ナザリックの喫茶店 (アテュ)
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第1章 1stCup  Nuwara Eliya

閲覧いただきありがとうございます

初投稿のため、至らぬ点多いと思いますがそのように感じた点については感想欄にてご指導頂ければと思います


※このSSに出てくるアインズは
 口唇蟲を装備した場合味覚を感じる事が出来るという

 「BARナザリックへようこそ」のtaisa様の設定を使わせて頂いています

 快く許可を出して頂けたtaisa様にこの場でお礼申し上げます


ナザリック地下大墳墓 第9階層にはこの世の贅を極めたもので埋め尽くされている。

 

ロイヤルスイートと表現するのは簡単だが、これほど多機能な場所はDMMORPGだからこそ実現できたのではないかと思わせる出来である。

 

ギルドメンバーのリビングスペース、円卓に始まり、大浴場、バー、ラウンジ、雑貨店、ブティック、ネイルアートショップ、Bar、といった衣食住に深くかかわるものから娯楽に至るまで幅広い設備が置かれている。

もはやひとつの都市以上の設備といっても差し支えないだろう。

 

ただこれらの設備は至高の41人のみが利用する前提である。当然だがここしばらく、かつ、転移後においては、モモンガ、つまりアインズ専用の設備になっていた。

 

しかし、俺しかいないのになぁ・・・とふとした思いつきで、ナザリックに連なる者全てに使用許可を出した。当初は守護者を始め 恐れ多い、あの場所は至高の御方の聖域でありますとの声も多かった。

 

そこでアインズは「元々この設備は我々、至高の者が同胞と楽しむ場所として作られた。それならば息子、娘にあたるお前たちが使うのは至極道理、かまわないことだ」

 

とのアインズの言葉で開放された。今なおナザリックを支配する至高のまとめ役 アインズ・ウール・ゴウンは健在ではあるが、守護者をはじめ 至高の者に創造された者はまた別格の敬意を創造主に持っているのも事実である。今は隠れた存在である至高の存在だが、アインズはその存在を思い出す事を不敬としていない。むしろ推奨しているのだ、何より輝かしく誇りに思っているのはアインズ本人なのだから。

 

その至高の存在を思わせる場所をシモベが使わせてもらえるというのは光栄の極みでもあった。

というのが主だった理由だが、後付ではあるがもう一つ気にかかっていたのは休暇の利用についてだ。

 

シモベたちは至高の存在のために働く事が至上の喜びでもあるため、休暇を取ること等考えられないことでもあった。

 

アインズとしてはそれこそ「えぇ……」という感覚だったため、どうしたものかと悩んでいた。そこで浮かんだのが9層の設備だ。設備によっては数時間利用するものもあり利用するためには休日のように時間が無いといけないと強引に言い通した。

守護者も納得できないという雰囲気を感じたがそこはデミウルゴスがによって解消される。

 

「なるほど……そういう事でしたか、アインズ様」

 

「ほう、意図が伝わってくれたか?デミウルゴスよ」

 

(え、何が!?)

 

「もちろんでございます、理解が遅くなり申し訳ありません」

 

「よい、しかし他の者はうまく伝わっていないようだな。説明してあげなさい」

 

(あぁ…またやってしまった…いやいや後悔は後だ)

 

「はい、かしこまりました」 ニッコリと笑いデミウルゴスは守護者らの前に移動する。

 

 

「アインズ様の意図とは、……そうだね あのザイトルクワエの状況に近いものがあるね」

 

「ザイトルクワエ……あの大森林にいた魔樹ですか?」

 

そうマーレが確認をする。

 

「あぁ……そういう事ね、なるほど」 アルベドが頷く。

 

「どういうこと……?」 「ムゥ……」「分からないでありんす……」「ふぅむ……?」

 

アウラ、マーレ、コキュートス、シャルティア、セバスは悩んでいるが答えは出てこないようだ。

 

 

「つまりだね……アインズ様は、守護者がナザリックにいない場合を想定されているのさ」

 

「どういう事でありんすか……?我々がナザリックにいない場合などありえるのでありんすか?」

 

ここにきてアインズもふとあーと思い当たる事が出てきた。

 

「あの時、ザイトルクワエと戦った目的は何だったかい?」

 

「集団戦闘…、チームでの戦い方を学ぶためね」 アウラが思い出しながら答える。

 

「そう、では今回は何を学ぶためだと思う?」

 

「えっと…普段と違う状況での防衛…ですか?」

 

デミウルゴスはやはりマーレはなかなか鋭いと感じていた、着眼点がとても良い。

 

教えがいのある生徒だね と内心朗らかな気持ちになりながら答える。

 

「そう、正解に近いよ、マーレ。 我々がこの地に転移し、かなり土台が出来てきた。しかし、その反面あらゆる状況に備えていかなければならない時期でもあると考えるね」

 

「例えば、守護者統括であるアルベド、そして防衛責任者を任されている私が出払っていた場合…とかね?」

アウラ、マーレ、コキュートス、シャルティア、セバスはハッとした表情を浮かべる。

 

なかなか恐ろしい状況だなぁとアインズは感じていた。MMO時代と違い今は守護者自らが情報調査に赴く事が多い。

 

シャルティア然り、セバス然り。それどころかアインズ本人が行ってもいる。

 

すなわちありうる。そんな状況が ナザリック外でアインズに何かあった場合、すぐに駆けつけようとするだろう。しかしその機に乗じて進入する不埒者がいないと限らない。あらゆる場面において、ナザリックの第2、第3の防衛ラインを構築していかなければならない。

 

ましては世界級《ワールドアイテム》もほぼ確実に存在しているのだ。

どんな状況においても全守護者が健在であるというのはいささか甘すぎる考えである。

 

「そのとおりだ、考えすらしたくないが守護者が倒されるというという可能性も考慮せねばならん」

 

アインズがそう言葉を続ける。しかし各守護者から絶対に負けるものか という雰囲気を強く感じる。

 

「もちろんお前たちが負ける事の方が難しいだろう、しかしリスクマネジメントを怠る事は愚者以外何でもない」

 

「せっかくの機会だ、お前たちには副官を守護者毎に1名指名してもらいたい」

 

「「「!!?」」」

 

アインズの提案に、守護者達は思わぬところに新しい役職が出てきて驚愕する。

 

「なに、そう難しく考える必要は無い。自分がいなくともその場を任せれる者を選べばよい、とはいえ急いても良くないことだ。この件はまた改めて議題にする程度に意識しておけばよい」

 

「アインズ様……そこまでお考えでしたか」

 

「ほぅ……さすがデミウルゴス、私の真意を察してくれたか」

 

いつも通り劇場が始まる・・・

 

 

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「ふぅむ……リザードマンについての案件はこのまま進めても良いか」

 

守護者との会談が終わり、アインズは自室にて業務を進めていた。

 

(自室だけだなぁ……自分の時間がとれるの)

 

転移後まもなくの頃に比べれば、周りにNPCが控えることも減っている。

 

それでも自室以外ではアルベド、セバス。他の階層ではそこの守護者達に囲まれていることが多い。

 

(かといって自室以外でそんな場所もなぁ……)

 

アインズはなんとなく9階層のマップを眺め始めた。

 

「ん……?」

 

ふと見慣れぬ設備を見かけた。

 

「喫茶店…か、そういえばそんな所もあったな」

 

アインズ本人は使った記憶がおぼろげだが、女性プレイヤーであるぶくぶく茶釜、やまいこ、餡ころもっちもちの女性プレイヤー3人はよく使っていた印象がある。

 

ナザリック地下大墳墓の作成に着手した際、割りと後半に出来あがった事と自分があまり使っていなかったため印象が薄かった。

 

 

ここだけの話、現実では喫茶店にかかわる仕事も少ししていた。といってもあの荒れた現実ではそうたいしたものは出てこずバイオ技術で生み出された紅茶モドキ、コーヒーモドキである。

 

出店に少し関わった程度だが、記憶に残っている。

 

ユグドラシルでは、そういった嗜好品についても奥深さを求める人が多かった。未知への探求を推奨されたユグドラシルは過去の文化を掘り下げるという事についても力を入れていた印象を持つ。そうでなければあの現実では希少な嗜好品など瞬く間に廃れていっただろう。

 

DMMORPGではそういった文化面においても継承、存続の可能性を残させた。

 

 

「ふむ……ちょっと行ってみるか。休憩がてら」

 

 

その喫茶店はどこか古風、オーセンティックと言うのだろうか入りやすいセルフサービス形式の喫茶店ではなくフルサービス形式の落ち着いた雰囲気の喫茶店だった。

入口にボードがあり本日のオススメ紅茶と菓子が書かれている。

 

「へぇ……なんかいいな。こういうの」

 

アインズのいた時代でも喫茶店はあった、しかしあの滅びを待つだけの世界ではあまり個性の無い、よく言えば誰もが好む味しか無かった。

 

もちろん富裕層が行くような店になれば違うのであろうが本日のオススメが設定されるほど豊富な種類が無かったのだ。

 

 

チャリーン 木で出来た扉が開く。

 

「いらっしゃい…ませ、アインズ様!」

 

「(ここを管理するNPCは……そう)」

 

「アストリア、邪魔をする」

 

ここを管理するのは一般メイドのアストリア。

 

41人の一般メイドの中でも少し特異《イレギュラー》な者が管理をしていた。

 

厳密に言うとセバスが責任者だが、常駐スタッフとしてはアストリアが管理をしている。

 

 

「邪魔などそのような、このナザリック地下大墳墓にアインズ様が来られて困られる場所などひとつもございません!私もアインズ様にわざわざこちらへお越し頂けるなんて……光栄の極みです」

 

「そうかしこまらなくとも良い、気が向いて立ち寄ったに過ぎん」

 

「それでも至高の御方に利用頂ける事はとても嬉しく思います、どうぞ奥の良い席が空いております」

 

「うむ、ありがとう」

 

 

アインズは奥の席に向かいながら周りを見渡す。席数は決して多くなく、10席程度だろうか。

カウンターもあるが、友人とのお喋りを楽しむようにそれぞれのテーブルがゆったりとした空間を作り上げてる。

 

(現実でよくあったセルフ式のスター*ックスのようなタイプはちょっとゆとりが無かったなぁ……)

 

あれもあれで若い人間は待ち合わせに便利なのだろうが、ナザリックにおいては少し違っている気がする。

 

 

奥の席に案内され、くつろげそうな2人用ソファに腰掛ける。

 

「……なるほど、良い席とはこういう事か」

 

「はい、ここからは庭が一望できます。四季に応じた演出がされ、今は春らしい桜が華やかですね」

 

「全くだ、花見でもしたくなる美しさだな」

 

「ご要望でありましたら直ぐにでも取り掛かれます!」

 

「……いや、今日はその気分ではないな、またの機会にしよう」

 

「そうですか…かしこまりました」

 

 

(何かシュンとしてるな……あぁ、仕事が与えられなくてか……相変わらずNPC達の社畜っぷりがなぁ……)

 

とはいえこのまま俯かせているのも悪い気がした。

 

 

「ふむ……ではその時が着たら私の給仕をアストリア、お前に頼もう」

 

「えっ、よ よろしいですか!?」

 

「あぁ、かまわんとも。 思いつくきっかけをくれたのはアストリアと言っても過言ではないからな」

 

「あ、ありがとうございます!その時をお待ちしております!」

 

朗らかな空気が漂い、より空気が暖かいものになる。

 

 

「さて、ではメニューはあるかな?」

 

「はい、こちらになります。コーヒー、紅茶は最盛期であった2000年頃のものを取り揃えております」

 

(まぁ現実世界だと嗜好品なんて養殖モノでも貴重だったしなぁ・・・現実世界…2100年頃はとてもじゃないが最盛期とは言えない)

 

 

「(しかし種類が多いな……下手に知ったかぶるのもな)せっかくだ。おすすめは何かあるかな?」

 

「本日のおすすめは、ヌワラエリアの紅茶と春の和菓子 桜餅のセットです」

 

「ほぅ、桜餅とはぴったりだな。ヌワラエリア……確かセイロン紅茶の一種だったかな?」

 

昔の営業でたまたま耳にした紅茶を覚えている自分は案外記憶力が良いかもしれないとアインズは苦笑する。

 

「ご存知でしたか、さすがアインズ様!」

 

「そう詳しくないさ、だから詳しい特徴を聞いても良いかな?」

 

「かしこまりました、ではご説明させて頂きます」

 

 

「ヌワラエリアとは、旧セイロン島 スリランカの紅茶の一種になります。セイロン紅茶の一種とも言えますね。一言で言えばこの紅茶はスリランカで最も標高が高い場所で取れた紅茶です」

 

「ほう、標高が」

 

「はい、スリランカでは1年中紅茶を取ることができ、様々な茶園もありますが標高の違いによって驚く程の差が生まれます」

 

「標高によってどの程度の差が生まれるんだ?」

 

「そういわれると思い、こちらにサンプルを保存しております」

 

(準備良いな……)

 

 

【挿絵表示】

 

 

※当然ですが同じ茶葉、同じ湯量、同じ時間で抽出しています カップは違いますが注いでいる量はほぼ同じです。

 

 

「左側がルフナ、右側がヌワラエリアです」

 

「全く違うな、標高の違いが色合いに出ているのか?」

 

「はい、標高が低いほど濃い色合いになり、高いほど淡い色合いになります」

 

「どうしてそんな違いが生まれるんだ?」

 

「標高差によって栄養の行き渡り方が違う と言われています。 標高が高ければ高いほど栄養を木そのものに蓄えるようになり、葉から抽出されにくくなります」

 

「ここまで差が出るのか……味はどうなのかな?」

 

「全く別物になります、濃い色合いのルフナは重くミルクが合うコクがあります。淡いヌワラエリアはさっぱりとフローラルかつ繊細でストレートにおすすめです」

 

「おもしろい、ではそのヌワラエリアという紅茶と菓子のセットをいただこう」

 

「かしこまりました、少々お待ちください」

 

 

ふと気になり、アストリアの手元を見る。

 

汲みたての水をやかんに入れお湯を沸かし始める。ガラスのティーポットにも水を半分程度入れ、電子レンジで2分程タイマーセットする。

 

(この世界にも電子レンジあったのか……)

 

何気に近代的なところも発見し驚くアインズだがアストリアは淀みなく動き続ける。

 

 

茶葉を取り出し、ティースプーンで2杯。電子レンジから取り出したガラスのティーポットのお湯をティーカップに注ぐ。

 

ポットだけではなく、カップも温めているようだ。

 

 

お湯が沸く間に菓子の用意を始める。さすがに菓子はここでは作らず副料理長が用意しているようだ。

 

「ん……?」

 

ふとした疑問が沸くがそれが何かいまいちピンとこない。

どうにもスッキリしないが分からないものはしょうがないと潔く諦める。

 

 

お湯の温度がかなり上がってきた。95度程度になったところで、いつのまにかセットされていたガラスのティーポットの中に入っている茶葉に向け勢い良くお湯を注ぐ。

 

 

「ずいぶんと高いところからお湯を注ぐな」

 

「はい、酸素を十分に含ませるためですね。水道から汲みたての水を使うのもそれが理由です」

 

 

お湯を注ぎ終え、ポットにフタをするタイマーを3分にセットし、他の準備を進める。陶器で出来たポットに残りのお湯を注ぐ。

 

「その陶器のポットにはなにを入れるんだ?」

 

「はい、出来上がった紅茶を一度テイスティングし具合が良ければこちらへ全て移します」

 

「ほう?変わったやり方だな」

 

「あまり主流ではないかもしれませんね。フランス式と言われていますがマリ○ージュ・フレール式といった方が正しいかもしれません、茶葉を入れっぱなしにするのがイギリス式です」

 

「ただ、ストレートで飲まれる紅茶には向いていると思われます。例えばミルクティー向けの紅茶でも、一杯目はストレート、二杯目はミルクといった楽しみ方をしたい場合、イギリス式の方が良いという方も多いので」

 

「確かに。格式も重要だが融通が利くのも大事だな」

 

 

話している間にタイマーが鳴り紅茶の出来上がりを知らせる。

 

 

「お待たせいたしました、スリランカのヌワラエリアと桜餅になります」

 

「うむ、ありがとう。 おお、桜餅の鮮やかなピンク色が食欲をそそるな」

 

「ありがとうございます、副料理長にもアインズ様がお喜びだった様子を伝えておきます」

 

「よろしく頼む、さて菓子も美味そうだがせっかくだ。紅茶から頂こうか」

 

アストリアがガラスポットから紅茶をカップに注ぎ、アインズはカップに口をつける。

 

「ほぅ……緑茶……を連想させる。しかし緑茶ほどあっさりしておらず、深みを感じる」

 

「慧眼恐れ入ります。お察しの通りこちらはヌワラエリアの中でも少し発酵が弱いものを使用しております」

 

「それは何故かな?」

 

「和菓子との調和を意識しているためです。一般的に紅茶とは発酵度100%のものを示しますが(緑茶は0% 無発酵です)完全に発酵させない事で強く緑茶の面影を感じさせます」

 

「なるほど、どうりで緑茶の面影を感じた訳だ。しかし紅茶であるからこそ緑茶にない発酵されたコクを感じる」

 

「ありがとうございます、まさにその味わいは緑茶では出せないため隠れた人気がありますね」

 

ニコリとアストリアが笑顔で説明をしてくれる。

 

(紅茶の話を始めてから見るからに上機嫌だなぁ……設定に紅茶好きでもあったんだろうか)

 

アストリアのお団子に纏められたバレッタがえらい勢いで振っている。うん、やっぱりご機嫌のようだ。

 

「紅茶ばかり飲んでもいかんな、桜餅も頂こう」

 

桜餅を一口齧り、瞬間 桜の葉の塩っぽさと餅の甘みが調和した見事な味が口の中に広がる。

 

「おお……素晴らしいな。春を感じさせる」

 

もう一口齧り、次は紅茶に口をつける。

 

「ほう……今まで紅茶と菓子の組み合わせを特に考えた事が無かったが、面白いなこれは」

 

「ありがとうございます、紅茶は様々な菓子との組み合わせがオススメされていますよ」

 

「例えばどんなものがある?」

 

「はい、ただいま召し上がって頂いたような和菓子とヌワラエリア(スリランカ)、ダージリン(インド)の組み合わせ。

チョコレートのような濃い目のお菓子にはアールグレイ(メーカーによってベースの茶葉は違います)やルフナ(スリランカ)

暑い時期にはバーガーやサンドウィッチとキャンディ(スリランカ)のアイスティーもおすすめですね」

 

「膨大だな、茶の世界の深みを感じる」

 

満足した顔でアインズが立ち上がる。

 

「では、またその組み合わせを楽しみに来よう」

 

「ありがとうございます、本日はアインズ様にお楽しみいただけたようで何よりの喜びです。次回ご来店の際にはさらにご満足頂けられる紅茶をご用意させて頂きます」

 

「楽しみに待っていよう、ではアストリア邪魔をしたな。また寄らせてもらおう」

 

扉が開きチリンチリンと音が鳴る。

 

「またのご来店お待ちしております。本日はありがとうございました」

 



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2ndCup Dimbula

アストリアの外見はテイルズウィーバーのイソレットっぽい感じをイメージしています

(2016年6月16日変更)


「おっと、茶が切れたか」

 

アインズが業務の最中にふと気づく、この前アストリアが淹れた紅茶が印象に残り日常生活でも紅茶を飲むようになった。

 

「ソリュシャン、茶をもう一杯頼む」

 

「かしこまりました同じヌワラエリアでよろしいでしょうか」

 

「うむ、あぁ、今回は少なめで構わんぞ。良かったらソリュシャンも一緒に飲まんか?」

 

「そんな!滅相もございません、私などが至高の御方であるアインズ様となど恐れ多く!」

 

「そう畏まるな、休憩がてらいつも世話になっているソリュシャンを労いたいだけだ」

 

「あ、ありがとうございます……で、ではご一緒させて頂きます」

 

 

恐縮しながらも、ソリュシャンの様子は嬉しくてたまらないといった様子だ。

 

「普段紅茶は飲むのか?」

 

「はい、プレアデスの定例報告会でもよく頂いています」

 

「ほぅ……じゃあ紅茶にも詳しいのか?」

 

「……申し訳ございません、非才な私にはアインズ様へご説明を出来るほどの知識がございません」

 

落ち込んだ様子でソリュシャンが謝ってくる。

 

「いや気にするな。……元々無理な注文だ」

 

(プレアデスは紅茶の淹れ方までは知っていてもそれ以上の設定はされていないからな)

 

至高の41人の1人である死獣天朱雀により完璧なマナーを叩き込まれたメイド達は紅茶の淹れ方も当然知っている。だがユグドラシルにおいては、家事スキルなど以外においてはレベルと密接なかかわりがある。すなわち、深い知識技術を身につけるにはプレアデスのレベルでは限界があるのだ。

 

もっとも例外もいるのだが

 

「最近はプレアデスの茶会が行われていないようだな?」

 

「はい、現在ナザリックの外へ任務へ赴いているルプスレギナ、ナーベラルの都合を優先させ簡略したもので伝達を行っています」

 

「ふむ、励んでくれるのは嬉しいが少しばかり心苦しいな」

 

「そのような!、みなアインズ様のご命令を心待ちにしております」

 

「なに気にするな、プレアデス間での情報共有という面でも有益なのだからな」

 

ソリュシャンへの気遣いとは別に定期的な情報共有の場が開催されていない というのも気にかかった。プレアデスはその役割上、立場を入れ替える事がままある。そのためアインズとしてもプレアデス間の現状把握の必要性を一段階高く見積もっている。

 

(実利もあるのならより優先するべきだろうな)

 

「しかし、茶会か……ふぅむ」

 

「いかがされましたか?」

 

「いや、皆で酒を飲むというのも良いが軽い休憩がてら歓談し茶を飲むというのも良いかもしれないと思ってな」

 

「それは大変良い考えと思います、シャルティア様をはじめ紅茶やコーヒーを好まれる方は非常に多くアインズ様とお話できるとあれば至福の一時かと」

 

「(少し表現が大げさだが)うむ、また長めの休憩が取れる時にでも提案してみよう」

 

「はい、アインズ様への給仕はぜひ私がさせて頂きます」

 

(ソリュシャンは何ていうか一言で言うとほんとソツがないなぁ……、失敗らしい失敗もしないしこういう時にはしれっと仕事を確保していくし)

 

職場で一人はいると回り具合が全く変わる人材とでも言うのだろうか、とはいえナザリックにはそういった人材が非常に多い。

 

(あ、だからナザリックが恐れらているのかもしれないな……)

 

人知れずアインズがまた一つナザリックの強みを見つけた瞬間だった。

 

 

 

 

 

「さて、数日ぶり程度だが楽しみにしていた時間だ」

 

あれからアストリアの喫茶店には足を運んでいなかった、数日程度だが。あの時飲ませてもらったヌワラエリヤという紅茶が気に入っていたせいかじっくりと楽しんでしまっていた。

 

(結構一つのことにはまったらどっぷり同じ事し続けたりするもんなぁ、音楽だったりゲームだったり)

 

チリンチリン

 

「邪魔するぞ」

 

「アインズ様! いらっしゃいませ!」

 

入店後まもなく、ナザリックの喫茶店管理担当であるアストリアがすぐさま挨拶をしてきた。

 

「ははは、元気が良くて何よりだ」

 

「し、失礼しました……ど、どうぞ奥の席が空いています」

 

かわいい(真顔)

 

今回も案内された席は奥の席だった。

 

「ふむ?風景……いや季節が少し変化しているか?」

 

「はい、お察しの通り現在は夏の風景になっております」

 

以前来た時は桜が舞っていた風景が、今では葉桜になっており木々も深い緑色になっている。

 

「魔法で季節を変えたのか?」

 

「はい、アインズ様がおいでになられた後すぐにアウラ様とマーレ様がいらしまして……同じように春の季節を楽しんで頂いた所とても好評で。夏や冬の味覚も今後予定している旨をお伝えしたところ、待ちきれないとの事だったため試験的にマーレ様の魔法により10日程度で四季を一巡する試みをさせて頂いています。外見だけですが」

 

「ほぅ、それはなかなかおもしろいな」

 

「喫茶店内部の事だったため、進めてしまいましたが……よろしかったでしょうか?」

 

「あぁ、構わないとも その程度の事ならば自由にやって構わん」

 

元々ナザリックでは 四季 という感覚は薄かった。6層の大森林であれ、季節に影響されず一定の温度を保っている。何よりシモベの多くが状態異常無効化を有しているため、気温の影響などを受け付けない。つまり視覚以外で四季を感じにくいという事だ。視覚の方も地下にあるナザリックは当然関係があまり無い。

 

「ナザリックのものは四季という感覚はあまり持っていないからな、こういった施設でそれを楽しむのも一興だろう。良い試みだ」

 

「ありがとうございます!アインズ様にお褒め頂けるとは……光栄です!」

 

(何か尻尾振ってるように見えてきた)

 

「さぁ、では今日のおすすめを聞こうかな?」

 

「本日は夏向けのものを中心にご案内させて頂いております」

 

「夏というと……やはりアイスティーかな?」

 

「はい、ですが一味違うアイスティーです」

 

何だか少しドヤ顔だ、可愛い

 

そう言いながらアストリアは冷蔵庫からポットを取り出してきた。アインズの目の前へ置いたガラスのポットにはティーバッグが入っていた

 

「これは……水出し?……か?」

 

「えっ、ア、アインズ様ご存知でしたか?」

 

「い、いや知らんぞ?見たままに言っただけだ」

 

(何ていうか、アストリアの設定はアレだな、従者というより懐いてる妹とか従姉妹を連想させるな。まぁアストリアを作った****さん結構妹キャラ好きだったせいかなぁ……)

 

アインズは何も悪いことをしていないはずだが、どうにも楽しみを奪ってしまっているようで気が引けた。親戚相手の子供のゲームに付き合っていたら勢いあまって勝ってしまったような居心地の悪さだった。いやそんな経験した事無いが。

 

「そ、そうでしたか、安心しました。ご存知でしたらちょっと恥ずかしい事になっていました」

 

(既になぁ……何だろう、ロリ系妹キャラなのに胸が…ばるんばるんしてる。ばるんばるんしてますよペロロンチーノさん)

 

人知れずタブラさんが好んでいたギャップ萌えに片足を突っ込んでいるアインズだった。

 

「では…気を取り直して、こちらは先ほど仰った通り水出しのアイスティーになります、使用している茶葉はディンブラ。先日と同じくスリランカの茶葉です」

 

「ほぅ?ディンブラというと聞いたことがあるな」

 

「はい、また飲んで頂く機会があると思いますがスリランカの茶葉の種類はヌワラエリヤ、ディンブラ、キャンディ、ルフナ、ウバ この5種類が有名ですがその中でもディンブラはとりわけ特定の人種に人気があるそうです」

 

「特定の人種とは?」

 

「日本人という人種らしいです」

 

「えっ」

 

「え?アインズ様ご存知ですか、日本人という人種について」

 

「あ、あぁいや聞いた事がある程度だがな」

 

(日本人が好む……という設定も残っていたのか、まぁ確かに驚いたが最も好みにあうかもしれないし、楽しみだな)前回のヌワラエリヤもかなり美味かったが、それ以上のと情報があれば期待が高まるものである。

 

「とはいえ水出しという淹れ方のため先日のヌワラエリヤと一概に比べることは出来ませんが好まれた理由の一端を感じ取って頂けられると思います」

 

「よし!たまらんな、今日はそれにしよう。茶菓子もアストリアに任せよう」

 

「ありがとうございます、ではもう少々お待ちくださいませ」

 

そう言って、アストリアは準備に取り掛かった。まずガラスのポットからティーバッグを取り出した、冷やしておいたグラスに大き目の氷を2つ入れディンブラのアイスティーを注ぐ。そしてショーケースからケーキを取り出し、皿に移し変えこちらに運んできた。

 

「お待たせ致しました、ディンブラの水出しアイスティーとスフレチーズケーキでございます」

 

夕焼けのような輝きを放つ紅茶と上品にたたずむケーキに思わず感嘆する。

 

「美しいな……これは実に美しい」

 

「ありがとうございます、紅茶とケーキ 王道中の王道の組み合わせになります。その中でもさっぱりとしたスフレチーズケーキを選ばせて頂きました。ディンブラはアイス、ホットで飲んでも軽めですっきり飲みやすく、最も紅茶らしい紅茶と私は感じます」

 

「ほぅ、紅茶らしい紅茶か。実に期待させてくれる、ではまずは一口頂こう」

 

アインズはグラスを手に取り、一口飲む。口の中に後味の良い苦味と爽快感が広がる、アインズは驚いた、苦味とはこんな上品に、いやみの無いものなのかと。今まで知っていた苦味とは雑味ではなかったのかと思わず考えるような旨み、いや苦味であった。

 

「これは……後味の良さが素晴らしい、紅茶らしい渋みと苦味が口の中で一瞬広がり喉を通った瞬間に面影が消え、後には爽快感しか残らない。いやこのような美味いアイスティーは初めてだ」

 

「さすがでございます!仰るとおりそれが風味としての苦味です。紅茶の渋み、苦味は決して口の中で主張しすぎません。素晴らしい紅茶とは、喉に引っかからずすっと飲み込める紅茶と確信しております」

 

「ディンブラは先日召し上がって頂いたヌワラエリヤよりも少し標高が低く、和菓子のような繊細さのあるお菓子よりもクッキーやケーキのようなバターを使った菓子との相性はまさに紅茶とケーキのマリアージュ」

 

アストリアが機嫌良く説明してくれる。紅茶を飲む習慣が最近ついてきたせいかアインズも興味深そうに話を聞いている。仕事中にたまにコーヒーを飲むくらいだったが今では紅茶がかかせない。頻繁に飲むと興味も出てくるのは当然なのだろう、趣味であれ嗜好品であれ。

 

「おっと、思わず一息に飲んでしまったな。もう一杯良いか?」

 

「はい、もちろんです」

 

ティーサーバーから紅茶を補充している間、アインズはスフレチーズケーキへ手を伸ばす。フォークでケーキを切った時小さく「シュッ」と音が聞こえる、スフレのきめ細やかな泡が食欲をそそる。まずは一口、アインズの口へケーキが運ばれる。

 

「あぁ……これは実にさっぱりとしている、しかし優しいチーズの口どけが心地よい余韻を残してくれる、和菓子とは全く違う趣だ。よしではもう一口紅茶だ」

 

そうアインズはいつのまにかセットされたアイスティーへ手を伸ばす。アストリアが自然に用意してくれたのか、アインズがケーキに舌鼓を打っていたのか。答えは両方だろう。

 

「僅かに残った後味がアイスティーで洗い流され爽快感だけが残る、蒸し暑い時期には嬉しい組み合わせだ。」

 

「王道の組み合わせは誰もが好む理由がございます、やはり夏には爽快ある味わいが人気ですね」

 

「しかし……水出しアイスティーか……なにが違うんだ?普通のアイスティーと」

 

「はい、最も異なる点は甘みを上手く抽出できる点です」

 

「甘み?他の方法だと出てこないのか?」

 

「いいえ、可能です。まずアイスティーを作る方法は大きく分けて2つあります。茶葉を水につけ数時間程度かけて作る水出し、もう一つはホットで淹れた紅茶を氷で冷やす急冷です。急冷は10分程度で作成できます。急冷のメリットはホットで紅茶を淹れる事で香りや紅茶らしい苦味や旨みがしっかりと抽出されます。しかし安定して上手に抽出させる事は慣れが必要でクリームダウン(濁り)も懸念材料です。

対して水出しは、水を使う事で、ゆっくりと茶葉から成分が溶け出しえぐみや雑味を最小限にしたまま甘みを抽出できます。また茶葉の量、水の量、時間を守ればおおよそ安定した味を誰でも作ることができ、普段紅茶を飲まれない方やスキルレベルが低い方でも作れるため簡単でおすすめしたい方法です」

 

「なるほど、手軽さは大事だな。紅茶といえばアフタヌーンティとイメージがあるように少し固いイメージもある、しかし茶会のようにオーセンティックなものあれば友人とジュース感覚で飲めるような手軽なものもあってよいだろうな」

 

「はい、恐れながら使い分けて頂くのが一番よろしいかと。無理な飲み方を続けられても楽しくないので、その方が一番満喫できる方法は違うからこそ嗜好品でございます」

 

「ふむ、水出しか。この手軽さならば食堂などにおいてもよいかもしれんな」

 

「大変よい考えに思います。紅茶を愛する者として、紅茶に触れる機会が増えて頂けるのはこれ以上無い喜びです。水出しであればベースの茶葉にフレーバーのティーバッグを2つほど一緒に入れて頂ければ様々な味も楽しめます。ストロベリーやマンゴーは女性が好む甘い香り、ライチやレモン、アールグレイなどはさっぱりと爽快感のある仕上がりになります」

 

「よし、そうと決まれば早速料理長、副料理長に話をつけてくるか。アストリア、共をせよ」

 

「はい、かしこまりました♪アインズ様」

 

 

そう言って立ち上がるアインズ、いつのまにかアイスティーとケーキは綺麗に無くなっていた。アストリアは食器を下げ、出口に向かって歩き出す。扉の前で止まり……

 

「ご来店ありがとうございました、アインズ様。またのご来店心よりお待ち申し上げます。では僭越ながら、料理長様、副料理長様の下へご案内させて頂きます」

 

忠誠心溢れつつも、美しい角度でお辞儀をしながらアインズを待つアストリアに先ほど慌てていたような空気は微塵も感じられない。アインズは新しい紅茶へ上機嫌になりながら次の来店にはどのようなものを出してくれるのか、今から心待ちにしている様子だった。




紅茶補足

水出しアイスティーレシピ
水 700ml
ティーバッグ 15g分(ティーバッグは1個2gで換算、7個位必要)

だいたい6時間位で軽めの仕上がり、10時間位入れるとかなり香りや味わいが重くなるのでミルクを入れても良くなってきます。

最近は水出し専用のパックを取り扱っているところも多くそちらを使用するのが経済的です。夏限定販売が多いですが

アレンジとして、それにフレーバー(アールグレイとかアップル、ストロベリーなど)のティーバッグも2~3個入れればあっという間に雰囲気が変わり色々な楽しみ方ができます。

まだまだ寒いため飲む機会は少ないでしょうが、覚えていて損の無い飲み方です。


閲覧頂きありがとうございました

ご意見などあればよろしくお願いします


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3rdCup 「????」

どうも、大変久々の投稿です。エタったかと思ったか!?俺も思いました。1日100字位ずつ書いていく超スローペースでした。

導入部分ですがよろしくお願いします

カレーにマヨネーズかける派様 誤字報告頂きありがとうございます


ある日のナザリック第9層 昼下がりの頃、食堂はシモベ達で賑わっていた。

 

中でもとあるテーブルがひときわ盛り上りを見せている。

 

「食堂に来るのも久しぶりね……ルプーは村?」

 

髪をいじりながらナーベラル・ガンマは同席しているソリュシャン、ユリに話しかけた。

 

 

「ええ、この前定期報告には来たけどだいたいは村にいるわね」

 

「ナーベラルほどではないけど忙しそうね」

 

ユリとソリュシャンが羨ましそうに話す。至高の御方、アインズウールゴウンの勅命は光栄極まりない。それに加えカルネ村についての報告はアインズへと直接報告する事が多い、自身の功績を主に報告できるとあらばより一層やる気が出るというものだろう。

 

「ユリ姉さまとソリュシャンは最近ナザリックから出ていないのですか?」

 

「そうね、この前帝国の皇帝が来た時表層に出たけれどそれからはほとんど内部にいるわね」

 

「私もここ最近、内部にいるわ、あぁ……この前はアインズ様とお茶をご一緒できたわ」

 

愉悦たっぷりという雰囲気で、うっとりした表情をするソリュシャン。

 

「何ですって……!?聞いていないわよ、ソリュシャン!」

 

「今言ったじゃない……ナーベラル」

 

「ボク……いえ、私も初耳ですよ?ソリュシャン」

 

ジト目でソリュシャンを見るナーベラル・ガンマとユリ・アルファ、その目には嫉妬の感情が強く表れている。アインズの傍に控えることはプレアデスである彼女らにとってそう珍しい事ではない。しかしティータイムを一緒にするという事などは同じプレアデス、下手をすると守護者ですら経験した者は少ない程の事だろう。

 

「この前、アインズ様がご公務の合間に休憩を取られたんだけど……その際、私を労ってくださったの、あぁ……甘美なひとときだったわ……」

 

うっとりとソリュシャンが語る、途中から声が少し大きくなっていたせいか近くで聞こえていた一般メイドやシモベ達も驚いた顔、羨ましそうな顔でソリュシャンを見ている。一般メイドや下級のシモベにとっては謁見すら稀である。自分とは立場が違うのだなと一層羨む気持ちが強くなる。

 

「あぁ……二人っきりでお茶会など、私も滅多にないのに……」

 

「……ちょっと待ってくださいナーベラル、あなたも経験した事あるんですか……?」

 

「……あ、え、えぇ、冒険者として行動している時に……ね」

 

「ボクだけじゃないか……この中で経験した事無いの」

 

口調も直す事も忘れ、少し拗ねた顔をするユリ。プレアデスの副リーダーとしてわきまえた態度をとらなければならない反面、至高の御方についての事となるとどうしても感情的になってしまう。同じ立場であるプレアデスが経験しているとなれば思わず……という事もあるのだろう。

 

「大丈夫よ、アインズ様は慈悲深き御方。下々の者が労いを期待するのは不遜でしょうけど、お情けを頂戴出来るかもしれないわ」

 

「……そうね、そう思いましょう。そういえばソリュシャン、あなたが飲んでるのは紅茶?珍しいわね。茶会以外であまり紅茶を飲んでいるのを見かけなかったけど」

 

「そう、それなのよ。そうね……まずは……アインズ様がつい先日食堂に来られたのよ」

 

「アインズ様が!?」「えっ!?」

 

思わず驚きの声を上げるナーベラルとユリ、至高の御身であるアインズはアンデッドであり、食事を必要としていない。ましてや口唇蟲を装備しても、食堂にわざわざ来る理由が無い。至高の御身であるアインズは当然ながら自室へ運ばれるからだ。下々の者が主立って集まる食堂は守護者も顔を出す事はあまり無い。

 

「アインズ様がここ最近紅茶に興味を持たれているのは知っているでしょう?」 「ええ」「そうね」 ユリとナーベラルから同意の声が上がる

 

「ここ最近、アストリアが管理を担当している喫茶店で飲んだものがお気に召しているようよ。中でも先日召し上がられた水出しのアイスティー、ディンブラをとても気に入られ、下々の者にもその紅茶を楽しむ機会をとの事でわざわざ食堂へお越しになられたそうよ」

 

アインズが黒と言えば全てが黒になるナザリックという組織において、アインズの決定に異を挟むものなどまずいない。そんなアインズが直々に指示を下しに行くという事は極めて異例である。ナザリック内部の事であれば近くにいるものへ一言伝えるだけで全て滞りなく進むからだ。

 

「という事は……あなたが飲んでいるものはアインズ様が直々に勧められたという!?」

 

「ええ、素晴らしい味わいよ?淹れ方でこんなにも変わるなんて。流石至高の御方、高尚なご趣味をお持ちだわ」

 

うっとりとソリュシャンが語る。

 

「ソリュシャン、副料理長に頼めばまだもらえるのかしら? アインズ様自ら気遣って頂いた御心 無碍になど不敬が過ぎるわ」

 

「ええ、かなりの人気らしいわよ。普段紅茶を飲まないものも飲んでいるらしいわ」

 

「わ、私ももらってくるわ」

 

慌てながらも、どこか楽しそうな雰囲気でユリとナーベラルが厨房へ向かう……

 

 

「これが水出しの紅茶……普段はホットしか飲んでいなかったけどこれはすばらしいわね」

 

「あぁ…モモンさ…いえアインズさまの御心が染み渡る……!」

 

普段から紅茶を飲んでいるプレアデスたちにも好評のようだ。余談だが、日本においての紅茶と他国においての紅茶の認識はかなり違う。というのも日本においては「嗜好品」としての認識が非常に強い。しかし紅茶が生活に組み込まれているスリランカ、インド、ロシア、中国などでは「栄養摂取」という側面が非常に強い。最もわかりやすい例としてはインドのチャイだろう、厳しい暑さに負けない体力をつけるためにさまざまなスパイスにミルクをたっぷりを加えた飲み方だ。こういった例があるため日本は他国と違った飲み方が広まっていたりする。特にここ最近は水出し紅茶が非常に人気がある、広がった反面には日本の優れたインフラが関係している事は間違いない。

 

「アストリアも羨ましいわ。アインズ様がここまでお喜び頂けるなんてシモベ冥利につきるでしょう」

 

立場はアストリアよりも上だがユリとナーベラルも尊敬と若干の嫉妬を持ちながら頷く。

 

「…でもそうなるとちょっと気になるわね、アストリアの喫茶店。ユリ姉さまはいった事ある?」

 

「無いわ、ソリュシャンは?」

 

「私も無いわ、せっかくだし今から行ってみない?アインズ様自ら施設の利用を奨励されていたのだし」

 

「そうね、今からなら時間も空いているし。ナーベラルも大丈夫?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。ユリ姉さま、ソリュシャン」

 

「よし、では早速向かいましょう。楽しみね」

 

いつのまにか空になったグラスを戻しプレアデス達が立ち上がる。

 

 

ナザリック 第9階層 喫茶店前

 

チリンチリン

 

「お邪魔するわ」「失礼致します」「お邪魔します」

 

「いらっしゃいませ、ユリ・アルファ様、ナーベラル・ガンマ様、ソリュシャン・イプシロン様」

 

アストリアがプレアデスの3人を迎え入れる、ちょうど他には誰もおらずアストリアが静かにテーブルを拭いていた。丁寧なお辞儀をして挨拶をする、相変わらず立派なスタイルだと極上の美女であるユリ達ですら思わせる。本人たちはあまり美女という自覚を持っていないが。

 

「久しぶりね、アストリア。以前会ったのはアインズ様当番の時でしたか?」

 

「はい、ユリ・アルファ様。あ、茶会用の茶葉が準備出来ましたので今度お届けお渡しします」

 

「ありがとう、今回の茶葉は何かしら?」

 

「アッサムを中心にダージリンを加えたブレンドです。奥深さを感じながらもダージリンの爽快感を感じさせてくれる極上の一品です」

 

「それは楽しみ、ミルクとの相性が良さそうね。 ああ、アストリア「ユリ」でいいわよ?」

 

「ユリ姉さま、アストリアから茶葉を用意してもらっていたんですか。あ、私もナーベラルで良いですよ」

 

「私もソリュシャンで良いわ。他には誰にもいないようね」

 

「ありがとうございます、皆様。 ではユリ様、ナーベラル様、ソリュシャン様と……そうですね、この時間帯は比較的ご来店される方はいらっしゃいません」

 

そう言って奥の席に案内される。奥から2番目、渓流のせせらぎが涼しげで夏の暑さをやわらげてくれるような光景がよく見える席だった。ちなみに最奥の席は予約の札が置かれている、いうまでもなく(常に)アインズの優先席である。元々アインズも横入りをするような形は好まなかったがサラリーマン時代の時を思い出して素直に受け取る形にしていた。というのも自分が店で最も良い席に座っているところに上司が着たらそりゃ居辛いだろうと、思わず席を譲りたくなる心境になるだろうと、つまりはそういうことである。

 

とはいえ案内された席が劣るという事も無い、全ての席が一級品であり至高の41人の作品なのだ。妥協などあるはずが無い。

 

アストリアがテーブルへ案内し、メニューを渡す。現在も以前《(2話時)》と同じく夏向けになっている、ユリ達は今まであまり利用しなかった喫茶店のメニューを興味深そうに眺める。

 

「今は夏のメニューでしたか、涼しげなものが多くて良いですね」

 

「あ、ユリ姉さまレアチーズケーキがありますよ。ベリーのソースを加えたものね…紅茶は何があうかしら」

 

「私はタルトにするわ、いえせっかくだから紅茶を選んでから何の菓子にするか決めてもいいかもしれないわね」

 

ユリ・アルファは2人がメニューを眺めながら楽しそうに話す所を見て、お茶会は頻繁に行っていても喫茶店に行くという事はあまり無かったため新鮮に感じている。普段と違う場所で可愛い妹たちとの茶会は分かっていたが楽しい、休日を与えてくれたアインズ様にさらなる畏敬を捧げようと今一度決心していた。

 

 

全員メイド姿をしていて見分けにくいが、3人の客と1人の店員が話しているところへ新たな来客を知らせるベルが鳴り響く。

 

チリンリン

 

 

「おお、珍しいな。ユリ、ナーベラル、ソリュシャン 喫茶店にいるのを見かけるのは」

 

気さくに話しかけてきたのはナザリックの支配者、至高の御方の統括、魔導王、賢王と色々呼び方が増えているアインズ・ウール・ゴウンその人だった。

 

「これは!アインズ様、ご挨拶が遅れ申し訳ありません!」

 

緊張した顔でユリ・アルファが代表して謝意を伝えてくる。ユリ達はもちろん、アストリアにも過失は無いのだがそんな事は瑣末な問題である。絶対の支配者たるアインズを不快にさせたかそれだけが大事なのだ。ユリが声を発した瞬間、残りの3人も客、店員という立場ではなく主人と従者という形に一瞬で切り替わった。皆一様に跪き、忠誠心を露にする。どれだけの時間が立とうともアインズに失望されるのは最も恐ろしい事だからだろう。

 

「よい、気にするな。今は休日もしくは休憩中でだろう?それを咎めようとは毛頭思っていない。何せ言い出したのは私だからな」とアインズが苦笑しながら話す。緊張しっぱなしであった4人に少し穏やかな空気が流れ、アストリアが最奥の席へと案内する。

 

「ふむ、良かったらユリ、ナーベラル、ソリュシャンも一緒にどうだ?」

 

夢のような提案を至高の主から提案される。だが

 

「我々などが恐れ多い!至高の御方とご一緒させて頂けるなど分相応な褒美が過ぎます!」

 

 

 

アインズside

 

(まぁそうなるよね、何だか様式美のように思えてきた)

 

「二度言わせるな、私がお前たちと一緒に茶をしたいと思っただけだ。それとも私と茶をするのは嫌か?」

 

にやりと笑ったように見えた顔をしてアインズが茶化す。主人にそうまで言われては断るなど出来はしない、恐縮しながらも歓喜に満ち溢れた表情の戦闘メイド(プレアイデス)たち。至高の御方とシモベをもてなす事が出来るなど望外の喜びに浸る一般メイドが立場の違いからか一足先に正気に戻り主の意に沿い行動を始めていく。

 

そんな中、プレアデスの3人はまだ動揺を隠せない様子で落ち着かない様子を見せる

 

(守護者各員とコミュニケーションはある程度取れてきた、だがプレアデス達とは今一歩距離感を感じている。この状況が続いてしまっては表立って不満を言うことは無いだろうが今までの経験上劣等感などを感じよくない方向に考えが及んでしまうかもしれない)

 

転移してからそれなりの時間が立ち、シモベ達の思考の方向もある程度傾向は掴めてきているアインズだがデミウルゴスを始めとするシモベは考えが深いところまで読み解こうとし予想もつかない方向に飛んでしまう事がある。可能な限りその可能性を潰すためにも上位者として距離感を近づける事も必要と考えたのが今回ティータイムを誘った理由である。

 

アインズが跪いているプレアデス達へもう一度問いかける。

 

「そう畏まるな、私もこの喫茶店は最近気に入ってよく利用している。もちろんお前たちが利用する事は全く問題ない。しかしせっかくの縁を大事にしようじゃないか、最近ゆっくりとユリと話す機会も無かったしな?」

 

「そ、そのような!私にはもったいn「ユリ姉さんここはお言葉に甘えたら?」

 

ソリュシャンが言葉を被せてくる、アインズもここでソリュシャンが口を出すとは思っていなかった。

 

「ソリュシャン!そのような言い方は不敬よ!」

 

「何言ってるの……さっきアインズ様とお茶をした事羨ましがってたじゃない…、アインズ様の心配りを無碍にする方が不敬じゃないの?」

 

「……ッ!」

 

ユリが赤くなりながらソリュシャンを叱るが、心配りという言葉にハッとする。

 

「申し訳ありません、アインズ様のお優しさを理解出来ておりませんでした」

 

(あっ、これまた深読みパターンだな、空気で分かる。……まぁいいかユリも納得してくれたようだし)

 

 

「さぁ、そこまでだ我々がここに来たのは茶を楽しむためだろう?楽しもうじゃないか」

 

アインズがそう切り上げプレアデスに着席を促す。そのような不遜な……とユリが発言しようとしていたが先ほどの発言もあってか失礼致しますと素直に言いテーブルに着く。

 

「では今日も茶を楽しもうか。アストリア案内を頼む」

 

「畏まりました!」

 

いつのまにかメニューを持ってきたアストリアが案内を行う

 

「ふぅむ……ユリ達は何を選んだ?」

 

「はい、レアチーズケーキをブルーベリーソースで 紅茶はマリアージュのマルコポーロをミルクで頂こうかと」

 

「私はバニラのシフォンケーキと中国のキームンにしています」

 

「ワタクシはベリーのタルトを、セイロンのディンヴラで頂きます」

 

ユリ、ナーベラル、ソリュシャンがそれぞれ自分のチョイスを答えていく。

 

「ふむ……ミルクティーか、良いかもしれんな。よしアストリアミルクティーで何か頼む、菓子も適当にな」

 

「畏まりました!」

 

 

喫茶店が穏やかな空気に包まれる。お茶の時間とはこうでなくてはならない。お茶が来るしばしの時間、この時間もどのようなものが来るか楽しむ事が醍醐味だろう。しばらくの間、アインズはプレアデスの3人と歓談をするのだった……。




はい、まだお茶を飲んでいません。前振りが長いですね。

オバロもので何が大事かなぁって考えたら忠誠の表現と感じます。デミウルゴスとかイメージするとよく分かりますがナザリックの廊下歩くだけでこいつら歓喜しますからね。そこら辺を表現できないと舞台だけオバロの別物になってしまいそうで怖い。

次回はもう少し早く投稿できるように頑張ります(震え声

遅くなった理由はネトゲです、テイルズ○ィーバーのイソレットぐうかわ(殴

ただネトゲしながらアイディアもそれなりに浮かんでいますプラスこのキャラがアストリアのイメージにもなっています。いやぁ……最初のイメージ像からどんどん離れていってますね、ただ小説かいてる中で現段階では一番しっくりきてます、今後はイソレットのイメージで考えていきます。


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3rdCup Ruhuna

お待たせ致しました、3rdCup 後編です。タイトルでネタバレ感がありますが。


《アインズサイド》

 

ゆったりとした空間でアインズが楽しそうにプレアデスに話しかける。

 

これは少し不思議な光景だった。というのも普段業務に勤しむアインズを見ることは多いが逆にそういった姿以外はなかなか見かけない、働きすぎである。特にユリとソリュシャンはアインズが政務に励む姿以外を見る機会は少ない、だが当然ジロジロと見るような失礼極まりない事はしない。

 

「そうかそうか、先日話したプレアデス同士での茶会はすぐ実施されたのか」

 

「はい、アインズ様のせっかくのご配慮。無碍になどできるはずが無いので早急に進めさせて頂きました、久々に6人集まれ有意義な時間をすごせました」

 

ユリが嬉しそうに話すのを見て隣で座っているナーベラル、ソリュシャンも姉が出す幸せそうな空気に自然に笑顔になる。至高なる御方への奉仕に加え姉の幸せそうな顔を見るとこの上ない歓喜に包まれている気持ちになる。

 

「何よりだ、お前たちの仲の良い姿は至高の41人も望んでいた姿である。時には考えの違いもあるだろうが姉妹で楽しくやってくれ」

 

「仰せのままに、今後ともさらなる連携と理解を深めていきますわ」

 

「しかし……お前たちが仲良くしているとこを見ると少しばかりあの者が不憫に感じてしまうな、立場上仕方無いが」

 

プレアデスら3人は立場上という言葉でピンときた。

 

「アインズ様……あの者とは我らの末の妹の事でしょうか?」

 

「うむ、あの者はナザリックの最終防衛ラインである第8階層を守護する立場、ヴィクティムと共に常にあの場を守護するのが常だ」

 

「それは仕方がありませんわ、一般メイドが至高の御方のお世話をするのが当然であるように、守護者の方々が至高の御方によって決められた階層を守護するのも当然でございます。本人もそれはよく理解していると思います」

 

ソリュシャンが直ぐにフォローに入ってきたが、参加できなくもないなとふと思う。

 

「そうなんだがな……とはいえ比較的落ち着いている時期でもある、今のうちに出来る事はしておくべきだろう。常に、は出来んが折りを見て桜花聖域の守護者もプレアデスらの茶会へ参加できるようとりはかろう」

 

「まぁ!それはそれは皆喜びますわ!」「ええ、アインズ様のお優しさに胸が打ち震えます」「ありがとうございます、モモ……アインズ様」

 

おいなんか間違えているやつがいるぞ……まぁスルーしとこう

「茶会で思い出したが、ユリ達は普段から紅茶を飲むのか?」アインズがふとした疑問を問いかける。

 

「はい、茶会でもよく頂いております。さすがにシズ・デルタは飲めませんが他は皆紅茶……だったかしら……?」

 

ユリがナーベラル、ソリュシャンへ問いかける。

 

「よく紅茶をよく飲んでいる覚えがございます。ソリュシャンはたまにコーヒーも飲んでいましたか?」

 

「そうね、王国に潜伏していた際にコーヒー豆を取り扱っている商人とやり取りもあったせいかより飲む機会が増えていたわ」

 

(あぁ……そういえば報告書にもあったな、アルベドと一緒にコーヒー豆も確認してみたけど分類としては同じコーヒー豆であり、エクスチェンジボックスに入れると当然全て同じ査定価格になった。だが《オール・アプレーザル・マジックアイテム/道具上位鑑定》によれば品種は確かにあるようだ。確かアラビカという豆だったか、いや産地などもあったか?このあたりはもう少し調べてみたい、何だか嗜好品への興味が強くなってきたなぁ……)

 

「ふむ、最近は紅茶をよく飲んでいるが昔はコーヒーも飲んでいたな。紅茶と違った趣を楽しめたよ」

 

「そうなのですか?ではコーヒーにもお詳しいのですか……さすが至高の方々の頂点に立つ御方です」

 

「そうでもないさ、あの時は今ほど興味を持っていなかったしな。私よりもウルベルトさんやペロロンチーノさんが詳しかったなコーヒーは」

 

