斬撃増やそうぜ!お前TSUBAMEな! (モブ@眼鏡)
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しがないNOUMINですが何か?

 

 

天井を見上げる。なんか古臭い茅葺き屋根だった。つか煙くっさ!?

 

あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!!

 

『オレはいつもみたいに筋トレをしていたと思ったらいつの間にか赤ん坊に成っていた』

 

な……何を言っているのか分からねーと思うがオレも何をされたのか分からなかった……。

 

頭がどうにかなりそうだった……。

 

催眠術とか超スピードだとか、そんなちゃちなもんじゃ断じてねぇ……。

 

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。

 

そんな経験をしてから早三十年。いまや立派なNOUMINとして自立したオレは、畑を耕す傍ら家に代々伝わるとかいう刀をブン回していた。

 

というのも、突進で山を丸々一つを消し飛ばすINOSISI。

 

何ヘクタールもありそうな大地を圧倒的な身体能力でもって岩盤ごとひっくり返すKUMA。

 

万を超える軍勢となってコンマ数秒で農作物を食い荒らすINAGO。

 

音速を超えるスピードでソニックムーブを撒き散らしながら突っ込んでくるHAYABUSAやTSUBAMEなどなど、明らかに人智を超越した連中の相手をするには武器をブン回すしかなかっただけなのだが。

 

だがしかし、それ以上にマズイ存在がオレが生まれ直したNIPPONにはあったのである。

 

そう、古来よりNIPPONに跋扈するAYAKASIの類いである。ほら、ONIとかNUEとかそういう感じのやつ。

 

いや、唐突な話であるがオレとしては大真面目なのだ。勿論そんなモンを初めて見たオレは恐れ慄いたし、実際問題奴らAYAKASIはとんでもなく強かった。

 

例えばONIは、局地的な地震を引き起こす脚力や、素手で海を割ってリアルモーゼの奇跡を起こせる程の腕力を持ち、挙げ句の果てにはKUMAの全力全霊の一撃を蚊を払う様に無傷で退けるのである。

 

全くもってインフレした世界だ。こんなの絶対おかしいよ!

 

というわけで、このインフレした世界を生き抜くことを誓ったオレは、我流ながら剣術の修行を始めた。

 

刀をたかが鉄の棒切れと侮るなかれ。このインフレ世界に於いてはその程度の物でさえ武器と成りうるのだ。

 

まあ、武器と成りうると言ってもドラ○エのゾー○にひのきのぼうで挑む様なものだが。

 

じゃ、どうするの?と問われたならば、とりあえずこう答えよう。

 

 

 

 

 

 

『塵も積もれば山となる。レベルを上げて物理で殴れ!攻撃回数が足りないならば攻撃回数を増やせばええねん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────その男は紛うことなき強者だった。

 

身に纏う覇気、一切の無駄なく鍛え上げられた肉体。粗末な赤黒い服装から農民(小姓の類いか)と分かるが、只の百姓と言うには眼光が鋭すぎた。

 

まるで真性の鬼の如き気迫を放つ男は、少し拓けた山道にて大股二十歩程の距離を空けて身長五メートルを超える『鬼』と対峙している。

 

そう、本物の鬼である。

 

山を容易く砕く腕力、韋駄天の如き俊足、落雷すら弾き返す皮膚、多種多様な妖術、それら全てを自在に使いこなす戦闘のスペシャリスト。

 

加え、この時代に於いては人からの畏怖、或いは恐怖という信仰的感情によって、その力の最盛を迎えている。おおよそ人間が相対すべき存在ではない。

 

男は右手に刀、左手に石ころを弄びつつ、自然体でありながら油断なく鬼を眺めている。

 

対する鬼は様子がおかしかった。額には汗が流れ、瞳には恐怖が浮かび上がり、それでも鬼としての矜持か一歩も動かずどっしりと構えている。

 

単純に生命としての強度が違う人間と鬼の睨み合い。鬼がその剛力を振るえば、男がその余波ですら致命の損傷を受けるのは自明の理だ。

 

しかしそれでも、圧倒的上位の筈の鬼は、眼前のなんの変哲もない人間を恐れていた。

 

鬼が男を睨む。鬼の妖術による束縛の術が男に掛かった。

 

瞬間、一歩鬼が前へと踏み込む。倒れ込む様に姿勢を前屈みにし、一瞬で最高速に辿り着く。

 

時間にして刹那に満たぬ間に行われた淀みない動作は人というよりは獣の様だ。

 

たったの二歩で男の目の前に肉薄する鬼。そのままの姿勢でその動作を低空タックルに移行する。

 

人型でありながら獣の動きを可能とした鬼の驚異的な肉体は、山をも打ち砕く怪力をもって眼前の人間を粉砕せんと放たれた。

 

と、同時に男が踏み込む。否、その前に石ころを投擲していた。

 

石ころが鬼の妖術の要たる魔眼を粉砕し、戒めから解放された男が神速で踏み込み右手の刀で心臓を貫き抉る。

 

心臓の破壊を確認した男は刀を引き抜き、鬼の首をはねた。

 

が、首をはねた鬼の肉体が霞のように消え去る。気付けば男の周囲は濃霧に覆われていた。

 

死んだかと思われた鬼は、首を飛ばされる直前に妖術で幻を生み出し、その場を離脱していたのである。

 

視界が悪くなり、このまま奇襲されればなんの抵抗も出来ず鬼の豪腕に圧砕されるであろう状況。

 

最早なすすべも無いかと思われたその時、初めて男が刀を構えた。

 

上段の構え。剣術に於いて基本的な攻撃の構えである。

 

しかし、何時何処から奇襲されるか分からない今、ほぼ全身を無防備にする上段の構えは悪手であることは明白。

 

─────ならば、何故?

 

隙だらけに見える男に、それを好機と判断した鬼が右後ろから再び低空タックルを仕掛ける。

 

瞬間、男は刀を降り下ろし、鬼は真下(・・)頭上(・・)左脇(・・)から斬り裂かれていた。

 

全く同時に(・・・・・)打ち込まれた三閃は、抵抗なく鬼の鋼の肉体を切断した。

 

正に一瞬の早業。ともすれば暗殺術にも捉えられるその剣術は、もし只の人間が見れば何が起きたのか分からない程の速度で実行された。

 

巨大な巌の如き鬼の肉体がタックルの勢いのまま、バラバラとなり地面を転がる。

 

そして、鬼の死によって術が解けたのか、霧が晴れていった。

 

無傷のまま一瞬にして鬼の命を終らせた男は、何でもないかの様に死体となった鬼を放置し森の中に消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな男の背中を見ていた者が一人。

 

金色の鉞を背負った少年が、顔面を喜悦に歪ませながら睨みつけている。真っ赤なオーラの様なモノがその全身から吹き出ていた。

 

「へぇ、面白そうなのが居るじゃねえかよ」

 

少年の名は坂田金時。とある雷神の系譜であり、その将来、正史に於いてかの源頼光公に仕え、騙し討ちとはいえ鬼の大将酒呑童子を討ち果たした日の本の大英雄たる侍である。

 

金時は飢えていた。神性を持ち怪力無双を誇る彼は、今の今まで張り合える存在が居なかったがために、今回ばかりはこの発見をあまり信用もしていない神に感謝した。

 

「ククッ、そうと決まりゃあ一発殴り込みでもしてやるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてもう一つ、遠視の術でその様子を覗いていた存在がいる。

 

「あらまぁ、このお人。ふふ、うち、こんなに昂るの何時ぶりやろか………」

 

鬼の総大将、酒呑童子。日本三大大妖に数えられる伝説の鬼。

 

男が殺害した鬼は彼女の子分だったのである。

 

しかし、仲間を殺されたにしては薄い反応をしている彼女。どちらかと言えば喜んでいるような表情を見せている。

 

それも鬼の性か、己を真っ向から討ち果たす人間(・・・・・・・・・・・・・・)を彼女は求めていたのである。

 

その全身から垂れ流される妖気と昂りが、彼女達鬼の一派が根城とする大江山を震撼させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本来あり得る筈のなかった存在による、本来あり得ない邂逅。

 

こうして新たな因縁が生まれつつある中、件の(アホ)はというと…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やっぱ熊肉って旨いよな!鹿肉とか猪肉も良いけどやっぱ熊が一番旨いべ』

 

今日も今日とて良い天気なり。さっきは濃霧に襲われてたけどね。

 

というかやっぱりこのNIPPONおかしいわ。なんなん?あのONI。目潰しして心臓抉っても襲い掛かって来るとか、今までに類を見ない執念深さだったわー。

 

Fateのアサ次郎の真似してたら出来る様になった燕返しとか、狩りで身につけた気配察知がなかったら死んでたんだぜ。もうほんとアカンわー。

 

心地よい日差しを受けながら先日血抜きした熊肉を燻製にする。

 

出来上がった肉をかじりながらグータラするのは至福の時間である。良いねこういう生活。うまうま。

 

強いて言うなら塩が欲しいところ。胡椒は山の山椒で代用出来るしね。村醤油もあるし、本当に惜しい。

 

しかしまあ、こんな生活も三十年続いてくると感慨深くなるものである。

 

朝起きて、水汲んで、薪割りして、飯食って、畑耕して、飯食って、鍛練して、狩りをして、水浴びして、寝る。

 

日によってはコレに洗濯やら掃除やらが混ざるがそれはそれで良いものだ。

 

思えばこの家にも随分と世話になっている。三年前に亡くなった今生の両親曰く、もう築八十年を超えるそうだ。

 

なんだかんだ世話になってきたこの家、オレも二十年も暮らせば愛着も湧く。

 

今度増築でもするかなー、と考えていた矢先。事態は唐突に発生した。

 

「ぶっ潰れろォッッ!!!」

 

「喰らいはったらよろしゅおす」

 

ドゴーンチュドーンとギャグの様な効果音と共に現れたクソガキ共がマイハウスを破壊したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハハッ、様々なDOUBUTUに鍛えられたオレに喧嘩を売るとはね。よろしい、ならば戦争だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────これが始まり。

 

これは、正史に於いて佐々木小次郎の皮を被っていた名無しの亡霊。ソレに憑依、或いは転生した『彼』の、本来あり得ないifのお話。

 

 







聖杯戦争風ステータス

アサシンの場合

クラス:アサシン

真名:無し(佐々木小次郎)

属性:混沌・中庸

筋力:A

耐久:B-

俊敏:EX

魔力:C

幸運:A++

宝具:―

保有スキル

宗和の心得:EX
卓越した足運びにより、その間合いを計らせないスキル。EXクラスともなれば、それは距離・間合いの操作その物に等しい。

不屈の意志:EX
あらゆる精神干渉を無効化し、どの様な状況でも己の意志を貫く事が出来る。アサシンが、神殺しに成功した理由となったスキル。

剣術(魔法):EX
ただ純粋な技術によって魔法という世界最高の神秘に到達した剣術。アサシンが放つ斬撃は、全てEXランクに匹敵する神秘を纏う。宝具の無いアサシンにとって、これが宝具に当たる。なお、正確には魔法に極限まで近い技術・別事象である。

気配感知:A
気配を感じとる事で、スキル効果範囲内の状況・環境を認識する。また、近距離ならば同ランクまでの気配遮断を無効化する。

気配遮断:―
後述のスキルに統合。

圏境:EX
自らの存在を自然と同化させるスキル。EXランクともなれば、それは単なる技術ではなく仙術その物である。なお、気配遮断はこのスキルに統合されている。

縮地:EX
瞬時に相手との間合いを詰める技術。多くの武術、武道が追い求める歩法の極み。EXランクともなると、最早次元跳躍すら超え、世界そのものの境目すら踏破仕切る。仙術の範疇に当たる。

心眼(偽):EX
所謂「第六感」「虫の知らせ」と呼ばれる天性の才能による危険察知。視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。EXランクにもなると、それは自分に対するあらゆる危険を正確に察知する程の危機感知を発揮する。

獣殺し:B
中位の幻想種に匹敵する動物を、数多く殺害した証明となるスキル。動物に対し、致命の一撃を与えやすくする。

魔物殺し:A
上位の幻想種を数多く殺害した証明となるスキル。幻想種に対し、致命の一撃を与えやすくする。

神殺し:A
本物の神霊の抹殺に成功した証明となるスキル。Aランクでは上位の神霊にすら致命の一撃を与える事が可能となる。

仕切り直し:A+++
神霊の軍勢から逃げ切った事が由来となったスキル。例えどの様な状況であろうと、戦闘から離脱することが出来、不利になった戦況を初期状態に戻すことが出来る。

戦闘続行:A
決定的な致命傷を受けない限り生存し、瀕死の重症となっても戦闘続行が可能となるスキル。「往生際の悪さ」或いは「生還能力」とも表現される。

無窮の武練:A+++
一つの時代に於いて無双を誇るまでに到達した武芸の手練。心技体の完全な合一により如何なる精神的制約下であっても十全の戦闘能力を発揮出来る。




流石NOUMIN(白目)

あ、それはともかく酒呑ちゃんの口調がちゃんと出来てるかよく分かってないんですよね。一応FGOで実装されましたが、私は引けてないので。なんか違和感がありましたら、教えて頂けると嬉しいです。


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第五次聖杯戦争(インフレ済み)

※息抜きです。悪ふざけです。三十分クオリティの残念な作品です。それでもよろしいなら、ご覧になさってくださると幸いです。


────もし、騎士王が竜の心臓と鞘有りだったら。

 

────もし、クランの猛犬が地元仕様だったら。

 

────もし、ギリシャ最強の戦士が無窮の武練と弓矢持ちだったら。

 

────もし、錬鉄の弓兵が答えを得た上で自重しなかったら。

 

────もし、ゴルゴンの怪物が魔力に困ってなかったら。

 

────もし、神代の魔女が神殿クラスの工房をしっかり構築出来ていたら。

 

────もし、英雄王が慢心を捨てていたら。

 

────もし、NOUMINが暗殺者だったら。

 

 集うは八つの可能性。たかが八つ、されど八つ。そのどれもがその道の最強に相応しい実力者。サーヴァントという匣に押し込められつつも、天下無双を示した強者たち。

 

 舞うは英雄、奏でるは戦禍の調べと相成った。これより動き出すのは運命の夜ではなく、集いし最強たちによる大戦争。

 

 矜持(プライド)矜持(プライド)がぶつかり合い、野望(ねがい)を果たさんとする闘争劇が、今始まる。

 

 

 

 ★

 

 

 

 ぶっちゃけあれだよね。ほら、聖杯戦争とか言うやつ。英霊の座とか招かれた覚えはないけどさ。亡霊枠アリならいけるんだねぇ。

 というかここって型月ワールドだったんか!? 通りであんなSYURAやらSINBUTUやらMONONOKEが存在するわけだ。え、もしや軋MAX日本におるのか。やべぇ会ったらサイン貰お。

 

 なんてアホみたいな一人芝居はともかくだ。まさか亡霊生活満喫してたらキャス子に召喚されるとは思わなんだ。エルフ耳ってぶっ殺した神様とかしか覚えがないんだが実際問題型月ワールドにも居るの? フェアリー的なエルフ。いや、たいして興味も無いけどさ。

 後、アレ酷くね? 召喚された瞬間に山門に縛り付けられるとか。いや、SM的な意味じゃないよ。霊的なやつだよ。依り代がどうとかって話だけどさー。いや、まあ、召喚に応じた私も私なんだけどね。

 

「フン、脳味噌がそこらの奴隷以下である貴方でもこれだけ説明すれば分かるでしょう? 理解したならさっさと山門の警備に戻りなさい」

 

「承った。なに、これでも神殺しだ。そう簡単には通さんよ」

 

「ホラ吹きも大概になさい。空間ごと圧砕するわよ」

 

「おぉ、恐ろしや。精々殺されぬよう立ち回るとするか」

 

 キャス子さん毒舌すぎね? ブラックな上司よりひでぇ脅し掛けてくんだけど。酒呑ちゃんレベルだよこれ。あっちと違って貧乳じゃないけど。ていうか正規のマスターなら私のステータスとかスキルとか見れると思うのだけど、キャス子さん見えねえのか。

 いや、まぁ、うん。真面目な話するとそうされる前に全身を細切れにする自信はある。たとえコンマ一秒で詠唱を終えようが、発動までのラグで一閃。発生保証があっても縮地で離脱すれば良いわけだから。他にも、空間ごと隔離されようが縮地で突破して一閃。なんて事も出来るし。

 まぁ、あれかね。暫くはここでゆっくりするかねぇ。

 

─────なんて考えていた私にランサー兄貴が勝負を仕掛けてくるまで後4分。

 

 

 

 ★

 

 

 

 静寂の中、闇夜を疾走する青い影が一つ。お察しの通りその男も人外の輩─────サーヴァントである。

 現在彼は他陣営の偵察に奔走している。それはマスターからの指示であり、同時に彼からの提案でもあったからである。

 

(今回の聖杯戦争とやらは何処かおかしい。何だこのふざけた気配の群れは!? 神代に劣らん戦場に成り得るぞ)

 

 彼こそはケルト神話、アルスターサイクルにて名乗りを挙げた大戦士。たった一人で万の軍勢を年単位で食い止めた護国の騎士である。その真名を『クー・フーリン』という。

 

「バゼットに感謝だな。こりゃ良い。早速誰かに喧嘩でも吹っ掛けるか!」

 

 台詞の通り、彼は聖杯に託す願いがあってこの戦争に参加したわけではない。単純に強者と武を競うために現世に降り立ったのである。であれば、偵察といえど手加減は無粋。もともと生前の大半を戦場で過ごした身である。不利有利に関係なく、ある程度の事情は汲むが、宝具以外出し惜しみはしないつもりである。

 

「エーデルフェルトの双子館って言ったか。あれも拠点・霊地として良質だが、出来るならもっと良い方が欲しいからな。槍の燃費はともかく、俺自身の燃費は悪いのが考え所か」

 

 そう、狙うのは良質の霊脈(レイライン)の通う霊地───今回は柳洞寺───の確保である。とある平行世界において、その宝具の真名開放のコストパフォーマンス故に魔力不足にも関わらず連発した事があったが、そもそも彼の霊格はヘラクレスにも劣らぬ大英雄クラスである。本来は通常のバーサーカーと同等かそれ以上の魔力供給を必要とする。よって、マスターの負担を軽減するために他の霊地を確保するのは必定事項であった。

 

「──────そらァ!」

 

「────フッ」

 

 柳洞寺、山門。こちらの気配を察知したのか青い袴姿の男が待ち構えていた。眼光は鋭く、こちらを見つめている。

 暫定的な標的を視界に捉え、山門への階段を一足で飛び越え、上空から音速を超える一撃を叩きつけたランサーだったが、その渾身の一撃を男は手に持つ長刀で易々と受け流す。

 流された運動エネルギーが石畳に蜘蛛の巣状の罅を入れ、その感触からランサーの表情が歪む。

 しかしそれも一瞬の事。バックステップで一旦間合いを外したランサーは油断なく槍を構え直した。

 

─────違和感。手応えがおかしい。よく見れば、間合いが半歩ずれている。まさか敵の位置を見誤った? このクー・フーリンが?

 

 内心の僅かな動揺は表に出さず、ランサーは明瞭とした笑みと共に称賛する。

 

「ほお、やるじゃねえか」

 

「フッ、奇襲とは私の株を奪ってくれる」

 

「フン、こっちの最高速を軽々防いどいて何言ってやがる。というか、テメェセイバーじゃねぇのかよ? どう見たって剣使いだろうが」

 

 改めて視界に敵を収める。どうにも測り難い気配を放つ眼前のサーヴァント。言葉で表現するのは難しいが、不気味でありながら自然である、という形容が妥当だろうか。

 しかし、この男は明らかに剣使いであるところのサーヴァントである筈だが、クラスが違うとはどういうことだろうか。不気味に佇む侍は苦笑しつつこう答えた。

 

「む、申し遅れたな。アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎と申す。よしなに」

 

「─────良いのかよ。真名を名乗って」

 

 真名。名を晒せば伝承をなぞる弱点を突かれる可能性がある。例えばアキレウスの踵。例えばジークフリートの背中。それを隠すためのクラス名。だが、その利点を投げ捨てたアサシンのサーヴァントは何が狙いなのか。

 

「構わん。元よりただの亡霊である私が再び剣を執る機会を得た事こそが重要なのだから」

 

「────ただの亡霊だと? 戯けたことを。その殺気、並の英雄ならもっと分かりやすく放つモンだぜ。ソレを自然に紛れさせるどころか、そのものと化した人間なんざ聞いた事がねえ」

 

 どこか朧気な気配。自然そのものと化した殺意。なるほど、暗殺者としては便利な能力だろうが、なんというか、この男は致命的に何かが違う。

 前提として、この男は暗殺も出来る戦士である事が予測される。それは彼の『再び剣を執る』という言葉から容易に推測できるだろう。しかし、だ。それならばなぜ暗殺者として呼ばれたのか。

 

 聖杯戦争による英霊召喚というのは、その英霊が持つ一側面をサーヴァントという匣に押し込めて運用するという、魔法に匹敵する大儀式である。必然、彼らは呼び出されたクラスに即したカタチをもって顕現するのだ。

 例えば、史実のフランスより救国の大元帥ジル・ド・レェがキャスターとして呼び出されたなら、晩年のジャンヌ・ダルクを喪い正気をなくした精神異常者として顕現する。逆にセイバーとして召喚された彼は、基本的に人格者であり、正道の騎士として、往年の大元帥としての姿で顕現する。このように、サーヴァントというのはあくまでも聖杯戦争に沿った形でしか顕現することはない。

 だが、アサシンのサーヴァントは暗殺者としての側面があまりにも少ない。その要素があるとすれば、朧気な気配と殺意程度のものだ。

 そもそも、暗殺者として動くならば白兵戦にてセイバーと双璧を成すランサーの前に出てくるべきではないのだ。いかに暗殺のスペシャリストといえど、ただの正面衝突ならばランサーに勝る道理は無い。ならば何故、アサシンはランサーの前に現れたのか。

 

「─────参られよ。我らサーヴァントにこれ以外はいるまい」

 

「────違いない。行くぞ、アサシンのサーヴァントッ!」

 

 まあ、小難しい話はどうでもいい。我らは所詮雇われ。ならば、役目を果たして逝くのみである。

 

 ランサーは呪いの朱槍を構え、前方のアサシンへ突貫し、静かに長刀を構えたアサシンは口許に淡い笑みを浮かべ、ランサーを待ち構える。

 青い獣が地を駆け、見下ろす影が刃を降り下ろした。両雄が激突し、世界が震撼する。

 

 ここに、第五次聖杯戦争の第一戦が始まった。

 

 

 




NOUMIN「暗殺は自重気味で、後は流れでお願いしまーす」

 というわけで続きました。あんまりインフレ具合が分からないのはご愛嬌。大丈夫! いつか兄貴の不死身ぶりとか、人気の無い戦場に誘導したエミヤの投影宝具大量狙撃とか、神殿内で無双する若奥様とか、とりあえずカリバーぶっぱしてくる騎士王とか、その他いろんな鯖の活躍する描写がある筈だから!
 ふとしたときに悪ふざけってしたくなるよね。多分もう暫くは書かないけど、また気が向いたらこれの続きも書くと思います。


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※物干し竿は宝具ではありません。ソレっぽい何かです!

 

「───颪九連」

 

「────シッ!」

 

 激突。長刀より全く同時に現れた九つの剣閃は、首を始めとして、両肘、両腿の付け根、両膝、両足首を狙う驚異の九連続同時攻撃と化した。

 しかしランサーも然る者。下半身は最上級クラスの敏捷性からの足捌きでもって避け、肘と首元は朱槍で全て退けたのである。最速の英霊という看板に恥じることのない神業。

 その回避のコンマ一秒後、攻撃直後をアサシンの隙と見たランサーは朱槍を横薙ぎに叩きつけた。

 

 しかし、───外れる。必殺の意思を込めて頭部を砕かんと放った石突は空を斬った。よく見れば間合いが一歩ズレている。これは、とランサーの再びの疑念は確信へと変貌した。至った結論に思わず意識を眼前から外したランサーに、その隙を逃すまいとアサシンの斬撃が肉薄する。驚愕に目を見開いたランサーは槍を振り切った勢いのまま、独楽のように回りながら後退し、首元を狙う一閃を弾き返した。

 

 一瞬の空白。両者は距離をおき、それぞれの得物を構え直すと油断なく敵を視界に収めた。

 

 ニヤリ、とランサーが不敵に笑い不意にこう言う。

 

「驚いたぜアサシン。間合いのズレや複数の斬撃。そりゃあ魔法の一端と言っても過言じゃねぇ技術だ。この時代じゃ『多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)』とかいうらしいが、大方平行世界の自らを此方側に置換するってところか。それが一切の神秘に関係のない只の技ってえのが恐ろしいぜ」

 

「───フ、慧眼恐れ入る。まぁ、ソレだけではないが、単なる鉄の棒きれで神話の軍勢と果たし合うには斬撃(コレ)を増やすしかなかったのでな」

 

 アサシンの剣技はまさしく魔法であった。一人であるにも関わらず、攻撃時にはまるで分身でもしたかの様に何人も存在しているのだ。つまり、気配がダブるのである。宛ら乱視の様に存在が朧と化すということ。

 

 なんという絶技。千年に一度の天賦の才を得た者が、一生涯を修練に当ててなお届かぬ頂に、この暗殺者は至ったのだ。

 それは最早、狂気すら乗り越えた執念の剣と言えよう。

 

 ともかく、そういった殺気や気配に聡いランサーだからこそ辿りついた魔人の秘奥の一端。気配が朧気だった一因はこれか、とランサーは納得と同時に驚嘆する。ここまで来ると生前にて戦った万の軍勢と錯覚するような手数である。尤も、この程度ならばまだ問題なく捌けるが。

 

「────神話の軍勢、ねぇ。まぁいいさ。それの真偽もすぐに分かる事だ。こっからは遠慮無しで行くぜ!」

 

「無論だ。やはり闘争というのはそうでなくては斬り甲斐がない。精々殺し合うとしよう」

 

 静寂の中、両者が各々を睨みつける。そして、───交錯。アサシンの剣閃が呪いの朱槍と鎬を削り火花を散らす。その剣戟のあまりの迅さに狭い山道の石畳が粉砕されていく。

 ヒラリヒラリと宛ら燕が舞う様に駆けるアサシン、獣の如く最短最速で追いすがるランサー。双方共に後一歩の所まで迫る死の一撃を避け続け、闘いは千日手の様相を晒していた。

 

────だが、それもこれまで。大敵を仕留めるための一手を、アサシンは欠片の躊躇も無く解き放った。

 

「さて、そろそろ目覚めるがよい。『備中青江・空落(物干し竿)』よ」

 

「───『刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)』ッ!」

 

 ランサーが宝具の真名を解放したのは、半ば直感からであった。サーヴァントとして数値化されたスキルではなく、数多の戦場を駆け抜けたクー・フーリンの戦士としての経験が、自然と選ばせた切り札の一枚目。

 因果逆転の魔槍が開放され、その刺突がアサシンの心の臓腑を穿たんと迫る。こうなってはあらゆる回避行動は無意味であり、朱槍から生き延びるには、射程外まで逃げるか、

 

────真正面から迎撃する他に無い(・・・・・・・・・・・・・)

 

 (ゴウ)ッ、と風が吹き抜ければ、どういうわけかアサシンを包む様に球状に展開された鈍く耀く鋼の壁にランサーの槍は防がれていた。

 

「──────なッ!?」

 

 否、それは単なる鋼の巨壁ではなく、アサシンの長刀(・・・・・・・)である。刀身が肥大化した訳でもなければ、盾に変化したということでもない。

 

─────それは斬撃だ。

 

 1mm程の剣閃を、一閃、二閃、三閃と重ね続けた結果生まれた斬撃による鋼の防壁。淡い碧の光を纏った巨壁は、魔法(EXランク)という世界最高の神秘に至った剣技によって補強され、ランサーの因果逆転の魔槍を防ぎきったのである。

 

「─────テメェ、何だ?」

 

 火花を散らしながら弾かれたゲイボルクを構え直し、ランサーは困惑に満ちた言葉を発した。

 視線の先には碧に染まり、ドクリ、ドクリと脈動する長刃を携えたアサシンが挑発的にこちらを見据えている。

 

「ランサー。先程貴殿はこう言ったな。『遠慮無しで行くぜ』と。故に、私もこう言わせてもらおうではないか」

 

─────事ここに至って出し惜しみなど無粋が過ぎる。全霊でもって貴殿を斬り伏せようぞ。

 

 ランサーの問いに応える事無く、アサシンは再び構える。知らぬ内に、タラリと頬を流れ落ちた汗をランサーが認識した瞬間、アサシンはかき消え、全方位から蚊すら通さない百を超える斬撃の檻が襲い掛かった。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 さて、アサシンとランサーの戦闘が激化する中、それを俯瞰している者が居るのを忘れてはならない。

 

「なぁにこれぇ………」

 

 言うまでもないがキャスターこと裏切りの魔女メディアである。

 

 現在拠点兼工房として柳洞寺の改造・改修作業を進めている彼女ではあるが、勿論の事外部状況の情報収集を怠ってはいない。そもそもそれを欠いたら即脱落がありえる脆弱なクラスである故、慢心など出来そうもなかった。

 故に、今回自らが呼び出したイレギュラーのサーヴァントがどの程度使えるのか、精々見てやるか。そんな軽い気持ちでランサーの襲撃を偵察がてら覗いたのだが、これがまぁ凄かった。

 

「嘘でしょう!? 因果逆転の槍とか神の権能そのものじゃないの……!」

 

 メディアが今回使用した魔術は、指定した空間内の物質的・霊的を問わない動体観測が主な用途であり、それにアレンジを加え、範囲内で発動した一定以上の神秘を自動解析する、という代物である。

 

 結果として、アサシンが分身したりランサーが神の権能クラスの神秘をブッパしていたりと、神代でもそうそう見ることのない怪獣大決戦もかくやというアホみたいな戦闘だった訳である。

 

 しっかり見ていくと、アルゴー船のメンバーも大概化物だったが、ランサーのサーヴァントも大分頭がおかしい。

 正規のマスターではないために、サーヴァントのステータスを見る事が出来ないメディアだが、軽く見積もってヘラクレスにも劣らぬ戦士である事が見受けられた。

 

─────そしてそれは、己の下僕であるアサシンにも言える事である。

 

「えぇと、現世だと第二魔法だったかしら。解析しても魔力を使ってないのだけど、どういうことなの………」

 

 魔法。現代の科学では再現不能の、未だ人の手の届かぬ神秘の境地。それを体言する男こそ、メディアが呼び出した『佐々木小次郎』という暗殺者であったのだ。

 

────暗殺者って何だっけ?

 

 本当にごもっともな考えである。まぁ、その勘違いはアサシンが暗殺者としての側面をまだ現していないがためなのだが。

 

 焦りつつも、冷静にアサシンの戦力を確認するメディア。流石は神代最高峰の魔術師といった所だろうか。とは言っても、第二魔法なんていうメディアが至る事の無かった神秘を、自らの下僕が、しかも暗殺者風情が手に入れていたのは彼女のプライドを大いに傷付けたようだ。

 

 しかし、皮肉な事に彼女の戦闘観測用の魔術が彼女の精神を更に追い詰めるなど、どうして想像出来ようか。

 

 というのも─────

 

「まぁ、戦略の幅が広がったと思えば、許容なんて────」

 

────アレ? あのアサシン次元跳躍とか世界と同化してね?

 

 あまりにも魔術師泣かせな絶技の数々に、今度こそ彼女はヒステリックな悲鳴を上げた。

 

 









兄貴(戦車で来れば良かったなコレ)


 なお戦車を取り出す暇も無い模様。


 いや、まぁ、その。(挨拶)

 というわけでとりあえずサーヴァントステータスをドン!


クラス:ランサー

真名:クー・フーリン
性別:男性
身長:185cm
体重:70kg
属性:秩序・中庸
マスター:バゼット・フラガ・マクレミッツ

パラメーター

筋力:A+
耐久:EX
敏捷:A++
魔力:B+
幸運:E
宝具:A+

クラス別スキル

対魔力:B

保有スキル

戦闘続行:A
仕切り直し:B+
不眠の加護:A
矢避けの加護:A
ルーン魔術:B
太陽神の加護:A
魔力放出(炎):A
神性:B

宝具一覧

『刺し穿つ死棘の槍』
種別:対人宝具
ランク:A
レンジ:2~4
最大捕捉:1人

 突けば必ず相手の心臓を穿つ呪いの槍。本来は投擲用であるゲイボルクを、ランサー(クー・フーリン)が自己流にアレンジした使用法。
 因果逆転により、『相手の心臓に命中した』という結果を作り出してから槍を放つという反則級の絶技。既に結果が世界に決定されているため、並大抵の防御は意味を為さない。

 また、槍その物に治癒阻害の呪詛を宿しており、槍を破壊しない限りは傷が治る事はない。

 なお、本国と同等の信仰を保持しているランサーによって、宝具その物がランクアップを果たしている。
 その結果、神の権能そのものと化した因果逆転によって、あらゆる回避は本当に無意味となり、未来予知クラスの直感や、回避特化の宝具でさえその一撃を避けることは不可能となっている。

『突き穿つ死翔の槍』
種別:対軍宝具
ランク:A+
レンジ:5~70
最大捕捉:100人

 『刺し穿つ死棘の槍』の投擲バージョン。ゲイボルクの本来の用途である投擲武具としての使用であり、投げた際に無数の鉄棘を放って敵軍を襲ったという逸話から対軍宝具としての側面を現した。

 こちらも同様にランクアップを果たしており、破壊力は勿論、範囲や速度なども上昇している。瞬間最高速度はマッハ9。アーチャークラスの宝具と遜色ない宝具であると言えよう。

『猛犬の牙城』
種別:対軍宝具
ランク:A
レンジ:20~100
最大捕捉:500人

 生前のクー・フーリンが過ごした城塞。中身は魔術工房としても機能しており、クー・フーリン及びその関係者(味方)に1~2ランクのステータス補正を与える。

 高ランク対軍・対城宝具を防ぐ防御力を誇り、鉄壁の陣地として機能する。また、内部にクー・フーリンが存在する場合に限り、彼に陣地作成:Aと道具作成:Bのスキルを与える。

 余談だが、実物は現代に現存している。

『御者王駆る不壊戦車』
種別:対軍宝具
ランク:B+
レンジ:10~500
最大捕捉:500

 クー・フーリンがコンホヴォル王より授かった御者王レーグが操る不懐の戦車。一突撃で500人を轢殺したという逸話の残るクー・フーリンの戦場での相棒。

 真名を開放すると、宛ら『騎英の手綱』の様に概念的な太陽光を纏った秒速700mの突撃が行われる。

 副産物として、御者王レーグや戦車を牽くマハとセングレンという馬を召喚することができる。




 防衛・殿・対人・対軍・対城戦闘や、斥候、非常に優れた魔術的な知識、その他諸々とあまりにも有能過ぎる兄貴。基本この作品では優遇対象なのです。


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いつから兄貴が全力だと錯覚していた?

 

 縮地。

 

 漫画やライトノベルでよく見る瞬間移動的なアレである。正確には古代中国の仙人が扱う仙術の一種であり、単純な話目的地にル○ラするだけの技術であるという。別に天井にぶつかったりはしないが。

 

 じゃあ仙人でもないのに足捌きだけで再現する幕末の天才剣士とかNOUMINってなんなのさ。という話になってしまうが、そこはそれ、某ロボット戦闘シリーズの黒い鴉とかイレギュラー的なアレである。

 

 ひとのもつ かのうせいって スゲー!

 

 さて、どうでもいい縮地の説明はこんなものだろう。

 

 では次だ。唐突だが、皆様も一度はこう思った事があるのではないだろうか。

 

─────実際に戦闘で使われたらどうなるの?

 

 

 

 ★

 

 

 

「─────ッ!? オオォァァアアッッ!!!」

 

─────キィイ、キュゴオオオオーzzーン!!!!

 

 咄嗟に爆発的な魔力を紅蓮の焔として全身から放出したランサーは、その爆発によって辛うじて斬撃の檻を弾き返し、同時にその場からの離脱を彼に決断させた。

 

─────敏捷A++

 

 サーヴァントの中でもトップクラスの更に一握りが保有するステータスは、この状況で最大限の効果を発揮する。

 音速を易々と突き抜ける健脚は、撤退戦に於いて無類の重要性を持つ故に。

 

──────しかし、この世に"速さ"を無視する"早さ"が存在する事を忘れてはならない。

 

「────遅いな、ランサー。それで私から逃げ切れるか?」

 

 距離を跳ばす。一歩を百歩に、万歩を一歩と化す魔技。どれ程速く動こうが、1メートルの踏み込みを地球一周と変貌させるアサシンの前では全くの無意味である。

 

 まぁ、縮地抜きでも敏捷EXと、最速の筈のランサークラスを凌ぐ暗殺者がこの男であるわけなのだが。

 

「チッ、オラァッ!」

 

 二度目の魔力放出。爆炎を纏った朱槍が幾閃もの碧光を纏う斬撃を薙ぎ払い消し飛ばす。

 

─────だが、高々十数の斬撃を蹴散らした所で、数百の斬撃が待ってくれる筈がない。

 

「クソッ! 無尽蔵の斬撃ってのがこうも面倒だとはなぁッ!!」

 

 前方、後方、頭上、足下、数えれば限りがない。全方位を取り囲む刃の檻を、半ば無視する形で強引に駆け抜ける。

 落としても落としても止まらない斬撃の奔流は、次第にランサーを呑み込みつつあった。

 どうにか隙を見て反撃する心算ではあるものの、先程掻き消えた瞬間から全く気配が掴めない。斬撃は放たれているにも関わらず、姿形だけが世界から消失したような違和感に反撃すら儘ならない。厳しい戦況に、ランサーは焦りを感じ始めていた。

 

(ぐぬッ、マズイな。バゼットの魔力が持ちゃ良いんだが、そうも言ってられねぇか。とりあえず仕込みはさせてもらった。今回は逃げに徹させてもらうか)

 

─────故に、ランサーは手札を切る事を決断する。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

───────ボッ、ドヒャアッ! 

