男は楽園を目指す (凍結する人)
しおりを挟む

フェイト編①

 その日。プレシア・テスタロッサの魔導端末に、一通のメールが届いた。

 

 送信先の分からない音声メッセージに困惑したプレシアだったが、その内容を見て驚き、恐怖した。流れてくる声は、落ち着いた中年男性といった感じで、特に音声加工されてはいない。しかし、そのくたびれた声から聞き取れたのは、大魔導師プレシアに対する、極めて効果的な脅迫であった。

 

『単刀直入に言おう。私はプロジェクトFについて、また君が所有しているアリシア・テスタロッサのクローンについて全てを知っている』

 

 プレシアの一人娘、アリシア・テスタロッサの代わりとしてのクローン――今では『出来損ない』として道具に育て上げているフェイト――を作る時、プレシアが一番苦慮したのが、機密保持であった。幾つもの『材料』を法に触れるような場所で入手しなければならないし、人道的に おいても、ミッドチルダの法においても、人間のクローンというのは禁忌である。だから、わざわざ自分の家に、プロジェクトFの研究所を模した作業場まで作り上げたのだ。

 

 しかし、このメッセージはそれら必死の工作が全くの無意味であることを証明していた。この事実を晒されたら、プレシア・テスタロッサという個人と、その願望――愛娘アリシア・テスタロッサの蘇生――は潰えてしまう。胸が震え、長年の研究で標準以上に痩せた身体も同じく震えている。顔からは汗が吹き出していた。

 続くメッセージにはこう書かれていた。

 

『それに、君が何を望んでいるのか、どのような方法でそれを果たそうとしているのかも、ある程度察しているつもりだ』

 

 プレシアの震えは更に大きくなった。開きっぱなしになっている口から、自分の耳でも聞こえないほど小さいうめき声が出たと感じた。自分が何処で漏らしたのか、メールの主が何処でそれを知ったのかはわからないが。こいつは自分の考えている『方法』をも予測しているというのだ。

 

 しかし、次の言葉は以外なものだった。

 

『だが、それを為すのは君の自由で、私の干渉する所ではない』

 

 この文面を読んで、プレシアの頭にあった恐怖の一部が困惑へと変わった。

自分のやることには干渉しない、だと?勿論、その言葉を、そして今まで聞いたことを、額面通りにそのまま信じるわけにはいかないだろう。

 

 が、もしこれらが全て本当だったとして、こいつは何故自分に脅迫じみたメッセージを送ってきたのだろうか?理屈を考えると、どうにも解せない所が多い。愉快犯かもしれないが、引退した研究者である自分一人をおののかせてみせて、一体どんな楽しみがあるのか?兎に角、プレシアは続きを見ようと指を走らせた。その指は少し前と違って、それほど震えてはいなかった。

 

『このメールで私が提案するのは以下の2つだ。

 一つ、君が所有するクローンを私に提供すること。

 一つ、クローンの代替として、私が君に戦力を提供すること。

 それほど悪い条件とも思えないが、どうだろうか?返答はこれから言うアドレスに文書で送ること。先ずは君が乗るか乗らないか、その後に委細を決めるとしよう……』

 

 そして、この条件を見た時に、プレシアはますますこの男の目的を予測できなくなった。写し身として出来損ないの、たがが魔法が使える程度のクローンに、こいつは何の用があるのだ?

 

 自分の知識の大半を与えたリニスに育てられて、デバイスと自身の使い魔を持っているから、魔導師としてはまあ使えるだろう。しかし、この庭園と自分の家しか世界を知らず、しかも『生まれ』てからまだ三年も経っていないのだ。人格形成には、多少問題があると見ていい。

 

 そしてそれは――成熟したメンタリティの欠如は――魔導師の戦いに於いて決定的な弱点となる。マルチタスクの猥雑さに振り回されず、しっかりとした術式を構成するには、心の強さが重要なファクターとなるのだ。

 

 「彼女はもう立派な一人前」とリニスは言うが、その辺りをどうにかしない限り、技術は一人前でも、魔導師としてはそう呼べないだろうとプレシアは思っていた。しかし、リニスにメンタル育成の能力が無いということではない。プレシアがリニスを無意識に操作することで、敢えて健全な精神を育てないようにしているのだ。

 

それは何故か。

 

 プレシアが欲しいのは『自分に唯々諾々と従う道具』であるからだ。自分で考え、自分で行動する魔導師は、プレシアの行動が禁忌だとわかれば、歯向かう可能性があるのではないか、ということである。フェイトには、プレシアを母親だと信じこませる、暖かく優しい記憶が刷り込まれてある。それがフェイトの心の拠り所になり、母に付いてくる雛鳥のように、プレシアの思う通りに働いてくれるのだ。

 

 何しろ、『管理局と相対する』という最悪のケースを考えると、こちらには手駒が足りない。プレシア自身は大魔導師だが、病魔に蝕まれていて、表立って動けはしない。傀儡兵は信頼出来るが、動きが単調すぎるし、管理局の魔導師と対抗するには数が必要である。今の手持ちでは本拠地の防衛で手一杯だろう。だから、ある程度の弱体化を考慮しても、これが現段階で最善の方法である、とプレシアは考えていた。

 

 が、この男の提案には、プレシアの現状を大きく好転させる可能性があった。男が何を用意しているかは知らないが、交渉の基本を知らない馬鹿でないならば、こちらにおいて、今のフェイトより安定した戦力を出すだろう。しかし、男はフェイトに何を求めているのか?幼い身体を、愛玩用にでもしつけるつもりなのだろうか。だとしたら相当な俗物だ。

 

(とはいえ、一度話を聞いてみる価値はあるみたいね)

 

 信頼こそ出来ないが、提案が魅力的ならば、応じる利益はあるかもしれない。

プレシアはメッセージを保存し、男の語ったアドレスに、詳細を聞くメッセージを書き始めた。

 

 

   ***

 

 

 それから、何週間か過ぎたある日。

 

 フェイト・テスタロッサは日課の魔法訓練の終わりに、思いがけない物を見た。

いつも研究室に引きこもっていた母が、この日はフェイトのいる外の草原まで足を運んでいたのだ。傍らにリニスを連れて、プレシアはフェイトのところまで歩いて行く。しかしプレシアが数歩歩く前に、フェイトの方からプレシアに駆け寄っていた。

 

「母さん!」

 

 感極まってプレシアに抱きつく。そんなフェイトを、プレシアは何も言わずに受け止めた。その光景を見たリニスは、(ああ、ようやくプレシアも素直になったのか)と涙腺を緩めた。リニスは、未だプレシアの真実を知らなかった。 だから、この光景を『研究熱心で不器用な母親が、初めて娘と向き合った』記念すべき場面だと思っていたのだ。

 

 一方のプレシアは、抱きついたフェイトの身体の温かみを感じ、言い様のない吐き気を覚えていた。

 

……こんな紛い物が! アリシアの肉と皮を被った、出来損ないの人形が、一つの生命として熱を宿している!……

 

 今すぐこの小さい悪魔を突き放したかった。突き放して、今まで溜まってきた恨みと憎しみを解き放ちたかった。だが、今は我慢しなければいけない。こんな気持ち悪い人形と付き合うのも、あと半日の辛抱だ。

 

「……フェイト」

 

 クローン製造プロジェクト『F.A.T.E.』。そこから付けられた忌み名を呼ぶのに、プレシアがどれだけの忍耐を必要にしたのか。その言葉にどれだけの負の感情が篭っていたのか。ただの子供と山猫には、察することが出来なかった。

 

「フェイト。貴方に会わせたい人がいるの。ついて来なさい」

「はい、母さん」

 

 一も二もなく返答し、すぐさまプレシアの三歩後を付いてくるフェイトに、プレシアはますます憎しみを募らせた。これで、意味もなく自分の母に逆らうのなら、プレシアとしても容赦なく、その憎しみを叩きつけられたのだが。

 

 しかし、フェイトは世間一般で言う『良い子』であり、なにより母思いだった。それが、プレシアの心にこびりついた少ない良心を傷つけ、そして余計に憎しみを倍加させたのだ。

 

 リニスに出かける用意をしろと命じ、自分から離れさせたプレシアが行くのは、かつてフェイトを作り出した実験場だった。フェイトにとっては、自分が初めて目覚めた場所だ。少しだけ懐かしさを覚えるも、ここまでくるとフェイトも疑問を覚えた。

 

――重い怪我が治って、自分は目覚めたはずなのに。今更どうして、こんな所に来る必要があるのか?

 

 しかし。フェイトは言い出せないでいた。フェイトにとって、自分の母親の言うことは神託であり、為す事を邪魔するのは神への冒涜と同義であったからだ。プレシアはフェイトをベッドに寝かせ、そのまま装置を使って眠らせようとする。 事ここにいたって、ようやくフェイトは一言だけプレシアに問うた。

 

「母さん、何をするの」

 

 プレシアは、いつもと全く同じ、冷たい声でこう答えた。

 

「遠い所にお出かけするのだから、身体に何かあると悪いでしょう? だから、念の為に、ね」

 

――遠い所って、どこ。

 

 そう問いかける前に、フェイトの意識は闇に閉ざされた。

 

 

   ***

 

 

 向こうから伝えられた転送座標を入力し、プレシアが飛んだ場所は、よくある談話室のような所だった。しかし、そこに待っているはずの男の姿がない。嵌められたか、と一瞬警戒するプレシアだったが、背後から聞こえるドアの開閉音を聞いて、抜きかけた鞭状のデバイスを懐にしまった。

 

「お待たせした。こちらも用意をする必要があったのでね」

 

 男は、声から想像される外見より若干若く見えた。髪は適度にまとまっており、さっぱりとして、綺麗な青色のスーツが清潔な印象を感じさせる。中肉中背で、そこまで目立たないが、少しやり手のビジネスマンといった風貌だ。座ってくれ、と男は勧め、プレシアも応じてソファに座った。男は灰皿大の丸い機械を取り出し――恐らくこれが男のデバイスらしい――資料を投影させた。

 

 プレシアが操作して見たところ、それは或る機械群の仕様書であり、どうやら戦闘用の装備を有しているらしかった。

 

「これは、ある戦闘メカの試作品だ。名前はないが、私はこれをガジェット・ドローンと仮称している」

 

 男はさらに語る。この試作品を、プレシアに提供すること。さらに条件として、実戦データを開発先に送ってほしいこと。それさえ守れば如何様に使っても構わない、ということ。プレシアは落胆した。この男が出すのはこれだけなのか。只の戦闘メカなら、傀儡兵だけでも十分であるというのに。

 

 その意を男に伝えると、男は笑って否定した。

 

「何もこれだけではない。この機械の真価は、機械自身のスペックではなく、他の所にある」

 

 そして、男はデバイスを操作し、もう一つの資料をプレシアに見せた。

 

 『アンチマギリンクフィールド』。効果範囲内の魔力結合を解いて魔法を無効化するAAAランクの高位防御魔法である。これの発生装置が、ガジェットドローンには搭載されているというのだ。魔力結合の解除。

 

 これが従来の魔導師においていかなる脅威となるか、自身も魔導師であるプレシアにははっきりと理解できた。攻撃魔法はもちろん、飛行や防御、機動や移動に関する魔法も妨害されるのだ。しかも、最大クラスの濃度で展開できれば、Aクラス以上の魔導師ですら容易く無力化出来る。上手く使えば、一戦局どころか、これまでの魔導戦闘の有様を大きく変えることが出来る技術だった。

 

 技術的にまだ未完成ではあり、満足できず不便な点もあるかもしれない、と男は付け加えた。しかし、プレシアにとって、これならば代替として十分使えるものだった。さらに、その納入数も驚くべきものだった。男は、たった一人の子供の魔導師の代わりに、地上型と空中型を合わせて100体以上のガジェットを用意すると提案したのだ。

 

「無論、アフターサービスもさせてもらおう。修理はこちらの工場で行うし……」

 

 男の長い答弁を尻目に、プレシアの頭の中にある電卓は、冷徹な答を出した――出来損ないの人形よりも、この機械は役に立ちそうだと。こうしてプレシアは、クローンとはいえ、自分の子供を売ることになった。心の奥底に『娘』への情愛を失うこと無く。

 

 ガジェットの受け渡し場所、データの送り先などはとんとん拍子に決まっていった。そして、プレシアが条件を果たす番が来たのである。

 

「交渉成立だな。では、早速ですまないが、彼女を寄越してくれ」

「いいわ。リニスに合図を送って、こっちに転送させましょう」

 

 数秒後、談話室に、黒い余所行きの服をきたフェイトが転送されてきた。その場の冷たい雰囲気に、子猫のように怯えたが、視界にプレシアを見つけると、ほっと安堵の息を吐いた。プレシアがフェイトに近寄る。これでこの人形の世話も終わる。プレシアは胸の支えが取れるような気持ちを抱いていた。

 

「フェイト」

「はい、母さん」

「リニスから荷物は受け取ったわね」

「ここに全部あるよ、母さん。アルフも後から来るみたい」

 

 どうやら、リニスは命令通り、何も疑うこと無くフェイトを送り出したようだった。今頃は、嫌がるアルフを風呂に入れて、清潔にしていることだろう。プレシアはフェイトの手を引き、男に向きあわせた。

 

「さあ、貴方の『お父さん』にご挨拶なさい、フェイト」

 

 その言い方に、男は多少驚いたらしく、眉を潜ませ、訝しげにこちらを見た。

 

「こんにちは。フェイト・テスタロッサです」

 

 プレシアはフェイトの記憶を操作して、この男を『父親』として認識させたのだ。どうせ、この男もフェイトを人形のように操るのだろう。ならば、こうしてフェイトの依存先になった方が便利であろうという、思惑だった。

 

【私なりの『アフターサービス』ですわ】

 

 プレシアはほくそ笑み、男に念話した。男もそれを受け取ったらしく、苦笑して応対した。

 

「フェイトはどうしてお父さんの元へ行くのかしら?」

「母さんの研究が忙しくって、邪魔をしないようにです」

 

【誰かに売り飛ばすなり、そういう不都合があるならまた記憶を操作しても構わないわよ】

【いや、これでいい】

 

 そう返した男は、驚きから覚めて、にっこり笑顔を浮かべてフェイトに応対した。どうやら、『アフターサービス』を受け入れたようだった。

 

「始めまして。カイトだ。これからよろしくな」

「父さんって呼んでいいですか、カイトさん?」

「いいとも」

 

 カイトが手を伸ばし、フェイトがそれを受け取った。これでフェイトは、プレシアの手から解き放たれ――さらに束縛されることになった。

 

「ではプレシア。私はこれで」

「ええ、さよなら」

 

【二度と会うこともないだろうが、貴方の旅路に幸運を】

【貴方なんかに言われなくとも、辿り着いてみせるわ】

 

 男はフェイトの手を引き、談話室から出る。それを見届けたプレシアは、満足と肩の荷が下りた快感を覚えつつ転送魔法を構築し始めた。

 

……もうリニスを保持する必要も無くなった。またアリシアと二人きり。二人きりで挑むのだ。悲しい出来事に、こんなはずじゃなかったことに……

 

 プレシアは転移を完了し、談話室は無人になった。

 

 

   ***

 

 

「此処が、今日からフェイトの暮らす場所だよ」

 

 フェイトが案内されたのは、アイボリー色の壁紙が引かれた、フローリングの子供部屋だった。

 とにかく沢山の物が置いてあった。黒に黄色のアクセントの布団があるベッド。大きい勉強机。分厚い魔導書と絵本とがごちゃ混ぜになっている本棚。おもちゃ箱には、男の子用の玩具と女の子用の玩具の両方が一杯に詰まっている。

どうにも奇妙な部屋だった。

 

「何が好きかも分からないからね、適当にたくさん買っちゃったよ」

 

 たはは、と笑って頭をかくカイトを見て、フェイトは、心に熱い物が湧いて、それが喉奥から出かかっているように感じた。

 

……優しい。この人は優しいんだ。思い出にある母さんみたいに。そして、ここでアルフと一緒に、父さんと一緒に、暮らすんだ。母さんと離れるのは寂しいけど、でもきっと、また、会えるから……

 

「どうしたんだ、フェイト、泣いてるじゃないか」

 

 そう言われて、フェイトは始めて自分の涙に気づいた。よく見ると、鼻水まで出てきている。フェイトは、ごめんなさいと謝った。涙で部屋を汚して、父親に迷惑をかけてしまったからだ。もしかしたら、叩かれるかもしれない。フェイトは覚悟したが、だが、カイトはフェイトの予想を超えた行動をした。フェイトをぎゅっと抱きしめたのだ。その堅い胸が、フェイトの顔に当たって、カイトの心臓の音がフェイトの耳に聞こえてきた。すると、フェイトの心はますます熱くなって、涙も鼻水も枯れること無く出てきてしまうのだ。

 

「ご、め、ん゛、な、さ、いぃぃぃ」

「いいよフェイト、お前の気が済むまで泣くんだ」

 

 フェイトの涙は、真夏の夕立のように激しく、そしてそれが止んだ後に、爽やかなものを残す涙だった。泣き止んだ後も、フェイトはずっと抱きしめられていたかった。この幸せに全てをゆだねて、溶けてしまいたかった。

 

「フェイト。幸せかい」

「はい、とても、とても」

「じゃあ、俺の目を見るんだ」

 

 上げられたフェイトの顔からは、幸せと喜びがにじみ出ていて。それを見たカイトは――

 

 

 

 

――とても酷く、興奮した。

 

 

 

 

 

 

   ***

 

 

 

 

 

 

 

――ピチャ、チュ、チュプ。

 

 ベッドにあぐらをかいて座っているカイト。その股ぐらには……いきり立った一物を、一生懸命に舐めているフェイトがいた。まだ幼い女が、男の前で跪き、口淫にふけっている。とてつもなく背徳的な光景が、明るい子供部屋で行われている。その事実から吹き出す生暖かく影の濃い臭気が部屋に充満し、カイトは勿論、自分のやっていることが何か、まだよく分かっていないフェイトにさえも、ほんの少しだけ興奮を覚えさせていた。

 

「んむっ、ん、ちゅ、ちゅっ、れろっ」

 

 時には亀頭を唇でついばみ、次は淫棒を舌で舐める。それは、まだ手探り状態と言うべきたどたどしい奉仕。しかし、フェイトの目は、全力で魔導の訓練をしている時のように真剣そのものであった。

 

……これをすれば、お父さんが喜んでくれる。お父さんが喜んでくれれば、私も嬉しい……

 

 フェイトの頭の中は、この二文節の理論だけで埋め尽くされていた。

 

「いいよ、フェイト、いい、とてもいいよ」

 

 口程には快感を感じていないカイトだが、フェイトの懸命な様子に、限りなく興奮していた。快楽神経をシャットアウトしていても、その仕草だけで射精出来るほどだ。

 

「フェイトは、誰の子供なんだ」

 

 カイトは、優しく問いかける。フェイトは、少しだけ虚ろになった目を、カイトに向けて、応答した。

 

「ん、んぶ、んちゅっ」

【父さんの、子供です】

「お母さんは、いるのか」

 

【父さんだけ。私の大切な人は、父さん。父さん、父さん、とうさんっっ】

 

 

 あの時。幸せの絶頂にいたフェイトは、カイトの目が妖しく藍色に光っていたことも、その目の中に丸いミッド式魔法陣が展開されていたことにも気づかなかった。フェイトはその光を脳髄で受け取り、限界まで駆動していた機械が、オーバーヒートでぷつんと動きを止めるように、意識を閉じた。そして、カイトはフェイトの意識を、やわらかい紙粘土をこねるように容易く弄ったのだ。

 

 カイト・フォレスターはレアスキルを持っている。「意識操作」とカイト自身が名付けたそれは、目を合わせた人間の意識と記憶を操作できるものであった。一見反則じみた能力のように思える。しかし、この能力にも不便な所があって、対象にする者の心理が、自分の内面へのカイトの干渉を許すほどカイトに寄っていないと効果がないのだ。それこそ、対象がカイトを自分の親か家族か恋人のように思わない限りは、発動しない。諜報や謀略には、まず役に立たないだろう。

 

 だが、一度能力を発動できればしめたもので、対象の趣味嗜好から主義主張まで、自分の思い通りに操作できる。

 

 その点において、あの『アフターサービス』は便利だった。お陰でフェイトは時間を掛けること無くカイトを『父親』だと認めてくれた。そして自分の言う『娘は父親に奉仕をする必要がある』という言葉を受け取って、今のようにカイトの性器をフェラチオしているのだ。

 

「ちゅ、じゅる、れろ、れろ」

【父さん、気持ちいい? 気持ちいい?】

 

 フェイトの念話には、「気持ちよくなってほしい」という真心と「気持ちよく無かったらどうしよう」という不安、そして、2つが相混ぜになった「気持ちよくなってください」という懇願の感情が溢れている。それは、カイトの保護欲と欲情を同時に満たし、彼の脳にガツン、と響く麻薬だった。

 

「あぁ、フェイト……いくよっ」

 

 それがとどめになった。カイトは自分の白い欲望を、容赦なくフェイトの顔に噴きかけた。

 

「きゃっ!……これ、なに?」

「これはね、精液と言うんだ。男の人は、気持ちよくなったらこれが出るんだ」

「そうなの? じゃあ、私、父さんを気持ちよく出来たんだ!」

 

 汚液を顔に掛けられ、人としての尊厳を踏みにじられながらも、それに気づく素振りすら見せずフェイトは微笑む。フェイトの、この責務に対する忠実さと、親類に抱く愛情は、カイトが以前『見た』フェイト・テスタロッサと全く違う所の無い物であった。

 

 実のところ、カイトは若き日のプレシア・テスタロッサにもアリシア・テスタロッサにも会ったことは無かったし、プロジェクトFに関わっていた訳でも無かった。

しかし、カイトは『知っていた』。プレシアの野望と、フェイトの献身を。そして、その結果として訪れる事件と、その顛末も。

 

 前世の記憶。ふとしたことからそれを思い出したカイトは、その中で、彼女を含めた三人の少女に関する想いに触れた。

 

高町なのは。

フェイト・テスタロッサ。

八神はやて。

 

 カイトの前世は、この三人の女性にかなり懸想していたようだ。そのイメージは鮮烈に刷り込まれていて、前世の魂を継いでいるカイトも、勿論彼女らに魅了された。ただ、大きく違っている所がある。カイトの前世では、彼女らが創作物であり『非実在』の存在であったことに対し、カイトのいる世界『ミッドチルダ』では、彼女らが『実在』の存在であったことだ。

 

 そしてカイトは、三人を自分の物にしようと決心した。前世で叶わなかった恋を、想いを、この人生で叶えてやろうと、野心を抱いた。カイトにとって幸運だったのは、彼が自分の前世に気づいたのが、ミッドチルダの暦で新暦の52年だったことだ。彼女らが登場するにはまだ10年以上時間があった。その間に、彼女らを迎え入れる方法と、その舞台を整えることが出来るのだ。また、創作物としての三人の物語を覚えていて、この世界の裏にある事件と策謀を知ることが出来た。最も、所詮は創作物なので細かい点についてあやふやであったが、そこは自前で調べてしまえばいい。

 時間と知識、その二つを武器にして、彼は邁進した。三人の女神を『自分だけのもの』にするために。

 

(その結果がこれだ。まずは一人、こっちに迎えることが出来た)

【父さん?】

【いや、なんでもないよフェイト。それより、もう一回頼む】

【うんっ!私、頑張るからね】

 

 そしてフェイトは、カイトのものになった。能力も問題なく機能している。プレシアが今更フェイトを返せとも言わないだろう。

 

……しかし全てはまだ、始まったばかりだ。これからなのだ。更に奮闘しなければならない時が訪れ、そして幸せに満ち溢れた時が始まる……

 

【父さん、笑ってる。気持ちいいの?】

【うん、とても気持ちがいい。そして、幸せなんだ】

【そう。私も、とても幸せだよ】

 

……まあ、今はこれだけでいい……

 

 金色の幼い女神が、自分『だけに』笑顔を向け、心を預けてくれている。その事実は、カイトにとってこれ以上ないほどに満足すべき結果だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第一話です。
ここから三話使ってフェイトを落としていきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フェイト編②

「うまい! 美味いよこれ!」

「もう、アルフ。そんなにがっつかないの」

 

 フェイトに遅れて数刻後。カイトのいる場所に転送されたアルフが見たものは、テーブルを埋め尽くす料理の山だった。そして今や、その半数近くが、アルフの胃袋に収められている。フェイトが嗜めてはいるものの、カイトはそれを遮り、今日は引越しのお祝いだから彼女の好きにさせなさい、と言ったので、渋々アルフを放置することにした。

 

 カイトの目論見はまたも成功裏に終わった。アルフの警戒心を解くことに成功したのだ。これがもう少し成長していたら、そこまで簡単には行かなかっただろうが、アルフはまだ生まれて間もない子供の狼だ。胃袋さえつかめば、懐かせるのもそう難しいことではないはずだった。シェフ・ロボットの料理でその舌を満足させられるかが不安点だったが、この反応を見る限りでは問題はないだろう。ただしロボットといっても、アルザスなどの辺境世界の郷土料理までインプットされてある最高級のものだから、かなり値が張ってはいる。

 

「いやぁ、プレシアの元ダンナって話だから、一体どんな人かと思ったらさ! アンタ、中々いい奴じゃないか!」

 

 プレシアの旦那。自分はフェイトの父親だから、視点を変えればそういう見方もできると、カイトは心の中で苦笑した。

 確かに、カイトとプレシアは似ているのかもしれない。或る一つの目標に向かって進んでいる点と、それを為すためにはどのような手段をも辞さない点が。プレシアは法を犯してアリシアを求め、カイトは倫理を逸してフェイトを求めた。 あくまでビジネスとして付き合っていた2人だが、ひょっとすると、案外仲良く出来たのかもしれない。むしろ、互いに自分の目的を神聖化するあまり、同族嫌悪を引き起こす可能性も考えられるが。

 

「アルフ! お父さんにそんな口使わない!」

「いやいや、気に入ってくれたようで何よりだ、アルフ。これからも宜しく頼むよ」

「うん、フェイトの使い魔として、カイトともなかよくしていきたいよ」

 

 カイトはアルフに手を伸ばし、アルフはそれを握った。横から見ているフェイトも乱暴な口調を使うアルフに不安を感じていたが、カイトと仲良く出来たのをみて満足気だ。アルフの心は、既にカイトを信頼する方向に傾きつつあった。だが、もう少し押しを強くして、完璧に落とさないとカイトの「意識操作」は使えない。もっとも、カイトの方ではもとより今の時点でアルフに「意識操作」を使うつもりはなかった。そう焦らなくとも、アルフの主人のフェイトがカイトにべったりくっついているのだから、このままアルフの方からさらにカイトに歩み寄っていくだろう。もとより彼女はおまけのようなものだ。必要以上に手間をかけても意味が無い。

 

「こんな美味しいの、リニスにも食べさせてやりたいなぁ」

「そうだね……リニス、元気にしてるかな」

「プレシアと仲良くしてればいいんだけど……」

 

……にこやかに話す二人には、少々残酷な事実だろうが……

 

 カイトは推測していた。リニスは魔力供給を絶たれて、今頃は死の淵に瀕しているはずだと。もともとリニスの契約内容は、フェイトの家庭教師だ。その任が例え曲がりなりにも終わってしまった以上、かなり魔力を食うリニスをプレシアが放棄しない訳がない。一見残酷に見えるが、魔導師にとってこれは当たり前のケースだった。フェイトとアルフのように、長期契約を結ぶケースこそが珍しいのだ。

 

 問題は、フェイトが手にするはずの黒い戦斧、バルディッシュについてだった。これはリニスが設計するデバイスであり、勿論リニスの存在なしには生まれない。

代替として、同じくらい高性能高価格のデバイスを渡す用意はあるが、それにしても、バルディッシュほどフェイトに馴染みはしないだろう。それに、フェイトとバルディッシュが、良き相棒同士だという事を『知っている』カイトとしては、フェイト・テスタロッサの隣にいるのは、無口で実直なバルディッシュこそ相応しかった。

 

……だが、このチャンス、逃すわけにはいかなかった……

 

 カイトとしても、この問題を考えていない訳ではなかった。しかし、バルディッシュが完成するということは、リニスが消滅する間際、時の庭園が飛び立つ直前の時間軸だ。

 プレシアは、ミッドから秘密裏に出航する必要がある以上、自分に対する連絡手段を完全に絶っているはずだ。だから、交渉を持ちかけるには少々遅すぎるのだ。デバイスに拘って、貴重な機会を不意にしてしまえば、この次フェイトと接触できるのは第九十七管理外世界『地球』で、ジュエルシードを収集している場面になってしまう。友好的な出会いが出来るとは思えないし、「意識操作」が効く段階まで持って行くのも極めて難しくなる。だからカイトは。敢えてバルディッシュを手に入れる機会を捨てて、この段階でフェイトを取り込む選択肢を選んだ。

 

 テーブルは宴もたけなわ、多めに用意したはずの料理は綺麗に食べ尽くされ、空の皿が並ぶだけになっていた。小さい体の何処に料理の大群を収めたのか、アルフはすっかり満腹になって、それでもまだデザートに手をつけていた。その元気な姿は、カイトの心を和ませる。カイトは何時までも見ていたかったのだが、そろそろアレを見せてやるべきかと思い立ち、テーブルから離れた。

 

「デザートを食べ終わったら、ここがどういう場所なのか、一通り説明しておこう。すぐ終わるから、アルフもついてきてくれ」

「はい」

「わかった!」

 

 

   ***

 

 

 

「うぉおおお、すごーい!」

「これが、次元の海……本で見たことはあるけど……」

 

 幾つもの色彩が重なり、混ざりあう、世界の狭間。次元の海の雄大さに、フェイトもアルフも、すっかり呑まれてしまっていた。

 

「どうだ?この船一番の見所、巨大ラウンジから映る、次元の海は」

 

 カイトは大きく腕を広げ、プレゼンをするセールスマンのように声を張り上げた。

 

――ここは、プレシアの持つ『時の庭園』以上に大型の、次元航行船の内部であったのだ。

 

 カイト・フォレスター個人が所有するクルーズ客船として、管理局からの自由航行認可も得ているこの船の名は『パラディース』。カイトが用意した『準備』の中で、一番手間がかかったのがこの巨大な船だった。

 

 もしも何らかの理由で犯罪組織や管理局に追われることになれば、カイトと三人を防衛できるだけの設備が必要だし、無補給での長期間航行も視野に入れなければならない。そのため、艦の基礎には、管理局次期主力艦のコンペに落選した『EL級』巡航艦の試作船体を流用することにした。大型かつ頑丈なこの艦体は、多少の攻撃ではビクともしない。船内には多数の試作型ガジェットと防衛システムが搭載し、管理局のL級巡航艦一隻程度なら迎撃出来る。本来客室とされているスペースに貯蔵されている物資は、10年間無補給で行動できるほどの量だ。

 

 この船こそ、カイトと少女三人が暮らす『楽園』を作り出すためにふさわしい移動拠点であった。

 

「すごいすごい! フェイト見てよ! 本物の次元空間だ!」

 

 アルフはすっかり窓にかぶりつき、まだ小さい2つの眼を懸命に動かした。

耳はぴんと逆立ち、尻尾は勢い余って取れてしまいそうなくらいぶんぶんと振るわれている。アルフは今まで、生まれ故郷のミッドチルダの山奥と、フェイトと共に過ごした時の庭園とその周囲しか世界を知らなかった。だから、まさに大海を知った蛙のような驚きと感動を覚えていた。

 

「うん、ホントだ。すごい……!」

 

 フェイトも同じく驚き、感動しているのだが、そこかしこを動き回るアルフとは違い、その腕をカイトの大きい腕にぎゅっと絡ませ、寄りかかるようにして立っていた。次元の海の余りの大きさに圧倒されて思わず。頼ることの出来る屹立としたものに支えを求めたのだ。そのか弱さとなよらかさ、そしてほのかに伝わるフェイトの体温と幼い匂い。

 カイトは自分が今、高ぶっている事をはっきりと感じた。だが、自重しなければならない。カイトは自分の忍耐と我慢に、そこまで自信を持っていなかったが、少なくとも今はそれを発揮する必要があった。

 

 カイトは2人を集めて、この船の構造についてと、暮らす上での注意事項について話し始めた。

 一階にはカジノ、ダンスホールなどがあるが、今は殆ど物置なので閉鎖していること。今いるのは二階で、大広間や食堂、艦内制御室など重要な場所はほぼ二階にあること。フェイトやアルフの部屋は三階の客室に用意してあること。注意事項というのは、基本的には自由に暮らして良いが、カイトが立ち入りを禁じた場所には入らないことや、出かける際にリニスが送った訓練プログラムについては必ず実行することなど、ごく当たり前の約束事であった。

 

 フェイトは真剣に耳を傾けていたが、アルフは話を聞きながらもチラチラと外の光景に気を取られていた。その態度に一末の不安を覚えつつも、しかしカイトは、アルフも基本的には素直でいい子なのだし、言いつけを破るのは主の迷惑になるのだから、必ず約束を守ってくれるだろうと信じることにした。

 

「アルフ。今日は船内は好きなだけ見ていっていい。でも、アルフにも部屋を用意してあるから、飽きたら必ずそこに行って寝なさい。いいね?」

「はーい!」

 

 カイトの言いつけに、アルフは元気よく返事した。

 

「それと、フェイト……」

「なんですか?」

「今日は慣れないことばかりで、色々と疲れただろう。案内するから、一緒にお風呂に入らないか」

 

 この申し出を、フェイトは一も二もなく承知した。『家族と一緒にお風呂に入る』というのは幸せなことだし、大切な人と、もっと近くで触れ合いたかったからだ。

 

「アルフ。はしゃぎ過ぎないようにね」

「わかってるって!フェイトこそ、カイトと仲良くね」

「うん。父さん、行こ」

 

 いよいよだ。いよいよ本格的にフェイトを幸せにする(おとす)時間が来た。

ラウンジから出る時、カイトは誰にも顔を見せないようにして、一人喜悦に顔を歪めた。

 

 

   ***

 

 

 『パラディース』の二階中央部。ここには、カイトの肝いりで用意された大浴場があった。ミッドチルダの常識では、船内での入浴には客室にあるバスルームを用意し、余り巨大な浴場を船内に設置することはない。しかしカイトは何故か、大浴場の設置に拘りを持っていた。カイトは、これは恐らく前世の思い出に引っ張られた結果なのだろうと想像していた。天井が高く、大きい浴槽が何個もある光景が、カイトの心に不思議な望郷の念を引き起こしていたからだ。

 

 フェイトより先に浴槽に入り、お湯加減を見る。上々だった。この大浴場を始めとして、艦内の大部分において、管理と清掃は自動化されている。二時間ほど前、ここでは清掃用ロボットの大群がひしめき合っていたことだろう。

 

「入ります……」

 

 ガラスの引き戸を開けて入ってきたフェイトは、カイトの想像以上に美しく、幼く、そして女神のように輝いていた。シミひとつない白い肌は、僅かに乳臭さを残しながらも、きめ細やかに手入れされていて芸術品のように完成されていた。リニスの才能は、美容の面においても存分に発揮されていたのだ。

 

 身体は絶えぬ訓練のおかげか引き締まっていて、年に似合わず細いながらもしっかりと筋肉がついていた。均整のとれたスレンダーな体型で、何処か刺々しく感じる程だ。フェイトは何も隠そうとはせず、ありのままの姿をカイトに見せた。そのせいで、フェイトが寒そうに身体を震わせているのに気づくまで、カイトの脳はハングアップしてまともに行動出来なかった。それほどまでに衝撃的で、理想に違わぬ体つきをしていたのだ。

 

 慌ててフェイトを浴槽に招き、肩まで浸からせる。フェイトはお湯の暖かさに思わずほうっ、と息を吐き出した。

 

「湯加減はどうだ?」

「ちょうどいいです」

「しばらくお風呂に入っていてくれ、私は用意をしなければならない」

 

 空調が操作され、空気の温度が若干上がった。カイトは浴室の隅に立てかけてあったビニール製のマットを持ち出し、浴槽のすぐ横に広げた。

 

「フェイト。十分身体が暖まったら、マットに横になってくれないか」

「はい、父さん」

 

 数分後。言うとおりにマットに仰向けになって寝そべったフェイトに、カイトは小さめの瓶を見せた。

 

「フェイト」

「はい」

「お前は、幸せになりたいか?」

 

 カイトは、突然フェイトにこう問いかけた。それに何の意図があるか、フェイトにはとても理解できないだろう。

 

「えっ――?」

「今のままでいても、お前にとっては十分に幸せだろう。でも、お前が許しさえすれば、私はお前をもっともっと幸せにしてあげたいんだ」

 

 プレシアからフェイトを買取り、幸福を餌にして彼女を誑かし、挙句には「意識操作」という反則技を使いながらここまで来た以上、今更問う必要もない質問だ。だが、カイトはあくまでフェイト自身の意志によって、フェイトの身体を弄る許可を得たかった。

 

 それは、カイトが持つフェイトや他の二人への、支配欲や征服欲とは違う「愛情」を表現したものだった。しかし、表現が余りにも歯抜けていて、しかもフェイトの思考を誘導した末での質問だ。小賢しく、卑怯な愛だと、評されるべきだろう。

 

「はい。幸せに、なりたいです」

 

 だが、フェイトはそれを受け入れた、故に、カイトが止まる理由は何処にも無くなった。フェイトに両足を開くよう命じたカイトは、瓶を開き、その中身である粘っこい液体を左手に垂らして、無防備になったフェイトの秘所へと近づけた。

 

「少し……いや、かなり強い感覚に襲われるだろう。でも、抗う必要はない。感覚に身を任せて、受け入れればいい」

「分かりました」

 

 カイトの忠告を受けて、フェイトは目をつぶり、身体を強ばらせた。カイトの言った「強い感覚」への覚悟を決めているようだったが、その体勢は逆に感覚の濁流を諸手を開いて受け止めるようなものだ。

 

……まあ、多少は緊張しておいたほうが、こいつの効果も大きいだろう……

 

 カイトはそう考え、ぴちっと閉じられた柔肉のスリットを右手で開き、薄ピンク色をした秘所の中身に左手でそっと液体を塗りこんだ。

 

「……ッ!? んんぅ!!?」

 

 フェイトの身体全体が、大きく二回、震えて揺れた。その瞬間、フェイトを襲ったのは、頭の中で覚悟していた痛みでも、苦しみでもなかった。とてつもなく熱く、鋭い電流のようなそれが何なのか、フェイトには分からなかった。

 

【これ、は、何……父さん】

「落ち着け。怖いものじゃない。受け入れるんだ。さぁ、もう一度行くぞ」

【え、待って】

 

 フェイトは少し怯えてしまっているが、ここで止めるわけには行かなかった。

余り時間をかけて、中途半端に終ってしまったら、それこそフェイトに後遺症を残してしまうかもしれない。

 フェイトに恐怖を抱かせるのは、彼女を「愛する」カイトにとっては何よりも辛く苦しいことだったが、それでもこれだけは終わらせなければいけない。もしも自分の忍耐が切れて、彼女を無理やり押し倒して犯しでもした場合、これ以上の恐怖と肉体的損傷を与えてしまうからだ。それがカイトには何より嫌だった。かといってフェイトを目の前にして、彼女の肉体が成熟するまで我慢できるはずもなかった。

 

 今、フェイトに塗っている薬剤は、粘膜から吸収するもので、膣道を拡張させる効果があるものだ。そしてそれには、凄まじい性的快感を与える副作用がある。これを塗ることによって、フェイトの幼い身体で負担なしに性行為を行えるようにする。そして、フェイトにオーガズムの快感を覚えさせ、カイトとのセックスできちんとイケるように身体と心を整える。

 

 セックスをするにしても、フェイトが快感を感じなければ、カイトにとってそれは悲しいことだった。これは悲しみを防ぐための、予防行為だった。少なくとも、カイトはそう信じていた。

 

「ッ!!?? く、う゛、ぁあ゛あ゛あ゛っ!」

 

 再びカイトが液体を塗りたくると、フェイトは歯を食いしばり、激しく身体を痙攣させた。そして、突然ふっと力を抜いて、くたっと死んだように横たわった。余りに激しい感覚を、フェイトの脳が受け止めきれずに気絶したのだった。カイトが左手を顔に寄せて見ると、そこには微妙に甘酸っぱい、体液のような匂いが残っていた。フェイトが秘所から吹き出した、それは間違いなく愛液であった。

 

……よし。これでいい。フェイトはまだ気づいていないだろうが、フェイトの身体は正直にこの感覚――性的絶頂によるオーガズム――を感じている。後は、フェイトの心がそれを認めて、受け入れるだけだ……

 

 ぴくりと、フェイトの眉が動いた。目が開き、おぼろげながら意識を回復したようだった。

 

「……んぅ……?父さん……父さんは……」

 

 カイトは、寝ぼけたような声を出すフェイトの目線に、自分の顔が来るよう身体を動かした。フェイトを安心させるためだった。

 

「いるよ。ここにいるよ、フェイト」

「良かった……私ね? すごい何かに襲われて、どこかに飛んじゃったの」

 

 今までカイトに話していた時の、しっかりとして敬語じみた口調と違い、今のフェイトは年並に幼い話し方をしていた。衝撃的な体験に、ほんの少しだけ意識が幼さに帰ったようだった。

 

「どうだったか? 飛んだ所は。気持ちよかったか?」

「わからない。ひょっとしたら何かを感じて、忘れちゃったのかもしれないけど。今は、何もわからない」

 

 その言葉に、カイトは確かな感触を掴んだ。もう一回薬を塗り込めば、フェイトを幸せにする(おとす)事ができるはずだ。

 

「そうか、フェイト。もう一回行けば、はっきりするだろう。やるか?