ふっとアインズが郷愁にかられるような思いをし遠い目をする

 

 

 

《プレアデスサイド ユリ》

 

主が突然喫茶店に来られたのには驚いたが、アインズ様が最近この喫茶店を利用されていると考えれば当然かと思い直す。しかしそれほどまでに紅茶に御執心されているのならば一般メイドに任せるだけでなく、プレアデスでも紅茶の勉強会を行うべきだろうか……?一般メイドが傍に控えられない状況も出てくるだろう、その際に控えるのは僕…いや私たちである。至高の御方がお求めてから対応するのは少々美しくない、先んじてご用意をするのが従者というものだろう。一度草案を作り、アルベド様や守護者の方々にご報告してみますか。

 

ふとユリの顔が意識せずにはにかむ。無理も無い、至高の方々へ尽くす事は当然でありながらもシモベ冥利に尽きる瞬間でもある。指示を頂くのみならずそれを期待以上の結果でお応えした時より褒めて頂けるだろう。そんな瞬間を想像してしまえば表情が緩んでしまうのもしかたがない事だ。ただプレアデスの副リーダーという立場から考えると少し気が緩んでいたことは否めない、その証拠としてナーベラルとソリュシャンが笑いながら、あるいはにたりとした顔でユリを見ていた。

 

「ユリ姉さま、緩んだ表情になっていますよ?」

「至高の御方にお褒め頂けた時のような表情になってるわよ?」

 

思わずユリがハッとした表情になり、引き締めた表情に変わる。そうだ、いくらアインズ様が気を楽にしてよいと仰っても少しばかり気が抜けてしまっていた。いけないいけない、こんな顔姉妹たちにも見せるわけにはいけないのにましてやアインズ様の前でなど不敬が過ぎる。

 

「し、失礼致しましたアインズ様、少々気が緩んでおりました。」

 

「何を言うユリ、なかなか貴重なものが見れたぞ?気が緩んだ時のユリの顔はあのような表情をしているのだな」

 

親が大人になった子に昔の恥ずかしい思い出を語るような、少し意地悪そうな雰囲気でアインズが語りかける。思わず恥ずかしさのあまりに俯いてしまうユリだがアインズも咎めるような口調ではない。気恥ずかしい気持ちはあるが喜びの方が勝っているようだ。

 

「私はな、こういった時間をぜひ大切にしてほしいのだよ」

 

アインズがプレアデスらに少し真面目そうに話しかける。

 

「お前たちが私に溢れんばかりの忠義を捧げてくれているのはとても嬉しく思う。ただな……お前達はシモベであると同時に……そう、至高の者達に作り出された存在、彼らの子供のようなものなのだ」

 

思わず涙が溢れそうになる、至高の御方は我らの忠義を受け取って頂けるだけでなく至高の方々の子とまで思って頂けるとは。シモベには余りある褒美、かといってその褒美を受け取らないなど出来るはずがない。至高の方々のまとめ役であるアインズ・ウール・ゴウン直々に仰って頂けたのだ、辞するなどやまいこ様に背くに等しい。

 

「わ、我らにはもったいのうございます」

 

震える声で精一杯アインズへ返答する。ナーベラルはうっとりとした顔、ソリュシャンは媚薬でも飲んでいるかのような恍惚とした表情をしている。

 

「まぁ落ち着け、ユリ、ナーベラル、ソリュシャン。常々考えていたのだ、私は大切な友らの子を預かっているに等しいと。シモベとして実にお前達はよくやってくれている、それは彼らにも私が自信を持って伝えられる。しかしだ、彼らがいない今おこがましいが私が親代わりである事を強く感じている」

 

「おこがましいなど!そのような……そのような言葉我らにはもったいのう……もったいのうございます!!」

 

「ユリ姉さまの仰る通りでございます、アインズ様!我らにはシモベとしてお褒め頂けるだけで身に余る喜びでございます!」

 

「アインズ様……そのように我らをシモベ以上に大切に考えて頂けるとは……まさに恐悦至極としか申せません!」

 

三者三様の反応だが、プレアデスらの考える事は共通している。その身に過ぎる喜び。今なお我らを見捨てず仕える喜びを与えてくださる至高の御方。仕える喜びに留まらず我らを子と仰って頂けた、溢れるような慈しむ御心がその身を歓喜させる。

 

(うーん……紅茶飲みに来ただけだったんだけどなぁ……まぁこういった事は言葉にしていかないと分からないし誤解も生まれるからな。上位者として君臨する事には慣れてもきた、無いはずの胃がキリキリするけど……。余裕も生まれてきてふと考えちゃったんだよなぁ、彼らの子にも等しいNPC……こいつらは俺よりもずっと年上かもしれない。けれども親がいないって事、それはいくつになっても寂しい……よな。)

 

アインズの前世である鈴木悟、彼はもう何年も前から天涯孤独の身である。この11年、ユグドラシルしか彼には無かった。ただそれは麻痺していただけ、()()()()()()()()()。元々彼は穏やかで面倒見の良い性格である、そうでなければあの一癖も二癖もある彼らを纏める事など出来はしなかっただろう。僅かな残滓しか残らないアインズでも彼らのNPCが相手となれば何も変わらない、NPCのために笑い、悲しみ、怒り、そして一緒に喜ぶ事が出来る。そうただアインズは

 

「私はただ、お前たちをこれからも見守っていきたいだけさ。親代わりとしてな」

 

いつのまにかプレアデスらが涙ぐんでおりナーベラルなど溢れんばかりに頬を濡らしている。これこそ彼らNPCが最も求めている言葉だろう、変わらずこれからも変わらずに至高の御方は我らを導いて下さる。宝石のような輝きを持つ言葉、いや宝石などでは全く足りないそう思わせる程に待ち望んでいた言葉だった。

 

「さぁ、そろそろ茶の準備が出来た頃合だろう?茶会に涙は似合わん、楽しもうじゃないか」

 

プレアデスらはすぐさま涙を拭き、これから始まる至高の御方との茶会に心を躍らせた。

 

「お待たせ致しまし……いかがされましたか?何か私が粗相をしてしまいましたでしょうか……」

 

準備が終わり、紅茶とケーキを運んできたアストリアが不安そうに聞いてくる。

 

「気にするな、少し感極まってしまったようでな。アストリアお前に過失など何も無い、さぁそれよりも準備は出来たのだろう?今日の茶を楽しませてもらおうじゃないか」

 

少し湿っぽい空気を払拭させるような口調でアインズが語りかける。

 

主にそのような気を使わせてしまうとは、と自分の不甲斐なさを反省しかけるアストリアだが今は反省しながらもやるべきことは違う。私がやるべき事は

 

「お待たせ致しました。 アインズ様、こちらスリランカのルフナでございます。お茶請けには少し甘さを控えたマフィン、ミルクジャムをご用意させて頂きました。ミルクティーがお勧めの紅茶ですが、一口目はストレートをおすすめ致します」

 

アインズの目の前に白色でありながら艶を感じさせるティーカップ、可愛らしくちょこんと皿に乗ったマフィンが差し出され、紅茶の入ったポットと銀色の光沢が輝くようなミルクポット(ミルクが入った容器)が置かれた。

 

「ほう……スリランカのルフナ、か。確か以前にも聞いた記憶があるな?あれは確かアストリアにヌワラエリアを出してもらった時か」

 

「仰る通りでございます。流石アインズ様、御明察恐れ入ります」

 

「たまたまに過ぎんさ、それよりも確かこの紅茶は標高が低いところで収穫されたものだったか?」

 

「はい、およそ標高300m付近の茶園で収穫されたものです。セイロンティー(スリランカ産の紅茶)は標高別で分けられている事が多く、好みに合わせてお楽しみ頂けます」

 

ほうほうと頷きながらカップを近づけ香りを楽しんでいるとふと疑問か浮かぶ。

 

 

【挿絵表示】

 

【挿絵表示】

 

【挿絵表示】

 

 

「アストリア、以前にも少し聞いたがなぜ標高の違いによってここまで差が生まれるのだ?環境の違い、という事は想像出来るが要因は判明しているのか?」

 

「申し訳ございません、『恐らく』という推察になってしまいますが」

 

「構わん、それも楽しめる要素になる」

 

「では、標高が高くなると当然ではありますが気温が下がり厳しい環境となっていきます。チャノキ(紅茶の木)は栄養を溜め込もうと内側にぎゅっと留めようとします。その際葉や茎のような先端にはあまり行渡りません、そのためハイグロウンティーに代表されるヌワラエリヤなどは淡い色合いに軽く上品な口当たり。まさに極上のシャンパンを思わす味わいとなるでしょう」

 

「シャンパン……なるほど、確かにあの口当たりはそういって差し支えないですわね」

 

ここ最近アインズへヌワラエリヤを給仕していたソリュシャンが呟く。

 

「あら、ソリュシャンあなた水出しだけでなくヌワラエリヤという紅茶もちゃっかり飲んでいたのね?」

 

「ちゃっかりしてますね……ソリュシャン」

 

そうユリとナーベラルにからかわれるが、すました顔でソリュシャンが答える。

 

「至高の御方がご興味を持たれているのよ?すぐにお応え出来る様に努めたくなるのは当然じゃない」

 

確かにそうだ、とユリとナーベラルが神妙な面持ちで頷く。アストリアも控えてはいるが口元は同意を示すような微笑をしている。

 

「酒と紅茶、どちらも嗜好品であるがゆえの繋がりもあるのだな。実に興味深い」

 

そういいながらアインズがカップを口に近づける。

 

「ふむ……香りはどこかスモーキーさのような重厚なものを感じさせる。奥深さとでも言えばよいのだろうか、これがコクなのかもしれないな」

 

無垢のような白さを持ちながらも銀色の淵が化粧をしているかのようにその上品さを醸し出す、ティーカップはこれほど美しいものだったかとアインズが感心する。

 

「では頂こう」

 

アインズが最初に受けた印象はどっしりとしたボディ、何にも影響を受けないとでも表現すれば良いのだろうか。そのあとにほんわりとした甘み、ココアにも近い控えめの甘さ。後味はカラメルのようなとろみがありいつまでも口に残りそうな印象を感じた

 

「なるほど……これは重い紅茶だ、ヌワラエリヤとは正に対極と言えよう。私も少々これは飲みすぎると胃もたれしてしまいそうだな」

 

アインズが苦笑しながらカップの茶をじっくりと眺める

 

「まさに、仰る通りこちらのルフナはミルクで召し上がられる事が多いため本来ストレートをおすすめされる事は稀でございます」

 

「ではなぜアインズ様に、一口目をストレートでと?」

 

ナーベラルが少し険しい目をしてアストリアに問いかける。

 

「よせナーベラル、アストリア何か考えがあったのであろう?」

 

「はい、ご説明が遅れ申し訳ございません。理由とはミルクの量を考えるためです」

 

「何、ミルクの量?ミルクの量に決まりでもあるのか?」

 

「明確な決まりはございません、ですが場面場面で変えていく必要があるかと思われます。当然ながら私はティーテイスターの職業スキルを持っているため紅茶の味を自在に変えることが可能でございます。しかし、どの味に変えるのか?という点はなかなかに難しくあります。そこで付け合せの菓子、一口目を飲まれた印象、ご来店のお時間、以前お飲み頂いた紅茶

といった事をヒントに紅茶を淹れさせて頂きます」

 

そう言いながらアストリアがミルクポットを傾けミルクを紅茶に注ぐ。細く細くミルクがカップに入っていき、数秒後傾きが止められる。

 

 

【挿絵表示】

 

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「今回は少しミルクを多めにさせて頂きました、理由としては焼き菓子であるマフィン単品ならば軽めの紅茶もおすすめできますがミルクジャムのようなこってりとしたアクセントがあるためたっぷりのミルクで口の中をさっぱりさせた方がお楽しみ頂けるかと」

 

「素晴らしい、そこまで考えられているのか。二口目が実に楽しみだ」

 

そういってアインズが待ちきれないかのように口元へカップを運ぶ。

 

「実に鮮やかなベージュ、ミルクと紅茶がただ混ざり合っているだけではない正にミルクと紅茶が調和している。よし」

 

意を決したようなわくわくが抑えきれないような声を出しアインズがミルクティーを口にする。

 

アインズの二口目の印象は驚愕だった、別物なのだ。一口目に飲んだストレートでの強い主張は鳴りを潜め、代わりに甘み上品な甘みが口の中に広がる。しかし甘みだけではない、コクだこれがコクなのだと言わんばかりに紅茶の旨みを引き出している。そう思いながら紅茶が喉を通る、その後味はさっぱりとしている先ほどのようなとろみは一切感じさせない。

 

「まるで魔法だな」

 

アインズが思わず苦笑した、ここまで変わるものかという驚き。今まで飲んでいたミルクティーは何だったのだろうかと感慨に浸る、いやもはやそのような過去は惜しくない。知れたのだこんなにも素晴らしいミルクティーを、その価値はダイヤの原石を発見したに等しい。

 

「よろしければ付け合せの菓子もご一緒に」

 

そうだなと言いながらアインズがマフィンに手を伸ばしマフィンを覆う紙型をペリペリと剥がす。そして豪快にもそのままマフィンを一齧りした。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ア、アインズ様お手が汚れてしまいます」

 

ユリがそう口を挟むがアインズは気にも留めない。

 

「気にするな、ユリ。先ほどお前達を預かっている親代わりと言っただろう?ならば家族にも等しい、家族同士での茶会などそう堅苦しいものではよくない。この場で私が求めるモノはそういった気安さだ」

 

そう言いながらアインズが紅茶を再び口にする。気づけばマフィンにミルクジャムをつけてもいた。

 

「絶品だ。マフィン単品では少しばかり飲み物がほしくなるがミルクティーがマフィンの控えめな甘さを引き出し上品な纏まりにしてくれている。ミルクジャムのチョイスも素晴らしい、ミルクにミルクと最初は思ったが違った味わいを楽しませてくれる。何よりミルクジャムをつけたマフィンを齧った後、ミルクティーがさっぱりと口の中をさせてくれる。もう一口、二口と手が止まらないな」

 

「ありがとうございます、マフィンは十分な数をご用意しております。紅茶の準備も整っております」

 

「素晴らしい、後で追加を頂こう」

 

 

《プレアデスサイド ユリ》

 

至高の御方は今日とてもご機嫌のようだ、無理も無いあれほど見事な紅茶と菓子のマリアージュを出されては。

 

一般にマリアージュとは結婚を意味するが、飲み物と料理の組み合わせがとても良い場合の表現としても使われる。その相性が良いだけでなく、互いに香りや味を高めている際の表現として「素晴らしいマリアージュ」と言われる。まさに今回の紅茶は素晴らしいマリアージュだったといえよう。

 

 

そうしてユリがアストリアを感心した目で見ているとナーベラルがおずおずとアストリアに話しかける。

 

「ア、アストリア申し訳ないですが二杯目と次のお菓子は私もアインズ様と同じものを頂きたいのですが……」

 

この子は……真面目ではあるが少し感情が表に出すぎではないだろうか。いやまぁそう咎める事でもないか、至高の御方は我らを家族とこの身には過ぎる扱いをして下さった。思わずにやけそうな顔を再び引き締めるが口元は隠せない、にこやかな表情が思わず出てしまう。至高の方々は御隠れになり我らの至らなさを悔やむばかりだったが、最後まで残ってくださった至高の御方は我らを導いてくださるだけでない。親としても我らを見て下さる、あぁなんと、なんと御優しい。甘美な言葉が広がる、しかし与えられるだけなど従者失格だ。その忠義に答えなければ。

 

ユリが意を決しているといつのまにかナーベラルとソリュシャンがペロリと紅茶を平らげていた。

 

「あ、あなた達は……」

 

妹たちのはしたなさに頭を唸らせるとアインズが朗らかに笑い声を上げた。

 

今日もナザリックの喫茶店は賑やかに営業している。




閲覧頂きありがとうございました

なんやかんや途中悩みましたが別の投稿者さんにアイディア頂いたりとこの先の話にやる気がむくむくと。

カップケーキは自作ですが、案外上手く出来ました。次はココナッツファインなどをトッピングさせたいですね

追記で、活動報告更新しました。よろしければアンケート回答お願いいたします


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4thCup 「????」

お久しぶりです、なかなか久々になってしまいました。アイディアがたまってきたのでまたボチボチと更新させて頂きます



「どこやったかなぁ……あれ何年前のイベントだったかな」

 

 そう言いながらアインズは自室のアイテム保管庫を改めて見回す、以前ユグドラシルで配布されたとあるアイテムを探しに自室でかれこれ1時間程度探している。他の人ならばもう少しあるかないかすぐに分かったであろうがご存知の通り貧乏性であるため間違いなくとってあるはずなのだが、整理整頓が上手くないためこのとおり時間がかかってしまっている。

 

「あぁ……これ懐かしいなぁ、このイベントの時作れた装備結構気に入ってるんだよなぁ。今度装備していこうかな」

 

 片づけ中にマンガを読むよくある現象がさっきから発生してしまっている。長いユグドラシル暦の中で様々なアイテムを手に入れた、全く使い道のないようなアイテムから今でも有用なアイテムまで幅広い。ただイベント品というものはえてして個性が出やすいものが多い。特にあのユグドラシルの運営、「運営相変わらず狂ってんな」と思わせるばかりだ。

 

「やっぱり記憶に残ってるのはやっぱり嫉妬マスクだけどなぁ……何かでっかい栗とか柿になるような変身マント無かったけか?あれのイベントマップでろくでもないPVP流行ったな……」

 

 思い出に浸りながらアイテムを探し続けていると宝箱の奥底に眠る指輪を見つけた。

 

「お、あったあった。むちゃくちゃ奥にあったなぁ……まぁ確かに相当前のイベントだった気はするしな」

 

 アインズが探していた装備は……「指輪」だった。もちろんただの指輪ではない、とあるスキル付加のついた指輪だ。

 

「どれ……」そう言いながらアインズが既に装備している指輪を一つ外し代わりに今手に入れた指輪をはめ直す、すると一時的にスキルを新たに身につけた感覚を得る。

 

「早速試してみるか」

 

 骸骨の顔ではあるがうきうきしたような雰囲気を醸し出しながらアインズが自室から出て行った。

 

 アインズが向かった先は、9階……ロイヤルスイートに設置されたラウンジだった。最もいい場所はやはり食堂だったが、あの場所は少々人が多すぎる。NPCとの距離感が分かった後では騒ぎになりかねない、何より自分が行う事が失敗した時に人目に触れるのは最小限にしておきたいと人間らしい小心者な心があった。

 

 そう考えながらラウンジに向かうと、一般メイドのシクススがラウンジに待機していた。

 

「アインズ様、おはようございます」

 

「うむ、おはよう。少々ラウンジを使わせてもらうぞ」

 

「はい、何なりと御使い下さいませ。ご注文はいかがされますか?」

 

「……あぁ、すまん。そういった意味ではないのだ」

 

「は、はい……?」

 

 尽くすべき至高の存在へ無礼な対応をしてしまったのではないかとシクススが不安な表情を浮かべる。とはいえ無理もない、シモベからすれば予想だにできない事を今からアインズは提案するのだ。

 

「私がラウンジの設備を使わせてもらいたい、私自身で試したいことがあってな」

 

「アインズ様がですか……?いえ、失礼致しました。すぐにご用意致します、お使いになる設備はどちらでしょう?」

 

「いや、そこまではしなくともよい。何かあったら聞かせてもらおう、傍で控えていてくれ」

 

「畏まりました、アインズ様」

 

 シクススはそう言いながら、一歩下がった。しかし忠誠心があふれ出ているようにも見え、表現が悪いが散歩を心待ちにしている犬のようにも感じられた。大切な友人が作ったNPCを犬など……とアインズが自己嫌悪しながら(沈静化)、ラウンジのキッチンエリアに近づく。

 

「さて、必要なものはここにもあるはずだが……」そう言いながらアインズが必要な器具を取り出していく。ガラスのティーポット、ケトル、ティーカップ、ティーキャディ、そして……紅茶の茶葉。そう、今からアインズ自ら紅茶を淹れるつもりなのだ。

 

 ケトルに水を入れ火にかける、その後ティーポットへ水を入れ電子レンジで2分温める。温めている間に用意した茶葉からどれを使うか少しばかり悩む、朝方にはやはりミルクティだなとミルクティ向けの茶葉「ブレックファスト」を選ぶ。

 

 余談になるが2016年現在では数多くの紅茶メーカーが紅茶を販売している。リプトン、トワイニング、ディルマ、マリアージュフレール、フォートナムメイソン、フォション、ハロッズなどは特に有名だろう。それら紅茶メーカーが出す紅茶は非常に多種多様であり、個性的なものから伝統的なもの様々なものがある。ただほとんどのメーカーでもとある理由から使われる名称の紅茶がある、それが「ブレックファスト」「アフタヌーン」だ。もちろんダージリン、アッサムといった紅茶もほとんどの紅茶メーカーから販売されているだろう、しかしこれらの紅茶はいわば生産地方から取られているため当然でもある。コーヒーで言えばタンザニアのコーヒー豆の数多くがキリマンジャロと、インドネシアのスマトラ島のとある地域で取れた豆をマンデリンとして販売するのと全く同じ意味になる。

 

 話が少し逸れてしまったが、「ブレックファスト」と「アフタヌーン」は一つのコンセプトで作られた紅茶である事が多い。それは「朝の紅茶(ミルクティ向き)」と「夕方の紅茶(ストレート向き)」といったものだ。名前そのまんまではあるが、ではなぜそういった名称が使われるようになったのだろうか?

 

 かの紅茶の国イギリスでは朝食と一緒に飲むミルクティーをブレックファストティーと言う。そこから派生しブレックファスト=ミルクティ向けのブレンドという認識が広まった。アフタヌーンはよりイメージがしやすい、英国紳士淑女が優雅にお茶会するイメージをしてみてほしい。そういった場面で飲んでいる紅茶こそアフタヌーンティと言えるだろう。こちらでは「ブレックファスト」ほど揃った意味ではないが主にはストレート向きにブレンドされた紅茶が多い。あくまで予想になるが昼後、夕食前に飲むアフタヌーンティでも菓子等と一緒に飲まれる事が多い。それらはクッキー、サンドイッチ、スコーンといった物が好まれていたが、以前ご案内した事かもしれないが

 

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 これは間違いないと作者も感じている。例えばビター、ナッツなどの重いチョコレートとアッサムを使ったミルクティ。和菓子のようなさっぱりとした軽めの菓子とヌワラエリアの青々しい爽やかさの組み合わせ、これらは互いを活かす組み合わせになる。片方が強いものになってしまうと片方の味わいを消してしまいマリアージュ(組み合わせ)を楽しめない。それは非常にもったいない、ぜひ一度試してみて欲しい。作者おすすめとしてビターなガトーショコラとコク深いアッサムのミルクティだ、さらに言うと一口目ではストレートを飲んで頂けるとより楽しめるだろう。

 

 話がまた非常に脱線したが、要はアフタヌーンという紅茶は「軽食であるサンドイッチなどに対してミルクティは強すぎる。同じく軽めの紅茶が組み合わせとしては望ましい」といったニュアンスでストレートの軽めのコンセプトにした紅茶にされる事が多い。

 

「あっ」

 

そこまで考えていたところでふとアインズが声を上げる。

「アインズ様、如何致しましたか?何かご入用でしょうか」

 

「そうだな……合わせてビター仕上げになったガトーショコラを用意してもらってもよいか?昨日副料理長話しておいたので言えばすぐに貰えるだろう。茶は私が用意するので不要だ」(いかん、副料理長に頼んでおいた菓子をすっかり忘れていた……ま、まぁまだセーフだよな!)

 

「アインズ様自ら……!か、畏まりました。すぐにご用意致します」

 

シクススが恭しくお辞儀をしてアインズから離れる、決して走るなど粗相はしないが少し気が急いているのか動きが早く見える。それも仕方が無い、以前から始まっているアインズ様当番は41人の一般メイドによる交代性だ。すなわち1回担当したらそれは41日後になる(40人+休日)。至高の存在へ尽くすべく作られた存在が突然沸いて出てきた奉仕の機会に喜ぶのも仕方の無いことだろう。

 

「さぁて……シクススが準備している間に、やってみるとするか」

そういってアインズは紅茶を淹れる準備に戻るのだった。




閲覧ありがとうございました。少々短いですが前半はここまでで

後半も近いうちに投稿させて頂きます。

途中のブレックファストとかアフタヌーンのところで1500字くらいあるんですがあそこは本当にノンストップで書けました、オバロ二次創作どこいったという突っ込みは無しでお願いします(苦笑


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4thCup 「Breakfast」

お待たせしました、4th Cup後半投稿させて頂きます

おすすめBGM Faith by Peter Mclsaac Music

youtubeにこちらをBGMにしたガトーショコラの制作動画がありましたのでそちらを開いて頂きながら見るとより一層雰囲気を楽しめると思います


また、ユーザー名の変更を行わせて頂きました。

セネルケウィン→アテュ

よろしくお願いします


「よし、ポットも温まったな」

 

(何だか2分程度しか立ってないのに、1週間以上経ってる錯角があるな……?何でだろうか。まぁいいか)

「ポットも温まった。茶葉も決めた、湯もそろそろ沸く。後は……ティーカップか」

 

 そう言いながらアインズが戸棚の中を探すと中には数多くのグラス、カップが並んでいる。どれもシンプルではあるが高級さと気品が調和されたデザインに仕上げられている。アインズ自身こういったものにあまり興味が無いが

 

 またまた余談になるがティーカップの歴史も長い。嗜好品の代表であるコーヒーと比べてみると違った特徴が伺える、一般的なコーヒーカップは底が深めになっている事が多い(大体120~150ml)。一般的なマグカップが250ml前後とされることからかなり容量は小さめという事が分かる。対してティーカップは底が浅く口は広めになっている事が多い(大体200ml)。

 

 もちろんそれぞれに理由がある、一言で言えば飲み頃の温度になる。コーヒーではおよそ80度~で抽出する事が多いが紅茶は100度近く、さらに現在のコーヒーの主流なペーパーフィルタードリップ方式ではもう少し温度が下がる事が多いため、実際に飲む場合では70度前後になるだろう。紅茶ではティーバックであろうとリーフであろうと使うお湯の温度は変わらず100度近い。しかし紅茶の飲み頃の温度はおよそ60度付近と言われている。すなわち淹れ立てでは温度が高すぎる、そのため()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「これでいいか。ミルクティーだし少し底が深いものにしておこう」

選んだカップを横に置き、軽く洗った後にレンジで温まったティーポットのお湯を少し注いでおく。

 

そこで菓子を準備しに行ったシクススが戻ってくる。早いな……まだ数分位だと思うが。

 

「お待たせ致しました、アインズ様。副料理長がこちらへ既にお持ち頂ける所でしたので受け取ってまいりました」

 

「そうか、ご苦労。ではケーキの用意はシクススに任せよう」

 

「はい、畏まりました」

 

「さて……ん?」

 

どこからか声が聞こえてきた。この声は……

 

「アインズ様~!」

 

大きな声を出しながらアウラが駆け寄ってきた、相変わらず元気一杯でこちらも思わず笑顔になってしまう。

 

「どうした、アウラ。珍しいなこのラウンジに来るのは」

 

「アインズ様を探しておりました!ただいまお時間大丈夫でしょうか?」

 

ふむ?何か急ぎの案件があったかな。いやいやもしかして何かイレギュラーな事態でも起きたのだろうか?とアインズが不安になりながら問いかける

 

「どうした?何かイレギュラーでも発生したか?」

 

「いえ!アインズ様にお会いしたく探しておりました!おはようございます!」

 

「そうかそうか(ほんわり)」

 

少し身構えたが子供(年上)らしい発言に思わず笑顔になってしまう。ここのところアウラとゆっくりと話すタイミングが無かったなと感じ、良いタイミングかもしれないなとふと思う。

 

「アインズ様、お邪魔ではなかったですか……?」思わず不安そうな顔をしながらアウラが聞いてくる

 

「そんな事は無いさ、少し試してみたい事があってな……ふむ、アウラこそ今から少し大丈夫か?」

 

「はい!もちろんアインズ様のためでしたらいかようにも出来ます!」

 

「そうかそうか、……そういえば今日はマーレと一緒では無いのだな?」

 

「はい、先ほど回覧板を回しにコキュートスのところへ渡しに行っていました」

 

(あぁ、そういえばまた風呂に誘っていたな。だからマーレもあまりはっきりとはアウラに言えなかったか)

 

「ふむ、では少々付き合ってもらってもよいかな?実は生産スキルを使用できる指輪の検証をしようと思っていてな。自分だけで試しても良かったが、せっかくだアウラも試食……いや、試飲してもらえないか?」

 

「生産……スキル、試飲……ということは……アインズ様自らお作りになられるのですか!?」

 

 アウラが酷く驚いた様子でいる。無理も無い事だが至高の御方から授与されるものはどれも光栄極まりない、しかし至高の41人が手ずから作ったものは今となっては数少ない。正確に言えば、手ずから生み出せる存在がアインズのみになってしまったため非常に貴重になってしまっている。そんな状況で、至高の御方が手ずから作っていただいた一品を自分に与えてくれるというのだ。

 

 思いがけない幸運にアウラがフリーズしかける、それも仕方が無い事である。共に仕えるナザリックのシモベら誰であろうとも同じように戸惑うに違いない。守護者一の知恵者デミウルゴスであろうと、錬磨された精神と武人の心を持つコキュートスであろうとこのような栄誉を与えられてはふと得た幸運に感謝してしまうだろう。

 

「その通りだ。初めて使うものでもあったからな……少々自信が無かったので一人で試してみようかとも思ったが、自分以外の感想も欲しいと思ってな」

 

「ぜひ!ぜひご賞味させて下さい!」

 

「お、おうそうか。……だがあまり期待するなよ?たいしたものではないからな」

 

「アインズ様から頂けるものは全て、私にとって望外の喜びです!」

 

やべぇ、これ結構プレッシャーだ。そういえばアウラってシャルティアが紅茶好きだからちょくちょく飲んでるよなぁやべぇと今更ちょっと後悔し始めたアインズだった。

 

まぁデミウルゴスやアルベドよりは誤魔化しやすいかとポジティブに考え直す。

 

「アウラも付け合せの菓子はガトーショコラでよかったかな?」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

アウラが大好きです!といった顔で頷きながらシクススの方に視線を向ける。

 

シクススが頭を下げながら畏まりましたと返事し、準備に取り掛かる。

 

 

「さて、では私の方も準備をしようか」

 

アインズは手元を動かしながら紅茶の準備を進める。

 

ティーポットからお湯を捨て、茶葉を入れる。今回はミルクティーにするため少し茶葉を多めにした。使う茶葉はイギリス最大の某老舗高級百貨店が販売していたブレックファスト、アッサムを中心にダージリンを少し加えたブレンドを選んだ。

さすがユグドラシル、昔の名店の味をそのまま持ってきてるなんて狂ってるなとあらためて感心した。

 

精巧な葉っぱのデザインのティーキャディーを手に取り、茶葉を計量する。そう畏まりすぎても良くない。こういうのはある程度ざっくりでも良いものだ。

 

沸騰直前になったケトルのお湯を勢いよくティーポットへ注ぐと茶葉が舞い上がり上部に浮かび上がる。ケトルを置き、冷蔵庫からミルク、生クリーム、蜂蜜を取り出す。

 

それぞれ小型のポットへ移し変えカップのお湯も捨てる。

 

ちらりとシクススの様子を伺う。今からちょうどガトーショコラを切り分ける所のようだ。

 

 

副料理長特製のガトーショコラ、今回は特によりバニラの香りを上品に贅沢にとバニラエクストラトを使われている。強いビター風味になっているが、バニラの香りが食欲を誘う仕上がりだ。

 

ナイフを入れしっとりと濃厚な生地が切れる音が心地いい。切り分けられたガトーショコラをアインズといアウラの前へ差し出していく。

 

食べる直前にと副料理長から別に用意された粉糖をシクススがふるいにかけガトーショコラを彩る。

 

「お待たせ致しました、ガトーショコラ(ビター)でございます」

 

「ありがとう、さぁアウラ座ってくれ。茶の準備もそろそろ準備できよう」

 

「いえ……アインズ様にご用意頂いているというのに私が座るというのも……」

 

まぁそりゃ遠慮するだろうなと思いながらアインズも答える。

 

「ふむ、とはいえ今この場では私がアウラをもてなすところだ。ではこうしようか、次回アウラが私を何かしらでもてなしてもらってよいかな?」

 

ニヤリとアインズが分かりやすい餌を目の前に用意すると予想通りとても良い反応で食いついてくれる。

 

「本当ですか!では、ぜひ今度第6階層の私とマーレのところへお越し下さい!」

 

このあたりは良い子供らしさだなとアインズも笑う。アルベドやデミウルゴス達は葛藤しながら答えに迷うだろう、こういったところはアウラとマーレに忘れないで欲しいなとふと考える。

 

「楽しみにしているよ、ただしあまり気を使わなくともよいぞ?私はお前たち、アウラやマーレからもてなされる事だけでとても嬉しいからな」

 

アインズ様……とアウラが潤んだ目でこちらを見る。うん、やっぱりシクススも当たり前のように泣いてるね。

 

「さぁ、そろそろ頃合だ。楽しもうじゃないか」

 

「アインズ様、今更ですがお試しになるというスキルというのは……」

 

「ああ、そうだ紅茶を淹れるスキル、()T()e()a() ()P()a()r()t()y()()だ」

 

 

 

 

……アウラ side……

 

 

私はなんて幸運だろう、仕事に取り掛かる前にふとアインズ様の顔を見たくなり思わず第9階層のロイヤルスイートへ来てしまった。

 

お顔を拝見させてもらえる栄誉に加え、アインズ様手ずから淹れられた紅茶を頂けるなんて。さっきから顔が緩みっぱなしだ。とても他の守護者には見せられない、マーレにだって恥ずかしすぎる。あぁ、なんて幸せな時間だろう。

 

 

 

……アインズ side……

 

「そろそろか」

 

ティーポットの蓋を取り、ティースプーンでほんの少しゆっくりとかき混ぜる。広がりきった茶葉が美しい、その茶葉の大きさが高い等級のオレンジペコである事を伺わせる。

 

蒸らされたティーポットから豊かな香りが広がる。アッサムのコク深さにダージリンのマスカットのような清涼な透いた香りを感じる。

 

思わずアウラも「わぁ~っ!」と目を輝かせる。

 

「さぁ出来上がりだ」

 

アインズがそう言いながらカップへ紅茶を注ぐ、先ほど用意した少し深めのティーカップの半分程度まで。

 

「最初はストレートで飲んでみると良い、次に味わいを変えてシンプルにミルク、リッチな味わいに生クリーム、蜂蜜を加えてみても良いかもしれないな」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

辛抱たまらないといった雰囲気でアウラがカップに口をつける、淹れたてではあるが調整を行っているので60~70度程度、適温だ。

 

「はぁ……とても……とても美味しいです、アインズ様……」

 

そうかそうかとアインズも思わず笑う。なかなか良い手ごたえじゃないかと安心し、自分もカップに口をつける。あぁやはりこれは素晴らしい。アストリアの喫茶店に通うようになってからこの紅茶が最も気に入ってるかもしれないな。

 

アッサムのどっしりとした奥深い味わいが非常に好きだ。ミルクを加えるのもいいが一口目はぜひストレートで楽しみたい。ここから二杯目の変化が楽しみなんだよなとわくわくした様子で一口で紅茶を飲んでしまう。

 

「次はシンプルなミルクティにしよう。アウラも気にせず好きにアレンジするといい」

 

「はい!」

 

くどいようだがこうでも念押ししておかないと恐縮して同じもので!という形になりかねない。お茶を楽しむのに必要以上に肩が張るのは間違っているからなと小さくひとりごちた。

 

アウラは二杯目には少しの生クリームと蜂蜜を入れた贅沢な仕上がりにするようだ。濃厚だ、ガトーショコラにも負けない味わいになるだろうなとアインズが微笑む。

 

「さて、では頂こうか」

 

粉砂糖で雪が降ったように彩られたガトーショコラへフォークを入れる。身がぎっしりと詰まっているような重さを感じながら一口。とてもビターな大人の味わいだ、これだけでは大人であるアインズも少し持て余したかもしれない。しかしここにはこれがある、ミルクティが。

 

シクススが追加してくれた紅茶にゆっくりとミルクを加える、クリーム色に変わり優しげな雰囲気を醸し出す。スプーンで軽く混ぜ、口をつける。

 

 

【挿絵表示】

 

 

あぁ、なんという事かこの味わい。先ほどでも十分に感じられたコクがミルクでより一層引き出されている。

 

「素晴らしい……」

 

自分で淹れておいてだが、思わず呟いてしまう。それほどまでにこの調和は素晴らしい。なんという組み合わせ、なんというマリアージュ。

 

「あぁ……アインズ様、ガトーショコラがとってもビターで重い味わいですけど生クリームと蜂蜜がより一層紅茶を美味しくしてくれています」アウラがうっとりとした顔で言う。

 

「うむ、素晴らしい組み合わせ、絶品だな。スキルも上手く発動しているようで何より」

 

あぁ……実にゆったりとした気分だ。一生ここでゆったりしていたいなぁ……とおもわず考える。

 

 

そんな所へ複数人、歩いてくる声が聞こえる。

 

「アインズ様、おはようございます」

 

「あぁ、おはようアルベド。デミウルゴス、マーレも一緒か」

 

「おはようございます、アインズ様。はっ、私と統括殿は中間報告。マーレは回覧板をアインズ様へ渡しにきたようです」

 

「お、おはようございます、アインズ様」

 

デミウルゴスがにこやかにアインズへ報告。マーレが自信なさげながらもアインズへ挨拶をする

 

「ところで……アインズ様、少々宜しいでしょうか?」

 

「うん?」

 

「こちらのラウンジをご利用されて……お茶会でしょうか?大変失礼致しました。ご報告は後に回させて頂きます」

 

「あぁ、気にするな……いやそうだな報告に火急なものはあるか?」

 

「いえ、中間報告の総括としてはおおむね順調に推移しており後ほどご覧頂ければ十分かと思われます」

 

「そうか、ありがとうアルベド」

 

「とんでもございません!」

 

うーん、アルベドそわそわしてるなぁ。あ、そうかこの配置に気づいたのか。

 

そう、少し変わった置き方がされている。ティーポットやカップなどの配置からアインズが紅茶を淹れていたのでは?と思わせるように目の前に置かれている。これがメイドらに行わせているのならばカップだけがアインズ達の目の前にあるだろう。

 

よく気づくわぁと感心しながらアインズが微笑む。まぁ上手く淹れられたようだし誘ってみるかと思いつく。

 

「実は生産スキルの実験……まぁほとんど趣味だが行っていてな。紅茶を淹れるスキル 『Tea Party』を使ったところだ」

 

「では……こちらの紅茶はアインズ様自らお淹れになられたものですか!?」

 

アルベド、デミウルゴス、マーレが驚愕する。最近アインズがアストリアの喫茶店によく行っている事は当然知っていたがまさか御方自ら淹れられるまで紅茶に興味をお持ちとは……と衝撃を受ける。

 

「あぁ、ちょうどアウラもきてな。少し付き合っていてもらっていた」

 

なんと羨ましい、至高の御方手ずから淹れられた紅茶を飲ませて頂けるとは。アルベド、デミウルゴス、マーレが思わずアウラへ嫉妬の目を向ける。とはいえ直ぐにその嫉妬は解消された。

 

「ふむ、良かったらどうだ、お前たちも少し茶を飲んでいかないか?」

 

『!!!』

 

3人がはっとした顔でこちらを向く、アルベドとデミウルゴスはそのような身に余る光栄……といった顔だ、マーレは凄いうろたえてるな。

 

「あぁ、気にするなそう固いものではない。気に入った茶葉が見つかってな、自分でも淹れてみたいとふと思いつきやってみただけの事だ。感想を言ってもらえると助かる」

 

アインズがそう答え、それならば……と笑みを堪えきれない様子でアルベド達が頭を下げる。

 

決まりだな、さぁもう一度淹れるとしよう。

 

ふとアインズの思いつきで始まった小さな茶会、それはもう少し続くようだ。




今回作業していた際に飲んだ紅茶はHarrodsのモーニングフレッシュです。

作者自身、最も好きな紅茶は何か?となった場合この紅茶をあげます。それほどまでにお気に入りの紅茶です、少々一般的な紅茶よりも値が張りますがぜひ一度お試し下さい。

ただ近隣では名古屋のHarrodsでしか売っていないため名古屋に出かける理由になっています笑


閲覧頂きありがとうございました

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5th Cup 「????」

ご無沙汰しております。遅くなりました 再び紅茶メインです

(現在の時系列は9巻、帝国に赴いた前後の状況です。10巻でシャルティアらとドワーフ国にはまだ行っていない設定です)




「う~ん……」

 

喫茶店でアストリアの声が響く。

 

「ちょっとミルクが強すぎる……かな?コクが弱いなぁ」

 

淹れた紅茶を口にしながら悩んだ様子を見せる。先ほどから紅茶を淹れているが上手くいかない、どうしたものかなぁと目を瞑りながら考える。

 

「ティーテイスター」の職業クラスによって通常であれば問題なく紅茶を淹れられる。ただそれもゲーム時代のユグドラシルでの話である、いかにクラスを得ようとも該当する行動が全て万能になるわけではない。この世界においては「資格を得る」程度の認識でいた方が良い。「資格を得る」のは分かりやすい、料理スキルを持っていない者(一般メイド)が肉を焼いても失敗した実験のようにしかるべきルールが設定されている。では「資格を得た」ら必ず成功するのか?というところに関しては転移した後ではルールが捻じ曲げられている、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……悩んでてもしょうがないか、分かりそうな人に相談してみよう」

 

そう呟きアストリアが喫茶店を出て食堂に向かおうとする。だがちょうど出るところで扉が開いた、勢い余って開いた相手にぶつかってしまう。

 

「む?あぁ、すまないアストリア。タイミングが悪かったな」

 

折り悪くぶつかってしまった人?は至高の御方、アインズだった。思わずアストリアが青褪める、敬意を払うべき存在の至高の御方、今も慈悲深く我らを導いて下さる御方になんと無礼な事をしてしまったのかと愕然としてしまう。

 

アストリアは真っ青な顔をしているがアインズは珍しい事もあるもんだなとあまり驚いていない。とはいえ周りの雰囲気で察する、これはイカン流れだと。

 

「申し訳ございません!恐れ多くもアインズ様へぶつかる等!愚かな私めに罰を!」

 

アストリアがアインズの足元へ跪く。

 

「よい、気にするな私も前をよく見ていなかったからな。幸い……この場には私とアストリア、それにナーベラルしかいない」

 

そう言ってアインズがちらりと後ろのナーベラルを振り向く。

 

ナーベラルも少しばかり動揺している様子が見受けられる、どうやって同僚をフォローしたものかと悩んでいるようだ。

 

そんな怒るつもり無いんだけどなぁと思うが周りはなかなかそう考えてくれない、であればしかたがない軽い罰で済まそうと思いなおす。

 

「いえ、私は許されぬ事をしでかしました!以前アルベド様が仰られていたように信賞必罰は当然のことでございます。どうか……どうか……」

 

むちゃくちゃ泣きそうな雰囲気を醸し出すうわぁめっちゃ叱り辛い。そもそも反省している者へ過剰な罰などよろしくない、反省していない者にこそ罰は必要だが次に備えるべきならばそれは益ある失敗だ。リザードマンを相手にしたコキュートス然り。

 

どうしたものかなとアインズが少し考える、傍ではナーベラルとアストリアが緊張した面持ちで言葉を待っていた。

 

「ふぅむ……あぁちょうど良い。アストリア、お前に1つ罰を与えよう」

 

「はい!なんなりとご命じ下さい!」

 

「これから行く先で紅茶を飲むのだが、お前はそれを手伝ってはならない」

 

 

ご無体な

「そ……!か、畏まりました……」

 

思わずでかかった声を抑え承服の意を示す。「紅茶を淹れる」という事をアイデンティティに持つ私にとってあまりにも非情すぎた。とはいえ至高の御方へぶつかるなど不敬極まりない事をしてしまったのでは何も言えない、むしろ見合った厳罰をいただけたことに感謝すべきだろう。なにきっと飲まれる場所もナザリック外だろう、外の喫茶店等だろうなと必死に自己暗示をかけ考えをそらす。

 

「ちなみに行く先はシャルティアの住居……ナザリック第1層だ」

絶望しかない

 

 

 

予想以上に茫然自失とした様子のアストリアを引きつれアインズウールゴウンの指輪使い転移をするアインズ、少し厳しかったかな?と考えつつまぁ理由を聞けば納得してもらえるだろうと思いなおす。

 

 

「お待ちしておりました、アインズ様」

 

「うむ、シャルティア邪魔をするぞ」

 

ナザリック第1階層シャルティアのホームへアインズ、ナーベラル、アストリアが到着する。既にシャルティアは連絡を受けていたようで歓待の準備を整えていた。テーブルにはビスケット、クッキーを始めマドレーヌ、シフォンケーキ、サンドウィッチなどがケーキスタンドに載った状態でスタンバイされている。(貴族がアフタヌーンティで使ってそうなアレ)パーティでは演出効果が非常に高いが友人に誘われたアフタヌーンティーでは少し気後れするなと感じる。

 

とはいえせっかく用意してもらったものを無碍にさせるような事はしたくない、そういった思いを払い話しかける。

 

「ほう、なかなか凝った催しをしてくれているな」

 

「アインズ様にお越し頂けるという事で一般メイドに協力してもらいんした」

 

「正しい判断だ、任せられる仕事は一般メイドに任せ他の事をシャルティアが行う柔軟さはよりよいモノに仕上がる事へ繋がる」

 

「ありがとうございます!」

 

シャルティアがどこか安心した表情を浮かべ艶のある表情で笑う、あの笑顔が達成感での喜びならばこちらも嬉しいのだが何だか別な悦びもあるんじゃないかと思わず勘ぐってしまう。それはともかくと思いなおし、席に着く。

 

「そうだ、アストリアも連れてきたが良かったか?」

 

「もちろんでございんす、歓迎しますえ」

 

シャルティアがアストリアへ微笑みかけ、アストリアも恐縮した様子で目礼で返答する。

 

「今回はシャルティアに紅茶の話を聞きに来たのだが……シャルティアはどの程度ペロロンチーノさんから知識を与えられている?」

 

「嗜む程度……と申し訳ございんせんが淹れる方のスキルについては習得をしておりません」

 

シャルティアのステータスはガチビルドのためフレーバーテキストに合わせた職業を取らせる余裕は無かったかとペロロンチーノの考えを察する。

 

「嗜む程度か……、具体的でないフレーバーテキストでは差異が発生するのか……?いや、アストリアの知識と比較すればある程度の確認は出来る……いやすまん、今やるべき事ではなかったな」

 

「とんでもございません!アインズ様がナザリックのためにお考え頂いている事を深く感じとれ幸せでございんす!」

 

 

そう言いながらアインズは席に着く、同じくシャルティア、アストリア、ナーベラルも促す。さすがに最近では主がそう強く望んでいるということが周知されているためかシモベらも呼びかけに対してはスムーズに対応する事が多い、良い機会だなと改めてアインズは実感する。

 

「さぁ今日はシャルティアのエスコートだ。楽しませてもらうぞ?」

 

そう言ったアインズは期待を向けた目でシャルティアを見る。明らかに発情している顔になっているが……おかしいな、最近まともな顔見たかと素朴な疑問が生まれるが考えないようにする。

 

「はい!では早速でありんすが……お飲み物は如何いたしんすか?紅茶でと……伺っておりますが」

 

ふむと少しアインズが考える。そもそもシャルティアに茶会をお願いしたのはコミニュケーションのためだ、アルベド、デミウルゴス達とは話す機会も多いがここ最近シャルティアとあまり話していなかったようにも感じる。例の事故でシャルティアは深く傷ついている、いかに私の責任だとアインズが伝えても本人が納得しなければいつまでも引きずってしまうだろう。罰(ご褒美)は与えたが、聞けば先のゲヘナでも中心的な位置では無かったようだ。まぁ徐々に時間をかけておく事も必要だが、チャンスは与えるべきだろう何も外に攻めに行く必要など無いナザリック内でも出来る事、やってもらえる事はあるのだから

 

 

ここ最近アインズも少しシモベの考え方が分かってきた、仕事を与えられなければ落ち込むという事がスタンダードだ。仕事をしているものを評価する、当然バランスもあるがどちらかと言えば与えられていない者に対してのフォローをした方が良いというのが転移してから見ていた感想だ。

 

「うむ、紅茶だがそのチョイスを今回はシャルティアに任せようと思ってな」

 

「えっ」

 

思わずアストリアが声を出す。

 

「アストリア……失礼じゃないかえ?」

 

「失礼致しました!アインズ様、シャルティア様!」

 

焦ったアストリアだがそれ以上にシャルティアがピリピリしている雰囲気を醸し出す。周知の事実だが今回の茶会はシャルティア主催いわばホストである、それがアインズ以外によってテンポを崩されるのはあまり良い気分にはならない。

 

まだまだそういったところは慣れてなさそうだなとアインズがふと思う。

 

「よい、シャルティア気にするな元々私が詳しく説明せずに連れてきたのだからな、私の説明不足だ」

 

「そ、そのような……」

 

「あまり尾を引いても……な?さてアストリア先に伝えておこう、先ほど話した紅茶を淹れるな と」

 

「はい……」

 

怒られた後もあってかどこかしゅんとした表情をして答える、うーん本当に俺悪いことしてないか不安になってくるなと思うアインズ。

 

「お前達の出来る、出来ない事について確認をしたいと思っていてな」

 

「わっちどもに出来ぬことなど お気になさりんせんでくんなまし!アインズ様は命じてくだされば……」

 

「あぁ、すまないなシャルティア表現が良くなかった」

 

「……?…………?」

 

あまりシャルティアに意味が伝わっておらず混乱している同じように近くにいるナーベラル、アストリアも混乱した様子だ。

 

「そうだな……一言で言えば意図してやらない事を選択できるかという事だ。簡単なようでとても難しい。特にお前たちシモベらはナザリックに対して忠誠を誓ってくれている。これは私も疑っていない」

 

その言葉にシャルティア、ナーベラル、アストリアだけでなく護衛としてついている八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)も歓喜で震える。慈悲深き御方に我らの忠誠を受け取って頂けるなどなんと身に余る幸せかとそっと涙すら流す者もいた。

 

「うわーお」

(そう難しい話ではないさ)

 

「「うわーお……?」」

 

しまった!逆だった!と思わず焦る。慣れてくると油断するなと気を引き締める。

 

「い、いや気にするな」

 

はぁと頷き返すシャルティア達。今までに無いミスに動揺するアインズだった

 

 

 

「例えばの話をしよう、シャルティアお前は私が死ねといえば死ねるか?」

 

「もちろんでございます!」

 

「そうか、では私が一度死に掛けなければ達成できない目的のためお前たちは座して待てるか?」

 

シャルティア達は呆然とした、主たる至高の41人のために尽くすべきと生まれた我らに障害への解決のために何もするなという回答が信じられなかったためだ。かつそれも世界級アイテムのような理不尽な力ではなく我らにも対応できる事に対してでだ、耐え切れるか全く自信など無い、考える事も恐ろしい事を行おうとした者を縊り殺したいという憎悪が沸きあがる。

 

「それが答えだよシャルティア。先ほども言ったがお前たちの忠誠心は疑いようも無い。だが時として我らの結びつきを利用しようとする不届き者もいるだろう。知恵者たれと生み出されたデミウルゴスやアルベド、パンドラズアクターであっても全ての事に対応できるというのはいささか楽観的だ」

 

「私はだいたいの事は自分で対応出来ると考えている。しかしそのだいたいの事を解決した際にお前たちに傷を負わないかが心配なのだ」

 

「私達の身等どうとでも!」

 

「出来てはいないだろう?シャルティア、蒸し返すのも何だがお前はずっと以前の事を気にしているように見える」

 

何も言えなかった確かにあの失態はアインズにお前に責は無いと明言されても抜けない針がささっているように忘れられなかった。

 

「意地悪な質問だったな、ただ病気のようなものだ。1度かかった病は次はかからないように予防しなければならない。それを疎かにすると自分だけではなく周りのものも巻き込んでしまう私もあの時の事で1つ学んだ

解決するにしても解決のやり方も上手く考えなければならないとな」

 

何も言えずに黙っているシャルティア、ナーベラル。言い表せない動揺と喜びに震えながらアストリアが一歩前に出る。

 

「恐れながら申し上げます、私共はナザリックのシモベ……私などがおこがましいとは存じておりますがどの者もアインズ様へ命を捧げる覚悟は出来ております……それは許されない思いなのでしょうか」

 

答えを聞くのが怖くてたまらない風な表情でアストリアがアインズに問いかける。

 

「それはあくまで最終手段と考えよ、自己犠牲の精神は尊いものだが悪戯にそれを行うものは只の愚か者でしかない。厳しい言い方だがその手段を行った結果より悪い方向へ陥る可能性もある」

 

「シャルティアお前に暗殺任務を与えたとしよう交渉の場で、だ。その際にお前は最終手段で自爆技も視野に入れて行動するか?」

 

「もちろんでございんす!」

 

「ワールドアイテム相手ならばそれもやむなしという時もあるだろう。しかし交渉の場というのが非常にまずい、話し合いに来たものが自分に刃を向ける事ばかりを考えている等知れ渡れば我々と交渉しようと考える者はいなくなるだろう」

 

「アインズ様、恐れながら質問がございます」

 

「ほう?珍しいなナーベラル、良い言ってみろ」

 

「アインズ様はなぜ御力を使わずに対話という手段を取られるのでしょうか。我らが見ぬ強敵の可能性という事を示唆されていましたが、あまりにもこの世界の者達は脆弱です」

 

「ふむ、良い質問だ。そうだな……」

 

え、強敵がいるかもしれないってだけで十分じゃないか……?まだまだ認識の差がナザリック内のシモベとあるな……

 

「今私が言える事は2つだ。1つはまだ見ぬ強敵の可能性、もう1つは何だと思う?ナーベラル」

 

「……恐れながらアインズ様の御力でなし得ぬ事が想像できません……」

 

「ある意味答えに近いな?惜しいなナーベラル」

 

意外な返答にナーベラルだけでなくシャルティア、アストリアも驚く。

 

「答えそのものかもしれんが、力がありすぎるからだよナーベラル」

 

「力が……ですか?」

 

「そう、我々の持つ力がこの世界で圧倒的な存在である事はほぼ確定だろう。凄まじい力を持つという竜王クラスでもナザリックの力を使えば容易い。しかし圧倒的な力とは時として思いもよらぬものまで破壊してしまう可能性がある。私はそれを危惧しているのだよ」

 

セットされた空のティーカップを持ち上げてアインズは話を続ける。

 

「それは我々がこの世界で新たに得られる可能性を摘む事に他ならない。代表的な例では生まれながらの異能(タレント)、その地でしか得られない物質等だな」

 

そうなんだよなぁ……ここだけの話、帝国近くの山で紅茶を作ってるって聞いたんだよなぁ。調べたところなかなか興味深かった、何だよジルクニフブレンドってどんな味だ!気になるぞ!