 

────ドドドドドドドドヒャアッ!!!

 

「────ッ!?」

 

 不意に漏れたアサシンの驚愕。その原因は、ランサーがしでかしたある行動に有った。

 

(ハァッ!? 何か魔力放出っぽいのでア○マ○ドコアのQBだとォッ!? しかも8連とかバケモンかよ兄貴ィッ!)

 

 そう、例のアレである。やったことは至極単純、魔力放出をブースター代わりにして吹っ飛んだだけである。

 だがしかし、ただそれだけと侮るなかれ。ともすれば宝具の真名開放にも劣らぬ魔力を爆発させるということは、とてつもない推力を生み出し、短距離ならばアサシンの縮地に匹敵する瞬間速度を叩き出す。

 時折朱槍を地面を突き立て異様なまでの方向転換を行う事によって器用にアサシンの斬撃をやり過ごしていくランサー。しかし、その爆発的な加速に勿論代償は付いてくる。

 

─────それは急加速の反動によって自らの肉体すら傷つけるという事。

 

「────グ、ウゥォオオオアアッッッ!!!」

 

 異常なまでの急加速に、エーテル体である筈の身体が悲鳴を上げる。並みのサーヴァントであれば2、3度の加速で身体が千切れ飛ぶ反動の中、ランサーは苦悶の表情を浮かべる。

 

───────だが、それがどうした。

 

 普通であれば身体が四散するような急加速? それがどうしたというのだ。そのための対策を己は召喚された瞬間から保有しているではないか。

 

──────耐久EX

 

 今の今までアサシンの斬撃をやり過ごしていたランサーだが、当然被弾が無かった訳ではない。一閃一閃が全て評価規格外(EXランク)の神秘を纏う斬撃を耐えてきた鋼の肉体は、宛らジェット噴射の如き超加速にも易々と耐え抜く。

 

「─────逃すものかッ!!」

 

 一層の気合いを斬撃に込め、幾千もの剣閃を放ち始めるアサシン。

 その様子は、三次元的な超機動を描く火の玉(ランサー)を、無限の閃きで象られた鋼の龍(斬撃)が呑み込まんとする一枚の幻想的な絵画にすら見える。

 

 しかし、そんな追い追われる関係にも漸く終わりが訪れる。アサシンがふと気が付けばもうすぐ山門から離れるには限界の地点だったのである。ここまで来て、山門を依り代とする特異な召喚の弊害が彼を苦しませる。

 

(クソッタレッ! ランサーが山門を跳び出るのに間に合うか!?)

 

 内心の悪態。千の幻影と共に渾身の一閃を振り抜くアサシンだが───────

 

「─────逃げ切られた、か。生存に特化したサーヴァントという話だったが、ランサーめ。半神とはいえ本当に元はただの人間か?」

 

 惜しくも、ランサーは山道を飛び抜けた後であった。振り抜いたままの長刃を下げ、深いため息を吐く。

 

『────ランサーを撃退したならさっさと戻ってきなさいアサシン。貴方に話す内容が増えたわ』

 

「了解した。直ぐに跳ぶ」

 

 キャスターからの念話を受け取り、異形の長刃を鞘に収めるアサシン。ふらりとランサーが去った方向を一瞥すると、階段の一段目に足を掛け軽くジャンプするように次の一歩を踏み出した時には、アサシンの姿は消え去っていた。

 

 結果として、ランサー・アサシン共に五体満足で生き延びた。人知れずとも、聖杯戦争の初戦に相応しい恐ろしく素晴らしい闘いは一旦の幕を閉じる事となる。

 

─────時に、皆様は覚えているだろうか。

 

 今回のランサーによる柳洞寺襲撃、その目的を。

 

(────何か兄貴の槍の狙いが雑だった様な………。気のせいか? まぁ、全力じゃなかったのは確実だろうぁ。それ言ったら私も手札全部切った訳じゃないけども。でもそうだとしたら何が狙いで柳洞寺を襲撃して来たんだ? こんな早期に仕掛けてきて、尚且つ全力じゃない…………あ゙)

 

 アサシンの脳裏に過るのは、ランサーによる柳洞寺襲撃寸前のキャスターとの会話。そして、ランサーが槍を突き立て、地面を削りつつ(・・・・・・・)逃げる様子。遥か彼方の記憶には、彼がルーン魔術の達人であるという情報が残されている。恐らくはここに襲撃を掛ける前に仕込み(・・・)はされていただろう。

 

─────やられた

 

 ランサーの鮮やかな手並みに、アサシンは心中で賞賛を送った。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

「─────バゼット、無事か? 」

 

「────フゥッ……、フゥ。えぇ、些か魔力を消費しすぎた様ですが、此方に問題はありません。今はあのアサシンのサーヴァントへの対策を練るとしましょう」

 

 エーデルフェルトの双子館。およそ70年程前に建築されたエーデルフェルト家の別荘である。その実態は、第三次聖杯戦争の際にマスターの一角を担った当時の当主たちが冬木の土地の中でも優れた霊脈の真上にある土地を買い取り、工房として居住した物だという事らしい。現在は権利ごと時計塔に委譲されている。

 その館を、現在時計塔の経理担当者とエーデルフェルト家から許可を得て拠点として半ば買い取っている魔術師が存在する。

 

─────バゼット・フラガ・マクレミッツ

 

 アイルランドのとある寒村に本拠地を構える『現代に在りながら神代を引き継ぐ』ルーン魔術の大家、マクレミッツ家の才女である。

 イギリスはロンドンに所在する世界的な魔術結社『時計塔』の封印指定執行者である彼女は、手にした聖痕によって時計塔上層部から直々に極東の魔術儀式『聖杯戦争』より聖杯を持ち帰るという依頼を受けた。

 

 そして、マクレミッツ家に代々伝わるクー・フーリンの耳飾りを触媒として用いて『アイルランドで』ランサーを召喚し、今に至る。

 

「あぁ、その事なんだがな。アサシンの対策はぶっちゃけ要らねぇだろうよ」

 

「─────ふむ。根拠は何でしょうか」

 

 暗殺者を、更に言えばその道の最上位と評価してもまだ足りないあのサーヴァントに対して、警戒しなくても良いとは随分と恐ろしい事を言ってくれる。

 

「アレはな、縛り付けられてんのさ。どういう訳かは知らんが、あのサーヴァントが土地その物を依り代として(・・・・・・・・・・・・)現界してるのが原因だろうな。一歩でもあそこから出たら一瞬で現世との繋がりが消えて脱落してもおかしくねぇ。アレのマスターは相当なバカか………そうだな、どうしても守りたいモンがあの山に隠されていると見た」

 

「───────俄には信じ難いですが、貴方が言うのなら間違いは無いのでしょう」

 

 忘れてはならない。ランサーはあくまでも斥候として偵察に出ていただけ。本来の戦装束を着込んでいた訳でもなく、本当に必要最低限の装備で情報収集に努めていたのである。

 

 今回の偵察の手順はこうだ。

 

 まず始めにルーンを刻んだ小石に円蔵山を包囲させ、簡易的な結界を構築する。優れた霊地ならば、既に先客が訪れているかもしれない可能性を考慮しての行動だ。

 

 次に、結界その物にも隠蔽術式を刻み、内部の探査を行う。柳洞寺を覆う様に展開された工房を探知すると、その瞬間ルーンによる結界を破棄した。何せ足が付いては困るので。といっても、こちらの試みはバックに潜む何者かに看破されていたらしく、結界を消す寸前に逆探知されかかったために、随分と肝を冷やしたが。

 

 後は何の考えもなく隠密をしながら柳洞寺に突貫であったのだが、そこであのアサシンである。逆探知の件で多少なり警戒はされていただろうが、全力での隠密を見破られたのはかなり驚いた。面食らいつつも情報収集と並行しながら交戦へ入ると、卓越を越えて超越と形容すべきであろうあの剣戟が襲ってきたのである。幸いにして仕込みは出来たし、大きな負傷は無い。

 だが、幾つかの手札を切らされた上に鬼札の魔力放出まで見られたのは少々不味かった。そしてそれ以上に─────

 

「ランサー、その傷はどうしたのですか?」

 

「─────治癒阻害の呪詛って訳じゃねぇぜ? こいつはな、神性に対する特効効果でも付与されてたんだろうよ。視覚繋いでたから解るだろ? あの剣さ。いや、或いはアサシン自身も神殺し系統のスキルを持っていやがる。佐々木小次郎なんて名乗っちゃいたがな、十中八九嘘っぱちだろうよ」

 

 ランサーの肉体。その所々に残る裂傷が、全く癒えていない。これはとてつもない偉業である。

 ランサーの高ステータスの中でも輝きを放つ耐久ランクEXは、何も単純な頑健さだけが評価基準である訳ではない。持久力や回復力もその範疇に含まれるのである。それが単なる裂傷ならば、腹を横一文字に切り裂かれようとも父たる太陽神の加護によって立所に完治するだろう。その治癒力がどうだ。実際問題傷は治癒されず、鮮血を垂れ流し続けている。

 

──────神話の軍勢と闘うには

 

 脳裏を掠めるアサシンの言葉。なるほど、それは真実だったか。大英雄クー・フーリンを傷付ける程の毒性を持つ刀とは、驚かせてくれる。

 

 驚くバゼットを見やり、ランサーは少し呆れた様な顔をすると、すぐさま普段の澄ました表情に戻し本題を切り出した。

 

「本題に戻るぞ。あの山の付近で真に警戒すべきは、アサシンのバックに居る奴だ。柳洞寺って言ったか、あそこはもう工房になってやがる。加えて言うなら最高位の神殿レベルの工房だ。俺の専門はルーンだから深くは分からんかったが、軽く視ても異界化やら竜牙兵やら高位の呪詛やら空間の無限分割やらでとんでもない罠屋敷と化してやがった。どう考えてもキャスターのサーヴァントの仕業だろうよ」

 

「となると、アサシンとキャスターのマスターは同盟関係にあると考えるのが自然。ですがそれならば何故、アサシンはあの土地に縛り付けられているのでしょう」

 

 当然の疑問である。基本的に裏切る心配の無い同盟関係ならば、暗殺者を縛り付けなどしない。いや、単純に同盟の条件としてそれを提示した可能性もあるが、あのアサシンを相手にキャスターが有利に立ち回れるのか。先程のランサーの言の通り、リスクを度外視してでも守りたい物があると考えるべきか。だが、相手が神代と同格以上の魔術師ならば、アサシンの警護を欺きマスターを人質に取る事も可能やもしれない。

 

 バゼットの思考が堂々巡りの様相を晒している最中、ランサーがポツリと言った。

 

「─────なるほどな。『発想を逆転する』ってのはこういう事か。おいバゼット!」

 

「何か分かった事が?」

 

「いや、一つ質問してぇだけだ」

 

 ニヤリ、と意地の悪い笑みを浮かべるランサーは、その勢いのままこう言い放った。

 

─────サーヴァントがサーヴァントを召喚するってのは可能か?

 

 










Q.兄貴の戦装束って?

A.ああ!(斥候の時は何時もの青タイツで、本当の戦闘スタイルは青タイツの上にプロト兄貴霊基再臨三段階目の鎧と赤いガウンです。)

Q.何でNOUMINが獲物を逃がしてる訳?(半ギレ)

A.土地に縛られてるし仕方ないね。

Q.山猫と化した兄貴

A.ぶっちゃけNOUMINの縮地に対応できる魔力放出の運用方法はこの位でした。


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専用BGM死亡フラグ兄貴@弓兵

 

 

──────鉄を打つ。

 

 結局己は何がしたかったのか。何を求めていたのか。

 

──────鉄を打つ。

 

 霊長の抑止力(アラヤ)との契約。消耗していく(ゆめ)。いやに透き通った、硝子の砕ける音を聞いた気がした。

 

──────鉄を打つ。

 

 ある時、答えを得た。とても大切な、そう、例えるなら朝焼けの清々しい蒼窮の様な。

 

──────鉄を打つ。

 

 ある時、理解を得た。生涯を通して在り得る事のなかった唯一の理解者を。それはまるで、蒼海に消える淡い飛沫の様な。

 

──────鉄を打つ。

 

 ある時、可能性を得た。焼き尽くされた人理の果て。足掻く者たちに希望を覚えた。或いは己も、と装いを新たに、鋼の瞳に少しばかりの苦笑を滲ませて悪魔の塔を従える魔術王に弓を引いた。

 

──────鉄を打つ。

 

 地獄を見た。地獄を見た。地獄を見た。現実と理想の軋轢。十全を救うと誓い、たった一つを切り捨て続けた。その果てに、我が身は何を知ったのか。我が身は何を手に入れたのか。結局その行為は、己自身を捨て去るという理想への裏切りであった事に諦観を知った。

 

──────鉄を打つ。

 

 あぁ、そうだとも。その人生に悔いはない。絶望を越え、希望を飲み干し、ただひたすらに夢を、理想を目指した。その一生に、後悔など有る訳がない。ともすれば、それは我が青春でもあっただろうから。

 

──────鉄を打つ。

 

 だが、もしも。もしもこの身がそれを為す機会があったなら。

 

──────鉄を打つ。

 

 私は、俺は、迷いなく手を伸ばすのだろう。

 

──────剣の体現、鍛鉄の妙境。

 

 何故なら、この身は正義の味方であるのだから。

 

──────至りしはヒト。鋼の剣は変生する。

 

 そう、在れかし。

 

──────そして男は、自らの(たましい)で以て暗闇の荒野を切り拓く。

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

 練鉄の英雄。正義の味方。贋作者。抑止の守護者。彼を表す言葉は数あれど、しかしながらその名を知る者は非常に少ない。そもそもこの時代、もしくは過去に活躍した存在ではないからである。

 

 この時代の彼を知る一握りの者たちは、彼の事をブラウニーやらお人好しだとか宣う。他人への献身もさることながら、その行為に対価を求めない上に、どのような頼みでも二つ返事で了承するのが原因である。甲斐甲斐しく、そして忙しなく動き回る彼の姿は、どことなく民話の妖精を想起させるのであろう。それこそ渾名の元ネタ(ブラウニー)の様な。

 

 当時の彼には夢がある。正義の味方となること。救われるべき人々を救うこと。養父から受け継いだ理想である。彼が人の頼み事を聞くのも、その夢の一端であるからなのだろう。

 

 だが、それにしたって度が過ぎているのではないか、と言う者も居る。当然であるが、普通の学生は遅刻間近の時間帯にボランティア活動などしない。だが、彼は違う。自身の行動が他人の迷惑にならない限りは、その有り余る奉仕精神で以て彼の思う形の正義の味方活動を行うのである。親しい者の一部は、(こぞ)って彼を諫めていた。

 

 彼は自らの行いで助けられた人に、対価を求めない。それどころか、感謝すら求めていない。人はそれを独善と言うが、それこそが彼の歪みである。

 

─────それは贖いだった。

 

 彼がそうするしか出来ない事に気付いた者は少なく、彼自身もそれを当然として受け取っている。その歪みの果てに、何が待ち受けるのかも知らずに。

 

 独善を貫かんとした彼は、それしか知らなかった彼は、当然ながら独善を貫くだけの機械へと変貌した。贖いは何時しか薄れ去り、残ったのは張る意味すらない、つまらない意地だけ。しかし、彼はそれを良しとした。諦めなければ何時か、とその意地を張り続けた。握りしめた独善の刃で以て多くの命を救い続けた。鋼の刃が自らの手を紅く染めるのも顧みずに。

 

 終わりは呆気ないモノだ。多くの人を救い、少ない犠牲者を出し続けた彼は、あらぬ罪を着せられて絞首台に立つ事となった。

 

──────それでも、この道は。

 

 間違ってなどいない。自らに濡れ衣を着せた者たちは悪くない。そう思われるだけの行いを、彼は行ったのだからと。結局最期まで、彼は誰かを恨むことは無かったという。

 

 悲劇と言えば悲劇なのだろう。どこまでも自分を救えなかった男は、誰かに殺されたのではなく、その独善の基盤とした社会に不要と断じられて処理されたのだから。

 

 だが、その当事者たる彼にとってそれは、果たして悲劇だったのだろうか。

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

 召喚は滞りなく行われた。家系特有のうっかりもなく、触媒も伝説的な大剣士の宝剣の欠片を間違いなく使用した。家宝である宝石のペンダントを首から提げ、これで最優のサーヴァントが、と意気込み期待し、そしてその期待は裏切られた。

 

「サーヴァントアーチャー、召喚に応じ参上した」

 

─────問おう。君が私のマスターかね?

 

 顕れたのは聖なる気配を感じさせる鮮やかな深紅の外套を羽織り、漆黒の洋弓と飾り気のない無骨な長剣を携えた褐色白髪の男だった。

 鷹を連想させる鈍色の鋭い瞳がこちらを一瞥し、ニヒルな笑みと共に問いかけてくる。

 

「─────えぇ、私が貴方のマスター、遠坂凛よ。よろしくね、アーチャー」

 

 名を聞いて満足そうに息を吐いたサーヴァントは、宝具であるのだろう弓と剣の顕現を解除すると、静かにこちらを見据えた。大方私が話し出すのを待っているのだろう。英雄と呼ばれるからには、もう少し自分勝手な奴が出てくると思っていたのだが、殊の外弁えた者がやって来たらしい。こう言ってはなんだが、肩透かしを食らった気分だ。

 

 密かに、最優たる剣士(セイバー)ではなく弓兵(アーチャー)という(クラス)を呼んでしまった事に対し落胆はあった。だが、それは全くの間違いであるとすぐさま悟る。そも、英霊の所持する宝具とは、初見殺しその物と言っても過言ではない程の力を持つのだ。加えて、弓兵という職業は比較的魔術師と相性が良い。勝てるモノを準備する者が魔術師、勝てる位置を準備する者が弓兵。スタンスは似通っている。

 

「早速だけどアーチャー、貴方の手札を教えてくれないかしら」

 

「ふむ、些か性急にも感じられるが丁度良い。私の手札は特殊でね、運用に手間が掛かる。話すにしても長くなるだろう」

 

 運用に手間が掛かる宝具とは、騎乗兵(ライダー)でもあるまいし、弓兵のクセして複数且つ複雑なモノでも持ってたりするのだろうか。

 適当に当たりをつけて、アーチャーの方に視線を戻す。件の男はなにやら苦笑を湛えつつ、予想だにしていなかった言葉を放った。

 

「時にマスター、台所は何処かね? 簡素な物だが紅茶でも用意しよう。長い話となると、自然に喉も渇くだろうしね」

 

 お前何の英雄なんだよ、と素で思った。

 

─────ゆうがたれゆうがたれ

 

 清々しさすら感じられる眩しい笑顔を恨めしく思いながらも、半ばヤケクソで家訓を反芻し、肯定の意を頷くことで示す。

 こやつは執事の英霊か何かか!? 内心の戦慄をどうにか抑えて台所へ案内し、アーチャーであるらしい己の呼び出したナニカに応接間に居る事を念話で伝えて一息吐く。あの滲み出る奉仕体質的な人の良さは一体全体何なのだろうか。

 

「え? もしかしなくてもどこかでうっかりしてた?」

 

 一人になったことで冷静になったのか、唖然と呟く様は(さなが)ら迷子の幼児の様だ。まぁ、それも仕方のない事だろう。自分が召喚した英霊が、もしやすれば戦闘以外の事柄を専門とするサーヴァントであるかもしれないのだから。

 

 一概にサーヴァントと言っても、その能力は玉石混淆のきらいがある。

 

──────名だたる英雄として、武名を残した戦士型のモノ。

 

──────人類史の礎を築く発見や発明を成した探索者型のモノ。

 

──────ヒトの心に幾百幾千の時を越えて残り続ける"作品"を作り出した芸術家・作家型のモノ。

 

 簡単に纏めてしまえば、こんなモノたちが代表的であるが、無論これは一部分であり、そのカタチは多種多様極まりない混沌とした様相を晒している。

 

 当然だが、芸術家や作家など戦闘に向かない存在は多数いる。弓と剣を携えていた以上、それなりの手練れではある筈だが、本職なのかと問われれば疑問が残る。よしんば執事か何かの英霊だったとして、何らかの大人物の護衛であるとか、或いは従者であったとか、考えられるケースは色々あるのだ。もしも戦闘が出来ず初戦敗退などしようものなら、それこそ先祖ないし父母に申し訳が立たない。

 あーだこーだと少しの逡巡の後、どうせ考えても意味のない事だと思い直して応接間のソファーにふんぞり返った。とりあえずはあの弓兵がここまでやって来るのを待つしかないのである。

 

(………紅茶、美味しいやつだったら良いけど)

 

 待つこと二、三分。ガチャ、と応接間の大きな扉が開かれれば、現れたのは紅い外套を脱いだらしいラフな黒いシャツ? を着ている件の弓兵であった。

 

「────む、どうしたマスター。そんな呆けた様な顔をして」

 

「何でもないわ。ま、そこに掛けてちょうだい。今後の方針も含めて腰を据えて決めていきたいしね」

 

 目の前に置かれたティーカップに注がれる白湯を眺めながら、異様なまでに様になっている淹れ方に噴き出しそうになる。ティーポットは片手持ちだったり、キチンとティーコジーを準備していたりと、やはりそっち方面の本職だったのだろうか。チラリと顔の方を覗いてみれば、なんだか満足気な表情をしている。職人か何かかお前は。何が彼をここまで駆り立てるのか分からないまま、呆れた様に視線を送る。

 

「座らないの?」

 

「ん、いや、すまない。生前に執事の真似事をしていた時期があってね、その時の癖が抜けていなかったようだ」

 

 何分人の顔を窺わなければならない仕事だったのでね、と言いながら苦笑いする様子は、なんとなく顔を知る男の子に似ていて。そういえばアイツも奉仕体質な男だったな、ととりとめのない思考が頭の中を通り抜けていく。知らない内に、リラックスしている自分が居る事に苦笑しつつ、これから真面目な話をするのだから、と気を引き締める。アーチャーは静かにティーポットをテーブルに置き、対面のソファーに腰掛けているところだった。

 

 そっと紅茶を飲んでみれば、美味い。これまでのアーチャーの行動でほとんど分かりきっていた事だが、もう完全に本職と比べても遜色ない完成度である。一度見学に向かったロンドンの時計塔でも、これ程の紅茶を淹れられる人物は居ないに等しかった。いや、いけすかないエーデルフェルトの所の執事、確かオーギュストと言ったか。彼の淹れた紅茶は別格だったな、と思い返す。

 

「さて、マスター。私の淹れた紅茶を楽しんでくれている様でなによりだが、そろそろ本題に入るとしよう」

 

 カップをソーサーに置き直し、アーチャーの鈍色の瞳を見返す。彼の瞳には、凍てつく様な冷たさと無機質なまでの誠意が込められている様に思えた。

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

「まずは私の能力の本質を理解してもらいたい。そうだな、これは見せた方が早いだろう。投影、開始(トレース・オン)

 

 そう言って、アーチャーは自らの手に剣を呼び出した。剣は刀身を含めた全体が紅く、血に飢えた獣を連想させる。傍目から見てもとてつもない神秘が内包されているのが分かった。間違いない、宝具だ。

 

「─────分からないか、マスター。とりあえずこれをよく観察してみたまえ。解析の魔術を使うのも良いがね」

 

 そう言われ、今一度その剣を観てみる。今度は解析魔術も並行してだが。

 

「─────うそ。これ、まさか全部が………」

 

───────投影、魔術(グラデーション・エア)………ッ!?

 

 いや、在り得ない筈だ。投影魔術(グラデーション・エア)とは、その術者のイメージを現実に形として投影するだけの代物。所詮人間の想像力では完璧な設計図(イメージ)を描ける筈もなく、出来上がるのは欠陥品(ハリボテ)だけ。それも世界の修正力によって、ごく短時間でしかこの世に存在する事は出来ない。加え、これは宝具(ノーヴル・ファンタズム)である。もはやその剣の姿を知る者が居ないに等しい現代に於いて、個人の想像力で真作の創造理念、構成材質、基本骨子、挙げ句の果てにはその機能までも完全再現するなど、狂気の沙汰である。

 

─────しかし、この世には『例外』が存在する。

 

「ご明察だ。この剣の銘は『フルンディング』。英雄ベオウルフの振るった魔剣だ。まぁ、これは全てが投影された模造品、贋作に過ぎない。本来のそれより一つ程ランクが落ちている。それでも効力は保障するがね。とはいえ、これは私の本来の魔術から零れ落ちた副産物の様な物だ。本質はまた別にある」

 

「────正直、受け入れ難いけど、とりあえず納得しておくわ。それで? その本質とやらは一体どんなモノなのかしら」

 

 どうやら、この弓兵は魔術師であったらしい。それも、現代に存在するのなら間違いなく時計塔に封印指定される程の、だ。恐らく、生前は一点特化の特異な魔術師だったのだろう。これはアドバンテージである。彼のイメージの幅が広いモノであれば、ほぼ全ての英雄の死因(モノガタリのオワリ)を再現出来るということ。アーチャーの極めて平均的な(・・・・)ステータスを覆しうる最強の矛であるのだから。

 

「む、マスター。そう結論を急ぐ事もあるまい。急いては事を仕損じること請け合いだからな。まだ私はこの力のデメリットも言っていないぞ」

 

 (たしな)められ、熱くなっていた自分を恥じる。こんなの優雅じゃないではないか。遠坂の当主たる者、どの様な情況でも冷静を保たなければ。

 

「落ち着いたようだな。よし、それではデメリットについても解説していこう」

 

 意外とノリノリなのではないか? この男。なんだかやる気に満ちている様に見える。なんというかこの男、職人気質というか近所の優しいお兄さん気質を多分に含む人格の様だ。人にモノを教えるのが楽しくてたまらない、教えた者が大成した際には盛大にプレゼントするような奴に思える。それも自分にはとんでもなく厳しい系の。なんて下らない事を考えていると、険しい顔をしたアーチャーが重々しく告げる。

 

「私が投影魔術で造り出せるのは、その九割以上が『剣』だけだ。私の魔術属性及び起源は『剣』でね、それが原因だろう。例外として、ごく少数だが盾や鎧、その他武器類をほんの僅かだが投影できる。基本はこの宝具の剣を矢に加工し、それを用いた狙撃がメインとなる。近接戦闘の場合は、そのまま剣として使用する」

 

 嫌な予感がする。それは、つまり。

 

「マスターの懸念通り、私がサーヴァントに対し優位性を持つのは極めて限定的な状況だけだ」

 

「もし今回の聖杯戦争で敵サーヴァントと戦うとすれば、相手の死因が剣によるもの、或いは竜殺しの概念など私が投影可能な何らかの属性が弱点であればほとんど勝てるだろうな。逆にそれ以外の相手には弓兵らしく狙撃位でしか勝ち目は無いだろう」

 

─────あぁ、やはりそんな上手い話は無かったか。

 

 儚い天下だった、と内心で呟きつつ、アーチャーに話の続きを促す。

 

「問題はまだまだある。私の扱う宝具クラスの物品の投影だが、これは物質として半永久的に世界に残り続ける。修正力をある程度無視して、だ。これは利点だが、慢心を呼びかねない。着目してほしい点は、あくまでも魔術の産物であることだ。何が問題か、分かるかね?」

 

「────対魔力、いえ、対魔術の宝具ないし礼装には無力となり得る、かしら?」

 

「凄いな、その通りだ。例えばケルト神話フェニアンサイクルの勇者、ディルムッド・オディナがランサーとして召喚されれば、破魔の紅槍ゲイ・ジャルグによって切り捨てられてお仕舞いだろう。無論、投影する宝具のランクや対魔の属性に耐性を持つ剣であれば話は別だがね」

 

「なるほどね。確かに、運用するには難儀なサーヴァントだわ」

 

 これ程の特殊性を持つ弓兵など、それこそ人類史中を探し回ってもコイツ以外に居るまい。なにしろ剣を矢とする様な変人狙撃主であり、戦士であり、魔術師であり、執事であるのだから。

 最後の一つでイメージが粉砕されるような衝撃を受けるが、それでも有能な事に変わりない。認める認めない以前に、コイツはあらゆるサーヴァントに対してジョーカーに成り得る鬼札である。

 

「─────ふふっ、やり甲斐があるじゃないの」

 

 ふと、溢れた言葉にアーチャーは微笑みを浮かべた。彼女らしい、気炎の立ち昇るような振舞いは、彼にとってかけがえのない思い出の一端だからであろうか。

 

──────しかし、その瞳に幾分か申し訳なさ気な感情が渦巻いているのは、果たして何故なのだろう。

 

 










 クソ長くなったので、エミヤ兄貴の本題は次回に持ち越しです。

 悪いね♪(無慈悲)



Q.エミヤの衣装は?

A.ぐだおの三臨時のアレ。キチンとした聖骸布製です。(伏線)

Q.エミヤが弓と一緒に持ってた剣って何ぞや?

A.ネタバレになるからここでは言えんのよ。すまない………。

Q.凛ちゃんは何を召喚しようとしてたん?

A.特に考えてない。ローランとかじゃね?

Q.何で凛ちゃんの事をマスター呼びしてるん? 普通に呼び捨てにさせろや!

A.彼にも色々あるんですよ。(黒い笑み)

Q.ラストの不穏な描写は……?

A.二律背反って知ってる?(愉悦の笑み)



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正義の味方? 何のこったよ(真顔)



 エミヤ兄貴の本題と言ったな。あれは嘘だ。



 

 

 

─────確か、あれはもう()年前だったか。

 

 六時限目の授業が終わり、なんとなく外を眺めてみる。空は青く、己が身の矮小さを知らしめるが如くただそこに在る。そして思い出すのだ。もう二度と会うことのない養父を。

 

 養父の病死。そこそこの若死にだった。輝く満月の下、俺の真横で草臥れたヤニ臭い男が眠る様に息を引き取ったのである。

 

────士郎は、どんな大人に成りたいんだい?

 

 死の間際、少しばかりの言葉を交わして満足したのか穏やかな顔であっちに逝ってしまった。その表情の通りそこに悔いが無ければ良いのだが、とふと想う。

 

「おお、ここに居たか衛宮」

 

 窓の外から目を離し、机の上を片づけていると、話し掛けてきたのは親友の一人、柳洞一成である。

 

「ん、一成か。また備品の修理か?」

 

「────毎度毎度すまんな、本当に」

 

「気にするなよ。生徒会だって忙しいし、もっと言えば修理業者を頼む金が惜しいのは俺だって分かる」

 

「あぁ、だが無茶はするんじゃないぞ。お前の、何て言うか働きぶりは少し過剰な気がしてな。体を壊すのではないかと心配になる」

 

 そうだろうか。一応自分の体の事は誰より理解しているつもりなのだが。いや、自覚していないだけで、もしかしたら働きすぎなのかもしれない。

 

 これは記録すべきだろう(・・・・・・・・・・・)

 

「無理して体壊してもろくな事にならないだろうし、ちょっと抑え気味にしておこうかな」

 

「そうしておけ。いやまぁ、自分で言うのもなんだが、俺も少しばかり過労働の気があるからな。この機会に衛宮、お前も確り休んでおけ」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 これは、一成なりの気遣いでもあるのだろう。不器用だとは思うが、その点では俺も同じ穴の狢である。きちんとした注意として素直に受け取っておく。

 

「じゃ、例の備品の点検を済ませたら帰るよ。一成はどうする?」

 

「うむ、俺はまだ生徒会の仕事があるのでな。恐らく6時頃までは帰れないだろう」

 

 大変だな、と思う。なにかと騒がしい人物の多いこの学校。一成は生徒会長という立場上、相性が悪くても相手にしなくてはならない者たちがたくさんいるのだ。最近は目に余る行動を続けたどこぞの部活の部長を解任したとかなんとか、そんな話も聞く。

 

 そういえば、と気になっていた事を思い出した。

 

「なぁ、最近慎二が休んでるけど何かあったのか?」

 

「む、そうだな。俺はあまり聞いていない。妹の方の間桐に聞いた方が良いのではないか?」

 

「それもそうだな。今度弓道部で会ったらそれとなく聞いてみるよ」

 

 それじゃ、と備品のある場所へ足を向け歩き始める。今日の晩御飯は何にするかをつらつらと考えて、後ろから聞こえる一成の声に意識を取り戻した。

 

「ああそうだ! 衛宮! 最近は不審者の情報も出ている。気をつけて帰れよ!」

 

「そっちも気をつけてな」

 

 後ろを見ずに手を振る。今度こそ、振り返る事はなかった。

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

 夕方、点検を終え帰路についた時の事である。士郎は唐突に非日常と対面していた。

 

「─────ふぅん? 結局呼び出さなかったんだ」

 

──────ねぇ、お兄ちゃん?

 

 言うなれば直感。衛宮士郎の優れた探知能力が嗅ぎとったのは、異界と化した周囲の気配と、一人のニンゲンの反応。

 

 振り向いた先には、魔性のモノが。

 

 雪を彷彿とさせる少女が士郎をこの場に縫い止めた。

 

 異変を感じたのはつい先ほど。道路上のある空間に足を踏み入れた瞬間である。

 

 あまりにも人が少ない。現在位置は住宅街からそこまで離れていない路地。この時間帯ならば、まだ下校中の学生や帰宅中の社会人もいる筈だ。だというのに。

 

 ここ周辺には全く人の気配がない(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 眼前には白い少女。先日こちらに声を掛けてきた人物である。出会ったのはこれが二度目。未だ正体の知れぬ怪人物を視界に収め、無表情で問い掛ける。

 

「君はその、この間より前に俺と会ったことがあるのか?」

 

「ふふっ、答えは『NO』よ。貴方と私はこの前初めて知り合ったわ」

 

 この空間の異常はとりあえず置いておくべきだろう。寧ろ気に掛けるべきは目の前の少女。異常の発生源と思われる魔術師(・・・)である。

 

 思考が加速する。

 

「どうしたの? お人形さんみたいに固まっちゃって。折角お兄ちゃんに会えるからオシャレだってしてみたのに、それじゃあレディをエスコートする時にガッカリされちゃうわ?」

 

 紅い瞳を細め、少女はさも可笑しそうに、嘲る様に言葉を紡いだ。そこに映るのは、ただひたすらに磨き上げられた憎悪だ。思わず、手を握りしめた。

 

「そうか」

 

 それを確かめるための前口上は無い。それは無駄だ(・・・)。何の意味もない。己を憎む相手にペラペラと話し掛けたところで、それは憎悪を助長するだけだ。予測できない事態は起こすべきではない。

 

 なにより、背後の怪物から目を逸らせば数瞬で死ぬ自信があった。

 

 無表情のまま佇むこちらの様子に何を思ったのか、少女はどこか歪んだ印象を受ける笑みをこぼした。

 

「─────へぇ、分かるんだ。ちょっと興味が湧いてきたわ。でも、駄目ね。お兄ちゃんは私の仇敵みたいなものだもん。さっさと殺さなくちゃ(・・・・・・・・・・)、ね?」

 

──────豪ッッッ!!!!

 

 少女の背後、何者かの重圧が溢れてくる。空間が軋み、豪風が道路のコンクリートを根こそぎ剥がし尽くす。

 

「──────やっちゃえ、バーサーカー!」

 

「────■■■■■■■■■■ッッッ!!!!」

 

 黒い絶望が顕現し───────────

────────士郎はパチリと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

─────条件を構築します。

 

───最終目標を衛宮士郎の生存に決定。

 

────敵性反応2体。それぞれを仮称α、βとして再認識。警戒レベルを4に引き上げます。

 

─────βから強力な神秘反応を検知。最低でも星に属する上位の精霊級と仮定。

 

──────全魔術回路の使用許可申請、却下。限定行使13本使用許可申請、承認。

 

────固有結界『■■■■』使用許可申請、却下。限定使用許可申請、承認。

 

──────α、β間に於ける魔術的ラインの存在を確認。逆算探知開始、終了。大本となる『器』とその派生である『刻印』に依存する主従契約と認識。

 

─────αの肉体から術式を検知。αその物が人間大の魔術的礼装と認識。αの危険性を『無尽蔵の魔力生産装置』であると仮定します。

 

───────警戒レベルを5に引き上げます。

 

───βの霊基がαの魔術回路に依存することを認識。

 

──αを排除することでβの霊基を破損可能と推測。

 

───────最短生存確定条件はαの撃破です。

 

────撃破対象をαに決定します。

 

──────戦闘準備開始。思考加速、並列思考展開、魔術回路13本励起、全身に強化魔術を行使、固有結界『■■■■』より防護結界を構築、戦闘シミュレーションを開始、終了。

 

─────全工程、終了。

 

────これより戦闘行動に移行します。

 

「────遮断(interception)開始(starting)

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

──────必滅の一矢が迫る。

 

 顕れた黒き巨人がつがえた大矢が岩弓から射ち放たれた。音速の三倍を超える速度で飛来する矢は士郎の頭蓋を捉えんと空を裂き、そして弾かれた(・・・・)

 

「─────え?」

 

─────ドォォォオオオッッッンッッ!!!!