「……」

 

 畳み掛けるようなカイトの言葉に、一瞬だけ、フェイトは逡巡した。

 

 

   ***

 

 

……この先、私はどうなるんだろうか。あの感覚は、私を何処か遠い所に連れて行ってしまうような気がする。アルフも、リニスも、父さんもいない、何処かに。それは、嫌だ――けれど……

 

「安心するんだ。私は、どこにも行かない」

「父さん?」

「二度とフェイトから離れない。フェイトを一人にはしない。だから、安心するんだ」

 

……そうだ。どうして迷わなきゃいけないんだ、フェイト・テスタロッサ。父さんはここに居る。何処にも行かない。今までのことも、これだって、私を幸せにするためにしてくれているんだ。だって、父さんは私を、私は父さんを……

 

「……うん。父さん。やって。私を、幸せにして(おとして)

 

……きっと、愛して、いるんだから。

 

 この瞬間、フェイトは、真にカイトのものになって、彼と共に生きる道を選んだ。それは、まさしく永遠に続く虹色の楽園であったし、そして二度と開くことのない灰色の監獄でもあった。

 

「行くぞ、フェイト」

「うん、来て、父さん」

 

 カイトの顔を見て、フェイトは微笑む。それはまるで、愛する人と身も心も結ばれようとする時のそれであった。カイトの左手は、今度は遠慮無しに、フェイトの膣肉に液体を刷り込む。

 

「っ……う゛、あ゛っ!」

 

ビクビクビクッ!

 

 フェイトは前よりさらに大きく、激しく身体を歪ませ、ビダンッ、とマットに身体を何回か叩きつけた。

 

「ん、あ、あ゛あ゛っ! 父さん!とう゛さん゛っ!」

【大丈夫、大丈夫だフェイト。私がついているからな】

【来る、来る、なにか来る、すごく、大きいのが、来るよ! 父さん!】

 

 感覚とともに押し寄せてくる溢れんばかりの感情を、念話に込めて放つフェイト。対するカイトは落ち着いて、優しい声でフェイトに告げる。

 

【『来る』んじゃない。『行く』んだ。フェイトが、幸せになる場所に、行くんだ】

【そうなの? 私、行っちゃうの? 父さん? 父さんは、そこにいるの?】

【ああいるとも。父さんはお前と一緒にいるからな】

【うん、分かった! じゃあ私、行くよ、飛んじゃうよ】

 

 それを最期に、念話は途切れた。フェイトにはもはや、念話するだけの集中力も無くなっていた。あふれる快感は、フェイトの理性という堤防を破り、そして決壊した。

 

「ぁ、わたし、いく、いぐ、いぐぅ、いぎゅううぅうううううううう~~~~~!!」

 

 この上なく甘い声を張り上げ、フェイトは絶頂した。意識という抑えを無くした身体が、快感に反応して、バタンバタンと全身がくねり、狂ったように暴れる。長い髪もバラバラに揺れて、乱れている。無意識にぎゅっとカイトの右腕を握っていた両手は、爪を食い込ませ、カイトの肌に赤く跡を残していた。

 

「いぎゅのぉ、いぎゅう! あ、まだ、いぐのぉ!」

「いいぞ、何度でもイケ、何度でも、気持よくなれ」

「に゛ゃ゛ぁあああああああああ゛っ~~~~!」

 

 

   ***

 

「ぁ゛、とぅ、さん……」

 

 もう、最期の薬を塗ってから、何分ほど経ったろうか。フェイトの絶頂の最期の余韻が、やっと収まったようだ。身体はすっかり赤く火照って、足りない酸素を補おうと、薄く肉の少ない胸がさかんに上下を繰り返している。

 

「フェイト。どうだったか? 幸せに、なれたか?」

「うん、凄いね、イクって……。 夢のようで、そうでなくて……私が欲しかった『幸せ』って、これだったんだ」

「ん?」

「大切な人の手で、気持ちよくなる。今私、すごく『幸せ』だよ」

 

 それは、まだ幼い頭が強い衝撃に惑わされて生み出した、錯覚なのかもしれない。しかし、フェイトはこの瞬間を『幸せ』だと感じ、そしてそれは終生、変わることがなかった。

 

「これで、父さんも気持ちよくなれれば凄い幸せなんだけど……父さん、すごく大きくなってるけど、舐めなくていいの?」

「ああ、いいさ。父さんと一緒に気持ちよくなっていくのは、これからもう少し進んでからにしよう」

 

……そう。フェイトは今、完全に自分のものだ。誰に奪われもしない。だから、もう少しだけ待つことにしよう。『その瞬間』を、フェイトにとっても自分にとっても、最良の時にするために……

 

 それに、カイトが幸せになる(たのしむ)手段は、まだ他に色々とあるのだ。

 

「ところで、フェイト。ご飯食べて大分経っているしそろそろ、おしっこがしたくなって来ないか」

 

 布石は、既に打たれていた。

 

「あ、そうだね。でも平気、まだ我慢できるから、トイレに……えっ!?」

 

 フェイトは、自分の股下で起こっていることが、理解できなかった。ついさっき尿意を覚えたばかりだというのに、何の抵抗も無しに、自分の股間から金色の液体が流れだしていくのだ――

 

 




あとがき

今回も、割りとエロ薄めです。
自分がこの先何を書くのか、分かる方は分かると思いますが、一応、かなりニッチで変態な方向に行くので、嫌いな方はごめんなさい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フェイト編③

(注意)
(おむつ・幼児退行・スカトロ【小】注意です。それでも許せるという方のみ御覧ください。)


……え、うそ、なんで。止まらない、力を入れてるのに、おしっこ、止まらない……

 

 フェイトの小水は、股下からぴっちり閉ざされた太腿をつたい、タイル貼りの床へ染みこむかのようにじんわりと広がっていく。フェイトはさっきからしきりに下半身に力を入れて、どうにか失禁を止めようとしていたが、しかしその努力は全くの徒労に終わっていた。尿道から何の抵抗も受けずに、膀胱に入っていた尿の全てが流れ出る。指で尿道を抑えてせき止めようとするが、やがて隙間からまた淡く黄色い液体がにじみでて行くのだった。

 浴室に、つん、とアンモニア臭が漂う。カイトにとってそれは予測されていたものであり、また微かながらに陶酔感をもたらすものであった。しかし、フェイトはその刺激臭を嗅いで、痴態を見られる羞恥心と、どうにもならない無力感を感じ、目にじわりと涙を含ませていた。

 

「うぅ、ひっく、父さん……ごめんなさい。おしっこ止まらないのぉ」

「気にするなフェイト、後で流せばいいんだから、全部出してしまうんだ」

 

 全てを知っているカイトの声は優しく寛大に聞こえ、それがフェイトにとって少しだけ救いになった。

 

「ふぇ……わかり、ました」

 

 父親から許されたからか、フェイトは指を尿道から離した。その先に塞がれて溜まっていた尿が吹き出し、フェイトの手を汚す。その一吹きで、フェイトは膀胱にあった全ての尿を出し終わってしまったようだった。

 

……見られちゃった。おしっこおもらししてるとこ、父さんに見られて……

 

 カイトの目線は、いつもフェイトを見つめるときのように暖かいものだったが、フェイトはその目で自分の心全てを射抜かれているような錯覚を感じ、ゾクッと身体を震わせた。

 

「あぁ……」

 

 『こと』の終わった虚無感がフェイトを襲い、腰がぺたんと降りた。向かい合ったカイトも、フェイトと目線を合わせるためにしゃがみ込む。カイトはフェイトに呼びかけたが、フェイトの返す声は何処か力のない、ぼんやりとしたものだった。無理もない。人生で初めて絶頂し、しかもそれは、普通に生きていたら味わえないかもしれない最高レベルのオーガズムだったのだ。そして、追い打ちをかけるようにこの失禁である。フェイトの精神が飽和していてもおかしくはなかった。

 

 少し経って、フェイトが落ち着き恍惚状態から脱するのを待ってから、カイトは淡々と話し始めた。

 

「フェイト。よく聞くんだ。今お前がおもらしをしたのは、お前のせいではない。さっき塗った、薬の副作用だ」

 

 あの薬は、膣道を拡張し、未だ未熟な身体で正常にセックスを行うためのものだったが、二つの副作用があった。その一つは、先程フェイトが体験した凄まじい程の性的快感であり、もう一つの副作用というのが、膀胱排尿筋の弛緩なのである。

膀胱排尿筋とは、膀胱に尿を貯め、意識的に排尿するための筋肉である。それがフェイトのコントロールを脱したことで、尿意を感じても我慢できずにおもらしをしてしまったのだ。

 

「じゃあ、私……おしっこを我慢できなくなっちゃった、ってこと?」

 

 落ち込んだ顔をうつむかせて、フェイトは問う。しかしカイトは明るい顔でフェイトを励ました。薬の副作用は一時的なものであって、最長三日も経てば終わるのだ、と。

 

「……でも、それまでの三日間、私、どうすればいいんだろう」

「大丈夫だ。ちゃんと対策は用意してある。さ、今はおしっこを洗い流して、身体を綺麗にしよう」

 

 カイトはシャワーを手に持って、蛇口をひねり、お湯を出してフェイトの下半身を洗った。半分虚脱していて自分で動けないフェイトにとって、叱りもせず冷静に処理してくれるカイトの行動は有難いことだった。

 

 何も出来ず、為すがままにされている自分を見て、フェイトはなんとも言えない情けなさと申し訳無さ、そして羞恥心で心が一杯になっていた。しかし、その中には、ほんの少し、フェイト自身が気づかないほど少しだけ、ピンク色の興奮と喜悦が混じっていたのだ……

 

 

   ***

 

 

 冷めた身体を温めるために、三十分ほど風呂に浸かって。

脱衣所で身体を拭いて、寝間着に着替え、フェイトの部屋に着いた所で、カイトはようやく『対策』について話すことにした。その頃にはすっかり精神の安定を取り戻すことが出来ていたフェイトだったが、カイトが持ってきた物を見て、再び驚きと不安で動悸を激しくした。

 

「それって……」

「分かるか?これさえあれば、不安がることもないだろう」

 

 カイトが意気揚々として持ってきたそれは、ビニールでパッケージされた大きな包みだった。その側面にでかでかと書いてある文字と、ファンシーなイラストを見て、フェイトは疑惑を確信に変えた。

 

「ど、どうして、そんなものが、ここにあるの?」

 

 それがフェイトに対し、どういうふうに使われるかなど、もはや考えるまでもなかった。しかし、もしかすると冗談なのかもしれない。そう思いたかった。

 

「フェイトがこうなることは事前に分かっていた。だから前もって用意していたんだ」

 

 しかし、カイトの親身に溢れた言葉は、その可能性を瞬時に打ち壊してしまった。

 

「そんな……」

「嫌がることはない、フェイト。フェイトは薬の副作用でこうなってしまったんだから、これを履いたって誰にも責められはしないさ……この『紙おむつ』を」

 

 そう。カイトが用意した『対策』というのは、おむつであった。三日間だけおむつを履くことで、副作用による不便をなくそうというのだ。

 

「で、でも父さん。私、もう八歳なんだよ。おむつなんて、そんな」

 

 しかしそれは、今までカイトにたくさん幸せに(おか)されて、心の大半を奪われたフェイトにとっても、どうにも受け入れがたいことであった。『年甲斐がない』という単純な羞恥心が、強固な盾となってフェイトの理性を守っているのだ。

 

「それに私、アルフの前でそんなの履けないよ。恥ずかしいよ」

 

 愛する父の前で、語勢は弱く、尻込みしていた。それでも、必死に反対していたフェイトだったが、カイトが一度問いかけると、とたんに言葉を詰まらせた。

 

「嫌なら無理には勧めないが。じゃあ、フェイト。もしおむつを履かないとしてだ。おしっこを我慢できる自信はあるのか?」

「う……それ、は……」

 

 フェイトは、風呂場でのおもらしを思い出した。いくら必死に力を入れても、尿が止まること無く流れだしていく、あの絶望感。それを考えると、もう一回尿意が襲ってきた時に対抗できるとはとても思えなかった。意志が揺れ始めたフェイトに、カイトはさらに押しをかけてみた。

 

「大丈夫だ。今なら、フェイトが意図的に見せようとしない限り、アルフが気づくことはないだろう」

 

 今のアルフは、『パラディース』という新しい環境に興味津々だ。船内の娯楽施設を紹介してやれば、三日間ぐらいはそれに夢中で、主の下半身の事情など気にすることもないだろう。 カイトがそう付け足すと、いよいよフェイトは迷ってしまう。

 

「え、でも、やっぱり私、おむつなんて」

「そんなに嫌なら、一度だけでいい。どちらにしろ、今夜寝る時くらいはどうにかする必要はあるし、代替策を用意するにも少し時間がかかるから」

 

 一度だけ。人間はその言葉に弱い。一度だけ、試すだけならと、逃げ道を用意できてしまうからだ。今までの説得でぐらついているフェイトには、それの逃げ道がとどめになった。

 

「……一度だけ、なら……」

「分かった。じゃあ、ベッドに横になってくれ」

 

 自分で履くのではないのか、と疑問を持ったフェイトだったが、カイトが包みから取り出したおむつを見て納得した。フェイトが想像したおむつというのは、パンツのように自分でも脱ぎ着出来るものだったが、カイトの持つそれは、テープで固定するタイプだったのだ。

 

……そんな。これじゃあ、私、ホントに赤ちゃんだ。おもらしして、父さんにおむつ替えられて……

 

「柄は二種類あるけど、どっちがいいか? なるだけ可愛くて、フェイトに似合うのを選んだつもりなんだが」

「……そんなの、どうでもいいです」

 

 ただの世間話のようにそう聞かれながら、ズボンとパンティを脱がされた所で、フェイトの羞恥心はいよいよ限界に近くなった。カイトは、おもらししたフェイトを叱ることなく、ただ当たり前のように後片付けをして、おむつを用意しくれている。フェイトにはそれが、自分がまるでおむつをしたりお世話されているのが当たり前である、赤ちゃんのように扱われているのだ、と思えてきて、顔から火が出るくらい恥ずかしくなるのだ。

 

「そんなに股をぴっちり閉じていたら、履かせられない。さあ、足を開くんだ」

 

 そう言われて、フェイトは自分が足をぴちっと閉じ、開けるまいと強ばらせていることに気づいた。確かに、これではおむつを履くことは出来ない。意を決して、足を震わせながら、フェイトは股を大きく開いた。仰向けになって、足をがに股の形にし、自分の秘所を相手に向けてこれでもかというほど露出させる。

無防備な、動物の服従姿勢を連想させるそのポーズは、フェイトを更なる羞恥と興奮に引きずり込んでいった。

 

 この行為が、カイトの手によって行われていたら、フェイトにとってどれほど楽だっただろうか!

 

 もしそうならば、心の奥底で、「父さんが無理やりおむつを履かせたんだ」と自分に言い訳することも出来た。しかしカイトは、自身は手を出さず、あくまでフェイト自身の意志でそれを行わせたのだ。 カイトは、フェイトの尻から尾骨の場所まで左手を入れ、下半身を持ち上げる。そして、右手で紙おむつを下半身とベッドの隙間に差し入れた。

 カイト自身、何度か心の中で思い描いてきた光景だ。フェイトのように従順で、依存心が強い女の子には、おむつが似合うのではないか。自分の排尿や排便の処理を他人に委ねるというのは、完璧な依存と盲従の証としてふさわしい姿なのではないかと、カイトは考えていた。

 

 紙おむつをフェイトの体に沿わせ、ウエストのテープを止めると、おむつはフェイトの細身の体に、ぴったりフィットしていた。本来、テープタイプのおむつには、9歳の体に合うほど大きいものは無いので、カイトはわざわざ特注品を用意してきたのである。

 

「フェイト。よく似合ってるぞ」

「……そうなの? わたし、赤ちゃんじゃないのに」

「ああ。大体、フェイトはおむつを履くの、初めてじゃないのか?」

 

 そのおかしな言葉に、フェイトは首を傾げた。フェイトだって、赤ん坊の時はおむつを履いていたはずだった。

 

「そんなことないよ、ちっちゃかった時は、履いてたよ」

「本当か? ……いや、いいだろう。それじゃあ、お休み」

 

 そう言い残すと、意外なほど呆気無くカイトは部屋から去っていった。

 

 

   ***

 

 

 残されたのは、下半身におむつだけを付けたフェイトと、謎めいた問いかけのみである。

 

……なんで、父さんはあんなことを言ったんだろう。私だって、赤ちゃんの時は――あれ?……

 

 フェイトは気づいた。自分には、赤ん坊の時の記憶が無いことに。必死に思い出そうとしても、どうしてだろうか、何も思い出せなかった。赤ん坊の時なんてもう忘れてしまったのだ。そう考えて納得しようとしたが、それにしても、これだけ集中して思い出せば、何か一つくらい思い出すことが出来るはずだった。

 

 これには、きちんとした理由があった。プレシアはフェイトに、アリシアの頭脳から取り出した記憶を、プレシアの思い出という色眼鏡を通して転写していた。そこには、文字通り「プレシアとアリシアの」記憶しか無かった。

――つまり、プレシアの夫であり、アリシアの父である人物との記憶は、意図的に排除されているのだ。

 

 彼は、プレシアと結婚し、「アリシアが生まれた時」には未だ夫婦であった。そして、「アリシアが二歳の頃に」生活のすれ違いから離婚していた。つまり、アリシアが二歳になるまでは、アリシアの側にいたのだった。プレシアは彼を憎んでもいないし、恨んでもいなかったが、それでもその記憶はプレシアにとって邪魔なものだった。だからプレシアは、アリシアの二歳までの記憶を、フェイトに転写していなかったのだ。

 

 しかし、そんな事情を知らないフェイトには、自分の記憶がその場所でポロリと抜け落ちているように感じられた。

 

……『覚えてない』なんてものじゃない。きっと、私には『無い』んだ。赤ちゃんの時の思い出が。じゃあ、私は何なの? 母さんのお腹の中から、生まれてきたわけじゃ、無いの?……

 

 そう考えた瞬間、フェイトは背筋にゾクリ、とするものを感じ、ズボンを履くのも忘れて布団に潜り込んだ。

 

……『母さん』? 私の母さんって、誰だっけ? ううん、私は母さんの研究が忙しくって、それで父さんに……

 

 大切な思い出を掘り返せば掘り返すほど、その噛み合わなさがフェイトの心を悩ませた。プレシアの行った記憶改竄と、カイトの意識操作による、記憶や認識の追加と削除――父親としてのカイトを追加し、母親としてのプレシアを削除したもの――は、未だフェイトの脳内に完全に定着していなかった。それが、フェイトの記憶を混濁させているのだ。だから、フェイトが考え、なんとか辻褄を合わせようとしても、決して整合するものではなかった。

 

……私って、一体何なんだろう。私は、これから何を信じればいいんだろう……

 

 わからない。今日一日で感じた、喜び、興奮、幸福、恐怖、悲しみ、羞恥がフェイトの中を駆け巡った。フェイトは、自分の生み出した果てしない思考の渦に飲み込まれ、いつの間にか深い眠りに落ちていた。

 

 

   ***

 

 

「フェーイート、起きてよ、もうご飯の時間だよ!」

 

 睡眠から覚醒したフェイトを迎えたのは、トントン、というよりは、ドンドン、と聞こえる荒々しいノックだった。

 

「あ、ごめんねアルフ、今行くよ……」

 

 そう言って、ドアに手をかけようとした時、フェイトは自分の股間にこんもりとした感触を覚えた。そして、自分の下半身におむつが有ることを思い出し、しかもそれが、寝ている間の失禁で濡れていることに気づいた。

 

「ご、ごめん、ちょっと待って、待っててアルフ!」

 

 慌てて、昨日履き忘れていたズボンを取り、勢い良く腰に上げる。

フェイトの体のラインより若干ゆったり目のサイズであるそれは、もこもこの紙おむつを隠すには調度良い衣服だった。

 

……でも、これ気持ち悪い……

 

 幸い尿漏れは無かったものの、その分ぐっしょりと濡れているおむつは、フェイトが想像した以上に不快なものだった。早く替えてもらいたい、と思ったが、しかし、このおむつを替えてもらうには、大広間のテーブルで待っているカイトの所へ行かなければならない。何度かおしりの部分を触り、「大丈夫だよね」と自分を納得させ、ようやくフェイトはドアを開いた。 フェイトを待っていたアルフは、いつもと同じく、いや、いつもの数倍元気に笑っていた。昨日船内を見て回った時の興奮が、まだ残っているらしい。

 

「おはようフェイト!」

「お、おはようアルフ、昨日はどうだった?」

「うん、すっごく楽しかった! まだ見てないところもあるから、フェイトもさ、今日はあたしと一緒に船内探検しようよ」

「そ、そうだね、考えておくよ……」

 

 その後も、適当に話を合わせながら、フェイトは歩いても尿をしっかりキープして、漏らさないおむつに感謝していた。もし黄色い液体が床に垂れて、それをアルフが見つけたなら。そう考えると、恥ずかしい秘密がバレる恐怖だけでなく、「見つかったら、もっともっと恥ずかしい目に逢うのかな」という想像からの興奮が、心臓の鼓動が高鳴らせ、息を激しくした。

 

「……どうしたの、フェイト? なんだか、変な感じがするけど」

 

 使い魔と主を結ぶ精神リンク。一長一短の特徴があるのだが、今のフェイトにとっては呪いたいくらいに厄介なものだった。昨日こそ、アルフが探検に夢中だったために発動しなかったのだが、今日はその分嫌に冴えているらしい。

 

「な、なんでもないよアルフ。なんでもないったら」

「ふーん……」

 

 顔を真赤にして否定するフェイトを、疑わしげな目線で見つめたアルフだが、大広間に近づいて、出来立ての料理の匂いを嗅いだ瞬間、たちまちその疑問を放棄した。

 

「うわぁ、ねえフェイト、今日のごはんも美味しそうだね!」

「あ、あはは、そうだね」

 

……良かったぁ、私の使い魔がアルフで……

 

 これがリニスだったら、そのまま隠し通せはしなかった。アルフの実力と健気さは、この先幾度と無くフェイトの危機を救うことになるが、その単純さと食い意地がフェイトを救ったのは、これが最初で最後になるだろう。大広間に入ってきたフェイトは、なけなしの勇気を振り絞り、カイトに向かって念話を発した。

 

【……あの、父さん、その】

【わかっている。今、行こう】

 

 フェイトの念話を途中で止めて、カイトは椅子から立ち上がり、大股でフェイトの前まで歩いて行き、ひょいっと、お姫様抱っこの形でフェイトを抱え上げた。

 

「アルフ。私はフェイトと話があるから、先に食べていていいよ」

「え~、何さ、あたしにも聞かせてくれよ」

「すまんが、大事な話なんでな。どうしてもというなら、後で私に聞いてくれ」

 

 アルフは渋々ながら了解し、ならばフェイトとカイトの分まで食べきってやる、とテーブルの上に並べられた料理を征服し始めた。

その姿を確認すると、カイトはドアから出て、フェイトを抱きかかえたまま一階へと階段を下っていった。

 

 

   ***

 

 

 一階は資材倉庫とガジェットの基地である、というカイトの言葉は間違っていなかった。通路のそこかしこに箱やなにかの装置などが置かれ、二階や三階と比べて照明も薄暗い。こんな所で、父さんは一体何をするのだろうか。フェイトは不思議に思った。確かに、ただおむつを替えるなら、フェイトの部屋へ戻ればそれで良いのだが、カイトは今のフェイトにぴったりの場所を用意していた。

 

 船内中央を通る大きい通路の突き当り。一見只の壁のように見えるそこには、小さく丸い跡のようなものがあった。そこに、カイトはポケットから取り出したカードをタッチする。すると、音もなく壁が開き、人が2人やっと通れるくらいの通路が出来た。そこを通ると、今までの暗い道とは一転した明るく賑やかな部屋がフェイトの目に入った。

 

「うわぁ……」

「どうだ。今のフェイトに似合う部屋を用意したんだが」

 

 ピンクや水色など、暖色系でまとめられている外装。高い柵があるベビーベッド。その天蓋には、動物や星や雲の形をしたメリーが吊り下がっている。戸棚やタンスには、デフォルメされたキャラクターがプリントされていて、他にもブロックやジャングルジムなどのおもちゃが置かれている。 ここは、船内の奥に設計された、カイトと少女たち専用のプレイルーム。そして今や、フェイト・テスタロッサという大きな赤ちゃんのベビールームになっていた。

 

 フェイトは、余りの光景に呆然としていた。そして、カイトにゆっくりと降ろされて、ベビーベッドの柔らかな布団を感じたその時に、やっと自分がどういう扱いを受けているのか認識できた。

 

「と、父さん。だから、私は赤ちゃんじゃないって」

「そうかな?」

 

 フェイトの訴えを、しれっと返したカイトは、今度は「意識操作」を発動して、フェイトの心の奥底を覗き始めた。

 

【フェイトは、赤ちゃんだった時のこと、覚えているのか? 赤ちゃんだったことが、あるのか?】

【……ううん。覚えてない。赤ちゃんだったことも、無いのかもしれない】

 

 フェイトの心の迷いを、カイトは感じることが出来た。自分の鎌かけが、フェイトの心をきちんと揺さぶっていたことを確認し、そして更に追い込みをかけた。

 

【でも、そうなら私は、何なの? 『赤ちゃんの私』がいないのに、どうして今、私じゃここに居るの?】

【それはな、フェイト……お前が、ある目的のために生まれてきたからだ】

 

 それから、カイトはフェイトの出自について、一言一言、言い聞かせるように話した。プレシア・テスタロッサが生み出した、アリシア・テスタロッサのクローンであること。そして、プレシアが望むようなものでなかったため、体の良い道具として育てられ、そしてカイトの元に「捨てられた」こと。

フェイトの覚えている思い出は、アリシアの記憶をもとにした、紛い物であるということ。

 

 どれも、フェイトのまだ弱い精神を砕いて余りある程に残酷な真実だった。カイトが『覚えている』、フェイトの物語の一シーン――プレシアに真実を告げられ、精神を傷つけられた、あの場面のように。

 

 

【……そう、だったんだ】

 

 

 しかし、フェイトは。

 

 

【だから、私、こんなに迷ってたんだ。やっと、分かった】

 

 

 むしろ、『余計なもの』を捨てて、すっきり出来たかように息を吐いた。

 それは何故か。フェイトは確かに真実を告げられたが、それで誰かに捨てられ、一人きりになったわけではなかったからだ。そう、フェイトの側には、カイトがいた。「私は、どこにも行かない」という言葉と、握り合っている手。それが、フェイトを奈落の底に落とさず救い上げているのだ。

 

 これが、フェイトに対する洗脳計画の総仕上げであった。真実を隠したままでも、フェイトはカイトを愛し、従順に付き添っていくだろう。しかし些細なことから真実を知ってしまえば、カイトに対する愛情が揺らぐばかりか、もしかしたら邪推をして、カイトから離れてしまうかもしれない。それが、カイトには何より怖かった。だから、フェイトには自分の出自を受け入れさせる必要があったのだ。

 

 フェイトの出自を隠さず、敢えて打ち明ける。それでも尚、自分に従うように誘導する。それでこそ、どんな状況でもカイトから離れることのない「フェイト・テスタロッサ」が生まれるのだ。それは、プレシアが望んだフェイトのように、唯々諾々と命令に従う人形ではない。自分の意見や主張というものを持つし、時にはカイトに反論することだって厭わないだろう。ひょっとすると、カイトの知っている「フェイト・テスタロッサ」とは、全く違う成長を遂げるのかもしれない。

 しかし、フェイトの深層心理は、プレシアに対し向けられていた時よりも、ずっと強く深くカイトに向けて傾倒しているのだ。

 

【……父さん。そういうことだったんだよね】

 

 フェイトの確認の言葉に、カイトは黙って頷いた。それで、フェイトにとって全てが終わり、始まったのであった。

 

【父さん、私ね、嬉しいよ】

【どうして?】

【だって、『要らない物』を全部捨てて、その分を、父さんとの絆で埋めることが出来るんだから】

 

 もはや、フェイトにとってプレシアも、アリシアもどうでも良かった。父が、ここに居る。それだけでよかった。フェイトの意識と記憶は、今や彼女に都合よく再構成されていた。母とのお花見、公園、ピクニックの記憶、それら全ては頭の隅に圧縮されて置きやられ、その代わりに、これから作られるだろう父との思い出を入れるための空白が用意された。

 

 カイトが『覚えている』中では、半年以上をかけ、様々な人の助けを借りて行われた、プレシアからの脱却。それをカイトは、僅か二日でやり遂げたのだ。

 

【それでね、父さん。父さんが何をしたいのかも、分かっちゃった】

【ほう】

【父さんはね、私に『赤ちゃんの思い出』をあげたかったんでしょ。そして、私をもう一度赤ちゃんから生まれ返らせようとしてたんだと思うの】

 

 フェイトの推察は、カイトの目的をほとんど正確に見抜いていた。

カイトはフェイトに赤ん坊としての生活を――何時でも、どんな風にでも甘えられる生活をさせることによって、フェイトの心身を健やかに成長させようとしたのだ。

 

 もちろん、こんな迂遠で変態的なものよりも、効率的で良い方法はたくさんある。

しかし、カイトはフェイトを赤ん坊にして、その姿を楽しみたいという欲望を満たすために、あえてこういうやり方を取ったのだった。

 

――と言うより、むしろそちらの方がメインで、フェイトのメンタル補填はついでのことだったのだが。

 

【流石だ。フェイトの言うとおりだよ。それで、フェイト。どうする】

【決まってるよ、父さん】

 

 フェイトは、両手で既に冷たくなっているおむつを触り、両足を開いて、満面の笑みを浮かべた。

 

「パパ。フェイトのおむつ、かえて?」

【父さん、私を赤ちゃんにしてください♡】

 

 

 

   ***

 

 

 

 

『で、フェイトの様子は?』

「今は落ち着いて、ぐっすり寝込んでるよ。ナース・ロボットの話だと、熱も段々下がっていってるらしい」

 

 一階にあるモニタ電話は、アルフの自室につながっていた。カイトの言葉に、アルフはほっと小さな胸をなでおろした。あの後、フェイトのおむつを替えて、改めて朝食を取らせたカイトは、一旦ベビールームから出て、大広間に向かった。そして、既にあらかた料理を食べ尽くしてしまっているアルフに、重々しくこう告げたのである。

 

――フェイトは、慣れない環境で熱を出していたらしい。

 

 えぇっ、と驚くアルフだったが、カイトはさらにこう述べた。

 

――本人は無理していたんだが、俺が気づいたんでな。医務室に運んだ。今ロボットが治療してるから、安心して過ごすんだ。

 

 そして、その場から離れると、医務室に幻影魔法を発動させ、フェイトのホログラムを作り出した。居ても立ってもいられず飛び出してきたアルフが医務室についたら、ナース・ロボットに適当な答弁をさせ、現時点では面会謝絶と言って自分と一緒に追い出させた。 それから数時間。訓練プログラムをするために自室ヘ戻ったアルフと、こうして通話をしている。

 

『何日ぐらい面会謝絶なんだって?』

「三日間は会えないらしい。何とかならないかと言ったが、あいつらロボットは梃子でも動かんからな」

『そっかー、じゃあ、しょうがないなぁ……』

 

 アルフは、こちらの言う嘘を簡単に信じてくれた。これで、三日の間だけ、フェイトとアルフを引き離すことが出来た。

 

「俺は仕事があるから、しばらく会えない。お昼も自分で注文してくれ。やり方は分かるな」

『うん、説明書があったよ。一週間でメニュー全部制覇してやるから、覚悟しときな』

「そりゃあ、怖いな。船内には運動場もあるから、腹ごなしにトレーニングでもしてくれ。じゃあ、また夕食時に」

『ん、またね』

 

 通信を切って、通路奥の隠しドアを開ける。すると、お帰り、とフェイトが迎えてくれた。身に纏っているのは、ピンクの縞模様をした、ニット生地のロンパース。いちごのアップリケが付いた涎掛けをつけて、頭の上には、同じくニット生地で作られているベビー帽をかぶっている。「どうせ赤ちゃんになるなら、形から入った方がいい」と欲望を丸見えにさせた説得で、ベビー服をフェイトに着させたのである。

 

「フェイト、可愛い、可愛いぞ。目に入れても痛くないくらいだ」

「もう、パパったら、興奮し過ぎだよ」

 

 『赤ちゃん返り』したと言っても、フェイトの口ぶりはいつもと余り変わらない。ただ、自分をフェイトと呼び、カイトをパパと呼ぶ口調は甘くなっている。ぬいぐるみを掴み、ごっこ遊びをしているその身振り手振りも、普段よりちょっと乱暴で、大雑把になっているのかもしれなかった。

 

「ねぇ、パパ。パパは、フェイトのお婿さんだからね」

「分かった。お婿さんにでもなんでもなるさ、フェイトがそう望むなら」

「やった、じゃあ、私、パパのお嫁さんになる……」

 

 その時、ロンパースと紙おむつで異様に膨らんだフェイトの尻が、ぷるっと震え、フェイトの目に大粒の涙が浮かぶ。

 

「ぱ、パパァ、おしっこ出ちゃった」

「そうか、フェイト、横になって」

「パパ、早くおむつかえて、気持ち悪いのいやだよぉ」

 

 仰向けになりながら、イヤイヤをして涙を流す。この時ばかりは、赤ちゃん返りしたフェイトはいつもの落ち着きをかなぐり捨てて、それこそ赤ん坊のように泣き喚く。それは、愚直なほど素直で不器用な、フェイトの甘え方であった。その無防備かつ背徳的な仕草に、カイトは興奮し、勃起した。

 

 ロンパースのボタンを外して、おむつを露出させる、そのテープを外すと、黄色く染まったおむつの内側が目に入った。

 

「フェイト、沢山でたな。いまおしりを拭いてやるから」

「早く、早くぅ」

「そう急かすな」

 

 丸見えになったフェイトの秘所に、今すぐにでもその剛直をぶち込んでやりたかったカイトだったが、しかし、それはそれでまた別口の考えがあり、楽しみもあるのだ。

 

「ほら、拭き終わったから、新しいおむつを用意するぞ」

「フェイト、今度は青いぞうさんのがいい」

「分かった」

 

 カイトは言われた通りのおむつを持って行き、手慣れた動きでおむつを着ける。すると、フェイトはすっくと立ち上がって、また何もなかったかのように遊びに行く――かと思うと、カイトの股間をじいっと見つめるのだ。

 

「パパ」

「な、なんだ」

 

 予想外の行動に意表を付かれたカイトが問いかけると、フェイトは右手で、服越しにそっと膨らんだ男根を擦り始めた。

 

「フェイト、パパのミルクが飲みたいなぁ」

「お、おいフェイト……」

【別に、無理しなくていいんだぞ?】

 

 カイトは、興奮した自分を気遣ったのかと思い、その必要はない、と念話で話した。

 

【ううん。私がしたいからするの。私が父さんに甘えるから、父さんも私に甘えるの!】

【なっ……!?】

 

 フェイトは口を使って器用にズボンのチャックを開ける。そして、パンツの隙間からカイトのモノを引っ張り出し、その先端を口に含んだ。

 

「んむ、んぐっ、うむぅ……」

【父さんだって、私に色々したいんでしょう? 遠慮しないでよ】

【元より、遠慮するつもりは無いし、してもいないぞ】

【なら、私の口で気持ちよくなってよ、ねぇ?】

 

 そう言って念話を切ると、フェイトはそのまま、右手を使って竿をしごき、左手で金玉を掴んで揉む。口は亀頭をついばむように、ちゅっ、ちゅっ、と吸い付く。

 

「ぐ、お、フェイトぉ」

「あはっ、パ~パ。気持ちいい?おちんちん、気持ちいいの?」

 

 三点からの刺激に、思わずうめき声を漏らすカイト。父親に奉仕する快感か、はたまた今まで散々好き勝手にされて来たことへのささやかな復讐か。フェイトのフェラチオはどんどん激しくなっていく。

 

「……こうなったら、本当に遠慮はしないぞ」

「え、キャッ!」

 

 一瞬、フェイトが手を休めた隙を突いて、カイトは体勢を変えた。自ら床に寝そべり、その上にフェイトを乗せる。フェイトのもこもこに膨らんだおしりがカイトの胸元に来る、いわゆるシックスナインの体勢であった。

