶくまに同乗している、横須賀鎮守府の提督は

その顔を引きつらせながら、目の前に並ぶ2隻のレ級を

交互に見つめていた。

 

「おう。酒が好きなレ級だぜ。港湾棲姫様の部下のレ級なんだ。」

 

カメラのレ級が、酒好きのレ級を紹介する。

 

「オウヨ。私ハ酒好ガスキナンダゼ。

 テイウカ提督カァ。呉ノ提督トハチガッテ、男ナンダナー?

 マ、トリアエズ挨拶ダ。ホイ。」

 

酒好きのレ級は、笑顔を見せながらも、右手を差し出していた。

どうやら、握手をしよう、という意思表示であるらしい。

 

「・・・あぁ。はい。どうぞよろしくお願いします。」

 

提督は、ぎこちないながらも、酒好のレ級の手を握り返していた。

 

「おっし、それじゃあ紹介も終わったことだし。

 私は哨戒任務に戻るわー。じゃーなーよっぱ。提督殿。」

 

レ級はそういうと、勢い良く司令室を後にするのであった。

そして、残った提督と酒好きレ級は、どうしたものかと

お互いに目線を逸したり、頭をかいたり、顔をかいたりと

気まずい時間が、少しだけ、流れていた。

 

「そういえば酒好きのレ級・・・と呼ぶのも変ですね。

 何か個体名はあるんでしょうか?」

 

「ンォー?ネーナー。マ、アイツハフラッグシップノレ級デ。

 私ハエリートノレ級ダカラ。「エリレ」トデモヨブトイイゼ?」

 

「なるほど。それならば改めて。

 敵意がないのは判りましたが、

 エリレさんは、何故に北の海に?」

 

「アレ、アイツ説明シテナカッタノカ。

 マ、イイゼ。ワタシハカメコ・・・アァ、フラッグシップノレ級ナ?

 カメコガ言ッタトオリ、酒ガ好キナンダ。

 デ、鮭、食ベタクナッテナァ。

 鮭ッテイッタラ北海道ジャン?モシクハソレヨリモ北ノウミダロ?

 ダカラ、コノ北ノ海マデ、出撃シテキタワケ。」

 

「・・・つまり、なんですか。

 鮭を食べたくて、ここまで、きたと?」

 

「オウヨ!装備ミテミルカ?

 鮭漁トオモッテ、潜水艦用ノ爆雷モッテキタンダ。」

 

エリレ級はそう言うと、自らの装備をすべて曝け出していた。

確かに格納庫には、艦載機無し。その代わりに、爆雷が

所狭しと並んでいた。

 

「・・・本気ですね。爆雷しかないとは・・・。

 エリレさん。この装備で、艦娘と出会ったら、

 本来、どうするおつもりだったのですか?」

 

「ンン?アァ、酒ト鮭ナゲテ逃ゲル。」

 

エリレ級は当然のことのように、すらりと答えていた。

流石に提督も、エリレ級の態度と言葉に、驚きを隠せないでいた。

 

(・・・レ級という艦種は、なんでこうも自由なんでしょうか・・・。

 カメコのレ級に、自由なエリレ。全く・・・。)

 

提督はそう思いながらも、少しだけ、笑みを浮かべていた。

 

そして、エリレ級は、困惑する提督を尻目に、

更に言葉を続けるのであった。

 

「ソウイエバ提督。コノ「あぶくま」ッテサ。

 結構イイ調理場、アルノカナ?」

 

「え、えぇ。ありますが。それがどうかしました?」

 

「ン、ソレナラ、チョット貸シテ。鮭焼ク。後、しもつかれ作ル。

 新鮮ナ鮭ミテタラ、酒呑ミタクナッチャッテサー!

 作戦ノ邪魔ハシナイカラ、ネ?」

 

このレ級は、こう言っているのだ。

【鮭で酒呑たいから、調理場貸して。】と。

 

「・・・あぁ、はい。」

 

あまりの非常識さに、提督が思わず許可を出してしまったのは

誰も責められることではないであろう。




妄想捗りました。

人間、正常な判断力は、
非常識を叩きつけられ続けると、なくなるものです。


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126 キス島 攻略 その1

とんでも深海棲艦、港湾棲姫とその部下のレ級「エリレ」さん。
彼女らと合流した金剛達キス島攻略部隊は
多少混乱しつつも、キス島へと足を向けるようである。

◆ヘルシングパロディ入りました。
 演説見てたらどうしても・・・!


■ 北方海域 アツ島より、東へ20キロ地点。

 

約十隻の深海棲艦を目の前に、一人の白き女性が、

静かに、口を開いていた。

 

諸君 私は戦争が好きだ

諸君 私は戦争が好きだ

諸君 私は戦争が大好きだ

 

砲撃戦が好きだ 雷撃戦が好きだ 航空戦が好きだ

対空戦が好きだ 包囲戦が好きだ 追撃戦が好きだ

対潜戦が好きだ 同航戦が好きだ 反航戦が好きだ

 

丁字戦が好きだ

 

北方で 南方で 遠洋で 近海で

泊地で 離島で 内海で 水中で

空中で 沿岸で

 

この海上で行われる ありとあらゆる戦争行動が大好きだ

 

隊列を組んだ艦上爆撃機の急降下爆撃が 轟音と共に敵艦隊を吹き飛ばすのが好きだ

空中高く飛んでいたヤーボが 高射砲でばらばらになった時など心がおどる

 

戦艦の操る巨大な三連装砲が 敵艦を轟沈させるのが好きだ

悲鳴を上げて 燃えさかる艦隊から飛び出してきた駆逐艦を

一斉射でなぎ倒した時など胸がすくような気持ちだった

 

対潜ソナーを揃えた駆逐艦隊が 敵の潜水艦を蹂躙するのが好きだ

恐慌状態の艦隊が、何度も何度も、

爆発炎上する敵艦を砲撃する様など、感動すら覚える

 

敗北主義の逃亡兵達を前線に派遣し、散っていく様などはもうたまらない。

 

逃げ惑う敵艦共が 私の降り下ろした手の平とともに

轟音を上げる連装砲によって、轟沈していくのも最高だ。

 

哀れな水上打撃部隊が、闇夜で必死に策敵している最中、

我々の艦隊が、海域ごと木っ端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える。

 

---上空を、見慣れた、 グラマン鉄工所の飛行機が通る---

 

(アァ・・・アレハ)

 

・・・潜水艦隊に滅茶苦茶にされるのが好きだ。

必死に守るはずだった拠点が蹂躙され

資源と艦隊を、根こそぎ奪われていくのは

とても、トテモ、悲しいものだ。

 

英米の物量に、押し潰されて殲滅されるのが好キダ。

奴らの航空機に追い回され、嬲られ続けるのは屈辱の極みだ。

 

なぁ、ソウダロウ。キス島に沈んだ諸君。

 

ナァ?

諸君 私は復讐を 地獄の様な復讐を望ンデイル。

諸君 私に付き従う大艦隊諸君。

君達は一体 何を望んでいル?

 

更ナル闘争を望むか?

生者の顔に泥を塗る、糞のような復讐(自己満足の極み)を望むか?

鉄風雷火の限りを尽くし 三千世界の鴉を殺す 嵐の様な闘争を望むか?

 

(復讐を!)(闘争を!)(戦いを!)

 

(((我々は、もっと戦えたはずなのだ!)))

 

・・・・よろシイ、諸君。ならば戦争だ

 

我々は満身の力をこめて今まさに振り下ろさんとする握り拳だ。

だが、この暗い海の底で半世紀もの間 堪え続けてきた我々に

タダノ戦争では モハヤ足りない!!

 

世界大戦を!! 一心不乱の世界大戦を!!

 

我ラハ僅かに一個大隊 十艦に満たぬ敗残兵にすぎない

だが諸君は 一騎当千の古強者だと私は信仰シテイル

ならば我らは 諸君と私で総兵力1万と1隻の大艦隊トナル

 

我々を忘却の彼方へと追いやり

慢心している連中を叩き起こそう。

 

徹甲弾をばら撒いて、眼を開けさせ思い出させよう

 

連中に恐怖(太平洋戦争)の味を思い出させてやる

連中に我々の(砲撃)の音を思い出サセテヤル

 

海と陸のはざまには、

奴らの哲学では思いもヨラナイ事があるこトヲ思い出させてやる

 

・・・さぁ、諸君。予想通り、奴らを救いに彼女らが来タヨウダ。

諸君、私は約束通り、敵を、戦場を連レテキタゾ。

 

(((提督、提督殿、代行、代行殿、大隊指揮官殿!!)))

 

そして、今度こそ我らは敵を撃滅し、桜の丘へト登る。

 

---頭上には、見慣れたミートボールの偵察機が一機。---

 

ククク・・・!サァ!諸君。

 

地獄ヲ作ルゾ(吶喊)

 

 

酔っぱらいの戦艦レ級が、鮭を持って調理場に案内されているその頃。

飛行場姫と、港湾棲姫は、お互いの状況を話し合っていた。

 

「ソレニシテモ。最近ミナイナートオモッタラ。

 横須賀ニイタノネ。皆ケッコウシンパイシテタ。」

 

「あら、そうなの?

 南方棲戦姫には毎週レポートと

 撮った写真を渡しているはずなんだけどね。」

 

「ソウナンダ。ジャア、私カラモツタエテオク。

 横須賀デ面白ク生活シテルッテ。」

 

港湾棲姫はそう言いながら、あぶくまの司令室の

一番いい椅子に自然と座る。

 

「フッカフカネー。イイワネ、現代艦。」

 

「そこは貴女の席じゃないのだけどね。

 ・・・・はぁ、もういいわ。好きにしなさい。

 全く、貴女も自由よねぇ・・・。」

 

「アナタホドデハナイトオモウ。」

 

「はいはい・・・。それにしても、鮭ねぇ。

 確かに美味しいけれど、獲りに来るほどだったのかしら?」

 

飛行場姫は、今にも椅子にもたれかかり、

眠ろうとしていた港湾棲姫を、訝しげに見つめていた。

港湾棲姫は顔だけを飛行場姫へと向けると

眠そうな顔のまま、ゆっくりと口を開いていた。

 

「ンー、ダッテ南方海域ジャメッタニミナイシ。

 ソレニホラ。皮ガタベタクナッタノ。皮。

 缶詰トカ、乾物ジャ、楽シミキレナイデショ?」

 

「それはそうだけれどね。

 まぁ、いいわ。全く、あたなといい、水母といい・・・。」

 

飛行場姫は少しだけ頭を抱える。

自分の周りの姫やレ級は、なぜこんなにも自由なのか。

 

(まさか、港湾棲姫がカメラに毒されてる私並に自由だったなんてね。

 これは、南方棲戦姫は苦労するわねぇ・・・。)

 

そして、戦況は混乱させるものの、それほど艦娘にも深海棲艦にも

迷惑をかけているわけでもないため、別段咎める気にも成らなかった。

 

「ット。ソレジャア飛行場姫。ワタシハソロソロイクワ。」

 

「・・・あら。もういくの?

 ま、邪魔をしないように気をつけてね。

 ここにいるのは、人間と艦娘だけなんだから。」

 

「ワカッテルワ。オ酒ヲレ級ト呑ムダケヨ。」

 

「そ。ま、ゆっくりしてなさい。」

 

飛行場姫はそう言うと、自身の艦載機へと意識を飛ばす。

未だ、キス島及び、艦隊の周辺は、濃霧に包まれていた。

 

 

 

一方その頃、カメラのレ級と、金剛達は

巡航速度にして15ノット程度で、北の寒々とした海上を、ゆっくりと進んでいた。

 

そして、そのさなか、エリレの握った鮭のおにぎりと

温かい鮭のアラ汁を食していた。

 

「ムゥウウ・・・。美味しいデースねー。

 鮭の皮の香ばしさがまたおにぎりと合いマースねー。」

 

金剛は鮭のおにぎりを片手に、アラ汁をすする。

 

「うむ。エリレ。旨いぞ。

 大和にも食べさせてやりたいぐらいだ。」

 

武蔵も同様に、アラ汁をすすりながらも

にこやかに笑みを浮かべていた。

 

「・・・これは気分が高揚しますね。

 赤城さんにもぜひお裾分けしたいですね。」

 

加賀は、いつもとかわらぬ表情である。

が、少し声のトーンが高いことから

気分が高揚していることがわかる。

 

「これはいい・・・!なぁ、エリレ。

 もっとないのか?少々足りぬ。」

 

そして、加賀の横についている菊月も、

おにぎりと、アラ汁にがっついていた。

 

「旨イカー!ヨカッタ!

 作ッタカイガアッタゼ!」

 

艦娘全員の反応をみたエリレは、満足そうに笑う。

そんなエリレを見ながら、カメコも口を開いていた。

 

「流石よっぱだなぁ!

 旨いぞー!しかもアラ汁と相性ばっちりじゃねーか。

 体あったまるし、最高だぜ。」

 

「イイダロー。新鮮ナ鮭ノアラ使ッテルカラナ。

 雑味モネーシ。イイアジニナッテルゼ」

 

「そう言われてみれば、臭みがありませんネー。」

 

金剛はアラ汁をすすりながらも、エリレに口を開く。

実際、臭みが全く無く、野菜の甘味と、シャケの旨味、

そして、ほのかな香ばしさがアラ汁には詰まっていた。

 

「ソウダロソウダロ。

 アト、チョット鮭ノカワモ、アブッテアルンダ。

 ダカラ、皮ノ臭ミモスクナイハズナンダ。」

 

「ほぉ・・・エリレよ。細かい技が光るな。」

 

武蔵もアラ汁をすすりながら、エリレに対して口を開いていた。

その顔は、満足そうな笑みを浮かべている。

 

「細カイ技ッテワケデモネーヨ。

 ドウセツクルナラ、美味シイホウガイイシナ。

 ナニヨリ、私ガ美味シクタベタカッタシ。」

 

エリレはそういうと、自身の格納庫へと手を伸ばし

ウィスキーの竹鶴を取り出していた。

 

「酒モモッテキテルカラナ。ウン。」

 

そんなエリレの姿に、金剛達は、一斉に口を開く。

 

「結局は酒なのデースね。」

 

「結局は酒か。」

 

「結局お前は酒なんだな。」

 

「結局はお酒なのですね。

 ま、その御蔭で美味しい戦闘食をいただけたからいいのですけれど。」

 

「よっぱは流石だなー。酒のためなら何でもするもんな。」

 

金剛、武蔵、菊月、加賀、カメコの順である。

 

「否定ハシネーケド、ソノイワレカタハ何カ納得イカネー。

 今食ベテルアラ汁トオニギリ、返シテモラオウカ。」

 

エリレはにやりと笑みを浮かべると、静かに手を差し出していた。

その姿に、金剛達は苦笑を浮かべ、「冗談デース!」と

笑い声をあげるのであった。

 

「マッタクヨー。マ、酒好キッテノハ否定シネーケドナ?