 

 至近距離でミサイルが着弾した様な衝撃と轟く爆音が周囲に致命的な被害をもたらす。辺りは土煙が立ち込め、一寸先も見えやしない。

 

 ふと、巨人が次の矢をつがえた。

 

「─────シッ」

 

 声と共に少女へと迫る複数の黄矢。

 

 魔力で形成されたそれは、物体を貫徹することに関して無類の力を持つ、士郎の札の一つである。もしも少女が矢に当たれば、何の抵抗もなくその華奢な体を貫通するだろう。

 

「■■■■■ッ」

 

──────正確無比な豪矢が、黄矢を弾かなければの話だが。

 

 一片の理性すら感じられぬ巨人は、その狂気とは全く不釣り合いな精密過ぎる射撃で全ての黄矢を弾き飛ばした。

 

 土煙が晴れ、士郎の姿が明らかとなる。

 

「──────射抜く」

 

 既に矢はつがえられていた。しかし、ただ射つのでは巨人、バーサーカーに防がれる事は明白である。ではどうするか、答えは単純である。どうあっても防げないようにすればいい(・・・・・・・・・・・・)

 

──────それは『柱』だった。

 

 分厚く、大雑把で、且つ大きい。直径にして60cm、全長2m30cm、重量20t(・・・)。底にある突起物で掴める様にしただけのそれは、しかしながら紛れもなく『矢』である。両の手にも余る柱を強引に矢とし、巨大化させた弓につがえさせる。

 

 あまりにも歪な光景に、少女は目を見張った。

 

「削ぎ穿て、断絶の巨矢」

 

───────ガォォオオオオンッッッ!!!

 

 空間が爆ぜるが如き轟音。否、削り抜いているのだ。空間その物を(・・・・・・)

 

 あまりの衝撃に思わず見開いた目を閉じてしまう。このままではあの柱に擂り潰されて──────。

 

「■■■■■■■!!!!!!!」

 

───────しまう訳がない。

 

 侮るなかれ。此所に在るは古今無双、万夫不当の大英雄。ギリシャ神話最強の一角を担う不死身の戦士ヘラクレス!

 

 獅子王を絞め殺し、水蛇を撲殺し、果てには神々の難行を十と二つ粉砕した。その偉業は、全ての神話でもってしても肩を並べるものは無いと憚ることなく口にされる、文字通りの最強。

 

「─────っ!」

 

─────────鷲掴み。

 

 天地を支える怪力が、超重量を握り潰した。

 

遮断開始(Interception starting)

 

 詠唱を紡ぎ、自我の奥底まで埋没する。巨人は既に握り潰した矢を弓につがえていた。コンマ一秒の猶予もなく、変形した巨矢が射ち放たれる。回避は不可能、防御はそれごと擂り潰される筈だ。その様に造ったのだから。

 

 鋼の閃光が迫る。埋没した意識と無意識が入れ替わるその前に、あの矢は己を射抜くだろう。しかし、しかしだ。その程度を、この俺が想定していないとでも?

 

───────境界結界、限定展開。

 

「ォオッ!」

 

 両の拳を中心に結界を構築。巨人の放った豪矢を真正面から殴り返す!

 

──────ドグシャァッッッ!!!

 

 金属が潰れ、異音が鳴り響く。振りかぶった拳は、何の抵抗もなく金属塊を押し潰した。

 

「──────■■■…………」

 

 獣が唸るような、そんな声が巨人の口から漏れ出た。

 魔力で構築した弓は既に破棄している。いざという時に回避行動を取り難いからだ。しかし、問題はそこから先である。他の武器を構築することが、出来ない。隙が無いのだ。アレ程の化け物だ、こちらが武器を準備する時間など寄越してはくれないだろう。

 

 つまり、俺はこの五体と魔術のみであの巨人と相対する他ない、ということ。

 

「ふわぁ、お兄ちゃん凄いのね。人の身にしては随分すばしっこいし、それに堅いわ。まさかバーサーカーの攻撃に耐えて、あまつさえ反撃までしてくるなんて」

 

「──────フゥッ、フ、くそっ」

 

 見据える先は絶望。白い少女の囀りなど耳に入らない。その音を認識する一瞬でも意識を逸らせば、巨人に撃ち抜かれるのは明白故に。

 

 生き残るには、巨人の動きを妨げなければならない。どうすれば奴の行動を制限できるか、そんなことは分かりきったことだ。

 

 じくり、と巨矢を粉砕した手の甲が痛む。意識の外、弓を放り捨てた狂戦士もまた拳を握った。

 

 拳を握りしめる。一点だ、奴にとって最重要の一点を貫く。

 

「─────往くぞ」

 

「■■■■■ッッッッッッ!!!!」

 

 振りかぶった拳は、白い少女を打ち抜かんと迫り──────。

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

「─────驚いちゃったわ。まさかバーサーカーの行動を制御して逃げきるなんて」

 

 狂戦士が、少女の仇敵を討つことはなかった。否、出来なかった。

 

「私を狙うと見せかけて、そのまま逃走する。ありがちだけど、これ以上にない位効果的」

 

 サーヴァントは、召喚者(マスター)に依存する。ならば、そのマスターを排除することこそ勝利への最善手である。どこまでも冷徹に、彼は己の生存のために人殺しを選んだ。無論、それは彼女が従える狂戦士に防がれたが、結果としてバーサーカーはそれ以上の行動に移ることが出来なかった。それこそが、どこか空虚な少年の狙いであったのだ。

 

 そこに、少女は記録の中の誰かを垣間見てしまった。完全に反対方向の行動理念であるはずなのに。その行動、その心の迷いと冷徹に少女はくしゃりと喉を押さえた。

 

 あぁ、悪夢の弾痕が疼く。

 

─────ホント、憎たらしいわ。

 

 苦虫を噛み潰した様に、泣きそうで、そしてとても嬉しそうに。少女は父の面影を少年に追ってしまった。後悔か、羨望か、嫉妬か、或いは歓喜か。

 

 曇天の空の下、答え合わせはまだ来ない。それは祝福の様に。

 

「──────フフ、昼は晴れだったのに。この国の天気予報とやら、見ておくべきだったかしら?」

 

 少女の足下に、はらりと水滴が零れ落ちた。







 いや、まあ、その。(言い訳)

Q.エミヤ兄貴の本題じゃねぇじゃねぇか!ふざけんな眼鏡!ぶっ○すぞ!!

A.こうなったのは私の責任だ。だが私は謝らない。(思ったよりエミヤ兄貴のせいでネタバレが酷くなったので已む無くカット致しました。期待されていた方、申し訳御座いませんでした。)

Q.え、これホントに士郎君? というかケリィが二年も早く他界してるんですがこれは………

A.士郎君は色々と最初の地獄でやらかしたせいで原作よりもさらに人間性が破綻しています(=能力及び固有結界の変質)。また、切嗣が原作より早く他界した影響で、月下の誓いが変質しました。それによって士郎君の夢、というか理想はまたおかしな事になっています。正義の味方? 何のこったよ(タイトル回収)

Q.イリヤちゃんが原作より拗らせてそうなんですが………

A.気にするな!(魔王)

Q.もしやマスター組もインフレしてんの?

A.そうだね。プロテインだね。ほぼ全員インフレしてるね。(マジキチ笑顔)

Q.そういや学校のアーチャーvsランサーはどうなった?

A.そもそも遭遇すらしてません。というのも、まずライダーが魔力不足じゃないので学校に結界が配置されていない+ランサーのマスターがことみーじゃないので偵察が疎らだったという要素があります。結果として第一回衛宮士郎ハートブレイクイベントは無くなりました。

Q.ヘラクレスの弓って?

A.ああ!(原作では神殿の柱を削って作った斧剣でしたが、そっくりそのまま削って作ったのが弓ってことになってます。要は原作で斧剣になるはずだった柱をそのまま弓に加工したということです。)





Q.つーかもう少し投稿早めろタコが

A.許してください! 何でもするとは言わないけど!


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二次創作のワカメはイケメンとかいう風潮


────一理ある。



 

 

────別に完全な善意だった訳じゃないんだ。

 

 純粋に、少女の救いを願ってこんなことをした訳じゃない。そう、血を吐きながらも叔父は言った。蟲に歪められた酷い顔を後悔に滲ませて。もはや数分で死に至る、そんなザマで息も絶え絶えに。

 

「あぁ、あの子の笑顔が見たかっただけなのに、何時からこんなに歪んでしまったんだろうね」

 

 死にかけで、声を出すのも辛いだろうに、叔父は言葉を紡ぎ続ける。もう、哀れを通り越して惨いとすら感じる有り様だった。

 

 だけどそのザマを見てこう思って、こう言った。

 

「だけど叔父さんは最後の最期で桜の幸せを願ってくれたじゃないか」

 

 あぁ、そうだったね。叔父は救われた様に呟き、涙一粒と共に事切れた。その血と肉と骨が目の前で貪られて逝くのを、涙一粒と共に見送った。

 

─────なぁ、慎二。お前の名前はな………。

 

 アルコール中毒で肝臓を壊した、末期の父がそう言った。初めて、僕の名前の由来、僕に兄が居たことを知った。痩せ細った体の酒臭い口から紡がれたのは、ある男の悲愛の話。唯一、愛した女と息子を奪われた、哀れな男の話だった。

 

 語られたのはマキリではなく間桐の当主が代々務める儀式であり、呪い。蟲毒の壺を浄め祓う責任。

 

「だから、その、なんだ。お前の妹、ちゃんと守ってやれよ」

 

 桜を、最期まで自分の養女だと認めなかった父。その意味は、この血塗られた間桐の役目を幼い少女に押し付けないためだった。

 

 命を壊されるより、心を壊される方がまだマシだ。だって心には何度でも火が灯るのだから、と。

 

 何時からか化け物となってしまった蟲の翁を冬木に封じ込める為の人柱。アレを冬木の外に解き放つ訳にはいかん、そう呟いて父は暗い蟲蔵に消えた。

 

「あぁ、なんたってこの僕の妹だからな。仕方ないから守ってやるさ」

 

 見えなくなった背中に、そう吐き捨てた。笑った顔なんて見たことがなかったのに、自然とその表情が脳裏に浮かんだ。

 

─────兄さんが一緒なら、地獄に落ちたっていいんです。

 

 藤色の長い髪をたなびかせて、そう儚げに独白した少女がいた。そのザマがあまりにも痛々しくて、馬鹿なことを言うな、と頭を小突き、そしてこう言った。

 

「いいか、人間ってのは何時か独立するもんだ。何時までも僕がお前を守ると思うなよ」

 

 吐き捨てる様に呟いた。角が立つ言い方なのは自覚しているが、この位言わなければ、妙な所で頑固な妹は噛みついてくるだろうから。

 

「………はい。だけど、私は兄さんの事が───」

 

「それ以上言うなよ。桜、お前も戻れなくなるぞ」

 

 覚悟の上だ、と妹は言った。愛しているから、と。僕はそれを許さなかった。誰が近い内に死ぬ男を愛せというか。

 

 欠けた左腕に寄り添う様に垂れ掛かった妹は、壊れたビデオみたいにそれでも、それでも、と繰り返した。

 

─────貴方は、まるでペルセウスのようです。男前は随分と違いますが。

 

 長年の友であるかの様に、神話の女怪は呟いた。見た目もそうだが、その性質に至るまで瓜二つだと。

 

「知ったことか。僕は僕だ。そんな顔も知らない鈍物なんかと比べて欲しいなんて言った覚えはないけど?」

 

 そういう妙にプライド高いところが似てるんですよ。そう言って、懐かしそうに口許を弛めた事に少しムカついた。

 

「あのさぁ、桜と僕はそんな下らない虚言を交わすためにお前を呼んだんじゃないんだよ。これ以上バカみたいな戯れ言を垂れ流すんなら、その首を切り落としてもいいんだぜ?」

 

 右手の鎌をちらつかせる様にして凄んでみせて、しかし騎乗兵(ライダー)を拝命したサーヴァントは薄い笑みをこぼすばかり。溜め息を吐いて項垂れた。

 

─────お前には期待しているぞ、慎二よ。

 

 薄暗い闇の中、五百年の妄執が蟲のカタチに収まったモノの声が響く。胸の内に嫌悪と憐れみの情が湧いた。薄らとこの世から消え去った左腕が疼く。

 

 父から託された歴代間桐家当主の手記。数にして千冊はくだらない記録群には、マキリから間桐への変遷を始めとした、歴代当主が綴った間桐の役目と、蟲の翁の半生が描かれていた。

 

「あぁ、精々期待して待ってるといいさ。お祖父様?」

 

 皮肉も込めて、そう言った。だけど、それ以上に憐れみも込めて。

 

 左腕の骨肉と、とある聖遺物を加工して造られた大鎌を残った右手で握り、自問する。果たして僕は、あの憐れな妹と翁を救う事は出来るのか、と。

 

 愚問だった。元より間桐、もといマキリの血筋は諦めが悪いし、不器用だ。己が決めた道、こうと定めた思想をそう易々と曲げることはない。ならば、この命を擲ってでも、僕はこの愚かな一族を救い、そして終わらせる。

 

 それはとても傲慢で、上から目線で、この道を進む他にないと確信した。

 

 あぁ、だけど。

 

「────あいつには、桜にだけは、どうか光を見せてやって下さい」

 

 別段信じてもいない神に祈る。

 

 らしくない、本当にらしくない事だった。

 

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

─────よお、衛宮。

 

「邪魔してるよ」

 

「─────慎二?」

 

 黒い絶望をやり過ごし、なんとか家へ帰ってきた士郎は、居間に陣取る来客に驚いた。

 

 間桐慎二。互いが互いを相棒と称して憚らない、親友にして悪友である。椅子に座ってふんぞり返る様は中々似合っていて、ゆったりとした着物を着てこちらを見上げている。

 

「こんな時間にどうしたんだ? いや、それ以前にどうやって家の中に入ったんだよ」

 

「ん? どうやってといったらタイガーに頼んで鍵を貸してもらったんだよ」

 

「─────勘弁してくれよ藤ねえ………」

 

 半ば不法侵入だが、この家の住人と言っても過言ではない存在から許可を貰っている以上見逃す他無い。全く質の悪い男である。

 

「そういえば、最近休みがちだったじゃないか。今見た限りじゃ体調を崩してる訳じゃないみたいだし、何があったんだ?」

 

「まあまあ、僕の事なんて今はどうでもいいだろ? それよりも、来客が来てるんだ。相応のもてなしってのがあるんじゃないかな?」

 

「あぁもう、分かった分かった。とりあえずコーヒーでも淹れてやるから、ちょっと待ってろ」

 

 全く仕方がない、とインスタントコーヒーの袋を取り出して、電気ポットで水を暖める。自然と溜め息が漏れた。

 

 その様子を楽しむ様にこちらをせせら笑っていた慎二が、見計らった様に話し掛けてきたのはその直後である。唐突に、寒気のする程真面目な顔で、彼は言った。

 

「そうそう、衛宮はどうするのさ?」

 

「どうって、何の話だよ」

 

「決まってるさ。あのバケモノの対処だよ。このままだとまた襲ってきて、叩き潰されてスプラッタなミンチになるのは目に見えてる。そうだろ?」

 

 ピタリ、コーヒーを準備する手が止まった。

 

 慎二は大したことじゃない、と言わんばかりにパタパタと着物の袖を揺らす。

 

「────見てたのか?」

 

「そうだねぇ。覗き見ってのは趣味じゃないけど、そういう事になるのかな? いやいや、驚いたよ。衛宮があんな人外染みた動き方するなんて考えてもみなかったからさあ!」

 

 大袈裟に右腕を振り上げて、役者の様に声を張り上げる。なんとも胡散臭いが、しかしどうにも様になっていた。

 

「それで?」

 

「あぁ、ごめんごめん。で、何だっけ? そうだ、あの筋肉達磨の処理についてなんだけどさぁ」

 

─────協力しようじゃあないか、相棒殿?

 

「あぁ、分かった。じゃあ現在の状況と情報を教えてくれないか」

 

「ヒュウ! 相変わらずクールだねぇ、衛宮はさあ! 普通ならもっと、こう、『どうしてそれを!?』とか反応する所じゃないかい? 即断即決はいいけどさぁ、もっと狼狽えてくれたりした方が────」

 

「────慎二」

 

「オーケー相棒。ここからは真面目にいこう」

 

 一昔前のコントみたいなやりとり。少しばかり辟易するが、そんなことはどうでもいい。今は戦力と状況の確認が先決である。

 

「というか相棒、その『僕が絶対に裏切らない』的な信頼は何なのさ。今さらだけど」

 

「今は何より情報が足りない。俺が巻き込まれた、というより狙われたのは、俺の関係者が遺した因縁とみて間違いないだろうが、それよりも先にあの巨人が何者なのかが気になる。恐らくは『器』とやらがこの冬木に存在するのが原因だろうが、逆算が不十分で事態の委細は把握出来ていない。それらを踏まえた上で聞くぞ。このタイミングで俺に協力を申し出た、現状を理解しているらしき唯一の存在から情報を引き出さずして、どうやってこの異常を生き残るんだ? つまりお前の提案は、こっちからしてみれば願ったり叶ったりのソレな訳だ」

 

「おぉう、見事な説明有り難う。要は僕の思い違いか。相変わらず合理性の具現みたいな奴だな。恐ろしいったらありゃしない」

 

 好きに言えばいい。元よりこの身、この魂はその体現として産まれ出でたのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「さて、それじゃあいい加減今回の本題に移ろうか」

 

「聞こう」

 

 語られたのは我欲の闘争。万能の杯を求めし者たちによる代理戦争の実態であった。そして、慎二はその元凶の末の一人であるということ。

 

 始まりの御三家。遠坂、アインツベルン、そしてマキリ。彼らによって構築された術式は『大聖杯』と呼称され、現在も冬木市内の何処かに設置されているという。

 

「『聖杯戦争』。あらゆる願いを成就させるという杯の奪い合い。呼び出された七騎の英雄たちによる代理戦争。つまりは、あの巨人も呼び出されたサーヴァントだったってことか。よくもまあ、コレほどの大儀式を造り上げたものだな。軽く見積もっても魔法クラスのモノじゃないか?」

 

「そうだねぇ確かに、大聖杯の術式はほぼ神代の魔術、魔法と遜色ないと思うよ」

 

 紛れもなく神代の魔術、現代の魔法に匹敵する大儀礼。それを、あろうことかたかが三家の魔術一派が造り上げた(・・・・・・・・・・・・・・・・)のである。

 

「む、そういえば御三家って言ったか? 遠坂と言えば、あの?」

 

「あぁ、そうだね。彼女が魔術師ってことは知ってたのかい?」

 

「知ってる。魔術回路に使用した魔力の痕跡が残留してた」

 

「うへぇ、解析魔術にしても精度高すぎだろ。もしかして衛宮って特化型の魔術師だったり?」

 

「生憎とそういった事情には疎いんだ。だからよく分からない」

 

「ふーん、衛宮は家を継ぐとかそういったのには関係なかったり?」

 

「そもそも、俺は誰かに魔術を習ったこともなければ、なにかしらの後継証明など受け取った記憶もない。養父にその様な存在が居ることと、それらの基本的な知識を授けられた程度だ」

 

「──────完全な無意識下での自動魔術行使、一工程(シングルアクション)に見合わない効力、それらを制御する演算能力、か。起源覚醒者、或いは起源という概念の体現。驚いたな、現代に在って神代を維持、体現するほどの怪物がこの世に居たとはねぇ」

 

「聞き慣れない単語だけど、なるほど、起源覚醒者か。しっくりくる。確かに、俺はそういったモノの具現だからな。俺の魂、正確には人間のソレですらないんだろうよ」

 

「相棒、話が重すぎるよ」

 

「戯け、お前が振ったんだろうがこの話題」

 

 尤も、肉の器と結んだ縁故にこんな下らない会話が可能な位は人間性を保持出来ているが。口に出さずに思う。

 

「おっと、話を戻そうか」

 

「…………」

 

「そんな怖い顔をしないでくれよ衛宮。いや、大丈夫だから! 今度は真面目にやるから!」

 

「だったら言い訳を垂れ流すな。さっさと情報を寄越せ」

 

「はいよ。『聖杯戦争』の概要は分かったな? じゃあ、その裏側についても話していこう」

 

 ニタリ、といかにも悪人がするような凶相を浮かべた慎二は、さも滑稽だと言わんばかりに続ける。

 

「相棒、疑問には思わなかったか? 『何で聖杯を御三家で独占しなかったのか』ってことにさぁ」

 

「そうだな。ソレこそが最大の疑問だ。儀式の体はなっている。ならば独占主義の魔術師たちがソレを外に広める訳がない。何故、彼らは外部の魔術師たちを呼び込んだのか」

 

「答えは簡単、数が必要だった(・・・・・・・)。これに尽きるね。『聖杯』が、かの有名な十字教の聖遺物でないのは、その形をしているだけの術式をそう呼称しているだけってことから丸分かりだろうけど、そもそもどうして聖杯が願いを叶える願望器になるんだい?」

 

 そうだ。全ての魔術師が追い求める『万物万象の根源』に到るための手段として『聖杯』を作製したなら筋は通る。何らかの理由で数を集めなければならないのも、少し引っ掛かるが、理解の範囲内と言えよう。だがしかし、それならば何故、魔術師である彼らは『根源に至る杯』ではなく『万能の願望器』と称した?

 

「成就のための燃料は? よしんば叶えたとして、その基準点は? そもそも、そんな魔術としては大それたモノが本当に実在するのか? 願望器として売り込むのはいいけど、あまりにも情報が欠落している。まるで────」

 

気づかれてはならない所が存在するみたいに(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

──────さて相棒?

 

「喉が渇いたからさっさとコーヒーを淹れてくれない? 続きはその後ね」

 

「了解した。地獄に落ちろ親友」

 

 とことん大事なところを台無しにするのが得意な男である。士郎は苦笑しつつ止めていた手を動かした。











 前書きでタイトルを回収していくスタイル。だが私は謝らない。

 ぶっちゃけ長すぎたんで切りの良いところで本題は次回に持ち越しです。(デジャビュ)

Q.このワカメ………ワカメ?

A.今作のイケメン&士郎君のアドバイザー(原作だと凛ちゃん)&HF士郎ポジです。深くは語らんよ。最重要キャラの一角なのは確かですけども。

Q.士郎君、起源覚醒者なん?

A.せやで。もっと言っちゃうと魂の形が起源という概念そのものになりかけてます。流石に起源のネタバレはまだしないですが。

Q.ワカメ、片腕無いやん! というか余命宣告みたいなのとか左腕をもいで武器に加工って…………(戦慄)

A.HF士郎ポジなんで、今作に於いて一二を争う苦労キャラになっちゃいました。それに隻腕キャラは強いって言うので。テヘペロ☆

Q.ワカメの鎌って?

A.ああ!(ネタバレだからまだ言えないのよ。すまない…………、本当にすまない。)

Q.士郎君の人格ってアーチャー兄貴混ざってない?

A.単純に精神が成長したからですね。原作だと人間になりたいロボットでしたが、今作の士郎君は、災害後も一応人間のまま『だった』ので。

Q.桜ちゃんワカメのことが好きなん? 士郎君やなくて?

A.せやで。ワカメとその叔父、ワカメ父がイケメンになったせいです。士郎君は親切な料理を教えてくれる先輩という程度しか関係性はないです。逆もまた然り。

Q.間桐家の改変やりすぎじゃね?

A.どうしてもやりたかった。後悔も反省もしていない。

 その他疑問とかいっぱいあるとは思いますが、後書きで触れるのはこの程度です。たぶん伏線として回収されるからここで解説しなくてもええやろ。(慢心)





Q.ゴールデンウィークなのに一つ二つしか更新してないやんけ! ふざけんな眼鏡! ぶっ○すぞ!

A.許して! †悔い改める†から!


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大胆な告白は乙女の特権

 

 淹れ方に多少苦心した甲斐もあり、市販のインスタントにしては芳醇なコーヒーの香りが鼻をつく。

 

 ふと慎二の方を覗いてみると、静かに香りを楽しんでいるのか、涼やかな笑みと優雅な所作が目に入った。普段がアレでも良家の出身というだけはあるのだろう。まぁ、生憎そういった目利きではない故に雰囲気から判断しているに過ぎないが。

 

「────慎二、そろそろ話してくれても良いんじゃないか?」

 

「ふむ、あんまり待たせ過ぎても礼に欠けるってもんだ。じゃ、本題に入ろうか」

 

 チラリ、雨の降り始めた暗い外を見つめる。名残惜しげに、しかし一切の躊躇なくコーヒーを飲み干した慎二がゆっくりと視線をこちらに合わせた。

 

「さて、何処から話したものかな………」

 

──────そう、『聖杯戦争』ってのはそもそも世界に孔を開けるための儀式だ。

 

「呼び出したモノを還す、言ってしまえばそれだけで事足りる程度のソレなんだよ。願いを叶えるのは事実だけど、それは副産物でしかないのさ」

 

「────それはまた、不合理だな」

 

 最初から『孔』を開けるのが目的なら、他にもこれより効率的な方法などいくらでもあるだろうに、とは思ったが、よくよく考えれば『世界に孔を開ける』なんて大それたことをしでかせば世界が黙っている筈もない。自然、世界にとって正常な孔の開け方(・・・・・・・・・・・・・・)でなければ、修正力が猛威を振るうだけで終わる、ということだ。この儀式を造り上げた御三家としては、中々苦肉の策だったのかもしれない。

 

「うん、僕もそう思う。だけど、そんな不合理でこそ世界は黙認してくれる訳だ。いやまぁ、聖杯戦争のシステムを造った御三家の事情もあるんだけど、それは一旦置いておこう」

 

 苦い顔を浮かべる慎二。なにやら彼にとって気に入らない事でもあるのだろうか。

 

「重要なのは降霊した存在を返還するって事だ。勿論、英霊そのものは聖杯(ハード)のスペックが足らないからコピーペーストを匣に押し込めて無理矢理顕現させてるって形だけどね」

 

「あぁ、ソレについては把握している。あの巨人が真の意味で全力なら、俺は奴の行動を認識する間もなく挽き肉にされるだろうからな」

 

 そもそも、バーサーカーを出し抜けたのも、白い少女という足手まといがいたからに過ぎない。加え、その手綱を握る少女自身が『何かを躊躇していた』事も大きな要因だろう。

 

「そうかい。で、まぁ、ここで注視すべきは『世界』に『孔』を開けるってこと」

 

「ふむ、『世界の外』には何が在るんだろうな?」

 

「ハァ、僕が言わなくても半ば理解してるだろ相棒………」

 

「いやいや、俺の事は気にせず続けていいんだぞ?」

 

「はいよ………」

 

 世界の外。幕引きされた神代の残りカスが漂流する他、世界にとって重要な情報を記録する『座』や一部の幻想種たちがたゆたう何処でもない何処かである。そこには当然、魔術師が探し求める『根源の渦』とやらが存在しているのである。

 

 聖杯戦争とは、サーヴァントを還す際に開かれる世界の孔から漏れだした渦を観測する儀式を指し、そのための燃料が英霊の持つ膨大な魔力というわけだ。

 

「─────で、今回の聖杯戦争(コレ)。面倒な事が起きてるんだよね」

 

「面倒な事、というと?」

 

「その前に相棒、この冬木の地を観測、解析したことはあるかい? あぁ勿論、魔術的な意味でね」

 

 覚えがあった、どころか今の今まで、あの災害から十年間ずっと感じていた代物。忘れもしない、養父の生命を僅か2年で奪い去ったあの泥だ。

 

「──────呪詛としての側面を持つ強力極まりない悪性汚泥か」

 

「察しがいいね。いや、どうあっても視えてしまうのかな。冬木には随分泥が染み込んでいるからね。いや、その通りだ。アレの発生源が何か、調べたことは?」

 

「できる限りの解析はしたが、無理だった。恐らく、慎二の言う発生源側からプロテクトが掛けられてる」

 

「ま、そうだろう。アレは完全な黒か白でなきゃ通してはくれないだろうからねぇ」

 

 なるほど、ならば俺では観測出来ない筈だ。この身は人間の雄とはいえ、魂は境界線上(ボーダーライン)に固着してしまっているのだから。

 

「もうお察しだとは思うけどね。十年前の災害は、聖杯が………いや、聖杯戦争が引き起こしたモノだ」

 

「─────そうか」

 

 淡白な反応だ。無表情で、なんの感情も見えない無機質な琥珀の瞳がそこにある。慎二は彼の養父を奪った凶事の真実を語りながらも、違和感が頭にこびりつくのを認識した。これが起源覚醒者とやらか、と。

 

「簡潔に言えば、もし今回の聖杯戦争が完遂されたのなら、日本はおろか世界が滅ぶ。前回、十年前は運が良かったに過ぎない」

 

「ソレ程か。いよいよもって見逃す訳にはいかなくなったな」

 

「あぁ、そうだね。こちとら可愛い妹が家で待ってるんだ。こんな下らない事なんざさっさと粉砕して帰らなきゃねぇ」

 

「ふむ、やはりシスコンか」

 

「なんもかんも妹が可愛いのが悪い。むしろグッド。やっぱ僕の妹は最高だな!」

 

「桜のことは別に尋ねてもいないが?」

 

「んだとコラ!? うちの桜が可愛くないだと!? ぶっ殺すぞ衛宮ァッ!」

 

「いや、そんなこと一言も言ってないから。ほら、早く続きを話したらいいんじゃないか?」

 

「お前後で覚えとけよ………。ん、というか話題振ったの衛宮じゃん。何乗せられてんだよ僕………」

 

 焼き増しのような会話。苦笑を漏らし慎二を見据える。さて、いったいいつまでこんな取るに足らないやりとりが出来るやら。

 

「はぁ、いい加減元凶を教えよう。大体七十年前の第三次聖杯戦争、その時にアインツベルンが召喚したのが、イレギュラークラスのサーヴァント。アヴェンジャー『アンリ・マユ』だ。勿論、本物のゾロアスターの悪神じゃあない。聖杯に神霊を召喚するほどのスペックはないからね。顕れたのは、役目を背負わされただけの人間だったそうだよ。当然、ただの生け贄が通常のサーヴァントより強い訳がない。真っ先に脱落して、その姿を消した」

 

「─────あぁなるほど、汚染されたか」

 

「その通り。ただ『そうであれ』と願われた人々の思いの結晶であるアンリ・マユは『無色の願望器』を真っ黒に染め上げた。結果として、聖杯はヒトの悪性を具現するかの如く叶えるべき願いを歪める様になってしまったのさ」

 

「フン、自業自得か。下らないな」

 

「ホントそれ。目も当てられないよね」

 

 ニタリ。

 

 気に入らないと二人揃って嘲笑い、示し合わせた様に彼らは──────

 

「「ぶち壊す、か………ッ!」」

 

──────そう、宣戦布告をかました。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 あぁ、あぁ、あぁ。

 

 傍らに佇む巨人に凭れ掛かり、冷たい雨が(からだ)を打ち付けるのも厭わずに、半人形の人間は体を抱き締めた。

 

 いまや燃え盛る憎悪は消えかけだ。先程の交戦以来、イリヤスフィールは父によく似た赤毛の少年に頭の中を掻き乱されていた。そのせいか、今まで抑え込んでいた症状が悪化の一途を辿る。

 

 イリヤスフィールにとって認めがたい事実が、甘い毒の様に心へ染み込む。まるで凌辱されるようだ。私の意思は関係なく、魂が訴えるのだ。対峙していた時は夢中で気づかなかった。だけど、思い返せばますます確信せざるを得ない。

 

 私は、イリヤスフィールは、彼が好きなのだと。

 

 逃避、かもしれない。薄れ行く己が、すがり付く対象としているだけかもしれない。だけど、だけど、だけど─────私は、彼が大好きだ。

 

「─────私は誰? お母様(アイリスフィール)? 歴代の小聖杯(ホムンクルス)(ユスティーツァ)? それとも………」

 

 惑う、惑う、惑う。私は誰だ? 誰なのだ!?

 

 混ざり、交ざり、雑ざり。白い乙女(イリヤスフィール)が消えていく。否、同化していく。

 

 誰でもないナニかとして成立していく。それでも尚、決して薄れぬ妄執(おもい)がある。だがしかし、ソレこそ一体誰の(おもい)というのだ?

 

─────生きたかったッ!生きて、世界を見たかったッ!

 

─────イヤだッ! ワタシはまだ何も成していないッ!

 

─────まだだッ! まだ負けてないッ!

 

 複数の声がする。皆同じ様なソプラノボイスだが、そこには確かに、確固たる意思が、個性があった。

 

 あぁ、あぁ、あぁ、あぁ。溶けて、解けて、熔けて、融けて。私が私でなくなっていく。

 

─────愛しているわ、■■(切嗣)■■■(イリヤ)………。

 

 母の声、無償の愛を体現する優しい声だ。だけど、それも今は自身を塗り潰す絶対的な害悪としてそこにある。

 

 その中に、自己の肯定はやはり無い。ただ、想いだけが(ココロ)を縫い付ける。

 

 どうして、私は。

 

─────あぁ、一目惚れなの………。

 

 まだ、私を諦められないの………?

 

─────私の、弟………。

 

 答え合わせは、一体何時(いつ)

 

─────名前も知らない貴方………。

 

 あぁ、なんて醜いの。こんな混ざり物じゃ、あの人に嫌われちゃう。

 

 ……………ャだ、イヤだ、イヤだッ、イヤだッッッ!!

 

 認めない。ワタシ以外が彼を。そんなのは認められない。

 

 重なった父の面影。あぁ、これは不要だ。あの人をキチンと見るんだから、余計なフィルターなど無粋極まりない。ついでに父との想い出も消しておこう。彼を想いきるには邪魔そのものだ。

 

 混ざった母の清らかな想い。これもいらない。邪魔だ。私が持つべきはただ一つ。彼への想いだけ。ソレ以外の不純物など、ヘドが出る。

 

 根源に、第三の魔法へ至らんとする千年の妄念。全く価値がない。千年だと? そんなもの、彼への想いに比べれば塵にすら劣る。

 

 その他有象無象の小聖杯(イケニエ)ども。全くもって度しがたい。彼への想いを阻む願望どもめ。跡形なく消し去ってくれよう。小聖杯(ワタシ)にはそのチカラがある。願いさえすれば、それは勝手に叶うのだから。

 

 一通り彼以外への想いを消し飛ばし、一息つく。あぁ、あぁ、なんて待ち遠しい。もうすぐまた、彼に会えるのか。心が熱を放ち、熱い吐息が荒い呼吸と共に外気と混ざる。

 

 例えるならば『恋』。もしくは『愛』。

 

 夢見る心でありながら、それは求める心でもあった。

 

 彼の隣に己が立つ姿を夢想すると、声が上擦り顔が赤くなる。

 

 彼と楽しくお喋りするのを想像すると、心が張り裂けそうな位緊張する。

 

 彼と愛し合う自分を幻視すると、絶命してしまいそうな程シアワセだ。

 

 知らず知らずの内に、彼を憎む想いは影も形も無くなっていた。

 

 彼が望むなら、イリヤスフィールはなんでもしよう。なんでも叶えよう。そう躊躇なく思えてしまう位、ベタ惚れだ。

 

「今、会いに行くわ。愛しい人。待っててね?」

 

──────純粋に至った不純が動く。

 

 不動のまま、哀しげに暗い曇天を見つめる狂戦士は、ゆっくりと少女を肩に乗せ、少年の下へと歩き出した。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

「相棒、やーな予感しない?」

 

「奇遇だな慎二、俺もだ。とんでもなくヤバイ感じが、な。さっきから悪寒が止まらんよ」

 

 元気よく啖呵を切った馬鹿二人は、揃いも揃ってブルっていた。

 

 慎二は既に霊体化したライダーを近くに潜ませ、士郎は武家屋敷周辺に探知結界を構築し、この予感に備える。

 

「来た?」

 

「分からん。少なくとも家の半径五百メートル圏内には入ってない、筈………」

 

「おいおい、下手なホラーは勘弁して欲しいんだけど?」

 

 軽口をたたき、恐怖から目を反らす。しかしどうにも、悪寒は消えない。

 

「こっち側の居場所を悟られるような愚は犯していないつもりだが─────」

 

「今の内に手札を確認しておこう。僕はサーヴァントが一騎と、ある程度の戦闘能力がある。僕単騎でも、足止め程度は出来るだろう」

 

「こっちは戦闘能力と、結界が使える。後は魔力での造形だな。というかお前マスターだったのか」

 

「そうだよ。今は側に控えさせてる」

 

「そうか。──────来たぞッ!」

 

 反応が現れた。直線距離で478メートル。これは────────

 

「跳躍したまま突っ込んでくるぞ。防御はしておいた方が良─────」

 

───────ドゴォォォオオオンッッッッ!!!