 

思わず沈静化が起こってしまうがとっさに誤魔化す。さすがにアインズも紅茶のために侵略戦争を起こすのは少々やりすぎではないかと思うのは本心だった。

 

「 流石はアインズ様……あちきらには考え至らぬ事でありんした。正に智謀の王…… 」

 

「それはやめてくれ……」

 

小さくつぶやくアインズだった。

 

 

 




ご報告が遅れましたが無事、紅茶検定合格しました。初級と中上級どちらもなんとか。

いやー、紅茶以外も聞かれたので結構あせりました。

まず試験前に車の事故をしたっていう時点でもうね……

初級の試験内容に紅茶の成分を~ってのがあったんですが、当然答えはカテキン。緑茶にも含まれてるあれです有名ですね。

俺が選んだ答えはカロテンでした。ニンジンじゃねぇか!



動揺が現れてて自己採点の時にちょっと笑えました


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5th Cup 「Royal milk tea」

ご無沙汰しております。大変に遅れました

色々と悩む回でちょっと短いです

少し雰囲気が変わります


ロイヤルミルクティー

 

その名称はほとんどの人が聞いた事があるのではないだろうか。喫茶店でそういった紅茶を飲まれた方、そういった清涼飲料水を飲んだ人も多いだろう。しかしながら自分で淹れなければ分からない点が1つある、それは甘みだ。清涼飲料水ではほぼ全てに甘みがついて販売されている、喫茶店等でも出された状態で砂糖が過分に含まれているものが多い。しかし本来砂糖とは最後の味の調整に使われるものであるそれが最初から入っているというのは少々自由度が損なわれているようにも感じる。何が言いたいかというと自分好みの味に調整するというのは、自宅だからこそ淹れることが出来る贅沢なのだ。

 

世界の美食を探し出す食通(グルメ)が各地の珍味を堪能しつくした結果、自ら包丁を握るように……最終的には大衆的に用意されたものは一個人がぴったりと嗜好に当てはめる事は難しい。しかしそれを参考にすることは大いに意義がある、あてずっぽうに行動しても効果が薄いが自分が好みと思ったものを軸に行動する事は非常に効率的だ。

 

 

閑話(飛ばしても構いません)

 

これは筆者の実体験だが、紅茶にはまった頃どうにも喫茶店の紅茶が美味しく感じなかった時がある、いや美味しくなかったとは言いすぎだが評判どおりとはとても思えなかった。スリランカの茶葉……キャンディ(以前紹介したディンブラとルフナの中間の標高で採れる紅茶)で非常に万人に好まれる紅茶だった、どうにも納得できず販売もされていたため少量を購入し自宅でも淹れてみた。

 

結果としてそれは正解だった。自分はキャンディも嫌いではないがもっとパンチのある風味、スリランカで言えばルフナの方が好みに合っていると分かった。一般的にキャンディはミドルグロウィン……中程度の標高と言われる(標高600m程度)そしてその特徴は万能さである、ホットはもちろん、ストレート、ミルク、アイスティーにも勧められる事が多い茶葉はそう無い。余談になるがスリランカは他国の紅茶と大きく違う点がある。それは標高別に分けられた紅茶を生産している事だ。一般的に紅茶の産地は特定のエリアで分けられている事が多い、インドのダージリン、アッサムなどインドの特定の地方しかしながらスリランカは世界をその1国に詰め込んだように所狭しと紅茶の生産地で埋め尽くされている。これは紅茶生産大国で無ければありえない現象だ。スリランカの紅茶がたびたびとり上げられるのは紅茶の輸出量が世界一(2017年時)というだけでなく、1国の中でありえないほどのバリエーションを持っているからに他ならない。

 

長々と書いたが要はストレートで不味かった、ミルクで不味かったという事を避けるにはまず一口目でストレート、その後にミルクを入れて色んな味わい方を試して欲しいという事だ。上記も筆者がまだ紅茶を飲みたての頃でミルクティーで試してみればいいところ何も考えずに通はストレートで!のような考えで飲んだのが原因だった。現在日本では嗜好品に何も入れない、加えない事が美徳として捉えられる事が多すぎる。コーヒーはブラック、紅茶にミルクを加えるなどありえないといった考えだ。もちろん個人の嗜好として選ぶ事は自由だがそれが他人の嗜好にまで及んでくると非常によろしくない風潮に思う。カフェオレで飲むこと、ミルクティーで飲むことが「こいつ分かってない」などと思われるのであっては嗜好品としてあるまじき姿だろう。とはいえコーヒーのサードウェーブのように産地、飲み方といった事から多種多様のあり方が認められ始めている。他人の飲み方にケチをつけるような人はそう多くは無いが是非色々な飲み方を試してみて欲しい(ストレート、ミルクティー(ティーウィズミルク)、レモンティー、アイスティー、ロイヤルミルクティー等々)、キリティー(ミルクの代わりにコンデンスミルクを使用)

 

閑話 終

 

 

「これが噂に聞くロイヤルミルクティーか。聞いた事はあるが飲んだ覚えはあまり無いな」

 

「はい、アインズ様。先日アストリアに飲ませていただいた私のお気に入りの一品でありんす」

 

「ほほう?シャルティアもアストリアの喫茶店に行っていたか、休日を謳歌しているようで何よりだ」

 

主が自分の行動を褒めてくださる。もはやそれだけで絶頂に達しようとしているシャルティアだったがさすがに目の前でそんな粗相は犯せないと踏み止まる。

 

「ありがとうございます、私もペロロンチーノ様より賜った知識……紅茶については少々拘りが……どうしても気になりまして」

 

「では頂こう。ふむ……口当たりの柔らかさが違うな。普通のミルクティーよりも……コクといえば簡単だが、奥深さ?複雑さの調和が上手くいっているようにも感じる。ミルクをたっぷりと使っている事は分かるがなおかつ紅茶の味はしっかりと軸に残っている……すばらしい風味だ」

 

「恐れ入ります。流石はアインズ様、正に仰られるとおりかと……ロイヤルミルクティーは多量にミルクを使う分、しっかりとした味わいの茶葉を使わなければミルクに紅茶の風味が負けてしまいます。あくまでミルク風味の紅茶という形にならなければそれはもうミルクティーとは別物……紅茶風味の牛乳になってしまいます。それは大いに違ってしまうと思いますえ」

 

「ふふ、シャルティア饒舌だな?」

 

「し、失礼致しました。少々はしたなく……」

 

「いやいや、構わない。その知識はペロロンチーノさんからもらったものだろう?であればその知識を披露したい気持ちは十分に分かる、さぁ私にも教えてくれないかな?」

 

アインズがにやりとシャルティアをからかうように話す。周りのナーベラル、アストリアもとても興味深そうに聞きながら羨ましそうな顔でシャルティアを見ている。

 

至高の御方に頂いたものはこれ以上無い尊いもの、そんな尊きもの……知識を仲間に披露できるとならば思わず口元が緩むシャルティアはこらえきれない笑みを浮かべながら話し始める。

 

「では……恐れながらご説明をさせて頂きます。こちらの紅茶……茶葉はルフナを使用しております、特徴としてはコク深い、奥深さミルクとの相性が抜群な紅茶でございます」

 

「ルフナか、以前アストリアに淹れてもらったことがあったがそれとはまた違った趣だな」

 

「はい、実は少々こちらにはアレンジを加えております」

 

「ほう?実に気になるな教えてもらえないかな、シャルティア」

 

至高の御方、自分を唯一自由に出来る尊い方に求められるのはたまらない。下から出る忠誠心を抑えようと奮起しつつシャルティアは徐々に濡れていく下着の感触に溺れる。

 

「は、はい。実はヌワラエリヤ・・・・・・そちらをすこぉし加えさせて頂いていんす」

 

「ほう?確かヌワラエリヤはストレート向きと聞いていただが面白い試みだ」

 

アインズは内心非常に驚いた、こういってはなんだがシャルティアはスキル「血の狂乱」だけでなく設定そのものが直情的な性格をしている。そういった特徴からいささか短絡的な行動が目立っていた、しかし考えさせる行動を指示すればきちんとそれに基づいて行動をする。思えば製作者のペロロンチーノもそういった節が思い当たる、エロゲー等拘りあるところに関しては非常に暴走しがちだがいざレイドボスやPVPともなれば驚く程変わった空気を出していた事もあった。

 

今までにもセバスの良心やデミウルゴスの悪への拘り、コキュートスの武人としての心構えといったように制作者の思いを感じ取れる部分をいくつも感じてきた。ただかつての仲間達の中でもペロロンチーノはかなり仲が良かったほうだ、だからこそ自分が気づけた部分があると思うと自然と嬉しく思えてきた。

 

「アインズ様、その・・・・・・とても楽しそうに見えますが、何かございましたでしょうか?」

 

少し照れたような雰囲気でシャルティアが問いかける。

 

「いやすまない、気にしないでくれ。シャルティアのもてなしが嬉しかっただけだ」

 

「それは何よりで!私も嬉しくありんす・・・・・・ただこちらの試みは私だけではございんせん。アストリアや他の者にも相談した上でのもので・・・・・・私1人では何もできないんした・・・・・・」

 

そういいながら落ち込んだ様子でこちらを見るシャルティア、まだまだ傷は根深い。

 

「そうでもないぞ?シャルティア、最も愚かな者とはどういったものだと思う?」

 

「わ、私めの事を仰っているのでしょうか・・・・・・」

 

「違う、悪いように考えすぎだぞ。・・・・・・ふむ、ナーベラルはどう思う?」

 

「はっ!やはり人間の事かと!」

 

「・・・・・・そうか、アストリアはどう思う?」

 

少し期待を込めてアストリアへ問いかける。アストリアはカルマ値+50に設定されている、シャルティアの-450(邪悪~極悪)、ナーベラルの-400(邪悪)に比べればかなりの高さであり理性的な判断が出来るといえる。

 

「はい、・・・・・・アインズ様に従わない者かと」

 

 

駄目だった。

 

 

「・・・・・・そうか、そうだな私が思う最も愚かな者とは学ばない者だ。誰にでもミスはある、だがそれを小さなミスとして見逃すかどうかだ」

 

「シャルティア、お前には罰を与えた。それで全ては精算されたはずだろう?それをぐちぐちと今更気にするのは私に対しての侮辱と思え」

 

「・・・は!申し訳ございません!」

 

威圧的な言い方になってしまい罪悪感が沸く、とはいえシャルティアへどのような形であれ罰は与えたのだ。アルベドに進言された信賞必罰とは世の常とは非常にもっともな話、身内への甘さが抜けていないのは自分・・・・・・アインズのみだけやもしれない。

 

 

ふと疑問が沸く。こうして国を築き残されたNPC達と日常を過ごす、なるほど大変に充実した生活だ。かつての仲間達が見たら羨むこと間違いないだろう。しかしながら自分自身で得たものは何かあるのだろうか、コキュートスがリザードマンの案件の際に学んだように自分も新たな一歩を進めているのだろうか。

 

じくじくとした嫌な気持ちが抜けない、大きな感情の起伏ではないため精神の安定化も作用されない。必要な時になかなか起きないなと思わずため息をつきそうになる。慌ててこの場がどのような場かを再認識する、幸いシャルティアもナーベラルも顔を伏せていたため気づいてはいない。ただ・・・・・・たまたま給仕の手伝いをしていたアストリアには見られてしまった。

 

主の不機嫌そうな顔に愕然とする様子のアストリア、ただそっとアインズが落ち着けというジェスチャーを行い落ち着かせる。伝わるかどうかは分からないが「忘れろ」と小声でつぶやく、アストリアがそっと頭を下げ給仕に戻る。思わず自己嫌悪するがそれでは無意味なループだ、今すべきことは違うだろうと思いなおす。

 

 

少し空気を換えようとシャルティアに話を振ろうとシャルティアのほうへ見た。

 

「さて、シャルティア・・・まだまだ紅茶については知っている事があるのだろう?ペロロンチーノさんから教えてもらった事、是非聞かせて欲しい」

 

「はい、喜んでご説明させていただきます!」

 

シャルティアの喜んだ顔を見ながらアインズはこの悩みを誰ならば相談出来るだろうかと考える、ナザリックのNPC?だめだ、とても出来ない。しかしどうだろう、ヤツならば自分の疑問に答えられるかもしれない。

 

そっとアインズは宝物殿にいる自分が作ったNPCの事を考えながらロイヤルミルクティーを飲む、心なしか落ち着いた気がした。

 

 

 




読み直すたびに悩む回でした

最後の思いつきは少し突発的かもしれません、ただ自分にもありますが余裕が出来た時ほど悩む事は多くなるなぁと。仕事とか忙しいときは目の前のことで手一杯ですが落ち着いた時期になるとふと悩むものです。


オーバーロード2期が始まりましたね。調べてみたらEDのボーカルの方が変わっているようですが僕はこれはこれで大好きです

ここで書くのもなんですがEDの曲「HYDRA」ですが意味は有名なヒュドラのほかに「根絶しにくい害悪」「ひとすじなわではいかない難問」といった意味合いもあるようです

……含みがありますね、紅茶でHYDRAとかそんなブレンド名があったらどんな味になるんでしょうねぇ。一度は飲んでみたい。



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第2章 始まりの紅茶

お待たせしました、第2章です

第1章はアインズ様が紅茶にはまる というところまでになります。
2章からは舞台は外になります、とはいえ箸休めにナザリック内の喫茶店も登場させていこうと思います

1点変更点として時間軸を 原作10巻終了後 帝国の属国化が進んだ後の話と仮定させて頂きます。ものっすごい変わるわけではありませんがそっちのほうがより今後の展開が自然になるかなと思ったので……

申し訳ないですがよろしくお願いいたします


帝国で鮮血帝による貴族粛清が行われ貴族という概念が無くなったがそれに近い者はいないわけではない、貴族なるものが力があるのではなく力あるものが貴族足りえるのだ。帝国のとある豪商、シネンシス家も非常に力ある一族だった。商人である以上貴族粛清からは逃れられたが商人にとって貴族がいなくなるというのは大きな痛手である。力ある商人ならばどのような物でも取り扱いできると豪語するが今の時代では非常に難しい、既得権益をがっしりと掴んでいた貴族の力が皇帝に集約され自分の家を守るのも手一杯になっている状況だからだ。率直な表現をすると収入が少ない状況で維持費が非常に多い状況である。そんな状況では貴族らしい嗜みなどできるはずもない。いつの時代でも金がなくなると最初に削られるのはぜいたく品だ、……嗜好品、酒、娼婦といった金があるこそできた娯楽を控えるようになる。とはいえ酒や娼婦は貴族だけが商売先ではない冒険者や国の兵士にも大いに需要がある。しかしながら嗜好品……絵画、壺、工芸品といった美術品……珍しい食べ物、飲み物……紅茶などは控えるようになるだろう。そんな嗜好品を中心に取り扱っていたシネンシス家は非常に苦しい立場にあった。

 

 

私はカメリヤ=シネンシス……シネンシス家の当主である。鮮血帝の貴族粛清が行われ、それに追随するように父の急逝。そんな混乱からようやく落ち着き始めた家の当主だ。……大変なんてものではなかった、シネンシス家は貴族ではないが貴族に対して嗜好品を中心に取り扱ってきた商家そんな商売をしている家が貴族粛清を行われた影響を想像してみてほしい阿鼻叫喚としか言えない。急逝した父に対しては恨み言の一つでも言えれば気が晴れただろうがそんな時間すら無かった。減った収入の穴埋めに今まで取り扱っていなかった大衆向けの嗜好品を探したり貴族向けに取り扱われていた商品を高ランク冒険者……ミスリル級やオリハルコン級の冒険者に対しアプローチもかけ何とか商売は安定し始めてきた。

 

無我夢中で様々なことに手を出してきたが落ち着いてきたところで改めて方針を決めなければならない。高ランク冒険者に対する嗜好品の売り込みはある程度結果は出ているそれは間違いない、しかしそれも収入の穴埋め程度にしかならない。貴族のようにポンッと買う家は少ないあのフルト家などは金払いが非常に良かったが今でも稀に注文が入る、何かしらの収入があるのだろうか? 羨ましいことだ。帝国もある程度落ち着いてきた、ともすれば大衆向けの商品に力を入れていかねばならない……何か魅力的な商品を探さなければまた近隣に物色しに行くとしよう。そういえば最近王国の一部が独立したと噂を聞く、エ・ランテルだったろうか?堅牢な都市で様々な商人が集まると聞いているがはて最近とんと噂を聞かない。

 

これは一度行ってみたいなと考えながら私室を出て他の職員がいる部屋へ向かう、いや残念だこれほどまでに大事な仕事が出来てしまっては運営を一時彼らへ任せざるをえない実にすまないと思う。言い訳を考えながらカメリヤ=シネンシスは職員が集まる部屋のドアを開ける、すると一斉にこちらに注目される。おかしいまだ何も言っていないがと疑問を持ちながらいると職員のほかに立派な黒い鎧を着た偉丈夫が立っていた……プレートということは冒険者か、あまり見ないプレートだがアイアンあたりか?いや違うミスリル?これは失礼な思い違いをした……ミスリルでもない……まさかアダマンタイト……?

 

「これはとても珍しいお客様だ、初めまして 私はカメリヤ=シネンシス。この商家の代表を務めさせていただいております」

 

動揺を隠しながら初めて見るアダマンタイト冒険者に対し挨拶をする、少し声が上擦った気もするがまぁスムーズに挨拶できただろうと気持ちを切り替える。職員があれ誰だよという目で見ているが気のせいだろう私は時と場と状況は弁える男なのだ。

 

「初めまして……私はモモン、魔導国エ・ランテルにて主に活動しているアダマンタイト級冒険者です」

 

「ほっほう!アダマンタイト級冒険者が我が商家に来ていただけるとは実に縁起が良いですな。早速ではありますが本日はどのようなご用件で?」

 

貴重なチャンスの匂いを感じる、このモモンという男立派な鎧に身の丈ほどもある大剣を担ぎいかにも歴戦の兵という雰囲気を出している。がそれに加え冒険者らしくない丁寧な言葉遣いこれはとても話が分かる冒険者と繋がりを得る機会に違いないと思い当たる……カメリヤという男が持つ才能は人を見る目だった。利益あるものに対し非常に敏感に気づきを得ていただからこそ粛清後も商売を続けられていたのだ。

 

「いえ、私は今回ただの中継でしてね。しがない冒険者である私はとある人物の代理としてやってきたのですよ」

 

アダマンタイト級冒険者がしがないとは謙遜がすぎる、とはいえ自信過剰な冒険者よりはよっぽどマシだとまた少し評価を上げる。

 

「ふむ、その人物とは?」

 

「あなたのもとで昔働いていたというノキという青年からの依頼です」

 

「……ノキ……?…ノキ……ノキ……っ!あやつ生きていたのかっ!」

 

「ええ、今はエ・ランテルにて商売をされています」

 

「なるほど……そういうことか、今回はノキの代理として来たということは何かの交渉か?」

 

「話が早くて助かりますね、カメリヤさん。貴方に卸してもらいたい商品はこれです」

 

そう言いながら漆黒の冒険者が懐から上品な箱を取り出し差し出してくる。

 

「……失礼しますよ、これは……葉っぱ?いや違うこれはまさか」

 

「そう、貴方に卸してもらいたい物とは紅茶です。エ・ランテルを紅茶の街にして頂きたいのです」

 

 

これがカメリヤ=シネンシスの大きな転換期、始まりの紅茶と呼ばれる男の一歩目のスタートだった。

 

 




第2章からは少し今までと趣が変わります

第1章では紅茶とりあえず飲んでみぃ!という事を中心にしていました。第2章からは喫茶店の中だけでは満足できくなったアインズ様が外でも紅茶を探すようになっていきます。ナザリックで出される紅茶は素晴らしい、ただ他の美味い紅茶があるかもしれないって思ったからですね。コレクター精神みたいなものと思っていただければ、弱くても癖がある武器とかだったら珍しがってアインズ様集めそうですもんね笑


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紅茶を取り扱う者

更新が案外早かったことに一番驚いているのは自分です

少し視点が切り替わります。モモンが帝国へと行くまでになった過程です

ちょっとだけ変更 前回ラストにあった名前を キノ→ノキへ変更しました


「モモンさ……ん、本日はまだ依頼が更新されていないようです」

 

「ふむ……そうか、確かに少々急いでいたかもしれないな。ではこの時間で朝市を見に行くとしよう」

 

アダマンタイト級冒険者モモン……アインズはエ・ランテルの冒険者組合にて確認から戻ったナーベの報告にそっと呟いていた。帝国の属国化するという噂が徐々に市民にも広まりつつありエ・ランテルへは少しずつだが人の喧騒が復活しつつある、しかしながらまだまだ最盛期に比べれば静かな都市となってしまっている。冒険者の依頼の内容も以前のモンスター退治から調査や採集といったアインズがイメージする「冒険者」というイメージに変わりつつある。今では冒険者という言葉とは別に調査や採集を主とするもの……「発見者」ディスカバラーというあだ名を持つものも出てきていた。

 

 最初は蔑称に近い扱いがあった発見者らは徐々に立場を明確にしていた、それも魔導国の王アインズ・ウール・ゴウンが全面的なバックアップを行いそれを十全に活かす事が出来るアダマンタイト級冒険者モモンを筆頭に徐々に成果を上げていた。まだ見ぬ地の調査と記録、新発見された植物、モンスターなど危険生物の情報……新しいものばかりではない、既存のものに対しても新しい試みを行う者も多くいた。組み合わせによるポーションの性能上昇、疫病への効果的な薬草の配合……新たな紅茶も発見されるなど非常に多岐に渡る実績を作っていた。

 今まで冒険者がモンスター退治を主軸に行っていたのも当然ながら危険に対する処置としては正しい、ただその危険は魔導国による兵士……アンデットによってほとんどが排除されている。絶対的な忠誠心を持つアンデットはナザリックに敵対しないものであれば慈悲深い対応をすることすらある。そのような存在があれば防衛力に関しては疑う余地は無い、ただ当然ながらアンデッドに対して恐怖、忌避感を持つものがほとんどでもあった。鉱山や農作業に利用されていることで徐々にエ・ランテル周辺の者たちは恐怖感が薄れてきていた、次にはその存在に助けられ続けることである種の愛着を持つようになってきた。もちろん冒険者をはじめとしてアンデットと戦った経験があるものほど疑ってはいた……がそもそも普段アンデットと関わりを持たない者も多い、アンデットが跋扈する地に近いエ・ランテルであろうとも噂の存在よりも目の前の真実のほうが何よりも説得力があった。

 

街中で貸し出されているスケルトンへ指示を出している商人風の男の姿を見てアインズは着実にアンデットが労働力として社会に組み込まれつつあると内心で満足する。

 

(アンデットは労働力として最適ということを徐々に認知されつつある、やっぱ使ってみると便利ってことわかるだろうなぁ)

 

ほくそ笑みながら朝市へやってきたモモン、どよめきながら商人達が挨拶をしてくる。手を振りながら気にしなくていいという身振りをしながら珍しいものがないか探し始める。

 

商業都市とし最盛だったエランテルの時に比べると大きな商人らは別の地に移ってしまった者が多く今では中堅~零細規模の商人が大多数であった。その影響で生活必需品は割高になっているものが多い、とはいえ特定の商品に力を入れている商人も多く少し変わった物を取り扱っている店を見つけることもできた。

 

「……む?これは……ほぅ」

 

「おや、いらっしゃい。……これはこれはモモン様」

 

そう挨拶をしてきたのはモモンに体格だけならば劣らない偉丈夫であり、商人らしからぬ職人じみたぶっきらぼうな空気を持った男だった。

 

「少し邪魔させてもらっている、……店主、これはもしや……紅茶の茶葉か?」

 

「ほほう、さすがモモン様お目が高い。まさしくこちらは紅茶の茶葉でしてそれも手に入りにくい帝国の茶葉でしてね」

 

「何、帝国の?」

 

「ええ、ご存じやもしれませんが紅茶は生産地の都合で標高が高い場所で作られた物は非常に上質になることが多くこれも限定的に生産されたものを運よく入荷できたもので」

 

「ほう……限定的……レアということか」

 

アインズのコレクター精神が疼く非常に魅力的な言葉であった。近寄って商品の説明が書かれたものをじっくりと見ながらこれは買いかなと決めつつあるアインズに一つ疑問がわく。

 

「帝国産と言っていたが他の地でも紅茶は生産されているのか?」

 

「はい、王国でも生産されていますが正直なところあまり質は高くなく。一部の上質なものについては貴族らに優先的に販売されているようでほとんど市場へは出回りません他の生産地ですと……聖王国でも生産されているようですね、評議国などではあまり飲まれる習慣が無いようでほとんど見当たりません」

 

「そうか……ふむ、今までなかなか気づかなかったな」

 

これもナザリック内の喫茶店で浴びるほど紅茶を飲んだせいだなとふと思い、そういった事から今まで当たり前に通り過ぎていた物に気づけたかと1人で納得していた。

 

「無理もありません、紅茶そのものがかなりのぜいたく品なので」

 

どこか残念そうな顔をして店主が呟いた。

 

「何?そうなのか?」

 

「ご存じのとおり紅茶は嗜好品……生活必需品というわけではないので今まで主に使用されていたのは貴族をはじめとする上流階級の方々の交流として用いられていました。……ただ活発な売買のあった帝国では皇帝による貴族粛清があり一気に需要が落ち込みました。最もこの辺りでは活発な取引のあった帝国でその有様でしたからね、どこの商人も一斉に手を引いてしまいました。今では細々と生産されているものが稀に市場に出てくる程度です」

 

「……嘆かわしいな、このような素晴らしい飲み物が廃れていくなど」

 

「モモン様は紅茶を嗜まれるので?」

 

意外そうな声を上げて店主がモモンに問いかける。

 

「ええ、実は最近飲む機会がありましてね。お茶とは違った発酵された故のコクの旨みには驚きました」

 

「これはお詳しい、一般的に流通している緑茶……未発酵のものであれば見ることもありますが発酵されたもの……紅茶は同じものから作られたと知らない者も多いのですが」

 

「美味しさにひどく感動しましてね、このような素晴らしいものがあったと驚きましたよ」

 

「それはそれは、紅茶を取り扱う者として実に嬉しいお言葉です」

 

心から嬉しそうに語る店主にどうやらこの商人は商売だから紅茶を取り扱っているのではなく好きだから取り扱っているのだなとどこかサラリーマンの時に感じた親近感を持つ。

 

「さて店主、良いものを見させてもらった。こちらの茶葉を頂きたい」

 

「ありがとうございます」

 

そう言って懐から銀貨を取り出し店主に渡す。

 

「そうだ、これからも茶葉を融通してもらう事があるかもしれない。名を教えてもらえないだろうか?」

 

「これは申し遅れました、私はノキと申します。この黒髪を見て頂けると分かりますが東方での生まれでして縁あってこの地で商売をしております」

 

「ノキ……か分かった。また新しい茶葉が手に入ったら教えてくれ」

 

そう言って購入した茶葉をナーベラルへ渡しナザリック内の喫茶店管理者……アストリアへ渡すように指示し上機嫌で朝市を後にするアインズだった。



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紅茶を取り扱う者②

お待たせしました

まだ紅茶は飲んでいません。次の話では間違いなく飲むでしょう


最近デスティニーチャイルドってゲーム始めたんですがこのBar Replayに出てくるヘーベっていうキャラがもうね……もうね

チャイナ服風の衣装はとてもすきいつか自然に話に組み込みたいですね


エ・ランテルの朝市にて希少な紅茶を手に入れられほくほく顔――骨ではあるが――のモモンはどのタイミングで飲んだものかと悩み始める、そういえばこんな春のような陽気の時に初めて飲んだ紅茶がヌワラエリアだったか。今日は戻ったらそちらと桜餅と合わせてもまた良いかもしれない。和菓子特有な餡の優しい甘味、桜葉の塩漬けからうっすら感じる塩気がアクセントになっていたそれを一口齧った後に優しさと爽快感のあるヌワラエリアの紅茶が絶妙に調和しお互いを引き立てさせている。

 

 

そういえばアストリアがダージリンという紅茶でも相性が良いと言っていた気もする。今日は戻ったら桜餅とヌワラエリア、2杯目にダージリンとやらを試してみようかと子供が夕食を楽しみにするかのような気持ちに笑みが浮かぶ。

 

 

(やっぱり紅茶を飲んでからストレス減ったような気がするなぁ、そんな特殊効果もないだろうけど。しっかり気分転換が出来ているんだろうか)

 

 

今まで自分の趣味は1にユグドラシル2にユグドラシルとDMMORPGをずっとやっていた事もありどうしてもユグドラシルの中で何をするかと程度の違いだった。ただ当然ながらゲーム中で実際に飲食はもちろん口が動く事もないためそういった食べて美味しいとい非常にシンプルな欲求は満たせずあくまでイベントに伴ってバフデバフ効果がある程度のものだった。

 

 

当然ではあるがあの淀んだ現実世界では紅茶といった嗜好品は高級品だ。モドキであれば手に入らないことはないがわざわざモドキを現実世界で飲もうという人は少なくそれこそ雰囲気を楽しむのであればゲーム中でも出来ていた。――かつての仲間、ぶくぶく茶釜さん、やまいこさん、さんも女子会といって集まっていた記憶がある。女子会ィ?と疑問めいた発言をしてぶっ飛ばされたのはペロロンチーノだったかるし☆ふぁーだったか悩むところだ。

 

 

 

過去と今日の予定を考えながら歩いていると朝に訪れた冒険者ギルドがまた見えてきた。そろそろこの時間であれば依頼も更新されているだろう。内容次第ではあるが少し遠出も出来る様になってきたところである、モモンがいる重要性もあるがあまりに集中し過ぎても違和感があるだろうあくまで自立を促す姿勢は対外的に見せていかねばなと気合を入れる。

 

 

ガランッと大きな音を上げ扉が開く、中で雑談、相談をしていた冒険者らの視線が集中する。受付まで進む間に新人からベテランの様々な冒険者に挨拶をされる。墓地でのアンデット騒動、強大な吸血鬼の討伐……希少な薬草の採取、単身でのギガントバジリスク討伐と功績を上げればまさに英雄といって差し支えない功績だ。魔導国と変化があってから去る冒険者もいたが今では近隣から短期的に拠点とする冒険者も少なくない。いかにアンデットがこの付近に浸透してきたかを示しているだろう。

 

 

挨拶を投げてきた者たちへ歩きながら軽く挨拶を返し、空いていた受付へ依頼の確認を行う、幸い朝と同じ者が対応してくれ話はスムーズに進んだ。

 

 

「おはようございますモモン様、再度ご確認に来て頂き申し訳ございません」

 

 

「構いませんよ、朝市で普段見れないものが見れ良い散歩になりました」

 

 

そう言いながら斡旋された依頼の説明を受ける。――指名依頼もあるが何やらパーティなどのお誘いのように見えるのもある、こういったものは別の依頼ではじいていく。直接断ってしまうと角が立ってしまうがあくまで依頼を受ける日程などの都合でという事であれば表面上角は立ちにくい、分かるものは分かるだろうが――

今ではモンスターの討伐以外にも調査目的のものが多い、かくゆうモモン……アインズ自身もドワーフとの交流の際にモモンが道中の一部を調査、案内したという体にしてさりげなく実績を作っている。

その影響か今回も近場ではトプの大森林の調査、ドワーフ国に近い地域の調査、他国のポーション状況についての調査といったように以前よりも多様な依頼が増えていた。中でもアインズが考える未知を発見するといった依頼が充実し始めていた。

 

 

自身が考える冒険者というあり方に少しずつ近づいていると改めて実感する、今日の依頼もそんな未知で有用なアイテムに繋がればいいんだがと説明を聞いていく。

 

 

そして……

 

 

「すいません、もう一度こちらの依頼について確認してもよろしいでしょうか」

 

 

「はい、もちろんです。ではモモン様こちらですが帝国のとある商店への代理交渉です。代理交渉とはいいますがまずは顔合わせに向け初回へのやり取りを冒険者が申し伝えるといった内容です内容によりますが銀級から募集される事が多いですね、こちらについては他国という関係上ミスリル級以上になっていますが……報酬はミスリル級相当になりますがよろしいのですか?」

こういった依頼で~級以上であれば受けられるという依頼をどこの報酬で合わせるかという点で揉める事がたびたびある。基本報酬と成果報酬によって決められる事もあれば最低限の級の分しかもらえない依頼もある。そういったこともあるためか高ランクの冒険者は現在の等級―それより一つ下程度のものを中心に受けることが多い。あまりに違う級の仕事ばかり受けるのは下位冒険者も良い顔はされないし上位冒険者らしいふるまいとはいえない。

 

 

しかしそれも冒険者の数による、実際のところミスリル級の冒険者とは大変に貴重な存在なのだ。銅、鉄、銀、金、白銀、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイト――8つの等級で分けられているが上位冒険者は非常に少ない、特にミスリル以上ともなれば多大な功績が必要だ。この付近では一番の都市である「エ・ランテル」でも2組しかミスリル級は存在しない、モモンという例外はあるがその3組の誰も受けないという事であればその依頼は取り下げるかより下位の冒険者に依頼をするほか無くなる。ややこしい内部ルールだなぁと思った記憶があるがある程度は下位の依頼を受ける事も黙認されているのも実情ではあるよく言えば臨機応変というやつだろう、悪く言えば空気読めやだろうが。

 

 

とはいえギルドの受付嬢へもう一度説明をと言ったところでほっとした様子を見せていた。――後で依頼を完了した後に聞いた話だがこの依頼は1,2度出されて誰も受けずに依頼し直したとの事だった。まぁ扱う商品がこれで代理ってなったら冒険者にはあまり縁がないと思う――。

 

 

「ではモモン様、こちらの依頼を受けられますか?」

 

 

「ええ、依頼内容は商品の代理交渉。主な取扱いとして嗜好品……特に緑茶、紅茶といった物も含んだ依頼ですね、頼みます」

 

 

いやにお茶の部分を強調するなと少し疑問に感じながらも営業スマイルを浮かべながら規定の流れに沿って処理を進めていく受付嬢。もう少し後の話だがこの依頼で大きく話題になるモモンが紅茶好きという噂……依頼を受ける様子の漆黒の英雄の様子はどうだったんだ?という話を何度もする羽目になる事をまだ彼女は知らないのだった……。

 

 

 

 

ーエ・ランテル とある商店ー

 

ノキは今回もダメかなと少し諦め気味のため息をつく。今まで2回冒険者組合へ依頼を出したが都合がつく冒険者がいなかった。話を聞いてもらえる事もあったが取り扱うものについて話すと自分には荷が勝ちすぎると言って断られることばかりだった。内容はとある商店への代理交渉、とはいっても話し合いをしたいと申し出をする段階であるためそう難しくもない依頼だ。だが取り扱うものが茶というのが悪いイメージになっているようだ。まだまだ帝国では鮮血帝の貴族粛清の印象が強く、どうしても貴族に関わるような依頼は面倒ごとに思われてしまうようだ。

 

今回の依頼もダメだったらどうしたものか……諦めて別の仕事でも探したほうがいいのだろうか。いやいや自分にそんな器用な真似は難しい、現状もずいぶん自分にしては上手くやってきたと自負できるくらいだ。

 

気が滅入る気分をほどほどに気持ちを入れ替えようと紅茶を淹れる事にする。嗜好品である紅茶はまだまだ庶民に近い飲み物というわけではないがとんでもないぜいたく品というわけでもない、酒と同じだ高級品を探せばきりがないがほどほどのものならほどほどの値段で手に入るものだ。小さな農家と繋がりもあるため茶葉の出来栄えについて相談されることもある。今飲んでいるのはそのおこぼれというわけだ。

 

 

沸いてきたお湯を陶器でできたカップとポットに注ぎ温める、自分の持ち物の中ではなかなかの一品と思う。

 

そう自慢げに思いながらお湯を戻し茶葉を入れる。

 

今日はどの茶葉にしようか、たまたまだがいくつかの種類の茶葉がある。……せっかくだ、朝市であった彼ーーアダマンタイト冒険者 漆黒のモモンに売ったものと同じものにしよう。

 

ふとした思い付きではあったが試しに飲んだ際にいたく気に入った覚えもある。

 

そうと決まれば茶葉をポットへ入れお湯を勢いよく注ぐ。

 

今日は……少し長めにして少しだけ砂糖を入れコクを出してみるか。

 

嗜好品の紅茶に希少な砂糖とは俺も偉くなったものだとくだらないことを考えながら準備をする。

 

勢いよく注いだ茶葉が上下に浮かびあがり下がっている。いけないいけない夢中になっては蒸らしが不十分になってしまう。

 

慌ててポットにふたをしてその間にテーブルを片付ける。

 

さあもうそろそろかなと思ったところでノックの音が聞こえる。

 

 

ーなんだなんだ、空気の読めない。この香りで分からんか、一休みしているんだぞと声には出さず愚痴を口に溜めつつどうやって早くお帰り願おうか考えながら扉を開く。

 

「はいはい、どちらさんかな?って、え?」

 

「お忙しい所失礼します、ノキさんで……あれ?」

 

あれって言ったよアダマンタイト級がとのん気な事を考えていたら漆黒の英雄ーーモモンが咳払いをして仕切りなおす。

 

「んんっ、失礼しました。私はアダマンタイト級冒険者チーム漆黒のモモンです。ノキさんで間違いないでしょうか?……先ほどぶりですね」

 

気さくに話しかけてきてくれるおかげで少しだけ自分も余裕ができた。おいおいこれはもしかしてもしかしてか?依頼の件か?そうだと言ってくれ。

 

「え、ええ。いかにも私がノキです、漆黒のモモンさんに覚えて頂けるとは光栄です」

 

動揺を隠しながらまずは相手の用件を確認だと思いなおす。

 

「かの漆黒のモモンさんがこんなところへどうされたんですか?もしかしてですが……依頼の件でしょうか?」

 

「察しが良くて助かります。早速ですが依頼の内容について確認をしたいのですが今よろしいでしょうか?」

 

「ええ、ええ!あのモモンさんに引き受けて頂けるとは……、家の入口で失礼しましたどうぞ中へ。ちょうど紅茶を淹れたところなんですよ」

 

「ほう?通りでいい香りがすると思いました。これは良いタイミングだったのかもしれないですね」

 

目の色が変わったような雰囲気を醸し出すモモンに少し驚く。また違った英雄像を見て意外に思いつつも決して不快な思いはしない、紅茶が好きなのかもしれないなと改めて感じ嬉しく思うノキは上機嫌に紅茶がセットされたテーブルへと案内するのだった。




今回出てきている紅茶は次回で詳しく紹介しますが実際に作者が飲んだものをベースに取り上げています。当たり前といえば当たり前ですが同じ産地でもいろいろ味は変わりますので厳密過ぎずに見て頂けると助かります

感想などもお待ちしております、こういったオーセンティックな紅茶だけでなく最近の紅茶関係の話でも振って頂けると嬉しいです。
午後の紅茶とかでもね、いろいろ話題になっていることがあるので

よろしくお願いします


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紅茶を取り扱う者③

お待たせしました、紅茶を取り扱う者③です


「狭いところですが……そちらのテーブルへどうぞ」

 

そう言いながら紅茶の準備に取り掛かる。冒険者が紅茶も嗜むというのは少し驚いたがよくよく考えればアダマンタイト級ともなれば普通の付き合いだけでもないだろう。有力な貴族や商人とも付き合いがあれば覚えるものかと納得する」

 

「どうぞ、おかまいなく。・・・・・・ほう?、本当に淹れたてのようですね。これは実に良いタイミングだった」

 

「モモン殿は紅茶を嗜まれると仰っていましたが……、なるほどよくご存知そうだ」

 

「いえいえ、まだまだ齧った程度の知識ですよ。しかしながら奥が深い事はよく分かります」

 

「それはもう、知れば知るほどに違った楽しみが見つかります」

 

やはり共通の話題があれば話が盛り上がるもので自然と2人は和やかに交流を深めていた。

 

「そうですね……最近ですと新鮮なミルクを使ったミルクティが絶品でしたね、コク深さのある茶葉を使うとより旨味が際立ち甘みが引き出されていました」

 

「ほほお、それは実に素晴らしい是非一度飲んでみたいですね」

 

ノキの視線が鋭くなる、小さな規模の商人といえどビジネスチャンスを無闇に見逃すほど愚かではない。

 

(……やはり商人は油断ならないな、いらない言質をとられナザリックの利益を損なう真似は避けなければいけない)

 

 

アインズは今一度気を引き締め商談に臨む。アダマンタイト級に昇格後こちらに敬意を払う姿勢を見せる者も多いがこちらを利用しようとする者も多かった。どのような立場になろうとも油断をすれば如何な強者であろうと致命的な失敗に繋がりかねない。

 

「ええ、機会があればまたお話させて頂きます。さて・・・・・・では、頂きましょうか」

 

「これは失礼、どうぞ先ほどお買い上げ頂いた茶葉と同じものになります」

 

いつのまにか手際よく準備された紅茶が用意されていた、カップに注がれた美しく重みのある赤がコク深さを物語っている。今までに見た経験と比較をする・・・・・・香りに特別なフレーバーは感じない、フルーツなどは入っていないようだ。ただ少し燻したような香ばしさも感じる・・・・・・いや待てこんな味を試した事がある。

 

「ふむ・・・・・・まだ香りと色合いだけですがルフナというものと似た印象がありますね」

 

「流石お詳しい。こちらはルフナに近しいエリアで採れた紅茶、『サバラガムワ』という物になります」

 

もう一度カップを近づけ香りを確かめる。香りから甘み……とろみのある印象、奥行きのある味わいといえばいいのだろうか。非常に気になる、どのような味わいだろうか。

 

モモン……アインズは冷静な風を装いながらも興味深そうに紅茶を眺める。ナザリック内ではそれこそ毎日飲んではいたが外で紅茶を飲む機会は実はこれが初めてだ。警戒と同時に興味が尽きないのも無理ないことだろう。

 

「サバラガムワですか……ルフナに似た印象ではありますがまた違った趣を感じさせる」

 

「仰る通りかと、ぜひすぐにお試し頂き実感下さい」

 

ノキにそう勧められ、カップに注がれた紅茶を見る。

 

香りはルフナによく似た印象、しかしルフナよりももっと優しげなコク……甘みか?……同じではない。色合いは暗い赤褐色……アストリア、ナザリックで最も紅茶に詳しい者から聞いた説明ではコク深い、重みのある味わいになりやすいと聞いた覚えがある。これもそういった味わいか?興味が尽きないな……。

 

「実におもしろい、このような紅茶もあるとは」

 

「まさに、これだから紅茶はやめられません」

 

2人して笑いながら一口含む。

 

最初の印象は燻製のような燻った味わい。噂に聞いたキームンか?と疑うが口の中に紅茶が広がるとまた違った味わいを感じる、スモーキーさは残しつつ蜂蜜のようなとろみを感じる味わいだ。

 

「不思議な味わいですね……ルフナのようなコク深さとは違った味わいを感じる」

 

「素晴らしい、繊細な舌をお持ちだ。こちらの紅茶はルフナにとてもよく似た品種と言われております」

 

やはり、と内心で予想が当たったことにほくそ笑む。それなりに紅茶を飲んできた身でもあるため自信はついてきたがいざナザリック外で実践ともなれば緊張もするがやはりこういったソムリエの真似事をするのも楽しいものである。気軽に間違えることもできない身だが嗜好品であればそういったものもあるといった事でだいたいの追及を避けられるのは非常に気が楽だなと沈潜する。

 

「それは喜ばしいですね。大外れだったら恥ずかしい思いをするところでした」

 

「ご謙遜をなさる、私共も嗜好品を取り扱うことは多々あります。しかし残念ながら価値の分からない方も多いことは事実です。……とはいえ価値の分かる方には長く贔屓を頂いておりますのでありがたいことではありますが」

 

存外に自分の店を贔屓してくれれば良いものを回しますよと言っているように聞こえる。いや実際にこれはそう伝えているのだろうなと相手の意向を探る。

 

「そうですね、いち消費者としてはそういった業者が増えることは喜ばしい限りです」

 

無難に話を逸らし、紅茶を再度口に含む。

 

「やはり甘味を強く感じますね、ルフナは重厚さが強く感じられましたがこちらの紅茶はとろみ……蜂蜜のようなイメージを持ちました」

 

「いいですねぇ、蜂蜜!まだまだ高価ですがこうやってイメージを膨らませて楽しませることができる。まさに嗜好品冥利に尽きますな」

 

「ええ、こだわりというものは得てしてそういうものでしょう。興味を持った人からは猛烈な支持を受ける、支持だけでなく積極的に周りに働きかけていく……商売につながりますね?」

 

「ふむ……モモン殿は冒険者でありながら商売についてもよくわかっておいでのようだ、素晴らしい」

 

「本職の方に褒めて頂くのは少々こそばゆいですね。……では少々なごり惜しいですが依頼の件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

「あぁ、そういえば依頼の件がありましたね。先ほどの紅茶は帝国産なのですが今回たまたま手に入っただけであり、継続的な取引ともなるとそれなりの規模の商人と繋がりを持つ必要がありました。ただ事情があり複雑な立場である私はあまりおおっぴらに帝国へは行きづらい、では縁があった商人へ話を持ちかけてみるかと思いまして」

 

「今回私が貴方に依頼したい内容はその帝国商人へ商売の代理人として赴いて頂きたいのです」

 

「ほう、代理人として……まぁ気になるところはありますが最後までまずはお聞きしましょう」

 

「ええ、もちろん代理人といっても全てお任せするわけではありません。理由合って私が帝国に直接赴く事が出来ないためまずは最初の顔合わせに向けて ということで調整を依頼したいのですよ」

 

「続けましょう、ただの代理人であればミスリル等級以上に依頼する必要は無い……白金級でも十分だったでしょう。しかしながら今の時勢、上位の冒険者はホームとしている場所をあまり長い間離れようとしていないそのせいで依頼が塩漬けになってしまいました」

 

ノキが予想外でしたという顔で呟く、言うまでもなくこの状況とは魔導国の建国騒ぎである。時間が経ちある程度安定してきたといってもまだまだ日が浅い国家であるため内側にいる国民、冒険者らからすれば変化する状況を見逃さないよう遠出しないのは最もな考えだろう。

 

「疑問をそちらから解消頂けたのはありがたいですね、質問をしても?」

 

「ええ、どうぞどうぞ」

 

にこやかにノキが頷いて先を促してくる。

 

「帝国へ赴くとのことですが……期間と場所、代理人としての具体的な仕事内容をお伺いしてもよろしいでしょうか」

 

「期間は半月程度、場所は帝都付近とだけ。仕事内容はまずは顔合わせまでの簡単な打ち合わせ。これは書簡を用意しますのであまり難しくはないですね、ただ扱う物が嗜好品のため冒険者でも高位の方が向いていると思っていましたが……モモン殿であれば心配はなさそうだ」

 

(おいおい……何変な期待をしているんだよ……何かの討伐なら簡単だけど、交渉事とか素晴らしいアイディアとかはあんまり自信が無いぞ。ただの平社員にそんな求めないでくれよ……)

 

内心で愚痴りながらノキへ謙遜した様子を見せながら先を促す。

 

「交渉だけであれば問題無いのですが……実は私少々厄介ごとを抱えておりまして」

 

ほうらきたとアインズが内心ドヤ顔をする。先ほどの理由はあくまで表向きの理由だろう、何かしら裏の理由があるとあたりをつけていたアインズはあまり驚かない様子を見せながら答える。

 

「なるほど、私に解決可能ならばお手伝いさせていただきましょう」

 

ノキが堪えきれない様子で笑い出す。

 

「……あっはっはっは!面白いことを言うなぁ!モモンさん、あなたはどうにも私よりも1歩、2歩先を読まれているらしい。これは分が悪いな」

 

分が悪いとは言いつつもいかにもご機嫌といった風に話し出す。突然雰囲気が変わったノキにアインズが戸惑っているとノキが落ち着き始めた様子で話し始める。

 

「すいませんね、先ほどのは余所向け……どうにも若いと舐められる事が多いので少しばかりらしい雰囲気を出しておりました。ただどうにもすべてをご存じのようだ。であれば私も腹を割ったほうが誠実、そのような言葉が似合う立場ではありませんが誠意ある過程にこそ結果として誠実は伝わるものでしょう」

 

「……損をする性格ですね、そこは隠しておいてもよろしいでしょうに」

 

「ええ、よく周りから商人らしくないと言われてしまいますよ」

 

笑いながらノキがカップに口をつけ、一息つく。どうあれ悪い人間にはあまり見えない、何かしらのトラブルに巻き込まれたといったところだろうとアインズが予想を立てる。

 

「さて、厄介ごとについてですが……実は私、とある元帝国貴族のスパイでして」

 

「えっ」

 

「かの八本指と裏取引を行い、王国の腐敗具合を調査しながらも利益を元貴族側へ頂戴することが任務だったのですが」

 

「えっ?」

 

「まず主が鮮血帝の貴族粛清でそれどころではなくなりまして、音沙汰とれなく」

 

「……はあ」

 

「連絡が取れないながらもようやくコネを見つけた八本指と今度は連絡がとれなくなりまして」

 

貴族粛清についてはいい、タイミングが悪かったとしか言えない。恐らく八本指は拷も……いや話し合いの真っ最中だったのか、今ならまだしもヤルダバオト騒ぎの前後であれば彼らも細かいことまでに手が回らなかっただろう。不味い、頭が考えることを放棄し始めた。せっかく最近は紅茶を楽しむ隠居のような生活を出来ていたのに……。気を取り直しノキへ問いかける。

 

「なるほど……どこの国かまでは読めていませんでしたがこれで得心いきました」

 

「どうですかねぇ……最初はあなたの事を武骨な戦士ととらえていましたが、次に文化にも精通している有能な商人……最後には深謀遠慮、どこまでも見渡す恐ろしい存在に見えてきた」

 

いやすいません、何かあるかなーって位のただの勘でした。絶対に信じてくれそうにもないだろうけど……。とはいえ元帝国貴族の部下……そして他国にスパイに行かされる程の腕……か。

 

「私は大したことは分かっておりませんよ、ただそうですね……初対面の時から思っておりましたが商人にしてはやけに違和感……そう腕が立つなとは思いましたので」

 

「……本当に何もかもお見通しのようだ、いかにも私はそれ相応の訓練を受けた身。アダマンタイト級冒険者とは比べるまでもございませんが白金級程度の力は自負しております」

 

商人がそんだけ強ければ十分じゃないと内心思う、歌って踊れて戦えるアイドルじゃあるまいし。とはいえナザリックからすれば1レベルだろうが10レベルだろうが変わりない存在だ。だが街にこういった人材……人財も埋もれているということは忘れてはならない、意外な才能を持った存在とはひょっこり見つかるものだ。後でまだ詳しく調査していないエリアの人財発掘について力を入れるべきだなとこんな状況で思索する。

 

「話を戻しましょう、とある帝国の商人へ商談をかけたいところですが、いかんせん複雑な立場です。貴族でもない一介の下働きであった私にまで粛清の手が伸びるとは思えませんが今ではそれなりに成り上がった身、惜しいものもあるということです」

 

「なるほど、要するにそういった立場を理解した上で動いてくれる冒険者。場合によっては荒事にもなりかねないため、上位の冒険者をお探しでしたか」

 

「その通りです、いかがでしょう?謝礼はもちろんですが有用な情報も今後ご用意できますよ」

 

「ほう?それは今教えて頂ける内容でしょうか?」

 

ノキがもったいぶった様子を見せ、近くの棚に向かう。

 

「もちろん。とはいっても一部ですが……これは先ほど飲まれた茶葉の『サバラガムワ』になります」

 

サバラガムワ、今一度記憶を探るが聞いたことが無い。やはりまだ見ぬ紅茶かとアインズが期待を高める。先ほど飲んだ印象でもなかなか美味かった、ぜひ継続的に仕入れられるならば仕入れたいところである。

 

ナザリック内で手に入る紅茶であるならば無理に手に入れる必要は無いが、それ以外の場所でしか手に入らないもの。希少なものであればぜひ一度は確かめてみたいところだ。

 

……今回飲んだ紅茶は美味かったがナザリックと比べてしまうといくらか品質……純度が落ちてしまうことは否めない。とはいえ品質が悪ければ良くすればよいだけであり、神器級アイテムがあるからといって伝説級、ましては聖遺物級であろうとも不要と決めるのは早計な話だ。何かに特化したアイテムは結果的に評価が低くなりやすかったなと昔の記憶をふと思い出す。

 

「こちらの紅茶は帝国産のため、帝国の商人であればそれなりに取引があるようで。他にも帝国はこういった嗜好品は活発に取引がされております。もう少し時間を頂ければ帝国以外でも様々なものが見つかるかもしれませんねぇ」 ノキがにやりとした顔で笑う。

 

「そういうことであれば引き受けましょう、私にもメリットがありそうだ。ただ確認しておきますが……帝国内で私に降りかかった火の粉は払いますが貴方の専属ボディガードというわけではないので。その点は誤解しないようにしていただきたい」

 

「勿論です、さすがにそこまで甘えるつもりはありませんよ。ただ流石に何も後ろ盾が無い状態で帝国に行っては何があるか分かりませんからね、この商談を取りまとめるまでには何とかしておきますよ」

 

そう笑いながら棚から小さな袋を取り出し、こちらに渡してくる。

 

「これは?……茶葉でしょうか?」

 

「ええ、これはお近づきのしるしにというやつですよ。サバラガムワのほかに様々な紅茶もあるようで、こちらも貴重なので販売はしておりませんがまぁ、同じ趣味を持たれる方は貴重なので」

 

(これは嘘だなぁ、……おそらく帝国の商人と今後もこういった希少な取引があるから今後ともよろしくね的なやつだろう。仕事でもよく見た)

 

何だかんだ営業のころの経験も無駄にならない物だなと思いつつ、ノキと今後の予定を詰めていくアインズだった。

 

 