 マ、ソレジャア私ハソロソロ戻ッテ、港湾棲姫ト酒ノンデルワ。

 ジャーナー。」

 

そして、エリレはそういいながら、旗艦あぶくまの甲板へと

一気に飛び上がっていった。

 

 

「・・・嵐のようデーシたねぇ。エリレ。

 それにしてもデース。本当においしかったでーすね。

 体も温まりマシたし、最高デーシた。」

 

金剛は、あぶくまへと去っていったエリレの背中を見ながら、

笑みをたたえたまま、呟いていた。

 

「本当にな。旨かった。それにしても深海棲艦も個性的だな。

 カメラのレ級だけかとおもいきや、あんなのもいたなんてな。」

 

武蔵は未だ手元に残る、鮭のオニギリを見つめながら呟く。

その顔は、少しだけ頬笑みを浮かべていた。

 

「本当に、そうですね。カメラのレ級だけではなく

 ああも友好的なレ級が、また現れるとは思いませんでした。」

 

そういうのは加賀である。

その顔は無表情であるが、若干、口調が穏やかだ。

 

「レ級は変わっているな。それにしても、もう一個ぐらい

 おにぎりもらえないだろうか・・・。おいしかった。」

 

菊月はどうやら、レ級よりもおにぎりをご所望のようである。

 

「あいつの料理は本当に旨いからなー。

 時々私も呑ませてもらってんだけど

 酒も肴も、旨いの持ってくるしな。」

 

カメコは誇らしげな顔で、金剛達の言葉に答えていた。

やはり、同じ深海棲艦、更に、特に親しいヨッパの料理を

褒め称えられたとなれば、誇らしいのである。

 

「マ、それはそうとして、気を入れ直しまショー。

 あともうひとぶんばりデース!」

 

そして、エリレから渡された戦闘食を食べ終え

金剛が気合の一言を叫んた、その時である。

 

濃霧の中に、にやりと、笑みを浮かべる一本角を持った白い女性と

その両脇を固める戦艦ルが、そこに立っていた。

 

「ファッツ!?いつの間にっ!?」

 

金剛が驚きながらも、戦闘態勢をとるものの

既に時遅し。戦艦ル級の主砲が、光とともに爆音を放った。

 

いきなりの発砲に、回避運動も防御も間に合わない。

 

だが、戦艦ル級の砲撃は、金剛達艦娘の頭上を飛び越していた。

そして、そのまま金剛達の後方へと弾丸は飛び続け

・・・護衛艦あぶくまに、戦艦ル級の砲撃が直撃してしまったのだ。

 

響く轟音に、立ち上る炎。

その様から、軽い損傷ではないことが判る。

 

だが、まだ沈んでは居ない。

偶然にも、居住区画をふっ飛ばしただけで

CICやら主機やらは、無傷であった。

 

「・・・チッ」

 

舌打ちするは「あぶくま」に棲む飛行場姫だ。

警戒をしつつ、最適な道を選んだはずであった。

だが、結果はどうだ。

 

撤退作戦の旗艦の護衛艦あぶくまを

敵の姫らしき存在の正面に当ててしまったのだ。

 

そして更に、敵の艦載機が霧の中から数十機と飛び出してきたではないか。

 

不幸中の幸いとしては、キス島攻略部隊の面々が

エリレの作った戦闘食のおかげで戦意高揚状態であることか。

 

「全く・・・・ヤキが回ったかしらね。私も・・・!

 艦載機連続発艦。全機、加賀の艦載機と協力して

 敵の艦載機を叩き落としなさい!

 それと金剛、武蔵!先に戦艦ル級を!レ級もいきなさい!」

 

飛行場姫は腹から声を出し、大音声で自身の艦載機と

艤装、金剛達艦娘に下知を飛ばす。

 

「判ってるネー!コッチの旗艦に傷を付けた代償、

 しっかりと、払ってもらいマース!

 私と武蔵は左舷、レ級は右舷をお願いマース!」

 

「了解だ、金剛よ!

 ・・・深海棲艦、一発は一発だ。ツケは払ってもらうぞ!」

 

金剛と武蔵も、顔に青筋を立たせながら、砲撃音を響かせる。

 

「あいよぉ!くはは!さぁ、新しい姫とはぁ!おもしれぇ!

 力比べと行こうぜぇ!」

 

レ級はそう叫びながら、眼から蒼いオーラを滾らせると、

敵の姫らしき存在へと、一気に吶喊していった。

 

そして、加賀も無言ながらに、首を縦に振ると

自身の艦載機を次々と発艦させていた。

菊月も自らの主砲と対空砲を空に掲げ、加賀の護衛に入る。

 

状況が一気に動き出した、その瞬間である。

 

「「アアアアァァアアアアア!!!!」」

 

あぶくまの船内から、

とてつもない大きな悲鳴が響き渡ったのである。




妄想捗りました。

反省は少しだけしている。


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127 砲火と喧嘩は海の華

前回、深海棲艦から強襲を受けたカメコと金剛達
キス島攻略作戦部隊。

さそく、彼らは戦闘開始をするようです。

そして、第三戦力も、ついぞ戦闘に参加するようです。


・1万文字超えました。


砲撃ヲ行イ、ソシテ艦娘達ト戦ウ仲間ヲ見ナガラ、我々(戦艦ル級)ハ謡ウ。

 

--イノチ捧ゲテ出テキタ身故、死ヌル覚悟デ吶喊スレド---

 

ソウ、我々ハ全員死ヌ気デ北ノチデ戦イ、

ソシテ、文字通リ玉砕シテイッタ。

 

---武運拙ク討チ死ニセネバ、義理ニカラメタ恤兵真綿---

 

補給ガアレバ。弾薬ガアレバ。医薬品ガアレバ。

支援ガアレバ。・・・次々ニ想イガ浮カブ後悔ノ念。

ダガ、今更ソレヲ想ッテモ、仕方ガナイ。

 

---ソロリソロリト頚締メカカル---

 

マァ、ドドノツマリ、我々ハ意地穢イ、敗残兵ノ集マリダ。

我々ノ自己満足ノタメニ、生者ノ顔ニドロヲヌル。

最悪ノ存在ダ。ソウ、我々ハ結局。

 

---ドウセ---

 

過去ニ縛ラレ続ケテイル、ドウシヨウモナイ、死人ノ集マリナノダカラ。

だからこそ。今を生きる貴様らよ。我々を討ってくれ。我らの無念を晴らすのだ。

 

---生きては、()()()()、つもり---

 

 

そして、謡い終わった戦艦ル級達は、提督と慕う色白の女性へと、口を開き始める。

 

「ソレニシテモ。貴女モヨク我々ノタメニコノ場所ヲヨウイシテクレタナ。

 感謝ノ念ニタエナイ。」

 

「キニスルナ。私ガモトメルノハ、タノシイ、タノシイ、イクサダ。

 殺シタリ、殺サレタリスルノガ、楽シミデシカタガナイノダ。

 ダカラ、貴様ラモ思ウ存分、タノシムガイイ。」

 

「了解。提督。ソレニシテモ。今ノ艦トハ脆弱ナモノダ。

 我々ノホウゲキデ、炎上スルナドト・・・。」

 

「無理ヲイウナ。今ハ昔ノヨウニ、砲雷撃戦ナドハシナイ。

 殴リ合エル装甲ナドナイノダ。

 電探デ砲撃距離外カラ、遠隔誘導噴進弾ヲツカウノガ今ノ戦イダ。

 コノヨウナ接近戦ナド、想定シテイナイノダ。」

 

この提督と呼ばれた女性は、なぜか現代艦にも精通している。

詳しく話を聞くと、どうやら元々はスリランカ近くで活動をしていたらしいのだ。

そして、スリランカ沖に艦娘が攻めてきた時に、脱出し

日本の北方へと退避してきたらしい。

 

「ククク、ソレニシテモ。飛行場姫トカメラノレ級ガ艦娘側ニツイテイタトハ。

 ・・・最高ダ。ククク。サァ、生者ヨ。彼ラノ練度ハ極限ダ。

 70年、コノ北ノウミデ戰場ヲマッタ彼ラハ、ツヨイゾ。

 強大ナテキニ、貴様ラ、生者ハ、ドウタチムカウノダ。」

 

提督と呼ばれた白い女性型の深海棲艦は、にやりと口角を上げる。

その視線の先では、金剛と、先方の戦艦ル級が、砲雷撃戦を開始していた。

 

 

被弾したあぶくまから、立ち上る炎を背にしながら

金剛と武蔵は、戦艦ル級へと砲撃を繰り返していた。

 

「チィッ!ファック!

 あのル級、只者じゃナイデース!」

 

「すさまじい練度だな・・。」

 

金剛と武蔵がそう呟くのも仕方が無い。

戦艦ル級は、金剛と武蔵の弾丸を、盾のような砲塔を使いながら

直撃弾を全て、弾き飛ばしていたのだ。

 

ドゴン!ガイン!

ドゴン!ガギィン!

 

そして、金剛と武蔵が装填の瞬間になると

恐ろしいほどの精度で、戦艦ル級は砲撃を仕返してくるのだ。

 

「シット!」

 

金剛は避けようとするも、予測されていたように

弾丸は金剛の移動地点へと着弾する。

 

避けられない!そう判断した金剛は、

ガギン!という音とともに、弾丸を拳で弾き返す。

 

「ッ・・・・!」

 

だが、その代償として、すさまじい痛みとしびれが

金剛の腕を襲っていた。

 

(ファック!なんデースかあのル級!

 レ級の弾より、砲撃が重いデース・・・!)

 

明らかにカメコより重い弾丸。

あと数発は弾き飛ばせるであろうが、長期戦は無理だ。

 

金剛はそう判断を下すと、隣を往く武蔵へと指示を飛ばす。

 

「武蔵、正直に言うと、砲撃戦ではル級のほうが上デス。

 非常に悔しいデスが、このままだとジリ貧デース。

 なので、これから私はル級に接近戦をしかけマス。

 武蔵は、タイミングを合わせて砲撃をお願いしマス。」

 

「応。任された。

 すきあらば私もあれをぶん殴ろう。」

 

「頼みマース!じゃー、行きマースよー!

 主砲、副砲、ファイアー!」

 

「51cm連装砲、斉射!ル級の動きを封じる!」

 

金剛と武蔵は、同時に砲撃を行いながら、戦艦ル級へと肉薄していく。

足は金剛が一番早い。戦艦ル級は距離を取ろうと主機を全力にするも

金剛はぐいぐいと、戦艦ル級へと肉薄していく。

 

右へ、左へ、お互いに直撃弾を貰わないように、

ル級と金剛達は、お互いに偏差撃ちを繰り返しながら、徐々に徐々に、

その距離を縮めていく。

 

そして、ついに、金剛の、拳の間合いまで肉薄する。

と同時に、武蔵の51cm連装砲の着弾が、戦艦ル級のバランスを崩していた。

 

「っせい!」

 

金剛は、勢い良く、戦艦レ級フラッグシップ改と打ち合える、自身の右拳を、

渾身の力を振り絞って、戦艦ル級へと放った。

 

ガシィ!

 

そう、全力を、戦艦ル級へと放ったのだ。

 

「ハッ・・・ソンナモノカ。」

 

だが、その拳は戦艦ル級へとは届いていない。

なんと驚くことに、戦艦ル級は、砲塔を投げ捨て

金剛の右拳を、自身の右手で、簡単に受け止めていたのだ。

 

「なっ!?」

 

「残念ダヨ。艦娘ェ!」

 

ル級はそう言うと、左腕を唸らせ、寸分違わず金剛の顔を殴り飛ばした。

 

ガギンッ!

 

「ガッ!?」

 

金剛はなすすべもなく、その拳を受け入れる。

そして、顔から血を吹き出させながら、海面を転がっていった。

 

「なっ、金剛!?」

 

武蔵はそう叫ぶと、金剛をかばうようにル級へと肉薄する。

そして、両腕を開くとお互いに力比べをするように

手のひらをル級と合わせたのだ。

 

ガシイッ!ミシミシ・・・。

 

全速力で突っ込んだ武蔵の重量を、戦艦ル級は難なく受け止める。

そして、全力を込めてル級を押しつぶそうとする武蔵であったが

 

「ハッ!貴様モ!ソンナモノカ!」

 

ル級はそう言うと、武蔵の腕を、体ごと押し返し始めたのだ。

 

「なんだと・・・!くそっ!」

 

そう。日本最大の重量と、火力、そして馬力を持つ弩級戦艦、大和型。

その大和型の力を持ってしても、このル級は押しつぶせないのだ。

 

「武蔵ィ!そのママァ!」

 

と、その瞬間、金剛がル級の後方から、全力のケリを放とうと構えを取る。

だが、ル級は涼しい顔を浮かべると、武蔵を、軽く持ち上げながら、

そのまま後方の金剛へとぶん投げたのだ。

 

「ぐあっ・・!?」

 

「ファック!?出鱈目ェデース!」

 

飛んできた武蔵を受け止めながら、金剛は戦艦ル級を睨む。

 

「出鱈目カ。ソウカ!

 クハハ。ナラバキサマハコレカラドウスル。

 コノ出鱈目ヲ相手ニ、キサマハドウタタカウノダ!」

 

ル級は獰猛な笑みを浮かべながら、金剛に大音声で叫んでいた。

金剛は小さく舌打ちをする。正直言って手詰まりだ。

自身の砲撃、拳、すべてが通じない相手。

更には、馬力でも大和型以上。

 

(あれはなんデスか・・!本当に戦艦ル級なのデスか!?

 シット!何が艦娘の最高練度デースか・・・!

 何がレ級フラッグシップと戦える戦力デースか!

 まだまだ、私は至っていなかった!慢心が過ぎたデス・・・!)

 

金剛は目の前の敵を見ながら、内心で悪態をつくのが、精一杯であった。

 

 

金色のオーラを吹き出す戦艦レ級と、

にやにやと笑みを浮かべる戦艦ル級は、

お互いに正面を見据えながらも、海面に静かに立っていた。

 

「ホウ。私ノアイテハ我々トオナジモノカ。」

 

戦艦ル級は、カメコを見ながら、静かに口を開く。

 

「わるかったなぁ。艦娘じゃなくて。

 それにしてもいいのか?1対1じゃ、お前が不利だぞ?」

 

カメコもル級を見据えたまま、静かに言葉を返す。

 

「ハ、モンダイハナイ。ナニヨリ、私達ガノゾムノハ1対1デノ殺シアイダ。

 ・・・ナァ?キサマモ、ツワモノナノダロウ?

 コノサキニアル、アツ島カラ、生者ヲ回収シニイクノダロウ?」

 

「あぁ、そうだぜ?なんだ。深海棲艦として、

 裏切り者とでも罵倒するか?」

 

「ハッ・・・・!ソンナ無粋ナコトハイワヌ。

 全力デ我々トタタウノダロウ?

 ---ならば是非は問わぬ。

 ---私達と、全力で撃ちあってくれるのなら。

 ---私達の自己満足に付き合ってくれるのなら!」

 

戦艦ル級はそう言うと、砲塔をカメコへと向ける。

カメコはにやりと笑みを作ると、尻尾を上げ

砲塔を戦艦ル級へと向けた。

 

「くくく。そうか、いいぜ。やろう。

 自己満足、そう、自己満足!そうだ!自己満足だ!

 私だって自己満足で今ここにいる。

 もし、モシモ、キサマがそれを邪魔するならば!」

 

戦艦ル級と、戦艦レ級フラッグシップ改は、お互いに同時に海面を蹴る。

そして、大音声で、同時に、叫び合った。

 

「「キサマヲ水底ニシズメテヤロウ!」」

 

お互いの連装砲が、ほぼ同時に火を噴く。

ル級はカメコの弾丸を砲塔で弾き、至近弾で抑える。

 

そして、カメコも着弾の瞬間に、カメコはさも当然のように、

砲弾を掴み、ル級へと投げ返す。

 

ズガガン!