 

「この、大きくてHな赤ちゃんめ。こうしてやる」

「え、あ、はぁん……」

 

 突然、フェイトが脱力し、カイトに体重をかけた。ロンパースの下を脱がし、おむつ越しにフェイトの女陰を触ったのだ。

 

「どうした、フェイト。私が触る前からおむつが濡れていたぞ」

「それはぁ……ぁん、パパのおちんちん触って、興奮したからぁ……ゃぁん」

「まだ赤ちゃんなのに、Hな気分になるのか。いけない子だな」

「そうしたのは、パパでしょぉ……あぁぁ、そこぉ、いいよぉ」

 

 フェイトは無意識に尻を振って、さらなる刺激を求める。カイトの目の前で、青い柄付きのおむつが左右に揺れていた。

再びカイトの性器に快感が走る。今度は、口で竿を咥え、舌と口内の粘膜を使い舐めしごいていく。

 

「はむっ……じゅっ……ちゅぷ……ちゅうっ……」

「フェイト……」

 

 思えば、こうして両方共に性的行為をするのは初めてだった。二人の間にあるのは、どちらか一方からの奉仕と調教であった。

いわば、初めての愛の交歓である。二人は底知れない陶酔感を感じていた。

 

「んん、んんぅ、ふむっ、ちゅぱっ……」

「フェイト、ここが、気持ちいいんだろう」

「ふんぅ、うむぅ!?」

 

 一瞬、フェイトの口撃が止んだ、どうやら、カイトが偶然淫核を見つけ、その辺りをこすっているようだ。

紙おむつの擦れる感触が、フェイトを襲った。

 

【ぁぁ、そこぉ、父さん、いいよぉ、気持ちいいのもっとしてぇ】

 

 自らねだりながらも、フェイトもカイトを気持よくしようと吸い付きを強くし、再び玉を握る。

 

【フェイト、そうだ、そのまま、気持ちいいぞ】

 

 

 

互いが、互いを高め合い、絶頂へと導いていく。互いに互いの興奮を感じ、まるで混ざり合い、一つになっていくかのようだった。

 

 

 

 カイトはさらに、強引におむつを突き破るかのような激しさで秘部をこすっていく。フェイトも、口の動きを早め、ラストスパートをかける。

 

「フェイト、行くぞ、口の中に出す」

【出してぇ、口の中に一杯、私も、もうダメぇ! イク! イッちゃうぅ!!】

 

 クライマックスは、両者同時に訪れた。カイトは、思わず左手でフェイトの頭を抑え、そのまま獣のようなうめき声を上げ、勢い良く口内に射精した。

 

「ん゛む゛っ!? んぐぅ、んんんんんん~~~~~~!!」

 

 襲い来る絶頂の中で口の中に精液を叩きつけられ、にっちもさっちも行かなくなったフェイトは苦悶の声を出したが、しかしその顔は歓びと嬉しさに満ちあふれていた。

 

「ん……んむ、ごく、ごくん……」

 

 フェイトは竿を口から離し、頬に貯めた濃い精液をゆっくり味わって、咀嚼するように飲み込んだ。精を吐き出した後の満足感と倦怠感に浸りながら、精飲するフェイトの美しさに見入っていたカイトだったが、不意にフェイトが涙を浮かべてしゃくりあげたので、慌ててなだめようとした。

 

「うぅ、パパァ……」

「どうしたフェイト? 苦かったか? すまんな、抑えが効かなくて」

「そうじゃなくってぇ……おむつ、びしょびしょなの」

 

 はっ、としてフェイトのおむつを見ると、愛液のせいで、まるでもう一度おもらしをしたかのようにびっしょりと濡れていた。

 

「……やれやれ。フェイト、おむつ替えるぞ」

「うん、次はくまさんのにしてね」

 

 

 

 世間から、常識から、倫理からも逸脱したこの密室で、それでもこの二人は、世界で一番仲の良い親子になっていた。




リビドーの赴くまま書いたらこうなりました。
趣味全開です。次回からもなのフェイはやの三人でこういうニッチなことをいっぱいやっていきます。
何か書いて欲しいのがあったら感想で一言ください。それが変態的であればあるほど気力が上がります。

後、書き方も大分冒険しているというか、見境がついてないと思うので、アドバイスしてくだされば嬉しいです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アルフ編(interval)

(注意)
(ふたなりでの性行為注意です。それでも許せるという方のみ御覧ください。)


 フェイトとアルフが『パラディース』で暮らし始めて一ヶ月が経った。どうやら二人共、此処での暮らしにはかなり慣れてきたようだ。船内を二人で仲良く歩きまわり、暇があれば訓練用にセッテイングされた運動場でガジェット相手に模擬戦をしている。

 

 模擬デバイスを使って空中戦を繰り広げる時のフェイトは、今までアルトセイムの実家でリニスと訓練してた時とは少しだけ違っている。使い魔であり、一緒に戦っているアルフには、その変化がよくわかった。

 

 今までと同じように表情は真剣そのものであるが、実はその中に、戦うことへの楽しみや余裕が表れているのだ。勝った時や記録を更新した時は飛び上がって喜ぶし、上手く行かなかった時は悔し気な顔で「次はがんばる」と気合を入れる。前だって確かに喜びや悔しさを感じていたのだろうが、ここに来てからそれを如実に表に出すようになったのだ。

 

 また、戦い方に「遊び」が増えたようにも見えた。教科書通り、プログラム通りの戦い方だけではなく、その間々に自分なりの工夫を作るようになったのだ。これも、リニスに与えられた課題をクリアすることだけに全神経を傾けていた、前のフェイトには考えられないことだった。

 

 普通の生活でも、フェイトはよく笑うようになっていた。何気ないことを可笑しがり、落ち込む。カイトには無邪気にじゃれつくし、時に暴走するアルフのノリにも、一歩引くことはせず逆に積極的についていくようになった。二人でやんちゃをして、トラブルを起こしカイトに叱られた時、自分の隣で自分と同じように頭を下げているフェイトに、アルフは心底「フェイトは変わったんだ」と感じた。今までは、アルフが一方的にトラブルを起こして、フェイトが叱るリニスを抑えていたのに。ただ、変わったといっても、それはネガティブな意味ではなく、むしろ明るさが感じられる変化だった。フェイトが今の生活を楽しんでいるからだ。あのままプレシアの元にいるより、こっちで暮らす方が良いのかもしれないと思える程に。だから、アルフは、この環境を作ってくれたカイトに感謝していた。

 

 最初はどこの馬の骨かと疑っていたのだが、フェイトにもアルフにも優しくしてくれる姿を見て、それはすぐに消えた。出してくれるごはんはおいしいし、艦内は見たことのないものだらけで面白い。訓練用ガジェットはサンドバッグ代わりにピッタリだし、高級客室のお布団もふかふかだ。しかし、それらは些細な事だ。何よりも、フェイトを明るく変えてくれたのが、カイトを信じ、そして付いて行こうと思った一番の理由だった。

 

 そう、アルフはカイトを信じていた。だから、夕食の途中に、カイトの目の中に突然魔法陣が現れると、アルフはそれを見てぽろっとフォークを落とし、目を虚ろにして、よだれを垂らしたままそれに見入ったのだ。

 

 

「どうだ。凄いだろう、フェイト」

「うん。これを使って、私を幸せにした(おとした)んだね」

 

 自分がカイトのものになった、いわばその仕組みをばらされたはずのフェイトは、全くといっていいほどカイトへの愛情を崩していなかった。

 

……確かに、私はこれで変えられた。でも、それがどうした。私は今幸せなんだから、それでいいんだ……

 

 フェイトは、己の真実を曝け出された時でも動揺はしたが壊れはしなかった。だから、この程度の衝撃では、カイトへの愛は揺るぐわけがないのだ。そうだとしても、やはり危険な行動ではあった。しかし、カイトはためらいもなく、むしろ真実を知ることを望むかのようにフェイトの前で「意識操作」を発動したのだ。物事を隠し通すよりも受け入れさせ、それでいて自分への依存を失わせないという、カイトの方策であった。

 

「これで、私は父さんのものになったんだ。父さんのおちんちんを舐めて喜ぶ女の子になって、おむつにおもらしする赤ちゃんになって」

 

 正確にはけしてそういう訳でもないし、そこまで万能な能力でもなかった。これまでされたことを、言葉に出して振り返るフェイト。その声には艶やかで熱い吐息が混じり、その手は自然にスカートをめくり、指は下着の上から秘裂に差し込まれた。

 

「あぁん……嬉しい。父さん、今度はアルフを幸せにして(おとして)あげるんだね」

「そうだな。俺とフェイトの関係も、そう長くは隠せまい。だから、アルフにも仲間になってもらおう」

 

 その言葉を聞いて、フェイトは更に興奮していった。

 

「ふぅ……んぅ、アルフにも、私と同じ事するの? ……はぁっ……涎掛け着せて、ガラガラ持たせて、哺乳瓶からミルクを飲む、赤ちゃんにするのぉ……ゃん」

「それもいいがな。アルフにはまず、別の方向で幸せになってもらおうと思う」

「え……」

「どうした、少し落ち込んでるな」

「だって、アルフのおむつ替えたかったから」

 

 フェイトはすっかり赤ちゃんプレイを気に入ったようだ。薬の副作用としてのおもらしが治ってからもしきりに、おむつを着せて、赤ちゃんにして、とせがんでくる。カイトとしては、あそこまで濃いプレイばかりやると、フェイトのイメージとして完璧におむつが固定されて、他のプレイを楽しめなくなってしまうと危惧していた。だから、あの後フェイトをベビールームに入れたことはない。また時間を置いて、ゆっくり楽しもうと提案し、ようやくフェイトをなだめたのだ。その代わり、毎日一緒にお風呂に入って、互いに局部を舐め合ったり、頭から爪先まで全身を愛撫したり、ローションを使って絡みあったりと、爛れた行為を思い切り楽しんでいた。

 

「安心するんだ。アルフを幸せにするには、フェイトが必要だからな。頑張ってもらう」

「任せて。父さんとアルフのために、精一杯やるよ」

 

 フェイトはぐっとガッツポーズをした。気合満々、意気揚々だった。やはり、主であるフェイト自身で、使い魔を幸せにしたかったのだろう。いつの間にか意識を失い、倒れ伏していたアルフを担いで、カイトとフェイトは一階のプレイルームに向かった。

 

 

   ***

 

 

……なんだ? あたしは、ご飯食べてて、カイトと目をあわせて……それで……

 

「アルフ」

 

 フェイトの声に反応して、アルフはゆっくりと目覚めた。

 

「ぅ……フェイト? あれっ、ここは」

「ふふっ、気がついた、アルフ?」

 

 アルフは、此処が大広間でなく、個室で、ピンク色の壁紙に覆われた部屋だということに気づいた。大きいソファとそれ以上に大きく広いベッド。明かりは、客室のように天井の大きなシーリングライトではなかった。天井に埋め込まれたダウンライトが室内をぼんやりと照らしていた。そして、アルフを呼んだフェイトは、ベッドの上に足を組んで腰掛けていた。アルフを見下ろし、単純な笑みというよりは悪戯を考えている子供のように歪んだ笑い顔をしている。そして、なんと服を着ておらず、その身体をアルフの前に曝け出していた。しかも、アルフがふと目を下に向けると、自分の体までも生まれたままの姿になっていた。

 

「フェイト……私たち、どうして裸なんだい?」

「それはね、アルフ。私たちが幸せになるための準備だよ」

「準備?」

「そう。私と、父さんと、アルフの三人で幸せになるの。じゃあ、これから最後の準備をするよ」

 

 フェイトは、側においていたビニール袋から、一粒の錠剤を取り出す。そして、それを口に含み、アルフに向かって顔を近づけた。不意に目の前に出された主人の顔を見て、アルフは一瞬ドキッ、とした。

 

「フ、フェイト、いったい何をするんだい」

【とーっても気持ちよくて、幸せなことだよ】

 

 そのまま、フェイトは目をつむり、アルフの唇を、自らの唇で塞いだ。

 

「ん、ん、んむ――!?」

【ちょ、フェイトッ!】

 

 アルフが制止しても、もうフェイトは止まらない。そのまま舌でアルフの唇をこじ 開け、歯茎を舐め、頬の内側をこする。アルフは離れようとしたが、フェイトの両腕がアルフの頭をがっちり掴んでいて、離れられない。腕力任せに無理やり引き離すことも出来たが、主人相手にそれをするのはためらわれた。

 

……うぁっ、な、何だこれ!? 何だ、これ……

 

 しかも、唇の無慈悲な侵略を受けている内に、アルフは自分の体温が、徐々に上がっていくのを感じた。こすられた所がじんじんしびれ、それが段々快感になっていく。アルフ自身はこんなのおかしい、と思っていたが、そのじんじんが、どんどん大きくなって、全身に渡っていくにつれ、頭の中がぼやけ初めた。

 

「ん、んん、んむ、んぅ……」

【なに……これ、気持ちいい……】

【どぉっ? 口開けて。もっと気持ちよくしてあげる……】

「んぁっ……ん! んんう!んぐぅ!」

 

 言われるがまま、開けられたアルフの口腔内に、フェイトの舌が入ってくる。そして、閉じこもってたアルフの舌を引っ張り出し、深く、大胆に絡め合わせた。

 

……うわぁ、フェイトの舌が、生き物みたいに……すごい、なにこれ、すごい……

 

 アルフの思考は、更に鈍り、熱々のフライパンに乗せられたバターのようにとろけはじめた。それと同時に、抵抗も止み、完全にフェイトの為すがままになっていた。

 

「ん……んぷ、ちゅっ……んっ、んむ……」

 

 フェイトの唾液とアルフの唾液が混ざり合い、交換される、そして、フェイトが口に含んだ錠剤――媚薬も、それに流れてアルフの口内に入り、そのまま体内へと入っていった。フェイトはこれで一応、『下準備』を達成したことになるが、まだまだアルフと唇を重ねて、ディープキスをしていたかった。アルフもろくに抵抗せず、カイトの止めもなかったので、キスは更に深く、熱くなっていった。

 

「んぁっ……ん、ちゅぅぅ………んぐ、んんっ……はぁっ、ん、んぷっ……」

 

――アルフ。

――フェイト。

 

 念話で互いに名前を呼び合いながら、二人の頭も、身体も熱くなっていった。アルフは、ようやく自分が裸である理由が分かった。二人が今しているキスのように、無防備な身体を簡単にくっつけあえるからだ。なら、服なんていらない。フェイトと、もっとたくさんくっついていたかった。二人はぎゅっと抱き合い、身体のあちこちを重ねあった。胸を、肩を、腹を、腕を、手を、足を。そして、そのままベッドにひっくり返った。

 

「ぷぁっ……アルフ、もっとしよ……」

「うん……あたしもフェイトといっぱい、くっつきあいたいよ……」

 

 一回唇を離して、今度は互いに顔中を舐めあった。フェイトの柔らかい唇はほんのり暖かく、アルフの唇は狼だからか少しじょりじょりしてくすぐったく感じられた。熱くなった身体からは、汗が滲み出た。しかし、そのしょっぱさも二人にとっては、互いの体という甘味を味わうためのちょうどいいアクセントだった。

 

「ん……あはっ、やんっ、あぅん……」

「あぁ……ひんっ、あ、くすぐった、いぃ……」

 

 ごろごろと転げまわりつつ体を舐め合い触り合うそれは、犬や狼のじゃれあいに見えなくもなかった。ただし、決定的に違う点があった。二人の頬が上気し、息が熱く、股間が濡れそぼっていることだった。アルフは、自らの知らぬ間に性に目覚め、発情していたのだった。

 

……なんでだろう。こんなに興奮して、くらくらするのなんて初めてだ。フェイトと一緒にこうしてると、もっとくらくらして、どこかに落ちていくみたい……

 

 カイトの「意識操作」は、アルフの心に「フェイトに対する性的興奮」と「モラルの開放」を命じていた。そして、フェイトが少し突き落とせば、後は自分から簡単に、快楽と悦楽へと落ちていくようになっていたのだ。

 

「ああっ、フェイト、フェイトぉ、あたし、とまらないっ」

「いいんだよアルフ。このまま二人で行っちゃおうよ、幸せになろう(おちよう)

 

 耳元で囁くフェイトは、表情こそ優しく微笑む天使の様な顔だが、アルフにはそれがどこか悪魔のようにイタズラっぽく感じられた。突然、フェイトが、アルフの局部を触る。するとその全身が、電流のように走る快感で一瞬ぴんと伸び、その後に来る熱と麻薬じみた陶酔感でふにゃっと緩んだ。

 

「あんっ! フェイト、気持ちいい、ゾクゾクするよぉ!」

「そう? 良かった。アルフも、私のここ、触って? ぐちゃぐちゃになってるの、触って?」

 

 片手を陰部に伸ばし、まだ隙間なく閉じられているスリットに指を当て、こじ開ける。それが何を意味するのか、アルフにはまだよく分かっていなかった。しかし、猫なで声で催促するご主人のために、何かをしなければいけない気がして、体勢を反転させ、吸い寄せられるように秘裂から見えるピンク色へと顔を近づけた。

 

「あっ……舐めるの? いいよ、舐めて」

「フェイトの、おまた、すごい……んっ、ちゅぱっ」

 

 舌を伸ばし、淫肉に触れる。それだけで、フェイトは体をのけぞらせ、愛液を流し始めた。

 

「ふあぁっ! そう、そうだよアルフ、もっと舐めて」

「こうかい、フェイト……じゅる、ちゅぷ、んじゅる………」

 

 アルフは、お気に入りのアイスを舐めるように、小刻みに舌を動かした。そして、割れ目から出てくる愛液を飲み込むと、それは少し甘酸っぱく、お酒のようにアルフの頭へ刺激を送るのだ。フェイトの方は、アルフの拙いながらも激しい責めを感じながらも、自分だけが気持ちよくなってはいけないと、アルフの秘所を開き、包皮に隠されていたクリトリスをそっと剥き出しにして、思いっきり吸い付いた。アルフは余りの快楽に絶えられず、仰け反って嬌声をあげる。

 

「んぁあ!? いゃ、あ、あ゛ー!」

「ぢゅゅう、ぢゅ、じゅるる……どう、アルフ」

「あ゛、ちょっと、まって、きもちよすぎ、う゛、あぁ」

 

 アルフの花弁から流される蜜を、全て吸って飲んでしまうかのように激しいクンニだった。はぁ、はぁ、と息が荒くなる。どうやら、アルフは軽くイッてしまったようだ。目は虚ろであらぬ方向に向き、口からはだらだら涎を垂らしている。

 

「アルフ、凄いだらしない顔してる。でも、可愛いよ」

「あぁ、フェイト、フェイト……」

 

 アルフはもはや何も考えずに、ねだるように腰を動かした。その動きだけで、フェイトにはアルフが何を求めているか分かっていたが、これで一区切り、とも考えていたので、とっておきの手段を試そうと、アルフを仰向けにさせてその上に乗っかった。

 

「フェイト……はやく、おねがいぃ」

「わかってるよ。一番気持ちいい方法でイカせてあげるからね」

 

 フェイトは自分の股間に魔法陣を展開し、とある術式を唱え始めた。すると、フェイトの女陰、その尿道あたりから、むくっ、と小さいながらも雄々しい肉棒が姿を表した。

 

「うわぁ、フェイト、それ……」

「うん、おちんぽだよ? アルフはね、今からこのおちんぽを、おまんこに入れられちゃうの」

 

 魔法で作られた、仮想の男根。しかしそれは、フェイトの快楽中枢に、きちんと刺激をもたらすことの出来る、優れものであった。フェイトはまだ半勃ちであるそれに右手をあてて、しごき始める、すると、今まで感じたことのない種類の快感が、頭に上り始めた。

 

……あっ、これが男の感じ方なんだ。父さんがいつも感じてる、気持ちよさなんだ……

 

 そう思いながらしごいていると、どうにも止まらなくなってそのまま射精まで上り詰めそうだったが、なんとか抑え、目をアルフへ向ける。アルフはフェイトの股間に生えた異物に、怯えながらも興味津々のようだった。ベッドの端まで下がりながらも、じいっと陰茎に目を向けていた。

 

「アルフ」

 

 綺麗な女の子であるご主人の股間に生えた、グロテスクな肉棒に目を奪われていたアルフだったが、フェイトの一言で現実に引き戻された。

 

……挿れる? あたしのおまんこに、これを?……

 

 とても想像できない光景であったが、何故だか「気持ちいい」んだとは本能で理解できた。あれだけ大きい、太い棒を挿れられたら、どうなるのだろうか。舌が中に入っただけでも、よがり狂いそうなほど気持ちよかったのだ。

 

「ねえ、アルフ、どうするの? おちんぽ挿れる?」

 

 ここぞという時に、判断を相手に委ね、心に圧力を与え震える。フェイトがカイトの真似をして、覚えた手法であった。ドクンと、心臓が震える。口が開き、そこから吐く息は荒く、肺の中まで火傷するぐらい熱いものだった。

 

挿れたい。

おちんちんに体、めちゃくちゃにされたい。

 

 アルフは立って、座っているフェイトの目の前まで近づく。ちょうど、前のめりに勃起している男性器の先端がアルフの女性器のすぐ下にある形だった。

 

「あ、あたしは……」

 

 竿をそっと手にとって、亀頭を自分の股間にあてがいながら、アルフは答えた。

 

「気持ちよくなりたいよ。おちんちん挿れたい」

「うん。じゃあ、いこ?アルフの処女、私が貰うね」

 

 瞬間。アルフは、一気に腰を降ろし、フェイトの肉棒に貫かれた。

 

「はぁぁぁぁあん!」

「う゛、いあ゛、あ゛ぐうううううう゛!」

 

 二人同時に喘ぎを吐き出す。一方は純粋な快楽のみで。もう一方は快楽と苦痛に。

 

……あ゛あ゛あ゛、凄い、痛い――あれ?……

 

 しかし、処女膜が破られる苦痛は一瞬だけで、すぐに掻き消えるように去っていった。

 

……どうして? なんか一瞬破られるみたいに痛かったのに……!?……

 

 後を引かずに落ち着いた痛みを、流石に訝しんだアルフであったが、しかしその後に来る電撃的な快楽に、呆気無く思考を手放した。

 

「ふぁああん! くぅ、うああああああっ!」

 

 処女喪失の痛みが、そのまま反転して快感になったのである。これも、「意識操作」で仕込まれたものの一つだった。凄まじい苦痛の代わりに訪れる、素晴らしい快感と衝撃は、アルフを絶頂まで押しやって、なお余りあるものだ。びくん、びくんと痙攣し、がくっとフェイトに向かい倒れるアルフ。そのだらしなく緩みきった口元からは、ほんの僅かに唾液の泡が出来ていた。

 

「アルフ、気持ち良かったんだね」

 

 優しくそう呼びかけるフェイトは、アルフの幸せを喜びながらも、若干の羨望を感じずにはいられなかった。

 

……まだ私、父さんに処女、捧げてないのに。アルフだけ先に大人になるなんて、少しずるいな……

 

 しかし、そう思うのは脳内のほんの僅かな部分で、他の大半はアルフの膣内の快楽に耐えるので必死だった。腰は止まっていても、ニュルニュルとして暖かく気持ちのいいその空間は、フェイトの肉棒にとってはまさに天国だ。フェイトが止めようとしても、勝手に腰が動き、射精へ進もうとしていた。

 

……あぁ、凄い。女の子のおまんこって、こんなに気持ちいいんだ……私のおまんこも、父さんのおちんぽを、これくらい気持ち良く出来るのかな……

 

 もしそうだったら、フェイトとしてはすぐさま股を開いて父親の剛直を幼い膣内で鎮めてあげたい所なのだが、どうやらカイトはある機会を待っているらしい。指を入れたり、ローターで責めたりはするものの、一向にフェイトの処女を奪おうとはしなかった。

 

……どうしてなのかな。父さんも、それだけは一生懸命に我慢するんだよね。こんなに気持ちいいってことくらい、分かってるはずなのに……

 

 そんな、とりとめのないことを考え、暴発すまいと必死に堪えていたフェイトだったが、未だ意識を取り戻していないアルフが、「フェイト……」とうわ言を呟きながら無意識に腰を動かし始めると、もはや我慢の限界であった。

 

「あぁ、もう無理、アルフっ!」

「ふぁぁ……っ!? や、あ、あぁ!」

 

 アルフを思い切りベッドの上に押し倒し、猛然と腰を振り、アルフの奥へと進み始める。突然の刺激に覚醒したアルフは、わけも分からぬまま、自分の中に分け入る肉棒を感じ、またすぐに何処かへ吹っ飛んでしまうくらいの快楽に流された。

 

「アルフ、アルフ、うぁ、気持ちいい、おちんぽ気持ちいいよぉっ」

「あ、あんっ、あん、ひぁあ゛、あ、あ、あ、あ」

 

 リズムも何もない、只荒々しく絶頂を求める、交尾のようなセックス。

フェイトはまるで、アルフを大きいオナホールか何かのように扱っていた。それが本来やるべきことと違うというのは分かっていたが、すぐそこにある快楽には勝てなかった。

 

 その時、アルフの中の狼としての本能が、それを善しとして、男根を射精へと導くために膣肉をきつく締め付けた。

 

「ひぁあ!? それ、だめ、だめだよアルフ、すぐイッちゃう、女の子おちんぽ射精しちゃうから!」

「……あ゛、ぅ、ふ、ぐぅ」

 

 せめて、アルフの意識が戻った後に射精したいという、フェイトの悲痛な叫びは、アルフに届かなかった。アルフは、獣のように腰を動かし、言葉にならない喘ぎ声を上げるだけだった。その思考は、半分以上野生の雌狼に戻っていたのである。そして、フェイトの腰も、本人の意志とはまるで逆に、射精へとラストスパートをかける日のごとく激しく動いていた。

 

「ああぁ、これだめだよアルフ。とまんない。もうイク、おちんぽイッちゃう、アルフの中に出しちゃう、おまんこに白いおしっこおもらししちゃうぅ!」

 

 その言葉を最後に、フェイトは思いっきり腰を打ち付け、アルフの子宮口を亀頭でこじ開け、その先へとおもいっきり射精した。

 

「ああぁ、出る、出る、出ちゃうのぉ、やぁ、あ、ああああああああああああああ!」

「……ッ! お゛ぅうっ!!!」

 

 二度三度、勢い良く放出された白濁液がアルフの子宮を汚し、膣内を逆流し、ごぽぉと結合部から漏れ出た。射精しながらヘコヘコと腰を振っているフェイトも、気絶しながら絶頂を向かえたアルフも、瞳を緩ませ、口を開け、だらしなく笑う、至福の表情であった。

 

「アルフぅ……好き、大好きだよ……父さんと、同じくらい」

 

 今度は、フェイトが意識を失って、アルフの上に倒れる番だった。

 

 

   ***

 

 

「んんっ……?」

 

 それから、数分ほど経過して。気絶からようやく目覚めたアルフは、自分の中にフェイトの『もの』が入っていること、何やら知らない液体で股間が汚されていること、そして、フェイトが自分の体に抱きついて、すやすやと眠っていることを確認した。

 

……フェイト……

 

 思えば、今日ほどこの主人に振り回された日は無かっただろう。アルフは、フェイトが教える快楽に付いて行くのが必死で、気がついたらあっというまに全てが終わっていたように感じていた。そして、今、何もかも出し切ったように目を閉じているフェイトを見て、アルフは思うのだ。

 

「フェイトは、変わったんだね」

 

 今回、いつも感じている精神リンクだけでなく、直接的に体を重ね合わせることで、アルフは今までより確かに、はっきりと気づいた。フェイトが、自分の知らない何かを手に入れ、何かを失い、変わっていたことに。そしてそれが、アルフやフェイトにとって無条件で良い物であるとは、もはや考えられなくなっていた。もしかすると、プレシアの所で暮らしていた時よりも、何かが少しだけ悪くなっているのではないかと、思うようになった。

 

……でも……

 

 寝息をたて、アルフの体に全てを預けて寝ているフェイトの笑顔は。アルフが庭園の中で、会って最初に見た笑顔から、何も変わっていなかった。

 

 そう。アルフの使い魔としての契約内容は「ずっと一緒にいること」。そしてアルフが自らに課した使命は、「フェイトの笑顔を守ること」。ならば、今後フェイトがどのように変わっていっても、その笑顔が変わらない限り、フェイトと一緒にいることこそ、アルフという一匹の狼が果たす役割なのだ。

 

「フェイト……フェイトは今、幸せかい?」

 

 そう問いかけると、フェイトの耳に入ったようで、寝言混じりにこう答えた。

 

「ふぁ……ん……幸せだよ……父さんといて、アルフといて、私、幸せ……」

「そうかい。なら、あたしもとっても幸せだよ」

 

 そして、アルフも幸せになった(おとされた)……

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は少し箸休め。次なるメインディッシュに取り掛かる前のオードブルです。
だからちょっと、これはエロとしても物語としても微妙かなー、みたいなとこもあったりします。
ですが、どうしても書かなきゃいけないシーンなので、投下しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

なのは編①

 『パラディース』の中央制御室。そこは、艦内各施設の管理だけではなく、ガジェット・ドローンの制御と管制を司る場所であった。船内中央にある円筒状の部屋で、壁の半分はモニタで埋まっており、中央のオペレート席からは船内の状況をつぶさに確認することが出来る。そして、プレシアの『時の庭園』に配備されたガジェットも、この制御室で操作することが出来るのだ。万が一プレシアが敵対行動をとったとして、ガジェットの動きを止めるための措置であった。無論、このことはプレシアには知らされていない。そして今、カイトはその機能を使い、時の庭園から二つのデータを盗み出した。

 

 一つは、フェイト用に作られるはずだったデバイス『バルディッシュ』の設計データ。もはや消えてしまったプレシアの使い魔、リニスが設計したものであり、フェイトを引き取る頃には既に基礎設計が完成しているはずだった。

 

 そして、もう一つは。

 

「ハッキング、完了……よし」

 

プレシアが完成させた、プロジェクトFの技術データである。

 

 かなり堅いセキュリティで守られているそれを取り出すには、かなり時間が掛かる。プレシアに気づかれてもおかしくない。 カイトは彼女の動きをガジェットで逐一監視し、病気で寝込んでいる所を狙って、ようやくデータの抽出に成功した。もちろん、これは明らかに契約違反の行為である。しかし、カイトにはどうしても必要なことだった。何故なら、カイトにガジェットを提供した「出資者」が、交換条件として提示したのがその理論だったからだ。そして、これからその出資者に通信し、データを渡さなくてはならない。

 

……あの穴蔵の住人とは、あまり付き合いたくないんだが……

 

 心の底で少しだけそれを渋りながらも、コンソールを叩き、何個かのパスワードと認証を通過して通信回路を開く。「SOUND ONLY」と表示されたウィンドウから流れる声は、いつもの様に嗄れて、しかし機械的な、耳障りの悪いものだった。

 

『カイト・フォレスター。プロジェクトFのデータ、確かに受け取った』

「ありがとうございます、最高評議会議長閣下」

 

 そう。カイトにガジェットを与えた出資者とは、管理局最高評議会であった。

 旧暦の時代に次元世界を平定し、管理局を作ったその後も、次元世界を管理し導くために、自らを延命させる三人の偉人。脳味噌だけになっても生に拘り、今を生きる者たちを見下すその醜態を、カイトは激しい嫌悪感を抱いていた。とは言うものの、自分の知る未来の知識を利用して取引する相手として、彼らほど相応しい存在はない。戦乱の元になる反乱勢力やテロリスト、次元震を起こしかねないロストロギア。そして、それらが起こす事件の時期と規模。方法や立場がどうあれ、次元世界の平和を目的とする彼らにとっては喉から手が出るほど欲しい『情報』だ。

 

 カイトが未来の情報を売り、最高評議会が対価として金銭や地位を差し出す。ガジェット群はもちろん、カイトが拠点とする『パラディース』さえも、この商売で手に入れたものだった。

 

『ジュエルシードやプレシア・テスタロッサに関してはお前に一任しよう。合理的で被害を最小に出来るのだからな』

「お任せ下さい」

 

 そして、カイトは今回の代金を手に入れた。ジュエルシード回収や、PT事件に関する全権である。ジュエルシードを回収し、プレシアを止めて次元震を起こさなければ、どのような手段をとっても、地球でどんな行動を起こしても構わないということだ。また、アースラの巡回コースを秘密裏に操作し、介入が起こらないように手を回す約束も取り付けた。これで、管理局の介入を招くことなく行動できる。高町なのはと、八神はやてを幸せにするための計画に、管理局はどうしても邪魔だったのだ。

 

「委細については後ほど、現地に到着した後に報告致します。それでは」

『うむ。次元世界の平穏と安寧のために』

「平穏と安寧のために」

 

 声から伝わる圧力に、はらわたを押さえつけられるような苦しい感覚を感じながら、カイトは通信を切り、そしてすぐさまもう一つの機密回線を開いた。今度モニタに出てきたのは、紫髪で若々しい顔をしていて、しかし鈍くギラギラと光る金色の目が特徴的な、白衣の男だった。

 

 その名はジェイル・スカリエッティ。最高評議会に作り出された人工人間で、あらゆる技術に精通した天才科学者である。

 

 

   ***

 

 

「久しぶりだなジェイル。データは届いているか?」

『プロジェクトFについてだね? 勿論さ。我が親愛なる創造者……あの不恰好な脳味噌共も仕事が早いのだけは信用がおける』

「わざわざ手を使う必要がないからな」

『僕が不思議に思うのはそこだよ。四肢を使って五感を働かせずにはインスピレーションなど湧いてこないというのに彼らはどうして肉体を捨てようとしたんだろうか?』

「さあな。そちらの方が、生きるためには楽だったんだろうさ」

 

 先ほどの慇懃無礼さとは全く逆の、砕けた話し方をするカイト。対するジェイルも、まるで長年の朋友と話しかけるかのように笑っている。カイトは、最高評議会を取引相手として利用するその裏で、彼らに対するカウンターとしてジェイル・スカリエッティを手懐けたのだ。 ジェイルもそのことは分かっていて、しかし敢えてカイトの奸計に乗っていた。自分を利用するだけで何ら面白いことをしない評議会よりも、『未来の知識』という怪しげな物を持つ彼に付き合う方が、『無限の欲望』としての探究心を満たせるだろうと踏んだからだ。

 

「で、このデータ、お前から見てどう見える?」

『ああプレシア女史はやはり天才だよ。私が手付かずにしていた所や及ばなかった所を見事に補完し理論を完成してくれている。しかし惜しいのはこの理論の最終結論を気づきながらもあえて見逃していた点だ』

「クローンを作ろうとしても、出来るのは本人によく似た別の何か、ということか」

『そうだ。まあ娘をそのまま蘇らせようとして研究したんだから認められないのも当然だがね』

 

 『世界管理のため、質量兵器以外で安定した兵力を作る』という計画を、クローン魔導師という方向で実行するために、プロジェクトFの基礎理論を作ったのはジェイルである。しかしその途中で計画は人造魔導師の生産に代わり、ジェイルは研究をストップせざるを得なかった。自分の手がけた作品には別け隔てなく愛着を持つ彼は、この煮え切らない結末にかなり憤慨していた。最高評議会を敵視するようになったのも、これがきっかけだった。

 

 その後も、しばらくは和気あいあいと話を進めていた二人だったが、カイトが本題を切り出すと、ジェイルは一転して難しい顔を浮かべた。

 

「で、こいつを使って『アレ』を――リンカーコアを持つ肉体を、用意出来るか?」

『ふむ……正直に言うと難しいね。制作個体にリンカーコアが宿るかどうかさえ不確定なんだ』

 

 リンカーコアを持つ、人間の肉体。特別な意識も記憶も、それどころか脳味噌や内蔵が無くてもいい。ただ、リンカーコアを持ち、人型をしていれば十分である。

カイトの欲望を果たすためには、それがどうしても入り用だった。ジェイルと接触した目的の半分くらいは、そういった道具の確保である。

 

「フェイトは、現に魔導師になっているじゃないか」

『あれは稀有な例だ。意図的に彼女のような個体を作り出すのは現時点では不可能だよ』

 

 しかし。カイトは反論する。今、ジェイルに今与えられている権限と予算を活用すれば、その『稀有な例』を生み出すだけの数を作る事ができるはずだ。その前にどれだけの『失敗作』が作られようとも、カイトには関係ない。

 

『手当たり次第ということかい? 余り良策とはいえないが』

「そうではあるがな。あの理論からさらに研究を進めるよりかは、時間がかからないはずだ。こちらも余り待つことは出来ない」

 

 その後、二人は十分ほど予算と時間についての議論を戦わせ、結局カイトの方針でことを進めていくことになった。今後数ヶ月、ジェイルの研究施設の生産プラントはフル稼働し、たくさんの「肉体」を生み出していくことだろう。そしてそのほとんどが培養液漬けにされたまま放置され、何百何千のそれら『失敗作』からたった一つだけの成功例が選ばれる。全く持って人道という物に反している。しかし、カイトもジェイルも、その光景を想像して、何らの嫌悪も憐憫も感じていなかった。

 

『所で彼女たちの「調教」は進んでいるのかい?』

 

 ジェイルはコーヒーを飲みながら、まるで三流のゴシップ記事を見るような嘲りを含めて質問した。

 

「調教じゃない。俺は彼女たちに、最高の幸福を味あわせてあげたいだけだ」

 

 調教という言い方が癪に障ったのか、カイトにしては珍しく声を強め、激しい口調で反論する。その様子が可笑しかったのか、ジェイルの方からはさらに嘲り笑うような煽りを含めた口撃が飛んできた。

 

『その幸福の形は彼女たちでなく君自身が望むものだろう? 全く業が深いな君は。自分が愉しむために彼女たちの幸せの概念や価値観すら曲げるなんて』

 

 カイトはフェイトを幸福にしたが、しかしそれは『カイトの望む範囲』での幸福でしかない。フェイトはもうハラオウン家の一員になることも出来なければ、エリオやキャロなどの保護者になることもない。そういった視点から見ると、カイトはフェイトを反って不幸にしている、とも言えるのだ。

 

『君の周りにいる人間全ては君からすれば欲望を達成するための道具にすぎない。そのくせ彼女たちに君への深い愛を要求するとはな。臆病この上ない』

 

 この、余りにも刺の大きい言葉に、激発するかと思われたカイトだったが、むしろ落ち着きを取り戻し、胸を張って答えた。

 

「なんとでも言え。全てが終わった後、彼女たちは間違いなく笑顔になるのだからな。それでいいじゃないか」

 

 臆面もなく。むしろ、自信に溢れてそう断言するカイトは、ひたむきな求道者のようにも、盲目で頑固な愚者のようにも見える。その姿勢は、ジェイルにとって興味の対象であった。彼は、この抜け目の無く傲慢で、しかし一途な男が何処に向かうのか、その果てを確かめたくなるのだ。破滅、ということにはならないだろう。その未来を予想するには、カイトはいささか計算高い。