というわけで今回登場したのはサバラガムワという紅茶でした。前にも言ったかもしれまっせんがだいたい取り上げる紅茶は飲みながら書いています。この紅茶は少し前に行った神戸のティーフェスティバルで出店されていたミツティーさんのサバラガムワになります。美味かったですね、ここ最近では非常に印象深い味わいでした

いろいろミルクティーは好きで探すことが多いんですがミルクティー向きの茶葉でもいろいろあるなぁと最近実感しています

所感ですが……

←あっさり          コク深い→

アッサム、キームン、ルフナ、サバラガムワ

こんな感じの印象です、茶葉の大きさでも変わりますけどね。



前回登場したカメリヤはあくまで売る側の立ち位置です。ただノキは売る側よりも楽しむ側というキャラクターを強くしています。要は同好の士ですね。

美味いもの見つけたとき仲いい人にも教えたくなることあると思いますが、アインズの立場だとそういった話を気軽にできる人おらんなぁと思い出来上がったキャラになります。今後いろいろな紅茶をアインズに紹介してくれるでしょう。


そろそろ夏だし次回はアイスティー関係にしたいところですね。俺が飲みたい


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ミスリル級冒険者チームの1日

ご無沙汰しております

今回は紅茶と少しだけ違う話になります。

そういった物もあるのかと少しでもきっかけになったら嬉しく思います


私はミスリル級冒険チーム、虹のモックナック。

 

 エ・ランテルを拠点に活動している、そうあのエ・ランテルだ。今ではアンデットが蔓延る都市となってしまったが見た目と裏腹に驚くほど安全な地になった。かの魔道王陛下がエ・ランテルを支配されるようになり最初は恐怖しかなかったが今では不安は全く無い。

 

 魔道王陛下の行われる事には驚くばかりだ。魔道国が出来てからモンスターの脅威は激減し、冒険者の主要な仕事であるモンスター退治がほぼなくなってしまったが現在では新たな仕事が出来つつある。そのひとつが未知への探求、情報だ。治安は魔道王陛下の作られたアンデットが守れるがアンデットはコミュニケーションは不慣れで向いていない。しかしながら冒険者、それもある程度位を持つものならば安心して任せられるだろう。

 

 最近では未知への探求に携わった仕事が多い。未知といってもいつもエ・ランテルから離れ探索などばかりをするわけではない。私が最近積極的に引き受けている仕事は美味、珍味な食材だ。トブの大森林も昔は奥深くまで探索するのは非常に困難だった、それこそミスリル級ですら生きて帰れない例すらあった。しかし今ではかの冒険者モモン殿が森の賢王を従え大森林の調査が進んだ。

 

 

 依頼途中に考える事ではないなと気をとりなおし森を進む。そうまさに今歩いているこの地がトプの大森林にあたる。モンスターもいるにはいるがそう難度も高くなく、イレギュラーは発生しにくい状況だろう。

 今回の依頼内容は自生しているハーブの採集だ。様々な種類のハーブを一定数確保になる。とはいえ採集だけならばわざわざミスリル級が動く必要は無い、銀級でも十分に事足りるだろう。採集は途中過程にすぎない問題はその先の食用に向いたかの調査、できるならば冒険者にも向いた方法でだ。

 

 依頼内容を思い返しながら獣道を進む。

 

「まったく……モンスターの心配は無くてもここまで大森林の奥地に入った事はねぇから落ち着かねぇな」

 

レンジャーがそうごちる。気持ちはよくわかる強大なモンスターがいるという理由で奥深くへ立ち入れなかった森だ。

 

「確かにな、怪しい気配はねぇが、俺らでも察知できねぇ化け物が出たらと思うとぞっとする」

 

盗賊も肩を竦めながら震えるような仕草をしておどける。

 

 

 

 冒険者チーム「虹」の面々は無事採集を完了し、川のほとりまで戻り今日の野営を準備しながらハーブについて意見を出し合っていた。

 

「さてどうしたものか。ハーブそのものを食べるのはあまり向いていないとのことですが……」

 

女マジックキャスターがそう注釈しながら集めたハーブ類をじっと見る。このチームでは彼女が料理を担当する事が多い、

 

「まずは依頼内容のおさらいから始めよう、今回の依頼は大きく分けると2つある。ハーブの採集、そしてその有効利用。特に森、ダンジョン、遺跡といった限られたものしか手に入らない場所で栄養補給は非常に重要だ。今回は栄養面、体調を整える効果が高いと言われているハーブを効率よくより簡便な方法で摂取する方法が無いかという事の調査になる」

 

リーダーである私、モックナックが依頼内容を確認しながらパーティメンバーに話していく。

 

「とはいってもよお……ハーブって普通は料理とかの調味料として使うもんなんだろ?肉とか魚とかに焼いた状態でよ。それじゃダメなのか?」

 

あんたね……と女マジックキャスターが盗賊にあきれた声を出す。

 

「来る前にも話したでしょ……いい?もちろんそれはそれでOKだけど料理の時限定にしかならないでしょ。ここで大事なのは料理の時以外でも手軽に摂取できる方法が無いかってことよ。焼いた肉がなきゃ使えないなら塩でいいし代用品なんてそれこそ余るほどあるわよ」

 

「あぁ、すまんすまんそうだった」

 

おどけながら盗賊が女マジックキャスターへ詫びる。

 

「ん~見たところそのまま食っても問題無さそうだけど……ウオェ!」

 

 

『きたねぇ(ない)!』

 

止める間もなくハーブを齧ったレンジャーがすぐにぺっと吐き出し、他のメンバーも一歩後ずさる。

 

「まったく……まぁ、こいつが実演してくれたように単体で生で食うのはあまり向いていない。肉みたいなものだな、肉であるならば焼くか燻製、干し肉にするといったように加工せにゃならん。同様にこのハーブも加工して手軽に食べられるようにする必要がある」

 

「……ハーブにはマジックキャスター、クレリックなどには特に有用な精神を落ち着ける効果。精神力の回復を助ける効果がある、ここでうまく利用する方法を見つけておけば今後の冒険が非常に楽になることは間違いない」

 

そう言ったのは普段は寡黙なクレリックの女だった。珍しいな話すのも。

 

「お前がそういうなら本当なんだろうなぁ、こういうもんに特にこだわってるお前だし」

 

盗賊がうなずきながら納得する。

 

「まぁとはいえ試してみないと進まないわね、まずは基本の料理で試してみながら加工の方法を探ってみましょ」

 

女マジックキャスターが気を取りなおした様子で晩飯の準備を進めながらハーブの使い方に考えている様子だった。

 

 

 

 

-----------------------------------------------------------

 

 

 

 

「さて、とりあえず試してみた結果だが……」

 

「じゃあ私からね、料理……調味料として使ってみた感想だと香りが良くなるのはもちろん保存にも向いた状態になった。干し肉とか燻製に併せて使うのもいいわね、時間がたった干し肉とかだとどうしても味が悪いし誤魔化すのには効果的だと思う」

 

「確かに、じゃあ新鮮なものより美味いかと言われると困るがこれはこれで一つの味わいになっているな」

 

そういって手元のハーブを加えた燻製肉を齧る。少し作ってから時間が経っているため味わいが呆けていたが、ハーブの香りが加わりまた違った味わいで楽しめている。

 

「今のところ一番の有効活用がその既存のものに加えて使うってのがちょっと気になるけどね」

 

「いいじゃねぇか、少ない労力でうめぇもんが食えるなら俺らも万々歳だ」「まったくだ」

 

盗賊とレンジャーが笑いながら葡萄酒を飲む。

 

「……ただ、食事の時だけ。というのがやはり気になる。私のようなクレリックやマジックキャスターはそう量を食べれないのも事実。合間合間で肉を齧るってのはちょっとつらい」

 

そう言ってスープを飲みながら意見を出すクレリック。確かにそうだ。戦士やレンジャーのようによく動く職業ならばこまめに食事をとることが効果的だが、最も大事なのは効果が高いと言われる精神力を使う職業……ウィザード、クレリック、ドルイド、吟遊詩人(バード)と例を上げれば切りがない。

 

そう言いながら各々が悩んでいると女マジックキャスターが何かをそっと飲み始めた。

 

「ん?お前が酒を飲むなんて珍しいな」

 

「酒じゃないわよ、紅茶よ紅茶」

 

そう口を尖らせながら女マジックキャスターが反論してくる。なるほど紅茶か、そういえばここ最近紅茶がエ・ランテルで流行っている気がする。かの英雄モモン様も嗜まれているようだ、英雄が飲んでいるともなれば興味が出る。

 

「紅茶かぁ……どうやって飲むんだ?紅茶って」

 

「あんたね……まぁあんたが酒以外の飲み方を知るはずがないでしょうけど」

 

なんだとおーと酔った風で叫ぶ盗賊、すまんがそれには俺も同意だ。

 

 

「待てよ?紅茶……紅茶か」

 

「……どうしたの?」

 

クレリックがおっとりした顔でこちらを伺う。

 

「いや、なあ 紅茶って茶葉を湯で入れて抽出するとかだったよな?」

 

「え?ええ、そうよ。抽出時間は4~5分かな」

 

4~5分か……一度試してみてもよいかもしれないな。

 

いつの間にか神妙そうな顔で考えている私にパーティメンバーがじっと見てきていた。

 

「なあ、思い付きなんだが……茶葉の代わりにハーブを入れてみるのはどうだ?」

 

『え?』

 

驚いた顔でこちらを見るが女マジックキャスターと寡黙なクレリックは少し考えた後になるほどと頷く。盗賊とレンジャーは魚もハーブ加えるとうめぇなぁ!と魚を齧っている。お前ら話聞け。

 

「紅茶を見て思いついたんだが……飲む形ならば手軽に摂取もできて量の調整も容易だ」

 

「なるほど、飲み物なら革袋に入れて……生活魔法を使えばある程度保存もきくし。うん向いているかもしれない」

 

「……あと問題は味……」

 

マジックキャスターとクレリックの反応も良いがそう問題は味なのだ。こればっかりは試してみないと分からない。湯を沸かす準備をして試してみるとしよう。盗賊とレンジャーは勢いでまたハーブを齧り転げまわっていただからきたねぇよ!

 

 

---------------------------

 

さて、準備ができて早速紅茶の茶葉の代わりにハーブを入れてみた。香りは……うん、なかなか良い。ハーブの特徴の一つである香りを十分に活かせているように思う。

 

「なかなかいいわね、ペパーミント、ローズヒップ、カモミールで試してみたけどどれもハーブの特徴が強く出てる」

 

「……ペパーミントは鼻をぬけるような爽快感、ローズヒップは薔薇らしい華やかな香り、カモミールは甘味を感じるような優しい香り」

 

女性陣からはなかなか好評のようだ、というかクレリックのやつがこんな饒舌になるのも珍しいな……。

 

さて、俺が持っているのはペパーミントだ。味わいがどうかも試してみるとしよう。

 

 

そっと液体を口に含む、最初に感じたのは口の中からいっぱいに広がる冷たさにも似た刺激的な清涼感だ。喉を通った後でも爽快な味わいが口に残る。酒を飲んだ後や朝の気付けの一杯にいいかもしれない。

 

 

「すごいな、ここまで特徴的な味わいになるとは……そっちはどうだ?」

 

「ローズヒップは酸味が強いから女性向けかもね。ただ酸っぱいというよりも果実的な酸味に近いかな。口に嫌な酸っぱさは残らないわ」

 

「……カモミールは香りの通り優しい味わいだった、りんごのようなイメージ。これならいくらでも飲める」

 

ハーブごとに特徴が出てきているのも面白いところだ。そういえば紅茶も茶葉によっていろいろな味わいがあると聞く、せっかくだから今度飲んでみるか。

 

と、そこで肝心なところを確認し忘れていたことに気づく。

 

「そうだ、魔力回復の効果はどうだ?さっきみたいに料理して食べたくらいの効果はあるか?」

 

 

「……いや、それ以上かもしれない。食事前にちょっと魔力が減っていたけどいつのまにか回復してる」

 

「昼にみんなの支援と回復で今日はもう魔法使えないかなと思ったけど……だいぶ楽になってる」

 

 

「何、本当か?いつもなら明日になるまでは万全の状態にならない事が多かったような印象があるが……驚きだな。先ほど別に料理で摂取したとはいえ」

 

「ちょっと待って、もしかしたら……」

 

そう言いながら女マジックキャスターが残っていた燻製肉とハーブを抽出した飲み物を比べる。

 

「……やっぱりハーブを抽出した飲み物のほうが効果が高い……何でだろう。あ、もしかして……」

 

「おいおい、一人で納得せずに分かったなら教えてくれよ~」

 

酔っぱらったレンジャーが女マジックキャスターに声をかける。あ、いいのがみぞおちに入った合掌。

 

 

「……ん、んっ。この抽出された液体だけど……スープみたいなもんね、焼いたりしたら一部成分が壊れるようだけどお湯で抽出したら成分が壊れにくくより効率的に摂取ができるようね」

 

 

「……決まりだな、実験結果としては紅茶のように湯に入れて飲む方法を一番推しておこう。もちろん干し肉や燻製肉に使うことも加えておくが」

 

 

「そうね、何といっても飲み物なら手軽に飲めるし私たちのようなマジックキャスターでもそれなりの量が飲める」

 

「……カモミールなら苦手という人も少ない、休憩がてらに飲むものとしても良い」

 

寡黙なクレリックがカモミールをえらく推すな……まぁ確かに癖はなさそうだったが。とりあえずこれで依頼は問題無く達成できそうだ。後は今回のものを女マジックキャスターに羊皮紙に書いて提出してもらえば問題無く依頼達成となるだろう。モンスター退治とは違った達成感がある依頼だ。モンスター退治もあれはあれで達成感があったが、こういった仕事も悪くない。また受けてみようかなという気にもなった。

 

「そういえば……」

 

「どうした?」

 

女マジックキャスターが疑問を持ったように声をかけてくる。

 

「このハーブで作った飲み物、なんて名前にするの?発見者はモックナックなんだし仮の名前決めるのくらいいいんじゃない?」

 

「……ふむ、まあ確かに名前が無いといつまでもハーブの飲み物では格好がつかんしな」

 

少し考えていると先ほど上がった紅茶が思い浮かび自然と名称が決まる。

 

 

 

「そうだな、ハーブティ。ハーブティでどうだ?」

 

 

 

 

 

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エ・ランテル ミスリル級冒険者チーム 「虹」

トブの大森林にて採取された魔力回復、自然治癒力が高いハーブを発見。(主にカモミール、ローズヒップ、ペパーミント)

 

同時に効果的な摂取方法、紅茶のように抽出した飲み方を見つける。

 

ハーブを抽出した飲み物を「ハーブティ」と命名。

 

独特なハーブの香りを活かした飲み物として女性に人気が高く流行する。

 

魔法回復力が高い効能を効率的に活かされ冒険者、特にマジックキャスターやクレリックの需要が高まった。

 

この一件でミスリル級冒険者チーム 「虹」はハーブティの第一人者として魔導国内で広く知られる事となった。

 

 




閲覧ありがとうございました

 今回取り上げたハーブティ カモミール、ローズヒップ、ペパーミントは実際に最近飲んで美味かったなぁと思う飲み物です。ちなみにハーブティとありますがお茶ではありません。紅茶は1回は飲まれたことがあると思います、ただハーブティって案外無い人もあるんじゃないでしょうか。僕も正直あんまり好んではいませんでした。

 ただ4月ごろに花粉症がひどく苦労していて……とあるニュースサイトで花粉症にペパーミントが効く!とありホントかよと思いながら飲んでいたんですが驚いた事に効いたんですよね。もちろんそれで花粉症が治るというものでもありません、どういった所に効いたかというと呼吸がえらい楽になりました鼻の呼吸がとてもしやすくなりました。薬をあんまり飲みたがらないタチでもあるんでとても重宝しましたね。

 ハーブティ飲んだことないけどきっかけがなぁ……という方もせっかくなので試してみたらいかがでしょうという話でした。作中でも進めていましたがカモミールが一番癖がなく飲みやすい印象です、少し癖がありますが好きな人はとことん好きになるペパーミントもぜひ試してみてください。

また美味いと思った紅茶などを軸に紹介していきます

ありがとうございました


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経過観察

お待たせしました、続きになります

最近紅茶飲んでねぇなぁという気分になりますが(作者は毎日飲んでますが)次の話からもう少し増えてくるでしょう

まだまだ暑さはつらいですがそんな時にこそ水出しなり急冷タイプのアイスティーなどを飲んで乗り切ってください。暑すぎるともったりしたアイスクリームなどよりシャーベット系のほうが好まれるということもあるようなので向いているでしょう(ダイマ

誤字報告いつもありがとうございます


「そうか、冒険者チーム 虹は依頼を無事達成したか」

 

「はいアインズ様。ボウフラより受け取った詳細報告がこちらになります」

 

いつも通りの口癖を聞きながらエ・ランテルの館でナーベラルから書類を受け取る。

 

先日ミスリル級冒険者 虹よりハーブの採集、有効利用について報告があった。モモン……アインズがそれを知っているのも依頼を出したのはエ・ランテルで商人を行っているノキを通じて依頼を出させた。エ・ランテルの商人ノキ……帝国商人とも繋がりがあり、昔はスパイ活動も行っていた実力者だナザリックからすれば器用貧乏にしかならないが現地基準では高い商才、戦闘力を持つ。

 

「素晴らしい、ハーブについての情報は知っていたが……利用方法のこの情報は有益だ。紅茶のように乾燥させれば現地だけではなく他国への輸出産業へもなりうるだろう」

 

「はっ、まさに……しかしナザリックには余程劣るものになりますがよろしいのでしょうか」

 

「現地の者たちが利用する分には問題無いクオリティだろう、こういった物は価値を与えてやる事こそが大事なのだよ、付加価値というやつだな。」

 

「付加価値ですか……?申し訳ありません、御身のお考えをお教えいただけないでしょうか」

 

「そう難しい話でもない、例えれば誰が使っているかという事でも興味を引く切欠、価値を生み出すことにつながるという事だ。将軍御用達の武具店などがわかりやすい例だ、戦うことに関してはプロとも扱われる者たちがよく利用する店ともあれば冒険者のような者たちも利用したがるようになるだろう金はかかるだろうがな」

 

「なるほど……そういったウジ虫が利用するようになれば後はボウフラどもも勝手に集まってくると……」

 

「知識が無い者ほどそういった情報に頼らざるを得なくなる。上手くいけば労せずに益を得ることに繋がるだろう」

 

「流石は至高の御方、深きお考え感服致します」

 

「この程度は造作も無い、デミウルゴスやアルベドならばもっとうまくやるさ。さてこの話はそのぐらいにしておこう」

 

朝はすぐに誰かがやってくるためその前に話を切り上げたところでいつも通りアルベドやエルダーリッチ、珍しくデミウルゴスも一緒にやってきて一般メイドのシクススが入室の許可を求めそれに応じさせる。

 

 

 

アインズが別の書類を取り出し正に忠臣の見本、膝を折り溢れんばかりの忠誠心を示すシモベらに語り掛ける。

 

「これにてエ・ランテルは交易都市としてだけでなく希少価値の高い効果的な薬草も採取ができる場所としても持つようになった。とはいえ……まぁこれは私のわがまま、戯れに過ぎない。世界征服だけに考えがいっていても少々つまらない、寄り道を楽しもうではないか」

 

ナザリック地下大墳墓の主人であるアインズの言葉に顔を上げ歓喜の表情を見せる。寄り道であろうが本筋であろうがそれはシモベ達にとっては何ら関係ない事であり至高の御方が望むものを全力を以て用意する事がシモベとして当然の行いであると信じてやまない、そしてそれはシモベらにとっても最上の喜びであることは間違いない。

 

「恐れ入りますがアインズ様、質問がございます」

 

「ふむ?質問を許そう、アルベド」

 

恭しく表を上げ濡れた……陶酔しているかのように怪しく輝く黄金の瞳がアインズを見つめる。

 

「ありがとうございます、アインズ様はお戯れと仰られていらっしゃいましたがその有効性は明らか。早くも王国や帝国、聖王国の一部でも紅茶、ハーブの文化が広まっております」

 

「喜ばしい事だ、我が魔導国の素晴らしさの一端が伝わるだろう」

 

「まさに……アインズ様が以前におっしゃられていた魔導国の目指す形……それは我らでは到底思いつかないプランでございます。そちらと関係いたしますがこの文化、茶としての産業はどの程度の着地点を目指して動かれているのでしょうか?国としての主産業、大陸の隅々までをも知らぬ者がいないもの……といった所なのでしょうか」

 

ふむとアインズがイメージを浮かべる。しかしながらアインズはそこまで深い事を考えてこの行動を行ったわけではない。一番最初にナザリックで一般メイドのアストリアから紅茶の魅力を教えられ、いつのまにかはまってしまっていた、話していて産地によっての特徴があると知ってからはこの地にもそういった違いがあるのではないかと思い調べたらいろいろと見つかってしまった経緯――アインズ本人としてはこれ美味いじゃん、え、別の国で作られたものも味が違うのじゃあ試してみようよぐらいの気持ちだったが今では後の祭りに過ぎない――。

 

とはいえ寄り道と言っているだけであり楽しむ程度で終わればいい、そう誤解無くわかりやすく伝えればそれで終わりの話だ。そうこの茶を飲むという事が生活の一端になれば素晴らしい――ついでに

 

「魔導国いや私に敬服する象徴となればなおよいだろうな」

 

「っ……象徴でございますか?まさかっ……」

 

動揺した様子でアルベドや他のシモベらがこちらを見つめる。やばい俺今何を声に出していたんだ?

 

 

「やはり私などの考えを超えられる御方、象徴……その文化を楽しむ事が我が魔導国の繁栄を示すあぁそういう事ならば国としての産業、大陸を超えてどころではございません。時代を超えて永遠に語り継がれるような魔導国を象徴する意味を持つようになるでしょうあの事を皆に今話す時なのですね?」

 

傍で控えていたデミウルゴスが感嘆の声を上げる。

 

途中で言葉を奪われたアルベドが嫉妬の目をデミウルゴスへ向けるがすぐにアインズのほうへ向き直し、蕩けたように見つめているいやまてデミウルゴスあの事ってなんだ……。

 

アインズがまたやってしまったと後悔する暇もなくアルベドとデミウルゴスがアインズの言葉を深読みして説明してしまう。こんな空気では言葉の撤回も修正もできる状況ではない。

 

だがしかしここで一歩を踏み出す事が成長の証というものだろう、いつまでも自分の発言に振り回されるアインズこと鈴木悟?そんなはずはない。

 

 

「……っの通りだ、デミウルゴス、そしてアルベド。よくぞ我が真意を読んだ!」

 

 

 

ダメでした、やけくそである。

 

 

頭を垂れたシモベ達がおおっという声を上げ口々にさすがアインズ様……、どこまで深きを読まれているのでしょうか、智謀の王、オオッオオッという声が響く、最後誰だ……?そうかエルダーリッチか……。

 

またやってしまったと後悔をしながらアルベドへ状況の確認を進める。

 

「さてではアルベド、デミウルゴス状況は読めたようだな?ただ現状の整理のためにも一度我らがここまでやって来た事とやるべき事を話してもらおうか」

 

「畏まりました、アインズ様」

 

 

そうしてアルベドがアインズの横へ控え、手を顎に当て少し思案する様子を見せる。

 

「そうね……最初にアインズ様が紅茶、そういった文化に興味を示されたのは皆知っての通り。その後から話しましょうか」

 

アルベドが焦らすかのような仕草をしてとろけるような笑みを浮かべる、いと尊き御方の心を今知れているという愉悦を感じてたまらないといった表情。エルダーリッチの他、NPCであるナーベラル、一般メイドのシクススも流石は守護者統括であらせられる方と尊敬の目を向けていた。

 

 

 

「まずアインズ様は紅茶という愚かな人間達でもわかりやすく文化的な象徴を選ばれた、繁栄の象徴としてね。外の国ではこういった嗜好品を手に入れるのにも一苦労、それも手に入れてもナザリックが扱っている品よりもはるかに劣る品当然だけれどもね」

 

デミウルゴスがアルベドの発言に続き説明を続ける、アルベドが全て至高の御方の考えを私が語りたいという仕草を見せるがアインズが命じたのは二人で説明せよという事。それを破ることはあってはならない、まずは分からないシモベにもわかるように説明をすることが最優先だ。

 

「ただ、慈悲深いアインズ様は愚かな人間達にも魔導国に頭を垂れる事で傘下に加わる事をお許しになられた。……以前アインズ様から万年を見据えた国を考えていらっしゃると伺った。我らが世界征服を行い完結させる事は当然、しかしながら人間は非常に愚かでもある」

 

 

「そう、統治そのものはエ・ランテルを始め属国である帝国も上手くいっているといっていいでしょう。ただしそれをこの先5年、10年と染みつかせていかねばならないわ。ただ紅茶という文化が広まりつつある……これは私たちへのヒントをお出しになられていたのよ――お前たち目先の事ばかりに目がいっていないかとね――」

 

そんな事考えてませんし明日の事にも手一杯ですと泣きたくなるような声を上げそうになる、しかもデミウルゴスその話皆に話しちゃうのかよぉ!と内心で叫ぶ。

 

 

ナーベラル、シクススはこれまでに英知溢れると知っていた主人が自分らが想像できる範囲などを全く飛び越え万年……それこそ歴史的快挙ともいえるような偉業をなされようとしているのだと今気づく。シモベとして主人の考えに気づけなかった点は大変恥じるべき事だ。――だが、喜びのほうが上回ってしまう。慈悲深き御方はそれほどまでに我らを導いていただけることに他ならないと気づいてしまったからだ。

 

 

「まさに……申し訳ございません、少々話がずれてしまいましたね。10年や20年そこらを支配するのは何ら問題ない事である、しかし100年、1000年……ましてや万年ともなれば愚かな考えを持つものも出てくるだろう。そういった存在を彼ら自身が生まないようにコントロールすればいい、それが象徴だ。まずは人間どもに祭りか何かを企画させる、アインズ様に仕えられる記念式典……としたいところですが根本的な意識誘導が目的でもあるため……そうですね、最終的にはこの大陸の名産品になるであろう茶、紅茶への感謝祭あたりでしょうか」

 

「そうね、嗜好品を楽しめるのは戦時では難しい。であればこそ恵まれた環境にまで導いてくださった魔道王陛下――アインズ様へ――感謝をさせて頂く事につながるでしょう」

 

 

そうなの?とアインズが思うが確かに祭りやイベントは形骸化していることもあるが目的意識を持って続いている祭りも多い。以前タブラさんと死獣天朱雀さんが話していたのを聞いたが祭とは祀る。神を祀ることから来ており神への祈りを捧げるものであり豊穣への感謝でもある。確かに収穫祭などそういった分かりやすい名産品による祭りなども記憶にある、昔ではトマトを投げつけるような祭りもあったらしい今では天然ものなど貴重品過ぎて考えられないが……。

 

 

「徐々に形になっていきそれは最終的にはアインズ様への信仰、与えられた豊穣への感謝へと繋がるでしょう、すなわちアインズ様が神として認知される事に他ならないわ」

 

 

え、やだと本日何回目か分からない精神沈静化が起き冷静になる。王様でもこれ以上ないくらい持て余しているのに神とか……神とかさ?ますますスケールが大きくなりわけわからんなぁ……と現実逃避をし始める。

 

「武力での制圧などよりもより効果的に治められるだろう、これこそがアインズ様が見据えられている真なる世界征服に他ならないでしょう!」

 

 

興奮した様子でデミウルゴスが説明を終えた。いつになく熱くなっている様子は珍しく冷静な姿ばかり見ているシモベらは驚いた様子もある、しかしながら至高の御方の素晴らしき采配それを間近で見ておいて何も思わないとなればそれは不敬であると言わざるをえない。

 

 

 

ここ最近で最大の鎮静化を行いながらアインズは正気に戻る。

 

どうしてこうなった……いや今までも少なくない知ったかぶりを行ってきたがこの流れはもはや収拾をつけようがない状況だ。そして現実逃避をやめたところでデメリットばかりでもないという事に気づく、なんやかんやで興味を持ち始めた紅茶だが今となっては生活の一部に欠かせないものとなっている。堅苦しい面――行事、祭りなど政治的な意味合いを持つようになってしまったことは少々残念だが逆に言えばもう少し紅茶の事に力を入れても疑問を持たれないな――とただでは転ばない。

 

 

「ではアルベド、デミウルゴスお前たちに一つ仕事を任せよう。先ほど話した恒久的な支配につなげるための策を現在の統治に加えて進めよ、細かいところはまた追って書面を出すといい。苦労をかけるがよろしく頼む」

 

「何を仰います!我らシモベはアインズ様のご命令に従う事こそ至上の喜び。そのようなお言葉もったいのうございます……」

 

「まさに、我らにお命じ頂いた事を至極恐悦、光栄にございます。アルベドと審議しながらまたアインズ様へご相談させて頂きます」

 

「うむ……、あぁこの件に関しては他のシモベからも意見を募って構わん例の提案書――目安箱のようなものへ――それに積極的に募集させよ。祭などは神聖な意味合いもあるがある程度親近感ある内容でなければ民に受け入れられないだろう」

 

「はっ、畏まりました。全てはアインズ様のご意思通りに進めさせていただきます」

 

 

――何とか最後だけは上手くいった。よし細かいところは知恵者であるアルベドとデミウルゴスへ任せ、俺はどう時間を稼ごうか……。今の提案書を募る箱を利用して他国などでどういった広がりがあるか見るのも手かもしれない、言ってみれば喫茶店巡りのようなものか――現実では到底出来なかった文化的な試みをできる事に子供っぽいようなわくわくした気持ちを隠せないアインズだった。




というわけで次回から原作であるドワーフ国のようにアインズが逃亡?します。まぁこれも原作同様にアインズしか柔軟な対応、発想ができないということもあってしょうがないとも言えます。

どっかで入れたいなーと思っていた喫茶店巡りのようなものを入れていきます。

どちらが上とは現実では非常に判断が難しく売れてるものが正義だぞという考えがありますがマイナーなものもマイナーなものでたまにはいいものです。ベトナムコーヒーとかチャイとかね、毎日は飲まないけどたまに飲むとあぁこれ案外いけるねっていうのもあります。


さてこれからの時期はミルクティーがおいしくなってきます。作者としてもミルクティーは大変好みでほぼ毎日飲んでいます。

アレンジとして面白いものも今後紹介していこうと思いますのでよろしくお願いいたします。


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気分転換

お待たせしました。次の話です

前の話でも書いたが紅茶をかけていない

辛抱ゥたまらァんのです

次の紅茶は有名なあの紅茶です


「陛下には感謝してもし足りない」

 

「何がかな?」

 

「この送別会じゃよ……上に立つ者たちの様子が、な」

 

壇上を見てもいまいち意図が伝わらず悩んでしまう。空気が読めんぞこの骨と思われるのもよろしくない。

 

「ふむ……なるほど……」

 

「陛下が今思われたとおりじゃ、目の色が違う」

 

結局いつも通り煙に巻く作戦に出る。

 

「確かにその通りだ。……しかし何が原因だ?」

 

 

「これほどの式典で送り出される事じゃよ、初めて食べるような脂ののった魚、濃厚に香る酒、色とりどりのスパイス、ハーブで彩られた肉……ルーン工匠が送り出される期待されている事の表れだと実感しているからじゃ」

 

「期待しているからこそに他ならないからだ、ルーン工匠の技術は非常に価値あるものそれを守り活かす事は私にとっても大きなメリット」

 

「うむ、陛下の恩義には必ず応える。それは他の者も同じじゃよ。おっと……そろそろ乾杯じゃな。では陛下」

 

「あぁ、乾杯」

 

ルーン工匠を招聘する盛大な宴が始まった……。

 

 

-----

 

「はぁ……今回は相当やらかしてしまったかもなぁ……」

 

そう顔に手を当て後悔するアインズ、先ほどの宴の乾杯後にデミウルゴスからの報告を受けまた迂闊な失言から万年を見通していると誤解を与えてしまった。

 

(……どうやってももう、自分が想像できるところを超えちゃってるんだよなぁ……どうしよう)

 

現実逃避をしながらデミウルゴスから報告を受けたプランを再度確認する。

 

デミウルゴス主催のイベント―聖王国での蹂躙―は秋に開始とのことだ、であれば時間に少し余裕はある。今のうちにリフレッシュをしてもバチはあたらないだろう。……あたらないよな?

 

とはいえエ・ランテルをうろつくのは普段と変わり映えが無い、かといって遠出するのは迂闊が過ぎる。聖王国などはデミウルゴスの邪魔になりかねないのでもってのほかだ。

 

法国、アークランド評議国は安全面から論外、竜王国も戦争続きで出向くにはあまり向かない場所だろう。

 

「まぁ、そうなると帝国だよな」

 

 

 

 

『帝都アーウィンタール』

 

ジルクニフの背筋に冷たいものが流れる。

 

「……なんだ今の悪寒は……いやまさかな……」

 

 

 

 

「とはいえ帝都は簡単にだが見た。少し外れた場所にでも行ってみるか……?」

 

現在地はアゼルリシア山脈内部、王国と帝国を隔てる山脈付近。転移もあるので距離は問題にならない、最も必要な事は情報だ。

 

一度必要な情報が揃いそうな帝都に赴き、それから目的地に行ったほうが効率的。しかし何を目的に出かけたものか。

 

出店や屋台の食べ物目当てに行くというのはいくらなんでも支配者としてふさわしい行動といえない。お堅い事ををするために赴くというのはそもそも行く意味がない。

 

「ふむ……以前、山脈のほうの街で紅茶を栽培しているという噂を聞いた。であれば具体的にどういった物があるか見ておくこともおもしろいか」

 

以前に帝都の商人―カメリヤ=シネンシス―へ顔を繋いだ。モモンの姿で聞けば何かしらの情報を提供してくれるだろう。

 

「いい案かもしれないな、そうするか!」

 

そうしてドワーフ国の片付けなどはアウラ、シャルティアに任せひっそりと帝国へと赴くアインズだった。―――当然アウラとシャルティアからは御身の守護をとなかなかきかなかったが八肢刀の暗殺蟲、高レベルのドッペルゲンガーをこちらに呼びつけ控えさせる事で納得した。

 

あくまで忍んで様子を見てくることが目的のため、シモベを伴い向かう事はそぐわない。自分自身の顔も変え現地ではしがない冒険者、ワーカーとしてふるまうためプレアデスを連れていくわけにもいけない。高レベルの傭兵ドッペルゲンガーを召還するのは懐が痛むが今後こういった機会もあるとすれば先行投資であると自分を納得させる。

 

 

-----------------

 

帝都アーウィンタール

 

「突然お邪魔してすいませんね、シネンシスさん」

 

「いやいや、構いませんとも。良い商談を持ってきて下さった方を無碍に扱っては商人として失格ですからなぁ」

 

「恐れ入ります、先日の取引でノキさんも良い茶葉を安定供給できるようになったと喜んでいましたよ」

 

「茶葉ばかりじゃいけないんですがねぇ……、まぁ確かに最近評判がいいので優先することはそう悪い事ではないでしょうが。とはいえお蔭さまで我々も売り先を悩んでいた高級茶器、食器などについても販路を見つけることができました。お互いの利益があるよい取引でしたよ」

 

 

先日――エ・ランテルの商人 ノキに頼まれ帝国へ赴いたモモン(アインズ)は目の前にいるカメリヤ・シネンシスという商人へ代理人として赴く依頼を受け取っていた。その際に旧知の仲……上司と部下でもあったらしい2人の密約を進めていた。その結果帝国産の茶葉を始め高級茶器や食器は王国へと流れ、王国で採取され始めたハーブティなるものは帝国に輸出されるなど2人が窓口となり多大な利益を生み始めていた。

 

当初エ・ランテルの商人ノキが警戒していた貴族粛清に巻き込まれる等は心配はない。――八本指も掌握しているこの状況であればまず手が伸びる事は無いだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――。

 

 

「冒険者としても依頼後の経過が良い事は喜ばしいですね。……帝国が属国化した時は驚きましたがかの魔道王の統治は予想よりも上手くいっているように見えます。であれば私たちも迂闊な抵抗すると反逆の意思といらぬ思惑をとられてしまう……そんな中で帝国が属国化するというニュースはとてもよい切欠になりうります。今まで戦争もあり活発な交易も無かった様子です、生活が富めば気持ちは変わるものでしょう」

 

 

これは鈴木悟としての貴重な体験談だ。営業を行っていた際に当然目標達成できる時、できなかった時とあるがその時に強く感じたのは人間余裕があればある程度は寛容になれるということだ。うまくいっていない空気が蔓延していると緊張もして話す事も話せない。要は利益が出て生活が安定すれば多少暗いニュースが出ても問題ないという話だ。

 

 

「でありましょうなぁ、アンデットが王の国というのは恐れながら寡聞にして聞いた事がありませんが。かの王はとても理知的であるようだ、それならば一時的には民衆も混乱するでしょうが数年もたてば徐々に落ち着き恐れも風化していくでしょう」

 

「風化していけば少し落ち着いたエ・ランテルに人は戻ります。……恐るべき戦力、経済力を持つかの魔道国ならばその地で得られる利益は莫大なものになるでしょう」

 

「まさに、いやぁこんな美味い話一枚噛みたいものですなぁ」

 

「もう噛んでるじゃないですか」

 

笑いながら突っ込んでしまうアインズ、とはいえ状態としては確かにシネンシスの言うとおりである。結局はアインズが強大な力を持っている……よりもアンデットが国を支配している事が問題なのだ。エ・ランテルではカッツェ平野というアンデットが跋扈する地に近いこともありアンデットに対する警戒心、恐怖心がとても強い。

 

 

逆に言えばアンデットの恐ろしさを正しく理解しているものが多いともいえる。冒険者などいい例だ、アンデットの恐ろしさとは数が多く疲れを知らない夜目がきくなどだろう。ただどうだろうか、アインズが以前から考えていたアンデットを労働力に使う事に視点を置いて考えると全く意味が変わる。数をそろえる事が容易、疲れ知らずの人足、ヒトが暗くて見えない夜にも動ける存在……非常に優れた労働力だ。

 

このアイディアをそのままにしておくことはもったいないと以前から考えていた。ナザリックは違和感を感じないが一般人からすると恐怖の対象。だからこそアンデットをより人間、民衆らに近しい存在として認知させなければならない。

 

 

(その一環として下級アンデットを労働力として貸し出す案は効果を見込める。特に単純労働……農業や劣悪な環境に陥りやすい鉱山では必要不可欠な存在になっていくんじゃないか?)

 

「まぁその話はおいおい……」

 

いやらしいともねちっこいともいえる笑顔を浮かべながらシネンシスが話を変える。

 

 

「して、ご用命頂きました依頼は……茶葉の産地ですか」

こちらの様子を窺うようにシネンシスが呟く。

 

 

「ええ、実はノキさんにご案内される前から紅茶には興味がありましてね……。今後帝国にも足を伸ばす機会が増えると思いますので通りがかった際にでも寄ってみたいのです」

 

「なるほどなるほど……まぁ、茶葉の生産地は何ら隠されている情報でもありませんしご紹介致しましょう」

 

シネンシスはちょっと失礼と言いながら隣の部屋から資料を持ってくる。

 

「現地の情報ですが……アゼルリシア山脈……その麓にある町が特に有名でしょう」

 

「ふむ、山脈の麓ですか」

 

(ドワーフ国からも行けるか…?近いかもしれないな)

 

 

「町の名はダージリン、麓といえど高い標高の茶園でとれる紅茶は香り高くマスカットを彷彿させるほどと言われます」

 

「ダージリン……?」

 

「おや?ご存じでしたか」

 

「いえ、近い名前の紅茶を飲んだ事があったのでもしかしたらこちらで採れた紅茶だったのかもしれませんね」

 

(ダージリンって……確かアストリアが話していた紅茶だよな?ヌワラエリヤとも似た風味と言っていた記憶がある。前の世界ではそういった地方があったらしいが……)

 

 

とはいえ荒廃したリアルではとうに失われているだろう、だが失われた紅茶を飲めるともなれば非常に興味が沸く。まさに未知の探求――冒険者とはいや発見者とはかくあるべきだろう――。

 

冒険者として行動をしていたモモンはここ最近受ける依頼を少しずつシフトしている。当然モンスター退治なども請け負うが優先すべきは新たな素材、新たな利用方法などに関する依頼だ。

 

先日、エランテルのノキを通じさせ虹のモックナックらに依頼を出したがハーブの発見、さらには有効利用と素晴らしい成果を得ることができた。現地の材料からでもMP回復に有効な手段が見つかりンフィーリアに研究させているポーションにも良い影響を与えるだろう。

 

当初は人間などを利用しても……と考えるシモベも多かったが使い道の方法次第でこのような素晴らしいアイディアを生み出す存在もいると少しでも評価を変える意識改革は依然として必要だ。アインズとしても歯向かう存在には容赦するつもりはないが無駄に殺すつもりもない。

 

アイディアは1人よりも2人のほうが良いものが出る確率は高い。まずは軽い一歩として人間にも有効活用する方法があると周知させていきたいところだ。

 

考えごとが紅茶からナザリックの事にシフトしてしまっている事に気づき気を取りなおす。

 

 

「そのダージリンという町ですが……お恥ずかしいですがあまり聞いたことはありませんでした。帝都からかなり離れているのでしょうか?」

 

「ええ相当離れています、国境境目といって間違いないでしょう。貴族粛清もあり嗜好品の需要が減っておりましたからなぁ」

 

なるほど、需要が落ち込んでいたせいで取り扱う商人も減っていたか。

 

(……もしかしてよいビジネスチャンスになるんじゃないか?)

 

高級な嗜好品は不景気になるとかなり大きな影響を受ける事は道理だ。であれば生産者側も四苦八苦している事は間違いない、そこを突けばより有利な条件で交渉ができるかもしれないとアインズは想像を膨らませる。

 

「なるほど……山脈の……あぁこのあたりでしたか。別件の依頼でいった事があった近くにあったんですね。今度も行く機会があるので寄ってみる良い機会やもしれません」

 

シネンシスがメモ帳に書いた簡単な地図を見て場所を思い出す。

 

(ドラゴン退治の時……ドワーフ国の旧帝都だったか?フロストドラゴン達がねぐらにしていた場所からそう遠く無さそうだ)

※アインズ基準なんで普通の人間や亜人からすればめちゃ遠い

 

「なるほど、さすがはアダマンタイト級冒険者。様々な所へ行かれるのですな」

 

そうおだててくるシネンシス、向こうもこちらを利用してやろうという気配がビンビンに感じてくる。

 

(だがあまり悪い気はしない……利用するというよりも、繋がりを大事にする。営業職だったころは自分もよくやっていたような事だ)

 

人間だった頃の残滓が浮かび上がり少し暖かい気持ちになる。

 

(こういった気持ちはナザリックのシモベらは持ちえない、大事にしていかないとな。)

 

 

 

目的地の情報は得た、目指すはアゼルリシア山脈麓の町 ダージリン。

 

さてどんな紅茶に出会えるだろうか?

 

 

next tea...Darjeeling...

 

 

 




最後までお読みになって頂きありがとうございます

この話投稿までにいろいろありました

何より転職したことかな!休みが増えたが残業が増えたぞ!あれ!?


とはいえ趣味としては紅茶は充実しています。毎日淹れて会社にマイボトルで持ってってるしね……みなさんにもおすすめ、渋みの少ないディンヴラあたりがいいんじゃないかな!

ひと手間減らすならティーバッグをボトルにつっこんで会社に着いたら捨てるとかでも案外なんとかなります。物によっては入れっぱなしでも渋くなりにくいティーバッグもあるらしい明記はされてないけど。


さて次はダージリン。

恐らく世界で一番有名な紅茶でしょう。紅茶飲まない人でも知ってるんじゃないかな?

なぜこのダージリンが有名になりえたのか?自分なりの視点で書いていこうと思います

今思いついたけどこれ良いアイディアかもな!


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Darjeeling

続きです

余談ですがダージリン地方で採られた紅茶よりも世間に出回っているダージリン紅茶のほうが多くね?という噂があるとかないとか……。

少し短いですがどうぞ。


突然ですが皆さんはダージリンという紅茶をご存知でしょうか?

 

恐らく普段紅茶をほとんど飲まない方でもこの紅茶の名前くらいは聞いたことがある という方が多いでしょう。

 

ダージリンが美味しい、珍しい、貴重だという噂から飲んでみたという経験もあるかもしれません。

 

ただ思ったより癖がある、渋みがあると思った方もいるのではないでしょうか?

 

そういった癖がある事は間違いありません。ただそれだけの紅茶を思ってはもったいない。

 

 

ダージリンとは素晴らしく芳醇な香り、そして四季から生み出される季節別での味わいにこそ特色があると言えます。

 

飲んだことが無い?それはいけない、ぜひこの先の町 ダージリンにて一度お試しを……

 

 

 

 

 

「……ふむ」

 

(ずいぶんと自信のある案内、ただ町というよりも紅茶の紹介だな)

 

この先 帝国領土 ダージリン と書かれた看板をじっと見つめるモモン...アインズだが目的付近へはあれからほどなくたどり着けた。

 

ドワーフ国よりそのままエランテルに戻っては憂鬱な仕事があると現実逃避――気分転換――をしたいと考え帝国を散策することにした。せっかくだから帝都に行き紅茶についてどこか産地のような場所はないか商人シネンシスから紅茶の町とひそかに言われているダージリンの情報を得る。

 

早速旧ドワーフ帝都へ転移し、幻術をかけワーカー風の装いで街付近まで来たところだった。

 

そこで見つけた看板には目的地であるダージリンの情報が書かれていたのだが……

 

(町の紹介=紅茶の紹介ともあれば非常に力を淹れて、いや入れているに違いない。これは期待できそうだぞ?)

 

 

アインズ自身、一般メイド アストリアにより紅茶についてそれなりに詳しくなっている自負はあった。とはいえ専門家には到底敵わないことも自覚している。今までに飲んだ紅茶……ヌワラエリヤ、ディンブラ、ルフナ、ブレンドのブレックファスト、アレンジでのロイヤルミルクティ、街に出てからはサバラガムワという紅茶を試す機会もあった。

 

その個性を活かしながらアインズはタイミングによって飲む紅茶を使い分けていた。

ストレートで紅茶の風味をゆっくりと楽しみたいときはヌワラエリヤやディンブラを好んで。ちょっと疲れた時、リフレッシュしたい気分の時はルフナやブレックファストのミルクティを飲む事が多い。

 

(まだ俺が知っている紅茶は10かそこら。それでも素晴らしい感動と潤いを与えてくれている……骨にも沁みわたるとはまさにこのことか?)

 

上手い事を言ったような気になり、笑えてしまう。

 

 

-------------

 

 

「紅茶の名産地 ダージリンへようこそ……ね」

 

入口には少しさびれてしまったようなアーチがありここでも紅茶について書かれていた。

 

(やはり嗜好品の需要が落ち込んでいる事は間違いないだろう。多少は回復しているかもしれないがメインの客層がいないのでは難しいだろう)

 

だが名産地であることは変わらない、せっかく来たのだからじっくりと見て回りたい。

 

 

ただそんな気分をなくすようにスッと影に潜むシャドウデーモンが報告を行ってくる。

 

「アインズ様、ご報告させて頂きます」

 

「うむ、あぁいやまてここでは……ダークウォーリ…いやダークと仮の名を使う。一介のワーカー、ダークとそう他の者にも伝えておけ」

 

「畏まりましたダーク様……周辺ですがレベルは最高10程度の存在しかおらず脅威度は非常に低いとの事です」

 

「ご苦労、引き続き潜んでいるシェイプシフターらと協力してあたれ」

 

「勿体なきお言葉……承りました」

 

 

シモベの気配が消える。この町にも脅威といっていい存在はいない、念のために調べさせたが杞憂だったか。

 

(いや油断だな、どこであろうとも最低限度の調査を怠ってはいずれ致命的なミスにつながるだろう)

 

 

(……どうせならどのあたりに人が多いか聞いておけば良かったな)

 

思った以上に人が見当たらない、適当な店に近づいてみる。

 

「すまない、この辺りは初めて来たんだがちょっと教えてもらえないか?」

 

奥で飲み物を啜っていた老婆がこちらに気づく。

 

「おや、旅人さんとは珍しい。飲むかい?」

 

そう言ってカップに入ったお茶……紅茶を差し出してくる。

 

「……頂こう、いくらだ?」

 

「飲み物に金はとってないよ、代わりに何か買ってっておくれよ」

 

ストレートな物言いで驚くがこれぐらいなら逆に聞きやすい。

 

「じゃあ、とりあえずそこのドライフルーツをもらおう」

 

「これは期待が出来そうじゃないか。なんでも聞いておくれよ」

 

銀貨数枚渡すと景気のよさそうな客に遭遇し上機嫌になる老婆がいた。

 

「以前この町は紅茶で有名と聞いていたが今ではそうではないのか?」

 

「そんなことはない、この町は今でも紅茶が盛んだ。住民だって毎日紅茶を飲むものばかりさ」

 

新しく用意した紅茶をこちらに差し出しながら老婆が語る。

 

「ほう」

 

(出荷は減ってもこの辺りでの消費はそう落ち込んでないのか、予想以上に生活と密着している)

 

「まぁ昔ほど都で飲まれなくなっているのは確かだろうけどね、貴族様には人気があったようだけど商人や騎士様にはそれほどだね」

 

「同じ嗜好品でも酒などのほうが人気が高いだろうな」

 

「全くだよ、紅茶ってのは男よりも女のほうが飲むし貴族様でもなけりゃそういったものにはなかなか目を向けてくれない」

 

ふむと老婆の話を聞きながらアインズ...いやダークがカップに口をつける。

 

しかしカップから漂う香りに疑問が浮かぶ。

 

(待てこれは何だ?香りが……非常に強い、青々しさ、瑞々しいマスカット?)

 

老婆がおや気づいたかねとこちらを伺ってくる。

 

 

「今あんたが飲んでるのはこの町の名産品 ダージリンの紅茶だよ。そこらの紅茶とは香りが違うよ」

 

「確かに、この香りは他の紅茶よりも抜群に強い。葡萄…よりも甘い、マスカットを彷彿させる香りだ」

 

もう一度カップを軽く揺らし香りを楽しむダーク。先ほどよりもっと深く吸い込むとさらに甘味を感じさせてくる。

 

「いい鼻を持ってるじゃないか、それこそがダージリンの特徴。()()()()()()()()()()さ」

 

「マスカテルフレーバー……、着香などはしておらずこの香りなのか?」

 

「当然さ、着香なんてしたらこの香りが台無しだよ」

 

老婆が自分のカップに入った紅茶を掲げる、そこには自分達が大事にしてきたものを誇らしげに語る老婆がいた。

 

「町の名産品にそれほどの自信を持てる事は素晴らしい」

 

「当たり前だよ、これほど美味い紅茶を毎日飲ませてくれるなんてなんとぜいたくなことか!」

 

おしゃべりな老婆はケラケラと笑いながらカップを啜る。

 

 

 

「それほど言う理由もわかる、これほどの香りは他の紅茶と比較にならないだろう」

 

「味だって他の紅茶に負けやしないさ、ダージリンを飲まない奴らの気がしれないね」

 

確かに素晴らしい香り、繊細な味わいの紅茶であるダージリンは絶品というほかない。需要が減ったからと言ってそれほど飲まないというのも不思議な話だ。

 

「ふむ……、そうだな。あぁ俺は他の国にも商売でよく行くんだが最近ではミルクや蜂蜜を使ったアレンジが流行っていたな」

 

「蜂蜜?ミルク……?」

 

おしゃべりな老婆の雰囲気が少し剣呑なものへ変わる。

 

「はっ!邪道だね……これほど素晴らしい紅茶に他の物を加えるなんて馬鹿馬鹿しいにも程がある!」

 

(なるほど、ストレート信者だったか)

 

一気に雰囲気が変わった事に驚きつつも、無礼なと殺気立っている護衛らをそっと下がらせる。

 

(確かにヌワラエリヤを飲んだ時はミルクなどを入れようとはしばらくしていなかったな。気持ちは分かる)

 

同じような経験をアインズもしたことがあったので共感できるところはあった。ストレートで飲むと美味い紅茶とはただそれだけで完成していると言っても差し支えない。繊細さも併せ持っている紅茶が多くどうしてもバランスが崩れやすいためだ。しかし……

 

「ふむ、なるほど確かにその気持ちはよくわかる」

 

「だろう?全くもっておかしなもんさ」

 

「ただな……婆さん、あんたももったいない考え違いをしている」

 

「あぁ?」

 

「俺も紅茶をそれなりに楽しんでいるんだが、色々な紅茶を飲んできた。その中にはダージリンのようなストレートが素晴らしい味わいの紅茶もあった」

 

「だったら何が考え違いなんだ。その通りじゃないか」

 

いつのまにかヒートアップしている老婆は先ほどのおしゃべりな雰囲気とは打って変わっていた。

 

「まぁこればっかりはな、飲んでみないと分からん事だ。そこでだ婆さん」

 

ダーク...アインズは懐から小さな袋を取り出す、少し前に朝市で購入した茶葉だ。

 

 

「美味い紅茶は1種類だけじゃないってことを教えてやるよ」

 

茶葉を取り出しながら老婆にそう語るアインズはまさに紅茶好きの人だった……。

 

 




さぁダージリンです、さすがにこれで終わりじゃない(多分

普段はあんまりダージリン飲まないんですが、以前紅茶イベントに出店されていたTBエンタープライズさんのグレイスピースという紅茶、そこのダージリンが印象深い。

お察しの通りクッソ高いんですが、めっちゃ美味いです。ダージリン好きっていう人にプレゼントするなら俺はこれを選ぶ。ぜひ一度お試しあれ甘味がやばいよ。


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知らない紅茶

ダージリンの町、続きです。

とはいっても導入編みたいなもんなんであっさりとです。

ここまで3行説明
アインズ紅茶にはまる
色々紅茶を試しにいく
帝国に紅茶で有名な町!?いくしかねぇな!