 

 家屋を踏み潰し、巨人が瓦礫から現れる。紛れもなく、先の巨人だ。その肩には、あの白い少女が。

 

 こちらを見据える少女には、なにやら危険な光が灯っている。どう見ても正気ではない。果たしてこの短い時間の中で、一体何が起きたというのか。 

 

「こんばんわ、お兄ちゃん。いいえ、愛しいお方。会いに来ましたわ」

 

 可憐にして清楚。独特の侵しがたさと色気が流れてきた。なるほど、これは毒の造花であるらしい。

 

「グ、そうか。それは、………男冥利に尽きるな」

 

 苦し紛れの返事は、やはり余裕がない。焦りが滲み出る声色は、衛宮士郎にしてはとても珍しいものだった。それも仕方のない事と言えよう。

 

 相対する少女からは、一切の躊躇が感じられないのだから。

 

「あー、ライダー。援護頼む。お前は相性最悪な部類だわ、あのバーサーカー」

 

「分かりました慎二。御武運を………」

 

 慎二は慎二で、既にサーヴァントを呼び出している。口振りから察するに、前へ出て巨人と応戦するつもりらしい。和服の袖に引っ込めていた右手には、何処か歪な印象を受ける大鎌が握られている。

 

 ゆっくりと少女を見つめれば、彼女はこちらに笑いかけた。恥じらうような仕草だ。あぁ、全く厄介である。あれを自然にやってのけるのは、彼女が真性の女優だからなのか。それとも、本当の天然ものか。後ろに控える巨人さえいなければ、とても絵になっていただろう光景に、士郎は冷や汗が止まらなかった。

 

「さあ、─────愛し合いましょう? 名も知らぬ我が想い人………」

 

「ク、出来うる限りのエスコートはしようか。お嬢さん(フロイライン)?」

 

 第五次聖杯戦争、第三戦。

 

───────勃発。

 

 






 いや、まぁ、その。(挨拶)

 お久し振りです。モブです。投稿間隔どうにかするとか嘯いてこの始末なのはホントもうごめんなさい。†悔い改めて†もこれが限界だったんよ………。(ゲッソリ)

 さて、今回の解説ですが、正直読んで下さった皆さんも違和感バリバリでしょう。いや、そうなるように書いてるんですが。

Q.イリヤさん、色々混ざってきてる?

A.病み気味だったのはこれのせい。具体的な設定はネタバレなのでまだ明かされませんが、悪夢の銃痕はこれが原因ですね。今回でそれもぶん投げましたけど。また、そのせいで薄れ行く自我を保つために、士郎君を依存対象に設定。ただし、一目惚れはそういうの関係なしにガチです。

Q.イリヤがヤンデレで士郎君が好き………ファッ!?

A.新手のチョロイン(ヤンデレ)なんじゃね? 属性を計算すると、小悪魔系汚染済ヤンデレ年齢詐称ロリ姉(チョロイン)………これもう分かんねぇな(白目)

Q.さらっと現れる駄妹ライダーネキ。

A.影が薄い登場で、本当に申し訳ない。本領発揮はまだまだ先の予定なんだよなぁ。

Q.危機になると途端に感情豊かになる士郎君。

A.というかこういった危機的情況でないと、彼の人間的な要素はほぼ出てきません。仕方ないね。

Q.聖杯や聖杯戦争の捏造設定。

A.公式の情報を参考にしつつ一年前に作りました。実際に世に出るまで一年掛かるとか、もうこれガバガバだな………。色々思うところはあるだろうけど、許してくださいなんでもしますから!

Q.いい加減サーヴァントの情報公開しろやボケナスゥ!

A.ネタバレは、ネタバレは許されないんDA!(使命感)
あ、バサクレス叔父貴は次回に公開します。



 その他諸々色々気になる事はあるたろうけど、いつか明かされるだろうから、今は解説せんでもええやろ。あれ? こんな感じの事を前に言った様な………(既視感)

 後、今回の話は後々改竄するかもしれないので、そこだけ謝罪申し上げます。


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丁寧なゴリ押しとかいう矛盾

 

 

 降り頻る雨の中、家屋を踏み潰して現れた巨人が唸り声を上げてこちらを睨んでいる。神秘的な黄と紅のオッドアイは戦意に満ちて、全身から溢れ出す魔力の奔流が一層の絶望を掻き立てる。傍らの白い少女は俺を見て不気味に笑い、そして恥じらう様に頬を赤く染めた。その様がひどく不釣り合いに見えて、背筋が凍るような怖れを懐かずにはいられなかった。

 

 恐怖に戦く心は、しかし一瞬で平静の形に固定された。心情と関係なく、無意識の内に防護結界を張り巡らせて認識空間から己の外と内を分かつ。

 

遮断開始(Interception starting )

 

 盾と短剣を造形。その瞬間のコンマ一秒ですら、生きた心地がしなかった。単純に、そしてどうしようもないほどに、彼の狂戦士は恐ろしいのだ。それをどこか遠くから眺めるように、あたかも意思が二つ存在するかの如く士郎の意識が並行的に認識する。

 

「ふん、いっそ慢心でもしてくれればよかったんだけどねぇ………」

 

 端正な顔を苦々しく歪めた慎二が悪態を吐き捨てる。右手には大鎌を携えられ、それを肩に乗せる様にして狂戦士を見据えていた。

 

 ふと、白の少女がこちらを一瞥すると、呼応するように巨人の瞳が煌く。状況が動く、そう確信し慎二たちに声を掛けた。

 

「────来るぞ」

 

「───合点。おいライダー、牽制は任せたぞ」

 

「────はい慎二」

 

 呼吸が震える、なんてことは起こらない。恐怖はある、焦りもある、だけどそれは関係のない事柄だから(・・・・・・・・・・)

 

「あら、邪魔な塵屑が散らかってるわね。さっさと掃除しなさい、バーサーカー」

 

 まるで士郎とバーサーカー以外を認識すらしていないかのような台詞だ。否、真実彼女は彼女自身と彼ら以外を等しくゴミクズと認識しているのだ。それは正しく『無邪気な邪悪』として純白に漆黒をぶちまけたかのような違和感を醸し出している。

 

「■■■■■………!」

 

 少女の形をした何かの命令を受け、狂戦士がゆったりと左手の岩弓を構える仕草を見せながら此方を睨む。

 

──────瞬間。

 

 矢をつがえた事実すら認識出来ないまま、過程を消し去ったが如く巨人の豪矢が迫っていた。

 

「ッッッ!?!?!?!?」

 

 唖然、先の邂逅の時よりも余程強力な一矢だ。己の真横を通り過ぎた雷光は、余波だけで地面を削り取り認識可能速度を飛び抜けた。

 

「チッ」

 

 我に帰る。狙いは慎二か。背後から舌打ちが聞こえた。空を裂き、口を開く間もなく音を超える迅速が真横を通り過ぎる。

 

「────グ、ギィィッ!!」

 

 呻き声。慎二のものだ。信じられないことに、豪矢は鎌で受け止められていた。そのままの勢いで歯を食いしばり、大鎌を全力で振り抜く。

 

──────ゴギィイン………ッ!

 

─────ドオゥッドドドドドォッッ!!!

 

 巨大な鉄塊が連続して衝突したかの様な轟音が、大気の破裂する衝撃と共に伝わってくる。どうやら、慎二は見事あの豪矢をやり過ごしたようだ。

 

「─────行きます!」

 

 涼やかな声が雨音に紛れて木霊する。応じて、夥しい量の鋼が宙を舞い、巨人を捉えんと駆け巡った。瞬く間に視界の六割が鈍色に閉ざされる。これがライダーとやらの援護だろうか。

 

 蜘蛛の巣みたく張り巡らされた銀色に目を凝らすと、それは鎖であることが分かる。それを確認した慎二が叫んだ。

 

「ライダー、引っ掛かったか(・・・・・・・)!」

 

「いいえ。引き千切られたのと、信じられませんが掻い潜ってています(・・・・・・・・・)!」

 

「チ、案の定だけど中々やる」

 

 慎二が静かに悪態を吐いた。話を聞く限り、どうやらライダーは巨人を視界に捉える事が出来ているらしい。

 

 しかし、認識出来ているだけだ(・・・・・・・・・・)

 

─────ドドドドドドォッッ!!!

 

「ぐっ、ォオ!」

 

「コレを抜くってなんつー出鱈目さ。うーん、どう脚を止めるかな」

 

 その妨害、鋼の包囲網の隙間を縫うようにして、豪矢が翔んでくる。それを盾で受け、腕が千切れるような衝撃を食いしばって耐えながら、更なる追撃を短剣で斬り落とす。

 

 あれほどの密度と質量を以てしても、巨人を捉えるこには届かない。

 

「慎二っ、言ってる暇があるなら手を動かしてくれ!」

 

「分かってる。しかし、なんだろうねあの狂戦士(バーサーカー)は。本当に理性を失ってるのかい?」

 

 そう、もう既に分かりきった事実ではあるが、彼の巨人は明らかに理性を喪失しているにも関わらず十全の武を的確に振るい続けている(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 仮にも狂戦士と呼ばれるなら、その身に正気が無いのだとしたら、その武を扱えない方が自然なのだから。出来たとて、精々が棒を振り回す程度の能しかないはずだというのに。

 

──────しかし、当然の様に例外は存在する。

 

「■■■■■■■■ッッッッ!!!!」

 

 轟く咆哮。鋼の縛鎖を掻い潜り、大地を引き裂く矢の豪雨は止む気配もなく。

 

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

 

 長いような、短いような、実際そこまで長い時間ではないのだろうが、体感で三十分は経った頃。一向に矢の雨が止む気配はなく、戦況はやはり巨人の側に傾いていた。

 

「■■■■■■ッッッ!!!!」

 

 咆哮と共に流星群の如く大質量の豪矢が殺到する。鎖を千切りつつ迫るそれらを全力で捌きながら、士郎は小さく舌打ちをした。思逡の暇は存在しない。慎二とライダーに合わせて連携を取るのが精一杯という有り様だ。

 

「チィッ!」

 

──────ズドォッドドドドドドォゥッッ!!!

 

 埒が明かない。膠着は終わらない。しかし戦線を維持するだけの猶予ももはやない。ならばどうするか。決まっている。状況を変容させるのだ。

 

「慎二、打って出るぞ」

 

「あいよ。321で行くぞ、OK?」

 

「ああ」

 

「では私が動きを止めましょう。その隙にどうにか致命の一太刀を。万が一の場合は追撃いたしますので」

 

 鎖をばらまき手繰っていたライダーが眼帯に手を掛ける。片手を鎖の制御から離したために、鋼の網は密度を薄め、今にも巨人が襲い掛かって来る事が予測された。理性を失っているとはいえ、あの巨人が凡百の狂戦士の如く接近して殴りかかってくるのは考えづらい。

 

──────そこを突く。

 

 弓矢を操る巨人がその武器を棄てるとは思えない事も慎二の思惑を後押ししたのだ。 

 

「じゃあ相棒、確実に動きを止めるから一撃準備しといてくんない?」

 

「分かった」

 

 要求はシンプルではあるが、それ故に難しい物を感じさせた。というのも、巨人の霊基を解析した際に見つけた『防御能力』というべき物が引っ掛かったのだ。果たして俺の刃が届くものか………。

 

 いや、その懸念こそが無意味(・・・・・・・・・・)

 

 後に成すべきことは変わらない。今やるべきことも変わらない。だというのに、高々防御能力程度の苦難で何を惑えというのだ。たかが巨人、なにするものぞ。その神秘の鎧、砕かせて貰おう!

 

 3、2、1、とその一瞬のためのカウントが刻まれる中、全く止む気配のない矢の豪雨を切り払い、防ぎ続ける。

 

「─────ゼロ」

 

「『自己封印・暗黒神殿(ブレーカー・ゴルゴーン)』解除。さあ総てを停めなさい『無間結石(キュベレイ)』!」

 

 封印を解かれた宝石の魔眼がその真価を発揮した。そう、この瞳こそはギリシャ神話に名高き『最強の眼』。神性すら脅かす石化の邪眼。その魔性は、ランクにして『虹』の一歩手前たる『黄金』のソレに匹敵する。

 

「────■■、■■■■■………!?」

 

 巨人が困惑の雄叫びを上げた。その隆々とした肉体が、足元から石化を始めたのだ。咄嗟に弓を構えようとしたが、その腕すら瞬きの内に石と化した。

 

「ふん、技術はそのままでもおつむがそれじゃあこんなもんだ」

 

 慎二の嘲りが宙に融ける。慎二の狙いとは、つまりこの状況だったということだ。

 

 英霊の闘いとは、即ち『宝具の闘い』である。無論ながらそれが全て(など)とは言わないが、その点狂戦士(バーサーカー)のクラスとは損な役であろう。理性を失い正常な思考が損なわれた事で、その最重要、要の『力』たる『宝具』の機能と扱いが著しく阻害される。如何に基礎スペックの向上が施されようとも、この差は如何ともし難い巨大な格差なのである。

 

 では、彼の巨人はこの例に適応されるか?

 

 否、である。彼が振るう『十全の武』とは、それそのものが『宝具』に匹敵する例外中の例外。神話に名高き数多の怪魔豪獣を屠り去った究極の心技体こそがこの大英雄の真骨頂なれば。

 

 故にこそ、巨人はたとえ狂化していても、万魔を砕くその武を振るうに最善の戦況作り(・・・・・・・・)にこそ腐心する。

 

 奴が今手にしている物は何だ。弓だ。つまり奴は────遠距離で脚を止める。近寄ってこない。薄くなった銀鎖をいいことに、その豪矢を射り続ける。

 

 故にここだ。ここしかない。元より石化だけで仕留められるなどとは微塵も考慮していない。故に決死。ここで切り札の一端を切る。

 

─────狭間/裁断の権現よ、今こそ。

 

「─────遮断開始(Interception starting)

 

 石の彫像と化した巨人へ向けて、弾かれた様に走り出す。その手には雷光迸る霧の柱が立ち込めていた。

 

「別て、雷雲。其は天地を別ち、人神の一切を離別せし絶霧なり」

 

─────『別天地・水霧鋲(サギリ)

 

 神話と現代を遮ぎ別つ、雷纏う白霧の神威。それは石像と化した巨人の肉体を、その神性ごと裁ち割った。

 

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

「うふふ、ふふ、あは」

 

 笑い声だ。(くる)おしくて(くる)おしくて仕方がない。そんな想いを圧し殺したような、嗚咽のような。

 

「あぁ、愛しい人。ワタシとはかなり違うけれど、貴男(あなた)も必死に人であろうとして、そして堪え続けているのね。枠組み(ヒト)から外れかかった(こころ)を縛り付けて、自分自身の意思さえも自分らしく貼り付けて」

 

 その総てが愛おしい。そしてそれ以外は全く不要(いら)ない。

 

 見つめる先には石ころと化した狂戦士を粉砕した霧の柱が映っている。

 

「霧、境目の化身。その雲霧こそは現世(うつしよ)を繋ぎ止める不可触遮視の水鋲。ふふ、背負わされたのね。この世界に望まれて」

 

 分かるとも。何故ならワタシも似たようなモノだから。

 

「愛しい人。やっぱりワタシは、諦められそうにないわ」

 

 口許がゆるりと弧を描く。欲望に燃える女の笑みだ。

 

 誰が為に笑うか、そんなものは決まっている。惚れた男の為に笑う。

 

 矛盾を孕んだ笑み。彼の為を望みながら、(だれか)の欲望故に笑っている。だから嘲笑(わら)っている。あぁ、まだ純化が足りないか。忌々しい限りだ。

 

 こ こ に は 私 と 彼 し か い ら な い の に 。

 

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

 

「裁ききれなかったか」

 

 吹き飛ばされた岩弓がぬかるんだ地面に突き立つ。それを数瞬眺めて、そこら辺に散らばった元巨人の石塊を一瞥する。その間に、腕から立ち込めていた霧は消え去っていた。手応えは十分だったが、感覚的にコレでは足りないと悟る。

 

「………うん、まぁそうなるよね」

 

 慎二がぽつりと呟く。仕留めきれなかった、という落胆のそれではない。恐らく撤退の算段でもつけ始めたに違いない。自分の知る限り、最も引き際を見誤らない有能な(あいぼう)だと理解しているからだ。

 

「ほら、掃除は終わってないわよ。掃除を命じたのに、あなたが塵になっては本末転倒でしょう。早く立ち上がりなさいバーサーカー」

 

 号令。少女が苛立ったように激を飛ばす。

 

「________………■、■■■■………!」

 

 爆砕した石片が吸い込まれる様に一箇所へと引き寄せられる。それと呼応するかの如く、地を揺るがすような、恐ろしい唸り声が強まる。

 

「やれやれ、蘇生持ちなんてボス枠に入れたらクソゲー確定じゃないか。しかも中ボスだよ? あ、馬用意しといて、逃げるから」

 

「何を言っているのですか慎二。あれは裏ボスとかそういう類いのモノに決まっているでしょう。えぇ、あの子は寧ろそういうのが得意ですからね、直ぐに呼び出しましょう」

 

「お前らは何を言っているんだ。というか逃げる算段で良いんだよなそれ」

 

 呑気か貴様ら。特にライダー、お前は随分現代に染まったらしいな。色んな意味で呆れてモノも言えない。

 

 そんなアホなことをしている内に巨人は完全な復活を果たしていた。

 

「さぁ、お掃除再開よ。もうちょっと待っててね、愛しい人。コレが終わったらゆっくりと語らいましょう?」

 

────────存分に♪

 

「────■■■■■■■ッッッッ!!!!!」

 

 復活の咆哮を上げる巨人を見上げながら、小鳥の囀りが如く透明なソプラノボイスが心地好いが、聞き惚れていたらそのままミンチになりそうだ。さて、どうやって不意を突くべきか。

 

「ふむ、ゆっくりしたい所ではあるのだがね。申し訳ないがそろそろおいとまさせてもらおうと思うのだよ」

 

「あら? エスコートの約束はどうなるのかしら紳士さま(ジェントルマン)?」

 

「そこを突かれると非常に耳が痛いのだが、こちらにも事情というものがあってだね。とりあえずはこれを見てくれたまえ」

 

 右手の甲を見せる。先の戦闘で豪矢を殴り付けた箇所だ。そこには、赤い聖痕が刻まれていた(・・・・・・・・・・・)

 

「─────え、それ初耳なんだけど相棒」

 

「言ってないからな。自分で言うのもアレだが、存外選ばれるだけのモノはあったらしい(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 さて、私も何か願うところがあったのだったか。いまいち思い出せないが、印象付けには十分だ。

 

「うふふ、関係ないわ。ここまでやって逃がすほど、ワタシは甘くなくてよ?」

 

「─────いいや、もう終わっている(・・・・・・・・)

 

──────いや、待て。

 

 あの蛇は何処へ消えた(・・・・・・・・・・)

 

 それ以前に、どうして消えたことを認識出来なかった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 頭の中の霧が晴れる(・・・・・)。どうやら、術中に嵌まっていたのはこちらだったらしい。

 

 気が付いたその瞬間、強風が両者の間を駆け抜け、士郎と慎二の姿が掻き消えた。瞬時にバーサーカーと視覚を共有したイリヤスフィールが目撃したのは、天馬に跨がった女怪が鎖で両名をかっさらって翔び去っていく図。なんかワカメっぽい方のゴミがこっちを指さして高笑いしている。ピキリ、と美しい(かんばせ)に青筋が走る。

 

「まぁ、いいわ。よくってよ。最終的にはワタシと結ばれるんだもの。今くらい構わないわ」

 

 だけどあの海藻は燃やし尽くして灰にした後、海にばらまいてやる。

 

 降り続ける雨が、あの海藻を余計に元気にさせている気がして、異様に腹が立った。

 

 そうだ、置き土産程度はしてやろう。まさかこの程度で死ぬほど愛しい人も弱くないし。

 

「バーサーカー、狙撃。毒は駄目よ」

 

「■■■■」

 

 巨人が再び弓を構える。千里眼スキルを所持していないにも関わらず、この大英雄は4㎞を射程圏とする規格外。あの天馬が秒速500mだとして、射程圏から逃れるまで後5秒。大体700発位は軽く撃てるだろう。

 

「ふふ、言ったでしょう。簡単には逃がさない、と」

 

 まぁ、所詮は負け惜しみだが。それでも、好きな人の前位は見栄を張りたい。そんな想いで彼の後ろ姿を見送る。あ、矢が掠めた。

 

「あーあ、次はもっとお喋りしたいなぁ」

 

 次まで我慢、とイリヤスフィールは決意した。さて、では次は何時(いつ)になるのやら。溜め息を一つ、熱に浮かされた瞳で、見えなくなった彼の背を追う。

 

「……………」

 

「まぁ、全部撃ち落とされたの? 愛しい人は流石ね!」

 

 

 聖杯戦争第三戦、終幕。

 

 







 いや、まあ、その(挨拶)

 お久しぶりです。モブです。風邪を拗らせたりリアルが忙しくなったり、FGOでカリギュラ叔父上100レべスキルマフォウマにしたりしてたら遅くなりました(言い訳)

 あ、ついでに水着ガチャとプリヤガチャは爆死でした。無課金だし礼装は出たからマシな方だと思いますけどね。

 さて、今話についてですが、まーたキャラ崩壊です。是非もないネ! それと、最後の方でギャグと化すのは仕様だから(白目)

 今更ですけど、この作品はstay nightの皮を被った全く別モンですから、ぶっちゃけ設定を借りて魔改造しただけのオリジナル聖杯戦争と言っても過言じゃありません。そこのところはよくご理解して頂けるとありがたいです。

 後、stay nightだとNOUMINはボス枠だから。主人公じゃないから(迫真)


 では、前回の後書きの予告通り、バーサーカーヘラクレスのステータス公開です。これを見た人は最初にこう思うでしょう。

 舐めプしてやがったコイツ!

クラス:バーサーカー

真名:ヘラクレス
性別:男性
身長:253cm
体重:311kg
出典:ギリシャ神話
地域:ギリシャ
属性:混沌・狂
マスター:イリヤスフィール・フォン・アインツベルン

パラメータ

筋力:EX
耐久:A++
敏捷:A+
魔力:A
幸運:B
宝具:A+++

クラス別スキル

狂化:B

保有スキル

心眼(偽):B+
戦闘続行:A
無窮の武練:A+++
魔力放出(雷):A
勇猛:A+
神性:A
弓矢作成:C

宝具一覧

『十二の試練』

ランク:A
種別:対人宝具
レンジ:-
最大捕捉:1人

 ゴッドハンド。ヘラクレスが生前成した十二の偉業の具現。ランクB以下のあらゆる攻撃の無効化。加え、担い手に代替の生命を11個ストックする不死性を授ける。

 一度受けた殺害方法では二度と殺せず、マスターであるイリヤスフィールの規格外の魔力によってほぽ時間を掛けずにストックを回復できる。インフレ様々である。つまり、バーサーカーを殺すには一撃でストックごと12の生命を絶たねばならない。それどんな無理ゲー。ちなみに、ストックの回復速度は命一つにつき2秒。3日に一つor一日に二つの原作とアニメのそれとはあまりにも違う。改めて無理ゲー。なお、原作の英雄王の手数には対応しきれない。なんなんだあの王さま。


『射殺す百頭』

ランク:C~A+++
種別:不明(多用途)

 ナインライブス。ヒュドラ殺しを始めとした、宝具の域まで昇華されたヘラクレスの武技。特定の形態を持たず、対峙した相手に対して最も有効な『型』に変ずる。謂わば、『無差別流派・射殺す百頭』。本来、バーサーカーである時は狂化によって使用不可能だが、スキルとして無窮の武練を有する本作のヘラクレスは、全く問題なくこれを発動できる。やべぇ。

 本作のバーサーカーが所持する岩弓を用いた場合、対幻想種用のドラゴン型ホーミングレーザーが9つ放たれる。威力は推して知るべし。ぶっちゃけやべぇ。また、Cランクながら弓矢作成を持っているので、マスターの膨大な魔力をいいことに、これを連発してくる。どうしろってんだよ。


 と、いうわけで、今回は以上となります。え? ヘラクレスのインフレが思ったより少ないって? 実はまだ宝具を1個隠してます。本編で使うか分からないんだよね。これ。まぁ、えげつないのは確かですが。

 さて、疑問やら矛盾やらいっぱいあるでしょうが、ここで切らせて頂きます。

 次回更新は活動報告に書いた通り十月半ば以降になりそうですが、頑張ります(白目)

 それでは、また。


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無双出来ると思った? 残念、皆インフレしてるんだ(キレ気味)


 おひさ(吐血)

 プロット失くしてモチベが下がったり、リアルが忙しくなったり、空いた僅かな時間にFGOしたりしてたら、2月末になってました。今回も大急ぎで仕上げたから、多分ガバが広がって凄いことになってる(確信)

 改めて、投稿が遅れてすまない、本当にすまない……。



 

 アサシンは鞘に納まった長刀を山門の脇に立て掛け、尽きることのない空を仰いだ。その中を、揺れて流れる白雲は、そよ風と共に星の輪郭を滑っている。

 

 腕を組み、ふとぼんやりした瞳を古びた石階段の下に持っていくと、あたかもランサーとの激戦が無かったかのように、完璧な修繕が施されている。そのことに、少しばかりの驚きと敬意を抱きながら、よっこらせと大げさな動きで石段に座り込んだ。

 

 さて、昨日の宵に突如として発生した神秘の大激突を受けて、ついにキャスターが重い腰を上げたことについてである。

 

『アサシン、そろそろあなたの依り代を宗一郎様に移すわ。もちろん、魔力の供給は私の神殿が受け持ちますけれどね』

 

 翻って、アサシンの単独行動が可能になる他、縮地及び圏境などの暗殺スキルを最大限活用出来るようになることである。

 

 尤も、お世辞にも頭がいいとは言えないアサシンは、彼女の打ち出した方針について、イマイチこれらの意図が掴めずにいるようだが。

 

 前日の雨や霧とは打って変わって、快晴としか言いようのない天気に頬を緩めつつも、麗らかな日輪にはそぐわない疑念やら何やらが付き纏う。

 

「………門番から昇格、などと気軽に判断できれば良かったのだがなぁ。この早期に私を山門から解放するなど。女狐め、何を考えている」

 

 呟かれた言葉は、間違いなく此度の聖杯戦争の運行を左右するに相応しい重みを持っていた。

 

 鬼手、しかしながら拙手。そう呼ぶ他にないだろう。延々とした策を幾重にも張り巡らせる印象の多いキャスタークラスからは想定し難い事であるのは確かだ。

 

 とはいえ、兵は神速を尊ぶというのもまた事実。逆に考えれば、『勝ちに来た』という事だろう。ここまで来て準備段階を脱していない雑多なサーヴァントなどはサラッと蹴散らしてしまえ、というわけだ。

 

 それに、元々アサシンの魔力消費は(アサシンのクセに)大きく、戦闘行動も含め存在維持に十二分の魔力が集まるまでは山門を依代にして拠点防衛に努めるということで納得していた。

 

 そして、キャスターが十全な工房神殿を造り上げ、魔力の供給も安定した時点で、その目標も達成されている。ならば、後は前述の通り山門から解放して元の暗殺者として動かすのが道理というもの。

 

 しかし、しかし、だ。

 

 あのランサーを認知していながら(・・・・・・・・・・・・・・・)門の護り役を外すのか?

 

 その一点だけが気になる。まぁ、確かに、太陽神の威光を示す規格外のランサーとて、『神殿の門』を突破するには5秒ほど掛かるのは間違いない。

 

 キャスターの連絡さえあれば、例え別世界に居たとしても、ノータイムで迎撃することも可能だろう。偽物の偽者とはいえ、その程度の実力はあると自負している。

 

 しかし、そこは百戦錬磨の大英雄クーフーリン。見越した上で何かしらの策を打ってくるだろう。

 

─────ならばどうする?

 

 そこまで考えて、はたと気付く。

 

「………頭脳労働は私の仕事ではないというのに。どうにもこの霊基(からだ)は考え事が好きらしいな」

 

 考える役回りはキャスターに預けているというのに。

 

 武人、と一概に言ってもタイプがある事は間違いない。今のアサシンの容姿は(彼の主観で)本来の第五次聖杯戦争にて召喚された『佐々木小次郎』そのものではあるが、中身が彼であるせいか、若干人相が違う。

 

 ぶっちゃけたところ目つきが悪い。悪人面という程ではないものの、人目につく場所でつっ立っていれば通行人が訝しむ程度のそれであろう。故に、『人々の想う佐々木小次郎』として顕れた彼は、本体(アホ)由来の感性を持ちつつも、その殻に意識が引っ張られるというわけだ。

 

「さて、最初の命令は協会の監督役から令呪を奪うことか」

 

 如何にも残念そうな声色で、嘆くかのようにため息をつく。

 

 早速怪しい任務である。早々に監督役を殺して、混乱の中で色々暗躍しておきたい、ということなのだろう。が、益々もって祭りが台無しになってしまう。

 

 そう、祭りである。マスターとして冬木に赴く魔術師たちの思惑はさて置いて、呼び出されたサーヴァントが戦士の端くれであるならば、古今東西の英霊と覇を競うのは───ロマンがある。

 

 アーサーが、ヘラクレスが、ギルガメッシュが、世に名高き大英雄たちが集うこの戦争、武人として呼ばれた己が、奮い立たぬワケがない!

 

 手が震え、心が奮う。あぁ、素晴らしきかな、素晴らしきかな。口が吊り上がり、弧を描く。本体が見れば失笑間違いなしだが、武人としての己は、この状況にこれ以上ないほど興奮しているのだ。

 

「く、はは、うむ。滾るとはこういうことよな。おぉ、物干し竿も一層鼓動(ふる)えておるわ。主人があの女狐というのは気に入らんが、………さて。では開放次第襲撃を掛けにでも─────」

 

 

 

─────ほう、何処にだ?

 

 

 

 総身を衝く王気(オーラ)を感じ取り、立て掛けていた刀を即座に抜刀。展開した刃は都合六閃。柄に手を掛けた以外なんの動作もなく無拍子で放たれた斬刃は、無空すらも圧砕する大神秘たる超多段同時斬撃の一端である。

 

 チャチな防御宝具ならば、それこそ跡形もなく消し飛ばされる程の火力を持つ。

 

 その尽くが(・・・・・)黄金の波紋より生じた原初の武装群に押し止められた。

 

「─────ふむ、本調子ではないと見える。評価を改めるか?」

 

 いつの間に、というのは考えるだけ無駄だ。であれば、今、この瞬間、顕れた黄金を斬り伏せる一手を逡巡する。

 

─────………だが

 

 ほぼ無意識で発動していた圏境が、意味を成さぬと思い知ったのはこの二秒後である。

 

 斬撃によって崩れるように半壊した史上最古の宝具群、その隙間より、世界よりその紋様を抉り取る紅眼が見定める様に覗いている。

 

『あぁ、これはダメだ、この霊基(からだ)では半日保てば良い方だろう』

 

 初めに理解したのは、千里眼による圏境の看破。だがそれだけではない。それだけである筈がない。それだけで終わるワケがない。アサシンをしてそう確信せざるを得ない何かが、その黄金には確かにある。

 

「………原初の英雄王か。御自ら出張ってくるとは、何か愉快な事でもあったということか?」

 

 空に浮かぶ波紋が徐々に閉じていき、王の玉体が顕になる。逆立った黄金の髪、神性を示す紅眼、晒された上半身には朱の紋様が流れ、その威光を更に強めている。

 

「戯け、見ようと思えば貴様も見えるだろう。此度は(オレ)が出張らざるを得ん事態が起きているだけだ。人界の守護なぞ我の仕事ではないが、今この時に至っても現世(こちら)に降りようとする愚か者どもは誅さねばならん」

 

 これこそがギルガメッシュ、原初の英雄譚の主人公。未来を見通す千里眼を所持する遠見の一人にして、その頂点の一角たる『すべてを見た人』。

 

 アサシンは内心冷や汗を流しながら、刀を握る手を利き手に直す。不意に、凍りついたような無表情の英雄王が、その瞳に愉快気な色を灯した。

 

「フン、だがまぁ、随分と上手くヒトの皮を被ったものよな。(から)の異形、いやさ蒼穹の天魔」

 

「さて、この身は単なる亡霊。そのような物騒なものに心当たりはない」

 

 魂の本質を透徹されている。完全ではないことが救いだが、見透かされるのは時間の問題だ。

 

 もしギルガメッシュを倒すならば、縮地と無限斬撃でわからん殺しができる内だろう。しかし、それも見に徹した超抜級の千里眼保持者を封殺するには至らないことなど明白である。

 

「フン、よりにもよって王の御前で欺瞞を()かすか、畜生めが………」

 

 全ての人の欲望の芽を育んだ偉大なる男は、片手に粘土の目録を、もう片方に鎖を巻き付かせている。

 

 アサシンには知る由もなかったが、その目録こそは万象の運行と王権を司る神器にして、バビロンの蔵に渡った後に『史上全ての物的財宝』が記された、人類の叡智そのものを刻んだ宝物庫の管理権たる超抜級の魔術礼装である。

 

 元々はエンリル神の持ち物であり、その従者アンズー鳥が簒奪せんと目論んだ神造宝具。エンリル神の息子たるニヌルタ神によって取り返されたそれは、人類文明の興り、その頃にギルガメッシュの手に渡ることになったという。

 

 神と人とを整然とした理によって切り離し、結果として天神地人を分かつ王権(ちから)

 

 故に、その()を『天命標す万象目録(ウシュムルガルナンムカラング)』。

 

 ランクにして評価規格外(EX)。真なる王者であれば、その命と引き換えに、主神級の神霊すら滅ぼす権限をも所有する大宝物である。

 

 故に、神に認められた最大の王たるギルガメッシュがこれを扱うというのなら─────もはや語るまでもないだろう。

 

「………ふむ、普段の我ならばその虚言を赦すまいが、此度は別件だ(・・・・・・)。率直に言って我は忙しい。故に野鳥よ─────」

 

 

─────今は黙ってそこを退け。

 

 

「ヌッ!?」

 

 戦場で培われたアサシンの心眼が、自然と物干し竿の魔性を開放すると同時、眼前に30を超える魔杖が出現し爆炎を放出。的確に展開された魔性を砕く呪詛の焔、そして飛翔する翼を得た不敬者を地に叩き落とす神罰の具現たる白雷が上空から襲い来る。

 

「温い」

 

 そして、その尽くが飛沫の如く斬り伏せられた。魔を滅する焔雷も、日本における七割の神性を薙ぎ払った神秘の鋼を灼くに能わず。

 

 瞬時に突破した包囲殲滅陣が霧散するよりも先に、縮地にて背後に回り込む─────その瞬間、既に英雄王の背後には宝槍魔剣による刃の筵が設置されていた。一も二もなく刃の向こう側の空間ごと抉り抜くが、風穴の先に黄金の背中はない。

 

「ッ、なんとォ!?」

 

 その時、既に完全なる包囲網は完成。アサシンの縮地を絡め取るための『山門を山ごとブチ抜く光の柱』が墜ちてきた。

 

「─────グ、ゥォオアアア!!!」

 

 苦悶の雄叫び、縮地で跳べば依り代たる山門が消し飛び、しかし真正面から迎撃するには攻撃そのものがデカすぎる。せめてキャスターの支援が間に合ったなら話は別だったのだろうが、生憎とキャスターはギルガメッシュの侵入すら察知できていない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。この光柱によって漸く気づいたところである。

 

 しかし、これについてキャスターを責めることはできないだろう。ギルガメッシュの千里眼と宝物による全力隠蔽は、神代最高峰の魔女すら上回るのだ。人間が創り出した総ての叡智の結晶は、神殿外郭内部という悪条件でありながら、易々と工房の主を欺くに至った。

 

─────だが侮ることなかれ

 

 ここに在るは、日ノ本における神代の閉幕者(・・・・・・)。退屈な日々からの解放を願い、そして実現出来てしまった本物の怪物(バケモノ)。その陰、武人として武を振るう益荒男として喚ばれた一時代の武威の頂点。

 

─────重ね太刀、無限の一刀。

 

「邪魔だァッ!!!!」

 

 

 

 

 

          一閃!

 

 

 

 

 

 最果てを冠する光の塔、英雄王が持ち前のコレクター根性から世界に内緒でこっそり削り取っていたその一欠片が、大陸をも斬断する無限剣を前に脆くも砕け散った。

 

 斬撃を放った勢いのまま反転。アサシンは、腕を組み、仁王立ちを崩さないギルガメッシュの背後まで跳んだ。コンマ一秒のラグもなく、その頸に刃が掛かる。

 

「─────お覚悟召されよ」

 

 決まり文句のような処刑宣言。絶対の決定を前に、しかし異形の長刃が頸に喰い込んでなお、ギルガメッシュは冷淡な表情を崩すことはなかった。

 

「ハッ、この頸欲しくば祭りが終わるまで待つことだな。野鳥風情が」

 

─────オオォォァアア■■■■■■■■ッッッ!!!!