 

『……それは、そうだね』

 

 だから、ジェイルはこれ以上反論することはしなかった。

 

「無論、俺に協力してくれたお前もそうだ。うまくすれば、この世界全てがお前の遊び場になるという、そういう愉快な計画も立ててある」

『ほほう。それは興味深いな。どうするんだい? どうやって私を評議会の鎖から解き放つのかな?』

「秘密だ。こういうのは全部バラしたら面白くならないだろう」

『秘密ねぇ……』

 

 クックッとほくそ笑むジェイル。そして、同じようにニヤリと笑うカイト。この狂人たちの間には、何か不思議な縁や情が出来ているのかもしれない。

 

 その後、次の連絡時間やガジェットの追加注文などの些事を詰めたカイトは、別れの挨拶を交わして交信を終えた。手元のコンソールから航行管制システムを呼び出し、停留モードを取り消して次の行き先を入力する。第九十七管理外世界。通称『地球』。

 

 急がなければならない。スクライア族の発掘団は、既にジュエルシードのある遺跡を掘り返し始めていた。

 

 

   ***

 

 

 日が陰り、夕焼けが綺麗なオレンジ色に染まった、冬の終わりの夕暮れ。高町なのはは、一人海鳴海浜公園に足を運んでいた。友達であるアリサ・バニングスと月村すずかと別れたのは、午後の3時半。家に帰るにはまだ早く、時間を持て余していたのだ。

 

 なのはは、一人で暇な時間があるといつもこの公園を歩く。さざなみの音が耳に心地よく、いつも穏やかな風が吹き付けてくる海岸沿いの遊歩道が、彼女の心を癒してくれるからだ。しかし、今日は何故かいつまで歩いても明るい気持ちにならない。それどころか、ぐるぐるとした思考の渦に嵌り込み、延々と悩み続けるだけだった。

 

「……………」

 

 きっかけは、アリサたち2人との、他愛のない会話の中に生まれた一つの単語だった。『将来の夢』。アリサも、すすかも活発に語り合っていたが、なのははどうしてもその会話に加わることが出来なかった。高町なのはには、まだ『夢』が無かったのだ。

 

 最も、自分の周りの環境や家族のことを考えれば、『喫茶店の2代目店主』という、進む「だろう」道を予測することは出来た。しかし、そうなった自分を想像することは出来なかったし、それが本当に自分の歩む「べき」道であるのかと自問すれば、「いいえ」とも「わからない」とも言えないもどかしさを感じるだけだった。

 

私は、これからどうなるんだろう。

私は、これからどうしなきゃいけないんだろう。

 

 何かをしなければいけないことは、周りの大人たちを見れば分かる。みんな一生懸命に、自分のやりたいことをやっている。しかし、なのはにはそれがない。なのはの心は悩み、惑い、行き場のない苛立ちに温度を上げていた。

 

 それが沸点に達し、熱したやかんが蒸気を噴き出して音を立てるように、叫びが喉から出かかる、その直前であった。

 

 なのはの目に、一人の少女が映った。

 

……あっ……

 

 その瞬間、悩みは一瞬だけ吹き飛んでしまって、なのはの全てが、その少女を見つめていた。

 

……なんて、綺麗な子なんだろう……

 

 色白で、作られたばかりのフランス人形のような肌。長い金髪はアリサに似ているが、その顔立ちは凛としてしかし水面のごとく落ち着きを感じさせる。眼の色も、なのはが見たこともない紅く深い色。黒いワンピースに包まれたスレンダーな体は、決して痩せているわけではなく、俊敏なチーターのように飛び跳ねそうな快活さがひっそりと隠れている。

 

 心を奪われた、見惚れたなどとと言うより、驚きで目を離せなかった。迷いなく、ただありのままそこに立っている少女の姿は、なのはがおぼろげに抱いていた『理想』の、正にそのものだったからである。なのはが「女の子」であるなら、この金髪の、幼い娘はそれより一回り大きい「少女」と形容すべきだろう。

 

「――?」

 

 なのはの視線に気づき、少女は振り向く。瞬間、目が合ったが、他人をじいっと見つめるという行為に恥ずかしさを感じたなのはは慌てて視線を逸らした。しかし、今度は少女の方から彼女を見つめる番だった。

 

……どうしよう。なんか、変な風に思われてるのかも……

 

 なのはは、その真摯で純な視線にどぎまぎして、余計に動けなくなってしまった。すると、少女は見つめるだけに飽きたらず、なのはの方へスタスタと歩き出したのだ。なのははびくっ、と震え、慌てて、えと、あの、そのというような、言葉にならない単語を出しながら、ついに少女に距離を詰められてしまった。尚も言葉を発せず、ただこちらをじっと見つめる少女に、なのはは僅かな怯えさえ感じた。

 

「ねえ、君」

「は、はいっ!?」

「ちょっといいかな」

 

 なのはに呼びかけた少女は、不意に右手を前に出すと、なのはの右手を掴み、ぎゅっと握った。

 

「ごめんね。すぐに終わるから」

 

 少女が目を閉じ、手を握る力を強めると、その右手からなのはの右手に、何か熱いものが流れこんでくる感覚が生まれた。その熱さが腕に流れ、体を通り、ちょうど胸元まで来る。すると、なのはの胸から、ピンク色の淡い光を放つ、丸い球体が飛び出した。

 

 それは、なのはと少女の間に存在し、夕焼けと影のほの暗さをかき消す程に眩しく光る。普通なら考えられない、ありえない光景だったが、しかしなのははその光球が『自分』の一部であるとはっきり気づいた。これは一体何なんだろう。不思議に思ったなのはだったが、一方の少女は納得を得た明るい顔をして、なのはに呼びかける。

 

「やっぱり。凄い魔力を感じたのは、君がそうだったからなんだ」

「そうだったって?」

「君が、魔法の力を持っているってこと」

 

 魔法。なのはの日常とはかけ離れた単語である。その単語に驚く暇もなく、少女の口からはさらに見知らぬ言葉が飛び出し、なのははそれをただ受け止めるだけだった。

 

「この世界ではまだ知られてないんだけど、その光る球はリンカーコアと言って、魔力の源なんだ」

「魔力の源って、これ、私のもの……だよね」

「うん。だから、君には魔力がある。驚いたよ。この世界に来て最初に、凄い魔力を感じたんだから」

「この世界?」

「私はね。この世界とは違う、別の世界から来たの。父さんと一緒に」

 

 ふとなのはが目を上げると、少女の後ろに、大人の男性が立っていた。彼は穏やかな瞳でなのはを見つめている。まるで旧い親友に会ったような、深い慈しみに溢れた瞳だった。

 

「やあ、私はカイト・フォレスター。こっちは私の娘」

「フェイト・テスタロッサ・フォレスターと言います。君の名前は?」

「あ、私、高町なのは。私立聖祥大附属小学校の三年生です」

 

 互いに自己紹介し合うと、カイトの隣にいる、綺麗な橙色の毛並みが美しい大きい犬が不満気そうに呟いた。

 

「ちょっとちょっと。カイトもフェイトも、あたしを忘れてもらっちゃ困るよ」

「にゃっ!? い、犬が、喋ったぁ」

「ふふっ。驚いた? この娘はアルフ。私の使い魔なの」

「よろしくな、なのは」

 

 アルフはなのはの前まで歩き、ひょいと右の前足を上げる。握手のつもりなのだ。なのはは、この人たちは本当に魔法の世界の人なんだな、と改めて実感しつつ、アルフの前足を右手で握った。

 

「こっちも、よろしくね、なのは」

「あ、うん、フェイトちゃん」

 

 フェイトも、なのはと互いに名前を呼び合い、もう一度握手をする。その微笑ましい交流が一段落した所で、カイトはなのはに提案した。

 

「さて。フェイトの言った通り、君がリンカーコアを持つというのなら、私としても君に教えなければいけないことがある。大事な話だから、親御さんにも話を通したいのだが、いいかな?」

 

 

   ***

 

 

 所は変わって、ここは高町家。リビングの机に向い合って座るのは、なのはの父である高町士郎とその隣にいる妻高町桃子、そして、カイト・フォレスター。机の上には、カイトの持ってきた魔法に関する資料がズラリと並んでいる。

 

「……お話、分かりました」

「そうですか。魔法の存在に関しては、ご理解をいただけたと」

「理解するも何も。目の前で現物を、しかも、私の娘の『リンカーコア』ですか、それを見せられては、嫌でも信じざるを得ませんよ。なあ、桃子」

「ええ、ピンクで、とても綺麗な光でしたわ」

「それで、ここからが本題なのですが……」

 

――高町なのはは、極めて大きな魔力を持っている。それは、一年間魔導の訓練を続けているフェイトの魔力量にも迫るほどの大きなものだ。リンカーコアは大気中の魔力を体内に取り込んで蓄積する器官である。それは、無意識の内に行われている。しかし、なのはは生まれてこの方、魔力を使って魔法を行使したことがない。では、蓄積された魔力は何処に行くのか?そして、これからも魔法を使わないでいると、どうなるのか?――

 

 カイトはあえて言葉を濁しながら、暗喩的に話していく。高町士郎ともあろう者が、結論に辿りつけない訳はないからだ。

 

「……じゃあ、なのはは」

「はい。後2、3年も経っていたら、遅かったでしょう」

 

 慄然として問いかける桃子。彼の不安をさらに増長させるために、カイトはあくまで冷静な態度を崩すこと無く断定する。

 

「この海鳴はいい街です。娘と歩いていても飽きないし、人々の心も暖かい。ですから、早く気付けて良かったと思います」

 

 溜め込みすぎた魔力の暴走による、破壊。それは、この街を飲み込んで余りあるものであり、何時何処で発動するかもわからない危険な時限爆弾だ。そう、今度ははっきりと告げる。士郎と桃子の顔は、今や青色を通り越して真っ白になっていた。

 

「そんな……」

「なのはが、そんなものを持っているなんて……」

 

……ふむ、どうやら信じてくれたみたいだ……

 

 しかしこれは、真っ赤なウソである。AAAランクのリンカーコアとは言え、たかだか10数年魔力を貯めた程度で街が消えるのだ。もしも本当だったら、今頃何個の次元世界が滅びることになるか。冷静に、適切なデータがあれば推察できることだったが、カイトが敢えてそれを隠していた。もしあったとしても、つい数分前に魔法を知ったばかりの士郎には、そもそもだまされているという思いすら浮かばないだろう。

 

「なんとか、出来ないのでしょうか……あぁ……」

「いや、桃子。心配するのはまだ早そうだ」

 

 士郎はそう言って、桃子の震える肩に手を当て、落ち着かせる。そして、カイトに向き合い、その冷静な顔を見て確信した。

 

「……なんとか、出来るみたいですね、その顔からお察しする限り」

「勿論です。そうでなければ、とっくにこの世界からおさらばして、管理局に助けを求めていますよ」

 

 不安を纏わせた桃子を安心させるために、軽口を叩いて笑顔を見せる。桃子はようやく落ち着いた。

 

「魔力の制御方法さえ教えれば、簡単に『ガス抜き』が出来ます。しかし……」

「しかし?」

「彼女の魔力は高く、その才能もかなりのものです。それを僅かでも生かさないまま終わるということは、彼女の人生において大きな損失であると、私は思うのです」

「つまり、なのはに魔法を習わせたい、と?」

 

 ここで、士郎たち夫婦に魔法に対する忌避の感情を作ってはいけない。そうなれば、今までのアプローチが全て無駄になる。丁寧に、そして確実に舞台を整えなければいけないのだ。

 

 なのはに教えるのは、何も草木を生み出すとか、そういう神秘的なものではない。戦闘用の物も教えないようにする。教えるのは、例えば、体調を整える魔法や、身体を回復させる魔法、いざというとき身を守ることが出来る程度の防御魔法。そういう、日常に役立つものを教えて行きたいと、カイトは熱弁した。

 

「ですから、なのはさんの学校が終わった後に、魔法を教えていきたいのですが、いかがでしょう」

「はあ……なのはには学習塾もありますから、お預け出来るのは週に一回程度になると思いますが」

「かまいません。どうせこの世界には、半年、いえ、一年くらいゆっくりしていく予定なので」

「そうですか。そういうことなら私は構いませんが、桃子、お前は?」

「ええ、もちろん大賛成よ。この人がいなければとんでもないことになってたんだし、それに折角あんな力があるんだから、使わなければ損、でしょ?」

「そうだな……」

 

 幸いに、二人共カイトの言う事を信じ、末娘を任せることに賛成してくれた。「自分たちを救った」という恩を与えることで、無警戒に近い桃子だけでなく、その出自から警戒心の強い士郎の信頼を勝ち得る事が出来たのは大きい。これで、なのはに関してはかなりのフリーハンドを勝ち得たことになる。

 

「では、後はなのはさんの意思次第、ということになりますね」

「そうですね。私たちも、なのはに強制することは出来ませんからね」

「丁度いいですわ。今、本人に聞いてみましょうか?」

 

 二階の自室にいるなのはを声で呼び寄せようとする桃子だったが、カイトはあえて止める。

 

「お手間をおかけする必要はありませんよ。フェイトと一緒にいるのですから、念話で呼び出しましょう」

 

 そしてカイトは、魔法を感じられない士郎たちにも目立つように、目を閉じて大げさに念じるようなふりをしながら、フェイトに念話をした。

 

【フェイト? なのはとは、どうなんだい?】

【うん、すっかり仲良くなったよ。ゲームもパソコンも面白いし、アルフなんかムキになって対戦してる】

【それは重畳だ。こっちも話がついたから、なのはを下に送ってくれないか】

【本当? じゃあ、なのはともっと一緒になることが出来るのかぁ、嬉しい。今なのはに言うね】

 

 そして数秒後、階段からドタドタと勢い良く降りてきたなのはは、その勢いのままカイトに頭を下げた。

 

「お願いします! カイトさん、私に魔法を教えて下さい!」

「あらあら、なのはったら、もう聞くまでも無かったみたいね」

 

 士郎も桃子も、そう言うことが分かっていたかのように、ニコニコと笑っている。何しろ、少し前に塾を始める時、アリサとすずかと一緒の塾になるよう必死にお願いしたなのはだ。既に魔法を習っている、フェイトというなりたての友達がいる以上、もっと仲良くなるために、魔法を習いたいと思うことはごく当たり前だった。

 

 問題なのが、なのはのその感情の流れが、カイトの仕組んだ目論みのままであることなのだが……今の士郎と桃子には、想像する事すら出来ないだろう。

 

「それでは、なのはを宜しくお願いします」

「分かりました。とりあえず、カリキュラムを組んで予定を決めたいので、今日はそろそろお暇したいと思います」

「そうですか。では……」

 

 そう言って椅子から腰を上げると、なのはがカイトを見つめて話しかけた。

 

「カイトさん……えと、カイト先生、でいいですか?」

「どちらでも。師匠とでも教諭とでも、好きなように呼ぶといい」

「じゃあ、先生で。私、魔法なんて初めてだから、色々ごめーわくをおかけすることになりますが、改めて、よろしくお願いします!」

 

 もう一度、ぺこり、と頭を下げるなのはは、まさしくカイトの思い描いていた高町なのは――何事にもひたむきで、一直線で、全力全開な女の子――そのものだった。ぞくり、とカイトの体が震える。愛するなのはが目の前にいる、そのことで生まれる劣情を、抑えるのには一苦労だった。幸い、にこやかに話している士郎たちには気づかれ無かったようだが。

 

「……そうか。じゃあ、一生懸命頑張ってくれ」

「はい!」

 

 

 

 




今回は下準備に終始しましたので、エロがありません。ごめんなさい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

なのは編②

 カイトが高町なのはに接触して、およそ三週間が経った。今のところ、カイトらと高町家との関係は良好そのものだ。フェイトがたまに翠屋でお手伝いをしているし、なのはも張り切って魔法の訓練に励んでいる。訓練といっても、戦闘用の訓練ではなく、現時点では基礎魔法や飛行魔法の学習に終始していた。

 なのはの学び具合は、順調そのものだった。流石に、魔法と出会って10年経たずにエース・オブ・エースと言われた人材だ。スポンジで水を吸うように、次々と新しい知識や経験を手に入れていく。カイトはこの時のために魔導の教師としての資格を取っていて、魔導師ランクもB+に至っている。しかしもう半年訓練を続けたら、あっという間に追い抜かれてしまうかもしれない。

 訓練は『パラディース』内部の運動場で行われている。マンツーマンで行うのではなく、フェイトやアルフも一緒だ。だから、カイトが教えるのはほんの基礎的な事項に留まり、手取り足取り教えるのは専らフェイトの役目だった。半ばフェイトと仲良くなるために魔法を習うなのはにとっては、その方が喜ばしいことであるだろう。

 

「だからなのは、高速旋回する時は、もっとこう体を動かして」

「えぇー、それ疲れない? 魔力で無理やりぐいっ、て方向転換出来ないの?」

「それをやると、Gのせいで体に負担が掛かるの。だから、体を動かした勢いを利用して、姿勢を制御するんだ」

「うぅ、なのは運動苦手だから大変かも」

「運動神経はそこまで必要ないよ。ただ、こう飛びたい時はこう動く! って覚えさせるだけだから」

 

 空を飛びながら、仲睦まじく話すなのはとフェイト。その姿はまるで、綺麗で珍しい蝶が虫かごの中を飛び回っているようだ。『パラディース』という名の虫かごの所有者であるカイトは、この光景に感慨ひとしおだった。ただ彼女たちを集めるだけなら、虫を針で固定して標本箱に飾るような揃え方でも良かった。しかしあえて自由意思を残し、生きた笑顔を見るのがカイトにとって至上の目的なのだ。勿論、虫カゴの扉は厳重に閉じておくのが前提だが。

 

【二人共、そろそろ休憩しないか?】

 

 一時間ほど経って、頃合いと見たカイトは二人に念話で呼びかけた。二人共素直に答え、同時にカイトの座っている椅子に向かって降りてくる。安全のために、二人共バリアジャケットを装着していた。なのはは制服をモチーフにし、フェイトは黒ベースに赤黒のマントという出で立ちだ。そして、なのはの左手には――赤い宝石を装飾した、魔法の杖『レイジングハート』が握られていた。

 これは、カイトがスクライア族の集落に赴き、ユーノ・スクライア当人から高値で買い取った物である。時の庭園から『バルディッシュ』のデータを盗み出したのと同じく、この『レイジングハート』も、高町なのはという人物に不可欠な要素の一つだと、カイトは考えていたのだ。ちなみに『バルディッシュ』の設計データはジェイル・スカリエッティに送られ、現在彼のラボにおいて現物が完成目前だ。カイトは「無駄な機能を付けるな」と念を押したが、ジェイルがかなりやる気を出しているので、その望みは叶えられそうに無かった。

 

「なのはも大分飛行がこなれて来たな。デバイス無しとはいえ、フェイトについて行けるんだから大したものだよ」

「ありがとうございますっ!」

 

 今のところ、なのはとカイトの関係はあくまで生徒と教師のそれに留まっている。カイトにはそれはそれで心地の良いものだったが、まだ「意識操作」が効くほどでは無い。そこまで仲を深めるには、もう一つ段階を踏む必要があった。そのための策は、カイトの脳内にある。

 

 フェイトたちを休憩室に連れて行った後、カイトは中央制御室に入っていく。この世界から程近い次元空間で定点観測をさせている、偵察用ガジェットからの情報を確認するためだ。コンソールを叩き、観測情報をモニタに映し出す。今から六時間ほど前までデータを巻き戻すと、煙を吐き出しながらよろよろと蛇行する次元航行艦が映し出された。

 

……ビンゴ、といったところか……

 

 ジュエルシードを積んだ輸送船が事故にあっている、その光景だった。カイトは輸送船の航行コースから、この世界の近くを通る箇所だけを抜き出し警戒していた。そうすれば、ジュエルシードは無造作にばら撒かれる前に、水際で確保する事が出来ると踏んだのだ。事実、輸送船を補足することには成功した。後は、ジュエルシードを確保する、実行班の手際次第だが――

 

「カイト、聞こえる? こちらアルフ、21個ばっちりかっきりゲットしたよ」

 

 どうやら、カイトの心配は要らぬ節介だったようだ。録画された動画には、ガジェットを周りに従わせ、青い宝石を両手でどっさりと抱えて満面の笑みを浮かべるアルフが映っていた。プレシアから預かった頃と比べ、すっかり大きく成長した大人の姿になっている。今頃は封印処置したジュエルシードを倉庫の奥に収め、自室でぐっすり睡眠し疲れを癒していることだろう。

 

……後で、何か褒美をあげなければな……

 

 カイトは、出来すぎとも言える結果に一人ほくそ笑む。前もって見込んだ通り、アルフの利用価値は高い。使い魔として主を補佐するために備えた、機転の利く性格は、単純作業しか出来ないガジェットどもの指揮官に最適だった。忙しさで手を下せない事柄を、代わりに実行するにはうってつけの人材だ。

 

 アルフの部屋に今後の行動を指示するメッセージを送っておいて、次にカイトが開いたのは 『時の庭園』配置のガジェットを操作するプログラムだ。プレシアは間違いなくジュエルシードに目をつけている。その動向を調べる必要があった。カイトの知る歴史では輸送船の事故に乗じてフェイトを向かわせたのだが、それが水際で防がれた今回はどうなるのか。

 

 プロジェクトFのデータを盗んだ時と同じように、『時の庭園』のメインシステムをハッキングする。監視カメラから玉座の間を覗くと、苛立たしげに机を叩いているプレシアを見つけることが出来た。憤怒の形相には正に鬼気迫るものがあり、口からはうっすらと血の筋が見えた。どうやら唯一無二のチャンスが防がれたことを認識し、カイトに対して激怒しているようだ。

 

 カイトにとっては、しかしこれも予測の内だった。むしろ、プレシアがこちらに対して敵意を持ってくれなければ、後々面倒なことになるのだ。ジュエルシードのモンスターを無理やり作り出すよりは、プレシアの方がまだ御しやすいのである。

 

 プレシアがこちらに対して仕掛けてくるのは、もうしばらく後のことになるだろう。ガジェット・ドローンを廃棄するか否かの選択に迫られるからである。敵の所有物であったガジェットを、信用できるはずはない。 しかしガジェット無しで『パラディース』を落とせるかといえば、それはまず間違いなく不可能なのである。魔力で動く傀儡兵は、ガジェットのAMF相手だと手も足も出ないからだ。切り札の次元跳躍魔法『サンダーレイジO.D.J』も、『パラディース』のバリアには通じない。しかも、プレシアが何時何処で仕掛けるのか。何処まで闘う事が出来るのか。それは全てカイトの手の内だった。細工は流々。ならばこの大掛かりな舞台の準備を、出来る限り早く整えなければいけない。

 

 主演女優高町なのは、主演男優カイト・フォレスターの、恋愛劇場。 その敵役が、哀れな大魔導師が最後に演じる役割となるのだ。

 

 

   ***

 

 

 レイジングハートのメモリに、緊急メッセージが転送された。なのはが学校から帰り、転送魔法を使って『パラディース』に移ろうとした時だった。フェイトから送られてきたもので、文面の短さが焦りと必死さを表している。

 

「『パラディース』は襲撃を受けているから、今日は家で待機していて」

 

 襲撃。誰が、どんな理由で襲ってきたのかは分からない。それでもなのはは居ても立っても居られなくなって、転送魔法を作動させた。未だ非力な自分が行った所で、事態が動くことはないだろう。むしろ、余計な危険を背負わせてしまうのかもしれない。なのはの冷静な部分が止まれと促し、レイジングハートも止めている。しかし、なのはは躊躇わなかった。フェイトという、大切な友達が危険に晒されているのだ。ここで踏み込まないようでは、それはもはや高町なのはではない。自分が自分であるためにも、行かなければならなかった。

 

「どんな事になってるのか分からないけど……待っててフェイトちゃん、アルフさん、カイトさん。高町なのは、行きます!」

 

 その言葉で自身に気合を入れて、レイジングハートを起動。バリアジャケットに身を包み、転送ポートを抜け出たその先は、煙と魔力光に包まれた鉄火場の真っ只中だった。慌てて全周囲防御の『プロテクション』を発動する。魔力の多さに任せて分厚く展開させたので、大抵の攻撃は跳ね返せるはずだった。

 

 ひとまずの安全を得たなのはは、大急ぎで二階のロビーに向かう。カイトとの待ち合わせ場所はいつもその場所で、しかもそこは中央制御室の近くなのである。攻めこまれた時、籠城するなら先ずそこを確保するはずだ。

 

 なのはの考えていた通り、カイトとフェイトはそこにいた。テーブルを並べてバリケードを張り、ロビー外部にたむろするロボットのような敵――傀儡兵やガジェット・ドローンを射撃魔法で追い払っている。アルフも防衛用のガジェットを引き連れ、懸命に侵入者を迎撃していた。合流すると、フェイトとアルフは驚愕したが、カイトは何故か納得顔をしていた。

 

「やっぱり来たのか、なのは」

「え、やっぱりって」

「元から、こういうことを見過ごせないとは思っていた。フェイトがもう少し気を利かせてくれれば、巻き込まずにすんだが……仕方ないな」

 

 そう言って頭を振ったカイトは、一旦制御室に入ってトランクケースを持ちだした。その中には、金色に光る三角形の金属片が入っている。つい昨日送られてきたばかりの、ジェイル・スカリエッティ作『バルディッシュ』の試作品第一号である。完成には程遠かったが、デバイスとして最低限の働きはすると、ジェイルは確約していた。

 

「こいつは試作品だが、既にお前好みのチューニングをしているそうだ。存分にやれ」

「はい、父さん」

 

 元気よく頷くフェイトだったが、最後に小声で、

 

「全部やっつけたら、『ご褒美』……欲しいな」

 

と、艶かしい声でこっそり付け加えることは忘れなかった。

 

 それからの戦いは、終始圧倒的だった。元よりフェイトはAAAランクの魔導師で、それが未完成とはいえ優秀なデバイスのサポートを得たのだ。ガジェットのAMFで弱体化した傀儡兵と、機能を掌握され単純行動しかとれないプレシア側のガジェット如きに、負けるはずがない。

 

 『パラディース』の広い通路や広間は、今やフェイトのために用意されたステージだった。雷光が走ると鉄塊が爆散し、そのきらめきが華麗に舞い踊る金色の魔導師を照らす。その光景に、なのははすっかり見惚れてしまっていた。

 

……なんて、綺麗に飛ぶんだろう……

 

 元よりフェイトに憧れを抱いていたなのはだったが、この大立ち回りを見てさらにそれが強くなっていった。一人の女として、あそこまで輝けるフェイトが羨ましかった。彼女と同じように飛びたい、彼女のようになりたい。そんな感情が、熱になってなのはの体を駆け抜けていくのだ。それは、フェイトという心の中の英雄に対する、同化願望とも言えるものだった。

 

……フェイトちゃんはどうして、あんなに強くなれるんだろう……

 

 そんな考えがふと、頭の中によぎる。自分とフェイトとは、何が違うのか。

 

……目標があるから? そうじゃない。フェイトちゃんは、何を目指してる訳でもない……

 

 では、どうしてフェイトは強いのか? その答えを、なのはは傍らに立つカイトに見出した。縦横無尽に駆け巡るフェイトの目は、目の前にいる敵ではなく、いつも一人の男だけに向けられている。その目線は、親と子の間で交わされるものではなく、愛しあう男と女が作り出すものだ。士郎と桃子や、兄である士郎とその彼女に触れ合っていたなのはには、それが良く理解できた。

 

……そうだったんだ。フェイトちゃんは、カイトさんの事が好きで、カイトさんが見ているから、あんなに強くて、綺麗になれるんだ……

 

 大切な人のために、己を磨き、鍛える。それが、フェイトにとって至高の目標であり、為すべきことなのだとなのはは理解した。そして、自分にとって『好きな人』とは誰か。その人のためになら、フェイトのように綺麗になれるのか、と考え始めたのである――

 

 

   ***

 

 

 30分も経たずに、艦内の敵はほぼ一掃された。客室や大広間は滅茶苦茶にされてしまったが、船体に深刻な被害は無い。カイトが機能を制限させ、重要箇所を占拠させなかったからだ。

 

 プレシアの計画は、今や完全な失敗に終わった。初弾の次元跳躍魔法は完全に防がれ、カイトが敢えて開けた隙間から入り込んだ傀儡兵・ガジェットの軍団もこの有様だ。今頃プレシアは玉座に座り、血を吐きながらカイトを呪っているだろう。しかしそもそもあの時、カイトの取引を受けた時点で、プレシアには破滅の道しか残っていなかったのだ。

 

 もはや万策尽き果てたプレシアは、次に何をしてくるのか。カイトも流石にそこまでは予測できていなかった。だが、どういう行動を取ろうにしても、現状の戦力で二十分に対応できる。それでも念の為として、カイトは『時の庭園』の制御装置を操作した。これで30分後には動力炉が停止し、プレシアは娘の死体ともども、果てなき次元の海の中でひっそりと朽ち果てていくことだろう。

 

……後は、最後の仕上げだけ。敵役は既に消えたが、劇のクライマックスはこれからだ……

 

 ガジェットの残骸の中から、一機だけ機能を停止していないガジェット・ドローンが立ち上がる。与えられた命令通りに、魔力を持つ人間を攻撃しようとする。戦闘が終わり、和気あいあいと話している子どもたち。その中からガジェットががターゲットに選んだのは、消耗したフェイトではなく、未だ多くの魔力を残しているなのはの方だった。

 

 戦いが終わって、フェイトにもアルフにも、少しだけ気の緩みがあったのだろう。『それ』がなのはの真後ろまで近づいた時には、もう遅かった。もはやエネルギーの残量も少なく、ボロボロになったガジェットが選んだ攻撃方法は、自爆。残ったマニピュレータ・コードで目標を捕縛し、間違いなく致命傷を与えるのだ。

 

「きゃあっ!」

「なのはっ!?」

 

 フェイトはそれを射撃魔法で駆逐しようとするも、丁度なのはがガジェットの盾になるような形になり、迂闊に手出しできない。アルフは事後処理にかかっていて、遠くの場所にいる。絶体絶命。なのはが最悪の事態を覚悟した、正にその時であった。

 

 ドンっ、と横から強烈なタックルの音。その衝撃でコードが解かれ、なのはが開放される。そして、倒れこんだガジェットはそのまま自爆処理を続け――爆発した。爆発音に驚き、後ろを振り向いたなのはの目に映ったのは――爆風に吹き飛ばされ空を飛ぶ、カイトの姿。

 

「先生っ!!」

「父さんっ!」

 

 フェイトは高速移動魔法『ブリッツアクション』を使い、地面に落着する寸前でカイトをキャッチする。しかし、その額からは血が流れており、爆発の衝撃で意識は失われていた。細かい破片が体のそこかしこに刺さって、そこからも血が流れ出ている。

 

「父さん……父さん、ねえ、返事をしてぇ!」

 

 半狂乱になるフェイト。その一方で、なのはも茫然自失の状態でこの惨事を見つめていた。

 

……そんな、カイトさんが。私のせいだ、私の……

 

 自分を庇い、傷を負ったカイト。その痛ましい姿を見ている内に、なのはの心の中にどうしようもない虚しさと悲しさが沸き上がってくる。自分がいなければ。自分がこんな所にいなければ、カイトは傷つかなかった。自分への怒りが、さらに悲しみを倍加させる。人の痛みを自分の痛みに感じられるほど優しいなのはも、これほどまでに心を痛めたことは初めてだった。

 

 そして、フェイトも同じように嘆き、同じくらい深く悲しんでいる。その共通点が、なのはの中の密かな同化願望を満たしていった。今の自分は、フェイトと同じであるのだという錯覚が、なのは自身気づかない内に、その心を満足させて行くのだ。そしてそれは、もう一つの『錯覚』をも生み出すことになる。

 

「おーい、フェイト、そっちは……って、どうしたんだい!?」

 

 呆然とし、ただ動けないなのはとフェイトは、結局、アルフがそちらに向かうまで何も出来なかった。アルフは、混乱している二人に代わって、カイトを『何故か』無傷の医療室に向かって運んでいった。

 

 

   ***

 

 

 各部裂傷と打ち身、軽度の脳震盪で全治二週間。ナース・ロボットはそう結論した。医務室のベッドは初めて使われる事になり、今まで真新しかった部屋はとたんに薬の匂いに包まれた。体のそこかしこに包帯を巻かれたカイトが目覚めると、担当ロボットを無理やり押しのけ、看病を続けていたなのはの姿が目に入る。

 

「先生っ!……生きてて、本当に良かったぁ」

「なのはか……心配するな。この程度で死ぬ訳じゃないさ」

「でも……」

 

 なのはは深く悲しみ、その目に涙を浮かべる。しかしカイトは本当に、あれで死ぬつもりは無かったのだ――何故なら、あの爆発は、カイト自身が仕掛けたものなのだから。フェイトに「一機だけ残しておけ」と言いつけ、その一機に「カイトを」目標にした自爆プログラムをセットした。なのはを捕縛はするが、自爆をするのはあくまでカイトがその身代わりになってから、ということだ。なのはが悲しみ、迷い、そしてカイトの元に来たことは、全て筋書き通りの出来事だった。

 

 その効果は、今この光景に象徴される。ここにいるのがフェイトで無く、なのはであるということ。そして、なのはが涙を浮かべながら一生懸命に看病してくれたということは、なのはがカイトに相当の情を抱いているということだ。ここまでくれば、後は「意識操作」の出番だ。なのはが抱く愛情を、さらに深めてやり、二度とカイトから離れないようにするのだ。

 

 なのはと出会ってからここまで、かなり回りくどい方法ではあった。カイトの持つ力を最大限に使えば、もっと効率よくなのはを手に入れることが出来ただろう。しかし、フェイトの時と同じように、なのはにもあくまで自分の意志でカイトに歩み寄って欲しかった。

 

 それにカイトは、無敵で不屈のエース・オブ・エースを、一度でいいから守りたい、という夢を持っていた。今回の計画は、半ばそれを叶えるための舞台であった。敵は自前で用意して、絶対に傷つかない方法で。という極めて卑怯かつずる賢い方法ではあったが。

 

「なのは。私の目を、見てくれないか?」

「はい……」

 

 カイトの瞳孔に、青い魔法陣が現れる。その光が、なのはの心を犯していった。

 

 

   ***

 

 

 それから、数時間後。本を読み耽りながら、高町家からの差し入れである果物をかじっていたカイトの目の前に、二人の美少女ナースが現れた。

 

「父さんっ、これ、似合うでしょ?」

 

 一人はフェイト。純白のナース服に、鮮やかな金髪が映えている。頬はほんのり上気して、これから起こる嬌態にいささか興奮しているようだ。

 

「あ、あの、カイト、さん……どうでしょうか、この服」

 

 もう一人は、なのは。慣れないコスチュームに身を包み、耳まで真っ赤にしながらも、決然とした表情をしている。こちらの服はピンク色で、なのはの雰囲気にピタリと合っている。

 

「ああ、二人共凄く綺麗で、可愛いよ」

 

 嘘のない、本心からの言葉だった。幼いながらも、二人共実に美しい。この狭い病室に、二人の天使が舞い降りたかのようだと、カイトは感動した。

 

「これから、父さんの『治療』をするからね。なのは、父さんの服、脱がせて」

「ふえっ!? い、いきなりそんなことするの!?」

「だって、服脱がせないと『治療』出来ないよ。ここにはなのはと私、それに父さんしかいないんだから、今更恥ずかしがることも無いよ」

 

 フェイトはいつも通り、積極的に事を進めようとするが、なのはがそれに付いて行けなかった。オドオドと慌てるなのはを、フェイトは更にかき立てる。

 

「そ、そうだけど……やっぱり順序とか、そういうのが……」

「だあめ。もう私たちは父さんの物なんだから。父さんだって寝たきりで『溜まってる』だろうし、なのはは父さんを満足させてあげなきゃいけないよ」

「満足……させる……」

 

 その言葉で、ようやく踏ん切りが付いたのか。なのははごくり、と唾を飲み、一歩前に出て告げる。胸は高鳴り、心臓は、ドクン、ドクン、と大きい鼓動を続けていた。

 

「カイトさん、服、ぬ、脱がします!」

「分かった。ゆっくりでいいからな」

 

 先ずは、上半身から。なのはは小さい体を上手く使いながら、カイトの服を脱がしていく。シャツまで脱がし、上半身裸になったカイトを見て、その体温を感じただけでも、なのはの小さな羞恥心は爆発寸前になっていた。所々に包帯や湿布があるその体には痛々しい物があったが、しかし今のなのはは恥ずかしさしか感じられない。

 

……これが、カイトさんの、裸……私の好きな人の、胸、お腹、背中……あ、体、暖かい……あうぅ、恥ずかしいよぉ……

 

 なのはがあの時感じた『錯覚』。カイトが自身の『好きな人』であるという認識は、本来一過性のもので、時が経つとなのはの中で消化されるはずの、淡く弱い思いだった。しかし、カイトの「意識操作」を受けた今は、何があっても動かない、神聖かつ絶対の想いとして、心の奥に刻み込まれている。

 

……でも、私、もっと見たい。カイトさんの全てを。そして見せたい。私の全てを……

 

 ついに、なのはの手がズボンに掛かる。一瞬、戸惑うかのように震えた手は、それでも離れることなく、ゆっくりとズボンと、パンツを脱がしていく。なのはの緊張はもう極限を通り越して、少しでも気を抜いたら倒れそうなくらいである。

 

……フェイトちゃんに聞いた。カイトさんとエッチなことをすると、とっても気持ちがいいんだって……全身が、カイトさんと混ざって、ドロドロに融け合う様な感じがするって……

 

 なのはの目に、顕になったカイトの陰茎が映った。それは、何時かなのはが見た大人のそれではなく、ガチガチに堅い、臨戦態勢の物だった。その大きさに、なのはは息を呑んだ。

 

「うわぁ……」

「なのは、どう? これが、父さんのおちんぽ。こぉんなに腫れてるんだから、私たちで『治療』して、膿を出させてあげないとね」

 

 今度は、フェイトの番だ。不慣れななのはに手本を見せてやるように、ゆっくりと手を伸ばし、そっと亀頭を触り始める。その一触りだけでビクン、と震えるそれは、フェイトにとっては素晴らしく愛しいものであった。そのまま亀頭をなのはの顔に向けさせる。

 

「ほらなのは、匂い、嗅いでみて……ねぇ、凄くエッチな匂いがする」

「本当だ……臭くて、鼻にツンとくるけど、体の奥がポワポワしてくるよ……」

 

 匂いが癖になったかのように、くんくん、と鼻を嗅ぎながら、なのははカイトのモノを手に取る。そして、前もってフェイトに教わった通り、肉棒を小さく柔らかい手でしごき始めた。

 

「んっ、なのは……そうだ。それでいいぞ」

「どう、ですか? おちんちん、気持ちいいですか?」

「なのは、手でしごくだけじゃなくって、舌も使うの」

「え、えっと……ん、んちゅ、こうかな」

 