ひょんな切欠から老婆に紅茶を提供する事になったダークことアインズ。

 

自分自身でも少し子供っぽい、むきになってしまっているような感覚がある。

 

ただ何となく理由もわかる。自分が今まで知った素晴らしい紅茶を馬鹿にされたように感じたのだ。老婆を殺すことなど自分でもシモベに任せる事でも一瞬だ。

 

しかしアンデットになった後でもそれは少し違う自分がしたいことではないと思う。

 

自分が知った素晴らしい物を他の人へ勧め感動してくれるようなことをしたいのではないか。

ユグドラシルしかなかった、そのユグドラシルも無くなった。人間だった頃とユグドラシルでの残滓で生きてはいるが、国を作る程になっても未だ自分の目的、やりがいみたいなものは不明瞭だ。

 

ただやりたい事が少し見つかる。この世界で飲食を出来るとは思っていなかったが、素晴らしい発見ばかりだった。その中でも紅茶はかつてのユグドラシルに負けないぐらいに夢中になっている。もっと知りたい、試行錯誤したい、アンデットになってしまった今でもそう自分は思っているのだ。

 

(このおしゃべりな老婆からしたら余計なお世話かもしれない、ただもう少しでこの違和感に気づけるかもしれない)

 

(衝動的な行動、ギルマスだった頃でもこんな事はしなかった。王様なんかになってもこんな事をしてしまうとは)

 

かつての仲間達はどう反応するだろうか。

 

ぷにっと萌えだったらリーダーが熱くなってどうするんですかと言われてしまう。

 

ペロロンチーノだったら熟女趣味に目覚めたんですかとガチな心配をしてきそう。

 

たっちみーだったら喧嘩は良くないですよと諭してくるだろうか。

 

 

こんな刹那の間にもふと昔を思い出してしまう。

 

「……何をそんなに笑っているんだい」

 

訝しそうにこちらの様子を見る老婆。

 

「あぁ、いやすまない。ちょっと昔を思い出してしまってね、少々喧嘩腰のような物言いになってしまいすまない」

 

「……まぁいいさ、あたしだってバカじゃあない。あんたがそこまで言うってことは素晴らしいものを知っているから出た言葉だろうさ」

 

少し落ち着いた様子で老婆がこちらにとっとと淹れろと促してくる。

 

「あぁまぁ飲んでみてくれ。……これがサバラガムワだ、一口目はストレート、二口目はミルクを加えるといいだろう」

 

「ふん……ミルクなんていらんだろうに……」

 

 

そう言いながらカップに口をつける老婆。

 

「ほう……どっしりとした濃厚なコク、複雑さが凄いね」

 

「あぁ、それこそがこの紅茶の持ち味だ」

 

あっという間にカップを空けてしまう老婆、なかなかお気に召したようだ。

 

「悪かないね、普段飲んでいるダージリンはもっと軽い味わいだったからこういった味もたまにはいい」

 

そう言って疑いながら2杯目のカップにミルクを注ぐ老婆

 

「ミルクは少量で構わない」

 

「あん?そうなのかい、てっきり並々と注ぐものだと思っていたが」

 

「……紅茶風味の牛乳になってしまうのでね」

 

アインズがそれこそ心外だという様子で老婆へアドバイスを行う。

 

(そうか、ここではそういった知識が無いのか)

 

料理を専門にした人間は長い期間をかけ勉強して機会があるだろう。だがネットもないこの世界では分からなければ他の村人に聞く程度しかできない。この地はダージリンというストレートで素晴らしい紅茶に恵まれていたため、他の紅茶に触れる機会が極端に少なかったためだろう。

 

「なぁ、婆さんここではダージリン以外の紅茶を飲む機会ってのはあるのか?」

 

「無いよ、あの素晴らしい紅茶を飲んでからそんな事を言うのかい?」

 

「いやまぁ確かに素晴らしい味わいだったが」

 

じろりとこちらを見る老婆に押されながらも自分の予想が正しかったと感じるアインズ。

 

(そうか……俺が特殊なだけだったか。よくよく考えればリアルの時は天然ものの紅茶なんて見た事ないし、どこ産なんかも書かれている事は見た事もなかった)

 

今更アインズが気づいた事とは豊富な資金、権力を持ちあらゆる財がそろったナザリックにいるからこそだ。貴族であればどこで作られたワイン、茶葉など趣味を持つものもいるだろう。ただ帝国ではその貴族がほぼいない。

 

(限られた物しか手に入らない村人、町人からすれば旅の商人が運んできたものがメイン。地元で紅茶が作られているってのに他の産地からわざわざ紅茶を取り寄せる奇特な事はしないか)

 

ぜいたくが沁みついてきてしまったかなと居住まいを正す。

 

 

反省するアインズを余所に老婆が不思議そうにミルクが入ったカップを飲んでいる。

 

「おかしいね……ミルクを加えて薄まると思ったけど、コクがさらに引き出されている」

 

独り言を呟きながら理解できないといった様子でカップを見つめる老婆。

 

「不思議そうだな、まぁ私も以前飲んだ時同じ印象を持ったさ。……簡単な話だ、ミルクが紅茶の旨み、コクをより際立たせているのさ」

 

「そもそもコクってなんだい旅人さん。あんまり意味を考えずに使っていたんだが」

 

「そうだな……私もニュアンスでしか知らないが、複雑さや奥深さを示すものと考えている」

 

老婆がこちらをじっと見て続きを促してくる。

 

「よく表現としてコク深いとかと言うだろう?逆にあっさりしているような表現の時にはあまりコクという言葉は使われない」

 

「確かに、複雑さという言葉がしっくりくるね」

 

 

(危ねぇ……事前にアストリアへ質問しておいて良かった……監視しているシモベもいるから迂闊に分かりませんとも言えない……)

 

内心の動揺を余所に感心した様子を見せる老婆。

 

「ん?待てじゃあそもそも紅茶ってのはそんなにも種類や味わいが豊富だってのかい?」

 

「当然だ、私が知っているだけでもダージリンに代表されるあっさりと繊細な風味、マイルドなストレートミルクどちらにでもあう紅茶、ミルクを入れても負けないような濃厚でボディのある味わいと様々なものがある」

 

「あぁ……そういう事かい、私は思い違いをしてたんだね。ダージリンにミルクを入れるというよりも茶葉を使い分けろと」

 

「まったくもってその通りだ、貴女の言う通りダージリンは単体でほぼ完成していると言っても差し支えない。ただしそれが全ての紅茶の代表というのも間違っている」

 

アインズが懐からいくつかの袋を出す。

 

「先ほどのように素晴らしい紅茶はまだまだ多い、ミルクティが流行っているのも時代の流れだろう。ただ飲んでみなければ何事も分からないものだ」

 

「こんな年にもなって意固地になるなんて恥ずかしいところを見せたね」

 

嫌なところを見せて申し訳ないと謝罪してくる老婆。

 

「……実はそう恥ずかしい事でもない」

 

「は?」

 

「いや、昔俺がいた国の話なんだが……同じようにミルクティーが流行ってその際にミルクを先に入れるか後に入れるかで国を割った論争になったらしい……」

 

アインズがとんでもない話に老婆は全く理解できないという様子だ。

 

「ちょ、ちょっと待っておくれよ。紅茶にミルクを加える順番なんかで国が割れるのかい?」

 

「俺も信じがたい話なんだがな……実際にあったそうだ」

 

「……信じられないねぇ」

 

全くだとアインズも同意する。

 

 

------------

 

先ほどの話で少し空気も変わり、そろそろお暇するかとアインズが準備を始める。

 

「婆さん突然すまなかったな。いろいろと説教みたいな感じになっちまって」

 

「気にせんでいいさ。余所で恥をかかんで済んだという事とあんな話を聞いた後じゃあねぇ」

 

笑いながら老婆が手を振る。

 

「そういえばあんたの名を聞いていなかったね、なんて名前なんだい?」

 

「あぁ、俺はダーク。しがないワーカーさ」

 

「ワーカーだったのかい、にしては随分落ち着いてるね」

 

ワーカーだった事が余程予想外だったのか驚いた様子を見せる老婆、確かに以前ナザリックに侵入してきたワーカー共は荒々しい雰囲気の奴らも多かったなと思い当たる。

 

「荒事以外のほうが最近は多くてね、最近のワーカーは社交も身についてないとやってられないんだ」

 

そう言いながら身振り手振りで適当なダンスをするダーク。

 

「よく言うわ」

 

笑いながら餞別だとダージリンの茶葉が入った袋をこちらに投げてくる老婆。

 

「ありがたい、また近くに来たときには寄らせてもらうよ」

 

「あぁ、寄ってくんなよ。あたしはここらでは顔が利くからね、融通はきいてやるよ」

 

「……そういえば婆さん、あんたの名前も聞いていなかったな」

 

「そうだったね。あたしはダージリンの町長をやってるキャッスルトン、ダージリン・キャッスルトンさ」

 

 

 

老婆はようやく意趣返しができたと呆然とするダークを余所に笑い続けていたのだった。

 




ダージリンの町だけどサバラガムワが主役感がありました。

まぁどっかで書こうと思ってたんですけどどこにでもあるんですよストレートとミルク論争は。

嗜好品なんで好みだよ好み!で決着するんですがそれで決着したら話が続かないってのが今回の話です

ちなみに途中であった国が割れたミルク論争ですが……
盛ってますがそういった論争があったのは事実です(マジ

しかも割と最近に決着したっていうのが驚き。

ちなみに作者は後にミルク加える派、気分によって調整はしたいしね。


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Goldenring

ご無沙汰しています。

ざっくりとしたここまでの流れ
ダージリンの街で素晴らしい紅茶を見つけたアインズ、今日もまた紅茶を楽しもうとしているが……

……ほんとこのアインズ様紅茶しか飲んでないなぁ


「ふぅむ……今日はどうしたものか、ヌワラエリヤ?ディンヴラにしようか。いやいやせっかく朝の一杯なのだからベッドティーというのも悪くない。コクの強いルフナにするのも一興……」

 

※ヌワラエリヤ スリランカのかなり高い標高エリアで取れる繊細ですっきりとしたストレート向きの紅茶

 

 ディンヴラ スリランカ高めの標高エリア 日本人好みとよく言われる紅茶

 ルフナ   スリランカの低い標高エリア コクが強くミルクを入れても負けない味わい

 

 

「アインズ様、お湯の準備は整っております。いかがいたしましょうか」

 

今朝交代したばかりの一般メイド、フォスが普段と変わらぬ背筋を伸ばした非常に綺麗な姿勢でこちらに朝の紅茶を確認してくる。

 

「……悩ましいな、では今朝はフォス、お前に任せるとしよう」

 

「はっ!畏まりました。全力でアインズ様がお気に召す紅茶を選びたいと思います!」

 

(モチベーション高いなぁ……)

 

以前アインズが乗り気ということもあって紅茶がにわかにブームになっている……のだが最近では朝交代したらまず紅茶を淹れる事がお決まりの流れになっている。

 

いや全く悪いことでも無いしありがたいがこうも決まりのようになってしまうと落ち着かない事は贅沢な悩みなんだろうか。

 

「お待たせ致しましたアインズ様。私はアインズ様にはやはり眩いばかりの金がお似合いかと思いましたのでゴールデンリングと名高いウバに致しました、よろしいでしょうか!」

 

「……お前に一任しよう。自由に淹れてくれ」

 

「はい!少々お待ちくださいませ」

 

根が小市民なアインズはとても言い出せないがこれはこれでまぁいいかとポジティブに考えられる事は我ながら美点の一つかもしれないなとぼんやり考える。

 

一般メイドの中でも比較的フォスは落ち着いたイメージがあったがやはりこういった「自由に任せる」といった時には非常に熱心だ。むしろ普段のギャップもあり他のメイドより一層生き生きしているように見えた。

 

「お待たせいたしましたアインズ様、本日のアーリーモーニングティー。ウバでございます」

 

※アーリーモーニングティ 朝一番にベッドサイドで飲む紅茶。朝一番に飲む紅茶くらいに思っていただければOK。ミルクティがよくおすすめされる、アールグレイを1杯目ストレート、2杯目ミルクがなかなか色々楽しめて良いと思ってます。

 

「ありがとう、フォス。せっかくだお前も一杯付き合ってくれ」

 

「もったいないお言葉です!ありがとうございます!」

 

アインズにはよくわからないがこの朝一番の紅茶の人気な理由が一緒に紅茶を飲む事が多いかららしい。昼時などでも飲むときはあるがその時はほかの守護者と一緒だったりとすることが多い、案外一般メイドと一緒にいることはあってもこういった何かを共に楽しむという事は稀だ。そういうこともあってかに人気の時間のようだ、……分からん。

 

「ほぅ、ウバは久々だがフォスの好みかな?」

 

「はい……あのメンソール感がたまりません、唇に触れた時から喉を通り抜けるまで。あの独特な風味はウバだからこそ楽しめます」

 

「確かに、私もあの風味には驚いた。紅茶という枠組みの中で爽快感を経験するのは非常に『レア』な体験だった」

 

「……!ありがとうございます……!アインズ様にもお気に召して頂いて光栄です!」

 

至高の存在に自分の好み、趣味を肯定されこの上無い幸福を感じる。アインズがレアな装備、材料、食材、体験を好んで集めている事はナザリック内であれば誰しもが知っている。自分がホストを務める茶会でそこまで満足頂けるというのであればそれはシモベとしてまさに感無量だろう。

 

「ははは、気が早いぞ?とはいえお前たちが出してくれる紅茶はおもしろいチョイスが多い。私を気遣ってくれていることがわかるよ」

 

「もったいないお言葉です!」

 

フォスが思わず感動にハンカチを濡らす。――え?早くない?――……シモベが感極まって涙を流す事には慣れ始めてしまっているアインズも大概だった。

 

「ま、まぁこれ位にしておこう。まだ茶会は始まったばかりだ」

 

「!失礼いたしました……、どうぞウバになります」

 

差し出されたカップを骨の手で持ち上げながらじっくりと見る。

 

「あぁ……良い香りだ、ウバの風味はモンスーンと呼ばれる季節風の影響らしいな?香りからでもこの紅茶の独自性、貴重なことが伺えるな」

 

「はい、まさに今回はクオリティシーズンのウバをご用意させていただきました。ぜひ一口目はストレートでお楽しみください」

 

そっと口にカップを運び舌で紅茶を転がす。何度飲んでも驚かされるのは心地よさすら感じるこの刺激的な風味だ。普通紅茶といえばゆったりとするような、落ち着く味わいともいうべきものがある。だがウバは鼻を通り抜けるように――鼻がなくてもだ――芳醇な香りが抜ける。

 

「うむ……初めて飲んだ時は実に驚いたものだ。このような紅茶もあるのかと」

 

「アインズ様でも初めてだったのですか……」

 

「それほどの感動であったということだ、まさに紅茶とは色々な顔を見せてくれる」

 

――以前にも説明したかもしれないが、ウバは世界三大紅茶の一つでもある(ダージリン、ウバ、キームン)。どれも高い評価と風味を持った紅茶で、特に個性が強い紅茶だと筆者は感じている。(キームンはそこまで経験が少なくて未知な部分があるが)少なくともダージリン、ウバは季節によるクオリティの差。他の紅茶に比べてその地域の独自性ある味わいについては間違いない。

 

ただ、個性が強いためあまり紅茶を飲まない方が飲むとイメージしているものと差異を感じてしまうことも多い。もしこの中で悩む方がいればダージリンが最も繊細な風味で飲みやすいのでおすすめです――前話だとクセがあるとは言いましたけどそれ以上にクセがある紅茶に比べればだいぶ飲みやすいという。ラプサンスーチョンとかね……

 

あっという間に減ったカップを一度置き一息つく。ウバの風味は何といってもメンソール感……要はすごいすっきりと通り抜けていく風味の紅茶だ。起き抜け―寝てはないが―には悪くない紅茶かもしれない、その清涼感は目をしゃっきりと覚ませてくれるだろう。

 

「アインズ様、よろしければ次はミルクティでいかがでしょうか?」

 

「ふむ、そうしようか」

 

フォスが次の紅茶とミルクを用意する、ミルクは普通の牛乳ではなく低温殺菌されたものが使用されているらしい。最近まで知らなかったが牛乳には高温殺菌と低温殺菌されたものがあるそうだ、もちろんこの世界ではそんな上等な品はないが。

 

ナザリック内に限るが使用されているその種類は使い分けされているらしい。高温殺菌はさっぱりしているが、低温殺菌はより風味がよく紅茶との調和が良い……らしい。現実世界でもいまいち聞いたことがなかったが聞けば多少コストが高く何より使用期限が短いそうだが紅茶に向いているのであればぜひ使いたい。

 

「そういえばフォスは普段誰かと食事や茶を飲む機会はあるのか?」

 

「はい、先日は同じ一般メイドのフィースとも当番の打ち合わせの際に一緒にお茶を!」

 

(…まぁ仕事がちょっと混ざっているが楽しんでいるようなら何よりだ)

 

「他にもプレアデスの方々を食堂で見かけます。お優しいアインズ様に頂いた水出しのアイスティーは特に人気のようです」

 

「あぁ、あれかあれは私もなかなか気に入っている。こうじっくりとしたティータイムも悪くないが気軽に飲める紅茶もいいと思ってな」

 

「まさに、下々の者にもこれほどのお慈悲を頂けるなんてなんてなんとお優しいのでしょうか」

 

「忠義厚い臣下に応えるのは王として当然、あの程度ささやかなものだ……では頂こう」

 

赤く金色のように輝いていた水色は柔らかなクリーム色に変わっている。しかしウバだからこその名残はしっかりと残り、ルフナのミルクティの時に比べると色合いが明るい。清涼感ある風味が見た目にも窺える。

口に含むとその印象は間違っていなかった今までアインズがイメージしていたのはコク深い濃厚な風味のミルクティ、もしくは柔らかく全てを包み込むような味わいを持ったミルクティだ。前者はルフナ、後者は極上のアッサム……の記憶だ。

 

ウバのミルクティはその印象とは全くの別物。他のミルクティが優しさや甘みを強調する事に対し後味が非常に軽い、このシャープな味わいはウバでなければ出せない味わいだ。

 

「……素晴らしい、このようなミルクティがあるとは。真逆に感じた組み合わせがこれほどマッチするとは驚きだ――あぁこれが後味のメンソールか成程面白い」

 

「一口で感じ取って頂けるとは……さすがアインズ様」

 

「よせ、私にとってはこの紅茶を選んだお前のセンスこそが特出していると感じる……うむ、この紅茶はメニューに入れておいてくれ」

 

「!身に余る栄誉です。ありがとうございます!!!!」

 

そうアインズが伝えたことでフォスが今まで以上に緊張する。しかしその表情には自分の仕事を成し遂げた満足感が透けて見える。

 

 

唐突だが今まで飲んだ飲み物を覚えているだろうか。もちろん智謀の王たる私は覚えていて当然――なはずがないだろう、だれが智謀の王だ本当に勘弁して……。そんな凡人な自分だとどうしても記憶力には自信が無い、今は気軽に紅茶を楽しんでいるがどうしてもパッと思いつかない銘柄も出てくる。それも恰好がつかないのでたまに見るくらいならメニュー表もいいいだろうとなったのだが……。

 

ここでひと悶着あった、ナザリック9階層で喫茶店を担当しているアストリアにメニュー表を作らせたがまず種類が膨大すぎた。銘柄どころか茶園ごとに分けられておりダージリンだけでも100以上の茶園、4つ以上の季節が……となったところでアインズはギブアップしたメニューの意味がねぇと。

 

ではアインズに選んでもらえないかという提案があり、アインズが気に入ったものがメニューに載ることになった。最初は気後れしたが今となってはちょっとした楽しみでもある、何よりシモベ達のやる気が違うのが紅茶がナザリックが広まった一因なのは間違いない。もちろん新しいものだけではない、既存の紅茶の別の飲み方というものでも全然アリだ。

 

「少しずつメニューも充実してきた、お前たちのおかげで楽しいティータイムを過ごさせてくれている。……ふむ?」

 

「いかかがいたしましたか?何かご無礼が」

 

フォスが感激に打ち震えているところで一気に緊張した様子へと変わる。

 

「いやたいした事ではない、ふと先日の報告を思い出しただけだ。」

 

そう言いながら先日アルベドから渡された報告書を眺める。

 

最近だと紅茶に携わる情報もシモベらは積極的に情報共有してくれる、堅苦しいところもあるが様々な情報が入ってくるのは素直にありがたいと感じる。

 

取り出した報告書名は――ダージリンの街における紅茶の起源――。

 

ダージリンの街で美味い紅茶に出会えた事は大変すばらしいことだ。

だがしかし、少しばかり妙な話でもある。この世界では紅茶は嗜好品としてある程度の地位は持っているがアインズの元居た世界に比べても認知度が低いと言わざるを得ない。

もちろんしがない地方の特産物と言われればそれでおしまいだがどうにもアインズには違和感を感じていた。

 

そう、プレイヤーの気配だ。口だけの賢者のように低レベルで転移してきたプレイヤーもいるかもしれない、そういった存在が何かしらの情報を残している可能性がある。

 

現状ではプレイヤーが残した情報だと何かしらフィルターがかかってしまっている。六大神、八欲王、十三英雄……いずれも有名な話だがそのプレイヤーから直に残された情報というのはあまりにも少ない、特に六大神はスレイン法国による都合のいい伝聞が溢れているだろう。

 

しがないいちプレイヤーの情報だとしても情報をどうとらえ考えたかは非常に興味深い。手順が逆だったからこそすんなり見つかったが正攻法では大きな手間があったとアルベドが反省していた、たまたまに過ぎないことであれほど驚き感激していては少々――いやものすごく恥ずかしい――。

 

とはいえ気になる情報であることは間違いない。

……ここは自分が動くべきだろう、隠密などは得意だがやはりまだまだ対人間への情報収集は弱いと言わざるを得ない。そのうち折を見てセバスとソリュシャンあたりにでも買い付けにいかせるのは良い手かもしれないが……。

 

「フォス、茶会の後で少し出かける」

 

「はっ、供回りはいかがいたしましょうか」

 

「守護者で手が空いているものはいるか?」

 

「ただ今ですと……どの方もナザリックを離れているようです。ただセバス様でしたら9階層にて待機されております」

 

ふむ、セバスか。そういえば執事を伴ってどこかに出るという事もあまりなかった。先ほどの思いつきもあるしちょうどいいかもしれない。

 

「よしではセバスに1時間後私の部屋へ来るよう伝えておいてくれ。――茶葉の買い付けに付き合えとな」

 

 

 

アインズが今まで飲んだ紅茶一覧

 

ストレート向け

ダージリン

ヌワラエリヤ、ディンヴラ

 

ミルクティ向け

ルフナ、サバラガムワ

ブレックファスト(ブレンド名)

 

どっちもイケる

ウバ、キャンディ、

 

そのうちメニュー表を作りたいですね




何日かに1回グーグルで 紅茶 でニュースを検索しているんですが
場面場面に合わせた紅茶飲料 ってのがよく売れているそうです

有名なのが無糖の紅茶でおにぎりとかですね
辛いカレーとかに冷たいミルクティーは個人的に結構ありです。辛いの苦手なので……

あとは柑橘系が結構人気なようですね、レモンとかオレンジティー。オレンジティは僕も結構好きなんでそのうち作中にも出したいですね。


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Darjeeling's Secret

暑くなってきたのでアイスティーがおいしい季節です。
ツイッターで流行っていた21分のアイスティーを作ってみました

雑に作ったら1.2Lで2パックたいそう濃い紅茶ができましたがミルクに負けない味わいでなかなかいい発見でした。個人的にはカレーに最高に合うアイスミルクティーです。


ナザリック9階層 豪華で厳か、そうありながら過ごしやすさを共存させたスイートルーム、第8階層の悪魔は今主人の元へ自身の成果を報告するべく足取り軽く向かっていた。

 

至高の御方であり主人がいらっしゃる部屋の前に立ち今一度身だしなみを整える。王たる主人の前ではいかなる無礼も許されない、ましてやその無礼は創造してくださったウルベルト様の顔に泥を塗るような行為だ。

 

十分に確認した後、デミウルゴスは中にいる一般メイドへ取次を頼む。

 

しかしタイミング悪く主人は留守にしているようだ。部屋の中では主人作のエルダーリッチとアルベドが打ち合わせをしている。

 

「あらデミウルゴス、何かあったのかしら」

 

「あぁ、アインズ様にぜひ報告したい事があってね。……アインズ様は外出中かな?」

 

するとアルベドが不機嫌とも残念――これはどちらも半々といったところか――表情を見せる。

 

「えぇ、ちょうど私が外に出ているときに入れ違いになってしまったの……。いじわるな方だわ、いえこれはもしかして焦らしプレイというものではないかしら?先日図書館にいった時そんな事が書かれたあった本があったそうよ」

 

「……なるほど、至高の御方が保管された書物については実に興味を惹かれるね」

 

(全く……先日もアインズ様に無礼を働いたというのに全く懲りていないようだ。いかに守護者統括という立場であれど些か示しがつかないね、これでは。かといって私から何か言っても面倒事になる気しかしませんし……仕方がない、折を見てアインズ様にもご相談してみましょうか)

 

アルベドがまた至高の御方を押し倒そうとした――幸い未遂だが――事は記憶に新しい。今回は謹慎期間も無いようだが主人は少し距離を取られているようだ。1度目は多少同情もしたが2度目、3度目と続いているのではまさに示しがつかない。

 

(……いやよしておくか、私などが口をはさんでしまってはアインズ様のお考えに反してしまう。そもそも私程度の疑念などアインズ様は既に考慮済みに違いない)

 

であれば主人の行動を待つのもそれもまた一つの忠義ではないか、そう納得させる。

 

「ところでアルベド、アインズ様は外出中とのことですがどちらに?供回りは誰が?」

 

「先日見つけた例の街よ、ダージリンといったかしらね。供回りはセバスと裏からはハンゾウがついているわ」

 

「……セバスですか、ハンゾウもいるならば問題ないでしょう」

 

「ふふ、セバスの供回りが不満かしら?」

 

そんなことは無い、主人が考えられた事に間違いなどあるはずない。……だが、確かに自分が供回りを務められたらと思う事も事実である。

 

「……そんなことはありませんよ、ダージリンの街に行かれるという事であれば外見が人間に近いセバスやアウラ、マーレなどが適任でしょう。それに執事という立場であるセバスが行ったほうが今回よかっただけのことです」

 

アルベドも当然そんなことは分かっているだろうに……いやアルベドも同じく供回りの役割ができない事が不満なのだろう、こればかりは仕方がないが。

 

「しかし、ダージリンの街へは何用で?先日行かれた際に紅茶の買い付け等は全て終わっていたかと思いますが」

 

するとアルベドがまた種族らしい、小悪魔――小悪魔という言葉もずいぶん暴力的な意味を含むようになりましたが――ながらも美しい微笑み、悪戯を思いついた表情を見せる。

 

「……ねぇ、デミウルゴス本当にダージリンの街での目的に心当たりは無い?」

 

「……」

 

無いはず、だ。しかしあるという事なのだろう。何だ?自分は何を見逃した。アインズ様が行かれたという事は直接繋がる事ではない、今までにアインズ様が行われた行動を思い出せ、必ずピースがつながっているはずだ。

 

「向かわれる直前にアインズ様はこう仰られたわ、『収穫時だな……』と」

 

自身に電撃が走ったような気持ちになる、全て繋がった。いつからなのだろうか……あの叡智溢れる主人はいつからこのような事を見透かしていたのだろうか。シモベたる我等で気づけた者はいないだろう、もしかすればパンドラズ・アクターであれば気づけたのやもしれない。

 

何という……深謀遠慮という言葉ですらアインズ様のお考えを表すにはまだ足りない。あぁ、非才なこの身であれど至高の方々に少しでもよく使って戴けるよう務めを果たしているが至らなさを実感するばかりだ。

 

「そういう事でしたか……フ…フフッ……震えが止まりませんね。…という事はアルベド、この後の指示を?」

 

「えぇ、アインズ様は私が気づいた様子を見て静かに頷かれたわ。私たちはすぐにその後処理の準備をしておかねばならない」

 

「全くですね、では取り掛かるとしましょう」

 

 

 

 

「――アインズ様、まもなく到着のようです」

 

「あぁ、ではそろそろ姿を変えておくとしよう。……セバス、お前は商会を主に変わり取り仕切っている執事。私は以前ここに寄ったワーカーのダーク」

 

「畏まりました、商会名は如何なさいますか?」

 

「ふむ……オウンゴール商店でよかろう、アインズウールゴウンとも所縁がある名称だがこの名を知っているものは仲間以外いないだろう」

 

「なんと、そのような偉大な名前を使ってくださいますとは……ありがとうございます」

 

「構わん、ナザリックに理があると判断したからにすぎん」

 

(うーん、ちょっと勢いで出てきちゃったけど大丈夫だったかなぁ)

 

ダージリンの街は既に何度もシモベが調査を行った後であり、危険は無いと判断されている。

 

エ・ランテル並みとまでは言わないが一般的な帝国の街とそう変わらない治安だ。つまりこの時代にしてはだいぶいい、凄いね……帝国。

 

まぁ来てしまったからには仕方がないと気持ちを切り替え今回の目的を再度整理する。

 

「セバス、改めて今回の目的について整理しておく不明点があればその場で質問して構わん」

 

「はっ、ありがとうございます!」

 

(ずいぶんとやる気に満ちてるな?まぁセバスを伴って外に出る機会はあまりなかったからなこういった仕事も執事らしいといえば執事らしいしそのせいか)

 

「まず第一、プレイヤーの影、第二に痕跡の調査、第三に……茶葉の買い付けだ。せっかく来たのだからな?」

 

「承知致しました、……畏れながら申し上げますが果たしてこうも徹底的に調査された街で何に気づかれているのかが非才な私では皆目見当がつきません」

 

「ふむ、確かにそうだろう。私とてプレイヤーそのものが残っている可能性は低いとみている、ただ違和感がある事も事実だ。――このダージリンの街に来て確信に変わったがこの街は私が知っている情報が多すぎる――」

 

「っ…!という事は」

 

「プレイヤーが滞在していた可能性は高い。私もナザリックに戻ってから再度調べて気づいたが茶葉の生成方法1つにとってもそれは私たちの世界の手法と非常に酷似している」

 

例えば茶葉の製法にオーソドックス製法という方法がある。この方法はリアルでは昔からの製法ではあるが効率という面ではCTC製法というものに劣る。

 

ここで一つオーソドックス製法、CTC製法というものの違いについて整理しておこう。

オーソドックス製法とは、一言でいえば昔ながらの茶葉でそれぞれの個性を引き出しやすいがそれなりにコストがかかる。CTC製法というものが生まれるまではこれがごく当たり前だった。ではCTC製法とはどういうものだろうか、Crush、Tear、Curl……砕き、引き裂き、丸める……出来上がった茶葉の状態でいえば丸くコロコロとしたものでオーソドックス製法は抽出後茶葉が開いているのに対しCTCはそのまま丸まったままなので違いは分かりやすい。

 

生産性という点のほかにこのCTCという製法は大きな特徴がある。それは抽出が早くミルクに負けない味わいを出すことができる。そう、このダージリンの街でもその情報が溢れかえっている。だが一つ考えてほしい、ここまで繰り返してきたがダージリンはストレート向きの茶葉だ、ミルクティー向けのサイズ、ましてやCTC等ほぼ見たことが無い。

 

嗜好品という点でいえばそういった可能性も無いことは無い、オータムナルという秋摘みの茶葉ではミルクを加える事もアリだと言われることも珍しくない。

 

だが、それでもこのダージリンという街でここまでこのCTC製法が広まっている事は非常に違和感がある。まるで紅茶好きなら気づくでしょう?と誘われているようにだ。試されているようで癪だが、気になってしょうがない事でもある。

 

……考えが少し散らばりすぎたな セバスへの説明ついでに一度整理するとしよう。

 

「このダージリンの街ではCTC製法という手法が広まっている。ただしそれは本来ミルクティー向けの製法、この街で広まるには少々おかしい……がそれも比較できての話知らない者から見たらそういう製法がある程度の事にすぎん。しかしおかしいことにダージリンの製造には一般的なオーソドックス製法という茶葉の個性を活かす製法が使われている。さぁセバスどのような理由があると思う?」

 

「……成程、本来そぐわない製法が表立って使われているとされているのですね……そして気づいた者には……これはもしや釣餌……でしょうか?」

 

(あれ、もしかしたら当然これ気づいたヤツいたら同じ転移者だったと想定されるよな……え、まずくないか?)

 

「フフッ……セバスそう決めつけてしまっていいのか?」

 

 

「……っ!、申し訳ございません!」

 

(落ち着け俺!確かに冷静に考えれば釣餌だ!だが俺は魚か!?ぴちぴちだ!……今度魚も食いたいなぁ……あ、沈静化した)

 

「ふむ、この事は宿題にしておくとしよう。誰かと相談しても構わん、考えてみるといい……そろそろか、セバス最初の目的地はキャッスルトン、町長の家だ」

 

「は!畏まりました!」

 

 

------------

 

「おや?またあんた来たのかい」

 

以前と同じように店の奥のテーブルで茶を啜っていた老婆がカップを上げて挨拶をしてくる。

 

「やあ婆さん、先日は世話になった。今回はちょっとした客を連れてきてな」

 

「あぁん?客?……どうにもこんな田舎には不釣り合いな執事さんだね」

 

アインズ……いやワーカーのダークの後ろからそっと歩く姿はまさに長年主を支え続けた貫録が伺える。

 

「お初にお目にかかります、わたくしセバス・チャンと申しますとある商会で執事を務めさせて頂いております」

 

「いやいや全く緊張しちゃうね、こんな貴族にお仕えする人と話すことなんて滅多に無いんだよ」

 

「どうぞ気を楽にしてください、確かにこのたび主の名代として伺わせて頂きましたがそう堅苦しい理由でもございません。主からはよい茶葉の生産地があると聞いた、ぜひ手に入れてこいと……少し拝見しましたがこの街ならばどのような紅茶であってもきっとお喜びになるのは間違いございません」

 

落ち着きを取り戻した老婆はまず一服しようかと立ち上がり、今日は少しスモーキーな紅茶がいいかねと呟きながら茶葉を選んでいるようだ。

 

(……ふむ、相変わらずこの婆さんは紅茶好きのようだな。以前来た時はダージリンが、ストレートが至高といったようだが今の様子を見るに少し嗜好も変わったのかもしれないな)

 

「お湯が沸くまでちっと待ってくれよ、しかし今回は茶葉の買い付けでこちらさんを案内してきたのかい?ご苦労なもんだねぇ」

 

「まぁな、ワーカーであればそういった仕事もある。ただ今回は護衛のみならず紅茶に関して少しでも心得があるものを……という事だったのでな」

 

「なるほど、確かにあんたはなかなか心得ている。思わず初対面の婆に物申すくらいだからねぇ?」

 

「全く……勘弁してくれ、確かにあれは少々大人げなかったかもしれないがいい切欠だったろう?」

 

以前ダージリンの街に来た時も同じようにワーカーのダークとして振舞っていたアインズだがその時にストレート至上主義ともいうべきこの婆さんの態度に少々カチンときて思わず紅茶(反論)してしまった。

 

少々失礼な行いであったが結果オーライというやつだ、あの時の紅茶対決のようなものはなかなかナザリックでは経験しづらく真正面からぶつかり合う非常に貴重な経験をできた。

 

(……ふむ?紅茶対決か……悪くないかもしれないな。ナザリック内ではもちろんこういった名産地で行うことも非常におもしろく町興しにつながるのではないだろうか?)

 

趣味が8割の考えだが、あながち間違ってもいない。有名な言葉で地産地消というものもある、この地産地消は地元で生産されたものを地元で消費するという意味だ。この世界ではごく普通かもしれないがリアル基準で考えれば今となっては非常にレアだ、物流が発達した世界では容易に遠く離れた名産品を手に入れられるがあえて地元のみで手に入るようにし特色を出させる。

 

この世界でも紅茶はエキゾチックな商品として人気が高い、ただしそれも遠く離れすぎていては一長一短。神秘的な商品としてイメージが作られるが貴族階級以上には普及しにくい。

 

ではどうするか?次に中流階級に普及させるにはちょっとした贅沢程度の距離感を作ればいい。この世界では娯楽が圧倒的に少ない、小さな祭りでも大きな娯楽となるだろう。それが自分たちが普段関わっている名産品ともなれば意気込みも違う。

 

(ふむ……一考の余地はある、デミウルゴス達にも言ったが廃墟の城に君臨するつもりはない。民の活気に繋がれば生産力、ひいては国力にも繋がる)

 

「後でもう少し詰めなければならないな」

 

 

 




ちょくちょくオリジナルの小説も煮詰めていってるんですがそれも四苦八苦しています。

こっちも紅茶の話なんですがね……折を見てまた投稿しようと思います。


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How to make black tea?

ご無沙汰しております。



「ところで婆さん、俺の用件なんだが紅茶の製法についてちょっとな」

 

ワーカーに扮したアインズことダークはカップを掲げながら切り出す。

 

「……いくらなんでも製法は秘密だよ、教えるわけにはいかんね」

 

いやいやと苦笑しながらアインズが手を振る。

 

「そりゃ当然だ、俺だって自分の技や貴重なアイテムをべらべら喋ったりしない。教えてくれというわけではない、ちょっと聞いてほしくてな」

 

「……続けな」

 

そう言って警戒しながらも少し興味を持った様子で老婆は話を促す。

 

「ここの環境、特に気候は非常に特徴的だ。南側の方では雨期には特段雨が多く夏でも気温が低い、山だから当然なんだが……だがな、冬期には雨が全く降らない。これらは茶を植える上で非常に()()()()がかかるだろう」

 

ストレスという部分に老婆が強く反応する。隠そうとしているようだが動揺は目に見えて取れる、今までそんな表現を使ったものは1人しかいないような反応だ。

 

「ふむ、どうかしたかな?……まぁいい、私が知る知識の中にこういったものがある。とある特別な茶は特有の過酷な環境、特に気候条件からその薫り高い香り、マスカットを思わせるフレーバーを生み出す……とな」

 

老婆はじっとこちらを見ている、その表情は読み取れないがどうにも天を仰いでいるような――覚悟した雰囲気すら感じ取れる。

 

「ダージリン製法の不一致――CTC*1とオーソドックス*2――、エリアによる気候環境の違い――過酷な気候環境から生み出されるダージリンの味わい――これらはたった1つの事を除いて魔法を使われていない」

 

 

 

最後の魔法のところで老婆が目を見開く、今までに無い反応だが自分はどこかで見たことがある。そう、ナザリック内で何度も見たことがあるような表情だ。

 

「そのたった1つとは……」

 

「……第6位階魔法、天候操作(コントロール・ウェザー)……この世界では非常に貴重な、使える者は限られている魔法さね」

 

その言葉を言った瞬間にセバスが自分の前に飛び出て戦闘態勢を取る。一瞬で戦闘態勢に移り右手を前に、左手を下げいつでも捌けるような構えを取る……恐らくはモンクの要人警護に向いたスキル。

 

自分もゆるりと立ち上がり、冒険者ダークを装った魔法を解く。絶対死、万全の力を発揮できるオーバーロードの姿だ。もはやこの老婆――本当に老婆かどうかも怪しいが――の前で実力隠す意味は無い。むしろ咄嗟の攻撃に対応するためには悪手だ。

 

「もはや隠す必要は無いだろう?なあ……NPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)

 

 

----------------------

 

この世界に転移してきたのはいつ頃だっただろうか。

 

敬愛ある主人と自分、もう1人のシモベ。たった3人でこの世界に降り立ち世界を回った。

 

途中もう1人がいなくなり主人にどういう理由か聞いたかついぞ答えてくれなかった。

 

彼女には役割がある――あったんだ――と優し気にそう諭すように伝えられた。

 

主人はユグドラシルでは珍しく生産職を中心に取得していた。昔はバリバリの戦闘職だったが少し前、さーびすしゅうりょうとかいうものを聞いてせっかくだからと取り直したらしい。あまり詳しくは聞かなかったがファーマーに関わる上位職だそうだ。

 

転移後にはその実力を遺憾なく発揮していた。荒れた土地を再生させ、自分の知識を総動員させこの地に自分の好きだった茶を定着させた。その地は付近の中でも特別活気ある大きな街へと発展していった、後から知ったが建国にも一役買っているらしい。

 

そうして百年余り過ぎたころだろうか、考えないようにしてきた現実と向き合う時がやってきた。

 

主人の寿命である、エルフと何かのハーフであったためそれなりに生きることができたそうだ。

 

主人は最後に自由にしていいよ、したい事をして生きてくれと言っていた。

 

だが自分は主人と茶を飲む事が好きだった、いなくなってはしたい事ができないではないかと。

 

主人はじゃあ自分が好きだった茶を広めてくれと、その中で自分の生き方を探してくれと言ってくれた。

 

そうして私はこの地の守護者となった。ドライアドでありアルラウネたる私は茶の秘密を守りながらその魅力を知る者にはそっと秘密をもたらそう、そう決めた。

 

 

-------------------

 

「私の生い立ちは以上でございます。何か気になられる点はありましたでしょうか」

 

そう言って跪いて問いかけるのは先ほどの老婆ではない。

 

口調こそ丁寧だが様相は全くの別人。亜麻色の髪、同様に亜麻色がかったワンピースのような服を着て何より身長は130cm程度、幼子のような見た目に変貌していた。

 

「ふむ……その姿がお前の真の姿か?アルラウネ、いやドライアドよ」

 

「はい、私のスキルで外見年齢を自由に変えられるものがありますので普段はあの老婆の姿に。この姿になったのはかつての主を見送った時以来でございます」

 

 先ほどまで話していた老婆はNPCだったといういかにもなオチ。……自分としてはこいつの裏にプレイヤーの影を見ていたのだが、主人はもういないらしい――骨折り損のくたびれもうけ――とまでは言わないが思ったより小さな結果に終わってしまった。

 

 今回の件に自分だけがある程度の確信をもって臨めたのはやはり魔法の効果を熟知していたためだ。第6位階魔法「天候操作」は攻撃的な魔法では決してないため対人戦ではあまり使わない、だがちょっとした時間つぶしに使う事もあり特にブループラネットが第6階層を作成している頃、雨にしたり晴にしたりと色々試していた。

 その時に何度も動きを見ていたが普通の雲にしては非常に早い、ナザリックのNPC達は好んで空を眺めるなどしないだろうがアインズは大自然の光景に圧倒され空を何度も眺めていたので気づけたのだろう。

 

「……口調がどうにも慣れんな、今まで通りの時の口調に直してもらえないか?」

 

「そうですか?わたくしとしても長年あの口調でもあったのでありがたくありますが」

 

ではと言って老婆のように話すのはいつだかペロロンチーノが大絶賛していたロリババアではなかったと思い出す。

 

記憶の中のペロロンチーノがアインズさん、分かってきたねとサムズアップしている。うるせぇ心臓掌握(グラスプ・ハート)すんぞ。

 

「では改めて名乗ろう。ワシは木の精霊(ドライアド)でありアルラウネじゃ、200年ほど前からここで暮らしている」

 

「む?名前は無いのか?」

 

「昔はあったがかつての主人が無くなった時にその名も共に葬った、故に今はただのドライアド、アルラウネよ」

 

そう話すドライアドは外見にそぐわない態度を取りつつもどこか貫禄のある佇まいをしていた。200年以上生きていれば変わるものなのだろうか、だが同じドライアドのピニスンはもう少しバ……いや軽い感じがしたものだったが。

 

「呼び方が無いのも何だからドライアドと呼ばせてもらうがいいか?」

 

「構わんよ、種族名じゃしな。間違っとらん」

 

「ではドライアドよ、いくつか質問をさせてもらおう」

 

名もなきドライアドは実に様々な知識を持っていたが中でも十三英雄の中に様々なプレイヤーが存在した事は驚いた。

 

「……十三英雄の時代では間違いなくプレイヤーは一定数存在していた。たまたま……?あまりにも狙われた偶然だな……」

 

「そのことについては主人も憂慮しておった、なんと不毛なゲームだとも」

 

「……ふむ、あまりにも情報が少ない状況で駒を進めるのは実に愚かしい……がそういえば何故お前の主人はこの地に留まったんだ?」

 

「最後には趣味じゃったの」

 

「しゅ、趣味?」

 

 思わずアインズが聞き直すがドライアドはただ頷くだけだ。聞いていた情報ではこのドライアドの主人はレベル90以上、取得していた魔法やジョブの再構成なども行っているところを見るとレベル100プレイヤーの可能性が極めて高い。

 

この世界では上位0.01%と言っても全くおかしくない力を有し、六大神や八欲王、十三英雄のように行動を起こさないのも珍しく感じる。

 

「左様、なあ不死の王。お主は少々真面目に捉えすぎではないかな」

 

「……」

 

老婆の発する言葉がいちいち耳に障る。

 

「今まで様々なぷれいやーがいた、多くはあまり強くなかったがの」

 

それでもこの世界基準であれば相当な強者なんじゃがのと笑う。

 

「お主は何故そんなにも恐れている?そんなにも残された者の立場を否定したいのか?」

 

「……煩わしい事を言ってくれる」

 

自身が呟くと同時にセバスが瞬時に自分の前に、老婆の前へと立つ。

 

今の一言はアインズだけではない、セバス達ナザリックのシモベ達にとっても大きなタブーだ。以前にセバスも似たような発言をした事はあるが、アインズましてや同じシモベ達では意味は変わる。偉大なる支配者、ナザリックのシモベ達以外は許されない言葉なのだ。

 

だが「止めろセバス」

 

戦いを未然に止めたのは他ならない――鎮静化した――アインズだった。

 

「しかし」

 

「迎撃するなとまでは言わん、一度落ち着け」

 

主人の命により気持ちは切り替わる、一流のモンクでもあるが超一流の執事でもある。主人を諫める事はあろうとも意を汲み取らず逆らうのはそれこそまさに愚物。

 

構えは解きながらも油断のない様子でセバスが佇む。

 

「お前の発言が癪に触ったことは否定しない。非情に不愉快だ、我々の事を何も知らないお前が知ったように語る事は許されない」

 

深く息をつきながらアインズがドライアドへ言葉を吐く。

 

「そこでお主が止めるのは少々意外じゃったがのう……一度は激昂しておいてそのまま戦いにでもなるかと思ったが」

 

 まぁ一番の理由は鎮静化が起こったためだがなとアインズはまだモヤモヤが残っている頭で考える。恐らくこのドライアドは鎮静化を知らない、あくまで予想だがアインズは後天的に人間からアンデッドになったためではないだろうか。

 通常アンデッドは一定以上の感情のふり幅は無く激昂したりも喜んだりすることも出来ずアインズはプレイヤーでありユグドラシルが存在していた頃は間違いなく人間だった。しかしこちらの世界に転移をしてきた際に様々なルールに当てはめられた――もともと所有しているスキルが奪われる事もなく、感情の幅も取り上げられる事はなかったが世界が整合性をとるかのように強制的に鎮静化が行われるようになった――のではないかと考えている。

 

もちろんあくまで予想ではあるがこの世界に何もユグドラシルの影響――特にワールドアイテム――の影響を与えられていないと考える事はあまりに不自然だ。

 

話は逸れたがその結果、アインズは相手の顔を見る余裕が生まれた。

 

ドライアドは悲痛な、しかしどこが解放される事に慶ぶような表情をしていた。

 

ぷれいやーに仕えていたNPCが長い生に飽いてたまたま出会ったぷれいやーに引導を渡してもらうのを待っていた?

 

確かに少しどころではない不快な言葉ではあったが、セバスが先に怒ってくれたおかげで少しだけ冷静になる時間が取れた。

 

このNPCには何か自分が知らないもう一歩踏み込んだ情報を持っている可能性が高い。自分の勘でしかない、全くあてにならないものだ。だが間違いなく他のNPCと何かが違うモノを持っている。それが強さに繋がるのか弱さに繋がるかは現時点では分からないが、未知のモノ、レアであることは確実だ。

 

この時既にアインズは武力での解決は最後にと思い始めていた。別に絶対に使わないと決めたわけではないがこのNPC相手には効果が薄いと直感している。

 

 

 さてどうしたものかとイスに少し深く腰掛けいつもの「思慮に耽るポーズその4」を行い時間を稼ぐ。ここでのポイントは相手のペースに持ち込ませない事だ、相手が話を始めようとしてもこちらが何か思惑があるように思わせ一歩を悩ませる、そして相手の言葉を引き出すもしくはこちらの都合のいい展開に持ち込んでしまうのだ是非皆も支配者になったらやってみてほしい俺何言ってんだろうな?

 

そんな時普段の癖で近くにあったカップを手に取ってしまう。中には淹れたての紅茶がある、一口飲む。なんで?癖どころではない、何も考えずに自然体で行った結果あまりにそぐわない行動をとってしまっている。いやいやこれもうフォローできないでしょドライアドのNPCもセバスも口を開けてポカンとしてるように見えるし。

 

(うん……?紅茶……か、いいかもしれないな。うんまぁこれなら飲んだのが伏線っぽくなるかもしれないしよし!)

 

「全く、つまらない児戯をしてくれるなドライアド」

 

そう言って椅子に肘をつきこちらを見るアインズは正に王、いやこれが王なのだと言わんばかりだ。座っている椅子はもちろん庶民が使うような安物、しかしそれも座る者によっては趣あるアンティークな一品へと表情を変える。ヴィンテージのように古臭くも実用性に富んだそれは非常に完成度が高く上品な仕草をごく自然に支えてくれているようだ。

 

 

ドライアドは先ほどまでとアインズの様子が変わった事に酷く驚く。先ほどまでも間違いなくこのアンデッドは王であった、しかし所詮は()()()()()()()廃墟を根城にする程度の王としか思えなかった。今では人間の王、いや少なくとも多種族を治める王、皇帝のように見えてしまっている。

 

ただのぷれいやーではない そう印象付ける何かがドライアドにはあった。

 

「ほう?言うじゃないかアンデッドの王よ。図星を突かれたことがそんなにも腹立たしいか?」

 

「実に安い挑発だ。たかが数百年を生きた幼子が喚き散らすようで見るに堪えん」

 

だがなとアインズが言葉を続ける。

 

「ここで激昂してお前を滅ぼす事は実に容易い。私でなくともそこのセバスでも十分に可能だろう、しかし私はそれを行わないし行わさせない」

 

「理由は二つ、一つはお前がさらなる重要な情報を隠し持っていると私は気づいている。もう一つは……茶飲みの友人を一つの失敗で見損なう程私は器が小さくないという事だ」

 

セバスが臨戦態勢を続けながらもその言葉に驚く、自身がドライアドの挑発に乗っているところで主人は常に先を見据えていたのだ。主人の圧倒的な智謀に敬服しながらも自身が感情的になってしまうこと強く羞恥を覚える。全くこういった点は強く反省しなければならない例え遠く手が届かない至高なる存在であろうともそれに近づくための努力は怠ってはならないのだ。

 

アインズが椅子からゆるりと立ち上がりドライアドを指差す。

 

「次に会う時にはお前には素晴らしい紅茶を飲ませてやろう。美味いと感じた時には真実を語れ」

 

 

 

 

 

 

 

*1
潰して千切って丸めた小さな茶葉、一般的にはミルクティー向けに素早く抽出できる製法

*2
誤解承知の表現で言うと大きめの茶葉で個性が表れやすい製法




恐らくアインズ以上にやべぇよやべぇよしてる作者です。ついに紅茶勝負が起きてしまった。前話の有限実行だな!どうしよう!


最近たまにコーヒーも飲みます喫茶店限定ですが。

というよりも本を読む時はコーヒーのほうが都合がいい。紅茶ずっと飲んでるとなんか休みとかそういうのがパブロフよろしく紐づけされちゃってる気がして集中出来ない時があります。
(小説書くときは紅茶なんですけどね)

元々はコーヒー屋に勤めてたんで多少は良し悪し分かりますが最近はニカラグアが熱い。酸味系のコーヒーって苦手な人が多いですがこれもまた美味しさを伝えたいですね。



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The Travels of Marco

どうも次話です。あんまり動きは無いですが個人的に好きな回になりました。そう紅茶めっちゃ飲んでるからね!