 

「ぐぅ、おお!?」

 

 轟音、衝撃。ギルガメッシュの背中に現れた人面の盾が、突如として獣の雄叫びが如き悲鳴を上げたのだ。その衝撃によって山門に続く石階段が諸共に剥がれ落ち、空中で砕け散った。

 

 きりもみしながら吹き飛んだアサシンも、刃を咄嗟に振り抜こうとしたが、刀身はギルガメッシュの頸を落とすことなく暴力的な音圧に弾き飛ばされた。

 

「そら、まだ底があるのだろう。遠慮なしでも構わんぞ?」

 

「─────」

 

 嘲るように嘯きながらも、英雄王に慢心の色は欠片もない。ギルガメッシュの規格外の千里眼を以ってしても、当然のようにアサシンの地力と行動、その一切が予測できなかったのだ。警戒のしすぎで損をすることはない。

 

 そして、ギルガメッシュの千里眼を以ってしても、完全にはアサシンを見抜けなかった(・・・・・・・)。ということはつまり。アサシンが星と世界の摂理からその身、その魂を外した証左に他ならない。

 

 外道畜生であるからこそ、己を取り巻くあらゆる運命から自分勝手に解脱した獣の意思は、見事に英雄王の慧眼を曇らせるに至ったのである。

 

「ならば黄金、その野鳥風情から手痛い一撃を受けてみるか?」

 

「ほう、言うではないか。ならば我に見せてみよ、貴様の底の底までなぁ………!」

 

 地響きのような玉音がアサシンの鼓膜を揺らす。間違いなく、ギルガメッシュは全力を出そうとしている。王権の力を用いて宝物庫を全力かつ最高効率で運用しようとしている。

 

─────それをさせてしまえば終わりだ。

 

 確信ではない。これは絶対に覆すことのできない決定である。アサシン単騎では、アサシン自身はともかく、山門に向かう宝物の対処が間に合わなくなる。それこそ無限斬撃を以ってしてもだ。そのうち打ち払った余波で山門が消し飛び、単独行動スキルを持たないアサシンは途端に消え去るだろう。

 

 どうすればいい。縮地で避ける? バカを言え、単に逃亡するならまだしも、ここは己の命綱だ。キャスターが山門から自分を解放するまで死守しなければならない『最後の砦』だ。

 

 縮地、縮地、縮地。縦横無尽に翔る刃が黄金の暴風雨を碧い残光と共に斬り払う。浪費される宝具、削られていく体力。終わりがあるとはいえ、半ば以上に千日手だが、しかし、その程度アサシンも、英雄王も承知の上。さて、ではどうするか?

 

 先に答えへ至ったのはギルガメッシュ。その解は実にシンプルであった。即ち、根から断つのが手っ取り早いというもの。

 

「さて、アレが有ったな。ではこうするとしよう」

 

「─────づぅォオ!?」

 

 音もなくアサシンの背後より展開された波紋から、黄金の大瀑布が山門を呑み込んだ(・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────なるほど、切り離しは間に合ったということか。魔女風情が、存外決断は早いらしい」

 

「えぇ、こうでもしなければ詰むというなら、躊躇いなんてありませんわ」

 

 轟音と共に崩れ去った山門の瓦礫の上に、神代の魔女が降り立つ。その側にアサシンの姿はない。キャスターによる強制転移によって、彼女のマスターの下へ送られたのだ。

 

 先の時点で、英雄王は間違いなくアサシンを詰めていた。アサシンがまともにギルガメッシュと相対した時点で、必至は掛かっていたのだ。

 

 しかし、それはキャスターという合い駒が無いという前提の話である。

 

 最果ての塔、その欠片によって発生した膨大な神秘の奔流を認識したキャスターは、まず間違いなくヘラクレスに匹敵するかそれ以上の存在が工房の攻略に取り掛かったのだと確信した。

 

 この時点で、神殿の玄関内部にして、アサシンの依り代である山門は破壊されると確信があった。なにせ『あの』ヘラクレスをも上回る魂の質量が観測されたのだ。当然のことと言えよう。

 

「それで? 魔術師たる貴様が、態々(わざわざ)矢面にまで出てきたのだ。此度の我は寛大ゆえな、その蛮勇に免じて貴様の命乞い程度なら聞き届けてやるかもしれん」

 

「─────信じられない」

 

 それは、英雄王の言葉(おんじょう)についての反応ではない。キャスターは、『かもしれない』とは言えど、よりにもよってこの超越者が温情をかける判断すら選ぶということの重要性を正しく理解しつつあったからである。

 

 それは、危機か? もしや、詰めろは掛かっているのか?

 

 いやそもそも何故、この時代にそれ程の規模の異常が発生する?

 

 神代でもないというのに、現人類種の衰退すら始まっていないというのに、この超越者は一体何を予見したというのだ?

 

 疑問が土石流となって脳を駆け巡る中、慎重に、言葉を選んだ上で、キャスターは問いを投げ掛けた。

 

「名を知らぬ無礼、そして我が無知をお許しください、黄金の君。神代の魔術師たる私の千里眼を以ってしても、御身が危惧するであろうほどの異常を引き起こす未来は視え得なかった。─────御身の瞳には………何が、写ったというのですか?」

 

「─────たった今、確信が持てたぞ神代の魔女。その点については礼を言わねばなるまい」

 

 キャスターの問い掛けを受けて、何故か薄らと怒りを尊顔に浮かべたギルガメッシュは、一息をつくようにして腕を組んだ。神性を示す紅の瞳が、チラリとどこか遠くを見やる。

 

「正直な所、だ。キャスター、貴様は居ても居なくてもそれ程の影響を及ぼさぬ存在だった(・・・)。貴様がここで無様に命乞いをするのなら、それもまた良しと見逃す選択も十分にあり得ただろうよ。それは貴様の願いの矮小さ、そしてそれ以上に貴様自身が現世に非ざる亡霊として身の程を弁えているが故のことだ」

 

「…………」

 

「─────だが、まかり間違っても貴様を脱落させるわけにはいかなくなった。キャスター、神代最高峰の魔術師であると同時に、神代最高位の神官でもある(・・・・・・・・・・・・)貴様の腕が必要だ。貴様とその配下たるアサシンの無礼、特に赦す。これからは我の指示の下働くがよい」

 

─────これは決定だ。

 

 数多の王者傑物を欺いてきた魔女は直感した。逆らうことは出来ない。そうすれば、絶対的に良くないことが起こる。死など生ぬるい、永久無間の凍獄すら救いに思うほどの何かが起こる。漠然とした、それでいて確かな予知である。

 

 目の前の超越者が何を視たのか、それを彼自身が語るのは、恐らくまだまだ先だろう。つまり、それは現状誰にも知られてはいけない致命的な真実(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)が、この聖杯戦争に隠されていることを浮き彫りにしたことを意味するのだ。

 

 魔術史において五本指に入るであろう優れた見識と頭脳を持つキャスターだからこそ、その危険性を正しく理解出来てしまった。挑む存在が如何なるモノか、朧気にとはいえ突き当たってしまった。

 

 

─────我々が挑む異常とは、『聖杯』だ。

 

 

 キャスターは3つ、理解した。

 

 現時点で深く探れば、その奥に潜み聖杯の万能を振るう何モノかに喰われること。

 

 聖杯によって現世に繋ぎ止められているサーヴァントであれば、例外はないこと。

 

 そして、聖杯が誇る万能の規模は全人類に及ぶ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)こと。

 

 絶望に染まる意識の中、キャスターはこの戦いが終わった後に、己のマスターが無事であることを切に願った。この身はほぼ確実に消え去る故に。ならば、少なくともアフターケアが万全そうな雇い主が必要だ。

 

「─────は、王の御心(みこころ)のままに」

 

 返答など、元より一つしかあり得なかった。







 さて、今回は女神ヘカテー直伝コルキス式CQCを巧みに操るキャスター()こと型月屈指の正統派魔術師メディアさんのステータス公開です。神殿クラスの工房と、その維持が可能な魔力源がしっかりあるだけでこんだけインフレしますよっていう代表格だと思う。対魔力による相性ゲー? んなもん神殿に引き篭もれば解決じゃろ?(すっとぼけ)


真名:メディア
身長/体重:163cm / 51kg
出典:ギリシャ神話
地域:ギリシャ、コリントス
属性:中立・悪
性別:女性
特技:奸計、模型作り
好きなもの:寡黙で誠実な人・可愛らしい服と少女
苦手なもの:筋肉ダルマ
天敵:バーサーカー(ヘラクレス)

ステータス
筋力 E 耐久 D
敏捷 C 魔力 A++
幸運 A 宝具 C


クラススキル


陣地作成:A

 魔術師クラスの特典。魔術師として自らに有利な陣地「工房」を作る能力。Aランクの彼女に掛かれば「工房」を上回る「神殿」レベルの陣地が作成可能。
 本作では完全な状態のそれとして、彼女の戦略を支える予定だった。
 ちなみに、彼女の手によって築かれた本作の工房の外殻は、一、二発ならばエクスカリバーの真名開放に耐えうるほどの堅牢さを保有し、深部に至っては神代に匹敵し得るエーテルの濃度と密度が流れ、その全てがキャスターの補助に充てられる。
 この聖杯戦争において、工房最奥に陣取った彼女を殺せるサーヴァントは、クーフーリン、ギルガメッシュ、ヘラクレス、NOUMINの四騎のみである。

道具作成:A

 魔術師クラスの特典。魔力を帯びた器具を作成可能。Aランクとなると、擬似的な不死の薬すら作成可能。


保有スキル


千里眼:A-

 視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。遠方の標的捕捉に効果を発揮。というのは副産物的効力である。
メディアの千里眼は、魔術師として後天的に獲得した非常に習得者の少ない魔術としてのそれである。未来の予知すら可能とする魔術の深奥、彼女は最高位の魔術師として、その(きざはし)に脚をかけている。
 尤も、その精度は先天的にAランク以上の千里眼を所有する遠見たちには遠く及ばない。それでも、これほどの高ランクを評価されたのは、偏に彼女の才覚と、研鑽によるものである。

高速神言:A

 「高速詠唱」の最上位スキル。神代(神が治めていた神話時代)の言葉により、大魔術であろうと一工程(一言)で発動させることが出来るスキル。言うまでもなくぶっ壊れスキルである。

キルケーの教え:A

 ギリシャ神話最大の魔女・女神キルケーは彼女の伯母にして魔術の師に当たる。闇に染まる前の彼女は、キルケーから教わった魔術の中から、特に「修復」を重用していた。その力は当然失っていないが、悪役を自任して以降、使うことをやめていた。
 しかし、本作では英雄王に目を付けられたのが運の尽き………いや、ある意味での幸運だろう。この技能をフル活用する場が生まれたのもまた事実であるのだから。

金羊の皮(アルゴンコイン):EX

 コルキスの秘宝で「地に放ると竜が現れる」と言われている。
本来ならば、メディアに竜を召喚する能力はなく、また、召喚出来たとしても、コルキスの竜はそこまで強くないため、産廃スキルとされる。
 しかし、ここはインフレ戦争である。本作において、英雄王との邂逅後のメディアは『何者かから押し付けられた竜召喚』の能力に加え、『どう見てもコルキス産ではない中東の伝承風のドラゴン』を召喚することが出来る。召喚されたドラゴンは、一線級のサーヴァントと比肩し得るほどのステータスを持つ。敏捷にしてB+、耐久にして:A、筋力に至ってはA+に匹敵する凄まじい膂力を誇る。
 ドラゴン自体はメディアに対し反感や反発を示す様子は見られず、また、押し付けた何者かをなんとか突き止めたメディアは、その能力の規模に顔を引き攣らせつつ、とりあえずこのドラゴンとバックにいる何者かを信用することにした。
 ちなみに、バックにいる何者か曰く、「まー、今回は悪役のオレが出張っても仕方ない話だしなぁ。そういう点で理解のあるメディアの嬢ちゃんは同輩としても都合がよかったのさ。勝手に霊基を弄ったのは悪いとは思うがね。あぁ、似たような眼のよしみだし、英雄王によろしく言っといてくれよ」とのこと。魔術と竜、そして悪役。もはやバレバレだが、本作の本編において、その正体を現すことはないであろう捏造キャラである。


解説


 自身を召喚した魔術師に数日で見切りを付け、彼を殺害して逃亡した。
 本来なら2日はマスター抜きでも現界可能だが、マスターが自身より優れた魔術師であるキャスターへの嫉妬で魔力量を自身以下に制限していたため早々に消滅の危機に瀕する。そこへ偶然通りがかった男性・葛木宗一郎に助けられた。彼と出会い、葛木が居候している柳洞寺に転がり込む。
 その後、生前手に入らなかった束の間の日常を守るため、そしてマスターに聖杯を渡すため、明確なルール違反サーヴァントであるアサシンを召喚し、第五次聖杯戦争で暗躍し始める……つもりだった。目論見は聖杯戦争序盤に邂逅した二騎の(インフレ)サーヴァントによって御破産となる。是非もないネ!

 フードによって顔を隠した女性。
 冷酷・残忍、目的のためには手段を選ばず、奸計を得意とする正真正銘の悪女とされる。しかしこういった態度や性格は彼女に課せられた運命の反動である面もある。
 自身を「魔女」として祭り上げた者達への復讐の為に英霊となったが、自らを“魔女”に貶めた非道・悪辣な術を使っては意味がないとも解っているため、人が欲望によって自滅するだけの、自己に返る些細な呪いの魔術だけで災いを呼ぶ事を信条としており、一般人からの搾取や人柱などによる地脈の操作などの“魔女”と呼ばれる原因になった魔術は生前は一度も自分の意志では使わず、禁を破る気もない。だが、邪悪な道を歩もうとする場合であっても、本質的には良識を持ったお嬢様育ちな人物であるため、一般人から魔力を搾取はしても命までは奪わないなど、良くも悪くも最後の一線で完全には非情になり切れない一面がある。
 本来は清純な女性で、惚れた相手にはとことんまで尽くすが、惚れた相手に甘えようとすると逃げていったというトラウマを持つために、一歩引いた態度を貫く。必要であればどんなあくどい手段に訴えることも厭わない反面、必要でないのなら何もしない人物。
 かわいい女の子とかっこいい男を好む。筋肉マッチョとイケメンは嫌い。天敵はバーサーカー。バーサーカーが狂化しているので描かれないが、同じギリシャの英霊で面識があるため。

 魔術の女神ヘカテーより神秘を教授された巫女である神代の魔術師。魔術が日常であったギリシャ世界ですら"魔女"と言われたその腕前はおそらく世界でも五本の指に入り、現代の魔法使いをも凌ぐとされる。奈須氏いわく、「本気になったキャスターには、蒼崎青子ですら敵わない」とのこと。宝石翁? あれはバグだから……(震え声)
 クラススキルにより「工房」を上回る「神殿」を作り上げることが可能で、冬木における最大の霊地である柳洞寺を陣地として、霊脈を利用することで冬木全域から集めた魂によって莫大な魔力を蓄えている。神殿内ならAランクの大魔術や空間転移といった魔法域の魔術まで使いこなし、詠唱スキル「高速神言」を持つために長い詠唱を唱えずとも屋敷数件を吹き飛ばす大魔術をマシンガンの如く連射させることが可能。ローブを翼の様に広げて空を飛ぶことも出来る。
 しかし大抵のサーヴァントは高い魔術耐性スキルを有しているため、魔術は攻撃手段というより策謀を巡らす手段になり易い。
直接的な魔術に限らず、魔術道具の作成など、魔術の関わるものは万能にこなす。また、使い魔兼護衛用に竜の牙で製作した「竜牙兵」を多数使役する。
 固有結界は使用出来ないが、莫大な時間と費用を掛けて小さな魔術と大きな魔術を緻密に構築していく事で、同規模の「異界」を作り上げることは可能。

 ちなみに、本作ではインフレ要項として、『神殿級の工房(完全版)』と『黄羊の皮(アルゴンコイン)による上位の竜種の召喚能力』を追加されている。
 前者は、原作とは比べ物にならない堅牢な要塞と化しており、内部の構造も複雑化されている。また、単純な魔力運用装置としても進化を重ね、神殿の深部という限定条件下でならば、A++ランクの魔術を、術式その物を空間跳躍させながら並列展開、包囲殲滅射撃を可能とする。エグい(確信)
 後者に至っては、高ランクの対魔力を持つ三騎士クラスに比肩するほどの竜種を召喚することで、本来ならば手も足も出せない筈の相手を正面切って押し潰せる可能性すら持っている。実質的なキャスターとライダーの二重召喚(ダブルサモン)である。
 実は幸運がBからAに上がっていたりもする。


 というわけで、如何でしたでしょうか。原作から(一部のヤバイ人たちを除いた面々で)キャスター最強格を張るだけあって、インフレそのものは妥当な所だと思います。あと、テキストはだいたい型月wikiから抜粋していますので、原作のメディアさんについて詳しく知りたい方はそちらをどうぞ。

 総評として、神殿最奥だと複合神殿内オジマンディアスの五歩手前程度には強くなるキャスターと思って頂ければと思います。インフレしても太陽王には勝てなかったよ……。

 最後はほんの少しだけQ&Aをして終わりです。疑問点、矛盾点、多々あるとは思われますが、ここまでお読み頂き有難うございました。


Q.(ギルさん出てくんの)ちょっと遅かったんとちゃうん?

A.実は没ルートだと、最初にイケメンワカメと士郎くん陣営にお邪魔してから、外道神父と敵対するという可能性もありました。なんだかんだと、今書いてるルートの方が都合が良かったので、こっちにしましたが。

Q.結局どうしてメディアさんは丸腰()でギルさんの前に出てきたの?

A.その時点での心情↓
メディア「(生前に腐るほど権力者を相手にしてきたから分かるッ!コイツは容赦などしないし、まして『誠意』を示さぬ者になど、まともな対応を返すわけがない……! 魔女と呼ばれる屈辱はこの際我慢よ、私!)………どうも(震え声)」

ギルさん「……ほう(魔女らしく頭は回るらしい。やはり『必要』か……?)」

Q.NOUMIN負けとるやんけ!

A.実は、山門が破壊された時にキャスターが強制転移していなかった場合、敗北を悟ったNOUMINは、本作の慢心なしギルさんに相打ち上等の特攻を掛けて、実際相打ちになります。召喚してくれたキャスターへの義理立てというわけですね。気に入らないところはありましたが、NOUMINにとっては唯一の召喚者なので。地味に紙一重だった英雄王、後にNOUMINの正体(本体)を見破った時に冷や汗を流したとかなんとか。




Q.なんかメディアさんの紹介長くね?

A.私の中のお気に入り女性サーヴァント第一位です(迫真)


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初投稿から2年かけてセイバー召喚するSSがあるらしいッスよ?(すっとぼけ)

 

 大英雄を退けた士郎一行は、曇天の下ライダーの仔である天馬ペガサスにきちんと乗り直して慎二の住む間桐邸へと移動していた。

 

 なにせ士郎の武家屋敷は件の狂戦士との戦いで倒壊してしまったし、それ以上にまだ士郎に異様な執着を見せる白い少女があの場に居残っているとなると、余計に戻る気が失せるというものだった。

 

「それで、お祖父様との交渉は自分でやってもらうけど、そこんところは了承してね。というかあんまり僕が話したくないからさ」

 

「ああ、分かってる」

 

 そうこう言っている内に、間桐邸の入り口に辿り着いた一行は、まるで何事もなかったかのように玄関の前に立った。

 

 間桐臓硯への本格的な協力要請。馬上にて慎二が提案しつつも、決して勧めることはなかった案の一つである。しかし、意外なことに士郎本人は乗り気であるようだった。

 

 慎二の曰く、あの妖怪へ至って大真面目にそんなことをしようとする奴がいるとは思わなかったとのことである。

 

「……はぁ」

 

 知らず、士郎は重い息を吐き出した。士郎にとって、友の住む古ぼけた洋館はどうにも不気味に映った。なにやらイヤな感じがするのである。具体的には生理的嫌悪が近い。

 

 固有結界による■■■■■との同調が解かれた今、士郎の人間性(かんじょう)が僅かながら取り戻されていたが故の弊害だった。

 

 しかし、後ろでニヤニヤしている性悪どもの手前、臆するわけにもいくまい。士郎は仕方なく、重々しい木扉に手を掛けた。瞳に不満を滲ませながらちらりと振り返ると、慎二の更に後ろで控えるライダーが軽く吹き出した。慎二は慎二で半笑いのまま堪えるように黙りこくっている。

 

「慎二、とりあえずそのにやけ面をやめてくれないか」

 

「おっと、これは失敬。いやー、でも相棒の困り顔は需要あると思うよ。なぁ、ライダー?」

 

「えぇ、普段は鉄面皮の殿方がふとした拍子にそのような表情(かお)をする、というのは中々………」

 

 あぁ、ギャップ萌えと言うのでしたっけ? 惚けた様子でライダーが嘯くと、正しくその通りだと言わんばかりに慎二が笑った。年相応の、悪ガキぶった純粋な笑みだった。

 

「ええい、とりあえずは今代間桐家当主と面会する、それで良いんだな?」

 

「応ともさ。家のお祖父様の協力が取り付けられりゃ、ほぼ勝ち確っても過言じゃあないよ?」

 

「………実際に見てから判断する」

 

「うん、しっかり見ておきなよ。じゃなきゃ喰われるだけさ」

 

 道中、慎二はどこまでも軽い調子で、魔術師というものがどういうものか士郎に説明していた。勿論、実際の魔術師にはほぼ触れたことがない士郎に、その危険性を伝えておくためだ。軽い口調も、あくまで理解しやすくするためのものに過ぎない。

 

 尤も、自分が魔術師だったらこんなことはしなかったのだろうが………。そこまで考えて、慎二は思考を切った。それ以上は無駄な妄想に変わりないからだ。

 

 士郎が重厚な木製の玄関を開くと同時、待ち構えていたかの如く暗い廊下から小柄な老人が現れた。

 

 目には爛々とした火が灯り、背筋は地に突き立った鉄芯の如く真っ直ぐ。歩調は静かなれど厳粛で、五百年以上続く名家の矜持が体現されたかのようだ。これほどの存在感、なるほど正しく怪傑という言葉に相応しいだろう。

 

 翁は士郎を一瞥すると、ニタリと口に弧を描かせた。合点がいったとばかりに頷いて、口を開く。

 

「さて、お初にお目にかかる。衛宮の倅………いや、士郎君、と呼んだ方がいいかのう?」

 

 重い言葉だ。先の一瞥で、こちらの事情は見抜かれたらしい。いや、もうその以前から見ていたのか。

 

「初めまして。慎二のお爺さん、間桐臓硯さんですね。今回はよろしくお願いします」

 

「おぉ、礼儀正しい子じゃな。最近の子供たちは挨拶もろくに返してくれんでのう。ちょっとばかし寂しかったんじゃ」

 

 やっぱりこの見た目がいけないのかのぅ、と反応に困る言葉を発する老体に若干のもどかしさを覚えつつも、士郎は会話を進めた。

 

「いえ、有り難う御座います。それで────」

 

 どうにも、掴みづらい御仁だ。そんなことを頭の片隅に浮かべつつ、さっさと本題に入る。ここで時間を取られるのは、士郎の本意ではなかった。

 

 相変わらず、後ろの慎二とライダーは半笑いでこちらを見つめているだけだった。

 

「そうじゃな。しかし、こんな場所でお客人を引き留めるわけにもいくまい。応接間へ案内しよう。ついてきなさい」

 

「お心遣い感謝します」

 

 先を行く小さな背中は、まるで巨木のようだ。ゆったりとした足取りを追い、木の茶色を基調とした質素ながらどこか気品を感じさせる応接間に辿り着く。いつの間にか、慎二とライダーは消えていた。

 

「そこに座りなさい」

 

「………失礼します」

 

 対面に翁が座るのを待ってから席につく。ここからは、裏の話だ。

 

 スゥ、と深呼吸をして、静かに口火を切る。

 

 永きを生きる怪人は、そんな士郎の瞳を懐かしげに見つめていた。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「それで、宛は当たったのかい?」

 

「あぁ。なんとかって所だ。召喚陣もとい工房の一部利用権、状況精査用に使い魔の派遣、その他魔力補助用礼装の貸し出しが主なものだな」

 

 大まかな内容を告げると、慎二は目を丸くした。これほどの支援を受けられるとは露ほどにも想定していなかったのだ。

 

「………なぁ、それマジの話なのか。対価は?」

 

「………言えん。そういう契約だ。何より、俺が言いたくない」

 

 何時にもなく真剣な表情の慎二に対し、微妙な表情で返す。道中での曰く、魔術師との契約は等価交換が絶対らしい。場合によってはその対価が『命』とされるほど重い場合もザラだとか。その上、士郎が取り付けた協力は、破格と言っても過言ではない。必然、その対価はとてつもない物へなる筈だが………。

 

「安心しろ。そう大したものじゃない」

 

「相棒、それ一番信用ならんやつだよ」

 

 思わず呆れ顔が飛び出した。無論ながら、これで信用できるはずもなく。

 

「真面目な話だよ、相棒。それで万が一、あぁそうだとも万が一だ。『お前が僕を裏切る契約を交わしていた場合』、僕は君を殺さなくちゃならない。それだけ『やらなきゃいけない事』が僕には残ってる!」

 

 鬼気、そう呼ぶに相応しい。言葉を紡ぐにつれ、怒気と決意と覚悟の入り雑じった悪鬼の如き形相がより強まる。

 

 その理由は────

 

「────桜、か。そこら辺の事情も翁から少しだけ聞いている。だが、まぁ、それは今話すべき事じゃあない」

 

 それを、軽く流した。その程度、なんでもないと言わんばかりに。それを聞いた慎二は途端に表情を渋くした。相変わらず頭の回転が速い。

 

 まぁ、つまり、絶対裏切らないし裏切れない保証が士郎にはあったので。

 

「ほら、セルフ・ギアス・スクロールだ。焦るのは解るけど、頭脳労働担当が冷静さを失っちゃ終わりだろ?」

 

 尤もである。本人が自負する所である本分を、当人が忘れ去るのでは世話もない。

 

「………あぁ、そうだね。らしくなかった」

 

 慎二は軽い頭痛を覚えながら提示された書類を見つめる。口頭で既に対価は交わされたとのことを先に士郎が言うのをどこか疲れた様子で聞き届けた慎二は、スクロールの内容に目を落とした。

 

 諸々の条件はあるが、やはり目に付くのは『衛宮士郎及びそのサーヴァント、またその協力者は間桐慎二及び間桐桜に危害を加えることが出来ない。』の一文である。

 

「とりあえず把握はしたよ。後は召喚を滞りなく行ってもらう。触媒は……相棒が持ってるわけ? 触媒になるような聖遺物を?」

 

 訝しげな様子で尋ねる慎二に、士郎は曖昧な笑みを浮かべるばかりで答えようとしない。

 

「臓硯さんに口止めされててな。こっちはホントに言えないんだ」

 

「土壇場で相性召喚とかやめてくれよ……?」

 

「そこは安心してくれ。きちんと準備してあるからな」

 

 そう言って一体どこに隠し持っていたのか懐から剣の鞘らしき華美な装飾の施された物体が取り出す。たしかに、慎二の目から見ても強烈な神秘の香りを残す代物である。

 

「これが触媒。何を呼び出すのかは教えられないけど、それなり以上に強力なサーヴァントになる予定だ。期待してくれても良いと思う」

 

「期待すんのはやめとく。どこかの誰かみたいにうっかりやら慢心やらはしたくないからね」

 

「そうか」

 

 士郎の頭に浮かぶのは、いつかの夕方にこちらを見ていた少女のこと。その時は名前どころか顔すら知らぬ赤の他人であったが、どうやら慎二とはそれなりに人付き合いがあるようで、彼の口から何度かその人となりを聞いたこともある。

 

 尤も、それは魔術と関係ない遠坂凛という少女の性格や言動のことであったのだけれど。

 

 ふと気になったので、士郎は慎二に彼女のことについて聞いてみることにした。

 

「そういえば、遠坂も聖杯戦争のマスターなんだよな?」

 

「んー、その筈だよ。少なくとも凛の奴が遠坂現当主の地位を放り投げていなければね」

 

「……流石にないな、それは」

 

「僕も言ってて思った」

 

 慎二に曰く、あかいあくま。家訓を遵守せんと猫を被りまくる優等生。素の部分はツンデレのテンプレートみたいなものらしいが、所詮は彼の私見である。普段は人をおちょくるような態度を取る慎二に対して、対応がキツくなる可能性も十分にあり得るだろう。

 

 だからといって、真冬の未遠川の川底に埋めるのもどうかと思うが。慎二でなければ死んでいたかもしれないだろうに。

 

「さて、一応は召喚のベストタイミングを逃してるワケだけど、いつやるんだい?」

 

「今だ」

 

「えっ」

 

 やるなら早めがいいだろう。御三家の一角、その本陣たるこの間桐邸もいつ襲撃されるか分かったものではない。現状、強力な戦力は喉から手が出るほど欲しいことに変わりはないのだから。

 

「ちなみに聞いておくけど、どこで召喚するつもり?」

 

「間桐邸地下────蟲倉だ」

 

 そう告げた瞬間の、慎二の露骨に嫌そうな顔が随分と印象に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 士郎への配慮だろうか、本来はこの冷たい石床に(うずたか)く積まれ蠢いていたのだろう蟲たちの姿は、影も形もない。薄暗い、底冷えするような憎悪と無念に塗れた石造りの地下室は、事実として召喚を行う場として優れていた。御三家の一角、その工房の秘中の秘に当たるに相応しい、冬木の地脈(レイライン)のマナを潤沢に蓄えた蠱毒の壺は、サーヴァントの召喚を行う絶好の場だったのだ。

 

 数え切れぬほどの非道外道、その残滓が染み込んだ悪意の坩堝。士郎はその中にありながらも、一切の情動なく静かに役目を果たした。

 

「────問おう、あなたが私のマスターか」

 

「あぁ、よろしく頼む。────アーサー王」

 

 現れたるは麗しき青銀の騎士王。聖剣の担い手、今尚楽園にて眠り続けているとされる偉大なる王者。名高き星の燐光は織り束ねられた大気によって姿を隠されているものの、その隙間などないはずの透明な鞘からは迸る生命の息吹が漏れ出している。

 

「サーヴァント・セイバー、これより我が身はあなたの楯に、そして無類の矛となりましょう。ここに契約は結ばれました」

 

「じゃあ改めて、俺は衛宮士郎。君のマスターとして全力を尽くすと誓おう」

 

 あくまでも対等な立場であることを心懸ける士郎の態度は、どうやら召喚されたばかりのセイバーには好ましいものに見えたらしい。蟲倉の様子に顔を顰めたのをすぐさま穏やかな微笑みに切り替えたセイバーは、一礼をした後、剣を持たない右手で握手を申し出てきた。騎士王の名に恥じぬ礼儀正しい所作に倣い、士郎も差し出された手を力強く握り返した。

 

 さて、親交を深めるのもいいが話も進めなければならない、と握手を解いた士郎が口を開いた。

 

「早速だがセイバー、これをお前に返そう。俺には使えそうもないからな」

 

 そう言って目の前に差し出された物を見て、セイバーは顎が落ちるような驚愕を召喚早々に抱く羽目になった。それは士郎が此度の召喚の触媒として使用した聖剣の鞘。アーサー王伝説に語られる永久の楽園、理想郷(アヴァロン)の名を冠する評価規格外の宝具である。

 

「これは、何故マスターが?」

 

「かつて、俺の命を救った男の持ち物だった。本来なら既に世界へと還っていたのだろうが………どうやら俺と相性が良かったらしくてな。今日まで俺の体内に格納されていた、というわけだ」

 

「………そう、ですか」

 

 釈然としない様子のセイバーは、しかしそれ以上の追求をすることはなかった。これから主従関係となる以上、その関係に余計な溝は残したくなかったのだろう。もしやすれば、それは彼女の参戦した前回の聖杯戦争からの教訓であったのかもしれない。

 

 ふと、なんとなく思い出したという体で士郎が問を投げかける。

 

「なぁ、セイバー。聖杯に託す願望はあるか?」

 

「どういうことでしょうか?」

 

「答えてほしい」

 

「………ありません。カムランの丘でモードレッドの剣を身に受けた、その時の私ならば何かしらの願いを持つこともあったのでしょうが、少なくとも今の私にその類いの想いはありません」

 

 士郎は清々しい表情で言い放ったセイバーに珍しい物を見る様な視線を向ける。人間とはこれほど割り切ることができるものか、と見当違いの感想を口の中に押し込める。

 

「そうか、なら話は早い」

 

「………」

 

 話は早い、つまりこれまでの会話の中に、既に問題となるものが含まれていたことを意味する。セイバーは、問題を引き起こさせない、或いは解決するために必要なことを問われたのだと理解した。思い当たることといえば一つしかない。聖杯に託す願いを持つか、否か。

 

 で、あれば。自らを召喚したこの少年の目的とは───

 

「簡単な話だよ。俺達の陣営の目的は聖杯を破壊することだからな」

 

「───なっ!?」

 

 聖杯の破壊。それはそもそもの前提を覆すものであることに相違なかった。

 

 聖杯に懸ける願いを持つからこそ選定される聖杯戦争のマスターが、よりにもよって聖杯そのものを滅ぼすことを願いとするのだから、これほどおかしなことはない。矛盾だ、矛盾であるはずだ。これ以上ないほどの、完全無欠といって差し支えない論理破綻、そうであるはずだったのだ。

 

 しかし、セイバーの持つ未来予知に匹敵する、本来は戦闘行為の際に発揮される直感スキルが訴えた。これは冗談でもホラでもなんでもない。正真正銘、眼前の若者が想う掛け値なしの本音である、と。

 

 言葉も出ない様子のセイバーに、士郎は淡白な態度のまま話を押し進めた。

 

「驚くのも無理はないだろう。だが、そうでもしなければ最低でもこの街が滅ぶ。比喩でもなんでもなく、な」

 

 脳裏に浮かぶのは己が消え行くはずの大神秘に囚われたとある夜の大火災。大火を鎮めた嵐の如き豪雨こそ、士郎の引き起こした最初の神代回帰(・・・・)。それでも、未熟な力が故に汚泥を流し浄めることは叶わず、士郎の本当の家族を含め間に合わなかった命が存在することも確かだったが。

 

 現代ではありえないほどの神秘の行使によって力尽きた士郎は、黒尽くめの草臥れた男に拾われ、そこから衛宮としての生を受けたのだ。

 

「……いえ、心当たりがあります(・・・・・・・・・)

 

 いっそ決然とした様子で応えたのはセイバーである。その顔には複雑な感情が浮かび上がり、苦虫を噛み潰したようや苦渋が隠されることもなく表れていた。

 

 このサーヴァント、十年前の出来事を知っているか。士郎には、セイバーは前回の聖杯戦争に参加したことを隠すつもりがないように見えた。サーヴァント同士の戦闘経験は貴重だ。これは中々、当たり(くじ)を引いたか。

 

 しかし、今は戦力の確認より優先すべきことがある。

 

「───そうか。できればそのことについて詳しく聞きたいが………先にこちらのことを話しきってしまおう」

 

「と、言うと?」

 

 碧い瞳が静かに士郎を見据える。セイバーはあくまでもマスターの意思を立てるタイプのサーヴァントであるらしい。いずれもっても我の強い英雄系には珍しいタイプだ。とは言っても、まだ見せていないだけでセイバーにもそういう部分はあるのだろう。出来る限り対立しないように努めなくては。そんなことを考えていることをおくびにも出さず、士郎は朗々と話を続けた。

 

「大前提だ、聖杯は汚染されている。それも、タチの悪いことに『意思を持った悪意』にな」

 

「どういうことでしょうか?」

 

 イマイチ要領を得ない説明に、セイバーが解説を求めた。些か性急過ぎたか、と士郎は頭を掻いた。

 

「意思を持つ悪意、それは拝火教の悪神(アンリ・マユ)の名を騙るただの亡霊だ。およそ70年もの間大聖杯に潜み続けている第三次聖杯戦争以来の癌だ」

 

「……続きを」

 

「あぁ。そもそも聖杯っていうのは無色の願望機だ。何物にも染まっていないが故に、希望される願いをそっくりそのまま実現する。そこまではいいな?」

 

 士郎はコクリと頷くセイバーにしっかりと目を合わせると、力強い語調で語った。

 

「じゃあ、この無色であるはずの聖杯に色が足されたとしたら、どうなると思う?」

 

「────まさか」

 

「そのまさかだ。まったく質の悪いことに、それは意思という最濃の絵の具を持っていて、挙句の果てにはその色の象徴だった(・・・・・・・・・)っていうオチだ」

 

「馬鹿な。だとすれば、もし聖杯戦争が完遂されたなら───」

 

「それが破壊か何かかは分からないけど、まず間違いなく『悪い』ことが起きる。それも、地球規模のそれとしてだ」

 

 それも、文字通り最悪の神代回帰として、彼の悪神が『生誕』する形で発生する───。士郎は、突き止めた致命の事実を敢えて口の中で留めた。これを知られれば、己の役割を果たせなくなる。