 

よもや自分の弾丸が投げ返されるとは思っていなかった戦艦ル級は、

自身の弾丸を、まともに顔面に受けてしまう。

だが、ル級の顔には全く傷がない。

 

「硬いねぇ!?」

 

「キサマモ。オモシロイコトヲヤルナ!」

 

そして、今の一撃で、お互いに砲撃戦では埒があかないと判断したのか

全速力でお互いに突撃をしていく。

 

「まず一発だ!オラァ!」

 

「クアッハ!気持チノイイ奴ダ!ソラァ!」

 

カメコとル級は、叫び合いながら、お互いに右拳を突き出していた。

 

ガゴン!ガキンッ!

 

質の違う2つの音が、周囲に響き渡る。

 

「ッハァ!イイ拳ダナァ!ダガ軽イ!」

 

そして、驚くべきことに、吹き飛ばされるカメコと、

仁王立ちで、口角を持ち上げながらも

鼻から少しだけ血を垂らす、戦艦ル級という

対称的な光景が広がっていた。

 

「つぅっ・・・!?」

 

ル級の拳を受けて吹き飛んでいたカメコだが

そこは流石のバランス感覚で、海面こそ転がらず

四肢を海面に突き立て、勢いを殺す。

 

(・・・強いな。これは拙いかも。

 金剛達は大丈夫かな。)

 

カメコはそう思いながら、上空を見る。

すると、そこには、敵の戦闘機に追い回され

撃墜されていく飛行場姫の艦載機と、加賀の烈風の姿があった。

 

(空もやべぇってか。つーか飛行場姫様の艦載機を撃墜させるとか、

 相当なもんだな。・・・チッ。港湾棲姫様とヨッパが

 参戦してくれたら、楽なんだけどなぁ。)

 

カメコは改めて戦艦ル級を直視する。

すると、気づけばゆっくりとこちらに歩いてきているではないか。

 

(ま、あいつらは下らないことのために、

 深海棲艦を裏切る奴らじゃないしな。うん。

 それはともかくとして・・・。戦艦ル級をどうにかしねーとな。)

 

ゆっくりと歩いてくるル級を視界の端に入れながら

カメコはゆっくと立ち上がりつつ、口を開く。

 

「てめぇ。ただの戦艦ル級じゃねーな?」

 

戦艦ル級は、カメコの言葉に歩みを止める。

そして、にやりと笑みを浮かべると、口を開いた。

 

「アァ。我々ノナマエハ戦艦ル級トイウノカ。

 ナニ、オナジモノダ。タダ、我々ハ自己満足ノタメニココニイル。」

 

「はっ、自分の名前すら判ってなかったのか。

 どんだけ出鱈目なんだよ。ったく。

 まぁいい。お前ら相手なら、私も久シブりに本気で、いケル。」

 

「・・・クハハ!イイゾイイゾ。

 イマノイッパツガ、本気ナラバ失望シテイタゾ。

 サァ、コイ。サァ、クルノダ!

 ワレワレハ、闘争ヲノゾンデイルノダ!」

 

「判ったゼ。私も最近ハ怠けテタからナァ!

 後悔スンナよ!イクゾオラァ!」

 

「コイヤァ!」

 

戦艦ル級と、カメコの拳が、改めて空中を交差する。

だが、その拳は当たることはない。

お互いに首をひねり、お互いの拳を避けたのだ。

 

と同時に、カメコは腕を振りきった反動を使いながら

体を回転させ、尻尾でル級を叩きつける。

 

「甘イワァ!」

 

ル級はそう叫ぶと、すさまじい速度で迫るカメコの尾っぽに

渾身の蹴りを繰り出していた。

 

そして、レ級の尻尾と、ル級の蹴りがあたった瞬間、

グシャリ・・・と、鈍い音が接触点からしたのである。

 

「ぎっ・・・!?」

 

叫ばなかったのは流石、カメコというところか。

一瞬の近距離の攻防戦の後、仕切りなおすように、

カメコと戦艦ル級は距離を取りながら、改めて対峙しあっていた。

 

戦艦ル級は変わらず獰猛な笑みを浮かべたまま、

四肢の全てに損傷なく、海面に立っていた。

 

(痛ぇ・・!?くっそ、なんだこのル級!)

 

ル級は眉間にシワをよせつつ、ル級をにらみつける。

戦艦レ級の尻尾の先端は、装甲板や砲塔があるため一番頑丈な部分である。

そんな頑丈な部分を、カメコは全力を持って戦艦ル急に叩きつけたのにも関わらず

戦艦ル級は蹴りの一発で、それを跳ね返すどころか、完全に壊してみせたのだ。

 

(攻撃が、通じねぇ・・・!クソッタレメ!)

 

カメコは悪態をつきながらも、尾っぽの状況を確認する。

尻尾の先端は物理的に潰され、尾っぽの先端の砲塔、魚雷発射管、対空砲が潰れてしまっていた。

 

更には装甲板もへしゃげ、鮮血が流れ続けている。

だが、未だに尾っぽは動く。尾っぽの先端の口は動く。

であれば、砲雷撃戦は封じられたが、

近距離ならば、まだなんとかなるかもしれない。

 

(あんまりやりたくなかったけど・・・喰うか?)

 

カメコはそう考えながら、自身の尾っぽの口を開く。

 

(いづっ・・!?)

 

大きく尾っぽの先の口を開けようとしたカメコに、激痛が襲いかかる。

どうやら、分厚い装甲が尾っぽに食い込み、動作を阻害しているようであった。

これは、尻尾で相手を喰うという行為さえ、難しい。

 

(こりゃー、割と積みかねぇ・・・?)

 

カメコはそう思いながらも、獰猛な笑みを絶やさない。

そして、今一度、叫びながらル級へと攻撃を仕掛けようとした時であった。

 

---ガガガン!---

 

と、巨大な鉄板の塊を叩いたような音が周囲に響き渡ったのだ。

 

戦闘をしていた全ての敵味方が、その音の方向を見る。

するとそこには、金剛とカメコが苦戦している戦艦ル級とは

別の戦艦ル級を捕食する「戦艦レ級エリート」がいた。

 

メシャリ、グシャリ、メシャリ。

--ギッ、ガッ、ウゴ、ギュフ・・・----

 

頭からエリレにかぶり付かれたル級は、

聞くに堪えない、うめき声を上げながら、その活動を停止させた。

 

「ハッ、旨くネーナー」

 

悪態をつきながら、エリレは格納庫から爆雷を一つ、取り出す。

 

「次。」

 

「応。」

 

気づけば、エリレから静かに爆雷を受け取る、港湾棲姫が、無傷で佇んでいた。

 

「・・・ナニッ!?我ラガ一瞬デヤラレタダト!?」

 

戦艦ル級達は、当然動揺する。裏切りに驚いたのかと思えば、そういうわけではない。

殺された相手が同種の深海棲艦ということについては、ル級達は、全く気にしては居ない。

 

だが、戦艦ル級の練度と耐久力は、金剛とカメコの格闘戦と耐えぬくあたり、並大抵ではない。

艦娘2人と戦おうが、エリート改の深海棲艦と戦おうが、彼らル級には、

戦う相手を簡単に足蹴に出来る自信があったのだ。

 

「ナンダ、ナンナノダアレハ!・・・サイコウデハナイカ!」

 

全ての戦艦ル級が、港湾棲姫と、エリレを見て口角を上げる。

 

---アレト戦えれば、我々ハキット・・・----

 

それはもちろん、金剛達やレ級と戦っていた戦艦ル級も例外ではない。

 

 

「ナンダ、ナンダキサマラ。

 アンナ隠シ種ヲモッテイタトハ!」

 

金剛・武蔵と戦っていたル級は、今が戰場ということを忘れ

興奮しながら叫ぶ。思う存分戦える。補給が万全の状態で

強大な敵と戦える。そんな気持ちが溢れ出ているようだ。

 

「クハハ、最高・・・グムッ!?」

 

だが、その隙の代償は大きかった。

大口を開けて叫んでいた、戦艦ル級の口内に

41cm連装砲と、51cm試製連装砲の砲身が突っ込まれていた。

 

「敵の眼前で・・・隙を見せるのは関心できまセーンよ?」

 

「眼前の敵を目の前に舌なめずりか。・・・海軍を、舐めるなよ?」

 

「・・・!」

 

獰猛な笑みを浮かべ、何かを言おうとする戦艦ル級。

だが、有無をいわさずに、金剛と武蔵は

主砲の引き金を引いた。

 

カチリ。

 

---ドゴォ!---

 

轟音と共に、戦艦ル級の頭は、文字通り木っ端微塵に吹き飛んだ。

格闘戦には耐えるル級の体ではあったが、どうやら、内部からの衝撃には弱いらしい。

 

頭部を無くし、力なく海底へと沈む戦艦ル級の亡骸を眺めながら

金剛と武蔵は、砲身を日本刀を降るように動かし

砲身についた戦艦ル級の肉片を吹き飛ばしていた。

 

「全く。酒のレ級は物好きデース。態々戦闘に参加しなくてもいいのに。」

 

「あぁ、あのレ級は物好きだな。カメコと大して変わらんとは。」

 

金剛と武蔵は、ちらりと、エリレと港湾棲姫を見る。

既に彼女らは、喰ったル級をそのままに、次の獲物へと足を進めていた。

 

「・・・さぁ、次デース。」

 

「応。アレに遅れをとるわけにはいかん。」

 

金剛と武蔵も、追従するように、次の戦艦ル級へと向かっていくのであった。

 

 

「クハハ!イイゾ、アレハイイゾ!」

 

カメコと戦っていた戦艦ル級も、例外なく

エリレと港湾棲姫を見ながら、獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「ククク、ナァ、貴様。アレモお前の仲間か。

 ・・・あぁ・・・いい仲間を持ってるなぁ。

 玉砕せざる負えなかった、我々とは違う、いい仲間だ。」

 

「そりゃどーも。つーかお前、やっぱりアツ島の亡霊か。

 全く、通りでつえぇわけだよ。」

 

笑みを浮かべる戦艦ル級。

その下半身は、腰から下が完全に消え去っていた。

 

「ククク、強いと、言ってくれるのか。」

 

「あぁ、お前らは間違いなく強いね。

 全く、手間かけさせやがる。・・・なぁ、菊月?」

 

ル級を挟んだ反対側には、魚雷発射管が数本空になっている

駆逐艦の菊月が佇んでいた。

 

「あぁ、全くだ。レ級が接近戦で押されるなど

 冗談もいいところだぞ。ル級、貴様は強い。」

 

菊月は戦艦ル級に近づきながら、笑みを浮かべる。

 

「・・・あぁ、生者からも讃えられるとは。

 あぁ、あぁ。満足だ。私は満足だ。」

 

そういうと、戦艦ル級は、穏やかな笑みを浮かべ

海底へと、沈んでいった。

 

その姿を見守る、カメコと菊月であったが、

チラリと目配せをしつつ、主機を駆動させ

敵の本陣へと体を加速させる。

 

「菊月、援護助かった。正直勝てるか判らなかったわ。」

 

カメコは苦笑を浮かべながら、菊月へと言葉を投げる。

菊月は一瞬だけ目線をカメコに送ると、

目の前を向き直し、口角を上げ、口を開いた。

 

「気にするな。私はお前に付いて行くといったんだ。

 この程度のこと、出来ぬわけがない。」

 

「ははっ、頼もしい。

 ・・・・次も、頼むぜ?」

 

「あぁ。もちろんだ。」

 

カメコと菊月は、お互いに拳を出しあい、コツンと拳を合わせる。

 

「そいや、お前、加賀の援護は?」

 

「加賀か。まぁなんだ。今日の加賀は護衛はいらんぞ。

 何せ今日は、絶好調みたいだからな。」

 

菊月の言葉に首をかしげるカメコ。

そんなカメコを見ながら、菊月はにやりと笑みを浮かべるのであった。

 

 

---敵機直上、急降下!---

 

加賀の頭の上に、1トン爆弾が降り注ぐ。

 

当然として、日本の空母である加賀は、高性能な対空装備を持たない。

しかも動きは鈍重に近い・・・のは戦船時代の加賀である。

 

今、ここにいるのは、船の魂を持つ、人の形をした加賀だ。

 

「ふっ。」

 

加賀は鋭く、小さく息を吐くと、弓を真上に向ける。

そして、矢を番えると、迷いなく矢を放ったのだ。

 

すると、矢は迷いなく、1トン爆弾を貫き、

上空に爆炎を広げながらも、矢は戦闘機となり、

勢いそのままに、敵攻撃機を粉砕していった。

 

だが、敵の数は多い。

爆弾を1個や2個を貫いたところで、

加賀の烈風が攻撃機を粉砕したところで、

加賀に降ってくる爆弾の数は、未だに多いのだ。

 

右に舵を取り、左に舵を取り、加速し、減速し。

 

加賀は持てる技術を総動員し、敵の爆撃を避けていく。

その間も、加賀はいつもの無表情だ。

 

(厳しいわね。烈風を持ってしても制空権が危ういなんて。

飛行場姫の戦闘機も、かなり危ないみたいですし。)

 

加賀がそう考えた時である。

遠くにいた戦艦ル級が、その艦砲で、加賀を狙ってきたのである。

 

水柱が立ち、ずぶ濡れになる加賀。

幸いにも直撃弾はなく、甲板は濡れただけである。

 

(初弾夾叉。まずいわね。)

 

加賀はそう思いながらも、再度上空へと烈風を上げる。

とその時、後方に控えるあぶくまの飛行場姫より、加賀へと声がかかった。

 

「加賀、まだいけるかしら?」

 

心配そうな、普段では聞けない飛行場姫の声を聴いた加賀は、

いつもの調子で、ぶっきらぼうに言葉を返す。

 

「問題ないわ。飛行場姫。」

 

「そ。まずくなったら退避なさい。」

 

「えぇ。心得ています。」

 

そうしているうちにも、相手の航空機に落とされていく、烈風。

 

だが、ただ落とされるわけでもなく、

烈風を追いかけて、速度をなくした敵を飛行場姫の戦闘機が、

一撃離脱を行い、逆に叩き落とす。

 

そして飛行場姫の戦闘機を落とそうと近づいてきた敵機を

加賀の烈風が巴戦で落としていた。

 

敵味方、お互いに多数の航空機を失いながらも

未だに制空権争いをしている加賀と飛行場姫、そして敵のヲ級2隻の練度は

流石といったところだ。

 

 

話は変わるが、この加賀という軍艦は、少し、他の航空母艦と生い立ちが違う。

加賀は非常に数奇な運命を辿り、航空母艦に変貌したのである。

 

赤城と加賀。

 

彼女らは一航戦として、同じ海で戦い、同じ海で沈んだ。

だが、彼女らは、驚くべきことに、姉妹艦でもなく、同型艦ですらないのである。

 

彼女らの本当の名前を聞けばそれも納得である。

 

航空母艦赤城、真の名前は「八八艦隊 天城型巡洋戦艦 2番艦 赤城」。

 

航空母艦加賀、真の名前は「八八艦隊 加賀型戦艦 1番艦 加賀」。

 

彼女らは、本来「巡洋戦艦 金剛型」と「戦艦 長門型」を

発展、強化した戦艦として産声を上げるはずであったのだ。

 

そう、航空母艦「加賀」は、主砲と航空機という武装の違いこそあれど

その体は、間違いなく長門型を引きつぐ、最新鋭の「戦艦」なのだ。

 

そして、そんな彼女は、今世において

 

接近戦では無類の強さを誇る戦艦レ級エリート改、

 

レ級エリート改とタメを張りつつ、砲雷撃戦で無類の強さを見せる戦艦金剛、

 

航空機の扱いでは右に出るものはいないであろう、飛行場姫

 

という、とんでもないメンツに囲まれながら、生活をしている。

 