 淡い赤色をした、なのはの舌が亀頭に触れる。まだちろちろと、控えめなフェラチオだ。それだけでも、カイトにとってはかなりの快楽だった。どちらかと言うと、性器への弱い刺激ではなく、一生懸命ななのはの姿が興奮を誘っているのだが。達するにはもう一つ快感が足りないが、しばらくこのままでいるのもいいだろうと思えるくらいに、なのはは頑張っていた。

 

……もう、なのはったら、何してるの。もっと深く、激しくしないと、父さん気持よくなれないじゃない……

 

 そのたどたどしい奉仕は、フェイトをどうにもやきもきさせた。自分なら、カイトをもっと気持ち良く出来る。そう思うと、じっとしていられないのだ。勿論、なのはがまだ不慣れで、カイトがそれを許容していることは分かっていた。しかし、「父さんを気持ちよくさせてあげたい」という想いが、ある種の嫉妬に近い感情を引き出していた。

 

「ちろ、れろ……えぇと、こうしてこうで、それとも、こうですか?」

「なのは……そこは少し違うな。そう、そこだ、気持ちいいよ」

「本当ですか? 良かったぁ。私、フェイトちゃんみたいに上手く出来ないけど、いっぱい頑張りますからね」

「そうか。じゃあ、もっと続けてくれ」

 

……うぅぅ、父さん、優しすぎるよ……中々イケなくて、もどかしいはずなのに……

 

 時にはあらぬ方向に舌や手を走らせるなのはを、優しく見守るカイト。まだ10歳にも届かない幼子に性行為をさせているという背徳的な場面が、これではまるで学校の授業参観だ。情けない光景に、ついに我慢の限界が来たフェイトは、なのはを押しのけて、最大限に勃起した男根を思い切りくわえ込んだ。

 

「はむ、んぐ、ん、んじゅ、じゅるるる、じゅっぱ、ちゅう、ちゅう……」

「にゃっ!? ふ、フェイトちゃん、おちんちん丸ごと……」

「お、おいフェイト」

 

 強烈な刺激に呻き声を抑えながら、フェイトを制止するカイトだったが、その程度で彼女の暴走は止まらない。

 

【いいの! 父さん苦しそうだし、早く精液びゅって出してあげたいの! なのは、お手本見せてあげるからね】

「は、はい」

「フェイト、今はなのはの番……くぉぉ!」

 

 勢い良く頭を上下に動かして、バキュームのように棒をすする。モノを引っ張られるような感覚と、舌の柔らかさが相まって、今までにないほどの快感を生み出していた。

 

「ぢゅぼ、ぢゅぱ、ぢゅ、ぢゅるるるるるるぅ」

【お父さん、気持ちいいよね? 私のおくち、おちんぽ気持よく出来てるよね? 早く精液、口の中にドピュって出してよう】

「フ、フェイト、そんなにがっつくな。なのはが先という約束だろう」

【だって、もう我慢出来ないんだもん! だから、射精して? 私の口の中でも、顔にかけてもいいから、精液、欲しいのぉ】

 

 自分に自信を持ち、なのはから奉仕先を無理やり奪ったにも関わらず、フェイトの声には哀願の響きすら含まれている。それがカイトの興奮を引き出し、より早く、より高い絶頂へと導かれていくのだ。

 

……そんな、フェイトちゃんがこんなエッチな、ううん、凄いエロくて、いやらしい声を出すなんて……

 

 淫らな言葉たっぷりの念話は、勿論なのはにも聞こえていた。余りの内容に思わず耳を塞いだが、それで念話が防げるはずもない。容赦なく頭の中に飛び込んでくるいやらしい誘い文句は、なのはが持っていたフェイトへの憧れを、少しだけ壊してしまっていた。

 

「くっ、仕方ない、フェイト、出すぞ! 口の中に出す!」

【いいよ、全部飲むから。父さんの気持ちいい印、いっぱい私に射精して?】

「んぶ、んぐぐ、じゅ、じゅるるるぅぅ}

 

 最後のトドメとばかりに、喉の奥まで使って肉棒全てを飲み込み、その上で思いっきりバキュームする。それがきっかけになり、尿道から堰を切ったかのように精液が溢れだし、直接フェイトの喉へと注ぎ込む。

 

「く、フェイト!」

「んぐ、んぐ、ごく、んぅ……ちゅぅ、ちゅう」

「うわぁ、フェイトちゃん、凄い……」

「ぢゅるぅぅぅぅぅっ……ぷはっ! はぁ、はぁ」

 

 フェイトの口内奉仕は、正に底なしと言っていいくらいの快楽だった。しかし、なのはを無理やり追い出したことには感心できない。フェイトもあくまで善意でやっていて、使命感と忠実さ、そして大きすぎる愛情が暴走した形なのだろう。だがここは、少しお灸をすえてやらねばいけない。

 

「フェイト。今のはいけないよ」

「あ、父さん……それは……」

「今日はなのはが優先されるべきだろう? 少し考えれば、分かるはずだが」

 

 カイトは優しく静かに、諭すように話しかける。奉仕を終わらせ一息ついたフェイトは、冷静を取り戻し、自分のやったことの悪さに気づいたようだ。バツの悪い顔をして、しょんぼりと沈んでいる。

 

「あ、あの、カイトさん。フェイトちゃんには、お手本見せてもらえましたから……」

 

 争い事が嫌いななのはは慌てて止めに行くが、ここで追求を止めると、後々に禍根を残しかねない。確かにフェイトはなのはより先輩だが、カイトにとっては後も先もない。大切で、平等に愛している二人なのだ。だから、こういった一方的な暴走は、早めに止めさせなければならなかった。

 

「フェイト……」

「ごめんなさい、父さん」

「分かればいいんだ。でも、今回だけは少し罰を与えてやらなければな」

 

 しばらく考えて、カイトは一つ趣向を考え出した。今日はフェイトに手を出さず、フェイトの方からカイトに接触するのも認めない。しかし、この部屋から出ずに、カイトとなのはの情事を余すところ無く見ること。カイトの性器というご褒美を、目の前にぶら下げて、それが他人に触られ、奉仕されるのをただ見ていることしか許されない。フェイトにとって、拷問に近い所業だろう。

 

「そんな……父さん、いやぁ……」

「言い訳は聞かないよ。さぁ、なのは、こっちにおいで」

「あ、はぁい。でもフェイトちゃん、大丈夫かな?」

「最近、少しはしゃぎすぎてたからな。いい薬だ」

 

 毎日風呂に忍び込んで、ローションを体に垂らしすりついてきたり。時にはベッドに夜這いをかけて、気づいたら布団の中でフェラチオをしていたり。本来なら諸手を上げて迎え入れたい行為だが、何事にも限度というのがある。それにこれからは、なのはともう一人を加えて、四人で暮らさなければいけない。フェイトだけがカイトを独占できる訳ではないのだ。

 

「それじゃあ、もう一度、ご奉仕させて頂きます。ええと……ちゅ、んぐ、ぢゅぶ、れろ」

 

 もう一度、なのはの拙い口戯が始まった。どうやら、フェイトのそれを真っ赤になりながらもきちんと見ていたらしく、亀頭だけだが口内に含ませ、舌を器用に動かしている。余った棒の部分は、手を使って扱き、裏筋の部分を集中してさすっていた。

 

「あぁなのは、いいぞ。さっきのを見て学んだみたいだな」

「くぷ、じゅぽ、ちゅぅ、ちゅぅ」

【カイトさんに気持よくなって欲しいのは、私も同じだから。恥ずかしいけど……でも、カイトさんのためなら平気だよ】

 

 なのはは顔を綻ばせながら、口を休ませることなく念話で返答する。優しさと懸命さ、そして誠実さ。最初のフェラと全く変わらないその心に、カイトは深く感動し、興奮していた。

 

「父さん、ひどいよ、とうさぁん。こんなのないよぉ」

 

 一方のフェイトは、ひっく、ひっくとしゃくりあげ、涙を流しながらも、なのはとカイトの間で高まる雰囲気を感じ、それにつられて更に興奮していった。いつの間にか、その手はスカートやパンティの中から直接秘所に触れて、自分を慰め始めていた。自然と硬くなる乳首を、もう片方の手で弄り、報われない気持ちをせめて発散させようとしている。

 

「はぁ、あ、やぁん、父さん、なのはぁ……私、わたしぃ」

 

……父さん。どうして、どうしてなの、なんで私に、ご奉仕させてくれないのぉ……

 

 指の動きは最初から激しく、フェイトの濡れそぼったそこは、ぐちゅ、ぐちゅ、と水音を響かせる。その音は、なのはの耳にも入っていた。目を横に向けると、口を開き、だらしない顔で自慰をするフェイトが見えた。

 

……フェイトちゃん、こんなに乱れて、めちゃくちゃになって……カイトさんのこと、大好きなんだね、本当に愛してるんだね……

 

――だけど。自分だって、その気持ちは負けてない。

 その証として、カイトをより気持よくさせるため、なのはは思い切って口全体を使い、カイトの太く熱い剛直を飲み込む。途端に嘔吐感が湧き出てきたが、頑張って我慢し、額を寄せ、汗を流しながらも深い奉仕を続ける。

 

「ちぅ、ぢゅ、ぢゅううううっ」

「くぅ、なのは、出るぞ、口を離すんだ……」

【ううん、このまま、口に出してください】

 

 自分の汚液に慣れていないなのはを気遣うカイトだったが、なのはは構わず奉仕を続ける。

 

 

「なのは……っ!」

「う゛、うむぅううう!? んぐ!んんっ!」

「あ、イク、イクぅ、なのはのフェラ見ながら、イッちゃううぅ!」

 

 二度目の射精が始まり、どく、どくと溢れる精液がなのはの喉を打った。口の中で飲み込み切れなかった精液が、なのはの唇とカイトの肉棒の隙間から溢れていく。その光景を見ながら、フェイトもまた絶頂した。

 

「ん、げほ、けほっ、うむぐ、んっ……」

「なのは、大丈夫か? ほら、慣れてないと苦いんだから、全部吐き出すんだ」

【大丈夫、です。これは、カイトさんのものですから】

 

 少なからず精液を吐き出したなのはだったが、それでも、口の中にある程度の量を残すことが出来た。それを含んだまま、イッたばかりで顔を弛緩しているフェイトの眼前に、自分の顔を持っていく。精液を少しでも零さないよう、念話を使い、話しかけた。

 

【フェイトちゃん】

「んぅ? なのはぁ……むぐっ!」

「ん、ちゅぅ、んむ、んぐぅ……」

 

 なのはは、フェイトにキスをした。突然の口付けで意識を覚まされ、驚くフェイトだったが、なのはがフェイトの口に舌をいれて、口移しで『それ』を流し込むと、なのはの意図を理解した。

 

【なのは、これ、父さんの精液……】

【ふふっ、フェイトちゃん、これ欲しかったんでしょ? カイトさんの、苦くて、ねばっ濃い精液】

 

 そう。なのはは切なく自分を慰めるフェイトを可哀想に思い、カイトの精液を口移しであげたのだ。

 

【え、でも、なのはだって、父さんの】

【だって、フェイトちゃんがお手本見せてくれたから、私、カイトさんをイかせることが出来たんだよ? だから、二人で半分こ】

 

 フェイトは胸が一杯になった。好きな人への奉仕の機会を奪い取り、勝手に事を進めてしまった自分に、なのははこうも優しくしてくれる。がっついた浅ましさへの反省と、なのはの優しさに対する感謝が、フェイトに再び涙を流させた。

 

【ごめん、ごめんねなのは。私、父さんを気持ち良く出来なくて、なのはに、父さんを取られると思って、わたし】

【いいよ。私だって、フェイトちゃんと同じようなこと考えてたもん。カイトさんにはフェイトちゃんがいるのに、私なんかが混ざっていいのか。って】

 

……そうだったんだ。だから父さんは、自信のないなのはを優先させたんだ。そんなことも分からないで、私ったら、なんてバカな……

 

【勿論だよ、なのは。これから、二人で父さんの物になろう。二人で一緒に、ご奉仕しよう】

【そうだね。私も、フェイトちゃんと一緒にいたい。二人で、幸せになろ(おちよう)?】

 

 指を絡ませ、舌を絡ませ。激しいキスの最中に、二人は真の友情で結び合った。名前を呼び合い、リボンでなく、互いの体液とカイトの精液を交換し合いながら。

 

【カイトさん、ごめんなさい。フェイトちゃん放っておけなくて】

「いや、いいよ。むしろ、なのはがこうしてくれて助かった」

 

 出すぎたことをしたかと謝るなのはだったが、カイトは笑ってそれを許す。カイトにとっても、この行動は予想外だった。だが、このままカイトが事を収めるより、間違いなく二人にとって良い結末だろう。

 

「ん、ちゅ、ぷはっ……なのは」

「フェイトちゃん……」

 

 名残惜しげに唇を放し、乱れた服を整えて。二人は揃ってカイトへ振り向き、にっこり笑って宣言した。

 

「父さん」

「カイトさん」

「私たち二人のご奉仕で、幸せになって(たのしんで)くださいね♡」

 




うーむ、エロ書くまでが長い、長すぎる……
というかこれ、なのはと言うよりなのフェイ編ですね。申し訳ありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

なのは編③

(注意)
今回、ちょっと短いです。(具体的に言えば前回の半分チョイ)
追加で何か書くか、ひょっとすると2.5扱いになるかもしれません。
その辺りご了承頂いて、御覧ください。


 高町なのはを『パラディース』の乗客に仕立て上げる時に、一番の障害になるのが高町家である。彼ら全員を『意識操作』して、『パラディース』に乗せても邪魔になるだけだ。一匹だけの使い魔であるアルフとは訳が違う。かと言って、まさかプレシアの様に排除してしまうという訳にも行かない。なのはにも、フェイトのように家族のことを忘れさせ、そして記憶を再構築すれば問題はないだろう。しかしカイトは、フェイトを道具扱いし、罪を犯したプレシアと違って、何らの罪もなく、なのはを愛し育ててきた高町家の人々を、傷つけたくはなかった。悩みに悩んだカイトは、結局腹案の一つを採用することにした。なのはをミッドチルダに『留学』させるのである。

 

 筋書きはこうだ。なのはは魔法の授業を進めていくうちに、より深く魔法を学びたくなる。しかし、カイトの指導と『パラディース』の設備では自ずと限界が見えてくる。そこで、魔導の本場たるミッドチルダの魔法学校に進学したいと申し出るのだ。なのはの成長に関しては、自主性を重んじる立場をとる士郎と桃子も、流石に異世界の学校へ留学することには慎重な態度を取るだろう。だが、公共機関である管理局への入局、即ち就職を、中学校卒業の段階で認めた親子である。説得すれば必ず理解を示し、小学校卒業段階での中等部編入くらいには漕ぎ着くことが出来ると、カイトは踏んでいた。

 

 なのは自身も、この案には大賛成だった。空を飛ぶのが好きな彼女は、それと同時に魔法の奥深さにも魅せられていった。最近では、探索魔法、結界魔法、治癒魔法など様々な分野に手を出しつつある。勿論、砲撃魔法にも興味を示している。このまま行けば、カイトの知る『高町なのは』とは違い、尖りのない、しかしよりバランスの取れた魔導師なのはが生まれることだろう。

 

――そんななのはも、一目でいいから是非拝みたいものだ――

 

 なのはとフェイト、そしてはやて。この世界にいる彼女らは、間違いなくカイトの知る三人の女神たちだ。しかし、カイト・フォレスターという人間が、彼女らの人生に関わる時点で、それはもはやカイトの知る三人とは全く違う存在になってしまうとも言えるのだ。それは、仕方のないことだ。ならば、彼女らを手に入れるカイトは、変わってしまった彼女らが選ぶ『自分』を肯定する必要がある。だからカイトは、彼女らには自分の許せる範囲で最大限の自由を与えるつもりなのだ。

 

「それでは、今日の座学はここまで。復習を忘れずに」

「はーい、お疲れ様でした!」

 

 『パラディース』の船室にて、座学の時間。こうやってじっくり物事の理論を教えるのは、『パラディース』内ではカイトにしか出来ない仕事だ。しかもなのはのスキルが上がり、実技にカイトがついて行けなくなった。そこでこうしてカイトとフェイトで分担して教えている訳だ。元気良く、はつらつとした仕草で起立し、礼をするなのは。物を教える側からしても、気持ちのよい行動だ。品行方正、という言葉が似合う。

 

「それじゃあ、今度は実技だから、フェイトの所に行って」

「あ、ちょっと待っててください。先生……ううん、カイトさんに見せたいものがあるんです」

 

 なのはは、こうした授業の時間内ではカイトを「先生」と呼び、私事や情事では「カイトさん」と呼ぶ。小学生のなのはなりに、公私の区別をつけているつもりなのだ。そんななのはが、あえて「カイトさん」と呼ぶ。どんなものだろうかと、カイトの興味は惹きつけられた。

 

「見せたいもの、というのはなんだ? ここで見せられないものか?」

「いえ、そういうことじゃないんですけど……お時間、頂いてもいいですか?」

 

 構わない、とカイトが許可すると、なのははレイジングハートを持ち、起動した。なのはの周りがピンク色の燐光に包まれ、ぱっと霧散して消える。そして現れたのは、フェイトのものを白基調にアレンジしたようなバリアジャケットを着たなのはだった。スカートやマントは外されていて、よりくっきり体のラインが浮かんでいる。

 

「……えと、どう、ですか?」

 

 露出度の高い格好が恥ずかしいのか、もじもじして顔を赤らめ、俯きながら問いかけるなのは。ツインテールがくいくいと揺れるその仕草だけでもカイトには可愛らしく、辛抱がたまらなくなりそうだった。が、それ以上に気になるのが、どうして恥ずかしがり屋のなのはがこんな格好をしたのかだ。

 

「なのは、これは一体どういうことだ」

「え……そんな、私のこの格好、嫌いですか?」

「そうじゃなくてだ。どうしてそんなバリアジャケットをしているかということだ」

「それは、ですね。羨ましかったからです」

 

 なのはが話したのは、以下の通りだ。

 

 実技を見ているカイトの目線が、よくフェイトの方に向けられている。どうしてなのか。自分が魅力的でないのかとも考えたが、原因はフェイトのバリアジャケットにあった。なのはのそれより露出が高く、ボディラインの現れるデザイン。それが、訓練であちらこちらを飛び回る。当然、きわどいアングルというのも存在するわけで、健全な男であるカイトが目を向けてしまうのは仕方がない。

 

「だから、フェイトちゃんと同じ、ううん、それよりもっとエッチな格好したら、カイトさんがもっと私を見てくれるかな、と思って……最初は、わざとパンツ履かないとかそういうのも考えたんですけど、流石に恥ずかしくって……レイジングハートにも無茶言って、一着作ってもらったんです」

「俺のために、か」

「はい。カイトさん……気に入って、くれましたか?」

 

 なのはは、かなりの恥ずかしがり屋である。今までカイトと行為をする時にも、服を脱ぐのが遅かったり、フェイトと違って「いや」とか「だめ」という言葉が口から出たりする。それはそれで初々しさと恥じらいを感じられて興奮するのだが、フェイトという成功例がもう少しカイトに対してオープンな態度をとることを考えると、どうにも幸せにできて(おとしきれて)いないのではないかと考えることもあった。

 

 しかし、この行動を見て、それは杞憂だとはっきり確認できた。なのはは、カイトのことを愛してくれている。だからこそ、カイトに対して恥ずかしがりもするし、緊張して初々しくもなるのだ。そんなことを考えて、カイトは心の中でほっと息をついていたのだが、その時の無表情がなのはには応えたらしく、ショックで落ち込みながら口ごもった。

 

「そうですよね。私フェイトちゃんに比べたらスタイル良くないし、こんな格好しても……」

「そうじゃない」

「ふにゃっ!?」

 

 カイトは思わず声を荒げ、そのままなのはを押し倒した。なのはは突然の行動に素っ頓狂な声を出して驚き、カイトの為すがままに仰向けになった。その目が見たのは、膨らんだペニスに押されてパンパンになっているズボンだった。なのはのバリアジャケットは、カイトを安心させるだけでなく、その欲望のたがを外すことにもしっかり成功していたのだった。

 

「なのは、これが見えるか。俺のはどうなっているか」

「……おっきくなってます。カイトさんのおちんちん、スボンでギュウギュウになってます」

「そうだろう。なのはの姿を見て興奮したんだ。なのはの腰が、胸が、太腿が。はっきり見えて興奮したんだ。どうだ、これでも気に入っていないと言えるか」

 

 ここまで来て、やっとなのはは気づいた。カイトは、この水着のような服装を気に入ってくれている。しかも、いつもなのはの好きにしてくれたのが、今回は自分から押し倒すくらいに。犯したいと思うくらいに。 そう分かると、なのはも途端に興奮してきた。ひょっとしたら、そのままここでエッチに入ってしまうかもしれない。

 

「あ、もしかして、気に入ってくれたんですか?」

「当たり前だ。そんなエロいなのはを前にして、我慢なんか出来ない」

「じゃあ……」

「俺をこうさせた、責任を取ってくれ。ここでいい」

 

 そして、カイトはその期待に応えた。ベッドでもお風呂でもなんでもない、ごく普通の船室で、二人きりでまぐわう。「いけない」と思う羞恥心と、「幸せになりたい(とかされたい)」という欲望が混ざり合って、なのはの陶酔はさらに深くなっていった。

 

「はい……何、しますか? お口でしますか? それとも、手ですか?」

「そうだな。折角そんなものを着ているんだ。有効に使わせてもらうとしよう」

 

 先ずは、一回肉棒を口に含ませる。なのはが口で感じたカイトのそれは、今までなのはが見たものより少しだけ大きくなっているように感じられた。そのまま、口の中で唾液をたっぷりつけさせる。れろ、れろと舌でねっとりペニスを舐める舌はいつもより控えめだ。これからする新しいプレイに期待して、いつもは全力を出す口での奉仕を、あえて控えめに抑えたのだ。

 

 カイトは、なのはの上体を机にうつ伏せにさせた。机の後ろから見ると、尻を突き出すような形になる。チャックを開けて大きくなった陰茎を出すと、それはなのはの尻、その割れ目にあてがわれ、そのまま前後に動き始めた。

 

「あっ……ゃん……」

「なのは、どうだ。俺のが分かるか」

 

 ラバー状の材質と、なのはの肉付き良い尻の柔らかさがペニスの裏筋を擦り、口とも手とも違う独特の感覚が生まれる。そしてなのはの方でも、陰裂に擦付く棒に強い性感を覚えていた。

 

「あっ、あっ、カイトさんの、硬いおちんちんが、お尻の上で動いて、おまんこも、ふぁぁ」

「お前がこんなに可愛くて、エロいからだ。お前が好きだから、こんなになっているんだ」

「わかりますぅ、うぁ、あ、ひぃ」

 

 カイトの腰は激しく動き、肉棒越しになのはを突き上げるようだった。それがなのはには、まるでカイトが自分を後ろから犯しているように感じられ、後背位で犯される時と同じように発情していた。

 

……カイトさんが、わたしを突いて、犯してる。わたし、これでカイトさんと、ひとつになってるの、かも……融け合ってるの、かも……

 

 本当にセックスしている訳ではない。だが、なのはは今、たった一人の好きな人と、体を触れ合わせている。だから、精神は既にカイトと触れ合い、通じあっている。そういう意味では、肉体的接触が薄くとも、なのははセックスをしていると言える。好きな人に抱かれる嬉しさが、なのはの身体に快感となって駆け巡る。

 

「なあ、なのは、気持ちいいのか? お前、感じているのか?」

「はぃい、カイトさんのをお尻で扱いて、私まるで、エッチしてるみたいで気持ちいい!」

 

 まるで、エッチしてるみたい。その一言が、カイトにあることを思い出させた。

 

……そう、これはあくまで前戯。全てが揃うまでの、長い長い前戯……

 

 何時まで続くのか、何処まで続くのかわからない、しかし、幸せと快楽に満ち溢れた時間。しかし何時かは、この前戯を終わらせて、『本番』に入らなければならない。それは、儀式であるべきだ。カイトの求める少女たちが、その身を真にカイトへ捧げる、神聖な儀式であるべきだ。

 

「じき、処女も奪ってやるからな。そう長くはかからない。楽しみに待ってるんだ」

「ほんとですか? カイトさんと、ホントのエッチ……すごくワクワクして、興奮してきちゃう」

 

 肉尻に、男根を当てて動くだけで、ここまで乱れる事ができる。ならば、その剛直で本当に処女膜を破り、未成熟な膣を蹂躙し、排卵前の子宮に精液を吐き出したら。カイトもなのはも、その光景を想像すると、さらにお互い恍惚し、絶頂に向けて動きが早まっていく。

 

「ああ、ひゃうぅ、おまんこ、気持ちいいのぉ! 服越しなのに、カイトさんの、硬くて、ぐりぐりするぅ!」

 

 なのはの膝が、がくがくと震え始めた。カイトも微かに呻き声を上げ、亀頭の充血がさらに顕著になる。互いの息は、とっくに荒くなっていて、今や半分思考を投げ出し、獣のようによがっていた。

 

「あぁん!や、は、はぁぁ、ぁ、ぁ、ぁ、あっ」

 

パチュンパチュンと、腰と尻のぶつかるリズミカルな音。意識が薄くなり、目が垂れる。なのはは完全に机へ身を投げ出し、うつ伏せで寝そべっていた。

 

……カイトさんとエッチ、気持ちいい。カイトさんが私を犯して、私がカイトさんの欲望を受け入れて。どっちがどっちだかわからなくなるくらい、幸せになっちゃう(とけちゃう)よぉ……

 

 フェイトが、カイトの手のひらの上で快楽に幸せになる(おちていく)ならば、なのははカイトと混ざり合って幸せになる(とろける)と言うべきだろう。フェイトはカイトに絶対的な父性を求め、なのははカイトに「導く」者への恋心を抱いた。二人共、カイトの存在を最上にして唯一無二の物だと考え、それを第一に行動していくのだ。

 

……あっ、カイトさん、イキそうだ。お尻で感じてても、おちんちんの筋肉びくびくして、擦るスピードが早くなって……

 

 カイトが冷静な顔を捨て、何よりも真っ直ぐになのはを求めると、なのはもそれに応えて興奮する。そして、なのはの興奮に合わせて出るフェロモンに、更にカイトも興奮し、そのスパイラルがやがて絶頂へと通じるのだ。

 

「なのは、出るっ、なのはの背中に、精液たくさん、出すぞ」

「出してぇ、んぁ、熱いの、背中にいっぱい! あ、なのはも、もうイっ、ゃあ、イッちゃうから!」

 

 その言葉を、やっと出すのが限界だった。鈴口から勢い良く精液が迸り、白ラバーに包まれた背中へと降り注ぐ、濃く、粘り気のあるそれの、大きなひと粒がポタリ、と背中にはう度に、なのはの身体全体がビクンと震え、絶頂を持続させていた。

 

「あ゛、あ、ぁ、ぁう……カイトさんの精液、熱い……背中に暖かさが、やけついちゃう……」

「なのは、気持ちよかったぞ」

 

 カイトは笑顔を浮かべて、なのはの頭を撫でた。くすぐったいように目をつぶるなのはだったが、急にカイトの胸の中に飛び込んで、ぎゅっと身体を抱きしめる。

 

「なのは?」

「このままで、いてください……カイトさんの体温、感じたいから……」

 

 致した後の人間は、体温が上がって暖かくなる。それを知ってか知らずか、なのははカイトの体温が一番感じられる時に、カイトを抱きしめたのだ。その通りに、熱い身体と、汗臭くなった匂いがなのはの五感を刺激し、なのはの身体もまた暖かく、まるで本当に合わさってひとつになったかの様に感じられる。

 

……あぁ、このままずっと、ずっとカイトさんと幸せになりたい(とけていたい)……

 

 カイトも、なのはを抱きしめ返した。安心しきった顔をして、カイトの胸に頬をすり寄せるなのはを、愛しく思ったからだ。二人の気持ちは通じ合った。二人は今、紛うことない『セックス』をしているのだ――

 




重ね重ね書きますが、短くて申し訳ありません。
その分エロ多めというか、むしろ通常がエロ成分少なすぎというか。
兎に角、書けたいもの(フェイトとなのはの違いと水着尻コキ)は書けたので投下しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

はやて編①

期待している方はごめんなさい。今回もエロありません。


 八神はやての一番の娯楽は、図書館に行くことである。小学校には行けず、他に行く所と言えば病院だけで、変化のない生活。そんな日常に飽き飽きしている時に、自分の知らない場所や物、面白い物語を提供してくれる本は、はやてにとって最高の友達だった。今日は、どんな本と出会えるだろうか、そんなウキウキとした思いを抱き、図書館の自動ドアをくぐったはやてが見たものは、受付に人すらいない、無人となった館内の、ガランとした風景だった。キョロキョロと辺りを見渡しても、誰かが出てくる素振りすら無かった。

 

……これは、なんなんやろ。ドッキリかな? いや、もっとこう、図書館とは『別の場所』に来ちゃったかも知れへん……

 

 既に閉まった自動ドアから抜けだそうとするも、それはぴしりと閉じて開かない。というより、はやてと自動ドアの間に一枚の壁があるような感じだ。外に出る方法がないと分かると、はやては館の奥へ向かって車椅子を動かした。別に、何か覚悟を決めたわけではない。このまま立ち止まった所でひ弱な自分にはどうすることも出来ないし、この状況を作った人が自分を害するというなら、それでも良いと諦めただけだ。

 

 別に、自分が一人いなくなった所で誰も迷惑しないし、悲しまないとはやては考えていた。何故、そう断言出来るのか。はやてが今まで人との関わりを遠くしていたからだ。完全に断ち切ると言うことではないが、自分を「特別な存在」と思う人を作らせないように立ち回る。それが、はやての処世術だった。自分の障害はだんだん重くなっていくし、治る目処も立たない。そんな不毛な状況に、出来るだけ他人を巻き込みたくなかった。だから、誰とも親しくならない。親を亡くし、本来頼るべきでない他人に迷惑をかけてばかりの人生、その終わりくらいは、誰にも迷惑をかけずにひっそりと消えていきたかった。

 

 もちろん、はやてを大切に思い、それを苦にしない人は、はやての思う以上にたくさん存在した。はやてを担当する石田医師や、はやてを担当したヘルパーたちも、皆はやてに「幸せになってほしい」と願っていた。しかし、はやては自分が誰かに愛されていると、思いもしなかった。先ず自分を愛してくれる親を早くに失っていたから、「愛される」ということに鈍感だったのかもしれない。

 

 はやては通路を通り、本棚の間をすり抜けながら、無人の図書館を動きまわる。普段いるべき人たちがいなかったから、意外に早く探索することが出来た。そして、はやてがいつも本を読む、奥まった所の読書室に入ると、そこには先客がいた。車椅子に座るはやての目線からは、その男の腰から肩岳が見えて、高い壁の様に思えた。しかし男はしゃがみ込み、はやてと目線を合わせて、名乗った。カイト・フォレスターと名乗るその男が、この場を用意したらしい。

 

「本当は君の家に行こうと思ったんだが、あそこは危険だからね。監視の目が強い」

「監視?」

 

 カイトがいう監視というのは、はやての家に居着く二匹の猫だった。彼らは魔法を使う使い魔という種族で、日々彼女を監視しているのだという。はやては一瞬冗談かと思い笑おうとしたが、このような舞台を作り出し、人目を避けてまで言う事なのだから、少しだけ信じてみようとも思い、あえて何も喋らなかった。

 

「私はね、君のことが好きなんだ」

「はあ」

 

 好き。見ず知らずの、年も離れた男に何気なくそう言われて、はやてはとぼけたような反応しかできなかった。つれない態度にもめげずに、カイトは話のペースを上げていく。

 

「君のことが好きだ。どうしようもないほどに。だから、君を治してあげたい」

「治す……?」

 

 この人は、私を治療したいのか。そう、はやては納得して、そして失望した。治療という言葉に、あまりいい思い出がないのだ。痛くて辛いのに、何の効果もなく、ただ病状は進んでいくだけなのだから、当然だった。

 

「今までのような対症療法じゃない。もっと根本的なものだ。君の神経麻痺、その原因を君から外す」

 

 その程度の言葉では、はやては心を開かなかった。今までも、この男のようなことを言って、結局なにもできずにはやてから離れていく医者や研究者がいたのだ。その中で残ったのが、今はやてを担当している石田医師である。

 

「信用していないね? だが、私は『魔法使い』だ。今まで君を治そうとした医師とは、やり方が違う」

「魔法使いさん、なんですか? 私の足には呪いがかかっていて、それで動かせなくなっとるって、ゆうんですか」

「その通り。その呪いを、元から断ち切ってやるんだ」

 

 魔法、そして、呪い。本の中でしか見ることの出来ない、嘘と虚構に満ち溢れた単語だ。しかし、そんな怪しい言葉が出て来たおかげで、はやてはようやくカイトを少しだけ信じるようになった。現代科学や医学が駄目なのだ。だったら、本当に魔法や呪いの仕業なのかもしれない。やれるものなら、やってもらおうではないか。半分小馬鹿にするような気持ちで、はやては男の提案に乗ることにした。

 

「ええですよ。魔法で本当に治せるんなら、どうぞ治してくださいな」

 

 巫山戯た態度でからかうはやて。その顔に微かながら笑いが起こったのを確認し、深く満足しながら、男ははやてを治療することにした。ベッドや器具を用意する必要はない。ただ、車椅子に座ったはやての胸元に、右手を近づけるだけでよかった。

 

「なに、するんですか? 呪文? それとも、お祈り?」

「どちらでもないさ。ただ……」

 

 そこまで言いかけて、カイトの顔は憂鬱に沈んだ。この方法を取ると、激痛を伴うことになり、先ず間違いなくはやてを苦しめてしまうのだ。しかしながら、麻酔や鎮痛剤を、使うわけにも行かなかった。そのことを話すと、はやてはからからと笑ってあっさり引き受けた。

 

「ええですええです。痛いのにも、辛いのにも慣れてますから」

「そんな次元のものじゃない。君の中にある、大切なものを切り取ることになる。君は知らないだろうけど、君の未来にとって重要なものになるかもしれない。それでも、いいのか」

 

 その言葉に、少しだけはやては躊躇した。

 

「大切なもの、ってなんですか?」

「リンカーコアといってな。魔法の源になるものだ。君は魔法を使える素質があるが、それを取り除かなければ呪いを解くことは難しいんだ」

 

 深刻な口調で言うカイトだったが、はやては拍子抜けした。魔法を使えなくなるのは確かに損なのかも知れないが、今の自分に、魔法なんて必要ないのだ。

 

「ええですよ? リンカーコアがなんだかはよくわかりませんけど。私は、この足が何とかなれば、それで」

「……分かった」

 

 兎に角、はやての許可は得た。後は、はやてから『闇の書』というしがらみを解き、カイトのものにするだけだ。カイトははやての肩の力を抜かせ、すうっとリラックスさせた。初めて触れた時、何事にも力の入ったなのはとフェイトとは違い、はやてはいとも簡単に落ち着いてくれた。それははやての達観から来るものだった。自分の将来、未来、それに何ら希望を持っていないのが、この時の八神はやてだった。

 

……なら、希望を与えてあげなきゃな……

 

 カイトは改めて決意した。この少女を、幸せにしてやるのだ。彼女の身体を、壊してでも。

 

 

   ***

 

 

「行くぞ……胸のほうだ……心臓を、鷲掴みにされるような、痛みが来る」

「はい」

 

 デバイスを展開。円盤形になったそれを、はやての胸の上に置く。そして、術式を展開。今からカイトが実行するのは、ミッドチルダの魔法の中でも、飛びきりに過激な物の一つ。リンカーコアを摘出して、破壊する魔法だ。魔法学校などでは教えられないし、管理局員が使うにも正式な許可がいる、禁呪レベルの術式。しかし、八神はやてから魔力を無くし、『闇の書』を新たに旅立たせるために、カイトが出来るのはこの方法しか無かった。

 

 カイトが見た歴史のように、闇の書のページを埋めて、主の意識が無くなり暴走が始まる土壇場で抑える方法もあった。カイトの持つ戦力をフルに活用すれば可能ではあるが、これは余りに不確定性が高すぎる。危険な作戦に、自分とはやての運命を賭ける訳にはいかなかった。

 

「リンカーコア、摘出……もうすぐだ、なるべく早めに、終わらせる。すまないが、耐えてくれ」

 

 はやての胸から、淡い白色の光球が現れる。なのはやフェイトのそれと違って、弱々しく朧なものだ。しかし、魔力を蒐集するのではなく、完全に破壊するとなると、かなりの苦痛がはやてを襲うはずだった。しかし、麻酔で意識を無くせば、リンカーコアの摘出は困難になる。既に魔力とコアを認識している魔導師ならば簡単だが、一から現出させるとなると、どうしても意識を保ってもらわなくてはならない。

 

 カイトは自分の力不足を呪った。いくら未来の知識を持っていようとも、財力と権力を備えていても、はやてという少女一人、苦しませずには救えない。その意識は傲慢とも言うべきだが、例え一分だけでもはやての苦しむ顔を見るのが、カイトにはとても辛かった。

 

……この人、本気で申し訳なさそうに謝っとる……私のこと、大切に思うて、くれてるんやろか……

 

 曲がりなりにも強い感情のこもった一言に、はやての心は揺れ動いた。はやては仰向けになって、その目に映るのは真剣なカイトの顔のみだ。出会ってから10分も経っていないというのに、今はやてはこの得体のしれない男に自分の大切なものを任せ、壊すのを眺めている。不思議な感覚だった。

 

 はやてにとって、1つだけはっきりしていることがある。このカイトという男は、本気の本気ではやての足を治そうとしてくれているということだ。もちろん、カイトにはカイトなりの見返りも打算もあるのだろうと、予測は出来た。だが、最初に会った時の「好き」と同様、はっきりと気持ちをぶつけてきてくれているカイトのことを、はやては段々と信じるようになった。

 

「……いくぞ」

 

 カイトが、白いリンカーコアをぎゅっと握る。すると、激痛がはやてを襲った。それは、心臓を引き抜かれて、そこから全身に張り巡らされている血管がブツブツと切れていくような、鋭く激しい痛みだった。

 

 はやてはその苦痛の最初に、あぎゃ、と大分女の子らしくない声を出してしまったことを認識できた。その後に、読書室どころか図書館全体に響き渡る、正に気が狂った叫び声を上げたのだが、その頃にはすっかり意識が混濁していて、ただ苦痛だけがはやての心を満たしていた。

 

【い゛だぃ!い゛だぃい゛だぃい゛だぃい゛だぃい゛だぃ、い゛だぃぃぃいぃぃぃぃぃいぃぃ!】

 