 

 愕然とする剣の英霊を横目に、士郎は再び■■■■■との同調を再開した。









 まだ死んでないから(白目)

 お久しぶりです。モブです。最近はまったく筆が進まず、いわゆるスランプ的な何かに陥っています。だからといって半年以上放置するのもどうかと思うけどネ!()

 さて、今回は早速セイバーさんのステータスに移っていきます。とはいっても、原作セイバーさんとはメンタル面と供給魔力面と最初からアヴァロン所持でとんでもない差があるため案の定インフレが酷いことになっています。今更ではありますが、受け付けない人は素直にブラウザバックを推奨いたします。

 メディアさんよりあっさり風味の紹介で今回は終わりです。これからも投稿はクッソ遅いけど頑張ります!(開き直り)


マスター:衛宮士郎
クラス:セイバー
真名:アルトリア・ペンドラゴン
身長:154cm / 体重:42kg
出典:アーサー王伝説
地域:イギリス
スリーサイズ:B73/W53/H76
属性:秩序・善 / 隠し属性:地
性別:女性
イメージカラー:青
特技:器械運動、密かに賭け事全般に強い
好きな物:きめ細かい食事、ぬいぐるみ 、民草の平穏と笑顔
苦手な物:大雑把な食事、装飾過多、救国に取り憑かれていた頃の自分
天敵:ギルガメッシュ、マーリン、ジークフリート


ステータス

筋力:A  耐久:B+
敏捷:B  魔力:A
幸運:A  宝具:EX


クラススキル

対魔力:A
魔術への耐性。ランクAでは魔法陣及び瞬間契約を用いた大魔術すら完全に無効化してしまい、事実上現代の魔術で傷付ける事は不可能なレベル。

騎乗:B
乗り物を乗りこなせる能力。元々馬上戦闘に秀でた騎士であるためランクは高く、魔獣・聖獣ランク以外なら乗りこなす事ができる。また、生前には存在しなかった自動車やバイクさえも「現代の乗騎」と見なせるため直感で乗りこなせてしまう。


保有スキル

直感:A
戦闘中の「自分にとっての最適の行動」を瞬時に悟る能力。ランクAにもなると、ほぼ未来予知の領域に達する。視覚・聴覚への妨害もある程度無視できる。

魔力放出:A++
魔力を自身の武器や肉体に帯びさせる事で強化する。魔力によるジェット噴射。後述のスキルによってその出力が本来のものより飛躍的に上昇している。A++ランクでは単なる棒きれが平均的なDランク宝具相当の壊れた幻想(ブロークンファンタズム)に匹敵する破壊力を発揮する驚異の能力を誇る。

カリスマ:B
軍を率いる才能。元々ブリテンの王であるため、率いる軍勢の士気は極めて高いものになる。ランクBは一国を納めるのに十分な程度。

精霊の加護:A
精霊からの祝福によって、危機的な局面において優先的に幸運を呼び寄せる能力。その発動は武勲を立て得る戦場においてのみに限定される。アーサー王は湖の精霊(妖精)から加護を受けており、水上を歩行する能力なども獲得している。

ドラゴンハート:A++
幻想種の頂点たる竜種、その中でも上位の者の心臓その物。魔術回路を用いずとも、呼吸をするだけで魔力を生産する無尽蔵の魔力炉心。アーサー王は出生時に魔術師マーリンの計らいにより人の身ながら竜の因子を持って生まれてきた。魔力放出のスキルはこの因子に由来する。


宝具

風王結界(インビジブル・エア)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大捕捉:1個

アーサー王の剣を覆い隠す、風で出来た第二の鞘。厳密には宝具というより魔術に該当する。
幾重にも重なる空気の層が屈折率を変えることで覆った物を透明化させ、不可視の剣へと変える。敵は間合いを把握できないため、白兵戦では非常に有効。
ただし、あくまで視覚にうったえる効果であるため、幻覚耐性や「心眼」などのスキルを持つ相手には効果が薄い。
透明化は副次的な役割であり、その本質は彼女の余りにも有名すぎる剣を隠すためのもの。
風で覆う対象は剣に限らず、オートバイに纏わせて速力をアップさせたり、ビルをも覆う風の防御壁にしたりもしている(必要がなかったためか、透明化までは行われなかった)。
また、纏わせた風を解放することで破壊力を伴った暴風として撃ち出す「風王鉄槌(ストライク・エア)」という技ともなる。ただし、一度解放すると再び風を集束させるのに多少時間を要するため、連発はできない。

約束された勝利の剣(エクスカリバー)
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1~99 最大補足:1000人

アーサー王の聖剣エクスカリバー。
かつてアーサー王が、一時的に妖精「湖の乙女」から授かった聖剣。アーサー王の死に際に、ベディヴィエールの手によって湖の乙女へ返還された。
人ではなく星に鍛えられた神造兵装であり、人々の「こうあって欲しい」という願いが地上に蓄えられ、星の内部で結晶・精製された「最強の幻想(ラスト・ファンタズム)」。聖剣というカテゴリーの中で頂点に位置し、「空想の身でありながら最強」とも称される光の剣。
あまりに有名であるため、普段は「風王結界」で覆って隠している。風王結界を解除した状態では通常の剣として使った際の威力も高く、風王結界をまとった状態を80〜90だとしたら、風王結界を解除した黄金バージョンのは1000ぐらい。
神霊レベルの魔術行使を可能とし、所有者の魔力を光に変換、集束・加速させることで運動量を増大させ、光の断層による「究極の斬撃」として放つ。攻撃判定があるのは光の斬撃の先端のみだが、その莫大な魔力の斬撃が通り過ぎた後には高熱が発生するため、結果的に光の帯のように見え、地上をなぎ払う光の波に取られる。その様は『騎英の手綱』が白い彗星ならばこちらは黄金のフレア、と称される。
言うならば一点集中型の指向性のエネルギー兵器。その膨大なエネルギーを正しく放つには両手での振り抜きが必要とされる。威力・攻撃範囲ともに大きい為、第四次聖杯戦争時に切嗣が大型客船を緩衝材として使ったり、第五次でビルの屋上から空へ向けて放ったりと、常に周囲への配慮を必要とする。威力に比例して扱いが難しい部分もあるが、出力は多少ならば調整可能であり、抑えた場合宝具の起動まで一秒未満に短縮することも出来る。
また、「あちら」のアーサー王が持つ「約束された勝利の剣」と同じく『心の善い者に振るってはならない』『精霊に振るってはならない』『共に戦う者は勇者でなければならない』等の誓約が複数かけられているため、それを破ると魔力放出が削られてしまう。全ての誓約が開放された状態での一撃を放ったことは一度あるかないかだという。

全て遠き理想郷(アヴァロン)
ランク:EX 種別:結界宝具 防御対象:1人

エクスカリバーの魔法の鞘。妖精モルガン(モルガン・ル・フェ)がアーサー王から奪った聖剣の鞘。アーサー王の手から奪われた後、コーンウォールから「宝具の現物」として発掘され、現代に復活する。
「不老不死」の効果を有し、持ち主の老化を抑え、呪いを跳ね除け、傷を癒す。真名解放を行なうと、数百のパーツに分解して使用者の周囲に展開され、この世界では無い「妖精郷」に使用者の身を置かせることであらゆる攻撃・交信をシャットアウトして対象者を守る。それは防御というより遮断であり、この世界最強の守り。
魔法の域にある宝具で、五つの魔法さえ寄せ付けず、多次元からの交信は六次元まで遮断する。あらゆる宝具を持っているに等しいギルガメッシュでも、この宝具を使用中の彼女には最高出力のエアを使っても傷を一つ付けることさえ不可能。しかし、世界の開闢そのものである「天の理」を防げるかは不明。
奈須氏曰く、「セイバーがこれで引き篭もったら手におえない」とのこと。だからといって本作において突破出来ないとは言っていない。おそらくインフレNOUMINの被害者となるだろう宝具。
アーサー王でなくとも所持者に加護を与え、傷を癒し、活力を与えるが、本来の持ち主である彼女から魔力を供給されないと効力は微弱なものとなる。基本的に、セイバーとの距離が近い程治癒力が高まる傾向が見られる。彼女が鞘の存在を認識していなくとも、鞘と同化した対象に触れると治癒力が大幅に高まる模様。
原作においてパスが正確に繋がった後の士郎やセイバー当人が使用している時でも、立ち上がることすら出来ない瀕死の重傷の場合はそうすぐには完治しない。しかし、治癒を阻害する呪詛による傷であっても自動的に完治させる点は極めて強力である。
衛宮士郎の体内に埋め込まれていたままだった場合、体から抜け落ち、星の内海に帰るらしい。しかし、本作の衛宮士郎はある性質から異常なまでの親和性を保有しており、もし体内に留めたままならば彼が死ぬまでは現世に残り続ける。

白亜円卓騎士団(ナイツ・オブ・キャメロット)
ランク:A+ 種別:召喚宝具/対軍宝具 レンジ:1〜99 最大補足:100

かつてアーサー王が率いた誉れ高き円卓騎士たちの連続召喚。サー・ガウェインやサー・ケイを始めとした著名な英雄たちが生前の忠義と絆を縁としてアーサー王からの召喚を是とすることで結晶した宝具。召喚された英雄たちはそれぞれが独立したサーヴァントとして確立し、各々の宝具やスキルを保有する他、単独行動スキルを平均Bランクほどで獲得する。
勿論、単独行動スキルを持つにしてもその現界維持は竜の心臓を持つアーサー王とそのマスターから補給されるため、基本的には令呪と併用することが前提の宝具となる。
もし、この宝具を十全な形で発動できるマスターがいるならば、それはとんだ魔力バカであるに違いない。だが、本当にそれができてしまったら対軍宝具がところ構わずブッパされる地獄のような蛮族戦線が再びこの世に現れることだろう。


解説

第四次聖杯戦争でランスロとなんだかんだしっかり話し合って色々精神的に拗らせてたのをサッパリ解決してしまった騎士王その人。切嗣とはビジネスライクな関係だったとか。よって、聖杯を求める心は欠片もなく、理想郷にて眠っているアーサー王の夢の現身として、『呼ばれたから応えた』という某施しの英雄みたいなノリで応じたスーパー悟りメンタルウーマン。

また、諸事情でスペックダウンすることなく参戦に成功し、魔力放出でカッ飛びエクスカリバービームを雨あられとブッパする超速人間戦車()としての能力を最大限に発揮することが出来るようになっている。しかし、周辺の被害を考えるとやはり自重せねばならないと自戒しているため、聖剣ビーム連打はあまり気が乗らない模様。尤も、民草やその居所に被害が出ないならば一切の躊躇なくビームを連発するブッパ脳になる。やっぱ魔力炉心持ちってチート(確信)

実は耐久の+部分は精神的な向上によるものであったりする。幸運は本作士郎の幸運値によって+部分が外れている。


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───趣味です。

 

 

「貴様のそれは剣術にしては異形が過ぎよう。何を根幹としたのかさっぱり見当がつかぬ」

 

 柳洞寺の縁側で、真っ昼間から麦酒を呑み交わす男たちが二人。

 

 片方は下ろした金髪を弄りながら怪訝そうな顔で塩茹でされた枝豆を口に放り込み、もう一方は午前中に刀を文字通り物干し竿として徴収され不貞腐れながらちびちびと喉を潤わせている。

 

 英雄王とアサシンである。先日鎬を削った両者は、全く遺恨などない様子で語り合っていた。

 

 ちなみに、早朝には職場に出勤したキャスターのマスター、葛木宗一郎もこの輪に交ざっていたことは全くの余談である。それを見たキャスターが英雄王とアサシンに凄い目を向けていたことも、同じくこぼれ話だった。

 

「ふむ、それは仕方のないことだろうよ、英雄王。そもそもこの剣には何の想いもない。無念無想、無二、零、刃重ね、幾らか知っているそれらの境地とはまた別の妙境に我が剣理が存在するにしても、他のそれと比べてここまで意味のない術技も存在せんだろうさ」

 

「ほう、我は剣士ではないが、貴様の剣に一定の評価を下しているのだが」

 

 黄金の秤を経て、その技量が認められたことに少しばかりの喜色を表すアサシンだが、どちらかと言えばそれは苦笑に近い表情であった。

 

 それもその筈、アサシンは剣を極めようと棒振りを始めたわけではないのだ。それを評価されたところで、反応に困るのが実情だった。

 

「一人の剣者として現れた身ではあるが、剣の技は趣味の産物に過ぎぬ。ある程度の実益を兼ねた、な」

 

 要は特別に斬ろうと思った何かが存在せんのだ、とアサシンは呟いた。それを聞いて一瞬変な顔をしたギルガメッシュは、しかしすぐに納得した様子で相槌を打つ。

 

「あぁ、貴様アレか。極まっているがために無意味になったのではなく、別にあってもなくても構わん些末ごとが評価されてどう反応すれば良いのか分からなかったのか。稀にいるのよな、神域に至りながらもその業に価値を見出さぬ変人が」

 

「応とも。私の悲願は剣とは全く別の……、そうさな。隣の芝生の青さに目が眩むどころか(めくら)に成り果てたが故の代物だった」

 

「フハッ! きさ、貴様まさか嫉妬か! その顔立ちで!!」

 

 フハハ、アハハと笑いの止まらなくなった英雄王をそれなりの力で小突く。しかし、英雄王は殴打される箇所に合わせて波紋を広げると、アサシンの手はその中に突っ込まれる形で器用に躱されてしまった。

 

 苛立ち紛れに中の物を引っ張り出すと、麦酒の壺の追加がその手に握られている。観念したアサシンは、ようやく話を進めだした。

 

「まぁ、此度の聖杯戦争に応じたのは、人……まぁ厳密には違うがサーヴァントも一応は人の延長線上だから構わんか。それに純粋な実力という点で我が剣がどこまで通用するのか興味があったというだけだ」

 

「うむ、まあそんなところであろう。傾向としては今回のランサーめと大して変わらん」

 

「さて、あの戦士ほど純粋に闘争を求めているわけではないのだが」

 

「常在戦場が魂にまで染み付いた男と比べること自体が既におかしいことに気付け、戯けめ!」

 

「……それもそうさな」

 

 何時にもなくご機嫌な様子の英雄王から目を離して青空へと目を向けると、少しばかり晴れやかな気分になる。

 

 本来この"佐々木小次郎"の器に潜り込んだ筈の男は、このような空をどう評しただろう。ふと、アサシンとなった男は考えを巡らせてみたが、所詮は他人のことである。ましてや人より何倍も社会性というものに欠ける人間と自他共に認める存在では、あの花鳥風月を愛でる雅な剣客の心情を察するのは無理があった。

 

 考えても無駄と思考を断ったアサシンは今後の進退を聞いてみることにした。

 

 なにかと迂遠な言い回しが多い遠見たちのことである。その内容の半分も理解はできないだろうが、少なくとも自分の役目を理解しておけば立ち回りに困ることはあるまい、という打算だった。

 

「それで、これからどうする?」

 

 曖昧な問いを受けて、英雄王は憮然としながら返した。

 

「フン、キャスターめが初めに組んだ物とさして変わらぬ」

 

 目的は違うがな、と非常につまらない様子で吐き捨てるので、アサシンはかえって気になり始めた。

 

「目的とは?」

 

「アレを冬木から出すわけにはいかぬ。故に、監督役を殺し外部からの干渉を完全に断つ。……いや、この言い方は正確ではないな。そうさな、正しくは、外に漏らさぬようにするといったところか」

 

 濃密な神秘とは、現代を生きる尋常な人間が触れるべきではない。真エーテル、神代の空気、幻想粒子、呼び方はなんでも構わない。もはや枯れ果て、残滓すらないとされるそれは、ここ最近の冬木で乱造され、既に無辜の民に被害を出していた。

 

 表向きはテロリストが潜伏し、本当はどこにもいやしない彼らが毒ガス兵器をばら撒いたと日本政府に発表させた。テロリストは射殺、拘束したが毒ガスの影響を調査しなければならないと住民を避難させ市内を封鎖する形で神秘を秘匿している。

 

 もちろん、それまでに起こったサーヴァント同士の戦闘の痕跡についても、テロリストの仕業だとして公表している。今や日本は極度の緊張状態に陥り、在日米軍や自衛隊のみならず、アメリカ本国や国連からの軍隊が出入りする世界の火薬庫と化していた。

 

 国をも巻き込んで大事(おおごと)にした以上、事ここに至って教会と協会の管理は事実上破綻してしまっている。

 

 この事態に気がついた両会の上層部の動きは早いものとなるだろう。特に魔術協会はサーヴァントや聖杯といった神秘を手に入れるため、すぐにでも何らかの確保部隊を差し向けてくるのは想像するに容易い。

 

 では、そういった外部の干渉はどこを経由して冬木に足を踏み入れるだろうか。それは当然、現地で聖杯戦争を管理していた筈の聖堂協会の監督役である。

 

 神秘の秘匿は協会のスタッフが行うことで教会から基本的な合意を得ていた。それがどうしたことか、まともな処理限界を容易く超越した事態を前に、秘匿システムは麻痺し、その隠蔽は不十分なものと成り果てた。

 

 円蔵山の森林と市街地の住宅街、たった2つの秘匿事案。しかし後者が致命的だった。人的被害こそ軽微であるものの、その規模によって聖杯戦争の進行そのものを妨げる大事へと変貌したのである。

 

 冬木の管理者(セカンドオーナー)である遠坂など顔面蒼白であろう。

 

 また、これを聖杯戦争監督役の管理不行き届きとすれば、外部勢力が冬木に侵入するための大義名分を幾らでも制作できる。

 

 後は監督役から予備霊呪を奪い取り、サーヴァントたちを無力化すればミッションコンプリートと相成ってしまうわけである。

 

「……よく分からんな」

 

 と、結局アサシンの頭ではそんなことは分からない。本来の視点を持っていたならば、単純に知覚範囲が広いために英雄王の言葉を理解もしたのだろうが、このアサシンは棒振りの極北に至っただけのNOUMINとして現れた残滓である。とんだのうたりん(・・・・・)であった。

 

「とりあえず監督役を斬れば良いのだな。委細承知、手早く御首(みしるし)を頂戴してこよう」

 

「しくじるなよ。アレは厄介な加護を受けている。貴様や我、ギリシャの剛勇やアルスターの猛犬には干渉出来まいが、それ以外ともなれば話は別よ」

 

「む? 結局のところ斬れば良いのだろ?」

 

「そうだ、貴様に限って万が一はあるまいが、横槍に不意を突かれては面倒だ。精々用心しておけよ、まだ棒振り遊びがしたいのであればな」

 

「私はそう簡単には死なんと思うのだがな。いや、自惚れだが」

 

「その慢心が貴様を殺すと思え。普段の我の特権ぞ、それは」

 

「違いない。では、行ってくる」

 

 音も無くアサシンが空に溶ける。早ければ一分もしないうちに帰って来ようが、英雄王はアサシンが存外に苦戦する未来を既に観ていた。

 

 己の助言がどこまで役に立つか。英雄王が、自らの持つこの世界の運命に対する影響力を見極めるための一手の結果や如何に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言峰教会。

 

 冬木の中にある中でも特に古い歴史を持つこの教会は、明治時代の初期に建てられたものだと伝わる。

 

 今代の管理者──神父に当たる人物は、地元民からの信頼も厚い敬虔なカトリック教徒として著名である。

 

 十年前の大火災当時、老齢の父を亡くして間もない頃。燃える街を駆け避難勧告と人命救助に尽力したとして市に表彰され、その強い意思から人々に尊敬と共に語られる男。神父、言峰綺礼。しかし、その裏の顔は冬木の地にて行われる聖杯戦争の監督役。ひいてはその元参加者であった。

 

 今回の聖杯戦争の一つ前、十年前に勃発した第四次の折にこの街を破壊した大災害の元凶の一人でありながら、顔色一つ変えずに市民に讃えられているこの男。一等級の外道であることは疑いようがなかった。

 

 さて、それはともかく今の話である。

 

 教会の聖堂に独り立ちつくす綺礼は、ステンドグラスが日光に照らされているのを、ただぼうっと眩しそうに眺めていた。教会への来客に気づいてこそいたが、あくまでもそちらの方から話しかけてくるのを待っていたのである。

 

 来客こと第五次聖杯戦争最後の参加者(マスター)は、背を向ける綺礼から六歩ばかりの距離で足を止めると、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「そのステンドグラスに何か思い入れでも?」

 

「あぁ、これは失礼した。なに、このぐらいの歳になると色々考える余裕も生まれてくるのでな。特段このステンドグラスに思うところがあるわけではない」

 

 慇懃無礼な様子の返しにも、そのマスターは無言のまま大した反応を寄越さなかった。綺礼は少しつまらないような気持ちがしたが、結局それを表に出さず、いかにも大仰な感じで振り返った。

 

 赤い頭髪に、薄く赤の入り混じった琥珀の瞳。抑揚の小さい静かな声の主こそは、第五次聖杯戦争最後のマスターに相違ない。

 

「さて、ようこそお越しになられた。セイバーのマスター」

 

「衛宮士郎、ただの魔術使いだ。短い付き合いだろうが、よろしく頼む」

 

 覚えのある氏だ。反射的に拳を握り込んだ綺礼は、気味の悪い笑顔を浮かべてうっそりと呟く。

 

「───衛宮、か」

 

 万感の想い、と言うほどの語気ではない。だが、なにかしらの深い感情が渦巻く言葉に、士郎が眉をひそめる。

 

「何か?」

 

「いや、古い因縁の類いだ。気にすることはない」

 

「……そうか」

 

 然るに、踏み込んではならない領分の話に思えた。もとより面識のない人物にそういった話をすべきではないとも世間一般は判断するだろうし、士郎もまたそう考えて突っ込むことは控えることにした。

 

 綺礼は、どこか遠くを見やるような目をすぐに引っ込めて、思い出したように監督役としての役割を遂行し始めた。

 

「さて、ここに来たということは、参戦表明ということでいいのかね?」

 

「ああ、そういうことになる」

 

 綺礼の笑みがいっそう深くなる。さも愉快だと言わんばかりにつり上がった唇は、今にも大口を開けて笑い声をあげそうなほどだった。

 

「認めよう。そして今こそ宣言しよう、第五次聖杯戦争は、この時より正式に開催される」

 

 正式に、というのはこれまでの小競り合い──というには致命的な規模ではあるが──のことを指しているのか。少し刺のある口調で話す姿に、士郎はまったく気にした素振りもなく返した。

 

「……監督役というのも気苦労が絶えないな」

 

 本当のことを言えば、綺礼自身も此度の聖杯戦争が聖堂教会をして、もはや監督しきれない領分にあることは理解しているのだろう。

 

 綺礼からすると、第五次が終われば、いや、もしやすればこの一週間の内に己がどうなるかも分からない状況である。それでいて、こうも自身の役を遂げ抜くのは並々ならぬ自負故か、それとも己のことはどうでもいいと割りきっているのか。

 

 或いは、と考えを巡らせていると、綺礼が気にした様子もなくこう言い出した。

 

「それはそれ、これはこれという言葉がある」

 

「なるほど、そういうものか」

 

 なるほど、とは言ったものの、何がそれ(・・)で何がこれ(・・)なのかを明確にしていないために、士郎からは綺礼が何を分別しているのかはよく分からなかった。

 

 ただ、その不気味な薄笑いに良くないものを直感していたので、やはりよからぬ物事を考えているに違いないと確信を得たのである。また、それが士郎の使命を妨げるものであるとも。

 

 ふと、士郎は踵を返した。その背に綺礼が呼び掛ける。

 

「もう帰るのかね?」

 

 脚を止める。首だけ後ろに回しながら、士郎は思案を重ねていた。この場で綺礼を殺すべきか否か。士郎は実のところ決めあぐねていたのである。

 

 ここでセイバーを呼び出し綺礼を殺害するのは容易極まる。それはいい。だが、悟られないように綺礼を解析した士郎は、何か得体の知れない存在が綺礼を加護しているのを認知していた。

 

 しかし、ここで見逃せばいつどこで何をしてくるか想像もつかない。余計な身動きをされる前に始末すべきか?

 

「いちマスターが教会に長居する理由があるとでも?」

 

 いかにもそれらしい正論に綺礼は面食らったように(かぶり)を振った。すぐに気を取り直したようで、「それもそうだ」と素っ気なく会話を切った。

 

 ()るか、()らざるか。

 

 いよいよ決めねばなるまい。歩を出口の扉に近づけながら、おもむろに士郎は決断した。

 

「───慎二、頼む」

 

「───はいよ」

 

 甲高い音。ステンドグラスが粉砕されたのだ。頭上から降り注ぐガラス片と反射する七色の陽光が綺礼を照らす。

 

「ライダー、確実に殺せ!」

 

「えぇ」

 

 上に目を向けた綺礼の片脚目掛けて鎖が巻き付くと、霊体化を解除したライダーがその首を捩じ切らんと跳躍する。視界に頼るまでもなく奇襲を認識した綺礼の行動は迅速だった。

 

「ドォン!!」

 

 と踏み込んだ足踏みの一喝でガラス片を砕き散らし、足に巻き付いていた鎖は衝撃で弾け飛んだ。あまりに人間離れした身体能力に、空中のライダーが目を見開く。

 

 ここに一瞬の躊躇が、綺礼にとって千載一遇のチャンスが生まれた。

 

(退き、いやここで───ッ!?)

 

 綺礼は意を決して鎖杭を構えるライダーに向けて拳を構え、

 

 

───ただ拳を突き出した。

 

 

 避けろ、この拳に触れるな。取り返しがつかなくなるぞ。

 

 凄まじい悪寒が全身を駆け巡った。竦みそうになる体を必死で押さえつけたライダーが、怪物としての身体能力を遺憾なく発揮し、辛うじてその拳をやり過ごす。

 

 姿勢が崩れたが、攻撃は避けた。砕けた床に四肢をもって着地する。綺礼の拳は振り抜かれたままだ。動く前に今度こそ仕留める。そう決意して再び前傾姿勢に戻ったライダーに、再び死が迫る。

 

「っ、なんて馬鹿げた……!」

 

 ライダーは聖杯から受け取った情報に、綺礼の扱う拳法が存在することを覚えていた。すなわち、これは八極拳である、と。

 

 始めの踏み込みは震脚、鉄杭を打ち立てたような運動エネルギーを独特な重心移動から拳に集約し、音を抜き去るような正拳突きが放たれた。では、ここで綺礼の攻撃は途切れるか?

 

 否、止まるわけがない。

 

噴ッ!

 

 綺礼の全身が躍動する。伸びきったと思われた腕から更に連動し、撃ち下ろす肘撃がライダーの頭部を割りに襲いかかる。

 

 恐ろしいことといえば、この体技は真実サーヴァントを殺しうる破壊力を持つという事実である。本来ならば人間ごときの攻撃なぞ歯牙にもかけぬエーテル体の躯が、如何に加護を得ていようと徒人(ただびと)の肉体に凌駕されようなど、どんな悪夢だという話だ。

 

 四つん這いのライダーには、今度こそ回避の術がない。最初から魔眼を開放しているならまだしも、昼間っからそんな大神秘をポンポン使っては余計な波風を立てかねなかったためである。万が一にも横槍を入れられては困る以上、この状況で綺礼を石化させるのは戸惑われた。

 

 では、この一瞬の後には致命に至る危機をどう乗り越えるか。忘れてはならないピースがまだ2つある。

 

「させん!」

 

 肘撃がライダーに接触するその瞬間、即座に投影された士郎の魔矢が綺礼の腕を砕き、狙いを逸らす。目を見開いた綺礼に、その隙を見逃すものかとライダーが全力で体当たりを敢行、その鋼が如き肉体はステンドグラスの真下まで吹き飛ばされ、ついにぐったりと倒れ込んだ。

 

 まだ生きている。この頑健さである、すぐにでも復帰して襲い掛かってくるか、或いは逃走を企てる筈だ。一秒でも早く、この男を仕留めなければ。

 

 では手早くトドメといこう。

 

くたばれクソ神父ゥ!!

 

 大穴の空いたステンドグラスから、最後のピースが現れる。間桐慎二、隻腕の天才が、断頭の鎌が墜ちてくる。

 

 それを見て、

 

「―――フッ」

 

 綺礼はニヤリと不気味に嘲笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 神霊とは。この世界に物理法則というテクスチャが貼られる以前、自然現象そのもの(・・・・・・・・)が意思を持った存在として君臨したとされている。

 

 で、あれば。士郎が接続する■■■■■がその存在に気がつくのは必然だった。

 

 圏境。気配遮断というスキルにおける、別ベクトルの究極形。気配を断ち世界から自らを遮断するのではなく、自然(せかい)と同化することで己を認識下から消失させるという特異な性質故に、自然を統べるものの一種である■■■■■がそれを知覚するのは至極当然。

 

 そして、その気配は因縁深いある人間の物に恐ろしいほど似通っており、しかし、本来のそれよりとてつもなく薄かった(・・・・・・・・・・)

 

「───な、に?」

 

 だが間違いない。これは、神という神を尽く斬り捨てた(・・・・・・・・・・・・・)あの男、あの怪鳥の臭いに間違いない。日本神話に始まり、当時伝わっていた異国の信仰、それらを斬って斬って殺し尽くした人でなし、アレがここにいる……!?

 

 人としてマトモな心など、もはや何一つとして持たない神の器が震えた。無論、恐怖に。今度こそ殺される、と天■■霧■が悲鳴をぶち上げた。まるで幼子のように、みっともなく泣き喚いた。士郎は思わず疑った。自由意志などほぼない身であるが、それでもこの異常は驚愕に値したのだ。

 

(『神霊』が存在そのものを恐れるだと?)

 

 あり得ない。とは断じきれなかったが、そんな者が実在するなど信じ難いことだった。サーヴァント程度の格落ちでは真の神霊に敵わないことを理解しているが故に。

 

 逃げろ、逃げろ。勝ち目はない。たとえ不死不滅であろうとも、その『意思』に後退はない。敵対するなら死ぬまで殺す(・・・・・・)。それを真顔で実行し、完遂させるのがあの男だ。

 

遮断開始(interception starting)

 

 教会に霧が漂い始めた。咄嗟に詠唱した士郎の魔術である。一瞬にして神威が溢れ、教会が建物ごと異界化する。内部を掌握した士郎は、圏境が破られついに正体を表した青いサーヴァントに、戦慄を隠しきれなかった。

 

「───貴様、名をなんと言う?」

 

 既に、士郎の首には刀刃が掛かっていた。間違いない、姿形は違えど、この凶相を見まごうはずがないのだ。この男こそが、この怪物こそが───。

 

「───お前が、大翼之大鳥(おおつばさのおおとり)か」

 

答えよ!

 

 悪意と殺意が迸る。そのあまりの暴威に、慎二は鎌を振り下ろすことを忘れて綺礼を踏みつけるに留まり、元々は神霊であった怪物であるライダーはスキルとして所有する神性のために気絶した。

 

 士郎は生唾を飲み込んで、恐る恐る口を開いた。

 

「……衛宮、士郎」

 

違ァう!!!

 

 刃が首に喰い込む。体に毒が回るように、全身が悲鳴を上げた。見れば、その鋼は碧く、毒々しく発光している。間違いなく宝具級の武具であるに違いない。

 

 和装のサーヴァントの憤怒はいよいよ極まって、異界化させた教会は異音をたてて歪み始めた。もはや、異界領域としての存続は望めない。

 

 これが狙いだった。

 

「サー・トリスタン、サー・アグラヴェイン」

 

 これならば、異界化が解除されたこの瞬間なら、男が圏境を再発動していないこの一瞬ならば、アーサー王は必ず気づく(・・・・・・・・・・・)

 

「承知、『痛哭の幻奏(フェイルノート)』───これが私の矢です」

 

「承りました。『鉄の戒め(ブラックチェイン・アイアンフィスト)』よ、不埒者を拘束せよ」

 

 彼方より、その縁に依って現れた嘆きの騎士と(くろがね)の騎士。トリスタンが無駄なしの弓を存分に振るえば、放つ不可視の斬糸が男の背を狙い撃ち、アグラヴェインが鉄鎖を放れば生物的な軌道を描く神秘の縛鎖がその包囲を完成させた。

 

 その隙をついて士郎は男の魔の手から逃れ、危機を脱した。

 

 それを咎めるまでもなく、孤立した男は刀を構える。腰だめに、引き絞るように握り込まれた物干し竿が碧い光を鼓動と共に発し、男の怪物性が飛躍的に上昇するのが肌で感じられる。

 

 鋭い感覚を持つトリスタンが、その異常な気配に端正な顔立ちを歪めて驚愕を露わにする。

 

 まさか、一切合切を一太刀で斬り捨てるつもりか?

 

 我ら円卓の騎士、その中でも制圧に秀でた自らとアグラヴェインの全霊を!?

 

「邪魔立てをォ──するなァ!!!