結局何が言いたいのかといえば、

こんな非常識な艦共と生活をしている加賀が

常識的な船であるわけが、ないのである。

 

 

戦艦ル級は、航空機を操る敵の航空母艦、加賀を、付け狙っていた。

理由は単純で、「1:1の砲雷撃戦を、蚊蜻蛉に邪魔されては叶わない」。

 

先ほどの一発は、夾叉。であれば、次の一撃は、当てる。

 

戦艦ル級は、絶対の自信を持って、砲塔を回転させ、加賀へと照準を絞る。

 

そして、航空機を発艦させ、隙だらけのタイミングで、3連装砲を、叩き込んだ。

 

ドンピシャリのタイミング。確実に敵の航空母艦は大損害を受けた・・・はずであった。

 

確かに、加賀は爆炎に包まれ、一瞬姿が見えなくなる。

コレで邪魔されない。と、安堵の笑みを浮かべる戦艦ル級であったが、

次の瞬間、加賀は無傷で、爆炎の中から飛び出してきたのである。

 

驚きに顔を染める戦艦ル級。

 

そんな戦艦ル級を尻目に、加賀は、いつの間にか目の前に突き出され、

握られた左手の手のひらを、ゆっくりと開く。

 

すると、戦艦ル級にとって、見慣れた弾頭が、3つ、加賀の手から、こぼれ落ちたのである。

 

加賀は、戦艦ル級の弾丸を、掴みとったのだ。その事実に、戦艦ル級は、言葉を失っていた。

だが、戦艦ル級の驚きは、これだけでは終わらない。

 

なにせ、言葉が聞こえないほど、遠く離れているはずの敵の航空母艦から、

戦艦ル級は確かに、底冷えするような音色でありながら、力強い言葉を聞いたのだ。

 

『・・・頭に、来ました。』

 

その言葉とともに、敵の航空母艦は、超低空に矢を飛ばす。

海面に触れるか触れないかの距離を翔ぶ矢は、一直線に戦艦ル級へと向かっていく。

 

当然、戦艦ル級は、こちらへ向かってくる矢を落とそうと、

主砲、副砲、対空砲を放ち始めていた。

だが、その矢はまるで意志があるように、右往左往と動きまわり

ル級の砲撃をのらりくらりとかわしていく。

 

『雷撃準備。』

 

加賀の一言と共に、矢が変化し、5機の97艦攻へと変化する。

その腹には、各機体共に、魚雷を一本、抱え込んでいた。

 

戦艦ル級は目を見張る。

超高速、超低空で敵の雷撃機が進入してきたのだ。

ル級は更に熾烈に対空砲を撃ちまくるが、

ペラが海面に擦るほどの低空を、数百キロ出して近づいてくる

小さな的に当てるのは、熟練者であっても困難だ。

 

だが、ル級の弾幕は流石である。

 

1機の97艦攻のエンジンが、黒煙を上げ始めたのだ。

 

思わず、にやりと笑みを浮かべる戦艦ル級。

だが、それだけだ。他の97艦攻は、ル級の砲撃を物ともせずに、ル級へと肉薄する。

 

10機近くの空母ヲ級の戦闘機が、ル級の援護に入ろうと急降下を行うが、既に時遅し。

 

戦艦ル級は、加賀の97艦攻から、魚雷を5本、直当てされ

なすすべもなく、轟沈していったのだ。

 

『・・・優秀な、みんな優秀な子達ですから』

 

そして、ル級を撃沈せしめた97艦攻を落とそうと、高度を落としたヲ級の10機余りの戦闘機達は

上空から襲いかかってきた飛行場姫の戦闘機に、一瞬の内に全て、叩き落とされていた。

 

制空権争いで、10機の差は大きい。

ここに来て、制空権は一気に、加賀と飛行場姫に傾いたのである。

 

「ヲ級達。いくら戦闘機の操縦が上手くったって、貴女達じゃあ、判断が甘いわ。

 判断力が問われる制空権争いを私に挑むなんて、愚の骨頂。

 いくら鹵獲されてるとはいえ、いくら戦闘にブランクが有るとはいえ、

 私は伊達に、飛行場姫って名乗ってるわけじゃないのよ?」

 

飛行場姫はそう言いながら、獰猛な笑みを浮かべていた。

その姿は、正に深海棲艦の姫君、と言える姿であった。




「私、こう見えても長門よりも足が速いんですよ。
 拳、長門よりも硬いんですよ。

 だから、接近戦、できるようにしておきたいんです。
 
 今度色々教えて下さい。レ級、金剛。」

彼女はそう言うと、普段の加賀からは想像もできないほど、
獰猛な笑みを浮かべたのです。
別に、加賀は近距離で戦う必要が無いのに。

【金剛の日記:レ級との模擬戦後】より抜粋



妄想捗りました。


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128 そして宴会も海の華である。

酒飲みのレ級、エリレの参戦により
ル級を次々と撃破していく艦娘達と、カメコ達。

彼女たちは、ついに、敵の親玉と対峙するようです。


敵の中心部へと吶喊するエリレと港湾棲姫を追って、カメコと金剛達艦娘も、速度を上げながら、海の上を往く。

 

そのさなか、航空戦はどうやら、飛行場姫と加賀の優勢で決着がついたようだ。

敵の攻撃機が、次々と、海の藻屑と消えていた。

 

「流石加賀と飛行場姫デース。」

 

金剛はその光景を感心しながら見つめていた。

高高度で行われる制空戦、そして、攻撃機の防護機銃を避けながらも、攻撃機を落としていく戦闘機の勇姿である。

 

「すげーよなぁ。姫様も加賀も、味方でよかった。」

 

金剛と合流したカメコも、その光景を見ながら、口を開いていた。

 

「それにしてもレ級ぅ。なんでヨッパは参戦したんデス?」

 

「知らねぇ。基本的に裏切るような奴らじゃねーんだけどな。・・・まぁ、おそらくは、さっきのル級の砲撃で、肴か酒か、はたまた気にってる備品でもぶっこわされたんじゃねーかな。」

 

カメコは苦笑いを浮かべていた。エリレ達は基本的には、忠実な深海棲艦である。だが、酒が絡むとソンナことは関係なくなるのだ。

苦笑いを浮かべるレ級を見ながら、金剛は溜息をつく。

そして、目線をエリレに向けながら、苦笑を浮かべながら口を開いた。

 

「なんだか、私の中の深海棲艦のイメージが完全に砕け散りマーシた。自由ですね本当に。」

 

「いや、金剛。おかしいのは私達と、私達の先を行く奴らだけだから。深海棲艦は、金剛達艦娘の敵だから、ね?」

 

「ムゥ。深海棲艦の貴女が言うと、説得力があるような、ないような・・・。」

 

「ま、金剛。エリレと港湾棲姫様のコンビは近距離戦においては心強いから。だってほら、港湾棲姫は私達戦艦とか飛行場じゃなく、海と陸を束ねる存在だし。能力はたけーんだ。・・・酒が絡むとメンドクサイけど。」

 

「そうなのデースねぇ・・・。それじゃあ、とりあえずこの場は甘えマース。武蔵。エリレと港湾棲姫の援護をしていきマショウ。」

 

「・・・応。心得た。それにしても金剛よ、お前も適応が速いな。私は未だに飲み込めんぞ。」

 

「カメコとかエリレとかと交流してマースから。非常識はなれたものデースよ。」

 

金剛はそう言うと、武蔵に苦笑を向ける。そして、エリレの後を最大戦速で追従していくのであった。

 

「それに、心強いのは本当デース。」

 

そしてそのさなか、エリレと港湾棲姫は、次々と敵のル級を海底へと沈めていく。

 

港湾棲姫が首をもぎ、体をレ級が砲撃し。

かと思えば、レ級がわざと甘い攻撃を繰り出し、敵に受け止めさせた所に、港湾棲姫の全力の拳を突き刺したりと、容赦がない。

 

「・・・なるほどな。わかった。甘えよう。」

 

エリレ達を見て、武蔵も諦めたようである。

 

「ま、武蔵と金剛に菊月は、よっぱの援護を頼むわ。私はちょっと尻尾直してくる。」

 

「判ったデース。未だここは激戦区ですから、油断せずに気をつけてくださいネ?」

 

「あいよぉー。」

 

金剛とカメコは、一旦別れ、金剛達は港湾棲姫とエリレの援護に

カメコは、あぶくまへと踵を返す。

 

だが、この判断が、カメコの運命を、一つ決定づけたのだ。

 

 

あぶくまへと戻ろうとしたカメコは一つのピンチを迎えていた。

敵の親玉、港湾型の姫らしき艦と対峙していたのだ。

 

「コレハコレハ、飛行場姫ノトコロノ、レ級デハナイカ。」

 

どうやら相手の港湾型の姫は、カメコを知っているようである。そして、それに応えるように、カメコもゆっくりと口を開く。

 

「・・・なるほど、戦艦ル級をまとめていたのは、港湾水鬼様でしたか。」

 

「アァ、マトメルトハ少シチガウガナ。アレラハ全力デタタカイタガッテイタ。私ハソノセナカヲオシタダケダ。」

 

「ずいぶんとまぁ・・・めんどくさいことを。あなたは確か、インド洋の守備を任されていたのでは?」

 

「インドデハ全力デタタカエズニ逃ゲタノダ。ココヘタドリツイタトキ。奴ラガイタ。恨ミデハナク、後悔ノ念ニシズンダ彼ラガイタノダ。ソシテナニヨリ、ワタシガタタカイタカッタノダ。方向性ノ一致ダ。」

 

「なるほど。それでアツ島とキスカ島を攻撃したわけですか。」

 

カメコは言葉を発しながら、腰を落とす。

それを見た港湾水鬼も、同じように腰を落とした。

 

「・・・エェ。マサカ深海棲艦ガ相手ニナルトハオモッテイナカッタガナァ!サァ、カメコ!人間ヲスクイタケレバ私ヲシズメテミセロ!」

 

港湾水鬼は、一気に体を加速させる。合わせて、カメコも叫びながら全力で体を前へと加速させていった。

 

「いいねぇ!じゃあまずいっぱああつ!」

 

カメコは尻尾ではなく、しっぽを振った反動で、右足を港湾水鬼に叩きつけた。

だが、港湾水鬼は、びくともしない。それどころか、カメコの足を無造作に掴んだのだ。

 

「甘イワ。パワーダケナラ、ワタシノホウガアルノダ。カメコ。」

 

カメコの一撃を軽くいなし、海面へと叩きつける。そして、カメコの体を足で押さえつけた。

 

「ぐふッ・・・!?」

 

「・・・ソレニシテモコノシッポハ、ジャマダナ。」

 

港湾水鬼は、倒れ伏したカメコの体を足で押さえつけながら、その尻尾を、掴みあげた。そして、そのままカメコの尻尾を、千切ろうと力を加え始め、カメコの体からギチギチと嫌な音が立ち始める。

 

「ガアアアア!」

 

体を足で押えられているカメコは、身動きが取れないまま、叫んでいた。

そして、港湾水鬼は、カメコの尻尾を掴み直す。そして。

 

「フンッ!」

 

その一言と共に、カメコの尻尾を、カメコの体から引きちぎったのだ。

 

「------------!」

 

カメコは声に成らない叫び声を上げる。と同時に、尻尾と体から、おびただしい量の鮮血が流れ始めていた。そして、追い打ちをかけるように、港湾水鬼は、カメコの胴体を、その足で踏み潰そうと、片足を天高く持ち上げた。

 

「ッソオオイヤアア!」

 

その瞬間、エリレの尻尾が港湾水鬼を襲う。だが、港湾水鬼は手慣れた手つきでその尻尾を掴みとっていた。

 

「馬鹿ノヒトツオボエダナ。」

 

港湾水鬼はそう言うと、エリレを水面に叩きつけようとする。だが、そうは問屋が卸さない。港湾水鬼は知らないのだ。ここに、港湾の名を冠する、もう一人の化け物がいることを。

 

「アナタモ、ヒトノコトハイエナイワ。」

 

港湾水鬼は、足元から聞こえた声に、思わず顔を向けていた。

その目に写ったものは、海面下から拳を突き出し、勢い良く海面から飛び上がる、港湾棲姫の姿であった。

 

「ナ!?」

 

水鬼は驚愕の表情を浮かべ、拳を避けようとするも、時は既に遅し。

港湾棲姫の拳を、顎からまともに受けたのだ。

 

「ナイス港湾棲姫ィ!」

 

「レ級。カメコヲツレテ撤退。あぶくまニハ、バケツアルカラ。」

 

「アイヨォ!サーイクゾカメコォ!」

 

エリレはそう叫びながら、ぐったりとしているカメコを担ぎ、未だ倒れ伏す港湾水鬼の元から、撤退していった。

 

 

エリレは自身が担いだカメコを観察する。

 

顔や体に特に大きな損傷は、ない。

だが、その背中に生えていた尻尾も、ない。

 

更には尻尾は完全に千切られているためか、こうしている間にも

おびただしい量のカメコの血液がエリレの体を伝ってきていた。

 

(こりゃあかなり不味いなぁ。つーかこれ、尻尾復活すんのかな?)

 

エリレはそう考えながら、あぶくまへと速度を上げる。とその時、

見慣れた艦娘が一人、エリレへと近づいてきていた。

 

「・・・よっぱらいのレ級か?何をしているんだ?」

 

彼女は発射した魚雷を補給に、あぶくまへと帰還していた菊月だ。

丁度補給を終え、これから海戦へと出るというタイミングで、エリレと出会ったようである。

 

「オオ!チョウドイイトコロニ!菊月ツッタッケ?カメコノ治療ヲタノム!」

 

エリレはそう言うと、担いでいたカメコを、菊月へと渡す。

菊月はいきなりの行為に驚いたものの、カメコの状態を見て、その表情を固くさせていた。

 

「っ・・・これはひどいな。判った、すぐに医療班へカメコを渡す。

 よっぱらいのレ級。お前はどうするんだ?」

 

「港湾棲姫ガ港湾水鬼トタタカッテルカラ、援護ニイッテクル。サスガニ港湾棲姫ダケジャツラソウダシナ。」

 

エリレはそういうと、菊月の反応を待たずに、一気にその体を加速させていった。

 

「まったく、なんなんだあのよっぱらいのレ級は。忙しないな。

 いや、それよりも今はカメコの治療を急がねばな。」

 

菊月はその姿を見送りながら、体を反転させ、

一気に主機の出力を最大まで引き上げ、カメコをあぶくまへと運んでいった。

 

 

戦艦の治療。もとい、深海棲艦や艦娘の治療は、そこそこ簡単である。

通常であれば、ドックに入り、体を休めれば、時間に応じて装甲が回復する。

 

大破や轟沈寸前の場合は、必要な鋼材や燃料を溶けこませた高速修復材に浸かれば、

艤装、装甲もろともすべてが、回復するのである。

 

「・・・あんまり、芳しくはないですね。」

 

戦艦レ級フラッグシップ改、カメコを菊月から受け取った船医は、高速修復材に浸かり

傷を癒やすカメコを見ながら、呟いていた。

その隣には、横須賀鎮守府の提督も渋い顔をしながら立っていた。

 

「艦娘とは違うのですね。艦娘であれば、腕や足がちぎれ飛んだところで

 高速修復材に浸かれば修復されるというのに。」

 

「えぇ、私もそう思っていました。ですが、見てください。

 レ級さんの出血は綺麗に止まりました。傷跡もほとんどありません。

 ・・・ですが、千切られてしまった尻尾は、修復されませんでした。」

 