「あぁ……思い付きであんなこと言わなきゃよかった……」

 

アインズはそう言いながらベッドでゴロゴロと現実逃避をしていた。

 

 先日NPCという重要な存在と接触をした。過去に転移したプレイヤーとともに来た存在のようで貴重な情報を有している可能性がある。だが友好的な様子から一転、こちらを挑発するような態度を取り一触即発の空気となってしまう。

 

「そのまま他の護衛のシモベで始末してしまえば良かった……か?まず間違いなくレベルは80以上、もしかしたらレベル100という事も十分にありえるが……セバスを前衛、中衛にバフデバフに優れたシモベを召還、後衛に俺がいればまず負けない」

 

 アインズのこの読みは当たっていた。ダージリンの街で出会ったドライアドのNPCはレベルこそそれなりに高かったが主として修めた技能が信仰系魔法術師(マジックキャスター)でもあったため99%アインズの勝利は揺るがなかっただろう。

 

 だがやはり怖いのは一発逆転のアイテムの存在だ。世界級アイテム、特に二十のように使い切りながらも絶大な効果を誇るアイテムがあればプレイヤーの1人や2人の戦力はいくらでも覆せる。他に怖いアイテムにカウンターがある、必ず発動というと倍率は低く大したダメージにはならないが5%の確率で大ダメージのようなものは一気に警戒レベルが引きあがる。

 

 ただその手のアイテムって敵が使うと事故が怖くてたまらないが自分で使うと相打ち覚悟くらいの時にしか使えないよなぁとふと昔を思い出してしまう。

 

「……ダメだな現実逃避し始めた」

 

 深いため息をつきながら自分の行動を振り返る。そもそも敵が敵対的なアクションをとっているのに近いしNPCとプレイヤーと区分で意識の外に行っていたが自分は一国の王という立場でもある、無礼な振る舞いをされたのであれば処罰をさせるのは全く問題ない。次からは処そう。

 

 しかし敵の戦力が未知数という事もあったが相手の態度が気になったことも確か。あれはそう……自棄になってるような……。

 

「そこまでは良かったんだけどな……普通に出された紅茶飲んで、ああこれ美味いなとか考えちゃいかんだろ……戦闘開始一歩前だぞ俺……」

 

 そして最終的にはお前を紅茶で感動させてやろうみたいな一言を放ち去る支配者である あ……精神安定化した……。一度退くというのは悪くない判断だ、しかし退き方が不味い。紅茶でどうにかなんのかよ……。

 

 

3度目の精神安定化が発生したところで部屋をノックする音が聞こえる。

 

「アインズ様、お時間になりました」

 

 本日のアインズ当番 リュミエールだ。

 

「分かった……」

 

 まぁ言っちゃったものはどうしようもないよなとようやく考えを切り替える。

 

 

 

 

「リュミエール、この後の予定は?」

 

「はい、2時間後にアルベド様、デミウルゴス様からの報告会がございます」

 

「……そうか」

 

 これから起こる憂鬱な会議に目を背けながら気分転換に紅茶でもと決めて自室に向かう。第九階層の廊下を歩きながら今日は何にしようかと想像を膨らませていたらインテリアの花瓶が目に付く。花の色は純白、気持ちがいいほど煌々と輝いて見える。

 

 これは今日はミルクティーだなと心の中で決め少し楽しみになる。自室に入るとアインズの部屋付きメイド――デクリメント――がお辞儀をして待機している。

 

「おはよう、デクリメント」

 

「おはようございます、アインズ様。お茶の用意は整っております」

 

 何でもうとは驚かない ここ最近は自室に来た際にまず紅茶を飲む事が習慣づいている。魔法があれば紅茶を淹れるのに適した状態でお湯もキープできるので恐らく一般メイドを中心にスムーズな連携がとれるようにしているのだろう。

 

「うむ……今日はミルクティで頼む。銘柄などはお前に任せよう」

 

部屋に緊張――と少しの気合が見え隠れした――空気が漂う。

 

 そもそもアインズの部屋付きメイドの役割は多岐に渡る。アインズ当番とは立場上被ることもあるがアインズの私室は部屋付きメイドに優先権が与えられる。特に多いのがお茶の用意だ、最近では部屋付きメイド日の前には特別講習をアストリア*1に願う者もいるという。

 

「畏まりました……アインズ様にふさわしい紅茶をご用意させて頂きます!」

 

「お、おおよろしく頼む」

 

 目が真っ赤に燃え上がっているように見える。以前リザードマンに拝謁する際にもデクリメントへ服のコーディネイトを頼んだがその時も非常にやる気に満ち溢れていた。そういえばあの時も純白の衣装だった。何かと今日は白、純白に縁があるなとほくそ笑む。

 

既に茶葉をいくつか選定していた様子のデクリメントはこちらに茶葉の入った缶を持ってくる。

 

 余談だが茶葉――紅茶――の缶は一般的には四角い。しかし日本などで好まれる緑茶は丸い缶が一般的だ。これは紅茶輸送の歴史に深く関わっており初期は中国で生産され遠くヨーロッパに運ばれた。その際に効率よく運ぶため四角い容器を使われたことが始まりだそうだ。フタの部分も丸くすることで衝撃や圧力に強くなるのだという。

 

「お待たせ致しました。本日アインズ様にご賞味頂きます紅茶は……中国産の茶葉に花の香りつけを行ったものです」

 

「何?」

 

 思わずアインズも何?と聞き直す、今までほとんどの者はアインズに出す紅茶にフレーバードティ*2をチョイスする事は非常に珍しい。もちろん全く飲まないわけではない、現にベルガモットという柑橘系の香料がついたアールグレイは非常に有名だ。アインズ自身もときおり愛飲している。

 

「申し訳ございません、何かご不快な点がありましたでしょうか……?」

 

 自分の声に反応してデクリメントが委縮した様子で聞き直す。傍でアシスタントをしているリュミエールも狼狽した様子を隠している。

 

「不快などではない、だがその茶葉を選んだ……そうお前のチョイスは非常に興味深い」

 

 これは間違いなくアインズの本音であり本心だ。シモベらは自身の心内を語る事は少ない。アインズを満足させる行動が最優先されると強く考えているからだ。そのためこういったそれぞれのNPCらしさが出る行動はとても気になる。

 

「ありがとうございます!」

 

 大きな声で返答するデクリメントには無邪気さが隠し切れない表情が伺えた。デクリメント自身も恐らく気づいてはいないだろうが至高の支配者たる存在に興味深いと言われて委縮、歓喜、狂喜そういった表情が見え隠れして変わっていく事は友人の子供たちを見ているようで実に微笑ましい。

 

「うむ、さぁデクリメント私に教えてくれないか。この紅茶をチョイスしたお前の考えを」

 

「はい!……ですがこのアイディアは私一人のものではございません。アストリアに特別講習をお願いしその際に思いついたアイディアです」

 

 なるほど、まさにさっき考えた特別講習を受けた者がデクリメントだったのだろう。

 

「構わない、お前のその正直さは美徳だぞデクリメント」

 

 繰り返し恐縮した様子でお辞儀を行うデクリメント、その隣でリュミエールが同僚の上首尾な結果に眼福だといった様子でほほ笑む。アインズ当番はシモベからすれば強大な支配者のすぐ傍で奉仕できる魅力的な立場だ。これはアインズも少し意外だったが更なるモチベーション向上にも繋がっていると情報を得た(ハムスケ情報)。何でも『支配者として君臨されるのを間近で見た後に茶の時間で畏れ多くもお話し頂けるなんてもうマジやばいっす~これがギャップ萌えっすね~あぎゃ!』……ルプスレギナが最後入っていたの何でだろうな……。

 

 ともあれちょっとした語らいが好評であるならば何より。あの時間は自分が何か話すというよりもシモベ達から話を聞くことが中心のため自分としても気が楽な事が多く気晴らしとしても配下の様子を探る意味でも悪くない時間だ。

 

「謙遜する必要は無い、確かにアストリアが持つ知識は素晴らしい。しかしそれも発信しなければただため込んでいるだけと変わらない。知恵の実は独占してこそ価値があるとはぷにっと萌えさんの言葉だったかな?ただそれも狭く捉えてしまっては有効ではない。ナザリックという組織の中で独占しながらもどう仲間たちへ発信を行うかが最も重要だ」

 

 ユグドラシルでも重要な情報は有名なプレイヤー、貴重なアイテム、流行りの武装などいろいろあったがやはり最重要は世界級アイテムだった。そもそもゲーム内で入手数が限られている事は珍しくないがあれほど入手法の情報にも制限がかかっているのも珍しい。どんな敵にも特徴や癖がありそこから情報共有がされていくものだが、ユグドラシルでは「倒す」だけならばそう難しくはない。しかしどう倒すかが重要なのだ。拠点であるナザリックがいい例だ、LV80以上、かつ適正レベルダンジョンを初見攻略すること等かなりの準備と足並みを揃えなければ行えないだろう。

 

「おっと邪魔をしてしまったな。デクリメントよ、茶の準備を続けて頼む」

 

「そのような、至高の御方のお一人であるぷにっと萌え様の御言葉。まさに金言を頂き感激しております……!」

 

 デクリメントが喜々とした様子を見せているのを見てアインズも懐かしい気分に浸る。

 

 思えばぷにっと萌えさんはいつも自分にアドバイスをしてくれていた。強力なPKがうろついていると噂の時、今から正に戦いが始まる時、ギルド戦後や貴重なアイテムを入手できた時、あらゆる場面でそのアドバイスは活かされてきた。戦いばかりではない、この世界に転移してからも大いに役立っている。ただの平社員だった自分が一国の王など出来るはずが無い。しかしアンデッドの精神沈静化、友人達の金言、それは正しく力になってくれている。

 

精神鎮静化しない程度の上機嫌に抑え、デクリメントの様子を伺う。

 

今回の茶葉は『フレーバードティ』

 

 アストリアから紅茶のレクチャーを受けアインズもそこそこ学んでいる。その際、紅茶に対し初心者はまず大別して二つに分けた方がわかりやすいという。即ちフレーバードティ――香りが着香されているもの――かそれ以外かだ。

 

 というのもティーテイスターという職業クラスを得ているアストリアは飲んだだけでどの紅茶を当てる事は可能だ。しかしアインズはとてもそんな事は不可能だ。せいぜい傾向を判別するくらいしかとても出来ない。それでも何度も飲んでいると あ、これはあの紅茶かなとふと閃く事はある。お気に入りの紅茶ならば尚更だ。

 

 最初に飲んだヌワラエリヤは印象深い、アイスティーでも美味かったディンブラは今では定番、ルフナのミルクティーにはミルクという概念を大きく変えさせられた。……そう考えるとブレンドの紅茶というものは案外種類が少ないし、ましてやフレーバードティはアールグレイくらいしか飲んだことが無いかもしれない。

 

 だがこうして考えてみると例のドライアドがダージリンのストレート以外を邪道と思い込んでいた時期があったことは不思議ではない。ダージリンを始め紅茶そのものに素晴らしいフレーバーを持つものがあるのだ。マスカットのような優しさと爽快感を思わすもの、メンソールのようなキリっとした香りのもの。実に多種多様、一口に紅茶と言っても正に千差万別。昔は同じように見えたが今ではそれぞれの違いを知るのも楽しみである事は間違いない。

 

 話が少し脱線してしまったが、要は今まで飲んだものはオーソドックスな紅茶らしい紅茶ばかりだった という事だ。女性などはフレーバーがついたものの方が好む傾向があるとも聞く。……そういえばぶくぶく茶釜さん達もフレーバードティの話題をしていたような気がする。何の花の香りだっただろうか……。

 とはいえアインズもフレーバードティを否定する気は全く無い。要はこれも使い分ければ良い話だ。普段仕事の時は少しキリッとした紅茶などを飲み、休憩などの時には甘いストロベリーやアプリコットの紅茶などを楽しめばいいといったようにだ。

 

 しかし、では今までフレーバードティを飲む機会が少なかったのか?答えは簡単だ、アインズに紅茶を提供する役割が最も多いアストリアがそういった傾向の紅茶を勧めることが少なかったためだ。これもまた機会があれば聞いてみればいいだろう、何かしらの考えがあるのだからそれを聞く事を楽しみにしておけばいい話だ。

 

 準備が整ったようでデクリメントがティーポットを持って歩いてくる。薄っすらと漂う香りは確かに花の香りだ、この身体になる前も花の香りなんてろくに嗅いだことなんてなかったのになと内心で笑う。

 

 さぁ色々と悩む事は多いがまずは紅茶だ。カップに注がれた紅茶の色合いは少し濃いめ、ポットから覗く茶葉はあまり大きくない。ストレートでも美味いがミルクティーにも使えるような大きさ。香りはますます強く感じ辺り一面を花で囲まれたような印象すら覚える。

 

「さて……」

 

 そっと一口。……!?香りとは裏腹にボディのある味わい、芯が通ってるとでもいうのだろうか。これは良い紅茶かもしれないなと一層期待が膨らむ。さらに一口含む。先ほどまでは外からのみだった香りが口に入った事で内側から鼻を抜けるようでこれも素晴らしい。

 

「……素晴らしい。良い香りだなと最初から感じてはいたが、それは口に含む事でより一層強くなった。まるでオーケストラのように体に響いてくるようだ」

 

「まさに!この紅茶の素晴らしい点は意外性に満ち溢れております。さすがはアインズ様、繊細な舌を持っていらっしゃいます!」

 

 デクリメントが興奮した様子で絶賛する。この賞賛はあながちただのお世辞というわけでもない、事実香りにすぐ気づける人というのは少ないものなのだ。アインズが自然に紅茶を楽しみ知ろうという行為の結果に他ならない。

 

「世辞は……と言いたいところだが、オーケストラというのは悪くない表現だったかもしれないな」

 

 なるほどこれがフレーバードティかなかなかどうして悪くない。確かにこれならば普通の紅茶――ここではダージリンやウバ等フレーバードティではないものをノンフレバードティと仮称する――ノンフレバードティとは違った魅力を実感する。先ほどの使い分けと自分では思っていたがこれほど華やかな紅茶ならば場もさぞや賑やかに彩ってくれるだろう。しかし……

 

「なるほど、確かに素晴らしい紅茶と言っても過言では無い。しかしデクリメント、私が望んだのはミルクティだ。ミルクを加えてしまってはせっかくの香りが台無しになってしまわないか?」

 

 このアインズの指摘は正しい。例えば先ほど例に出てきたアールグレイにミルクを加える加えない論争は絶えない、というのもアールグレイの良さとはベルガモット――柑橘系――の爽やかな香りであり柑橘系とミルクの相性はあまり良くない。そのためアールグレイの香りを大事にする人ほどミルクを加える事は邪道!と叫ぶ人がいる。好きに飲んで飲ませろよ……と思うところだがまぁもったいないと思わなくもない。

 

 リュミエールが心配そうな表情でデクリメントの様子を伺っている。なるほど同じ一般メイドでも年下の妹のように感じているNPCはいるんだなとふと思う。ギルド内ではあまりそういう事は無かった。ぶくぶく茶釜とペロロンチーノ、やまいことあけみ*3実際にいる姉弟と妹のように思っている事ではまた全く別物なのだろう。

 

 しかしリュミエールの心配とは裏腹に自信に溢れた表情を見せるデクリメント。

 

「はい、仰る通りでございます。しかしその上で申し上げます、()()()()()()()()()()()()()

 

 静寂が部屋に満ちる。現在部屋にいる者はアインズ、一般メイドのリュミエール、デクリメント。さらには護衛の八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)が数体。

 

……しばらくしてあ、これ俺が命令しなきゃいけないのねと気づく。どうにも締まらない間が出来てしまった。

 

「よかろう、デクリメント」

 

 アインズが深々と頷き促す。……何でこうミルクティーを飲むだけでこんなに緊張してされなきゃいけないんだ……。やはり今の現状はちょっと方向性がおかしくないかと改めて思う。

 

 そんな間に紅茶にミルクが注がれる。なるほど注がれた瞬間から確かに花の安らかな香りは弱まった。香りという点だけならば確かにデメリットだろう、しかし単なるデメリットを作るだけというのはいかにもな罠だ。ユグドラシル、いやシャルティア戦のPVPでも似たような事はあった。アンデッドの弱点である炎と聖属性の攻撃を誘導したようにだ。つまりこの状況は誘われているのだろう。

 

 なるほどなるほどこんな風な読みあいであればちょっと楽しい。もちろん同様のケースであればある程度は予想がつくが素直にひっかかってみるのもいいだろうと決めミルクティーに口をつける。

 

「……ほう」

 

 無意識に感嘆した声が出てしまった。なんとこれは凄い。本当にこれは紅茶なのか?俺は別の飲み物を出されてうっかり飲んでしまっていないかと思わず疑ってしまうところだった。もちろんそんな筈はない、先ほどまで飲んでいたものは間違いなく紅茶であり、それにミルクが注がれる瞬間をアインズはしっかりと見ていた。

 

「……何かを言う前に、デクリメント……は当然これを飲んだ事があるだろうが、リュミエールはどうだ?」

 

「いえ、ございません」

 

「そうか、ならば飲んでみるといい。いいだろう?デクリメント」

 

「はい、もちろんでございます。リュミエール」

 

 一度はリュミエールも固辞するが、二度目には言葉を受け入れ席へ静かに着く。実に美しい所作だ、……改めて思うが一般メイドは美人揃いである。いや他のシモベらも多くがそうだが……戦闘能力が無い分余計にその美しさが目立って見える。デクリメントがマニッシュのショートカットで活発そうなイメージがある元気系の可愛らしい子というイメージ。対してリュミエールはブロンドの長い髪が女性らしさを際立て、上部分の縁が無い赤い眼鏡が知的さをより印象付けている。

 

 身近に美人が多すぎて麻痺してきていないだろうか……と心配にもなるがまさかアンデッドに美人局を試みるチャレンジャーはいない……いないよな……?リボンのついたスケルトンとか来たらどうしよう……。……あ鎮静化。

 

 席に着いたリュミエールがデクリメントの給仕を受け、カップに手を伸ばす。

 

「……リュミエール、なかなか綺麗な手をしているな」

 

いやもちろんどのメイドの手も綺麗だと言われればそうなんだろうがこうまじまじと他人の手を見る事などあまりないため妙に目についてしまう。

 

「へえっ!?お、恐れ入ります」

 

 何やら部屋がざわざわとしている、何だろう。何かやらかしただろうか気のせいと思うことにしよううん。リュミエールの様子はすぐに普段通りになり、ようやくミルクティーに口をつける。

 

「これは……素晴らしいです、なんとまろやかで口当たりの良いミルクティーでしょうか。何より後味に優しさを感じます」

 

「うむ。あぁデクリメント、ストレートでも一杯淹れてやってくれ」

 

デクリメントが頷き、リュミエールがかすかに顔を動かし謝意を示す。

 

 

「……確かにこれはストレートを飲んだ後にミルクティを飲むと驚きます。主張されるものが全く違うように感じます」

 

「その通りだ。ミルクティにすると味に柔らかみが出来るものが多いが……。そうだな、これは紅茶でありながらココアのようなとろみとコク。包まれるような味わいだ」

 

「まさに、こちらの紅茶はアインズ様の慈悲深い御心、バニラを思わすような白の色合いはまさにイメージにぴったりかと!」

 

 慈悲深いかどうかはさておき確かに素晴らしい期待以上の紅茶であったことは間違いない、このような紅茶もあるのかと改めて唸らせてくれた。

 

「……ところで、この紅茶の名称は何かあるのかな?」

 

基本的にフレーバードティの名称は香りのものをシンプルに使われている。ストロベリー、バニラ、レモン、カシス、ピーチ等だ。しかし世界的に有名なアールグレイのように例外も存在する。

 

 

「はい、……東方見聞録でございます」

 

 

 

*1
第九階層で喫茶店を担当する一般メイド オリキャラ

*2
花や果実の香料をつけた紅茶

*3
別ギルドのやまいこの妹




お待たせしました。

この紅茶も現存する紅茶のブレンドをもとにしてます。まぁそれを言うのも野暮なので何となくわかるようにはしてます。何となくじゃねぇな割とストレート。

これを書くまでに4回くらいその紅茶を飲んでたんですがそればっかり飲んでもいけませんね。他の紅茶も飲んでみないと比較が上手くできませんでした。


あと、最近コーヒーももう一回勉強しなおすかとちょくちょく家で練習しています。以前に入れ方もやりましたがだめだこりゃとなって一回消しています。

色々詰め込みすぎた感があるのでまた何かしらテーマを絞ってやってみたいですね。


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The Travels of Marco Ⅱ

お待たせしました。

そろそろ寒い時期になってきました。11月は紅茶の日と言われるイベントも各地で多いので是非一度お試しください。


『東方見聞録』 一度は聞いたことがある人はいるのではないだろうか。

 

 あいにく歴史には詳しくないためあまり知らないが、アジアを旅した者の旅行記と聞いた事はある。なるほど、いわばシルクロードをイメージされて作られた紅茶かもしれない。自身が住んでいた日本もアジアに属していたが……海外旅行などは当然行った事も無いので全くイメージなどつかない。しかしながら旅行記とはとどのつまり冒険だ。未知を探求して何かを探し求めて旅をしていたのだろう。

 

 思えばこの世界で冒険らしい冒険はあまりしていない、ドワーフの国に行った時位だろうか。しかしその分冒険者を『発見者』*1という形でサポートしている。特に以前、虹のモックナック達から考案されたハーブティはポーションとの相乗効果も十分に可能性があるとンフィーレヤが興奮した様子で語っていた。確かどこかのパーティに試験的に持たせたデータがあったと思ったが……ど忘れしてしまった……あとでまた書類を見返そう。

 

 そう考えるとこの紅茶の過程やいきさつに興味が沸かないでもない。ただそれも()()()()()()だ。自分自身がそもそも紅茶について興味を持った理由は今は予想がついている。……どうにも周りから過大評価されっぱなしな事が多く、自分を見失ってしまいそうになる。だがここで踏み止まる、ここで踏み止まらなく、不安を持たなくなった時『鈴木悟』の残滓は消滅してしまったに違いない。

 

 ……こんなふとした事から自分自身について考え直すなど思ってもいなかった。そう自身……ん?

 

「如何なされたでしょうか、アインズ様」

 

 リュミエールがいつの間にか立ち上がりこちらの様子を伺う。デクリメントは飲み終わった茶の片づけをしていた。――もうそんな時間が経っていたか。

 

不安そうな表情がますます強くなるリュミエール、護衛の八肢刀の暗殺蟲も雰囲気が変わり緊張感を持つ。

 

「いや……ちょっとそうだな、思い浮かぶ事があっただけだ。しばらくそのまま楽にしていろ」

 

そうアインズが命令を下し、部屋をゆっくりと歩く。

 

 整理をしよう、今自分が悩んでいる事は何か?あのドライアドへの対応だ。軍勢を出し潰すのは容易い、だがそもそも自分があの場で敵対しなかったのは相手の行動に違和感を感じたためだ。何故違和感を感じたのか、あの場で無意味な挑発を行われたからだ。レベル100だから賢いという決まりは全く無いが愚か者ではない、と何となく直感はある。

 

 では愚か者ではないNPCが何故こちらを挑発をしたか?攻撃させるため?カウンタータイプのスキルでもあったのか。……それも盾となるシモベがいれば問題ない、世界級アイテム以外でアインズが一撃で倒されるなど考えにくい。……攻撃の意思ではない?死ぬことが目的だったとでもいうのだろうか。確かに過去の情報を辿ると主を失ったNPCは暴走傾向にある事は間違いない。穏やかに生きているNPCが非常にレアなのだ。

 

 「それだ!」

 

思わず叫んでしまいリュミエール、八肢刀の暗殺蟲のみならずデクリメントも慌てた様子で駆け寄ってくる。

 

 何でも無いと手を振りシモベらを落ち着けさせる。……今の考えは恐らく鍵だ。穏やかなNPC、主人を失った状態で。従属神という言葉が残っているように過去のNPCも主人への忠誠心は篤かったと推測できる。問題はその理由、時間が経って落ち着くようになった?無くもない、時間が解決してくれるという言葉もあるのだから。だがやはりこれも同様の問題にぶち当たる。どうやって最も不安定な時期を乗り越えたかだ。ナザリックのシモベらを見ていると自分が死んだ後に殉死する者が出ても全くおかしくない。それは友人の子を預かっているアインズには到底我慢できない。

 

 いくつもの案を考えるがどれも説得力に欠ける。こういう場合はいつもどうしていたか?簡単だ。調べて自分で考えて分からないのならばわかるものに聞けばいい。

 

 

「リュミエール、デクリメント」

 

『はい、アインズ様』

 

 傍に控えていた二人がすぐに応える。こちらの考えを邪魔しないようにしていたがいつでも主人のために何かできないかと待機していたようだ。さっきまで自分が死んだらNPCがどうとか考えていた自分が少し情けなく思う。どうあれナザリックのNPCがやりたい事とは造物主に、ナザリックの主人に仕えたい事に他ならない。それをどうするか、考えるかは本人たちの問題だ。今は無理かもしれないが……いつかはそれぞれの生き方も見つけてほしいものだ。

 

「二人に質問がある、不快な事だが正直に答えてもらいたい」

 

畏まりました、勿論ですと返答が来て今からする質問が実に億劫に感じる。

 

「私が死んだ……そう、何者かの手によって滅ぼされたとしよう。その際にお前たちはどうする?」

 

「あってはならない事です。すぐにアルベド様、各階層守護者の方に報告しアインズ様の復活へと行動致します」

 

「許されない大罪です。私如きが門外漢の戦闘について語る事は許されませんが……その者のみならず一族郎党を凌遅刑にするべきでしょう」

 

 ……リュミエールの答えは予想に近かったがデクリメントは思ったよりも過激だった。凌遅刑とかどこで知ったんだよ……タブラさんか死獣天朱雀さんあたりも知っていたかもしれないが。まぁ表現はどうあれNPC達はアインズを害したものを許したりは決してしないだろう。それを言葉にするかしないか程度の差でしかない。しかし……復活、そう復活か。

 

「ふむ……そうか、ありがとう。実に参考になった」

 

滅相もございませんと頭を下げた二人を下がらせる。

 

 なるほどいつの間にか自分の考えは少し凝り固まっていたようだ。確かにシャルティアの例を見るにNPCに関してはユグドラシル金貨さえあれば復活することはできるだろう。しかしアインズは?……残念だが過去のぷれいやーが表立って存在していない事を見るに復活は出来ない。もしくはレベルダウンを考慮するならば回数は有限で、というのが希望的な考えだろう。だがNPC達は理解しながらも目を背けている事がある、()()()()()()()()()()()()()()()()()という可能性だ。

 

 恐らく過去のNPCも主人を復活させようとして失敗し、狂っていったのだろう。……少し考えが逸れた。針路を修正し改めて考える。ではその例に従って例のドライアドも狂ったとしよう。どうして戻れた?どうやって正気に戻れた?もしくは。

 

 空っぽな頭蓋に電撃が走る。そうかそういうことかそれならば納得がいく。ドライアドは恐らく今でも正気なのだろう、NPCとしては正常だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。自分の仮説がもし正しいのならば……

 

「……この世に神がいるとするならば何と歪な形で願いを叶える事か」

 

 思わずそうぼやいてしまう。あのクソ運営も大概だったがこれを狙ってやったというのならばあまりにも趣味が悪い。ひとまずこの案は自分の中でもう少し整理しておくとしよう、問題はその先だ。

 

 先ほどから堂々巡りをしてしまっている気がするが結局のところただのこれに過ぎない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。先の件で分かったがドライアドは死を恐れていない。死に向かってすらいる。であれば単なる脅しは逆効果にしかならない。どうにもこの世界に来てから今までやったことなど碌にない事ばかりと遭遇する。まぁただの会社員がそんなことに遭遇する事等ないが……。

 

 ふむ、いやしかし会社員か。確かに考え方としては悪くない。スケールが大きすぎるから訳が分からなくなりすぎるのだ。魔導国の指針を決めた時と同じだ、自分が一人の会社、そこでただ一人の営業マンであることをイメージすればいい。相手はなかなか心を開かない顧客。しかし重要な情報を持っているかもしれない。何としてでも切欠を掴みたい、そんな状況だ。

 

「魔導国の素敵な統治」そういった商品を売り出す時にまず考えたのは誰が必要としているかだった。その一環として冒険者組合を取り込み冒険者からすれば非常に魅力的な条件をあの時は提供できた、いや出来ている。あれも最初はぼんやりとしたアイディアに過ぎなかった、まずはあの統治が誰が必要としているかという情報を冒険者組合で得ようとして行ってみたらあれこれはと思いプレゼンが上手くいったに過ぎない。

 

では、自分が今持っている情報を整理しよう。重要な情報を持っているNPCがいるが生半可な方法では説得が出来ない。説得をしようにもそのとっかかりが掴めていない状況だ。ではどうするか?①過去に同じケースは無かったか。妄信的な過去追従は愚かだが、そこから学べる事は多い。

 

 このケースに最も近いのはあまり直視をしたくない現実だが自分だろう。言葉にはしたくないものばかりだが何となく思う事、伝えたい事は分かっているつもりだ。()()()()()()()()()()()、な。

 

 次に②どうすればその考えを伝えられるか。アインズ自身が克服などとは思わない、前向きにこの世界で生きていられるのはとどのつまりナザリックがあるからだ。自分と同じように残された存在……いや遺された被造物達。かつての仲間を恨む事は最早筋違いだ、彼らにも大事なものがあってそちらを優先したに過ぎない。……つまり例のドライアドに必要なものは生きる目的、だろう。

 

……ダメだな、考えがぐちゃぐちゃしてきた。こんな時は……。

 

 

「リュミエール」

 

「はい、アインズ様」

 

「アストリアのところへ向かう」

 

 そう伝え扉へ歩を進める。いつのまにか部屋付きのデクリメントが扉の前でスタンバっていた。……早いな。

 

 

 

----------------------

 

 本日のアインズ様当番である私は朝から緊張と喜びで胸がいっぱいだった。もちろん今までもアインズ様当番を務めた事はあるがいつだって前日は楽しみでしかたなく、どのような事を行えば満足頂けるかを常に考えてしまっていた。休息を十分に取れと言われているにも関わらず切り替える事が上手くいっていない自分を恥じる。

 

 とはいえ、最近では同僚のアストリア主催による紅茶の勉強会もなかなか楽しい。先ほどデクリメントも話していた勉強会だが当然私も参加経験がある。今ではアインズ様が紅茶を嗜んでいる事はナザリック内では当然の認識だ。であれば今まで通りのレベルで満足していては私たちを創造して下さった至高の御方々に合わせる顔が無い。

 

 私の時には第1、第2、第3階層守護者のシャルティア様もちょうど参加されていた。何でも季節によって違う紅茶が手に入ったという事に興味を示されたとのことだ。シャルティア様も以前から紅茶を嗜まれるという、きっと創造されたペロロンチーノ様がとても高尚なご趣味を持っていたのは想像に難くない。シャルティア様は普段ストレートを好まれるようだが、最近アインズ様がミルクティにも目を向けられているという事で興味を持ったそうだ。シャルティア様も深い知識がおありだろうに慢心されずさらなる知識を求められる姿勢はまさに見習うべきものだ。

 

 その時の勉強会では私もフレーバードティについて学んでいた。正直フレーバードティは一段下に見ていた事は事実でもある。というのも紅茶単体であれほど素晴らしい香りを楽しめる。それをあえて人工的な香りで着香することは無粋極まるのではないかと思ったためだ。しかしそんなそんな考えはまさに浅慮だったと言わざるを得ない。私がその時飲んだ紅茶はアールグレイだった、というのもやはり最も有名なフレーバードティと思ったためだ。

 

 まさか同じアールグレイでも香りの強弱であれほど変わるとは……、()()()()()()()()()()()()()()()()()事で組み合わせる菓子を強調させるとは。誰もが紅茶をメインにしてティータイムを過ごされるとは限らない。であれば提供される菓子をメインする必要も当然必要だ。逆に単体でじっくりと楽しまれるのならば穏やかに着香されたアールグレイは際立つ。あれは同じ奉仕をする立場の一般メイドをして完璧と言わざるを得ない。

 

 そのアストリアのところへ今からアインズ様は向かわれるという。主に満足できる紅茶を提供出来ないことは不甲斐ない事この上ないが、同時にアストリアがどうアインズ様が求められる紅茶を出すのか同僚としてとても興味深い。ただの模倣をするつもりなど毛頭無い、より素晴らしい紅茶をアインズ様が求めらているのならば烏滸がましい事ではあるがアインズ様の想像以上だと仰って頂ける紅茶を目指すべきだ。それこそがメイドとして当然の心構えだろう。

 

 

そんな事を思いながら私はナザリック第九階層 喫茶店のドアを開いた……。

 

 

 

 

 

 

*1
戦うだけの冒険者から新たな価値、新たな方法を模索する新しい生き方、通称 ディスカバラー




最近昔の話を読み返しながら紅茶の好みリストとか作っています。

例えばアインズはヌワラエリヤ、ディンヴラが好きだけど朝はミルクティー向けの茶葉を好きとか。

オリジナル設定ながら楽しいですね。オリジナル小説とかってこういうところからも始まるのかなとぼんやり考えました。

次回またなるべく早めに投稿いたしますのでよろしければ紅茶に対してどういったイメージ等感想頂けますと励みになります。

よろしくお願いいたします。


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No tea, no life

そろそろ年末ですがあまり寒くはないですね。

少し前に亀山紅茶という日本の紅茶を飲む機会がありました。個人的には和紅茶(日本の紅茶)の中で一番好きです。

まだまだ和紅茶は方向や方針みたいなものを模索している最中なイメージを感じますので決めつけはよくありませんが……。

個人的に伸びてほしいジャンルではありました。


アインズが第9階層 喫茶店に訪れた時、アストリアは既に扉の前で待機しており深々と頭を下げていた。

 

「ご来店をお待ち申し上げました。アインズ様」

 

アインズはうむと頷き奥の最も良い席に案内される。

 

 以前は四季折々の風景がみれるよう調整したこともあったが現在はスタンダードな喫茶店になっている。窓の外から様々な光景が見れればそれは一つの彩りとして申し分ない。しかし何かを主張したいという時でなければ少々煩わしいと思ってしまう、今がそんな時だろう。

 

 傍でアストリアが直立不動のまま控える。いつの間にか手元にはおしぼりが置かれ水もメニューも用意されている。そのメニューを眺めているとなかなか賑やかになっていた。

 

「中々メニューが充実してきたな。以前に比べてこちらの方が私は好ましい」

 

「ありがとうございます、至高の御方であらせらるアインズ様にご満足頂けますようさらにサービスの向上に努めていきます」

 

 以前にアインズメニューなるものが誕生したが*1それ以外にも当然メニューはある。一般的な喫茶店でも時季のおすすめがだいたい最初や別紙にあり、その後にはレギュラーメニューがある。

 

自分が気に入ったメニューを作ってくれるというのは――あまり記憶力に自信が無いアインズとしては思い出すきっかけにもなるため――とてもありがたい。しかしそればかりでは新しい発見が無い。であればどうするか、簡単だおすすめを案内してもらえばいい。

 

 正直なところ最初はお世辞にも読みやすいメニューではなかった。……いくらなんでもあいうえお順にただ名称が並んだメニューは使いづらい辞書とさえ言えない。分からないメニューは名前からもろくに連想できない。興味本位でウィンナーコーヒーを頼んだ時少し予想外なこともあり動揺してしまった。……いや分かるはずないだろうホイップクリームが乗ったコーヒーであるなど。

 

 ここはアストリアに任せられている。拡大解釈をしてしまえば領域守護者といってしまっても差し支えない。であれば基本的にここから出ない。常にアストリアからのサービスを受けられるのでメニューの名前さえ聞いてしまえば完璧な答えがすぐに返ってくるだろう。他のものならば……という注釈がついてしまうが。

 

 非常に記憶力がよく相手の何手先をも読み尽くすと誤解されているアインズがごくごく一般常識のものについて聞いてしまってはシモベ達の手前恐ろしい展開になりかねない。アインズとしては紅茶を楽しんでいる時は気兼ねなく、ストレスフリーに楽しみたいのでそういう面倒な事を取っ払うためにメニューの修正を命じた。

 

 第9階層の施設を以前から解放しているが、その推進とも言い換えられる方法だ。まぁ要は誰でも使いやすくするためにメニューをもっとわかりやすくしろそれだけの話だ。結果的に写真もつき初めて飲む人にもおすすめな種類が案内され実に良いメニューになった。

 

そしてメニューを眺めていると一つとても気になる文章が見つかる。

 

『本日のアインズ様紅茶』

 

「……アストリアよ、このメニューは?」

 

「はい、アインズ様が召しあがられた紅茶を1つピックアップさせて頂き限定メニューとして出させて頂いております!」

 

アインズは何かとても自分のプライバシーが流出している気がした。いや間違いなく流出だ。

 

「ほ、ほう……しかし私が飲んだ紅茶とわざわざ同じものを飲みたい等という者は……」

 

「毎日10人の限定としておりますが昼頃には無くなってしまう程です」

 

「…ア、ハイ」

 

 最近精神安定化の発動が緩くなっている気がするが……冷静にはなれた。まぁ別に隠しているものでもないし中には自分が美味しいと思った紅茶も多い。であればその良さを共有出来るのであれば自分としても楽しみにはなるだろう。これがアインズからメニューに入れろと言っては間違いなくただのパワハラだが……。

 

自由意志で勝手に楽しんでくれている分に関しては細かい事はとやかく言わないでもいいだろうと匙を投げる。

 

「そうか……まぁやりすぎないように」

 

そう言うアインズによくわからないといった表情を見せながらアストリアが元気よく返事をする。……大丈夫だろうか。

 

 とはいえここに来たのはただの気分転換でもあり答え探しのためでもある。どう相手に伝えるかは非常に難しい。友好的な関係を築いていた相手でもニュアンスや誤解でいくらでも崩壊しうる事はある。そして相手が心を決めているとなればそれは話を聞いてくれない事に等しい。まずは相手を話を聞くテーブルに着かせるそのためにここに来たのだ。

 

「アストリア。一杯目はお前に任せよう」

 

 アストリアの眼に炎が見える。待っていましたと言わんばかりだ。近くで控えていたリュミエールから薄っすらと息を呑む。アインズ本人は知らない事だがアストリアの紅茶講習をリミュエールは受けている。いわば先生のお手本を間近に見れる機会というわけだ。

 

「畏まりました。アインズ様」

 

熱意を出しながらも瀟洒という品の良い顔立ちを存分に発揮しながらアストリアが準備を行う。

 

 さて今日の紅茶は何だろうか、と予想する時間はなかなか楽しい。お任せで一杯というのは言うなればホストの腕の見せ所だ。アインズであればまず何を確認するだろう、食事をとったか、これからか。今日はこの後外に出るのか、外気温はどの程度か?といったような事だ。冬で寒いのであれば少し生姜をきかせたジンジャーティーというのも悪くないだろう。

 

 ……こういったアイディアはナザリック内では弱い。というのも状態異常無効化等のアイテムがあればいらぬ心配だ。しかしだからこそ状態異常無効化を持っていない人間からすればこういった心遣いは暖かく感じるものだ。

 

 そういった工夫もあれば新たなアイディアも浮かぶに違いない、とアインズはこれからに期待をする。……ふむ今日は何の紅茶だろうか。先ほど飲んだ東方見聞録の味を思い出す。

 

 ストレートで漂う華の香り。口に含んだ瞬間にカップの残り香と喉の奥から鼻に抜ける香りはまさに溢れんばかりの花束だ。その印象を大事にしつつミルクを加える事で花束は鳴りを潜める。しかし花束でできたクッションのようにそっと包まれながらも優しい味わいとコクを残す絶品だ。だがこれを超える紅茶等今すぐに用意できるのだろうか……?

 

 恐らく自分が東方見聞録なる紅茶を飲んだ事はアストリアに知られている。先ほどのアインズが飲んだ紅茶にしても自然と共有されている位なのだからそう考えた方が自然だろう。

 

 まぁ無理だろうなという思いもありながらどこかで少し期待をしている自分もいる。サービスとはとどのつまり期待以上を求められる難しいものだ。喫茶店であれば紅茶、コーヒー、軽食を食べるといった事をするだけでない。リラックスしながらも期待以上のサービス、驚きが無ければ次も利用しようとは思わないだろう。

 

 そうこうしている間にアストリアの準備が終わったようだ。ワゴンに載せられたポットは白を基調にしつつブルーラインが入ったシンプルなものだ。こういったシンプルさに少しだけアレンジを加えたデザインは嫌いではない。今日のティーカップやポットはそういったデザインで統一されているのだろう、カップにもソーサーにも同じようなデザインがされている。

 

 

 喫茶店に来て紅茶を飲む、普通だ。しかしそこに来て客が自分にふさわしい一杯をと注文してくる。何と面倒な客だろう……と思う人もいるだろう。アインズもそう思っていた。昔どこかで読んだ小説にバーテンダーと客がそういって対決するものを見た事がある。あの時はどうしていただろうか……あの時だとバーテンダーはそんな事をする理由は2つに1つだと言っていた。単に嫌がらせをしたいか、何か答えをほしいかだ。

 

 ではその時の客は何を求めていたのだろうか、その時では孤独を感じていた、自分がやってきたキャリア、行いが全くの無駄でなかったのではないか。ただただ現実と夢の違いがつかなかくなった哀れなドン・キホーテではないのかと。

 

 こんな答えは千差万別極まるし真実などころころ変わる。しかしかけがえのない答えこそはあらゆる仮定を考えなければ何よりも自分が納得が出来ない。何百の仮定から生まれる過程こそが大事なのだ。

 

 

---------

 

 アストリアの準備が出来たようでサーブされた紅茶はいつもより深い色合いを感じる。

 

 一杯目の紅茶で何を出すか、これは非常に難しい。先ほども少し考えたがアインズが他の者に出すならばまずは徹底的に情報を得るところから始まるだろう。本人の好み、体調、外気温、これからの予定などだ。例えばこれから人と食事をするというのに軽食と合うような重めの紅茶はあまりそぐわない。

 

 まぁ一杯目は様子見という手段で悪くない。戦闘でもまずは一当てするという事はままある、そこから得られる情報は驚くべき程多い。ユグドラシルでいえば初っ端に特殊なバフをつけて段階的に強化されていく敵がおり、そのバフをどうやって解除していくかがキーとなることもあった。ユグドラシルのようなゲームであればギミックはいつか必ず判明する。だが紅茶はとどのつまり嗜好品だ、人によって合う合わないがあるがそのあたりは紅茶にとって非常にハードルは低いと感じている。

 

 例えばコーヒーなどは人によって飲めないという人も多いだろう。だがアインズは元日本人という観点からしてもお茶――緑茶や紅茶、烏龍茶――が飲めないという人には会ったことが無かった。さらに紅茶は緑茶や烏龍茶に比べ砂糖やミルクでの調整を行いやすい。嗜好品として楽しむのであればこの融通さは大きなメリットだ。

 

 さてアストリアは私に対してどのような紅茶を出してきたかなと考える。まず間違いなく『東方見聞録』なる紅茶*2を意識したものだろうと。

 

 ではそれに対する対比だろう。恐らくフレーバーティ、それも特徴ある……

 

 

「アインズ様、お待たせいたしました」

 

 アストリアが淹れた紅茶から漂う香りは特徴的だった。紅茶を嗜む者からすればああこの紅茶かと思わずにはいられないほど。漂う()()()()()()は多くの人が好む香りだ。聞けば大昔のとある伯爵が東方から渡った紅茶に感激し、それに似た紅茶を探し出すように命じた。

 

 その結果、自国でもその紅茶を作りたいという思いからベルガモット――柑橘系――を使った恐らく世界で最も有名なフレーバーティが生まれた。

 

 そっと口に含む。当然この紅茶は飲んだ事がある、しかし改めて飲むと素晴らしい香りの一言だ。『東方見聞録』が優しい味わいに対してこちらの紅茶はこれでもかという位香りが主張をしてくる。まさにフレッシュフルーツを齧っているかのような清涼感だ。

 

「なるほど、アストリアのチョイスはこの紅茶だったか」

 

「はい、アインズ様が本日お召し上がりになられた『東方見聞録』は比較的新しい銘柄です。それに対して古い銘柄……という事は些か安直すぎますので少しだけアレンジを」

 

ほうとアインズが興味を持つとアストリアがそっとミルクが入ったポットを差し出してくる。

 

「……この紅茶はあまりミルクが向かないと思っていたが?」

 

「はい、一般的にダージリンと同様にその香りの良さをミルクが消してしまいます」

 

 ならば何故わざわざそのような事をとは言わない。何か狙いがあった上で出しているのだろう。頷いたアインズを見てアストリアがおかわりにミルクを加えた紅茶を用意する。

 

先ほどの状態と打って変わり香りは全くしない。良さが消えてしまった。もったいないという思いを少し思いつつ口に含む。

 

「……驚いた、確かに香りは微弱だが鋭さまでも鳴りを潜め別物だな。……なるほど、意図して香りを弱くしたな?」

 

「一杯目はストレートで好まれる方も多いですが2杯目、3杯目を別の味で楽しまれたいという方は非常に多い紅茶でもあります」

 

さらに一口、……美味い紅茶を飲むと心が安らぐのはストレートでもミルクでも変わらないらしい。

 

「アストリア、この紅茶……()()()()()()をどのような意図で出してくれたのかな?」

 

『アールグレイ』 正しく世界で最も有名なフレーバーティ。前述したが中国から伝わったとある紅茶を気に入ったグレイ伯爵が命じ作らせた事が始まりだ。何と言ってもその特徴は当時シチリアで作られていたベルガモットというレモンににた柑橘系の素晴らしい香りだろう。世界で様々なブレンドはあるが恐らくほぼ全てで作られているといっても過言では無い。

 

「はい、私はアインズ様が飲まれた紅茶を全て網羅させて頂いております」

 

「えっ?」

 

「その中で、アールグレイを何度か淹れさせていただきましたが全てストレートに向いた強い着香のされたタイプです」

 

「いや全部……って」

 

「世界各地に同じ名称の紅茶はありますがアールグレイほど多種多様なフレーバーティは類を見ません」

 

「まあ…いいや。うん……」

 

正気にもどった。……まぁ衝撃発言だったがいいや忘れよう。

 

「なるほど、同じアールグレイでも作り手の考えで全く違うものになるか」

 

「はい、例えばですが紅茶にも流行り廃りがあります。アールグレイが流行した時にはどういった菓子とのペアリングが最適かは大きなテーマになりました。ストレートで非常に個性が強い紅茶ですがそれに合わせた菓子もより強い味わい、チョコレート等の強い甘みのものが好まれます。しかし、一口程度であれば気にしませんが量が多くなると少々もてあますのは正直なところです」

 

「……少な目で満足すればいいのではないか?」

 

「あら、アインズ様。差し出がましいですがレディにお菓子を控えろというのは野暮というものです」

 

アフタヌーンティでも女性がマナーを破っても紳士は見て見ぬふりをすることがマナーですよとアストリアは悪戯が成功したような笑いを見せる。なるほどまさに甘いものは別腹ということだろう。

 

「失礼いたしました、その際に特に好まれたのがミルクティによってその油分をさっぱりとさせる事です。お菓子以外にも油分のあるチーズとの相性は抜群です」

 

「素晴らしい提案だ。確かに紅茶単体でも素晴らしいがよりお互いの味わいを引き立てるとするならばそれはまさにマリアージュ *3といえる」

 

あぁ……リラックスできるなあ……紅茶。この後の打ち合わせも俺抜きでやってくれないかなぁ……無理か。

 

出勤が近づいてくるサラリーマンのようにのんびりと覚悟を決める様子は傍から見れば随分と順応しているように見えただろう……。

 

 

 

----------------

 

 

会議後----アストリアside----

 

 アインズ様へ見送った後、数人の来客をもてなし少し休憩をしていた。と言ってもただだらけているだけではない。新たな提案を行うため試行錯誤の真っ最中でもある。しかし非常に珍しい事にその手に持っている物は……コーヒーサーバーだった。

 

「失礼しますよ」

 

「あ、セバス様いらっしゃいませ」

 

 セバス様が訪れる事は珍しい。普段はエ・ランテルやアインズ様の傍で控えている事が多く顔を合わす時にはアインズ様が一緒な事も多いためだ。さすがにシモベ同伴で第9階層の喫茶店に訪れる事は少なくシャルティア様、アウラ様、アルベド様位だろう。……あれ多い?

 

「珍しいですね、セバス様がこちらに来られるなんて」

 

「一応あなたも私の部下ではありますからね。たまには様子を見に来た方がいいかなと」

 

 私の顔を忘れてしまっても困りますからねぇと笑うセバスは以前に比べれば随分と好々爺とも言える雰囲気が出ているように思う。少し前にツアレなる人間のメイドを拾ってきた時はナザリック内がなかなかピリピリしていたが、ある程度分別が済んだ後では問題らしい問題も起こっていない。

 

「あははは、本当ですよー。セバス様にも定期的に私の淹れる紅茶()をしっかりチェックしてほしいんですから」

 

 これは心からの本音だった。紅茶のみならず嗜好品というものは当然だが好みが出る。自分が美味しいと感じる味わいでも相手の体調によっては違和感を強く感じるという場合がある。今準備しているものもまさにそうだろう。

 

「それはすまない事をしました。ではさっそく今からチェックしても?」

 

喜んでと答えたいところだが、今から淹れる物が物だからちょっと確認したい。

 

「はい、ただ……実は今から淹れようとしているのは()()()()でして」

 

「ほう、珍しいですね。貴方が紅茶以外を淹れるのは」

 

「まぁ……そうですね、確かに紅茶ばっかり飲んでいますからね。美味しいですし」

 

 コーヒーが不味いというわけではないのだがどうにも紅茶内で完結してしまう癖がある。要は軽い飲み物が欲しいなぁと思えば水出しのアイスティーを用意するしガツンとこってりとしたものを飲みたいなと思えばルフナ*4を使ったミルクティーを淹れるだろう。

 

「コーヒーを今まで淹れなかった……という訳ではないんですがね。ここ最近の紅茶程に高いレベルを求められなかったのは確かです。ちょっと勉強し直そうかなと」

 

「ふむ……慢心はしていないようですね。安心しました」

 

 慢心等できようはずもない、自分はティーテイスターの職業クラスを得ているがすなわち紅茶に関しては()()()()()()()という事だ。他の一般メイドならばよく出来ていると称賛される事もあるだろう。しかしながら自分はまずその一般メイドに教える立場。分からない事を教えて当然、その一歩先にいるようにしなければならない。

 

 セバスの懸念ももっともだろう。というのもティーテイスターという職業クラスがある事はすなわち失われないスキル。モンクが戦闘スキルをごく自然に使うようにティーテイスターという中に紅茶の知識、技術はふんだんに盛り込まれ使うことができる。

 

 しかしながらコーヒーとはティーか?いや間違いなくティーではない。ハーブティやフルーツティならばまだ議論の余地があるだろう。だがコーヒーは珈琲でしかない。そのためスキルに()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「だからこそ普段から忘れないよう、新たな提案を出来るように学ぶ必要があります。私個人としては紅茶を最も好んでいる事は間違いありませんが食わず嫌いはもったいないので」

 

「もったいないというのは少々気になる表現ではありますが……少々意味は違いますが温故知新という言葉もあります。自分が持っている技術を再度見直す事も時には発見となるでしょう」

 

 よいことですと頷くセバス。……やっぱりお爺ちゃん化が最近進んでいないだろうか。そのうち孫の顔とか言い出しかねない。いやでも最近似たような事をコキュートス様が言っていたような……私が知らないところでそういった動きがあるんだろうか。

 

「……実際のところ、私はコーヒーの知識が十分とは言えません。後になってアインズ様へお出ししたものが万全でなかった等という事があれば悔いても悔い足りないでしょう」

 

「それは間違いありません、私は執事(バトラー)であり貴女はメイドです。いわば仕える方に期待以上のサービスを行う必要があります。その努力を怠ってはいけないでしょう」

 

まさしくセバス様の言うとおりだ。そのためにも私は紅茶()()()()()()()()()()()()

 

「はい、そのためにも改めましてコーヒーの手解きをお願いいたします」

 

 

*1
アインズのお気に入りとしてメニュー表に加えるようにしたもの

*2
ストレートでは華やかな香り、ミルクティにすると柔らかくコクがありココアのような優しい紅茶

*3
料理とワインの相性が良い時の表現

*4
スリランカ低標高、ミルクティーに向いた濃厚な味わい




多分アストリアのコーヒー話は続きません。どっかで関連した話はいれるかもしれませんが。

コーヒー知らないと紅茶と比較できんよなぁという気持ちはあるんで上手くストーリーに関わらせた話は書きたいところ。

他にちょっと興味があるのはチョコレート。昔はカカオが通貨に使われたとか色々逸話があるようです。




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幕間 エ・ランテルの喫茶店 上

こういう方が書きやすい。という所感


「はー、最近はどうにも売れ行きが変わってきてんな。以前も需要は多少はあったが、最近は極端だ。どう思う?」

 

「間違いなく変わってきていますね、オーナー」

 

エ・ランテルで喫茶店を経営する二人。オーナーのトムズ、店長のトーマス。彼らは昔からの付き合いでエ・ランテルでもそこそこ名の知れた喫茶店 「朱の大輪」を運営していた。

 

 名前から察せるようにかのアダマンタイト級チーム「朱の雫」からあやかってつけられた名前だ。とはいってもオーナーであるトムズがちょっとした昔の知り合い程度の関係にすぎない。彼らが駆け出しの頃になかなかの手柄を立て、評判になった事がある。その時丁度店をオープンしようとしようとしていた自分達がその勢いにあやかろうということで一文字貰うことにしたのだ。

 

 朱の雫のチームリーダーであるアズス・アインドラはまだまだ無名だった自分達に目を付けた事に気を良くし快諾。今となってはその話になるたびにお前らは先見の明があったなとたびたび笑い話になる。

 

「エ・ランテルが魔導国領となった前後あたりでしょうか。紅茶への需要が急激に上がっています」

 

「分かるわー、この前卸のノキ*1がにんまりした顔で答えやがった」

 

 それはぶん殴りたくなりますねと店長が毒づく。

 

 彼ら「朱の大輪」は喫茶店であるため当然紅茶も取り扱っている。だが、それのみを専門としている訳ではない。今まで主力であったコーヒーの消費が落ち込みさらに冒険者……いや今では探索者(ディスカバー)*2なる者により「ハーブ」というポーションとはまた少し違った回復薬の活用も生まれている。

 

 要するに方針の転換、軌道修正を行う必要があるのだ。今まで喫茶店で求められた事とは簡単な飲み物と食事だ。昼頃には近くで仕事をしている者たちで賑わっていた。夜には酒をメインに出す事でうまくやりくりをしてきた。

 

 とはいっても彼らはもともと昼の喫茶をメインにやりたかったのであり酒メインの夜は当初に採算がとれなくやむなくとった手段でもあった。彼らは昔から趣味で好んでいた事もありコーヒーや紅茶に対する造詣は深かった。

 

「つってもなぁ、いや別に紅茶をメインに取り扱う事自体はいいんだよ。好きだし……ただなぁ」

 

「ええ、今までとは求められる事が違いすぎています。よもや紅茶の種類や農園などを気にし始める市民が出るとは」

 

 まさに驚くべきことはそれだ。今までメニューにはただ「紅茶」としか書いていなかった。だがここ最近はこの紅茶は何の紅茶だ?という問い合わせが相次いでいる。

 

「異常も異常だ、ノキみたいな専門の業者なら納得できるがふつーの農民でも最近は銘柄を気にして飲んでるらしいぜ?」

 

時代は変わったなとトムズが呟く。

 

「いい事でしょう、嗜好品としての幅が広がる事は我々にとってもビジネスチャンスです」

 

「そんなよーお堅い感じに飲みたくねーんだよー俺はよー。嗜好品なんて飲んでうめぇ!もう一杯!てな」

 

「貴方はもう少し自分の舌を大事にした方がいいですよ?顔は手遅れですが」

 

「え、何で顔の話題出したの?」

 

「大変残念ですが繊細な舌を持っているのでそれを活かさないのは罪というものです。顔はともかく」

 

「いや何リピートしてんの?アフタミーなの?」

 

一応上司であるトーマスを無視しつい先日買ってきた紅茶を取り出す。

 

「まぁそんなことより帝国の方で話題になっている紅茶、ダージリンです」

 

「おお!これが!ん~爽やかな香りだ。これが噂のマスカテルフレーバー」

 

私も初めてでね、一息つきましょうかと淹れる準備をトーマスが始める。

 

------

 

「うめぇな。砂糖やミルクなしのほうが香りや味が引き立つ」

 

「そうですね、私はミルクティーが好きなんですがこれならストレートでも全然美味しい」

 

「で、この紅茶をわざわざ入手して淹れたってのはワケがあんだろう?」

 

本当にこういった事には察しがいいですねとトーマスが苦笑する。

 

 

「先ほどオーナーが言っていたようにメインで売るものを変える事はさして難しい事ではありません。今私たちの店は『飲料がそこそこ美味しい店』程度の認識です。変えたからといって店を変える人は少ないでしょう」

 

 それが今までの需要だ、食事を行い酒を飲む。その時にちょっとしたこだわったコーヒーや紅茶を出して客にお?美味いなと思わせる。その程度でちょうどいいのだ。

 

 だが流行とは常に変わっている。最近エ・ランテルでは紅茶が急激に流行っている。それも単純に「紅茶」というだけでない。ストレートに向いた茶葉がダージリン。ミルクティーに向いたサバラガムワといったように。