 心の中で生まれる苦痛への叫びは、無意識の内に念話となってカイトの心の中に響き渡っていた。肉体的にも精神的にも、はやての絶叫は、愛する者の苦悶の声は、カイトの精神を削っていく。しかし、ここで手を緩めてはいけない。中途半端なリンカーコアの覚醒は、『闇の書』を目覚めさせる手助けをするだけだ。固く構成されたこの広域結界は、使い魔リーゼ姉妹と闇の書の介入を防いでくれている。しかし、それだっていつ、はやての魔力で内側から破れるか分からないのだ。

 

……はやて……

 

 カイトの心の中は、煩悶と苦悩で一杯になっていた。はやてを自分のものにしようとする意志は、まだ揺れてはいない。しかし、白目をむいて、声にならない絶叫を上げながら、カイトがかけたバインドを解き苦しみから逃れようと、必死に上半身を動かすはやてがそこにいる。はやてが意識を失って楽になろうとしても、リンカーコアを顕現させるための術式の副作用で上手くいかないのだ。さしものカイトも、いや、はやてを愛するカイトだからこそ、自分のしていることの意味に疑問を感じざるを得なかった。

 

【もう゛い゛や゛ぁ! はやく、はやくわだじを゛を゛ぉぉ!】

 

……だが今は……できるだけ早く楽にしてやるしか……ない!……

 

 手を震わせながら、それでも迷いを断ち切り、カイトは術式を最終段階に移す。激しく鼓動するはやての胸上に、何個もの魔法陣が展開した。それらは激しく光を放ち、はやての身体とそのリンカーコアの間に、一枚の壁を作った。そして、リンカーコアを手にしているカイトの右手が、勢い良く引っ張られ、リンカーコアが体内から完全に離れた。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

 

 はやての最後の絶叫が、室内に響く。それを最後に、はやての意識はぱったりと途切れ、汗と涙とその他の体液でベトベトになった身体は、車椅子の背もたれにのしかかった。

 

 そして、カイトの右手に残されたリンカーコアは、光球の形を失い、白い光となって空中に舞い散った。それは、まるで清廉な冬の新雪のように、気絶したはやてと疲労したカイトに降り注いだ。

 

 

   ***

 

 

 しかし、カイトの仕事はまだ終わっていない。はやての気絶を確認して早々、デバイスから『パラディース』への直接回線を引き出す。薄暗い倉庫の中ででその呼び出しに応答したのは、紫髪の若き天才科学者、ジェイル・スカリエッティである。彼は今、『パラディース』の倉庫内で、ある計画を目論んでいる。

 

「ジェイル。こちらは摘出と破壊に成功した。そちらの首尾はどうだ」

『ナンバー2ドゥーエからの報告だ。君と僕の予測通りに闇の書は転移を完了し八神家から姿を消したよ』

 

 はやてが生まれた時からそのリンカーコアの大きさと魔力資質に目をつけ、転移してきた『闇の書』。それをはやてから引き離すためには、はやてのリンカーコアを破壊し、はやてから資質を無くせばいい。そうすれば、用なしとなった主を見捨てて、闇の書は新たなる主のもとへ旅を始めるだろう。それが、ジェイルとカイトの出した結論だった。結果は的中。少なくとも、これではやては闇の書の束縛から脱することが出来たのだ。

 

「で、どうだ。実験体の方は」

『まだ来ないね。流石に次元の海を超えると探知するのに時間がかかるか』

 

 ジェイルは今、あるものが自分の目の前に飛んでいくのを待っている。それは、カイトがかつて言っていた「世界を遊び場にする計画」の重要な1ピースだった。二人はしばらくモニタ越しに顔を合わせながら、その結果を待っていた。

 

『む。少し待ってくれ………来たよ。確かに闇の書だ。実験体のリンカーコアに取り付いている』

「成功か! 良かったな、ジェイル」

 

 そして、計画は成功した。ジェイルが作り出した、リンカーコア付きの肉体、通称『実験体』の魔力を探知して、闇の書が転移。頭も四肢もない身体だけの『実験体』を次代の主と認めたのだ。主の意思なしに起動しない『闇の書』は、これで永遠に覚醒せず、ただの本のまま停止することになる。

 

 この事を考慮して、なのはとフェイトはジェイルのラボに避難していた。カイトもリンカーコアは持っているのだが、『闇の書』は魔力の高い、素質のあるものを見つけ出し転移する。『実験体』のリンカーコアの魔力はAAAランク。それを誘蛾灯にして『闇の書』を誘い出すのがカイトの計画だった。そのために、ジェイルを急かしてまで舞台を整えたのだ。はやてのリンカーコアが自然に覚醒するのは現地時間の6月4日。今は5月の初旬である。後一ヶ月遅れていたら、計画は成立し得なかったのだ。

 

『これでようやく次のステージに移れるよ。古代ベルカの秘伝を伝え今の世に呪いと怨嗟を撒き散らす闇の書。素晴らしく興味深い研究素材だ』

「それに、ヴォルケンリッター……お前なら、解析しきれると思うが」

『無論さ。時間はかかるだろうが、必ず私のものにしてみせる』

 

 そして、ジェイルはこのロストロギアを研究することにしていた。闇の書へのアクセス方法は極めて限られているし、無理に触ると暴走し転生してしまう。しかし、ジェイルには自信があった。どんなに強固かつ危険なプログラムでも、それはあくまでプログラム。『無限の欲望』として生み出された脳髄が解決できないような物ではない。それに、『実験体』の持ち主はジェイルなのだから、『実験体』の制御にさえ成功すれば、もしかすると直接アクセス出来るかもしれない。

 

『しかし君こそ努力が必要だろう? 三人揃いはしたがまだ問題は残っているんじゃないか?』

「まあな。だがギル・グレアムに関しては最高評議会に申し立ててあるし、高町家にしても後三年すれば解決する。今のところは、すこぶる順調さ」

 

 そうだ。これでやっと三人が揃った。今は遠くにいる高町なのはとフェイト・テスタロッサ、そしてカイトの目の前で眠っている八神はやて。ようやくここまで来たのだ、という感慨がカイトの胸をいっぱいにした。十年以上前、ふと前世の記憶から彼女らへの想いを引き出した時を思い出す。その頃のカイトは何処にでもいる新米魔導師で、管理局や民間会社に務め、ごく普通に生涯を終えるのだと信じていた。それが、次元世界を支配する評議会と取引をして、こんな場所で女の子三人を手篭めにしている。本当に、人生というのは分からないものだ。

 

 『闇の書』の消失を確認したリーゼ姉妹が、慌てて主人へ注進しようとこの世界から去っていったことを確認し、ジェイルとの通信を切る。結界は既に解かれていたが、隅の目立たない読書室に人の影はない。転送魔法が展開され、カイトとはやては八神家の中に転移した。

 

 

   ***

 

「んぅー……」

 

 はやてが自分の部屋で目覚めた時、既に日は落ち、夜の帳が降りていた。目覚めた直後の頭のぼやけか、それともあの激痛の衝撃か、その意識は少し朦朧としていた。その服装は寝間着に変わっていて、治療の時に流した汗も全て洗い流されていた。

 

……あれ?いつの間に夜になってたんやろ。確か私は図書館で、あの人の治療を受けて……

 

 そこまで思い出した所で、意識が向いたのはその両足である。神経が麻痺していたはずの細い足は、のしかかる布団の感触をしっかりと脳に伝えていた。まだ動かすことは出来ないが、しかし間違いなく治っていた。

 

「わぁ……」

 

 喜びが思わず声に出る。はやては晴れやかに顔を綻ばせて、久しぶりに心から笑っていた。諦観や悲観が消え去り、はやての生来もつ明るく前向きな気持ちが顔を出してきた。どうにもならないと思っていた壁を、カイトという男は壊してくれたのだ。

 

……あの人を嘘つきだと思うとったの、謝らなきゃいかんなぁ。あの人は、ホントのホントに魔法使いさんだったんや……

 

 そして、彼の「好き」という言葉と、苦悩に歪む顔を思い出したその時、はやての脳裏を何かがよぎった。それは、自分を救ってくれたカイトに対する感謝と、淡い恋心だった――しかし、それだけではなかった。リンカーコアを壊されるときに感じた限りなき苦痛。自分の大切なものを壊された感覚も、確かにあったのだ。それは、はやてにとってトラウマにもなっている。この、正負2つの感情が交じり合い、はやての幼い精神は揺れた。

 

……あの痛み。心を引き裂かれて、バラバラになってしまうような、あの痛み……あんなの、一生忘れられへん……でも……

 

 例え、その痛みを与えたのがカイトだとしても、呪いを打ち消しはやてを救ってくれたのもカイトなのだ。

 

……あの痛みが、私を救うてくれたんや……私はカイトさんに壊されて……それで初めて、こんなに幸せになれたんや……

 

 その思いが、はやての心の中に、一つの観念を芽吹かせた。それは、はやての気づかぬ内に心へと根を張り、侵食し始めていた。

 

 ガチャリとドアが開き、カイトが入ってきた。彼が手で押していたのは、はやての車椅子。

 

「はやて、もう起きていたのか。具合はどうだ、大丈夫か?」

「あ、はい、もうすっかり。足の方も、ちゃんと治ってます」

「そうか、良かった。まだ動かせないと思うが、それはリハビリすれば元に戻る」

 

 お腹も減っているだろう、とカイトははやてを車椅子に座らせ、リビングまで赴いた。そこにあった店屋物の出前を、二人であらかた片付けた所で、カイトは改めてはやてと向き合う。

 

「はやて。すまない。私の自分勝手で、君のリンカーコアを潰してしまった」

「いえ、謝らなあかんのはこちらです。私、あなたが嘘をついてると思うて、大変失礼なことをしてもうて」

「それはいい。こちらとしても、元から信じてもらおうとは思わなかった」

 

 しばらく謝り合った所で、お互いその不毛さに気づき、ふうと一息をつく。そして、話を切り出したのはカイトだった。

 

「はやて。君の中にある『闇の書』は消えた。呪いは消えて、君の足は動くようになったのだが、そこで一つ提案がある」

 

 カイトが言うのは、これからのリハビリをこの世界ではなく、カイトの持つ次元航行船『パラディース』でやってほしいということだ。どちらも設備や効果に違いはないのだが、折角治したのだから、最期まで面倒を見たいという。

 

 その提案に、はやては同意した。今更病院に戻る必要もない。というより、石田医師への感情よりも、カイトに対する感情の方が遥かに強く、そして強制力のあるものだったからだ。その感情が何か、まだはやてには分からなかったが、少なくとも、今まではやてが感じたどんな情念よりも強く、熱いものだというのは確かだった。

 

……私、この人について行きたいって思っとる。この人に付いて行けば、きっと良くしてくれるって……この人は私を、大切にしてくれるから……

 

 カイトの気づかない内に、はやての心はカイトへと寄りかかっていった。『意識操作』を使ってはいなかったが、はやてはカイトに依存心を抱き始めていた。

 

「向こうには、君と同じくらいの年頃の子供がいる。きっといい友達になれるだろう」

「そうですかぁ。それは、楽しみやなぁ」

 

 カイトの話では、『パラディース』は次元の海に浮かぶ遊覧船で、そこにはカイトの他に二人の女の子と、一匹の使い魔だけがいる。他はみなロボットで、広い船内で数人だけが生活しているという。それが、はやてには浮世じみた光景に感じられ、また、かつて見たファンタジーの本にあるような、幻想的なものにも見えた。用意されていた転送ポートに乗り込み、『パラディース』へと転移する最中、今までとは全く違う暮らしを想像し、はやては期待に胸を膨らませていた。

 




難産でした……。
アイデアは最初から思いついていたのですが、表現するには随分苦労しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

はやて編②

(注意)
SMプレイになってます、苦手な方はご了承ください。


 ――図書館での出会いからおよそ一ヶ月。『パラディース』でのはやての生活は、今までより遥かに楽しく、豊かなものだった。あてがわれた客室のベッドから起きて、車椅子で大広間に向かうと、そこにはカイトとフェイト、アルフがいる。それだけでも、はやてにとっては革命的な出来事だった。今までは一人きりで起きて、顔を洗い、テレビを見て、自分以外に誰もいないテーブルでご飯を食べていた。それが、どんな時でも隣に人がいて、他愛のないことで笑い合い、じゃれあい、しかもみんなで食卓を囲うことが出来るのだ。

 

 初めてみんなで「いただきます」と言った時など、はやては大泣きに泣いた。今まで人前で泣いたことのなかったはやてだったが、真っ当に他人と触れ合えるという幸福が感動を呼び、自分を救ってくれたカイトが側にいるから、つい涙腺が緩くなってしまったのだ。しゃくりあげるはやてを優しく抱きしめたのは、意外なことにカイトではなく、フェイトだった。

 

「分かる、分かるよ、はやての気持ち。誰かに優しくしてもらえて、嬉しいんだね」

 

 フェイトも、初めてカイトと会って、優しくしてもらった時には思わず涙を流していた。だから、はやての心にこみ上げた想いを理解できたのだ。はやては、フェイトにすがりつくように抱きしめ返す。少女二人が抱き合う風景を、カイトは暖かく見守っていた。そして、二人の仲はこれから更に盤石なものになるだろうと安心していた。いくら三人を自分のものにしようと、その中で諍いがあっては無意味なのだ。こうして少女たちが交流する機会を、カイトは重視していた。

 

【ねえ、カイト。はやてのこと、『操作』しないのかい? 今なら効くと、思うんだけど……】

【今はいい。今はその時ではないんだ】

 

 だから、カイトはアルフの指摘にやんわりと反論するのである。確かに、あの時のフェイトと同じく、今のはやてはカイトに心を開いている。『意識操作』をすれば、一気に彼女を堕とす事が出来るだろう。しかし、こんな所で水を差すのは無粋というものだ。二人が泣き止み、それでもぬくもりを分かち合うかのようにぎゅっと絆を結ぶ光景は、一流の芸術品のように美しく見えた。

 

――そのためらいが、後にとんでもない出来事を生み出す事になるとは、今はまだ誰も知らない。

 

 朝食が終わった後も、はやての生活には新鮮さが満ち溢れていた。船内の娯楽は数多く、車椅子のはやてにも楽しめるものが多数あった。医務室でのリハビリは辛いものだったが、今までの糠に釘を打つような治療と違って、着実に成果が現れ始める有意義なものだった。それに、友達と一緒に船内を自分の足で歩きたい、という強い意志がはやてに味方してくれていた。まだ車椅子を使わなければいけないが、後半年もすれば自由に歩けるというのが、コンピュータの診断結果だった。

 

 昼食の時間から少し過ぎた時、週に一度なのはも『パラディース』にやって来る。魔導の腕前も近頃はめきめきと成長し、カイトとフェイトが教えることはすっかり無くなってしまった。流石に空戦ではフェイトに敵わないが、一部の分野では勝っている所もあるほどだ。だから、三人と一匹でいる時間の大半は遊びに費やされた。時にはカイトも交えて盛り上がり、遊戯室やロビーは毎週お祭り騒ぎだった。

 

「あははは、これでカイトさん九連敗や! 後一回で、新しい包丁買ってもらうの忘れんといてな!」

 

 一人の間、手慰みに遊んでいたからだろうか。ゲームに関しては、はやてが一方的だった。カイトが参加する時は、いつも何かを賭けられて、そしてボコボコに負かされてしまうのだ。

 

「なあ、カイト。大丈夫? ずるになるけど、あたし変身魔法で手伝おうか」

「……アルフ、真剣勝負に手出しは無用だ。問題ないさ、ここから十連勝すればいい話だ。そうだろうなのは、フェイト」

 

 二回り以上年の離れた女の子にからかわれると、カイトもついついムキになり、結局品物を――といっても、おもちゃではなく調理用具や本なのだが――貢がされてしまうのである。毎度その光景を目にしているなのはたち外野組は、頑張って止めようとしているが、どうにも効果なく終わってしまうのだ。

 

「に、にゃははっ……」

「……う、うん、父さん、頑張ってねっ」

 

 若干引き気味で応援する二人を尻目に、対決は始まり、そして結局カイトの財布が薄くなる結果に終わるのだった。

 

 その後、夜もみんなでご飯を食べて、なのはを高町家に送り、お風呂に入ってベッドにもぐる。暮らしている場所さえ無視すれば、ごく普通の生活と言い換えてもおかしくはないだろう。しかし、はやてにはそれが何よりも素敵なものに感じられて、最高に幸せだった。しかし、その心の奥底では、図書館での出会いの時に芽吹いた種が、黒く歪んだ花実をつけようとしていた――

 

 

   ***

 

 

 はやては時々、なのはとフェイト、カイトの三人が自分の所からいなくなっていることを知覚していた。離れていくのは二人だけ、そして三人同時の時もあった。彼らは巧妙にはやてに気づかれぬよう去るのだが、鋭敏なはやての直感がそれを逃さなかったのだ。一度だけ、付いて行こうと思ったことがある。しかし、戻ってくる時の幸せそうな顔を見ると、その暖かさを壊したくないはやては追っていくことに躊躇するのだった。

 

……みんなは、私に隠れて何をしとるんやろうか……

 

 夜、ベッドに潜り込んではやては思いにふける。カイトたちが自分を害するような事をしているとは、一分たりとも考えていない。彼らの笑顔は本物で、現に自分も最高に幸せな毎日を送ることができているのだから。

 

……なのはちゃんもフェイトちゃんも、カイトさんのこと好きやろからなぁ。カイトさんだって二人を好いとるんやから、もしかして、隠れてラブラブなことでもしとるんかな……

 

 かつて読んだ恋愛小説と重ねあわせて、はやては想像した。カイトと二人が、仲睦まじくキスしたり、抱き合って愛を語り合う。その間には彼らだけの世界が広がっている――そこまで考えると、何故か心にちくり、と針が刺さるのだ。

 

……なんやろ、この気持ち。私、なのはちゃんとフェイトちゃんを羨ましく思うとるのかな……二人がカイトさんとラブラブしてるのを、嫉妬してるんやろうか……

 

 ここまで考えが至った時、はやては初めて、自分の中にある仄かな恋心を認識した。自分がカイトを想っていて、だから、カイトたちの秘め事に小さく不満を感じるのだと納得ができた。しかし、いざ自分がそうされる場合を想像した時に、おかしなことが起こり始めたのだ。

 

……あれ? おかしい。私はカイトさんと愛し合いたいはずなのに、どうしてこんなことばかり、思い浮かぶんやろ……

 

 カイトと自分が二人きりで、愛しあう。そんな甘く楽しい光景を想像したはずなのに、はやての心に投影されるのは、カイトに傷めつけられ、苦痛に顔を歪ませる自分の姿だった。しかも、その想像ははやてを不快にさせることなく、それどころかむしろ高揚させるのだ。

 

異常だった。好きな相手に虐げられるのを望み、それに喜ぶというのは。しかし、恋人と添い遂げる至福を想像すればするほどに、苦痛に悶え、のたうちまわる自分が現れるのだ。はやては、自分の正気を疑った。

 

……私、カイトさんに痛めつけられたいはずじゃないやろ? もっとこう、優しく、暖かく、幸せになりたいはずじゃ……

 

 幸せ。その言葉が、はやてにとって自分の気持ちに気づく大事な鍵となった。はやてが初めて幸せになれたのは、図書館でカイトにリンカーコアを破壊された瞬間である。『闇の書』の呪いは外れ、監視というしがらみもなくなったあの時、はやては自由になり、()()()()()()。同時に、リンカーコアという一器官を失い、カイトによって()()()()

 

 何度も何度も身体を引き裂かれるような、余りにも大きな苦痛は、はやての心に強烈に刷り込まれていた。それが、幸せになることと壊されること、この相反する二つを結びつけたのだ。何かを傷つけられ、壊されるということが、はやてにとって幸せになるということだった。この、とてつもなく大きな精神的矛盾は、はやての理解を完全に超えていた。

 

 どうしてそんなことになったのか。自分の精神が悪意で壊されてしまったのかと考え、暗い気持ちにもなった。しかし、それがカイトの手によって為されたものだと思えば、急に満足感が湧いてきて、むしろそれでよかったかのように感じられてしまうのだ。

 

 そんなはやての感情を、冷静な理性は客観的に捉えていた。まるで無茶苦茶だ。表裏一体のはずの苦痛と幸福が、カイトという触媒を通じて同一になってしまったのだ。自分を壊したカイトに憎しみを抱こうとしても、恋という熱情がそのベクトルを容易に変えてしまう。しかもさらに痛め付けられたいなんて、一体自分はどうなってしまったのか。

 

……でも、幸せになっちゃうんや。カイトさんに傷つけられて、悲鳴を上げる。そんなことを考えると、身体が熱くなって、なんだかお腹の奥がもやもやしてくる……

 

 しかもそれが、はやての性感情をも隆起させていた。まだぴっちり閉じている秘所へと、布越しにそっと手が伸びる。そして生じる幼く僅かな快感が、はやての思考をさらに性的な方向に加速させていった。

 

……暗くって、二人きりの部屋。カイトさんはきっと私を叩いて、蹴って。そんなことで興奮してる変態さんな私を罵って。それで、私はとても、とても激しく幸せになる(こわされる)んや……

 

「あっ……ふぁ、やぁん……っく!」

 

カイトに壊される想像と、秘裂からの性感は、知らず知らずにはやてにとって初めての自慰となっていた。その手は最初から激しく動き、特に勃起した乳首をつねり上げる力は強かった。それによって生まれる痛覚が、はやての陶酔の度合いをさらに引き上げていくのだ。

 

……せやなぁ、かえって甘々にされるのもいいかもなぁ。壊されたいって私の気持ちを知っていて、いけずなカイトさんは敢えて優しくしてくれる。そうやって意地悪してくれるのも、すごく幸せな気分かも……

 

 すっかり夜が更けて、もう眠る時間になっても、はやての暗い興奮は収まらず、愛液が寝間着と布団を汚していった。

 

 今、カイトははやてを堕とすつもりは毛頭なかった。いつか機を見て、なのはやフェイトのように『意識操作』をかけて思考を操ろうと思っていた。自分とともに、甘い爛れた行為をしてやろうと思っていた。しかし、はやてはカイトの全く予想していない方向に心を歪ませ始めた。『意識操作』を介さずに、はやてはカイトに依存しようとしていた――。

 

 

   ***

 

 

 6月4日。はやての誕生日パーティは『パラディース』船内にて盛大に行われた。この日はなのはの家族や、アリサとすずかも乗船し、大広間はたくさんの料理とプレゼントで賑わった。なのはも、フェイトも、そしてパーティの主役であるはやても、みんな笑顔になっていて、カイトはこの上なく満足していた。

 

 そんな宴が終了し、なのはを含めた賓客が転送されると、船内は急に静かになった。今やカイトの耳には、はしゃぎすぎた疲れで眠ってしまったフェイトとアルフの寝息と、散らかったゴミを清掃するガジェットの駆動音しか聞こえてこない。

 

 ふと、ポケットから一枚の封筒を取り出す。ハートマークのシールで閉じられたそれは、紛うことなきラブレターだった。宴の途中で、こっそり忍ばされたものだ。送り主はおそらくフェイトだと、カイトは予測していた。夜は二人きりで盛り上がろうとか、おおよそそんなことが書いてあるのだろう。

 

……全く、こんな関係にラブレターも何も無いだろうに……大体、誘う側が疲れてもう寝てしまっているじゃないか……

 

 そんなフェイトに呆れて笑いながら、カイトは封を開ける。すると、驚くべきことに、送り主はフェイトではなかった。八神はやてと銘打たれている。予想外の事態に意表をつかれたカイトは、そのまま手紙を読み進めていく。その中には、驚愕の言葉が書かれていた。

 

『カイトさんへ。始めて会った時、カイトさんは私のことを「好き」と言ってくれましたね。今もその気持が変わっていないなら、一階の「秘密の部屋」に来てください。そこで私は待ってます』

 

……なに……? あの部屋を、見つけたのか、はやては?……

 

 自分の領地たる『パラディース』の中で、カイトは恐怖に慄いた。油断していて、フェイトやなのはとともに入り込む所を見られたのか。はやてが何を考えて、あのプレイルームで待っているからは分からないが、とにかく、事態がカイトの手の内を超えてしまったことは確かだった。

 

……不味いな。どうする? 捕まえて、強制的に従わせるなど反吐が出るが……最悪の場合、はやてが私を完璧に拒絶した場合は、それもやむを得ないか……

 

 騒ぐ心を必死で鎮めながら、カイトは階段を降りて、一階の隠された部屋の前へと訪れた。普段は壁になっているはずの扉は開かれて、そこから差す明かりがカイトを照らす。はやての言うとおり、この部屋で彼女が待っているのだ。いざというときは魔法を使い束縛しようと、意を決して踏み出したカイトの眼前に広がったのは、彼の予想を遥かに超えた光景だった。

 

 装飾を施されていない部屋の中は、銀色の無機質な壁に覆われている。その真中で立ち尽くすはやては、全裸で、必死になって自分を慰めていた。その姿はとても官能的だったが、二つの乳首を洗濯バサミが痛め付け、その顔はよく見ると少しだけ赤く腫れ上がっていた。

 

「ああっ……あひぃ! カイトさん、やっと来てくれたぁ」

「はやてっ……!?」

「あは、カイトさん、どう思う? ラブレター出して、それでこんな所で裸になって、いやらしいもの見せてる私、どう思うん?」

 

 いきなりそう言われても、カイトには何が何だか分からなかった。珍しいことに、彼ははやての行動に完全に機先を征されていた。そもそも、知識以外は凡人であるカイトが、今まで才覚ある彼女らの上を取ることが出来たこと自体が驚くべきことなのだ。彼の注意深い立ち回りがそうさせたのだが、今回ばかりは運が悪かった。

 

「ねえ、カイトさん。私のこと、好き?」

「……それは、勿論だ。だから助けたし、ここに招きもした」

「じゃあ、今の私は? この部屋でカイトさんに痛め付けられること考えて、興奮しておそそ(おまんこ)濡らしてる私は?」

 

 痛め付けられる。どうしてそんなことで興奮できるのか。カイトにマゾヒズムの感覚はないし、サディストでも無かったから、到底理解が及ばなかった。ぞくりとした寒気が背中を冷やす。はやては一体どうなってしまったのか。この変化が自然のものとは思えなかったから、カイト自身がが引き起こした因果が返ってきたことだけは分かっていた。

 

「私な? カイトさんが好きで好きで、どうしようもなくなってしまったみたいなんよ。愛されたいのに、傷つけられたいって、すっごいドロドロした、おかしい気持ちが心に溢れて」

「……」

「カイトさんのせいなんよ? あの日私を幸せにしてくれた(こわしてくれた)お陰で、こんな気持ちになっちゃったんや」

 

 その一言で、ようやくカイトは事情を理解できた。リンカーコア破壊の凄まじい苦痛に、はやての精神が耐え切れず、何処かがねじ曲がってしまったのだ。カイトは自分の不手際を心底呪った。この程度のことが何故予測できないのか、自分の愛するものをねじ曲げてしまったのだと激しく後悔した。それと同時に、無傷ではやてを解き放ったはずが、こうも根の深い呪いがあったとはと驚いた。彼女を縛る呪いは、まだ完全には解かれていないのか。

 

……しかし、嘆くのは後でも出来る。後悔するよりも先に、やるべきことがあるはずだ……

 

 そう思い直し、カイトはもう一度覚悟を決めた。八神はやての歪んだ愛情を受け止める。そして、『意識操作』を使用してそれを修復し、元の優しい少女に戻してやる。なのはやフェイトの変化とは違い、はやてのこの変化はカイトに強制されたものだ。だから、本人の望むものではないのだ。戻してやって、改めてカイトのものにして、それからはやての意志にまかせてやらなければいけない。だから、カイトははやての屈折した欲望を満たしてやることにした。

 

「はやて。そんなお前も、俺は好きだ。俺は、どんな風に変わった八神はやても大好きだ」

「カイトさん……じゃあ、私をいじめてくれるんか? いたぶってくれるんか?」

「ああ。途中で泣いても喚いても止めない。やるなら、徹底的にしてやろうじゃないか」

「ほんとか? 嬉しいなぁ。ここにはいっぱい道具があったから、それを使ってたくさんいじめて、エッチな私を、おしおきしてえ」

 

 パーティで浮かべた笑顔と同じような表情ではしゃぐはやて。自分が今から虐げられるというのに、苦しみの感情一つすら無い。そんなはやてを受け止めて、身を挺して治そうとするカイトの行動は、もしかすると正当に評価すべきなのかもしれない。しかし、予想外とはいえ、はやての歪みはカイト自身が為したことだ。

 

……それに……一度だけ、こういったこともやってみたかったんだ……

 

 しかも、自分の行動を悔やむ最中、こんなことまで考えているのだから、やはりこの男は下衆の極みというべきだろう。

 

   ***

 

 数分経って、はやてはカイトに着けられた自分の服装を鏡で見ることになった。それはまさしく、「カイト・フォレスターに隷従する雌奴隷」そのものの姿だった。上半身は黒いベルト、荒縄、そしてバインドで完全に拘束されている。両腕が縛り付けられている背中からは一本のロープが垂れ下がり、未だ自分の足で立つことの出来ないはやてを屋上から吊り下げていた。そんなはやてでさえも、美しいと思えるのが今のカイトだったし、はやてもまたこの体勢こそが、自分のあるべき姿であると信じているのだ。

 

「はやて、どうだ? 今のお前はどうなっている?」

「はい……おそそもおっぱいも、恥ずかしい所全部、カイトさんに丸見えになってます。自分で身動きがとれへんので、カイトさんに好き勝手にされてしまいそうで」

「『されてしまいそう』じゃない。『する』んだ。これから、タップリとな。興奮したか、この、変態が」

「はいぃ、興奮して、おそそ濡れてますぅ」

「まだ九つの女の子が、そうやって男を誘う淫売になるとはな。全くいやらしくて、反吐が出る。たっぷり躾をしてやらないとな」

 

 カイトが罵る度に、はやては身体をビクン、と震わせ、その陰部からは締まりなく愛液を垂れ流す。その顔は喜悦に満ちあふれていた。カイトからの罵倒の言葉は、はやてにとっては自分を骨抜きにする甘い愛のささやきと同じであった。対するカイトは、そこまで興奮してはいなかった。確かにはやてを思う存分、好き勝手にするのは魅力的であるが、どうにも自分の柄ではないのだ。しかし、そのある種冷めた態度こそが、カイトの冷徹ぶりを引き立たせ、はやてをくらくらさせるのだ。

 

「どうした。何故喜んでいる」

「それはぁ、私、カイトさんに罵られるのも、叩かれるのも好きな変態さんやから」

「開き直るんじゃない。それがいけないことだと言っているんだ。このままではお前は一生、縛られていなければいけないぞ。そんな情けない姿を、フェイトやなのはに見せたいのか?」

「あは、それも、ええかもなぁ」

「……全く、救いようがないな。どうしようもなく変態だ」

 

 今の言葉は、半分本音が入っていた。もはやはやてに羞恥心はほとんど残っていなかったのだ。

 

「こんなだらしなく醜い女を、人扱いするわけにもいかない。これを着けろ」

「あ、それって……」

「首輪だ。今からお前は、俺の所有物。人ではなく、ただの理性ない動物であるということだな」

 

 カイトが持ってきたのは、はやての首にピッタリはまる、赤い皮の首輪だった。外れないように、立派な南京錠までかかっている。その銀色のネームプレートには既に「はやて」と銘されていた。プレイのために用意したものだったが、まさかこんなに本気で使うことになるとは予想していなかった。カチャリ、と金具を閉じ、カギをかける。すると、はやては首を撫でられた犬のように喜びに呻くのだ。

 

「はやて。お前はこれから俺を、何と呼ぶべきなのか、分かるな」

「はい、『ご主人様』。私、八神はやては、ご主人様の奴隷です」

「いい子だ。ご褒美は、何がほしいか」

「嬲ってください。私を思い切り幸せにして(こわして)ください」

 

 カイトは椅子に座り、自分の膝の上にはやての上半身を置いた。縄とベルトで縛られて、少し赤くなっているはやての柔肌が目に毒だった。カイトははやての尻をぎゅうっと鷲掴み、力を入れて揉みしだく。揉むと言うよりは掴んで皮膚を破こうとするようなもので、うっ血の後が残るほど激しく、苦痛を伴うものだった。しかし、ぎゅっとされる度にはやては嬌声を上げ、涎を垂らしながら秘所を濡らしていく体たらくだった。

 

「まだ九歳の女の子のくせに、そんなだらしなくよがるな、このド変態の雌豚娘が」

「あはぁ、ごめんなさい、ごめんなさい! はやては雌豚です、お尻ひどくされて、感じちゃう変態ですぅ!」

 

 次に、カイトは平手を作り、勢い良くはやての尻を叩き始めた。スナップを効かせて、パシン、パシンと強く叩いたので、はやての尻はあっという間に溢血の薄紫から赤色に変わっていった。

 

「豚が、人間の言葉を話す必要は無い。鳴け。お前みたいな雌豚はそれで十分だ」

「ああぁっ、ぶひ、ぶひぃん! も、もっとぉ、叩いてぇ」

「誰がしゃべって良いと言った、鳴けっ」

「あ、い゛っ、はひぃいぃ、ぶひぃ、ぶひ、ぶひぃいいいいいい!」

 

 はやてが痛み(かいかん)で身体をよじらせると、縄が身体に食い込み、その苦痛がまた彼女を高ぶらせていく。尻叩きの中で彼女は何回も何回も絶頂し、小水を垂れ流す。ぼやけた頭に残るのは、苦痛という快楽のみだった。

 

……はやて……綺麗だ。車椅子で本を読んでいるお前も、明るく遊んでいるお前も、こうやって恥辱にまみれているお前も、とても綺麗で美しい……

 

 どうにも食わず嫌いというものがあったらしい。カイトはこの行為に段々と嵌り始めていた。その欲望は、硬くなった男根の形をとって現れる。

 

「雌豚」

「……ぶひぃ」

「咥えろ」

 

 なのはやフェイトに散々フェラチオをさせてきたが、高圧的に命令するのはこれが始めてだった。その一言だけで、はやては全てを了解したようだ。口で器用にチャックを下ろし、出て来た剛直を口に入れる。初体験だというのに、口の奥深くまでを使って飲み込んでいた。

 

 しかし。はやてが本当に望むのは、こんな『奉仕』ではない。そのことを、カイトはしっかりと知悉していた。舌を動かし、奉仕に入ろうとするはやての頭を掴み、その喉に向かって亀頭を叩きつけるように、掴んだ手を強引に押しこむ。

 

「むぐっ!? ん、んぐぅ!?」

「どうした。どうせ下手くそなフェラでは射精出来まい。だから、俺の手でお前の口を使ってやってるんだ。感謝しろ」

「ん゛っ! ん゛っんぐっ! ぐ、ぐぶぅ゛!」

 

 イラマチオである。はやてを人としてではなく、ただの性欲処理の道具とみなす。普段のカイトなら絶対に出来ないプレイだ。支配欲、征服欲といった負の欲望をカイトは吐き出し、はやてはそれを受け止める。これも一つの、愛の交歓なのだろうか。

 

……あぁ、ご主人様のちんぽ。硬くて熱いのが、喉を叩いて。口の中突き破って、直接頭の中ぐちゃぐちゃに犯されてるみたいで、すっごぉい……

 

奥まで突っ込まれている嘔吐感のせいか、はやての目からは涙が溢れていた。しかし、瞳はどろんととろけたようになっていて、ただ虚空を見上げている。愛するものに痛め付けられ、犯される狂喜の中で、はやては、確かに幸せだった(こわれていた)

 

「出すぞ、受け止めろ」

 

 単調で、無感情な二分節の後に、長い長い射精が始まった。

 

「……ぐ、ん゛、ん゛んぅぅぅぅぅぅう! ぐ、ぐぶ、ぐぅぅ!」

 

……せーえき、出てるぅ……あつぃぃ……ああ、また、イッちゃう……

 

 はやての小さい口内は、あっという間に精液で埋まり、飲みきれなかった分が外に流れだす。数回力を入れて、溜まっていたものを全て出したところで、ようやくカイトははやてを開放した。はやては濃く粘ついた白濁液を全て飲み込もうとしたが、慣れていない彼女には無理なことだった。

 

「……ん、ごほっ! かはっ! げふっ!」

 

 はやては激しく咳き込み、口から、そして鼻の穴からも精液を吐き出す。カイトはそれを、ひたすらに冷淡な目で見つめていた。

 

「……俺のを吐き出していいとは、言っていないぞ」

「あ、ご、ごめんなさぃ」

「人の言葉を、使っていいとも、言っていないだろうがっ」

「あっ! が、ぶひ! ぶひぃ!」

「主人の手を煩わせる、変態雌豚が。どうだ、これがいいんだろうっ」

 

 カイトは、はやてを吊り下げている縄を左手で持ち上げて、その頬を強くビンタする。その厳しい仕打ちに、はやては頬を腫らしながら、喜色満面の笑みを浮かべて、本物の豚のように浅ましい鳴き声を上げる。正しく退廃と狂乱の宴であった。今や真性マゾ奴隷になっているはやてには、これこそ最高の誕生日プレゼントだった。

 

「どうした、何故笑う。蔑まれているんだぞ。それすら理解できんとは、やはりお前には、愚鈍な豚がお似合いだ」

「ぶひ、ぶひぃ、ぶひぃいぃん!」

「それでいい。今は、好きなだけ啼け。、もっともっと、壊して(しあわせにして)やるからな……」

 

 

   ***

 

 

 日付が変わり、散々虐げられたはやてがやっと飽和状態になり、気絶した後。起きがけに更なるおねだりをしようとしたその瞬間、カイトはようやくはやてに『意識操作』をかけることが出来た。こんがらがっているはやての精神を元に戻してやり、ついでになのはやフェイトのような洗脳処置を付け加えて。そして目覚めたはやては、元の優しく、暖かい八神はやてに戻っていた。

 

「あ、カイトさん……」

「気がついたか」

 

 はやての身体には、縄もベルトも無いし、吊り下げられてもいない。気絶している間に、シャワーで体液を洗い流し、服を用意し、着替えさせたのだ。はやては視線にカイトを見つけると、にぱっと微笑み、笑顔で告げる。

 

「あ、すんません、ご主人様、でしたっけ。もう、喋ってもいいんですか?」

「なっ……!?」

 

 その底抜けに明るい隷属宣言に、カイトは唖然とした。まだ狂いを治せていないのか。はやてに残された呪いには、流石の『意識操作』も効き目がないというのか。目の前が真っ白になったかのような失望感を味わい、目に見えて打ちひしがれたカイトを、はやては笑った。

 

「く、ふふっ、なーんて、冗談やよ。驚いた?」

「……冗談にならないぞ、それは」

 

 カイトは、どうにもはやてとは相性が悪いというか、簡単に出し抜かれてしまうらしい。事実、今までの二人とは違い、はやてにはいつも驚かされてばかりだった。兎も角、はやての精神はまた健やかな状態に戻ってくれた。これで、はやてはようやくカイトのものになったのだ。

 