未だ気を失っているカメコ。その体にあるものは、いつものパーカー、ビキニだけである。

巨大な尾っぽと、その先に付いている砲塔や魚雷は、失われたままだ。

 

「果たしてこの姿で、戦闘能力があるのかは不明です。艦娘の場合は、轟沈、つまりは

 艤装が完全に破壊され、生体にまで被害が及んだ場合は、もう戦闘能力がなくなってしまいますから。」

 

船医はそういいながらも、高速修復材を足していく。

 

「えぇ、判っています。とはいえ、レ級は深海棲艦ですから。艦娘の状態が当てはまるとは限らないでしょう。」

 

それに、と提督は続ける。

 

「このレ級は尻尾を失ったぐらいで、どうこうする奴ではないですから。」

 

「・・・まぁ、そうですよね。むしろ、「これで大手を振って写真とれるー!」とか喜びそうで・・・。」

 

船医は呆れ顔でため息をついていた。

提督も船医に続き、苦笑を浮かべながら、未だドックで眠るカメコを見つめるのであった。

 




妄想捗りました。

尻尾がなくなったカメコさんの巻。

きっとこれからは、よりアクティブに写真をとるのかなぁと妄想しております。


とりあえず次でいったん〆の予定です。


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エピローグ:戦艦レ級

 ここに、一人の深海棲艦が存在する。

 

 小柄な体に黒いパーカー、首には縦ストライプのネックウォーマー、そして色白の肌に、海底のように蒼い眼を持つ人間の女性に近い存在。

 

 そう。通常海域において、猛威を振るっていた、あの戦艦レ級だった存在だ。

 

 開幕でいきなり魚雷を放ってきたと思えば、航空機を放ち、雷撃・爆撃を加え、通常の砲雷撃戦までこなす、海戦のマルチプレイヤーである。加えて、高い火力を有するため、一発でも攻撃にあたってしまえば、被害甚大である。

 それ故に、艦娘を操る提督からは、恐れられ、忌み嫌われている存在だ。例外として、趣味に生きたり、敵意が無かったり、人類と交流するレ級も居るようであるが、基本的には、人類と艦娘の敵であった存在である。

 

 

所変わって栃木県宇都宮市。

 

 日本の関東圏の最北に位置する、旧軍都である。太平洋戦争の末期、焼夷弾で焼きつくされた街ではあるが、自衛隊の基地や滑走路が存在したり、旧射撃場跡が残っていたりと、現代になった今でも、未だに、軍都としての名残を残す街である。近年では、関東7名城とも言われた宇都宮城の一部が復旧されたり、軍都を歩こう、などのイベントが行われ、歴史運動が盛んな街の一つでもある。

 

 そんな町中を、独特の穏やかなエンジン音を響かせながら、一台の横須賀ナンバーの新緑色のリトルカブが、ゆっくりゆっくり、進み続けていた。海軍の印が入ったそれに跨るのは、厚手のジーンズに、黒いパーカーを羽織る、10台中頃と思われる少女である。

 服の隙間から覗く肌は青白く、血色が悪い。表情はフルフェイスのヘルメットのせいで判らないが、彼女は街中を走りながら、首を左右に振り、その景色を楽しんでいるようであった。軍都時代の名残の建物、現代になって舗装され、レンガが敷き詰められた歩道、そして、その歩道を歩く人々を観察しながらも、カブを走らせ続ける。

 

 宇都宮城の守り、宇都宮二荒山神社にたどり着いた時、彼女はカブのエンジンを止めた。どうやら、ここが目的の場所であるようだ。素早い動きでリトルカブから降りると、カブを押しながら歩道を歩き、二荒山神社の駐輪場まで移動させる。そして、手慣れた手つきでスタンドを立てると、自身の頭にかぶさっていた、フルフェイスのヘルメットを脱いだ。

 

 外に晒された容姿は非常に整っていた。大きな眼に、ふっくらとした唇。そして低くはなく、鼻筋が通った小さな鼻。肌と髪の色は青白く、日本人ではないことを匂わせていた。

 

 彼女はカブに鍵をかけると、二荒山神社の参道へと足を進める。巨大な鳥居の前で一礼をすると、彼女は迷うこと無く、本堂へと続く階段を、一歩一歩登っていく。そして、登り切った先の門で、改めて一礼をすると、二荒山神社の境内へと彼女は足を進め、本堂を見て左手にある手水舎への前へと立つ。

 柄杓を持つと、手慣れた手つきで、右手と左手を洗う。そして、左手に柄杓から水を受けると、左手を口に近づけ、口内を清めた。そして、改めて左手を洗うと、柄杓を立て、柄杓の柄を洗う。

 手と口を清め終わった彼女は、ポケットから錨のマークがワンポイントとなっているハンカチを出し、濡れている手を拭う。そのさなかにも、彼女は二荒山神社の境内を眺めていた。

 

 三つ巴の神紋が瓦に刻み込まれた、この二荒山神社は宇都宮の守りである。下野国が発足した当時、とは言わないものの、承和5年(838年)に現在の地に鎮座し、今日に至るまで、宇都宮の城下を見守り続けている由緒正しき神社である。

 かつては20年毎に、社殿が建て替えられていた、という伝承からも、この神社がどれほどの信仰を持っていたかが窺い知れる。なお、現代の社殿は、明治10年(1877年)に建て替えられたもので、太平洋戦争における宇都宮大空襲の戦火を避けた形だ。

 

 境内には様々な植物があり、春は櫻の花が楽しめ、夏は新緑が美しく、秋は椛が社殿に映え、冬は立木が美しい。四季折々の美しさも兼ね備えている神社である。そして今の季節は春。風に吹かれて舞う桜花が、境内を歩く彼女の頬を撫でていた。

 

 

 彼女は賽銭箱の前に経つと、財布から100円玉を2枚奉納する。そして、背筋をピンと伸ばし、美しい直立姿勢のまま、腰を折ること2回。そして、目の前に手を差し出して、勢い良く、合わせる。

 

パン!パン!と、大きな炸裂音が2回。

 

 最後に彼女は、目を瞑り、彼女は深々とした礼を長く、1回行う。そして顔を上げると、彼女は社務所へと足を向ける。

 

「おみくじ一回お願いします。」

 

 鈴のような音の、美しい声であった。

 

「100円をお納め願います。」

 

 巫女に言われたとおりに、彼女は財布から100円を取り出し、手渡す。そして、社務所の脇に置いてあるおみくじの箱から、迷わず一枚のおみくじを取り出し、静かに開封する。彼女の手元には、「吉」と書かれたおみくじが、握られていた。

 

「大きな幸せこそないが、淡々と過ぎ行く日々を大切にすれば、自ずと満たされる。」

 

 待ち人、来る。旅行、良し。商い、良し。

 悪くはないクジである。彼女は少し微笑むと、そのおみくじを結ばずに、自身の財布へと入れる。神様からのお告げを、持ち歩くという、彼女なりのこだわりがあるようだ。

 

「おや、ここにおりましたか。」

 

 丁度その時、彼女に声をかけた人物が居た。彼女は振り返り、その人物に、会釈で返す。

 

「立ち話も何ですから、喫茶店にでも参りましょう。」

 

 軍服を着たその人物は、彼女にそう声をかけると、足早に境内を後にしようとしていた。

 

「・・・せっかくだから餃子でご飯食べたい。」

 

 彼女は軍服を着た人物に、鈴のような音で声をかけていた。軍服の人物は、苦笑を浮かべると、片手を上げる。

 

「判りました。それではそのように。それでは、みんみんにでも参りましょうか。レ級殿。はぐれんでくださいね。」

 

「はい。エスコートをお願いします。大将殿。」

 

 戦艦レ級と言われた彼女は、大将と呼ばれた軍服の人物の後をついていく。

 

 そう、この彼女は、現在敵とみなされている深海棲艦の1隻、戦艦レ級なのだ。だが、彼女にその身体的特徴はほとんど残っていない。肌色と髪の毛の色が、ほんのりと人外であることを匂わせているだけだ。巨大な尻尾も、艤装も持たず、狂気に染まった目すらない。見た目の通りの歳相応の、おだやかであり、優しそうな少女であった。

 

「・・・にしても、大将っていうのはヤッパリ違和感ありますね。・・・ま、久しぶりだな。提督殿。いや、佐藤さんと言ったほうがいいのかな。」

 

「あぁ、本当にお久しぶりですね。呼び名は呼びやすいもので結構ですよ。そういえば、尻尾を失ってからしばらく経っていますが、調子の方はいかがですか?」

 

「・・・んぁー。調子はすこぶるいいぜ。今じゃ尻尾なくても問題ないしな。」

 

◆ 

 

 カメコが人間と交流を始めた時より、既に十年以上の年月を経ている現在では、深海棲艦の領海はほとんどなくなっている。もとより、深海棲艦の数事態も既に両手で数えられる程度しか、現存していない。

 

 現存している深海棲艦は、ソロモン諸島で悠々自適に暮らしている南方棲戦姫とお付の最速のイ級と戦艦ル級、横須賀鎮守府で海軍の訓練を担当している飛行場姫と港湾水鬼、呉鎮守府で鳳翔と共に酒保を切り盛りする港湾棲姫とその部下のイ級、そして、日本全国を旅しながらのんびりと暮らす北方棲姫といった具合である。

 

 他の深海棲艦は、ほぼすべてが駆逐され、撃破されずに残った深海棲艦も自沈するか、鹵獲され、実験対象になり、最後には標的として処分されていった。

 

 酒好きな深海棲艦、エリートレ級については、今現在、所在は不明である。だが、スコットランドの酒蔵で「尻尾の生えた女の子」が働いているという情報が流れてくるあたり、彼女らしい生活をしているようだ。

 

 そして、このカメコもまた、悠々自適に旅をしている。海軍から発行された身分証明のフリーパスを常に持ち、海軍印のHONDA製のリトルカブにまたがり、日本全国を、ゆっくり、ゆっくりと旅をしながら、その船体の余生を過ごしているのだ。時々北方棲姫と合流してイベントに向かったり、食事をシたり、横須賀鎮守府に顔をだしたりと、まさに悠々自適の生活を、送っているのである。

 

 

「それにしても、いつ以来だっけ?」

 

「確かキス島アツ島撤退戦以来ではないですか?あの功績を認められて、私は大和と共に内地勤務になってしまいましたからね。」

 

 

 カメコと呼ばれた深海棲艦と、元横須賀鎮守府の提督である佐藤は、宇都宮に点在する餃子のチェーン店、みんみんの店内で餃子を突いていた。宇都宮の餃子は、肉汁たっぷり、ジューシーとは程遠い餃子であり、栃木県の名産であるニラをふんだんに利用した、野菜中心の餃子である。そして、タレは酢7、ラー油2、醤油1という、典型的な酢タレを作り食べる場合が多い。野菜餃子と酢が中心のタレ、ということで、数を食べても胃もたれが少なく、ご飯がすすむのだ。

 

「あぁー、よっぱが乱入したアレかぁ。懐かしいねぇ。・・・っていうか、大和と共に内地勤務?」

 

 カメコは餃子を頬張りながらも、疑問を口にしていた。大和といえば、横須賀鎮守府最大の火力である。その彼女が、提督とともに内地勤務になるということは、横須賀鎮守府のまもりが薄くなるということだ。

 

「えぇ、誰か一人連れて行ってもいいということでしたので。であれば、大和かなと。」

 

 佐藤は自身の左手に光る、鈍色のリングを触りながら、苦笑を浮かべていた。

 

「ほぉ。いいねぇ。・・・つーことは、もしかして宇都宮に大和いるの?」

 

「いますよ。いまは自宅で子守をしています。」

 

「・・・まじ!?ほぉー。提督も子持ちかー。すげぇな。時代は流れるねぇ。」

 

 カメコはそういいながら、最後の餃子を口へと放り込む。そして、目の前で手を合わせて小さく「ごちそうさまでした」と、挨拶を行っていた。そして、満足そうな笑みのまま、提督に口を開いていた。

 

「さって、提督殿。この後は?」

 

「総監部にご招待、というところが本来の私の立場からすると妥当なんですがね。レ級殿は堅苦しいのが苦手でしょう?」

 

 佐藤は苦笑を浮かべつつ、レ級の顔を見つめていた。レ級も佐藤と同様に苦笑を浮かべると、ゆっくりと口を開く。

 

「苦手だねー。そういうの。」

 

「であれば、我が家にご招待、というのはいかがでしょうか。大和もおりますし、それに今日は偶然にも、呉の金剛、菊月、加賀が遊びに来ているのです。」

 

「・・・おっ、いいねそりゃ。じゃあ、私自慢のカメラで久しぶりに記念写真と、いきますか!」

 

レ級はそう言うと、自身のリュックから、巨大な一眼レフを取り出し、満面の笑みを浮かべる。

キヤノンと銘打たれたそのカメラには、小さく、海軍の錨のマークが刻まれていた。 




のんびりと描いておりましたレ級サン。一旦〆とさせていただきます。

また妄想の中でレ級サンが暴れ始めましたら、短編をちょいちょい、と描いてまいります。

ご覧頂きまして、幸いです。


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キャラクター紹介 深海勢

キリが良いのでキャラクター紹介。
好きなもの、嫌いなもの、そしてその後の生活をちょびっと紹介いたします。


■戦艦レ級フラッグシップ改

 

本作品の主人公。人類開発の新型カメラを手にしたことにより、写真撮影に全力をかける存在となる。最初は自身の守護範囲に入った艦娘を迎撃がてら撮影していたが、徐々にエスカレートしていき、最終的には艦娘の横にたち、写真を撮影する存在となる。

 

好物はカメラ、写真編集、そして実は酒も好き。

嫌いなものは、誇りのない奴。

 

その後は、日本をカブで巡りながら、海軍のライターとして活動中。

 

■戦艦レ級エリート

 

本作品と同じ世界の別固体。自由なエリレさんの主人公。酒と肴に全力を出し、そのためならば、しがらみなく行動する、歩く爆弾的な存在。例えば、輸送船を襲っても、沈めるわけではなく、自身が呑むだけの酒と肴を盗んでいくだけの存在である。一切ぶれない。

 

好物は、酒と肴と呑み仲間。

嫌いなものは、なし。

 

その後は、スコッチウイスキーを安く呑みたいということで、英国の酒蔵で働くようになる。

 

 

■飛行場姫

 

本作品第二のカメコ。カメコの上司で、立場で言えば提督である。真面目で深海勢のことを一番に考えていたが、カメコのカメラに触れてから徐々に艦娘に理解を示す存在となる。

 

好きなものは、カメラと加賀さんと菊月。

嫌いなものは、海軍の辛いカレー。

 

その後は、横須賀に就職して海軍の鬼教官となる。担当は格闘技全般。細腕ながら、なめてかかってきた、大の男をぶん投げているらしい。

 

 

■港湾棲姫

 

自由なエリレさんにおいて、第二の酒呑み。エリレが持ち帰った酒と肴をつまみ食いした結果、はまる。社交性がそこそこ高く、今ではエリレと共に艦娘と酒を呑みくいする存在となる。

 

好きなものは、酒と肴と居酒屋鳳翔。

嫌いなものは、酒を溢す奴と、海軍の辛いカレー。

頭があがらないのは、エリレ。

 

その後は、憧れの居酒屋鳳翔の若女将として就職。評判は良いらしい。

 

■水母棲姫

 

本作品において腐った船。基地に流れ着いた同好の本を読んでから、人類の文化にはまり、コミケに参加する始末である。その際に撤退に失敗し、海軍へと保護される。

 

好きなものは、同好の本。

嫌いなものは、カメコ。

 