 

───その瞬間、碧が弾けた。

 

 

 






 ちょっとくらい、再開してもバレへんか……。

 モブです。端末が逝ったり、所用でドタバタしたり、執筆意欲が死んだりと色々ありました。ゆるして(白目)


 さて、今回は駄妹ライダーネキ(不憫)のステータスです。本編での扱いは大体NOMINのせいです。あと加護持ち綺礼くんが強すぎるのが悪いんです。あの正拳突きと肘撃、実は軽く音速突破したりしてたんすよ(白目)

 実はゴルゴーン化可能。


マスター:間桐慎二/間桐桜
クラス:ライダー
真名:メデューサ
身長:172cm / 体重:57kg
出典:ギリシャ神話
地域:ギリシャ、形のない島
スリーサイズ:B88/W56/H84
属性:混沌・善 / 隠し属性:地
性別:女性
イメージカラー:黒
特技:機械運動、乗馬、軽業、ストーカー
好きな物:お酒、読書、蛇、馬、ゲーム
苦手な物:鏡、身長測定、馬刺し
天敵:ギルガメッシュ NOUMIN クーフーリン ヘラクレス アーチャーエミヤ 葛木宗一郎

ゴルゴーン時の天敵:ギルガメッシュ NOUMIN


ステータス

筋力:B  耐久:D+
敏捷:A+  魔力:B
幸運:E  宝具:A+++


クラススキル

対魔力:B
魔術への耐性。三節以下の詠唱による魔術を無効化し、大魔術・儀礼呪法など大掛かりな魔術を持ってしても傷付けるのは困難。

騎乗:A+
乗り物を乗りこなす能力。生前には存在しなかった現代の乗り物はもちろん、竜以外の幻獣・神獣すらも乗りこなせる。ライダーは特に、彼女の宝具の一部にして、仔でもあるペガサスに騎乗することが多い。

魔術:C+
実は公式で魔術の心得があり、桜の魔術の師匠をしている設定も存在する。
本作において彼女が修める魔術は、大まかに分けると二種になる。かつて女神として所有していた地母神としての権能に連なるものと、怪物として形のない島に君臨していた時代に、勝手に身についていた血なまぐさいものである。


保有スキル


神性:E-
神霊そのものではあるが怪物に転じたためほぼ消滅している。

単独行動:C
マスターを失っても、1日程度現界し続ける事が可能。しかし吸血による魔力供給が可能なのでもっと長く現界する事も可能。

怪力:B
魔物、魔獣のみが持つとされる攻撃特性で、一時的に筋力を増幅させる。


宝具

他者封印・鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)
ランク:B
種別:対軍宝具
レンジ:10〜40
最大捕捉:500人

 ギリシャ神話の王女アンドロメダを名の由来とする。

 形なき島を覆った血の結界。ゴルゴン三姉妹が追放された『形のない島』に作られた魔の神殿。
 訪れるものを石にし、また貪り食ったとされる神殿は、メドゥーサの持つ魔眼が作り上げた結界。魔眼を拡大投射する事で一定のフィールドを“自らの眼球の中に”置換し、中にいるものたちから生命力を奪い取る。対魔力の無い一般人では文字通り“体が溶けてしまう”程の吸収力で、血液の形で魔力へと還元して、使用者が吸収する。英霊であってもこの結界内では生命力を奪われてしまう。
 形はドーム状をしており、内部からは巨大な眼球に取り込まれたように見える。ただし、結界外からは敵に察知されないようにするために、そのようには見えないようになっている。土地の霊脈を傷つけるため、同一の場所に連続して施すのは不向き。
 死徒や真祖といった吸血鬼とは異なるが、吸血種であるライダーが効率よく血を摂取するためのもの、とされる。一般人には非常に有効だが魔術師などの抗魔力を持つ相手には抵抗される場合がある。

 原作では、慎二がマスターの場合には士郎レベルでもほとんど通用しない威力だったが、マスターが桜に戻ったあとは威力が段違いになり、凛や士郎でも長くは持たない。

 本作において、慎二が優秀な魔術回路を所有する魔術使いである。そのため、出力は原作桜がマスター時より二段下程度のものである。それでも、単に魔術師やマスターを相手にするものとしては破格の能力である。


自己封印・暗黒神殿(ブレーカー・ゴルゴーン)
ランク:C-
種別:対人宝具
レンジ:0
最大捕捉:1人

 対象に絶望と歓喜の混ざった悪夢を見せ、その力が外界へ出て行くことを封じる結界。普段のライダーはバイザーとして使用し、自身のキュベレイや魔性を封じている。使用中、視覚は完全に絶たれるため、ライダーは視覚以外の聴覚、嗅覚、魔力探査などを用いて外界を認識している。
 また当然、自身以外にも使用可能で、この宝具の見せる夢を媒介に対象から吸精をすることも出来る。
 結界は魔力を浴びせるだけで発動し、対魔力の低い者は回避どころか、結界の看破すら困難。

騎英の手綱(ベルレフォーン)
ランク:A+
種別:対軍宝具
レンジ:2〜50
最大捕捉:300人

 ライダーとしての宝具。あらゆる乗り物を御する黄金の鞭と手綱。単体では全く役に立たないが、高い騎乗スキルと強力な乗り物があることで真価を発揮する。
 制御できる対象は普通の乗り物だけでなく、幻想種であっても、この宝具でいうことを聞かせられるようになる。また、乗ったものの全ての能力を一ランク向上させる効果も持つ。アーマークラスも+100される。
 彼女は専ら召喚したペガサスに使用。真名解放すれば、限界を取っ払って時速400〜500kmという猛スピードで、流星のごとき光を放った突貫となる。その威力は巨大な城壁が高速で突撃してくるようなもの。使用中は天馬の加護により、防御力も上昇するという攻守ともに破格の能力を持つ。
 Fateルートではマスターの問題から自傷を行って自らの血で天馬を召喚し、改めて手綱を付け、空を駆けて加速を付けた後に真名解放する形で使用した。
 HFルートではマスターが桜に戻った事で、天馬の召喚魔法陣の展開・起動と同時に真名解放し、静止状態から一気に突撃する形で使用した。

天馬について

 ライダーによって召喚される、神代の幻想種。ステータス上は「騎英の手綱」はこの天馬とセットで扱われるが、天馬自体は宝具ではなくライダーにとっては武装の一つに過ぎない。「騎英の手綱」を用いずとも騎乗することは可能。
 もともとペガサスは海神からメドゥーサに贈られたものであり、メドゥーサがペルセウスに退治されたおり、その断ち切られた首から滴り落ちた血から生まれたものとも言われている。
 通常の天馬は魔獣ランクであり、そう強力な幻想種ではない。しかしこの天馬は神代から存在し続けてきた個体で、幻獣の域に達しており、護りに関しては既に竜種に達している。セイバーの対魔力を上回る加護と膨大な魔力を放出しながらの滑空は、それだけでも大破壊力を生み出す。
 天馬自身の意思や性格もあるが描写は少なく、詳細は不明。ライダー曰く「優しすぎて戦いには向いていない」とのことで、「騎英の手綱」を用いるのはその気にさせるためでもあるとのこと。

無間結石(キュベレイ)
ランク:A+++
種別:対軍宝具
レンジ:不明
最大補足:不明

 本来はスキルとして所有するライダーの魔眼そのもの。
 魔力C以下は無条件で石化、魔力Bでもセーブ判定次第で石化、魔力A以上ならば全ての能力を一ランク低下させる「重圧」をかける、強力な魔眼。資料によっては石化の条件が「魔力」ではなく「対魔力」と表記された物もある。
 彼女自身でも制御できない魔眼で、見たものを片っ端から石にしてしまうため、使用しない時は宝具「自己封印・暗黒神殿」を利用した眼帯、あるいは魔眼殺しの眼鏡を使って封印している。
 能力成立の条件は「目を合わせる」ではなく、「視る」こと。これは心眼、つまりライダーの存在を正確に認識できているならば眼を瞑っていても石化するということ。少なくとも半径4m程度の近距離に居ると、魔力Bでも判定次第で全身が石化してしまう。
 とはいえ、それなりに距離を保った相手を即座に石化させることは不可能で、原作では魔術師として未熟な士郎でも直接魔眼を見ない限りは、思うように身動きが取れない程度で済んだ。
 また相手に魔眼のことを知られてしまうと知られていない時に比べ効果が弱まる。

 本作においては、ここまでが真名開放をしていない常時発動の能力としている。

 真名を開放し、対象を視覚で認識することで真価を発揮する。ひとたびその魔眼で認識されれば、距離も魔力も対魔力も意思力も関係なく即座に石化させる。
 もしも千里眼を持つサーヴァントと視界を共有することができれば、あとはこの宝具を発動するだけで優勝することも十分に可能。当てさえすればアサシンとして召喚されたNOUMINでさえ殺しうるある種最強の初見殺し。なおギルさんは鎧で石化を弾く模様。是非もないよネ!

強制封印・万魔神殿(パンデモニウム・ケトゥス)
ランク:A
種別:対軍宝具
レンジ:1~60
最大捕捉:400人

 女神としての最後の名残を放棄し、自身の大本(オリジナル)であり、最後に行き着くなれの果てである『ゴルゴンの怪物/ゴルゴーン』を一時的に実体化させ、指定領域内のあらゆる生命を溶解する。
 人間であればただちに命を奪われ、サーヴァントにも強烈なダメージを与える。一方で無機物タイプの相手には効果がやや薄い。
 『他者封印・鮮血神殿』が強化されたモノではあるものの、準備時間を必要とせず、真名解放のみで発動する。

 『絶対魔獣前線 バビロニア』でゴルゴーンになったアナが己を犠牲にして発動した際は、「地上に生命がいる限りは死なない」性質を持つ女神ティアマトの右角を崩壊させることに成功した。

 また、この宝具を本作のライダーが使用する際、変転の魔や畏怖の叫びなどといったスキルを獲得し、ステータスを大幅に増強する。


略歴

 『Fate/stay night』では第五次聖杯戦争に際して間桐桜が召喚。触媒はエルトリアの古い神殿で発掘された鏡だが、縁としては弱めで、彼女が呼ばれたのは召喚主である桜との「いずれ怪物に成り果てる運命」という縁から。本作では、これらの要因に加えて慎二の所有する大鎌も聖遺物として作用したが、それは怪物ゴルゴーンに縁を持つものであるため、ライダーは原作よりも更に怪物になりやすい側面を持つ。下手に怪物化が進行しないよう、ある程度力をセーブして戦っているので、描写面においては地味かつ弱めに映る場合も。やはり不憫か。

 さらに経歴からも分かるように彼女は正純な英霊ではなく反英雄、さらに言えば英霊に敵対する魔物に近い存在であるが、「かつて美しかったもの」として英霊としての側面も持つため、冬木の歪んだ聖杯によって「英霊メドゥーサ」として召喚された。

 原作とは違い、桜は自分から聖杯戦争に参戦しようとしたが、慎二とライダー自身に抑えられ、結局慎二を代理マスターとして魔力供給だけを受け持つ形で聖杯戦争に参加することになる。


人物

 バイザーで視界を封じた妖艶な美女。
 無口で無愛想。刺のある雰囲気と、冷たい言動から無慈悲な性格と思われがちだが、単に面倒くさがり屋で、できれば何もせずに過ごしたいと思っている。また、言動がきついのは相手に好かれる気がないからである。
 なお、本作では慎二がグッドコミュニケーションを成功させたお陰で、コミカルで明るい印象の仕事できる系お姉さんキャラを確立している。二人の姉たちにイジられまくっていた反動か、慎二をからかいまくる一面も。鬱陶しい感じを醸し出す慎二の態度もなんのその、さながら弟をイジる姉の如くイキイキとしている。最近の趣味はゲーム類。

 戦闘においては冷酷かつ非情な女性で、マスターからの命令があれば聖杯戦争と無関係な一般人を容赦なく餌食にするほど。原作では慎二から魂喰いを命令されても平然と実行に移すなど、その精神性は間違いなく神や怪物そのもの。
 だが、本来のマスターである桜の身を第一に案じており、彼女に危害を加えようものならばそれが誰であろうとも容赦はしない。戦いから離れていたり、同じく桜を案じる相手に対しては好意的で、桜を守る・救うためなら自分の判断で誰とでも共闘する事もやぶさかではない。
 本作においては、これに加え慎二ともそれなりに深い関係を構築している。彼との関係は、年の離れた姉と弟のような、共に桜を守る戦友のような、奇妙な関係を育んだ。それでも、基本的に第一優先度は桜である。
 本来、ライダーとの関係が薄く、実質的な面識を最期の時しか持たないペルセウスについて言及している描写が存在するが、彼女がいつどこでペルセウスの人となりを把握したのかは定かではない。

 衛宮士郎に対しては、原作HFルート及び『Fate/hollow ataraxia』では優しいお姉さんのような態度で接している。本作では単なる同盟相手であるため、慎二の友人として以上の反応を示すことはない。
 桜に対してやや過保護に接していたのも「いずれ怪物になる運命を持つもの」「被害者のまま加害者になる、おぞましい化け物」という自分が持つこの経験ゆえのことであり、同じ運命を持つ桜を守ろうとした。
 桜が「この世すべての悪」に汚染され世界を脅かしかねない存在になっても、彼女の命のみを優先しており、サーヴァントととして非情なスタンスを徹底している。
 これらの一面が判明したのはほぼHFルートと『hollow』以後。他ルートでは代理マスターの采配で悪女的に立ち回ったあげく、惨殺されるような結末ばかり。
 長身でスタイル抜群の美女であるが、姉達の影響から彼女にとって美しさの基準とは「小さくかわいらしいこと」であるため、自分の長身で大人びたスタイルはコンプレックスとなっている。現世ではセイバーやイリヤスフィール・フォン・アインツベルンといった小柄な少女にそのコンプレックスを刺激されている。また、長い美髪の持ち主だが、シャンプーはボディーシャンプーだったりする。
 恋愛対象はバイセクシャルであり、桜に恋愛感情を持っているのは勿論、美綴綾子にも性的な意味で好意を持つ。本作ではどこで美綴綾子を見知ったのか全く判明していないが、どうも霊体化して慎二と一緒に登校した際に弓道部で目をつけたらしい。慎二に対しても仄かな恋心を抱いていることを桜から指摘されており、猫のように威嚇する桜の姿を見て可愛らしいやらなんやらで悶えることも多々ある。
 ちなみに、好みのタイプはスタイルの良い処女とのこと。特に綾子にはストーカー行為まで行っており、もし二人きりになったら押し倒してしまうらしい。無論、綾子はその気配に気付いていて逃げ廻っている。

 主武装は鎖付きの短剣。機動力を活かしたトリッキーな戦い方が主で、原作におけるビル街での戦いではアクロバティックな軽業による空中戦でセイバーを翻弄した。だが正面きっての白兵戦能力はサーヴァントの中では余り高くなく、セイバーと平地で戦った際は一瞬で切り伏せられている。
 しかしこれは慎二がマスターの時の話であり、桜がマスターに戻ることで真アサシンが乱射したダークを室内で全て躱す、さらには真アサシンを怪力で振り回し圧倒する、魔眼の重圧で抑えることと肉体が崩壊するほどに酷使し続ける必要があるもののセイバーオルタと渡り合うなど、戦闘力は飛躍的に増す。
 本作では慎二もまた優秀なマスターである影響から、こと戦闘面に限っては原作を凌駕するスペックを叩き出すことも。
 また、自らの血液で魔法陣を形成し、ペガサスを召喚することが可能。空中を自在に飛び回りさらに高い機動力を得られるばかりか、宝具「騎英の手綱」によって強化して強力な突貫攻撃を繰り出すことができる。


 といった感じで、本作では影こそ薄いものの、とんでもないテコ入れがはいっていたりします。特に条件次第でNOUMINアサシンを殺せるというのが肝。すげぇよメデュは(確信)

 さて、次回もまた投稿時期が未定ですが、とりあえず今年中にもう一つくらいは投稿します。タブンネ(不安)


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アサシンくん限界オタク説


滑り込みアウトなので初投稿です。




 

 

 アサシンが聖杯戦争に参戦した目的とは。これは非常に単純な答えに終始する。

 

『強い奴と戦ってみたい』

 

 本来、そのような願いがアサシンに生ずる余地はない。アサシンの本体たる怪鳥は狂気じみた渇望によって飛翔を継続している。つまり怪鳥本体の大願は成就されているためだ。

 

 そもそもからして召喚されるメリットがなく、触媒もない。というか英霊ですらない存在なのだから、冬木の聖杯戦争で召喚することは不可能だ。

 

 だが、如何なることか。事実としてアサシンは、人間(せんし)としての自我を現し、武人としてサーヴァントとなった。佐々木小次郎という殻を纏って、おおよそそのように(・・・・・)振る舞うのだから、恐ろしい違和感が付きまとう。

 

 だが、一旦そこは置いておこう。重要なのは、このアサシンという自我が召喚されたという特異な一点である。

 

 燕返し、巌流。勿論そんな剣術を体得したわけでもないアサシンは、単に手慰みとして開眼した奥義から、その秘剣を擬似的に披露することを可能としていた。だから『佐々木小次郎』として召喚された、というのは実に都合がいい話で、実際のところは裏があるのだ。

 

「あぁ、気に入らぬ。折角オレが殺してやったというのに───」

 

 なんだってそう生き汚ねぇんだてめえらはよォ。

 

 アサシンの口調が、恐ろしげな男のものに変わった。地の底から心胆を震わせる、鬼のような声に。

 

 怪鳥は今なお生きている。渇望のままに飛翔する。聖杯は、その人間性を残滓とはいえ欲したのだ。それは何故か。

 

 明快な答えが一つある。

 

 聖杯は、悪を成就せねばならないのだ(・・・・・・・・・・・・・)

 

 そのために、衛宮士郎を依り代とする惨めな神霊を殺す必要があった。だから、歴史の中に隠された最悪の神殺しを貴重なリソースを割いてまで呼び出したのである。たとえそれが、流星の尾のような、剥がれ落ちる人間性の残滓に過ぎなかったとしても、その価値はあると断じた。

 

「む、いかん、いかんな。どうにも曖昧だ。戻り始めたか(・・・・・・)?」

 

 独り言を空に溶かすアサシンは、いよいよ剣呑な雰囲気を隠さなくなっていた。今、その身はあらん限りの殺意に満ちている。

 

「ご苦労だった。アグラヴェイン卿、トリスタン卿」

 

「ハッ、では下がります。陛下、ご武運を」

 

「出番が少なくて私は悲しい……」

 

「ふっ、許せよトリスタン卿。どうやら貴卿はアレと相性が悪いようだ」

 

 退去する円卓の騎士に、アルトリアは淡い笑みをこぼす。その間も油断は禁物、と警戒だけは欠かさなかった。

 

 さて、ここで漸く再起動を果たしたのが慎二である。口を動かす前に、気絶したライダーに軽く魔力を流して気つけを施すと、急いで防御姿勢を整えた。

 

 万が一でもここで死んだら桜がどうなるか、分からない慎二ではなかった。死期は近いが、死ぬのは桜の未来が安堵されてからと誓っているのだ。

 

「ライダー、業腹だけどクソ神父は後回しだ。横槍が入った以上、逃げるか殺すかを早く決めなくちゃならない」

 

 ライダーから厳しい指摘がとんだ。

 

「多分逃げても無駄だと思いますよ? アレ、恐らく神性やそれに連なる神秘の天敵です」

 

「神性殺し? そんな大それたサーヴァントなんて、そうはいないだろうに」

 

 神殺しの逸話を持つ英霊は稀だ。それこそ、真なる神霊の弑逆を達成した存在ともなれば、それは人間ではなく人智を超越した怪物である例が多い。神を殺すのは同格以上の存在に限られるのが常識である。

 

 だが、例外があるとしたら。それが、取るに足らない人間だとしたら。吹けば消える、灯火のような生命だとしたならば。

 

 果たして、それはどんな規格外だというのか。

 

 ライダーは理不尽に嘆く。

 

「現実にいるのですから仕方ありません。第一に、仮にもサーヴァントである私が殺気の余波で気絶する始末です。奥の手を使うならまだしも、このままではセイバーとの共闘でも倒せるか怪しいですよ」

 

「うっへぇ、そんなにかい」

 

 暴虐の果てに殺された怪物であるライダーの感覚は鋭い。数多の英雄豪傑を芥のごとく蹴散らした魔性は伊達ではないのだ。だからこそ、現状の己では太刀打ちできないことが本能的に理解できてしまう。

 

 慎二たちの会話を横で聞いていた士郎はすぐさまセイバーに尋ねた。

 

「セイバー、アレの相手はできそうか?」

 

 聞かれたセイバーは苦い顔で、しかし毅然とした姿勢を崩さずにアサシンを注視し続けている。

 

「そうですね、ランスロット卿とギャラハッド卿を召集します。それで漸く不利なテーブルに着くことができる」

 

「それほどか」

 

「恐らくは」

 

 端的だが正確な評は、士郎の中で「やはり」という既視感にも似た確信をもたらした。あまりに薄い、残滓として見る方がまだ納得のできるアサシンの狂気は、しかしこの場にいる全てを殺し尽くして余りある猛威である。

 

 それだけの埒外が、ほぼ己のみに殺意を向ける事実に心胆が凍りつく錯覚すら覚える。だがそれを表に出せば憑依側の動揺を見抜かれて一瞬で斬り殺されるだろう。

 

 その戦慄をおくびにも出さず、士郎はアサシンを睨み返した。

 

 不快げなアサシンが異形の長刀を構えて口を開く。

 

「相談事はそこまでにしてもらおう。貴様らは皆殺しだ、生かして帰さんと決めている」

 

「物騒なことだ、怪鳥の化身」

 

「ふん、神だろうがなんだろうが所詮ゴミクズだろうが。その分際で我が飛翔を妨げたのだ。とりあえず死ね」

 

 殺意を滾らせるアサシンは、もはや根切りの意思を隠そうともせずに嗤った。

 

 冷静を欠けば、隙はあるか?

 

 士郎は自問した。無い、というのは当然で、このアサシンという武の怪物は、精神的にも完成している。

 

 それは一端の人間としてサーヴァントになったアサシンが奥義を開眼するほどに卓越した戦士であることから、精神的な要素が行動に反映されないことを如実に示している。

 

 だが、どうだろう。今のアサシン(・・・・・・)なら、殺意が行動の間隙を生むかもしれない。ある根拠を以て、士郎は決断した。

 

 決めたのならば行動は早い。士郎は早速アサシンを挑発した。

 

「短絡的だな」

 

 嘲笑う。底が浅いと侮辱する。プライドも一丁前なアサシンの事だ。何かしらリアクションが起きるのは想定内である。

 

 アサシンは心底不愉快なようで、しかし律儀に受け答えをする。それが自らの身を蝕む毒とは知らずに、そうして吐き捨てる。

 

「そうでなくば人の身で空など飛ぶ気も起きんわ」

 

「道理だ。考えなしだからこその飛翔か」

 

 徹底的にバカにする。そうだ、冷静をなくせ。理性からの躊躇いを喪え。牙を剥けばそこには罠があるのだから。

 

「貴様に理解されたところで嬉しくはない。早々に死んでもらう」

 

「できると思うか? 異形の男」

 

 セイバーは士郎の意図を理解し、その助勢に回った。口先は王の仕事道具である。言葉を回す頭脳と共に、アーサー王は優秀極まった。

 

 徐々に苛つきを増していくアサシンが、遂に低い声で威嚇するように言葉を発する。

 

「できぬと思うか、セイバーのサーヴァント。邪魔をするなら一切を斬り倒すのみ」

 

 怒っている。冷静さは消えている。今この瞬間、アサシンは武人としてあるまじき隙を晒している。

 

 さあ、来い。しぶといならば一撃で首を落とせば問題ない。刃を振ればそこはお前の死地となる。士郎は罠を張り終え、蜘蛛のように攻勢を待った。

 

 その横で、蚊帳の外にならざるを得ない慎二が小声でライダーに言った。

 

「話についていけないねぇ」

 

「シッ! 空気読んでください慎二」

 

「ごめん」

 

 怒られた。

 

「来たれ円卓の騎士、ランスロット卿、ギャラハッド卿」

 

 号令と共に現れたるは湖の騎士と純潔の騎士。親子二代に渡って円卓最強の名をほしいままにした実力者が、音もなく騎士王の前に跪く。

 

「ランスロット、ここに」

 

「ギャラハッド、ここに」

 

 恭しい所作は洗練されていて、淀みない。敵に背を向けながらも、その警戒は殺気と混じってアサシンに突き刺さった。

 

 一呼吸、そしてアーサー王が命令を下す。

 

「ギャラハッド卿、マスターの護衛を頼みたい」

 

「御意に」

 

「ランスロット卿、貴公には私に降りかかる刃の露払いを担ってもらう」

 

「お任せを」

 

 ガシャリ、と立ち上がった二つの大鎧が唸りを上げてアサシンに向き直る。聖剣として在りし日の輝きを放つ無毀なる湖光(アロンダイト)の切っ先がアサシンの首を照準し、大地が如き圧迫感を解放したいまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)が静やかに士郎の前へ陣取った。

 

 しかし尚も、アサシンは悪鬼の形相を改めない。寧ろ、その鬼気は先程よりも増して円卓の騎士たちを圧倒した。

 

 ドスの利いた声が、静まり返った聖堂に響く。

 

「問答は終わりだ、諸共に死ぬがよい」

 

 紺碧の光が、異形の刃と化した物干し竿を包み込んでいく。魔力が収束しているのだ。

 

 脈動が胎動へ、胎動が拍動へ変化していく。おお見るがいい。あれこそは怪鳥の羽を刃としたこの世に二つとない大業物ぞ。

 

 備中青江。平安末期に現れた初代青江によって鍛えられた最後の刀にして異端の長刃は、それを家宝として受け継いだこの男がその身を羽根(やいば)としたことで肉に溶け、そして復活した。

 

 銘における空落としとは、つまり空っぽの空から落ちる怪鳥の羽こそがこの刀であることを示唆するのだ。

 

 しかしその行いは、刀身に刻まれた刀工の理念を塗り潰し、貶めた。美しくあり、切れ味よく、神すら斬り殺す至上の魔剣は、しかしただそれだけの物に堕落した。或いはその堕落をもって、空に落つ刀とされたのか。もはや誰も知るものはいない。

 

 骨をも砕くような殺意に身を晒され、しかし士郎は視る力でもってその来歴を探り、見出だした活路に確信を持って踏み込んだ。

 

「断らせていただこう。お前のような下らないものと違って、俺にはまだやることがある」

 

 ギロリと睨み合った士郎とアサシンは、互いに憎悪を込めて言葉を紡ぐ。戦の幕開けは近い。

 

「吠えたな案山子が」

 

「しゃしゃるな野鳥め」

 

 臨戦態勢。一瞬の後、剣が、盾が、羽が、人が、神が、神秘が、破壊的な衝撃を伴って激突し───。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーチャー、準備はいい?」

 

「無理はするな、マスター。これだけの騒ぎになった責任の一端は取らなければならないが、だからといって君が潰れてしまっては余りにも救われない」

 

 遠坂凛はこの冬木におけるセカンドオーナー、要は神秘側の管理者である。当然、今回の騒動の煽りを受けて、聖杯戦争後の後処理やら責任問題やらが押し寄せてくる身だ。

 

 言峰綺礼が取り成してくれるというならまだ救いはあるが、しかしその綺礼もまた聖杯戦争の管理不行き届きで恐らくは処される立場にある。まぁ、まず間違いなく凛と遠坂家は冬木のセカンドオーナーの立場を解任される事になるだろう。そこに更なる処罰が課されるかは、まだ分からない。

 

「ったく、誰だか知らないけど神秘の秘匿とか知らないレベルのバカなのかしら……?」

 

 これだけの騒ぎになりながら、幸いにも死傷者はない。いたとしても軽い打撲や捻挫程度の軽傷者だけだ。そこは唯一、救いかもしれない。もはや市民は退避し、冬木市に残ったのは魔術関係者のみ。

 

 ぼやく凛を見つめるアーチャーの表情は渋い。民間への被害を抑えるために奔走した若き当主、遠坂凛。横合いから殴り付けられるリスクを取ってすら当主として恥じぬ行いをした事実は、情状酌量の一助にはなれど、定められた有罪判決を覆す程ではない。

 

「ま、いいわ」

 

 あっけらかんとした感じで、凛は諸々の疲労やら何やらを投げ捨てた。やることは結局変わらないのだ。後の事は後で考えればいい。というか今考えたってどうしようもならない。

 

「アーチャー」

 

 自然な調子で呼び掛けて、件の弓兵は微笑んだ。

 

「狙撃準備、お願いね」

 

「了解した」

 

 命を受けたアーチャーは、黒い大弓を遥か彼方に照準した。魔力は潤沢、コンディションも最高に近い。赤い魔力の粒子が立ち上ぼり、その手に集約する。

 

 それは矢の如き、剣。

 

「まったく、いつ見てもインチキだわ、ソレ(・・)

 

 宝具。アーチャーの手に現れたのは、もはやその大半が世界から消え果てた貴き幻想(ノウブル・ファンタズム)が一つ。英霊が英霊たる証にして、矜持そのもの。その形から放たれる神秘の重量ともいうべき濃密な魔力は、遥か神代の真エーテルすら連想させる。

 

「インチキとは、少し酷いのでは?」

 

「いやインチキでしょ。それが贋作だなんて、詐欺もいいところだわ……」

 

 だが、偽物だ。

 

「まぁ、なんでもいい。所詮は道具だ。結局は使い方次第さ」

 

「冗談。神代の魔剣、その贋作。しかもそれがこの世で最も真に迫った事実上の真作、だなんて。普通の魔術師から見たらタチの悪いなんて程度じゃないわよ」

 

 狙撃目標は2キロ先、中立地帯であるはずの聖堂教会冬木支部。要は言峰綺礼が居るはずの場所である。

 

「さて、マスター。あそこは中立地帯である上に、標的には君の知り合いも居るようだ。このまま狙撃してもいいのかね?」

 

 アーチャーの目視は、その内部でサーヴァント同士の戦闘が起きていることを明確に確認していた。その中には、衛宮士郎と間桐慎二の姿と、彼らが従えるサーヴァントがあった。勿論、それらと相対するアサシンのサーヴァントや、その前に交戦していた言峰綺礼も。

 

「大丈夫よ。慎二が綺礼に敵対した以上、あの胡散臭い後見人は真っ黒と見ていいわ。義理はあるけど、情なんて始めっからないのよ。聖堂教会のスタッフが騒ぎの始末にてんてこ舞いで出払ってるのも確認済み。私の知り合いについては……。まぁ、衛宮くんはともかく慎二のヤツがどうにかするわよね」

 

 視線を標的に向けたまま、アーチャーが問いを投げ掛けた。

 

「ふむ、防がれるということかね?」

 

「あー、説明が難しいんだけど、慎二の魔術ってかなり特殊なのよ……。簡単に言うと水の属性に、その中でも珍しい浸食(・・)の特性を持つ特殊系統……説明になってないわね」

 

「指揮官からの情報の共有は大事なんだがね。まぁ、ついでに彼の武器も解析させてもらった。なんとなく理解はできているよ」

 

「なら話は早いわ。アーチャー、容赦なく射って頂戴。できれば正体がよく分かってないサーヴァントを落としてね」

 

「さて、上手くいけばいいが」

 

───I am the borne of my sword.

 

改・虹霓剣(カラドボルグⅢ)

 

 引き絞られた弓から、力強く放たれた矢剣が獲物へ向けてひた走る。穿つ螺旋、破壊の虹。防ぐ術はなく、回避もまたアーチャーの神域の射によって叶わない。

 

 標的となった彼らは知るだろう。加減も手抜きもなく、最大火力が正しく運用されるその脅威を。聖杯戦争における火力担当(・・・・)と称されたクラスの、渾身の一撃は、間違いなく戦局を動かす決定打となる。

 

 状況は、潮目に入りつつあるのだ。

 

 



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待ち伏せは戦場の華だよね!(島津ミーム)

 

 初めに狙撃を察知したのはセイバー、アーサー王だった。未来予知に等しいその直感が、この場にいる全てのサーヴァントを滅ぼし得る超火力を把握すると同時に、彼女の口は動いていた。

 

「ギャラハッド卿、背面防御を」

 

「御意に」

 

 あのアサシンを相手に一触即発の状況でありながら、マスターの護衛を外す選択である。士郎たちは一瞬唖然としたが、次の展開には何も言えなくなった。

 

 アーサー王に続いて強襲の気配を察知したアサシンが、既に動き出している。その凶刃が、アーサー王が口を開いた一瞬で士郎の首に迫っていたのだ。

 

「させん!」

 

 空間を跳びながら走るアサシンの剣閃を前にしてなお、ランスロットの対応は完璧だった。

 

 鉄がひしゃげるような重厚な音がボロボロの聖堂にこだまする。

 

 首元を狙う鋭い横薙ぎを、無毀なる湖光(アロンダイト)の一太刀で弾き飛ばし、空振りに上体の泳いだアサシンの心臓目掛けてその切っ先を突き出した!

 

縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)!」

 

 円卓の騎士ランスロット、その必殺の剣。あらゆる装甲を貫通する瞬間大魔力放出。

 

 本来ならば、それは聖剣アロンダイトに装填される魔力を光の斬撃に変換する対軍宝具となるはずだった。つまりビームである。しかしその真価は、ランスロット個人の絶技によって昇華されることとなる。

 

 すなわち、斬撃の当たった瞬間に蓄えられた魔力を完全に放出しきるエネルギー変換における最高効率の発露である。

 

 拡散する光の大斬撃をたった一点に集約し、発動されるはずだった大破壊の全てのエネルギーが瞬間的に破裂する。それは正しく奥義と呼ばれるに足る神技であり、以てランスロットを円卓の騎士最強たらしめたのだ。

 

 そして此度。最短最速、斬撃として放たれるはずの物を更に刺突として解放するその技は、或いはアーサー王の聖剣の1つである勝利すべき黄金の剣(カリバーン)の真名解放を彷彿とさせた。

 

 だが、それだけで終わるならアサシンというサーヴァントはこの聖杯戦争に呼ばれなどしない。

 

「裏切りの騎士、邪魔だァ!」

 

 その身が宙に溶け消える(・・・・・・・・・・・)

 

 ランスロットは目を見開いた。完全に刺さる(・・・)タイミングだった。間違いなく。だが届かない。

 

 泳いだ上体をそのままに、アサシンは宙を蹴った。そのまま消えて、渾身の刺突は空振った。放たれた光が糸の如き光線となって、天を衝いた。

 

 アサシンは鳥である。人の姿をしているが、その自負がある。宙を舞い、流れるように消えては、また唐突に現れる。それは災害に似て、しかし単なる技術であった。

 

「縮地天翔」

 

 アサシンの秘技、縮地。錯覚を利用する歩法であるはずのそれが、アサシンの魔の技を以てして奥義に早変わりする。地に足付けぬまま、宙に足を刺す(・・・・・・)異形の翼と化した。

 

「くぉッ!?」

 

 ランスロットが呻いた。アサシンの体がランスロットをすり抜けたその先には、一歩後退した士郎の首がある。

 

 アサシンの狙いは、あくまでも士郎だった。それはある種の因縁であり、憤怒である。士郎の身に宿る神霊は『隔てる者』であり、アサシンの飛翔を遮らんとした許されざる神だった。

 

 猫のように身を縮こませて士郎の目の前に着地したアサシンが、上目遣いにギロリとその顔を睨み付けた

 

「───かァッ!」

 

 裂帛の気合いと共に、アサシンは物干し竿を持ち上げた。士郎の股下から異形の刀の切っ先が伸びる。ランスロットの反転は間に合わない。急激な展開に慎二のライダーの魔眼も間に合わない。士郎本人も、斬撃に対応する姿勢が整っていない。

 

 絶体絶命の危機に、それでもまだ間に合う者はいる(・・・・・・・)

 

風王鉄槌(ストライクエア)

 

「ぬゥ!?」

 

 嵐、吹き荒ぶ。上方から叩きつけられる猛威に、アサシンは再び身を翻す。士郎の足下がアーサー王渾身の一撃に粉砕され、士郎の体はその衝撃に花弁の如く吹き飛んだ。

 

 しめて3秒間の攻防。あまりに濃密な殺し合いに、その防戦の当事者以外は動くことも出来なかった。

 

 そして一連の流れの一瞬後に、ギャラハッドは躊躇いなく、振り返ることすらせずに防御を行った。

 

いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)

 

 白亜の城塞が、破壊の虹を迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

「防がれた。アレ、多分慎二じゃなくて衛宮くんのサーヴァントの方かしら?」

 

「その様だ。いやはや、まさか『改・虹霓剣(カラドボルグⅢ)』が防がれるとは。実に恐ろしい防壁だな」

 

 射撃の反動が強風を生み出し、高層ビルの屋上で轟々と渦巻いている。

 

 ケルトの大英雄、フェルグス・マック・ロイの大魔剣。螺旋虹霓剣(カラドボルグ)の破壊力をまるごと貫通力に乗せた巨大極まる矢を撃ち放ったアーチャーは、己の主人からの言葉に薄く笑う。

 

「…そういう言い方は好かないわね。貴方ならあの宝具っぽいのを無視して矢を届かせる(すべ)があるでしょうに」

 

「なに、だからと言ってすぐに全ての手札を晒す必要はない。然るべき時に然るべき札を切ることが勝負に勝つための最高効率というものだよ」

 

 呆れた、と凛が白髪頭のアーチャーをジト目で見上げた。教会を視界に収める件の男は静かに第二射を弓につがえた。

 

 アーチャーが声色を変えた。

 

「しかし一方的に攻撃出来るからといって油断は出来ない」

 

 正面からでは防がれた。では、次はどうすべきか。選択肢は幾つかあるが、赤い弓兵とそのマスターはその場に留まって第二射を放つことを選んだ。

 

 破壊の虹の次につがえるは赤原の猟犬である。防がれてなお、這い回っては標的の命を狙う死の狂犬。アーチャーは静かに言葉を続けた。

 

「もしかしたらこの一瞬で彼我の距離を詰めることの出来る卓越した戦士がいるかもしれない。迂回して狙撃地点を変える一手を見抜いて手勢を待ち伏せる軍師がいることも考えられる」

 

 たられば、というのは重要な話である。それが出来ない者に、戦場のコントロールは出来ない。その点、遠坂凛は優れた魔術師であり、頭脳を兼ね備えていた。唯一彼女に足りない経験を、伝え諭すのが彼の役目の一つだった。

 

 アーチャーの想像に、凛が冷静に返した。

 

「前者は考えてもしょうがないわ。貴方が対応できるかどうかの話だもの。まぁ、後者は私が考えなきゃならないところね…」

 

「そうだ。第二射にいずれの陣営も反応を見せない場合は、狙撃地点を移動する。大挙されては君を守りきれないからな」

 

 アーチャーは数々の戦場を単独で駆け抜けた歴戦の戦士であり、自らに出来ることと出来ないことの分別がハッキリついている。

 

 狙撃に気づいた目敏いサーヴァントが単騎で掛けてくるならばいくらでも相手のしようがある。

 

 そもそも第二射はそういった単騎駆けの猛者を釣るためだけの牽制だ。必殺の威力はその矢に秘めたが、あれ程の防御宝具を持つ相手を容易く抜けるとは初めから考えていない。

 

 だが相手が徒党を組んでやってくるなら話は別だ。相手が複数のサーヴァントであるならば、流石にアーチャー単独ではマスターの守りまで手が回らなくなる。

 

 それこそ単独行動スキルを活かしてマスターを本拠地に置いたまま動くべきなのだが、凛に提案されたアーチャーは静かにその選択を拒否した。

 

『あまり戦争というものを侮らない方がいい』

 

 無表情のまま告げられた、鉄の如く重い言葉を凛はよく覚えている。つい先日のことであり、具体的な遠坂陣営の戦略について打ち合わせる寸前の話だ。

 

 あくまでも、サーヴァントはマスターの(そば)に置くべきだと主張したアーチャーは、頑としてその論を曲げることはなかった。

 

 潤沢な魔力供給からなる一定の攻勢を維持するためとはいえ、わざわざマスターである凛がこの場にいるのはそのためだった。

 

 それは確かに納得できる理詰めの道理ではあったけれど、どこか私情のようなものが紛れ込んでいることに凛は気付いていた。

 

 アーチャーの鋼を彷彿とさせる双眼が、教会の方向を鋭く見定める。

 

「何時でも撃てるぞ。マスター、指示を頼む」

 

 矢を放つは命令によってのみ。自らを強力な兵器でもあると心得ているアーチャーは、たとえ厳しくとも凛にマスターとしての責任を自覚させる。

 

 手厳しいことだ、と頭の片隅に思い浮かべながら、赤いアーチャーの主は号令した。

 

「───撃ちなさい、アーチャー。私たちは私たちの責任を(まっと)うしなくてはならない」

 

 冬木の管理者(セカンドオーナー)、魔術師として。そしてそれ以前に一人の責任ある社会人として。

 

 そう付け加えた少女に、弓兵は悲しげに口元を歪めた。それは遠坂家の当主として立つ遠坂凛という少女の未来を思ってか、子供のまま大人としての責任を負った境遇を憐れんだのか。

 

 それでも、命令には粛々と従う。

 

「了解した、マイマスター」

 

赤原猟犬(フルンティング)

 

 チャージに要した時間は一分ほど。コミュニケーションによる戦術思考の共有を無駄なく済ませ、立ち上る赤い魔力の粒子が恐るべき矢の臨界を告げる。

 

 アーチャー驚異の第二射。最適解を常に辿りながら敵に追い縋る魔剣が、歪な矢となって放たれた。

 

 しかしまぁ、泰然としているようで気負う性質(たち)の女性だ。そう率直な主人への評を思い浮かべて、アーチャーは頭の片隅で懐かしそうに苦笑した。

 

 しかしアーチャーの冷徹な戦術思考は、片隅の感傷を一顧だにせず次の一手を考察する。

 

 高層ビルの屋上は、今や(むしろ)の如くに剣群突き立つアーチャーの"殺し間"であるが、さて…。

 

 それを分かって飛び込む者など、いるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 冬木教会の中は荒れ果てていた。強力なサーヴァントが暴れまわったのだから当たり前である。

 

 慎二が目付きを鋭くしてライダーに声をかけた。

 

「起きたね? じゃあ僕らに出来ることをしようじゃないか」

 

「まさか殺気で気絶するとは不甲斐ない…。まぁ、はい、やることはやりましょう」

 

 ライダーは苦々しい表情でセイバーとアサシンが対峙する修羅場を視界に収めた。

 

 散乱する椅子や床の破片があちらこちらに広がる中で、空間がねじ曲がらんばかりの圧力が一ヶ所に集中している。

 

 方やセイバー、そしてその騎士たち。方やアサシン、単身の魔人。そして背後では教会が崩れ落ちそうな轟音が何度も何度も響き渡っている。

 

 推定、アーチャーによる遠距離射撃。だが、ともすればトップサーヴァントをすら屠り得るその衝撃。あれほどの火力をよもや連発してくるとは思うまい。

 

 正面防御では突破されることを看破したギャラハッドが、咄嗟に宝具の真名解放を解除してその盾を振るい恐るべき魔弾を防いでいる。

 

 戦闘継続の時間制限は彼が限界を迎えるか、敵の魔弾が尽きるまでとなるだろう。

 

 じゃら、と慎二が鎖大鎌を握り直した。彼の明晰な頭脳に巡る思考は、優先順位の定義だ。

 

 言峰綺礼を仕留めきることはもはや難しい。

 

 セイバーとアサシンの激突に巻き込まれたまま死んでくれているなら嬉しいが、既にその姿を眩ましている。手傷を与えた上に、確かに気絶していたはずだが、凄まじいタフネスだ。

 

 誰の目にも止まらぬ、鮮やかな撤退だった。

 

 いや、もしやすればアサシンやセイバーは気づいていたのかもしれないが、それは些事だ。

 

「ライダー、よく聞け」

 

「…はい」

 

 では次に目を付けるべきは、何か。アサシンは間違いなく脅威であって、しかしアーサー王は見事に応戦している。不意を突かれた士郎をその的確な手腕によって防ぎ、攻勢を維持させない。

 

 つまり、単独の陣営で相手が出来るということだ。

 

 そもそも、あれ程の戦士たちの中に一般通過の怪物を差し出したところで活躍させられる気がしない。というか、アサシンがこちらに注意を向け続けているのが分かるのだ。めっちゃ殺気飛んでくる。

 

 慎二は思った。

 

 お前士郎に夢中だったんじゃないの?