「……ごめんな、カイトさん。辛かったやろ。私のわがままに付き合ってもろうて」

「そんなことはない。むしろ、新しい何かに目覚めそうになったかもしれないな」

「やぁん、そんなこと言うなんて、カイトさんのえっちー、すけべー、サディストー」

「何を言う。お前のほうからこっちにやってきたくせに、この超弩級マゾヒストが」

「やぁぁ、また犯されるぅ」

 

互いに抱き付き合い、じゃれあう二人。しかし、はやての唇がカイトの耳元へと近づけられたその時、微かな囁きがカイトの鼓膜に響いた。

 

「……せやなぁ。私、本当にマゾになっちゃったかも」

 

 もう一度、カイトの動きが止まる。

 

「なにっ?」

「だからぁ、二人きりの時は、カイトさんもサディストになってええんやよ?」

「……どういうことだ」

「心が治っても、身体の方が快感を覚えとるみたいなんや。ふつーに、甘々にエッチなことしたいのも確かなんやけど、さっきみたいに激しくされたいって気持ちも、まだちょっとだけ残っとる」

「完全には治ってないと、いうことか?」

「だぁって、私カイトさんに幸せにされた(こわされた)んやから。『普通』に戻ることはあっても、完全に元に戻る、なんてことはもうありえへんよ」

 

 はやての心は、確かに正常に戻った。しかし、どうやらはやてには元からその素質があったらしく、さっきまでのSMプレイの経験を、激しい熱を持った甘い記憶として受け取っているようなのだ。

 

「だから、これからも末永くよろしゅう頼みます、ご主人様♡」

 

 はやてはその言葉とともに、カイトの唇をついばんだ。入ってくる舌を舌で絡ませつつ、こういうのも悪くはないなと、カイトは考えた。

 

……痛みからの歪みではなく、はやてが自分の意志でそれを望むなら。受け入れてやらなければな……

 

 口づけは更に激しくなり、服越しの愛撫が始まる。第二ラウンドは、先程までの恥辱と陶酔に満ちた狂気の宴とは違い、ただ甘く、いたわり合う、情愛の儀式になろうとしていた―― 

 

 




SMって難しい。でも、はやてちゃんには似合うと思うんです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

果てない前戯(summer vacation)

 

『このように、男の子のペニスは、女の子のヴァギナに挿入されます。陰茎と膣壁の摩擦による刺激で、互いの性的興奮が高まり、射精へと至るのです』

 

 遊覧船内の上映施設でありながら、座席数200席以上を有す『パラディース』のシアタールーム。数ある次元航行遊覧船の中でも最大を誇るスクリーンで今流されているのは、小学校高学年向けの性教育ビデオだった。その目を釘付けにしているのは、なのはとはやて。既に知識を持っているフェイトは、二人に向かって補足や説明をしている。

 

「でね、女の子には処女膜、っていうのがあって、始めてセックスする時はそれを破ることになるから、もの凄く痛いんだって」

「えぇ、痛いの? 私、ちょっと嫌だな」

「私は別に構わへんよ。むしろ、痛いぐらいのほうが思い出に残りそうで、ええやないの」

 

 三者三様に、それぞれの初体験に対して思いを抱く。なのはは処女喪失の痛みに対して、少しだけ恐怖を抱いていた。カイトという始めての恋人と完全に結ばれるセックスは、快楽と至福に包まれた、ひたすらに甘いものであるべきだった。一方はやては、激しい痛みをむしろ利用して、自分の脳裏に情交の思い出を焼き付ける心づもりだった。

 

 今までカイトに散々奉仕し、調教されてきた三人だったが、未だその処女は守られていた。だがそれも後少しのことである。三人とも、勿論カイトに処女を捧げることを望んでいた。カイトにしても、初潮が来るのを待つほどの忍耐を持ちあわせてはいなかった。

 

「なのは、安心して。魔法を使えば痛みを反転できて、逆にとても気持ちよくなれるみたいだから」

「ホント? 良かった」

「使うも使わへんのも自由なんやろ? なら私は遠慮させてもらうけど」

「うん。そこら辺は私たちの自由にしていいって。どんな形で初めてをあげるのかは、私たちに決めさせたいんだ、って言ってた」

 

 それでもカイトは、あえて自分から彼女たちの処女を奪うことはしなかった。彼女らがどんなシチュエーションを望むのかが楽しみだったし、処女を『捧げさせる』ことがカイトへの永久なる隷属を連想させるからだ。

 

「私は、普通にベッドでされたいなぁ。お互い裸になって、向い合ってキスしながら、ゆっくり私の中におちんちんを挿れて貰いたいんだ」

「真っ暗な寝室で、恋人たちはついに身も心も重なりあう……みたいな感じ? 乙女やなぁ」

「そうそう、それ! カイトさん、きっと優しくしてくれるから。すごくロマンチックで、夢のような時間になると思うの……」

 

 同じ男に想いを寄せる女の子二人の前で、なのはの発言はいつもよりかなり大胆になっていた。しかし段々と恥ずかしさが戻っていったのか、顔を真っ赤にしながら両手で抑え、いやんいやんと首を振る。短いツインテールが揺れた。

 

「私はね。だっこされながらセックスしたいな。私の両手両足全部使って、父さんを抱きしめたいの」

「それいいね、フェイトちゃん。大好きって気持ちが伝わるよ、きっと」

「しちゃう時は、多分パパって呼んじゃうかも。気持よすぎて」

 

 フェイトがカイトに望むのは、父親としての愛である。胸板に体を預け、熱い身体を寄せ合う形のセックスこそ、その極致であるとフェイトは考えていた。

 

「赤ちゃん返り、やったっけ? そういえば。私となのはちゃんもあの薬塗ってもろうたけど、本当におしっこ我慢できなくて、もう大変や」

「だったら二人もおむつつけて、赤ちゃんになればよかったのに」

「にゃはは、流石にそれは……」

「うーん、カイトさんに『赤ちゃんになれ』って言われるんやったらやらないこともないけどなぁ」

 

 その、強く深い愛が行き過ぎた結果こそが、幼児退行と赤ちゃんプレイであった。フェイトはもうすっかり虜になっていたのだが、他の二人はどうにもそれに共感できなかった。フェイト自身もニッチな趣味だと理解してはいるので、無理には勧めなかった。しかし、プレイをした次の日は喜色満面でエピソードを語り出し、二人をうんざりさせるのだ。バリアジャケットにまでおむつを着こもうとするのを、なのはが必死で止めたこともある。

 

「じゃあ、次は私。せやな、後ろからよつんばいになって、犬のように犯されるんや。処女も何も関係なしに突っ込まれるから、私は痛い痛い叫ぶんやけど、カイトさん……ううん、ご主人様はお構いなしにちんぽ動かして、私を犯すの」

「え、はやてちゃん、それって辛くない?」

「なぁに言うとるの、そこがええんやないか。何回も何回も突かれて、まるで道具のように犯されて。でもな、優しいご主人様はきっと、疲れ果てた不出来な奴隷に一言、愛してるって言ってくれる。至福の瞬間や」

「うん、私、少しだけわかるかも……」

「フェイトちゃんまで!?」

 

 はやてはやはり、奴隷として主人に処女を捧げたいようだ。『意識操作』のお陰で、苦痛をそのまま幸せに感じることはなくなった。しかしその代わりに、苦痛の中に混じっている快楽を見つけ、その魅力に目覚めたのだった。このマゾヒズムも、なのはたちにとっては余り共感されなかったが、二人共理解はしていた。彼女ら全員が同じような人間だったら、カイトにとってもつまらないだろう。だから、三人はそれぞれがそれぞれに違うことを理解して、その差異性を出来る限り広げていこうとした。

 

 そんな猥談が盛り上がっている中映像は進み、やがて受精と妊娠について説明する場面になった。子供が出来るメカニズムを知ったなのはとはやては、セックスがただの愛の交歓でないことを初めて知ることになった。

 

「それにしてもなぁ、膣内射精してもろたら、子供できるんか」

「私たちはまだ初潮が来てないから、子供はできないよ。それに来たとしても、大人になってからじゃないと身体に負担がかかるから、しばらくは避妊の魔法を使うみたい」

 

 なのはもフェイトも、そしてはやてもまだ九歳。子供どころか、本来ならばセックスさえもまだ早すぎるお年頃だ。漠然と子供については考えられるが、実際に産むとなるとやはり想像の付かないことだった。

 

「それに、まだ私たちだって子供だもん。自分の子供を考えるより、大人になる方が先だよ」

「うん、なのは。早く大人になりたいよ。そうしたら父さんを、もっともっと気持ちよくしてあげられる」

 

 精子のCGモデルが卵子に着床する場面を見ながら、三人はそれぞれの将来に想いを寄せる。三人とも、カイトと一緒に『パラディース』で暮らすことになるのは確定だ。しかし『パラディース』は隔絶された楽園ではなく、次元世界を旅する船なのだ。きっと様々な出会いがあって、別れもあるだろう。その中でどのように成長し、カイトを満足させるかは、彼女らの想像力を刺激してやまなかった

 

「大人になったらな、おっぱいばいんばいんにして、カイトさんにパイズリでもぱふぱふでも、なんでもしてあげたいなぁ」

「胸が大きくなったら、ミルク出せるのかな? もし出たら私、父さんに飲んで貰いたい」

「……えーと、私は大人になると、どうなのかな? 今、お試ししてみちゃおうか」

「?」

 

 なのはのその言葉に、フェイトとはやては疑問符をつけたが、なのはが胸元から『レイジングハート』を取り出したのを見て納得した。直後、真っ暗なシアタールームに一条のピンクの光が走り、消えた。バリアジャケットを身に纏い、大人になって髪をサイドポニーにまとめた、高町なのはが立っていた。

 

「にゃはは。アルフさんに教わった変身魔法なんだけど……どうかな?」

 

 一瞬の静止の後、真っ先に行動したのははやてだった。まだろくに動かない足のどこから引き出したのか、恐ろしいほどのジャンプ力で胸の双丘に飛びつき、押し倒して揉みしだく。どたり、と床に倒れ込んだなのはは、その勢いに呑まれながらも必死で抵抗する。

 

「にゃ、はやてちゃん、ストップ、ストップ!」

「なに言うとんの! ここに来てからというもの、おっきいおっぱいだけはご無沙汰だったんや! そない立派なもの胸からぶら下げといて、今更逃がす訳にはいかんのや!」

 

 はやては女性の乳を、それも大きな乳を好んでいた。しかし、『パラディース』で巨乳と言えばアルフくらいしかいない。それも、最近は魔力節約のために子供の形態になることが多かったから、必然的に乳に飢えざるを得なかったのだ。なのはのバストサイズは、平均より結構上と言った所であった。はやてにとっては、さながらラマダンの終わりに用意される、山盛りのご馳走のようなものだった。

 

「やだぁ、くすぐったい、くすぐったいってばぁ!」

「む、もっとこう『やぁん』とかエッチな声出すと思ったんやけど」

「そんなの知らないよぉ! フェイトちゃん助けて!」

 

 なのははフェイトに助けを求めたが、彼女は彼女で別の意味で瞳を輝かせていた。赤ちゃんプレイをしていても、親がカイトという男なのだから、流石に授乳はしてもらえない。しかし、今目にしている乳は豊満で、しゃぶりつけば母乳が出そうなくらいだ。二人が絡みあう様をしばらくじっと見ていたフェイトだったが、やがてはやてと同じようになのはの胸めがけて飛び込んだ。

 

「……なのはママ、おっぱい飲ませて」

「ふぇええ!?」

「フェイトちゃんも揉むの? じゃあ、左胸お願いなぁ」

 

 大人の身体であっても、二人がかりでは抵抗できない。瞬く間にブラジャーまで露出され、何故か下着の扱いが器用なはやてによって、それすら外されようとしていた。

 

「さあて、ご開帳といこか……」

「なのはのおっぱい、おいしいといいなぁ……」

「二人共、ちょっと目つきおかしいよぉ!」

 

 涙目になりながら叫ぶなのはを救ったのは、白い光だった。通路に面するドアが開かれ、まぐわう三人に外からの光が差し込んだのだ。思わず振り向くはやてとフェイト。その目の前に現れたのは、映像が終わっても出てこない三人を心配して、シアタールームに入ろうとしたカイトだった。

 

「……お前たち、一体何をやっている?」

 

 突如目に映った嬌態に唖然としながら、カイトは告げる。そのとぼけた声に毒気を抜かれたのか、フェイトもはやてもなのはの胸から手を離した。すると、ブラジャー付きの大きな胸がカイトの前で顕になる。その目線に気づいたなのはは、慌てて両腕で胸をかばった。バリアジャケットは完全に乱れていて、その顔はもはや茹でダコのように真っ赤である。

 

「なのは、驚いたぞ。変身魔法を使えるのか」

「は、はい。その、アルフに習って、それで」

「ほぉ……」

 

 カイトはゆっくりと歩を進め、なのはに近づいていく。はやてに押し倒されてへたり込んでいたなのはは、腰を入れることが出来ずそのままじりじりと後ろに下がる。しかし、カイトの方が早く、なのはの目の前まで近づいた。何をされるのか分からず、目をつむるなのは。しかしカイトの手はなのはの頬をそっと支え、優しく微笑むカイトの顔がなのはの瞳に映った。

 

「綺麗だ。なのは。大人になったなのはも、やはり美しい」

「ふぇ、か、カイトさん、そんな、でも、恥ずかしいです」

「恥ずかしくは無い。さあ、こんな所で座り込むな。立つんだ」

 

 繋ぎあった手で、半ば強引に引っ張り上げられる。その勢いを利用して、なのははカイトを思いっきり抱きしめた。押し付けられる形になった豊かな胸が、カイトの興奮を誘ったが、今はなのはの望む通り、紳士的にそっと抱きしめ返した。その光景は、なのはが少女漫画などで見た、愛しあう大人の男女の光景そのものだった。

 

「うぅっ、カイトさん、好きです、大好き」

「落ち着け。俺も大好きだ」

「ぐすっ、ひっく、カイトさぁん」

 

 見た目は大人でも、やはり中身は子供のなのはだった。今までの羞恥とカイトの胸元に感じる安心感から、涙腺を崩れさせ、溢れる涙がカイトのシャツを濡らした。

 

「……なんか、ずるい」

「うん、あざといなぁなのはちゃんは」

 

 流れるようにカイトの心を独占したなのはに、残りの二人はどうにも釈然としない表情だった。勿論、二人の行動こそが原因であり、なのはとしてもわざとではないことは分かっているのだが、こうもあっさり独占されると、文句の一つも言いたくはなる。

 

「……その、カイトさん」

「なんだ?」

「なのはの大人の身体、好き? だったら、もっと触っても、エッチなことしても、いいよ……?」

 

 挙句の果てに、この誘惑である。二人が激発するのも無理はなかった。それぞれカイトの両足にしがみついて、二人を寝室へ行かすまいと引き止める。

 

「なのは、私にも変身魔法教えて! 混ざるから! なのはよりおっきいおっぱいになって、パパにおっぱいミルクあげるの!」

「フ、フェイトちゃん落ち着いてぇ! 今度絶対教えてあげるから!」

「うぅ、私魔法使えへん……ぐぬぬ、こうなったら青い果実の魅力を体で教えるしかあらへんなぁ……! 覚悟しぃ、カイトさん」

「お前も落ち着け、はやて。俺は別に体型を気にはしないからな」

 

 そんな大騒ぎを繰り広げながら、四人はシアタールームを出て、その足は自ずと一階のプレイルームに向かう。そして、晩餐の時間まで性愛に塗れ、爛れた乱痴気騒ぎを愉しむ。それが、夏休みの『パラディース』における日常だった。

 

 

   ***

 

 

 プレイルームのソファに座り、ようやく三人の抱きつきから開放されたカイトは、先ず最初に大きくなったなのはの奉仕を受けた。ブラジャーを外して、完全に乳房と乳首を露出させたなのはは、その隙間にひんやりと冷たいローションを垂らし、カイトの陰茎を挟み込んだ。なのはは膝立ちになっていて、足を広げたカイトの股ぐらを目の前にする体勢である。

 

「えへへ、はやてちゃんの言ってたパイズリって、これでいいんだよね?」

「ああ。なのはの胸が柔らかくて、気持ちいいよ」

「本当?じゃあ、もっとしてあげる」

 

 なのはは両手で胸を横から掴み、押し込んで双乳の圧力を増やす。そして、豊かな乳からはみ出た亀頭に下を伸ばし、鈴口の辺りをちろちろとつつくように舐め始めた。しびれるような刺激と包まれるような柔らかさ。そしてローションのとろりとした感触が、カイトを段々と高ぶらせていく。

 

「カイトさん、私らも忘れちゃいかんて」

「今日はとことん、気持ちよくしてあげるからね」

 

 いつの間にか、はやてとフェイトがカイトの両脇に忍び込んでいた。裸になった二人は首筋や胸、脇腹などの敏感な部分に舌を這わせ、指や手のひらを動かし、小さい体を精一杯使って愛撫する。その懸命さに応えようと、カイトも二人の秘所や尻に手を添えて快楽を与えた。

 

「あ、父さん、そこぉ」

「やん、指入れないで、ご奉仕出来へんからぁ」

 

 カイトの全身は、今や快感と熱情のるつぼと化していた。カリ首を舌で舐められ、次に肉棒を包まれる感触が来たかと思えば、今度は敏感な両乳首が咥えられて甘咬みされ、電流のような刺激が襲う。三人の息はぴったりで、みるみるうちに熱が腰から下がり、陰嚢に溜まって、射精を抑える堰が切れかける。力を抜かないように集中してはいるが、感じる地点が分散していてどうにもこらえきれない。

 

「くぅ、三人とも、気持よすぎる。もう出るぞ」

 

【早く、早く気持ちいい印、出して?】

【私たちが気持よくして上げるから、何度でも、何回でも出してね、父さん】

「早く、熱くて濃い精子たっぷりのご褒美ザーメン、私たちに出してぇ」

 

 なのは、フェイトは念話で、はやては指で乳首をつまみながら口頭で。それぞれにおねだりをして、その言葉がカイトを一気に射精へと向かわせた。余りの快感に腰が跳ね、驚いたなのはが鈴口から舌を離す。その瞬間、勢い良く飛び出した精液は、なのはの顔に、そして胸の上に向かって降り注いだ。今までで一番激しい射精であり、カイトは腰をガクンガクンと動かしながら、何度も、何度も、搾り出されるかのように精液を噴出させた。

 

……あぁ、カイトさんの精液、熱い……おっぱい、やけどしそうだよぉ……

 

 精液の匂いを嗅いで、その熱さを体で感じ、なのははすっかり発情していた。だから、白濁色でデコレートされた両胸に、フェイトとはやてが飛びつき吸い付いて来ても、前ほどに嫌悪感を感じず、むしろ暖かく受け入れた。

 

「父さんの、せーえき、私も……」

「ザーメンもおっぱいも、独り占めなんてさせへんから」

「あっ、や、ひゃああん」

 

 金髪と茶髪が揺れて、乳首を吸い、かかっている精液を舐めとる。フェイトのそれは、母親の母乳を一心不乱に飲む赤ん坊そのものであり、はやての熱烈さは、まるで豪華なメインディッシュを食べつくそうとしているようだった。

 

……三人とも、すっかり仲良くなったな。これなら、心配もいらないだろう……

 

 カイトはそんな三人を、これからの旅路、その盤石さの象徴なのだと思った。そして、お返しに三人を絶頂させてやろうと、3つの桃尻がまとまった部分に顔を近づけ、なのはのぷっくり膨らんだ女陰を唇に含み、フェイト、はやての縦筋に指を挿入したのだ。

 

「あぁあああんっ!」

「ひゃっ!」

「やぁあん!」

 

 三人の喘ぎ声が共鳴し、反響し、淫靡な水音も増していく。濡れそぼった秘所を刺激されて、三人同時に軽く絶頂したようだ。しかし、カイトは手加減をせず、舌を、指を激しく動かす。手先を器用に動かし、はやてとフェイト、二人のクリトリスを露出させて指先で弄ると、精液を飲んで陶酔していた二人はあっという間に絶頂一歩手前まで辿り着いた。

 

「あ、カイトさん、そこだめぇ、お豆摘まんといてぇ!」

「父さん、いい、気持ちいいよぉ、もっと、もっとぉ」

 

……これなら、二人は同時にイクかもしれない。だが、なのはは……

 

「っぁあああ!ダメ、だめだめだめぇ!」

 

 案の定、一番に快楽を受けているのはなのはだった。フェイトとはやての二人が、下半身の快感から気を紛らわすため、余計に乳房への愛撫を強めているのだ。3つの箇所から強い刺激を与えられれば、他の娘より快楽に弱いなのはは、すぐに限界に達してしまうのだ。 

 

「もうだめ、イク、イク、イクぅうぅうぅぅう!」

「もう少し待ってくれ。今はやてと、フェイトもイかせるからな。三人同時に、イクんだ」

「え、でももう無理、無理なの、でも、あ、ああ、ああああ」

 

 既に悦楽の限界を越えながらも、カイトの一声で必死に留まっているなのは。その目の焦点はぼやけ、涎が一筋口から垂れていく。放心状態のまま、ただカイトの声だけが楔となって、なのはを絶頂から引き離していた。

 

「あはぁ、なのはちゃん。我慢して我慢して、それですっごく気持ちよくなっとる。目ぇくらんで、気絶して、幸せになってる(こわされてる)んやな」

「大丈夫だよなのは。私もはやても、あぁん、もうイッちゃうから。三人同時に、幸せになろ(おちよう)?」

「あぁ、わたし、しあわせ、しあわせ、しあわせぇ(とけちゃうぅ)

 

 三人とも、同時に限界を迎えた。その瞬間、カイトは三人のクリトリスを噛み、摘んだ。愛液の潮が吹き出し、顔と腕がびしょ濡れになった。

 

「に゛ゃあ゛あぁああああぁぁああぁぁ!!らめぇええええええええ!」

「あ、イク、いくうぅぅぅ!」

「ふぁあああああぁん!」

 

 そして、なのはは仰向けのまま気絶し、倒れ伏せ、はやてもフェイトも、広がったなのはの両腕を枕にして、夢見心地の余韻を楽しんでいた。それはまるで、仲睦まじく川の字で眠る家族のようだった。

 

……なのは。暖かい。暖かいよ。こうして一緒にセックスすると、本当に……

……私と、カイトさん、なのはちゃん、フェイトちゃん。みんな家族や、愛しあう、家族……

 

 なのは以外の二人は、家族や他人との触れ合いに飢えていて、このまぐわいにそれを求めていたのだ。カイトとなのは、二人の『大人』に甘えていたのだ。しかし、今やなのはの変身魔法も解かれ、三人の幼女が揃って眠っている姿が見えるだけだった。

 

 カイトは三人の安らかな寝姿を、手のひらほどの大きさをしたカメラでパチリ、と撮影した。これは、あるデートの日になのはに選んでもらった品だ。三人がカイトの元に揃った時から、カイトは写真を撮り始めていた。三人が幼い少女である時間は限られているのであり、彼女らが大きく成長した時に、その『思い出』を残してやることは重要なのではないかと考えたからだ。

 

 そして寝息を立て始めた三人に厚いタオルを掛け、暖房の温度を上げ、汗まみれのソファに座り込む。一時間もすれば皆が起きて、肉欲の宴がまた始まるのだ。だから、カイトも少し休むことにした。

 

――これが、冬の最中、降誕祭まで続く果てしない前戯、その最高潮の内の一つであった。




これが『パラディース』の日常シーンです。
こんな感じの馬鹿騒ぎが毎日繰り返されてるものだとご想像ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クリスマス・イブ①

 クリスマス・イブ。第九十七管理外世界で良く知られている祭日である。本来、ミッド住まいのカイトが知り得るものではない。しかし、前世の記憶の中には、クリスマスという概念までも含まれていた。どうやら、カイトの前世は地球住まいの人間だったようだ。記憶が戻ってからというもの、なのはたちへの感情だけでなく、カイト自身の習慣や価値観といった、パーソナリティまで前世に引っ張られていた。だから、地球にやって来た時、カイトはまるで故郷に戻ってきたような感傷を覚えたのだ。特に、海鳴という土地の移りゆく四季や暖かな気候は、彼にとっては心地の良いものだった。

 

 しかし、いつまでも地球にいる訳にはいかない。カイトとその三人の伴侶が住まうべき場所は『パラディース』。そうでなければ、次元世界を巻き込むであろう騒乱に飲み込まれてしまうのだ。

 

 ジェイル・スカリエッティが『闇の書』の解析を完全に終えた時。それは、彼が無限に近い戦力を手に入れる時だ。『闇の書』に付属する守護騎士システム『ヴォルケンリッター』。無限再生の能力と一流の魔導師を上回る戦闘能力を持つプログラムの解析と、コピー。成功すれば、理論上は無限の戦力を有することが出来る。そして、既存の『戦闘機人』、『レリック』、そして『聖王のゆりかご』。これらを自在に扱う事が出来れば、最高評議会は勿論、時空管理局の全戦力を相手にして容易に蹴散らすことが出来る。カイトがジェイルに語った、『この世界全てがお前の遊び場になる』というのは、そういうことだった。

 

『ククク……なるほど。それは面白い。実に面白いな』

「だろう? 世界征服も恐怖支配も、全てがお前の思いのままだ」

 

 カイトから改めて『ネタばらし』をされた時、ジェイルは哄笑した。今まで脳髄どもの道具として好き勝手に扱われていた彼や、彼の研究成果。それらに自由が与えられ、かつ世界を玩具に出来るほどの力を手にすることが出来るのだ。『無限の欲望』の名にふさわしく快楽主義的な彼にとって、これほど痛快で、面白可笑しい事は無い。カイトとしても、彼らが世界を席巻すれば、彼らの協力者である『パラディース』の航行の安全も確保できるという訳だ。

 

『だが一つだけ不満点もある』

「対等に戦える敵がいない、か?」

『その通り。ゲームというのは対戦相手がいないとつまらない。次元世界を盤上にするんだから尚更だ。君のことだから勿論そこも抜かりはないんだろう?』

 

 ジェイルというのは強欲な男だった。世界を操る程の力を持ちながら、それと対等に戦うことの出来る相手が欲しいと言うのだから。しかし、この一見無茶な提案は、カイトにとってはむしろ都合の良いものだった。

 

「ああ。最高評議会には、プロジェクトFの完成形と、なのはたち三人の遺伝子を送っておいた」

『僕が作った「実験体」のデータもかい?』

「プロテクトが緩かったからな。お前のやる仕事とは思えないくらいに」

『偶然油断していたのさ』

「偶然、ね」

 

 用意された『敵役』は最高評議会のことだった。カイトは彼らに、ジェイルが作った戦力以外の直属軍団の必要性を訴えた。そして評議会は、高い魔力資質を持つなのは・フェイト・はやてらのクローンを何万体も量産し、その中から魔力の高い個体を訓練させるという方法を取ったのだ。プロジェクトFの方式で作られるクローンは『よく似た他人』であり、魔力素質の遺伝も確実ではない。しかし『実験体』を生み出すまでのジェイルの研究によって、高い魔力を持つ個体のクローンほど、魔力資質を持つ個体数が増加するということが分かっていた。

 

 これでカイトは、スカリエッティ一味と最高評議会、二つの勢力へ同時に協力することになる。こうすれば、例えジェイルが心変わりをして、カイトを敵視したら評議会を頼ればいいのだし、その逆も同じということになる。一勢力だけに協力するよりも、安全性は高い。最も、ジェイルの方はカイトの行動を全て分かっているのだから、疑いを持つのは評議会の方だけになるが。

 

 かくして、この次元世界はクローンとプログラム体が飛び交い、ひたすら戦火を生み出すだけの末世に変わり果てるだろう。管理局システムは崩壊し、秩序を求める脳髄と、混沌を欲する狂気が世界を支配する。その合間を、白亜の巨船だけが翔ぶ。それが、これから来るべき『すばらしい新世界』だった。少女三人を船に乗せて、好き勝手に暮らすためだけに、全次元世界を巻き込む悲劇と災厄を起こさなければならないのだ。因果だとしたら、それは余りにも大きく、罪深いものだ。

 

『あぁ楽しい。実に楽しいよ。君と出会えて本当に良かった。運命を信じるつもりはないがこの大いなる偶然には感謝をしてもしきれない』

 

 ジェイルは生まれて初めて、心から満足していた。彼と出会えたお陰で、評議会の鎖を砕き、そして果てない欲望を満たす手段を得る事が出来たのだ。

 

「礼を言われる筋合いはない。俺だって自分の望みを叶えることが出来るんだからな」

『少女三人と共に暮らすか。老いても一緒にいるつもりかい?意識をクローン体に移すことだって将来的には可能になるんだ。果てなく続く次元の海で、永遠の命を生きるつもりはないかい?』

「興味深いが、断らせてもらうよ。今の三人は美しいが、成長した三人もまた美しいし、円熟し、老いた時でもそれは変わりないんだ」

 

 きっかけを作ってくれた友人に応えようと、クローンを利用した不老不死を薦めるジェイルだったが、カイトは笑って辞退した。カイトたちにとって『パラディース』はゆりかごであり、家でもあり、そして墓でもある。生きるための全てがそこには詰まっていて、カイトの愛する女たちはその中で成長し、老いて、死んでいく。無論、カイトも同じだ。

 

『花は散る時こそが美しいか。私にはどうにも分からない』

「人それぞれさ。それより、そろそろ失礼させてもらうぞ。限られた時間だ、少しでも皆に触れておきたい」

『どうぞ。私の大切な友人よ。ごゆっくり。お幸せに』 

 

 

   ***

 

 

「なのはちゃん、セット終わってる?」

「大丈夫。配置も録画準備もバッチリ済ませてあるから」

 

 プレイルームで、少女三人がビデオカメラを設置していた。部屋の四隅や天井など、あらゆる所に据え付けられたそれらは、AV機器好きのなのはが、己の知識とカイトの財力を存分に使って用意した高性能かつ高価なものだ。

 

「それじゃあ、撮影役は私が引き受けるから。なのはちゃんほど撮るの上手くないけど、堪忍してな」

「はやてちゃんなら大丈夫。さ、早く始めて」

 

 なのはとフェイトが横並びになってソファに座り、はやてはハンディサイズのビデオカメラを持って二人を映す。その両足は、屹立として地面を踏んでいた。半年のリハビリで、彼女の両足は自由になったのだ。

 

「よぉーし、それじゃあ、三、二、一、はい、始め!」

 

 はやてがカメラ横のボタンを押すと録画が始まり、それに同期して、周囲のカメラも起動し、録画に移る。集音マイクに向かい、なのはとフェイトは元気な声で挨拶した。

 

「私、高町なのはです。私立聖祥大附属小学校3年生で、九歳です」

「フェイト・テスタロッサ・フォレスターです。学校には通ってなくて、外見の年齢は九歳だけど、ホントの所はちょっと分かりません」

 

 二人、仲良く自己紹介をして、それから今日やることを宣言する。

 

「今日、私たちは、カイトさんに処女を捧げます」

「おまんこにある処女膜を、父さんのおちんちんで破いてもらって、本当のセックスをしてもらいます」

 

 最初に三人の処女喪失を記録しようと言い出したのは、はやてだった。折角一生に一度しか無いイベントなのだから、思い出として残しておこうと言うのだ。カイトは反論せず、好きにやれと言ったが、残りの二人には若干の反発があった。初体験なのだから、愛するカイトと二人きりでいたい、というのだ。しかし、三人で同じ日に処女を失うのだから、やっぱり皆で一緒に、仲良くしていた方がいいというはやての説得が二人を動かした。

 

「二人ともー、今の心持ちはどないな感じ?」

「少し、緊張してるかも。ワクワクする気持ちと恥ずかしい気持ちが混ざってるみたい」

「私は、初めてでちゃんと父さんを気持ち良く出来るかな、って不安があるかな」

 

 やると決めたからには、なのはもフェイトも当のはやて以上に気合を入れていた。プレイルームを最適に映す方法を確かめ、撮った物は後で編集して一本のビデオにする予定、という凝り具合だ。恥ずかしがってはいたが、二人にとっても処女を失うことは最高級の思い出になるのだ。

 

「それじゃあ、まずは二人の勝負下着、拝見させてもらおか」

 

 二人揃って服を脱ぎ、下着だけの姿になる。いや、厳密に言うと『下着』をつけているのはなのはだけかもしれない。なのはが着用しているのは青と白の縞模様のパンティだったが、一方のフェイトはもこもこと膨らんでいる紙おむつなのだ。

 

「あぁー、フェイトちゃん、やっぱりそれなんやね」

「うん。父さんと私の絆みたいなものだから」

 

 なんとも言えない微妙な表情をするはやて。『女の子』から『女性』に変わる一大イベントだというのに、身に付けるのがおむつという幼児的なもの。それが、どうにも滑稽に思えてくるのだ。しかし、はやて自身フェイトのことを言えるような立場ではなかった。

 

「はやてだって、ほら、首輪つけてる」

「あ、あはは」

 

 そう、はやてはこの部屋に入った時、カイトにもらった首輪をつけていた。恋人として、保護者としてだけでなく、自分の主人として純潔を捧げたかったからだ。その意味は、親子の絆としておむつを付けるフェイトと似ているものだ。痛いところを突かれたはやては、気を取り直してなのはにカメラを向ける。

 

「なのはちゃんは、なんで縞パンなん?」

「前につけてエッチした時、カイトさん凄く興奮してくれたんだ。他の下着も色々試してみたけど、これが一番みたい」

「ふぅん、色々考えとるんやな」

 

 この半年で、なのはは随分外見に気を遣うようになっていた。最初は年並のおしゃれしかしていなかったのが、髪型を変えたり、時には化粧や口紅にまで手を伸ばすこともあった。その度カイトに気づいてもらい、努力を褒められるのが嬉しいのだ。

 

「この前はね、このパンツでおちんちんこすって射精してもらって、それを履いたまま学校に行ったこともあるんだよ」

「うわぁ、興奮して授業とか、まともに受けられなさそうやな、それ」

「うん。アリサちゃんとすずかちゃんに会う時なんか、もうどきどきだったよ」

「なのはも最近、そういうの結構激しくなってきたよね」

「慣れてきちゃったのかな。それに、カイトさんが楽しんでくれていると思うと、嬉しくなって」

 

 他の二人に気後れしている所も、すっかり無くなってしまっていた。余り率先して行動することはないが、それは気性の問題だ。カイトが望むのなら、どのようなプレイでも喜んで行う。それが、なのはの決心だった。それに応じて、カイとの方も段々と自分から要求をしていくようになり、四人のセックスは激しさを増していった。そしてついに、その最後の一線を超える時が来たのだ。

 

「さぁて、そろそろ主役のご登場や。カイトさん、入ってええよー」

 

 その言葉と同時にドアが開き、カイトがやってきた。すると、三人の顔つきは一斉に変わり、年頃らしくはしゃぐ少女から、発情した女の顔になる。一人の男の一挙一動に六つの目が向けられ、いかにして彼の気を引こうかという、静かな競争が始まるのだ。

 

「これはまた、随分と本格的だな」

 

 プレイルーム中に配置されたカメラの多さに、カイトは思わず溜息をつく。しかし三人が三人とも、何事にも全力で取り組む性格をしているのだから、こうなるのも当たり前だと納得はできた。

 

「にゃはは。好きなだけ準備していいって言ったカイトさんが悪いんだよ?」

「私たちだって、折角思い出を残すなら、きちんとした物を作りたいし」

 

 なのはたち専用の口座を確認したら、少なくない金額が引き落とされているだろう。そう、若干冷や汗をかきながら思うカイトだった。

 

「それでは、主役のカイトさん、意気込みを!」

 

 リポーターのようにノリノリで、はやてはマイクをカイトに向ける。カイトは恥ずかしげに頭をポリポリと掻きながら、それでもはっきりと三人に告げた。

 

「なのは。フェイト。はやて。私はこれから、君たちを本当に私のものにする。いいね?」

「はい」

「いいよ」

「私もや」

 

 カイトの宣言に、否定する言葉が帰ってこようはずもない。カイトがそのように仕立て上げ、三人もそれを受け入れているのだから。

 

「じゃあ、まずは誰からにするんだ? それも相談したんだろう」

「うん……だから、私から行くね」

 

最初に名乗りを挙げたのは、なのはだった。『皆がカイトさんとエッチしてるのを見たら多分気絶しちゃう』というのがその理由だ。ソファから離れ、広い部屋の奥に用意されているキングサイズのベッドに移動する。勿論そこも、撮影用のカメラが完備されていた。

 

 カイトと二人、ベッドの端に座り込んだなのはだったが、どうにもそこから先に進めなかった。いざとなると緊張して体が固まるのだ。その硬直を解きほぐすように、カイトは優しく声をかける。

 

「なのは」

「は、はい」

「力を抜いてくれ。なのはにはいっぱい気持ちよくなってほしい」

 

 そう言って笑った次の瞬間、カイトは両手でなのはを抱きしめた。体温の暖かさがなのはを包み込む。なのはも、震える小さい体をカイトにしがみつかせた。

 

「カイトさん……んっ」

 

 互いに繰り返される、ついばむような、小さいキス。それは段々と深くなり、次第に舌が絡み合う。体の中に溜まっていた熱情が、舌先から滲み出し、交換されていくのだ。

 

「むっ……んんっ、ん、ちゅ、ぢゅぅぅ……」

 

 体格に差があるので、なのはが顔を上向けにし、カイトが頭を下げる形になる。まるでカイトが伸ばした舌に、なのはの唇がしがみついているようだ。

 

【カイトさん、カイトさん】

【なんだ、なのは】

【好き、好きなんです。大好き、カイトさん】

 

 なのはにとって、キスというのは不思議なものだった。ただ唇を合わせ、舌を絡ませ合うだけのことで、好きという気持ちがどんどん膨らんでいき、同時に淫靡な心が少しずつ開けていくのだ。体温が上がって、頬は真っ赤になり、体が茹でられるように熱くなっていた。

 

「じゅっ、ちゅぷ、ん、ちゅぢゅぅ、ちゅぅ……」

 

 ディープキスが更に深みを増していくのと同時に、カイトはなのはをベッドに押し倒した。やわらかなスプリングがぎしり、と音を立てた。仰向けになったなのはは、股を広げてカイトの男根の前に秘裂を差し出す。正常位の形だ。

 

「んぷっ……ぷはっ、あ、あぁ」

 

 カイトの唇が離れた後も、口を開いたとろけ顔で空を見つめるなのは。その下着は、とうに愛液でびしょびしょになっていた。これなら、前戯をする必要は無いかもしれない。

 

「なのは」

「あぅ……おちんちん」

 

 なのはの目の前に、限界近くまで膨張した男根が姿を表した。なのはくらいに未成熟の女の子には、凶器だとも言えるサイズだったが、しかしなのはの膣内はそれを受け入れる準備を終えていた。カイトの用意した薬のおかげである。

 

「これから俺のこいつが、なのはの中に入るんだ。なのはの処女膜を破いて、血が付いたまま膣を突いて、射精する」

「うん……私も、そうして欲しいな。だから来て、カイトさん。私の処女、カイトさんにあげる」

 