その後は、解体を望み、艦娘が運営するサークル、秋雲亭のシナリオライターとして活動中。

 

■港湾水鬼

 

キス島撤退作戦のボス。エリレに敗れ、横須賀にて保護される。バトルジャンキー。とはいいつつも、70年ぶりに日本の本土をふめて、エリレと人間には感謝していたりする。

 

好きなものは、戦。

嫌いなものは、弱い奴と、海軍の辛いカレー。

 

その後は、横須賀にて教官として就職。飛行場姫と違い、艦娘の海上戦の担当となる。訓練の終わりに、同じく教官となった武蔵と、全力で殴り会うのが日々の日課。

 

■南方棲戦姫

 

南方海域の元締め。飛行場姫、水母、港湾達の上司。人類の攻勢にあたまを悩ませている。カメコの行動を一度は咎めるものの、写真の有用性と、美しさにほれ、写真に若干はまる。とはいえ、割りと部下には甘く、多少のことでは怒らないし、咎めない。

 

好きなものは、酒と肴と写真。

嫌いなものは、人間。

 

その後はソロモンの拠点にて、残存兵とともに、海軍の支援を受けながら悠々自適に暮らす。そして、年に一度だけ、横須賀にて酒を呑むらしい。

 

 

■ほっぽさん。

 

本作品、第三のカメコ。カメコの撮る写真をみるうちに、自身も写真をとるようになる。横須賀に上陸後は、横須賀にて自分で働き、自分でカメラを購入し、様々なものを撮影する存在となる。

 

好きなものは、カメコとカメラと日本の風景。

嫌いなものは、海軍の辛いカレー。

 

その後は、日本全国を旅しながら、民間の出版社から自分の本を出発し、ライターとなる。他の深海勢が軍関係ではたらくさなか、人間生活に適応し、自力で生活をしているあたり、実は一番の変態。




妄想はかどりまして。

カメコに登場したの深海勢の簡単な紹介でした。


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キャラクター紹介 艦娘・人間

カメコレ級、及び、自由なエリレさんで登場した人間及び艦娘の設定を、主要人物だけではありますが、簡単に紹介致します。


■ 横須賀鎮守府 提督

 

 実はこの物語の最大のキーパーソンの男性提督。デジタルカメラとデジタルネットワークを使用し、敵勢力の分析を図ろうと奔走をしていた人物。その機材をカメコが奪取した結果、カメラ好きなレ級が生まれることとなる。劇中ではカメコを手籠めにしようとするも、結局手は出せなかった。嫁は大和でありながらも、他の艦娘とは肉体関係があるやり手。

 

好きなモノは、艦娘と人間。

嫌いなものは、深海棲艦。

 

 その後は、キス島アツ島撤退作戦の成功が評価され、内地勤務に切り替わる。そのタイミングで、自分の気持に整理をつけ、大和を伴侶にすることに。過去の精算をすべて終え、内地である宇都宮駐屯地の基地司令となる。苗字は佐藤。

 

■ 呉鎮守府 提督

 

 自由なエリレさんに登場した、女性提督。若手であるが、秘書官に金剛を起き、呉鎮守府以南の海を守りを指揮している有能な人物。深海棲艦・艦娘関係なく友好関係を結ぶなど、頭が柔らかい人物。素手勝負ならば金剛に勝てる程度の実力を持っている。酒が好きで、毎晩居酒屋鳳翔に入り浸っている。

 

好きなモノは、酒と肴と呑み仲間。

嫌いなものは、酒の席でうるさくする奴。

 

 その後は、港湾棲姫を居酒屋鳳翔へと受け入れる。提督業はそのまま継続中。なお、独身であるが、最近は呉の街へと外出が増えたらしい。

 

■ 大本営の面々

 

 両作品のレ級の動向を伺いながら、対応を対策する人々。カメコは前例がなく、飛行場姫というバケモノを連れて来ていたために、殲滅の方向に動く。だが、ケロッとした顔で再度現れたため、静観することに。その後、エリレさんが現れた時は、最初から静観し、様子をみることに。

 

 その後は、撤退作戦後に開かれた艦娘・人間・深海棲艦入り乱れる大宴会に参加し、南方棲戦姫と戦争の終わり方を熱く語る。その結果、戦争終結と、深海棲艦の殲滅が早まった。

 

■ 戦艦金剛

 

 カメコ、エリレのキーパーソン。呉鎮守府所属で、提督の影響をもろに受けているためか、柔軟であり、有能である。艦娘の中で最大の練度を誇り、並大抵の深海棲艦は素手でぶん殴って沈める豪腕の持ち主。ただし呉の提督には負ける。早いうちから敵意のないレ級に順応し、金剛を起点として、友好的な関係といえるものが、他の艦娘や人間に伝播していった。

 

好きなモノは、エリレとカメコと人間と呑み仲間。

嫌いなものは、誇りのない奴。

 

 その後は、あいも変わらずに、呉鎮守府で四方の海を守りながら、南方棲戦姫が控えるソロモン海域の拠点に、酒を持って乗り込んでいるらしい。

 

■ 菊月

 

 カメコに写真を撮られ、艦隊のアイドルになり、更に水母棲姫と加賀によって、強制的に腐ってしまった舟。姉妹本を好む。元々は呉鎮守府所属であったが、実力をつけ、横須賀鎮守府に栄転する。

 

好きなモノは、同人本と同好の士。

嫌いなものは、特に無し。

 

その後も横須賀鎮守府で海を守りながら、加賀と共にコミケに参加している。

 

■ 加賀

 

 水母棲姫に赤城×加賀本を渡され、菊月をも巻き込んで腐海に自ら沈んだ舟である。横須賀鎮守府所属で、航空戦力の扱いについては、右に出るものはいない。クールと思わせておいて、内面はおそらく横須賀鎮守府内で最も変態。ブチ切れると戦艦の地が出る。

 

好きなモノは、同人本と同好の士。

嫌いなものは、特に無し。

 

その後も横須賀鎮守府で海を守りながら、菊月と共にコミケに参加している。

 

■ 阿武隈

 

 カメコに半裸写真を撮られ、エリレのせいで金剛の地獄の再教育を受けることとなった被害担当艦。艦隊の中では常識的な実力と、常識的な思考をもつ、良識では最後の壁ではあるのだが、周りが規格外の艦娘である金剛や、非常識なレ級が闊歩しているために、その実力が発揮されることは絶対にない。なお、撤退作戦においては、キス島方面を任され、味方の被害なく作戦を成功させた。

 

好きなモノは、平穏と訓練。

嫌いなものは、上司の無茶振り。

 

 その後は、鎮守府を転々としつつ、日本の四方の海を守りながら、新人の教育を行っている。ただし、どこにいっても、いじられる。

 

■ 鳳翔

 

 自由なエリレさんの、呉鎮守府酒保である居酒屋鳳翔の店主。実は実戦からは身を引いていて、現在の航空部隊の鬼教官。鳳翔が出れば加賀が泣くと言われるほどの鬼。実際、加賀と赤城は地獄を見たらしい。おとなしくて優しそうな人ほど、根っこは怖いという体現の人。

 本編では穏やかな面だけを見せていた。ちなみにではあるが、大本営や他鎮守府の重鎮、特殊任務艦などとも繋がりがあり、表も裏も本気で怖い人。

 レ級が店に来たり、姫が店に来たりしても、普通に対応するあたり、かなり肝も座っている。

 

好きなモノは、平穏。

嫌いなものは、誇りのない人物。

 

その後は、引続き居酒屋鳳翔で店主として呉鎮守府に勤務。新人である港湾棲姫を、日々鍛え上げている。

 

■ 響

 表向きは呉鎮守府所属の第六駆逐隊の響である。中身は、横須賀鎮守府から派遣されている特殊任務艦。呉鎮守府の運営が正しいのか、問題が起きていないかを、鎮守府の総本山である横須賀へ伝えるのが任務である。普段は第六駆逐隊に合わせているため、他の艦娘からの評価はかなり低め。ただし、金剛との訓練などで熱くなると、本来の力である、戦艦並みの馬力を出してしまうことがある。

 

好きなモノは、お酒と休みと姉妹。

嫌いなものは、今の立場。

 

 その後も同じ任務を日々こなしている。ただし、時折息抜きに、南方海域にある、港湾棲姫の拠点に、島風とともにおじゃましている。

 

■ 島風

 表向きは横須賀鎮守府所属の駆逐艦。中身は、大本営直属の特殊任務艦。横須賀鎮守府の運営が正しいかを見極める艦娘である。響や鳳翔との繋がりもあり、特殊任務艦隊の旗艦とも言える存在である。実力は高く、なにをやっても高水準でまとめてしまう天才型の艦である。

 

好きなモノは、スピードとお酒よ呑み仲間。

嫌いなものは、今の立場。

 

 その後も同じ任務を日々こなしている。ただし、時折息抜きに、南方海域にある、港湾棲姫の拠点に、響とともにおじゃましている。

 

■サークル秋雲亭

 カメコをコミケに引っ張りこんだ艦娘サークル。構成メンバーは秋雲と夕張。2隻は意外と腐っていない。絵はうまく、毎度毎度1万近くの本を配布する大手サークルである。

 

好きなモノは、2隻共に同好の士とネタ。

嫌いなものは、特に無し。

 

 その後は、元水母棲姫を加えて、新たなサークル秋雲亭としてコミケに参加しながらも、後輩の艦娘、及び水夫の育成を行っている。




妄想捗りまして。脳内の人間と艦娘はこんな感じでした。


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Re:

17話より分岐する。


----その裏で、提督達や艦娘
そしてレ級達も預かり知らぬ、一つの作戦が動き出す。

『19、8、58、401 行け』
『『『『諒解』』』』

ザブン、と音を少しだけ立て、潜航していく『海軍将校直属の潜水艦隊』。
海の中、鋭く光る8つの瞳には、闇夜に紛れる「戦艦レ級」の航跡が映っていた。


----あり得たもう一つの物語。


『海軍将校直属の潜水艦隊』。

19、8、58、401といった、イ号潜水艦で構成される潜水艦隊である。

その錬度は極めて高く、特に隠密行動には長けている。

そして、潜水艦隊は大本営から一つの命を受けていた。

 

≪戦艦レ級、及び飛行場姫の拠点を叩くため戦艦レ級の追尾および、拠点の位置を特定せよ。そして、特定後は攻撃をせずにすぐに帰還し、位置を報告せよ≫

 

命令通りに、イ号潜水艦達は闇夜に流れるレ級の航跡を追い続けていく。静かに、静かに。気配を殺す歴戦の潜水艦隊の追跡に全く気付かないまま戦艦レ級と、飛行場姫は、アイアンボトムサウンドにある自身の拠点へと戻っていくのであった。

 

その姿を、僅かに顔を海面に出し、確認した潜水艦隊はお互いに小声で口を開いていた。

 

「追尾成功なのね・・・。レ級の拠点と、飛行場姫の拠点は・・・過去に、激戦を繰り広げたアイアンボトムサウンドなのね。」

 

「そのようでち。早速戻って、大本営に伝えるでち。『レ級の拠点は過去大規模作戦が行われたアイアンボトムサウンド』で、いいでちね。」

 

 潜水艦隊はお互いにうなずくと、命令通り撤退しようと潜行したその瞬間である。

 

 

『おいオイ。人ン家に来てオイて挨拶も無いってのはヒデーんじゃねーの?』

 

『そうよ。ずっと後ろをつけてきておいて、何もなしはひどいんじゃない?』

 

 

 そんな声と共に、むんずと頭を掴まれ19,8,58,401は海上へとその身を引っ張り上げられていた。

 

「ほー?潜水艦ッテか?・・・ふむ」

 

 戦艦レ級はそういいながら、片手で掴んでいた401を海面へと落とす。そして同時に右脇のホルダーからカメラを取り出すと、早速とばかりにファインダーを覗き飛行場姫に頭を掴まれ、ぶらさげられている19と8の姿を撮影しはじめていた。

 

「ちょ・・ちょ!この姿を撮らないで!」

 

「ま、待つの!せ、せめて写真はもうちょっとちゃんと撮って!」

 

「・・・貴方達ソコは突っ込ムのね?レ級、そう言ってるケどどうしたい?」

 

「いや姫様、そノまま、そのママ。案外とこういうのも、イイかもしれない」

 

 カシャカシャカシャカシャと、無慈悲に響くシャッター音。嫌だ嫌だと暴れる19と8。それを海面に放置された状態で呆然と見つめる401。そして、レ級に頭を持たれぶら下げられたままの58はというと。

 

「・・・なんでちかこれは」

 

 呆れ顔でそう呟くのが精一杯であった。

 

 

レ級が横須賀基地を出た翌日、1230。

横須賀の艦娘が、昼休みを取っているころに横須賀基地の臨時大本営では、将校たちと58が会議を行っていた。

 

「彼女たちには・・・振り切られたでち・・・」

 

「そうか。ふむ・・・お前たちを持ってしても追尾できない能力を持っている。ということか」

 

「はいでち」

 

「よろしい。それにしてもよくアイアンボトム・サウンドまで追尾を行ってくれた。特別に明日と明後日は休暇を出す。以上だ」

 

「は、はいでち!感謝するでち!」

 

 58は本来であれば、彼女たちの拠点は「アイアンボトムサウンド」であると報告しなければいけない立場の艦娘である。だが、今回はそれが出来ない。

 

 なぜならば。

 

 

(こんな写真が出回ったら終わりでち・・・!)

 

 

 彼女・・・正確にはアイアンボトム・サウンドに向かった彼女たちの手元に残っているのは、スク水にエプロンを着せられ、女豹やらなんやら非れもない姿をしている写真である。しかも数十枚というレベルでお土産として持たされていた。

 

 経緯としてはこうである。

 

 戦艦レ級に見つかった彼女たちはそのまま基地へと連行されていた。そしてレ級の私室に連行という形で入った彼女たちは、戦艦レ級のいわれるがままに写真のモデルになっていたのだ。最初は乗り気でなかった彼女たちも、撮影されていくにつれて気分が乗ってしまい4人での決めポーズやちょっとセクシーなポーズなんかも自主的にやってしまったのである。

 

(・・・でも。悪くない写真でち・・・!・・・次は水中でかっこいい写真を・・・でも戦艦レ級って潜れるのでちかね・・・?じゃないでち!仕事、仕事でち!次も仕事でレ級の追跡を行うのでち!)

 

 そう思いながらも、彼女は自分の写った写真を見ながら少しだけ笑みを浮かべるのであった。

 

 戦艦レ級。その身体能力と深海棲艦の能力をフルに使い、写真を撮影する突き抜けた馬鹿者である。故に、彼女の周りには自然と人が集まるのかも、しれない。

 




蛇足です。


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艦隊をこれくしょん!
艦隊これくしょん-艦これ-始まります!