 

 全てを取り扱う必要は無い、しかし喫茶店を経営している立場からすれば敏感にならざるを得ない。……しかし問題はどれを選べばいいのか だ。

 

「確かにこのダージリンはうめぇ、少し前に飲んだサバラガムワってのもなかなかだった。……だけどそれだけだ一言で言うならばウリがねぇ」

 

箔がついていないとトムズが呟く。

 

 そうただ新商品の紅茶ですと売り出しても目新しさしか無い。よくて一過性のブームにしかならない。それは少しカードの切り方としては勿体ない。

 

「まー、じゃあ何のアイディアがありますかっていうと無いんだけどな!」

 

(笑)とした顔を向ける。あれ駄目だ腹立つなこの顔、顔パンパンマンにしてやろうか。

 

「声に出てんぞ……相変わらず口が悪ぃな……まぁいいやトーマス、店長としてお前から何かアイディアは?」

 

「ふむ……何でも挙げるのならば、冒険者需要でハーブティですかね。自分で淹れるのは億劫だ、上手くいかないという層は多いと思いますので。後は食事に合わせた紅茶の提案位でしょうか」

 

凡庸ですねとトーマスが呟く。

 

 確かに冒険者需要でのハーブティというのは悪くない。女性に対して一定の需要が見込めるだろう。特に冒険から帰宅した時に売上が期待できるはずだ。しかし……

 

「確かに悪くねぇ、だが最近は冒険者が街からしばらく出ている事も多い。何よりハーブは癖がある並行して進めるのはアリだがメインにはちと弱い」

 

 自分のアイディアをばっさり否定するトムズだがあまり不快には感じない、自分もあまりこれだというものを感じなかったし、どうにも新商品で推すとかそんなようなくくりから抜け出せていないように思うのだ。

 

「……アイディアの方向としては間違っていないような気がするんですよ。要は新商品としてただ出すだけでなく何か別のコトを合わせて提案すればいいかもしれません」

 

「成程、確かにアリだ。その方向は面白い」

 

 こういった時にはまず頼りにするのはやはり過去の成功事例だ。以前上手くいった事は同様に上手くいく可能性がある――かもしれない――。とはいえとんとあてもない状況で話し合っても話は進まない。まずは何かしら一つの方針を決めそれに基づいてやってみる、ダメならまた変えてやってみる。それだけだ。

 

「ん~最近の流行りっていうとさっきのハーブティが記憶に新しいが……、ん?そもそもおかしくねぇか?冒険者がなんでこんなハーブティなんて発見してんだよ」

 

「いやさっきも言ったでしょう、以前と少し冒険者の形態が変わってきていると。新しい素材の発見、既存技術の効率的な躍進も考えられているそうです」

 

「ほ~ん、なるほどねぇ。そういや最近賑やかになってるもんなぁエ・ランテル」

 

魔導国になったばかりとは大違いだだと笑いながらトムズが喋る。屋内なのでまだ大丈夫だがあまり声を大にして言うべきことではない。最近では警備のアンデッドに多少慣れたが夜中に出会うととんでもなく驚く。

 

「なあその冒険者組合にちょっと頼ってみるのはどうだ?」

 

 また突拍子もない事を言うとトムズがため息をつく。しかしいつだってトムズが思いつく事は極端な事が多いが、なんやかんやで6割は上手くいく。……思ったよりも少ない。次からは疑おう。

 

「反論は置いておいて、何を目的に行くんですか?何か素材の採集であればまずその素材すら決まっていない段階でしょう」

 

「お前のそのとりあえず話を前向きに考えてくれるところは良いところの一つだな!」

 

それを素直に褒めるところが貴方の美徳ですよとは言わないでおく。

 

「まーとりあえずだ、何の素材かってのはひとまずおいといていいと思うんだ。今までのシンプルなお願いみてーな依頼以外にも受けてくれるんだろ?なら極端な話、新しい飲み方なんかねぇ?ってのでもアリかもしれねぇじゃん」

 

「さすがにそれは極端すぎですが……まぁ確かにどんな形になっているかは調べる必要がありますね」

 

 確かにトムズの言い分は一理ある。今までのスタイルと変わっているならば新たに依頼を出す事で解決することもあるだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()を確認することでその傾向が分かる事は間違いない。

 

「よし!そうと決まったらいっちょ冒険者組合にいこうぜ~久々だな~依頼出すの」

 

まだ決まった訳ではありませんけどねと苦笑しながら飛び出したオーナーを追いかける店長だった。

 

 

-----------

 

 

 

 エ・ランテルの冒険者組合、以前ではミスリル級冒険者チームを3人擁し最近ではアダマンタイト級冒険者チームが誕生したという今最も勢いのある冒険者組合と言っても過言では無い。

 

 魔導国になってから活気は悪く余所の都市へ移るチームも出始めようとした……。しかし帝国の闘技場にてアインズウールゴウン魔導王によるスカウト、冒険者組合の国営化宣言により事態は大きく変わった。

 

 最初は疑心暗鬼に苛まれていた冒険者チームもアダマンタイト級冒険者チーム「漆黒」の実績、さらにはそれに続くミスリル級冒険者チーム「虹」による既存技術、知識の発展――ハーブティによるとポーションの相乗効果――は二の足を踏んでいた冒険者チームにとって大きな後押しだった。

 

 実績を出した「虹」への報酬は受け取った当人らよりも周りのほうが驚くほどのもので更なる話題を生んだ。今まではモンスター討伐にのみ心血を注いだ冒険者だったが、戦闘力以外にも徐々に様々な物へ投資をする事が増えてきた。

 

 分かりやすい例が先ほどのハーブティとポーションの混合物だ。噂では元エ・ランテルの最高の薬師、ンフィーレア・バレアレが辺境の村でポーション作りを行っている。ハーブの採集もンフィーレア・バレアレからの依頼で行われたものだ。今までは当人が同行し薬草採集に向かう程度しか行えなかった。そのため近隣しか赴きにくく、何より戦闘面でのカバーが非常に難しかった。

 

 ところが新たな冒険者組合のスタイルが出来上がってからは専門の知識を持つものから――採集に向いたドルイドやレンジャーに――簡単なレクチャーが行われ、より効率的な採集や採集ミスが減少した。

 

 当初は貴重な知識をばらまくようで多少なり非難があったが、魔導王直々に『この程度の基礎的な知識はいずれ広まる。今先んじておくことが何より重要だ』と推し進めた――国営の施設だからこそ出来る施策だろう――。

 

「簡単にご説明させて頂きますと以上のような状況です」

 

 そうにこやかに挨拶をしているのはエ・ランテルの冒険者組合 受付嬢だった。先ほどエ・ランテルで依頼版を眺めている二人に受付から声がかかり、具体的にどのような依頼が出ているのか案内をしてもらったのだ。

 

「はーん……、採集程度はともかくその活用を実際に動いている冒険者達にやらせるとか確かに今までのやり方じゃねぇな」

 

「ええ、依頼の内容が発展的です。基本的な情報を掴みその上でいざ実際に現場で使われる方法、求められ方を明確にさせようとしている」

 

 トーマスの意見は正鵠だ。この依頼で最も重要な事は現場でどう求められているかだ。長期的な遠征すらありうる冒険者からすれば荷物は軽く小さい方がいい。効果が高いのならばなお良い。――正解を求められていないのだ。不便な事は何ですか、どうだと問いかけている――。

 

「ですが、このやり方は確かに効果的かもしれませんが冒険者によってはいい加減な事をする事もないのでしょうか」

 

「ええ、確かにそういったケースがないではありません。なのである程度すり合わせが出来る方々を中心に行っています。簡単な等級制限はありますがその等級以上の冒険者から推薦があれば問題なく行う事も出来ます」

 

「ほぉ……成程、逆に言えばコネさえあればってな」

 

トムズが疑うような声を出すが受付嬢は想定されていたように返答する。

 

「そういった例もございます。ですがそれで信用を失うのは紹介した冒険者です。――ひいては最終的な統括を行われているのはアダマンタイト級冒険者モモン様ですので――」

 

 なるほど。確かに魔道国の豊富な軍事力から得られる利益は莫大なものだろう。それを独占しようとする輩には青天白日の元、清廉潔白に遂行するかの英雄モモンがいるとなれば綱紀は揺るがない。

 

「ほぉ~ん。……なるほどね。おいトーマス閃いたぜ」

 

「え?やめましょうよろくでもない顔してますよ」

 

「馬鹿言うな超キメ顔だっただろ」

 

「ロボトミーされてるような顔でしたよ」

 

「何ロボトミーって!?言葉だけでも何か怖いんだけど!」

 

「それはともかく、どういったアイディアですか?」

 

「……まぁいいや、実はな――」

 

 冒険者組合の一角でトムズがアイディアを語り始める。予想外に大きい声は仕切られた隣のテーブルまで聞こえるほど白熱したものだった。

 

「なるほど、確かにそれは……冴えていますね」

 

うん、うんと頷いて聞いた内容を咀嚼しより理解を深めるトーマス。

 

「だろう!確かにこの仕組みはスゲーがまだ浅い。出来立てだ。ベテラン同士ならまぁ逆に何が苦手だってくらいで通じるんだけどな」

 

「ただ問題点は……コネですね。これを私たちがいざやろうとしても少々突発的ですし実績がありません。どう話を持っていけばいいのかが分かりませんね。――かなり上位の人に話通さないと不味くないですが――」

 

と、最後にトーマスが呟く。

 

「それがなぁ、それなりにエ・ランテルにはいるから組合長とも全く面識無いってわけじゃねぇがとてもよく顔を合わせてるとは言えねえ」

 

 そう結局のところ同じ問題なのだ。自分達と恐らく若手達が持っている悩みとは。()()()()()()()()()()()()

 

恐らく今までは複数のパーティが必要な依頼や銅級の時に世話になった宿屋で――相部屋などで――横のつながりが出来ていたのだろう。しかし今は以前に比べて下積みの時間が非常に少ない。要は初心者として卒業するまでの期間が早いため、同期との繋がりが非常に弱い。

 

トムズとトーマスが話し込んでしまい大分時間が経っていた。

 

「ん~、あとちょっとなんだけどな。まぁいいや喉も乾いたし一度戻って紅茶でも淹れようぜ。もう1種類くらいあんだろ?」

 

「相変わらずおかしい嗅覚してますね。そうですけども。確か……希少な紅茶らしいですよ」

 

隣のテーブルから揺れる音がする。落ち着きがない。

 

「ほぉ、いいねぇさっき飲んだダージリンとはまた別物か」

 

「ええ、ダージリンとはまた違う形で香りが豊かでしたね。フレーバーティ?というものらしいですが」

 

足をテーブルにぶつけたような音が聞こえる。鎧でも来ているようだが……どうにも隣の席の人はそそっかしいようだ。

 

「考えてばっかりもいけねぇな、早く飲もうぜ!なんて紅茶だ?」

 

「確か……」

 

チャイという名称でしたかね――いやそれフレーバーティじゃねぇ!という声が聞こえすぐに隣から勢いよく声がかかる。

 

「ンンッ、すまない、ちょっと話が聞こえてしまったんだが良ければ私が相談に乗ろうか?」

「いやまぁフレーバーティとも言えなくもないのか……?」

 

 二人が圧倒される。黒いフルプレートは正に深い漆黒、下品ではない程度にあしらわれた文様、背中には一つでもとてつもない重さが伺える大剣が二振り。誰が見ても只者ではないと唸らせる風貌だ。

 

「あ、あぁ。そりゃありがてぇが……冒険者さんか?」

 

ちらりと首元に目を向けると見たことが無い金属が首にかかっている。――見たことが無いという事はミスリル、プラチナではない。まさかオリハルコン?いやオリハルコンは見たことが無いがもっと輝きがあるものと聞いたことがある。となると――。

 

漆黒 そうトーマスが呟く。

 

「これは失礼した。私はアダマンタイト級冒険者チーム「漆黒」のモモンだ」

 

よろしく頼むと朗らかに手を差し出してくる冒険者に私たちは呑まれっぱなしだった……。

 

 

 

 

*1
エ・ランテルで主に紅茶の卸業を営む男

*2
新しい発見、既存の技術を新たな技術への発展を目的とした今までのモンスター退治の専門家のような存在から脱した冒険者の事




クリスマスチャイ、クリスマスティーってのもあったりします。何故クリスマス前に投稿しなかったかは一昨日思いついたからです(小声


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幕間 エ・ランテルの喫茶店 下

後半です

最近の流行りはニルギリです。
インドの紅茶でスリランカ系に近い味わいです。
同じインドのダージリンやアッサムに比べマイルドな仕上がりになってるので悩んだ際には参考にして頂くのもアリかと思います




「お邪魔する。……なかなかお洒落な喫茶店じゃないか」

 

「2階はな、1階は冒険者が結構来るから少し荒っぽい」

 

 喫茶店「朱の大輪」は2階建て。1階はよくある酒場の雰囲気だ、しかし2階はゆっくりとした時間を楽しめるように趣を変えている。これは効率的かどうかと言われれば決して効率的とは言えない。どちらも冒険者向きにした方が間違いなく集客は上がる。だがそれを許してしまうと彼らの()()()()が薄れてしまう事への抵抗にも思えた。

 

「かけてくれ、今トーマスが茶をきっと淹れてくれている」

 

「準備がいいな、阿吽の呼吸のようだ」

 

「阿吽?まぁそうだな、頼んでないけどきっとやってくれてるさ」

 

 おいっとアインズは思ったが、オーナーのトムズは見た目通り少々粗暴で雑なところがあるが気持ちのよい男ではある。対照的にトーマスは細やかな気配りが目立つ男だきっと期待通りにやってくれているのだろう。

 

「しかし冒険者が茶を嗜むってのは珍しいねぇ、いや馬鹿にしているつもりはないが専らお供はエールだろ?」

 

「夜は飲む事もあるがな、私は元々そこまで飲まん」

 

 口唇蟲の力で飲食可能になってからもサラリーマン時代の名残かどうしても昼間っから酒を飲む事は躊躇われた。それにそんな金があるならユグドラシルに……というのは今更な話だ。

 

「そうなのか?まぁそういう冒険者がいてもおかしくはないか。むしろアダマンタイトまで成り上がったというのなら納得できるしな!」

 

ガハハハと豪快に笑うおっさんこそエールこそが至高の友という顔だが……存外に酒はあまり飲まないのかもしれない。

 

「ただ茶に興味を持ってるのは本当だぞ?産地によって変わる味わいは素晴らしい。最近興味を持ち始めたのが遅すぎたと悔いるばかりだ」

 

「お、なかなかわかってるじゃねぇか!だがまぁそこは今からでも知れたと思っとこうや!俺だって最近飲んだ茶をもっと早く知ってたら良かったと思う事はあるが明日からでも楽しめるって思えりゃ万々歳よ」

 

 あまりの前向きさに思わず苦笑してしまう……が不快ではない、今のご時世酒場を運営する事は珍しい事では無い、しかしわざわざ喫茶店をメインにしたいと考えるのは珍しい。何と言っても儲からないからだ。

 

 紅茶の歴史は深いが、大きく躍進したと言える時はやはりイギリスで飲まれるようになってからだろう。世界中に植民地を持っていたイギリスで上流階級、そして平民、果ては貧民階級までも茶を飲む事が当たり前になっていた。

 

 当時はイギリスを中心に回っていたと言っても差し支えない時代、植民地――言ってしまえば田舎――の民からすればそれは憧れの象徴だった――はるか東方から伝わった神秘溢れる品、まさにエキゾチックな東洋の神秘――と。

 

 その幻想はまだこの世界では起きてはいないようだ。大国は植民地を所有している国は無く、自国内であからさますぎる格差を行うところもないだろう。

 

 格差があり、憧れの品をという経緯があったからこそ紅茶はイギリス内で広まったのだ。当時の家計簿に当然のように茶葉代が記載されており貧しい家庭までに浸透していた事がわかる。喫茶店などで馴染み深い紅茶に金を出す事もごく一般的だったのかもしれない。

 

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「お待たせ致しました。こちらが巷で噂になっているというチャイになります」

 

「ありがとう。……茶まで淹れてもらった後で改めて自己紹介をするのもなんだが、モモンだ。突然伺ってすまない」

 

「いえ、そのような。冒険者モモン様のご高名はかねがね。エ・ランテルで知らぬ者などおりません」

 

顔はほとんど見たことが無かったためすぐに気が付けませんでしたがとは言えない。トーマスは気づかれぬよう祈りつつカップにチャイを注ぐ。

 

「あんた有名な冒険者なんだなぁ、強いのか?」

 

「まぁ……それなりですよ、多少は荒事を経験していますので」

 

 アインズは薄っすらと感じていた事に驚く、エ・ランテルでは最も有名と言っても過言では無い存在になったモモンをまだ知らない者がいたのだ。考えてみればアインズも隠遁した魔術師という設定で当初は動いていた。そういった狭い生活圏内で行動をしている者はいるのだと。

 

「それよりも突然すいませんね、そのチャイという紅茶にどうしても興味がありまして」

 

「いやいや、気にすんな。俺らも試飲するところだったんだ。あんたも紅茶に目が無いんだろう?それならかたい事は言いっこなし。おすそわけだおすそわけ」

 

笑いながらトムズがカップを持ち上げ、ぐっと飲む。

 

あっとアインズが声を上げる前にトムズが一息に飲み込んでしまう。

 

「ぐぉおおおおおおおおおお!!!!!なんだこれいてぇ!辛いぞ!!?」

 

「……何をやっているんだか、あぁモモンさん飲む前に言うのも野暮ですがこちらのチャイという紅茶、スパイスが少なくない量はいっております。勢いよく飲むとこうなりますので気を付けてください」

 

「ア、ハイ」

 

そんなような記憶があったので飲む前に少し香りを嗅いで確かめていたのだが……。悲しい犠牲だ。なかなかいい香りである。

 

「……そうえいばモモンさん、飲まれる時もヘルムを外さないので?」

 

「あぁ、失礼しました。最近どうにもつけっぱなしでね」

 

アインズはヘルムを取り、幻術をかけた顔を見せる。

 

「おや、東方の方だったのですか。そういえば少し前にこの町に来られたのだったのですね」

 

「ええ、まぁ依頼などでね。ただちょっと顔は隠しているわけではないのですがあまり広めたいわけでもないので……」

 

何となく、トーマスは納得をして頷く。……漆黒の剣の時もそうだったが幻術の顔はリアルでの鈴木悟だ。平凡な顔立ちで英雄然とした顔とはとても言えない。

 

「ふぅ~酷い目にあったぜ。おお、モモンさんどうだ?チャイの味は」

 

いつの間にか復活していたトムズが席に着きなおす。

 

「いえ、これからのところですね。ただ香りは……やはりスパイスが強く出ていますね。シナモンやクローブなどでしょうか」

 

「いい鼻してるぜ、あとはカルダモンだろうな」

 

すぐに判別するトムズも只者ではない。1種類の香りならばすぐに分かるがブレンドされている香りをすぐに当てるのは普通の嗅覚では不可能に近い。

 

「なるほど、そこまでは分かりませんでした流石ですね」

 

褒められる事に慣れていないのかトムズはそっぽを向いて照れを隠す。

 

「香りは独特だが良い。だが……これは」

 

「ええ、かなりストレートでは持て余しますね。ミルクティにしてもまだ……」

 

トーマスが頷きながら言葉を続け、ミルクを加える。

 

「……多少はマイルドになりましたがこれは人を選びますね。抽出の具合にもよりますが、かなり強い」

 

「不味い訳じゃないんだがなぁ、癖が強すぎる」

 

「確かに、これ単体で飲んでいる時はともかく他の物と組み合わせる時にはかなり神経を使いそうです」

 

 このアインズの指摘は正しい、チャイは紅茶にスパイスを加えたものだ。すなわち味の主張としては非常に重い。現在楽しまれている紅茶はお茶のように飲むか、何か軽食等と組み合わせて飲むという事がほとんど。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ん~新商品としてはちっと悩むな。紅茶の良さを消してると言われたら反論できん」

 

「そうですねぇ……まぁ保留ですかね」

 

「ふむ……ちょっとアイディアがあるんだが……試してもらってもいいか?」

 

そう申し出るモモン(アインズ)に二人は顔を合わせた。

 

 

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トムズside

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 冒険者組合で突然話しかけられた時には驚いたが、話してみるとなかなかこだわりのある男のようでおもしろい。それがアダマンダイト級冒険者モモンの印象だ。

 

 紅茶好きな冒険者がいる と噂になっていた人物も恐らくこのモモンじゃないか?と感じる。何より紅茶好きな奴に悪い奴は()()()()いないが持論だ。魔道王のようなアンデッドにはこの良さは分からないだろう、……分からないよな?スケルトンが飲食を行うという話はとんと聞いたことが無いが高位の魔術師とも聞く魔道王は飲食を出来たりするんだろうか……?まさかそんなはずはないだろう。

 

 まぁモモン殿が詳しいと言っても本職は冒険者だろう。まさか喫茶店で勉強をしたはずもないし何だったら少し紅茶について教えてやろうと思ったが……今回淹れた紅茶は自分達の試飲でもある『チャイ』だった。初めてという事もあるが非常に癖がある紅茶だ。

 

 信頼できる右腕、店長のトーマスがせっかく持ってきてくれた紅茶だがなかなか使い道が難しいというのが正直なところ。しかし何かしらに突出しているものとは突然使い道が出来るものだ。

 

 しばらく保留をしておいて、また使い道を閃いた時にでも……と仕舞い込もうとしたところで茶々が入る。いやいや全く素人の思い付きだろう、全くもって安直なアイディアすぎる。だがまぁ興味が無いわけでもない……ここでプロとしてのプライドを取るか、素人の意見に踊らされる道化になるか……全くもって簡単すぎる選択肢だ。そりゃあ面白い方を取るに決まっているだろう。

 

 

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トーマスside

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 オーナーのトムズが気分屋でころころと思いつきで行う事は慣れたものと思っていた。だがどうだろう、まさか素人の意見をすぐに採用するとは。確かにかの冒険者は様々な実績を積んでいる事は想像に難くない。しかし、あくまで冒険者としての実績だ。我々もそれなりにプロとしてやってきた自負がある。ここでころりと唆されていいのだろうか……いいんだろうな、オーナーはそういう人だ。

 

 私も店を運営するためにがむしゃらにやってきた時期はあるが、まだまだ体裁というものを気にして動いてしまっている。もはやそれは性分だから直らない、つまらない見栄だ。だがオーナーは違う、そんなつまらない見栄は無視して突き進む。そんなところに私はひっそり憧れてついてきたのだ。

 

 さて気を取り直し、再度チャイを淹れる準備をしている。冒険者モモン殿よりもらったアイディアは何のことはない非常にシンプルなものだ。

 

癖があるのならば湯の量を減らし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

いや、果たしてこれは変わるのだろうか。結局ミルクで抽出されるか湯で抽出されるかの違いにしかならないのではないだろうか。まぁまだ茶葉は余っている。新鮮なうちに試みる事は悪い事ではない。やってみた失敗というのも必要だろう。

 

……ふむ、そろそろミルクを淹れてみるか、このミルクはモモン殿から頂いた少し良いものだという。確かに舌ざわりもよく紅茶との相性も良さそうだ。だが残念だ、モモン殿は知らない様子と見える。ミルクは温めると臭みが出てしまい紅茶の風味に著しい影響を与えると……それがこの方法の一番の問題なのだから。

 

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「お待たせいたしました、先ほどと方法を変え途中でミルクを加えて抽出したものになります」

 

「ふむ……、いえまずはありがとうございます。ただの素人に過ぎない私の意見を汲んでいただいて」

 

「何言ってんだ、正直上手くいく……とは思ってはいねぇ。だけど試した事はない。ならばやるべきだろ?汲んだからには淹れるべきだ」

 

 自分も上手くいくか……は分からないが、この前ナザリックの喫茶店でちょうど質問をした内容だ。仮に失敗してもまぁ問題ないだろう。彼らはプロで自分は素人。逆に言えば成功するほうがおかしいのだ。……あぁ気軽に失敗出来るなんて素晴らしい!

 

 注がれたカップからは臭みは出ていない、なるほど やはり()()()()()()()()は正解だったようだ。まずは一つ目をクリア。次は……

 

「……なんだこりゃ!?温めた時、特有の臭みがねぇ……!しかもスパイスを打ち消してねぇ、包み込むような味に仕上がってる……!」

 

「これは、いえ、モモンさんご存知だったのですか……?」

 

 二人が驚愕した表情をこちらに見せる、いやいや全くそんな事はないんですよ。ただふと思いまして、この世界で低温殺菌のミルクなんて上等なものが果たしてあるのかなぁって。ロイヤルミルクティーといったらミルクを加えて作るのが普通ですしと。

 

 余談だがミルクでは紅茶は抽出はほぼされない。カゼインという成分が邪魔をして紅茶の成分がうまく抽出が出来ないのだ。だが逆に言えば途中でミルクを加える事で強すぎる味わいを弱める事も出来る。低温殺菌のミルクを使えばより口当たりもまろやかになり調和された味わいになる。

 

いわばこの世界で現地人が初めてロイヤルミルクティを飲んだ瞬間とも言える、大きな転換点でもあった。

 

「驚かれるのも無理はありません、これは私が偶然、たまたま、極まれに出現するという商人から買えた特別なミルクです。まだ限られた数量しか入ってきていませんが遠からず安定供給されるでしょう」

 

 魔導国のアンデッドによる大量生産でねとは言わない。

 

「そうか……まだ手に入らないか……いや、でもその間に少しでもアイディアを沸かせねぇとな……。なあ、モモンさん無理を承知で頼みたいんだがそのミルクを売ってはくれねぇか?今すぐ店に出す事はしねぇが少しでも研究してぇんだ」

 

トムズが諦めきれない様子で呟く。安易にこちらに特徴を聞くのではなく自分で追及していくという姿勢は中々好感が持てる。

 

「ふむ……、手持ちはこれだけですが預けているものはそれなりの量があります。研究するには十分な量でしょう。しかしそれほどともなればさすがに安価にとは言えません」

 

「頼む、金ならいくらでも出す……とまで景気の良い事はいえねぇが。出来る限りは工面してみせる」

 

 質が良いといっても所詮はミルクだ、これだけで金貨が積まれるようなものでもない。しかし紅茶への相性は素晴らしいものと体感したせいだろう。オーナーのトムズはもちろん、あれほど冷静だった店長のトーマスも興奮を隠しきれていない。些か軽率な行動とも思えるが自身がアダマンタイト級冒険者――今となってはそれだけの立場ではないが――の信頼性を実感する。一言一言が実に重い。

 

 アインズは口に手を当て少し考える。実際のところこの低温殺菌ミルクを大量生産することはさして難しくない。労働力はアンデッドを使えばいいし何よりネックな鮮度は『保存―プリザベイション―』の魔法を使う事で保管も容易だ。

 

 ではどうぞという訳にもいかない。少なからずナザリックの財を動かす行為のため、何かメリットがないと非常に説明に困る(後でとんでもないことになる)

 

ぼんやり考えているとアイディアが浮かぶ。ちょうど相談を受けていた事があった。

 

「価格は相場で構わない、だが一つお願いがあってね。そちらにも悪い話ではないと思うんだが……」

 

「なんだ、オーナー権はさすがにちょっと売れねぇぞ?特別会員なら構わねぇけど」

 

(特別会員……?)

 

また気になるワードが出てきたが今は別問題、さぁまた電撃訪問でのプレゼンだ。今回はどう転がるだろうか?

 

 

-------------------------

「モモン君、この度はまことにありがとう」

 

「アインザックさん。始まって数日です。まだまだ分かりませんよ」

 

アインザックが苦笑をしながら相変わらず慎み深いと呟く。数日後、アインズは冒険者組合のアインザックに呼ばれていた。アインザックは気にしていた問題が一つ片付いたようで非常に機嫌がいい様子だ。

 

「しかし……君に相談をして正解だった。まさかこれほど早く解決してくれるとは。君の武力については最早疑う者はいないが人間関係についてもこれほど上手く立ち回りを見せてくれるとは。驚かせられるばかりだ」

 

「大した事をした訳ではありません、私がやった事はいわば緩衝役。冒険者は荒くれ者が多いですからね、実績あるアインザックさんが言って聞かない者も多いでしょう。ですが私も現在の冒険者組合で燻っているように見える者たちが多く感じました、それは少々もったいないともね」

 

アインザックがカップに口をつけ、ほぅと一息つく。

 

「正直この問題は時間が解決するとも思っていた。その過程で幾人かの冒険者が生活に困窮することもやむなしとも」

 

「君がやってくれた事はただ芽が出ていない冒険者を救っただけではない、次なるモモンを育てた事に等しい」

 

「……虹のモックナックと魔道王陛下の会話でしたか?」

 

アインザックが鷹揚に頷く。

 

「やつめ、感慨深そうに話していたわ」

 

 長年の友人を笑うような仕草は素顔だろう、モックナックもそれなりの年齢だったはずだ。アインザックとは友人としての繋がりもあるのかもしれない。普段の敬意に満ちた態度からも一定の信用はしているが、こういった気さくな面も見せてくれるとは信頼してくれるようになったものだと感じる。

 

 

すっと表情を切り替えたアインザックが少し沈鬱そうに口を開く。

 

「……魔道王陛下のお考えは私などでは到底及ばない、冒険者組合を切り取り国営にされてからそれなりの時間も経った。モモン君を筆頭に、虹のモックナックもハーブの有効利用に尽力するなど着実に結果は出てきている……しかし」

 

「例えが悪い事は承知で言わせて頂くがやはり若い冒険者を中心に目標を失っているようには感じられた」

 

 アインザックの指摘は概ね間違っていない。今まで冒険者の形は言ってみればRPGゲームに近い。安全に倒せるモンスターを倒しながら金を集めさらなる強敵へと挑む。すなわち目標とは凄腕の冒険者でなければ倒せないようなモンスターを倒すような事だ。

 

 非常にわかりやすい目標であり、多くの者たちが強敵と戦いさらなる強敵と名声を求め金策に勤しむ。だがそんな状況は魔導国が出現し一変、新たな冒険者のスタイルを確立させた。

 

アインザックが立ち上がり、用意されていたポットからおかわりを注ぐ。

 

モモン君はという顔を見せたので頷いてもらっておく。どうだ美味いだろうこの紅茶は。ダージリンといってな……いや違う。違わないが違う。

 

「勿論、君たちが発見してくれたものは素晴らしいものばかりだ。強大なモンスターを倒す事に比べれば地味に思う者も多いが……まだまだ未熟な冒険者達には大きな力になることは間違いない」

 

「しかし、やはり分かりにくいのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 アインザックから持ち掛けられた相談とは冒険者のモチベーション向上、別の言い方に変えるときっかけ作りでもある。特にアインザックが憂慮していたのは中位の冒険者―銀~白金に差し掛かるくらい―いわば次世代を担う脂の乗った世代だ。

 

 そんな新進気鋭の世代を放置しては、いずれ滅ぶ国と変わらない。では出世のチャンスが無くなったと思い込んでいる者たちにはどういった事を行えばよいか、簡単だ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 例えば同じレンジャーでもアイテムを有効利用し、ヒーラーの負担を減らす――まさに最近見つかったハーブでの手法だ――そうして以前は数日か限度だった探索を1週間行えるようになったというケースもある。これは裏話があり、レンジャーが新たに森司祭―ドルイド―のクラスを得たのではないかという可能性だ。これは副産物に近いが、新たなクラスを習得できる道が開けたとも言える。不人気職とマイナー職はレア職の鉄板だが、一見相対するクラスを組み合わせると魔法剣士のような新たなクラスが生まれる可能性もある。

 

 ナザリックの戦力のせいでインフレしてしまっているが、銀級とは一般的な兵士以上と言われている。それ以上の等級ともなれば一芸に秀でていることが多い。 一芸は必ず持っている者がいる。全員でなくてもいい、少しでも()()()()()()を作り重用していくのだ。

 

「目に見えての結果というよりも現在では目標に過ぎませんがね。ではこの後『朱の大輪』に行く予定なのですがせっかくなので一緒に様子を見に行かれますか?」

 

「そうだな、初日に視察は行ったが経過は気になる。ぜひ同行させてもらおう」

 

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アインザックside

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「いらっしゃいませ、……おやモモンさんに、組合長ではないですか」

 

 私たちを出迎えてくれたのは『朱の大輪』店長であるトーマスだった。オーナーのトムズに比べてなかなか冷静沈着に事を進め堅実で抜け目ないタイプといえる。

 

「トーマスさん。先日ぶりですね。いかがですか?景気は」

 

「そりゃもう、すごいもんですよ。これは新たな喫茶店の形だとトムズが息巻いていました」

 

 そう話すトーマスも負けないくらい興奮している。

 

「ご無沙汰しています、トーマスさん。それほどまでですか?モモン殿から聞いてはいましたが……確か『ティーハウス』というスタイルでしたか」

 

「ええ、まさにこれは人種の()()()たる魔導国にしか行えない事でしょう」

 

そう、今回私がモモン殿に依頼した事とは中位冒険者の実績作りだ。

 

 

 

 今まではモンスターに対しどの程度戦えるかといった評価だけで問題が無かった。スケリトルドラゴンを討伐するのにはミスリル級冒険者チームの強さは必要等だ。しかし戦力ならば魔道王陛下の戦力で事足りる。我々こそが出来る事は何か?

 

 それこそが今回のヒントだった。モモン殿はまず知識の共有化を行うべきだと言った。切り札を晒すような真似は愚か者以外何でもない。だがしかし相手は英雄級の冒険者だ。まずは話を聞いた。結果的にはあまりに我々が浅瀬で泳いでいるかを実感する結果となった。

 

「アインザックさん、現状についてあなたは身近な事しかわかっていない」

 

「かの聖王国では大変な災禍があり少なくない人数が魔導国にも流れています。かの魔皇ヤルダバオトによる謀りゃ……いえ、暴虐は許されません。であれば我々は魔皇ヤルダバオトの再来に備えなければならない」

 

「あれほどの悪魔はそう現れないと?ありえないなんてことはありえない」

 

「知っていますか?聖王国では聖騎士達がかなりの戦力となったそうです。その知識もゆくゆくは広がるでしょう」

 

「その受け皿は人種の枠組みのみならず種族にも囚われない魔導国の冒険者組合だけしか耐えきれません」

 

 何も言えなかった、特に王国は周辺国家に恵まれ帝国との小競り合いがある程度だった。もはや安穏とした時代の終わりかもしれない。噂に聞くビーストマンの国家が竜王国を滅ぼし、隣接する王国に攻め入る可能性も否定できない。

 

 魔導国の強大な武力があれば問題ない……と正直は思う。だが魔道王陛下だけでなく英雄モモン殿も憂慮している。賢王と英雄。彼らがそれほどまで考えているとならばここは踏み込んでみるしかあるまい……と思えた。

 

 こちらが冒険者への説明をどうしたものかと悩んでいるとモモン殿が助け舟を出してくれる。『冒険者組合は国営事業となりました。何も全てを共有しろとは言わないでしょう、第1位階、第2位階の一部あたりかと』と、ありがたい事だ。アダマンタイト級が主になり進めたとなれば少しは話を聞こうとするだろう。

 

 

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アインズside

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「何とか……なったな」

 

 今回アインズが(思い付きで)進めたプロジェクトは場の提供だ。以前はユグドラシルで新たなアップデートがあれば情報サイトだけでなくプレイヤー同士で最新の情報をやり取りしたものだ。特にPVPともなれば情報サイトは罠にもなりうる。

 

 といってもそう難しい事では無い。一から何かを作り上げるから難しくなってしまうのだ。まずは今あるものを有効活用するところから始めればいい。近隣で発見された希少な薬草、聖王国や帝国から流れてきた冒険者、ワーカーの技術、知識。これらは新たな可能性を生みうる。もちろん中位冒険者のステップアップは建前だ。

 

 本当の目的はナザリックの強化にこそある。まだレベルアップ以外での強さの模索は続けている。噂ではそういったステータスや設定関係のワールドアイテムも――永劫の蛇の指輪(ウロボロス)の対極のように極々狭い範囲に特化したものが――あるという。

 

 今回のケースで少しでもレアなクラスが生まれてくれれば自分たちが新たなクラスを取得することができるようになった時大いに参考になる。アンデッドの聖人。森司祭のネクロマンサー。大天使の蛮族(バーバリアン)。夢物語のようなレアクラス誕生に期待が持てる。

 

「まぁ……少しだけ趣味が入っちゃったけどな」

 

店から出ようとしたところに看板がある。

 

『必ず紅茶かを注文するように!店主おすすめ 冒険にも役立つチャイ!』

 

「まずは飲んでみないと分からないからな」

 

 

 

 




ありがとうございました

あんまり紅茶とかと関係ない事を書くのは好きではないのですが。最近作業用BGMに色々聞いています。

Library Of Ruina
ENDER LILIES

Miliさんが凄い好き。


そういえば10種の紅茶飲み比べってのがあってやってみました。

全部スリランカのみなんですが全く違う味わいがありスリランカの豊富なバリエーションに驚かされます。



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Cafe

ご無沙汰しております。


「アルベド、エルダーリッチらの育成状況はどうなっている?」

 

「はい、アインズ様。当初こそぎこちなさが目立ちましたが既存の文官も慣れ始め日常的な業務であれば問題無いレベルと判断いたします」

 

「ほう、素晴らしい。僅かな期間で後任を育てる事は何であれ難しいものだ。よくやった、アルベド」

 

「ありがとうございます!アインズ様!」

 

 美人は何をしても美人なんだなと規制ギリギリの笑顔を見て感慨深いものがある。転移してから時間が経ち守護者たちとも対話が進んだおかげかアインズに見せる表情はどこか柔らかい。

 

仕事ばかりの関係性はあくまでギブアンドテイクだ。だが普通の仕事ならばそれでも構わないが文字通りこの世界ではそんな生半可な事を言っていては何に裏をかかれるか分かったものではない。

 

(あまり公私混同をしたくはないが……まぁ喜んでくれているようなら構わないか)

 

事実、茶を飲む機会が増えシモベとの距離感が少し変わった気がする。冒険者同士でも酒を酌み交わせば態度も軟化する。それと同じようなものだろう。

 

 

 

酒を酌み交わすではないがふと頭に浮かぶのは例のNPCの事についてだ。

 

ダージリンの街で出会った老婆、ドライアドのNPCであり過去十三英雄とも関りがあったという。

 

だが、態々こちらの気分を害するような発言をし、攻撃するよう煽った。

 

考えは纏まってきている。だが正論を言えば納得するとは限らない。ではどうするか?詭弁を並べまくし立てればいいだろうか?美麗な言葉で飾り慰めれば心酔してくれるだろうか。

 

……どちらも悪手だ、ドワーフのゴンド、エ・ランテル冒険者組合長のアインザック。彼らは初対面こそアンデッドを前に敵対的だったが、メリットある取引を提示することで今ではナザリック外でありながらなかなか信の置ける人物となっている。

 

さてでは相手にメリットがある取引とは何か?当然だが欲しいがなかなか手に入らないものを提示される事だろう。見た感じ彼女――口調は老婆のようで外見は幼い見た目だったが――が紅茶を好んでいる事は明らかだ。

 

(……ん?じゃあ紅茶もっていけばいいんじゃないか?何を悩んでいたんだ俺は)

 

アインズは自分のアプローチが違っていたのではないかと思い始める。NPCが敵対したのではない、茶飲み友達が敵対してきたと考えればよいと。

 

(ふむ……、恐らく最初は好意的。その後そうだな、ヤツの家に赴いた時には何が違った?…)

 

(最初の時はワーカーに扮してだった。その次もワーカーだがシモベを……。そうか)

 

アインズは紅茶を飲む事を切欠に様々な歴史を学んだ。自分自身の知識は僅かなものだったが、それは友人達の偉大な図書館が補ってくれた。

 

その結果、アインズは茶というものがいかに奥深いものであるかを知った。

 

とある国の王妃は茶を求め臣下にはるか東方の地まで赴く事を命じた。

 

とある国は宗主国の象徴である茶を捨て独立の兆しを掴んだ。

 

とある国は茶を輸入しすぎてしまい戦争の引き金を作った。

 

 

貴重な品といえど遥か地球の裏側まで取りに行かせられる地位の者がそういるだろうか?

 

生活に根付き象徴となるまでのものが果たしてあるだろうか?

 

無くてはならない物だからと戦争が普通起きるだろうか?

 

実に興味深い代物だ。紅茶とは。

 

しかし紅茶とは。茶とは。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

一人でも茶は()()()()()()()()()()()()だが他者との関わり無くして茶という文化は語れない。

 

世の中に茶が、コーヒーが飲む文化が広がり無くてはならないものとなった。その一つの形態がコーヒーハウスだ。

 

()()初期のコーヒーハウスはあらゆる身分、職業が混在したまさに人種の坩堝(るつぼ)だった。あらゆる人間がコミニュケーションをとる事が目的の場だった。あらゆる情報が集まる事を利用し保険会社の始まりがコーヒーハウスといわれるほどだ。

 

 

「ふむ……」

 

「……アインズ様?如何いたしましたでしょうか?」

 

「アルベド、玉座に守護者を集めろ。今後の方針について説明をする」

 

「!畏まりました。即座に行動を」

 

アルベドが各守護者、立場ある者たちにも不在の対応をすぐに命令し動く。

 

アインズがゆっくりと立ち上がり跪こうとするアルベドにするべき事を為せと目で促す。

 

本日のアインズ当番であるフォスが先導し扉を開ける。

 

歩きながらアインズはさて、まずはどう伝えたものかなとイメージを膨らませる……。

 

 

--------

「アインズ様、お待たせをして申し訳ございません。各階層守護者 御身の前に揃いましてございます」

 

アルベドが堪えきれないような喜び――最早快感のように見えるが――を声に潜ませながら報告する。至上の主人であるアインズの前に傅く事。それは創られたシモベ達からすればこの上無い幸福だ。あぁこの世で最も美しい君、絶対ナル強者、慈悲深い方、とても優しい方、まさに端倪すべからざる方、慈悲深い方、最高の主人――愛しい方――。我らにご命令を、必ずやご期待に。

 

「うむ、まずは急な呼び出しをしてすまない。――特にデミウルゴス、仕込みをしている最中だったろう」

 

「何を仰います。確かにアインズ様へ捧げる物に手抜きなどは出来ません。しかしそちらはしっかりと命じておりますのでご心配なく」

 

強大な悪魔がアインズの労いにただただ敬服の念に堪えないといった様子を見せる。

 

アインズは抑揚に頷きながら裏で必死に組み上げたプレゼンのイメトレをする。まさに今からが正念場だと。

 

 

「さて、皆に集まってもらったのは他でもない。今後の方針について今一度整理を行うためだ。アルベド、今後について今一度説明せよ」

 

「はい、アインズ様」

 

突然の丸投げにも動じずアルベドがすらすらと説明を始める。

 

「現在、アインズ様自ら動いて頂いた事で王国の8――いえ9割。帝国の属国化、ルーン技術の取り入れ、冒険者組合の国家事業化が行われました。こちらは我々――私やデミウルゴスを主とした予定を大きく上回るスピードで実現、さらには多大な成果を出されていらっしゃいます」

 

 

 

もう予定が狂い始めた。

 

え?9割?半分ってこの前言ってたよね?

 

しかしここでいやいやたまたまなんですよ等言えない。ここは支配者の微笑3で乗り切るのがベスト。それが最も自然。

 

「今後ですが、まずは聖王国。その後は王国を刈り取る時期になるかと」

 

「なるほど、実に順調だ。ではこれから意見を聞こう――シャルティア、どう思う?何でも構わない」

 

「はい、まさに至高なる御身に傅く者どもは幸せというほかありんせん」

 

「コキュートス」

 

「ハ、御身ノ強大ナル力、正ニ民ノ一人一人マデ理解シタカト」

 

「アウラ、マーレ」

 

「はい!アインズ様の慈悲深さを各国がよく分かってきたかと思います!」

 

「は、はい。ア、アインズ様が優しい事が分かってもらえてう、嬉しいなと思いました」

 

「デミウルゴス」

 

「御身の深い洞察は私では到底及びません。しかしながら世界征服を完了するまでには少しでも追いつけますよう鋭意努力させて頂きます」

 

(ホントヤメテ)

 

「セ、セバス」

 

「はい、弱者にも慈悲深き対応をされ広くお優しさが知れ渡っている事でしょう」

 

「最後に……アルベド」

 

「はい、知恵者として生み出された我々の想像を遥かに上回るスピードで各国を支配下に置かれております。少々はしたない事ではありますが、アインズ様がどう次に動かれるのか楽しみでなりません」

 

守護者らの受け取り方は概ね現状が順調に進んでいる満足と明るい見通しを感じる事だろう。――ここで自分の一案は些か理解されない、もしくは障害物になるやもしれない。だがそうでなければ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「さて、皆の意見は様々なだが概ね順調に計画は進んでいるといっていいだろう」

 

「だが、1点私が憂慮している点がある。――私がこの世界に来た意味というものだ」

 

場が一瞬で緊張する。至高の方々が『リアル』という場所にいらっしゃる事をシモベ達は薄っすらと理解している。しかしその話に触れるとどうしても何故造物主の方は、他の至高の方々は来られないのかという問題に直面する。

 

故にシモベ同士で話す分には問題なかったが、答えを知っているであろう方――アインズ――に聞く事は半ば公然のタブーであった。

 

「――この世界を調べて分かったが、人間主体の国家は非常に少ない。そして100年内に全て消滅する可能性もあると」

 

それはシモベらが薄々感じていた事だった。この世界はまず非常に人間の力が弱い。

 

比較的この付近である王国、帝国、法国、聖王国を始めとした人間中心の国家が多いため麻痺しているがビーストマンの国を始め人間を家畜以下として扱う国が中央部には多いとも。

 

ナザリックが介入しなければ竜王国は正に滅亡間近だった。他にも破滅の竜王の伝説が人間勢力圏内にもある。

 

大海原に放り出された脆い船という現実を理解しているのは法国の一部程度だ。その法国が崩れ始めれた今、人間勢力圏は一気に後退するだろう。

 

「我々がこの世界に転移してすぐ法国の陽光聖典と相対した。その結果、我々は際立った武力を有していると判明。……これはたまたまだが監視していた部隊にも一撃を加え彼ら秘密部隊の力は激減した」

 

「明言しよう、人間は遠くない未来滅びる」

 

場がシンとなる。彼らは人間が滅びる事そのものはたいした問題とも思っていない。

 

全てのシモベ達が思う事はただ一つ、至高なる御身がそれを良しとしないそれだけである。

 

「ア、アインズ様、お聞きしてもよいでしょうか?」

 

質問は意外なところから飛んできた。マーレがいつものように自信無さげに、かといって聞き逃さないという芯を持った声で声を出す。

 

「構わないとも、マーレ」

 

「あ、ありがとうございます。ア、アインズ様は人間は滅ぼしてはならないとお考えなのでしょうか」

 

「ふむ、ある意味では良いとも言えるしならないとも言えるな」

 

少し空気がピリッとしたものに変わる。今まで人間を無駄に殺してきた訳ではないが躊躇わず処理してきたことは間違いない。それが間違っていたともなれば至高なる存在になんと無礼な事をしてきたのかと不安にもなるのだろう。

 

……当然だがそんな事で罰するつもりもないし、そもそも自身の命令で行ってきたものばかりだ。仮に殺すなという事ならばこの後から控えればそれでいい話だ。

 

「私はこの世界でに来て思った以上に人間が文化を発達させる能力があると感じた。……この場合の人間とは人間種だな、エルフ、ドワーフ等も含む」

 

「無論、戦闘に関してはあまり評価はしていない。守護者が出るまでもない、私が作成した中位アンデッドでお釣りがくるほどだ」

 

 アンデッドには凶悪な能力を持つものが多い。代表的な例ではデス・ナイト、ソウルイーター等だろう。レベルというものを横に置いて考えるならば、スクワイア・ゾンビを作り出すデスナイト。周囲の者から魂を無造作に吸い取るソウルイーターは非常に凶悪だ。王国程度ならば1体ずつ送り込むだけでアダマンタイト級が出てくる前に致命的な状況になりかねない。

 

「適材適所というやつだな。残念ながらアンデッドはコミニュケーション能力は低く―上位ならばそうでもないが―生者には疎まれる存在だ」

 

「お言葉ですが、アインズ様。下等なヒトがそのような行い、偉大なるアインズ様を侮辱する無礼極まりないかと」

 

デミウルゴスが今すぐにでもその下等な存在達に考えを改めさせねばと息巻く様子に守護者達が一様に頷く。なんとも押しつけがましいような考えにも思うが力こそが正義であるこの時代では真理に違いない。

 

「デミウルゴス、お前の気遣いは嬉しく思う。しかしだな、正直そのような存在の考えにいちいち気を遣うつもりはない。私にとってはお前たち、ナザリックの仲間達にどう思われるかという事のほうがはるかに大切だ。……少しばかり、最近考えが変わる事があった。よりお前たちに目を向けるべきだと」

 

意訳

いや、障害になる人間殺すのはしょうがないけどな……?あんま殺しすぎるのはやめましょーねーって言っても多分上手く伝わらないし、ちょっと自分のイメージとは違う形で反映されても困る。まさか昔の小説に出てくるような人間牧場を始めて飼い殺しましょうと言われても困る。まぁお互い気にしすぎるスタンスはやめておおらかな心で不用意に近づいてきたやつだけ対処しましょうね?

 

 おお、という声が上がる。うんよくわかってくれているよな?そこの守護者C、ツイニ身ヲ固メラレルノデスナ爺モ隠居デスナァってなんだ。世の中には60歳を超えても現役のアクション俳優とかいるんだぞ?世界一ついてないけどな。

 

「アインズ様、それは素晴らしいお考えですわ。下賤な者たちにアインズ様のお慈悲を与えすぎてもかえってよろしくありません。それよりも我々や、ワタクシとの語らいを増やして頂ければ何よりですわ。ずっと今後の建設的なお話もできるでしょう!」

 

「全く……はしたないでありんすねぇ。アインズ様と語らう茶会にそんな前のめりでは面食らってしまうでありんすえ。慎みというものを妾から学ぶといいんす」

 

「それシャルティアが言うー?ってとこだけど、今回はちょっとシャルティアに賛成かなー。アルベド、慎みって大事だよー?」

 

「こ、ここでアウラからも言われるとは思わなかったわ。ええ、大丈夫よ私は自分を完璧に律せられるのだから」

 

……凄い微妙な空気になったがまぁ主旨は伝わっているようで何より。ここらで解散しとくかと思ったところ

 

 

「……なるほど、そういう事でしたかアインズ様」

 

それはちょっと予定していないぞ、デミウルゴス……!

 

 

「デミウルゴス、分かってくれたか。……言葉とは時に相手に歪んだ形で伝わってしまう。そう、素直な捉え方でくれればそれで間違いないぞ」

 

「ええ、ええ、まさに仰られる通りです。(悪魔)らしくアインズ様のお言葉を賜らせて頂きます」

 

(……不安だな?ええい!今は止まるな!)