 両手を前に広げ、首を傾げながらにっこりと笑い、なのははカイトを心で迎えた。後は、実際に挿入するだけだ。

 

「んっ……」

 

 亀頭を女陰の真ん中にあてがい、少し力を入れたが、中々入ってくれる様子はない。カイトはなのはの腰を掴み、多少力を使って挿れることにした。カイトの剛直は硬く、もう少しだけ力を入れたら、亀頭がすっぽりと膣内に吸い込まれた。

 

「ふ、んぅっ!……」

 

 いくら愛液という潤滑液が効果を発揮していようと、流石に九歳の膣道は、大人の勃起した陰茎にとって二十分に狭い。ぎゅうぎゅうと締め付ける感触を、先の敏感な場所で堪能しているカイトだったが、すぐに一つの『膜』に引っかかった。これが恐らく、なのはの処女膜なのだ。後数センチも進めば、破れてしまうほど薄いものだった。

 

「なのは、いくぞ」

 

 そう告げると同時にぐっと力が入り、そしてなのはの処女膜は破られた。

 

「う゛、あ、あああ゛っ」

 

 ブチッ、と膜が破られる痛みがなのはを襲う。しかしその鈍痛は、かけられた魔法によって反転し、激しい快楽に変わっていった。なのはの全身が快楽に震える。軽く絶頂に至ったようだ。一瞬だけ出て行った悲鳴は、すぐに嬌声となった。

 

「あがっ、あ、あああああっ!あひ、ひぃ、はあぁぁぁぁぁぁん♡」

「なのは、なのはの中、凄く気持ちいいぞ」

 

 処女膜以外に、狭い膣内に抵抗を受けながら、カイトの肉棒はなのはの膣奥まで潜り込み、そしてゆっくりと前後に動いていく。未だ未発達のなのはの性感だが、この時は頭をとろけさせるような強い刺激をなのはの脳へと送っていた。

 

……あぁ、カイトさんのおちんちん、本当に入ってる。私、カイトさんとセックスしてるんだ……

 

 結合口からは赤い血が一筋流れ出ていたが、カイトもなのはも意に介さず、互いにゆっくり腰を動かし始めていた。

 

「なのは。凄い顔してるな。気持ちいいのか? 処女膜強引に破られて、気持ちいいのか?」

「うんっ、気持ちい、気持ちいいのっ! それに、おっきい! カイトさんの、おまんこの中でおおきすぎるの!」

 

 薬で最低限拡張されているとは言え、なのはの体内でカイトの男根を受け入れるのは、やはり物理的にきついものがある。それでも、子宮口の目の前までを使い、大人の性器の全てを受け入れることに成功していた。

 

「なのは、なのはの奥、分かるぞ。こりっとしている、これが子宮だな」

「そうだよぉ、あんっ、なのはも、そうだもん。カイトさんの先っぽが、奥の奥を突っついてきちゃう、あひっ、ひぃ♡」

 

 その言葉に反応して、カイトは思い切り腰を叩きつける。するとなのはの子宮がずん、と叩かれて、まだ女としての機能を十全に果たしていないはずのそれすらも、切なくなって発情してしまうのだ。

 

「にゃ、あ、あああっ♡ しきゅう、おく、もっとついて、おかしてぇ♡」

「いいぞ。思う存分犯してやる。なのは、愛してるぞ」

 

 カイトの腰の動きはどんどん早くなって、狭い膣内はすっかりカイトに征服されてしまっていた。一突きされるたびになのはの頭の中はかき回され、ドロドロになり、目の前の快楽をさらに増幅させていく。

 

「あっ、ん、あっ、はぁん……ちゅ、むぢゅ、ちゅぅぅぅ」

 

 なのはの狭い膣内で、カイトの性器がしごかれるのと同時に、再び二人の顔が近づき、唇を重ねあう。上の口でキスをしながら、下の性器でも激しく触れ合うその体勢は、二人に二重の快楽を与えていた。

 

……高町なのは。白い天使、そして悪魔。エース・オブ・エース。もう全て、俺のものだ、誰にも渡さない、俺のものだ……

 

 カイトはキスをして、セックスをして、なのはの体内を全て征服したかのような錯覚を覚えた。すると、今度はその体内を、自分の色に染め上げたいという気持ちが、快感を通じて、強烈な射精欲と化して襲ってきた。その欲望の濁流に、耐えることなど出来るわけがない。

 

「なのは。なのはが良すぎて、もうダメだ。射精するぞ」

「うんっ。私ももう、だめなのぉ♡ あっ、イッちゃうから、はやく、膣内にちょうだい♡」

 

 なのはも、同じようだった。カイトに処女を捧げた幸せと、処女膜喪失の痛みが変換された強烈な快楽。未だ気をやらず、正気を保てていることがおかしいくらいだった。

 

「ああっ、なのは、なのは、大好きだなのはっ」

「カイトさん♡ なのはも、大好きっ♡ ああっ、おまんこ気持ちいい、気持ちいいの!」

 

 ラストスパート。カイトは汗まみれになりながらなのはの膣内をピストンし、なのはも熱い身体を使ってそれを受け入れる。

 

 そして、カイトが腰を押し付け、ひときわ深い場所に突き入れた、その瞬間。

 

「くぅ、なのはあっ!」

「あ、イグ、イクゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッゥゥ! あああああああああああああああっ!」

 

 ドクン、ドクンと、壊れたホースのように止めどと無く精液が溢れだし、なのはの子宮を白濁が満たした。今までで最大の絶頂へと至ったなのはの膣道は、それでもなお収縮し肉棒を押さえつけ、尿道に残った精液までも放出させようとしていた。

 

……ぁ……セックス、これが、カイトさんとの、セックス……すごいよ……

 

 絶頂の余韻に浸るなのはには、もう何も見えていなかった。気持ちよさの残滓だけが身体に残り、愛する人と結ばれた幸福感と混ざり合い、ゆったりとしたまどろみが生み出されていった。

 

「なのは」

「はい」

「これから、たくさんセックスしよう。フェイトも、はやても一緒に、死ぬまでこうして気持よくなっていよう」

「……はい♡」

 

 満面の笑みを浮かべながら、なのははくてっと頭を下げ、そして眠りの中に入っていった。するとカイトの意識は、今までカイトとなのはの情事を見ていた、フェイトとはやてに移る。

 

「あ、なのは、父さん、あ、あ……」

「すごいぃ……セックスって、こんなすごいんや……」

 

 二人共、目の前で起こった光景に圧倒されたのか、顔を両手で塞ぎながら、それでも目をじいっと見張らせていた。

 

「……さぁ、次はどちらなんだ?」

 

 カイトがそう問いかけると、二人は少なくない時間、顔を見合わせ、そして一人が、唾を飲み干しながら、カイトの前に歩み出た――

 




ようやく。ようやくここまで行けました。
こんな長ったるいもんを読んでくださった皆さんには本当に感謝の気持ちでいっぱいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クリスマス・イブ②

「父さん……次は、私」

 

長い金髪が、はらりと揺れる。気絶したなのはをソファに運んで来たカイトが目にしたのは、甘やかな顔を火照らせたフェイトだった。まだ九歳とは思えない程の色気を纏いながら、艶やかに微笑む。

 

「フェイトか。その格好、似合っているぞ」

 

 格好、といっても何かを着込んでいるわけではない。おむつを付けているだけだ。しかし、大人顔負けの妖艶さと、おむつの幼さのギャップが、ただ裸であるよりも扇情的な雰囲気を醸し出している。カイトは手をフェイトの腰に近づけ、慣れた手つきでテープを剥がし、おむつを取り外す。ぱさり、と音を立てて落ちた途端、辺りに広がるのはアンモニア臭ではなく、愛液のむわっとした甘酸っぱい匂いだった。

 

「随分興奮してたんだな。おむつもかなり濡れているぞ」

「うん。父さんに犯されることを考えると、お漏らししたみたいにお汁が溢れてくるの。早く父さんのおちんぽ食べたいなって、よだれが出ちゃう」

 

 ぴっちり閉じられていた縦スジが、人差指と中指で開かれ、その中からピンク色の膣壁が見える。そのように挑発してくるフェイトは、カイトの興奮を誘うことに成功していた。しかし、余り大胆に迫られると、却って足を引きたくなるのがいたずら心というものだ。

 

「そうか? お前、男のモノならなんでもいいんじゃないのか?」

「ううん、父さんだけだよ」

「本当か?」

「もう、いじわるしないで」

 

 軽く勢いをつけて、フェイトはカイトの胸元に飛び込む。その細い体躯を、カイトはぎゅっと抱きかかえてやった。それから、互いに愛撫を始める。一番付き合いの長い二人であるから、感じる所や弱点などは、もうすっかり分かっていた。フェイトは首筋を舌でちろちろと舐めて、膨らんだ肉棒の裏筋をそっと触る。カイトは片手で尻を揉みながら、もう片手フェイトの髪の毛を梳くように撫でている。

 

「フェイトは、いい子だな。こんなにエッチで、父さんに尽くしてくれる娘は他にいない」

「本当? 嬉しいよ。わたしね、父さんと会えて、一緒にいられて、すごく嬉しいよ」

 

 フェイトは、今や自分の望む何もかもをカイトから与えられていた。友達、家族、魔法、そして愛。フェイトが望めば、それはすぐにでもフェイトの手の中に収まった。それに心置きなく甘えるフェイトは、かつて『時の庭園』にいた、愛されることのない人形ではなかった。偽りの記憶にすがる、哀れな道具でもなかった。ただ、父を純粋に想う、一人の女の子になっていた。

 

 だが、その想いの寄せどころである父が。カイト・フォレスターがいなくなれば。彼女は壊れてしまうだろう。しかも、もはや後戻りできないほどに、ボロボロになって。

 

「父さん、ずっとずっと、私の側にいて。私から離れないで」

「約束しよう。『パラディース』の中で、私はずっと、お前と一緒だ」

 

 そうならないために、四人と一匹の方舟となるために、『パラディース』は用意された。「楽園」という名の付いた、白亜の巨船。その中に籠りさえすれば、誰にも邪魔されず、侵されることもない。計画の最終段階として、そんな環境づくりが必要だった。だから、カイトはジェイル・スカリエッティや最高評議会を助け、次元世界に一つの不可侵を作り出した。

 

 六年後。なのはのミッド留学が終わる丁度その頃には、互いの準備が終わり、世界は二つの騒乱の目に飲み込まれていくだろう。管理局にはどうしようもないことだ。国家や組織、宗教や民族という、そんな生半可な区切りでの戦いではないのだから。評議会という名の秩序と、ジェイル・スカリエッティの姿を借りた混乱、二つの価値観が争い合うのだ。

 

 その狭間、世界を滅ぼしかねない二つの勢力が、互いに触れることのない不可侵区域。それこそ、この世で最も安全な場所だ。

 

「あっ、父さん、そこいい、気持ちいいよ、ふぁぁ」

 

 カイトの手が、尻肉から穴の方に移動する。ヒクヒクと動く括約筋をぎゅっと押し、指が一本中に入った。すると、フェイトの力はたちまち抜けて、カイトの上半身にその身を崩れ落とす。最近、カイトはフェイトの尻穴を調教し始めていて、その効果が早速出始めていた。

 

「こっちの穴も、すっかりいい塩梅になった。解すためのマッサージ、欠かさなかったみたいだな」

「うんっ、父さんの言うとおりに、おしりの穴毎日いじくって、お浣腸もしたんだよ」

 

 「ほめて、ほめて」と言わんばかりに顔を輝かすフェイトの頭を、カイトはより優しく、より多く撫でてやる。それと同時に、尻穴の中で指を動かし、性感を与えるのも忘れなかった。

 

「ふぁっ、や、あんぅ、はぁん、あ、あっ」

「これくらい柔らかくなったら、そろそろ私のも入りそうだな。アナルの処女、貰おうか?」

「ああっ、それもいいけど、あ、やんっ。でも、今日は、や、ああっ」

「いいのか? 痛く無いかもしれないし、ひょっとすると、前よりこちらのほうが具合がいいかもしれないぞ?」

「やぁん、もう、いじわるやめてよぉ」

 

 フェイトは口を尖らせ、カイトのいたずらを責める。やれやれ、という笑い顔をして、カイトはある物を持って来た。カイトの手に収まるほど細く、しかし長めのそれは、アナル専用のバイブだった。

 

「これを、アナルに挿れるんだ。出来るね」

「うん、父さん。多分、大丈夫だと思うから」

 

 一度、アナルから指を抜き、ローションをたっぷりと塗りこむ。そして、今度は二本の指を、同時に挿入した。いくら開発したといっても、これだけ大きいものを挿れるのは初めてだ。だから、肉壁を傷つけないよう、最大限の準備をしなければいけない。

 

「ふああっ、あう、ううぅん、おしり、あ、いい、いいのぉ」

「じっくり準備するぞ。フェイトも、思う存分感じてくれ」

 

 人差指と中指で、フェイトの腸壁をこねくり回す。グチュグチュ、と音を立てて刺激されるアナルからは、まるでもう一つの女陰のようにいやらしく、ねっとりとした雰囲気が匂いとなって立ち込めた。そのまましばらく下準備を行なっていたら、すっかりアナルは弛緩して、フェイトの顔も快感でだらしのないものになっていた。

 

「そろそろいいな、フェイト、尻に挿れるぞ」

「あ、あふっ、い、いいよぉ、もうおしり、ぐちゃぐちゃなのぉ」

 

 カイトの男根程ではないが、九歳の女の子の体にとってはかなり太いバイブ。しかし、一度入り口を通れば、全く抵抗なく、逆に吸い込まれるかのように腸内へと入っていった。

 

「あああっ、きた、きたぁ、おしりのおくまで、きてるぅ」

 

 フェイトが挿入の衝撃で感じると、今まで泥のように柔らかかったアナルが、急に引き締まり、バイブをきゅっと締め付けた。

 

「あ、ああんっ、でもまだ、まだなの。おちんぽ、おちんぽ頂戴ぃ」

 

しかし、これだけでフェイトが満足できるはずがない。カイトの男根を女陰に迎え入れ、二つの女穴で絶頂することこそが望みなのだ。だから、陰部はさらにしとどに濡れ、その奥では子宮口まで精液ほしさに開いていた。

 

「上出来だ、よく頑張ったなフェイト。ご褒美、くれてやろう」

「あはっ。ねえ、はやくごほうび、きてきてぇ」

 

 ご褒美、というのは何か、もはや言うまでもない。フェイトは足をぱっくりと広げ、完全に男性を受け入れる体勢をとった。その淫乱さに興奮しながら、カイトもかちかちの性器をあてがう。

 

「行くぞ、フェイト」

「きてぇ、おちんぽ、父さんのおちんぽで、フェイトのバージン奪って」

 

 なのはの時よりは、いささか性急な挿入だった。ぐっと突きこまれた亀頭が、処女膜を破り、フェイトの一番奥まで辿り着いた時、余りに大きな痛みと快楽がないまぜになり、フェイトはあっという間に頂点へと達した。

 

「あ、あーーーっ、あひぃぃい♡ ひん、い、あ~~~っ♡」

 

 膣と、アナル、両方に異物の入っている感覚。そして、愛する父親に犯されている、幸福。頭の中に電撃が落ちて、ヒューズが飛んだような快感が、フェイトを襲ったのだ。こらえきれるようなものではないし、こらえる意志もなく、フェイトはただその至福を受け入れた。

 

「くぅっ。フェイト、お前、締まるな。きつい、キツキツだ」

「あくぅぅ、おまんこ、おしり、どっちも気持ち良くて、イっちゃったぁ」

「いい子だ、フェイト。それじゃあ、もっと気持ちよくしてやる」

 

 その言葉とともに、ペニスの抽送が始まった。フェイトの膣内で起こる激しい刺激と吸い付きが、カイトの腰を早め、最初からかなり激しい動きになっていた。フェイトもかくんかくんと腰を動かし、足はカイトの背中に回りこんで身体を固定している。

 

「んあぁぁぁん! 中で、こすれてぇ、すごい、いい、気持ちいいよぉ、ぱぱぁ♡」

 

 カイトが深く一突きするたびに、フェイトの膣肉はさらにぎちぎちに締り、まるでカイトの男根を無理矢理吐き出してしまいそうなくらいだ。それがぐいっとこじ開けられ、さらに子宮口を押されると、フェイトの脳内に麻薬のような快楽が走る。フェイトにとって、一生忘れられない、最高の処女喪失劇だった。

 

「フェイト、もっともっと、気持ちよくなれっ」

 

 そんなフェイトにとどめを刺そうと、カイトは手に持つデバイスから、バイブの動力を入れた。ヴヴヴと鈍い音を立てて動くそれは、フェイトの理性に対する、決定的な一撃となった。

 

「あ、だめ、だめ、らめぇぇぇええええ!」

 

 その快感は、一度二度の絶頂で収まるものでは無かった。バイブが震えるたびに、フェイトの全身はがくがくと震える。両足はぎゅうっとカイトを掴み、両手もカイトの背中に爪を立てていた。

 

「おしりがイッてりゅ、イってりゅのにぃ、まえで、おちんぽがぁ♡ ふぁぁぁあっ♡」

「どうだ、フェイト、気持ちいいか」

「はひぃぃい♡ あ、おまんこもだめぇ、また、まらいっひゃううううう♡」

 

 フェイトが何度絶頂しても、カイトは腰を休めず、イッたばかりの膣を硬い肉棒で容赦なくえぐる。あふれんばかりの快楽に身をよがらせ、拠り所を求めて自分にしがみつくフェイトが、どうしようもないほどに愛しく思えるからだ。

 

「あひゃぁぁぁん! 気持よすぎてぇ、うぅん、ばかになっちゃう♡ おまんことおしり、どこまでも気持ちよくなって、頭おかしくなっちゃうよぉぉ♡」

 

……それでいい、それでいいんだフェイト。私に抱かれてる時は、それだけで。俺が、俺だけが、お前の全てを、受け入れてやるからな……

 

 フェイトの限りなく純粋で、そして歪んだ愛。その発露は、カイトの心に得も言えぬ満足を覚えさせた。そしてそれが、白濁色の欲望となって、カイトの体内を蠢き、放出されようとするのだ。

 

「フェイト、フェイトっ。フェイトの膣内に、たくさん出してやるっ」

「んはぁぁぁぁぁぁ♡ だしてぇ、ザーメンいっぱいぃ、なかだしぃ♡」

 

 フェイトの体も、一刻も早く精液を迎えようと必死に動き、まだ使われるはずのない子宮までもがパクパクと口を開いていた。娘としての想い、女としての想い。渦を巻いた情念が卵子となって、カイとの欲望である精子を受け入れ、受精し、永遠に消えない愛を形作るのだ。

 

「あはっ、パパ、大好きだよ♡」

 

 その一言が止めとなった。ドクン、とカイトの体が震え、特濃の精液が、鈴口から子宮に向かって勢い良く吹き出した。最大限度の振動を続けるバイブは、既に肛門から半分ほどはみ出していた。

 

「フェイトぉ、くおぉっ」

「あ、あぁぁあああああああああああっ♡ ひきゅう♡ ぱぱ、ひゅき、だいひゅきぃぃぃぃぃぃぃ♡」

 

 カイトとフェイト、互いに絶頂し震える体を、しっかりと抱きしめた。接合口からは血と精液の混じった液体が、ぽたぽたと零れ落ちる。カイトがベッドに座りながら、フェイトを抱きかかえる体勢になっていた。

 

「あぁぁぁ、あはっ。父さん、ありがとう……私を、父さんのものにしてくれて……」

 

 その一言を最後に、フェイトもまた、なのはのように意識を飛ばし、暖かな眠りの中に沈んだ。 

 これで、カイトは二人の処女を奪った。残るは一人。しかし、流石に疲労し、今はしばし休みたかった。

 

「お疲れ様、カイトさん。すごかったなぁ、フェイトちゃんもなのはちゃんも気持よすぎて、天国行っちゃった」

 

 そこで、一部始終を録画していたはやてが、甲斐甲斐しく後始末をしていく。カイトがフェイトをなのはと一緒のソファへとに送り届けると、水を持って行き、一休みさせた。

 

「だからな、カイトさん。きっと私にも、天国、見せてな?」

「わかってるよ。でも、はやての望むようにするには準備がいる。それに、はやての方も準備、したいんだろ」

「せやなぁ。『ご主人様』の奴隷として、処女を捧げたいんや。楽しんでくださいな、ご主人様♡」

 

 

 




(中書きになるかも)

とりあえずフェイトパートのみ完成いたしましたので、一旦更新させて頂きます。編を分けるかこの後に更新するかは未定ですが、どちらにしろなるべく早く更新致します。最後の最後、大トリになるはやてちゃん編にご期待ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クリスマス・イブ③

 二回の性行為が終わり、プレイルームには汗と性の匂いが充満しているように感じられた。換気機能は正常に作動していたのだが、カイトの脳裏には二人の甘い顔と女体の感触が焼き付いていて、それが残り香のようなものになって彼を錯覚させたのだ。

 

 至福の感情が陶酔となって、まるで酔った酒飲みのようにカイトの頭をくらくらとさせた。とんでもないことをしているのだ。三人の、カイトにとっては女神に等しい女たち。その処女を、今二つも貰っている。そしてこれから、その最後の一つがカイトに捧げられるのだ。強制でも陵辱でもなく、その女性自らの意志を持って。

 

「お待たせ、カイトさん」

 

 最後の一人、八神はやて。彼女は黒い革ベルトのボンデージを身に纏い、首には赤く鍵の付いた、犬が付けるような首輪をつけていた。その衣装が示している通り、これから起こるのは、なのはやフェイトにしたような甘い初体験ではない。もっと鮮烈で甘い、苦痛に満ちた物だ。はやての中にあるマゾの心が、愛するものに犯されたい、乱暴な愛で傷つけられたいという欲望がそれを望んでいるのだ。

 

「似合ってるぞ、はやて」

「ありがとなぁ、ご主人様。今日という日が来るのを、わたしは待ち望んでたんや」

「俺に犯されて処女を棄てる事をか」

「はい。本当にご主人様の物として、死ぬまで飼って頂ける。女の子の一番大事な所を、ご主人様専用に躾けてもらう。それが、雌奴隷としての、ううん、八神はやてとしての一番の幸せや」

 

 はやてが首を傾げて笑うと、鈴代わりの南京錠が金属部分と触れ合ってチン、と音を立てた。

 

「それじゃあ、始めるぞ。こういうことにこいつを使うのはアルフ以来だな」

「いつでもええよ。目はじぃっと見つめてるから」

 

 カイトの目の中に、藍色の魔法陣が展開された。レアスキル『意識操作』だ。今回、カイトははやてに精神的な枷をかけて、嗜虐しようというのだ。勿論、半年前のように決定的な歪みを生み出さぬため、あくまで一時的な精神操作に留めていた。だから、はやてが怪しくカイトの目を見つめ、意識を飛ばしてぼやけた顔をしていたのは10秒にも満たぬ間だった。

 

「これで終わった。どうだ、今の感じは」

「んー、あんまし変わったようには思えないんやけど」

「それはそうだ。何も人格そのものを変えたわけではないしな。効果の程は、これから実感するだろうさ」

「楽しみやぁ」

 

 その言葉から一瞬経って、互いにこれから起こる痴態と快楽を想像し、怪しげな笑みを浮かべる。こと好色という点において、カイトとはやての気は完璧に合致していた。二人の間に通いあうこの空気は、恋人や主従というより、気のおけない悪友同士といったものだった。

 

「じゃあ、いくぞ、はやて」

「うん、来てぇ、ご主人様」

 

 しかし、そんなどことなく明るい雰囲気も、次の瞬間には甘ったるい恋人の空気と、背徳感に溢れた主人と奴隷との空気に早変わりしていた。

 

 まずは、天井から降りてきたロープを、拘束衣の各部につなげて、はやての体を持ち上げる。大股開きになった下半身は、まだ幼い縦筋の女陰をくっきりと露出させていた。周囲に配置されたカメラのレンズが、その痴態をばっちり捉えていた。

 

「あはぁ、丸見えや。やっぱしちょう恥ずかしぃなぁ」

「そうか? あの時のお前は、自分から見せつけてきたんだろうが」

「あぁん、でも、その時は私……」

「戯言を言うな」

 

 カイトがパシン、と一回尻を叩けば、はやては甘美な鳴き声を上げてあっさり意見を覆した。自分は変態だ、見られて感じる変態だと声が響く度に、ほんのりと濡れていた女陰が、さらに水気を増し始める。

 

「はぁんっ、ごめんなさいぃ」

「嘘をつくんじゃない。現に今も、濡れてるじゃないか。見られて、叩かれて、感じているとはなっ」

「あひぃん! もう許してぇ、はやては変態です、お尻叩かれて、エッチになっちゃうぅぅ……」

 

 二回、三回。力強く桃尻が叩かれる度に、二人の気持ちも高ぶっていく。ただいたぶるだけでなく、そこには確かに愛がある。苦痛を与える側、それを全身で受け止める側。二つの間には、普通のセックス以上に気持ちの通い合いがあるのだ。

 

「はやて……今日は、これで愉しもうか」

 

 カイトが部屋の倉庫から取り出したのは、ボールギャグとピンクローター、目隠し、そしてガムテープ。まずは目隠しを取り付けて、はやての視界を奪う。何も見えない、カイトの姿すら見えないというのは、はやてにとってかなり不安感を煽るものだった。

 

「ねぇ、ご主人様、どこですかぁ? ……何、するんですか?」

「……」

 

 心細さに弱々しげなはやての声を、カイトは敢えて無視して準備にとりかかった。「これから何をされるのか」という怯えと緊張で、はやての吐息が熱くなっていることは分かっているのだ。

 

 ボールギャグをはやての口に付け、まともに喋れないようにする。そして、ローターにガムテープを貼り、乳首にそれぞれ一つ、そして淫核へもう一つ取り付けた。それから、リモコンをつかって部屋のシステムを操作。すると、壁のそこかしこから、黒い触手状のケーブルが飛び出した。プレイルームは、カイトと三人のいかなるプレイにも対応できるよう設計してある。その中の一つが、この冗談のようなギミックだった。

 

「さあ、はやて。目一杯気持ちよくなるんだ」

 

 カイトがそう宣言し、リモコンのスイッチを押すと、三個のローターが振動を始めた。最大の振動速度。手加減も何もないその刺激に、はやては腰を浮かし、半年で自由に動くようになった足をピンと伸ばした。身悶える度に、拘束衣が体を締め付ける。きついリハビリを経て、五体満足になった体を再び縛られるのは、中々に苦しく、辛い。

 

「むむぐっ! むぐ、う、んんんんんっ!」

 

 声を出そうとすると、唾液の分泌は止まらない。はやての顔は涎の垂れ流しで汚れていった。

 

 目隠しと羞恥心による極度の興奮と、性感帯を三箇所同時に責められる快感によって、はやてにはもう限界が訪れつつあった。

 

……クリトリスと、乳首、両方いっぺんに責められてるぅ。もう我慢できへんっ、もういっちゃ……あ……

 

 しかし、はやてが快楽の波に身を任せて、達しようとしたその瞬間。見えない壁がぶち当たったかのように、興奮が止まった。はやての性感、その高揚は、限界の寸前で立ち止まってしまったのだ。

 

……あぁ、やっぱり。イケへん。気持ちいいのがギリギリで止まってまう。もう少し、あともう少しやのに……

 

 『八神はやては、膣内に男性器を受け入れなければ、決して絶頂する事ができない』。これが、カイトがはやてにかけた『意識操作』その中身だった。はやての心が、その縛りによって後一歩の所で快感を抑えているのだ。それは、痒い所に手が届かないような、もどかしい感情として現れる。はやてはそのもどかしさにグイグイと体を動かし、拘束衣の苦しい感覚すら絶頂の助けにしようとするが、しかしやはり絶頂には至らなかった。

 

「んーっ! んんっ、むぐぅ、むぐぅっ」

「そうか。イケないで苦しいのか? 安心しろ、もっと『気持ちよく』してやるからな」

「んんんんーーー!」

 

 はやては首をフルフルと動かし、違う、違うと泣きながら訴えた。『気持ちいい』だけでは駄目なのだ。それだけでは絶頂する事ができず、際限のない快楽地獄に陥ってしまう。しかし、カイトは容赦をせずにリモコンのスイッチを押し、手持ち部沙汰に止まっていたケーブルたちへと命令を繰り出した。

 

 ケーブルたちが水を得た魚のように素早く動き、雁字搦めに絡んでいった。ラバー状の外装からは粘液が染みだして、はやての体はヌメヌメとした液体で濡れていく。それが潤滑液になって、仕切りに動くケーブルが全身を擦り、快楽を与えるのだ。

 

「んうぅぅぅうぅ~~~~っ、んんうっ、んっ、ん、んぐっ」

 

 太腿を舐めるように動くケーブル。脇の下、耳、陰唇などの敏感な部分にも、ケーブルの先端から展開した細いケーブルが接触し、細かく動きながら刺激を与えていった。

 

……あぁぁ、体全部気持ちいい、頭から足まで全部いいのに……なんでや、なんでイケへんのぉ………

 

 意識が飛びそうなほどの快楽を与えられながら、『意識操作』で絶頂出来ないがために意識を保たなければいけない。それは、『闇の書』の呪いを破壊した時、激痛に晒されながら意識を失えなかった時と、何処か似ているのかも知れなかった。但し、とてつもなく激しいながら限りのあった痛みと違って、今回与えられる快楽は底なしだ。カイトが止めない限り、果てしなく高まり、止まらない。

 

……気持よすぎて、苦しい……はよ処女奪って、子宮の中にせーえきぶち撒けて、イカせてぇ……

 

「駄目だ。お前みたいな淫乱は、もっともっと快楽責めしていかないと」

 

 はやてが心の中で乞うた願いは、カイトの無反応によって虚しく否定された。ケーブルはひっきりなしに動き、はやては更なる快楽地獄を見る。いくら体をよじらせようとも、いくら快楽に身を任せようとも。カイトの剛直を膣内に受け入れない限りは、絶頂にはたどり着けないのだ。

 

「むぐぅぅぅぅぅううっ! ん゛! ん゛! んんぅぅぅぅぅ!」

 

 「もうダメ」「止めて」と言葉に出そうとも、ボールギャグを咥えながらまともに言葉を発することは出来ない。リンカーコアのないはやてには、念話も不可能だ。ただ、目隠し越しに涙を流し、まともでない呻き声を上げるしかなかった。その無力感と、カイトの非情な仕打ちがはやてに更なる性的興奮を与えるが、しかし尚絶頂出来ない。

 

……おねがいぃ、おねがいやぁ……なんでもします、ご主人様の雌奴隷でも、肉便器でもええですから……イカせて……

 

 悶え苦しむはやてをしばらく見つめていたカイトだったが、突然わざとらしい大声を上げながら、ぐっすり眠り込むなのはとフェイトを脇に抱えた。

 

「そうだ。すっかり忘れていた。なのはとフェイトを、寝室に送り届けてやらないとな」

「………! むぐっ、むむぐぅっ! んんんんっ」

 

 カイトが、自分の元から離れる。それは、目の前が真っ暗で、身動きの取れないはやてにとっては、正に絶望であった。快楽に狂いそうなはやてが、すがれるのはカイトの存在だけだった。ほんの気まぐれでも良い、自分の処女穴に肉棒を挿れてくれさえすれば、それで全ては解決するのだ。

 

……止めてぇ、わたしを一人にしないでぇ……ご主人様ぁ……

 

「なんて、冗談だ。先ず、お前に『挿れて』やらないとな」

「んんっ! むぐっ! むぐぐぅ……」

 

 先程とは一転した柔らかい声。それと同時に、はやての体を縦横無尽に這っていたケーブルは一つ残らず元に戻り、はやてを吊り下げたロープも緩み、その身はゆっくりと降ろされた。あとに残ったのは、茹でダコみたいに真っ赤になりながら、荒い息で喘いでいる女の子一人。

 

 目隠しと、ボールギャグが外された。眩しく光る照明を逆光にして、はやての目に映るのは、ギンギンに反り立った図太い肉棒だ。自分を開放してくれる救世主を目の当たりにして、はやては苦しみから解放されたような笑みを浮かべた。

 

「いいか? 今から『挿れる』ぞ。お前の一番好きな体勢になるんだ」

「はいぃ」

 

 いそいそと、はやては自分の桃尻をカイトの前に向ける。いつかはやてが夢見ていた、後背位での処女喪失。犬のように犯されながら、カイトのものになり、最高の絶頂を迎えるのがはやての夢だった。長く苦しい快楽責めの果てに、ようやく理想通りのセックスが出来る――はずだった。

 

 カイトは両手ではやての揺れる腰を掴み、ひくひくと震えている『肛門に』深く肉棒を挿し入れた。

 

「ひゃひぃぃぃいぃん!? そこちが、あ、あ、あああああああっ!」

 

 そこではないと訴える前に、唐突な快感と、激しい痛みがはやてを襲った。実のところ、アナルについては、三人ともある程度開発されていた。だがはやてのアナルは、フェイトほどほぐれてはいない。内蔵を損傷することはなかったが、かなりの痛みが伴う挿入になった。

 

「あぁぁぁ、だめ、だめ、そこじゃない、おそそ、おそそやのにぃ」

「黙れ。望みどおり挿れてやったんだぞ」

「ちがうぅぅぅ、おしりちがうぅぅぅぅぅ」

 

 はやてにとって、確かにアナルセックスも腰の抜けるほど気持ちいい。しかし、やはり膣内へ挿れてもらわなければ、絶頂する事はできないのだ。今度は肛門を貫かれながら、苦痛と快楽の両方が責める。幸福の最中から、再び絶望のどん底へと追いやられた気分だった。

 

……イケへん、それじゃイケへんのにぃ、なんでおしりおかすのぉ。おそそ、おそそにちんぽぉ……

 

「はやて、はやてのアナル、きつきつで気持ちいいぞ。すぐ射精してしまいそうだ」

「!! それだけは、それだけは嫌やぁ、あぅん、やめてぇ、ちんぽやめてぇ」

 

 実際、快楽漬けのせいでとろけながらも、キツく肉棒を締め付けるアナルは、すぐにでも射精出来そうな名器だった。しかし、はやては、子宮の中に精液が欲しいのだ。いくら虐げられても、いくら嬲られても、それだけは。二人の愛の印として、果たして欲しかったのだ。

 

 だが、カイトは容赦なく突きを早めていく。はやての精神が抵抗しようとも、快楽に負けた肉体は言うことを聞かず、その菊門はカイトの精液を絞りださんとさらに狭くなっていった。

 

「はやて、気持ちいい、気持ちいいぞ。今すぐにでも出してしまいそうだ」

「嫌ぁ! そんなん、嫌やぁ! カイトさん、それだけはぁ、あああ゛っ、堪忍してぇ」

 

 はやてがいくら喚こうと嘆こうとも、顔色一つ動かさず、カイトは射精の瞬間に向けて腰を動かしていく。はやての目には再び涙が溢れ、目は見開かれ、全ての希望を失ったような表情だ。

 

「くぅっ、はやて、精液出るぞ、たっぷり出してやる」

「え、駄目、駄目、だめぇぇぇぇぇぇぇ」

 

 あと一突きで射精、という瞬間。カイトは、アナルから肉棒を引き抜いた。

 

……はやて、愛してるぞ……

 

 そして、間髪をいれずに女陰を貫き、処女膜を破り、子宮口にぴったり亀頭をくっつけて、思い切り子宮内に精液を吐き出した。

 

「え、あ、あ、ああ、いく、いく、い、イぎゅうぅぅぅぅぅぅぅぅう♡♡♡」

 

 処女喪失。そして、始めての膣内射精。

 

「気持ちいいだろう、はやて? お前が望んだ全て、くれてやったぞ」

「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛♡」

 

 散々痛め付けられ、切ない希望を裏切られた果てのそれは、文字通り最高の絶頂をはやてにもたらした。処女を強引に奪われた痛み。子宮を精液が満たす喜び。好きな人に抱かれる、幸せ。今のはやてには、それしかなかった。それだけで、よかった。

 

 

 

 

   ***

 

 

 

 

 無限に広がる、次元世界。ベルカの昔も、ミッドの今も、戦乱の嵐吹きすさぶ世界。

 

 時空管理局によってもたらされた『新暦の平和』は、たった七十数年で終結した。後に言う、『ジェイル・スカリエッティ事件』。一人の天才科学者が、古代ベルカのロストロギア『夜天の書』を解析し、作り出したプログラム体の軍団。一体でAAAランク魔導師に匹敵する個体が、ざっと十万体以上出現したのだ。アルカンシェルを以てしても、その勢いを抑えることは出来なかった。

 

 あっという間にミッドチルダは占領され、ついに管理局本局の目の前まで雲の軍団が迫ったその時。桃色の砲撃の束と、金色の閃光の帯、そして白色の爆裂の渦がそれを消し去った。旧暦以前より生きていた、伝説の英雄三人が、時空管理局最高評議会としてクローン部隊を製作し、指揮していたのだ。

 

 しかし、これで平和が訪れたわけではなかった。最高評議会はすぐさま管理局の全権を掌握し、管理世界を独裁政治にて管理すると宣言した。その余りにも強制的な宣言に、抵抗した管理局の部隊や管理世界は、容赦なくアルカンシェルとクローンの兵士たちに制圧された。

 

 それから、何十年と続く戦の始まりだ。評議会側もスカリエッティ側も、敵を倒すためには躊躇なく兵員を投入し、ロストロギアを開放して世界を破滅に導いた。スカリエッティは元から混沌を望んでおり、評議会も次第に手段が目的と入れ違って行き、破壊と殺戮は際限なく膨らんでいった。

 

 そんな、この世に現出した、地獄のような世界の中で。一つだけ、希望に満ちたおとぎばなしが語り継がれていた。

 

 『白い方舟』。次元世界を自由に飛び回る、白い巨船のお話だ。その周りには、プログラム体もクローン魔導師も寄り付かず、戦火の中に飛び込んでも傷一つ与えられない。船内には三人の女神が存在し、乗り込んだ者を争いのない『楽園』へと連れて行くという……

 

 戦乱に苦しむ誰もがその船に出会う夢を見て、そして『楽園』での平穏を願った。実際に『方舟』を見た、という噂も多数存在した。しかし、所詮はただの夢、想像力豊かな文学者が、叶わぬ平和をおとぎばなしに託したものだと、誰もが諦めていた。

 

――でも、『楽園』は確かにあるのだ。三人の女神と一人の男、それから一匹の狼を載せて、爛れた日々を送りながら。『パラディース』は旅を続けているのだ――

 

 

 




拙作『男は楽園を目指す』はこれでひとまず、終了となります。 
ここまでご覧になった方々、感想を送ってくださった方、一目でドン引きして去っていった方々にも、このSSを見てくださった御礼を、改めて申し上げます。
もう一つや二つ、書きたいシーンもありますので、何時になるのかは分かりませんが、必ず執筆し更新したいと思いますので、その時はまたご覧になってくだされば、これほど喜ばしいことはございません。

それでは。いつかまたお目にかかることもあるでしょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。