ゲームの2期が来ると聞いて
カメコさん、2年ぶりに頭の中でもぞもぞと動き始めました。


「戦艦レ級」とは、深海棲艦と呼ばれる存在の中でも特に上位種に位置する艦種である。数多くの艦娘を沈め、提督を苦しめている最悪の敵と言って良い。

 なにせ、開幕の航空戦から始まり砲雷撃戦を熟した挙句に、魚雷戦にまで参加してくるのだ。しかも海域守護者並みの装甲を持っているため、なかなかこちらの攻撃は通らないという、全てにおいて高水準で纏まっている敵であった。

 

 そんな彼女、夏真っ盛り、8月15日の真っ青な海の上、遠くを見つめながら、一人でぽつーんと立っている。

 

 ただ、少々様子がおかしい。戦艦レ級にしては表情が穏やかであるし、偵察機を飛ばすわけでもなく、戦艦の最大の特徴である主砲すらもどうやら装備していないようだ。

 

 その代わりに、暁型の艦娘が装備する50口径12.7cm連装砲と61cm3連装魚雷発射管がアタッチメントされている艤装を背負っている。更に言えば尻尾もなく、見た目は青白い艦娘といったところだ。一見すると、それは果たしてレ級なのか、と疑問が浮かぶ姿だ。

 

「どうしたんだい、レ級。ぼけっとして」

 

 そんなレ級の隣には、本家本元の暁型である響が並んでいた。

 

「…いーや、なーんか」

「…?本当にどうしたんだい?カメラを忘れたから調子悪いのかい?」

「それはある」

 

 ポリポリとほほをかきながら苦笑いを浮かべるレ級。過去「カメラのレ級」として艦娘を撮影したいがために人類を関わり合いを持ち、自由奔放に海をかけたこの船は、現在は人類の味方として日々静かに海を守っている。

 

「カメラ一つ忘れただけで調子が悪くなるとはね」

「仕方ねぇだろ。私にとっては石油みたいなもんだし」

「ま、確かに。それに、レ級の写真で今まで周辺諸国の無理難題をどれだけ切って捨てられたかわからないしね」

「あははは。いやはや、なんのことやら」

「ほら、あの国の潜水艦娘とか、あの国のイージス艦娘…」

「響さーん、どこまで私のデータ抜いてんの!?」

「これでも情報省筆頭だよ。ま、レ級は自由にやってくれてればいいよ。使えるデータだけこちらで使うから」

「…油断も隙もネーナ」

「ま、仕方ないね。ほら」

 

 響はそういうと懐から一眼レフを取り出していた。キヤノンに比べれば小型だがしっかりした作りのソレを受け取ると、レ級は思わず呻く。

 

「ペンタックス…」

「不満かい?」

「不満といえば不満だぁな。海上戦闘の動きにペンタックスのオートフォーカスは間に合わないというか…なんかこう…」

「あはは、ま、今までがフラッグシップのカメラ使ってたんだから仕方ないさ。何、母港に戻れば部屋にあるんだ。それまでの我慢だよ」

「しゃーねーか。さてさて、と、ペンタックスは久しぶりだからなー」

 

 レ級は響から受け取ったカメラ、ペンタックスのK-S2を弄る。

 

「ま、とりあえず慣れてないからシャッター速度優先で行ってみるか。シャッターの感触は…うん、悪くないね」

 

 カシャリ、と音が鳴ると同時に、モニターには響の顔が映る。少々周辺がぼやけ、パープルフランジが出ているがそれは味というものだろう。

 

「ほー、なかなかいい写真を出すもんだ。…ええと、あー!これFAの43mmじゃねーか!」

「ふふ、気づいたかい?」

 

 FA43mmF1.9 Limited。レンズの設計自体はフィルムカメラ時代にまで遡る古いレンズではある。オートフォーカスは遅いし、最新のレンズに比べれば解像度は低い。が、写真を見てみればそんなモノは関係ないと思い知らされるレンズの至宝とも言える逸品。

 

「私もちょっとだけ一眼を齧ってみてね。好みがこのレンズだったのさ」

「ほー、良いところ行くねぇ響さんは!三姉妹は揃えてるんか?」

「いや、流石に使いこなせないと思って揃えてないよ。それにしても、このレンズは良い絵をだすのさ。データ入っているから見てみるといいよ」

 

 響は少しのドヤ顔をレ級に向けていた。

 

「ほう、響がそういうのならちょっと見てみるか」

 

 レ級は再生ボタンを一押しする。すると、今さっき撮れた響が映し出される。レ級はそれを気にせずに次の写真を見ようと送りボタンをそっと押した。

 

「…おおん!?」

 

 レ級は驚きの声を上げた。無理もない。なにせそこに写っていたのは、先ほどのぼけっとしていたレ級の姿だったからだ。

 

「ふふ、驚いたかい?よーく撮れてると思うのだけど」

「…撮れてるけれどこっぱずかしいもんだな」

「あはは、褒めるといいよ。それと、もっと見たいのなら母港に戻ってから声をかけて。私のレ級コレクションはハードディスクの中に無数に存在しているからね」

「え、何。もしかして響、こいつで私を撮りまくってるのか?」

 

「もちろん。レ級は自分を写真に残さなすぎだからね。かっこいい戦闘から、鬼のような顔、イージスの砲撃を受け止めた時のしたり顔とかいろいろ…売れ行きもいいし」

 

「あ?おい響、最後なんつった」

「さぁね、おかげで私はおいしいお酒をヨッパと飲めるのさ。さぁ、レ級、お遊びはここまでにして哨戒続けるよ」

「おいまて響!…つかヨッパも共犯かよ。…あーもー!私の写真で稼いでるなら私も後で呑ませてもらうぞ!」

 

「もちろんさ。だけど呑んだら共犯だからね、良いポーズをもっと要求するよ」

「はっははは!コミケで鍛えたポージングの腕を見せて進ぜようじゃないか」

 

 今日も海は平和である。



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反旗、はたまた怨敵

個人的にですが、M4 SOPMOD II‎(ドルフロ)がレ級と被ります。多分尻尾無くなって少し成長したらアレですよ。多分陸戦装備。いやマジで。

それはさておきましてカメコさん導入回です。今回はこんな方向でございます。


 レ級は響から渡されたペンタックスのKs-2で写真を撮影しながら哨戒を続ける。―カシャン、カシャン、カシャンと少し軽いシャッター音と共に、蒼い美しい海がモニターに写り、同時に波の白さと、響の白い船体が映える。

 

「いいねぇ、響は絵になるわ」

 

 そのつぶやきに響はちらりとレ級を見る。

 

「褒めても何も出ないよ」

 

 そういいながらも少しうれしそうな笑みを浮かべていた。何にしろこのレ級の撮影する写真は間違いない。綺麗であるし、対象にしっかりピントはあっているし、言いたいことが一言で判る写真だからだ。

 

 だからこそ海軍は無断ながらもレ級のデータを利用し、戦後の各国へのけん制として使用している。それこそ他国の艦娘の扱いから深海棲艦の扱いに始まり潜水艦などの不法入国といったところまで余すところなく、だ。

 そのお陰か、戦後すぐは多数の艦娘を所持する日本を危惧してか、各国が日本海軍に偵察をだしていたが、今ではほぼその姿を見ることはない。

 

「まぁ、そういいなさんな。そーれにしても何もない平和な海って奴だーなー」

「全くだね。早く戻って一杯やりたいところだよ」

「ははは、そういや他の第六駆逐の連中は元気にしてるんか?」

「ん、ま、ぼちぼちだね。暁は相変わらずだし、雷は秘書艦をしてるとか、電はまぁ…レ級の影響を受けたのかしらないけれど、カメラ始めたぐらいかな?」

「ほー、電とは特に関わり無かったけれどどうしてまた」

「写真に惚れたのです。だってさ」

 

 レ級はぽりぽりと頬を掻く。その顔は少しにやけていた。

 

「そりゃ嬉しい事で。ま、ただ平和になってからはこう…ビビッと来る写真撮れてないんだよなぁ」

「そうなのかい?」

「おうよ。やっぱり戦場だからこそ出る雰囲気とかってあるだろ?ま、そういう写真が無い事に越したことは無いんだぜ?ただまぁ、寂しいっつーか、なんつーか」

 

 レ級は複雑な表情を浮かべる。そう、確かに今の現状に不満はないのだが、やはり戦場の空気というのはまた違うのだ。

 

「まぁ、私もその気持ちは判るかな。結局私たちは戦のための船だから、戦わずして何の存在意義か、という気持ちはあるよ。ま、そういうことを考えられるのは平和だから、なんだろうけどさ」

 

 響の言葉に、レ級はぽかんとした表情を浮かべる。

 

「響がまじめなこと言ってる」

「レ級がまじめな事を言うからじゃないか」

 

 と、お互いに少し笑いあったところで、レ級が巨大なイ級に海面ごと食われたのであった。

 

 

 目の前でレ級が食われた響であるが、慌てない。

 

「いきなりのご挨拶だね。ま、でも、先に喰らう方を間違えたと見えるよ」

 

 響はレ級を食ったイ級を見つめながらそう呟いた。すると

 

「甘ぇんだよ!」

 

 閉じたはずのイ級の口が、レ級の馬鹿力で中からこじ開けられる。と、同時にイ級の横っ腹に海軍自慢の酸素魚雷が突き刺さり爆音を奏でる。

 

「ギャアアアアァカアアアア!」

「デカいけれどイ級はイ級だね」

「酸素魚雷程度であの苦しみ方なら、砲撃でイケるな」

 

 その一瞬でレ級はイ級の口の中から抜け出し、砲塔をイ級に向けていた。同時に響も射撃体勢に入る。

 

「おいそこのイ級、敵対行動をやめてすぐに機関を停止しろ。そして所属を名乗れ」

「アアアアアアアァァアアアアア!」

 

 レ級の警告を無視して、砲身を口から露出させ砲撃を開始するイ級。だが響とレ級は慣れたもので、当たり前のようにそれを回避する。

 

「おーおー…言葉が通じないっていうのは厄介だなぁ響さん」

「ふふ、レ級もやっとわかってくれたかい?これが私たちにとっての深海棲艦さ」

「ああ、厄介だ。つーか私の言葉はイ級程度の艦にとっちゃ上位命令のはずなんだがな。まぁいいや。警告はした。響、やるぞ」

「合点承知」

 

 レ級と響は、イ級の砲撃を避けつつ砲撃体制へと入る。レ級は右手に持っている砲身を掲げて左手を添え、響は腰を落とす。そしてお互いに目配せを行うと

 

「「一斉射撃!撃ェ!」」

 

 レ級と響は、同時に砲撃を行う。砲弾はイ級の眼へと吸い込まれ、けたたましい爆音がイ級を襲うのであった。

 

 

「…で、平和平和と言っていたわけだけどよ」

「…なんだい、この深海棲艦は?」

 

 響とレ級の目の前には、目を潰され腸をえぐられた、妙にリアルな、巨大なイ級が海面に浮かんでいた。

 

「イ級だけれど、なんつーか…」

「うん、なんていうか」

「「すんごいグロい」」

「血の出方とか血管とか、皮膚の凹凸とか、前よりかなりこう…生物的になっていないかい?」

「ああ、それに砲塔もやたらにゴツイ。なんというか、そう、出来の良くなったイ級?」

 

 そう、強いて言えば『やたらとリアリティがある』のだ。今までが無機物だとすれば、これはそれこそ無機物と有機物がごちゃ混ぜになった存在のように。

 

「…それになにより、このイ級は私が知らない奴だ」

 

 レ級は苦い顔をしながら響に言葉を投げる。

 

「そうなのかい?」

「ああ。見たことが無い。というかデカい。つーか私らは既に終戦を迎えて余生を過ごす身だ。いくらなんでも反旗は翻さんよ。それに艦娘の装備をしているとはいえ、私は深海棲艦のそこそこ上位の船だぜ?私の警告を無視して発砲するとなると、これは深海棲艦に似た何か、ってことだ」

 

 レ級の言葉に、響は首を上下に動かしていた。

 

「ごもっともだね。…実際、反旗を翻しそうな飛行場や実質の司令塔の南方なんか酒飲んで管をまいてるだけだしね」

「…姫様も地に落ちたよなぁ…まぁそれは帰ってから愚痴らせてもらうとして、だ」

 

 レ級はまじめな顔になると、響へと言葉を投げる。

 

「響、もしかしてとは思うけれど…新手の可能性は?」

 

 響はいつもの無表情で、レ級に言葉を返す。

 

「…そんな情報は私には一切回ってないね。でも、大本営なら何か掴んでるかもしれない」

「ふーむ…OK。響、とりあえずだ、こいつを横須賀に持って帰ろう。回航は私がするから、露払いを頼むぜ」

「判ったよ。それにしてもまぁ…厄介な香りしかしないね」

「全くだ」

 

 2人はそういうと、早速艤装からワイヤーを伸ばし、レ級にイ級の船体を固定し、回航を始めていた。

 

 -ここは過去、『鎮守府海域』と言われた、追い詰められた人類に残された最後の海であった。今は全ての深海棲艦が駆逐され、平和な海そのものである。



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右手にカメラ 左手に戦闘機 心に酒 顔には笑みを

艦隊これくしょんの絵が綺麗で素敵


 ドン!ドン!

 

 演習場にレ級の、とはいっても艦娘のものであるが、50口径12.7cm連装砲の砲撃の音が響く。銃口から飛び出た砲弾は弧を描きながら目標を夾叉する。

 

「初弾夾叉か。やっぱり良い腕しているね」

 

 様子を隣で伺っていた響が、素直な賛辞を送っていた。

 

「まぁ、カメラばっかり弄ってるけどさ、これでも深海のエリートだぜ?砲弾の扱い方は朝飯前だって」

 

 レ級はそう言いながら連装砲の上部を弄る。すると砲塔の上部装甲が開く。そして、手慣れた手つきで砲弾を詰め直していた。

 

「レ級の連装砲はめんどくさいね。手動で弾丸を込めなおすなんてさ」

「ん?ああ、まぁ、艦娘の武装が使えるだけ御の字さ。それに、こういう動作ってさ、マグナムっぽくてかっこいいだろ?」

 

 ガチャリ、と上蓋を閉じてレ級は改めて目標に砲を向ける。そして、ひと呼吸の後に引き金を引く。今度の弾丸は夾叉ではなく、目標に直撃だ。

 

「ま、こんなもんよ」

 

 レ級はわざとらしく、リボルバーのそれのように砲口の煙を吹いた。もちろんドヤ顔の笑みを浮かべている。

 

「お見事」

 

 響は苦笑を返していた。その様子に満足したレ級は、改めて砲塔に弾丸を込め目標へと狙いを定める。

 

「そうやさ、例の新型っぽいイ級の情報は何かあったのか?」

「いや、残念ながら」

 

 ドンとレ級の砲塔が火を噴く。

 

「響の情報筋をフルに使っても何もでない、と」

「そうだよ。全く。上も横も何も知らないと来た。ただ、世界中で同じような報告は上がっているらしいよ」

 

 響の言葉にレ級は砲塔を置き、壁際の椅子へと腰掛ける。響も追いかけるようにしてレ級の隣へと腰を下ろした。

 

「同じような報告っていったか?」

「うん。しかも正面海域のような明らかに深海棲艦を駆逐した場所に、今のところ呉と大湊、佐世保にハワイは確定だよ。ほかは噂程度だけど、多分正式発表されると思う」

 

 レ級は天を仰ぐ。そしてため息を付きながら

 

「それは厄介だな」

 

 そうぼやいていた。響は苦笑を浮かべている。

 

「確かに厄介だね。ただまあ、艦娘が配備されていない軍港でも、対深海棲艦へのノウハウはあるからね。人的被害が出る前に迎撃しているようだし、今のところ問題ないみたいだよ」

 

 レ級は本当か?というように目を見開いていた。

 

「ノウハウったって…所詮護衛艦だろ?今までだったらそんなもんで私たちの装甲抜けないじゃん」

 

 響は天を仰ぐ。

 

「確かにね。でも、護衛艦の120ミリでぶち抜けたらしいよ」

「それはそれは…妙な話なこって」

 

 レ級はそういうと椅子から立ち上がり、体を翻していた。どうやら演習場を後にするようだ。

 

「どこに行くんだい?」

 

 響はそう言いながらレ級の後を追う。

 