 

 ひどい表現だった。

 

「ライダーお前、あのアサシンを倒せるな?」

 

「隙があれば刺せますね」

 

 魔眼、神話に語られる怪物の象徴。ライダーのそれは神々にさえ手を届かせる超抜級のものだ。アサシンを殺すならば、ライダーにはその手しかない。

 

 そしてその一手こそが、本聖杯戦争においてアサシンを殺し得る手段の中で最上の勝率を叩き出す。ライダー陣営の鬼札の一つであり、逆に言えばこれを切るなら勝つか負けるか一度きりの大勝負にもなるだろう。

 

 刺されば勝てると憮然とした調子でライダーが答えたのは、確信があるからだ。確信とは何か、それはアサシンに対魔力スキルがないということ。

 

 アサシンの身のこなしに生まれた僅かな間隙を、慎二は見逃していなかった。

 

 それは、アサシンがアーサー王の風の鉄槌を避けたその時のこと。奴は、風に煽られた(・・・・・・)のだ。無茶な姿勢からその身を翻し、無傷のまま劣勢を切り抜けたのは見事。褒めて差し上げよう。

 

 だが、悪手は悪手だ。咎めさせて貰おう。

 

 慎二はなおも続けた。

 

「よし、じゃあ次の質問。仮称アーチャーの攻撃をアーサー王の手勢が防いでいる間に、その隙は来ると思う?」

 

 ライダーは逡巡した。魔性である彼女は、その本能からか不意打ちや初見殺しの名手である。そのライダーをして、アサシンは間違いなく近接戦闘の最強格であり、その精神性も含めて磐石に見える。

 

 果たしてその隙がやってくるものか。

 

「なるほど、セイバーのマスターがしきりに挑発を重ねたのは、隙が出来る確信があったのですか」

 

「無駄なことはしない。相棒はそういう風に出来てるらしいよ?」

 

「伝聞系は信用なりませんね…」

 

 慎二が深く息を吸った。覚悟を決める時、彼は深呼吸をする癖がある。

 

「現状ではアーチャーは倒せないと判断する。僕らの陣営が単独でアーチャーを仕留めるためにセイバー陣営と分かれて行動することは出来ない」

 

「そうですね。あれだけの狙撃の腕、私の仔で距離を詰めることも難しいでしょう。そもそも不意を打って距離を稼げたヘラクレス相手とは訳が違いますから…」

 

 げんなりとした顔でライダーがため息をついた。ヘラクレスはギリシャの魔性にとって触れてはならない男だった。

 

「現状の目標はアサシンを撃破、ないしは手傷を与えること。そのためのオマエの宝具だと心得なよ」

 

「了解しました」

 

 道化のように慎二が笑った。ふてぶてしい笑みだ。

 

 そう笑うのは、辛い今を耐えるため。あの娘のために、命を尽くすと決めたのだから。

 

「いやぁ、桜を置いては逝けないね」

 

 ふ、と自分から漏れた言葉に慎二は笑う。全ては情を持ってしまった、愛おしいあの娘のために。自分に黄金の遺志を託した、父と叔父の覚悟に応えるため。

 

「縁起でもないこと言わないで下さいよ。貴方がいなくなったらあのお爺さん何するか分かったもんじゃないんですよ?」

 

 仏頂面の女が言う。ふてぶてしい女だが、こんななりでも情深く、かつては女神として崇められた女だった。

 

「分かってるよ。札の切り時くらいはね?」

 

「…はぁ、それではいけないのが何故分からないのか」

 

 呆れた様子で鎖鉄杭を握り込んだライダーは、姿勢を深くして構えた。

 

「状況は仕切り直しに近い。もう一度士郎たちの挑発がアサシンに通用するか、見物だね」

 

「通用しなければ私たち置物ですからね」

 

「世知辛いこと言うね、オマエ」

 

「怪物嘗めないで下さいよ。世知辛いことしかこの世にないと思うくらい理不尽ですよ」

 

 慎二は笑った。陽気に、余裕たっぷりに。

 

「世の中そんなもんだね。まぁ、最後に笑うのはこの僕だってことで…」

 

「そんなこと言っといて、桜が幸せに笑えるなら貴方自身にとっての地獄だって作るでしょうに」

 

「僕の幸せは桜の幸せなのさ」

 

「カッコつけてもワカメヘアーじゃダサいですね」

 

「やめろ僕は無敵メンタルじゃないんだぞ」

 

 隙を窺う女は冷静で、よくよく逸る愚かな男を諌めるものである。

 

 







 今年最初にして最後の更新。ホントはクリスマスに投稿しようと思ってた(滑り込みアウト)

 例によって推敲も何もしてない突貫だから色々ガバってる、ハッキリわかんだね。というか話進んでなくない…?(愕然)

 あ、思うところがあったので生前編削除しました。


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別にオリ主が無敵とは言ってない感じのアレ

 

 崩壊寸前の言峰教会が軋む。床の上で散乱するステンドグラスの破片が、アサシンの魔剣が放つ紺碧の光を反射していた。

 

 セイバーはじっくりとその様子を眺めていた。聖剣を片手に鋭い眼光を向けながら、泰然としてどっしりと構えている。

 

 さて、コレでアサシンが平静を失ってくれると動きやすくていいのだが…。

 

 援軍は意識を取り戻したライダーだ。ライダーの援護が刺さってくれればこの魔人を仕留めるのも随分と楽になる。アサシンの手札が全て晒されたわけではない中で、早期に討伐出来るならこの聖杯戦争も楽な展開に持ち込める。

 

 厄介なのはアサシンが平静を失ったとて技が錆びつくわけではないということだ。切れ味は落ちない、鋭くなる。達人の技というのはそういうものだ。

 

 本当に姿を消す異能染みた気配遮断は高速でなんらかの手段で空間掌握と解除を繰り返すマスターが封じてくれている。だが、それはあくまで場当たり的な対処であって、永遠に封じ続けられるわけではない。いずれは対処される。

 

 ここで仕留めねば、苦しい。セイバーは素直にそう認めた。

 

 火力が必要だ。殺す程度の効率では殺しきれない。消し飛ばすまでいかなければ、この男は死なない。直感はそう訴えた。ならば、そうするまで。

 

「ランスロット、マスターの守りに徹しなさい。アサシンは私が斬りましょう」

 

「御意」

 

 セイバーが方針を固める中で、アサシンも挑発合戦の最中にライダーが動き出したことを把握していた。

 

 意識を取り戻したのは構わない。あの眼も発動する素振りを見せた瞬間に破壊すればいいだけだ。現状、ライダーへの認識はその程度のもの。

 

 そんなことより、問題となるのは目の前にいるセイバー陣営である。数は元より、質が厄介だ。少なくとも、雑に斬り込むのではランスロットに防がれる。

 

 一度空中機動を見せたのが失策だった。これはもう通じない。アレで神宿しの小僧を始末できていれば良かったが…出来なかったものは仕方がない。

 

 圏境も封じられた手札の一つだが、こちらはなんとなく変化する環境に慣れつつある。要はタイミングを合わせてやれば良いのだ。

 

「死ね」

 

 短く呟いて、滑るように動き出したアサシンが姿を消した。仙術の域に達した縮地の歩法がもたらす空間跳躍によって士郎の背後を突く。

 

 セイバーは士郎を守るように前方に構えていたため、防御は間に合わない。

 

 予備動作など無く、無拍子の隙間から魔剣が閃く。偏在する絶死の閃光は神性神秘を滅する凶鳥の狂気の具現である。

 

「くっ!」

 

 不意を突かれながらもランスロットのカバーが入る。アロンダイトの魔力放出を利用して推力を得た剛剣が士郎の首を狙った刃に割り込んだ。しかし、凶刃は数多なれば。

 

 防いだ一太刀から花が咲くように五つの剣閃が花咲くように広がり、ランスロットと士郎に襲いかかる。

 

 げに恐ろしきはアサシンの秘剣、同時偏在する閃きは多次元から呼び寄せられた刃の檻ということだ。防ぐことも避けることもままならぬ故に、必殺足りうる。

 

 そして、セイバーがその追撃を許すわけもない。

 

「はぁッ!」

 

 直後に、破壊的な魔力放出を伴うセイバーの突撃を認識して、アサシンは即座に離脱する。魔剣の檻も消え失せ、士郎は辛くも死から免れた。

 

 木片と埃が宙を舞う中で、ぬるりと剣光の残滓が尾を引いた。

 

「面倒だな」

 

「……」

 

 アサシンが苛立たち混じりに吐き捨てるのを、士郎は静かに聞いていた。

 

 この刹那の攻防の中で、士郎は逡巡を重ねた。自分の命はサーヴァントに預けて、打開策を考え続けた。現状、挑発は有効に作用している。アサシンには既に精神の乱れがある。そこから一瞬の隙さえあれば、セイバーは欠片すら残さずにアサシンを消し飛ばせる。

 

 だが、その決定的な隙を見出だせない。

 

 あと一歩、キーワードがあるはずだ。この男の狂気は激憤に似る。狂気の権化であった怪鳥の化身こそこのアサシンである。身に宿す者(カミ)が喚くのを無視しながら、思考を深くしていく。

 

「あぁ、やはり目障りだ」

 

 一方でアサシンももまた平静を保ってはいられなかった。威力偵察などという当初の目的はお空の彼方にあり、とりあえずセイバーのマスターは殺そうというくらいしか考えていない。

 

 ぶっちゃけ原作知識も忘れ去って久しい程度には時が流れたし、お気に入りのキャラを多少覚えてるだけの身である。

 

 然るに、あろうことかこの男、自分の言う『原作』でいうところの主人公たる衛宮士郎をすっかり忘れていたりする。そりゃあ最初から殺す気で動くわけだ。

 

(あーもう面倒くさいな。ランスロットは邪魔だしセイバーは言わずもがな…絶対殺してやらあクソがぁ…!)

 

 意固地になってもやることは変わらない。物干し竿を握り直して一息に距離を詰めた。

 

「手脚を削ぐのが先決か」

 

 即座に士郎のカバーに入るランスロットを見て、アサシンがもう一度空間跳躍する。

 

「なっ!?」

 

 剣閃を受け止めるべく振り抜かれたアロンダイトが空振った。ランスロットが目を見開き、アサシンは嘲笑った。

 

 ランスロットの直上に、アサシンの姿がある。異形の大刀がアサシンの急落下によって風を斬った。

 

───標的は紙一重で士郎への迫撃を防ぎ続けた騎士ランスロットだ。

 

 切っ先は肩口から心臓を貫く軌道を描き、静かに落下していく。時間が引き伸ばされるような錯覚を起こしながら、ランスロットはニヤリと笑みを形作った。

 

───もちろん、セイバーがいる以上そう上手く行かせるわけがない。

 

「甘い」

 

 セイバーは既に対処を完了している。未来予知に等しいその直感が、ランスロットの頭上へ『風王鉄槌(ストライクエア)』を解き放っていた。

 

「それも温いな」

 

 しかしアサシンも負けてはいない。奇怪な姿勢制御で魔剣を挙動させ空圧の壁を一刀の元に斬り伏せる。その勢いでくるりと身を翻して猫のように着地すると、ランスロットの剣撃が迫る。

 

「フッ!」

 

「……」

 

 ガキン、と金属の噛み合う音が一際大きく響いたと同時にアサシンとランスロットの闘志が激突した。

 

 乱舞、乱舞、乱舞。刃の暴風が両者の間で衝突する。

 

 0.3秒の攻防の中で交わされた斬撃は百を超えた。

 

「チッ、どっせい!」

 

「なんと!?」

 

 刃の隙間を縫って、強烈な蹴り足がランスロットの腹に炸裂する。鎧によって守られている故に負傷は無いが、これでランスロットが後退した。

 

 不利な姿勢からの防戦を強いられながら、ランスロットが誇る精緻の剣技を凌ぎきったアサシンが、再び迫るセイバーを認識して吹き飛ばしたのだ。

 

 二対一は危険。人間だった頃やたら乱戦をさせられた経験はアサシンに根付いていた。

 

「聖剣限定解放」

 

「すぅ、はあ」

 

 呼吸を整える。意識を集中させる。苛立ちは消えない。邪魔者を始末する時は決まって面倒ばかりだ。だが技の精彩は欠くことなく、武技は十全である。

 

 ごう、とアーサー王の聖剣が光を帯びて振り抜かれる。厄介なのは物干し竿がリーチで負けるということだ。膨大な光が刀身から溢れ出し、聖剣の間合いを何倍にも増大させている。

 

 圧倒的な魔力放出による剛剣には、アサシンをして身を翻し避けることに終始せざるを得なかった。

 

「…っ」

 

 ランスロットの復帰が近い。吹き飛ばした先から急接近する気配に、アサシンは腹を括った。

 

「ォおッ!」

 

 極光の隙間に身を乗り出して、宙を不可思議な挙動で闊歩する。聖剣の間合い6メートルを潰すための前進は、死出の旅路に等しい難行だった。

 

「……良いでしょう。勝負だアサシン!」

 

 セイバーもまたアサシンの狙いを理解していた。全力で接近してリーチを潰す。然る後に斬る。最もリスキーで、最も素早くリターンの得られる解法だ。

 

 聖剣の極光が掠める度、膨大な熱に身を焼かれる。苦痛に耐えながら、アサシンはついに聖剣の間合いの内側に踏み込んだ。

 

「応ッ!」

 

 ここしかない。

 

 魔剣が檻となり、セイバーに襲いかかる。ランスロットは己がセイバーを斬り伏せてから離脱するまで数瞬だけ間に合わない。

 

「───聖剣、再封印」

 

 間合いが縮まる。極光が消え去る。アサシンは失策を悟った。斬撃の檻を、単純な魔力放出の推力だけを纏った聖剣が一刀迎え撃つ。

 

「ッ!」

 

「ぐ、う」

 

 檻が粉砕される。規格外の魔力放出によって実現する途轍もない膂力と技量が、魔剣の秘技を退けた。

 

 だが侮るなかれ。アサシンの執念は、逆境に尚も抗い、これを打ち砕き続けた狂気そのものなれば。

 

「キィェエアアアア!」

 

 ずん、とアサシンが深く沈み込んだ。

 

 床を舐めるような低姿勢のまま駆けて、セイバー渾身の横薙ぎを潜り抜け、切っ先を腹に突き立てんと振り上げようとして───

 

「その執念がオマエの敗因だよ、アサシン」

 

「『無間結石(キュベレイ)』」

 

「───っ」

 

 その瞬間、アサシンは形振り構わず物干し竿を投擲していた。

 

 自身に迫る追撃が未遂に終わったセイバーが再び振り上げた聖剣も、無毀なる湖光(アロンダイト)の限定魔力放出でかっ飛んでくるランスロットも、未だ推定アーチャーから防戦を強いられているギャラハッドも、ぼけっとして突っ立っている士郎も何もかもを意識の外に追いやって。

 

 ライダーが魔眼を解放した瞬間に見たものは、アサシンの魔剣、物干し竿の刀身だった。

 

「ぐっ!?」

 

 認識下に、アサシンは無い。紺碧の光のみがライダーの意識を満たした。

 

 認識さえしていれば、その効果を及ぼすとされる超抜級の魔眼は、しかし神殺し、神秘殺しの魔力が放つ燐光に封じられたのだ。

 

 そして、ライダーの顔面に物干し竿の腹が直撃した。神秘殺しの力で意識を断ち切ったのだ。ただし、アサシンにとっては残念ながら、目を潰すには至らなかった。

 

 こうして即死を免れたアサシンだが、危機は去ったわけではない。即死を回避するために隙を晒した以上、その身は直近の危機に襲われる。

 

「聖剣限定解放」

 

縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)!」

 

 迫る殺意に、武器を投げっぱなした姿勢を戻す暇はない。アサシンにとって不運だったのは、セイバーの剛剣を掻い潜る為に極端な低姿勢で機動していたことだ。

 

 それでも、前方への推進力と武器を投げた慣性のまま身を振り回して身をよじらせた。不規則な挙動によってセイバーとランスロットは惑わされた。

 

 だが、苦し紛れの逃げ足なにするものぞ。

 

 それでも歴戦たる英雄たちは、怪物へ渾身の一撃を命中させた。

 

「……ぐ、ご…ぉぼ」

 

 アサシンは遂に傷を負い、血を吐いた。

 

 片腕がセイバーによって切り落とされ、左の横腹はランスロットの宝具に抉り取られていた。

 

「だがまだ死んでいない」

 

 士郎が呟いた。音が耳に届くのを待たずに二人は動いていた。

 

「ゔ、おぁア!!!!」

 

「ぐ、お!?」

 

「……むっ!」

 

 アサシンが血を吐きながら吠える。欠損など無いかのようにセイバーを蹴り飛ばし、残った右腕でランスロットの顔面を殴り飛ばした。

 

 恐るべき速度で暴れると、お得意の空間跳躍で物干し竿を拾い上げ、その場から姿を消した。

 

 凄まじい撤退劇だった。

 

 外から響く轟音を聞きながら、慎二が深くため息をついた。

 

「はぁ、ともあれ、生き残ったか…」

 

「ぐ、セイバー。俺も空間掌握を繰り返して消耗が激しいから、後は任せる」

 

「……了解いたしました。ご無理はなさらず、マスター。ランスロット、ご苦労だった」

 

「仕留めきれず、申し訳ありません。次こそは奴を斬り伏せてみせましょう」

 

 弓兵の狙撃は続いている。だが、ギャラハッドの活動限界には間に合った。次は、言峰教会からの撤退だ。

 





 ちょっと作りに納得できてないので大きく修正するかも?


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ぜんぜん分からない―――俺たちは雰囲気で聖杯戦争をやっている(前)


良いお年を!



 

 アサシンを退けたとて、未だ窮地にあるのは変わらない。純潔の騎士ギャラハッドの守護する言峰教会の外は未だ轟音と衝撃で大いに揺れていた。

 

「セイバー、撤退先は貴方を召喚した間桐邸になる。俺たちの本来の拠点はバーサーカーによって破壊されているからな」

 

「承知しました」

 

 仮称アーチャーの狙撃が止む気配はない。だが、建物自体への攻撃を防ぎ続けているギャラハッド卿の限界にもまだ幾ばくかの余裕はある。

 

 出来得る限り迅速に、撤退の手順を構築して言峰教会から離脱しなければならない。

 

「問題なのは大体の撤退ルートで相手からの射線が通ることだ。今や騒ぎで冬木市の市民が避難している以上、人的被害を気にせずあちらからこちらに手を出し放題になる」

 

「厄介ですね。余力があるなら確実に防ぎ切れるギャラハッド卿はアサシンの対処の為に消耗させてしまいました。正確かつ破壊力のある追撃を躱し続けるのは容易ではないでしょう」

 

「その通りだ。場合によっては令呪で燃費を賄ってでも全て遠き理想郷(アヴァロン)を切らざるを得ない」

 

「白兵戦に持ち込むのは?」

 

「分かっているだろう。熟練の狙撃手を相手に間合いを潰すには、莫大なコストが必要だ。まだサーヴァントが殆ど残っている序盤、今後を考えればサーヴァント一騎では割に合わないぞ」

 

「でしょうね。苦しいですがやはり撤退ですか」

 

 事務的に相談を始めたセイバー陣営に、横合いから慎二が割り込んでくる。

 

「ちょっとちょっと、ウチに撤退するのは良いけどね。ライダーを運ぶのはそっちに任せちゃっていいかい?」

 

 疲れの見える顔だが、まだ気力は尽きていないようだ。

 

 件のライダーはアサシンから刀の腹を顔面に叩きつけられて落ちてしまっている。霊体化も封じられているのか知らないが、実体化している以上は兎にも角にも運ばなければならない。

 

 士郎は色とりどりのガラス片や木片が散乱する床を見つめて少し考え込むと、顔を上げてセイバーに声をかけた。

 

「セイバー、馬は出せるか?」

 

「出せないこともありません。少しばかり強引な呼びつけ方にはなってしまいますが」

 

 セイバーは、ライダーではない。だが、適性の外にあってなお縁深い乗騎を現世に呼び込む英霊は数多あり。セイバーもまた、その一人だった。

 

「頼む」

 

 士郎が要請すれば、セイバーは鷹揚として頷いた後、聖剣を静かに鞘へと収めた。

 

「承りました。では、魔力を回して頂けますか?」

 

 

 

 猟犬の猛攻は未だに途切れていない。ギャラハッドは大粒の汗を垂らしながら執拗な追撃を見せる異様な矢を跳ね返し続けていた。

 

「―――ふッ、フゥー…はァッ!」

 

 弾き返した回数などもう覚えていない。閃光の如き狙撃が赤い猟犬の追跡に合わせて飛んでくる。円卓史上、護りとあらばこの人ありと讃えられる純潔の騎士をして、決して集中を切らすことの出来ない状況だ。

 

 この均衡が永遠でないこと、そして自らが不利であることは明白。始めから防戦に徹したことで時間は稼げているはず。だが、背後を気にする余裕はない。

 

 今はただ、己の殉じた王とそのマスターを信じて耐え忍ぶのみ。ギャラハッドは更に精度と威力を増す狙撃から、一つの瑕疵もなく背後の味方を守る事に腐心した。

 

―――まだか。

 

 隕石の如し曲射の重矢を打ち返し、空いた胴を穿くべく飛来した雷の矢を片手で握り潰す。逃さぬとばかりに這い回る赤い猟犬を全力で魔力防護を施した脚で蹴り飛ばす。

 

―――まだか。

 

 勘が囁く。猟犬の矢は死んでいない。不規則に軌道を変えて再び襲い来る赤い凶弾。振り上げた脚の勢いのまま宙を翻り、横腹に食いつこうとするそれを盾のフルスイングでかっ飛ばす。

 

―――まだか。

 

 大振りを隙と見たか、狙撃手は素早く矢を殺到させた。ギャラハッドがズン、と重々しい音を立てて着地すると、整わぬ姿勢のまま宝具を起動させようとして―――

 

「見事だ、ギャラハッド卿。後は任せよ」

 

 一閃。アーサー王が聖剣を振り抜いた先に、滝の如く控えていた無数の矢は聖剣の光によって焼き払われていた。

 

 光剣を手にドゥン・スタリオンの馬上にあるその姿は陽の光を浴びて絵画のように神々しく映った。そして、再び迫る赤い凶弾を一撃で斬り伏せると、勇壮な騎乗姿のアーサー王は静かに告げた。

 

「これより我らの陣営は拠点まで撤退する。ギャラハッド卿よ、此度はこれまで。下がるがよい」

 

「―――承知」

 

 短く応じたギャラハッド卿が黄金の粒子となってその場から消えると、アーサー王は狙撃手のいるであろう方角から目を逸らさずに後方へ告げた。

 

「シンジ。ラムレイは牝馬ですが、軍馬である以上は大人しいだけでは務まらぬものです。くれぐれも、彼女の機嫌を損ねないように」

 

 話している間も、矢の勢いは陰りを見せない。しかし、聖剣の剣光が極大のレーザーに変じながら、狙撃手の矢を纏めて消し炭に変えていく。物量ではどうにもならぬと狙撃手に判断された時こそ、この撤退劇の本番になるだろう。

 

 馬の扱いに注意を受けた慎二が、軽く応えた。

 

「肝に銘じとくよセイバーちゃん」

 

「………シンジ」

 

 視線を狙撃手の方に向けたまま、セイバーはため息をついた。

 

「ごめんなさいちゃん付けは早かったですよね」

 

 弁解するように早口で、どこかズレたことを言い出す慎二にセイバーはたまらず士郎へと水を向けた。

 

「いやそうではなく…マスター、彼はこのような人なのですか?」

 

「大体このような人間だ。悪いやつではないぞ」

 

 鋼のように泰然として、士郎は大真面目にそう言った。セイバーは悟る。これは手強いマスター(とクセの強い同盟相手)に当たったかもしれない。

 

「えぇ、まぁ。それはなんとなく分かりますが…」

 

「これでも同盟相手だ。すまないが多少は目を瞑ってやってくれ」

 

「貴方がそう仰るならそうしますが、私にも王たる者の矜持があることはお忘れなくお願いします」

 

 セイバーは、調子者に間違いないこの手の輩にからかわれるのが苦手だった。大体マーリンのせいである。

 

「じゃ、僕はライダーを保持しとくからさ、僕が落ちないように気をつけてよ?」

 

「任された。ただ、そうだな…。もう少し持ちやすいように細工はしておこう」

 

―――遮断開始(Interception starting)

 

 ラムレイに跨がる慎二が後方にライダーを大鎌の柄から引っ張り出した鎖に巻きつけると、その拘束を補強するように薄雲がゆるりと包み込む。

 

 慎二が士郎に視線をやると、どのような魔術を施したのか簡単な説明が始まった。

 

「それはあちらとこちらを隔てるものだ。要は結界術の一種。消耗しているからこのくらいのことしか出来ないが、ライダーの固定と保護に役立つはずだ」

 

 理論としてはオーソドックスな結界魔術にあたる。魔術世界における結界とは魔術師の工房を始めとした術者の支配領域を現世から隔てる一種の異界化に用いられる事が多い。

 

 士郎の特異な点は可視・不可視を問わず壁としての形状を持って展開される事が多い結界魔術が、隔てる概念を持つ霧や雲として発現することだった。

 

 それらが士郎の意思一つで、無数の形状に変化する。

 

 形状に融通が利き、かつ概念としても強固な士郎の結界術は、魔術世界にあって非常に希少な特性だと言える。

 

 話していると、矢の雨が止んだことに皆が気が付く。冬木の空は晴れやかな空で、緩く穏やかに渦巻く風が嵐の予兆を感じさせた。

 

「攻勢の前のチャージ段階と見るべきだよね?」

 

「恐らくは。ではこれより撤退開始、マスターは私にしっかり捕まってください」

 

「分かった。対処は全て任せる」

 

「シンジは私の後方を追走することになりますが、狙撃は私が全力で防ぎますので、ラムレイにしっかり捕まっていることだけを考えてください」

 

「了解了解。流石にサーヴァントの狙撃防げる自信は無いからさ、しっかり頼むよ?」

 

「良いでしょう。我が全霊を以て、貴方達を護りきる。騎士王の名が伊達ではないこと、とくとご覧あれ!」

 

 いざ駆けよ、ドゥン・スタリオン! ラムレイ!

 

 セイバーの魔力放出によって風が荒々しく巻き上がると、空が紅く染まり始めた。特大の狙撃が光弾となって迫ってきているのだ。

 

「行きます!」

 

 二頭の軍馬を援ける魔力放出が細く鋭く収束していく。その姿はさながら戦闘機のアフターバーナーのよう。

 

 それが臨界点に達したその時、迫りくる光弾を置き去りにする凄まじい急加速と共にセイバーたちは空へ大跳躍し、撤退劇が始まった。

 

 



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ぜんぜん分からない―――俺たちは雰囲気で聖杯戦争をやっている(中)

 

 アーチャーと凜はちょっとした裏技を用いて狙撃地点を移していた。最後の狙撃から15秒、敵陣営の離脱開始は目で見てわかるほど派手だ。凄まじい速度で打ち上がる光弾2つは、間違いなくセイバーの騎乗馬である。

 

「なるほど、防御は考えないか」

 

 そう口に出しながら、内心では敵方の思い切りの良さに感心する自分がいることにもアーチャーは気付いていた。

 

 空へと射出された騎馬2頭に再び狙いを定めて、マスターの指示を待つ。仕留めるならば、その指示を待っている暇も無いのだが…。

 

「あれは撤退、よね?」

 

 視界を共有する凜は僅かに息を切らし、頬を薄く紅に染めている。冬の寒さだけではあるまい。宝具級の威力を持つ狙撃は相応の消耗を陣営に与えていた。

 

 その視線の先には空へと駆け出すセイバー・ライダー陣営がいる。さながら流星の如く魔力を放出し、空に尾を描いていた。

 

「そうだ。消耗に見合う対価を得たいなら追撃するしかないが、損切りするならここで引き下がるのも手だな」

 

 堅牢なる盾、ギャラハッド卿の防御にはついぞ敵わなかったが、それに拘泥して火力を重視し過ぎた。こうして初速で負けた以上、追撃は速度優先で必要最小限の威力を扱わなければならない。

 

 逡巡することもなく、凜は即答した。

 

「冗談。狙撃地点(ここ)を整えるのに何十億掛かったと思ってんのよ。しかも全部で7ヶ所よ?」

 

 負けん気の強そうな、勝ち気な笑顔で魔術師は笑った。そういう女性(ひと)だったな、とアーチャーも薄く微笑んだ。

 

「ハハハ、では追撃に移る。そして、基本方針もこちらに寄ってきたサーヴァントを叩くということで変わりない、だな?」

 

「えぇ、とにかく目立って一騎でも多く誘き寄せられればこっちのもんよ」

 

 巨大な剣を矢へと変えて、弓につがえる。剣の銘は螺旋虹霓剣(カラドボルグ)。丘3つを斬り裂いたアルスターサイクルの豪傑フェルグス・マック・ロイの魔剣。魔術世界では堕ちたる神格、その破片とも伝えられる破壊の力は、本来広域に作用する爆弾とも言い換えられるだけの規模を持つ。

 アーチャーはこの破壊力を一極集中させ、指向性を与えることで狙撃用の矢として用いた。

 

 目標は、急速に霧と雲に覆われつつあった。あちらのマスターによる魔術か、或いはセイバーが優れた魔術師でも呼び出したか…。

 

「一射が限度だな。三射くらいは出来るかと思っていたが…」

 

 アーチャーの鷹の眼を以てしても、この撹乱は非常に効果的だ。純粋な視界不良に加えて、魔術的なチャフでもあり、あれほど派手だった魔力光の噴出すら、この雲霧に遮られつつある。

 

「だが、狙いは既に定まっている―――我が骨子は捻れ狂う(I am the born of my sword)

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)

 

 貫通力(或いは掘削力)重視の『改・虹霓剣(カラドボルグⅢ)』を選ばなかったのは、こちらが弾速に優れるためだ。

 

 アーチャーの手札は、まだ底を見せていない。見せてない内に出来れば大人しく仕留まって欲しい。拠点の維持運営、狙撃地点の維持、魔力供給のための補助礼装(大体宝石系統の物)、湯水の如く消えゆく資金と資源に、凜はゲロを吐きそうな想いを抱いている。

 

「えぇ、撃ちなさい」

 

「了解した。―――行け!」

 

 ドウ、と弓矢とは思えない炸裂音を響かせながら、追撃の矢がセイバー・ライダー陣営に迫る。回避運動など許さない。着弾まで、3、2、1―――。

 

 その時、アーチャーは奇妙な違和感を確認した。

 

「―――っ?」

 

 矢が、僅かに逸れた。直撃する軌道が、まるで何かに阻まれたかのようにズレて………。だが、歴戦たるアーチャーは違和感へ思考を挟むより前に次なる手を打つ。

 

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)

 

 矢に秘められた神秘が破壊と共に爆裂する。

 

 破壊力は十分のはずだ。盾のギャラハッドも消耗させた故に今すぐは出せまい。今この段階で彼らの防御手段は聖剣の鞘たる『遥か遠き理想郷(アヴァロン)』を携えるセイバーのみ。仮にここで札を切らせたのなら、相応の疲弊は避けられないはず。そう読み切っての手だった。

 

 だが、これは。鞘ならば分かる。一時はその格納庫をやっていたのだ。姿を現したなら間違えるはずもない。

 

 赤い爆風を切り裂いて、大した損傷もなく雲霞に消えた敵の背。その姿に、自らが考えていた物とは異なるその他の防御手段があることを、アーチャーはようやく認識した。

 

「アーチャー?」

 

「思ったより難物だな。やはり思ったようには行かないか」

 

 そう呟いて、アーチャーは凜へと向き直った。

 

「マスター、接近する敵はいるかね?」

 

「ちょっと待ちなさい………いるわ。戦車みたいなのに乗って射線切りながら近づいてくるのが一騎と、純粋にアホみたいな速度で突貫してくるのが一騎」

 

 戦車、ライダーではないのにそういうのを持ってくるのは止めて欲しいんだがな。そう心中でぼやきながら、恐らくランサーだろうと当たりを付ける。正面から当たれば絶対に勝てない以上、立ち回りは慎重にならざるを得ない。だからこそ、もう一騎よ存在はアーチャーにとって都合が良かった。

 

「三つ巴の形になるか。では、場所を移そう。まずは罠の効力を確かめなくてはな」

 

「後で仕留められなかった言い訳は聞くからね」

 

「手厳しいな」

 

「いいから行くわよ。私達の戦いはまだ終わってないんだから」

 

 凜が懐から玩具のような杖を取り出す。まさか、この礼装を扱うとは、というのはその正体を知っている者のみの話だろう。だが、それでも言いたくなってしまう。

 

「なんでさ」

 

「なんでもよ。使えるんなら使わないと勿体ないでしょうが。ほら起きなさいルビー。仕事の時間よ!」

 

 その礼装の名は、カレイドステッキ。知る人ぞ知る宝石翁の悪ふざけの賜物である。何本か存在する内の、一本は遠坂家伝来の宝物だった。

 

【えー、なんか使う頻度多くないですか?】

 

 やたらと低いテンションで喋りだした愉快犯礼装ことカレイドステッキ・ルビーは自分の性癖とは合わない使い手に不満タラタラだが、怒髪衝天の勢いにある凜にギャグ補正は流石に通じない。

 

「何のためにあんたと契約までしたと思ってんのよ。良いからやんなさいぶん殴るわよ!?」

 

【うぇー。これだから貴女に力を貸すのは嫌なんですよぉ…】

 

「まぁ、なんだ。キチンと契約を結んでいるなら構わないが、利用は計画的にな?」

 

「分かってるわよ。さっ、早くしなさいルビー」

 

【ぐぬぬ、まぁ報酬も受け取ってますし、良いでしょう!】

 

 その後の様子は、遠坂凜という魔術師の名誉のために描写を控えさせて頂く。とりあえず、彼らはその場にダミーだけを残すと空間転移の魔術を用いて別の狙撃地点に移ったということである。





中途半端な所で切りますが、後々ちょっと追加します。
皆様よいお年を!


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