 

軽くうなずき目でデミウルゴスへ伝える、それ以上は言わずともよい と。

 

デミウルゴスがはっとした顔を見せ、すぐに顔を伏せる。

 

「さて、少し話がそれてしまったが本題だ。――今度茶会を各守護者で開いてくれないか?」

 

 

――後日、一般メイドの間でとある噂が広まった。あの一瞬玉座の間の入り口がとても恐ろしい、そう迷ったら出られない樹海の入り口に見えたと。

 




一応気持ちとしては何か色々なんやかんやあった事の決算の前半です(ややこしい


最近、ノリタケのティーカップを買う機会がありました。ほしいなーと思ってたデザインがたまたま安く手に入りこんなことあんだなぁと実感。

この小説ではあんまりガッツリ取り上げる機会が無いんですがティーカップのデザインとかオススメとかもちょっと取り上げてみたいものですね。


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Darjeeling Ⅱ

ご無沙汰しています

申し訳ないですがちょっと話は前後します。
前回の茶会の話はまた別途。外伝みたいなものなので追々書きます。
目次で見るとなんやこれ状態なんでまた整理します

先にダージリンの街でのやり取りをまとめます。

あらすじ
帝国で紅茶が有名な街に行った
ちょっと怪しくてもっかい行ったらNPCがいた
何かを答えてほしいような様子にもやもやしてたがいいやもう面倒くせぇ紅茶持ってて喋ったろと赴く。解決するといいな(願望






「ドライアド、茶を持ってきたぞ」

 

「……驚いたね。配下を引き連れて粛清でもするものかと思ってたよ」

 

「そういう意見が無いわけでもなかったがな。殺すなとは言わんが無意味な殺戮は好まん」

 

「アンデッドなのにかい?」

 

「アンデッドだからこそだ」

 

 

まぁいいやと言いながらドライアドは普段偽装している老婆の姿から幼い見た目にすっと変わる。

 

「拍子抜けしたんだけど本当に茶を飲みに来ただけなの?」

 

「本題は別にあるさ、だが『まずは紅茶だ』だろう?」

 

違いないと笑う表情は心からのものだろう。

 

「この街のダージリンは素晴らしいが、お前は今までにどれくらいの種類の紅茶を飲んだことがあるんだ?」

 

「さぁねぇ、紅茶はよく飲むがそこまで種類とかには拘りが無いよ。……ただそれでもダージリン、ヌワラエリヤ、ディンヴラ、キャンディ、ルフナ、サバラガムワ、アッサム、ニルギリ」

 

「私以上に知っている事はよくわかる」

 

アインズも最初紅茶を飲んでいる時産地を聞いた事があるが正直どこがどうとかはあまりイメージが分からなかった。

 

だが実際に聞いた生産地をリアルの地図に当てはめると見えてくるものがある。インド、スリランカ、中国、ケニア、インドネシア、日本…。

 

生産地で言えばこのあたりになるが比較的温暖な気候のところに集中している。後は一定の雨が無ければよい茶葉は育たない。

 

「だがリアルと同等の位にバリエーションが富んでいる。他の嗜好品もこれほどなのか?」

 

「コーヒーや酒は多少似たようなものがあるそうだ。それでも紅茶に比べれば種類は少ないね」

 

先人の試行錯誤だねと呟く。

 

「その先人にお前は含まれるのか?」

 

「このダージリンの街を含むのならそりゃ入る。あたしが力を注いできたのはこの街くらいだ」

 

紅茶だけにねと笑う。少し老婆の口調が残っている風で上手いことを言う。

 

「湯の用意も出来たようだ。今日はどんな茶を持ってきてくれたんだい?」

 

出来れば飲んだことがないものがいいねと期待した様子を見せる。

 

「さて緊張してしまうな?だが楽しみにしてくれていい」

 

紅茶の準備をしつつ、ドライアドに茶葉を見せる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ふむ……、大きさはBOPといったところ。ただゴールデンチップが多いね。」

 

「さすがに詳しいな。その通りだ、柔らかい新芽が十分に使われ非常に高いクオリティを示している」

 

※BOP

スリランカ産で多い茶葉の()()。ざっくり言えばストレートでもミルクでも美味いサイズ

勘違いされがちだがあくまで大きさのみを示すもの。味などに対するものではない。

 

※ゴールデンチップ

ゴールデンディップ、ファインチップ等呼び名は多いが、発酵した茶葉のエキスが染み出し、色がついたもの。黒の中に明るい色が入るので非常に目立つ。新芽が使われたものによく見受けられる。

 

「ところで本当に茶の話ばかりしていいのか?正直もっと色々と聞かれると思ったけど」

 

「聞きたくないという訳ではない、だが私はお前と茶飲み友達と考えている。最低限は弁えるべきだ」

 

弁えるとは何とも便利な言葉だ。抽象的なところが使いやすい。

 

「なるほど、それなら友人が持ってきたお茶を素直に楽しむとしよう」

 

そうしてくれとアインズが朗らかな様子で頷く。

 

 

「ところで、ドライアド普段はお前はここで何をしているんだ?」

 

「唐突な質問だね、まぁいーけど。いきさつから話すと昔の村長にちょっと世話になってね。面倒みてる」

 

「うん?お前が村長ではなかったのか」

 

「村長だよ、正確に言えば代理がつくけど」

 

少し意外に思う。代理という点ではなく正体を知っている存在がいるという事に。

 

この世界では個の力は時に何千、何万の兵を優に上回る。普通の人間レベルまでであればしかるべき地位まで登り詰めるだろう。

 

だが目の前のドライアドのように少なくとも第六位階以上の魔術を行使できるとなるとこの世界ではイレギュラーだ。

 

そういった人物はむやみやたらに目立たないように隠遁するイメージがあるものだが。

 

「隠遁する賢者のような過ごし方はしなかったのだな」

 

「一度試してみたけど無理無理、あたしはお喋りだし」

 

そっちが理由かよと思わずつっこみたくなる。

 

 

だがまぁ確かにアインズとしても自分ひとりでこの世界に転移したとするとどう動くだろうか。

 

転移した場所にもよるが、アンデッドは基本的には人に受け入れられない。

 

であれば冒険者の時と同じように剣士を偽装し行動するだろう。

 

冒険者組合に所属するだろうか?何ものにも囚われないとまでは言いすぎだが国家の枠組みに縛られにくいのは魅力的だ。

 

国家ではどうだろう?王国は論外として、法国は……黒よりのグレーだな。プレイヤーの臭いが強すぎる。どうにも自分が駒の一つとして使われる気がしてならない。

 

とすると帝国か、フールダーもいるし魔術の情報さえ与えれば表立って動くのはフールダーで自分は裏から動くという事もある程度可能だろう。あの魔術狂いならば。

 

思わずぞくっと背筋が凍るような違和感を感じ体を震えさせる。……また会いに行くのがちょっとなぁ。

 

 

「まぁ、そんなわけで事情を知るのが幾人かは必要だったんだよ。なるべく力のある立場のね」

 

「その村長一族は他に何人いるんだ?」

 

「1人だね」

 

「1人?」

 

何とも奇妙な話だ。まるでたまたま生き残ったような……まさか。

 

「おや、察しがよさそうだね?骨の見た目でも何となく分かったような雰囲気を感じるよ」

 

時々NPCらはこんな見た目でも鋭敏に自分の表情を察してくる時がある。いや自分が分かりやすいだけだろうか。

 

「鮮血帝の貴族粛清か?」

 

「お察しの通り、皇帝が即位した時のごたごたでね」

 

何かと貴族粛清が話題に上がる気がする。皇族、王族がらみでもめ事等いくらでもあるだろうがまさか村にまで影響があるとは思わなかった。

 

「あまりこの規模の村が貴族と深い関りがあるとは思えないな」

 

「まぁ……そうだね。このダージリンの街は紅茶産業は活発だが逆に言えばそれだけ。まっとうに商売してるだけならちょっと裕福な村、街程度にすぎないよ」

 

貴族が手を出すような魅力的な品があっただろうか?いや確かに紅茶、茶は珍しいものだがそれはあくまで輸入国側からしたらだ。

 

過去のリアルでもイギリスは紅茶の輸入大国だった。中国をはじめスリランカ、インド等から多くを輸入している。植民地であるインドを持つ前は輸入するしか手が無い、だからこそ神秘性は高まっていた。

 

む……輸入?いや帝国からすれば輸出か。そのあたりが非常に引っかかる。

 

紅茶を知った時、そんな文献を大図書館で少し目にした覚えがある。

 

あれは何だったか……。そう

 

「麻薬……」

 

「!」

 

先ほどまで饒舌に喋っていたドライアドは警戒するような目を向け様子をうかがってきている。

 

「知っていたのか?昔の事なのに」

 

「え……?いや聞きかじっただけだが」

 

こちらの言葉を無視し、じっとぶつぶつと呟く様子はどうにも怖い。そう勘違いされてそうで。

 

「まぁいいや、お察しの通りあたしの知らないところで紅茶と一緒に麻薬が栽培されていたんだよ」

 

「戦闘ならそこらのやつに負けるつもりはないけどあたしは情報のやり取りはあんまりうまくない。だから貴族の甘い言葉に乗せられた前村長たちのバカな企てに気づけなかった」

 

「貴族に逆らう事が難しかったかもしれないが早々に手を引くべきだったな。ジルクニフの手腕を見ると見過ごすとはとても思えん」

 

「全くね、あたしが見てきた中でもヤツは相当に優秀な皇帝だ。それだけに動くのも早かった」

 

あのせいでこっちは色々と動く羽目になったとドライアドが草臥れた顔をする。

 

「ともあれそんな訳でたまたまうちに来ていた村長の息子以外は粛清にあいましたとさ」

 

「よく助かったな。一族全てを処刑になってもおかしくないだろうに」

 

「……情が沸いちゃってさー。それなりに懐いてたし」

 

「分からないでもない」

 

そういえばカルネ村の時もふとした思い付きとセバスを見て思い出したささいな切欠だと考える。

 

「まぁそっからはちょちょいと魔法でいじりながらね」

 

「器用なものだ。さすがに皇帝にまでは行っていないだろうがそれなりの地位の者を誑かしたのだろう?」

 

「誑かすとは失礼な、ちょぉ~っと不思議な粉をちらりちらりとしただけだよ~」

 

 

以前から思っていた事だがこのドライアドは()()()()()()()()()()()

 

さすがにプレイヤーという可能性は無い……はずだがどうにもNPCにしては手が込みすぎてる気がする。ナザリックにいるNPCに比べて、()()()()()()

 

セバスのような義憤でも、デミウルゴスのような悪意でもない。そうだ、創造主のイメージがつかないのだ。

 

今まで見てきたNPCは多くは創造主の影響を少なからず受けている。

 

守護者でいえばセバス、デミウルゴス、コキュートス、アウラあたりは顕著だ。それに比べるとどうにも創造主の影響が弱い。あれほど創造主の遺言に従い、悩みながら生きてきたこのドライアドが?

 

全くもっておかしな話だ、ナザリックのNPCに比べれば設定も少ないかもしれない。だがどうにも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……成程、そういった訳で幼いまでとは言わないが経験少ない青年にはまだ荷が重いと」

 

「そーそー、まぁ名誉村長?みたいなもんだね。よくあるじゃんそーゆーの」

 

「よく知ってるな……。ともあれよくわかった、またそんな事になってしまっては村ぐるみと疑われかねん」

 

「よくわかってるじゃん、あたしもこの村はそれなりに愛着があるんだ。むやみやたらに潰したくないよ」

 

せっかく茶の栽培に向いた環境にしたのにねーと話す。そうだその事も気になっていた。

 

「そういえば栽培地域での標高で味わいが変わる事は知っているが他にどんな事が大事なんだ?」

 

「あたしも何となくしか知らないよ?こうしたら前よりよくなったなー位だし」

 

おいおいと思うがある意味自分が使う位階魔法のようなものかもしれない。そういうものとしか説明しようがない事もある。

 

「一番好きだった紅茶がそーゆー味わいって事もあったんだけどね。寒暖差が結構はっきりしてて、日差しが結構強いほうがいいものが出来ることが多いよ。シーズンごとに変化も出てくるし」

 

なるほど、いつか自分の茶園を持つ事になった際には参考にしよう。

 

余談だがダージリンにも色々と種類はある。

 

ファーストフラッシュ 春摘

最初の頃に取れる。瑞々しいを通り越し青さを感じさせる。

 

セカンドフラッシュ 夏摘

最もスタンダードなダージリン。よいクオリティが多いのもこのシーズン。

味、香り、水色とバランスがもっともよい。

 

オータムナル 秋摘

香味は弱い。だがダージリンの中でも熟成された味わいは濃厚なドライフルーツを思わせる。

 

 

ダージリンと一口にいっても時期によって様々な顔を見せる。

 

もちろん独特の香りが特徴ではあるが、強弱をつけるだけでも印象は変わってくる。

 

以前、紅茶をすすめられた際ひどく強い香りのアールグレイを飲んだ時があった。それから少しアールグレイに苦手意識を持ったが、その話をとある人にしたらあえて人工的に着香を弱くしたアールグレイを紹介され繊細な味わいに驚いたものだ。

 

 

「おもしろい話を聞けた。ではそろそろ持ってきた茶葉を楽しんでもらうとしよう」

 

「へえ、あんた自ら淹れてくれるのか」

 

「当然だ、ここでさあよろしくなんて言ったら興醒めだ。プレゼンを人任せにするヤツなんていないだろう?」

 

軽口を叩きながら準備するアインズに緊張の色は無い。

 

今まで何百回、下手したら千回以上飲んできたのだ。それなりに詳しくなってきている自負はある。自分の性格としても好きになったもの、奥深さを感じたものにはなかなかのめりこむ。

 

飲むだけでは次第に満足できなくなるというもの。こっそりと淹れる練習を行い、時にはセットしたお茶を何も知らないNPCを呼び何気なく感想を聞くこともある。

 

よどみなく手が動く。準備に手いっぱいになるのではまだまだサービスとしては二流以下。せめてその準備の時間も有効利用するべきだろう。

 

「釈迦に説法である事は承知の上だが……ダージリンの魅力とは何だと思う?」

 

「突然な。ん~いくつもあるけどやっぱり最初にあげるなら香りかな」

 

「ほう、香りか。味わいや水色も美しいと思うが?」

 

「そりゃね、でもさぁ凄くない?この香りをかいだら『あ、これダージリンだ』ってなるんだよ?そういう飲み物じゃない、紅茶っていう枠組みの中でそれほど個性を出せるなんてダージリンをおいてほかにないよ」

 

確かに少し紅茶を飲み始めればすぐに特徴だって覚えるのはダージリンとアールグレイあたりだろう。アールグレイはフレーバーティのためその香りがするのは至極当然。だがダージリンのフレーバーは着香されたものではない、それほどの個性を作り出せたのは奇跡としか言いようがない。

 

 

 

「あんたに以前ミルクティーについても学ばせてもらったけどね、ダージリンに限ってはストレートで味わうのがやっぱり一番さ」

 

「なかなか意見は覆らないものだな」

 

思わず苦笑する。初対面の時には柄にもなくオイコラ俺が最近好きな紅茶よくも煽ってくれたなォオン?となってしまった。きっと今ならば広い心をもって対処することも可能だろう。

 

「当たり前だよ、確かにあんたには学ばせてもらった。だけど個としてダージリンが完成している事は間違いねーよ」

 

あ、ダメだこいつ何もわかってない。

 

「はあ……少しは学習したと思ったがやはりまだまだ教育が足りないようだ。頭が痛いな」

 

アインズは心から失望したとジェスチャーをする。

 

思わずカチンときたドライアドもその安い挑発に乗ってくる。

 

「知らねー、好きに好きなもんを飲ませろよ」

 

「ご尤も。私だってそう思う。だがなぁ私のかつての友人達がこう言っていたんだよ」

 

 

|攻略サイトの情報を自信満々に語るヤツは相容れない《得意げになってる生意気なロリにはわからせが必要だ》

 

 




最後の言葉は誰と誰が言いそうでしょうねぇ……1人は簡単でしょうけど。

投稿が遅くなり申し訳ありません。

その間にVivyっていうアニメにたいそうはまっていました。

そっちの話もちょっと書いています。まだ少しですが。

もちろん紅茶の話ですといいたいところですが、そっちはコーヒーよりにしていこうかと思っています。

オバロの方に比べなるべくシンプルにしてテンポよく進めたいため1話ごとの文字数は少な目にしています。よければご覧ください。


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To the last drop

間が開いてしまって短いですが

なるべく次は間を開けないようにします


今回がアインズが用意した紅茶は正直なところ特別なものではない。

 

リアルでは有名な紅茶()()であり少し紅茶を飲む人なら知っているだろう銘柄だ。

 

ただそのネームバリューのみが先行してしまいその紅茶をどう使うかという点については研鑽されているとは言い難い。

 

単体としての完成度に目が眩み、使い方についての研究が足りていない。最高のものは掛け合わせてはならないとはエゴだ。

 

 

「ドライアド、釈迦に説法という事は承知しているがもう一度聞かせてくれ。ダージリンの魅力とはなんだ?」

 

「くどいね。何度でもいうよその特徴ある香りだよ。ダージリンたらしめさせているその香りさ」

 

「ではその香りが無いものはダージリンではないと?」

 

「少なくとも極上のダージリンとは思わないね。()()()()()()()ダージリンじゃないよ」

 

嗜好品とはまったく便利な言葉だ。味わいは人それぞれという非常に曖昧な表現で納得させてくれる。

 

だがそれはある意味思考停止していると言わざるをえない。市場価値とは正直なもので明確な上下関係を叩きこんでくれる。

 

早い話、売れないのだ。特徴が無いものとは。

 

ダージリンで言うならば自然とダージリンらしい紅茶以外は全て淘汰される。()()()()()()()()()()()()()()

 

 

以前から感じていた違和感とはその事だろう。特定の使用法以外はタブーともされるような風習、昔の日本であったような農民の子は農民。武士の子は武士ともいえるような閉鎖的で時代錯誤ともいえる考え……でもない。

 

リアルでも生まれや育ちに影響される事が多く時にはそれを僻みもした。だがユグドラシルに出会ってから少しずつ考え方は前向きになっていた気がする。やはりそう変えてくれたのは友人だろう。たとえ過去のという言葉がついてもだ。

 

 

さて先ほどドライアドが言ったように『好きなものを好きに飲めばいい』その通りだ。全くもって正論だ。

 

だがそんな顔でいわれても納得できるだろうか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「待たせたな、では楽しんでくれ」

 

そう言って差し出した紅茶は淹れたてでよい香りが漂っている。

 

紅茶はコーヒーに比べ淹れたては非常に熱い事が多い。

 

だが慣れてくるとだんだんと冷めてくる間に変わる香りもまた楽しみだ。

 

「……?ふん……」

 

早速気づいたか?いやまだ確信していない。アッサムの香ばしい薫りが覆い隠してくれている。

 

「最近は変わり種を楽しみたい時がある」

 

「変わり種?紅茶らしくない紅茶とか?」

 

「例えば変わったフレーバーの紅茶だな。最近だと杏の香りの紅茶はなかなかよいものだった」

 

不機嫌そうにも見える様子だが、興味はあるのだろう。

 

「杏の香りは確かにいーね。優しい香りだし」

 

「うむ、ストレートでも美味かったが濃いめの仕上がりにミルクを加えた優しい味わいは杏仁豆腐を思わすものだ」

 

「おもしろいアイディアじゃん。……そういう紅茶ってあんたのところだと誰が考えてんの?」

 

「メイドの一人が詳しい。正統派なものからアイディア溢れるものまで色々と楽しませてくれる」

 

一般メイドのアストリアを筆頭に詳しいものはそれなりにいる。

 

シャルティアはペロロンチーノさんが設定上に組み込んでいたし、アウラもシャルティアと話をしているせいかそれなりに詳しい。プレアデスや一般メイドはいわずもがな。デミウルゴスやアルベドなど智者として作られた存在はこういった娯楽や嗜好については少し疎いようにも感じる。

 

……デミウルゴスはたまにバーで飲む事もあるそうだから酒のほうが詳しそうだ。最近だと紅茶を飲む機会が自分だけでなくシモベ達にも増えている。もちろん強要はしていないが、まぁこれを機に娯楽に目を向けてくれるのならば福利厚生の改善に一役買ってくれるかもしれない。

 

「ダージリンの街の者たちはやはり紅茶に詳しいだろうが、他の紅茶についてもよく知っているのか?」

 

「ん-、あたし以外だとあんまりかなぁ。まずあんまり入ってこないし」

 

わざわざ紅茶の産地にサンプルか何か以外で入荷させるというのはそう多くはないだろう。だが少々閉鎖的ともいえる。自分はリアルでの経験、情報から紅茶というものの全体像がおぼろげながら想像が出来る。

 

だがこの世界ではごくごく狭い範囲で何事も完結してしまっていることが多い。

 

軍事等であれば敏感に察知しようとする事があるかもしれない。……が王国ですら魔法詠唱者(マジックキャスター)への扱いはぞんざいだ。聞けば王国との戦争時に自分が見積もられていた戦力はおよそ数千。

 

愚かと言わざるをえない……が、少々同情する。第6位階が最高とも言われている世界で超位魔法等想像出来るはずがない。文字通り力の桁が違う。

 

上位の位階魔法になるとダメージだけでなく特殊効果が付随することが多い。相手も単なる属性ダメージは対策してくる、であればデバフを使い搦め手を狙う方が有効だろう。

 

話が少しそれたが戦略的にも重要な軍事ですらその認識なのだ。娯楽など国を超えて入ってくる事すら少ないだろう。

 

「……む?そういえば他種族国家では違いはあるのか?」

 

少し曖昧な質問になってしまったがどうだろうなとは思う。まさかドラゴンがお茶を飲む事も無いだろう……。

 

「お茶とか酒とかそういった嗜好品はそんなに変わらんよ?」

 

マジかよドラゴンがティータイムするのか……。

 

ま、まぁ擬人化するような魔法等もあるかもしれない。種族特性のような魔法ならば自分が知らない可能性も十分にありうる。

 

そろそろ話の方向を修正していかねばならない。全くもって()()()()()()()()()()()とは嫌な作業だ。

 

「ふむ、なるほどな。嗜好品らしく好みはそれぞれというが香りなどはまぁ種族間で様々な特徴があろう」

 

「だねぇ」

 

「だがなドライアドよ、私は非常に気になっている疑問がある」

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

シンと静まり返る。無音なだけではない、ドライアドから無意識であり意識的でもある殺意……が部屋に蔓延する。

 

さぁ、ここからだ。

 

「……ダージリンは素晴らしい紅茶と言っただろう?であれば単体で飲むのが一番の楽しみ方だ」

 

「全くだ。だがな、この街に着いてからの違和感――ブレンドについての試行錯誤が意図的に避けられている――がある」

 

無粋な話だがなとアインズは前置きする。

 

「ブレンドの大きな目的は2つ、味の調整と味の平均化だ」

 

2つの鉱石を取り出し机に並べる。どちらも低位の鉱石だが最低純度と中位に近い純度のものだ。

 

「この最低純度の鉱石では通常の使用方法では目的を果たせない。では使えるような配合にすればいい」

 

データクリスタルであれば考えは分かりやすい。例えば切れ味鋭い剣を作りたいとしよう。

 

上位の鉱石ならば様々な恩恵を持つことも多いが、低位では切れ味が多少よいがすぐに刃こぼれするねばりの無い剣にしかならない。

 

であれば、その鉱石から切れ味のデータのみを抽出し他の鉱石と掛け合わせれば良いとこどりの剣が出来上がる――理屈上では。

 

「リアルでは合金、鋼等が近かったかな?この世界では魔法技術が発達しているせいでそういった分野はまだ弱いようだが」

 

鉱石の加工技術は人間の生存圏では非常に貧弱だ。これもある意味ルーン技術と同様の運命を辿りかねない。

 

魔化のようにルーン技術が時代にそぐわない場合もありうる。

 

だからと言って研究開発を止めるのは早計。投資に短期的なリターンを求める方が間違いだ。

 

「茶も同様、混ぜ物をされる事は昔から非常に多い」

 

今でこそ茶のブレンドとは別の産地を混ぜる事が普通だが、昔――今もあるかもしれないが――茶がまだ貴重な時代、別のそれらしい葉を混ぜ紅茶として売り出す事も珍しくなかったという。

 

味が整っていない位はまだまし、酷いものではそのおかしな味わいを高級品と言い張り売ることもあった。

 

「内容のブレンドを偽る程度はよくあったそうだ。有害な薬品まで使うのはやりすぎとしか思えんが」

 

似たような話は現代社会でも噂にことかかない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「しかし私はそういった不要なブレンドがあったからこそ今の正しいブレンドが行われていると確信している。その愚かな行為が無ければ今の研鑽は無かっただろう」

 

「茶園から取れる全ての紅茶が特級というはずもない、であれば有効利用を必ず考える。ブレンドのベースやあまりよろしくないが他のブレンドの嵩増しのようにな」

 

 

「……もう分かって言ってるんだろう?」

 

ドライアドはこちらを見ていない。だがその呟きは驚くほど部屋に響く。

 

だが空気は先ほどまでの冷たさとから呪詛のようなねばつきに変わっている。

 

「ドライアド、お前はぷれいやーではない。だがNPCでもない」

 

 

 

 

「世界級アイテム、輪廻転生(リインカネーション)によって生まれた新たな存在だ」

 

 

 

 




今回使用しているものはそれぞれの茶葉を買って自分でブレンドしています。

ブレンドというと難しく感じますが、販売しているものではできないやり方をすると案外うまくいく事もあります。

ざっくり言うと使う直前にちょっと加えるです

・ミルクティー向けの強い味わいの紅茶にアプリコット(杏)の紅茶をを少し足す

・ストレート向きの紅茶にカシスの茶葉を少し足す とかです

特にフレーバーの紅茶は香りが強いものも多く飲み切れないという場合もあります。なのでアイスティーにちょっと加えて使ったりしたりと少し融通をきかせるとおいしいうちに消費が出来ます。






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Blend

ご無沙汰しています。遅くなりました。
最新刊が月末にってのは皆さんご存じでしょうが下巻も7月に発売です。でも15巻みたいに特典ありになるならちょっと予約は様子見したほうがいいんでしょうかね。

オーバーロード10周年で作者の丸山くがね先生がコメントされていました。いやもう涎が出そうなコメントですね、あの設定で小説誰か書いて。


世界級アイテム

 

その力は絶大だ。ユグドラシルでは世界と冠するものは非常に強力な傾向がある。

 

世界級アイテムは当然として、戦士系最強とも名高いワールドチャンピオン。魔法系最強のワールドディザスター。

 

メンバーにはいなかったがワールドガーディアンという職業もあるようだ。

 

 

世界級アイテムの中でも特に強力で異常さえともいえるものが二十。

 

世界級アイテムは200種あるとされている――どこまで本当かは分からない――が通称二十と呼ばれるものは使い切り、1回きりのアイテム。凶悪すぎる効果を持ち、一部は()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

運営にお願い系のアイテムもある。極端な話、ちょぉっとこここんな感じにアップデートとかどうですかねぇ?っていう事も可能である、要望だけなら。

 

有名なものは聖者殺しの槍(ロンギヌス)。引退プレイヤーが重要NPCに槍を叩きこみ消失し恐ろしいほど炎上していた。

 

いちプレイヤーの行動がゲームの世界観に影響を与える等正気の沙汰ではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()その点も含めてあの運営は頭がおかしいと話題に事欠かない。

 

 

二十の一つに輪廻転生(リインカネーション)というものがあった。このアイテムは一言で言うならば強くてニューゲーム。

 

1週目をクリアしたプレイヤーがアイテムや装備を引き継ぎ悠々と2週目を楽しむ。そういった楽しみ方が昔流行ったらしい。だがユグドラシルはMMOでありいつでも1週目である。

 

ではどういう形で2週目を楽しむのか。

 

()()()』。

 

ステータス配分があるゲームにはよくあるシステムだ。

 

ユグドラシルでも限定的に実装されていた。ただあくまでそれは死亡した際のペナルティを活かし職業クラスを取り直すという程度であった。

 

サブアカウントが作成出来ないユグドラシルでは自分が納得するキャラクターのために作り直す者もいた。

 

家庭用ゲームなどなら――実用性はともかくとして――上位職やレア職で固める事も出来ただろう。

 

なんとユグドラシルでも上位職やレア職で固める事が出来たらしい。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

死亡した際に()()()()()()()()()()()()()という極めて重いペナルティがある。僅かなメリットを引き換えにそのキャラクターの伸びしろを失いかねない狂気の沙汰。もちろん対価を支払えば100レベルまで戻すことは可能だが膨大な時間と資金が必要となる。

 

上の上、その中でも極めて限られたプレイヤーはその僅かな差を作るために鎬を削っているという。

 

そんな使用を躊躇うような世界級アイテムであったため、手に入れる事が出来ても使いどころが難しいがっかりアイテムという人が多かった。

 

アインズ自身は持っていなかったがロールプレイでとった職業、種族は必要であると割り切っているためあまり興味を惹かれなかった――無論手に入るならば――。

 

 

長々と説明をしたが一言で言えば極めて限定的な使い方しか出来ないが勝ち続けている間はその恩恵を受けられるピーキーなアイテムと認識してもらえればいい。ただ……二十にしては少ししょぼくないかという話題はよく出たが……修正される事は終ぞ無かった。

 

 

「ドライアド、その世界級アイテムへの認識は合っていたかな?」

 

「……怖いね。噂では聞いた――万を滅ぼす死の王――災獣の使役者――だが本当の恐ろしさはそれほどの力を持っていても油断せず一手一手詰めてくる用心深さだよ」

 

「お褒めの言葉ありがとう、ぷれいやーを知ってる貴様なら分かるだろうが我々が持つスキルは所詮スキルだ。100レベルの魔法詠唱者であれば私と同様に強力なスキルを持つだろう。優位とはとても言えん」

 

「我々だけが使えるスキル、アイテム、魔法……いくらでも可能性がある、放置こそ愚策」

 

「あまり信用されていなくて残念だが私は友好的な態度を見せる者へは慈悲深い対応を心掛けている。八欲王の再来など望んではいないだろう?」

 

「あたしは混沌とした世界など見たかない」

 

その言葉には実感が籠っていた。無気力に生きる日々の中で僅かな陽だまりを侵す何かがあったのだろう。

 

「話を戻そうか、世界級アイテム 輪廻転生(リインカネーション)の効果は私も知っているがおかしな点がある」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

この輪廻転生(リインカネーション)が表立って人気の無い理由に()()()()使()()()という点がある。NPCはプレイヤーに比べ比較的作り直す事が容易で恩恵が大きい。だがNPCに思い入れがある者も多く、NPCを使い捨てるような行為ともとれマナー的に疑う声が大きかった。異業種狩りのようなものでやっている人も大勢いた事は否めないが。

 

アインズも当初は興味を持ったがナザリックのNPCは繊細なバランスで構成されており、万が一半永久的なレベルダウンなどがあれば数字以上のデメリットになる、そのため手に入れても使う事は無いと考え他の世界級アイテムに比べ優先順位は下だった。

 

 

 

ドライアドからすとんと抜け落ちたような表情に変わる。

 

「あぁ」

 

「もう嫌だ。」

 

「本当に嫌だよ。頭がおかしくなる。何で」

 

「私は主人と茶を飲んでゆっくりと暮らせていればそれでよかったんだ」

 

「主人は神じゃない。いつか終わりが来る。そうだよ。でもさ、これはあんまりだ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

---------------------

 

「何度も……だと?」

 

ようやく見せた内心に動揺を隠せなかった。

 

恐らくドライアドは主人に輪廻転生(リインカネーション)を使ったのではないか。何とか生き返ってくれないかと。

だが死んだ相手に効果は発揮されない。対象はドライアドとなり、NPCとぷれいやーでもあり、そうでもない存在に生まれ変わったのではないか。

 

予想は当たっていた。だが今の現状へ行きつく理由が分からない、このドライアドはどこか投げやりだ。

 

 

 

神でもあり従属神でもある。神でもないが従属神でもない、いわば半神(デミゴッド)

 

(落ち着け、途中までの過程は間違いない。であればどう歪んだかだ。)

 

アインズはナザリックのシモベ――階層守護者達――を思い出す。

 

彼らは自分と共にこの世界に来たが、もし自分が滅んだらどのような行動を起こすだろうか?報復する――間違いなく――。ナザリックを守り続ける――一部の者たちは続けるだろう――。自害する――悲しいがそういった者も出てくるだろう――。

 

自害、自害か。

 

ドライアドの主人への忠誠心は高い、ナザリックのシモベ達に勝るとも劣らないほどだ。であればこそ忠誠心が故に耐えがたい命令も存在する、矛盾によるエラーが発生していると考えるべきだ。

 

行わなければならないが避けたい命令、危険な場面になりアインズを犠牲に逃げろと言われるような?それをもっと過激にする。……あぁ。

 

 

自分を殺せと命令された時か。

 

 

「ドライアド、お前は主人を殺したのか?」

 

ぴたりとドライアドの慟哭が止まる。

 

「お前は賢い、帝国という人間主体の国にいながらとんと噂を聞かない、しかし決してこの地に影響が起きぬよう暗躍もしていた。ジルクニフによる血の粛清にも関わっていたと」

 

目がさらに深く、暗く、沈み口を開ける。

 

「あぁ、そうだ。そうだ」

 

「あたしは主人からこの村を守れと言われた!大事な思い出だからと、ささやかな茶園を守ってくれと」

 

「もちろん守った。村だけじゃない、村にいる人間たちも主人は好ましく思っていた、その子孫たちを蔑ろにはできない。魔物や盗賊、貴族だって来たことがある。でも守ってきた、使命なんだ!当然だ!」

 

でもとドライアドは手で顔を覆う。

 

「主人が裏切った時どうすればいいんだ……。村を守れと言った、守ってくれてありがとうと言ってくれた。村を襲ってきた。あんなにも嫌がっていた事をいっぱいしてきた。どの使命が、言葉が望んでいる事なの……」

 

「だから私は主人のために主人()を殺した」

 

「まさか……」

 

アインズの声が震える。ひどく感傷的な思いとそれならばありうるという冷静なアンデッドらしい考えが重なる。

 

 

「世界級アイテム――輪廻転生(リインカネーション)――の対象はお前だけでなく、()()()()()()()()()()()()

 

かちゃりとドライアドがカップを持ち上げる音が響く。

 

ポットに入っている紅茶は魔法でまだまだ温かいがカップの茶は冷め始めている。

 

「私は初めて紅茶を飲んだ時、最初なんて考えたと思う?……苦いなぁってね」

 

「ミルクティーにしてようやく飲めた。そしたら主人がこんな風な飲み方もあるよって教えてくれたり、軽めで飲みやすい種類も教えてくれた。みぃんな主人が教えてくれた」

 

「あんなに主人が紅茶を好きだった理由は分からない、でもあれほど楽しそうに、嬉しそうに話す主人を見ると私はそれだけで胸がいっぱいになった。ずっとこの時間が続いてほしいとも思った」

 

ドライアドが掲げたカップの淵は薄く銀細工がされ、素人目にも丁寧で腕がよいものだと感じさせてくれる。

 

「……少しその主人の気持ちは分かる。私はまだまだ知らない事ばかりだが、以前と同じ茶を飲んだはずなのにまったく違う顔を見せる時がある。それは驚きと喜びを一緒に与えてくれる」

 

「そうさ、以前に飲んだ茶だって渋みが全く感じないだろう?主人がそういう製法を考え作り出したんだ」

 

「……お前が語ってくれた主人の寿命は嘘だったのか?」

 

「ふざけるな、本当だよ。うまく、うまくやってきたんだ……主がいなくなって何年経ったか分からない。それでも使命はずぅっと覚えていた、村が街に国にも引けを取らない時は少しだけ充実感だってあった」

 

「アイテムの効果も最初は茫然としたさ、どうしたらいいんだって……でも主人の面影を残す存在が1人じゃなく街全体に広がっているのを感じた時は……嬉しかった。1人じゃないって思わせてくれた」

 

「……」

 

「でもねぇ、主の面影があっても……愚かな存在ってのはいちまうんだ」

 

ドライアドが台所から差し湯*1を持ってくる。

 

「濃くなりすぎちまったね……こんな風に少しだけ主の存在が濃いやつがたまに出てくるんだ。もっと極まると神人って言われるんだろうね」

 

ドライアドがカップに入った紅茶へゆっくりとお湯を注ぐ。えんじ色のようにほの暗さもった色が光を取り込んだかのように薄っすらと輝く。

 

「紅茶であればそのように均等に調整すればいい。……しかし人間である以上そんな調整は不可能だ」

 

いわばボロボロのフレームに素晴らしいエンジンを積まれた自動車、実にちぐはぐでバランスが悪い。

 

「その濃いやつは武力も知恵も悪くなかったが一つ抜きんでていた――悪意さ」

 

「……実に人間らしい。アンデッドとしては生者同士もう少し協力すればと考えるのだがね」

 

「協力もするさ、ただ人間は欲が深すぎる」

 

以前の世界でも欲深い面は見る事があったがこの世界ではまさに命の価値が違う。近年、なまじ人間の生存圏が広いせいで人間同士で争う事が格段に増えてしまっている。それも内戦のような形では国力は下がるばかりだ。

 

「王国でもいくらか見た、先を見ない者ほど腐敗するばかりだな。いや、周りが見えてないという方が正しいか?」

 

「やつらが見えるのは利益だけさ、分かりやすいってのがつくけどね」

 

「ふむ、短期的には問題ないがその場しのぎにしかならないな。そういった意味ではジルクニフは上手くやっていると聞く」

 

「あたしは色んな王を見てるけどあれは歴代一、間違いなく」

 

「それほどか、お前から見てどの点が一番光っている?」

 

「まぁ……さっきの話と関係してくるね。先見の明さ、具体的に言えば情報の大事さをよくわかっている」

 

「……」

 

「鮮血帝って名前の由来は?」

 

「身内を排し、いくつもの貴族を取り潰したからとは聞いている。果断と言えるな」

 

「そう、あれをやったからこそ帝国は大きく、強くなった。……あのままじゃ遠からず今の王国になってしまっていたからね」

 

身近で王国を見てきたアインズにはその言葉がよく分かる。王国は地理的にも脅威が少なく恵まれている。トプの大森林は魔物が多いが、得られるものも多い。

 

しかし、身内で争う事ばかりに傾倒し危機感を忘れてしまった。王国が未来の姿だと皇帝は気づいたのだろう。

 

「王国の歴史を紐解き今の統治では問題が発生すると考えたか」

 

「あぁ、結局貴族が力をつけすぎた事が問題さ。帝国は比較的歴史が浅い、故にまだ間に合った」

 

「……分からないな、何故それが主の殺害に繋がる?」

 

ドライアドが少しうんざりとした表情を見せる。

 

 

アインズからしてみれば貴族粛清がこの街に及ぼす影響はあまり大きくないと感じる。確かに貴族相手に茶葉を納める事はままあるだろうが、取引相手であることが問題とも思えない。

 

……待て、考えが少し早計じゃないか?取り扱うものとは()だぞ?過去には茶をめぐって争う事すらあった。ただのステイタスシンボルではない、世界的に流通が行われたおそるべき品。

 

アインズはティーテイスターたるアストリア*2でもなければ四獣天朱雀のように歴史に造詣が深くない。それでもここで手繰り寄せたのは間違いなく彼が茶というものに真摯に向かい合った証拠だった。

 

自分が持ってきた茶葉をじっと見る、アッサムとダージリンのブレンド……。……そう、()()()()()()()だ。

 

そこに気づいてからは一気に頭の中でピースが繋がっていく。後はどう喋るかだ。

 

「ドライアド、お前は出会った当初やけにシングルオリジン*3に拘っていたな」

 

「……あぁ」

 

「茶葉()()を混ぜて売られたのか?」

 

「なぁんだ、分かってるじゃないか」

 

そういうドライアドの声は朗らかだが滲み出る狂気は隠せない。

 

「茶ってのはね……正しく飲めば良薬だ。しかも美味い、はじめは帝国の端で採れた珍しいものってことで珍重された」

 

「貴族に広まり社交にも使われるようになった。そこから商人に、中流階級にも少しづつ広まっていった」

 

「エキゾチックな神秘ある品であるうちは問題なかった。でも需要に対して供給がまるで追いついていかない、さぁどうするか?簡単だ、増やせばいい。()()()混ぜてね」

 

「茶葉にそれっぽい葉っぱを加えるのならまだまし、だんだんとろくでもない嵩増しばかりされるようになった。そうなると当然品質は落ちる。それでもいいってヤツはごまんといた。そうした中であるものを混ぜようとしたものがいた」

 

「麻薬だよ、黒粉――ライラの粉末――ともいうね」

 

聞き覚えがあるその名は王国で蔓延していた麻薬。八本指を手中に収めているため麻薬業は控えめにさせているがゲヘナ前では黙認同然だったらしい。……まるでアヘンだな。

 

「確かにあの麻薬は水に溶ける。加工して茶葉に加えれば……悍ましい事を考えるものだ」

 

「全くだ、あたしも最初は耳を疑った。その次にこんなことをした貴族はただじゃおかないとすぐに調べた……そうして見つけちまったのさ」

 

疲れたようなため息を吐く、他にどうすればよかったのだろうと伝わるような表情だ。

 

 

「計画の首謀者はダージリンの街の長」

 

「悪意極まるそいつは腐ってもこの街の長。品質が高い事で有名なこの街のね、ほうぼうに出回ったさ」

 

「愚かだな。そのような混ぜ物すぐにわかるだろうに」

 

現実世界のように機械的なチェックが発展していなければ気づくことは難しい。だがこの世界にはマジックアイテムや魔法がある。それなりの地位にいるものならば事前に防ぐ事は容易だ。

 

「新商品だとかの触れ込みで取り出して飲ませたようだよ、これもライラの粉末の嫌な特性と噛み合っちまったが安価で多幸感、おまけに依存性が高いってね。人知れず薬物中毒者の出来上がりだ」

 

「いくつかの家がおかしいと思い始めた頃、粛清が始まった。……皇帝にはちょうどいい理由にもなったんだろうねぇ貴族たる責務を果たさず、薬に溺れる」

 

「……その長はどうなった?」

 

「殺した、あたしがね。さっきも言ったけど強さはてんでたいしたことがない」

 

「存在が薄く残る程度とはいえ主人を殺せるのか」

 

訝し気に、NPCが主人をそうもたやすく裏切れるのかと。

 

「あたしだって殺したいはずがない!!!……でも、そうしないと周りの主人が……死にそうだった」

 

あぁと合点がいく、そうか一人ではないのだ。ナザリックのNPCとは事情が違う。

 

ナザリックのNPC達からすればアインズは替えが利かない、横に並ぶ存在がいないものだ。だがドライアドにはその長だけでなく何人も主人の面影を残す存在がいたのだろう。

 

「今までだって諍いはあった、でも追放や罰によって何とかなった。あたしに出来たのはそれが限界だった」

 

それも断腸の思いだったはずだ、NPCが主人を裁くなどとてもできないだろうと思う。

 

 

「なぁ、王よあたしは……何を間違えたんだ?」

 

*1
濃くなりすぎた紅茶を薄める為のお湯

*2
オリキャラ 一般メイドで茶の専門家

*3
単一エリアで生産されたもの




オリジナル要素
世界級アイテム 輪廻転生
テイルズウィーバーってMMOやってたんですがそこで再振りがえらい重要でしたね。そこから思いついたネタです。

このアイテムは多分1回だとそんなに強くありません、でも組み合わせでどんどん凶悪になってくイメージです。例えばヴィクティムのような足止め系のスキルを最後に覚えさせるとかね。そんな動く爆弾みたいなキャラが前線に出張ってたらさぞや恐ろしいでしょう。世界級アイテム使うんですし多少の取得制限は免除されるかなぁと勝手に思ってます。


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食を願わば器物

お待たせしました。本文以下にオーバーロード最新刊に対する感想が少しあります。ご注意ください。




親殺し

 

どのような立場でも、事情があろうとも理解される事は難しい。それは命の価値が低いこの世界でも同様。

 

NPCにとっては親よりもある意味重い存在だ。存在意義はどのような過程があれ()()()()()

 

その前提は覆されない。しかし……主のために主を殺す、深刻な矛盾と言わざるをえない。

 

自身でさえ彼らの子に等しいNPCを殺さざるをえないとならば葛藤する。シャルティアの時はシステムがまだ使えるだろうと予測もあり――到底許せないが――割り切って行った。人間ではない、NPCだという考えはもはや希薄。この世界に来てから時間が経ち彼らと過ごした。ギルドメンバーに勝るとも劣らない日々と今なら自信をもって言える。

 

根底には彼らとの記憶がある事は否定しない。しかし彼らと会えたから会えたのだ。

 

時折そういう風に振舞うよう求められたNPC達を見ると懐かしく、寂しく、少しだけ悲しくなる。

 

「……言葉が出ないな、この世界に来てからNPC達と時を過ごした。彼らが創造主に対しどういった思いを持っているか痛いほど分かる」

 

「彼らは懸命に創造主の命に従い、同格たる私へ健気すぎるほど献身的に仕えてくれる」

 

「だからこそ、言おう。お前の行った事は……正しい」

 

ガンとテーブルが蹴飛ばされドライアドがこちらの手首を掴む。

 

「正しいはずだよ!間違いない!でも、じゃあなんでこんなにアタシがアタシじゃなくなるんだ!」

 

「あのままじゃこの街ごと、主の残滓が消えそうだったんだ……!」

 

「お前が行った行為は決して間違っていない!。……()()()()()()()()

 

 

ドライアドが骨の手を掴んだまま睨みつける。

 

アインズは内心で息をつく。そもそもこういう事態があると守護者らは相対することに猛反対だった。だが事情が事情であり階層守護者のいずれも傍に控えさせるのは劇薬になりかねない。この事実は出来れば自分ひとりだけ、もしくは1人の()()守護者のみで対応したかった。

 

ヤツが出てくるのは最終手段のみだ、この程度ならば出しゃばるなと言い含んでいる。

 

「何度でも言ってやるさ、お前の行為は主人を守ろうとした結果だ……だがただの足踏みだ」

 

「……現状維持でしかないんだ。残された者は残された物を必死に守る。だけどな……少しづつ擦り切れていくんだ」

 

アインズは知っている。輝かしい日々、あの思い出があったからこそ()()()()()()()()()

 

もしかしたらみんなが戻ってくるんじゃないかと淡い期待を持ち、ギルドを維持していた。

 

もちろんユグドラシルをプレイしていた時は楽しい。……だが作業じみてきてもいた。

 

どれだけ好きなゲームでも作業のようになってしまう事がある、それも目標があれば苦にならない。仲間達とのレイドバトルに備える。他ギルドへのカチコミ、貴重な装備の入手。

 

……使う予定の無い装備の作成。維持をするためだけの資金集め。やる気のないイベントへ参加。

 

()()()()でも捨てられない、捨てられないんだ。この思い出を。

 

 

「ドライアド、()()()()()()()()()()()()……1人と、それ以外が残ったという点も」

 

「はっ!あんたには……あんたには仲間と同じような存在がいっぱいいるじゃないか!!!」

 

「同じではない!」

 

あぁ沈静化が煩わしい。堪え切れない程激昂してしまう。

 

「同じではない、確かに彼らは創造主の面影を強く残している。……しかし別人だ。故に俺は、彼らをかつての仲間として見てはいけないんだ。そうであっては彼らはそうあれと振舞う」

 

……無意識的な部分もある、セバスはたっちさんの正義を受け継ぎ、デミウルゴスはウルベルトさんの悪を模範としてる。それはあくまで考え方、生き方の違い。

 

「……ドライアド、お前のおかげで俺は決意出来た。()()()()()()()()()()()()()という事を」

 

かつての仲間達を追って行動ばかりしていた。それは……後ろ向きだ。俺が今見るべきものはかつての仲間達ではない、その仲間達が残してくれたNPC達とどう生きるかだ。

 

「ふざけるな!ふざけるなふざけるな!!!あぁそうさ、あんたとアタシは似ている!!!それは間違いない、だからこそあんたになら殺されたっていいって思ってた!!でも、でも……何であんたはそんな事考えられるんだ!!」

 

「……」

 

ドライアドの手が震える。握られた手に力こそ入っているが…迷いがある。

 

「うちのメイドの中に、フィースというものがいてな」

 

「突然何を……」

 

「私はその日の衣装を彼らメイドによく任せている。この前フィースに選んでもらったんだが赤い煌びやかなローブだった、あれは驚いたな」

 

「誰かと謁見するわけでもないぞ?ただ市政を見て回ろうと思っただけだ」

 

「宝石も色々ついててなぁ。くくっ、フィースお前の趣味はこういう系なのかとな」

 

昔だったらまずヘロヘロさんの影響かと考えただろう。

 

「……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!」

 

「この世界に来て僅かな私でも出来たんだ。ドライアド、お前は街人達を主人と代替として見てやれないか?」

 

シャルティアが洗脳された頃はまだかつての仲間を追っていた。

 

コキュートスがリザードマンへの進行に失敗した後は成長を感じた。

 

王都襲撃の時はセバスの独断専行に驚いた。

 

ドワーフの国ではアウラとシャルティアがよく協力してくれた。

 

この世界に転移して色々あった。しかし自分だけでやった事等ほとんどない、彼らの助けあってこそだ。

 

いつからか彼らと一緒に何かをするという事が楽しみになり、次はどうしようと考えるようになった。

 

……彼らの忠誠に困る時もある。だが少しずつコミニュケーションを取る事で彼らの事を知れた。

 

「茶は1人で飲むのも美味い。だが私は誰かと飲んでこそだと思う」

 

「あたしが……あたしが覚えていなけりゃ主人の事を誰が覚えてるというんだ!」

 

「残せ」

 

「主の生きた証を残せ。……私を含め永遠に滅しないものなど存在しない。お前の偉大な主人は何を残した?向き合うんだ」

 

「……茶の」

 

「茶の楽しみを教えて、くれた。一緒に飲んで楽しい……と」

 

「お前の知識は素晴らしい、それは主人から教えてもらったものだろう?それをこの街人だけじゃない、国に、世界に広めてやれ。そうして広まった先で皆がこう考えるだろう――いったい誰がこんな素晴らしい茶を?――とな」

 

「……かつての仲間達がいなくなった事は悲しいさ、そんな俺を支えようとしてくれるNPC達がいる。彼らのためにも進みたくなったんだ」

 

かつての仲間との日々は確かに素晴らしい。だがこの世界に来てからの日々も決して見劣りしていない。

 

「茶の知識はまだまだだが……俺でもわかる事がある。誰かと飲む茶は美味い、だ」

 

「お前と飲む茶は嫌いではない、気兼ねなく楽しめるしな。……茶には器が必要。主からもらった茶を大事にしたいというのなら……()()()()()()()()()

 

全て口にした後言っちまったよと後悔する。

 

最初はもっと落ち着いて説得するつもりだったが沈静化が起きるほど熱くなってしまった。

 

だがドライアドが握った手に力は込められていない。……逆上して襲ってこないと信じておこう。

 

「……無礼を働いた。魔導王陛下」

 

「今更そのような口ぶりやめてくれ。距離を感じてしまうな」

 

おどけて肩をすくめる仕草をするとドライアドがもう一度詫びを入れ席に着く。そういやさっきテーブル蹴っ飛ばしてたなこいつ。

 

「……ぐちゃぐちゃだ。主人への思いと、自分がした事、やらなければいけない事」

 

「焦ることは無い、時間はある。……ここだけの話だが帝国が我が属国になる事となった。ここに来ることも気軽に出来よう」

 

ワーカーを装って来ることは難しくないがいくつもの役割を持つことはリスキーだ。モモンで言ってワーカーでは言ってないなどごちゃごちゃしてしまう、自分は俳優ではないのだ。

 

「は?そ、それは急な動き……いや、ですね」

 

「普段の言葉遣いで構わんと言いたいがシモベと軋轢も発生しよう、そのうちお前と守護者らを引き合わせることもある。その後少しづつ距離感を掴んでいくと良い。……苦労すると思うが」

 

「わか……、いえ分かりました」

 

恐らく老婆の時に使っていた口調が普段のものなのだろう、というかここ数十年はほとんどあの姿だったろうし癖は抜けきれないのか。……こういったところもNPCでは無いような迂闊さはある。

 

ドライアドに言うつもりは無いが、NPCでないということはブレも出やすいと思う。存在意義がはっきりしている分、それに準じた動きというのはある程度イメージがつく。半神半人である今は迷い、論理的ではない行動も増えているのだろう。

 

(……むぅ、悩むことがまた増えた気がするがまぁどうにかなるだろう)

 

あまりくよくよしてもしょうがない、今は名実ともに茶飲み友達が1人増えた事を喜ぶべきだ。

 

「では、私は一度戻るとしよう。また使いを送る」

 

「わか…りました」

 

何だかナーベラルの最初の頃を思い出す。いや今も癖があるが。

 

 

-------------

 

 

ダージリンの街を出て少し歩いたところで護衛として潜んでいたパンドラズアクターが姿を見せる。

 

「お疲れ様で御座いました。……アインズ様、よろしかったのでしょうか?」

 

「それはどの意味でだ?」

 

「どれもと言えますが、やはり1番は殺さず配下にお加えになる事は少々リスクが高いかと」

 

「もっともな意見だ。だが奴が直接こちらに反抗的な態度を出したのは1度くらいだ。奴の戦闘力そのものもそこまで高いものではないしな」

 

これは実際に相対して少しわかった。恐らくドライアドは信仰系魔法詠唱者、タイプで言えばマーレに近い。格下相手ならば殲滅が容易で、なおかつあの様子ならば生産系のクラスも習得しているだろう。

 

逆に言えば何かに特化した火力を持っていない可能性が高い。不意打ちであれば多少はダメージを与えられるだろうが、同格以上では時間稼ぎがいいとこだろう。

 

「しかし、アインズ様に危害を加える事が出来るという事は見過ごせないかと」

 

「確かにそうだ、だが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ドライアドがワールドアイテム、輪廻転生(リインカネーション)の使用の可能性があると考えた時、他にもワールドアイテムを持っていた場合恐るべき脅威になる可能性があった。

 

だからその可能性を排除しなければ今回の訪問は成立しえなかった。

 

「だからこそアウラに山河社稷図を使わせ確認を行った。奴は気づいた様子も無かった……のかもしくは気にも留めなかったのか」

 

「今回のケースは非常に複雑だ。だがあらゆる存在が私に平伏す、そういった前提で邪魔だから殺すというというのは少々矛盾している」

 

「……恩讐のようなものがあるとは言わないがな。いやこれは失言だ、忘れてくれ」

 

「はっ、アインズ様がお決めになられたことならば我らは従いましょう!」

 

「では私は戻るが……」

 

「私はアウラ殿に問題が無かった事をお伝えし転移で一緒に戻らせて頂きますっ!」

 

「お、おう。よ、よろしく頼む」

 

-----

 

パンドラズアクターside

 

「パンドラズアクター、どうだった?」

 

「はいアウラ殿、彼女……ドライアドはこちら側に加わる事に!」

 

「ふぅん……。まぁアインズ様に逆らうのなら殺すだけだしね」

 

「でありましょう!至高の御方であるアインズ様を阻むのであれば!」

 

「パンドラズアクターから見てどうだったの?そのドライアドは」

 

そうですねと前置きし少し考える。

 

主人はドライアドの情報を限定している、()()()()()()()()()()

 

親殺しという不名誉な行いは到底自分も受け入れがたいが他のシモベ達には少々刺激が強すぎる。少なくとも今その情報が広がれば排除の声が無視できなくなる。

 

「戦闘力という点はあまりたいしたことはありません。ワールドアイテムも所持しては無さそうです、ですが過去ワールドアイテムの影響を受けたようでその点は注意が必要ですな」

 

「そうなの?」

 

「ええ、我等に思いもつかないような行動を行うかもしれません。デミウルゴス殿やアルベド殿にも一度ご相談したほうがよろしいでしょうな……ですが」

 

殺した方がいいんじゃないかなーという顔を見せているアウラが首をかしげる。

 

「ドライアドを簡単に殺さないと明言されておりました。彼女しか持っていない技術、知識があるのやもしれません。我々も対話が必要でしょう」

 

「ん、んー……ならまぁしょうがないか。お茶、詳しいんだっけ?」

 

「ええ、私も部分部分ですが聞いておりました。一部はアストリア殿よりも詳しい可能性がありますな」

 

「へぇ、じゃあここに来るときがあったら飲ましてもらおうかな」

 

「実によろしいかと!アインズ様も同じものを飲んだとなればお話ししたい事があるかもしれません」

 

「……いいね!パンドラズアクター。とっても良いよそれ!」

 

 

アインズ様は今回少し変わられたように思う……が、より我等を見て下さるというのならばそれに勝る喜びはない。

 

今まで以上に我々もアインズ様の御心に沿うようにしなければ……我等も主を支える器足りえるように。

 

 

 

 




オーバーロード最新刊、食堂のところにてコーヒーに対する描写が書かれていました。

何種類もコーヒー豆のデータがあったとかグレードがあるとかもうこりゃたまりませんなぁと読みながら思ってました。味もベリーみたいなとかいいところつくわぁと。良い酸味のコーヒーは果実を思わせるような味わいがあって凄い美味い。

好みがあるんですが僕は酸味よりのコーヒーが好きなんで大抵初めてのコーヒー屋だとそれ系を飲んでみたりしますね。以前勤めてた時にも思ったんですが苦味よりのコーヒーって違いを出すのが凄い難しい。

ですが、酸味よりっていうのはアメリカンみたいなあっさりとしたものだったりそれこそ果実を思わせるような風味のものもあったりとなかなか楽しめます。

最近飲んで美味しかったのはニカラグアです。中米の豆は結構好きですね。

コーヒーの話もたまには書きたくなるのでまた書こうかな。次はドライアド加入後のナザリック内の話です。これは下書きがそれなりにしてあるのでそう遠くないうちに出せると思います(願望


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