「ま、こっちの情報筋。こういうのは元海域管理者に聞くのが早いだろ。響も来いって。色々共有しようぜ」

「ああ…姫様達ね」

「ついでに酒好きのレ級な。あいつの行動範囲は世界の海だからな」

 

 

「で、お前なんか知らない?」

 

 まずレ級が向かった先にいたのは、旧深海棲艦、現帝国海軍参謀の戦艦レ級である。

 

「んー?私はトクに何も知らないぞ。昔からの馴染の姫様達の場所なら()()()けどもねー」

「それはそれですごいぞ。ヨッパ」

「あっははは。カメコにいわれりゃ世話ないよ!でも、新型ねぇ?()()()()()()()()()()

「知らんわ」

 

 しかし、カメコのレ級と違い尻尾が残り、そして片手には赤霧島のビンを抱えている酒が大好きな変わったレ級である。常に酒を飲んでいるので通称は『ヨッパ』だ。気さくで人当たりが良く、お酒さえ持っていけば大体友達になれる珍しい船だ。

 

「あー、情報筋、情報筋、だね?」

 

 響は微妙な顔を浮かべていた。確かに、情報筋ではあるのだが、基本的に「姫様の弱点はあそこ」とか、「深海棲艦は実は卵から生まれる」だとか、「艦娘と深海棲艦の百合カップル誕生!?」だとか、正直居酒屋のおじさんレベルの情報である。本職の響からすれば眉唾レベルの情報しかない。

 

「疑問形なのはナンデダヨー。お前だってウォッカのむじゃんかー浴びる程ー!」

「いや、私は仕事中は飲まないから。というか気になってるのはそこじゃないし」

「エー。ナンダヨヒビキー。あ、ソレハソウト、ボウモア25年が手に入ったから後で呑みに来イヨ」

「それはいいものだね。今夜にでも行かせていただくよ。摘みは何か持っていくかい?」

「いやいや、ソコハこのレ級にオマカセアレ。ホヤとカキを用意サセルヨ」

「判ってるじゃないかヨッパ。どっかのカメコとは大違いだよ」

「あいつは根っからの軍人でカメラ好きだからメンドクサイヨナ」

「仕事とプライベートが混同しないもんね」

 

 そして酒が絡めばこの有様である。カメラのレ級はそんな2人をじとりを見つめていた。

 

「お前ら…まぁ、いいや。ありがとうなヨッパ。後でカミュのVSOP贈るから呑んでくれ。何か思い出したら頼む」

「それじゃあ今晩の酒盛りを期待しているよ。ヨッパ。有難うね」

「アイヨ!カメコに響、マタコイヨー!…それにしても新型ネェ?港湾の姫様が何かシランカナ?」

 

 

「…あら。二人でここに来るなんて珍しいじゃない」

「ちょっと野暮用で。姫様に聞きたいことがありまして」

 

 次にカメコが訪れたのは、元深海棲艦鉄底海峡指令、現帝国海軍戦術局長(仮)の飛行場姫である。レ級などと違って固有名詞があり、それを『リコリス』という。レ級は自然体であるが、組織人である響は帽子を脱ぎ、敬礼の形を取ってから口を開いた。

 

「リコリス局長、情報局の響としてお聞きするのですが、新型の深海棲艦の噂はお聞きになられたことは?」

「…ある程度の話は聞いているわ。世界各国から対応策についての問い合わせが多いのよ」

 

 響とレ級は目を見開いていた。なにせ、情報欲しくて突っ込んだ先が見事当たりだったからである。響は興奮気味に言葉を続けていた。

 

「詳しく伺っても?」

 

 リコリスは苦笑を浮かべつつも、自らの懐に手を差し込んでいた。

 

「かまわないわ。レ級もいることだし、ちょうどよいタイミングね。レ級にはいつでも動けるように耳に通しておきたかったのよ」

「私にですか。姫様」

「そ。尻尾が消えたとはいえ戦力としては特級品だもの。じゃあ、情報を出すわね」

 

 そういってリコリスは懐から数枚の紙を取り出していた。『特級』『極秘』というハンコが押され、並大抵の書類ではないことが判る。そしてそれらをレ級と響に手渡していた。

 

「『各地に散見される深海棲艦(仮)についての考察』…ですか?」

「そ」

 

 リコリス曰く

 

「新型は旧式、つまりは私やレ級達と違って、比較的大きい割に装甲が薄いわ。それと旧深海棲艦と新深海棲艦の意思疎通は不可能。伝令のイ級が攻撃されたという話もあるわ」

 

―――『頭突きで沈めたのです』――――

 

「現状で確認できているのは、旧型でいうところのイロハニホヘト。軽巡までね。ただ、現状の護衛艦の主力である120ミリ砲で対応できる装甲、速力だから今のところ問題は表面化していないわ」

 

―――『殴ったら沈んだデース』――――

 

「ただ致命的なのは圧倒的に情報が無い点ね。青写真すらないわ。あるのは似顔絵程度のイラストと数枚の写真のみ」

 

 写真のみ――そうリコリスが言葉を紡いだ瞬間、レ級の目に光が灯る。

 

「あぁ、なるほど。姫様、そういうことですね」

「そ、レ級に期待している事。つまり、自由に動いて新型の深海棲艦の写真を収めてほしいのよ」

 

 リコリスは更に言葉を続ける。

 

「更にもう一つ。…どうやら艦娘側も一部が妙な変化を遂げているらしいのよ」

「艦娘の連中が?」

「そうなのよ。現状報告を受けている事実は2点。まず、旧型深海棲艦には見向きもしない。私とも普通に話すし、駆逐級とも仲良くしているわ」

 

 その言葉に響が目を見開いていた。

 

「それは、妙ですね。私ですらレ級を見るときは身構えるというのに」

「でしょう?いくら和解したとはいえもともと敵同士。なかなか慣れたものではないわ。でも、それがない」

「妙ではある、けれど姫様、個体差かなんかでは?」

 

 レ級は素朴な疑問をリコリスへと投げていた。すると、リコリスはため息を付き、それだけじゃないのよ、と言葉を続けていた。

 

「最初は私たちも個体差、と思っていたわ。でも、…2枚目の紙を見て頂戴」

「…『新型深海棲艦と艦娘の交戦記録』?こりゃ…響、知ってた?」

「いや…」

 

 レ級と響は目を見開いていた。つまりこの資料は「深海棲艦と艦娘の戦いは続いている」という資料なのだ。

 

「驚くのも無理はないわね。しかも撃ったのは艦娘が先。『新型艦娘』とでも名付けておきましょう。彼女ら曰く『深海棲艦は人を襲うもの。駆逐しなきゃだめ』だそうだ。佐世保で発現が確認されているわ。他に米国ね」

 

―――戦闘記録:8月15日 1155より新型艦娘側が新型深海棲艦へと砲撃。直撃弾はなし。同行していた旧艦娘及び旧深海棲艦は戦闘の停止を試みるも、新型艦娘及び新型深海棲艦は砲雷撃戦へと移行。一進一退の攻防を続けるも、8月17日 2100前後に新型艦娘の雷撃により新型深海棲艦が轟沈―――-

 

「戦闘記録…といっても簡単なものだけれど、資料の通りよ。ちなみに…ではあるけれど、その戦闘が終了してから呉の鎮守府で電気設備の故障が起きたらしいわ。何か関係があるかは不明よ」

 

 リコリスはそう言いながら更に一枚の紙を懐から取り出していた。

 

「それと、今までは私たちが拠点にしていなかった海域にも新型深海棲艦が現れているらしいわ。暫定的に『近海航路』を追加して対応しているわ。あと、『東部オリョール海』についても不穏な動きあり、ね」

 

 リコリスはそういうと顔をレ級と響に向けていた。その顔にはやわらかな笑みが張り付いている。対して、レ級と響の顔は、判りやすく言えば10歳は老けていた。

 

「…かなり突っ込んだ情報、有難うございます、姫様」

「レ級と私の仲よ?このぐらい朝飯前よ。後で私の写真の評価お願いね」

「そりゃ勿論させて頂きますよ。…それにしても両陣営に新型、ですか」

 

 レ級は途方に暮れる。とてもとてもレ級だけでは背負えない話である。響はそれも同じだったようで、顔面が蒼白になっている。

 

「リコリス局長。この情報はどこまで共有されているのでしょう?」

「大将以下大本営の将の一部。こちらは姫級までね」

 

 その言葉に響の顔は更に白くなる。

 

「…判りました。この場だけの話と、させて頂きます」

「ん。ま、でもそのうち出る情報よ。しっかりと心の準備はしておきなさい」

「承知いたしました」

 

 響はそういうと、レ級を残したままリコリスの元を後にする。足取りがおぼつかないのは気のせいではない。

 

「あー、響のキャパ超えてる情報渡すから…姫様も人が悪いですねぇ」

「あの子が知りたいって言ったんだもの。レ級もそうでしょう?」

「まー、新型の深海棲艦に丸呑みされましたからネ。ただ、確かに無傷でしたね」

「でしょう?私たちに比べて圧倒的に()()()()()()。何か、()()のよね」

 

 レ級とリコリスはため息を付いていた。

 

「せっかく平和にのんびりできていたのに。ままならないですね、姫様」

「ええ、ま、それでも私たちのやることは変らないわ」

 

 リコリスはそういうと、ため息から表情が一転しニヤリと笑っていた。レ級はその顔を見て、苦笑する。

 

「うっわ…姫様、なんか()()()()()()こと考えてるでしょう?」

「気のせいよ。ただ、これから世界は、面白くなるわよ。それに、久しぶりのレ級のフル装備から撮影される写真が見れるじゃない。それが楽しみなのよ」

 

 心底楽しそうな笑みを浮かべるリコリス。レ級はニヤリと口角を上げていた。

 

「ああ、そう言えば最近は艦娘の装備でしたからねぇ…なじまない弾薬はそろそろ捨てましょう。―承知しましたよ姫様。カメコのレ級。名前の通り。久方ぶりに本気の出撃をいたしましょう。…タノシミダナー!新型!艦娘ノヌレスケモソウダケド真剣ナスガタモステガタイ!」




ヨッパさんは多分姫君に情報聞いて飲める船がフエタヒャッハーサケダアアアアアア!と飛び出し、カメコさんはヌレスケエエエエエエエエエとカメラ片手に飛び出していくわけでございます。

これが私の、艦隊これくしょん


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変わったレ級の、とある一日

 草木も眠る丑三つ時。月は沈み、漆黒が支配する海の上に、いくつかの白波が立っていた。そして、その白波を追えば、空気が震える戦場へと到達する。

 

「左舷駆逐イ級、雷撃開始」

「雷撃開始」

「砲撃艦、砲撃開始」

「砲撃開始」

 

 だが、その様はどこか機械的で、人間味を感じさせない。何せ彼女らは、艦娘だからだ。そして艦娘の相手の深海棲艦ですら、どこか機械的である。

 

「…妙だネェ。妙だ」

 

 そんな彼らの動きを見て、つぶやきを漏らすカメラ好きの戦艦レ級、通称カメコ。過去艦娘と敵対し、そして現在は協力関係にある彼女からしてみれば、不思議で仕方のない光景である。

 

「近海航路で戦闘を見つけてビンゴ!と喜んできたのは良いモノの…戦闘というか、ターン性のゲームみたいだな」

 

 片方が撃ち、片方が避け、そして片方が撃ち、そして片方が避ける。先の戦闘報告で一つの砲雷撃戦が3日も掛かったのは、このせいであろう。

 

「私らの世代だったら奇襲に飽和になんでもありだったのに。無駄にお行儀が良すぎる」

 

 レ級はそう言いながらも、カメラ…キヤノンのEOS Rを手に添え、ファインダーを覗く。このRは電子ファインダーを装備しているため、この闇夜でも対象をしっかりと捉えることができる。次に、人差し指をレリーズブラケットに引っ掛け、軽く力をかける。ピントが合うサインが出るが、音は出ない。何せ今回は隠密行動である。カメラの音は全て切っていた。

 そして、艦娘が砲撃を行うと同時に、その光に照らされて海の上にハッキリと表れた駆逐イ級の姿が見えると、絞り込むようにレリーズを押し込む。

 

 カチッ

 

 と、今までの一眼レフではありえないほどの小さく、かつ切れの良い音がレ級の手の中で響く。そしてファインダーの中に一瞬だけ撮影された写真が映し出される。流石はカメコ。一撃目からブレのない写真が撮れている。

 だが本人は満足しない。レンズを持っている左手でISO感度を、右手でシャッタースピードと絞りを調整しながら更に更にとレリーズに指を掛ける。

 

 水しぶきの中に表れる砲撃の光。照らされる艦娘に深海棲艦。被弾し、ボロボロになりながらも相手を睨みつける光だけは変わらない艦娘。何を考えているのかわからないうつろな瞳の深海棲艦。

 次々に撮影されるそれらの写真は、芸術とも言える特級品の情報源だ。

 

「良い感じ。良い感じ…ミラーレスも悪くねぇな」

 

 カメコはそう言いながら、カメラのバッテリーを抜き替える。波間に隠れ、ひっそりと、そして素早く。

 

「1Dじゃこの暗闇じゃストロボと探照灯無かったら無理だからな…技術の進歩ってのはありがたいもんだ」

 

 そういいながらレ級はRのファインダーを覗き、更に枚数を重ねる。水しぶきでぬれて透けている艦娘の撮影ももちろん忘れない。

 

「…いいねいいね。戦場の艦娘。ライティングが出来ないのが心残りだけれど…ま、そろそろ引き上げるか」

 

 レ級はそういうと、腰に付けたホルスターにカメラを仕舞い込む。そして波間に隠れてその場を後にするのであった。

 

 

 深夜の海を駆け抜け写真を撮影したカメコのレ級は、朝焼けの中にいた。

 

「対空警戒。頼むぜ」

 

 そういって空に放ったのは、赤城から借り受けた彩雲だ。練度は特級品で、まず敵を見逃すことは無いであろう。彩雲を見送ったレ級は、背中に背負ったリュックからタブレットを取り出し、カメラのデータを抜き出していた。

 

「ふむ、艦隊編成は…やっぱりと言うべきか。『吹雪』『叢雲』『漣』『電』『五月雨』ときたもんだ。歴史は繰り返す、ってか」

 

 レ級のタブレットには、はじまりの艦娘と言われる5艦が闇夜を背景に映し出されていた。

 

「そして敵対艦は駆逐が4杯、軽巡が1杯、んで、だ」

 

 レ級は次々と画面をなぞり写真をスライドさせていく。轟沈する敵艦や砲撃をする艦娘、波しぶきで髪が濡れ、色香を醸す艦娘などなど様々な写真があるなかで、ふと、指を止める。

 

「いやぁ、姫様。まさか水母がいるとは聞いていませんよ。この流れ、この流れは、これはまさかするとまさかすると」

 

 レ級は天を仰ぎ、海を仰ぐ。そしてぽつりとつぶやいた。

 

「戦艦レ級も、姫級もいるかもな。…しかしそうなると謎はだれが指揮をとってるのか?という話だよなぁ」

 

 カメラのレ級は頭を抱える。とはいっても考えが纏まるわけではない。ウンウンと唸ってはみたものの、特に解決策は生まれなかったようで、唸ることをやめて首を鳴らしていた。

 

「ま、いいか、難しい話は姫様にぶん投げよう。こんだけ資料の写真を撮ったんだからなんか出んだろ」

 

 そういって、戦艦レ級『カメコ』は体を翻えし、横須賀鎮守府へと航路を取る。…どこかで、新たに波を切り裂く音がした。



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